*
海上戦から二日目。アースラのとある一室に、三人の影があった。
金属製の床・壁・天井。出入り口側の椅子にセラが座り、反対側にリンディ。セラの後方、ドア近くの壁に寄り掛かるクロノは後見人。
殺風景なその場所で、最後の尋問が行われていた。
「健康診断で発見した未知の器官、用途不明の所有物、所々に見られる不審行動……」
一見すると楽な姿勢を取っているようにしか見えないクロノの右手には、待機状態のS2Uが握られている。
述べる上司の台詞を聞き流しつつ、いつでも戦闘体勢へ移せるように身構え続けるのが、現状におけるクロノの役目である。
少女は一言も口を開かない。後ろにいるクロノには、彼女の表情を窺い知る方法が存在しない。何を考えているかも不明である。
その方がいいと判断したからこそ、セラの背後で構えている。
顔を見ない分躊躇する可能性は減るし、距離をとる事で死角に侵入されない。相手の死角にいれば対処もされ難い。
真正面かつ自分より距離の近いリンディの方が、明らかに危険である。
しかし、“緊急時でも自分が何とかするまでなら凌ぎ切れるだろう”という、上司と部下だけでは築き切れない信頼関係が自分達にはあった。
やがて、空間モニターが対面する二人の真横に出現。紅きデバイスのメンテ作業と並行して入手した、とある映像の一部始終である。
「そしてこの映像。レイジングハートさんが提案し、許可もいただきました」
提督からの一方通行染みた説明が、遂に佳境へ突入した。ここからが決定的な証拠の提示であり、正念場。
……さあ、どう来る……?
既に着替え終わり、フェレット形態のユーノを背後から見つめるのは、現在モニターを見ているセレスティ・E・クライン本人。
映像の少女は、何かを躊躇するように眉根を寄せる。
次の瞬間。何もない空間から、次々と正八面の結晶体が現れたのだ。
なのはとの念話に集中しているのだろう、ユーノは気付かない。
十ある結晶体の一個がユーノの真後ろまで近寄り、何の反応も示さない事を確認して、画面の少女は一つ頷く。
直後、画面内に存在する全ての宝石が溶けるように消えていく。
ユーノの見ていないところで残ったのは、少女ただ一人。鞄に入っていた筈の宝石達は、影も形も既になし。
そしてユーノが撮影者――レイジングハートを訝しげに見やったところで、映像は途切れた。
深い沈黙が、場を支配した。
誰がどんな思考を巡らしているのか不明瞭な空気の中、先に口を開いたのは少女だった。
「……なのはさん達は、どうしましたか?」
「レイジングハートさんに誤魔化されたので、この情報を知らないままあの子達は許可を降ろしました」
そのデバイスがグルだったのだから、何とも言えない。
ユーノはレイジングハートの様子から察してメンテナンスを提案しただけであり、内容は見ていない。
「なのはさん達は知らないまま、ですか……」
その部分だけ拾ったセラは、どちらの意味で呟いたのだろうか。
自分を止められる戦力が少ない事に。友達になった彼女達を巻き込まずに済んだ事に。
知らない方がいい。今はまだ。希望的観測を、今だけは殺す。
「これから、どうするんですか?」
「あなたの話を聞いてから決める事にするわ」
「……わかりました」
途端に居住まいを正し、
「その……隠しててごめんなさい、です」
座ったまま、謝罪の礼をとった。
支援
「理由を、聞かせてもらえるかしら?」
最初にこちらが知るべきは、やはり動機。ある程度予想はつくものの、確認を含めて本人からの証言が欲しかった。
「わたしやディーくんには、力があります。少なくとも、今のなのはさんの世界では手におえないくらいの力が」
“ディー”も何らかの力を持っている事は想定していたので、問題はない。
「私達にも分かる例えでは?」
「わたしの場合、経験の方はなのはさんと数カ月程度しか違いがありません。けど……」
多少言い淀んで、
「実際に戦ったら、たぶんわたしが勝っちゃうと思います」
ここもほとんど想像通り。様子からして謙虚も慢心も見当たらない。
短期間ながらも魔導師について調べてきたが故の、客観的自己評価であった。
「だから、危険だと?」
「はいです。なのはさんの世界どころか、ミッドチルダでも」
「具体的には?」
「……きっと、戦争になります」
やはり、賢い子だ。今まで発言の端々でわずかに漂っていたぎこちなさも、全く見えない。
根が善人である事は、これまでの言動でも明確。念話で短く確認も取る。
(提督)
(ええ。決定ね)
ここまで追い詰められて反抗するつもりがないなら、もう危険視する必要はないだろう。
少なくとも、判決を下して本格的に身の危険を感じるまで、少女に力を使うつもりがないと、たった今証明されたのだ。
「あなたの処遇を決定します」
だからこそ、これ以上苦しめる訳にはいかない。
怯えるように肩を縮め、きつく両目を瞑っているのだろう少女の心を、解き放つ。
「結論から言うと……不問です」
「……え?」
きっかり二秒経ってから顔を上げるセラの顔は、背後からでも容易に想像がつく。
呆然と目を瞬かせているだろう。
「魔力を感知できないその特殊な力を、その世界では危険な代物と判断し、秘匿した行動は評価に値します」
安全な世界へ来たのなら、その強大な力をもって思うように過ごせる筈だ。管理局の存在を知らないなら尚更。
使えば戦争に繋がるから。自覚はないのだろうが、そう確信している時点で、己の実力に自信がある何よりの証拠である。
「半月にも満たない期間でしたが、把握した貴女の人格から、あくまで自己保身の為である事も分かりました」
しかし少女は力を振るわなかった。その気になれば助けられる人が目の前にいても、諸々の事情で介入できず傍観する事がどれだけ苦しいか。
「こちらへ危害を加える意思がない以上、誤解を解く為にも話し合い、友好的な関係を築くべきと考えました」
「い、いいんですか?」
「いいも何も、お互いのために必要と思ったの」
うろたえるセラへ微笑むリンディ。管理局員としてではなく、一人の母親としての顔だ。
「で、でも!」
「もういいのよ、無理しなくても。話して不利になる事柄は殆どないのでしょう?」
隠していた事自体が責める所であって、他は関係ない。このまま艦内に不穏分子を残すよりは余程いい。
しかし彼女は納得しなかった。
「そんなことありません!」
両眉を吊り上げ、少女は勢いよく立ちあがる。今まで決して強く出ることのなかったセラの意外な挙動に、二人は眼を見開く。
なのは以外には誰からも一歩引いて接し、時になのはを諭してすらいたセラの、子供としての一面。
ただ一人事情を知らないなのはと接している時にしか見せなかった、セレスティ・E・クライン個人の感情が露呈したのだ。
「わたしのおかあさんは、わたしのためにたくさんの人をころした犯罪者なんですよ――?」
わずかな逡巡を諸共に吐き出したのだろう発言は、クロノを驚かせるに十分値する内容であった。
間違いなくセラの素行は悪くない。その母親が大量殺人者と聞けば、その分耳を疑う。
隠している部分を差し引いても、セラの世界は過酷だ。犯罪が横行していてもなんらおかしくはない。
背後のクロノは僅かに怯む。対するリンディは、引き締めた口を開く。
「犯罪を犯したのはあなたの母親です。あなた自身が何もしていないのでしたら、あなたに罪を被せることのできる法律を時空管理局は持ち合わせていません」
事実だ。母親が犯罪者でも、その子供にまで法に掛ける事はない。まして本人が犯罪を起こしていないなら、尚更。
しかし何より注目すべきは、驚愕の真実を聞かされても間を開けずに返答するリンディの姿勢だ。
「わたしは同じように能力をもってる人たちと違って、おかあさんの遺伝でこの力をもったまま生まれてきた世界でもものすごく珍しい実験サンプルで、世界中からねらわれてるんですよ――?」
「あなたの持つそれは倫理的にも多大な問題を孕む為、実験動物扱いすることは絶対にありません!」
これで即座に言い返すとは、ここまで予想していたのだろうか――否、動揺はしている。
懐かしい人に、支援
普段なら表に出してしまうような驚愕を、己の意思で無理やり抑え込んでいるのだ。
少女のぶつけるような言の葉に、少しの間も開けずして返すために。
これまで少女が抱えてきた不安を、余すことなく受け止めるために。
目の前で涙を浮かべる、周りに沢山の人がいながら何も打ち明けられずに一人ぼっちだった少女を、この世界でだけは決して犯罪者としないために。
まさしく執念であった。
「ディーくんも犯罪者で、わたしのために何百人も人をころしてて、わたしとディーくんは世界に向けて宣戦布告したテロリストの一員なんですよ――?」
「未確認の世界で起こした犯罪を取り締まる法律なんて、この世のどこにもありはしません――!」
何もしていない、何の罪も犯していない少女を罰するなど、外道の諸行。
時空管理局は、セレスティ・E・クラインを受け入れる。受け入れてみせる。
「けど! けど……!」
「いいのよ。もう、背負い込まなくていいから……」
尚も言いつのり、しかし言葉が浮かばず俯くセラを、席を立ったリンディが優しく抱き締める。
きっとこの少女は、守られながら生きてきたのだろう。
それがどれだけ血に染まったものであっても、生きる他なかったのだろう。
「ごめんなさいね……とても辛かったのでしょう?」
「わたし……わたし……」
眼尻に涙を浮かべたリンディの胸の中、とうとうセラが嗚咽を漏らした。
「ごめんなさい……本当にごめんなさいね……」
悲鳴をあげていた少女の心が、ようやく開かれたのだ。
*
「その……済まなかった。ここまで君を追い詰めていたとは」
背後からリンディの隣へ移動したクロノが、真っ先に謝罪を口にした。
暫くして泣き止んだセラは、元の席に座って落ち着いている。
「えぇっと、本当ですよね? 解剖とか、実験とかしないんですよね?」
「本当です、そしてやりません」
親子揃って苦笑している。危険視されていた事に内心複雑のようだ。
聞けば、生命操作を始めとした倫理的に問題のある技術は、公式で禁忌とされているらしい。
魔導師について調べてばかりいた分、管理局法に一切目を付けていなかった。だからこそ起きてしまった、些細な誤解。
もう、管理局を恐れる必要はない。深く深く、セラは安堵の溜息を吐いた。
……どうなるかと思いました……
最悪、誰かを人質にとって地球へ転送してもらう辺りまでは考えていた。
色々と穴はあるし難しいと分かっていても、セラにはその位しか思いつかなかった。
何にせよ、万事丸く収まったのは非常にいい事だ。無意識に張っていた体中の筋肉が緩んだ気がする。
前方二名の視線が生暖かいものになっているのは何故だろう。それよりもセラには第二第三の問題が残っていた。
この世界の誰にもまだ話していない、魔法士及びマザー関係。現状、もう長くは隠せない。
問題は話す機会なのだが、先程逸してしまった。次があるとすれば、事件の後だろうか。
「さて、あなたは今後どうするの? 事件解決に協力してくれるなら、民間協力者としてこちらで手配はできるようにしてあるけれど」
「……え?」
「艦長――?」
とにかく周りが落ち着いてから話そうと結論付けた直後、リンディからの提案で我に返る。
執務官も驚いた辺り、事前に知らされてはいないようだ。
「私としては最初から予定に入れていたの。なのはさんより強いのでしょう?」
「……もしかして、わたしに事件の情報を教えていたのって」
「例え敵対しても、そうすれば事件の危険性を考えて余計な干渉はしないでしょう?」
ジュエルシードの暴走と、プレシア・テスタロッサ。
双方の予測不可能な行動を考えれば、唯一の避難先である地球を壊されないためにも配慮はしてくれる。
セラの性格からそこまで考えていたのだろう。にこにこと擬音のつきそうな笑顔は、上機嫌そのものである。
リンディの言う通り、自分にデメリットなんて一つもない。ないのだが。
……真昼さんみたいです。
してやられたという気分になってしまうのは、気のせいじゃないかもしれない。
今度は別の意味で溜息が漏れた。しかも執務官とシンクロで。
「話を戻しますけれど、戦闘はできるのですね?」
「確かに戦闘だけなら、皆さんのお手伝いができるかもしれません。今さらですけど、ジュエルシードは封印できませんし」
封印どころか近寄れない。ジュエルシードの近くで戦闘など勘弁してほしい。
と、ここで唐突に電子音。リンディの傍らで空間モニターが発生し、エイミィの顔が映る。
『――艦長、宜しいでしょうか』
「どうしたの、エイミィ? ……覗き見はよくないわよ」
『すいません、心配だったもので』
よくよく眼を凝らすと、両の眼じりに涙の跡が見える。
一部始終を見届け、もらい泣きしたらしい。今頃になってセラの顔が温度を上げた。
「それで、用件は?」
『なのはちゃん達から連絡です。“フェイト・テスタロッサの使い魔らしき大型犬を、友人が拾った”と』
「アルフさん、ですか……?」
突拍子もない出来事に、思わず声を上げる。何故ここであの使い魔なのか。
『聞いた特徴からして、まず間違いないそうです。怪我をしているらしく、丁重に保護されているとか』
あのプレシア・テスタロッサの事だ。向こうで一騒動あったと考えるべきなのだろう。
「使い魔との会話は可能か?」
『学校が終わった後に、二人が直接向かうって』
「わかった。それじゃあ――」
的確に指示を出すクロノを横目に、セラとリンディは顔を見合わせる。
「事件も大詰めのようね」
「はいです」
ここからは、腹の探り合いではない。事件解決への円満な交渉だ。
「とりあえず、経緯やまだ隠している事は後にしましょう。――まずは」
直後、リンディの目つきが鋭く変わる。
初めて見た敏腕提督としての顔に、セラも気持ちを切り替える。
「あなたに何ができるのか。その力で何をしたいのか……教えてちょうだい」
そんな数日間を終えて、五月十日の午前一時十三分がやってくる。
強制帰還まで、二十四時間を切った。
投下終了。
二章から立ちっ放しだったフラグ、これにて回収。あの頃からこのつもりでした。
(この文章は蜂の巣にされました)
(この文章は情報解体されました)
あと、投下中に誤字発見。プラネアリウムじゃないだろプラネタリウムだろと(ry
以上。
おおおお!GJ!
続きキター!
更新が遅くなってしまって申し訳ありません、FEです。
16章の投下を行いますが、スレが規制されて以来なかなか自分で投稿していないため、
1レスあたりの文章が凄く少ないです。申し訳無いです。それでは、投下します。
夢を、見た。
今までのようにトラウマにとらわれた夢ではなかった。
それは、見ている者からすればほほえましくなるほどの平凡な夢。
朝起きて、家族と共に過ごして、笑いあい、生きていく。
そんな、普通とも言える幸せな夢。
だが、彼は知っていた。本来の自分には、そのような甘い幸せが訪れないことも、訪れてはいけないことも。
夢の中で、笑いながら過ごしている自分を見つめながら思う。
―――本当だったら、こんな風に過ごしていたのかもな―――
常人とはかけ離れた生活を送り、常に生死の境を彷徨うような戦場にいた。
もし、俺に戦いが無かったら。もし、俺が傭兵では無ければ。
こんな生活を送っていたのかもしれない。
だが、今の彼は戦いの意味を知ってしまっていた。
いまさら、こんな幸せにありつこうとは思わない。何故なら、
「俺は、殺人者だからな――――――――――」
第16章「再開する勇者達」
久しぶりに寝覚めが良かったので、アイクは一人で河原に向かっていた。
「…平和、だな。」
アイクは昇りつつある朝日を見ながら一人、呟く。
それは、何とも美しい景色。
彼は戦うことを決意してから、どれほどこの景色を見たのだろうか。
戦いの間でこういった景色を見ることはあっても、何も考えずにこの景色を見るのは初めてではないだろうか。
ふと、黒い気持ちが流れ込んできた。
オマエハ夢ノ中デミタ、アノヨウナ家族ヲイクツモ破壊シタ。
――黙れ
イマサラ、平和ヲ夢ミタトコロデ、オマエハ幸セニナル権利ガアルノカ?
――…黙れ
ソウダ。オマエノ居場所ナド、戦場シカナイ。
平和ナド、所詮幻想ニスギナイ。ソンナ下ラナイ物ノ為ニ、己ノ剣ヲ振ルウノカ?
――確かに、平和は幻想だ。だが、それを実現させようと頑張るのが俺たちだ。
オマエハドウダ?ソレデ満足カ?
――どういう意味だ?
オマエハ戦イヲ求メテル。ソウダロウ?
無用ナ戦イハ避ケナガラモ、敵ト対峙シタ時ニハ容赦ハシナイ。
ソレハ、ツマラナイ戦イハシタクナイト言ウコトダロウ?
――…
ソウダ。我慢ヲスルナ。罪ナドキニスルナ。タダ、戦イヲ求メテ―――
そこで、アイクは思考を打ち切った。これ以上考えたら、自分が自分ではなくなるだろうと思ったから。
暫くして、アイクはようやく自分の姿に気づく。
先ほどの心の対話で強い恐怖がにじみ出ていたのか、彼の体は汗だらけだった。
「戦いを求めている、か…」
否定ができない。
確かに、彼は強者を求めている。平和という幻想など望んでいない。
だが、一つだけ間違っている物がある。
「罪は、償うべきだ…例え、神が許しても、罰が恐くても―――――」
俺の犯した罪は、消えないのだから――――
「あの…セフェランさん。ここは、何処、でしょうか…」
ペレアスがおずおずと口を開く。無理もない。
誰だって、見ず知らずの場所にいきなり飛ばされたら同じことを思うだろう。
そもそも、ここは彼等からすれば「異世界」だ。
誰に聞いても仕方がないのだが、それでも聴かずにいられないのが人間の性である。
「すみませんが、私も分かりません。ですが、ここまで科学が発展している世界ならば、地図の類のものは探せば出てくるでしょう。」
そう言ってセフェランは目の前の光景を見渡す。
走る自動車に、信号。高層ビルや、その他もろもろ。
ペレアス達にとって、カルチャーショックを受けざるを得ない光景だった。
「しかし…科学はここまで発展できるのか…」
ショックを隠しきれない表情でニケがつぶやく。
アイク達の世界ではどちらかと言うと魔法が発展してきた世界だ。
いや、魔法を使わず、魔法の様なことができる、と言った方が的確か。
「ニケさん、できればオオカミのお姿でいてください。町中に耳や尻尾をはやした人は奇異の目を向けられますよ。」
「それもそうだな」
ニケは機嫌を損ねたそぶりを見せず、オオカミの姿に変わる。
彼女はいまだに「王者」であるため、化身に精神集中はいらないのだ。
だが、セフェラン達も各々の姿をよく見るべきであった。
マントを着て魔道書をもつ男と、見るからに優しそうな司祭。そして、剣を持ち歩く袴姿のイケメンな剣豪、そしてオオカミ一匹。
…彼らはそのまま街を出歩き、警察官に任意同行を求められたのだった。
「はーい、じゃ、朝の訓練始めるよー。今回は、ライトニング&スターズ対アイク達とギンガの模擬戦。これから10分後に始めるから、各自、用意は整えてね。」
「「「「はい!」」」」
「アイクさん、よろしく!」
「ああ」
「よろしくお願いします。」
………たったそれだけの自己紹介。ある意味、彼ららしいといえば、彼ららしい。
「では、今回の作戦を言います。ギンガさんは…」
セネリオが切り出す。今回の模擬戦も退屈しなさそうだと、アイクはひそかに思った。
「じゃ、いくよ。模擬戦…」
スタート、という直前で通信が入る。
『なのはさん、フェイトさん!!旧市街地にガジェットドローンV型、30機が出現!!直ちにスターズとライトニング隊をつれて現場に急行してください!!』
「「了解!」」
その通信を受けて全員が用意を始める。
この時からすでに、終焉へと向かう歯車は回りだしていた。もう、すでに止まらない。
行きつく先は滅亡か、それとも別の終わりか。
少なくとも、今この時は彼らがそれを知ることはなかった。
「!!」
「どうした、セフェラン。」
「何かの気配を感じます。恐らくは、先日戦ったあの機械か、その類か。」
「何にしても、こ奴らをどうにかせねばその場に行けぬぞ。」
「ちょっと、何を話してるか知らないけど…」
言いかける警察官の目の前にセフェランが杖を突き付ける。
次の旬がん、警察官な音もなく倒れ伏した。
「ソーンバルケさん、何か言いました?」
「セフェランさん、法律スレスレじゃないですか?…」
セフェランがスリープの杖で眠らせた警察官をかわいそうに見つめるセフェラン。
先ほどの警察官から聞いた話では、「公務執行妨害」とか言っただろうか。
「さあ、余談はここで終わりです。行きますよ。」
さっき押収された武器類を取り返し、セフェランについていく二人と一匹。
その向かう先は、地図によると旧市街地。
その先にはアイク達がいるのだが、今の彼らには知るすべはなかった。
「アイクさん、伏せて!」
「ッ!!」
ティアナとアイクがコンビネーションを駆使して確実に敵を撃破していく。
「あの二人、すごくいいコンビネーションね…」
「そりゃそうだよ!!だって、もうこの隊の中では公認カップルだもん」
「確かに…でも、アイクさんはティアナの気持ちに気付いているのかしら?」
「…そこが問題なんだよね〜。アイクさんは心の機微には凄く鋭いくせに、恋愛に関しては驚くほど鈍いんだもん。」
スバルとギンガがお互いに背中を預けながらしゃべりあう。
仮にも、ここは戦場なのでそう言った油断は危険極まりないのだが、残りはアイクとティアナが相手にしている3体のみ。
「ハァッ!」
大きな声がしたかと思うと、残りの3体が一気に爆発して飛び散る。
「いや〜突然だったから何があったかと思ったけど、行ってみれば大したことは―――」
「ッ!スバル、後ろ!!」
安心したようなスバルの背後から2体のガジェットが飛び出てきた。
スバルはそれに気づくには遅すぎた。
「!!」
それに気づいて振り向いたが、それはすでに攻撃態勢に入っていた。
とっさに防御魔法を展開したとしても間に合わないだろう。
激痛を覚悟して、スバルは目を瞑る。
いつまでたってもその痛みがやってこないことを変に思い、そっと目を開ける。
ガジェットはその場から1ミリも動いていなかった。いや、動くことができなかった。
スバルは遅れて、そのガジェットに横一文字に切れ目が入っていたことに気がついた。
真っ二つにされたがジェットが少しずつスライドして向こう側にいた人が見えてくる。
そこには、緑の髪をした袴姿の剣士が立っていた。
「どうして…お前が…」
アイクが絶句する。
「ソーンバルケ、なぜお前がここにいる!?」
「アイク、その話は後だ。今はこいつらを斬るのが先だ。」
ソーンバルケは言いながらも、獲物を見定めてヴァーグ・カティを構える。
そんな彼らにガジェットは何も考えずに突っ込んでくる。
だが、この二人に挑むこと自体がこの兵器にとっては運の尽きだった。
ガジェットは音もなく、二人によって複数の塊に変えられた。
「私に挑むというのなら、剣の腕で勝負願いたいものだな。」
「フッ、お前に勝てる奴なんて数えるくらいしかいないだろう。」
軽口をたたきあい、何事もなかったかのように剣を鞘に納める。
「あの、アイクさん。そちらの方は…」
「紹介が遅れた。剣聖のソーンバルケ。まぁ、…あちらの世界で彼とともに戦った仲だ。」
「さっきも聞いたが、なぜお前はここに…」
言いかけた時に、後ろの建物の陰から気配を感じ、振り返る
そこには。
「久しぶりだな、アイク。剣の腕は衰えては無いようだな?」
「…アイク、久しぶりですね。」
「えっと、お久しぶりです、アイクさん!」
ニケ、セフェラン、ペレアスが陰から姿を現す。
本来ここにいるべきではない人物が4人もいることにアイクもセネリオも驚きのあまり、言葉を失っている。
そんな中、おずおずとティアナが切り出す。
「あの…立ち話も何なので、六課で話を聞いてみませんか?」
ここは闇の中。
その中でゆらりと蠢く影があった。
「彼等も来たか…」
ゼルギウスは手にかけたエタルドから手を離し、呟く。
その視線の先には、アイク、ニケ、セネリオ、、ソーンバルケ、ペレアス、そしてセフェランがいた。
「あの方も来るとは思わなかった…だが、これで。」
―――私の目的が果たせる。スカリエッティにも伝えたあのことを、彼にも伝えれば。
「全ては、女神のため…か。私にとってはさしずめ、もう一度「死ぬ」ためか。」
この計画はしくじってはならない。もし失敗すれば、少なくとも2つの世界が「奴ら」の手に落ちる。
そうなったら、誰も「奴ら」を止めることはできない。
「支配欲に取りつかれた愚かな者どもに世界を握られるくらいなら、私は。」
―――我が身の破滅と引き換えに、この世界を束縛から解き放つ。
ゼルギウスは身を翻し、一度は光に染まりかけた心を無理やり闇に沈め、影の中へと戻って行った。
「それで、この人たちがアイク達の世界から来た人たちなんやな?」
執務室にてアイク達一同がはやてと向き合う。
「そうです。私たちは女神の意思により、この世界にやってきました。そして、ある重要なことを伝えに来ました。」
そう言って、セフェランは表情を引き締める。
次の瞬間、その場にいる人たちからは考えられない言葉を発した。
「そう遠くないうちに、私の世界とあなた方の世界の、戦争が始まります。」
To be continued……
以上で投下終了です。
長い間投下してなかったので、1話投下するのに時間がかかって仕方がありません。
とはいっても、僕自身のせいなのでこつこつと頑張っていきます。
アドバイスがあれば、遠慮なく言ってください。感想等、待ってます。
277 :
一尉:2011/07/20(水) 22:22:06.47 ID:PmSCqVq8
支援
職人の皆様、投下乙です!
>Gulftown 氏
うむむ……何やらとてつもない車のようですね、悪魔のZ
これを乗る彼女が無事でいられるのか、とても続きが気になりますね。
>◆e4ZoADcJ/6 氏
百合大戦、完結おめでとうございます!
ついに百合ショッカーを打ち破り、ディケイドも次の世界に向かうのですか……
そして大好きなプリキュアに否定された鳴滝さんは、ご愁傷様です……
あと、カオルちゃんがチョイ役ながらも出てきたのには、思わずニヤリときましたw
次の作品も、頑張ってください!
>LB氏
お久しぶりです。
ああ、リンディさんがマジで女神ですね……
この人なら、これからセラが立ち直らせてくれそうですね、本当に
>FE氏
セフェランさんやソーンバルケさん達が登場ですか!
しかも、FE世界とミッドで戦争が起こりそうとは……今後も気になりますね
それでは自分も、この後9時より投下予告をします。
そして注意事項として、アインハルトファンの方々は『刑事』をNGワードにすることを
オススメします。
そろそろ時間なので、投下を開始します
エ、エ、SS読むときは、部屋明るくして離れて見てね♪
次元世界の中心、ミッドチルダ。
魔法が発達した世界であり、数多の次元世界を守るための組織である時空管理局が、存在する世界でもある。
新暦79年。人々は変わらぬ平和を過ごしていたかのように思えた。
だがしかし、この世界で小さな事件が起きている。ある日突如として現れた、ハイディ・E・S・イングヴァルトと名乗る謎の人物。
毎晩、イングヴァルトは格闘技の有段者達を襲撃しているという自体が多発している。幸いにも事件扱いにはなっていないが、時空管理局としても黙って見ているわけにはいかない。
実際操作の手を広めたが、イングヴァルトが発見されたという例はゼロ。被害は拡大する一方。
そこで時空管理局は、この事態に対して異世界に存在するスーパーポリスマンに協力を要請した。
特殊刑事課と呼ばれる、ハードで最強の男達に。
その晩は、人通りの少ない街路が月明かりに照らされていた。
夜空は二つの満月と肉眼でも見える惑星、及び無数の星々で輝いている。全てが、まるで芸術品のように美しかった。
それらの下では、本来平和な静けさに包まれているかもしれない。
「ぐああああぁぁぁぁぁっ!?」
しかし、それを打ち破る絶叫が響く。
声の主である男は、勢いよく壁に叩き付けられた。体格は筋骨隆々としており、一流の武道家であるという雰囲気を醸し出している。
だがそんな彼が破れた。目の前に立つ、一人の少女によって。
その顔立ちは端整なフランス人形のように整っており、美しかった。普段、それを隠している筈のバイザーは、足元に転がっている。
赤いリボンで二つに纏められている、腰に届くほどの長さを持つ明るい緑色の髪。年相応の体を包む白と緑を基調としたバリアジャケットと、しなやかな脚部に履かれた白いソックス。
「えっ……!?」
「お前か」
目の前に立つのは、一人の男。
鷹のように鋭い瞳を、アインハルトに向けていた。二つの目からは凄まじい威圧感が放たれていて、凄腕だろうと震え上がらせてしまうような雰囲気を放つ。
だがしかし、アインハルトはそこに気を向けていなかった。現れた男の格好が、あまりにも有り得なかったため。
オールバックの黒髪、太い眉毛、赤と黒の二色を持つネクタイ、右手首に巻かれた時計、右肩と左足に付けられた拳銃のホルダー、二足の革靴。ここまでは普通かもしれなかった。
問題なのは、男の筋肉が露わになっていた事。筋骨隆々としており、無駄な脂肪が一切見られない。見るだけで、強者である事を窺わせる。
だが、それがまるで隠されていなかった。男が身に纏っているのは「きたの」と名前が書かれた、黒い海パンのみ。
小学生がプールの授業で履くような代物で、男から感じられる厳格な雰囲気とはまるで合っていなかった。しかも、異常なまでに股間がモッコリとしている。
この男は変態。それが、アインハルトが抱いた第一印象だった。
「ここ最近、格闘技の有段者達を次々に襲っている、ハイディ・E・S・イングヴァルトとは」
その異様さにアインハルトが呆然としていると、男は口を開く。その声には凄みがあり、瞳と同じく圧倒的な迫力が感じられた。
しかしアインハルトは、蹴落とされずに構える。
「……貴方は、一体何者ですか」
「質問をしているのは私だ。イングヴァルトとはお前の事か?」
「否定はしません」
そして、彼女は男の問いかけに淡々と答えた。
目の前に現れたのは、新たなる敵。しかも、全く知らない相手だ。海パン一丁で戦う男など、聞いた事がない。
だが何者だろうと自分と戦うのであれば、それ相応の礼儀で答えなければならない。
進む道の果てに待つ、覇王の悲願を果たすために。
「やはりそうか……ならば、これ以上罪のない人々を傷つけさせるわけにはいかん」
「そうですか……でも、私も負けるわけにはいきません」
「ほう、ならばどうするつもりだ?」
「決まっています」
言葉と共に、アインハルトは姿勢を低くする。そして、勢いよく跳躍した。
夜の冷たい空気が、大きく振動する音を耳にする。そのまま、弾丸の如く突進した彼女と男の距離は縮む。
神速と呼ぶに相応しい動きの中、アインハルトは腰を勢いよく回す。男との距離が零になった瞬間、左の拳を放った。
空気を裂くような勢いで、男の顔面に叩き付けようとする。今まで数え切れないほど、屈強な男達を倒してきた自慢の拳。
今回も同じように、現れた変な男を叩き潰す!
しかし、アインハルトのそんな思いは届かなかった。固く握った拳が当たろうとした瞬間、男は首を僅かに横へずらす。
それだけで、打撃を回避したのだ。アインハルトは微かに驚愕を感じながらも、二発目を放つ。だが男は頭部を傾けるだけで、またしても呆気なく避けた。
アインハルトは攻撃の目的を変える為に視線を下へ移して、脇腹にフックを放つ。しかし男が体制を横にずらした事で、空振りに終わった。
彼女は矢継ぎ早に、四肢をフル活用して拳や蹴りを数え切れないほど振るう。だがその全てが、男に掠りさえもしなかった。
一発一発をこちらが放つ速度より、上の動きで避けている。
「まて、落ち着くんだ」
「くっ!」
攻撃を躱す男は呟くが、そんな事を聞くつもりは無い。アインハルトは敵を倒すことだけを一心に、攻撃を続ける。
鍛えられた脇腹に蹴りを放つが、またしても避けられた。裏拳や手刀も、全力を込めて放つ。
しかし一向に当たる事は無く、夜風が震える音だけが響いた。それを耳にして、彼女の中で焦りが生まれていってしまう。
それなりに拮抗する相手と巡り会った事はあるが、これ程のフットワークを誇る戦士など知らない。
恐らく、純粋な身体能力なら自分を凌駕するだろう。認めたくないが、そこには純粋に敬意を感じなければならない。
だからといって、負けるつもりなど毛頭無かった。
「やああぁぁぁぁぁっ!」
気合いの声と共に、鋭いストレートの一撃を放つ。しかし、避けられるという結果が変わる事はない。
このままではラチがあかないと思い、彼女は一旦背後に飛んだ。それによって、アインハルトと男の距離が数歩分開く。
後ろに下がった彼女の息は、乱れていた。予想外の動きを見せる相手にペースが崩され、動きの中に焦りが生じた故。
それとは対照的に、目の前の男は平然と佇んでいる。それにアインハルトは苛立ちを感じ、怒りで表情を顰めた。
「なるほど、なかなかキレのある拳と蹴りだな」
互いの目線がぶつかり合い、夜風だけが聞こえる中。突如、男が静かに呟く。
「どうやらただの通り魔ではなさそうだな……お前の一撃からは、信念が感じられる」
「そうですか……貴方こそ、一筋縄ではいきませんね」
「だが、無駄な戦いは止めるんだ。こんな事を続けていても、無意味だ」
「貴方にとっては、そうかもしれません。ですが、私にとっては大いにあります」
その瞬間、アインハルトは身体の底に力を込めた。
この男は、やはり圧倒的強さを誇っている。これまで倒してきた男達など、まるで比較にならないほど。
このまままともに戦っても、勝てる見込みは薄い。
「……どうやら、このままでは貴方に勝てそうにありません。貴方はそれほどまでに強い」
「ほう」
「ならば、私は私の全てを出して、貴方を打ち破ります」
冷たい一言と共に、アインハルトは魔力を開放。一瞬で拳に流れ、闇を切り裂く輝きを放つ。
それは彼女が、これまで数多くの勝利を得るために繰り出した最大の奥義。
先祖代々より伝わる、覇王の強い血を持つ者だけが扱う事を許される必殺技。
魔力の光に目をくらまされたのか、男の瞼が少しだけ狭まるのが見える。それを好機と察して、アインハルトは地面を蹴った。
「むっ!?」
「覇王――」
弾丸をも上回る速度で、彼女は疾走する。己が信じる名前を、大きく告げながら。
自分の力を、全てを拳に込めてアインハルトは走る。目の前の敵を倒し、自分が上である事を証明するために。そして、覇王が最強である事を証明するために。
それが今の自分の、存在理由だから!
「――断空拳ッ!」
やがて男の目前にまで迫った瞬間、アインハルトは拳を繰り出した。それは引き締まった筋肉に容赦なく叩き付けられ、凄まじい衝撃を生む。
男の身体は吹き飛び、雷のように盛大な轟音を鳴らして夜の闇を揺らした。大量の粉塵が沸き上がり、冷たい風によって広がっていく。
手応えは、確実にあった。この技は今まで戦った全ての者を倒してきたのだから、当然。
そう思った瞬間、彼女の膝は一気に崩れて地面に落ちる。いくら勝ったとはいえ、最後まで得体の知れない男だった。もしもこれ以上関わっていたら、自分の中の何かが壊れていたかもしれない。
だが、もう終わった事だ。何よりもあんな男なんか、これ以上思い出したくない。
今日は早く帰って、体を休めよう。勝利を確信したアインハルトは立ち上がり、その場を立ち去ろうとした。
「フフフハハハ……なるほどな」
その直後、あの声が聞こえてくる。
アインハルトはそれに反応して、反射的に振り向く。見ると、粉塵の中からゆっくりと立ち上がってきた。先程断空拳を叩きつけたはずの、男が。
その顔に浮かべている不敵な笑みを見て、アインハルトは戦慄する。あの技を受けて立ち上がる者がいる事が、信じられなかった為。
男が叩きつけられた地面のアスファルトは陥没しているから、確実に食らっていた筈。だが、男の身体に見えるのは僅かな砂埃のみ。
傷なんてものは、まるで見えなかった。
「う、嘘……!?」
「良い技だ、まさか我が汚野家秘伝のオイルを塗ったこの身体を吹き飛ばすとは……やはりお前の力は本物のようだな」
あの一撃を受けたのにも関わらず、眼光と声からは未だに強い覇気が感じられる。それを向けられて、アインハルトは一瞬だけ震えた。
まるで蛇に睨まれた蛙のように。アインハルトはそんな今の自分に気づくと、すぐに抱いた恐怖を振り払った。
そして、男を睨み返す。
「貴方は……貴方は一体何者なんですか!?」
「そういえば、私としたことがまだ名乗っていなかったようだな」
アインハルトが疑問を叫ぶと、男は歩みを止めた。
「股間のモッコリ伊達じゃない!」
「っ!?」
「陸に事件が起きたとき、海パン一つで全て解決!」
そして、胸を堂々と張りながら叫びだす。異様な行動に、アインハルトは目を見開いた。そんな彼女のことなど構いもせず、男は言葉を続ける。
「特殊刑事課三羽烏の一人!」
やがて、悠然とした態度で力強く名乗りを上げた。
その男は、アインハルトが知らない世界から現れた、特殊刑事課と呼ばれるエリート刑事集団の一員。警視庁では警部補の位を持ち、特殊刑事課会員番号1番に任命された男の名は、汚野たけし。
そしてもう一つ、人々を守ると決意した際に背負った名前がある。その名は――
「海パン刑事だあっ!」
男は圧倒的な威圧感を込めながら、海パン刑事の名前を大きく告げた。声に含まれた物を感じて、アインハルトは確信した。
海パン刑事と名乗ったこの男は、やはりとんでもない変態。それでいて、とんでもない強さを持つ戦士だ。断空拳を受けても尚、立ち上がるのだから間違いない。
しかしそれでこそ、身体に流れる覇王の血が熱くなる。これほどの強者と戦えるのだから、喜ばないわけが無い。
アインハルトの感情は徐々に高ぶっていく、その最中だった。突如、ピピピと軽い音が鳴り響く。
海パン刑事は身に付ける腕時計に目を移して、脇のスイッチを押してアラームを止めた。突然の出来事にアインハルトが怪訝な表情を浮かべる中、海パン刑事は自身のパンツに手を突っ込む。
「えっ!?」
「失礼、エネルギー補給の時間だ」
そして、その中からバナナを取り出して、皮を剥く。
パンツの中から、出てきたバナナ。そんなワードが頭に思い浮かび、アインハルトの顔は思わず赤くなってしまう。一方、海パン刑事は中身の果肉を口に含んだ。
何故、あんな所にバナナを入れていたのか。あんなのをパンツに入れたまま、戦っていたというのか。そして、何故あんな所から出した物を食べられるのか。
有り得ない。断じて、有り得ない。アインハルトの中で疑問が広がる中、海パン刑事はバナナの皮をパンツの中に戻した。
中身を食べ終えた彼は、肩と足首に付けた拳銃を地面に放り投げる。
「どうやら、お前に敬意を示して私も全てを出さなければならないようだ」
「えっ?」
告げられた言葉に、アインハルトはぽかんとした顔を浮かべた。一方で海パン刑事は、パンツの両サイドに手をかける。
そのまま一気に下ろして、それを放り投げた。
「あ……っ!」
パンツの下から現れた物を見て、アインハルトは思わず目を見開いてしまう。海パン刑事が、正真正銘の全裸になったため。
「な、な、な、な、な、な、なっ……!?」
それによって見える物は一つ存在した。股間から天に向かって伸びた棒、棒に濃く浮き上がる血管、二つの球が隠されている袋、それらの真上に生えた大量の縮れ毛。
それは男ならば皆、一年間で一日たりとも見るのを欠かさないかもしれない存在。
それは例えられるのに、ソーセージやマンモス等様々な物が使われる存在。
それは男にとって、排泄などに使われる存在。
それはメディアで映し出されたら、高確率でモザイクに隠されてしまう存在。
それはアインハルトにとって知識で得ているが、実際に目で見た事がない存在。だから彼女は、絶句するしかない。
「なああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そう、それは『男の証』である。海パン刑事の『男の証』を見て、アインハルトは凄まじい悲鳴を発した。
そして、頬が真っ赤に染まってしまう。普段の彼女からは、まるで想像出来ないような様子だった。
それでもアインハルトは、何とかして平静を保って海パン刑事を睨む。しかしその瞳からは、うっすらと涙が溢れていた。
「な、なんで裸になるんですかっ!?」
「何を言う、我々人間は生まれたときは裸だろう? それに動物は皆、裸で生きている……私は自然の摂理に従うまでだ」
「……ッ!」
あまりにも突拍子も無く、常識から外れた理論にアインハルトは言葉を失う。
海パン刑事は『男の証』を晒して、恥ずかしがる気配を見せない。むしろ、誇っているようにも感じられた。
アインハルトは海パン刑事に対する羞恥と、先程自分が抱いた感情に関する失望を抱いてしまう。あんな男を、一瞬でも尊敬してしまった自分が恥ずかしかった。
だが怒りよりも、それを遙かに上回る動揺によって彼女の身体は動かない。そんな中、海パン刑事は得意げな表情で両腕を広げながら、足を進めた。
一歩、また一歩と進むたびに『男の証』もブラブラと揺れながら近づいていき、アインハルトの瞳に大きく映ってしまう。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」
「恐れる事など何も無い。私は君と話し合いたいだけだ、友達になるために」
「なりたくありません!」
アインハルトは全力で否定した事で、思わず構えを崩してしまう。
海パン刑事はこれまでとは違って優しく語りかけるが、とても信じる事など出来ない。全裸になって『男の証』を晒す奴の言う事など、まず耳にする事自体が不可能だった。
仮に真実だとしても、こんな男と友達になんてなれるわけがない。いや、なりたくなんてない。もしもなってしまったら、覇王の血が泣くに決まってる。
これ以上、巨大な『男の証』を直視するなど、まだ11歳の彼女には到底耐える事など出来なかった。生理的な嫌悪感を感じてしまい、思わずアインハルトは両手で顔を隠してしまう。
それが、致命的な隙となってしまった。
「今だっ!」
「えっ!?」
その刹那、海パン刑事の鋭い声が聞こえる。同時に凄まじい敵意が襲いかかるのを感じ、アインハルトは顔を上げた。
すると、陸上選手のように身体を低くしながら走る海パン刑事の姿が、彼女の瞳に飛び込んでくる。その速度は韋駄天のようで、瞬時に距離が縮んでいった。
疾走する海パン刑事と目が合った瞬間、アインハルトの全身に悪寒が走る。このままだと何をされるか分からない。少なくとも生きて帰れるとは思えなかった。
「う、うわあぁぁぁぁっ!」
アインハルトは絶叫に近い悲鳴をあげながら、勢いよく拳を振るう。しかし当たろうとした瞬間、海パン刑事は跳躍した。
それを追うために、アインハルトは上空を見上げる。すると、海パン刑事の『男の証』が大きく見えてしまい、彼女は一瞬だけ固まった。
それがまた、致命的な隙となってしまった。
「海パン・キイィィィィィィィクッ!」
海パン刑事は大きく叫び、右足を向けながら急降下した。その勢いは凄まじく、硬直していた事もあって回避が間に合わない。
迫り来る跳び蹴りを見て、アインハルトは両腕を交差させてガードの体勢を取った。海パン刑事の足は両腕に激突し、鈍い音を鳴らす。
腕が引きちぎられてしまいそうな激痛を感じてしまい、アインハルトは悲鳴を漏らしながら、数歩だけ後退った。それほどまで、海パン刑事の一撃は重い。
だが、止まっている暇など無かった。ここで動かなければ敗北に繋がってしまう。色んな意味で。
アインハルトは何とか足元を安定させて、海パン刑事に振り向く。その間がまた、致命的な隙となってしまった。
「え――?」
彼女の目に飛び込んできた物。それは、大の字となって高く跳び上がる海パン刑事の姿だった。
そして、彼の股間が頭の高さまで昇っているのを、アインハルトは見てしまう。何事かと彼女は思った瞬間、顔面に『男の証』が激突した。
グニュリ、と柔らかい物が潰れるような音を鳴らして。
「が、あ……ッ!?」
海パン刑事の一撃を受けて、奇妙な呻き声と共にアインハルトは背中から倒れる。それは物理的衝撃は当然の事、彼女の精神にも多大なダメージを与えていた。
アインハルトの視界を埋め尽くすのは、生暖かさを感じる人肌。そして、放たれる爽やかな香り。アインハルトは現状を認識していたが、認めたくなど無かった。
自分の顔面が今、海パン刑事の『男の証』を受け止めている事を。
「む、むぅぅぅぅぅぅぅぅむぅぅぅ!」
夜の闇を、言葉にならない絶叫が切り裂いた。いや、声を出す事など出来ない。
彼女の唇は、海パン刑事の『男の証』によって塞がれていたからだ。象徴とも呼べる棒が口の中に入っていないのは、不幸中の幸いかもしれない。だが、彼女にとっては何の慰めにもならなかった。
アインハルトは四肢をばたつかせて足掻くも、何も変わらない。海パン刑事の『男の証』が、彼女の顔面を圧迫するだけだった。
「んんんんんううぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
地面の上で、手足が何度も暴れる。何度も藻掻く。
もはや、まだ生きているから戦えるなどという問題ではない。アインハルトの中に宿る、オンナノコとしての部分が断末魔の叫びをあげ続けているのだ。
彼女はまだ性の知識に関しては、あまりにも乏しい。そんなアインハルトに対して、何の勉強も無しに『男の証』を顔にぶつけるなど、拷問以外の何者でもなかった。
「んんんんんんんぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
暴れている内に、次第にアインハルトは息が苦しくなるのを感じる。
零距離に存在する『男の証』によって、呼吸の自由までもが奪われていた。『男の証』の進入を防ぐため、反射的に口を閉ざしたがこういったデメリットもある。
だからといって今、呼吸をする事なんて出来るわけがない。もしそんな事をしてしまっては、海パン刑事の『男の証』が口の中に――
アインハルトはその先から考えるのをやめた。それは想像しただけで吐き気を促したため。
だがこのままではそこに到達するのも時間の問題。そんなのは、死んでも嫌だ!
「んんんむううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
アインハルトは錯乱しながらも、残る全ての魔力を右腕に込める。視界が『男の証』に遮られてはっきりしない中、拳を振り上げた。
その直後、海パン刑事の『男の証』が目前から消えて、変わりに綺麗な星空が瞳に映る。
アインハルトはすぐさま体を起こした。
「ぶはあぁっ! ……はぁっ、はぁっ、はぁっ」
ようやく取り戻せる酸素を精一杯吸っては吐く。しかしアインハルトの呼吸は、明らかに荒くなっていた。
『男の証』が顔に激突する。それは、彼女にとってあまりにも残酷すぎた。
しかし終わりの時が訪れたわけではない。彼女の聴覚は一つの足音を捉える。それでアインハルトは反射的にピクリ、と身体を震えさせた。
恐る恐る、彼女はゆっくりと振り向く。そして見つけてしまった。
未だ『男の証』を、堂々と晒している海パン刑事を。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ……ああ、っ!?」
「まさか私のゴールデンクラッシュを受けても尚、抵抗出来るとは」
「い、嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
海パン刑事の言葉には驚愕が混ざっていたが、アインハルトにとってはどうでもよかった。この男がまるで獲物を狙う獰猛な肉食獣に見えて、彼女は更に絶望してしまう。
そして、彼女の心は恐怖に埋め尽くされてしまい、瞳からポロポロと涙を流し出した。もはや、アインハルトの精神は限界をとっくに迎えている。
こんな男にこれ以上関わりたくない。こんな男をこれ以上見たくない。
いや違う。そもそも今は現実ですらないんだ。
目の前で起こっているのは、ただの夢。目の前に立っている男は、ただの幻。目の前から聞こえる声は、ただの幻聴。
アインハルトはついに、現実逃避にまで陥ってしまった。しかし辺りから感じる夜風の冷たさと、地べたの感覚がそれを否定する。
それだけでなく、目の前から迫る海パン刑事の足音も、これが夢や幻などではない正真正銘の現実であると教えていた。
「や、やめて……! もう、やめて……! 来ないでっ……! 来ないでぇっ……!」
「必殺のゴールデンクラッシュを耐えるという事は、やはり君は正真正銘の戦士のようだ……!」
「ひっ、ひっ、ひっ、ひいぃぃぃぃぃぃっ!」
恐怖で震えるアインハルトは泣きながら懇願するが、海パン刑事は笑いながら近づいてくる。『男の証』を前にした彼女は腰を抜かしてしまい、四肢で後退るしかできない。
海パン刑事の言葉は耳に届いているが、その意味を受け取る余裕など既になかった。
度重なるダメージによって、立ち上がる事が出来ない。もしも今、そんな事が出来たのならアインハルトは迷わずこの場から逃げていただろう。
今の彼女は、誇り高き覇王の末裔ではない。理性も矜持も完全に壊され、恐怖に震える一人の少女。それほどまで、アインハルトの心は絶望に蝕まれていた。
もっとも、一体誰がそんな彼女を責める事が出来るだろう。誰だって、今のアインハルトと同じ状況にまで追い込まれてしまったらこうなるしかない。
もしも何も知らない人間がこの光景を見たら、全裸となった男が強姦魔として一人の少女を襲っているように見えるだろう。恐らく、百人中百人。
しかし現実は、異世界より現れた刑事が通り魔を逮捕する為に戦っているという、全く正反対の出来事だった。
(助けて……助けて……助ケテ……タスケテ……たすけて……!)
これまでたった一人で戦ってきたアインハルトが求めたのは、救いの手。だが、学園でも物静かな雰囲気を放ち、他者とのコミュニケーションは必要最低限程度しか取らなかった彼女を助ける者など、誰もいない。
最早、アインハルトに待つのは絶望のみ。それを察した彼女の歯は、ガチガチと音を鳴らしていた。
その時だった。どこからともなく冷たい風が吹いてくる。その直後、海パン刑事のネクタイが首から離れて宙を舞った。
「むっ!?」
「えっ!?」
それに二人は、一瞬だけ驚愕する。
アインハルト自身は気付く事は出来ないが、それは『男の証』を押しつける海パン刑事への抵抗の結果。放った拳自体は当たる事はなかったが、込められた魔力がネクタイの一部を引き裂いていた。
それはアインハルトにとっては、あったからといってどうという事もないかもしれない。しかしそれが彼女をこの危機から救う事になった。
「い、嫌……」
「へっ?」
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
凄まじい悲鳴が辺りに響き渡る。これまでとは違ってアインハルトではなく、海パン刑事が顔を真っ赤に染めていた。
これまで感じられた強者の雰囲気から一転、まるで無理矢理服を脱がされた少女のように。
「オウ、マイガアアァァァァァァァァァァッ!」
先程までネクタイがあった所を両腕で隠しながら、海パン刑事は脱兎の如く逃げ出した。そして、すぐに見えなくなる。
あまりにも唐突な変貌に、アインハルトはぽかんと口を開けた。一瞬、何かの罠かと思ったが、彼女はようやく安堵する。
そして、よろよろと手摺を支えに立ち上がった。
SHIEN
「よ、よかった……助かった」
彼女は純粋な意味で、息も絶え絶えながらにそう呟く。
助かったという事実に、生きているという事実に、素直に喜んでいた。今のアインハルトに、戦意や敗北に対する憤りなどは微塵もない。
海パン刑事から開放される。たったそれだけが、アインハルトに生きている喜びを感じさせていた。
不意に彼女は、首を横に動かす。そこには、夜空の輝きに照らされた海が広がっていた。
「綺麗……」
普段は何とも思わなかったそれが、やけに美しく見える。まるで、無数の宝石が散らばっているかのように思えて。
アインハルトは涙を拭わないまま潮風を浴び、海を眺め続ける。今日は夜なのに35℃を超えて結構暑いが、そうしていたかった。
それが失敗である事を知らずに。
「ん……?」
海の美しさに見入っていた彼女の瞳は、ある物を見つけた。少し離れていた場所で、不自然に海水が盛り上がっているのを。
何だろうと思った瞬間、花火のようなな爆音が唐突に響いた。それによって盛大な水柱がそこから立ち上り、大量の海水を辺りに散らす。
そして、地面も大きく揺れた。
「きゃあっ!」
突然の衝撃に、惚けていたアインハルトは驚愕のあまりに尻餅をついてしまう。安心しきっていた事で油断してしまい、それに反応出来なかった。
雨水のように降り注ぐ大量の海水に、彼女の体は濡れてしまう。一体何が起こっているのか、まるで分からない。
更なる疑問が生まれようとした瞬間、揺れる海の中から一機の潜水艦が現れた。それがアインハルトの視界に現れると同時に、上部のハッチが勢いよく開く。
すると、そこから虹色の光が溢れ出してきた。
「タ〜〜ララ〜〜ラ、ラ〜〜ララ〜〜!」
「!?」
「海を愛し、正義を守る! 誰が呼んだかポセイドン! タンスに入れるは、タンスにゴン!」
辺りを照らす輝きの中に、回転している人型のシルエットが見える。回れば回るほど、人影の姿がはっきりと映ってきた。
潜水艦から現れたのは、口髭と眉毛を生やし、まるでトドのように体型が丸い中年男性。
茶色のリュックサック、上着だけの水兵服と赤いスカーフ、両足に履かれた白い靴下と下駄、見慣れない五角形のマークが刻まれた褌。
いきなり現れた男の格好に、アインハルトはデジャブを感じてしまい、軽い悲鳴を漏らす。さっき逃げ出した海パン刑事のように、この男もまた『男の証』を隠す褌以外、ロクに服を着ていなかったから。
「タ〜〜リラ〜〜ララ〜〜ララ〜〜! 私は水上警察隊隊長、海野 土佐ェ門!」
そして海パン刑事のように、堂々と宣言する。すると、海野 土佐ェ門と名乗った男の額に、イルカのようなマークが現れた。
それだけでなく、禿げた頭の上にちょこんと小さなヤシの木。そして口にくわえられるように、パイプ煙草までもが出現する。
現れた男、海野 土佐ェ門は海パン刑事と同じように、アインハルトの知らない世界で生きる特殊刑事課の一人。警視庁特殊刑事課会員番号5番に任命され、警視の階級を持つ。
イルカの調教師、ガラス職人、漫画家の職業を経た末に、刑事になった彼にもコードネームが与えられていた。
「お茶目なヤシの木カットがトレードマークの、ドルフイイイイイィィィィィン刑事だっ!」
決めポーズを取りながら、ドルフィン刑事は潜水艦の上で大きく名乗る。それを聞いて、呆然としていたアインハルトはハッとしながら、ようやく立ち上がった。
しかしその表情は、完全に怯えで染まっている。ようやく海パン刑事がいなくなったと思ったら、また似たような変態が出てきた。
もしもここでドルフィン刑事とか言う奴の相手をしていたら――考えるだけでも、鳥肌が立ってしまう。今度こそ、命を落としかねない。
震えるアインハルトは、ほんの少しだけ後退る。その直後だった。
「ムーンライト・パワー! メエェェェイクッ! アァァァァァップ!」
何処からともかく、ドスの効いた男の声が聞こえてくる。それに流れるように、奇妙な音楽も聞こえてきた。
一昔前に放送された、魔法少女アニメの変身シーンに使われるような、とても軽快で控えめながらも華やかさを持つBGMが。
「えっ、えっ、えぇっ!?」
度重なって起こる奇妙な出来事を前に、アインハルトは動揺しながらキョロキョロするしか出来ない。
いきなり聞こえた声に、訳の分からない音楽。それがアインハルトの不安をより一層、煽る事になる。
次の瞬間、上空より二つの気配を感じた。何をすればいいのか分からないまま、彼女は反射的に上を見上げる。
二つの満月を背に現れたのは、筋骨隆々とした肉体をセーラー服で纏い、逞しい髭を生やした二人組の男。
それもただのセーラー服ではない。1990年代に大ヒットを巻き起こし、今なお絶大な人気を誇る美少女戦士が変身した際に着るようなコスチュームを。
そして、男達はアインハルトの前に着地した。
「華麗な変身、伊達じゃない! 月のエナジー背中に浴びて、異世界に巣くう悪を撃つ! 月よりの使者、月光刑事ッ!」
三日月の模様があるフライトガールが被るような桃色の帽子、そこから流れる黒いツインテール、角張った金色の眼鏡、帽子と同じ色を持つリボンとスカート。
彼もまた、ミッドチルダとは違う世界から現れた、正義を志す男だった。コスチュームチェンジをする事で、七つの特殊能力が使えるようになる特殊刑事の一人。
聖羅 無々の名前を持つ、満月の時のみ出動する刑事。月光刑事。
「同じく、美茄子刑事!」
そして彼の相棒である、黄色のスカートと緑色のリボンを胸に付けた男も、美茄子刑事の名を堂々と名乗った。
「「只今、見参ッ!」」
満月の空を守る二人の男は、力強くポーズを決める。それは夜空に浮かぶ満月のような、圧倒的存在感を放っていた。
同時に、何処から流れてくるのか分からないBGMも止まる。
「……」
ヒュウゥゥゥゥゥ、と音を立てながら冷たい風が流れた。
アインハルトはそれを、唖然とした表情で見るしかできない。だが彼女は、自分のするべき行動を瞬時に導き出す。
突然現れた、三人組の変態。褌一丁が一人と、セーラー服が二人。多分、いや絶対に海パン刑事の仲間だ。
本能でアインハルトはそう察する。そして、彼女の脳裏に蘇る光景。目前に『男の証』が大きく映り、顔面に勢いよく叩き付けられた。
悪夢という言葉すらも生温い記憶に、アインハルトの瞳から涙が蘇っていく。
「……い、い、いっ、嫌ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして彼女は背中を向けて、一目散に逃亡した。それも神風のように全力全開のスピードで。
今の彼女に、ドルフィン刑事や月光刑事や美茄子刑事を潰すという選択肢を取るなど、死んでも出来なかった。
もしここでそんな選択を取ったらどうなるか? 考えるまでもない、今度こそ命を落としてもおかしくない。
その恐怖でアインハルトの生存本能が覚醒し、走る速度を一気に上昇させた。
「「「逃がさんぞっ! 通り魔!」」」
「ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
男達の厳つい声が聞こえる。ババババババ、と巨大なプロペラが回転するような音も聞こえる。
それを聞いて彼女は振り向いたが、すぐに前を向いた。後ろから夜空を背に、巨大な戦闘機が夜空を背に現れたため。
あれはずっと前に読んだとある本で見覚えがあった。確か異世界に存在する戦闘機で、月光とかいう名前だったはず。
だから月光刑事なのか、と一瞬だけアインハルトは思った。しかしすぐに思考を振り切る。
まるで何かが爆発したかのような轟音が、次々と後ろから聞こえてきたからだ。
「ぎええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
あまりにも奇妙な悲鳴をあげるアインハルトの顔は、既に涙でぐしょぐしょになっていた。
彼女はひたすら走る、走る、走る。しかしあの爆発音は立て続けに聞こえる。一度爆発する度に「月に変わってお仕置きよ!」や「全力全開!」なんて月光刑事の言葉が聞こえてくる気がするが、まともに聞いてはいけない。
話を聞く末に待っているのは、破滅だけ。
「助けてくださ〜〜い! おまわりさ〜〜ん!」
やがてそんなアインハルトの悲鳴が、夜のミッドチルダに駆け巡ったそうだが真相は定かではない。
紫煙
ドルフィン刑事の乗る潜水艦から、数え切れないほどのミサイルが放たれる。月光刑事と美茄子刑事が乗る月光には変なレーザー砲が付けられていて、そこからまた変な光線が発射された。
その標的は、緑色の長髪を揺らしながら逃げまどう一人の少女。だが攻撃の範囲はあまりにも凄まじく、周りの物を容赦なく破壊していた。
まるでテロリストのように悪質に見えるが、その本質は刑事なので尚更タチが悪い。
そんな地獄のような光景を、一人の男が呆れた表情で少し離れた位置から眺めていた。黒い角刈りの髪型、異様なまでに太いカモメのような形をした眉毛、ゴリラのように逞しいが妙に低い背丈、それを包む警察官の制服。
亀有公園前派出所に勤務する警察官、両津勘吉巡査長は溜息を付いた。そこには、通り魔に対する同情も少しだけ込められている。
「よりにもよって史上最悪の変態集団に狙われるとは……なんて、運の悪い通り魔だ」
ある日、いつものように適度にサボりながら適度に交番勤務をしていた時。特殊刑事課の連中が急に派出所に現れて、自分をこんな所に連れてきた。
どうやらこのミッドチルダとか言う世界で、あのハイディ・E・S・イングヴァルトとかいう女が人々を襲っているようだから、その逮捕に無理矢理協力されられる。
その割には、調査などはほとんど特殊刑事達が済ませたので、自分の出番はほとんどなかったが。
「……やれやれ、わしはこんな貧乏くじを引く役かよ! ちくしょう!」
やがて両津は八つ当たりのように、道端の石ころを蹴る。それは数回地面を跳ねた後、草むらの中に消えていった。
そして彼は、すぐそばで蹲っている全裸の男に振り向く。今まで何度も煮え湯を飲まされてきた変態、海パン刑事へと。
その外観からは普段の偉そうな調子は微塵も感じられず、まるで全裸を見られた女子高生のように羞恥に染まっていた。それもそのはず、今の海パン刑事にはネクタイが巻かれていないため。
どういう理由かは知らないが、海パン刑事はネクタイを取られると急に恥ずかしくなってしまうようだ。しかも『男の証』は決して隠そうとせず。
だがこんな海パン刑事を人前に出すわけにもいかない。横暴で姑息な両津だが、一応最低限の良識は持っていた。
「ほら海パン、行くぞ!」
「いやあぁぁぁぁん! 離してよ、エッチ!」
「お前が言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
胸を隠しながら蹲る海パン刑事の腕を引く両津は、鬼のような顔で怒鳴る。
前々から思っていたが、こいつらは非常に鬱陶しい上に面倒くさい。おまけに何度、とんでもない目に遭わされたか。
正直、特殊刑事課とまともに関わっては命がいくつあっても足りない。本音を言うなら、こんな状態の海パン刑事を引き連れるのも嫌だ。でも、ここでこいつを見捨てたら何をされるか分からない。
だから無理矢理にでも、引き連れる必要があった。
両津が海パン刑事を引っ張る中、胸ポケットから振動を感じる。彼はそこに収納されている携帯電話を取り出し、もう片方の手で通話に出た。
「もしもし?」
『もしもし両津さん、そっちはどうですか?』
「おお、ランスターか。今ドルフィンと月光達が、犯人を追っている所だ」
向こうから聞こえるのは、この世界の案内をしてくれたティアナ・ランスター執務官。特殊刑事達なんかとは違って、まともな常識人だ。
加えて、この世界に来てからイングヴァルトを捜索するとしても、自分をあんな奴らとは別行動をさせてくれたので、マリアのように良心溢れる人物でもある。
こち亀支援
『そうですか、引き続き追跡を続けてください。私達もすぐに向かいますから』
「わかったよ」
『それと、両津さん……一つ言いたい事があるのですが』
「ん、何だよ?」
『えっと……人事には恵まれてないかもしれませんが、どうか気を落とさないでください。悪い事ばかりが続くわけじゃありませんから。それでは、失礼します』
そう言い残すと、ティアナは電話を切った。それを聞いた両津は、何とも言えない気分となる。
特殊刑事課の奴らによって、連れてこられた自分に同情してくれるのは結構だが、あの言葉からすると同僚と思われていた。だとすると、逆に悲しくなってくる。
「……とにかく、行くぞ。海パン」
やがて両津は溜息を吐きながら、抵抗する海パン刑事を無理矢理引っ張ってその場を去っていった。
その背中に、妙な哀愁を放って。
余談だが、この日を境にハイディ・E・S・イングヴァルトが格闘技の有段者を襲撃するという報告は、一切入らなくなる。
ちなみにアインハルト・ストラトスがこの後どうなったのかは、誰も知らない。
以上で、こちら葛飾区亀有公園前派出所とのクロス短編を終わりです。
今回の特殊刑事課はほぼアニメに準じた設定となっております。
もしもアニメが今でも続いていたのなら、飛鷹家や早矢達やハルを始めた大阪組
そしてクララやミレニアム刑事、ラジコン刑事とかもいつか出る機会があったかな〜 と思う日もあったり。
今度の実写映画も、見てみたいなぁ……
長々とスレを消費して、大変失礼しました。
それではまたいつか
覇王応答しろ、覇王、覇王ー!?
海パン刑事、ここで『それ』をやっては駄目だ!
18禁になってしまう、R-TYPEだ!(R指定的な意味で)
上記は冗談ですが、テレビでもガチで変態だったから困るw
四兄弟氏、色んな意味で乙GJです!
GJ!
まさかのこいつらwww
リリカル・ブレイン八話を登録しました。
レイアウトは、あとで調節させていただきます。
気が付けば494KB。
乙
覇王様はもうお嫁にいけない体にされてしまったな・・・
乙!
変態しか出てこない面白いと感じてしまう自分が悔しいww
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: .: . : .: . / /) {>マト、 : .: . : .: . : .: .: .
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: . : . / { トー 、 、 / /ヽハ : .\| : .: .: . 次スレ乙です
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303 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/22(金) 19:17:53.86 ID:gHVDrv9E
特殊刑事の方ドモデース
顔面にエロゲ的な仕打ちを受けているのに全くエロくないのはなぜだ
初期のヴィヴィオが同じ仕打ち受けたらマジで↓みたいな状況になるな
‥ __. -‐----、_ , '⌒ヽ
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/ , zi≠ i .i .ハ ヽ ヽ:ヽ
j ./z≠ .| .i..:j:.:メ ├廾弋ヽヽ ヽ| :.
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