あの作品のキャラがルイズに召喚されました part289
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part288
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1296304853/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2げt
いちおつ
要らんかもしれないけど、一応コピペ
900 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/23(水) 23:33:58.58 ID:l2Kwh8yY
じゃあ雑談ふりで
新刊あとちょっとだけど、ネタバレ禁止は前回同様一ヶ月かな
901 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/23(水) 23:44:02.51 ID:DB5IAmjo
そのぐらいでしょうな
902 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/24(木) 00:06:55.65 ID:+elp2x2w
その前回の時にも思ったんだけど、その一カ月ってのはどっから来たの?
そういうもんなの?
903 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/24(木) 00:27:11.21 ID:lkYMhnrQ
ラノベ板でのルールというかマナーとして
それぐらいの期間新刊の内容をそういう事用のスレ以外では
自重する事になっている。
スレ立て乙
あと、前スレ933に感謝
ガンモ漫画版だと「不死鳥の卵」がガンモの正体であって不死鳥その物ではなかったような
いやこれだとニュアンス伝わらんな
要するにガンモは「卵の殻」であって中の不死鳥達(原作ラストではいっぱい生まれた)とは別物
ガンモ自身は不死鳥達が生まれた時点で割れて消滅だったように記憶してる
ある意味、凄く救いの無い展開だな…
しかも、みんなガンモの事忘れちゃうんだよな。
最後に主人公(名前忘れた)がガンモの好物だったコーヒーを飲んで
よく分からないままに涙を流すラストシーンが印象深かった
あのシーンだけは覚えてるんだ
11 :
ゼロの戦闘妖精:2011/02/25(金) 20:51:02.38 ID:W8dfYuzv
ご無沙汰しています。
『雪風』召喚SSなのに、雪風の出番が少ない 『ゼロの戦闘妖精』です。
(実は、今回も…)
進路クリアなら、五分後より投下します。
「何時の世にも 悪は絶えない。
その頃 トリステイン政府は、魔法衛士隊に悪党狩りを命じていた。
凶悪な賊の群を 容赦無く取り締まるためである。
その 独自の機動性と一部司法権すら与えられた
盗賊改方『グリフォン隊』の隊長こそ、
二つ名を『閃光のワルド』 人呼んで『鬼のワル平』である。」
【ワル平犯科帳 『密偵』】
それは、あの『アンリエッタの大獄』よりも 暫く前の或る日の事であった。
昼下がりのグリフォン隊舎に 轟音と共に 雪風が飛来した。
「ようっ お嬢、今日は早いな。まだ放課後じゃないだろうに、ひょっとしてサボりか?」
錬兵場で訓練中の隊員達から声をかけられるも、ルイズはそれに応えず、思いつめた表情で足早に隊長室を目指す。
そして 部屋に入るや否やワルドに詰め寄って、
「隊長!手勢をお貸しくださいっ!」
ルイズの様子から (何かあったな)と思うワルド。だが、事情が判らねば 対処の仕様もない。
「おいおい、『手勢を貸せ』とは 穏やかじゃないな。一体 何をするんだい?」
「はい。かどわかしの下手人をひっ捕らえて、あの娘を… シエスタを救い出します!」
遡ること数刻前、ルイズ達はアルヴィーズの食堂に居た。昼食の時間だった。
雪風を召喚する以前、ルイズは一人きりだった。特に嫌われて避けられていた訳ではないが 親しく話しながら食事を共にする友人は居なかった。
今は違う。ルイズと雪風を中心としたグループが形成されていた。
キュルケ タバサ ギーシュ モンモランシー 学生ではないが、コルベール先生とミス・ロングヒル。
そして もう一人。メイドのシエスタ。以前 ギーシュに難癖を付けられた 平民の少女。
気の毒に思ったルイズは、せめてものウサ晴らしにと ギーシュと自分との『決闘』を こっそりと見ているように取り計らった。
それに恩義を感じたのか、以来 シエスタはルイズに対して何かと世話を焼くようになり、今では半ば『ルイズ専属メイド』。
食堂で席に着けば、当然のように給仕に現れる。しかし 今日に限って別のメイドが配膳に来た。
不審に思ったルイズが問いかけても、目を伏せるばかりで答えようとしない。
他のメイドたちも同様で、シエスタの行方を知る為には、食堂のヌシの所に迄行かねばならなかった。
主任シェフ マルトー親方は、見るからに不機嫌そうだった。
日頃から『貴族嫌い』を公言して憚らないマルトーではあったが、自らの職に誇りを持つ人物でもあり 学院の生徒に鬱憤をぶつけるようなことは無い。にも拘らず 今は様子が違った。
「シエスタか。あの娘はなぁ…
攫われちまったよ、クソ貴族の野郎になっ!」
きっかけは 王宮勅使 モット伯の来校だった。
学院と王宮の連絡不徹底の為か、生憎と公文書を手渡すべきオスマン学院長は不在。
無駄足となったことに立腹のモットが目を留めたのが 学院で働く一人のメイド。
トリステインでは珍しい黒髪の少女。
「フム さしずめ『路傍に生えし 黒百合の蕾』といったところか」と呟くと
モット伯は、花をを手折るかのように その少女を自らの馬車へ連れ込んだ。
誰も咎めなかった。誰も止めなかった。
周りに居た貴族の学生達は 平民のメイドの事など気にも留めなかった。平民達は貴族に逆らう事など出来なかった。
残されたのは 伯爵の従者が学院事務局に提出した書類のみ。
『賄い婦一名 貰い受け候。正規手続きは後日。』
「こんな紙切れ一枚で、シエスタは連れて行かれちまった。
なぁ お嬢様方、これが『貴族』ってもんかい?
あんたらは貴族の子供だ。オレは平民で大人だ。世の中の仕組みってヤツも十分知ってるし、貴族様の無理難題も慣れっこだ。
だが あの娘 シエスタはまだ子供だ。あんたらとそんなに年の違わねぇ子供だ。
それが なんであんな野郎の慰み者にならなきゃなんねえんだ。」
板場の鬼と呼ばれた 主任シェフが泣いていた。
その言葉は 決してルイズ達を責めているものではなかった。己の無力に、涙していた。
キュルケは 何も言えなかった。タバサは 何も言わなかった。
そして ルイズは無言で踵を返し 厨房を出て行った。慌てて後を追うキュルケ、そしてタバサ。
「ちょっと待ちなさいよルイズ、アンタまさか!」
「…貴族の屋敷一軒、雪風ならば 十分制圧は可能。
でも 助太刀が必要なら 手を貸す。」
ルイズなら やりかねない。二人とも真剣にそう思っていた。
しかし 以外にもルイズは冷静だった。
「二人とも落ち着いて。
そりゃ 雪風なら、強引にシエスタを奪い返すのだって出来るわ。出来るけど それじゃダメ。
そんな事をしたら 私もシエスタも、間違いなくお尋ね者よ。
私は これでもトリステインじゃ有数の貴族の娘だから、ひょっとしたら不問にされるか 退学ぐらいで済むかもしれない。
でも シエスタは、罪人扱いされ お天道様の元を歩けなくなる。それじゃ 助け出す意味がなくなっちゃう。」
ルイズの話に とりあえずホッっとするキュルケ。
「… 助けには 行かない?」
なお問いかけるタバサに答えて、
「さっき マルトー親方が言ってたでしょ。私達は『子供』だって。
悔しいけど そうなのよね。『力』はある、だけど『子供』。
気に入らないこと 正しいと思えないことを、力ずくでブッ壊す事は たぶん出来る。でもそれは 唯の『ダダッ子』。
何かを壊せば その壊そうとしたモノだけじゃなく、周りだってグチャグチャになる。壊れたモノの中から 自分の望んだ破片だけを元の位置に置いたとしても 望んだ正しい状態にはならない。
周りに影響を与えずに 望んだモノだけを動かす、もしくは散らかってしまったところをキッチリと片付けられる、それが『大人』。
だから、これから そんな『大人』を頼りにいくの。」
お久〜
支援
「で、僕のところへ来たと… そういう事か。」
「はい。」
ワルドは 胸を撫でおろした。
(直接 乗り込まなかっただけでも まぁ良しとしよう。)
確かに 子供が貴族の館に乗り込んで騒ぐよりも、盗賊改が脅しをかけるほうが効果的だろう。だが、
「ルイズ 確認するけど、魔法学院のメイドってのは 真っ当な口入れ屋が手配してるんだろう。
人買いとか 女郎屋みたいなのじゃなく。」
「そうですけど?」
「だったら 『かどわかし』の線で攻めるのは難しいよ。
奉公人が勤め先のお屋敷を替えるのは まま有る事だし、『身売り』されたんでも無い限り 雇った側にさほどの権限も無い。
未だ正式の契約が済んでいないとはいえ 『軽微な瑕疵』と突っ撥ねられれば それまでだな。
それに 相手が悪い。」
「へっ?」
ルイズは 耳を疑った。自他共に認める 『弱き者の味方』、ジャン=ジャック・フランシス・ド・ワルドが そんな弱音を吐くとは!
「モット伯には、悪い噂が山ほどある。実際 その通りの悪党なんだがね。」
「だったら なおのこと!」
「ヤツは、ある犯罪組織に属している。その組織は トリステインという国に、広く 深く根を張っている。
今 僕等グリフォン隊が総力を挙げて追っている 第一級の目標さ。モット伯なんてのは その中じゃ小物に過ぎない。
とはいえ、ヤツをグリフォン隊が捕らえたとなれば、組織はトカゲの尻尾切りを始めるだろう。末端を切り離し こちらが今まで集めた情報も証拠も 無駄になってしまうかもしれない。
召捕るなら 一気にやらなきゃダメだ。首領から下っ端まで 一匹たりとも逃がさぬ様に。
…だから
部隊を動かし 正面からモット伯に当ることは、できないんだ。」
愕然。
「そっ そんな…
じゃ、隊長は、シエスタを見捨てろっていうんですか!」
大事の前の小事だから。ただの平民だから。言い方は悪いが それが『トリステイン貴族』の一般的な考え方だろう。
だが そんなモノを踏み越えつつあるルイズには、許容できない思考だった。
混乱と やり場の無い怒りの矛先は、目の前の『大人』 ワルドへ向けられた。
居合式の高速抜杖で失敗魔法を炸裂させようとした刹那、先んじてルイズの杖頭を抑えて、
「ルイズ、見くびってもらっちゃ〜困るね。
この僕が、いたいけな少女を見捨てるハズがないだろ。
表立って隊を動かせないなら、裏から手を回せばイイ。
その為の人材も ウチには揃っているんだよ。」
そう言って 何も無い壁の方を向き、
「おい。ゴロウーゾ、ゴロウーゾは居らんか!」
すると…
隊長室の白壁が 低い唸りとともに横スライドすると、そこには隠し通路が現れ 一人の男が跪いていた。
「ルイズ、紹介しよう。
こいつは ウチの『密偵』の中でも一番の腕利きでね。纏め役の様な事をやってもらっている、ゴロウーゾだ。」
「お初にお目にかかります、ヴァリエールのお嬢様。
元・チンケな盗人で 今は盗賊改の『密偵』、ゴロウーゾと申します。
以後 お見知りおきを。」
町人風の身なりではあったが、意志の強そうな瞳 鍛えられた体躯 身に纏う雰囲気等、只者ではない事は判る。
「おいおい、謙遜する事ぁ無ぇぜ。
あの『大滝のゴロウーゾ』がチンケな盗人だってぇなら、他の盗賊共は一体何だって言うんだよ?」
「えっ ええ〜っ、『大滝のゴロウーゾ』ォ!」
ルイズが素っ頓狂な叫び声をあげる。まあ 無理も無い。
『大滝』の二つ名を持つ その盗賊は、ハルケギニア全土を股に駆け 各国の衛士が必死になって追っている男だったから。
あの『土くれ』のフーケですら 知名度や盗賊としての格でいえば 数段劣る。
大胆な犯行の数々は 時には恐れられ 又ある時には称えられもした。
中でも有名なのは ガリア王国での『御金蔵破り』の一件。
それは 迅速にして緻密、あまりに見事な仕事ぶりに、被害者のジョゼフ王自ら
「探索・捕縛は無用。
実に 面白きモノを見せてもらった。
あのカネは盗まれたにあらず。『見物料』よ!ハッハッハッ」
と 楽しげに語ったと伝えられる。
「で、そこにいたってぇ事は 今までの話も聞いていたんだとは思うが、改めて令を下す。
『急ぎモット伯爵の屋敷へ赴き シエスタなる娘を連れ戻せ!』
盗賊改が動いたことを悟られなければ、手段は問わぬ。」
密偵の男は ゆっくりと立ち上がり 隊長の目を見つめて問う。
「モット伯……
…ワルド様、そのお役目 『私』でよろしいので?」
「ああ、『お前さん』だから 頼むのさ。
存分にやれぃ!」
「はっ!」
そして男は 姿を消した。
トリスタニア郊外の森の中 街道筋から離れた道を、一頭の馬が駆けていた。
(急がないと 放課後にゃ間違いなく動き出すだろうからね、あの『お嬢様方』は!)
乗っているのは、盗賊『土くれのフーケ』にして魔法学院秘書のミス・ロングヒルことマチルダ女史だった。
表の仕事の関係上 ルイズ達よりも先にシエスタの件を知った彼女は、すぐさま行動を起こした。
この件で ルイズが雪風を使って無茶をする姿は すぐに頭に浮かんだ。そんな事をさせるわけにはいかない。
そうなる前に 自分がモット伯の所からシエスタを掻っ攫う。
建物を派手にぶち壊し 瓦礫の中に血の着いたメイド服の切れっ端でも入れておけゃ、死んだモンだと思われるだろう。
後はティファの元にでも匿っておく。
『人の噂も 七十五日』 ほとぼりが冷めた頃に 新しい名前を用意して学院に復帰させりゃいい、と考えた。
このあたりの対処方法の差が、表社会の貴族であるルイズと 裏社会に生きてきたフーケの違いか。
道を急ぐマチルダ。その背後から、
「どこへ行きなさるね。
この道は一本道、先に在るのは モット伯の屋敷だけだぜ。
なあ、『土くれ』の。」
突然 声を掛けられ驚くも、懐の杖に手をやって 身構えながら振り返る。
「誰だいっ!」
だが 後方を追走してきた 馬上の相手を見て、さらに驚く。
「お、『大滝』の頭目っ!!!」
貴族には貴族の作法 平民には平民の決まり事があるように、盗人にも盗人の社会があり 掟がある。
表社会の司直等には 全くの正体不明だった『土くれ』のフーケの顔も、裏社会では其れなりに知られていたるする。
『ひとり働き』を基本とし 手下や身内を持たないフーケでも、事前の情報集めや事後の盗品売買等 他の盗人と一切のかかわりを持たないのは 不可能だ。
だから ゴロウーゾはフーケの顔を知っており、フーケも当代一の呼び声も高い『大頭目』を知っていた。
「するってぇと とある『お嬢様』がヤバい事をやっちまう前に、シエスタってメイド娘を助け出す。てぇことか。
それにしても、そのお嬢様とやらのせいで お前さんが盗人稼業から足を洗う決心をするたぁな。」
フーケから事情を聞くゴロウーゾ。
「ええ。『じぇっと燃料』とやらの練成で かなりの副収入が入るようになりましたし…
どうやったのか 学院秘書の給料まで上がったんですよ!
しっかり外堀を埋めた上で、『自分達の仲間になってくれ』なんて言われた日にぁ、もう。
って、何が可笑しいんですか 大滝の頭目!」
説明を聞くゴロウーゾの口元に 何故か笑みが浮かぶ。
「いや すまんすまん。
フーケ 安心しな。『お嬢様』は、モットの処にゃ行かねぇよ。
ルイズ様が行かれたのは グリフォン隊の詰め所だ。盗賊改の ワルド様を頼りなすったのさ。」
「へっ?
グリフォン隊??
…???…!
な 何で頭目がルイズ、いえ ミス・ヴァリエールを御存知なんです!!」
フーケにとっては 先程から驚く事ばかりだ。
「なーに、お前さんが盗人から足を洗った様に、今の俺は 盗賊改の『狗』なのさ。」
盗賊達は 仲間を裏切り『密偵』となった者を、憎悪と侮蔑を込めて『狗』と呼ぶ。密偵本人も、自らを嘲う様に その呼称を用いる。
「俺も ワルド様から その娘を助け出せと命じられてな。
目的は一緒だ。ココは一つ 手を組むとしようや。」
今回の『メイド奪還』という『お勤め』は、突発的事案の為、屋敷の図面の入手や引き込み役の潜入等の下準備は 一切出来ていない。
よって フーケのゴーレムによる 力任せの『急ぎ働き』となるかと思われた。
(因みに フーケの『お勤め』は、『急ぎ働き』だった事はあっても 人命を省みない『畜生働き』であった事は 一度も無い。)
だが、
「モット伯相手なら、俺にゃあ『奥の手』がある。忍び込むまでもねぇ。正面から堂々と入るまでだ。
そん時 一瞬でも門番の目を扉から逸らしてやる。フーケ、お前さんなら それで十分だろ?」
ゴロウーゾには 何か策があるようだった。
モット伯爵は 書斎で寛いでいた。
(うむ、今日は 中々に良い日であったな)
魔法学院での職務は無駄足だったが、思わぬ拾い物があった。
屋敷に戻れば 以前から捜し求めていた『召喚されし書物』が、出入の骨董商から届けられていた。
また 屋敷の裏山で、瀕死のチィデ鹿が一頭倒れていたのを 庭師が見つけたらしい。
アナロォ熊にでも襲われ、逃げ延びたが力尽きたのだろう。
「良い食材が手に入った」と、シェフが腕によりを掛けた夕食を出すそうだ。
(ならば、あの娘は食後のデザート…いや 食前酒というのもよいか)
夢想するモットを 執事長が現実に引き戻す。
「失礼致します。御主人様に、御目通りを願う者が参っているのですが…」
「ムッ、誰が来たと?
下らぬ者なら 追い返せ。理由など 適当でよい。
この私に会おうというのに、事前の連絡も無いとは 大方 礼儀もわきまえぬ田舎者であろう!」
あからさまに不機嫌な様子。こういった場合 使用人は黙って下がるものだが、
「それが……かの者は、『ロッゾ家の使い』であると申しておりまして、」
「何っ?」
モット伯の貌に 暗く鋭いものが走る。
「『ロッゾ』だと! フン、亡霊でも彷徨い出たというのか。
よし。ならば その顔、しかと拝ませてもらおうか。」
ロッゾ家は、トリステイン王国に かつて存在した中堅貴族。
領民からの搾取、贈収賄、不正商取引他に手を染める ありがちな悪徳貴族の一つだった。モット家と同様に。
それゆえに 自己の権益確保の為 両家は対立した。
そして ロッゾ家は滅んだ。
滅亡後 ロッゾ家の旧悪が次々と暴かれ、『犯罪組織との抗争から 一族郎党皆殺しにされた』との噂が流れた。
実際は、モット家による犯行である。しかし それを語るものは この国には誰もいない。
書斎のドアが開き、執事に促されて入室した男。それを見て モット伯爵は呟く。
「やはり貴様か、ゴロッゾ・ド・ロッゾ。」
「悪いが 人違いだ。
その名の貴族様は、昔 誰かに殺されて、今は墓の中。
そうだろ? なぁ ジュール・ド・モット。」
男は そう言い返す。
「どうだかな。
貴様のモノだとされた遺体は、損傷が酷く かろうじて着衣で身元が確認されたのだ。
大方 そこいらの行き倒れにでも自分の服を着せて 身代わりに仕立てたのであろう?」
「さぁてね。
ともかく 俺はそいつじゃない。
今の俺は ゴロウーゾ。『大滝』のゴロウーゾよ。」
「その名、聞き覚えがあるぞ。確か その様な盗賊がおったな。
フン 堕ちたものよ。
で、盗人風情が 何の用だ。」
この二人 共に、皮肉げな笑みを顔に貼り付けているが 目は笑っていない。
少年時代、トリステイン魔法学院の同窓生であった同士。互いの『家』が あのような事にならなければ『悪友』と呼び合う仲になれたやもしれぬ。だが 今は…
「実はな、ちょいとした取引を持ってきた。
昼間 連れ込んだメイドを、こっちに渡してもらいたい。」
提示されたのは 意外な申し出。
「さる筋からの依頼でな、そのシエスタって娘を連れて帰らにゃならねぇ。
依頼人が誰か、なんて聞くなよ。どんな理由があるのかもな。裏稼業の掟だ、お前さんだって知らん訳でもなかろう。」
「取引か。ならば、そちらは何を差し出すと?」
「あの日、モットの一族が どうしても知りたかった事さ。
『モット家の闇』 それを、ロッゾが何処まで知っていたか。
これで、どうだい?」
ここまで 余裕を見せていたモット伯が 僅かながら揺らいだ。
「ま 先ずはそちらが語れ! 小娘を手放すかは、その内容次第だ。」
(よし、喰い付いた!) ゴロウーゾの口元には、今迄とは違う笑み。
「あの頃 ロッゾ家当主 ミノヒ・ノキノス・ド・ロッゾは、焦ってたんだよ。
表の方じゃ 運河掘削の事業に想定の数倍からの費用が掛かって大赤字、裏の方でも 宿敵のモット家に幾つもの縄張りを喰われてた。
だから ほんの噂話でしか知らない 『モット家の闇』で、相手を牽制しようとした。それが、虎の尾を踏む事だ とも気付かずに。」
「何だと!?」
「まったく、馬鹿らしい話さ。
元々 何も知らねぇんだ。どんなに責め立てられようと 答える事などありゃしないわな。
だってぇのに、モット家の連中は 疑心暗鬼に捕り憑かれ、ロッゾの一族郎党を皆殺しにしちまった。
あれだけの大事件の真相が、実は そんな下んねぇモンだったのさ。」
地デ鹿wwww
話のあまりの内容に 呆けるモット伯。暫しの間をおいて 脳がその意味を理解すると、
「フフフ… ファファ… ハハハハハッハッハッハッ!
何と、何と滑稽なのだ、ロッゾも 我がモット家も!」
声を上げて嗤った。自分を、当時の党首だった 自分の父を、己の一族を、そして 今は亡き 仇敵一族を。
「だが、この様な話では メイドを渡してやる訳にはいかんな。」
にべもなく言い放つ。
「まぁ 待てや。
確かに 親父は知らなかった。親父は な。
だが 俺は、あれ以来 裏社会のドブ泥に どっぷりと浸かって生きてきたんだ。調べる気なんざ無くとも、表じゃ聞けねぇヤバいネタも、自然と耳に入ってくるモンよ。」
ここからが本番とばかりに、雰囲気に凄みが増す。
「『モット家の闇』、そいつはズバリ アシュオーの鉱山だ。
領内にある ごく小規模の銅山で、採算が取れる程の産出量は無ぇが、先祖伝来の鉱山って事で モット家が操業を続けてるんだよな。」
「そっ それが何だ!」
明らかにうろたえる モット伯。
「裏社会に流れる噂に こんなのがある。
『モット伯の領内で、時折 土メイジが行方知れずになる。裏稼業の 腕のいい土メイジが。鉱山奉行の監査役が巡視に来る頃に。』
ってな。
こいつが ただの噂じゃねぇのは判ってる。ウチでも、土蔵の鍵の複製をやらせてた 配下のメイジが消えちまった事があったからな。
他にも色々とあるんだが、それらを合わせりゃ 隠れた絵図も見えてくる。
『アシュオーは、銅鉱山ではなく 金山。
監察役が来る時にゃ 土メイジを雇って、金鉱石を銅の鉱石に下位錬金させる。
貴金属の頂点を わざわざ卑しいモノにする術なんざ 普通は誰も使わねぇ。監察役だって気付きゃしねぇ。
検査が終われば 金に戻す。固定化を併用してなきゃ 放っといたって戻るハズ。
金と銅 その差額分は、全部モット家の懐に入る。
そして 術者の土メイジは 口封じの為 殺される。』
こんなところか。」
裏社会の情報からの 『推理』である。証拠は無い。それでも ゴロウーゾは確信していた。
何より 目の前のモット伯の沈黙が この内容が真実である事を証明していた。
「し 証拠はあるのか!ただの噂話 全て貴様の妄想ではないか!
やはり貴様は 下賎な盗人よ、下衆の勘繰りだけは 得意と見える。」
「まぁな。確たる証拠は 何も無ぇ。
それに 盗人なんぞが『お畏れながら』と訴え出ても、お上が採り上げやしないって事も。
ロッゾを皆殺しにした後、モット家は急速にリッシュモン最高法院長官との結びつきを深めてったからな。
大方 事の始末を頼んだのを契機に、季節毎に山吹色の菓子折りでも 届けに行く仲になったんだろう。
だから、何を言っても 揉み消されちまうだろうよ。」
「なんだ、判っておるではないか。」
「だがなジュール。お前も名前ぐらいは知ってるだろう、アンリエッタ様が始めようとなさっている 『目安箱』ってモンを。」
「!?」
「ありゃ 誰でも それこそ盗人だって届出が出来るんだってな。おまけに投書の管理は 妃殿下の直轄だとか。
賂(まいない)好きの長官様でも これには手を出せまい?」
「グヌヌヌゥゥゥ…」
「俺ぁ何も、今度の件で強請りタカリをしようってんじゃねぇ。
俺は盗人だ。カネが欲しけりゃ 堂々と盗みに来るさ。
今回は、ただ シエスタってメイド娘を渡してくれりゃ それでいい。
その後 お前がその娘にちょっかいを出してこない限り、俺も何も しやしない。
どうだい。その辺は 昔馴染みのよしみって事で 信じちゃもらえねぇか。」
ワル平シリーズは安定しているなぁ。
支援
呻り声を上げ続けるモット伯。その顔色は蒼くなり 紅くなり コロコロと変化する。
しばらくして やっと心の中の折り合いがついたのか、語り始める。
「あのような田舎娘の事など もう どうでもよいわ。
ゴロッゾ いやゴロウーゾとやら、貴様に一つ教えてやる。
『経験から学べん者は 早死にし、歴史から学べん国は やがて滅ぶ。』
これは 真理だ。だのに、何故 貴様は学ばんのだ!
『噂話程度のことを語って 一族が死に絶えた』そんな事例を 誰よりもよく知っているであろうに。
知り過ぎた者は…此処で死ねぇぇぇえ!!」
殺意を込めて杖を抜く。呪文詠唱により出現する 丸太の如き水の柱。それは回転しながら先端を尖らせていく。
水系の高位呪文、『水撃大槍』。貫通力と衝撃力を兼ね備えた 城砦攻撃用呪文で、生身の人間が食らえば 一溜りもない。
…筈であった。
ゴロウーゾに襲い掛かったソレは、突如現れた水の壁によって阻まれ 四散した。
「ばっ、馬鹿な。 我が一撃が ウォーターシールド如きで!」
「やれやれ。アレがウォーターシールドにしか見えねぇのか?
それに 今のが第参階梯(トライアングル)の攻撃魔法だって?
ジュール・ド・モット、手前にゃ 『波濤』だぁなんて御大層な二つ名は勿体無ぇ。
ガキの頃の仇名 『しょんべん飛沫』の方が似合いだぜ!」
「えぇい!警備兵、警備兵は何をしておる! この狼藉者を捕らえよ。いや、抹殺せよ!!」
バンッ 書斎に三つあるドアが、壊れんばかりの勢いで開けられ、ワラワラと兵士が傾れ込む。杖を持つメイジもいれば、剣や槍を持つ平民兵もいる。
対するゴロウーゾには 焦りも恐れも無い。
その手には 何時の間にやら愛用の杖が収まっていた。服の袖口に仕込んだ杖ホルダーには、手首を返すだけで杖が飛び出す細工がしてある。
「手前ら雑魚に用は無ぇ!とっとと消えてもらおうか。」
そして唱える呪文。先程の魔法発動は 相手に呪文を聞き取られにくくする『隠し詠唱』だったが、今度は違う。
「喰らえ、『天空瀑布(ヘヴンズ・フォール)』」
突然 天井より降り注ぐ大量の水・水・水。それは激流となって、兵共を巻き込み 流れ去った。
一瞬にして書斎を埋め尽くした水は、出現時と同様に 一瞬で消え去った。
部屋に残ったのは、ゴロウーゾとモットの二人のみ。
その頃 シエスタは一人 モット伯の寝室に居た。
この屋敷に連れ込まれ メイド服をモット家の物に着替えた後は、新たな御主人様の指示があるまで 此処で控えているように言われた。
まだ少女であっても、男と女 性と欲望について 知り始める年頃、これから 自分の身に降りかかるであろう事柄については判っていた。
弄ばれ 飼い殺しの生涯を送るか、ボロボロにされて 殺されるか。
彼女は 神に祈った。家族に祈った。そして 曽祖父に…
(お願いです。助けてください。故郷へ、タルブの村へ帰れるように。
曾御爺ちゃんの遺言が、探していた人が判ったんです!ヴァリエール様を 連れて行かなきゃならないんです!
だから 助けて、誰か 助けて!!)
目を閉じて 一心に祈り続けるシエスタ。だが、何者かに当て身を食らわされ 意識を失う。
(済まないねぇ、騒がれるのも面倒なんで、暫く眠ってておくれ。)
フーケの仕業だった。
ゴロウーゾの手引きで 屋敷に侵入したフーケは、まず女中部屋や厨房を調べたが、シエスタを見つけることは出来なかった。
もしやと思い、モットの寝所を覗いたところ 大当たり。
(どうしようもない助平オヤジだね、全く!)呆れながらも シエスタの身柄を確保する。
手荒な手段を取った理由は、大滝の頭目から頼まれた 『モットの罪の証を手に入れる』為に 時間が欲しかったから。
隠し戸棚や金庫を開けても 金目の物には目もくれず、手紙や証書の類を次々とズタ袋に放り込む。
一息つこうとした時 屋敷内の何処かから、バキバキと物の壊れる音 激しく水の流れる音が聞こえた。
(ちぃ、もう始まったのかい! 早いトコ この娘を連れてトンズラしないと。
頭目、後は お任せします。)
まあちゃん……じゃなかった、マチルダはまさかゴロウーゾと所帯持つのか?
モットは 追い詰められていた。
「今の呪文? まさか!」
「やっと気付いたかい?
お前さんは第参階梯だが、俺は第四階梯(スクェア)よ。
宮廷で のうのうと日々を過ごした貴族様と違って、裏社会で生き残るのは 一日一日が命懸け。魔法の腕も メキメキ上達したぜ。
それでも 生まれついての不器用さは直らねぇ。『水』以外の系統は どうにも覚えられなくてな。」
真偽の程は判らない。だが、それが真実ならば…
「…『水系・単一・四階梯(アクア・モノ・スクェア)』かっ!」
メイジは皆 『火・水・風・土』のいずれかを 己の系統とする。(例外は、『虚無』であった始祖ブリミル位だ。)
唯 それは『最も相性の良い系統』というだけで、その系統の魔法資質しか持たないということは無い。
トライアングルやスクェアともなれば、複数の資質を併せ持つのが普通だ。それが 術の多様性を生む。
では 一つの系統資質しか持たないメイジは劣っているのか? そうではない。
同一系統の魔法資質を複数持つ事は、一つしか持たないものに対して 魔法出力の面で優位に立てるのだ。
更に 『単一系統スクェア』でなければ使う事の出来ない術も存在する。先の『ヘヴンズ・フォール』も その一つ。
水系統のメイジは 術の媒体として水を必要とする。
よく知らぬ者が見れば 何も無い所へ 突然水が現れる様な術も、実は大気中の水分を凝縮させて作り出しているのである。
(少量の水を元に それを増幅する 文字通り『水増し』の術も、ある事はあるが…)
『ヘヴンズ・フォール』は 違う。術者にすら判らない何処かから、魔力を帯びた大量の水を召喚する術だ。
『召喚』なので、他の術と違い 大気中の水分を使い切って 術が使えなくなる事も無い。
召喚された水は、召喚した術者の意の儘に動く。逆に言えば 召喚者以外は この水を術の媒体に使えない。つまり、相手の周囲の水分を 全て召喚水に置き換えてしまえば 水メイジは殆ど何も出来なくなる。
結構えげつない、『同系統殺し』の術である。
(他系統のメイジには 物量で対応する。炎も 疾風も 岩壁ですら打ち砕く、圧倒的な水量が 全てを流し去る。)
それが 単一水系統スクェア、『大滝』のゴロウーゾの恐ろしさだ。
「やい、モット。てめぇら一族は、何でヒトの話を聞かねぇんだ。
昔、正直に『何も知らない』と言い続けた親父を信じず 殺しちまった。
今さっき、俺はお前に言ったハズだ。『そっちから ちょっかい出して来なけりゃぁ こっちは何もしねぇ』とな。
だってぇのに いきなり殺しに掛かるたぁ…
俺は、温情のつもりで言ってやったんだぜ。それを こうもあっさり裏切ったんだ。
『報い』は、受けてもらわなきゃな!」
警備兵は全滅、魔法も封じられたモットには、最早なす術は無かった。
「いくぜ、『天空瀑布・全力全壊ぃい』!!!」
支援
シエスタが目覚めた時、そこは いつもの魔法学院 従業員宿舎だった。
(モット伯は? あの御屋敷は??)
夢だったのだろうか。悪戯な妖精の見せた 唯の幻だったのだろうか。
「あら?起きたのね。」
そうでなかった事を、傍らにいた学院長秘書のロングヒルが 説明してくれた。
「…上の方で 何か話は付いてるみたい。だから 何も心配しないで、また明日から今まで通りに働いてください。
でも この件で、貴方の為に動いてくれた方々がいらっしゃった事、それだけは忘れないで。」
シエスタには判っていた。その中の一人が 誰なのか。
(ありがとうございます。ルイズ様)
モット伯爵の屋敷は、謎の集中豪雨?により壊滅した。幸いな事に、(警備兵以外の)奉公人達に死傷者は無かった。
水が 彼等を包み込むようにして、そっと屋外まで運んでくれたらしい。
モット伯本人は頭髪が真っ白になる等 人相が一変していた。よほど 恐ろしい目に遭ったようだ。
そして 屋敷の跡地には 水の流れが刻んでいった 巨大な文字が残されていた。
『ロッゾは 復讐を果たした』と。
トリスタニアの瓦版辻売りや吟遊詩人達は、この事件を面白おかしく取り上げた。
噂話が程よく広まった頃、ジュール・モット伯爵は引退し 家督を息子に譲り渡すことを表明した。
その際に 新たに金の鉱脈も発見されたアシュオーの鉱山の所有権を、トリステイン王家に譲渡することを付け加えて。
この金山によって生み出される利益は、後にアルビオン救援派遣艦隊と それに続く戦費の一部となった。
これらの一件への 盗賊改の関与を疑う者は、皆無であった。
なお これより後、盗賊改の犯科帳に 『小間物商いの おマチ』なる密偵の名前が散見されるようになる。
しかし 他の密偵同様、その人物の詳細について 一切の記載は残されていない。
(エンディングテーマ 『インスピレイション』 by ジプシー・キングス)
続か…ない と思います!
29 :
ゼロの戦闘妖精:2011/02/25(金) 21:22:51.51 ID:W8dfYuzv
インターミッション(番外編 のようなもの)ということで、時代劇の言葉や言い回しを多用してみましたが、
本編の方でも これらを使うかどうか、まだ決めかねてます。
とにかく 今まで書いた分で、一番気持ちよく書けました。ヤッパリ 時代劇はイイ!
前スレの『使い魔ご免!』さん、時代劇ファンの同志として 応援します。頑張りましょう!
>25さん、判ってらっしゃいますね!
さて、どうしましょう?
こちらとしては、密偵入りするところまでしか考えてませんでした。
次回は、ちゃんと『雪風』の話になります。…多分。
「竜の羽衣イベント」を予定していますが、「派遣艦隊」や「婚約破棄」の後始末等もあるので、
無事にタルブまで行けるかどうか…。
乙。
面白すぎて、雪風がかわいそうだ。
岸井さんや井関さんは……井関といっても坊さんの方ですよ、道場主じゃないです……よ……
女王「イーセック……私の家庭教師だった方の一族ですか?」
otu
32 :
ゼロの戦闘妖精:2011/02/25(金) 22:40:45.13 ID:W8dfYuzv
>30
>井関といっても坊さんの方ですよ、道場主じゃないです
道場主の方だと、マザリーニあたりに隠し子がいて、それが若侍姿の美人剣客だったりするんですね。
遅ればせながら 支援してくださった方々、ありがとうございました。
33 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/25(金) 22:52:38.36 ID:cBEoUmQ0
乙
sage忘れすまん
ガンモ覚えてる人、結構いるんだな・・・・・・
36 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/25(金) 23:31:57.19 ID:TSQVvIyb
おっきい戦艦ダメぇ〜
GU-GUガンモナツカシスwww
いやまあ、もはや「そういうタイトルのアニメがあった」ぐらいの記憶しかないけど
えらいこっちゃなんのこっちゃ、だけ覚えてるw
OP歌った方も既にお亡くなりだものな……
御願いですからタイトルから「戦闘妖精」外して下さい
時代劇好きならそっちでやれば良いじゃないですか
ゼロ魔にも戦闘妖精にも関係無いの?
別にいいんじゃねえの?
別に周囲に迷惑かけるもんでもテンプレ無視でもないわけだし その辺ゆるくやれば
ゼロ魔にも戦闘妖精にも関係ないなら他でやれや
>>40 お前の我侭を何で聞いてやらなきゃならないんだ?
毒は毒吐きでなー
どっちともクロスしてなくない?戦闘妖精
ガンモは外人の女の子がエロ可愛かった。
そこだけ覚えてるな。
ドラクエ世界のゴーレムとフーケのゴーレムはどっちがデカいんだろうな
とりあえずドラクエTの勇者は城壁都市の門を守れる程の大きさの石像をギラと剣でぶっ壊すし…
どっちも、鉄人28号やエヴァンゲリオンと同じくらい。
50 :
手札0の使い魔:2011/02/26(土) 12:00:38.38 ID:mKngxlwm
話の流れをぶった切るようで悪いのですが投下させていただきます
1週間と言っていたのに
修理に2週間もかかってしまいましたことをお詫び申し上げます
51 :
手札0の使い魔:2011/02/26(土) 12:01:18.73 ID:mKngxlwm
トリステイン魔法学院。
そこの中庭からはしばらく前から爆音が絶えなかった。
「宇宙の(ry」
呪文を唱え終わると再び起こる爆発。
原因は叫ぶように呪文を唱えて続けていたためか肩で息をしている少女だった。
「おいまたかよ、これで何度目だ」
「十回目からは誰も数えてないよ」
「いい加減にしろよゼロのルイズ!」
ルイズと呼ばれた少女は何も言わず息を整えると、杖を掲げもう一度呪文を唱え
ようとした。
「ミス・ヴァリエール」
しかし横から頭の可哀想な(頭皮的な意味で)中年の男がそれを止めた。
「授業時間がおしてきましたので、また次の機会にでも…」
「そ、そんな!…ミスタ・コルベール、あ、あと一度だけ、一度だけお願いしま
す!」
コルベールと呼ばれた男は少し考えるような顔をしてそれから「一度だけですよ
」と念をおして数歩下がった。
ルイズは深呼吸すると、厳しい目付きで呪文を唱えた。
今までよりも格段に大きい爆発が起こった。
ルイズは失敗したと思い膝をつきかける。
が、しかし、土煙の中に何かの影が見えた。
爆心地にいたのはボロボロのコートを纏って倒れている男だった。
「おい、あれ…」
「平民、だよな」
「…ハハハ!ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」
ルイズはしばらく呆然としていたが、ハッと我に帰ったようにコルベールに詰め
寄った。
「ミスタ・コルベール!やり直しをさせてください!」
「なりません」
「そんな!どうしてですか!」
「このサモン・サーウ゛ァントは生涯のパートナーを決める神聖な儀式です。一
度呼び出したものには責任を持たねばなりません。さあ、早くコントラクト・サ
ーウ゛ァントを」
52 :
手札0の使い魔:2011/02/26(土) 12:02:21.39 ID:mKngxlwm
「うぅ…」
未だに腑に落ちない表情のルイズだが、意を決したのかコントラクト・サーウ゛
ァントのルーンを唱え始めた。
そしてゆっくりと唇を重ねる。
男が小さく呻き声を上げると、その左手に微かに光るルーンが刻まれた。
「ふむ…どうやら成功の様ですね。では皆さん、教室に戻りますよ」
コルベールがそう言うと生徒達は各々杖を振り空へと飛び上がった。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「空も飛べないゼロのルイズ!」
と、ルイズを貶しながら離れていった。
「〜〜〜!」
ルイズはその場で地団駄踏みそうになるのを堪える。「さて、目も覚まさぬ様で
すし学院の医務室に運びましょう」
コルベールにそう言われて忌々しげに自分の召喚した男を見やる。
その顔には余計な手間を、と書いてあるような表情だった。
実際に運ぶのはコルベールの役目だったが。
* * * * *
コルベールは今日の授業は使い魔との交流にあてると言い教室から去った。
生徒達が広場へ向かっていくなかルイズは医務室へ足を進めた。
「別段外傷は見られないので恐らくは召喚のショックで気絶しているのでしょう
。何分人間が召喚されるなど他に類を見ない状況どすからな」
コルベールはこう言うと男の左手に刻まれたルーンをスケッチして医務室を出て
いった。
ルイズは召喚された男の顔を見る。
顔の作りは悪くない。黄色い刺青の様なものがあるが、それを除いても整ってい
る顔である。
(でも平民じゃ役に立たないじゃない)
しばらくして男が目を覚ました。
ベッドから上半身を起こすとキョロキョロと辺りを見回す。
「ここは…」
男は見覚えのない場所に困惑しているようだ。
「やっと起きたのね」
側に座っていたルイズは起き上がった男に対して、立ち上がり腰に手を当てて尊
大に言った。
53 :
手札0の使い魔:2011/02/26(土) 12:03:32.51 ID:mKngxlwm
「…誰だ?」
「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るものじゃないかしら」
「あ、ああ…俺は鬼柳京介」
「キリューキョースケ?変な名前ね。まあいいわ」
ルイズは仁王立ちから腕を組み、自らの名前を名乗った。
「で、ルイズ。俺は何でこんなところにいるんだ?」「…平民がメイジを呼び捨
てなんていい度胸ね」
「メイジ?何だそれは」
「はぁ?メイジも知らないの?とんだ田舎者ね」
ルイズは盛大に溜め息を吐くと長々と説明しだした。
曰くメイジが何であるか、貴族が何であるか、そして使い魔が何であるか。
話が終わる頃には既に日は沈んでいた。
「分かった?つまり私はあんたの御主人様。あんたは私の僕よ」
鬼柳はしばらく黙っていたが話が終わるとゆっくりと口を開いた。
「…つまり、俺はもう一生元の場所に帰ることが出来ずに、あんたの下で働かな
くちゃならないわけか?」
淡々と言う鬼柳に少し怯むルイズ。これで鬼柳が文句の一つでも言えば食ってか
かったかもしれないが、冷静に聞き返され、さらには一生帰れないなどという言
葉を聞かされて、ルイズも幾分かばつがわるくなってしまった。
「な、なにも一生なんてことはないわよ?里帰りくらいさせてあげるわ」
「…いや、どうやらそれは無理の様だ」
鬼柳は窓の外を見ながら言った。
* * * * *
鬼柳は既に気付いていた。
ここが自分の知らない世界であると。
突然目の前に現れた鏡、聞き覚えのない言葉、極めつけに窓の外には赤と青に輝
く双月。
不思議と混乱はしていなかった。
シグナーとダークシグナーとの戦いという、知らない人が聞けば荒唐無稽な事に
当事者として関わっていたからかもしれない。
我が名は(ryってたまに見かけるけどなんかイラッとくる
55 :
手札0の使い魔:2011/02/26(土) 12:04:26.29 ID:mKngxlwm
次に考えるのはクラッシュタウン…改めサティスファクションタウンのことであ
る。
街の再建も順調に進み、復興作業の途中で突然目の前に現れた鏡に吸い込まれて
気が付いたらベッドの上にいた。
鬼柳の頭にニコとウェストの顔が思い浮かぶ。
今やあの街は昔の様な死の街ではない。しかし、心配なものは心配だ。自分を慕
ってくれる二人に何も告げずに消えるなどあり得ない。
鬼柳の心は決まっていた。もとの世界に帰ると。
しかし、鬼柳はまた、ルイズがそう簡単に帰還を許してくれそうにない性格であ
ることも、先程の説明で分かってしまった。
そもそも異世界から来たなんて言っても信じてくれるかどうかすら怪しい。この
ことはひた隠しにすることにした。
「ちょっと聞いてるの!?何か言いなさいよ!」
はっと我に帰り慌てて取り繕う。
「いや、知らない地名ばかりだったんでな。恐らく俺の住んでいたところとは相
当離れているんだろう」
嘘は言っていない。その離れているというのが距離とかいう次元ではないが。
「そ、そう…」
どうやってルイズに認めさせようか鬼柳は考えたが、ふと、そもそも帰る方法を
知らないことに気付いた。さっきの説明から、自分がサモン・サーヴァントとい
う魔法で呼び出されたことは聞いた。
そして、「平民なんて使い魔にしても役に立ちそうもないけど」という言葉も一
応耳に入っていた。
つまり、鬼柳に不満を持っていたにも関わらずやり直さなかったと言うことだ。
鬼柳はそこまで思考を展開させる。しかし、これくらい直ぐに頭が回らないとプ
レイミスをしてしまうので決闘者として当然と鬼柳は思っているが、仮に苦労が
召喚されてもここまで考えが及ばないだろう。
閑話休題。
鬼柳としては一生ルイズに仕える気は勿論ない。
しかし、自分はここでは何の特権も持たない平民である。帰るための情報を得る
にも何も出来ない。
鬼柳は取り敢えずルイズの使い魔となることにした。
「と、当然じゃない!使い魔にならないなんて選択肢はないわよ!もう動けるな
ら行くわよ!」
そう言ってルイズはマントを翻し、鬼柳はコートを来て医務室を出た。
56 :
手札0の使い魔:2011/02/26(土) 12:07:24.17 ID:mKngxlwm
1話終了です
短くてすいません
あと(ryもすいません
これから使わないようにします
次は来週中に投下します
>>56 乙
(ryについては、その気があればまとめwiki登録時やその後にいくらでも修正出来るんじゃないでしょうか
>>48 そりゃフーケのゴーレムだろうよ
30mだぞ
ドラクエTの勇者はギラと剣でゴーレムをぶっ壊せるけど一撃で、ではないな
そしてメルキドのゴーレムにはフーケのと違ってターン毎の自動修復能力とかはないから
別に力技で粉砕する必要もないしね
ゴーレム作ったり物質を作り替えたり(錬金)する物理的なエネルギーはどこから来てるんだろう
気にしたら負けだ
地球では未知の粒子がハルケギニアには空気のように満ちていて、メイジはそれを反応させてエネルギーを取り出してる
多分、錬金する度に必要分のエネルギーに相当する質量が減ってるよ
余剰分が有れば幻魔大戦のベガみたいにニュートリノとして放出
おまえら根本的な設定忘れてるだろ
「精神力」だよ「精神力」
つまり、ハルケギニアは基底現実でメイジはネットスフィアを利用できる特定遺伝子を持ったバイオコンピューターだったんだんだよ!!
いやいやハルケギニア粒子だよヘルケギニア粒子!
つ[グロブローにお願い☆]
このスレ、地味に弐瓶勉が多いような気がする……
訂正
このスレ、地味に弐瓶勉ファンが多いような気がする
お絵描き掲示板にガイアがきたーっ!!
なんか全選手入場みたいな言い方だなw
地下に溜まってる風石の力を使ってエアハンマー!
>>63 絶対に起動させるな。
あのパラディンのリューを。
たまにはルイズに神聖で強い使い魔を召喚させてみたい
神話の龍とか鳳凰みたいなのを。
もしくは小ネタで特撮の怪獣を召喚したのもやってみたくもあったり……
ゴジラはすでにどっかにあるな
ではL.E.D.ドラゴンを(ry
>>77 すえぞう召喚モノをどっかで見たような
気のせいかも
LEDでも幼生なら・・・・その場合150年ほど生きないといけないけど。
命の水を前借りできるかな?
ウル魔で十分神聖で強い気がするけれど、ウルトラマンはやっぱり神にあらずか。
ファイアー、サンダー、フリーザー、ルギアといった、伝説系ポケモンはどうかな?
どうも、久々に投下します
被らなければ10分後に
「参ったな……入れ違いとは」
図書館の前で立ち尽くしながら、クリフは呟いた。
ルイズ達と分かれたクリフはオスマンにも言われたとおり、元の世界に帰るべくまずは魔法に詳しいというコルベールを探しに出
ていた。
しかし手近なメイドなどに道を聞きながら図書館に行ってみると、ちょうどコルベールは調べ物を一旦終えて外に出て行ってしま
ったらしい。
オスマンが許可を出した話を聞いたからか、怪訝顔をしてクリフを見つめる女性司書によれば、彼がどこに向かったかまでは分か
らないとのことだった。
「タイミングが悪いな……しかし、どうしたものか」
コルベールがいなければ、魔法についてなにも知らないクリフでは勝手が全く分からない。そもそも、どこが『フェニア』の区画
であり、どの棚にそういう書物があるのかも分からない。司書に聞いてもよかったが、彼女はオスマンから直接の協力をするように
言われているわけではないだろう。
「仕方ない……出直すとしよう」
今更慌てても仕方がないのも確かではあった。早く調べにかかりたいが、重要な書物と聞いている以上、まさか素人が一人で勝手
に棚をいじくりまわす、というのも少々問題である。
「……できる限り早いほうがいいんだが……。……僕としても、ユーゴー達が心配だし……うーむ」
ともかく、ここで一人考え込んでいてもしかたがないので、クリフは戻ることにした。
階段を下り、中央塔の立派な玄関を出て、とりあえずもと来た道を歩き出す。
そういえば、とクリフは思った。ルイズ達はどこの教室に行ったのか聞き忘れたので、どこに向かえばいいのか分からない。とに
かく、元のルイズの居室のある塔で待つことにした。
道すがら、授業中のせいか人影はあまり見られなかった。春らしい優しい風が吹いて新緑の街路樹を揺らす。ひどくのどかな風景
が続いている。
「……春、か。こんなに春めいてるのは、イギリスあたりとは大違いだな……それにずいぶん暖かい」
トリステイン魔法学院の穏やかな春の情景を眺めながら、ぽつりとクリフは呟いた。自分達の境遇とは裏腹に、つい少し気分が良
くなってくる。思わず鼻歌を口ずさんでしまった。
目的の塔の近くまで来ると、近くに大男が一人と黒髪の少年、メイド服を着た小柄な少女の姿があった。
「あれ? ヴォルフ、残っていたのか。なにをしてるんだ?」
一人はヴォルフだった。手に洗濯物を持っている。
「あら、クリフ。もう帰ってきたの? アタシは見てのとおり、お嬢ちゃんの服の洗濯よ。授業はキクロプスがついてるから、アタ
シ達はこっちを片付けることにしたの。ねーサイトちゃん」
「水が冷てえ……はぁ」
才人はまだ立ち直っていないらしく、ため息をついて悲しげな顔をしながら、しぶしぶといった感じで洗濯を手伝っていた。
「ふむ、そうか……。そっちの子は?」
クリフは視線を隣の少女にむけた。切り揃えられたボブカットの綺麗な黒髪で、少しそばかすのある見た事がない娘だった。
「ああ、この子はシエスタよ。ほら、キクロプスが言ってたでしょ、知り合ったメイドさんって」
「ああ、なるほど。そういえば今朝タオルをもらったとかなんとか……」
「タオル?」
「ん? ヴォルフは知らなかったか。はじめまして、僕はクリフ・ギルバートだ。君、僕の仲間が親切にしてもらったらしいね。
ありがとう、礼を言うよ」
クリフがそう言うと、少女―――シエスタは深々と、やけに恭しく頭を下げた。
「……えっと。どうしたんだい、そんな……?」
え、という顔をして、シエスタが顔を上げる。ヴォルフが口を出した。
「あらシエスタちゃん、こいつは貴族じゃないわよ。アタシ達と同じただの平民。そんな仰々しくすることないわ」
「え、そ、そうなんですか? でも、お召し物が……」
「スーツ? ああ、ちょいと珍しいかしら。でも気にしなくていいわよ、全然偉くないから」
……どうやら僕を貴族と勘違いしたらしい、とクリフは理解した。シャツとジーパンのヴォルフやアーミールックにコート一枚の
キュクロプスとは違い、クリフだけは少々値の張る小奇麗なスーツを着てはいる。が、もちろんVIPの類ではない。
「す、すみません! 失礼を……」
「失礼じゃないでしょ、むしろ逆じゃないの?」
「え、あれ? でも? あ、そうか、その……ご、ごめんなさい」
二重の間違いに、シエスタの顔が赤面した。そのどこか可愛らしい仕草に、ついクリフは笑みがこぼれた。
「いや、いいよ。僕の服がおかしいみたいだしね。……貴族に見えるのか、僕は? 着替えたほうがいいのかな。ヴォルフはどう思う?」
「別に? アタシにはフツーに見えるけど」
「……だよ、な。……そうだ、着替えもないんだよなぁ……」
クリフは思わずぼやいてしまう。着たきり雀でこれ一着しかないし、そもそもスーツを扱ってくれるクリーニング屋なんてあるん
だろうか。さすがに汗臭くなってきたしズボンに皺が出てきたから、せめてアイロンくらいかけたいな……。などと思うのだが。
「なんとかなるでしょ。それより、そっちはどうだったの?」
ヴォルフはぱん、と洗濯物を空中で伸ばし、吊り紐にかけつつこっちの成果を聞いてくる。
「……ダメだ、入れ違いになってMr.コルベールに会えない。どこに行ったかも分からないらしい」
「あら? タイミング悪いわねぇ。じゃあ、どうすんの?」
「待つしかない、な。僕はまだ学園内が不案内だし。どうも聞いた限りでは、彼の研究室とやらには行っていないらしいが。本も出
したままで少し外に出ただけみたいだから、時間を置いてからもう一度図書館に行ってみようと思う」
「参ったわねぇ……。今頃どーしてるのかしらユーゴー。キャロルも無事だといいんだけど……」
「……きっと大丈夫だ。そうに決まってる」
クリフは自分に言い聞かせるように呟いた。そう、無事に決まっている。
「だといいけど……。はぁ。しかたないわね。コルベールってあれでしょ、あの変な薄らハゲ。あれ待ちね」
肩をすくめて頭を振りながらヴォルフが言う。すると、その隣でシエスタが少し驚いた顔をしていた。
「あら? どーしたのよシエスタ、手が止まってるわよ? ひょっとして具合が悪いの? つらいなら休んだほうがいいんじゃない?」
「いえ、その……。あんまり、貴族の方の悪口を大声で言うのは……」
「悪口? ああ、なんか偉いんだっけ貴族って。だいじょぶよ別に、あんな電球頭怖くないし」
「でもその……いくらなんでも、寮塔のすぐ近くで真昼間からっていうのは……周囲に聞こえますし……」
「心配症ねぇ。だいじょーぶだいじょーぶ。なんとでもなるわよ」
ヴォルフは太い笑みを浮かべて、バンバンとシエスタの背中を叩いた。本人は軽く叩いてるつもりなのだろうが、小柄なシエスタ
は「わわわ」と目を丸くしてよろめいている。
「さ、とりあえずはお洗濯を続けましょ。お嬢が帰ってくるまでには終わるでしょ」
ヴォルフが振り返って、後ろのたらいに積み上げていた洗濯物の山を眺めた。昼までに干したであろう分と、同じくらいの山と二
つある。かなりの量だ。
どうやらヴォルフはルイズの洗濯物を洗うついでに、シエスタがやっていた洗濯物を手伝っているらしかった。
「ずいぶん多いな……。よし、僕も手伝うよ。することもないし」
クリフも進み出て、スーツの上着を近くの木に掛け襟をまくった。見ているだけ、というのも少々居心地がよくない。
「え、ミスタ・ギル……クリフさん、悪いですよ、そんな……」
「いいよ、お世話になったみたいだし。ヴォルフやサイト君だって手伝ってるだろう?」
「それは、そうですけど……」
「いいからいいから」
「あ……」
シエスタはヴォルフと違い、どこかクリフに遠慮しているようだった。その様子に、クリフはもう一度自分の身なりをチラリと眺
めてみる。
(……やはり貴族に見えるのかな? 僕は自分がそんなふうに見えると自覚したことはないんだけど)
「だいじょぶなのアンタ? 家事なんてほとんどしたことないでしょ」
ヴォルフが少々眉をひそめて言った。失敬な、いくらなんでも洗濯くらい僕だって……。
「レース生地の手洗いのやり方なんて知らないでしょ?」
……。
「……手洗い?」
「手洗いよ、洗濯機ないんだもの。ていうか電気がないし。だからあれでやるのよ?」
ヴォルフが指差したそこには、泡立った水がたっぷりと張られたたらいと洗濯板があった。そのそばで、才人が冷たい水にヒーヒー
言いながら洗濯物をこすっていた。
「……」
「だいじょぶなのホントに? ほらアンタったらこういう肉体労働全般、どうも苦手でしょ? 破ったりしない?」
「……そんなわけないだろう。大丈夫だ、やる。やってみせよう」
「言い出したら聞かないわねぇ……。ま、そんなに言うなら手伝ってもらいましょ。量だけはたっぷりあるし」
ヴォルフは楽しげに笑顔を作ると、こっちにウインクしてきた。
……なんか早まった気がするな。
「こんなに重労働だったとは……」
予想以上の疲れに息を吐いて、クリフは大きく伸びをした。吊り紐に並べられた、風にはためく真っ白いシーツの群れを眺める。
「相変わらずこういうことやらすとダメねぇ。サイト君のがなんぼか使えたわよ?」
横からヴォルフの酷評が飛んできた。う、うるさいな……。
「ね、主婦は大変なのよ。ちょっとは見直したかしら?」
「主婦じゃないだろうお前は……」
「あら心外。心はいつも若奥様なのに」
他愛のないやり取りをしながら横目に見てみると、ヴォルフはたらいの中の汚れた水を側溝に流していた。結構な重量があるはず
なのだが、まるでバケツみたいに片手で上に持ち上げてから傾けているあたり、すごいパワーである。
「ありがとうございます、助かりました。今日は洗濯物、多かったですから」
近くでシエスタが、ぱんぱんと干したベットのクッションを叩きながらにこやかに言った。
「う、うん……。僕はあまり、役に立たなかったけど。いつもこんな事を?」
「ええ。お仕事ですから」
シエスタは気軽に言ってくれるが、クリフは正直感嘆する。僕は毎日やったら気が滅入りそうだ……。
「クリフも少しは敬いなさい。女はすごいのよ?」
「……」
だからヴォルフ、お前は女性じゃない。なんで代表者みたいな顔してるんだ。
内心突っ込みを入れるクリフの隣に立つ才人が、ぐっと伸びをして息をついた。
「うーん……はあ。なんか、すっきりしちゃったなぁ。ま、いいや別に。異世界でも。ファンタジーだし、メシは美味いし、観光と
いうことにしよう」
才人は洗濯をしているうちに気分が変わったらしい。さっぱりとした顔をしていた。
しかし観光って……。とクリフはなんとも言えない感想しか出せなかった。才人はずいぶんと楽天的で順応性が高い少年らしい。
とはいえ、暗いよりはクリフとしても助かるのではあるが。
「さて、そろそろお嬢ちゃんもそろそろ帰ってきても……あら、噂をすれば影」
後片付けを終えたヴォルフの視線の先を追うと、向こうからルイズが歩いてきていた。その後ろに、キュロプスがついてきている。
「おかえりお嬢ちゃん。授業はどうだったかしら? キクロプスもお疲れさま」
「……別に、ふつうよ」
「あら、可愛くない。もっとなにかあるでしょ、もう。で、今日はもう授業終わり?」
「そうよ。あとは、夕食までなにもないわ」
「そりゃけっこう、お疲れさま。じゃ、夕食までだいぶ時間空きそうだし、アタシどうしましょ? シエスタの手伝いでもしましょ
うかしら」
なかなか感心するようなことを言う。こう見えても、ヴォルフは意外と働き者だ。
「……わたしの洗濯物は終わったの?」
「そりゃもちろん。ついでだからその前に部屋の掃除もちょっとしといたわよ。そんなに汚れてなかったし」
ルイズの問いに、軽やかにヴォルフは答えた。仕事が早い男である。
「そう。じゃ、あとは好きにしててもいいわ。働きたかったら働いても」
「そうね、そうさせてもらいましょーか。じゃ、シエスタ。次はなにかある?」
ヴォルフがそう聞くと、シエスタは遠慮がちに言った。
「いえ、これ以上は悪いですよ。それに、ミス・ヴァリエールの使い魔さんなんですから、そちらのほうを……」
「なに言ってんのよ、気にしないで。お嬢だっていいって言ってるし、やることないし、キクやサイトちゃんだっているし。だいた
い今日の晩ごはんだって、コックさんやアンタみたいなメイドさんががんばってお仕事して作ってるわけでしょ? じゃあ当然、ア
タシも働かせてちょうだいよ」
「で、でも……」
「いいからいいから。アタシ暇ってダメなのよ。ね、お願い?」
強引に仕事をせがむヴォルフに、シエスタが困った顔をした。
「……まあ、こういう男なんだ。シエスタ、君がよければこいつを働かせてくれ。いいよね、ルイズちゃん?」
「だから、別にわたしは構わないわよ。やることやってるなら、あとは自由時間にしても」
クリフとルイズがそう言うと、少し考えてからシエスタは納得したようだった。
「じゃあ……すいません、お願いしますね。乾いた洗濯物を畳んで、持ち主の貴族の方にお届けするんですけど……」
「オッケーイ。じゃ、やりましょうか」
ヴォルフは早速積まれたままの洗濯物をゴソッと手に取りはじめる。
それを横目に、クリフは木にかけた自分のスーツを着て歩き出した。
「じゃあ、僕はもう一度Mr.コルベールを探してくる。図書館に戻ってきてるかもしれないし」
「そーね、じゃまたいってらっしゃい。夕食時には戻ってきてね」
「ああ、それじゃあ」
クリフが再びコルベールを探しに出てからすぐ。
その場に残されたヴォルフ達のそばを、ルイズと同じく授業を終えたばかりの生徒たちが、ガヤガヤと寮塔に向かっての道を帰っ
てきていた。
「フーンフーン♪ よっしゃ、それじゃこれいったんどっかに運ぶんでしょ?」
大きな両手に洗濯物を抱えたヴォルフがシエスタにたずねた。ほとんど一人で持ってしまっている。
「ええ、まずはメイド達用の使用人宿舎に。お仕事用のお部屋がありますのでそちらへお運びしてから、畳んだのにタグを乗せて一
つずつお届けするようになってます」
「はいはーい。あ、サイトちゃん悪いけど、最後にそこのたらいと布団叩き持ってきて。アタシはもうちょっとだけやってくから」
ヴォルフは顎でしゃくって、置かれたままの用具を指した。
「うん、分かった。ほい」
「終わったらルイズちゃんの部屋で待っててね。今日はお疲れ様よ、クリフの百倍役に立ったわ。アイツったら全然ダメなんだから、
レースは繊細だから優しく揉み洗いだって言ってるのに洗濯板使おうとするし」
ヴォルフはクリフの奮闘をばっさりと切り捨てると、シエスタについて歩き出す。
それを脇で眺めていたルイズは、
「……じゃあ、わたしは部屋に帰るわ。あんた達で足りるでしょ。キクロプス、来なさい」
「…………」
そう言って身を翻し、寮塔へ向かっていった。それに黙って付き従うキクロプスの姿は、もっとも模範的な従者の姿であった。
「じゃあねお嬢、もうちょっとしたら帰るからねー。さ、行きましょ行きましょ」
そうしてルイズと分かれたヴォルフ達が宿舎へ向かおうとすると。
ふと、寮へ向かう生徒達の列から、とある男子達の一団がこちらに向かってきた。
なにやら、君達は先に帰っていたまえ、とか、急にどうしたんだギーシュ、などと言い合っている。
「ん? なにかしら?」
ヴォルフ達が立ち止まっていると、ギーシュと呼ばれていた金髪の少年がその前に立った。シエスタに話しかけてくる。
「きみ。さっき、ぼくの上着を頼んだんだが。突然すまないが、返してくれないか」
「え? あ、ミスタ・グラモンですね。先ほどのですか? それでしたら……」
シエスタは後ろを振り向く。そこには、さきほどヴォルフ達が洗濯したばかりの服たちが風に揺られながら干されていた。
「……もう、あ、洗って……しまったのか!?」
目を見開いて洗濯物の群れを見つめるギーシュ。
「え、は、はい。洗いましたが……」
「な……なんと……!」
何を驚いているのか、驚愕してわなないている。
その姿にシエスタはなにかピン、と来たらしい。ごそごそと自分のエプロンのポケットをまさぐると、紫色の液体が入った小瓶を
取り出した。
「あの、ひょっとしてこれでしょうか? ポケットにお入れになっていたままでしたので、勝手とは思いましたが取り除けておきま
した」
「あ、そ、そうか。よ、よかった……」
ギーシュはシエスタの手の中のそれを確認すると、ほーっと息を吐いた。
「失礼しました。では、お返しいたします」
シエスタが小瓶を渡そうとする。すると、なぜかギーシュはすっと一歩引いてそれを受け取らなかった。
「え?」
「い、いや。違う、それはなんというか……ぼ、ぼくのではない。違うんだ、き、気にしないでくれたまえよ」
「え……? で、ですが……」
「き、気にしないように。それでは」
そのまま踵を返して、ギーシュは突然立ち去ろうとする。
「は、はあ……?」
「ちょ、ちょっとした間違いだったんだ、うん。じゃあ……」
「なんだギーシュ。あ、それって……紫だ、まさかモンモランシーか?」
それを目聡く見ていた、ギーシュの後ろにいた一人がポツリと呟いた。その言葉を聞いたギーシュの友人達がワイワイと騒ぎはじ
める。
「ち、違う。これは、その。いいか、彼女の名誉のためにぼくは言うが……」
「なに言ってるんだ。紫色の香水、間違いないぞ。ギーシュの上着のポケットから出て来たってことは、それしかないじゃないか」
「そうか、お前心配になってわざわざ来たのか。どうりでさっきから急いでると思ってたんだよ」
「やめたまえきみたち、だからだな。つまりなんというか……」
その時、必死に弁明をするギーシュに向かって、一人の少女が近づいてきた。栗色の髪をした、可愛らしい少女である。その姿を
視界に捉えたギーシュが、うめき声を出した。
「え゛っ……! ケ、ケティ……!」
「ギーシュ、様……」
ケティと呼ばれた少女は呆然としてギーシュを見つめていた。やがて、ぽろりと一粒の涙が零れる。
「ひ、ひどい……そんな、……私、信じてたのに……」
「ち、違うんだ聞いてくれたまえケティ。いいかい、今きみは誤解している。これはあくまで事故であって、ぼくはきみのことだけ
を……ぶっ!」
ごまかそうとしたギーシュの頬が思い切り張られた。パァン、と小気味のいい音が響き渡る。
「さよなら!」
ケティは顔を覆いながら、走り去っていってしまった。
取り残されたギーシュが頬をさすって呟く。
「う、ううむ……なんと間の悪い……って、はっ!?」
ギーシュが振り返ったところに、さらにまた一人の女の子が仁王立ちをしていた。綺麗な金色の髪を巻いてカールにした、少しそ
ばかすの残る少女だった。
「ギーシュ?」
「な……!? モ、モンモランシー!? な、なぜきみがここに……!」
「授業が終わって部屋に帰るからよ」
「……ち、違う! か、彼女とは少しばかり遠乗りをしただけの仲であって……!」
「全部見てたわ。ねえ、ギーシュ。……舌噛まないでね」
ぼそり、とモンモランシーは呟くと、その鼻に向かって強烈な肘鉄を見舞った。不意を打たれたギーシュが思い切りのけぞる。
「ごふっ!」
「サイテー。うそつき」
どう、と倒れ伏したギーシュを尻目に、モンモランシーはスタスタと歩いて行ってしまった。
「か、かはっ……。は、鼻が……ぐお……!」
草むらに倒れてうめいてるギーシュの姿に、何事かと遠巻きに見ている寮塔への列から好奇の視線が向けられる。
唖然としたままのシエスタは目の前で起こった暴行に、なにもできずにただ見ているしかなかった。
「え……あ、あの……だ、大丈夫ですかミスタ・グラモン? え、えと……?」
おずおずとそう言うが、ギーシュは鼻を押さえたまま悶絶している。
「ぬおお……く、くう……なんてことだ……。ぐわ、ぼ、ぼくの鼻が……!」
かなりいいのをもらってしまったらしく、ギーシュはすぐに立ち上がることができないらしかった。
横でそれを見ていたヴォルフがつまらなそうに呟いた。
「なによこの坊や? わけわかんないわね。バカかしら?」
「さあ、知らねーっす。アホくさ」
下らなそうに才人が返す。完全に見下した目でギーシュを見ていた。
「えっ!? ちょ、ちょっとヴォルフさん!? サイトさんも!?」
「さ、シエスタ。さっさと行きましょ、ボーっとしてたら日が暮れちゃうわよ」
「いいよいいよ、シカトして。バカに付き合ってらんねーし。いこーぜ」
もがいているギーシュを無視して歩き出すヴォルフ。才人もダルそうにその後を付いていく。
「え、で、でも、あの、その」
「ほら早く。仕事しないとねー」
シエスタを促して、騒ぎからヴォルフ達が離れようとした時、後ろでゆっくりとギーシュが立ち上がった。
「……待ちたまえ、きみ達。そこのでかいの、どこに行くつもりだ」
「は? なにかしら?」
「今バカと言ったな? 口の利き方を知らないらしいな……」
「……なにコイツ? アナタ誰?」
「……貴様……!」
ヴォルフの呟きにギーシュの額にビシィッと血管が浮かんだ。怒気を感じたシエスタが慌てはじめる。
「わ、わ! す、すみません! すみませんミスタ・グラモン! 大変失礼しました!」
洗濯物を投げ出して、その場に膝をついて大慌てでシエスタは頭を下げた。
「どうかお許しください! この者達はミス・ヴァリエールの使い魔でして、貴族の方々へのお言葉遣いを知らないのです! も、
申し訳ありません!」
平身低頭するシエスタの言葉を聞いて、ギーシュがヴォルフ達を見て上から下へ視線を走らせた。忌々しげに、チッと舌打ちを打つ。
「……ふん……! なるほど、そっちの黒髪はよく知らないが、そういえばそのでかいのはそうだったな……! まあいいだろう。
愚かな平民を構うほどぼくも暇ではない。だが、きみはぼくが違うと言ったのに、どうしてすぐに小瓶を仕舞わなかったのだ」
「……えっ!? え……!?」
「きみの反応さえ早ければ、そうすればきっとケティに見つかることも、モンモランシーに見られることも、そしてぼくの鼻が潰さ
れることもなかったのに。なぜすぐに仕舞わなかったんだ」
「は……え、えと……!?」
「なんたることだ。この学院のメイドたる者が、それぐらいの機転もないとは。女性を喜ばす美しい薔薇であるこのぼくが、とんで
もない恥をかいてしまったじゃないか。どうしてくれる?」
ギーシュは苛立ちまぎれに、シエスタに無茶ないちゃもんをつけはじめる。
ギーシュにとって、理由はなんでもいいらしい。とにかく、苛立ちをどこかにぶつけたいらしく、ちょうど目の前で頭を下げたシ
エスタにロックオンしていた。
「す……すみません! 申し訳ありません!」
「どうしてくれるんだ。どうしてくれようか? まったく、大変なことだよこれは。分かっているのかねきみ?」
「も、申し訳ありません! 大変失礼しました!」
シエスタはとにかく頭を下げて謝罪を繰り返した。無茶苦茶な注文だが、シエスタは逆らわずにひたすら謝り続ける。
「あん? ちょっと、なんでシエスタが謝ってるの? なにこれ?」
「おい、そこのキザ。ちょっとやめろよ、わけわかんねーぞ?」
ヴォルフと才人は揃って異を唱え、止めに入った。これではいくらなんでも意味が分からない。
しかし、ギーシュは傲慢に言い放ち、ヴォルフと才人をねめつける。
「なんだと? だいたい、きみ達もだ。いくらヴァリエールの使い魔だからと言って、貴族に対する礼儀を失するなどありえないぞ。
そこのメイドのように頭を下げたまえ。しょせんつまらない事だ、そうすれば許してやろうじゃないか」
「なにナメたこと言ってるのかしらこのガキ。やっぱりバカなのかしら」
「なにが頭下げろだよ、お前が下げろよ浮気野郎。テメーのせいじゃねーか」
「……な!? な、なんだと!? お前達、平民だろう!? も、もう一度言ってみろ!」
すぐに頭を下げるものかと思っていたのか、予想外の抵抗にギーシュが少し驚いた顔を見せた。
「自業自得もいいとこじゃないの。女の敵よ。貴族だか平民だか知らないけど、それ以前に男の風上にも置けないわ」
「薔薇ってなんだよ? バカ丸出しじゃねーか。なに考えてんだ? バラとバカを言い間違えたんじゃなくてか?」
「な……!? お、おい……!」
顔を高潮させて、みしみしとギーシュの顔面がこわばってくる。しかし、それにも構わずヴォルフと才人のコンビは暴言を続けて
いく。
「なんだったらアタシが張り倒してやりたいくらいよ。倒れてるとこ踏んづけて行かなかっただけ感謝して欲しいくらいね」
「俺もサッカーボールみてえに頭蹴り飛ばしたくなったけどぐっと我慢したんだ。むしろありがたく思ってくれ」
「ほら、テキトーのそのへんの草で鼻でも拭いておウチに帰りなさい坊や。お仕事してる人の邪魔しちゃダメよ」
「八つ当たりはそこの木でも相手にやってろっての。つーか女の子追いかけたらどうだ? もしくはさっさと早く帰れバカ。お前の
家は目の前だ」
「ところでさサイトちゃん、なんかこの坊やすんごいダッサくない? うーん、せっかくの素材を殺しちゃってるっていうか、ちょ
っと品がないわね。メイク前のピエロ? 薔薇はまだいいけど」
「あーそーだねってええ!? 薔薇もないでしょ、正直キッツイよこれ。俺だったらこんなの着て道を歩けないな、なんの罰ゲーム
だよって感じ。あ、罰ゲーム中なのか?」
言葉の暴力でメタメタに言ってのける二人に、ついにギーシュが激昂した。
「き、貴様らぁっ!! な、なんでだ!? なんでそこまで言われなきゃならないんだ!? ぼ、ぼくを、このぼくを舐めるとはい
い度胸だ、平民ごときが! 決闘だぁ!! 決闘を申し込む!! こ、殺してくれる!!」
すさまじい激怒を表し、胸元のハンカチを投げつける。その様子に、シエスタが飛び上がった。
「ひっひえっ!? わ、わわ! あわわ!? そ、そんな!? す、すいません、お許し下さい! ヴォ、ヴォルフさんサイトさん、
謝って! 謝って下さい! も、申しわけ……わひゃっ!? 」
そう言ってさらに頭を下げようとしたシエスタの襟首を、ヴォルフが軽くつまんでぐっと引き上げた。そのまま体が上がって立ち
上がってしまう。
「コラ、ダメダメ。ダメよシエスタ、謝る必要なんてどこにもないわ。頭を下げちゃダメよ、こっちは悪いことなんてしてないんだ
から」
「わっわっ!? ダ、ダメ! ダメです謝って! た、大変なことに……!?」
「ダーメ。胸を張りなさい。そいつの服を洗ってやって、その上ビンまでちゃんと取っといてあげたのに逆ギレされてるのよアナタ?
ふざけてるじゃない」
「き、貴族の方ですよ!? なにを言ってるんですか、このままじゃ、こ、殺され……!?」
「殺され? こんなほっそいモヤシになにができるのよ、しっかりなさいな。下手するとアナタでも勝っちゃうんじゃないの?」
「や、やだ! やです、ダメ、離して! わ、わー!? わー!?」
「はいはい、落ちついて落ちついて。クールに行きましょ?」
半狂乱になって暴れはじめるシエスタをヴォルフは無理に抑える。シエスタはそのせいで逃げ出すこともできない。
周囲を取り巻いていた人間は決闘と聞いて、まるで突発のイベントでも起きたかのように大いに囃し立てはじめている。
「諸君! 聞きたまえ、今ここにぼくはこの三人に決闘を申し込む! 少々変則的だが、なに、何の力もない平民相手だ! 三人ま
とめて相手にしてくれよう! 場所は……ヴェストリの広場だ! そこでやろう!」
ギーシュは高らかに宣言し、胸から出した薔薇の造花を掲げた。わっと歓声が上がる。
「さ、さんにん!? 今、今三人って言った!? わ、私、私も入ってる!?」
「入ってるわね? ま、いいんじゃない。軽ーく寄り道してフクロにしちゃいましょうか、ついでだし。たまにはきっと楽しいわよ?」
「バカだなあいつ。勝てると思ってんのか? ヴォルさんが殴ったら死んじゃうんじゃねーの? つーか俺一人でもよさそうだけど」
「いやぁー!! やだ、やだぁー!? し、しに、しにたくないぃ〜!!」
シエスタの悲鳴が響いた。
以上です
前回から二カ月くらい空いてるので忘れ去られたかも……しかもマイナーだしね
それでは
なんか、シエスタが可哀想に思えたwww
乙
ても、まぁ、シエスタならワルキューレの一体や二体、フライパンで叩き潰せると思うんだw
それはフライパンとおたまを組み合わせた全く新しい格闘技であった。
ピーチ姫とかリリス・エルロンを思い出す
クリスタラー召喚で学院がヤバい
え? クリス・ペプラー?
>>89 待ってたんだぜ
出来れば早いうちにまた頼むw
ちょっとした疑問なんだけど、アニエスって結構唐突に出て来た印象なんだが、
原作の時間軸的に、ルイズがサイト召喚した頃って、アニエスは城にいたの?
それともワルドの裏切りの後にスカウトされて城へ来たの?
原作だとその辺ハッキリしてたっけ?
>>ワルドの裏切りの後にスカウトされて城へ来たの?
アンアンが「貴族は信用できない」で雇用されたぽいから、
『ワ裏スカ城』でいいんじゃね?
2巻のワルドの裏切りと3巻の貴族たちの醜態で貴族不信が募って、
4巻でアニエス選出、5巻で銃士隊発足って流れじゃね?
タルブ戦で頑張っちゃったアニエスの功績を認めてスカウトした
>>ワ裏スカ城
なんだかワルドが城の裏でスカトロしたみたいに見えた
ワルドがスカトロしてもなぁ…
>>98 本格的に貴族不信になったのは4巻の再生ウェールズ事件からで、
4巻と5巻の間あたりにタルブで功績挙げてた平民のアニエスを登用したんじゃなかったっけ。
まあ少なくとも4巻までには城にいないはず。多分。
戦闘妖精の人、乙
時代劇はカタルシスの塊のようなものなので何回見ても飽きませんよね。私は丹波哲郎さんが出た痛快!三匹のご隠居などが好きでした。
攻撃力0の人も乙です。
インフェルニティが出てくるのを楽しみにしてます。インフェルニティガンが制限されるまでは、何回これで1キルされたか。
三つの二つ名の人も面白かったです。ここのシエスタは逃げ足遅いな。でもここまでくるとギーシュにも頑張れと言いたくなってきます。
さて皆さんこんにちは、今週分の投下をそろそろはじめようと思います。
予約がありませんでしたら、さるさん回避で10分おいて15:50より開始いたしますのでよろしくお願いします。
ベヨネッタ召喚してくれー
第三十三話
灼熱の挑戦
ミイラ怪人 ミイラ人間
赤色火焔怪獣 バニラ 登場!
彼は、長いあいだ闇の中にいた。
いつから、どうしてここにいるのかも忘れてしまうほど長い時の中を、静かな闇の中でまどろんでいた。
ときおり、ぼんやりと夢の中で何かを思い出す。遠い昔……まだ、太陽の下を歩き回っていたころ。
そのころ、自分の周りにはたくさんの生き物がいたように思える。
大きいのもいれば小さいのも、数え切れないほどいろんなものがいる。
と、彼はその中で一つ、珍しいものがあるように思えた。
周りの生き物たちとはどこか異質な、人間のような気配。けれど、彼はそれが悪いものとは思えなかった。
顔はわからないが小柄な男性のようだ。隣には、髪の短い女性と、幾人かの人間がいるようだ。
ここはどこで、彼らは誰なのだろうか……? 思い出せない。でも、どこか懐かしいような感じがする。
そうだ、自分は彼らから……
やがて眠りは深くなり、また幾分か眠りが浅くなると彼は同じ夢を見た。
それを何万回、何十万回かと繰り返したろうか。
あるとき、闇に閉ざされていた彼のまぶたに光が射した。
太陽の光ではなく、ろうそくの薄暗い灯りだった。
いつからかの外からの刺激に、彼は延々と繰り返してきた夢の中から、外に向かって意識を向けてみた。
どうやら、大勢の人間がいるらしい。がやがやと、何かをしゃべっているようだが言葉の意味はわからない。
目覚めるときが来たのかと、彼は思った。
まぶたを開け、体を起こしてみた。感覚が蘇り、体が自分の思うように動くのがわかる。
と、彼は何気なく周りを見渡すと、人間たちの様子が変わっているのに気づいた。なにやら驚いたり怯えたり
した様子で、奇声をあげて部屋から逃げ出していく。
どうしたのか? 彼は疑問に思ったが、目覚めたばかりからか考えがまとまらない。
しかし、部屋の中にあった祭壇に目をやった瞬間、彼ははっとした。
ここには、何かがあったはずだ。それは確か……思い出せない。
自分はそれを……思い出せない。
長すぎる眠りが、彼の記憶の重要だった部分までほこりに覆わせていた。それでも、彼はここにあったものを
取り返さなければいけないという意思で動き出す。
あれを、あれを取り返さなくては大変なことになる。なのに、彼の目の前に何人もの人間がやってきて
自分に攻撃をかけてきた。
彼らは何者なのだ? なぜ自分が攻撃されねばならない? 意味がわからないまま、彼は自分を守るために
彼らを排除していった。力では自分が上だし、なにやら術を使うやつらも目から出せた光を浴びせたら
簡単に倒すことができた。
そうして地上に出ると、彼はすっかり変わってしまった外の風景に驚きつつも、目的のものを見つけることができた。
よかった……彼は安堵した。しかし、まだ何かを忘れているような気がする。
それに、人間たちは徒党を組み、またも自分に襲い掛かってきた。
支援
ここは危険だ。彼は大切なもの、赤いカプセルをかついで走り出す。
自分は、あの人たちからこれを……
眠りに着く前にしたはずの、何か大切な約束。それを思い出そうとしながら、彼は一心不乱に駆けた。
ミイラの復活から、およそ一時間後……
小雨の降り始める中、いまだ混乱の収まらぬトリスタニア郊外の発掘現場に、一機の竜籠が着陸した。
「これはいったい、どういうことなの!」
飛び降りるように竜籠から真っ先に下りてきたエレオノールの絶叫が、惨劇の現場となった遺跡に響き渡った。
所用で現場を留守にしていて、ようやく遺跡に戻ってきた彼女を待っていたのは、まるで戦場跡のような
惨状だった。掘り出した遺物を置いていたテントはのきなみ野戦病院のようになり、即席のベッドには
負傷者が並べられて苦しそうにうめいている。
なにがあったのかを、エレオノールは近場にいた人間に説いただしていった。混乱する現場では、
右往左往する平民、ひたすら怒鳴るばかりの貴族など、要領を得ない者にいらだたされはしたけれど、
ようやくテントの中で負傷者に治癒の魔法を使っていた若いメイジを捕まえることができた。
しかし、古代のミイラが蘇ったことまでを知った彼女は当然のように驚愕するのと同時に、歓喜した。
「ミイラが動き出した? ……ふふ……うっふふふ」
報告を聞くなり、エレオノールは口元を含み笑いを浮かべだした。逆に報告した若い研究者や、治癒を
受けていた土方の平民たちは悪い予感を覚える。案の定、彼女は眼鏡を光らせて手を上げると、
高らかに命令したのである。
「すばらしいわ! 数千年ものあいだ生命を保管する技術が存在しただなんて。これは不老不死に
人間が近づく大いなる一歩だわ! あなたたち、なんとしてでもそのミイラを生け捕りにするのよ。
アカデミーの総力をあげて、永遠の生命の謎を解明するのだわ」
「い、いえ! すでに警備班や幻獣捕獲隊から追撃が出ています。どうかご安心を」
「生ぬるいわ! これがどれほどの大発見だかわかってるの? さあ、発掘を再開するわよ。動けるのは
働きなさい! ミイラの追撃隊も、いるだけのメイジを送りなさい、あなたもよ!」
エレオノールの剣幕に、若い研究者は震え上がった。
しかし、興奮して命令を飛ばすエレオノールの肩を、彼女と同乗してきていた親友のヴァレリーが掴んで止めた。
「待ちなさいよエレオノール、負傷者が続出してる中で発掘の再開なんて本気? まして、追撃隊の
増強なんて、できると思ってるの?」
「なにを言ってるのよヴァレリー? あなたこそわかってるの。これは大発見なのよ、有史以前の
古代人の生き残り、歴史が根底からひっくり返るほどの大発見じゃない」
興奮を抑えきれていない様子のエレオノールの主張を、ヴァレリーはそれはわかるけどと受け止めた。
彼女も大発見だということは重々承知している。でも、エレオノールよりは社交性の高い彼女は、興奮を
押し殺した冷めた目つきで、彼女の耳元に口を寄せてささやいた。
「いいから、黙って周りの平民たちを見てみなさい。みんな、親の仇みたいな目でこっちを見てるじゃない」
エレオノールは、憎らしげに睨んでくる平民の工夫たちの視線に気づいたが、なおも強気だった。
「なによそんなの、平民が貴族のために尽くすのは当然でしょ」
その言葉がどれほど彼らを怒らせるか、ルイズと違って平民と対等に付き合ったことのない彼女には
まだわからなかった。一方、ヴァレリーのほうは貴族らしい平民への蔑視と完全に無縁というわけでは
なかったが、友人よりははるかに温厚で人との付き合い方を知っていた。彼女はエレオノールの耳元で
強い口調でささやいた。
「バカ、時と場合をわきまえなさいよ。いい? 研究するのは私たち貴族でも、現場で発掘作業するのは
大半が彼ら平民なの。彼らを怒らせて仕事が雑になったら、今後大発見があってもパーになるかもしれない
じゃない。それに、無茶をして死傷者を出したら、私たち全員の管理責任になる上に、アカデミーの空気を
入れ替えてくれた姫さまの期待を裏切ることになるわ。冷静になりなさい、エレオノール・ド・ラ・ヴァリエール!」
普段温厚なヴァレリーの厳しい警告と、姫さまのことを出されたことでエレオノールもやっと気を落ち着かせると、
こほんと咳払いをしてうなづいた。
「ごめん、頭に血が上ってたわ」
「わたしに謝ってもしょうがないけどね。我が親友は物分りのよい人物で助かるわ」
「いいえ、私の独断で死傷者を増やしたら、お母さまにきついお叱りを受けるところだったわ。ヴァレリー、
あなたは命の恩人よ」
苦笑を浮かべたエレオノールを、ヴァレリーは微笑を浮かべて見返した。エレオノールは、きつい性格で
研究熱心で度を超してしまうところもあるけれど、決して残忍な人間ではないことを親友の彼女は知っていた。
「あなたも大変ねえ。ともかく、発掘は一時中断しましょう」
ヴァレリーは、エレオノールが同意するのを確認すると、現場責任者に先の命令は撤回、全員を
地上に上げて休息をとらせておくようにと命じた。これのおかげで、急落しかけていた工夫たちの
信頼はある程度つなぎとめられた。
「やれやれ、これはアカデミーの大失態ね」
「こんな事態を予想できた人なんていないから仕方ないわよ」
落ち着きを取り戻したエレオノールは、てきぱきと指示を出して混乱していた現場を片付けていった。
と、そのとき空から一羽の伝書フクロウが飛んできた。あて先はエレオノールになっていて、差出人は
アンリエッタ王女。婚礼を控えたこの時期に、なんの用かと書簡を開いてみると、そこには早急なる
出頭を命ずる旨の内容が記されていた。
「こんなときに……間が悪いわね」
そうは思っても、姫さまはここの惨状は知らないのだし、知らせるわけにもいかない。エレオノールは
眼鏡の奥の瞳をしかめさせた後、現場は元々の監督官に任せると告げて、ヴァレリーを誘った。
「やむを得ないから、私は王宮に赴くわ。できるだけ早く戻るつもりだけど、ヴァレリー、あなたは
アカデミーに戻りなさい」
「エレオノール、仕事を頼みたいのかしら? 見返りは」
不敵な笑みを浮かべる友人に、エレオノールは雨に濡れた口元を軽く歪ませると、研究者の目つきに
戻って答えた。
「緊急事態よ、ツケにしといて。ミイラは赤い液体のカプセルのみを持ち去ったんでしょう? だったら、
先日発掘された青いカプセルも狙われる恐れがあるわ。今のうちに開封して、中身を確認しておくのよ」
「なるほど、道理ではあるわね」
「この際だから、多少荒っぽい手を使ってもかまわないでしょう。それと、あの生きのいい新人がいたでしょ。
助手に使ってみるいい機会かもしれないわよ」
エレオノールの提案に、ヴァレリーもそれもそうねとうなずいた。少し前にアカデミーに来て以来、昼夜を
問わずに様々な分野の研究に顔を出している、金髪の新人。名前をルクシャナということ以外、ほとんど
自分のことを語らないけれど、どの分野でも秀でた才覚を見せている彼女ならこの仕事も任せられる。
エレオノールとヴァレリーを乗せた竜籠は、遺跡を離れるとトリスタニアの方角へまっすぐに去っていった。
同時刻、トリスタニアの郊外の森林地帯では、魔法アカデミーからの追っ手が必死にミイラを追撃していた。
「ユーノフとハイツは北から回りこめ、俺たちは西の道を塞いで退路を断つ」
「小隊長どの、見張りにつけていた使い魔のフクロウが落とされました!」
「くそっ! この雨じゃ人の視界が効かないし、奴は頭がいい」
捕獲の命令を受けてきた十人ほどのアカデミーのメイジは、すでに三人が負傷して脱落し、二人を救護のために
残して半数になっていた。残る五人も、長引く追撃戦で精神力を消耗し、使い魔も失って疲弊している。
「せめて抹殺命令が出ているなら気が楽なのだが、最低でもカプセルは奪取しなくてはならん。くそっ、やっかいな!」
小隊長は、受けた任務の困難さと、思うようにいかない苛立ちから吐き捨てた。彼らはアカデミーの中でも、
秘薬の材料となる入手困難な薬草や、危険な生物の捕獲を主として請け負う一隊なので魔法の実力は高い。
それでも苦戦を強いられているのは、ミイラの捕獲とカプセルの確保という、厳命された任務内容と、雨中の
森林地帯という追撃には不利な地形、そして予想以上に強力なミイラの武器にあった。
「奴の怪光線は風や水の防壁では防げません。この雨の中では火や土の魔法は効力が半減します。
このままでは、逃げられてしまいます」
「おのれ……我々がここまで手こずるとは。それにしても、あのミイラはいったいなんなんだ? 目から
光線を放つ亜人など聞いたこともない!」
彼もアカデミーの一員である以上、亜人などの知識には精通しているが、ミイラの正体はまったく
わからなかった。とにかく、ケタ外れの腕力と体力を持っており、これだけの時間追撃しているのに
疲れる様子を見せない。特に目から放たれる怪光線の威力は絶大で、魔法と違って相手を見るだけで
発射できるために避けられず、近寄ることさえままならなかった。
「奴は北東へと逃げています。これ以上進まれると、街道に出ることになります。もし、誰かに見られる
ようなことになったら大変ですよ」
「わかっている! くそっ、俺たちも残った精神力は少ないし、こうなったら賭けに出るしかないか」
捕らえるにしろ殺害するにせよ、近づくことができなくては無理だ。頭の悪いオークやコボルドなど
ならまだしも、奴は人間並に頭が働くのは明らかだ。
考えた末に、小隊長は一計を案じた。
「確か、この近くに小川があったな。ようし、そこに奴を誘い込め」
起死回生をかけて、小隊長は最後の作戦を開始した。
追われるミイラは、森の木々のあいだを素早く駆け抜けていく。地面の様子は凸凹で、雨でひどく
ぬかるんでいるというのに、それを感じさせないすごい脚力だ。また、肩には子供ほどの大きさがある
透明なカプセルを担いで、大事そうに守っている。これは、先日発掘されたカプセルと同型のものだが、
中の液体は赤色であった。
うなるような声を漏らし、木々のあいだを縫って逃げているミイラは、ふと空を見上げた。人間が一人、
こちらに向かって飛んでくる。追っ手だと気づいた彼は、そいつを向かって目を見開くと、眼球から
白色の破壊光線を撃ちだした。
命中、肩に攻撃を受けた追っ手のメイジはうめきながらふらふらと墜落していく。しかし、そいつと
入れ違いに現れたメイジが風をふるい、周辺の木々をなぎたおしてミイラの行く手を塞いでしまった。
あれは囮か、そう気づいたミイラは道が全部ふさがれる前に、残っている道へと駆け出した。
それを見て、伏兵のメイジは作戦通りとほくそえむ。ミイラの行く先には川があった。
一方、先回りをしていた小隊長は、部下の風のメイジ二人とともに川べりで隠れて待っていた。
作戦通り、誘導されてきたミイラが彼らよりもわずかに上流に現れる。
「小隊長」
「待て、焦るな」
はやる部下を抑えて、小隊長はじっとチャンスを待った。呪文の詠唱はすでに完了している。
しかし残った精神力すべてを注ぎ込んだ一撃であるから、万一にも失敗は許されない。ミイラは、
川辺に出たことで躊躇し、引き返そうかと迷っているように思える。
支援
「来い、そのまま来い」
心の中で叫びつつ、気配を殺して彼らは待った。もし、ミイラが引き返したら作戦は失敗に終わる。
けれど、彼らの忍耐は望むとおりに報われた。ミイラは退路を塞がれることを焦ったのか、川の中に
入ってきた。幅はほんの四メイルほどの浅い川、すぐに渡れると思ったのも無理は無い。だが、それこそが
小隊長が待っていた瞬間だった。
「かかったな! くらえ、『ライトニング・クラウド!』」
三人分の電撃魔法が川に向かって放たれ、電撃が水を伝ってミイラを感電させた。
さしものミイラも巨像すら即死させる威力の電撃を浴びてはたまらないと見え、全身をけいれんさせて
もだえている。作戦が図に当たって、小隊長は偽装をはぎとるとからからと笑った。
「どうだ怪物め、この雨中では電撃もまともに直進できないが、それならそれでやりようはある。人間様の
知恵をあなどったな。さあて、身動き取れまい。アカデミーに連れ帰ってじっくり調べてやる」
部下を傷つけられた恨みもあって、小隊長は残忍な笑みを浮かべてミイラに歩み寄った。
ミイラは大きなダメージを受けたと見え、小川の中にひざまずいて荒い息をついている。まだ、あの目からの
怪光線は脅威で慎重に近づかなければならないものの、もう逃げられる心配はなさそうだ。
「よし、ミイラは俺が捕まえる。お前たちはカプセルを回収しろ」
「はっ」
これで任務は終了だと、小隊長は部下に任務の半分をまかせて、自分はミイラに向かって『蜘蛛の糸』の
魔法をかけようと杖を向けた。
だが、そのとき……ミイラの手から取り落とされ、川の水につかっていたカプセルから乾いた音がした。
”ピシリ……ピシシ……”
まるで、卵から雛が孵化するような音が、一回だけでなく断続的に続き、次第に大きくなっていった。
そのころ、才人とルイズは馬車に乗って魔法学院への帰途を急いでいた。
「ひでえ雨だな」
窓から外を覗き見た才人は、忌々しそうにつぶやいた。街を出たときから雨は降り続き、すっかり
土砂降りになってしまった。冬の雨は冷たく、馬車の中も冷えて気がめいる。いや……気温などより、
向かい合って座っているルイズの沈黙こそが、才人にとって寒かった。
「なあ、ルイズ」
「なに?」
話しかけても気の無い返事しかしてこないルイズに、才人のほうがため息をつきそうになった。それでも、
おせっかい焼きの才人は、明らかに言外に話しかけるなと言われているのに続けて声をかけた。
「そんな、つっけんどんにしなくてもいいだろ。お前の姉さんと違って知識はないけど、もう短い付き合いじゃ
ねえだろう、俺たち」
「このことは誰にも言わない秘密だってこと、もう忘れたの? どこに敵の目があるか、わからないのよ」
「ここには俺しかいないんだし、気兼ねする必要はねえだろ」
御者は自動操縦のガーゴイルなのだからと、才人はルイズをうながした。
けれど、好意はうれしいけれども、こればかりは才人に相談してもどうにかなるとは思えない。
「あんた、魔法のことなんかわからないでしょう?」
「そりゃそうだが、落ち込みようがひどいからな。虚無だかなんだが知らないが、すごい魔法が使える
ようになったって、それだけのことだろ」
「はぁ、あんたの気楽さの半分でもあれば、わたしも気が楽なんだけどね」
『エクスプロージョン』の炸裂のとき、才人は魂を奪われていたために、その光景を見ていなかった。
それゆえ、ルイズがすごい魔法使いになったと言われても実感は薄かったのだろう。しかし、すごい
魔法使いという表現さえ、虚無の前には過少評価というべきだろう。
これを、あのエレオノールにどう説明すればよいかと考えるだけで、限りなく憂鬱になっていく。
そんなルイズの心境には思い至らず、才人は、むしろ「黙っていなさいよ」とか怒鳴りつけられたほうが、
まだましだと思った。から元気すらないルイズなど、まったくもってルイズらしくない。どうしたものかと
元気付ける方法を考える才人は、ふとかたわらに置いてあるデルフリンガーがやけに静かなのに気がついた。
「そういえば、デルフお前も何か言ってやれよ。このままじゃ葬式の帰りみたいでたまらねえぜ」
ここはデルフリンガーの軽口に期待しようと、才人はデルフリンガーを鞘から抜いて話しかけた。しかし、いつもは
饒舌なデルフリンガーが、今日に限ってはしゃべろうとしないので、才人は不審に思った。
「どうしたんだよデルフ、湿気でさびるのが嫌なのか? それとも、しばらく抜いてなかったんですねちまったか」
「……そんなんじゃねえよ」
「なんだ、ルイズに続いてデルフまでどうにかなっちまったのか? 勘弁してくれよ」
元来、めったなことでは物事を深刻に考えない才人は、大げさな身振りで呆れて見せた。しかし、ルイズも
デルフリンガーも黙り込むばかりで、才人は自分が出来の悪い道化のようで情けなくなった。仕方なく、おどけるのを
やめて真面目な口調でデルフリンガーに尋ねる。
「デルフ、お前らしくないぜ。なんで何も言わないんだよ」
「……」
「おい、おれのことを相棒って言い出したのはお前だろ? お前は口の軽い奴だとは思ってるけど、
嘘をつく奴だとは思ってないんだぜ」
「……そうだな、わりい相棒。少し、昔のことを思い出しててな」
「昔のこと?」
才人は、意外なデルフリンガーの答えに怪訝な顔をした。そういえば、デルフが自分のもとに来る前のことは
ほとんど聞かされていなかった。デルフリンガー……意思を持つインテリジェンス・ソード。魔法を吸収し、
自らの姿を変化させることのできる、自称伝説の剣。
考えてみたら、自分はデルフリンガーのことを何も知らずに振るっていた。相棒と互いを呼んでいたのに、
いつどこで誰が何のために作ったのか、一つも知らなかった。
「昔って、いつぐらいのことだ?」
「さあな、俺は生き物じゃねえから寿命ってやつがない。時間の概念ってもんが、当の昔にふっとんじまって
るんだ……けど、大昔だったのは間違いねえ。そう、虚無、嬢ちゃんの虚無に関するこった」
「なんだって!」
なぜそれを早く言わないんだと、才人だけでなくルイズも詰め寄る。お前は、昔に別の虚無の使い手と
会っていたのか? いったい虚無とはなんで、その人はどういう人だったのか、聞きたいことは山のようにある。
だがデルフリンガーは、期待をかける二人にすまなそうに告げた。
「すまねえ、話してやりたいのはやまやまだが、昔過ぎてなかなか思い出せねえんだ。さっきから思い出そうと
努力はしてんだが」
「おいおい、せっかく手がかりが見つかったと思ったのに。ほんとに、何一つ覚えてないのか?」
「いや、少しはある。例えば相棒、おめえに初めて会ったとき、俺はおめえを『使い手』と呼んだよな。
以前、俺を使ってたのもおめえと同じガンダールヴだった。それは感覚が覚えてんだ」
才人は、大昔のガンダールヴと言われて、今はルーンが消えてしまった左手の甲を見つめた。自分の
前のガンダールヴ、その人も自分と同じように虚無の担い手を守って戦ったのだろうか。
支援
ほかには? と尋ねると、デルフリンガーはうーんとうめいた後、自信なげに言った。
「始祖の祈祷書にも書いてあったと思うが、ブリミルは四つの秘宝と指輪を残してる。そして奴は三人の
子供と一人の弟子に、力も分けて残した。だから、担い手は嬢ちゃんを含めて四人いるはずだ」
「四人? そんなに!」
「ああ、そして四人の担い手と秘宝と指輪、使い魔が揃ったとき、虚無の力は完成する」
「虚無の力の完成って、何?」
「覚えてねえ」
「デルフ……」
がっくりと、二人は肩を落とした。
「ほんとだ。ただ、ぼんやりとだが……でっかくて訳がわかんなくて、俺なんかの想像を超えてた。
それこそ、世界を変えてしまいそうなくらいの……そのことだけは覚えてる」
「世界を、変える」
ごくりとつばを飲み込む音が二つ響いた。漠然とではあるが、初歩の初歩の初歩である『エクスプロージョン』の
度を超えた破壊力からすれば、完成型の威力はデルフの言うとおり想像を絶するものなのだろう。それが
もし悪用されたらと考えると、戦慄を禁じえない。
「シェフィールドの一味は、いったい虚無の力をどうしようというのかしら?」
ルイズのつぶやきに、才人も考え込む。聖地の奪還、虚無の存在する目的はそれだが、そんなことでは
あるまい。力を背景にしての世界征服、手口の悪どさからして九割がたそんなところだろう。そんなこと、
絶対に許すわけにはいかない。
二人はそれからも、デルフリンガーに覚えていることはないのかと散々尋ねた。そのことの努力の多数は徒労に
終わったものの、デルフリンガーのにわかには信じがたい話は、才人とルイズに半信半疑ながらも、おぼろげな
道を示したように思えた。
ただし、デルフリンガーは何かを思い出したら必ず教える、と約束するのに続いて、不吉極まる勧告を二人に残した。
「二人とも、これだけは覚えといてくれ。虚無の力は、四系統とは文字通り格が違う。ブリミルのやろうも、
わざわざ警告を残したくらいだ。お前さんが成長すれば、威力も上がるし使える種類も増えてくだろう。
だが、虚無のことを思い出そうとすると何か嫌なものがひっかかるんだ……もしかしたら、俺は思い出せない
んじゃなくて、思い出したくねえのかもしれねえ。何か……とんでもなく嫌な、悲しいことがあったような、
そんな気がするんだ」
それだけ言うと、デルフリンガーはしばらく考えさせてくれと言って鞘の中にひっこんだ。
才人とルイズは、デルフリンガーの話に大きな衝撃を受けて、頭の中の整理がつかずに押し黙った。
誰も言葉を発しなくなり、馬車の中はひづめと車輪の音、それに雨音だけが無機質に響いていく。
雨は先程よりも激しくなり、街道は彼らの馬車以外には通行している人影はない。
魔法学院までは、あと二時間くらいだろうか。ルイズは、始祖の祈祷書を握ったまま瞑目している。
才人も、次第に船を漕ぎ出した。疲れから、馬車の揺れがゆりかごに、雨音も子守唄のように
快く感じられて、睡魔が急速にやってくる。
このまま、着くまで寝てよう。才人は睡魔に抗うことをあきらめて、からだの力を抜こうとした。
だがそのとき、鼓膜の奥にわずかだが人の悲鳴のようなものが響いてきて、はっと顔を起こした。
「いまのは……」
「サイト、あなたも聞こえたの?」
ルイズも気づいたと見えて、鋭い目つきになっている。普通なら馬車と雨音に紛れて絶対に聞こえない
ようなかすかな声だったけれど、ウルトラマンAと合体したことによる作用で、二人は聴力が常人の何倍にも
強化されているのだ。
聞こえてきたのは前からと、揃って馬車の前の窓を覗く。しかし、雨足が強くて視界がさえぎられて、
前方の様子は霧のようにかすんで判別しがたかった。
「だめだわ、これじゃ何もわからない」
「馬車を止めて、歩いて探ってみるか。傘、あったよな?」
「ええ、座席の下に……待って、あれ何かしら?」
「ん? なんだ、電灯? いや、そんなはずないか」
いつの間にか、街道の行く先にぽっかりと二つの白い光が浮いていた。まるで、東京にいたころに
毎日見ていた道路の街路灯のように、街道をはさむように二つが同じ高さで浮いている。
なんだいったい? 正体を掴みかねて戸惑う二人に向かって、白い光はじわじわと近づいてくる。
いや、光ではなく二人を乗せた馬車のほうが近づいているのだ。
好奇心がわいて、二人は光がよく見えるところまで近づこうと思った。
ところが、光が近づいてくるにつれて街道の先にぽっかりと暗い穴のようなものが見えてきた。
”トンネル? いや、学院とトリスタニアのあいだにトンネルなんかなかったはずだ!”
背筋にぞくりと冷気を感じた瞬間、穴の中の上下に鍾乳石のようなとがった柱が幾本も見えてきた。
さらに、穴の奥には真っ赤な洞穴。いや、これは洞穴なんてものではない! その証拠に、白い光の
中に黒い瞳が動き、こっちを睨んでいるではないか。
「止まれぇーっ!!」
反射的に二人は叫んでいた。御者のガーゴイルが命令を忠実に実行し、馬の手綱を引く。
しかし、遅すぎた。勢いのついた馬車は止まりきれず、穴の中に突っ込んでようやく停止したとき、
天井が落ちてきて馬車を押しつぶそうとしてきた。
「きゃあぁーっ!」
「ルイズ!」
悲鳴をあげるルイズに、才人は覆いかぶさってつぶれてくる馬車から守った。だが、馬車の中に
何本もの鋭い柱が突き刺さってくる。馬車は踏まれた缶のようになり、馬は穴の奥へと悲鳴をあげて
落ちていった。
二人は、押し上げられるような感触を覚え、砕けた窓から外を見て絶句した。森が、街道が空から
見たときのようにはるかに下にある。このとき確信した。自分たちは何か巨大なものの口の中へと
飛び込んでしまったのだ。
馬車を咥えた巨大な何かは、歯ごたえでそれが何かを確かめているようだった。そうして、それが
食べ物ではないとわかると、ぺっと外へと吐き出した。馬車は地面に激突してグシャグシャになり、
その何かは興味を失ったかのようにきびすを返そうとする。
だが、そのとき!
「ヘヤァ!」
上空から急降下してきたウルトラマンAのキックが、何かの背中に炸裂して吹っ飛ばした。
間一髪、馬車が押しつぶされる直前に、才人とルイズは合体変身することに成功していたのだ。
着地したエースは、構えをとって敵を見据える。
しかし、起き上がってきた敵の姿に、才人は愕然としていた。
細身の体に、タツノオトシゴのような頭。らんらんと光る両眼に、なによりもその赤一色の姿。
支援
(赤色火焔怪獣バニラ! なんでこんなところに!?)
(サイト? 今度は知ってる怪獣なの)
知っているどころの話ではない。ウルトラマンに少しでも興味があれば、バニラの名前は知らない
ほうがおかしいほどだ。
かつて、地球上に栄えていたといわれる古代文明ミュー帝国において猛威を振るっていた、
赤い悪魔と呼ばれていた恐るべき怪獣。かつても、科学特捜隊や防衛軍の攻撃がまるで通用せず、
オリンピック競技場を壊滅されられたことをはじめ、暴れるにまかせられた東京は甚大な被害を受けている。
その、バニラがなぜこんな場所にいるのか? 才人は理由がわからず戸惑った。
けれど、戸惑う才人とは裏腹に、ルイズの腹は明確に決まっていた。
(サイト、そんなこと考えるのは後でいいわ。怪獣が出たんなら、こいつが街に向かう前に倒すべきでしょう)
こういうとき、ルイズのほうが現実的な思考をする。幼い頃から魔法を使えず、なぜ自分は魔法を
使えないんだろう。といちいち考えるのをあきらめ、ひたすら困難にぶつかってきた経験が形を変えて生きていた。
(そうだな、ルイズの言うとおりだ)
才人も、考えるよりもやるべきことがあると気がついた。同時に、ルイズへの信頼感と、ある意味の尊敬を
深くする。いかなるときでも折れない芯と、気高さが彼女の魅力なのだ。
寒風吹きすさび、雨がみぞれに変わりつつある嵐の中で、ウルトラマンAの戦いが始まる。
「トァァッ!」
先手必勝、エースは体当たり攻撃を仕掛けた。肩から突っ込み、バニラの胸板にぶつかっていく。
衝突! 太鼓を百個同時に打ち鳴らしたかのような轟音が響き、衝撃が木々の枝を揺さぶる。
組み合ったエースとバニラは、エースが身長四十メートル、バニラが五十五メートルだから頭一つ分
バニラがエースを見下ろす形となる。しかし、戦いは体の大きさだけで決まるものではない。エースは、
組み合ったまま、バニラの胴体へと膝蹴りを繰り出す。
「デヤッ!」
相手の動きを封じたままの姿勢での、巨岩をも砕くエースの攻撃が連続して炸裂する。
だが、バニラは細身の体に見合わぬ力で、がっしりとエースの攻撃を受け止めると、すかさず腕を
ふるって逆襲に転じてきた。
「ヘアッ!」
振り下ろされてきたバニラの腕を、X字にクロスさせた両腕でエースは受け止めた。
(くっ! 重いっ)
しびれるような感触が、両腕を通して体に伝わってくるのをエースは感じた。完全に止めたはずなのに、
まるで斧で打たれたような、強烈な感触だ。細身に見えてこの怪力、まともに組み合っては不利だと、
エースはガードを解くと、バニラの腹をめがけてキックを入れる。
「ヌンッ」
中段からの体重を込めたキックが、バニラの腹に当たって後退させた。
(よしっ、いまだ!)
間合いが開き、チャンスを逃してはなるまいと才人の檄が飛ぶ。エースはそれに応え、バニラへ
攻撃を続行した。人間に似た形の腕で掴みかかってくるバニラの攻撃をかわしつつ、比較的柔らかそうな
腹にパンチの連打を浴びせ、反動で距離が開くと助走をつけてドロップキックをお見舞いする。
(いいわよ、その調子)
(そのまま一気にいけっ!)
エースの猛攻に、ルイズと才人も歓声を送る。キックを受けたバニラが、森の木々を巻き添えにしながら
倒れてもがいているところへ、馬乗りになったエースはパンチを連打して追い討ちをかけていく。だが当然
バニラも無抵抗ではなく、鳥の鳴き声のような叫びをあげてエースを振り払い、尖った頭を打ちつけて
反撃を繰り出す。
(右だ! エース)
肉体を共有している才人の叫びで、エースはバニラの頭突き攻撃を寸前でかわした。そして、空振りして
体勢を崩したバニラの頭にキックを浴びせ、バニラは悲鳴をあげて倒れこむ。
(いいわよ。このままいけるんじゃない!)
優勢に運ぶ戦いに、先日から閉塞感を感じ続けていたルイズは胸のすく思いを感じていた。才人の
ほうも、理由はともあれ元気を取り戻してくれたルイズにならって「いや、まだ油断はできないぞ」と
言いながらも声色が浮いている。
ウルトラマンAの攻撃は着実にバニラをとらえ、エースの勝利は疑いないように思われた。
しかし、湧き上がる二人とは裏腹に、エースは攻撃を加えるごとに違和感を感じていた。
確かに、攻撃して手ごたえはある。攻撃が着実にヒットしているという自信はあるのだが、それが
ダメージに結びついているという実感がわかないのだ。例えば、腹など弱そうな部分を狙って打っても、
バニラにはこたえた様子がない。
戦いを見つめているうちに、才人も次第にそのことに気づいてきた。至近距離からのパンチを受けても
なおバニラは平然と立ち上がってくる。
(なんて頑丈な奴だ!)
そのタフさに才人は舌を巻いた。エースのパンチは蛾超獣ドラゴリーの体を貫いたほどの威力があるというのに、
耐え切るとは恐ろしい奴だ。いや……それにしても異常だと才人、それにエースは感じ始めていた。
このバニラは、これまでに見るところでは科学特捜隊が交戦した初代バニラと大きく変わるところはない。
なのに、この異常なまでのタフネスさはなんなのだろう? 無限の体力を誇る怪獣は、液汁超獣ハンザギラン
など例はあるが、バニラにそんな能力があると聞いたことはない。第一、ウルトラマンと戦う前に倒された
怪獣なので、倒せないはずはないと思っていたがとんでもない。才人は、自分の知っている中で、何かバニラの
特徴に見逃しているところはないかと考えた。
古代ミュー帝国において、赤い悪魔と恐れられた怪獣。性質は凶暴で……いや、能力自体はそこまでの
脅威ではない。バニラと同程度の怪力や能力を持つ怪獣などは、探せばいくらでも見つかる。はるかに文明が
進んでいたと伝えられるミュー帝国の人々をして、悪魔と言わしめたものはそんなものではないだろう。
ならばと、才人は考える。確か、バニラは同時に暴れていたもう一匹の……
(そうか!)
頭の中でピースが組みあがったとき、才人にはなぜバニラが恐れられていたのかという理由がわかった。
もしこの仮説が当たっているとしたら、このままバニラといくら戦い続けても無駄でしかない。
そのとき、バニラの口が開かれると、真っ赤に裂けた口腔からさらに紅蓮の火焔がエースに向かって放たれた。
「ヌオオッ!?」
近距離にいたエースは火焔を避けきれず、胸に直撃を受けて大きくのけぞった。
これが、バニラが赤色火焔怪獣と呼ばれるゆえんである。
(エース!)
(北斗さん!)
(大丈夫だ……)
直撃を受けた箇所を押さえて、エースは苦しげに答えた。バニラの火焔は二万度の熱量を誇ると言われ、
エースの胸は大きく焼け焦げている。口では大丈夫というものの、そんな生易しい傷のはずはない。
その証拠に、カラータイマーも青から一気に赤の点滅を始めた。
この機を待っていたと、バニラはエースを見下ろしてさらに火焔を放射した。
(避けて!)
(くっ!)
転がり避けた後を火焔がなぎ払い、森が一瞬のうちに炎に包まれていく。しかも、勢いあまった炎は、
そのまま数百メイルに渡って森を焼き、炎の壁ともいうべき森林火災が引き起こされた。
(な、なんて炎なの!?)
(バニラの火焔は、空の上の戦闘機を狙い撃ちできるほどの射程もあるんだ。エース、もう時間がない。
一気に決めましょう!)
カラータイマーの点滅は、バニラとの格闘戦が長引いたことで急速に早まっている。これ以上引き伸ばされては
光線技を放つエネルギーもなくなる。エースは、この戦いはここで終わらせると決意すると、腕をL字に
組んで最大の得意技を放った。
『メタリウム光線!』
赤、青、黄の輝きを放つ光の奔流が驟雨を貫いてバニラへ向かう。いかに奴が頑丈であろうとも、これを
喰らえばただではすまないのは確実だ。
ところが、バニラは避けようとするどころか火焔をメタリウム光線に向けて放射した。
(なにっ!?)
三原色の光線と、灼熱の火焔が空中で衝突して激しいエネルギーのスパークがほとばしる。三人は
信じられなかった。火焔がまるで障壁と化したかのように光線を受け止めている。そしてついに、メタリウム光線は
バニラに届くことなく空中ですべてかき消されてしまったのだ。
エネルギーを大量に消耗し、エースはがくりとひざを折った。カラータイマーの点滅は一気に限界まで達し、
才人は愕然としてつぶやいた。
(メタリウム光線を防ぐなんて……なんて奴なんだ)
起死回生の一手もしのがれて、もはやエースにはまともに戦うだけの力は残されていなかった。
バニラは、今の攻撃がこちらの最後の切り札だったことを見透かしたかのように、安心して悠然と向かってくる。
(いけない! 奴が来るわよ、エース立って!)
(くっ!)
急激な疲労感の中で意識が遠のきかける中、ルイズの叫びでエースは我に返った。目の前まで
迫ってきたバニラに飛び掛り、投げ倒そうとする。だが、逆に軽く弾き飛ばされてしまった。
「ウッ、フゥゥーンッ……」
地面に叩きつけられ、エースから苦悶の声が漏れる。森の木々をへし折り、仰向けに倒れるエースは
起き上がることもできずに、平然と接近してくるバニラを見上げることしかできなかった。
(エース! バニラがくるぞ! がんばれ、がんばってくれ!)
(そうよ! あなたが負けたら誰がこの世界を守るの。お願い、立って!)
苦しむエースの心に、才人とルイズの必死の叫びが響く。二人とも、エースがダメージを受けたことによる
反動で、すでに激しい苦痛を受けている。それにも負けずに呼びかけてきた声にはげまされ、エースは
最後の力を振り絞った。起き上がろうと、しびれる腕に鞭を打ち、地面に手を着いて体を支えようとする。
だが、バニラはそれすらも許さなかった。火焔を放ち、周辺の森ごとエースを炎に包み込んだのだ。
「ヌワアアッ!」
(うあぁぁっ!)
(きゃああぁぁ……)
太陽が地上に出現したような業火の中に、ウルトラマンAの姿が飲み込まれていく。
バニラの勝ち誇った遠吠えが、暗雲の中にとどろいていった。
続く
来週に続きます。支援をいただきましたお二人の方、どうもありがとうございました。
20巻が発売され、なんとあと2巻でゼロ魔も終わってしまうらしいですね。寂しいですが、終わりのないものは
ありませんので、受け入れるしかないですね。
私のほうは、終わりは考えてあるのですが、まだ少々かかりそうです。でも、書くことはどんどん頭の中に
浮かんでくるので、あとは時間だけほしいです。
新設定も、いまのところプロットに影響するものはありません。
では次回は虚無の謎編第三回です。原作を失わないように、ウルトラシリーズの味を加えたつもりですので
ご期待ください。また、バニラと対をなすあの怪獣も登場です。
なお、断言しますが、バニラは決して弱くはありませんよ。
それから、昨日お絵かき掲示板のほうでガイアの絵を描いてくださった方、こちらでも念のためにお礼申し上げておきます。
うまい方が多数おられるここで、自信をなくしそうになることがときたまありますが、手間隙をかけて描いてくださった
絵を見ますと、こんなに応援してくださる人がいてくれるんだと自信が戻ってきます。
乙
ウルトラ乙
ウルトラの人は生産性高えな
みんなこうなら神スレなんだが
やっぱりあの二匹か…
>今のうちに開封して、中身を確認しておくのよ
この怪物物ではお約束なんだが、科学者という人種は悪い意味で前向きすぎるw
×この怪物物
○この手の怪奇物
orz
さすがにストックは貯めてると思うけど
それなりのペースで書き足してかないとこうはいかないだろう
恐ろしい執筆速度だ
ウルトラの人乙でした。
今回のミイラ人間はなんとなく本家のものよりグリッドマンのメカバギラ回に出てきた
ミイラの姿を連想してしまいました。
さて来週は二大怪獣登場ですか。果たしてエースはどう迎え撃つのか、
パワーアップした怪獣の秘密とは、そしてバニラはあの因縁の相手に勝てるのか・・・
次回も楽しみにしています。
原作は来年で終わってもウルトラの人の作品はまだまだ続きますようこれからも応援していきます。
ウルトラ5番目の使い魔作者さん、乙でした。
バニラ凄まじく強いな、バニラへの有効策といえば、やっぱり溶解系の
エースシャワーだろうか?
>>124 もっとガンガン読みたいよな…ラノベ買ったら一気に読んじゃう俺のようなタイプはつらい
でも、作者さん達を一段高いとこに置くわけじゃねーけど、変な注文つけてやる気を削ぐ勘違い君がここにもいるしな
毒吐きスレでもねーのに上から目線で命令とか
最近、大手プロバイダーの規制が激しいから
投稿したくても投稿出来ない人もいるだろうしな
賢王の人もOCNとか言ってたけど、あそこは頻繁に規制されてるしな
避難所へ投下して代理投稿という手もあるにはあるけど、
行数とか勝手が微妙に違うから使いづらいんだよな
OCNは地域差もあるな
>>131 萌えゼロの人もOCNだったって前に言っていたよね?
地域差はあるんだろうけど、最近の運営はOCNを目の敵にしたような
無差別規制するからねぇ…
OCNって大手だからそういうバカが加入している数も
大きくなってしまうってだけでしょ。
135 :
hiro:2011/02/27(日) 19:01:37.14 ID:mg9Br+9X
>>121 ウル魔の方乙です!
台詞と言い背景の描写と言い更新速度と言いとてもすごいです
私もゼロ魔の小説書こうと考えているのですが小説を書く上で何かアドバイスをお教えいただけますか?
質問スレじゃないんだからsageろよ。
叩かれても泣かないで完結するまで続けること
作法ならググれはいくらでもでてくる
あとここでやるなら
>>1ぐらいは読んでから書き込もうな
書き手にもこういう手合いがいるのがなぁ…
逆にもうタイミング良すぎてなりきりかと疑わしいぐらいだな
139 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/02/27(日) 19:56:36.09 ID:XPn1jD2R
2ch、というかネットそのものの初心者って感じがするな。
悪い人に騙されないか心配だ。
しまった、sageが消えてた……これじゃ道化もいいところじゃないか
sageだけに、落ちがつきましたようで
だれうま
そういえば、ザラガスといい、ドラコといい、今回のバニラといい、ウル魔で単独でエースに
勝ってる怪獣は初代マンの奴ばっかりだな(ドラコは半ばパワード版だし、バニラはまだ決着
ついてないけど)。
それだけ初代ウルトラマンが強かったってことだろうか。
>>143 目立ったところが無いように見えるがかなりのベテランだからな。
しかしウルトラさんがこれからエルフ側の描写をするとして鉄血団結党は出てくるのかね?
ラストは大体決まってるみたいなんで仮に出るにしてもさほど重要な役ではなさそうだけど。
こんばんわ
十分後に投下します
>>99 OH……前回のミクロ小ネタの時のままでした 失礼
「はあ……今日はもうダメかな……」
図書館やコルベールの研究室から構内のあちこちを回って、それでも会えないことにクリフはうんざりとして呟いた。
道中人に尋ねてみたりもしたが、ほとんど知らないという答えばかりで、たまに見かけたという話を元に追いかけてみてもすでに
そこはもぬけの殻。どうやらオスマンに言われたコルベールもこちらを探して歩いているようで、お互いに入れ違いを繰り返してい
るらしい。
「うーん。どうも運が悪いなぁ。どこか一つの場所で待っていたほうがいいかな?」
コルベールに会えないことには話がはじまらない。これではまるでいたちごっこである。
「となるとやはり図書館あたりが妥当だけど。もしくは、夜を待って彼の研究室かな。いや待てよ、その前に夕食時に食堂にいれば
……ん?」
ふと、窓の外が視界に入った。なにやら、少し開けた広場に大勢の生徒が集まって騒いでいる。
「どうしたんだろう? なにか催し物でもやってるのか?」
見ると、数人の人間を取り巻いて、見物人のような周囲がやんやと騒ぎ立てている。
「なんだろう……。ん、あ……あれ!?」
よく目を凝らしてみると、集団に囲まれた広場の中央に、ピンクの髪の大男が立っていた。その脇には黒髪の才人と、なぜかおび
えるようにして噴水の陰に隠れているシエスタの姿があった。
「な……なんだ!? なにをしてるんだあいつは!?」
愕然として目を見開いたクリフの耳に、中央の数人のうち知らない金髪の少年が大声で謳い上げた声が聞こえてきた。
『さあ諸君! 決闘だ! 決闘がはじまるぞ!』
……な、け、決闘!? なんだ!?
『戦うのはこの『青銅』のギーシュ! ギーシュ・ド・グラモンと、名もなき平民が三人! うち二人は、あのヴァリエールの使い
魔だ! 軽くひねってくれよう!』
宣言を終えると、少年は手にした造花らしき花を構える。
ヴォルフを見るとやる気満々らしく、手首をぐりぐりと回していた。太い笑みが浮かんでいる。
「あ……あのバカ!? ま、まさか!?」
視界の隅で、誰かが泡を食って走ってくる人影が見えた。桃色の美しい髪が風に流れている、ルイズだ。その後ろにキクロプスが
ついてきていた。どうやら騒ぎを聞きつけて現場に向かってきているようだ。
クリフの脳裏に、苦い記憶がいくつもフラッシュバックした。エグリゴリで胃を痛めながら暮らしていた日々の、思い出したよう
に行われる馬鹿主催の大騒ぎ。
まずい、いかん、まさか。またやったのか、……またやりやがったのかあの大馬鹿野郎!!
クリフは慌てて広場に向かう。
「おーい! おーい! はぁっはぁっ、な、なんだ! なにをやってるんだ!?」
息せき切って走ってきたクリフに、ルイズとキクロプスが振り向いた。
「はぁっはぁっ、ヴォ、ヴォルフは!? サイト君とシエスタは!?」
慌てて二人に聞いてみるが、ふるふるとルイズは首を振る。
「わ、わかんないわ! でも、あのドデカオカマが決闘するって! わたしもさっき聞いて、急いでこっちに来たの! もう、いく
ら大きくてちょっと怪我が治るからって、あまりに無茶よ! 大変!」
「くそっ! ちょっと、通してくれ! 悪い!」
見物人の生徒達を押しのけ、クリフは取り巻きの内側に押し入る。
「おい!! おいヴォルフ!! なにをやっている、やめろこのバカ!!」
クリフが叫ぶと、ヴォルフは振り返って口を尖らせて呟いた。
「あら、もう見つかっちゃった。もうちょーっと遅れてきてもよかったのに」
「ふざけるな!! お前はなにを考えてるんだ、こんな大騒ぎをして! 決闘ってなんだ!?」
「さあ? ケンカみたいなもんじゃないの。挑まれちゃったからしょうがないでしょ」
軽い調子でヴォルフが肩をすくめる。
「ふざけるなと言っているだろうが!! 状況を話せ、とにかく騒ぎをやめろ! お前はこんなところで大暴れでもするつもりか!?」
事態はよく分からないが、こんな注目を集めている場所で大ゲンカなどさせるわけにはいかない。ただでさえこちらが何者かをで
きるだけ周囲に知らせないようにするべきなのに、バカ騒ぎをしてどうするのか。そもそも、大恥もいいところである。
「そう言われてもねぇ。もうどうにもできないカンジ?」
ヴォルフは囃し立てる聴衆をぐるりと見回す。
「……ね? もうこれだけ騒がれちゃやるしかないじゃない? いまさら後に引くってのも無理だと思うけど」
「いいからやめろといったらやめろ!! お前こういう騒動は何度目だと思ってるんだ、もう数え切れないぐらいだ!! お前は僕
の胃を破壊するつもりか!?」
「まあまあ。そうは言っても、もうエグリゴリの中じゃないんだし。クリフも上からどやされることもないんだからいいじゃないの」
「そういう問題じゃない!! アホかお前は、いい加減にしろ!! さもないと学院の外にまで放り投げるぞ!? 今すぐにやめる
んだ!!」
「えーでもー、ねえ?」
ヴォルフが視線を外して、先ほどギーシュと名乗っていた少年に目を向ける。
「今更ドタキャンなんて、この坊やは許してくれなそうよ?」
「……そうだ、もはやこの決闘は避けられない。悪いが、見物人は隅に寄って見ていてくれないかね? ぼくの魔法に巻き込まれて
も責任はとれないぞ」
ギーシュは鼻息荒く、ヴォルフから目線を外さないまま言った。
「このバカは何度言ったら……!! ……ふう、ああ、君。僕の仲間が迷惑か失礼をかけたと思う。申し訳ない。許してくれないか?
この通りだ」
「頭を上げたまえ。きみもそういえばそいつのお仲間だったな、ヴァリエールの使い魔くん。避けられないものは避けられないのだ。
なんなら、きみも参加してもぼくはかまわないぞ。まとめて叩きつぶしてやる」
クリフは少年にくん、やきみなどと呼ばれる年ではないが、この少年はよほど頭に来ているらしい。どうにも説得は通じそうにない。
「おいヴォルフ、お前なにをした? どうせ下らんことだろう、頼むからもうやめろ。僕も本当に怒るぞ!?」
「別になにもしてないわ。あ、疑っちゃダメよ。ホントになにもしてないもの。わけのわかんないイチャモンつけられて、しょうが
ないからここにいるの」
「嘘をつけ!! そういう人間がこんな場でにやついてるわけがないだろうが!!」
「あ、バレた。ま、ちょっとからかったわね? でもねぇ、本当に発端はアタシ達じゃないのよ。この坊やが女の敵だった、ってこ
とよ」
ヴォルフの言葉に、フン、とギーシュは鼻を鳴らす。
「まったく、薔薇の意味も分からないとは。これだから下賎な平民は困るのだ。黙って貴族にかしずいていればいいものを」
ずいぶんと過激なことを言う。少々、厭らしい言葉の響きである。
「はぁ……。おい、サイト君。ちょっともうよく分からない。どういうことなんだ?」
ヴォルフの隣でつまらなそうにギーシュを見ていた才人に問いかけてみる。
「さあ、俺もわかんないけど。でも、こっちが悪くないっていうのは本当ですよ。あのあと、洗濯物を畳みに行ったらこいつが絡ん
できて。で、シエスタがいじめられたから文句言ったら勝手にキレたんですよ」
「なに? ……うーん、本当だろうね?」
「うん、本当。ケンカ売ってきたから少しぐらいは言ってやったけど、元々はマジでわけわかんないし。俺達に言ってもしょうがな
いよ」
「……うーむ……」
どこまで本当だか分からないが、そうだとすればまずヴォルフは意地でも引かないだろう。今ここで力づくで抑え込んでも、絶対
に後々逆にケンカを売りにいくことは目に見えている。そういう男である。
「ふん。ぼくは見苦しい弁明はしないよ。決闘だ、勝者こそが正義さ」
才人の声を聞いていたギーシュが、薔薇をあしらった杖を口元に寄せながら呟いた。
「お前には弁明なんて言われたくねえな。この二股野郎、人に当たり散らすんじゃねえよ」
才人もまた、ギーシュに対して好戦的な姿勢を崩していない。どうやら彼もやる気のようである。うーむ、これはどうするか……。
とりあえずクリフは、まだ噴水の陰に隠れて震えているシエスタのところへ向かうことにする。
「シエスタ。シエスタ、大丈夫かい? 怪我をしていないか?」
なるべく優しく言葉をかけてやると、シエスタが顔を上げた。泣き腫らした顔をしていた。
「あ、あう、く、くりふさん……」
「ああ、かわいそうに。安心するんだ。もう大丈夫、僕が来た。さあ、涙を拭いて。ハンカチだ……なにが起きたんだい?」
シエスタは言葉が出ないのか、あうあうと繰り返す。やがて、クリフにがばっと抱きついた。
「わっ。ちょっと、シエスタ?」
「あううう、や、やです私。し、しにたくないです。ううう〜……」
ぐすぐすと泣きはじめる。恐怖と混乱で、ちょっと恐慌状態になっているらしい。
「……よし、よし。大丈夫。大丈夫だから、落ちついて。話は分からないが、君は死なないから。死ぬことは絶対にないから落ちつ
いて」
ぽんぽん、と背中を叩いてやる。とりあえず安心させなければ、このままでは話も聞けない。参ったなぁ。
「おい、そこの。そのメイドもぼくの決闘の相手だ。邪魔をしないでくれないか」
剣呑なことを言うギーシュ。それが耳に入ったシエスタが、さらに強くギュッとクリフを抱きしめて、ひんひんと泣き声を出した。
なにを言っているんだこの少年は。こんなにも怯えきった、ただのメイドを苛めてどうするというのか……?
「……話は分からないが。とにかく、彼女はもうこの有様だぞ? もうやめてくれないかな?」
「黙りたまえ。ぼくを侮辱した罰だ、責任は連帯でとってもらう。無関係ならでしゃばるんじゃない」
ずいぶんとまあ、無茶なことを言う少年である。
クリフは大きくため息をついた。一体何なんだ、という気分だ。どちらにこの諍いの非があるのかは分からないが、シエスタを見
る限りではどうも彼女に問題があったとはクリフには思えなかった。大方、ヴォルフあたりが何かやったんだろうと当たりはつけら
れる。
「……あー、その、君。ギーシュ君、と言ったね? 重ねて言う、その巨大なバカに代わって謝るよ。頼むから許してくれ。どうし
ても我慢ならないとなら、ヴォルフは好きにして構わないから。せめて、シエスタだけでも……」
「ふん。でしゃばるな、と言っている。それに、君などと馴れ馴れしいぞ平民。見物するなら横で見ていたまえ、なぜきみが仕切る
んだ」
ギーシュの返答はにべもない。やはり、説得は通じないようである。向こうが聞く耳を持たない以上、シエスタだけ解放させて騒
ぎたい者同士で勝手にやらせる、という手もできないらしい。
どうやら、これはもうやる以外に選択肢はないようである。しかし、出来る限り早期に帰還することが目的である以上、あまり注
目を集めたくはない。そして、クリフの趣味でもないのだが。
のではあるのだが、誰も彼もがやる気だし、ギーシュは興奮していて言葉での解決はできそうもなく、シエスタはひどく怯えて泣
いている。周りを取り囲むギャラリーもこの騒動に興奮して見つめていた。中にはトトカルチョまでやっている生徒の姿すら見えて
いた。
……うーん。仕方がない、か。ともかく、このまま放置するわけにはいかない。
こうなったらバレても諦めるしかあるまい。とりあえずエグリゴリの目はない異世界なので、手の内を晒しても危険はあまり考え
られないのは事実ではある。……なるべくは隠すつもりだが。子供じゃあるまいし、ひけらかしても仕方がないのである。
「……はあ。よし、分かった。じゃあ僕と交代してくれないかな? 君だってこんな女の子をいじめて楽しいわけじゃないだろう?
周囲の目を考えてみてくれ、それで勘弁してくれないかな……?」
クリフが提案すると、ギーシュは顎に手をやった。すこし逡巡してから答える。
「む……まあ、いいだろう。薔薇たるぼくがあまり女性を泣かすのも、……確かによくないと思ってはいたんだ。代わりに、きみが
八つ裂きになりたまえ」
……八つ裂き、ね……。
「あら、クリフも参加するの?」
少し驚いた顔でこっちを見たヴォルフが、意外そうに声を出した。
「へーえ、珍しいわね。いつもはバカ騒ぎを鎮火する側なのに。根こそぎ全部なぎ払って」
「……適当なことを言うな。僕はいつだって被害を最小限に食い止めてるだろう」
「あら、そうだったかしらねぇ?」
にひひ、と意地悪そうに笑う。仕方がないだろう、血の気だらけの戦闘サイボーグとの殺し合いを止めるには、そうでもしないと
収まらないんだから。
「あ、え、あ……だ、だめですくりふさん、……く、クリフさんは関係ないです……だめ、し、しんじゃう……」
ぽろぽろと泣きながら、シエスタがしがみついてくる。指先が震えていた。
「大丈夫だよ、シエスタ。もう怖がらなくていい。なんとでもなるから」
「ち、違います……! わ、私の……私の身代わりに、なんて……! だめ、だめです……! あ、相手は貴族……!」
「大丈夫だ。これぐらい、問題じゃない。たった一人じゃないか。僕が死ぬにはちょっと足りないね? さ、安心するんだ」
「でも、でも……! 違います、一人でも相手は……!」
「分かってるよ。魔法を使うんだろう?」
「……え?」
クリフが言うと、シエスタはぽかんとした顔をした。
「……君の姿を見れば分かる、なるほど。一般人は魔法を使えないんだね? だから今、君は怖がっている。でも、大丈夫なんだ」
「え……? だい……じょ……?」
「僕を信じろ。僕は死なない。誰も死なない。このバカらしいお祭り騒ぎはすぐに終わって、誰も大した怪我もせず、すぐに平穏な
日常が来る。約束しよう」
正直、魔法というのがどこまでできるのか未知数ではある。しかし、この学院内に散見される文明度や発達具合から予測すれば……
まあ、たぶん問題はない。
例えば城壁一つとってみても、なんらかの強化は為されているが、それでもただの石材で作られている。逆に言えば、これが通用
する相手を想定して防御に用いている、ということだ。ならば、ジャバウォックのようなとんでもないのがそうそういるわけもない
だろう。
「……」
「大丈夫。さあ、手を離して」
するり、とシエスタの手が体から離れた。不思議な顔をしてこちらを見ていた。クリフはゆっくりと立ち上がる。
余裕の笑みを浮かべながらギーシュが言った。
「ずいぶんと待たされたが……そろそろはじめようじゃないか。いい加減、ギャラリーも待ちくたびれてしまったようだしね」
「すまなかった。しょうがない、さっさと終わらせよう。こうしているのも、僕は恥ずかしくて仕方がないんだ。まるで馬鹿者の一人
になったみたいでね」
「ほう……。神聖な決闘を侮辱するとは。まあ、平民には分かるまい。しかし……丸腰じゃないか。これでは勝負にもならん。それ」
ギーシュが軽く造花のような杖を振るうと、銅でできた剣が三振りほど出現する。
それを見た才人が驚いた声をあげた。
「お!? なんだ今の、剣が出たぞ? 手品?」
そうか、そういえばとクリフは思った。才人ははじめて魔法を見たのだ。いきなり見たら驚くのも無理はない。
「さあ取りたまえ。それをはじまりの合図としよう」
ギーシュの言葉に、クリフをその剣をじっと見つめてから呟いた。
「……僕はいらないな。誰か欲しい奴はいるか?」
「アタシもいらないわねぇ。素手でいいでしょ」
ヴォルフは愛用のナックル・ガードすら出さず、ぶぅんと太い腕を回して呟く。
「俺もいらないよ。よくわかんねえけど、あんな弱そうなの余裕じゃん」
才人もまた、拳を手で打って言った。
……才人は普通の少年に見えるのだが。どうやらおそらく、相手は魔法を使うことをよく知らないようだ。今のも手品だと勘違い
していたようだし。
「サイト君、あの彼はたぶん魔法を使うよ。火の玉を出すかもね」
「え、嘘。マジで? あ、ひょっとして今のも!?」
「ここは異世界だぞ? 一応、持っておくといい。……まあ、必要はないかもしれないが」
そう言われた才人はわずかに考えてから、頷いた。
「そう言うなら……じゃあ」
才人が青銅の剣を握った。
「さあはじまりだ。……ワルキューレッ!」
ギーシュの造花から青銅製の花びらが舞った。
その花びらはひらひらと空を踊ったかと思うと、突然大きく広がり三体の人形が現れる。
「うおっ、なんだありゃ!?」
才人が急に現れた銅像に目を見開いた。
「魔法だね。ふむ、ワルキューレということは、意匠は戦乙女かな? 女性剣士の形をしているが」
何気ないようにクリフは呟く。
「ずいぶん余裕だな、クリフとやら。ワルキューレの伝説を知っているのかね? 少しは学があるようじゃないか」
「どうだろうね? さて……」
ギーシュを適当にあしらいつつ、クリフは目を細めて現れた銅像を観察した。さっき話していた間に、クリフはすでに『魔王』の
展開を終えている。奇襲に備えて一応念のために精神シールドを広げておいたのだが、必要はなかったかもしれない。
「……君の魔法は……以上かな?」
面倒なのでニュートラルのフィールド状態に切り替えつつ言った言葉に、ギーシュの眉がぴくり、と跳ねた。
「ふん、大口を叩くじゃないか。だが、三体もいれば十分だろう。むしろきみ達には過ぎた相手だ」
「へえ、そうかい」
口ぶりからすると、どうやらこれでタネは終わりらしい。もっと数は出せるみたいだが、これではお話にもならなそうである。
こっちに来てから念動が大きく弱まっているような気がしていて、それが不安要素だと思っていたがこれなら大丈夫だ。ざっと
『魔王』で触ってみても、変わったものを隠しているわけでもないようだ。
「……ふむ、青銅製だ。間違いないようだな」
「その通りだが? まあ、見た通りさ。おっと、ぼくとしたことが大切なことを忘れていたな。ぼくはギーシュ。『青銅』のギーシ
ュだ。きみ達も名乗りたまえ」
ぴっと杖でこちらを指してくるギーシュ。
「……二つ名、か。……こっちは、名乗るほどでもないさ。ただのクリフでいい」
そう、名乗るほどでもない。何が『魔王』だ。魔獣の本気に苦もなく叩き潰され、キースのグリフォン、魔鳥には一蹴されてしま
った。名前負けもいいところである。
しかし、そんなクリフの気持ちとは裏腹に、ヴォルフが楽しげな顔をしながらクリフの肩を突っついてきた。
「なによクリフ、名乗りなさいよ。カッコいいの持ってるじゃないの」
「いいよ……恥ずかしい。それより早く終わらせよう」
「ダメよ、楽しみなさいよ。もーノリが悪いんだから。じゃあ……サイト君から!」
急に振られた才人がえ? という顔をする。
「え、えっと……じゃあ、『勇者』の才人!……とかどう?」
「うーん……いんじゃない? アリよアリ、イケてるじゃないの。よっしゃ、じゃあアタシね。アタシはヴォルフ。『不死身』のヴ
ォルフよ。以後、お見知りおきを」
手を広げて、どん、と自分の胸を叩き、ヴォルフは大仰に名乗りを入れた。心底楽しんでいる顔である。
「さ、クリフ。オオトリお願いね?」
「お、おい。やらないと言っただろ。僕は恥ずかしいからいやだ」
「なに言ってるのよ、さっさと終わらせたいんでしょ? じゃ、ちゃちゃっとやっちゃいなさいよ。ほらほら」
ヴォルフは無理やりに薦めてくる。くそ、もうなんなんだ……。
「……僕は……」
魔王。
セイタン、と呼ばれた。
人と人との繋がりを持ち、その架け橋になれるエンジェル、天使のユーゴーと対極の皮肉を込めて。破壊し、なにも生み出さない
悪魔として。時には、畏怖と憎悪を呼び名の中に塗り込めて。
「……僕は『魔王』。『魔王』クリフだ」
「はっははははは! 『勇者』に『不死身』に『魔王』と来たか! これは愉快だな、おい!」
ギーシュがけたたましく笑い声を上げた。周囲からのそれに同調するような、大きな嘲笑にクリフ達は包まれる。
「……くう……!」
クリフはもう真っ赤になっていた。あまりにも恥ずかしい、くそ。なんだって言うんだ、こんな子供達に思い切り笑われて。バカ
は僕じゃないか。
「なによクリフ、胸張りなさいよ。嘘言ってないじゃない? アホガキの言う事なんか気にしちゃダメよぅ」
「もういやだ……お前の言う事につい乗ってしまった僕がバカだった。もう、一刻も早く終わらせなければ」
恥ずかしさを紛らわせるためにクリフは思わず呟いてしまった。
とは言っても、できる限り手の内を晒さないという基本方針は変わっていない。今後の厄介ごとを避けるためにも、最小限でいく。
要は舐められない程度で済ませばベストだ。
「……僕が出るまでもない。ヴォルフだけでいいだろ、軽く片付けてこい」
ゆったりと近づいてくるワルキューレとかいう銅像を横目に、クリフはヴォルフにざっくりとした指示を出した。
「えー面白くなさそー。超トロいんだけど?」
「……お前がはじめたくせに……。油断するな。ダメージを受けるなよ、相手は剣を持っている……あまり見られたくない」
「お、いいわね縛りプレイ。興奮しちゃう響きだわ。でもそれだけじゃ、たぶん楽勝っていうか……っと、サイトちゃん?」
ふとヴォルフが才人の方を見る。才人は自分の手を眺めて、不思議そうな顔をしていた。
「どしたの? 具合悪い?」
「な……なんだこれ。なんか……なんかすげえ」
ぐっと手を開いたり閉じたりと、自分の力を確かめるように握ることを繰り返す。
「い……いけるんじゃねーのか? こ、これ」
「? なにかしら。うーん、ま、元気ならどーでもいいわね。じゃーいきましょーか」
ふらりと散歩にでも出かけるかのように、ヴォルフが前に出た。
「さーあ、かかっておいで、坊や。大人の強さを見せてあげるわ」
「……行け! ワルキューレ!」
ギーシュが鋭く命令を出すと、急速に銅像、ゴーレムの内の一体が加速した。ヴォルフに向かって踊りかかる。しかし。
「――ショラァッ!!」
裂帛の気合と共に、ヴォルフの右拳が炸裂した。
鈍い金属音が響き、ゴーレムの頭部がべこり、と思い切りへこむ。そのまま突き抜けるほどの拳を受け、だらりと空中に縫い止め
られた。
「……もっろ。なにこれ、銅ってこんなに柔らかいのねー。サイボーグどころか人体だってここまでじゃないわよ?――シャアァッ!!」
ぶら下がったままのゴーレムの体を、旋風のような中段蹴りで真っ二つにする。ちぎれ飛んだ下半身が地面に一度跳ねて、そのま
ま噴水に飛び込んだ。
「はい、これで一匹。……マジでノーダメージでいけちゃいそうだわ。張りがないわよ張りが」
拳からゴーレムを引き抜いて、ぽい、とギーシュに向けて放り投げる。頭を潰され下半身を奪われた青銅のゴーレムは、もはやま
ったく動きもしない。
「……まあ、肩透かしだな」
クリフもつい呟いてしまった。頭部を少々潰したぐらいでは倒せない可能性も考慮していたが、どうやらそうでもないらしい。急
所を打てば行動不能に陥るのであるなら、あとはもう自分は寝ていても全て勝手に終わりそうである。
周囲はヴォルフの威力に唖然としていた。さっきまで騒いでいた子供達の喚声が、綺麗にピタリと止んでいた。鳥の鳴く声が遠く
で聞こえて、静けさの中に心地よい響きを感じる。うん、やはり今日はいい日和だな。
「な……! ぼ……くの、ワルキューレ……が……」
呆然としてギーシュがうめいた。目の前の情景が信じられないようだ。この顔を見る限り、奥の手もなさそうである。わざわざ自
分が出る幕はないらしい。さてと、この後どう片付けるかの段取りでも考えようかな。
クリフが片手間に思索にふけりはじめると同時に、ヴォルフがさらに一歩前に進んだ。バキバキと拳を鳴らす。
「ほーらもう終わりなの? どんどんかかってきちゃっていいのよ?」
「う、わ……うわあぁぁああ!?」
ギーシュが叫ぶと、残った二体が続いてヴォルフに突進した。
「――ぬぅん! せいやぁっ!」
共に、頭を吹っ飛ばされる。一体は真下に叩きつけるように打ち込まれ地面にめりこみ、もう一体は衝撃の勢いで宙をきりもんで
飛び壁に叩きつけられた。どちらも、そのまま完全に停止する。
「オラオラー、終わりー? もっとゴソーッと来なさいよ、十でも二十でもさー。出せるんでしょ?」
「あっああ!! あああああ゛!! うわああぁー!!」
狂ったようにギーシュが杖を何度も振り、さらに四体のゴーレムが現れた。一体が直線的に、他の三体が回りこむようにしてヴォ
ルフに突っかかってくる。
「ほっ! フンフン、アチョー! ホゥアッチャー! あっヤベ!?」
瞬く間に三体のゴーレムを叩き潰したヴォルフだったが、残り一体に一瞬の隙を付かれてかわされてしまった。ヴォルフを相手に
せず、その後ろを駆け抜けていく。
「一匹逃した! サイトちゃん、逃げてー!?」
ゴーレムが身を低くして才人に向かって突進していく。直前で沈み込み、手に持つ剣を大きく振りかぶった。
しかし、すでにその空間はクリフの『魔王』の展開内である。調子に乗っているヴォルフのミスは予見できていたので、想定の範
囲内だった。周りに分からないように軽く転ばせてやろう。そう思って銅像の足元を崩そうとした、その時。
才人の手にある剣が霞んだ。
鋭く金属が斬り飛ばされる音がして、ゴーレムの剣が手首ごと宙を舞った。青銅でできた才人の持つ剣が、掲げられ、陽光に輝い
ていた。
そのまま、上段からゴーレムの正中線に向かってまっすぐに斬り下ろされる。
真っ向正面からの斬撃は胴体どころか股下にまで止まることなく振り下ろされ、哀れにも戦乙女をあしらった銅像は真っ二つにさ
れた。
向かってきた勢いだけは消えず、地面を転がって、そして、やがて止まる。
「……」
……え? ……こ、これは……。
……。
場がしん、とした。
強烈な一閃であった。誰かが、ごくり、と唾を飲み込む音が耳を打った。
……。
「……ワーオ。……なによ、やるじゃない」
ぽつりとヴォルフが驚きの声を上げた。ちょっと目を丸くしている。
……これは予想外だった。ただの少年と思っていたが、達人のような剣さばきである。……ううむ。人は見かけによらないものか。
ジャパニーズ・ケンドーという奴か?
しかしどういうわけか、才人は振り下ろした形のまま止まって、目を見開いていた。まるで、自分でも驚いているかのような風情
だ。
「ビックリだわー。なによなによ、イカすじゃないのサイトちゃん。アタシ一人でがんばることなかったわねー? ……さてと」
くるり、とヴォルフが前を向いた。視線の先に、あんぐりと口を開けたままのギーシュがいる。
「ジャンジャン来なさいって言ってるでしょー? 大回転で行きましょうよ、もうウォーミングアップはいいわ。さぁーて、あっば
れるわよー?」
後顧の憂いもなくしたおかげか、楽しげに言うヴォルフ。
しかし、ギーシュはその場にどさ、とへたり込んだ。
「あら? なにしてんのよ、ほら早く。待たせないでよー。……ん?」
見れば、ギーシュはカタカタと震えている。信じられない物を見る目をしていた。
「……え? どしたの?」
「……あ、あ、あわ……!」
「……。……え、終わり!? うっそー!? なにそれ、そんなんでケンカ売ってきてたの!? ちょ、ちょっと!」
ヴォルフがつかつかとギーシュに近づいていくと、「ひっ!」と声を上げて後ずさる。すぐに壁が来て、逃げ場をなくしていた。
「ふ、ふざけんじゃないわよ!? アタシ、思い切り暴れられると思ってワクワクしてたのに! ひ、ひどいじゃないの! えー!?」
不満げにうめいて、頭を抱えて天を仰ぐ。
「もーやだー! つまんないじゃなーい! ……はぁーあ。なによもう。欲求不満だわー……」
……終わりか。
ふう、とクリフは息を吐いた。早く終わってよかった。ヴォルフには悪いが、こんなことに時間をとられたくないのが本音である。
本当に時間を無駄にしたよ、放っておけばよかったかもしれない……。
やれやれ、と思いながらクリフは背を向けた。あとは周囲の野次馬を散らして、このギーシュとかいう少年にもう手を出さないよ
うに約束させればそれで終わりだ。ああその前に、シエスタにフォローをしておいて。それからメイド達の寮にでも帰さなければ……。
などと次のことを考えていると。
――ざくり。
と、肉が斬れる音がした。振り向く。
破壊され倒れたはずのゴーレムの手が動いて、後ろからヴォルフの背を貫いていた。
ヴォルフが破壊した、最初のゴーレムだった。
……あっ。
……馬鹿。
今までとは別の意味で、周囲に緊張した糸のような空気が広がる。
「……ごぷっ」
ヴォルフが血を吐いた。その胸からは、まっすぐに心臓を貫いた剣が生えていた。
一瞬の間を開けて、誰もが息を呑んだ。ヴォルフの目の前にいるギーシュは、限界まで目を開いてただ見つめている。周りの全て
が停止していた。
やがて、胸から幾筋も赤い糸を溢れさせながら。
ヴォルフはゆっくりと、ゆっくりと――動き出した。
「やッ……てくれた……わね……坊や……」
がしり、と自分を貫いた剣を後ろ手に握りしめる。ずるりと引き抜くと、その剣が足元に落ちた。震える手で、ギーシュの肩をが
しり、と掴む。だが大きな巨体は、力を失い――膝を、ついた。
「ひぃっ!?」
「やって……くれた……わ、……よくも……よくも……!」
「あ、ああ゛、ひっひいぃぃっ!」
ヴォルフはギーシュをねめつける。目を血走らせ、凄惨な表情をしていた。
「よくも……よく……も……ごはっ!?」
そしてまた、盛大に血の塊を吐き散らした。それがきっかけで、周囲が騒然とする。少女達の悲鳴が飛んだ。
「うあ……し、心臓……よくも……よくもアタシを……よくも……!」
「うわああっうわあああっ! ひ、ひいっ!? や、やめ……!」
「こ……殺してやる……! こ、殺して……よぐもぉ……!」
「あ、ああ゛、あ゛ーっ! あ゛ーっ! うぎゃあーっ!?」
完全に狂乱状態に陥ったギーシュが、泣きながら逃れようと暴れる。しかし、ヴォルフの膂力の前にどうすることもできない。股
間には染みができていた。
……。
クリフはヴォルフのすぐ近くまで歩いていき、そしてゾンビのようにギーシュを捕らえているその背中を蹴りつけた。
「――あいだっ。ちょっとー。蹴ることないでしょー」
いきなり口調が変わって、不満げに軽く答えるヴォルフ。
「いい加減にしろ。騒ぎは終わりだ、なにをしているんだお前は」
「えーっと……延長戦? ほら、ホラー仕立てなカンジで。っていうか、せっかくここからこの子を追いかけまわすB級ホラーアク
ションがはじまるとこだったのにー」
「……蹴っ飛ばしといてよかったよ……。終わりだと言っているんだ。それに、油断するなと言っただろう。もうメチャクチャだ」
「なーによー。つまんないわねー」
ヴォルフがぶちぶちと文句を零す。クリフからすれば、文句を言いたいのはこっちの方である。結局全部ご破算じゃないか……。
危惧していた通り、ピンピンしてるヴォルフを見た周囲は、またまたさらに別の意味で騒ぎはじめていた。中には、混乱して周り
を見回したり、呆然としたり、薄気味悪そうに震えている子も見える。
まずいな……。やってしまった。混乱が大きくなる前に、どうやって解散させるか。しかし、もう隠し立てはできそうもない。
「あ……? あ……。あ……! あ……!? ば、ばけ……ば、ばば、化け物……!」
禁句が耳に入った。そちらを向くと、ギーシュが泣きながら震えてこちらを見ていた。
「……! ヴォルフ、やめ……!」
クリフが言い終わる前に、ヴォルフの拳は猛然と振るわれていた。
壁が衝撃に震えた。
建物が振動するかと思うほどの威力を持った拳が、レンガでできた壁にめりこんでいた。……ちょうどギーシュの頭の右を、ギリ
ギリで掠めるように。
ぽつり、とヴォルフが声を出した。
「……言っちゃいけない言葉って、あると思うのよアタシ。坊やの場合はなにかしら? 貴族って言うんだから、家名をけなすとか
かしら。それと同じよ、ダメなことは言わないの」
「……」
自分の目の前を通り過ぎた、自分を容易に死に至らしめる本気の拳を目で追うこともできずに、ギーシュは固まってしまっていた。
そんなギーシュに向かって、ヴォルフはもう一度呟く。
「ダメなことは言わないの。分かった?」
「……」
なんとかして、コクリとギーシュが頷いた。そして、糸の切れた操り人形のように脱力する。
ヴォルフの後ろに立つクリフは息を吐いた。
「……ふう」
「なーによ。殺すとでも思ったの? アタシだってそこまで短気じゃないわ。それに、子供を殺したりはしないのよ? そりゃまあ、
オジンのサイボーグだったらブチ殺してるけど」
「……そんなシーン、何回見たことかな……」
冷や汗がクリフの額を伝っていた。さすがに今のはヒヤッとした。最悪のタイミングだった、危ない危ない……。
クリフは広場の中央に立つ。もう、これ以上はよくない。次の問題が噴出する前に、速やかに終わらせなければならない。口も利
けない状態の聴衆に向かって語りかける。
「……決闘は終わりだ! 勝者は我々! これでイベントは以上だ! さあ、寮に帰ってくれ、帰るんだ!」
クリフの宣言に一歩遅れて、目を見開いたままの数人が席を立った。それにつられて、また数人が広場を後にする。そうして、全
体が動きはじめた。
「……なんとか、言うことを聞いてくれたか……」
やっと悪夢のような時間が終わってくれる……そう思ったクリフの前に、ルイズ達が近寄ってきた。ルイズは唖然としている。そ
の後ろから、どこかで観戦していたのだろうか、同じく言葉もないキュルケとタバサが来る。
「か、勝っちゃった……? しかも、一方的、に……」
「な、なに今の……。ちょ、ちょっと待って。あたし、混乱してる……」
「……だいじょうぶ、なの? ……どうして?」
タバサが目をこすって、転がったままの剣とヴォルフを交互に見ていた。
先ほどゴーレムを見事に両断した才人といえば、少し離れたところで不思議そうにキョロキョロしている。
「あれ? 俺、なんで? ヴォルさんも? やっぱり夢? ……ほい、ほいっ。あれ?」
才人の手の中の剣が鋭く動く。
? なんだろう? なんで彼は変な顔して素振りしてるんだろうか。
「…………大変だったな、クリフ」
キクロプスがぼそりと言った。
「ん、まあな……まあ、なんとかなることにはなった。とにかく、終わりは終わりだ……あとで反省会だけどな」
ちらり、とヴォルフの方を見る。もうごまかしようもないほど見られてしまった……。悪い方向に事が進まなければいいんだが。
「……クリフさん!」
シエスタが走り寄ってきた。
「あ、あの! あの……私……」
「気にしないで。色々と、混乱していると思う。けれど君が恐れるようなことは、もうなにもないから大丈夫だ」
「で、でも! 私、私、なんと言ったらいいか……。その、身代わりに……!」
「見ていただろう? 僕は何もしていない。やったのはそこのヴォルフとサイト君さ。まあ、誰も怪我しなくてよかった」
「え!? あ、あの、あんなに思いっきり、剣が、う、後ろから……ヴォ、ヴォルフさん!?」
「ああ、それは……」
震えながらヴォルフを見るシエスタ。ヴォルフは軽く手を上げて返す。
「アタシなら全然大丈夫よ? こんなんで死ぬわけないじゃない、よゆーよ、よゆー。さすがにちょいとは痛かったけどさ」
「ええ……!? だ、だめですよ! み、見せてください!」
「わっ!? だいじょぶよ、んもう」
シエスタは急いでヴォルフに駆け寄り、真っ赤に染まったシャツをまくった。
「こ、こんなひどい怪我を……! え、あ、あれっ?」
シエスタが目をぱちくりとさせる。まくった先には、血が付着してはいるものの、どこにも傷が見当たらなかった。
「ど、どうして? こんなに血がいっぱい出てるのに……!?」
ヴォルフの傷はすでに完全に治癒していた。心臓を貫かれたときに溢れた血痕だけが、その跡を示しているだけだ。とはいえ、ヴ
ォルフの巨体からすればそれも大した血の量ではない。
「……まあ、その。なんていうか……こいつの体は、少しばかり特別製でね。多少の傷はすぐに塞がってしまうんだ」
「え? た、多少って……そんな……?」
「とにかく、大丈夫だ。まああまり気にしないで。問題はないから」
あまり突っ込まれる前に話を流したいところだ。少しインパクトがありすぎて、シエスタが混乱してしまう。
すると、ヴォルフが急に手を頭の後ろへやって、変なポーズをした。なぜかわずかにそらした顔を赤らめて目をつぶっている。
「んもう、いやん♪ シエスタったら、アタシのおっぱい見られちゃうじゃないの」
……。
「……。……だ、だいじょうぶ……そうですね……」
支援しろ
名作にはそれが必要だ
「あはーん♪ いやーん♪ プ・プッピ・ドゥ♪」
……。勘弁してくれ、リズムに合わせて大胸筋を蠢かすな。あまりに気色が悪い。目の猛毒だ……。
思わず視線をそらすと、誰もが俯いていた。ルイズに至ってはイラッときているらしい。うむ、気持ちは痛いほど分かる……。
「……コホン。さあ、後片付けをして帰ろう。……とりあえず、えーと」
クリフは周囲に自分へ向けている他の生徒の目がないのを確認してから、先ほどヴォルフが大穴を開けた壁に近づく。『魔王』を
壁の穴に向かって展開して、手元に向かって注意しながら軽く引っぱった。ついでに飛び散った小石をはめこむ。
ベキベキ、と音がして穴は塞がった。ヴォルフのフルパワーにしてはまだ穴は小さかったため、なんとか修復はできたようだ。遠
目ならあまり分からないだろう。
「……え? え、え、今?」
「シエスタ、気にしないように。後で話そう。さて、その少年だが……」
クリフはいまだ呆然自失のギーシュを見やる。放心して意識を飛ばしていた。このまま放置するのもなんだし、起こして寮にある
であろう彼の居室に帰しておかねば。
そう思って手を伸ばしギーシュの肩を叩こうとしたクリフの前に、急に一人の人間が飛び出してきた。驚いてたたらを踏む。
「わっ!?」
「もう、もうやめて!」
見ると、金髪を見事なロールにした少女だった。ギーシュを守るように抱きかかえ、クリフの前を阻む。
「勝負はついたわ、これ以上は彼に手を出さないで!」
「……えっと……? 君は?」
「お願いよ! もういいじゃない、ギーシュはもう魔法を使えないわ! あなた達の勝ちよ!」
「いや……。僕達は別に、これ以上……」
「……モ、モンモランシー……。だ、だめだ、さ、下がって……」
目を覚ましたギーシュが呟いた。そのギーシュに向かって、モンモランシーという少女が大声を出す。ぽろり、と大粒の涙が零れ
た。
「バカ! なにをしてるのよ、早く立って! わ、私、最後の一撃で、し、死んじゃったかと思って……! 勝手なことばかりして……!」
「モ、モンモランシー……! さ、下がって! ぼ、ぼくの後ろに……!」
ギーシュは急いで立ち上がり、逆にモンモランシーをかばう。震える手で、もう薔薇の花弁のない杖を構えた。
「か、彼女は関係ない! 手を出さないでくれ! ぼくが間違っていた、だから頼む!」
「なに言ってるのよギーシュ!? 早く、早く逃げなさい! もう魔法使えないでしょ!」
「か、かまうもんか! やるならぼくをやれ! 頼む、やめてくれ!」
……どうやら誤解されてしまったらしい。この若いカップルを、僕がどうするというのか……。
クリフは手を上げて、相手に危害を加える意思がないことを示してやった。
「待て、待ってくれ。だから君達、もう僕達はなにもしないよ。……火遊びはおしまいだ。その調子なら、自力で帰れるかな?」
そう言うと、一瞬空けてギーシュが杖を下ろした。ほっとした空気が流れる。
「そういうわけだ。それじゃあ、僕達はもう帰るから。……はあ」
ため息をついて、ギーシュ達から背を向ける。まったく、火遊びにも困ったものだ。……特にヴォルフの。なんなんだこのバカは……。
そう思ってじろりとヴォルフを見る。すると、ヴォルフが口を開いた。
「なに勝手に終わらせようとしてるのよクリフ。ダメよ、ちゃんと最後までおしおきタイムも含めて、でしょ。そうしないと尻切れ
トンボじゃないの」
その言葉に、ビクリ、と背後のギーシュ達が震えた。もう一度杖を構えなおす。
「……はあ? お前、本当にいい加減にしろよ? そんなにケンカがしたいなら、これ以上は僕が直接お灸を据えるぞ?」
さすがにクリフが苛立った声を出すと、ヴォルフはノンノン、と呟いて指を振った。
「違うわよ。乱暴なんてするわけないじゃない。もちろん騒動でもないわ。だって……」
ゆっくりとギーシュに近づく。ギーシュはぐっと肩でモンモランシーを自分の後ろに押した。奥歯が鳴り、足が震えていた。
「おい、ヴォルフ。最後の警告だぞ。もう『魔王』を展開した。……腰から思い切りへし折られたくなければ、今すぐに……」
「……だって、秘め事だもの」
ヴォルフがギーシュの顎に手を伸ばした。つい、とその顔を上げさせる。
……。
「坊や、女の子を守るだけの性根はあるのね。ずっと思ってたけど、顔だけはなかなかじゃない。へえ、瞳も綺麗ね」
……。
「いいわ、ナイスよ。及第点はあげられるわね、エクセレントまではいかないけど。ご褒美に、坊やに色々教えてあげるわ……」
……。
「怖がらないで。大丈夫、優しく扱ってあげる。愛って、なにかしらね? でもこう思うの。きっと、誰であっても、本当に心から
の想いなら通じ合えるものだわ。そしてそこに性別は関係ないの」
……………………。
「よいしょっと」
ぽかんとしたままのギーシュを肩に担ぎ上げると、ヴォルフは颯爽と立ち去ろうとする。
「……えっ、ちょ、ちょっと!? ギ、ギーシュ……」
連れ去られそうになるギーシュを見上げて、モンモラシーが手を伸ばした。ヴォルフは優しくその手を払いのけ、穏やかに笑いか
ける。
「大丈夫よ、安心しなさい。ちゃんとアナタの元に帰してあげるから。ただ、ほんの少しだけお借りするわ? 少しだけ、ほんの少
し真の愛ってやつを、坊やに教えてあげるだけ……」
そのまま、ヴォルフはギーシュを拉致して歩いていってしまう。
予想外の展開に呆けていたギーシュがようやくはっとした。
「ちょ……!? ちょ、ちょっと待ってくれ、なんだかすごい嫌な予感がする……!? 待て、待ってくれ!?」
「ほらほら、暴れないの。アナタ、さっき薔薇の意味って言ってたわね。……教えてあげるわ、本当の『薔薇の意味』を……」
「な……!? い、いやだ! なんだか分からないけどすごくいやだ! た、助けて!? 助けてモンモランシー!?」
ギーシュは助けを求めるが、モンモランシーはもはや唖然としていた。なにもできずに見送るしかない。
「よっしゃ大漁大漁。あ、ちなみにアタシ、ガチムチ熊系だけど受け専のネコだから。ネガだから安心してね? 久々にエロレスで
もしようかしら〜♪」
「いやだぁあああー!? 助けてくれぇえええー!?」
謎の専門用語を吐きながら、ヴォルフは叫ぶギーシュと共に近くの建物の中に消えていってしまった。
残された一同は誰もが声もなく、数人はぽかんとしたまま、残る数人は沈痛な空気に沈んで俯いていた。
「……と、止めなくていいの……?」
キュルケがぽつりと呟く。
「……帰ろう」
いい加減付き合いきれないし、なにより全力で関わり合いになりたくないので、クリフは弱々しく目を逸らして呟くしかなかった。
色々と自棄であった。
「……凄まじいですね。素手で、とは……!」
学院長室で『遠見の鏡』を使って、一部始終を眺めていたコルベールは呆然として呟いた。
「……それもじゃが。ふむぅ……」
重々しく、学院長の椅子に腰掛けるオスマンが顎に手をやる。
「ええ。確かに心臓を貫かれておりました。間違いないようです……一体どんな業を用いたのか……」
「あの少年も、驚くほどの剣の使い手のようじゃ。……チラリと見えたが、彼の左手にもあるようじゃな……」
オスマンは先ほどコルベールに渡されたスケッチを眺める。机の上には、一冊の厚い本が置かれていた。表題には『始祖ブリミル
の使い魔達』とある。
「はい。どうやら……彼も『ガンダールヴ』です。間違い、ありません。……驚くべきことです」
「うむ。……『ガンダールヴ』の印を持つ者が、四人。それがミス・ヴァリエールの使い魔となった、かの……。これは……」
「私にも分かりません。ですが、これは大変な事態です。ブリミルの従者は四人でしたが、その符号も気になります。ただちに王宮
に指示を仰ぐべきでは……!?」
コルベールは普段ののほほんとした、穏やかな空気とは打って変わった真剣な表情で言う。しかし、その言葉にオスマンは首を振
った。
「……いかん。これは部外秘とせよ」
「……なんと!? では、オールド・オスマンはこのまま……?」
「でっかいオカマがおったじゃろう。グラモンの倅を攫ってったやつ。わしはあんまりアレに関わり合いになりとうない」
「は、はあ!? い、いえまあ、確かにアレはちょっとキツいものがありますが……!」
「本気にするでない、それは冗談じゃ。……宮廷の愚か者どもにはあまりにも過ぎた代物であるし、なにより事態が異常に過ぎる。
あの大男と少年もじゃが、ミスタ・ギルバート……彼の実力の底がまだ分からぬ。もう一人もまだ未知数じゃ」
「……は、はい。しかし、だからこそ宮廷に……」
「……コルベール君。君は今、見ていなかったのかね? 彼……ミスタ・ギルバートの力を」
「……? なんでしょうか? 彼はただ見ているだけのようでしたが。どうやらリーダー格のようには思えましたが……」
コルベールの疑問に、オスマンはむう、と喉を鳴らした。
「……ふむ。少し角度が悪かったようじゃの。それに、鏡が汚れておる。……ミス・ロングビルはわしの部屋を掃除してくれないの
う……」
少し悲しげに呟きながら、キュッと指で鏡の表面をなぞる。そこについた埃を見て、ますます悲しそうな顔をした。
「……少し位置を変えるかの。ほれ」
オスマンが軽く手元の杖を振るうと、『遠見の鏡』に映った情景が切り替わった。先ほど、ヴォルフというあの男が殴りつけた壁
が映し出される。
「? ……こ、これは? ……かなりの音がしましたが……。穴がどこにも見当たりませんな? 学園の壁は、多少の『固定化』を
かけてはおりますが……」
「映りが悪いのう。よく見れば分かるが、ヒビが放射状に走っておる。……これは、直したんじゃよ。ミスタ・ギルバートが……。
わしには分かった」
「なんですと? そんな、一体どうやってそんな器用な真似を……?」
「『念力』、じゃな。それも、かなり精度が高いようじゃ。飛び散った小石まで元の場所へ綺麗にはめ込まれておる」
「……そ、そんなバカな!? 彼はメイジだったのですか!? 一体どこの貴族ですか!? しかし、杖が見当たりませんぞ!」
「うむ、そうじゃ。彼は杖を持っておらぬ……。おそらく『先住魔法』じゃな」
オスマンの言葉に、コルベールが驚愕して見つめる。
「せ……! オ、オールド・オスマン! こ、これは一大事ですぞ!?」
「そうじゃ、その通りじゃ。先住魔法を操る『ガンダールヴ』……。ただの偶然やもしれぬ。印だけで決め付けるのは早計じゃ。し
かし、そうは見ぬ者もおる。例えば君が今、四人という数字に意味があるのかと疑ったように……」
「……!」
「エルフどもに敵愾心を持つ者達が、もし彼らを担ぎあげてみるがよい。下手を打てば、内部の政争どころかエルフ相手の戦争に発
展しかねん。主であるミス・ヴァリエールが王家の血も引く大公爵家の息女というのもいかん。御輿にするにはあまりにも格好過ぎ
るのう……」
「……た、確かにそうです……! 我が国の内部にも、原理主義的な思想を持つ将軍は大勢おりますし……!」
「そんな事態、わしは冗談ではない。勝てるわけもないが、大義を叫ばれればやらざるを得ない、と同調する勢力も生まれかねん。
王家はまず却下するであろうしヴァリエール公爵も見識を持った御仁じゃ、娘を御輿にするなど断固として反対するであろうが、話
が大きくなれば抑え込んだとて宮廷に無用な緊張を残すやも知れぬ。アルビオンでは聖地奪還を謳いあげるレコン・キスタの例もあ
るしの……あまり知られるべきではない。隠さなければ……」
「……はい。その通りです……!」
頬に一筋の冷や汗を流しながら、コルベールは頷く。
生徒達を愛するコルベールにしてみれば、万が一にでも戦争などになって、生徒の両親や親類を失わせ悲しませるようなことはな
んとか避けたい。
中には、軍役を退いてしまっている領主もいるのだ。成人に近い男子生徒は跡継ぎとして、戦場に向かわせる家もないとは言えな
かった。また、かつては自分の生徒である、いまだ歳若い貴族も数え切れないほど存在しているのである。
「……しかし、安心できる材料もある。……どういうわけか、彼はあまり力を知られたくようじゃな。今のところ、少数の人間にし
か見せていないようじゃ……」
ぽつりと漏らしたオスマンのその声に、コルベールは戦慄を鎮めつつ首肯した。
「……はい。どういう目的かは分かりませんが、なるべく力を誇示しない方向で動いているようですね」
「ただ厄介ごとを回避したいだけなのか……。そうであって欲しいが、それが余計に不気味でもあるのう。とはいえ、話した限りで
は彼は元の世界への帰還を望んでおるし」
オスマンがそう言うと、コルベールは眉を寄せて呟く。
「……本当なのでしょうか? あまりにも眉唾な話ではありますが……」
「……まあ、信用できる目はしておった」
オスマンは内心、とある自分の過去の出来事を思う。コルベールには話さないが、多少の心当たりがあることにはあった。
「ともあれ、昼時に出した命令の通りじゃ。彼の帰還を手伝いたまえ、コルベール君。もしできるなら、全てはこのままなにもなか
った事にしておきたいのでな。ミス・ヴァリエールはかわいそうじゃが、仕方あるまいのう」
「はい。規則さえ特例でいけるのでしたら、使い魔召喚はいくらでもできますし。今の状態に比べれば、あの子の失敗に一日二日付
き合うなど小さなことです」
「うむ、その方針でいこうかの。王宮には伝えんと言ったが、マザリーニの小僧にだけは伝えねばなるまい……。アルビオンの件も
あるでな、今の内に王宮の悪そうな芽は潰せるだけ潰しておくように言っておかねばの……ふう」
椅子に寄りかかって、オスマンは大きく息を吐いた。額の皺がいつもより深く刻まれ、老いた賢者の顔に辟易とした感情が垣間見
えていた。
「まったく、アンリエッタ王女のゲルマニアとの婚姻同盟といい、このところ立て続けに面倒が増えるのう……もう引退したと言っ
ておるのに、あの小僧と来たらわしのツテも使いたいとごり押ししてきおって。政はもううんざりなんじゃが……。そちらは頼むぞ、
コルベール君」
「分かりました。直ちに取りかかります。しかし……召喚した使い魔を戻すなどと、聞いたこともないのが……」
「うむ……。それじゃ、そうなんじゃよ。見当もつかぬ……コルベール君、もし必要な書物があるならわしのところへ直接届け出た
まえ。なるべく便宜は計っておくでの」
ぴくり、とコルベールの耳が動いた。
「……。……はい、お願いします」
「……コルベール君? 今、少し間があったようじゃが。まさか自分の趣味に使う気じゃなかろうの?」
「いえ、まさかこのような時に。それでは、失礼します」
「……じゃあの」
なにか含むものを感じつつ、部屋を後にするコルベールの頭をオスマンは見送った。
支援
4人いるのはサイト一人では受け止めきれない愛を分散させるためかッ
シエスタはクリフか? 残りはルイズとかタバサとかかッ
ホモが混じっているのが気になるが…ああおマチさんを奪うためワルドを(ry
以上です、普段よりやたらボリュームが増えてしまいました
途中でさるに引っかかった……。何分以内に何レスでアウトなんだろう?
それでは
オマケ・本日のゲイ用語講座
ガチムチ熊系:ムッキムキでごつい大男を指す 受け専:受けるのみの人、どっちもいける人をリバ可などと呼ぶ
ネコ:タチ、ネコの関係 ネガ:HIV陰性 エロレス:エロいレスリングの略
乙ですー
実に楽しい展開で、今後の進展にも期待しております
ギーシュは大人になった!
ギーシュさんに敬礼!
二日連続で乙でした。
>>161 そういえばワルドが熱狂的異性愛原理主義者という話はなかったよね?
や、書く必要が無いという意味でさ。
モンモンが余るのか。
モンモンは目覚めて腐った本でも書くと良いよ!
あるいはケティとくっつくとか
4人ってのがワルド4人と想像してしまい、4人の変態仮面が『ルイズゥゥー』と両手を上げながら追いかけまわし受け止めきれない愛を表現している図が浮かんだ
>>168 昔シュ腐ルーズと呼ばれた猛者がいてだな…
あとケティと3Pをやったギーシュもいたぞ
流石は風のスクエア、偏在があれば独りで多人数プレイも余裕ということか。
偏在使えるメンツは(ある意味)濃いのが揃ってやがる、でいいのかねえ?
公爵もやはりカリンちゃんに遍在プレイで搾り取られたのかな…くそうらやまけしからん
タバサも練習して遍在プレイマスターすればルイズ達に対するアドバンテージを得られるかもな
紳士淑女が多いな
>>161 真面目な話、絵で描き分けられない文字媒体では、主人公対複数の恋愛をキャラごとに差別化して書き分けるのは相当困難だよな。コメディな流れだと特に
数が多いと、一人を決めない主人公は異常に鈍感だとかどうしても不自然な理由作るしかなくて、やがてテンプレになってまたこの流れかよってダレてくるし
原作だとノボル先生はその辺やっぱり分かってるのか、才人とルイズの誤解やすれ違いって形もけっこう使ってるみたいだな。それも乱発気味でどうしても苦しくなってたけど
キャラが多いと操作が大変になるもんだけど、最初に割り振ったら後は激変させまくらなきゃ恋愛的な人間関係はわりとサクッと書きやすくなると思う。一つだけに注目されないから、変化に乏しくてもごまかせるし。
最近はけいおんとか女性のみのアニメもあるけどいまいち性に合わないな
かといってとらぶるみたく男ひとりに大量ハーレムもうらやましい通り越して異常にしか見えない
やっぱり7:3の黄金比でやってほしいもんだ
ヴォルフのエグリゴリ時代を思い出すと震えが来るな
作者つながりでヘウンリー・バレスとかもオカマキャラだったっけ、ジョゼフが呼んだらおもしろいかも
177 :
無重力巫女の人:2011/02/28(月) 20:44:41.53 ID:hwEENZR4
今晩は皆さん。無重力の人です。
40話が完成したので、投稿します。
もし何もなければ20時50分頃から、開始したいと思います。
いつもと変わらぬ魔法学院の日常の中で、平和を謳歌する生徒達は今日も授業へと赴く。
各々が必要な道具を持って指示された教室へ向かい、多くの在校生と卒業生達が腰を下ろした席に着く。
席に座れば連れてきた使い魔を後ろへと下がらせ、教師が来るまでに身なりをしっかりと整える。
そして教師は従業に使う参考書と杖を持ち、堂々と胸を張って教壇へと立つ。
授業は自分の担当する系統魔法がいかに素晴らしいのかを生徒達に教え、模範を示す。
生徒達はそれを習って自らの魔法を磨き、自らの将来に役立たせる。
そしてここを巣立っていくときには立派な魔法至上主義の貴族となり、自分の選んだ道を歩いていく。
ここトリステイン魔法学院で何百何千回も続けられてきた事が、それであった。
しかしここ最近の゛火゛系統の授業だけは、他の従業とは違うことをしていた。
まるで古くから続く魔法至上主義の授業を打ち砕くかのように、それは酷く斬新であり、異質であった。
人は古くから続くモノに安心するが、新しいモノには恐怖を抱く。
そしてそれは人だけではなく、人に近い喜怒哀楽の心を持つ゛人外゛たちも同様である。
◆
大勢の生徒と使い魔達が居る教室に、ミスター・コルベールの声が響いた。
「さぁさぁ皆さん、今日はこのミスター・コルベールが一限目の授業を請け負いますぞ!」
朝食を食べ終えて腹を満たし、満足そうな表情を浮かべている生徒達の耳に気合いの入った声にハッとした顔になる。
声の主であるコルベールは教室の隅にあるドアを足で器用に開け、妙なものを両手に抱えて教室に入ってきた。
一体何事かと生徒達はそちらの方へ目をやるものの、一部の生徒達は溜め息をついて視線を逸らす。
このトリステイン魔法学院において随一の変わり者と呼ばれているコルベールは、時折変な物を持ってきては授業でお披露目をしているのだ。
火の力を使ってフワフワと浮く紙袋や火を当てると途端に脆くなる石など、生徒達の将来には何の役に立たないものである。
しかし生徒達の何人かがそれを指摘してもコルベールはすました笑顔でこう言うのだ。
「知っててやっているのさ。一度きりの青春時代に、こういう面白い授業を体験するのも悪くはないだろう?」
魔法学院随一の変人と呼ばれる男は、この学院にとってイレギュラーとも呼べる存在であった。
そして今日、彼は長年研究し続け遂に完成一歩手前にまでこぎ着けたある物をお披露目しようと思っていた。
「先生、それは一体何ですか?」
一人の生徒が、教壇の上に置かれたある物に興味を抱き、質問を述べた。
他の生徒達もそれに目を通し、思った。成る程、あれを見て質問するのは仕方ない、と
それは長い、円筒状の金属の筒に、これまた金属のパイプが伸びている。
パイプはふいごのような物に繋がり、円筒の頂上にはクランクがついている。
そしてクランクは円筒の脇にたてられた車輪に繋がっていた。
さらに、車輪は扉のついた箱に、ギアを介してくっついている。
今までミスタ・コルベールの授業でへんちくりんな物を見続けてきた生徒達は、首を傾げた。
先生はこれを使ってどんな授業を始めるなんだ?と、生徒達はその装置に視線を向ける。
コルベールは教え子達の反応を見て笑顔をうかべると、おほん!ともったいぶった咳をして語り始めた。
「さて、これから授業を始めるのだが…その前に誰か、この私に゛火゛系統の特徴を説明してはくれんかね」
十秒以内に収めてね。と最後に付け加えた後、生徒達の視線は謎装置からある女子生徒へと向く。
数十人の男女に視線を向けられても、彼女はそれが何だと言わんばかりに、爪ヤスリで爪の手入れをしていた。
今この教室に集っている生徒達の中で一番゛火゛の系統を知っているのは、自らの二つ名に゛熱゛という言葉を入れている彼女しかいない。
そんな風に見られている話題(?)の女子生徒、キュルケはだるそうな顔で手を挙げることもなく、言った。
「情熱と破壊…それこそが゛火゛系統の成せる技であって美でありますわ」
気怠そうなキュルケとは対照的に嬉しそうな表情を浮かべたコルベールは「その通り!」と言った。
「情熱はともかくとして、ミス・ツェルプストーの言葉通り゛火゛は四属性の中でも破壊の力に特化しているのは皆知っているだろう?
一度戦が起これば゛火゛を得意とするメイジは最前線の突撃隊の隊長として選ばれる程―――…らしい。私はあまり、知らんがな」
そこで一旦言葉を区切り、軽く息を整えるコルベールに一部の生徒は少しだけ反応を示した。
確かに゛火゛に特化した軍属のメイジ等は有事の際に先程言ったように突撃部隊の隊長や攻撃部隊の指揮官となる事が多い。
その次に゛風゛系統の得意なメイジが多く、時折゛水゛系統や゛土゛系統のメイジが指揮を執る事もあるが実例は極めて少ない。
ただ、その一部の生徒達が疑問に思ったことは一つ。『何で一介の教師がそんな事を知っているのか?』ということだ。
通常は軍の養成学院に入り、そこの座学などで初めて知るような事を、何故この平和思想の教師が知っているのだろうか?
彼らは一様にそんな疑問を浮かべては居たのだが、無理矢理にその答えを導き出した。
(まぁ…先生は学者を名乗ってるし…学者だから知ってるのかも)
あまりにもいい加減すぎる応えに異論を唱える者はおらず、再びコルベールはしゃべり出す。
「しかし諸君、考えてみたまえ。他の属性…゛風゛゛水゛゛土゛は戦い以外の道に使える手段が多い!
風は動かぬ水車を回し、水は乾いた大地を潤し、土は荒んだ土砂を農業に適した栄養豊富な土に変える!
それに引き替え…゛火゛は古来から怖れられてきた存在、戦いにしか使われるのも無理はない。
一部の者達は、゛火゛魔法は戦う為だけにあると豪語するが…私はようやく、それに対し全力で拒否の意を示す事ができる!」
もはや最終決戦へと赴く将兵達に劇を飛ばしているかのような王様のような演説のような感じで喋っている。
それに対し生徒達はついていけずに固まる者、またある者はコルベールの思わぬ一面に驚いていた。
ただ一人…キュルケだけは大きな欠伸をしながら未だに爪のお手入れをしているが。
一方のコルベールはそんな生徒達に向けて勢いよく右手の人差し指を向けて喋り続けている。
その目には絶対的な自信の色が浮かんでおり、彼の頭よりも鋭い光を放っている。
「ここにいる生徒諸君…特にミス・ツェルプストー!よく見ておきなさい!
今ここに、我々の誇る文明と゛火゛が融合したこの装置が、その本性を見せるのですから!!」
もはや叫び声にも近い声でそう言うと、ヒュッと音が出るくらいに勢いよく左手の人差し指を、背後の教壇に置かれた装置へと向けた。
生徒達はその装置に目を向け、何人かは怪訝な表情を浮かべている。
「これは私が長い構想と研究、そして幾度かの試行錯誤を経て完成させた最高傑作です」
コルベールは先程と打って変わり逸る気持ちを抑え、丁寧にこの装置の説明を行う。
「まず最初に行うことは、このふいごを何回か分で中に入っている油を気化させる」
しゅこっ、しゅこっ、と何処かこそばゆい感じがする音を立てるふいごを足で何回も踏んだ。
「するとこの円筒の中に、気化した油が放り込まれます」
慎重な顔になったコルベールは杖を取り出し、円筒の横に開いた小さな穴に杖の先端を差し込んだ。
次いで短い詠唱をして間もなく、断続的な発火音が聞こえ発火音は続いて、爆発音に変わる。
先程円筒の中に放り込まれた油が引火し、爆発音を出しているのだ。
爆発音を耳にした生徒達は目を丸くし、使い魔達はそちらの方へと視線を向け、コルベールは歓喜の表情を浮かべた。
「ほら、見なさい!円筒の中では今、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いているんだ!」
すると円筒の上にくっついたクランクが動きだし、車輪を回転させた。
回転した車輪は箱に着いた扉を開く。するとギアを介して、小さな赤色の何かがピョコッ、ピョコッ、と顔を出した。
炎を燃した布製の皮膚を持ち、これまた先端が二つに割れた赤い布で出来た舌を開きっぱなしの口から出している。
それは黒いボタンのつぶらな瞳がキュートな蛇の人形であった。
あまりにあまりなソレに、様子を見ていた生徒達はボケーとした表情になってしまう。
そんな彼らを他所にただ一人、コルベールは無邪気にもはしゃいでいた。
「ほら見なさい!可愛い蛇君がコンニチハ、コンニチハ、と挨拶してくれるぞ!」
まるでサーカスを見に来た子供のようになってしまった教師を見て、生徒の何人かは溜め息をついた。
>>176 ヘウンリー・バレスは、オカマの人形を操っていたおばさんだぞ。
先程の演説に惹かれ、一体どんな物が見れるのかと思いきや、これはとんだ子供だましである。
そんな生徒達が今は目に入っていないのか、コルベールはピョコピョコと蛇が顔を出す装置の前で喋り始める。
「今はこうして、愉快な蛇君がだけだが、将来必ずこの技術を生かして素晴らしい物が生まれる。
例えば、この装置を更に大きくして荷車に載せ、車輪を回させる。すると馬がいなくても荷車が動く!
そして更に、海に浮かんだ船のわきに大きな水車をつけてこの装置を使って回す。
すると風どころか帆がなくとも船が動くようになるんだ!」
そこで説明は終わったのか、コルベールは大きく深呼吸をすると生徒達の方へ目をやった。
コルベールの計算では、この時点で生徒達の大半がこの装置に期待の目を向けている筈であった。
しかし彼らの目には期待の色は浮かんで折らず、ペテン師を見るような目つきである。
そんな目で教師を見ている者達の一人がふと口を開き、言った。
「…そんなの、魔法で動かせばいいんじゃないですか?何もそんな装置を使わなくてm…「わかってない!君達は全然 わ か っ て い な い !」
一人の生徒の口から出た言葉は最後に到達する前に、コルベールの怒声によってかき消された。
いきなりの事に生徒達は驚きながらも、コルベールは捲し立てるように喋り始める。
「いいかね君達!?我々が魔法を使えるからと言っても限界がある。
もしも長い船旅の最中、風石が切れたらどうする?その先にあるのは死体無き棺桶だ!
しかしこの装置をもっと発展させれば、僅かな魔力でも充分風石の代わりとなる
これは単なる学者の発明ではない!後世に残る程の偉業なのだ!」
一部自画自賛が入った演説に、生徒達は何も言えないでいた。
皆が皆、いつもは温厚な彼の希薄迫る様子に怯んでいるのである。
(あのミスタ・コルベールがこんなに捲し立てるなんて…きっと余程完成させたかったのね…)
羽ペンを持ったまま硬直しているルイズもその一人であったが、今のコルベールには尊敬の念を抱いていた。
後世に残る偉業かどうかは別として、あんな面倒くさい物を作った努力は凄まじい物である。
誰にも認めて貰えず、しかし一度決めた信念を決して崩すことなく最後まで成し遂げる。
それはまるで、魔法が使えぬのならせめて座学だけでもと努力した自分と、被っているのだ。
最初は胡散臭い目で見ていたが、あの装置を無下にすることを、自分は出来ないだろうなーとルイズは思った。
(でも実際のところ、どう使ったらいいのかサッパリね…)
尚もピョコピョコと装置から顔を出す蛇の人形を睨みつつ、ルイズは溜め息をついた。
先程コルベールが使い方を説明していたが、ルイズにはあの装置が活躍するシーンが全く思い浮かばなかった。
魔法が使えぬ共優秀な貴族の家から生まれた彼女は、生まれる前から魔法至上主義者として生きる宿命を背負っている。
ルイズだけではない、ここにいる生徒達の多くがそうであった。
物心つく前から親兄弟から魔法の偉大さを見せつけられた彼らは、本能的に「王家と魔法に適う存在無し」という考えを持っている。
王家と魔法さえあれば全てが統治でき、国は永遠に栄える。
そんな思想が、王家を含めた多くのトリステイン貴族達の頭を未だに支配していた。
それがこのトリステイン王国の伝統を守っていると同時に、小国となった原因だとも知らずに。
まぁ知らない事は無理に知らなくても良い、という事である。
支援をするのは義務ではなく権利、とか言いつつ支援
◆
「ヒマね…」
ヴェストリの広場に、少女の声が響いた。
それは鈴の音のように綺麗であったが――心底暇そうであったた。
「ヒマだわ…」
広場の柔らかい芝生にその背中を預けている少女は、スッと華奢な左手を上げた。
閉じている左手から人差し指だけを出し、遥か上空の青空を泳ぐ白い雲を指さして、数えようとする。
「ヒマ過ぎて寝るに寝れないわね…」
小さな溜め息をつくと数えるのをやめ、左手をダランと下げて芝生に寝かせる。
ふと何処からか小鳥の囀りが聞こえ、それに伴って翼が羽ばたく音も耳に入ってくる。
「…これじゃあ暇つぶしどころか…暇作りになってるじゃないの」
少女――霊夢は誰に言うとでも無く呟き、ゆっくりと上半身を起こした。
いつもとひと味どころか五味違った授業をルイズ達が受けているとぱ露知らず、霊夢は一人くつろいでいた。
以前ギーシュと闘ったヴェストリの広場。既に壊れた壁も修復された其所は、彼女以外誰もいない。
まぁ今日は休日でもなくちゃんとした授業がある日なので当然ではあるが、今の霊夢にとっては丁度良い場所であった。
彼女にとって心休まる場所といえば神社の縁側と鳥居の下、そして人も妖も来ない静かな所。
それならルイズの部屋も当て嵌まるが、三日前に戻ってきたインテリジェンスソードの所為で喧しい場所になってしまった。
「まったく…眠れそうな時に話し掛けてくるからおちおち眠れやしないわね…」
霊夢はウンザリするかのように呟き、ゴロンと寝返りを打った。
今まで空を見ていた彼女の瞳に、この学院の真ん中を陣取っている巨大な塔が写る。
それを見たい気分ではなかったのか霊夢は顔を顰めると再度寝返りを打つ。
背中を向けていた方へと寝返りを打つと、少し離れたところにシエスタがいた。
足首まで届くロングスカートの端が風に煽られ、小さな布の波を作りだしている。
その両手には洗ったばかりの白いシャツがたくさん入った籠を抱えている。恐らく仕事の合間にやってきたのであろう。
自分と同じ黒い髪はやや長めのボブカットにしており、黒い瞳とそれはどうにもうまくマッチしている。
黒と白を基調にしているものの、魔理沙の服とは全く違う雰囲気を醸し出しているメイド服はとても彼女に似合っていた。
彼女は頭全体を白い雲が泳ぐ上空へと向けており、その瞳は空を射抜くようにある一点を見つめている。
そんな彼女をじっと見つめている霊夢の視線には気づいていないのか、両手に持っていた洗濯籠を足下に下ろした。
ゆっくりと、まるで安らかに眠っている赤子を下ろすかのよう動作の後、シエスタは自らの懐を探る。
一体何をするのかと少し興味深そうな霊夢が近くにいることも知らず、彼女は小さくて茶色の包みを取り出した。
何年も使い続けているのかすっかり汚れきってしまったその包みを丁寧に取り、その中に入っていた物を手に取った。
包みとは対照的で、まるで純潔な乙女を思わせる程白いく、正方形の布であった。
それだけなら普通の布きれと呼べるが、その中心部分には大きな赤丸が描かれている。
赤丸は酷く乱雑で、子供の落書きと言える代物であった。
ソレを包みから取り出したシエスタは純朴そうな顔に暖かい笑みを浮かべた。
まるで遠く離れたところに暮らす家族が待っている家へと帰ってきた子供のように。
それを離れたところから見ていた霊夢には、シエスタの行動がイマイチ良くわからなかった。
(何かしらアレ…?布の中にもう一枚布が入ってたって事…?)
何が起こっているのか把握しきれない霊夢を尻目にシエスタは布の両端を掴むと、それを天高く持ち上げた。
まるで赤ん坊をあやすかのような行為をたった一枚の布きれにするというのは、少し奇妙な光景である。
だがシエスタにとってこの奇妙な行為は、とても大切な行為であった。
天高く掲げた薄い布は強く、眩しく、そして優しい陽の光を防ぐことは出来ず、布一枚越しにシエスタの顔を照らす。
布を通した光は布の中央に描かれた乱雑な赤丸のおかげで赤い光となった。
その時のシエスタは、それに負けないくらいとても眩い笑みを浮かべていた。
まるで子供だった頃を懐かしむような、あどけなく無垢な笑顔であった。
◆
コルベールは困っていた。どうすれば今の事態を切り抜けられるのかを。
今日は長い月日を掛けて没頭していた新しい研究の成果を授業を使って生徒達に発表していた。
それは、このハルケギニアにおいて誰もが見たことのない、未知の可能性を孕んだ存在だと彼は思っている。
油を使い、単純な魔法だけでそれを爆発させてその力でカラクリを動かす。
将来的には魔法の力など介さず、手順が分かれば子供でも大きな船を動かすことの出来る全く新しい力。
学者である彼は、学院の授業ではなく十分な知識を持った学者達に見て貰いたかったがそれは無理な話だと知っていた。
このトリステインにおいて学者というのは神学者に近い存在であり、その学者達が集まる「アカデミー」では魔法の効果を探る場所となっている。
例えば、火の魔法を用いて街を明るくしようとか、風魔法を用いて、大量に貨物を運んだり…といったコルベールの向きの研究は行われていない。
そういったものは評議会や古参の研究員達からは「下賤ではした無いもの」として異端扱いされ、追放されたり研究停止に追いやられる。
代わりに行われている研究といえばどのような火の形がより、始祖ブリミルが用いたものに近いとか。
降臨祭の際に使われる蝋燭を揺らすための風は、どの程度が良いのか。
聖杯を作るための土の研究とか。コルベールの考える「学問」とは大きくかけ離れた事をしていた。
そんなところへわざわざ赴いてまで自分の研究を見せに行ったとしても、門前払いが良いオチである。
そう考えたコルベールが更に考えてたどり着いた結論が、今に至る。
コルベールの研究を見た生徒達の大半は、ワケが分からないと言いたげな表情を浮かべている。
今まで魔法が自分たちの生活に深く浸透していた彼らは、きっと心の中で呟いているだろう。
「こんな馬鹿げた物が無くとも、魔法があれば誰も不自由しない」と。
ほぼ全員が魔法至上主義者であるメイジとしては、まともな答えである。
平民達には不可能な「始祖の御業」である魔法に不可能など無い。
魔法さえあれば万事解決、もう何も恐くないはないし、他に何もいらない。
学者である前にメイジであるコルベールにとって、それは痛いほど自覚している。
ただ、そうまでして彼はあるモノを欲していた。
出せそうですぐには出せない、あるモノを。
(馬鹿にされたり笑われても良い…誰かひとり…ひとりだけでも好奇心旺盛な表情をうかべてくれれば…)
コルベールは期待と不安が浮かんでいる顔で教室を見回すが。彼が望む表情を浮かべている者はいない。
大半が嘲笑の表情を浮かべており、中には見る価値無しと無表情な生徒達もいる。
たった一人、ミス・ヴァリエールだけは困ったような表情を浮かべてはいたが、理由はわからない。
しえん
―――まだだ!まだ諦めるなコルベール。ここで諦めたら今まで頑張ってきた意味がないのだぞ!
自分の心に喝を入れつつ、コルベールは一度深呼吸をするとしゃべり出した。
先程叫びすぎて喉かヒリヒリと痛むのだが、そんな事は言っていられはしない。
「さてと…一通り話し終えたところでひとつ提案がある。…だれかこの装置を動かしてみようとは思わないかね?」
既に停止している装置を指さしながら、コルベールは言った。
まさかこんな言葉が出てくるとは思わなかったのか、生徒達は少しだけ驚いたような表情を浮かべている。
そんな生徒達に休ませる暇を与えず、コルベールはこれみよがしにどんどんと話を進めていく。
「なに、やり方は簡単さ。円筒に開いたこの穴に杖を差し込んで『発火』の呪文、するとほら…このように!」
先程したように装置を起動させると、ふたたび爆発音か教室中に響き渡る。
爆発の力でクランクと歯車が動き出し、蛇の人形がピョコピョコと顔を出す。
「愉快な蛇くんがご挨拶!ほらご挨拶!!――――…なんちゃって♪」
最後の一言が良くなかったのか、教室にいる生徒達は誰も動こうとしない。
皆コルベールの顔に奇妙な生物を見るかのような目を向けたまま硬直していた。
教室の中に響くのは装置から出る爆発音と、使い魔達の喧しい鳴き声だけ――
「その装置。私が動かしても良いのかい」
―――ではなかった。
ふと、使い魔達が待機している方から、少女の声が聞こえた。
まるで男の子のようなしゃべり方だが声はとても元気な少女のそれである。
その声を聞いた生徒達は一斉に後ろを振り向き、そこにいた一人の少女を凝視した。
白と黒を基調とした服装は少女との相性が良く、その存在をハッキリとさせている。
頭に被った帽子は大きく、彼女の頭と不釣り合いに見えてそうでもない。
帽子からはみ出たウェーブの掛かった金髪は艶が良く、輝いているようにも見える。
まるでおとぎ話の中から飛び出してきた魔女のような姿をした少女に、生徒達は釘付けとなった。
何より男子生徒達の視線は、その少女の顔に集中していた。
美術館に飾られているような真珠の如き白い肌に均整の取れた顔は、見る者を魅了させる。
事実、恋に夢中であるお年頃の男子達はその顔を見て目を丸くし、ホゥ…と見とれている者までいる始末だ。
多くの視線が自分に周知有しているというのに動揺することなく、少女は再度口を開く。
「誰も名乗り上げないのなら、私が動かしてみても良いんだろ?」
少女―――魔理沙はその顔に見合った声で、コルベールに尋ねた。
その言葉と、ルベールの作った装置を見つめている瞳には、探求心と好奇心が混ざり合っていた。
しえん
188 :
無重力巫女の人:2011/02/28(月) 21:06:52.21 ID:hwEENZR4
以上で、40話の投稿は終了と致します。
いよいよ春告精も目を覚ましてきているのか、昼間が段々と暖かくなってきました。
春も夏も秋も自分は好きなのですが、自分が一番好きなのは冬です。
鍋も美味しいし炬燵やストーブは暖かいし、レティさん可愛いし…
では、今日はここら辺で。
また来月ぐらいにお会いしましょう。ではノシ
追伸
最後の最後で誤字がありました。
その言葉と、ルベールの作った装置を見つめている瞳には、探求心と好奇心が混ざり合っていた。
↓
その言葉と、コルベールの作った装置を見つめている瞳には、探求心と好奇心が混ざり合っていた。
お目汚し失礼しました。
無重力巫女の人、乙でした。
>>176 つながりなんて全く無いけど、ルイズが学園都市フォーサイスの市長を召喚したとか考えただけで震えが来るぜ。
何せ「胸が大きいこと」にコンプレックスがあるんだよあの人。ルイズが市長に向かって牛乳女とか言い放った日には何が起こるか……
……想像もつかない目に遭うだろうな、ルイズは。
スパロボのレーツェルを召喚したら、嬉々としてゼロ戦のカラーリングを赤と黒に塗り替えそうだよな。
そして侵攻されるタルブ村上空に高らかに響き渡る「Trombe!」のテーマみたいな。
多分なにかに乗るたびにトロンベになるとおもうよ!
シルフィードもトロンベさ
>>188 巫女乙
無重力の方乙でした。
本家でも遂に新作が発表されましたね〜。
みょんがイメチェンして自機に再浮上!
さて再来週、有明では天国な地獄が始まります。
無重力の人乙です!
>>190 武器屋に行く時にものすごいはしゃぎそうな食通が目に浮かんだ
遅れたが、三つの『二つ名』の人乙です
いつも応援してます
るいず、ごはんが足りないんだよ!もっとよこすんだよ!
乙
サイトがいないコルベールは大変だな
最新刊で2重契約が可能という新設定がでてきたな。
原作者は後付設定でSS書いてる人の困り顔をみるのが好きなのかな。
二重契約なんて初期のほうからある二次創作ネタだと思うけど
>191
キュルケ「ふふふ、私のこともトロンベと呼んで下さらない?」
どう考えても「ノー」とか「ノーだ。ただのノーではない、絶対にノーだ」とか「No! No! No!」とか「だが断る!」とか、そーゆー回答しかでないよね。
>>197 ノボル「これはオレの物だ!オレだけの物だっ!!!」
ネタバレはまだ自重しろよ。せめて遠回りに表現するとかさ。
まあ、今ゴジラを召喚したとしたらサハラに一直線に行くだろうなあ。
>>197 記憶があいまいで申し訳ないんだが、始祖は二重どころか四重契約してなかったか?
ネタバレ!
ルイズはピンク髪!
>>199 トロンベの人は紳士だからもっと優しく、だがキッパリと断るだろうね
そういやカトライアってカトレアの事だったっけ
>>204 つまりINRANという訳ですねわかります
その割にナイム(ryウボァー
ご立派様に弟子入りして出直してきな
どうせもう原作読んでるの少ないだろうからネタバレしてもいいんじゃないか?
最新刊はクロスオーバー的においしい収穫が多々あったな
212 :
使い魔は最強のお笑い爺さん:2011/03/02(水) 17:47:46.30 ID:Heo/2psN
作品投下させてもらいます。
と言っても小ネタ的なものなのであまり長くありません。
クロス元は分かる人はすぐ分かると思います。
213 :
使い魔は最強のお笑い爺さん:2011/03/02(水) 17:48:42.97 ID:Heo/2psN
「宇宙のどこかに居る(以下略)」
ルイズが召喚したのは頭の頭頂部から額にかけて禿げあがった白髪の老人だった。
「おい、ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!しかも年寄りだ!」
周りの生徒から嘲笑が飛ぶ
「ミ、ミスタ・コルベール!やり直させて下さい!」
ルイズが儀式のやり直しを求め必死にコルベールに抗議するが、当然、聞き入れられるわけがない。
「どこや?ここ?」
確か自分は出前の鉢を下げに行く帰りに喫茶店でテレビを見ながらサボっていたはずだ。
それが気がつけばまるでハリー・ポ○ターのような服を着た若者たちが目の前に居る。
とりあえずこの中で年長であろう眼鏡をかけた男にここがどこなのか聞くことにした
「なぁ、ちょっと、そこのハゲ!」
…ずいぶんと失礼な呼び方だが。
「あの、それはひょっとしなくても私の事ですか?」
コルベールが若干顔をひきつらせながらも笑顔で応える。
周りの生徒達が笑いをこらえているのは言うまでもない。
「いや、お前以外におらんやろが!」
そう言いながらその老人は肩から提げている大きめのガマ口から妙に柔らかそうな棒を取り出して思い切りコルベールの頭を叩いた。
「いだっ!」
コルベールは不意打ちに思わず悲鳴を上げる。
「ちょ、アンタ!突然何やってるのよ!」
「いや、ボケてんからツッコまんといかんやろうが」
ルイズの怒声に老人は事も無げに答えた。
「何訳の分かんないこと言ってるの!そもそもアンタも禿げてるじゃない!」
「え?嘘?」
ルイズの言葉を聞いてその老人は自分の頭を触る。
耳の周りなどは白髪が結構生えている。
だがその手を頭頂部に移動させると…。
「ホンマや〜」
やけに軽い調子で驚く。
(確信犯だ…)
その場に居る全員が心の中で同じことを呟いた。
「まったく!なんて爺さんなの?!」
「茂造や!」
ルイズの言葉に茂造が的外れな答えをする。
「名前じゃないわよ!」
これが、後に虚無の使い手・ルイズと最強のお笑い爺さん・辻本茂造の出会いであった。
214 :
使い魔は最強のお笑い爺さん:2011/03/02(水) 17:50:19.65 ID:Heo/2psN
以上、吉本新喜劇から茂造爺さんが召喚される話でした。
何故sageぬのだ
まあ、なんだ、半年romれ
復活希望作品でもあげようかな
ゼロのガンパレード
では、ゼロ・HiMEを
最新刊の内容がどうあれ、そこまで話を進める二次作品はもう無いんじゃね?
大抵がアルビオンぐらいで話し止ってるし。
完結記念に煉獄の虚神と、黄金の遣い魔を
プレデター・ハルケギニア 鷲と虚無だな
虚無と狼の牙 ウルフウッドカムバ〜ック
蒼の使い魔 バージルも戻ってきて欲しい
瀟洒な使い魔 新作出れなかったけど、メイド長が好きだ!
season 9が終わるまでには、ゼロの使い魔×相棒を…。
ゼロ魔の単行本を15巻までそろえて、アニメも第3期まで見た。
なのに、SS書いていると明らかにキャラが崩壊する。
難しいもんだなあ。
十五とか一番設定崩壊するあたりじゃねーか
キャラの維持は慣れないと難しいよな。脳内でガッチリイメージ固まってるならけっこう上手く動くんだけど、なかなかね。
一旦ノートに性格を落としてみるとかいいかもしんない。怒りっぽいか穏健なのか、保守的なのか新しい物好きなのかとか。
そもそも原作でセリフがほとんど無いキャラはどうすれば
タバサに関しては幽霊関係の設定は一切触れないほうがいい。
タバサの幽霊は二次創作殺しだったなぁ
まぁ原作設定のがいじらしくて悩みどころなんだが
タバサの幽霊がどうしたの?
タバサは本当は幽霊なんて怖くない。
サイトの気をひくために可愛い女の子を演じてみた。
タバサキモイな
タバサが幽霊が苦手なのは2巻に書いてあったのになあ
シャルルは本当は聖人君子なんかじゃない。
ジョゼフを陥れるために聖人君子を演じてみた。
うん、親子だなw
ジョゼットは本当は純真無垢な女の子なんかじゃない。
ジュリオの気を引くために可愛い女の子を演じてみた。
これがガリア王家の血統か……。
ジョゼフが一番まともに思えてくる不思議w
>>236 ジョゼフはジョゼフで完璧超人な弟が大好きすぎて殺しちゃったブラコンヤンデレだからなw
多分、一番まともなのはまともすぎて捻くれるしかなかったイザベラw
イザベラは本当はタバサに忠誠心なんかない。
タバママの愛情が欲しくて忠実な家臣を演じてみた。
ちょっと投下します。
貴族派の戦艦が、ニューカッスル城の城壁に向けて大砲を放つと、崩された城壁の間から人間・亜人の傭兵が城内へと突撃した。
数の激減した王党派は、抵抗むなしく無残にも殺されていった。
そしてあらかた城内が制圧された頃、どぉーん…と、大砲のような音が何処かから聞こえてきた。
多くの者は大砲の音だとして、気にもとめなかったが、幾人かは違和感に気づいていた。
その音は、地面から響いてきたのだ。
■■■
ニューカッスル城から少し離れた、秘密港の奥。
ワルドに人質にされていたルイズは魔法を放ち、凄まじい閃光と衝撃波を作り出した。
その凄まじさは、アルビオン大陸の一部に地響きとなって現れたのである。
「うぐあっ!」
吹き飛ばされたワルドは、紙くずのように宙を舞い縦穴の壁に背中を打ち付けた。
杖を手放さないのは流石と言うべきだろう、しかし、ルイズの『爆発』によって集中力が乱され、『フライ』の魔法自体は解かれていた。
理性は『レビテーション』で落下速度を殺すべきだと叫んでいたが、本能はそれを否定し、自由落下による離脱を選んだ。
時間にして数秒、縦穴を落ちきり、周囲の暗雲が明くなり始めた頃、『フライ』を唱えて体制を立て直した。
空を見上げるが、そこには暗闇が広がるばかりで何も見えない。
だが、その向こうに…、使い魔の恐るべき形相が浮かぶ。
どくん、どくん、どくん…
「…は、はぁ、はっ、は……」
心臓の音がやけに大きく聞こえ、冷や汗をかいた脇の下と額は、じっとりと濡れている。
ルイズの使い魔が見せた悪魔のような表情と、赤黒い輝きを思いだし、ワルドは背筋に寒い物を感じた。
震えながら懐を探り、ルイズから受け取った手紙の存在を確かめる…そこには幼少時の手紙と、この任務のために書かれた手紙の二通が入っていた。
「…目的の物は手に入れた。」
ワルドは自分に言い聞かせるように呟くと、アルビオンの貴族派拠点へと移動すべく、口笛でグリフォンを呼びつつ明るい方へと飛んでいった。
得体の知れない不安を抱えたまま……
■■■■■■■■■
時は少し戻り、爆発の瞬間。
「やめろおおおおっ!」
人修羅は叫ぶや否や、宙に浮かぶルイズ目指して跳躍した。
ルイズの体から放たれる力が、ルイズ自身に向けられていると気がついたからだ。
人修羅が跳躍して、ルイズを抱き留めるまでの、ほんの一瞬…。
光と熱を伴う爆風が、ルイズ自身の体を抉っていくのが、まるでスローモーションのように見えた。
今まで何度も魔法を失敗しても、たいした怪我も負わせなかったルイズの『魔法』が、無慈悲に肉体を削っていくのが見えた。
杖を持つ右手が潰れ、腕が裂け、骨が露出し、そして骨すらも砕かれて飛散していく。
(届け!)
スローモーションのような世界で、人修羅はルイズに近づこうとしていた。
(早く!)
近づこうとする一瞬の間にも、ルイズの体は削られていく。
(あと少しなんだ!)
右肩まで抉れたところで、体を掴んだ。
そのまま背中に手を回して抱きしめると、手に持っていたデルフリンガーを壁に向け、ドカッ!と突き刺した。
どぉぉぉぉん… おおおぉぉぉん… おぉぉぉぉん…
爆発音は縦穴で反響し、うめき声のような音となって周囲に満ちる。
音が止んだ頃、デルフリンガーを壁面に突き刺して、右手一本でぶら下がっている人修羅と、その左腕で抱えられたルイズだけが残されていた。
二人は桟橋とは反対の壁にぶら下がっており、岸壁と平行に伸ばされた桟橋にはとても手が届きそうにない。
このまま壁を上ったとしえも、桟橋側にしか足場らしい足場はないので、どうにかして反対側まで辿り着かねばならないだろう。
「ルイズさん…」
ルイズの体を見て、人修羅が呟いた。
杖を持っていた右手は肩から先が失われ、服はほとんどが吹き飛び、玉のような肌は火傷を負って、髪の毛は半分が焼かれている。
一刻も早く治療すべく、人修羅はルイズを抱きしめ、呪文を唱えようとした。
「メディアラハ …う、おっ」
治癒の魔法を唱えようとした瞬間、デルフリンガーの角度がずるりと下がった。
『相棒!ちょっと浅いぜ、このままじゃ落ちるぞ!』
デルフリンガーが鍔を鳴らさない程度の声で現状を伝えると、人修羅が苦虫をかみつぶしたような顔をした。
ガンダールヴのルーンは、抜け落ちそうなデルフリンガーをその場に保つべく、『最適な体の動き』を引き出している。
それ以外のことに気を向ければ、すぐにでも落ちてしまいそうな危うい状況…。
このままではルイズの治癒もままならない。
「くそ…」
時間にしてほんの数秒、ワルドが縦穴を落ちきって体勢を立て直した頃、人修羅の体から赤黒い光が漏れ始めた。
「爆風……風、風か」
人修羅は桟橋を見上げて、覚悟を決めた。
瞬間、人修羅はデルフリンガーを引き抜いた反動を利用して壁を蹴り、宙に舞った。
一瞬でデルフリンガーを左手に持ち替え、空いた右手を壁にかざす。
「ジャァッ!!」
掌から放たれた『ヒートウェーブ』は爆風となって壁を抉り、その反動で人修羅の体が吹き飛んだ。
空中で体勢を立て直しつつ「届け…っ!」と、絞り出すような声を出して手を伸ばす。
そして人修羅の手は、見事桟橋を掴んだ。
■■■■■■■■■
爆発の瞬間、ルイズの意識は光に包まれた。
真っ白な眩しさで塗りつぶされた世界は、暗闇と同じで何も見ることはできない。
暗闇か眩しさか解らない深淵の中で、ルイズは心臓の鼓動を聞いていた。
どくん…
どくん…
その音は自分の体ではなく、どこか遠くから聞こえてくる気がした。
何処だろう?そう思った瞬間、ルイズの意識は急速に引き上げられる……
「ここは…」
目を覚ましたルイズは、首を左右に動かして、自分が異常な場所にいることを知った。
血のように赤い液体が壁を流れ、あるいは天井から滴となって降り注ぎ、巨大な洞窟に川を作っている。
どうやら自分はその川の中で、仰向けになっているらしい。
不快感よりも先に考えたのは、人修羅に向けられた魔法を自分自身へと放ったこと。
あの爆発の後どうなったのかが知りたくて、ルイズは体を起こした。
いや、体を起こそうとしたが、上手く力が入らずに体が起こせなかった。
それも違う。上手く力が入らないのではなく、右腕が肩から失われていたのだ。
体を起こそうと何度かもがき、ようやく自分の右腕が無いと気がついた時、緊張のあまり喉を細めて息を吸い込んだ。
「ヒッ」
悲鳴のような息を吸う音が鳴った。
(痛くない。痛いはずなのに、痛くない。どうして、どうして痛くないの。なんでここには誰もいないの)
パニックに陥りそうな頭を必死に押さえ、残っている左手を使って傷口を確かめる。
ぬちゃ…と粘度の高い水音がして、かえってそれが冷静さを取り戻すきっかけになった。
(少なくとも出血はしていない、それに、わたしには意識もあって、まだ生きている)
ルイズは左手で体を支え、よろめきつつ体を起こす。
ふと、水面に映る自分の姿を見た。
自分の顔がぼやけて映っている。
(違う)
水面が揺れて顔が上手く映らない。
(違う)
暗くて顔がよく見えない。
(ちがう)
ルイズは左手で、おそるおそる自分の顔に触れた。
ぬちゃ…と、まるで腐肉に触れたかのような音が聞こえる。
「あ、あああああ」
顔の右半分は焼けただれ、眼球すら潰れていた。
「うああああーー あ、あーーーー」
(わたしはもう死んでいる)
「ち、ちが、う」
(この傷で生きているはずがない)
「いや、いやだ」
(わたしは魔法で、わたしを)
「ああああううううああああううあ、ああああ…」
ルイズは膝を付き、頭を抱えた。
「どうして、どうして」
涙を流しながら、嗚咽混じりに助けを求める。
「いや…たすけて…たすけて…」
「ちいねえさま、おねえさま…おとうさま、おかあさま…」
「…ひとしゅら!」
どくん!と、今まで聞いたことのない、地響きのような心臓の音が聞こえてきた。
どくん、どくん、どくん………繰り返される規則的な音は、下流の果てから聞こえてくる気がした。
「ひとしゅら?」
ルイズはその音が、人修羅が自分を呼ぶ声に聞こえた。
呆然とした表情のままだが、ぴたりと涙が止まり、体に生きる力がみなぎる気がして来る。
ゆっくりと立ち上がり、音の聞こえる方に向かって、ゆっくりと、しかし地力強く歩き出した。
■■■
ルイズは歩きながら、洞窟の壁や、流れてくる赤い水を見た。
洞窟の壁面からは相変わらず血のような水が流れ続けている、だが、川の水は深くなる様子もなければ、勢いが変わることもなかった。
また、水の中を歩く感覚はあるのに、波立つことがない、つまりこれは液体に見えて液体でない何かなのだろう。
その上洞窟と呼ぶには、壁が生々しい。まるで巨大な竜に飲み込まれ、その喉を歩いているような気すらした。
しかし、考えたところでどうにもならない。ルイズは小さな疑問を抱きながら、音の聞こえる方に歩き続けた。
どれぐらい歩いただろうか、洞窟の奥から聞こえてくる鼓動を頼りに、ひたすら進み続けたが、音が近くなる気配もなければ遠くなる気配もない。
そして自分にも、疲れる気配がない。むしろ足にまとわりつく血のような何かが、体に力を与えてくれるような気すらするのだ。
「ひとしゅら…」
ぼそっ、と呟く。
何処まで行けばいいのだろう、いつまで歩けばいいのだろう…そう考えて顔を上げたその時、今まで変化の無かった洞窟の奥が広がっていると気づいた。
「…っ」
ルイズはぐっと手を握りしめ、その奥に向かって歩き続けた。
たどり着いた場所は、円形の巨大なホールを思わせる構造で、よく見れば反対側にも、天井にも黒い穴が見えた。
そこからは絶えず赤い液体が流れ続けている、おそらく、自分が歩いてきた洞窟と同じように、あの赤い液体はいくつもの通路からこのホールに集まるのだろう。
ルイズはふと、耳を澄ます。
先ほどまで聞こえてきた、心臓の音がある一点から聞こえてくる。
その場所がホールの中央だと確信し、一歩、足を踏み出す。また一歩、また一歩……
中央に向かって底が深くなっているせいか、足を進める度に体が沈んでいく。
だが恐怖は無かった。よく考えてみれば…この場所で、自分は呼吸すらしていないのだから。
膝が浸かり、腰、胸、肩、頭…全身が水の中に沈みきったが、息苦しさはまるで感じられない。
それどころか、どこか安らぎを感じてしまう。
中央部へと近づくにつれ、自分とは別の人影らしきものが、中央を目指してゆっくりと移動しているのが見えた。
その人影は、よく見れば体に人修羅と同じ模様があり、弱々しく光っていた。
「人修羅?」
心の何処かで、”ちがう”と感じながらも声をかける、だが人修羅らしき人影は振り向くこともなく、ゆっくりと中心部に向かって進んでいく。
「あっちにも…こっちも…みんな、人修羅と同じ模様を…」
気がつけば、辺りには幾つもの人影が浮かんでいた、皆人修羅と同じ模様があり、まるで死人のような動きでゆっくりと移動している。
中には上半身のないもの、頭の半分削れた者、右半身を失った者、胸に大穴を開けた者など、多種多様な”死に方”を見せていた。
そんな光景の中、ルイズは驚くほど冷静だった、それらの人影が自分の知る人修羅とは違う存在だと、心の何処かで確信していたのだろう。
ルイズはその先から聞こえてくる、心臓の音を頼りにして、無数の人影と共に歩き続けた。
ある地点に到達すると、周囲の人影は赤い粒となり、形が崩れていった。
その赤い粒も、塩の粒が水に溶けるようにして、周囲の液体に溶けていく。
色こそ濃くならないものの、周囲に満ちる『何か』が次第に濃くなるのを感じた。
辺りに満ちた何かは、あえて言うなら魔法に伴う『力』だろうか。それがどれ程膨大なものかは感じ取れないが、その流れだけは解った。
中央部に居る誰かに、ゆっくりと吸い込まれていくのだ。
「あ…」
そしてルイズは、ようやく中央部へとたどり着いた。
血のように赤い水の集まる場所には、その血を吸い続け、どくん、どくんと鼓動する一人の男が仰向けになっていた。
「人修羅」
そっと傍らに跪き、人修羅の頬をなでる。
(私の知ってる人修羅だ)
そう思うと、とたんに不安や緊張感が取れていく。
それどころか眠っている人修羅を気遣う余裕すら生まれてきた。
「眠ってるの? 疲れているのかしら」
ルイズは自分が裸同然だと知りながら、人修羅の脇に寝そべって、その手に触れた。
どくん… どくん…
人修羅の手から、体から、いのちの鼓動が伝わってくる。
「ねえ、私の魔法、どうなったの?人修羅を傷つけなかった?」
そっと人修羅の手に、指を絡めた。
「あなたが来てから、何度も魔法を練習したわ、一緒にやろうって言ってくれたから、頑張ったけど」
ぎゅっと、手を握る。
「やっぱり爆発しちゃった。 でも、貴方を傷つけなくてよかった。 …お願い。私の代わりに、ちいねえさまの体を治してあげて」
まるで遺言のような囁きが終わる頃、ルイズの体からも、小さな赤い粒がしみ出て来た。
まどろみに任せて、ルイズは目を閉じた。
考えてみれば、自分の魔法が失敗ばかりだと自覚した頃から、ずっと人目を気にしていた。
その時に自分を慰めてくれたワルド子爵に、憧れを抱き続けていたつもりだったが、人修羅を召喚してからしばらくはワルド子爵のことを思い出してはいない。
ワルド様に再開するまでの間、ずっと自分は人修羅に甘えていた。
そして今、人修羅にすべてを任せて眠るつもりでいたのだ、そんな自分に気がついて、情けないあまり「ああ」と声を上げた。
■■■
(……そっか、私。 私を慰めてくれる人を探していたのかもしれない…。)
(魔法が使えないから、失敗ばかりするから、慰めて欲しくて。それで人修羅を召喚したのかも)
(私はずっと甘えていた、お母様にも、お父様にも、家庭教師にも先生方にも怒られて当然)
(でも、ワルドさまに捕らわれた時に、人修羅に向けた魔法はちゃんと操りきったわ。使い魔を傷つけるなんて貴族失格だから、人修羅を怪我させたくないから、私は、操られた自分の体を吹き飛ばした)
(人を操る魔法にも耐えて、自分の意思で魔法を使ったのよ、それだけは、それだけは褒めてくれるかな)
人修羅の手が、ルイズの手を握った。
■■■■■■■■■
桟橋をよじ登り、洞窟内の陸地へと移動した人修羅は、ルイズを地面に横たえて手をかざした。
「…メディアラハン!」
詠唱と共に放たれた治癒の光により、ルイズの体は映像を巻き戻すかのように治っていく。
それはまさに『魔法』であった。
『すげえ…』
デルフリンガーですら、こんな速度の治癒魔法は知らない。おそらく先住魔法でも不可能だろう。
「ルイズさん、ルイズさん」
声をかけながら、肩や頬を叩いて反応を確かめるが、ルイズの返事はない。
肉体は完全に再生され、心臓の鼓動や自発呼吸が完璧でも、意識はまだ戻っていないようだ。
「ルイズさん! ルイズ!」
最後は叫ぶような声で名を呼んだが、目覚める気配はない。
そうしているうちにも外では戦いが続いている、いや、もう終わっているも同然であろう、少ない王党派はもう全滅している頃だ。
今は戦いの高揚感に勢いづいた傭兵達が、我先にと略奪を繰り広げているだろう。
『お、おい、相棒。そろそろこの洞窟も気づかれちまうぞ』
「…そうだな。デルフ、お前はどうしたらいいと思う?」
人修羅は、靴下と靴しか着けてないルイズに自分の上着を着せると、上着に入れていた『つぶて』を無造作に取り出し、ズボンのポケットへと入れた。
『嬢ちゃんをここに置いて、戦うか…抱いて逃げるとか。…相棒にはそれだけの力があるはずだ』
地面に突き刺しておいたデルフリンガーに視線を向ける。
「そうだな。力押しでやれば大抵のことは片付く。だけど俺にも恐れはあるんだ。
人間の悪意が怖い。悪意は疑いを呼び、疑心暗鬼がやってくるからな。
力で適わぬと知った誰かが、俺とルイズさんを利用しようと、知古を巻き込んで悪意を振りまくかもしれない。それが怖い。
俺は人間だった頃、優柔不断で、人に流されて生きる方が楽だと思って、だらしない生き方をしていた。今もそれは変わらないらしい。こうして窮地に陥るまで、戦う決心が出来ないんだからな」
人修羅はデルフリンガーの鞘ベルトを利用して、ルイズを背負い、デルフリンガーを掴んだ。
「俺は、馬鹿だろ」
『いやあ、そこらの貴族より人間らしいや』
■■■
「おい、こっちだ、荷車の跡があるぞ!」
秘密港に通じる道を見つけた傭兵達が、土壇場で捨てられたお宝や、貴族派の首を期待して駆けていく。
城から少し離れた場所にある洞窟の入り口は、木々に遮られて辺りからは見えないが、脱出の際に使われた荷車の跡がはっきりと残っており、彼らも迷うことなくたどり着けた。
「この中だな」
「いかにも何かありそうな場所だ、おめえら、行くぞ!」
「おお!」
勝ち戦となった貴族派の傭兵は、我先にと洞窟へ入っていった。
傭兵団長らしき男は先遣を部下に任せて、あらかた片付いた頃に突入しようと思っていたが…
ごおおおっ、と、突然洞窟の中から吹雪が吹き出した。
「まだメイジが残ってやがったか」
そう言って残った部下に弓矢を構えさせたが、自分の体は宙に吹き飛んでいた。
「あれ?」
五秒ほど空を飛び、地面に投げ出され、団長は意識を失った。
その様子を見ていた傭兵達は、団長を剣で殴り飛ばした男をにらみつけた。
顔に入れ墨を入れ、背中に子供を背負っている、得体の知れない男だ。
傭兵達が飛びかかろうとしたその時。
「ジャアッ!」
男のかけ声と共に、周囲に竜巻が起こった。
「うわああああああ」「ひいーーーー!」
竜巻に巻き込まれた傭兵達は宙を舞い、情けない叫び声を上げる。
男はその下を瞬く間に通り抜け、戦場と化した城下町へと走り去っていった。
================
今回はここまでです。
アクマさんお久しぶり。投下乙でした。
乙ですー
続きの読みたい作品か…
アノンの法則の続きも読みたいなあ
ルイズを魔法少女にしておくれー――
僕と契約して魔法少女になってよ!
「君を立派な魔法使いにしてあげよう。なんなら、君のお姉さんの病気も治してあげよう。その代わりに
『ハルケギニアをあなたにあげます』
と、一言わたしに言ってくれないかな?」
ネクサスのデュナミストになったら殆どの確率で立ち直れるよ
ただしお情け程度のケアで倒れるまで戦わされるけど
>>251 メフィラス乙
……奴の方がQBより遥かにマシに思える今日この頃w
ヒートウェーブ乙!!!
ゲームではろくに使わなかった技が活躍してて面白い‥‥
255 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/03(木) 20:17:34.86 ID:OyWHvdXP
「東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました」
「エデンの林檎」
はもう続かないんかなぁ…
大好きなんだが
>>253 メフィラスは奇跡と引き換えに何を失うかちゃんと明示してるからw
フェアさという点ではQBと比べるだけでも失礼極まりないww
喪黒「ホッホッホ」
QB?
白くてモフモフして首輪付けててドヒャー!ドヒャー!って飛び回るケモノの事かい?
ピッコロとベジータを二身合体=メフィラス大魔王誕生
>>259 よぉ 首輪付き アルビオンを堕とす
付き合わないか?
革命など成功しない 所詮殺すだけだ
だろう?
アルビオンを墜としたら水不足に見舞われる地域もでるよね
>>262 なんでこんなものを地球に落とす!
これではハルケギニアが寒くなって人が住めなくなる。核の冬がくるぞ!
ならば今すぐメイジ共すべてに叡智を授けてみせろ
>>263 まあ、まだそっちの方がQBや喪黒よりはマシかなぁ…?
狂戦士と髑髏の騎士に命を狙われて、死後は確実に地獄逝きだけどw
メフィラスさん、マジ紳士
>>261 スミカ先生の説教がコワイから断るってさw
アルビオン墜とすのは無理だろうなぁ‥‥DBの強キャラかトランザム中のOOライザー位しか思い付かん。
悪魔と取引すると後が怖い。
ヤプールに描いた漫画を現実にできる能力を貰った漫画家は思い通りに超獣を
暴れさせるけど、超獣と感覚がリンクしたから腕をもがれ体を炎上させられて悲惨な末路を遂げた。
あと、学院に自販機が置かれるパターンもあるかも。
269 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/03(木) 22:57:16.19 ID:OyWHvdXP
「東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました」
「エデンの林檎」
はもう続かないんかなぁ…
大好きなんだが
取引しても欝にならなさそうな悪魔ぽいもの……
オーフェンの魔王スウェデンボリーぐらいかねぇ
主人公は魔王と契約したけれど幸せな家庭を手に入れましたー
ディスガイアより魔王ラハール
オーフェンといえば、新シリーズスタートするらしいな。
>>268 ウルトラマンのギャンゴの回に出てきた
何でも欲しいものになってくれる石をルイズが手にしたら……
……やっぱり破滅しそうではあるな……
逆にルイズが使役出来そうな怪獣やクリーチャーはどんなもんだろうか?
>>273 ギャンゴの石は考えるのをやめたら元に戻る。要するにちょっとでも気がそれたらリセットされるから実害は少ない。
破滅を招くならガイア映画に出た赤い石のほう。
ルイズに従いそうな怪獣なら、リドリアスほかコスモスの怪獣なら割と多い。
取引しても鬱にならない悪魔か…
サンホラから石畳の緋き悪魔をテファが召喚して…みたいな小ネタは考えたことあったなぁ
ちょうどシャイターンだしw
> 取引しても鬱にならない悪魔
カレラさん
いや取引関係無しにルイズは鬱になるな
>>271 ディスガイア4では約束を大事にして魚強(イワシ)が大好きな悪魔が来たよ!
「契約なら仕方あるまい…」とか言って従順に従っちゃいそうな元暴君が
WIZのグレーターデーモンを召喚してしまって大惨事…という小ネタをちょっと考えた
呪文無効化95%、肉弾戦も巨人より強い、異界から仲間を次々に呼ぶ…
うむ、ハルケギニア滅亡のお知らせ
ラノベ的にはロードスの魔神王召喚の方が想像しやすい
いやルイズが憑依されてまうが
>>278 アイツら確か地上だとUさんみたく活動限界有るとか聞いた気がする(ベニ松の小説だったか?)
その場合きっとシエスタがスカルダの末裔でムラマサ振るってズンバラリンにしてくれるさw
> 取引しても鬱にならない悪魔
あくまデふぁんたジー!?のランニーヤ
エンダースさんはどうだろう?
もう、エンダース“様”と呼ばないといけないけど。
ふと思ったけどアサクリのってエツィオさんブレード今コルベールに渡してるから一本なんだよな・・・・
BH項目アンロックされてるし二本になったらキルストリークで七万くらい余裕なんじゃ・・・
まぁ下手したら帰ったときにブレード壊れてて『すまん、ダヴィンチ』の実績入手しかねないけど
> 取引しても鬱にならない悪魔
ミラクルチロル44キロ
対価は例によって自分の命なんだけど、契約の不備とか「サービス」でタダ働きさせられる悪魔
鬱にならない悪魔なら、グルグルの悪魔ケベスベスなんかいいんじゃないか
むしろギーシュやマリコルヌあたりからは神と呼ばれることうけあいだ
286 :
つかよん!:2011/03/04(金) 13:15:50.16 ID:1TyMam0n
問題なければ13:20頃から
「使い魔は四代目」
第二話を投下したいがよろしいか?
> 取引しても鬱にならない悪魔
デーモン閣下だなw
288 :
使い魔は四代目:2011/03/04(金) 13:20:05.46 ID:1TyMam0n
一芝居打って満足した竜王のひ孫は再び老人の姿に戻っていた。先程までの威圧感は嘘のように消えうせ、辺りは再び静けさを取り戻している。
ようやく茫然自失から立ち直ったコルベールは、最早授業を続けられるような空気ではないのを察し、未だにコントラクト・サーヴァントを済ませていないルイズを残して他の生徒に授業の打ち切りを宣言した。故に、殆どの生徒は既に教室に戻っている。
ただし、タバサとキュルケは残っている。タバサはシルフィードがこの場を動こうとしないので仕方なく。キュルケはタバサが残っているのが半分、この後の展開を見届けたいのが半分で。
生徒達はルイズに対し文句を言いたそうだったが、結局は皆無言で去って行った。何を言ったところで恥の上塗りになるのは目に見えたからである。
それを見送りながら、しかしルイズは痛快とも思わなかった。その表情は硬かった。
竜王のひ孫の行動が芝居と知った時こそ安堵したものの、結局自分はコントラクト・サーヴァントを済ませていない事。
そして竜王のひ孫相手にそれが出来るとも思えない事。それを考えた時に安堵感は露と消えた。
確かに密かに願っていた通り、強力で珍しい存在を召喚する事はできた。そういう意味でなら確かにこれ以上は無い、と言い切れるほどの大当たりなのだけれど。
「…使い魔に出来なければ無意味なのよね…」
ルイズは小さく呟いた。竜王のひ孫を使い魔に出来ない以上、使い魔召喚の儀式を成功させようとするならば、後は再召喚を行い新たに何かを呼び出してそいつと契約するしかない。
が、先程のコルベールの反応を考えるとそれを行うのは望み薄だろう。失敗したのだ。事は終わったのだ。
ルイズの表情はどんどん暗くなっていった。
コルベールは、そんなルイズを気遣わしげに眺めていた。
彼女の考えている事は分かる。分かるが、まず今第一に確認しておかねばならない事は…
「…あの、竜王のひ孫様。…本当に怒ってはいないのですね?」
「安心せい、大体わしがその気なら今頃はおぬしら全員灰も残っとらんわ」
返ってきたのはそんな物騒な答えだった。
「…で、ですよねー…」
冷や汗をダラダラと垂らしながらコルベールは相槌をうった。先程のドラゴンの姿から考えれば、それを容易くやってのけるだけの実力があるのは疑いようも無い。全く、ミス・ヴァリエールもとんでもないものを召喚してくれたものだ…
しかし困った。このままでは彼女が今危惧している通り、コントラクト・サーヴァントは不可能だろう。という事はつまり、春の使い魔召喚の儀式は失敗であり自動的に彼女の進級は不可、となる。
コルベールはルイズがどれだけ真面目に勉学に打ち込んできたかを知っている。
そんな彼女をむざむざ落第にするような真似は教師として、そして人間としてしたくは無かった。
だが現実問題として、コントラクト・サーヴァントを成功させない限り、彼女を落第にするしかないのだ。ならばどうする?
決まっている。私は教師だ。教師であろうと決めたのだ。ならば、その勤めを果たすまでだ。では、そうする為には何をすれば良いのだ?
しばらく考え込んだ後に、コルベールは緊張した面持ちで口を開いた。
「あの、非礼は十分承知の上なのですが、よろしければ、ミス・ヴァリエールに協力していただけないでしょうか
。…つまり、一時の間だけでも彼女の使い魔となって戴けないでしょうか」
「ミスタ・コルベール!?一体何を?」
289 :
使い魔は四代目:2011/03/04(金) 13:23:05.87 ID:1TyMam0n
「ほぉ…コルベールよ、わしの真の姿を見てなお、使い魔になれというか」
竜王のひ孫から笑みが消え、目つきが鋭くなる。それだけでコルベールは首を絞められているかのような息苦しさを感じた。それを無理やり押さえつけ、言葉を重ねる。
「も、勿論強制ではありません。ただ、先程の『異世界』や『上の世界』といった言葉から察するに、
帰還が困難なほど遠くから召喚されたのではないかと推測します。私達も全力で帰還の方法を探しますが、何分この様な事は例が無いため、相当に時間がかかることが予想されます。
ならばせめて、その間だけでも…」
竜王のひ孫はじっとコルベールを見つめた。
…私心は無さそうだ。純粋に生徒を心配しての事か。見事な覚悟だ…と言いたいが…
「ふむ。どうやら嘘は無さそうじゃな。確かにこちらでやる事もないし、わしとしてもお主らの協力が得られるならその方が良い。が…それだけではまだ足りぬな」
「…足りない?」
「わしは下衆やただの愚昧な輩に貸す力など欠片も持っておらんわ。ルイズとやら。わしを使い魔にしたいなら自力でお前がそうでない事を証明してみせい」
「し、…証明…と言われても…ミスタ・コルベール!本気で、この竜王のひ孫…様を使い魔にしろと言っているんですか!?」
「ミス・ヴァリエール。君が躊躇するのは当然だ。だが、私は可能性はあると考える。
今の竜王のひ孫殿の言葉を聞いただろう。その気が無いならあのような事はおっしゃらないだろうと私は思う。
第一、竜王のひ孫殿がその気ならとっくにここから去っているか、我々が全滅するかしている。
そして…こんな事は言いたくないが、これはラストチャンスだ。君はもう分かっている筈だ。これを物にできないようなら、再召喚不可がルールである以上、
私は君がこの春の使い魔召喚の儀式に失敗した、と判断せざるを得ない。すなわち、君を落第にしなければならない。
…済まないとは思うがこれは決まりであり私ではもうどうすることも出来ないのだ」
「…と、言う事らしいわい。ルイズよ。言いたい事があれば言うてみい」
ルイズは必死で考えた。まだチャンスは残されていたのだ。しかしどうする?実力でどうこうできるわけも無いのははっきりしている。
かといって嘘やハッタリはまず通じないだろし、通じたとしてもそれが露呈したときが怖すぎるのでこれも論外だ。
それでは諦めるのか?諦めるしかないのか?
思いつめたような顔で考え込むルイズを、竜王のひ孫はしばらく見つめていたが、ふ、と表情を崩すと声をかけた。その声には先程コルベールに向けられたような鋭さは無かった。
「…魔術の道は、深く険しい。誰もが、道に迷い、立ち止まるだろう。
一流の魔術師は、あらゆる手立てを尽くし、速やかに歩き出す。並みの魔術師は、少しばかり歩き出すのが遅い。そして負け犬は、立ち止まったまま歩き出せない。
…わしらの世界の高名な魔術師、ダクダクバンボの言葉じゃ。ダクダクバンボを知っておるかね?」
「…申し訳ありませんが…知りません。不見識を恥じるのみです」
「はっはっは。いや、素直でよろしい。まぁ当然じゃろうて。何せ口からでま…あ、いや、もとい、
あー、まぁようするに、失敗が問題なのではない、努力し続けるのが肝心、とまぁそういう話じゃ。
じゃからな?黙っていては何も伝わらんぞ。わしは別に見事な演説を聞きたいわけじゃないんじゃから」
しえん
291 :
使い魔は四代目:2011/03/04(金) 13:26:28.28 ID:1TyMam0n
その言葉を聴いて、ルイズは少し気が楽になったような気がした。そして、想像してみた。メイジになるのを諦め家に戻った自分、竜王のひ孫を使い魔にした自分を。
そして思い出した。何度もサモン・サーヴァントに失敗し続け、ついに手ごたえを感じた瞬間の歓喜を。
顔を上げた。結局何をどう言ったら良いかは分からないままだったけど…けれど、やはり諦める事など出来ない。
方法は間違っているかもしれない。駄目かもしれない。けど、やれる事をやらずに諦める事など出来はしない。そんなのは貴族のする事ではない。
杖を持ち、竜王のひ孫に対峙する。
「竜王のひ孫様。どうすれば証明する事になるのか、私には正直分かりません。
なので、私の力を見て貰いたく存じます…エア・ハンマー!」
その言葉と共に、風が唸りを上げ、破壊の槌となり標的へと襲い掛かる!
…わけもなく、結果はいつもの通りだった。すなわち爆発。
「…ご覧の通りです。このエア・ハンマーだけではありません。私は、今までどんな魔法も成功させたことがありません。いえ、成功しないどころか、爆発させてしまう…その為に『ゼロのルイズ』と呼ばれるような…駄目なメイジです。
ですから、竜王のひ孫様を使い魔とするような資格など、ありはしません」
「…!ミス・ヴァリエール!君は…諦める気かね?」
「いいえ。ミスタ・コルベール。ただ、ここで嘘を付いてはいけない事位分かります。我こそは竜王のひ孫殿を使い魔にするに相応しいメイジだ、など言えるはずもありません。
そして、使い魔になってもらおうとするなら、私の全てを曝け出す必要がある事を。だから…、この事は言わねばならないのでしょう」
搾り出すようにルイズが言う。プライドの高い彼女の事だ。これだけ言うのもさぞ苦しいだろう、とコルベールは思った。
「けれど、竜王のひ孫様。貴方を召喚したサモン・サーヴァントが私の始めて成功した魔法なんです。だから、だから…」
ルイズは、自分の思いがまるで言葉にならない事が悔しかった。
竜王のひ孫様。貴方はわからないでしょうね?
今まで魔法が成功しないことがどれだけ不安だったか。どれだけ苦しかったか。それだけに、サモン・サーバヴァントが成功した瞬間、どれだけ嬉しかったか。
まぁこれは人間を召喚した事による不安ですぐ消えちゃったけど。
ああもう、思った事がそのまま言葉になるならこんなもどかしい思いはしないのに!
とにかく、まだチャンスがある、と聞いた時、確かに恐ろしかったけど、貴方と共に歩く自分を想像したんです。
それは、凄く輝いて見えた。今までの、迷いとか、悩みとかが一気に晴れて、どんな困難にも立ち向かえそうな気さえした。だから…
「貴方は私の希望そのものなんです!身の程知らずと言われても仕方ありません。けれど、お願いです、力を貸してください!」
292 :
使い魔は四代目:2011/03/04(金) 13:29:12.11 ID:1TyMam0n
竜王のひ孫は、沈黙を守ったままルイズの瞳を見つめていた。そこには彼がかつて力を貸した勇者であり、そして掛け替えの無い友人である三人組の中の一人を連想させるものがあった。
人の身でありながら破壊神と渡り合った最強の戦士にして勇者達のリーダー。ローレシアの王子アレン。
剣と魔法、どちらも一流の使い手の魔戦士。サマルトリアの王子カイン。サマルトリア防衛戦での彼の獅子奮迅の戦いぶりは最早伝説だ。
国を滅ぼされ、家族を全て失い、一時は犬の姿に身をやつし、それでも慈愛の心と勇気を失わず、癒しの力、破壊の力、究極と言われた呪文さえ自在に操った偉大なる魔法使い。ムーンブルクの王女ナナ。
彼がやってきた世界アレフガルドでこの三人の名を知らぬ者など存在しないだろう。
そして、ルイズの眼光に彼はカインを重ねていた。その瞳に宿る強い意志の力と、見え隠れする劣等感がそう思わせたのかもしれない。
意地の悪い見方をすればカインは器用貧乏だ。剣技ではアレンに、魔法の威力と言う点では攻撃魔法でも回復魔法でもナナに劣るからだ。
勿論、その事に対する思いもあっただろう。しかし、一番彼に常に付きまとっていた劣等感は、自分一人だけが、勇者ロトの血を引いていないと言う自力ではどうにもならない事だった。
だが、彼はまぎれも無い勇者だった。そんな大きな劣等感を抱えながらもそれを表に出さず、飲まれる事無く戦い抜き、ついには克服したのだから。
…生意気そうなところもよう似ておるわい。いらん事を言って余計な騒動を巻き起こす姿が見えそうじゃな。
一人で納得して頷くと、彼は穏やかに尋ねた。
「ところでルイズや。先程力を貸してほしいと言ったが…、お主はその力で何を手に入れる?地位か?名誉か?…それとも、世界か?」
「そんな物じゃありません!私はただ、一人前のメイジになりたい。そして、胸を晴れるような貴族になりたいだけです」
「ふむ。今の言葉に偽りはないとわしの目を見て誓えるか?」
「無論ですわ」
「安請け合いするでないわ。嘘があったらその命を貰い受けるとしてもか?」
先程コルベールに向けられた眼光が、今度はルイズに向けられた。その威圧感と、何よりその言葉の内容に一瞬絶句したが、それでも目を逸らさず答えることはできた。
「…!つ、杖に懸けて」
その返答を聞き、竜王のひ孫はしばし眼を閉じ、やがて静かに問うた。
「どうやら本気のようじゃな…ルイズよ。わしは竜族の王じゃ。人間に使役される謂れは無い。よって、使い魔といえども立場はあくまで対等じゃ。それで良いな?」
293 :
使い魔は四代目:2011/03/04(金) 13:31:02.45 ID:1TyMam0n
「…!?竜王のひ孫様、それでは!」
「対等、と言ったじゃろ?じゃからそんなに畏まらんでもええわい。まぁそれはそれとして…」
そこで言葉を切り、竜王のひ孫は周囲を見渡した。一瞬、未だこの場に残っていた竜にまたがる青い髪の少女、タバサとその傍らに立つ褐色の肌を持つ赤毛の少女、キュルケの所で視線が止まった。
しかし奇縁というものはあるものじゃ。ルイズがカインに通じる物があるなら、あの少女は…ナナじゃな。
どことなく漂う翳りの様なものがナナを思い出させたか。まぁ、幸いにもそれを支えるだけの強さを持った友もいるようじゃ。
そんな考えを脳裏に浮かべつつ、了承の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべていたコルベールに問いかけた。
「さて、コルベールよ。お主の提案どおり使い魔になってやる事にしたが…まだ儀式が残っておるんじゃろ?具体的にはどうするんじゃ?」
「はい。後は面倒な事はありません。スペルを唱えつつ誓いの口付けをするのみです。それにしても…ミス・ヴァリエールに対する寛大な御心に感謝の言葉もございません」
「ああ、ええわいええわい。…それにしても、接吻とはのう。時にルイズ。これは非常に重要な問題なんじゃが」
「何でし…何かしら」
「初めて?」
「こ、これは使い魔相手にするものだからノーカウントですっ!」
「そうか…ルイズ、感謝するんじゃぞ。竜族の王にこんな事が出来るなんて普通は一生無いんじゃからな」
ニヤニヤしている竜王のひ孫をルイズは真っ赤になって睨み付け、サモンサーヴァントを始めた。
呪文が唱えられる。杖が振られる。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この物に祝福を与え、我の使い魔と成せ」
そして、唇が重なり…儀式は完了した。
これが、竜族の頂点にして王の中の王、竜王(のひ孫)が使い魔となった瞬間であった。
294 :
つかよん!:2011/03/04(金) 13:32:38.78 ID:1TyMam0n
というわけで、第二話はここまでです。で、ちょっとした説明。
・あれ?ゲームブックだとローレシアの王子って名前出てこなかったような?
A. その通りです。流石に名無しだとやりづらいので小説版のアレンを採用しました。もょもと派の方は脳内で変換してください。
・サマルトリア防衛戦って何よ?
A.ゲームブックでは選択次第で悪魔神官率いるドラゴン軍団により落城寸前のサマルトリアにカインが単身戻り、
逆に打って出てルプガナ・アレフガルド・デルコンダル連合軍と挟撃をかけこれを撃退…という非常に熱い展開があるので、これをサマルトリア防衛戦として使いました。
さて、次回は…。順当に行けばシエスタさん、そろそろ出番です。ギーシュ君。ぼちぼち体を温めておいて下さいねふふふ…
乙
見た目はどうとでもなるんだろうから青年の姿に変えてやればいいのにw
しかしゲームブック版ではサマルトリア王子はロトの血を引いてないのね
能力のバランス的には実は彼が一番ロトやT勇者に近いのに
>>280 亀レスだが『隣り合わせの灰と青春』ではそう書かれてたな
んで、地上に出るためにはマイルフィックの復活と例の魔除けが必要だとか
竜王の曾孫の方、乙でした。
ロラン、サトリ、ルーナ派の自分には些細な事なので、問題ないですな。
それにしても、ゲームブック版のサマルはロトの血族でないとは・・・
只の人間でも勇者になれるんだと教えるための、出版社側の考えなんだろうか・・・?
まあ最終的にはサマルトリアの王子も母方がロトの縁者だったと父王から語られるのだが
途中までは自分はロトの血を引いてないと信じているね
一時的に使い魔に…ってルーンはどっちかが死ぬまで消えないんだから、
ある意味騙しているような気もするが…
もょもと、トンヌラ、わんわん
しかしいつまでも竜王のひ孫じゃあ呼びにくいな…
ここはひとつ、名前が必要じゃあないかねッ
安西常陸之介柿衛門とか
>>300 メキシコに吹く熱風というのはどうかね?
>>300 ウルトラの父や母にも本名あるけど誰も呼ばないよ
竜王のひ孫のままでいいと思う
単純に竜王4世が良さげ。
古代進32世のようだな
帰ってきた竜王とか、竜王W世とか、新竜王とか、竜王ジャックとか、世代ごとで呼び名が違っててもいいんじゃないかな。
曾孫でも竜王であることに変わりは無いし竜王でいいんじゃない?
シドー討伐後に曾孫に会いに行くと、りゅうちゃんって呼んでいいとか言ってるし、
素直にりゅうちゃんでいいんじゃね?
309 :
つかよん!:2011/03/04(金) 18:12:45.43 ID:1TyMam0n
ぎゃぁ、最後ミスってた。サモン・サーヴァントじゃなくてコンタラクト〜ですよね。
もしまとめに登録する方がおられたらその際は訂正願います。
ミスったショックと夜勤明けのハイな頭がこんなものを書きなぐらせた。反省はしてない。
走れルイズ ダイジェスト版
「ワルドよ、貴方は多くの罪を重ねすぎました。本当は処刑などしたくは無いのですが…」
「わかりましたアンリエッタ姫殿下。ですが、私に最後の情けを下さるのでしたら3日間の猶予を下さい。
人質として婚約者のルイズを置いていきます。もし私が戻ってこなかったら心行くまで思いのままにルイズの処刑をお楽しみください」
「駄目です姫様!コレは罠です!」
「いけませんよルイズ。婚約者を裏切る者などおりませんわ」
「そうだぞルイズ。君の婚約者を信じたまえ。では…頼んだぞ」
「姫様!ワルドを止めてください!彼は…彼は…必ず帰って来ません!…く…」
終 わ っ た わ
「おや、どうしたんだいワルド」
「はっはっは 姫様はやはり寛大な方だ。私を許してくださったのさ」
「ルイズが逃亡したと言うのですか?」
「はい。直ちに追跡に向かいます」
「待ちなさいアニエス。ルイズを信じて待つのです」
逃げても逃げ切れるものじゃない…ならば…。助かる道は只一つ。
ルイズは棺桶にワルドを放り込むと城への帰還を急ぐ。だが、行く手には山賊が!
「そう…ワルドの命令で私を待ち伏せていたのね…気の毒だが私の為よ!」
棺桶で山賊を殴り飛ばし先を急ぐルイズ。だが走り詰めに加え山賊の襲撃と疲労困憊、最早限界であった。
自分が死ねばワルドが助かるのでは…という天使の囁きが聞こえたような気がしたが
「死にたくないーっ!ましてやワルドのためになど!」
誘惑を振り払い再び走り出す。
「姫様、ワルドを連れてまいりました」
「開けなさい」
「ルイズ…力いっぱいに殴らせろ!」
「殴らせろ同じくらい音高く」
「姫様っもう一度チャンスを下さい」
「私は…今まで真の悪などありえないと思っていました…けれど、それは決して空虚な妄想ではなかったのですね…そこで貴方達に頼みがあります」
「今度はウェールズ連れて来い。失敗したら二人とも処刑よ☆ミ」
アンリエッタは酷く危ない目をした。
つかよんと言う略を見てひろよんを思い出した俺は少数派
電波怪人レーダと契約したルイズの元に様々な怪人が送り込まれたり
グランド様にお供えして豊胸願ったら管轄外だからと断られたり
大帝様がルイズに葛藤したり
ジョゼフとアクセルレックスが加速対決してたりとか……
>>309 ながいけん乙
……当時はまさか彼が少年誌に連載する事になるとは夢にも思いませんでしたよw
竜王の曾孫の人、乙です
こんばんわ。皆さん覚えておいででしょうか。
13日の虚無の曜日 第四話を
よろしければ20:57に投下します
雑草が抜き取られた、豊穣な大地。
そこに一人の男が立っていた。
男は手に何かを持っていた。手に持ったそれを上へ上へと上げ、
自分の頭の上まで持ち上げる。次の瞬間、振りかぶったそれを
自身の立つ大地へと向かって叩きつけるように振りおろした。
湿った音が足元で響く。一瞬の風切り音を纏って
振りおろされたもの、それは鍬だった。
ジェイソン・ボーヒーズは無感動にそれを見つめる。
ここが彼の住まいのクリスタルレイクならば断末魔の叫び声と共に
血しぶきが上がり、大地を真っ赤な絨毯に模様替えしただろう。
しかし今彼がいる場所はクリスタルレイクではない。
さらにいえばアメリカ合衆国の地でもなく、地球ですらない。
月が二つあり、見たことがない植物や耳の尖った少女がいる
異世界ハルケギニア。それが今いる場所だった。
それゆえに死の絶叫は上がらず、血ではなく土と泥が飛び散っただけだった。
だがジェイソン・ボーヒーズは殺人鬼である。それも筋金入りであり、
目に映るもの全てを虐殺の対象としているといっても過言ではない。
然るに殺人鬼ならば、刃物をもって振りおろすならば、
人体に向かってと考えて相違ない。しかし、彼は何もない地面に
凶器を叩きつけるという、おおよそ相応しくない行動をとった。
だがその行動に意味がないわけではない。目的は人体の破壊ではなく
地面をほぐすこと。改まって言えば、耕すこと。
滑稽にも恐怖の殺人鬼は、一介の田吾作のように畑仕事をしているのだ。
太陽がギラギラと輝く日。地球時間だと2月の頭に相当する。
しかしここハルケギニアでいうならば「ハガルの月」の「フレイヤの週」、
「虚無の曜日」であるが、ハルケギニアの暦の読み方や日付を知る由もない
ジェイソンにとっては至極どうでもいい些細な問題であり、
また今日が何日なのかも気にしていないジェイソンは
日差しが強まる中、鍬を地面に振るうことに集中していた。
鍬が突き立てられた地面は易々と穿り返され、
土は鍬の持ち主の意思のまま、太陽へとその身をさらす。
引き締まった地面とは裏腹に、抉りだされた土は柔らかい。
例えるなら人の体が裂かれ、腹から腸が出てくるのと同じ様。
常人には理解できない例えだが、人殺しならばそう考えてもおかしくはない。
だがジェイソンは何ら感慨を抱くことなく黙々と作業を続けた。
元々ジェイソンは行動を起こすとき、考え事をすることがほとんどない。
感慨や思考、感情は即座の行動に支障をきたすからかもしれない。
そのことを理解しているのか、理解していないのかはわからない。
ただジェイソンは目の前のことに集中し、事を成すことに精力を傾けていた。
「ジェイソーン!」
彼の後ろから一人の少女の声が響く。
鶴の一声とはこういうものなのか。機械のように規則正しく動き、
何者にも止められないはずの殺人鬼が、無力な少女に呼びかけられただけで
仕事の手を休めた。少女の要件を聞こうと待とうというのだ。
彼を知っている者には想像できない光景だろう。
先ほど殺人鬼に声をかけた少女の名は、ティファニア。
ジェイソンの住んでいた世界とは違う異世界ハルケギニアに
彼を召喚した眩しい金髪の美少女であり、ジェイソンの主となった少女だ。
そのティファニアが小走りにジェイソンの方へと向かう。
手には傍目でわかる大きな帽子を抱えていた。
麦で編まれた帽子、麦わら帽子だった。
「日差しが強くなってきたからこれが必要かなと思って・・・・」
ジェイソンの前にたどり着くと、ティファニアはおずおずと帽子を差し出した。
その射すくめるような、その実何も感じさせない、
無感動な眼差しで差し出された帽子を一瞬見つめたジェイソンは、
手に持った鍬を地面に突き立てると、徐に麦わら帽子を両手で掴み
マスクをつけたままの頭にそれを被った。
実を言えば、ティファニアが思うような暑さをジェイソンは感じていなかった。
常人にとっての茹だるような暑さは、ジェイソンにとって未だ清涼であり、
それは過去何度か電撃や火炙りにあい、それ以上の熱さを知っているためだ。
(その肝心の電気や炎も意に介してはいなかったが)
では、それ以上のものを知っているはずのジェイソンが
何故ティファニアから麦わら帽子を受け取り、あまつさえそれを被ったのか。
これは主であるティファニアに対して気を遣っているのか、
それとも純粋にティファニアからの贈り物として受け取ったのか。
何にしても、その殺人鬼らしからぬ行動は彼にも心があることを示していた。
キター!!
ホッケーマスクをつけた状態で麦わら帽子を被るというのは
なんとも奇妙だが、当の本人は一向に気にせず、また農業を開始しようとする。
そこへマスクめがけて何かが飛来する。その速度はゆっくりとしたものだが
これをジェイソンは避けずに当たるがまま、自分の顔を覆うマスクに直撃させた。
直撃したものが炸裂し、マスクに開いている穴を塞ぐように流れ込み
ジェイソンの顔を汚す。目にも入ろうとするそれを瞬きで防ぐ。
それは泥の塊だった。十分に水を吸い込みながら、投擲する際に
真っ直ぐに飛ぶようにある程度固められた、元々は泥団子だったものだ。
ジェイソンがマスク越しに見た先にあったのは、
孤児たちが泥団子を握りしめ、敵意に満ちた目を自身に向ける姿だった。
****************************************
数日前、ジェイソンが少女の使い魔となった日。
ティファニアに従って、森を抜けた先にあったのは村だった。
家へと案内しながらティファニアは村に住んでいるのは子どもだけで
彼らは孤児であり、自分の家族だと簡単に説明し、
もう朝なので食事の準備をしなければならないといって
家の中に入った。と、すぐに顔を出す。
「皆があなたを見て驚く姿を見たいから、朝食の時まで隠れてて。
そのときになったら合図するから、皆に挨拶してね」
ニッコリと微笑む少女の提案にジェイソンは了承の意に首を縦に振った。
ティファニアはそれを確認すると、すぐに家の中へと戻って行った。
ジェイソンは一人になって初めて村の全貌に目を向けた。
家の戸数はティファニアの家を含めて21。ティファニアの家を除いて、
そのどれもが同じくらいの大きさで、家との間はそれほど離れておらず、
キャンプ場のコテージを思わせた。しかしジェイソンが住んでいた
廃屋とはまるで違い、多少荒削りな部分があるが、
クリスタルレイクのコテージ群とさほど変わらない出来であり、
違いといえばわりと新しく建てられたものが多く、
また人が住んでいる気配を感じさせた。ジェイソンは森の中に隠れようと歩きながら、
通り過ぎ様に一つの家の中を窓から覗いた。家の中は質素ながらベッドが三つあり、
子どもが寝ているのだろう、毛布が盛り上がっているのが見えた。
そのままジェイソンは森の中へと入り、村から少し離れた木々の間から
様子をうかがうことにした。
>>309 なんでか知らんが小ネタの走れメロス召喚した奴を読みたくなった
それから数十分後。
一つの家の扉が開く音が聞こえ、小さな姿が現れる。
そしてそれに合わさるように次々と家々の扉が開かれ、
脱兎のごとく次々と小さな姿が家から飛び出し、ティファニアの家へと向かっていた。
60人近い子どもが一つの家に集合する姿は、まるで雲霞のようだ。
孤児たちが続々と集結する中、ジェイソンは森の木の陰からその様子をじっと見つめた。
幸いにも誰も彼がいる方へは目を向けず、孤児たちに気づかれることはなかった。
10人近い子どもがティファニアの家の中へと入っていったが、
ほとんどの子どもが外で走り回り、家の中を覗くといった行動をしていた。
その時、家の扉が開かれ、中から食器やバスケットを持った子ども達が現れ、
最後にティファニアが大きな鍋を両手で持ちながら現れた。
子ども達とティファニアは村の真ん中に位置する場所まで歩き、
そこで食事の準備を始めた。鍋の中にはスープが、
バスケットには不揃いな形のパンがあり、全員にパンとスープが配られる。
「皆、ご飯の前に少し話を聞いて!
今日は皆に、新しい家族を紹介したいの!」
食事を配り終わり、いざ朝食という段になって上がったティファニアの声に
大抵のものは残念そうに目の前の食事に目を向け、
ごく少数だが期待の籠った目をティファニアに向けるものと
子ども達の反応は二分化した。
「新しい家族のジェイソンよ!」
子ども達の目が当て所もなく彷徨い、新参者を探そうと顔が揺れ動く。
中には空を見上げるという、奇想天外なものもいた。
どんな子だろう、と話し合うものもいた。
ジェイソンは名前を呼ばれ、森を離れて村の中心へと歩く。
手に持っていた鉈はベルトに差し、なるべく目立たないようにし、
ジェイソンはその体を子どもたちの前へ晒した。
新しい家族を探していた子ども達の目がジェイソン一人に向けられる。
話し声のトーンが一気に下がり、そして消えた。
2メイル級の大男を見上げる、その目に映る何かがジェイソンには
懐かしく感じたが、それが何なのかは思い出せなかった。
その視線が気になったのか、ジェイソンはティファニアの隣に並び、
横でティファニアが自身の紹介している間も、子どもたちを見下ろしながら、
柄にもなく子どもたちが向ける視線の意味を考えていた。
ジェイソンに泥団子投げるとはなんと恐れ知らずな…
「ジェイソンはこれから皆の家族になります。
遠いところから来た人だから、優しくしてあげてね」
ティファニアはあくまでジェイソン・ボーヒーズを「遠いところから来た人」といい、
孤児たちにジェイソンが自身の使い魔であることを告げなかった。
それはジェイソンが自分たちの中で一番年上であることを配慮したためであり、
平民の中でも使い魔の存在は知られており、もしもの場合、子どもたちが
ジェイソンを人並み以下の扱いをするかもしれないことを考慮し、
彼の社会的地位を著しく低下させないためだった。
ティファニアはそれに集中していたため、二つのことを見落としていた。
一つ目は、子どもたちがジェイソンに向ける奇妙な視線に気づかなかった。
二つ目は、見知らぬ大人の存在が現れた時、子どもたちが
どのような反応をするのか、一度も考えなかったことだ。
一応の紹介が終わり、ジェイソンは次にどうするのだろうと考えていた。
目の前にパンとスープが手渡された。
渡したのはティファニアであり、そこには笑顔を浮かんでいた。
ジェイソンはこれをどうすべきか悩んだ。
一度死んだ身のためか、ジェイソンの体は飢えを感じず、
食物は勿論、水分を摂取する必要もなかった。
睡眠は最低限取っていが、それは形骸化した一種の習慣であり、趣味といってもいい。
この不眠不休が可能な肉体に、食物を与える事態にジェイソンは面食らった。
しかし体は求めなかったが食べられないわけではなく、
頭の中で人間として生きていた頃を思い出しながら、戸惑いつつマスクを上にずらした。
奇怪な白い仮面に包まれていた一部が露わになった。
そこへジェイソンを除く一同の視線が突き刺さった。
顎や頬、唇と鼻の下は皺が刻みこまれており、
まるでミイラのように干からびて見えた。しかしそこには妙な瑞々しさがあり、
はっきりいうなら一種の腐敗死体ともいえるものがそこにあった。
一同の視線が集まる中、ジェイソンは一瞬だけ戸惑ったが
すぐにスープの皿を口に運んだ。手で掬いながら。
場が凍った。2メイル級の大男が何も言わずに手掴みでスープを
口の中に放り込む姿に、子どもたちの視線が釘付けになる。
ジェイソンはその視線を意に介さず、スープの温かさと美味さに心奪われていた。
ジェイソンがかつて殺人鬼ではなかった頃、公には死んだとされた時。
母にすら溺れ死んだと思われていた子どもが、どのようにして生き延びたか。
彼は一人で森の中を彷徨い歩き、捨てられていた生ゴミや
森に棲む動物たちを殺して食べた。その食物の状態は最悪であり、
幼少もあって、食べ難いものはあっただろう。
そして普通はゴミのようなものを食べはせず、
殺したばかりの動物を自分の手で食べることもしないだろう。
しかし自分の手元にあるもので、食べられるものはそれしかない状況。
それだけにジェイソンは生き残るために、
ただ夢中に口内へ掻き込むことだけを考えた。
その結果、生きるためだけに執着し続けた彼の中で
久しく行儀作法は忘れられ、汁物を飲むときは
「手で掬って飲んだ方が余すところなく飲めて効率が良い」という考えで
頭の中は埋め尽くされていた。このように彼の食事状況は凄惨を極めており、
そのことを鑑みればこの行動にも納得がいっただろう。
しかし子どもたちや、驚愕しているティファニアを含め
そんなことは知る由もなく、ただ奇異の目でその光景を見つめた。
だが子どもたちの目には、それ以上の何かが芽生えようとしていた。
スープを飲み終わり、次にパンをガツガツと食べ始めたころになって
一人の少年が叫んだ。
「気持ち悪いからやめろ!」
パンに齧りついていた口が止まった。
少年の声が鼓舞したのか、一人の少女も叫ぶ。
「なんで普通に飲めないの!?」
この二人の叫びから子どもたちは一斉に捲し立てるように騒ぎ始めた。
「皆、落ち着いて。ジェイソンは・・・・・・遠いところから来たから
皆とは少し食べ方が違うのよ。だからそんなに騒がないで!」
これを見たティファニアは治めようとするが、
終いに彼女の声は大声を上げなければ聞こえないほどになった。
子どもたちはまるで火に油を注がれたように叫び、
「なんでそんな仮面をしているの!!!!」
「なんで剣なんて持ってるの!!!!!!」
「なんで顔を見せてくれないの!!!!!!!」
「どうして喋らないの!!!!!!!!!」
ジェイソンに対して質問攻めにし、叫び声は悲鳴に近いものになった。
ティファニアは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
子ども達やジェイソンのことを理解しているつもりだった彼女にとって
この事態は予想の範囲外だった。ジェイソンの食事方法事態も驚きだが、
何より先ほどまで沈黙していた子どもたちが
これほどまでに騒ぐ理由が、彼女にはわからなかった。
狂乱とまではいかないが、それに近い状況にジェイソンは既知感を感じた。
子どもたちが自分に向ける視線、今の状況に彼は覚えがあった。
彼はそれを思い出そうとした。自身の故郷、クリスタルレイクでは
日常的に見ていた光景、人間が見せる、最も原始的な感情。
この段になって、ジェイソンは思い出した。と同時にティファニアもまた、
子どもたちの様子に既知感を感じ、それが自分にとって馴染み深いものだとわかった。
主従関係でありながら、似たような境遇を持つ二人は、
現在の子どもたちの心を表す一つの言葉を、同時に考え至った。
それは恐怖だった。ジェイソンを見た子どもたちの視線に宿っていたのは
異質な存在への恐怖の感情だった。戦争で自分たちの家を焼き払い、
自分たちの本当の家族を奪い、離れ離れにし、
暴虐の限りを尽くした、大人という存在に対する恐怖だった。
ジェイソンは恐怖という感情に慣れ親しんでいた。
虐められたとき、自身が溺死しそうになったとき、
母親が死んだとき、彼の凶行による被害者たちが、顔や目に浮かべる恐怖、
何度もその感情、表情を目の当たりにしていた。
だが異世界ハルケギニアという、自身の住む世界とは全く違う、
異常な存在に圧倒され、すっかり失念していたのだ。
>ジェイソンがかつて殺人鬼ではなかった頃、公には死んだとされた時。
>母にすら溺れ死んだと思われていた子どもが、どのようにして生き延びたか。
ああ、なるほど
自分はてっきり、第一作目で母親が殺されたのに反応して復活したかと思ってた
>取引しても欝にならない悪魔
スレ違いと言われるかもしれないがFate/HAのアヴェンジャーを思い出した。
型月系の主役キャラは今一好きになれないのが多かったけどアヴェンジャーにはかなり魅かれた
そしてティファニアがこれを悟ったのは、
子ども達の言葉に聞き覚え、顔に見覚えがあったからだ。
言葉自体は彼女には関係ないが、その言葉に伴う感情を知っていた。
彼女を初めて見た人間が口を揃えてエルフといい、
言葉に畏怖があり、表情もまた恐怖を現わしていた。
彼女もまたこれを失念しており、それは単に時が彼女の心を癒し、
義姉マチルダと孤児たちの支えがあってだった。
孤児たちの声が響き続ける朝。永遠に続くものと思ったそれも
数分を過ぎて、ハーフエルフの少女の説得で本来の静けさを取り戻す。
しかし孤児たちは、叫ぶことはなくとも、ジェイソンの巨体を
恐怖と敵意がないまぜになった視線でとらえ続けた。
その視線を真っ向から受けるクリスタルレイクの殺人鬼は、
ただ沈黙で応えるだけだった。
****************************************
「テファ姉ちゃんに近寄るなよ、バケモノ」
初めて会ったときから変わらぬ、
この対応にジェイソンはやはり沈黙で応えた。
内心怒りが渦巻くと思われたが、ジェイソンにとって子どもは
怒りの矛先の対象外であり、彼の殺人遍歴でも
子どもをその手でかけたことはなかった。
ましてや泥を顔にぶつけられただけでは怒る理由にもならない。
だがそれだけが理由ではない。ひとえに孤児たちを自分の「家族」と認識しているからだ。
ジェイソンにとって母親という存在は絶対であり、
母親は死んだとわかっていても、母親に化けた殺人鬼のいう事を聞き、
被害者が母親の真似をすれば殺意が霧散するなど、
ジェイソンは「母親」に対して絶対的な忠誠を誓っていた。
使い魔になると決意したとき、母親の面影をティファニアから感じ取った
ジェイソンは、ティファニアを「主」よりも「母親」に近い存在として見ていた。
そのためティファニアを守ることは、彼女の「幸せ」を守る事と考えた。
家族を目の前で奪われたことのあるジェイソンにとって
「幸せ」とは「家族」の存在であり、彼女の「幸せ」もまた「家族」と考え、
ティファニアの家族、ひいては自分の家族を守ることは
当たり前のことだ、と彼は考え始めていた。
この一方的かつ、絶対的な服従と狂信的な愛情を捧げているために、
例えその家族に冷遇されても、「家族だから」という理由で許せるのである。
ティファニアが孤児たちを叱りつけ、
孤児たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、
青空を見上げながら、「家族」の存在にジェイソンは幸福を感じていた。
かつてただ醜かった少年は、殺された母親を想って殺人を行い、
殺人鬼の人生を歩んだ。そして醜い殺人鬼へと変貌を遂げた男は
その生涯とは打って変わって、いつになく心が充実し、
心身に幸福が満ち溢れていた。
その独善的な幸福は、果たして彼が見上げる空のように青く純粋で、
自他が認める、本当の幸福なのか。それに応えるものは居らず、
またその答えを知るものも、いなかった。
以上で今日の投下を終了します
速く書く!と言いながら遅筆で申し訳ありません。
これからは頑張って一か月、二か月に一回
投下できるようにしたいです。
あと、次話がグロテスクなものになる予定なのですが
やはり避難所に書くべきでしょうか?
投下乙です
殺戮シーンだと、避難所にした方がいいでしょうね
やっと20巻読んだよ。
一番印象に残ってるのがマリコルヌの紳士っぷりだったのは何故だろう・・・
マリコルヌが一番感情による能力幅が大きい気がする。
コイツがガンダールヴになったほうが強いんじゃないだろうか?
あの作品のキャラがルイズに召喚されました。
ゼロの使い魔からマリコルヌを召喚・・・
>取引しても欝にならない悪魔
小ネタのゲーム帝国の悪魔さんかな。
召喚じゃなくて降臨だけど。
その代わり怒らせると世界が滅ぶけど。
>>327 わかりました。
では殺戮シーンがないときのみ
こちらに投稿するようにします
>>326 乙!盗賊か蓮根兵がズンバラリン?
無害な悪魔……サモンナイト2のバルレル思い出した。
ルイズの胸をからかったらブッ飛ばされて「昔トリスやケイナに同じ事言ってヒドイ目に有ったな〜」と懐かしんだり。
vs7万戦で魔公子モードに変身したりと王道路線になりそうだw
覚悟のススメ的な内臓溢れる迫力の戦闘シーンも避難所向けか
ペナンガランや抜け首は避難所専用か。
ルイズが恐怖で泣き叫ぶから勘弁してあげて
プラシド究極体の上半身ぶっ飛びは避難所専用か
マミるのも避難所向けか
>>334 ちょうどWCS2011でプラシドを倒したところだ。
つかその前のゴースト軍団のほうが手強い。俺のDホイール2発食らったら終わりだから10回くらいゲームオーバーした。
何年振りかで戻ってきたけど…ただいま
ところで今現在「IS インフィニットストラトス」と「けいおん」からのSSって、あった?
>>336 「ルイズ・ラ・ヴァリエール!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
馬に跨りながら大群でやってくる死ね死ね…じゃなくてゴースト軍団が浮かんだ
そして後ろから謎の風メイジことワルドが助けに来る
>>338 ミサキをワルドといっしょにされると腹立つ
つかワルドはチームカタストロフだろ
>>339 じゃあミサキ・青野ポジは誰なんだ
青いということでタバサ?
ルイズがダライアスバーストACのパイロットになったら……
やっぱり愛機はGAIDEN SILVERHAWKか?w
魏との大戦も終わったし「キングダム」から信でも召喚させようと思ったが、破壊の杖枠を何にしようか悩む。
素直に王騎将軍の矛にするべきだろうか?そもそも信じゃなくて王騎将軍召喚のほうが面白そうかも?
ダンジョンズ&ドラゴンズのキャラ誰か呼びたいな
古典的名作ファンタジー世界からの召喚を!
…そういえばソーサリーの方の続きはまだか
指輪物語の世界からも見たい気持ちはあるが…
あんまり呼んで面白そうなキャラが思い当たらない…
ファンタジーの大御所的世界なんだけど、うーむ
>>345 指輪ならレゴラス喚んで「ひー!エルフだー!」かね?
前に誰かがガンダルフとサイト2人召喚して「儂とお主でダブルガンダーじゃ!」とかネタで行ってたっけw
>>346 エルフと一緒に死ぬなんてな。
じゃあ友達と一緒なら。
ああ、それなら悪くない。
という展開があるわけだな。
>>346 同じく、「ひー!エルフだー!」 になりそうなキャラで
『おざなりダンジョン』シリーズのモカを召喚 ってのを昔ちょっと考えた事が。
一応 ファンタジー系?世界からの召喚で、素でガンダ並みの剣使い。
根っからのバトル好きで感情の起伏も大きいから ルーン効果もかなり期待できる。
契約は 学院の豪華な食事で釣れば、なんとかなりそう。
相方のブルマンはシーフなので、フーケ戦や宝探し編で活躍が期待できる。
機械いじりも出来るので コルベール先生とも相性が良い。
キリマンは、タバサと「無口主従コンビ」とか。
覚えてる人がいるかも知らんが
『星の大地』のアゼルとか
技術的にハルケギニアより遅れた世界からの召喚は少ないな
>>343 テンプレに添わす必要などはない。物語はアイデアしだいでいくらでも形を変える。
序盤のイベントがやっかいなら、入学したてのベアトリスがいたずらでサモン・サーヴァントをした。
なんて展開でいきなり二年目から始める手もある。ちょっと捻れば抜け道なんて無限大だ。
そこまでのすっ飛ばしでなくとも、召喚されたシーンとか、
ちょこちょことすっ飛ばしはあるしな。書きたい所を書けば良いのさ。
長編でまとまらなければ小ネタと言う手もあるし。
小ネタなら書きたいワンシーンだけ書くこともできる。
352 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/05(土) 16:38:21.99 ID:Sj8YOfCZ
エルフなら元祖ディードリットで
PV風味、ダイジェスト風味の短編で
年表で
エルフならルナル・サーガのアード・ハウリングウルフを召喚とか
主従揃って癇癪持ちの爆発キャラに…
長耳つながりで史上最強の弟子の新島総督の場合ガンダ以外で召喚されたら
単独で国家転覆できそうだ
ISの一夏(&ヒロイン5人)が来たらどんな感じになるもんかね?
最初のキスの時点で一夏が5人にボコられて死ぬ
暗い目で一夏を見るセシリアと鈴
恒例のぐぬぬ顔で一夏を見る箒
にっこり笑顔でプレッシャーを放つシャル
ルイズを威圧するラウラ
面食らうもラウラを止める一夏
とある魔術の禁書目録からインデックス召喚
食費でヴァリエール家の財政は破綻
上条さん的には寄生虫が居なくなって家計が安泰、その後ステイルからボコられる
ディードリット召喚か…割と真剣に考えてみてはいるが
呼ばれた後どういう行動に出るか…精霊魔法はフォーセリアのそれが使えるかどうか…
使えるとして魔法はSW準拠でいいか…妖精界への移動能力は使えるか(使えるならそれで帰還を試みる?)…
いつの時点から召喚されるか…キスでの契約を受け入れるか…
色々思案すべきことはあるな
>>360 貴族破綻させるレベルの居候に食わしてた上条さんが凄すぎるだろwww
ディードはソスレの領分な気もする。
ディードよりカーラのサークレット召喚を見たい。
バンブーブレードからタマちゃんでも召喚しよう。
きっとオタク的な魔法少女のあり方をルイズに指導してくれるはず。
もしくは、中の人的にはくぎゅと仲のいいキリノだと……だめだ普通すぎる。
Wiz小説「風よ龍に届いているか」のヒゲエルフ侍ハイランスさんをホビットのフレイとセットで召喚したい‥‥
物語終了後のミフネの国からリルガミンへの帰路の途中で。
QB召喚なら大抵の問題は契約一つで解決してくれそうなんだよな
問題は別の問題を何倍もの規模と悪質さで招き寄せそうなトコロか
文才あったら書きたいのが
ストパンから坂本美緒
扶桑刀の代わりにデルフ使えるし零戦を
ストライカーユニットに置き換えられる
>>349 冴木忍主人公ならカイルロッドの方が……
初代カイルロッド(イルダーナフ)をジョゼフが召喚したらきれいなジョゼフになるかもしれん
個人的にイルダーナフがまんま綺麗なジョゼフなイメージなんだが。
ミランシャがどこにもいないんだ・・・・・・
>>367 マギ族じゃQBの目的に合わなくて地球に来たのかも知れんぞ
373 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/05(土) 22:09:58.20 ID:nfX9W7Ng
妖怪キャラで誰かいるか?
374 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/05(土) 22:22:55.46 ID:nfX9W7Ng
>>373 すまん間違えた。正しくは妖怪キャラで召喚されそうなのいるか?
sageろ。
妖怪ね、オビコなんかいいんじゃない?
夜な夜なトリスタニアを徘徊する謎のラーメン屋台
「オビコと遊ぼ」
ゼイラムを召喚とか書きたいけど文才が…(´・ω・)
KOFキャラで書きたいけど・・・需要あるかな?
需要で書くものじゃないと何時になったら覚えるんだい
いや、需要があるなら書きたいと思うし
需要が無いなら見ている人もいないのに
書き続けたいとは思わない。
やっぱり見てる人がいてくれっるって事は良い事だと思うよ?
供給は需要を創出するのだ
需要は作るものでもある
私は見たいといっておこう<KOF
KOFキャラ…
ルイズに召喚されるチャン・コーハンとチョイ・ホンゲとか?
「キムの旦那から逃げれたでヤンス〜」
「長かった…本当に長かったぜ…」
ようやく手に入れた自由に手を取り合って小踊りする二人。
しかし同時刻のガリアにて、鳳凰脚で教育指導される国王の姿が有った。
お約束過ぎるかw
吹き荒ぶ風のゲーニッツとかいいな
ルガールはたしかCVSだかのでティファあたりに呼ばれていた気がしたな
>>385 それいいなw
一応マキシマで書こうと思ってたりするんだが
モンゴリアッ
格闘ゲームだとギーシュ超強そう
オプション七体とかハメってレベルじゃねーぞ
多分龍虎の修行に出てくるチンピラのように軽ーく七人抜きされる役だな
<ワルキューレ
>>386 牧師様がルイズに振り回される姿とかまったく想像できんww
つーかあの人どっちかつーとエルフ側に荷担しそうだよね。
だめだ・・・同じ風使いなのにワルドがゲーニッツに
勝つ姿が想像できん。
一人ずつ「お別れです」て言いながら処理してそうだ
一瞬でスタジアムを廃墟に変えて観客席の全員を暴風でゴミのように宙に舞わせる背景演出で登場するお方ですから
力の源も地球意志だかのパワーなんで先住魔法ライクだし
まあワルドなんかはほっといて、カリンさんと真の風使い対決でも
<ゲーニッツ
相手が魔法使いなら覇王翔吼拳を使わざるを得ない
という訳でルイズにはマキシマおじさんを召喚してもらいます。
投下出来るのはだいぶ先になると思いますが、宜しくお願いします
SNKのチートキャラといえば黒子
一度見た技は覚える。
死者蘇生できる。
つまり黒子かった〜とるね〜ど、黒子えくすぷろ〜じょんとか使う。
そのりくつはおかしい
黒子か…
ビリビリともう会えないと知るや発狂するだろうな
>386
クライマクスではグラン・トロワでルガールとジョゼフが対決
ルガールが勝つ→ジョゼフを殺して虚無の力を奪い取った始祖ルガール
ジョゼフが勝つ→暗黒パワーを注入されて究極の闇を纏ったゴッドジョゼフ
こんな感じか
>389
しかし困ったときの全画面超必はないのであった
ダークシュナイダーとかこないのか
過去にまとめwikiに直接投稿した奴がいた。
即日けされたけど。
403 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/06(日) 13:25:01.73 ID:swjkzudF
>>373 怪異いかさま博覧邸とかどうよ?
萌え妖怪と変態と変人のパラダイスだぜ
>>396 黒子だとウェールズ皇太子はほぼ間違いなく蘇るだろうなあ。
予約なければ45分ごろより小ネタ投下します。
「どげせん」より「瀬戸 発」召喚です。
407 :
どげぜろ@:2011/03/06(日) 14:45:06.14 ID:pzt5q75V
――それは、おおよそその場の空気には似つかわしくない、奇妙な風体の男であった。
年の頃、三十代半ばから四十代前半と言ったところであろうか。
整髪料でガチガチに固めたリーゼント気味の髪型に、
ファンタジーと言う物を虚仮にしているとしか思えない、よれよれのスーツにスニーカー。
見るからに気弱そうなタレ目とチョビ髭に、喧嘩には向かない背の低い痩身。
だが、その瞳に宿った眼光の鋭さが、華奢な外見にかえって曲者じみた凄みをもたらしていた。
周囲がシン、と静まり返る中、男はしばしキョロキョロと辺りを見まわしていたが、
やがて、その視界に薄桃色の髪の少女を捉えると、おもむろに口を開いた。
『あのぉ……どこ、ココ?』
たまらぬ男であった。
・
・
・
408 :
どげぜろA:2011/03/06(日) 14:46:22.61 ID:pzt5q75V
――その男と遭遇した時の記憶を、
トリステイン魔法学院教員、ジャン=コルベールは、後にこう回想している。
「――ええ、あの時は本当に、ただ茫然とするばかりで……。
知っての通り、通常のサモン・サーヴァントにおいて人間が召喚されるなど、考えられる事態ではありません。
ましてやあの奇妙な装束、アレは異国の住民と言うより、
まるで、異世界から来た人間なのではないかと言う異和感すら覚えました。
もっとも、それも今なって思い返してみれば……、と言う事なのですが。
「――もちろん、ミス・ヴァリエールは必死で抗議してきましたよ。
当然でしょう、いかに慣例とは言え、年頃の少女が平民、それもあんな得体の知れない中年に……
その、唇を、捧げるなど……、ま、まあ、躊躇するのも無理ない事です。
「――ですが、儀式は儀式。
彼女があんな冴えない男を呼び出したのには、きっと我々凡人には計りしれない
始祖ブリミルの思し召しがあるのだ……、と。
私は心を鬼にして、彼女にコントラクト・サーヴァントの遂行を命じました。
彼女はしばらくの間、真っ青な顔をしてその身を震わしていましたが、やがて大きく息をついて、
男の方へと足を向けました……、その時です!」
――ドゲッ!!
『なッ……!』
『ちょっ、ア、アンタ! 何やってんのよ!?』
『使い魔は……、どうか、勘弁して下さい』
『〜〜〜〜〜〜〜ッ!?』
「――土下座です。
ミス・ヴァリエールが憎まれ口の一つでも叩こうかと、口を開きかけた一瞬。
その一瞬の隙をついて、男が地面に額を擦り付けるほどに、全力で土下座したのです!
409 :
どげぜろB:2011/03/06(日) 14:48:07.17 ID:pzt5q75V
「――確かにこのハルケギニアの社会構造において、
無力な平民が貴族相手に我儘を押し通そうとするならば、アレ以外の方法はないでしょう。
だが、だからと言って大の男が、初対面、しかもまだ年端もいかないような少女相手に
ああも臆面もなく土下座できるものでしょうか?
「――スピード、タイミング、フォーム……、どれをとっても完璧な土下座でした。
男の淀みない鮮やかな動きに対し、私は生まれて初めて、本物の土下座と言うものを見た気がしました。
もっとも、土下座の本当の恐ろしさを思い知らされたのは、その直後の事ですが」
『ア、アンタ、馬鹿じゃないの!? 早く頭を上げなさいよ!』
『どうか、儀式のやり直しを』
『くっ、こ、この……』
「――ミス・ヴァリエールも相当動揺していましたよ。
当然でしょう、同級生達の視線が一身に集まる中、大の男に真っ向から土下座されて、平静を保てる少女などいません。
「――この、額を地面に擦り付けるほど、というのがミソでしてね。
男の額と地面の間には、梃子を差し込むほどの間隙すらありませんでした。
あれでは例え、オークの膂力をもってしても、力ずくで男の唇を奪う事などできなかったでしょう
かと言って背面の耐久力は正面の七倍、少女がどれほど全力で踏み続けたとしても
男が音を上げて顔を上げる可能性には期待できませんでした
「――えっ? 魔法で無理やり、男の顔を上げれば、ですか?
ハハ、あなたは何も分かっていない……、土下座の真の恐ろしさを!
「――確かにミス・ヴァリエールは魔法の才に恵まれず、級友達からは【ゼロのルイズ】と呼ばれていました。
だが、問題はそこではありません。
今回の敵は、正真正銘ただの平民、しかもこちらに対して、初めから全面降伏しているのです。
……もしあの場で、彼に杖を向けられる者があったとしたら、
それはメイジであったとしても、決して【貴族】とは呼べない輩でしょう……」
・
・
・
410 :
どげぜろC:2011/03/06(日) 14:49:55.45 ID:pzt5q75V
『もぅ、いいから、いいから頭を上げなさいよォ〜!』
『どうか、何卒、召喚のやり直しを』
『無理、ムリなのよ〜、私が何を言ったって、これは……』
『どうぞ、心よりお願い申し上げる……殿……』
『……えっ? ア、アンタ……一体?』
「――そんなやりとりが五分ほど続いたでしょうか?
ミス・ヴァリエールの態度が、急に変化したのです。
彼女はおもむろに立ち上がり、ゆっくりと私の方を振り返ると、急にハッと息を呑み、そして……!」
――ドゲゲッ!!
『おッ!? お願いします! どうか私に、もう一度だけチャンスを下さい!!』
『〜〜〜〜〜〜〜ッ!?』
「――土下座です……、完全にしてやられました、彼女はあっさりと貴族の立場を捨てたのです。
【容姿】×【家柄】×【観衆】=【土下座力】!!
男と相対した時の数万倍ものプレッシャーを前に
私は周囲の背景が、ぐにゃりと曲がり落ちるような錯覚すら覚えました」
『やッ!? やや、やめなさい! ミスヴァリエール、顔を上げなさいッ!』
『どうか、どうかもう一度、サモン・サーヴァントをッ!』
『そ、そんな事、私に言われ……』
『『 何卒ッ 』』
「――そうです、サモン・サーヴァントは、大いなる始祖ブリミルの定めた神聖な儀式。
一介の教員に過ぎない私に、どうこうする権利などありはしません……。
「――でも、それならば一体、ミス・ヴァリエールは何に頭を下げていたのでしょうか?
学院長? アンリエッタ姫殿下? あるいは彼女の両親?
……いえ、彼女達の土下座はあまりに真摯で、すでに人間に相対するレベルを超えていました。
まるで、運命の神にでも是非を問うかのような。
「――そこまで思い至った時、私も不意に気付いたのです。
彼らの土下座は、始めから私を見てはいない、私の背後にある存在に捧げられたものなのだ……、と。
後背より何か、神々しいオーラが満ちていくのを感じ、私はゆっくりと後ろを振り返りました。
……そして、そこにいた者は」
『しッ!? 始祖! ブリミルッ!?』
「――伝説以上の神が、そこにはいました。
もちろん、私は始祖の御尊顔など知る由も無かったし、あなたも狂人の妄言として、一笑に付すかもしれません。
だが、あの時の神秘に満ちた感覚を、私のささやかな知識で例えようとするならば、
そこに、始祖ブリミルが立っていた、と表現する以外にはないのです」
・
・
・
411 :
どげぜろD:2011/03/06(日) 14:51:47.14 ID:pzt5q75V
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?
始祖ブリミル、本物?、何と言う神々しさ!!全裸!?
スッゲェ筋肉!イメージと全然違……ッ、原作無視?、どうすんの俺?
まさしくアンチェイン、神秘体験、始まる……!、何が?これから……!
ファースト・ドゲから始まる…… 奇跡! 未来! 今――ッ!!)
――ドゲゲゲッ!!
『お、お願いします! 始祖ブリミル! どうか、私の生徒にもう一度チャンスを……!』
「――必死でした。
私はあの時、ミス・ヴァリエールを助けようなどと言う殊勝な心がけで動いたワケではありません
ただ、あの時はじっとしていると、自分がどうにかなりそうで、ただただ必死で体を動かした結果が、あの体勢だったのです。
陳腐な言い方ですが、運命が、私の肉体を突き動かしたと言ってもいい。
そして、どうやら彼らも、同じだったようです……」
――ドゲッ!
『ぼ、僕からもお願いします!』
――ドゲッ!
『どうか、友人のヴァリエールに力を……!』
――ドゲッ!
『……お願い』
――ドゲッ!
『きゅいっ! きゅいきゅいッ!!』
―― ド ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ッ !!!!!
『『『『『『『『 も う 一 度 、 チ ャ ン ス を 下 さ い 』』』』』』』』
「――トリステイン魔法学院新名物【学年総土下座】誕生の瞬間でした。
「――土下座は、力無き弱者に残された、最期の牙です。
それは、たとえ始祖ブリミルであっても……、いえ、全知全能の神であればこそ
投げ出された無力なる者の必死の祈りを、無下に打ち捨てる事はできないのです。
「――どれほどの時間が過ぎたでしょうか。
私の頭の上で、大いなる始祖が深く溜息をつくのを感じました。
やがて、除々に神秘的なオーラは薄まっていき、
光が完全に潰え、私達が気がついた時には、既にあの男の姿も、広場にはありませんでした……」
・
・
・
412 :
どげぜろE:2011/03/06(日) 14:53:29.42 ID:pzt5q75V
――ジャン=コルベールはそこで大きく息をつくと
すっかり冷めてしまったブラックコーヒーのカップを手に取った。
「――分かっていますよ。
あなたが本当に知りたいのは【その後】の事なのでしょう?
「――あの時、始祖ブリミルは私たちの懇願に対し、容認もしなければ否定もしなかった。
ミス・ヴァリエールの再召喚を、いわば【黙認】したのです。
「――結論から言えば、再召喚などするべきでは無かった。
ミス・ヴァリエールは、あの土下座男で納得しておくべきだったのです。
最期に始祖のついた溜息の意味を、私達はもっとよく考えておくべきだった……
「――二度目のサモン・サーヴァントは、一発で成功しましたよ。
ミス・ヴァリエールの詠唱と共に、背景がぐにゃりと歪み、……そして【あの男】が現れた。
「――ええ、そうです、平民の男性です。
……正直私も、アレを平民と……、いや、人間と割り切るのにすら抵抗があります。
異常に発達した背筋の盛り上がりなど、もはやオークや亜人の親戚にすら思えました。
けれども、ヤツらのような脂肪混じりの肉体とは違う、アレは闘争の中で磨き上げられた戦士の筋肉……。
「――そう、言うなれば彼は【鬼(オウガ)】の化身のような男でした……」
413 :
どげぜろ:2011/03/06(日) 14:54:33.90 ID:pzt5q75V
以上、投下終了です。
オチは無い、許して!(ドゲッ)
面白かった
そのままオーガ編突入して下さいw
期待してなかったが・・・・・・面白かった。
ブリミル「大地に頭をこすりつけこの私を拝め!
そうすれば万に一つでも再召喚を許すやもしれんぞ?」
〜超融合!時空を越えた絆〜のリバイバル上映見てきました。ウルトラマンネオス、じゃなくてE・HEROネオス、sinレインボーにサイバーエンド撃破と大活躍だったなあ。
パラドックスも歴代エースカードを集めただけあってものすごい強さ。WRGPに出場したのがアポリアじゃなく彼だったらチーム5D's勝てなかったかも。
さて余談はこのあたりにしておいて、今週分の投下をそろそろはじめようと思います。
予約がありませんでしたら、さるさん回避で5分おいて15:50より開始いたしますのでよろしくお願いします。
第三十四話
最終戦争の一端
赤色火焔怪獣 バニラ
青色発泡怪獣 アボラス
岩石怪獣 ネルドラント
毒ガス怪獣 エリガル
古代暴獣 ゴルメデ
噴煙怪獣 ボルケラー
透明怪獣 ゴルバゴス 登場!
古代遺跡から発掘されたカプセルから蘇った、怪獣バニラ。
才人とルイズはウルトラマンAへと変身し、これを迎え撃った。
しかし、強靭な肉体とメタリウム光線をも防ぐ火焔を持つバニラの前に、エースはエネルギーを使い果たして倒れてしまう。
バニラの吐き出す火焔に包まれるウルトラマンA。
この、悪魔のような大怪獣を倒す方法は、はたしてあるのだろうか……
「うわぁぁっ……」
バニラの火焔が作り出した山火事の中に、ウルトラマンAは沈んでいった。
かつて、ミュー帝国の街を蹂躙したであろう紅蓮の業火と同じ炎の中が、容赦なくエースを焼き尽くそうと燃え盛る。
このままでは、確実に死んでしまう。エネルギーが尽きかけたエースは、最後の手段をとった。
「ヌゥゥ……デュワッ!」
横たわるエースが、腕を胸の前でクロスさせ、大きく開いた瞬間、エースの体が白色に輝いた。
ちかちかと、光は燃え尽きる前のろうそくの炎のようにエースを包んでまたたく。そして、最後にわずかにまばゆく
発光したかと思われた瞬間、エースの姿は炎の中に溶けるように消えてしまった。
怪獣バニラは、勝利の雄叫びをあげるとくるりときびすを返した。燃え盛る森を背にして、いずこかの方角に去っていく。
後には、轟音をあげて燃え盛る森と、炎から逃げ惑う鳥や動物の悲鳴だけが残される。
ウルトラマンAは、死んでしまったのだろうか……?
いや、そんなことはない。エースが倒された場所から、数十メートル離れた森の中に才人とルイズが横たわっていた。
あの瞬間、エースは残された最後の力を使って、変身解除と同時に二人をわずかな距離ながらテレポートさせて
炎から救っていたのだった。
しかし、バニラの起こした山火事の勢いはなおも衰えず、二人の倒れている場所にも次第に迫ってきた。
雨はなおも降り続いているが、炎はそれに反抗しているがごとく天高く黒煙をあげ、二人を狙ってくる。
生木を枯れ木同然に焼き、下草を燃やしながら炎は獲物を狙う蛇のようにうごめき、とうとう二人は火災の
中に取り残されてしまった。
業火の中、死んでしまったかのように、ぴくりとも動かず横たわる二人。
飲み込まれれば、人間など骨も残さず焼き尽くされてしまうだろう。
だがそのとき、炎から一つの影が浮き出るように現れ、その異形のシルエットを二人にかぶせていった。
一方そのころ。まだ異変の発生を知るよしもないトリスタニア。
遺跡を飛び立ってから、およそ二時間後。王宮において、アンリエッタに謁見したエレオノールは、
自身を呼び出したアンリエッタ王女から、耳を疑う知らせを受けていた。
「ルイズが伝説の虚無の系統? そんな、信じられませんわ」
単刀直入にアンリエッタの口から語られた真実を、エレオノールは最初信じようとはしなかった。しかし、
軍の正式な報告書に記された、想像を絶する魔法の炸裂と、水晶に浮かび上がったその映像。そして、
冗談などでは決してない、真剣な表情のアンリエッタの説明が、エレオノールに曲げようのない事実を
突きつけていた。
「信じられないのは無理もありません。わたくしも、今日まで虚無とはなかばおとぎ話だと思っていました。
ですが、現実はこのとおりであり証拠も揃っています。わたくしも考えましたが、ルイズの姉であり
優秀な学者であるあなたしか信用できる人はいないのです。どうか、信じていただけないでしょうか」
「ちょ、ちょっと待っていただけませんか! ルイズが、あのちびルイズが虚無? あの、あの……」
普段の彼女の凛々しさからは考えられないほど、エレオノールは狼狽していた。もはや、仕事中に
呼び出された不満も吹き飛び、頭の中は許容量を超えてしまった情報で混沌と化している。その末に、
目眩を起こして倒れかけたところへ、慌てたアンリエッタに抱きとめられた。
「エレオノールさま、大丈夫ですか!? お気を確かに」
「はっ! こ、これは無礼をばいたしました。どうか、平にご容赦くださいませ」
どうにか正気を取り戻したエレオノールは、謁見の間での失態に顔を赤くして謝罪した。
普段冷静な彼女だが、頭がいいことが災いして、自分の知識の及ばない出来事が起こると脳がフリーズ
してしまうようだ。平謝りし、どうにか気を取り直したエレオノールは、頭の中で聞かされた事柄をまとめると、
自分に言い聞かせるようにアンリエッタに向かって復唱していった。
「……つまりは、ルイズがこれまで魔法が使えなかったのは、その系統が虚無ゆえで、あの子には聖地を
エルフから取り戻すという使命が与えられたというのですね?」
「祈祷書に記されたとおりなら、そのとおりです」
「馬鹿げてるわ! 始祖ですらできず、数千年に渡って負け続けてきたエルフとルイズが戦わなければ
ならないですって!? 悪い冗談にもほどがありますわ。姫さま、まさか貴女はルイズを旗手に聖地奪還の
戦を再開なさろうとしているのでありませんでしょうね? もし、そんな愚考をしておられるようなら!」
「落ち着いてください! まだ、そうなると決まったわけではありませんわ。ルイズの意思は確認しましたし、
わたくしも彼女に聖地を奪還させようなどと考えてはおりませぬ」
つかみ掛かってきそうなくらいいきり立つエレオノールを、アンリエッタはたじたじになりながらも必死に抑えた。
ルイズとともに、ヴァリエール家との付き合いは長く、エレオノールとも小さいころから何度も会っているが、
この気性の強さと迫力はいまだになかなか慣れない。
「はあ、はあ……申し訳ありませぬ。わたくしといたしたことが取り乱してしまいました」
「いえ、ご家族の人生に関わることです。怒られて当然ですわ。ともかく、この事実を知っているのは、
ルイズの友人数人とわたくしと、お姉さまのほかにはおりませぬ。しかし、虚無の存在を知れば、
今おっしゃられたとおりに悪用しようともくろむ輩も出てくるでしょう。実際に……」
シェフィールドと名乗る謎の人物に狙われていることを語ると、エレオノールは再び怒りをあらわにした。
けれど、アンリエッタから「ことがことだけに、わたくしも表立って助けることができません」と、苦悩を
告げられ、敵からルイズを守るためには虚無の謎を解き明かさねばならず、信用できて且つそれができるのは
貴女しかおりませんと頼まれると、自分の肩にかけられた荷の重大さを悟った。
「わかりました。微力ながらお引き受けいたしましょう」
「ありがとうございます、エレオノールさま」
「いえ、いくら出来の悪いとはいえ、妹のことを他人にはまかせられませんわ。わたくしを頼っていただけたことに、
こちらこそ感謝いたします」
二人は手を取り合って、それぞれ感謝の言葉を述べ合った。
「さあ、では具体的な話に入りましょう。指令をいただけても、今のままでは自由に動けませんわ」
それから二人は、これからのエレオノールの権限などについて話を進めていった。現在、アカデミーの研究員、
学院の臨時教諭と掛け持ちをしているが、これに虚無の調査も加えたらとてもではないが身が持たない。
だが、話がまとまらないうちに、突然謁見の間の扉があいさつもなしに開かれた。
「何事です?」
あらかじめ、ここには呼ぶまで誰も入れるなと人払いをしていたはず。なのに何か? まさか、今の話を
盗み聞きされたのではと二人が振り向くと、なんとずぶ濡れの騎士が蒼白の表情で駆け込んできた。
「ほ、報告……トリスタニア東方、三十リーグの森林地帯に……あ、赤い怪獣が出現。迎え撃ったウルトラマンを
倒して、トリスタニア方面に進行中」
「なんですって! ウルトラマンを、倒して!?」
想像もしていなかった報告に、アンリエッタは愕然とした。彼は、ミイラを追っていた魔法アカデミーの騎士の
一人だった。あのときミイラに撃ち込まれた『ライトニング・クラウド』によってバニラが復活し、その猛威から
命からがら逃げ延びた彼は、すべてを見た後でここまで駆けてきたのだった。
「怪獣は、あと数時間でトリスタニアまで到達するでしょう。は、早く手を……うぁ」
騎士は、息も絶え絶えの状態で、絞り出すようにそう報告すると倒れた。
「しっかり! 誰か、誰か!」
気を失った騎士にアンリエッタが駆け寄り、呼び起こしながら侍従を呼んで医者を手配させた。すぐに
宮廷の従医が呼ばれ、彼を担架に乗せて運んでいく。さらに、怪獣が接近していることが明らかになったので、
直ちに迎撃の準備を命ずる。今のトリスタニアは、結婚式典のために大勢の人間がやってきている。
市街地への侵入を許したら大惨事になるのは必然だ。
そしてエレオノールは、報告を持って来たのが魔法アカデミーの雇い騎士だったこと。現れたのが、
赤い怪獣だという内容から、一つの仮説を導き出し、全身の血が引いていく音を聞いていた。
「しまった……ヴァレリー!」
様々な思惑と錯誤、謎と現実が交差しながら、時の流れは残酷にその歩みを止めない。
場所を戻し、激しい戦いのおこなわれたあの森に舞台は返る。
一時は天にも届くほどの勢いで燃え盛っていた山火事も、天からの恵みには屈服し、炭と化した木々が
薄い煙のみを吐いている。その一隅の、雨を避けられるある場所に、才人とルイズは並べて寝かされていた。
「う、ぅぅ……」
かすかなうめきと、吐息が二人がまだ生きていることを如実に示している。しかし、怪獣バニラとの戦いで
大きなダメージを受けた二人は、いまだ無意識の世界……暗く、生暖かい不思議な空間の中をさまよっていた。
”おれは……いったいどうしたんだろう”
浮いているような脱力感と、激しい疲労から襲ってくる眠気に耐えながら、才人の意識はただよいながら考えていた。
そこは、ぼんやりとものを考えることはできるけれども、体を動かすことはできない。例えて言うならば、
春の日差しの中でうたたねしているみたいな、夢と現実のはざまのような世界。そこで、夏の波打ち際に
体を預けているような心地よい感覚に、才人は身を任せていた。
「おれは……いったいどうしたんだろう」
もう一度、才人は同じことを思った。いや、もしかしたら一度だけでなく何度も同じことを考えていたのかもしれない。
現実感のない世界で、才人にできるのは考えることだけだった。いや、起きようと頭では思うのだけれども、
意識が現実に覚醒することがない。疲労で深い眠りについているというよりも、なにかの力で夢の世界に
閉じ込められているような、そんな気さえする。
ここは、強いて言うなら変身している際に、三人で意識を共有している精神世界と似ているような気もする。
しかし、エースなら不必要に二人の心に干渉するわけはない。ならば何故? と思っても、それを考えるだけの
思考力は得られない。
ふと、才人はこの精神世界の中に自分以外の誰かがいる気配を感じた。とはいえ、すぐに相手のほうから
呼びかけてきたから、確認する手間ははぶけた。
「サイト?」
「ルイズか?」
不思議なことに、二人とも意識がはっきりとしていないのに、相手の存在だけははっきりと理解することができた。
それが、自分たちが肉体と意識を共有しているかはわからないけれど、二人にとってはどうでもよかった。
寄り添うように手と手を重ねると、二人は安心したように力を抜いた。
互いのことを感じあえるところにいることで、緊張を失った二人の心は無意識のさらに深くへと沈んでいく。
ところが、閉じ行く意識の中で、才人とルイズの目の前に突如現れたものがあった。
「あれ、は……?」
ぽつりと、唐突に現れたそれを、二人は閉じかけた心のまぶたを開いて見た。沈んでいく水底のような世界の中で、
海底に沈んだ一粒の真珠のように、小さな、しかしはっきりとした光がはげますように二人の前に現れていた。
「なにかしら、きれい……」
消えかけた意識の中で、ルイズは自然に光に手を伸ばしていた。あの光からは、どこか懐かしいような、
どこかで見たようなそんな不思議な感覚がする。さらに、才人の意識もルイズにひきずられるように、二人は
手を握り合い、いっしょになって落ちていった。
「深い……サイト、わたしたちどこまで沈んでいくの」
「心配するな。どこまでだって、おれがお前についていってやる」
自分たち以外に誰もいない世界で、才人ははげますようにルイズの手を握った。
ひたすら、深く、深く。二人の心は沈んでいく。
光は、どれほどの深さがあるのか知れない深淵の底から、しだいに輝きを強めていく。
もうすぐ見える……期待と不安とが入り混じる。二人は、まもなく到達するであろう精神世界の最深部で、
何かの正体を見極めようと目を凝らす。そして、輝きを放っていたものがなんであるかに気がついたとき、
同時にそれの名前をつぶやいていた。
「始祖の……祈祷書?」
見間違えるはずもなく、それは始祖の祈祷書そのものだった。表紙の汚れも、破れ具合もすべて見覚えがある。
そして、祈祷書が間近にまで見えるようになったとき、ルイズの脳裏に不思議な声が響いた。
「呼んでる……」
「ルイズどうした? 呼んでるって、誰が?」
「わからない。けど、祈祷書がわたしを呼んでるの」
自分でも不可思議なことを言っているとはわかっている。夢の中だとしても、おかしいといわざるをえない。
でも、聞こえたことを否定する気にはならなかった。低い、おちついた大人の声で「来い」と言われた。
聞き覚えはないけれど、どこか懐かしいようなそんな声……わからないけれど、祈祷書を持てば、その答えが
わかるような気がする。
「サイト……」
「お前の好きにしろ。どうしようと、おれはそれでいい」
わずかなためらいを、才人の言葉でぬぐい払うと、ルイズは祈祷書に手を伸ばした。触れたとたん、指先から
まばゆい光があふれて二人を包み込んでいく。
「わあっ!?」
あまりのまぶしさに、二人は思わず目をつぶろうとした。しかし、ここは精神世界であるから、まぶたはあるようで
実は存在しない。光はさえぎるものなく二人の世界を白一色に染め上げ、やがて唐突に消えるとともに、
二人の目の前がさあっと開けた。
「これは……砂漠?」
突然現れた風景に、二人は周囲を見渡しながらつぶやいた。
今、二人は広大な砂漠地帯を見渡す空の上に浮かんでいた。
しかし、吹きすさぶ風も照りつける熱射の熱さも感じることはない。どうやら、自分たちはこの場所では幽霊の
ようなものであるらしいと当たりをつけると、才人はルイズに尋ねた。
「ルイズ、ハルケギニアにこんな砂漠があるのか?」
「いえ、ハルケギニアに砂漠なんてないわ……いいえ、正確にはハルケギニアにはないけれど、そのはるかな
東方の世界には、サハラと呼ばれる大砂漠地帯があるはず。ここは、多分」
タバサまではいなかくても、様々な史書を読み漁ったルイズの知識の中でも、このような光景は他には
考えられなかった。サハラ……聖地に通じる、エルフの住まう場所。数千年の長きに渡って、聖地を奪還
せんものとする人間とエルフの果てしない抗争の続いた地。
はてしなく広がる砂の地には、人の影ひとつ、虫一匹の姿すら存在せず、ただ砂丘と吹き荒れる砂嵐のみが
擬似的な生命のように動き回っている。まさにこれは死の世界と呼ぶにふさわしい光景。
無の世界に戦慄する二人の見ている中で、景色は急速に流れ出した。砂漠をどんどん超え、地平線の
かなたへと景色が進んでいく。まるでジェット機から地上を見下ろしているかのようだ。
やがて、砂漠が途切れて緑の山や平原が見えてくる。ここがサハラだったとすると、あれが恐らくは
ハルケギニアか? ルイズはハルケギニア全土の地図を思い出し、サハラに隣接する場所に当たりをつけた。
「きっと、あれはガリアのどこかよ。人間とエルフは、ガリアの東端を国境線にしているの」
ルイズの説明に、才人もなるほどとうなづいた。二人の見下ろす先で景色はさらに流れ、砂漠から
草原や山岳地帯へと入っていく。このまま進めば、どこかの町も見えてくるだろう。そう二人は考えた。
しかし、結果からすれば、二人の思ったとおりに町……人の住んでいるところはすぐに見えてきた。
支援
ただし、それは二人の想像していたものとは似ても似つかない形で現れたのである。
「サイト! ま、町が」
「怪獣に襲われている!?」
凄惨としかいえない光景が二人の前に広がった。
町が……いや、町だったと思われるところが怪獣によって破壊されていた。それも、一匹や二匹ではない。
少なく見ても五匹以上の怪獣が、せいぜい人口千人くらいの町を蹂躙している。
火炎や熱線が建物を炎上させ、元の町の姿はもう見受けることはできない。当然、人間の姿もどこにも見えない。
「ひどい……」
「くっ! こんなことになってるのに、この国はなにをやってるんだ!」
思わず怒鳴った才人の声も虚しく、二人の体はどんどんと流されていく。山を、川を飛び越えて山麓に
広がる次の町が見えてくる。赤い炎と黒い煙とともに。
「ここでもっ!? 怪獣が」
その町も、同じように怪獣によって蹂躙されていた。ざっと見るところ、街を破壊しているのは二匹、
全身が岩のようになっているのは透明怪獣ゴルバゴス。口から火炎弾を吐いて街を焼いている。
ドリルのような鋭い鼻先を持っているのは噴煙怪獣ボルケラー。口から爆発性イエローガスを吐き、
街の建物をけり壊している。
町は先程の町と同じように業火に覆われ、元の姿をうかがい知ることはできない。
けれど、ここでは先の町とは明らかに違う点があった。町は無人ではなく、まだ大勢の人間がいた。
ただし彼らは炎や怪獣から逃げるでもなく、その手には槍や剣、それに杖があった。彼らは二つの陣営に
分かれて、それぞれが相手に武器を向け合っている。
「戦争をしてやがる……」
それしか考えられる答えはなかった。そこにいる人間たちは、全身を覆う分厚い鉄の鎧に身を固め、
武器をふるい、魔法をぶつけあって互いを倒して炎の中へと放り込んでいく。目を覆いたくなるような、
大規模な凄惨な殺し合いの風景。それは、戦争と呼ぶ以外に表現する術はない。
だが、怪獣が暴れているというのに人々はそれには目もくれずに、ひたすら戦い続けている。そういえば、
ゴルバゴスやボルケラーは町は壊すものの、地上で戦う人間たちには目もくれていない。いや、そうではない
と才人は二匹の行動を見て思った。
「怪獣たちも戦っている、のか」
町の惨状に幻惑されていたが、両者は確かに戦っていた。火炎弾やイエローガスの撃ち合いだけでなく、
ゴルバゴスの岩のような腕がボルケラーを打ち据え、負けじとボルケラーも風の音のような鳴き声をあげて、
巨大なハサミ状になった腕でゴルバゴスを締め付ける。
その怪獣同士の激闘は、町をさらに無残な状況へと変えていく。
「あいつら、やりたい放題じゃない」
「ああ……だけどなんであの二匹が……ハルケギニアだとはいえ、あれらは戦うようなやつらじゃないのに」
才人は、普通なら戦うことになるはずのない二匹が戦っていることに、大きな違和感を感じていた。
ゴルバゴスは山中に潜み、体を擬態して獲物を待つ怪獣。対してボルケラーは火山地帯に生息し、
大半は地底にいる怪獣、生息地が大きく違う上に、どちらも人里に下りてくるような怪獣ではないのだ。
「ねえサイト、あの怪獣たちの後ろにいるやつら、何かしら?」
「え? なんだ……あいつら」
ルイズに言われて目を凝らした才人は困惑した。二匹の怪獣の、それぞれ後ろに一人ずつ人間が立っていた。
そいつらは、戦っている人間たちが鎧兜などの重装備をしているのに対して、まるで休日の街中を散歩する
ような軽装で、怪獣に向かってなにやら手振りしているように見える。
「もしかして、怪獣を操っているのか……?」
「まさか! 人間にそんなことができるわけが……」
ない! と言い切れない事例をこれまでに二人は嫌というほど目にしてきていた。よくよく見てみれば、
声は聞こえないものの、軽装の人間は兵士たちに向かってなにやら指示をしているようにも観察できる。
ならばあれが指揮官かということは容易に連想することができた。
しかし、怪獣を操って戦争の道具にするなどと、そんな恐ろしいことを……いや、宇宙人が地球を攻撃する
ための手段として怪獣を使うのは、誰もが知っている常套手段である。ならば当然、兵器としての怪獣同士での
戦争などは、地球以外の星からしてみれば当たり前のことなのかもしれない。
ただ、状況は奇異につきた。あの、怪獣を操っているものが人間であれ宇宙人かなにかであるにせよ、
人間の軍隊までも率いて戦争している理由がわからない。怪獣どうしの戦闘のすぐ横で、槍や剣を使った
”普通”の戦争がおこなわれているアンバランスさ。それに、ルイズも確認してみたのだが、兵士たちは
トリステインはおろか、アルビオン、ガリア、ゲルマニアのどの軍隊とも装備が違っていた。少なくとも、
今のハルケギニアの兵士は竜騎士など一部の例外を除いて、全身鎧などという化け物じみた装備を使わない。
目の前で起きていることの答えを見つけられぬまま、二人はさらに空を流されていった。飛びゆく先の空は、
夕焼けを悪意の色で塗りなおしたかのような、凶悪な赤で染まっている。それを見下ろせる空にたどり着いたとき、
不安と恐怖を編みこんだ予測の刺繍絵は、現実と極めて近い形で眼前に姿を現したのである。
「ここでも、あそこでも……なんなのよこれ。どうしてどこでもここでも殺し合いをしてるのよ!」
「暴れまわってる怪獣の数も尋常じゃねえ。それに、あれは人間じゃないな」
信じられないことに、戦いは人間や怪獣ばかりではなかった。
ある場所では、翼人の一団とコボルドの群れが。またある場所ではミノタウロスとオークの群れが斧を
ぶつけあい、火竜がワイバーンや風竜と空戦をおこなっているところもある。
「自然の秩序にしたがって生きているはずの亜人まで……でたらめじゃない」
しかし、二人がこれが序の口に過ぎないことを知るのはこれからだった。
空を飛び、ゆく先々の町や村はすべて怪獣に襲われるか、襲われた後の廃墟として二人の目の前に現れた。
それだけではなく、移動する先々の山々や森林も焼き払われ、ひどいところでは砂漠化しているところまである。
そのどこでも、圧倒的な破壊がおこなわれた後……もしくは、それをおこなっている最中の破壊者の姿がある。
人間、エルフ、翼人、獣人、幻獣、怪獣……そして、それらを統率している正体不明の人間たち。
この世界のどこにも、平和はなかった。
「違う……これは、わたしの知ってるハルケギニアじゃないわ」
愕然とするルイズの言うとおり、どこまで飛ぼうとも、いくら戦場後を乗り越えようとも破壊の跡が視界から
消えることはなかった。それどころか、進むほどに戦火は激しくなり、まるで地上すべてがフライパンの上の
肉のように煮えたぎっているかのようにも思える。
空の上には翼人やドラゴンが、地上には人間の軍勢や亜人、そして怪獣たちが無秩序に暴れている。
いったいなんのために戦っているのか、それすらもわからない。
唖然とする二人。と、そのとき二人の耳に聞きなれた低い声が響いた。
「やれやれ……とうとう見ちまったか」
「その声は!」
「デルフか! お前、どこにいるんだ!?」
唐突に響いたデルフリンガーの声に、反射的に周りを見渡す二人。しかし、あの無骨な大剣の姿はなく、声だけが
どこからともなく聞こえてくる。
「落ち着け、お前ら。いいか、今お前らは祈祷書に記録されているビジョンを見せられてるんだ。そこは、
かつて俺が生まれた世界……六千年前のハルケギニアだ」
ウルトラ乙
「な……なんだって」
「この荒廃した世界が」
続く声もなかった。この、破壊と混沌にあふれた世界が、あの平和で美しいハルケギニアだとは。
絶句する二人の耳に、重く沈んだ様子のデルフの声が少しずつ入ってくる。
「ふぅ……嫌なこと、思い出しちまったなあ。ブリミルのやつめ、遺品にいろいろ細工してたのは知ってたけど、
よもやこんな仕掛けを祈祷書に残してたとは気づかなかったぜ」
「デルフ、もっとわかるように説明してくれよ」
「ああ、すまねえな。要するに、これは祈祷書に記録されていた過去のビジョンが、お前らの頭の中に投影
されてる光景らしい。六千年前、この世界は見ての通りに、いくつもの勢力が戦争を繰り広げていた。
今でも、エルフとかのあいだではシャイターンとかヴァリヤーグとか、そのときの勢力の名前のいくつかが
語り継がれているらしい。いや、これはもう戦争と呼べる代物じゃなかったな。人間にエルフ……世界中の、
あらゆる生き物を巻き込んだ、際限のないつぶしあいだった」
「いったい、なんでそんな無茶苦茶なことに……」
愕然とする才人の質問に、デルフはすぐに答えなかった。
「すまねえ、まだそこまで記憶が戻ってねえんだ」
いつになく沈んだデルフの答えに、才人とルイズは頭に血を登らせかけたものを押し下げた。六千年分の
記憶と一言にいえば簡単だけれど、それは地層の奥深くに沈んだ化石を掘り返すようなものだろう。
一気に掘り返そうとすれば、デルフが持たないかもしれない。発掘は、赤子の肌を拭くように慎重に
時間をかけなくてはならない。
「わかった。じゃあ、あの怪獣を操ってる連中はなんなんだ?」
いっぺんに聞くのをあきらめた才人は、とりあえず一番気になっていることを尋ねた。
「あれが、この戦いの元凶さ。エルフに悪魔と呼ばれてるのは、あの連中のことだ。あいつらは、この世界に
元々いた怪獣や、どっかから探してきた怪獣なんかを武器にして戦争やってたんだ。ちょうど、今のメイジが
戦争で使い魔を利用するみたいにな」
「怪獣を、兵器に……」
恐ろしい想像が当たっていたことを、才人は喜ぶ気にはもちろんならなかった。
地球人も、怪獣を兵器にという構想はすでにマケット怪獣で実用化の域にある。しかしそれを人間どうしの
戦争に利用しようなどとは考えられもしない。そんな愚かな時代は、かつて核兵器の脅威によって人類絶滅の
危機におびえた前世紀で充分すぎる。
「まあ、コントロールできなくて暴れるにまかせるしかなかったのも少なからずいたらしいが、この混乱の中じゃあ
些細なことだったろうな」
「いったい何者なんだ? 怪獣を操るなんて、並の人間にできるわけないだろう」
「わからねえ……いや、思い出せないんじゃなくて本当に知らねえんだ。俺が作られたのは、連中が現れてから
しばらく経ってからのことらしいからな。ただ、なにかしらすさまじい力を誇っていたのだけは確かだ」
デルフの説明は、後半は余計だった。怪獣を操る時点で、手段はともかく常人のそれではない。
現在、二人の見下ろす先にいる怪獣は三匹、いずれも才人の知るところではない姿をしている。
一体は、全身を乾いた岩の色をした二足歩行の恐竜型怪獣。体はごつごつとしていていかついが、
顔つきはどこか柔和なものが感じられる。これは、才人の故郷とは違う地球で岩石怪獣ネルドラントと呼ばれている、
ゴモラなどと同じく古代恐竜の生き残りといわれている怪獣。
もう一体は、同じく二足歩行型で、顔の形がどことなくカンガルーに似ている怪獣。これも、毒ガス怪獣エリガルと
呼ばれてる種類の怪獣で、肩の部分にそのガスの噴出孔がフジツボのようについている。
最後の一体は、ここにキュルケかタバサがいたならば、その姿に記憶のページから同じしおりを選んでいただろう。
古代暴獣ゴルメデ……才人とルイズの知らないところ。エギンハイム村で、翼人たちの伝説に残されていた
あの怪獣がそこにいた。
三体の怪獣は、ほかの怪獣たちと同じように、何者かのコントロールを受け、目に付く木々を踏み潰しながら
前進していく。本来ならば彼らにも意思があり、こんな戦いに加わるはずはない。才人とルイズは、道具として
操られている怪獣たちに、一抹の同情を胸に覚えると、デルフに問いかけた。
「なにがしたいのか知らないけど、ひどいことをしやがる」
「わたしは、戦いは名誉や国……なにかを守るためにするものだと教えられてきたわ。けど、この戦いには
なにも感じられない。ただ戦うために戦ってるみたい。ねえ、この戦いの結末はどうなったの? いったい
誰が勝ち残ったっていうの?」
「誰も、残らなかったのさ」
「えっ!? うわっ!」
ぽつりと、恐ろしいことをつぶやいたデルフの言葉が終わると同時に、二人の視界をまばゆい光が照らした。
太陽ではない。まして、戦闘の戦火でもない。不可思議な極彩色の光に、二人がおそるおそる目を開けてみると、
そこには幻想的な光景が広がっていた。
「虹……? きれい……」
思わず口から出た言葉のとおり、空には虹色の光が溢れていた。しかし、それは虹などではなく、よく見たら
虹色をした蛍のような小さな光が、雲のような集合体をなしているものだった。
「くるぞ……この戦いを混沌に変えた。本当の悪魔が」
デルフの言ったその瞬間、虹色の雲から光の塊が地上に向かっていくつも降り注いだ。
「なんだっ!?」
それは、虹色の雲から流星が落ちたように地上からは見えたことだろう。流れ星は、まるでそれ自体に
意思があるかのようにネルドラント、エリガル、ゴルメデに吸い込まれていった。
「どうしたっていうのよ……えっ! なに!?」
「ただの戦争だったら、それが一番よかったかもしれねえ。けど、戦いの混沌につけこむように奴らは突然現れた。
そしてこれが、終わりの始まりになったんだ」
淡々と話すデルフの言葉を、才人とルイズは驚愕の眼差しの中で聞いていた。
夢の世界の中で、始祖の祈祷書が語ろうとしている歴史は、まだ先があるようだった。
だが、時を同じくした頃、魔法アカデミーではエレオノールが予感した最悪の事態が起ころうとしていた。
エレオノールに依頼され、ヴァレリーは青い液体の入ったカプセルの開封作業に入った。助手は、先日
アカデミーに入った中ルクシャナという新人研究員。性格的に少々調子のよすぎる感はあるが、入学以来
様々な分野で目覚しい実績を上げている彼女を、ヴァレリーは迷うことなくパートナーにすえた。
「ヴァレリー先輩、私に折り入っての仕事って何ですか? 先輩からご指名されるくらいですから、さぞや
重要な研究なんでしょうね!」
最初から期待に胸を躍らせた様子のルクシャナに、ヴァレリーは苦笑すると同時に頼もしさも覚えた。
彼女は若いくせに、自分やエレオノールに輪をかけた学者バカな気質なようで、男性研究者の誘いも
一つ残らず断って、毎日新しい発見があるたびに目を輝かせている。
支援
「先日、あなたといっしょに遺跡で発掘した青い液体のカプセルがあるでしょう。あれの開封作業に入るわ。
あなたはいっしょに発掘された碑文の修復と解読を急いでちょうだい」
「ええーっ! そんなあ、どうせなら先輩のお手伝いをさせてくださいよ」
「わがまま言わないで、理由は言えないけど急ぐ仕事なのよ。それに、砕けた石碑を修復するには、
根気もそうだけど直観力も大切なの。あれが解読できたら遺跡の秘密にも一気に迫れるわ。一番頼れるのは
あなたなの、引き受けてもらえるかしら」
「……わかりました。引き受けましょう」
最後には快く引き受けたルクシャナに、ヴァレリーは内心で素直ないい子だと感心した。彼女はあまり
自分のことを語りたがらないが、わずかに語ったところでは国に婚約者を待たせているらしい。きっと、
その男も彼女のそんなところに魅かれたのだろう。もっとも、それ以外の部分にはさぞ苦労させられているに
違いないが。
ルクシャナに碑文の復元を任せたヴァレリーは、さっそくカプセルの開封作業に移った。これまでの経過から、
物理的な衝撃や、『錬金』による変質も受け付けないとわかっていたので、それ以外の方法を模索する。
今までは内部の破損を恐れて、強行的な手段は避けてきたけれど、非常事態ゆえにヴァレリーは多少
強引な手段を用いてもカプセルを破壊することに決めた。
一方のルクシャナは、碑文の破片の復元作業のおこなわれている部屋にやってきていた。ここでは、
数千ピースに及ぶ石の破片を元通りにする作業が続けられている。これには、さしもの魔法も役には
立たないので、取り組んでいるのは雇われた平民が多数であった。
ルクシャナは、部屋に入るなり彼らに向かって告げた。
「これから、私が復元作業に当たることに決まったわ。あなたたちはご苦労様、ほかのところを手伝ってちょうだい」
命令を受けた平民たちは、ほっとした様子で速やかに部屋を出て行った。彼らとしても、延々と続く石くれとの
格闘には飽き飽きしていたのだ。そして、部屋が無人になったのを確かめると、ルクシャナは復元途中の石碑に
手をかざして、つぶやいた。
「蛮人はだめね。このくらいのことを、何日かかってもできないなんて。でも、私も精霊の力をこんなことに使って、
叔父様に怒られちゃいそうだけど、ね……さて、では石に眠る精霊の力よ……」
いたずらっぽく微笑んだルクシャナが呪文をつぶやくと、バラバラだった石碑の残骸が動き出し、まるで生き物の
ように自然に組み合わさっていく。数分もせずに、残骸は一枚の石版の姿を取り戻し、さっそく彼女は書かれている
文字の解読に当たった。
「これは、私たちが使ってた中でも、もっとも古いとされている文字じゃない。これは興味深いわ、なになに……」
好奇心旺盛に、ルクシャナは碑文を読み上げる。
だが、読み進めるうちに彼女の顔からは急速に笑みが消え、読み終えたときには蒼白に変わっていた。
「いけない! そのカプセルを開けてはいけない!」
脱兎のように、ルクシャナは碑文の部屋を飛び出していった。
けれど運命は残酷に、破滅への秒読みを進めつつある。
「おう、ヴァレリー教授、どうやらカプセルが開けられそうですよ」
研究室で、実験台の上に置かれたカプセルに、微細なひびが入りつつあった。加えられているのは、
アカデミーの風のメイジの使用した電撃の魔法である。ヴァレリーはこれまでの実験結果から、高熱や衝撃では
このカプセルには通じないと知っていたので、いくつかの可能性を吟味して電撃に賭けたのだ。
「やったわ! 成功のようね」
「おめでとうございます。ヴァレリー教授」
「ええ、これで中身の分析もできるわ。六千年も生きていたミイラの守っていたもの……もしかしたら、
本当に不老不死の妙薬かもしれない。もっとパワーを上げて、一気に砕くのよ」
期待に胸を膨らませて、ヴァレリーはひび割れゆくカプセルを見守った。エレオノールには悪いけれど、
大発見の一番乗りとして自分の名前が歴史に残るかもしれないという、むずがゆい快感もわいてくる。
ところが、ヴァレリーがさらに電撃のパワーをあげるように命令しようとしたとき、ルクシャナがドアを
蹴破らんばかりの勢いで部屋に駆け込んできたのだ。
「待ってください! そのカプセルを開けてはいけません。中のものは、悪魔なのです」
「なんですって!? 悪魔?」
ルクシャナの剣幕に驚いたヴァレリーは思わず聞き返した。そして、意味がわからないという顔をしている
彼女に、ルクシャナは震える声で説明した。
「文字の解読ができたんです。これには、こう書かれていました」
”未来の人間に警告する。かつてこの地は大いなる災いによって滅ぼされた。
生き残った我々に残された文明も、いずれ消え去るであろう。
しかしその前に、我々は世界を破滅へと導こうとした、巨大なる悪魔たちの一端を捕らえることに成功した。
赤い悪魔の怪獣バニラ。青い悪魔の怪獣アボラス。
我々は彼らを液体に変え、防人とともにはるかなる地底の悪魔の神殿に閉じ込めた。
決してこの封印を破ってはならない。もしこの二体に再び生を与えることがあれば、人類は滅亡するであろう”
語り終わったときには、ヴァレリーもすでに顔色をなくしていた。もはや、どうしてこんなに早く解読が
できたのかということなどは思考から消し飛んでいる。
「じゃあ、この液体は青いから……怪獣アボラス!」
愕然とつぶやいた瞬間、ひび割れたカプセルが卵の殻のように割れた。その傷口から、青い液体が
どろりと零れ落ちる。
「しまった。遅かった……」
愕然とするヴァレリーとルクシャナの見ている前で、青い液体はどんどん広がっていく。
そして、液体から白煙があがり、流動する液体が何かの形を作りながら巨大化し始めた。
「いけない! みんな逃げてーっ!」
あらんばかりの声で叫び、ヴァレリーは出口へと駆け出した。しかし、怪獣が実体化する速度は彼女たちが
逃げ出すよりも早く、天井を突き破り、床を踏み抜いて研究塔を破壊した。
「間に合わな……きゃぁぁっ!」
ヴァレリーの足元の床が抜け、壁と天井が巨大な瓦礫と化して彼女の上へと降り注いでいった。
アカデミーの研究塔は一瞬のうちに崩れさり、中から青い体をした巨大怪獣が姿を現す。
青色発泡怪獣アボラス……その復活の雄叫びが、廃墟と化した魔法アカデミーに高々と鳴り響いた。
続く
では、今週はここまでです。支援してくださった方々、今回もありがとうございました。
ウルトラマンA敗退、久しぶりのエースの登場がこんなことになってしまってすいませんでした。
でも、ストーリーを進めるうえで必要なことでもありましたのでご容赦ください。
虚無の謎に焦点をすえて進めている現在ですが、一部から伏線を張ってきました六千年前の歴史の一端をお送りしました。
そして、青い悪魔もいよいよ復活。来週は過去と現代の同時進行でお送りいたします。
それにしても、やっぱり映画はいいですねえ。モチベーション上がったし、今夜は書くぞー!
次回、ウルトラ5番目の使い魔、『激震!二大怪獣』
ウルトラの人投下乙です。
怪獣使いに虹色の光・・・なるほど、そう絡めてきましたか!!
これはこの先がますます面白くなりそうな展開になってきましたねw
次回も楽しみです。
あの光が作用しバニラたちが強化されているとしたら、もしやその姿は
以前のドラコのようにパワード版なのかななんて想像してしまいました。
ウルトラ乙!
さあ、来週も「ウルトラ5番目の使い魔」、みんなで観よう!!
土下座おもしれぇw なんぞこれw
ウルトラさん乙ー!
フロム作品から呼びたいと考えたが、フロム脳補正が入るとオリキャラと変わらないかな
>>437 まぁ有りじゃないか、貴様?
と背中を押してみる。
ここ、フロム脳患者もそれなりに居るみたいだから大丈夫じゃね?
火防女希望
>>439 ひとまずは、ガルで考えてたけど…
うーん、ルイズ強化モノか、難易度高そうだ
ガルかwあいつもルイズと相性良さそうだなw
ジナ姉とか召還されてたような……
>>437 光が逆流する人とかオッツァダルヴァとか
>>437 ここはあえてキングスフィールドからメレル・ウル
・・・エルフだったなそういえば
>>441 ストーリー的にも書きやすそうだしね
ただ問題は…アルビオンへのお忍びの旅に36sの戦槌てどうよ
>>444 メイジ用の杖ですって抗弁しておけば問題ない。
>>442 マジ水没してアップアップしてた処で召喚される乙樽とか胸熱だなw
ステイシスは海水被ってピクリとも動かなければ尚良しw
暗銀で魔法もシャットアウトだな
U
(T)〈しかし貴公…奴は半ばデーモンと化した人外…ここは二刀のショーテルがかっこいい沈黙の長は如何か?
448 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/06(日) 19:26:03.32 ID:yamFSZP9
遅くなったがウルトラ乙
貴公殿は呼んだとして何をさせればいいのか
タバサに呼ばれて、ガリア国王暗殺?
450 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:17:25.88 ID:xm/7ABZx
お久しぶりです。
待っていてくれた方、本当に申し訳ありません。
これから投下をしたいと思います。
451 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:18:37.76 ID:xm/7ABZx
あれからギーシュと一旦別れて自室へと戻ってきたルイズとカイト。
その二人はとてもとても大切な事を話していた。
「さて、それじゃあ聞かせて貰いましょうか?」
ルイズは鞭を軽く振りながらカイトに微笑みかけている。
穏やかな表情をしていたが、眼は笑っていない。
笑顔とはこんなに恐ろしいものだったのだろうか。
「シエスタの所に、何の用事があったの?」
「……ハァァァァアアア」
デルフを取り出して、訳を言ってもらう。
単にシエスタに料理を振舞って貰っただけだと。
「本当に? それだけ?」
心なしか鞭を振るスピードが速くなっているのはきっと気のせいじゃない。
僅かに身震いをしたカイトを見て居た堪れなくなったのか、通訳をしていたデルフが口を挟んだ。
「あ〜…、カイトの言ってる事は本当だぜ。
俺が証人、いや証剣だ。」
デルフの言葉にカイトはコクリと頷いた。
その仕草にルイズは少し追い詰めすぎたかな、と思いながらカイトの傍へと寄っていった。
「……はぁ、前から言おうと思ってたんだけど。」
鞭を下ろしながら、言う。
カイトはホッとしながらもルイズを見る。
「アンタは大事な事を省略しすぎなのよ。
それとそのまま直訳するデルフも。」
俺も!?、とデルフは叫ぶがルイズは無視してカイトを見る。
452 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:19:15.90 ID:xm/7ABZx
「……」
カイトの表情は動かない。
だが、彼の脳内では思考をひたすら巡らせていた。
「アンタはね、頭は良いし理解力も速い。
だけど、応用する事が出来ない節があるわ。」
ルイズは単純な思考を持っている時があるが馬鹿ではない。
カイトがシエスタの所に行った、と聞いた時も何をしていたか、大体アタリはつけていた。
それでも怒った素振りを見せたのは、まあその場のノリだ。
カイトからすれば堪ったもんじゃないが。
「良い?
次からは、ちゃんと『誰と』、『何処で』、『何をしていたか』言いなさい。
漠然とした言葉じゃ解らないから。」
その声は、何処か子供を諭す親のようで。
「……ハアァァァアァア」
カイトは静かに頷いたのであった。
453 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:19:47.76 ID:xm/7ABZx
(やっぱり、こっちの方が良いのかな…。)
ルイズは目の前で理解を努めるカイトを見てそう思った。
確かにあの時、カイトがシエスタの所に行ったと聞いた時は、怒りがこみ上げた。
だが、その後ギーシュと共に怒鳴り散らした後、急激に頭が冷めて、こう思った。
幾らなんでも大人げが無いんじゃないか、と。
確かにカイトは訳がわからない存在である。
だが、人と同じ機能を持っている事は漠然としたものだが理解できる。
そして、何処か幼い一面を持っていると言う事も。
そんな彼に無闇やたらと怒鳴り散らしてあれこれと頭に叩き込ませるのは、何か違う、と感じていた。
確かに使い魔と主の主従関係は絶対だ。
だが、生憎カイトは普通の存在ではないし、あのギーシュとの決闘の時も自分を庇ってくれた。
それに対して、ただ怒るだけと言うのは貴族としてではなくルイズ個人として間違っていると感じていた。
ルイズには姉が居る。
一人は厳しく、幼かった彼女にとっては恐怖の象徴だったが、
もう一人は何時も自分を慰めてくれた優しさの象徴だった。
ならば、自分がするべき事は何か。
優しく接してみよう。
使い魔としての扱いでは無く、カイトとしての扱いとして。
主従関係は絶対だが、信頼関係はソレよりも圧倒的に勝る。
そう思い始めたルイズだった。
454 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:21:00.49 ID:xm/7ABZx
あの後、仮眠を取っていたルイズが目を覚ます。
「ん……」
目をこすりながら、窓の外に目を向けると日は降りており、薄暗くなり始めた頃だった。
そして、時間を確認する。
作戦時刻まであと1時間30分だ。
「っ……」
時間を確認した瞬間、ふるりと彼女の体が震えだした。
自分を抱きしめるように腕を回すが、体の震えが止まらない。
正直、怖い。怖くて怖くてたまらない。
これから2時間後に更に暗くなる外へと行くのだ。
買い物やピクニックに行くのとは訳が違う。
命を懸けた戦いが始まるからだ。
カイトは強い。それこそ土くれのフーケすらにも負ける事はないだろう。
ギーシュだって、陸軍元帥の父がいる。初めてとはいえ、上手く立ち回れるだろう。
ならば、自分はどうだろうか。
全ての魔法が爆発に変換される。
運動神経だってあまりよくは無い。
命を奪い合う戦いなんて対岸の火事の出来事だ。
(なんで、あんなこと、言っちゃったのかな……)
ルイズはあの時の事を深く後悔していた。
455 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:21:34.90 ID:xm/7ABZx
もしも、あの時手を上げなかったら。
もしも、あの時口を出さなかったら。
もしも、あの時プライドよりも自分を優先させていたら。
それのせいで、ギーシュまで巻き込んでしまった。
ギーシュは自分に借りを返したいと言った。
ならば、自分が行かなければ、ギーシュもきっと手を上げなかっただろう。
体の震えがさらに大きくなる。
体に回す腕にも更に力が入る。
目は強く閉じられ、息が荒くなり、歯はカチカチと鳴っていた。
「〜〜〜〜〜〜〜っ……」
今、怖いから逃げ出したいと学園に言えば、きっと学園長は別のものを手配してくれるだろう。
だけど……
(逃げたくないっ…)
456 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:22:35.73 ID:xm/7ABZx
貴族としてではなくルイズ自身の小さなプライドがそれを邪魔していた。
使い魔は、カイトはギーシュとの決闘の際に、逃げなかった。
自分がアレだけ必死に命令しても、カイトは応じなかった。
決闘の当事者であるギーシュに言われたのだが、あの時カイトはギーシュの陰口に対して怒りを見せたという。
陰口を言われた、と面と向かって言われると腹が立つ。
だが、その苛立ちが霞むほどに、カイトが自分の為に怒ってくれたというのは、正直、かなり嬉しかった。
もっとも、素直になりきれないルイズはカイトに対して強く当たってしまうのだが。
そんな彼を裏切りたくない。
自分をゼロと呼ばなくなったギーシュを裏切りたくない。
そして何よりも…
(自分を裏切りたくない……!
裏切りたくない…
裏切りたくない……
裏切りたくない………!!)
そんな言葉を頭の中で繰り返していると、ふと後ろのほうで布が動く音がした。
カイトが起きたのだ。
「!!」
カイトの特徴的な瞳がゆらゆらと暗い部屋にゆれている。
ルイズは慌てて、明かりをつけて、何時もどおりを装ってカイトを見た。
「お、おはよう…!」
「……」
カイトは無言でルイズの傍に近づいて行く。
そんなカイトにルイズは少しだけムッと来た。
声を出して叱ってやろうと口を開こうとした瞬間。
457 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:23:39.02 ID:xm/7ABZx
「ダ@ジョウブ?」
「えっ?」
カイトがルイズの目元に手を伸ばしたのだ。
「ちょ、ちょっと!」
何するの、と言う前にカイトの指がルイズの目元を拭ったのだ。
「え、あっ…」
ルイズは泣いていた。
泣いていた事にすら気がつかなかったのだ。
それほどまでに、彼女は追い詰められていたのだ。
「っ……」
その手を振り払う事も出来ず、かと言って、離せと命令する事も出来ず、ルイズはカイトのなすがままになっていた。
ルイズはカイトの目を見た。
そして、見てしまった。
その不気味な瞳が、自分を心配しているかのようにルイズを見ていたことを。
カァッとルイズの頬が赤くなる。
使い魔が主を心配していたことに対する苛立ちか、
はたまた、ある意味純粋な瞳で見られていたということに対する羞恥心か。
「aasdvカラ…」
「え?」
「ルイズヲ、a34fgsafvカラ。」
「……」
「マモルカラ、シンパイシナイデ。」
458 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:24:52.60 ID:xm/7ABZx
ルイズの目が見開いた。
きっとカイトは解ってしまったのだろう。
今、自分が不安と恐怖に包み込まれている事を。
そして、デルフを介してではなく、自分の口から言った事。
ルイズはカイトの指を払い、俯いた。
「……?」
そんなルイズにカイトは首を傾げた。
こういう時は、大体彼女が怒り出す予兆だ。
その瞬間、カイトの脳内で怒る彼女の映像が映し出された。
そして、その映像と同じように目の前のルイズが手を上げて…
ぽん、と背の高いカイトの頭にルイズの右手が乗せられた。
「……?」
訳がわからない、とカイトはルイズを見る。
「ばーか。 心配なんてしてるわけ無いでしょ。
アンタは私と一緒に動けば良いのよ。」
ルイズは笑顔になってそのままぐりぐりとその右手はカイトの頭をなでた。
その手はもう、震えては居なかった。
459 :
蒼炎の使い魔:2011/03/06(日) 20:26:45.64 ID:xm/7ABZx
とりあえずここまで。
1年ぶりの更新になります。
これからもちょくちょく更新したいと思いますので、どうかその時もよろしくお願いします。
乙です
使い魔がリードする展開は王道でいいなぁ
待ってました!
カイトはハセヲとラブラブENDしか思い出にない
>>357>>358>>359 まぁ、キス云々の辺りは別として
一夏にガンダールヴ効果付いたらもう完璧でね?
雪片&デルフの2刀流で7万も無双だろ?
一夏ラパース5人も一緒ならハルケギニア各国、いやエルフも勝てねーな
(エネルギーある間はw)
5分後あたりに小ネタを投下します。
一応バッドエンドものですので注意しときますね。
464 :
魔王降臨:2011/03/06(日) 23:11:23.25 ID:GVCTcb9k
「あ…あぁ…あ…」
2年への進級を賭けた使い魔召喚の儀式の日・幾度もの失敗の末呼び出した存在にルイズは腰を抜かしていた。
彼女が呼び出したそれは金色の鎧のような皮膚に覆われた巨大に閉じられた3つの眼に2本の長い角。
手には触れるだけで全てを切り裂きそうな輝きを放つ一対の剣…。
何より全身から噴き出す圧倒的な魔力…それは今までどんな幻獣に関する文献にも載っていない異形であった。
「嘘だろ…あのゼロのルイズが…あんな…」
そんな同級生の呟きなど耳に入らぬほど、ルイズは目の前のそれを見つめる。
そしてふと我に帰ると彼女はふらふらと自らが呼び出した使い魔候補へと歩みよった。
だが、それを1人の男が引き止めた。
「ミス・ヴァリエール!下がりなさい、あれは君の手に負える存在ではありません!!」
トリステイン魔法学院教師、ジャン・コルベール。
火のトライアングルメイジであり、誰にも知られてはいないが
かつてこの国の裏仕事を請け負う魔法小隊の隊長を勤めていた男。
前線は退いたとはいえ、彼の鍛えられた戦士としての経験は目の前の存在の凄まじいまでの力をひしひしと感じ取っていたのである。
「で…ですがミスタ・コルベール!あれは私がやっと呼び出した使い魔ですよ!?それを……」
ルイズは杖を構えながら自らの前に立つコルベールに声をかける。
何度も何度も失敗してやっとすごそうな使い魔を召喚したのにみすみす処分などされてたまるものか。
だがコルベールはそんなルイズの言葉に背を向けたまま怒号で返す。
「いいから黙っていなさい!皆も!一刻も早くこの場より立ち去るのです!!早く!!」
何が起きているのだろう…ルイズを始めとした多くの生徒たちはわからなかった。
ただ1人、蒼い髪と瞳を持った少女とその使い魔となった一頭の竜だけはコルベールが放った言葉の意味を全身で感じ取りながらただガタガタと震えていた。
(シルフィード……あれは……なに…?)
(こわい…こわいこわいこわいのね!
あんなの私たち韻竜でも見たことも聞いたこともないのね!
ただ…)
(…ただ?)
(アレは悪魔なんて生易しいもんじゃないのね……例えるなら……まるで伝説の…)
そのとき…
『ぐはあぁぁぁっ……!』
「!!?」
465 :
魔王降臨:2011/03/06(日) 23:14:52.00 ID:GVCTcb9k
突如として、聞こえてきたおぞましい唸り声。
その方向に生徒たちはゆっくりと顔を向ける。
そして、彼らはそれがゆっくりと目を開くのを目撃した。
そう、たった今ルイズが召喚したあの異形の存在が…。
『何者だ、お前たちは……?』
魂を凍りつかせるような声を響かせながらそれは問いかける。
それに答えたのはコルベールの後ろで未だに腰を抜かしていたルイズであった。
「こ…ここ……ここはっ…トリステイン魔法学院で…あなたは私が、使い魔召喚の儀式で…呼び…呼び出して…あのっ…それで…あなたは一体…何者…なの?」
ガチガチと震える奥歯をなんとか押し込めながらルイズは、今度は自分からそれに問いかけた。
『…私の名はデスピサロ。
魔族の王として目覚めたばかりだ。』
「デス…ピサロ…?魔族の、王……『うぐぉぉぉっ……!!』ひっ!!」
ルイズの呟きを遮りながら、魔族の王は再びおぞましく、苦しげな雄叫びを上げる。
『私には…何もわからぬ……。
何も思い出せぬ……。
しかし…何をやるべきか、それだけは…わかっている……。』
「……えっ?」
その言葉にルイズは間抜けな声を上げると、次の瞬間には心から安堵していた。
何だ、こんな化け物みたいな亜人でも召喚された以上ちゃんと使い魔になるという自覚はあったのか。心配して損した♪
そんな考えがルイズの頭をよぎる。
(そう、そうよね!何よ、始めから呼び出した私がビビる必要なんてなかったのよ!
よーし、ここはいっちょ誰が主人なのかをしっかりわからせてやらないとね!)
ルイズはゆっくりと立ち上がると、スカートの埃を払い優雅に髪をかき上げながら口を開いた。
「お…おほん!あら、ようやく自分の立場がわかったみたいね。
なら早速あなたのやるべきことをやりなさい…そう、この私と契約を…」
だがその言葉は最後まで紡がれることはなかった。
『ぐはあぁぁぁっ!!
お前たち人間どもを……
根 絶 や し に し て く れ る わっ!!』
「……へ?」
自らの言葉を遮って放たれた宣言に、理解が追いつかないルイズの目が点に変わる。
そして…それが活動を開始したとき、彼女は自らの愚かさと浅はかさを心から嘆くこととなる。
しかし、理解したところで全ては手遅れであった…。
やがて、ひとつの世界の平和と引き換えにひとつの世界は滅びた……。
466 :
魔王降臨:2011/03/06(日) 23:18:26.47 ID:GVCTcb9k
以上・ドラゴンクエスト4〜導かれし者たち〜
より最終決戦直前のデスピサロ召喚でした。
カリンさんあたりなら最終形態まで戦えそうですが、流石に変態直後に使ってくるマホカンタを貼られたら魔法を使うゼロ魔世界の人には厳しいかなと思ったりしました。
乙、久々の出オチ
テファがロザリーの遺体を召喚したらわずかな望みもあるかもしれないが
>>466 いやゴーレムとか物理攻撃的魔法もいっぱいあるから、銃や投石兵器もあるし
フーケレベルが50人と投石兵器10個で勝てる気がする
あとデスピサロ単体では流石に世界を滅ぼせまい、軍勢も一緒じゃないと
いや、魔王クラスならハルキゲニア中の幻獣や吸血鬼とかの亜人がこぞって配下になるかも・・・
実際、何が召還されるか分からないパルプンテ状態だから
いきなりラスボス級が出て来て終わりって事もありえるよね
>>470 文字どおりラスボスが来てもお仕舞いにならないのも多いよね。
ラスボスさんとか、萌え萌えさんとか。
ピサロさんは人外にもあんま支持されていなかった覚えが
歴代魔王の中では美形だけどカリスマ等は最低レベルだろうな
ピサロ関係なしに進化の秘宝使用者ならエスタークの如く名声だけで味方を作れそう
>>472 実際支持してたのはドワーフみたいなのとか犬猫畜生ばっかだったしな
なにより主人公の村壊滅させてからの「引き上げじゃあー!」がなんかアレだし
この手の出オチ系は、何かひとひねりがないと全く面白くないね
魔族は心底ピサロに心酔してる派閥と強いから従ってるだけの派閥に別れていたようだけど
魔族は後者ばっかりなのが本来で、純粋に慕うモンスターがいただけ歴代魔王よりカリスマある、とも取れる
しかしエスタークとピサロの一族って、例えるなら天皇と将軍家だろうか
出落ちと言うとパンプキンシザーズの伍長とか…?
何故だろう、例のナースの代わりにシエスタが伍長のアレとの戦いを始めそうだ
>>476 ピサロは手腕というか戦略というか詰めが甘い。
エスターク復活の時なんて完全に勇者に出遅れてたし、
パワーバランスで言ってもWはかなりマスタードラゴン側が余裕あったからな。
歴代魔王の偉大さを独断と偏見で並べてみた
竜王、有名な台詞「世界の半分をくれてやろう」
シドー、ハーゴンが直前に幻影とかインパクトあることするのでぱっと出の感がぬぐえない
ゾーマ、大魔王という称号はこの方のためにある
ピサロ、腹心に裏切られて地位も功績も横取りされてしまった
ミルドラース、シリーズ一の出た見た戦ったで終わった
デスタムーア、直前のイベントで町中の人間を石化させるという悪行で憎むべき敵となった
オルゴデミーラ、オカマ
ピサロは「敵であるけど彼にも正義はある」と、ドラクエでは異色のキャラだったね
投下したいけどここで合ってるかな?
何奴、名乗られい
あたし・・・初めてなの///
名乗らぬとは
者ども、出会え、出会えッ!
いや、きのうKOFで書きたいって言ってた者なんだけどね
よろしい。ならば支援だ。
10分頃に投下させていただきます
では支援を
ここ、トリステイン魔法学院の中庭には、今、大きな穴があいている。
穴というよりはクレーターだろうか。
その中心を・・・・この大穴をあけた張本人である少女と
クラスメート達は覗き込んでいる。
それまで笑っていた者は目を疑いながらもその中心にある「物」を観察している。
「あれは何だ」「人か?」「それにしてはデカイぞ」「ゴーレムだ」「亜人かもしれないぜ?」
誰もが「あのルイズが魔法を成功させただって!?」と、驚きを隠せずにいた。
その場にいる頭の寂しい中年の男も興味深そうに見ている。
様々な意見が飛び交う中、少女の心は打ち震えていた。
「成功した…」顔を煤塗れにしながらも、それを拭おうともせず、ボソっと呟いた。
「やっと……やっと成功したわ!」
ルイズが、誰も聞いたこともないようなうれしそうな声を上げる。
「どうよ!見なさい!成功したわよ!もう誰にもゼロなんて呼ばせないんだから!!」
少女の嬉々とした声が、学院中に広がる。まるで勝ち誇るかのように。
誰かの「プッ」という笑いが聞こえ、そちらに目をやると、小太りの少年が、まるで見下すような顔で笑っている
その周りにいる生徒たちも、ニヤニヤとした嫌な薄笑いを浮かべて少女の方を見ている。
少女が眉をひそめていると、小太りの少年が、馬鹿にしたように少女に声をかけた
「おーいゼロのルイズ。平民を呼び出したのがそんなに嬉しいのか?」
途端に周りにいた生徒たちがゲラゲラと笑い出した。
平民?
何で使い魔召喚の儀式で平民の話が出てくるのだろう。
私はこんな所に平民なんて呼んでない。
「さすがはゼロのルイズだ!まさか平民を召喚するとは思わなかったぜ!」
一体何の話をしているのだろうか。それよりも使い魔だ、急いで契約を…
「おい平民!貴族様がわざわざ立っているのに、どういうつもりで椅子に座っているんだ!?」
生徒の一人が、少女の使い魔に威張り散らしている。
見ると使い魔は、2つ車輪の付いた、変わった椅子に座っていた。
それより気になるのは、私の使い魔が平民と呼ばれている事だった。
そこで少女は、初めて自分が召喚した「者」をしっかりと見た。
たしかに大きい。こんなに大きい人は見たことがない。
そう。「人」であった。しかも見たところ杖も持っていない。
見たこともないような奇妙な服を着ている。
間違いなく平民であった。
少女は動かなかった
「おいゼロ!お前なんでこの学院にいるんだ?」
少女は動けなかった
ただ悔しそうにうつむく。
「早く荷物をまとめて実家に帰った方がいいんじゃないか?どうせ留年だろ?」
「「「そうだそうだ」」」
少女の目に、涙が溜まっていき、零れそうになる
なんで!?なんで私はまともに魔法が使えないのよ!!父さまも母さまも、姉さま達だって立派なメイジで、私は
皆よりもたくさん勉強した。他の皆が知らないようなことも知ってる!なのに………!!
自分の使い魔の召喚が終わり、ボーっと自分の爪を見つめていた赤髪の少女が
「ハァ…」と、少女を見てため息を吐く。赤髪の少女の友人は、もうすでにこの場にはいない。
自分の番が終わったら、その使い魔の背に乗って、さっさと自分の部屋に帰ってしまった。
大方部屋で本でも読んでいるのだろう。
「いつもなら食って掛かるはずなのに…ま!興味なんてないけど!」
そう言いつつも、少女の方にちらちらと目を向ける
(…あぁんもう!なんでそこで言い返さないのよ!言われ放題じゃない!…て、あれ?あの平民は?)
穴の中心に大男の姿は無かった(ハゲ頭と車輪の付いた椅子はあったが)
未だに少女をけなしている小太りの少年の前に、いきなり壁が現れた。
少年は「何だこりゃ」と上を見上げる。
―――――――――― 「その辺にしておきな。坊や」
支援
まず、自分に何が起こっているのかを確かめる。
この日彼は、親友の墓参りに行くことにした。
特に彼の命日だとかではなく、ただなんとなくだ。
「よう相棒、お嬢ちゃん。何か買ってきて欲しい物はあるか?」
行儀良くテレビの前に座っている少女と、机に足を投げ出してソファに座り、ダーツを
投げている少年に声を掛ける。
「おじさん!どこか出かけるの?」
栗色の髪をした少女が元気良く質問をする。
ああ、ちょっとな と返答すると
「じゃあアイス買ってきて!いっぱいね!絶対ね!」
「わかったわかった」
苦笑気味に答えてから少年にも聞くが、
「別にねぇな……」
と、興味もなさそうにダーツを投げている。
前よりも下手になっている気がするが…。
ちなみにダーツのボードは、訳あってドアから壁に掛けなおされている。
掛けなおしたのは彼ではなく少年だ。
「チッ…」
少年の投げたダーツが、ボードに刺さりもせずに床に落ちる。
そのまま胸元から取り出したサングラスを掛けると、体を横にした。
どうやら昼寝でもするようだ。
「あ!K’!寝るんだったらクーラと遊んでよ!」
少女が少年に近づき、体を揺する。
「うるせぇ、邪魔するな」
「いいじゃん!たまには遊んでよ!おじさんも出掛けちゃうみたいだし」
彼がバイクの鍵をとり、外に出るためにドアを開けた。
少女が「遊んでよー」と、しつこく少年を揺すっている。
そこで彼は、自分の耳を疑った。
いつも無愛想でぶっきらぼうな少年が「しゃあねぇな…」と言ったのだ。
明らかに異常事態だった。あの相棒が少女の遊び相手をしてやるなど…。
「俺がダーツを4つボードに投げる。そうしたらお前はそれをとって俺のところに持って来い、そういう遊びだ」
「うん!わかった!」
彼は盛大にずっこけた。
「おじさーん!アイス忘れないでねー!!」
「はいよ」
と、一言交わして今度こそ扉をくぐる。
地下から地上に上がる階段の半ばで、後ろから「つまんなーい!!!」
という悲鳴が聞こえてきた。
墓参りを終えて、頼まれたアイスを業務用スーパーで大量に買い、後ろに積んだクーラーボックスに
アイスを詰め込み、バイクに跨る。
支援也
「……なんだ?」
思わず呟く。
目の前に大きな鏡が現れる。
不思議なのは鏡なのに、何も映っていなかった事だ。
(かなり大きな空間の歪みのようだが…一体…。この前のKOFにあった物よりもデカイぞこりゃあ……
…一人の参加選手の「空き」といい、どうなってるんだ?)
しかし彼は思考を中止しなければならなかった。謎の鏡が彼をバイクごと引きずり込み始めたのである。
「ぐおおぉぉぉぉぉ!!!」
飲み込まれまいと鏡の外側を手で掴むが、すさまじい力で吸い込まれてしまった。
(ああ……一度でいいからパフェで出来たプールを泳いでみたかった……)
と、わりとのん気な事を考えていると、周りからの視線に気が付いた。
そこには、変わった格好をした少年少女と、変わった生き物がわんさかいた。
これが彼の置かれている状況だ。
(なんだこの場所は…?空間の歪みが消えたが…。あの格好は魔法使いの仮装か?
かなり気の早いハロウィンパーティーだろうか…このアイスはお嬢ちゃんと俺の分だぞ?)
ちゃっかり自分の分のアイスも買っていたりした。
(それよりもここは何処だ?データにも無いが…まさか異次元に飛ばされちまったなんてことは……
…………ないよな………?)
正面にいた一つ目の奇妙な生き物を見ながら、自分に聞く。
意見を求める人は嫌いだが、この時ばかりは、誰かに意見を求めたかった。
改めて周囲を観察していると、何やら子供たちが揉めているらしい。
それと一人。ハゲた中年の男が熱の篭った目でこちらを見ていた。
ハゲの方は無視して、子供たちの話に耳を傾ける。
何やら平民やら魔法やらファンタジーな単語で言い争っている。
いや、言い争っているのではない。
少女が一方的に馬鹿にされているようだった。
自分に対して威張り散らしている者もいたが、聞き流す。
普段の彼ならば、別に子供の喧嘩に口なんて挟まないだろう。
しかし今日は何かが違った。
なんとなく親友の墓参りに行った
相棒は少女の遊び相手をしていた
いきなりわけのわからない場所に移動していた
彼はバイクから降り、少女に罵声を浴びせている小太りの少年にむかって歩き出す
途中、ハゲが「その前衛的なデザインの椅子!!少し見せてもらってもよろしいですか!?」
と、むさ苦しい顔を近づけてきたので かまわない と言うと満面の笑みでバイクに向って
走っていった。
気を取り直し少年の前に立つ。
するといきなり視界を奪われた少年が「なんだこりゃ」とマヌケな声を出す。
そして、視線を上へ持っていく
―――――――――― 「その辺にしておきな。坊や」
この時の少女の表情は、男の影に隠れて、誰にも見えなかった。
彼の名はマキシマ。
親友の仇を取るために体の80%以上を機械に改造したサイボーグ人間
二つ名は――――――
「鋼のヒューマン ウェポン」
以上です!
初めてのSSだったので不安ですが、これからも続けたいと
思っております。
ヴェイパーキャノン乙!
乙であります!
マキシマとはまたKOFでも微妙にマイナーどころですな
何を狙っての召喚でどのような展開に進めて行かれるのか、続きに期待しておりますー
まさかのマキシマ召喚w
マキシマ甘くみるな!13ならゲージさえあれば
強力なめくりからお手軽即死コンボだって
出来るんだぞ!
モンゴリのせいで変な想像しか浮かばない
MAX2で削り殺すのが俺のジャスティス
まさかの持ちキャラ召喚で嬉しいわw
モンゴリktkr!
・紳士
・頭脳派(頭の中はコンピュータ☆)
・全身兵器=ガンダ適正MAX
・ビームもあるヨ!
・おまけにネタも満載
かなり当たりだな、これは
マキシマ自分の体のメンテ大丈夫なのか?www
しかし、確かにガンダ適性はMAXだなwwwwwwwww
27 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/06(日) 23:20:19.61 ID:Q/pDrwIO
IS学園の本島?がラグドリアン湖に転移、
(本来は一夏&5人がルイズにサモンサーバント、学園は、ついでに…)
さぁ、彼らイレギュラーはハルケギニアにどんな影響をあたえるのかっ!?w
あの作品のキャラがIS学園に入学してしまいましたスレにあったが
これって本来ここでは?w
新参でここにSS投下してみたいと思ってるものだけどここって
ゼロの使い魔クロスなら何でもありだよな?
稚拙な文章だけどちょっと書いてみたいと思ったんだが
なんでもありってのがどの程度か知らんけど、テンプレの注意事項に反しなければ自由
投下予告ってこのスレでいいよね。
禁書目録系SSかこうと思ってるけど
初めて投下ですけどいいですか?
思い切っちゃいなよ、支援
禁書系か、期待
そこに崩れた街並みがあった。
信号機はへし折れ街路樹はコンクリートに突き刺さるという奇妙な光景、そこにボロ雑巾のように転がる少年の姿があった。
その少年の前には一匹の黒い翼の生えた白い幽鬼。
彼はその幽鬼に勝負を挑み、そして敗北した。主な敗因は彼の力を見くびっていたこと。
彼は死を覚悟した同時に求めていた真実に辿りつき、不可視の力に襲われ、そして、
―――彼はこの世から消滅した。
「宇宙の果てにいる忠実なシモベよっ!!。神聖で美しく、そして、強力な使い魔よ。わたしは心より求め、訴えるわ……我が導きに、答えなさいッ!!」
けたたましい爆音が鳴り響く。桃色の髪をした少女ルイズはただひたすら祈っていた。
(お願い!!神様ブリミル様、私に素敵な使い魔をくださいっ。ドラゴンやグリフォンとまではいいませんから、せめてキュルケが召還したサラマンダーより立派な奴なら何でも良いですから。じゃないと・・・じゃないとまた馬鹿にされちゃう!!)
ルイズが若干目がしらに涙を貯めながら目をあけると、そこには一人の平民が倒れていた。
>>510 心配なら避難所の代理・練習スレに作品投下して意見募ってみな。
「おい、なんだありゃ。平民じゃないか」
「みんな見てみろよ!!ルイズが平民を召還したぞ!!」
クラスメイト達のからかう声が響く。
「ミスタ・コルベール! やり直しを! もう一度、もう一度召喚させて下さい!」
「それは駄目です、ミス・ヴァリエール。
確かにサモン・サーヴァントで人間を呼び出したのは前代未聞ですが、
彼があなたに召喚されたことには変わりがない。
一度召喚されたものを一生の使い魔とする、その神聖なる伝統を、曲げるわけには行きません。
さぁ、『コントラクト・サーヴァント』をしてしまいなさい」
ルイズは教師コルベールを心の中でケチンボハゲと罵りながら召還された平民に目を向きやった。
格好は平民だが顔はかなり整っている。
見慣れない服だが生地はけっこう高級そうだ。
もしかしたらどっかの国の貴族なんじゃ……と思っていたら、その少年は目を覚ましこっちを見ていた。
温かい日差し、緑の草原、見渡せば家族連れや小学生がシートを広げてお弁当を食べているのが見つかりそうな草原がどこまでも広がっている場所で垣根帝督は目を覚ました。
自分を物珍しそうに眺める黒いマントを着た少年少女達。
とりあえず頭の中がごちゃごちゃしてきたので一旦整理してみようと思う。
自分は『0930』事件の混乱に乗じ、学園都市に反旗を翻し、そして一方通行(アクセラレータ)に敗北したはずだ。
その体を引き裂かれたことも確かに覚えてる。
それが服も体も何処にも異常はない。
いくら学園都市の医療であそこまで破損した肉体を元に戻すのは不可能だろう。
ところでここは何処なのだろうか、周りにいる少年少女達の顔立ちは西洋系だ。だが言語が分からない。少なくとも英語ではないみたいだが、
少しフランス語に似ている気もするが……
どう喋っていいのかが分からず周りの反応をみているとピンク髪のロリ体系の少女が近づいてきた。
そして顔を近づけ・・・。
「んっ……」
いきなりキスをされた。
「おい何しやがるコラ!!」
少女に掴みかかろうとしたとたん、左手に痛みが走る。
そして強烈な頭痛が垣根帝督を襲い、意識を奪った。
意識を失う瞬間、この場所を絵本の中の魔法の世界かもしれないと思ったがすぐに否定した。
(そんなメルヘンあっるわけねえか・・・)
この意識を最後に彼は地面に倒れこんだ。
投下終了です。
いろいろと間違ってる文章があったりするかもしれませんが応援してくれると
ありがたい。
クロス元は『とある魔術の禁書目録』より垣根帝督でした
ていとくんか。
応援してます
乙
またチートな御仁が来たな
序盤の小物どもが哀れだ
ていとくんだと……これは意表を突かれた
美琴召喚モノ書こうと思ったけど脱落した俺としてはかなり期待してる
禁書キャラだと削板軍覇あたりがルイズと相性良さそうだけど。
もう喚ばれてる?
>>520 ぐんはくんはまだないと思う
よし、君が投下するんだ!
『逆境ナイン』から不屈闘志を召喚。
デルフ「たとえ負けても…この戦いによって『形の上での勝利』以外に
大きななにかをあとにのこすことができるはずだ。
これからはそれがおめえの使命だぜ、相棒!」
不屈「こんなときにへんな冗談はやめろっ!!
たかが7万人!!形の上でだって勝つ!!」
どうも。
被らないなら投下したいと思います。
禁書からならつっちーだろ
自力でワルキューレくらいなら殴り倒しそうだし
いざと言う時は内蔵破裂させながら『赤ノ式』
熱くね?
「月が二つとは、こりゃマジで異世界ってわけか」
垣根帝督は窓から見える月を眺めていた。
「さっきから何ぶつぶつ言ってんのよ。ところでアンタ、名前は?」
ピンク髪の少女しかめっ面で話しかけてきた。まだいろいろと不安があるようだ。
「垣根帝督。いや、テイトク・カキネって言った方が良いのかね。ところでお嬢さん、アンタの名前はまだ聞いてないな」
「カキネ?変な名前ね。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。ここはトリステイン魔法学校でアンタは私の使い魔として召還されたってわけ。分かった?」
「ふーん、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんね、ところで使い魔って何するわけ?」
「まずは使い魔は主人の目や耳になるわけだけど」
「主人と使い魔は感覚を同調できるってわけか。言葉が通じたのもこのルーンのおかげってわけだな」
「ええ、多分ね。ほかには秘薬の材料集め……は、ちょっと無理ね、アンタに秘薬の材料が分かるとは思えないし」
「まあ魔法なんて初めて見たものだしな。他には?」
「後は護衛と雑用だけど……平民のアンタには護衛なんて期待してないし出来るのは雑用くらいね。ほんと何でこんな使い魔が来ちゃったんだろ」
「ずいぶんと酷い言われようだな。別に俺は戦えないわけじゃないぞ、
まあこの世界の法則(ルール)が通用すればの話だがな」
「またわけの分んないこと言っちゃって。あ、この服片付けといて」
ルイズは気だるそうに服を脱ぎ始めた。
「ってお前なに人様の前で脱いでんだ!!」
支援
「使い魔の前で恥ずかしがる必要なんてないじゃない。明日洗濯しときなさいよ」
だらしない姿で寝ているゴシュジンサマを見て考える。
自分がこの子に連れて来られた事は分かった。
そして、命を救われたことも……
きっと殺される直前にゲートが開き、この世界に呼ばれたのだろう。
どういうわけか引き裂かれた体も元に戻されて。
あのままあの場所に居たら、間違いなく殺されていたはずだ。
仮に生きていたとしても未元物質を吐きだす装置程度の存在されていたはずである。
元の世界に帰ったところで学園都市に居場所はない。
高レベルの能力者にとって学園都市に居場所がないということは地球上のどこにも居場所など存在しないということだ。
「とりあえずルイズの使い魔になるって方向に決めたが、この世界に俺の未元物質(ダークマター)が通用すればいいんだがな」
彼の不安。それはこの世界が如何なる法則に動いているのかが分からないことだった。
物理というものは方言に近い、重力だの引力だのは惑星によって違うように。
ならば魔法が存在する世界の物理法則はどうなっているのか。
下手に能力を使えば自滅する可能性もあるのだ。
「ちょっと飛んでみるか」
彼の背中から巨大な白い翼が出現した。
その羽を羽ばたくと同時に体が浮上する。
垣根帝督は体を森の方角に向け羽を動かす、すると彼の体は一瞬で消え
森の上空に彼が現れた。
「速さはまずまずってとこか。どうやらちゃんとこの世界でも俺の翼は機能するらしいし、どうやら問題も杞憂そうだ。せっかくだし空中散歩と洒落こんでみるか」
魔法の世界を天使の姿で空を飛ぶなんてどんなメルヘン野郎だよ、と自嘲しながら
垣根帝督は夜の空を楽しんだ。
すがすがしい程の朝。
既に他の生徒達も起き始めているであろう時間にも関わらず、
ルイズは未だ絶賛熟睡中らしい。
「おい、起きなくていいのか。御主人様よお。」
ほっぺをピチピチと叩いてみる。
「な、なによ。っていうかアンタ誰!!」
「なに寝ぼけてんだコラ。俺は垣根帝督、アンタが呼んだんじゃなかったのか?」
「ああ、そうだったわね。昨日召還したんだったわ」
うつらうつらと起き上がったルイズは垣根帝督に命令する。
「服」
「ほらよ」
その声に従いクローゼットから適当な服を渡す。
「着せて」
「自分で着れるだろ」
「平民のアンタは知らないだろうけど、貴族は下僕がいる時は自分で服なんて着ないのよ」
「ふーん、アンタ朝ごはんヌキでいいんだ」
使い魔って言葉がメルヘンチックなだけで只のパシリじゃねえか、と思いながらもルイズのボタンをはめていく垣根であった。
部屋を出ると赤髪の女性が話しかけて来た。
「おはようルイズ」
「おはようキュルケ」
「あなたの使い魔って本当に人間なのね!こんなの前代未聞じゃない」
「うるさいわね!この馬鹿キュルケ」
「あなた、お名前は」
「テイトク・カキネ、カキネでいいぜ」
垣根の全体を舐め回すように見つめるキュルケ。
「あら、よく見たらかなりのイケメンじゃない!ま、使い魔としたら断然フレイムの方がいいけどね」
キュルケのかたわらにいる珍妙な生物に目が行った。
「そのトカゲは何だ?」
「知らないの? サラマンダーよ」
キュルケは散々サラマンダーの自慢をして、ルイズを悔しがらせていた。
「なんなのあの女! 自分がサラマンダーを召喚したからって!」
「落ちつけよ。だいたいどう考えてもあんなトカゲより俺の方がいいだろうが」
「アンタなんかよりサラマンダーの方がよっぽど良いわよ!」
「ところであいつ、ゼロのルイズとか言ってたけど、『ゼロ』ってなんだ?」
「アンタが知らなくていいの!」
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
ま、あっちの世界でも『ゼロ』って言葉にやたらコンプレックス持ってる人間もいるしな。
そんなことを思いながらアルヴィーズの食堂へと向かって歩いた。
以上です。
帝督は好きなキャラだけど登場が一巻ぽっきりなんで
いろいろとオリキャラっぽくなるかもしれません
続きはそのうち書きたいと思ってます。
┌――――――――─┐
l l
| 帝凍庫クン |
|_________________|
./|==========iト、
../ | -―- 、__, .|| .\
/ l '叨¨ヽ `ー-、 .|ト、 \
r、 / .!〕 ` ー /叨¨) || \ \ ,、
) `ー''"´ ̄ ̄ / | ヽ, || \  ̄` ー‐'´ (_
とニ二ゝソ____/ | `ヽ.___´, || \____(、,二つ
| `ニ´ ||
|_____________j|
|´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄`i|
| ||
|〕 常識は通用しねぇ ||
/| ||
|___________j|
マキシマの方、乙です。
化学兵器の化身の様な彼にデルフはどう対応するんだろうかw
見た目だけでまずひよっこ扱いはないはずだけどね。
>>530 禁書スレ在中だがこのAAはいつ見てもふくw
顔がGUN道の武蔵なのは何故なんだw
けどていとくんって、能力は常識通用しないけど人格はレベル5のなかでは常識人だよな
投稿の間隔が1レスごとに5,6分もあいてるのは何故なんだぜ?
どうもです。
2時からMaximusな使い魔を
投下しようと思います
ルイズは、嬉しかった。
自分の召喚した平民が、今まで自分を馬鹿にしていたクラスメートの前に
立つ。
たったそれだけの事だった。
ルイズの目から涙が零れた。
それを他のクラスメートたちに見られなかったのも、平民の彼が私に背を向けて、
その大きな体で隠してくれたおかげだ。
それがルイズにはたまらなく嬉しかった。
この学院に、彼女の味方はいなかった。
入学当初は彼女にも友達と呼べる仲間がいた。
最初の頃は魔法を失敗しても
「大丈夫だよ」「次は成功するわ」「諦めないでがんばって」
等、優しい言葉をくれたクラスメートたち。
しかし時を重ねるにつれて、励ましの言葉も「ハァ…」というため息に変わり
彼女の周りにいた人たちも次第に離れていってしまった。
今では、「またかよ…」「いい加減にしてくれ」「成功率ゼロだな」
という失望と呆れの声に変わってしまった。
「成功率ゼロ」「才能ゼロ」「友達ゼロ」
と言われ、「ゼロ」というとても不名誉な二つ名をつけられてしまった。
だけど彼女は諦めなかった。
基本的な知識だけでも他人よりもずっと多く取り込んだ。
単純なコモンマジックを一回でも成功させようと、徹夜で唱え続けたりもした。
図書室にこもり、一日中魔法の使い方に関する本を読み続けたなんてのは
毎日のようなことだった。
しかし、彼女は一度も報われなかった。
そんな彼女の前に、とても大きな背中がある。
まるで自分を守ってくれるように。
その背中を見ていると……不思議と安心できた。
――――――――――――――――――
「…坊やだって…?おい平民、誰に向って口をきいているのか分かっているのか!?」
小太りな少年は、頬の肉をプルプルと震わせながら怒りを露にしている。
しかし少年は、彼の大きい体に威圧されているのか、若干後ずさる。
二メートル以上もある長身で、かなりガタイのいいマキシマの目の前で
威圧されないものなど、KOFの参加者くらいではあるが。
「おいおい。初対面なのに誰に向って……ていうのはないだろう?それとも
自分が有名人だとでも思っているのか?」
マキシマが肩をすくめる。
「僕の格好をみて分からないのか?とんだ田舎者だな!…まぁいい。無知な平民にも教えてやる。」
少年は偉そうに腰に手を当て、エッヘン!とふんぞり返る。
腹の肉を上下に揺らしながら、少年は続ける。
「僕の名はマリコルヌ。風上のマリコルヌだ!平民!!貴族に名乗らせたんだぞ!
頭を下げろ!!」
「いや。別に自己紹介をしろ。なんて言ってないんだがなぁ…」
マキシマがポリポリと後頭部をかく。
この少年、マリコルヌは、自分を貴族だといった。つまり、どこかの金持ちの坊ちゃん
なのだろうか。
辺りを見回してみる。
同じ格好をした子供たちが、こちらを見下すような目で見ている。
どうやらここにいる全員が「貴族」で、こちらは「平民」という解釈なのだろう。
そうすると、俺はこの小僧に「下」に見られている訳だ。
あまり気分のいいものじゃないな。
「貴族ってのはもっと紳士的なやつのことだと思うんだがな。少なくとも女の子一人に対して
罵声を浴びせるやつのことじゃないだろう」
彼が言う言葉を、ルイズは黙って聞いていた。
「平民風情が言ってくれるじゃないか…。どうなるか分かっているのか?」
マリコルヌが、懐から杖を取り出し、マキシマにビシッと突きつける。
マキシマが「なんだそりゃ?」と杖を見ていると、
「いいぞマリコルヌ!」「生意気な平民に罰を与えろ!」
等、他の子供が騒ぎ立てる。
…平民に守られてちゃダメ。
貴族は平民を守るのよ!
彼女は決心する。
マキシマの手をクイクイっとルイズが引いた。
「どうした?嬢ちゃん」
「…もういいわ。もう大丈夫…ありがと」
「そうか」とマキシマが微笑みながらルイズの肩をポンッと叩く。
もうルイズの目には、涙は無かった。
ルイズは、マリコルヌの前に堂々と仁王立ちをする。
「なんだゼロのルイズ。姿が見えないからもう実家に帰っちゃったのかと思ったよ」
「お生憎様。風邪っぴきに何を言われようと、出て行かないわよ。
あなたこそ、家に帰って休んでいたら?早く風邪が治るように」
負けじとルイズも言い返す。
いつもの調子に戻ったルイズを見て、赤髪の少女はホッと胸をなでおろす。
「僕は風邪っぴきじゃない!風上だ!」
「あら?声が枯れてきてるじゃない。大丈夫?早く家に帰らないとぶっ倒れるわよ?」
「地声だ!!」
ギャーギャーと騒ぐ生徒たちにハゲ頭、コルベール教員が気付いたのはそれから
十分後であった。
――――――――――――――――――
「オッホン!さて…。ではコントラクト・サーヴァントを行ってください。ミス・ヴァリエール」
その言葉にルイズは「え?」と、間抜た声で返事をした。
「お言葉ですがミスタ・コルベール。彼は人間の平民にしか見えないのですが…?」
「そのようですな」
こともなげにコルベールは答える。
「いいですか?ミス・ヴァリエール。この使い魔召喚の儀式『サモン・サーヴァント』は
とても神聖な儀式なのです。『コントラクト・サーヴァント』は、最初に呼び出した生き物と
行わなければなりません。例えそれが人間の平民であろうと貴族であろうと。この儀式に反するという事
は、始祖ブリミルに反するということですよ」
ルイズはうめき声をもらした。
「でもでも!人間の使い魔なんて前例がありません!」
なおもルイズは反論する。
「なぁに。何事にも初めてというのは存在するのですよ」
「じゃあ!使い魔召喚をやり直「それとこれとは話が別です」…」
途端に元気が無くなったルイズ。
「この平民にも色々事情があるだろうし…」
と、最後の反対をするが、黙って首を横に振られてしまう。
ルイズは「ハァ…」と肩を落とした。
その様子を、他人事のように観察していたマキシマに、ルイズが近づく。
「なんだ?」
「ねぇ。届かないからしゃがみなさい」
「?」
なんのことだ?と言いつつ、少女に言われたとおりにする。
するといきなり少女にキスをされた。
「!!おいおい、俺がいい男だってのは分かるがイキナ…!?」
541 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/08(火) 02:04:53.78 ID:39dATET0
まず、何が起きたのか分析する。
左手の甲に正体不明の熱が襲う。
視界に謎の文字列が流れ、最後に見たことも無い文字が左上に小さく残る。
自分の目で確認するため、着けていたグローブを外す。
そこには、視界の隅に残された謎の文字と同じものがあった。
熱が引くと、今度は手の甲の文字が輝きだす。
「なんなんだ!こいつは!」
「落ち着きなさい。使い魔のルーンが刻まれているだけよ」
ルイズは涼しい顔で答える。
そこでマキシマは、妙な感覚にとらわれた。
(なんだ?妙に体が軽いぞ?それに……分析能力や思考・判断能力が飛躍的に上昇している)
これは一体…。
(この文字のせいか?どうやらこの効果を一時的に消すことも出来るらしいな。)
視界端の文字の情報にファイアウォールのような制限を掛ける。
すると左手のルーンが輝きを失う。
(この文字は後で分析するか…)
そう考えていると、例のバイクオタクのハゲ(マキシマはそう思っている)が
近づいてきた。
「見たことの無いルーンですね…。少し写させてもらってもよろしいですか?」
かまわない というと、せっせと紙に書き写していった。
「それでは!今日のところは自分の部屋に戻って自分の使い魔と交流を深めてください!」
コルベールがそう生徒たちに言うと、子供たちは塔に向って進んでいった。
空を飛んで…。
「まさか本当にファンタジーの世界に来ちまった訳じゃないだろうな…?」
マキシマが目頭に指を当てて呟く。
正確には彼の周りにも空を飛べる人は数人いるのだが。
例えば彼の相棒は空中で「シャラー」と言いながら飛べる。
「ルイズー!お前は歩いて帰れよ!」
「お前は『フライ』はどころか『レビテーション』も使えないからなぁ!」
馬鹿にしながら飛んでいくクラスメートに
ルイズが冷めた目で杖を向けると、慌てて逃げていった。
今この場に残っているのはルイズとマキシマ、ついでにコルベールの
三人だけだった。
「気を落とさないでください。ミス・ヴァリエール。貴女はサモン・サーヴァントを成功させたのですよ」
「えぇ。大丈夫ですよ。それに、いつか必ず見返してやりますから!」
コルベールはルイズの言葉に、深くうなずいた。
「それじゃあこの辺で」
と、マキシマがバイクに乗ると、ルイズとコルベールは顔を見合わせた。
「何言ってるの?あなたも来るのよ」
ルイズの言葉に、マキシマは耳を疑う。
「何をいってるんだ?俺はこれから帰らなきゃならないんだが…」
その言葉に、コルベールは「アチャー…」っという顔をする。
「その…言いにくいんですが…」
コルベールが申し訳なさそうに話出す。
「帰れないわよ?」
「「!?」」
ルイズがお構いなしに続ける。
「今…なんて言った…?」
「だから、帰れないわよ?」
コルベールが、言いにくかった事をサラっと言ってしまったルイズに
(空気読んでください!)と、念を送ってみるが、無駄だった。
「帰れないなんて事はないだろう。所でここは何処なんだ?」
「聞いたことくらいあるでしょ?ここがかの有名なトリステイン魔法学院よ」
「知らん」
即答する。
「相当な田舎者ね。ハルケギニア中探してもこの学院を知らないひとなんていないわよ?」
「なんだその古代生物みたいな国は。聞いたことがない」
ルイズが「ハイ?」と聞き返す。
「違うわ。ここはトリステイン王国よ。ハルケギニアは国じゃなくて大陸の名前。
ドンだけ田舎者なのよ…」
今度はマキシマが「ハイ?」と聞き返した。
「まてまて。誰も知らないような、地図にも書かれないような小さな国があるっていうんなら分かるが…
そんな大陸は聞いたことが無い……!?」
もしやと思い。
「カナダって国は知ってるか?俺の生まれた国なんだが…アメリカは?」
「聞いたことないわ」
マキシマは深いため息を吐いた。
やはりここは別の世界らしい。
「さあ。積もる話はあるでしょうが、それは部屋に戻ってからにしてください」
コルベールはそう言うと。帰るための準備を始める。
しょうがない。帰る方法が見つかるまで、しばらくやっかいになるか。
そうマキシマが考え、バイクのエンジンをつける。
「なんなのその椅子。うるさいわね!」
「何?こっちにはバイクもないのか」
そういうとマキシマは体を少し前へずらす。
「後ろに乗りな。嬢ちゃん」
ルイズは頭に「?」を浮かべつつ、マキシマの後ろに乗り込む。そして
「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。嬢ちゃんじゃないわ」
「そうかい。しっかり?まってな」
マキシマは答えると、一度エンジンを吹かしてから、すぐに進みだす。
「ちょっと!私が名乗ったんだから!?いやぁぁぁぁああーーーーーーーー!?」
グンッと加速すると、ルイズの悲鳴を残してすぐに見えなくなってしまった。
「おお!!あの椅子はマジックアイテムの一つなのか!?しかしディテクトマジックにはまったく反応がなかった…!
もしや!人為的に作られたものなのか!?う〜む…今すぐに聞きに行きたいが…明日にしておこう」
彼はまだ知らない。あの乗り物どころか、あの使い魔自身の体が、人為的に作られた「ネスツ」の科学の結晶という事を。
!?
すみません
途中でageてしまったようです。
お詫びします。
今日はここまでです。
こういうのはどうだ
AVGNを召喚するんだ
ハルケギニアのクソな点について突っ込みまくる小ネタだ
FUCK YOU
乙です。
マキシマの人乙!
KOFには他にも飛ぶ人はいるじゃないか、キム先生とか某アイドルサイコソルジャーとか
つかマキシマもバンカーバスターで飛べるじゃねーかw
>>548 いやぁ。バンカーバスターは地面にベイパーキャノンを撃った
反動で飛び上がるだけだから空を飛ぶのとは違うかとw
でも先生の空中鳳凰脚を初めて見たときはリアルで「!?」てなった
マキシマ乙です、シャラーワロタw
>>550 原爆の炸裂で宇宙に行くSFだってあるんだからそのへんはいいだろう
えーっとなんだっけ、降伏の儀式だったっけかな
>>552 多分それ。象型異星人が攻めてきて、アメリカが開発した
核ロケット推進の宇宙戦艦が立ち向かうって話なら。
>>553 ありがと思い出した。
しばらく読んでないし本棚あさってみるかな。
マキシマ
じゃーーーーー!!!
古代生物ワラタ
どうも。
前回からの投下速度が早いかもしれないんだが
よろしいかな?
大丈夫なようでしたら、30分頃に
投下しようと思います。
どうぞどうぞ
期待
「つまり…俺はその使い魔ってやつになっちまった訳か」
マキシマはクーラーボックスからアイスを一つ取り出し、シャリシャリと食べな
がら、ベッドの上でグッタリとしているルイズに問いかける。
「えぇ…残念ながら拒否権なんてないわよ?第一、帰る方法なんてないもの」
マキシマは固まってしまう。
首だけをルイズに向け、さらに問いかける。
「まってくれ。こっちにこれたってことは、あっちに帰る方法だってあるんだろう?」
「そんな方法ないわよ。そんな話聞いたことがないし」
なおも諦められないマキシマは、質問を止めない。
「嬢ちゃんが知らないだけで、送り返す方法があるかもしれないだろ?」
「だから無いんだって」
またもや即答されてしまう。
どうやら「帰る方法が見つかるまで」というのは、だいぶ先になってしまいそうだ。
「そんな方法を私は知らないし、先生達だって知らないと思う。まぁ、探すくらいなら手伝ってあげてもいいけど」
『使い魔が勝手に帰ってしまった』ということなら、サモン・サーヴァントの
やり直しの許可がもらえるかもしれないと思ったルイズは、マキシマが元の居場所に帰る
方法を探すことを、快く引き受けてくれた。
「でも、それまでの衣食住は誰が面倒を見ると思っているのかしら?」
その気になれば、彼ならこの世界でも余裕で暮らせるはずだが、彼自身も帰る方法を探すのに
専念したいし、学院ともなれば、情報の量も他とは比べるまでも無いだろうと考える。
「アンタの面倒を見るのは私なのよ?まさか平民が無償で貴族を働かせるつもり?」
その言葉に、マキシマはガックリとうな垂れる。
「ハァ…。それで、その使い魔ってのは何をやればいいんだ?」
その言葉に、ルイズは待ってましたと言わんばかりにふんぞり返る。
「まず一つ!使い魔は主人の目となり耳となる!」
ルイズがマキシマに向けてビシッと人差し指を立てる。
「そいつはつまり。俺が見たものや聞いたものを嬢ちゃんに伝えりゃあ
いいのか?」
「いいえ?ことば通りの意味よ。使い魔の見たものは主人である私にも見えるし
使い魔が聞いたものも聞こえる」
その言葉に、マキシマは眉をひそめる。
「つまり…なんだ。俺にはプライベートは無いと?」
「…安心しなさい。試してみたけど、なんにも見えないし、聞こえなかった」
そう言うルイズの声は、若干落ち込んだものだった。
「何でかしら?やっぱり魔力の無い平民じゃだめなのかなぁ…」
ルイズは首をブンブンと振って、今度は人差し指と中指突き立ててくる。
「二つ!使い魔は主人の望むものを見つけてくる!」
マキシマが 例えば何だ? と当然の疑問を投げかける。
「秘薬の材料になる物よ。例えば、硫黄やコケ、それから宝石とかね…でもアンタ、そんな物持ってこられないわよね。
この国の地理にも疎いみたいだし…」
「そうだな」
彼なら、データや地図があれば何とかなるだろうが、生憎ルイズは彼を「ちょっと体格のいい平民」くらいに
しか思ってないので諦める。
さらにルイズは落ち込む。
「それで一番重要なのが…」
ルイズはもう、マキシマに指を突きつける元気も無いようだ。
感情の起伏がずいぶんと激しい主人らしい。
「おい。一番重要なのは、何なんだ?」
枕に顔をぼふっと埋めながら
「主人を敵から守ること…でもアンタ、平民だし……無理でしょうね…」
ルイズは不貞腐れたように続けた。
『平民は貴族に勝つことは出来ない』と子供のときからずっとそう思っていた彼女にとっても、平民と
貴族の間を隔てる壁はとても高く、崩すことの出来ないものだと思っていた。
だから、彼の言った言葉が、すぐには理解出来なかった。
「なんだ。一番重要なんていうから、なんだと思ってみれば。そんな簡単なことでいいのか?」
「は?」
このモミアゲは一体何を言っているんだ? と言う目で彼を見ていると
「ようするに、嬢ちゃんが敵に襲われたりしたら、俺が相手をしてやればいいってことだろう?」
そんなこと。あの二人の世話をすることにに比べれば、なんてことは無い。
と、そんな事を思ってるマキシマに対し
「…ああ。アンタのいた所って、メイジがいないんだっけ」
そう呆れるルイズ。
魔法がどんなものなのかを知らない彼が、自信過剰になっているものだと思い込んだ。
「いい?平民じゃ、メイジには絶対に勝てないの。魔法が使えるって事は、それだけ差があるって事なのよ?」
「俺がいた所にも、魔法みたいな力を持った奴等が腐るほどいたんだがな」
その言葉に、ルイズはキョトンっとした顔をした。
「そういえば、アンタって何処から来たのよ。トリステインを知らないなんて、冗談なんでしょ?」
ルイズが頭に浮かんだ疑問を率直に投げかける。
使い魔のことに関して、何も聞いていなかったから当然と言えば当然だ。
「あー…。そのことなんだがな。」
「何よ」
言いよどむ彼に、ルイズは眉をひそめる。
「どうやら、俺は別の世界から呼び出されたらしい」
「…そう」
「あぁ。どうもそうらしい」
ルイズがベッドから降り、引出しの方に歩いていき、何かを取り出す。
辺りに、何かよくない空気が広がっていく。
「アンタ…。私のことを馬鹿にしているのね?」
そう言うルイズの手にあるのは、どうやら乗馬用の鞭だった。
「おいおい…。別に馬鹿になんかしてないぜ?本当のことだ」
「そんな馬鹿げた話に騙されると思ったの!!?このアホゴリラ!!」
ルイズの振るった鞭を右手で掴んで、マキシマは彼女をなだめる。
「落ち着きなって。あとゴリラは無いだろう!?」
――――――――――――――――――――――――
ルイズが落ち着きを取り戻した頃、ようやく話が前進した。
「ふ〜ん…。で?何か証拠になるような物は無いの?」
まだ半信半疑なルイズが、証拠の提示を要求してくる。
マキシマは「そうだな…」と、少し考える。
何が一番信用に値する物か…。
「さっき乗ってきたバイクなんてどうだ?こっちには無いものなんだろう?」
その問いにルイズはう〜ん…。と考え込む。
何せルイズにはディテクトマジックが使えない。
何かしらのマジックアイテムなのでは無いのか?という
ルイズの反応は必然であった。
「ガソリンを燃料に動いてるんだが…。そういやぁこっちにはガソリンはあるのか?」
「がそりん?何?それ」
このルイズの反応に、マキシマはため息を吐く。
どうやらこちらでの燃料の補給は期待できそうに無い。
なるべくバイクは使わないようにしなければ…。
バイクでこの反応となると、他の物もあまり証拠になりそうにない。
どうしたものか…。と考えつつ、クーラーボックスのアイスに手を伸ばす。
「ねぇ。さっきから何を食べてるのよアンタ」
なんということだ…。こっちにはアイスも無いらしい。
「なんてこった…。この世界は地獄か…?」
甘党の彼には、それは大げさなことではなかった。
いや。他人から見たら大げさなのだろうが…。
この世界には、他にも甘いものがあるだろうが、それとこれとは話が別だ。
少し。いや、かなり落ち込んだ彼の目に、瞳をキラキラと輝かせるルイズの顔が映る。
「ねぇ…。それ、一個ちょーだい?」
ルイズが、小さい子供のように、クーラーボックスを指差す。
(まるでうちのお姫様みたいだな)
そう思いつつ、アイスキャンディーを一つルイズに差し出す。
ルイズが包装のビニールに手間取っているのを微笑みながら見ている。
はたから見たら、まるで親子のようだっただろう。
やっとのおもいでビニールを剥がし、シャリッと一口かじる。
ひんやりとしたアイスの冷たさと甘さが、ルイズの口の中に広がる。
「何これ!!凄くおいしいじゃない!!」
どうやら気に入ったようだ。
クーラーボックスを閉めて。部屋の端に置く。
大量にドライアイスが入っているので、明日まではもつだろう。
「これも俺がいたところの菓子だ」
「う〜ん。こんなお菓子聞いたことも食べたこともないわ…でも、う〜ん…」
なおも納得がいかないらしいルイズだが、少しずつ信じてきてはいるらしい。
「信じてくれるなら、もう一本譲ってもいいんだが…」
「信じる!」
つくづくうちのお姫様みたいだ。
そういえばあいつらは大丈夫だろうか…。
クーラにはダイアナたちがいるから、まぁ平気かもしれんが…。
問題は相棒である。
金は地下金庫にあるとはいえ、心配である。
主に生活面で。
実に信用の無い元主人公であった。
そんな彼らの母のような事を考えていると、アイスを食べ終わったルイズがベッドに戻る。
「今日はもう疲れたから寝るわ…」
そう言って服を脱ぎだす。
どうやらマキシマは男と思われていないようだ。
その事にマキシマは今日何度目になるか分からないため息を吐く。
そしてあることに気が付いた。
「おい、俺は何処で寝ればいいんだ?」
ルイズがマキシマの足元を指差す。
その先にあるのは当然床だ。
「冗談だろ?」
「あら?気に入らなかったかしら、廊下でもいいわよ?」
マキシマが「やれやれ…」と丸太のような首を振り
せめて毛布くらいよこしてくれ、というと
当然と言えば当然だが、マキシマの体には不釣合いな毛布と、おまけで
下着が投げ渡される。
「明日洗濯しといて。それと朝になったら起こしなさい」
そういうと布団をかぶってしまった。
しかたがないので、壁に背を預け、膝の上に毛布を掛けて目を閉じる。
「ねぇ。そういえばあんたの名前を聞いてなかったわね」
「………マキシマだ」
「………変な名前…」
「ほっとけ」
ルイズは、今日あった事を思い出していた。
「ねぇ。マキシマ」
「何だ?」
「アンタの考える貴族って何?」
「…………納豆を食わないやつのことだな…」
「ナットウって何?」
「腐った豆だ」
そう答えた途端、枕が飛んできた。
「そんなもの平民だって食べないわよ!馬鹿ゴリラ!」
そういって、ルイズはぷいっと背中を向けてしまった。
「…………その枕、使っていいわよ。…感謝しなさい……」
「…そいつはどうも」
枕を背中の後ろにいれ、クッションにする。
案外やさしい子なのかもしれないな。
そう思いながら、窓からのぞく二つの月を眺めた。
しかし、その元相棒が召喚されてたらどうなってただろ?
ある意味では庵以上の危険人物だがw
本日の投下は以上です。
この時期は暇で暇で仕方が無いので、明日か
明後日ぐらいにまた投下すると思います。
アイスで釣られるルイズがカワイイw
>566
マルコンヌの丸焼きが出来てたと思うよ?
>>568 確かに、アイスを気に入ったルイズかわいいw
ゴーカイジャーの面々をゴーカイガレオンごと召喚したら・・・。
高々全長40メイルほどの小船だと思って舐めてかかったらゴーカイガレオンの
圧倒的性能差で一方的にボコられるアルビオン艦隊、まで想像した。
実際ゴーカイガレオンの外見だけなら小型帆船そのものだからな。
まあどう考えても使い魔になるのなんざ了承しそうにないけどな。
なんかまとめWIKIが重い。
竜王とジェイソンとゴリラを追加しようと思ったのに・・・
>>566 庵はあれで暴力と弱い者イジメ嫌いだし、案外いい相棒になるかもよ?
K'はツンツン過ぎてまず無理だろうけどw
>>571 ゴーカイジャーねえ。
あれってステカセキングが5人いるだけだろ。
>>573 確かに庵は京が絡まなきゃ、まだ話が分かりそうなイメージあるな
……というかSNKの格ゲーに出てくるキャラって
カプコンのキャラと比べると悪い意味で癖があるキャラが多いイメージがあるw
趣味は自爆(キリッなオッサンとかキャームカイサーンとかの事かぁーッ!
>574
ステカセキングさんをバカにするなッ!
キングさんは柳田理科雄も認めた超人プロレス界の実力者なんだぞッ!!
戦隊ものだとギーシュやワルド戦はしたっぱ戦闘員戦、フーケやヨルムンは巨大ロボ戦になるか
ステカセキング召喚されても地獄のシンフォニー使えないけどな
つ超人大全集 悪魔将軍
これ一本で事足りるな。
Maximusな使い魔をまとめWIKIに追加しようと思うんですけど、
「ザ・キングオブファイターズ」でサ行に追加すべきか・・・
「KOF」でカ行に追加すべきか・・・・
わかりやすいのはどっちだと思います、皆さん?
カ
何ィ、「ザッキン」じゃないのか…!?
外人はTHEを無視してリスト化するねみんなそうなのかは知らんが
音楽ファイルとかだとアーティストがT行に集中するからかな
これに習うならキングオブ〜だからカ行だな
>>582 正式名称が
『ザ・キング・オブ・ファイターズ』(THE KING OF FIGHTERS)だから「サ」行。
KOFと呼ぶから「カ」行ってのは五十音順索引としておかしいだろう。
どうしてもKOF略称という略称にこだわるなら「カ」行に
KOF>『ザ・キング・オブ・ファイターズ』(THE KING OF FIGHTERS)
みたいに「サ」行のリンクを貼るとか避難所にでも提案してくれば?
個人的にはいらんと思うがな。
ところで流れをぶった切るんだが
小ネタ投下準備ヨロシだ 投下してもいいかい?
588 :
ハヤめにネ!:2011/03/09(水) 03:13:05.18 ID:I9FZMCKg
「……はぁ……」
ぽつりと、悲しげなため息が聞こえた。
そのため息の主、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、肩を落とし、眉根を下げ、とぼとぼと広大な草
原を歩いていた。
「……これから、どうしよう……」
ルイズは途方に暮れていた。
先ほど行われていた、春の使い魔召喚の儀式に失敗し、何の成果もなく一人学園に向かって歩いていたからだ。
級友達はみな各々使い魔召喚に成功して、飛べないルイズを置いて帰ってしまっていた。
「……わたし、どうなっちゃうんだろう……」
さすがに落ち込んでしまう。置いていかれたりするのは、魔法が使えない自分にはそう珍しい事でもない。それより、使い魔すら喚
びだせなかったことに暗澹とした気分になる。
「……なんだか、もういやだわ……。……ちい姉さまの声、聞きたいな……」
ふと、ルイズに望郷の念が沸いてきた。
この一年、ルイズは必死に頑張った。必死に一年、砂を噛むような思いで学んだ。幼い頃からダメだった自分に決別するために、あ
らゆる努力をした。
劣っていた自分。両親を、厳しい姉を、使用人たちを見返して、優しかった次女の姉を、みんなを喜ばせたかった。それが自分なり
の恩返しだった。
認められたかった。ほめてもらいたかった。よくやった、頑張った。お前は頑張れば出来る子だ。そういって頭をなでて欲しかった。
それ以外何もいらなかった。
でも、全ては徒労だった。夜中まで教科書と格闘したり、原っぱで爆発に転がされて泥まみれになったり、周囲の侮蔑に必死に虚勢
を張ったのも無意味だった。
魔法使いたる貴族の基本とも言える、使い魔召喚すらできなかったのだ。いくらルイズが強い信念の持ち主であっても、心が折れて
しまった。
「……帰りたい……ぐすっ……」
故郷を思い出すと、自然とルイズの目に涙が溢れてきた。今まで我慢してきた感情が、急激に膨れ上がってくる。
「……ぐすっ……ひっく……もう、やだ……やだぁ……」
悲しくなって、その場に立ち尽くしてしまった。
もう、我慢ができなかった。ずっとずっと、耐えてきたのだ。いつか、きっと努力は報われると信じて。
それでも、現実は残酷にルイズの敗北を突きつけた。どうしようもないほどに、明確に魔法は使えないという事実を。もはや、覆し
がたいほどに。
ルイズとて、女の子である。とうとう、膝が折れ、腰が砕けるように座り込んで、ぼろぼろと泣き出してしまった。
「う……うう……う……」
つらい、悲しい。苦しい、耐えられない。
がんばったのに、努力したのに、してきたのに、どうして。わたし、どうしてこうなるの。どうして。
もうだめ。もう苦しい。もう耐えられない。もう、もう……前が、見えない。
誰も見ていない草原の真ん中で、ついにルイズは、恥も外聞も忘れて、大声で泣き出してしまおうとして―――
「っはくちゅっ!」
そのために息を吸い込んだところで、可愛らしいくしゃみをした。
……。
「……あれ? は、はくちゅ! くちゅん! くちゅん!」
立て続けにくしゃみが出る。
「え、あ……? ずず、うう……な、なに?」
鼻をすすって、不思議そうな顔をした。
急に鼻水が溢れてきている。ルイズには、何事かわからない。
「あ、は、は、くちゅん! くちゅん! はくちゅん!」
世の中、悪いことは重なる物と言われている。
ルイズも、まさにそれであった。
589 :
ハヤめにネ!:2011/03/09(水) 03:14:05.22 ID:I9FZMCKg
新たな悲劇はルイズの小さく可愛らしい形のいい鼻、その鼻腔の中で、決して人目には触れず、だが確実に―――進行していた。
『彼ら』が動いていた。
長年、このルイズという少女は、『彼ら』にとって攻略すべき目標だった。
見えないことをいいことに、季節が来るたびに波状攻撃を仕掛け、ゆっくりと、しかし確実に『彼ら』は彼女の体を蝕んでいた。
そして、ついに、ついに―――積年の努力が身を結んでしまったのである。
『彼ら』、そう、『彼ら』とは。
「―――ぼくったちっ花粉っくん今年もがんばるぞー♪」
花粉である。
季節は春、彼らの季節である。
これより、ルイズの体内に侵入した精強なる『花粉くん一個小隊』はその猛威を振るおうとしていた。
もはや防衛能力を完全に喪失したルイズの免疫機構は、彼らに対する対抗手段をまったく持たず、哀れルイズの鼻腔は荒らし回られ
ようとしていた。
つまりルイズは今年から、花粉症になってしまうのであった。
だが。
『彼』がいた。
異世界より召喚され、強大な力を持つ救世主が。
立派な髭を生やした、初老に差し掛かろうとしている中年男性だった。ピシッと糊の聞いた品のいい上等なスーツを着て、赤と黒の
横縞のネクタイをしていた。
銀で作られた印が前につけられたつば付きの帽子を被り、さらにその上に象徴たる不思議なモニュメントが載せられていた。
そして、『彼』は油断しきっていた花粉たちの前に、颯爽とその姿を現した。獰猛なる二匹のドーベルマンを従えて。
【スカイナーさん】
花粉は―――花粉は、恐れた。驚愕し、目を見開き、思わず悲鳴染みたうめき声を上げ、彼を仰ぎ見るしかなかった。
『―――コラーッ』
スカイナーさんの少しかすれた怒声が響き渡った。
さらにすかさず、スカイナーさん得意の堅固なる防御がルイズの鼻腔を覆い尽くす。
―――【出始めガード】―――
それだけで、花粉は戦う意欲を完全に失った。肩を落とし、降参した。
「アイム、ソーリーーーーっ!!!」
ルイズの鼻腔は、守られた。
「くちゅん! くちゅ……。……。……あ、あれ? 止まった……」
いきなり出てきたくしゃみが、今度は急に止まったルイズは不思議そうに首をひねった。
ルイズは気づいていなかった。
圧倒的な力を持ち、主をあらゆる敵から守りきる偉大なる無敵の盾―――ガンダールヴを自分の鼻腔の中に召喚していたことに。
ヒューマンヘルスケア エーザイ『スカイナーAL錠』のCMより スカイナーさんを召喚
くやしいっ、こんなので笑っちゃうなんてっ……!
個人的には「二度ト、来ナイデ!」の方も好きなんだけどなw
まどかまぎかの小ネタさせて貰っても宜しいでしょうか?
592 :
“魔法少女”:2011/03/09(水) 11:39:11.35 ID:cgVY5pzM
投下させて頂きます
そういうと、彼は離れていった。
ここに居る全ての人間は、誰もが私は使い魔なんて召喚できないと思っているに違いない
そんな事はない、自分にだってできるんだ。見せ付けたかった。私だって「メイジ」だって事を
「・・・」
思わず、嘆息が漏れてしまった。
今まで、一度たりとも「魔法」が使えた事はなかった。簡単なコモンマジックさえ、唱えると爆発してしまった
でも、何故か「召喚」なら出来るのだと、心のどこかで思っていた。それは、ただの逃避に過ぎなかったのだろうか
自分だけは、魔法が使えると信じていようと思っていた
でも、もうそれは信じられなかった
「ミス・ヴァリエール」
儀式を促すように彼から呼びかけられた。
わかっています。
心のなかでそう答えて意識を集中させようとする。もやもやとしたものが浮かんでくるが、もう時間も無い
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
とにかく唱えた
「五つの力を司るペンタゴン!」
心のなかにある思いは、あるいは願いと呼べるもの
「我の運命に従いし」
魔法が使いたい。魔法を使わせて欲しい
「使い魔を召喚せよ!」
そして・・・
1週間後、私はまだこの学院に居る。
それというのも
「ルイズ、調子はどうだい?」
彼、キュウべぇがいるからだ
「えぇ、最高よ。あなたのお陰で魔法使いに・・・いえ、魔法少女になれたわ」
胸には光り輝くソウルジェムがあった
あの後、あの召喚によって彼は現れた
そしてこういったのだ
「僕と契約して魔法少女になってよ!」
593 :
“魔法少女”:2011/03/09(水) 11:40:34.57 ID:cgVY5pzM
ごめんなさい間違えて途中から投下しちゃいました
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
何度この呪文を繰り返しただろうか
「五つの力を司るペンタゴン!」
時間の経過とともに大きくなっていく嘲笑も、すでに聞こえなくなっていた
「我の運命に従いし」
あるのは、早く終われといわんばかりの眠たげな表情
太陽が昇りきる前に始めた儀式であったが、既に日は傾きかけていた
「使い魔を召喚せよ!」
・・・また、何もおきない
「ミス・ヴァリエール」
教官のコルベールから声がかけられた。
諦めろ、という事だろう。
でも諦められない。
諦めきれない。
諦めてしまったら、もうこの学院にはいられない。
「もう一度、もう一度だけやらせてください」
「もう一度、もう一度だけやらせてください」
ふと今西佑行の「一つの花」を思い出してしまった…
QBにエンドオブワールドくらわせたい
まとめてくれてありがとう!
3210の人のが未だまとめに載ってないけど大丈夫だろうか、
あとまとめ読んでたら結構大きな抜けがあるような。。。
昔と違って人も減り、無選別に全部まとめる人も激減したので
まとめをやる人の好きな作品や作者本人がまとめる作品でないと
長期間放置されたり抜けたりする。
気になるなら自分でまとめればいい
>・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
自分はもう気にならないから読んでる作品とレイアウト異常の修正くらいしかしてない。
つうか作者が纏めないのは何でだ?
書き込むついでに纏めればいいじゃん
作者がまとめてもいいけど
作者がまとめなくてもいいから
同じ作品を繰り返し読みたいとかまとめて読みたいってのは読む側の欲求なんだし
作者でも読者でもやりたい人がやればいいんじゃね?
今日も新作がきたけど絵板の復刻がすごいな
絵柄から職人さんみんな違うみたいだし、いろんな人にここが支持されてるのがわかるよ
>>598 読者にまとめてもらいたいからってのもあると思うよ。
作者以外の誰かがやるのは、「読んでますよ」という読者からのメッセージにもなるし。
>>598 一種のパラメータなのよな、書き手にとっては。
幸い、今まで俺は纏められなかったことは無いけど。
>>598 このスレじゃ作者自身が登録することも多いけど、
作者自身が登録するのはタブーになってるスレも多いぜ
最近スコールを見ないな…
無情の使い魔 まだかな?
ラスボスさん まだかな?
バージルの兄貴 まだかな?
『モンゴリアン!!!』
の出番がいつになるのか胸熱
>>605 その三つは俺も大好きだ。
ただ俺のエルザたんが・・・
>>597 最近だと萌え萌えさんが浚ってくれてたよね。
今は忙しくなったみたいだけど。
ヌケがあるのはそうだと分かってる人間が補完するしかないんじゃないかな?
…何かまとめwiki落ちかけてね?
ページ読み込みはできるけど表示されない→リロード→表示される、が
頻発してるのだが
>>606 ラーメンマン?ギーシュがラーメンになっちゃう!
どうも。
被ってないなら30分頃から投下したいと思います。
朝日が昇るのとほぼ同時に
マキシマは目を覚ます。
脳内アラーム機能の設定時間を変更していなかったが、どうやら
問題なさそうだ。
朝になったら起こせと言われているが、この少女が目を覚ますにはまだ
早すぎる時間だろう。
とりあえず頼まれた洗濯を済ますために、昨日のうちに丁重に畳んでおいた少女の
下着と、ベッドの下に脱ぎ散らかされた洋服を、机の上においてあった適当なバスケットの中に
放り込み部屋を出る。
どうやらこの世界は、中世ヨーロッパ程度の技術力しかないらしく、洗濯機なんて便利なものも
当然ない。恐らく洗濯物も手洗いなのだろう。
そうなると洗濯場は外だ。
そう考えたマキシマは、昨日来た道を逆戻りして外へ出る。
辺りを適当に歩いていると、程なくして井戸を見つけた。
しかしそこにあると予想していた洗濯用品が見当たらない。
さて、どうしたものか…。
とりあえず、倉庫か何かを探しに行くか と考えていたマキシマの背中に、「トンッ」
と何かがぶつかった。
振り向くと、大量の洗濯物をひっくり返して尻餅をついている使用人らしき少女がいた。
「おい、大丈夫か?」
マキシマがその野球グラブのような大きな手を差し出す。
その手を取らずに、少女は慌てて立ち上がり体をビシッと伸ばすと、カックン!カックン!と
ものすごい勢いで頭を下げ始めた
「申し訳ございません!!申し訳ございません!!私の不注意でした!!」
行き場を失ったマキシマの手が、辺りに散らばった洗濯物を、少女の持っていたカゴの
中に入れていく。
その様子をオロオロと見ていた少女が、マキシマからカゴを受け取ると、今度は
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
と、またカックン!カックン!とお辞儀をし始める。
「貴族様の手を煩わせてしまいました!!申し訳ございません!!」
「俺は平民だぞ?」
その言葉に、使用人の少女は「ふぇ?」と可笑しな声を出す。
「昨日『使い魔』として呼び出されたんだが…」
少女はその場にへなへなと腰を下ろしてしまう。
「…本当に大丈夫か?」
そういってもう一度手を差し出す。
今度はしっかりと手を取って立ち上がる少女。
「ご、ごめんなさい。てっきり貴族の方だと…」
「それより洗濯がしたいんだが。すまないが道具を貸してもらえないか?」
「ええ。かまいませんよ」
少女がニッコリと微笑んで快く承諾してくれた。
「あなたのことだったんですね。ミス・ヴァリエールが召喚された平民の使い魔って」
二人並んで、桶で洗濯をしていると、少女が話しかけてくる。
「そうだが…。その口振りだと、噂になってるみたいだな…」
「えぇ!それはもう。ミス・ヴァリエールがとても大きな平民の使い魔を召喚した!って」
有名人ですね! と笑いかけてくる少女に、マキシマは苦笑する。
ここでは噂話が広がるのが相当早いらしい。
「それにしても、洗濯がお上手ですね。ここに来る前にもこういう事を?」
手を休めずに少女が問いかけてくる。
マキシマも、テキパキと衣類を洗いながら返す。
「いや。こうやって手で洗濯をするのは初めてだな。こう見えて手先は器用なほうでね」
その言葉に少女は感心する。
「すいません。手伝ってもらっちゃって。いつもはもう一人居るんですが、熱を出してしまいまして」
「かまわんさ。道具を貸してもらった礼だ」
そう言葉を交わすと、少女は洗い終わった衣類の入ったカゴを持ち上げようとする。
しかし水を吸った衣類はかなり重いらしく、フラフラとしている。
あの様子では前も見えていないだろう。
ふっ と彼女の手から重さがなくなる。
「危なっかしいお嬢さんだ。これはどこに持っていったらいいんだ?」
上から声が聞こえたので見上げると、片手で洗濯物を持った使い魔の彼がいた。
「わ…わるいですよ!本来私の仕事なのに…」
「道具を貸してくれた礼だと言ったろう?」
でも…。と申し訳なさそうな少女に、マキシマは彼女でも片手で持てるくらいのバスケットを渡す。
「うちの御主人サマの洗濯物だ。代わりにそっちを持ってくれないか?」
そういってマキシマが笑う。その顔を見て、少女が「はい!」と、にこやかに返事をする。
紳士的な彼を、少女は好意的に感じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ありがとうございました!私、この学院で働いてるシエスタっていいます!気軽に『シエスタ』って
呼んでください!」
「俺はマキシマだ。知っての通り使い魔になっちまった」
洗濯物を干し終えて、元気良く自己紹介をするシエスタに、肩をすくめながら返すマキシマ。
「なにかお困りな事があったら言ってください!力になれるならすぐにお伺いしますね」
そういうとペコッと頭を下げ、ぱたぱたと走っていった。
(そろそろお姫様を起こしにいくかな…)
そう思い足元に置いてあったバスケットを掴み空を見上げ、日差しが強くなってきた事を確認した。
マキシマが、また同じ道のりでルイズの部屋に戻る。
いろいろと見て回りたかったが、流石に女子寮をうろうろしていたら、生徒が彼のゴツい顔を見て
悲鳴を上げかねない。
ただでさえ威圧感のある見た目なのだ。
それはまた別の機会にしようと考えドアを開けると、ルイズはまだ気持ちよさそうに寝ていた。
(寝ている分には、カワイイもんなんだがなぁ…)
起きている時のルイズは、K’とクーラを足して、素直さを引いた感じだが、寝ているときの顔は
クーラとかわらない、あどけなさの残る少女のものだった。
未だにすぅすぅと可愛らしい寝息を立てているルイズの肩を優しく揺する。
「起きなお姫様。朝だぜ」
目を擦りながらルイズが起き上がる。
ぼ〜っとした目が、しばらくキョロキョロと辺りを見回す。
そしてマキシマと目が合ってから数秒経つと、急にハッとした顔をする。
「…きゃあ!あ、あんた誰よ!!」
「自分で召喚しておいて、誰?てのはないだろ?」
どうやらまだ寝ぼけているらしいルイズに、冷静なツッコミをいれる。
しえん
少しの沈黙があり、またハッとした顔をした。
「し、知ってるわよ!冗談に決まってるじゃない。冗談!」
ルイズが慌てて取り繕うが、マキシマには丸分かりだ。
「服」
まだ少し眠いらしいルイズが、目を擦りながら言う。
タンスを開け、昨日着ていた服と同じようなものを取り出す。
振り返ると、ベッドの上に立ったルイズが両手を横に伸ばしていた。
「…何してるんだ?」
「着せて」
その言葉に、マキシマは耳を疑った。
「俺は嬢ちゃんの母親じゃないんだぞ!?」
「そんな事分かってるわよ。いい?召使がいる時は、召使に着替えさせるのが当然なの」
当然よ!っと無い胸を張るルイズに、マキシマが問いかける。
「おい!俺は使い魔じゃなかったのか!?いつから召使になった!」
「似たようなものでしょ?さ、早くしなさい」
マキシマは「やれやれ…」と呟くと、ルイズに服を着せる。
指が太すぎてボタンが掴めない…何てことも無く、普通に着せる。
「あら?ずいぶん聞き分けがいいわね?」
ベッドの上に居るのに、まだ背の追いつかないルイズ。
改めて自分の使い魔の背の高さを認識する。
「手のかかる子供の世話は慣れてるんでね」
マキシマが自嘲気味に答える。
その言葉にルイズが反応する。
「誰が手のかかる子供よ!ていうか…え?子供が居るの?」
「そんなわけないだろう!俺が子供のいる年齢に見えるか!?」
「見えるわね。どこからどう見てもオッサンね」
「俺はまだ二十代だ!」
ルイズの辛らつな言葉に。
ガックリとうな垂れるマキシマ。
いつもと違う、そんな、朝のひと時。
はい!今日はここまでです。
次の話まで、1・2日空くかもしれません。
乙です
乙!
大男と女の子の組み合わせっていいよね……
まとめのやり方が文章を読んでもよく分からないので勉強してみたいと思います。
実はマキシマのお話が終わった後にもう一人格ゲーから召喚したいキャラがいるんですが
だいぶ先になりそうですw
乙ですー
しかし二十代で手のかかる程度の年の子供がいて何かおかしいかな?
二十のときに生まれたとしたって、二十九のときには子供は九つじゃないか
とくに中世的世界なら結婚や出産も早いだろうし、事実ルイズは十六でワルドから求婚を受けている
マキシマの年齢ならクーラ程の年の子供がいたってさほどに不思議でもないだろうよ
まぁ確かにそうなんですがねwww
テリーに二人の父親呼ばわりされていた時に
よしてくれ!的なことを言っていたので。
おじさんって呼ばれるのも結構気にしてるみたいですしねw
こんばんわ
10分後に投下開始
ARMSの人じゃないか!
期待支援
クリフ達が異世界に飛ばされて、ここトリステイン魔法学院で過ごすようになってから一週間ほどが過ぎた。
ギーシュとの諍いが終わり、彼が崇高な犠牲になった翌日から、クリフはコルベールと連日のように図書館で調べ物を続けていた。
時には彼の研究室へ寄り、詳しく話を聞いたり、議論めいたことまでしていた。
「うーむ……。まずいなぁ……もう一週間だ」
そろそろ昼食の時間を迎えるため、ルイズ達が一旦集まる寮塔寄りの場所へ向かいながら、クリフは暗澹として呟いた。
「これだけ調べて手がかりの一つもないとは……。どうにもならないのか……?」
非常によくなかった。一度は死んだ自分達三人はまだしも、才人は普通の生活を放り出したままなのである。両親も心配している
だろうし、おそらく失踪状態として扱われているはずである。
詳しく召喚された時の話を聞いてみたが、彼は事故などで死亡していたわけではないらしい。ただ、単純に休日に道を歩いていた
ら、通り抜けられる不思議な鏡を見つけて、なんとなくそこに飛び込んでみただけだという。
正直クリフはその行動にわりと正気を疑ったが、しかしクリフは身近にそういうことを平気でやりそうな人間を一人、よく知って
いた。ヴォルフである。
好奇心が非常に強い才人は、性格のタイプとしてはヴォルフにかなり近いようだった。義侠心や負けん気もあったりと共通する点
がある二人はずいぶん気が合うようで、よく一緒にルイズの命じた雑用をこなしている。似たような行動様式を持つ者二人、という
ことらしい。
「理解しがたいというか……どうしてこう、興味本位で無謀な人間っているんだろうな……。危険だ、となぜ考えないのか……?
まあ、多少彼の自業自得の面もあるんだよなぁ……」
しかし、放置するわけにもいかない。彼の親は今頃、途方に暮れていることだろう。このまま知らん振り、というのは原因の一端
もこちらにあり、いっぱしの大人としていくらなんでも気が引ける。
「はぁ……。しかし……それにしても、時間の経過はどうなってるんだろう……? 普通に考えれば、そのまま一週間なんだが……」
それよりクリフには、一つ大きな疑問があった。こちらと向こうと二つ世界があるとして、互いの時差というべきか、そういった
問題である。
自分達に照らしてみれば、クリフが意識を失ったのは夜中だ。目が覚めたのは夕方で、そうなると元の世界とは数時間程度、もし
くは同じことだが約一日足らずのズレが存在していることになる。それでてっきり、クリフはアメリカ・イギリス間と同程度、経度
が異なる場所と同じようなもの、と思っていた。
しかし、才人によれば鏡に突撃したのは同じく昼前の話であったらしい。そちらでは、時間の齟齬は発生していない、ということ
だ。
「となると……やっぱり、時間の流れ自体が異なると考えるべきだよな……」
こちらで一週間過ごした時間が、向こうでは一時間かもしれないし、一年間かも知れない。後者の可能性はあまり考えたくないが、
才人が持っていたノートPCが気になっていた。
どうも、自分達のいた時代より数年は進んでいるような気がしている。詳しいわけではないが、当時の現行PCはもっと性能が低
かったはずだ。機能も数段は優れていて、なにより知らないオペレーティング・システムが用いられていた。日本国内については未
詳であったが、インターネットもまだそれほど普及しているわけでもなかった。
だが才人は光ファイバー通信が一般家庭でも存在していると言っていたし、フロッピーと聞いてきょとんとした顔を見せた。超高
速回線や大容量媒体など、そんな高価なものが普通はそうそう使われるわけがない。
「……まずい……。平行宇宙とか多世界とか、そういうのであってくれないかなぁ……」
クリフはそれで嫌な予感がぷんぷんして、核心の質問はあえてしなかった。むしろ、彼がその可能性に気づく恐れがあってできな
かったとも言える。
すなわち、年号である。今が西暦何年であるかを聞けば、一発でこちらと向こうのズレの度合い、つまり時間経過の差が分かって
しまう。本音を言えば、自分もあまり知りたくはなかった。
「オシーンと常若の国だけはやめてくれよ……。日本にもあったな、ウラシマ……なんだったか……? はあ……」
軽く目の前が真っ暗になりつつため息をつくクリフが寮塔の近くまで来ると、いつものようにヴォルフが洗濯をしていた。才人の
姿はなく、今日はルイズと一緒に授業へ行っているらしい。
「あらクリフ、お帰りなさい。今日もちょっと、ダメだった?」
「ああ……。少し、先が見えないな。とっかかりがどこにもなくてさ……今日はサイト君は授業か」
「残念ねぇ。そうね、サイトちゃんはお嬢と一緒ね。なんだか、お気に入りみたいだわ」
ルイズは才人をよく連れて行きたがるようだった。護衛を任されたキクロプスは話せるようになっても、元来寡黙であまり喋る方
じゃない。それなら同年代の男の子の方がまだ話が合うからか、と最初クリフは思っていたが、どうもそうではないらしい。
それとなく聞いたルイズの話を総合すると、恐ろしいことに要は気兼ねなくボコスカ殴れるから、のようであった。
大人しく従うキクロプスには、不満はないがやはり楽しくはないという。それよりは、逆にからかい尽くされてこてんぱんにやら
れてしまうヴォルフは別にしても、少々程度やり返そうとする才人が格好の標的になっていた。
なんというか、人を趣味でサンドバックにする、というのは年頃の女の子としては如何なものかとクリフは思うのだけれども。す
ごいお転婆な娘である。
「またぞろ、生傷でも作って帰ってきそうだな……彼も災難なことだ」
「仲がよきことは美しき哉、よ。いいことじゃない」
ヴォルフは洗われたズボンを洗濯紐に通しながら言う。
……仲がいい…うーん。本当にいいのか? ……なんにせよ、僕がターゲットにならなくてよかった。彼も無事だといいが。
クリフが内心でほっとしていると、何列もの洗濯物の陰からシエスタが顔を出した。
「クリフさん、おかえりなさい! 今日もお疲れ様です!」
「やあ、シエスタ。今日も精が出てるみたいだね、君こそ毎日ご苦労様だよ」
「そんな……。ヴォルフさんがいつも手伝って下さるおかげで、ホントに助かってます」
そう言って、シエスタは頬を染めてもじもじしはじめる。
例の騒動があってからこっち、シエスタはクリフに対して好感を持っている様子だった。なにかと図書館などの様子を見に来て、
司書を通して差し入れなどをよくしてくれる。
「君のおかげで調べ物もよくはかどっているよ。本当にありがとう」
成果こそ芳しくはないが、根を詰めているときに間食の一つも差し入れてもらうとずいぶん助かる。ここまで分かりやすく好意を
示してもらえるというのは、クリフとしても悪い気はしない。
「えへへ……。今日の三時になったら、お菓子をお持ちしますね。それと、東方の名産の『お茶』っていうのが手に入ったんです。
楽しみにしててくださいね」
「『お茶』? へえ、お茶が!」
シエスタの言葉に、思わずクリフは反応した。
「それはいいね。紅茶かな? 緑茶かな? どちらも僕は好きだが」
「あ、クリフさん、ご存知なんですか?」
「ああ。知ってるどころか大好きだよ。いやあ、嬉しいね」
クリフはイギリス人である。英国といえば、お茶熱が高じてアジアの権益欲しさにオランダと戦争し、新大陸にまでお茶趣味を押
し付けて関税で絞り取り、挙句の果てにはボストン茶会事件でアメリカ独立戦争まで引き起こしたほどのお茶狂いの国である。
クリフ自身はイギリス人でありながら、子供のころからアメリカで実験場生活を送っていたため三時のお茶の習慣はなかった。が、
成人してからやってみたところ、非科学的な話ではあるが、どうにもしっくりきてしまいそれ以来病み付きになっていた。
「そうですか、よかったです。飲む前からこんなに喜んでもらえるなんて、えへへ」
シエスタがはにかんだように笑った。ヴォルフも横から話に加わる。
「いいじゃない、アタシも飲みたいわね? シエスタ、いい?」
「はい、けっこうたっぷりありますし。後でみんなで飲みましょう」
「いーわねー♪ アタシハーブティー大好きなのよー。ラベンダーとかカモミールとか、こっちにはあるのかしらね?」
「ハーブティー? ですか? ハーブはありますけど……」
「あら、じゃあできるかしら? お茶っていうか紅茶なんだけど、こうね、乾燥したハーブを香りづけとして一緒に淹れてね? 色
んなお花なんかのいーい香りを楽しむの」
「きゃあ、それ素敵ですね? それってどんなお花でもできるんですか?」
「もちろんよ、果実だってできるわ。できれば香りが強めなのがいいけど、特にね、アタシはローズヒップが大好きなの。ビタミンC
って言うのが豊富で美容にもよくて、おハダを綺麗にしてくれるのよ」
「へえ……! あとで詳しく教えて下さいね?」
「ええ、いいわよ。楽しみだわー。……あら、お嬢ちゃんも帰ってきたわね」
見てみると、のしのしと歩くルイズがこちらへ向かってきている。なにか怒っている様子で、その後ろには才人を背負ったキクロ
プスがついてきていた。またなにか癇癪を起こして才人に対して暴行に及んだらしい。
「ひどい……股間はやめろっての……」
ぐったりとした才人が悲しげな呟きを漏らしていた。……本当に仲がいいのか?
「お帰りなさいお嬢。さ、ご飯ね」
「わたしお腹が空いたわ。洗濯もいいけど、早く行くわよ」
「そりゃ奇遇ね、アタシもよ。じゃ、行きましょか。何が出るのかしら、楽しみねー」
と、ヴォルフは早くも舌なめずりする。
クリフも空腹を覚えた腹をなんとなくさすった。そういえば、自分も腹が減った。
「じゃあ、シエスタ。今日もお願いするよ」
「ええ、今日はシチューだそうですよ」
シエスタがにこにこしながら頷いた。
ルイズの許可が出てから数日の間は、アルヴィーズの食堂内で食事を摂っていたクリフ達であったが、やはり貴族ではない平民の
集団は問題があったらしい。
特に例の、才人とヴォルフのファミレス組のせいで、「著しく品位を下げるため、あまりにも」という学院側の判断でついに追い
出され、もっぱら食堂の裏にある厨房で済ませることにしていた。
ちなみに、貴族用の大浴場も今は使っていない。あのヴェストリの広場に簡易のシャワー室を建てて、そこで体を洗っていた。一
度だけは利用したが、天国などと呼んでいたヴォルフが少年達を強引に口説きはじめたので、実力で鎮圧して以降クリフの命令で自
主的に出禁にしている。
「さ、行くわよ。もたもたしないの」
ルイズが先頭になって、中央の塔に向かって一行は歩き出す。そのうちに、ヴォルフが呟いた。
「まーいいんだけどさー。お嬢ちゃん、ホントにいいの? アンタこれじゃ孤食じゃないの。一人でご飯食べるの、よくないわよ?」
「うるさいわね。いいの、しょうがないでしょ。あんたがバカみたいに下品なことするからこうなるんじゃないの」
「でもねー……なんとかならないかしら。アタシ心配よ。お嬢ってお友達も少ないみたいだし」
「お、大きなお世話よ! わたしはいいの、もう」
一週間近く過ごしてみたが、確かにルイズの交友関係はあまり広くないようである。せいぜい隣のキュルケぐらいのもので、楽し
そうにお喋りしているところはほとんど見たことがない。
「俺はあっちのが豪華でよかったけどなー。ま、厨房のもうまいんだけど」
ルイズについて歩く才人が言う。ルイズがぎろりと才人を睨んだ。
「あ・ん・た・も・でしょーが。なんでマナーもちゃんとできないのよ。せめて大人しく食べればよかったんでしょ」
「いやーついノリで……ヴォルさんが俺を乗せるの上手いんだよ」
「自分のせいじゃない。ばかヴォルフにくっついて、一緒に騒いでるからいけないんじゃないの。自業自得よ、ごはん食べれるだけ
ましだわ。甘やかしすぎなくらいよ」
そこでルイズの説教に、脇からヴォルフが口を出す。
「あら、バカだなんてひどいじゃない。アタシはただ、食事の一時に会話という花を添えているだけじゃないの」
「黙りなさいばか。マナーのことを言ってるんでしょ、罰としてあんた達二人はご飯抜きにした方がよかったかしら」
「「それは困る(わ)」」
「もう……! なんなのこの二人組は……!」
頭が痛いとばかりに、ルイズは首を振った。
「そうは言ってもねぇ。アタシはただ食べやすく食べてただけだし……」
「そうそう。ワイワイ楽しく食べることがいけないって言う方がおかしいんだよ。俺達は悪くないって」
などと、しかし二人はまったく悪いとも思っていない風情で言う。
「ヴォルフは黙りなさいって言ってるでしょ。だいたいサイト、あんた虎の威を借りるんじゃないの」
「別に借りちゃいねえよ。意見が合うだけっつーか? 俺が言う前に同じ意見を言ってくれるっつーか」
「そうよねーサイトちゃん。アタシ達気が合うのよ、これなんていうのかしら? マジョリティってやつ? 当たり前の感覚よね」
「そうだよね。俺達が多数派なんだよ、ルイズが違うだけで」
「……あんた達が多数派だったらこの世はウホウホ言ってるおサルだらけよ……」
そんなやり取りをしているうちに、食堂のある中央塔に着いた。そこでルイズは一人集団から分かれ、正面から入っていく。
「じゃあ、それじゃあね。授業の前になったら、キクロプスとサイトはわたしを迎えに来なさい」
「えー。俺、まだ働いてる方がいいかもしんねーんだけど。お前、俺のことボコボコ殴るんだもん。こいつひでーんすよ、なんでか
俺を目の敵にするし」
「いいから来なさい。遅れたらひどいからね」
「はいはい、分かったよ。なんなんだか……」
「はいは一回! じゃあね」
そう言って、ルイズは食堂に向かって行ってしまった。
「はあ……。めんどくせーな。クリフさん、俺と代わってくれません?」
才人がせがむようにクリフを見てくる。
「……いや、僕はその……調べものがあるので」
クリフはさりげなく拒否した。正直、自分に被害がくるのは勘弁であった。それにまあ……サイト君でないと、たぶん意味がない
んだろうなぁ……。
「ちぇー。あいつ、すげえ凶暴なんだよな。キクさんにはなにもしないのに、俺にだけやけに風当たりが強いし」
「…………まあ、少し……ひどいと思う時もあるが」
キクロプスがぽつりと呟いた。不平を漏らす才人の肩を、ヴォルフが叩く。
「まあ、いいじゃないの。きっと気があるのよ、やっぱり。青い恋ねー」
「ち、違うって! 最初は可愛いとは思ったけど、あんなに暴力振るうとは思ってなかったし!」
「あら照れちゃって。ま、それより早くご飯食べに行きましょ」
そうしてクリフ達は厨房へ向かった。
「おう、また来たなお前ら! 『我らのケン』達め! 出来てるぜ!」
からからと笑いながら包丁を振るって肉を切っているのは、この厨房のコック長であるマルトー、という気の良さそうな親父であ
る。
よく分からないがケン、というのはヴォルフの拳と才人の剣を指しているらしい。いつの間にか妙なネーミングまでつけられてい
た。とにかく、平民という身分で貴族のギーシュを事もなく下したのが評判であったらしい。
クリフ達が手を上げて返すと、がはは、今日のメシも美味いぞぅ、とマルトーが笑った。
「よっしゃ、ちょっと待ってろよ! シエスタ、仕事もあっから手を洗ってこい! ……おし、これで肉は上がりだ。副料理長、こ
れ頼むぞ! ……おう、お前らそこらへんの椅子に適当に座っててくれや」
マルトーに促され、クリフ達は隅の椅子の前へ行く。しかし、相変わらずすぐに座る気にはなれない。これだけ周りが忙しく飛び
回っているのに、自分達だけゆっくりと座って待つ、というのがどうにも……。
「どしたのクリフ? ボケッと突っ立って」
見ると、ヴォルフは堂々と腰掛けていた。さすがヴォルフだ、あっという間に馴染んでいる。
「あ、遠慮しない奴だな、とか思ってるんでしょ? いいのよ、向こうがいいって言ってるんだから。ほら、そこに立ってたら邪魔
になっちゃうわよ」
そう言われて、仕方なく一同は席につく。しばらく待っていると、シエスタが簡素なお盆に載せた料理を四人前運んできてくれた。
「あーら良い匂い。たまんないわね」
「うん。これは……美味そうだ」
スプーンでシチューをすくって口にする。ほのかな甘みのある、ちょうど良い塩加減。香りが良い。
「へえ……うん。これは美味いな。香草が……」
「お、あんた分かるのかい? さすがだねぇ。分かるやつに食ってもらえるってのも料理人冥利に尽きるってもんさ、がはは!」
マルトーは今度は野菜を刻みながら笑う。
「風味が特に良いな。これは確か、以前の鱒のパイに……」
「おお? なんでえ、あれ食ったのかい! 美味かったろ、あれ焼く時に詰めた奴と一緒でな。今度は余るくらいごっそり入ったか
ら、賄い用のシチューに使ったんだよ」
「あら、作ったのアナタだったの? あれはホント、美味しかったわー。アタシレシピ知りたかったのよ」
ヴォルフががつがつと食べながら会話に混じった。
「お、お気に入りかい。あいつは自信作だったな、また今度作ってやるかい?」
「お願いだわ、あの時は一皿全部食べちゃったもの。焼き加減がとっても良かったのよ、焼き色も火加減もベスト。あれはどうやっ
たのかしら?」
「へへ、あれはちょいと秘密があってな。オーブンに入れるときに軽く一工夫して――」
「あ、なるほど。じゃああれは――」
と、マルトーとヴォルフの間で料理の話が始まってしまったので、クリフは黙って目の前の昼食に集中することにした。
しかし、それにしても美味い。貴族向けの料理にも劣らないと言っていい。多少時間が経ってはいるが、パンも芳醇な香りだ。つ
いつい黙ったまま食べて続けてしまう。
「――っといけねえ、忘れるとこだったぜ。おうシエスタ、『ケン』達にアルビオンのとっておきを注いでやんな!」
手を動かしたままのマルトーが叫ぶと、厨房の奥からシエスタがワインを持ってやってきた。四つのグラスに注いで、それぞれの
前に置いてくれる。
「はい、どうぞ皆さん」
ニコニコしながら、シエスタが勧めてくれる。才人が嬉しそうな声を出した。
「おっ、やった。俺、前は友達と一緒に飲んだりもしたけど、ワインっていうか酒の味ってあんま好きじゃなかったんだよなぁ。そ
れがこっちに来てから、こんなに美味いんだってはじめて知ったよ」
「ありがとうシエスタ。ああ、ワインは中々難しいからね。大きく値が張るものはやっぱり美味しいのが多いけど、少しランクが下
がっただけで途端に選びづらくなる。飲み慣れていないと、ちょっと舌に合わないかもな……うん、これは美味い」
クリフもまた注がれたワインを口にし、深い味わいに舌鼓を打った。才人は勢い良く口に流し込み、あっという間にグラスを半分
開けてしまう。
「ぷはっ。やっぱりなんか違うなあ。向こうじゃ、コンビニで買ったチューハイとかばっかりだったしなぁ俺。ビールはいまいちダ
メだったし。クリフさん、向こうじゃどういうの飲んでたんです? オススメとかある?」
「そうだな、僕もそこまで詳しい方ではないけど。フランス産よりスペイン産のワインもよく飲んだな、値段も手ごろで掘り出し物
も多いし。近年は気候が変わって、特級畑もそんなに信用できないからな」
「特級? なにそれ、畑にランクとかあるの?」
「ああ。土質がワインの元になる葡萄を作るのに最適って判断された畑さ。でも、外れを引くと高くて不味いなんてこともあるから
ね、名作なんて呼ばれてたのが、天候不順や作り手の代替わりでひどいことにもよくなるし」
「えー。それ最悪じゃん、なんのために高い金出したってことだし。やっぱり色々騙されてひどいの飲んだりしたの?」
「したね……。87年、91年の「シャトー・マルゴー」とか、あれはひどかった。名前じゃないと思うよ、ワインは。飲んだらどうか、
じゃないかな」
そう言うと、才人が困った顔をする。
「え、それじゃあどうすんだ? 名前で信用できなかったらどうにもならないじゃん。俺なんか怖くてどれも買えないよ」
「そうだな……。やっぱり君ぐらいの年代だと、とりあえずは白ワインかな? 赤は渋みがあるし、分かりにくいかもな。このワイ
ンはすごく美味しいけど、少し特別だ。選ぶならスパークリングワインとか……」
「あ、炭酸のある奴でしょ。知ってる」
「シャンパンって呼ばれてるのと基本的には同じさ。スペインにおける「カバ」だな。白ならガリシア地方の「リベイロ」やバスク
の「チャコリ」なんかもいいんじゃないか? ライトでキリッとしてて飲みやすいよ」
「へえ、それも炭酸入り? 今度飲んでみたいなあ。んぐんぐ」
けっこうな調子で杯を煽る才人。未成年だし飲み過ぎないかちょっと心配ではあるが、彼は年の割には酒が弱いわけではないよう
だ。
僕がはじめてアルコールを飲んだときは、あっという間にひっくり返ってしまったものだが。あの時はヴォルフに指をさされて笑
われたものだ。まあ、個人差か。
「お、白が飲みたいのかい『剣』? へへ、お前もけっこうイケる口ってやつかい。シエスタ、確か一本余ってたのがあるだろ?
どこやったっけ」
一息ついたのか、マルトーが包丁を置いて会話に入ってくる。
「えーと、たしかここの棚に……これですよね料理長?」
「おう、それだ。そこのアルビオンのやつには負けるが、まあこれもそこそこのやつさ。四人で一瓶じゃ足りんだろう、こいつもい
っとけや。よっ」
そう言って、手ずから栓を抜いて才人のグラスになみなみと注ぐ。
「お、ラッキー! ってうわ、こんなにいっぱい。飲みきれないって」
「がはは、遠慮すんな! ぐいっといけぐいっと! 俺はお前らが大好きなんだ、あのいけ好かねえ貴族を軽くひねってみせるなん
てな。お前、あんな剣さばきはどこで習ったんだ? 俺にも教えてくれよ」
「んぐんぐ……ぷはっ。あ、ホントだ、すげー飲みやすい。剣? うーん、それが俺にもよくわかんねえんだよな。なんか勝手に体
が動いたっていうか……俺はなにもしてないんだけど」
才人が不思議そうに首をひねると、マルトーはますます笑みを大きくしていく。
「体に馴染んでるくらいってやつか! いやーすげえな! おいお前達、聞いたか! 達人ってのはこういうもんだ、見習えよ!
達人は誇らない!」
マルトーの大声が厨房に響く。若いコック達が、その声に唱和して返す。
『達人は誇らない!』
その返事に満足そうにマルトーは頷き、ようやく半分を開けた才人のグラスにさらにワインを注いでいく。
「がはは、俺はますますお前達が好きになったぞ。ほらほら、もっと飲め」
「おいおい、いくらなんだって昼からこんなじゃ俺つぶれちゃうよ。クリフさん助けて」
さすがに困った顔をして、才人がこっちを見てきた。
「じゃあ……僕も好意に甘えて、一杯頂こうかな?」
「おっあんたも飲むかい! がはは、いいぞ。ところであんた、なんだかリーダーみたいだが。あんたはなにができるんだい?
どうせあんたもすげえんだろう?」
マルトーの質問に、クリフはワインを口にしながら適当にごまかす。
「僕は、そんな大したことはできないよ。……ふむ、これも美味いな。たしかにいける」
「だろ!? 値は安いがな、こいつはその割には美味いんだ。俺達平民にはこっそり人気なんだぜ? それより……」
くるり、とマルトーは背を向けて、再び厨房の奥に向かって叫ぶ。
「聞いたか、お前達! 達人ってのはこういうもんだ! 自分を誇ったりは決してしねえ! いいか、達人は決して誇らない!」
『達人は決して誇らない!』
また唱和が厨房に響き渡る。
「だっはっは! 謎めいてるってやつだな? で、いざという時に伝家の宝刀を抜く、と。いいじゃねえか、かっけえな!」
「はは……」
単純に話を大きくさせたくないだけだが、どうも謙遜しているととられたらしい。まあ、どっちにせよあまり噂は広がらせないほ
うが好ましいし。
隣のヴォルフが、自分のグラスに手酌でヴィンデージ・ワインをもう一杯つぎながら言う。
「白もステキだけど、アタシはやっぱり赤ね。いいわねーこれ。アタシもこんなにいいの、そうそう飲んだことないわよ?」
「おう、『拳』は赤か! あんたは一番の大金星だったな、なんだいありゃ!? パンチ一発でぐしゃっと一撃じゃねえか! とん
でもねえ強さだな、おい!?」
「ウフフ、やるでしょ。ま、あんな銅人形なんてアタシの敵じゃないわね。100でも200でも余裕のよっちゃんよ」
「おお!? すげえ自信だな、『拳』よ!?」
「自信ていうか、確信ね。あんな子供のオモチャに負けたらアタシの『不死身』の名が泣くわ。ラクショーラクショー」
「やっぱすげえな! ますます好きになっちまうぜ! おい! お前達聞いたか!」
またまたマルトーはくるりと振り向いて、厨房に声を響かせた。
「達人ってのはこういうもんだ! 自分の力を確信してる! いいか、達人もたまには誇る!」
『達人もたまには誇る!』
……もはやなんでもいいらしい。
「ウフフ、いいわねーこういう元気な空気。ふう、ごちそう様。美味しかったわ」
いつの間にか食べ終わったのか、ヴォルフが席を立つ。
それを見て、クリフははっとした。あ、しまった。気が付けば、自分の食事を止めてしまっていた。
「あら? まだのんびり食べてるのクリフ、それに才人ちゃんも。ダメよ、厨房は戦場なのよ? さっさと食べ終わらないと」
「ああ……つい、圧倒されちゃって」
「うわ……。俺、ちょっと回ってきたかも」
さすがに立て続けの一気が効いたのか、軽く才人がふらりと揺れた。
「んもう、ダメよ? さっ、マルトー。なにか仕事あるでしょ? お礼に今日も手伝うわ。そうね、このお皿洗っちゃっていいんで
しょ?」
ヴォルフはそう言って、おととい勝手に持ち込んだどこかで手に入れたらしいエプロンを身につけ、流しに積みあがっている汚れ
た皿の山を指す。
「おいおい、やっぱ悪ぃって。英雄を働かせるわけにはいかねえし、それに一応ミス・ヴァリエール嬢の使い魔なんだろ? 勝手に
使ったらこっちが怒られちまうよ」
「なーに言ってんのよ、大丈夫に決まってるでしょ。お嬢ちゃんにはアタシから断っておいたし、許しも出たし。だいたい、今はそ
この食堂でご飯食べてるわよ」
「うーん、そうかい? んじゃ毎度すまねえな、頼むぜ。洗剤と綿はそこだからな」
「オッケー任せてちょうだいな。さってと、やりますか。フンフンフ〜ン♪」
鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで素早く食器を洗いはじめるヴォルフ。わずかな間に、どんどんと綺麗になった皿が積まれてい
く。それを見ていたマルトーが呟きを漏らした。
「おうおう、速え速え。やっぱやるじゃねえか。ウチで正式に雇いてえぐらいだよなぁ。……おし、シエスタ! ちょっと早いが、
メシ食っていいぞ!」
近くで棚から食器を出していたシエスタが、はい! と元気な声で返事をした。
こういう調子で、クリフ達は食後に厨房の手伝いをする。
最初は、ここで食事を摂りはじめた初日にヴォルフが勝手にはじめたことだが、流れで全員が仕事をするようになっていた。まあ、
元々ただで食事をするというのも気が引けていたので、クリフ達は当たり前のように作業に参加している。
マルトー他、厨房のコックやシエスタ達メイドは最初遠慮していたが、ヴォルフのごり押しで結局受け入れさせられていた。それ
に、ここの人たちはそうでもしなければ食べる事ができないため交代で食事を摂っているらしく、食事時は非常に忙しい。
なるほど、厨房は戦場とは言いえて妙であった。常識的に考えて、いい年をした人間達がそんな中でのうのうと食わせてもらって
そのまま帰る、というわけにはいかない。
隣で、静かに食べていたキクロプスも椅子を引いて立ち上がった。
「…………美味かった。……マルトー、薪はまだあるか?」
「お? 裏にあるが……あんたが前に割った奴がまだ少し残ってるぜ? スカカカッっとな、ありゃ見事だったな。別に今やらんで
も、夕方にでもやってくれりゃいいけど」
「…………俺は厨房で働いた経験はない。ここでは、やはりあまり役に立てん……夕食の時は、刃物でも磨こう。……包丁以外なら、
出来る」
「おう、そうなのかい? そりゃちょうどいいな、ハサミが何本か、切れ味悪くなってきててな。んじゃ、それまでに適当に切れ味
悪い奴を集めとくぜ」
「…………ああ。……ごちそう様」
ふらりと身を翻して、キクロプスは厨房の裏口から出て行った。前にもやってみせていたが、放り投げた大量の薪を曲芸のように
ナイフで割りまくるつもりのようだ。達人の剣士ならではの技である。
「やっべ。んがんぐんが、ごっくん。……よし、俺も薪割り行ってくるよ。マルトー、ごちそうさま!」
「おう『剣』! また後でな、頼んだぜ!」
あっという間に残っていた自分の皿を平らげて、才人はマルトーの脇をすり抜けキクロプスの後を追っていってしまう。いつも見
るが、すさまじい早食いの早さである。
そしてクリフは一人、厨房の隅のテーブルにおいてけぼりを食ってしまった。周囲では人々が気忙しそうに動いている。
ううむ……しまった、これは良くないな。早く食べて手伝わないと、なんだかいたたまれないぞ。
クリフは急いで残ったシチューをかきこみパンをほうばる。しかし、急に詰め込んだせいで喉に詰まってしまった。
「ゲホッゴホッ……」
「ん? おい大丈夫かよ、無理すんなって」
マルトーが心配する声をかけてくる。いかん、僕はあまり早食いに慣れていない……苦しい。
胸を叩きながら空のグラスにワインを注ごうとしたが、その時、目の前にさっと水の入ったコップが差し出された。
見上げると、シエスタがニコニコしながら自分のお盆を片手で持って、コップを渡してくれていた。
クリフはコップをありがたく受け取って一気に呷る。
「……ふう。ありがとう、シエスタ」
「いえ、そんなに急がなくてもいいんですよ、クリフさん。私もここ、お邪魔しますね」
お盆を置いて、クリフの隣にシエスタが腰掛けた。
「ゆっくり食べればいいですから。私もいつもそんな慌てて食べてませんし」
「ああ……なんだか助かった気分だ」
「うふふ。クリフさんはこういうの、あんまり経験ないですか?」
「うん。なんて言うんだろう、こういう……勢いのある仕事場の感じというのかな、そんなに慣れていないなぁ」
「そうですね、なんだかそういうの、似合わなそうです?」
「おや、それはどういう意味かな?」
明るい調子でそう言うと、シエスタはうふふ、と笑う。
「いいんだぜ、ゆっくり食ってくれてよ! よく味わってたっぷり食ってもらう、こいつぁ料理人の喜びだからな、がはは! っと
いけねえ、次の料理の煮込みやんねえと!」
ついこっちの会話にかまけて忘れていたのか、マルトーはコック帽を抑えてあわてて奥へ駆け出して行った。
「はは……活気があるなぁ。しかし、このシチューは本当においしいね」
「ええ、マルトー親方自ら作ったものですもの。私も、色々教えてもらってますし」
「うん、素晴らしい料理人だ。今朝の朝食も、残さず食べてしまったからね。足りなかったくらいだ」
思わず激賞の言葉が口から出る。少し遠くで煮込み料理の味見をはじめたマルトーはそれが耳に入ったのか、
「だっはっは! だろ、俺の料理は美味いだろ!」と嬉しそうに笑った。
「じゃあこっちの段の配膳、お願いしますね」
「分かった、任せてくれ」
食べ終わった後、クリフは自分も何か手伝おうとしたが、特にやれることもなかったため、シエスタと一緒に食堂でデザートの配
膳をしていた。
ヴォルフやキクロプスに比べて、クリフは自分の生活力のなさに少々暗澹とした気分になる。才人も自分と同じくできることは少
ないが、彼はなんというか、自分に比べて仕事をするにもセンスがあった。飲み込みが早く、テンポよく進められる才能というんだ
ろうか。若さのせいかもしれない。つまり、四人の中ではクリフが一番役に立っていなかった。
「ううむ、こうなるとどうにも役立たずだなぁ僕は……」
大っぴらに念動を使えればできる仕事の範囲もぐっと広がるのだが、それが出来ない以上仕方がないと言えば仕方ないとは言える
のではあるが。
配膳の途中、どうにも騒いでいる少年達の集団が目に留まった。よく見ると、例のギーシュがその中にいる。
そのうちにクリフの姿に気づいたのか、ぎょっとした顔をしてこちらを見た。
「うっ!? ひ、ひえっ!」
のけぞって、自分の尻を押さえる。恐怖に歪んだ顔をしていた。
「く、来るなぁッ! 来ないでくれぇッ!」
「……やあ。……君も大変だったな……」
どういえばいいのか、なんだかすごいすまない気分になってくる……。
「はぁっ、はぁっ、や、やつは!? やつはどこにいる!?」
「……やつは厨房だよ。出てこないはずだから安心してくれ……」
「う、うう……! ああああ゛、ああ゛……! やめろ、やめろ、尻を突き出すなぁッ……! 後ろ目にこっちを見るなぁッ……!」
なにやらトラウマが蘇ったらしい、ギーシュは頭を抱えて錯乱しはじめた。近くで食事をしていたモンモランシーがそれに気づき、
ギーシュの友人達と介抱をはじめた。
「落ちついて! 落ちつくのギーシュ、息を整えるの! 焦っちゃだめ!」
「そうだ、落ちつくんだギーシュ! 取り乱すな、お前は『薔薇色のギーシュ』だろう!?」
「やめろぉーッ! そ、その名を呼ぶなぁーッ!」
……うーん、かわいそうに……。変な二つ名までつけられて、災難すぎる……。
「……お、お大事に……」
こっそりと立ち去ろうとすると、ふとギーシュの足元に紫色の小瓶が転がっているのが目に入った。
ああ、あれがヴォルフ達が言ってた例の香水とか言うやつか。また落としてる……。こっそり念動力でポケットに突っ込んでおい
てやることにした。恐怖に支配されているせいか、ギーシュはそれに気づかなかったようだ。
しばらくの内にデザートの配膳も終わって、クリフ一行の昼食の時間はつつがなく終わりを告げた。
以上ですありがとうございました
最後のオマケはシーン変わってるんだけどちょうどスペース入れられなかった……
いつも支援に感謝の気持ちを思いつつ、それでは
>>598 自分でやっちゃっていいとは思わんかった……orz
てっきりタブーかと
乙
乙です。
調べてみたら、SSのまとめで作者自身がまとめることを
タブーにしていることが結構あるみたいですね
それになんていうか俺だけの感覚かもしれないけど、自分でやるってちょっと恥ずかしい物があるよなぁ……。
ただでさえスレに出して見てもらってんのにもろに自己顕示というか。
それで本当は人気がなかったとかつまんねえとか思ってる人多数だったらもう目も当てられないよ……
そのあたりは難しいよな。クソつまんねーのに明らかに嫌がられてるのに、延々と自分を主張してまとめに張り続けるようなやつがいるからな・・・。主人公・俺な厨二小説とかな。
かといって厳しくルール化しても確かめようないし、時には荒らしに利用されるケースもあるし。
とりあえずこのスレに限っては、全部楽しく読んでる俺には見るに耐えないような作品は一つもないと思うし、作者さんがヒマならやってくれると俺は嬉しい。
めんどくさいならしょうがないから俺がヒマな時やるしな。
個人的には投下直後にでもまとめに載せたいくらいだが
重複したらアレだし時間おいて編集しようと考えてたら忘れてたり
スレ立てみたいに宣言するものでもないしな
俺はまとめにないのは率先してやってはいるが
まとめに自分でアップしたり、アップされた物を一部修正したいけど、使っているプロバイダがスパムの多いものらしく、まとめサイト編集できない。
仕方ないとはいえ、どうしたもんかと思う。
643 :
3210:2011/03/10(木) 18:04:44.75 ID:VIm2JgMD
まとめの召還の文をちょっとだけいじりました(「無害な」のあたり)
忘れがちだけど実はそこそこ重要な点?なので……
たまにはスカッと強キャラの無双系なssが読みたいなあ
皆パワーバランスに気を使いすぎで、時には力を制限したりとかしちゃって、
それでどんな強キャラでもワルドあたりで苦戦し出すから
何かモヤモヤしちゃう
3210さん乙です!ちょっと気になったんですが、まとめの3と4の間ってあんなに場面飛んでましたっけ?
過去ログ探して入れようかと思ったんですがPS3だといかんせん上手く行かないものでorz
>>644 >>たまにはスカッと強キャラの無双系なssが読みたいなあ
スコップ持って 『にじファン』へGO!
あそこは、チートオリキャラ無双がデフォだけど 掘ってみればオリキャラ以外もあるんじゃないかな?
こっちに そのテのSSが少ないのは 『棲み分け』ってことで。
たとえどんな作品でも長編になれば正義で完結すれば良作だと思う
>>644 「両方を立てる」事が大切だからね。
ワルドは才人がかなり苦戦した相手だから、好敵手には
丁度いいのかもね。
「一般人でガンダールヴの才人よりも、ここのSSで召喚された
ガンダールヴで超人の人達の方が強いに決まってるだろ」
という意見も分からなくはないけどね。
いや、オリ主の無双が見たいわけじゃないんだ
版権キャラというか、他作品キャラの無双が見たいんだ
なろうの方にもクロスオーバーもので無双系ってあまり無いんだよね
>>644 そう言うのってすぐ蹂躙とかルイズ達がいらない子とかになり易いからなぁ。
つーか、それ以前に力量差があり過ぎる場合、戦闘とかを描こうにも話があっと言う間に、
下手すれば数行と経たず終わってしまうから、実の所何気に書き辛いんだよね。
10作品ある内の2〜3作品くらいはそういうのがあってもいいと思うんだ俺は
全部が全部、ご丁寧に拮抗させて手に汗握るバトルじゃなくてもさ
多様性というか何というか
>>636 酒だのお茶だの食い物だの……美味そうな話書かれたら飲み食いしたくなっちゃうじゃないですか。
KOFの無界さんを召喚したら台詞とか読みづらそうだよなw
ワルド「風のユビキタs」
無界「スベてはチリとカす!!」
石化ってアンドバリで治せるのだろうか?
>>654 ほっといてもすぐ動けるようになるから別に
使う必要なくね?
>>654 読みづらいって言うか書きづらいw
もう少し性格が丸ければ、紫苑が一番ガンダとして楽しそうなんだがなぁ
ER最終回だからロマノ召喚で誰か書けや
KOFならムカイさんよりマガキさんの方が外道な気もする
いや、同じ風ってことでゲーニッツさんの方が?
「偏在y「ここですか?」ヴァウッ
マガキさんだとルイズの爆発を食らって「ぎょぶにあぁぁぁぉぉおうぅっ!?」とか言って吹っ飛ばされてるのが似合いそう。
>>657 君が書いてみるといい。
その方が周りも喜ぶだろう
魔王(クリフ)の人乙です!
西暦の件、ノートPCいじった時に
エクスプローラでファイルのタイムスタンプとか見れば一発だったんじゃ…
とか思ってみるテスト。
>>660 それならタバサの方がいいじゃないか。
父親を殺したのが幼いシャルロット。
ジョゼフが発見し隠蔽する。
殺害の原因はタバサの中のオロチの力が以下略
KOFから召還→過去のタルブ村に現れたシエスタの曾祖父の変化
日本の面影を残すなら
極限流、如月忍術、藤堂、草薙、相撲(雛子)、不知火忍術など。
シエスタ「日本一〜」ブルルン
>654
更に捻って会話が成立しない奴らとか
「そんな事より我を崇めよ」
「ドッゴラァァァァァァァッ!!! 」
KOFならアーデルハイドがルイズと相性が良さそうだな
G・ワンドで魔法も跳ね返せるし
667 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/11(金) 11:17:47.21 ID:bcjH3/U0
おまもりひまりの天河優人を召還ww
召喚…呼び出すこと。summon
召還…呼び戻すこと。recall
どうしても気になるんだよな
>>651 RXは無双しちゃうキャラじゃなくて、普通にチートキャラ
だって、太陽があればエネルギー・体力無限だし、
デカイダメージも太陽光があれば瞬時に回復できちゃうし
太陽がなくても【そのとき奇跡が起こった】っつー最強の切り札持ってるし
キングストーンフラッシュは幻術打ち破るし
バイオライダーは物理・毒物無効
作中使われなかった動物と会話の能力
ロボライダーは精神攻撃無効・炎吸収なんてのがあるし
さらに各フォームへの瞬時切り替えが可能だし
無双キャラじゃなくチートだよな?
もうアイツだけでいいんじゃないかな
そんなお前の中の定義なんか知らん
そもそも強いキャラの描写方の一つが無双なだけだろ
そういやストUからリュウ召還のSSあったけど
続き読みたいなぁ
>>665 ドゴラって、初代宇宙大怪獣を思い出したよ。
石炭根こそぎ食われるだろうから製鉄できなくなって戦争どころじゃなくなるな。
>665
更に更に捻って会話以前の奴とか
「いだだぎまぁず」
上手くいって使い魔にできたとして
「いだだぎまぁず」「い、いやだ、助けてモンモ…」「ごぢぞうざまでぢだ」
「いだだぎまぁず」「テファ…」「ごぢぞうざまでぢだ」
「いだだぎまぁず」「ルイズ、君の力があれば…」「ごぢぞうざまでぢだ」
「いだだぎまぁず」「ルイズっ、やめてっ、ウェールズ様助け…」「ごぢぞうざまでぢだ」
「ごども、ぐいでぇ」「きゅ、きゅい、お姉さま逃げて…」「んまんま」
バッドエンドしかない。
そもそもいくらコッパゲでもあんなのと契約させは……しない…かな?
一見してヤバそうな存在(ハルケギニアだと亜人かな?)召喚した場合に
生徒の身を守るのが教師の役目だと思うし
その結果召喚した存在を始末する事になっても仕方ないだろう
>>675 だが、このスレだと『ご立派様』とも契約させる、剛の者だったりするんだよね
サモンナイトで召喚と召還覚えたわ
679 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/11(金) 17:15:02.29 ID:R3YHB42y
BLEACHの護廷十三隊の隊長(元も含む)を召喚
元柳斎→校長と茶飲み仲間に 敵の大軍は一瞬で火の海に消える
砕蜂→なぜかアニエスと気が合いそう 卍解は破壊の杖どころの騒ぎじゃない
市丸ギン→確実に全員から警戒される 暇つぶしにひたすらルイズたちをおちょくる
卯ノ花烈→学院に医療設備を完備 いつの間にか女性メイジ協会理事に
藍染惣右介→良い人のフリして裏で暗躍 いつの間にかゼロ魔の世界を制圧してる
朽木白哉→貴族の何たるかを教え込む 一方でわかめ大使の布教も進める
狛村左陣→二足歩行の喋る巨大犬だと思われる 卍解の一撃で敵の大軍吹き飛んだ
京楽春水→教員たちと飲み友達に めんどくさがりながらもしっかり事件解決
東仙要→コルベールと非戦論者同士気が合いそう いつの間にか学院で出される出版物の編集長に
日番谷冬獅郎→多分なんだかんだでモテる 隊長の中では最弱クラスだけどゼロ魔の世界だとそれでもチート
更木剣八→垂れ流しの霊圧で常に誰かを気絶させる 移動はルイズを背中に乗せて
涅マユリ→研究のため学院の生徒達を実験台にしそう そんな理由で危険視される
浮竹十四郎→いつの間にか学院の教師になって道徳とか教えそう いつも肝心なところで喀血する
ご立派さまを読んだ
「欲望のままに行動しても、誰にはばかることなどあるまいぞ」
「複数の女子を愛したいと思っているのであろう……」
ありがたいお言葉に従ってハーレムルートを……やっぱやめとくのが無難か
>>668 それを言うならそもそも召喚は本来上位存在を呼び出す言葉だし
自分以下を呼ぶのを喚起という
>それを言うならそもそも召喚は本来上位存在を呼び出す言葉だし
それは召喚じゃなくて招喚じゃね
召すじゃなくて招く
召喚と言ったらほーんてっどジャンクションの会長やサモンナイトを思い出す
会長なんて召喚したが最後学園の七不思議とか増えて大変な事に……
>>682 うーん…Wiki見る限りでは召喚でも魔法だと上位呼び出す言葉っぽいな
日常ではそれで正しい用法みたいだが…
というかよく考えたらこれ多分誤訳とかその辺なのかな?
朝松健に聞いてくれば間違いない
召喚魔術と喚起魔術をごっちゃにしている人がいるようだが…ここらの定義は朝松先生くらいしかよくしらないんだから、さらっと流すといいよ。
>>666 妹のローズに比べたら、ルイズがすごくいい子に感じるだろうなアデルはww
能力も高いしあんな親父がいるとは思えんくらい紳士的で常識人だし、面白そうだ。
クトゥルフ神話TRPGだと、
普通(?)の奉仕種族や独立種族を遠方から呼ぶのが召喚、
比較的近場の対象には接触(直接来るかテレパシーかは相手による)、
遠方の神を呼ぶのが招来と分かれてるね。
大概の召喚は従属や送還がセットになっているが、接触や招来にはそれがないのがポイント。
クトゥルフは召喚=死亡フラグ。
破風の窓とか読むといかに召喚がやばいものかが分かる。
魔術の歴史とか思想関係の本読んでも、悪魔召喚とかの魔法陣って本来は
呼び出した相手から自分の身を守ったり、魔法陣の中にだけ限定的に呼び出して外に出さないようにするためだからな。
サモンサーバント無用心過ぎるって事か
かみありのアガレス様は素敵紳士だったな
元時間の神と言うのも有るが魔導書の危険性とか教えてくれちゃう慈悲深さ
ただ善意でルイズの姿に変身してフラグ建てまくって来るとか悪魔的暴走しかねないが
>>689 実は魔法陣ってのは誤記だったりする
魔法円ってのが正解だけど、まあ魔法陣のほうがゴロいいしね
さっぱり妖精を召喚
契約しようとしてさっぱり
決闘しようとクサイ台詞を吐こうとしてさっぱり
破壊の杖を盗もうとしてゴボウでさっぱり
ウェールズを暗殺しようとしてクロムウェルでさっぱり
グルグルの人来ないかなぁ。
>>690 魔法の系統が違うんだから問題ない。
系統が違うのに同じ用語を使うから混乱する。
FF5からあの宝箱を召喚する。
開けると竜が出てきて気が付いたら波に飲まれていた。
宝箱を開けなければ被害に遭わない、逃げきれば生き残れる?
使い魔が死なない(殺せない)ので新しい使い魔を喚べない。
大地震で各地に被害が出ているようですね
この掲示板に顔を出している一人として書き手の皆様、読者の皆様の御無事を祈っております
>>687 アデルと言うから、
魔王神と呼ばれ恐れられた魔王とラブラブな「俺の流儀」を沢山持ってる人かと思ったじゃないか
不人気さんのことか
そういえば4やっててヒロインはカトレアに通じるものがあるなと思った
閣下召還しても話はつくりやすいかもな
>>698 俺もデビルバスターから超魔王に進化するアイツだと思った
>>698 何故かルイズにロザリンド、テファにアデルとか電波来た
いや、テファにはアクターレでも面白そうな……
>>697 理想郷が繋がらなくなってるのだが・・・まさかな
703 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/12(土) 12:55:47.20 ID:aQbHag8k
所で作者様たちは地震の被害大丈夫だろうか・・・・・・
作者もだけど理想郷が復活しないのが不安なんだが
>>706 その心配は専門スレですべきだな。
>>679 BLEACHのキャラ召喚で気づいたんだけど、死神って普通の人には見えないんじゃあ?
>>死神って普通の人には見えないんじゃあ?
久保「え?」
読者「え?」
710 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/12(土) 16:16:16.67 ID:rijdPIO1
マキシマってのテンプレ展開のみってのは酷いな
ちっとは工夫しろよ
マユリ様の作った新型義体に入ったところを召喚ってことでどうか
見える理由とか、ゼロ魔相応にスペックを減少させるとか、色々な理由付けはそれで出来る
つーか、マユリ様召喚を見てみたい
研究者として思考停止状態を何より嫌ってる人だから
風最強論者のギトーとか超嫌われそう
マユリ様の悪意でギトーの尊厳がR-18G
ギトー先生の菊門がやばいのか・・・ゴクリ
やっと停電が治ったぜ
魔法使いなら見えるって理由もいいな。
シエスタはチャドみたいに霊感霊圧が人並み以上ってことにすればいい
なんなら実はハルケは死後の国でしたってのも…
確かにブリーチの死神世界は日本の中世みたいな世界観に近くて貧富の差が激しいから近いものはあるのか?
景気づけに誰か投下してくれないかな。
ギリアム誰か召喚しないかなゲシュ付きで
死がふたりを分かつまでって需要あるかな
今土方さん召喚考えてて不安になった
作品の需要なんか関係ない
ようは書いたものの面白さだ
うし
面白いかどうかは書ききるまでわからんが、とりあえず一巻終わりまで書いてくる
がんばれ
応援してる
724 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/13(日) 01:57:42.14 ID:Gyj+nh4C
魔界都市ブルースの続きが読みたい
>>710 いやぁ。返す言葉も無い。
何分慣れてなくてね。工夫して話を考えているつもりでも、テンプレ通りになって
しまったり、つまらないと思われてしまうようなことがあるかもしれない。
それでも話を進めていくうちに少しずつ変化は生まれていくもんだと思う。
書いてる人間と、使っているキャラクターが違うんだからね。
展開が同じでも、その同じ展開の中でそのキャラがどう動くのか
とかね。そういうものだけでも、少しだけでも楽しんでもらえればいいんだ
>>720 俺はその作品大好きだから期待している!
寧ろ書いてくれ!!
遥同時召喚なら尚更俺得だ!
>>725 ageで叩いてる時点でお察しだし
序盤がテンプレになるのはよくある事なので気にせず頑張れー
ギーシュとのイザコザをどうやって、そのキャラらしく解決できるかが作者の腕の見せどころだな。
決闘にまで発展したのは「才人が売り言葉に買い言葉をやったから」というのも大きいし、
使い魔の力を見せたいならそれ用のイベントを別途用意しても良いんだし。
そういえばシエスタが香水を拾うという展開も、「このキャラは落ちてる香水を拾うなんて事しねえ」
と作者が考えた結果だっけ?
せやな
>>725 マキシマリベンジャーに期待してるんで頑張って
マッスルリベンジャーとな
SNKのキャラは何気にジャンプリスペクトな必殺技使うの多いからな〜
>>729 そうだね。
ギーシュとのイベントを起こすか起こさないか、起こすなら経緯は変わるのか
そしてイベント後の対応、結末はどうなるか
そこからだね、ただの原作なぞりかそれ以外かの判断は。
氷竜の人、ご自分のブログで生存を報告してらしたなあ
まだ続きを書いてくれる気もあるようだし
実によかった
>>719 もちろん女の子のぬいぐるみを取りに崩れ落ちるビルに残ったタイミングでだよな
皆さんこんにちは、今週分の投下をそろそろはじめようと思います。
予約がありませんでしたら、さるさん回避で10分おいて11:50より開始いたします。
容量は持つと思いますが、無理だったら途中で次スレを立てますのでよろしくお願いします。
第三十五話
激震!二大怪獣
赤色火焔怪獣 バニラ
青色発泡怪獣 アボラス
ミイラ怪人 ミイラ人間
ミイラ怪獣 ドドンゴ
友好巨鳥 リドリアス
岩石怪獣 ネルドラント
毒ガス怪獣 エリガル
古代暴獣 ゴルメデ
カオスネルドラント
カオスエリガル
カオスゴルメデ 登場!
炎に惹かれた蛾は、最後には自ら炎に飛び込んで燃え尽きる。
象牙の塔は瓦礫となり、禁忌を犯した好奇心は、災厄となって己自信に降り注ぐ。
トリステイン王立魔法アカデミーは驟雨に洗われるその身を、いまや破滅の色に塗りつくそうとしていた。
アカデミーの象徴たる、巨大な研究塔が轟音をあげて崩れ落ち、中から青い怪獣が姿を現す。
青色発泡怪獣アボラス……強靭な肉体と太く長い尻尾、短く太い角を生やした巨大な頭部を持ち、その全身は
名前の通りに青く染まっている。赤色火焔怪獣バニラと対を成す、青い悪魔と呼ばれたもう一匹の怪獣だ。
未来に希望をつなげるために、古代人によって液体に変えて封じ込められていた古代の大怪獣は、
皮肉にも古代の神秘を解き明かそうという人間の欲求から、復活を遂げて動き出す。瓦礫を踏み越え、
観葉樹を蹴倒し、解放されたことを喜ぶかのように、大きく裂けた口からあげられた凶暴な叫び声が響き渡る。
「なんだ!? うわーっ! か、怪獣だ。逃げろーっ!」
研究塔の崩壊の轟音により、他の施設から飛び出してきた研究員たちは、アボラスの姿を見るなり一目散に逃げ出した。
雨中に彼らの白衣がひるがえり、まるで白蟻の行進のようにも見える。それが気に障ったのか、アボラスは一度空に
向かって吼えると、アカデミーの施設の一つ、魔法実験をおこなうための石造りの頑丈な建物に、巨大な顎の奥から
白い霧状の泡沫を噴射した。
「あ……建物が、泡で溶けていく!」
一人の研究員の絶叫が、まるで水をかけられたケーキのように崩れていく建物の末路を知らしめた。
これが、バニラが赤色火焔怪獣と呼ばれるように、アボラスが青色発泡怪獣と呼ばれるゆえんである。アボラスの
口から放たれる白い泡は、一瞬にして相手を包み込むと、例えコンクリートのビルでもものの数秒で溶かしてしまう
恐るべき溶解泡なのだ。
小山ほどの規模があった建物を、一瞬のうちにあぶくまみれの泥の山に変えてしまったアボラスは、次に目に付いた
倉庫らしき建物に腕を振り下ろした。轟音が鳴り、怪力に負けた倉庫は紙細工のように崩れ去る。一方的な暴虐に、
王立魔法アカデミーの敷地の半分がすでに瓦礫と化している。さえぎるものもないままに、悪魔と呼ばれた怪獣は
六千年前と同じように、破壊をほしいままにしていた。
ほんの数分で、めぼしいものを破壊しつくしたアボラスは、くるりと方向を変えて歩き出す。その後姿を追うように
飛んできた風竜の背から、エレオノールは廃墟と化したアカデミーを見下ろして、絶望に顔を染めてつぶやいていた。
「間に合わなかった……もう一匹の怪獣まで、復活させてしまった」
赤い怪獣と赤いカプセルのキーワードから、青いカプセルにも怪獣が封じ込められていると直感したエレオノールの
予感は最悪の形で的中した。魔法衛士隊から竜を借りて、死に物狂いで駆けつけてきたことも一足違いで間に合わなかった。
悠然と去りゆくアボラスの後姿を見送りつつ、研究塔の残骸のそばに竜を着陸させたエレオノールは、面影もなく
破壊された塔を見上げて、喉も割れんばかりに叫んだ。
「ヴァレリー! どこなのーっ!」
雨つぶが瓦礫を叩く中を、エレオノールは親友の名を叫びながら走り回った。
「なんてこと、元はといえば私がカプセルの開封なんかを頼んだばかりに。ヴァレリー、頼むから無事でいて」
エレオノールは、今ほど自分を責めたことはなかった。この光景を生み出してしまった責任は、どう取り繕おうが
自分にある。軽率に、正体のわからない古代の遺物などに手を出してしまったがために、アカデミーがこんなことに。
せめて、彼女だけでも無事でいてくれとエレオノールは叫ぶ。
金糸のようであったブロンドの髪は雨でべったりとしなだれ落ち、姫殿下に拝謁したときのままのドレスは
クラゲのように縮れて見る影もない。それでも、エレオノールは親友の名を叫び続けた。アカデミーが受けた被害は
計り知れない。これで、もしヴァレリーまでも死なせてしまっていたら、自分はどうすればいいのだ? なにが
主席研究員だ、なにが選ばれた者だ。こんな単純なこと、ほんの少しの慎重さがあればわかったことではないか。
馬鹿者め、自惚れ屋め。
だがそのとき、エレオノールの必死の呼びかけに、ほんのかすかだが応える声があった。
「エレオノールなの? ここよ、助けて」
「ヴァレリー! そこにいるの、今行くわ!」
大急ぎで声のしたところにある瓦礫を土魔法でどかすと、その下からはヴァレリーとルクシャナ、ほか数名の研究員が
すすまみれの姿で現れた。
「ヴァレリー! 無事だったのね」
「ええ、なんとかね。瓦礫に埋まる寸前に、彼女が空洞を作ってくれたおかげで命拾いしたわ」
「はい。でも、あまりに急なことだったので、先輩と周りにいた人を助けるだけで精一杯でした」
「ルクシャナ、あなた土系統のメイジだったのね。ともかく、無事でよかったわ」
瓦礫の穴の中から、ヴァレリーたち生存者を引き上げたエレオノールはほっと息をついた。死んでいった者には
不謹慎かもしれないが、生きている者がいてくれたおかげで、少しだが救われた気がした。
一方で、ヴァレリーたちも九死に一生を得た安堵から、なかば放心状態で雨に身をさらしていた。いつも人一倍
にぎやかなルクシャナも、今は憔悴した様子で元気がない。エレオノールはヴァレリーに、深く頭を下げて詫びた。
「ごめんなさいヴァレリー、私がカプセルの開封を急ぐように言ったせいで、こんなことに」
「そうね、あなたの責任ね。罰として、来月までに魔法学院のかわいい子、五・六人見繕っておいてもらうわね」
軽く肩を叩いて微笑したヴァレリーに、エレオノールは自分は本当によい友を持ったと眼鏡の奥の目を熱くした。
ヴァレリーも、自分もろくに警戒せずに非常事態を口実にカプセルを開けた責任を感じている。それに、仮に
エレオノールが何も言わなかったとしても、アカデミーにある以上、なんらかの理由で遅かれ早かれ封印が
解かれていた可能性は常にあった。けれど、それを直接言っても母や妹と同じく責任感の強いエレオノールは、
なによりも自分を許すまい。
少し元気を取り戻したエレオノールとヴァレリーは、すでに見えなくなりつつあるアボラスの背中を見つめた。
奴の行く先にはトリスタニアの市街地がある。エレオノールがここに来る前に、軍にも通報しておいたから
間もなく魔法衛士隊も動き出すだろう。
「けれど、あの怪獣の進撃を食い止めることはできないでしょうね」
ヴァレリーの一言にエレオノールもうなづいた。これまでの経験から、怪獣を相手に魔法やドラゴンのブレスなども
含めて、通常の攻撃はほとんど通じないと思い知らされている。しかし、エレオノールは絶望はしていなかった。
「そう、相手は怪獣、まともに戦ったら人間の勝ち目は薄いことはわかっている。それでも、できることがないわけじゃあないわ。
わたしたち学者には学者なりの戦い方がある。ヴァレリー、すまないけどもう一度手を貸して。カプセルといっしょに
見つかった未解読の文書の残りを解読してみるの。もしかしたら、怪獣の弱点が記されてるかもしれない」
「なるほど、試してみる価値はありそうね。わかったわ、アカデミーのスタッフ全員で取り組めば数時間でなんとか
なるかもしれない。すぐ取り掛かりましょう」
「あっ、先輩! 私も手伝います」
ヴァレリーは軽くため息を吐き出すと、去りゆくアボラスを見つめてきっと唇を噛んだ。自分たちは学者、怪獣に
立ち向かうのは仕事ではない。あとはド・ゼッサール隊長以下の、魔法衛士隊の活躍に期待するほかはない。
現実の脅威がトリステインを襲っている頃、幻想の世界をたゆとう才人とルイズも、最大の脅威を目の当たりにしていた。
岩石怪獣ネルドラント、毒ガス怪獣エリガル、古代暴獣ゴルメデ。三匹の怪獣に降り注いだ、毒々しい虹色の光。
デルフリンガーが言う、この戦いを混沌に変えた本当の悪魔。それがもたらした災厄が今、二人の眼前に全容を
現そうとしている。
「なんだ? 光が怪獣に、なんなんだこの気味の悪い光はよ!」
「この光、まるで生き物みたい。なんなの、なにが起こるっていうのよ!?」
「黙って見てな。すぐにわかるぜ。けっ、何回見てもえげつねえ光だぜ……」
才人とルイズは困惑しながらも、デルフリンガーの言うとおりに三匹の怪獣を見つめた。虹色の光に全身を覆われて、
彼らは爆発しそうなほどにまばゆく輝いている。それと同時に、激しい苦痛に襲われているように光を振り払おうと
身もだえしていたが、ふっと虹色の光は怪獣たちの体内に吸い込まれるように消えた。
すると、信じられないことが起こった。変化、と呼ぶのも生易しい変貌が怪獣たちに現れたのだ。
ゴルメデの頭部にルビーの結晶のような、赤色の毒々しいとげが現れた。
エリガルの腕が巨大で硬質な、恐ろしげな鎌に変わった。
ネルドラントの爪が伸び、背中や頭部に巨大な鋭角の結晶が生えた。
一瞬にして凶悪な容姿に変わってしまった三匹。しかし、もっとも変わってしまったのは外見よりも中身の
ほうであっただろう。操られながらも、どこか穏やかだった目つきは赤色の凶暴なものに変わり、それを
証明するかのように吼えて、暴れ始める。
混沌、すなわちカオスをもたらすものに憑依されたその姿は異形にして邪悪。
ゴルメデがカオスゴルメデに、エリガルがカオスエリガルに、ネルドラントがカオスネルドラントに。
カオス怪獣へと変異してしまったゴルメデたちは、今まで自分たちを操っていた者たちよりもさらに強力な
呪縛に縛られて、それまでの主人へと牙を向ける。彼らの後ろで、思うように彼らを操っていたものたちが、
狼狽しながら吹き飛ばされるまでに一分もあれば充分であった。
「んなっ!? お、おいデルフ、いったいなにが起こったんだよ!」
「見てわからねえか? 取り憑かれたんだよ。混沌を広げる、光の悪魔にな」
吐き捨てるようなデルフの言葉に、二人は愕然として見ているしかできなかった。
光に取り憑かれた三匹の怪獣は、前の主人ではかろうじてあった理性的な行動もしなくなり、目に付くものに
無差別に攻撃を加えるようになっていった。ゴルメデの火炎が森を焼き、エリガルの毒ガスがあらゆるものを
腐食させ、ネルドラントの怪力が山を崩す。
「なんてこと! こんなのが暴れまわったら、ハルケギニアなんて……」
その先は言う必要すらなかった。あの虹色の光が、今世界中にあふれている怪獣たちに無差別に
取り憑こうものなら、戦争などをするまでもなくこの世界は滅亡してしまう。
「ちくしょう! 変身できれば」
「アホ、ここは過去のビジョンの世界だと言っただろ。お前たちはここじゃ存在しないんだ」
「んなこといったってデルフ! なにがなんだがさっぱりわからないけど、この世界が滅亡しようってんだぞ。
じっとしてられっかよ」
「落ち着けっての。何度も言うが、ここは過去だ。終わったことだ。いいから黙って先を見ろ、そろそろ、あいつの出番だぜ……」
「なにっ!? そりゃ」
どういうことだ。という言葉を続けることはできなかった。デルフリンガーは、才人の言葉をさえぎるように「前を見てみな」
と告げ、その言葉に従って視線を流した先に、はじめて二人にとって知った光景が見えてきたのである。
「あの湖は……」
「もしかして、ラグドリアン湖?」
直感的に、二人は視界の先に広がる広大な湖を見てそう思った。もちろん、現在のものとは湖畔の地形や
周辺の人家などの様子もまるで違う。それでも、ここがハルケギニアだというのであれば、あのなみなみと
水をたたえた湖はほかにない。
三匹のカオス怪獣は、破壊を繰り返しながら過去のラグドリアン湖へと向けて進撃していく。
「あいつら、ラグドリアン湖を狙うつもりなの!?」
ルイズの脳裏に、以前スコーピスの砂漠化によってラグドリアン湖が危機に瀕したときの記憶が蘇った。
総面積六百平方キロメイルを超える広大な湖とはいえ、微妙な自然のバランスによって成り立っていることの
例外ではありえない。湖そのものをどうすることはできなくとも、周辺の森林を焼き払われたり、湖水に毒が
混ぜられたりしたら、湖は毒沼へとたやすく変わってしまうことだろう。
けれど、焦る二人とは裏腹に、デルフは穏やかな声で、懐かしそうにつぶやいた。
「ああ、ずっと忘れてたぜ……また、おめえの姿を見られるとはな」
そのとき、宙に浮かぶ二人の目の前を、大きな影がすごい速さで飛びぬけていった。
「きゃっ! な、なに?」
「あそこだ……あれは、鳥? いや、違う」
ありえないスピードで空を舞い、ドラゴンよりもはるかに大きなそのものを、二人は動体視力によって
許された中で必死で追った。それは、薄い空色の体と、小さいがたくましい翼を持った、巨大な鳥の飛ぶ姿。
赤いとさかを優美に風に翻し、空を切る勇姿に才人は一瞬心を奪われて、そこにひとつの記憶を重ね合わせた。
「リトラ? いや、違う!」
ほんの一瞬だけだが、才人にリトラと誤認された大鳥はラグドリアン湖へ向かう三匹の怪獣の直上を
フライパスし、上昇していった。当然、そのあからさまな挑発に気づいた三匹は、飛び道具を用いて撃ち落そうと
試みるけれど、そのときには巨鳥は攻撃の届かない高さまで飛び上がってしまっていた。
さらに、巨鳥は上空で反転してくると、急降下しながら怪獣たちに突っ込んでいった。その降下角度があまりに
急だったために、対応しきれない怪獣たちの周りに巨鳥の吐いた光弾がいくつもの火柱をあげる。
「やるぅ!」
あざやかなヒットエンドランの攻撃に、才人は思わず歓声をあげていた。まるで、ゴメスを翻弄する
リトラのような胸のすく光景。先ほど、才人はその怪獣にリトラの姿を見た理由をなんとなく察した。
むろん、落ち着いて見れば目の前の巨鳥は、リトラとはとさかを持つこと以外はほとんど似ていない。
しかし、錯覚であったとしてもそう感じさせた何かがあの怪獣に見えたのも確かだ。あのリトラと……人間のために
その尊い命を犠牲に戦ったリトラに通じるもの。
巨鳥は、上昇と降下を繰り返して攻撃を続ける。だが、そのうちに才人とルイズは巨鳥の放つ光弾が一発も
怪獣たちには当たらず、三匹がしだいにラグドリアン湖から離れていっているのに気がついた。
「怪獣を傷つけずに、誘導しようとしているんだ」
「あんな危険を冒しながら? いえ……優しいのね。まるで、ちぃ姉さまみたい」
ルイズのその言葉で、才人は自分の感じた既視感の正体を知った。そうだ、怪獣たちは操られているだけ、
彼らにはなんの罪もありはしない。そう、救おうとする意思を翼に込めて飛ぶその巨鳥こそ、エギンハイム村の戦いで
タバサとキュルケを救った、友好巨鳥リドリアスだった。
彼は、あのときムザン星人に果敢に挑んでいった個体と同一のものかはわからなくても、その勇敢さには
いささかも劣るところなく戦いに望む。怪獣たちは猛り狂って撃ち落そうとするものの、きりきり舞いさせられるばかり。
と、ふと才人はリドリアスの背中に誰か人影らしきものが乗っているのに気がついた。
「あれ? おいルイズ、あれ女の人じゃないか?」
「女ぁ? あんた、こんなときにまでなに言ってるのよ。みさかいないのも大概にしないと殺すわよ」
「違うって! ほら、あの鳥怪獣の背中、人が乗ってるんだって」
「はぁ? そんなこと言って、嘘だったら……」
ルイズは才人のうったえに、半信半疑ながらも目を凝らしてみて驚いた。
リドリアスの背中に、確かに人が立っていた。才人の言ったとおり、長身だが華奢な体つきは女の人のようで、
短く刈りそろえた金髪が空によく映えている。また、彼女の顔の両脇から伸びた耳の形が、ティファニアと
同じ形をしていることから彼女がエルフらしいということは読み取れた。彼女は寒風吹きすさび、常人ならば
重力の変化で自分の状態を把握することもできないような場所にありながら、リドリアスの背をしっかと掴んで前を向いている。
「すごい」
独創性のかけらもない表現が、何よりも彼女を正しく表していた。風竜の何倍ものスピードで高軌道を
続ける怪獣の背から、振り落とされもせずに乗り続けられるとは竜騎士などの非ではない。ラルゲユウスを
操れる烈風カリン並みの技量はもちろんのこと、タバサとシルフィードのように両者のあいだには深い
信頼関係があるに違いない。
なびく髪に邪魔されて顔はうまく判別できないけれど、彼女はリドリアスの背から槍のような武器を振るって
リドリアスに指示を与えているように見える。やはり、どこかへ怪獣たちを誘導しようとしているようだ。
「きれい……」
ルイズは、母カリーヌの戦いぶりを見たときのように、うっとりと目を細めてつぶやいた。まるで妖精のように、
華麗に宙を舞う彼女は何者も犯しがたいような気高さにあふれている。
と……彼女がひときわ高く槍を天に向かって掲げたとき、二人は槍を掲げた彼女の左手にありうべからざるものを見た。
彼女の左手の甲が輝いて、見覚えがある……否、見忘れられるわけがないルーンが浮き出ていたのだ。
「あのルーンは!?」
「ガ、ガンダールヴじゃねえか!」
そう、才人がルイズの使い魔だったことを示す魔法の印と同じものが彼女の手にもあったのだ。ドラコとの
戦いの際に才人が一度絶命し、契約が解除されてしまったために消え、再契約もしていないことから才人からは
消滅したままになっているが、あの形は忘れるわけはない。
なぜエルフがガンダールヴのルーンをと、驚愕する二人の前で、エルフの女性は大きな槍をタクトのように
操って、リドリアスに行く先を教えている。最初は信じられなかった二人も、それを見るにつれて確信を深めていった。
「あの武器を自在に操る力、以前のサイトとそっくり。ほんとに、ガンダールヴだっていうの」
「この時代にもガンダールヴがいたのかよ」
「そりゃそうさ。これが虚無の力が見せている映像だってことを忘れるな、虚無には常に虚無の使い魔が
付き従う。そう、あいつは強かったな。いや、あいつらか……」
「えっ」
それはどういう、と言いかけたときだった。ガンダールヴの女性は、これまでになく大きく槍をふり、
リドリアスはそれが彼の目であるかのように、大きく翼を翻した。はっとした二人が、視線をリドリアスから
その先へと流すと、その先は草原になっており、小高い丘になったところに数人の人間が立っているのが見えた。
「おいまさか、たったあれだけの人数で立ち向かうつもりなのかよ!」
「無茶だわ。勝てるわけがないじゃない! いくらガンダールヴがいるからっ……」
ルイズは罵声を途中で呑み込んだ。そうだ、ガンダールヴは虚無の使い魔、ならばその主人も当然。
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そう気づいたとき、ルイズは丘の上にいる人たちの中で、真ん中にいる小柄な男性が高く杖を掲げて
いるのに気がついた。遠くて顔はわからないけれど、彼の杖に集中している光には見覚えがある。
そして、聞こえるはずもないのに彼が詠唱している呪文の内容が、耳の奥に響く気がした。
”エオヌー・スーヌ・フィル・ヤルンクルサ……”
間違いはない。たった一度しか詠唱したことはないが、その呪文の内容は一言一句違わずに記憶している。
次に彼がなんと詠唱するのか、手に取るようにルイズにはわかった。長い詠唱が終わりに近づき、リドリアスが
彼らの上空を飛び越えていく。
そして、呪文が最後の一小節に入ったとき、絶妙のタイミングで三匹の怪獣たちが草原に足を踏み入れた。
呪文が完成し、彼は杖を振り下ろす。その瞬間、三匹の怪獣へむけて、白い閃光がほとばしった。
「うわっ! なんだ」
目の前でカメラのフラッシュをたかれたような、人間の網膜が受け取れる許容量を超えた光に、才人は
本能的に”見る”という行為を手放した。
しかし、ルイズはその鳶色の瞳を白く塗りつぶされながらも、見る行為をやめようとはしなかった。
この輝きは、あのときに見た光と同じ……わきあがる懐かしさに心を焼かれながら、ルイズの唇は
疑うことなくひとつの言葉を口ずさんでいた。
「エクスプロージョン……?」
光芒は視界を侵略し、あるときにぷつりと消えてなくなった。
その後には、大きく吹き飛ばされて崩おれた三匹の怪獣の横たわる姿のみがある。
「なんて、威力なの……」
一撃のもとに三匹もの怪獣を倒してしまった魔法の威力に、ルイズは呆然とするしかできなかった。才人も、
なにが起こったのかまるで理解できていない様子であったが、ルイズのつぶやきを思い出すと、はっとして言った。
「おいルイズ! い、今のが……お前の使ったっていう、き、虚無の魔法ってやつなのか!?」
「え、ええ。あの輝きは確かに。でも、わたしが使ったときはこんなとんでもない威力じゃなかったわ」
声を震わせるルイズに、またデルフリンガーの声が告げた。
「そりゃそうさ娘っこ、駆け出しのひよっこのお前さんなんかと比べ物になるわけがねえ。覚えときな、あれが
正真正銘、元祖の虚無の使い手の力さ」
「元祖? そ、それってまさか!」
虚無の使い手の元祖、それに値する人間の名をルイズは知っていた。いや、ハルケギニアに生を受けた
人間であるのならば、誰でも知っている当たり前のこと。虚無を操った人間は歴史上たった一人しか存在しない。
「し、始祖……ブリミル?」
「そのとおり、あいつが虚無の系統の始祖。ま、お前さんの遠いご先祖さね」
「いいいい! えええええっ!?」
もはや、びっくりするとかそういう次元は通り過ぎていた。肉体はないはずなのに、才人の耳にルイズの
絶叫がキンキンと響いてくる。これはルイズでなくても、たいていのハルケギニアの人間でそうなるだろう。
始祖ブリミルといえば、ハルケギニアの歴史上最大の聖人である。もちろん、敬虔なブリミル教徒であるルイズの
衝撃は才人の想像したそれを大きく超えていた。
ブリミルと呼ばれた男の左右には、それぞれ数人の男女が控えている。虚無の使い魔は全部で四人いたと
いうから、彼らの中にガンダールヴの仲間もいるかもしれないと二人は思った。
しかし、倒れ伏した怪獣たちを見下ろすと、ここまでする必要があったのかとやるせない気持ちもわいてくる。
彼らはあくまで外囲的な力で操られていただけで、悪意があったわけではないだろうに。
しえん
「怪獣三匹を一撃で倒すなんて、これが本当の虚無の威力……」
「いや、ルイズ。あれを見ろよ!」
「えっ……ま、まだ生きてる!」
なんと、怪獣たちは横たわっていても、手足をわずかにけいれんさせているところから、気絶しているだけの
ようであった。驚く二人に、デルフは今度は誇らしげな声で語った。
「威力を調節して、失神させるだけにとどめたのさ。あいつは……あいつらは、決して無益に命を奪ったりはしなかった」
「すっげぇ! すごすぎるぜ」
「ええ。これが、虚無の力の本当の使い方なのね」
エクスプロージョンの威力を調節したということよりも、怪獣たちを殺さなかったということのほうが二人を喜ばせた。
特に、ルイズは心の中のもやを吹き飛ばされたような晴れ晴れとした思いを感じていた。虚無の系統という、
突然手に入れてしまった強すぎる力をもてあましていた彼女にとって、虚無が破壊するだけの力ではないと
わかったそのことは、闇夜を終わらせる朝日も同じ輝きを持っていた。
だが、悪魔の光に取り憑かれた怪獣たちは、まだ完全に戦闘不能に陥ったわけではなかった。宿主の肉体が
使用不可能になったと悟ったのか、ゴルメデの、ネルドラントの、エリガルの体から虹色の光が離れていく。
そのために、憑り付かれていた三匹は元の姿に戻った。しかし、それぞれの怪獣の肉体から抜け出した光は、
一瞬まばゆく輝いたかと思うと、憑り付いていた怪獣とまったく同じ姿で実体化したのである。
「なにぃ!? おいデルフ、ありゃあ」
「あれが奴らの能力さ。奴らは怪獣に乗り移って操るだけじゃねえ、憑り付いていた怪獣から力を吸い取って、
実体化することまでできるんだ」
まったく、あのえげつねえ力にはブリミルも最後まで悩まされたぜと、デルフは吐き捨てた。
オリジナルから分離したカオスゴルメデ、カオスネルドラント、カオスエリガルは凶暴な遠吠えをあげる。
さらに、エクスプロージョンで失神し、エネルギーも抜き取られて身動きのできなくなっているオリジナルの
怪獣たちへと、もう用済みだとばかりに攻撃を加えだして、才人とルイズはともに激昂した。
「あいつら! さんざん利用するだけしておいて、ひでぇことを!」
「デルフリンガーの言うとおり、悪魔ね。あいつらは」
手を出せるなら、今すぐにでも駆けつけたい。瀕死のゴルメデたちに向け、カオス怪獣の攻撃が容赦なく
加えられる。このままではすぐにも殺されてしまう。そのとき、降下してきたリドリアスのキックがカオスゴルメデに
きれいにヒットし、隣にいたカオスネルドラントとカオスエリガルもドミノ倒しになぎ倒される。
そう、ブリミルと仲間たちが、目の前の暴虐をそのまま見るに耐えかねて助けに入ったのだ。
「よっしゃあ! さっすがルイズのご先祖様。そのままさっきのでかいのでやっちまえ」
才人がうれしさで歓声をあげた。それに、今度の相手は本物の怪獣ではなく、いわばコピー品だ。遠慮なく
ぶっとばしても誰にも迷惑はかからない。
だが、カオス怪獣たちは起き上がると、ブリミルたちへと火炎や毒ガスを放った。とっさにブリミルのそばに
控えていた者たちが魔法で風の障壁をはるが、完全には防ぎきれずに余剰エネルギーが暴風のように
ブリミルたちを襲う。
さらに、カオス怪獣たちの邪悪な気配に誘われたのか、方々から別の怪獣たちも現れ始めた。
それらは、才人の知る限りの名前を並べるなら、暴れん坊怪獣ベキラ、毒ガス怪獣メダン、宇宙礫岩怪獣グロマイト。
さらには、先にウルトラマンAが苦杯をなめさせられた赤色火焔怪獣バニラ、青色発泡怪獣アボラスも木々を
蹴散らして集まってくる。カオス怪獣たちも合わせて総勢およそ十体……どれもその本性からして凶暴で、
残忍な凶悪怪獣ばかりである。
ウルトラ支援
こういう時だからこそウルトラマンに頼りたくなる・・・よなぁ・・・
「おいちょっと、冗談だろ! いくら虚無の魔法がすごくたって、あんな怪獣軍団を相手にできっかよ」
「戦力が違いすぎるわ! 逃げて、あなたたちが死んだらわたしたちが生まれなくなるのよ!」
愕然とした二人は、ここが過去のビジョンだということも忘れて必死で叫ぶ。あれはもう勝てる勝てないの
レベルの問題ではない。しかしそれでも、デルフは落ち着いた声で二人に告げる。
「ふっふっふ、黙って見ててやりな。確かに、あいつらの戦いは決して楽なもんじゃなかった。でもな、お前たちに
大勢の仲間がいるように、やつらも決して孤独じゃなかったのさ」
傷ついたブリミルたちを守るように、リドリアスが降下してその傍らに着陸する。
さらに、ブリミルたちの後ろから、援軍も姿を現した。人間、翼人、獣人、エルフ、見たこともない亜人たち。
二十人にも満たない少数だけれども、皆恐れもなくブリミルの周りに集まっていく。
「人間と亜人が、あんなに!」
現代では、顔を見ればすぐ殺し合いに発展してもおかしくないものたちが、共に肩を並べて戦っている。
信じられない光景に圧倒されるルイズ。それでも、十体もの怪獣軍団を相手にしては勝ち目など望めない。
そう思ったとき、さらなる光景が二人を圧倒した。
「こっちにも、まだ怪獣がいたの!?」
ルイズの叫びこそが、デルフの言葉の真意だった。援軍に続いて、彼らの後ろにも怪獣が出現してブリミルたちの
味方についた。これでリドリアスも含めてブリミル側にも怪獣が五体。それらのほとんどは才人にとって見覚えのない
種類だったものの、先頭に立つ金色の怪獣には記憶があった。
「あの、麒麟みたいな怪獣は確か……」
中国の伝説上の動物に似たシルエットを持つ、その怪獣の特徴を才人は素早く頭の中に蘇らせた。
”あの怪獣は確か科学特捜隊の時代に出現した奴で、あいつといっしょに眠っていた……そういえば、亜人たちの中に……”
しかし、考える余裕があったのはそこまでだった。いかに伝説の魔法”虚無”と五匹の怪獣であっても、相手は
彼らの倍の数を誇る大戦力だ。まともにぶつかれば勝ち目はない。それでも、ブリミルと仲間たちは恐れずに
凶悪怪獣たちへと挑んでいく。
”いったい、この時代でなにが……ブリミルたちは、どうしてこんな戦いをしなければいけなかったのか!?”
戦いを見守りながら、才人とルイズは答えが出るはずもない疑問を何十回も頭の中で反芻した。
ところが、終わりは唐突かつ理不尽にやってきた。激しい戦いの中で、リドリアスが翼に攻撃を受けて不時着し、
その背からエルフの女性が投げ出される。それを見たブリミルが何かを叫んだように見えたとき、過去のビジョンは
霧がかかったように輪郭を失い、代わって白くて無機質な光が満ちてくる。
光芒は世界を白く塗り替え、その中で薄れていく意識の中で、二人はデルフのかすかな声を聞いた。
「なんだ、せっかくこれからってときに次回へ続くかよ。ブリミルのやろう、中途半端な仕掛けしやがって。
お前ら、どうやら夢の時間は終わりのようだぜ。目を覚ましな、目を覚ましな……」
デルフの声が遠ざかり、いくらかの時間が経過したのだろうか。
静寂の中から、しだいに水の音、雨粒が木の葉を叩く音が二人の耳を打った。
「ぅ……ううん」
うっすらと目を開けたルイズの目に、最初に映ってきたのは大きな木のうろの中であった。樹齢は軽く千年を
超えているであろう大木の中に生まれた、小さな部屋。自分たちはそこに寝かされていた。
「どうして、こんな……」
バニラとの戦いに敗れた後、いったい誰が自分たちを安全な場所に運んでくれたのかとルイズは思った。
まだぼんやりするまぶたをこすって、周りを見回す彼女の目に、うろの外へと出て行こうとする人影が見えた。
「あなた……」
青白い肌をして、猿のような頭をした人影に、ルイズは亜人かと思った。けれど、夢のせいか恐怖はない。