あの作品のキャラがルイズに召喚されました part277

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?
そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part276
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1275223740/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/16(水) 01:43:49 ID:IF8AC4rG
スレ立て完了
3名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/16(水) 10:07:43 ID:O+FK9Y99
4名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/16(水) 15:53:10 ID:xVu5cF+8
>>1 乙
このテンプレも年季が入ってきたなあ。
今の環境じゃルイ・キュル・シエじゃなくて、ルイ・テファ・アンアンか、ルイ・タバ・カリンだ。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/16(水) 22:12:27 ID:yf400KT3
なんかそういう名前の人みたいだなw

>>1
6名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/16(水) 23:03:19 ID:SxNbM+ZF
クラースの人が戻ってくるのを待ってるんだが、クロス元の公式で設定更新(?)があったから
もしかしたら途絶してしまうんだろうか…?ゲームの方もすごく楽しみだが、ちょっと複雑だ。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 01:22:17 ID:L2thBJgs
キラー7のハーマン召喚とかってネタあったっけ?
車椅子の老人が使い魔かとガッカリするルイズだったが、状況に応じて人格ごと体格まで入れ替わるスミス同盟って個人戦力としては、スゴくない? まぁ、どう転んでもガンダールヴじゃなく、第四っぽいけど。
たぶんジョゼフの使い魔はクン・ラン。
ヴィットーリオは……いっそ、剛一ワールドつながりで「NMH」のトラヴィス@ガンダールヴとか。
一方、その頃、テファは「FSR」からモンド・スミオ@ミョズニトニルンをひっそり召喚していたが、別にヤツは何もできなかったぜ!
8ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 01:40:58 ID:QsZP1/S7
やはり一ヶ月はかかってしまうのか・・・
空いてるようなので50分頃から投下します
9名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 01:48:48 ID:iw5b3Qsw
支援
10ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 01:49:32 ID:QsZP1/S7
 

「ふっ……来たようだね」
 もはや見物人すらいなくなり閑散としたヴェストリの広場での真ん中で佇んでいたギーシュは、背中越しに語りかけた。
 マントを翻して振り向き、手にした剣を肩に担ぐ男――柊を見据える。
『待たせちまったな』
「いいや、待たせたのは僕のほうさ……」
「……おい」
 最後の小さな声をスルーしてギーシュはニヒルに笑みを浮かべると、手にした造花の薔薇を彼に突きつけた。
 柊は生ぬるい視線でそれを見やると、溜息をついて視線を反らす。
「あの日の約束を果たしに来たよ」
『あんな約束を律儀に覚えてるなんざ、馬鹿は直らなかったみてえだな』
 どこか自嘲じみたその声にギーシュは軽く髪を掻き揚げ、鋭く柊を見据えると薔薇の杖を振るった。
 振り落ちる七枚の花弁が青銅のゴーレムとなって立ち上がり、かったるそうにしている柊に各々の武器を突きつける。
「馬鹿はお互い様さ……今のキミを見たら彼女は一体何と言うだろうね」
『何も言わねえさ。アイツはもう何も言う事はできねえ……』
「ならば僕は彼女の遺した言葉に報いよう! かつてキミを愛した彼女のために!」

「待てやコラッ!?」
 我慢できなくなって柊は叫んだ。
「彼女って誰だよ! 意味のわかんねえシナリオ展開してんじゃねえぞ!」
 しかしそれを意にも介さず彼の手にした魔剣――デルフリンガーが急かすように喚く。
『ほら相棒、構えて構えて! 若気の至りをこじらせたような煮え台詞吐き出してッ!』
「ふざけんな!? なんで俺がお前等の寸劇に付き合わなきゃなんねーんだよっ!?」
 苛立ち紛れに地面を蹴った柊にギーシュはやれやれと肩竦めながら口を開いた。
「代わり映えしない毎日に適度な刺激を加えただけじゃないか」
『そうそう。せっかく俺と小僧で考えてやったのにノリの悪い相棒だぜ』
「お前等いつの間に……てか、代わり映えしないのはお前がいっつも一方的にやられてるからだろうが! こんな小芝居考えてねえで捻りの効いた技の一つでも考えろ!」
「何を言ってるんだね! ちゃんと考えているよ!」
「あぁんッ!?」
 唸る柊を前にギーシュは何故か不敵な笑みを浮かべて拳を握り締めた。
「燃えるシチュエーションでの弱者逆転率は100%と古来から決まっている! いわゆるフラグという奴だ!」
『その通り! 恐らくやられる直前に小僧が執心のあのドリル娘が「ギーシュ、負けないで」とかそんなカットインが……』
「それだ! 完璧だよデルフリンガー! もう何がなんだかわからないがとにかく負ける気がしないね!」
 盛り上がる二人に柊は肩を落とすと、面倒くさそうにデルフリンガーを構えてから吐き捨てた。
「……わかった。もういいからさっさとかかって来い。フラグごとへし折ってやるよ」
「よく言った! 今日という日を明日の伝説にしてあげるよ!」

 待ってましたと言わんばかりにギーシュが叫び、七体のワルキューレが一気呵成に柊に殺到した。


 ※ ※ ※


11ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 01:52:33 ID:QsZP1/S7
 

 フリッグの舞踏会から二週間ほどが経ち、フーケやら何やらの騒動も学院の日常に埋没したある虚無の曜日。
 ルイズとエリスの二人がいつものようにアルヴィーズの食堂で朝食を取っていると、やはりいつものように柊が一人遅れて食堂に姿を現した。
 柊達が召喚されて以来日課のように続けられている行為であり、最初の頃は露骨に顔を顰めていた生徒達ももはや気にする仕草もない。
 ルイズ達のテーブルに歩み寄り椅子にやや乱暴な動作で腰を下ろした柊にルイズは恒例の嘆息を漏らした。
「……毎度の事ながら、よく飽きないわね」
「俺は正直飽きがきてんだけど、ギーシュの奴がつっかかってくるんだよ」
 眉を小さく顰めて漏らした柊の態度に少し違和感を覚えたルイズだったが、彼女は軽く頭を振った後頬杖をついて柊を見つめる。
「まあ歯牙にもかけられてないのに懲りずに挑み続ける根性だけは認めてやってもいいけど……そういえば何回目だっけ?」
「……」
 すると柊は何故かぐっと唇を噛み締めた。
 ルイズが怪訝そうに眉を潜めると、唐突に食堂の扉が派手に開かれその向こうからギーシュが現れた。
「お答えしよう!」
 戦いの激しさ(やられっぷり)を物語るようにボロボロになっているギーシュはしかし何故か異常にハイテンションでつかつかとルイズ達に歩み寄り、天を仰ぐように両手を開いた後更に言葉を続ける。
「初めて決闘をした時から数えて今日で二十七回目だ! ちなみに戦績はヒイラギの二十六勝さ!」
「……?」
 ギーシュの吐き出した台詞を理解するのにルイズは少しだけ時間がかかった。
 彼の不可解な態度もそうだが、それ以上に不可解な台詞を吐き出したような気がする。
「二十七回やって二十六回ヒイラギが勝った、って………一回負けたのっ!?」
「くっ……!」
 思わず叫んでしまったルイズの声に柊が顔を歪めて呻き、拳をテーブルに叩き付けた。
「そのとーり!! 本日二十七回目の決闘において遂にこの僕、ギーシュ・ド・グラモンが勝利を収めたという訳さあ!! やはりフラグは偉大だね!!」
 高らかに叫んだギーシュの宣言に食堂の生徒達がざわっと声を上げた。
 驚愕と疑惑の声が食堂を駆け巡り、その喧騒の中心にいるギーシュが心地良さそうにうんうんと頷く。
 ルイズは呆然として肩を震わせている柊を凝視した。
「え……何? ギャグ?」
「何を言ってるんだい、僕等はいつだって真剣勝負さ! なあヒイラギ?」
「……ッ!!」
 爽やかに語りかけるギーシュと対照的に柊はぎりぎりと歯を食いしばり、拳を握り締めている。
 激しく悔しそうな顔を見る限り、冗談ではないようだ。
「スクウェアの杖を斬ったりフーケを倒したりしてるのにドットのギーシュに負けるとか……」
「……うるせえな! 七対一だぞ、二十何回もやってりゃ一回ぐらいまかり間違うだろぉ!?」
 我慢しきれなくなったのか、柊は立ち上がってルイズに詰め寄った。
「他所の世界じゃ三十六分の一かもしれねえけど、こっちじゃ最悪六分の一で酷い事になっちゃったりするんだよ! ヒーラーの回復魔法でうっかり殺されかけたりもするんだよっ!?」
「メタな事言うのやめなさい!」
 声を荒らげて憤る柊だったが、横からギーシュが軽く肩を叩いて宥めるように口を開いた。
「落ち着けよヒイラギ。まあね、キミもね? フーケを捕まえたりと色々頑張ってるけど、やはり本物の貴族との壁は厚かったという事さ……!」
「……てめえ、もういっぺんヴェストリの広場に来いや。ボコボコにしてやるよ」
 胸倉を捕まえ殺気すらも漂わせて唸る柊に、しかしギーシュは全く動じる事なく軽く笑って髪をかきあげた。
「あっと、再戦はやぶさかじゃないが生憎これからモンモランシーに勝利の報告をしなきゃいけないんでね。その後ならいつでも相手になってあげよう」
 そして彼は柊の腕を払って素早く距離を取ると、愕然としている周囲の生徒達を睥睨するように一回転すると踊るように入り口に向かって歩き出した。
「それでは諸君、引き続き歓談を楽しんでくれたまえ。ごきげんよう! あーははははは!!」


12ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 01:55:50 ID:QsZP1/S7
 

 耳障りな高笑いを上げながら立ち去っていくギーシュを拳を震わせたまま見送った後、柊は再び椅子に座り込んで行き場のない拳をテーブルに叩きつける。
「くそ、くそっ! 一回勝ったからっていい気になりやがって……!」
「……信じらんない」
 罪のないテーブルを殴り続ける柊を半眼で眺めながら、ルイズは大きく溜息をついた。
 柊の力量は何度も眼にしているので決闘ごっこで負けたところで幻滅するという事はさすがにないが、それでもギーシュなどに足を掬われ悔しがっているこの姿をみるといくらかがっかりしてしまう。
 やはり自分を護ってくれる騎士は完全無欠であって欲しいのだ。
(……騎士って何よ)
 妙な思考に行き当たって思わずルイズは顔を歪めてしまった。
 柊は騎士ではなく使い魔――でもない、ゲボクだ。
 舞踏会でしでかした失態は気の迷いでしかない。そういえばお酒もそれなりに入っていた。
 つまりそういう事なのだ。
 必死に自分を納得させ、それでも何となく納得できずにルイズは柊から眼をそらした。
 そこで視界に入ったのは、先程の喧騒など我関せずといった風にテーブルに座ってO-PHONEを見つめているエリスだった。
「……ねえ、ヒイラギ」
「あぁ? なんだよ」
 テーブルを叩くのをやめて突っ伏している柊の袖を引いて、ルイズは彼に呟くように声をかける。
「……あの子、どうにかして」
「あの子? エリスか? ……って」
 柊は頭を上げてエリスに視線を移すと、小さく呻いて渋い顔を浮かべた。
 フリッグの舞踏会以来、エリスは時間があるとああしてO-PHONEを眺めているのだ。
 とはいえ別段普段の仕事をおろそかにしている訳ではない。
 ルイズの世話も給仕の仕事もキッチリとこなした上でその余暇にこうしているので、ルイズとしてもあまり強気に出ることが出来ないのだろう。
 柊はルイズに顔を寄せてやはり囁くように言葉を返す。
「お前がなんとかしろよ。アイツのご主人様なんだからよ」
「言ったけどこれだけは聞いてくれないのよ。それに何か怖いし……あんた、あの子の先輩なんだから言ってやんなさい」
 ルイズに肘でつつかれると、柊は大きく息を吐いて頭をかき、エリスに声をかけた。
「なあ、エリス」
「……あ、先輩。おはようございます」
「おう、おはよう」
 まるで今までのギーシュとのやりとりがなかったかのような態度で挨拶するエリスに柊は僅かに視線をさまよわせ、そしておずおずと切り出した。
「あのさあ、エリス。『ソレ』、頼むから消してくれねえか……」
 O-PHONEを指差して言う柊に、エリスはにっこりと満面の笑みを浮かべて、返した。
「嫌です」

 エリスが見ているのはO-PHONEの待ち受け画面――フリッグの舞踏会の時に撮った画像だ。
 中央に所在無さげに立ち竦む柊と、その両脇に満面の笑顔のエリスといまいち何をしているのかわかっていない表情のルイズ。
 ルイズがコモンスペルを使えるようになった事で場は一時騒然としたが、再開されて後にエリスは柊と踊ることに成功したのである。
 しかも希少極まったこのチャンスにおいてエリスは一切の抜かりがなかった。
 記念という事でこうして思い出を形に残したのである。
 ちなみに撮影はコルベール。彼はこの機能に興味津々で舞踏会が終わるや否や柊を自分の研究室に拉致していった。
 ……ともかく、そんな訳でエリスが見つめているその画像はこの先あるかないかという程の大事な思い出なのであった。
 もっとも柊にとっては正直一刻も早く消し去りたい記憶なのだが。

13ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 01:58:23 ID:QsZP1/S7
 

「あっ、それじゃそろそろお仕事に行ってきますね」
 エリスは時間を確認するとおもむろに立ち上がり、意気揚々とアルヴィーズの食堂を後にしようとした。
 訴えを一刀両断された柊は肩を落としたまま彼女を見送ろうとしたが、はたと気付いてエリスに声をかける。
「あ、ちょっと待ったエリス」
「はい?」
 振り返って首を傾げる彼女を確認してから、柊は隣にいるルイズに視線を移して口を開く。
「ルイズ。お前、今日は虚無の曜日だから特にする事はないよな?」
「……まあ取り立てて急ぐ用事はないけど」
 図書室に行って異世界に渡る方法を探そうとしていた……とは口に出来なかった。
 柊やエリスをファー・ジ・アースに返すというだけではなく病気の姉を治療できる可能性がある、という名実伴った理由もあるのだが面と向かってそれを言うのは何か気恥ずかしい。
 ルイズの返事に柊は一つ頷くと、改めて二人を見やってから切り出した。
「二人に頼みたい事があるんだ」



 ※ ※ ※


 約20分後。
 ルイズの部屋の中は非常に重たい空気が流れていた。
 椅子に座って足を組んでいるルイズと、その後ろに控えるように経つ柊。
 そしてテーブルを挟んで対面には、ルイズと正対する形で黒髪のメイドが椅子に座っていた。
 ちなみにエリスは彼女をここに案内した後、彼女の仕事を代わりに請け負っているため部屋にはいない。
「なんで呼ばれたのかはわかってるわよね。えぇと……」
 あまり気乗りしない風にルイズがまず口を開き、途中で口を噤んで眉を寄せた。
 給仕の名前なんていちいち覚えていないので言葉に詰まってしまったのだ。
 するとそれを察したのか当のメイドが小さい声で漏らした。
「シエスタと申します」
「そう、シエスタっていうの」
 ルイズに名を呼ばれシエスタは派手に肩を揺らし、顔を俯けた。
 見るからに怯えた表情のシエスタは僅かに震えながらじっと目の前に置かれた紅茶を凝視し、時折盗み見るようにちらちらとルイズとその脇にいる柊に視線を送る。
 そんな彼女の態度を受けて柊は小さく溜息をつくと、宥めるように声をかけた。
「こんな形で呼び出してすまねえと思ってる。けど、話だけでも聞いてくれねえか?」

 初対面の時から柊を避けまくっているシエスタの事は以前から気にはかけていたのだ。
 これまでに何度か彼女と話をしようと試みた事もあるが、彼女は柊を見たとたん遮二無二に逃げ出して話を聞いてくれもしないのだ。
 無論柊が本気になれば逃げ出すシエスタを捕まえることなど造作もないが、実力行使して無理矢理話を聞きだすというのもためらわれる。
 そんな訳でこうしてルイズ達に頼んで呼び出してもらったという訳だ。

14ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 02:01:12 ID:QsZP1/S7
 

「一応確認するけど、初めて会ったのは俺が使用人宿舎に泊まった時でいいんだよな?」
「……はい」
「……会ったことはないけど予言とか古文書だとか知っていた……ってのもないよな?」
「こ、古文書……? いえ、それもないです……」
 びくびくと応えるシエスタに柊は首を捻るしかない。
 全く知らない相手なのにいきなり逃げ出して避け続けるなんて一体どういう事なのか。
 そこまで怖がられるような顔つきはしていないとは思うのだが。
 渋面を作る柊をちらちらと見やりながら、シエスタは言葉を選ぶようにして喋り始めた。
「その、ヒイラギさんみたいな人に会うのは初めてで、まさかそんな人が本当にいるとは思わなかったから、その、どうしていいかわからなくって……」
「そんな人? どういうことだ?」
「それは、そのぅ……」
 問われてシエスタは当の柊ではなく、何故か正面にいるルイズに眼を向けた。
 窺うような視線を向けられて彼女は首を傾げたが、シエスタは顔を再び俯けて視線を反らすと再び口を開く。
「……あるお方に言われたんです。ヒイラギさんのようなヒトとは折り合いが悪いからあまり関わって欲しくないと……」
「あるお方? そいつが俺を知ってたのか?」
「いえ、別にヒイラギさん個人ではなくてヒイラギさん"のような"ヒトです」
「……悪い、意味がちょっとわかんねえ。俺みたい、ってなんなんだ」
 するとシエスタは顔を上げて、まるで観察すように彼を凝視して言った。
「だって、ヒイラギさんは普通の人とは違いますよね? 雰囲気って言うか、纏ってる空気が違うって言うか……」
「……」
 そこまで言われてようやく柊は一つの可能性に思い至った。
 普通の人とは違う、というのは当たっている。何しろ柊はこの世界の住人ではない異邦者だ。
 しかしシエスタは同じ異邦者であるエリスとは普通に接している。
 エリスと柊の違う点。柊だけが違うという、『纏っている空気』。
 それはつまり――
「もしかして月衣の事か?」
「カグヤ? なんですそれ?」
「……ウィザードって知ってるか?」
「魔法使い(ウィザード)? メイジとは違うんですか?」
 本当に意味がわからないと言った風に首を傾げるシエスタを見て、柊は拳を額に当てて唸ってしまった。
 他に考えられる線がないのでおそらく予想は当たっているだろうが、彼女にはその手の知識が全くないようだ。
 しかし彼女に知識がないという事もウィザードを察する事ができるというのもさほど深刻な問題ではない。
 いわゆる霊感が高いとか勘が鋭いとかそういった類の人間は知識や力がなくとも何となく見抜いてしまう事がファー・ジ・アースでも稀にあるのだ。
 柊は気を取り直してシエスタに向き直ると、彼にとって問題となりうる事について尋ねた。
「その、俺みたいなのに近づくなって言った『あるお方』って誰なんだ?」
「……!」
 途端、シエスタの表情が強張った。
 健康的な顔が青白くなり、明らかに動揺して視線をせわしくなく彷徨わせる。
「それは、その……」
 彼女は口ごもりながら柊から視線を外し……再びルイズを見やった。
 舞台を整えたはしたものの話の内容的には完全に蚊帳の外だったので頬杖をつきながら二人の動向を見やっていたルイズだったが、シエスタに眼を向けられて僅かに眉を潜め首を捻る。
 するとシエスタは顔を俯けてしまった。ちらちらと上目遣いで様子を窺ってくる彼女の態度に、ルイズは少しいらついて口を開いた。
「……何よ。わたしがどうかしたの?」
「! も、申し訳ありません! その、あの……!」
 慌てて叫んでテーブルに額をぶつけそうな勢いで頭を下げるシエスタを見てルイズは溜息をつく。
 彼女は腕を組んでシエスタを見下ろすと、努めて威圧的に語りかけた。
「もう逃げられないんだから、包み隠さず全部話しなさい」
「……っ」
 ルイズの声にシエスタの身体がびくりと震えた。
 しばしの沈黙の後、彼女は囁くように漏らした。
「……モリガミ様です」

15ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 02:03:28 ID:QsZP1/S7
 

「モリガミ様?」
「はい。私の故郷……タルブ村で祀られている、村の護神様です……」
 言い終えた途端、シエスタは唐突に立ち上がった。
 テーブルに身を乗り出して呆気に取られているルイズに詰め寄ると、今にも泣きそうな顔で訴える。
「で、でも! だからって始祖ブリミルをないがしろにしている訳ではないんです! 本当です! ですから……!」
 必死に懇願するシエスタを見やってルイズは小さく息を吐き、軽く手を振って見せた。
「田舎の土着信仰にまで目くじら立てるほどブリミルは狭量じゃないわよ。だから落ち着きなさい」
 ロマリアにいる聖堂騎士などであればわからないが、少なくともルイズ自身はそこまで排他的になるほど熱心な信仰心があるわけではない。
 その言葉にシエスタは気が抜けたように椅子に座り込み、心から安堵の表情を浮かばせた息を吐いた。
 視線を落とした先にある紅茶に眼を留めて、ルイズに促されてそれに口をつける。
 一息入れて落ち着いたのを見計らうと、改めてルイズはふうと息を漏らし半眼でシエスタを眺めた。
「……で、その護神様だっけ? それにヒイラギに近づくなって言われたの?」
「……はい。近づくな、とまでは言われませんでしたが、あまり関わって欲しくないと……」
「はあ。カミサマにねえ」
 俄然話が胡散臭くなってきた。
 異世界から来た柊達は千歩ほど譲るとしても、まさかメイドからそんな妄言が飛び出てくるとは思わなかったのだ。
 まさかこのシエスタも異世界の人間とか言うオチなのだろうか。
 ちらりと横目で柊を見てみると、やはりというか彼が神妙な顔つきで顎に手を添え何事かを思案している。
 ルイズは再び溜息をついてシエスタに向き直った。
「もしかして神託でも受けたっていうの? 貴女、護神様っていうのに仕える神官だか巫女だかってお話なの?」
「いえ、護神様が村に降りた当時はそんな感じだったそうですけど、今ではもう全然普通の家です。それと、神託ではなくって護神様に直接そう言われたんです。
 あの方……護神様は本当にタルブ村に『いる』んです」

 ――約百年ほど前の話。
 当時のタルブ村は創始以来類を見ないほどの凶作に見舞われていたという。
 土地は干からび水は枯れ果て風も乾き、その日食べるものすらまともに用意できない。
 その惨状に村人達は見切りをつけて村を離れ、土地を耕す者が減って恵みの兆しは更に遠ざかるという悪循環に陥っていた。
 僅かな村人が村の終焉をただ待つばかりだったその時、一人の旅人がふらりと訪れた。
 旅人は村の惨状を大いに哀れみ、小高い丘にて『神』を降ろした。
 神の施した恩恵は大地をあまねく包み、枯れ果てたその村に豊穣をもたらした。
 村人達は大いに喜び、旅人を称えて村に向かい入れ、神を降ろしたその丘に社を建ててこれを祀った。
 土地を離れていた者達も次第に戻り、村はかつての活気を取り戻した。

「……まあ、説話としてはよくある話ね。で、その社に護神様が住んでる、と?」
「はい。騒ぎにならぬようお隠れになられていたそうですが、私が偶然護神様の住まわれてる『場所』に紛れ込んでしまって……」
「……はあ」
 ルイズはとろんとした目つきで答えた。
 社とやらに住んでいるなら誰にだってわかるものだろうに。
 そして実際に神が住んでいるとなれば噂にならない訳がない。
 どうにもこうにも胡散臭い話だったが、当のシエスタは至って真面目な表情だった。
 ルイズは話に付き合うのを放棄した。
「ちょっとヒイラギ。この子と話したいって言ったのアンタでしょ。いつまでわたしに話させるのよ」
「ん、あぁ……」
 相変わらず神妙な顔つき――幾分厳しさが増している――で柊は答えると、シエスタを見やった。
 すると彼女は柊が尋ねるより先に彼に向かって尋ねた。
「ヒイラギさん。『サロウォン』って方、ご存知ですか」
「サロウォン……」
「さっきの話の、村を訪れた旅人……それが私のご先祖様で、サロウォンという名前だそうです。護神様はヒイラギさんのような人はサロウォンと同郷だって」
「……まあ、同郷っちゃあ同郷だな」
 柊は目に見えて渋い顔で答えるしかなった。

16ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 02:07:34 ID:QsZP1/S7
 

 ――偉大なる魔術師、サロウォン。
 その強大な魔力は果てがなく、裏界に存在する侵魔の王、魔王達をすら数多従えたという。
 彼の残した魔術書『小さな鍵』は近年に発見され、『侵魔召喚師』と分類されるウィザード達が用いる召喚術の礎になっている。
 百年前なら年代が違うので本人ではないだろうが(その転生者という可能性もあるが)、いずれにせよその『サロウォン』がこの世界で神を降ろしたのは事実なようだ。
 サロウォンを名乗る柊の同郷の人間……ウィザード。
 彼が降ろしたという神。
 そしてその神はウィザード達とは折り合いが悪いらしい。
 もはや疑いようもなく、魔王である。
 しかもそれが本当に『神』であるとしたら、裏界の序列第三位である公爵級以上――すなわち侵魔の中でも上から数えるほどの強力な魔王だ。

「……シエスタ」
「はい」
「これから一緒にそのタルブ村って所に連れてってくれねえか」
「「えぇっ!?」」
 柊の提案にルイズとシエスタは同時に声を上げた。
 特にシエスタは椅子を蹴倒すように立ち上がると、慌てふためいて悲鳴のような声を搾り出す。
「そんな、困ります! ヒイラギさん達にとっては折り合い……仲が悪い相手なのかもしれませんけど、私――タルブ村の皆にとってあの方は大事な護り神なんです! だから、お願いですから、そっとしてあげて下さい……!」
 今にも手と膝を床につけて頼み込まんばかりのシエスタに彼は軽く頭をかくと、彼女を真っ直ぐに見据えて口を開いた。
「すまねえ、でも聞いちまった以上は放っておくことはできねえんだ。それに――多分シエスタが心配してるような事にはならないから」
「え、っ……本当、ですか」
 柊は不安を露にして覗き込んでくるシエスタの瞳を正面から受け止めて大きく頷いた。
「向こうから手を出してきた時は荒事になるかもしれねえが、こっちからは絶対手を出さない。約束する」
 魔王がこの世界に召喚されている、というのは確かに放っておけない事実なのだが、今回の件に限って言えばファー・ジ・アースの事情とは少々違っている。
 なにしろその魔王が召喚されたのは百年前。
 もしソイツが世界を滅ぼすだとか支配するだとかいう事を企んでいたとしたら、もうとっくに手遅れになっているはずだ。
 今現在においてハルケギニアが存続し世界レベルでは一応の平穏が保たれ、その魔王の存在が明らかになっていない時点でそういった類の危険性はあまり高くないと言ってよかった。
「頼む。確認したいだけなんだ」
 言って柊は頭を下げた。
 シエスタはしばし柊をじっと見つめ……やがて肩を落として漏らすように言った。
「……わかりました。護神様と話をするだけなら……」
「本当か? すまねえ、ありがとな」
 頭を上げて安堵の息を漏らした柊を見て、シエスタは小さく苦笑を閃かせた。
 それまで見せた事のない彼女の柔らかい表情を見て柊が首を傾げると、シエスタは彼を興味深そうに見つめながら口を開く。
「実は、エリスさんからも何度か説得された事があるんです。貴方は私が困るような事は絶対しないから話だけでも聞いてあげて欲しい、って。……とっても信頼されてるんですね」
「……そりゃ買いかぶりすぎだ」
 柊は苦笑を漏らしながら、照れ臭そうに頬をかいた。シエスタも可笑しそうに小さく笑う。
 落ち着いた頃合を見計らったのか、そんな二人に声をかけたのは沈黙を保っていたルイズだった。
「ねえ、これから行くって本気なの? ていうか、タルブ村って何処なのよ」
 言われて気付いたのか、シエスタはあっと息を漏らして困った表情を浮かべてルイズに向き直った。
「えと、ここからだとラ・ローシェルの向こう側になりますから、馬で三日ぐらいかかるかと……」
「三日!? 一週間もここを空ける気!?」
 ルイズは顔を顰めて柊を睨みつけた。
 つられるようにシエスタも柊に視線を注ぐ。
 しかし当の柊は別段どうという事もないと言った風に腕を組んでから二人に向けて言い放った。
「それぐらいなら多分日帰りで行けるだろ」
「……は?」


 ※ ※ ※

17ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 02:09:50 ID:QsZP1/S7
 

 柊達は部屋を出た後エリスを呼び戻し、事情を説明した後ヴェストリの広場に集まっていた。
 三人の少女が見守る中、柊は月衣の中から『破壊の杖』――ガンナーズブルームを取り出して機能を解放する。
 尾部が展開し淡い魔力光が零れだすのを確認した後、彼は少女達を振り返った。
 既に箒を見知っているエリスは特に驚く表情は見せないもののシエスタは口をぽかんと開けてそれを凝視し、ルイズは疑念をあらわにした顔で口を開く。
「……ホントにその『破壊の杖』が人を乗せて飛ぶの?」
 フーケとの戦いの際に破壊の杖が柊を伴って空に浮いていたのは見た事があるが、改めてこうして見てみるとどうにも信じがたい。
 ルイズの嘆息交じりの声に柊はどこか自慢げに胸を反らして答えた。
「ちゃんと飛ぶぞ。まあ飛ぶだけしかできねえが、この際問題ねえ」
 オプションパーツであるタンデムシートがあれば複数人数が同乗した上で戦闘を行う事も可能なのだが、残念ながらこの箒はオプションの類はついていないノーマル仕様のものだ。
 戦闘を考慮しない移動手段として見るだけなら、少々安定しないものの一人二人が乗ったところで問題なく運用できる。
「……けど、ホントにお前も付いてくんのか?」
「当然よ。わたしはあんたの主人なんだから、監督する責任があるもの。エリスと違ってどんな不始末をするかわかんないし」
「はあ……まあいいけど」
 柊はエラそうに胸を張るルイズを半眼で見やると、嘆息しながら漏らした。
 箒を使ってタルブ村に行く、多分一日で戻ってこれるとこの広場に来る前に説明したら、だったら自分も一緒に行くとルイズが言い出したのである。
 別に荒事がある訳ではない――厳密には起こさないと約束した――ので、柊の側からは特に断る理由もなかった。
 柊は頭を一つかいた後、エリスに向き直った。
「まあそんな訳だから、ちょっと行ってくる。何かあったら0-PHONEの方に連絡くれ」
「それはわかりました、けど……またルイズさんと外出……しかも今度はシエスタさんまで……」
 微妙に不満そうな表情で漏らすエリスに柊はうっと呻いて視線を彷徨わせた。
「こ、今度暇があったらどっか連れてくからさ。……な?」
「柊先輩そればっかり……でもわかりました……」
 うな垂れるエリスから逃げるように柊は箒に跨り、ルイズとシエスタを促す。
 二人は半信半疑ながらも彼を挟むようにして前後に搭乗する。
 柊が箒を操作して僅かに機体を上昇させると、前後から嬌声が上がった。
「ひぁっ! う、浮いてる……本当に浮いてます……!」
「流石にタンデムなしで二人だと安定しねえな……まあ大丈夫か。もっと高く上がるし早さも結構出るから、ちゃんとくっついといてくれ」
「く、くっつくって……」
 柊に正面から抱きつく格好になっているルイズは頬を染めて彼を見上げた。
 しかし柊は既に背中にしがみついているシエスタを気にする風もなく眉を潜める。
「落っこちたら洒落になんねえだろ。三人乗りで急旋回して掬い上げるなんてやりたくもねえ」
 言いながら柊は強引にルイズを抱き寄せた。
 一瞬で顔が紅く染まり、ルイズは反射的に柊から離れようと身を捩じらせかけ――ぞくりと背中に悪寒が走って凍りついた。


18ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 02:11:44 ID:QsZP1/S7
 

 ルイズがぎこちない仕草で視線を巡らせると、殺気すら漂うような気配を纏ってエリスがこちらを見つめていた。
 端正な眉をぎゅっと寄せて、何かを堪えるようにお仕着せの裾を握り締めていた。
「ど、どうしたエリス?」
 柊もそれを感じ取ったのか、恐る恐る尋ねる。
 彼女はわなわなと肩を震わせた後大きく息を吸った。
 そして――
「ひーらぎ先輩のダブルクロスぅぅ〜〜!!(2nd Edition)」
「版上げ!?」
 わっと顔を手で覆い脱兎の如く駆け出してしまった。
 あっという間に広場から去っていくエリスの姿を呆然と見届けた後、柊は小さく溜息を漏らした。
「はー……そういやトリスタニア行ったときも置いてけぼりだったもんな……今度本当にどっか連れてってやんねえと」
 すまなそうに一人ごちた柊を前後の少女達は驚愕の目線で迎えた。
「ひ、ヒイラギさん……」
「あんた……」
「なんだよ。ンな事よりさっさと行くぞ」
 少女達の視線の意味など解する事もなく柊は言って箒を握った。
 魔力光を吐き出して箒が上昇し、塔の頂上と同じ高さにまで到達する。
 ルイズとシエスタはエリスの事も忘れて身を強張らせ柊にしがみついた。
「タルブ村はどっちだ?」
「え、あ、あっち、です」
 柊に問われてシエスタは眼を白黒させながらも村のある方向を指差す。
 彼は一つ頷くと箒の操作に意識を集中させた。
 操者の意思に呼応するように尾部のスラスターから魔力光が迸った。
 どん、と割れるような音が響き渡り身体が強烈に後ろに引き摺られるような錯覚に陥る。
「〜〜〜〜!!!」
「きぃやぁあぁあああ!!」
 二つの悲鳴を伴いガンナーズブルームが輝線を曳いて蒼穹を駆け抜けた。



 ※ ※ ※


19名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 02:13:57 ID:iw5b3Qsw
支援
20ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 02:13:58 ID:QsZP1/S7
 

「いやぁあああ!! 怖いこわいコワイこわい!!!」
 体中に猛烈な風を感じながら、ルイズは柊の身体にしがみついて喚いた。
 宙にぶら下がる足をばたばたと動かしながらもがくルイズに柊は眉を寄せて呆れたような声を出す。
「怖いってお前、メイジなんだから空くらい……ってそうか、お前飛んだことないのか」
「し、失礼ね! 空を飛んだことくらいあるわよ! 母様のマンティコアに乗せてもらったわ!」
 ルイズは怒りも露に柊を見上げて叫んだ。
 その拍子に訳のわからない速さで吹っ飛んでいく眼下の景色が眼に入り、慌てて眼を閉じてしがみつく。
「だったらなんで怖いんだよ……」
「だって、だって……!」
 少なくともマンティコアはこんな速さで移動したりしない。
 だが速いというだけならそこまで怖いとは思わなかっただろう。
 彼女が何より怖がっているのは『足元が頼りない』というただ一点だ。
 マンティコアに限らず騎獣ならばその背にしっかり乗っているため安定しているのだが、この箒は棒っきれに腰掛けているだけに等しく安定させるのが柊の身体一つしかない。
 特に足が宙に投げ出されているというのがより不安定感を増している。
 そんな状態でマンティコアなど比較にならない速さでぶっ飛んでいるのだから、ちょっとでも力を緩めると落っこちてしまいそうな気がするのだ。
 もう外聞だの照れだの何だのと言っていられる心境ではなかった。
 少なくとも、柊が嘆息交じりにこんな言葉を吐き出すまでは。
「……シエスタはちゃんと落ち着いてんだろうが」
「!?」
 ルイズははっとして柊の背中に張り付いているシエスタを見やった。
 彼女もルイズと同様怖いのだろう、渾身の力で彼の身体に抱きつき頭を背中に埋めている。
 周りを見ないよう目はぎゅっと瞑っていたが、その顔はほんのりと朱に染まっていた。
「あっ……ヒイラギさんの背中、大きくてあったかい……」
 耳鳴りのように風切り音が響く中、シエスタのそんな呟きが何故かはっきりと聞こえた。
「こらあ、メイドぉ! なに図々しくしがみついてんのよ!」
「きゃあっ、ヒイラギさんこわいっ」
「なにが『きゃあっ』よ! はしたなく引っ付いてるくせに猫被ってんじゃないわよ!!」
「馬鹿、やめろ! ただでさえ安定しねえのに暴れんじゃね、え――あ!?」
 落ちないようにしがみつかれながら更に前後から押し引きされた柊が素っ頓狂な悲鳴を上げた。
 がくんと箒が大きく揺れ――


 ラ・ローシェルの住宅区。
 最初にソレを発見したのは、小さな女の子だった。
「あっ、流れ星!」
 喜色を浮かべて声を上げた少女に、一緒に遊んでいた男の子の一人が馬鹿にしたような声を漏らした。
「ばっかじゃねえの。もう朝になってるのに流れ星なんて見えるわけないじゃん」
「ホントだもん! ほら、あそこ!」
 言って少女が指を差すとそれにつられるように少年は空を見上げ、そして眼を丸めた。
「……ホントだ」
 他の子供達も青空に尾を引いて流れていく世にも珍しい流星を発見し歓声を上げる。
 狭い峡谷の空をなぞるようにして通り過ぎていく流星を見送り、少女が「お願い事しなきゃ」と両の手を組む。
 少しばかり大人ぶっている少年は内心同じことをしたい衝動に駆られながらも、気のないように鼻を鳴らして流星を見やり――
「あっ!?」
 声を上げた。
 瞑目して願い事をしていた少女も眼を開き、
「あっ」
 同じように声をあげる。
 真っ直ぐに走っていた流星の光がかくんと地面に向かって折れ曲がり――地平に向かって一直線に落下していった。
 一部始終を見届けた少年はぽかんとした表情のまま、ぼそりと呟いた。
「……落ちた」

21ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/17(木) 02:15:17 ID:QsZP1/S7
今回は以上。
前々回でエリスの事をうっかり入れ忘れていたのでフォローをかねて思い出を形に残しました
向こうで他の人に見られたら星が降ってくるかもしれません(比喩ではなく文字通りの意味で)
そしてシエスタを回収して速攻でタルブ村行き決定。破壊の杖は半分くらいこのためだったり
魔王に関しては・・・ここの部分はそんなに捻っていないので状況からわりと誰か予想はできるかもしれません
22名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 02:20:59 ID:iw5b3Qsw
ヒイラギ……
無茶しやがって(AAry
23名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 02:21:38 ID:XT93JUHT

このデルフとギーシュは天が演じてるだろw

護神様は、誰だ?
豊穣を与えて人間に好意的で古代神由来の魔王……
24名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 02:37:40 ID:a4vGoJTO


とりあえず、夜中だってのに

>「ひーらぎ先輩のダブルクロスぅぅ〜〜!!(2nd Edition)」
に大爆笑したぞww
25名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 04:21:45 ID:fGgAV1ds
>>21さん乙

ところでテンプレの
>一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
ってなんなの?22行以上のレスでも普通に見れるけど
エラー表示なしで異次元に消えるってどうゆうこと?
26名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 04:29:44 ID:Hg7WVHtP
>>25
書き手向けの注意だが、一行目になんの入力もせず改行のみ、
且つ22行以上ある場合は書き込み完了って出ても書き込めてないという現象がおきる
今がどうかは知らん
27名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 07:37:30 ID:n94yQ2NX

ギーシュにクソワロタwww
28名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 07:54:06 ID:W7sbagqL
待っていたましたよ、夜闇の人! そして、下がる男おつー!
柊連司のタイミング:常時の特殊能力『天性の女たらし』が順調に発動中、
しかし本人に自覚ないから最後に残るは折れたフラグが無数に広がるハルケギニア(爆笑



>>23

タルブ村の飢饉の原因が渇水によるものだとすれば……大体三柱、
うち一柱は侯爵なので除外、もう一柱はどちらかというと海に関連してるし、
捻っていないという作者の言葉を推理に加えれば、ふぅ姉さん(仮名)?
あと中の人は、じゅんいっちゃんやえんどーちん、社長という可能性あるぞ!



>>24

3rdまでだから、@1回だけ……なんだけど、予想を上手い意味ではずしてくれる
夜闇の人ならきっと面白いことになりそうだw
というか、このエリスの中の人は『プレイヤー=声優』状態なのだろうか……、
本当にフリーダムすぎるw
29名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 11:25:43 ID:3ZE4Ou5W
夜闇の人乙。
原作は詳しく知らないが、相変わらず面白い。
不憫キャラっぽいエリスが可愛いなw
30名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 20:08:19 ID:JwLw1QvE
夜闇の人、乙であります
中の人のダイス運的には負けもあり得るんだよなあ。シナリオ序盤も序盤ならリソース出し惜しむし

天候操作ができて人好きで騒ぎが嫌いっつーと一柱しか思いつきません
あと、古代神にも侯爵以下は居りますぜ。クロウ=セイル様とか
31名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 20:52:34 ID:XT93JUHT
幻砦終盤の王子のダイス運はアレだったな
まさかあんな事になるなんて……
32名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 20:57:22 ID:GlVGLeJX
夜闇の人、乙です。

このデルフとギーシュは、天が乗っ取ってるw
間違いないw
33名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 21:27:16 ID:+fWALaaA
夜闇の人、乙。
相変わらず wiki の12話の欠けてるとこは直さないんですね……・。
あれで完全なのかしら。明らかに欠けてるけど。
34名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 22:05:52 ID:4aZrZwjo
乙です

ははは、甘いな>>32。デルフが天で、ギーシュは加納ダイヤと見たぜ!

ところで、ベル様(高所の王バァルゼブブ)もアスターテ(イシュタル)も元を正せば豊饒神ですぜ?

35名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 22:15:10 ID:EQRHJx7F
>>33
いやあれは叫びがかきけされたって演出でしょう。
明らかにそうとしか見えないのは、はてさて私の感性がおかしいのか
36名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 23:25:36 ID:Nw9/nfb6
そこで煽る必要があるのか?
37名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 23:41:21 ID:u4tVFlId
やっぱ初期ルイズって妙にムカつくというか、イラッと来るなぁ……。
二次創作のキレイなルイズに毒されてんのかな?
38名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 23:50:45 ID:GIINhgbA
そりゃまあ、二次創作ってのは、
「私にはこのキャラがこういう風に見えてますよ」、あるいは「私にとってこのキャラクターの理想系はこんなのですよ」とアピールするみたいなもんだしなぁ。

特に初期ルイズってのは人格的に未熟だし(むしろ主役級キャラの人格が初期段階で成熟してたらそれはそれで問題かも)、その理想系に持っていくためにも『未熟な頃』は描写せねばなるまい。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 23:52:01 ID:5Lrpc7NB
だからAA連射埋めは悪質な荒らしだってまだわかってないのがいるのか
40名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/17(木) 23:55:34 ID:Ovi8COpl
最後の『落ちた』が印象的過ぎますね。
あまりにも柊『らしい』といいますか。
41名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 00:36:47 ID:iEVSvVH8
だから薙ぎ払うなと何度も言われてるだろうに……>前スレ
なんで無理に埋めようとするんだ。
42名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 00:50:55 ID:ifqFqRZp
では掘り返すか・・・・・・ざくざく。
なんとネクロマンサーを掘り出した。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 01:29:23 ID:jO/yO63c
まぁ閉鎖危機だなんだとか言われてる頃じゃないんだからどうでもいい。
むしろ埋めがどうのと触ってると便乗して荒れる流れに持っていかれるかもしれないし
そっちの方を警戒してそもそも触るのを自重するべきだろう。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 04:27:20 ID:4aRmIB+u
今でも専ブラ推奨ってのがトップにある板もあるし、どうでもいいなんてことは無いと思うけどな。
それに知らない人だって居るだろうし、埋めはやめた方がいいってレスはしてもいいだろう。
そんで便乗して荒れる流れに持っていこうとする奴が出てきたら、その時こそ触らなければ良いんじゃない?
45名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 04:32:34 ID:xlIvTtdx
切りよく埋めたいというのはわからんじゃないけどねぇ。
いつまでも前スレで話されていても困るし。
46名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 04:36:05 ID:4aRmIB+u
何が困るのかさっぱり分からない。
47名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 06:52:48 ID:t+m/oF0p
AA連投して埋めた奴、二度とこのスレにくんなよ

以前もあんだけ言われてまだやるか?
おまえの首から上は帽子掛けか?
脳味噌が詰まってないのか?

埋め行為が悪いんじゃない。サイズのでかいAAを短時間で何発も投下すると負担になるんだよ。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 07:04:30 ID:9JzOSP2O
いい加減ウザい
49名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 07:07:35 ID:0+NLToYS
15巻ぐらいから読んでないんだけど原作のワルドさんの調子はどう?
相変わらず出番なしかかませ?
50名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 08:23:26 ID:MKfA2oTq
バーチャロンよりVコンバータ召喚

…いやごめん何でもない
51名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 10:10:54 ID:Ld/0Orf/
>>49

最新刊でようやく出てきた
マチルダと同棲してたぞあいつ
52名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 11:51:11 ID:0+NLToYS
>>51
ワルドのくせに生意気だ
53名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 12:20:44 ID:7xCc0pjN
>>50
流石にセガサターン本体だけ召喚しても…
でも純正Vクリスタルなんぞ召喚した暁には学院一体全員の精神が
「持っていかれ」てしまう…。いっそ安心院さまを…いや、もっと駄目か。

あ、ビデオゲーム「バーチャロン(M.S.B.S.Ver.3.3)」を召喚、あれこれ
試行錯誤して動かしている内に電脳暦の世界で…。
54名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 13:29:25 ID:HarM/lb2
ルイズが召喚したのがサイトじゃなく霞拳志郎なら・・・
面白そうだな
55名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 13:52:43 ID:9K7pgIdv
現在公開中のアイアンマン2からトニースターク。
ジャンクからマークT作れるし頑張ればハルケでもアーマー作れるかな?
56名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 13:56:19 ID:9TYWQSMH
TONY STARK WAS ABLE TO BUILD THIS IN A CAVE!!
WITH A BOX OF SCRAPS!
と叫ぶ教皇がなぜか頭に浮かんだ。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 15:19:40 ID:nwXXlJ5C
才人とルイズに再会する事になったら、めっさ気まずそうだなワルドさん。

才人「ヒモっすかワルドさん(ニヤニヤ)」
ルイズ「堕ちたわねワルド…(軽蔑)」
58名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 16:27:47 ID:uk+vXg8R
それ以前に覚えていてもらえるだろうか?
ジョッカーの復活怪人みたく
「また会ったな! 今日こそ貴様を」
「ライダー・キーック!」
ドッカーン
のように5分も持たずに散っていく姿が浮かんでしまう。
59名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 18:47:03 ID:vBU37/C2
ジョッカーじゃノリダーじゃないか
60名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 19:04:05 ID:oQA3BMXY
>>58

思わずアルビオン軍がまとめて「ノリダーカーニバルアンドフェスティバル!」で全滅する風景が浮かんだんだが
61名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 20:16:04 ID://+Bnt2W
>>55
社長がトリスティン魔法学校に誘拐されても自作したパワードスーツで脱出してしまう図しか浮かばない
62名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/18(金) 20:26:55 ID:ifqFqRZp
V3の予告だけやって投げ出すんですね。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 02:03:21 ID:Iju0Q3LT
遅れたけど夜闇の人乙
ルイズとシエスタにサンドイッチされて
もしかしたら大きい山と小さい丘も感じてるかもしれないのに
まったくぶれない柊さんさすがですね
64名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 20:18:37 ID:57weNw9s
ファンファン大佐・・・・・・。
65名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 21:54:38 ID:krllG4or
仮面ライダーか……アンドバリの指輪のエピソードを考えると、昭和ライダーよりも平成ライダーのファイズが合っている気がする。
オルフェノクは一度死んだ人間が蘇る事によって進化した姿、でしたし。
問題は、スマートブレインの衛星が無ければ変身出来ないということ。まあ、その辺は『場違いな工芸品』で逃げられそうですが。
66名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 22:38:23 ID:zc5zrinH
平成ライダーの設定は 使えそうなのが多いと思う。
『アギト』なら
始祖ブリミル→白の青年 として
・魔法→ばら撒かれた 光
・虚無の系統→『アギト』の力
で、黒の青年が 聖地に現れて…

『龍騎』なら
・神崎のタイムベントが原因不明の失敗を起し ミラーワールドとハルケギニアが融合してしまい…

『響鬼』なら
・死後 ハルケギニアに召喚されて復活した『斬鬼』が、ヴィンダールブの力を得て 音撃で幻獣を操り…

こんな具合で。
67名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 22:57:50 ID:O19P0BiY
べつに召喚される側の世界の設定とか無理に使わなくていいよ
ややこしくなるだけ
68名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:07:50 ID:etNv+i13
折角のクロスオーバーでそれは無いだろ…
69名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:11:26 ID:krllG4or
ハルケギニアの幻獣には人間を襲うものも少なく無いので、それを魔化魍ポジションに置けば対して問題は無いのでは?
神の笛ヴィンダールブ、つまり『笛』の鬼であると解釈するとか。
70名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:17:50 ID:9TL4Ptmy
逆に言うとクロスオーバーだから無視しちゃっても構わないってことなんだよ。
まぁ程度にも寄るけど。
71名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:33:42 ID:57weNw9s
設定云々の話はさんざん前スレで語られてなかったか?
72名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:38:29 ID:A6Ql7X8U
クロス元のストーリーは基本無視して良いと思うんだよね。
いなくなったら困るといっても中心はゼロ魔世界なんだから気にする必要は無い。

>>65
ファイズは既にあったと思った。SBの衛星は別途召喚された形で。
73名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:42:04 ID:KMfVFqEH
レコンキスタ1のぬいぐるみ師・遍在のワルドと申されたか
74名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:42:57 ID:IG+7DSGC
今思ったんだが変身ヒーロー物の場合、変身アイテムが召喚されるクチってありなんかな?
75名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:45:00 ID:FNmOc41L
>>74
UFOマン(from UG☆アルティメットガール)が召喚されたのはあったな…
76名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:50:52 ID:oGHmyoFa
>>74
基本的にはそう言ったアイテムって、条件が合わなければ
そもそも変身出来ない事が多いからなぁ。
77名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:52:20 ID:/oFHL2Zm
武器とか薬とか広義的には変身アイテムな無生物も結構あるな
78名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/19(土) 23:55:21 ID:9ikF1cU0
>>72
そうは言っても、召喚されたキャラは気にするんじゃない?
79名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 00:13:54 ID:VEyZM58s
ルーンは望郷の思いを阻害し意識しにくくさせます
80名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 00:38:13 ID:6yvcMuL9
それが判明した後とか怖すぎるな
81名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 02:04:29 ID:VLVB85il
たいていの召喚されるキャラは死んでたり目的を達成した後だよね
82名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 02:07:35 ID:dAeUluFt
ルイズの他にはガリア組とかキュルケもあるけどウェールズとかコルベールが召喚ってのはないのかな?
83名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 02:10:20 ID:6yvcMuL9
ルイズに手本を見せると言うことで、何故かコルベールが召喚をしたというSSがあったような
84名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 02:12:21 ID:KcbQFX28
>>82
小ネタで、ウェールズがネギを持った不細工な竜を召喚していたような。
85名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 07:00:01 ID:FZ/+ZkTc
ネギを持った竜(の右目)で戦国BASARAの小十郎を召喚。

間違いなくブチ切れます本当にありがとうございました。
86名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 09:37:54 ID:+YAZZsZL
>>79
それでもシグルドなら
弟と従妹のために自力で帰ろうとするだろう
87名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 09:56:14 ID:VEyZM58s
>>86
ルーン「つまり、その二人の事を思い出さなければ帰る気にならないのですねぃ?」
88名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 09:58:27 ID:vrnpy0Yr
>>85
中の人繋がりでDボウイとか…駄目だデンジャラス過ぎる
89名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 10:37:49 ID:nnIt9GD3
レギュラーじゃにゃかったにょねー

ゲストだったのねー

おつかれさーん
90ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 10:54:59 ID:Vkq4/YTl
日曜日だってのに ここまで投下なし。
せめて 呼び水にでもなれれば。
5分後より 投下予定です。
91ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 10:59:15 ID:Vkq4/YTl
Misson 10「伝説のフェニックス」(その3)

不夜城。眠らぬ城。
通常それは 真夜中でも明かりの消える事の無く 賑わいの絶えない盛り場を指す言葉。
だが、ここは 別の意味で『不夜城』だった。
アルビオン王党派 最後の砦、ニューカッスル城。
自軍の数百倍に達する敵兵力に包囲され、何時 最後の攻撃を受けるか判らない この状況で、交代で休憩を取ったとしても 眠る事が出来るものは誰も居なかった。
それでも ここには陥落寸前の城砦に付き物の『敗残兵の群』といった雰囲気は無い。
死をも怖れぬ 等とは言わない。
国の為 民の為 誇りの為、戦い抜き 生き抜いた猛者だけが残っていた。
決して逃げない。敵兵から。使命から。そして 死から。
城内の皆が 夜襲に備えて敵を見ていた。空と地上を埋め尽くす『敵』を。
が、そこに降って来たのは 弓矢でも攻撃魔法でも無く 
「どけどけどけぇ〜い! 当るとイテェぞぉぉぉ!!」
素っ頓狂な怒鳴り声と、
『ドーーーン!!!』
一本の剣だった。

「イッテェェェェェェ!!!
 ナンだよ相棒、ここぁ石じゃねぇかよ! せめて地面に落としてくれヨォ…」
前庭の石畳に突き刺さった剣。それを取り囲み 杖や剣を構える兵士達。どこぞの伝説の剣のようなシーンだったが、当の剣は何かシマらない事ををボヤいていた。
兵達の頭に浮かぶ『?』、剣の方も 周りの様子に気付いたのか
「わ〜 タンマタンマ、今のナシ!やり直すからヨ!!」 何故か(口も無いのに)大きく一つ深呼吸をして
「あ〜 おほん。
 ニューカッスル城に集う 勇敢なる者達よ。
 我が名はデルフリンガー、
 トリステイン貴族 ヴァリエール公爵が三女 ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の所有するインテリジェンスソードにして、伝説の使い魔が用いし剣 『ガンダールヴの左腕』也!
 本日は アルビオン王家 アンリエッタ・ド・トリステイン姫殿下の先触れとして、まかりこしたぁ。
 早急に ウェールズ皇太子への御取次を願いたい!!
 (おっ!今の俺っち かなり格好良くね?)」
まあ ( )の中まで口に出さなきゃ そうだったかもしれないね。
『余計な一言』は、既にデルフリンガーの固有スキルと言っても過言では無いだろう。
92ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 11:01:18 ID:Vkq4/YTl
戸惑いと困惑が広がるなか、一人の若い騎士が兵達の輪から歩み出る。
「伝説の使い魔の剣とは、中々ハッタリが効いているね、デルフリンガー君。
 歓迎するよ。ようこそ 地獄の一丁目へ。」
年に似合わぬ 凄みのある笑いを浮かべて言う。
鎧兜は無数の傷と血に塗れていたが、その青年は何処か品格を感じさせた。
「ハッタリぃ?
 悪ぃが俺は本物でね。お前さんがどう思うかは勝手だがな。
 それよりニーチャン、『王子様』にゃ伝えてくれたかい?」
「ああ 名乗るのが遅れて済まない。
 僕がアルビオン王国皇太子 ウェールズ・テューダーだ。
 ちなみに僕も 『本物』だよ。」
なんと、御当人登場!ヒョーゥと魔剣が口笛を吹く。口も無いのに器用なもんだ。
「サスガは戦場、話が早ぇーや!
 しかし 俺っちが言うのもナンだが、イイのかい。
 コッチの身元も確かめねぇで いきなり御大将がこんな怪しいヤツの前に来ちまっても?」
「いや 問題ないさ。無骨な君には不似合いの その指輪を見ればね。ほら。」
殿下は手甲を外すと、鎧の胸元からネックレス状に加工された指輪を引き出した。
その指輪のルビーと デルフリンガーに取り付けられた『水のルビー』が 同時に淡い光を放つ。更に 双方から七色の光が弧状に伸びて結び合い、虹を形作った。
「『四の指輪』は惹かれ合う。『風』と『水』、出会えば虹を描く也。
 王家の秘伝の一つだよ。もっとも 僕は一目見て、その指輪が何なのか判ったけどね。
 それを持つ以上 トリステイン王家縁の者であることは ほぼ確定だ。
 そして 『使者』とはいえ、国の秘宝を持たせるなんて突拍子も無い事をやってしまうのは アンリエッタ以外には居やしない。 
 だから 君の言う事を信じたのさ。」
「この指輪に そんな仕掛けがあったたぁ〜知らなかったぜ。あの朴念仁にしちゃぁ 随分と洒落た細工を残したもんだな。」
その言葉に ある違和感を感じて聞き返すウェールズ。
「ちょっと待ちたまえ、その『朴念仁』と言うのは マサカ始祖…」
照れ笑いしながら こう返すデルフ。
「おっと、その辺は突っ込まねぇでくんな。なにせ6000年も前の事った。
 さっき アタマ打ったせいで、ほんの少し思い出したまでよ。」
「デルフリンガー。君は、本当に始祖の…」
「言ったろう。信じる信じないは、そっちの勝手だって。
 それより、姫様のことだ。」
我に返るウェールズ。
「そうだった。アンリエッタが どうしたって?」
「ぶっちゃけた話、皇太子様に一目御会いしたいってんで、此処まで来ちまったんだな。
 今 上空で待機してるぜ。」
「なっ、なんだってぇ〜!!!」
93ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 11:03:21 ID:Vkq4/YTl
「監視台、上空に異変は無いか! 砲兵隊、対空戦用意! 竜騎士隊、今すぐ出撃可能のは何騎だ!」
血相を変えたウェールズが 次々と指示を出す。
「オイオイ 落ち着きなって。
 お姫様はウチの嬢ちゃんと一緒に 俺っちの『相棒』に乗ってる。
 空飛んでる限り 相棒に適うヤツはいねぇよ。」
慌てる様子も無く デルフリンガーはそう言うが、此処は戦場である。
レコンキスタが総力を挙げて 王党派を抹殺しようと戦力を投入しているのだ。安心など 出来よう筈も無い。せめて 護衛だけでもつけねば。
すかさず 竜騎士隊長が駆けつけ
「はっ、ウェールズ様 既に十二騎全騎が準備を終えています。」
そのやり取りを聞いていたデルフリンガーが、一言
「へ〜ぇ、さすがだね。
 噂に名高いアルビオンの竜騎士は、一万八千メイルまで上がれるって事か?知らんかったぜ?」
「はぁ?」「へっ!?」
緊迫した空気に似合わない 間の抜けた声が上がった。
浮遊大陸であるアルビオンの高度は 海抜約五千メイル。戦列艦の上昇限度が おおむね八千メイル。そこから竜騎兵が飛び立ったとしても、一万メイルを越えられるのは よっぽど高度順応能力に優れた ほんの一部の騎士だけだ。
だが、このインテリジェンスソードは言った。『一万八千メイル』と。
「嬢ちゃん達だってバカじゃねぇ。反乱軍共の手の届くとこなんぞに居やしねえよ。
 それに 今夜の相棒は えらく静かに飛んでたから、まだ誰にも気付かれてねぇかもな。」
「デルフリンガー殿、貴殿の『相棒』とやらは、それ程の高みまで…?」
「いったい何者なんだ、君の『相棒』というのは!?」
呆れ顔の二人からの問いかけに
「えーっと 確か名前が『せんじゅつていさつき えふあ〜るえっくすぜろぜろ』で、ぱぁそなるねえむとか言うのが『雪風』だったかな?
 実は俺っちにも よく判んねーんだよ、今度の相棒は。
 着陸の許可さえ貰えりゃ すぐに降りてくるから、自分の目で確かめてくれや。
 まぁ 見たって判らねぇだろうけどよ。」 

雪風は 舞い降りた。
漆黒の闇の中から グレーの機体が篝火の薄明かりに浮かぶ。
それは、巨大な鳥のようだった。
それは、ワイバーンのようだった。
それは、ガーゴイルのように 作られた物だった。だが その姿は生きているようにも見えた。
似たモノはあっても そのいずれにも該当しない。誰にも辿り着けない 孤高の空を飛ぶ使い魔。

若い騎士は それに微かな希望を見た。
孤立無援の自分達の元に来てくれた 未知なる物。どんな力を持つのか判らないが きっと手を貸してくれるだろう。
たった一機で戦況が変わる等と言う事はないが それでも、
『アルビオンは まだ見捨てられた訳じゃないんだ』
そう思えただけで 彼は泣きたいほどに嬉しかった。

古参の兵士は それを畏怖した。
時代が、技術が、発明が、自分達・古きものを過去の異物へと押しやる。今までにも 何度も経験してきた事だ。
あれも そんな『匂い』がする。だが それだけではない。
戦場だけでなく、日常生活 産業 社会や常識といったものまで全て、あれが存在する事で変わってしまう。そんな予感がするのだ。
『地獄に現れる救い主は、やはり悪魔なのか?』
自らの問いに、長い従軍経験も役には立たなかった。
94ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 11:06:29 ID:Vkq4/YTl
皆の注目を一身に浴びて 雪風が停止する。コクピットが駐機位置に移動し キャノピが開くと、待ちかねたように人影が飛び出す。
通常のフライでは考えられないような速度で、一直線にウェールズ皇太子の胸に飛び込んでいく少女。
「ウェールズ様、ウェールズ様、ウェールズ様ウェールズ様ウェールズ様ウェールズ様ウェールズ様ぁぁぁ、
 ウェ うぇ うぇぁぁあああああぁ!!!」
本来ならば 王子の身の安全を守る為、近衛の兵が取り押さえるべきところだろうが、その隙さえ無かった。
ウェールズ本人も、
「アッ アンリエッタ…」泣きじゃくる彼女を抱きかかえる事しか出来ない。
まあ 無理も無い。
此処までの道中 アンリエッタはルイズから 今まで知らなかった情報を与えられ、不安を煽り続けられていたのだから。
やっとの思いで会えた想い人は 血塗れ傷だらけの鎧姿、あまりにも強く『死』を連想させた。 
抑えていた感情が爆発し、涙が涸れても彼女の嗚咽は止まらなかった。
「あ〜 殿下。
 女性の その様なあられも無い姿を何時までも衆目に晒しますのは、騎士たる者の道に反するかと。
 募る話は お部屋の方で ごゆるりと。」
隣に控えていた参謀役の老将から指摘されるまで、王子と王女は抱き合ったまま固まっていた。
「あ、ああ そうだな。」
ウェールズは 両腕でアンリエッタの背中と脚を抱え上げた。
「皆、すまないが暫く下がらせてもらう。
 さぁ アンリエッタ。」
「はい。ウェールズ様。」
去っていくカップルを見たデルフ曰く、
「へぇ〜。初めて見たぜ、
 する方もされる方も正真正銘モノホンの、『お姫様ダッコ』ってヤツを!」

この場の主役たる二人が去り、注目は再び雪風に集まる。
ルイズは 先ほどまでの騒動の間に機体を降りていた。そこに歩み寄ってきた老人。武将タイプではないが、その落ち着きぶりから 只者ではなさそうだ。
「主が座を離れましたので、なり代わりまして御礼を申し上げます。ミス…」
「ヴァリエール。
 どうか、ルイズとお呼び下さい。」
「おぉ、あのヴァリエール家の!
 私は、ウェールズ殿下の侍従を勤めております パリーでございます。
 ミス・ルイズ、遠路はるばる、よくぞおいで下さいました。
 アンリエッタ妃殿下による激励、城内の一同 とりわけウェールズ様にとって この上ない力添えとなりましょう。
 これで 我等一同、心置き無く・・・」
涙ながらに語る侍従長を ルイズが遮る。
「いいえ。ダメです。死んではなりません。生き延びて下さい。」
意外な言葉に 驚くパリー。そして 感謝の気持ちで胸が一杯になる。
「ルイズ様、貴女は優しい方でございますな。ですが、その御気持ちだけで十分です。
 無論 我々とて、易々と負ける積りはございません。必ずや 一矢報いんと誓っっております。
 だが、あの大軍勢にそれを為すには この命 捨てる覚悟が必要。
 この城に残りし兵の心、一つと成りて敵を討ちます。」
「勘違いなさっているようですが、私は優しくなんてありません。
 自分勝手で 利己的で、我儘な女です。」
「…どういう 事ですかな?」
95ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 11:09:38 ID:Vkq4/YTl
「レコンキスタがハルキゲニア統一を旗印にしている以上、内戦終結後 他国への侵略戦争を始めるは必定。その第一目標がトリステインである事は明らか。
 されど、我が国は既に彼等の策に嵌っており このままではゲルマニアの盾として使い捨てられるのみ。
 ならば この内戦を終わらせるわけには行きません。ゲルマニアがトリステインを盾とするなら、トリステインはアルビオン王党派を盾とする。
 皆様には、死ぬより辛い戦場を 腕がもげようとも 血が涸れ果てるとも戦い続けて頂きたい。
 そんな非道をお願いしているのです。」
ルイズは、思いのたけを一気に吐き出した。
『これ以上 先は無い』と 死を覚悟した者に、死ぬ事すら許さない。絶望の中の 唯一の道すら強引に捻じ曲げる、なんという我儘か。
だが、パリーは
「それは、『我儘』ではありませんよ。
 貴女は自分の為に それを為そうとは思っておられません。
 そして、国の為 民の為に、他国と民を犠牲にして良いのか?それを思い悩んでおられる。
 事の是非など 私ごときには判りません。ただ そのような決断は、本来 王家の者が それも大人が下すべき事。
 ルイズ様のような御子様(ギロリ)…いや失礼、少女の肩に課せられるには 余りに重過ぎるもの。
 …
 全く、その御歳にして まことの貴族たる物の見方・考え方。
 貴女様の爪の垢を煎じて、レコンキスタの裏切り者共に飲ませてやりたいものですな。」
「パリー殿!」
「ですが 『盾』としての御役目も 間も無く果たせなくなりましょう。
 近日中に 逆賊共は総攻撃に出るでしょう。それを持ち堪える事は…」
諦念。戦う意志は未だ折れぬとも、目前の『死』を跳ね飛ばす程の力は 既に無かった。
ルイズは 自らの言葉に想いを乗せて 力強く宣言した。
「無理は承知です。それでも 生き延びてください!
 あと少し ほんの数日でも現王家が存続していれば、トリステインは援軍を派遣します。いえ させてみせます!!」
「なんですと?!」

「この城までの道中、私は姫様に戦の状況を説明し 敢えて不安を煽り立てるように仕向けました。
 ウェールズ様と再会され、不安は頂点に達したでしょう。
 お二人が今 何を話されているか、それは判りませんが、間も無く別れの刻が参ります。
 そして アンリエッタ様は、死を覚悟したウェールズ様をただ黙って送り出せる程 大人の女性ではありません。
 帰国すれば直に アルビオン派兵を唱えるでしょう。
 私情をもって軍を動かすなぞ、王族としてやっては為らぬ事。王宮会議はこれを一蹴するでしょうが、今回に限り 我が父ヴァリエール公爵は 姫に賛同、また 搦め手からの工作も進めております。
 期日は明言できませんが 派兵があることは、この一命に賭けて。なんとなれば 私と、この雪風のみでも馳せ参じる覚悟でございます。」
少女の語る内容に、さしもの老侍従長も唖然とするしかなかった。
「ですから、お願いします。どんな手を使ってでも 生き延びてください。
 特に ウェールズ殿下。
 おそらく、死を覚悟しての『決死の攻撃』等と言って敵に突っ込んでいかれるでしょうが、そんな時は 玉座に縛り付けてでも止めてください。
 王家が倒されてから 私達の派遣艦隊が到着しても、今度は『トリステインはアルビオンを侵略しようとしている』という事になりかねません。」
「ミス・ヴァリエール いやヴァリエール殿、貴女は一体…」
「私は、トリステイン魔法学院に学ぶ 女生徒です。
 魔法実技が全然ダメで、『ゼロ』なんて二つ名を付けられた 劣等生です。
 魔法が全然使えなくて、使えないのが悔しくて、使えないから頑張って、使えないから…
 せめて 手にした使い魔 『雪風』の力を、国の為 民の為に使おうと思う…唯の『貴族』です。」
96ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 11:15:14 ID:Vkq4/YTl
その後、ルイズは 侍従長との話を聞いていた騎士達に囲まれ、握手を求められたり 雪風についての質問を受けたりしていた。
「先ほどの話は、私達がここを出発するまで、姫様にもウェールズ様にも内緒にしてくださいね。」
そう言いながら、相手の一人一人の顔を しっかりと記憶に焼き付けよう。ルイズは そう思った。
(派遣部隊が到着するまで、この中の何人が生き残れるんだろう。)
それなりに楽しいひと時ではあったが、ルイズの中に 確実に重いモノが堆積していった。
数時間ほどして、王子様と姫様が前庭に戻った。
妙につやつや・すっきりした顔のウェールズと、何故か足取りのぎこちないアンリエッタ。
彼女のドレスは 雪風から降りた時よりも、かなり着崩れている。と言うよりも、一旦ドレスを脱いで 苦手な着付けを自分一人やったのだろう。
鎧姿の王子も、全ての装甲を締め直してあるようだ。
二人きりの間に 何があったのか? この場の人間全員にバレバレであった。
(姫様、おめでとうございます。)
アンリエッタは身持ちが堅かったはず。乙女の一番大事なモノを、一番好きな方に捧げた。ひょっとして、今回の目的は 実はこれだったのかもしれない。
だが、後日 それだけではなかった事が判明する。
トリステイン王家には 確実に世継ぎを設ける為に、オギノ式に似た秘伝があり、アンリエッタは『当たり』の日であることを確認した上で、アルビオン行きの日程を計画していた。
「上手く行ったら 今度はゲルマニアに飛んでもらって、『はずれ』の日に皇帝陛下とヤれば、バレないでしょ?」
とは、ルイズが姫様から直接聞いた話。
いや 実に女性というのは逞しいものです。

雪風は離陸、帰路に就いた。
アンリエッタは後ろを振り返り 遠ざかるアルビオンをいつまでも見つめていた。その頭の中は ウェールズの事で一杯だろう。
彼女の想い人は 王族として最後まで戦う事を選んだ。それ以外の生き方は 選択肢自体が存在しないかのようだった。
同じ王族である彼女にも、理性ではその考えが理解できた。だが 感情としては絶対に認められなかった。認めたくなかった。
ウェールズを救う事ができるかもしれない 唯一の方法。それは 共に戦う事。すなわち、『アルビオン派兵』。
だが それは、たった一人の命の為に 幾千幾万の屍の山を築く道。王族として 人として、決して選んではならぬ道。
思い悩むアンリエッタの心中を、ルイズは手に取るように把握していた。
「姫様、これをご覧下さい。」
「!」
モニタに映し出された画像を見て アンリエッタは声にならない悲鳴を上げた。
そこには地獄絵図が広がっていたからだ。

何人もの女性が 道端のいたるところで、屈強な男達に組み敷かれていた。幼子もいれば 老婆に近い女性までいた。男達は 皆 兵士のようだ。
女の衣服は 無残に切り裂かれているか そうでなければ一糸も纏っていないか どちらかだった。兵士は 唯只管に女を犯していた。
悲鳴、嗚咽、苦痛の叫び、断末魔。飽きられ 捨てられるまで それは終わらない。

平民の男達が吊るされていた。兵士達が それを慰みモノにする。
死なない程度に斬り付け もがく様をみて笑う。投げナイフの的にする、何本目で死ぬか 賭けが始まる。殺す、殺す、殺す。
戦場だけでは飽き足らないとばかりに 村に 街道に 畑に 至る所に『死』が溢れ出す。

「全て 実際にレコンキスタの占領地にて起きたことです。
 戦で死ぬのは 軍人だけではありません。
 ヤツ共が アルビオンからトリステインの国土に足を踏み入れようものなら、その地で 同じ惨状が繰り返されるのは明らか。
 悪鬼の群れを アルビオンに封じているのは、ウェールズ様唯御一方のみ。もし ウェールズ様がお亡くなりになれば、トリステインの民が蹂躙される事に…」
97ゼロの戦闘妖精:2010/06/20(日) 11:21:55 ID:Vkq4/YTl
詭弁である。
アンリエッタに
「軍を派遣し ウェールズ様を助けるのは、例え私心からのものであっても 結局はそれが民の為となる」
という免罪符を示して 思考を誘導している。
これが 『おともだち』のすることだろうか? ルイズは 自分が黒く染まっていくのを感じていた。

眼を閉じて深く考え込むアンリエッタ。しばしの沈黙の後 大きく見開かれたその瞳には 強烈な決意が宿っていた。
「ルイズ、私は決めました。
 一刻の猶予も許されません。全力でトリステインに帰還してください。
 城に戻ったら すぐに宮中会議を招集し、アルビオンへの派兵します。
 私自らが先頭に立ち、ウェールズ様と共に レコンキスタを討ちます!」
誘導は成功した。だが、
「姫様、よくぞ決心なさいました。
 でも その想いだけで、宮中の重臣達を説得できると思われますか?
 今夜 見たもの、知りえた事は、この動乱の一端に過ぎません。姫様は より多くの事柄を学ばねばなりません。
 そうしなければ、宮中の誰一人として 姫様の言葉に耳を貸す事はないでしょう。」
やっとの思いで決めたことに、思いもよらない相手からのダメ出し。アンリエッタはパニックに陥る。
「で、では ウェールズ様は?…私は 私は 一体どうすれば!」
「城へと戻る前に、雪風を魔法衛士隊 グリフォン隊に向かわせます。隊長のワルド子爵は、おそらくトリステインで最も深く この問題を理解しています。
 尋ねてみて下さい。レコンキスタについて、この動乱の現状と、その裏事情について、現在 我が国が採ろうとしている方策について。
 そして どうすれば派兵を実施できるかを。」
「ルイズ、どうしてそんな事を。貴方は…」
ルイズは いたずらっぽく微笑んで、
「まだ仮採用の見習い騎士ですから 王宮には報告は上がっていないと思いますが、つい先日 私 ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、グリフォン隊に入隊致しました。
 そして、隊長である ジャン=ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵は、私の婚約者です!
 ですから 大丈夫です。皆 持てる力の全てを使って 姫様をお助けします。私も 隊長も、そしてヴァリエール家の全員が。」
その言葉は アンリエッタの中で確実に力となった。
ウェールズ達アルビオン王党派と同様、孤立無援と思っていた自分に 今 頼りになる援軍が現れたのだ。
それは 彼女のパニックを吹き飛ばした。

「それでは、今夜は大変ですね。
 明日の会議の為に この国の未来を賭けて 『一夜漬け』をしなければならないのですから!」
アンリエッタが見出した ほんの小さな希望。
それは はたしてトリステインの希望となるのだろうか?

           続く
 
今回は ここまで。
前に「アンアンのキャラがつかめない」と書きましたが、だんだん変な方へ進んでいるような…
ルイズも 『おともだち』を騙している事が 心の闇になっているようで、そのせいで『ブーメラン戦士化』しないか 心配です。
(書き手としては させるつもりは無いんですが…)
さて 次回こそ、この章のクライマックス(予定)のシーンまで辿り付けますやら?
98名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 14:57:52 ID:zjoF6K+c
GJ!
ルイズがどんどん頼もしくなっていく……。
99名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 15:30:53 ID:Ai/Ir/99
>>74
ヒーロー戦記のパーソナル転送システムならいけそうな気がする
100ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/06/20(日) 15:42:51 ID:BqDi0xZ+
皆さんどうもおひさしぶりです。
けっこうごぶさたしていましたが、お約束どおりに帰ってきました。
ヤプールとの戦いが一段落し、新しく始まる新章ということで、話数も1話に戻し、心機一転がんばりたいと思います。
というわけで、ヴァージョンアップファイト、ほどは派手にいきませんが、ウルトラ5番目の使い魔、はじめます。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 15:43:51 ID:6DWO92gG
ヒャア我慢できねえ、リアル投下支援だ!
102ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/06/20(日) 15:44:14 ID:BqDi0xZ+
あ、すいません。15:50からというのを書き忘れていました。
 ウルトラ5番目の使い魔
 新、第一話
 ルイズの帰郷 (前編)
 
 始祖怪鳥 ラルゲユウス
 獣人 ウルフガス
 童心妖怪 ヤマワラワ 登場!
 
 
「これがルイズの家ぇ!? まるでお城じゃねーか!」
「ちょっと、大きな声で叫ばないでよ。誰かが聞いてたらどうするの、恥ずかしいじゃない!」
 地球とは時空を超えた場所にある異世界にある星、そこにある国トリステインの
二つの月に照らされた夜空に、一組の男女の叫び声がこだました。
 声の主は、地球からやってきた少年平賀才人と、このトリステインの大貴族の令嬢
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢。
 ここはトリステイン王国にあるラ・ヴァリエール領。あの、アルビオン内戦を
利用した作戦を完全に破壊され、最後の攻撃をかけてきたヤプールの怪獣軍団と、
ウルトラマンメビウスとCREW GUYSの死闘から、もう四日が過ぎた。
 あれからキュルケ、タバサらや、今後の処遇をオスマンと話し合って決めるという
セリザワと別れた二人は、二ヵ月半にも及ぶ長い夏期休暇を持つトリステイン
魔法学院の夏休みの後半を利用し、ルイズの馬に相乗りして里帰りの旅に出た。
 そして、学院をあとにして三日、まだまだ夏休みも半ばの蒸し暑い日の夜、
才人とルイズはルイズの実家のあるヴァリエール領の本邸にやってきていた。
なのだが、トリステイン有数の大貴族と口では聞いていたが、実際にその領地を
治めている建物を見たとき、才人は自身の貧弱な想像力を早々に打ちのめされていた。
「うーん……ファンタジー世界恐るべし」
 月明かりに照らされて、丘を越えた先に見えてきたルイズの実家というのは、
まさしくテレビゲームに出てくるRPG世界のお城そのものな上に、正面からだけ
見ても三階建ての豪邸で、贅をつくした装飾が細やかなところに施されており、
よく見えないが奥行きも相当なもので、高々とそびえる尖塔を東京タワーのように
いくつも明々と灯らせ、先に聞いた話では広大な裏庭にはボートに乗れる池も
あるという。
「ト、トリステイン王宮よりでかいんじゃないか?」
「それはないわ、貴族の分をわきまえるために、どんな大貴族もトリステイン王宮を
上回る規模の城を建てることは禁じられてるの。まあ王宮は山城で、私の家は
平城だから、大きいように見えるかもしれないけどね」
 呆然と、目の前に迫ってくる壮麗な大邸宅を見上げている才人に、ルイズは
なんでもないことのように言ったが、才人にとって目の前に広がる豪邸という
言葉すら謙虚に聞こえる城は、社会科見学で見に行った国会議事堂すらおもちゃの
ようで、才人の知ってる中で、これに匹敵するものは一つしかなかった。
「個人でZAT基地を持ってるようなもんだな。おれ、生まれて初めて金持ちって
ものを知った気がするよ」
 かつて、歴代防衛隊最強とうたわれた宇宙科学警備隊ZATは東京都心に
巨大な円盤型基地を構えていて、当時日本最大の建造物だったそこは
東京タワーすら及びもつかない東京の名所だったというが、ルイズの実家も
地球に持ってきたら観光客には不自由しないだろう。ただし、ルイズは
金持ちという単語を褒め言葉とは感じなかったようだ。
「あのね、ヴァリエールを成金貴族のクルデンホルフみたいに言わないでよ。
それと、このくらいで驚いてたらどこの田舎者だってバカにされるから、
今度からはもう少し冷静にしなさいよ。壮麗で有名なガリアのヴェルサルテイル
宮殿なんか、この五倍はあるのよ」
「ご、五倍……まいった」
 ハルケギニア恐るべし、才人はただただ開いた口が塞がらなかった。
 とはいえ、才人とずっと相乗りしているのでルイズの機嫌が悪かろうはずもなく、
唖然としている才人に体を密着させながら、顔が直接見えないのをいいことに、
得意げな口調とは裏腹に、いわゆるルンルン気分で馬に揺られるのを楽しんでいた。
 
 と、そこへ後ろから馬を九頭もつらねた大型馬車が猛スピードで走ってきて、
ぶつけられそうになったルイズは慌てて手綱を引くと馬を路肩に避けさせた。
「あっぶねえな、はねられるところだったぜ」
「やってくれるわね、どこのバカ貴族だか知らないけど、よくもヴァリエールの
領内で無礼な真似をしてくれたわね。サイト、つかまりなさい、飛ばすわよ!」
 せっかくの上機嫌をぶち壊されて、完全に頭にきたルイズは、馬の腹に蹴りを
入れると、全速で馬車を追いかけ始めた。その馬車の従者はどうやら命令に
従うだけのゴーレムだったようで、追いついたルイズが横合いから止まれと叫ぶと、
二〇メイルほど進むと猛烈な砂煙をあげさせながらもようやく止まった。
「危ないじゃないの! どこを見てるの!」
 危うくぶつけられるところだったルイズは、見慣れないその馬車にどこかの貴族が
ヴァリエール候にあいさつに来たのだと思って叫んだ。しかし、停止した馬車から
悠然と、見事なブロンドをひるがえした、眼鏡をかけた長身の女性が降りてくると、
怒りで赤く染まったルイズの顔色は一瞬にして青ざめたものに変わった。
「ちびルイズ、このわたくしに向かって怒鳴りあげるとはえらくなったものね」
「エ、エレオノールお姉さま」
 その人は、ヴァリエール家の長女にして、王立魔法アカデミーの主席研究員、
そしてルイズが両親に次いで最も恐れる姉、エレオノール・ド・ラ・ヴァリエールに
間違いはなかった。
「ようやくとれたアカデミーの休暇、一分一秒も無駄にするまいと急いでたのに、
よくもまあ余計な手間を取らせてくれたわね。宝石より貴重なわたくしの五分間、
どう弁償してくれるのかしらぁ!」
「あべべべ! ご、ごべんなはぃお姉さまぁ!」
 馬から引き摺り下ろされて、頭二つ分くらい身長差があるエレオノールにほっぺたを
つねり上げられるルイズは、半泣きになりながら、いつもの気の強さがまったく想像も
できない姿で、ひたすらに許しをこうた。
「ちょ、お姉さん、そのくらいで!」
「平民は黙ってなさい!」
「は、はいぃっ!?」
 才人が止めようとしても、エレオノールは一括しただけで聞く耳を持たない。
あの母親ゆずりなのは間違いない男勝りの威圧感もだが、どうやら昔の
ルイズ以上に貴族と平民の身分にこだわる主義らしい。以前トリステイン王宮で
見たときには遠目で傍観していただけであったが、間近で見るととにかく怖い。
 だが、才人もどうしようもなく、ルイズがエレオノールの怒りのはけ口に
されているところで、エレオノールのものとはまったく対照的な、穏やかで
優しげな声が音楽のように流れてきた。
 
「まあまあ、エレオノールお姉さまもそのへんで、せっかく久しぶりにみんな
帰ってきたんじゃないですの」
 
 見ると、馬車からまるで桃色の風が形になったような、優雅で可愛らしい
顔をした女性が微笑を浮かべて立っていた。
 彼女は、腰がくびれたドレスを優雅に着込み、夏の微風にルイズと同じ
桃色がかった髪を揺らしている。
「カトレア」
 エレオノールが、その母親が幼児をなだめるように優しい声に、反射的に
手を離すと、ルイズはほっぺたをおさえて地面にへたりこんだが、カトレアと
呼ばれた娘の存在に気がつくと、喜びに顔を輝かせて抱きかかっていった。
「ちぃねえさま!」
「ルイズ、お久しぶりね。わたしの小さいルイズ、あなたも帰ってきてたのね!」
105名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 15:53:10 ID:yKiHUkPg
通りすがりに支援
 人目もはばからぬくらいに抱き合って喜ぶ二人を見て、才人は目を丸くした。
突然のことで動揺したが、どうやらこのカトレアという人もルイズの姉さんらしい。
しかし、それにしてもルイズとよく似ていた。体格はエレオノールよりやや
小さいくらいでルイズとは頭一つ違うが、髪の色や瞳の色はそっくり同じで、
顔つきはルイズを柔和にして大人びさせたといえばそのもの、姉妹だから
といってしまえばそれまでなのだが、エレオノールが多分に父親似なのだろうから
ルイズと大して似てないので、余計に驚いてしまった。
「遺伝子ってのは神秘だなあ……特に……」
 そこで才人はルイズとカトレアを比較しているうちに、非常に不逞ながらも
一箇所だけこの姉妹に決定的な違いがあることに気がついてしまった。
それはまあ、平たく言えば幼児体型のルイズにはなくて、同年代の一般女性には
普通についているもので、出産後に乳児に母乳を与えるために必要になる器官、
あと男性の夢と希望が詰まっているもので、十八才未満視認禁止なところ、
しかも標準のそれよりもかなりサイズはプラス方向に補正されている。
「ティファニア以下、シエスタ以上……うむ、まだまだ世界は広いなあ」
 ルイズに聞こえたら確実にぶっとばされることをつぶやきつつ、才人は
二人で仲良く再会を喜び合っているカトレアを、ぐっと胸を詰まらせて見つめていた。
とにかくも、ルイズに優しさというヴェールをかぶせて大人びさせたカトレアの
容姿は才人の好みを直撃したのである。
 と、そうやって感動の再会を、ややにごった瞳で見物していた才人であったが、
ふとカトレアがこちらに目を向けたかと思うと、子供が道端でどんぐりを拾った
ときのような、無邪気で底抜けに明るい笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「まぁ、まあ、まあまあまあ」
「は、はい?」
 すっかり隣にいるエレオノールのことは無視して、なにが『まあ』なのか
わからないが、緊張している才人の顔をカトレアはぺたぺたと触ってまわった。
「あなた、ルイズの恋人ね?」
「いっ!?」
「ち、ちぃねえさま!」
 いきなり本城天守閣を大砲で吹っ飛ばされて、才人とルイズの顔がまだ
夏だというのに、秋の夕暮れのように真っ赤に変わった。
「やっぱり! わたしの勘ってよく当たるのよ。おめでとうルイズ、しばらく
見ないあいだにあなたもすっかり大人になったのね」
「えええ、ちちち、ちぃねえさま、そそそそ、それは」
 心の準備が皆無だったので、さしものルイズの聡明な頭脳もすぐには
うまい言い訳の文句が浮かんでこなかった。これがひと昔前だったら、
「ただの使い魔よ! 恋人なんかじゃないわ!」
 そうすぐに怒鳴っていただろうが、あいにくとすでに恋人宣言はすませて
しまった後だったので、その手は使えなかった。貴族に二言はないのだ。
 が、ルイズの恋人宣言を聞いて、怒髪天を突いたのがエレオノールである。
「なんですって! ルイズあなた、爵位どころか、ただの平民相手に恋を
したっていうの!」
「ひっ! エ、エレオノールお姉さま」
 金髪の魔女、という表現をするのならばそのときのエレオノールほど
適した対象はなかったであろう。ただでさえ威圧感満点のエレオノールが、
まなじりを上げて怒っている。貴族と平民の違いをはっきりとさせている
彼女にとって、栄誉あるヴァリエールの候女がたとえ三女でも平民などと
付き合うなどとは言語道断なのだろう。
 ルイズは、蛇に睨まれた蛙同然で、魔法の杖を漏れ出す魔力でスパーク
させながら振り上げている姉に何か抗弁しようとしたが、恋人なのかどうか、
「はい」とは言えないし、かといって「いいえ」とも言えない。
「あ、あのその、えっと……そ、そうだ! お姉さま、バーガンディ伯爵との
婚約、どうもおめでとうございました!」
 記憶の鉱脈を掘り下げて、なんとか起死回生の一手を探り出したルイズは、
前に実家との手紙のやり取りで知った、エレオノールの婚約の話題で
話をそらそうとした。なのだが、これが結果的にエレオノールの逆鱗に
触れることになってしまった。
「ちびルイズ、このわたしにイヤミを言えるようになるとは、態度だけはでかく
なったようね」
「へっ?」
「婚約は解消よ! 解消になりましたが、何かぁ!」
 実はエレオノールの婚約の話は、ルイズが知って間もなく破談になっていた。
理由はバーガンディ伯爵談「もう限界」、その心はわずかでも想像力を持つ
ものであれば容易に理解できることだろう。
「ルイズ、あなたにはちょっとおしおきが必要なようね」
「ひっ、ひぃぃぃっ!」
 堪忍袋の尾は切れるためにある、いやすでに切れてしまっている。おまけに、
多分に自分の婚約が破談になってしまったことへの八つ当たりが混ざって
いるからなお性質が悪い。才人とルイズは仲良く腰を抜かして、これなら
怪獣相手のほうがまだましだと思いながら、振り下ろされようとしている鉄槌を
待ち構えていた。
 けれど、目をつぶって覚悟しても、なかなか魔法が跳んでこないので、
そっと目を開けてみると、二人の前にはいつの間にかカトレアが立って
エレオノールと向かい合っていた。
「エレオノールお姉さま、お気持ちはわかりますけど、ルイズにはルイズの
考えがあるのでしょう。少しはルイズのお話も聞いてあげましょうよ」
「おどきなさいカトレア、ルイズにはあらためてヴァリエールの娘というものが
どういう責任をもつのかを、みっちり仕込んであげなくては。それに、平民の
分際でヴァリエール家のものに恋慕するなどと、そこの下品な顔の男にも
しっかりと身分の差というものを思い知らせてあげなくては!」
「お姉さま、確かにお姉さまのおっしゃることは正論ですが、お姉さまは
少々加減というものが苦手でらっしゃいますから、わたくしは心配で。
それに、平民とはいえ彼はルイズが連れてきた以上ヴァリエール家の
客人ですわ。どうしてもとおっしゃいますなら……お姉さま、わたくしが
お相手してさしあげてもよろしくてよ」
「うっ……」
 いつの間にか、カトレアの右手にもルイズのものと同じ形の小ぶりな
魔法の杖が握られていて、ルイズたちに背を向けて、笑顔を消したカトレアの
その無言のプレッシャーは、エレオノールの頭に上っていた余分な血液を
下がらせた。
「はぁ……わかったわ、カトレアに免じてここは保留にしてあげる。けどね、
二人とも、ヴァリエールの血統を下賎な者の血で汚すなんて、わたくしは
絶対に認めませんからね!」
 そう言い捨てると、エレオノールは憤然と馬車の中に入っていった。
「ふぃーっ、た、助かったぁ」
 寿命が十年は縮んだと、ほっと胸をなでおろした才人に、カトレアは
へたり込んでいる彼の前にかがみこむと、微笑んだ。
「ごめんなさいね、でも、エレオノールお姉さまを恨まないでちょうだいね。
本当は、ルイズが可愛くてしょうがないのよ。だから、ついついかまってしまうの、
わかってあげてね」
 本当に、優しい人だと才人は思った。もちろん返事は「はい」と答えたが、
これはあのルイズがなつくのも至極当然だ。
「ありがとう。ところで名前はなんて言うの……そう、サイト・ヒラガくん。
これからもルイズをよろしくね。さあ、ルイズももうお立ちなさい。せっかく
会えたんですもの、ここからはみんないっしょに行きましょう」
 腰に力を入れて立ち上がった二人が、カトレアの提案に二つ返事で
賛成したのは言うまでもない。彼女たちの乗ってきた馬車は馬九頭立ての
ワゴンタイプで、小さな家が動いているようなものであった。
 ところが、ルイズが自分の乗ってきた馬を馬車につないで、いざ乗り込もうと
したところで、なにやら怒った様子のエレオノールが馬車の窓から顔を
出してきた。
「ちょっとカトレア早くしてよ! こいつらったら、あなたがいないとてんで
落ち着かないんだから!」
「あらごめんなさい。すぐに行きますから」
 なんだなんだ、まだ誰かいるのかと、才人とルイズは顔を見合わせると、
カトレアに続いて馬車に飛び込んで、そして目を丸くした。
「わっ! なんだこりゃ」
 そこはさながら動物園であった。
 前の席では大きな虎がいびきをかいているし、その横では熊が座っていて、
床にはいろんな種類の犬や猫がいる。どうやらカトレアは相当な動物好き
らしかったが、その中でもカトレアにじゃれついて遊んでいる二頭の見慣れない
動物が、才人とルイズの目を引いた。
 
「ゴ、ゴリラ!?」
「コボルド!?」
 
 二人がそう叫んだのも無理はなかった。一頭は毛むくじゃらの雪男みたいな
ゴリラみたいなやつ、もう一頭は狼男そのものといったところで、ハルケギニアに
生息する犬頭の亜人コボルドとルイズが認識するのも当然だった。
 けれども、反射的に杖と剣に手を伸ばした二人に、カトレアは手のひらを向けると
穏やかに静止した。
「やめて二人とも、この子たちは悪い子じゃないわ。みんなわたしの大切なお友達よ」
「えっ……」
 慌てて武器を持つ手を緩めた二人は、あらためてよくその二頭を観察してみた。
まずはコボルド似のほうだが、落ち着いてみればコボルドは普通の人間より
小さいはずなのだが、そいつはカトレアより大きい上に、前にタルブ村で戦った
コボルドと比べて、顔つきが犬より狼に近くて、茶色いはずの体色も銀色だ。
なによりも、コボルドは知能が低くて凶暴なのに、そいつはいかつい見かけに
反してカトレアのかげに隠れて臆病そうに震えている。
 それに、雪男みたいなやつのほうも、顔はこわもてで頭のわきや肩には
立派な角が見受けられるが、まるでカトレアをいじめるなといわんばかりに
彼女の前に立ちはだかっており、これではこっちのほうが悪人にしか見えない。
「サイト」
「う、ううん……」
 すっかりきまずくなってしまった空気の中で、とりあえず二人は武器から手を
離すと、敵意はないし、君たちには何もしないよと手のひらを向けて謝意を示した。
すると、言葉は通じなくてもこちらの熱心な意思は通じてくれたようで、二匹とも
警戒を解いて二人にすりよってきたりして、カトレアはころころとうれしそうに笑った。
「ありがとうわかってくれて、さあ行きましょう」
 そうして、四人と多数の動物を乗せて、大型馬車はゆっくりと屋敷に向かって
進み始めた。
 
「しかし、すごい馬車ですね」
 さすがに、貴族用の大型馬車は乗り心地も格別だった。揺れも少ないし、
椅子はふかふかで羽根布団に横たわっているように感じる。地球でいうならば
超高級車のベンツかロールスロイスに乗っているようなものなのだろうか。
ルイズと馬に相乗りも最高だが、これはこれで悪くない。
 それに、聞いてみてわかったことだが、今見えていた大きな屋敷も実は
分邸の一つで、本邸にはまだ時間がかかるということなので、ルイズと
才人はカトレアからいろいろな話を聞いていった。
「ちぃねえさまは動物が大好きなのよ」
 そうルイズが言うとおり、普通は猛獣とされる動物も、まるで牙を抜かれて
しまっているかのようにカトレアの前ではのどを鳴らしてじゃれついている。
どれも、カトレアが住んでいるラ・フォンティーヌ領で傷ついたり、飢えたり
しているところをカトレアに救われて、そのまま懐いてしまったのだという。
 かくいうこの二頭のうちの、ゴリラと雪男もどきのほうも、カトレアが
森の散策に出かけて、うっかり道に迷って帰れなくなってしまったときに
助けてくれて仲良くなったそうだ。
「この子はさびしがりやでね。わたしの姿を見えなくなると不安になって
どこからか探しにきてしまうの、人目につくと大騒ぎになっちゃうから、
今日はこうして連れてきちゃったわ」
 狼男もどきのほうは少々複雑で、ある日突然森の中に直径何十メイルも
ある巨大な鉄の球が降ってきて、驚いて見に行ったら、壊れた鉄の球の
周りでおろおろしているのを見つけて助けたら懐かれたのだという。
「この子は不思議な子でね、夜のあいだは元気なんだけど、お日様が
昇るとふっといなくなるの、けど、誰かを傷つけたりしないし、一人ぼっちだと、
さびしいよ、怖いよって鳴いてるの。だから、どうしても置いていけなくてね」
「ちぃねえさますごいわ! 動物の言葉がわかるなんて!」
「使い魔の考えは手に取るようにわかるでしょう? それと似たようなこと
なんじゃないかなって思うの」
 カトレアは微笑んで、ルイズは頬を染めた。
 だが、楽しそうにおしゃべりをしている二人に安心したように寄り添っている
動物たちや、二匹の奇妙な生き物を眺めながら、才人はうーんと考え込んでいた。
「こんな動物もいるなんて、ハルケギニアってのはやっぱすごいところなんだなあ」
 人畜無害らしいので警戒は解いていたし、念のためにリュウ隊長にもらっていた
自分用のGUYSメモリーディスプレイで調べてみたが該当するものはなかったから、
才人はこの二頭もハルケギニア独特の動物なんだろうなと、宇宙の広さを感じていた。
 しかし、残念ながら才人は知らなかったが、この二頭はどちらも動物などではなかった。
 雪男みたいなほうは、実は才人の世界とは別次元の地球の日本にあるヤマワラワ山脈に
古来から生息しているヤマワラワという生き物の同種で、不思議な力を持っているが、
優しい心を持っており、一種の妖怪として言い伝えられている。この個体も、恐らくは
カトレアが純粋な心を持っていると感じて彼女の元に現れたのだろう。
 また、狼男みたいなやつは別世界でウルフガスとコードネームをつけられた
改造実験生物で、太陽光線を浴びると体をガス化させる体質を持っているが、
見た目の恐ろしさに反して戦いを好まないおとなしい性格の持ち主なので、
倒されずにガスタンクに封入されて宇宙のかなたに帰されている。それが
どういう経緯をたどったかは不明だが、時空を超えてハルケギニアに墜落したらしい。
 とはいえ、知らないこととはいえ怪獣を二匹も懐かせてしまったカトレアの人徳と
いうか、博愛精神はたいしたものである。もちろん、二匹ともおとなしい性格なのも
理由だが、馬車に乗るぶんだけでこれなのだから、カトレアの家を才人が見たら
ひっくり返るかもしれない。
 と、そのとき急に馬車の中の動物たちが泣き喚いたり、おびえて震えだしたので
窓から外を見てみると、馬車の上を巨大な怪鳥が通り過ぎていくところだった。
「ラルゲユウス!」
「お母様だわ、帰ってらしたのね」
 風圧で馬車がわずかに揺れて、巨鳥が屋敷の向こうに飛び去っていくと、
絶対に敵わない相手に本能的に服従の姿勢をとっていた動物たちもようやく
安心したのかおとなしくなった。
 馬車は仏頂面を続けているエレオノールと、『烈風』カリンと会わねばならない
ことに緊張しはじめたルイズを優しくなだめているカトレア、それからそんな二人を
眠気と戦いながら見ている才人を乗せて街道を駆けて、深い堀にかけられた
跳ね橋を超えて本邸のほうへと入っていった。
 
 
 さて、外もすごかったが、中に入ってみると才人はあらためて大貴族の邸宅の
豪華さに驚いた。とにかくどこもかしこもきらびやかで規模が大きく、なにげなく
飾られている絵画一枚にしたって、才人が一生働いたとして買えるだろうか。
 いくつも部屋や長大な廊下を抜けて、数えるのを飽きてしまったほどにいた
使用人やメイドの前を通り過ぎて、やっとたどりついたダイニングルームには、
すでにカリーヌが三十メイルもある長大なテーブルについて待っており、
ルイズとエレオノールは向かい合って座り、数分遅れて使用人たちに動物たちを
任せてきたカトレアがエレオノールと並んで座り、才人は本来こういう席に
参加する資格はないのだが、ルイズの使い魔ということで特別にルイズの
後ろに警護のような形で立って控えていた。
「ただいま戻りました、お母さま」
「久しぶりね、エレオノール、カトレア、ルイズ、三人とも元気そうね」
 厳格ながらも、どことなく温かさを感じるカリーヌの一言に、三人の娘たちは
そろって軽く会釈を返し、給仕たちが前菜を運んできて晩餐会が始まった。
「お母さま、お父さまはまだお帰りではないのですか?」
「残念ながら、公務が思ったよりもお忙しくてね。皆も知ってのとおり、
半年前に壊滅した軍の再建も途上であるし、アルビオン王党派への支援や
他国への牽制のためもあって、ヴァリエール公だろうとのんびり退役しては
いられないのよ」
 どうやらルイズたちの父親であるラ・ヴァリエール公爵は、宮廷に駆り出されていて
もうしばらくは帰ってこれないらしかった。その知らせに、ルイズたち姉妹は
がっかりしたようで、また才人も、あのルイズたちの父親を見損ねたことで、
ほっとしたような残念なような気もしていたが、アカデミーの主席研究員である
エレオノールは、そんなところで働いている母に、アカデミーにこもっていては
知ることのできないトリステインの内部事情を聞いてきた。
「ところでお母さま、アルビオンの内乱が終結したのは伝え聞きましたが、
その後のトリステインの方針はどうなりますの? アカデミーとしては、
なにぶん時間が必要な仕事ですから、早めに武器かアイテムか秘薬かの
研究の重点を決めておいてもらわなくては、いざというときに間に合いませんわ」
「エレオノール、国の機密をそんなに軽々と口にするものではないわ。けれど、
あなたの言うことには一理あるわね。皆、これから話すことは他言無用よ」
 そうしてカリーヌは懐から取り出した杖を軽く振って、この部屋が盗聴されて
いないか『ディテクト・マジック』で確認すると、部屋全体に『サイレント』を
張って音を遮断した。これで、ここで話されたことが外に漏れる心配はない。
ただ、カトレアはまだしも才人もいっしょに聞くことに関してはエレオノールから
抗議が出たが、ルイズが「こいつは大丈夫です!」と固持し、カリーヌも
「かまいません」と許可したことから、彼女も押し黙るしかなかった。
 
 晩餐会をゆっくりと続けながら、カリーヌから語られたトリステインの近況は
ざっとまとめるとこのようなものであった。
 
 アルビオンの状況は、王党派がほぼ国内を再統一し、若き皇太子ウェールズの
元で再建に向けて精力的に動いており、国内がまとまれば皇太子が新国王に
即位するのは確実だそうだ。
 トリステイン軍も、それにともなってガリアやゲルマニアを刺激しないために、
交易のためのわずかな軽武装の小隊を数個だけ残して、アルビオンからは
撤兵しつつある。
 ただし、最終的にはたいした損害もなく帰還してきたトリステイン軍ではあるが、
汚点を残した部分もあった。トリステイン大使で、レコン・キスタの内通者だった
ワルド子爵は逮捕されてチェルノボーグの監獄に収監され、同じく内通者で
あった銃士隊副長は、捕縛後に戦闘に巻き込まれて死亡となったことが
公表されたという。しかし、この公式発表には裏があることを才人は知っていた。
「ミシェルさん、大丈夫かな……」
 しばらく身を隠すと言っていた彼女のことを、才人は口の中だけでつぶやき、
その無事を祈った。すでに、反逆が露呈している状態では、死んだことに
する以外には方法はなかったのだろうが、死人を装いながら生きるということは
並大抵の苦労ではあるまい……いや、お互いに生き延びて再会すると約束したんだと、
才人は別れ際に見たミシェルの笑顔と、唇に残ったかすかな甘い香りを思い出して、
いつかみんなで笑い会える日が来るはずだと信じた。
 その後は、才人にはうまく理解できない部分も多かったが、現在のトリステインの
内政状態や財政、他国との同盟や共同軍事演習などが話されて、エレオノールと
ルイズは随所でうなずいていた。
「基本的には、アルビオンと連携しながら国力の底上げと、軍事力の再建を
目指していく形になったわ。あと、巨大生物の出現に悩まされているゲルマニアとも、
技術提携がなされることなったから、武力の面では加速されるでしょう」
「では、これからは有力な魔道具の開発が主眼になると考えてよろしいのでしょうか?」
「ええ、火石を作った爆弾が増産不可能である以上、あなたたちはその技術力を
使って、新しい魔道具やポーションの開発を進めなさい。得意分野でしょう?」
「ええ、お任せくださいませ」
 元々、兵器の製造には乗り気でなかったエレオノールは、いまにもアカデミーに
舞い戻っていきそうにやる気を顔にみなぎらせていた。なにせ、やっと神学に
しばられた研究体系から解放されたと思ったら、次は強力な兵器を作れと
気に入らない研究を続けてきた彼女にとっては、自由に研究をしてもよいと
言われているのと同義語であるから燃えないはずはない。
「期待しています。それから、これはまだ正式な決定ではないのだけれど、
トリステインとアルビオン、両国が安定した暁には、アンリエッタ姫殿下と
ウェールズ皇太子のご結婚が発表されるでしょう」
「お母さま! それは本当ですか」
 アンリエッタ姫と幼馴染であるルイズは、その知らせにあやうく椅子を蹴倒して
しまいそうになるくらいに喜んだ。
「ええ、両国の関係を揺るがなく強固にするための王族のつとめですもの。
当然、解決すべき問題は山積みですし、最低でもあと一年は必要でしょうがね」
 それでも、ルイズにとって親友であるアンリエッタが愛する人と結ばれるのは
うれしく、二人の幸せな前途を切に祈った。
 けれど、結婚という話が持つ意味について、現在ルイズと正反対の感情を
持つのがエレオノールである。
「そうだお母さま、大切なお話があるんでしたわ。聞いてください、このルイズったら、
身分の低い男と……」
 そこでエレオノールはルイズが平民の男に恋をしていることをカリーヌに告げて
とがめてもらおうと思ったようだったが、彼女にとっては計算外に、これが思い切り
彼女自身の墓穴を掘る結果となった。
「そういえばエレオノール、あなた先日のシャレー伯爵家との婚約も解消された
らしいわね。一ヶ月前のバーガンディ伯爵との婚約解消から、これでもう
三件目の破談ですが、何かわたくしに言うべきことがあるのではなくて?」
「えっ!? あっ、そ、その!」
 鋭い目でカリーヌに睨みつけられて、エレオノールから怒気が一瞬で
払いのけられた。
「お姉さま! 三件目って、そんなに振られてたんですか!?」
 さすがに恋愛にうといルイズもあまりの数に呆れてしまった。ヴァリエール家の
長女ともなれば国中で引く手あまただろうに、しかもここ一ヶ月に限ってさえ
それなのだとしたら、総数ではいくらになるのか。
「ル、ルイズ! ふ、振られるなんて、そんなことがこの私に限ってあるわけが、
ど、どいつもこいつも栄誉あるヴァリエールにはふさわしくないでくの棒だったから、
こっちから振ってあげたのよ!」
「にしたって、多すぎませんか? お姉さまの基準で言うと、ハルケギニアから
貴族はいなくなってしまいますが……」
 バーガンディ伯爵にしたって、ルイズから見れば理想とは言わないまでも
悪い印象を持ったことはない。本人は振ったと言っているが、それをそのまま
信用するほどルイズはこの姉を知らないわけはない。
 そうなると、散々八つ当たりをぶつけられただけにルイズの心にもささやかな
復讐心がわいてきて、それからこの方面に関しては姉より先輩になれたという
優越感から、ルイズは思いっきり生意気な口調で言ってやった。
「どうも、わたしなどよりエレオノールお姉さまのほうが、貴族の子女のたしなみが
必要なのではないでしょうか? もう危ない時期なのですし」
「ル、ルイズあなた!」
「エレオノール!」
 ルイズに怒りをぶつけようとしたところをカリーヌに鋭くとがめられ、エレオノールは
恐縮すると椅子の上で縮こまった。
「ルイズの言うとおりよ、あなたに人のことをとやかく言う資格があると思ってるのですか? 
あと数年で三十路というのに、いまだに身も固まらずにふらふらと……どうやら、
あなたにはわたしが直々にヴァリエールの長女としての、それから貴婦人としての
心構えというものを叩き込まねばいけないようね」
 エレオノールの顔から血の気が引いた。カリーヌは言い終わると、何事もなかった
かのようにディナーを口にして、ルイズと才人はこみ上げる笑いをスカートの
すそを握り締めたり、ももをつねったりしてこらえて、カトレアは相変わらず微笑を
浮かべている。
 そして食後、そそくさと逃げ出そうとしたエレオノールが、逃げられるはずもなく
捕まって、屋敷の奥へ強制連行されていくのを、彼女の妹たちは温かく見送った。
「ルイズ、カトレア! 助けて、助けてぇーっ!」
「頑張ってお姉さま、痛いのは多分最初だけですわよー」
 満面の笑みと、白いハンカチを振って、涙の別れを告げるルイズの前で、
大きな扉がきしむ音を立てて閉じ、それからしばらくしてニワトリの首を絞めた
ときのような、切ない悲鳴が届いてきて、一同は心からの祈りを捧げたのだった。
 
 
 それからは、夜も更けてきたのでルイズは才人を連れてカトレアの部屋に
泊まる事になった。もちろん、これも特例中の特例なのだが、公爵および
公爵夫人、長女も不在なので次女と三女が実質この家の最高権力者
だったので可能となった。鬼のいぬまのなんとやらである。
 だが、その寝室も当然高級ホテル並に広大なものであったが、カトレアの
動物たちもいっしょに泊まるとのことなので、彼らが寝静まるまでのあいだ、
カトレアはルイズと才人をともなって、夜の庭園の散歩に出かけた。
 もっとも、それは夏の夜長の風流なものとはならなかったが。
「あっはっはっはっ! それにしても、エレオノールお姉さまのあの顔ったら
なかったわね」
「ほんとほんと、それにしても、上には上がいるってほんとなんだな。
いーひっひっひっ、は、腹がよじれる」
 二人とも気兼ねする必要がなくなったので、エレオノールをだしにして
言いたい放題言って、大爆笑した。二人とも、今頃は魔法騎士隊すら震え上がる
『烈風』カリンの指導の下でエレオノールがどうなっているかを思うと、やや薄情
ではあるとは思うのだが、元はといえばエレオノールの八つ当たりが原因
なのだから、いわば自業自得、おまけにこれであの高飛車な姉が多少は
おとなしくなってくれれば一石二鳥と考えていた。
「あっはっは……しっかし、お前の家族もけっこうにぎやかな人たちだな。
おれはてっきり、大貴族だからもっと堅苦しいものかと思ってたぜ」
「バカにしないでよ、今日は特別、普段はお母さまもお父さまもずっと厳しいんだから」
 やっとこさ収まった笑いの余韻を口元に残しつつ、二人は夏の夜の涼しげな
空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「あー、笑うだけ笑ったらスッキリした」
「まったく、あんなエレオノールお姉さまの顔なんて、めったに見れるものじゃないわ、
自分のもてないのを人に押し付けようとするからあんなことになるのよ。でも、
あんたちょっと笑いすぎよ、あれでも一応わたしのお姉さまなんだからね」
「そんなこと言って、おれよりでかい声で笑ってたのはルイズだろ。ぷ、やべ、
思い出したらまた笑いが」
「ぷくく……わたしも、あっはっはっははは!」
 人目がないからいいようなものの、二人ははしたないととがめられても
文句は言えないほどにまた笑い転げて、そんな二人を後ろからついていきながら
じっと見守っていたカトレアは、ふと短くつぶやいた。
「二人とも、本当に仲がいいのね」
 微笑を浮かべながらささやかれたカトレアの言葉に、二人ははっとなったように
ほおをそろって紅く染めた。
「いいお姉さんだな」
「でしょ、でしょ!」
 耳元でぼそぼそと、二人はカトレアに聞こえないようにささやきあった。
 まったく、ルイズが自慢するのもよくわかる。おしとやかで優しくて、おまけに
スタイル抜群と、非のつけどころが見つからない。
「サイトくん、どう? わたしたちの家は気に入ってくれた」
「はい、最初はちょっとビビってたけど、みんなルイズのことを思ってるし、
すごくいい家族だなって思いました。でも……」
「でも?」
「ちょっと、不安になったっていうか、ルイズはこんなすごい家に住んでる身分
なのに、おれは身ひとつの平民ですから」
 気を落ち着かせて、この広大な庭園を見まわしてみたら、カトレアの優しさに
包まれていても、才人は、自分はやはりここには場違いな存在なのだなと、
心の中の疎外感をぬぐいきれなかった。
「気後れして、自信がなくなっちゃった?」
「いえ、ルイズが好きなのは変わらないけど、将来うまくやっていけるかなあって」
 その心配ももっともであった。世界中、過去幾多の愛し合った者同士が、
身分の差、財産の有無などで泣く泣く別れなければならなくなったことか
銀河の星々の数にも匹敵しよう。
「何言ってるの、あんたごときがどうあがいたって、ヴァリエール家に匹敵できるような
門地を一代で得られるわけないでしょう。心配しなくても、どうしても許してくれないって
いうならわたしにも考えがあるから」
 ルイズはそう言ってくれて、実際それはうれしいのだが、エレオノールのことは
明日は我が身なのである。
 ただの平民が、トリステイン最大の名門貴族であるヴァリエール家に婿入りする。
どんな痴人でも夢想しないようなバカな幻想であるが、そのバカなことをこそ
成し遂げなければならないことに、二人が不安を感じているのを見て取ると、
カトレアはふぅと息を吐き出すと、数歩後ろに下がった。
「サイトくん、悪いけど、ちょっとわたくしのわがままに付き合ってもらえるかしら?」
「え?」
「ルイズ、あなたの彼、ちょっとお借りするわよ」
「ちぃねえさま……?」
 唐突なカトレアの言葉に、思わず怪訝な表情をした二人だったが、カトレアは
いつの間にか魔法の杖を取り出しており、微笑を浮かべたままだが、まとった
雰囲気がこれまでのような穏やかで優しいものから、刺す様な峻烈な気配に変わっていた。
「サイトくん、わたしもね、ルイズのお姉さんだから、妹が意気地のない男の人の
ところへ嫁いでいくのは我慢できないの、わかってくれる?」
 無意識につばを飲み込む音が才人の喉の奥に響いた。口調は穏やかでも、
その中にはとてつもない威圧感が潜んでいる。エレオノールに睨まれたときと
同じような……いや、エレオノールが燃え盛る大火の迫力だとしたら、
それよりもはるかに高温なのに、静かに煮えたぎるマグマ……そう、まるで
『烈風』のそれに匹敵する、段違いの殺気。
「ち、ちぃねえさま、まさか!?」
 ルイズが言い終わるより早く、カトレアは高速で詠唱を終え、『錬金』の呪文を
完成させていた。魔法の光がカトレアの足元に吸い込まれ、瞬く間に地面が
小山のように盛り上がっていき、やがて土くれでできた巨大な人形の形をなしていった。
「ゴーレム!」
 そう、それは錬金によって生み出されるメイジの操り人形ゴーレム、カトレアは
その左肩に立って二人を見下ろしていた。
「サイトくん、あなたが本当にルイズを守れる殿方かどうか、確かめさせてもらうわね。
あなたの本気、証明してみせなさい」
「やっ、やっぱりですかぁー!」
 才人は最悪の予感が的中したことと、想像もしていなかった天国から地獄への落下に
人生の不条理を呪わずにはいられなかった。なんで? どうしてここでカトレアさんと
戦わなければいけないの? しかも、このゴーレムは。
「で、でかい……」
 カトレアのゴーレムの身の丈は、かつてトリステイン中を震撼させた怪盗・土くれの
フーケのゴーレムでもせいぜい三〇メイルだったのに、少なく見積もっても四〇メイルは下るまい。
才人は、さっきなぜエレオノールがカトレアから引き下がったのか理解した。単純な話だ、
この人は……強いんだ!
「ルイズ、カトレアさんって……メイジのクラスは?」
「土の、トライアングルだったはずだけど……わたし、ちぃねえさまが本気で魔法を
使うところなんて、見たことないの」
 ルイズも、カトレアがこれほどの魔法を使えるとは知らなかったようで、顔を引きつらせて
ゴーレムを見上げている。
「さあ、いくわよサイトくん。わたしに勝って、見事ルイズを手に入れて見せなさい!」
「ちょ、ちょっと待ってーっ!」
 振り下ろされてくるゴーレムの巨大な拳を間近に見ながら、才人はやっぱりこの人も
間違いなくルイズのお姉さんなんだなと思った。
 
 続く
116ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2010/06/20(日) 16:08:06 ID:BqDi0xZ+
以上です。支援してくださった方々、どうもありがとうございました。
さすがにあれだけ激しく戦ったあとで、いきなり怪獣戦というのは酷かと思ったので、まずは
夏休みらしく里帰り、そしてようやくちぃねえさま登場できました。
まあこの一家のことですから、ほのぼのとはなかなかいきませんが、平和ってのはやはりいいものですね。
ま、ある意味怪獣と戦うよりもやっかいな状況になってますが、これも愛の試練ということで。
ちなみに、うちのちぃねえさまはアニメ版を準拠していますので『元気』『強い』という属性が付加
されています。詳しくは双月の騎士・第5話をごらんください。別に魔改造とかはしていません。
 
では次回はカトレアVSサイト&ルイズです。今後とも、またよろしくお願いします。
117名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 16:12:21 ID:zjoF6K+c
怪獣が全部飼われていたことに噴いたw
投下乙です
そして、お帰りなさい。
118名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 16:47:00 ID:XfKNKOqq
ウルトラ乙そしてウルトラ帰還乙
119名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 18:04:17 ID:6FBVdNT+
ゴリラで球体というのでてっきりM1号かと思いました。乙。
120名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 18:07:13 ID:/ZRpduiA
避難所に『三重の異界の使い魔たち』が投下されてたんで代理投下いきます
121名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 18:07:18 ID:5/anMHvG
ウルトラの人おつかれさまです。
貴方の帰還は心の中でひっそりと期待していました。

追伸
ウルトラマン(エース)が…帰ってきた!
122三重の異界の使い魔たち 01/06 代理:2010/06/20(日) 18:08:54 ID:/ZRpduiA
〜第4話 もう1組の主従〜

 ハルケギニアの竜の中に、古代から伝説として詠われる種族が存在する。その種族は言語感覚に
優れ、知能は通常の竜はおろか人間さえ上回り、先住魔法の名で知られる精霊の力を操り、強力な
息吹を武器とし、大空を疾風のごとく飛翔する。

 その強力な種族を韻竜といい、その中で風と深く関わる眷族は風韻竜と呼ばれた。

「そして、その一員が、このイルククゥなのね! きゅい!」

 魔法学院の片隅で、齢約200歳――人間でいえば10歳前後――である竜の少女、イルククゥは、
自らを召喚した桃色がかったブロンドの少女、ルイズにそう名乗る。その召喚者は半ば呆然とした
表情でイルククゥを見上げていると、やがて我に返ったらしく口を動かしはじめた。
「まさか、貴方が韻竜だなんて思わなかったわ……」
 信じ難いとばかりにルイズが言う。
「きっとそうだと思ったから、黙ってただの風竜のふりをしてたの! だって、ルイズ様ったら
風竜を呼んだと思っただけで泣いて喜んでるんですもの!」
 風韻竜が人間に劣るなどとはこれっぽっちも思っていないが、一応は使い魔となったのだし
相手のことは様付けしておく。
「これで、わたしが風竜どころか風韻竜だなんて判ったら、嬉しがりすぎで死んじゃうかも
しれなかったわ! この風韻竜の機転と心遣いに、感謝するがいいのね!」

 初めて一族から暮らす巣の外に出てきたことと、初めて人間と会話していることの興奮から、
イルククゥは口も軽く言葉を吐き出していく。普通の竜ならばこんな風にぺらぺらと喋ることなど
不可能だが、韻竜である彼女には雑作もないこと。それにイルククゥは年頃の少女らしくお喋りな
気質なのだ。

「なんだか微妙に偉そうな態度が気になるけど、それにしても驚いたわ」
 イルククゥが1人言葉を続ける中で、ルイズは少し落ち着いたらしい声をだす。
「韻竜は、もう絶滅したっていわれているのに」
「きゅい! それは違うのね。わたしたちは、人間の目から離れた場所に巣を作って、そこで
暮らしているの」
 ルイズの言葉に、イルククゥは召喚される直前までいた場所を思い出す。

 彼女たちの一族は、俗世間から遠く離れた場所で、修道僧のように毎日大いなる意思への祈りを
捧げ続けるという、なんとも退屈な暮らしを続けていた。父曰く、自分たちのような古い一族は
あらゆる危険から離れて長生きすることが世界への恩返しなのだというが、巣の外へ出ることも
許されない生活なんて幼いイルククゥには窮屈すぎる。
だからこそ、イルククゥはルイズが開いた召喚のゲートに、迷わず飛び込んだのだ。偉大なる
古代の眷族たる自分を召喚するのだから、さぞや強力な魔法使いなのだろう、その人物から様々な
ことを学べば、一族に新たな知識をもたらせるだろう、そんな期待を胸に。

 ゲートの主が思ったよりも頼りな気な少女だったということは少々期待外れだったし、偉大なる
風韻竜の自分をただの風竜呼ばわりしたことには多少怒りを覚えたが、自分に抱きつきながら涙を
流す姿を見ては、とても刺激するような真似はできなかった。
123三重の異界の使い魔たち 02/06 代理:2010/06/20(日) 18:10:52 ID:/ZRpduiA
 それに、ルイズの容姿が人並み外れて整った、可憐な容姿であることも大きい。ウェーブ気味で、
桃色がかったブロンドの綺麗な長い髪。小柄でほっそりした、柔らかそうな体。勝ち気そうな鳶色の
双眸を持つ、あどけなくも高貴さを感じさせる顔立ち。竜の目から見ても、ルイズは美しいと認める
ことができた。イルククゥも女の子、可愛いものには弱いのだ。人間の少女が愛らしい猫や犬に頬を
緩めるように、異種族であっても、むしろ異種族だからこそか、可愛いものは可愛いと感じてしまう
ものらしい。

 一方、ルイズはイルククゥの言葉に1つ頷くと、なにやら顔を笑みで彩りだす。
「私が、風竜どころか風韻竜を召喚するなんて」
 小さな呟き、それを皮切りに、自信に満ちた声が放たれていく。
「そうね、そうよね! とうとう努力が実ったんだわ! 私だってヴァリエール公爵家の娘なんです
もの、いつか大成するって信じてたわ!」
 満面の笑みで、ルイズは自分の召喚の結果に、再度の喜びを露わにした。ほんの少しだけ、また
目に涙を見せながら。
「見てなさいよ、あいつら! なんたって風韻竜を使い魔にしたんだから! これでもうゼロだ
なんて呼ばせないわ!」
「ゼロってなに?」
「なんでもないの! もう関係ないんだから! きっと、この調子で私はどんどん才能を開花させて
いくわ!」
 言いながら、ルイズは腰に手を当てて薄い胸を張った。

 それにしても、先程は泣いて喜んだと思ったら、今度はこの自信たっぷりの様子。愛らしい外見の
割に、結構調子に乗り易いタイプなのかもしれない。

 もっとも、お調子者なのはイルククゥも同じなので、似た者主従といえるのだが。

 それはともかく、自分を召喚したことでこれほど喜んでくれるルイズに、イルククゥは好印象を
抱いた。
「きゅい! そんなに喜ばれると、わたしも嬉しくなってくるわ! きゅいきゅい!」
 歌う様な調子で言いながら、イルククゥはあることを思い出した。
「きゅい! でも、ルイズ様! これだけは覚えておいてほしいのね!」
「? どうしたの?」
「あのヘンテコ! あの気持ち悪いのには、近づいちゃダメなのね!」
 イルククゥの言葉に、ルイズは首を傾げるばかりだ。そこでイルククゥも記憶をたどり、補足の
言葉を重ねる。
「ほら、あの青い髪のちびっこ! あの子の召喚したのの1匹なのね!」
「青い髪……ああ、あの子、タバサっていったかしら」
「そうなのね、って、ありゃん? ルイズ様あの子のこと知らないの?」
 同じ魔法学院のクラスメイトだということなのに、よく知らなそうな様子に疑問符を浮かべる。
「去年は別のクラスだったし、あの子目立つタイプじゃないから」
 ルイズは説明しながら、それにツェルプストーとよく一緒にいるし、とよく判らないことを言って
眉をしかめた。
124三重の異界の使い魔たち 03/06 代理:2010/06/20(日) 18:12:21 ID:/ZRpduiA
「それで、あの子がどうかしたの?」
 聞き返す召喚者に、若干苛立ちながらイルククゥは繰り返す。
「だから! あの子が召喚したヘンテコ! 3体も召喚されてたけど、その中で1番気持ち悪いの!」
「ああ、あの気味の悪い仮面のこと?」
 イルククゥはこくこくと頷いた。
「そうそう、そいつ! あれには近づかない方がいいのね、というか絶対近づいちゃダメなのね!」
「う、うん。まあ、あんなのに近寄りたくはないけど」
 鼻息荒く迫れば、ルイズがやや(?)怯んだ様子で応える。

「でも、なんでそこまで念を押すのよ?」
 不思議そうな顔で尋ねてくるルイズ。それに一瞬イルククゥの方がきょとんとするが、すぐに
人間は精霊の声が聞こえないことを思い出した。
「あのヘンテコ、絶対危険なのね! だって、あいつが出てきた途端、周り中の精霊たちが一斉に
警戒しだしたんだもの!」
「精霊が警戒? そんなことってあるの?」
 どうやら韻竜が精霊の声を聞ける種族であることは理解しているらしい。召喚者の博識ぶりに
嬉しくなるが、今はおいておく。
「今まではそんなこと1度もなかったし、お父様もお母様も長老様たちも、誰もそんなことが
あるなんて言ってなかったのね。だから、そんな事態を引き起こすあいつは、絶対に危ない奴
なのね!」
 語気も強く、力説してみせた。あんな者に、この愛らしい召喚者を合わせるわけにはいかない。
あの時の精霊たちの声、あんな怯えを含んだ声なんて、聞いたことがなかった。第一、あの
仮面の姿自体も気に入らない。繰り返すが、イルククゥは女の子。可愛いものは好きだが、不気味な
ものは嫌いなのだ。まずは外見で第一印象が決まることは、どの種族もあまり変わりがない。



「えーっくし!」
「どうしたの、ムジュラの仮面?」
 突然奇妙な声を上げるムジュラの仮面に、ナビィが驚いた。
「いや、なにか急にくしゃみが……」
 ムジュラの仮面が戸惑った風で言うと、今度は才人が訝しむ。
「鼻も口もないくせに、どこでくしゃみ出すんだ?」
「いや、オレもこれまでこんなことはなかったんだが……」
 そして、ムジュラの仮面は体ごと首を傾げ、周りの者たちも合わせる様に首を捻るのだった。



「そう、判ったわ。元々そうするつもりはなかったけど、あの仮面には近づかないようにする」
 シルフィードの警戒心が伝わったのか、ルイズは先程よりもはっきりと約束してくれた。それに
安堵の息をつくと、今度はルイズが表情を引き締めて口を開く。
「でも、私の言うことも聞いてちょうだい」
「? なんなのね」
 聞き返すと、ルイズは周囲を見回して、人目があるかどうかを確認した。今更という気がするの
だが。やや呆れ気味に見ていると、ルイズはイルククゥに近づき顔を下げさせる。
「今日から、人前で言葉を話すのはダメだからね」
125三重の異界の使い魔たち 04/06 代理:2010/06/20(日) 18:14:12 ID:/ZRpduiA
 そして、声をひそめて耳打ちされた言葉に、激昂する。
「何を言い出すのね、この桃色娘は! 偉大なる風韻竜であるこのわたしに、いつまでもおバカな
風竜なんかのふりをしていろっていうの!」
 唾と一緒に抗議の声を飛ばした。今日はルイズが落ち着いてからということで我慢したが、
これから毎日会話してはいけないなど冗談ではない。その怒りのままに、イルククゥは文句の
言葉を放っていく。その声の風圧に吹き飛ばされそうになりながらも、ルイズは長い髪を抑えつつ
言葉を続けた。
「お願い、聞き分けて! 韻竜種は絶滅していると思われてるし、もし貴方のことが知れたら
きっと大変なことになるわ!」
「大変なことって、どんなことなのね」
 まだ憮然としながらも、少し声を抑えてイルククゥは聞いてみる。その質問に、ルイズが
溜息混じりで説明を始めた。

「きっと、アカデミー(魔法研究所)が研究のためだっていって、貴方を連れていっちゃうで
しょうね。もしそうなったら、きっと連日連夜実験材料にされて、挙句の果てには体を
バラバラに……」
 ルイズの語る内容に、イルククゥは慄然とする。
「こわい!」
 たかだか言葉を喋るか喋らないか程度のことで、そんなことになり得るとは思いもよらなかった。
恐怖の声を上げるイルククゥに、ルイズは頷く。
「そう、恐いことになっちゃうのよ。私もそんなことにならない様させたいけど、アカデミーは
王立機関だからヴァリエール家でも流石にどうにもできないし、それに万一エレオノール姉さまに
知れようものなら……」
 そこまで言うと、突然ルイズは身を震わせ始める。

「きゅい?」
 それに怪訝としていると、ルイズの口からなにやら言葉が漏れていることに気が付いた。
「ごめんなさい姉さまでもイルククゥはせっかく召喚できた私の使い魔なんですだから
取らないで……」
「きゅ、きゅい……?」
  自分の鱗のように顔を青くしながらぶつぶつと呟くその姿に、イルククゥは我知れず
後ずさった。その距離、約3メイル程。先程のエレオノール姉さまなる人物に、よほどなにか
あるのだろうか。
「貴族の義務は判っていますですけどおねがいです連れていかないでああごめんなさいほっぺた
つねらないで顔ふまないでごめんなさい母さまへの報告だけは堪忍して……」
「あ、あの……、ルイズ様……?」
 憑かれたように独り言を続けるその様は正直不気味この上ないが、イルククゥは思い切って
声を掛けてみた。そこで、やっと正気に戻ったらしいルイズが咳払いをする。顔色はまだ
真っ青なままだ。
「と、とにかく、喋ったら大変なことになるから、他の人には喋っているところを見られない
ようにしなきゃダメなんだからね!」
 びしっと指を突きつけてくるルイズに、イルククゥは勢いよく首を上下させた。先程の尋常で
ない、むしろなさすぎるルイズの様子に、すっかり不安が伝染してしまったのである。
126三重の異界の使い魔たち 05/06 代理:2010/06/20(日) 18:15:27 ID:/ZRpduiA
 そこで、ルイズが何か思いついたような顔をした。
「そうか、それなら名前も変えた方がいいかもしれないわね」
「きゅい? 名前?」
「ええ。イルククゥって可愛い名前だと思うけど、私が思いつくような名前じゃないし、なんで
そんな名前にしたかって聞かれたら答えられないもの。もし聞いてきたのが姉さまだったり
したら……」
 そこまで言って、また何処か遠い所に行ってしまいそうになりかけるルイズに、イルククゥは
慌ててブレーキを掛けさせる。
「そ、そういうことだから、人前ではなにか別の名前で呼んだ方がいいと思うのよ」
 言うが早いか、ルイズは唇辺りに指を当て、考え込み始めた。
「風韻竜なんだから、風に関する名前の方がいいわよね、それに女の子だし、可愛い名前に
しなきゃ」
 眉根を寄せて、可愛らしく唸るルイズ。それを見ていると、自然と胸が温かくなってきた。
使い魔となった自分の身を案じてくれ、自分の名前を一所懸命に考えてくれている。そのことに、
イルククゥはルイズの優しい心根を感じずにはいられなかった。

 そして、やがてルイズは結論が出たらしく、両の手を打ち鳴らす。
「うん、決めた! シルフィードっていうのはどう?」
「シルフィード?」
 聞き返すと、ルイズは笑顔で頷いた。
「物語に出てくる、風の妖精の名前よ。どうかしら?」
――シルフィード……
 ルイズが考えてくれた名前を反芻していると、心が観劇に染まっていくのが判る。
「素敵な名前ね! きゅいきゅい! 可愛くて綺麗な名前! 新しいなーまーえー!」
 跳びはねたい様な喜びを歌声で表してみれば、ルイズの方もますます顔をほころばせていった。
「ふふ、気に入ってくれたみたいね」
「ええ、とっても! どうもありがとう、ルイズ様!」
 感謝の言葉を告げながら召喚者、否、主人であるルイズに鼻先をすりよせる。
「も、もう、使い魔が勝手にご主人様に顔を近づけるなんて、本当は不敬なんだからね」
 口ではそんなことを言っているが、その紅潮した頬と緩んだ口許を見れば、照れ隠しである
ことは見え見えだ。そんな主の子どもっぽい愛らしさにイルククゥ、否、シルフィードの中で
ルイズへの愛おしさが募っていった。
「でも、あのヘンテコには絶対近づいちゃいけないのね!」
 だからこそ、あの奇妙な仮面に対しては、釘をしっかり刺しておく。
127三重の異界の使い魔たち 06/06 代理:2010/06/20(日) 18:16:40 ID:/ZRpduiA
 そして、実のところその考えは決して的外れのものではなかった。
 ハルケギニアに生息する幻獣と、ハイラル、タルミナ等でモンスターと総称される魔物や魔族。
姿形に関しては大差が無くもないのだが、この両者はある一点において大きく異なっている。
それは、幻獣が生態系に則った存在であるのに対し、モンスターはこの世のルールの乱れから
生まれ出るものであるということだ。
世界のルールの乱れ、例えば世の平和が脅かされる時、そこにモンスターの生まれる余地が
生まれる。生まれたモンスターたちはその凶暴性のままに世を乱し、それが更にモンスターを
生む。その歪んだ生態故に、モンスターは世界の理法を司る精霊たちとは敵対関係にあった。

 普通、幻獣は精霊と戦おうなどとは思わないし、中には韻竜のようにその力を借りるものさえ
いる。しかし、モンスターはそうではない。例を挙げるなら、ハイラルではナビィの故郷である
森を守護してきた精霊デクの樹が魔物に呪い殺されたし、それとは別の時代に空の精霊ヴァルーや
水の精霊ジャブー等が魔物に脅かされ、また別の時代にはフィローネ、オルディンといった光の
精霊たちが魔物に力を封じられている。そして、当の奇妙な仮面、ムジュラの仮面自身もまた、
邪気と魔力が健在の頃はタルミナの四方を護っていた守護神たちを呪って魔獣に変えた上、精霊の
眷族である大妖精を――殺したわけではないが――ばらばらに引き裂いていた。
 世界に仇なし、時として精霊さえも手にかける魔性の命、それを魔物や魔族と呼ぶのだ。
そんな異世界の存在の生態をシルフィードたちが知る由はないが、それでもシルフィードはあの
仮面に対しては最大限の警戒をしておくよう、心に決めていた。

 と、そこでシルフィードのお腹がくぐもった音を鳴らす。
「きゅい、ルイズ様、わたしお腹がすいた、お腹がすいた、お腹がすいた!」
「そうね、そういえば、召喚してからまだご飯あげてなかったっけ」
 思い出したようにルイズは言うと、踵を返してシルフィードを招いた。
「じゃあ、いらっしゃい。厨房の場所を教えるから、貴方が来たらご飯をもらえるように
言いつけておくわ」
「きゅい! ごはんごはん!」
 喜ぶシルフィードに、ルイズは少し眼を厳しくさせる。
「でも、約束ちゃんと判ってるわね?」
「きゅい! きゅいきゅい!」
 喋ってはいけないことを覚えていることを示すように、シルフィードは竜の泣き声で応えた。
その態度に満足したらしいルイズは、シルフィードを厨房に連れていき食事を与えてくれる。
その食事の美味しさに、シルフィードは思わず感涙してしまった。巣では調理という概念が
なかったため、貴族用の食事を作るコックたちの料理は新鮮な驚きと喜びに満ち溢れていた。
そして、そんな食事を与えてくれた主のことが、ますます好きになっていく。舌鼓を打ちながら、
イルククゥ改めシルフィードとなった風韻竜の少女は、新たな絆の証である使い魔のルーンを
見つめるのだった。

 その左前足の甲に浮かんだルーンが何を意味し、自分を召喚した少女がどういうメイジなのか、
何も知らないままに。

〜続く〜
128三重の異界の使い魔たち 代理:2010/06/20(日) 18:19:36 ID:/ZRpduiA
 以上、今回はここまでです。

 シルフィードは弱気になったり、偉そうになったり、人間莫迦にしたりと
態度がころころ変わるキャラなので扱いが難しい……。

 ムジュラの仮面への非難は、ゼル伝モンスターは基本精霊殺しなので先住
魔法使うシルフィードとは折り合い悪いだろうと思いこうなりました。
 モンスターの生態に関しては推測がかなり入ってます。

 精霊が普遍の存在であることと、やられ役であること。この精霊観の違いが
ゼロ魔とゼル伝のクロスが少ないことの理由の1つになっているんじゃないかと
思うんですが、どうでしょう?

 次回は才人視点からスタートです。

 どなたか、ここまで代理投稿お願いします。



これで代理投下終了です
……なんかシルフィードが幸せそうで和むw
人型に変身出来るからガンダルーンも無駄にならないし、いい組み合わせかも
129名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 18:40:19 ID:aYkx2ghh
>>128
作者様&代理乙ー。
そういや避難所にもう1作品あったな。
ケータイまで規制中だから代理できないんで誰か任せた。
130名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 18:46:57 ID:pcHsXxhj
乙です〜
代理と言えば前スレで投下されてまだWikiに登録されてないのも…
俺も規制中なんで誰かお願い。
131名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 19:21:41 ID:+YAZZsZL


そういや原作においてあり得ないわけだから設定も無いんだろうが
ヴィンダールヴ能力は獣の虚無使い魔に対しても有効だろうか
場合によっては某WナンバーズのコードPTPみたいに指揮系統の混乱を招きかねない気がするが
132名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 19:43:15 ID:80Mq7ii/
もっと、こう…ルイズが同級生や優秀な母姉に対する劣等感と嫉妬と怨念によって堕落していくSSが読みたいんだが、そういうの無い?
133名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 20:19:09 ID:PFs1Kmpa
そういうのはゼロ魔のSSを語るスレで聞くのがいいんじゃない?
クロスSS限定で、っていうのならこのスレでもいいんだけどさ。
134名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 20:27:46 ID:eryccdVA
>>131 獣の虚無使い魔に対しても有効だろうか

意思が動物よりはるかに強く、自我がはっきりしているはずの人間、
それも他人の、虚無の使い魔であるサイトが、ヴィンダールヴにたらしこまれそうになりました。
男同士なのにしっかりしろと自分にいい聞かせていました、サイトが。

うん、男同士で。
ちなみに、教皇とウィンダールヴは、少なくとも契約の時にキスしています。
男同士で、キスしています。
異性に触れてはならないという戒律はあっても、同性ならオッケイです。
さらに言えば使い魔と主は強い絆が強制的に付与され、
場所はホモの巣窟教皇庁です。



結論:動物の虚無の使い魔なんてイチコロでしょう。
135名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 20:47:22 ID:RQpXZpXF
まあヴィンダールヴは、シルフィードだってある程度は操れるみたいだしなぁ。
136名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 20:48:14 ID:zjoF6K+c
つまり、人間体のシルフィーすら……!?
137名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 21:23:54 ID:tac2YvX1
>>134
キリスト教的には同性愛者(ソドミスト)は町ごと塩の柱にされるわけだが
138名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 21:26:52 ID:dGM9D1K7
>>134
しかし、現実にはホモじゃない聖職者なんて絶滅危惧種だよ?
キリスト教でもイスラームでも。
139名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 21:29:40 ID:d+0DU5Ch
股間が熱くなるな・・・
140名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 21:34:04 ID:ZoSY3ruL
さすがに同じ虚無なら大丈夫じゃないかな。
普通のルーンならダメでも虚無のルーンなら打ち消せなくてもヴィンダールヴのルーンの効果を軽減くらいすると思う。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 21:57:35 ID:+YAZZsZL
まぁやっぱり虚無なら多少の耐性がつくくらいはありそうってもんですかな
他人の使い魔だって操れるし
洗脳の上書きですよな、要するに

>男同士で、キスしています
ジョゼフがデビルカズヤか何かを召喚して
いざ契約となってやるせない空気が満ちたのを思い出した

まぁご立派様ほどじゃあるまいがな!!

というわけで今度は契約を躊躇いたくなる使い魔〜

アトモス(ファイナルファンタジーシリーズ)とか考えて
これむしろ逆召喚ネタに使えなくね?とか考えた
142名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 22:17:45 ID:2Fhq2x7I
どこに口付ければよいのか分からないって意味でダブルクロスリプレイの嵯峨童子
てか放電する甲冑に顔を近づけるのが難しい
143名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 22:24:26 ID:GkE4s7i6
あんまり虚無虚無いってると虚無るぞ
144名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 22:28:47 ID:EoXkbtcb
どわおっ
145名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 22:29:26 ID:KsMMJiBk
そういやよく土下座衛門使い魔ネタがあるけど
アレってゼロ魔の使い魔召喚システムだと従えるの無理だよね
小型の亜種なら話は別だけど
146名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 22:32:22 ID:zjoF6K+c
そんな良く出てくるのか、鈴木さん
147名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 22:35:30 ID:6FBVdNT+
>142
嵯峨童子は以前考えたんだが、

※女性キャラが手首に緑色のバンダナを巻く(ルイズを除く)。

※対レコンキスタ戦で500騎しか倒せない。

※「今日の嵯峨童子、大活躍でしたよ」

※「あなたのシエスタは無事モット伯の魔手から逃れました」「あなたのフーケは無事……」「あなたの……」

ことごとく劣化えんどーちん。
148名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 22:58:46 ID:cf1Bq2xR
>>137
作中を見る限りでは同性愛者は引かれはされても糾弾はされていないので、ブリミル教では特に禁止されていないんだろう。
149名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 23:04:59 ID:iwjg1QYQ
女性がどう思っているかはさて置き。
……男としては異性間は正統派、レズもノープロブレム、ただしホモは駄目だ。
150名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/20(日) 23:16:25 ID:9GOKstL7
うわぁ……
151名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 00:36:58 ID:meg8cETb
>>131読んでふと思ったんだが、ルイズがアシェン召喚したら常に喧嘩するハメになりそうだな

「もういい歳なんだから着替えぐらい自分でしやがりくだしゃんせ、つるぺた貴族」
152名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 07:23:22 ID:uc/GLyS3
まとめサイトで雪風上がってた。
雪風の人乙! 何気にここで姫様がアレなSSは初めて見たかもです。
153名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 08:00:22 ID:edYGyeEC
>>149
だが待って欲しい。
世の中にはデブ熟女レズ物AVとかもあってだな。
154名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 08:09:41 ID:M9cgIl3B
>153
では「美少女・美女に限ってレズも可」と。
155名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 11:11:26 ID:PNPU33DU
>>153
何故か淫乱テディベアを思い出した orz
156名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 12:32:41 ID:yqAL8T4O
結論:かわいければなんでもいい
157名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 12:56:27 ID:6GYtVCiP
まあ股間が反応するならどんな組み合わせでもいいよ
158名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 13:19:55 ID:H/qJd9Ze
>>130
wiki登録は規制関係ないだろう。

三重の異界の人、乙
エレオノールにびびりまくりというかびびりすぎのルイズに吹いた。
159代理:ゼロの黒魔道士第76幕1/7:2010/06/21(月) 16:32:54 ID:eevAehu6
こっそり投下しようと思えば、規制中。嘆かわしいことです。

できますれば代理をお願いしたく存じます。
以下本分よろしくお願いいたします。
----
クリスタル・ワールド。
全ての、ありとあらゆる世界の記憶が、いつか帰りつく場所。
全ての、ありとあらゆる世界の記憶が、いつか生まれてくる場所。
クリスタルの結晶が道を作って、クリスタルの結晶が空を彩る場所。
不思議で奇妙で、でも懐かしくて、幻想的なそんな場所。

景色を楽しめればいいんだろうけど……
合流したボク達に、そんな余裕は無かったんだ。

「急いだ方が良い」
「え、ちょ、クジャさん!?ひっぱらないで――」

ほとんど、無言で走った。
さっき見た、吐きそうになるぐらい濃い『記憶』。
その記憶が辿りついた場所に、ボク達は走ったんだ。

……全ての始まり、『ゼロ』の場所へ……



ゼロの黒魔道士
〜第七十六幕〜 久遠の影



渦巻く光の回廊を越えた先、
綺麗に六角形にそびえ立ったクリスタルの柱の上、
まるで祭壇のような独特の寒さと怖さを感じる場所。
そこに、その男の子は立っていた。

幽霊、ファントム。
第一印象は、そんな感じだった。
何て言うか……薄いんだ、存在そのものが。
放っておいたら、空気に溶け込んで消えてしまいそうに薄い。

その男の子は空を見ていた。
何かが落ちてくるのを待っているように、空を見ていた。
だけど、ボク達の足音が聞こえたのか、ゆっくりと振りかえったんだ。

ドキッとした。
綺麗だから?うん、そうかもしれない。
瞳はそれぞれ色が違うけど、どちらも宝石みたいだし、
肌は真っ白で雪みたい、髪の毛は小麦の畑みたいになびいている。
ドキッとするぐらい綺麗……というより、綺麗なのが怖いんだ。
こう、どことなく不自然な綺麗さ。
自分についた何もかもを、無理矢理にでも全部落としてしまったような、そんな綺麗さ……

「――来ました、か」

笑った。男の子が、笑った。
笑顔が、冷たい。
暖かさというものがスッポリ抜け落ちてしまったような冷たさ。
形だけの笑った顔。中身が無い、空っぽの。
160代理:ゼロの黒魔道士第76幕2/7:2010/06/21(月) 16:34:16 ID:eevAehu6
「最後まで幕の裏とは恐れ入るね。行きすぎたどんでん返しの見本としては上々だ」
「フォルサテは――」

聞かなくても、分かってる。
さっき見た『記憶』が本当なら、結果は分かっている。
でも、確かめずにはいられなかったんだ。

「――命って、あっけないと思いませんか?
 永遠を望んでは散り、復活を望んでは絶望し……」
そう言いながら、男の子は自分の手をまじまじと見つめていた。
女の子を救えなかった、その手を。
フォルサテを突き放した、その手を。

「ジュリオ・チェザーレ君だったね?君がフォルサテを殺してくれるとはねぇ……」
「いいえ、僕はジュリオでもチェザーレでもありません……
 名前なんて、とうの昔に落っことしてしまいました。あの子の命と一緒に……」

きっと、この男の子は、名前も、感情も、何もかも、一緒に落してしまったんだと思うんだ。
だから……欲しくなったんだと思う。
足りない何かを、埋める何かを。


「――君は、何を狙っている?」
「単純な質問ですね。
 死の際まで長台詞を歌いあげていた死神様とは思えませんよ」

うまく言えないけど……大切なものがすっぽり抜け落ちて、
ずっとずっと空っぽだったんじゃないかなぁ。
空っぽで、何かを埋めたくて、何かが欲しくなって……

「まぁ、良いでしょう。こちらも単純に ――
 綺麗な世界を作りたい、それだけです」
「ほっ、安心した。良い人じゃないか……」

欲しがり続けて、気付いてしまったんだと思うんだ。
いくら求めても、手に入らないってことが。

「――方法は?」
「腐ったこの世界を全て消し去り、この手で再生する――」
「――ゴメン、やっぱり悪い奴だった」
「ギーシュ、あんたは黙ってて!」

手に入らないから、自分には手が届かないから……

「それが可能だ、とでも?」
「今の世界は、存在そのものが罪。
 ――僕と同じですよ。欺瞞と虚言で腐りきっているんです。

 神のためと法螺を吹き、欲のために剣を取り、
 他人のためと嘘をつき、自分のために杖を手に、
 守るために振り上げた手を、奪うために振り下ろす……」

悔しくなって、辛くなって、悲しくなる。
文句を言って、酷いことを言って、空に向かって全部吐きだして。
そうやって、自分の気持ちに整理がついたら、一番良いのにね。
いつか諦めることができて、歩き出せたら、どれだけ良いことなんだろうね……
本当にそう思う。
161代理:ゼロの黒魔道士第76幕3/7:2010/06/21(月) 16:35:56 ID:eevAehu6
でも……それでもやっぱり、辛いから、苦しいから……

「ふん、なんだ。
 人の醜い一面を認められないお子様か」
「そんな世界を、『彼女』には見せたくないんです。
 だから、全てを壊し、作り上げたいんですよ。
 綺麗な世界を、争いのない平和な世界を。
 死すら抱きとめてくれるほどの、慈しみの世界を」

何もかもが、許せなくなる。
自分が、みんなが、世界が。
でも、だからって、だからって……

「……そのために、壊すっていうの!?」


そんなの、絶対間違っている!そうだよね?
救うために壊すなんて……おかしいよ、そんなの!

「まさに矛盾だ!争いの種を作る側にいながら、平和の神を気取るとは!
 君こそまさに、君の言うところの『腐った世界』そのものじゃないか!」
「理解を求むるつもりはありません……
 それに、僕も消えますよ。全てを償えば――アズーロ!」

男の子が、手を振った。
指揮者のように、手を振ったんだ。
唸り声どころか、羽音すら聞こえなかった。
真っ青な竜。
シルフィードよりは幾分か小柄だけど……
ガッチガチの鱗に、鋭い爪、
それと……突き出した牙からは、真っ赤な血がまだポタポタ落ちてきていた。
それを気にする様子もなく、瞬きも無しでボク達をただ見ている。
何も考えず、ただ、どうやって壊そうか考えているっていう風に、
動物っぽさが全く無い。まるで、人殺しの武器や道具そのもの。

「うぇ!?」
「いつの間に!?」
「争いの杖を持つメイジに、死神とその人形。
 永遠を生きようとした愚剣……皆さんもどうか邪魔などせずに、
 僕と共に懺悔と贖罪を。」

ズ、ズ、ズ、と急に景色が近付く感じ。
大きな体が突進を始めると、そういう風に見えるんだ。

「デルフっ!!」
「おうよっ!!」

戦うことが止められないなら、戦うだけだ。
デルフを握り締めたまま、ルイズおねえちゃんをかばうように左へ一歩。
キィィィィというクリスタルと竜の爪がぶつかる高音。
近い。クリスタルの破片が空気に混じる。
当たったら、無事じゃすみそうにないけど、避けられないほどじゃない。
よし、反撃開始だ!
162代理:ゼロの黒魔道士第76幕3/7:2010/06/21(月) 16:37:21 ID:eevAehu6
そのときだった。
変な、呪文……ううん、違う。
変な、歌?が聞こえてきたのは……

「『激しき怒りと苦き思いを胸に秘めつ』――」

「『錬金』っ!!装着っ!!」
「何、この声……」

まるで、コーラスのように、何千ものバイオリンのように重なる声。
ギーシュが青銅の剣で牙を防ぐカキンって音の裏で、
ゆっくりと、まるで水たまりが広がっていくように、
その変なメロディーががにじんでいく。

「『恐ろしく非情に、しかも何の実もなき虚しい運命よ』――」

「ヴィンダールヴ、あらゆる獣を操る力……見くびられたものだねっ!」
「相棒、頭だ、頭っ!」
「うんっ!!」

ギーシュが攻撃を防いだことで、大きな隙ができる。
狙いは、頭。
分かりやすくて大きな急所。

「『来たれ、来たれ、愛しの人よ、来ずば焦れて死のうものを』――」

「そうれっ!」
「はぁっ!!」

竜は、避けようともしなかった。
変だ。決して弱いはずでも無いのに。
ボク達を倒すことを目的としていないみたいだ。
かといって、ご主人様を守るためってわけでもない……
……まるで……死ぬことを目的としているような……

「『栄光なるものよ、高貴なるものよ』――っ!!」

そう気付いた時には、遅かった。

「ビビ、あっち!早く!あいつ何か唱えて ――」

男の子が空を仰いでいた。
そして、笑っていた。
足りない何かを、やっと見つけたって、そういう笑顔だった。

「ありがとう、アズーロ。君が最後の1ピースだ……」

『ゾクッ』って、そういう音したんだ。
とんでもないものを、目の前にしているって、そんな感覚。
一瞬で、真冬になってしまったように寒い。
見えているのに、目を背けたい。
見てちゃいけない。聞いちゃいけない。触ってもいけない。
逃げたい。逃げなくちゃまずい。
みんなの足が自然に後ろに下がった。
それが重なって、『ゾクッ』て音になったんだと思う。
地面が、ズズズって低い振動を繰り返していた。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 16:37:25 ID:MTbC7nuO
代理支援
164代理:ゼロの黒魔道士第76幕5/7:2010/06/21(月) 16:40:10 ID:eevAehu6
「い、い、い、嫌なよよか予感がが……」
「奇遇だな。おれっちもだ」

ギーシュの歯がガチガチなる音が分かる。
デルフが手の中で震えている。
震えているのは、ボクも?
地面が震えていたと思っていたけど、震えていたのはボクだったの?

「待ちわびましたよ……『憚られし使い魔』君……」

ゆっくりと、男の子の体が大きくなったって、そう思った。
男の子の影が、じわじわと広がっていったからだ。
でも、男の子の体はそのまんま。
まるで、影だけが意志をもったように……

「影が……!!」

そう、影が、影だけが、
男の子から伸びた影だけが、ゆっくりと持ち上がった。
形のない、ぶよぶよの影。
光も何もかも飲み込んで、真っ黒一色の影が、
ゆっくりとその鎌首を持ち上げたんだ。
かろうじて、人の形をしていた。
手足が妙に長くて、頭みたいに見える部分がやけに小さい。
ほとんど真っ黒。違うのは、二か所だけ……
左目の部分は、渦巻くような緑色。
胸の部分には……ルーン文字……?

「アア……ウウ……」

その唸りが、女の人のものなのか、男の人なのか、子供なのか、大人なのか、
まったく区別がつけられなかった。
なんて言うか……『全部の声がした』って感じだ。
1つの生き物が出している音じゃないみたい。
何千万って人が苦しんで呻いているかのような、そんな音だった。

「フフ、名どころか、しゃべることすら忘れましたか……
 君は僕によく似ている。愛する人を失いてなお、生きている。
 その絶望の淵で狂っている……あぁ、本当にそっくりだ」

「ウァゥ…… アァ……」

男の子が斜め後ろを振り返るようにしながら、話しかける。
この状況を放っておいて良いわけがないのは分かる。
分かるんだけど……足が動かない。
震えた足に、力が入らない。
怖いって思っちゃダメなのに、震えることが止められないんだ。

「綺麗な瞳だね。
 ウイユヴェール(緑の瞳)、か……そうだ、僕達にぴったりの名が」
「……ア゛ァ……?」

影の唸りが、初めて『声』になった。
ゆっくりと男の子をその緑の左目で見降ろした。
興味深いおもちゃを見つけたって、そんな風に……
165代理:ゼロの黒魔道士第76幕6/7:2010/06/21(月) 16:41:40 ID:eevAehu6
「『我は久遠の影となり、我は苦怨の主となり』
 ……『クオン』。それが君と僕の名だ」
「ク……ォオン……??」

その響きがまるで、クリスタルに共鳴するようだった。
クリスタルワールドのクリスタル全部が、『始まりのクリスタル』ですら、
その『クオン』って名前を呼んでいるかのように、一緒にうなったんだ。

「さぁ、全てを終わらせましょう。あらゆる罪を償いましょう」
「クオン…… 名前、クオン……クオン終ワラセ……クオン終ワル……」

影が、嬉しそうに唸る。
影が、大きくなる。
ありとあらゆる光も、闇も、
全部を飲み込むようにその手を広げて……

「いい子だ。さぁ、おいで……!!」
「終ワラセル……クオン痛イノ、クオン怖イノ、クオン終ワラセル……!!」

男の子の体が持ち上がる。
男の子の体が影の中にズブズブと沈み込んでいく。
それをきっかけにして、影の姿が変わっていく。
真っ黒な影が、飲み込んだ光を虹色に変えて、その身にちりばめた。
弾け飛びそうになりながら、影がより大きく、より禍々しくなっていく。

「――罪を抱きてなお抗う者達よ、業を背負いてなお戦う者達よ」

『絶望色』っていうのが、もしもあるなら、きっとこういう色なんだろうなって思う。
銀色と、虹色と、黒が混じった、禍々しい色。
その色に染まった巨大な体が、ボク達を見下ろしている。
目が3つ、男の子の琥珀とサファイア色の目と、影のもっていた翡翠色のもの。
胸と右手にルーン、それが傷痕のように、裂けて爛れている。
ところどころ、ボコボコと体の表面が膨らんでいた。
その1つ1つが……まるで、人の顔のようで……
その1つ1つが、唸り声をあげている。

「――ォぉぉォオォォォオオおおおオオオオオォオぉおおおオオオオオオオ!!」
って唸り声。
木のうろのように、目も鼻も口も開けて、かろうじて空気を通しているような音。
言葉も、名前も失ってもなお、悲しんでいる、苦しんでいる、
そんな唸り声を、1つ1つの顔が……
166代理:ゼロの黒魔道士第76幕7/7:2010/06/21(月) 16:43:56 ID:eevAehu6
「怨嗟の交響曲か……悪趣味だね。美意識を疑うよ」
「く、くくく来るぞぉ!?あのでっかいのが来ちゃうぞぉっ!?」
「ギーシュうるさい!」
「分かってるてぇのぉっ!!  おい相棒っ!」
「う……うん!」

帽子を、ぎゅっと思いっきり引っ張ってかぶりなおす。
震えが、全然止まらない。
それでも、それでも、ボクは、戦わなきゃいけない。
ルイズおねえちゃんを、デルフを、ギーシュを、みんなを、
ハルケギニアを、この世界を……

「懺悔を、贖罪を――
 全てを滅し、清浄なる世を作り出さん……!!」

壊すなんて、そんなこと、させるもんか!!
ボクは、クオンを睨みつけた。
震えは、ほんのちょっとだけマシになっていた。

----
本日は以上です。
いわゆる、ラスボス(?)戦ついに開幕、です。やっとここまで来たー。長かったー。
では、皆さま、エリクサーの準備はよろしいでしょうか?
武器の準備は?パーティーにステータス異常は?宝箱の取りのがしは?
できてなくてもはじめてしまいます。
さて、どうなることでしょうか……
では、お目汚し失礼いたしました。
代理投下、どうかお願いいたします。
また、計算間違いで1レス表示が少なかったことをお詫びいたします。
どうか、7/7までの代理をお願いいたします。
167名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 16:45:36 ID:eevAehu6
代理終了
宣言なしで投下してしまってすまん。次から気をつける
168名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 17:31:59 ID:H/qJd9Ze
乙でした。
ラスボス戦のために、これまで一個も使わなかったラストエリクサー。
そしてこんなときでもボケるギーシュに乾杯。
169名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 17:41:01 ID:hC3Y7GH0
>>168
そして、結局ラスボス戦でも使わないのですね。


そんなもの使っている暇があったらリレイズをかけるんだよ。
170名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 18:17:52 ID:H/qJd9Ze
>>169
こころないてんしを食らったときに使うんですよ。
特にケフカ戦では最初に使ってくるし、それまでの前座戦でMP消費してるから一石二鳥。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 19:02:48 ID:nmzi3Apv
魔力上げまくったリルムの全体ケアルで
こころないてんし帳消しにしてニヤニヤしてたのは俺だけでいい。
172名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 21:15:08 ID:ml5y9m8X
他にも居た場合には、殺し合いが始まるんだな
173名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/21(月) 22:39:15 ID:DkmCst0D
乙です
ふっ・・・ラスボス戦か・・・
糞永いダンジョンを踏破してノーセーブで突き進んだ冥府と万魔殿
禁断の地、クリスタルタワー、闇の世界
わりとスムーズに進んだけど忍者頼みで包丁や増殖聖剣を投げまくった全てを憎むもの(初戦闘所要時間2時間)
キチ●イ魔道師との対決かと思いきや、突然出てきたマッスルに度肝を抜かれた神々の像

立ち寄る街も会話する町人もほとんどなく、一本道のシナリオとダンジョンで戦った巨大ロボに圧倒され
必死こいてレベル上げたらジジィロボは楽勝だが、直後のラスボスに開幕直後ほぼ実質即死攻撃を喰らって戦う気が削がれた孤児の揺り籠・・・

単純な戦の緊張感としてはこれらがシリーズでトップクラスでした、俺の場合
逃げられない敵が出るとか勝手に戦闘メンバーを選ばれるくらいはまだ優しかったね!!
174ゼロと魔獣のような悪魔:2010/06/21(月) 23:58:49 ID:DR3B89w/
こんばんは
問題なければ12時5分ごろに投下したいと思います
宜しくお願いします
175ゼロと魔獣のような悪魔3-1-1:2010/06/22(火) 00:05:04 ID:uIti4Mlb
ゼロと魔獣のような悪魔―3
使い魔生活の始まりー1


うっすらと夜が明け、カーテンの隙間から光が差し込んでくる。
「・・・・・」
眩しさを感じ顔をしかめてビーニャは寝返りをうつ。
光に背を向けてまた寝ようかとも考えたが、床の硬さが寝るに至るまでに意識を安らかにさせてくれない。
薄眼を開けてしばらくぼけっとしていたが、こうしていても仕方がないのでやむなく起きようと上半身を起こす。

ぴき・・・ごきぐき・・・・

「あいったたた・・・」
硬い床の上に寝ていた所為だろう。
身体の各所が変に固まっていて少し動かすだけで痛みが走る。
それでもそのままにはしておけないので我慢しながらゆっくりと体をほぐしていく。
手足をほぐし、首をまわして寝違いを正す。
そして背伸びを

ビキッ

「!!!!!あいっつ!!」
しようと両手を上にあげて伸びをしようとした瞬間、するどい痛みがビーニャを突き抜けた。
「〜〜〜〜〜〜!!」
背中を擦りながらしばらく蹲り、ふと目を横にやれば天蓋付きのベッドがある。
立ち上がって見ればベッドでは自分がこうなっている元凶、桃色チビことルイズがすやすやと眠っていた。
(こっちは堅い床で寝て体中痛いってのに!)
まだ背中をさする。目尻にはうっすらと痛みによる涙も浮かんでいる。
なのにこいつは柔らかで大きなベッドで夢心地。
それを見ているうちに意識もはっきりして昨日のいざこざも思い出してきた。
「・・・ムカツク」
テーブルの上に置いてあるランプをつかんでベッドに近づく。
176ゼロと魔獣のような悪魔3-1-2:2010/06/22(火) 00:08:03 ID:uIti4Mlb
ルイズはやはり起きる気配は無い。
「すぅ・・・・う・・・ん・・・」
部屋にうっすらと差し込む光が眩しいのか、寝返りをうって背中を見せる。
「・・・・・・」
全くの無防備だ。
これで頭めがけて何回か殴りつければ簡単にコイツは死ぬだろう。
そうすればこの左手の変な文字消えてアタシは自由、こんなとこさっさとおさらばできる。
すっ、とランプを顔に振りおろせる位置に上げる。
「・・・・・・?」
だが、どうにもそれから動く気がしない。
なんだかこのまま振り下ろして、その後に起こることが、ルイズがどうなるかを考えていまいそれが全く楽しめそうにないのだ。
いや、むしろ非常に不快になりそうなのだ。
(?・・・・・あれ・・・・)
普段の自分なら躊躇せずにやれた筈。
これは一体どうしたことだろう。
しかもいつの間にか振り上げたランプを下ろしている自分がいる。
「・・・・・・」
「んー・・・・」
そんな目の前でルイズがこちらに寝返りをして顔がこっちを向く。
(・・・アホくさ。
 別に今じゃなくてもいいわね。
 殺そうと思えばこんだけ隙だらけならいつでも殺せそうだし)
ルイズの顔を見ているうちに昨日の契約を思い出した。
(・・・・・おぇっ)
何が悲しくてこんな奴とキスしなくてはならなかったのか、魔力が満ちてたら有無を言わさず消しとばしていた。
(でもあれは仕方なかったのよ。
 あそこで騒ぎ立てるより大人しくしているように見せかけて、後から手のひら返してやれば。うん)
自分で納得するとビーニャはランプをテーブルに戻した。
「あーあ」
ぼりぼりと頭をかきながらイスにどっかりと腰かける。
そうしてどうしたもんかなと考えた矢先、ふと自分の恰好が気になった。
白い飾り気のない地味なパンティ、上はこれまた素っ気ないキャミソール。
(そういやアタシ昨日からこのまんまよね・・・)
177ゼロと魔獣のような悪魔3-1-3:2010/06/22(火) 00:11:11 ID:uIti4Mlb
下着姿で学園のあちこちを走り回っていたのだ。
レイム様にはとても見せられないけど、人間のガキなんかに見られても恥ずかしくもなんともないし。
「とは言っても、服なんて無いわよねぇ・・・」
気付いた時にはこの下着姿だった。
自分の来てきた服はどこへやら、多分服の各所に仕込んである道具や武器のナイフもろとも保管されているだろう。
もし手元に戻ってきても果たして着ることはできるかどうかも不安だ。
ズタボロで血でもついているような服はご免だし。
どうしたもんかと部屋を見渡すとイスに引っ掛けてある女子用の制服が目に入った。
(あ、これコイツが脱ぎっぱなしにしてたやつ)
手にとってしげしげと眺める。
(そういえば背丈も同じぐらいだし・・・着れるかな?)
ごそごそとブラウスを着てボタンを留める。
悪くない。
胸が少しだけきついぐらいだ。
スカートも穿いてみるとこれも大丈夫、ウエストがきついだけ。
くるっと回ってみる。
今までこんな服は着たことがなかったのでなんだか新鮮な気分だ。
今日はこれでいこうとイスに腰掛けると扉の向こうからノックが聞こえた。
「おはようございます。お洋服をお持ちしました」
話し方から察するにおそらく小間使いの使用人だろう。
昨日走り回ってるときにそれらしいのを結構見たし。
しかしたかが服ごときでいちいち使用人参上とは良い御身分だ。さすが金に物を言わせる馬鹿な貴族のおガキ様が通う学園と言ったところか。
あ、そうだ。
受け取って良い感じの服だったらアタシが貰おう。
イスから立ち上がりドアに手をかける。
「はいはい。今開けるわよ」
ガチャリと錠を解除してドアを開けた。
「きゃあ!」
「あ?」
ドアを開ければ目の前には黒髪の女。
恰好からしてメイドというやつだろう。
だが、それがなぜか尻もちをついてこちらを見上げているのだ。
「?服もって来たんじゃないの?」
178ゼロと魔獣のような悪魔3-1-4:2010/06/22(火) 00:14:21 ID:uIti4Mlb
腰を抜かしているメイドに手を伸ばして掴まれという仕草をする。
「え、あ、すみません!
・・・ちょっとびっくりしてしまいまして」
「は?びっくりってなによ」
「扉を開けた時に制服が目に入ったので、てっきりミス・ヴァリエールかと思ったのですが・・・」
「顔見たらアタシでしたーってわけね。
何も転ぶほど驚くことは無いんじゃない?
 ・・・アンタの名前は?」
つかまれと手を伸ばし、シエスタが手を取って立ち上がる。
「すみません。私の名前はシエスタと申します」
「んーシエスタね・・・っと」
ビーニャがシエスタを起こした時、何やら抱えている物に目をやる。
「そういや何か持って来たって?服らしいけど」
「あ、そうでした。
こちらのお洋服の修繕と洗濯が終わったのでお届けに来たんです」
そう言ってシエスタが畳まれていた服を拡げて見せる。
「あっ!その服!」
てっきりルイズの物かと思いきや目の前に現れたソレはビーニャの物だった。
ぐわしと服を掴んでまじまじと見つめる。
シエスタがびくっと驚いたようだがそれどころではない。
半ば諦めかけていた服だったので喜びも格別だ。
「ん〜!良かった〜!」
シエスタから奪い取るようにして受け取った服を抱きしめて頬ずりするビーニャ。
驚いていたシエスタもそのビーニャの表情を見て笑顔になる。
「思い入れのあるお洋服なんですか?」
その言葉ににぱっと笑顔を向ける。
「その通りよ!
 これは一番最初にレイム様に貰った物なんだから!」
かなりご機嫌だ。
そんなビーニャにシエスタがふとした疑問を質問してみる。
「そのレイムさんとはどのような方なんでしょうか?」
様、と呼んでいることからここに来る前のビーニャの目上の人だと想像したのだが、

「決まってるじゃない!」
シエスタに向けて大きな声で返事する。
 
179ゼロと魔獣のような悪魔3-1-5:2010/06/22(火) 00:17:19 ID:uIti4Mlb
「アタシのご主人様!
  悪魔たちを支配する存在!
  とっても強くて頭も良くて素敵な大魔王様よ!」
  
「・・・え?」

流石にこの答えにはシエスタも言葉を失いかけた。
よりにもよって「悪魔」と来たものだ。
どう反応すれば良いのか正直困ってしまう。
悪魔なんておとぎ話の中でしか聞かない存在なのに、それが彼女の元ご主人様だったと言われても。
(・・・!そうだ!
 きっと「悪魔みたい」な人なんだ!)
と、それはそれで問題大有りなのだがシエスタはそう自分に納得させることにした。

「ところでこの服直してくれたのってアンタ?」
「あ、どこかまずいところでもあったでしょうか?」
気に入っていた服ならば個人のこだわりの部分などもあったかもしれない、
「全然問題無し!正直言って助かったわ。
アタシ細かい裁縫とか駄目なのよー。
やっても見たんだけどうまくいかなくてさー」
(何となく分かる気が・・・)
心の中で思っても言わない。
「感謝するわ。
あ、そうだ!アンタのこと気に入ったから何か願い事があるなら叶えられるもの
だったら叶えてあげる!」
「いえ!そんなお礼だなんて」
両手を前にいいえ結構ですのポーズを取る。
自分にとってはお礼をされるようなことをしたつもりはないのだ。
それに何となく嫌な予感がするのだ。

「遠慮しないでいいわよー。
殺したいヤツとかいない?代わりにぶっ殺してア ゲ ル♪」

180名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 00:17:30 ID:9EOtYhPg
支援
181ゼロと魔獣のような悪魔3-1-6:2010/06/22(火) 00:20:54 ID:uIti4Mlb
(ひぇぇ・・・!)
当たりである。
 「ほ、本当に大丈夫ですから!
  別にお礼なんてされるようなことはしていないので!
  お気持ちだけで十分ですから!」
 「えー」
 ビーニャは不満げだが、この申し出にはいと答えて本当の流血沙汰にでもなったりしそうでシエスタは気が気でない。
 なんとかビーニャを説得してこの場を収めようとする。
「そういうことなら仕方ないわね」
「分かっていただけましたか・・・」
「じゃあ今からムカツクやつを探しに行けばいいわね」
ずるっとシエスタはその場にすっ転ぶ。
駄目駄目である。
「で、ですからーっ!・・・・・ひぃ!」
「?」
シエスタが何か言おうとしたようだがその続きがない。
かわりにぶるぶる震えながら口をぱくぱくさせている。

「何 を し て い る の か し ら ?」

「うヴ!?」
まるで地獄から響くような重低音が聞こえビーニャはびくりと震え、変な声をあげて立ったまま動けなくなる。
そのまま人形のような硬い動きでゆっくりと振り返ると、

鬼、いや、鬼神がいた。
真っ赤な怒りのオーラを立ち昇らせるネグリジェを着た鬼などリィンバウムでもお目には
かかれないだろう。
人間には無い筈の角まで見える。
寝癖で髪の毛が角のように見えるのかもしれないが。
「昨日の夜に洗濯をするように言っておいたけど終わってるの?
 そしてそれは私の制服なんだけど、アンタが着てどうするのかしら」
だらだらと顔を流れる汗。
「ア・・・アッハッハ・・・ハッ・・・」
ひきつった笑顔を浮かべるしかない。
182ゼロと魔獣のような悪魔3-1-7:2010/06/22(火) 00:23:34 ID:uIti4Mlb
ふと背後でバタンと扉を閉める音が聞こえたので振り返ればシエスタがいない。
どうにも出来ないと判断して離脱したようだ、うん正しい。

「ビーニャ」
見ればルイズがにっこりとほほ笑んでいる。
さっきの鬼の面影はない。
しかし、
「何か言うことは?」
いつの間にか手に持っていた杖から火花のような物が見える。
見ただけ誰もがまずいと思う状況だ。
もはや逃げ場なし。
ビーニャはふっと笑うと精一杯の笑顔でルイズに言った。

「アンタの言うことなんて聞くわけないでしょ、バーカ」

ルイズの部屋から爆音が学園に響き渡った。



183ゼロと魔獣のような悪魔:2010/06/22(火) 00:25:21 ID:uIti4Mlb
以上で終了です
ご支援、ありがとうございました
184名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 01:24:45 ID:9EOtYhPg

これは酷い日常w
185名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 02:22:08 ID:QdVdRWIE
Wikiの糞作品誰か消してくれよ代理スレ荒らした奴だろ
186名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 02:38:49 ID:L70H/f/J
>>185
すでに削除依頼出てるし、ここでやるべき話じゃない
187「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:16:28 ID:cOy5Gzf7
  第10夜
  おでれーた


 フーケが『銀の竪琴』を盗み出した二日後、つまりワイバーンが討伐された翌日、虚無の曜日に、
朝からルイズとマルモはトリスタニアに来ていた。
 今回は、クリオも一緒である。
 学院内ではルイズの部屋で待機するのが常であるが、マルモが、
「クリオにも外の世界を経験させたい」
 とのことで、ルイズを説得した。
 ルイズは、
「それは駄目よ。学院の中でも混乱させないように部屋の中にいるのに、王都に連れていくなんて……」
 と初め断ったが、
「クリオを閉じ込めたくない」
 とマルモが強く出たので、渋々ルイズは了承した。ルイズも、クリオを部屋に軟禁しておいたのには罪悪感を感じていた。
 ただし条件として、クリオは網に包まれ、マルモに抱かれる形となった。
「これなら、今日の人ごみの中でも大丈夫でしょう」
 虚無の曜日に大抵の公務は休みとなる。それはトリステイン魔法学院も例外ではなく、従って生徒も授業から解放され、
思い思いに過ごすのが通例である。
 ルイズも例に漏れず、連日の疲れを吹き飛ばすかのようにはしゃいで、マルモにトリスタニアを案内していた。
「ここがブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」
 大通りには様々な人がひしめき、活気に溢れた様相を呈している。
「らっしゃいらっしゃい! 新しい布が入荷されたよ!」
「ここから先にゃあウチより安い店なんてありませんぜ!」
「この店は魔法衛士隊の人にもご贔屓にしてもらっておりまして……」
「てめえ、この値はぼりすぎだ!」
「そこのお嬢さん、ゲルマニア製の指輪などはいかがでしょう?」
 店の主人の大声やら露天商の宣伝やら客の怒声やらがが飛び交い、鄙びた所からやって来た者はまずこの声に驚くという。
これがブルドンネ街の日常であり、晴天であれば、必ずこのような騒がしい様子が見られる。
 マルモはこんなにも人で混雑した所は初めてだったので、珍しく困惑してしまった。
 ルイズは、そんなマルモを見て楽しげである。
「驚いた?」
 マルモが頷くとルイズは満足そうに笑う。昨日魔法衛士隊の本部を目指したときは大通りを避けていたので見られなかったのだ。
「もっと進むと寺院や酒場もあるけど、今日はどうでもいいわね」
 トリスタニアを観光するにあたって、マルモはルイズに「武器屋と道具屋に立ち寄りたい」と言っていたのだ。
 その訳は、ミョズニトニルンの能力を発揮するためにある。武器屋や道具屋に、何か役立ちそうな魔道具があれば、
修行に役立てようという魂胆だった。
 また、マルモは自身でマジックアイテムを作ることも考えていた。そのためにも、見本となる物が必要なのだ。
 ただし、マジックアイテムを主に売っている店となると、平民の多いブルドンネ街にはない。
本筋から離れすぎず、かといって人も大通り程多くない、そんな場所に立っていることが多かった。
 もっとも、非合法的なアイテムを売る怪しい店ならば、裏通りのチクトンネ街などの所にもある。
「とりあえず今は店の場所だけ確認して、そこは後に行きましょ」
 ルイズは貴重な休日を武器や魔道具の購入に終わらせる気はない。ルイズの目的は、あくまでマルモと一緒に過ごすことである。
 資金も、前から貯めてきた仕送りに加えてオスマンからの報奨でそれなりにあり、飲食や衣服に金をかけても充分余る。
 その後、昼食まで二人は仕立て屋を回った。
「ほら、これなんてどう?」
「こっちの赤いやつも……」
「やっぱりマルモは白よね!」
「慎ましさの中の色気が……」
 ルイズはマルモを着せ替えて思いっ切り遊んでいた。
 魔法の領域ではルイズはマルモに適わないが、貴族の娘として服飾には一長ある。センスが良いわけでは決してないが。
「次はこれ……」
 結局、マルモはなされるがままとなり、二人が店を出たのは、入ってから二時間ぐらい後である。
 その後二人はぶらぶらと歩くことにした。
188「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:17:20 ID:cOy5Gzf7
「そういえば……」
 道を歩きながら、ルイズは九日後に学院で開催される『フリッグの舞踏会』のことをふと思い出した。
 『フリッグの舞踏会』は、毎年春のウルの月(五月)の第一ユルの曜日(虚無の曜日の翌日)に開かれ、
一緒に踊った男女は結ばれるという言い伝えが残されている、伝統ある舞踏会なのである。
 ここで勝負にでる者も多く、その後の人間関係が決まる場合もある、生徒にとっての一大イベントなのだ。
 ルイズは自分がマルモと踊る姿を想像してみる。
 マルモのドレスはどんな物がいいだろう。やはり、普段と似たような胸開け袖なしで、色は雪白でいくべきか。
いやいや、あえて黒を基調として肌の白さとの対比もいい。上胸を強調する形で、鎖骨を下ると胸の谷間が……。
 踊るときはマルモから誘ってほしいけど、やっぱりわたしがダンスを教えなきゃ……。
 ふとした拍子に二人の足がもつれるんだけど、マルモがちゃんと支えてて、そのまま顔が……。
「やん、駄目よマルモぉ。皆の前でそんな……」
 往来で急に嬌声を上げたルイズに、通行人が一斉に振り向く。特に男が。
 見ると、美少女が、もう一人の美少女の隣で顔を赤らめながら身をよじらせている。
 己の言動と周りの視線に気付いたルイズは、ますます顔を真っ赤にさせながらマルモを連れて激走し、その場から消え去った。
その間は五秒にも満たない。
 残った人々は、
「現実にあんなことが……」
「あれって魔法学院の制服じゃ……」
「都会って怖い……」
「ハァハァハァハァ……」
 などと口々にした。
 数ヵ月後、『百合色の学院生活』なる小説が出版されるも、諸々の事情で発売後すぐ発禁処分となり、
蔵書家やその筋の者が買い求めたという。その最高額は、新金貨で四十エキューもしたそうな。
 さて、当のルイズはというと、食事が主体の酒場でテーブルに突っ伏していた。向かいにはマルモとクリオが坐っている。
「もうやだやだもうでたくないなんでこんなことになったのどちくしょう」
 料理が来るまでの間、ルイズはぶつぶつと呪詛を呟くことに費やした。ピンクブロンドの髪が机椅子にかかっているので、
遠目からは得体の知れない恐ろしい何かにしか見えない。
「ご注文いただきましたクックベリーパイでございます」
 店員の言葉にがばりと腹筋のみを使って起き上がったルイズの顔は、晴れやかであった。
 この店は、コーヒーやお茶だけでなく、料理や酒もなかなかのものなので、貴族や金のある平民が好んで通う店の一つである。
 ルイズのおすすめデートスポットだった。
「これがなきゃ人生やっていけないわ」
 何を隠そう、ルイズはクックベリーパイが好物である。特にこの店のものは、甘味と酸味がちょうどルイズの嗜好にあっていた。
 特に、焼きたてから少し間を置いた、程よい温かさのときに口に含むと、
「甘いのと酸っぱいのが溶け合っていつまでも続くような……」
 感覚が口内に広がり、それがまた、堪らない。
 マルモも一口食べてみたが、こんなに美味しい物は学院の食堂でしか食べたことがなかったので、ついつい食べ過ぎてしまう。
 テーブルを囲う二人の顔は笑顔だった。
189「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:18:03 ID:cOy5Gzf7
 やがて二人は食べ終えると店を出て、マジックアイテムの専門店に向かう。
 その店は、ランプなどの日用品のみならず、『風』の宿った拡声器や『探知』の魔法がかかった警報装置など、
様々なものを売っていた。注文すればガーゴイルも作るらしい。
「いらっしゃいませ」
 声をかけてきたのは初老の男性である。白髪交じりの金髪で、身なりは平民であるが、その気風は紳士であった。
「何かお探しでございましょうか」
 男はこの店の店長である。店の持ち主は貴族であるが、経営は一手に任されていた。もう隠居してもよい歳の瀬であるが、
健康であるうちは、長年続けてきた仕事を辞めるつもりはない。こうした手合いはいるものだ。
「とりあえず商品を全部見たいのだけれど」
「左様で……」
 男は、陳列されているマジックアイテムを大まかに説明し、
「何かありましたらなんなりとおっしゃって下さい」
 と、カウンターに引っ込んだ。
「さあ、一つ一つ見ていくわよ、マルモ」
 その後文字通り『手当たり次第』にミョズニトニルンのルーンが反応し、商人にも引けを取らぬアイテムの知識をマルモは得た。
 結構な時間がかかったが、マジックアイテム制作の足がかりが固まったのでルイズたちは善しとする。
 なお、結局購入したのは、ルイズが選んだ『銀のロザリオ』だけだった。少しだけ身を守る効果があるらしい。
「そうね……二つちょうだい」
「かしこまりました」
 もちろん、自分用とマルモ用のものである。
「お揃いね」
 と、ルイズは笑みをこぼした。マルモもつられて笑い返す。二人の首には銀の輝きがかかっていた。
 二人は代金を払い、店主に見送られて店を出る。ルイズは午前中の疲れも忘れて、意気揚々とマルモと街中を歩いた。
ルイズの手を握るマルモは、ルイズの楽しい気持ちが伝わってきて、穏やかな温かみが自分の裡に広がっていくのが感じられた。
 季節は春だった。

 四辻に出ると、ルイズはきょろきょろと辺りを見回す。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺のはずなんだけど……あ、あった」
 剣の形をした銅の看板を見つけたルイズは、マルモの手を引っ張って石段を上り、羽扉を開けて建物の中に入った。
 今日の目的の一つ、武器屋である。
 昼間でも薄暗い店内にはランプが灯り、立派な甲冑が飾ってあるかと思えば、雑多に剣や槍が並べられていた。
 店の奥から、パイプをくわえた店の親父が場違いな二人を睨みつけたが、ルイズの制服の五芒星に気付き慌てる。
「旦那、貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか……」
「客よ」
 ルイズはぶっきらぼうに言い放った。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」
「いいから、さっさと武器を見せなさいよ」
 ルイズにとって平民の出入りする薄汚い店など居心地の良いものではない。店主の雰囲気も、さっきの店と比べれば劣った。
おそらくマルモの用事がなければ一生縁がない所だろう。
「どのようなものをご所望で?」
「魔法がかかっているやつ」
 店主は、ルイズを大方変わり物好きの客だと思い、貴族なら大枚もはたくだろうと、手揉みしながら奥の倉庫へと入った。
 数分も経つと店主は立派な剣を持ってきた。
190「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:18:47 ID:cOy5Gzf7
「これなんかいかがです?」
 宝石が散りばめられた大剣をカウンターに置き、ルイズとマルモに見せつける。刀身輝くその剣は、見るからに立派だった。
「店一番の業物でさ。こいつを鍛えたのは、かの有名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。
魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。御覧なさい、ここにその名が……」
 店主の説明を意に介さず、すかさずマルモは手を当てる。
「どう? マルモ」
「『固定化』以外かかっていない」
「だそうよ」
「な、なに言ってやがる!!」
 顔を赤くする店主であるが、相手が貴族の娘であると思い出し、怒りを抑えた。
「他にはないの? 魔法がかかっているやつ」
 見下したような態度のルイズに店主は唇をひくひくさせながら、なんとか見返してやろうと思い立った。
「それなら……」
 と、店主はルイズとマルモの脇を抜けて、乱雑に積まれていた剣の山から一振りの剣を抜き出した。
「なによその汚い剣は」
 長さこそ先程の剣と変わらないが、錆が浮いた刀身はお世辞にも綺麗とはいえなかった。
「なんでえ他人のことを汚ねえとは!」
「きゃっ」
「黙ってろデル公!」
「…………」
 突然、低い男の声が聞こえた。それも、店主の持つ剣から。
「……それって、インテリジェンスソード?」
「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。ナリこそ悪いですが、これほど珍しい剣はございませんぜ」
 店主の言葉に嘘はない。嘘はないが……。
「これっていくらなの?」
「エキュー金貨で千、新金貨で千五百といったところですかね」
 店主はデルフリンガーにそこまでの価値を見出してはいなかった。本来なら、これらの十分の一以下でも良いぐらいである。
「なんでえなんでえ、普段は邪魔者扱いしてるくせによ。さっきの剣が売れなかった仕返しか?」
「うるせえぞ、デル公」
「デルコーって名前なの? それ」
「デル公じゃねえ、デルフリンガー様だ!」
 剣の癖に随分と喋るデルフリンガーを、ルイズは胡散臭げに見た。
「他にまともな魔法がかかっている剣はないの?」
「残念ですが、こいつだけでさあ。けれども、インテリジェンスソードなんて、他の店でもお目にかかりませんぜ」
 インテリジェンス系のアイテムは殊更珍しくはないが、数が少ないのは事実である。そもそもメイジは剣を使わないので、
インテリジェンスソードなんてものは滅多に作られない。
「そういうものかしら……マルモ、一応この剣も見てくれる? ……マルモ?」
「あ……ごめんなさい、ルイズ」
 マルモは、デルフリンガーをじっと見ていた。
 喋る剣。それはマルモの感覚からすればモンスターの一種である。さらにいえば『物質系』のモンスターであり、
マルモのかつての仲間たちと同じ部類に入るものだ。
 だが、ここでは武器屋で売られている。モンスターが武器屋で売られているなど、マルモでさえも今まで見たこともなかった。
 もっとも、この世界では喋る剣はあくまでも剣であるらしく、だからこそ売られているのであろう。
「……おめえ、その額のは……使い手か、いや、でも似てやがる…………」
 デルフリンガーが、先程の調子とは打って変わって呟きだした。
「……そこの娘っ子、俺を買え」
「買う」
「毎度ありがとうございます」
「ちょ、ちょっとマルモ?!」
 勝手に話を進められたルイズは、わけがわからずに混乱した。
「なんだよ、騒がしい娘っ子だな」
「ボロ剣は黙ってなさい! 一体どうしてあんたみたいなのを買わなくちゃいけないのよ!」
「買われる俺に訊くなよ、買うと決めたのはそこの嬢ちゃんじゃねえか」
 ぐっ、とルイズは唸った。確かに正論ではあるが、マルモ相手にはルイズは強く出られない。
「……どうしてこの剣を買おうと思ったの?」
「…………」
 どうしてだろうか。
 そう自問するマルモであったが、明確に言葉では表せない。感覚的な理由だった。
 かつて仲間を拾ったときの、あの気持ち。捨てられたランプ、みなし児の岩、放置された巨大マシン。
それらを見たときの、確かな感情。それと同じものが去来していた
191「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:19:35 ID:cOy5Gzf7
「うまくは、言えないけれど……」
 マルモは言葉を搾り出すように言った。
「きっと……必要だと思うから」
 論理性などない。合理的でもない。
「これは、私のわがまま」
 すべてその一言に尽きる。
「はあ…………まったく」
 どうしてくれるんだろうか、わたしの使い魔は。
 『私のわがまま』だなんて言われて、それを許す主人がいるわけないじゃない。
 もっと上手に言えないものかしらね。
「しょうがないわね」
 ここは、ご主人様として。
「買ってあげるわ」
「ルイズ……ありがとう」
「べ、別に感謝されることじゃないわ。元々今日はそのために来たんだし」
 ああ、やっぱりわたしの使い魔は可愛い。
 マルモは作り笑顔をしない。だから、時折見せる笑顔には本当に心癒される。
 これはご主人様だけの特権だ。

『銀のロザリオ』――装飾品。装備すると守備力が四上がる。装備中は性格が『ロマンチスト』になる。

 ルイズは気前よく新金貨で千五百エキュー支払い、マルモが抜き身のデルフリンガーを抱えて店を出た。
「……これは」
 デルフリンガーに触れているマルモの額のルーンが輝き、情報が頭の中に流れ込んでくる。
「どう? マルモ。この剣は使えそうなの?」
 もちろん実用ではなく、マジックアイテム作成にという意味である。
「デルフリンガー、あなた……」
「デルフでいいぜ、嬢ちゃん。……なんか感覚は違うが、懐かしい感じだなあ」
「なになに、どうしたのマルモ?」
 ルイズが心配そうにマルモの顔を覗き込む。
「デルフ、の能力がわかった」
「どういうこと? それって単なるインテリジェンスソードじゃなかったってこと?」
 コクンとマルモは頷いた。
「魔法吸収と、吸収した魔法の魔力で『使い手』を動かせること、それに……」
「……ちょっと待って、『魔法吸収』?」
「今は錆ついていてできないけれど、錆を落とせば吸収できるようになる」
「……うお! 思い出したぜ!」
 唐突にデルフリンガーが声を上げた。その声にルイズは驚く。
 ちなみに、この場にはルイズとマルモ、それに網に包まれたクリオと抱かれているデルフ以外誰もいない。
「なによ、なにを思い出したっていうのよ」
「いやあてんで忘れてたぜ」
 と、錆に包まれたデルフリンガーの刀身が強く輝きだした。
 そして光が収まると、そこには錆が跡形もなく消え去った、見事に光り輝く刀身があった。
「これが俺の本当の姿さ!」
 錆が落ちたので、マルモは柄を握って鎬を掌に乗せている。ルーンの光は一層強くなっていた。
「うっかりしてたぜ、テメエでテメエがしたこと忘れるなんてな。六千年間つまらんやつばっかだったから、
テメエで身体変えてたのすっかり忘れてたわ」
「六千年?!」
 始祖ブリミルの降臨がおよそ六千年前。デルフリンガーの言葉が真実ならば、始祖との関連も考えられる
192「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:20:20 ID:cOy5Gzf7
「そういえば……『使い手』ってどういう意味なの?」
「忘れた」
 思わずルイズはずっこけた。
「こ、こ、このボロ剣……じゃなかった、駄剣がーーーー!!!!」
「言い直して叫ぶなや。しょうがねえじゃねえか、六千年もありゃ色々忘れもするさ。……もっとも、
俺を持ってる嬢ちゃんの方はわかってるみてえだぜ」
 ルイズは、マルモの顔を見た。先程からずっと額のルーンが光っている。
「わかるの?」
 マルモは頷いた。
「ガンダールヴ」
「ガンダールヴ? それって……始祖の使い魔じゃない!!」
 始祖の使い魔は四体いたと伝えられ、その内名前が判明しているのは三体。
 その中でもガンダールヴの強さは特筆され、千人の軍隊を一人で壊滅させ、並みのメイジではまったく歯が立たなかったとか。
「そうか! ガンダールヴ! いやあ、懐かしいねえ……」
 叫んだかと思えば、しみじみとデルフは語りだす。
「俺も昔はガンダールヴに握られてたもんだ。もうほとんど忘れちまったが、ガンダールヴに使われてたってことは憶えてるぜ」
 剣の語りとは思えぬ語りに、ルイズは頭を悩ませていた。
「えーと、もしあんたがガンダールヴの剣だとすると……ミョズニトニルンのことはわかる?」
 ガンダールヴと並ぶ始祖の使い魔の一体、ミョズニトニルン。あらゆる魔道具を操ったとされ、『神の頭脳』と呼ばれている。
「ミョズニトニルン……ああ、そういやそんな名前が微かに残ってんなあ。けど、なんなのかは思い出せねーや」
 今度こそ、ルイズは青筋をこめかみに立てた。
「それでも伝説の使い魔の剣なの?! ひょっとしたらあんたを作ったかもしれないのに!」
 インテリジェンスアイテムは制作者の能力が高いほど強い魔力が内包される。魔法を吸収するほどのアイテムなら、
伝説級の存在にしか作られないのも道理であった。
「俺を作る……? ……あーーーー!! 思い出したぜ! ミョズニトニルン、あれの道具捌きは見事だったなあ。
……そうか、この感覚。『今』は嬢ちゃんがミョズニトニルンか」
「わかるの?」
「伊達に長生きはしてねえさ」
 マルモは、やはりこの喋る剣デルフリンガーが単なるアイテムとは思えなかった。たとえ人造物であっても、
魂を持てば生物たり得る。『物質系』モンスターが『星降りの祠』でタマゴを生むように。
 だが、ルーンが反応している以上アイテムなのだろう。少なくともこの世界では。
 それならば、私の仲間だった彼らはどうなるのだろうか。皆には意思があり、魂もあった。自ら動き、私を守ってくれた。
彼らは『生きていた』。
 デルフにも意思がある。魂も、おそらくある。けれども、自らは動けない。精々が錆を浮かしたりする程度だ。
 動けるか動けないか、これが境目なのだろうか。賢者であるマルモであっても、悩まざるを得なかった。
「ピー」
「うお! タマゴが鳴いた?!」
「……クリオ」
 マルモが網から解き放つと、クリオはマルモの顔に擦り寄った。
「ピーッ、ピーッ」
「慰めてくれてるの?」
「ピー」
「ふふ、ありがとう」
 顔をほころばせ、マルモはクリオを撫でる。その表情は、ちょうどルイズがマルモを撫でるときのものに似ていた。
 ちなみにルイズは、マルモを慰めるのに先を越されたのでクリオに嫉妬したが、タマゴに嫉妬するのも惨めだったので
余計にダメージを食らった。
「いまどきはタマゴも動いたり鳴いたりするもんだなあ…………」
 はて、そういえば。
 ミョズニトニルンの嬢ちゃんがいるのなら、本来の相棒であるガンダールヴもどこかにいるんだろうか?
「……ま、会えるときには会えるし、会えないときには会えないもんだな」
 何せ六千年間もガンダールヴから離れていたのだ。ミョズニトニルンと出会えただけでも良かったのかもしれない。
 そう思いながらも、デルフリンガーは今どこかにいるかもしれない『相棒』に思いを馳せた。
193「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:21:10 ID:cOy5Gzf7
 その『相棒』であるガンダールヴは今、宗教都市ロマリアにいた。
 金髪月目の神官、ジュリオ・チェザーレ。彼が現在のガンダールヴである。
 そしてその主は教皇聖エイジス三十三世、本名ヴィットーリオ・セレヴァレ。二十代の若さにして教皇の座を得た美青年である。
 二人は教皇の執務室で向かい合っていた。
「武器の扱いには慣れましたか?」
「慣れるもなにも、僕はガンダールヴだぜ? 嫌でも身に付くってものさ」
「それもそうですが、代物が『場違いな』ものばかりですからね」
 ロマリア宗教庁が密かに収集している、『場違いな』武器。それらは東の『聖地』より現れ、
『聖地』を支配するエルフの目をかいくぐっては回収していた。
 それらは明らかにハルケギニアで作られたものではなかった。見た目こそ剣などハルケギニアでもありふれた武器ではあるが、
『道具として使う』と、単なる剣や槍以上の効果を発揮する。具体的には、火炎や氷が発生したりするのだ。つまり、
メイジの攻撃呪文が剣で行えるようになる。その最大威力は、スクウェアスペルにも匹敵するものもあった。
 しかも単なる攻撃だけでなく、補助的な魔法効果を発揮するものもある。対象の守備力を下げたりするなど、
戦闘面でも充分有用なものもあり、さらに回復の効果をもたらすものまである。
 これらすべて、『武器』である限りガンダールヴなら扱える範疇だ。故に、連日ジュリオは『場違いな』武器を使い続けてきた。
「おかげで疲れが溜まってるよ。まったく、使い魔遣いが荒いんだから」
 小言を言いつつも、ジュリオは主人を信頼していた。自分の主人は、無駄なことはさせない性格だと。
「ところで、話は変わりますが。アルビオンの反乱があと一月くらいで終結しそうです」
「王党派の敗北でか?」
「はい」
 浮遊大陸アルビオンを支配するアルビオン王国。その王家は始祖にも連なる現存最古の家系の一つであるが、
貴族らの反乱によって力を落とし、現在は『貴族派』と『王党派』による内乱が勃発している。
 だが当初から王党派は負けが続き、時と共に貴族派は着々と国内に根を広げ、ついに王党派の負けは誰の目にも明らかになった。
「なにをしろっていうんだよ」
 半ば確信しながら、ジュリオは問うた。
「アルビオンに眠る『始祖の秘宝』の確保。及びそれのための準備です」
「加えて、王家の保護もあると思っていたんだけどな」
「確かに私の『虚無』があればそれも不可能ではないでしょう。しかし、それではいらぬ混乱をロマリアにも招いてしまいます。
王家の方には残念ですが」
「おいおい、王家が滅亡すれば『始祖の秘宝』も手に入れにくくなるぜ?」
「いえ、それには及びません」
「どうしてだ?」
 ジュリオは身を乗り出した。
「たとえ『秘宝』が貴族派に奪われたとしても、いつかは『土の国』の虚無の手に渡りますからね」
「……それはつまり」
「ええ、この反乱はガリアが手を引いているということです」
 ここ最近で一番の溜息を、ジュリオを吐いた。
194「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」代理:2010/06/22(火) 10:22:05 ID:cOy5Gzf7
以上です。
ロマンチストってどんなのかわかんなかったので、辞書で引いてみたら案外いい意味じゃなかった件。
ようやくデルフが登場したので、クリオが一人ぼっちにならずに済みそうです。
195名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 11:18:03 ID:/P4AZXMd
前スレで投下されてるけど、何故今になって代理?
196名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 11:30:55 ID:OVtlVlsS
確認してないか嵐
197魔砲の人:2010/06/22(火) 16:58:32 ID:JuyiA2g6
 お久しぶりです。ようやっと30話、仕上がりました。

 ちょっと仕事とかでいろいろあって執筆できない日が続いていましたが、なんとか時間も空いてきました。

 1710くらいから投下を開始します。
198名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 17:03:34 ID:dYwK+bCA
天が呼ぶ地が呼ぶスレが呼ぶ、支援をしろと俺を呼ぶ
199ゼロと魔砲使い 第30話-01 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:10:51 ID:JuyiA2g6
第30話 友誼



 ヴァリエール領からトリスタニアへ向かう街道。その途中、魔法学院方面への分岐点で、ヴァリエール家一行は二手に分かれた。トリスタニアにある別邸を整備するための使用人達と、魔法学院へと向かうルヴァリエール一家及びその護衛達である。
 なにぶんにも中央と距離を取っていた公爵は、それこそ滅多なことでしか首都の別邸を使わなかったため、別邸の維持を最低限のレベルでしかしていなかった。
 平たく言えば掃除してあるだけで、ベッドに敷く毛布すら置いていないような状態だったのである。だが、事こうなると公爵は別邸と領地を頻繁に往復しなければならない。
 生活環境を整え、馬車では間に合わないため騎乗用の竜を護衛の分まで揃え、などなど大変な量の下準備が発生する。とてもではないが大量の使用人を送り込まねばこなせる仕事ではない。
 時間だってそれなりにかかることになる。
 そんなときに主人である公爵達は、むしろいるだけ邪魔になる。公爵はこういう点、厳格であっても理解があるタイプなので不満を漏らすようなことはないが、むしろ使用人達のほうがいたたまれない。
 主に不便を煩わせるよりは、という思惑その他がいろいろ一致し、公爵達はルイズと共に学院を訪問し、いろいろな意味での『挨拶』をしておこうということになったのである。
 そして特に何事もなく、ルイズ達は魔法学院へと到着した。
 さすがにトリステイン一の公爵が非公式とはいえ学院を訪れるとなると、学院側もそれなりの対応をする必要がある。
 あくまでも生徒達の父兄として訪れるのであるため、以前アンリエッタが行幸した時のような派手な出迎えはないが、学院長自らが手すきの教師達と並んで出迎えることになる。
 ルイズとなのはを乗せた馬車だけはその歓迎の列を離れて普段生徒達が馬を借りたりする厩舎のほうへと向かったが、それ以外の馬車はこうして出迎える彼らの前に静止した。
 
 
 
 父親達が学院長や教師達に囲まれているのを横目で見ながら、ルイズとなのはは馬車を降りた。顔なじみの厩舎番に挨拶をし、馬や馬車のことを頼んで寮へ戻ろうとした時、ルイズはふと違和感を感じた。
 小屋が一つ増えている。しかも厩舎から少し離れたところに、突貫工事で建てられたような形跡がある。
 「あれは?」
 ルイズが疑問を口にすると、厩舎番の男が御者との話を中断して答えてくれた。
 「ああ、あれは臨時で立てた竜舎ですよ。なんでも上の都合で、しばらくの間竜騎士が1人遠方から来るそうで。ただ竜がいると馬がおびえるんで離れてるんです」
 「竜騎士が?」
 なんでまたと思わなくもなかったが、これ以上の事情をただの平民でしかない彼に聞いても無駄だろう。そう思ったルイズは、直接竜舎をのぞきに行くことにした。
 「お話中にごめんなさいね。なのは、行くわよ」
 「はい、ご主人様」
 そう言って竜舎の方に向かっていく主従二人を、厩舎番と御者は、ぽかんとした顔で見送っていた。
 「……うそだろ。お貴族様が平民の俺に謝るなんて」
 「以前のお嬢様からは想像も出来ない」
 期せずして重なった言葉に二人はお互い見つめ合い、同時に目をそらした。
 
 
 
 竜舎へ近づいてみると、そこには大きな生き物がいる気配があった。ルイズもすっかり慣れたシルフィードのそれに近い。
 そしてそこには、思わぬ人物がいた。
 「おや、あなたは。お久しぶりですね」
 ルイズとなのはに気がついて挨拶をする人物。その人物に二人は見覚えがあった。
 前に見た時は質素な僧服であったが、今は立派な軍服を着ている。
 だがそれ以上に目立つのは、綺麗と評されそうな顔と、左右で色の違う瞳。
 「ジュリオさん……何故あなたが」
 思わずなのははそう言ってしまった。それを耳ざとく聞き止めたジュリオが、軽い口調で答える。
 「ミス・ヴァリエール、それにガンダールヴ。ボクがここにいる理由など、一つしか無いじゃないですか」
 そう言って、手袋に覆われた右手の甲を二人の方に向ける。
 その意味は二人にとっては明白なことであった。
 なのはのことを『ガンダールヴ』と呼んだことからも、その意味は一つしかない。
 自分は今、虚無の使い魔が一人『ヴィンダールヴ』としてここにいると言うこと。
 それはつまり……
 「ちょ、ちょっと、それって……」
 「ええ、ちょっどよかったです。ヴィットーリオ様も、今お忍びでここに滞在していますよ。まあ明日にはロマリアに戻っていないとまずいのですが」
 うろたえるルイズに、ジュリオは何でもないことのように言った。
200ゼロと魔砲使い 第30話-02 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:13:21 ID:JuyiA2g6
 「なるほど、ここを拠点に、ですか」
 話を聞いてみれば、何と言うこともなかった。
 ヴィットーリオはこの間習得した『転移門』の呪文の力で、一度訪れた場所へならどこへでも移動できる。乱発できるものではないが、その価値は計り知れない。
 だが問題も幾つかある。移動の際にはかつてなのはが見たような『ゲート』が出現するため、大変に目立つ。また、ヴィットーリオ自身、下手な場所で目撃されるわけにはいかない。
 「そういったことを勘案した場合、トリステインの王城よりここを基点にした方が何かと問題が少ないのですよ」
 「なるほど……」
 いわれてみればうまい手であった。
 利便性だけを取れば王城の方が何かと便利であろうが、万一姿を見られた時に大変まずいことになる恐れがある。その点こちらなら噂になっても遙かにごまかしやすい。
 何より聖下の姿を知っている人物がこちらには殆どいないというのが大きい。服装にさえ気をつければ、「謎の美形」とは思われても「教皇聖下」だと思う人物は、教師を含めてほぼ皆無である。
 また、今学院はこの間の襲撃事件の痛手を回復するため、普段より人の出入りが多い。それでいて出入りする人間は厳しく吟味されているので不審者の入り込む余地も少ない。
 また、王都より派遣されてきた兵士が周辺を警戒していたりもする。逆にいえば聖下が王都に行くのにも、その兵士に紛れてしまえばまずばれない。あらかじめ派遣する兵士を選別しておけばいいだけのことだ。
 そういったことを瞬時に頭に浮かべたルイズ。ここ一月ばかりの体験が、ずいぶんと彼女を成長させていた。
 だが、そこまで思い至った時に、少しまずいことに気がついた。
 「あ、ミスタ・ジュリオ」
 「ジュリオでいいですよ。ミス・ヴァリエール。形式的にも本質的にも、あなたは私より上のものですから」
 「そんなことないでしょ……まあいいわ。ジュリオ、今ね、私の両親が来ているんだけど」
 学院側でも困るのではないだろうか。公に来ているのなら何も困らないが、お忍びの教皇と公の公爵がかち合ったら、どちらを立てるべきかは非常に微妙な問題になる。
 それを告げると、ジュリオは思わず吹き出した。
 「た、確かに学院長は困るだろうなあ……でも大丈夫。公爵様はある意味関係者だから、今頃一緒に話しているんじゃないかな」
 「いいんですか?」
 「こういう点、聖下は実に融通の利くお方ですから」
 
 
 
 彼の指摘通り、学院長に軽い挨拶をする気でいた公爵とカリーヌは、そこで思わぬ人物を目の当たりにして硬直する羽目になった。
 ヴィットーリオ・セレヴァレ教皇聖下。国王より遙かに偉い人物である。人並みの信仰心は持ち合わせている公爵に、彼に逆らうという意識はない。
 同席していた学院長のことすら意識から飛んだほどだ。
 カリーヌも普段の尊大さはどこへやら。がちがちに固くなって頭を下げている。
 幸いそんな妻のおかげで公爵の緊張がほぐれた。今でこそ天下無双の公爵夫人であるが、珍しくも固くなる妻に、恋人未満どころかそれ以下だった、知り合った直後の彼女を思い出したからだ。
 「聖下。お初にお目にかかります。学院長もお久しぶりです」
 「久しぶりですな。じゃがわしのことなど、今は気にせんでもよかろう」
 「こちらこそよろしく、ミスタ・ラ・ヴァリエール。夫人も楽にして結構ですよ。今の私は、何しろ『ここにはいない』のですから。それにあなたはこの世に『虚無の担い手』を産み落とした偉大なる母なのですから」
 「は、はい」
 掛けられた言葉と優しい笑みに、カリーヌも肩の力が抜ける。
 だが公爵はその言葉を聞いて先ほどとは別の意味で身を固くした。
 「聖下……失礼ながら、聖下がそうおっしゃると言うことは、ルイズはやはり」
 「はい。彼女こそ、間違いなく真正の『虚無の担い手』。この私と同じ、時に選ばれた始祖の使いの一人でしょう」
 その言葉に含まれた意味に気がついて愕然とする公爵夫妻。
 「わしも聖下がこんなに若いのは意外じゃったのだが、それにはそれだけの訳があったという事じゃよ」
 学院長もそう言葉を添えた。
 「もっとも今の教会は大変に乱れていて、お恥ずかしながら我が身を持ってしても一枚岩とは行かない有様です」
 「皮肉なものですな」
 皮肉の漂う台詞を、全く皮肉を匂わさずに語る公爵。
 公爵は彼の一言だけで今の教会の現状を悟ってしまった。
201ゼロと魔砲使い 第30話-03 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:15:54 ID:JuyiA2g6
 虚無の担い手という、最強の正統性を持ってその地位に就いた教皇が教会をまとめられないというその事実。
 その腐敗度は、今のトリステインをも上回るのだろう。
 少なくともトリステインなら、今ルイズが正統の玉座に座ったのならば。
 国内の貴族は、面従腹背であろうとも一人残らず面を伏せる。
 虚無の発現という、絶対の正統性を持つ王を貶めるものはトリステインの貴族にはいない。
 というか、始祖に対する信仰心を持つものなら普通逆らおうなどとは考えない。利用しようとはしても。
 なのにその総本山たる教会がなんたるざまか、である。
 はっきり言ってこれは教皇の指導力不足以前の問題である。確かに彼は若い。だがその存在は紛れもない至高なのだ。
 少なくとも表向きは彼の言葉が通らないなどと言うことがあってはいけない。
 たとえば、トリステインでルイズが玉座に着き、見た目は立派だが内実は無茶な政策を要求したとしよう。
 この場合、臣下は一度その言を受ける。そしてそれが実務レベルで難しいことを証明して対抗する。
 それを押し切ろうとするなら、次はそのことによる弊害を具体的に並べる。そこまでしてさらに押すのなら、その時はやむなく命に従う。あるいは無視して何もせず、忘れられるに任せる。
 抵抗するにしても頭ごなしには否定しないはずである。
 これがただの世襲の王ならば、経験不足を元に一顧だにしないところであるが、ルイズの場合『虚無の担い手』という絶対の正統性が付随している。つまりただの王ではないのだ。
 ルイズの場合、その言葉には王としての政治的権威に加えて虚無の担い手という宗教的権威が付いている。ただの若年王として扱うわけには行かない。
 それなのに本来宗教的権威が圧倒的に強い教会内において、ヴィットーリオが経験不足の王のように扱われている。それがどんなに問題あることなのか、わずかな言葉のやり取りだけで公爵は理解してしまった。
 学院長も同じ思いなのだろう。その視線に何ともいえないやりきれなさがあった。
 「全く、信仰の証として存在している神官がなんたるざまじゃ。じゃが聖下、早まってはいけないと、この老骨は愚考する次第です」
 「先哲の賢者の言葉、無碍にはできませんね」
202ゼロと魔砲使い 第30話-04 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:16:49 ID:JuyiA2g6
 ヴィットーリオは若者らしいさわやかさで頷く。
 「嘆かわしいことですが、かといって力尽くで彼らをどうこうすることはできません。自らの力のなさを権威で補うのでは、名目上はともかく実質的には敗北です」
 ヴィットーリオはこと政治的な面では自分を遙かにしのぐ先達二人に、若者らしい素直さで愚痴をこぼしていた。
 「要は力なのです。彼らのようなものは、様々な意味での『力』を感じなければ、頭を垂れると言うことをしないのですね。一時は『聖戦』をも考えましたが、さすがにそれは強すぎる札です」
 聖戦、の一言に思わずぎょっとする公爵夫妻であったが、ヴィットーリオがその話を引っ込めたので大いに安堵した。そんな経過で聖戦を宣言されたらえらいことになるのは見え見えだったからだ。
 「ところが思わぬ所からはからずしも私が『力』を世に示す場が巡ってきてしまいました。
 ミス・ルイズの来訪は、ある意味私にとっても何重もの意味で見過ごすことのできない内容だったのです。聖職者が頂点に立つ反乱、偽りの『虚無』、そして教会の意図しない『聖戦』……
 こたびのアルビオン内乱、レコン・キスタには、教会としても放置しておけない問題を多分に含んでいるのです。かといって表から教会が乗り出すわけにも行かない。
 手段は無茶でも、ある意味彼らは『教会に従っている』のです。それを直接『教会』の力で止めるわけにはいかないですし、それに暴走している彼らは止まらないでしょう。
 それを止められるとしたら、むしろ『教会』ではない、もっと直に信仰と結びついた力。それが必要になります」
 場に沈黙が流れた。一通りの事情はルイズから聞いていた公爵であったが、それに聖下の事情が加わると、話はいっそう重いものになっていた。
 「……確かに、これは放置できませぬな」
 はっきり言って現状においてトリステインが出兵するのは無謀だ。だが、放置することはもっとひどい事態を巻き起こすことになる。
 戦場で毒矢を打ち込まれたようなものだ。水魔法も無しに肉を抉れば命に関わりかねないが、即座に抉らねば確実に死ぬ。
 幸い今のトリステインには、『ヴァリエール公爵』という秘薬が存在していた。本来別のことに使わねばならない秘薬であるが、使用をためらっていたなら手遅れになる。そんな状況だった。
 おそらくそれを見抜いたのは鳥の骨の奴であろうが、理解したのはルイズ、そしてあの使い魔の女性だ。
 決してそそのかされて動いたのではない。
 公爵は、そのことをはっきりと理解した。
203ゼロと魔砲使い 第30話-05 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:18:01 ID:JuyiA2g6
 そんな頭の痛い話があった夜。
 ルイズとなのはは、久しぶりにいつもの練習場所に来ていた。もちろん、練習仲間であるキュルケやタバサ、ギーシュも一緒である。
 「なんか久しぶりって感じね、ルイズ」
 そういうキュルケの隣で、タバサも同意するように頭を下げる。
 「モンモランシーは香水の作成とかもあるんで来ていないけど、帰ってきたら又マルチタスクの練習をお願いするって言っていたよ」
 「あ、はい。判りましたって伝えておいてください」
 ギーシュの言葉に、なのはも頷く。
 そのあと少しの間、お互いのことに関する報告会になった。学院襲撃のことを聞かされたルイズとなのはは驚きつつもほっとし、改めて猊下との面会のことなどを少しだけ聞かされたキュルケ達も彼が美青年と聞かされて驚いていた。
 「そうそう、なのは」
 そんな会話がある程度落ち着いた時、キュルケがなのはに話しかけた。
 「ちょっと見てもらいたいものがあるの」
 「はい、なんでしょうか」
 「これ、さっきの襲撃事件の時に開眼したんだけど」
 キュルケはギーシュが練金で作った的に対して「フレイムバスター」の呪文で攻撃する。
 初めて見るルイズとなのはの目が点になった。
 「何これ、本当に火の呪文なの? なんかなのはの魔法みたい」
 「よく判らないけど……レーザーっぽい?」
 二人の疑問に答えたのはレイジングハートだった。
 “マスター、どうやら彼女は魔法で赤外線レーザーを発生させたみたいです”
 それを聞いてなのはが思わず吹き出した。
 「それってものすごく危ないんじゃ」
 “かなり高出力の炭酸ガスレーザーに似ていますね。射線上の有機体くらい軽く蒸発させてしまいそうです”
 「キュルケ、うかつに使わないでね、それ。対人には殆ど必殺だから」
 「それくらい判っているわよ……」
 なのはの気魄にたじたじになるキュルケ。
 “その攻撃は基本的に『目に見えない光』ですので、非物理的鏡面で反射される恐れがあります。又、霧や煙、陽炎などを通過すると散乱して威力が大幅に減衰しますのでご注意を”
 慌てるなのはの胸元で、レイジングハートは淡々と魔法行使の際の注意点を説明しているのであった。
204ゼロと魔砲使い 第30話-05 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:19:05 ID:JuyiA2g6
 そのあとなのはとタバサが空中戦の練習をしていたりすると、思わぬ乱入者が現れた。
 「ずいぶん熱心に練習しているわね。それにちょっと信じられないものまで見えるわ」
 「お母様! お父様まで」
 「え、公爵様?」
 ルイズの言葉に、キュルケとギーシュは慌てて姿勢を正した。キュルケにとってはある意味ライバル的な家系であるが故に、かえって礼を失することが出来なかったりする。
 少ししてなのはとタバサも空中から下りてきて礼をした。
 「ああ、そうかしこまらんでもよいぞ、皆」
 緊張を解くように公爵が語りかける。
 「こちらから訪ねておるのだ。今は身分など忘れて楽にしなさい」
 「そうそう。私もあまり固いことはいわないわ」
 そう言われて、とりあえず肩の力を抜くルイズ達。
 「でもどうしてこんな夜遅くに? お父様達もお疲れなのでは」
 そう聞くルイズに、公爵は笑いながら答えた。
 「何、娘達が修練に励んでいるときいてな」
 「わたくしも興味を持ちましたの」
 「噂に聞く『烈風』様から見たら、拙いものだとは思いますけれども」
 ルイズは内心、キュルケがへりくだったのを見てびっくりしたが、それをなんとか押し殺した。
 「ルイズ、お友達を紹介していただけないかしら」
 と、そこにカリーヌの言葉がかかってきて、ルイズは一瞬言葉に詰まってしまった。
 「は、はい、お母様」
 そう口にして、なんとか動揺を静める。
 キュルケ、タバサ、ギーシュの方を向き、
 「まずこちらがキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。私の不倶戴天のライバルです」
 「キュルケと申します。よろしく」
 ツェルプストーと聞いて一瞬眉をひそめる両親であったが、二人の様子を見て感ずるところがあったようで、鷹揚に頷いて言葉を掛けた。
 「キュルケどの、まあ我がヴァリエール家とは何かとある間柄だが、よろしくな」
 「は、はい、こちらこそ」
 別に公爵が威圧しているわけでは無かったのだが、キュルケはその圧倒的な二人の存在感に気圧されるものを感じていた。ある意味ルイズとは役者が違う。
 キュルケはこの二人に頭を下げることを屈辱とは思わなかった。
 (ツェルプストーとヴァリエールがライバルだと言っても、今の私じゃ鼻であしらわれるだけね)
 キュルケは自分のことをよくわきまえていた。
205ゼロと魔砲使い 第30話-07 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:20:55 ID:JuyiA2g6
 公爵とカリーヌはそのまま皆の練習を見学してたが、内心では驚きを隠すのにいっぱいであった。
 今彼女たちは鍛錬の仕上げとして実戦形式の模擬戦をしている。内容はワルキューレ対キュルケ及びタバサである。
 今まで語られていなかったが、ギーシュの操るワルキューレも、かつての頃とは一変していた。
 見た目は殆ど変わっていない。だが実のところ中身は別物と言ってもよい。
 ある一体は他のものより素早く動くことが出来る。
 ある一体は他の倍の重さの武器を振り回せる。
 ある一体はギーシュと視覚がリンクできるようになっている。
 そのほかにも幾つかのバリエーションを持ったものをギーシュは形成可能になっていた。
 ちなみに姿を揃えなければ、これらの能力はさらに強化される。今回はキュルケやタバサが相手なので、ギーシュは特殊能力がばれないように形態を揃えているのだ。亜人相手ならこんな手間は掛けない。
 そしてこれに加えて。
 
 「手強くなってる」
 はじめに対戦したタバサがおもわずそう呟くほどにギーシュの実力は上がっていた。
 なお今回の対戦に於いては、ギーシュはあくまでゴーレムの操り手であり、ギーシュ自身は一切戦闘に参加することはなかった。ギーシュはただそこにいるだけで、手出しもしなければ狙われもしない。
 だがそれでもギーシュの実力は上がっていた。
 ゴーレムは自立して動くことが出来るが、その武勇は操り手に比例する。創造者が武術の基本を理解していなければ、ゴーレムはただ力任せに殴ることしかできない。
 なお、この場合創造者は本当に剣を振るえる必要があるわけではない。実理に基づいた技をイメージできれば何とかなる。剣士としても名をはせた老土メイジが晩年に操ったゴーレムなどは恐ろしく強いであろう。
 そしてギーシュ自身はともかく、ワルキューレの振るう武は間違いなく進歩していた。
 それだけではない。
 細剣を手に素早く切り込んでくるワルキューレがいる。
 剣を振るワルキューレの剣をはじき飛ばしたら、次の瞬間にそのワルキューレは大槌を握っていた。
 囲まれそうになったところをフライで抜け出したら、そこに青銅の矢が飛んできた。
 これにはタバサも心底驚いた。ゴーレムに飛び道具を扱わせるのは、実はものすごく難しい。軍隊の弓兵のように、特定の方向に適当に打つ、というのなら簡単である。だが物陰から出てくるのを狙撃するなどと言うのはまず無理なのだ。
 ゴーレムに基本思考能力はない。術者が目視しながら命令するか、自律的に決められたことしかできない。
 剣を持って戦えるのは、『目の前の相手を攻撃しろ』という命令を実行しているだけだ。術者による補助がなければ、敵も味方も区別できない。それでも白兵戦闘ならある程度自律的にゴーレムに任せられる。だが飛び道具ではそうはいかない。
 ゴーレムに出来るのは射ること、引き金を引くことだけだ。相手の動きを見越す予測射撃や、出てきたターゲットの敵味方の判別などは出来ない。
 かといって予測射撃を第三者の立場で実行するのは無茶にもほどがある。だがギーシュはそれをやってのけた。
 フライにハイマニューバーで加速を掛けてなんとか矢を回避し、着地と同時にフライを解除、矢を放った直後のワルキューレにマルチタスクで用意していたエアハンマーを当てて体勢を崩させたあと、とどめのウィンディ・アイシクルを放つ。
 「この鋭さ……動きの的確さ、ギーシュ、感覚同調に成功した?」
206ゼロと魔砲使い 第30話-08 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:23:38 ID:JuyiA2g6
 タバサはそう呟きつつ、まだ残っているワルキューレを片付けにかかる。
 いくらワルキューレが強くなろうとも、タバサがある程度本気で攻撃すれば一撃で撃破できる戦力でしかない。盾を持っていたワルキューレがやたらに頑丈で何度も必殺の一撃をブロックされていたが、先ほどそれも撃破した。
 実際、既に残り2体となったワルキューレではもうタバサを倒せないだろう。
 だがまだタバサは油断していなかった。
 感覚同調。『ゴーレムが飛び道具を使いこなす』という技のタネを、タバサはそう推測していた。だとしたら『まだ2体』残っている相手に油断は出来ない。
 実はタバサもこれを行える。マルチタスクによる使い魔であるシルフィードとの同調だ。
 自分の視点とシルフィードの視点を同時に認識する。これによって死角が消えることの利点はタバサ自身が体感していた。そしてもしギーシュがゴーレムとの間にこの感覚同調を実現していたのなら、その戦闘力は見た目を越える。
 そしてその用心は無駄にならなかった。タバサはまだ完全には使いこなせていない切り札を着る決意をする。
 エア・ハンマーを詠唱。普通なら即座に発射されるそれを『維持』。
 エアハンマーは炎系の呪文とは違って、その姿を直接見ることは出来ない。続いて今度は『ウィンディ・アイシクル』を詠唱。こちらはつらら状の氷が形成されるため目に見える。
 目の前から襲ってくる相手に回避行動を取りつつウィンディ・アイシクルを叩きつけ、『回避の結果』自分にとって死角となる位置に向けて、先ほどから維持していたエア・ハンマーを解放する。
 自分の背後で金属が地面に打ち付けられる音を聞いて、タバサはほっと一息ついた。
 「危なかった」
 小声でそう自分に言い聞かせるようにして気を落ちつける。
 今までの自分だったら最後の一撃を受けてやられていたはずだ。予測は出来たが、運がなければ交わしきれない見事な嵌め技だった。
 「やられたな。まさか『エア・ハンマー』を隠し持つような技が出来たなんて思ってもいなかったよ」
 ギーシュが心底感心したような表情を浮かべつつタバサを讃える。
 「空中戦の応用。フライではなく、エア・ハンマーを維持してみた」
 「なるほど。それは道理だ」
 ギーシュがほう、という表情を浮かべる。
 「ずいぶん応用できるようになったみたいね」
 なのはも出来のいい教え子をほめる表情になっていた。
 「ギーシュもずいぶん腕を上げている。感覚の同調、出来るようになったの?」
 タバサにそう聞かれて、ギーシュの表情が感心から驚きに変わった。
 「そこまで見抜かれていたとは。一応、ワルキューレを作る時に仕掛けておけばなんとか可能になった。もっともまだ同時に同調できるのは一体だし、仕込んだワルキューレは幾分脆くなるんでね、使い分けが難しいんだ」
 それを聞き、自分の判断が間違っていないことを理解すると同時に、ギーシュのパワーアップを実感するタバサだった。
 だが、それは早計だった。
 「ギーシュ、次はあたしお願い」
 タバサはそれを聞いてひっくり返りかけた。ギーシュが使えるワルキューレは7体。そしてそれを使い切るとしばらく魔法が使えなくなるはずだった。
 だが先ほどまで戦っていた方を見ると、ギーシュは再び7体のワルキューレを創造していた。
 「……ギーシュ、あなた、ラインになったの?」
 ラインになっているのなら負担が半減するからあり得る話である。だが、
 「いや、ボクはまだドットのままだよ。使える魔法もフライとかみたいなやつを除けばこのワルキューレ創造だけで、他のは全然ダメ。その分練金だけはいろいろ器用になったけどね」
 タバサは先ほどの戦いの最中、瞬時に武器を持ち替えていたワルキューレがいたことを思いだした。
 「あれ……そういうこと?」
 「そうさ。普通は武器より先に本体が壊されるからあまり意味はないけど、最初から大振りな武器を持たせるとせっかく普通のワルキューレに偽装する意味がないだろ?」
 確かに大型の武器をも持っていれば、パワー型のワルキューレとして対処しただろう。
 「ほんと、ずいぶん強くなってる」
 実戦では普通術者が真っ先に狙われるので今ひとつ活躍の場が薄いゴーレムマスターであるが、以前戦ったフーケとはまた別の意味でギーシュは手強くなっていた。
 ドットでは最強に近いだろう。
 「これも毎日マルチタスクで仮想演習していた成果かな? 実際に体を鍛えないといけないタバサと違って、これは仮想の効果がそのまま出るからね」
 ちなみに今の会話を、ギーシュはワルキューレでキュルケの相手をしながら行っている。
 タバサはギーシュに対する認識を、少し改めるのであった。
207ゼロと魔砲使い 第30話-09 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:25:09 ID:JuyiA2g6
 なお、この戦いぶりに興味を持ったカリーヌが同じように相手をして、1分でワルキューレ7体を殲滅して見せた。この際にカリーヌは直接的な攻撃魔法をほぼ使用していない。
 なのはとの模擬戦で新たに身につけたフライを応用した超高速機動と、ブレイドの魔法を巧みに切り替えて使用、見事なまでにワルキューレ達を切り捨てた。
 「ドットにしては見事としかいえないわね。これでラインになればぐんと伸びるわ。今のままだとちょっとまだ足りないけど。このまま頑張りなさい」
 珍しくもカリーヌがほめてくれたのに、ギーシュは白くなったままであった。
 
 
 
 余談であるが、後日ギーシュはカリーヌに再戦を申し込む。そしてその戦いの中、彼はラインに覚醒するのだが、それは物語が全て終わった後のことになる。
208ゼロと魔砲使い 第30話-10 ◆IFd1NGILwA :2010/06/22(火) 17:27:09 ID:JuyiA2g6
 「本当に驚いたわ、異国で教導していたその腕、本物だったのね」
 「あの子達の実力ですよ。私はそれを少し引き出してあげただけです」
 練習が終わった後、カリーヌが少し話をしたいと言うことで、なのはとカリーヌだけが本塔裏手のこの場に残っていた。
 「あなた自身の腕は私がこの目で確認しましたけど、教師としても一流だったのね。あの子達の動きを見ていれば判るわ。
 まあ、戦いになれていない人は、派手な攻撃に目がいきそうだけど、あの子達、ずいぶんと防御がしっかりしていたわ。あのギーシュ君のワルキューレとの対戦、あなたの指導でしょ?」
 「ええ、どっちかというとギーシュ君のための指導なんですけど」
 なのはが照れくさそうに笑う。
 「ギーシュ君……あの子もまだ気がついていないでしょうね。今の彼でも、標準練度のメイジ部隊、一個小隊なら完封するわ」
 「え、そこまで強くなっていました?」
 驚くなのはの様子に、カリーヌは思わずこけた。
 「気がついてなかったの?」
 「というかこちらでの標準が判りませんから」
 「ああ、そういうことなの」
 カリーヌは、彼女が本当に『異国』の人間なのだと改めて実感した。
 「タバサさんとキュルケさんは、まあちょっと別格の何かになっちゃった面があるけど、それを抜きにしても驚いたわ。
 私たちメイジはどうしても奇襲や接近戦に弱い。今はまだそれほどでもないけど、いずれは銃器などの発達で、平民がメイジを討ち取る場面も出で来るでしょうね。
 この先戦になれば、メイジでも安穏としてはいられないわ。いえ、むしろメイジは戦場で命をやり取りするほうが本来なのよ」
 「戦いにしか魔法が使えないのは、哀しいことですけど」
 なのはの声も少し沈む。
 今はある程度吹っ切っているが、なのはも以前悩んだことがある。
 彼女にとって魔法とは『人を救うための力』だ。だが彼女の魔法は、殆どが何かを破壊するためのもの。戦いの力だ。
 そしてミッド式の魔法は、そういう『武力』的な面が強く、便利なものではない。
 武器としての属性が強いのだ。
 人を傷つけるための力で人を救うという矛盾。撃墜され、半身不随にもなりかねない重傷を負いながらも、魔法の力を取り戻すために過酷なリハビリをくぐり抜けた自分。
 そのことが思い出になる頃、ふと自分を振り返って愕然としたことがある。
 そこまで魔法にこだわる自分が異常なのではないかと。
 年頃の婦女子の生き方としてはずいぶんいびつなものだ。高校年代の頃、地球の親友達と雑談している時にふと気がついてしまい、その時は内心の動揺を隠すのに必死になった覚えがある。
 結局は開き直ったのだが。
 「こちらの世界の魔法は、まだまだ発展、応用の余地があるとは思うんですけど」
 「同感ね。でも、いろいろと宗教的な絡みとかもあって、そう簡単にいくものでもないのよ」
 カリーヌは少し遠くを見つめる目を浮かべて言った。
 「私も若い自分はかなりやんちゃなことをしていたものよ。特にこの国には、自分を律せないタイプの人が多くて。でも昔はそんな自分の行動もまた、横紙破りだって気がついてもいなかったわ」
 「何となく判ります」
 なのはの言葉に、カリーヌはくすりと笑った。
 「女性は騎士になれなかったから、男装して、カリンって名乗って、それなのにあの人に男扱いされて不満を持ったり、ね。
 今ではもう思い出だけど。
 その頃の私は自信過剰で鉄砲玉で、守ることなんか考えていなかったわ」
 そう言ってカリーヌはなのはの方に視線を向けた。
 「でもあの子達は、ずいぶんと守ること……防御の技がしっかりしていたわ。複数に襲われない位置取り、牽制と攻撃の使い分け、あれなら多分初陣を生き残るわね。身内に足を引っ張られなければ」
 「……私も、一度墜ちましたから」
 それを聞いて、納得した表情をするカリーヌだった。
 「失敗をしない人間は、結局成長しないのよね……なのはさん」
 「はい」
 返事をしたなのはに対して、カリーヌは……本当に珍しいことだが……頭をを下げた。
 「娘をよろしくお願いします」
 「言われずとも」
 双月の元、また一つ、友情が結ばれた瞬間であった。
209ゼロと魔砲使い 代理:2010/06/22(火) 17:54:07 ID:dYwK+bCA
 《お久しぶりですね、クロノ、そしてアースラスタッフの皆さん》
 所変わってこちらは次元の海に浮かぶL型巡航艦『アースラ』。
 最終突入に備えて忙しくも暇であるという矛盾した状況の中、クロノの元に遙かな次元を越えて一つのメッセージが届いた。
 今のアースラはその得意な次元環境が災いして、本局との間にリアルタイムの回線を開くことが出来ない。そのため定時報告その他はパッケージ化されてまとめて送られていた。
 本局からの連絡も同様である。
 そんな中、今再生されているのは、クロノが待ち望んでいた、とある人物に依頼した調査に対する報告であった。
 画面には柔和そうな若者の姿が映っている。
 名をユーノ・スクライアという。
 一般スタッフには、『無限書庫司書長』という肩書きのほうが有名である。
 なのはにとってはおそらく一番近くにいる男性であるにもかかわらず、この探査行に唯一加わっていなかった人物でもある。
 ちなみに本人はヴィヴィオのお父さんの位置を狙っていることが関係者には知られているにもかかわらず、あと5年はそれが果たせそうもないかわいそうな人でもあったりする。
 主になのはの鈍感とユーノの押しの足りなさのせいで。
 《依頼された『ハルケギニア』という星のことだけど、わずかながら手がかりはあった。
 だけど、どうにもやっかいなものっぽいよ。こちらで見つかった資料によると、どうも『ハルケギニア』という名前の星は、『聖王遺産』の可能性がある》
 「聖王遺産だって!」
 リアルタイムではないのに、ついクロノは突っ込んでしまった。
 「提督」
 隣で見ていたはやてに生ぬるい目で見られて、クロノは自分のやったことに気がついた。
 「これは失礼……しかし」
 「ベルカの聖王遺産ですか。こりゃまた大変そうやなあ」
 聖王遺産……それはある意味「厄介事」と同義である。
 かつて次元界を席巻していたベルカ帝国。聖王はベルカの王であると同時に、ベルカ社会における魔導師の頂点でもあった。
 七色の魔力光を纏う聖王の元には、聖王にしか使えない超強力な魔導器があった。
 代表的なものが先年に起こった「JS事件」で浮上した『聖王のゆりかご』である。
 名前こそゆりかごだが、その実体は超弩級魔導戦艦。完全復活すれば、惑星の一つくらい軽々と吹き飛ばす文字通りの最終兵器である。
 このほかにも、歴代の聖王がその手にした数々の魔導的秘宝の存在が今の世にも伝わっている。
 聖王遺産というのは、そういった『聖王が手にするはずだった』ロストロギア級の物に付けられた名前である。
 画面の中では、ユーノの解説が続いていた。
 《幸いハルケギニアという名前の星は、そういう危険なタイプの物じゃなかった。だけどやっかいなことに掛けてはある意味ゆりかご以上かもしれないよ。
 というのはこの星、もし記録通りなら人工惑星の可能性がある。改造じゃない、人工、だ》
 「わ、惑星一つ、丸ごと作ったというのか?」
 クロノの声が引きつる。
 無理もなかった。
 《残念ながらその具体的な手段とかはまださっぱりだ。だけどこちらの記述によれば、ハルケギニアという星は、初代聖王の時代、既に聖王が個人的に所有していたのは確かだ。概念的な意味じゃ無しに聖王の遺産として次代に譲渡されている》
 「さすがにベルカ製じゃないっちゅうことか」
 「いくら何でも惑星一つ作るのは無理だろう」
 はやての言葉にクロノが応える。
 《そしてこの星は、どうやら特殊なリゾート惑星みたいなんだ。詳しいことは判らないけど、1日で1ヶ月や1年分の休暇が取れるらしい。あと、空想の世界を現実にした物らしいとの記述もある》
 「それはこの六次次元障壁の特性を利用してのことだろうな」
 六次次元障壁は、使い方によっては時間の流れをある程度コントロール出来ることは既に判っている。
 《これ以上の詳しい情報は追って調査するけど、この時点でほぼ確定だと思う。このハルケギニアっていう星は、間違いなく聖王遺産の別名のほうに所属しているよ。今度はそっちの面から追ってみる。じゃあまた》
 最後の言葉を聞いて、クロノもやっぱりかという表情を浮かべていた。
 
 
 
 『聖王遺産』の別名。それはこう呼ばれている。
 
 『アルハザードの遺産』と。
210ゼロと魔砲使い あとがき 代理:2010/06/22(火) 17:55:35 ID:dYwK+bCA
投下終了です。


某所で突っ込まれていたユーノ君遂に登場です(笑)。

すまん、君は今や無限書庫とセットなんだ。


またちょっと空くかもしれませんけど、続きをお待ちください。残る謎ピースはあと一つだけ。

次からはいよいよ最終決戦モードになります。
211萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:03:04 ID:vYUSzCA7
乙でした。
いよいよ佳境な話が増えてきてますね。

ということで、ブラック企業辞めてごたごたしてたらこんなに時間が
経ってしまいましたが、進路クリアなら18:30ごろより25話の投下を
行いたいと思います。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 18:05:21 ID:faADJz3n
おいすー
事前支援
213名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 18:11:17 ID:eO0JoO+C
魔砲使いの人and代理の方お疲れです。
そして萌え萌えゼロ大戦に期待支援。

今日は投下が多いなぁ。自分のは明日の回そうかな……。
214萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:30:05 ID:vYUSzCA7
それではいきます。


「見えた。魔法学院よ」
 王都トリスタニアからわずか数分の旅。空から見る五芒星を象った
塔の並びは、ルイズにはとても懐かしく思えた。
 授業中らしく外に人気はない。ふがくは二人を抱えたまま、一番目立たない
ヴェストリの広場にするりと降り立った。学院に足をつけて、ルイズは
力が抜けたようにへたり込む。
「……帰ってきた……のね」
「ああ。僕たちは帰ってきた。この魔法学院に」
 ギーシュの言葉にも感慨深さがにじみ出る。わずか二日半。けれど、
その間に見たことは、あまりにも多すぎた。ルイズが何とか脚に力を
込めて立ち上がろうとしたとき、広場に三人のメイジが現れた。
「……お帰り。ルイズ」
 ルイズに手をさしのべ、そう言葉をかけたのはワルド。その後ろでは
エレオノールが眼鏡のフレームに指をかけて怒りを抑えている。
その二人の後ろで、オスマンがにこやかに微笑んでいた。
「子爵さま?それに姉さま?オールド・オスマンまで……」
 驚くルイズ。エレオノールは相変わらず怒りを抑えたまま眉を寄せている。
そこにオスマンがねぎらうように言った。
「三人とも、よく無事で戻ってきた。ワシは、まずそれを喜びたい」
 オスマンの言葉には感慨がこもる。正規の軍人でも失敗する可能性の
ある任務だった。誰かが戻ってこなくともおかしくない任務だった。
しかし、ふがくはルイズとギーシュを生きて連れ帰ってきた。しかも
目立った怪我もない。事情を知らないエレオノールの手前、多くは
語れなかったが、その言葉には万感の思いがこもっていた。
 だが、事情を知らないからこそ、エレオノールは小さく溜息をついた。
「……まったく。姫殿下のお願いがどんなものかは知りませんが、
その様子だと時間がかかった以外たいしたことはなかったようね」
「姉さま……それは……」
 たいしたことじゃないことなんてない――そう言おうとしたルイズを、
ふがくが遮る。
「そうね。そう思ってもらって結構だわ」
「……あなたが『フガク』。おちびが呼び出した使い魔がどんなものかと
思ったけれど……」
 そう言ってエレオノールはふがくを検分するように見る。異国の服装に
ハルケギニアの常識では飛べそうにない鋼の翼――オールド・オスマンの
話ではここからトリスタニアまでほんの数分で飛ぶらしいが、可動部が
ほとんどなく魔力を得て飛ぶには不適切な形状だ。それに脚も見たことも
ない車輪状――こっちは材質さえ分からない。だが、ふがくはそんな
エレオノールの思惑をよそに、静かに言う。
「……訂正願います。私は『ふがく』。異国の名前とはいえ発音を間違えるのは
失礼に当たるのでは?」
「確かにそうね。それは失礼したわ。それはそうと、元の国では士官待遇
だったそうね。アカデミーの主席研究員としては、異国のガーゴイルと
あらばじっくり調べさせてもらいたいけれど……」
「国家機密は易々と明かせないわね。それに、この国じゃ私の指一本
動かすだけでもあと数百年はかかりそうだけど」
 ふがくとエレオノールの間に飛び交う冷たい火花。ふがくに背負われた
デルフリンガーが「おお怖え怖え」とつぶやくが、二人は軽く無視した。
 そんな空気を何とかしようと、ルイズが二人に割って入る。
「あ、姉さま。落ち着いて下さい。第一、どうして姉さまがここに?」
 ルイズは気づかなかった。自分が進んで地雷原に足を踏み入れたことに。
エレオノールは髪をぶわっと逆巻かせると、ルイズの頬を抓り上げる。
215萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:32:18 ID:vYUSzCA7
「あなたが!家に請求書を回されるようなことを!するからでしょうが!」
「あびぃ〜〜〜、ずいばぜん〜〜〜、あでざばずいばぜん〜〜〜」
 頬を抓られたまま、半泣きでルイズがわめく。その様子にギーシュは
あんぐりと口を開け、ワルドは片手で顔を覆う。しばらく抓り上げて
気が済んだのか、エレオノールは指先をぴっぴと払うとルイズに向き直る。
「まったく。さあ、帰るわよ。早く準備なさい」
「え?帰るって……」
「父さまと母さまが、あなたから直接理由を聞きたいとのことよ」
 エレオノールのその言葉にルイズの顔から血の気が引く。
しかし、その理由を知らないふがくは涼しい顔だった。


 ――かくして。ルイズは姉エレオノールによって半ば強引に帰郷させられることになった。
 ルイズが戻ったので王宮に帰還するワルドに見送られて、エレオノールが
自分が乗ってきた馬車にルイズと一緒に乗り込み、学院から強引に借り受けた
馬車にふがくとシエスタを詰め込んで――特にシエスタは何故自分が
ここにいるのかをまだ理解できていないようだった。ルイズと親しいと
いう理由でエレオノールの学院滞在中専任メイドとして勤め上げ、
そのままラ・ヴァリエール家の侍女として連れてこられたのだから、
無理もないと言えるのだが……
「旅ってわくわくしますね!」
 馬車の中。小さな座席に並んで座るふがくとシエスタ。ふがくの手には
デルフリンガーがある。だが、シエスタのその元気いっぱいの言葉は、
ふがくには現実逃避にしか聞こえなかった。
 シエスタの格好は草色のワンピースに編み上げのブーツ。そして小さな
麦わら帽子といった、ちょっとしたよそ行きの格好だ。ふがくはいつもの
縦の絶対領域を見せつける和装。翼の分だけ狭いのだが、シエスタは
そんなことを気にせず……というか、止まってしまうと壊れてしまう
人形のようにはしゃぎ続けていた。
「……なあ、相棒……」
 そんな様子を見たデルフリンガーがふがくに話しかける。この馬車で
話ができるのは、ふがくとシエスタ、それにデルフだけだ。
御者はなんでもゴーレムらしい。人形のような若い男のその瞳はガラス玉の
ような光を放ち、一言も言葉を発しない。エレオノールがルイズを待っている
間に呼び寄せたとのことだった。
「……まぁ、分からないでもないけどね。事情が事情だし」
 そう言ってふがくは小さく溜息をつく。
 シエスタのまじめな仕事ぶりはエレオノールにも気に入られたらしく、
単なる道中の世話という名目のお飾りではなく自分のメイドとして雇おうと
したらしいが……そこをルイズが自分のものだと言ったのが、この状況に
拍車をかけていた。学院で奉公していたはずが気がつけば大貴族のお抱えに
なっているとは、シエスタでなくともなかなか現実を認識しにくいだろう。
そのあたりのことについては戻ってからオールド・オスマンとちゃんと
話をすることになったのだが、シエスタがルイズと親しくなったのも、
元はといえば自分との関わりだということで、ふがくも内心穏やかでは
なかった。

 そんな二人の気持ちを知ってか知らずか。ふがくたちの乗る馬車の
後ろを走る、二頭立ての立派なブルームスタイルの馬車の中で、ルイズは
針の筵に座っている心地でいた。
「……つまり、姫殿下のお願いについては、何も言えないということね?」
 エレオノールは眼鏡のフレームをくいっと上げた。ルイズはわき上がる
恐怖にあらがいつつ、小さく「はい」と答えるのが精一杯だった。
 エレオノールはふがくの速度や航続距離を知らない。
だからオールド・オスマンから魔法学院から王都トリスタニアまで
数分で飛ぶと聞かされても、ハルケギニアで一番速い風竜の速度程度にしか
考えていなかった。また、オスマン本人も、エレオノールにルイズたちが
アルビオンに向かったことは話していなかった。だから、せいぜいどこかの
山にでも咲いている珍しい花でも取りに行かせたのだろうと、自分の尺度に
基づいた想像しかできなかった。優秀であるが故に嵌ってしまった陥穽だった。
216萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:33:54 ID:vYUSzCA7
「まあ、それについてはとりあえずいいでしょう。グラモン家の人間と
一緒にいたことを含め、父さまや母さまには聞かれるでしょうから。
 それよりも……あなたが得意な系統に目覚めたというのは本当なの?」
 エレオノールの視線に疑念と喜びが入り交じる。ルイズも自分が『虚無』に
目覚めたとは言えない。だが、帰郷準備の途中何の気なしに使った
『アンロック』が正しく効果を現したことは、何よりルイズ本人を驚かせた。
だから、ルイズはアルビオンのことを隠すため、嘘をつくことにしたのだった。
 こくりと、ルイズは頷く。そう、ウェールズ皇太子の言葉通り、ルイズは
アンリエッタ姫にも、そして家族にも唇をかんででも嘘をつくことにしたのだ。
「それで、四系統のどれかしら?」
「……風、です。姉さま」
 エレオノールはしばらくルイズの顔を見つめ……そして得心したように
小さく安堵の溜息をつく。
「母さまと同じ系統ね。まあ、あんな使い魔を呼んだのだから、そうじゃ
ないかと思ったけれど」
 異国の、『ハガネノオトメ』とかいう鋼の翼持つガーゴイルを召喚した妹。
その力は未知数だが、ハルケギニアの技術体系とは異なる技術で作成された
それは、エレオノールにはある種の禁忌に触れているようにも思えた。
人間の、少女を器に使ったガーゴイルなど、ハルケギニアには存在しないからだ。
それでも、空を飛ぶ使い魔を得た以上、ルイズの言葉を疑う余地はなかった。


 その頃。魔法学院では――

「……これは……」
 火の塔の隣にある自分の研究室で、コルベールはうなっていた。
 ルイズが帰郷の準備をしている間に、ふがくがこの研究室を訪ねてきたのは
彼にとっても予想外だった。だが、彼女の用件を聞いて、コルベールは
思わず目を見開いた。
 アルビオン空軍技術廠の遺産が収められた大きな木箱。王党派が貴族派に
渡すことなく持ち去ったそれらは、ハルケギニアでも最先端の『科学』技術を
余すことなく彼に語りかける。自分が発明していたおもちゃの域を出ないものを
さらに発展させ、『蒸気機関』として軍艦に搭載してしまっていたとは、
コルベールの想像の埒外だった。だが、同時にそれらは自分のしていたことの
正しさと過ちを証明するものでもある。
「……やはり、『火』は破壊にしか用いられないのか……」
 そうつぶやいて肩を落とすコルベール。しかし、そのとき彼の脳裏に
ふがくの言葉が浮かぶ。

 ――それをどう使うかは、アンタに任せるわ。けど、変なことには使わないって確信してるから。

 コルベールはもう一度図面に目を落とす。そこで不自然なことに気づいた。
この戦列艦『イーグル』号、戦艦『ライオン』号、竜母艦『ヒューリアス』号と
いう三隻の軍艦の図面から、主砲から対人用小口径砲まで、艦載砲に関する
資料だけがすっぽりと抜け落ちているのだ。それは先に王宮でアンリエッタ姫と
マザリーニ枢機卿にこれを見せたときに抜き取られたのだが、それを裏付けるように、
一枚の紙が挟まれていた。
「……これは……?ふふっ。ふがく君は、もう少しこの国の文字を勉強するべきかな」
 それはふがくの書いたメモだった。彼女の人柄を表すような流麗な
文字だったのだが、所々に綴り間違いがある。コルベールはそれを
ほほえましく読み始める。
217萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:35:39 ID:vYUSzCA7
「『武器はなし。でも参考になるものが届くから待ってて』……ですか。
はて、『参考になるもの』とはいったい……?」
 首をかしげるコルベール。そんな彼の元に『イーグル』号の長官艇が
竜籠に載せられて厳重に梱包されて届くのは、明くる日のこと。長官艇が
届けられてから、コルベールはある一時を除き、授業など必要最低限以外
研究室にこもることになる。あるときは長官艇をいじり、あるときは
机に向かい製図用紙にペンを走らせながら、彼は自分の夢に橋を架けて
くれた乙女に感謝した――


 ルイズたちが王宮でアンリエッタ姫にアルビオンからの帰還を報告した翌日。
銃士隊隊長アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランと、副長のミシェルは
港町ラ・ロシェールにいた。
 石畳にロングブーツの靴音を響かせ、一般隊員とは異なりところどころ
板金で保護された鎖帷子に身を包み、百合の紋章が描かれたサーコートを
羽織ったアニエスと、サーコートが白無地であること以外アニエスと
同じ出立ちのミシェル。アニエスとミシェルがそれぞれ第1小隊と第2小隊の
小隊長も兼任する、銃士隊全体で7つの小隊の小隊長以上が鎖帷子を身につけ、
一般隊員が布鎧なのは、体力的な問題以上に、戦術として先頭に立つ
小隊長以上には純粋に防御力が要求されていたため。そして二人の腰に
下げられているのは、メイジの証の杖ではなく細く長い剣であり、腰の
後ろには最新型の火打ち石式短銃がいつでも撃てるよう準備されていた。
「すまんな。ミシェル。タルブから戻ったばかりだというのに」
 短く切った金髪の下、澄み切った青い目がわずかに下がる。強行軍で
ラ・ロシェールに来たにもかかわらず、その表情に疲れは見えない。
「かまいませんよ。そのおかげで私の第2小隊は休暇を取れたんですから。
みんな喜んでましたよ。……ん?あれは……?」
 短く切った青い髪に青い瞳のミシェルは、そう言うと視線の先、
目的地である世界樹桟橋の入り口に立つ銃士姿の4人組に目を向ける。
全員一般隊員と同じ布鎧だが、先頭に立つ金髪を少年のように切った
まだ少女のような雰囲気の女だけは鎖帷子を身につけないときに羽織る
小隊長用の白いマントを身につけている。後ろの三人はといえば……
一言で言えば奇異。
黄色い派手な鎧下に銃士隊では禁じられているはずの緑の長髪に傾いた
ような動物の耳がついた耳当てをつけた者、自分と似た、ある種銃士隊には
似合わぬ雰囲気をまとった者、そして同じくこの場に似つかわしくない
雰囲気をまとう青く長い髪の者。この4人を見たとたん、アニエスが
顔を渋くする。
「ども。お疲れ様です。姫殿下から連絡はいただいてます」
 近づく自分たちに、小隊長風の女が前に出て明るく声をかけてくる。
アルビオン訛りのあるその声に、アニエスは疲れを隠さない声で応えた。
「……まさかお前がいるとはな。シン。いつアルビオンから戻ってきた?
後ろの三人は……聞くまでもないな」
「まぁ、そんなところで。ボクは昨日あの『マリー・ガラント』号で
戻りました。報告書はもう姫殿下に送ってますけど、写しをご覧になります?」
「ああ。見せてもらおう。お前がここにいるということは……アルビオンの
内乱は終結した、ということか」
 アニエスの言葉にシンは無言で頷く。どちらが勝利したのかなど、
聞くまでもない。
「ところで、姫殿下が言っていた『荷物』というのは……あれか?」
 アニエスはシンが指さした『マリー・ガラント』号の甲板に布を
かけられたまま厳重にロープで固定された大きなものを見る。形から
すると小型のフネのようだが、破損しているのかマストがない。
「はい。それから……」
「救助した方々については心配いらん。アストン伯が受け入れを快諾
して下さった。順番にタルブにあるアストン伯の別城にご案内する」
218名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 18:36:43 ID:faADJz3n
支援
219名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 18:37:01 ID:MXKHqdwM
支援戦闘機
220萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:37:40 ID:vYUSzCA7
 アニエスのその言葉にシンは胸をなで下ろし、アルビオン王党派の
生き残りにその旨伝えるべく三人を連れて桟橋を上っていく。その後ろを
ゆっくりと追いかけるように歩き出すアニエス。シンたちが十分に
離れたのを見計らって、ミシェルがアニエスに尋ねた。
「隊長。彼女たちは何者です?銃士隊の格好はしていましたが……」
「ああ、そういえばミシェルはまだ配属されて半年だったな。
 シンは我が銃士隊第8小隊の小隊長だ。アルビオン内乱の動静を探るため、
特命でしばらくアルビオンに派遣されていたのだが……きちんと顔合わせを
しておくべきだったか」
「まあ、それは後でもできますし。ですが、第8?銃士隊は全部で7小隊では?」
 驚くミシェル。アニエスはミシェルに顔を近づけると、誰にも
聞こえないように耳打ちする。
「第8小隊は独立遊撃小隊だ。私の指揮下ではあるが、姫殿下の直率とも言える。
実際、私も第8小隊全員の顔は知らん。後ろの三人で私が知っているのは
あの傾いた耳当てをつけた副官のハーマンだけだ。
小隊長のシンはあの調子で新兵訓練などにひょっこり顔を出すがな」
「そんな小隊が……知りませんでした」
 ミシェルは内心の動揺を必死に隠し、言葉を絞り出す。そんなミシェルに
だめ押しのナイフを突きつけたのは、アニエスのこの言葉だった。
「ああ、一つ教えておこう。第8小隊の別名は『脱走者殺し』(ヒュージティブ・トュエス)。
先日も一人挙動不審で内偵を入れていた銃士が奇妙な死に方をしたのを
覚えているだろう?つまり、銃士隊の中でもそういう任務も受け持つ連中だ」
 アニエスはシンたちの本当の顔は知らない。そして、ミシェルには
そのとき今は亡き先王とタルブ領主アストン伯などごく一部の者しか
知らないはずの新型長銃が自分の枕元に置かれていたことまでは
話さなかった。
だが、選り抜きとして将来を嘱望されていたその不幸な銃士が野良猫を
見たとたんに絶叫してショック死する現場に居合わせたミシェルは、
横にアニエスがいることも忘れて思わず息をのんだ。

 そして、アニエスたちがそのような話をしている頃。先を行くシンたちもまた、
ちらりとミシェルに視線を向けた後、小声でハーマンがシンに話しかける。
221萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:39:06 ID:vYUSzCA7
「……予想できたとはいえ、隊長だけじゃなくてアイツまで来るとはねぇ」
「うん。そうなんだけど……まだ裏が取り切れてないんだ。
ハーマンさんの方が詳しいと思うけど」
「だから……その『ハーマンさん』っての、やめないかい?
あんたが小隊長なんだし」
 ハーマンの声がどっと疲れを帯びる。だが当人であるシンは困ったように
言った。
「うーん。みんなボクより年上だし……。
それにハーマンさんはハーマンさんだから」
「あーわかった。もういい。好きに呼んでおくれよ……。
 ま、あたしが、というかほとんどシーナが調べたところだけど、
表向き枢機卿の差し金で銃士隊副長に任命されてるけど、裏で高等法院長と
つながってる没落貴族ってとこだね。つまり平民装ってるけどメイジだよ」
 半分だけとはいえ獣人であるハーマンも、吸血鬼であるシーナも、二人とも
系統魔法以外の禁忌に属する魔法を使うことができる。その能力を駆使して
トリステイン王国に深く食い込んだ『レコン・キスタ』やガリアなどの
勢力を洗い出し、時には排除することを主な任務としていた。
「うーん。リッシュモン高等法院長かぁ。
確かに一番疑わしいんだけど……まだしっぽがつかめないんだよね。
ワルド子爵みたいな方法で連絡は取っていないようだし……。
 本当にやっかいだなぁ。これ。隊長とも関連あるし……。
どっちにしてもボクたちの任務が終わるまでは他の人に任せるしかないけど」
 歩きながら首をかしげるシン。そこにカルナーサが小声で声をかけた。
「ところでさ、シン。王党派の後始末が終わった後で、アタシら何するわけ?」
 アンリエッタ姫の命令では単にラ・ロシェールでシンと合流しろとしか
言われていなかったための言葉だが、シンはあっさりと答えた。
「あれ?言ってなかったっけ?『マリー・ガラント』号が出港可能に
なったら、もう一度アルビオンへ行くよ」
 しかし、シンのその言葉が実現されるまで、三日の時間を必要とした。
理由はアルビオン王党派の生き残りを馬車で移送する際に目立たない
深夜に行ったためであり、同時にシンたちにも準備が必要だからであった。
222萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/06/22(火) 18:42:03 ID:vYUSzCA7
以上です。
こちらは佳境に入るにはまだしばしの時間が必要です。

今回でアニエス隊長(前回ちょい役でしたが)とミシェル副長がやっと登場。
シンの小隊が第8小隊なのは元ネタご存じの方には想像できるかと思いますw

次回からはヴァリエール領内に舞台を移します。

次回もできるだけ早くお目にかかれるよう頑張ります。
223名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 19:09:01 ID:TZhmPIMU
いつもまとめwikiで読ませてもらってるのだけど…
魔砲の人来てたっ
更新感謝!ぐっじょぶ! リゾート説に度肝(コア)を抜かれた
224名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 20:13:35 ID:ggo5iRCq
魔砲の人、代理の人、萌え萌えの人乙でした!
Sts以降のユーノ君はやっぱり辞書代わりですよねー
225名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 21:42:33 ID:eUgfw6o8
小ネタにあるゼロのジョインジョイントキィを見てて、ジョインジョイントキィVSジョイン(中略)ジョセフゥなんつーのを思い浮べた。

北斗無想流舞と虚無の『加速』で良い勝負をしそうな気がするんだが…
トキのイントロ台詞は「お前は殺気が強すぎる…」かねぇ?
226ウルトラ・スーパー・デラックスマンZERO(1/3):2010/06/22(火) 23:02:26 ID:1ZyCcRHo
トリステイン王国、トリステイン魔法学院のとある一室。
部屋のドアには、『待機室』と、この国の言語で書かれたプレートが貼られている。
「あー、つまらん! 事件はどうした、事件は! まったく、この世から悪が消えてしまったとでも言うのか!」
 ソファーに寝転がったまま、部屋の主の中年男……句楽兼人は吐き捨てた。
「おーい、メイド!」
「は、はい、只今!」
 あわてて駆けてくる音、続いてドアをノックする音が聞こえてきた。
「シ、シエスタでございます」
「帰る! 給料が出てたら持ってきてくれ」
 シエスタはあわてて学院の経理担当のところへ行き、すぐに給料袋を持って戻ってきた。
「お、お、お給料でございます……」
 シエスタは句楽に給料袋を差し出すが、明らかに脅えていて近寄ろうとしない。
「そんなに遠くにいちゃ、取れんだろうが!」
「も、申し訳、ありません」
 シエスタは腰が引けたまま、句楽におずおずと近づいていく。
「ほら! 早くよこしなさい」
 句楽は給料袋をひったくるように受け取った。
「じゃ、今日はこれで帰らせてもらうよ」
 鞄をわしづかみにして、部屋を出ていこうとすると、
「ミスタ・クラク、今日は健康診断が……」
 シエスタが呼び止めて言った。
「この僕に健康診断なんかいると思う? 君が受けときなさい」
「と、とんだ失礼を申しました!!」
 シエスタは、必死に何度も頭を下げた。
「それじゃ!」
「お、お疲れ様でございました!」
 シエスタに見送られ、句楽は部屋を出た。
「きゃあっ!」
「クラク・ケント!?」
 顔を見るなり、生徒や教師、使用人たちはみんな逃げるように去っていったり、物陰や部屋に隠れたりした。
「ふん、どいつもこいつも!」
 不機嫌そうに歩いている句楽にその時、
「あいたっ!」
 歩いてきた誰かがぶつかった。
「ミ、ミスタ・クラク!」
 コルベールだった。
「……どこ見て歩いてんの?」
「 ……す、すまない! 悪かった! 許してくれ、許してくれ……何でもするから……頼む!」
 コルベールは半泣き顔でひたすら謝る。
「悪かった。あんたをいびってもしょうがないんだ。……そうだ! あんた、今夜家に来ないか? ルイズくんも誘って」
「え? ミス・ヴァリエールも? いや、あの、その……」
「じゃあ、待ってるから」
 そう言い残して、句楽は行ってしまった。


227ウルトラ・スーパー・デラックスマンZERO(2/3):2010/06/22(火) 23:05:19 ID:1ZyCcRHo
「だめだ、無理だ! あんな化け物、君一人の力じゃどうにもならん!」
「でも召喚して、契約したのは私です! 全て私の責任です。だから、私があいつを始末します……」
 ルイズははっきりと、悲壮な覚悟で言う。
「無茶だ……」
 コルベールは途方にくれてしまった。
「ル、ルイズ! クラクが来たわよ!」
 横にいた級友、キュルケが知らせた。二人は慌てて口をつぐんだ。
「おう、二人とも、なるべく早く来いよ。待ってるからなー!」
 句楽はそれだけ言うと、悠々と去っていった。
「……どうして、どうしてこうなっちゃったのよ……ただの平民だと思ったら、あんな化け物だったなんて……」
 張り切ってはみたが、いざ、その『化け物』の姿を目の当たりにすると、決心がぐらつくのをルイズは抑え切れなかった。



 あたり一帯は戦争直後のような、焼跡だった。周囲の草木は焼け落ち、人の気配は全くしない。
「……」
「……」
 コルベールとルイズは焼け跡に残った道を、句楽の家に向かって歩いている。二人は全く口を開こうとしない。
「ちょっとちょっと、どこ行くんです? この辺りは何もないですよ」
 後ろから、馬に乗ったパトロール中の兵士が声を駆けてきた。
「クラクの家に行くところなんです。あいつに呼ばれて……」
 コルベールが答えた。
「クラク!? お、お気をつけて……」
 兵士は唖然としたまま、二人を見送った。
 すでに日没が過ぎ、あたりは薄暗くなってきていた。二人は足を速めた。
「早く行かないと、あいつ、機嫌悪くなるぞ」
「急がないと……!? ミスタ・コルベール! あ、あれ見て下さい!!」
「!!」
 空から何かが飛んでくる。人のようだ。
「こっちに向かってくるぞ!」
 空を飛んで来た人物は、二人の前に降りてきた。
「私の名はウルトラ・スーパー・デラックスマン。困っている人、弱い人を助けるため、日夜働いているのです」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンと名乗ったその男は、貴族のものとは違うマントを羽織っていた。
 さらに戦闘服らしきものも着ている。
「急いでるみたいですね。どちらまで行かれますか?」
「ミスタ・クラクのお宅まで……」
 ルイズが答えた。
「クラクさん? ああ、あの有名人ですね。私が連れていってあげましょう。さあ、しっかりつかまって。ハアッ!」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは二人をかかえたまま、空高く舞い上がった。
 フライの魔法も使わずに、高いところを飛んでいる。この男の能力の一つだ。
「ほら、見えてきましたよ」
 見ると、クラクの家が下にあった。焼け跡の中に場違いなほどの豪邸だった。
「さあ、着地しますよ。しっかりつかまって」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは高度を下げ、クラクの家の前に着地した。
「着きましたよ」
「おかげで助かりました。ありがとうございました」
 二人は礼を言った。
「いえいえ、礼には及びません。クラクさんによろしく。それでは失礼! シュワッ!!」
 彼は飛行体勢を取った。だが……。
228ウルトラ・スーパー・デラックスマンZERO(3/3):2010/06/22(火) 23:08:14 ID:1ZyCcRHo
「……なーんて、やめやめ! 実は俺の正体は……ジャーン! ご存知、句楽兼人だったのさ!」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは戦闘服とマントを脱いだ。すると、普段着の句楽になった。
「驚かないの?」
「あー! びっくりした!」
「驚いたわ!」
 いかにも無理矢理に、コルベールとルイズは驚いてみせた。
「もういいよ。みんなどうせ知ってるんだろうけど、建前は守らないとね。人にしゃべったらただじゃおかないよ」
「わ、わかってますよ」
「おどかさないでよ」
 二人は応接間に通された。
「お構いもできないけど、まあ、ゆっくりしてってよ。そのうち、食事が届くから」
「頼んでくれたの? 私達のために?」
「せっかく来てくれたんだから、おもてなししなくちゃって思ってね。何しろお客なんて久しぶりだから」
「仕方ないさ、何しろ君はその……ウルトラ……」
「ウルトラ・スーパー・デラックスマンか……」
「こんなこと聞いていいのかしら……クラク、どうしてなったの? そのウルトラ……に。やっぱり、ガンダールヴの力?」
「俺に聞いたって知るかよ。俺だって元は平凡なサラリーマンだったんだ。こっちに来てからこうなったんだからさ」
 サラリーマン……句楽の世界で言う労働者のことだ。
「正義感だけは人一倍強かったけどな。事件のニュースを読んだり聞いたりする度に、憤りで胸の塞がる日々を送っていた」
「そう言えば君は、あちこちの新聞に投書していた、投書マニアだったんだってな」
「それしかはけ口がなかったもんな……しかし、現実に悪を見ても、見て見ぬ振りをするしかない非力な俺だった。
夢の中でだけ、俺は思う存分悪を懲らしめることができた」
 そこまで話して、句楽は一息ついた。
「それがあの日を境に、突然……」
229ウルトラ・スーパー・デラックスマンZERO代理:2010/06/22(火) 23:10:30 ID:1ZyCcRHo
以上です。
代理投稿終了しました。
230名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 23:18:09 ID:tnhlvrZr
代理スレのはとっくに削除されてますからー
本人乙
231名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 23:26:54 ID:3BLOwejP
触るなよ
232名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 23:46:30 ID:Cedg/xKt
代理スレで何かあったの?
233名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 23:46:31 ID:9EOtYhPg
ウルトラ・スーパー・デラックスマンZEROは、作者が避難所を荒らして書き込み規制され、既にwikiからも削除された作品です
まとめwikiへの登録は無用にお願いします

以下通常進行でドゾー
234宇田川城重 ◆DSD2k4.rsc :2010/06/23(水) 05:39:06 ID:OWB/Ci3G
その作者本人なんですが、規制が解けたので書きます。
私が荒らしたのではなく、向こうが突っかかってきたのです。
それで争いになったのですが、私は荒らし行為は断じて行っておりません。
ログはいくらでも捏造できます。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 06:02:14 ID:1y3cVbLd
>>234
お呼びじゃございません、お帰りください

マジレスさせてもらうと「わざわざ火種落としに来るなこの馬鹿」
236名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 06:06:10 ID:5RcqI4w6
昨日「五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔」を代理したものですが
スレの確認不足と勘違いで既に代理投下されていたものを二度投下してしまいスレの皆様に迷惑をかけてしまったことをお詫びします
本当にすみませんでした
237宇田川城重 ◆DSD2k4.rsc :2010/06/23(水) 06:24:05 ID:OWB/Ci3G
>>235
今度はあなたが突っかかってきましたね。
ご不満ならば、削除依頼を出されても結構です。
238名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 06:28:29 ID:LIiDmxH9
成程、コイツはダメだ
239宇田川城重 ◆DSD2k4.rsc :2010/06/23(水) 06:53:20 ID:OWB/Ci3G
それでは、次回まで今しばらくお待ち下さい。
240名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 07:15:07 ID:3Ca/eplt
次スレから テンプレに、

『宇田川城重』へのレス返しは無意味かつ有害。放置以外の対応禁止。

の一文を入れることを希望します。
241名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 07:20:53 ID:aOgRlpD1
>>234
マジレスするけど、お前は過去様々な場所で行った言動によって、
HNでググっただけでヒットする有名人になってる。勿論、悪い意味で。
お前に荒らす意図がなかったとしても、お前のその名前を使った言動全てが、
荒らし行為に繋がってしまう状態になってるんだよ。その悪名のせいで。
無論、そのHNを使わないとしても、
お前のその無自覚な言動それ自体が立派に荒らし行為なわけなんだが。
242名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 09:39:57 ID:RW3MvXMA
議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
243名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 10:00:05 ID:M8sMW5rA
かつて「ゼロと帝国」を投下していったDr.Jもキチガイだったが、こいつはその数倍、
リアル世界でも裁判を起こされてる様なキチガイだからな。

キチガイが暴れてたら目を逸らしてそっとその場を離れる、それが最善の対処法です。


244名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 10:09:15 ID:g5wDhx/s
当方にスルーの用意あり。
245名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 10:12:30 ID:3Z1noBAz
私、芳香ちゃん召喚書いた女だけどこりゃねーわ
今はケモノ萌えスレでロリケモSS書いてるが、気がつくとロリケモがルイズ化しつつある件
246名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 10:25:38 ID:+pU7tgSn
知らんがな…
247名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 11:14:01 ID:SCzLsHJ4
>>239
誰も待ってないから。
トリ格でも読んでろよw
248鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 11:18:20 ID:OwPPDKJd
えー、こんにちわ。ちょっとスレがざわついてるけど、投下していいのかな?
短いの二本を経てギュス様の続きを書いたよ。
一応投下予告。1145
249名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 11:26:52 ID:cqW5/uNO
先行支援をする
250鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 11:45:25 ID:OwPPDKJd
 トリステイン魔法学院の敷地内で、もっとも広い中庭に集められた生徒達が、それぞれに整列して、教師達を待っている。
 やがてそこに学園長オールド・オスマンを筆頭に、教師達は生徒に対面するように並んだ。
 オスマンは拡声の魔法をかけた杖に両手を乗せて、集まった二百人近い生徒達に向かって声をかける。
「諸君。本学院の今年度上半期の学期は、本日の正午をもって終了し、ふた月ばかりの休暇に入るわけだが、本年度は隣国との紛争などもあり、領地に帰っても休まらない生徒もおるだろう。
そこで儂は、通年確保しておる夏季休暇中の在学許可の枠を広げ、例年より多くの生徒や教師が学院に残れるように準備しておる。勿論、係累等後見人の承認は要るがの。
この休暇をどのようにつかうのも諸君らの意思次第である事を言っておこう。避暑に赴くもよし、独自に何がしかの研究に励むのもよいじゃろう。しかしこの学院の責任者として、
諸君らが壮健であって次学期を迎えられることを切に願っておる。
ふた月後にまた会うとしよう」
 生徒側から感謝の拍手が送られ、次に教師達を先導とした移動が始まる。移動は学院の内壁正門で止まり、再び整列する。オスマンはそこで正門に向かって杖を構え、魔法で厳重な鍵を掛けた。
この鍵は原則、次学期の始業式まで掛けられたままになっている。裏門や脇の出入り口がいくつかあるから、学院に残る者たちにとって不便というほどでもない。
 祭事の時に鳴らされるいつもとは少し違った鐘の音が学院に響いた。
 
 終業式が終わり、生徒達は各々の予定に従って行動しはじめる。既に学院の裏門の前には生徒達を迎えに来た大小の馬車が並んで待っているのである。ルイズ・フランソワーズはまず、私物をトランクに詰め込むところから始めた。
「といっても、大したものはないのよね。姉さまのところに大体揃っているし」
 ルイズの夏季休暇は、王都トリスタニアでアカデミー研究員をしている姉エレオノールが住むヴァリエール家所有の別宅で過ごす予定である。暫くの寄宿だが昔から使い慣れた勝手知ったる場所で、
わざわざ持っていかなければならないものはそれほどない。
 したがって、ルイズの手荷物は貴族の旅荷としては比較的軽量な規模に収まった。
 それを運んだシエスタ曰く、
「えぇ。ミス・ヴァリエールのお荷物はとてもよく纏められていて、他のお嬢様達が大型トランクを三つはお使いになるのに、ミス・ヴァリエールはお一つしか使われてませんでした」
 
 人一人は優に入るトランクを引っ張るシエスタを連れて、ルイズは学院の本棟から少し離れた小塔に向かう。そこはコルベールが自分の為に学院で用意した研究室だ。
 塔の脇に建てられた小屋からは細く煙が煙突より伸びている。ルイズが小屋の中に入ると、壮年の男が小屋の奥に作られた炉の火を落としているところだった。
「早かったじゃないか。手伝いに行こうと思ったんだが」
「煤けた格好で手伝いに来られても迷惑だわ」
「聞いたかい相棒、嬢ちゃんは使い魔である相棒の手なんて借りたくないってさ」
「それは困ったな。明日から職の手を探さなくちゃならないな」
「あんた達……!」
 ルイズの癇癪が弾けると同時に炉の中に残っていた小さな火がかっと燃えて弾けた。溜まった煤が炉口から噴き出して二人と一振りに降りかかる。
 二人は盛大にせき込んで、ルイズは息を吐いた。
「まぁいいわ。あんたはもう準備できてるの?」
「そこに置いてある荷物で全部だな。あとはコルベール師に挨拶して終わりだ。あの人は休みの間も学院にいるらしいな」
「休暇の時くらい家に帰ればいいのにね。何処の出身なのか知らないけど」
 壮年の男は己の荷物が入った背負い袋を身体にくくりつけた。月日に焼けた金髪を長く後ろに撫でつけ、その動きは実年齢よりもいくらか若々しい。身なりからみて貴族ではない。しかし平民らしからぬ振る舞いに、
どこか気品がにじみ出ていた。
 コルベールは自室に居た。窓の少ない塔の中は、埃っぽさと熱気が入り混じって、入ってくるものを立ち竦ませる不快さを感じさせた。
 しかし塔の主人はそんなことはまったく気にしておらず、訪問者を快く迎え入れてくれる。
「おや、ミス・ヴァリエールにギュスターヴ君。今日は何か……?」
「はい。私はルイズについてここを離れますので、その間小屋の管理をお願いしたいのです」
 自分の使い魔はこの禿頭の教師と仲が良いな、とルイズは前から思っている。趣味が合うのだろうか?
 そんな少女の呟きも知らず、コルベールは壮年の男――ギュスターヴの要請を聞きいれてくれた。
「ではお二人とも、休暇の間息災で」
「ありがとうございます。では」
 
251鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 11:48:55 ID:OwPPDKJd
「そう言えばシエスタは休まないのか?」
「メイド仲間のうちで何人かはこの機会に帰省するみたいですけど、私は残ってお仕事しますよ。お手当ても出るんですから」
「学院長も太っ腹よね」
 裏門までの道でそう話していると、三人を誰かが呼びとめる。
 振り向けば、赤髪の娘と青い髪を短く刈った少女が木陰から手招きしていた。
「ハァイ」
「なによキュルケ。私達急いでるんだけど」
 赤髪のキュルケと言われた娘はルイズの険のある言葉に肩を竦ませた。
「ちょっと声掛けただけじゃない。もう少し肩の力抜いたら?」
「どうでもいいでしょう。で、何か用?」
「私達休暇中も学院に居るんだけど、何か休みの間予定があったら教えて頂戴、遊びに行ってあげるから」
「遊びに行って『あげる』ですって?」
 ルイズのこめかみがぴくぴくと動いているのがギュスターヴから見える。この娘は感情の波が激しいことこの上ない。それを知っているくせに、キュルケはこう言い放った。
「だって貴方の事だもの。どうせ帰っても相手してくれるのがギュスだけじゃ、流石にギュスがかわいそうでしょう?」
「そ、そんなこと……」
「そんなことは、ないさ」
 言いよどみかけたのを遮って、ギュスターヴは自信満々といった風に言った。
「俺たちはトリスタニアに行くんだ。ヴァリエールの末娘なら顔くらい見たい貴族だっているだろう。それほど暇じゃないかもしれないぞ」
「そうかしら?」
「そうさ。……だから遊びに行きたいなら素直にそう言ったらどうだ?」
「う……」
 口ごもってキュルケは隣に居て沈黙を守る青髪の少女タバサに向けられた。
 見返すタバサの目に表情はない。それが鏡を覗きこむような気分にさせた。
「……そうね。実はねルイズ。寮に残るのは女生徒ばっかりで男が全然いないの。当然よね、戦争になりそうなんだもの。だから退屈になったら、貴方のところにいってもいいかしら?」
 ルイズは煮えかけた頭がだんだんと冷めてくるのがわかった。要するにキュルケは寂しいから構ってくれと言っているのだ。そう思えばほんの少し、自尊心がくすぐられる。
「来てもいいけど、姉さまも一緒にいるから居心地は保証しないわよ」
「あのお姉さんはいじり甲斐がありそうでいいわね」
 キュルケの答えにルイズはさらに頭が冷めていくのであった。
 
 寄越した馬車に乗せられたルイズとギュスターヴが到着するのが見えて、エレオノールは階下のロビーに降りることにした。
 ヴァリエールの別邸は、王都の高級住宅街に数ある貴族の邸宅の中でも、上から数えた方が早い位に豪華な屋敷である。勿論ヴァリエール領にある本家と比べれば慎ましい出来であるが、調度品や建築の見事さは是非に及ばない。
 ロビーでは使用人に荷物を託したルイズと、使用人について屋敷の奥へ行こうとするギュスターヴの後ろ姿があった。
 それがちらっと見えただけでエレオノールは胸の奥がかっと熱く打たれてしまうのだ。
(あぁ、あの人もここで過ごしてくれるのね……)
 一目会ったその日から、密かにエレオノールはギュスターヴへ思慕の情を募らせており、一時期は暇さえあればギュスターヴが立ち上げた百貨店に通いつめて、ギュスターヴの姿が無いか歩いたものだった。
 ……その姿は周囲から「貴族の婦人が通い詰めるほど百貨店は良い店なんだ」というというように見られていたりする。おかげで店を切り盛りするジェシカは右肩上がりの左団扇である。
「……姉さま?」
 出迎えに来てくれたらしい姉があらぬ方を見たままぼうっとしてるので、ルイズは手持無沙汰のままロビーに立たされる羽目になったのだった。
 
252名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 11:50:45 ID:cqW5/uNO
ちと早いが、もいっちょ支援
253鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 11:53:02 ID:OwPPDKJd
 正気に戻ったエレオノールはルイズを連れて談話室に入ると、テーブルで薬湯と菓子を啄みながら学院での生活について事細かに聞き出し、オスマンが休暇中の寮滞在を認めた話を聞いて関心していた。
「よくそんな財布の余裕があったものね。アカデミーなんて予算を削られてしまうんじゃないかって汲々としてるのに」
「どうして?」
「軍備に国費がかかるからよ。アルビオンの奇襲で軍艦はほぼ全滅で、タルブでの合戦では勝ったけど王軍も被害甚大だそうだから」
 そういうエレオノールに相槌をルイズは打てない。王軍の被害の一端は自分が行った虚無の発動が原因やも知れないから。
「王軍はタルブ戦役で功あった傭兵部隊を正規軍に組み入れたと聞くし、トリステインの格が落ちるというものよね。アンリエッタ女王には頑張ってもらいたいわ」
「姉さま、陛下を助けるのが私達貴族の義務でしょう?」
「当然よ。現にヴァリエール家は王家に資金と人足を供出したし、私もアカデミーでアルビオン軍が残した船から見つかった、砲弾の解析に駆り出されてるもの。うちで何もしてないのはあんたとカトレアだけよ」
「……仕方がないでしょう、まだ学生なんだもの……」
 だがルイズは先日、内々にアンリエッタから彼女直属の女官としての権限を与えられているのだ。いざ王女からの命令があれば一目散に駆けつけなければならない。
 その時は意外に早く訪れるのだが、ルイズとギュスターヴが別邸に着いたその日の夜、ギュスターヴはあてがわれた部屋で背中を伸ばしていた。
 部屋を見渡すに一応、使用人用の部屋らしい。質素なベッドと椅子、テーブルと小さな衣装箱が一つだけ置いてある部屋だ。
「あまり歓迎されてないようだな、俺は」
 独り言に答える声が荷物から帰ってくる。
「まぁ、仕えてる貴族のお嬢様がどこの馬の骨ともしれない男を連れてきているんだから、歓迎はされないわな」
 答えたのは荷物に収まっている一振りの剣だった。知恵ある魔剣インテリジェンス・ソードの一つであり、古の虚無の使い魔『ガンダールヴ』が使っていたと自ら主張するデルフリンガーである。
「時に相棒よ。あんたはこれからどうするんだよ?お嬢ちゃんはひと夏ここで過ごすわな。その間それにつきあっているつもりかい?」
「そこなんだ、デルフ」
 ベッドから起き上がって荷物からふた振りの剣を引っ張りだすと、それぞれをテーブルに乗せた。一方はデルフだが、もう一方は石でできた長剣だ。
「俺がルイズにアニマの使い方を教えたのは、一つにはそれがルイズの未来につながるものだと思ったからだ。この世界ではアニマの術を使えるものは居ない。ただ一人のアニマ術師になる。
あとはそれを自分で使いこなせるだけの精神を持っていれば自由に生きられるだろう」
 世間知らずでわがままなルイズだが、ギュスターヴはそれが出来ると信じている。
「一つってことは、もうひとつあるんだな」
「始祖の祈祷書とやらが変化した卵型のクヴェルが気になる。鉛の箱にしまってあるが、あれは尋常な代物じゃない」
「アニマとやらが無い相棒に解るのかよ?まぁ、俺っちもありゃやばい代物だと思うどな……」
 虚無に使われる立場のデルフから見ても、卵形と化した祈祷書は異常な存在なのだという。
「もしあれを再びルイズが手にする時があれば、ルイズ自身で制御できるようにならなきゃいけないだろう」
「それまでの訓練、ってことかい?」
「そんな時が来ないに越したことはないんだがな……」
 ちらりと目が白い石剣を映す。
254鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 11:56:16 ID:OwPPDKJd
「嬢ちゃんに対する理由はそれでいいとして、あんたはその、なんだ……サンダイルってところに、帰りたくないのかい?」
「……帰りたいさ。帰って友人達に謝りたいな、黙っていなくなって済まないってさ」
「相棒は妻子居ないんだろ?その年でやもめたぁ、寂しいよなぁ……」
 そこまで言って、デルフは何か閃いたようにカタカタと鳴った。
「解ったぜ、相棒がこっちに後ろ髪引かれて元の世界に帰る方法を探し渋っている理由。あんたは嬢ちゃんを自分の娘か何かみたいに思えて仕方がねぇんだ」
「ルイズが娘だって?」
「そうさ。手元で大事にしたいって気持ちがあるんだろ。だから離れるのを渋ってるのさ」
 得意そうに魔剣は笑った。
 だがそう指摘されたギュスターヴは、怒るでも笑うでもなく、むしろ神妙に表情を暗くして考え込んでしまうのだった。
「ど、どうしたよ?」
「……これが親の気持ちという奴のなのか?」
「いや、そうなんじゃないかって思っただけだよ。実際のところは知らないね」
 そう言ってやるとギュスターヴはますます悩み深げにうつむいた。
 皺を寄せて黙っている相棒をどうしたものかとデルフが考えていると、夜更けだというのに部屋を尋ねる者が居た。
「客だぜ相棒」
 ノックにギュスターヴが答える間もなく訪問者は勝手にドアを開け部屋へと入ってくる。
 部屋着に着替えたルイズだった。ルイズは部屋を一瞥し、自分の使い魔の境遇に文句をつけた。
「こんな貧しい部屋がこの屋敷にあったなんて知らなかったわ。私の使い魔に相応しくないと思うの」
「それで嬢ちゃんはどうするのよ?」
「明日から家令に言いつけて他の部屋を用意させるわ」
「別にこの部屋でいいだろう。気を使われると居づらくなる」
「あんたはそれでいいかもしれないけど、それで召使たちに舐められているんなら許しがたいわ」
 部屋にやってくるなり青筋立てて息を巻くルイズに、先程まで考えていた事を頭に押しやり、ギュスターヴは言った。
「わざわざこの部屋に文句をつけにきたのか?」
「あっ、そうだったわ。姉さまと夕食を済ませた後、私宛に手紙が来たの」
 これよ、とルイズが懐から出したのは小奇麗な封筒だった。送り主の名前はなく、ただ宛名だけが記されている。しかし、封蝋等の格式から見て、貴族の使う梟便で運ばれたものらしい。
「梟便?」
「伝書用に調教された梟に手紙を持たせて送るのよ。貴族の屋敷なら梟を受け入れる鳥小屋が天井裏にあって、そこに手紙を持った梟が入ってくるのよ。学院には何十羽も入ってこれる梟小屋が置いてあるわ」
「わざわざ梟に持たせるなんて手間暇かけるもんだな」
「中には自分の使い魔にやらせる人もいるけど……って、そんなことはいいのよ。問題はこの中身よ」
 言ってルイズは剥がされた封蝋の下から便箋を取り出して見せた。その様子なら既に中身は確認済みなのだろう。
「読んでも構わないか?」
「汚さないでよね」
 ギュスターヴは受け取ると、便箋に目を走らせる。ジェシカと手紙のやりとりをするようになって、一応日常の読文に支障はない。
「なんて書いてあるんだい?」
「かいつまんで言えばお茶のお誘いさ」
「茶ぁ?」
「もっと上品に言ってくれる?陛下からわざわざ謁見に来るようにという申し渡しよ。内々に送ってくるところを見ると、何か任務を与えられるんじゃないかしら」
 一見、そう冷静にルイズは言っているが、内心では働ける事に喜んでいるに違いないと、ギュスターヴは思った。この娘のアンリエッタ女王への尊敬とトリステイン王国への忠誠は揺るがないものらしい。
「この手紙の日付を見ると明後日になっているな」
「そうよ。それまでに身の回りの物をそろえなくちゃいけないわね。明日は忙しくなるわよ」
「どうして?」
「休み一杯任務に費やすかもしれないから、明日のうちにめいいっぱい遊んでおくのよ。あと、買い物とか」
 にひ、と意地の悪い顔をするルイズを少し疲れた気持ちでギュスターヴは見た。女の買い物に付き合うのはいつ何時でも大変なのだから。
 
255名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 11:57:46 ID:jqX9yb9W
やっほぅ待ってたぜ支援
256鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 11:59:29 ID:OwPPDKJd
 明けて翌日。ルイズがギュスターヴを引き連れてトリスタニア圏内を朝から飛び回っていた頃。ルイズを王宮に呼びつけたアンリエッタ女王は王宮を出ていた。
 行き先は郊外に設置された練兵場である。
 そこでは再建中の王軍の訓練と編成を行っており、アンリエッタはその視察にやってきたのである。
 茶けた敷地では下士(見習い)から格上げされた新米メイジ兵に古参兵が指南をする様子が見られ、一方では新たに仕官した下士官候補生が教官から指導を受けている姿もある。
 平民の兵士の姿も見られるが、その数は少ない。王軍に編成される非メイジ兵は殆どが士官である貴族の私兵であり、残りが雇入れの傭兵になる。他国もこの構成は、比率は別として概ね変わらず、
平民の専業軍人というのは全体の中では少数に過ぎなかった。
 しかし、今のトリステイン王軍では些かの例外が存在している。先のタルブ戦役で一番に戦場へ駆けつけ、その後アンリエッタ王女(当時)が戴冠するまで警護を勤め上げたアニエスが隊長を務める傭兵部隊、通称『銀狼旅団』である。
 現在は部隊ごと王家召抱えになり、幻獣騎兵で構成される魔法衛士隊と並ぶ、第四の近衛隊である『銃士隊』と改称していた。それに合わせて隊長のアニエスは、特例としてシュバリエ号を持つ貴族となった。
 そんな銃士隊隊長「アニエス・シュバリエ・ド・ミラン」は、練兵場で訓練に励む兵達を監察する女王につき添い、自らの任務を黙々と果たしていた。
 アンリエッタの傍にはもう一人の軍人がついている。ルイズの学友ギーシュの父、グラモン元帥である。今回はアンリエッタに再軍備の進捗状況を訓練の光景を交えながら説明する事に終始していた。
「正士(平時戦時共に正騎士扱い)に格上げした者が200名、従士(戦時のみ正騎士扱いで平時は一段下がる)に組み入れた者は350名、なんとか1200の定数が揃う、といったところでございますな」
 ここでいう定数はメイジの兵隊の事である。
上士(騎士隊長相当。正士の上)は騎士隊を指揮し、従士は平民の兵隊を指揮する下士官として配置されるのだ。魔法衛士隊になると正士で騎獣の使用が許されるようになる。
「当座は数が揃うならいいでしょう。また上から何が降りてくるかわかりませんから、練度を高めてくれることを期待しますよ、元帥」
「はっ」
 恭しくグラモン元帥は頭を下げた。政治権力闘争に興味のない古強者は、国を負おうとする若い女王を純粋に後押ししたいと思っている。
だから陰でアンリエッタを未熟者と呼ぶ風潮が一部の官吏にあることを知った上で、不器用な作法でこの若者を支えようと苦心していた。
「魔法衛士隊のその後については何か報告がありますか?アニエス」
「ド・ゼッサール隊長が現在消耗した騎獣の調達を急いでいます。ヒポグリフ隊とマンティコア隊については目途が立っていますが」
「……グリフィン隊はどうなりますか?」
「先の戦闘で一段激しく消耗した上、騎乗に耐えうる個体甚だ少なしと隊長から伝文がありました。残念ながら」
「解体するというのか、グリフィン隊を」
 若かりし頃は魔法衛士隊に籍を置いていたという元帥は無念を隠せない。
「……戦闘単位を維持できない以上はどうしようもないかと。隊員からは存続を請う声もあります」
「只飯を食わせる余裕はないか。仕方あるまい……」
「では解体するとして、その隊員達はどうしますか?」
「ヒポグリフ隊とマンティコア隊に振り分ける事になりましょうが、存命の騎獣については予後不良の処分か繁殖厩入りになりましょう」
 颯爽と空を飛ぶグリフィンの姿が王都から消えると思うと、アンリエッタの心中にも寂しさが沸いたが、そもそもの発端が元グリフィン隊隊長の謀反にあった事を思えば複雑である。
 後日この報告を受け、アンリエッタは宰相マザリーニの名前で、王軍近衛魔法衛士隊中グリフィン隊の解散を宣言した。隊員と騎獣は分散され、騎獣と隊員の育成によって再結成されるまで十数年を要することになる。
 
257名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:02:06 ID:8oTyZp3X
投下してるのを見たら支援しろってばっちゃが言ってた
258鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 12:03:20 ID:OwPPDKJd
>>255待たせてすみませんOTL

 スケジュール通りの視察が終わり、アンリエッタが王宮へ戻ろうという矢先の頃。まだ王女の傍にいたグラモン元帥の元へ、副官の青年がやって来て、こそこそと耳打ちしてきた。それを聞くと元帥は顔を真っ赤にして激怒する。
「この馬鹿者!陛下が来られている折に何を言っておるか。黙らせい!」
 一括された副官はおびえ縮こまり血の気が失せていたが、震える声で答える。
「しかし元帥、ド・ゼッサール隊長もおりませんし、ここは元帥閣下直々に体裁に入っていただかないと……」
「ポワチエは何処に行っておるのだ、こんな時の大将だろう」
 元帥が何やら揉めているとみて、アンリエッタは後ろ髪を引かれたが、スケジュールが押しているのに気付いて、護衛の者と共に練兵場を去って行った。
 練兵場で残務を処理するつもりでいたアニエスは、女王の馬車が見えなくなってから元帥に聞く。
「元帥閣下、先程の副官は何を報告しておられたのですか」
「……アニエス殿。貴公の指揮する銃士隊は現在、魔法衛士隊と同じ第一連隊に所属しておるな」
「はい。近衛任務を任されるに当たってそのように陛下の沙汰ありました」
「連隊内の他の隊長達が不満を漏らしておる。銃士隊が入ってきたことにな」
 王軍第一連隊は騎兵のみで構成された連隊であるはずなのに、そこに銃歩兵が主体の銃士隊が組み込まれるのはおかしい、という話だそうだ。
「……しかしこれは一種の方便よ」
「方便?」
「今日びきな臭い地域の軍隊なら兵科を混ぜた編成をするのは珍しくない。隊長ともなればそれくらいの学はあるからな。本心は平民だけの部隊が自分と同じ階梯に居るのが不満なのだろう」
 余裕のないことだ、と元帥は言う。戦場では貴族も平民もないのだから。
「……閣下は何か思うところがないのですか」
「何がだね?」
「我々銃士隊についてです」
 そう聞くとグラモン元帥は窓が震えるような大きな笑い声をあげる。
「先の戦闘での戦ぶりを見れば十分よ。銃士隊は他の隊に劣らぬ精鋭であるとな。……さて、問題は他の連中にそれをどうやって認めさせるかだな。このままでは貴公らは戦働きに乗じて
分不相応の地位におる成り上がり者になってしまうぞ」
 どうする、と問われたアニエスは、どうやらこの人は自分を試しているらしいと思った。
 貴族になったからには相応の格を見せろといったところだろう。
「閣下。第一連隊の隊長達を集めて下さい。私が話をつけます」
 
 時計の上では夕刻だが、まだ空は明るい。兵士達は皆兵舎へ帰るか、市街にある自分の家族の元へと帰って行った。
 先んじてグラモン元帥と声をかけた隊長達は、練兵場内にある庁舎の一室に集まっている。アニエスはあえて一番最後に部屋に入った。
「第一連隊所属の隊長諸兄の皆様は、聞くところによれば我々銃士隊に意見があると言うので、元帥閣下に依頼してこの様に集まっていただいた次第です」
 部屋の机には三名の隊長が座っていた。一人はヒポグリフ隊の隊長で、一応魔法衛士隊を代表してこの場にやって来ている。彼は挙手すると静かに話し始めた。
「私自身としては、兵数を減らしてしまった魔法衛士隊の穴を埋める人員が用意された事に不満はない。しかし、隊の中には銃士隊の経緯や任務達成能力に不満があることは事実だ」
 竜騎兵隊隊長が話を次いだ。
「運用上の問題もある。第一連隊は騎兵のみで構成された連隊でなければ、いざ戦場での指揮に混乱を来す場合がある。銃士隊には最低でも騎乗戦闘の能力を持っていただかなければなるまい」
 それを聞いて騎兵隊の隊長が待ったをかける。
「待って欲しい。仮に騎乗戦闘を銃士隊にさせるとしても、我々と同程度の戦闘能力を維持できるとは限らないだろう。アニエス隊長殿?」
「現在の銃士隊は騎乗戦闘を想定した訓練はしておりません。非戦闘時の騎乗に関しては半数程度の隊員が経験しています」
「訓練次第、といいたいのかね」
「ご期待に添えるかと」
「疑わしいな」騎兵隊長は鼻を鳴らして不満げだった。
259鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 12:07:14 ID:OwPPDKJd
 席にあってグラモン元帥は黙して隊長達の話を聞いていたが、ここで自ら発言した。
「では貴公らは銃士隊にいかなる処置を求めるというのだ」
「第二連隊への移動を請う」
 竜騎兵隊長の提案に騎兵隊長が賛同する。
「近衛任務に支障があるならば騎兵隊から精鋭を集めればよいしな」
 ヒポグリフ隊隊長は沈黙を続けたが、この場合は緩やかな賛成の意と受け取られた。
「ではそれを誰が陛下に具申するのだね。陛下が引きいれたアニエス殿達を近衛任務から外せ、とな」
 そう聞くと隊長達は喉を詰まらせた。アンリエッタの覚えめでたい銃士隊に言及するのだ。心証を悪くすることは免れないだろう。
 やがて竜騎兵隊長が顔を挙げた。
「アニエス銃士隊長。我々の総意は聞いての通りだ。ここはシュバリエの名に恥じない判断を求める」
 何が名に恥じないだ、と元帥は爆発するのを必死で押さえていた。つまりは自分達で言うのが嫌だから、アニエス自ら連隊から移籍したいと陛下に申せと言っているのだ。
 アニエスは暫く黙っていると、陛下の前でも脱がないと決めている目深に被った帽子を脱ぎ、顔を隊長達に曝した。
 女の顔である。短く刈った金髪にアーモンド形の目が綺羅と光っている。銃士隊は隊長以下全員が平民の女性で構成された女兵士の集団なのだ。
 だが隊長達の視線を奪ったのは端正な顔だからではない。その顔を縦横に走る疵の惨たらしさに、である。
 特に鼻筋を一閃する刃傷と首筋に残る火傷痕が痛々しい。
「卿達の言い分は聞かせていただきました。しかし私は銃士隊160人を預かる身。彼らは一兵として弱卒ではなく、一人ひとりが一騎当千の兵である事を誇りとしています。いわんや正士に劣る所とてありませぬ」
 三隊長は目を丸くして驚いた。つまりアニエスは銃士隊員達は他の隊の兵とまったく劣らぬ者だから、お前達の言説など聞く気はないとはっきり言ったのである。
 真っ先に爆発したのは竜騎兵隊長である。
「貴様!ド・ミラン!我々の話を聞いていなかったのか!銃士隊など要らぬと言っているのだ!」
「戦場で騎乗できぬからなんだというのです。近衛任務なら現状で対処できるのですから」
「平民の部隊など足手まといだと言っているのだ」
「卿はタルブでの我々を知らぬのかね?」
「存じて居るとも。だがあれば言ってみれば少数の戦だ。トリステインがいざ動くとなれば大軍を率いねばならぬ。その時にお主らのような者がおっては運用にならぬと……」
「目ざわりならそうとはっきり言ったらどうなんだ?」
 敬語を使うのが面倒になってきたアニエスは三隊長を見まわした。
「平民が肩を並べてるのがそんなに嫌なら、一つ手合わせで確かめてみようじゃないか。卿らの部隊から一人ずつ呼び出すといい。三対三の決闘で勝負をつけよう。
負けた方が勝った方の言い分を聞けばいい。それが貴族というものだろう?」
 アニエスの不敵な笑みを浮かべ、憤然とした竜騎兵隊長は、どすとすと部屋を後にしていく。それに着いて行くように騎兵隊長が退室し、最後にヒポグリフ隊の隊長が二人に礼をして出て行った。
 部屋にはアニエスとグラモン元帥だけが残った。机に置いた帽子を被り直す。
「閣下にはご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「構わんぞ。むしろ面白くなったと思っていたところだ。勝算はあるのか?」
「無ければ言いだしません」
「そうだろうな……」
 一方で元帥とアニエスは、三隊長の温度の違いを見抜いていた。おそらく竜騎兵隊が率先して論陣をはり、二人はそれについてきたと言ったところだろう。ヒポグリフ隊の隊長などはいやいや着いてきたに違いない。
「では私は隊員達に準備をさせますので、これで」
 一礼してアニエスは部屋を出ていく。元帥はそれを楽しげに眺めていた。
 
260鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 12:10:25 ID:OwPPDKJd
 練兵場の敷地に幾つもの篝火が焚かれた。ごうごうと燃える火は落ちかけの夕日より熱く、周囲は昼間と変わらぬほどの熱気と明るさに満ちている。
 篝火の中心でアニエスは三人の部下と共に待っていた。三人とも鋲打ちのされた皮鎧と鎖帷子を着込み、手には槍を持っていた。
「現われますでしょうか」
 選んだ一人で、銃士隊の副隊長を務めるミシェルがアニエスに聞くと、
「彼らが言うところの貴族の矜持とやらがあるなら、くるんじゃないのか」
「適当ですね」
「来なければいい。皆には礼をするよ」
 談話だけを聞いていれば婦人の他愛ない四方山話のようであるが、実際の彼女らは屈強な戦士であった。皆、アニエスから槍術を伝授され、また一部の者はアニエスに匹敵する無手格闘を使う。
「来たぞ」
 土の地面を踏むブーツの足音を追うと、落ちかける夕日を背に5,6人の騎士がこちらにやってくる。皆自らの所属を示す印がマントに縫い込まれていた。
 ヒポグリフ隊の隊長は一人で来ていた。適当な人物が用意できなかったのかもしれない。
「彼に当たったら手加減してやるんだぞ」
「他の騎士はどうすれば?」
「伊達にしてやれ」
「了解」
 今、十歩の距離を置いて二つの集団が対峙した。
「よく逃げなかったものだ」
「粉挽き娘が意気がるなよ!貴様ら全員を地に跪かせてやろう」
「品位の欠片も無いな」
 どうやら竜騎兵隊長は相当頭にきているらしい。
 決闘の形式は三対三、一対一を三回繰り返して先に二つ勝った方が勝ちだ。銃士隊側は刃挽きした槍を使うが、騎士達が魔法を手加減するかは疑問だ。
「では一人目だ。タチアナ、行って来い」
「は〜い」
 のんびりとした声で部下が前に出ていく。騎士側はヒポグリフ隊長が出て来た。
 隊長が杖を構える。するとタチアナは背を向けて相手から距離を取って歩く。竜騎兵隊長は訝しむ。
「何をしている?あれでは魔法で狙ってくれと言っているようなものではないか」
 十歩の距離が三十歩まで広がり、そこでタチアナは槍を構えた。
 アニエスが太鼓を打った。決闘の開始である。
 早速ヒポグリフ隊長は杖を振って風飛刃【エア・カッター】を放った。タチアナは地面に吸いつくような低い姿勢を取り、猫のように素早く駆けだす。打ち込まれる魔法を身体を捻ってかわし、あっという間に槍の間合いに入った。
「『草伏せ』!」
 そのまま相手が杖で打ちかかる前に、槍が地面を削るように低く振って足を払う。隊長は背中から倒れて頭を打ち、顔を上げようとした所で穂先を突きつけられた。
「まだ続けます?」
「いや、参った」
 敗北を認めたヒポグリフ隊長は、アニエスと二人の隊長に礼をして、練兵場を去って行った。これで義理を果たしたということだろう。
 竜騎兵隊長はやる気の見えない素振りがまた頭に来ていたらしく、次に送り出す騎士を叱咤するのがアニエス側からも漏れ聞こえる。
 戻ってきたタチアナはアニエスに一礼した。
「あんな感じでよろしかったですか?」
「十分だろう。……次はノーラに行ってもらおう」
「わっかりました!」
 ノーラと呼ばれた隊員は頭半分程アニエスよりも背が高い。きびきびと礼をして前に出て行った。
 騎士側からは、どうやら竜騎兵隊員が出てくるらしい。今度は十五歩の距離を置いて対峙した。
 構える杖を揺らしながら騎士はノーラに猥雑な言葉を投げかけたが、ノーラは黙って槍を構えた。
261鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 12:13:40 ID:OwPPDKJd
 開始の太鼓が鳴らされる。騎士が素早く烈火球【ファイアボール】を足元に打ち込んでくると、ノーラはそれを跳躍でかわす。二発目の魔法が宙を飛ぶノーラに向かって飛んだ。
槍を支点に身体を捩ってかわすと、穂先を地面に突き立て、それを足がかりに身体を反転させた。槍のしなりを利用してそのまま騎士の肩めがけて踵を振りおろす。
 目の前で一瞬に起きた軽業に騎士は面喰って、肩を強かに打ってよろける。騎士は意地で杖を握りしめていたが、次の瞬間には既にノーラが槍を振るって飛びかかって来た。
急いで騎士は杖に帯刃杖【ブレイド】を掛けてそれを受け止める。女の力とは思えないような強かな打撃が四方から打ち込まれ、騎士は懸命にそれを受けながら、反撃の一撃を狙っていた。
「何をのろくさやっている!さっさと仕留めろ!」
 竜騎兵隊長の檄が飛んで、ノーラの動きが一瞬だけ止まった。騎士は空かさず杖先で着火【ティンダー】を、出来るだけ高い威力で放出する。火蜥蜴のブレスに似た炎の塊がノーラの目の前で発生し、浴びせかけられた。
 しかしノーラも仕込まれた技で対抗する。半歩下がると、槍の中心を握って柄を回転させ、炎を散らしてしまったのである。
 騎士が呼吸を整えようとした隙にノーラが構えた槍をまっすぐ据え、全速力で突撃する。
「『チャージ』!」
 煤煙を突き破り、ノーラの槍が騎士の鳩尾に突き刺さる。その姿勢でさらに騎士の後方2メイルまで飛んで、騎士は見守る隊長の目の前で大の字になって倒れた。
 驚いた隊長が駆け寄ってみると、騎士の腹からは何の傷も見つからなかった。ノーラが技を掛ける前に穂先と石突きを入れ替えたからである。
「私の勝ちでよろしいですね、隊長殿」
 目から火が出そうなほど竜騎兵隊長は睨みつけたが、ぐうの音も出なかった。
 ノーラはアニエスの元に戻る。
「伊達にし損ねました。股ぐらに蹴りでも入れてやりたかったのですが、手ごわかったです」
「手ごわくて当然だ。彼等はこの国の精鋭メイジだからな。油断なんてもっての外だ。今日だけじゃないぞ、皆には普段から自分の力量に慢心しないで修練を積んで欲しい。
本来メイジとそうでない者の間はそれくらい開いているものなのだから」
「説教は後日お聞きしますよ」
「まったく……。まだ、おやりになりますか?」
 既に二度勝っている時点で、この決闘は銃士隊側の勝ちである。しかし騎士達のプライドがここでの退却を選ばせない。名を惜しんで何が貴族か。
 強い覚悟を固めた表情で一歩進み出た騎兵隊騎士を見て、アニエスは振り返った。
「ミシェル、相手してやれ」
「了解しました。股ぐらに蹴りを入れてやります」
「加減しろよ。不能にされたと喚かれては乙女の恥だ」
 笑ってミシェルが槍を握って出て行こうとする。と、騎士の背後から誰か別の者が出てきて、騎士を呼びとめた。二人の隊長が目を丸くして驚いている。篝火の外なので、顔はよく見えない。
「何かあったんでしょうか。援軍とか」
「さてな」
 しばらく様子を見ていると、一歩出ていた騎士が篝火の外に下がり、逆に後から来た何者かが近づいてくる。篝火の中でやっとその顔が確認できた。
「グラモン元帥?!」
「やぁ、銃士隊の諸君」
 背中で騎士達の視線を浴びながら、そんなものはないとばかりにさわやかに元帥はやってきた。
「なぜここに?」
「決まっているだろう、彼らの助力をするためだ。もっとも、既に勝敗は決まっているようだがね」
 しかし、と元帥は続ける。
「ここで一勝たりとも取れなければ、騎士の沽券に関わる問題だ。このままでは引き下がれないのだよ。だから私がやってきた」
 そう言って元帥はマントを払う。その下は戦場で纏う軍装と遜色のない拵えに、腰には古い型の杖が挿されていた。
「さぁ、このグラモンの相手を務めるのはどの者か!」
 その身体からは年齢や地位などを超越した武人の気風が漂っていた。一目見て解る。先程の二人と比べれば、彼等とは石と山ほど実力に違いがあるだろう。
「ミシェル。代われ」
「え?」
「お前じゃ役者不足だ」
 そう言ってアニエスはミシェルを下がらせた。不承不承にミシェルは下がり、槍を手渡そうとしたが、アニエスはそれを拒否した。
「槍では勝負にならんからな」
 ミシェルはぞっとする思いだった。隊長は本気でグラモン元帥と戦うつもりだということだからだ。
 
262鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 12:16:43 ID:OwPPDKJd
 距離にして二十歩を置いて二人が対峙している。
 アニエスは腰を落とし、足を開いて拳を構えた。その拳足が人体を容易に破壊できる威力があるのはタルブの戦いで知るところである。
 一方グラモン元帥はマントを払って杖を抜いた。古い型の杖で、長さも他の騎士が使うものより長い。柄にはグラモン家の紋章が刻まれている。それを両手で握り、静かに構えた。
 ミシェルは太鼓を打とうとしたが、流れる空気がそんなものは不要であると告げていた。既に二人の間では戦いが始まっているのだ。
 グラモン元帥は帯刃杖を使った素振りを見せないのに、その杖には魔法が宿っている事が遠巻きにいる騎士達にはわかった。一体何の魔法を使ったのだろう。
 じりじりと両者の間合いが縮まっていく。焚かれた篝火が一つ、音を立てて弾けた。
 次の瞬間に、アニエスは眼にも止まらぬ速さで踏み込んで間合いを潰す。その速さはおそらく熟練の風メイジにも匹敵するだろう。
 そして踏み込みと同時に『正拳』が元帥の鳩尾を狙って突きだされた。
 だが元帥はそれを待っていた。立ち遅れても杖の一撃が相手より先に当たる事を元帥は確信していたのである。
「チェェェェェストォォォォ!」
 アニエスの背中に緊張が走る。しかし突きだした拳は止まらない。腰から下だけが反応し、一メイル近い距離を片足だけで下がった。
 振り抜かれた杖先がアニエスの目の前を過ぎ去り、地面に突き立った。すると踏み固められているはずの練兵場の地面が音を立てて裂け、衝撃で杖の先にあった篝火の一つがなぎ倒れた。
 その一撃のすさまじさに騎士達が歓声を上げていた。
 コートの下が冷や汗で濡れているのがアニエスには分った。そしてグラモン元帥は涼しい顔で再び杖を構えている。
(踏み込めない……)
 負けを認めるしかなかった。たとえ槍に持ち替えてもあの振り抜きの速さでは太刀打ち出来ないだろう。完全な敗北だった。
「参りました。私の負けです」
 
 グラモン元帥が勝ったことで溜飲を下げた騎士達は黙って帰って行った。どちらにしろ、これで銃士隊に不満を言う輩は暫く黙っていることだろう。
 篝火の片付けをミシェル達に任せ、アニエスは元帥と庁舎に上がる。夜勤の隊員へ引き継ぎをするのと同時に今回の騒ぎの口封じをしなくてはいけない。しかしそれも元帥の一声で済んでしまった。
 所詮一シュバリエと歴史ある貴族との違いであった。
「元帥はあの時何故遅れてやってきたのですか?」
 馬回りの者と共に屋敷に帰ろうとするグラモン元帥を呼びとめてアニエスは聞いた。
「この騒動の黒幕を探しておったのさ。竜騎兵隊の者が言うには、高等法院どのが隊長に吹き込んだのだそうだ。……もっとも、それが無くても遠からず似たような事態になっただろうから、リッシュモンを責めたところではじまるまい」
「リッシュモン高等法院長が……」
 その名前を聞いてアニエスの顔に濃い影が射したように見えたが、元帥は気付かなかった。
「それともう一つ、元帥」
「なんだね?」
「あの時私を本当に斬ろうとなさいましたね?手前で加減してくるだろうと思ったのですが」
 元帥は呵々と笑う。
「確かに斬ろうとした。グラモン家伝家の一撃を使った。しかし貴公ならかわして見せるだろうと思った。それだけのことよ。おかげで隊長共が大人しくなったわい」
 楽しげにそう言って元帥は練兵場を去って行った。
 
263名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:18:59 ID:SCzLsHJ4
支援支援
264鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 12:19:58 ID:OwPPDKJd
 練兵場でこの様な騒ぎがあったことなど、翌日のトリステイン王宮は謁見希望者待合室で待機しているギュスターヴとルイズも、そしてこの先の執務謁見室にいるアンリエッタも、後々まで知ることはなかった。
 ギュスターヴは手元にデルフとFBがない為に持て余していて、近くに座るルイズを見た。
 ルイズは昨日のうちに買いそろえた、トリスタニア最新の装具で着飾っていた。といっても、現在緊縮財政中の王宮に来るのだから、慎ましいものである。それでも選ぶのに半日かけた。
 それだというのに、今日のルイズ・フランソワーズは不機嫌そうに、待合室の壁に掛けられた絵画を睨んでいた。
 実は昨日、買い物の帰りに寄った賭博場で、ルイズは休暇の為に貯めていた小遣いを綺麗さっぱりスッてしまったのである。その身減らし方たるや見事なもので、120エキューが2000エキューに増えて、
その次には50エキューまで減り、次に1500エキューまで増やすと、最後には手元に1エキュー半しか残らなかったという有り様である。
 傍で見ていたギュスターヴは初めからルイズに博打は向かない事を再三忠告したのだが、結果は先の通りである。ちなみにギュスターヴは、懐の50エキューを300エキューまで増やすと、
隣の装飾店で綺麗な銀のナイフが60エキューであったので、それを買ってやめた。
 ルイズはそうやって、自分の為に労を折らない、挙句自分だけ得をした使い魔に不満を募らせていた。主人が赤貧で使い魔の方がお金を持っているのが癪に障っているのである。
 ギュスターヴとしては、何か言ってやらないといけないとは思っているのだが、どうもルイズ自身に聞く気がない。仕方なく機嫌が収まるまで黙っていることにした。
 部屋の扉が開けられて案内の文官がやってくる。二人はそれに連れられて、アンリエッタの元へ招き入れられた。
 以前来た時に比べて、部屋全体が疲れてきているような雰囲気を出しているとギュスターヴは感じた。平伏するルイズが何を思っているのかは分からない。
「夏季休暇早々に呼び出して申し訳ないわね、ルイズ」
「いいえ、火急の呼び出しにお応え出来て、ルイズ・フランソワーズは嬉しく存じます、陛下」
 通り一遍の挨拶が済まされると、アンリエッタは一枚の書類にサインと押印をして、ルイズに与えた。
「これは?」
「これから貴方に与える任務に必要な経費を、財務庁から貴方に支給する旨の命令書です」
 そこには新金貨で600枚を一括で与えるようにと書かれていて、ルイズはまじまじと文面を読んでしまった。
「では、王室直属女官ルイズ・フランソワーズ。貴方に任務を与えます」
「はい」
「尚、この任務に対し、貴方に任務を証明する書状を与えることはできません。以前与えた任命状をもってその代わりとすることを許します」
 黙って聞いていたギュスターヴは、何か嫌な予感がするのを抑えられなかった。証明書が無いということは、最悪捨て駒にされるということではないのか。
「何なりと任務をお与えください」
 ルイズは淀みなく答えた。
「このトリスタニア市街に在住する貴族の中で、敵国アルビオン共和国と内通するものがいる疑いが極めて高くなりました。そこで貴方には」
 一瞬、アンリエッタの顔に陰りが通り、また女王の顔に戻った。
「市街に住む利敵行為を働く貴族を監察する密偵任務を与えます。副次的に市街の風聞調査を任せることになるでしょう。……期待してますよ、ルイズ」
 ルイズは任務を拝命した。その胸には冒険に挑む勇者のような高揚感があったが、ギュスターヴには不安しかなかった。
 
265鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2010/06/23(水) 12:23:32 ID:OwPPDKJd
投下終了。長かったですね;;
今回はアニエスがメインみたいな話で、ルイズとギュス様が脇に追いやられてしまいました(まぁ、原作5巻以降が念頭にあるからですが……
ノーラとタチアナはRS3が名前をもらっただけで本人ではありませんよ。
いまさらですが銃士隊がやたら強いのは、諸国を遍歴したプルミエールがアニエスの父祖に自分の技術を伝授したからです(まとめのライブラリー参照)
266名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:27:10 ID:tz0X2BBv
乙!
最近欧米のファンタジー文学に興味が出ていたり。ドラゴンランスとか、アイスウィンド・サーガとか、コナンシリーズとか。
でもそれと比較すると日本のファンタジーは頓狂で、やっぱりライトですよねぇ。
所詮借り物か……。
267名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:28:19 ID:asPfzWay
鋼の方乙です
ずっと待ってましたよ
268名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:33:45 ID:jqX9yb9W
乙ですー
銃士隊員がRPG世界の住人だw
タチアナが相手に背を向けて、のくだりで「失礼剣か!」と思ったのは俺だけじゃないはず
269名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:37:41 ID:3Z1noBAz
鋼の人乙ですー。待ってましたー


>>266
上橋菜穂子を知らないと見た。読んでないなら一刻も早く読んでくれ。いや、読め。
270名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:47:47 ID:yU7NEpEq
>>266
もう許してやれよ
271名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:50:05 ID:YphePusZ
絶対に許さない
272名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:51:34 ID:RSECuNAL
ナージャさんですね
273名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 12:59:01 ID:NMVqwHi2
えっ、モンスターファーム1からナーガ召喚?
ワームにして孵化イベントってのも熱いよね!
274名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 13:08:00 ID:a9ILh/EI
>>269 あんな土の匂いしてきそうな和製ファンタジーはあんまりないよな。
>>266は人生を損してる
275名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 13:35:18 ID:Ew8rM9D0
>>266
懐かしいな、何スレ前の話題だったかな…
276名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 13:51:47 ID:V/Wt2Eg4
へたにしったかするとカウンターが凄いw
だからこそ半年ROMれと言われるんだな
277名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 14:11:30 ID:GyA9wGp6
>>275
>39 :鋼の使い魔(後書き) ◆qtfp0iDgnk [sage]:2009/07/08(水) 22:25:02 ID:Sa2Vlp7F

もうそろそろ1年になる。早いものだ。
278名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 14:16:14 ID:yU7NEpEq
>>266を叩くほどに、鋼の人が惨めになるからやめてやれw
279名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 16:39:16 ID:/1nF3vE7
現代に伝わる日本最古のファンタジー作品たる竹取物語が欧米の借り物と申すか
280名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 18:06:14 ID:nsPqOVFM
鋼の人乙!お待ちしておりましたぞ!
281名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 20:14:46 ID:IBEhXswo
もう忘れろ!俺はそうした!
282名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 20:23:22 ID:1y6QtYTp
そんな昔の事をまだネチネチ言ってるのか


バカじゃね?

もしかして最近来てなかった荒らしが来たのか?
283名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 21:00:45 ID:st0HPV8P
荒らしならつい先日も来たばかり……ってか心当たりが多過ぎて誰のことを言ってるのか分からないな
まあ、スルーできない奴も同じって言うし
284名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 21:22:54 ID:M9yu0JqF
蹂躙モノや俺tueeeモノも、それ自体をネタにしていたり、その展開を皮肉ったオチならおk?
「超兵器ガ壱號」や、ヤムチャがバキ世界に行って無双するコピペみたいに。
285名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 21:33:21 ID:IJJXgLAv
面白いは正義
286名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 21:44:15 ID:NMVqwHi2
そんな聞かなきゃいけないグレーゾーンなものやるなら、他でやってください・・・
287名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 21:45:02 ID:bYMaJrnD
何となくウル魔の登場怪獣の現時点での内訳を数えてみた。

Q・5 初代・8 セブン・5 新マン・8 A・8 タロウ・19 レオ・9 80・7 パワード・1 ティガ・5 ダイナ・9 ガイア・6
コスモス・6 メビウス・10 その他・1

解説だけで直接出てこなかったり名前が出てこなかったりした怪獣も含んでます。
何故かタロウの怪獣がやたら多い。その他は44話のゴルゴザウルス。何故にミラーマン?2世じゃないからタロウのじゃないよな?

ところで、33話の『子供の書いた恐竜みたいな怪獣』だけ名前が分からなかった。他のはウィキやオフィシャルデータファイルで
調べてどうにか特定できたんだが。


288名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 21:53:08 ID:erMtSvRL
どうでもいい
289名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 22:03:44 ID:0gGRQjYO
本気でどうでもいい
290名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 22:05:11 ID:XGqUdXRH
ここで聞くくらいだったら、もう本人に聞きゃいいじゃないw
291名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 22:14:54 ID:oxC6/FCi
知るかボケ
292名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 22:27:29 ID:XGqUdXRH
あっ、すいません
293名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 22:51:29 ID:IBEhXswo
>>284
大抵は贔屓な作品の方に対しての主観が絡むため、どっからが蹂躙になるか定義が付けられんので何とも言えんが、
>>1にクロスで一方的なのはダメとあるんだから、自分で蹂躙物とか俺TUEEEEだと思うなら止めといたら?
294名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 23:24:21 ID:DMn3RbVa
愛がなければスーパーヒーローたる資格なしッ!
両作品に愛がなければ創作する資格なしッ!

つまり、やっぱり愛だよね
295名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 23:58:00 ID:1y3cVbLd
アーイアーイアーイイィーヤッ!
296名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/23(水) 23:58:44 ID:XGqUdXRH
泣きたくて〜
297名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 00:41:41 ID:kOUgTqJY
>>287
ガヴァドンかゴンゴロスあたり
298名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 01:28:52 ID:OIgwGn0d
心に愛がなければスーパーヒーロ−じゃないんですね。分かります。
299名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 03:07:25 ID:mRtrmzP7
心に愛があっても何もしない、何もできない人だってスーパーヒーローじゃないのさ
正義無き力も力無き正義も等しく無力とはアバン先生の御言葉でしたかな
そういえばアバン先生の召喚物は、あれで一区切りみたいな感じでもう続きは出ないんだろうか…期待しているのだが
300ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 03:40:41 ID:0bkvTmfk
こんな時間にこんばんは
筆が乗るうちにさっさと進めてしまうのが吉、という事で45分くらいから投下します
301名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 03:42:24 ID:/zLMnR07
うぉっまぶし・・・・・じゃなくて投下支援
302名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 03:44:06 ID:AZHIUc0q
をを期待・・・って、もう寝るので読むのは起きてからですが
303ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 03:44:51 ID:0bkvTmfk
 

 その後柊達は五体満足でタルブ村へと到着する事が出来た。
 ……ただ、少なくとも肉体的には問題はなかったが同行した二人は精神的に傷を負ってしまった。
 その理由は言うまでもなく、空中で制御を失ったガンナーズブルームの墜落未遂である。
 眼前に迫ってくる緑の大地を垣間見てまずシエスタが失神した。
 一番前でその光景を目の当たりにしたルイズは失神することさえできずに放心状態で固まっていた。
 柊は力の抜けたシエスタの腕を捕まえながらルイズを抱きすくめ、墜落直前でどうにかこうにか制御を取り戻し着陸させたのだ。
 その後気を失っているシエスタを前に抱き、代わりにルイズが後ろに乗って改めてタルブ村へと再出発したが、ルイズは村に着くまで一言も言葉を発しなかった。
 ただ体に回された腕は今まで以上に柊に強く組み付き、背中に感じるルイズの心臓の動悸は壊れた目覚まし時計のようにがなりっぱなしだった。
 そして村に辿り着いた後、ルイズは気を取り戻したシエスタと口を揃えて言った。
「もう箒には乗らない」
 しかし残念ながら、帰りにもこの箒に乗らなければならないのであった。


 ともかく、タルブ村に到着した柊達はシエスタに案内され護神様とやらの社へと足を運んだ。
 そこはシエスタの話にあったとおり、タルブ村のはずれにある小高い丘の上にあった。
 村と広い草原が一望できるいわゆる絶景という奴で、通り抜ける爽やかな風にルイズはピンクブロンドの髪を揺らしながら嬉しそうに辺りを見回す。
 一方の柊は、その社に目が釘付けだった。
 まるでそれしか眼に入らないかのように立ち尽くし、大いに眉を潜めてそれを凝視している。
 回りの景色に眼もくれない彼にルイズは少し口を尖らせたが、気を取り直してその社へと歩を進め、そこに突き立っている真っ赤な柱を叩いた。
「……これ、門なの? 塀も何もないし……変なの」
 言って彼女はその赤い柱を見回す。
 その柱は一本だけではなく数メイルはなれた場所にもう一本立っていた。
 両者の天頂部分に乗っけるようにして横向きの柱が二本立っており、見れば確かに彼女の言うとおり門のようにも見えた。
 柊は盛大に息を吐き出した後、あきれ返った声でルイズに言った。
「……こいつは鳥居って言ってな」
「トリイ?」
「そう。鳥が居るって書いて鳥居……まあ漢字なんてわからねえだろうけど」
 ルイズが首を傾げて見やる柊の後ろでシエスタが得心したように手を打った。
「ああ、そういえばいつも鳥が羽を休めていたりしてます。なるほど、それで鳥居なんですね」
「まあそれだけじゃねえけど……ってか、」
 神が通り本殿へと至る道。神を『取り入る』が故に『とりい』とされる説もあるが、そんな薀蓄は柊にはどうでもいい。
 柊は肩を震わせてうな垂れ――そして丘に響き渡るような怒声で渾身の叫びを放った。
「なんで神社なんだよっっ!!!?」
 そう、目の前にある護神の社は紛う事なき日本の伝統建築、神社なのである。
「洋風ファンタジーな世界なんだから普通ストーンヘンジとか神殿とかだろ! なんで神社仏閣とかおっ建ててんだよ、おかしいだろ!? なにが『樽武神社』だ、ふざけやがって!!」
「ヒイラギさん落ち着いて!?」
 顎束に取り付けられた額面(ご丁寧に漢字だ)を睨みつけながら柊は唸る。
 こんな世界観無視のナメきった真似をするのは魔王以外に考えられない。
 憤る柊はシエスタに宥められながら本殿へと足を運んだ。

304ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 03:47:44 ID:0bkvTmfk
 

 流石に彼のよく見知っている幼馴染、赤羽くれはの家――赤羽神社のそれよりかなり規模は小さいが、それなりに神社の体裁を取り繕っている。
 賽銭箱やら鈴緒やらまであってそれがまた柊の神経を逆撫でするのだが、そんな事情を知る由もないルイズは興味深そうにその社を見て回っている。
「変なの。これ、玩具?」
「あ、あっ、ミス・ヴァリエール、そんな乱暴に扱わないで下さい……!」
 どこか楽しそうに鈴緒をがらんがらん鳴らしまくるルイズにシエスタは青くなって叫ぶ。
 それを見て柊は思わず渋面を作ってしまった。
 子供の頃に彼女と同じような事をやって、くれはの母親である赤羽 桐華の説教とその妹である藤乃の鉄拳制裁を食らったのを思い出したのだ。
 懐かしい記憶がよぎって柊はどうにか平静を取り戻し、気を取り直すように大きく息を吐く。
「で、これがその護神様っていうのが住んでる社?」
「あ、はい。そうです」
 鈴緒で遊ぶのに飽きたのか、次いでルイズは本殿の方に眼を向けた。
 格子戸の向こうに見える薄暗い部屋を覗き込んだ後、彼女は無造作に戸を開け放ってその中に入っていった(しかも土足)。 
 渋面の柊とシエスタを他所にルイズはずかずかと本殿に上がりこみ、中央でくるりと回って内部を見渡した。
 大きさは大体十メイル四方と言ったところで、燭台がいくつか並ぶだけで他には何もない、がらんとした場所だった。
 正面の天井近くに小さな棚が設けてあるだけで、他に眼を引くものは何もない。
 ルイズはつまらなそうに鼻を鳴らすと、外で立ち尽くしている二人を振り返った。
「誰もいないじゃない。どこにその護神様がいるのよ」
 しかし当の柊とシエスタは神妙な顔でルイズを見やるだけだ。
 いや、よくよく見ると二人は自分を見ている様子ではなかった。
 改めて回りを見渡したが、特に気を引くようなものはなにもない。
 そんな時、シエスタが柊に向かっておずおずと声をかけた。
「……ヒイラギさんなら、わかりますよね?」
「……ああ」
 外から本殿をじっと見つめながら、柊は頷いた。
「『月匣』だな」
 魔王――侵魔達がファー・ジ・アースに侵入するときに構築する結界。それが月匣である。
 月匣の内部は一切の常識が排除され創造者の都合のいい法則に基づく世界が構築される。
 外から見た月匣の大きさと内部の大きさが違うのは当然として、時間の流れさえも都合のいいように改変されてしまう。
 ちなみにこの月匣を簡易に身に纏ったものが、柊達ウィザードの纏っている月衣である。
 シエスタはこの月匣を感知して護神とやらのいる『場所』に入り込んでしまったのだろう。


305ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 03:50:15 ID:0bkvTmfk
 

「ルイズ、ちょっと外に出ろ」
「? 一体何よ……」
 不満げに外に出てきたルイズを確認すると、柊は本殿の格子戸を締める。
 そして一度深呼吸した後、再び格子戸に手を伸ばした。
 訝しげに見つめるルイズの視線を受けながら、柊はゆっくりと格子戸を開いていく。
「……え!?」
 ルイズは眼を丸めた。
 格子戸が『その向こうの風景ごと』押し開かれたのだ。
 現れた新しい景色は先程の部屋とは全くの別物。
 切り出した石で敷き詰められた長い長い通路だった。
 ルイズは慌てて走り出して本殿の側面に回ったが、当然ながら本殿の奥行きは先の見立てどおり十メイルほどしかない。
 柊達の下に戻り、改めてその通路を見やる。
 別に下り坂になっているという訳ではないのに、その通路は果てなく真っ直ぐに伸びていた。
「な、なにこれ! どうなってるの!?」
 ルイズは驚きも露に柊を見やった。
 しかし柊は彼女の目線に答える事なく、周囲を見渡して眉を潜めた。
(……紅い月が昇らねえ?)
 ファー・ジ・アースにおいて月匣が展開される場合、その状況に関わらず天には血のように紅い月が現われる。
 これは単に月が紅く染まる訳ではなく、本当に月が出現するのだ。
 たとえ昼間であってもお構いなしに空に紅い月が浮かび上がるし、場所にしてもそれが海の底だろうが宇宙空間であろうが例外はない。
 ここがファー・ジ・アースではない異世界だからだろうか。
 シエスタに眼を向けると、彼女もまた柊ほどではないではないにせよ小さく首を傾げていた。
「どうかしたか?」
 声をかけると、
「……いえ、気のせいだと思います。私が最後にあの方の下に訪れたのは結構前ですから……」
「……?」
「ねえちょっと、どうなってるのよ!」
 無視された格好になるルイズが棘の入った声で叫んだ。
 柊は意識を切り替えて彼女に振り向くと、
「まあとにかく、これが『護神様』の住んでる所に続いてる道って事だよ」
 納得いっていないルイズを促して現われた月匣へと足を踏み入れた。


 ※ ※ ※


306ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 03:53:07 ID:0bkvTmfk
 

 ひんやりとした空気が流れる通路を三人は歩いていく。
 灯のようなものはなかったがどうも通路全体が仄かな光源になっているらしく、視覚面では特に不都合はない。
 代わり映えしない通路に歩を進めながら、先頭を歩く柊は二人に顔を向けて言う。
「……気を付けろよ。この手の月匣には何があるかわからねえから
 なあっ!?(↑)」
 柊の体が床を突き抜けて消えていった。
「ヒイラギ!?」「ヒイラギさん!?」
 ルイズとシエスタの二人が慌てて柊の消えた床に走り寄った。
 床から響く柊の悲鳴がだんだんと遠ざかり、そして消えていった。
「な、何これ……幻影? 床は見えてるのに、床がない」
「お、落とし穴でしょうか」
 床に手を突っ込みながらルイズ達が驚愕の声を上げていると、後方から何かが派手な音を立てて落ちてきた。
 柊だった。
「ヒイラギ、大丈夫?」
「く……くっそぉ……やってくれるじゃねえか……!」



 そして三人は再び通路を歩き始めた。
 先程の罠がきいたのか、ルイズとシエスタは少しだけ怯えた表情で床を凝視しながら柊の後に続いている。
 しかし柊 蓮司は百戦錬磨のウィザードである。
 彼はこの手のフォートレス――迷宮状の月匣――の仕掛けを熟知していた。
 例えば今のように、最初に落とし穴を仕掛けておいて注意を足元にひきつけておくのならば次に来るのは――
「天井!!」
 柊は身構えて天井を見上げた。
 側面の壁が迫り出して柊を跳ね飛ばした。
「どふっ!?」
「ヒイラギ!?」「ヒイラギさん!?」
 柊の体が反対側の壁に叩きつけられ、同時に壁面がぐるんと回って柊を飲み込んだ。
 壁から響く柊の悲鳴がだんだんと遠ざかり、そして消えていった。



 三人は改めて通路を歩き始めた。
 先程までの罠が効いているらしく、ルイズとシエスタは怯えた表情で辺りを必死に見回しながら柊の後に続いている。
 しかし柊 蓮司は熟練のウィザードである。
 彼は素早く床と天井、側面を調べて罠がない事を確認する。
 安全を確かめて息を吐き、自慢気に二人を振り返った。
 前方から爆走してきたデスローラーに柊は背中から轢き倒された。
「ごはっ!!」
 慌てて壁に張り付いた二人の間をデスローラーが駆け抜け、柊はそれに巻き込まれてぐるんぐるんと回転しながら今まで歩いてきた通路を逆走し最初の落とし穴の中に消えていった。
「ヒイラギさん……」「早く帰ってきなさいよー」


307名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 03:54:30 ID:T7jOMykG
支援
308ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 03:55:42 ID:0bkvTmfk
 

 気を取り直して三人は更に通路を更に進む。
 眼に見えるほどの緊張感を漂わせて周囲を警戒しつつ進む柊の後ろを、適当に雑談しながらルイズとシエスタが歩く。
 やがて長い通路の突き当たりが見えた。
 そこは右に向かってL字状になっており、柊達の真正面、突き当りの壁には何やら張り紙がしてあった。
 その張り紙にはこう記されている。

『隠し扉。
 左の壁に注意せよ』

「ち、力強く書いてあるわね……」
 張り紙の記述に眉を潜めながらルイズは呟いた。
 この時柊に電流走る……!
「読めた……っ!」
 彼の魂に刻まれた記憶とでも言うべき何かがこのトラップの構造を完璧に見抜いたのである。
「張り紙につられて左を見たら、右から火矢とかが飛んでくるんだろ……!?」
 柊は会心の笑みを浮かべつつ突き当たりに踊りだし、右に伸びる通路の方を向いて身構えた。
 左の壁がぱかっと開いて巨大な鉄球が吐き出され、柊の後頭部を直撃しつつ彼の体を押し潰した。
「左に注意って書いてるのになんで右を見るの? 馬鹿なの?」「ヒ、ヒイラギさん……」
「どうしろってんだよ、ちくしょう!!」
 鉄球の下で喚く柊を半眼で眺めつつルイズは溜息をついた。
 そして彼女は隣にいるシエスタに眼を向けて、尋ねる。
「あんた、よくこんな所通って行けたわね……」
 すると彼女は困ったように首を傾げて今まで通った道を見やりながら返した。
「いえ、私の時はこんな罠とかありませんでしたし、通路もこんなに長くなかったです……」
「え?」
 ルイズは眉を潜めた。
 と、不意に何処からか流麗な女の声が通路に響き渡った。
『この地に住む稀人ならばともかく、ウィザードが侵入してきたのだ。警戒するのは当然だと思うがね』
「!?」
 驚いてルイズは周囲を見渡す。
 しかし当然ながらこの場に居るのは自分とシエスタと鉄球に潰された柊だけ。
 響いた謎の声に反応したのは、シエスタだった。
「護神様!」
 彼女は僅かに顔色を青ざめさせて、虚空に向かって声を上げる。
「申し訳ありません。私、あれほど言われていたのに言いつけを破ってしまって――」
『いや、構わないよ。なまじ余計な事を言って惑わせた私の責任と言うべきだろう。それに……』
 そこで護神は一度言葉を切った。小さく含み笑うような吐息が漏れ、ソレは再び言葉を紡ぐ。
『柊 蓮司ならば特に問題もない』
「あん……?」
 鉄球を押しのけて立ち上がった柊が眉を寄せた。
 聞いた事のない女の声だった。少なくとも彼が今まで出会った魔王ではない。
 デルフリンガーを出しておくか少し迷ったが、シエスタが眼に入って柊はその動きを中断した。
 柊の挙動に気付いていたのか、護神は再び小さく笑った。
『結構。ならばキミ達を我が領域へと招待しよう』
 涼やかな声が響くと同時、張り紙のあった壁が光を放ち大きな扉へと変貌した。
「な、な……」
「……護神様とご対面って訳か。鬼が出るか蛇が出るか……」
 驚きに眼を見開くルイズをよそに、柊は不敵に笑うと扉に手をかけた。

 扉が大爆発した。
 柊は避ける間も悲鳴を上げる間もなく爆炎に呑み込まれた。

『……フォートレスではトラップ探知をしろというのに』
309ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 03:58:29 ID:0bkvTmfk
 

 ※ ※ ※


「オラァッ!!」
 裂帛の気合で柊は扉を蹴破った。
 荒く肩で息をしながら怒りに眼をぎらつかせてそこに踏み込んだ柊の身体に、シエスタは縋りつきながら叫ぶ。
「ヒイラギさんやめてください! 落ち着いてっ!!」
「うるせえ、護神だかなんだか知らねえがぶった切ってやるよ!!」
「ヒイラギ、キャラが変わってる! 落ち着きなさい!!」
 月衣からデルフリンガーを取り出そうとする腕を捕まえながらルイズも叫ぶ。
 そんな風にもみ合いながら柊が敵を発見すべく周囲をすると、動きをぴたりと止めた。
 ルイズも彼に倣って辺りを見渡し、呆気に取られる。
 そこは学院にあるルイズの部屋のような洋式の広間だった。
 ただ彼女の部屋よりも遥かに大きく、そして置かれている調度品も一目でそうとわかるほどに高級なものだ。
 壁の一面はガラス張りになっており、その向こうには先程まで彼らがいたタルブの草原を背景にバルコニーと大きなテーブルが添えつけられている。
 あの丘には古ぼけた社以外には何もなかったはずなのに、何故かこうしてその草原を臨める豪奢な部屋がある。
 全く意味がわからなかった。
 そして部屋の奥、まるで王族のそれのような天蓋付きのベッドには一人の女性が腰掛けていた。
 彼女は鷹揚に立ち上がると清水のような流麗な動きで柊達の下へと歩み寄り、艶然とした微笑を柊に向けた。
「初めまして、と言っておこう。よもやこのような場所でキミに出逢う事になるとはね……つくづく異世界に縁のある男だ、柊 蓮司」
 それが自分に向けられたものではないにも関わらず、ルイズは彼女から直接紡がれた声音に心臓が跳ねるのを感じた。
 陽光に照らされたように輝く長い長い翡翠の髪。
 眼もくらむような白磁の肌。茶と紫のオッドアイ。
 薄絹一枚という扇情的な衣装でありながら、纏う空気はそんな下世話な感情を催す事さえ憚られるような清廉さを漂わせている。
 そう、端的に言ってしまうならばシエスタ達がそう呼び讃え祀っているような、まさしく神がかった美貌の女性だった。
「……フール=ムール……だったか?」
 そんな彼女の視線を直に受けてなお動じず、柊は探るようにして声を出した。

 "風雷神"フール=ムール。
 『公爵にして伯爵』という裏界でも類を見ない二つの号を併せ持つ魔王。
 二つ名の通り天候を自在に操り、また男女の仲と死者をも司るという正真正銘の古代神である。
 ファー・ジ・アースを攻め滅ぼさんとする侵魔達の中にあって極めて珍しい中立派でもあり、かつては人々に篤く信仰されていたともいわれている。
 現在ではその人間達に倦んでしまい己の領域から出る事はほとんどなく、喚ばれぬ限りは人間達にはめったに干渉することはないらしい。

「いかにも。が――」
 それを受けて護神――フール=ムールは小さく頷いた後、ほんの僅かに顔に陰りを見せて柊から視線を外した。
 柊は眉を寄せて彼女の視線を追う。
 その先には……両の手を胸の前で組み、感動した面持ちでフール=ムールを見つめるシエスタの姿があった。
 柊の視線に気付いた彼女は喜びも露に柊に一歩踏みより、上ずった声を漏らす。
「ヒ、ヒイラギさん。護神様のお名前はフール=ムール様と仰るのですか……!?」
「あ、あぁ。もしかして知らなかったのか?」
「はい。護神様は名乗るような名は持っていないと……。か、感激です。護神様の御名を知る事ができるなんて……!」
 感動と畏敬に身震いしながら呟くシエスタを見やって、フール=ムールは物憂げな息を一つ吐き出した。
「この世界における始祖ブリミルしかり、具体的な『名』を持つモノへの信仰は偶像崇拝に繋がるからね。百年かけて『現象としての神』を定着させていたのだが」
「う……すまねえ」
「構わないよ。それよりシエスタ、私の名を呼ぶのはいいが、くれぐれも他言はせぬよう。それと、久しぶりに紅茶を淹れてもらえるかな」
「は、はい! かしこまりました!!」

310ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 04:01:15 ID:0bkvTmfk
 

 シエスタは跳ねるように身を揺らすと深々と頭を垂れ、そして入ってきた扉から出て行った。
 あの向こうには通路しかないはずだが、おそらく今は厨房だかどこだかに繋がっているのだろう。
 月匣の中でならその程度の構造変化など珍しくもない。
 シエスタが部屋から辞したのを見届けると、フール=ムールは改めて柊と――そしてルイズを見やると僅かに眼を細めて笑った。
 その微笑に不快さは感じなかったもののその意図がわからず首を傾げるルイズをよそに、フール=ムールは踵を返しバルコニーへと向かう。
「立ち話もなんだし、こちらでゆっくりと話そうか。フォートレスを通って疲れているだろうしね」
「仕掛けたお前が言うなよ……」
 毒気を抜かれた柊が盛大に溜息をついて彼女の後を追って歩き始めた。
 ルイズもそれに追随しながら、柊の袖を軽く引いて囁きかける。
「ねえヒイラギ」
「あ? どうした?」
「……あのヒト、本当にカミサマなの?」
「正真正銘の神様だよ。もっとも俺達にとっちゃあんまありがたくねえ神様だけどな」
 柊はしかめっ面をしながらそう言って、頭をかく。
 しかしルイズとしてはそれを鵜呑みにする事ができなかった。
 確かに、人間離れした美貌の持ち主だという事は疑いようもない事実だ。
 だが、だからといって『神様』だのというおとぎ話じみた事を認めるのは難しかった。
 異世界とかなんとかの話も十分におとぎ話めいているが、『本物の神様』まで出てくると流石に話がぶっ飛びすぎている。
 ハルケギニアにも始祖ブリミルや彼に虚無を授けたという神の存在が謳われてはいる。
 が、実際に王家の祖となったブリミルはまだしも、『神が実在するか?』と問われるとルイズとしても返答に詰まらざるを得ない。
 それが異界の神であるというなら、尚更だ。
 部屋からバルコニーへ場所を移し、柊達はフール=ムールとテーブルを挟んで相対する形で椅子に腰掛ける。
 そして彼女は口の端を歪めると、こう切り出した。
「まずは私の身の証から立てた方がよいのかな?」
 どうやら二人の会話を聞いていたらしい。
 気まずそうに眼を見合わせる柊達を見つめて、フール=ムールは愉しそうに笑みを零した。
「それは構わないが、どうすれば信用してくれるかね?
 ラ・ローシェル辺りを跡形もなく吹き飛ばして『キミが見たいと言ったから町が滅んでしまったよ』とでも言えばいいのかな?」
「……、」
 まるでからかうような言い振りにルイズの頬が引きつった。
 無論それは恐れをなしたのではなく、頭にきたからだ。
 ちょっと冷静に見れば安い挑発でしかないが、残念ながらルイズはそれを軽く受け流せるような少女ではなかった。
 彼女はふんと鼻を鳴らすと、負けじと挑発的な笑みを浮かべて言う。
「流石にカミサマは言う事が大きいわね。……上等よ、やれるもんなら」
「待て待て待て!!」
 慌てて柊は割って入った。
 言葉を遮られて不機嫌に睨みつけてくるルイズに柊は叫ぶ。
「コイツ等は本当に"できる"んだから迂闊な事言うんじゃねえよ!?」
「……ふむ、そうだね。私としても護神という立場上あまり剣呑な事はしたくないのが正直なところだ」
 一つ頷いて口を挟んだフール=ムールにルイズは口を尖らせ、薄桃の髪を苛立たしげにかきあげて彼女に向かって口を開いた。
「……何よ。だったら何でもいいから神様らしい凄い事やってみせなさいよ」
「……」
 すると彼女は細い指を顎に添え、興味深そうな目線でルイズを見やった。
 まじまじと観察するように見られたルイズは眉根を寄せ、口を開こうとした。
 が、それを遮るようにフール=ムールは漏らす。
「なるほどね。外見もそうだが、中身もよく似ている……どうやらカリンの血を一番濃く継いでいるのはキミのようだ」

311ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 04:03:54 ID:0bkvTmfk
 

「カリ……え?」
 その言葉にルイズは思わず眼を丸めた。
 そして今度はルイズがフール=ムールを観察すようにじっくり見やると、おずおずと尋ねる。
「お、お母様を知ってるの?」
「カリーヌ・デジレは古い友人だよ。彼女がキミぐらいの頃、『色々と』相談をうけたものさ。さっきのキミみたいに不機嫌な表情で、しかしプラムのように頬を染めて語るあの子はとても魅力的だった」
「な、なにそれ……」
 少なくとも彼女の知る母の姿からは想像もできない描写を語られルイズは小さく呻いた。
「ついでに言えば、私は小さい頃のキミに逢った事もあるのだよ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。もっともキミは覚えていないだろうがね」
 重ねるように名乗っていないフルネームまで言われてしまって、ルイズはもはや絶句するしかなかった。
 そんな風に固まっている彼女を見やってフール=ムールは懐かしそうに眼を細めると、次いで蟲惑的な笑みを浮かべて大きく頷いた。
「……よかろう。ならばキミの母君の時と同じ手法をとる事にしようか」
「え?」
「は?」
 言葉の意味を理解できなかった柊とルイズをよそに、フール=ムールはゆっくりと腕を持ち上げた。
 つられて動く二人の目線の先、掲げられたフール=ムールの手が動き、指を弾いた。
 バルコニーに鈴のような音が鳴り響く。
 と同時に。

「きゃぁっ!?」
 小さな悲鳴と共に、テーブルの上に白いナニかが落ちてきた。

 唐突に出現したソレに柊とルイズはぽかんとしたまま固まった。
 ややあってソレはもぞりと動き、身を起こす。
 それは純白のドレスを身に纏い、紫紺のマントを羽織った見目麗しい少女だった。
 彼女は片の手を栗色の髪に添えて小さく頭を振る。
「……誰だ?」
 身なりからしてルイズに負けず劣らずのお嬢様なのだろう。
 ふとルイズに視線を向けると、彼女は大きく口と眼を開き、彫像のように固まったままテーブルの上の少女を凝視していた。
 恐らく何が起こったかわかっていないのだろう、テーブルの上の彼女は透き通るような青い瞳でぼんやりと周囲を見回し――ルイズと眼をあわせた。
「……あら? 貴女、もしやルイズ・フランソワーズ?」
 知ってるのか、と柊が問いかけようとした瞬間、背後で派手な音が響き渡った。
 顔を向ければ紅茶の用意をしてきたシエスタがこちらを凝視したまま立ち尽くしていた。
 シエスタはティーセットを取り落とした事にも気付かず、ルイズと同じような表情で柊達を――厳密にはテーブルの上に鎮座している少女を愕然と見つめている。
「な、なん、あ、ああ、ア……っ」
 シエスタは彼女の事を知っていた。
 もっともそれは知り合いなどという畏れ多い関係ではなく、絵画などで一方的に知っているだけだ。
 おそらくこの国に居るほとんどの人間がそうだろう。
 そう、すなわち彼女は――
「アンリエッタ、王女殿下……」
 シエスタは戦慄と共に呻いたあと、ふっと糸が切れたように卒倒してしまった。


312ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 04:06:11 ID:0bkvTmfk
 

「王女、殿下ぁ……!?」
 つまりは王様の娘。
 慌ててテーブルの上の王女殿下とやらを改めて見やると、彼女の栗色の髪には小さな冠が載せられており、視線を落とせばテーブルの上に彼女のモノだろう、立派な水晶が嵌められた杖が転がっていた。
 流石の柊も戦慄と共に息を呑まざるを得なかった。
 ルイズは顔を真っ青にして両の手でバンとテーブルを叩き立ち上がると、頭に疑問符を三つほど浮かべているアンリエッタの向こうで平然と様子を見ているフール=ムールを睨みつけた。
「あ、ぁああぁぁあアンタなんて事してるのよぉおおお!!!」
 しかしフール=ムールは意にも介さず、楽しそうに笑いを漏らして首を小さく傾げた。
「何でもいいからやってみせろと言ったのはキミではないか」
「それはっ、でもっ、だからって、こんな、姫様をこんな場所……、っ?」
 叫びながらルイズははたと気付いた。
 こんな場所。そう、ここはタルブ村なのである。
 アンリエッタ王女がいるのは王都トリスタニア――いや、少し前にゲルマニアに訪問していると聞いたのでそちらか――とにかく、どちらだろうとここからはかなり遠くには違いない。
 そんな遠くに居るはずのアンリエッタをここに連れてきたというのか。
 どうやって?
 どんなに速い騎獣を使ってもそんな事はできない……それこそ柊の持つ箒を使ったって不可能だ。
 というか、そもそもフール=ムールはここから一歩も動いてすらいない。
 しかも、アンリエッタはいきなりテーブルの上に現れた。
 サモン・サーヴァントの魔法みたいな事をしたのか。だがゲートのようなものは何もなかった。
 何がなんだか全くわからない。
 ただルイズが確実にわかるのは――
「あの、ルイズ? 一体何が起こっているのです? 何故貴女がここに? というか……ここはどこ?」
 目の前に不安そうな表情で見つめてくるアンリエッタ王女がここにいる、という事だ。
 唐突にこの場に現れたという事は、元々アンリエッタの居た場所では唐突に彼女が消えたという事になるのだろうか。
 彼女の立場上、人目がつかない場所で一人になれる時間などそうそうない。
 恐らく元いた場所には、臣下なり侍従なりがそれなりにいただろう。
 トリステイン国王女アンリエッタ・ド・トリステイン、忽然と姿を消す。
 大騒ぎで済まされるレベルの話ではない。
 その主犯は目の前にいるフール=ムール。
 そして予期せずとはいえそれを教唆したのはこのルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 ヴァリエール家終了のお知らせである。
「……お わ っ た」
 ルイズは糸の切れた人形のように椅子に崩れ落ちた。
 そしてそのままずるずると滑り落ちていく。
「しっかりしろ、ルイズ!?」
「ああっ、ルイズ!? せめて説明をしてくださいまし!」
 泡を食ってルイズに詰め寄る二人をよそに、それまで沈黙を保ち暖かく見守っていたフール=ムールが声を上げた。
「まあ落ち着きたまえ。それとアンリエッタ、そろそろテーブルから降りた方が良いのではないかね?」
「え……あ、っ」
 落ち着きはらったその声でようやく自分の状況を理解したのか、アンリエッタははっとして慌ててテーブルから身体を下ろした。
 手早く髪を撫でつけドレスの乱れを正し、恥ずかしそうに頬を染めてフール=ムールに視線を向け――眼を丸めた。
「……フール=ムール様?」
「久しぶりだね、アンリエッタ。随分と美しくなった」


313ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 04:08:42 ID:0bkvTmfk
 

 アンリエッタは照れ臭そうにはにかむと、ドレスの裾をつまんで礼儀正しく頭を垂れる。
「お久しぶりです。母より話は伺っておりましたが、本当に貴女は変わらないのですね。十余年前に逢ったあの頃の美しい姿のまま……まるで悠久と謳われる水の精霊のようですわ」
「変わらぬモノはそれを見る者の裡で色褪せ朽ちていくだけさ。変わり往くモノはその瞬間瞬間に至高の美しさを放つもの。……あの頃や今のキミのようにね」
「まあ、お上手ですのね。貴女が殿方であればこの胸がときめいておりましたわ」
 アンリエッタが花を咲かすような笑みを浮かべると、フール=ムールは眼を細めて口の端を歪めた。
 そんな二人に、柊がおずおずと手を上げながら口を挟んだ。
「な、なあ、フール=ムール。あんた、この国の姫さんとも知り合いなのか……?」
「彼女というよりは王家の者と言った方が正しいかな。この世界に落ち着くにあたって少々縁ができたのだよ」
 言ってからフール=ムールは鷹揚に立ち上がるとアンリエッタへと歩み寄り、彼女の栗色の髪を優しく梳いた。
「すまなかったね。すぐにもとの場所に戻してあげよう。訳がわからないと思うが、まあ夢を見たとか犬に噛まれたとかその程度に思ってくれ」
「あ……はあ」
 当然と言えば当然のようにアンリエッタは首を捻った。
 そして彼女ははたと気付くと、僅かに表情を強張らせてフール=ムールを真摯に見つめる。
「あの、フール=ムール様!」
「ん?」
「このような時に巡り逢えたのも神と始祖の思し召し――王家と親交ある貴女に折り入って相談したい事があるのです」
「……ふむ?」
 フール=ムールはじっと見つめてくる青色の視線を受け止め、僅かに沈黙する。
 そして彼女は小さく息を吐くと、アンリエッタに告げた。
「まあいいだろう。今回の非礼の侘びとして話は聞くよ。だが生憎今は先約があるのでね、それが終わったらこちらから伺おう」

『姫様よりこっちを優先するなんて何考えてるのよ!』
 とルイズなら叫びだしそうだったが、彼女は今――
「あーあー聞こえない聞こえなーい」
 テーブルの下にうずくまって耳を塞ぎ、現実逃避の真っ最中だった。

「……わかりました。お待ちしております」
 安堵の表情を浮かべてアンリエッタが一礼すると、フール=ムールは小さく頷いてから軽く彼女の頭を撫でた。
 同時にアンリエッタの身体を包むように光が灯り、その姿が虚空に掻き消える。
 そしてバルコニーに静寂が戻った。
 消えたアンリエッタの残滓を名残惜しむかのように立ち尽くすフール=ムールと、呆気にとられたままの柊と、テーブルの下に隠れたルイズ。そして入り口近くで卒倒しているシエスタ。
 ちょっとした嵐が通り過ぎた後のような光景だった。
「さて、これで信じてくれたかな?」
 何事もなかったかのように振り返り、フール=ムールが口を開いた。
 既に彼女――彼女のような類の常識外れの存在を知っている柊は諦めの表情で息を漏らし、テーブルの下にいるルイズを見やる。
「どうだ、ルイズ?」
「……」
 無言のままルイズはひょこりと立ち上がった。
 そして椅子を立て直してそこに座り、柊を見やって首を捻る。
「何が?」
「いや、だからコイツの事だよ。姫さんを引っ張り出したじゃねえか」
 すると彼女は――怪訝な顔で更に首を捻った。
「なにそれこわい。姫様なんてここにいるはずないじゃない」


314ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 04:10:37 ID:0bkvTmfk
 

「なかった事にした!?」
 愕然として柊は呻いたが、ルイズは本当に意味がわからないといった表情で柊を見返す。
 ……もっとも、青ざめた表情は戻っておらず頬がひくついている以上隠していないも同然なのであるが。
 それを見てフール=ムールはふぅむと唸り顎に手を添えた。
 そして思案顔でさらりと言う。
「ならば今度はアルビオン王かゲルマニア皇帝でも招聘するかね? ガリア王やロマリア教皇でも構わないが。……あまりお勧めしないがね」
「嘘です信じます!! カミサマ超凄い!!!」
 間髪いれずにルイズが叫ぶと、フール=ムールは満足そうに頷いて笑みを浮かべた。
 同性でも思わず胸が高鳴るような美しい微笑だったが、今のルイズにはとてつもなく恐ろしいものに見える。
「信じてくれて何よりだ。……ちなみにカリンの時は時のトリステイン国王、フィリップ三世だった。彼は楽しんでいたが、カリンは卒倒してしまったよ」
 ははは、と懐かしそうに笑いながら席に戻るフール=ムール。
 一方ルイズは、
「うっ、うぅうっ……わたしを常識の世界に帰して……」
 肩を震わせながら両の手で顔を覆い、さめざめと泣き始めてしまった。
 心の底から同情を禁じえない彼女の姿を横目で見やりつつ、柊はフール=ムールに向かって声をかける。
「お、おい……お前、そういう性格の奴だったのか……?」
 知る限りフール=ムールは『静かなる支配者』とも渾名される魔王であり、このような騒ぎを起こすような存在ではないという印象が強いのだ。
 すると彼女はそんな柊の知識を不本意だと言わんばかりに嘆息すると、答えた。
「我は不変なるモノを好まず、不確かで移ろいゆくモノをこそ愛でる。静かなのは結構だが、停滞を生む静寂は好むところではない。
 だから内輪で騒ぐ分には私は寛容だよ。それを外にまで波及させてしまうのは本意ではないがね」
「外から一国の姫さんを拉致って来て言う台詞か……?」
 半ば呆れを含んだ調子で柊が漏らすと、フール=ムールは肩を竦めた。
 そして出来の悪い生徒を諭すような口調で彼女は言葉を紡ぐ。
「やれやれ、状況に対して脊髄反射的に突っ込むのはキミの美点であり欠点だな。そんなだからベルやアンゼロットにいいようにからかわれるのだよ」
「ぐっ……!?」
「冷静に考えたまえ、柊 蓮司。月匣の内部においては時間の流れが無意味な事など、知らぬはずもないだろう?」
「……う」
「彼女が『ここ』にいた時間など、『向こう』ではほんの瞬き程度でしかない。加えて言えば、彼女は今ゲルマニアからの帰国途上……専用の馬車の中だ。
 自ら晒さぬ限り、他者に姿を見られる事はない。無論消えた瞬間も、戻った瞬間もね」
「……」
「その程度のことはちゃんとわきまえてやっているよ。彼女を選んだのも面識のある相手だったゆえだしね。まあルイズ・フランソワーズが本気で諸王を呼べと言ってきたら流石に困っていたのだがね」
 それがないという事までちゃんと読みきっていたのだろう、フール=ムールは台詞ほどには困った様子を見せずにちらりとルイズに眼をやった。
 そのルイズはもはや彼女の声も届いていないのか、テーブルに顔を突っ伏したまま肩をふるふると震わせていた。
 フール=ムールはルイズを愛おしげに見やって微笑むと、改めて柊を見やった。
「さて、他に突っ込みたい所はあるかね?」
「……いや、いい……」
 ぐうの音も出せなかった。
 何をどうつっこんでも通用する気がしない。
 久方ぶりに覚えた圧倒的な脱力感に肩を落としながら柊は答えた。
 

315ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/06/24(木) 04:12:31 ID:0bkvTmfk
今回は以上。ナイトウィザードが本気を出したようです
知ってる人には大方の予想通りであろう、ふぅ姉さんことフール=ムール様
司るものが色々とゼロ魔と相性が良さそうなので抜擢。他にも理由はあるんですが
人によってはイメージが違っちゃってると思いますが、俺の中ではこんな感じなんです

それにしてもやっぱり魔王みたいな超越者が出ると滅茶苦茶度合いが一瞬にして振り切れます
自重して遊んでいるどっかの蝿の女王様は偉大だわ・・・
そしてルイズはSANチェックに失敗。常人の彼女は神と遭遇した衝撃に耐えられませんでした

316名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 05:40:40 ID:Zkb/X8HL
乙ですー
やあ、これはタルブ侵攻が楽しみですなぁ
317名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 07:29:01 ID:FKSo6YbV
下がる男、乙ですー。

やはり柊連司は月匣探索においては漢探知でもってして全てのトラップを見切り、
パーティが安全に突破できるような役目を持っているのですネw
しかし、トラップに殺意に満ち溢れた某王家の気質が感じられるのは、どうしてなんだろう?(w

しかし……司るものが色々とゼロ魔と相性が良さそう、ですか。
なんとなく、当面の間はレコン・キスタの皆々様が南無いとしか言いようがないです(苦笑
318名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 07:33:29 ID:UUv6wBcM
風雷神様って、今までCVが付いたのはラジオで殺意様がやった時だけだよね
319名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 08:11:29 ID:nwrzz5vh
柊式トラップ検知器、でしたっけ?
かつて読み、アニメでも見たあの光景が蘇ってくるようでまさに『作者さん、乙』でした。
320名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 08:16:46 ID:aBh5Sirp
乙です
神社で一瞬某超公の方が来るのかと思ったけどふぅ姉さんで良かった
321名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 09:21:00 ID:1UhTjbSz
>>294 某鳳○拳継承者「愛など要らぬ!!愛など要らぬ!!」
322名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 09:36:47 ID:cjDvWV+F
乙でした。
穏健派な古代神で良かった。世界結界の外じゃザコ魔王はともかく、公爵級の魔王
には逆立ちしても勝てないし。
323名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 11:42:15 ID:QFnjXQQS
ゼロ魔SSでよくみるタバサが幽霊苦手エピソードって
あれ原作ではサイトとイチャイチャしたいだけの媚態だったんでしょ?
324名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 11:48:28 ID:T7jOMykG
そうだったっけ?
325名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 11:51:44 ID:QxIzx6OW
そうだよ。
326名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 13:49:07 ID:Voml9C4L
遅レスだが夜闇の人乙
まともな魔王で実によかったww
327名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 14:40:28 ID:ll8BYShL
>>323
幽霊を怖がらなくなったのは
結局幽霊なんぞこの世にはいないと確信したからこそなんだったら
正真正銘の本物を見ればまた考え方も変わるかな?
328名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 15:11:19 ID:5CPUBDd3
夜闇の人、乙です。
相変わらず妙に癇に障る原作準拠の良いルイズですね。(誉め言葉)
や、ルイズは嫌いですが、描写は上手いなぁ、という意味です。

にしても、句点が少なすぎて読みにくいです。
それなりに読める上手い文章だと思うので、もう少し何とかして欲しい所存。
329名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 15:17:57 ID:/zLMnR07
幽霊なんかより何考えてるかわからん赤の他人の方がよっぽど怖い
330名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 15:32:34 ID:ylyJ45mf
うぉ! 久々に魔砲の人が来てた!
先週末のウルトラの人の第2章(新章)開始と言い、今週は優良投下ラッシュかしら?

これであとジルの人が来れば半年は投下無しでも耐えられそうだw
331名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 16:31:20 ID:pS6golCD
個人的には聖帝様の続きが気になって仕方がない
332名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 17:08:01 ID:/UMf7pdY
>>331
前回の投下から、まだ2週間も経ってないぞ……
333名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 17:51:48 ID:WsmXkZEc
下には下がいるもんだな
小説家になろうやArcadiaにある糞作品の比率のでかいことw
334名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 17:57:20 ID:8U2AYwA7
下を見て優越感に浸るより
上を見てもっと精進する人になりたいね
335名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 18:01:32 ID:WsmXkZEc
Arcadiaはそこそこなものやチラシの裏でもフルボッコされるのにマゾとしか思えん
336名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 18:24:42 ID:MbLgW9MH
>>323
よし! ならばレイルトレーサー召喚してタバサをびびらせよう。
337名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 18:31:23 ID:rwdL8tQr
夜闇の人乙ー

俺も超公さんが来るのかとビクビクしてましたwwwww

レコン・キスタのみなさんにお知らせがあります。
タルブには攻めるなよ! 絶対に攻めるなよ!!!
338名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 20:42:09 ID:9wEauax5
夜闇の人乙
前話の後で結構予想してる人いたな>フール=ムール
そういえばこの人の片割れがあれなんだよな……
339名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 21:06:45 ID:PzOycus3

すばらしいきくたけトラップでした
340名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 22:00:31 ID:O5o1KOAo
いい作品でした。しかしふぅ姉さんが元恋愛の神様ということがバレたら
どうなるかがすごく楽しみw
341名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 22:09:26 ID:8/mm+fBo
>>336
タバサと絡むならエルマーもありかな。
きっとタバサを笑わせようと頑張ると思う。ジョゼフにも笑ってほしいと言うだろうけど。

342名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 22:15:46 ID:Zkb/X8HL
……?
16匹の竜?
343名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 22:26:41 ID:ljsL9riW
>>341
理想郷にあったりする
344名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 22:28:42 ID:MbzrvLJI
>>342
エルマーの冒険とか超懐かしいな
345名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 22:48:38 ID:jrcokfPt
最終定理?
346名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 23:00:34 ID:nj00GXHf
そりゃフェルマーだ
347名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 23:12:40 ID:Y2UeugIa
肘打ち?
348名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 23:14:31 ID:bFvjUCH+
君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ
349名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/24(木) 23:15:28 ID:/UMf7pdY
マクロスダイナマイト7に出てきた幼女?
350名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 00:17:31 ID:PX2TBjf9
>>349
Fの時代だとしっかりヒットチャート入りしてるんだよな
351名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 01:54:06 ID:7cqo37iC
笑顔中毒者?
352名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 08:11:27 ID:IDLwHmgS
>>350
小説だとリン・ミンメイや熱気バサラと並んで伝説のシンガー扱いだった気がす>エルマ
353名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 08:24:51 ID:AG1D1twq
「索敵、ジャミング、ロック、ダッシュ、アタック、よろしく!」
354名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 10:17:39 ID:WHfdM2oD
>>353
「それはエルマなんだな、これが!」
355名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 13:11:45 ID:QN9L1cSL
ギア・フリードと組むと凶悪なんだよな
356名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 15:33:24 ID:RkpNIKR1
変装して銀河アカデミーに潜り込んでるんですね
357名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 17:11:17 ID:B8z8QSlr
five star storiesのアマテラスが召喚される話が読みたい
あとバスタードでルーシェが呼び出されるけど契約の時にダークシュナイダーになる(逆もあり)のも読みたい
358名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 17:15:27 ID:k+Ad0cPH
いらん子中隊の元隊長だろ
ノボル的に考えて
359名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 17:20:36 ID:QN9L1cSL
マクロスのゼントラーディの連中はでかいと戦争大好きでアルビオン戦役では活躍しそうではあるな
360名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 17:44:47 ID:RkpNIKR1
>>357
アマテラスじゃないけど昔すえぞうが召喚される小ネタがあったような・・・・・・

>>359
燃費が悪いのと基本制御不能なんであんま使えないような気ィします
361名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 18:00:32 ID:QN9L1cSL
そういやゼントラーディって、基本頭のいいトロール鬼みたいなもんだな。
戦争大好きで制御しやすい傭兵集団みたいなのはいないものかね。
362名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 18:27:23 ID:RkpNIKR1
>>361
・・・・・・・まいるど7?
あいつら金さえ貰えれば宇宙戦争にすら介入するぞ
レーザー砲装備のスペースシャトルやら人型機動兵器なんぞ持ってたからな
おまけに裏切るかメンバー(家族と言い換えても可)に危害を加えない限り契約遵守だからな

ただ・・・・・・「『ゼロの使い魔』が発禁にならなければいいのですが」
ちなみに漫画「まいるど7」にの内容については「永井豪です」で済んでしまいます
363名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 18:33:09 ID:AmQqwf7a
最終話がストーリーキングで決闘だったのは覚えてるw
364名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 18:38:28 ID:Bkd1YPT7
>>361
ゼントラーディは平時が続いたりすっと欲求不満で暴動起こす奴もいるしなぁ
世代を重ねても遺伝子レベルからどうにもなんない奴も多いし
ラアルゴン人のほうがちょうどいいかも

そして●ルマの流れで
加藤機関召喚
陸じゃ流石にルイズが哀れなので沢渡を
彼って努力もしないで力を手にしたファクターが嫌いだから
逆に言うと努力が報われないルイズを無下にもできない・・・ってこともなさそうだが
そんな感じに
365名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 20:12:50 ID:PpXowynQ
>>361
エンジョイ アンド エキサイティング!
366名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 20:36:42 ID:nsS2ISck
ハルケギニアで大暴れするワイアルド団長か……胸が熱くなるな。

率いるのも“黒犬”だし。あっ、でもワイアルド自身は猿か。じゃあ、
ルイズ「こっ、この馬鹿サルううう!」
になるのか。
367名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 20:38:03 ID:RUVZP0BX
でももともと似たような名前のキャラいるから分かりづらいかな
ほら、ワイ・・・ワリ?
368名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 20:49:36 ID:PpXowynQ
ワイリーーーーーーーーーーッ!!(AA略
369名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 21:08:36 ID:Ckr7/sFh
手塚治虫キャラで召喚されるとよさげなのってどんなんがいるかな?
ルイズだけでなくガリア組やらキュルケにギーシュ、モンモンの場合も入れて
370名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 21:24:22 ID:nsS2ISck
写楽→ルイズが速攻で脳味噌をトコロテンにされる。
火の鳥→ルイズがやっぱり速攻で焼き殺される。
BJ→水のメイジがいるので役立たず。
アトム→今昔物語同様その内エネルギー切れでアボン。
371名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 21:32:16 ID:pmtfmwRL
ジョゼフがハムエッグ辺りをだな
372名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 21:36:42 ID:31RNtaQ9
ワンダースリーやミクロイドSもよろしく
373370:2010/06/25(金) 21:39:56 ID:nsS2ISck
>>370に付け加えるなら、犬上は冷静沈着な大人の男なのでルイズを色々助けられるだろうが、
二人が下手にわりない仲になったりすると、嫉妬に狂ったマリモにルイズが殺されかねない。

鞍馬天狗化した我王なら、
「魔法や貴族であることに固執しなくても、おまえの目は生き生きと輝いている」
とか助言してくれそう。
374名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 22:03:37 ID:ve44Y0BB
ランプだろ
375名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 22:22:27 ID:IPvu9OS8
ここであえて『MW』本編終了後の結城美智雄を推しておく
376名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 22:25:37 ID:9iegS7g2
手塚治虫すら、こいつに暴れさせれば話が何とかなってしまうと評したくらいチートキャラのヒゲオヤジ
377名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 22:26:17 ID:mRLkn2p9
>>375
教皇とホモ関係に・・・
378名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 22:31:54 ID:Ckr7/sFh
女性キャラで考えてみた……

ルイズ→サファイア&チンク(リボンの騎士)
ジョゼフ→メフィストフェレス(ネオ・ファウスト)
ティファニア→火の鳥(火の鳥)

教皇はちょっと思いつかなかった
379名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 22:42:06 ID:nsS2ISck
つ『奇子』
380名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 22:52:43 ID:/yA00xOD
場違いな工芸品を有効活用できそうな、鉄腕アトムに登場した科学者の誰かとか。
381名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/25(金) 23:36:13 ID:zZo9jdfp
あえて火の鳥のロビタを推しておこう。
切ないストーリーになるぜ、きっと。

と言いつつ、どろろの方待ってます
382名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 00:04:43 ID:BYmd/ruX
特に問題がなければ、0時10分くらいから投下します
383名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 00:07:58 ID:Y2v1GwDn
問題あります
384名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 00:21:53 ID:+EgjwqAY
なんのもんだいがあったというのだ/(^o^)\
385名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 00:23:03 ID:c8EJi/XS
元ネタ記載くらいしようぜ
386代理投下:2010/06/26(土) 00:33:25 ID:xittqsqE
943 名前:虚無と最後の希望 ◆Twi2c6nqJ. 投稿日:2010/06/26(土) 00:28:01 [ nLEIytqw ]
level-22「不安」


 それは一つの希望であった、彼女たちが行った村にペリカンが存在していた事。
 『Dropship 77-Troop Carrier』、兵員輸送を主とし降下艇。
 それだけに留まらず重量60トンを超える主力戦車を含む車両を輸送可能としながらも、装備によってガンシップとしても活用できる。
 ワートホグとは比べ物にならない機動力、技術レベルから見るに撃ち落とせるような対空砲火が存在しないため、航空機と言う特性を遺憾なく発揮できる。
 さらにはペリカン単体でも大気圏離脱も可能な航空機だ。
 大気圏内での巡航速度も風竜に匹敵するだろう、速度は落ちるが多少無理をすれば、100トンを超える物体でも輸送できる。

 帰る為の足掛かりに成り得る、稼動し飛行できるかと言う問題もあるが調べておく事に損は無い。
 状態としては墜落している形ではなく、降着装置を出した状態での姿で着陸していると言う。
 それは誰かが操縦して飛行できていたと言う証明、UNSCの隊員か、操縦方法を習ったこの星の原住民か。
 どちらにしろそれなりの可能性を見込める、確かめておいて損は無いはずだ。

「だからタルブに向かいたいって?」
「ああ」

 ペリカンの状態、学院の外で地面にめり込んでいるペリカンとは雲泥の差で現存しているらしい。
 動くのであれば回収しておく必要が出てくる、この惑星で完全なオーバーテクノロジーである航空機を放置しておく事は出来ない。
 何らかの要因で動かない、燃料や内装の一部破損などで飛べないのなら全体を完全に破壊などしておいた方が良い。
 もとより異星人、異星起源の知的生命体にテクノロジーの提供は基本的に禁止されている。
 音声のコミュニケーションである言語を操り、一定水準以上の生産活動、王制による群衆の統治。

 定義の範疇に当てはまる一定レベルの文明が存在している、その為法が適用されて技術提供の一切を行えない。
 たとえ行ったとしても、所持している技術の殆どが戦闘用。
 銃の構造や車両や航空機の稼動原理を提供すれば、おそらく起こるのは戦い。
 即実用化は無いが、長期的な観念で見れば構造や原理を元にした兵器が出てくるだろう。
 既存の銃などはその最たるもの、構造を解析し、高性能効率化に至る技術を見つけ、精度の有無はともかくコピーをして取り入れて進化するだろう。

 それをルイズへと説明して、タルブの村へと向かいたい旨を示す。

「……その、ペリカンってなによ。 そんなに大事な物なわけ?」
「大事と言うより危険な物だ」

 科学技術の飛躍的進歩を促しかねない、流石に理解出来るほどの解析が出来るとは思えないが。
 コルベールのような、内燃機関の原理を提唱し、実物を作り上げるだけの人物が居るのは大きい。
 地球人類と同じように、100年や200年で魔法を凌駕するほど科学技術が発達する可能性もあるだろう。
 魔法は至上、そう言った思念が見られるために、確執が大きくなり、魔法に対抗できる力が手に入れば戦争に発展するかもしれない。
 技術を提供しなくても何れ来るだろう歴史を早める必要も無い、そう言った事もあり、武器は回収するし、ペリカンも処分しておかねばならない。

「……そんなものまであるの?」
「ああ」

 疑惑の瞳、ルイズからすれば常識の範囲外のモノ。
 実際の代物を見せれば納得するかもしれないが、飛ぶか飛ばないか、そもそも内装が生きているのかすら分からない。
 言葉だけでは理解できないし、納得も出来ないだろう。
387代理投下:2010/06/26(土) 00:34:03 ID:xittqsqE
944 名前:虚無と最後の希望 ◆Twi2c6nqJ. 投稿日:2010/06/26(土) 00:28:32 [ nLEIytqw ]



 そうして話を聞かされるルイズは、全身を包む緑色の、所々色が剥げた重厚な鎧を着る大男を見上げる。
 同じく頭を包み込む緑色のヘルメットに、その前面に貼り付けたような金と橙の合い色。
 鎧の表面に付いた大小様々な傷が過酷な状況を生きて駆け抜けたと、戦場を知らないルイズでも分かる存在感をもってそこに居た。

 そんな使い魔から聞かされた話は大きすぎてよく分からない、鉄の箱に乗って空の向こう側に行けるだとか、風竜に負けない速さで飛ぶだとか。
 なにより気になるのがあの夜空をより近くで見れる、誰もが夢見て諦めたモノを実現する力があると言う事。
 とても速く飛べる風竜や、風石を満載したフネでも届かなかった場所に行ける?
 今一よく分からない、想像できないと言った方が正しかった。
 あのじどうしゃ、わーとほぐの例があるから一方的に否定も出来ない。

「……本当にそれがあったの?」

 ルイズはタバサを見て問いかける。

「あった」

 一切の迷いなく、青い髪を揺らしてタバサが頷く。

「……分かったわ、確かめに行きましょう」

 実際にあるようだし、チーフが言ってる通りの物だったら……、乗ってみたいかも。

「でも明日ね! 今日はもう遅いから」

 窓の外の夜空には双月が上がってる。
 今から出て行っても準備してないし、着の身着のままで野宿とかしなくちゃいけないし。
 どうせなら今から準備して、明日日が昇ってから出かけたほうが良いと思う。

「外出許可は貰っておく」

 すぐさま踵を返してチーフは部屋を出て行く、小さな音を立ててドアが閉まり、廊下から床の軋む音が遠ざかっていく。
 タバサも続いて出て行こうとしたけど、私はそれを手を向けて止める。

「待って! 聞きたい事があるんだけど……」

 タバサは動きを止め、ドアノブに掛けていた手を離して振り返った。

「………」
「えっと、ペリカンってどんなの?」
「鉄の箱」
「……鉄の箱って」
「それ以外に形容できる言葉を持っていない」
「動物とか幻獣に似たような……」
「居ない」
「………」
「知っておくのは名前と、鉄の箱が空を飛ぶ、それだけで良いと思う」
 
 そう言って、今度こそ部屋を出て行ったタバサ。
 ガチャリと、ドアが閉まってから数秒。

「……分かる訳無いでしょ!」

 鉄の箱がすごく速く空を飛ぶことを想像出来ないルイズは、タバサの淡々とした言葉を理解できず声を上げていた。
388代理投下:2010/06/26(土) 00:34:40 ID:xittqsqE
 チーフが許可を貰ってきてから、ルイズは殆ど何もせず、ルイズが動くまでも無く準備を整えていた。
 シルフィードに乗ってどれ位の時間を掛けて到着したのか、ワートホグで移動した際の掛かる時間はどれ位なのか。
 予想して正確でないにしろ余裕を持って行動できるよう、食料や防寒具などの準備を完了させた。
 その際に食料の提供を厨房に申し出た時に、向かう先を尋ねられて答え、その村がシエスタの故郷だと言う事をコック長から聞かされた。
 身近に信憑性が高い情報がある、聞かない理由など無く、時間を割いて貰い、チーフはシエスタに話を聞いた。

「……はい、タルブは私の故郷ですけど」
「タルブに……、空を飛ぶ鉄の箱があると聞いたが」
「空を飛ぶ……? あ、はい。 私が生まれる前、ひいおじいちゃんが生きている頃は飛ばせることが出来ていたと」
「……その人物以外に飛ばせる者は?」
「いえ、ひいおじいちゃんだけしか。 動かし方は教えることが出来ないって言われたと聞いてます」
「そうか」
「……ペリカンがどうかしたんですか?」

 その一言で確実に存在するとチーフは確信した。
 『ペリカン』と言う呼称は出していないにも係わらず、シエスタ、黒髪の少女はペリカンの名を口にした。

「そのペリカン、回収しなければならない」
「え? どうしてですか?」
「軍の物だからだ」
「……ぐん?」
「ああ、UNSC……国連宇宙軍が製造、使用する軍用機だ」
「……それじゃあひいおじいちゃんは」
「所属は分からないが、おそらくは軍人だろう」

 予想外だった、シエスタがタルブ出身で、しかも子孫だとは。
 そうだと分かれば色々話を聞かねばならない。

「詳しい話でしたら、お父さんたちの方が知ってると思います」

 事をスムーズに運ぶために、同行を求めるチーフ。
 いきなり押しかけてペリカンを持っていくと宣言したら、要らぬ騒動を起こすことになるだろう。
 それを防ぐためにも同行を求めてシエスタは快諾し、コック長からも許可を貰い、シエスタが付いて来る事になった。

「……ふーん、それなら良いけど」

 ルイズも邪魔にならなければ、そう言って認めて出発する準備が整った。
 そうして夜が更け、一部除く誰もが寝静まる時間になってもチーフは寝ずに警戒に当たり続けた。
 数時間が経って双月が地平線の彼方に落ち、太陽が月が落ちた地平線とは逆から上る。

「ほんと、相棒はいつ寝てんだ?」

 その朝日を開けた窓から眺め、すぐに視線をベッドに寝ているルイズへと向けなおす。
 規則正しい寝息を立てるルイズ、そのか細い肩に出来るだけ優しく手を置いて。

「時間だ」

 ゆっくりと揺する。
 ルイズは煩わしそうに寝返りを打ち、チーフの手を払いのけようとするが。

「………」

 離れない、金属がの如くルイズの肩に当たられて揺すり続ける。

「起きろ」

 最初は優しくても、それで起きないならば激しくなるのは当たり前で。
 頭がグラグラ揺れるほどに揺すられ。

「……おきる、おきるから……」
389代理投下:2010/06/26(土) 00:35:39 ID:xittqsqE
 流石に堪らなくなって体を起こすルイズ、手で目を擦りながら唸る。
 それを見てチーフは汲んできた水を入れた桶をルイズの前に差し出し、チーフとは比ぶべくもないほど小さい手で顔を洗い始める。
 学院で過ごす時の習慣になりつつある朝の洗顔、それを見てチーフはふと昔のことを思い出した。
 徴兵される前の自分は、こんな風に優しい母に世話を焼かれたのだろうかと。
 遠い昔の記憶、もう顔も思い出せない母の事が浮かぶなど、環境が激変したためだろうか。

 一瞬の物思いから戻り、顔を洗い終わったルイズにタオルを手渡す。

「……ありがと」
「一通りの準備は済ませてある、終わったら正門の前へ」

 そう言って桶を持ったままチーフは部屋を出た。
 寮の廊下を歩き、階段を下りて水場へ向かい、桶を片付けてから倉庫へと向かう。
 学院を包む朝霧の中を歩き、火の塔側にある倉庫、その隣にはワートホグを停めている車庫がある。

 壁は錬金で変質させた鉄製、ドアも同じく鉄製でスクウェアの『硬化』と『固定化』の重ね掛け、鍵には重量500キロほどもある巨大な鉄製の閂。
 通常の鍵では簡単に『アンロック』の魔法で開錠される為、単純な重量を鍵としているが。
 一定以上のメイジなら『レビテーション』で持ち上げられるため、近々宝物庫の近くに新しく保管庫を作ろうかと言う話も出ている。
 そもそもロックを掛けられたら、たとえその錠を開けられる鍵でも開かなくなってしまう。
 魔法など欠片も使えないチーフが、出入りできなくなると言う点も考慮されていたりするが。

 厚遇に見えるが、チーフが使用する銃器の危険性をオスマンらは十二分に理解しているための提案。
 もしこれが出回れば、いかに強力なメイジでも簡単に殺せる事が分かる為、無用な血を流さぬ為の提案だった。
 チーフはその危惧を理解し、回収した銃は基本的に解体、疲労が少ない部分は部品取りして修理用として保管してある。
 金属疲労などで使うのを躊躇われる部品は錬金を掛けてもらい、原形を留めなくしていた。
 射撃出来る物にしても解体して部品を散らばらせてあるため、盗んだとしても組み立て方が分からなかったり必要な部品が足りなくなるようにしている。

 即座に撃てる銃と言えば、チーフが携帯している物だけであり、どうしても使いたいのであればチーフから奪い取る位しかない。
 無論、そんな事を行える存在は数少ないのだが。
 倉庫に到着して閂を片手で持ち上げ、倉庫内に入ってチーフは持っていく銃器の選出を行う。
 優秀なサイドアームとして挙げられるM6Dマグナムピストルは必須、中距離から近距離でかなりの威力と精度を期待できる。
 他にもUNSC全軍に配給されているコンバットナイフ、刃渡り25センチ弱、全長40センチ弱の近接戦闘用ナイフも両肩に留めてある。

 問題はメインウェポン、取り回しの邪魔になるような物はアウト。
 当たり前にロケットランチャーやスナイパーライフル、スパルタンレーザーなどは持っての他だ。
 一番小さいスパルタンレーザーでも一メートル近い、スナイパーライフルに至っては平均的な成人男性の身長より長い。
 どれも火力は魅力的だが、携行出来る弾数も少ない。
 となれば必然的に選ばれるのはアサルトライフルかバトルライフル。

 携行弾数は多いが集弾性が良くないアサルトライフルか、携行弾数は少ないが正確な射撃を行えるバトルライフルか。
 わずか数秒だけ考え、背中のアサルトライフルを手にとって解体し始める。
 椅子に座って一分と経たずバラして、それぞれの部品を棚などに納めていく。
 変わりにバトルライフル、モデルBR55の部品を集めて組み立てていく。
 こちらも一分ほどで組み立て、二発の弾薬と一発だけ入った弾倉を持って足元の階段へと目を向け、非常に細長く狭い地下室へと下りる。
 そこは射撃場に見立てた、地面から5メートル下、そこから幅3メートル、横250メートルほどの薄暗い空間。

 下りてきた階段側に置かれているランプに触れると光が点り、連動して壁に取り付けられているランプにも光が宿り。
 250メートル先の人の形に見立てられた木製のターゲットまでの空間を照らす。
 弾倉をバトルライフルに嵌め込み、ボルトを押し込んで一発だけ薬室に送り込む。
 弾倉に残る弾薬の数が『01』と表示され、正常に薬室へと弾薬が送られたことを示す。
 それを確認してバトルライフルのスコープとHUDが連動し、視界に銃口が向いている方向を示す青いサイトが表示される。
 サイトを木製のターゲットの胸に向け、二倍率のズームビューにてより正確にサイトを合わせて引き金。
390代理投下:2010/06/26(土) 00:36:14 ID:xittqsqE
 タン、と一つ音が鳴って銃口からマズルフラッシュを伴って弾丸が撃ち出される。

「いつもながらうるせぇな」

 右腰に据えているデルフリンガーが一言。
 音速の数倍で飛翔した弾丸は、ターゲットの右20センチほど逸れた後ろの壁に抉り込んだ。
 音が反響して鼓膜が破れるかと思うほどの銃声も遮断し、弾倉を取り外してまた一発込め、バトルライフルの調整。
 右に逸れた弾道を左寄りへと調整し、弾倉を嵌め込んでボルトを押し込む。
 バトルライフルを構え、狙いは同じ場所。
 サイトをターゲットの胸に合わせて引き金、先ほどと同じく弾丸が飛び出して、今度はターゲットの右胸を撃ち抜く。

 同じように弾倉を外し調整、三発目を込めて嵌め込み狙う。
 三度目の正直か、三発目は狙い通りターゲットの胸に穴を空けた。

 非効率、と言わざるを得ないだろう。
 補給として投下される訳ではないし、手に入れた存在が敵となって使ってくると言う状況も恐らく無い。
 無限ではない、ここに来る前から当たり前だったが、同じ有限でもこちらのほうが圧倒的に有限の上限が低い。
 手に入れる方法は落ちている物を拾うしかない、それもどこに落ちているか分からないし、明らかに耐久年月を疾うの昔に超えた物まであった。
 なぜか落ちている物が全てが即使える状態で、と言うことは有り得ず、確保に苦労している。

 それでもわざわざ分解して保管し、組み立てて多くはない弾薬を消費して調整するのは、彼らの意思を汲み取っているから。
 この世界には明らかに無用の長物、この惑星から去る時はあらかた処分していかなくてはならないだろう。
 帰れないなら、アーマーを含めて処分しなくてはならない。
 残しておくべきではない代物なのは間違いないのだから。
 狭い階段を登りながら倉庫に戻り、バトルライフルの空の弾倉を外す。

 棚からマガジン、バトルライフルの弾倉を4つ、ピストルの弾倉を11個。
 それぞれ一つずつ弾倉を装弾、残りは腰や外太股にストック。
 セーフティーを掛けてバトルライフルは背中に背負い、ピストルは太股のマガジンの上に取り付け固定。
 グレネードも手に取り腰に取り付ける、そうして装備を整える。
 その後は倉庫の奥にある扉、隣の車庫に繋がる戸を潜り、ワートホグを見ながら大きな両開きの扉を押して開いた。





 一方、ルイズは着替えが終わった後、マントを羽織り部屋を出れば。

「遅いじゃないの」

 キュルケが待っていた。

「……何が遅いのよ、ていうか何? 何で起きてるのよ」
「タルブに行くんでしょう? だから私も起きてるのよ」

 そう言ってキュルケが笑う。

「何でキュルケが付いてくるのよ、関係ないでしょ」
「あのね、私がタルブに行こうって提案したから見つけられたのよ? タバサがあれはチーフの物だろうって言ったから、早く教える為に戻ってきたって言うのに」

 どう言う物か見る権利位はあるでしょ。

 ふふぅーんと、自慢げに胸を張って揺らす。
 それを見て顔をしかめる、なんて余計な事をしてくれたのかと。

「そんなのは心の中にしまっておきなさいよ!」
391代理投下:2010/06/26(土) 00:36:30 ID:xittqsqE
 大声でキュルケに怒鳴りつけ、足を踏み鳴らして歩き出す。
 余計な事をして! ありのまま罵倒してやりたかったけど、キュルケなんかより門で待ってるチーフの所に行かなくちゃ!

「待ちなさいよ! ルイズ!」
「うるさい!」

 後ろから聞こえる声を無視して階段へと向かった。
 階段を下りて、寮を出て、正門に走り出す。
 見えてきた門にはいつものわーとほぐ、後ろのほうに荷物を載せてロープで縛っているチーフも見えた。
 そのわーとほぐの近くにはメイドが一人、白のシャツに若草色のロングスカートを履く黒髪のメイド。
 そしてもう一人、いつもの格好のタバサが佇んでいた。

「行こう」

 ギュっとロープを縛って、大きな荷物を固定してからチーフは言った。

「そうね、さっさといきましょ」

 それに頷き、わーとほぐの傍による。
 自分で座席に座ろうとしても、位置がちょっと高くて乗り込めない。
 だから乗るときはチーフに手伝ってもらう、チーフが座席のすぐ隣で膝を立ててしゃがみ、手を差し出してくる。
 私はその手を取って、立てられた膝に足を掛けて階段のように上って乗り込む。

「わ、私もですか?」
「ああ」
「そうよ、ほかに乗る場所ないでしょう」
「……そうですね」

 クッションを敷き詰められた座席の端に寄り、同じようにして上ってきたメイド。

「……失礼します、ミス・ヴァリエール」
「さっさと乗りなさいよ」
「は、はい!」

 声が大きなメイドが隣に座るのを見つつ、少し離れた場所でシルフィードの背に上るタバサといつの間にか着ていたキュルケを見る。
 一瞬目があったけど。

「ふん」

 すぐ逸らした。
 まったく余計な事をしてくれたキュルケ……。
 チーフの話を聞いていた時には思いつかなかったこと、『ぺりかん』と言う物が動いて飛んで行ったりしたら……。
 チーフはそのまま帰ったりしないだろうか、絶対に帰りたいって言ってたし……。



 浮かべたのは不安、やっと召還した使い魔が居なくなる事に。
 自分の近くから去ってしまう事に、隣で悲鳴を上げるメイドの声を聞きながら考えていたルイズだった。

392代理投下:2010/06/26(土) 00:36:44 ID:xittqsqE
949 名前:虚無と最後の希望 ◆Twi2c6nqJ. 投稿日:2010/06/26(土) 00:32:33 [ nLEIytqw ]
以上で終了です、よろしくお願いします。

393名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 00:40:32 ID:OpEu890V
投下&代理乙
394名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 00:45:25 ID:ML3U/s62
投下&代理乙

なんだけれども、なんで宣言しないんだろう
ちょっと前にも居たような
395名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 00:57:03 ID:qgCp5JiJ
ウルトラ・スーパー・デラックスマンZEROまた載ってるのかよ。どんだけしつこいんだwwwww
396名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 10:37:23 ID:ClDCTE+F
そういうのは毒吐きでやれよ
397名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 11:55:48 ID:q3NWWPCB
どうせならスーパーマンの方を召喚してくれりゃいいのに。
魔法が弱点というおあつらえ向きなハンデもあるし。
398名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 13:02:29 ID:pLdAhoI2
>149
だがオトコの娘(こ)は許せる俺がいる。

>210
魔砲の人お疲れ様ー。
…貴方の所のエルフはGMかなんかの末裔じゃないかと推測してみてたりw


あと萌え萌えの人、ブラックご愁傷様でした…(ほろり
それから最後の希望の人も乙です。
399ゼロの双騎士 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 15:43:34 ID:iQhi0kqR
初作品初投下です。
テンポよく話を進めるのがどうも苦手ですが、生ぬるい目で読んでやってください。

『ゼロの双騎士』
バハムートラグーンより、パルパレオスとサラマンダーを召喚。バハラグED直後。
シャルンホルスト、インペラトール装備。各種アイテムも所持。
サラマンダーはマスター。

では開始します。
400ゼロの双騎士 第一話-1 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 15:45:48 ID:iQhi0kqR
「覚悟しろ…!!!」

殺気に満ちた目を向けられ、男は自嘲の笑みを浮かべた。

数え切れぬほどの敵を殺し、親友の覇道成就に力を尽くした。
親友の頼みに応えてかつての味方を敵とした。
愛する女性のために、親友の遺志を継ぐために、数え切れぬほど殺した。

敵から裏切り者と蔑まれ、味方からもかつての仇と憎まれ、それでも親友と愛する女性のために。
斬り、突き、薙ぎ払い、焼き。
手に馴染んだ愛剣は、人魔問わず大量の血を吸っている。

「グッバイ、ヨヨ…」

役目は果たした。
ヨヨを残していくのは心苦しいが、憎悪を一身に背負った私を殺そうと言うなら甘んじて受けよう。
私が全ての憎しみを背負おう。
私が死ぬことで将兵や民の憎しみが少しでも晴れれば、新生カーナ王国の統治は大分容易になるはずだ。

「死ね、パルパレオス!!!」

突き出された短剣。
避けるのは容易いが、抵抗はしない。
腹部に冷たい異物がめり込んでいく。
不思議と痛みは少なく、ただ意識だけが薄らいでいく。

(私もじきにそちらへ行く。待っていてくれ、サウザー…)

そこで、彼の意識は途絶えた。


+++
401ゼロの双騎士 第一話-1 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 15:46:37 ID:iQhi0kqR
同時刻、新生カーナ王国の戦竜隊竜舎にて、歴戦の勇士がその命を燃やし尽くそうとしていた。

「…サラマンダー…どうした!?」

カーナ戦竜隊隊長ビュウが幼生の頃から手塩にかけて育てあげたオレルス最強の戦竜、サラマンダー。
白銀の鱗を持つその竜は雄雄しく力強い姿をしている。容姿だけでなく実力も間違いなくオレルス一、ビュウの自慢の愛竜だった。
それもそのはず、サラマンダーはオレルスにおいて伝説にのみ語られる鳥竜、フェニックスなのだ。
各属性の魔法を自在に操る強大な魔力と、鋼をも軽々砕く爪と牙を併せ持つ。
それでいて風よりも速く飛翔し、人によく慣れ、人語を理解し、いざ戦闘となれば敵の弱点を的確に突く程の知性すら持ち合わせている。
伝説になるのも頷けるほどの力、だがそんなものは飾りに過ぎない。
不死鳥の名を冠したその竜は、まさしく不死であった。
剣で斬られようが魔法で焼かれようが、みるみるうちに回復していく再生能力。
それでなくても竜というものは生命力に溢れ、しかも長寿なのだ。
ほとんど反則級の力を持ったサラマンダーだが、しかし彼の体は今まさに燃え尽きようとしていた。

その体からは黒い炎が噴き出している。
しかも、どんな傷すらも回復するはずの再生力が機能していない。
まるで炎に喰われているかのように、サラマンダーの体はえぐれていき、消失しつつあった。
それでいてサラマンダーに苦しげな様子は一切見られないのだ。普段通り、平然としている。

尋常な事態ではない。

多くのドラゴンを育て上げてきた経験を持つビュウだが、このような現象は初めて見た。
黒い炎。消えていく体。異常事態に際して何の反応も見せない竜。
どう対処していいかもわからず、彼は消え行く竜を呆然と見るしかできなかった。


++++++
402ゼロの双騎士 第一話-3 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 15:48:44 ID:iQhi0kqR
間違えました、>>401は第一話-2ですね;

−−−



轟音の後に、煙が舞った。

(また失敗なの…!?)

何回繰り返しただろう。
もう数えるのも馬鹿らしいくらい失敗し、その度に迷惑そうな視線と嘲笑を浴びせられ、
それでも諦められなかった。

自分は貴族。誇り高い貴族である。
どんな困難からも逃げることなく、やり遂げてみせる。
その一心で呪文を唱えた。

煙の奥に、何か大きな影のようなものが見えた気がした。
しかし、よく見えない。

(成功?それともまた失敗なの…!?)

祈るような気持ちで煙の奥を見つめていると、願いに応えるかのようにそよ風が吹き、煙が晴れていく。

(やった…!成功した!)



そこにいたのは二人。

いや、正確には一人と一匹、というべきだ。

一人は人間の男。
明るい金髪に引き締まった体躯、整った顔立ち。
立派な鎧を纏い、不思議なことに剣を二本も帯びている。

一匹は竜。
燃えるような赤い鱗。
というか炎にしか見えない鱗。
見たこともない種だが、本当に立派なドラゴンだ。


しかし…何故二人(?)も…。



+++++
403ゼロの双騎士 第一話-4 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 15:50:07 ID:iQhi0kqR
舞い上がった土煙を吸って咳き込んだ所で、うっすらと意識が戻ってきた。

(私は確かに死んだはず…一体これは?)

全く訳が分からない。
煙のせいで周りの状況が分からないが、晴れてもやっぱり分からなかった。

側に佇んで此方を見ている赤竜。反乱軍に参加してからは数頭のドラゴンを見てきたが、そのどれとも違っていた。
襲われるかと、とっさに身が強張ったが、その竜からは敵意が一切感じられない。
目を覚ますのを待っていたかのように、竜が擦り寄ってきて一声鳴いた。

(…この声、まさかサラマンダーか!?)

反乱軍ではビュウと同じ小隊に所属し、ビュウが操るサラマンダーとは何度も共に戦ってきた。
ドラゴン好きなヨヨにせがまれ、ビュウが戦竜の世話をするのを見に行ったり、時には手伝ったりしたこともある。
その合間にビュウのドラゴン育成学講座を聞いたりしていたから、ドラゴンが何度も姿を変えることは知っていた。
同時に、姿が変わっても鳴き声だけは変わらぬことも。

(何故サラマンダーがここに…)

理解不能な事象がまた一つ増えたが、今更である。
サラマンダーなら自分にも慣れているし、危害を加えられることもない。
何が起こっているか分からないが、サラマンダーに乗ればこの場所をすぐに離れることもできる。

周りにはマントを羽織った少年少女が数十人。ほとんどが杖のようなものを持ち、何かの生き物を連れている。見たことも無いものもいた。
割と近い位置に桃色の長い髪をしたマントの少女と、その隣には禿頭にメガネをかけたローブ姿の中年男性。

(何だ、この状況は・・・?)

とりあえず何が起こっても対応できるよう警戒態勢を整え、周りの様子を伺う。
皆が皆自分の方を見ているが、その視線は敵意というより困惑、驚愕、好奇を映し出している。

サラマンダーの方をちらりと見るが、警戒心を表している様子はない。
竜は人よりはるかに危険に聡い。戦場を生きてきた戦竜ならばなおさらである。
隠れて此方を伺っている敵兵がいれば敏感に察知し、警戒心を示す。
戦竜隊の強さは竜の存在に支えられているが、その知覚を利用した索敵能力の高さもその強さの一因なのだ。

(サラマンダーが平然としている…彼らに此方を害する意思はなさそうだな)

パルパレオスはそう判断した。


桃色の髪の少女がこちらへ歩み寄ってくる。

(・・・!?)

敵意はなさそうだが、とっさに身構えた。
強い意志を宿す理知的な目。
容姿こそ違えど、その目がヨヨのそれによく似ている気がするのは気のせいだろうか。

「…何なのよアンタ!!」

気のせいだった。


+++++
404ゼロの双騎士 第一話-4 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 15:51:24 ID:iQhi0kqR
「ふむ、つまり君は一度死んだはずで、しかもこことは全く別の世界から来たというのだね?」

前代未聞の珍事の後、三者はとりあえず自己紹介を済ませて事情説明のために学院長室に来ていた。
ちなみに竜(サラマンダーという名らしい)は庭で寝そべっている。
とある学生が召喚した青い風竜と意気投合したらしく、ギャオギャオお喋りしている。
彼、サスァ・パルパレオスの戦友の愛竜だそうで、庭でおとなしく待っているようにとの彼の命令に従っている。
育ての親以外の命令であってもよく聞くところを見るに、賢く危険もなさそうだ。

「あぁ。私は賊の凶刃に倒れてそのまま死んだはず。そして気づいたらあの庭にいた。
 さらに言えば、私はハルケギニアなどという名もトリステイン王国などという名も初めて聞いた。
 君たちもオレルス、グランべロス帝国、カーナ王国という名を知らないだろう?」

「むぅ・・・妙なことになったのぉ」

学院長オールド・オスマンはもう結構な歳になる老人だが、実は伝説級の力を持ったメイジである。
当然、年齢に比例した経験・知識を持っているのだが、そんな彼でも聞いたことすらない地名がこの男の口から飛び出した。
しかも嘘を言っているようには見えず、事実見たこともない武具を身につけ、見たこともない道具を持ち、見たこともない竜を連れている。

さらに話を聞けば、彼はすでに死んだ身だという。
死者を蘇らせるマジックアイテムの話を聞いたことはあるが、この世界の物である。
異世界で死んだ者がこの世界の道具で生き返ったなら、まず死体の状態で呼び出されるはずだ。
分からないことだらけだが、問題はそんな事ではない。

彼は、異世界の国で将軍を務めていた騎士であるという。
グランべロス帝国将軍兼皇帝親衛隊隊長、後にオレルス解放軍将軍。それが彼の肩書きらしい。
どんなことをしている人物かは分からないが、それなりの規模の国家、あるいは組織において高位を占めている人物であることは確か。
そんな人物を無理矢理呼び出して使い魔などにしたら、下手をすれば外交問題である。
まぁ、向こうの世界で死んでいたようだから問題にはならないかも知れないが、それにしてもそんな肩書きを持つ人物が使い魔という身分に甘んじるだろうか。
有難くないことに、疑問にも懸念にも事欠かない話を聞かされてため息をつきたくなる。
かといって可愛い教え子の使い魔を奪うような真似もできない。とりあえず話してみるしかないだろう。

「ともあれ、君にやってもらわねばならぬことがあって、君はここへ召喚されたのだ」

「使い魔というやつか?」

見たこともない生き物、竜にも乗らぬまま当たり前のように空を飛ぶ魔法使い、そしてこの老人から聞かされた話。
信じがたいが、別の世界へ来てしまったようだ。そう納得するしかなかった。
ならば仕方あるまい。すぐ戻ることもできないようだし。

「まぁいいだろう。衣食住は保証してくれるようだしな」

正直、理不尽には慣れている。
宮仕えをしていればそのくらいはいくらでもあった。
政治屋上がりの同僚であったグドルフやらレスタットやらの下衆共(もちろん口に出して罵倒したことはない)と望んでもいないのに組まされた時など、思い出したくもない。
ともあれ、私は一度死んだ身。まして、世界中の憎悪を一身に浴びていたのだ。
オレルスや、そこに生きるヨヨに未練が無いなどとは口が裂けても言えない。
しかし、敵意・嘲笑・怨嗟などを飽きるほど向けられてきた私としては、新天地での生活で久しく感じていなかった解放感を味わえるかもしれないという期待もあったのだ。

どうやら私の主人になるらしい桃色の髪の少女は、私が使い魔になることに不満らしく、今もソファでぶんむくれている。
女性の扱いも子供の扱いも慣れていないのだが…困ったな。
どうしたものかとオールドオスマンを見やった。
何とかしてくれ、と視線で要求してみる。
私の目力が通じたのか、あるいは単に空気を読んだだけか(恐らくは後者だろうが)。

「そういうことじゃ、ミス・ヴァリエール。彼を使い魔にしなさい。良いな?」

溜息混じりの言葉は、怒気混じりの了承によって返された。


+++++
405ゼロの双騎士 第一話 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 15:53:12 ID:iQhi0kqR
今回はここまでです。
ってかまた間違えてるよ・・・;
>>404は第一話-5 ですね。失礼しました;
406名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 16:08:21 ID:m3FH91Bt
ようこそ、ご新規さん。
召喚元の作品は知らないんですが、面白そうなんで 期待します。
次の投下は、慌てず落ち着いて。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 16:31:45 ID:QlmaZTkj

パルパレオスか・・・プレイヤーによっても複雑な感情で迎えそうなキャラが出ましたなぁ
そして相棒がサラマンダーか
そういえばパルパレオスの元のドラゴンはどうなったんだっけ
408名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 18:47:52 ID:bOc/8zqo
さらまんだーよりはやーい^^
409オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 18:56:14 ID:4TTTvJ+r
お久しぶりです。19時ごろから投下OKでしょうか?

>バハムートラグーンの方
この世界では、彼は良いエンディングを迎えられるのでしょうか……?
410名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 19:09:40 ID:t4z/ZbTb
オッケーですよー…って、おや?何かあったかな?
411オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:10:32 ID:4TTTvJ+r
勝手ながら投下開始します。

第4話
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

オレンジ色の使い魔 第4話

 昼休み。
 使い魔たちと昼食を済ませたハミイーが水場へ向かおうとしたところ、食堂から生徒がどっとあふれ出してきた。
 騒ぎ立てながら、ほとんどが同じ方向へ走ってゆく。
「決闘」「ゼロのルイズ」「ギーシュ」と言った言葉を聞き取りハミイーが立ち止まると、引きずるような足取りで
ルイズが出てきた。その傍に黒髪の娘が一人付き従い、何事か言葉を掛けているがこれは使用人のようだ。
 ハミイーが歩み寄るが、二人とも気づいた様子が無い。
「おぬし、決闘を行うのか?」
「……そうよ。いえ、決闘は禁止されてるから試合ね」
 ルイズはうつむいたままで答え、その傍で黒髪の娘は震えだした。
「どう違うのだ?まあ良い。さっそく人間相手に爆発を試そうとは良い心がけだ。しかし足取りが重いようだが、
 もしや相手を十分に侮辱できなかったのか?」
 黒髪の娘が懐に手を入れるのを横目にハミイーは問いかけた。
「そんなわけ無いでしょう!ギーシュがこの子、シエスタに八つ当たりしてるのを諌めたら、なんでか決闘することに
 なったの……よ!」
 思わず怒鳴りつけたルイズだったが、ハミイーの鋭い爪を見て一瞬息を呑んだ。しかし黙り込むことは許されない気がした。
「うむ、闘志を高めておくが良いぞ」
 ルイズは巨体を見上げ、分厚い毛皮の下で液体のように滑らかに筋肉がうごめくのに気づいた。単に太っているわけ
ではないらしい。
「……ハミイー、あんた戦士って言ってたわね。明日以降の食事代と思って、何か作戦考えて」
 猫の作戦が自分の役に立つとも思えなかったが、ひょっとしたら何かヒントでもあるかもしれない。猫の手を借りても
ギーシュを負かさないとならないのだ。
「まず、おぬしの武器の性能を知らぬことには作戦の立てようもないな。そこの娘、無益なことは考えぬが身のためだぞ」
 言って、ハミイーは手近にあったベンチを軽々と掴み上げつつシエスタに警告を発した。


412オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:11:34 ID:4TTTvJ+r

「オールド・オスマン、よろしければ昨日の話の続きをお聞かせいただきたいのですが」
 学院長室でコルベールが切り出した。秘書はまだ席に戻っていない。
「食後の話題としてはあまり適さんように思えるがのう。さて、何から話したものか……開いておるぞ」
 せわしないノックに続いて現れたのは険しい顔のギトーだった。
「失礼、オールド・オスマン。ヴェストリの広場で生徒が決闘を行おうとしております。当人たちは試合と
 言っておりますが」
「まったく血の気の多い餓鬼どもじゃ。で?誰と誰が試合と称して決闘などしようとしておるんじゃ?」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとギーシュ・ド・グラモンです」
 ギトーの言葉にオスマンとコルベールは意表をつかれた。
「……はて、あのグラモンの倅が女に手を上げるとは?」
「食堂で何事か口論になったようで」
「困ったものじゃのう。ギトー君、手間を掛けて済まぬが双方が怪我をせぬように見てやってくれぬか。そうじゃな、
 処分は譴責と自室謹慎二日と言うところでよかろう……む?」
 爆発音が続けざまに響き、3人は顔を見合わせた。
「いかん、もう始まったようです」
「いやギトー君、見たまえ」
 オスマンの杖の一振りで壁に掛けられた大鏡がその映すものを変える。
 映し出されたものはタクト状の杖を素早く振るルイズと、5人掛けのベンチを小枝のように左右に振り回すあの大猫、
 そしてベンチの周りで繰り返される爆発だった。
「ほほう。あの娘、決闘を前に練習しておるようじゃな。猫にじゃらされておるようにも見えるが」
「なんとも付け焼刃ですな。しかもことごとく失敗しております。これでは勝負は一方的なものに……失礼しました、
 ヴェストリの広場へ向かいます」
 答えると同時にギトーは窓から空中へ飛び出し、二つ名の通りに疾風と化して去っていった。
「さてコルベール君、ワシの昔話よりは試合結果を予想してみんかね」
「教育者として不謹慎に思われますが……ギーシュ・ド・グラモンの勝ちでしょうな」
「なんとも面白みの無い予想じゃのう。ではワシはミス・ヴァリエールの勝ちに。そうじゃな、夕食のワインでも賭けんか」
「いいでしょう」
413オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:12:17 ID:4TTTvJ+r

「遅かったね、ルイズ。練習してきたのは良いが、全部失敗だったようじゃないか」
 ルイズの失敗魔法の爆発音はヴェストリの広場まで聞こえていた。
 それを聞き逃したものがあったとしても、ルイズの失敗魔法について知るものがルイズとその使い魔の煤けた姿を
見れば明らかだった。
「減らず口はそれだけ?最後に機会を与えるわ、ギーシュ」
 ルイズは胸を反らした。
「どんな機会なのか聞いてみようじゃないか」
「あなたが女の子に不実を働いても、使用人に八つ当たりしても、それはあなたたちの問題だわ、感心しないけど。
 でも、貴族の誇りを八つ当たりの口実にしたこと、不実を責任転嫁する口実にしたことはダメ。この私は寛大だ
 から、今のうちに『個人的に解決すべき問題でした』って言えば許して差し上げるわ」
 ルイズは言い放つとポケットから石を取り出した。ギーシュはわずかに動揺を見せたが、すぐに立ち直って冷笑で
答えた。
「僕が拒否すればどうするって言うんだい、ゼロのルイズ。その石でも投げつけるのかい?」
「叩きのめして思い知らせるのよ」
 ギーシュばかりか、遠巻きに周囲を取り巻く生徒たちの間からも失笑が漏れた。
 笑わないものも居る。
 赤毛の女生徒は長身を屈め、隣の青髪のクラスメイトに問いかけた。
「タバサ、どう見る?」
「なにか策がある。具体的なことは判らない」
 それが聞こえたわけではなかったが、同じ問いを発したものもいる。
「使い魔……失礼、ミスタ・ハミイー、ミス・ヴァリエールには何か策があるのかな」
「うむ、まあ見ておくが良かろう」
 生徒の輪の外でギトーが宙に浮いたままでハミイーに問いかけ、ハミイーは短く答えた。
 ギーシュが杖を振り、女性を模した青銅のゴーレム、彼曰く「ワルキューレ」を一体生成する。
 同時にルイズは石を投げ、タクト状の杖を引き抜いた。石はゆるやかな放物線を描いて飛び、20メイルほど
離れて対峙する両者の中ほどに落ちた。
414オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:13:21 ID:4TTTvJ+r

 最初の爆発はワルキューレの横で生じ、青銅の肌を煤けさせるに留まった。瞬時に次の爆発が起きるが今度は
逆側から爆風を浴びせたのみ。
 さらに次の爆発が生じ、直撃を食らったワルキューレはひしゃげながら空中に舞った。
 見物の生徒たちがどよめく。
 驚いたのはギーシュも同じだったが、即座に対応策を「思い出した」。
 薔薇の杖を振り、大盾を装備したワルキューレを自分の前に六体生成する。
 吹き飛ばしたワルキューレにさらに一撃を加えたルイズがギーシュに杖を向けたときには、土メイジは自分の前に
防御陣形を形成していた。

 間に合った。
 ギーシュはそう安堵の息をついた。
 ルイズの姿は大盾の隙間からわずかに見えるだけになったが、十分だ。
 失敗魔法を攻撃手段に使ってくるとは考えもしなかったが、そうだと知れば対処はたやすい。規模こそ違うが、
父や兄に教わった対砲兵戦術が答えだ。
「戦列、前へ」
 敵砲兵陣地へと前進するゴーレムの横列のようにゆっくりと、ワルキューレは前進を開始した。そしてギーシュは
戦列の背後を進んでゆく。
 次々に爆発が生じてワルキューレを揺さぶるが、命中しない。
 先ほど、一体目を吹き飛ばしたのはまぐれ当たりだったのだろう。盾の隙間から自分を狙うことも出来ないようだ。
 そう考えた途端、爆発が中央のワルキューレに直撃した。いや、直撃したのは大盾か。
 まだ油断しているなギーシュ・ド・グラモン。この砲撃を侮っては危険だ。しかもこれほどの勢いで連射してくる
砲兵との戦闘など、父や兄の講義にも無いぞ。
 己を叱咤し、盾を失ったワルキューレを突撃させる。
 爆発が繰り返される中を突撃したワルキューレは数秒後には土に戻ったが、その時にはギーシュは戦列の隙間を
塞いでいた。
 最初にワルキューレ任せにするつもりで距離を取りすぎたな。だが、このペースならなんとか行けそうだ。
爆風だけでも相当な威力でワルキューレたちが持つ大盾にヒビが入っている。
 しかしワルキューレ全てを破壊されるよりもこちらが砲兵陣地を蹂躙……もとい、ルイズの杖を弾き飛ばす方が早
いはずだ。あと10メイル前進すれば僕の勝利だ。

 ヴェストリの広場にひっきりなしに爆発音が響き、煤と埃が立ち込める。周囲では生徒が咳き込み、毒づく。
 あろうことか、ルイズが詠唱を繰り返しつつ前進を始めた。
415オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:14:15 ID:4TTTvJ+r
 自棄になったのか?
 それとも近づくことで精度が上がるのか?
 そのどちらでもなく、ルイズは土埃の向こうへと回り込み姿を消した。そして爆発が途切れる。
 突撃破砕射撃だとばかり思っていたが、煙幕展開を兼ねていたのか。
 ギーシュは戦列を停止させてその両端を後方に下げ、半円陣形へ移行する。
 ルイズは砲兵により前進を拘束し、騎兵に側面突撃を行わせる戦法を一人二役で行うつもりだ。この戦法への対処
も実地では初めてだが、事前に知っている。
 さて、ルイズはどちらから攻撃を再開する。右か、左か?
 戦列から散兵へと移行し、こちらから仕掛けるか?
 いや、それこそがルイズの狙いだろう。待てギーシュ、せめて視界が開けるまで。
「……"錬金"!」
 鋭い声が響き、ワルキューレの足元でひときわ大きな爆発が生じた。ワルキューレが浮き上がり、強大な爆風がギーシュを襲う。
 ギーシュは失策を悟った。
 あの石、あれは地雷だったのか。
 意識が遠のき、集中が解ける。宙に浮いたワルキューレが土へ戻るのを見ながら、ギーシュは後ろへ吹き飛ばされた。

「手出しするな、ミス・モンモランシ。処分者を増やすことは私も学院長も望まない」
 ギトーは杖を抜きかけた金髪巻き毛の女生徒に低い声で命じた。少し離れたところではブラウンの髪を持つ女生徒がもう一人の
ギトーに制止されていた。

 埃が立ち込める広場で、ギーシュが頭を振りながら起き上がる。土と埃にまみれ、口元から血を流しつつも杖を握り締め、
その目は歩み寄るルイズをしっかりと見据えている。
「あなたのゴーレム生成は7体が限度だったはずよね、全部破壊したわよ。約束どおりあなた自身も叩きのめしてあげた。
 降参しなさいギーシュ・ド・グラモン」
「……嫌だと言ったら?」
「降参するまで叩きのめすわ。第一、地に膝どころか手まで着いてるその様で、まだ負けてないって言い張るつもり?」
「もちろんさ。何故なら……これで僕の勝ちだ!」
 ギーシュは跳ね起きてルイズへに切りかかった。一瞬前まで地に着いていた手には青銅の短剣。
 狼狽も露に、ルイズが杖をギーシュに向ける。
 突風が巻き起こり、両者を吹き飛ばした。
「そこまで!……ミス・モンモランシ、両者に治癒を掛けたまえ。見物の諸君、ただちに解散しなさい」
 ギトーが杖を収めつつ厳しい声で次々に命じ、生徒たちは不承不承散ってゆく。その隙間を縫ってシエスタがルイズへ駆け寄った。
「手加減はしてあるから安心したまえ、ミス・ロッタ」
 もうひとりのギトーがブラウンの髪の女生徒を解放し、傍らのハミイーを振り返る。
「ミス・ヴァリエールがとった作戦はあなたが授けたものでしょうか、ミスタ・ハミイー」
「さきほど実験してみたら、ルイズめの爆発には精度と規模に何通りかあることが判ってな。爆発を砲として力押しするよう
 俺は勧めたが、もっとも座標精度が高い物質変換を地雷として使ったのはルイズ自らの考えだ」
「猫の国には砲や地雷を装備した軍隊があるわけですな」 
「あるいは、おぬしらが知らぬ兵器もあるやもしれぬな。ところで、おぬしらは双子なのか」
 ハミイーが問うと、もう一人のギトーがかき消されるように消えた。
「ぬ?!」
416オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:15:50 ID:4TTTvJ+r
 ギトーは決闘を行った二人の生徒へと歩み寄り、処分を伝えた。ルイズの決闘相手を介抱していた二人の娘が抗議したが、
ギトーは意にかいした様子もなく、ルイズを介抱していた黒髪の娘に席を外すように命じた。
 そして決闘者二人への叱責を始めた。これもオスマンが命じた処罰の一環であるらしい。
 ハミイーには決闘の勝敗を付けさせないこと自体が厳しい処分に思えたが、人間が違う考えをするものだとは理解している。
 地球へ赴任していたころのことを思い出し、そしてハミイーは首をかしげた。
 機械やそれを応用した武器の類はいっさい見かけておらぬのに、こやつらは地球人と似た発想で戦術を使い、
あるいはちょっとした示唆で編み出す。
 言葉が一致している以上におかしなことだ。
 同じ言葉を使い同じ先祖を持つ人類同士であっても、地球人とウィ・メイド・イット人では戦術が違うものだ。
 だがこやつらは?
 まだ二例しか観察していないから結論するには早い、かつて旅をしたあの地球人ならそう評するところであろうが、
さてどうしたものか。


「……ギトー君にも困ったものじゃな。賭けが台無しじゃわい」
「止めなければミスタ・グラモンの短剣がミス・ヴァリエールを制したと考えます」
「ふむ、まあ戦いについてはワシはコルベール君に及ぶところではないからのう。ついでじゃから講評でもして見んか」
「ミス・ヴァリエールが失敗魔法を砲撃と地雷の代用として用いたことを除けば、ごく一般的な砲兵とゴーレムの戦闘です」
 コルベールの評にオスマンは眉をしかめた。
「失礼しました。教師として講評するなら、ミス・ヴァリエールは失敗魔法を活用する柔軟性を示したと言えます。
 それは部分的に成功を収めましたが、彼女がそれで満足するとは思えません。今後もちゃんとした魔法を使えるように
 努力を続けるでしょう」
「ふむ。もう一人については?」
「ミスタ・グラモンも他の生徒と同様にミス・ヴァリエールを実技の劣等生とみなしてきたはずです。その相手に苦戦した
 ことから、何か良い教訓を得るかと思います。これは観戦していた他の生徒にも言えることです」
 コルベールは言葉を切り、付け加えた。
「今日の決闘……試合を見た生徒の中で、ミス・ヴァリエールを相手に戦って勝てると自らを評するものは少数でしょう。
 実際に勝てるものよりはいくらか多いかもしれませんが」
「ふむ。コルベール君ならどうか?」
「……殺すつもりなら簡単ですが、手加減した場合には負ける可能性があります」
「これはワシが悪かったな、すまん」
 苦い顔でコルベールは答え、オスマンが詫びた。
「ところで、昨日の話の続きをお願いできませんか」
「ふむ……そろそろミス・ロングビルが戻ってくるころじゃてな、また日を改めてくれぬか」
417オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:17:11 ID:4TTTvJ+r
「タバサはどう見たかしら?ギトー先生が介入しなかったら、ギーシュが短剣をルイズの喉元に突きつけるのと、
 ルイズの失敗魔法がギーシュを吹き飛ばすのとどっちが早かったかって話だけど」
 教室へと歩きつつキュルケは小柄な友に問いかけた。自分でも答えは判っているが、戦歴豊かな友の意見を知りたかった。
「あの間合いでは確実にミスタ・グラモン。ミス・ヴァリエールは無造作に歩み寄らずに攻撃続行すべきだった」
「それは同意するわ。ところで、タバサならルイズに勝てる?最初の20メイルの間合いからと仮定して」
「あなたも私も勝率と条件は似たようなもの。こちらが詠唱している間にあの爆発が直撃したらそれでおしまい。呪文が
 完成するまで当たらなければ、こっちの勝ち」
「やっぱ確率の勝負ね。もしルイズが失敗魔法の精度を上げたら厳しいわ。双方使い魔の支援ありならどうかしら?
 まあ、まだルイズは契約してないみたいだけど」
 キュルケは新たな問いを発した。
「あの大猫はライオンや虎の成獣が直立して両手を使えるものと思えば良い。大剣かメイスでも持たせれば、あなたの
 フレイムと互角と思う」
「シルフィードよりは弱いって?って、まぁそうよね」
「大猫がルイズの盾として時間稼ぎした場合、私もあなたも勝てない可能性が高くなる」
 タバサは淡々と答えた。
「あの爆発はそれほどの脅威。連続して唱え続けられれば、いつかは当たる。そしてひとつ直撃すればおしまい。人間はもちろん、
 フレイムやシルフィードでも吹き飛ぶ」
「フレイムやシルフィードに大猫を攻撃させて、ルイズを無防備にしたら?」
「わたしは、あの爆発の中をシルフィードに突撃させたりしたくない」
「そりゃ私だってそんなことしたくないわよ、そもそもルイズと戦うつもりもないし。仮定の強さと戦術の論議よ」
 キュルケは少し腹を立てた。
「奇妙な発言。ツェルプストーとヴァリエールはいつか戦場で相対する可能性が高い」
「……タバサもそういうことするのね……」
 キュルケは友にからかわれていることに気づき、唖然とした。友はすたすたと廊下を歩いてゆく。

 教室に入り、いつもの席に着く。
「話題変えましょう。ギーシュはどっちを選ぶと思う?モンモランシーと、あの一年生とってこと」
「見当もつかない。そもそも、ミスタ・グラモンは私やあなたにも声を掛けたことがある」
「まったく、好みってものが無いのかしらね。女と見れば見境ないのよねー」
 タバサがほんの少し表情を変え、キュルケは友が愉快げに笑っていることを読み取った。
418オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:18:13 ID:4TTTvJ+r
「……負けちゃった……」
 休み時間が終わるまでたっぷりとギトーに叱責され、自室に引き上げたルイズはベッドに腰を下ろしてがっくりとうなだれた。
「このような場合、作戦目的達成と喜ぶのがおぬしらの流儀ではないのか?」
「それは、確かにギーシュは個人的な問題と認めたし謹慎が明けたらみんなの前でそう宣言するって言ったけど……
 わたしが言わせたんじゃなくてギトー先生が叱ったからだもの。私の勝ちじゃないわ」
「おぬしは『ゼロのルイズ』と呼ばれておるな。明日からはそう呼ぶものは居なくなるであろうよ」
 ルイズは素早く立ち上がり、渾身の力をこめてハミイーの脚を蹴った。
 ぼふ。
 分厚い毛皮と柔らかい筋肉に衝撃が全て吸収され、覚悟していた爪先の痛みさえなかった。
「あんたにっ!」
 拳を固めてハミイーの腹を殴りつける。
 もふ。
 これもなんら効いた様子が無い。
「あんたなんかに、何が判るって言うのよっ!」
 なおも殴り続ける。ハミイーの巨体は微動だにしない。
「地球に赴任しておったころも俺や同僚は人間の子供から人気があったものだ。ヌイグルミと言う玩具に似ておると言うことでな」
「私は子供じゃないっ!」
 もう一度蹴りを入れる。やはり効いた様子が無い。
 ハミイーの巨大な手がルイズの頭を押さえた。
「おぬしは子供だ。クジンの子らがそうであるように、人間の子供も伸びしろを持っておるはずだ」
「……なぐさめてるつもり?」
「ばかな。強くなれと言っておるのだ。そうだな、もし俺に勝てれば無条件で使い魔契約を受け入れてやろう」
 ルイズはしばらく震えていたが、やがてふっと力を抜いた。
「ありがとう、ハミイー。だいぶ先のことになるけど、いつか決闘に応じてくれる?」
「よく考えるのだぞ。我らクジン族の流儀では、決闘の敗者は死ぬか奴隷になるしか無いのだからな」
「再挑戦は無いの?」
 ルイズはハミイーを見上げた。額に触れる肉球の感触が心地よい。
「おぬしが俺の子であれば再挑戦もありなのだが、そういうわけにも行くまい」
「猫の国でも、親子は特別なんだ……」
「人間の親子ほどではないがな。さて、俺はしばらく席を外す。オスマンに話があるのでな」
 ふわりと手が離れ、ハミイーは音も無く部屋を出て行った。

 ルイズは追いかけようかと思ったが、すぐに思い直した。
 学院長はハミイーを使い魔候補と認識している。
 事実そのとおりだ。
 その使い魔候補の言葉などに左右はされないだろう。
 いや、そもそも、ハミイーが私の処分に関して学院長と話をするつもりだなどと考えたのは何故だろう?
419オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:18:57 ID:4TTTvJ+r
「さて猫どの、今日は何用ですかな?」
 ハミイーはオスマンを凝視した。ただならぬ雰囲気に、ミス・ロングビルの手が止まる。
「おぬしらはどのようにして他の惑星と連絡を取っておるのだ?」
 その問いに、オスマンは爆笑した。即座に、ハミイーの右手が閃く。
 たっぷりとした毛に隠していたのだろう、握りしかない小さな杖がその手に現れ、その先に赤く光る小さな球が現れる。
 その球がオスマンの鼻先へと瞬時に移動し、ぴたりと静止した。
「何のまねか知りませんが、学院長の前からそれをどけなさい!」
 ミス・ロングビルが鋭い声を発するが、オスマンは手を振って制した。
「杖を収めて座りなさいミス・ロングビル。猫どのが本気であればワシの首はすでに落ちておるよ。この光る球と、猫どの
 の手元との間には目に見えぬほど細い糸が伸びておるのじゃ。鋭い刃としてな」
 オスマンはハミイーと秘書を交互に見やってから説明した。その言葉にハミイーが目を細める。
「それほどの長さを持ち、目に見えぬほど細い『ブレイド』など聞いたこともありません。『レビテーション』で球を
 浮かべているのでは?」
「うむ、初めて見るのではそう考えても無理はあるまい。猫どの、笑ったことはお詫びしよう。ミス・ロングビルに見せて
 やってくれぬか」
「おぬしの挑発はあまり良い出来ではないぞ、オスマンよ。まあ良い、使って見せよう」
 ハミイーが右手を翻し、赤い球が光の曲線を描いて窓際に置かれた花瓶と窓の間を通過した。花瓶は微動だにしなかったが、
そのネックと活けられていた花が斜めに滑り落ちて床に転がる。
 切断面は鏡面のように滑らかだった。
「そんな……その花瓶には私が固定化を……」
「仮にワシが掛けた固定化であっても同じであろうよ。猫どのが手にしておる武器は『ブレイド』よりも優れたものじゃ」
 眼鏡の奥でミス・ロングビルの目が輝いたように見えたが、それも一瞬のこと。その細い眉が逆立つ。
「その花瓶は高かったのですよ。活けた花も私が手ずから摘んできたものです」
「おお、あれはおぬしの私物であったか。いずれ弁済しよう、許せ。しかし、以後は俺とオスマンの話に口を挟まぬことだ。
 どのみち、おぬしには理解できぬ話であろうしな」
「ということじゃからミス・ロングビル、会話の速記を頼む。ワシにとっても滅多にない機会ゆえにな。猫どの、
 自在剣の刃を収めてソファーにお座りくだされ。なに、猫どのが座っても壊れはせぬよ」
 オスマンの言葉どおり、ソファーはハミイーが腰を降ろしても軋みさえしなかった。
420オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:19:55 ID:4TTTvJ+r
「さて、他の惑星との連絡手段じゃったな」
「そうだ。流暢な共通語を話すことと言い、人間を含む生物の構成と言い、あまりにも地球と一致しすぎておる。これが
 平行進化の結果生じた偶然などとは言わせぬ。人やさまざまな生き物の行き来なしにはこれほど一致することは出来ぬ」
 巨大な猫が断言し、オスマンがゆっくりとうなずいた。
「なるほど、のう。さて、何から説明すれば良いじゃろうか」
「ブリミルが六千年前に来訪うんぬんと言うおとぎ話はうんざりするほど聞いた。授業を傍聴し、何人かに質問してみた
 ところでは皆がそれを信じておる様子であったが、おぬしは例外であろう」
 オスマンの目が遠くなり、再び焦点を結ぶ。
「猫どの、ワシにも全てが判っておるわけではないのじゃ。ブリミルが六千年前に文明を開いたとする証拠はいくつも
 見つかっておるし、伝えられてもおる。もちろん猫どのが言われるように、他の惑星からもたらされたものが多数に
 のぼることも認めねばならんが」
「多数どころではない、目にするあらゆるものが地球原産としか思えぬ。地球では架空の存在とされる類の生き物も含めてな」
「それについては、この惑星で生まれ育ったワシには判らぬよ。猫どのが見聞を広められれば地球に無いものも見出される
 かもしれぬ。出来ればその時はワシにも教えていただきたいものじゃ。ブリミルが文明を開く前からこの世界に元から
 あったものは何か、ワシは知りたいと願っておる」
 速記を取るミス・ロングビル=マチルダ・オブ・サウスゴータは手が震え出すのが判った。
 この二人はいったい何を言っているのだ?そもそも、昨日は追い出した私に今日は何故、こんな話を聞かせている?
「おぬしの言葉もいささか要領を得ぬが、言葉どおりに解釈するならおぬし自身は他の惑星についてはさほど知らぬ
 のだな?」
「いかにも。他の人々はそれさえも知らぬであろうよ」
「ではまず、おぬしが他のものと違う知識を持っている理由を聞こうか」
 うなずいて、オスマンは語り始めた。
 若き日、ブリミル教の敬虔な信徒にして駆け出しの学者であったオスマンは、ブリミルが開いたこの世界に対する
理解を深めるべくフィールドワークに出ていたこと。
 山中でワイバーンに襲われ、反撃するも気力が尽きて追い詰められたこと。
 諦めかけたときにワイバーンが塵と埃に化して飛び散ったこと。
 視界が開けたとき、オスマンの前には見たこともない服を身にまとい、得体の知れぬ武器を手にした男が立っていたこと。
 オスマンは涙さえ浮かべて「我が命の恩人」と言った。
 その恩人は今しがたハミイーが発したのと似た問いを発してきた。
 若きオスマンは最初、恩人は狂人であると考えた。
 会話を続けるうちに狂人ではなく異端者か、あるいは東方からの来訪者であると考えるようになった。
 いずれにせよ、オスマンは恩人を匿うことにした。
 住処さえ確保してしまえば、匿うことには苦労しなかった。恩人は視線を向けるだけで相手の意識と記憶から自分を
消してしまう能力を持っていたから。
「プラトー・アイズか」
 ハミイーが頷く。オスマンの話に聞き入っている様子の大猫は、マチルダが青ざめたことには気づかぬようだった。
「ほう、そういう名前の能力じゃったのか。さて続けよう」
421オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:20:37 ID:4TTTvJ+r
 恩人が語るさまざまな知識をオスマンは学び、あるいは理解できぬままに書き留めた。
 その日々も長くは続かなかった。数ヵ月後、恩人が急激に老い、衰え始めたためだった。それから一週間も経たぬうち
に恩人はベッドから起き上がることさえ出来なくなり、息を引き取った。
「ブースター・スパイスが切れたのだな」
「そのように言っておったな。恩人の最後の言葉は、『あれを見ろ山へ帰りたい』じゃったよ」
 その後、オスマンは恩人から授かった知識と、意味もわからぬまま書き留められた言葉の数々を検証し、学者としての
知識とすり合わせていった。
 最初は意味がわからなかった言葉の数々も、いくつかは検証を続けるうちに理解できるようになった。
 老齢になるまで実験や観測を繰り返して自分の知識としたものもある。
 地動説が正しいことや、夜空の星が太陽であること、ハルケギニアは惑星表面の球面の一部であり、それを前提と
しなくては正確な大規模地図は描けないことなど。
 諸国を彷徨い噂を集めて恩人の言葉と整合させた知識もある。たとえば、『場違いな工芸品』なるものの正体がそれだ。
「なんだ、それは?」
「この惑星の技術では作れぬはずの、精密な機械がそれじゃな。ごく稀に、使い道も判らぬままに市場に出ることがある。
 それが他の惑星からなんらかの方法で持ち込まれたものと推測したワシは当初は市場の噂を集める努力を払った。が、
 すぐに中止せざるをえんかった」
「理由は」
「ロマリアの異端審問官が『場違いな工芸品』について噂を集めていると聞いたからじゃよ。ワシは火刑に処せられる
 つもりはないのでな」
 再びマチルダの手が止まる。
 オスマンの表情を探るが、遠い記憶を思い起こしているのかマチルダの動きに気づいた様子はなかった。
「ワシは他の方法を採った。ハルケギニアで最も長い伝統を持つこの学院に教師として雇われ、勤務実績を積んで図書館
 のあらゆる蔵書を読む権利を得た。案の定、図書館にも『場違いな工芸品』ならぬ『場違いな書籍』があったよ」
「ふむ。それらを読み解いたのだな?」
「そればかりに専念するわけにも行かぬでな、時には数ページの意味を読み取るのに十年掛かったこともあった。一冊読む
 のに百年掛かったこともあった。恩人が授けてくれた知識の検証も進めた。しかし、もっとも知りたいことはいまだに
 判らぬままじゃ。ブリミルとは何者なのか。なぜ他の惑星から人や物が流れ着くのか。判らぬまま長い年月が過ぎて、
 猫どのが現れた。そして先ほどの問いじゃ」
「ほう、つまりおぬしはブリミルとやらの正体に疑念を持っておるのか。その女の宗教的立場を確認した方が良い
 のではないか」
 オスマンと大猫の視線を向けられ、マチルダは震え上がった。
 大猫は単なる知性を持った使い魔でもなければ、オスマンは単なる好色な老人でもない。
「面白い話じゃろう、ミス・ロングビル」
「ま、まるっきりのおとぎ話で人に伝えるようなものではありませんわ」
「まあそういう事にしておくのじゃな。さて猫どの、そちらからも話を聞かせて欲しいのだが」
「しかしこの女、おぬしがプラトー・アイズの話をしたところで身をすくめた。その動きが俺の耳に聞こえたのだ」
「ほほう、それは興味深いことじゃて」
 マチルダは泣きたくなった。自分に疑惑の目を向けているスクウェア・メイジと、表情は判らないが得体のしれない
武器を手にした大猫。
 先手を取るにも、この部屋には土と言えば植木鉢にあるものだけ。床も壁もスクウェア・メイジによって固定化されている。
 立ち上がったオスマンが歩み寄ってきた。その手が伸びてくる。
 マチルダは金縛りにあったように動けなかった。目を固くつぶり、心中で妹に別れを告げる。
「うむうむ、やはり大きさと言い感触と言い素晴らしいのお。若返る気分じゃ」
 不気味な感触にマチルダが目を開くと、オスマンの両手が彼女の豊かな胸を蹂躙していた。
422オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:21:24 ID:4TTTvJ+r
「よく判らぬが、あれで口止めになるのか?」
「いや、口止めとは何の関係もないのじゃ。どのみちミス・ロングビルは忠実な秘書じゃて、異端審問官へ告げ口など
 せぬよ。さて、猫どのの話を聞かせて欲しいのじゃが」
 頬を赤く腫らしたオスマンが席に戻り、ハミイーを促した。
「おぬしは舌も滑らかに語ったが、まだいくつも伏せている話があるな。よって現状では大した話は出来ぬ。
 俺は今のところ仮説を二つほど立てておるが、今話せるのはそれくらいだ」
「お聞かせいただきたいものじゃ」
「では、まずひとつ。ブリミルは地球の人類であり、六千年前にこの惑星に到達して植民地を開いた。
 そしておぬしらが魔法と呼ぶ特殊能力を持つ人間を育て始めた」
「その説は恩人も一度口にしてその場で否定したものじゃな。人類が太陽から太陽への長い航海を出来るように
 なってから、まだ数百年しか経っておらぬとのことで」
 オスマンの言葉に、ハミイーはわずかに笑った。
「人類自らの手になるものではないと考えればどうだ。六千年以上前から恒星間航行の能力を手にしており、
 なおかつ他の種族を改造することに何のためらいも持たぬ種族を俺はひとつ知っておる。その種族が人類の一団を
 この惑星に移植し、おぬしらに気づかれぬように品種改良を続けてきた」
「恩人や『場違いな工芸品』の持ち主たちは追加の移植であると?」
 人間を異種族にとっての家畜とみなすハミイーの言葉にマチルダは気分が悪くなったが、速記の手は止めなかった。
「そういうことになるかもしれぬ。ただしこの仮説には、次の仮説と同じ欠点がある」
 ハミイーはオスマンを見据えて続けた。
「おぬしの話が全て偽りであり、人類自身が秘密の植民地で特殊能力者を育成している。育成されている
 特殊能力者たちはその事実を知らず、ブリミル云々の作り話を信じている。これが二つ目の仮説だ。
 こちらの場合、おぬしは育成担当者のひとりとなろうな」
「ふむ。して、欠点とは?」
「言葉だ。前者の仮説を採用すれば地球とおぬしらは言葉でのやりとりが出来ぬし、後者でも頻度に制限が掛かる。
 それでは数世代が経過すれば言葉が通じなくなる。にも関わらず、おぬしらは地球の人類と全く同じ言葉を使い、
 考え方さえ似通っておる。さて、今日はここまでだ。オスマンよ、真偽はどうあれ有意義な対話であったぞ」
 ハミイーは音もなく立ち上がり、学院長室を出て行った。
423オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:23:08 ID:4TTTvJ+r

「……言葉云々と言うのはどういう意味なのでしょうか」
「ああ、たとえばじゃミス・ロングビル。定期的な会話のやり取りが無い限り、言葉は地方ごとに変わってゆくもの
 なのじゃ。サウスゴータとロンディニウムの言葉には違いはない、人の往来が盛んじゃからな。しかし、たとえば
 スカボローあたりまで北上して平民と会話して見れば互いに訛りがあると思うはずじゃ。さらにアルビオン人が
 トリステインに来れば、お互いに感じる言葉の違いはより大きくなるわけじゃ」
「……」
 マチルダはうつむいて唇をかみ締めた。
 今の言葉は脅迫なのか?
 オスマンは自分に関して何を知っているのだ?
「あの猫は流暢なトリステイン語を話していました。あの猫が気づいていないだけで、召喚主のミス・ヴァリエールが
 サモン・サーヴァントによって刷り込んだのでは?」
 気を取り直して反論を試みる。
「我々が気づいていないだけで、我々が共通語を話しておるのかもしれぬぞ?」
「それは……あの猫に、ゲルマニア人やガリア人と会話させてみれば検証できるのでは。たぶんあの猫は訛りに気づかないと思います」
 オスマンはため息をついた。
「それは問題を発散させるだけじゃな」
 マチルダは学者ではないが、この評価には悔しさを感じた。
「ブースター・スパイスなるものについて教えていただけませんか」
 表情を改め、話題を変える。
「よかろう。ミス・ロングビルはどのように推論しておる?」
「オールド・オスマンの恩人が用いていた老化防止の秘薬でしょう。そして、オールド・オスマンは研究を重ねて
 その複製に成功したか、あるいは同じ効果があるスペルを開発された」
 以前から持っていた推測を補強して告げる。難しい推論ではない。学院のベテラン教師たちの証言によれば、この
老メイジは少なくとも数十年前から姿が変わっていない。
「一部は正解じゃな。しかし、ミセス・シュヴルーズなどは今の話を聞かずに後者と同じ推測に到達して教えを請いに
 来たものじゃぞ」
 オールド・オスマンは上を向いてにたりと笑い、マチルダは眉をひそめた。
「おお、思い出すだけで鼻血が出そうじゃ。当時のミセス……いや、ミス・シュヴルーズは今のおぬしよりも
 恐ろしいプロポーションをしておってな。ぴっちりしたブラウスとスカートを身に付けて歩くものじゃから、
 男子生徒が廊下や教室に蹲っておったものじゃ」
「で、どう答えられたのです」
「そうそう、そんな風に胸を強調しながら聞いてきおってなあ。いや眼福じゃったよ……そんな目で見るでないわ。
 かつてミス・シュヴルーズにも答えたことじゃが、水のスクウェア・メイジに限ってワシの知る老化防止の方法を
 用いることが出来る。それ以外の者に教えても意味を成さぬ」
「……私は土のラインに過ぎません」
「なに、土メイジとて努力を重ねれば水のスクウェアを兼ねることも出来る。ワシが保障しよう。当時のミス・シュヴ
 ルーズはもっと手っ取り早い方法を採ったがな」
「ミセス・シュヴルーズの夫君は水のトライアングルとお聞きしましたが、そのような経緯があったのですか」
「さよう。ところが、結婚した途端に老化防止のことなどどうでも良くなったようでな。今はあのとおり、
 若き日の美貌は見るかげもない。夫に修行を強いることもせぬ。……とりあえずこんなところじゃな。もしミセス・
 シュヴルーズに話を聞くのであれば、茶と菓子を用意してからにしておくことじゃ。のろけ話を始めると長いからのぉ。
 それと、もうひとつ」
「なんでしょう?」
「もし水のスクウェアを捕獲してきたら老化防止について教えてやっても良いのじゃが、年老いぬ美女と言うものが
 世間からどう見られるか考えておくのじゃな。ワシのような歳経たメイジがそれ以上老いずとも、妬み疑うものは
 滅多におらんのじゃが」
「……」
「まあ、ワシには時間はたっぷりとある。ミス・ロングビル自らが水のスクウェアになるまで待つことも出来るが、
 出来ればぴちぴちしている内に教えてやりたいものじゃのう」
「考えて見ます」
 マチルダは自席に腰を下ろし、執務を再開した。
 その姿にオスマンはわずかに頬を緩めた。
424オレンジ色の使い魔:2010/06/26(土) 19:24:53 ID:4TTTvJ+r
投下終了です。今後は30KB程度で区切ってゆきたいと思います。

>>410
野暮用が発生しまして。野暮用がなんだったのかを語るのは野暮ですので避けるとします。
425ゼロの双騎士 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 19:39:28 ID:iQhi0kqR
ありがとうございます^^
初めてだったんですが意外と評価が大きくて嬉しいです^^
ただいま、続きを鋭意執筆中。

>>406
召喚元の作品は「バハムートラグーン」、スクウェアのSFCソフトですね。
よくも悪くも名作として名が通ってます。機会があれば是非プレイしてみてください^^
der Luft Atollという名の攻略・ファンサイトがあります。
バハラグ用語辞典ってのもあるので、作中の分からない単語はそれで調べてみると分かるかも知れません。

>>407
パルは嫌いじゃないんですよね。ヨヨ氏ねとは思いますがww
ブランドゥングだかレンダーバッフェだかってドラゴンがいましたねぇ。確か作中で倒したんじゃなかったかと。

>>409
エンディングはまだ考えてないですが、ヨヨの呪縛からは解放してあげたいと思ってますwww
426名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 19:45:51 ID:Rcl7zCJV
>>424
おもしろかった乙
オスマンの存在感がぱないな
427名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 19:50:47 ID:aIPEdemI
クロスナイトなら剣型の杖で戦うメイジで通るよな
というか各属性の長距離範囲攻撃ってそこらのメイジから見たら結構なチートなんじゃないだろうか
428名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 19:57:37 ID:iWhVbHAG
バハラグの方、オレンジの方とも乙でした。

>>425
余計なことですが、全レス返しや^^の多用は反感を買うこともあるので
注意された方がいいかも知れません。
429名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 20:07:35 ID:vnm3xs6l
>>424

なかなかに面白い考察だなw
ハミイーがルイズは地球の人物と同じ名前だとか、ブリミルは地球の神話に出てくるとか知ったらさらに面白そうだ
430ゼロの双騎士 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:07:52 ID:iQhi0kqR
>>428
ご忠告ありがとうございます、気をつけますね。

嬉しいことに早くも二話目ができたんで、投下します。
431ゼロの双騎士 第二話-1 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:09:33 ID:iQhi0kqR
>>404の続き


「あのパルパレオスという男…一体何者じゃ…?」

両者が退出した学院長室で、オスマンはパイプ片手に一人呟いた。
あの男は軍人だと名乗っていたが、それは事実だと感じられた。
彼は使い魔召喚の儀式に立ち会ってはいなかったが、魔法でその様子を見てはいたのだ。
毎年、可愛い教え子たちがどんな使い魔を呼び出すか、それを見るのは楽しかったから。
今年は、「筆記はトップ、実技は最下位、平均すれば中の上」というエラく極端な成績のミス・ヴァリエールがいた。
ゼロと(悪い意味で)名高いルイズがどんな使い魔を呼び出すか、あるいは何も呼び出せないのか。
彼女の成功を祈りながら召喚を見ていたのだが…。

まさか「人間と竜」などというあり得ないモノが呼び出されるとは。
まさかあれほど異質なモノだとは。

呼び出された瞬間と、その後の数瞬。
あの男は予想外の事態に遭遇しながら動揺することもなく、すぐさま警戒態勢へ入った。
その所作には敵意こそ無かったが、隙らしい隙もまた見当たらなかった。
学院長室へ来てからもその挙動を直接観察したが、やはり同じ。
同時に、こちらに心を許していないことも感じられた。
まず、一朝一夕に身につく動作ではない。
メイジではないようだが、念のためディテクト・マジックで調べてもみたのだ。
もちろん、それを相手に気取られるような無様な真似はしないが。

…分からないから調べたのに、調べたおかげでもっと分からなくなった。

剣を使う騎士が、魔力を持っていたのだ。彼が持つ武具にではなく、紛れも無く彼自身に。
しかもその魔力の量・質共に、人間レベルではなかった。
サモン・サーヴァントの後にフライで飛び去る生徒達を見て驚いていた様子。
そして学院長室で交わした会話の内容からしても、彼は魔法は使えないらしい。
彼のいた世界にも魔法は存在したが、空を飛ぶ魔法など無かったのだそうだ。
その割には、テレポトレースとかいう瞬間移動魔法は存在するという。
原理は彼も知らないらしいが、恐ろしく高度な魔法であることはオスマンにもすぐ分かった。
少なくとも今のハルケギニアの魔法技術水準では実現できない。
サモン・サーヴァントも現象だけ見れば瞬間移動ではあるが、対象を任意で特定することはできず、移動先は術者のいる場所のみ。
少なくとも移動手段としての魔法にはなり得ない。
これを元に改良しようにもコンセプトが違いすぎる。一から開発した方がむしろ早いだろう。
ともあれ、魔法に限らず、あらゆる技術は初歩の物から実現され、やがて高度な物へ至る。
彼の言う魔法は、その原理・原則に明らかに反している。
発達の仕方が異常なのだ。

「いきなり暴れだしたりはせんじゃろうが…よく観察しておく必要はあるようじゃの」

未知の物への警戒心と好奇心を同時に覚えつつ、一筋の紫煙を吐き出した。



+++++
432ゼロの双騎士 第二話-2 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:10:55 ID:iQhi0kqR
「何で平民が私の使い魔なのよっ!!」

むっつり黙って怒りのオーラをぶちまけつつ廊下を歩いていたルイズは、いきなりそんな事を言い出した。

「平民ではないと言ったろう?私は元グランべロス帝国将軍、兼皇帝親衛隊隊長。その後はオレルス解放軍で将軍職を拝命していた。
 支配階級と平民という分け方をするなら、私が前者であることは理解できるはずだが」

「何言ってんのよ。魔法使えないなら平民じゃないの。っていうか何で魔法使えない人間が貴族になれるのよ、ワケ分かんない」

…どうやら、魔法を使えることがこの国における人民支配の前提条件らしい。

確かにオレルスでも、ウィザードやプリースト、ワーロックなどといった魔法使い達は国に所属している場合が多い。
しかし、基本的に魔法の技能は剣の腕や政治の知識などと同じく、個々の能力の一種に過ぎない。
魔法使いが国家に所属しているケースが多いのは、軍における遠距離攻撃用魔法戦力として、あるいは治癒・補助魔法による後方支援部隊として有用だからだ。
そうでなければ、国家の魔法研究機関の研究員である。
基本的に魔法使いはどこでも重宝される。国家お預かりなら俸給も割と高い。
国家に所属していない魔法使いなら魔法医療を活かして医者に、あるいは攻撃魔法を活かして傭兵になるかだ。
いずれにせよ魔法が使えれば食うに困ることはそうそうない。

国政に携わる魔法使いも、特別少ないわけではない。
事実、ゴドランドは魔法技術が非常に発達した国だ。ゴドランド政府の要職にある人物はほとんどが魔法使いだった。
だが、魔法使いだから国政に携わる、などという考えはオレルスには存在しない。
国家の要職に就き、国土の統治に当たる者に必要とされる資質は政治能力であって、魔法ではないはずだ。

…というような事をルイズに話してみたのだが…


気のせいか?ルイズの体から立ち上る怒りのオーラが一層濃くなっている気がする。
不意に顔を上げたルイズが杖を此方に向けて…

轟音。

そう表現するのが馬鹿らしいほどの音が鼓膜を揺さぶった。
思い切り吹っ飛ばされたことを知覚した私の意識は、そこで途絶えた。



+++++
433ゼロの双騎士 第二話-3 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:11:47 ID:iQhi0kqR
まだ意識が朦朧としている。
やたらと重いまぶたを開いて、ぼやける目でその光景を見た。
こちらを覗き込んでいる少女の顔。

不意に、その少女が顔を近づけてきて…

いきなり左手に走った痛みが、無理矢理意識を覚醒させた。
全く、最悪な寝起きだ。
…などと暢気なことを考えている辺り、結構私も大丈夫そうだ。
痛みは気合と覚悟で耐えられる。戦場で生きてきたのだから、気が狂う程の激痛すら幾度も経験しているのだ。
まぁ、それでも痛いものは痛いのだが、死にさえしなければどんな傷も瞬時に治す、明らかに狂った性能の治癒魔法や回復薬があったのだ。

気づけば、見知らぬ部屋にいる。
私が寝ているのと同じようなベッドが複数。
各ベッドを隠せるような形になっているカーテン。
壁の棚にはいくつもの薬瓶。
恐らく医務室なのだろうが…何故ここに?

顔を顰めてルイズを見やる。
何をした?と言わんばかりに。

「大丈夫よ。使い魔のルーンが刻まれてるだけ。すぐ収まるわ」

本当にすぐ収まった。
左手を見ると、良く分からないマーク。
使い魔のルーン、とか言っていたか。ならば恐らく使い魔の証か何かだろう。害はないはず。
使い魔というものが何をするかはオスマンから聞いていたが、一生を共にする使い魔を害するようなメイジはそうそう居ないはず。
一度ルイズに吹っ飛ばされたような気がしたが、まぁ気のせいなのだろう。
…気のせいなはずだ。
気のせいだと思いたい…。

こうして私は、名実共にルイズの使い魔となった。
一抹どころではない不安と共に。


+++++
434ゼロの双騎士 第二話-4 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:12:35 ID:iQhi0kqR
「だから、使い魔の仕事は簡単に言えば『感覚の共有』『秘薬の採取』『主の守護』の三つになるわね」

あの後ルイズの私室へ来た私は、ルイズから使い魔の役目について詳しく聞いていた。

「ふむ…戦闘は私の本分だから守護は問題ないな」

皇帝親衛隊隊長だ。護衛任務に関してはプロである。
…何やら疑うような視線を向けられている。不本意だ。

「次に感覚の共有だけど…できてる気配が無いわね」

「感覚の共有とは具体的にどのようなことなのだ?」

「例えば視覚の共有ね。使い魔が見ているものを主も見られる…はずなんだけど」

視覚の共有はできていないらしい。であれば、聴覚や触覚なども同じだろう。
秘薬の採取も難しい。
秘薬とは鉱石・硫黄や植物など、魔法の媒介、あるいは魔法薬の材料にするための特定の自然物のことらしい。
私の知らない植物や鉱石もあるだろうし、どこにあるかも分からない。
険しい地形に分け入って戦うことはあっても、そこで物探しをしたことなどないのだ。
山や森に潜む敵兵の探し方は分かるが、石や草の探し方など知らない。

「はぁ…役に立たないわねぇ」

一方的に呼び出しておいて、酷い言い草だ。
怒る気にもなれず、溜息をついた。

気づいたらもう夜である。
ルイズもいい加減休むと言い出した。
私もどっと疲れが出てきたが…忘れていた。

「私はサラマンダーに餌を与えてくる。先に休むといい」

「あの竜のこと?…私も行くわ」

どうやら竜に興味があるらしい。
『パルパレオス!サラマンダーに会いに行きましょ!』
よくそういって私を連れまわした恋人の顔が脳裏に浮かぶ。

「そうか、では行こうか」

先ほどよりかは幾分明るくなった顔で、サラマンダーの元へ向かった。


+++++
435名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 20:13:13 ID:m5zkMjmw
しえん
436ゼロの双騎士 第二話-5 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:14:23 ID:iQhi0kqR
「ねぇ、パルパレオス。この子、なんていうドラゴンなの?」

サラマンダーはルイズにもすぐに慣れた。
ルイズに頭を撫でられて、気持ち良さそうに目を細めて甘えるように鳴いている。

「個体名はサラマンダー。フェニックス種のドラゴン…だったはずなのだが…」

今のサラマンダーは明らかにフェニックス種の形をしていない。
フェニックス種は、白銀の羽毛のような柔らかい鱗を持った羽と尾のある鳥に似た竜である。
だが、このサラマンダーは赤い炎のような鱗。考えるまでもなく別種だ。
しかし、これがサラマンダーであることは間違いない。
幾度も戦場を共にしたサラマンダーの声を聞き間違えることなど無い。
そもそも、ドラゴンの鳴き声は個体差がとても大きいのだ。
いかにもドラゴンという雄雄しい鳴き声の個体もいれば、下手な犬の物真似としか聞こえない珍妙な鳴き声の個体もいた(容姿すらも珍妙だった)。
初めて聞いた時は思わず吹き出してしまった。本当に「ワン!」と鳴くのだ。吹き出さない方がどうかしている。
直後に、気分を害したそのドラゴン(確かムニムニという名前だった)の翼でひっぱたかれたから、アレは今もよく覚えている。

(進化したのだろうか?そのような話は聞いていなかったが…)

神竜の故郷、アルタイルの独占支配を目論んだ神竜アレキサンダーの打倒。
その戦いを終えてグランべロスに帰った彼は、しばらくかつての戦友と連絡を取り合っていた。
帝国の支配が終わった後、各国政府の再編と独立、国交回復のためにパルパレオスは奔走していたのだ。
慣れない交渉事をいくつもこなしたり、各国の国益にも配慮した貿易体制を確立させたり。
国力と軍事力を鑑みて、各国のパワーバランスを調節しながら保有できる軍事力に制限を設ける条約を成立させたりもした。
幾度も国家間会議に出向いていたから、かつての戦友達と顔を合わせる機会は多かった。
カーナ、キャンベル、マハール、ダフィラ、ゴドランド、そしてグランべロス。
オレルス解放軍に所属する戦士たちの出自は様々だった。
戦いが終わった後、彼らは皆祖国へ帰り、ある者は国王に、ある者は祖国の軍や政府で要職に、薬屋を開いた者もいる。とにかく、皆様々な道へ進んだ。
誰と誰が結婚しただの、誰がどの国でどんなことをしただのと、会議の合間にそんな歓談を交わすこともよくあったのだ。
オレルス中の人間から憎まれていた彼だが、それでも解放軍の中核メンバーには親しく接してくれる者もいたのだ。
恋人にしてカーナ女王に即位したヨヨともよく話していた。戦竜隊のドラゴンの話も聞いていたのだが、サラマンダーが進化したとは聞いていない。

(進化したと言っても、一体何に…?)

フェニックスの時点で既に伝説級のドラゴンなのだ。
基本的にドラゴンは進化して弱くなるということは無い。
であれば、今のサラマンダーはフェニックス以上の力を持っているということだ。
実際、パルパレオスはサラマンダーから流れ込む魔力の質・量ともに大きく上がっていることを感じていた。
ドラゴンの魔力を借りて様々な技や能力を行使するのがオレルスの戦士・魔法使いの戦い方であるから、その力の変化は敏感に感じ取れるのだ。

(まさか、マスタードラゴンか…?)

ドラゴンの食は本当に幅広い。草や酒、キノコなどの食用物はもちろん、剣や鎧などという無機物まで平気で食らう。
しかもそれを効率よく己の力へと変換するのだ。
ただ、中には取り込めないエネルギーを帯びた物もある。
それが溜まりすぎると、うにうにと呼ばれる変なドラゴンになる。
更に溜め込むと、終いにはグレてしまうのだ。ブラックドラゴンという凶暴なドラゴンになる。
あるいは、ドラゴンに冷たくしすぎると、ストレスから逃れるために、孤高を好む性質のドラゴンへと変貌したりもする。
育成ミスでこのような姿になったドラゴンを、パルパレオスは見たことがある。
幸い、そのドラゴンは育成方針の転換で元の姿を取り戻したのだが、それはさておき。

このサラマンダーはうにうにでもブラックドラゴンでも孤高のドラゴンでもなかった。
である以上、マスタードラゴン以外には考えられないのだ。
完璧な育成、長きに渡る訓練、膨大な労力。
それらを費やしてなお届かぬほどの高みに位置する、伝説中の伝説。
ドラゴン育成の専門家であるビュウに、死ぬまでに一度は育ててみたいと言わしめた竜である。
437ゼロの双騎士 第二話-6 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:15:05 ID:iQhi0kqR
「ちょっと、何を考え込んでるのよ?」

苛立つような声に、意識を引き戻された。

「あ、あぁ…すまない。このサラマンダーはマスタードラゴンと呼ばれる種の竜だ」

「マスタードラゴン?さっきフェニックス種って言わなかった?」

疑問を挟むルイズに、オレルスのドラゴンについて少し説明してやった。
最も、ほとんどはビュウの受け売りなのだが。

「へぇ…何度も変身するんだ…アハッ」

感心とも感嘆ともつかぬ声を上げるルイズに、サラマンダーが頭を擦り付けてくる。
どうやら、すっかり懐いたらしい。
生まれた時から人に育てられてきたサラマンダーは、本当に人懐っこいのだ。

「さて、餌なのだが…何かあったかな」

持ってきた荷物袋を漁る。
基本的にドラゴンは何でも食べるので、要らないものがあればどんどん食わせる。
究極の雑食な上に大食漢、しかも常に腹を減らしているのがドラゴンなのだ。
そのくせ、何も食わせなくても痩せ細ったりしないのだから本当におかしい。
魔力を操るドラゴンだから、自然の力でも取り込んでいるのだろうか?
いずれにせよ、エネルギー効率が尋常じゃないのだ。
ドラゴンの身体を調べて技術転用すれば産業革命の二度や三度、軽く起こせるのではないか。
などと、どうでもいいことまで考えてしまった。
ともあれ、何も食わせないのも可哀想である。
使う予定のないロングソードとレザーアーマーがいくつかあったので、一つずつサラマンダーの顔の前へ置いてやった。

「ちょ、ちょっと…!何食わせてんのよ!」

驚くルイズをよそに、平然と武具に食らいつき、噛み砕いて飲み干すサラマンダー。
満足だとばかりに一つげっぷをくれて、地面に丸まった。
喰うだけ喰って、寝るらしい。
自由気ままなサラマンダーの様子に思わず苦笑してしまった。

「さて、戻ろうかルイズ」

悠然と寮へ歩き出したパルパレオスを、ルイズはただ唖然と見守るだけだった。


+++++
438ゼロの双騎士 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/26(土) 20:16:00 ID:iQhi0kqR
第二話終了。以上で投下を終わります。
439ゼロと電流:2010/06/26(土) 21:45:22 ID:wLNzfA/u
乙です。

続けてになりますが、16.5話を50分から投下したいと思います。
440ゼロと電流第16.5話:2010/06/26(土) 21:50:18 ID:wLNzfA/u
 ……助けて

 その叫びは誰にも聞こえない。
 声にならない叫びは誰にも聞こえない。
 三対の凶眼だけが、絶望の表情を楽しげに眺めている。彼女の絶望を眺めている。

 ――お前は私に従うのだ。巫女の血を引きしものよ
 ――我に仕えよ、青き髪の末裔よ
 ――戻る術など、元より無いのだから

 ……助けて

 女は男の名を呼ぶ。
 男なら、きっと自分を救い出してくれると信じて。
 女は男を愛していた。
 女は男を信じていた。
 誰からも無能と蔑まれる男を、女は心から信じていた。
 どれほど蔑まれていようと、例え魔法が使えなくとも、女は男を信じていた。
女は救いを待つ。
 混濁する意識と破壊される自我の中で、女は助けを待ち続ける。

 ……助けて

 言葉すら、喉の奥で散り散りに別れていく。
 意志はかき消され、押しつぶされ、欠片すら残らぬほどに擦り切れる。
 思考はとぎれとぎれに、記憶の断片が乱雑に積み重ねられ変貌していく。
 変貌する寸前の断片が女の脳裏を通り過ぎていく……
 
 
 
 
 
441ゼロと電流第16.5話:2010/06/26(土) 21:51:06 ID:wLNzfA/u
 ……これを「マザー」と読むのですか?

 ……うむ。異世界では「母親」という意味だそうだ

 ……それではこちらが「父親」ですか?

 ……そう、ファザーと読むのだそうだ。

 夫の言葉に彼女は微笑んだ。
 面白い。
 こんな事は無意味だという者がいることも彼女は知っている。
 気の触れた放浪者の言葉を学ぶなど、時間の浪費以外のなにものでもないと、彼らは蔭で笑っている。
 それでも彼女は夫を支持する。
 言葉の多様性を学ぶことがそれほど無意味だろうか。たとえ自分が使うことのない言葉であろうと、完成された言語体系とはそれだけで一つの世界ではないか。
 そもそも、無駄な知識などこの世にない。あるのは、知識を活用出来る者と活用出来ない者の違いだけだ。
 国一番の蔵書を誇る館で出会った男の言葉に、かつて彼女は感銘を受けた。そして何度も逢瀬を重ね、やがて恋に落ちた。
 王家の中心に立つことのできる男と、その小さな傍系の一人に過ぎない女は、知識によって知り合い、互いに好意を持った。

「イザベラ。貴方のお父さんは、立派なかたよ」

 彼女は腕の中の娘に言い聞かせる。

「そうだ、イザベラにも言葉を教えてやろうか」
「あら。早すぎますわ」
「初めて話す言葉が異国の言葉。面白くはないかな?」

 他愛のない悪戯に、子供のように目を輝かす夫が彼女は好きだった。

「マザー」
「ザー」
「マザー」
「ザー」

 夫は根気よく、娘に言葉を伝える。
 言葉のまだ殆どわからぬ娘が、父親の真似をして紡ぎ出す音が、何よりの心楽しい音だというように。

「マザー」
「……ザー」
「マザー」
「メ……ザー」
「惜しい」
「しー?」

 やがて娘は、はっきりという。

「メザー」
「……すまん、どうやら間違って覚えてしまったようだ」
「構いません。この子がそう呼ぶのなら、きっとメザであっているんです」
442ゼロと電流第16.5話:2010/06/26(土) 21:51:51 ID:wLNzfA/u
 渋い顔の夫に、彼女は微笑む。

「イザベラは、新しい言葉を作っているのかも知れませんわ」
「なるほど、そうかもしれん」

 夫も笑い、イザベラがつられたのかニコニコと笑う。

「ほら、笑っていますもの」
「うむ」

 彼女は幸せだった。
 夫も同じく、彼女と共にいられるのなら、無能の烙印すら喜んで受け入れようと微笑む。
魔法が使えぬ王族故に無能と誹られるのなら、その地位など喜んで投げ捨てよう。幸い、有能な弟の存在がある。
 弟なら、王家に相応しい。
 弟にも、妻がいる。つい最近に娘も生まれた。
 ならば弟にもわかるだろう。愛する家族を持った気持ちが。その喜びは王位継承などとは比べられないことを。

 ……王位は、弟シャルルが継げばいい

 それが、ジョゼフの掛け値ない想いだった。
しかしシャルルの娘が生まれた数年後、一つの歯車が狂う。
狂ったのは、彼女がロマリアを訪れた日。

「状況を報告しろっ!」

 混乱と喧噪の中、シャルルは一番近くにいた近衛を怒鳴りつけるようにして状況を尋ねる。

「そ、それが、突然のことで誰も事態が把握出来ていません」
「ならば、すぐに把握しろ。とりあえずは君が指揮を執れ。今後の報告は全て君を通す。いいな」
「わかりました」
「それから、義姉上は何処に行かれた? すぐに身柄を確保するんだ」
「ただいま、捜索中であります。閣下にはしばらくお待ちを」

 使者としてロマリアを訪れたシャルル達の前でいきなり一つの建物が倒壊し、異形の亜人の軍団が現れたのだ。
 竜の頭に人間の身体。これまでハルケギニアでは見られたことのない種の亜人である。
 混乱の内に一行は分断され、従者の半分近く、そしてシャルルの義姉となる王女の姿が見えなくなっていた。
シャルルは焦っていた。兄の妻である。自分の責任がどれほどかと考えるだけであまりの不甲斐なさに胸をかきむしりたくなってくる。
 自分がどうであろうと、彼女だけは無事にガリアへ帰さなければならない。
だが、それは叶わぬ願いとなる。
 この日、ロマリアの虚無ヴィットーリオによって、ガリア第一王子ジョゼフの妻は永遠にハルケギニアから姿を消す。




443ゼロと電流第16.5話:2010/06/26(土) 21:52:38 ID:wLNzfA/u
 あらゆる武器を操る使い魔がいた。
 あらゆる魔道具を操る使い魔がいた。
 あらゆる幻獣を操る使い魔がいた。

その武器を作ったのは?
 その魔道具を作ったのは?
 その幻獣を生み出したのは?

武器を作り、魔道具を作り、幻獣を生み出す。それが、第四の使い魔。

 使い魔は考えた。
 ガンダールヴなど、ミョズニトニルンなど、ヴィンダールヴなど、自分がいなければ何も出来ないのではないか。
 ブリミルに最も近いのは自分ではないか。
 いや、自分は、ブリミルすら越えているのではないか。
 おお、我こそが、この世界を従える力の持ち主ではないのか。
 ブリミルよ、その使い魔たるガンダールヴよ、ミョズニトニルンよ、ヴィンダールヴよ、我に跪け。我を称えよ。我を崇めよ。
傲慢に見合った力を得た使い魔は、世界を巻き込む争いの末に封印された。それはいつしか、語ることすら憚られる使い魔と呼ばれる。
 そして六千年の時を経て、使い魔は復活した。
 幸か不幸か、使い魔を召喚することによって復活させたのは既に虚無に目覚めていたヴィットーリオだった。
 彼は知っていたのだ。虚無といえど、単独で使い魔を倒す、あるいは封じることなど不可能だと。
 だからこそ彼は、おのれが召喚した使い魔を即座に追放した。自由を得ようと暴れる使い魔を、虚無魔法「世界扉」により開いた世界へ落とし込んだのだ。
 ヴィットーリオの誤算は、使い魔の力だった。使い魔は決してあっさりと追放されるような存在ではなかったのだ。
 抵抗し、荒れ狂い、追放は不可能かと思わせるほどに抵抗した。
 ヴィットーリオは躊躇わずに全力で扉を開き、使い魔を奈落へと落とし込む。使い魔はあらがい、逃げようとした。
 そこにガリアから訪れた使節団がいたのは、決してヴィットーリオのせいではない。
 使い魔の捕らえた女性をヴィットーリオは見た。しかし、そこで手を休めれば自分が敗北することもわかっていた。

 ……すまない
444ゼロと電流第16.5話:2010/06/26(土) 21:53:20 ID:wLNzfA/u
 刹那の瞬間すら、迷わなかった。世界と一人の女性。その女性が何者であろうと、天秤にかけるという発想すら湧かなかった。
 時間をかければ使い魔は完全覚醒するだろう、そうなれば自分の虚無魔法ですら立ち向かえるかどうか。
 どちらが重要か、それは考えるまでもないことだった。
 例えそれが、ガリア第一王子の妻であろうとも。
 確かに、簡単に済ませられる問題ではない。
 目撃者はいる。忌まわしい異形竜が現れ、王女をさらったのだと目撃した者はいる。
 異形竜はロマリアの手の者によって滅ぼされたと目撃した者もいる。
 では、肝心の王女は何処なのだ。
 ヴィットーリオは口を閉ざす。言えるわけもない。自らの手で竜と共に異世界へ落としたなどと。それが必要であることを彼は疑わない。
しかしそれが、万人にとって疑いのないことだとは彼も思っていない。
 事実は告げない、異形竜に屠られたと判断されるのならそれはそれで仕方ない。
 罪に問われるのならば自分が問われよう。
 第四の使い魔は、隠匿されねばならない。始祖ブリミルの名のために。

 突然現れた異形の魔物により殺された。
 それが、公式の調査結果となり、やがては旅先での病死と発表されることとなる。
 しかしその後、事実は奇妙に歪曲される。
 二人の王子、いや、二人の王子を旗とする者たちの確執によって。

 ……ロマリアへの使節団。どうしてシャルル殿はジョゼフ様の……
 ……ガリアでも屈指の名門の出であれば無能王の烙印が少しは免れたものを……
 ……無能には相応しくない才媛でしたな……
 ……名門とはいえ所詮は傍流。何を企んでいたものやら……
 ……無能に取り入るとは滑稽な……
 ……兄を落としいれんがために……
 ……無能とはいえ、邪魔は邪魔……
 ……妙な噂がありまして……
 ……イザベラ様のお父上がジョゼフ様でないなどとお戯れを……
 
 歪曲が己の旗を汚すとも知らず、いや、あるいは知ってのうえか。
 言葉の毒は深く、静かに蝕んでいく。




445ゼロと電流第16.5話:2010/06/26(土) 21:54:10 ID:wLNzfA/u
 壊れた女を、使い魔は横たえる。
 壊れた心と偽りの記憶に満たされた精神を使い魔は愛でた。
 
 ――名を名乗れ

 女は、口を開く。
 それは、女の名ではない。
 人の名前ですらない。
 それは、女の心に安らぎをもたらす言葉。
 いつか何処かでそう呼ばれた。大切な人にそう呼ばれた。だけど思い出せない言葉。
 心を満たす言葉。

 ……メ、ザ
 ――では名乗るが良い。王女メザと

 一つの傀儡を作り上げ、異形の使い魔は身を震わせた。
 異世界であろうと、己の力に対する不安も躊躇いもない。
 一つの世界を滅ぼし、自らの世界を作り上げれば良いだけ。
 ならばこの世界の神となろう。
 我こそが神ではないか。
 ならば我は神を名乗ろう。
 古代の民が信じた神に。
 古代ドラゴーン人の神に。
 我が名は三ッ首。
 魔神三ッ首。
 この地球にて、六千年の眠りより目覚めるもの。

 三ッ首は、二人目の傀儡を待つため、少しの間眠ることにした。

 やがて二つの傀儡〜王女メザ、悪魔ハットと共に三ッ首は人類滅亡への進軍を開始する。
 その前に立ちはだかるのは大門豊。そして、電人ザボーガーである。
446ゼロと電流:2010/06/26(土) 21:55:34 ID:wLNzfA/u
今回はここまでです。

ガリアの昔話、そして三ッ首の正体でした。
447名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/26(土) 23:31:14 ID:QIoTJ66A
乙。何故か今年はザボーガーが熱いw
ゴーオンレッドでも板尾でもバンダイでもタカラでもC'Msでもいいから
完全変形出してくんねーかなー。
448名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 03:07:21 ID:Ah3zOjm6
>>409
遅レスだがまとめに登録しました
不都合修正などありましたら申し訳ない

好きな雰囲気なので次も楽しみにしてます
449448:2010/06/27(日) 03:09:56 ID:Ah3zOjm6
タイトルページにAA貼り付けようとしたんだけど
どうにもずれるので直せる人いたら修正願いたい次第
450オレンジ色の使い魔:2010/06/27(日) 03:37:12 ID:zx13xpRf
>>448
ありがとうございます。お手数をおかけしました。


>感想を下さった方々
次話も頑張って見ます。

451名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 07:26:19 ID:gfMpLeTq
乙!投下があると元気になるなぁ
452名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 11:35:45 ID:6ZCp3yk7
>>449
#aa(){
【審議中】
    ∧,,∧  ∧,,∧
 ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U (  ´・) (・`  ) と ノ
 u-u (l    ) (   ノu-u
     `u-u'. `u-u'
}

こんな風に#aa(){ } で囲めばAA表示できる
だけどフォントサイズの都合で枠がずれるから、
前スレ>>29http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1275223740/29)のAAの枠以外をwikiに張ってみた
453名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 11:38:27 ID:z9LJlfKn
WikiにAA貼るのはどうかと思うよ
454ゼロの双騎士 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:23:28 ID:sOlS8EjA
ゼロの双騎士第三話を投下します。
数分後から始めようかと思います。
455ゼロの双騎士 第三話-1 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:28:04 ID:sOlS8EjA
…む、もう朝か…」

ルイズの私室の床で目を覚ましたパルパレオスは、寝起き爽やかとはいかなかった。
原因は、昨夜。
目の前で服を脱いでネグリジェ姿になるルイズに驚いて口をパクパクさせているパルパレオスに、ルイズはこう言い放った。

『明日の朝、服と下着を洗濯しときなさい。ちゃんと私も起こすこと。着替えも手伝ってもらうから。じゃ、おやすみ』

…ちょっと待て、男の前で服を脱いで、男に下着を洗濯させて、しかも男に着替えを手伝わせるだと?
我に返って文句を言おうとしたら、既にルイズは寝息を立てていた。
色々あったから疲れているのだろうと思って起こしはしなかったが…。
少女相手に男として見て欲しいなどとは思わない。
ヨヨは私より10歳近く年下だが、私はロリコンではないのだ、決して。
しかし、全く男と認識されていないのもそれはそれで複雑だ。

昨夜の言葉を思い出したパルパレオスは、鬱々とした気分を振り払うように脱ぎ捨てられたままのルイズの衣類を畳み、小脇に抱えて部屋を出た。
そういえばどこで洗濯すればいいのか分からない。場所さえ分かれば…。
上手くはないが、家事は一通りできるのだ。

親友サウザーが軍で高位を占めるようになる前、パルパレオスはサウザーと共に傭兵業で身を立てていた。
故郷、グランべロス帝国。帝国成立前はべロスという名の国家だった。
べロスというラグーンは土地が痩せ細っていて農業では食べていけない。
かといってろくな資源も無い。まさに不毛のラグーンだったのだ。
そこでべロスは傭兵業を発達させ、それで国益を得るようになった。
各国の紛争に際し、政府の要請を受けて傭兵を派遣し、見返りを得るのだ。
その中でサウザーは剣の腕と類稀な戦略眼とでのし上がっていき、皇帝にまで登り詰めたのだが、それはまた別の話である。
ともあれそんな生活だったから、一兵卒で召使を雇う余裕も無い頃は、家事を全て自分で行っていたのだ。

「さて、どこかに井戸くらいはあるはずだが…」

そう呟いて建物の周囲を歩き回っていると、一人の女性がいた。
カゴに入れた食材を運んでいるメイドだ。朝食の用意をしているのだろう。
丁度いいと思い、彼女に声をかける。

「すまない、少々尋ねたいことがあるのだが…」

「はい?あの、どちら様でしょうか…?」

きょとんとした顔で尋ねられた。そういえば名乗りが遅れた。
名前、ルイズの使い魔であること、洗濯場を探していることを話すと、すんなり納得してもらえた。
456ゼロの双騎士 第三話-2 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:29:13 ID:sOlS8EjA
一番最初の「が抜けてしまってますね…申し訳ない。

------

「あぁ、貴方がミス・ヴァリエールの…聞いていますよ、剣を帯びた平民を召喚したと」

平民ではないのだが、いちいち訂正していたらキリがない。
オレルスとハルケギニアでは常識が違うのだから、と納得することにした。

「洗濯場はあちらですが…良ければ私がやっておきましょうか?」

パルパレオスはこの申し出をありがたく受けることにした。
何故だろう、彼女が救いの女神のように思えてくる。

「ありがたい。洗濯くらいはできるが、女性物の服や下着を洗うというのはちょっとな…」

苦笑混じりに顔を少し赤らめている男を見て、クスリと笑う彼女。

「ふふ。あ、申し遅れました。私はこの学園のメイド、シエスタと申します。
 以後、宜しくお願いしますね、ミスタ・パルパレオス!」

…可憐だ…。
斬○剣を振るう某サムライのようなことを考えつつ、今後の学園生活に想いを馳せるパルパレオスであった。


+++++
457ゼロの双騎士 第三話-3 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:29:57 ID:sOlS8EjA
「ルイズ…ルイズ、朝だ。起きろ」

部屋に戻ったパルパレオスはルイズを起こしにかかる。
しかしこれがまた難儀だった。
寝ている女性に手を触れるのは気が咎める。
かといって声だけでは中々起きないのだ。
うぅ〜んだの、むにゃむにゃだの、あと五分〜だの。

「起きろ!朝食に間に合わなくなるぞ!」

少し声を荒げると、起きた。
起きたのだが…問題は次の一言だ。

「ふぇ…?な…あ、アンタ誰よ!?」

ほぅ…アンタ誰、ときたか。
一方的に呼び出して一方的に使い魔をやれと言い出して一方的に家事を押し付けて、挙句の果てに「アンタ誰」。
流石にこれはカチンと来た。
だが女性、しかも子供相手に怒りをぶちまけるわけにもいかない。
こめかみに青筋を立てつつ、懇切丁寧に説明してやることにした。

「私の名はサスァ・パルパレオス。昨日ルイズに使い魔として召喚されて契約を交わした男だ。
 元帝国将軍兼皇帝親衛隊隊長、後にオレルス解放軍将軍を務めた軍人だ。
 昨夜のルイズの命令通りに服や下着の洗濯をこなして、今も命令通り主人を起こしているところだ。わかったか」

「…あぁ…そういえば使い魔召喚したんだっけ…」

やっと思い出したか全く。

「着替え出して…箪笥の一番下」

洗濯をこなしたこと、起こしたことへの礼は無く、無礼な言葉への詫びもなし、か…ふ、ふふ…。

「そのくらい自分でやりたまえ。私は外で待つ」

「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ、こら!」

言い放って踵を返し、部屋を出て待つことにした。


+++++
458名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 12:30:15 ID:6ZCp3yk7
しえん
459ゼロの双騎士 第三話-4 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:31:14 ID:sOlS8EjA

「あら?貴方は確か…」

「ん?ルイズの友人かね?」

部屋を出て待っていると、隣の部屋から出てきた女性に声をかけられた。
燃えるように赤く、軽くウェーブのかかった長髪が印象的な女性だ。
歳不相応な色気を振りまいているな。
そういえば召喚の儀の場に居たような気がする。
後ろにいるのは…何だ?
赤く大きな蜥蜴のような生き物。尻尾の先に火が点いている。
こんなところにいる以上、恐らく使い魔なのだろう。彼女にも警戒している様子は見られない。
とりあえず危険は無いと判断した。

「私はパルパレオス。ルイズの使い魔だ」

そんなことを考えつつ、名乗る。
隣の部屋の生徒なら、今後接する機会も多いだろう。
隣人と仲良くしておいて損はない。

「あら、いい男じゃない…ふふ。
 私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
 二つ名は"微熱"、キュルケでいいわ。よろしく」

「宜しく頼む、キュルケ」

正直名前が長すぎて覚えきれないので、そう呼ばせてもらえるのはありがたい。

「ところで、こんなところで何してるの?」

「あぁ、今ルイズが着替えているのでな、ここで終わるのを待っているのだ」

「着替えを手伝えとか言われて逃げてきたんじゃないの?…ふふ」

…お見通しか。
苦笑混じりに肯定しておくと、しょうがないわねと言わんばかりに一息吐いてみせる。
そもそも貴族の子女とは皆こうなのだろうか。
そんな疑問など挟みつつ、しばしキュルケと言葉を交わす。
歳の割に大人びていて、話し上手なようだ。
余り饒舌ではない私からでも上手に話題を引き出し、膨らませてみせるのだ。
この学園にいるということは貴族の子女なのだろうが…気質はどうあれ、交渉ごとで身を立てられるくらいの才覚があるかもしれない。
などと思いつつ話しているうちに、ルイズの着替えも終わったようだ。
460ゼロの双騎士 第三話-5 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:31:56 ID:sOlS8EjA
「全く…着替えも手伝わないなんて…って、何してんのよパルパレオス!」

いきなり怒鳴られた。何をしているって、見ての通りキュルケと話しているのだが。
当たり前のことを聞かれたので当たり前の返事を返しておくが、私を一瞥したルイズはキュルケにまで食って掛かる。

「人の使い魔にちょっかい出さないでよね!」

「あら、ちょっかい出されたくないなら見張っておくべきじゃなくて?」

「うるさいわね!…ところで、アンタの後ろにいるのは…アンタの使い魔?」

さっきも見た火蜥蜴だ。
大人しくキュルケの後ろに控えている。

「えぇ、昨日私が召喚した使い魔よ。…フレイム、挨拶なさい」

きゅるきゅる、と喉を鳴らしてみせる。

「よく人に慣れているな。大人しくて賢いようだ」

頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて見せた。

「これって、サラマンダー?」

「そう、火蜥蜴!火竜山脈に生息する正真正銘のサラマンダー!私の属性にピッタリよ」

種族名サラマンダー、個体名はフレイム、というようだ。
しかし、サラマンダーとはな…あいつとかぶっている。

「ふ、ふん…!パルパレオスのサラマンダーには敵わないわね!
 いくわよパルパレオス!」

悔しそうな顔で踵を返すルイズ。
腕を掴まれて引き摺られる。全く、何だというのだ。
とりあえずキュルケに一言挨拶しておかねば。

「すまないキュルケ…またな」

「えぇ、またねパルパレオス」

(パルパレオスのサラマンダー…?彼と一緒にいた竜のことかしら…面白そうね)

興味がある。場合によってはヴァリエールをからかうネタになるかも知れない。
そんなことを考えて、にやりと笑うキュルケであった。


+++++
461ゼロの双騎士 第三話-6 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:32:57 ID:sOlS8EjA
「ここがアルヴィーズの食堂よ」

だだっ広い大広間へ案内された。
多くの生徒が、あるいは席に着き、あるいは席を立ち、皆同様に学友たちと会話している。
おかげで随分騒がしかった。

席は特別決まっているわけではなさそうだ。
空いた席を見つけて、椅子を引いてやる。

「あら、気が利くじゃない?」

これでも宮仕えをしていた身、しかも皇帝の側近だったのだ。
この程度の気遣いをできないようでは務まらない。
ようやく少しは認められた気がする。

「で、私の食事は?」

「主人の着替えも手伝わない使い魔はご飯抜きよ」

気がしただけだった。
戦場に出れば食事を取る暇もなく移動や戦闘を繰り返すことは良くある。
丸一日水だけでも戦えるくらいの鍛え方はしているのだ。
一食抜かれた程度でへばったりはしない。辛くはあるが。

「…では私は外で待つとしよう」

踵を返して広間を出た。
食事が得られないなら、余所で探すまでだ。
幸い、一つ当てがあるのだ。


+++++
462名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 12:33:05 ID:jDB2WWvW
投下ペースが快調だなぁ
463ゼロの双騎士 第三話-7 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:33:44 ID:sOlS8EjA
「…という訳なのだが、少し食糧を分けてもらえないか」

「なるほど…私たち使用人の賄い食でよければお出ししますが、いかがでしょう?」

当てとはシエスタに頼んでみることだった。
断られても仕方無いとは思っていたが、快諾してくれた。やはりいい娘だ。

「ありがたい。頂こう。…代わりと言っては何だが、何か手伝えることは無いかね?」

タダ飯食らって平然としていられるほど恥知らずではない…などと筆者の傷をえぐるようなコトは言わないでおこう。
ともあれ、食事の分くらいは働かせてもらうとするか。
幸い、配膳の手が足りないようだったので、それを手伝わせてもらうことにした。
配膳の仕事をしたことは無かったが、ただ配っていくだけだ。
さほど難しくもなく、面倒な仕事ではない…はずなのだが。

「さぁ、決闘だ!!!」

難しくはないが、面倒は増えてしまった。

いかにも頭の足りてなさそうな小僧が格好つけて口上を述べている。
鮮やかな金髪に、口にくわえた薔薇の赤がよく映えている。
まぁ女から見ればそれなりに魅力的な容姿なのかも知れないが…どちらかと言うと気障だな。
自称「純情硬派」他称「完全軟派」の色ボケランサーの顔を思い出しつつ、そんなことを考えた。

全く、何故こんなことになったのか。


+++++
464ゼロの双騎士 第三話-8 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:34:47 ID:sOlS8EjA
「も、申し訳ありません!」

悲鳴混じりのシエスタの声が耳に届いて、ふとそちらへ目をやった。
生徒らしき金髪の少年がメイドに食って掛かっている。
…一体何があったのだ?
とりあえず割って入って、事情を聞いた。

「…それは君が悪いだろう、常識的に考えれば。
 そもそも君が二股をかけさえしなければ起こらなかった事態だ。
 シエスタに絡むのはお門違いの逆恨みだと思うのだがな」

「そうだギーシュ!お前が悪い!」

周りの生徒達が爆笑しながら野次を飛ばしている。

「…そうか、君は貴族に対する礼儀を知らないようだな…教育してやらねばなるまい」

顔を引き攣らせ、こめかみには青筋を立てている。
可哀想に、口にくわえた薔薇は噛み潰されて無残な姿になっていた。

「ほぅ、物の道理も知らぬ若造が私を教育とは…身の程を弁えぬ者は無様だな」

こういう手合いは一度痛い目を見せて叩きのめす必要がある。
感情が激しすぎて理屈が通用しないのだ。
そう考えて、挑発してみる。

「いいだろう…決闘だっ!!!」

…そら、乗ってきた。これほど沸点の低い奴も珍しいな。
叩きのめすくらい訳はない。魔法使い相手に何度も命のやり取りをしてきたのだ。
戦闘の無い平和な生活は穏やかとはいえ、刺激に乏しいのも事実なのだ。
たまには剣を振っておかねば勘も鈍る。

そう考えて、ギーシュと呼ばれた小僧を見やる。
怒髪天を衝くといった様子、すっかり気を散じてしまっている。
無駄に芝居がかった所作を見ても、実戦経験があるとは到底思えない。

「な、何て事を…!殺されてしまいますよ、パルパレオスさん!!」

恐怖に顔を青ざめさせたシエスタがそんなことを言う。
心配してくれるのはありがたいが、私は負けるつもりは無いのだ。

「平民は貴族には勝てないんです!貴族には魔法があるんですよ!!謝るべきです!」

「貴族の力が魔法なら、平民には剣という力がある。
 どちらも力ならより強い方が勝つのが道理。見ていろ、魔法を使えぬ者の戦いを」


+++++
465ゼロの双騎士 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 12:37:44 ID:sOlS8EjA
ゼロの双騎士第三話、いかがだったでしょうか。
今回の投下はここまでです。
9時過ぎから書き始めたんですが、案外筆が快調に進んで有難い限りw
ようやくクロスナイトの戦闘を書けます。大暴れさせてやろうと思いますヒョヒョヒョwwww
466名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 12:53:49 ID:fEuXrh7S
投下乙です
続きも楽しみにしてるよー
467名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 13:01:04 ID:6ZCp3yk7
乙です
ただ投下するときはさるさんにかかるかもしれないからレスの間隔はもうちょっと開けた方がいいかも
原作気になるから買いに行ってみようかな
468ゼロの双騎士 ◆yZVCsS4iPE :2010/06/27(日) 13:10:58 ID:sOlS8EjA
>>467
よく見たら30秒くらいで次書いてるとこありますね;
1分くらい空けつつ書いた方がいいのかな。初心者なんで分からないこと多いです…。
ご指摘ありがとうございました。次から気をつけますね。
469名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 13:11:29 ID:efcV3CJQ
バルパ 「ところで俺の股間のドラゴンを見てくれ。こいつをどう思う?」
ヨヨ「すごく… ビュウのよりも… 大きいです…」
470名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 13:43:55 ID:8Vr/j/sc
>>465
乙ん!
471名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 14:50:15 ID:JJKUD50j
472名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 14:56:28 ID:9QvgJuwC
バハムートラグーンでトラウマを刻んだプレイヤーもいた。
召喚されたのがパルパレオスなだけに、トラウマを刻まれるのは……ルイズかアンリエッタの関係者だろうなぁ。
473名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 15:04:10 ID:zofJSxsh
普通、気になったら自分で調べるだろ。てかYouTubeとか貼るのってどうなの……
474ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:32:27 ID:O++rXZiV
ファミレスで、書いてたら、「お食事時のPC利用は勘弁ください」と言われて追いだされたよ!
しょうがないけどドリンクバー頼んで損した気がする黒魔です。どうも。

てなわけで自宅に帰って書きましたので、投下したく存じます。
15:45頃より失礼をば。
どうかよろしくお願いいたします。
475ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/06/27(日) 15:40:38 ID:bcbMlXAl
あれま、先を越されましたか。
では私は支援をかねて、16:50にあらかじめ予約をとっておきます。
FFのラスボス戦では私はYのケフカの「夢、希望、愛、どこから来て、どこへゆく?」が印象的でした。
476ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:45:04 ID:O++rXZiV
おっと、ウルトラ様。こいつは失礼一足お先。では投下開始です
----
「オォオォォオオォオオオォォオォオオオォォオ――」
「絶望を贈ろう……」

空気が、震える。
パイプオルガンの管の中にいるみたいだ。
全部の鍵盤が出鱈目に押されて、唸りを上げている。
地面の底から低い音、頭の高いてっぺんから高い音が、
ぐっちゃぐちゃに入り乱れてお腹の方まで来て……すごく気持ち悪い。

これだけでも、尻ごみしてしまいそうになる。
音だけじゃなくて、空気そのものを覆い尽くすようなクオンの迫力に、
ボクはほんの少しだけ、気圧されてしまっていたんだ。

「こ、断るぅぅう!!全身全力で受け取り拒否っ!
 先手必勝!『錬金』っ!!」

ギーシュがすごいのは、こういうところだと思うんだ。
例えどんなに力の差があったとしても、
例えどんなに不利な状況だったとしても、
いつもどおりの自分で、立ち向かっていく……
ガシャンって音を立てながら走りだすギーシュの鎧姿が、
すごく頼もしく見えるんだ。

「正しいね。彼……僕も全力と行こうか!」

クジャが取りだしたのは……宝石?
多分、サファイアとムーンストーン、かな……
それを取りだして、顔に近づけた途端、
クジャの額のルーンが光り出した。
それに呼応するように、宝石がざわめくように光り出して、光がクジャを包んで……

「クジャッ!?それ……」

血よりも赤く、炎よりも逆巻いて、クジャの姿が変わっていた。
銀色だった髪の毛までが、真っ赤に染まっている。
そして、溢れだす魔力。
テラを壊すだけの力を産み出した、あの魔力が、
全身からほとばしらせていた。

「月の輝きを受けて、より美しく輝くのさっ!!
 刹那の煌めきを魅せてあげるよっ!!」

トランス……心の高ぶりが生み出す、奇跡の力……
それを、宝石の力で無理矢理引き出したってこと?
無茶するなぁ、って少しだけ呆れてしまう。

「愚か、ですね……」

でも、無茶をしてでも、だよね?
無茶でも良い、倒さなくちゃ、いけないんだ。
今の世界を壊してでも、新しい世界を作る?
そんなこと、させるもんか!

「愚かかどうかは……避けてから言ったらどうだいっ!?」
「ワルキューレ部隊突撃っ!喰らえっ!『月・牙・天……』」
477ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:46:36 ID:O++rXZiV
クジャと、ギーシュに続く。
誰かの攻撃避けようとしたなら、そこに隙ができる。
どこに当たっても良い。
そう思って走り出した……そう思っていたんだ。

「……トキヨ……」

小さく、クオンの体が震えたような、そんな気がしたんだ。
そうしたら……世界がぐるりと回っていた。
まるで本のページが抜け落ちたように……急に真っ逆さまになっていたんだ。



            〜ゼロの黒魔道士〜


一瞬、って言葉よりも一瞬だった。
黒いエネルギーの塊が、矢のような形で浮かんでいる。
それが、何百本も、何万本も、ボク達を取り囲んで……
避ける?全部を?
それは雨粒を全部避けろって言うのと同じぐらい無茶な話だ。

「……この世界は、暗黒に包まれている……」

合図と共に、一声射撃がはじまる。
エネルギーの大雨。
後ろへ一歩。ルイズおねえちゃんの所へ。
避けれないなら、受ける!
一本一本を確実に!

「ルイズおねえちゃん伏せてっ!!」
「きゃあああ!?」
「うはっ!?きゅ、吸収しきれねぇっ!?」

矢じゃない、槍だ。そう感じさせるような重さだった。
もし、ガンダールヴの力が無かったら……
そう思うと、ゾッとする。
帽子のつばにできた穴で、そう思う。
綺麗にまん丸。
無駄を省いたように、真っ直ぐまん丸の穴。
もしこれがボク達の体に当たったら……ゾッとしてしまう。

「なっ!?」
「っ時間操作かっ!?」

おまけに、クオンの姿がさっきの場所に無かったようだ。
クジャが放ったエネルギー弾が、何も無いところで破裂して、ギーシュの剣が空を切っていた。
時間操作……?
『ストップ』や、『スロウ』を、全体にかけたってこと?
なんて、とんでもない……そう思わずにはいられなかった。
一人にかけるのだって、とんでもなく集中しなくちゃいけないのに、全体にかけるなんて……
478ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:48:05 ID:O++rXZiV
「御明察。流石、死神と謳われただけはありますね……」
「……ミッシング・ゼロ……」

また、クオンの体が震える。
ボコボコと体の表面にまとわりついた顔の1つから、それが放たれた。
白と、黒がバチバチと混じり合うように弾ける、エネルギーの弾。
それが、ギーシュを追うように弾けていく。
まるで、意志を持つように、執拗に……

「うわわわわっ!?来るな来るな来るなぁっ!?」
「そうれっ!!――っ!?」

このクオン、完全に魔法主体だ……
クジャが『ミッシング・ゼロ』とかいう技を相殺したのを横目で確認しながら、
ボクは走り出していた。
魔法主体の相手なら、近づけばなんとかなる……そう思ったんだ……

「クダケイ……!」
「くぅぅっ!?」
「ぅゎああっ!?」

手を地面に叩きつけられたら、吹き飛んでいた。
そうとしか、表現ができない。
本当に、それだけの、単純な動きだった。
魔力じゃなくて、単純な腕力、それもたった一振りを地面にぶつけただけ。
それだけで、地面が波打つように揺れて……

「――そう言えば、紹介を忘れていましたか」
「くっ……」

ルイズおねえちゃんは……よし、無事だ。
衝撃が大きい範囲は、ごくごく狭いみたいだ。
とはいえ、これでうかつに踏み込めなくなってしまった……

「『名すら憚られし使い魔』、そのチカラを……」

大きく手を広げて誘うような体勢を取るクオン。
でも……隙がまるで無い。
どの間合いに動いたとしても、攻撃の範囲だ。
思った以上に……きつい。

「能力を例えるなら、『神の御心』……『記憶』。それが彼のチカラなのです」
「『記憶』?」

記憶が……力?どういうこと……?

「彼は、他者の『記憶』を読み取り、それを具現化することができるんですよ……このように……」
「……ユビキタス・デル・ウィンデ」

聞き覚えのある呪文が、クオンの体の震えと共に唱えられる。
フォンっという軽く不気味な風の音。
……おどろおどろしい気配が、背後に増える。

「これ――ワルドのっ!?」
「くっ!?」

「風ハ遍在スル……」

死んだ人の技が……使えるっていうことか!!
479ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:49:38 ID:O++rXZiV
「――そして、ここは記憶が集う場所」
「ありとあらゆる絶望が、ありとあらゆる憎悪が」
「ありとあらゆる怨念が、ありとあらゆる苦痛が」
「想像できますか?」
「あらゆる世界の悲しみが」
「あらゆる宇宙の憎しみが」
「救いを求め、彼に巣食う様が……」

二重に広がる音の輪が、迫ってくる。
大きく、大きく、音が段々と迫ってくる。


「憎悪の輪廻に囚われし騎士」
「支配を目論む野心の皇帝」
「力に執着する狂気の魔導士」
「全てを否定する時の魔女」
「永遠の夢に眠る召喚士……」
「絶望と共に沈んだ彼らの力は、全て彼が引き継ぎました」

「「全ては、苦しみを解き放ち、新たなる再生のために!!」」

まるで、合唱のようだった。
深い、苦しみの中の、合唱。
耳を通じて、脳を揺さぶるような、いくつもの呻くような声。
体ごとひっくり返されそうな、不協和音。
耳を塞いでも、聞こえてくる……
 
「ふんっ、能書きは聞きあきたよっ!終わりにしてあげようっ!!」

クジャが踊りあがった。
手を大きく上に振りかざして……
あれは……『アルテマ』!?
テラを滅ぼした、とても強い魔法を、今ここで……

「――『全て』彼が、と言ったはずですよ?」

「オワリニシテアゲヨウ――」

背後のクオンが見せた動きは、クジャと全く同じだった。
空をゆっくり仰ぎ見て、手を広げる。

ほぼ同時。
紫色に妖しく光る球体がぶつかり合って……

「うわぁああ!?」

地面にたたきつけられそうな衝撃波。
それが何発も、何発も。
完全に同じエネルギー同士がぶつかって、弾け飛ぶ。

「もちろん、貴方の絶望も……己が運命に抗う儚き死神様?」
「ちいいっ!!」

クジャの力まで……
480ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:51:21 ID:O++rXZiV
「では、幕引きを……」
「では、拍手を……」

「ウチュウノホウソクガミダレル……」
「……グランドクロス……」

感じたのは、力が集まっていくということ。
反応が遅れたのは、少しだけ、諦めてしまっていたから……
情けないけど……
本当に、情けないんだけど……
本当に、本当に……どうすればこんなの……どうやって倒せるってって……
そう思っちゃったから……

「くっ!!」
「相棒ぉおおっ!!」

気がついたときには、何もかもが真っ白に……

――
――――
――――――

目を開けたときに、体が動くのが不思議だった。
ボクは、確か、逃げ遅れて……
だけど、目を開けて、少し見上げると……

「……?……く……クジャっ!?」
「無様だね……くく……動けやしない……
 氷漬け、ときたもんだ……」

状態異常にも色々あるけれど、中でも厄介なのが、『フリーズ』だ。
行動不能になる上に、物理攻撃を少しでも当てられると……

「まだ息がありますか……」

クオンの3つの目がクジャを見る。
直線状に、ボクがいる。
ボクとクオンの間に、クジャがいる。
つまり……まさか……
「クジャ、まさか、ボクを……!」

ボクを、かばって……状態異常に……

「勘違いしないで欲しいな……
 残したかっただけさ、『無限の可能性』ってヤツをね……」

もし、白魔法が使えたら。
もし、回復薬を持っていたら。
もしも、もしも。
世界全部が『スロウ』をかけられたようにゆっくりになっていく中、
ボクはずっと『もしも』を唱えてた気がする。
そう思うことで、何か変えられるわけはないのに、そう分かっているはずなのに……


「そうだ、肝心なことを言い忘れてた……ビビ君、そのね……」

「ク……ジャ?」
481ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:52:52 ID:O++rXZiV
もしも、もしも……
もしも、クジャを信じることができていたなら……

「ありがとう。君が作れたことが、僕の――」
「ワンマンショーダ……!」

氷が、砕け散る。
クオンが放り投げた岩に押しつぶされるように……
真っ赤な髪の毛が、薔薇の花弁のように、パリーンって砕け散った……
もしも、もしも……
もしも、ボクが……

「クジャっ!?クジャ!?クジャぁあ!?」

もしも、ボクが、もっと強かったら……
こんな、こんな気持ちでいなかったのに……

----
ATE
〜カウントダウン〜

クジャが砕け散る数秒前。
鎧の少年に庇われるように倒れるは、桃色の少女。
動けることは、果たして神の救いか、
はたまた苦しみを永らえさせるという、悪魔の罠か。

「な、なんとか無事か……ルイズ、大丈夫か!?」
「え、えぇ……早くビビのところへ……!?ギーシュ、どうしたのその……頭の数字!?」

ギーシュの頭の上には、『7』という数字。
それがふわふわと、まとわりつくように浮かんでいる。
それはまるで、悪魔が人に取り憑くように。

「ん?あぁ……さっきから減っているところを見ると
 ……死んだりするのかな?これがゼロになったときにでも?」
「っ!?」

ギーシュとて、そこまで鈍感では無い。
最初に『10』という数字が浮かんだ時点でその存在には気付いた。
そして、その原因が敵の光であったことを考えれば……容易に想像がつく。

実際、その想像は当たっている。
クオンが放った魔法の名は『グランドクロス』と呼ばれるもの。
何らかの状態異常を周囲に及ぼす、不吉なる業。
そしてギーシュが侵されたのは、『死の宣告』と呼ばれる枷。
ギーシュの想像のまま、徐々に減る数字が『0』を迎えたとき、
対象の命は速やかに奪われるというゆるやかなる死。
どれだけ怯えても、どれだけ抗っても、死神がその首を狙うという、文字通りの『死の宣告』。

「さて……」
「ギーシュ、何をするつもりっ!?」
「まだ、ゼロじゃないからね……」

少年は、青銅の剣を閃かせ、その背をルイズに見せた。
鎧のあちらこちらが、先刻までの猛攻に耐えかね傷ついた、その背中を。
それでもなお、立ち向かうという意志を見せた、その背中を。
全てを覚悟の上向かうという覚悟を見せた、その背中を。
頭上の数字は、『6』に変わっていた。
482ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:54:24 ID:O++rXZiV
「無茶よっ!?それでなくてもボロっかすじゃないっ!?」
「――『男なら、誰かの為に強くなれ』」

少年は、足を小刻みに揺らす。
少々、左足が痛むようだが、なんとか動く。
万全では無くとも問題は無い。少なくとも、彼の覚悟の中では。

「え?」
「『歯を食いしばって、思いっきり守り抜け』――っ!!!」

頭上の数字は、『5』。
まだ『0』ではない。
可能性も、また。

「ギーシュっ!?」
「『錬金』っ!!」

ただそれだけ、できれば――『英雄』さ!
それが、彼の意地。彼の覚悟。
ギーシュは、クジャや、ルイズや、ビビほどに、辛い過去を背負っているわけではない。
だが、辛い過去を背負わねば、人は強くなれないものか?
否!
断じて否であるとギーシュは考える。
悲しみを背負わねばならぬ強さなら、そんなものはいらない!
ただひたすら、『カッコよくなりたい』と願ったギーシュである。
誰かを悲しませることは、断じてカッコいいわけがない!

「――苦しまず死ねる身であるというのに、まだ足掻きますか?」
「ライバルとレディのいる前で、足掻かないのはヒーローらしくないだろっ!?」

数字は『4』。
一気につめた間合いに比して、充分すぎる値だ。
魔導アーマーと、自分の持てる全ての力を注ぎこんで、跳躍。
高く、どこまでも高く。

これで終わるとは思っていない。
クオンは今2体。この一撃でこいつを倒せたと楽観的に見たとて、
もう1体が残る。
それでもなお、彼は全力を尽くす。
せめて一太刀、浴びせずに散って何がヒーローか。何が英雄か。


「――英雄?愚かな。英雄など腐った世界が見せる幻想に過ぎぬのに……」
「うおぉおおおおおお!!!」

『3』。
重力の向く方へ、全てをつなぐため剣を突き出し……

「――では、自称・英雄殿はかつて偽りの英雄となった者の技で――」
「……φ=WUγ+RUp+SUγUp
 W=-SUγφ
 AU=(GMeK^-2)^1/3
 n=πr^2……」

『2』。
訳の分らぬ呪文が耳に聞こえる。
だがもう、止まらない。止まるつもりも無い。
483ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:55:56 ID:O++rXZiV
「喰らえっ!!『超・級……』」

『1』。
捕えたのは、ギーシュの頭ほどもある緑色のその目。
これで、こいつだけでも倒す、そう願って……

「……ヒザマヅケ……」
「っ!?」

横薙ぎに、まず感じたのは、熱。
ギーシュがクオンを捕えるよりも速く、ギーシュを捕えたのは燃える岩。
飲み込まれる、焼きつくされる、そう感じることができなかったのは、幸せなのだろうか。
あるいは、一太刀を浴びせられなかったことは、不幸なのだろうか。
数字は、『0』。
岩よりも早く、彼の命は、死神に攫われた。
音も無く、静かに……

「ギーシュぅっ!?」

少女の声が聞こえなかったのは、幸せだろうか、不幸だろうか?
愛する人に断らずにここに来てしまったのは、正しかったのだろうか?
自分は……果たして、英雄らしくあれたのだろうか?
それを考える間も無いまま……少年は静かに、その命を散らした……

----

もしも、もしも……
なんだろう、この気持ち……
ねぇ、ボク、どう考えているの?
どうしたいの?
どう思っているの?
ボク……ボク……

「うぅ……」
「相棒……」
「デルフ……ボク……」

クジャと、もっと話がしたかったの?
ボクは、ボクは……ボクを作ったクジャに、何にも……
ボクは……頭の中がぐっちゃぐちゃに……
何もかもがぐるんぐるん回ってる。
目がチリチリして喉がカラカラだ。
ボクは……ボクは……

「相棒、おれっちが言えんのぁ、単純な理屈よ。おれっちバカだからさ」
「……」
「吐きだしちまえ!言葉んする必要なんざ無ぇっ!全部、吐き出しちまうんだ!」

デルフの言葉が、心に入ってきた。
言葉じゃ表現できない、ボクのぐちゃぐちゃの心の中に、スッと。
鍵が、鍵穴に入ったみたいに……ボクは……ボクは!

「うぅぅうう……うわあああああああああああああああああああ!!!」
「そうよ!心を震わせんだっ!」

弾ける。色んな物が、溢れだす。涙も、汗も、何もかも、全部。
心の高ぶり、『トランス』。
ボクは、今ボク自身が、どういう気持ちでいるのか、うまく説明できない。
でも、ボクの心は……間違いなく、高ぶっていた。
これまでにないくらい。どうしようもないくらい。
484ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/06/27(日) 15:57:23 ID:O++rXZiV
「――デルフ、行くよ」
「おうっ!!」

後ろに足をけり出すように、一気に前へ。
ガンダールヴの左手を、これまで以上に輝かせて。

「――ビビっ!!」
「ルイズおねえちゃんっ!」
「……お願いっ!!」
「うんっ!!」

言葉なんて、いらない。
心が通じれば、それでも大丈夫。
ボクは、思いっきり跳んだ。

「――『エクスプロージョン』っ!!」
「はあああああああっ!!!!」

ルイズおねえちゃんの魔法と、ボクの剣が重なる。
一直線上に、2体のクオン。
仕留める。
クジャの……仇だっ!!!

「……120ぱーせんと……」
「とうりゃぁああっ!!」
「……ハドウホウ……」

……絶望って、どういう時に感じるんだろうね?
……何をやっても、ダメだって分かってしまった時?
それとも、もう何もできないって分かった時?
ボクは……ボクの目の前で……ルイズおねえちゃんが……
そして、ボクが……デルフが……

「全ては、『ゼロ』より生まれ『ゼロ』に還る……
 そして、新たに生み出すのさ。すばらしき世界を……!!」

……絶望って、どういう時に感じるんだろうね?
……ボクは……今……それを感じて……
体がバラバラになりながら、それを感じていたんだ……
ボクは……もう、絶望を感じられないことに……絶望、を……


〜第七十七幕〜 闘いの結末
----
本日は以上です。
近頃は隠しボスとかあって、
ラスボスで絶望を感じることが少なくて困ると勝手に思う次第です。

では、お目汚し失礼いたしました。また、次回。
この後はウルトラ様の作品でお楽しみください。チャンネルはそのままで。
485ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/06/27(日) 16:11:25 ID:bcbMlXAl
なんという熱い展開、乙でした。
ギーシュが、まさかあの伝説のリミット技を……強くなったなあ。
だが、これはまさか皇帝にエクスデス……どうやったら勝てるか想像もつかない。
次回、楽しみに待たせていただきます。GJ!
 
あと、出た出た出た、波動砲!
486ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/06/27(日) 16:40:28 ID:bcbMlXAl
みなさまあらためましてこんにちは、先週は再開してすぐにあれほどの反響をいただけるとは思っていなかったので
とてもうれしかったです。避難所でレスをくれた方々も含め、どうもありがとうございました。
ウルトラ5番目の使い魔、2部第2話の投下準備できました。
他の方の予約などなければ、予告どおりに16:50より開始いたします。
 第二話
 ルイズの帰郷 (後編)
 
 獣人 ウルフガス
 童心妖怪 ヤマワラワ
 始祖怪鳥 ラルゲユウス 登場!
 
 
「だわーっ!」
 カトレアのゴーレムの放ったパンチを、寸前のところでかわした才人のいたところが、
巨大な土の拳に芝生ごとつぶされて、子供が泥んこを殴りつけたような跡ができた。
ラ・ヴァリエール家の広大な庭園の一角で、今全長四十メイルの超巨大ゴーレムが、
すさまじい地響きをあげて暴れまわる。
「カ、カトレアさん……マジですか」
「当然本気ですよ。本当は戦いは不得手なのですが、かわいいルイズの将来の
ためですもの、少々無茶をするわね」
 杖を下向きに振ったカトレアの手の動きに合わせるように、今度はゴーレムの
右足が浮き上がって、月明かりに浮かんだ影が才人に重なるように迫ってくる。
「ぬぁーっ!」
 踏み潰される寸前に飛びのいた才人の後ろに、また新たなクレーターが
新設されて、続けて第二第三の攻撃がやってくる。
 才人も、この半年で鍛えた体力でどうにか逃げ回っているが、所詮は高校生の
スタミナを多少底上げしたところでたかが知れている。相手が巨大すぎるために
動きは緩慢に見えるが、実際直撃されたらスルメは決定だ。そのとき、このままでは
才人の命が危ないと感じたルイズが叫んだ。
「ちぃねえさま、やめてください! なんでこんなことするんですか!?」
 あの優しい姉が信じられないと、悲鳴に近い声で叫ばれたルイズの問いかけに、
カトレアは攻撃の手を止めると二人を見下ろして、よく通る声で返してきた。
「ルイズ、あなたの気持ちはわかるわ。けど、今は恋ですんでいるけど、生涯の
伴侶を決めるというのはそんな簡単じゃないの。いざというときに、あなたを
守れるだけの覚悟が彼にあるのか……姉として、どうしても見極めておきたいの」
「ちぃねえさま……」
 最後に目を閉じてうつむいたカトレアの憂えげな表情に、ルイズは姉が自分に
恨まれるのを覚悟で、こんな無茶をしていることを悟った。
「でも、いくらなんでもやりすぎです! サイトはただの平民なんですよ!」
「ルイズ、あなたはまだ自覚がないかもしれないけど、ヴァリエール家の
息女ともなれば、どんな刺客がかけられるかわかったものではないわ。
もし、わたし以上の使い手がルイズの命を狙ったとき、サイトくん、あなたはどうするの?」
「あー、まあ、ルイズを連れて全力疾走で逃げますかな」
「ふふ、面白い子ね。けど、今みたいに逃げられない状況ならどうするか、わたしは
それを見極めたいの。手荒なのは承知で、悪いとは思うけどね。それに、わたし一人を
納得させられないものが、お父さまや、お母さまを納得させられると思う?」
 二人はぐぅの音も出なかった。温厚なカトレアでさえ、ルイズのためを思って
これほどの無茶をしているというのに、父や、まして『烈風』と異名をとるあの苛烈な
母が交際を認めてくれるとはとても思えない。
「家柄や爵位などといったものは、わたしは気にしないわ。平民でも、ルイズを
幸せにしてくれるなら、それで充分。けれど、ルイズへの愛を貫ける器量が
あるかは別よ。サイトくん、あなたはそれを証明できるかしら?」
 サイトはぐっと息を呑んだ。カトレアは、もし半端な覚悟しかないのなら
躊躇なく命を取りに来るかもしれない。それだけ、ルイズを大切に思っているのだ。
しかし、相手はフーケのものさえ上回る巨大ゴーレム、普通に考えて勝ち目は
微塵もないし、こんなことのためにウルトラマンAの力は借りられない。
 けれど才人がためらっていると、背負っていたデルフリンガーが鞘から出て
才人をうながした。
「抜け、相棒! あの姉ちゃんは本気だ。こっちも本気でいかねえと、死ぬぞ!」
「くっ、仕方ねえ!」
 腹を決めた才人は、背中からデルフを抜き放つと、ゴーレムに向かって正眼に構えた。
 だが、握った感触がこれまでと違って、デルフリンガーがとても重い。
「ちっ、そういやガンダールヴの力は抜けてるんだった」
「バカ! 今頃思い出すな。今の相棒の力は、いいとこ前の十分の一ってとこだ。
ちょっとでも気を抜いたらアウトだ。来るぜ!」
「ああ!」
 再び襲ってきたゴーレムのこぶしを、才人はバックステップでなんとかかわした。
ガンダールヴだったときの、体に羽が生えたような身の軽さはないが、やはり
デルフを手にしていると、そのときの動きを体が覚えていて反応してくれる。
 しかし、ガンダールヴの力を失ったことと、一撃でも喰らったら即死確定の攻撃を
避け続けなければならないことで、動きに精彩を欠きすぎると思ったデルフは
才人を叱咤した。
「相棒、回避に無駄が多すぎる! 思い出せ、お前はあれよりもっと速いものと
戦ったこともあるじゃねえか!」
「へっ? ……そうか! あれか」
 合点した才人はデルフをかまえて気を落ち着かせると、今度はゴーレムの
手の動きをよく観察して、軽く飛びのいただけで余裕を持って回避した。
「どうやら、思い出したみたいだな相棒」
「ああ、ツルク星人の剣に比べたら、遅い遅い」
 そう、あの奇怪宇宙人ツルク星人との対決のときの三段攻撃の見切りの特訓も、
ガンダールヴの力が失われた後でもちゃんと才人の血となり肉となっていた。
コツを取り戻した才人は、今度は先程よりも格段に無駄のない動作で、機敏に
攻撃を回避していく。
「いいぞ、前の動きが戻ってきてるぜ」
「ああ、それにしてもガンダールヴがなくても、これだけ動けたなんて信じられねえぜ」
「あんまし自分を過小評価すんなよ、お前さんは実戦経験だけならすでにベテランの
域なんだ。ようし、そろそろ反撃してみろ!」
「反撃って!? ちぃっ、だめもとでやってみっか、せゃあっ!」
 だが、やけくそでデルフリンガーの重さを振り子のように使ってゴーレムの手に
斬りつけてみても、やはり硬質化した土には通用せずに、わずかに刃先がめり込んだ
だけではじかれた。
「ちぇっ、相棒、やっぱ正攻法じゃ無理だ」
「わかってる、怪獣を相手にしてるようなもんだからな。連打してもいいけど、
手が痛くなるだけだなこりゃ」
489名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 16:52:23 ID:xV3qQPM7
支援
 と、言いながらも才人の頭の中の冷静な部分は、どうにかしてこの苦境を突破
できないものかと回転していた。元々、日本にいたころからも怪獣が突如出現して
避難するなどは日常だったし、ハルケギニアに来てからは、腕っ節といっしょに
度胸も鍛えられてきている。
 
 メイジを相手に勝つ方法……
 
「デルフ、メイジを倒すには、やっぱり杖か本人を狙うしかないか?」
「そりゃそうだろうが、あの姉ちゃんはゴーレムの肩の上だぜ、ガンダールヴの
ままの相棒だったら、ゴーレムの体を駆け上がれたかもしれねえが、普通の
人間が四〇メイル近くも昇れるわけねえだろ」
 確かに、メイジの魔法の源は魔法の杖であり、いかなる魔法も例外なく杖が
なければ発動することはできない。それが、メイジの最大の弱点であるのだが、
そもそもメイジを相手に正面からは、近づくことさえ困難なのだ。
「まあ、そうだろうが、一つだけ作戦があるぜ。このだだっ広い庭ならな」
「相棒?」
 不敵に笑った才人の自信の根源は、六〇〇〇年生きてきて、その生涯の中で
幾度か「メイジ殺し」と呼ばれてきた剣士にも使われたことのあるデルフにも
わからなかった。ただ、才人がこの期に及んでハッタリでその場しのぎを
するほど卑小な男ではないことだけは、デルフもルイズも信じている。
「カトレアさん! その挑戦、受けて立ちます。もし勝ったら、ルイズとの交際、
認めてくれますか!」
「ええ、それはわたしの誇りにかけて誓いましょう。けれど、平民のあなたが
わたしに勝てると思うの?」
 それは差別意識からではなく、冷然たる事実から出た言葉だった。魔法を
使える貴族と、使えない平民とでは、その力に雲泥の差がある。ルイズも、
ガンダールヴの力もなしで無茶よと、青ざめた顔で才人に怒鳴ってくる。
 それでも、才人はそんな常識に臆することなく決然と叫んだ。
 
「そんなこたあ関係ねえ! 魔法なんかなくたって、人間には誰にでも
知恵と勇気があるんだ!」
 
 そうだ、魔法が使えなくたって、ガンダールヴがなくたって、ウルトラマンの
力を借りられなくても、才人にはまだこの最初で最後の武器が残っている。
かつて地球でも、ウルトラマンや防衛隊の力を借りずに、単身怪獣に立ち向かって
いって、平和を守ってきた人が大勢いた。その勇敢な志は、才人にも脈々と
受け継がれて、一瞬ルイズとカトレアを圧倒した。
「さすがに、ルイズが選んだだけのことはあるわね。あなた何者? ハルケギニアの
人間じゃないわね。っていうか、なにか根っこから違う人間のような気がする。違って?」
「あ、うーん……」
「うふふ、やっぱり。わたし、なんか勘が鋭いの……ルイズ!? あなた」
 そのとき、剣を構えている才人を守るように、それまで諦観しているだけだった
ルイズが前に出てきたのを見て、驚いたカトレアは攻撃をいったんやめた。
「ちぃねえさま……いいえ、カトレアお姉さま。わたしはこれまで、おねえさまに
甘えるだけで、何もわかってない子供でした。けど、わたしは本気でサイトが
好きなんです」
「ルイズ……」
「それに、わたしは一方的に守られてばかりなんてできません。敵に背を向けないこと、
それが貴族なんだとわたしは教わりました。今、わたしはその意味をわたしなりの
言葉にして使います。敵に背を向けないとは、自分を守ってくれる大切な人に
背を向けて逃げ出さずに、いっしょに立ち向かうということ! だから、だから……
わたしは、ちぃねえさまとだって、た……たたた、戦います!」
「……しばらく見ないうちに、ずっと大人になりましたねルイズ……わかりました、
あなたたち二人の力、見せてみなさい。手加減はしません、いきますよ!」
 才人とルイズの度胸のよさに感心したのか、カトレアもうれしそうな笑みを見せて
オーケストラの指揮者のように杖を振り下ろし、楽団のように同調したゴーレムの
攻撃が襲い掛かってくる。
「うわっとお!」
 ルイズを抱えて、ひとっとびしたところへゴーレムの一撃がやってくる。さすがは
おっとりしているように見えて『烈風』の娘、妹がいてもこれっぽっちも容赦を
してくれない。
 ルイズも、たんかをきった以上だまっているわけにもいかず、いつもの爆発を
引き起こす魔法攻撃を加えるが、わずかに土をこぼさせるだけで、当然ながら
あっという間に再生してしまう。
 救いがあるとすれば、カトレアのゴーレムはフーケのもの以上の体躯と破壊力、
身のこなしを誇るが、戦闘にゴーレムを使い慣れていないために今の才人の
実力からすれば、単調なその攻撃を回避するのは難しくはなかった。
 ただ、攻撃しても効果はゼロなのだし、ゴーレムの繰り出してくるパンチや
踏み付け攻撃を、身をかわしてとにかく避けていっても、いずれスタミナが
切れれば直撃をこうむってしまうし、なによりもさっきの大言壮語が口先だけに
なってしまう。
「サイト、なにか作戦があるんじゃないの?」
「ああ、一か八か、耳かせ」
 才人は、ゴーレムが打ち込んだこぶしを引き抜いているあいだにルイズの
耳元に早口で、作戦を伝達した。そのとたん、ルイズの顔が期待から驚愕に
急変した。
「ば、ば……ばっかじゃないの! あんた正気? そんなの、作戦どころか、
でたらめもいいところじゃない」
「じゃあ、ほかにいい案があったら教えてくれ」
 言葉に詰まったルイズだったが、才人から伝えられた作戦とは、ルイズどころか
一般常識の範囲に照らし合わせても、無理、無茶、無謀を三点セットで
プレゼントしてもらえるような、とんでもないものだった。
 なのに、才人の顔は異様なまでの自信にあふれている。まるで、とっておきの
いたずらを仕掛ける前の腕白坊主のようだ。
「うう……わかったわよ! なんで、あんたみたいなのを信じるって決めちゃった
のかしら、乗ってあげるわ、あの森まで誘導すればいいのね」
「ああ、ここじゃ無理だが、森まで逃げ込めればチャンスがある!」
 このヴァリエール家の広大な庭園には、今二人とゴーレムが戦っている
ゴルフ場のような芝生の庭のほかにも、ボート遊びが可能なほどの池や、
そこを取り囲むように森林がある。
492名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 16:54:37 ID:Mq2W3ERG
ウルトラ支援ぬ
 だがなぜ、森に逃げ込む必要があるのか? 普通に考えたら木々に身を
隠して隙をうかがうなどと考えるだろうが、才人の自信からして、そんなせこい
ものではないだろう。
 二人は、ゴーレムの激しい攻撃に、大粒の汗を流しながらもちょこまかと
逃げ回って、次第に森のほうへゴーレムを誘導していった。
 その様子を、カトレアは攻撃を続けながらじっと見詰めていたが、二人の
息の合ったコンビネーションに、内心感嘆していた。
「本当に、仲がいいのね……」
 つぶやきながら、ゴーレムの上で指揮をとるカトレアの表情には、いままで
ルイズが見せたことのない勇ましい顔つきになっているのを見れることへの、
無意識な喜びがあった。
 
 そして、そんな二人の連携もあって、森林地帯にゴーレムは誘導されて、
才人の作戦は開始された。
 
「ふぃーっ、さすがに広い森だな。これが原生林ってやつか」
 まだ自然が色濃く残るハルケギニアの森は、日本の森よりもずっと深くて、
月明かりもたいして届かずに、ずっと薄暗かった。地球でも、ドイツには影の森と
いう場所があると地理の授業で聞いたことがあるのを才人は思い出した。
 だがこれならば木々が邪魔をしてしばらくは身を隠せるかと思えたのもつかの間、
ゴーレムはなんの遠慮もなく木々を蹴散らしながら森の中に踏み込んできた。
「ちぇっ、やっぱ小細工が効くはずもねえよな。よーし……あれなんかちょうどいいか、
ようしルイズ、作戦開始だ!」
 一方、カトレアは森に逃げ込まれて才人たちを見失ったものの、ほかの二人の
姉妹と比べて落ち着いた性格ゆえか、慌てた様子を微塵も見せずに、微笑を
浮かべたまま、ゴーレムを操りながら二つ目の呪文を唱えていた。
「森に逃げ込んで隙をうかがうつもりかしら? 残念だけど、メイジを相手に
暗闇は武器にならないわよ」
 カトレアは水系統の『暗視』の魔法を使って、まるで赤外線スコープを
使っているかのように二人の姿を探した。彼女の得意系統は『土』だが、
『水』系統も得意な上に、母親ゆずりで精神力の容量も並外れている。
 しかし、時を経ずして見つけた二人がやっていたことは、姉や妹にも
負けずに頭脳明晰なカトレアから見ても、疑問符をつけずにはいられない
ものだった。
「なにを……してるの?」
 森の一本の木を使って、二人はなにやら奇妙なことをしている。最初は
よじ登ってゴーレムに飛び移るつもりかと思ったが、どうも違うようだ。
おまけに、ゴーレムが一直線に向かっていっても逃げる気配もない。
「よーし、思いっきり引けーっ!」
 才人は、森の木々の中から、垂直に伸びている高さ五メイルくらいのまだ幹の
柔らかい若木を見つけると、その先端をつかんで、ルイズといっしょに思いっきり
弓なりになるまで引っ張って曲げていた。
「ほ、ほんとにこんなんでうまくいくんでしょうね!?」
「ああ、見て腰を抜かすなよ。よーし、ちょうど正面から来てるな。デルフ、いいか?」
「おれっちはいつでもいいが、相棒、何をする気か知らねえが、こんな木を
ぶっつけたって、ゴーレムはびくともしやしねえぜ」
「ふふふ……そんなことは百も承知だぜ。ようし、まっすぐ来てるな。ルイズ、いくぜ!」
 ルイズに合図を送ると、才人は限界まで引っ張られてきしみ音を上げている
木のてっぺんにしがみつき、デルフを持って身構えた。
「いくわよサイト! いち、にの、さーん!」
「平賀特別攻撃隊、いきまーす!」
 ルイズが手を離したその瞬間、限界まで曲げられていた木は、その弾力性から
一気に元に戻ろうと跳ね上がった。するとどうなるか、てっぺんに掴まっていた
才人もいっしょに持ち上げられて、なおも勢いを落とさない木の反発力は、
まるでパチンコのように才人の体を空中に投げ上げたのだ!
 
「と、飛んだ!」
 
 半信半疑だったルイズやデルフ、それにカトレアも度肝を抜かれて、ゴーレムで
迎撃するのも忘れて、みっともなく叫んでしまったが、それを誰が責められようか。
平民が魔法の力も借りずに空を飛ぶなんて、普通に考えたら絶対にあるはずがない。
 のにも関わらず、才人は空をゴーレムに向かって一直線に飛んでいき、見事に
ゴーレムの左肩に着地したではないか。
「おっとっとっと! あぶねー、もうちょっとで落ちるとこだった」
「……あ、ぁ」
 さしものカトレアも、目の前で起きたことが信じられないと、この世のものでは
ないかのように呆然として、ゴーレムにしがみついている才人をみつめた。
 このときの彼女たちの心境を一言で表すなら「そんなアホな!?」のこれしかないだろう。
 けれども、植物の反発力というのをあなどるなかれ、実際に木のしなりを利用して
大きな石を飛ばす『投石器』という武器は地球でも使われていたし、近代でも
防衛チームZATの東光太郎隊員が、竹のしなりを利用して身長四八メートルも
ある蜃気楼怪獣ロードラの鼻っ先に飛び乗ったという実例があるのだ!
「さてと、これでおねえさん、おれたちの勝ちかな?」
 デルフをカトレアに突きつけながらした才人の勝利宣言を受けて、カトレアは
ようやく我に返ると、大きく息を吐き出して、杖を下に下ろした。
「ずいぶんと、信じられないことをするのね……いいわ、わたくしの負けですね」
 毒気を抜かれてしまったカトレアは、いさぎよく負けを認めると、ゴーレムを
ゆっくりと元の土くれに解体していった。
「はぁーっ、やれやれ、死ぬかと思ったぜ」
 空気の抜けていく風船に乗っているように、ゆっくりと下ろされている感触を
味わいながら、デルフを下ろした才人は緊張が一気に解けたようにへたりこんだ。
勝利宣言はしたものの、まさかルイズのお姉さんに向かって本気で剣を
振り下ろすわけにはいかないし、カトレアも、剣を突きつけられていても、
彼女ほどのメイジならいくらでも逆転の手はあっただろうから、本気で寿命が縮んだ。
「サイトーッ!」
「おーいルイズー! 見てたか、おれ勝ったぜーっ!」
 ゴーレムがただの土の山に返ると、才人は慌てて駆け寄ってきたルイズに
勝ったことを知らせて喜ばせようと、満面の笑みを浮かべて抱きとめようとした。
けれども、おれの胸に飛び込んで来いという才人の胸に実際に来たのは
ルイズのドロップキックの一撃だった。
「この、バカーッ!」
 目を白黒させているカトレアの前で、ルイズは見事に飛ばされて土の山に
大の字になってめり込んだ才人を引きずり出すと、襟首をつかんで締め上げた。
「なんてむちゃくちゃやるのよ! 見てたけど、あと一メイルでもずれてたらゴーレムを
通り過ぎて地面と激突してたじゃない。一瞬だめかと思っちゃったじゃないの」
「せ、成功したからいいじゃねえか……ん? お前」
 そこで才人は、怒りに燃えていたはずのルイズの顔が、いつの間にか涙目に
なっているのに気がついた。
「バカ……サイトのバカ、あんたって、どうしてそう自分の命をかえりみないのよ。
わたしが、どれだけ心配したと……」
 また、あんたの死体を見ることになったらどうするのよと、ポカポカと自分の
胸板を殴りながらぐずるルイズに、才人はその顔は反則だぜと思いながら
優しく頭をなでてやった。
「わりい、心配かけちまって。もう二度としないから、泣き止んでくれよ、な」
「むぅ、な、泣いてなんかないもん! 怒って目から汗が出ただけだもん!」
「ぷくくく、なんだよそのド下手な言い訳は、まったく可愛いなお前って!」
「わっ、サ、サイトぉ!」
 仲良く抱き合う才人とルイズを見て、カトレアはもう一度ふうとため息をついた。
彼女としては、この戦いの決着についての予定として、いくら才人ががんばろうと
四〇メイルのゴーレムにかなうはずはないのだから、適当なところでルイズに
攻撃がそれたふりをして、才人がルイズをかばおうとしたら、
「ルイズといっしょになれない障害が、あなたが貴族じゃないということなら、
貴族の条件というのをご存知? それはね、お姫さまを命がけで守ること、
それだけなのよ」
 と、はげましてあげて水入りにして終わらせるつもりだったのだが……
まさか、本当に勝負して負けることになるとは思わなかった。それも、才人は
特別な力や道具などには一切頼っていない。言ったとおりに、知恵と勇気で
この難関を切り抜けてしまった。
 どうやら、自分は余計なおせっかいをしてしまったようだなと、カトレアは
魔法の杖をしまうと、まだじゃれあっている二人に歩み寄った。
「ルイズ、サイトくん」
「ちぃねえさま」
 そのときのカトレアの表情は、もういつもの温和で優しいものに戻っていた。
「お見事だったわサイトくん、あんなかたちで負けちゃうなんて、夢にも思わなかった。
わたしの完敗よ。あなたは、すばらしいナイトだわ」
「い、いやそんな。た、たまたまうまくいっただけですよ、あはは」
 才人は笑ってみせたが、カトレアのまったく他意のない言葉は、まるで母に
褒められているときのような充足感を、彼の心に満たしてくれた。
「うふふ、でもねサイトくん、もしあなたがルイズを悲しませるようなことになったら、
おねえさん怒っちゃうから、覚えておいてね」
「き、肝に命じておきます!」
「ルイズ、サイトくんなら、きっとあなたを守ってくれるわ。うらやましいわ、あなたには
こんなすばらしい騎士がついていてくれる。ハルケギニア中探しても、二人といない
勇者でしょうね」
「ち、ちぃねえさま、あんまり褒めすぎるとこいつはすぐ頭に乗るから、そのへんで!」
 とはいえ、頬を染めているところから、ルイズもまんざらではないらしい。
「ルイズ、でもこれだけは言っておくわね。サイトくんがあなたを守ってくれている
ように、あなたもサイトくんを大事にね。恋人というものは、温かいコートのような
もので、着ているときは、ときに汗をかいて暑苦しく思うこともあるけど、
脱いでしまったらとたんに冷たい北風にさらされてしまうものなの、わかる?」
「はい、わかります。ちぃねえさま」
 一度、才人を失っているルイズには、カトレアの言いたいことがよくわかった。
これからも、二人の前にはさまざまな障害や、試練が待ち構えていることだろう。
それらに立ち向かっていくには、二人の強い絆が絶対に必要なのだ。
 カトレアは、強い光を宿した二人の瞳を、大切に籠に飼っていた小鳥を、空に
放すときのように、一瞬寂しそうに見つめると、ルイズを抱きしめた。
「もうすぐ、あなたもわたしが抱きしめられないくらい大きくなるのね。だけど、
わたしはずっとあなたの味方だからね。わたしの小さな、いいえ、愛しいルイズ」
「ありがとう、ちぃねえさま……」
「サイトくん、この子はきかん坊なところがあるけど、仲良くしてあげてね。ただ、
お母さまとお父さまの説得には、わたしもできるだけの助力はするつもりだけど、
がんばってよ」
「ど、努力します」
 こうして、恋人として歩み始めた才人とルイズの最初の試練は無事に終わった。
 すっかり仲良くなった三人は、それから散歩の続きをするように、これまでの
思い出をカトレアに語りながら、ゆっくりと屋敷のほうへと歩いていった。
 
 しかし……そんな三人を、空の上からこれまでずっと見守っていたものがいたのである。
 
「ま、まさか……カトレアに、あんな平民が勝っちゃうなんて、信じられないわ」
「カトレアも、ゴーレムに上がってこれるはずがないと油断したわね。まあ、あの子は
元々争いごとには向かない性格だけど、ふふ……あんな無茶をする男は久しぶりに見たわ」
 高空で、月を背にホバリングする巨大な怪鳥、ラルゲユウスの背中に立つ二人の
女性が、今の戦いぶりを見てそれぞれの感想を述べていた。
「お母さま、笑い事ではありませんわ。カトレアが、あのカトレアがただの平民と
戦って負けてしまったんですわよ。このことがおおやけになれば、ヴァリエール家の
大恥に! いえ、それよりも、あの男は何者ですか! カトレアは、その気に
なればトリステインでも五指に入ると言われた魔法の使い手ですよ。それを……
きっとあの男はヴァリエール家にとって大変な災厄になります。即刻排除いたしましょう!」
 ぶっそうなことを目を血走らせて言っているのは、カトレアとルイズの姉のエレオノール。
彼女はヴァリエール家の長女として、いつもは轟然とかまえているが、幼い頃に
カトレアの飼っていた子犬を蹴飛ばしてしまい、泣かせてしまったカトレアから
受けた仕打ちが、今でもトラウマになって忘れられないでいた。
 さて、ところでなぜカリーヌに教育的指導を受けているはずのエレオノールが
ここにいるかといえば、カリーヌの指導の苛烈さを身にしみて知っているエレオノールは、
カトレアと同じ『土』系統のメイジなので、カトレアが大型のゴーレムを作り出したことを
地面の振動で知り、これ幸いとばかりに何事かが起こったに違いないとカリーヌを
けしかけて、こうして出てきたというわけだ。
 が、その個人的感情を大いにこめたうったえを、彼女たちの母であるカリーヌは
冷然と受け止めた。
「心配しなくても、誰もこのことを言いふらしたりはしませんよ。それに、彼は
ルイズの使い魔、今はそれで充分ではありませんか?」
「使い魔といっても、だったらなおのこと問題ではないですか! どこの世界に
使い魔と連れ合いになる貴族がいますか。カトレアが許しても、わたしは絶対に
認めませんわ」
「さて、それはどうかしらね。あのサイトという子、このままただの使い魔で終わるかしら? 
彼が見せたあの力は、私たちの持つ魔法などとはどこか異質な……けど、とても
ユニークなものね。ふふ、ルイズやカトレアが気に入るわけねえ」
 そこでエレオノールは、普段厳格そのもので、めったに笑顔など見せないカリーヌが
声を出して笑っているのを間近で見て、背筋が冷たくなるものを感じた。
「ま、まさかお母さまは、あの二人の交際をお認めになるつもりなのですか!?」
 信じられなかった。カリーヌの現役時代からのモットーは、決して揺るがない
鉄の規律であり、貴族としての精神、しきたりを踏みにじることになる行為を
するはずがない。だが、カリーヌは含み笑いを止めると、真面目な表情に戻って言った。
「それはこれからのあの二人しだいね。あの二人の愛が本物ならば、彼が爵位を
とるなり、ルイズが家を出て行くなりするはず、そうなればわたしに止める理由は
なくなるでしょう」
 規律の中で違反を犯すならとがめるが、その枠から外れてしまうなら叱る必要はない。
ヴァリエール家の娘をめとるのだ、それくらいのことはしてもらわなくては困る。
 そして、カリーヌはエレオノールには言わなかったが、あの二人ならばもしかしたら
自分が考え付かないような、新しい可能性を見せてくれるのではないかという
期待があった。
 けれど、どうしても才人のことが認められない様子のエレオノールは、まだカリーヌに
噛み付いてきた。
「わたくしは、断固反対です。平民が貴族になど、なれるはずがないではないですか! 
それもあんな野良犬みたいな男を……それも、ルイズが私より先になんて!」
「……エレオノール」
「え……あ」
 そこでエレオノールは、うっかり自分が言ってはならない本心を口に出してしまった
ことに気がついて、慌てて口を塞いだが……後の祭りだった。
「そうね、一〇以上も歳の離れた妹に先を越されたら、それは悔しいでしょうね。
けれど、それはいったい誰のせいなのかしら? そして、そんな子に他人の恋路に
とやかく言う資格が、はたしてあるのかしらと言ったわよね?」
 エレオノールは、嫉妬のあまりに地獄行きの切符を自ら切ってしまったことを、
死ぬほど後悔したが、逃げ道はなく、座った目つきになった母からの死刑宣告を
幼児のように泣き喚きたい気分で聞くことになった。
「確か、アカデミーの休暇は一週間ほどあるんでしたわね。あなたの不徳は母である
この私の不徳によるもの。罪滅ぼしに、付きっ切りで性根を叩きなおしてあげましょう。
感謝なさい」
「い、いやーっ!」
 なんとか逃げられるかと思ったのに、さらにひどい地獄がエレオノールの前に
口を開けていた。これからエレオノールは一週間にわたって、おしとやかに歩かなければ
靴に噛みつかれるとか、大声を出したら全身に電流が走るとか、眠っているオーク鬼の
群れの中を起こさずに歩きぬけるとか、なかば拷問に近い『烈風カリンの社交界マナー
講座、初級編』を受けさせられることになるのだが、ルイズたちはその内容を知るよしもない。
「ふふふ……どうも、なかなかおもしろい時代になってきたようね。老兵は去りゆくのみ
と思っていたけれど、どうしてどうして、私の人生もまだまだ捨てたものではないらしい」
 才人という少年を中心にして、ヴァリエール家にも新しい風が吹いてきたのかもしれない。
 そうだ、世界は可能性に満ちている。自分が若い頃にしてきた奇想天外な冒険の
数々や、アスカや佐々木らと駆け抜けた、常識を超えたタルブ村での戦いは今でも
薄れることなく、カリーヌの魂の奥底に根付いていたのだ。
「さて、これからどういったものを見せてくれるのか、母として見届けなくてはいけませんね」
 まるで少女のころに戻ったように、カリーヌの瞳に若々しく未来への期待にあふれた
光が灯り、悲鳴をあげる娘をひっとらえたままで、夜空のかなたへと消えていった。
 
 やがて、月は天頂へと駆け上り、夜は草木も眠る真の静寂へと落ちていく。
 ルイズとカトレアは同じベッドで仲良く抱き合って眠り、ソファーに寝転んでいた才人は
寝相が悪くて転がり落ちたところに、ヤマワラワとウルフガスにはさまれて、もじゃもじゃの
毛皮のサンドイッチにされているうちに、ワイアール星人に追いかけられている
悪夢を見ながら、一人うなされていた。
 
 
 双月は、二つ揃った満月の日から離れ、片方が欠けて片方だけが強く輝くようになり、
今は満ち満ちた赤い月が、半分になった青い月のぶんまで天に君臨しようと、煌々と
晴れ渡った夜空に輝いている。
 そして、そんな赤い月の光を受けてもなお色あせない群青の影が、トリステインを
遠く離れたガリア王国の一角の空を、優しいそよ風のように飛んでいた。
「きゅーい、おねえさま、今日は任務でもないのにずいぶんと遠くまでくるのね? 
こんな人気のない場所に、なんの用なのね?」
「もうすぐだから、このまままっすぐに飛んで」
 風竜のシルフィードに乗って、雪風のタバサは月明かりで本を読みながら、
じっとこの空の向こうにある目的地につくことを待ち望んでいた。
 ここは、トリステインの何倍もの広大な領地をかかえるガリア王国の中でも、
いまだ手付かずの自然が色濃く残り、めったに人間の入ることのない秘境、
タバサはルイズたちと別れた四日前から、一度ラグドリアン湖畔の実家に帰省した後で、
シルフィードに命じてこの辺境の地、『ファンガスの森』へとやってきたのだった。
「見渡す限り、森、森、森、なーんにもないところなのね。シルフィとしては、そりゃ
自然がたっぷりなところは好きだけど、こんなところじゃ満足にごはんにもありつけ
そうもないのね。まさかまたごはん抜きなんて言わないのね?」
「……」
「竜にだって、働いたらそれに見合った報酬を受ける権利はあるのね。おなかすいたー、
ねー、おねえさまってば」
 そろそろ我慢の限界が来たらしいシルフィードがわめいても、タバサは本から
視線を離さずに、うんともいいえとも言わない。
「もー、最近のおねえさまはほんと竜使いが荒いのね。こんなに遠くまで飛ぶのが
どれだけ疲れると思って……ねー! ねーってばー……あれ?」
 いいかげん堪忍袋の緒が切れて、タバサから本を取り上げようと首を後ろに向けた
シルフィードは、タバサの読んでいた本が、飛び始めたときからほとんど進んでいない
のに気がついた。いや、それ自体は珍しいことではない。タバサでも、強く緊張
したり、心が乱れていたりするときは本に集中できないこともある。
 けれど、今のタバサは……いつもと同じ無表情なのには違いないが、どことなく
そわそわしているというか、ほおの筋肉がこわばってないというか……
「はて……いつものおねえさまとはどこか違う?」
 それが何か? といわれれば困ってしまうが、少なくとも今のタバサからは
危険な仕事におもむくときのようなピリピリした殺気のようなものは感じられず、
むしろご馳走を前にしたときの自分のようなうれしそうなものに思える。
「うーん、この先におねえさまの大好物のハシバミ草の群生地でもあるのかね? 
いやいや、おねえさまは確かに大食いだけど、そこまで食い意地は張ってませんから、
となると……はっ!」
 そこでシルフィードは、人間に換算するなら十歳くらいの脳みそで、ちょうどその年頃の
人間の子供も思春期に突入して、やたらと気にするようになるあることに、タバサの
状態を強引に当てはめて、一人合点した上でおもいっきり叫んだ。
「そうか! おねえさま、恋してるのね! だからこんな人里離れたところで逢引を、
ずるいのねずるいのね、それならそうと」
 どうしたのか、というところを言う前にシルフィードの頭上にはタバサの杖の一撃が、
きついお仕置きとなって降りかかった。
「いたーいのね!」
「早とちり」
 タバサの杖は節くれだっていて大型なので、鈍器としてもけっこうな威力を持つ。
この竜は、実年齢こそ人間であるタバサの何倍もあるくせに、まだ幼獣なので
精神年齢は低くて、話を低俗なほうへもっていこうとする悪いくせがある。
「わたしは恋なんてしていない」
「うー、でもー……わ、わかったのね」
 反論したかったが、またどつかれるのが怖くなったシルフィードは、しぶしぶと
『タバサ逢引説』を撤回した。
「んで? 逢引でなかったら、こんなへんぴなところになんの用なのね?」
「会いたい人がいる」
「えっ、それって恋……」
 うっかり口を滑らせそうになったシルフィードは、振り上げられたタバサの杖を
見て、慌てて前足で口を閉じた。けれども、タバサの杖はシルフィードの頭を
通り過ぎて、前方下の一点を指し示していた。
「目的地」
 見ると、いつのまにか黒々とした森の中にぽつんと灯が見えている。
シルフィードは、とにかく言われるままに、そこへと向かって降下していった。
 
「はぁー、こんなところに家があったのね」
 降りた先には、森の木を利用して建てられたと思われる一軒家が建っていた。
 ただ、家といっても、二階建ての倉庫と山小屋の合いの子のような感じで、
見栄えはまったくしないがネズミ避けの高床式で、太い木を隙間なく組み合わせた
頑丈なつくりの、オーク鬼でも簡単には壊せそうもない、小さな砦の様相を見せていた。
「ここが、おねえさまのお知り合いの家なの?」
「そう、少し待ってて」
 シルフィードの背から降りたタバサは、彼女にそう言うと、ゆっくりと玄関の
扉のほうへと歩いていった。
「それにしても、こんなところにこんな家を建ててるなんて、何者なのかね?」
 近場まで来てわかったのだが、ここは森の一角を伐採して作った、半径
一〇〇メイルはありそうな円形の広場で、家はその中央に建っている。
この造りは明らかに、外からの猛獣の侵入を警戒したもので、空き地に
作られた畑や、動物の侵入をこばむ有刺鉄線などからも、この家の住人が
ここに長期間住んでいることは、シルフィードでも容易に推測できた。
「人間にもいろいろと変なのがいるけど、また物好きなのがいたものね。
けど、こんなところに、おねえさまがどんな知り合いが?」
 竜が首をかしげているところは、普通はなかなかお目にかかれない貴重な
ものであろうが、見慣れているタバサは振り向きもせずに、玄関の前にある
小さな階段へと歩いていく。
 と、そのとき家の扉が内側から開き、中から一人の人影が現れた。
「来たね。そろそろだと思っていたよ」
 女の、それも若い声だった。シルフィードの位置からは、家の明かりが
逆光になってシルエットしかわからないが、長身で短く刈りそろえた髪が、
一瞬少年のような精悍さを感じさせた。
 彼女は階段の前で立ち止まったタバサに向けて、ゆっくりと階段を
降りていった。だが、木の階段を下りるときに右足と左足で足音が違う、
右足は普通の革靴のものだが、左足は硬い音がする。よく見ると、ズボンの
すそから見える足首が木でできている、義足だった。
「また、少し大きくなったかな?」
「……」
 彼女はタバサの前に立つと、手を上げてタバサの頭を豪快になでまわした。
「痛い……」
「おっと、悪い悪い」
 シルフィードはそこで、「おねえさまになにするのね!」と、飛び掛ろうとしたのだが、
タバサは嫌がるどころか、感極まったように彼女の胸に飛び込むと、甘えるように
ほおをすりつけていった。
「お、おねえさま!?」
 タバサのこんな無防備な姿、召喚されて半年経つけれど一度も見たことがなかった。
一番の親友と思っている、あのキュルケの前でさえ、こんな姿は見せないだろう。
 そして彼女はすりよってくるタバサの背中を優しく抱きかかえると、とても穏やかに、
母が娘に語りかけるときのように、心を和ませる声色で、タバサの本当の名で迎え入れた。
 
「おかえり、シャルロット」
「ただいま、ジル」
 
 
 続く
501ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2010/06/27(日) 17:05:38 ID:bcbMlXAl
以上です。今回も支援、ありがとうございました。
残念ながら、いくらなんでもちぃねえさま相手に変身するわけにはいかないので、ウルトラマンAの
登場は、次回にもちこさせていただきました。
しかしまあ、原作もですが、この最強一家に婿入りとは、才人はたいした男です。
あと、>>287の人は、そこまで読み込んでいただいて、本当に作者冥利につきました。
それから、33話の名前を出さなかった怪獣は、ダイナに登場したスーパー必殺怪獣デマゴーグのことです。
レボリュームウェーブなどで時空のかなたに消された怪獣が、めぐりめぐってメビウスの世界に
漂着したという話でした。

これからはこのように、2〜3話の短編形式の積み重ねでストーリーをしばらくは作っていく予定です。
では、次回からは早くもですが、タバサの冒険です。
502名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 17:08:16 ID:Mq2W3ERG
ウルトラ乙

俺はガバドンBだと思ってたぜ
503名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 17:13:13 ID:iVdJ/0xS
容量やばいが次スレ立ってる?
504名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 17:33:34 ID:kdTWfDoz
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part278
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1277627588/
505名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 17:43:08 ID:AWztcig0

ってことは次回はいよいよ。
ジュリとタバサがであうわけですな。
506名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 17:48:52 ID:SFzozx0m
>>504
スレ立て乙です!
507名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 18:36:48 ID:sOlS8EjA
>>504
乙です。

第四話書き上がりましたが、次スレ立ってるようですね。
そっちに投下した方がいいかな。
508名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 18:45:44 ID:6ZCp3yk7
>>507
そうだね
あと6KBしかないので次スレの方がいいと思う

それにしても投下のスピードが早いなww
2日で4話とか早くて嬉しいぜ
ただ無理はしないでほしい
509名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/27(日) 21:36:33 ID:h681Gi/f
今回は一週間持たなかったのか。早すぎだろ。
そんだけ投下が多かったという事か。
510名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 03:45:57 ID:Ss8I/BiZ
では埋めますかね
511名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 04:27:53 ID:6+4lJafK
「埋めるか」
「む」
「埋めぬのか」
「むむ」
「埋めよう」
「埋めよう」
そういうことになった。
512名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 17:01:08 ID:zZnUL/KO
埋めるのか。
さて、ここいらで……おや、既に何かが埋まっているな。こういう時掘るとたいていヤバイ物が見つかるんだけど……キョロキョロ……よし、周りに誰も居ないな。
ざっくざっくざっく。
げ。
……出番の無かったサイトが埋まってた。
え? 「オレには出番なんて無いんだから、もう一度埋めてくれ」……そうか、武士の情け、介錯は任せろ。さて誰にも見つからないよう、きっちり埋めておこうか。あ、飯はアンパンと牛乳でいいか?
513名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 17:35:44 ID:DX9xRi7Z
>>502
昭和シリーズの怪獣だったらGUYSが気づくと思うが。
 
あと、AAでの埋めはご法度ですからね。
514名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 17:49:32 ID:E/wvPutL
>>512
待て、才人。予定では次にお前が大活躍するはずなんだ。ルイズとも、そりゃもうラブラブにしてやろうかと……それなのに埋まってしまうなんて……

まぁ、使う時には掘り出してあげよう。
でも才人出てる作品はもうちょっとあってもいいよね。
515名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 18:02:27 ID:uVkCqwBk
>>511
これってなんの文だっけ?
みたことある
516名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 19:30:17 ID:6+4lJafK
>>515
夢枕獏の陰陽師。
517名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 19:32:50 ID:uVkCqwBk
>>516
読んだこと無いけどパロディにされたりしてるのかな
518名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 19:41:22 ID:KTQOkBIJ
>>517
そんなに盛んじゃないけど
文芸系の板ならそれなりにコピペされてるっぽい

一度読んだら忘れないフレーズだしねw
519名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/28(月) 22:34:27 ID:exoSqB12
埋めSS、始めます。
520ウルトラ・スーパー・デラックスマンZERO(1/3):2010/06/28(月) 22:35:38 ID:exoSqB12
 トリステイン王国、トリステイン魔法学院のとある一室。
 部屋のドアには、『待機室』と、この国の言語で書かれたプレートが貼られている。
「あー、つまらん! 事件はどうした、事件は! まったく、この世から悪が消えてしまったとでも言うのか!」
 ソファーに寝転がったまま、部屋の主の中年男……句楽兼人は吐き捨てた。
「おーい、メイド!」
「は、はい、只今!」
 あわてて駆けてくる音、続いてドアをノックする音が聞こえてきた。
「シ、シエスタでございます」
「帰る! 給料が出てたら持ってきてくれ」
 シエスタはあわてて学院の経理担当のところへ行き、すぐに給料袋を持って戻ってきた。
「お、お、お給料でございます……」
 シエスタは句楽に給料袋を差し出すが、明らかに脅えていて近寄ろうとしない。
「そんなに遠くにいちゃ、取れんだろうが!」
「も、申し訳、ありません」
 シエスタは腰が引けたまま、句楽におずおずと近づいていく。
「ほら! 早くよこしなさい」
 句楽は給料袋をひったくるように受け取った。
「じゃ、今日はこれで帰らせてもらうよ」
 鞄をわしづかみにして、部屋を出ていこうとすると、
「ミスタ・クラク、今日は健康診断が……」
 シエスタが呼び止めて言った。
「この僕に健康診断なんかいると思う? 君が受けときなさい」
「と、とんだ失礼を申しました!!」
 シエスタは、必死に何度も頭を下げた。
「それじゃ!」
「お、お疲れ様でございました!」
 シエスタに見送られ、句楽は部屋を出た。
「きゃあっ!」
「クラク・ケント!?」
 顔を見るなり、生徒や教師、使用人たちはみんな逃げるように去っていったり、物陰や部屋に隠れたりした。
「ふん、どいつもこいつも!」
 不機嫌そうに歩いている句楽にその時、
「あいたっ!」
 歩いてきた誰かがぶつかった。
「ミ、ミスタ・クラク!」
 コルベールだった。
「……どこ見て歩いてんの?」
「 ……す、すまない! 悪かった! 許してくれ、許してくれ……何でもするから……頼む!」
 コルベールは半泣き顔でひたすら謝る。
「悪かった。あんたをいびってもしょうがないんだ。……そうだ! あんた、今夜家に来ないか? ルイズくんも誘って」
「え? ミス・ヴァリエールも? いや、あの、その……」
「じゃあ、待ってるから」
 そう言い残して、句楽は行ってしまった。


521ウルトラ・スーパー・デラックスマンZERO(2/3)
「だめだ、無理だ! あんな化け物、君一人の力じゃどうにもならん!」
「でも召喚して、契約したのは私です! 全て私の責任です。だから、私があいつを始末します……」
 ルイズははっきりと、悲壮な覚悟で言う。
「無茶だ……」
 コルベールは途方にくれてしまった。
「ル、ルイズ! クラクが来たわよ!」
 横にいた級友、キュルケが知らせた。二人は慌てて口をつぐんだ。
「おう、二人とも、なるべく早く来いよ。待ってるからなー!」
 句楽はそれだけ言うと、悠々と去っていった。
「……どうして、どうしてこうなっちゃったのよ……ただの平民だと思ったら、あんな化け物だったなんて……」
 張り切ってはみたが、いざ、その『化け物』の姿を目の当たりにすると、決心がぐらつくのをルイズは抑え切れなかった。



 あたり一帯は戦争直後のような、焼跡だった。周囲の草木は焼け落ち、人の気配は全くしない。
「……」
「……」
 コルベールとルイズは焼け跡に残った道を、句楽の家に向かって歩いている。二人は全く口を開こうとしない。
「ちょっとちょっと、どこ行くんです? この辺りは何もないですよ」
 後ろから、馬に乗ったパトロール中の兵士が声を駆けてきた。
「クラクの家に行くところなんです。あいつに呼ばれて……」
 コルベールが答えた。
「クラク!? お、お気をつけて……」
 兵士は唖然としたまま、二人を見送った。
 すでに日没が過ぎ、あたりは薄暗くなってきていた。二人は足を速めた。
「早く行かないと、あいつ、機嫌悪くなるぞ」
「急がないと……!? ミスタ・コルベール! あ、あれ見て下さい!!」
「!!」
 空から何かが飛んでくる。人のようだ。
「こっちに向かってくるぞ!」
 空を飛んで来た人物は、二人の前に降りてきた。
「私の名はウルトラ・スーパー・デラックスマン。困っている人、弱い人を助けるため、日夜働いているのです」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンと名乗ったその男は、貴族のものとは違うマントを羽織っていた。
 さらに戦闘服らしきものも着ている。
「急いでるみたいですね。どちらまで行かれますか?」
「ミスタ・クラクのお宅まで……」
 ルイズが答えた。
「クラクさん? ああ、あの有名人ですね。私が連れていってあげましょう。さあ、しっかりつかまって。ハアッ!」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは二人をかかえたまま、空高く舞い上がった。
 フライの魔法も使わずに、高いところを飛んでいる。この男の能力の一つだ。
「ほら、見えてきましたよ」
 見ると、クラクの家が下にあった。焼け跡の中に場違いなほどの豪邸だった。
「さあ、着地しますよ。しっかりつかまって」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは高度を下げ、クラクの家の前に着地した。
「着きましたよ」
「おかげで助かりました。ありがとうございました」
 二人は礼を言った。
「いえいえ、礼には及びません。クラクさんによろしく。それでは失礼! シュワッ!!」
 彼は飛行体勢を取った。だが……。