1 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
【書き手の方々ヘ】
(投下前の注意)
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html ・Jane Style(フリーソフト)
ttp://janestyle.s11.xrea.com/ ・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認して二重予約などの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・鬱展開、グロテスク、政治ネタ等と言った要素が含まれる場合、一声だけでも良いので
軽く注意を呼びかけをすると望ましいです(強制ではありません)
・長編で一部のみに上記の要素が含まれる場合、その話の時にネタバレにならない程度に
注意書きをすると良いでしょう。(上記と同様に推奨ではありません)
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前の作品投下終了から30分以上が目安です。
(投下後の注意)
・次の人のために、投下終了は明言を。
・元ネタについては極力明言するように。わからないと登録されないこともあります。
・投下した作品がまとめに登録されなくても泣かない。どうしてもすぐまとめで見て欲しいときは自力でどうぞ。
→参考URL>
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・リアルタイム投下に遭遇したら、さるさん回避のため支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は、まとめWikiのコメント欄(作者による任意の実装のため、ついていない人もいます)でどうぞ。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
不満があっても本スレで叩かない事。スレが荒れる上に他の人の迷惑になります。
・不満を言いたい場合は、「本音で語るスレ」でお願いします(まとめWikiから行けます)
・まとめに登録されていない作品を発見したら、ご協力お願いします。
【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
・携帯からではまとめの編集は不可能ですのでご注意ください。
1乙
だがテンプレ最後まで貼ろうぜ
6 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/26(日) 08:06:06.32 ID:OEM6hMGh
そうだね。
本日23時半より、『リリカルWORKING!!』八品目投下します。
それでは時間になりましたので、投下開始します。
八品目
アースラのブリッジで、リンディは息子クロノの戦いをモニター越しに見つめていた。栗色の髪の女の子は、情報屋が送ってきた写真と合致する。小鳥遊と呼ばれた男が、情報屋の知人なのだろう。
『惜しい!』
拘束されたままの小鳥遊が、無念の表情でクロノを見る。
『はっ?』
『ものすごく惜しい!』
クロノは小鳥遊が何を言っているのか全然理解できない。
小鳥遊基準では、紙一重で年増にカテゴリーされてしまったのだ。見た目は少年でも実年齢は十四なので間違ってはないのだが。
大好物を食べようとしたら、昨日で賞味期限が切れていたような、壮絶ながっかり感を小鳥遊は味わう。せめて後数カ月早く会っていたら、ちっちゃいものの方にカテゴリーされていただろう。それほどわずかな差だった。
『馬鹿なこと言ってないで、逃げるんだよ!』
アルフが小鳥遊の拘束を破壊し、戦場から離脱しようとする。
『逃がすか!』
クロノの放つ魔力弾を、小鳥遊たちはぎりぎりで回避する。アルフがフォトンランサーを手当たり次第炸裂させ、周囲が爆煙で埋め尽くされる。
『待って!』
『邪魔をするな!』
モニターが煙に遮られ、音声だけが途切れ途切れに伝わってくる。
どうやら小鳥遊たちを追いかけようとするクロノを、栗色の髪の女の子が止めているようだ。
煙はまだ晴れない。やがてクロノがやや不機嫌な様子で通信を送ってきた。
『すいません、艦長。二人逃がしました』
「構いません。まずはそちらのお二人から事情を聞きましょう。アースラに案内して」
『了解』
返事をするクロノの声がいつもより高く聞こえ、リンディは眉を潜めた。
「クロノ執務官、喉をどうかしましたか?」
『特に問題ありませんが?』
ようやくモニターの煙が晴れる。そこに映っていたものを見て、リンディは思わず立ち上った。
「ク、クロノ執務官!」
クロノは怪訝な顔で、自分の手を見下ろす。ぷくぷくとした子供の手だった。
『な、なんじゃこりゃああああ!』
クロノの姿は三歳くらいの幼児のものになってしまっていた。
なのははぽぷらたちと合流し、アースラへと招かれた。
簡単な検査を済ませた後、クロノの案内で通路を歩いていく。クロノの歩幅が小さくなってしまったので、進行はゆっくりとしたものだった。
おそらく逃走時に小鳥遊が苦し紛れに放った魔法に当たったのだろう。クロノ、痛恨のミスだった。あるいは小鳥遊の執念の産物か。
通路の途中で、なのはがユーノに質問した。
「ねえ、時空管理局って何?」
「簡単に言ってしまえば、僕らの世界の警察かな。次元世界の法と秩序を守っているんだ」
手の平サイズの佐藤がクロノの隣に並び声をかけた。
「もう変身を解いてもいいか?」
「ああ、構わない」
クロノは心ここにあらずといった様子で返事をする。いきなり幼児の姿にされてしまったのだから、仕方ないだろう。装備も全て肉体相応に縮んでいる。
なのはとぽぷらが変身を解除し、佐藤も元の大きさに戻る。
「それじゃ、僕も」
ユーノが光に包まれ、金髪の男の子の姿に変身する。それを見て、なのはもぽぷらも目を丸くして驚く。
「……ユーノ君、その姿は?」
「あれ? なのはには前に見せたことなかったっけ? これが僕の本当の姿なんだ」
なのはは首を左右に振る。
「おい、その話はひとまず横に置いておけ。着いたみたいだぞ」
佐藤が注意する。
着いた先は艦長室だった。クロノと共に一行は入室する。
中では、リンディが人数分のお茶とお菓子の用意をして待っていた。赤い敷物の上で、なのはたちとリンディが向かい合って座る。
互いに自己紹介を済ませた後、リンディが各人から事情を聴いていく。それを終えると、リンディは深々と溜息をついた。
「どうやら、あなた方はジュエルシードの危険性を理解していないようですね。でなければ、そもそもジュエルシードの魔導師と共闘など考えないはずです」
「どういうことですか?」
ユーノが真剣な顔で尋ねる。
「あれは次元干渉型エネルギー結晶体。使い方次第では、次元震や次元断層すらひきおこす危険なものだ。もしかしたら、君たちのせいで世界がほろんでいたかもしれないんだぞ」
答えたのは壁際に立っていたクロノだった。話の内容はシリアスだが、三歳児の外見と舌足らずな声では台無しだった。
「クロノ執務官。説明は私がします」
リンディが咳払いして場の空気を整える。そして、クロノの姿を見て困り顔になる。
「それにしても、縮小魔法の使い手ですか。厄介ですね」
「すいません。不覚を取りました」
リンディの脇に立つクロノは、心底情けなさそうだった。
「あ、でも、魔力を注げば元に戻るはず」
「それが駄目なんです」
ぽぷらの意見に、リンディは首を振る。
検査の結果判明したことだが、ぽぷらと佐藤が縮む際には、ただ全体的に小さくなるだけで、頭身、体の比率などに変化はない。しかし、小鳥遊の魔法で縮んだクロノは、肉体が若返っている。似ているようで原理がまったく違うので、ぽぷらの方法は通用しない。
リンディも機会があれば、少しかけて欲しいくらいだった。
アースラスタッフが総出で解呪方法を探しているが、おそらく小鳥遊本人でなければ解けないだろう。
「本来なら、後は私たちに任せてと言いたいところだけど……」
現在のクロノは、三歳の頃の筋力と魔力しかない。クロノの才能と経験があれば末端の隊員程度の働きはできるが、フェイト、アルフ、小鳥遊を相手にするには心もとない。いきなりアースラの切り札が封じられた形だ。
今から増援を手配して果たして間に合うかどうか。
「あの、私たちに協力させてもらえないでしょうか?」
なのはが提案した。
これで面倒事から解放されると思っていた佐藤が顔を引きつらせる。
「このまま黙って見ているなんてできません。フェイトちゃんは友達だから」
「……断ることはできないわね。切り札を失った以上、こちらも手札が多いに越したことはないから」
「艦長、まさか彼女も使うつもりですか!?」
クロノがぽぷらを示す。
「ええ、向こうがジュエルシードの魔導師を使ってくるなら、こちらも対抗策がいります。これまで何度も戦闘をしているのだから、暴走の心配は多分ないのでしょう」
少しでも危険な兆候があれば、すぐにジュエルシードを封印することを条件に、リンディが許可を与える。
「ありがとうございます!」
「そうだよね。最後まで頑張ろうね、なのはちゃん」
礼を言うなのはに、息巻くぽぷら。
「それじゃあ、四人ともお願いします。今日はアースラに泊っていって。エイミィ、彼らを部屋に案内して」
「はいはーい。」
リンディに呼ばれ、青い制服を着たショートカットの女の子が扉を開けて入ってくる。エイミィは壁に立つクロノを見るなり、奇声を発した。
「クロノ君、可愛いー!」
「エ、エイミィ!」
エイミィが駆け寄ってクロノを抱き上げる。
クロノはごついロングコートのようなバリアジャケットを着ているのだが、肉体が小さくなったことで、全体的に丸っこいシルエットになっている。それがまるでぬいぐるみのような愛くるしさを放っていた。
「モニター越しでも可愛かったけど、実物はもっと可愛いー!」
「あ、エイミィずるい。私もー!」
これまでは艦長の威厳を保つため、我慢していたのだろう。リンディも反対側からクロノを抱きしめる。
クロノが必死にもがくが、三歳児の筋力で抗えるはずもない。
「佐藤さん、ミニコンってどこの世界にもいるんだね」
「そのようだな」
客人などそっちのけではしゃぐリンディたちを、佐藤たちは遠巻きに見守る。誰もクロノを助けようとはしない。
「お待たせしてすいません。こちらになります」
ややあって、艦長室の異変を察知したオペレーターAが、疲れた顔でなのはたちを部屋に案内してくれた。
その頃、小鳥遊の自室で、小鳥遊とアルフは、フェイトに今日起きたことを報告していた。
「そう、時空管理局が……」
報告を聞き終え、フェイトが思案する。
「これ以上はやばいよ。もうやめよう?」
「ううん。もうちょっとだから」
「でも、後七個もあるんだよ?」
探している間に捕まってしまう公算の方が高い。
「これだけ探しても見つからないってことは、多分海の中だと思う。ちょっと危険な賭けになるけど、残りを集める方法ならあるから」
フェイトは小鳥遊に向き直る。
「宗太さんの家の場所って、佐藤さんと種島さんは知ってますか?」
小鳥遊家には、かつてのフェイトたちの隠れ家同様に二重、三重に探知を妨害する結界が張ってある。いくら時空管理局でも、魔法での発見は当分心配しなくていい。
「いや。知ってるのは伊波さんと山田、後は店長くらい。でも、調べればすぐばれるよ?」
「なら、平気です。時空管理局も今すぐには動かないはず。今日はゆっくり休みましょう。明日ですべての決着をつけます」
フェイトはきっぱりと宣言した。
深夜、リンディの元に通信が届いた。
「こんな時間にかけてくるなんて、少し非常識じゃないかしら? 相馬君」
『すいません。ちょっと急を要したもので』
リンディが通信画面を開くと、ワグナリアスタッフ相馬博臣の顔が映し出される。
「今日は携帯じゃないのね」
『今回はデータを送らないといけないので、パソコンからです。ところで、あの携帯、もう少しどうにかなりませんかね? ごつくて持ち運びには不便だし、音質が悪くて会話しづらいし』
「それは開発部にお願いしてちょうだい」
情報屋の正体は、相馬だった。あの怪しい通信は一応わざとではない。
魔力を持たない普通の人間のはずなのに、相馬の情報網は時空管理局の内部に深く食い込んでいる。次元間通信を可能にするあの携帯電話も、時空管理局から特別に貸与されたものだ。
リンディも任務の際に、何度か相馬の情報の世話になったことがある。
「それで、何かわかったの?」
『はい。どうやら事件の首謀者は、フェイト・テスタロッサの母親、プレシア・テスタロッサのようですね。詳しいデータは今そちらに送っています』
「助かるわ」
テスタロッサの名から、プレシアまでは割り出していたのだが、情報のガードが堅く少し苦戦していたのだ。
送られてきたデータにざっと目を通し、リンディは顔を険しくした。
「この名前……」
『はい。プレシアの娘は一人だけ。名はアリシアで、フェイトじゃありません。しかもすでに鬼籍に入っています』
相馬が職場で知り合ったフェイトは、素直ないい子だった。いずれ彼女が真実を知ることになるかと思うと、同情を禁じ得ない。
「どういうこと?」
『おそらくこれが関係しているでしょうね』
次のデータは、プロジェクト・フェイトと名付けられた人造生命の研究だった。
目を通し、リンディも相馬と同じく陰鬱になる。
「後味の悪い事件になりそうね」
辛い現実と相対する覚悟はできている。しかし、少しでもよい未来を選ぶ為に、リンディはこの仕事を選んだのだ。
この事件を悲劇では終わらせないと、リンディは固く誓っていた。
アースラであてがわれた部屋にて、佐藤は煙草を吸っていた。
「この事件、いつになったら終わるんだろうな」
佐藤の能力は、直前か十年後のことしか予知できない。しかも十年後の予知は、なのはたちだけ。どうやら魔力資質が高い者ほど、遠くまで予知できるようだ。
だから、佐藤にもこの事件の結末はわからない。肝心なところで役に立たない能力だ。
その時、扉がノックされた。佐藤が促すと、人間の姿になったユーノが入ってくる。
「夜分遅くにすいません、シュガー」
「そのネタ、まだ覚えてたのか。変身してない時は佐藤でいい。どうでもいいが、お子様は寝る時間だぞ」
「大事な話があるんです」
ユーノは佐藤の前の椅子に腰かける。佐藤は煙草の火をもみ消した。
「気にしないでください。僕の部族でも煙草を吸う人はいましたから慣れっこです」
「さすがに本当のお子様の前では吸えん」
「優しいんですね」
ユーノに笑いかけられ、佐藤は苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「それで、話ってのは?」
「なのはのことです」
佐藤とぽぷらが初めて変身した時、佐藤はなのはが悪魔と呼ばれる女になると予言した。ぽぷらもなのはもすっかり忘れているようだが、ユーノはそれがずっと気がかりだったのだ。
「佐藤さんが予知した未来、詳しく教えてくれませんか?」
ユーノも最初は佐藤の勘違いだろうと思っていた。しかし、これまでの戦闘で、佐藤の予知は、確実だと証明された。そして、それは回避可能な未来なのだということも。
「……お前と高町妹の仲は、十年後もまったく進展ないままだ」
ユーノが派手にずっこける。
「佐藤さん、そういう話をしてるんじゃ……。しかも、まだ高町妹なんですね」
「興味ないか?」
「ありますけど……」
ユーノが少し赤くなっている。ユーノがなのはを好きなことなど、片思い歴の長い佐藤には丸わかりだ。
「まあ、それはさておき」
佐藤はどう説明したものか、顎に手を当てて考え込む。
「十年後の高町妹は、キャリアウーマンと言うか、仕事だけが生きがいの生粋の軍人って感じだったな。多分時空管理局に所属してる」
「やっぱり」
偶然出会っただけのユーノを助け、敵であるフェイトと友達になっていることからも明らかなように、なのはは困っている人を放っておけない。
天才魔道師であるなのはが、時空管理局で仕事をすれば、より多くの人を助けられる。将来的になのはが時空管理局に所属するのは当然の帰結だった。
「なのはは幸せそうでしたか?」
ユーノは不安そうに訊いた。
「お前たちの切り札、スターライトブレイカーだったな」
「そうですけど?」
それは最近ようやく完成した、なのはが決戦様に用意した魔法だ。同じくぽぷらも新技を用意している。なぜここでその技名が出てくるのか、ユーノにはさっぱりわからない。
「高町妹はスターライト(星の光)と言うよりは、スターダスト(星屑)って感じだったな」
流れ星には、願い事を叶える力があると伝えられている。なのははまさにそれだった。
誰かの願いを叶える為に、その身を炎に焼かれながら飛び続ける星屑。一瞬で燃え尽きてしまう儚くも美しい輝き。
「放っておいたら、どこまでも遠くに行ってしまいそうな、危うい感じだった」
「なのはが死ぬようなことがあれば、僕のせいです。僕がなのはを魔法使いなんかにしたから」
「あいつはお前に感謝してるんじゃないか? 望む将来が選べたって」
「でも……」
「責任を感じるんなら、お前があいつを引き止めてやればいい。さっき言ったろ。十年後、お前たちの仲は進展していないって。恋人でもいれば、あいつもそう無茶をしないかもしれん」
「佐藤さん…………耳まで真っ赤ですよ?」
「やかましい!」
柄にもなく臭いことを言ったと、佐藤は後悔していた。
ユーノの顔にわずかだが笑顔が戻ってくる。
「そうですね。僕、少し頑張ってみます。事件が解決したら、なのはに告白します」
「高町妹は強敵だぞ。せいぜい頑張れ」
八千代と同じレベルで恋愛には鈍そうだ。振り向かせるのは並大抵ではない。
「ありがとうございます。おかげで元気が出ました。それじゃあ、お休みなさい」
ユーノが退室するのを見届け、佐藤は煙草に火をつける。
他人の恋愛を応援するなど佐藤の柄ではないし、そもそも四年間も行動を起こしていない自分に何かを言う資格などないのだ。
「俺も頑張らないとな」
考えるだけで胃が痛くなる。佐藤はもう一本煙草をくわえた。
「あ、そうだ」
ユーノが慌てて部屋に戻ってきた。
「応援してくれたお礼に、佐藤さんに一つ教えてあげます」
ユーノは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「佐藤さんは種島さんが発動させたジュエルシードに割り込みましたよね。普通そんなことできません。それができたってことは、佐藤さんが種島さんを助けたいってすごく強く願った証拠なんです」
「要点は?」
「つまり佐藤さんにとって、種島さんは自分の命を犠牲にしても構わないと思えるほど、大事な人ってことです」
佐藤が盛大にむせる。
「それじゃあ、佐藤さんも頑張ってください」
「好き放題言って行きやがって」
佐藤はユーノが出て行った扉を忌々しげに睨みつける。心の中では、ユーノが投じた一石が静かに波紋を起こしていた。
翌日、フェイトたちは家を出ると、海へと一直線に向かった。空は雲に包まれ薄暗い。海も波が荒く不吉な印象を醸し出している。
ワグナリアには、小鳥遊の代わりに妹のなずなに行ってもらった。とにかく飲み込みが早く要領がいいので、仕事振りも身長同様、小鳥遊に比肩する。
その成長の早さが、ミニコンの小鳥遊の悩みの種になってしまっているのだが。
「宗太さん。お願いします」
「わかった。やってみるよ」
小鳥遊はフェイトに事前に説明されたとおり、ジュエルシードに意識を集中させ、脳裏に好きな物を思い描いていく。
「子供……子犬……子猫……」
小鳥遊の欲望に反応して魔力がだんだん高まっていく。
バルディッシュに搭載されたジュエルシードが、小鳥遊の魔力に反応してカタカタと揺れ動く。フェイトは自分の考えが正しかったと、確信する。
ジュエルシードは最初、海鳴市周辺にばらまかれたはずだった。それがいつの間にか北海道へ移動していた。北海道にジュエルシードを引き寄せる何かがあるのだ。
これまで集めたジュエルシードの場所を確認すると、一直線にワグナリアを目指しているようだった。
決定的だったのは、伊波が拾ったジュエルシードだ。あれだけ店の近くにあって、フェイトが入店時気づかないはずがない。つまり、あれはフェイトの後からやってきたのだ。
ワグナリアでジュエルシードを引き寄せる存在など一つしか思いつかない。暴走したジュエルシードと共生できる小鳥遊だ。
どうやらジュエルシードの波長と、小鳥遊の欲望の波動は非常に相性が良いようだ。名づけるなら、ジュエルシードの申し子と言ったところか。
「ミジンコー!」
小鳥遊の魔力がさらに高まる。呼応するように、海からジュエルシードが現れ、徐々に数を増やしていく。
アルフが出現した七個のジュエルシードを拾い集める。
「宗太さん、お疲れさま」
フェイトに差し出されたハンカチで、小鳥遊は額の汗を拭う。ジュエルシードを引き寄せる作業は、小鳥遊にかなりの消耗を強いていた。
「これで全部か」
しかし、フェイトの表情は暗かった。残っていたジュエルシードを回収した以上、残された道は一つしかない。
「来た」
すぐ近くで空間転移の反応。なのは、ユーノ、ぽぷら、佐藤が現れる。来るべき時が来たのだ。
「フェイトちゃん、ワグナリアでの時間、楽しかったね」
懐かしむようになのはが言った。
「うん。楽しかった」
短い間だったが、フェイトにしてみれば、久しぶりの心穏やかな日々だった。でも、いつまでも優しい時間に浸ってはいられない。約束を果たす時が来たのだ。
フェイトとなのはが空中に十九個のジュエルシードを浮遊させる。小鳥遊とぽぷらの分を合わせて二十一個。全てのジュエルシードがここに集結した。
「これが終わらないと、私たちは先に進めない」
「うん。だから、決着をつけよう。それが最初からの約束だから」
なのはがレイジングハートを、フェイトがバルディッシュを構える。この戦いに勝った方が全てのジュエルシードを手に入れる。
決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。
以上で投下終了です。
それではまた。
すいません。星屑の意味が間違っていたことを今知りました。
作中では、流れ星の意味で使っています。
枕さん投下乙です。
23時頃に羽生蛇村調査報告書
ティアナ・ランスター 羽生蛇村折部分校/校庭 初日/2時47分32秒
を投下したいと思います。
では投下します
ティアナ・ランスター
羽生蛇村折部分校/校庭
初日/2時47分32秒
降り続けていた雨が鳴りを潜め始めた頃。ティアナが山の中で茂みを掻き分けていると、目の前に蔦に巻き付かれ、錆びついたフェンスが現れた。
その向こうには木の葉が散らばり、雑草が所々生えてはいるものの整備された地面が広がっている。
(……やっと着いた)
数十分かけてようやく人為的に作られた地面に到達したティアナは、それだけでほっと胸をなで下ろした。フェンスに手をかけ、一気に飛び越える。
軋むフェンスを背に地面に降り立ち、周りを見渡すと、整備された地面は広場のように広がっていることがわかった。
広場は見たところさして広くなく、外周は黒く塗りつぶされたような夜の森に囲まれている。
広場の端には電柱が立っていて、そこの電灯にはか細い光が灯っている。あとは相変わらず雨音が響く夜闇が広がるばかりだ。
周りを見渡して、一際目を引いたのが、暗がりに佇む二階ほどはありそうな横長の建物の影。案の定、建物の一階にあたるであろうところの一番端、窓らしき箇所から光が漏れていた。
(さっきの放送はあそこから流れてたのかしら)
広場には他に朝礼台のような金属製の台や、水飲み場らしきものがあり、奥に佇んでいる建物は、近付いて見てみると古びた二階建ての木造建築物だった。
雨除けの屋根が建物の壁面から飛び出ており、その下に出入り口であろう扉がある。
「……なにこれ」
しかし建物の扉はベニヤ板や角材などで頑丈に封鎖されていた。
それどころか、建物一階の窓はその全てが外側から廃材などを打ち付けられており、暗くて見にくいが二階の窓も同じように塞がれている。
「気味悪いわね……」
もともとこういう建物なのだろうか。まるで外部からの接触を拒んでいるかのような様相は、先程の放送とされた地面は広場のように広がっていることがわかった。
広場は見たところさして広くなく、外周は黒く塗りつぶされたような夜の森に囲まれている。
広場の端には電柱が立っていて、そこの電灯にはか細い光が灯っている。あとは相変わらず雨音が響く夜闇が広がるばかりだ。
周りを見渡して、一際目を引いたのが、暗がりに佇む二階ほどはありそうな横長の建物の影。案の定、建物の一階にあたるであろうところの一番端、窓らしき箇所から光が漏れていた。
(さっきの放送はあそこから流れてたのかしら)
広場には他に朝礼台のような金属製の台や、水飲み場らしきものがあり、奥に佇んでいる建物は、近付いて見てみると古びた二階建ての木造建築物だった。
雨除けの屋根が建物の壁面から飛び出ており、その下に出入り口であろう扉がある。「……なにこれ」
しかし建物の扉はベニヤ板や角材などで頑丈に封鎖されていた。
それどころか、建物一階の窓はその全てが外側から廃材などを打ち付けられており、暗くて見にくいが二階の窓も同じように塞がれている。
「気味悪いわね……」
もともとこういう建物なのだろうか。まるで外部からの接触を拒んでいるかのような様相は、先程の放送と相まってより更に異様なものに思えた。
建物は静まり返っており、中からは何の物音もしない。
(誰もいないのかしら?いたらいたで不気味だけど)
ティアナは、板や廃材を打ち付けられた窓の中で、唯一光が漏れている扉横の窓に近づいた。廃材が剥がれており、光はそこから漏れている。ただ窓の位置が高く、中の様子までは分からない。
どうやらここから入れるようだ。
(……入ってみるか)
さっきの放送に関する手掛かりがあるかもしれない。そうでなくても、この不可解極まりない現状に対して、多少なりとも調査が必要であると感じた。
なによりこの異様な状況で、一人の少女が大変な状況に置かれていたとしたら、レリックや仲間との再会よりそちらを優先するべきではないのか。
(私の思い違いだったらいいけど、そうでもなさそうだし)
そう思いながら、ティアナは少し高い位置にある窓のへりに手をかけて、跳び上がった。
その勢いで壁に足をかけて、廃材の間の穴に身体を滑り込ませる。視界に飛び込む光が、夜闇に慣れた目を微かに眩ませた。
中に降り立つとそこは、そう大きくない部屋だった。
本棚や、アルミ製の机が並んでおり、机上には本や筆記用具、辞典やファイルなどが置いてある。
壁には貼り紙が整理されて貼られていて、ここがなんらかの職場であるだろうことは想像がついた。
ティアナが進入した窓側の壁にはロッカーが並んでいる。目についたのは、その奥にあった使い古されている放送器具だ。
「やっぱりここから……」
『春海』という少女はここからSOSを送ったということになるのだろう。
では、あの幻覚の視界の持ち主である女性は一体、何者なのだろうか?その女性が少女を追い回していたという可能性も否めない。
(でもその人が犯人だとして、一人でこんな風に建物を封鎖することなんてできないだろうし……)
部屋の中の様子は、廃材を打ち付けられた建物の外観とは異なって、古びてはいるものの整理されており、
ついさっきまで使われていたような形跡さえある。
その様子からして、依然から封鎖されていたような建物ではないと言うことが分かった。
つまり、何者かがつい最近にこの建物を封鎖したのだ。
考えてにわかに背筋が寒くなった。
意図が分からない分、この状況が余計不気味に感じられる。
(……とりあえず、この施設が一体なんなのか分からないと)
しかし不気味な状況であるからこそ、機動六課、スターズ分隊の隊員である自分が動揺してはならない。今までもそうして来たのだから。
頭を切り替えて、情報を得るためにとりあえず壁にある掲示板の貼り紙に近付いた。
がさり
その時、何かの紙を踏みつけたような乾いた音が足元から聞こえてきた。
視線を下ろすと、何かが印刷された薄黄色い紙が落ちている。
拾い上げて見てみると、翻訳魔法がまだ効いているようで書いてある文字が読み取れた。
「……星を見る、会?」
拾ったのは『星を見る会』というイベントのプリントだった。
『「星を見る会」のお知らせ』という見出しの下にある詳細を読み上げる。
(羽生蛇村小学校発行。333年に一度すい星がやってくる!星空のすばらしさ、宇宙の不思議に触れてみよう!
ひにち、2003年8月2日。じかん、20:00〜23:30。ばしょ、おりべぶんこう、こうてい。もちもの………)
プリントに書かれたいくつかの気になるワードを拾っていく。
(羽生蛇村って確かこの近くの村の名前よね?)
すいません、トリ付け忘れてました
通信から得た、レリック反応があった現場の情報を思い出した。日本、××県、三隅郡、羽生蛇村周辺。
(羽生蛇村小学校はその村の小学校で、場所、おりべ分校……ここはその小学校の分校ってこと?
ということはこの部屋は職員室かなにかで……って言うか、この日にちって私達がレリック捜査で来たのと同じ……)
会の開催時刻もサイレンが鳴って、フリードから振り落とされたティアナが気を失った時間帯に近い。
(333年に一度の彗星……あのサイレンとなにか関係があるのかしら)
プリントを手に思考をしながら壁の掲示板にティアナは近付き、貼ってある掲示物をしげしげと眺めた。
村の広報紙や、学校の予定表などが貼ってある中、一枚の写真が目に止まる。
見てみると、幼い子供達と大人が三人ほど、にこやかに微笑みながら並んで写っている。
「……ここの生徒と職員ってところ?」
おそらくそうなのだろう。自分の予想が正しければこの中に『はるみ』という子供がいるはずだが、名前など勿論書いてはいないので手掛かりにはならない。
プリントを改めて見やる。放送の少女がここの生徒だとしたら、『星を見る会』のために学校に来ていたという理由ができる。
(ここが職員室なら他に……名簿とかあるはずよね)
そう思ってプリントをポケットの中にねじ込んだ。
並ぶアルミ机に歩み寄って、机の上を漁る。
教科書、図鑑、辞書……。
見る限り教材だらけの中、教員日誌を見つけてめくるも、書かれているのは取り留めのない内容ばかり。
最後に書き込まれた7月初頭のページを眺めてから、ティアナは日誌を閉じた。
(今は夏休み……か。元々人がいない中で『星を見る会』は開催されたのね)
取り敢えず日誌を机の上に置いて、一息つく。
机の上にお目当ての物は無い。
更に引き出しを開いていく。
「あ……」
一番上の引き出しに、紐で綴じられた黒い装丁の名簿がしまってあった。
取り出して開くと、グリッドが印刷されたページに名前が並んでいる。
(……あった)
『四方田春海』
少女はやはりここの生徒だったようだ。
となると、例の『星を見る会』に出席して学校に来ていた春海は、そこでなにかに遭ったに違いない。
サイレン、意識の途絶、放送、封鎖された学校、謎の幻覚……。
考えれば考えるほど頭の中に様々な憶測が浮かんでは消える。
(もうちょっと探索、してみようかしら)
まだ調査の余地があった。
建物の中は静まり返っており、外からしとしとと聞こえてくる雨音以外、なんの音も無い。
ティアナは、名簿を元通りの、机の引き出しにしまって、部屋にある薄緑色に塗装さるた木製の扉に向かった。
扉を少し開けると、そこには深い闇が広がっている。
ティアナは半開きの扉から顔を出して、部屋の外を覗き込んだ。
職員室から漏れた光で、その場がおそらく廊下であることが辛うじて分かった。
光に照らされた反対側の壁には窓があるが、そこにも外から板切れ等が貼り付けてあり、窓ガラスは全て割られて床に散らばっていた。
底のないように見える闇はそれによって光が一切入ってこないからだろう。
ティアナは意を決して、闇に向かって声を張り上げた。
「誰かいませんかーーー!?」
しかし声は闇に呑み込まれ、あとには外から微かに聞こえる雨音だけが残った。
ティアナは溜め息を吐いて、廊下に出た。
扉の真上には廊下に突き出た形で、『職員室』と書かれたプレートが設置してある。
明かりが点いているのはティアナのいる職員室だけらしい。
あとは廊下の壁に二つ程点いている非常ベルの赤い光と、廊下の奥には天井に近い場所に、緑色の光を放つ小さなプレートが見えた。
緑色のプレートには何かが書かれているが、ティアナには遠すぎて読めない。しかしそこが廊下の端であることは想像がついた。
外で見た建物の外観からして、この職員室が一番端にある部屋なのだろう。
(建物の大きさから考えると、廊下に沿って2、3は教室がありそうね。……せめて懐中電灯があればいいんだけど)
そう思いながら振り返り、もう一方の闇に目を向けていると、突如として鋭い頭痛が脳内を駆け抜けた。
「うぁっ!!」
突然の痛みに声をあげると同じくして、例の幻覚が視界をよぎる。
ティアナはぎょっとした。
その幻覚も先ほどと同様、誰かの視界のようなのだが、そこに映っていたのはまぎれもなく、頭痛に苦しんでいるティアナの後ろ姿だったのだ。
(う、後ろ!?)
驚いて振り向くと、強い光が目についた。目を細めて見ると、廊下にうなだれている男が立っており、キャップをかぶって、泥などで薄汚れた衣服を着ている。
光は手に持った懐中電灯から放たれており、電灯をティアナに向けたまま微動だにしない。
(な、なにこの人)
その姿を目に入れた途端、ティアナは心臓が飛び上がりそうになったが、あくまで冷静に振る舞おうとした。
「あの、ここの建物の人ですか?」
「………」
黙ったままの男は、キャップを深く被って俯いたままでその表情は見えない。
ティアナは男への警戒心を最大まで引き上げながら、語りかけ続けた。
「あなたは誰ですか?どうしてこんなところにいるんですか?」
呼び掛けに対して、まるで聞こえていないかのようになんの反応も見せない男。
ティアナはそれに苛立ちを覚えた。
「答えて下さ………」
その時、男が懐中電灯を持っていない方の手を、ゆっくりと顔の位置まで上げた。
「っ!」
ティアナは、男が上げた手に持っている物を見て、絶句した。
懐中電灯の明かりを受けて、鈍く光を反射しているのは黒い鉄の塊。
(け、拳銃!?)
ミッドチルダ、及び管理局が管理下に置いている世界では禁止されている質量兵器だ。
小型だが当たれば致命傷は必須。
ティアナが身を強ばらせるのと同時に男が肩を震わせた。
キャップの下から笑い声が漏れる。
「は はっ はは は はは」
声の調子もトーンも変則的な、気持ちの悪い笑い声。
固まるティアナを前に男は、俯いていた頭をゆっくりと持ち上げた。
「ひっ……」
露わになった男の顔を見て、ティアナの口から思わず引きつった声が漏れる。
およそ生きていると思えない青白い肌、生気の無い濁った目はそれぞれあらぬ方向を向いており、
その上、目や鼻や口からはとめどなく血液が流れ出ていた。
血液は頬から首筋まで伝い、懐中電灯の光をぬらぬらと反射している。
男は、血の溜まっている歯茎と唇をゆっくりと動かした。
「死 ねぇ」
途切れ途切れに紡ぎ出された言葉と同時に、男が銃口をティアナに向けた。
条件反射だろうか、気付けばティアナの身体は男が引き金を引く直前に、男の胴体に向けて動き出していた。
拳銃の発砲音と同時に男に体当たりを食らわせる。
腹部に強い衝撃を受けた男はそのまま床に転倒し、ティアナは男の握っていた拳銃と、衝撃で落ちた懐中電灯を奪った。
すぐさま立ち上がり、拳銃を男に向けて構える。
男は身体を持ち上げるように立ち上がり、背後に回ったティアナへと振り返った。
その動作全てが妙にゆったりとしている。
「止まりなさい!!それから両手を後頭部に組んで!!」
しかし男は、身体を不安定そうにゆらゆらと揺らすだけでティアナの言うことを聞いている様子は無い。
「聞こえないの!?両手を後頭部に乗せるのよ!!」
ティアナは、心中では顔から血を流した死人のような者に自分の言葉が通るとは到底思っていなかった。
だが焦燥感と恐怖故に、それ以外にやれることが思い浮かばなかったのだ。
男は相変わらずあらぬ方向を見ながら、魂が抜けたような呆けた顔を上げた。
そして息を思い切り吸い込む仕草を見せ
「お゛ぉお おおお ぉ ぉおお おぉお」
突如、獣のような叫び声をあげた。
神経を張っていたティアナは男の叫びに驚いて、肩を跳ね上げる。
その直後、がらり、と背後から木製の扉が開く音が聞こえた。
ティアナは拳銃を男に向けたまま、後ろを振り向き懐中電灯で照らした。
「は ぁあ あはぁ は あ はぁ あ」
そこには男と同じように肌は青白く、目と鼻から血を流している頭巾を被った初老の男が、荒く不規則な呼吸をしながら立っていた。
左手には懐中電灯、右手には錆び付いた包丁を持っている。
「ど、どうなってるのよ……」
片方では拳銃を向けられているにも関わらず、男が口角を上げて、歯茎を剥いてニヤニヤと笑いながらティアナににじり寄る。
もう一方からも、包丁を握った男がなにやら呟きながらじりじりと近付いて来ていた。
非常事態とは言え、管理局員が局の管理外世界で質量兵器を現地人に向けて使うとなると、まずただ事では済まないだろう。
男達の、光の無い濁った目を見やる。
(話を聞いてくれるような相手じゃないし……)
無闇に発砲はできない、しかし相手との対話も難しい。
職員室の扉は拳銃を持っていた男の向こう側にあるので、今すぐ学校から脱出するということは出来ない。
横目で壁を見ると、丁度、ティアナの横に教室の扉があった。
となるとティアナに出来ることは一つ。
男達に目を向けながらも、少しずつ扉に近付く。
懐中電灯を持った手で、扉の取っ手を掴み、一気に開いて身体を中に滑り込ませた。
すぐさま扉を閉め、目に付いた鍵を急いで掛ける。
振り返って周りを見渡すと、教室には小さな机と椅子がいくつか並び、奥の壁には黒板が、その前には教卓があった。
教室にはティアナの入ってきた扉とは別にもう一つ、廊下に面した扉があり、ティアナは扉に走り寄るとそこの鍵も掛けた。
扉の磨り硝子の覗き窓からは、ぼんやりと懐中電灯の光が見える。
だんだんだんだんっ
直後に扉が激しく叩かれ、打撃音がやかましく教室内に響き渡る。
男達にどれだけの力があるのか分からないが、木製の扉では破られるのも時間の問題だ。逃げなければ……捕まれば殺される。ティアナはそう直感した。
(ホラー映画じゃあるまいし……なんなのよ!!)
心中で悪態をつきながら、なにか状況を打開する手だては無いか、と教室内を改めて見回す。
窓は例によって廃材等で隙間なく閉じられてあり脱出はできない。破壊しようにも、室内は閑散としていて、教室の後ろにある棚には使えるような道具は何も無い。
そんな中で、目についたのは教卓の横にあったアルミ製のドアだった。
ティアナはドアに駆け寄るとドアノブを回してゆっくりと開けて、向こう側を覗いた。
そこにはティアナのいる教室と同じような教室があった。教室同士が、このドアで繋がっているようだ。
扉の向こうで男達が群がっている教室をそそくさと出て行き、ドアを閉めた。そしてなるべく音をたてないように教室の奥の扉に近付いて、静かに扉を開ける。
恐る恐る廊下に顔を出すと、先程ティアナの入った教室の扉に、男達が殺到していた。
どこから現れたのか人数が二人ほど増えており、その二人も生気の無い顔に目から血を流して、各々が鎌や金槌を手に扉を叩いている。
(一体何が起こってるの……?)
身体を支えきれていないかのように不安定な動きをする男達は、まるで映画に出てくるゾンビのようだ。
違いと言えば唯一、物を扱う知能は残っているということだ。
(……こんな小さな学校じゃ、どこかに籠もってても見つかるのは時間の問題だし、ここにいてもどうにもならないわね)
教室の窓はどこも頑丈に塞がれている。破壊しようものならその音を聞きつけられ、あっという間に捕まるだろう。
なにか打開策は無いかと、ティアナは廊下を見渡した。
教室とは反対側の壁、ティアナの目の前にはちょうど男子トイレと女子トイレが並んでいる。
更に近くには、さっき職員室から見た天井辺りで光っている緑色のプレートがあった。
そこには『非常口』という文字と扉から出て行く棒人間が描かれている。どうやらティアナのいる教室が、校舎の端に位置しているらしい。
そのプレートのすぐ近くにアルミ製のドアがあった。
(『非常口』、か。一か八か行ってみるしかないわね)
改めて振り返ると、男達は相変わらずティアナがいた教室の扉に群がっている。
(……行くなら今しか無い)
機を見て、しゃがみながら廊下へと出て行った。男達は自分達が叩いている扉の音がうるさくて、ティアナの足音には気付かないだろう。
『非常口』のドアはティアナのいた教室から見て、二階へ上がる階段を挟んだ位置にある。しゃがみながら急いで階段を素通りして『非常口』に向かい、ドアノブに手をかけた。
(………ウソ)
しかしドアノブが回そうとしても、ビクともしない。鍵が掛かっているようだ。
(信じらんない、どうしろって言うのよ……)
ドアの前で、ティアナは深くうなだれた。横からは扉を殴る音が絶え間なく聞こえてくる。
強行突破、は難しいだろう。もしあの四人に囲まれたら持っている農具で袋叩きに遭うに違いない。
ふと、こういう時相方のスバルがいたら……とも思った。フロントアタッカーで格闘が主体の彼女ならこういう状態を打開できるのだが。
(……駄目ね。今いない人間にすがっちゃうぐらいじゃ、スターズ隊員としてもセンターガードとしても笑われちゃうわ)
そう思うことで、弱気になり掛けた自分を奮い立たせた。『非常口』の横には、木造の階段が闇に向かって伸びている。
(……少なくとも一階に留まるのは危険だし、こうなったらこの校舎から出られそうなところを隈無く探すしか無いわね)
決心したティアナは後ろで男達が扉に群がっていることを確認して、階段を静かに駆け上った。
踊場に出てから折り返すように上に伸びる階段を上がって、警戒しながら二階の廊下を覗き込む。
少し遠くに、懐中電灯の明かりが見えた。金属バットを手にこちらを伺っているように立っている。
懐中電灯の逆光で顔は分からないが、およそ下にいた男達と同じにまともな人間ではないのだろう。
現状ではそうとしか思えないし、警戒するに越したことはない。
二階も一階とほぼ同じような構造らしく、階段横に教室の扉があった。
(下みたいに教室を伝って向こうへ行けるかも……)
バットを持った人間に注意を払いながら、近くにあった教室の中に入っていく。扉を閉め、息を潜めて誰もいないことを確認してから懐中電灯を点けた。
やはり一階と同じく教室の後ろ、荷物棚や掃除ロッカーの設置してある壁の端にドアがあった。
ドアを抜けて隣の教室に入るが、相変わらず窓は廃材でびっしりと埋め尽くされていて、逃げ場は無い。
(やっぱりここも駄目か)
使われていないのか、他の教室と違い、椅子や机が綺麗に後ろの壁に並べてある。
こうなると、後は一番奥の教室に行くしかないのだが……
がらり
その時、誰かが教室に入って来た。咄嗟に教卓の影に身体を滑り込ませ、息を殺す。恐らく廊下にいたバットを持った人物だろう。
足音と共に床が軋み、懐中電灯の明かりが教室内を撫で回すように照らしていく。
(頼むからこっちに来ないでよ……)
教卓の中で縮こまり、神経を尖らせながらティアナは願った。
「はる み ちゃ ぁん、い るのか なぁ?」
不意に声が聞こえてきた。声の太さからして男性のものだろう。やはり下にいた男達と同じくしゃべり方が覚束ないようだ。
ティアナの頭の中で男の言った言葉が引っ掛かった。
(は、る、み、ちゃん……はるみ?)
名簿で見た、放送の少女と思われる『はるみ』という名が男の口から飛び出た。
ティアナは驚き、機を見て教卓から顔を少し覗かせると、向こうで頭の禿げ上がった初老の男性が、金属バットを片手に懐中電灯で教室内を探し回っていた。
(あれは、確か写真にいた……)
職員室の掲示板に張られていた写真。男はその写真の中心で児童に囲まれながら暖かな微笑みを浮かべていた。
(ってことは、あれって感染とかするの……?)
新種の病原体による症状かなにかなのか、この学校にいる人間は一様に血の気が無く、目や鼻から血を流しており、更には凶暴化している。
(道具を持ってたり、微かに喋る辺り知能は残ってるみたいだけど……どちらにしろ話は通じなさそうね)
さしずめ『春海』は、『ほしを見る会』で学校にいた時に襲われたのだろう。
(これはレリックどころの話じゃ無くなってきたわね)
いつもガジェットや戦闘機人を送り込んでくる相手側によるものなのか、それは分からないが、
とりあえずティアナは、自分がとんでもない状況の中に置かれているということを理解した。
(行ったかしら……)
いつの間にか獲物を探して揺らめく懐中電灯の光が消えていた。耳を澄ませると、教室からは何の音も聞こえない。あの男の激しい息遣いも、歩行により床が軋む音も無い。
静寂の中、ただ雨が降る音が微かに聞こえてくるだけだ。
ティアナは恐る恐る教卓から顔を出した。ただでさえ暗い夜なのに窓が閉鎖されている教室内には深い暗黒が広がり、一寸先も見えない。
懐中電灯のスイッチに指をかける。かちり、とスイッチが入り、明かりが点いた。
「見 つけ た ぁ」
目が合った。
見開かれ血走り、濁りきった瞳。ティアナの眼前には男の顔があった。目から血は流れ、死体のような肌をした禿げ上がった男はティアナを見て、歯を剥いて笑ってみせた。
「―――――――!!!」
声にならない悲鳴をあげて、ティアナは飛び退いた。勢い余って壁に背中を打ち付けたが、それどころではない。
男はニタニタと嫌らしい笑顔を携え、金属バットを握り締めながら立ち上がった。
ティアナも壁に寄りかかりながら、なんとか立ち上がり、男から離れようと後退りをする。
男は怯えているティアナを楽しげな表情で見据えながら、金属バットを頭上に振り上げた。
「ふ ぅん゛!!」
男はティアナ目掛けて思い切りバットを振り下ろした。ティアナは咄嗟に左に飛んで避け、バットは黒板に当たって激しい音を教室に響かせた。
そこから男は間髪入れずバットを勢いよく横に振り、それは避けきれなかったティアナの二の腕に直撃した。
「ぁぐっ!!」
予想以上に重い衝撃に押され、ティアナは床に倒れ込んだ。右腕に熱と共に鈍い痛みが広がる。
男は、倒れ込み苦悶の表情を浮かべるティアナに跨り、けたたましく笑い出した。
(ヤバい……!!)
「い っはっは はは はっは は」
歪な笑い声を上げながら、男は再びバットを振り上げる。その目線は、ティアナの脳天をしっかりと狙っていた。
しかし次の瞬間。
ぱぁん
乾いた音が響き渡った。ティアナの左手には拳銃が握られており。そしてその銃口は男の頭部へ真っ直ぐに向いていた。
発射された弾丸は男の眉間を見事に射抜き、空いた風穴からは血がたらたらと流れ出している。男は笑顔を浮かべ、バットを振り上げたままゆっくりと後ろに倒れ込んだ。
(し、質量兵器で、民間人を殺した………)
自己防衛に加え、相手が正常な状態では無かったと言えど、質量兵器を使って現地人を撃ち殺してしまった。
ティアナはよろよろと立ち上がると、自分の持っている拳銃を呆然とした面持ちで見つめた。男はバットと懐中電灯を持ったまま仰け反った状態で死んでいる。
「……ッ!?」
ティアナはぎょっとした。
仰向けに倒れて死んだはずの男が、突然動き出したのだ。素早くうつ伏せになり、手足を丸めて胎児のような格好でうずくまった。
ティアナはとっさに銃を向け、警戒しながら様子を見たが、男はそれきり動く様子が無い。
「……な、なに?なんなの?」
確かに額を撃ち抜かれたはずの男が、なぜいきなり動き出して身体を丸めたのか。
ティアナが動揺していると、下の男達が銃声を聞きつけたらしく、階段をぎしぎしと登る音が微かに聞こえてきた。
(とにかく今は逃げないと!)
ティアナは廊下に飛び出すと、位置としては一番奥にある隣の教室に向かった。扉の上には『図書室』と書かれたプレートがある。ティアナは図書室に入ると急いで扉を閉め、鍵を掛けた。
室内には沢山の本棚と、閲覧者用の机や椅子が置いてある。念のためティアナは懐中電灯を消し、一番奥の本棚の影に隠れて様子を見た。
やがて複数の足音が扉の向こうから近付いて来た。どうやら隣の教室に入ったらしく、扉を開ける音が聞こえてきた。
(こっちには気付かないでよね、頼むから)
そう願いながら扉を睨み付けている矢先。
「……ぐっ!?」
鋭い痛みが頭の中に走った。これで三度目だ。再び幻覚が視界と聴覚を支配する。
―――いへぇ へえ ぇへ へへ―――
見えたのは汚れた軍手をはめて金槌を持っている誰かの視界。視線の先には、先程ティアナが撃ち殺した男がうずくまっていた。
(……これってやっぱり他人の視界、よね?)
そう思った直後、頭の中がざわめくような感覚と共に、視界が切り替わった。
―――はぁっはは は はっはひぃ は―――
今度は懐中電灯と錆びた包丁を持った男の視界。恐らく一階でティアナを挟み撃ちにしようとした男だろう。
金槌を持った男が視界の端に映っており、視線はやはり丸まっている禿げた男に向いていた。
「……………………」
段々と勝手がわかってきた。どうやらこれは他人の視界を盗み見る能力のようなものらしい。
魔法とは違う、超能力。それがなぜ突然自分に備わったのかは理解に苦しむが。
頭痛を堪えながら、ティアナは試しに意識を集中してみた。すると視界は更に変わり、今度は鎌を持った男。一階の廊下を徘徊しているようだ。
(なんでこんな能力が……サイレンといい、アイツらといい、やっぱり全部関連してるのかしら?)
現状では何とも言えないが、とりあえず男達が図書室に入ってくる様子は無さそうだ。ティアナは本棚に寄りかかると、大きな溜め息を吐いた。混乱して、頭の中の収拾がつかなくなっている。
「あぁ、なんでこんな目に遭うかな……」
勿論返事をしてくれる者は誰もいない。嘆きは暗闇に霧散した。
おもむろにティアナは拳銃を持ち上げてみた。改めて持ってみると、鉄の塊は意外と重かった。
(……質量兵器の使用、しかも普通じゃないとは言え民間人に向けての発砲……バレたら確実にマズいことになるわね。でも)
「今はそんなことも言ってられないわね。非常事態なんだし」
弾には限りがある。シリンダーに入っている弾はあと五発。
「全部使う前にこの事態を切り抜けなきゃダメ……か」
(……早くここを出て、なんとか六課と通信を取る方法を見つけなきゃ。クロスミラージュは、少なくとも今は諦めるしかないか。それにキャロも探さないといけないし……)
サイレンが鳴り響く時、錯乱して暴れるフリードに必死にしがみついていたキャロ。それが最後に見た彼女の姿だ。
(キャロ……無事ならいいんだけど)
もしかしたらあのまま無事に撤退して、助けを求めているかもしれない。あるいは自分と同じように、どこかに落ちてあの化け物達に襲われているかもしれない。
後者の状態に陥っているキャロのことを考えると、ティアナはいてもたってもいられなくなった。
(早くここを出ないとね)
「っ……く……」
目を閉じて意識を集中する。再び『彼ら』の視界が映りだした。
―――はぁ っ は っはぁはぁ は っはぁ はっは―――
視界を切り替える。
―――あ゛ ぁぁあ゛あ゛ あ゛ぁああ―――
視界を切り替える。
―――くひっ ひひひは はっは っ―――
―――は ぁ はぁ、はぁ は あはぁ ―――
―――どこ ぉ に行っ た ん だぁ?―――
盗み見れる視界は全て校内にいる者ばかり。この能力にはどうやら、盗み見ることができる範囲にある程度の限界があるようだ。
視界の主達は皆校舎の中にいて、各々徘徊している。校舎内をまんべんなく懐中電灯で照らして回る化け物達はまるで見回りをしているようだった。
更に視界を切り替えると、今度は二階の廊下が映り込んだ。
――― は ぁ るみちゃ ぁ ん、 どぉこ で すかぁ ?―――
「……!?」
その声を聞いたティアナは驚きを隠せなかった。視界の主は手に懐中電灯と金属バットを持っている。間違いない、あの禿げた男だ。
(さっき死んだはずでしょっ!?)
確かに男の眉間を撃ち抜いた。それでかろうじて生きていたとして、動けるはずがない。ましてや立ち上がって歩き回るだなんて考えられないことだ。
まさか、治癒能力か?
(ありえないわ、そんなの……)
―――せ んせぇ と ぉ あそ びぃま しょ ぉ―――
しかし何事も無かったかのように、男は校舎内を徘徊している。
(本当に……夢でも見てるんじゃないかしら)
ティアナは疲れた顔をして、頭を抱えた。
(取り敢えず……今はここを出ることに専念するべき、ね)
手持ちは懐中電灯と慣れてない拳銃、しかも残弾が五発のもの。戦力としてはかなり頼りない。
窓に貼り付けられている廃材を再び調べる。やはりどこも頑丈に留めてある、と思ったが
「ん?」
懐中電灯で照らして見ると、角材で補強してあるベニヤ板とベニヤ板の間に、少し隙間が空いている箇所があった。
よく見れば周りに打ち付けてある釘も若干浮いている。衝撃を与えれば剥がせるかもしれない。
(……一気にやるしかない)
ティアナは深呼吸し、一度バリケードと距離を置いた。そして息を入れ、ベニヤ板に渾身の蹴りを放った。
べきゃっ、という音と共にベニヤ板が大きく歪み、釘が浮いて隙間が広がった。
(いける!!)
ようやく突破口が見えた。
しかしそれと同時に微かな頭痛が走り、幾つもの思念がこちらに注意を向けたのを感じた。校舎内に徘徊している男達が、音に反応したのだろう。
これも能力によるものなのか、だが気付かれたからには急がなければならない。
「ふッ」
もう一発。軋む音と共に再び隙間が広がる。
(これくらいまでいけば……)
そう思うと、ティアナは隙間に手を入れベニヤ板を思い切り引っ張った。べりべりべり、と剥がれていく感触が腕に伝わる。
ばきっ
そして遂にベニヤ板は大きな音を立てて剥がれ落ち、そこにはティアナが通るには十分な脱出口が現れた。
その直後、後ろで誰かが扉を開けようとしたのだろう。扉から、がたっと音が鳴った。しかし鍵が掛けられているため開かない。
完全に気付かれたようで、男達が中に入ろうと激しく扉を叩いている。
早くここを出よう、そしてキャロを探して管理局に戻り、この異変をいち早く解決しなければ。
……外もあの化け物達だらけだったら?そうだとしたら尚更早く問題を解決しなければならない。
ティアナは決意して、開けた穴から夜の闇へ、再び飛び込んでいった。
その先には深い絶望が待っているとは知らずに。
長くなってすいません。
以上で投下終了とします。
ではまた。
久しぶりの投下乙です。なまじ原作をクリアしただけに学校の中の様子とか克明にイメージでき、ティアの焦燥感などが
ダイレクトに伝わってきましたね。さて、問題は屍人と接触して無事に現世に帰還できるのか、という点ですね。
>>33 投下乙です。
本日23時半より、『リリカルWORKING!!』九品目投下します。
それでは時間になりましたので、投下開始します。
九品目
フェイトたちは決戦の場へと転送された。
陸地はなく、海から廃墟となったビル群が生えている。時空管理局が作り上げた疑似空間だ。ここならどんな大技を使っても現実空間に被害を及ぼす心配はない。
「小鳥遊、あんたが戦いな。その方が勝率が高い」
アルフが小鳥遊のジュエルシードに手を当て、魔力を送り込む。アルフの全ての魔力を受け取り、小鳥遊が回復する。
「負けたら承知しないよ」
「任せてください」
小鳥遊とアルフは互いの拳を打ちつけ合う。アルフはよろめきながらも、巻き込まれないよう戦場の隅に移動する。
傾いたビルの屋上に腰かけると、ユーノがやってきた。
「あんたも見学かい?」
「はい。僕では、なのはたちの全力の戦闘にはついていけませんから」
どちらもこの日の為に準備をしてきた。後はどちらの知恵と力が上回るかだ。
レイジングハートとバルディッシュの先端が触れ合う。戦闘が開始された。
ぽぷらとなのはが、ビルの間を縫うように高速で飛行する。
牽制射撃を繰り返しながら、二人はどんどん加速していく。ぽぷらはクロスレンジの戦闘が苦手だ。まずは接近されないことが肝心だった。
しかし、どんなに速度を上げても、フェイトはぴったり後ろについてくる。この中で一番機動力が優れているのはフェイトだから当然だ。
(作戦通りだね)
なのはが念話をぽぷらに送る。
なのはたちの目的は、フェイトと小鳥遊の分断だった。小鳥遊の弱点は、魔法の射程が短く飛行速度が遅いこと。高速で戦闘していれば、必ず遅れる。その隙に二人がかりで、フェイトを倒すのだ。
ビル群を抜け、なのはたちは開けた空間に出た。追いかけてくるのはフェイトのみ。
「かたなし君はいないね?」
「なら、一気に決着をつけよう。シュート!」
八個の魔力弾が、全方位からフェイトに襲いかかる。
フェイトは落ち着いた様子で、背後から迫る四個を迎撃する。
「必殺ぽぷらビーム!」
足の止まったフェイトをぽぷらが狙い撃つ。フェイトは高速機動は得意だが、防御には少々難がある。命中すれば倒せるはずだ。
「縮め!」
突如、小鳥遊が出現し、迫るビームと残りの魔力弾を縮小させ体で受け止める。
「小鳥遊さん、どこから出てきたの!?」
『Fire』
「なのは、下だ!」
佐藤の指示で、なのはが急降下する。頭上すれすれを電光が通過する。
なのはとぽぷらが移動を再開する。
「あれを見ろ」
佐藤が追いかけてくるフェイトの肩を指差す。自らの魔法で赤ん坊サイズに小さくなった小鳥遊がしがみついていた。これまではマントの後ろに隠れていたのだ。
「分断を狙ってくることくらいお見通し」
「ちなみに佐藤さんをヒントにしました」
フェイトが自慢げに、小鳥遊が少し青ざめた顔で言う。
訓練しても、小鳥遊の飛行速度を上げることはできなかった。ならば、佐藤のように誰かに運んでもらえばいい。
ただし、この技には弊害があった。小鳥遊が小さくなることで、あらゆる人間が年増に見えてしまうのだ。あまり長時間続けると、小鳥遊の精神が持たないかもしれない。
敵の攻撃を小鳥遊が盾となって受け止め、フェイトの電光が必殺の威力を持って迫る。二人はまるでワルツを踊るように攻守を入れ替えながら戦う。
「私たちにもう弱点はない」
「まさに最強の矛と盾。俺たちは絶対に負けません!」
なのはたちがじりじりと追い詰められていく。
「やっぱり強いね、フェイトちゃん」
なのはが感心したように言う。
「でも、私たちもこれ終わりじゃないよ」
どうやら切り札を使う時が来たようだ。ぽぷらが照準をフェイトに合わせる。
「ポプライザー!」
ぽぷらの枝からビームが放たれる。技名は初だが、普段のビームと変わらない。防ぐまでもなくフェイトはやすやすと回避する。
「ソード!」
ぽぷらがビームを放出したまま、両腕を振るう。それに合わせてビームが横薙ぎに振るわれる。
「魔力剣!?」
フェイトが驚愕し、小鳥遊がかばう。
ビームとして放出した魔力を、そのまま刀身として維持する。膨大な魔力消費と引き換えに、これまで直線の攻撃しかできなかったぽぷらに、立体的な攻撃を可能とする新技だ。
ぽぷらの背がじりじりと縮んでいく。早く勝負をつけないと、身長が持たない。
「せーの!」
ぽぷらが全長百メートルに及ぶ剣を振りまわし、小鳥遊ごとフェイトをビルに叩きつける。
ポプライザーソードの威力はビーム時の半分以下しかない。小鳥遊の防御を貫通はしないが、ぽぷらと佐藤が力を合わせ、上から押さえつけて動きを封じる。
小鳥遊が剣を小さくしようとするが、ぽぷらがその度に魔力を注ぎ込むので、剣の大きさは変わらない。
「そっちが最強の矛と盾なら」
「こっちは最大の剣と大砲だよ!」
周辺の空間に漂う魔力の残滓が、レイジングハートの先端に集中する。まるで星の光を集めているようだった。暴発寸前まで集められた魔力が、凶悪な光を放つ。
「収束砲撃!?」
「フェイトちゃん、逃げて!」
小鳥遊が渾身の力でわずかに剣を持ち上げ、フェイトが動ける隙間を作る。
「でも、小鳥遊さんが……」
「いいから! 勝って、全てのジュエルシードを手に入れるんだ!」
フェイトが意を決して隙間から這い出す。
「スターライトブレイカァァー!!」
圧倒的な光が瀑布のように降り注ぐ。光は小鳥遊ごとビルをぶち抜き、巨大な爆発を引き起こした。いかに魔王小鳥遊でも、耐えられる威力ではない。爆発が収まった後には、変身が解除された小鳥遊が海面を漂っていた。
「やった……!」
収束砲撃は負担が大きく、なのはの呼吸は激しく乱れていた。
「回避しろ!」
佐藤からの警告。なのはは体をひねるが、迸る電光が肩を直撃する。
「なのはちゃん!」
「後はお願い」
なのはが肩を押さえながら落下していく。撃墜はされていないが、しばらくは動けないだろう。
ぽぷらが空中でフェイトと相対する。ぽぷらは普段の半分のサイズまで縮んでいた。
「佐藤さん、なのはちゃんが回復するまで時間稼ぎできると思う?」
「無理だな。その前に撃墜される」
「なら、一気に決めるしかないね」
フェイトとて、度重なる魔法の行使で疲れているはずだ。勝機はある。
「ポプライザーソード!」
ぽぷらの枝から長大な魔力剣が伸びる。ぽぷらの背がさらに半分に縮む。
「くっ!」
フェイトは魔力剣を回避するが、剣はどこまでも執拗にフェイトを追いかけてくる。苦し紛れのフォトンランサーを、ぽぷらは剣で切り払う。
「無駄だ。俺の予知からは逃げられん」
佐藤が時折、フェイトの進行方向に先回りして剣を動かす。
「もらった!」
剣が完全にフェイトを捉える。ぽぷらが横一文字に剣を振り抜く。
「佐藤さん、私、勝ったよ!」
「ぽぷら」
佐藤は喜びもせず、剣の先を見つめていた。ぽぷらも視線の先を追った。
剣の先に黒い染みができている。染みの正体に気がつき、ぽぷらの顔から血の気が失せた。
足元にバリアを張り、剣の上にフェイトが乗っていた。チェーンバインドを応用して、自分と剣を光の鎖でつないでいる。まるで神話の、岩に鎖で繋がれたアンドロメダ王女のようだった。ただし、このアンドロメダ王女は怪物を倒す力を秘めている。
「きゃー! 離れてー!」
ぽぷらが剣を振りまわすたびに、鎖がちぎれ、足元のバリアがひび割れていく。それでもフェイトは冷静だった。
『Get Set』
「これなら絶対に外さない」
バルディッシュがグレイヴフォームへと形を変える。バルディッシュも鎖で剣に固定され、まっすぐぽぷらを狙っていた。ポプライザーソードを使っている間、ぽぷらは移動できない。
「剣を消せ!」
「もう遅い」
佐藤の叫びと、スパークスマッシャーの発射はまったく同時だった。
ぽぷらが回避の指示を仰ぐべく佐藤を見る。佐藤はきっぱりと言った。
「すまん。詰んだ」
「さとーさーん!」
ぽぷらと佐藤を稲妻が貫く。
変身が解除された二人が海面へと落下していく。魔法の使い過ぎで手の平サイズのままの二人を、ユーノが空中でキャッチする。
フェイトは安心したように息を吐いた。
「フェイトちゃん」
「そっか。まだ終わってなかったね」
休憩する間もなく、ぼろぼろになったなのはがゆっくりと上昇してくる。フェイトも三つの魔法を同時使用したことでかなり消耗していた。
「なのは、やっぱり私たち友達にならなければよかったね」
フェイトは苦しそうに顔を歪めていた。
「フェイトちゃん、そんな悲しいこと言わないで」
「だって、友達になっていなければ、こんなに辛い思いをしなくてすんだ」
傷ついた小鳥遊をアルフが介抱している。佐藤とぽぷらは、まだ意識を取り戻していない。
小鳥遊はもちろんだが、佐藤やぽぷらもワグナリアにいる間、仕事に不慣れなフェイトによくしてくれた。
誰を傷つけても、誰が倒れても、心がきしみ悲鳴を上げる。こうなることはわかっていたはずなのに、優しい誘惑にフェイトは勝てなかった。
「フェイトちゃん、今がどんなに辛くても、楽しかった時間まで否定しないで。例え結果がどうなろうと、私はワグナリアで過ごした時間を絶対に忘れない」
「そうだね、なのは。私も忘れられないよ。でも、私は母さんの為にジュエルシードを集めるって……そう決めたから!」
フェイトは涙を振り払い、バルディッシュを構える。
その時、膨大な魔力反応が空を覆った。
「母さん!?」
フェイトとなのはを紫の稲妻が襲う。
「なのは!」
「フェイト!」
ユーノがなのはを、アルフがフェイトを受け止める。
その隙に十個のジュエルシードが雲間へと飛んでいく。
「宗太さん」
フェイトが朦朧とした意識で手を延ばす。
ジュエルシードと一緒に、小鳥遊も雲の向こうへと消えていった。
小鳥遊が目を覚ますと、部屋の奥でプレシアが椅子に座っていた。隣の台座には、十個のジュエルシードが置かれている。どうやら時の庭園に運ばれたようだ。
「やはり一度に空間転移させるのは、これが限界か」
プレシアは激しく咳き込む。口を押さえていた手には、べったりと血が付着している。
「お前……」
「時間がないって言ったでしょう。こういうことよ」
プレシアは病魔に侵され、余命いくばくもない状態だった。
「それにしても情けないわね。すぐにジュエルシードを集めるって言っておきながら、この程度なの?」
「フェイトちゃんはまだ負けてなかった。どうして横槍を入れたんだ」
「もう必要なくなったからよ。あの子も、全てのジュエルシードも」
ようやく悲願達成の確信を得られたと、プレシアはいつになく上機嫌だった。
「どういう意味だ?」
「いいわ。全部教えてあげましょう」
プレシアは椅子の右手側にある扉を開けた。液体に満たされたポッドが並ぶ通路の中央で、フェイトに瓜二つの女の子が入ったポッドが鎮座していた。
「あれが私の本当の娘、アリシアよ」
ポッドの中の少女はフェイトより少し幼いようだった。小鳥遊は息をのむ。
かつて優秀な魔導師だったプレシアは事故で一人娘を失った。その後、人造生命の研究、プロジェクト・フェイトを利用して娘を蘇らせようとしたが、計画は失敗し娘の紛い物しか作ることができなかった。それがフェイトだ。
「アリシアを蘇らせるには、失われた技術の眠る世界、アルハザードに行くしかない。その為には二十一個のジュエルシードが必要だった。でも、これだけあれば、もう充分」
小鳥遊の肉体と精神はジュエルシードと相性がいい。小鳥遊を媒介に十個のジュエルシードとこの時の庭園の駆動炉の力を結集させれば、数の不足分を補い、より確実に次元の狭間にアルハザードへの道を作れるはずだ。
小鳥遊はプレシアを睨みつけた。
「一つ教えてくれ。お前はフェイトちゃんをどう思ってるんだ?」
「ただの人形よ。目的を果たした今となっては、もう用済み。必要ないわ」
「あの子は母親のあんたの為に、あんなに頑張っていたんだぞ。それに対する感謝は、愛情は、あんたにはないのか!」
小鳥遊の怒りを、プレシアは涼風のように平然と受け流す。
「もし愛してるなら、あなたみたいな変態に近づけると思う? そうね。あの子を餌に、あなたの研究が出来た。そこだけは褒めてあげてもいいわ」
プレシアは明後日の方向を見上げた。小鳥遊以外の誰かに聞かせるようにはっきりと告げる。
「あなたはアリシアとは似ても似つかない偽物。私は、そんなあなたが大嫌いだったわ。ねえ、聞いているんでしょ、フェイト?」
プレシアの放った魔法から、時の庭園の場所はすでにアースラに察知されていた。プレシアと小鳥遊の会話を、アースラブリッジでなのはとフェイトは聞いてしまっていた。
小鳥遊は怒りに体を震わせる。
「……俺は年増が嫌いだ。年増なんてみんなわがままで自己中で……。でも、あんたはその中でも最悪の年増みたいだな」
小鳥遊が走り、台座の上のジュエルシードを一つ奪い取る。
「あんたはこの手で倒す。小さくしてフェイトちゃんに謝らせてやる」
黒いマントがひるがえり、魔王小鳥遊へと変身する。怒りで全身に活力がみなぎってくる。
「この場所に運んだのは失敗だったな。狭い空間でなら、俺は無敵だ」
「無敵? いいえ、あなたは弱い。あなたほど弱い魔法使いを私は他に知らないわ」
プレシアは杖を投げ捨てると、小鳥遊めがけて走る。
大きく腕を振り上げ、プレシアが小鳥遊の顔面を殴る。今の小鳥遊にしてみれば、クッションの上から叩かれているようなもので、痛くも痒くもない。
「どうして今私に魔法を撃たなかったの?」
プレシアが口元を楽しげに歪める。走り寄る間に、いつでも攻撃できたはずだ。
「あなた、女に攻撃されると無抵抗に受ける癖があるでしょう。過去によっぽど女に酷い目に遭わされたのかしら?」
これまでの戦いで小鳥遊が攻撃を避けたのは、クロノを相手にした時だけ。魔法で攻撃された時は小さくして威力を軽減しているが、伊波やアルフのような直接攻撃はまったく無防備で受け止めている。
幼い頃、小鳥遊は梢の技の実験台にされていた。たまに反撃すると三倍になって返ってきた為、黙って受けるのが習慣になっていた。
女が小鳥遊の魔法を防ぐのにバリアなどいらない。ただ拳を繰り出せばいいのだ。
「そして」
プレシアの手が小鳥遊の腹部に当てられる。次の瞬間、激痛と激しい嘔吐感が小鳥遊を襲い、たまらず地面に膝をつく。
「どんなに肉体を強化したって、内臓が鋼になるわけじゃない」
プレシアは小鳥遊の体内に直接強い振動を送り込んだのだ。激しい揺れに胃の内容物が食道をせり上がり、心臓は鼓動を乱されて激しい痛みを引き起こしていた。
「ほらね。あなたはこんなにも弱い」
プレシアが地に這いつくばる小鳥遊を蔑む。
「……俺は、俺は、負けられないんだぁぁああああああ!」
小鳥遊が気力を振り絞り、右腕を突き出す。それよりわずかに早くプレシアが小鳥遊の額に手を当てた。
「お休みなさい、魔王小鳥遊。もう目覚めることはないでしょうけど」
振動が脳を激しく揺さぶる。脳を揺さぶられて、意識を保っていられる人間などいない。気合も根性も何の意味も持たない。
(ごめん、フェイトちゃん。俺、何もできなかった)
悔しさに小鳥遊は歯がみする。しかし、どうすることも出来ず、小鳥遊の意識は闇の底へと沈んでいった。
以上で投下終了です。
こうして書くと、小鳥遊ってトラウマを抱えたキャラだったんですね。意外でした。
それでは、また。
本日、23時半より、『リリカルWORKING!!』十品目投下します。
時間になりましたので、投下開始します。
十品目
自分がプレシアの娘の紛い物であり、母親から全く愛されていなかったことを知らされ、フェイトが放心状態で崩れ落ちる。それをアルフが抱きとめた。
アースラブリッジは、一気に騒然となる。
時の庭園から膨大な次元エネルギーが放射されている。このままでは大規模な次元震が起きるのは時間の問題だ。
さらに庭園内には八十体以上の傀儡兵が出現し、送り込んだ部隊を足止めしていた。
「僕が行きます」
「クロノ、その体じゃ無理よ」
「部隊の指揮くらいなら執れます。行かせてください」
クロノは強い決意を込めて言った。とても止められそうな雰囲気ではない。
「わかりました。出撃を許可します。ただし無茶をしたら駄目ですよ」
クロノが頷き、時の庭園へと転送されていく。
「私たちも行かせてください」
「かたなし君を助けないと」
なのはとぽぷらが名乗りを上げる。魔力は回復してもらったが、疲労や負荷は残っている。万全の状態には程遠い。
「エイミィ。彼女たちを投入した場合の作戦成功率は?」
「好意的に見積もっても二十パーセントもありません」
「駄目です。そんな危険な作戦に、あなたたちを投入するわけにはいきません」
リンディは首を振る。
クロノの弱体化がここでも影響していた。本来のクロノならば一部隊に匹敵する働きができるのに。
「せめて、後一部隊あれば……」
「何とかなるかもしれません」
発言したのはユーノだった。
「どういうこと?」
ユーノは空中にワグナリア近辺の地図と、ジュエルシードが発見された位置を投影する。
「前から疑問に思っていたんです。どうしてジュエルシードはワグナリアに引き寄せられたのか」
「それは小鳥遊さんに引き寄せられたって……」
「それだと辻褄が合わないんです」
夏休みの今、小鳥遊が一番長い時間過ごす場所は自宅だ。なのに、小鳥遊家に引き寄せられているジュエルシードはない。
「つまりワグナリアには小鳥遊さん以外にも引き寄せる要因があったんです」
「あっ」
ぽぷらがあることを思い出した。ユーノが頷く。
「確証はありませんし、かなりの危険を伴います。でも、鍵はワグナリアにいます」
ユーノは地図上のワグナリアを指差した。
時の庭園内に、ワグナリアの制服を着た女が転送されてくる。赤縁の眼鏡に激しくカールした前髪、松本麻耶だった。何故か荒縄で拘束されている。
「って、ここどこなのよー!」
松本は混乱した様子で叫ぶ。
通路はところどころ壊れて赤い空間がのぞいている。おどろおどろしい赤色は、まるで怪物の口の中のようで不気味だった。あらゆる魔法がキャンセルされる虚数空間と呼ばれる場所で、落ちれば重力の底まで真っ逆さまだ。
残された床には、西洋の甲冑に似たデザインの傀儡兵が徘徊していた。
「落ち着け、松本」
「佐藤さん、いきなりこんなとこに連れてきて――!」
松本は縄の先を握る佐藤を見て、絶句する。セーラー服を着たぽぷらの肩に、手の平サイズの佐藤が乗っていた。
松本たちを発見した傀儡兵が襲いかかってくる。
「必殺ぽぷらビーム!」
ぽぷらが木の枝から光線を放ち、傀儡兵たちを倒していく。
松本は頭を抱えてしゃがみこんだ。
(違う。こんなこと現実にあり得るわけがない。そう、これは夢よ!)
人間が小さくなったり、木の枝から光線が発射されたり、ロボットが歩いていたり、全部夢だと思えば納得できる。
「…………って、納得できるかー!」
松本が一転して怒りの咆哮を上げた。
「普通な私の夢が、こんな普通じゃないはずがない! 私の夢なら、もっと普通になりなさいよ!」
佐藤が松本の巻き毛にジュエルシードを差しこむ。その瞬間、不可視の領域が松本を中心に発生した。
傀儡兵の動きが格段に鈍くなり、ぽぷらと佐藤の変身が解ける。
「成功だよ、佐藤さん!」
「さすがだ。普通少女麻耶」
ぽぷらのハイタッチを受けながら、佐藤が感心したように呟く。
佐藤が松本から回収したあの日、ジュエルシードはすでに発動していた。松本の能力は一定範囲内の魔法の無効化。佐藤たちは知らずに領域に踏み込み変身を解除されたのであって、ぽぷらが気をきかせたわけではない。
ジュエルシードをワグナリアに引き寄せていたもう一つの要因は松本だった。小鳥遊同様、松本の普通じゃないほど普通を願う気持ちがジュエルシードを上回ったのだ。
ロストロギアを超える欲望を持つ人間が二人もいるとは、さすがにワグナリアは変態の巣窟だ。案外、探せば他にもいるのかもしれない。
しかし、さすがに傀儡兵の存在自体は消滅させられないし、領域内では味方も魔法を使えない。
「出番だぞ」
佐藤の言葉に反応するように、釘バットが手近にいた傀儡兵を屠る。魔法防御がなくなり、関節部分がかなり脆くなっている。これなら普通の人間でも倒せるだろう。
「こいつらか。うちのバイトを誘拐した不届きな連中は」
残骸をハイヒールで踏みつけ、白藤杏子が釘バットを肩に担ぐ。
「そうだ。救出を手伝ってくれたら、一カ月間、好きな時に飯を作ってやる」
「その約束忘れるなよ、佐藤」
真横から傀儡兵が槍で杏子を狙う。しかし、槍が届く寸前で胴体を両断される。
「ふふふふ。杏子さんに手を出す輩は、全て八千代が抹殺いたします」
危険な妖気を漂わせ、八千代が日本刀を構えていた。
杏子も八千代も、怪しげなロボットたちが動き回るこの状況にまったく違和感を抱いていない。杏子は細かいことに拘らない性質の上、ご飯が一番大事だし、八千代にとっては杏子の敵を倒すことだけが重要なのだ。
「ね、ねえ、種島さん、こいつら何なの!?」
伊波がおろおろと周囲を見渡す。伊波は前の二人のようにはいかなかったようだ。
「かたなし君を助けるためだよ。伊波ちゃん頑張って!」
「む、無理だよ。こんなのと戦うなんて……」
佐藤は伊波からなるべく距離を取り、メガホンを口に当て、決定的な一言を放った。
「伊波、あいつら、全部男だぞ」
「いやあああああああああああああ!」
伊波の拳がまるでブルドーザーのように傀儡兵を粉砕していく。
伊波の横では酒瓶を抱えた女が泥酔状態で戦っていた。小鳥遊梢だ。
「また振られたー!」
梢は泣き喚きながら、繰り出される武器を千鳥足でかわしながら近づいていく。梢は傀儡兵をつかむと、頭を、腕を捻じ切っていく。合気道講師らしいが、酔拳使いにしか見えない。
「こうなったら、とことん暴れてやるー! 後、宗太にお酒いっぱい買ってもらうー!」
松本と一緒に、店にいた腕の立つ連中を集めてきたのだが、思った以上の大活躍だった。できれば、恭也と美由希も連れて来たかったのだが、残念ながらまだ店に来ていなかった。
「もう少し時間があれば、陽平と美月も呼んだんだがな」
杏子が軽く舌打ちする。杏子の舎弟たちの名前だ。通路にいた傀儡兵たちはすべて残骸に変わっていた。
「じゃあ、後は任せた」
いつでも連絡が取れるよう通信機を杏子に渡す。ここから先、佐藤とぽぷらは別行動だ。
奥から、新たな傀儡兵の軍団がやってくる。
「よし、お前ら、行くぞ!」
明日のご飯の為、杏子は釘バットを振りかざして敵に挑んで行った。
チーム・ワグナリアの破竹の快進撃を、ブリッジでリンディが呆れたように眺めていた。傀儡兵の掃討は、彼らとクロノたちに任せていいようだ。
「なのはさん、出撃の準備をして」
「はい」
リンディに言われ、なのはとユーノが転送装置へと向かう。
情けない話だが、現在のアースラの戦力でプレシア捕縛の可能性があるのは、なのはたちくらいだろう。もしもの場合は、リンディがバックアップするつもりでいる。
「待って。私も行く」
フェイトがブリッジに入ってくる。放心状態で医務室に運ばれたはずだが、瞳の奥に強い意志が戻ってきている。
「フェイト、いいのかい?」
アルフが心配そうに尋ねる。フェイトが行けば、プレシアと対峙することは避けられないだろう。アルフはこれ以上、フェイトに辛い思いをして欲しくなかった。
「うん。宗太さんを……みんなを助けたい。なのはたちの……友達の力になりたい。それに、母さんともう一度会わないといけないから」
この世界で出会った人たちの顔を一人一人思い出す。変わった人が多かったが、誰もがフェイトに優しくしてくれた。このまま次元震が起これば、小鳥遊家やワグナリアのみんなまで死んでしまう。そんな結末は絶対に嫌だった。
「上手くできるかわからないけど」
フェイトがバルディッシュに魔力を注ぎ込むと、破損していた個所が修復されていく。
「フェイトが行くなら、もちろんあたしも行くよ。あの男には色々借りもあるしね」
アルフが指をパキパキと鳴らす。
「行こう、みんな」
バリアジャケットを装着し、フェイトはなのはたちを振り返る。
「よーし! 伊波ちゃん以来の共同戦線だね」
ぽぷらが張り切ってポーズを決める。
「ポプランポプランランラララン、魔法少女ぽぷら参上!」
「魔法少女リリカルなのは見参!」
「……フェ、フェイト・テスタロッサです」
ノリノリでポーズを決める二人の横で、フェイトがぺこりとお辞儀をする。
「フェイト。付き合わなくていいよ」
「えっと、そうしなきゃいけないのかと思って」
頭痛を堪えるアルフに、フェイトは照れながら弁解する。
佐藤が全員を見回して宣言した。
「さあ、選ばれし三人の魔法少女たちよ。今こそ魔王を倒し世界を救うのだ!」
「佐藤さん、ちょっと違うよ!?」
ぽぷらがつっこむ。むしろ魔王の救出が目的のはずだが。
「とりあえず出発しましょうか」
間抜けなやり取りに脱力しながら、ユーノが時の庭園へと転送魔法を発動させた。
時の庭園で激戦が繰り広げられている中、もう一つの戦場が地上にあった。
「8卓、カレーとチキンドリア、お子様ランチです!」
切羽唾待った様子で美由希が相馬に告げる。
「高町君、次は肉とキャベツ切って。千切りね!」
相馬が二つの鍋を火にかけながら叫ぶ。
「なずなちゃん、ラーメン、2卓へ」
「山田さん、パフェ三つお願いしますね!」
料理を運ぶ途中で、なずなが山田に言う。
「山田は、山田は混乱しています!」
山田が生クリームとアイスの箱を持ちながら右往左往する。
主なメンバーが不在の今日に限って、ワグナリアは満席だった。しかも注文も時間がかかるものばかりだ。
恭也はまだ一人で料理が作れるほど習熟しておらず、相馬は丁寧な仕事をするので、調理はあまり速くない。手際のいい佐藤の不在が特に痛かった。
「相馬さん、他のスタッフの電話番号知らないんですか?」
「もちろん知ってるけど、俺の権限で呼べるわけないよ!」
「相馬さんの役立たず!」
山田は半泣きで喚く。泣きたいのは相馬も同じだった。
「とにかく、もう少しだけ辛抱して!」
「まずいよ、お客さん、だいぶ怒ってるよ」
美由希が客席を眺めながら言った。長時間待たされて爆発寸前のお客さんがちらほら見受けられる。美由希となずなの二人でどうにか抑えてきたが、これ以上は難しい。
クレームが来た場合、店長かチーフが応対するのが常だが、今は誰もいない。ばれたら、店の存続に関わるかもしれない。
その時、従業員入口を通って、一人の男性が入ってきた。山田の顔が歓喜に輝く。
「音尾さん!」
「よかった、間に合った!」
「ちょうど近くを旅していてよかったよ。相馬君、苦労をかけたね」
ネクタイを締めて髪をオールバックにした穏やかな風貌の男性だった。この店のマネージャー、音尾兵悟だ。佐藤が杏子たちを連れて行った時に、念のため相馬が連絡しておいたのが功を奏したようだ。
「とりあえず呼べるだけの人員を集めてきたから」
どやどやと制服に着替えたスタッフが入ってくる。旅行や遊びから帰ってきたばかりのパートのおばさんと他のバイトたちだ。
「でも、お客さんが……」
「僕に任せて」
音尾は客席へと歩いて行き、一人一人に料理が遅れていることを謝罪していく。中には食ってかかる客もいたが、音尾の穏やかさと誠実さに、店内の雰囲気が徐々に落ち着いていく。
「すごい」
恭也と美由希が感嘆する。店をほったらかしにする無責任な男と思い込んでいたが、仕事はかなりできるようだ。
「どうです。山田のお父さん(予定)はすごいでしょう!」
山田が鼻息も荒く威張り散らす。予定とはどういう意味か問い詰めたい気もしたが、もはや恭也には気力が残っていなかった。
仕事が一段落し、キッチンもフロアも落ち着きを取り戻していく。
相馬たちは仕事をパートの人たちに任せ、休憩に取ることにした。山田は休憩室に入るなり机に突っ伏して眠ってしまう。よほど疲れたのだろう。
「山田さん、仮眠取るなら屋根裏に行った方がいいよ。山田さん?」
相馬が揺するが、山田はすでに夢の世界へと旅立っていた。
そこに音尾がやってくる。
「相馬君、本当に大変だったね」
「はい。それで店長のことなんですが……」
「言わなくていいよ。白藤さんのことは信じてるから。どうしても店を空けなければならない理由があったんでしょ?」
音尾が仏のような笑顔を浮かべる。あまりの眩しさに相馬は少しめまいを感じていた。
十個のジュエルシードが膨大なエネルギーを放っている。中心には、小鳥遊がはりつけにされていた。
「もう少しよ。待っていて、アリシア」
アリシアの入ったポッドに愛おしげになでながら、プレシアは小鳥遊に目をやる。
暴走させたエネルギーを小鳥遊に注ぎ込み結集させて撃ち出す。これで次元に穴を開け、アルハザードへの道を作ることができるはずだ。
エネルギーの充填はもうじき終わる。
プレシアが激しく咳き込んだ。
「こんな時に……」
体から力が抜けていく。いつもの発作の比ではない。足から力が抜け、ポッドに寄りかかるようにずるずると崩れ落ちていく。
「私はまだ死ねない。死ねないのよ」
しかし、咳は止まらず、大量に喀血する。プレシアはジュエルシードに手を伸ばし、そこで意識を失った。
通路を埋め尽くす傀儡兵たちをユーノとアルフのバインドが拘束する。
「必殺ぽぷらビーム!」
「ディバインバスター!」
二条の光線が傀儡兵たちを消し飛ばす。
「なのは、大丈夫?」
片膝をついたなのはを、ユーノが気遣う。連戦に次ぐ連戦に、なのはの疲労は極限に達しようとしていた。
「こっちは一目瞭然だな」
と、佐藤。
ぽぷらの身長は普段の三分の一になっていた。行使できる魔法も後わずかだ。
クロノが率いる局員たちは暴走している駆動露の鎮圧へ、チーム・ワグナリアは傀儡兵との戦闘を続けている。
『敵、増援!』
エイミィの切羽詰まった声、
通路に新たな一団が押し寄せてくる。
「どれだけいるんだ」
佐藤が舌打ちする。
「なのは、みんな、伏せて。サンダースマッシャー!」
巨大な稲妻が、なのはたちの頭上を通り過ぎ傀儡兵をなぎ倒す。
プレシアの待つ中枢部は目と鼻の先だ。壁をぶち破り、なのはたちがプレシアの部屋へと突入する。
プレシアがポッドに寄り掛かるように倒れていた。
「母さん!」
駆け寄ったフェイトが抱き起こすと、プレシアは浅い呼吸を繰り返していた。まだかろうじて息がある。
『次元エネルギー、さらに増大!』
エイミィが悲鳴を上げる。リンディまで出撃し次元エネルギーを抑えているが、もういつ次元震が発生してもおかしくない。
プレシアの制御を失い、小鳥遊を取り囲む十個のジュエルシードが暴走する。
「フェイトちゃん、封印を!」
「わかった!」
なのはとフェイトが近づこうとすると、発生したエネルギー障壁にはね返される。
「なら、大威力魔法で」
なのはがカノンモードを、フェイトがグレイヴフォームを起動させる。
しかし、
『Empty』
二つのデバイスが無情に告げる。ここに辿り着くまでに二人とも魔力を使い切っていた。アルフとユーノも似たり寄ったりの状況だ。
「それなら、スターライトブレイカーを」
大気中に残存する魔力を集めるスターライトブレイカーならば、チャージに時間さえかければまだ撃てる。
「駄目だ、なのは」
ユーノがレイジングハートを押さえる。
「でも」
「これ以上、負担の大きいあの技を使っちゃ駄目だ。残念だけど、スターライトブレイカーでもあの障壁は破れないよ」
「そんな」
なのはががっくりと膝をつく。
ぽぷらも佐藤と同サイズまで縮んでいる。大威力魔法を使えば、存在が消滅しかねない。
「諦めるのはまだ早い。大丈夫、僕たちにはまだ最後の希望が残っている」
ユーノがぽぷらを振り返る。
「そうか」
佐藤がユーノの言わんとするところを理解する。ぽぷらが何を代償に魔法を使っていたのか。
「身長だ」
「佐藤さん、了解だよ!」
ぽぷらが木の枝を構える。佐藤がぽぷらの手に手を添える。そして、なのはが、フェイトが、ユーノが、アルフがぽぷらたちの背に手を置いた。
「みんなの身長を私に分けて!」
全員の身長を魔力に変換し、これまでとはケタ違いの膨大な魔力が木の枝に集中する。
「超必殺、ぽぷらブレイカー!」
時の庭園を揺るがすような巨大な光線がジュエルシードへと迫る。しかし、ジュエルシードの障壁を打ち破るには至らない。
「撃ち続けろ!」
全員が凄まじい勢いで縮んでいき、とうとう親指サイズになってしまう。
「とーどーけー!」
ぽぷらが叫ぶ。
その時、エネルギー障壁がわずかに出力を弱めた。ぽぷらブレイカーが障壁を粉砕する。
なのはとフェイトがデバイスを突き出す。
「リリカルマジカル」
「ジュエルシード」
「「封印!」」
時の庭園が静寂に包まれる。
『……次元エネルギー反応消失。作戦成功です!』
静寂を破るように、アースラからエイミィの声と、喝采の声が届く。
なのはたちはへなへなとその場にへたり込む。もはや立ち上がる気力も残っていなかった。
ふらつくぽぷらを、佐藤が抱きとめた。
「佐藤さん」
「なんだ?」
ぽぷらは佐藤に寄りかかったまま話しかける。
「私ね、ジュエルシードに感謝してるんだ」
「変わった奴だな。これだけ面倒事に巻き込まれたのにか?」
「うん。だってジュエルシードは私の願いを二つも叶えてくれたから」
「二つ?」
おっきくなる以外のぽぷらの願いなど、佐藤には見当もつかなかった。しかもジュエルシードはそれすら叶えていない。
「佐藤さん、私のこと、名前で呼んでくれたでしょ。それから、ほら」
今の状態で、ぽぷらが背伸びすると、佐藤の顔の高さと大体同じになる。ぽぷらは照れたように笑う。
「佐藤さんとつりあう背になること。これが私の願い」
思い切って気持ちを伝えると、佐藤が顔を背けた。
(やっぱり駄目か)
ぽぷらは寂しげに目を伏せる。こうなることはわかっていた。ならば、せめてもう少しこのままでいたかった。
「……今度」
佐藤がぽつりと言った。
「…………休みが重なったら、遊園地でも行くか」
激しい懊悩を隠すように、佐藤は手で顔を押さえていた。指の隙間から真っ赤になった顔が覗いている。
「お子様とのデートは遊園地が相場だからな」
「私、子供じゃない……!?」
反射的に叫び返そうとし、佐藤の言葉の意味に気がつく。佐藤につられて、ぽぷらの顔まで赤く染まる。
「さ……」
「何も言うな」
佐藤がつっけんどんに言う。照れ隠しだろう。
「……三つ目の願いまで叶っちゃった」
ぽぷらは心から幸せそうに笑った。
アルフが盛大に咳払いをする。
「いちゃつくのはいいけどね、ここにはお子様がたくさんいるってことを忘れないで欲しいね」
周囲を見渡すと、みんなが赤い顔でこちらを注視していた。
『ごめーん。通信回線も開いたままなんだ』
エイミィが申し訳なさそうに、だが、楽しそうに言った。画面の向こうから局員たちの冷やかす声が聞こえてくる。
「もおおおおおおお! 佐藤さん、時と場所を考えてよ!」
「最初に行ったのはお前だろうが。お前のせいだ」
「二人とも……」
なだめようとするフェイトを、なのはが止める。
「いいの、いいの。これがいつもの二人なんだから」
なのはは心の中でぽぷらたちを祝福する。
時の庭園に、二人の言い合う声がいつまでも響き渡っていた。
以上で投下終了です。
原作は佐藤と八千代っぽいので、好きな組み合わせのほうで書かせてもらいました。
次回最終話の予定ですが、苦戦しているので少し遅れるかもしれません。
それではまた。
50 :
◆jTyIJlqBpA :2012/10/18(木) 23:21:31.67 ID:RE+pmT2t
>>49 投下乙です
一時頃に羽生蛇村調査報告書
ユーノ・スクライア 山中/ワゴン車内 初日/3時51分24秒
を投下したいと思います
時間になりましたので投下しますが、その前に注意書きを
※注意
このSSには鬱要素が含まれており、今後登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。
そのことを踏まえて、よろしくお願いします。
では投下します
ユーノ・スクライア
山中/ワゴン車内
初日/3時51分24秒
完全な闇の中、遠くから微かな風の音が近付いてきた。
その音が大きくなるにつれ、ユーノ・スクライアの意識も徐々に現実へと引き上げられていく。
「うぅ……っ」
強打したのか、酷く痛む頭を動かして、ユーノは意識を取り戻した。
重いまぶたを開けると、辺りは真っ暗闇に包まれており、何も見えない。
「ここは……」
そこで自分が、レンタルしたワゴン車の運転席に座っていたことを思い出した。
それすらも一瞬忘れてしまうぐらいに、頭を強く打ったのだろうか。少し不安になりながら、気絶する前の記憶を手繰り寄せる。
(えっと……山道で車を止めていたら、確か地震があって、サイレンが鳴って………)
そこで気絶したのだろう、そこから先の記憶は無い。
車の中にいたにも関わらず凄まじい音圧を感じさせたサイレン。あの音響が今も耳の中に残っているかのようだ。
(あのサイレンは、一体……)
地震を見計らったかのように鳴り響いたサイレンは、機械音というよりまるで獣の咆哮だった。
なにか自分の想像を超えた事が知らぬうちに起きているような気がする。嫌な予感がした。
(とにかく、暗くて何も見えないな……明かりを点けないと)
そう思い、その場しのぎに魔力光で辺りを照らそうと魔力を手のひらに集中する。
しかし、いつもはすぐに輝くはずのエメラルドグリーンの光は、一向に光らない。
「……あ、あれ?」
それどころか魔力が集中する感覚すら無い。体内の魔力回路が機能していないかのような感覚だ。
焦りながら、他の様々な魔法も試しに行使してみた。
治癒魔法、シールド、思念通話……どれもこれも無駄に終わった。
「嘘だろ………?」
ユーノは愕然とした。どうしてこんなにも突然に、魔法が使えなくなったのだろうか。
AMF?いや、AMFならもっと違う、魔力を妨害されている気分の悪さが全身で感じられるはずだ。これは魔法というもの自体を取り上げられたかのようだ。
ユーノは自分が魔法の使えないただの人間にされたような気分になり、途端に心細さと不安が一挙に押し寄せてきた。
しかし魔法が使えない以上、どうにもならないことに変わりは無い。
(……なにかライトがあれば)
こういう時こそ文明の利器が活躍しなければならないが、エンジンは掛かってないから車内の電灯は点いていない。
キーを回してエンジンを掛けようとも思ったが、この暗闇の中で仮に車からガソリンが漏れていたとしたら、キーを回したところで車が爆発する可能性がある。
下手を打ってここで爆死など笑える話ではない。
(車内ライトは駄目か……そういえば懐中電灯があったな)
そう思い当たり、身体をシートから持ち上げようとして、何かに引っ掛かった。
シートベルトだ。
勢い余った身体に食い込み、空気が無理やりに肺から押し出された。
ユーノは何回か咳き込むと、溜め息を吐きながら暗闇の中、身体に食い込むシートベルトを手探りで辿り、シート脇にあるベルトの接続部を外す。
シートベルトから解放され、ユーノは手探りのまま運転席をまさぐった。
(どこだっけ……)
ハンドル、ラジオ、レバーと探り、ダッシュボードに行き着いた。
取り敢えず開けて中に手を入れると、金属質で円筒形の物体に触れた。
(あったあった)
引っ張り出して、側面に付いているスイッチを入れる。明かりが点き、ユーノの身辺の状況が明らかになった。
「うわっ」
まずユーノは、フロントガラスから外の風景を遮っている前方に倒れた巨大な倒木に驚いた。
背後を照らすと、上から何か力が掛かったようで車内も僅かにひしゃげている。ユーノのいる運転席側の窓は土砂で埋まっていた。
外が見える助手席に身体をずらし、窓ガラス越しに懐中電灯を外へ照らした。
「これは……ひどいな」
周りには大量の倒木と土砂。車体はどうやら山肌にあるらしく、よく見れば車は若干傾いている。
「土砂崩れかな?」
思い出せば気絶する前は吹き付けるような雨が降り続けていた。土砂崩れはその雨によって地盤が緩んだ上に地震があったから起きたのかもしれない。
なんにせよ気絶しただけで車にも閉じ込められずに済んだのだから幸運だと思う。土砂に呑み込まれでもしていたら確実に死んでいただろう。
(……六課の子達はどうしたのかな)
レリックを巡り、ガジェットと戦闘機人相手に戦いを繰り広げていた機動六課の隊員達に思いを馳せた。
雨が止んでいる今、こんなにも静かだということは戦闘は既に終わっているか、あるいは途中で強制的に終わらせられたのだろう。
魔法が封じられている今、彼女達もまだこの村の中に残されている可能性は十分にあり得る。
(無事ならいいんだけど……。僕も早くここから出ないと)
魔法が使えないことに伴って通信も使えないので助けも呼べない。とりあえずは無傷だし、移動等には全く問題が無いので、外に出よう。
そう思い立ち、助手席側のドアに手を掛けた。しかし歪んでいるのか、なかなかドアは開こうとしない。
「仕方ないなぁ……」
そう言うと、ユーノは一息入れて、思い切りドアを蹴り上げた。鍵が壊れたような大きな音をたてて歪んだドアは開いた。
ライトを片手に、後部座席から手荷物のリュックサックを持ち出し、外に出る。
車から出た途端に若干の湿気を含んだ、夜に冷やされた空気がユーノを包み込んだ。
気絶する前に降っていた雨によって、辺りの土や樹木、木の葉は湿っている。
辺りはイヤに静かだ。木々が微かに揺らぐ程度に穏やかな風が吹いている。そして夏場の山奥であるにも関わらず、動物や昆虫の鳴き声が一切しなかった。
こういった場所は夜は夜で昆虫達がうるさいぐらい鳴き続けているものなのだが、まるでユーノ以外の生命が死滅したかのように、森の中は不気味に静まり返っている。
不思議に思いながら、ユーノは辺りを見渡すと、ふと、静寂の中で何かが聞こえてきた。
どこか遠くから微かに聞こえる。
(……ん?なんの音だ?)
目を閉じ、耳を澄ました。
よく聞くとそれは、さーっ、という波のような音だった。不規則な間隔で絶え間なく聞こえてくる。
(波音?まさかね……)
ユーノは笑いたくなった。こんな山々が入り組んだ内陸部で波の音などする筈がない。だが木々による枝葉の擦れる音とも違うようだ。
音がするからにはその発信源があるだろう。ユーノはそれを確かめたくなった。
音はどうやら、山の上の方から出ているようだ。
(ここの山はそう高くないし……ちょっと行ってみようかな)
その上山頂も近いので、とりあえず上を目指して登り始めた。
折り重なっている大量の倒木をまたいではくぐり、その合間をぬって、割となだらかな山肌を登る。
元々ワゴンを止めていた道らしきものも見当たらない。土砂に飲み込まれて消えてしまったようだ。
倒木達を頼りに、暗く先の見えない山肌をライトで照らしながら登っていく。登るに連れ、波音のような音が大きくなっていく。
十分程経ち、不意にぱったりと木が生えていない空間が、山肌を埋める木々の向こうに見えた。その向こうから波音が聞こえてくる。
(……?)
おかしい、ここは林業が盛んな村でも無く、周りの山々も木が切り倒されているようなことはない。にも関わらず、木々の向こうには妙に開けている空間が広がっているようだ。
不審に思いながらも、そこを目指して再び登り始める。そして開けた空間にまで達して、ユーノは足を止めた。
と言うより、止めざるを得なかった。
「な、なんだよこれ………」
ユーノは、自分の目の前に広がる光景を信じられなかった。
日本の内陸部は山々が連なっており、羽生蛇村は都会から離れ、その中にひっそりと存在する村だ。故に周りには山しか無いはずだ。
しかし今目の前に、日本独特のなだらかな山脈は見る影もなかった。ただただ広大な夜闇が広がっている。
そして眼下に広がっているのは、真紅の海。
暗黒の中、血のような海が不規則に波を立てている様子が辛うじて見えた。そこから波音が、とめどなく聞こえてくる。
更にユーノが立っている場所は、切り立つ崖だ。
昼に通った時はちゃんとした山だったのに、今はまるで、山自体が中途半端なところでごっそりと削り取られたかのようになっている。
(ち、地殻変動?いやこれぐらいのレベルの地殻変動があったとして、あの程度の土砂崩れで済むはずがない。
そもそもこの赤い海は一体………?)
目の前の赤い海は、ユーノがいた『地球』の『日本』とは明らかに別の世界であることを物語っている。
(レリック?いやまさか……あれには破壊する事はあっても物体をどこかに飛ばすような事例は無かったし、
そもそも、山一つレベルの物質量を次元を飛び越えて転移させるだなんて、聞いたことも無い。
となると、やっぱりこの村にあった伝承が関わっているとしか……)
ユーノは日頃、時空管理局本局の無限書庫の秘書長を勤めている。次から次へと来る仕事で多忙な毎日を過ごし、ユーノは長らく休みを取っていなかった。
そのユーノがなぜ羽生蛇村にいるのかと言うと、日々労働に労働を重ねるユーノを心配した同僚や仲間達が半ば強引にユーノに休みを取らせたからだ。
突然与えられた休日に、ユーノはかつて世話になった管理外世界の地球に来ていた。
前から何度か文献で目に入れていた、怪奇現象や都市伝説などの噂が絶えないという羽生蛇村の存在に、スクライア一族としての血が騒いだのか、ユーノは強い興味を持っていた。
そして地球に来て、かつて世話になった高町家に挨拶に行った後、ワゴン車をレンタルして羽生蛇村に向かった。
交通の便もあり、羽生蛇村に入ったのは深夜。暫くして同僚から、レリックの反応を三隅郡近辺で探知したという通信が入った。
念のためと思い、ワゴン車の中で待機していたところ、深夜十二時になると共にサイレンと地震に襲われたのだ。
因みに機動六課の面々はユーノがここにいることは知らない。
しかし少なくともライトニングの面々も現世から消失しているとしたら、ユーノが巻き込まれたことも六課に間もなく知らされるのだろう。
(まさかこんな事がなのはの故郷の世界で本当に起きるなんて……。
それに羽生蛇村に伝わる海帰り、海送りの慣習。もしその海がこの赤い海を差すなら、あのサイレンは……)
「……とにかく山を降りて、村に行ってみるしかないか」
ここで考えていても仕方がない。
ユーノは不自然に削られたような崖を懐中電灯で照らして回り、そして踵を返して再び山を降り始めた。
多くの謎が隠されているであろう、まだ見ぬ羽生蛇村に向かって。
短いですが、以上で投下終了とします。
ではまた。
59 :
◆jTyIJlqBpA :2012/10/19(金) 22:10:49.35 ID:HQcMh8Q2
一時頃に羽生蛇村調査報告書
ルーテシア・アルピーノ 田堀/切通 初日/4時56分28秒
を投下したいと思います
※注意
このSSには鬱要素が含まれており、今後登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。
そのことを踏まえて、よろしくお願いします。
では投下します
ルーテシア・アルピーノ
田堀/切通
初日/4時56分28秒
明け方の空。
真っ黒に塗りつぶされたような空は、やがて昇るであろう太陽の影響で、今は真っ青に染まっている。
昨晩降っていた雨の名残で空気は湿っており、雨上がりの土の匂いが辺りに立ちこめている。
そして森の中は靄がかかっていた。
気絶から目覚めたルーテシア・アルピーノは森の中に切り開かれた道を、一人で淡々と歩き続けていた。
いつも傍らにいる召還獣達は、いない。
当たり前だ、召還魔法がまるで使えないのだから。
他にもドクター……ジェイル・スカリエッティやナンバーズ、ゼストやアギトとの通信が出来ないことも、召還はもちろん他の魔法の一切が使えなくなっていることも、既に知っている。
だがルーテシアは、それに対して多少は心細く思おうとも、決して不安とは思わなかった。
心を閉ざした少女は無表情を携えて、仲間の元にたどり着けるよう木々の間に開かれた道を、ただ黙々とさまよい続けるだけ。
「……っ」
不意に頭に鋭い痛みが走った。
眉間に少し皺を入れながらゆっくり目を閉じると、瞼の裏にビジョンが浮かぶ。
―――げ らげ ら げらげ らげ ら
誰かが森の中で、鎌を持ってけたたましく笑っている。ルーテシアはそれが誰なのか、どういう者なのかも既に知っていた。
目から血を流し、生気を失った人の形をしている化け物達。ここ周辺は、あの化け物達しかいない。
彼等に出会う度に隠れてやり過ごしてきた。そうしないと、襲われて殺されてしまうだろうから。
現在、一切の魔法を封じ込まれた自分はただの少女であり、あの化け物達には到底太刀打ちできない。
目が覚めてから何故か授けられていた他人の視界を盗み見る能力を使って、やり過ごすしかないのだ。
彼等は、おそらくこの辺りに住んでいる現地人だろう。
なぜああなってしまったのか、そして何故、自分に特殊な能力が授けられたのかルーテシアには検討も付かないが、同時に大した興味も無かった。
ついて出るのは、彼等のようにはなりたくない、という単純な感想。
ルーテシアにとって興味があるのは目的のレリックを集めること。
それと、強いて言えばアギトとゼストの安否が気になっていた。
(アギト、ゼスト……無事かな)
作戦のため、ナンバーズと共にこの村に出向いていた三人は各々で散らばり、それぞれの場所で待機していた。
そこを、突如として大爆音のサイレンが襲った。
ルーテシアが気付いたのは今からおよそ一時間程前で、それまでにどれほどの時間が経過したのかは知る由も無い。
「………………」
ビジョンで見た化け物の視界を見る限り、化け物がいる位置はまだ遠いらしく、念のため警戒心を強めながら歩みを進める。
その時、ルーテシアの横、森の中から、がさがさと葉が擦れる音が聞こえた。
「!?」
驚き、咄嗟に後ずさって距離を取った直後、誰かが道に飛び出してきた。
それと同時に若い女性の声がルーテシアの耳に届く。
「あっ!!びっくりした……」
そう言って現れたのは質素な服装の、現地人らしき若い女性。驚いた表情で息を荒げながらルーテシアを見ている。
二つ結びにしてある茶色がかった髪の毛と、衣服のあちこちには木の葉がくっついていた。
顔の血色はいいし、血の涙も流していない。見る限りはどうやら普通の、正常な人間のようだ。
「外国の、子供?なんでこんなところに……?」
ルーテシアを見た女性はいたく驚いたようだ。
それもそうだ、外国の子供が黒色を基調とした奇妙な衣装を着て、こんな辺境の地にいるだなんて誰も予想できない。
ルーテシアはどこか頼りなさげな女性の顔を見据えた。
「……ここはどこ?」
見据えて、女性にルーテシアは間髪入れず質問をすると、女性は更に驚いた表情をして「日本語、しゃべれるんだ」と呟く。ルーテシアの質問は無視された。
「……それで、ここはどこなの?」
出掛かった溜め息を呑み込んで、質問を再度、繰り返す。気付いた女性は申し訳無さそうに、だが少し急いでいる様子で口早に答えた。
「あ、ごめんね。ここは××県の羽生蛇村っていうところだよ。
……それよりここ、なんていうか危ない人がたくさんいるみたいだから逃げよう?ね?」
「え?あ……」
すると女性はルーテシアに有無を言わさず、手を掴むと引っ張って走り出した。
木々に囲まれた平たい道を、女性は多少は慣れている様子でぐんぐんと進んでいく。どこへ進んでいるのかは、ルーテシアは知らない。
しかし大声でやめろと言う理由も無かったので、ルーテシアはこの頼りなさげな雰囲気の現地人の女性に、そのまま引っ張られて行った。
――――――――――――――
しばらく走り続け、女性はようやく足を止め、「こ、ここまで来れば、多分、大丈夫」と息も絶え絶えに言った。
ルーテシアも、喉に絡みついてくるようなこの土地独特の湿気が合間って、すっかり息を切らしている。
「ご、ごめんね、出会い頭に手引っ張っちゃったりして」
「ううん……別に」
余計に申し訳無さそうな語調で謝る女性に対し、ルーテシアは息を整えながら、周りを見回して答えた。
眉一つ動かさないルーテシアの無表情と素っ気ない返事を、怒っていると思ったらしく気まずそうに押し黙った。
「…………………」
沈黙。
ルーテシアがちらりと女性を見やると、眉を下げて、困った表情をしている。
その正直な反応を見るに、決して悪い人間では無いのだろう。
しばらくすると、女性は意を決したように話を切り出してきた。
「……わ、私は理沙、恩田理沙。あなたは?」
どもりながらも女性……理沙は自己紹介をした。
ここまで直球に名乗られるとルーテシアも答えないわけにはいかず、間を空けてから呟くように答えた。
「……ルーテシア・アルピーノ」
「ルーテシア、ちゃんか……ルーテシアちゃんはどうしてこの村にいるの?」
理由は言えるはずも無いし、言ったところで理解を得るのに時間が掛かりそうだ。
かと言って妥当な言い訳を考えるのも面倒なので、ルーテシアはそのまま黙っていた。
「言いたくないなら、別にいいんだけど……」
理沙は再び居心地悪そうに俯く。
なぜそういう反応をするのか、ルーテシアには理解ができなかった。
相手がそういう人間なのだと納得すれば済む話なのに。
「……でもよかった、まともな人に会えて。
会う人みんな変になっちゃってて襲ってくるし、幻覚みたいなもの見るし……なんなんだろ、これ」
現地人の理沙でも理由知らないということは、やはり管理局側によるものなのか、あるいは別のものが原因なのか……
スカリエッティがルーテシア達には内緒で何かをやったという可能性もある。
相変わらずルーテシアにとって、あまり興味のある話では無かったが。
「……あなたはどうしてこんなところにいるの?」
ルーテシアは軽い気持ちで、理沙に逆に質問を投げかけてみた。
「えっ、私?私はね……この村に双子のお姉ちゃんがいてね、会いに来たらこんなことに巻き込まれちゃった。まだお姉ちゃんとは会えてないんだけどね……」
「そう」
「……そうだ、宮田先生って男の人に会わなかった?お医者さんで、お姉ちゃんの婚約者なんだけど。それと私のお姉ちゃんにも会ってない?」
「ここではあなた以外に誰にも会ってない」
ルーテシアが首を横に振ってそう言うと、理沙はしょんぼりとした顔をした。
続いてルーテシアも、理沙にゼストとアギトについて聞いてみた。
「……貴女は、茶髪で身体が大きい男の人に会わなかった?」
「茶髪で身体の大きい……その人の名前は?」
「……ゼスト。あと赤髪で身体がとっても小さい女の子、名前はアギトって言うんだけど……」
「とっても小さいってどれくらい小さいの?」
ルーテシアが胸と首あたりに手を持ってきて「これくらい」とサイズを表した。
しばし間があって、何故か理沙は少し困惑しながら微笑んだ。
「い、いや、さすがに会ってないけど……ゼストっていう人も分からないなぁ」
「そう……」
「その二人はルーテシアちゃんのお友達?それとも家族なの?」
「………両方」
ゼスト、アギト……
スカリエッティの元でレリックを探していた間、ずっと自分を助けてくれてずっと自分と一緒にいてくれた、友達であり仲間であり、家族だ。
しかしこの魔法が封じられている現状で、複合機のアギトがどうなっているのか分かったものではないし、ゼストは余命幾ばくかの壊れかけた身体を抱えている。
(二人とも無事かな……)
考えると多少なりとも心配になり、ルーテシアは微かに表情を曇らせた。
「ねぇ、ルーテシアちゃん」
ふと理沙が思い切ったようにルーテシアに語りかけた。
「その二人を一緒に探しに行かないかな?私もお姉ちゃんと、宮田先生を探しに行かなきゃいけないし……
それに二人でいた方が寂しくないよ」
「どうかな?」と理沙は重ねて聞き、自分を見上げるルーテシアの瞳を見つめた。
「………」
表情一つ変えず、ルーテシアは首を縦に振ることで肯定の意思表示をした。
理由は、身体能力的に弱者にあたるルーテシアにとって、大人の女性であれど誰かと二人でいた方が何かと便利だろうと思われたから。
そして、断る理由が特に無いことも理由の一つだった。
ルーテシアが同意した途端、理沙の表情は、わかりやすく明るくなった。
安心と喜びの表情。何かと顔に出やすい正直な性分なのだろうか。
「じゃあ行こうか。
ゼストさんとアギトさん、それにお姉ちゃんに宮田先生を探しに」
理沙がそう言って、二人はだいぶ明るくなった依然と白い靄が掛かっている森の中を歩き始めた。
空は白んでいる。夜は既に明けていた。
以上で投下終了とします
ではまた
投下乙です、原作をコンプリートして誰がどうなるか完璧に把握している自分としては、なのはさんとクロスすることでIf展開に
希望を寄せていたりします(竹内先生・志村さんなど。美浜さんは別にどうでもいいですが)、ともあれ、うp主自身が失踪することなく、
今後の展開に期待です、全ての人が、人である為に(一時期SIRENのウィキに載っていたフレーズ)
ACともクロスしたし誰かボダブレでもクロスSS書いてくれないかな?
ユニオンバトルってむちゃくちゃクロスするには都合のいいモード出たし
俺?俺はちょっとなのは側の構成に不安が・・・
今回のsts全話見とくべきだったなぁ
木枯らしスレの方に、ワンピースとのクロス設定を書き込んだ人がいるんだが、あれはこれから書くということか?
>>65 投下乙です。
0時より、『リリカルWORKING!!』最終話投下します。
それでは時間になりましたので、投下開始します。
十一品目
光の眩しさに耐えかねて、プレシアはゆっくりと目を開けた。周囲を見回すと、そこは大きな公園で、プレシアは芝生にしいたビニールシートの上でうたた寝をしていたようだった。
芝生や遊具では、たくさんの家族連れがはしゃいでいる。
「あ、やっと起きた」
目の前には、金色の髪をツインテールにした五才の女の子が立っていた。プレシアの娘アリシアだ。
プレシアは思わず娘を抱きしめていた。
「どうしたの、ママ? 怖い夢でも見たの?」
アリシアが気遣うように、プレシアの頬に左手をそえる。温かく優しい手だった。
プレシアは自分の手を見つめる。まだ若い頃の手だ。悪夢に長い間うなされていた気がするが、内容はどうしても思い出せなかった。
「……そうね。そうみたいね。でも、もう忘れてしまったわ」
「よかった。ママったら、せっかくお休みが取れたのに寝ちゃうんだもん」
「そうだったかしら。ごめんなさいね」
どうも前日の記憶が曖昧だ。仕事で揉めていたところまでは思い出せるのだが、いつ休みが取れたのだろうか。思い出そうとして、プレシアはやめた。今はただ娘と過ごすこの時間に浸っていたい。
むくれるアリシアの頭を撫でると、すぐに機嫌を直したようだった。
「ママ、今日はいっぱい、いーっぱい遊ぼうね」
「ええ、そうね」
アリシアに明るい笑顔を向けられ、プレシアは穏やかに微笑んだ。
テスタロッサ親子から少し離れた木陰のベンチに、小鳥遊とアルフ、なのはが座っていた。
小鳥遊は魔王に変身していた。三人は複雑な面持ちで、アリシアを、正確にはアリシアを演じているフェイトを眺めていた。
「小鳥遊、あんた、あの女に何したんだい?」
アルフが訊いた。あんなに穏やかで優しいプレシアを見たのは初めてだ。あるいは、あれこそがプレシアの本来の姿なのか。
「俺の魔法は、あるゆるものをちっちゃくできます。人の記憶だって例外じゃありません」
プレシアがアリシアを失ってからの記憶を極限まで縮小し、思い出せなくした。それから、プレシアとフェイトの肉体を若返らせ、記憶との誤差を修正した。
「これでよかったのかな?」
小鳥遊は自らに問いかける。
テスタロッサ親子がいるのは嘘と虚構で塗り固められた舞台だ。どんなに幸せでも、そこに本物はない。必死でアリシアの演技を続けるフェイトが道化のようで痛ましい。
「いいんだよ! これがフェイトの願いなんだから」
アルフが小鳥遊の背中を思いっきり叩く。
プレシアの病はすでに手の施しようがなく、残された時間はわずかしかない。例え、愛されていなくても、フェイトは母を愛している。フェイトの最後の親孝行は、アリシアを完璧に演じることだった。
「大丈夫、本物よりいい偽物だって、きっとありますよ」
強く叩かれ過ぎて咳き込んでいる小鳥遊に、なのはは安心させるように言った。
プレシアを前に、フェイトは天真爛漫に振舞う。アリシアの記憶を掘り起こし、できる限りしぐさを再現する。
フェイトの胸中は限りなく複雑だった。騙していることへの罪悪感と、母の為と言いながら、母に優しくされるたびに嬉しく思う自分への後ろめたさ。そして、結局プレシアが愛していたのはアリシア唯一人なのだと言う確認。
覚悟していたつもりだったが、心に苦悩が雪のように降り積もっていく。だが、絶対にそれを表に出すわけにはいかない。
プレシアの記憶は思い出せなくなっているだけで、消えたわけではない。いつでも復活する危険をはらんでいる。
まるで綱渡りをしている道化師の気分だった。たった一つのミスが命取りになる。しかし、どんなに滑稽でも、心が痛くても、フェイトは演技に集中する。母の為にできることなど、他にないのだ。
ひとしきり遊んだ後、プレシアが控えめに欠伸をした。
「ママ、眠いの?」
「やっぱり仕事の疲れが残ってるのかしらね」
「私は遊んでるから、ママはゆっくりしてて」
「ごめんなさいね。今の仕事が終わったら、もっとちゃんと時間が取れるようになるから」
プレシアはビニールシートの上に座り、ふと思い出したように言った。
「……そう言えば、前に妹が欲しいって言ってたわね」
それはかつてアリシアが無邪気に口にしたお願いだった。妹がいれば留守番も寂しくないからと。
「妹の名前……フェイトってどうかしら」
衝撃でフェイトの鼓動が跳ね上がる。プレシアは気がつくことなく、フェイトの頬に手を当て言葉を続けた。
「いつか、三人でピクニックに行きましょう。その頃には、きっと今よりもっと幸せになってるから」
汗ばむほどの陽気なのに、プレシアの手は氷のように冷たくなっている。最後の命の灯火が消えようとしていた。
「うん。約束だよ」
果たされることのない約束をする。フェイトはこみあげてくる涙を見られないよう、プレシアに抱きつき顔を押し付けた。
「それじゃあ、少し眠らせてもらうわね」
「お休みなさい、ママ」
プレシアは最後にゆっくりと呟いた。
「お休み…………フェイト」
まぶたが閉じられる。文字通り眠るように、プレシアは静かに息を引き取った。
母の亡骸を前に、フェイトはプレシアの最後の言葉に戸惑っていた。
ただ名前を言い間違えただけか、あるいは、どこかで記憶を取り戻していたのか。プレシアが死んだ今となっては、真実は闇の中だ。
「母さん」
もしかしたら最後の最後に、プレシアはアリシアの代わりではなく、フェイトを娘として認めてくれたのかもしれない。
幸せな夢を見ていて欲しかった。それだけなのに、幸せな夢を届けてもらったのは、フェイトの方だった。
「母さん……母さん!」
フェイトは繰り返し繰り返し呼びかけながら、プレシアにすがりつき涙を流していた。
時の庭園の決戦から数日が経った。
ジュエルシードはアースラが厳重に保管している。フェイトとアルフは犯罪に加担したとして拘留中だ。
アースラの艦長室でリンディは唸っていた。昨晩は徹夜で報告書を作成していたのだが、どうにも進みが悪い。
「書けないことが多すぎるのよね」
ぽぷら、小鳥遊、松本の三名をどう報告するかが悩みどころだった。
非魔力保持者が魔法使いになれるだけでも研究の価値が充分なのに、誰も彼も能力が特異すぎる。
ぽぷらは身長を魔力に変換できる。当人だけなら自然回復できない不便な力なのだが、他人の身長も変換可能というのが問題だ。
町で使えば、無力な一般市民が大威力砲撃の弾に早変わりだ。しかも時の庭園では、複数の身長を同時変換して出力を限りなく増大させた。もし百人単位のエネルギーを束ねられるなら、一発で敵軍を殲滅できるかもしれない。
次に小鳥遊。小鳥遊の攻撃を受けたクロノは完全に三歳児の肉体に若返っていた。もし縮小魔法をかけ続ければ、人類の悲願、永遠の命が手に入るかもしれない。
最後に松本だが、歩く虚数空間と言っても差し支えない能力だ。領域内で使えるのは機械と己の肉体のみ。似たような研究がないわけではないが、松本の力を解析できれば、技術は飛躍的に進歩するだろう。
時空管理局の過激な一派が知れば、適当な理由をつけて三人をミッドチルダに連行しかねない。そして、それは後の世の火種になるだろう。
報告書は慎重に慎重を重ねて書かねばならない。
『どうもー』
リンディの隣に通信画面が開き、相馬が映し出される。
『おかげでみんな無事帰ってくることができました。ありがとうございます』
「こちらこそ、だいぶ迷惑をかけてしまったわね」
『いえいえ。俺も少し事態を甘く考えてましたからね。こんなことなら、最初の通信で、もっとちゃんと伝えておくべきでした』
「いまさら言っても仕方ないことよ」
『そう言ってもらえると、こちらも助かります。ところで、報告書の作成に手間取っているそうですね』
「相変わらず耳が早いわね」
リンディは苦笑する。
『お礼と言ってはなんですが、少しお手伝いします。まずいところは適当に省いて書いちゃってください。上は何も言ってきませんから』
「……また“脅迫”したのね」
『やだなぁ。“説得”って言って下さいよ』
相馬は時空管理局上層部の弱みまで握っているようだ。
現在、元のサイズに戻ったクロノはフェイトの罪を少しでも軽減できるよう、関係各所を駆けずり回っている。母親の指示に従っていただけだから、無罪は無理でも、執行猶予は取れるだろう。
その際、やけに交渉がすんなりいくと首を傾げていたが、おそらくそちらにも相馬が手を回しているのだろう。
「相馬君。あなたは一体時空管理局の何を知ってるの?」
リンディの瞳に鋭い光が宿る。時空管理局の仕事にリンディは誇りを持っている。たくさんの人を助けられる貴い仕事だ。
しかし、組織は大きくなるにつれて、それに比例した闇を抱えることになる。
もし相馬が時空管理局の闇を知っているなら、教えて欲しかった。危険だろうし、何もできないかもしれない。それでも罪を正す機会を逃したくはなかった。
『買いかぶらないでください。俺は何も知りませんよ。俺が知ってる秘密なんてこの程度です』
相馬は一枚の写真を取りだした。
写っていたのは、白髪の男が娘ほど年の離れた女と、いかがわしい店に入って行くところだった。時空管理局でもかなり上に位置する男で、無論妻子持ちである。
他にも何枚か見せてもらったが、子供の頃のおねしょの写真やら、若い頃のはっちゃけ過ぎた写真などだった。
どれもこれも当人としては墓の下まで持って行きたい秘密だろう。あまりにつまらない秘密にリンディは堪え切れずに吹き出した。
『どんなに巨大で立派な組織だって、動かしている歯車は矮小で愛すべき人間たちですよ』
「そうね、そうだったわね」
少し考え過ぎていたようだ。リンディは笑い過ぎて滲んだ涙を指で拭う。
「ねえ、相馬君その写真何枚か、もらえないかしら?」
色々と利用価値がありそうだ。
『わかりました。おまけでテスタロッサさんの裁判の担当者決まったら教えてください。早く終わるように“説得”しますから』
「ええ、“説得”よろしくね」
相馬とリンディは笑顔で通信を終えた。
ワグナリアは本来のスタッフが戻ってきたので、高町兄妹が手伝う必要はなくなった。残されたわずかな滞在日を、高町兄妹は北海道旅行に使っている。今日は近くにある温泉に遊びに行っているはずだ。
杏子たちチーム・ワグナリアの記憶は小鳥遊によって縮小され、思い出す様子もない。完全にいつもの日常に戻ったかのようだった。ごく一部を除いては。
「佐藤、カレー作ってくれ。大盛りでな」
「なんで、あんたは忘れてないんだよ」
杏子の為に料理を作りながら、佐藤がぼやく。時の庭園での戦いはきれいさっぱり忘れているくせに、杏子は佐藤との約束だけはしっかりと覚えていた。
おかげで客がいてもいなくても、佐藤はひっきりなしに料理を作る羽目になっていた。これが一カ月も続くのかと思うとげんなりする。
約束を反故にするつもりはなかったが、小鳥遊が記憶を縮小したと教えられ、てっきり頻度が減るだろうと思っていたが甘かったようだ。
「ごめんなさーい!」
フロアから恒例の伊波の悲鳴と小鳥遊を殴り倒す音が響く。
「……伊波さん。俺はもう駄目です」
小鳥遊は力なく地面に横たわったまま、起き上がる気配がない。
「小鳥遊君、しっかりして!」
「こんな癒しのない世界なら……いっそこのまま死なせてください」
「種島さん、早く来てー!」
急激にワグナリアからちっちゃいものがいなくなり、小鳥遊は抜け殻のようになっていた。変人年増の巣窟でバイトを始めて小鳥遊のミニコンは悪化したが、ちっちゃいものに囲まれていても悪化するようだ。
ちなみに種島が来るまで、まだ三時間ある。
「あっ、佐藤君」
キッチンに八千代がやってくる。店は暇だし、いつもの店長話だろう。
「あのね、杏子さんがね……?」
喋り始めたところで、八千代が不思議そうに首を傾げた。
「どうした?」
「佐藤君、前は私が杏子さんの話をすると複雑そうな顔してたのに、今日はあんまり変わらないのね。何かあった?」
「別に」
八千代の観察眼に内心で舌を巻きながら、佐藤は表情を変えずに答える。
これだけの観察眼があるのに、どうして四年間の片思いに気づかないのか。それから、複雑な顔になると知っていたなら、少しは控えて欲しかった。
再開された店長話を聞き流しながら、佐藤は八千代の顔を眺める。
ぽぷらの気持ちを知らなければ、きっとまだ片思いは続いていただろう。だが、ぽぷらから告白された時、佐藤はどうしても断ることができなかった。ユーノが指摘した通り、ぽぷらを大切に思う気持ちも佐藤の中には確かにあったのだ。
ぽぷらを選んだことに後悔はない。ただ実ることのなかった片思いに、心の中で別れを告げる。八千代とはきっといい友人のままでいられるだろう。
話が一段落し、八千代が去っていく。入れ替わりに相馬が近づいてきた。
「いやー。相変わらず轟さんの店長話は長いね」
佐藤が眉を潜める。相馬の笑顔がいつもより輝いている。ろくでもないことを考えている証拠だ。
「ところで、佐藤君。種島さんとはうまくいってる?」
「なっ!?」
佐藤の顔から血の気が引いていく。バイト中にばれるようなへまをした覚えはないのだが。
「まさか佐藤君と種島さんが付き合うことになるなんて、夢にも思わなかったよ」
相馬は感心したようにしきりに頷いていた。いつものことだが、相馬の情報網は本当に油断ならない。
「待て。お前は俺と八千代を応援してたんじゃなかったのか?」
「ううん。俺はヘタレな佐藤君をからかえればそれでいいよ」
「ほほう。そうだったんですか」
にゅっとフロアから山田が顔を出す。どうやら盗み聞きしていたらしい。
「やはり山田の言う通りになりましたね。さすがは山田です」
山田は自画自賛すると、佐藤を意味ありげに見た。
「それにしても、これで佐藤さんも小鳥遊さんの仲間ですね。ロリコン佐藤さんと呼んであげましょう」
「そうだね、これからは小鳥遊君を変態とは呼べないよね」
山田と相馬が声を上げて笑う。
「……てめえら、記憶が飛ぶまでぶん殴る!!」
「佐藤君、本気で怖いんだけど!」
怒った佐藤から、相馬と山田が一目散に逃げていく。右手にフライパン、左手におたまを持ち、佐藤は相馬たちを追いかけていった。
夜、バイトが終わり、佐藤はいつものようにぽぷらを車で家まで送っていた。
ぽぷらは珍しく思い詰めた表情をしていた。相馬たちに二人の関係がばれたことは、ぽぷらはまだ知らないはずだ。バイト中に失敗したわけでもないし、思い詰める理由が見当たらなかった。
家に到着するが、ぽぷらは車から降りようとしない。
「どうした?」
さすがに心配になり、佐藤が声をかけた。すると、ぽぷらは潤んだ瞳で、佐藤を見上げてきた。
「佐藤さん。私、今夜は帰りたくない」
思いがけない発言に、佐藤はハンドルに頭を打ちつけた。
「おまっ、意味がわかって……」
「もちろんわかってるよ」
ぽぷらは佐藤の方に身を乗り出す。その分だけ、佐藤は後ろにのけぞる。
「だって、今日は……」
ぽぷらが愁いを帯びた表情を浮かべる。普段は子供っぽいぽぷらの顔が、その時だけやけに大人びて見えた。
「今日は…………晩御飯がピーマンの肉詰めなの!」
佐藤は後頭部を窓ガラスに思いっきり打ちつけた。ぽぷらはピーマンが大嫌いだ。
「……ぽぷら」
「何?」
「頼むから、もう少し大人になってくれ!」
佐藤はぽぷらの襟首をつかむと、猫のように車外に放り出す。
「佐藤さん、ひっどーい!」
ぽぷらが文句を言うが、佐藤は取り合わず車を発進させる。
これまでは鈍感な八千代に悩んできた。どうやら、これからはお子様なぽぷらに悩まされることになりそうだ。
「女難の相でもあるのか、俺は」
気持ちが反映したのか、佐藤の運転はいつもより少しだけ荒かった。
事件解決から一週間が経ち、とうとう別れの日がやってきた。
プレシアの遺体はアリシアと共に故郷の大地に埋葬されることが決定している。
人気のない広場で、なのは、フェイト、ぽぷらは泣きながら別れを惜しみ、再会を誓っていた。フェイトの裁判はどんなに早くとも半年かかると言われている。
アルフは主人の別れを見守りながら、ふと人数が減っていることに気がついた。見回すと、隅の方で小鳥遊とクロノがしゃがみこんでいた。恐ろしく暗いオーラをまとっている。
「あの二人、どうしたんだい?」
近くにいた佐藤に尋ねる。
「未来を教えて欲しいって言うから、教えてやったんだ」
小鳥遊には、十年後なのはとフェイトがどんな大人になっているか。クロノには将来の結婚相手を教えた。
アルフが近づくと、覇気のない呟きが漂ってくる。
「僕がエイミィと結婚? そんな馬鹿な」
クロノは別にエイミィが嫌いなわけではなく、むしろ大切な友人だと思っている。しかし、クロノの好みはなのはのような年下の女の子で、いつかきっと素敵な出会いがあると信じていたのだ。
案外、ロマンチックなところがあったらしい。
「嘘だ。フェイトちゃんとなのはちゃんが年増になるなんて嘘だ。フェイトちゃんたちみたいな魔法少女は、きっといつまで経ってもちっちゃいままなんだ」
小鳥遊はマジ泣きしながら現実逃避をしていた。
「おい、小鳥遊」
アルフは小鳥遊の胸倉をつかみ上げる。
「何年後だろうと、フェイトに年増って言ったら、承知しないからね」
牙をむき出し恫喝する。このままではフェイトの悪夢が正夢になりそうだ。
「やだなぁ。そんなこと……」
小鳥遊が視線をそらす。すでに言わない自信がないらしい。
アルフは盛大に溜息を吐いた。やはり筋金入りのミニコンだ。
時の庭園での最後の瞬間、ジュエルシードのエネルギー障壁が弱まったが、あの原因は小鳥遊だった。
あの時、小鳥遊は朦朧とした意識の中で、全員が親指サイズまで縮んでいるのを見て、心の底から満足した。ジュエルシードは願望を叶える。小鳥遊の願望が叶ったことにより、接続されていたジュエルシードの力が弱まったのだ。
「しょうがないね。取引しよう」
「取引?」
「そう。あんたの願いは私が叶えてやる。その代わり、あんたはフェイトに年増って言わない」
「どうやって叶えてくれるんです?」
「これなら文句ないだろう」
アルフが対小鳥遊用最終必殺技を発動させる。体が光に包まれ、子どもの姿へと変身する。
「アルフさん、可愛い!」
「抱きつくな!」
感激のあまり抱きつこうとする小鳥遊の顔を、アルフが足で押しとどめる。
その時、佐藤がアルフの肩を軽くつついた。なのはたちとの別れを終えたフェイトが、こちらにやってくるところだった。
フェイトは儚げな笑顔で小鳥遊に話しかけた。
「宗太さん、また遊びに行ってもいいですか?」
「もちろん、いつでも歓迎するよ。俺だけじゃなく、姉さんたちもなずなもきっと喜ぶ。フェイトちゃんもアルフさんももう家族みたいなものなんだから」
フェイトは幸せそうに家族という言葉を噛みしめる。考えてみれば、アリシアの記憶以外で、フェイトに家族の温もりを教えてくれたのは小鳥遊家だった。教育係だったリニスも優しくしてくれたが、それは先生としての優しさだった。
これまで小鳥遊に対して漠然と抱えていた思いがある。フェイトはその思いを素直に言葉にした。
「宗太さんって……なんだかお父さんみたい」
フェイトにもアリシアにも父の記憶はない。少々家庭的すぎる気はするが、フェイトに取って小鳥遊は初めての父親のような人だった。
「…………」
「宗太さん?」
小鳥遊はしばし無言で立ちつくしていたかと思うと、いきなり鼻血を出してぶっ倒れた。
「宗太さん!?」
フェイトが慌てて抱き起こすと、小鳥遊は感極まった様子で目を閉じていた。
「俺、もういつ死んでも構いません」
「宗太さん、しっかりー!」
不幸でも死ぬが、幸せでも死ぬらしい。本当に難儀な性質である。
その頃、なのははユーノと並んで歩いていた。
小鳥遊たちがいる辺りがやけに騒々しいが、ユーノはそれにも気づかないくらい緊張していた。
なのはに気持ちを伝えるには今しかないとわかっているのに、どうしても決心がつかない。心臓が早鐘を打ち、握った両手はじっとりと汗ばんでいた。
「ユーノ君、どうしたの? なんか変だよ?」
なのはが無邪気に訊いてくる。
アースラ出航の時刻が差し迫っている。ユーノは意を決してなのはと正面から向き合う。
「な、なのは!」
ユーノの顔はゆでたトマトのように真っ赤だった。
「何?」
ユーノは深呼吸をして一息に言った。
「君が好きだ!」
「うん。私も好きだよ。大事なお友達だもん」
なのはの発言に、ユーノがよろめく。心がくじけそうになるが、これくらいなら予測の範囲内だ。
「そ、そうじゃなくて、種島さんと佐藤さんみたいな好きって言うこと!」
なのはの目が点になる。
「ふ、ふええええええええ!?」
どうにか気持ちは伝わったらしい。なのはが赤い顔で慌てふためいている。
「あの……それで……もし良かったら……」
しどろもどろでユーノは先を続けようとする。その時、
「そろそろ時間だ。出発するぞ」
クロノが冷厳に告げた。
「も、もうちょっと待って!」
「駄目だ」
クロノはユーノの肩をつかむと転送エリアまで無理やり引きずっていく。
「なのは、今度会ったら、返事を聞かせて!」
ユーノはどうにかそれだけを言い、なのはが赤い顔で首肯する。
みんなで手を振り、最後の別れの挨拶をする。フェイトやアルフ、ユーノ、クロノたちが、光に包まれアースラへと転送されていく。
こうしては魔法の世界の住人たちはミッドチルダへと、高町姉兄妹は海鳴市へと帰り、ワグナリアは日常を取り戻した。
それぞれの一生の思い出になるであろう夏は、こうして終わりを告げた。
エピローグ
あれから十年の月日が流れた。
フェイトはハラオウン家の正式な養子となり、フェイト・T・ハラオウンと名乗るようになった。ミドルネームのTは旧姓のテスタロッサのイニシャルだが、別の意味があることを知る者は少ない。
フェイト・小鳥遊・ハラオウン。彼女のもう一つの家族の名前だ。
なのはとフェイトは時空管理局に就職し、多忙な日々を送っている。今日は珍しく二人とも休暇が取れたので、朝から一緒に遊びに出かけていた。
夕方になり、なのはたちは喫茶店に入って休憩する。
「そう言えば、エリオ君とキャロちゃん、元気にしてる?」
なのはがジュースを飲みながら言った。フェイトが後見人を務める子供たちの名前だ。
「うん。よかったら写真見る?」
フェイトは二枚の写真を取り出した。遊園地を背景に十歳くらいの少年と少女が笑顔で写っている。
かつてなのはや小鳥遊が自分にしてくれたように、フェイトは不幸な境遇にある子供たちに手を差し伸べることを生きがいにしていた。
「でも、忙しいのに大変じゃない?」
なのはが心配そうに言うと、フェイトは笑顔で応える。
「まあね。でも、二人の顔を見てたら、疲れなんてどこかに飛んでっちゃうから」
「そっか。可愛いもんね」
「うん。本当に可愛い」
フェイトは二人の写真を眺め、しみじみと呟いた。
「……本当に十二歳以上なんかにならなければいいのに」
「…………フェイトちゃん?」
聞いてはいけない台詞を聞いた気がして、なのはの顔が引きつった。
「あ、いけない。もうこんな時間」
フェイトは時間を見て慌てて立ち上がる。夕飯はキャロと一緒に取る約束になっているのだ。
「なのはは、これからユーノと会うんだよね?」
「うん」
なのはは少し赤い顔で頷く。ユーノは現在無限書庫で司書長をやっている。
十年前に告白されて以来、お互い忙しいのでなかなか会えないが、どうにかこうにか関係は続いている。今日はユーノも仕事を早く上がってくれる予定だった。
「じゃあ、ユーノによろしくね」
「うん。伝えておく」
フェイトが走って去っていく。しばらくすると、眼鏡を賭けたユーノが店にやってくる。
「お待たせ、なのは」
ユーノが声をかけるが、なのははフェイトが消えた方角をじっと見つめていた。
「なのは?」
重ねて呼びかけると、なのははようやく振り向いた。
「ユーノ君。お願いがあるんだけど」
「何?」
「無限書庫でミニコンの治療法探してくれないかな?」
「はっ?」
どうやら伝染病の類のようだ。フェイトが完全な小鳥遊家の一員となってしまう前に治療法を発見しないといけないと、なのはは真剣に思った。
以上で投下終了です。
また何か思いついたら書くかもしれません。
それでは。
もう忘れられてると思うというか
原作がやったぞジルグー!のあと長期休載だったり
後から出てきた設定でなんじゃこりゃーとなったり
結末は考えてたんですがそこまでの過程が思いつかなかったり
なのはの方の設定をほぼ忘れかけてたりで書いてませんでした。
これも繋ぎというか
こんなチート野郎設定出る前に想像できてたまるか!
という感じの短いモノです
というわけで投下します
ブレイクブレイド StrikeS
第38話「経歴詐称」
「ふむ…」
自室のモニターを眺めていたスカリエッティがどこか楽しげな笑みを浮かべる。
「この世界を見つけるのは骨がかかっただろうね。ありがとうウーノ」
椅子を回して後ろを向き、直立不動の姿勢をとっているウーノに対して
スカリエッティは満更お世辞でもない労いの言葉をかける。
「ありがとうございますドクター」
スカリエッティのもとで情報分析を務めるウーノは心の底から嬉しそうに返事をした。
「しかし世界は特定できましたが情報収集用のポッドを送り込むのが精一杯でした、申し訳ありません」
「なに構わないよ、私が興味があったのはあの男のことだけだからね」
それにしても、とスカリエッティは興味深そうに話を続ける。
「こんな人物がいるものなんだねぇ。物語にだってここまであからさまに才能を与えられた登場人物はなかなか登場しないよ」
知っている人が聞けば「お前が言うな」と言いそうなものだが
スカリエッティは心底感心したようにその男、ジルグのいた世界であるクルゾン大陸での彼の経歴を改めて一瞥する。
──────────────────────────────────────────────────────
本名:ジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロス
クリシュナ王国の名門アルヴァトロス家の一人息子として誕生
学業、その他あらゆる分野において他の追随を許さぬ成績を残し
彼の父親であるバルド将軍を含む『クリシュナの双璧』をはるかに凌駕する将軍になると期待された逸材。
彼の世界にあった戦闘の主力であるゴゥレム乗りとしての技量も突出しており
クリシュナ王国の王国中央特別兵軍養成学校において
毎年開催される「射撃」「遠距離射撃」「剣術」「槍術」「総合戦闘」の5部門で競われる
ゴゥレム実技大会に3回出場し2年連続で5部門優勝
3連覇は逃したものの最後の年は槍術以外の4部門で優勝、槍術で準優勝
学業の面においても全てにおいて他の生徒を圧倒していたという。
行軍訓練中突如味方を射殺し投獄されていたが
アテネス連邦王国における戦争中釈放され、鹵獲ゴゥレムであるエルテーミスを短期間で慣らして出撃し
初陣にもかかわらず単騎で凄まじい戦果を上げるが、敵軍に捕縛され処刑される。享年19歳。
──────────────────────────────────────────────────────
管理局においては20過ぎと称しているそうだが、おそらくこちらの世界の未成年では何かと不都合が多いと判断したためだろう。
本名や詳しい経歴なども明かしている様子はない。
敵に回すにせよ味方に引き込むにせよ、ここまでインチキくさい経歴を持つ男だったとは
さしもののスカリエッティの予想を超えていたようである。
「そういえば彼にやられたノーヴェの容態はどうかね?」
むしろ彼女の容態よりも直接刃を交えた(正確には一方的に蹂躙された)彼女からの様子を聞きたそうなスカリエッティ。
「はい、回復の方は順調です。近いうちに実戦に復帰できるでしょう」
「そうかね、それは良かった。彼女さえよければぜひ再戦して雪辱を晴らしてみて欲しいものだね」
単純に興味を持ったジルグの戦いぶりを見たいというのが本音なのだろう。
他に刃を交えた経験のあるゼストはスカリエッティを嫌っているため感想を話したりはしてくれない。
自分の配下が半殺しにされたというのにその相手に対して
まるで新しい玩具を与えられた子供のような目を向けるスカリエッティに
さすがのウーノも内心呆れとノーヴェに対する同情の念が湧くのであった。
「そういえば彼の世界に対する干渉手段については調査しなくても良いのですか?」
「私が興味を持っているのは彼であって彼が『かつて存在した』世界ではないからね。
それに文明のレベル的にも干渉するには値しないよ」
ウーノの提案を笑いながら一蹴するスカリエッティ。
並の人物であれば自分が元いた世界を取引材料等に使えるかもしれないが
少なくともジルグに対しては全く意味がないだろう、との感想をスカリエッティは抱いている。
ならばジルグの情報以外にクルゾン大陸に価値はない、と感じてもおかしくはない。
わかりました、と返事をして部屋を出て行くウーノを見送ると
再びモニターに向き直り、楽し気な表情を崩さぬまま次なる『遊び』の考案に入るスカリエッティであった。
以上です。
もうやだ何このチート
唯一の弱点もあんなの想像できたらある意味すごいというものではありましたが…
設定集出てますますスランプが加速することになりそうな予感です。
辻褄合わせとかもう即興です。
まさかなのはさんたちと同年齢だなんて思いませんでしたよええ
それでは
>>83 久しい投下、乙です
17時頃に羽生蛇村調査報告書
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン 旧宮田医院/山中 初日/4時41分38秒
を投下します
時間なので投下します
※注意
このSSには鬱要素が含まれており、今後登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。そのことを踏まえて、よろしくお願いします。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン
旧宮田医院/山中
初日/4時41分38秒
ぽたぽたと顔を叩く水滴の感触。それが仰向けに倒れていたフェイトの意識を覚醒へと促した。
意識が浮上し、閉じていた目を開くと弱い光が視界に映り込む。
目覚めたばかりで未だぼやける目を凝らすと、弱い光はすすけた街灯の明かりであることが分かった。丁度フェイトの真上辺りから仄暗く、寂しげな光を投じている。
(………とりあえず起きよう)
ぼんやりと光を眺めながらそう思い、上体を起こした。
「っ………」
しかし身体を動かすと同時にあちこちに鈍い痛みが走り、フェイトは顔を歪ませながらも立ち上がった。それに伴って気絶する直前の記憶が蘇る。
魔力を失って落下する身体、途切れ途切れの通信、揺れる大地、轟き響き渡るサイレン……あれらは相手側の手によって起こされたものなのか。あるいはレリックの暴走によるものなのか。
もしくはこちらも予想だにしない別の何かによるものなのか。
何が起きたのか詳しく分かっていない現状では、いくら推察しようと答えにはたどり着かないだろう。だがこちらにとってよからぬことが起きたのはまず間違いないようだ。
気付けばバリアジャケットが解けており、地球に来た時に着ていた私服姿に戻っている。Gパンや黒い上着に、落下した時についたのだろう木の葉が幾つかくっついていた。
そして手の中には、待機モードのバルディッシュがしっかり握られている。墜落時に強制的にモード変更されたのだろうか。
(それにしても手の中に握ったままで落とさずによかった……)
あの落下の最中に落としていたとしてもおかしくはなかった。長年を共にした愛機が手元にあることに安堵する。
周りを見渡すと、そこは闇に包まれた森だった。フェイトを照らしている街灯以外の明かりは一切見当たらない。
高所から落ちたのに、この程度の傷で済んだのは森の木々がクッションになったからだろう。
(とりあえず、通信は………やっぱりダメか)
通信回線を開こうとしても、回線が途絶されている以前にウィンドウすら開かない。しかし何故だか、フェイトは何となくそういった予想はしていた。
経験によるものだろうか。これは一筋縄で済む問題では無い、直感でそう感じていた。
しかし魔法も通信と同様、発動する気配すら無いことには流石に驚いた。
その上、バルディッシュは起動することも出来なければ音声を発することも出来ない。バリアジャケットを構成することすら出来ず、まるで魔法そのものを封じられたかのようだ。
(AMFとは違うな。一体、なんなんだろう?)
ただ一応、魔法を完全に失ったわけでも、バルディッシュが壊れたわけでもないことは分かった。バルディッシュに魔力を流すことで、ある程度の魔力光を発することはできたからだ。
それにバルディッシュ自身が自発的に魔力光をちかちかと照らすこともでき、どうやらなんらかの理由で発声を含めた機能が大幅に制限されている状態になっているようだ。
(レリック、じゃないよね。あれが暴走したらもっと大変なことになるし、なによりこんな不可思議な影響が出た事例なんて聞いたことが無い)
だいたい、最後の最後まで探知されたレリックの反応自体が微弱かつあやふやで、そもそも本当にこの地に存在していたのかどうかも分からない。
(まぁ、理由は分からないけど、とにかく魔法が使えないならどうしようもないし……それにしても困ったなぁ)
こんな山奥深くに放り出され、自分の居場所も分からない。いわゆる遭難状態に陥っているのだ。
(とりあえずここは××県、三隅群……そのどこかなのは確かだよね)
改めて周りを見回しながら、冷静に気絶する前の記憶を思い起こす。ロングアーチから受けたレリック探知に関する情報では、この近くに村落があったはずだ。
(確か、羽生蛇村だったけ)
名前に妙な響きを持っているので覚えている。しかし聞いたことの無い名前だが、名が残っている辺り廃村では無いのだろう。
(その村を目指すのもいいけど、無闇に動くのも危ないし……)
ぽたっ
と、ふと額に液体が当たる感触がした。反射的にフェイトは手の甲でそれを拭った。
そう言えば辺りにはささやかな雨が降り続けていた。きっと枝葉に溜まった雨水が大きな水滴になって落ちてきたのだろう。
なんとなしに拭ったそれを見る。
「……え」
フェイトはぎょっとした。
手の甲に伸びた水滴は、街灯に照らされてぬらぬらと光を反射している。
それは、赤色だった。
「血……?」
頭を切ったのかと思い、もう一度拭ってみるが、痛みもなければ血も付いていない。
そこで見つめた手のひらに、再び赤い水滴が落ちた。
「えっ!?」
驚くと同時に、急いで手についた赤い水滴を拭う。
(降ってきた、んだよね)
フェイトは恐る恐る、バルディッシュの放つ強い光を空に向けてみた。頭上を生い茂る木々の枝葉が照らされ、その合間合間から穏やかな雨が降り続けている。
フェイトは、光に照らされた降り注ぐ雨を見て、息を呑んだ。
血のように赤く染まった、おぞましい雨。雨がバルディッシュの放つ光を受けて、闇の中に鮮やかな赤色を浮かび上がらせていた。
「ど、どうなってるの?」
第97管理外世界『地球』。かつてフェイトが暮らしていたこともある馴染みのある世界だが、こんな現象は遭遇したことも無ければ聞いたこともない。
血の雨だなんて、まるで怪談話の世界だ。寒気がして、腕をさすりながら呆然と呟いた直後。
「っ!!」
頭の中を電気が駆け抜けるような痛みが襲った。激痛を堪えるために、フェイトは反射的に頭を抱え、目を堅くつぶる。
その瞬間、何かの思念が頭の中を流れていった。
―――― ―― ―― ―――
(な、なに!?)
しかし内容が全く読み取れない。
ただフェイトは、自分が何者かと瞬間的に感覚を共有したという事実だけを、直感的に、しかし確かに理解した。
(思念通話とかじゃない……これは、一体……)
フェイトが目を開けると頭痛は治まり、『感覚』も途切れた。気付けば嫌な汗が額からにじみ出ている。
思念通話とは違う、今のはそれよりもっと感覚的で原始的なものだった。その上原因も分からなければ、感覚を共有した何者かの意図も読み取れない。ただただ、不気味だ。
(もう、なにがなんだか……)
自分の意志とは無関係に次から次へと舞い込んでくる超常現象に脳の処理が追いつかない。
(本当にどうなってるんだろ……ティアナやキャロは大丈夫かな)
頭を抱えていると、ふと隊員達の顔が脳裏によぎった。
サイレンが鳴る直前まで、自分の目の前で大量のガジェットと空中戦を繰り広げていたキャロとティアナ。あの様子だと二人も自分と同じく、この地域のどこかに墜落しているだろう。
(とにかく二人も探さなきゃ)
魔法が使えず、通信もできない。ならば、今同じ事態に直面しているだろう仲間と早々に合流して、事態の原因究明を目指すのが一番だ。
ただ問題はこの静寂に包まれた森の中をどう進むか。
深夜ということもあり、周りは不気味なくらい静まり返っている。更に凹凸が激しい山岳地帯では歩いていても一定方向には進むことはできない。
かといってこの赤い雨に晒されながら一人じっとして、森の中で助けを待つ気も更々なかった。
無闇に動くことも危険だが、六課や本局からすぐに助けが来るとも限らない。ならそれまで現地で原因を探るのも悪いことではない。
それに自分の身に降りかかっている一連の出来事に、言い知れぬ不安もあり、気味の悪い赤い雨に打たれながらいつ来るか分からない救助を待てる自信も無い。
「……とりあえず、動いてみようかな」
赤い雨が降り注ぐ中、言い知れぬ不安を胸にしながらも、フェイトはあくまで冷静に、行動を開始した。
投下終了です
話を補足すると、フェイトは宮田医院近辺にいましたが、その存在に気付かず医院から離れていきました。
ではまた
90 :
◆jTyIJlqBpA :2012/11/23(金) 22:03:16.95 ID:0G5RNB6L
投下予告です
一時頃に羽生蛇村調査報告書
キャロ・ル・ルシエ 蛇ノ首谷/折臥ノ森 初日/5時27分11秒
を投下しようと思います
時間なので投下します
※注意
このSSには鬱要素が含まれており、今後登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。そのことを踏まえて、よろしくお願いします。
キャロ・ル・ルシエ
蛇ノ首谷/折臥ノ森
初日/5時27分11秒
―――出て行け―――
―――消えろ―――
―――恐ろしい―――
―――忌まわしい―――
―――お前の居場所など……―――
「いやぁっ!!」
悲鳴をあげて、キャロは跳ね起きた。
汗で顔はびしょ濡れ、動悸は激しく打ち、呼吸は浅くて早い。
深呼吸をしようにも、やり方を忘れたように上手くできない。それでも呼吸を整えようと、キャロは自分の胸元を両手で握り締めた。
「はぁっ、はっ……ゆ、夢?」
ようやく呼吸がまともになってきたと同時に、現実を確かめるように呟く。それ程までに、今まで見ていた悪夢はキャロにとって強烈な内容だった。
(そんなことない、大丈夫……夢、夢だから、うん)
そう思うことで、悪夢を悪夢として頭から振り払った。
そうして自分を落ち着けると、キャロは辺りを見回した。
(それにしてもここ、どこなんだろ)
周りを取り囲む木々。少なくとも、森の中であることは確かだ。
空は薄い青に染まり、暗がりと靄の中、辺りの光景を見ることができた。気絶したあの夜からどれくらい経っているのかは解りかねるが、
今が明け方であることは理解できた。
「なんだか、すごく嫌な感じ……」
湿っぽい、陰湿な雰囲気が辺りを包み込んでいる。深い靄のおかげで先がまるで見えず、それが不安感を更に煽った。
「バリアジャケット……解けてる」
更に身体を見ると私服のワンピースに戻っていた。キャロ専用のブーストデバイス、ケリュケイオンも待機モードになり、ネックレスとして首から掛かっている。
「そうだ、ティアさんは?それにフリードも……」
レリックの反応を追って共にこの地に来たティアナ、それに長年自分と一緒にいてくれた白竜のフリードもいない。
「フリード!?フリード!!」
周りに呼び掛けても、あの元気な鳴き声が帰ってくることは無い。キャロの声は森を包む朝靄に飲み込まれて霧散した。
(フリードがいない……?なにが、あったんだっけ)
記憶を手繰り寄せる。雨の中、交戦していたガジェット達が突然機能停止を始め、直後にサイレンが鳴り響いた。
それに呼応して錯乱したフリードにティアナがなすすべもなく振り落とされ、その後、狂ったように飛び回ったフリードに乗っている内に、キャロもいつの間にか気を失っていた。
そこでフリードから振り落とされてしまったティアナは、無事なのだろうか?
思い出した途端、キャロの胸を締め付けるような不安が襲った。
あの時……謎のサイレンが鳴り響き、暴れ出したフリードにティアナが振り落とされた瞬間。
キャロはフリードに振り落とされまいと必死で、なすすべもなくティアナが墜落していく様子を見ているしかなかった。
下は見渡す限りの森だったし、日頃から鍛えているティアナがあれで死んでいるということは無いだろう。だがもしかしたら大きな怪我をしているかもしれない。動けないかもしれない。
(ティアさん……)
そう思うと、ティアナの安否に対する不安で胸が一杯になる。
それと共に、落ちていく仲間を助けるどころか、手を差し伸ばすことすらできなかった自分に、キャロはどうしようもなく、やるせない気持ちになった。
(……でも、フリードは?)
しかし直前まで乗っていたフリードが、近くにいないだなんてことはあり得るのだろうか?物心ついた時から今まで、自分から片時も離れなかったフリードがいないだなんて。
(それにあのサイレン……いや、サイレンじゃない。生き物の鳴き声みたいだった)
身体の芯まで震わせるような大音量のサイレンは、今も克明に覚えている。キャロにとって、あのサイレンはただの機械音ではなく何か得体の知れない生き物の咆哮に聞こえた。
今の今まで、聞いたこともないような不気味な鳴き声。それに対して尋常ではない抵抗を見せ、錯乱したフリード。
あそこまで暴れて抵抗感を示したフリードは、長年心身を共にしたキャロですら見たことが無い。
フリードはあのサイレンから何を感じとったのだろうか。
(とりあえず、ティアナさんやロングアーチと通信できないかな……)
そう思い付き、待機モードのまま首から下がっているケリュケイオンを握った。
「ケリュケイオン」
起動しようと、その名を呼ぶ。
「……ケリュケイオン?」
しかし一向に通常モードに入らない。反応も、ネックレスの宝石部位がちかちかと淡い光を放つだけ。
キャロは血の気が引いたような感覚を覚えた。
「ケリュケイオン?ケリュケイオン、お願い反応して!」
何度名前を呼んでもケリュケイオンは光を散らすだけで、音声すら発しない。
「そ、そんな……」
故障だろうか?もしかしてあのサイレンが原因で?憶測が脳内で飛び交い、不安で思考空回りを続ける。
通信はできない、助けも呼べない、召喚もできない、仲間はいない。見知らぬ世界、誰もいない見知らぬ土地の真ん中で一人。
(ど、どうしよう……)
途方に暮れ、周囲の鬱蒼とした森を見回した。
――――ぐ―お―ぉお―ぉ――――
「っ!?」
その時、どこからともなく不気味な呻き声が聞こえてきた。キャロは小さな肩を跳ね上げて驚き、思わず辺りを見回す。
周りに生物らしき影は見当たらない。しかし呻き声、キャロとそんなに離れていない位置から聞こえてきた。
「な、なに?なんの声……うぐぅっ!!」
突然、キャロをつんざくような頭痛が襲った。余りの痛みに眉間に皺を寄せ、思わず目をつぶってしまった。
するとその瞬間、頭痛と呼応するように脳裏に映像が流れてきた。
―――げはっ は は はは は は―――
不気味な笑い声と共に、草木を掻き分けて山の中を動き回っている、『誰か』の視界。激しい息遣いと共に慌ただしく移動しているその様子は、異常だった。
痛みに耐えかねてキャロが目を開けると、映像と頭痛は嘘のように脳裏から消え去っていった。
「い、今のは……?」
呆然としながら呟く。幻覚のようではあったが、違う。頭に痛みが走っていた間、確かに誰かと感覚を共有していた。
恐る恐る、再び目をつぶって意識を集中してみた。
「いっ……」
すると再び頭が痛み出し、脳裏に映像が蘇る。
―――ふひ ひ ひぃひ ひひ―――
また別の『誰か』の視界。随分遠くにいるようで流れ込む映像は、印象が薄く、声も聞き取りにくい。
だが先程の『誰か』と同じく、この人間もまともとは思えないような笑い声をあげている。整備された林道を歩いているようだ。
「これは………」
キャロは目を開けて、そして感覚的に理解した。
今の自分には、どういうわけか魔法の代わりに、他人の視界を盗み見る能力が与えられているということに。
どうしてそんな物が身に付いたのかは分からない。
そして能力で見た視界からわかったこと。
山の中ではあるが、どうやら人はいるようだ。……しかしその人間達は、キャロから見て、とてもまともとは思えない様子だった。
勝手の分からない山の中、自分以外にもどこかに異常者達が徘徊している。自分の置かれている現状を確認すると、背筋が寒くなった。
「と、とにかくティアさんを探さないと……」
サイレンや、この能力、魔法が使えなくなったことやフリードの失踪。気になることは山のようにあるが、今はどこかにいるだろうティアナと合流して、二人で問題解決を図った方がいい。
それに、この能力があれば仲間を見つけることもそれほど難しいことにはならないだろう。そう思ってキャロはその場から立ち上がり、歩き出した。
ぱぁん
「!?」
しかし数歩歩いてから突然、乾いた音が森に響き渡り、ぱすん、という音と共にすぐ近くの木に弾丸がめり込んだ。
心臓が跳ね上がるような驚きと共に、キャロはとっさにその場に屈んだ。
(そ、狙撃されてる!?一体誰に……それにこれは、質量兵器!!)
飛んできたのは魔力などを使用したエネルギー弾ではなく、質量のある鉛の弾。当たれば致命傷は確実だ。
(そうだ……なのは隊長やフェイト隊長がいたこの世界って、管理外世界だった)
管理世界では禁止されている馴染みの無い質量兵器にキャロは驚き、それから改めてここが管理外世界であることを思い出した。
それでもこの地、高町なのはや八神はやての出身のこの国は、山の中で佇んでいると突然狙撃されるほど治安の悪い場所だっただろうか?
先程の能力で見た異常者達もそうだ。そんな危険な人間ばかりいるような場所ではなかったはずだ。
ぱぁん
再び響いた銃声にキャロは思考を中断させられた。顔を上げると、間近の木が被弾した。
相手に完全に位置を知られてしまっている。このままではこの場から動くこともままならないし、そのまま近付かれて最悪射殺されるかもしれない。
緊迫状態の中、キャロは生唾を飲み込んだ。
(……さっきの視界を盗み見るチカラ、使えないかな)
ふとそう思い立ち、試しに目をつぶって意識を周囲に集中させてみた。
すると、あの鋭い頭痛が頭の底から湧き上がるように広がっていき、例の能力を使うことに見事に成功した。
「……っ!!」
頭痛で漏れそうになる声を抑えて、自分を狙撃しようとしている者の視界を探る。
……あった。
猟銃を構えている視界が。その視界を介して、自分のいる位置も感覚的に理解できた。
狙撃するにはキャロのいる位置とかなり距離が近い位置にいるようだ。丁度小さな崖の上にいるらしく、キャロのいる辺りを見下ろせる場所。
しかし屈んでいるキャロの姿はちょうど茂みに隠れており、犯人からは見えない。
―――はぁはぁ はぁ はっ ぁはぁ は ぁはぁ―――
そして犯人は声を潜める気は無いのか、こちらまで息苦しくなりそうなまでに呼吸が異様に荒々しい。
心を大きく取り乱しているのか、それとも異常者なのか。どちらにしろ少女一人が山中に迷い込んでいるのをいいことに射殺してこようとしてくる者の気が知れない。
犯人はキャロが動かないことを悟ったようで、やがて猟銃を持ち直すと崖を飛び下りた。
地面が一気に近付いて着地。相変わらず不規則な呼吸を繰り返しながらキャロのいる茂みをしっかりと見ている。
そして犯人はそのまま、覚束ない足取りで、よたよたと歩いてきた。
(こっちに向かってくる……!?)
男の動向を確認したキャロは目を開けた。どうしよう、と混乱しつつ屈んだまま身の回りを見回す。隠れるところは少ないが、とりあえず茂みや木がある。
頼りないが仕方ないと思い切り、キャロは素早く、しかし静かに茂みに飛び込んだ。
そして息を殺して忍び、草間から覗き込んで近付いてくる男を待った。
やがて草や枝を踏みつける音が近づいてきて、男がやってきた。
現れた男。猟銃を持ち、ほっかむりをした男は農夫のようでYシャツと、丈の大きなズボンを履いている。
しかし、その顔を見たキャロは、思わず引きつった声を漏らしそうになった。
(に、人間じゃ……ない……)
年配だと思われる男の顔にはある程度の皺があった。しかしその顔は、死体のように、いや死体以上に青白い。服も泥や血でぐちゃぐちゃに汚れていた。
目や鼻からは血が溢れ出し、その目は焦点が合っていない。呆けた表情をして何事かをぼそぼそと呟いている。
衝撃と恐怖に身体を固まらせたまま、キャロの目は男に釘付けになっていた。
やがて男は挙動不審に周りを見回し、その場から離れていった。
「…………………」
男がどこかへ行った後もしばらくキャロは動けなかった。数分経ってからようやく動き出し、絶句しながら茂みを抜け出す。
そしてキャロは男が歩いていった方向と逆方向に走り出した。
(な、なんだったの……?)
わけも分からず走りながら思い返す。
あれはまるで歩く死者だった。しかしそんなものは物語の中でしか存在しないんじゃないか。だがあれは確かに目の前にいて、息をして歩き回っていた。
(もしかして、他の人達もあの人みたいに……?)
能力で見つけた『人々』もあの男と同じ状態なんじゃないか。
やはりあのサイレンだ。
あのサイレンが原因でこんなことになってしまったんだ。
そう考えながら、靄で先の見えない凸凹とした森の中を走り続ける。
ある程度走り続けて、キャロは息を切らして立ち止まった。膝に手を当てて屈み、深呼吸を繰り返す。ここはどこなんだろうか。
相変わらず周りは木ばかりで、目覚めた時と景色に違いは無い。
今もこの山のどこかにあいつらがいる。
そう思うと、キャロは一刻も早くこの場から抜け出したい気持ちに駆られた。
ぱきっ
不意に枝が折れる音が聞こえてきた。目の前からだ。
(だ、誰か……いる?)
走っていたせいで鼓動が早まった心臓が、緊張感も相乗して張り裂けそうになっている。
しかしそれ以上、近付いてくる気配は無い。
「……?」
恐る恐る、キャロは顔を上げてみた。
目の前に、人が立っていた。それは女性だった。あの男と同じ、農業を営んでいるだろう服装をしている。
その顔もやはり血の気はなく、目からは大量の血液が流れ出していた。あの男と変わらない、焦点の合わない濁った目。
女性はその目をキャロに向けると、血で溢れた口を三日月にして、笑ってみせた。
「な ぁあ にぃ い ひ っひぃひ ひ」
声すら出なかった。
キャロは、踵を返すと再び全速力で走り出した。茂みに突っ込み、草を掻き分け、道無き道を、必死に。
背後から草を掻き分ける音が追ってくる。後ろなんて見られない。恐ろしいだなんてものではなかった。脳裏に女性の笑顔が貼りつき、それがキャロの足を余計に速める。
なぜ微笑んだのか、それは分からない。しかしあの不気味な笑顔はキャロに向けられ、それはキャロに確かな恐怖心を植え付けた。
「あっ!!」
不意に目の前に地面が無くなり、キャロの身体が宙に浮いた。
しかしすぐに重力に従って落下。咄嗟に受け身を取ったものの、コンクリートの地面の上に叩きつけられ、その上思い切り転がる。
「いたい……」
受け身を取った腕がすりむけ、破けた皮膚の間から血が溢れ出している。軽い打撲もしており、腕や膝がじんじんと痛み出した。
痛む箇所を労りながら、辺りを見回した。どうやら山間部に走る道路に出れたようだ。それに道の上に電線が走っている辺り、廃道というわけでもないらしい。
ただ辺りは相変わらず深い朝靄に包まれ、道の向こうはまるで見えないが。
キャロが出てきたのは道路を挟む山の一方から。道路脇の山肌はブロックで固められて生け垣のようになっており、自分はその上から飛び出してきたようだ。
と、キャロのいた山の茂みから、がさがさと音が聞こえてきた。
(逃げ、なきゃ……)
キャロは未だ痛みを増す腕と膝を労りながらも、先の見えない道をとにかく走り出した。
まさか隊長陣のいた平和な世界で、こんな異常事態に巻き込まれるだなんて思いも寄らない。
靄の中、歯を食いしばりながら、キャロは道を走り続ける。
(ティアさん……っ!!)
せめてその先に、仲間のティアナがいることを望んで。
以上で投下終了です
ではまた
99 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:44:36.49 ID:Fxh97U9D
御久し振りです
これよりR-TYPE Λ 第34話を投下させて戴きます
100 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:45:27.49 ID:Fxh97U9D
『目標、前方大型敵性体。MC404自動管制、砲撃開始』
『「マレソル」右舷に直撃弾! 被害甚大、後退中!』
『砲撃、来ます!』
警告が発せられた直後、頭上の空間を突き抜ける無数の砲撃。
泡状の極強酸性体液による、生体型長距離砲撃だ。
遥か前方、砲撃を放った異形の一群が更なる攻撃を実行せんと、胸部を突き破って覗く寄生体の口腔から赤黒い体液を溢れさせている。
だが結局、それらの異形が砲撃を放つ事は無かった。
強烈な閃光。
『弾体炸裂。目標群AA-04からYL-91の殲滅を確認』
遅れて襲い来る、全身を粉砕せんばかりの衝撃と轟音。
15km後方に位置するXV級6隻からの、戦略魔導砲アルカンシェルによる同時砲撃。
弾体炸裂により発生した余りにも強大な魔力爆発、そして極広範囲に亘る空間歪曲。
それらが、彼方に至るまでの空間を埋め尽くしていた無数の異形、その殆どを呑み込み跡形も無く消し去ったのだ。
より近距離に位置していた先程の一群は、アルカンシェルと同時に放たれたMC404からの魔導砲撃を受けて消滅したらしい。
通常では在り得ない、最小安全限界距離を無視しての戦略魔導砲による砲撃。
弾体炸裂点こそ前方800kmもの彼方であるとはいえ、発生した強烈な衝撃波は周囲に展開する魔導師、更には他のXV級をも襲い、致命的でこそないものの少なからぬ影響を齎す。
だが、その事実を気に留める者は存在しない。
その必要性も無いからだ。
『発射』
再度、アルカンシェルによる砲撃。
目標、大型敵性体。
今度は6隻どころか、計80隻の一斉砲撃だ。
弾体炸裂時に発生する衝撃の強大さは、先程の比ではないだろう。
無論、周囲への被害も甚大なものとなる筈だ。
『目標、残存敵性体群。突入まで5秒』
だが彼女は、魔導師達は前進を止めない。
後方の艦艇群、それらの1隻でさえ離脱しない。
只管に前進し、残る敵性体群、そして大型敵性体へと肉薄せんとする魔導師達。
敵性体群と大型敵性体からの砲撃を回避しつつ、更なる砲撃を実行せんと態勢を整える艦艇群。
数瞬後、アルカンシェル弾体炸裂に伴い発生した閃光が視界を、意識の全てを塗り潰す。
敵性体群を背後より襲う、彼方での弾体炸裂の余波。
奪われる視覚、悲鳴を上げる身体。
『突入!』
だが、問題は無い。
残存敵性体群の状態、方向、距離。
全ては明確に「視えて」いる。
視覚情報を用いるまでもなく、あらゆる魔導因子内包型観測機構より齎される各種情報が、意識内へと直接転送されているのだ。
逆袈裟に振り抜かれる腕部、大気諸共に物質を切り裂く感触。
『目標撃破!』
嗅覚を刺激する異臭。
全身を覆う障壁、通常と比して圧倒的なまでに高密度の魔力によって構築されるそれに触れ、瞬間的に気化した敵性体血液の臭気。
完全には濾過されず障壁を透過し、微かに嗅覚細胞を刺激するそれに対し、無意識の内に眉が顰められる。
同時に、自身の周囲へと13基のスフィアを展開。
直後、トリガーボイスが紡がれる事さえ無く、一斉に超高速直射弾が射出される。
意識内への投影、直射弾によって胸部寄生体を貫通され、絶命する敵性体群の映像。
直射弾、即ちプラズマランサーによる敵性体撃破総数13体。
飛翔中の全弾体がターン、更に13体を貫通、撃破。
撃破総数、26体。
101 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:47:27.51 ID:Fxh97U9D
直後、意識中へと飛び込む映像。
24km上方、複数の敵影。
敵性体、総数83。
アルカンシェル弾体炸裂の余波、それが空間中の魔力素へと干渉した影響か、此方の索敵から逃れたらしき敵性体の一群。
全個体、砲撃態勢。
敵性体が放つ砲撃、弾体である体液の飛翔速度からして、現状からの回避は困難だろう。
咄嗟に新たなスフィアを展開、射撃態勢へ移行。
閃光、そして衝撃と轟音。
敵性体群、消滅。
純白の魔力光、超広域魔力爆発。
彼女は咄嗟に振り返り、後方40kmに位置するベストラへと視線を投じる。
デバイスを通じ視力を強化、外殻上の一点を拡大表示。
そうして視界へと映り込んだ見慣れた顔に、思わず口を突いて出る言葉。
「酷い顔しとるな、私」
鼓膜を震わせる肉声。
先程までとは異なり、意識中へと直接的に飛び込む念話ではなく、聴覚を通じ音波としての認識を齎すそれ。
並列思考の一端、対象との接続状態を保ちつつ、自己の外部認識に費やす魔力量を大幅に引き上げる。
慣れぬ感覚に眉を顰めながらも、彼女は続けて呟いた。
「他人の目から見る自分の顔ってのは、どうにも・・・」
「外見に大した意味は無いでしょう、はやてさん」
新たに聴覚を刺激する、少女の声。
自身の左後方より発せられたそれに、彼女は感情の抜け落ちた表情のまま、億劫そうに振り返る。
そうして自身本来の視界へと映り込む、青く短い髪の少女。
「それとも、フェイトさんの視界に気になるところでも?」
僅かに首を傾げ、此方を窺う彼女。
背後に煌く無数の閃光と轟く爆音を気にも留めず、そんな少女の顔を暫し見つめる。
やがて、諦観を色濃く滲ませる微かな溜息と共に、はやては声を絞り出した。
「・・・それこそ、アンタにとってはどうでも良い事やろ、スバル。私の感傷が、戦況と何の関係が在る?」
吐き捨てる様に言い切り、スバルから視線を引き剥がすはやて。
改めて戦場へと向き直った彼女の光学的視界は、無数の魔導砲撃の光条とアルカンシェル弾体が炸裂する際の閃光によって、瞬時に埋め尽くされる。
だが、問題は無い。
彼女の他の視界群は、閃光に霞む全ての影を捉えている。
「しかし、何とも・・・薄気味悪いもんやな」
意識中へと反映される、複数の視界。
はやては今、8名の魔導師と視界を共有している。
先程まではフェイトも含め、計9名分の視覚情報を並列処理していた。
意識中へと強制転送された、魔導インターフェースに関する情報。
唐突に認識させられたそれに基き実行した措置であったが、結果は様々な疑念をも塗り潰す程に劇的なものであった。
接続の直後、意識中へと雪崩れ込む、膨大な量の情報。
あらゆる種類のそれら全てが、個々の魔導師が有する感覚情報であると認識した、その瞬間。
はやての内に生じた感情は、猛烈な焦燥だった。
掻き消される。
自身が、八神 はやてという人物を構成する情報が、掻き消されてゆく。
複数の「他者」より流入する、膨大な量の情報。
それらの奔流に呑み込まれた自己が歪み、滲み霞んで消えてゆく、おぞましい感覚。
「他者」に貪られ吸収されてゆく、自己という存在。
遠くなる意識、混乱と恐怖。
102 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:48:38.90 ID:Fxh97U9D
だが、それ以上におぞましいのは。
それらの感情が、自己だけのものではないと認識してしまった事。
自身と意識を共有する無数の魔導師、その全てが同様の恐怖と焦燥に蝕まれ、声ならぬ絶叫を上げ続けていた。
自身の意識中へと流れ込む、彼等の存在そのものが発する恐怖の叫び。
既に自己判別が不可能なまでに、意識の混濁が進行しているという事実。
耐えられない、耐えられる筈もない。
このままでは、自我が崩壊する。
意識が回復したのは、自己が消失へと至る、その直前だった。
否、或いは既に消失した、その直後であったのかもしれない。
現在の意識は固有のものではなく、消失の後に新たに構築されたものではないのか。
はやて自身にその判別は付かないが、いずれにしても既に興味の対象外であった。
今や魔導インターフェースははやての意識中にて構築を完了しており、正常な機能を獲得すると同時に魔導師間に於ける情報共有を開始している。
その後は幾度か対象となる魔導師を変更しつつ、自身の最大同時接続可能数および接続可能範囲、接続数増大に伴う情報処理速度の変調率等を確認。
共有開始直後に形勢を立て直した味方と共に、艦艇群との連携を取りつつ反撃を開始したのだ。
先程のフレースヴェルグも、フェイトを始めとする複数の魔導師の視界から遠方の戦況を把握し、援護の為に放ったものであった。
「ジュエルシード・・・ジュエルシード「Λ」か・・・」
「使い方はお伝えしました。どう活かすかは個人次第です」
呟きつつ、インターフェース構築と同時に転送された各種情報、特に「Λ」に関するそれを部分的に再確認する。
傍らのスバルが発した言葉を意識の端へと留めつつ、ジュエルシード「Λ」構築に至るまでの経緯を辿るはやて。
作業は5秒にも満たぬ内に終了、同時にはやての胸中へと湧き起こる言い様のない感情。
次元消去弾頭、ジュエルシード「Λ」、バイド、R-99。
禁忌、との言葉ですら生温い程の存在が、よくもこれだけ創り出されたものだ。
しかもそれら全てについて、創造に至るまでの過程に地球が関っている。
尤も「Λ」とバイドについては、管理局もまた深い関わりを持つのだが。
「お互い様、か」
始まりは、地球文明圏内に於ける極めて大規模な内戦、其処で使用された数十万発もの次元消去弾頭。
自身等からすれば殆ど無関係とも云える強大な文明、その勢力圏内にて当該文明が有する戦略兵器が使用された際の余波、それにより信じ難いまでの犠牲を強いられた次元世界。
当然ながら、被害を受けた各世界の住民達は激怒した事だろう。
被害の大小に拘らず、あらゆる世界の人々が実効的報復を望み、管理局はそれを抑える事ができなかった。
結果として「Λ」が建造され、それへの対処を目的に地球文明圏はバイドを建造。
管理局による工作の結果バイドは太陽系に於いて発動、次元消去弾頭の起爆により排除される。
これにより地球文明圏の崩壊は確定し、管理局は望まぬ形とはいえ安寧を手に入れ、次元世界は報復を成し遂げた。
遥かな未来、約400年後の時空に於いては、その筈であったのだ。
侮っていた。
互いを侮っていたのだ。
地球も、次元世界も、双方が。
次元の海に存在する無数の意思が、地球という惑星に対して抱く憎悪を。
地球という惑星より発祥した文明が、どれ程の狂気を内包するものであるかを。
侮り、軽視し、過小評価したのだ。
その結果、双方が予期せぬ敵の襲来によって殲滅されたというのであるから、全く以って救い様の無い話である。
身から出た錆とは、正にこの事か。
「言っておきますが、火蓋を切ったのは地球側です。理解して戴けると思いますが」
「思考を読まれるのも気味の悪いもんやな。ついでに言えば、今更そんな事どっちでもええんやろ?」
此方の思考を読んだスバルに返答し、更に言葉を繋げる。
発端は地球か、それとも次元世界か。
そんな事を議論したところで、今となっては何ら意味が無い。
だからこそ、この感情にも意味は無いのだと、はやては自身へと言い聞かせる。
憤怒も憎悪も、今は必要ない。
今や何処にも存在せず、未だ何処にも存在しない、遥か未来の地球。
そんなものを恨んだところで、何ら意味など在りはしないのだ。
103 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:49:56.09 ID:Fxh97U9D
「大事なのは、どうやって今を生き延びるか。それ以外に関心を向ける事は、全て無駄に過ぎない」
「ええ、その通りです」
「邪魔なものは排除する。必要であれば、価値の在るものでも切り捨てる。全ては次元世界が生き残る為、次元世界の敵を滅ぼす為」
「はい」
だから、抑えろ。
こんな事を問い詰める意味は無い。
この感情を言葉にしてぶつけたところで、その行為が何を齎すというのだ。
言うな、止めておけ。
こんな問い掛けは無意味、そればかりか彼の遺志を裏切る行為だ。
止めろ、口を閉ざせ、何も訊くな。
「そうやって、ザフィーラ達も切り捨てたんか」
掠れた声での問い掛けに、返答は無かった。
音が鳴る程に歯を食い縛り、右手のシュベルトクロイツをきつく握り締める。
視界が歪んでゆく事を自覚するも、懸命にそれを無視せんとするはやて。
そうして、自身の決意とは裏腹に震える声で以って、言葉を続ける。
「・・・仕方のない事、だったんやな」
返される沈黙の中、音無き声と共に唇を震わせ呼ぶは、今はもう居ない家族の名。
無重力下に於いて無意味な事であるとは知りながらも、はやては視線を上向かせずにはいられなかった。
滲みゆく視界は一向に回復せず、僅かな滴が宙空へと零れ出した事を感じ取る。
これまでに失った家族は2人。
初めはシャマルだ。
彼女はバイドによって殺された。
汚染体666が発する強大な偏向重力より逃れる事が叶わず、原形すら留めぬまでに圧し潰されたのだろう。
それでも彼女については敵に、バイドという明確な敵性体によって殺害されたのだと、納得はできずとも理解はできる。
だが、ザフィーラは違う。
彼を殺したのは、間違い無く自身の傍らに立つ少女、スバルだ。
彼女が自身の目的を果たす為、故意に引き起こした惨事によって死亡したのだ。
それは、紛う事なき無差別殺戮、明確な敵対行為であった。
しかし同時に、それが地球軍とランツクネヒトに対する攪乱を目的とした行為であり、必要な措置であった事も今は理解している。
コロニーは破壊されなければならなかった。
そうでなければ、叛乱など起こす以前に、生存者達は残らず処理されていた事だろう。
では、それに伴うザフィーラの死についても、必要な事であったと納得できるのか。
彼は自身の眼前で、最期まで此方を気遣いながら、膨大な質量により圧砕されて消え去った。
数瞬前まで確かに存在し触れ合っていた筈の家族が、僅かな肉片と大量の血飛沫だけを残し、永遠に奪い去られたのだ。
それを為したのは敵ではなく、自身と勢力を同じくする少女、嘗ての部下。
それでもなお、仕方がなかったと割り切れるのか。
身勝手な思考だと、はやては自嘲する。
コロニーでの一連の戦闘による犠牲者は、シャマルやザフィーラだけではない。
当初40000を超えていた生存者の総数は、現在では13000前後にまで減少している。
25000を超える犠牲者の内、約14000名はコロニーでのバイドとの戦闘、更には続くR戦闘機群の強襲により発生したものだ。
シャマルと同様に偏向重力によって圧し潰された者も在れば、ザフィーラと同じくB-1A2より発生した植物性バイド体に呑み込まれて消滅した者も在る。
スバルが操るTL-2B2によって殺害された者、彼女とノーヴェの暴走を装った叛乱により撃沈された脱出艦隊の7隻と数十機の機動兵器、それらの乗組員およびパイロット達。
膨大な犠牲者の存在を無視し、自身は家族を失ったという事実にのみ捉われている。
だが、その事を自覚しつつも、それでもはやては居なくなってしまった家族、彼等を想わずにはいられなかった。
当たり前だ。
自分は、人間である。
居なくなってしまった家族を想う事、それの何処がおかしいというのだ。
犠牲となった人々、その全てを平等に思う事など、神ならぬ自分には出来得る筈も無い。
自身に近しい者を特別に想う、それは当り前の事だ。
104 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:51:01.24 ID:Fxh97U9D
視線を戻し、隣に立つスバルを見やるはやて。
彼女は彼方の戦域を見つめたまま、此方を見ようともしない。
はやての思考を読んでいる事は確実なのだが、それに対して一切の興味が無いと謂わんばかりの様子。
そんな彼女の姿を見つめつつ、更にはやては思考する。
彼女達はどうなのか。
スバルは、ティアナは、ノーヴェは。
近しい者の死に対して、何らかの特別な反応を示しはしないのか。
少なくとも目前に佇むスバルからは、自身が多数の被災者を殺害したという事実に対する気負い等、微塵も感じ取る事はできない。
但し、それは飽くまで彼女の外観、自身の視覚情報から組み上げた単なる想定だ。
彼女達を構築する「Λ」の機能からすれば、全ての犠牲者を平等に悼む事も可能だろう。
では、彼女達はその機能を用いて、今この瞬間も犠牲者達の事を想っているのだろうか。
どうしても、そうは思えない。
寧ろ、無駄な事案にリソースを裂く余裕は無いとばかりに、それらの一切を単なる情報として処理しているのではないか。
この戦いには不要なものであると、それこそザフィーラ達の事と同様に切り捨てているのではないか。
もし、この疑念通りならば。
そうであるならば、彼女達と地球軍と、何が違うというのか。
「Λ」も地球軍も、単なる機械的な、無機質なソフトの集合体に過ぎないのではないか。
「・・・やっぱり駄目か」
スバルの呟き。
その声は思考の渦へと捉われゆくはやてを、強制的に現実へと引き戻す。
此方の意識が現状へと回帰した事を察知しているのか、表情を微塵も変えぬままスバルは言葉を続ける。
「此方の攻撃が届いていない。砲撃は全て、カイゼル・ファルベによる防御壁に遮られている」
瞬間、それまでの苦悩も葛藤も、全てが凍て付いた。
指揮官としての冷徹な思考が、はやての意識を支配する。
スバルと視界情報の一部を共有、視界へと映り込む鋼色の異形。
その周囲に吹き荒れる虹色の奔流、魔力の暴風。
「聖王の鎧か」
「ええ。取り巻きの排除は順調だけれど、大本であるアレに対する有効打が無い。アルカンシェルによる砲撃の余波も、全てがアレに届く前に消去されている」
知らず、顔を顰めるはやて。
スバルの言葉が不快であった訳ではない。
閃光が瞬いた後、半数の視界が同時に消失した事実と、直前までそれらに映り込んでいた真紅の結晶に注意を引かれたのだ。
既に知り得ていた情報ではあるが、いざ実物を目にすると圧倒的な威圧感を此方へと齎す、その結晶。
「こっちがジュエルシードなら、あっちはレリックで魔力を増幅って訳か。おまけに攻撃の幾つかには古代ベルカ式魔法を応用しとる。どっちが魔導師か判らんわ」
大型敵性体「ZABTOM」。
その頭部前面、額に位置するレンズ状構造体。
超高密度魔力結晶体、レリック。
拳ほどのサイズでさえ無尽蔵の魔力を供給可能なそれが、実に直径4m超もの巨大なレンズとなってザブトムの頭部に埋め込まれていた。
その事実だけで、バイドが如何に凶悪な構想で以ってあの異形を創り上げたのか、否が応にも理解できてしまう。
「聖王の遺伝子から創ったバイド体に、レリックを接続した人造魔導師・・・バイド製のレリックウェポン。スカリエッティが小躍りしそうな代物やな」
「当の本人は悪趣味な代物、と断言していますけど」
管理局艦隊が展開中である方角へと視線を向けつつ、スバルが呟く。
地球軍による襲撃、更にはバイドによる汚染に見舞われた本局。
想像を絶する地獄からの脱出に成功した僅かな生存者達が、本局防衛任務に就いていた艦隊に収容されているとの情報は、インターフェースの接続直後に知り得ている。
その生存者情報の中には、R戦闘機との交戦により意識不明であった筈の家族、シグナムの名が在った。
更にはリンディやフェイトにアギト、ユーノとヴェロッサ、アルフやヴァイスにグリフィス、シャーリーやナンバーズの内数名まで。
恩人に友人、果ては嘗ての部下から敵対者であった者まで、多くの知人が本局からの脱出に成功していたのだ。
そして、嘗ての宿敵であったジェイル・スカリエッティの名もまた、生存者情報の内に含まれていた。
105 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:52:29.27 ID:Fxh97U9D
その彼について、現在は魔導インターフェースによる接続が断たれている。
運用方法について逸早く詳細を理解したのか、彼の方から独自に接続を断ち、受動的接続を拒否し続けているのだ。
はやても再度の接続を試みたのではあるが、短時間の内に展開された極めて強固なプロテクトを突破する事が叶わず、僅かに十数秒の試行で諦める結果となった。
今となっては、スカリエッティに対する強制接続を可能とする人物など、システムを構築した当人であるスバル達くらいのものだろう。
だが、接続解除の直前。
最初の接続時にはやての意識へと流れ込んできた彼の感情は、紛れも無い人間的な憤怒の感情だった。
戦慄すら覚える程の殺意と、暴風の如く吹き荒れる狂気を内包した憎悪。
脳髄を焦がさんばかりのそれらを記憶の淵から呼び起こすだけで、はやての身体には怖気が奔る。
彼は、知り得てしまったのだ。
オットーとディード、トーレとセッテ。
既に4人の娘を失っていた彼に齎されたのは、余りに無情で残酷な情報。
民営武装警察の手によってチンクは殺害され、ノーヴェは人ならぬ存在へと変貌させられたという事実。
そして現在のノーヴェが、如何なる存在であるのか。
常人には及びも付かないその頭脳は、齎された情報が意味するものを余す処無く理解し尽くした事だろう。
そうして彼に齎されたものは、未知の技術体系に関する知識を得たという事実に対しての喜悦ではなく、娘達を失ったという現実に対する絶望であったのか。
少なくとも先程の接続時に於いては、はやては彼の内面について、正の方向性に類する感情など微塵も感じ取る事はできなかった。
接続後にリンディから齎された情報によれば現在、スカリエッティは第6支局艦艇に於いて敵戦略の分析作業に当たっているとの事。
彼の頭脳が在れば、より多方面からの詳細な分析、判断が可能となる事だろう。
如何に「Λ」の情報処理能力および容量が超越しているといえど、それに属するソフトが多いに越した事は在るまい。
彼ならば有益な情報を齎してくれるだろうと判断し、改めてはやては大型敵性体へと意識を向ける。
「それで、どうする? こっちの攻撃は通用しない、向こうの攻撃は致命的。今は様子見らしいけど、攻勢に出られたら一巻の終わりや」
呟き、表情を顰めるはやて。
彼女の視線の先、敵性体頭部のレリックから放たれた魔導弾幕が4名の魔導師を呑み込み、その身体を跡形も無く消し去っていた。
直射弾幕のみによる攻撃でさえあれなのだ。
胸部生体核からの砲撃が加わればどうなるか、想像に難くない。
更に、敵性体が纏う魔力の暴風により、此方の攻撃はほぼ全てが無力化されていた。
アルカンシェル弾体の炸裂、または艦載魔導砲の直撃であれば有効打を与えられるかもしれないが、現時点ではその全てが迎撃されている。
魔導師による砲撃は言わずもがな、各種機動兵器による攻撃も聖王の鎧を突破するには到らない。
ベストラ外殻に配された地球製の兵器群は既に殆どが沈黙し、僅かに残された光学兵器群と誘導兵器群が攻撃を続行してはいるものの、やはり致命的な損傷を与えるには到っていない。
ならば、考え得る他の手段は。
「自慢の無人機は使わないんか? 数で押せば、幾らあの化け物でも傷くらいは付くやろ」
「残念ですが、現時点では余裕が在りません。先程逃亡したR戦闘機群が、再度の戦域突入を試みています。正直なところ、精々あと15分も保つかどうか」
「あの地球軍の戦艦は? 今はアンタ等の制御下に在るんやないのか」
「汚染艦隊と交戦中の友軍を援護中です。此方へ回す事も不可能ではありませんが、陽電子砲の威力と射程を考慮すれば、やはり艦隊戦を優先したい」
「R戦闘機は」
押し黙るスバル。
その様子を訝しみ、彼女の表情を窺うはやて。
視線の先に佇むスバルは変わらず無表情であったが、何処かしら雰囲気が変わった様に思われる。
そして、その感覚は決して間違いではなかった。
「・・・無人機群と共に、侵攻を図るR戦闘機群の足止めを。しかし、状況は予想以上の早さで悪化しています」
「何?」
「R-13T及びB-1A2撃墜。残存する此方のR戦闘機は5機です」
その凶報に、はやては僅かに身動ぎする。
此方が有する戦力の内、切り札の1つでもあるR戦闘機が複数機、地球軍によって撃墜された。
だが彼女は、その驚愕をそのまま言葉に乗せる事はしない。
数秒の後、スバルへと疑問を投げ掛ける。
「慣性制御機構への干渉は、無力化されたんか?」
「完全に、という訳ではありませんが・・・そう長くは保たないでしょう。地球軍は対応を完了しつつある」
106 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 09:55:23.86 ID:Fxh97U9D
瞬間、思考を加速させるはやて。
慣性制御機構に対する干渉の無効化は即ち、地球軍全戦力による全力戦闘の再開を意味する。
第17異層次元航行艦隊は、既に保有戦力の半数以上を喪失しているとの予測だが、残存戦力だけでも他勢力の全てを相手取る事すら可能だろう。
浅異層次元潜行がバイドによって封じられている以上、これまでの様に一方的な殲滅戦など望むべくも無いが、それでもあらゆる勢力に対し甚大な被害を齎す事は容易に予測できる。
況してや、バイドの中枢たる人工天体内部に展開する管理局艦隊と魔導師など、本来の機能を回復したR戦闘機群からすれば標的以外の何物でもないだろう。
そうなれば、この先に待つ結末は如何なるものか。
地球軍の作戦能力が回復すれば、戦況はバイドと地球軍により二極化する。
最早、その他の如何なる勢力も些末な要素に過ぎない。
バイドは物量と独自に生産したR戦闘機群による全面攻勢を開始し、地球軍は新たに送り込んだ艦隊戦力と次元消去弾頭による次元世界の破壊作戦へと移行するだろう。
人工天体内部に展開する此方の戦力は殲滅され、外部の勢力も何れは殲滅される事となる。
最終的な勝者がバイドであろうと地球軍であろうと、次元世界が生き延びる可能性は限りなく零に近い。
ならば今、自身等はどう動くべきか。
「R-99を破壊する。現状、私達にできる事はそれだけです」
その言葉に、はやては沈黙で以って返す。
スバルの意見は正しかった。
どの道、出来る事といえばそれしかないのだ。
「地球軍に関しても、付け入る隙が無い訳でもない。新たに隔離空間へと侵入してきた地球軍艦隊の動きは未だ掴めませんが、遠からず第17異層次元航行艦隊と交戦状態になるのは確実です」
「捨て駒の後始末か」
「ええ。しかし、隔離空間内部で事を起こす可能性は低い。そんな余裕が在るとは思えないし、バイドと第17艦隊の双方を同時に相手取る事は、如何に地球軍といえども無謀に過ぎる」
スバルを見やると、彼女はウィンドウを展開し、自らの手で何らかの操作を実行していた。
ふと、違和感を覚えるはやて。
何故インターフェースを用いず、自身の指で以って操作を行っているのか。
そもそも今のスバル達ならば、ウィンドウを展開する必要さえ無い筈だ。
中枢たる「Λ」から、或いは他の端末から操作を行った方が、格段に効率が良い筈。
何故、戦闘機人としての個体から操作する必要が在るのか。
はやての疑問を余所に、スバルは言葉を続ける。
「其処を突くしかない。全てを同時に相手取っていては、幾ら戦力が在っても足りない」
「どうやって?」
「第17艦隊にバイドと26世紀、そして次元世界の関連性を暴露します。更に、侵入した地球軍艦隊の目的、国連宇宙軍上層部の意図を知らせ、艦隊に独自行動を促す」
「上手く行くと思うとるんか? それで第17艦隊が、地球軍艦隊と同士討ちを始めると?」
「それでも行動を起こさないのであれば、それは唯の奴隷です。彼等はそうじゃない。独立艦隊として極めて高度にシステム化された、独自の意思決定権すら有する強大な戦闘集団です。
彼等は友軍のバイド化を疑う事もできるし、そう判断したのであれば友軍の殲滅すら選択し得る。自らの生存に対する脅威が存在するならば、それを排除する事に些かの躊躇も無い」
更に忙しなくなる、ウィンドウ上を奔る指の動き。
それが、極めて大容量の情報を送信せんと試みているものだという事を、はやては漸く理解した。
スバルは、第17異層次元航行艦隊への情報送信を試みているのだ。
「通常の軍隊では在り得ない事です。でも、地球軍の敵は断じて通常なんかじゃない。叛乱を恐れて独自の判断と行動を厳格に封じていた結果、地球軍は「サタニック・ラプソディー」「デモンシード・クライシス」の発生を許してしまった。
バイドと相対するのならば、通常の規律では対応できない」
「そもそも叛乱なんか起こしたところで、結局は孤立しバイドに喰われるのが落ちか。これまでの対バイド戦ならば、そういう事情も在って叛乱が発生する危険性は低かったと」
「でも、今は違う」
警告音、赤く明滅するウィンドウ。
スバルの指が止まり、感情の窺えない眼が指先を見つめている。
失敗したのか。
「叛逆か、服従か。彼等は、選ばざるを得ない。叛逆すれば、彼等は友軍の全てを敵に回す事になる。無限に拡がる異層次元の海で、何時終わるとも知れない孤独な戦いに明け暮れる事になる」
107 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 10:39:54.28 ID:Fxh97U9D
再度、ウィンドウの操作を開始するスバル。
指の動きが、更に早さを増した。
はやては気付く。
スバルは、インターフェースを使用していないのではない。
少しでも処理速度を上げる為に、自身の指までをも用いているのだ。
「では、服従を選んだら? バイドを滅ぼし、次元世界を破壊して、その後は?」
「・・・後なんか無い」
「そう、彼等にそんなものは残されていない。第17異層次元航行艦隊は友軍の手によって殲滅され、真実は異層次元の彼方へと葬り去られる。彼等は上層部の都合で、故郷へと帰る事すら許されずに始末される運命にある」
「それを、受け入れてしまうとは考えないんか?」
再度、スバルの指が止まる。
そうして、彼女は徐に此方へと首を回した。
人間味の感じられないその素振り、はやての背筋を奔る薄ら寒い感覚。
それでも彼女は、気丈に言葉を繋げる。
「第17艦隊の連中とて、地球には家族も居る。残される家族の事を考えれば、此処で大人しく死を選ぶ事だって考えられるんやないか」
「有り得ません。彼等の最優先事項は生き延びる事、自らが地球文明圏により構築された一個のシステムとして存在し続ける事です。それがどんな形であれ、彼等は地球文明圏に属する軍事組織としての存在を維持せんと努める。
その為なら、どんな事だってする。友軍でも躊躇わずに殺して退けるし、地球に残る家族でさえも切り捨てるでしょう」
「何故や? 何故、其処までする? 感情統制が為されているからといって、其処までするものなんか?」
「不思議ですか?」
「当り前や。生き延びる為とはいえ、何もかも殺して、切り捨てて・・・それじゃ、それじゃまるで・・・」
バイドではないか。
そう続けようとして、はやては息を呑んだ。
そう、バイドだ。
自らが存在し続ける為ならば、如何なる手段でも用いる。
如何なる所業でも成し遂げる。
如何なる感情、如何なる倫理観にも縛られる事なく、生存の為の戦略を躊躇わずに実行する。
それは正しく、バイドそのものではないか。
インターフェースより齎される膨大な量の情報が、はやての脳内で再構築されてゆく。
地球軍に関する情報、取り分けその中でも構成員の思想に関するものを、重点的に分析。
そうして導き出され、結論付けられた地球軍全体の思想。
何としてでも生き残る。
自身を害する者あらば、これを敵として排除する。
自身と思想を異にする者あらば、これも敵として抹殺する。
自身の存在を否定する者あらば、それが味方であろうと誅戮する。
自身の前に立つ者あらば、それが如何なる存在であろうと殲滅する。
何故、そんな事が可能なのか。
簡単な事だ。
彼等は「個」であって「個」ではないから。
「軍隊」にして「群体」であるから。
個人の思想はどうあれ「軍隊」としての意思、そして「群体」としての生存が最優先されるから。
「第17異層次元航行艦隊」という名称の群体型生命体が、自らを構築する「個」を切り捨てでも生存を望んでいるから。
「個」の感情は抑制され「群体」の行動を左右するには到らない。
細胞1つ1つの意思を汲んでいては全体の行動など決定できる筈もなく、短期間の内に全体が壊死してしまう。
「群体」としての存在を維持する為にも「個」に惑わされる事など在ってはならない。
尤も、これは通常の組織でも同様だろう。
「個」よりも全体を優先せねば、組織は成り立たないからだ。
だが地球軍は、第17異層次元航行艦隊は、単なる組織ではない。
他の組織、他の「群体」に依存する事なく、完全独立行動さえも可能とする戦闘集団。
そして彼等の敵は「個」であると同時に「群体」でもあり、あらゆる面で常軌を逸した存在たるバイドだ。
通常の組織としての規範に則って行動していては、忽ちの内に喰らい尽くされてしまう。
108 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 10:45:57.93 ID:Fxh97U9D
だからこそ彼等には、何としてでも生き残る事が求められるのだ。
22世紀地球文明圏が有する無数の艦隊、無数の戦闘集団。
あらゆる宇宙空間、あらゆる異層次元で戦闘行動を続ける彼等。
それらの内1個艦隊でも残存しているならば、それは地球文明圏の現存を意味する事となる。
たとえ他の友軍が全滅しようと、地球本星が破壊されようと、地球文明圏の技術体系集約体たる艦隊と構成員さえ生存してさえいれば、それは地球文明圏の「勝利」なのだ。
スバルの口振りからするに、艦隊の構成員達はそれを完全に理解しているのだろう。
自身等が友軍による殲滅対象となっている事を理解した時、彼等は必ずや生存の為の闘争を選択する。
自身等を滅ぼそうとする者は、即ち敵である。
それが友軍であったとして、彼等が未だに「人間」であるという保証は何処にも無い。
バイドに汚染されているか、或いは他の敵対勢力によって叛意を煽られたか。
疑い出せば限が無いし、彼等にはその権利が在る。
そして、縦しんば地球文明圏にとっての脅威が彼等自身の存在であったとしても、特に問題は無いのだろう。
自身等が地球文明圏にとっての敵となっているのであれば、他の艦隊が問題なく殲滅する筈であるのだから。
地球文明圏には後など無い。
彼等にとっての敗北とは、即ち滅亡を意味する。
敵の殲滅が完了したその時、唯1隻の戦艦、唯1機のR戦闘機でも残存しているのであれば、それは地球文明圏にとっての勝利なのだ。
だから、問題は無い。
闘争の末、生き残った者こそが「地球軍」なのだ。
何時バイドによって汚染され、姿形もそのままに地球文明圏の敵になるとも知れない彼等であるからこそ形成された、歪でありながら絶対的な思想。
地球軍に属する全ての艦隊が、この思想を共有しているのだろう。
「狂っとる・・・狂っとるよ・・・!」
「だからこそ付け入る隙が在るんです。地球軍同士を争わせ、その隙にバイドを叩く。R-99がバイドに掌握されてしまえば、全てお終いです。その前に何としても中枢を、R-99を叩く必要が在る」
何時の間にか再開していたウィンドウの操作を継続しつつ、スバルは静かに語り掛けてくる。
はやてはもう一度だけ彼女を見やり、深く息を吐いた。
そして、視線を戦域へと投じる。
「・・・それで、上手くいきそうか?」
「梃子摺っています。新たな地球軍艦隊に露見しない様に、第17艦隊への情報送信を試みているのですが・・・」
「まあ、通信技術に関しても向こうが上やろうしな」
先程からの思考の内にも、より激しさを増していた閃光と轟音。
戦闘は激化していた。
ドブケラドプス幼体群、大規模転移。
無数に放たれる泡状強酸性体液による砲撃、それらを相殺すべく放たれるアルカンシェル。
弾体炸裂時の閃光が視界を覆い尽くし、数秒ほど遅れて衝撃と轟音が全身を襲う。
はやては僅かに身動ぎし、しかし踏み止まった。
自身の視界を閉ざし、次元航行艦の外部観測システムを介して、ベストラから280kmの彼方に位置する大型敵性体の全容を捉える。
異形、ザブトムは聖王の鎧に守られつつ、只管に誘導操作弾および高速直射弾を放ち続けていた。
絶大な戦闘能力を有しているにも拘らず、後方支援に徹するという異様性。
積極的に移動する事も、攻勢に打って出る事もなく、何かを待ち受けるかの様に。
「化け物は時間稼ぎに徹する心算か」
「早急に排除する必要が在りますが、現状の「Λ」の能力では積極的攻勢など不可能です。機能拡充は順調に進行しているので15分ほど頂ければ何とか」
「それでは間に合わんな」
そう、間に合わない。
そんな時間など残されてはいないのだ。
直ちに打って出ねば、待つものは破滅のみ。
「R-99が掌握されれば、次元世界はいずれ喰われる。真実を知らないまま地球軍が此処まで到達すれば、その時点で私達は皆殺しにされる」
外殻を軽く蹴り、宙空へと浮かび上がるはやて。
シュベルトクロイツを右手に構え、腰部に固定された夜天の書を「左手」で撫ぜる。
脳裏に響く、幼さを残した少女の声。
109 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 10:53:37.89 ID:Fxh97U9D
『マイスター・・・』
「行くで、リイン。此処に居っても殺されるのを待つばかりや」
自身と融合中のリインへと語り掛け、はやては戦域の直中へと赴かんとする。
しかし、ふと思い留まり、自身の「左手」へと視線を投じた。
以前と変わりなく、感覚までも完全に機能する、自身の左腕部。
戻ってしまった。
自身にとって罰の証であった傷跡、失われた左手。
ザフィーラとの繋がりを示すそれが、自身の意思とは無関係に消されてしまった。
膨大な質量によって圧し潰され、微塵となって消えた筈の左前腕部は、今ではそんな事実さえも無かったかの様に其処に在る。
そう、全てが元通りだ。
シャマルとザフィーラが居ない、その二点を除けば。
シャマルが死んだ時、自身は傍に居られなかった。
その事が、今でも悔やまれてならない。
自身にできる事など無かったと、理性では理解している。
それでも、家族の死に際に立ち会えなかった事は、大きな悔恨となって自身を責め立てていた。
況してやザフィーラは眼前で、自身を助けた結果として死んだのだ。
彼を失うと同時に負った傷は、自身にとってシャマルとザフィーラの想い出、彼等の死を記憶に刻み付けておく為の重要な証でもあった。
だが、それはもう何処にも無い。
癒える筈のない傷は、跡形も無く修復されてしまった。
そして証が消えたというのに、失われた家族は戻らない。
2人との絆は形を失い、単なる情報として自身の脳内に記録されているのみとなってしまったのだ。
「こんな・・・」
だからこそ、受け入れられない。
自身の左腕部、慣れ親しんだ筈の器官の存在が許せない。
状況が許すのであれば、今すぐにでも切り落としてしまいたい。
「Λ」によって強制的に再生、否、接合された左前腕部。
嘗てのそれと同一のものなどとは決して考えられぬ、自身の腕部にへばり付く異物。
「こんなもの・・・!」
有らん限りの力で握り締められる左手。
掌部に爪が食い込み、骨格が軋みを上げる。
しかし今は、其処から伝わる痛感さえも現実感に乏しく、偽物の感覚としか思えない。
こんなものは、自身の腕ではない。
彼と共に失われた、あの左手ではない。
『済みませんが、味方の援護に向かって戴けませんか? 私達は引き続き、地球軍との通信確保を試みます』
そんなはやての思考を遮るかの様に意識中へと飛び込む、インターフェースを通じたスバルからの念話。
はやては咄嗟に振り返り、ベストラ外殻上に佇むスバルを視界へと捉える。
彼女の胸中に渦巻くものは、壮絶な憤怒と、激しい嫌悪。
スバルもインターフェースを通じ、その内心を余す処なく理解している筈だ。
それでも彼女は、はやての感情に対しては何ら関心を見せず、無感動に用件だけを告げる。
『もう少しで、皆さんに素敵な「プレゼント」をお届けできると思います。それまで持ち堪えて下さい』
その念話を最後まで聞き終える事なく、はやては戦域中央へと飛翔を開始する。
逸らした視線は決して振り返らず、僅かでも飛翔速度を緩める事もない。
1秒でも早く味方の許へと翔け付ける為、外殻上に佇む「あれ」から離れる為。
自身のリンカーコアが許す限りの出力で以って、飛翔魔法に魔力を注ぎ込み続ける。
110 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 10:57:34.33 ID:Fxh97U9D
もう、聴きたくはない。
もう、目にしたくない。
もう、傍に居たくない。
造り物の音声、造り物の表情、造り物の存在。
造り物の意識しか向けてこない相手と、どう積極的に関われというのだ。
あれには本来、人間と関わり合う機能など備わってはいない。
そんな存在になってしまった者と、それが人間であった時と同様の関係など維持できるものか。
自身は其処まで酔狂ではない。
造り物は造り物同士、バイドか地球軍と関わっているのが相応しい。
周囲の空間を埋め尽くす魔力爆発、アルカンシェル弾体炸裂時の閃光。
青白い光を放つ魔力素が徐々に空間中の密度を増しゆく中、はやては異形の巨躯へと向かうべく宙空を翔ける。
「スバルであったもの」の注意が自身から逸れている事に、確かな安堵を覚えながら。
記憶の中のスバルを、彼女達との想い出を、理性を以って切り捨てながら。
それに伴う感情の起伏を、意味の無いものと断じて凍結しながら。
はやては自らに繋がる絆、その幾つかを自身の意思で断ち切り、決意する。
生き延びてやる。
絶対に、生き延びてやる。
リインフォース、シャマル、そしてザフィーラ。
彼等の存在と引き換えに貰ったこの生命を、奴等になぞ奪わせてなるものか。
バイドなぞに喰わせてなるものか。
地球軍なぞに消させてなるものか。
「Λ」なぞに使われてなるものか。
この生命は最早、自分だけのものではない。
これを侮辱せんとするものが在らば、それは紛う事なき敵だ。
私の生命。
私の誇り。
私の家族。
それを侮辱し、踏み躙り、奪い去ろうとするならば。
「・・・消してやる」
昏い決意の言葉。
複数の青白い魔力集束体が、宙空を貫く白銀の光となった彼女の周囲に纏わり付く。
はやての決意を祝福するかの如く、宙空に舞い踊る青い魔力素の結晶体。
やがて彼女の背面、其処に位置する3対の漆黒の翼に、それらの結晶体と同じく青白い魔力光が宿る。
自身の翼の如く、深淵なる黒に満ちた誓い。
その決意とは裏腹に、はやては幾筋もの青い光の軌跡を引き連れ、翼より青白い燐光を撒き散らしつつ宙を翔ける白銀の光となる。
光を引き連れ、自身も光の一部となったその姿は、人ならざるものだけが有する美しさに充ち満ちていた。
* * *
鋭く、もっと鋭く。
音を置き去りに、光を置き去りに。
感覚さえも振り切って、更に鋭く。
『弾体炸裂・・・目標群AA-09からZB-04まで殲滅を確認。大型敵性体、健在』
『MC404、砲撃が無効化されています! 後退を!』
111 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 11:24:41.66 ID:Fxh97U9D
XV級が放つ無数の大出力魔導砲撃が、僅か100m程度しか離れていない空間を貫く。
強烈な余波が側面より襲い掛かるも、そんなものを気に留めている暇は無い。
邪魔なもの、余計なもの全てを無視して、更に鋭く。
『「ドロテア」被弾!』
『魔導師隊を援護、砲撃続行! 前方、高速進攻中の一団だ!』
『「ミヅキ」よりドロテア、後退を。魔導師隊への援護は此方で引き継ぐ』
鋭敏化する感覚、引き延ばされる体感時間。
基底現実とは異なる、自身の感覚に基くそれらが、目標への最適経路を思考する猶予を与えてくれる。
役不足な時間認識を振り払い、更に鋭く。
『敵直射弾幕、無力化しました!』
『敵誘導操作弾、全弾迎撃!』
無数に飛び交う念話の中、此方にとり直接的に関連し、且つ緊急性の高いもののみを選択的に傍受。
圧縮された状態で意識中に飛び込むそれらは、齎された情報に対する瞬間的な理解を可能としていた。
煩わしい情報の奔流を突き破り、更に鋭く。
『前方の魔導師隊、更に加速!』
『砲撃中止! 接敵・・・』
そして遂に、大型敵性体を自らの間合いへと捉える。
刃の旋回範囲、必殺の間合い。
鋭く、もっと鋭く、更に鋭く。
敵を、障害を、脅威を、恐怖を。
全てを断ち切れる程に、凄絶なまでに鋭く。
『・・・今!』
瞬間、金と青の閃光。
視界を上下に切り裂くそれが、僅か70mもの至近距離にまで接近した大型敵性体を襲った。
自身の魔力光である金色の光を放つ刀身、その周囲へと纏わり付く様に集束する青い魔力素。
バルディッシュ・アサルト、ライオットザンバー・カラミティ。
「願い」の通り、自身の知覚すら凌駕する「鋭さ」で以って横薙ぎに振り抜かれる、全長100mを優に超える長大な刀身。
空間を引き裂く雷光が、一切の慈悲なく大型敵性体の胴部を寸断した、かに思われた。
しかし。
『・・・退避!』
強制長距離転移、発動。
「Λ」による支援を受け後方の艦隊が発動したそれは、無防備に大型敵性体の至近距離へと位置する事となった魔導師隊を、一瞬の内に艦隊側面5kmの位置にまで転移させる。
瞬間、これまでの戦闘による負荷が、一挙に全身を襲った。
攻撃の余波および急激な加速による肉体的負荷だけに留まらず、圧縮された情報の解凍および超高速処理による脳への負担。
多大な疲労感と全身の苦痛、脳髄を直接殴打されるかの様な激しい頭痛に霞む意識。
咄嗟に額へと手を当て、無意識に苦痛の呻きを漏らす。
そうして数秒、或いは十数秒か。
時間感覚すら曖昧となっていた意識が、漸く正常な働きを取り戻す。
朦朧とする意識を奮い起こさんとするかの様に首を振り、我知らず顰められていた表情から徐々に力を抜いた。
肉体的異常解消、意識障害なし。
何が起きたのか。
攻撃の瞬間、自身等は強制的に後方へと転移させられた。
理由は分かっている。
大型敵性体が、聖王の鎧と高速直射弾膜による近接防御を展開したのだ。
一瞬でも転移が遅れれば、攻撃隊の全員が跡形も無く消し飛んでいた事だろう。
112 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 11:29:47.85 ID:Fxh97U9D
そして、転移直前。
此方の攻撃、振り抜かれたライオットザンバー・カラミティの刃は、確実に大型敵性体を捉えていた。
しかし如何なる理由か、全くと云って良い程に手応えが無かったのだ。
カラミティの柄を握る手に、衝撃は殆ど伝わらなかった。
刀身の先へと視線を移し、漸くその原因を理解する。
カラミティの刀身は、鍔から30m程度の位置で唐突に途絶えていた。
折れ飛んだと云うよりも、宛ら削り取られたかの様な形跡。
残された刀身の先端、其処に虹色の魔力光が微かに纏わり付き、今もなお残された刀身を蝕み続けている。
虹色の魔力集束体、極小のそれらが先端部へと無数に集り、虫食いの如く刀身を蝕んでいるのだ。
金色の魔力光を放つ刀身を食い荒らし、酷く緩慢ではあるが徐々に柄へと迫るそれらは、宛ら砂糖に集る蟻の群れ。
湧き起こる生理的嫌悪感に我知らず眉を潜めつつも、最大出力で魔力を刀身へと集束させる。
虹色の魔力光が一瞬にして消し飛び、雷光と共に全長100mを超える青白い刀身が現出。
瞬間、青白い魔力光が弾けた後に残るは、完全に復元された金色の刀身のみ。
そうして復元された刀身を見やりつつ、彼女は軽く息を吐く。
その身を蝕む化学物質、そして放射能汚染の呪縛から解放され、再び戦場へと舞い戻った彼女。
フェイト・T・ハラオウン。
金色の雷光を纏いつつ、彼女は思考する。
此方の間合いへと捉える事はできた。
だが、刃そのものが大型敵性体に届いていない。
自身のリンカーコアが許す最大出力で以って形成され、更に「Λ」への幾重もの「願い」によって鋭さを増し、限界を遥かに超える速度で以って振るわれた刃。
しかし、閃光と見紛うまでに加速されたそれは、聖王の鎧による自動防御機構を突破する事は叶わなかった。
瞬間的に密度を増した虹色の奔流へと触れた刃は、瞬時に魔力集束体としての構造を分解され、魔力素の霞と化してしまったのだ。
そして、此方の攻撃失敗を悟った後方の艦隊は、即座に攻撃隊の転送を実行した。
大型敵性体からの反撃を予測し、予め発動待機状態を保っていたらしい。
攻撃失敗なれど損害皆無。
これまでの戦闘を省みれば喜ぶべき事であろうが、しかし無条件に喜ぶ事などできる訳がない。
重複して掛けられた「願い」により加速された攻撃でも、聖王の鎧による防御を突破する事は叶わなかった。
それだけでなく「Λ」による強化は、決して万能ではない事も判明したのだ。
「Λ」は此方の「願い」が有益な内容であると判断すれば、その無限大とも云える魔力を用いて大概の事は具現化してしまう。
だがそれは「願い」を叶えた者への影響を、無条件に軽減させるものではない。
現に、攻撃の加速および認識能力の向上、情報処理能力の向上という「願い」を叶えた自身には、転移直後から想像を絶する負荷が襲い掛かった。
他の隊員達にしても、それは同様らしい。
錯綜する念話は、いずれも戸惑いに満ちていた。
『くそ・・・何だったんだ、今のは?』
『負荷だ。「Λ」による強化のツケだろう。転移から何秒経っている?』
『約80秒。負荷が継続していた時間は、個人差は在るけれど概ね70秒前後ね』
70秒。
戦場に於いては、致命的な時間だ。
その間、魔導師は完全に無防備となり、あらゆる外的要因への対処は不可能となる。
これでは「Λ」の効果的な運用に支障が生じる。
対策は無いか「Λ」へと問い掛ける。
回答は瞬時に齎された。
『執務官、彼女達は何と?』
『・・・「願い」の内容と数によって、具現化後の負荷は増減するらしい。さっきのは複数の「願い」を同時に具現化した事で、過大な負荷がフィードバックされたんだろうね』
どうやら「Λ」とは、無償で「願い」が叶う等という、都合の良いものではないらしい。
当り前の事ではあるが、しかし今になって漸くその可能性に思い至る。
現実を歪め、事象の全てを魔法技術体系の優位性を確立するものへと変貌させる、正に魔法のランプとでも云うべき代物。
しかし「Λ」は、魔法のランプ以上に万能ではあるが、冷酷に対価を要求する代物でもある。
数十秒に亘る行動不能状態、その間に味わう事となる苦痛。
常ならば大して問題にもならぬそれらが、今は無情な刃となって全ての魔導師を苛んでいる。
バイド、そして地球軍との交戦中、数十秒にも亘る行動不能という事態が如何なる結果を招くものであるか、理解できない者など存在しない。
113 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 11:33:30.67 ID:Fxh97U9D
『単体の「願い」なら、負荷を受ける事なく行動可能では?』
『内容に依るだろうけど、多分ね。攻撃の強化だけなら問題は無かったし、さっきの負荷は「願い」の重ね掛けが原因みたいだし』
『限度を見極める必要が在る、って事ですね』
念話を交わしつつ、彼方に位置する大型敵性体を見やる。
視界中へと拡大表示されたそれは、新たに転移したらしき無数のドブケラドプス幼体と突撃型生体機雷群を周囲へと纏わり付かせ、何ひとつ変わった様相も無く宙空へと佇んでいた。
長距離集束砲撃魔法も、艦艇群からの魔導砲撃さえも、聖王の鎧を突破できない。
アルカンシェルによる空間歪曲も、弾体炸裂時の効果範囲最外縁部で無力化されている。
カイゼル・ファルベによる防御壁は、余りにも強固に過ぎた。
『単体の「願い」で、アレを突破する? そんなの不可能じゃない・・・』
『そうでもないかもしれないよ』
唐突に飛び込む念話。
聴き慣れた、しかし今は何処かしら遠く感じるその声に、フェイトは視線を後方へと向ける。
15km後方、第6支局艦艇。
その戦闘指揮所に居るであろう人物へと、彼女は問い掛ける。
『どういう事? ユーノ』
『さっきの攻撃。君のライオットザンバーこそ完全に防がれたけど、他の幾つかの攻撃が防御を突破し掛けていたよ』
その言葉に、彼女は周囲の魔導師達へと視線を投じた。
彼等も良く理解できなかったのか、ある者は訝しげに自身のデバイスを見やり、ある者は他の魔導師と顔を見合わせている。
一通り全員の姿を見渡すと、フェイトは再度にユーノへと問い掛けた。
『・・・少なくとも此処には、それを放った自覚の在る人間は居ないみたいだ。ユーノ、詳しく話して』
『君達の攻撃は「願い」の重ね掛けにより、正しく一撃必殺の威力にまで達していた。あの敵性体も、直撃すれば唯では済まないと判断したんだろう』
『それが、何か?』
『先程の攻撃時、此方でカイゼル・ファルベの出力限界を観測した』
知らず、細められる目。
視界内へと拡大表示された大型敵性体の細部を、フェイトは睨み据える様にして観察する。
相変わらず、その巨躯へと着弾する攻撃は全て、瞬時に無効化されていた。
隊員達の間から上がる、観測結果を疑問視する声。
『そんなものが在るとは思えないな。艦載魔導砲ですら無力化されているんだぞ』
『アルカンシェルの余波さえも無効化されているわ。出力限界なんて、どうやったら観測できるの』
彼等の疑問は尤もだと、フェイトは思考する。
戦略魔導砲でさえ無効化する防御機構に穴が在る等と、俄には信じ難かった。
況してや個人の攻撃がそれを突破するなど、想像すら付かない。
だが、続くユーノの言葉は確信に満ちたものだった。
『君達が最後の加速を行う直前、新たに大規模敵性体群が転移した。恐らくは転移に関する処理の全般を、あの大型敵性体が担っているんだろう。戦況を判断し、適時を見計らって転移を実行していると思われる』
『それで?』
『君達が行った加速は、後方から観測している僕達でさえ瞬間的に失索する程のものだった。要するに、アレは君達に虚を突かれたんだ。敵性体群を転移させた直後、大型敵性体の魔力残量は著しく減少していた。
それがレリックによる増幅を受けて完全に回復する前に、至近距離へと飛び込んだ君達からの攻撃を受けたんだ』
『でも、攻撃は届いていない』
『正に惜しい処でね。君達の攻撃は防御され、逆に残る魔力を用いて反撃された。君達を優先して排除すべき危険要因と判断したんだ。そして君達の転移直後、カイゼル・ファルベは元の魔力密度を取り戻している。これらの情報から判断するに、狙い目は敵性体群の転移直後だ』
拡大表示の対象を、大型敵性体から各種敵性体群へと移行する。
幾つかの地点を選択し並列表示、視界内へと映り込む無数の影。
壁となって迫り来るそれらの総数を求めた処で意味は無い。
正しく無限とも思えるそれらが、相対する全てを消し去らんと異形の牙を剥いていた。
114 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 11:37:02.21 ID:Fxh97U9D
『成る程。あれだけの数を転移させているのなら、レリックに増幅された魔力を使い果たしてもおかしくはない。敵性体群の転移直後を突けば、カイゼル・ファルベの防御を突破できるかもしれないって事か』
『かもしれないというよりも、これで駄目なら打つ手無しだよ。それこそ彼女達に・・・「Λ」に全てを任せるか、地球軍の心変わりにでも期待するしかない。彼女達が言うには・・・』
『「Λ」が此方に注力すれば隔離空間内部の友軍戦力は壊滅し、また「Λ」による工作が終了する前に地球軍が此方に到達すれば私達は殲滅される。そうでしょう?』
『聞いたのかい?』
『さっき、ティアナにね』
念話を返しつつ、バルディッシュの形態をカラミティからスティンガーへと移行。
大剣が瞬時に分解、片刃の双剣へと変貌。
それらを左右の手に携え、両腕を開いて構える。
だが、その刀身は常のそれと同様ではない。
其々の全長が3mを優に超え、尋常ならぬ魔力密度を保っている。
切り裂くという行為の一点にのみ着目するならば、その鋭さは先程のカラミティすらも容易に凌駕するだろう。
フェイトは自身の手に携えられた双剣を一瞥し「Λ」による強化の詳細を理解すると、その視線を大型敵性体へと戻し念話を発する。
『「Λ」からの情報によるとアレは一度、第二次バイドミッションに於いてR-9Cに撃破されている。胸部装甲内部に位置する生体核が比較的脆弱、とは云うけれど』
『胸部装甲が開放されるのは生体核からの大規模砲撃時のみ。転移実行直後、しかも聖王の鎧を展開中にそんなものを放つ余裕は無い。遵って、生体核を狙うには胸部装甲の強引かつ迅速な破壊が求められる』
『不可能だね』
『艦隊からの援護は?』
『敵性体群の排除で手一杯だ。アレへの攻撃に傾注すると、高確率で取り零しが発生する。そうなれば、それらによる襲撃を受けるのは君達だ』
『ウォンロンかベストラからの援護は期待できないのか』
『それも不可能だね。どちらも艦隊の援護に掛かりきりだ』
『空間転移はどう? 至近距離に転移して、奇襲を掛ければ・・・』
『アルカンシェルの余波が残る中で? 艦隊の側へと引き戻すのならば兎も角、敵性体群に向けて転移するのは自殺行為だ』
『なら、狙いは1つだな』
大型敵性体、その頭部に位置する巨大な結晶体。
他の隊員によって視界内へと拡大表示されたそれは、大型敵性体の魔力増幅を担うレリックだ。
胎動する赤い光を見据えるフェイトの意識中に、隊員からの念話が響く。
『あのレリックを破壊すれば、敵性体群の転送を止められるんだろう?』
『まあ、深刻な魔力不足に陥る事は確実だ。止めるとまではいかなくても、これまでの様に短時間の内に大規模転送を繰り返す、なんて芸当は不可能になる』
『後は艦隊からの飽和攻撃で、カイゼル・ファルベごと消し飛ばす、って事だね』
瞼を下ろし、視界を閉ざすフェイト。
拡大表示されていた視覚情報も遮断し、心身を休める事に専念する。
共有された意識を通じ、艦隊による敵性体群への攻撃開始を認識。
『艦隊からの了解も得られました。アルカンシェル発射まで140秒』
『我々の他に、複数の魔導師隊が同行する事になる。連携に注意しろ、あの速度で接触すれば終わりだ』
『フォーメーションに慣れていない者は、共有のレベルを引き上げろ。常に互いの位置を確認しておけ』
静かに瞼を上げ、視覚情報を取り込む。
魔導師間の意識接続数および情報処理能力を増幅、意識共有の度合いを深化させんとするフェイト。
数秒で済む工程の最中、意識中へと割り込む念話。
『意識共有は必要ないぞ、執務官』
隊員からの念話、その思わぬ内容にフェイトは周囲を見回す。
ベストラ近辺への転移直後から共に行動する者、新たに周囲へと集結する者。
その殆どが彼女を真っ直ぐに見据え、同じ意思を意識中へと投げ掛けていた。
『アレを撃破するには、何よりも速度が求められる。つまり、貴官が攻撃の要だ。艦隊も含め、貴官以外の戦力は全て補助に過ぎない』
『貴女が私達に合わせる必要はない。私達が貴女に合わせて飛びます。貴女はただ速く、鋭く在る事だけに集中して下さい』
『速度じゃアンタには及ばないが、格闘戦の技能ではこっちが上だ。どんなじゃじゃ馬な飛び方をしようが、完璧に援護してやる』
彼等が彼女に望むものは単純だ。
速く、只管に速く。
鋭く、何よりも鋭く。
その望む処を正確に理解したフェイトの内に、不思議と高揚感が湧き起こる。
そんな彼女の意識中へと飛び込む、聞き慣れた2つの声。
115 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 11:55:19.60 ID:Fxh97U9D
「そういう訳で、フェイト。君は目前の事にのみ集中すれば良い。その他の事は全部、僕達が引き受ける」
「周囲など気にせず翔け抜けろ。お前の疾さこそが、我々にとって最大の武器だ」
咄嗟に、背後へと振り返るフェイト。
彼女の視線、その先に彼等は居た。
艦隊の強制転移直前まで傍に在った人物。
共に励まし合い、助け合ってきた彼等。
二度と剣を振るう事は叶わないと、嘗ての様に空を翔ける事など叶わないと。
あまりにも残酷な宣告を受けながら、尚も戦う事を諦めなかった者達。
「でも、少し不安かな。身体ごと前線に出るのは、本局が襲撃された時以来だからね。鈍ってないと良いけど」
「謙遜も大概にしておけ。私からすれば厭味にしか聞こえん」
ユーノ、シグナム。
何物をも寄せ付けぬ結界魔導師、あらゆる障害を焼き尽くす烈火の将。
誰よりも、何よりも頼もしい2人の戦友が、嘗ての姿を取り戻して其処に居た。
「ユーノ・・・シグナム・・・」
「君の癖は良く知っている。1発の魔導弾も掠らせないし、破片にだって触れさせはしない」
スクライア族特有のバリアジャケットを纏い、無機質な光を瞳へと宿し悠然と敵性体群に向かい合うユーノ。
失われた彼の四肢は完全に再生され、嘗ての長身かつ程良く鍛えられた身体を完全に取り戻している。
彼の背後には、鮮やかな緑光を放ちつつ複雑な回転運動を続ける、無数の光球が展開していた。
実に数千もの小型魔法陣、分厚く巨大な壁となって展開するそれらの集合体。
拳ほどの大きさながら、各々に異なる方向へと回転する複数の環状魔法陣を纏い、更には自身も複雑極まりない回転運動を行う球状の立体魔法陣からは、その光には不釣り合いな禍々しささえ感じられる。
それらを構築する術式は余りにも難解かつ複雑、更には極めて繊細であり、単に視界の片隅へと捉えたに過ぎないフェイトには概要さえ理解できない。
否、時間を掛けた処で理解できるものでもないのだろう。
事実、故意ではないにせよ僅かながら意識の共有が行われている現状でさえ、ユーノが如何なる情報処理工程を実行しているのか、フェイトには全く理解できないのだから。
「そういう事だ。お前は、ただ前へと進め。後ろの事など気に留める必要はない」
破片しか残らなかった筈のレヴァンティン、嘗てと寸分違わぬ状態にまで再生されたそれを確りと握り締め、射抜く様な眼差しで以って前方を見据えるシグナム。
彼女の背面からは、灼熱を纏い周囲の空間を赤く染め上げる、左右で対となる炎の翼が展開していた。
現在の彼女はアギトとの融合を果たし、自身と融合騎の能力を最大限に引き出した状態に在る。
炎の翼を構築する魔力の総量は、フェイトのリンカーコアが余波だけで悲鳴を上げる程だ。
だが、最もフェイトの目を惹き付けたものは、その翼の総数だった。
左右2対、計4枚であった筈の翼は、今や4対8枚にまでその数を増やしていたのだ。
紅蓮と青の燐光を零しつつ、周囲を明々と照らし出す4対の翼からは、神々しささえ感じられる。
しかし、周囲の大気を歪める程の高熱を放つそれらは、何よりも敵対者に対する明確な脅威としての存在感を放っていた。
自身とも、各々とも異なる2人の威容に、知らず圧倒されるフェイト。
シグナムの姿は、前線で長年を共にし彼女の魔力特性を熟知するフェイトにとっては、比較的容易に受け入れられるものだ。
だがユーノの様相は、本局で彼の変容を知った際、それ以上の戸惑いを彼女に齎していた。
執務官として数々の事件に関わってきた彼女ですら見た事もない魔法陣を無数に展開し、機械じみた無機質さを孕みながら佇む彼の姿は、嘗ての彼を知るフェイトの心をより一層に掻き乱してゆく。
自身の心理状態を共有する事は漠然とした不安から避けていた為、彼女の深層心理がユーノへと漏れ出る事はない。
理由は分からないが、ユーノの側も自身の心理状況までを共有する事はしておらず、更には自身の超高速並列思考による他者の脳への過負荷を避ける為か、思考の共有すら殆ど行っていない様だ。
よって、彼がフェイトの内心を理解しようとすれば、それは観察による予測以外に方法はない。
そして、フェイトの動揺を知ってか知らずか、ユーノは彼女の傍へと寄り、自身の声で以って言葉を紡ぐ。
「信じて飛ぶんだ、フェイト・・・真っ直ぐに」
116 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 12:00:38.04 ID:Fxh97U9D
瞬間、戸惑いも躊躇いも、あらゆる負の要因が心中より取り除かれた。
ユーノが何らかの精神安定術式を用いた可能性は在るが、それはフェイトの疑念を呼び起こす要因とはなり得ない。
明晰となった意識の中、彼女は視線を廻らせて大型敵性体を視界の中心へと捉える。
拡大表示されるザブトム、額に位置する巨大なレリック。
其処へ至る為の軌跡が、明確に意識中へと浮かび上がる。
余計な事は、何も考えなくて良い。
只管に速く、愚直なまでに真っ直ぐに。
翔け抜け、飛び込み、斬る。
それだけで良い、それ以外は必要ない。
『10秒前』
『・・・砲撃と同時に、行くよ』
『了解』
『5・・・4・・・3・・・』
情報処理速度の向上に従い、体感時間が引き延ばされてゆく。
周囲の動き全てが減速してゆく中、大型敵性体より放たれた無数の誘導操作弾を確認。
どうやら攻撃の気配を察知し、先手を打って弾幕を形成したらしい。
だが、問題は無い。
その程度の迎撃行動など、今となっては何ら障害とはなり得ないのだ。
『・・・撃て!』
空間を埋め尽くす白光の爆発と同時、フェイトの身体が銃弾の如く射出される。
彼女自身が発動した飛翔魔法のみならず、複数の外的要因による補助を受けての圧倒的な加速。
どうやら空気抵抗の緩和を目的とする結界の展開、及びフローターフィールドを応用したカタパルトの形成が成されていたらしい。
通常の肉眼では決して捉えられぬ遠方70km、彼方に位置する大型敵性体を目掛け、フェイトは金色の弾丸と化して飛翔する。
だが急激な加速は同時に、大型敵性体からも明確な脅威として認識される要因となったらしい。
目標の巨体、その各所からガス状の推進剤が噴き出し、恐らくは慣性制御と反動推進の併用によって後方へと急速離脱を開始したのだ。
僅か2秒にも満たぬ内、驚くべき加速で以って遠ざかる目標。
しかしフェイトは、自身が目標へと到達する事を、微塵も疑いはしなかった。
前方、緑色の閃光。
その中心へと飛び込んだ次の瞬間、再度に視界へと捉えた目標との距離は30km前後にまで短縮されていた。
目標、更に加速。
その速度は既に、現在のフェイトのそれを僅かに上回っていた。
だが、連続発生する複数の閃光へと飛び込む度に、僅かずつ両者の距離は短縮されてゆく。
短距離転移魔法陣、連続展開。
最初の1度を除き、連続して展開される魔法陣が齎す効果は、僅かに300m程度の転移に過ぎない。
しかし、転移後の位置から僅か50m程の間隔で次なる魔法陣が展開しており、結果として短距離転移を連続で行う事によって、フェイトは瞬間的な長距離移動を果たしていた。
突撃開始直前に目標より放たれた誘導操作弾幕は、転移を繰り返した事で疾うに後方へと置き去りにされている。
そして、視界の端を埋め尽くす様にして、無数の白光の軌跡が敵性体群の彼方へと突入した。
直後、閃光。
アルカンシェル、弾体炸裂。
極広域空間歪曲、高密度次元震発生。
目標周辺に位置する数万体を残し、敵性体群の殆どが跡形も無く消滅する。
しかし同時に、残る敵性体群の機動に突如として変化が生じた。
幼体群が空間中の一点へと寄生体の口腔を向け、突撃型が一斉に同一地点へと回頭を開始する
大型敵性体へと急速接近する敵性個体、即ちフェイトへと。
117 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 12:39:27.64 ID:Fxh97U9D
敵性体群の壁へと向け、更に加速。
ほぼ同時、広域に展開する敵性体群の其処彼処で、無数の魔力爆発にとそれに伴う閃光が発生する。
後方の魔導師達からの、各種砲撃魔法による長距離火力支援。
無数の異なる魔力光の中には、フェイトが良く知る桜色と純白のそれも混じっていた。
なのはの有する集束型砲撃魔法、スターライトブレイカー。
はやての有する超長距離砲撃魔法、フレースヴェルグ。
他にもディエチやヴォルテール、数百名もの砲撃魔導師達、艦載魔導砲による無数の砲撃が敵性体群を襲う。
僅かな抵抗すら許されず、迫り来る砲撃魔法の壁に呑まれ、一瞬にして消滅する幼体と突撃型の群体。
衝撃と轟音が周囲を埋め尽くしている筈だが、それらは自らも衝撃波を撒き散らしつつ飛翔するフェイトを捉えるには到らない。
彼女を守護すべく超広域空間を蹂躙する、無慈悲な死の暴風。
その中で、大型敵性体のみが具現化した悪夢の如く、無傷の儘に存在を維持していた。
虹色の光が、視界を埋め尽くす。
目標の後方に展開した無数の巨大な魔法陣、それらが放つ魔力光。
その表層にはベルカ式ともミッドチルダ式とも異なる、そもそも言語であるかも不明な術式が刻まれ、複雑に変容を続けている。
大型敵性体との交戦を開始して以来、幾度となく目にしたその光景。
敵性体群、大規模転移。
魔法陣の内より、無数の敵性体が濁流の如く溢れ返る。
そして、転移より間を置かず敵性体群の一部から放たれた、数百もの生体砲撃。
その全てが、大型敵性体へと向かうフェイトを狙ったもの。
彼女へと直撃する軌道、彼女の進路を遮る軌道。
フェイトの生命を奪い突撃を中断せしめるべく、赤黒い泡状体液の奔流が彼女を襲う。
アルカンシェル弾体炸裂の余波である次元震により、先程の様な短距離転移を用いての回避は実行不可能。
「願い」によって強度を増した障壁を展開したところで、これら生体砲撃の前には薄紙同然の代物だろう。
最早、打つ手は無かった。
前方、宙空を切り裂く紅い線。
瞬間、襲い来る砲撃と数百もの敵性体が紅蓮の炎に包まれ、爆発し消失する。
広域殲滅魔法、火龍一閃。
「Λ」を用いての強化を受けたシグナムによる、常では在り得ぬ超長距離火力支援。
攻撃を行った魔導師はシグナムだけではない。
無数の斬撃、直射弾、誘導操作弾が敵性体群を襲い、幼体と砲撃とを諸共に喰い荒らす。
恐らくは予め後方より放たれた攻撃が、予測通りに転移してきた敵性体群を捉えたのだろう。
目標を守護する敵性体群の壁に、狭くとも致命的な隙間が開く。
その中心へと飛び込むべく、更に加速するフェイト。
目標に異変。
額のレリックが発光、数十発の魔力弾が宙空へと放たれる。
鎖状の弾体構造からして、恐らくはこれまでにも放たれていた誘導操作弾と同様のもの。
一瞬、宙空へと静止したそれは完全な魔力球となり、直後に爆発的な加速と共に鎖状へと再変化、此方へと突進を開始。
同時に、周囲に残る幼体群が再度に砲撃、数十の泡状体液奔流がフェイトを狙う。
砲撃魔法、或いはベルカ式による援護、最早どちらも期待できない。
再度それらを実行するには、先程の攻撃から十分な時間経過が得られていないのだ。
誘導操作弾幕と砲撃が、フェイトに迫る。
その、直後。
それらは突如として展開した障壁群によって弾かれ、フェイトへと直撃する軌道を外れて彼方の空間へと消えてゆく。
巨大魔力構造物、鮮やかな緑色の魔力光を放つそれは、楔型のブロック状に組み上げられた小型障壁の集合体。
40cm程の大きさのそれらが幾重にも組み合わさり、緩やかな傾斜を保つドーム状の防御殻を形成していた。
防御殻は単層ではなく20層前後の複層構造であり、最外部から数層までの破壊と引き換えに、全ての誘導操作弾および砲撃を弾き返したのだ。
立体として組み上げられた障壁は、一般的な平面状のそれを遥かに上回る強度を有しているらしい。
常軌を逸した威力を有する生体砲撃、その多数同時攻撃にすら耐え切ったそれらは、単一ではなく集合体として展開する事で、負荷の軽減と砲撃の威力減衰を同時に実現したものだろう。
尤も理論を理解できたところで、そんな脳機能に深刻な障害が発生しかねない情報処理能力を要求される代物を実際に扱える人物は、フェイトの知る限りではユーノしか存在しない。
彼が展開していた見覚えの無い魔法陣は、この新型障壁を展開する為のものだったのだろう。
そして、ユーノからの支援は、障壁による防御のみに留まらなかった。
118 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 12:46:15.99 ID:Fxh97U9D
前方、フェイトの速度に合わせて前進する障壁群。
砲撃による破壊を免れたそれらが配置を崩し、一部は加速して遥か前方までへと到達する。
再配置された障壁群は自ら分解して立体としての型を崩し、平面と化した後に其処彼処で瞬間的に結合、長大な壁面を形成。
そうして最終的に、障壁群はフェイトの前方で正六角柱型の通路と化した。
通路の端部から30mほど内部、螺旋状に折り重なって展開する複数のフローターフィールドを視認。
途端、ユーノの意図を理解したフェイトは迷う事なく通路へと突入し、重なり合うフローターフィールドの中心、僅かな隙間へと飛び込んだ。
通路などではない。
これは「砲身」だ。
「砲弾」を加速し撃ち出す為の「砲身」であり、自身がその「砲弾」なのだと、フェイトは理解する。
螺旋状に配置された無数のフローターフィールド、フェイトに膨大な推進力を付与するそれらは「施条」だ。
既に自身での知覚を放棄せざるを得ないまでの速度に達しているフェイトの身体が、フローターフィールドから付与される推進力によって更なる加速を果たす。
前方視界、拡大表示。
「砲口」の先に大型敵性体の頭部、その額に位置する巨大なレリックが映り込んでいる。
転移実行後に残された魔力の殆どをレリックの防御に回しているのか、真紅の結晶体は周囲に高密度のカイゼル・ファルベを纏っていた。
あれでは砲撃魔法が直撃したところで、レリックを破壊するには到らないだろう。
目標は回避軌道を取っている様で、常に姿勢が変化し続けているが「砲口」がそれを見失う事はない。
どうやら「砲身」全体が目標を追尾し、照準を修正し続けているらしい。
「砲身」自体の破壊も試みてはいるのだろうが、その目的が果たされるよりも「砲弾」が射出される方が圧倒的に早いだろう。
フェイト自身は進路変更を行っていないが「砲身」内部の「施条」により、彼女の軌道は正確に誘導されている。
そして「砲身」の半ばを通過した頃、フェイトの後方から強烈な緑の閃光と、巨大な圧力が襲い掛かった。
フェイト自身の障壁と、彼女が放つ衝撃波を貫いて届く、衝撃と轟音。
同時に意識中へと届く、圧縮および高速化された念話。
『今だ!』
瞬間、フェイトはブリッツアクションを発動し、全身を回転させつつ左右のスティンガーを振るう。
加速された外界認識能力の中、意識より遅れて動く身体。
「砲口」の遥か手前、左の斬撃を放つ。
背後より更なる圧力、強大なそれが襲い掛かると同時、フェイトの身体に付与される爆発的な加速。
彼女の身体は、一瞬前と比して倍以上の速度にまで達している。
「砲口」の先には、装甲の其処彼処から推進剤を噴射し、ユーノの照準より逃れるべく激しい回避機動を継続する目標。
同時に、もはや完全な回避は叶わないと判断したのか、フェイトを受けとめんとするかの様に、その巨大な左主腕部を額へと翳そうとする。
だが、フェイトはその行動を許さない。
そして、遂に「砲口」より「砲弾」が射出される。
圧倒的な加速を受けたフェイトの身体は、射出直後には目標へと到達していた。
振るわれたスティンガーが目標の左主腕部装甲を深く切り裂き、しかし刃は些かもその勢いを衰えさせる事なくレリックへと向かう。
目標頭部、レリックの表層を掠める軌道。
左の斬撃。
スティンガーの刃先がカイゼル・ファルベを突破し、フェイトの方向からしてレリックの左下方へと接触する。
刃が振り抜かれ、結晶体を両断。
同時に放たれた雷撃により、結晶体の全面に罅が奔る。
剣を振り抜いた勢いもそのままに全身を回転させ、右の斬撃。
位置関係から刃先が結晶体表面を掠める程度ではあったが、その結果は十二分なものだった。
初撃によって全体に罅の奔ったレリック、その半分程度が完全に砕かれ、細かな粒子と化して四散したのである。
右の斬撃を振り抜き、フェイトは回転する身体もそのままに目標を追い抜き、離脱。
回転する視界の中、フェイトは目標を襲う、更なる攻撃を目撃した。
射出されたフェイトを追う様に「砲口」より吐き出された膨大な魔力の奔流、指向性を有する爆発と化したそれが目標頭部を直撃していたのだ。
強烈な「発砲炎」によって砕かれた頭部装甲の破片が周囲へと飛散。
その光景を回転する視界の端に留めつつ、フェイトは自身を再加速させる為にユーノが行った支援が如何なるものであったかを理解した。
119 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 13:47:18.54 ID:Fxh97U9D
ユーノは「砲身」内部に展開していた「施条」である無数のフローターフィールドを「砲弾」の通過後に圧縮・融合させ、単一の巨大な「炸薬」と化していたのだろう。
そうして、極めて高密度の魔力集束体となった「炸薬」をバリアバーストにより炸裂させ、その爆発力によって「砲弾」を再加速、極高速にて射出したのだ。
強固な「砲身」によって指向性を付与された魔力爆発は「砲弾」を加速させるに留まらず、射出後に目標へと直接的な損傷を与える程の威力を有していたらしい。
無論、本来ならば「砲弾」であるフェイトも無事では済まなかっただろう。
恐らくは、彼女の後方にラウンドシールドを展開して「弾底部」代わりとし「砲弾」自体が破壊される事態を防いだのだ。
一方で「発砲炎」の直撃を受けた大型敵性体は、重大な損傷を受けたらしい。
あの指向性爆発を受けた以上、残されたレリックは完全に破壊された事だろう。
頭部前面への損傷も、飛散する装甲の破片の量から推測するに、甚大なものと思われた。
兎も角、レリックを破壊した以上、更なる敵性体群の大規模転移は防げるだろう。
加速した情報処理速度で以って、攻撃の成否を確認するフェイト。
ふと、彼女は自身の両手掌部に、微かな違和感を覚える。
自身が握るスティンガーが、僅かに重みを増した様に感じられたのだ。
常ならば疲労か、或いは気の緩みからくる錯覚であると判じただろう。
だが、現状では在り得ない。
加速した思考の中、未だ体感時間の延長は継続している。
その中での急激な体感情報の変化など、異常以外の何物でもない。
眼球を稼働させていては時間が掛かり過ぎると咄嗟に判断し、ブリッツアクションを発動してスティンガーを眼前へと翳す。
そうして視界へと映り込んだものを認識した瞬間、彼女の思考は凍り付いた。
魔法陣。
虹色の光を放つそれが複数、両手掌部とスティンガーの刃先に展開していた。
それらの間を複数の魔法陣が高速で往復し、表層に刻まれた未知の術式が徐々に書き換えられてゆく。
異様な光景に、激しく警鐘を鳴らす思考。
だが、何よりもフェイトの焦燥を掻き立てる要因は、別のものだった。
書き換えられた術式を、フェイト自身が理解できたという、その事実。
否、理解できない事など有り得ない。
そのミッドチルダ式の術式は、彼女が最も良く知るもの。
フェイトにとっての大切な人、その形見。
幼少の頃から片時も手放さずに共に在った、大切な相棒。
その根幹を成す、最も重要な術式。
『Escape sir!』
相棒から届く、圧縮された念話での悲痛な叫び。
フェイトもまた、我知らず叫んでいた。
だが、それが実際に声として発せられる事はない。
身体の反応は加速した意識に追い付かず、発声すら思う儘には行えなかった。
『Please!』
何かが、大切な何かが、汚されようとしている。
何物にも代えられぬ大切なものが、おぞましい何かによって踏み躙られようとしている。
それが解っているのに、彼女は何もできない。
何も、できないのだ。
『Hurry!』
「Λ」による強化の反動、膨大な負荷がフェイトを襲う。
全身を蝕み意思を挫く疲労、脳髄を貫き思考を霞ませる激痛。
その後に待つものは、数十秒に亘る意識の混濁だ。
だが、フェイトは意識を失わぬ様、必死に抗う。
120 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 13:55:29.00 ID:Fxh97U9D
駄目だ。
意識を失うな。
伝えねばならない。
何としても、これだけは伝えねばならない。
自身が目にしたものをユーノ達に伝え、警告を発さねば。
このままでは、取り返しの付かない事態になる。
念話で皆に警告を、今すぐに。
直後、緑の閃光が視界を埋め尽くし、激しい頭痛が彼女の意識を塗り潰した。
思考が霞み、自身の現状すら認識できなくなる中、フェイトは絶叫する。
単純な言葉、余計な情報を含まぬ純粋な警告。
届くか否か、そもそも声となっているかも判然としないそれを、彼女は必死に叫ぶ。
引き戻される体感時間、戻ると同時に意識より引き剥がされてゆく五感。
思考速度が通常のそれへと戻る中、彼女は確かに自身の絶叫を聞いた。
戦慄と恐怖とに塗れた、恐ろしい叫びを。
「逃げて!」
意識が、沈む。
思考さえも停止する中、残されたものは苦痛のみ。
何かを伝えるには、フェイトは余りにも無力だった。
* * *
「やった・・・!」
念話を通じて無数の歓声が上がる中、思わず言葉を漏らす。
彼女の視線の先、拡大表示された視界の中。
異形の巨躯、その頭部にて真紅の光を放っていた結晶体が打ち砕かれ、次いで起こった緑色の魔力爆発によって吹き飛ばされる。
最早、輪郭すらも捉える事は叶わなかったが、目標へと到達したフェイトが見事にレリックを破壊したのだろう。
其処へ、ユーノのバリアバーストによる指向性魔力爆発を受け、頭部前面装甲を吹き飛ばされた大型敵性体。
周囲の敵性体群が集結し、何とか大型敵性体を守護せんとするものの、それらは片端から艦艇群の艦載魔導砲による砲撃を受け、次々に存在を掻き消されてゆく。
攻撃は、完全に成功した。
それを確信し、彼女は軽く息を吐く。
これまでの戦闘の推移が故に、最悪の事態を想定してもいたのだが、結果は最良のものだった。
最早、敵性体群の大規模転移は起こらない。
あの異形の大型敵性体、即ちザブトムを護る聖王の鎧はレリック共々に失われ、今や此方の攻撃を妨げる障害は存在しない。
知らず下がっていたデバイスの矛先を敵性体群へと向け直し、自身の気を引き締めんとするかの様に周囲の魔導師へと念話を飛ばす。
『鎧が崩れた! 次で決めるよ!』
次々に返される応答、何れも通常の念話。
圧縮および高速化された念話は戦闘時に於いて極めて有用だが、脳機能に掛かる負荷が相当なものである事は先刻に身を以って体感している。
常時それを用いる事は、到底現実的ではない。
負荷が少ない通常の念話を用いて他の魔導師達とタイミングを合わせ、彼女は集束砲撃の発射態勢に入る。
彼女が握るは、桜色に輝く魔力翼をはためかせる、白亜と金色の戦杖。
その先端部に集束する自身の魔力、それが放つ桜色の魔力光を意識の端へと留めながら彼女、なのはは強化された高速並列思考を展開する。
気に掛かる事は、幾つも在った。
クラナガンに残したヴィヴィオの事、管理局の事、故郷である21世紀の地球の事。
バイドの事、地球軍の事、ランツクネヒトの事。
「Λ」の事、スバル達の事、エリオ達の事。
数え上げれば限が無い。
121 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 13:56:27.48 ID:Fxh97U9D
だが今は、それらについて思案している余裕など無いのだ。
一刻も早く敵戦力を排除し、バイドの中枢へと辿り着かねばならない。
地球軍が戻り、成す術も無く蹂躙される前に。
余りにも理不尽な思想の下、次元世界ごと消去されてしまう前に。
状況の支配権を此方へと引き寄せ、現状を打破せねばならない。
フェイトによる攻撃の成功は、正に戦況の流れを変え得る朗報だ。
全方位へと発せられた念話によると、彼女は攻撃完了の直後、ユーノによって後方まで転移させられたらしい。
後は、此方の役目だ。
大型敵性体、ザブトム。
自身の娘であるヴィヴィオ、彼女の尊厳を貶めんとする異形。
その様な存在、許す心算は無い。
「Λ」による魔導資質の強化が為されている今、集束砲撃を放つ為の工程は著しく簡略化されていた。
本来であれば、魔力素の集束完了までに短くとも10秒前後は掛かる。
しかし現在、集束に掛かる時間は個人差こそ在れど、平均して3秒前後だ。
なのはのスターライトブレイカーは、数ある集束砲撃魔法の中でも集束に要する時間が比較的長く、常ならば15秒程度を必要とする。
それですらも、今ならば魔力素の集束開始から発射まで5秒程度で完了してしまうのだ。
しかし、それは通常時と同程度の集束率であればの事例だ。
より集束率を増し、砲撃の魔力密度を上昇させ威力を増幅する為に、更に時間を掛けて集束を実行する事も可能ではある。
況してや現在、全ての魔導師は「Λ」からの補助により、リンカーコアの出力が劇的に強化されている状態なのだ。
嘗てと同様の時間を掛けて魔力の集束を実行すれば、その後に放たれる砲撃の威力と規模は如何程のものとなるか。
間違い無く、想像を絶するものとなるだろう。
そして今、なのはは決定打となる一撃を大型敵性体へと撃ち込むべく、自身のリンカーコアが許す限りの出力で以って魔力集束を開始していた。
他の砲撃魔導師達も、同様の思考へと至ったのだろう。
並列して表示される複数の視界の中、其処彼処で膨れ上がる魔力球の光が映り込んでいる。
艦艇群は残る敵性体群の殲滅へと移行しており、強大な威力を秘めた艦載魔導砲の光が、無数の奔流となって敵性体群を呑み込んでいた。
その光の奔流の中、上半身に当たる部位を大きく仰け反らせた状態の儘、空間中を漂う大型敵性体。
フェイトによってレリックを破壊された事が、目標の機能全般にまで影響を及ぼしているのだろうか。
ならば今こそ好機と、なのはは更に集束率を引き上げんとして。
『待て! ハラオウンが!』
焦燥を孕む念話、其処に含まれた親友の名に、魔力球を維持したまま集束を中断する。
尚も集束を継続している魔導師も多いが、フェイトの名はなのはの意識を引き付けた。
彼女に、何かあったのか。
なのは自身が問い掛けるよりも早く、複数の念話が発せられる。
『どうした!』
『分からん、だがハラオウンが・・・今は沈黙しているが、転移直後の様子が尋常ではなかった』
『何があったの?』
『負荷で意識を失う直前に「逃げろ」と叫んで・・・そのまま、意識を失った。もう暫くすれば目を覚ますだろうが・・・』
『デバイスも様子がおかしい』
唐突に割り込む念話、聴き慣れたそれはシグナムもの。
平静そのものに聞こえる念話は、しかし親しい者にしか判らない緊張と焦燥を孕んでいる。
次いで発せられる彼女の言葉は、事態の異常性と危機的な状況とを強制的に認識させるもの。
『バルディッシュが、同様に「逃げろ」と・・・警告の後、沈黙した』
『見ろ!』
警告は、シグナムの言葉が途絶えると同時だった。
何かに対する注意を促す以外には、これといった情報も含まれてはいない、極短い念話。
だが、それが何を指しているものかは、なのはにも容易に理解できた。
視界内、大型敵性体に異変。
体躯を後方へと仰け反らせたまま胴部を捻り、右主腕部を左肩部周辺へと回している。
何かを握るかの様に窄められた指部、その中心へと集束する虹色の魔力光。
122 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 14:01:05.24 ID:Fxh97U9D
そして、なのはは見た。
集束した魔力素を取り囲む様に展開した魔法陣、紛れもないミッドチルダ式のそれが2基。
其々が反対方向へと滑る様にして移動し、互いの中心から延びる集束魔力の光条が、徐々に棒状へと形成されてゆく。
やがて、魔法陣が消失。
残された棒状魔力集束体の全長は、大型敵性体の全高とほぼ同じ40m前後にまで達していた。
纏わり付く魔力光を振り払う様にして、鈍色の物質へと変換される集束体。
大型敵性体の下方に位置する端部には直接打撃用か、別種の物質による覆いが設けられている。
上方端部には、下部の覆いと同種らしき物質により5m前後の刃、戦斧にも似たそれが形成されていた。
長大な柄の先端側面に曲線を描く刃を備えた、三日月斧にも似た形状のそれ。
「嘘・・・」
我知らず零れる声。
直後、戦斧の刃が90度回転し、柄に対して直角に展開。
刃と柄の接続部、その開口部から虹色の魔力光を放つ粒子が、高圧ガスの如く噴き出す。
その光景の意味する処を理解し、なのはは自身の血の気が引く音を聞いた様な錯覚に囚われた。
そんな馬鹿な。
こんな事、在り得ない。
何故、大型敵性体が「あれ」を手にしているのか。
「あれ」の所有者は、断じて異形の怪物などではない。
「あれ」は悪意の集合体、その手の内などに在って良いものではない。
「あれ」は、あの雷神の槍、光の戦斧は。
「バルディッシュ!?」
30mを優に超える巨大な魔力刃が展開されると同時、その刃を横薙ぎに振り抜く大型敵性体。
瞬間、刃より発せられた強大な魔力波が、不可視の壁と化してなのはを襲った。
魔力球、消失。
並列展開されていた全ての視界、他の魔導師と共有していたそれらが魔力波によって接続を切断され、同時に彼女自身の視界も瞼によって物理的に閉ざされる。
強力な紫外線に曝されている際にも似た、皮膚を炙られているかの如き感覚。
胸中のリンカーコア、物質的ではない魔力器官が軋みを上げる、異様な苦痛。
知らず漏れ出る、微かな呻き。
そうして、漸く自身を襲う異常な感覚が消え去った後、彼女は反射的に身体を庇っていた腕を下ろし、自身の身体と周囲とを見回す。
自身に負傷した箇所は見られず、周囲も深刻な被害を受けている様には見えない。
あの魔力波は、攻撃ですらなかったのだろう。
事実、それはなのはの身体を数十mほど後退させたものの、障壁を貫いて彼女自身を害するには到っていない。
飽くまで刃を振るった際に発生した余波に過ぎず、それで被害を与える事など意図してはいまい。
だが、それが此方の戦力に与えた動揺は、計り知れないものだった。
攻撃ではない。
攻撃ではないにも拘らず、魔導師達は強制的に身体を後退させられ、余波を受けたリンカーコアは悲鳴を上げていた。
艦艇群は位置情報確認機能に異常を生じたのか、見る間に艦隊としての陣形を崩壊させてゆく。
壁との衝突時に発生した轟音に聴覚の機能が奪われた中、錯綜する念話の内容は混乱の極みに達していた。
『今のは何だ!?』
『陣形を崩すな! 下方の魔導師、艦体に接触するぞ!』
『各員、間隔を保て・・・クソ、残った敵性体が散開しやがった。距離を詰められるぞ』
態勢を崩した艦艇群が、徐々に陣形を整えてゆく。
僅かに後退した魔導師達も再集結を果たし、すぐさま攻撃態勢を整えていた。
味方に深刻な問題が発生していない事を確認、胸中に生まれる微かな安堵。
しかしそれも、直後に云い知れない悪寒によって呑み込まれてしまう。
123 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/25(日) 16:29:39.63 ID:4g/wfPoP
?
さるさんくらっちゃったかな
125 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 17:01:01.50 ID:Fxh97U9D
見間違いなどではない。
大型敵性体、ザブトム。
あれは確かに、フェイトのデバイスであるバルディッシュを手にしていた。
彼女が持つそれとは比較にならぬほど巨大ではあったが、アサルトフォームからハーケンフォームへの移行動作に至るまで、自身の知るバルディッシュと寸分違わない。
フェイトとバルディッシュが発した警告は、この事態を予期してのものだったのか。
目標は自身を攻撃したフェイトのデバイスを解析し、バイド独自の術式をミッドチルダ式に書き換え、魔力素を物質変換してバルディッシュを模したというのか。
ならば、あの異形はバルディッシュの模造品を用いて、何を仕出かす心算なのか。
カイゼル・ファルベを失い、優に100隻を超える次元航行艦の魔導砲射程内へと捉えられ、無数の魔導師にデバイスを突き付けられた、この状況下。
たった1基のインテリジェントデバイスを模造して、何を。
『警告! 大型敵性体、失索!』
咄嗟に、レイジングハートを構えるなのは。
先程まで大型敵性体が存在していた位置を拡大表示。
目標、視認できず。
鈍色の巨躯は、何処にも存在しない。
「居ない!?」
『馬鹿な! 何処に行きやがった!』
『誰か、奴が消える瞬間を見たか!?』
『艦艇が目標を捕捉していたのでは!? 何か情報を・・・』
『駄目です、システム混乱中の隙を突かれました! 目標の反応・・・後方?』
戸惑う様な、艦艇オペレーターの言葉。
弾かれる様に後方へと向けられた視界の中、一瞬の閃光が奔る。
思わず身を強張らせるなのは。
その聴覚に飛び込む、金属を引き裂く様な瞬間的な異音。
突然の事態に状況を把握できず、混乱する思考。
『「ナタリア」がやられた!』
意識中へと飛び込む念話、艦艇が撃破された事を告げるそれ。
言葉遣いを整える余裕すらも無いのか、端々に荒々しさが滲む。
間に合わなかったと、臍を噛むなのは。
ナタリアが撃破された位置へと急行せんとする彼女だったが、続いて飛び込んできた念話に全ての動作を中断する。
明らかな焦燥と、色濃い恐怖の滲む、その念話。
『艦体が・・・艦体が真っ二つにされている! 近接攻撃だ!』
閃光、遅れて衝撃。
吹き飛ばされる程のものではないが、重い振動に呻きを漏らす。
ナタリアの艦体が爆発したのか。
聴覚を襲う轟音に耐えつつ、なのはは念話を飛ばす。
『誰か、詳細を! 攻撃の詳細を教えて!』
『斬撃です! 突然、目標がナタリアの左舷側に現れて・・・一瞬で艦体を切り裂いたんです!』
『外殻を裂いたの!?』
『外殻どころか、艦が上下に真っ二つだ! 化け物め、XV級をスライスしやがった!』
『奴だ!』
叫ぶ様な念話と同時、再度に轟く異音。
視界の並列展開を行う暇もあらばこそ、周囲を見回すなのは。
その視界が、艦隊を形成するXV級の1隻を捉える。
「・・・何?」
126 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 17:03:53.50 ID:Fxh97U9D
それは、余りにも不自然な光景。
そのXV級は周囲の艦艇と同じ姿勢を保ち、敵性体群と向かい合う状態を維持していた。
少なくとも、艦体半ばから後部に掛けては、他艦艇と同じ姿勢を保っている。
だが、艦体前部については、明らかに他艦艇とは異なる姿勢へと移行しつつあった。
艦首が、上を向いている。
上下左右など無い無重力空間中に於いて正確とは云い難い表現だが、現状のなのはにはそうとしか表現できなかった。
他艦艇と水平となる姿勢を維持する艦体に対して、艦首が僅かに浮かび上がっているのだ。
そして見る間にも、艦体に対して垂直方向へと、時計の針の如く艦首が立ち上がってゆく。
否、艦首だけではない。
艦体半ばから前部に掛けての構造物が、微速前進する艦体後部に押され徐々に上方へと傾いてゆくのだ。
周囲に展開する魔導師達が、その異様な光景を呆けた様に見詰めている。
それらを自身の視界に収めるなのはもまた、凍り付いた思考の儘、非現実的な光景を唖然として見詰める以外の術を有してはいなかった。
そして、両断された艦体、その後部が通過した空間。
其処に、異形が居た。
なのはの視界からして上下が逆転した状態のまま、虹色の雷光を放つ死神の鎌を携え、俯く様にして佇む鈍色の影。
頭部前面装甲が失われた事により覗く、余りにも醜悪な生命体の顔面。
其処に穿たれた巨大な眼孔、その中に浮かび上がる碧と赤の光。
上下逆さまとなった怪物が、ドブケラドプス幼体と全く同じ造形の顔面を曝け出し、嘲るかの様に此方を見据えている。
胸部装甲開放、生体核露出。
フラッシュムーブ発動。
回避機動により自身の左方向へと、瞬時に200m以上もの距離を移動したなのはの側面、衝撃波を撒き散らしつつ轟音と共に突き抜ける虹色の魔力の奔流。
強力な余波に翻弄され吹き飛ばされつつも、なのはは新たに別のXV級が十数名の魔導師達共々、砲撃へと呑み込まれる様を目の当たりにする。
艦体中央部から百数十mに亘る範囲を抉り抜かれ、前後に分かたれて小爆発を繰り返すXV級。
あれでは、生存者など居るまい。
『また・・・!』
『どういう事!? 奴はどうやって移動したの!』
『「アグリア」魔導炉緊急停止! 総員退艦!』
『「テレサ」爆沈!』
『全艦艇、散開! 纏まっていると狙い撃ちだ! 移動の際に魔導師を巻き込むな!』
『また消えた・・・くそ、突風が!?』
態勢を立て直し、レイジングハートを構えるなのは。
荒い呼吸。
汗の粒が次から次へと皮膚に滲み、水滴となって宙空へと漂い出す。
レイジングハートの柄を握る手には必要以上の力が籠り、その穂先は小刻みに揺らめいていた。
険しい表情には抑え切れない困惑と、明確な焦燥の色が浮かび上がっている。
忙しなく動く眼球、目まぐるしく移り変わる視覚内の光景。
なのはは、理解していた。
あの異形、ザブトムが何をしたのか。
如何なる方法を用いて移動し、XV級へと襲い掛かったのか。
何故、誰1人としてその巨躯を視界へと捉えられないのか。
ザブトムが、フェイトに対して行った事とは何か。
『コピーしたんだ・・・』
『何だって?』
呟く様に放たれた、なのはの念話。
すぐさま、周囲の魔導師から問いが返される。
なのはは、絞り出す様に言葉を繋げた。
『あのバイドは・・・ザブトムは、ハラオウン執務官のデバイス、バルディッシュをコピーしたんだよ・・・其処に登録されていた、固有魔法まで』
『デバイスと魔法を模倣したのか!?』
『じゃあ、奴の移動方法は執務官の・・・』
127 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 17:06:29.12 ID:Fxh97U9D
大質量物体が大気を切り裂く際の轟音、遅れて届く衝撃波。
激しい大気の震動に全身を揺さ振られつつも、レイジングハートの構えを解かずに周囲警戒を継続するなのは。
魔力集束は行わず、ショートバスターの発動に備える。
目標は何時、何処から襲い来るのか。
『ソニックムーブ。発動と同時に、術者自身を最高速度まで加速させる移動補助魔法』
『高速移動なのか? 転移じゃないんだな?』
『違う。あれは、途轍もない速度で移動しているだけ。だから移動の際、衝撃波が発生している。私達の身体がバラバラになっていない事を考えると、かなり離れた位置を移動しているみたい』
『・・・全艦艇、大気流動を観測しろ! 識別魔力素の散布濃度を上げ、感受域を6000に絞れ! 目標が近接攻撃を仕掛けてくる、其処を迎撃するぞ!』
『総員、周辺艦艇とのリンクを拡張せよ。全方位警戒』
なのはからの情報提供を受け、すぐさま艦艇群が最適な索敵手段を構築。
索敵用に継続散布している魔力素の濃度を引き上げ、探知範囲を超広域から中距離以下へと変更し感受精度を向上させる。
目標が有する魔力と識別魔力素との干渉による反応、及び目標が移動する際に生ずる識別魔力素の濃度変化の観測。
これらの情報を基に、目標の位置を特定しようというのだ。
悪くない判断ではあるが、しかし。
『間に合うのか?』
『回避が? それとも反撃?』
『相討ち覚悟になるね・・・速度だけなら反応も出来るけど、あの質量でソニックムーブとブリッツアクションを併用されたら、もう打つ手が無い。でも・・・』
『奴とて、それらを無闇に乱用はできない。そうだろう、高町?』
シグナムからの念話。
その姿を探す事はせず、なのはは目標の痕跡を求めて複数の視界を並列展開する。
目標の姿は無い。
『うん。あれだけの質量を持つ個体が瞬間的な長距離移動を成し遂げている事を考えると、魔力の消費量は尋常じゃない程に大きい筈。レリックが残されているなら兎も角、アレが独自に有する魔力量じゃ連続発動なんて無理だと思う』
『ゆりかごの時と同じか』
なのはは、答えない。
嘗てJS事件の際、ヴィヴィオはその身体にレリックを埋め込まれ、それを魔力炉として無尽蔵の魔力供給を受けていた。
だからこそカイゼル・ファルベを維持しつつ、種々の攻撃魔法を連続展開する事も可能だったのだ。
あのザブトムがヴィヴィオの遺伝子を用いて建造されたものであるならば、レリックの破壊によって魔力供給に支障が生じている可能性は高い。
事実、ザブトムはナタリアに続きアグリア、テレサと3隻ものXV級を連続して撃破したにも拘らず、その後は攻撃を続行する事なく姿を晦ませている。
恐らくは、何らかの欺瞞手段で以って此方の索敵手段から逃れ、魔力量の回復を待っているのだろう。
『だから、私達のする事は1つ。何処かに息を潜めてこっちを窺っているアレを先に見付けて、迎撃を確実に成功させる。こっちの被害を最小限に止めて、最大の戦果を挙げるしかない』
『初撃で仕留めろと? シビアですね』
『2度も3度もアレを受ける気? 流石にそれは御免だよ』
第6支局艦艇とリンク、索敵情報を得るなのは。
高濃度識別魔力素が拡散してゆく様子がリアルタイムで意識中へと反映されるが、其処に大型敵性体の反応は無い。
一体、何処に身を潜めているのか。
『長距離砲撃を仕掛けてくる可能性も在る。効果は怪しいがMC404を自動迎撃に設定しておけ』
『スクライア、テスタロッサの様子はどうだ?』
『流石に負荷が大きかったみたいだ。もう少し待たないと・・・』
『目標捕捉! 距離52000!』
瞬間、レイジングハートの矛先を頭上へと向ける。
第6支局艦艇を介して意識中へと投射された情報は、大型敵性体が頭上に位置しているという索敵結果を瞬時に伝達。
続く情報を待つ事もせず、なのはを含む多数の魔導師がデバイスを頭上へと向けている。
しかし、魔導師達が砲撃を放つ事はない。
目標、簡易砲撃魔法射程外。
128 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 17:09:03.72 ID:Fxh97U9D
『砲撃開始!』
だが、艦載砲についてはその限りではない。
轟音と共に無数の魔導砲撃が艦隊直上へと放たれ、青の燐光を纏った魔力の奔流が大型敵性体へと殺到する。
目標がソニックムーブを発動した直後であれば、この砲撃を躱す事は不可能だ。
だが、欺瞞手段を解除し、姿を現したのだとすれば。
『目標転移!』
目標位置情報の転送直後、ショートバスターを背後へと放つ。
砲撃の向かう先、鈍色の異形の影。
巨大な死神の鎌を振り翳して上半身を限界まで前傾させ、全身から猛烈な勢いで推進剤を噴射しつつ艦艇へと突撃する、大型敵性体の姿。
数瞬後にはXV級の艦体を無慈悲に切り裂くであろう異形へと殺到する、優に100を超える数の砲撃魔法の光条。
そして遂に、魔法の牙が異形へと突き立つ。
最初に目標を捉えたそれは、物質変換された超高密度魔力集束体だった。
恐らくは、物質化したそれを何らかの手段で以って加速させ砲弾として撃ち出す、応用型の砲撃魔法なのだろう。
通常の砲撃魔法と比して遥かに高速の砲弾は、手腕部がバルディッシュを振り上げる事で露になった部位、突進する目標の胴部側面へと横殴りに着弾する。
そして、爆発。
強大な威力を有する魔力爆発に呑まれ、装甲の破片を散らしながら大きく態勢を崩す大型敵性体。
動きを封じられた目標へと、続け様に砲撃が直撃する。
脚部、腕部、胴部、頭部。
目標の巨躯、その至る箇所に突き立つ砲撃。
それらの砲撃は貫通能力に特化したものばかりではなく、着弾と同時に分裂し炸裂するもの、指向性を有する魔力爆発を起こすもの、物質化し二次被害を齎すもの等が入り混じっていた。
あるものは装甲を砕き、あるものは露出した頭部有機組織を引き裂き、あるものは慣性制御ユニットを破損させる。
着弾により拡散した大量の魔力が複合連鎖爆発、大型敵性体の全身を覆い尽くす超高温の魔力炎。
其処へ、なのはが放ったショートバスターを含む十数発の砲撃が遅れて着弾し、その大威力を以って大型敵性体を当初の進路上から弾き飛ばした。
そして、着弾の轟音が遅れて聴覚へと届くと同時、念話を通して歓声が意識中を埋め尽くす。
『迎撃成功、迎撃成功です!』
『奴は!?』
大気を震わせる絶叫。
超音速にも達する速度を維持したまま、全身から装甲の破片と焔の尾を引きつつ、出現時の進路から逸れてゆく目標。
その速度こそ殆ど殺がれてはいないものの、明らかに制御を失った機動。
大気を切り裂く轟音と、悲鳴にも似た咆哮とを残しつつ、火達磨となった目標が艦艇へと迫る。
即座に、直上への攻撃を見送っていた数隻の艦艇が迎撃を開始。
艦載砲より放たれた十数条の魔力奔流が、脅威を抹消すべく目標へと殺到する。
着弾直前、デバイスを前方へと突き出し、迫り来る魔力奔流に対し刃を翳す大型敵性体。
すると次の瞬間、目標を中心として周囲を強烈な閃光が埋め尽くす。
ほぼ同時に、なのはの全身を襲う強烈な衝撃。
咄嗟に障壁を展開する事に成功した為、これまでの様に吹き飛ばされる事は避けられた。
そして、閃光までは防げずに瞼を閉ざしたなのはの視界、其処に複数の艦艇から齎された光学情報が展開される。
それらの情報は目標が執った行動の詳細、及び現状を正確に彼女へと認識させた。
砲撃が着弾する直前、大型敵性体は自らが手にするデバイス、バルディッシュの刃を爆発させたのだ。
恐らくは、バリアバーストと同様の緊急回避用魔法。
着弾寸前に発生した強大な魔力爆発の影響により、艦艇群からの砲撃の殆どが集束を乱され霧散。
更に、大型敵性体は爆発の反動を利用して急激に進路を変え、爆発を突破して目標へと直撃するかに思われた砲撃を回避する。
そして、大型敵性体は1隻の艦艇、その後部外殻下層へと掠める様に衝突し、衝撃音と共に双方の破片を撒き散らした。
衝突後も止まらず、高速にて飛翔する大型敵性体。
数瞬後、大気を切り裂く轟音と共に、その姿が掻き消える。
ザブトム、ソニックムーブ発動。
『駄目、逃げられた!』
『各艦、索敵結果を!』
『落ち着いて、手傷は負わせた筈だよ。次で決めれば良い』
129 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 19:27:36.28 ID:Fxh97U9D
瞼を上げ、目標が消えた方角を見遣るなのは。
まさかバリアバーストまで使用するとは、流石に彼女としても予想外だった。
ザブトムがバルディッシュを模造した際、その記憶域に残されていた情報を基に、フェイト以外の魔導師の魔法まで模倣したというのか。
砲撃魔法に関しては、既に胸部生体核からの強大な砲撃能力を有している為に、模倣の必要性も無いのだろう。
だが、近接戦闘および移動補助、各種防御手段に関する魔法まで模倣しているとなれば、その脅威は増大する。
『次って・・・一尉、奴は逃げていないと?』
『アルカンシェル、発射!』
閃光と共に放たれるアルカンシェル。
陣形を変え、全方位へと艦首を向けつつある艦艇群から順次、弾体が発射される。
階層構造物を巻き込む事すら厭わない、全方位極広域殲滅攻撃。
大型敵性体の逃走を防ぐ為の行動だ。
『・・・空間転移の兆候は無いし、通常航法で逃げたらアレに巻き込まれる。砲撃するにも、さっきとは違ってこっちも即時対応が可能だからね』
『大規模攻撃魔法を使おうにも、発動までに致命的な隙が生じる。結局、近接戦闘しか残されていないって訳だな』
『違う』
唐突に割り込む念話。
聞き覚えの在るそれは、ノーヴェのもの。
否定の意味を問い返すよりも早く、言葉は続く。
『奴には質量兵器が在る・・・来るぞ、構えろ!』
瞬間、遠方で爆発。
小さな灯火に過ぎなかったそれは瞬く間に巨大な火球へと変貌し、次いで強烈な衝撃波と轟音とがなのはの身体を襲った。
瞼を閉ざし呻きを零しつつ、身を屈めて負荷に耐えるなのは。
その最中、意識中へと飛び込む念話。
『ウォンロン、交信途絶! 艦艇反応、確認できず!』
背筋が凍るかの様な錯覚。
知らず、意味の無い声が漏れ出る。
今、何と告げられたのか。
人工天体内部で発生した全ての戦闘に於いて、防衛艦隊旗艦として友軍を支援し続けた、第148管理世界「新華」第弐時空長征艦隊所属、巨大空母型戦闘艦「黄龍」。
XV級の4倍以上にもなる巨大な艦体に、アルカンシェルを凌ぐ各種戦略級魔導兵器と戦略級質量兵器を搭載し、地球軍艦艇にこそ及ばぬもののランツクネヒトでさえ一目置いていた程の戦闘能力を有する艦艇。
この艦艇の本来の建造目的は、第148管理世界の周辺世界および時空管理局に対する軍事的威圧、更には予てより新華が計画し近く実行予定であった版図拡張を目的とする侵略戦争に於いて、
同管理世界の軍内で最大戦力を誇る第弐時空長征艦隊、その旗艦としての役割を負わせる事に在った。
即ち、本来であればウォンロンは、管理世界に於いて膨大な死と破壊を撒き散らす、災禍そのものの存在となる筈であったのだ。
しかし皮肉な事に、バイドによって隔離空間内部へと転送されたウォンロンは、戦力の不足に苦しむ被災者達にとっての希望となった。
超長射程と極広範囲制圧能力を有する各種兵装、時空管理局艦隊と各世界の防衛戦力および民衆へと向けられる筈であったそれらによって、コロニーとベストラを襲う脅威の悉くに真正面から抗い、常に敵の攻撃の矢面に位置して友軍の盾となり矛となってきたのだ。
約8時間前、故郷である新華が存在する惑星および衛星が共に、バイドの超巨大戦艦「BCA-097 PRISONER」による惑星破壊級戦略巡航弾を用いた攻撃を受け、全住民および保有戦力が諸共に消滅した事を考慮すれば、
当該文明最後の遺物であると同時に最強の遺産であるとも云えるだろう。
そのウォンロンが、あの強大な戦闘艦が。
撃破されたというのか。
抵抗の暇さえ与えられず、一瞬にして経戦能力を奪われたというのか。
否、そもそも艦艇そのものは残されているのか、或いは消滅したのか。
大型敵性体は、一体何をしたというのだ。
『何を、何をされたの? ウォンロンはどうなったの!』
『艦体各部にて発光を確認、直後に艦全体が爆発しました! 飛散残骸を迎撃中です、警戒を!』
『ランスターより各員。目標、大口径電磁投射砲による攻撃を確認。推定射程距離70000以上、発射速度は秒間70発前後。弾体は波動粒子充填型徹甲榴弾。ウォンロン外殻装甲に47発の着弾を確認』
ティアナからの念話と共に、脳内へと転送される大量の情報。
ウォンロン被弾時の再現映像が、瞬時に詳細な情報と共に齎される。
艦艇左舷、艦首から艦尾に掛けて撃ち込まれる47発もの砲弾。
それらは艦艇外殻装甲を容易く貫通し、艦体の中心線付近にまで侵入、直後に一斉起爆して艦全体を消滅させた。
これでは、生存者など望むべくもない。
130 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 19:32:04.17 ID:Fxh97U9D
『604名、全クルーのシグナル消失を確認。生存者なし』
知らず、歯を食い縛る。
衝撃と閃光は、何時の間にか止んでいた。
徐々に瞼を上げれば、犇めくXV級の遥か先、空間中へと拡散してゆく赤い焔の壁が視界へと映り込む。
拡散する炎の中心部を拡大表示。
何も無い。
表示された空間には黒々とした闇が拡がるばかりで、破片さえも残されてはいない。
これまで懸命に友軍を護り抜いてきた英雄達が、抵抗さえ許されぬ儘、一瞬にして生命を奪われた。
ウォンロンが攻撃を受けた瞬間、魔導師達には彼等を救う術など、何1つとして在りはしなかったのだ。
だが、先程の迎撃成功時。
あの時に仕留める事さえできていれば、この被害を受ける事態は防げたのではないか。
質量兵器を用いる暇など与えず、一息に大型敵性体の生命の鼓動を奪う事ができていたのなら。
この非情な結果は、避けられたのではないか。
『各艦は散開を! 纏まっていると狙い撃ちにされる!』
『「Λ」の3人、分析結果をくれ。あんな代物を持ちながら化け物が今の今まで使用しなかったのは、何らかの理由が在る筈だ』
『目標はレリックの破壊により、空間転移を用いた給弾機構に障害が生じています。地球軍との戦闘に備え、切り札の質量兵器は温存する計画だったのでしょう』
『魔導師には魔法で対処、という事か』
念話を傍受しつつも、忙しなく周囲の空間へと視線を奔らせるなのは。
目標は何処か、次の攻撃は何時か。
レイジングハートの柄を握る腕を憤怒に、そして焦燥に震わせつつも、次なる砲撃に備え魔力集束を開始する。
暴力的に膨れ上がる魔力球は最早、スターライトブレイカーのそれではない。
只管に周囲の魔力素を取り込みつつ、際限無く膨れ上がる桜色の光球。
唯々、荒れ狂う意思の儘に魔力素を喰らい、圧縮された巨大な力の塊と化してゆく魔力集束体。
「Λ」による補助を受け、なのはの意識中に浮かぶイメージを忠実に具現化する、彼女によって構築されたものではない術式。
だが、当のなのはにとって、そんなものは最早どうでも良い事象であった。
もう、逃がしはしない。
確実に、次で仕留める。
目標が魔法による再攻撃を行わず、次も質量兵器を用いるとなれば、それに抵抗する術は無いだろう。
だが、知った事か。
目標の弾薬は、いずれ尽きる。
そうなれば必然的に、魔法による攻撃へと移行せざるを得ない筈だ。
その時こそが、好機。
また、何隻もの艦艇が沈むだろう。
何十人も、何百人も死ぬだろう。
だが、それらの犠牲の果てに、最大にして最後の好機が巡り来る。
その機を捉える事さえ叶ったならば、それ以上の犠牲など生まれはしない。
必ず、仕留める。
暴力的なまでに膨れ上がる魔力奔流の渦、その全てを目標へと叩き込んでやる。
装甲の欠片さえも残すものか。
今までに奪われたもの、今から奪われるもの。
それらに見合うだけの代償を、あの異形には払って貰わねばならない。
何としてでも、刺し違えてでも撃破してみせる。
『警告! 誘導弾1基、急速接近!』
圧縮念話と共に転送される映像、迫り来る1基の誘導弾。
三角柱に近い六角柱型、全長6m前後。
弾体中央部と推進部周辺に密集配置された、実に数百もの部位によって構成される複合連動型制御翼が複数と、数百基の球状マイクロ・スラスター。
明らかに無機物でありながら、宛ら節足動物か海洋性固着動物が密集して蠢いているかの様な、醜悪な有機生命体に対するものと同じ生理的嫌悪感を呼び起こす外観。
塗装すらされてはいない、表層に黒々とした金属の質感が剥き出しの儘のそれは、推進部より業火を吐きつつ急速に此方へと接近してくる。
とはいえ、これまでに確認されている地球軍およびバイドが用いた各種誘導弾と比較すれば、今回のそれの弾速は幾分か低速と云えた。
何せ、艦艇群のシステムで十分に追跡可能なのだ。
アルカンシェルを用いた牽制により、目標が必要な距離を確保できず、弾体の加速を十分に行えない可能性も在る。
131 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 19:33:38.42 ID:Fxh97U9D
何にせよ、艦艇群が誘導弾を捕捉しているのならば、問題は無い。
目標との距離を考慮すれば、核弾頭である可能性も低いだろう。
艦艇群の迎撃機構で、十分に対処可能である筈だ。
此方は目標の迎撃に集中すれば良い。
『自動迎撃開始、目標・・・待て、目標に異変!』
『誘導弾、波動粒子の集束を確認・・・射出確認! 誘導弾より波動粒子弾体、多数射出! 回避!』
圧縮念話による警告の前に、なのはは意識中の映像から異変を察知していた。
誘導弾各部の外殻が内部より弾け飛び、何らかの弾体射出口らしき無数の穴が露出。
全ての穴が波動粒子の青白い閃光を放ち、次いで無数の小型波動粒子弾体が誘導弾の周囲へと連続射出される。
それらは射出直後に球状集束体と化し、一瞬ではあるが誘導弾と等速にて移動。
そして直後、集束体が連鎖的に炸裂し、無数の閃光が宙空を貫く。
映像途絶、視界内で起こる無数の爆発。
『艦艇群、被弾多数! 「アリソン」「サマンサ」交信途絶!』
遅れて鼓膜を震わせる、甲高い異音と爆発音。
魔力集束行動はそのままに、なのはは唖然として周囲を見回す。
爆発は艦隊の其処彼処で発生していたが、中でも被害が集中している範囲が在る様だ。
飛び交う圧縮念話が、更に密度を増す。
『「セレスト」損害拡大! 総員、直ちに退艦を・・・』
『1303航空隊、消失! 皆・・・皆、消えてしまった! 今のは何なの!?』
『ルカーヴより第1支局、其処等中で艦が燃えている。被害の程度は異なるが・・・被弾した艦が多過ぎる。幾ら何でも異常だ』
『セレスト、爆沈! 「アンナリーナ」が爆発に巻き込まれた!』
『誘導弾は何処だ、まだ飛んでいるのか!?』
『誘導弾、失索。未確認技術を用いたアクティブ・ステルスシステムによる欺瞞効果と思われる。目標は単なる誘導弾ではなく、重武装型UAVの一種らしい』
『サマンサ右舷部の一部を確認・・・小爆発を繰り返しながら遠ざかっていく。あれでは・・・』
混乱する状況。
そんな中、とある光景を思い起こすべく、自身の記憶を遡るなのは。
あの誘導弾が用いた攻撃、同じものを目にした事が在るのではないか。
はっきりとはしないが、突如としてそんな思考が浮かんだのだ。
だが、それは何時の事か。
居住コロニー「リヒトシュタイン05」が、あの重力を操るバイド生命体「666」に襲われた際であったか。
では、あれはバイドの攻撃であったのか。
否、そうではない。
ウィンドウ越しに目にしたあの攻撃は、バイドによって放たれたものではなかった。
あれは、あの攻撃を実行していたのは。
『波動砲だ! あれはアクラブの波動砲と同じものだ!』
「R-9A4 WAVE MASTER」
コールサイン「アクラブ」。
コロニー防衛任務に就いていた複数のR戦闘機、その内の1機。
そうだ。
あの攻撃はR-9A4が有する波動砲「スタンダードV」による砲撃の副次効果、砲撃の着弾後に拡散する余剰エネルギーに集束および誘導性を持たせ、更に複数目標へと着弾させる機能そのものではないか。
弾体が有する威力および射程こそR-9A4と比して劣るものの弾速はほぼ同等、同時射出数に至っては比較にもならぬ程に多数。
そうして、射出された無数の波動粒子集束体が、一斉に艦艇群を襲ったのだ。
「Λ」より齎された情報に依れば、観測された射出弾体総数は20000を超えるという。
波動砲を搭載した誘導弾というよりは、先程の念話でも言及されていた無人航宙機、即ちUAVの様な代物なのだろう。
だとすれば本体を撃破しない限り、波動砲を放ち続ける敵性UAVが常に艦艇群の間隙を飛び回る事となる。
目標はアクティブ・ステルスシステムを備えており、現時点では此方に目標を探知する術は無い。
このままでは、遠からず全滅する事となる。
『β8-3-8、波動粒子の集束を確認! 敵UAV捕捉!』
『MC404、自動砲撃!』
132 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 19:38:20.82 ID:Fxh97U9D
唐突に、艦艇群が砲撃を開始。
轟音と共に放たれる無数の砲撃、その魔力奔流の向かう先を拡大表示したなのはは、其処にあの奇怪にして醜悪なUAVの影を見出す。
集束する青白い光。
『次は耐え切れるか判らん、撃たれる前に撃墜しろ!』
『砲撃が来る! 構えて!』
そして、閃光。
間に合わなかったのか。
次の瞬間には襲い来るであろう衝撃に、反射的に身を守ろうとするなのは。
だが、その試みは徒労に終わった。
突如として発生した空間歪曲の壁が、波動粒子の弾幕の殆どを呑み込んだのだ。
直後、何処か懐かしくすら感じられる声が、念話として意識中へと飛び込む。
『空間情報の収集を完了しました! 敵の砲撃は、可能な限り此方で無効化します! その間にUAVと目標の撃破を!』
『リンディさん!?』
旧知の人物による唐突な状況への介入に驚き、思わずその名を呼ぶなのは。
彼女が本局からの脱出に成功していた事は、既に「Λ」を通して知り得ていた。
しかし、ベストラと本局脱出艦隊との合流後、戦闘に加わる様子が無かった事から、何らかの要因によって戦闘行為が不可能となっているのではと考えていたのだ。
実際には、ディストーション・フィールド展開の際に要する空間情報の収集作業に没頭していたらしく、それが済んだ今、積極的に戦闘へと介入を開始したのだろう。
空間歪曲という最強の盾を得た事に思わず安堵するなのはであったが、焦燥の滲む警告の言葉が緩み掛けた意識を揺さ振った。
『波動粒子弾体が空間歪曲面を破壊している! そう何度も無効化はできないわ、早く目標を・・・!』
『UAV、砲撃回避! 再度失索!』
艦艇群がUAVを見失い、同時にディストーション・フィールドによる空間歪曲面が消失する。
複数の艦艇が外殻から炎を噴き上げている事から推測するに、空間歪曲を以ってしても全ての波動粒子弾体を防ぎ切る事は不可能であったらしい。
そしてリンディの言葉から、ディストーション・フィールドの展開には複数面からの制約が存在すると推察される。
恐らくは同時展開数、展開維持時間、連続展開時に於ける展開所要時間等の問題なのであろうが、それらの点を考慮するに状況は未だ危機的であると云えるだろう。
空間歪曲を用いてもUAVからの砲撃を完全には無効化できない。
砲撃が繰り返されれば損害は着実に増大し、更には「Λ」による支援が在るとはいえリンディの対処能力も限界に達する事だろう。
ならば、それらの危惧が現実のものとなる前にUAVを、或いは大型敵性体の撃破を成し遂げねばならない。
だが、肝心のUAVを常時捕捉する事ができないのだ。
砲撃の瞬間を狙う事も考えたが、此方が即時反撃を成し遂げた処で、その攻撃の軌道上にはリンディによって展開された空間歪曲面と波動粒子弾体による弾幕、そして複数の艦艇が存在するのである。
それら全てを突破、或いは回避した上でUAVへと攻撃を命中させるなど、如何な融通の利く魔法とはいえ不可能に近い。
少なくとも、なのはにとっては。
『第7支局より各艦、UAVの予測軌道および最適射角情報を転送する。UAVからの更なる攻撃に備え、迎撃態勢を執れ』
『此方クアットロ。大型敵性体と敵性体群とのコミュニケーション手段と思われる、波動粒子を用いた広域振動波を傍受、解析中。40秒以内にUAV制御中枢掌握工作を開始します』
『精密狙撃が可能な者は第5支局外殻に集結、狙撃班を編成せよ。上部はアズマ、下部はグランセニックが指揮を執れ。UAVの制御権掌握が間に合わない場合は、独自の判断で目標を狙撃せよ』
交わされる念話と共に、艦艇群と魔導師達が即座に行動を開始する。
なのはに打つ手が無くとも、艦艇乗組員と他の魔導師には、現状に於いて有効な一手を有する者も居るのだ。
後方要員と狙撃班にUAVへの対処を託し、なのはは大型敵性体への攻撃に集中せんとする。
『俺達の相手は化け物の方か。何か策は思い付いたか、高町』
『今のところは、全然。そっちは?』
『同じく。やはり、接近してくるのを待って迎撃するのが確実だろうな』
『此方の注意をUAVに引き付け、その間に近接攻撃を仕掛ける。常套ですが堅実ですね』
『私達はザブトムに集中するよ。あの偽物のバルディッシュがハーケンフォームの内に撃破しないと、とんでもない事になる・・・そうだよね、ハラオウン執務官?』
視線を動かす事も無く、既に意識を回復しているであろうフェイトへと念話を送るなのは。
他の魔導師達からも、複数の問い掛けが彼女へと放たれている事を確認し、反応を待つ。
程無くして、返答。
133 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 20:04:58.53 ID:Fxh97U9D
『・・・確証は無いけれど、私の魔法は殆どがコピーされたと考えておいた方が良い。当然、スティンガーやカラミティへの移行も可能だろうね』
『単刀直入に訊くけど。ザブトムがスティンガーを使った場合、私達に捕捉できると思う?』
『「Λ」からの支援に期待、かな』
つまり、実質的に打つ手が無いという事か。
スバル達が艦隊戦の支援に掛かり切りである事は、既に齎された情報より理解している。
現状、この場に存在する戦力のみで、大型敵性体を撃破せねばならぬという事だ。
『やられる前に、って事か』
『次を逃したら、そのまた次は無い。そう思わないと・・・』
『それも違うみたいだ、なのは』
空虚さを孕んだ否定。
割り込む様にして発せられたそれ、フェイトからの念話。
その意図を訝しむなのはの意識中、更に連なる言葉。
『次の次どころか、これで終わりかもしれない』
問いを発するよりも早く、視界へと飛び込む閃光。
金色のそれは、複数の光源より発せられている。
艦艇群外縁、周囲を完全に取り囲む無数の光球。
なのはの記憶、奥底に眠る光景を瞬時に蘇らせるそれら。
彼女は、それを良く知っている。
『あれは・・・』
『高町?』
あれを知っている。
知らない訳がない。
何せ自身は過去に、あれを受けた事が在るのだ。
墜ちる寸前にまで追い詰められた程なのだから、忘れようにも忘れられる筈がない。
あの光球、金色のスフィア。
即ち、フォトンスフィアの多数同時展開が意味するものとは。
『ファランクスシフト・・・!』
漸く、周囲も光球の正体に気付いたらしい。
防御魔法を展開する者、スフィア破壊の為に砲撃魔法を放たんとする者、最寄りの艦艇へと退避せんとする者。
何をするにも手遅れであると、誰もが気付いている。
だからこそ誰もが咄嗟に、各々にとり最善と思われる行動を執っているのだ。
諦観ではない。
防御を選択した者達は未だUAVの姿を探し求めて貪欲に情報を要求し、攻撃を選択した者達は瞬時に10を超えるスフィアを破壊し、退避を選択した者達は艦艇外殻上にて障壁を展開している。
更に其処へと加わる、艦艇群からの無数の砲撃と直射弾幕。
誰もが生き延びる事を、大型敵性体を撃破する事を諦めてなどいない。
だが、同時に気付いてもいる。
艦隊内部から放たれるUAVの波動砲による砲撃、そして外部より放たれるフォトンランサー・ファランクスシフト。
内と外からの極広域殲滅攻撃による挟撃に曝され、生き延びる事など万が一にも在り得ないと。
UAVだけならば、ある程度は空間歪曲で凌ぐ事もできた。
ファランクスシフトだけならば、魔力障壁で軽減もできた。
だが、それらによる同時複合攻撃ともなれば、もはや為す術など無い。
波動粒子弾体によって内部より喰い破られるか、フォトンランサーによって外部より圧し潰されるか。
どちらにせよ、結末は決しているも同然である。
重ねて其処へ、状況の更なる悪化を知らせる報告が飛び込んだ。
『大型敵性体、捕捉! 目標、肩部ユニットより誘導弾射出を確認・・・UAV、2機目です!』
『スフィア群、魔力集束を開始! 射撃開始まで僅か!』
134 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 20:08:53.86 ID:Fxh97U9D
示された目標の位置は、頭上。
反射的に視線を跳ね上げると、視界の中央に大型敵性体の全貌が拡大表示される。
その更に手前、並列表示される接近中のUAV。
半有機的なその全貌が揺らぎ、一瞬にして掻き消える。
UAV、アクティブ・ステルス起動。
大型敵性体、電磁投射砲口を艦隊へと指向。
大口径電磁投射砲による砲撃態勢。
『奴は逃げないぞ、何のつもりだ?』
『もう、逃げる魔力なんか残っていないんだ・・・その必要も無いから』
2機の波動砲搭載UAV、艦隊を包囲するフォトンスフィア。
此処へ更に、大口径電磁投射砲による攻撃が加わる。
これにより敵戦力を殲滅できると、大型敵性体は判断したらしい。
だが、それでも確証は持つまでには到らなかったのか、更に駄目押しの一手が放たれた。
『目標、背部ユニットにて小爆発、連続発生! 小型誘導弾、多数射出を確認! 弾体多数、急速接近・・・いえ、弾体分裂! 子弾展開!』
『子弾、更に分裂・・・まただ・・・また!』
ザブトム背部から後方へと伸長したユニット、その上部より放たれた無数の小型誘導弾。
それらは空間中に排煙の尾を引きつつ、艦隊を目掛け加速。
その軌道上、弾体が分裂し、再分裂、再々分裂と続く。
更にその後も、弾体は僅か数瞬の内に7度にも亘る分裂を繰り返し、最終的に拳ほどの大きさも無い超小型誘導弾の豪雨と化した。
もはや数える事すら不可能となった誘導弾の壁が、雪崩を打って艦艇群および魔導師隊へと襲い掛かる。
後に襲い来るであろう負荷を無視し極限まで強化された情報処理能力による極高速思考の中、入り乱れて飛び交う無数の超高圧縮念話。
『防御しろ、防御だ! 何でも良いから身を護れ!』
『迎撃開始!』
終わりか。
引き延ばされた体感時間の中、なのはは自身の死を予期する。
自身は、此処で死ぬのか。
フォトンランサーによって引き裂かれるか、波動粒子弾体によって掻き消されるか、誘導弾によって打ち砕かれるか。
何れにせよ、肉体の欠片すら残るまい。
抵抗を止める気は更々無いが、それが何らかの肯定的な意味を成すとは、どうにも思えない。
『撃って! 誘導弾の数を減らすの!』
『照準が間に合いません! 意識に身体反応が追い付かない!』
『良いから撃って! 照準なんか構わないで、撃てるだけ撃つの!』
此処まで来たというのに。
あと僅か、今にも手が届かんばかりの距離。
それを越えた先に、全ての元凶が在るというのに。
破滅の権化、悪意の中枢、狂気の根源。
バイドの中枢が、すぐ其処に在るというのに。
『この・・・!』
最後の抵抗。
自身の傍らに浮かぶ光球、桜色の光を放つ魔力集束体へと意識を向けるなのは。
レイジングハートの矛先は既に、その中心へと向けられている。
此処から魔力に指向性を付与して解き放つだけで、ブラスター3をも超える強大な魔力砲撃が放たれる事だろう。
だが、照準を定めている時間が無い。
せめて味方に当たらぬ様、ある程度の方向を定めるだけで限界であろう。
しかし、他に抵抗の術は無い。
この儘では座して死を待つも同然、せめてフォトンランサーと誘導弾だけでも迎撃せねば。
決死の覚悟と共に、彼女は暴発寸前の密度にまで凝縮された魔力集束体、その枷を解き放つ。
135 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 20:10:23.98 ID:Fxh97U9D
同時、金色の雷光もまた自らを縛る枷より解き放たれ、閃光の暴風となって艦隊を襲った。
弾幕などと云う生易しいものではない。
各弾体の区別など全く付けられず、ただ雷の壁としか認識の仕様が無い、圧倒的な魔力の奔流。
なのはに先んじて他の魔導師達より放たれた幾つかの砲撃、常よりも遥かに大規模である筈のそれらが、それこそ針の一刺しにしかならないと思える程の壁。
だが、今更になり反撃の手を止める道理は無い。
自身の魔力光、桜色の閃光が爆発し、視界の全てを覆い尽くす。
『あ・・・!』
青い光。
砲撃の刹那、視界を覆い尽くしたそれは、果たして見間違いだったのだろうか。
なのはには、判断が付かなかった。
自身の内外に対して有する全ての認識が、その瞬間に停止したのだ。
ふと我に返った時、なのはは込み上げる嘔吐感と激しい頭痛、全身の異常なまでの重さと平衡感覚の消失に襲われていた。
何が起きたのか、意識が戻ったのは何時か、この身体の異常はどれほど続いているのか。
何ひとつ理解する術は無く、呻きを零す程度の余裕すら無く、全身を捩りつつ只管に苦痛に耐える他ない。
そうして数十秒、或いは数分が過ぎた頃になり、漸くそれまでの苦痛が「Λ」を用いた「願い」の具現化による反動、情報処理能力を極限まで高めたが故のフィードバックであった事を理解する。
目前の宙空に漂う、無数の汗粒。
額に残るそれらを反射的に手の甲で払った直後、彼女は自身の視界へと映り込む「それ」の存在に気付いた。
「何・・・これ?」
青い結晶の壁。
数瞬して、それが巨大なジュエルシードの結晶体であると理解する。
だが、重要な点は其処ではなかった。
『嘘だろ・・・?』
『ねえ、誰かこれが見える? 私の幻覚じゃないわよね?』
反射的に後退し、少し距離を置いて結晶体の全貌を視界内へと捉える。
それは、単なる壁などではなかった。
本局にてバイドにより複製された大量のジュエルシード、ヴィータの攻撃を防御する為にティアナが発生させたジュエルシード、そのどちらの情報とも合致しない余りにも整った外観。
「Λ」と同様、何らかの目的の下、人為的に成形された構造体。
「まさか・・・」
直径6m前後、巨大なプリンセスカットの宝石にも似た外観。
装飾品としてのダイヤモンドが最も近しい形状と云えるだろうが、透き通った青という色からサファイアがより強く想起される。
だが奇妙な事に、プリンセスカットに於いてパビリオンに当たる部位が半ばから断ち切られており、先端部であるキューレットとの間に1m前後の間隙が開いているのだ。
そして間隙には、あの青白い魔力素が直径2m前後の球状集束体を形成しており、それが前後に分かたれたパビリオン内部の凹部へと嵌め込まれる様に位置している。
前部パビリオンの端部からは90度の間隔を置いて八角柱状の結晶体、約3m程度のそれらが4箇所に配されており、其々が中央結晶体の中心軸から45度の角度で後方へと伸長。
更に、魔力集束体を境に前後のパビリオンが其々に逆方向へと低速にて回転しており、集束体から放たれる魔力光を内部に反射させ煌びやかに瞬かせている。
『これも「Λ」がやっている事なのか? 何の為に?』
余りにも美しく、余りにも異様で、余りにも禍々しい、紺碧の結晶体。
しかし意識中に拡がるは、この場に於いてそれが存在するという、その事実がまるで当然であるかの様な感覚。
その異常を異常と断じられぬ感覚の理由に、なのはは気付いていた。
否、彼女だけではない。
共有された意識を通じ、他者から伝わる同様の感覚。
ふと周囲を見回せば、空間中の其処彼処に同様の結晶体が出現しているではないか。
総数は100や200ではあるまい。
1名の魔導師につき単基から数基、艦艇の周囲を包囲する様に数十から数百基、魔導師と艦艇群の間隙を埋める様にして数千基。
無数の結晶体が、空間中を埋め尽くしていた。
136 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 20:12:30.93 ID:Fxh97U9D
『・・・「プレゼント」ってのはこれの事か、スバル』
はやての念話。
その言葉に、自身の推測が間違ってはいないと、なのはは確信する。
気付かぬ筈がないのだ。
全貌、構造、運動、配置。
それら全ての事象が、忌まわしきあの存在を想起させる。
人類の狂気、果てなき悪意、悪夢の欠片。
「フォース・・・!」
ジュエルシードにより構築されたフォース。
空間を埋め尽くす結晶体は、紛れもないフォースそのものであった。
その事実に、なのはは戦慄する。
ジュエルシードが用いられている事実からして、バイドではなく「Λ」によって起こされた現象であるとは予測が付いた。
それでも、フォースが自身等の周囲を埋め尽くしているという現状は、どうあっても肯定的に捉える事などできない。
だが同時に、眼前のそれが地球軍のものとは根本から異なる事も、漠然とではあるが理解していた。
『ギリギリですが、間に合って良かった。フォースシステム、試験評価工程完了。システム、正常動作を確認。現時刻を以って「B-5D DIAMOND WEDDING」及び「Force system Type Jewel-seed」の実戦配備を完了』
淡々と、既定の文章を読み上げるかの様に紡がれる、スバルの言葉。
呆然としつつもそれを聞き留めていたなのはは、視界の端へと映り込んだ結晶体の存在に身を強張らせ、咄嗟に其方へと向き直る。
フォースが1基、宛ら彼女の護衛に就かんとするかの様に、低速で傍へと接近してきたのだ。
フォースはキューレット部をなのはに向け、約2mの距離を置いて回転運動を維持。
此処に至り、彼女はスバル達の思考を理解する。
「私達に・・・魔導師にフォースを・・・!」
『大型敵性体、捕捉!』
第3支局艦艇より警告。
なのはは慌てる事もなく、ジュエルシードのフォースを見詰めた後、齎された情報に基いて徐に視線を回らせる。
急ぐ必要は無いとの、奇妙な予感が在った。
本来ならば抵抗すら意味を成さず、今頃は欠片も残さず消え去っていた筈なのだ。
にも拘らず、こうして生き永らえているからには、相応の事象が起きている筈だ。
目に見える被害が此方に無いとすれば、大型敵性体の側に何らかの異常が生じているのだろう。
果たして、彼女の視界へと映り込んだ光景は、予測に違わぬものだった。
『・・・どうなってるの?』
『さあ・・・唯、攻撃の必要は無さそうだ』
宙を漂う異形。
それは先程まで、ザブトムと呼称される大型生体兵器であったもの。
鈍色の装甲に覆われた巨躯、人のそれからは余りにも掛け離れた全貌。
背面のVLSユニット、肩部のUAV格納ポッド、腰部の大口径電磁投射砲身。
ザイオング慣性制御機構を内蔵した下半身、計3対もの腕部、巨大なバルディッシュ。
それら全てが原形を失い、無機物が入り混じる炭化した肉塊と化して、力無く無重力中に浮かんでいた。
辛うじて原形を残す頭部は上顎の右側面が失われ、大量の血液を噴き出し続けている。
胸部生体核は破裂したのか失われており、装甲の残骸上に僅かな膜状組織がこびり付いているのみだ。
目標が生命機能を維持しているとは、とても考えられない。
『何が・・・何が起こったの? 敵の攻撃は? UAVはどうなったの?』
『UAV、1機の撃墜を確認・・・もう1機だが、狙撃班による無力化に成功した。現在、第6支局の面々が制御中枢の掌握を試みている』
『UAVまで仕留めたのか? 狙撃班、何が起きた』
『砲撃の為に姿を現したUAVを狙撃、無力化に成功。直後に極めて大規模な魔力爆発が発生、残るUAVと大型敵性体は沈黙。後は見ての通りだ』
137 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 20:48:16.64 ID:Fxh97U9D
ヴァイスからの報告を聞き、なのはは疑問を抱く。
魔力爆発とは何の事か。
砲撃を放った事は覚えているが、幾ら大規模とはいえ爆発とは。
訝しむなのはを余所に、ヴァイスが続ける。
『そろそろ説明してくれないか、御三方。このフォースもどき共が直射弾を無効化した事は解るが、敵に何が起こったのかさっぱりだ。何をしやがった?』
その言葉に、再度フォースを見遣るなのは。
相も変わらず青白い輝きを纏ったそれは、表層の何処にも傷ひとつ認める事はできない。
だがヴァイス曰く、これらフォースがフォトンランサーの弾幕を無効化したという。
確かに本来のフォースは敵の攻撃を各種制限は在れど一方的に無効化し、R戦闘機の生存性を飛躍的に高める一因となっている。
だがそれは、フォースの構築に於いて純粋培養されたバイド体を用いる事で実現した結果であり、次元世界からすれば完全なオーバーテクノロジーだ。
如何な「Λ」とはいえ、そんな代物を再現できるものだろうか。
『純粋魔力攻撃に関しては、このフォースによる防御を突破する事はほぼ不可能です。対象が魔力素によって構成された存在である限り、フォースはそれらを一方的に吸収する。質量兵器相手でも、ある程度の防御性は確保できるでしょう』
『なるほど、防御兵器か。それでティアナ、化け物が死んでいるのはどういう事だ? フォースか、それともお前等が目標を攻撃したのか』
『攻撃を実行したのは、紛れもなく魔導師と艦艇群です。大型敵性体もUAVも、砲撃によって撃破された』
『砲撃って、狙撃班が言っていた爆発の事? 一体、何をしたの』
改めて、粉砕された大型敵性体の頭部へと視線を移す。
在り得ない。
砲撃は狙いも定まらず、誤射すら覚悟した上で放たれたものだ。
その内の数発が奇跡的に目標を捉えたのだとしても、あれだけの被害を齎せるものとは思えない。
そもそも、それだけではUAVが撃墜されている事象に説明が付かないのだ。
「Λ」は、何をしたのか。
『地球軍のフォースが有する機能を、限定的にではありますが魔法技術体系に適合させて再現しました。外部より付与された魔力を選択的に増幅させ、改めて外部へと放出する。放出形態や増幅率は、入力側の意思で細部まで制御可能です』
『さっきの爆発が、それ?』
『緊急時であった為、設定は此方で行いました。放たれた砲撃をフォースが受け、増幅して拡散型として放出した。放出された砲撃を別のフォースが受けて増幅、再度放出。これを繰り返し、範囲殲滅型全方位戦略砲撃としました』
『あの一瞬で? 誤射を避けて、UAVまで仕留めたと?』
『はい』
『大型敵性体まで巻き込んだの? 信じられない・・・』
砲撃魔法を吸収し、増幅した上で撃ち出す。
無数のフォース間にてこれを繰り返し、範囲殲滅魔法にまで昇華させたという。
理屈は単純だが、実現に当たっての問題など幾らでも考え付く。
だが、そんな問題は「Λ」にとって、些細なものなのだろう。
何せジュエルシードによって構築されたフォースを操る、ジュエルシードによって構築されたR戦闘機なのだ。
此方の常識など、その力を論じる上で何ら用を成さないだろう。
『その為にこれだけの数を揃えたのか? とんでもない話だな』
『発生させるだけなら、それこそ幾らでも。唯、此方が干渉する空間範囲内の同時展開数によっては、存在を維持できる時間が減少します』
『どういう事?』
『制御が極めて難しく、フォースが自己崩壊してしまうのです。今回発生させた程度の数ならば問題は在りませんが、更に数を増やすと数十秒程度で崩壊してしまう。無制限に発生させられる訳ではない』
『運用には戦略が必要か』
傍らのフォースへとレイジングハートの矛先を突き付け、魔力集束を開始。
すると集束した魔力素は、溶け込む様にフォースへと吸収された。
同時に意識中へと反映される、フォースによる出力制御情報。
余りにも自然に意識へと適合するそれに薄ら寒いものを覚えつつも、なのはは制御能力を把握する為に操作を続行する。
増幅率300、弾体魔力密度維持。
増幅形式、弾数増加。
出力形式、精密誘導操作弾。
基礎弾体数100、出力実行。
「・・・成程ね」
138 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 20:50:03.10 ID:Fxh97U9D
瞬間、総数300発もの誘導操作弾が、フォースの前面へと出現。
加速の指示を与えてはいない為、全弾が魔力球として出現箇所へと固定されている。
弾体毎、個別に低速誘導操作を開始。
「Λ」からの補助によって情報処理能力が向上している事により、なのはは苦も無く全ての弾体を自在に操る。
更に増幅率を増大、700へ。
基礎弾体数は先程と同じく100、出力実行。
今度は700発の誘導操作弾が出現。
先程の300発と合わせ、計1000発もの誘導操作弾がなのはの意の儘に宙を飛び交う。
それらの操作を続行しつつ、彼女は問いを投げ掛けた。
『スバル、増幅率の限度は?』
『現状では5138です。しかし、増幅する魔法の種別によっては、限界値が変動します。射撃系、砲撃系とは相性が良いのですが、補助系では情報処理量が増大する為、幾分か・・・』
『警告! 大型敵性体に異変! まだ生きているぞ!』
スバルが通常念話による言葉を終えるよりも早く、艦艇群からの警告が意識中へと響き渡る。
瞬時に全ての誘導操作弾を霧散させ、目標の全貌を拡大表示。
視界の中央、映し出されるは歪な肉塊。
『しつこい奴だ、まだくたばらないのか!』
『見て、頭が・・・!』
その頭部、僅かに残された頭蓋を内側より喰い破り、巨大な肉腫が出現する。
見る間に体積を増し、遂には触手状となったそれは大蛇の如くのたうちながら、周囲へと拳程の大きさの球体を無数に撒き散らす。
それらの球体は液体を噴き出しつつ急激に成長し、鞭毛を有する芋虫の様な外観となって、泳ぐ様に宙空を移動し始めた。
醜悪な外観のそれらは、明らかに艦隊を目指し接近してくる。
だが、その速度はこれまでに確認された大型敵性体の攻撃、それら何れと比較しても余りに低速であった。
正真正銘、最期の足掻きなのだろう。
『小型生体誘導弾、低速にて接近中! MC404・・・』
『待って』
迎撃を開始せんとする艦艇群へと、制止を掛けるなのは。
同様の念話が、其処彼処から艦艇群へと飛んでいる。
考える事は、皆同じだ。
『このフォースの性能を、自分の目で確かめてみたいの。さっきの砲撃は、何が何だか分からない内に終わっていたから』
『同感だ。情報は容易に受け取る事ができるが、実感が伴わないのでは今後の利用に支障を来す。此処で機能を把握しておきたい』
この先、否応なしに戦術へと組み込まねばならないのだ。
信用に値するとの確証が得られなければ、生命を預ける事など到底できはしない。
使えるか否か、此処で判然とせねば。
『・・・了解。迎撃および大型敵性体への攻撃は、魔導師隊に任せる。各艦、バックアップに回れ』
艦艇群による迎撃準備の中断を確認し、なのははフォースを介しての砲撃準備へと移行する。
スターライトブレイカーによる砲撃を先ず想定したが、それでは威力過剰になる恐れ在りと判断し、ショートバスターによる攻撃を選択。
増幅率1500程度で砲撃し、どの程度の規模および威力となるかを把握しておけば、今後の戦闘に於いて状況を優位に運べると判断したのだ。
もし砲撃の威力が想定を下回ったとしても、他の魔導師達も大型敵性体へと攻撃を実行する為、危機的状況へと陥る可能性は低いだろう。
レイジングハートの矛先を大型敵性体へと向けるなのは。
フォースは矛先の動きに寸分違わず追随し、なのはの視界を塞ぐ様にして正面へと位置する。
だが、問題は無い。
フォース前面部より前方の映像は、視界内へと鮮明に映し出されている。
そして照準が定まるや否や、加速した思考で以ってフォースへと干渉を開始。
増幅率1500、砲撃魔力密度増幅。
増幅形式、魔力集束値増強。
出力形式、強化型簡易砲撃。
射程延長、出力実行。
139 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 20:56:20.15 ID:Fxh97U9D
『撃て!』
攻撃指示を認識すると同時、フォースの中心を目掛けショートバスターを放つ。
至近距離より放たれた簡易砲撃がフォースへの着弾と同時に吸収され、視界中央で強烈な桜色の閃光が瞬いた。
そして、並列表示された視界の中、拡大表示された大型敵性体が100を超える光条によって切り刻まれ、瞬時に細分化される。
直後、白光を放つ大規模砲撃魔法が生体誘導弾および大型敵性体残骸の全てを呑み込み、閃光を放ちつつ闇の彼方へと消え去った。
なのはは暫し呆然とし、次いで溜息を吐いて念話を送る。
『・・・やりすぎだよ、八神捜査官。これじゃ増幅の効果も良く分からない』
デバイスの矛先を下ろし、全身から力を抜くなのは。
ゆっくりと深呼吸し、肉体と精神、双方の疲労を落ち着かせんと試みる。
だが、余り効果は無い。
仕方が無いと諦め、極めて高い密度にて交わされる念話を意識の端へと留めつつ、先程の砲撃を振り返る。
まるで光学兵器だ。
単なる簡易砲撃魔法が、地球軍の光学兵器にも匹敵する長射程、大威力の光線と化したのだ。
流石に純粋な威力では劣るであろうが、崩れ掛けの肉塊同然とはいえ大型敵性体の体組織を一瞬にして蒸発させ、焼き切るかの様にして解体せしむる貫通力。
これは、魔力集束値と射程延長に重点を置き、簡易砲撃を長距離砲撃として強化した事による結果だろう。
実戦で連続使用するには、制御面での複雑さも在り幾分か運用し難いが、しかし大体の感覚は掴む事ができた。
『一々設定し直すより単に魔力増幅の設定をしておいて、其処に砲撃を撃ち込む方が実戦的だね。どんな感じだったか、分かる人は居る?』
『それで充分でした。特に複雑な設定をせずに撃ち込んでみましたが、問題なく目標まで届いた。負荷も少なくて済みますし、フォースの寿命も延びるでしょう』
『集束砲撃の使用は控えた方が良いかもな。術式が複雑な所為か増幅限界値が下がってしまう上に、今のでフォースが崩壊を始めている。直射砲撃の強化に使うのが無難だろう』
直射砲撃との相性は良く、実戦的な運用が可能。
集束砲撃は増幅率が低下し、しかもフォースの崩壊に繋がる為に危険性が高い。
これらの情報から推測するに、意識を取り戻した直後に目にしたフォースは迎撃時の砲撃を増幅したものではなく、その後に新たに発生したものであったらしい。
飛び交う念話の中から、自身の疑問に答えるものを抜き出し、更にその中から特に有用と思われる情報を選別する。
意識中にて内容を反芻し、その情報に基き自己の戦術を再構築。
簡易砲撃魔法による連続砲撃を主軸に、高機動格闘戦を主体とする戦術を組み上げる。
更に、遠距離の敵に対しての集束型砲撃魔法による超長距離砲撃戦術を同時構築。
集束型の砲撃を実行すればフォースの崩壊は避けられないだろうが「Λ」によるバックアップの存在を考慮すれば神経質に避ける必要も在るまい。
一連の作業を数秒の内に済ませた後、なのははふと気付く。
はやてからの応答が無い。
どうやら意識の共有すら断っているらしく、返答のみならずあらゆる情報が遮断されているのだ。
何か在ったのかと微かな危惧を抱き、なのははフォースを介してはやての姿を意識中へと並列表示、通常念話を用いて語り掛ける。
管理局員としてではなく1人の友人としての口調で。
『はやてちゃん、何か・・・!』
親友を気遣う言葉は、その全てが発せられる前に途絶えた。
視界内へと映し出されたはやての姿。
彼女がその顔へと浮かべる、これまでに目にした事も無い形相に、なのはの意識が凍り付く。
眼前に浮かぶフォース、その表層を睨み据えるはやて。
その表情は常の柔和なものからは掛け離れ、別人の様に歪み切っている。
限界まで見開かれた眼、薄く開かれたまま小刻みに震える唇、死人の様に青褪めた肌。
シュベルトクロイツを構える右手は、骨格が浮かび上がり、肌が変色する程に硬く握り締められている。
徐々に荒くなる呼吸、掻き毟るかの様にバリアジャケットの胸元へと爪を立てる左手。
左腰部に固定された夜天の書が微かに青白い燐光を放ち、背面より拡がる3対の翼からは時折、白と青の魔力光が電流の如く奔る。
そうして、はやての唇が微かに動き、何らかの言葉を紡いだ。
「ッ・・・!」
途端、視界を閉ざすなのは。
自身が目にしたもの、それを肯定する事ができない。
そうして、はやてが居るであろう方向を呆然と見遣る。
140 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/25(日) 21:05:24.98 ID:Fxh97U9D
はやては、何と口にしたのか。
凡そ肯定的な言葉でない事だけは確かだ。
理解してはいるが、それをはやてが口にしたという事が信じられない。
彼女がそんな言葉を口にするまでに変貌してしまった、その事実が信じられない。
家族を失って以降の彼女は、確かに変わった。
以前の明るさは鳴りを潜め、虚ろとも云える無表情を張り付けている事が殆どだった。
今の彼女は、それ以上に追い詰められている様に見える。
明らかな憎悪に染まった表情、彼女本来の人柄からは想像も付かない言葉。
しかも、それら変貌の矛先はバイドでも地球軍でもなく、恐らくは「Λ」とそれ自体であるスバル達へと向けられている。
ザフィーラの死の真相を知ってしまった以上、無理もない事だとは思う。
それでも、はやての豹変振りは信じ難い程のものだ。
彼女は、どうなってしまったのか。
これから、どうなるのか。
『敵戦力の殲滅を確認。これより部隊を再編し、天体中枢部へと向かう。魔導師および各機動兵器は、最寄りの支局艦艇へと集結せよ』
自己の内へと沈みゆく意識が、飛び込んできた念話によって強制的に引き上げられる。
支局艦艇からの指示だ。
なのはは強制的に思考を切り上げ、周囲を見回す。
其処彼処で魔導師達が集結し、小集団を形成し始めていた。
合流し、支局艦艇へと向かうのだろう。
並列視界を再展開するなのは。
フェイトの周囲を表示すると、ユーノを始め周囲の魔導師達が合流している。
第6支局へと向かう様だが、其処には家族であるリンディを含め、多数の仲間達が待っている事だろう。
一方ではやてには、ヴィータとシグナムが合流した様だ。
シグナムの姿は先程までフェイトの傍らに在った筈だが、今は主であるはやてに付き従っている。
はやてとシグナムの位置はかなり離れていた筈だが、その距離を飛んで主と合流する事を選んだのだろう。
騎士として主の守護を優先したのか、或いは家族との合流を望んだのか。
何れにせよ、彼女達の間には強い絆が在る。
状況に翻弄され摩耗したはやての精神も、何れは彼女達の存在によって癒される事だろう。
そして彼女達も、第6支局を目指しているらしい。
ふと、なのはは地球の家族、そして友人達の事を思い出した。
両親に兄と姉、親友達との絆。
フェイトとユーノ、はやてとその家族。
彼等の強固な絆を目にした為か、少し人恋しくなっているのかもしれないと、彼女は自嘲する。
そうして、何としても彼等を、故郷を護るべく、この状況を終わらせねばならないと決意を改めるなのは。
そして同時に気掛りとなるのは、ミッドチルダに残してきた自身の娘、ヴィヴィオの安否。
齎された情報に依れば、クラナガンには地球軍の主力戦艦1隻が落着しているという。
状況からして惑星が破壊される事はないであろうが、都市への被害は甚大だろう。
どうか無事であって欲しいと、信仰している訳でもない神へと祈る。
「一尉、高町一尉!」
自らを呼ぶ声に、我に返るなのは。
並列視界を閉ざし、声のする方向へと。
直後、彼女は思わず表情を綻ばせた。
「ミシア! アレン!」
忘れる筈も無い人物。
それは、彼女の教え子達だった。
徐々に集結する面々の中には、当初より作戦に参加していた者も居れば、本局に残っていた筈の者も居る。
無論、戦死した者も決して少なくはなかろうが、それでも多数が生き延びていたのだ。
そうして30名を超える若年の魔導師達が集まり、口々になのはを呼ぶ。
鬱屈とした精神を拭い去る、内より溢れる安堵と歓喜。
それらを抑える事もせず、彼等と合流すべく移動を開始しようとした、その矢先の事だった。
141 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:13:05.18 ID:HdJJuXh1
「・・・ッ!?」
赤黒く染まる視界、空間中を埋め尽くす異形の群れ。
「あ・・・あ・・・?」
「一尉?」
ふと、我に返るなのは。
彼女の目前には、教え子の1人であるミシアの顔が在った。
不自然に動きを止めたなのはを気遣い、その顔を覗き込んでいたらしい。
だが、なのはは僅かに後退し、信じ難い思いでミシアの顔を見詰める。
当のミシアは、自身へと注がれる師の視線、不審な挙動に戸惑っている様だ。
それでも、なのはは彼女の顔を凝視し続ける。
「あの、何か・・・?」
一体、何だったのか。
先程の一瞬、視界の全てが、宛ら生命体の如く脈動した。
闇の彼方に灯った赤黒い光が爆発的に膨れ上がり、瞬時に空間中を埋め尽したのだ。
そして、視界の全てが赤黒く染まった瞬間、其処に映り込む存在の全てが形を変えた。
あらゆる存在、あらゆる事象が「高町 なのは」という存在にとって、決して受け入れられぬ「何か」へと変貌したのだ。
次元航行艦も、機動兵器も、そして魔導師さえも。
記憶する事も、それ以前に認識する事すら覚束ない、人間の知覚域外に位置する存在へと変貌し、なのはという存在に対して牙を剥いたのだ。
それは、目前のミシアを含めた、教え子達であっても例外ではない。
「一尉、御気分が優れない様ですが・・・」
物理的な攻撃などではなかった。
生命個体としての本能により「攻撃」であると認識される、それ以外に理解する術など無い何らか手段で以って、なのはという存在に対し危害を加えようとしたのだ。
人間としての能力では決して理解など叶わぬ、正しく「悪意」としか表現の術が無い「攻撃」。
それを受けた側に何が起こるかさえ理解できぬ、異常なまでの密度で以って放たれた「悪意」そのもの。
その「悪意」に対する、曖昧ながら強烈な拒絶がなのはの内に燻り、教え子達への接近を躊躇わせていた。
そんな彼女の様子を訝しんだのか、彼等は気遣う様に次々と言葉を発する。
「一尉、第6支局へ行きましょう。八神捜査官も、ハラオウン執務官も其処に向かっています。戦闘の疲れも在るでしょうし、休息を取られては如何ですか」
「部隊を再編するにしても、互いの戦術を良く知る面々が居た方が心強いでしょう」
「スクライア司書長も八神三尉も居られますし・・・どちらと組むにせよ、有名コンビネーションの復活ですね」
口々にこれからの選択肢を述べる教え子達。
其処には、フェイトやはやて達のそれにも劣らぬ、確固たる絆が在った。
心の底からなのはを信頼し、彼女の教えを自身の支えとし、時に彼女を支えもする彼等。
そんな彼等を前に、なのはは何処か虚ろに言葉を紡ぐ。
「ごめん」
「一尉・・・?」
答えは出ない。
先程の現象、恐らくは幻覚であろうが、それが何であったかは全くの不明だ。
だが、結果としてなのはは、漠然とした不安を有するに到っていた。
論理的な根拠など全く存在しないが、自己の内に在る何かが訴え掛けているのだ。
「皆、もう行って」
142 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:14:02.66 ID:HdJJuXh1
絆が在ると思っていた。
教え子達との間に結ばれたそれを大切に思っていたし、今でもそうであると信じている。
だが、何かが。
何かが、自己の内で叫んでいる。
「一尉? 第6支局は向こうで・・・」
「行けない」
まだ間に合う。
まだ、間に合うのだ。
触れるな、信じるな、呑み込まれるな。
自己を持て、何物にも侵されぬ自己を持て。
この広大な次元世界で、独りきりの自身。
誰よりも孤独である事を理解し、それを侵されてはならない。
「行けないよ・・・」
独りきりの、何だというのだ。
触れるなとは、何に対してだ。
信じるなとは、何に対してだ。
呑み込まれるなとは、バイドと相対する上での危機感ではないのか。
自己とは、他ならぬ自身の精神の事だ。
元より誰にも侵せない個であるし、これからもそうだ。
それでも、独りではない。
自身には親友も、仲間も、娘だって居る。
何故、孤独だというのか。
「私は・・・」
解らない。
何も解らない。
だが1つだけ、解らずとも確かな事が在る。
自己の内に生まれた、出所すら不明な確信。
泣き叫ぶ少女の様に、怨嗟を吐き出す女性の様に、絶望に拉がれる老婆の様に。
声高に叫び続ける、警告とも悲鳴ともつかぬそれ。
「私、第1支局に行くね」
「彼等」から、離れなければ。
『R戦闘機、急速接近中!』
スバルからの警告。
皆の注意が自身から逸れた瞬間、なのはは身を翻して第1支局艦艇へと向かう。
その胸中を占めるは敵機接近に際しての危機感でも、教え子達に対しての後ろめたさでもなく。
自己の内に木霊する警告への疑念、そして「彼等」から離れる事ができたという安堵のみであった。
143 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:14:33.82 ID:HdJJuXh1
飛び交う圧縮念話が、その密度を増す。
散開する艦艇群、急変する戦局。
止められる者など、何処にも存在しなかった。
* * *
『R戦闘機が接近している。「Λ」制御下の機体群による防衛網は突破されたみたいだ』
『撃墜されたんですか?』
『いや、どうやら足止めを残して振り切られたみたいだね。地球軍は慣性制御機構に対する干渉の、完全な無効化に成功したんだろう』
その言葉を聞き、キャロの思考に不快を示す微かなノイズが奔る。
遂に、最悪の事態が起きてしまった。
地球軍が全力戦闘を展開する、その為の条件が整ってしまったのだ。
最早、彼等を縛る枷は存在しない。
『接近中の敵機は余程、警戒を強めているみたいだ。接近を感知してから5秒経過しても、未だ此処まで辿り着いていない』
『これまでの戦況の推移を考えれば不思議でもない。「Λ」は何て?』
『呼び掛けに応答しない。何かやってるみたいだ、あの3人』
現在、ベストラ外殻に立つ彼女の傍らには、エリオとセインが居る。
隠密行動に特化したISを有するセインは、当然ながら前線に出る事など無い。
そしてザブトムを相手取るには、突撃を主とするエリオの戦術は余りにも不向きだった。
其処で2人は、超長距離からヴォルテールによる支援砲撃を行うキャロ、その護衛に当たる事を選択したのだ。
『地球軍に対する工作か。成功したのかな?』
『それなら連絡が在るんじゃないかな。何も言ってこないって事は・・・』
『「Λ」より総員、緊急』
『そら、噂をすれば』
3人の間に、肉声での会話は無い。
発声を介していては、情報交換に時間が掛かり過ぎるのだ。
だからこそ多少の負荷を覚悟の上で、圧縮念話を用いての会話を行っている。
肉声では数十秒を要する情報交換の内容でも、これならば1秒にも満たない時間で済ませる事が可能だ。
「Λ」によりフォース・システムが実装された事で、負荷自体は相当に軽減されている。
だがそれでも時折、思考中を奔るノイズが脳機能へと幾分かの負荷を掛けていた。
圧縮念話を負荷なく常時使用するには、更なる「Λ」の機能更新を待たねばなるまい。
『地球軍第17異層次元航行艦隊に対する情報工作に成功。応答は在りませんが、国連宇宙軍上層部の真意は、確実に彼等へと伝わっています』
『そりゃ良いや。それで、結果は何時出るのさ、ノーヴェ。いや、誰が答えても同じかな?』
『すぐに解るさ。接近中のR戦闘機群がこっちを素通りすれば成功、攻撃してくれば失敗だ』
『予想通りの回答を有難う。要するに命懸けの検証が必要って事ね』
ティアナとノーヴェ、即ち「Λ」からの圧縮念話を受け、頭上の空間を視界中へと表示。
既に意識の共有は深部にまで及んでおり、特にキャロとエリオの間では、セインとのそれと比して遥かに深層まで共有が進んでいる。
意識共有による蟠りの解消を願い、キャロが望んだ事だ。
エリオはそれを受け入れているが、最深部に位置する自己を成す根幹に対しては、決してキャロの意識を触れさせない。
外界に対する現状の認識、思考表層部の常時共有を果たしても、彼の心には触れる事ができないのだ。
共有開始直後には余す処なく覗く事ができたそれも、今ではエリオ自身の意思によって完全に閉ざされてしまっている。
自身の心を伝える事ができたか否か、それを確かめる事すらできないと知り、キャロは失望した。
だが、今は戦況に集中すべきと自己を戒め、友軍への援護に集中してきたのだ。
それは、彼女の中に刻まれた強い決意、それが在るからこそ為せるもの。
もう、迷わないと決めた。
エリオが表層的に自身から離れる事を望んでも、それが全く見当違いの思考と優しさによって導き出された結論である事は、既に暴かれているのだ。
絶対に離れてなどやらないし、黙って彼を行かせる気も無い。
要は全てが終わった後に、縛り付けてでも離れない様にしてしまえば良い。
その残酷な優しさでどれだけ自身が傷付いたか、自身の無責任さがどれだけ彼を傷付けたか、また彼自身が何故それらを理解できないか。
胸中に渦巻くそれらの全てを、彼に叩き付けてやる。
離れるというのならそれら全てを受け止め、思い切り自身を罵倒してから離れて行けば良い。
徹底的に軽蔑して、嫌悪して、唾を吐き掛けて去れば良い。
144 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:15:05.09 ID:HdJJuXh1
だが、それでも此方を気遣い、彼と離別した上での幸せなど願っていたならば。
何ひとつとして理解せず、性懲りも無くそんな事を願っていたならば。
その時は、もう絶対に逃がさない。
何をしてでも彼を自身の側へと留め、これ以上ないという位に幸せにしてやる。
彼が間違っていたと、彼と離れた上での自身の幸せなど在り得なかったのだと、一生を掛けて彼に理解させてやる。
もう決めた事だ、絶対に覆りはしない。
『・・・来た』
エリオの言葉に、視界の一部を拡大表示する。
其処に映り込む、漆黒のR戦闘機。
見覚えの在るそれに、キャロは苦々しく念話を紡ぐ。
『メテオール・・・!』
「R-9C WAR-HEAD」
コールサイン「メテオール」。
炸裂型の半実体化エネルギー砲弾を連射する機能を有し、更には超広域を巻き込む拡散型波動砲を搭載する、極広域殲滅戦特化機体。
現状に於いて交戦するとなれば、正に最悪の機体であろう。
『よりにもよって最悪なのが来やがった。さて、どうなるかね?』
『もう、結果は出た様なものでしょう。この距離で攻撃されていないとなれば、答えはひとつだ』
だが、その最悪の展開は避ける事ができたらしい。
メテオールが突如として転進、艦隊外縁をなぞる様にして飛び去ったのだ。
加速した思考の中、R戦闘機の通過に伴う衝撃波で、十数名の魔導師が負傷したとの報告が齎される。
情報工作完了の報告から、実に10秒と経っていない。
『・・・まさか、本当に上手くいくとはね』
『何、エリオ。アンタ、アイツ等の事を信じてなかったって訳?』
『疑ってもしょうがないでしょう、あんな工作。失敗する公算の方が遥かに大きかった筈です』
『まあ、そうなんだけどね』
明らかに攻撃態勢を取っていたメテオールが離脱した事により、交信密度を増す圧縮念話の内には安堵と歓喜の声が交差する。
少なくとも、艦隊ごと波動砲で消し飛ばされる心配は、一先ずは無くなったという訳だ。
其処へ更に、スバルからの報告が飛び込む。
『防衛ラインにて交戦中であった地球軍R戦闘機が、反転離脱を開始しました。アクラブ、ゴエモン、ホルニッセ、パルツィファルの離脱を確認』
『目的は天体からの脱出か?』
『ポイントを変えて再度、中枢部へと侵攻を掛ける模様。ヤタガラス、ベートーヴェンは既に防衛ラインを突破しています』
『・・・本気で、皆殺しにする心算だったんだな』
背筋を奔る、冷たい感覚。
あと十数秒、工作の完了が遅れていれば。
管理局艦隊は殲滅戦に特化した3機種のR戦闘機から、波動砲による一斉砲撃を浴びせ掛けられていた事だろう。
拡散型波動砲に熱核融合型波動砲、詳細は不明ながら稲妻状の波動エネルギーによる極広域破壊を引き起こすとされる波動砲。
それら全ての砲撃を受けたならば、艦隊が如何なる被害を受けるかなど考えるまでも無い。
それこそベストラも含め、塵すら残らないだろう。
「Λ」が如何に強力であろうと、波動砲に抗し得る防御策など、未だ存在し得ないのだ。
『まあ、結果は上々って事だね。それじゃあ、さっさと支局に行きますか。ベストラは破棄するんでしょ?』
『ええ、これ以上は足手纏いでしかありませんから。生存者は第7支局に移送して・・・』
『総員、緊急』
ティアナからの念話。
瞬間、共有意識内に緊張が奔る。
思考速度を再加速、情報共有深化。
145 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:15:39.78 ID:HdJJuXh1
『地球軍第17艦隊による異常行動を確認。現在、四十四型による偵察活動を継続中』
『異常行動? 何をしているの』
『艦隊旗艦、ニヴルヘイム級「クロックムッシュU」及び「マサムネ」による、第97管理外世界への対地砲撃を確認しました』
一瞬、思考が停止する。
ティアナは、何と言ったのか。
地球軍が、何をしたと。
何を、攻撃したと。
『・・・確認する。地球軍が、地球を攻撃しただと?』
『はい。ユーラシア大陸全土に対し、主砲による砲撃を加えています・・・マサムネ、戦略級核弾頭搭載巡航弾発射。着弾まで3秒』
『随伴艦艇群からも砲撃が。巡航艦艦首波動砲による砲撃を確認、北米大陸西岸部に着弾。周囲700kmは壊滅状態』
『アフリカ大陸全域、計25箇所での核爆発を確認。R戦闘機群、軌道上からの波動砲による地上掃射を開始』
『落ち着いて・・・落ち着いて下さい!』
『誰でも良い、医療魔法が使える奴は居ないか!? 鎮静効果の在る奴だ!』
何か、騒ぎが起こっている様だ。
どうやら、誰かが錯乱しているらしい。
何故かは解らないが、先程の戦闘で精神的な負荷が限界を迎えたのだろうか。
『ユーラシア大陸東部、R-9Sk2部隊による地表への大規模焼却が進行。中間圏界面でのデルタ・ウェポン発動を確認、宙間核融合反応強制励起を観測。ロシア東部、中国、朝鮮半島全域が炎に覆われています』
『マサムネ、偏向光学兵器照射。樺太島の北端に着弾、列島を南下しつつ掃射中』
『よせ、暴れるな! 落ち着くんだ、一尉!』
『手が付けられない! 誰かバインドを!』
『欧州全域、宙間巡航弾18基の着弾を確認。核爆発発生を観測』
『南米大陸、陽電子砲着弾。続いてオーストラリア大陸への着弾を確認』
何故だ。
第17異層次元航行艦隊は何故、この様な意味不明の行動に出たのか。
自身等の故郷を破壊して、何の意味が在るというのか。
『故郷ね・・・』
『何か?』
『北極圏および南極大陸に置いて核爆発を観測。周辺海域での大規模な海面隆起を確認、津波発生』
『奴等、本当にそう思ってるのかな』
セインの意識を読み取り、キャロは成程と納得する。
こういう時、意識共有は実に有用だ。
相手の真意を、余す処なく理解できる。
どちらかが隠そうと、或いは誘導を試みない限り、擦れ違いなど起こりようも無い。
『第17艦隊、対地攻撃中断。汚染艦隊との交戦を開始』
『あの21世紀の地球が、彼等の故郷である22世紀の地球と繋がっている訳ではありませんからね。違うと判断したからこそ、彼等は攻撃を実行した』
『もし繋がっていたとして、奴等が攻撃を躊躇うかどうかは怪しいけどね。でも問題は、そんな事をして何の得が在るのかって事だ』
正に、其処が問題である。
第17艦隊が上層部に対する叛乱を起こした事は間違い無いであろうが、だからといって21世紀の地球を攻撃する道理が解らない。
これまでに確認された第17艦隊からの攻撃を見る限り、既に原住民は全滅に近い被害を受けている事だろう。
違う時間軸であるとはいえ、自らの祖先に当たる人々を虐殺して、何が得られるというのか。
『独立表明の心算でしょうか。第17艦隊が独自の文明圏となる、その為の意思表示の可能性は』
『誰に対してそんな事するのさ。それで、私達はもう地球とは何の関係も在りません、これから仲良くしましょう、何て言うとでも?』
『在り得ませんね』
『それ以前に、曲りなりにも地球軍の一員であった彼等が、そんなセンチメンタルな理由で無駄な攻撃行動を起こすとは思えない。何か別の理由が在る筈です』
圧縮念話を交しつつ、外殻上に腰を下ろしていたセインが立ち上がる。
加速した意識の中、その動きは酷くゆっくりと感じられるが、体感時間に関する制御を少し弄るだけで違和感は消えた。
そうして、特に新たな念話を交すでもなく次の言葉を待っていると、簡単な柔軟体操を終えたセインが首を捻りつつ支局艦艇を指す。
『如何でも良いけど、早く行かない? 奴らより先にバイドの中枢を抑えなきゃならないんでしょ。今から行ってもキツイと思うけど』
146 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:16:11.24 ID:HdJJuXh1
言葉を紡ぎ終えるなり、彼女は外殻を蹴って宙へと躍り出た。
飛翔魔法には不慣れと聞いていたが、泳ぐ様にして飛ぶ彼女の姿は中々に様になっている。
加速し支局艦艇へと向かう彼女の背を見送り、キャロは傍らのエリオへと視線を移した。
彼は宙を見上げたまま、その場を離れようとはしない。
エリオは、キャロが動くのを待っているのだ。
そんな彼の様子を横目に眺め、微かに息を吐くと、彼女もまた外殻を蹴って宙へと浮かび上がる。
『ライトニング02、これより第2支局に・・・』
『総員、耐衝撃態勢!』
その、直後。
ティアナからの警告と同時、視界が白く染まった。
衝撃が来ると理解したのも束の間の事、何ひとつとして対策を実行に移せない儘、全身を襲った破壊的な力の壁に思考を粉砕される。
麻痺する聴覚、背面に衝撃。
エリオが自身を受け止めてくれたのだと、すぐに理解する。
全身を外殻へと打ち付け意識を失う事態こそ避けられたものの、閃光により視覚を、轟音により聴覚を奪われたキャロ。
だが、彼女はそれらの障害を無視し、念話の傍受に意識を傾ける。
その傍ら、エリオより発せられる圧縮念話。
『今のは何だ! 艦艇、詳細を!』
『第1支局より総員、先程の閃光は砲撃だ! 波動粒子による砲撃、第12層を貫通し天体中枢部へ!』
『何処だ、視覚が麻痺して何も見えない!』
『総員、本艦からの映像を転送する。目標までの距離、約20000・・・警告! 第12層崩壊地点よりR戦闘機の複数侵入を確認!』
未だ回復しない自身の視界内ではなく、意識中へと直接展開される並列視界。
其処には第12層、先程の砲撃により破壊された地点から空洞内へと侵入する、複数のR戦闘機が写り込んでいた。
見覚えの無い外観、機体上部および後部へと突き出した柱状構造物、下部へと延びる2基のスラスターユニットらしき部位。
『目標補足。「R-9B STRIDER」全領域巡航型試作戦略爆撃機。T&Bエアロスペース製、試作型純粋水爆弾頭搭載宙間巡航弾「XACM-508 BalmungU」による戦略級核攻撃能力を保有』
戦略爆撃機。
その機種に対し思う処が在るのか、エリオが不審を覚えている事を感じ取るキャロ。
そうして、彼が許可する範囲での意識共有を深化させると、すぐに疑念の内容が判明した。
何故、爆撃機が人工天体中枢部への侵入を試みるのか。
より突入に適した機種など幾らでも在るだろうに、宙間巡航弾による超長距離攻撃に特化した爆撃機を天体内部への突入戦力に選んだ理由とは何か。
内部に存在するであろう汚染艦隊を攻撃する為か、或いは別の目的が在るのか。
エリオは、それらの点を訝しんでいるのだ。
そして更に、新たな疑念が圧縮念話を介して共有される。
『試作型というのは本当? 正確な情報なのかしら』
『はい。R-9Bは超長距離単独巡航を目的として試作された機体であり、極少数が試験的に前線へと配備された記録こそ存在しますが、大量生産されたという記録は在りません』
『それも疑問ではあるけれど・・・クラナガンの戦闘に於いて、類似機体が確認されているの。確保したパイロット達の証言から、機体名も判明しているわ』
『何だ?』
『「R-9B3 SLEIPNIR」よ』
念話を交す間にもR-9Bの一団は加速し、瞬く間に天体中枢部を目掛け飛び去った。
その全貌が意識内より消えて失せた事を確認し、並列視界を閉ざす。
念話では、更に問い掛けが続いていた。
『そのR-9B3とやらの情報は「Λ」が有する記録には残されていないのか』
『確認済みです。全領域巡航型戦略爆撃機開発計画は既に、完成形であるR-9B3の戦線配置を以って完了しています』
『試作機には、量産型で除外された特殊な機能でも在るのか』
『該当する記録なし。R-9B3はR-9Bの正式な上位互換機であり、量産型が試作型に劣る点など何1つとして在りません』
『なら何故、そんなガラクタを突入させたんだ。地球への攻撃といい、第17艦隊は気でも触れたのか?』
『そうとは限らない』
割り込む念話、聞き覚えのあるそれ。
キャロ個人としては決して好ましい訳ではないが、現状に於いてある程度は有用であると判断できる人物。
狂気に侵され、狂気を是とした科学者、ジェイル・スカリエッティ。
147 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:16:50.23 ID:HdJJuXh1
『あの部隊が第17艦隊所属であると証明する情報は無い』
『つまり?』
『あれが例の「増援」という可能性も在る、そういう事だな』
スカリエッティの発言に対する応答に、それを認識したキャロの意識中へとノイズが奔る。
焦燥を示すそのノイズは、瞬間というにも満たない極めて僅かな時間ではあるが、確かに彼女の意識を埋め尽くした。
更に加速される思考、密度を増す念話。
『・・・地球軍空母の位置は把握できたのか?』
『いいえ、未だ捕捉できず』
『第17艦隊は既に真実を知っているんだから、増援と接触したところで同士打ちが始まるだけじゃないの?』
『決め付けるのは早計だわ。バイドの殲滅まで行動を共にして、その後に排除へ移行する事も・・・』
『全勢力の殲滅を担う増援艦隊の戦力が、第17艦隊のそれに劣るとは考え難い。そして、第17艦隊が戦力の5割を失っている現状を考えれば、彼等が増援艦隊との共闘を選択する可能性は低いでしょう』
『できるだけ多数の勢力とぶつけて疲弊させ、其処を一気に叩くという事か』
『いえ、他勢力を撹乱に用いて、艦隊の被害を抑えるといった方が正しい。増援艦隊の戦力に対抗し得る勢力は、現状では第17艦隊を除けば2つです』
増援部隊に抗し得る勢力。
その言葉の指す処は、正確に理解できる。
だが、それは決して愉快な内容ではない。
意識中に奔る不満を示すノイズを無視し、キャロは念話を発する。
『私達とバイド・・・いえ、「Λ」とバイドですか。第17艦隊は、既に「Λ」の存在を知り得ているのですか?』
『気付いていると考えた方が妥当だね。送り付けた情報からそれ位は察しているだろうし、何よりメテオールに「Λ」そのものを捕捉されているしね』
『それも計算の内でしょ? 「Λ」が増援艦隊に抗し得る存在であると、連中に売り込んだって訳だ。中々にやり手だね、ノーヴェ』
『アタシ達が発生させた艦隊との交戦を通じて、共闘はできずとも利用はできると判断しただろう。その証明に、一時的にとはいえニヴルヘイム級を行動不能にしてやったんだからな。こっちは奴等の戦略に乗じて、増援艦隊を根こそぎ潰すだけだ』
『バイドは? まさか、放っておくの?』
セインの問い掛け同様、キャロもまた疑問を抱いていた。
第17艦隊がバイドと増援艦隊の相打ちを狙っているというのなら、バイド中枢の制圧作戦はどうなるのか。
仮に、いずれかの勢力により、バイドが制圧されたとしよう。
状況は第17艦隊と増援艦隊による全力戦闘、それに巻き込まれ崩壊する次元世界という、最悪の局面を迎える事となる。
如何に「Λ」という切り札が在るとはいえ、次元消去弾頭を起爆されてしまえば其処で終わりだ。
異層次元航行能力を有しない次元世界の各勢力は文字通り消滅し、後は何処とも知れぬ空間にて無数の次元を巻き込んでの、地球軍同士による殲滅戦が繰り広げられる事だろう。
では、セインの言葉にも在る通り、バイドを放置した場合はどうか。
何らかの要因により中枢の制圧に失敗し、バイドに充分な時間を与えてしまったならば。
「R-99 LAST DANCER」の制御中枢を完全に掌握したバイドは、全能たる「群」としての存在を維持しつつ、同時に比類し得るもの無き絶対的な「個」としての存在へと変貌を遂げる事となる。
そうなれば最早、バイドに抗い得るものなど存在しない。
R-99を中枢とする模倣されたRの系譜、或いは「TEAM R-TYPE」により生み出された数々の技術を用いて創造される新種のバイド群が、あらゆる次元を埋め尽くす事だろう。
バイド中枢は絶対的存在たるR-99をハードウェアとして獲得する事で無敵の「個」となり、中枢である機体そのものを狙った処でそれを撃破し得る可能性は余りにも低い。
あらゆる存在を自身と同等の次元にまで引き摺り下ろし、同一次元の内に存在し得る最大にして最強、最上にして最悪の暴力で以って殲滅する、具現化した悪意と攻撃的概念の結晶。
認識すら出来ぬ塵芥に等しい存在も、人智を超えた神にも等しい存在も、平等に自身と同一の次元へと固定してしまう、悪魔の機体。
そうして真正面から、対象の全てを否定し、破壊し、蹂躙し、消去する。
そんな存在に、どう抗えというのか。
『このままじゃ増援に殺されるし、バイドがR-99のシステムを掌握すればそっちに殺される。一体、どっちがマシなのさ』
『進むも地獄、退くも地獄か。個人的には、地球軍を相手取る方がまだマシに思えるが、どうなんだ?』
とても難しい問題だ。
どちらを選んでも、その後には高確率で破滅が待つ。
だが、それは次元世界に限っての話ではない。
148 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 07:17:37.03 ID:HdJJuXh1
『だから、奴等の尻を叩いてやるんだ。第17艦隊の尻を』
『・・・説明してくれ』
『このままバイドを始末しちまったら、奴等は増援艦隊に嬲り殺しにされちまう。だからR-99の破壊を可能な限り遅らせて、バイドが別のハードウェアに逃げる為の時間を稼ぐ心算だろう。要は増援艦隊の攻撃から、ある程度バイドを護ってやるのさ』
『皮肉な話だ』
『他に手は無い。ハードがR-99でなければ始末できる可能性も在るし、何よりバイドの抵抗はより激しくなるだろうから、増援艦隊に対して相当な出血を強いる事が出来るだろう』
『我々はR-99に替わるハードを攻撃しつつ、天体外部では増援艦隊に攻撃を仕掛ける、という事で良いのか?』
『外部の事は混成艦隊が頑張ってくれているし「Λ」の支援も在るから任せても大丈夫だろう。アタシ達は此処で、徹底的に戦場を引っ掻き回すだけだ』
『具体的には?』
『R-99を破壊した後、増援艦隊所属戦力の攻撃からバイドを護る。状況をバイドと第17艦隊の優位に整えてやって、増援艦隊と真っ向からぶつからせるんだ。そして、増援艦隊が有する次元消去弾頭の破壊を確認した後にバイドを叩き、続いて疲弊した第17艦隊を始末する』
『・・・単純明快だけど、随分とハードだね』
無茶苦茶な話だとは思いつつも、他に手は無いと自身を納得させる他なかった。
バイドによるR-99の制御中枢掌握を妨害しつつ、増援艦隊の攻撃からバイドを護りつつ三者を疲弊させ、最終的に第17艦隊を含む全ての敵対勢力を排除する。
事が上手く運ぶとは、到底思えない。
だが、やるしかないのだ。
『異層次元航行能力を有するバイドが1体でも残っていれば、次元消去弾頭を起爆しても意味は無い。増援艦隊にせよ第17艦隊にせよ、バイドを殲滅しない限り状況の進展は望めない』
『だからバイドを護りつつ地球軍を疲弊させよう、って訳ね。叩く順番を間違えたら、その時点でお終いじゃない』
『そうならない様に、可能な限り速やかに天体中枢へと向かおう。さっきのR-9Bはメテオールや他の第17艦隊所属機に始末されるだろうけれど、不測の事態も在り得る』
『空間情報の再解析が完了しました。変異した本局艦艇からの干渉は続いていますが、短距離ならば艦隊を転移させることも可能です。状況を確認しつつ数回に分けて転移し、一気に中枢へと突入します』
ティアナからの念話が届くや否や、周囲の空間を埋め尽くすフォース、その全てが一斉に青白い光を放ち始める。
フォースを触媒とする魔力増幅だ。
本局艦艇からの干渉を無効化しつつ、更に連続で短距離転移を実行する為には、想像を絶するまでに大量の魔力を要する。
必要量の魔力を短時間の内に確保する為、フォースが有する魔力増幅機構を利用しているのだ。
フォースの周囲へと集束した青白い光の粒子は徐々に拡散し、周囲の艦艇から機動兵器、魔導師にまで纏わり付いてゆく。
この分ならば、転移実行まで2分といったところか。
『支局まで行く必要は無いかな。何人かで集まって、周囲警戒をしておこう。転移直後に交戦状態へ突入する事も在り得る』
ストラーダを右腕へと携え、再生した左腕の調子を確かめるかの様に、掌部を握っては開く動作を繰り返すエリオ。
その様を横目に、キャロは自身のデバイス、ケリュケイオンの自己診断プログラムを起動する。
診断は数瞬の内に完了、異常なし。
そして、移動を促すエリオの念話に対し無言のまま頷く事で答え、キャロは移動を開始すべく飛翔魔法を発動させる。
『フリードを此処に呼ぶ。ヴォルテールは艦隊側に・・・』
『総員、警戒。第2空洞に於いて空間情報の不一致を観測。当該個所の調査を開始』
ノーヴェからの警告。
「Λ」により展開される並列視界、第2空洞内部の映像。
新たに発生した「四十四型」戦闘機より転送された光学情報だ。
『悠長だな。フォースなり何なり、目標座標に発生させれば済むんじゃないのか』
『目標周辺空間への干渉ができない。空間歪曲って訳ではないみたいだが・・・』
『ノーヴェ?』
うひょー来てた支援
150 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 19:59:55.95 ID:HdJJuXh1
途切れる念話、訝しげにノーヴェの名を呼ぶセイン。
同時に、並列視界へと映り込む、青い光。
揺らぐ視界、拡大表示される発光源。
其処に、それは居た。
『・・・嗚呼、畜生!』
集束する波動粒子の光の中、全長15mにも達する砲身を構えた人型機動兵器。
『構えろ!』
瞬間、視界の全てが白光に埋め尽くされる。
全身を襲う衝撃、意識を蝕む異音。
それらが2秒にも満たぬ内に消え去った後、視覚を回復したキャロは周囲を見回す。
特に変化が在る様には見受けられない。
だが何が起きたのかについては、正確に理解していた。
短距離転移を強制実行し、敵の砲撃を回避したのだ。
『くそ、今のは危なかった!』
『短距離転移を強制実行した。大した距離じゃないが、奴の砲撃を躱すには充分だったか』
『砲撃? やっぱり砲撃を受けたのか、アタシ達は?』
『馬鹿を言うんじゃない、奴が居るのは第2空洞だぞ! 此処まで砲撃が届くとでも・・・』
『いえ、その通りです。敵性機動兵器による砲撃、第3層から第12層までを貫通。第12層構造物破壊痕の直径、約8300m』
絶句するキャロ。
彼女だけではない、無数の意識が信じ難い報告に、紡ぐべき言葉すら見付けられずに凍り付いている。
ティアナより齎された情報は、それ程までに信じ難いものであった。
人工天体各階層構造の厚さは400km前後、階層間に存在する空洞の幅は700km前後。
即ち、あの人型機動兵器が放った砲撃は単純計算で4800kmもの厚さの特殊構造物を撃ち抜き、計12500kmもの距離をほぼ減衰なく貫いて艦隊を襲った事になる。
余りにも常軌を逸した貫徹力だ。
『第12層、上層部と下層部に於いて、砲撃貫通痕の直径が一致しません。目標の砲撃は、指定の距離で炸裂する機能を備えていると推測されます』
『目標、再砲撃体制! また転移して躱すぞ、備えろ!』
並列視界の中、砲撃態勢を維持した儘の人型機動兵器。
ダークブルーに覆われた外装の所々に白いラインを引かれたその巨躯は、これまでに目にした如何なる人型機動兵器とも異なり、余りにも重厚かつ無骨だった。
全身を覆う分厚い装甲、背面と両脚部外縁に備え付けられた4基の巨大なブースターユニット、計8基もの大型ブースターノズル。
放熱機構であろうか、頭部後方からは直上へと垂直に構造物が突き出し、その前面にはフィルターらしき構造物が位置している。
そして何より目を引く箇所は、外観より確認できるだけで計3基にも達する、その巨大な砲身だ。
1基目、左肩部に供えられた大型装甲板上へと位置する、比較的に短い砲身。
現在は機動兵器の直上へと砲口を向けるそれは、装甲板と接する基部が可動式となっているらしい。
外観としては迫撃砲、或いは無反動砲に近いそれは、しかし当然の事ながら単なる実弾兵器ではないだろう。
2基目、背部ブースターユニットの陰へと隠れる様にして固定された、長大な砲身。
宛ら対物狙撃銃の如き外観のそれは砲口を機体左側面、砲身基部を右側面へと向けた状態で腰部背面へと固定されているのだが、優に10mを超える全長の為に砲身が機体の陰から完全に迫り出している。
基部周辺にグリップが設けられている事から、恐らくはマニピュレーターへと保持した上で砲撃を行うものなのだろう。
3基目、今まさに砲撃を実行せんとしているそれ、巨大という表現ですら及ばぬ異形の砲身。
機体右背面から右肩部へと掛けて伸長するそれは全長15mを優に超え、砲身基部に至っては其処だけで機動兵器の胴部ユニットを上回る質量を有しているだろう。
それもその筈、砲身最後部には砲撃時の反動に対処する為か、機動兵器自体から完全に独立した2基の巨大なブースターノズルが備えられており、ブースター起動時の放熱から機体を護る為か追加装甲板までもが設えられているのだ。
砲身全体の質量は、機動兵器の機体と他の砲身、それら全てを合わせたものにすら匹敵し得るだろう。
機体に砲身が備えられていると云うよりは、この砲身の為に機体が備えられていると云った方が適切であろうか。
馬鹿馬鹿しい発想であると一蹴したい処ではあるが、残念ながら地球軍兵器に限っては思い違い等ではあるまい。
151 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 20:01:31.08 ID:HdJJuXh1
そして今、人型機動兵器の右腕部マニピュレーターは右肩部の砲身下部に位置するグリップへと携えられ、その砲口を第3層構造物へと突き付けている。
砲身基部、六角柱状の外殻から3箇所の装甲が開放され、各々が120度の間隔を於いてシールド状に前面へと展開。
砲身最後部の2基を含む計10基ものブースターノズルがアイドリングを開始し、砲身基部3箇所の装甲開放部へと大量の波動粒子が雪崩れ込む様にして集束を始める。
集束し切れなかった波動粒子が干渉しているのか、周囲には青い稲妻状のエネルギーが間断なく迸り、一部は集束体と化して機動兵器の装甲上へと接触、炸裂して大量の火花を散らしていた。
自身が集束する波動粒子によって表層部を損傷しながら、それに対し一切の注意を傾ける事なく、更に波動粒子の集束を加速させる機動兵器。
最早、周囲の空間は極高密度の波動粒子によって完全に安定を失い、機動兵器の光学的認識すら困難なまでに歪み始めていた。
そんな中、一際強烈な閃光が走ると同時、消失する並列視界。
『何だ?』
『極高密度波動粒子の余波により、四十四型が破壊されました』
『集束の余波だけで!?』
『転移15秒前、耐衝撃態勢!』
再び、フォースより拡散した青白い光の粒子が、周囲の全てへと纏わり付く
短距離転移による回避だ。
この程度の時間では大して魔力の増幅はできず、砲撃から逃れる為の距離を移動するだけで精一杯だろう。
だが、他に打てる手など無い。
無様に逃げ回り、反撃の隙を窺う他ないのだ。
『5秒前!』
『遠距離より機動兵器の発光強度上昇を観測、砲撃間近!』
『急げ!』
新たに目標へと接近した四十四型から、再度に人型機動兵器の映像が送信される。
そうして意識中へと映し出された光景は、想像を遥かに超えて異常なものであった。
機動兵器が、青い爆発に曝されている。
外部からの攻撃ではない。
極高密度にまで集束された波動粒子、それにより発生していた稲妻が、青の業火と爆発へと変貌しているのだ。
だが、それでも機動兵器は微動だにしない。
この瞬間にも自身を害し続けている全ての現象を無視し、未だ波動粒子の集束を継続している。
余りにも異常な行動、理解の及ばぬ光景だ。
破滅的な波動粒子の奔流が此方を飲み込むか、或いはそれを掻い潜った此方が目的を達成するか。
連続する異常な状況に麻痺し始めた自身の完成を認識しつつも、状況打開の為の策を練り始めるキャロ。
彼女の意識、そして共有される全ての意識中に、迷いなど微塵も存在しない。
機動兵器を撃破し、R-99を破壊し、バイドと地球軍を殲滅する。
どう足掻こうと、それしか道は無い。
失敗すれば、死ぬだけだ。
今更、何を迷う事が在るのか。
自身等の往く手に立ち塞がると云うのならば、実力で以って排除するまでだ。
私の、私達の生存を脅かすものなど、その存在すら許しはしない。
『そうでしょ、エリオ君』
他の視界より隔てられた上で、これまで一瞬たりとも途切れずに常時展開されていた並列視界。
その中へと、決して途絶える事なく表示され続けていた少年の横顔が、微かに頷く。
キャロは満足と共に薄く笑みを浮かべ、フリード及びヴォルテールへと指示を飛ばした。
152 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 20:02:09.24 ID:HdJJuXh1
大切な人。
もう絶対に、目を離さないと決めた。
少しでも注意を逸らせば、すぐに居なくなってしまう人だから。
ならばずっと、何時でも、何時までも、それこそ自身が死ぬ瞬間まで。
絶対に、目を離さない。
何時までも、見守っていてあげる。
幾ら距離が離れようと、離れる事を選んだとしても、絶対に見失ったりはしない。
だから。
『居なくなっちゃ嫌だよ、エリオ君』
薄く微笑むキャロ。
彼女は気付かない。
微笑んでいる筈の自身の表情が、実際には全くの無表情である事に。
表層意識を共有する中、無表情である筈のそれをエリオが何の疑問に思う事もなく、笑顔として認識している事に。
迷い無く戦う事を選んだ無数の意識の中、故郷を襲った惨劇に泣き叫ぶ声が在る事に。
「微笑んでいるつもり」のキャロは、決して気付かない。
全ての視界を埋め尽くし爆発する、転移魔法と波動粒子の光。
全身を襲う衝撃の中、キャロは無表情の儘に「微笑む」。
表情筋を収縮させ、笑みを浮かべんとする彼女。
その行為に何ら意味が無い事を、彼女は未だ理解してはいなかった。
* * *
常軌を逸した暴虐。
良心など欠片も感じられない破壊。
呆ける事さえ許されぬ内に為された殺戮。
臓腑を抉るかの様な激情に支配される中、自身の内に響く醒め切った声が告げる。
下らない事に気を取られている場合か。
戦略を生み出せ、敵を撃滅しろ、故郷を護れ。
お前には使命が在る、義務が在る、護るべき人々が居る。
自身に関係の無い世界、そんな所に対して為された暴挙など忘れてしまえ。
激情と理性の鬩ぎ合いは、長くは続かなかった。
自艦を含め各艦艇のクルーと共有された意識の中、洪水の様に押し寄せる情報。
各々の立場、役割より導き出される、無数の戦略。
其処へ「Λ」による情報と新たな戦略の提供が加わり、一時は思考が氾濫する事態に陥りもした程だ。
だがそれにより、自身の内に渦巻く激情の大部分は、強制的に払拭された。
今は唯、新たな戦略の完成を待つ高揚感に支配されんとする思考を、未だ燻り続ける憤怒の残り火で押し込めている状態だ。
不謹慎である、非人道的であると認識しつつも、その瞬間を待ち遠しく思ってしまうのだ。
「Λ」により発生する艦艇群、その制御権の一部が此方に付与されたと理解した瞬間、この戦略は発動した。
各艦艇指揮官ではなく、技術者を中心に発案されたそれは、艦長である自身としては俄かには受け入れ難いもの。
というよりも、理解し難いものであった。
技術者達の主張は、こうだ。
「Λ」により発生した艦艇「兆級巡航艦」及び「京級戦艦」が有する打撃力は、確かに驚異的ではある。
だがそれでも、地球軍およびバイドの艦艇、そして友軍である「グリーン・インフェルノ」のそれには及ばない。
ならば単艦ではなく、複数艦艇の機関を結合させる事で出力を増大させ、その上で攻撃を行えばどうか。
各艦艇の構造については、既に「Λ」より詳細な情報提供が為されている為、問題は無い。
後は情報通信艦艇を中枢として共有意識中にて改修計画を構築し、それに基き新型艦艇を発生させる。
153 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 20:02:47.36 ID:HdJJuXh1
要は、戦域に於いて新造艦を建造してしまおうというのだ。
戦略とも呼べぬ余りに現実離れした計画に、当初は反対の意見が相次いだ。
だが、無尽蔵に出現する汚染艦隊を相手取る中で、現状に於ける最大戦力であるグリーン・インフェルノの対処能力に限界が見え始めた今、新たな戦力の確保は必須要項であった。
そして、ごく短時間での議論の結果、計画は実行に移される事となったのだ。
現金なものだとは思う。
あれだけ反対し、実現不可能だと決め付けていたというのに、その計画の結果が眼前へと具現化した今、自身は湧き起こる興奮を抑え切れずにいる。
3隻の新造艦、内1隻の指揮を任されたというだけで、意識中の何処かで子供の様に喜ぶ自身が居る。
だが、本当にそれだけだろうか。
違う、そんな訳は無い。
この興奮は、そんな純粋な理由から湧き起こるものではない。
もっと昏く、陰惨な理由から起こる興奮。
そう、復讐の興奮だ。
彼等は、地球軍は、あの世界の人々を虐殺した。
今回の事件が起こる直前まで、自身と家族もまた、其処に住んでいたのだ。
善良なる人々、美しい風景。
優しい潮風に包まれ、穏やかな時間が流れていた、あの町。
最早、永遠に失われてしまった、記憶の中だけに存在する光景。
その世界の全ての地域がそうであった訳ではないが、しかし決して忘れる事などできない大切な世界。
今や炎と水に覆われた大地、大量の粉塵に覆われた空しか持たぬ、死の惑星。
第97管理外世界、地球。
第17異層次元航行艦隊、彼等が何故この様な暴挙を働いたのかは、全くの不明だ。
だが如何なる理由によるものであろうとも、自身の故郷たる世界を自らの手で以って破壊するなど、正気の沙汰ではない。
何より、約60億もの人々を僅か5分足らずの間に虐殺するという、バイドにも劣らぬ程の暴虐極まる行為を為しながら、彼等の行動からは僅かなりとも躊躇というものが見て取れなかった。
彼等の思考が非人間的である事は疾うに理解していた筈であるが、それでも激しい憤りを覚えずにはいられない。
しかし「Λ」より齎された情報の存在が、第17艦隊への積極的な攻撃を許しはしない。
今、彼等に消えて貰っては困るのだ。
そうなれば、次元世界は地球軍増援艦隊かバイド、いずれかの手によって滅ぼされる事となってしまう。
よって、第17艦隊への攻撃を可能とするには、増援艦隊とバイド双方の殲滅を先に実現させねばならない。
つまり、今この胸中を埋め尽くす攻撃衝動と報復を望む意識は、本来それを向けられるべき第17艦隊ではなく、現状では増援艦隊とバイドへと向けられているのだ。
八つ当たり以外の何物でもないが、しかし積極的に止める気も無い。
どの道、全て殲滅する他ないのだ。
そして、何よりも受け入れ難い真実。
他ならぬ「Λ」もまた、第17艦隊に先んじて地球への無差別攻撃を行っているのだ。
地球軍からの干渉により失敗したとはいえ、成功していればその時点で地球は消滅していた事だろう。
そんな無慈悲かつ非人道的な存在の支援を受けねば戦う事も出来ぬ、その現実が何よりも気に食わないのだ。
『艦長、新造艦の調整が完了しました』
クルーからの報告。
その言葉を意識中にて反芻しつつ、彼は並列思考を増設する。
既に80を超えるそれら思考の内、半数以上が新造艦の制御に充てられているが、完璧な制御を為すには更なる増設が必要となる様だ。
だが、彼はそれを負担とは認識しない。
寧ろ、自身が艦艇全体の制御中枢として完成してゆく充足感を、逸る復讐心と諸共に抑え込む事に腐心していた。
焦る事はない、その時は近いのだと、意識中にて只管に自身へと言い聞かせる。
そして遂に、その瞬間が訪れた。
新造艦のシステム全体が正常に稼働を開始し、それらより齎される情報が彼の意識の隅々まで奔り抜ける。
衝撃にも似た感覚と共にそれを感じ取り、彼は徐に念話を発した。
『此方クラウディア、ハラオウン。経過良好、全システム異常なし』
154 :
R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2012/11/26(月) 20:03:49.28 ID:HdJJuXh1
その念話を発すると共に、意識の大部分を新造艦へと移行するクロノ。
合計570にも到る彼の並列視点は、自身が操る艦艇の外観を余す処なく映し出した。
そうして得られた光学的情報は1つの像を結び、巨大な艦影を意識中へと正確に投影する。
それは、奇妙な外観の艦艇だった。
兆級巡航艦の艦首より延びる、巨大な環状構造物の連続体。
5基の環状構造物が連続して直線上に配置され、其々を接続する固定部によって巨大な円筒構造物を形成している。
円筒部の全長は、兆級巡航艦のそれとほぼ同等だ。
更にその先端部は、京級戦艦の後部へと接続されている。
左右両舷エンジンユニットの間へと接続されたそれは、京級戦艦後部と兆級巡航艦前部とを繋ぐ連結ユニットであった。
ユニット内部には青い光の筋が奔り、それらは絶えず兆級巡航艦から京級戦艦へと流れ続けている。
戦艦と巡航艦を繋いだ、奇妙な巨大艦艇。
だがそれは、恐るべき破壊を為す事を目的として生み出された、混成艦隊の切り札。
そして今、その艦艇は他ならぬクロノの指揮下に於いて、実戦へと投入される事となるのだ。
暴力的なまでに高まる艦内の魔力密度、獲物を求め執拗な策敵を開始する各種センサー群。
餓えた肉食獣の如く唸りを上げる魔力炉心、その咆哮を意識中へと留めつつ、クロノは宣言する。
『現時刻を以って「EX-BS01-F 兆京級合体戦艦」実戦運用を開始する』
空間全域に存在する全ての艦艇、あらゆる機関が一斉に唸りを上げる。
それは反撃と迎撃の狼煙、獲物を求める機械の獣達の咆哮。
そして、新たなる地獄の始まりを告げる、亡者達の雄叫びであった。
投下終了です
さるさんに引っかかってしまい、結果として長らくスレを占拠してしまった事、誠に申し訳ありません
次回の投下までに、何らかの対応を考えておきます
なお、保管庫への投下については暫くお待ち下さい
それでは、また次回
乙
さるさん食らったら避難所でもいいと思う
>>155 相変わらず緊迫した状況が続いていて目が離せません
そしてさるさんとは災難です
で、シリアスな流れが続いている状況でなんでこんなの書いてたんだろうと思わなくもないのですが
39話投稿いたします
ブレイクブレイド StrikeS
第38話「弱点発覚」
機動六課棟の早朝
高町なのははいつもより早く起きるとジルグの部屋に向かって歩いていた。
もちろんいかがわしい理由があるわけではなく
表向きの目的としては先日の模擬戦の謝罪をきちんとジルグにすることであった。
模擬戦から数日経ってはいたのだが
ジルグはどうやらなのはから逃げることを面白半分の日課と決めたらしく
朝食時だろうと訓練時だろうと、決してなのはとの一体一の状況を作らせないのであった。
そこでなのはがとった行動は、
夜討ちはさすがに憚った、というより訓練プログラム作成の関係で無理なのでいわゆる朝駆けであった。
19歳の年頃の娘が同年代の男性相手に何をしているのか
高町家の家族が知ったら皆一様に頭を抱えたであろう。
「ふっふっふ…さすがに寝起きなら逃げられないよね」
こちらも完全にジルグを追いかけるのが面白半分本気半分の日課状態になっているなのはが
不敵な笑みを浮かべてそろりそろりとジルグの部屋に近づく。
「ロックは掛けてあるようだけど甘いよジルグさん。私は隊長なんだからこんな権限もあるんだよ?」
そういいながらジルグの部屋のドアのロックを解除するなのは。
もちろんそんな権限などあるはずもない、単なる職権乱用である。
プライバシーの侵害も甚だしい。
あっさりと抵抗を放棄し開くジルグの部屋の扉。
そこから注意深く中を覗き込むなのは。
まだ就寝時間でもあり、さすがに最新の建物に設置された高性能のドアである。
静音性は十分でありジルグに気づかれた様子はなく、未だ彼は寝ている。
気配に気づかれた様子もない。
「ふふふ…戦いは時間を選ばないんだよ? 今回こそ私の勝ちだね」
一人勝ち誇り忍び足でジルグに近づくなのはだったが…
むくり
「ひゃ!?」
突然ジルグが上半身を起こした。
まさか自分を誘い込むための演技だったのか!?
動揺するなのはだったが…
「…あれ? もしかしてジルグさん寝ぼけてる?」
上半身裸の状態で起き上がったジルグだが、目は半開きで焦点も合っていない。
そもそもなのはの方を向いていない。
「こ…これはもしかして貴重なジルグさんの弱点発見?」
少なくともジルグが今まで何かの時間に遅れてきたということはない。
朝食の時間もちゃんと顔を出しており、朝食前にヴァイスやエリオと顔を合わせることだって知っている。
というかそもそもわざわざ他人の寝起きを襲撃する人間などまずいないので当たり前と言えば当たり前なのだが
この世界に来てからずっとジルグは一人部屋を与えられており
寝起き姿を他人に晒すことなどなかった。
朝起きられないというよりこれは
「…もしかして寝起きがすごく悪いのかな?」
ある意味唯一といっていいジルグの弱点は寝起きの悪さであった。
起きて5分ほどの間は放心状態が続き、体が使い物にならない。
作戦時の仮眠等ならともかく、熟睡しているとその弱点がもろに露呈される。
ティアナとスバルの朝練にたまにしか顔を出さないのも
実を言うと半分位これが原因である。
「こ…これは日頃の負けを晴らすチャンス…ってそうじゃなくて!
あ、でもこういう機会ってまずないよね。ふっふっふ…」
完全にいたずらっ子の表情になったなのはが手をわきわきさせながらジルグに近づく。
対してジルグは完全に放心の無防備状態である。
「王道としてはほっぺたをつつくとか額に『肉』って書くとかだろうけど
それはつまらないよね。第一ペン持ってないし…何か面白い…って、きゃあ!」
普段なら全く考えられない状態に夢中になりベッドにつまづくなのは。
そのまま思わずジルグの体にしがみついてしまった。
───同時刻
「あかん…また徹夜してしもた…」
八神はやては眠たい目をこすりながら自室へ向かっていた。
もちろん遊んで徹夜したわけではない、山のような書類と格闘しての結果である。
月末が近い事もあり、普段以上に襲い来る書類の波との激闘がつい先程終了したのであった。
少し前にグリフィスとは自室に戻し、リィンフォースはそのまま執務室のソファで眠っている。
可能な限り手伝ってはもらっていたが、最終的な判を押すのははやての仕事である。
朝食を抜くことになるがさすがに眠気には抗えない。
一時間でいいので仮眠を取ろうと自室に戻ろうとしているところであった。
「きゃあ!」
「ん?」
今のは聞き間違えるはずもなくなのはの声である。
しかし彼女の部屋はこっちではないはずだ。
進むとジルグの部屋のドアが空いている。
「なのはちゃん? こんな朝早くにジルグさんの部屋に不法侵入してなにして…」
目の前の光景に固まるはやて。
「え!? は、はやてちゃん…!?」
はやての目に飛び込んだのは上半身裸のままベッドから体を起こしているジルグと
傍から見るとどう考えても同じベッドでそのジルグに抱きついているようにしか見えないなのはの姿があった。
時間帯的には朝とは言え人気のほとんどない早朝である。
そして上半身裸の男性と女性が部屋のそれもベッドの上で二人きりで抱き合って(正確には抱きつかれて)いる。
一般的には立場が逆な気もするが、どうみても夜這いです。本当にありがとうございました。
それぞれ違う意味で顔を引き攣らせるなのはとはやて。
「な、なのはちゃん…普段あんな様子なのにいつの間にジルグさんとそんな関係に…」
「ち、ちちちちちち違うよはやてちゃん! そ、そうじゃなくて! ね! そ、そうだよねジルグさん!!」
どう見てもいいがかりをつけられている立場のジルグなのだが
本人は未だに放心状態でかすかになのはの方を向いている。
はやてからみると行為を見られたなのはが一方的に取り乱しているだけであって、ジルグは全く否定しているように見えない。
「す、すすすすまんなのはちゃん!! で、でもあれやで!? そういうことならちゃんとドア閉めてからせんとあかんよ!?
うちらくらいの歳ならともかく! ほ、ほら! フォワードの子らが見たりしよったら教育上よくあらへんし!
そ、それじゃあお邪魔虫は消えるさかい! が、がんばってな!?」
ダッシュで部屋の前から自分の部屋に駆け戻るはやて。
「ちょ、ちょっと待ってよはやてちゃん! ち、違うんだってばー!!!」
こんなことをフェイトやそれどころかユーノあたりにでも喋られたりした日にはいろいろと終了してしまう。
そう直感したなのはが鬼の形相で全速力ではやてを追いかけていく。
後に残されたジルグが放心から回復したのはそれから数分後のことであった。
──はやての脳内
「もう…ジルグさんたらいつも私に意地悪ばっかりするんだから」
「好きな奴ほどいじめたくなるって言うだろう? それにしてもいつまで入口にいる気だ?」
「う、うん。でも、は…はずかしいよやっぱり」
「わざわざ部屋に忍び込んできた奴が言うセリフとは思えないな?」
グイッ
「あ…ジルグさん? きゃあ!」
──以上妄想終了
「こ、これはマズイで…うん、マズイ。こんな事周りに知られでもしたらとんでもなくゆか…やなくてスキャンダルやしな。
とりあえずヴォルケンリッターとフェイトちゃん集めてばら…コホン、もとい相談しよか」
ニヤつく顔を必死に抑えながらブツブツ呟きつつ部屋に向かって走るはやてだったが
その背後から誰かの気配を感じて「あ」という間抜けな声を上げる。
そこには下手をすると今までで最速のタイムで走ったかもしれないなのはが
目の笑っていない笑顔で無言のレイジングハートを振りかざした姿があった。
数分後の洗面所
「よう」
「あ。ジルグさん。おはようございます」
「ん…ああ、おはよう」
いつもと比べて生返事を返すジルグ。
「ん? どうかしたのか?」
怪訝そうなヴァイスをちらりと見るが、普段の表情に戻り「いや、なんでもない」と返すジルグ。
「? ならいいけどな」
ヴァイスはこういうところでいちいち根掘り葉掘り聞いてくる男ではない。
「…なんだったんだ?」
「え?」
「いや…」
自分の寝起きの悪さは知っているが、我に返った時にジルグが見た光景はどうも誰かに体を掴まれたような感覚と何故か空いている自室のドア。
そして遠くで誰かが走り回っている音だった。
なんだかよくわからないが自分がよく逃げ回っている教官殿の顔が記憶にあったような気がしなくもない。
まぁ覚えてもいないことをいちいち考えても仕方ないだろう。
そう結論付け、ジルグはヴァイスたちと食堂に向かうのであった。
「(げ…)」
食事を始めたヴァイスが食堂に入ってきたなのはの姿をみつけ、内心悲鳴を上げる。
いつもなら食事をとってきたなのはが席に近づき
相変わらずそれをジルグがのらりくらりとかわしてヴァイスにとっては胃の痛い空気が形成されるのだが…
「……ッ!!」
ジルグを見たなのはが顔を真っ赤にして飛び上がり一番離れた席へ逃げてゆく。
「あれ?」
「どうかしたのか?」
背後で起こっていた光景であるが故に気づいていなかったらしいジルグが
食事の手を止めたヴァイスを見て尋ねる。
「あ、いやなんでもない」
「? そうか」
「なぁジルグ。つかぬことを聞くけどさ」
「なんだ?」
「お前なのはさんになにかしたのか?」
「いや、特に心当たりはないがどうかしたのか?」
本気で顔に?マークを浮かべて逆にヴァイスに問うジルグ。
「あ、いや。心当たりがないんなら別にいいんだけどな、うん」
「???」
珍しく考えこむジルグを見てさらに疑問を募らせるヴァイスだが
この場合ジルグは本当に覚えてないのだから彼からも答えようがない。
なんにせよ精神的にストレスの貯まる時間が減ったのはいいことだ。
下手に藪をつついて蛇を出さないほうがいいだろう。
そう考えたヴァイスは久しぶりの快適な朝食を満喫するのであった。
「あれ? 珍しいね。 なのはさんがジルグさんに絡まないなんて」
「酔っぱらいじゃないんだから…まぁ平和でいいんじゃないの?」
「…そうですね、本当にその通りです」
「(生暖かい笑顔)」
フォワードの4人もある意味珍しい光景を見て多少驚くが
程度の差こそあれヴァイスと同じようにいつもの微妙な空気が流れなくて済むのは結構なことであったので
特にそれ以上の感想は持たなかった。
執務の時間を1時間過ぎても課長室に現れないはやてを呼びに行ったグリフィスとリィンフォースが
「あれ? なんでうち部屋で寝とったんや? なんか記憶が飛んどる気がするんやけど…頭も痛いしなぁ」
とこぼすはやてを心配してもう半日ほど強制的に休ませたのはまた別の話である。
以上です。
そろそろ戦闘しないとなぁ、と起き上がりに投下しつつ遠い目になりました。
そしてしょっぱなに38話とか書いてしまっていました。
やはり寝起きはダメですね。
とりあえずや約20時間後には本編の最新話が更新されてやったぞジルグー!
になる予定なので楽しみです。
では
164 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/29(木) 11:51:21.38 ID:cAA5Fn0D
R-TYPEΛ乙(遅ればせながら;^^)
最新話読みましたよ、コレで安心して年末迎えられる。
>>163 おつっす!
ジルグww
>>155 はい地球終了ーーーッ!!
……桃子さんたちやエイミィさんたちもレーザー照射え苦しむ暇はなかったろう。
おとなりはプラズマ熱で消毒
地球を攻撃した17艦隊には一部同意できる。
バイドで苦しむ前に楽にしてやろうとしただけなんだよな?
とりあえずナンバーズを丁寧に殺害したり
地球人類皆殺しということをやってくれた作者氏に乙w
あんただけだよ!
丁寧にたんたんと地球を滅ぼしたSS作者はw
166 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/29(木) 12:28:01.13 ID:6kUBnh/R
>>155 うおおおおお!待っていました!乙乙!
これからどうなるか予測できねえ。太陽のアレは来るのだだろうか?
>>163 乙!
ついに11巻が発売されたぜ!ジルグはいまだにライガットの心の傷になってるぜ。
12巻は早めに頼む。
乙!
待ってたかいあった!
>>98 投下乙です、キャロちゃん(キョロちゃんと響が似てますが気にしないように)怪我してしまいましたか…
現世への復帰は絶望的でしょうか、これは。
なにはともあれ、今後の展開に期待大ですね。
>>155 地球軍のあまりにもな暴虐にグランゼーラ革命軍が顔を真っ赤にしてます!!
境界線上のホライゾンとのクロスってどうだろうかとふと思った
大罪武装をロストロギアと判断し
回収&隔離を行おうとする七課vs武蔵教導院ってノリで
だからなんで滅んでもいない現行文明の生み出したものを古代遺失物扱いするのかと何度(ry
あれ?よく考えたらバイド作った文明は滅んでないからロストロギアにあてはまらな(PAN!! PAN!!
バイドは合法ですね。
>>155 遅ればせながら乙
背景設定でも物語のオチでもなく、過程で地球滅んだSSは初めて見ましたよ
この一年ほどの間で地球軍の中の人がアイレムじゃなくてタイトーに入れ替わったんやな
それなら地球壊滅も仕方ないね
>>172 魔砲少女vs射殺巫女とか思いついたけど
でも武蔵側はベルさん使って懐柔策を取るだろーな
こうなったらGダライアスばりに全生命消滅再生オチで。
>>179 いやA.N.の余波はジ・エンブリオンが吸収しちゃったしぶっ飛んだのサムラックとルティアだけじゃねあれ
機動六課vs殺せんせー(暗殺教室)とかどうだろう
世界存亡の危機にエースオブエースから夜天の騎士に
なりふり構わず人造魔導師に暴走召喚師に戦闘機人にレリックウェポンまで惜しげもなく派遣されて
史上空前の掃き溜め・・・もといドリームチームを結成して殺せんせーを殺害せよ(泣けるで、主にはやてが)
ああでも対立する敵がいないと結果的に管理局アンチになっちゃうのかな?
こうなりゃ3年Z組銀八先生と組ませよう。坂田銀八がヴィヴィオの担任なるって話で
>>181 マッハ20じゃ微妙
それとも先生魔改造すんの?
というか、殺せんせーをこういう他作品蹂躙目線で見てる奴がいると分かると
原作の殺せんせー自体素直に楽しめなくなりそうだわ
あるねー、そういうのw
かつてユリショッカーなんてののせいでディケイドっつーか
ライダー作品全般がゴミに思えた時期が俺にもありました
いや今じゃあの作品に関しては、逆に清々しさすら感じるようになったけどねw
蹂躙展開はもちろん、世界観&キャラ設定改変おまけに多重クロスとメタネタ満載……
まぁなんつーかなんでもアリってのがこのスレの売りなんだろーし
あんまし職人が委縮しちゃうような発言はしないほうがいいと思うよ?
R-TYPEはもう手遅れだけどな
ホライゾンネタで逆に六課側が、歴史再現に介入するというのは如何か
問題は、なんの歴史再現をして、誰が誰を襲名するかだが……
Gulftown氏撤退かな
まとめwikiから作品が消されているけど
>>183 マッハ20で微妙ってどういうこと?
真・ソニックフォームでも「時に人間の反射速度を凌駕」する程度でしょ?
列挙されてるメンバーが一斉に襲いかかったら、マッハ20じゃ足りない気がする
>>189 君にとっては何か真理を感じてる文のようだけど
そんな抽象的な解説に同意を求められてもみんな困るよ
寧ろ最大加速時でようやく極超音速領域に入れる程度のレベルが鳴り物入りの新兵器
それに対して常時Mh20はかなり上じゃないのか
マッハ20に対してかなり低評価なのか感覚麻痺してるのか
時にと常時じゃ全然違うな
で、その新兵器って作中でどんな凄い活躍したの?
どこまで行ってもハンマーで速度を語るような物ではなかったな
てか、なのはで正確な速度なんて一度も出てないしこれからも出ないだろうから
感覚の麻痺もへったくれもないよ
無い物と比べてお互いドヤっても仕方ないよ、君たち
お久しぶりです。
本日23時半より、なのはStrikerSと聖闘士星矢(設定はアニメ寄り、Ωはスルー)とのクロス『リリカル星矢StrikerS』第一話を投下します。
それでは時間になりましので、投下開始します。
第一話 襲撃、黄金の闘士たち(前編)
その日、ミッドチルダの時空管理局地上本部では、公開意見陳述会が行われていた。
会議開始からすでに四時間が経過し、雲の多い空は夕暮れの紅から、夜空の藍色へと変わりつつある。
地上本部の外周部を、茶色い制服を着た二人の少女が歩いていた。
機動六課スターズ分隊所属、青い髪をしたボーイッシュな少女スバル・ナカジマと、オレンジ色の髪をツインテールにした勝気な瞳の少女ティアナだ。
機動六課は、他の部隊と共に会場の警備任務に就いていた。スバルとティアナは、緊張した面持ちで見回りを続ける。
聖王教会の騎士カリムの預言では、公開意見陳述会が襲撃されると出ている。
おそらく犯人は、稀代の科学者にして、広域指名手配されている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティだ。ガジェットドローンと呼ばれる無人兵器群と、機械と人間の融合によって高い能力を得た戦闘機人を配下に従えている。
これまで機動六課とはロストロギア、レリックを巡って幾度も戦ってきた。
実はスバルの正体も戦闘機人だ。製作者はスカリエッティではないが、この巡り合わせに何か因縁めいたものを感じていた。
「おい、お前たち。そっちはどうだ?」
赤い髪を二つの三つ編みにした、鋭い目つきの小さな少女がやってくる。スターズ分隊副隊長のヴィータだ。ヴィータの肩には、手の平サイズの少女、ユニゾンデバイスのリインフォースUが腰かけ、後ろには、ライトニング分隊の二人が控えていた。
明るい雰囲気の少年がエリオ、大人しい雰囲気の少女が竜召喚師のキャロだ。
「異常ありません」
「今のところ、どこも異常ないみたいです」
青い髪を腰まで伸ばした女性も、スバルたちと合流する。陸士108部隊から機動六課に出向しているスバルの姉、ギンガだ。
「このまま何事も起こらなければいいんですが」
『未知の高エネルギー反応確認! 敵戦力は推定AAAランクが三人です』
機動六課ロングアーチスタッフ、シャーリーから、敵出現の連絡があったのは、その直後だった。
「未知のエネルギー? 戦闘機人か?」
ヴィーが訊いた。戦闘機人は魔力とは異なるエネルギーを使用する。
『違います。魔力反応に似ていますが、これまで観測されたことがないものです。ガジェットの反応もありません』
「スカリエッティじゃないのか?」
スカリエッティが関わっているなら、大量のガジェットが現れるはずだ。ガジェットに搭載されたAMFによって、相手の魔法を妨害するのが奴らの基本戦術だ。
ヴィータは周辺の地図を投影する。三人の襲撃者はまったく別方向から一直線に地上本部を目指していた。
ヴィータは敵の正体を詮索するのを後回しにする。どうせ誰であろうと、敵ならば倒さなければならないのだ。
「三人か。エリオとキャロは、はやてたちにデバイスを届けろ」
「わかりました!」
地上本部内はデバイスの持ち込みが禁止されている為、中にいるはやて、なのは、フェイト、シグナムのデバイスは、ヴィータたちが預かっていた。
デバイスを受け取ったエリオとキャロが、急いで建物の中に戻っていく。
「北は私とリインが担当する。お前たちは東南の敵に当たれ」
残りの敵は他の部隊に任せることにする。
「了解!」
全員バリアジャケットを装着し、戦闘準備を整える。
「行くぞ、リイン!」
「はいです。ユニゾン・イン!」
リインがユニゾンし、ヴィータの真紅のバリアジャケットが白へと変わる。
ヴィータとスバルたちは。それぞれの戦場へと向かって行った。
スバル、ティアナ、ギンガの三名は目的地へと急ぐ。敵はすでに警備部隊と交戦を開始している。
「何よ、これ!?」
警備部隊の情報に目を通していたティアナが、突然大声を出した。
地上本部の警備には質、量ともにかなりの人員が割かれている。しかし、その反応が急激に減っていく。
スバルたちが現場に到着した時には、すでに戦闘は終わっていた。
武装した局員たちが折り重なるように倒れ、かすかな呻き声を上げている。
その中心でただ一人立っているのは、異様な風体の人物だった。
魚を模した、太陽の如き輝きを放つ黄金の鎧。目深にかぶった兜のせいで、その表情はうかがえない。右手には、凄惨な現場には不釣り合いな黒いバラの花を持っている。
「何、あいつ?」
ティアナが戸惑いの声を上げる。
敵が着ているのは、下手をすれば自らの動きを阻害しかねない全身鎧だ。バリアジャケットにしては、あまりにもごつい。では、敵の正体は一体何なのか。
「ピラニアンローズ」
こちらを察知した黄金の闘士が、黒バラを投擲する。
スバルは咄嗟にバリアを展開した。まるで投げナイフのような黒バラが、バリアを食い破りスバルの袖を掠める。それだけでバリアジャケットの袖が抉れ、下の皮膚に一条の赤い線が走る。
破壊力が尋常ではない。この黒バラの前では、バリアジャケットなど紙同然だ。
「スバル、行くよ!」
ティアナが二丁拳銃型デバイス、クロスミラージュから魔力弾を撃つ。スバルとギンガのローラーブーツが大地を疾走し、挟み込むように接近する。
「もらった!」
スバルとギンガが渾身のストレートを繰り出す。しかし、その瞬間、敵の姿が視界からかき消えた。
「えっ?」
スバルとギンガが呆気に取られる。
「スバル、後ろ!」
ティアナからの警告。振り向く間もなく、スバルは背中を強く蹴られ、無様に地面に倒れ伏す。
「この!」
ティアナとギンガが躍起になって黄金の闘士を攻め立てるが、繰り出す攻撃がことごとく空を切る。
(速い! まさかフェイト隊長以上!?)
一方的に攻められながら、敵からは明らかな余裕が感じられた。最初の一撃以来攻撃してこないのも、できないのではなく、己がどれだけ速く動けるか試しているようだった。
「私を忘れるな!」
起き上がったスバルが、右側から足払いをかける。敵の動きが一瞬乱れるが、それだけだった。スバルの頭上を飛び越えて、はるか後方に着地する。
(今の見た?)
ティアナが念話で仲間たちに話しかける。
(うん。あいつ、右側の攻撃に反応が一瞬遅れた。もしかしたら怪我してるのかも)
(なら、そこを狙うしかない)
スバルたちは呼吸を合わせ、突撃するタイミングを計る。
「ふむ。やはり視界が悪いな」
その矢先、敵が兜を脱いだ。長い銀色の髪がこぼれ落ち、右目を覆う黒い眼帯が露わになる。黄金の闘士の正体は、小柄な少女だった。
「お前は!?」
「私はナンバーズ、チンク。タイプゼロ、お前たちと同じ戦闘機人だ」
スバルの疑問に、少女が答えた。タイプゼロは、スバルとギンガの異称だ。
「あっれー? まだ終わってなかったっスか?」
朗らかな声と共に、新たな少女が乱入してくる。
翼を生やした黄金の鎧に、右手に弓を携えている。チンクの物とは違い、兜はヘッドギア型で、楽しげに笑っているのが良く見える。
「ウェンディ」
チンクが弓を持った少女の名を呼ぶ。
「こっちはまあまあ強かったっスよ」
ウェンディの笑みに残酷なものが混じる。翼の後ろに隠していたものを、スバルたちのそばに投げ捨てる。
「ヴィータ副隊長! リイン曹長!」
スバルが悲鳴を上げる。
ウェンディが投げたのは、ぼろぼろになったヴィータとリインだった。ティアナが容体を調べるが、命に別状はないようだった。
「そんなヴィータ副隊長が負けるなんて」
ギンガも動揺を隠せない。
「へえ。チンク姉が手こずってるとなると、少しは骨がありそうだな」
続いて、黄金の鎧を着た赤い髪の少女が、スバルたちの後方からやってくる。色こそ違うが、顔立ちはスバルに瓜二つだった。
「ノーヴェ、そっちももう終わったのか?」
「ああ。手応えのない連中ばっかりで、準備運動にもならなかった」
ノーヴェと呼ばれた赤い髪の少女が、たてがみを模した兜の下で、唇を不機嫌そうに尖らせる。
ティアナの背を冷たい汗が滑り落ちる。チンク一人でも倒せなかったのに、おそらく同等の実力を持った戦闘機人が二人も増えた。
ユニゾンしたヴィータでさえ敵わなかった相手だ。普通なら撤退を考えるところだが、囲まれていてはそれも難しい。
「チンク姉とウェンディは休んでてくれ。こいつらは私がやる」
「まだ実戦テストは充分じゃないんだ。あまり無茶はするな」
「わかってるよ。チンク姉は心配性だな」
ノーヴェが気のない返事をする。
ノーヴェの注意が、こちらからそれたと見るなり、スバルが走り出した。リボルバーナックルのカートリッジをロードし、魔力を右拳に集中させる。
ノーヴェは煩わしそうに振り向くと、同じように右拳を繰り出す。
「一撃必倒、ディバインバスター!」
「ライトニングボルト!」
空色の拳と黄金の拳が正面から激突する。ノーヴェの拳がわずかに押し戻される。
(いける!)
スバルが再びカートリッジをロードする。速度はノーヴェの方が上かもしれないが、威力はこちらがわずかに勝っている。畳みかければ、勝機はある。
スバルを援護しようと、ギンガが飛び出し、ティアナがクロスミラージュを構えた。
ノーヴェは無造作に右腕を前に突き出した。
『エネルギー反応さらに増大! 推定オーバーS!』
「ライトニングプラズマ!」
シャーリーの警告と、ノーヴェが技を放ったのは、まったく同時だった。
スバルたち三人の視界を、閃光が縦横に瞬いたと思った次の瞬間、体が宙に舞っていた。
「……えっ?」
わずかに遅れて、激痛が全身を駆け巡る。想像を絶する速度で、滅多打ちにされたのだ。スバルが、ティアナが、ギンガが受身も取れず地面に激突する。
「よし。これで終わりだな」
「そうでもないみたいっスよ」
勝利を確信したノーヴェを、ウェンディがからかう。
「まだ……負けてない」
痛みを訴える腕と足を無理やり動かし、スバルとギンガが立ち上がる。だが、強がりなのは明白だった。膝は震え、両腕を上げる力すら残されていない。
必殺技を使って仕留めきれなかったことは、ノーヴェの癇に障った。舌打ちと共に、再びライトニングプラズマを放つ。
ギンガが最後の力を振り絞り、スバルをかばう。
「ギン姉―――――――――――っ!!」
スバルが絶叫した。目の前で、ギンガが黄金の閃光によって徹底的に打ちのめされていく。それだけでは飽き足らず、閃光はギンガごとスバルを吹き飛ばす。
今度こそスバルたちが動かなくなったのを確認し、ノーヴェがウェンディに尋ねた。
「タイプゼロは捕獲だったな?」
「なんか、してもしなくても、どっちでもいいって言ってなかったスか?」
「そういうの一番困るんだよな。はっきりしてくれないと」
「悩む必要はない。連れて行って、ドクターの判断を仰ぐとしよう」
チンクがスバルに手を伸ばす。その手を、突如飛来した鎖が阻んだ。
「そこまでだ!」
ペガサスの意匠が施された白い鎧と、赤い服を着た少年が、ノーヴェたちの前に立ち塞がる。
「君たち、大丈夫?」
駆けつけたもう一人が、スバルたちを気遣う。輝く薄紅色の鎧に、長い一本の鎖を両腕に巻きつけている。
(女の子?)
スバルは朦朧とした意識で相手を見上げる。
「後は僕たちに任せて」
肩まで伸びた緑色の髪に、綺麗な顔立ち。しかし、声はやや高めだが男のものだった。色といい、丸みを帯びた形状といい、鎧が女性的なので、ややこしいことこの上ない。
二人の少年が肩を並べ、ナンバーズたちと対峙する。
「お前たち、聖闘士(セイント)か?」
チンクが問いかける。
「ああ、そうだ。盗んだ黄金聖衣(ゴールドクロス)、耳をそろえて返してもらうぜ!」
白い鎧の少年が、威勢よく言った。
その頃、地上本部の指揮管制室は、大混乱に陥っていた。
「何故だ!? 何故、たった三人の賊が抑えられん!」
指揮官が腹立ち紛れに机を叩く。
モニターに表示されているのは、おびただしい数の倒された武装局員たち。このままでは全滅も時間の問題だ。
「システムの復旧はどうした!」
「もう少し時間がかかります!」
戦闘機人の襲撃とほぼ同時に、本部のシステムがクラッキングを受けていた。建物内では隔壁が勝手に締まり、人々を中に閉じ込めている。エレベーターも使用不能だ。
「とにかく残っている部隊の再編成を急げ。賊を絶対に中に入れるな!」
「それがとっくに入ってるんだな」
場違いに明るい声が、耳元で囁く。指揮官は凍りついたように動きを止めた。いや、比喩ではなく、本当に凍りついていた。
驚く管制官たちの前で、黄金の鎧を着た水色の髪の少女が、頭上で両腕を組み合わせた。前腕部の装甲が水瓶を形作る。
「オーロラエクスキューション!」
振り下ろされた水瓶の先から、絶対零度の凍気が撃ち出された。室内が氷で覆い尽くされていく。
「手加減はしたから、多分死んでないよね。それにしてもすごい能力」
氷の彫像と化した管制官たちを、ナンバーズ、セインは感心したように眺める。
ミッドチルダとは別の世界に、聖闘士と呼ばれる正義の闘士たちがいた。彼らは星座の聖衣(クロス)を身にまとい、小宇宙(コスモ)と呼ばれるエネルギーを燃やし戦う。その拳は空を裂き、蹴りは大地を割る。
八十八いる聖闘士の中でも、黄道十二星座を司る最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)に至っては、放つ拳は光速に達する。
セインは自らがまとう水瓶座(アクエリアス)聖衣を愛しげに撫でる。苦労して盗み出した甲斐があったというものだ。
かろうじて生き残ったモニターには、姉妹たちの姿が映し出されている。
魚座(ピスケス)聖衣のチンク。射手座(サジタリウス)聖衣のウェンディ。獅子座(レオ)聖衣のノーヴェ。誰も彼も絶好調のようだ。
「ドクターはやっぱり天才だね」
聖衣の胸部装甲の裏側に、結晶型の小型機械が取り付けられていた。
聖衣にはこれまでの装着者の記憶が蓄積され、聖衣の意思を形成している。スカリエッティの開発したこの機械は、聖衣の意思に働きかけ、ナンバーズを本来の装着者に、敵対する者を邪悪な戦士と誤認させる。
さらに黄金聖衣の持つ力を、体内に直接送り込むことで、装着者のコスモを強制的に覚醒させ、黄金聖闘士の域まで高めてくれる。
コスモ自体はあらゆる人が持つエネルギーだが、習得には長く厳しい命懸けの修行が必要になる。スカリエッティの発明は、その過程を省略する画期的な物だった。
難点は、黄金聖闘士ぎりぎりの力しか発揮できないことと、聖衣が男性用なので胸元が少々窮屈なことくらいだ。
「さてと、お仕事、お仕事」
引き続き破壊工作と、内部の連中の足止めをしなければならない。セインは軽い足取りで、指揮管制室を出て行った。
次元を超えて現れた白い鎧の少年、ペガサス星矢は、ナンバーズを見て、苦々しい表情を浮かべた。
「全員女かよ。やりにくいな」
「油断しないで、星矢。どんなからくりかわからないけど、彼女たちは黄金聖闘士の技が使えるみたいだ」
薄紅色の鎧の少年、アンドロメダ瞬が鎖を構える。
二人とも、聖闘士の中では最下級の青銅聖闘士(ブロンズセイント)だが、かつて黄金聖闘士と戦い勝利を収めたことのある猛者たちだ。
「わかってるよ」
星矢と瞬が戦闘態勢を取る。
「面白ぇ。腕試しの相手になってもらうぜ」
ノーヴェが右腕を前に突き出すと、機械が聖衣の意思から技のデータを読み取り再現する。
「ライトニングプラズマ!」
光速拳が、連続で放たれる。
「燃えろ、俺のコスモよ!」
星矢が叫び、黄金の拳の嵐の中に踏み込む。常人では視認することさえ不可能な連撃を星矢は紙一重でかわしていく。
「所詮はサル真似だな。本物のライトニングプラズマより、速度も精度も劣る!」
ライトニングプラズマは一秒間に一億発の拳を相手に叩き込む技だ。しかし、ノーヴェのライトニングプラズマはそれより一万発少ない。
「聖闘士に同じ技は通用しない。まして劣化コピーなんて話にならないぜ!」
星矢とノーヴェの隣で、瞬とチンクも戦闘を開始する。
「ピラニアンローズ!」
「ネビュラチェーン!」
瞬の鎖が生き物のように動き、チンクの投げる黒バラを絡め取る。
「どうやら、あなたたちは全ての技を使えるわけではないようだね」
チンクの黒バラはよく見ると、金属で出来た造花だった。威力の低下を武器で補ったのだろうが、これではピスケスの他の技、ロイヤルデモンローズとブラッディローズは使えない。
ピスケスの黄金聖闘士アフロディーテは、香気だけで人を死に至らしめる恐ろしい毒バラの使い手だった。しかし、毒バラを使うには、自らもその毒に耐えねばならない。技は真似できても、耐毒性まで再現はできなかったのだろう。ならば、恐ろしさは半減する。
星矢の蹴りが、瞬の鎖が、ノーヴェとチンクを後退させる。
「これで終わりだ!」
星矢が勢いよくノーヴェに接近する。ノーヴェはにやりと笑った。
「ライトニングプラズマ!」
「同じ技は……何!?」
次にノーヴェが放ったのは、光速の蹴りだった。拳とは異なる軌道を描くそれを避けきれず、星矢が天高く蹴り上げられる。
「私は蹴りの方が得意なんだよ!」
ノーヴェの足元から、光の道が螺旋を描いて伸び、空中にいる星矢を取り囲む。ノーヴェの能力、エアライナーだ。
「聖闘士は飛べないんだよな」
ノーヴェは光の道を駆け、落下しようとする星矢をサッカーボールのように蹴り上げていく。空中では、星矢に防御以外の選択肢はない。
「星矢!」
「余所見をするとは余裕だな。IS発動ランブルデトネイター」
チンクが指を弾くと、鎖に絡め取られていた黒バラが爆発を起こす。
「うわぁああああああっ!」
チンクのISは無機物を爆発物に変える。バラを造花に変えたのはこの為だった。
「私たちの技を、劣化コピーと言ったな」
チンクは両手に新たなバラの花を構える。
「認めよう。しかし、我らにはそれを補う別の能力がある!」
聖闘士は相手の技を見切ること得意とする。しかし、それは相手も同じコスモの使い手だからだ。異なる原理で動く戦闘機人のISを、容易く見切ることはできない。
黒バラが、瞬の周囲で次々と爆発する。鎖と聖衣で多少軽減されているが、爆風が瞬をその場に縫いつける。
「そろそろ私も参加させてもらうっス。ISエリアルレイブ」
サジタリアスの翼が発光し、星矢とノーヴェを追いかけて飛ぶ。
ウェンディのISは、固有装備のライディングボードを扱う為のものだが、今はサジタリアス聖衣と連動している。元々若干の飛翔能力を持っていたサジタリアスの翼と、ウェンディのISの相乗効果により、自在に飛行が可能となっていた。
「同じ技は通用しない。なら、見たことない技ならいいんスよね」
ウェンディがコスモを右拳に集中させる。
「アトミックサンダーボルト!」
サジタリアスの黄金聖闘士アイオロスはすでに故人であり、星矢たちは実際に会ったことがない。まして、その技を知るはずがない。
ウェンディの光速拳が迫る。
「エクセリオンバスター!」
星矢の背後から発射された桜色の光線が、ウェンディの拳と激突し、威力を相殺しあう。
「!?」
ノーヴェとウェンディの攻撃の手が止まる。
地面へと落下を始めた星矢の体を、誰かが受け止めた。
星矢は痛みに顔をしかめながら、助けてくれた相手を仰ぎ見た。
「あんたは?」
「私はなのは、高町なのは」
白を基調としたバリアジャケット。栗色の髪は白いリボンでツインテールにまとめられ、左手には赤い宝石がついた長い杖を持っている。
「話は後で。まずはこの状況をどうにかしないと」
なのはは険しい面持ちで、ナンバーズたちを見据えた。
以上で投下終了です。
星座名とコスモは初回のみ漢字で、後はカタカナで書きます。その方が雰囲気が出そうだったので。
次回後編は多分来週ぐらいに投下できると思いますが、それ以降はゆっくりとしたペースになると思います。
それでは、また。
204 :
一慰:2012/12/21(金) 00:39:46.61 ID:OXNBcwWH
無限
乙。
聖闘士星矢クロスは“時空を超えた〜”がエタったので歓迎モノ
ただ内容がやや詰め込み過ぎかも、もう少し余裕をもってもいいかと
気になったんだけど、多重クロス(スパロボのような)って基本的にはあまり歓迎されてないのかな?
某ディケイドの例があるとは言え、作者如何によっては面白い作品になることもあり得ると思うんだけど。
>>206 リリカルをメインにしずらい、ってのもがあるんじゃない?
スーパーロボット軍団も動乱など外伝以外はUCガンダムとストパンメインっぽいし
>>206 単純に書く難易度が高い
クロスさせる作品が増えるほど色々と作業量が増えるからね
その為に未完で終わる可能性が高いから敬遠されやすい
>>207-208 返答ありがとう。そうだね、戦場のヴァルキュリア・BLEACH・幻想水滸伝U・スパイラル〜推理の絆〜
から一人ずつ登場させてクロスさせたかったんだけど、1作品に絞った方がよさそうかな
支援
>>205 その通りですね。すべて書かなければいけないという考えに囚われすぎていたようです。
以後、気をつけます。
本日、23時半より『リリカル星矢StrikerS』第二話投下します。
それでは時間になりましたので、投下開始します。
第二話 襲撃、黄金の闘士たち(後編)
時空管理局地上本部から遠く離れた森の中に、騎士ゼスト、ルーテシア、アギトが潜んでいた。
ロングコートを着た大柄な男、ゼストは目を凝らし、地上本部で繰り広げられる戦闘を観察する。わずか数名の戦闘機人が、局の魔導師たちを蹂躙して回っている。数日前には考えられなかった光景だ。
「スカリエッティめ、いつの間にあれだけの力を得た?」
ゼストは眉間のしわを険しくする。一応、協力関係にあるが、ゼストはスカリエッティを毛嫌いしていた。
「ルーテシアは何か聞いていないか?」
紫色の髪をした寡黙な少女ルーテシアは、無言で首を横に振る。
「ちっ。あたしらを無視するなんて、偉くなったもんだぜ」
ルーテシアの頭上に乗った手の平サイズの少女、ユニゾンデバイスのアギトが、忌々しげに吐き捨てた。悪魔のような翼と尻尾を生やして、露出度の高い恰好をしている。
これまでのスカリエッティなら、大がかりな作戦の時は必ずゼストたちに協力を求めてきた。
こちらからスカリエッティに連絡を取ろうとしたが、作戦行動中だからかつながらない。
「俺たちは必要ないということか。まあいい。好都合だ」
「旦那、行くのか?」
「ああ」
ゼストはかつて一度に死に、スカリエッティの手によって蘇った人造魔導師だ。彼の目的は、かつての友レジアスに会い、己の死の真相を知ること。
レジアスは地上本部にいるはずだ。この好機を逃す手はない。
「ルーテシアはここで待っていろ」
「……私も手伝おうか?」
「いや、アギトもいるし大丈夫だ。行ってくる」
「おうよ。旦那は私が守ってやるよ」
歩き出そうとしたゼストのコートの裾を、咄嗟にルーテシアは握りしめていた。
「どうした?」
ルーテシアらしからぬ行動に、ゼストは軽く目を見張る。ルーテシアもそれは同じだったようで、自分の手を不思議そうに見つめ、裾を離した。
「……何でもない」
「そうか。では。大人しく待っているんだぞ」
ルーテシアを安心させようと、ゼストは武骨な顔に笑みを浮かべる。
出発するゼストの背を、ルーテシアは不安げに見送る。
ここで別れたら一生会えなくなる。そんな不吉な予感を、ルーテシアは必死に押し殺していた。
エリオたちからデバイスを受け取ったなのはたちは、別れて行動を開始した。
シグナムは本部内に侵入した敵の迎撃へ。はやては、判明している限りの戦闘機人の情報を現場に伝えている。
そして、なのははスターズ分隊の応援へと向かい、ナンバーズと戦う星矢たちと出会った。
なのはは戦闘態勢を維持したまま、ゆっくりと高度を下げ、星矢を地面に下ろす。
ナンバーズの動きを、なのはは目で捉えられなかった。先程のエクセリオンバスターは、星矢への執拗な攻撃を阻止できればと撃っただけで、敵の必殺技を相殺できたのは完全に偶然だ。
なのはは星矢と瞬を窺う。正体は知れないが、彼らは味方のようだ。協力してこの場を切り抜けるしかない。
「君たち、私が攻撃するまでの時間稼ぎ、お願いできる?」
「任せておけ。もうあんな無様な真似はさらさないぜ」
星矢が親指を立てた。どうやら協力関係成立のようだ。
なのはが魔力チャージを始めると同時に、チンクが動いた。
「ピラニアンローズ!」
「ローリングディフェンス!」
瞬の鎖が回転し黒バラを防ぐ。
ウェンディとノーヴェが星矢に迫る。
「はあぁあああああっ!」
星矢の両腕がペガサス星座十三の軌跡をなぞる。
「ペガサス流星拳!!」
毎秒百発以上の音速拳を繰り出す星矢の必殺技。しかし、星矢のコスモの高まりに応じて、その速度はライトニングプラズマに匹敵するものになっていた。
「くっ!」
流星拳を、ウェンディとノーヴェが両腕を交差させてブロックする。
「二人とも、どいて!」
なのはが叫び、杖型デバイス、レイジングハートを構えた。星矢と瞬がその場から飛び退く。
「スターライトブレイカー!!」
なのはの切り札、集束砲撃が大地を焼き尽くす。
「すげぇな」
すぐそばを通過する桜色の光の奔流に、星矢は舌を巻いた。あまりの火力に大気まで震えていた。
やがて光の奔流が過ぎ去ると、射線からわずか外側で、黄金の鎧が白煙を上げているのが見えた。
「てめえら、もう容赦しねぇぞ」
ノーヴェがよろめきながら立ち上り、怒りを露わにする。
「直撃は、しなかったみたいだね」
なのはが悔しげに言った。それなりのダメージを与えたが、戦闘不能には程遠い。
なのはたちは第二ラウンドに備えた。
その頃、ライトニング分隊隊長フェイトは、エリオとキャロをつれて機動六課へと急行していた。フェイトの金色の髪と白いマントが夜風にはためく。
数分前に、機動六課が敵に襲撃されているという連絡があった。それ以来、六課との通信が途絶している。
(ヴィヴィオ、みんな、お願い、無事でいて)
先日、後見人になったばかりの赤と緑の瞳の少女と、隊のみんなの無事をフェイトは祈る。
「すいません。私たちが隔壁の突破に手間取ったばかりに」
白銀の飛竜フリードリヒに跨るキャロが、申し訳なさそうに言った。キャロの後ろに座るエリオも同じ顔をしていた。
「二人のせいじゃないよ。とにかく急ごう」
フェイトはさらにスピードを上げ、海上を飛ぶ。
「止まって!」
フェイトが叫び、急停止する。目の前を魔力弾が通過して行った。
弾の来た方向に目をやると、二人の女が空に浮いていた。
「あなたを先に通すわけにはいきません」
牡牛座(タウラス)の聖衣を身につけた大柄な女性、ナンバーズ、トーレと、全身に武器を装備し、両腕に盾をつけた天秤座(ライブラ)聖衣のセッテが、フェイトたちの行く手を阻む。
フェイトはナンバーズたちに敵意を向ける。
黄金の闘士たちの強さは、ヴィータから聞き及んでいる。もっとも、フェイトたちは、その後ヴィータが撃墜された事実を知らないが。
「エリオとキャロは先に行って。こいつらは私が引き受ける」
「でも」
キャロが食い下がろうとするが、エリオが肩をつかんで制止する。
「僕たちがいても、フェイトさんの邪魔にしかならない」
エリオの空戦能力は限定的であり、キャロのフリードも巨体ゆえに小回りが利かない。高速機動を得意とするフェイトと連携を取ることは難しい。
「……わかりました」
キャロが手綱を操り飛竜フリードを前進させる。
エリオとキャロが離脱していくのを、トーレたちは黙って見送る。目標はフェイト一人らしい。
「セッテ、初陣のお前には悪いが、ここは譲ってくれ」
「わかりました」
トーレが腕組みをしたままフェイトと正面から向かい合う。その兜から生える黄金の牛の角は片側が半ばから折れていた。
(様子見をしている余裕はない!)
フェイトの能力限定はすでに解除されている。リミットブレイク、真・ソニックフォームを発動させる。バリアジャケットがレオタード状のものに、デバイスのバルディッシュが二振りの剣に変化する。
速度と攻撃力が格段に上昇するが、防御力が極端に落ちる諸刃の剣だ。
フェイトは電光石火で間合いを詰め、大上段からバルディッシュを振りかぶる。その時、トーレがにやりと笑った。
「グレートホーン!」
トーレが腕組みから、居合いのように両腕を突き出す。同時に、フェイトのバルディッシュが閃光を発した。
野牛の突進の如き衝撃波が、フェイトを海面に叩きつける。トーレの腕組みは自信の表れではなく、攻防一体の構えなのだ。
目くらましのせいで、グレートホーンの狙いがわずかにずれたようだが、真・ソニックフォームの防御力では、かすめただけでも撃墜は免れない。
「無駄なあがきを」
トーレが閃光でくらんだ目を何度か瞬きさせると、すぐに視力は回復した。
フェイトが沈んだ海面は、しばらく波打っていたが、やがて静かになる。
トーレとセッテはそれきりフェイトに興味を失ったように、その場から飛び去っていった。
「フェイトさん?」
フリードに座ったまま、エリオは不安げに背後を振り返る。だが、フェイトの姿は闇にまぎれてもう見えない。嫌な予感が胸中にわだかまるが、今は六課へ急ぐことにする。
前方の空が赤く染まっている。六課隊舎が炎に包まれているのだ。
立ち昇る黒煙の中で悠然とたたずむのは、牡羊座(アリエス)の聖衣をまとった中性的な顔立ちのナンバーズ、オットーと、山羊座(カプリコーン)の聖衣をまとったディードだった。
オットーたちの足元には、蒼い狼ザフィーラと緑の衣を着たシャマルが倒れている。
ディードは一人の少女を脇に抱え連れ去ろうとしていた。なのはとフェイトをママと慕う少女、ヴィヴィオだ。
それを見た途端、エリオの顔から血の気が引いていく。
エリオは死んだ息子の代わりに違法に生み出されたクローンだった。保護の名目の元、親元から無理やり引き離された過去と、今のヴィヴィオの姿が重なる。
「うわぁあああああああーっ!」
エリオの槍型デバイス、ストラーダがフォルムツヴァイに変化する。魔力をロケットのように噴射し、エリオはディードめがけて一直線に突撃する。
ディードはエリオの突撃を軽くいなすと、無防備な首筋に肘を打ち下ろす。一撃で意識を刈り取られ、エリオが突進の勢いのまま地面を派手に転がる。
ディードはキャロに視線を投げると、ヴィヴィオを炎の届かない安全な場所に寝かせた。
「エリオ君!」
フリードがブラストレイを放つ。フリードの炎は、オットーの眼前で透明な壁に遮られる。
「クリスタルウォール」
透明な壁が、ブラストレイをそのままフリードに撃ち返してくる。アリエスの技、クリスタルウォールはあらゆる攻撃を反射する。
ブラストレイの炎が、キャロとフリードの視界を塞ぐ。その隙に、ディードが接近していた。
「エクスカリバー」
ディードの手刀がフリードの胸を深く切り裂く。
血しぶきを舞わせながら、フリードが大地に墜落する。投げ出されたキャロは、痛みを堪えながら顔を上げた。
「抵抗をやめてください。我々の目的は施設の破壊と、聖王の器の確保のみ。無駄な流血は望むところではありません」
淡々とディードが言った。
聖王の器がヴィヴィオを指していることは、疑いようがない。
「……させない」
キャロの足元に巨大な魔法陣が出現する。
「ヴォルテール!」
魔法陣から、天まで届くような大きさの黒竜が召喚される。
「これは……!」
意表を突かれたオットーとディードが、ヴォルテールの巨大な尾でなぎ払われ、建物の外壁に叩きつけられる。
「くっ!」
ヴォルテールが咆哮し、ギオ・エルガを放つ。
オットーがクリスタルウォールを展開する。だが、ヴォルテールの業火を反射しきれず、表面に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。砕けるのは時間の問題だ。オットーの顔に焦りがにじむ。
「廬山百龍覇!」
百の龍の牙が、真横からヴォルテールを襲い、片膝をつかせた。
「お前たち、無事か?」
トーレとセッテが、オットーたちの隣に降り立つ。オットーがこくりと頷く。
キャロがショックを受けたように口元を両手で覆った。
「そんな……じゃあ、フェイトさんは?」
信じたくはないが、ここにトーレたちが来たということは、フェイトが倒されたということだ。戦えるのは、もうキャロしか残されていない。
(ううん。フェイトさんはきっと生きてる! ヴィヴィオとエリオ君は私が守らないと!)
弱気になる己を必死に奮い立たせる。キャロの戦意に反応し、ヴォルテールが巨大な足で、トーレたちを踏みつぶそうとする。
「さすがにこのでかぶつは厄介だな」
トーレがヴォルテールを苦々しく見上げる。
「これを使ってみましょう」
セッテのライブラ聖衣から、武器が射出される。
トーレガスピアを、ディードがソードを、オットーがトンファーを、セッテがトリプルロッドを装備する。
「はぁああああああーっ!」
星をも砕くと称される黄金の武器が、一斉にヴォルテールに炸裂する。
「ヴォルテール!」
悲痛な咆哮と共に、満身創痍となった巨体が轟音を立てて大地に沈む。
「戻って!」
これ以上の戦闘は命に関わる。キャロが慌ててヴォルテールを送還する。
「竜を失った竜召喚士とは哀れですね」
キャロの戦意がまだ潰えていないことを感じ取ったのだろう。ディードが手刀を構えていた。
フリードにあれほどの深手を負わせた一撃だ。キャロに防ぐ術はない。
「エクスカリバー」
聖剣の名を冠した手刀が無情にも振り下ろされた。
ビルの屋上に、二人の女が待機していた。ここからだと地上本部がはるかかなたに霞んで見える。
蟹座(キャンサー)の聖衣をまとい、大きな丸眼鏡をかけたナンバーズ、クアットロ。
兜の両脇に善と悪の仮面を張りつけた双子座(ジェミニ)の聖衣と、巨大な大砲イノーメスカノンを装備したディエチ。
『準備できたよ』
「了解」
内部に潜入しているセインから連絡が来る。
地上本部は、中央の超高層タワーと、その周囲のやや低い数本のタワーによって構成され、そのすべてが強固な魔力障壁によって守られている。
ディエチはイノーメスカノンの照準を、低いタワーの一つに合わせる。そのタワーだけは内部の隔壁が下りておらず、中にいた者は残らず退避していた。
「IS発動へヴィバレル」
ディエチのISとコスモが融合し、砲弾を形成する。星々を砕くと称される力が、イノーメスカノンの中で脈動する。
「ギャラクシアンエクスプロージョン」
発射された砲弾が、目標のタワーをバリアごと粉々に砕く。崩れ落ちるタワーの残骸と舞い上がる土煙が、ここからでもはっきりと観測できた。
「着弾を確認。これで任務完了だよね?」
「ええ、そうよ。まったく暇でいけませんわ」
クアットロが、あくびしながらコンソールをいじる。一応、本部のシステムにクラッキングをかけているが、そんなものが必要ないくらいナンバーズは圧倒的だった。
「それより、クアットロ。移動しなくていいの?」
ディエチたちの居場所は、今の一撃で知られたはずだ。このままでは敵がやってきてしまう。
「いいのよ。少しは私も楽しませてもらわないと」
折しも、雲間から十名ほどの魔術師が接近してくるのが見えた。本部の救援に向かっていた連中が、こちらに気がつき進路を変えたのだろう。
クアットロが獲物を前にした毒蛇のように笑い、魔導師たちに人差し指を突きつけた。
危険を察知した魔導師たちがバリアを展開する。
「積尸気冥界波」
歌うようなクアットロの声がしたかと思うと、突然魔導師たちがもがき苦しみ出した。白い靄の様なものが、魔導師たちから飛び出し、暗い空間へと吸い込まれていく。
相手の魂を直接冥界へと送り込むキャンサーの必殺技だ。この技の前では、バリアは意味をなさない。
「ちょっと、クアットロ!」
ディエチがクアットロの腕を押さえる。
「ドクターの命令では、できる限り人命を奪うなって……」
クアットロに冷たい眼差しを向けられ、ディエチの言葉は徐々に尻すぼみになっていく。
「わかってないのね、ディエチちゃん。ドクターの命令は、価値がある命を奪うなってこと。あんな虫けら、生きてたって何の価値もないでしょう?」
きりもみしながら墜落していく魔導師たちの死体が、最高の娯楽だと言わんばかりにクアットロは笑っていた。虫の命の価値など、せいぜい死に様で楽しむくらいしかない。
「……クアットロ?」
狂ったように高笑いを続ける姉を、ディエチは怯えたように見つめていた。
ディードの手刀が振り下ろされた瞬間、キャロは覚悟を決めて目を瞑った。
しかし、痛みはいつまでたってもやってこない。
「その程度か」
聞き慣れない声に顔を上げると、長い黒髪が風になびいていた。
キャロを助けてくれたのは、龍の意匠が施された濃緑の鎧をまとった少年だった、隣には冷気に覆われた白鳥の鎧をまとった金髪の少年がいる。
ドラゴン紫龍とキグナス氷河。星矢の仲間の青銅聖闘士たちだ。
紫龍の左腕の盾が、ディードの手刀を防いでいた。
「その程度で聖剣を騙るとは笑止千万!」
紫龍が怒気と共にディードを弾き飛ばす。
「ほう、聖闘士が紛れ込んだか」
トーレが言った。
「だが、たった二名で勝ち目があるかな?」
「それはどうかな」
海側から人影が歩いてくる。
「フェイトさん!」
キャロの顔が喜びに輝く。炎に照らし出されたその姿は、まさしくフェイトだった。
「私はまだ墜ちていない」
トーレが驚愕に目を見開く。グレートホーンは確実に命中したはずだ。あの装甲で無事なはずがない。
グレートホーンが炸裂する直前、フェイトの第六感が警告を発した。トーレの態度が、まるで敵が罠にかかるのを待っているかのようだったからだ。
咄嗟にバルディッシュが閃光による目くらましを行い、その隙に真・ソニックフォームを解除、バリアを展開しどうにか撃墜を免れた。
フェイトとキャロが紫龍たちと並び、戦闘態勢を取る。
「数では互角。これで勝負の行方はわからなくなったな」
フェイトははったりをかます。
撃墜されなかっただけで、グレートホーンによるダメージは深刻だ。バルディッシュを構えていることさえ辛い。痙攣しそうになる両腕を意志の力で抑えつけ、相手が退いてくれるか、増援が来るまでの時間を稼ぐ。
『そこまでです』
落ち着いた声音と共に、映像が空中に投影される。映し出されたのは、乙女座(バルゴ)の聖衣を着たナンバーズ長姉たるウーノ。
『各自、撤退を開始してください』
フェイトの祈りが通じたのか、ウーノの指示に従い、トーレたちが撤退していく。
紫龍たちが追いかけようと一歩踏み出すが、思いとどまる。深追いは危険の上、飛行する相手の追跡は難しいと言わざるを得ない。
「フェイトさん、大丈夫ですか?」
「平気だよ、キャロ」
キャロの気遣いに、フェイトが虚勢を張る。
「それより、みんなを助けないと……」
炎が六課隊舎を飲み込もうとしている。だが、突入できる体力はフェイトには残っていない。
「俺に任せろ」
氷河が白鳥の羽ばたきを思わせる構えを取った。氷の結晶が氷河の周囲を漂う。
「ダイヤモンドダスト!」
氷河が拳から凍気を放つ。氷河が連続でダイヤモンドダストを放つと、火災が瞬く間に収まっていく。
「行くぞ、紫龍」
「ああ」
鎮火した建物の入り口は、がれきによって塞がれていた。
「廬山昇龍覇!」
廬山の大瀑布をも逆流させる紫龍の右アッパーががれきを粉砕する。
氷河と紫龍が建物内へと入っていく。二人の精力的な人命救助により、機動六課の死者数は奇跡的にゼロになった。
ナンバーズが撤退し地上本部の隔壁が解放されると、レジアス・ゲイズ中将は直ちに自屋に戻った。
窓の外では、大画面に表示されたスカリエッティが、犯行声明を行っていた。
不遇な技術者たちの恨みの一撃だの、自らが生み出した戦闘機人の自慢などを滔々と語るスカリエッティを、レジアスは忌々しげに睨みつける。
「ええい、何故、連絡が取れん!」
通信機をいじりながら、大声で怒鳴る。
「すでに回線を変えられているようです」
部下の女性が言った。オーリスや他の部下たちは被害の確認に奔走している。現在付き従っているのは、地味な容貌のこの女一人だけだ。
スカリエッティとレジアスは裏でつながっている。しかし、それはあくまで地上の平和を守るために、レジアスがスカリエッティを利用しているだけで、その逆など決してあってはならない。
レジアスはビヤ樽の様な体を揺すりながらイライラと歩き回り、部屋の隅に置いてあった大きな四角い布の包みに、足を引っ掛けた。
「なんだ、これは!?」
「新しく届いた機材です。お邪魔でしたら、すぐに片付けますが?」
「そんな些事は後にしろ! それより……」
「久しぶりだな、レジアス」
扉を開けて、ゼストが入ってくる。
レジアスは、かつての友が蘇ったことを知らない。あれだけ猛り狂っていた心がすっと冷え、文字通り幽霊を見たかのように顔を青ざめさせる。
「ゼスト、何故、お前が?」
「お前に聞きたいことがあって来た」
ゼストは大股でレジアスに近づいていく。アギトには邪魔が入らないよう廊下で見張ってもらっている。
ゼストは壁際に立つ部下の女を一瞥した。できれば一対一が良かったが、さすがにそこまで望むのは贅沢なようだ。見たところ、戦闘能力は低そうなので、害はないだろう。
レジアスは恐怖に震えながら後退する。
「お前は……」
ゼストが問いを口にしようとした瞬間、レジアスの胸を突き破り、鋭い刃物が飛び出した。
「レジアス!」
部下の地味な容貌が一変していた。
蠱惑的な顔立ちに、右手には鋼の長爪ピアッシングネイルを装備し、青いボディスーツに身を包んでいる。
ナンバーズ、ドゥーエ。ISライアーズ・マスクによって、他者になりますことができる。
「あなたの存在は、今後のドクターに取ってお邪魔ですので」
ドゥーエが微笑み、ピアッシングネイルをさらに深く抉りこむ。鮮血がレジアスの制服を赤く染め上げる。
レジアスは言葉を紡ごうと、口を開く。しかし、一音も発することもなく事切れた。
「貴様!」
ゼストはフルドライブを発動し、渾身の力で槍を斬り下ろす。槍と斬り結んだピアッシングネイルが金属音を響かせて砕け散る。だが、ドゥーエは余裕の表情を崩さない。
「刃向うのですか? どうやら、苦痛の果ての死がお望みのようですね」
ドゥーエは部屋の隅に置かれていた荷物の布をはぎ取る、精緻な文様が施された四角い箱が開き、中から黄金のサソリのオブジェが姿を現す。
オブジェが分解しドゥーエに鎧となって装着される。蠍座(スコーピオン)の黄金聖衣だ。
ドゥーエは砕けたピアッシングネイルを脱ぎ捨てる。露出した右人差し指の爪が、長く鋭く伸びていた。色は血を染み込ませたような紅。
「スカーレットニードル!」
サソリの毒針が、真紅の衝撃となってゼストを貫いた。
レジアスの部屋に入ったアギトとシグナムは、あまりの惨状に言葉を失った。部屋が一面血の海と化している。
「スカーレットニードル・アンタレス」
ドゥーエは静かに呟き、ゼストの心臓から真紅の爪を引き抜いた。聖衣も顔も返り血で真っ赤に染まっている。
ゼストの体には十五個の穴が開き、致死量をはるかに超える血が溢れだしていた。部屋の血はほとんどゼストのものだ。
「旦那!」
ゼストの元へ行こうとするアギトを、シグナムが制止した。迂闊に近づけば、アギトの命も即座に摘み取られる。
「賢明ですね。それでは、失礼します」
「……待てよ」
奇妙に感情の抜け落ちたアギトの声に、ドゥーエは足を止めた。
「一つだけ教えろ。旦那は、旦那はそこの親父と話し合えたのか?」
「いいえ。その前に殺してしまいました」
「そっか」
アギトは顔を上げ、憎悪に燃える瞳でドゥーエを睨みつけた。
「なら、お前は私が殺す。どんな手を使ってもだ!」
ドゥーエはアギトを一瞥すると、窓ガラスを破り外へと身を躍らせる。とてもではないが、シグナムが追跡できる速度ではない。
「間に合わなかったか」
ゼストとレジアスの死体を見て、シグナムが悔しげに顔を歪める。
ささやかな願いを踏みにじられ、どれだけ無念だったのだろう。ゼストの死に顔は、怒りと絶望と後悔が複雑に混ざり合い、とても安からと言えるようなものではない。
室内はむせかるような血臭と、アギトの嘆きの声に満たされていた。
以上で投下終了です。
それでは、また。
旧版アルシャードとクロスしてなのは達なら大ラグナロクを止められるだろうか?
今回の牛は噛ませならずにすみそうだ
いやある意味噛ませ確定みたいなもんだけど強キャラしてて嬉しい
221 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/10(木) 15:37:44.86 ID:oBsi7a1u
≫219
宇宙破壊とか時間軸を無視して行動とか出来ないと戦力外のハイパーインフレだぞw
>>221 前回とは違って今回はこのスレとは無関係じゃん
>>222 なのは達ではアインヘリアルにすら達してないだろうからな。
こんにちは〜
9ヶ月ぶりに私は帰ってきたぁ!
21時頃にマクロスなのはの31話を落としますので、よろしくです〜
それでは時間になったので投下を開始します〜
マクロスなのは第31話「聖剣」
EMP攻撃から数分後 電脳空間
フォールド波から電子の流れまで、全ての事象を解析・表示する電脳空間から事件を眺めていたグレイスは、先ほど災害現場に到着したらしいブレラの呼びかけに耳を傾ける。
「どうした?」
『周囲にフォールドネットの原始的生成を検知しました』
「ん?それはどういうことだ。ブレラ・スターン」
もちろん彼のセンサー情報はこちらでもリアルタイムで確認しているが、このように言語を介すのは、体を機械に置き換えてなお残る習慣であった。
こちらに問いにブレラは迷うことなくバジュラのEMP攻撃によって、置物と化していた車両のボンネットを剥がす。そしてパッと見回すと、電子の瞳でただ一点"バッテリー"を凝視する。
『・・・・・・この物質がフォールドクォーツへと変化するのを確認しました』
「バッテリーがフォールドクォーツに・・・・・・。ふふふ、了解したわ。命令変更、直ちにそのサンプルを採取し、帰還しなさい」
『ヤー』
短い応答と共に、彼は腕の単分子ブレードで車からバッテリーを分離させ、VF-27の待つ海岸への帰路についた。
5時間後 ミッドチルダ沖合20km 海上
「あれから5時間でまだこれかい?」
仮眠していたのか髪をボサボサにしたギャビロフは、損害報告モニターの表示に非難の声を上げる。
「面目ない・・・・・・」
はんだごて片手に電子基盤と格闘する部下が、小さく謝罪した。
「まったく・・・・・・それで、修理はどうなったんだい?」
「EMPでかき回された電子系は大方復旧できました。通信の方ですが、これを見る限りこっちは故障じゃないみたいです」
次元海賊「暁」所属、輸送艦「キリヤ」は次元空間からのワープアウト直後に謎のEMP攻撃を受けて航行不能に陥り、緊急浮上。そこで応急修理を行っていた。しかし浮上から5時間が
たった今も、迎撃どころか管理局のレーダー波すら飛んでこないことを怪訝に思っていた。
「じゃあ、やっぱりアレ≠ェ動いちまったせいなのかい?」
「ええ。EMPで壊れた拍子に動いてしまったみたいなんで、今わかってるだけでもクラナガン全域をジャミングしてしまったみたいです。効果が予定通りなら、電磁波通信は明日までで
きないと思います」
「切り札のつもりだったけど、仕方ないね・・・・・・。それで、アマネからの連絡は?」
「はい、地上局の工作員経由の連絡によればなんですが・・・・・・」
「どうしたんだい?」
「それが・・・・・・合流ポイントに、この近くのネズミーランドを指定して来まして・・・・・・」
「あの子、遊びに来てるつもりなのかね・・・・・・」
海賊の首領たるギャビロフも少なくとも科学技術に関しては天才である部下の考えを読みかねて頭をかかえた。
事件翌日 フロンティア基地航空隊 格納庫
そこでは昨日の戦闘で傷ついた機体の補修作業が夜通し行われ、機体を失ったアルトも朝から他の機体の補修作業を手伝っていた。
(そろそろ時間か)
見上げた時計は0945時を示している。
昨日眠い頭にムチ入れつつ、ミシェルの言う通りに田所に連絡を入れていたアルトは、
「1000時までに技研に」
と言われていた。
そんな中、元VF-25専属整備士だったシュミットが、ぼこぼこになったVF-1Bの整備の傍ら聞いてきた。
「ところで昨日から休暇でどっかいっちまった諸橋が、隊長に聞きたいって言ってたことがあるんです」
「諸橋・・・・・・ああ、あの同性愛の新人か」
「え、ええ。まぁ、それでこいつらのエンジン周りのことなんですが、ここにいる連中にはわからない問題だったんで」
「・・・・・・俺にわかるのか?それ?」
「うーんどうでしょう。えっとコイツだと・・・・・・ここか。このブラックボックスのことなんですよ」
シュミットは整備していたVF-1のエンジンカバーをあけて、その箱を指差す。
「諸橋がVF-25にはこんなものついてないのに、他の機体には全部着いてる。どうして必要なんですか?って」
「ああ。そいつは確かメーカーが魔力炉のバックアップ回路が入ってるって触れ込みで、つけたんじゃなかったか?」
「はい。そこまでは我々でも分かるんですが、やっぱりそれ以上のことは分かりませんか?」
「・・・・・・そうだな。ここだけの話だが、VF-25なら魔力炉からの供給がなくても緊急時には質量兵器としての各種兵装が使えるから着けなかったって事ぐらいか」
「なるほど。やっぱりアレ、元質量兵器だったんですか」
「まぁな。黙ってたが、いい加減察していただろ?」
「ええ。主翼の付け根の銃口も観測機器って聞いていましたが、航法システムに全く干渉してこないし、カバー開けたら機器銘板に『25mm荷電粒子ビーム機銃』って書いてありました
から」
まぁ、管理局の封印を見てなんとなく事情はわかりましたけど。とシュミットは苦笑しながら付け足す。
管理局でのバルキリーの運用にはこうした明文化されていない察しを要求するところが多い。本来の技術開発をすっ飛ばして設計図から入ったり、自分のような次元漂流者の機体を
改造して使ったりだから仕方ないのだが、いつかこのことがネックになる時が来そうだと漠然と思った。
「まぁ、そういうことだ。10時に技研に行く予定があるから、ついでに聞いてこようか?」
「そうしてもらえるとありがたいです。でも10時に技研に、ですか?もう50分過ぎてますけど」
「ん?バルキリーなら130キロぐらいひとっ飛び─────」
そこまで言って気づいた。
(俺、VF-25墜としちゃったじゃん!)
途端に冷たい汗が背を伝う。
(いろいろ準備しなきゃいけないし、格納庫の予備機は・・・・・・勝手には使えないよな。EXギアでは・・・・・・だめだ。なのは達ならともかく、俺には音速は出せない。遅刻すると伝えるし
かないか・・・・・・)
そこでシュミットがこちらの思考に気づいたのか、代替案を提案してきた。
「確か天城二尉が技研に出向になるそうで、出発が10時だったかと。今ならバルキリーの発進を早めればあるいは・・・・・・」
「それだぁ!サンキュー、シュミット!」
礼を言うのももどかしく、その場を離れて修理されたばかりのVF-1Bを点検する天城に通信をつないだ。
(*)
3分後
自室で準備を済まして戻ると、すでに天城のVF-1Bは滑走路に待機していた。
(飲み込みが速くて助かる)
アルトは開いたキャノピーから後部座席に飛び込み、EXギアを固定した。
管理局の機体はその汎用性(ホバリング機能など)から救助作業その他のために全ての機体に後部座席が存在し、必要ならいつでも使えた。
「アルト隊長、技研行きの特急便、発進OKっすよ!」
「よし、出してくれ。」
「了解!」
天城はスラストレバーを上げると、所々被弾孔の残る鋼鉄の鳥を飛翔させた。
(*)
4分後
特急便はすでに技研に併設された格納庫で翼を休めていた。
「時間ぴったりだな。結構結構」
通信機から聞こえた田所の声に、腕時計を確認する。
1000時ジャスト。
バルキリーでなければまず間に合わなかっただろう。
安堵のため息が自然に出て、ドヤ顔を見せる天城に礼を言うと、機体から飛び降りた。
(*)
久しぶりに見る技研は更に改装が進んでおり、もうひび割れたビルなど残っていなかった。
「ずいぶんきれいになったろ」
田所の問いに、アルトは骨組み状態の5階建てビルから目を離して同意の仕草をする。
「最初に来たときは技術棟なんて4つか5つしかなかったのにな」
「まぁな。今では大企業並の予算と設備だ。おかげで陸士部隊の装備のアップデートや新兵器の開発だって上手く行っている」
「新兵器?」
問い返すアルトに、田所は研究施設の一角を指差す。
全てが舗装された他の敷地とは違い、そこにはオフロードと呼べるほどの荒れ地─────いや、よく整備されたコースがあった。
そこを走るは、8輪で鋼鉄の身体を動かし、全方位旋回する箱から伸びる特徴的な長い筒≠備えた車だった。
それは走りながら筒を横に向けると火を吹いた。
次の瞬間には標的だったものは吹き飛び、跡形もなくなった。
「今度は『ベアトリーチェ』か・・・・・・」
アルトはもう頭を抱えることしかできなかった。
『ベアトリーチェ』とはフロンティア船団の新・統合軍、首都防衛隊の装備していた装甲偵察車である。
その身に105mm速射砲を装備していたことから俗に戦車とも呼ばれ、バジュラの初襲来時にはアイランド1で迎撃に当たった。
しかし敢えなく撃破されており、以後は対バジュラ戦には投入されず、住民の誘導や治安維持に使われていた。
「ああ、前線からの要請だ。陸士部隊の移動手段の拡充が主な狙いだ。あの砲ならV型など目じゃないし、安全性は従来のトラック輸送と比べて格段に向上する」
「しかし、ねぇ・・・・・・」
走行射撃しながら順調に標的を撃破していく装甲車は、分類上魔導兵器なのだろうが、質量兵器にしか見えなかった。
「すぐに慣れるさ」
人間は順応性が高い。最近バルキリーの運用に違和感がなくなってきたのがその例だ。
しかしこれらは果たして慣れて良いものなのか、アルトにはわからなった。
(*)
それから5分ほど歩いて着いた場所はまるで地下鉄の入り口のような地下に続く道だった。
「ところで俺達はどこに向かってるんだ?」
堪えきれなくなったアルトが、田所に問うた。
「ん? なんだ、ミシェル君から聞いてないのか。・・・・・・まぁいい、とりあえず腰を抜かさない覚悟はしておけよ」
田所はまるで宝物を見せようとするガキ大将のような笑みを浮かべると、階段を降りていく。その先には果たして、地下に入るのか?というほど巨大な実験場があった。
「ほぅ、これはすごい・・・・・・」
田所の開けたドアの先は、どうやらエンジンの実験場のようだった。
自分達のいる管制所と、土台に据えられた丸裸の熱核タービンエンジンが存在する実験場とはガラスで隔離され、安全を確保している。
田所は何事かを研究員と話すと、何かのプラグを抜き、手渡してきた。
「なんだこりゃ?」
「とりあえず持っていてくれ」
答えるとともに彼は研究員に次々指示を出していく。
「―――――テストエンジンの反応炉、停止。―――――外部電源カット。―――――システムAからBへ移行」
研究員達は流れるような手つきでコントロールパネルを叩き、田所の指示を実行していく。
「反応炉、完全に停止。強制冷却機スタンバイ」
「全システム、モードBへ移行…完了」
次々と準備を行って行く研究員達の傍ら、アルトの目にhPa(ヘクトパスカル)表示のデジタルメーターが映る。徐々に小さくなって行く数値に、どうやら実験空間を真空近くまで減圧している事が見て
取れた。
「・・・・・・減圧完了。実験場内0気圧。理想的な完全真空です」
研究員の報告に田所の口が動いた。
「ファーストステージ開始!」
「了解、実験のファーストステージ開始します。試作MMリアクターへの魔力注入開始」
「おっと・・・・・・!」
持っていたプラグからコードを伝わって、自らの青白い魔力が流出していく。
どうやら実験に使う魔力は俺から流用しているらしい。
「俺は電池代わりかよ」
思わず悪態が口をついて出たが、誰も相手にしてくれなかった。
逆らうこともできたが、それほど多い量でもないので妨害は見送る。
「・・・・・・試作MMリアクターの作動状態は良好。実験をセカンドステージに移行します」
「テストエンジンへの流入魔力量、125M/h(マジック毎時)。炎熱コンバーター=A想定のパラメーター内で作動中!これなら行けます!」
「よし、点火!」
田所の号令一下、研究員はパネルの一際大きな赤いボタンを押した。
すると今まで沈黙していたエンジンに火が入る。
(なん・・・・・・だと・・・・・・)
それはあり得ないことだった。今あの中は宇宙空間も同然の真空なのだ。その場合、推進剤(酸素と燃料)がなければ酸化還元反応は起こらず、火など燃えようはずがないからだ。
しかしそれは青白い炎を噴射口から吹き出していた。
「出力、4分の1でホールド。現在推力は15420kgf」
「タービンの回転運動による起電力で本体反応炉が再起動しました」
「推力を最大まで上げろ」
その指示に噴き上げる噴射炎が2〜3倍に大きくなった。
「・・・・・・現在推力64500kg!テスト段階の数値目標達成しました!」
「MMリアクター内、魔力素消費率0.02%!従来型の100倍の省エネに成功!」
沸き立つ研究員達。ここまで来て初めてアルトはこの実験の目的を悟った。
ミッドチルダ製のバルキリーは推進剤を完全魔力化しており、推進剤のタンクの替わりにMMリアクター(小型魔力炉)を搭載している。ちなみに、今は亡きVF−25改も同じである。
しかし推進器は自分が追加装備として出すFAST/トルネードパックのように、魔力素の直接噴射により推進力を得ていたので、推進効率は劣悪であった。
そのためFAST/トルネードパックのような無茶な使い方をすると10分持たない。
しかしこのように炎熱変換して炎として噴射すれば効率は桁違いだ。
簡単に言えば、今まで車を動かすのにガソリンをエンジンで燃やさず、高圧ホースでそれを後ろに噴射していたと言えば分かりやすいだろう。
だが炎熱変換はシグナムのような先天性のレアスキルの持ち主か、カートリッジ弾のように強制撃発させて制御不能の爆発を発生させるのが精一杯のはずだった。
そのため案の定というべきか、雲行きが怪しくなってきた。
研究員の操作するコントロールパネルに1つ、赤いランプが灯った。
「・・・ん?MMリアクターの出力に変動あり」
「なに?うーん、コンバーター側で調整してみよう」
「反応炉過熱中。強制冷却機、出力100%」
「─────ダメだ!変動が不規則過ぎて追いつけない!」
それが合図だったかのように一斉に赤いランプが灯った。
「反応炉、出力上昇中!安全域を超えます!」
「駆動系、ガタつき始めました!」
「強制冷却機、安全基準を突破!120%で稼動中!」
そして事態は最終局面を迎えた。
ガーッ、ガーッ、ガーッ
施設全体に響き渡るサイレン。既に研究員達が操作するコントロールパネルやホロディスプレイは真っ赤に染め上げられている。
「全冷却システム焼き切れました!反応炉の温度上昇止まりません!」
「減速剤注入、反応を抑制しろ!」
「了解。注入開始・・・ダメです!エンジン内部の減速剤、効果なし!」
「伝達系ダウン!反応炉、完全に暴走!」
「炉心のエネルギー転換隔壁、融解を始めました!」
「全電力で融解を阻止しろ!」
「・・・・・・効果なし!第1隔壁融解。第2隔壁を侵食し始めました!」
この段に至り田所はコントロールパネルに張り付くと、それを叩き割り、中のボタンを押し込んだ。
直後実験場内の外壁が開け放たれ、大量の減速剤(水)が流入した。
急流となった水流はエンジンを飲み込み、白い蒸気を吹き上げた。だが温度上昇の方が早かった。
「温度上昇止まりません!反応(核融合)爆発します!」
刹那、眩いばかりの光が周囲を飲み込んだ。
アルトは「死ぬなら空の上が良かったな」と思ったがもう遅い。アルトの意識と肉体は、突然出現した太陽の灼熱地獄によって分子レベルにまで還元された。
「ちっ・・・」
静寂の中、誰かの舌打ちが聞こえる。
「え?」
意識の上では既に昨日、今日とで三途の川を渡りきっていたアルトは再び現実世界へと引きずり下ろされた。
(あれ?熱くない)
一瞬で蒸発するはずであり視界は全天を白が覆っていたが、指先も足先も感覚が有り、地面にしっかり立っている感覚もあった。
田所の声が部屋に木霊する。
「コンピューター、プログラムをテスト前に戻せ」
ピッピロリッ
軽やかな電子音と共に周囲の光度が下がる。そして一瞬さっきの管制所程の無骨な壁の覆う狭い部屋となり、再び何事もなかったかのように管制所と実験場に戻った。
「ホ、ホログラムだったのか・・・・・・」
当にバーチャル(仮想現実)技術の極限とも言える完成度の高さだった。
確かにこれならプログラム次第でどんな実験でも行える。
また、地下空間にエンジンテストを行えるだけの設備を整えるのには年単位のスパン(期間)が必要になる。
となればこのホログラム施設を作るほうが遥かに現実的だった。
しかしこれほど違和感がないのは、おそらくこの施設はミッドチルダのバルキリー製作委任企業『三菱ボーイング社』辺りに本当にある施設なのだろう。
アルトが1人納得している内に、田所がコントロールパネルに指を走らせる研究員に問う。
「原因はなんだ?」
「人間側の出力変動が予想値を遥かに上回っていて、炎熱コンバーター(変換機)が対応しきれなかったんです。これから改良に入りますから試作した本物のエンジンでの
実践は─────」
「まだ無理か」
田所は肩を落とし、ガラスの向こう(とはいえ全てホログラム)のエンジンを仰ぎ見た。
「えっと・・・田所所長、こいつをもう置いていいか?」
アルトはいつの間にか、また握られていた魔力電源プラグを掲げる。
田所は我に返ると、それを受け取り元の場所に戻した。
「すまないな。ウチ(技研)にはアレ(疑似リンカーコア)を必要出力で起動できるほどの魔力資質保有者がいないんだ」
「なるほどな。・・・あ、そういえば所長が見せたかったのはこのエンジンなのか?」
しかし田所はこちらの問いに不敵な笑みを見せると首を振った。
「いや、これからが本番さ。・・・コンピューター、アーチ≠」
すると入って来たドアと別の、現実世界への扉が現れた。
(*)
扉の先は行き止まりだった。
田所は扉の右に着いたボタン群から地下2階≠押すと、扉が閉まり、体が軽くなった。
2人を乗せたエレベーターは下降していくが、大して深く降りぬ内にガラス張りのエレベーターの壁から急に視界が広がった。
その空間は地上の格納庫ほどの広さと高さを誇り、下界の研究員と整備員達が動き回る。彼らの中心には、優美なフォルムをした白鳥が鎮座していた。
(あれは!?)
エレベーターが最下点に到達し、扉が開く。と同時にアルトは持っていた硬貨を投げる。
それは目測で10メートル、20メートルと離れるが、いつまでたってもホログラム室の見えない壁にはぶち当たらなかった。
どうやら自分の見ている光景はマジ物らしい。
「どうだ?本物だと信じるか?」
「あ、あぁ・・・」
田所の声に生返事を返しながら、アルトはその機体を仰ぎ見た。
キャノピーの後ろに突き出した2枚のカナード翼。しかしそれはVF−11のそれと違い、水平でなく斜めに突き出している。
エンジンナセルはず太く、その力強さを印象づけるのに対して、機首は一振りの剣(つるぎ)のような鋭く美しい曲線を描いている。
そして何より、その翼は鳥がそれを広げたように、大きく前に突き出していた。
「VF−19・・・・・・」
支援
235 :
代理投下:2013/01/13(日) 21:51:26.10 ID:XKoeX3BI
規制により避難
--------以下本文--------------
しかしそれはアルトが主に見たことがある新・統合軍制式採用機VF−19のF型又はS型とは違った。
前述のように2枚のカナード翼が存在し、エンジンナセル下にはベントラルフィンがある。
更に主翼も5割ほど大きくなっていた。
アルトはこの特徴を併せ持った機体を4機種ほど見たことがある。しかしそれは実物ではなく航空雑誌だ。
1つはある惑星や特殊部隊で採用された超レアなVF−19『エクスカリバー』のP型とA型と呼ばれるモデル。
2つ目は20年前、マクロス7においてパイロット「熱気バサラ」の乗機として有名になったVF−19改『ファイヤーバルキリー』。
そして最後の1機は、AVF(アドバンス・ヴァリアブル・ファイター)計画(スーパーノヴァ計画)で試作された試作戦闘機YF−19だ。
この試作戦闘機はある胡散臭い神話を持つ事から有名だ。
惑星「エデン」から地球に単独フォールドし、地球絶対防衛圏を正面突破=B当時迎撃してきた最新鋭試作無人戦闘機「ゴーストX9」を単独≠ナ撃破し、マクロスシティに鎮座
するSDF−01(オリジナルマクロス)の対空砲火を掻い潜ってブリッジにタッチダウンした。というものだ。
アルトはどんな兵装を持ってしても地球絶対防衛圏を単独で正面突破するのは不可能だと思うし、当時慣性抑制システムOT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』はもう1機の
YF−21にしか装備されていなかった。
そのためパイロットがどんなに優秀でも、当時のゴーストの機動に追随できたはずがない。
SDF−01も現在、モニュメントとしての要素が強く、対空砲火を打ち上げられたのかどうか・・・・・・
そのためこれは統合軍がVF−19の優秀さをアピールする目的で流されたデマだということが定説だった。
しかし実はこの歴史改変は統合軍の情報制御の成果だった。
この神話にはこの事件に大きく関わったシャロン・アップルの名は一度も出ないし、一緒に来たYF−21も伏せられている。
また当時現場にいた市民・軍属を問わずその時の記憶を失っている。となれば情報の制御は容易だった。
上記した2つの関係者を事実から抹消し、衛星に写っていたYF−19の武勇伝を誇大主張することで現実味を無くしたのだ。
しかし統合軍すら原因を正確に知らず、新・統合軍の機密事項を読める各船団の提督クラスや、それをハッキングして読んだグレイスらすらシャロンがなぜ暴走したのかは謎のままだ。
そのためこの事実を正確に知っているのは最近もエデンでYF−24『エボリューション』(VF−25の原型機)のテストパイロットをした、事件の当事者であるイサム・ダイソン予備役と
民間人ミュン・ファン・ローンの2人だけだった。
「そう、VF−19P=wエクスカリバー』だ」
田所が誇らしげに言った。
------------------
以上です。
ありがとうございました〜
乙です、PってA型のデチューンのF型のそのまたデチューンの辺境惑星防衛用モデルじゃ…
やっと連投規制が終わった・・・
あれ、P型ってF型のデチューンなんですか・・・!?
マクロス・クロニクルの22巻にあるVF-19Pの記述だと、ファイヤーバルキリーに近い構造って書いてあったんで、
「その分エンジンも強いんじゃね」などど根拠無く考えてました・・・
Pはデチューンではない筈だが…
正直なんでゾラに配備されたの?レベル
>>225 投下乙です。
お久しぶりです。本日23時より、『リリカル星矢StrikerS』第三話投下します。
それでは時間になりましたので、投下開始します。
第三話 星と雷光と青銅と
ノーヴェ、ウェンディ、チンクの三名は、天然の洞窟を利用して作られたスカリエッティのアジトへと戻って来ていた。
思わぬ邪魔が入ったが、作戦目標である時空管理局地上本部並びに機動六課の制圧と、コスモと黄金聖衣の性能を確認できた。これだけの力があれば、聖王の器の確保などいつでもできる。
「くそ、あいつら!」
しかし、ノーヴェは戦いの途中で撤退させられて、いたく不機嫌だった。ガチャガチャと足音荒く洞窟内を歩く。しかも、ノーヴェの不機嫌に拍車をかけている事柄がもう一つあった。
「おい、いいかげん降りろ!」
「やだっスよ」
狭い通路の天井すれすれをウェンディが飛んでいるのだ。黄金の翼が羽ばたくたびに、ノーヴェたちの頭にぶつかりそうになる。
「それにしてもこの翼、いいと思わないっスか。このデザイン考えた人天才っス」
ウェンディは陶酔したように、サジタリアスの翼に頬ずりする。
チンクは不思議そうにウェンディを見上げた。
「前から疑問だったのだが、射手座とは弓矢を持った半人半馬ではなかったか? どうして翼があるのだ?」
黄金聖衣が支給される際に、ナンバーズは星座の伝説も一緒に教えられている。
「細かいことはどうでもいいんスよ。ほら、こうするとキューピットみたいで、いいっスよね〜」
ウェンディは空中で弓矢を構えてポーズを決める。
本人は可愛いつもりなのかもしれないが、ごつい鎧で本物の弓矢を構えられたら、勇ましいという表現しか出てこない。しかも射抜くのは、恋心ではなく正真正銘の心臓だ。これを可愛いと言う奴がいたら、正気を疑う。
「知るか」
ウェンディはサジタリアス聖衣がいたくお気に入りのようだった。ノーヴェにはどうでもいいことだが。
「あー。そんなこと言っていいんスか? ノーヴェだって気に入ってるくせに。アレンジ技なんて習得したの、ノーヴェくらいっスよ」
ツンツンと指でノーヴェの頭のてっぺんをつつく。
ライトニングプラズマは蹴りでもできるはずだと、ノーヴェが訓練室にこもりきりになったのを、ウェンディはしっかり記憶している。幸い、聖衣の意思に雛型の様な動きがあったので、短期間でノーヴェは蹴り技のライトニングプラズマを習得できた。
「うるせぇ」
ノーヴェが悪態をつくが、頬を赤らめているので図星だったのが丸わかりだ。
やがてスカリエッティのいる部屋へと到着する。そこにはすでに他のナンバーズが集結していた。薄暗い部屋を、黄金聖衣の輝きが照らし出している。
ナンバーズの大半は、ドゥーエを興味深げに見ていた。長期の潜入任務のせいで、ドゥーエはほとんどの姉妹と面識がないのだ。
「お帰り、諸君」
たくさんのモニターと機械を背に、白衣を着たスカリエッティが椅子に腰かけていた。優男風の容貌から、隠しきれない狂気を漂わせている。
「どこか不具合はないかね?」
帰還したナンバーズに、スカリエッティが労わるように尋ねてくる。スカリエッティにしては、少々珍しいことだった。
黄金聖衣を入手してから、わずかな日数で実戦投入可能にしたスカリエッティの頭脳は、天才の一語に尽きる。だが、充分なテストもなしに実戦に送り込んだことに不安があったのかもしれない。
「いえ、まったく問題ありません」
「そのようですね。取りつけた機械は正常に作動。ナンバーズの肉体に悪影響も認められません」
ウーノが妹たちの身体状況をつぶさに調べ、そう結論づけた。もっとも不安視されていたディエチのイノーメスカノンも、数カ所不具合が出ているだけだった。これで問題点が明らかになったので、次回にはコスモとISの併用に耐えられるよう改良できる。
「そうか。だが、念には念を入れて、精密検査を行おう。その後は……」
スカリエッティは一呼吸置くと、芝居がかったしぐさで両腕を広げた。
「時空管理局を破壊し、理想の世界を築き上げる!」
つまらない倫理観や法に縛られることなく、自由に研究を行う。それがスカリエッティの理想だった。
そこでセインが手を上げた。
「ところでさ、ドクター。せっかく私らパワーアップしたんだし、新しい名前考えない? ナンバーズだけじゃ味気なくって」
「では、ゴールドナンバーズでどうかね?」
間髪いれずに答えられ、セインは提案したことを後悔した。スカリエッティが名前にこだわらない性質なのは理解していたが、安直かつダサい。
この名前は明らかに不評らしく、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディが、セインを視線で責め、チンクが微妙に嫌そうに、トーレまで渋い顔をしていた。
「ドクター。ゾディアック・ナンバーズというのはいかがでしょうか?」
妹たちの困窮を見かねたのか、ウーノが提案した。ゾディアックは黄道十二星座を意味する。
「それがいいです!」
セインが声高に賛成した。こちらもそのままではあるが、ゴールドナンバーズよりはましだ。それにこの話題をこれ以上続けると、もっと変な名前にされかねない。
「では、そうしよう。これから君たちはゾディアック・ナンバーズだ」
スカリエッティが認めたことで、ナンバーズの間にほっとした空気が流れる。
そんな中、使う機会もほとんどない名前に一喜一憂する姉妹たちを、クアットロは蔑みに満ちた眼差しで見つめていた。
ナンバーズの襲撃があった翌朝、六課で唯一残った棟の一室で、はやては隊員たちの入退院の手続きと、報告書の作成に忙殺されていた。
シグナムは地上本部の現場検証に行っており、なのはは六課預かりとなった星矢たちの世話をしてもらっている。
窓の外には、残骸と化した六課の建物たち。こうして部屋で一人黙々と作業を続けていると、はやてはまるで自分が廃墟の主の幽霊になってしまったかのように錯覚してしまう。
(あかんな。疲れとる証拠や)
徹夜には慣れているが、今回は精神的疲労があまりにも大きく、脳が睡眠を欲していた。
隊員たちは、非戦闘要員を含めてほとんどが負傷した。相手が手加減してくれたこともあって死者は出ていないが、無傷で済んだのは、はやて、シグナム、なのはのみ。
軽傷の者は今日の午後には退院してくる予定だが、フォワード部隊ではギンガの負傷が酷く、復帰には少なく見積もっても数週間はかかると診断されている。フリード、ヴォルテールも同様で、大幅な戦力減だ。
はやては書類の作成に区切りをつけると、前回の戦闘で判明した聖闘士のデータに目を通した。
急ピッチで書かれた為、誤字脱字が散見できるが、ここはこれだけ早く仕上げてくれたことに感謝すべきだろう。
聖衣は未知の材質で構成され、かなりの強度とわずかながら自己修復機能を持つ。魔力ダメージも軽減でき、微弱ながら意思のようなものも存在するので、バリアジャケット型デバイスと言ったところだろうか。
壊れても再構成できないが、防御力はバリアジャケットを上回る。黄金聖衣に至っては、どれだけの強度を誇るのか、想像もつかない。
次に聖闘士が扱うコスモというエネルギー。魔力によく似た性質を持つが、運動能力と攻撃力の強化に特化しており、射程は短いが魔力の様に撃ち出すことも可能。
攻撃力は六課隊長クラスならどうにか渡り合えるレベルだが、問題は光速に達するスピードだ。光速の技を回避する術は魔導師にはなく、また光速で動く相手に命中させる方法もない。
「はやてちゃん」
「うん。わかった」
なのはに呼ばれ、はやては廊下に出た。
「なのはちゃん、ナンバーズと実際に戦ってみた感想はどうやった?」
聖闘士たちの待つ部屋へと向かいながら、はやては質問した。
「正直、一対一で勝つのはかなり難しいね。あまりにも速すぎる」
星矢と瞬が足止めしてくれなければ、魔力チャージする時間もなく、例え発射したところでかすりもしなかっただろう。
「フェイトちゃんなら?」
「リミットブレイクを使えば、近い速度は出せるかもしれない。でも、一発でも掠めたら終わり。分のいい賭けじゃないね」
相手の防御を抜く前に、撃墜されるだろう。そもそも真・ソニックフォームはスピードと火力で相手を圧倒することが前提であって、自分より速く固い相手をするには不向きだ。
Sランク魔道師二名でも勝ち目がない相手が、十二人もいる。
正式な辞令はまだだが、六課はレリック捜索から、スカリエッティ逮捕に任務が切り替わるだろう。あの強敵に――黄金聖闘士の力を手に入れたナンバーズに、再び挑まないといけないとなると、頭が痛い。
「星矢君たちが協力してくれそうなのが、不幸中の幸いか」
彼らは黄金聖衣を取り返すのが目的だ。利害は完全に一致している。
そうこうするうちに、目的の部屋へとたどり着く。
少し広めの部屋に、聖闘士四名が思い思いに座っていた。
聖闘士たちは聖衣を脱ぎ、シャツとズボンというラフな格好をしていた。紫龍だけは薄紫の拳法着を着ていたが。
皆、スバルより年下らしいが、身長もあるし、だいぶ大人びて見える。星矢と瞬が十三歳、紫龍と氷河が十四歳というのが数え間違いにしか思えない。
「私は時空管理局所属、八神はやて二等陸佐。この機動六課で部隊長をしてます」
はやては敬礼をしながら星矢たちに挨拶する。
「星矢だ」
「紫龍」
「氷河」
「瞬です」
聖闘士たちが簡潔に名乗り返す、
「遅くなりましたが、まずはお礼を言わせて下さい。仲間たちを助けてくれて、ありがとうございます」
「何、いいってことよ」
「ちょっと星矢、失礼だよ」
頭の後ろで腕を組んで得意げにしている星矢を、瞬がたしなめる。助けてもらったのはお互い様だ。
紫龍が立ち上り、一礼した。
「こちらこそ宿と食事の手配をしていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、たいしたもてなしもできませんで」
食堂も壊れてしまったので、星矢たちには出前を取ってもらった。
星矢たちが助けてくれなければ、スバルとギンガ、ヴィヴィオはさらわれていたかもしれないのだ。時間が許すなら、腕によりをかけたごちそうで、感謝の意を示したいくらいだった。
もっとも少年時代を厳しい修行に費やしていた聖闘士たちにしてみれば、充分満足できる食事内容だったのだが。
星矢が、なのはとはやての顔を見た。
「ところでさ、あんたら日本人だろ?」
「そうだよ」
なのはが首肯する。
「やっぱり。名前を聞いた時にピンと来たんだ。じゃあ、俺たちのことを知らないか?」
星矢たちはかつてグラード財団主催の格闘技イベント、ギャラクシアンウォーズに出場したことがある。メディアでも大々的に報道されたので、星矢たちはそれなりに有名人なのだ。
「ごめん。私たち最近ほとんど故郷に帰ってないから」
なのはが気まり悪げに言った。
任務や休暇でたまに帰る日があっても、さすがに流行を追えるほどではない。俳優やスポーツ選手くらいならいいが、いずれ故郷のファッションと致命的なずれが生じないかと、なのはは密かに危惧している。
「君たちは、どうやってミッドチルダに来たの?」
「それは……」
紫龍はゆっくりと事情を説明した。
時空管理局地上本部襲撃事件より一週間と少し前、ミッドチルダから遠く離れた世界、1980年代後半、地球、ギリシャにて。
アテナの化身、城戸沙織を守ろうとする星矢たち青銅聖闘士と、教皇率いる黄金聖闘士たちが死闘を繰り広げたサガの乱が終わって間もなく、白羊宮の主ムウは十個の黄金聖衣を前にしていた。
「やはり細かい傷がついていますね」
アリエスの黄金聖闘士にして、聖衣修復師でもあるムウは、黄金聖衣を一つずつ確かめていく。
「黄金聖衣に傷をつけるとは、さすがと言うべきでしょうか」
そのままでいいと言われているタウラスの折れた左の角と、戦闘に参加していないアリエスの聖衣は必要ないが、他は修復しなければならない。
サガの乱では五人の黄金聖闘士が命を落とした。
ライブラの童虎は中国の五老峰から動けず、サジタリアスのアイオロスはサガの乱以前に他界し、二人の聖衣はそれぞれの宮に安置されている。現在、聖闘士の総本山、サンクチュアリを守護する黄金聖闘士は五人しかいないのだ。
聖衣修復の材料を取りに、ムウは白羊宮を後にした。
それから数分後、ムウがかすかな異変を察知し、白羊宮に戻った時には、すでに十個の黄金聖衣は影も形もなくなっていた。
「これは……!」
(聞こえるか、ムウ!)
ムウにテレパシーで話しかけてくる者があった。
バルゴのシャカの声だ。最も神に近い男と呼ばれ、普段は冷静沈着なシャカが、珍しく焦燥を滲ませている。
(天秤宮と人馬宮に賊が入り、ライブラとサジタリアスの黄金聖衣が盗まれた!)
「馬鹿な。どうやって天秤宮と人馬宮まで」
サンクチュアリは結界に守られており、黄金聖闘士の守護する十二宮を順番に上がっていく以外に道はない。第一の宮である白羊宮はまだしも、奥にある天秤宮と人馬宮に、黄金聖闘士に悟られず侵入できるはずがない。
(気配を辿ってみたが、賊はどうやら次元の向こう側から来たようだ)
最も神に近い男の二つ名は伊達ではなく、シャカは時空や異次元を行き来する力を持つ。さすがに単身で別世界に行くことはできないが、その存在は感じ取っていた。
ムウたちは預かり知らぬことだったが、ナンバーズは空から侵入したのだ。鉄壁の要塞であるサンクチュアリも、空からの侵入には無防備だった。
「アテナよ!」
ムウはサンクチュアリの最奥、アテナ神殿にいる城戸沙織にテレパシーを送る。
(ムウよ。わかっています。黄金聖衣を盗まれたのですね)
凛とした声が応える。沙織もサンクチュアリの異変を感じ取っていた。
「申し訳ありません。このムウ、一生の不覚。かくなる上は、私自らが黄金聖衣奪還を……」
(なりません)
「何故です?」
(これ以上、サンクチュアリの防備を手薄にするわけにはまいりません)
「では……」
(黄金聖衣奪還の任務は、星矢たちに託します)
テレポーテーションが使えるムウ、次元移動ができるシャカに、アテナの化身である沙織が力を合わせれば、星矢たちを別世界に送り込むことも可能だろう。
だが、沙織の声にわずかに潜む苦悩の色に、ムウは気がついた。
沙織とて、ようやく傷が癒えたばかりの星矢たちを頼るのは心苦しい。だが、サガの乱を経て、ようやくアテナと認められたばかりの沙織には、他に頼れる者がいないのだ。
こうして星矢たち四名が集められ、ナンバーズを追ってミッドチルダへと送り込まれた。
だが、次元移動の衝撃で、星矢と瞬は地上本部付近に、紫龍と氷河は機動六課近辺へと、別々の場所に転送されてしまったのだ。
「本当ならもう一人、僕の兄さんが来るはずだったんですが……所在がつかめなくて」
紫龍の説明後、瞬が残念そうに付け加えた。
「なるほどな」
はやては平静を装っていたが、内心では頭を抱えていた。
受肉した神が実在し、人間が魔力もなしに音速や光速で技を放ち、挙句に次元移動すら行うなど、どれだけでたらめな世界なのか。聖闘士を実際にこの目で見ていなければ、一笑に付すところだ。
いくつか気になる項目があったので、なのはが調べる為、部屋を出ていく。
その間に、はやてはミッドチルダの説明を始めた。
自分たちが魔道師であること、時空管理局が次元世界の警察のようなものであること、黄金聖衣を盗んだのがスカリエッティ一味であることなどだ。
「魔法か。まさか実在するとはな」
これまで黙っていた氷河がぽつりと言った。だが、生身の人間が飛行する姿を見せられれば、信じるしかなくなる。
「なあ、もしかして修行すれば、俺たちも魔法が使えるようになるのか?」
星矢が期待を込めて訊いた。
「残念やけど、星矢君たちは魔力を持ってへんからな」
「なんだ、コスモとは違うのか」
星矢はがっかりしたようにうなだれた。
「お待たせ」
なのはが戻ってくる。実家に連絡して紫龍の話の裏を取ってもらったのだが、やけに決まり悪そうにしている。おそらく姉の高町美由希あたりに、たまには任務以外で帰ってこいと、小言を言われたのだろう。こういうところは、なのはも普通の女の子だ。
「お姉ちゃんがネットで検索かけてくれたけど、ギャラクシアンウォーズ、聖闘士、グラード財団、どれもヒットはなし。お父さんとお母さんも知らないって」
はやては自分の推測が当たっていたと確信した。
聖闘士たちが来たと言う1980年代後半は、はやてたちが生まれるよりも前の年だ。だが、聖闘士たちが過去から来たわけではない。いくら人の興味が移ろいやすいものでも、一切の記録が残っていないというのは考えにくい。
ならばギャラクシアンウォーズは、はやてたちの世界では起きていないのだ。
「地名、言語、文化、科学技術、歴史、ここまでそっくりなのも珍しいけど、パラレルワールドやな」
次元の海に浮かぶ数多の世界の中には、どういうわけかよく似た世界がいくつか観測されている。特に地球という名前の知的生命体の住む星は多い。
「どういうことだ?」
「つまり、星矢君の世界と、私たちの故郷はまったく別の世界ってこと」
なのはは一応、パラレルワールドについて説明してみたが、生返事しか返ってこなかった。聖闘士たちにとってはどうでもいい話だ。
「そろそろいいだろう」
今度の方針について話し合おうとした矢先、氷河が席を立った。星矢たちも氷河にならう。
「ちょ、ちょっと、どこに行くつもり?」
「黄金聖衣を取り返しに」
氷河が毅然と言った。
「俺たちは、聖闘士について教えて欲しいと頼まれたから残っていただけだ。俺たちも、この世界について少しは知っておきたかったしな。それが果たされた以上、一刻も早く黄金聖衣を取り戻さねばならん」
「当てがあるの?」
「ナンバーズとかいう連中のコスモを探せばいいんだろ。とにかく足で探すさ」
と、星矢。
なのはは絶句した。聖闘士は相手のコスモを感じ取れるらしいが、彼らはミッドチルダ中を走り回るつもりのようだ。本気なのは、気配でわかる。
「いや、でも、勝算は?」
星矢と瞬だって、ナンバーズには苦戦を強いられていた。三倍の数の敵にどう挑むつもりなのか。
「関係ありません。俺たちはアテナの聖闘士として使命を全うするのみ」
紫龍が己の拳を握りしめる。
星矢たちの戦いで、勝算があったことなどほとんどない。格上の白銀聖闘士や黄金聖闘士を相手に、圧倒的劣勢から常に命がけで勝利をつかみ取ってきた。
「でも、敵の半数以上は飛んでるんだよ?」
「跳べばいいだろ」
「跳ぶって……」
飛行に跳躍で挑もうと言うのか。聖闘士の跳躍力なら不可能ではないだろうが、あまりに無謀すぎる。
はやてはぽかんと口を開けた。
「なのはちゃんより無茶な子たち、初めて見たかも」
「八神部隊長も、止めるの手伝って下さい!」
役職名を強調して、なのはが叫ぶ。ただでさえ不利なのに、聖闘士と六課が連携できなければ、勝利は絶望的だ。
はやては自分の考えが甘かったことを悟った。
聖闘士は魔導師とはまったく異なる種類の人間だった。打算や駆け引きとは無縁の、己の信念と正義にのみに生きる闘士たち。個人の強さを追求する聖闘士と、組織としての強さを追求する魔導師たちで、どうやって連携しろというのか。
しかし、このまま行かせるわけにもいかない。
「まあ、少し落ち着いて。スカリエッティのアジトは、時空管理局が捜索しとる。発見を待ってから動いても遅くないと思うけどな」
ナンバーズにコスモに抑えられたら、土地勘がない聖闘士たちは捜索手段がなくなる。
よしんばアジトを発見できなくとも、近いうちにスカリエッティは次の行動を起こすだろう。六課にいた方が、情報は早い。
「けどよ……」
「星矢君たちの、はやる気持ちはわかる。でも、急がば回れ。必勝を期して対策を立てておくのも悪くないと思うんよ」
聖闘士たちは黙って顔を見合わせた。
「ところで、コスモって誰もが持ってるエネルギーやったな?」
「ああ」
「だったら、私の仲間たちに伝授してくれへんかな? 今日の昼には退院する予定やし」
はやてが両手を合わせてお願いする。
「無駄だと思うぜ。俺たちだって、過酷な修行を六年も続けて、ようやく体得できたんだ。そもそも修行についてこられるかどうか」
「それに我らはまだ修行中の身、とても人に教えることは」
「まあまあ、紫龍君。そう難しく考えんと、教えてもらったことを教えてもらえるだけでええから。聖闘士と魔導師、相互理解の一環として。な?」
「はやてさんの言う通り、当てもなく捜し回るよりはいいんじゃないかな? 今回の敵は、僕たちにとって未知の敵なんだし、対策を練るのも悪くないと思うよ」
瞬が、はやてに賛同してくれた。反論が出ないので、決まりのようだ。
「それじゃあ、先生役、よろしくな」
「……ま、しょうがないか」
星矢は渋々頷いた。
午後二時、退院してきたフェイトたちはトレーニングウェアに着替えると、森の訓練場へとやってきた。出迎えたなのはは、元気そうな仲間たちの姿に、ほっと胸を撫で下ろす。
シグナムは現場検証からまだ戻っていないし、はやては別件で出掛けてしまった。フォワード隊員七名で、念入りに準備運動を始める。
「でも、ちょっと面白くないです」
なのはから事の顛末を伝えられたティアナは、憤懣やるかたない様子で言った。
「だって、その言い方じゃあ、まるで魔導師が聖闘士より格下みたいじゃないですか」
機動六課だって血の滲むような訓練を積んできたのだ。やりもしないで、修行についていけないと決めつけないで欲しい。
「なのはさんは悔しくないんですか?」
「百聞は一見にしかず。とりあえずやってみようよ」
なのはがにこにこと笑いながら、ティアナを諭す。
これまでの訓練の発案者であるなのはが、怒るどころか相手を受け入れようとしている。 スバルはなのはの度量の広さに少し感動していた。
「ほら、なのはさんもこう言ってるんだし……?」
スバルが振り向くと、ティアナがいなくなっていた。視線をさまよわせると、ティアナは準備運動をしながら、少しずつ遠くへと離れて行っていた。
「何してるの?」
「あんた、まだ気づかないの?」
追いついて話しかけると、逆に憐れむように言われた。
「なのはさんの表情、さっきからまったく変わってないのよ」
スバルははっとして、なのはを振り返る。にこにこと無言で腕の筋を伸ばしている。いくらなのはが明るい性格でも、さすがにストレッチをやりながら笑顔になる理由はない。
深く静かに怒っているようだ。そのことに気がつくと、妙な威圧感がなのはの周囲に漂っているのがわかる。
「おっ、揃ったみたいだな」
聖衣を装着した聖闘士たちが姿を現す。
星矢はフォワード部隊を見渡すと、ヴィータに向かって笑いかけた。
「お嬢ちゃんは見学かな? 誰かの妹とか?」
「子供扱いすんじゃねぇ! 私はヴィータ、スターズ分隊の副隊長だ!」
「副隊長? お嬢ちゃんが?」
ヴィータが吠えると、星矢たちが目を丸くした。
ヴィータは厳密には人間ではなく魔法生命体で、年も取らない。だが、魔法を知らない相手に、守護騎士システムをどう説明してものかと、ヴィータは頭を悩ませた。
「あっ、わかった」
星矢がポンと手を叩いた。
「さてはあんた、魔法で若返ってるんだろう」
的外れな答えが返ってくる。そんな魔法は存在しない。
「…………もう、それでいいや」
説明が面倒くさくなり、ヴィータは投げ槍に言った。
「やっぱりそうか。魔法ってすごいんだな」
星矢は興味津々でヴィータを眺める。
「で、本当はいくつなんだ?」
ヴィータは星矢のすねを思いっきり蹴飛ばしてやった。
「えー。では、これより君たちに聖闘士の修行を体験してもらう」
各々自己紹介を済ませた後、整列した六課隊員を前に、星矢が両手を後ろに回して、胸を少しそらしながら言った。渋っていたはずなのに、ノリノリで先生役をやっている。
星矢の話は棒読みになったり、言葉がつかえて出て来なかったり、誰かの受け売りなのが丸わかりだ。なまじ得意げにしているだけに、余計に滑稽な印象を与える。他の聖闘士たちも呆れたように星矢を見ていた。
(……なんだか、懐かしいね、ヴィータちゃん)
(いや、私らはあんなに調子に乗ってなかっただろ)
先生役を務める星矢の姿が、教官資格を取ろうとしていた過去の自分と重なり、なのはとヴィータは少しだけ和んだ。初めて教官役をやらされた時は、星矢と大して変わらない拙さだった。
星矢の話は要約すると二つだった。
一つ目は、己の肉体を極限まで鍛え、力と意志を一点に集中させることで原子を砕く“破壊の究極”を会得していること。二つ目は、体内のコスモを爆発させることで、聖闘士は超人的なパワーを生み出すということだった。
なのはたちは揃って疑問符を浮かべた。原子を砕くことが破壊の究極という理屈はわかるのだが、己の中の小宇宙だの観念的な話はさっぱりわからない。ためしに、体内に意識を凝らしてみたが、コスモの片鱗も感じられない。
まあ、そんな簡単に会得できるものでもないのだろうが。
「じゃあ、まずは体を鍛えるところから」
星矢の宣言に、なのはたちは気を引き締めた。
コスモが会得できるかどうかは別として、魔導師の矜持に賭けて修行について行ってみせるというのが、フォワード隊員の共通した意気込みだった。
星矢は傍らにある岩の上に手を置いた。星矢の体重の三倍はありそうな巨岩だ。
「この岩を体に括りつけて、逆さ吊りの体勢から、腹筋五百回やってみようか」
「「「無理です」」」
なのはたちの返事が綺麗に唱和した。
以上で投下終了です。
それでは、また。
乙です、魔力ブーストあってもそりゃ基礎身体能力がけた違いだわなぁw
お久しぶりです
一時頃に羽生蛇村調査報告書
ユーノ・スクライア 大字波羅宿/耶部集落 初日/6時12分22秒
を投下します
時間になったので投下します
※注意
このSSには鬱要素が含まれており、今後登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。そのことを踏まえてよろしくお願いします。
ユーノ・スクライア
大字波羅宿/耶部集落
初日/6時12分22秒
―――ウォォォォォォォォォ……
十分程前からだ。この赤い水がはびこる異界に羽生蛇村を追いやったサイレンが、どこからともなく再び鳴り響いていた。
―――ウォォォォォォォォォ……
脳髄から湧き上がるような頭痛に顔をしかめて、ユーノは廃屋の影から明け方の空を仰ぎ見た。
生物の咆哮のようにも聞こえるこのサイレン。少なくとも機械による無機質なものには聞こえない。
(このサイレンは、一体なんなんだ?)
サイレンは頭痛の他に、喉の渇きも誘発していた。ワゴンで覚醒して以来、何も喉を通していない上に疲労も合間って、一刻も早く喉を潤したいという欲求に駆られる。
しかし村の川、湧き水、水道水、とにかくここにある水という水の全ては、鮮やかな赤に染まり切っていた。
否応無しに血を彷彿させるような赤色。それらは先に山の上から見た、赤い海を満たしているものと同じ水に違いない。
(このサイレン、まるであの赤い水を飲むように誘ってるみたいだ……)
苦しみから逃れる術を目の前にぶら下げてわざと苦しませているような、ユーノはそんな意図をサイレンから感じ取った。
だがそもそも、血の色をした水なんて見た目からして気持ちが悪くて、とても飲む気になれなかった。
赤い水を飲むとどうなるのか、少なからずよからぬ異変を身体にもたらされるであろうことは容易に想像ができる。
しかしこのまま異界に留まって喉の渇きが進めば、いずれどうなるかだなんてわかったものでは無いことも確かだ。
(一刻も早くみんなを探して、ここから脱出する手立てを探さないと……)
だがワゴンから脱出してからさまよい続けて数時間が経つ。
それだけの時間の中を移動に費やしたにも関わらず、ユーノは仲間どころか人間にすら会えていなかった。
出会うのは元々人間だったと思われる、目から血を流した屍のような肌をした人々だけ。
彼等はホラー映画のゾンビのように、ユーノを見つけるやいなや真っ先に襲いかかって来た。
そのゾンビを日本風に言うなら彼等は屍人とでも呼ぶべきだろうか。
ただ、屍人はゾンビとは違って言葉をいくらか喋るほか道具を使える知能は残っていた。それに最も特筆すべき点は、彼等は不死身であることだ。
傷つけても傷つけてもいずれ再生、復活をして何事も無かったかのように再び活動を再開する。
(まさか不死の生命が実在するなんて……)
ユーノは驚きを隠せなかった。
それはおとぎ話や空想の世界での話でしか存在し得なく、長年無限書庫を担当して来たユーノからしても、不死の生命体が確かに存在していたという事案や文献、証拠は見たことが無かったからだ。
(他人の視界を盗み見る能力を授かったのもここに来てからだし……分からないことが多すぎるな)
ユーノは廃屋の影から顔を出して周りの様子を伺った。
現在ユーノは、打ち捨てられて崩れかかった廃屋が建ち並ぶ集落にいた。
その集落は今、歩く屍達という新たな住民による支配を受けている。当然、そこに迷い込んだユーノは彼等にとって排除されるべき存在に当たる。
ワゴンを出てから人気の無い山を下り続け、屍人を避けながらやっとのこと人里に出たと思えば、そこはこの屍人達で溢れている廃れた集落だった。
(でも寄りによってこんな所に辿り着くなんて……ツいてないなぁ)
思わず嘆息を漏らしたユーノ。その手に持っているのは、錆び切ったシャベルだ。
山中で拾ったものをそのまま武器として活用していたのだが、その先端は屍人達を何度も殴打したためにひしゃげて、血で赤く染まっている。
武器はシャベル一本のユーノに対する相手の屍人は集落内に複数いる上に、何人かは拳銃や猟銃を所持している。シャベル一本のユーノが彼等に見つかれば、すぐに仲間を呼ばれて袋叩きに遭うだろう。
そうすればあっという間に死に追いやられてしまうだろうことは容易に想像が出来た。
ここ最近は前線どころか元より戦うこと自体が無く、ずっと無限書庫で仕事をしてきたユーノ。
別に戦闘に自信が全く無いというわけでは無いが、対する相手は死をも超越した存在だ。
仮に彼等屍人達が、赤い水によって生まれた者だとしら、自分も死後、彼等と同じ様な形態で復活するかもしれない。
だがあんな知能を感じさせないような無様な形での不死身など、ユーノはまっぴらごめんだった。
(とにかく長居は出来ないな。早くこの集落を出たいんだけど……)
そう思いつつ、屍人がいないことを確認して屈みながら廃屋の壁沿いに移動する。ユーノが隠れていたのは『中島』と表札を掛けられた家屋だ。
この集落は山を階段状に切り開いた土地に建ててあり、各々の段に建てられた家屋は全部で数件しかない、非常に小さな集落だった。
だが小さな村と言えど、長い雨と日本独特の湿気がもたらした濃い靄のせいで、見通しは非常に悪い。
ユーノは目を凝らしながら中島家の裏手を通り、段と段を繋げる小さな坂を登った。
そしてすぐそばにあった『吉村』と書かれた表札を掛けられている、雨戸が外れて大きく口を開けている廃屋の中に身を滑り込ませた。
そこで身を潜めてから、ユーノは目をつぶり、意識を研ぎ澄ました。脳内に誰かの視界が映る。点けたての古いテレビのように、音声と映像が徐々に鮮明になっていく。
――ほっは ぁ ひぃひ ひ ひはぁ っ は――
呼吸か笑い声か、区別がつかないような耳障りな吐息が聞こえ、廃屋の屋根の上で猟銃を手に辺りを見張っている視界が映し出された。
この狙撃手こそ、ユーノが堂々と表を移動できない大きな要因だった。
(……しかも退路が無い)
ユーノの背後には小高い山のようなものがそびえており、とても登れそうにない。それに他の視界も見た限り、静かにしていれば狙撃手に見つからずに済む道には全て屍人が配置されていた。
唯一屍人がいなくて抜け出せる道と言えば、狙撃手がいる家屋とその隣の家の間。つまり狙撃手の足元を通ることになる。
(……でも、行くしか無いよね)
どちらにしろこの場に留まっていても、いずれかは彼等と戦闘になる。なら退路があるだけマシ、そこに賭けてみるべきだろう。
目をつぶり、屍人達の視界を見回す。機を見てから、シャベルを握り締め、ユーノは緊張した面持ちで吉村家から顔を出した。
(よし、今だ!)
ユーノは吉村家から飛び出し、なるべく足音をたてず、だが出来るだけ早足に木々の生い茂る集落の中を横切って行く。
そして無事、目的地の廃屋の玄関辺りにたどり着いた。廃屋の表札には『川崎』と書かれている。
その川崎家のちょうど真横、川崎家より一段下の段に、狙撃手のいる家屋が建っていた。
幸運にもユーノが身を潜めている川崎家の玄関口と、狙撃手のいる家屋の間には木造の倉庫が建っており、狙撃手からユーノのいる位置は倉庫に隠れて見えなかった。
(よ、よし……それでこれからどうやってこの集落を抜けるかだけど……ん?)
その時、ふと足元に落ちていた何かが目に入った。それは寂れた廃村には似つかわしい、真新しいカードだった。
思わずそれを拾い上げ、表面に付着していた泥を払う。青みがかった色をしているプラスチック製のカード。カード上部には大きく『城聖大学職員証』とある。
(職員証……教授か?)
その下には『文学部 文化史学科民俗学講師』と、スーツを着たふさふさとした髪型が特徴的な男の顔写真があった。名前は『竹内多聞』と書いてある。
真新しい職員証を見る限り、この竹内という人物もこの村に迷い込んでいるのだろう。
(やっぱり他にも人がいたんだ……)
自分以外にも人間がいることに、ユーノは思わず安堵した。職業を見た限りだと、自分と同じような理由でこの村に来たに違いない。
それに考古学を専攻する自分との共通点もあり、仲間意識が自然と芽生えた。
(出来ればまだ生きている内に会いたいな……力を合わせればこの状況をどうにかできるかもしれない)
まだ希望が潰えてるわけじゃない。そう思い直して、自分を奮起するようにユーノは職員証を握った。
すっかり酉を付け忘れてました。
しかしその時、突如ユーノの足元の土に甲高い音をたてて弾丸がめり込んだ。
(き、気付かれた!?)
当然、ユーノはそれに驚き後ずさりをする。すると不意にかかとが何か固いものに乗り上げた。それは材木だった。
「っ……うわわっ!!」
足元にあった材木に足を取られてユーノはバランスを崩し、勢いよく背中から倒れた。
ユーノの身体は川崎家の外れ掛けた雨戸に寄りかかり、経年劣化していた雨戸はそれを受けて大きな音をたてて外れた。
当然、ユーノは川崎家の中に背中から突入することになり、倒れた拍子に後頭部を思い切りぶつけた。頭をさすりながら上体を起こす。
「いたたっ……ってヤ、ヤバい!!」
今の音で確実に他の屍人達にも気付かれただろう。狙撃手もいる中、ここから無闇には動けない。ユーノは慌てて川崎家の中に駆け込んだ。
奥の部屋に入り暗がりの中に身を潜めると、とりあえず『竹内多聞』の職員証をポケットに入れ、すぐさま目をつぶって近辺の屍人達の視界を探る。
―――だ ぁれ だあ ぁは あぁ―――
―――げぇ ひは ひ ひひぃ ひひ―――
既に二体程の屍人が川崎家の前に集まっている。しかもそのうち片方の屍人の手には拳銃が握られていた。
(ったく、やっちゃったなぁ!!)
余計にややこしい状況へ追い込んだ自分への苛立ちを、心の中で吐き捨てる。
このまま追い込まれて死ぬわけにはいかない。
手元のシャベル以外にも何か対抗できる武器は無いかと、藁にもすがる思いで懐中電灯で部屋の中を照らし、棚の中身を漁っていく。しかしここは廃屋、見た限りあるのはガラクタばかりだ。
(やはりそう上手くはいかないか……)
そう思っていたところ、ふと箪笥の上に置いてあった細長い木箱が目についた。とりあえずそれを下ろし、蓋を開ける。
中身を見たユーノは、思わず目を見開いた。
「これは……ショットガン?」
ユーノが見つけたのは、古い型の狩猟用散弾銃だった。古い型とは言えどなぜかちゃんと保管されていたらしく、目立って錆び付いている箇所も無い。
箱には猟銃と一緒に、充分な数の弾が詰め込まれた型紙の小箱が入っていた。
「……どうか使えますように」
呟きながら猟銃を手にして、銃身を開き、勘を頼りに弾を込める。間もなく背後から慌ただしく床板を踏む音が聞こえてきた。
懐中電灯を切り、ユーノは息を殺して壁に身を寄せて隠れた。足音が徐々に大きくなる。
「げ はぁ あは は はは ははは」
部屋に入って来たのは拳銃を持っている屍人だった。背中をユーノに見せている辺り、こちらに気付いている様子は無い。ユーノは猟銃の銃口を屍人の後頭部に向けると、迷わず引き金を引いた。
ばぁん、と強烈な発射音が狭い室内に轟きユーノの鼓膜を叩く。同時に発砲時の大きな反動によって銃身が跳ね上がった。
撃たれた屍人は車に引き倒されるような凄まじい勢いで前のめりになって倒れた。
後頭部には抉られたような大きな穴が開き、屍人は間もなくして身体を丸め、それきりぴくりとも動かなくなった。
(よし、使える!)
銃器が手に入ったのは不幸中の幸いだった。これで屍人相手でも、複数人に囲まれたりしない限り有利に立てる。外にいる狙撃手にもある程度対抗できるだろう。
ただ発砲音が大きいため、撃つ度に屍人を引きつけてしまうだろうことが不安だ。
「は ぁはぁ はぁ は ぁ はぁは ぁ」
するともう一体、農夫の格好をした屍人が鎌を手にして部屋に入って来た。屍人はユーノに気付くと、不気味な微笑みを浮かべながら鎌を振り上げて襲いかかってきた。
ユーノはすかさずその顔面に向かって猟銃を突きつけ、引き金を引いた。
再び大きな発砲音と共に弾が炸裂し、屍人の顔に大きな肉の花が咲いた。倒れる屍人を前に、ユーノは手にしている猟銃を見やる。
(……質量兵器の使用は違法だけど、非常事態だし相手は不死身だから許されるよね、多分)
そう思いながら、リュックサックを下ろした。小箱から弾を二つ取り出して猟銃に装填し、また何個か弾を取り出すとそれをポケットに入れた。残りは小箱ごとリュックの中に放り込む。
弾も使い過ぎないよう、気を付けなくてはならない。
しかし思わぬところで強力な武器が手に入った。どうやら運はまだまだ自分を見捨ててはいないようだ。
「……さて、行くか」
呟いて猟銃を握り締めると、ユーノは集落脱出を目指して、足早に部屋から出て行った。
以上で投下終了です
ではまた
乙
学者繋がりで安定の絡みでした
SIRENのクロス書こうとしてる自分は参考にさせてもらってます
ニコニコとか見ながらプレイして勉強してるが…ぶっちゃけ邪悪な考えしてるのは人間オンリーよね
しかしこのスレ人数少ないのかな?
以前はそれなりに人いたけど、いろいろあってこんな状況だよ
なんだかんだで去って行った人もかなりの数になっているんだな
投下してくれる人がいる限り見続けるけど
正直ここでやるぐらいなら別の所でやったほうがいいとは思う
パイが少ないから狙い目と言う見方も……
くるしいか。
でもここのまとめwikiのほうはアクセスカウンターが一日千近く回ってるよね
ROMは結構いると思ってたんだけど・・・
内容はともかくForceは話進まなさすぎてなあ…
>>255 投下乙です。
お久しぶりです。本日23時より『リリカル星矢StrikerS』第四話投下します。
それでは時間になりましたので、投下開始します。
第四話 隊長たちの憂鬱
森の訓練場で、星矢と紫龍が組み手を行っていた。氷河と瞬、六課メンバーたちはそれを遠巻きに眺めている。
隊長たちによる話し合いの結果、聖闘士の修行は安全上の問題から、やらないことが決定した。
聖闘士の修行は、個人の肉体強化と近接格闘戦に特化している。一方、これまでなのはがフォワード部隊に課した訓練は、魔法、体術、戦術、個人戦に集団戦、など多岐に渡る。
万能型が一芸特化型に、その分野で勝てるわけがなかったのだ。
とりあえず、お互いのことをよく知ろうという結論になり、最初に星矢と紫龍が組み手を披露してくれることになった。
「紫龍、お前とやり合うのはギャラクシアンウォーズ以来だな。今度も勝たせてもらうぜ!」
「ふっ。それはどうかな」
軽口をたたきながらも、二人の拳と蹴りが激しく入り乱れる。
「これ、後でスローモーションで見た方がいいね」
「そうだな。細かいところが、ちょくちょく見えねぇしな」
なのはとヴィータが観戦しながら、冷静に意見交換をする。ただ、星矢も紫龍もまったく本気ではない。速度もせいぜいマッハ二か、三くらい。試合でもないので、このくらいが安全に戦えるぎりぎりなのだろう。
「やや紫龍さんの方が劣勢でしょうか?」
「そうでもないよ」
エリオの意見を、フェイトがやんわりと否定する。
スピードを活かして攻める星矢を、紫龍は冷静にドラゴンの盾で防ぎ、反撃している。手数は星矢が勝っていても、紫龍の一撃は正確で重い。
だが、怪我をしないよう言い含めてあるので、全身全霊の力を込める紫龍の廬山昇龍覇は事実上封印されている。奥義が使えず、紫龍は少しやりづらそうだ。
「ペガサス流星拳!」
一方の星矢は、紫龍が盾で防いでくれるので、思う存分必殺技を使っていた。
戦いは徐々に熱を帯びて行き、二人が加速していく。
やがて、紫龍の拳の下をくぐり抜け、星矢が背後に回り込んだ。
「しまった!」
「これで決まりだ。ペガサスローリングクラッシュ!」
星矢が紫龍を羽交い絞めにして、回転しながら跳び上がる。そして、そのまま頭を下に落下……
「スト―――――――ップ!!」
なのはが展開したホールディングネットが、落下途中の星矢と紫龍を受け止めた。
「なんだよ。邪魔しないでくれよ、なのはさん」
組み手に水を指されて星矢は不機嫌そうだが、なのははそれどころではない。
「星矢君、今の技、何!?」
「俺の必殺技だけど?」
「どうして、あんな危ない技使うの!」
「別に心配いらないよ。これまで何回も使ってきたんだし」
「もっと安全な技を考えなさい!」
なのはの剣幕に、星矢は首をすくめる。
ペガサスローリングクラッシュは、相手の頭を地面に叩きつける荒技だ。しかし、その際に、離脱が少しでも遅れれば、技をかけた本人の頭も一緒に砕く危険がある。少なくとも模擬戦で使う技ではない。
元々相打ち覚悟で使った技なのだが、そんな技を平然と使う星矢が、なのはには信じられなかった。
「あんな風に怒るなのはさん、珍しいね」
「まあ、なのは隊長の教育方針と真逆の戦い方だからね。あんな無茶な技、いきなり見せられたら、取り乱すのも無理ないんじゃない?」
スバルとティアナが、怒っているなのはからなるべく距離を取りながら言った。
一足先にティアナは映像データを分析してみたが、聖闘士の戦い方は、とにかく危なかった。
背後に回り込む時に、紫龍の拳が星矢の頭上すれすれを通過している。もし、星矢がかがむのが少しでも遅れていれば、紫龍の拳はカウンターで星矢の顔面を直撃していただろう。どうやっても怪我は免れない。
修行方法も含めて、聖闘士に安全という概念はなさそうだ。あるいは、これまで格上の相手と戦い過ぎて、捨て身の戦法が癖になっているのか。
そんな戦いを繰り返して、よく無事でいられるものだと、ティアナは妙な関心をしてしまう。
「でも、星矢君もよく大人しく聞いてるね」
星矢は、なのはの部下ではない。負けん気の強そうな外見からして、口論になるのではないかと心配していたのだが。
「ああ、それはね」
スバルの声が耳に入ったのか、瞬が答えてくれた。こうして間近で見ても、瞬は綺麗な女の子にしか見えなかった。本物の女としてスバルは若干劣等感を感じた。
「星矢の師匠は、魔鈴さんって言う女の聖闘士だったんだ。多分、年上の女の人に怒られると、修行時代を思い出しちゃうんじゃないかな」
「聖闘士って、女の人でもなれるんですか?」
「本来男がなる者だから、数は少ないけどね」
瞬の修行仲間にも、カメレオン星座のジュネと言う女聖闘士がいる。ただし、女性が聖闘士になる場合、女であることを捨てて常に仮面をかぶる必要がある。
「でも、こっちは強い女の人が多いんだね。ビックリしたよ」
瞬に言われて、スバルとティアナは微妙な顔をした。ミッドチルダでは、優秀な魔導師に、年齢も性別も関係ない。当たり前のことに感想を持たれても、どう反応していいかわからなかった。
なのはの説教が一段落したのを見計らない、ヴィータがハンマー型デバイス、グラーフアイゼンを肩に担いで立ち上がった。
「どれ、そろそろ行くか。おい、氷河か瞬、どっちか相手をしてくれ」
「ヴィータ副隊長がやるんですか? それなら私が行きます」
スバルが名乗り出た。
「そうか。じゃあ相手は……瞬、頼めるか?」
氷河は我関せずといった様子だったので、ヴィータは瞬に頼んだ。
「わかりました、ヴィータさん」
瞬はわずかにためらう素振りを見せたが、大人しく従う。
どうも星矢のせいで、ヴィータは聖闘士たちに最年長だと誤解されたようだ。若い隊長を、経験豊富な副官が補佐していると言ったところか。子供扱いされるのも腹立たしいが、これはこれで面白くない。
バリアジャケットを装着したスバルが、開けた場所で瞬と向かい合う。
聖闘士たちに魔導師の実力を知ってもらう為にも、スバルの責任は重大だった。
一方の瞬は生来戦いを嫌う。模擬戦とはいえ戦うことに、ためらいを覚えているようだった。
「瞬君、思いっきり行くよ!」
ちゃんと戦ってくれなければ、訓練にならない。瞬を奮起させようと、スバルは闘志を漲らせる。
なのはが開始の合図をしようと左手を上げた時だった。風を切り、何かがスバルの頬を掠めていった。
「えっ?」
反射的に首を傾けていなかったら、眉間を直撃していた。瞬の腕は動いていないのに、右手のネビュラチェーン――攻撃を司るスクエアチェーン――が勝手に動きだし、スバルを狙ったのだ。
「……瞬君?」
スバルの喉から固い声が出る。
「スト―――――――ップ!」
なのはが叫び、フープバインドが瞬を拘束する。
「駄目だ、なのはさん!」
瞬の警告と同時に、スクエアチェーンがなのはに矛先を向ける。
「危ない、なのは!」
フェイトがバルディッシュで、鎖を弾く。
「てめえ、どういうつもりだ!」
瞬を取り押さえようと、ヴィータがアイゼンを構えて走る。ティアナたちも不測の事態に、一斉にデバイスを起動する。
「僕に近づかないで!」
防御を司るサークルチェーンが瞬の足元に螺旋を描いて展開する。ヴィータが範囲内に踏み込むなり、鎖が波打ちアイゼンと火花を散らして激突する。
「ちょっと待った!」
星矢と紫龍が、ヴィータの前に立ち塞がる。氷河も、なのはとフェイトを止めていた。
「頼むから、敵意を収めてくれ」
星矢に懇願され、ヴィータたちは半信半疑ながら言われたとおりにする。それだけでネビュラチェーンは地面にパタリと落ち、瞬の腕へと戻っていく。
「ごめんなさい。僕のネビュラチェーンは、敵意に反応して自動で迎撃するんだ」
アンドロメダの防御本能は聖衣で一番と言われている。
「でも、驚いたな。ネビュラチェーンが、ここまで過剰な反応を示すなんて……」
魔法には非殺傷設定があり、スバルたちは常に実戦さながらの真剣さで模擬戦を行っている。瞬の予想を上回るスバルの闘志を、ネビュラチェーンは本物の敵と、しかも相当な脅威と認識したようだ。
「なのは、瞬の野郎は模擬戦に参加させないようにしよう」
ヴィータが努めて冷静に言った。
「そうだね」
なのはは疲れ切った顔で首肯する。
「こんなんで、聖闘士と連携なんてできるのかな」
たった二回模擬戦をやっただけなのに、なのはの心労は頂点に達しようとしていた。
聖闘士と六課フォワード陣が訓練している頃、はやては一人車を飛ばして、地空管理局地上本部に向かっていた。
はやてとて、一日や二日でコスモを会得できるなど考えていない。ただ聖闘士たちを引き止めるのと、聖闘士について知ることができればと提案しただけだ。
その結果、訓練場でどんなことが起きたか、はやては知らない。
『主はやて』
シグナムから通信が入った。
『今、アギトの取り調べを行っていたのですが、取引を持ちかけられまして』
アギトは重要参考人として、時空管理局に拘留されている。スカリエッティのアジトを知る最大の手がかりだ。
「どんな?」
『情報が欲しければ、スカリエッティ逮捕に自分も協力させろと言うのです』
はやては人差し指を唇に当てて考え込む。
アギトの狙いは、ゼストを殺した犯人に対する復讐だろう。
時空管理局では、どんな犯罪者だろうと法の裁きに委ねる。抵抗が激しい場合などは仕方ないが、さすがに私刑を認めるわけにもいかない。
「しばらく保留にしといて。どうせ今のままじゃ対抗策もあらへんし」
『わかりました』
シグナムからの通信が切れる。
スカリエッティのアジトの場所が判明しても、今のままでは攻め込めない。敵が次の行動を起こす前に、こちらの準備が間に合えばいいのだが。
地上本部に到着するが、そこは惨澹たる有様だった。システムの復旧も、がれきの撤去もまだ終わっていない。崩れ落ちた塔が、時空管理局の敗北を印象付けていた。
潜入していたドゥーエによって、レジアスも最高評議会の三名も殺されてしまった。現在、伝説の三提督の元で組織の立て直しが計られているが、まだまだ混乱している。
指定された部屋に向かう途中、はやてはまるで胃に鉛を流し込まれたような気分になる。どう転んでも、愉快な話にはならないだろう。せめて徹底的に最悪な予想をして、その時に備える。
白い簡素な部屋の中では、意外な人物が待っていた。
「やあ、はやて」
明るい緑の長髪に、白いスーツを着こなした伊達男がソファに座っている。
「アコース査察官?」
「ロッサでいいよ。他に誰もいないしね」
ヴェロッサ・アコース。六課の後見人の一人、聖王教会の騎士カリムの義弟で、やり手の査察官だ。はやてとの付き合いは長く、妹の様に思ってくれている。
テーブルの上には、ロッサの手作りケーキと紅茶の入ったポットが置かれていた。はやてが向かいのソファに腰掛けると、アコースは紅茶とケーキを差し出す。
「そう言えば、今朝方スカリエッティから連絡が来たよ。ナンバーズ改め、ゾディアック・ナンバーズだそうだ」
「相変わらず自己顕示欲の強い男やな」
新しい名前をわざわざ教えてくるスカリエッティに、はやてはうんざりとした表情を浮かべた。
はやては生クリームがたっぷり乗ったケーキを一口食べた。甘い風味が口の中に広がり、嫌な気分を少しだけ和らげてくれる。
しばらくカチャカチャと食器を鳴らす音だけが狭い室内に響く。はやてがケーキを食べ終わると、アコースが口を開いた。
別におやつを食べに来たわけではないので、本題はこれからだ。
「さてと……多分、君のことだから予想はしてるだろうけど……」
いつもは愛想のいいアコースの歯切れが悪い。はやてがケーキが食べ終わるまで待ってくれたのも、気遣いだけではなく、単に切りだしづらい内容だからだろう。
「機動六課は、本日付でスカリエッティ及び、ゾディアック・ナンバーズの捕縛任務に就いてもらうことになった。僕はアドバイザーとして、君の補佐に就く」
アコースは一旦間を置いて、深刻な様子で言葉を続けた。
「この任務が与えられたのは、機動六課だけだ。ガジェットならいいが、ナンバーズ逮捕に他の部隊の協力は得られない」
「そっか」
濃い目に入れられた紅茶で喉を潤し、はやてはあっさりと言った。
「アースラの方はどないなった?」
はやては新しい六課本部として、廃艦寸前のアースラを使用したいと申請していた。
「過酷な任務の代わりと言ってはなんだが、六課にはかなりの権限が与えられた。申請すれば、大抵の設備、機材は優先的に使わせてもらえる。その気になれば、新型艦でも徴用できるけど?」
「艦隊戦をやるわけじゃなし、アースラでええよ」
はやては遠慮しているわけではない。廃艦寸前のアースラならすぐに乗り込めるが、他の艦では手続きが面倒だからだ。
はやては退院したロングアーチスタッフにメールを送り、アースラの機動準備をするよう連絡する。
「後、それからこれを」
「これは……」
ロッサが転送してきたデータを見て、はやては目を丸くした。
「三提督からのプレゼントだ。君も噂くらいは知ってるだろう。魔法文明の黎明期、数多の魔導師を再起不能に追い込んだ禁じられた魔法だ。特別に使用が許可されたよ」
正直、これでもまだゾディアック・ナンバーズには届かないし、使用には大きすぎるリスクを伴う。だが、攻略の足がかりにはなるだろう。
「この決定は、一足先に六課後見人たちに伝えられた。聖王教会はこれに異議を唱え、正式に抗議文を作成中。本日夕刻までには時空管理局に届けられるはずだ」
他の六課後見人たち――フェイトの義理の家族であるリンディとクロノ――も上申書を作成中。クロノに至っては、部隊を引きつれて六課に合流するとまで言っている。
「いやー。愛されとるな。私ら」
「茶化さないでほしいな。僕らは真剣なんだ」
普段は飄々としているロッサだが、さすがに余裕がないようだ。おそらく、後見人たちに先に決定内容を伝えたのも、ロッサの独断だろう。与えられた命令をどうにかして覆そうと、手を尽くしてくれている。
「はやては怒ってないのか? こんな理不尽な命令を与えられて」
当事者であるはやてが任務をあっさり受けいれていることに、ロッサはひっかかりを覚えていた。
「それはしゃあないな。私が上でも、それしか思いつかへん」
不満がないと言えば嘘になるが、ゾディアック・ナンバーズと交戦してどうにか撃墜を免れたのは、なのはとフェイトくらいだ。
ゾディアック・ナンバーズに数で対処しても、いたずらに犠牲者を増やすだけ。ならば、少数精鋭で挑むしかない。聖闘士たちが六課に預けられたのも、それを見越してのことだろう。
よしんば、六課と聖闘士たちが敗北したとしても、敵の数を少しでも減らし、得られた戦闘データから対抗策を構築できる。後は万全の態勢を整えた時空管理局の精鋭たちを送り込み制圧すればいい。
捨て駒にされる方はたまったものではないが、これが一番確実な作戦だ。はやてとしては、むしろこんな作戦の責任を取らされる伝説の三提督の方に同情してしまう。
ロッサはアドバイザーという形ではやての補佐に就くが、実際はナンバーズのデータを時空管理局に持ち帰るのが任務なのだろう。
「それより、よくロッサがアドバイザーに就くのを許可したな?」
こういう任務なら、普通、六課のメンバーに思いれのない人物をつける。
「この任務は命がけ……というより、命をどぶに捨てるようなものだからね。ちょっと強行に立候補すれば、誰も反対しなかったよ」
その時の様子を思い出したのか、ロッサがようやく苦笑を浮かべた。
おまけにロッサのレアスキル、無限の猟犬は複数の戦場の情報を収集するに適している。まさに渡りに船だったのだろう。
「大丈夫。私らは負けへんよ」
ロッサを励まそうと、はやては茶目っ気たっぷりに片目をつぶって見せた。
「勝ってしまっても問題なんだ」
はやての励ましは逆効果だったらしく、ロッサがますます深刻になってしまう。
「君たちの勝利の先には、限りなく黒に近い、灰色の未来しか待っていない」
ゾディアック・ナンバーズは時空管理局を転覆させかねない戦力だ。もし勝利してしまえば、六課はそれ以上の戦力を保持していることになる。
機動六課が通常の部隊だったら、まだよかった。部隊を解散後、隊員を別々の部署に配置し、メンバー同士が互いの抑止力となるよう仕向ければいい。
だが、預言阻止の為に、反則ギリギリで集められた六課のメンバーは、ほとんどが縁故採用だ。隊長たち三名が無二の親友であることを知らない者はおらず、隊員間の信頼も厚い。もし、誰か一人でも時空管理局に叛意を持てば、全員が呼応すると考えてしまう。
そんな危険な因子を飼いならせる組織はない。軟禁状態で閉じ込められるか、死ぬまで危険な戦場に送り込まれ続けるだろう。
室内を沈黙が満たす。どちらもかける言葉が見つからなかった。
「…………はやて」
はやてが退出しようかと考えた時、沈黙を破りロッサが口を開いた。ここまで真剣なロッサは、はやても見たことがない。
「これは、査察官ではなく友人としての意見だ」
ロッサは深呼吸し、一息に言った。
「逃げよう」
「へっ?」
ロッサの言葉に、はやては面食らった。
「スカリエッティは狂った科学者だが、無差別に人を殺すような真似はしない」
地上本部襲撃の際の声明にも、命を愛しており、無駄な流血は望まない旨の発言があった。どこまで信用できるかわからないが、行動から一面の真実はあるだろう。
「もし、これで時空管理局が敗北するようなことがあっても、スカリエッティの天下になるだけだ。勝ち目のない戦で、無駄に命を散らす必要はない」
はやては冗談で返そうかと思ったが、雰囲気がそれを許さなかった。ため息をついて、こちらも真面目に返事をする。
「私らの故郷にこういう言葉がある。“一夜の無政府主義より、数百年にわたる圧政の方がまし”ってな」
社会を維持するうえで、それほど法と秩序は必要不可欠だ。
「まあ、スカリエッティが支配者として君臨してくれるなら、最悪よりはましやね」
しかし、きっとそうはならないだろう。スカリエッティは自己顕示欲の塊だが、その本質は科学者だ。あくまでも自分の研究にしか興味がない。
スカリエッティがもし時空管理局を打倒したら、力と権力を望む者に武器を提供し、得られた資金で望むままに研究を行うだろう。
「時空管理局は、次元世界に存在し続けないといけないんや」
数多ある次元世界の中で、時空管理局の後釜を狙う者は腐るほどいる。それら野心家たちを、時空管理局はこれまでどうにか抑えてきた。
もし時空管理局が敗北、もしくは致命的なダメージを受ければ、野心家たちは一斉に蜂起し、次元世界を股に賭けた大戦争が勃発するだろう。
おそらく天文学的な数の死者と、たくさんの世界が滅ぶ。その中には、はやての故郷も含まれるかもしれない。それだけは絶対に避けねばならない。
「大体逃げるって、そんな無責任なこと言ったら、カリムが泣くよ?」
「僕は元々不真面目な査察官だからね。友の命と、組織のどちらかを取れと言われれば、友人を取る。義姉さんもきっとそれを喜んでくれる」
ロッサははやてにそっと手を伸ばす。
「もし君たちが逃げるなら、僕が手を貸そう。僕の持てる力を全て駆使して、君たちを次元世界の彼方まで逃がしてみせる」
込められた思いは、あまりにも切実で真剣だった。
ロッサの指がはやての頬に届きそうになる瞬間、はやてはわずかに身を引いた。それだけで、ロッサの指ははやてに届かなくなる。
それが答えだった。
ロッサは残念そうに目を伏せ、口調をいつものものに戻した。
「離隊したい者がいたら、言ってくれ。隊長クラスは無理だと思うが、なるべく善処しよう」
「ありがとうな」
スターズやライトニングの新人たちが承諾するとは思えないのだが、選択肢だけは与えておきたかった。たとえ、ただの自己満足であったとしても。
はやてが退出するのを、ロッサはやるせない重いで見送った。
六課隊舎に帰りがてら、病院に寄る。
門のところで、白い包帯を腕や額に巻いたシャマルとザフィーラが待っていた。
「お待たせ」
助手席にシャマルが、後部座席にザフィーラが座る。
怪我が完治するまで静養していて欲しかったが、現状ではそうもいかない。本人たちの強い希望もあって、早速仕事に復帰してもらうことになった。
はやてはアクセルを踏み込み、車を発進させる。
「はやてちゃん、何かあった?」
シャマルが尋ねた。いつもと様子が違うことを、早々に見抜いたようだ。
任務の内容が堪えたのは確かだが、意外だったのはロッサの最後の言葉だった。込められた思いが友情だろうと、妹に向けられたものであろうと、あれだけ真剣に思われたら、心が揺れ動くというものだ。
これまでの人生の中で、はやてが異性から告白されたことは何度もある。中には、付き合ってもいいかなと思える異性もいた。
だが、はやては贖罪の道を歩くと決めている。茨の道に、好きな人を巻き込めない。
かつて一人ぼっちだったはやてに、守護騎士という家族ができた。なのはとフェイトというかけがえのない友もできた。機動六課という信頼できる仲間たちもできて、これ以上望むのは贅沢だと思ってしまう。
はやてはどう答えようか逡巡し、
「なあ、シャマル、ザフィーラ。私のことは気にせんと、幸せになってええんよ?」
思わず本音が漏れてしまった。
贖罪の道を、守護騎士たちは共に歩いてくれる。だが、かつて何も知らなかったはやてを救おうと、守護騎士たちが罪を犯したのだ。夜天の書の主として、今度ははやてがその罪を背負ってもいいと考えていた。
以前から、守護騎士たちがもっと自分勝手だったらいいのにと思う時があった。はやてのことなんか気にせず、自分の幸せを追求して欲しい。それこそ、守護騎士たちが恋人でも作って幸せになる姿を見られるなら、それだけでははやての人生は報われる。
これまでずっとつらい思いをしてきた守護騎士たちに、それくらいの褒美はあっていいはずだ。
「はやてちゃん」
シャマルの声は、冬の妖精の吐息のように冷たかった。
(……久々にやってもうた)
本気で怒っているシャマルに、はやては怯える。
「私ね、幸せを分かち合うって、結構簡単にできると思うんだ」
てっきり、シャマルのお説教が始まるかと思いきや、淡々とそんなことを言いだした。
親しい人が幸せそうにしていれば、自然とこちらも幸せな気分になれるものだ。
「でもね、苦しみを分かち合い、共に乗り越えていくことは、本当の家族にしかできない」
ただ不幸の泥沼に沈むのではなく、共にもがき、這い出すことができるなら、それはどんなに素敵なことだろうか。
はやては勘違いに気がついた。シャマルは本気で怒っているのではなく、本気で悲しんでいたのだ。
「私は、みんなを家族だと思ってる。だから、弱音でも愚痴でも、いくらでも言ってくれていい。悩みがあるなら、相談に乗る。でもね、その言葉だけは言わないで。家族の一人に罪を全部押し付けて、平気でいられるように私たちが見える?」
はやてがバックミラーを覗くと、ザフィーラがシャマルに賛同するように、目を寂しげに細めていた。
こういう時に、ザフィーラが狼の姿をしているのは、反則だとはやては思った。これでは懐いているペットを、勝手な理由で捨てようとしている飼い主のようではないか。
「一緒に乗り越えて行こう、はやてちゃん」
シャマルの優しさに、はやては鼻の奥がツンとなるのを感じた。
「……ごめんな」
「……主、謝らないでください」
ザフィーラが言った。
「せやな。ここはありがとう、言うところやったな」
はやては、涙がこぼれないように。ほんの少しだけ上を向いた。
こんなに素晴らしい家族を与えてくれた神様に、心から感謝したいと思った。
以上で投下終了です。
次がいつになるかちょっとわかりませんが、それさえ越えれば、もう少し早いペースで投下できると思います。
それでは、また。
乙〜
272 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/01(金) 10:43:40.77 ID:j7dhR8uO
架空戦記とのクロスssってありますか?
ウィキで探せ
そこでなかったらない
質問なんですが、リリカルブレインってwikiの更新間隔を見るに
まだ新話が投下されてないだけで、wikiが投下されてるけど更新されてないというわけなんでしょうか?
読ませてもらっている身で言うのはあれですが、本家の将軍並みに遅筆というのは俄かに信じ難くて…
文がおかしくなってた…
×わけなんでしょうか?
○わけではないんでしょうか?
十一時頃に羽生蛇村調査報告書
ルーテシア・アルピーノ 大字粗戸/バス停留所付近 初日/7時22分49秒
を投下します
時間になったので投下します
※注意
このSSには鬱要素が含まれており、今後登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。そのことを踏まえてよろしくお願いします。
ルーテシア・アルピーノ
大字粗戸/バス停留所付近
初日/7時22分49秒
辺りには、依然として深い霧が立ち込めている。
白んだ空気は、一寸先にある木々すらをも飲み込み、日が出ているにも関わらず森はどこもかしこも薄暗い。
霧は日光を薄らげるだけでなく、視界を悪くし、ただでさえ閉鎖的なこの村を、余計に息が詰まるような空間に仕立て上げていた。
「……ルーテシアちゃん、寒くない?」
理沙はおもむろに、ルーテシアの薄着に見える服装を見やりながら聞いた。時は8月。季節は夏だが、山間部の朝は都会と違って熱を籠もらせるコンクリートも少なく、緑が多いために肌寒い。
しかも立ち込める霧により日光は遮られているため、日が登ってからしばらくしても気温はなかなかあがらなかった。
「大丈夫」
ルーテシアは短く、小さな声で返した。山奥での肌寒さなんて、今までのゼストやアギトとの生活で数え切れない程体験してきた。今更、特に苦に思うようなことでも無い。
立ち込める霧を掻き分けるように、宛もなく二人でさまよい続けている理沙とルーテシア。
お互いが出会ってから二時間は経つというのに、未だ彼女達の尋ね人は見つかっていない。ただただ、化け物達を避けては歩き続けるだけで数時間は過ぎていた。
歩き続けている間、理沙は自分自身のことを色々と語ってくれた。
自分と姉の美奈が一卵性双生児であることや、宮田という医師と自分は会ったことが無いということ、東京というこの国の首都にいた時のことなど。
歩きながらも無心に話し続けていた辺り、少なくとも沈黙が好きではないタイプの人間なのだろう。あるいはそうしていなければ不安に押し潰されてしまうのか。
どちらにせよ特に鬱陶しいとは思わなかったが、それを分かっていてもルーテシアはただ相づちを打つことしかできない。
ルーテシアは別段、理沙と言葉を交わす気が全く無いわけではない。
日頃はスカリエッティにナンバーズやゼスト、アギト以外の者と会話をする機会が無かったルーテシアにとって、辺境管理外世界の人間と警戒心も無く行動を共にするなんて初めての経験だった。
むしろこの異常事態を通じて、新たに気を許せるような人間が出来たことをルーテシア自身、気付いてはいないが心のどこかで嬉しく思う節があるぐらいだった。
ただ、理沙に比べて遥かに特異な出自を持つ自分のことを魔法も知らない理沙に話したところで、何一つとして理解され無いだろうことも目に見えていたのだ。
それを考えると、理沙にとっての非常識を無理矢理に理解させようとして、余計な混乱を招くよりかは、こうして一方的に話を聞いている方がいい。ルーテシアには、そう思えた。
だがそんな理沙も、さまよい続けている疲労により、今ではすっかり口数が少なくなっている。
二時間、休まずに歩き続けていることで疲れを感じているのに、その上、辺りの霧が生み出すまとわりつくような湿気が、二人の体力の消耗を加速させていた。
足取りは確実に重くなっており、その状態で更に一人でしゃべり続けることなど、余計に体力を使うだけなのだ。
魔法が使えたら、こんなことにはならないのに。流石のルーテシアもそう思わずにはいられなかった。
召還、転送、飛行、念話……魔法が使えさえすればすぐにでもゼストやアギトと再会できる。だが生憎のこと、その魔法自体が完全に封じられているのだ。
苛立ちこそ覚えなかったが、異常事態に置かれて、更に魔法が使えないという人生初めての経験に、ルーテシアは微かに疲弊を感じていた。
小さな崖沿いに林が切り開かれて出来た道を辿って、二人はとぼとぼと歩いている。ルーテシアは、誰かの足跡が無数についた、足元の湿った土を見つめながら黙って歩いていた。
と、不意に横から聞こえていた理沙の足音が突然途絶えた。ルーテシアも思わず立ち止まり、顔を上げる。すると理沙が、前を向いたまま呆然とした表情で立ち尽くしていた。
「あれは……」
目を細め、呟く理沙。
「……リサ?」
ルーテシアが声を掛けるが、理沙には聞こえていないようだ。ルーテシアは理沙が真っ直ぐ投げ掛けている視線を追って、前方に目を向けた。
すると遠くに人間の輪郭が見えた。なにか白い服を着ているのか、霧の中でその姿は非常に見えにくい。
「人………?」
ルーテシアも呟くと、同時に理沙がその人物に向かって、突然駆け出した。
「あっ、リサ!」
ルーテシアは名前を呼ぶも振り返らずに、そのまま走っていく。ルーテシアは仕方無く、理沙を追い掛けた。
近付いてみて、その人物は白衣を着た男だということが分かった。こちらには気付いていないようで、理沙は男に駆け寄ると化け物かどうかも確認せずに、いきなり声を掛けた。
「あ、あの!」
その声に、白衣の男はいたく驚いた様子で振り向いた。眉や耳を出した、真面目さを感じさせるような切りそろえられた髪型に凛々しい顔付き。
血色は良く、顔から血が流れているわけでも無い。見たところ、れっきとした人間だった。手にはあの化け物達と戦っていたのか、血に濡れたラチェットスパナが握られている。
「み、美奈……?」
理沙の顔を見た瞬間、男の目に動揺の色がありありと浮かび、同時に理沙の姉の名を呟いた。
その瞬間、ルーテシアは理解した。この人物こそ、理沙の姉の婚約者であると言う『宮田先生』なのだと。
姉の名を耳に入れた理沙は、途端に涙声になりながら、矢継ぎ早に言葉を男にぶつけていった。
「あの、もしかして宮田先生?私、恩田美奈の妹です!理沙です!」
「妹……?」
白衣の男、宮田は言葉の意味を確認するかのように呟いた。理沙は尋ね人と会えて安堵したのか、その目からは涙が次々と溢れ出していた。
「私、お姉ちゃんに会いに行こうとして……お姉ちゃんは無事なんですか!?お姉ちゃんはどこですか!?」
「はあ、双子か……」
泣きながら問いただす理沙に、気の抜けたような返事をする宮田。
理沙の双子の姉である恩田美奈と婚約者である辺り、突然現れた美奈と顔が同じ理沙に動揺を隠しきれなかったのだろう。
宮田の反応の理由は恐らくそんなところだろう、とルーテシアは感じた。
「……………」
がしかし、そう感じつつもルーテシアは宮田の様子に何か引っかかりを覚えていた。それが何なのか、はっきりとは分からないが、どうにも動揺した表情に裏がありそうに感じた。
ただ、突然婚約者の妹に出会ったからということが原因の動揺というわけでは無い。ルーテシアには何故か、そう思えた。
「……そちらの子は?」
ふと宮田が、理沙の傍らに佇んでいたルーテシアに注意を向けた。一応ルーテシアが警戒して、口を噤んだまま無表情で宮田をじっと見ていると、理沙が泣きながらも代わりに説明してくれた。
「この子は、逃げてる途中に会った子で……外国の子らしいんですけど」
「へぇ」
宮田は既に落ち着いたのか、興味の無い様な感情の薄い返事をすると、ルーテシアを見やった。
ルーテシアも見つめ返す。この地域に住む人間特有の平たい顔に、鋭い目つき。じっと自分を見つめる宮田の顔からは、どことなく冷たい印象を受けた。
「とりあえず、この先に商店街がある。そこに降りよう」
宮田は泣きじゃくる理沙に視線を移し直すと、顎で道の先を差した。見ると道がすぐそこで途切れており、その向こう、霧に家屋の屋根がうっすら見えた。
「は、はい……」
安心以外に、美奈がいないことへの不安の現れか、理沙は一向に泣き止まない。
とりあえず宮田を先頭にルーテシアと理沙はついて行く。道の先を行くと、寂れた商店街の街路にあるバス停小屋の屋根の上に出た。
木の壁にトタンの屋根が乗せられただけの、簡単な作り。三人が足を踏み出す度に、トタンが小さく軋む。
バス停の屋根から降りると、これまでの泥道とは違った、アスファルトで舗装された道路が現れた。
木造住宅の建ち並ぶ商店街は不気味なほどに静まり返っており、相変わらずの深い霧によって先はまるで見えない。だがその向こうにも、化け物達が闊歩する気配だけは明確に伝わってきた。
「……………」
ルーテシアの目を引いたのは、ちょうど道から出たバス停小屋を境に商店街の道を阻む、無数のベニヤやトタン、板切れによって構成された、明らかに不自然な巨大な壁だった。
(……これは?)
壁は、その先も続いているだろうコンクリートの道路を中途半端なところで完全に分断している。
その上、商店街にある二階建ての家よりも高く、見上げると霧のせいで霞んではいるが壁の上に家の屋根のシルエットが見えた。
壁、というよりいくつもの家をかき集めて作った巨大な砦のようだ。その巨大な砦に、商店街の家も一部が呑み込まれている。
しかし商店街と同じく、巨大なその建築物も廃墟のように静まり返っており、より不気味な様相を呈している。
誰が、何のためにこんな物を建てたんだ、とルーテシアがしげしげと不気味にそびえる壁を眺めていると、背後から宮田の声が聞こえてきた。
「私も、美奈さんを探してたんだ」
振り向くと、宮田が商店街の方を見やり、こちらに背中を向けて理沙に話し掛けていた。理沙は涙を拭きながら「はい」と答える。
「とりあえず、その子も一緒に病院に」
宮田は首を動かしてルーテシアを見やった。こちらに向けられる鋭い視線。現状に取り乱している理沙とは違い、仮面を被っているかのような無表情を取り繕っている宮田。
なにを考えているのか分からない不気味さを備えている。少なくともまともな人間では無い、それがルーテシアの抱いた宮田への印象だった。
「君、日本語は分かるのか?」
「……うん」
ルーテシアが機械的に頷くと、宮田は何も言わずに前方に向き直り、静かに歩き出した。理沙が鼻をすすりながらルーテシアに振り向く。
「ほら、行こう?ルーテシアちゃん」
言いながら理沙は微笑んだ。その目は、やや赤く腫れている。
正直、宮田は理沙とは違い、今のところ信用に足るような印象は無い。しかしここで無理に別れて一人になったところで特に意味も利益も無いだろう。
無表情の内側に、宮田への警戒心を強めながらルーテシアは理沙に歩み寄って頷く。それを見た理沙は少し安心したように表情を緩めた。
理沙は宮田に対して特に不信感を抱いている様子は無い。大丈夫だ、何かあった時は私がなんとかする……そう胸に決める。
顔を見合わせた後、二人は宮田の言う『病院』に向かうため、宮田の後を追って、霧が覆う商店街の中へと、足を踏み出していった。
以上で投下終了です
ではまた
284 :
◆jTyIJlqBpA :2013/03/06(水) 12:03:05.62 ID:FY4zmUF7
すいません
規制されてて自分ではスレを立てられないので、誰か他の方で立ててくれませんか?
>>284 投下乙
それじゃ次スレ立ててくる
久しぶりなんで失敗したらごめん
>>285 ありがとうございます
よろしくお願いします
現在から定かではない未来。
地球は一つの大きな節目を迎えていた。
多発する戦争。
エネルギー枯渇問題。
自然災害。
様々な障害が人類の前に降りかかって来た。
それに対し人類は全ての人類が互いに手を取り合い平和と発展に貢献すると言う条約の下一つの組織を樹立させた。
その組織の名は『国際平和連合』と言い、この組織の樹立を起に地球から争いは途絶えた。
誰もが永遠に続くと思った平和。
物語は、丁度その時から始まる…
参戦作品
マジンガーZ
グレートマジンガー
ゲッターロボ
ゲッターロボG
UFOロボグレンダイザ―
ウルトラマン
ウルトラセブン
帰ってきたウルトラマン
ウルトラマンA
ウルトラマンタロウ
ウルトラマンレオ
快傑ズバット
マシンロボクロノスの大逆襲
仮面ライダー
仮面ライダーV3
仮面ライダーBlack
仮面ライダーBlackRX
魔法少女リリカルなのは
魔法少女リリカルなのは As
第1話 不思議な出会い
詳しい時代は分かっていないが、少なくとも今からそう遠くない未来のお話をしよう。
其処は今私たちが住んでいる星と全く同じ星。
その星の名は太陽系第3惑星、地球と言います。
え? 何処が違うんだ! ですって?
確かに星は一緒です。
ですが、その星で起こる出来事は恐らく、決して私達の世界では起きない出来事だからです。
いうなれば、このお話はフィクションなのです。
ですので、そのお話を楽しむのは結構ですが、間違っても本気にして世間様にご迷惑になるような行為はお控え下さい。
そんな事をしても私は一切責任を持ちませんので。
長々と失礼しました。
それでは、お話をするとしましょう。
290 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/09(土) 22:20:29.98 ID:Uixr53sI
夜の湖、人の姿は無く、水辺には止められたボートが波に揺られて静かに揺れている。
周囲に木々は風に揺られて葉のこすれる音を発している。
そして、空には満点の星の数々と巨大な満月が辺りを照らしている。とても静かな夜だった。
だが、そんな静けさを壊すかの様に激しい音が発せられました。湖の岸辺では一人の少年が居ました。
その少年の目の前では人ならざる者が赤い目をギラつかせて少年を見ていました。
「お前は此処に居ちゃいけない存在なんだ!」
少年がそう言い懐から赤い玉を取り出しました。何かを呟きだす少年。
すると赤い玉から眩い光が発せられた。
その光は目の前の人ならざる者に辺りその体を引き裂いていく。
その中から現れたのは蒼く光り輝く一つの結晶石であった。
月夜に照らされて尚一層蒼い光を発する結晶石。
しかし、その直後、周囲に散らばった人ならざる者の体が青い結晶石を覆い尽くすように纏っていき、再び人ならざる者となった。
「だ、駄目だ…僕じゃ、これを扱いきれない」
傷ついた肩口を抑えて荒い息を立てながら少年は悔しそうに呟いた。
それでも再び赤い玉を使おうと手を翳したその時、人ならざる者が動いた。
突如自分の体を細かく分裂させて弾丸の如く少年に向けてぶつけてきたのだ。少年は必死にそれを避ける。
その度に岸辺には巨大な穴が開き、止まっていたボートは貫通され、建物は破壊されていった。
少年は木々の方へ向かい駆け出す。
そんな少年を追いかけて先ほどの弾丸が一つに纏まり先ほどの姿となって追いかける。
どれくらいか走った辺りで少年は再び赤い玉を翳した。
そして、先ほどのと同じように呟きまた光を発する。だが、今度はその光で人ならざる者は分裂せず、そのまま突っ込んできた。
少年は跳ね飛ばされた。幼いその体が風に舞い上がった木の葉の如く宙を舞い、やがて地面に激突した。
倒れて動かなくなった少年を見て人ならざる者は満足したのかその場を去っていく。
その光景を少年は薄れ行く意識の中見ていた。
「に、逃げられた…お、追いかけ…ないと」
それを最後に少年の意識は途絶えた。少年の体を淡い光が包み込み、やがてその姿を変えていく。
光が晴れた時、其処に居たのは一匹の小動物であった。
姿からしてフェレットだと思われる。
そのフェレットのすぐ横には例の赤い玉が落ちていた。
【誰か…誰か、助けて下さい…誰か、僕の声を…】
動けない体のまま少年は声にならない叫びを発する。
しかし、その声に応える者など居らず、無数の木々が唯風に揺らめくだけであった。
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寸三少x 寸三三三\ X ' / / !ィf斗ミ| | _」_ l ヘ 乂 \ヘ リ
寸三三≧x.__寸三三三\ / / ;/ / 从{kィリ| |、 { `i 、 |iXi| `ヽ| 〉ヽ 〃
弌三三ニ>气三三三ミ\ ' '; | ' { ! イ 弋以ヘ 斗芸ミE [》 《]_\ | ト、\ /
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∧ -=ニ三三三二二ニニ\ [L卞ア/::〃/f冖7匕ル'/ x仁ニニニニム三三三三三ニ
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x≦二ニニ=V三三三三ニニニニニ> "´ |TT|¨¨¨¨:::::::::::::<ニ>::\\_ 〔( 《,ィ--‐―‐‐‐-xヽ:::)_ノ⌒ V三三三ニ
x≦二ニ三三三三三三三ニニニニ> ´ |TT|:::::::::::::::::::::///:::::::::::\rァ‐-fヘ ::.\  ̄`ヽ ∨三三ニ
x壬二二三三三三三三三二二二ニア |TT|:::::::::::::::::::<ニ>:::::::::::::《Y" 〉 .. . .: .:. .:.:.::.〉 V三三ニ
∠二二ニ三三三三三三三二二二ニア |TT|::::::::::::::::///::::::::::::::::::》しr、 /. .. .: .:. .:.:.:.: ::.::./ ノ ∧三三ニ
\>,
i^ヽ∨ハ
Vハ ∨ハ
Vハ マト、
Vハー'ソ 乂
__ `¨)ヾ!__ ヽ
/! i:::::::Y::`:::::} {ミ \ヽ
/,:!. ';:::::::}フ≧ーr-、 ̄`ヽー、
/ ,::レ, ';:::::// /,.:|! / ∨ ∧
, /:::ムイ__ V{/ / / 、|!' i i ', }_}ト. ',
//::::::::::::/ Vレヘi!仍 | ノ从!} !| ノ::::::} !
//:::::::::::::::::> ',._八. __ マ;アi//リ' 、.i r'
//::::::::::::::::::::::ヽ }三.ハ ー’..イ/イ {Y } ゝ-イ
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ヽ';::::::::::::::::/ ム{^ハ__ __ソノ:| {:::i }: :,:ィ{、!r'・/ ゞV ∧
} !::::::::::::::{__,,..イ::ゞソ-ォ}ー-彡 ', ';::ヽ_) }: : }:V/ ./ `ヾ ヽ..
.>≦二二二彡/| !::::::::::::::ヾ!ー≦ハ ';:::!ト、: : ノ: イ_r' |`ヽ∨::,∧
///∧:::::::::∨///∧ ';::::::::::::::::::::',ヾ、::', ヾ!|:::::::::::ヽ V/} ∨::,∧
r://////∧::::::::∨> ´ }.}::::::::::::::::::::::} }\ヽ |:::::::::::::::::\ Vハ. ∨::,∧
__ {//////ム--、≦ヽ |.!:::::::::::::::::::::ノノ.//\ヾ::::::::::::::::::::::\ ヾハ. ∨::,∧
/:::::<三≧=-(___ソ:::// ',{::::::::::::::::::::ヾ 、三彡`=ー- 、::::::::::::::::\. Vハ ∨::,∧
`ー- ..__ ..厂< )○->' ヾ:::::::::::::::::::::::〉〉{__,.∨∧ \`''ー- 、:::::::\ ヽヾ!}:::::,∧
ゞ-- ´ ',:::::::::::::::::/∧ ', ∨∧ `ヾ:.:.ト.:\::::::\ \:::::::, ',
`ヽ::::::::// ヽ {ヽ∨∧__ ヾ }:.:.:.\::::::\. ';:::::', ',
`¨¨´ {Vヽヽ!: :ヽ }、 レヘ:.:.:.ヽ::::::::\ヾ::! ,
}ハ. ヾV }ハ }/ヽ:ヽ::::::::::ヽ ',
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ヽ ヽヽ: ',- 、 レヘ:.:ヽ::,. |
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! i | | i. | 二ミ | | |, ‐‐-- |.、リ ! } !
| ! | i | 《 {:::ミ | | | ,ィf芋ミ.メ/ j , ,
| ! ', ヽ ヽ ゞソ ヾ{ {J::::::} 》, / / /
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∨V////}人{/////,∧ / ./|. ,′ ./ / ! / ./  ̄ /
∨V//////////,◎∧.' ./ i! {. i { ム/ /
∨三二二二二二三リ ト| |__,,入. | | / / /
/ // i. | | | |: ヽ.| |__ ..:イ ,/
/ / i ノ ,リ.:| |. | ,.!-、 ノ.,ィ⌒ ー- ,,..___
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./ ゝ= イ }`i /´ iヽ /ヾ≧- ..,_V.'-- 、 /`ヽ \
ハ ヾ}ヽ.ト、-| i、 | } ヽ. / ー- \ \
`¨.i! } Vヽ ト、 / /ー- ,,__ ミ、 ',
ヽハ.__/ `¨ ` <ン / } /! }. i
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次スレ
リリカルなのはクロスSSその124
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