6/6【けいおん!】
○平沢唯/○秋山澪/○田井中律/○琴吹紬/○平沢憂/○中野梓
4/6【咲-Saki-】
● 竹井久/○天江衣/○福路美穂子/ ● 池田華菜/○加治木ゆみ/○東横桃子
6/6【新機動戦記ガンダムW】
○ヒイロ・ユイ/○デュオ・マックスウェル/○張五飛/○ゼクス・マーキス/○トレーズ・クシュリナーダ/○リリーナ・ドーリアン
6/6【戦国BASARA】
○伊達政宗/○真田幸村/○織田信長/○明智光秀/○本多忠勝/○片倉小十郎
6/6【とある魔術の禁書目録】
○上条当麻/○御坂美琴/○白井黒子/○一方通行/○月詠小萌/○海原光貴
6/6【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○セイバー/○アーチャー/○バーサーカー/○ライダー/○キャスター
5/5【空の境界】
○両儀式/○黒桐幹也/○浅上藤乃/○荒耶宗蓮/○玄霧皐月
4/5【ガン×ソード】
○ヴァン/○レイ・ラングレン/ ● カギ爪の男/○ファサリナ/○プリシラ
5/5【逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
○伊藤開司/○利根川幸雄/○兵藤和尊/○安藤守/○船井譲次
5/5【コードギアス 反逆のルルーシュR2】
○ルルーシュ・ランペルージ/○枢木スザク/○C.C./○ユーフェミア・リ・ブリタニア/○アーニャ・アールストレイム
5/5【化物語】
○阿良々木暦/○戦場ヶ原ひたぎ/○八九寺真宵/○神原駿河/○千石撫子
3/3【機動戦士ガンダム00】
○刹那・F・セイエイ/○グラハム・エーカー/○アリー・アル・サーシェス
61/64
※書き手枠で決定した下記の12名は、バトルロワイアル内で参加者に支給されてた名簿には名前が記載されていません。
中野梓@けいおん!、片倉小十郎@戦国BASARA、月詠小萌@とある魔術の禁書目録、海原光貴@とある魔術の禁書目録
玄霧皐月@空の境界、プリシラ@ガン×ソード、兵藤和尊@逆境無頼カイジ、安藤守@逆境無頼カイジ、
船井譲次@逆境無頼カイジ、ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス、アーニャ・アールストレイム@コードギアス、千石撫子@化物語
バトルロワイアルのルール
【原則】
64名の参加者が残り一名になるまで殺し合う。
【スタート時の持ち物】
各人に支給されたデイパックの中身は以下の通り。
地図、名簿、食料、水、メモ帳、筆記用具、ルールブック、デバイス、腕時計、懐中電灯、
応急処置セット(絆創膏、ガーゼ、テープ、ピンセット、包帯、消毒液が詰められた救急箱)、ランダム支給品(各人1〜3個)。
【名簿について】
64名中、52名の参加者の名前が記載されている。
未掲載の12名については、第一回放送の際に発表。
龍門渕透華の名前は最初から掲載されていなかった。
【ルールブックについて】
ルールが書かれた小冊子。開会式中でインデックスが語った内容とほぼ同一。優勝特典についても記されている。
【デバイスについて】
現在自分がいるエリアがデジタル表記で表示される機械(【A-1】といった具合に)。方位磁石としての機能も兼ね揃えている。
【禁止エリアについて】
六時間に一回の頻度で行われる放送ごとに、三つずつ増えていく。
参加者が禁止エリアに踏み込んだ際、首輪が起爆する(爆破までに時間差や警告があるかどうかは不明)。
【優勝者への特権について】
優勝者には賞金として10億ペリカ、そしてその賞金で買い物をする権利が与えられる。
ペリカの使い道は以下の通り(これはルールブックにも記載されている)。
・元の世界への生還――1億ペリカ
・死者の復活―――――4億ペリカ
・現金への換金――――9億ペリカ
・その他の願い―――――要相談
※1ペリカ=10円。10億ペリカ=100億円。
【作中での時間表記】
【深夜:0:00〜1:59】
【黎明:2:00〜3:59】
【早朝:4:00〜5;59】
【朝:6:00〜7:59】
【午前:8:00〜9:59】
【昼:10:00〜11:59】
【日中:12:00〜13:59】
【午後:14:00〜15:59】
【夕方:16:00〜17:59】
【夜:18:00〜19:59】
【夜中:20:00〜21:59】
【真夜中:22:00〜23:59】
書き手向けルール
※詳細はまとめwikiにて確認をお願いします。
http://www29.atwiki.jp/animerowa-3rd/pages/24.html 【状態表について】
SSの最後には下記の状態表をつけてください(服装と備考の欄は、必要なければ省略してください)
【エリア/場所/経過日数/時間】
【キャラクター名@作品名】
[状態]:
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:
1:
2:
3:
[備考]
【予約について】
予約をしたい場合はしたらばの予約スレ(
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13136/1256477871/)に
トリップをつけて予約したいキャラ名を書き込んでください。
予約期限は3日(72時間)です。予約期間中に申請すれば2日(48時間)の延長ができます。
予約の延長は、一回の予約につき一度だけ利用できます。
あるキャラの予約が行われた時点で、他の書き手はそのキャラを含んだ予約または作品投下が出来なくなります。
予約は予約期限切れ、予約破棄宣言、対応する作品投下のいずれかを持って解除されます。
予約期限切れ、予約破棄宣言の場合、その時点を持って予約されていたキャラの予約が可能になります。
対応する作品投下の場合、その作品に対して24時間以内に修正・破棄の要求がなければ、その作品のキャラの予約が可能になります。
【支給品・キャラの能力に関する制限について】
まとめwikiの制限一覧を確認してください。
http://www29.atwiki.jp/animerowa-3rd/pages/23.html ★企画に興味を持ったら★
当企画への参加に資格は必要ありません。どなたでもどんどんどうぞ。
但し、企画の円滑な進行のため、守るべきルールは存在します。
特にSS書き手として参加される方は事前に以下の「書き手用ルール」のページをお読みください。
企画への参加は「SSを書く」、以外にも「絵を投稿する」「MADを投稿する」「感想を書いてスレを盛り上げる」
等様々な形があります。そういった形での参加も大歓迎。みんなの技術を持ちよって企画を楽しみましょう。
スレ立て乙
トレーズ・クシュリナーダと別れた刹那・F・セイエイは、エクシアの太陽炉を名残り惜しげに思いながらも移動を再開した。
この争いに乗ると宣言した男は、まだしばらくあの温泉にいることだろう。
再会の約束はしたものの、それは今すぐではない。
拳銃を構え、油断のない足取りで建物から建物へと刹那は密やかに移動していく。
月明かりしか光源のないこの時間、黒髪で割と小柄な刹那の姿を遠目に発見するのは至難だろう。
発電所で確認できたのはエクシアの太陽炉だけだ。探せば他にもあるかもしれないが、どのみち生身の刹那一人では取り外すことはできない。
仲間探しと並行して発電所から太陽炉を取り外せるモビルスーツの入手が当面の目的になる。
ガンダムであれば文句はないのだが、この際フラッグでもティエレンでも構わない。
(しかし……俺だけならともかく、アリー・アル・サーシェスやグラハム・エーカー……奴らまでいるのは何故だ?)
アリー・アル・サーシェス。
奴はイノベイターに取り入り、ガンダムの力を己が欲望を満たすために使う、駆逐せねばならない歪み。
どういった立場でここにいるのかはわからないが、どのような行動を取るかは容易に予測できる。
無用な犠牲を出さないよう、見つけ次第排除せねばならないだろう。
グラハム・エーカー。
ガンダムにより歪められた、ソレスタルビーイングが内包する矛盾そのものと言える男。
ヴェーダを押さえるためのイノベイターとの決戦に向かう前、決着を付けたはずだったが。
果たして刹那の言葉を受け、愛や憎しみを超越した――彼自身の言葉を借りるなら、「宿命」――ガンダムへの執着心を捨てられたのだろうか?
どちらにせよ、サーシェスはともかく、このグラハムと言う男とはあるいは戦わずに済むかもしれない。
よしんば刹那とガンダムへの敵意を捨てられてないにしても、彼が望むのはあくまで「ガンダムを越えること」、すなわちモビルスーツでの決闘だからだ。
次に刹那が考えたのは帝愛グループなる主催者がイノベイターと繋がっている可能性だ。
イノベイターがこの殺し合いの黒幕なら、手駒である二人の男を送り込んできたと考えられなくもない。
だが、それなら今こうして刹那が生きていること自体がおかしい。
イノベイターの首魁、リボンズ・アルマークと言う男はダブルオーを欲していた。
かつてOガンダムのガンダムマイスターだったというイノベイター。
ダブルオーが鹵獲されたのなら、その専属マイスターである刹那を生かしておく理由はないだろう。
そしてイオリア・シュヘンベルグの遺したツインドライヴシステム、イノベイターにすら把握しきれていない計画の最秘奥。
もしリボンズ・アルマークが主催者だった場合、ツインドライヴの片翼たるエクシアのGNドライヴを、あんなところに放り出しているはずがない。
(黒幕はイノベイターではない……だとすると、奴らにとっても帝愛グループと言う組織はイレギュラーなのか?)
今の地球圏にソレスタルビーイング、イノベイターとアロウズ、そして地球連邦以外で目立った組織はないはずだ。
カタロン……はもちろん関係ないだろう。そもそも帝愛グループと言う名前は、長くエージェントをやっている刹那でも聞いたことがない。
刹那に全く気付かせずに刹那自身とダブルオーを無力化したその力は、あるいはイノベイター以上かもしれない。
(まさか奴らもイオリア・シュヘンベルグの……いや、断定は危険だ。今は保留しておくべきだろう)
情報が足りない。
戦術予報士ではない刹那には、今の状況から導き出せる答えは現状を打開する決定的な一手には成り得ないようだ。
気を取り直し、思考を切り替える。
いずれ来る接触の時に備え、名簿について考えることにした。
名簿を見た限り、刹那が名を知っているのは前述の二人と先程出会ったトレーズという男。
日系人が割合として多いようだが、中にはC.C.やカギ爪の男、アーチャーやライダーと言ったコードネームとしか思えないような者もいる。
刹那自身この名前は本名ではないから、名前に関しての驚きはなかったが。
とにかく現状では刹那の明確な味方と言える人物はまだいない。
ロックオンやティエリア、スメラギ・李・ノリエガなどが名簿に記されない残りの参加者であれば――
(……いや、巻き込まれたのは俺だけであればいい。サーシェスがここにいるなら、奴らの戦力もかなり低下するはずだ……)
最悪の場合刹那抜きでも対イノベイター作戦は遂行してもらわねばならない。
もちろんダブルオーがいなければ作戦の成功率はかなり落ちるだろう。だがそれでも、仲間達なら不可能ではないはずだ。
型に囚われない柔軟な発想でいくつもの困難な状況を切り抜けてきた戦術予報士。
皮肉屋だが、内に熱い意志を秘めたロックオンの名を継ぐ男。
四年前と比べ、随分と丸くなった――イノベイターであり、しかし四年前からずっとガンダムマイスターであり続けた信頼できる戦友。
ガンダムに乗らずとも共に戦ってきた、ブリッジの面々や子持ちの整備士。
そして、本来戦いとは無縁の世界にいながらも刹那達に協力してくれている、純朴な青年。
彼らならきっとイノベイターという歪みを断ち切ることができるはずだ。
もちろん刹那とて生還を諦めるわけではない。サーシェスを倒しダブルオーを奪還すれば、イノベイターとの戦いにおいてかなりのアドバンテージを得ることができるだろう。
生還とダブルオーの奪還。それがこの場で刹那に与えられたミッションプラン。
大体の方針をまとめた頃、建造物の影は途絶え平地に出た。
遠目に島が見える。だが橋は架かっておらず、行き来は不可能だろう。
しばし物陰で思案する。
もう少し行けば船着き場だがそこまで遮蔽物がなく、誰かに襲われればかなりのリスクを覚悟せねばならない。
もたもたしていれば後ろからトレーズがやってくるだろう。
刹那にその気はなくとも向こうはわからない。少なくともまだ考えは変わっていないだろう。今出会うべきではない。
危険を承知で突っ切るか、と影から乗り出し、周囲を確認する刹那。
その眼が、見上げたある一点で止まる。
「ガン……ダム?」
それはかつて祖国で見た神の使い――Oガンダムと重なる。
夜の女王、黄金の月の中心に一つの黒。
黒は段々と大きくなって、月から降りて接近してくる。明らかに人ではない大きさの何か。
刹那は反射的に身を投げ出し銃を構えた。
(モビルスーツ……違う、オートマトンか!?)
背部から噴射炎らしきものが燃え、その落下速度を殺している。だがその身の巨大な質量に抗しきることは不可能だったようだ。
やがて、燃料が尽きたか。影はぐんと速度を上げ、降下――否、墜落した。
鉄塊が猛スピードで舗装された地面へと激突、轟音と共に爆砕する。
飛び来る破片を伏せてやり過ごす。攻撃と言うには荒いが、それでも生身の刹那には十分すぎる脅威だ。
視界を閉ざす埃の中で刹那は警戒を緩めず、銃を構えたまま飛び出した。
オートマトンにこんな拳銃一挺で対抗できるはずもない。撤退を、と本能が叫んだ。
追撃もないまま50mほど走ったとき、刹那はふと思った。あれはオートマトンなどではないのではないか、と。
足を止め、振り返る。
折りしも風が煙幕を吹き払い、墜ちてきたモノを刹那の前に明らかにした。
人の形はしている。顔らしきものもある。
だが絶対に人ではない。身の丈3mの人間などいるはずがないからだ。
その小型のモビルスーツとでも言うべき巨人は、片膝をつき身体の各部から白煙を噴いていた。
落下の衝撃で受けたダメージではないだろう。装甲……と言っていいだろうその身体には、激しい戦いを思わせるいくつもの傷跡が残っている。
刹那が近付いても反応はない。
まさか人が乗っているということはないだろうと思いつつ、刹那はゆっくりとその前方へと回り込む。
その首元には、サイズこそ違えど刹那のものと同じ首輪。やはり、「これ」も参加者のようだ。
「……俺の名は刹那・F・セイエイ。この声が届いているのなら、対話を求める」
モビルスーツよりもコンパクトなその機体に、刹那は話しかけてみた。
刹那は普段からハロやヴェーダといった高度なAIに触れる環境にいるため、参加者としての立場なら機械といえども自意識はあろうと考えたのだ。
しばし待つと、その人型はよろよろと顔を上げた。
「もう一度言う。お前が何者かは知らないが、戦う意思がないのなら応えてほしい」
二度目の問いかけに、巨人は眼を――多分、眼なのだろう――激しく明滅させる。
その様は人が思考しているように見えなくもなかった。
やがて巨人は立ち上がり、傍らに突き刺さっていた巨大な槍を引き抜いた。
刹那とのサイズ差は歴然。傍からは刹那の窮地に見えただろう。
だが、刹那は不思議と自分が襲われるという心配はもうしていなかった。
巨人の刹那を見下ろす瞳が理性的に感じられたことが一点。
もう一つは、刹那の意識に飛び込んできた波のような思念だ。
「…………」
「……本多忠勝。それが、お前の名か」
「…………!」
巨人――戦国最強と言われた武人(?)本多忠勝は、驚きを持って目前の小さな人間を見つめた。
未だかつて忠勝の意志を完璧に理解できたのは、主たる東照大権現・徳川家康のみ。
供の者ですら忠勝の意志を解せる者は少ない。それとて長年の経験による予測という域を出ない。
だというのに、初めて出会ったこの青年は忠勝の名を見事言い当てて見せたのだ。
驚愕に打たれ立ち尽くす忠勝に、刹那は銃を降ろし、戦う意思はないと告げた。
「何故だろうな。俺にもわからない……だが、俺にはお前の声が聞こえる。たしかに、聞こえるんだ」
「…………!?」
「まあ、話は後だ。少し音を立てすぎた。移動するが、ついてこれるか?」
「…………」
「調子が悪い? そうか、飛べないのか……」
思案すること一瞬、刹那は後方に見える倉庫を指差した。
もうこうなっては危険がどうのと言ってはいられない。
まあ、刹那一人ならともかくこんな厳つい巨人が一緒ならそうそう襲われもしないだろう。
「この先の船着き場へ行こう。ドックがあるなら、お前も隠れられるはずだ」
「…………」
忠勝はゆっくりと立ち上がった。
忠勝自身に無辜の民草を害する意思はないが、降りかかる火の粉は払わねばなるまいと思っている。
この刹那という青年が何を考えているか、なぜ忠勝の意志を理解できるのかはわからないが、優先すべきは情報の入手だ。
もし忠勝の行く手を遮るようなら――砕くしかない。
その意思を隠し、忠勝は先行する刹那を追って足を踏み出した。
◆
工業地帯の一角、船着き場に併設された船を格納するドックの中で刹那と忠勝は向かい合っていた。
忠勝は未だ槍を手放してはいないが、対する刹那は銃を床に置き両手を掲げる。
「俺はこの殺し合い――歪んだ世界を破壊したいと考えている。もしお前が奴らに従うを良しとしないのなら、俺に協力してほしい」
「…………」
「ああ、口で言うだけでは信用できないのも無理はない。では……そうだな、取引というのはどうだ?」
「…………?」
「お前は人間ではないな。その身体では再生治療を受けることもできないだろう。
もっとも、この殺し合いの場にそんなものが用意されているとも考えにくいが……む、話がずれたな。
俺は……詳しくは言えないが、ある組織でモビルスーツを扱っている。機材と道具さえあれば、お前の修理もできるということだ」
「…………!」
取引という形を取ったが、これは本当のことだ。
刹那達ガンダムマイスターはガンダムによる武力介入が本分であるが、だからと言ってパイロットだけしていればいいという訳でもない。
自分の機体を隅々まで理解していなければ戦場においてその力を活かしきれるはずもなく。
よってガンダムマイスターは、整備士がいないときでも自分でガンダムをケアできるよう、一定の整備技術を習得している。
加えて刹那は四年前のソレスタルビーイング崩壊の後、半壊したエクシアを一人で修理し世界を巡っていたのだ。
トレミーの主任メカニックであるイアン・ヴァスティには敵わないまでも、そこらのエンジニアなど足元にも及ばないほどの技術を持っている。
そして刹那自身はまだ気付いていないが、純粋なるイノベイターとして覚醒しかけているその頭脳は脳量子波という副産物を生み出した。
忠勝の意志を感じ取れるのもこの脳量子波の効能である。
完全な覚醒には至っていないため自らの意志で脳量子波を制御できるとはまだ言えないが、刹那の演算・情報処理能力は既に常人の域を超えているのだ。
「お前をそこまで追い込む敵……おそらく俺では歯が立たないだろう。この島にはそんな奴が他にもいるかもしれない。
だからこそ、お前の力を借りたい。戦う意思なき者を救い、争いを広げる歪みを討ち、帝愛グループを打倒するために」
「…………」
「もちろん、お前に目的があるというならそれを優先してもらって構わない。
ただしそれが罪なき者を傷つけ私欲を満たすものであるというなら、いずれ俺がお前を駆逐することになるがな」
「…………!」
「……ああ、済まない。意地の悪い質問だったな。お前がどう動くかわかっているのにこんなことを聞くのは」
刹那には既に、忠勝の正義を執行すべしという意思が痛いほどに理解できていた。
先程、忠勝が墜落したとき――
このままでは終わらぬ。必ずや悪鬼羅刹どもに天誅を
力なき民よ、声を上げよ。この本多忠勝、どこにいようと推参し、その苦境を打破して見せようぞ
我が槍捧げし徳川の旗の下、主君の本懐を遂げるまで忠勝は倒れぬぞ
――と。
鮮烈にして剛毅、不屈の闘志を感じさせる思念が刹那の胸を打ったのだ。
同時に、確信した。この意思の強さ、高潔さはガンダムマイスターになんら劣るものではないと。
だからこそ、危険を承知で忠勝の前に立ち、今もこうして対話を求めている。
刹那は自分を口下手だと理解しているが、それでも今は自分がイニシアティブを握らねばならないと言葉を紡ぐ。
「改めて名乗ろう。俺は刹那・F・セイエイ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那だ」
「…………?」
「ソレスタルビーイングを知らない、か。お前の素姓も気にはなるが……今はいい。
お前の主……徳川家康、だったか。俺は知らないが、乱世を鎮め弱きものを護れと言ったのだろう?」
「…………」
「俺も、その理念に賛同する。少なくともこの島にいる間は、俺とお前は敵ではないはずだ。違うか?」
「……………………」
思案する気配。
刹那はこれで言うべきは言ったと、忠勝の反応を待つことにした。
実際、忠勝が協力してくれるなら刹那としては大助かりなのだ。
忠勝の巨体なら発電所のGNドライヴを取り外すこともおそらく可能だろう。モビルスーツを探す手間が省けるというものだ。
そもそもモビルスーツがこの島にはないという可能性すらもあるのだが、それは今はいい。
戦力としても、忠勝は刹那の遥か上を行っている。
もしこの先無力な者を保護した際、忠勝に彼ら彼女らを預けて刹那は身軽に動くということもできる。
もちろんサーシェスといった危険な手合いと戦う時にも力になってくれるだろう。
彼の威容は主催者に抗う者達の希望となるに違いない。
「…………!」
忠勝の返答を待っていた刹那の目前に、おもむろに忠勝の槍が突き付けられた。
ゴウッと風が逆巻き、刹那の髪を払う。
このまま押し込めば刹那の頭はスイカのように弾け飛ぶだろう。それを比喩ではなく現実的な結果として実行できるであろう豪腕。
忠勝はじっと、槍の向こうの刹那を見つめる。
そして刹那も、また。
「…………」
「…………」
沈黙が続き、しかし視線は一瞬たりとも相手から逸らさない。
槍を突き付けた忠勝、突き付けられた刹那。
刹那は驚きも怖れも見せず、ただ静かに忠勝の応えを待っているのだ。
「俺は……ガンダムになる。今度こそ、世界の歪みを断ち切る――本当のガンダムに。
こんなところで立ち止まってはいられない。所詮俺は破壊者かもしれないが、破壊による再生もあるはずだ」
「…………」
「だからこそ、本多忠勝。お前の力、俺に貸してくれ! 力によって力を制す――いつか咎を受ける時は来るだろう。
だがそれは今じゃない。この場所じゃない。それをするのは、そうと望む人の心だ。
その人々の未来すら奪おうとする奴らを――俺は許さない!」
「……………………」
「忠勝!」
刹那の耳をくすぐる、フッと息を吐いたような感触。同時に槍が引き戻され、傍らへと立てかけられた。
もしここで命を惜しむ素振りを見せようものなら、忠勝は即座に踵を返し次なる戦場へと向かうつもりだった。
武人である忠勝に策を弄し、徒党を組むことなど似合わない。
主ならきっとそう言っただろう。忠勝もそう思う。
だが、この青年は一歩も引かず忠勝と渡り合った。
その姿は忠勝にある一人の武人を思い起こさせる。何度打ちのめそうと不屈の闘士とともに何度でも立ち上がってきたあの男。
烈火の将、紅き炎、武田家の若虎――真田幸村のごとき、信念ある瞳。
万の将兵が忠勝の武に畏怖する中、ただ一人恐れることなく挑みかかってきたあの男を思い出し、忠勝は槍を引いた。
刹那・F・セイエイ。
その意思、胆力。戦国最強と肩を並べるに不足なし。
「…………」
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
肩の力を抜き、刹那は笑った。なんとなく、忠勝も笑っているだろうという気がした。
◆
ドックにあった機材で可能な限り忠勝のボディを修繕しつつ、刹那と忠勝は互いの知己についての情報を交換した。
刹那側、グラハムとサーシェス。
特にサーシェスには特段の警戒を。
忠勝側はいくらか数がいる。
真田幸村。忠勝と渡り合った、その主君ともども天下に一目置かれる万夫不当の武人。彼ならきっと心強い味方となってくれるだろう。
奥州筆頭、伊達政宗。直接剣を交えてはいないものの、武田と徳川の合戦を利用しようとした。
だがそれが結果的にそれが浅井の横槍を押さえたのだから、敵か味方か未知数といったところだろう。
そして織田信長に明智光秀。これは最悪と言っていい敵だと忠勝は警告する。
人を人とも思わぬ蛮行。鬼謀を繰り人心を惑わし、自らの手を汚すことなく戦を招く。
しかも始末の悪いことにそれぞれが一騎当千の武人。忠勝ですら、一度は彼らに敗退したという。
人格と実力は比例しないということか、と刹那は心中に自らを鍛え歪ませた男を思い浮かべる。
そういう奴ほど潰し合ってくれればいいのだが……あまり期待はできない。
ちなみに刹那の世界でもこれらの武人は過去に存在していたはずだが、中東出身であり、日系人風の名前も偽名である刹那には知る由もなかった。
「……よし、これでひとまず応急修理は完了だ。だが、背部のスラスターには手が加えられているようだ。
済まないが、この設備ではどうにもならない。奴らもあまりに戦局のバランスを崩す要素は排除したいということだろう。
あまり戦力としては考えない方がいいかもしれないな」
「…………」
「ああ。もっと設備のあるところなら話は別かもしれないが……」
「…………」
「そうだな。俺達がまず目指すべきは人が集まるところ……この島で言えば、南部の都市群だな。
忠勝、お前がもし行き先に希望がないのであれば俺に任せてもらえないか?」
「…………?」
「急ぐ必要はなくなったとはいえ、ガンダムを見つけられるに越したことはない。
まずこの工業地帯、ここになければ東の宇宙開発局に行きたいと考えている」
地図を示し、刹那は言った。
どちらの区画も、殺し合いが始まったばかりの時間だから人が集まってくる可能性は高い。
どうせならガンダム探しと仲間探し、両方同時にやっておきたいというのが刹那の本音だ。
この島にモビルスーツがあるという推測はもう大分否定しかけているが、発電所の例もある。
Oガンダムの太陽炉などがあるかもしれない場所は最優先で確認しておきたいのだ。
そして、口には出さないがこの首輪の解除のことも考えなければならないのだ。
設備のある施設として思い当たるのはやはり宇宙開発局だ。
「それと、もし途中で民間人を保護する機会ができたときの拠点にもなるだろうからな。早い内に押さえておきたい場所だ」
「…………」
「この二か所を確認し終えたら、北上し都市部へと向かう。おそらく戦いに乗った者もいるだろうから、戦闘も覚悟しなければならないな」
「…………!」
「そう言ってくれればありがたい。俺達はお前と違って、銃弾一発で死にかねないからな。必要がない限り、戦闘は任せるぞ」
水や食料が必要ない忠勝のデイパックの中身を自分の物へと入れ替え、刹那は出立の準備を終えた。
首輪探知機はまだ使用不可能だ。粒子がチャージされるまで待ちたいところだが、今は拙速を尊ぶとき。
ドックの外で、忠勝が腰を落としスラスターに点火する。
空中を動くことは難しくても、地上を走行する加速器としては何ら問題はない。
忠勝は左手に槍を構え、右手を折り曲げ刹那が乗るスペースを作る。
かつて主を戴いたそこに、主以外の者を乗せることを、主は許してくれるだろうか――そんなことを思いつつ。
「いいぞ、忠勝。行ってくれ」
「…………」
そう言えば、気になっていたのだ。
『忠勝』と。
本多忠勝の名をそう呼ぶのは天下広しといえどもただ一人。
後にも先にも……あってほしくは、ない。
「ん? ああ、そうか……配慮が足りなかったか、済まない。ではこれから、俺はお前を何と呼べばいい?」
「…………」
「名前以外なら好きに呼べ……と言われてもな」
「…………!」
「……フッ。気を遣わせたか? だが、そう呼べというなら俺もお前に応えねばならないな……」
月光の元、弾丸のように飛び出す戦国最強の巨人。
轟、と風を突き破り、目指すは万民が争いなく生きていける世界。
その手に握るは、万物を貫く槍。
その手を取るは、革新の扉を開く人類の先駆け。
二つの輝きは共にある。
住む世界は違えど、確かに通じ合った証として。
「ダブルオーのマイスター、刹那・F・セイエイと!」
刹那・F・セイエイ、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターは宣誓する。
「『戦国最強』のホンダムが!」
刹那の声に合わせ、忠勝が槍を突き上げた。
いつものように。
エクシアと、ダブルオーと共にいた時のように。
(あのときとは違う。だが今ここには、エクシアと、忠勝と――俺がいる!)
未来を切り開く――その意思を込めて。
「「この『戦い』を、駆逐するッ!」」
声が唱和したような気がするのは――きっと、気のせいでは、ない。
【F-3/船着き場前/1日目/深夜】
【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00】
[状態]:健康、イノベイターとして半覚醒
[服装]:私服
[装備]:ワルサーP5(装弾数9、予備弾丸45発)@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、GN首輪探知機(30分使用不能)@オリジナル、ランダム支給品0〜1(確認済)
[思考]
基本:世界の歪みを断ち切る。ダブルオーガンダムを奪還し島から脱出。
1:工業地帯→宇宙開発局→都市部 の順に移動し、ガンダムを捜索。
2:専守防衛。知り合い、無力な民間人がいれば保護する。
3:サーシェス、グラハム、トレーズ、信長、光秀を警戒。政宗は保留。
[備考]
※参戦時期はセカンドシーズン第23話「命の華」から。
※帝愛グループをイノベイターと関わりのある組織、あるいはイオリア計画の遂行者ではないかと疑っています。
※脳量子波により本田忠勝の意思を理解できます。ただし刹那から送信はできません。
脳量子波の受信範囲は広くても声の届く範囲ほどです。
脳量子波は忠勝が「考えたこと」だけが受信されます。本人が望まないことは伝わりません(忠勝の意識レベルが低下している時を除く)。
【本多忠勝@戦国BASARA】
[状態]:疲労(小)、胸部装甲破損(鋼板などにより応急修理済み)
[服装]:全身武者鎧
[装備]:対ナイトメア戦闘用大型ランス(コーネリア専用グロースター用)@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:徳川家康(参加者にはいない)の遺志を継ぎ戦国最強の名に恥じぬ戦いをする。
1:織田信長、明智光秀他戦いに乗った者、主催者グループを打倒する。
2:刹那に伴い行動する。真田幸村と合流したい。
3:バーサーカーとはいずれ決着をつけたい?
[備考]
※参戦時期は第12話で安土城へと向かっている途中。
尚、後述の飛行機能以外は主催者の力で修復された模様。
※バックパック内の装備は没収されているため、原作ゲームにおける攻撃形態、防御形態、援護形態使用不可。
他、ゲーム版での固有技、バサラ技が使えるかはお任せ。
※主催者側から飛行機能に制限が課せられています。短時間低空飛行には問題ありません。
支援
代理投下終了です
修正箇所は反映させておきました
投下乙!
俺が、お俺たちがホンダムだ!
この発想はあった。だが、
刹那とホンダムがいい感じでかっくいい。
19 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/01(日) 00:50:38 ID:OJOOGEHK
かっくいいよな(笑)
投下乙。期待通りのホンダムw
投下乙!
これはいいコンビ
そしてホンダムwww
携帯から投下致します
B-6 ギャンブル船内の一番高級なスウィートルームで盛大にイビキをかいて眠る男が居た…!
その名は利根川幸雄…
彼はかつて帝愛のナンバー2であった男である…。
帝愛時代の彼は常に勝負に勝ち続ける事だけに生きてきた…!
そう。カイジに敗れ…!バトルロワイアルに拉致される日までは…。
敗北してしまった彼はもはやゴミ…!
皇帝から奴隷への都落ち…!
まさに人生転落ゲーム…!
そして利根川の意識も序所に覚醒する…。
無気力。
もはや利根川はやる気を失っていた。
死んだような魚の目をし、以前の強大な覇気も失っていた…!
利根川は欝状態になってしまったのだ…!
「死にたい…」
利根川は呟く…!
もはや自分の人生は詰み…!もう逆転など不可能…!
そんな思いが利根川を駆け巡る…!
利根川はデイパックからワインを取り出し一気に飲む…!
デイパックの中に支給品が入っている袋が出てきた。
利根川はめんどくさそうに支給品の中身を確認する…!
出てきた物は「奇抜なデザインのカメラ付きラジコンヘリ」である…。
利根川は気だるそうに説明書を読む…!
( 「Draganflyer X6」は動物の撮影や工事現場、
メディアや公共機関など、さまざまな用途で利用されているようです。
本体の重さは1キログラムと思ったよりずいぶんと軽い。
この「Draganflyer X6」にはMicro Analogカメラが搭載されており、
通常画質の映像であれば本機だけでも撮影ができるようです。
またオプションでデジカメやビデオカメラの取り付け金具が購入可能で、
手持ちのハイビジョンカメラなどを取り付けることによって、
ハイビジョンムービーや高画質写真を撮影することもできるとのこと。
GPSも搭載しており、見失っても見つけることができるようです。
専用のリアルタイム ワイヤレスビデオシステムがあります。
空中で撮影された様子がメガネを通してみることができます。
行動範囲は半径2キロです。「エリア2マス分の距離」
注:このラジコンは禁止エリアに入ると自爆します。)
利根川はやる事も無く暇なのでラジコンヘリで遊ぶ事にした…。
利根川はギャンブル船の最上階のデッキに登りラジコンヘリを飛ばす…!
北東方面にラジコンヘリを飛ばす…!
しばらくヘリを飛ばしていると悪の組織が利用するアジトみたいな建物が見えた…。
利根川はアジトの周りを偵察するが中に入る窓や隙間が無い為断念する。
利根川はしばらくラジコンヘリで遊ぶ…!
「フフフ…」
利根川は海沿いをヘリで走らせた後回収する。
少し気分転換出来たお陰で気分も多少良くなってきたようだ…!
ワインを飲んだお陰でアルコールが回り気も強くなってきた…!
「もう…!どうにでもなれだ…!一度死んだ身…!
これから何が起きようがそれを受け入れるのみ…!」
「脱出出来るかわからんが…!動かなければ確実に死…!
生存確率が僅かでもあるのなら…!それが地獄に垂れた蜘蛛の糸を上るような低い確率でも乗ってやる…!」
利根川の覇気が次第に蘇ってくる…!
アルコールの力による一時的な奮起かもしれない…!
この男にその後待ち受ける運命や如何に…!
【B-6/ギャンブル船 デッキ/一日目/深夜】
【利根川幸雄@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康 悪酔い
[服装]:スーツ
[装備]:Draganflyer X6
[道具]:基本支給品一式、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)@現実×30本
:特上寿司@現実×63人前 Draganflyer X6@現実 予備バッテリー残り×5本
[思考] 基本:ゲームからの脱出
1:一度死を覚悟した事によって脱出の可能性に賭ける!
支給品解説
【Draganflyer X6】
アメリカの某メーカーが作った業務用ヘリです。
3本のアームに6つの回転翼を付け、11個のセンサー(GPSを含む)を備えております。
1本のバッテリーで約30分稼動します。
残りバッテリーは3分の1です(約10分飛ばせます)
定価「16万ペリカ(160万円)」
以上で投下完了です。
投下&修正乙。
遊ぶだけかよwwwwラジコンで遊ぶだけかよwwww
みなが殺し合いをスタートさせる中、
一人引きこもり生活を満喫する素敵な中年オヤジ利根川。
彼の今後に目が離せません。
短いですが、キャスター投下します
――結果、彼女達は自分が飛べるのだという事実を知ってしまった。
ああ、もちろん飛べるとも。
だがそれは無意識下であればの話だ。
ヒト単体での飛行は難しいんだ。
私だって箒がなくては飛べない。
意識しての飛行の成功率は三割程度。
少女達は当たり前のように飛ぼうとして、当然のように落ちた。
――俯瞰風景 / 封印指定の人形師の言葉
◇ ◇ ◇
夜空を滑る濃紫の孤影。
ローブを翼のように広げ、キャスターは東へと飛行していた。
姿勢は極めて安定し、飛行というよりは高速の浮遊に近い。
南西の市街は既に遥か後方。
三日月とまばらな星だけが光源の薄暗闇も、魔術師の視界を遮るには至らない。
"暗視"の魔術など初歩の初歩。
神代の魔術師たる彼女にとっては児戯にも等しかった。
「さて……」
キャスターはローブを翻し、辺りで最も高い樹木の頂点に降り立った。
現在位置は地図でいうD-2とD-3の中間地点。
ここでキャスターが飛行を止めたのは、休息をとるためではない。
目的のない彷徨ではなく、目的ある移動――そのための現状確認だ。
「殺すのはいいけど、遭遇戦は下の下……どこか拠点が必要ね。
セイバーやバーサーカーは無理でも、せめて他の二体を倒せる備えはしておかないと」
名簿に記載されていたサーヴァントらしき名は、キャスターを除いて四つ。
そのうち、セイバーを除いた三つは既に脱落したサーヴァントのはずだ。
何かしらの手段で復活させたのか、それとも完全な別人で、偶然の一致なのか。
どちらにせよ、警戒をしておく必要があるだろう。
デイパックから地図が滑り出て、キャスターの手元に収まった。
キャスターのクラスに充てられた固有能力は、どちらも防戦に適した能力である。
陣地作成――
魔術師が研究のため、また外敵を確実に処刑するために備える陣地を工房と呼ぶ。
このスキルを用いれば、いかなる状況においても最善の工房を最短時間で作成できる。
彼女の陣地作成のランクはAであり、工房より高位の陣地――神殿すら構築可能である。
実際、彼女は聖杯戦争中、柳洞寺とその地下を神殿に作り変え、大量の魔力を溜め込んでいた。
道具作成――
端的に言えば、魔力を帯びた道具を作成するスキルである。
相応の材料やコストは必要だが、キャスターの腕前を以ってすれば、擬似的な不死の薬すら作りうる。
これらのスキルを効果的に発揮し、最大の成果を収めるには、ひとまず落ち着いて腰を据えられる拠点が必要だ。
無論、一箇所に留まる以上、禁止エリアに指定されて追い出されるリスクは存在する。
しかし得られるメリットと秤にかければ、充分に許容できる程度だ。
「地名しか分からないけれど、神殿として相応しそうなのは……。
『神様に祈る場所』『死者の眠る場所』……少し期待できないけど、『遺跡』ね」
細い指が地図をなぞる。
名称を基準とした判断だったが、根拠が皆無というわけではない。
港が水辺に造られるように。
城が要所に建てられるように。
祈りを捧げ、死者を葬る土地が霊的に無為であるとは考えにくかった。
推測だが、他の場所よりも優れた霊脈である可能性は高いと言える。
「それにしても、これほどの異界を作り出すのにどれほど時間を掛けたのかしら」
暫く飛行した感覚から概算して、地図の一区域がおおよそ一キロ四方といったところだろう。
つまり全体では七キロ四方。
キャスターほどの使い手でなくとも、魔術師ならば察しが付くだろう。
決して小さいとは言えない島が丸ごと異界で括られているのだ。
注ぎ込んだ時間とコストは莫大なものだろう。
盛大な幕開けの前に重ねてきた地道な準備を想像し、キャスターはくすりと笑いを零した。
等価交換は世界の原則。
何も差し出さずに、何かを得ることなど出来はしない。
「我々は"魔法"を買った……ね」
これは"魔法"ではなく"魔術"だとキャスターは感じていた。
"魔術"とは、相応の対価を支払えば結果を再現可能な"神秘"を指す。
"魔法"とは、どう足掻いても結果を再現することの出来ない"奇跡"を指す。
しかし卓越した腕前の持ち主であれば、幾つもの"魔術"を組み合わせて"魔法"に近いことを実現できる。
キャスターも、そうした異界創造なら充分に可能である。
聖杯のような代物を持ち出せるなら、更に話は早い。
首謀者達が用いた手段も、そうした"魔法"の域にある"魔術"なのだろう。
だが、解説が間違っていたとは思わない。
素人でも理解しやすいよう、魔術師が魔法使いを名乗るのはよくあることだからだ。
「さて……こんな異界を売り込んだのは誰なんでしょう」
魔法だろうと魔術だろうと、奴らの背後に腕の立つ術者がいることは間違いない。
そしてその輩は、神代の魔術師たるキャスターを参加者に選んだ。
これを挑戦と言わずなんと言うのか。
「渾身の魔術を解呪されたら、どんな顔をするのかしらね」
地図を戻し、キャスターは再度夜空に飛翔した。
当面の方針は定まった。
まずは適当な場所を陣地とする。
そこを拠点に、戦闘の準備と会場に掛けられた魔術の解析を進めよう。
キャスターは暫く上昇し、一帯を俯瞰する高度で身を翻した。
古来、空は異界であるとされていた。
高い所は遠い所。
見慣れた街並みも、高所から見ると別物のように感じるだろう。
それは即ち、世界を一望する俯瞰風景が、己の実感する世界と食い違うという矛盾。
空を飛ぶということは別なる世界を行くということであり、遠い世界を行くということ。
「まずはあそこへ行ってみましょうか」
文明(てつ)で武装することなく、異界(そら)より異界(しま)を俯瞰する、濃紫の孤影。
人智を超えた魔術師には、異界の風景すら怯むに値しないのか。
キャスターは高度を下げながら、ゆるやかに滑空を開始した。
彼女にしか出来ないことをするために。
【D-2とD-3の境界/上空/1日目/深夜】
【キャスター@Fate/stay night】
[状態]:健康、魔力消費(微)
[服装]:魔女のローブ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3個(確認済み)
[思考]
基本:優勝し、葛木宗一郎の元へ生還する
1:奸計、策謀を尽くし、優勝を最優先に行動する
2:『神様に祈る場所』『使者の眠る場所』『遺跡』のいずれかに赴き、可能なら神殿とする
3:会場に掛けられた魔術を解き明かす
4:相性の悪い他サーヴァント(セイバー、アーチャー、ライダー、バーサーカー)との直接戦闘は極力避ける。
[備考]
※18話「決戦」より参戦。
※自身に架せられた制約について、少しずつ理解してきています。
※どの目的地を選ぶのかは次の書き手にお任せします。
投下終了です
ルビの使い方がすっごい型月っぽいw
キャスターはとりあえず引きこもりか
投下乙でした
このロワに参加してるスザクは「生きろ」のギアスに掛かったままでおkなの?
そうなってるね
ユフィも日本人を殺せギアスかかってるし
平沢唯、船井譲次、東横桃子
代理投下致します
「まず……裏のゴールを目指すためには、道具が必要や」
「道具、ですか」
いまいちピンと来ていないように首を傾げる平沢唯に、大仰に頷いて見せたのは船井譲次だった。
身振り手振りを交えながら説明する船井に対してじっと椅子に座って聞く唯の姿は、
目の前に吊り下げられた餌を見つめる飼い犬のようにも見える。
ここまで素直だということは、世の中の澱み、芥など何一つとして知りもしない若造だということなのだろう。
そんな唯に出会えたことへの幸運を噛み締めながらも腹の底に仕舞いこんだ船井は、しごく真面目な調子で続ける。
「そう……! このギャンブルの解れ……そこを引けばバラバラに砕け散り、崩壊……!
そんな針の穴……突破点を探す必要があるっちゅうわけや」
「はあ」
「つまるところ……オレらが殺し合いをせなあかん理由……それはこの首輪の一点に尽きる」
とんとん、と首輪を叩いてみせると、唯も流石に理解してきたようで、合点したようにうんうんと頷く。
船井はさらに続ける。
「この首輪さえ外してまえば、もう殺しあう必要性はゼロ……後は、脱出に専念できるっちゅうわけや。
船なり飛行機なり……見つけてしまえばこっちのもの。爆破に怯えることなく、悠々自適の脱出……」
「でも、これどうやって外すんですか? 無理矢理外したら爆発するって……」
「それは恐らく……暗号か何かが仕掛けてあるんやろ。どこかに読み取る装置みたいなのがあって、認証しないと爆発、お陀仏……
遠隔操作で爆破できるような代物が、単純な仕掛けやあらへん。だがな……それこそが奴らの隙……油断や。
そもそも機械っちゅうやつは、複雑になればなるほどガタも起こりやすくなるもんや。パソコンも頻繁に壊れるやろ?
あれも同じ……複雑なパーツをいくつも組み合わせているから、隙間も多くなる……そう、解れや。
この仕掛け……遠隔操作するための部分を狂わせて、突破する……例えば、爆破するための信号を受信する部分を狂わせて、
絶対受け取れへんようにするとか……」
「あっ、なるほど! すごい、船井さん!」
船井の出した案が余程目から鱗だったらしく、ますます目を輝かせてぱちぱちぱちと拍手喝采する唯。
話を阻害された船井は若干の苛立ちを感じながらも、上手く行きつつあることを確信して、どうどうと唯を抑えた。
「せや言うても、そう簡単には行かへんもんや。奴らだって相当周到にルールを練っとるはず……首輪のブロックは厳重にやっとる。
ドライバー一本で外せるほどチャチなもんやない。せやから道具が必要なんや」
ここでようやく、最初の話に戻る。ここからが本番だと言わんばかりに船井は唯の下へと詰め寄り、
ひそひそ話をする要領で耳打ちする。唯は今まで以上に真剣に聞き入っていた。
「こいつを狂わせられるような何か……特殊な電波を発信する道具を探さなあかん。無論、そう簡単に見つかるわけはない。
寧ろ自作するくらいの気概で挑まなあかん。せやからまず……そのためのパーツを探す……分かるな、唯さん」
「え……でも私、どんなのか分かんないよ……」
声を曇らせる唯。それはそうだろう。一介の女子高生が機械工学に詳しいわけはない。
だからこそ、船井はこの案を持ちかけた。
希望を指し示し、そこへと導く灯台の役割となるために。
大抵、唯のような何も知らない女学生は怯えるばかりで動こうとしないのが普通。
寧ろ身の危険性を考えればじっとしている方が生存率は高くなる。
それではダメだったのだ。動かないということは、即ち狩られるだけの対象……哀れな獲物にしか過ぎない。
しかし動けば多少なりとも話は変わってくる。有用な道具を拾える可能性だってあるし、駒を増やすことも出来る。
少なくともこの状態なら、唯の知り合いだという連中は自分の味方になってくれる公算は高い。
唯と同じ学生の身分だ。ロクに考える頭もなく、糸を垂らしてやればホイホイかかってくれるはずだ。
駒を増やせば、やれることは広くなる。盾にだってすることも、自分自身を指揮官にして、比較的安全な場所で身を潜めることも出来る。
そう、人とは即ち駒。自分の持ちうる有効なカードなのだ。
中年に差し掛かり、体にも余分な脂を蓄えた身には直接戦うなどあってはならない事態。唯程度の女ならばどうにかできるが、
自分よりも若い屈強な男は何人もいるはずだった。それらを相手取って戦うのは愚の骨頂であり、いかに駒を揃えて味方につけるかが、
船井の取りうる最善の戦略であった。
直接戦うことを選択した者は野蛮、匹夫の勇でしかなく、傷つき倒れるのが関の山といったところだろう。
だが希望の糸であり、灯台である自分は矢面に立たなくてもいいメリットがある。駒を使えばいいからだ。
ここで重要なのは駒には弱者を選択する。強者は手持ちのカードを駆使して対応することだ。
肉体的強者を近くに置いておけば、主導権を握られる恐れも出てくる。得てしてそういう人物は支配者たろうとするものだ。
常に自分は主導権を握らなければならない。絶えず場をリードしておくことが生き延びるための近道だ。
だからこそ、今はカードを増やすことに徹しなければならない。
ギャンブルに挑むときの熱すぎず、冷めすぎていない頭の調子を確認して、船井は目の前の『カード』に目を移した。
ここにいるのは、カードでありながらも自分と同じ立場。同等の立場の人間だ。
隙を突き、主導権を握り、滓になるまで絞りつくし、利用する。
それはギャンブルにおいて船井が培ってきた理論であり、油断を許さない自戒の言葉でもあった。
そう、どれほど平沢唯が間抜けで愚鈍な人間だったとしても、同じ穴の底、上から見下ろされる立場である以上、
彼女だって同じプレイヤーなのだ。ふとした切欠で足を巣食われ、底無しの沼に落とされる……
船井自身、限定ジャンケンという地獄の賭博を潜り抜ける中で何度も死に掛けてきた。絶体絶命の窮地にだって立たされた。
しかし己が知恵を駆使し、他人を欺き、陥れ、いつだって這い上がってきた。その自覚があるからこそ、自分は決して驕らない。
ギャンブルで一番恐いのは慢心――いつもの感慨を結んで、船井は締めの言葉にかかる。
「大丈夫や……オレの知り合いに、機械工学に詳しい奴がおる……誰に盗み聞きされてるかも分からへんから、
今は名前を伏せとくけど……そいつやったら間違いない。必要な部品が分かるはずや。
後は、それを唯さんの友達と共同で捜索すればええ。多人数で探した方が早いのは明白やからな」
「本当ですかっ!?」
「バカっ……! 声が大きい……!」
どこまで正直者なのか、声を大にして喜ぶ唯の口を慌てて塞ぐ。彼女は失言に気付いたようで、
ハッとして申し訳なさそうな表情へと転じたが、ここで怒るわけにもいかない。
船井という人間は理解者であり、良き大人でなければならなかった。
「とにかく、今はそいつに会うことが一番。かと言ってそいつも無手やとウドの大木や……
まずはそいつのために、基本的な道具をオレ達で探す。それがまず第一にやるべきことなんよ」
「えっと、具体的には何を?」
「まあドライバーとかの工具類ってところやろ。
オレはここらへんを探す。唯さんは隣の部屋を中心にして捜索してくれへんか」
「オーケイです! 分かりました!」
威勢よく声をあげ、ビッと似合いもしない敬礼を取ってから、唯はどたばたと慌しく駆けて行く。
……が、勢い余って開けようとしたドアにぶつかり、「へぶっ!」と情けない声を上げていた。
えへへ、と誤魔化すように船井へと向けて笑い、ようやく出て行くという始末であった。
やる気があるのは見た目にも明らかだが、こんな調子で大丈夫なのかという不安が頭に過ぎる。
流石の船井も溜息をつかざるを得なかった。
とはいえ、ガタガタ怯えてうずくまっているだけの役立たずよりは価値があると断じて、船井も道具の捜索に乗り出す。
無論工具類など探すつもりはない。必要なのは護身用の武器。それもポケットに隠しておける程度の小型のものだ。
殺傷力は重視しない。不意を突き、怯ませられるものがあれば良かった。
人を傷つけたくないから、などといった博愛主義的理由で殺傷力を二の次にしたわけではない。
あからさまに武器を所持しておくことは他者と接触を図る際不要な警戒心を抱かせてしまうことに繋がる。
唯と接触した際、船井が何も持たなかったのはそのためであった。
もちろん唯に襲われる可能性もないではなかったが、唯の間抜けな様子と彼女自身も武器を持っていなかったということ、
そして船井自身の観察眼から唯は無害だと踏んだ。
他者を騙すということは、他者をよく観察するということ。挙動、視線、細かな仕草から心理を読む。
人は言葉ではなく、動きにこそ本性が出る。それを抑えられる者こそが心理を掴み、優位に立つ権利を得るのだ。
それもこれもエスポワールの経験から会得したものなのだから、あの地獄も悪くなかったと思う自分が現金に思え、
船井はようやくひとつ、苦笑を漏らすことができた。
「さて、オレも動かんとな」
気持ちを切り替え、声を発した船井の顔からは先程の苦笑も消え、この場全てに警戒を払う、勝負師のものへと変わっていた。
手持ちのカードを、効率よく増やすために――
* * *
部屋の隅、暗がりに隠れるように……いや、溶け込むようにして佇み、じっと腕を組んで船井を観察する人間の姿があった。
紺一色の制服に身を包み、表情も隠すくらいの長い前髪という特徴を持つ彼女はどこか茫漠としていて、さながら空気のようであった。
東横桃子。鶴賀高校の麻雀部員。どこにでもいる女子高校生。
……いや、どこにでも、はいないか。
そう言い切れるだけの人生を過ごしてきた桃子の口元には軽い失笑が浮かんでいた。
桃子にとって学校とは過ごす場所ではなく、いるだけの場所だった。
学校が嫌いなわけではない。いじめられていたわけでもないし、それどころか問題などなにひとつとしてなかった。
ただ――億劫だった。学校で友達を作ることも。部活動に入ることも。
どうせ誰も自分に気付きなんてしない。なら、最初から諦めてしまえばいい。放棄してしまった方がいい。
手間をかけて過ごす時間を得たところで、それほど楽しくもないに違いない。
幼いころから存在感がないと言われ続け、いつからかその状況を当たり前にしてきた自分の、
それは逃げるための言い訳だったのかもしれない。知りもしないくせに、分かった風になって曖昧に物事をやり過ごすしか能のない自分。
自らコミュニケーションを放棄してきたくせに、その事実から目を背けて逃げてきた東横桃子という人間は、とても弱い人間だったのだろう。
しかしそんな自分でも必要としてくれる人が現れた。加治木ゆみ。同じ麻雀部の、三年生。
そして私の……恩人。
君が、欲しい――今でも鮮明に思い出せるゆみの言葉を反芻しながら、桃子は改めてこの殺し合いに飛び込む決意を固めた。
誰にも見つけてもらえなかった私。それに慣れて、他人とコミュニケーションするのさえ放棄していた私。
そんな私に、コミュニケーションのための努力も悪くない。その時間が楽しいこともあると教えてくれた先輩。
ゆみがいなければ、自分は何一つ我が身の不実を自覚することもなく、十年一日変わらない、諦めに浸ったままの日々を過ごしていたのだろう。
今でこそ少しはマシになったと自覚しているが、それまで積み重ねてきたものへのツケは山をなして目の前に存在している。
それさえも共に分かち合い、自分を引き上げようとしてくれているゆみの優しさに対して、
桃子が出来ることは『ステルス』を生かしてゆみを最後まで生き残らせることだという結論に達した。
影の薄さから、今でも滅多に存在は悟られることがない。それこそ派手に騒いだりしない限りは。
それを生かし、ゆみが生き残るために必要なあらゆるものを揃える。武器、道具、情報……集めるべきものはいくらでもあった。
先程まで話し合っていた『クチビルさん』、船井という男と、『不思議さん』、平沢という女の子の話題も重要な武器のひとつだった。
こうして手持ちのカードを増やす。自分が稼いだカードをゆみに渡す。自分の役割はそれでいい。
未だに情けない人間である自分が生き残るより、人に希望を与えられるゆみが生き残ってくれた方が何倍も幸せだろうから……
そう考える桃子の頭には、しかしそれでゆみは納得するだろうか、という疑問が持ち上がっていた。
殺し合いの開始時に告げられた言葉。そのどれもが真実だとは思いがたい。生き返らせるという言葉も、魔法を金で買ったという言葉も。
自分より数段聡明なゆみがこの事実に気付いていないはずはなく、どうにかして優勝ではなく脱出の案を練ろうとしているかもしれない。
それくらい、ゆみは優しいひとなのだ。こんな自分でさえ手を取って必要としてくれた事実が、桃子にそう思わせる。
殺し合いを受け入れ、飛び込もうとしている自分を見たら、ゆみは止めるだろうか。
いやきっと止めるのだろうと無条件に思うことが出来て、桃子は、それでもこうすることしか出来ないんすよ、と内心に語った。
私は先輩ほど賢くないし、希望を信じきることも出来ない。私、バカだから……こうやって恩返しすることしか思いつかなかったっす。
でもそれくらい先輩の言葉は嬉しかった。恥ずかしい話ですけど、泣いてたんすよ、あの時。
私を、私という人間を必要としてくれたあの言葉……一字一句覚えてます。
だから、ごめんなさい。今回だけ――スタンドプレーに走らせてもらうっす、先輩。
こんな選択をしてしまう自分は、やはり弱いのだろうか?
問いかけてみようと思ったが、そうすると弱気の虫が這い上がってきそうな気がして、桃子はその思いを打ち消した。
そんなことは考えなくていい。自分は、自分の勝負に集中してさえいればいい。
殺し合いも麻雀も同じ。一つの油断が振り込みに繋がり、死を招く。
そして自ら動かなければ当たり牌だって巡ってこない。動かないということは、牌をツモることさえ放棄しているのと同じ。
それこそ逃げなのだと断じた桃子は、揺れていた心が落ち着き、自分の存在が空気に溶けてゆくのを自覚していた。
だがこの『ステルス』とて手札の一枚に過ぎない。重要なのはそれに頼りきりにならず、適切に切る牌を選択すること。
時と場合によってはステルスを解除し、他者と接触を図ることも視野にいれるべきだし、
利用できると踏んだ相手には持ち得る手札の交換だって持ちかけてもいい。
所詮はただの女子高校生。上手く立ち回らないと『ステルス』以外これといった手札の持ちようがない自分はあっという間にアドバンテージを失う。
無茶はせず、勝ちを掴めると確信したら一気に全力を注いで奪い取る。人だって、殺す。
それこそただの女子高校生のすることではないと思い、桃子はやはり自分はおかしいのだと自嘲する。
早くも自分はここの毒気にあてられているのだろうか? そんなことを考えながら、桃子は船井の挙動をじっと観察する。
唯に語ったこととは違い、何やらナイフやらコンパスやらの物騒なものをポケットに仕舞いこんでいる。
あのクチビルさん、嘘つきっすね。
カードが一枚手元に増えたのを確信して、桃子はニヤと口元を歪めた。
* * *
「う〜ん……」
目の前にあるものを悩ましげに眺める唯。目を細め、真剣に目を走らせている彼女が見比べているのは……服だった。
「結構可愛い……着るくらいならいいかなあ……」
船井に言われたことはもはや彼女の頭になかった。取り合えず隣の部屋から調べ始めたはいいものの、
クローゼットを開いた途端目に飛び込んできた洋服の数々に目を奪われ、
ちょっとくらいならいいよねという軽い気持ちで見始めてからかれこれ十分近くが経過しようとしていた。
普段なら絶対に手を出せないような珍しい服の数々。
フリフリのついたメルヘンちっくなエプロンドレスに、涼しげな色を基調とした浴衣もあれば、所謂ゴスロリと呼ばれる類の際どいものもある。
さわちゃん先生あたりが作ってそうだなあと想像しながら、唯はそろそろと手を伸ばそうとして、ハッとなってやめた。
こんなことをしている場合じゃない。工具を探さないと。
ぶんぶんぶんと首を振り、邪念を頭から追い払った唯の頭に残ったものは、
突っ込みを入れてくれる仲間がこの場にいないことへの寂しさであった。
自分と同じくらいいい加減でありながら、人一倍軽音部に対して一生懸命である田井中律。
恥ずかしがりやで、しかし友達思いで心優しい秋山澪。
その懐の広さで、いつも自分達を助けてくれる琴吹紬。
何やら対抗意識を持ちながらも自分を慕ってくれている後輩の中野梓。
誰一人としてこの場になく、そのことから彼女達は無事なのだろうかという不安が持ち上がる。
自分はこうして船井という頼れる人間と出会えたからいいものの、他の皆も同じとは言い難い。
きっと大丈夫。いつもなら無条件にそう思えるはずの頭も、あの光景を目にしてしまってはなりを潜めてしまっていた。
人の首が吹き飛ばされたあの映像。悲鳴もなく、ただ物のように吹き飛ばされた人間の頭……
「だ、大丈夫! だってみんないい子だもん!」
それ以上考えると頭がおかしくなってしまいそうで、唯はそう口にすることで恐怖を意識の底へ追いやった。
何の根拠になるわけもないと分かっていながらも、そうしなければ押し潰されてしまいそうだった。
思い出を紡いでいたはずのものが、全部過去になってしまう。唯にはとても耐えられないことだった。
ようやく、やりたいことだって見つけられたのに。
唯の半生はただ漫然と時間を過ごしてきた、その一点に尽きる。
やりたいことも見つからず、見つけようとせず、それでもいいかと曖昧に笑って過ごしてきた。
それなりに上手くいっていたし、それなりの生活であったし、何も不満はない……はずだった。
だが流されるがままの生活が、つまらないものだったと分かったのは軽音部で皆といるようになってからだ。
普段はテーブルを囲んでお菓子とお茶でのんびりとした時間を味わい、たまに練習して音楽の楽しさを身に染み込ませる。
休日は皆と連れ立って買い物に出かけたり、遊びに行ったりして笑い合う。
どれもぼんやりと過ごしているだけでは得られないもので、かけがえのない思い出ばかりだ。
失いたくない。無為な日常に戻るのだけは絶対に嫌だ。
強い思いを抱きながらも、しかし自分自身は何が出来るのだろうという疑問が唯の中に浮かんだ。
船井の言葉に従っているのはいいが、本当に必要なものが見つけられるかどうかなんて分からない。
納得したつもりで、何も考えていないだけなのではないか?
それだけではなく、実は探しに行くのを恐れているのではないか、という考えも持ち上がる。
他人の言葉に従うままで、仲間を探しに行こうともしない自分は、以前と変わらず流されるままの人間でしかないのではないか。
友達が酷い目に遭っているかもしれないと確かめるのが恐く、誤魔化しているだけなのではないか。
「で、でも、裏のゴールっていうのに辿り着けば皆で助かれるんだから……これでいいんだよね……これで……」
何一つ自分の考えに確信を持てず、結局今やっていることを続けることを選択した唯は、
これが何も考えずに生きてきたことへのツケなのかもしれないと思った。
だからといって何が正しい行動で、何が間違った行動なのか言い切れる自信はなく、唯は取り合えず目の前の作業に没頭することにした。
バンドと同じ。それに集中している間は、それ以外のことを何も考えずに済むから……
クローゼットを探す意味はないとして、別の棚でも探すかと歩き出そうとしたところで、こけた。
畳で滑ったのは、何も考えまいとしていたからか、単にドジな自分の性分なのか。
いててと打ち付けた腰をさすりつつ、倒れた拍子にバラ撒いてしまったらしいデイパックの中身を急いで戻す。
「ん……あれ? これなんだろ」
唯が見つけたのは、床にバラバラと落ちていた何枚ものカードだった。
これだけ数があるのに、水分補給をするためにデイパックから水を取り出したときはこんな感触はなかったはずなのに。
拾って、眺めてみる。カードの材質はやたらと硬くてずっしり。随分と丈夫そうで、多少のことでは壊れそうな気がしない。
「うーむ、でも絵柄が可愛くない」
カードの絵柄はグー、チョキ、パーを模した手のひらの形をしていたが、おどろおどろしい骨が浮き出たモデルであり、
お世辞にも愛嬌があるとは言い難かった。
結構数があることからこれでじゃんけんゲームでも出来そうだったが、果たしてカードを使ってまでじゃんけんをする意味はあるのか。
「むぅ。あ、そうだ」
すっ、と立ち上がり、ほぁぁぁぁ〜〜、と気合を注入して、えいっと投げてみる。
これだけ硬いのだ。ひょっとして刺さったりするかもしれない。
「まぁそんな都合よく忍者みたいな……っていったー!?」
驚くべきことに、全力で投擲したカードの角が壁に突き刺さっている。
壁が柔らかいのか、ともおもったが、カードを抜いて確認してみると硬い。パラパラと何かの欠片まで落ちてくる始末。
「はっ、実は私って忍者!?」
よく分からない硬い材質のカードの不思議に対するとりあえずの結論を出してみたが、即座にバカらしいという冷めた声が浮かんだ。
とにかく、物凄く硬いということだけは確からしい。
もしかすると包丁にでも使えるのではないだろうか。奥様ご覧下さい。大根の輪切りもほらこの通り。
悩んだ末、一枚をスカートのポケットに入れ、残りはデイパックに入れることにした。
深い理由はない。ちょっとした御守りくらいにはなるだろうという、その程度の考えだった。
唯は知らない。このカードに用いられている金属は、ガンダムに用いられている、ガンダニュウム合金だということを。
【G-6/民家の中/1日目/深夜】?
【平沢唯@けいおん!】?
[状態]:健康?
[服装]:桜が丘高校女子制服(夏服)?
[装備]:ジャンケンカード(チョキ)@逆境無頼カイジ
[道具]:デイパック、基本支給品(+水1本)、ジャンケンカード×十数枚(グーチョキパー混合)、不明支給品x0-2
[思考]?
基本:みんなでこの殺し合いから生還!?
1:船井さんを頼りにする。?
2:友人と妹を探す。でもどんな状況にあるかはあんまり考えたくない……
[備考]?
※東横桃子には気付いていません。
支給品解説?
【ジャンケンカード】?
限定ジャンケンにてカイジ達が使用していたカード。
ただしガンダニュウム合金製で、非常に硬い。投げたら刺さるかも。
【船井譲次@逆境無頼カイジ?Ultimate?Survivor】?
[状態]:健康?
[服装]:私服?
[装備]:ナイフ、コンパス。他にも何かあるかは後続にお任せ
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品x1-3?
[思考]?
基本:優勝か別の手段か、ともかく生還を目指す。?
1:まずは唯の友人らを探す方法を考える。利用できそうなら利用する。
2:仲間を勧誘し、それらを利用して生還の道を模索する。
3:絶対に油断はしない。また、どんな相手も信用はしない。
[備考]?
※東横桃子には気付いていません。?
※登場時期は未定。
【東横桃子名@咲-Saki-】?
[状態]:健康、ステルス?
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)?
[装備]:?
[道具]:デイパック、基本支給品(-水1本)、不明支給品x1-3?
[思考]?
基本:自分と先輩(加治木ゆみ)の生還を目指す。?
1:船井の策にこっそり相乗り。機を見て横取りする。ただし必要と感じるならステルス状態解除も視野に入れる。
2:先輩を探す。または先輩のために武器、道具、情報を収拾する。?
[備考]?
※登場時期は未定。?
続きまして
◆LwWiyxpRXQ氏の電車男
ルルーシュ・ランペルージ
代理投下いたします
しゅう、と空気が抜けるような音を響かせながら電車は扉を閉じた。
つかの間の停止を終えた電車は静かに加速し始め、この場を離れようとする。
ルルーシュ・ランペルージはその際に起こる慣性の感覚を身に受けながら、閉じる扉を電車の座席から見ていた。
ルルーシュは電車を降りなかった。
駅に降りて、情報を集めるべきかと迷ったが、闇雲に動き回っても得られる物はたかが知れている上、
自分の体力を考慮するに徒歩で移動するよりも、このまま電車で移動した方が断然効率が良い。
また、特に行く当てもないのに、無理をして外を出歩くにはリスクが高過ぎる。
その他の色々な観点からも考えた結果、ルルーシュは電車に留まるという選択をしたのだった。
ルルーシュは無事に電車が発車したことを確認すると、視点を扉から手に持っている一枚の紙に切り替える。
それは地図だった。
簡略に記された島の全容を眺めながら、ルルーシュは静かに思考を巡らせていた。
(このゲームからの脱出。
海で囲まれ脱出の難しい会場、『帝愛』の持つデイパックを初めとした物理法則を無視したオーバーテクノロジー、死者すら蘇らせるという『魔法』。
そのような要素を見ると、一見、それはとても困難に思える)
だが、とルルーシュは静かに呟く。
呟きながら、彼は自らの首にそっと指先を這わした。
正確には首ではなく、その首に仕掛けられた無骨な首輪に。
(首輪。
『帝愛』にいくら力があろうと、参加者を直接縛っているのはこれだけだ。
これさえ何とかすれば、脱出へは一気に近づく)
逆にいえば、それは首輪を何とかしなければ何もできないということだが、ルルーシュは首輪の解除自体はそう難しくはないだろうと考えていた。
指を這わせながら、彼は首輪の材質を確認する。
それは間違いなく、金属だった。
(『帝愛』が『魔法』又はそれに類する力を持っているのは確かだ。
だが、参加者の拘束という、このゲームの進行においてかなりの重要度を誇る筈の仕事は首輪――つまり、機械的な要素によって行っている)
対処の仕様がない『魔法』ではなく、機械技術によっての拘束ならば自分にもやりようはある。
勿論、この首輪に未知の技術が使われている可能性はあった。
が、それにした所で、わざわざ首輪という機械を用いていることを考えれば、基本的な構造は通常の技術によって成り立っている筈だ。
(この場にこの首輪に対応できるような技術者がいるかは分からない。
もし居るのなら協力を得たいが、『帝愛』がわざわざゲームを破綻させる要素を参加者に入れている可能性は低いだろう。
先程まで、そう思っていた。
だが――)
ルルーシュは地図のある一点を指で指した。
そこは会場南部の、機械をイメージしてあるのだろう灰色の色彩で彩られた場所だった。
即ち、宇宙開発局。
(宇宙開発局。この施設の存在でそれも分からなくなった。
名前からしてこの施設は工学系の研究施設だろうし、隣には工業地帯まである。
下手をすれば首輪を解除しかねない施設がこの場にある。
これは恐らく自信。奴らの、絶対に参加者に脱出されないという『帝愛』の自信)
ルルーシュは開幕においての司会役の男を思い出す。
遠藤と名乗った男の高圧的な態度は、自分たちが絶対的に安全な場に居ると信じているようだった。
(そして、その自信故、この場に技術者を参加させている可能性は十分にある。
絶対とは言えないが、宇宙開発局などという施設があるということは、それを扱える参加者もいるのだろう。
よって今後の方針としては、先ずこの宇宙開発局を目指し、そこを拠点にして技術者を探し出す)
幸いにして、宇宙開発局は駅から近く、この電車に乗り続ければそう長くは掛からない。
自身の体力に自信のないルルーシュからすれば、それはかなり有益なことだった。
今後の方針を一先ず決めたルルーシュは、とりあえず地図をデイパックに戻そうとする。
大体の内容は既に頭に入れているので、しばらく見る必要はないだろう。
そして、その途中、一つの威圧的な銃器に視点が行った。
ミニミ軽機関銃。
自分の支給品であり、人を殺す武器。
それは護身用として自らの隣に置いておいたのだ。
(俺は……敵が多いからな。いや敵だらけといってもいい)
ルルーシュが電車での移動を選んだのも、出来るだけ他者との遭遇を避けたかった、というのもあった。
ゼロレクイエムの為に演じた悪逆皇帝。
数え切れない程の暴挙を働いた自分は、この場の大半の人間から憎悪を抱かれている筈だ。
ましてや今の自分の姿は皇帝服であり、悪い意味で目立ってしまう。
自分にとって他者との遭遇は会敵といっても過言でなく、高い可能性で戦闘になってしまうだろう。
(幸運なことに装備には恵まれている。大抵の者なら撃退できるだろう。
それにギアスもある。
『俺を襲うな』とでもギアスを掛ければ、自分自身の護身くらいなら簡単にできる筈……)
そう考えながら、ルルーシュは自分が生存を考えていることに気付き、少し笑ってしまった。
どうせ自分は死ぬ運命にあったのだ。この場で死ぬことに別に恐れはない。
自分から死にいく気はないが、己の生に固執する必要もない筈だ。
(この場に来る直前で見たナナリーの姿に、少し未練があるのかもしれないな)
ルルーシュはもう見ることは出来ないであろう、最愛の妹の姿を思い出しながら考えを改めた。
今、優先すべきなのは己の生存ではなく、救世主ゼロ――枢木スザクの生存だ。
ナイトオブゼロとして動いたスザクも、ルルーシュと同じく、敵が多い。
ならば、自分が他者に掛けるべきギアスは『俺を襲うな』などの利己的な物ではなく――
「『枢木スザクを守れ』
他の参加者に会ったら、そうギアスを掛けるべきなのかもしれないな……」
【B-5/電車内/一日/深夜】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康
[服装]:皇帝ルルーシュの衣装
[道具]:ミニミ軽機関銃(200/200)@現実、ゼロの剣@コードギアス反逆のルルーシュR2
ウェディングドレス@機動戦士ガンダム00
[装備]:
[思考]:スザクは何としても生還させる
1:宇宙開発局へ向かい、そこを拠点に技術者を探す。
2:スザク、C.C.と合流したい
3:首輪の解除方法の調査
4:撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ!
5:他の参加者に会ったら『枢木スザクを守れ』とギアスを掛ける?
6:自分の生存には固執しない
[備考]
※R2の25話、スザクに刺されて台から落ちてきてナナリーと言葉を交わした直後からの参戦です。
死の直前に主催者に助けられ、治療を受けたうえでゲームに参加しています。
※頭の中では様々な思考が展開されています。しかし、現時点ではどれも憶測の域を出ていません
カイジ、真宵、投下開始します
「ちょっと待て八九寺」
『頼まれていない語り部』とかのよくわからない話で流されそうになったある話にカイジは気が付いた。
あるおかしい一点に。そこを真宵に問い詰める。
「なんですかハイジさん」
がっ……そこで問題発生……!
「待て……!俺の名前をまちがえてるぞ、お前……!」
「せめて『俺はアルプスの少女じゃないぞ』くらいのツッコミが欲しいです! ありゃりゃ木さんに比べると、『ふん、ツッコミ力たったの5か……ゴミめ』
になってしまいます!もっと頑張ってください」
「知るか……!俺は芸人じゃないんだ!」
「あーーーー!今パイジさんは全国の『かくし芸大会で漫才をやる芸人じゃない人たち』を敵に回しました!
今のは『芸人ではない奴はツッコミをする資格がない』と同義だからです!
謝ってください!全国985億6497万人の人たちに!」
何もかもがおかしい……!圧倒的物量……ボケ……ボケの嵐……っ!
呼び名の更なる間違い……長ったらしい敵……日本国民の数を越えた人数……!
だが! カイジ……全てに突っ込みを入れるスキル……なし……!
阿良々木暦との決定的な差……!覆す事ができない……!
むしろ覆したくない……!
「むう。パイジさんが頭を抱えて目を『∋∈』にしてしまったので、大人な私は素直に話を進めるよう頑張ります。褒めてください。
で、なんでしょうか?」
カイジ……屈辱……!
子供に……明らかに舐められている……!言い間違えたのはあっちなのに……!脱線させたのも……!
それでもカイジ……我慢の一手……!大人としてのプライド……揉めている所を誰かに見つかりたくないという打算……!
拳を握り締め……!こらえる……こらえる……!
「さっきの『織田信長』……それから名簿にある『明智光秀』『真田幸村』『伊達政宗』……俺でも知っている。
俺でも知っている名前……だが、ありえない……!この名簿に載るなんてことは……!」
戦国武将……!
かつて、日本がまだ鎖国を解いていなかった時代……!
多くの大名が群雄割拠し……互いが天下を取ろうとし、戦い……陥れ……のし上がっていった時代!
そんな大名、武将の中でも……カイジすら知っている者たち……!だが、ありえない!
「こいつらは……既に死者……! 生きているはずがない……!」
そう……!戦国時代など何世紀も昔……!
生きているはずがない……死んだからこそ、彼らは語り継がれているのだから……!
「……パイジさん。私が幽霊でしかもこうしてなぜか肉体があるんですから、その三国武将たちもきっと同じですよ」
「し、しかし」
「私は幽霊です! そこはおゆっくりいたしません!」
文脈から推察……『お譲りいたしません』……カイジ、ついに少女の言い間違いのパターン、掴む!
だが……突っ込まない! わざわざ突っ込む気がない……!
納得した振りをして、真宵に感づかれないように考える!
(幽霊説……これは否定だ。俺はこの自称幽霊を目にしているが……どう見たって人間!足もある!触れる!
つまり……『こいつが人間である』という証拠はいくらでもあるが、『こいつが幽霊である』という証拠はゼロ……!
よって、まずこいつの『帝愛が幽霊を生き返らせることが出来る』という説は否定できる。
幽霊云々はこいつの思い込み……過酷な状況に追い込まれた子供の……哀れな嘘の防護壁……!
そうだ。そんなもんできたら……奴らは)
ピシャァァァァン!
その時……カイジに電撃走る……!
(ちょっと待て……ちょっと待て!
そうだ。それなら……説明が付く!
『開会式』……『名簿の戦国武将』……『自分を幽霊だと信じ込む少女』……!)
「どうしたんですかパイジさん。ボーっとして」
「あ、ああ……すまん八九寺……少し考え事をな……」
「そうですか。もう年老いたパイジさんなら仕方ないですね」
(我慢だ……我慢の時だ……!)
「で、パイジさん。これからどうしますか?」
一応こちらの意志を伺うあたりはやはり子供かとカイジは安堵する。
そして地図を確認し、真宵に告げる。
「ここに向かってみようと思うんだが……」
*****
カイジの提案……真宵は快諾……生意気な口をたたきながらも、2人は歩き始める……!
そんな中、カイジは思考する……!
(まず帝愛……俺にエスポワールやシーサイドホテルを紹介した遠藤がいること……奴が前に漏らした『某巨大企業』……
そして、ここに来る前に俺が見た『会長』の呼び名……そしてこのゲームから感じる空気……!
これらから俺は……『帝愛』こそが俺の参加したゲーム全ての裏にいたとほぼ断言する……!
つまり……遠藤の後ろにいるのは……あの『会長』……!)
この推測に関してはほぼ確実……!唯一の不安材料は……利根川……!
鉄骨渡りの時点で……確実に自分と奴の間には……距離があった!
『参加者』と『主催者』の壁……だが、ここではその壁がない……名簿を見る限り、奴も参加者……!
この疑問を『帝愛=会長の支配するもの、つまり利根川の属する場所』の前提から解決するには……!
(奴は……サクラ!
殺し合いに乗るものが少なければ、主催し観覧している奴ら(この『観覧』については後にしよう)にとっては、興が削げる……!
だから、サクラが必要……! 乗らない奴を殺し、怯える者を追い詰め、殺し合いを促進させる……サクラが!
奴はまさにそのサクラ……! そうでもなければ、金融会社の社長如きが、『会長』と会話できる地位にある利根川より上にいるなど……ありえない!)
利根川はサクラ……カイジはそう決め付けた!
自分は利根川とEカードで対決する直前だった……それが今も尾を引いている……!
利根川が……敵でないと、もう上にはいないのだと……考える事は……不可能……!
(帝愛が『会長』が手薬煉引いているようなところだとすれば……!
そうだ……そんなことがあってたまるか!
『死者を生き返らせる』だと……『何でも願いが叶えられる』だと……!
ふざけるな……ふざけるな……ふざけるな!!
命は……蘇らない! たった1度きり……1度きりだ……!
そうでなきゃ……石田さんや、佐原……あいつらの生は、あそこで頑張った俺達は……何だった!!
愚弄……これは……愚弄!
命への……愚弄……!だから俺は……『幽霊』とか言っているコイツにも本当は怒っているのかもしれない……!だが、一緒にしてはいけないんだ……!
こいつは死を恐れるから『幽霊』を信じる……!奴らは違う!俺達を釣る為……俺達に殺し合いをさせ、それを愉しむ為に……!
あってたまるか……『魔法』などあってたまるか……!
ない! 『魔法』など……ない!
『開会式』はブラフ……!インデックスとかいうガキは、奴らが洗脳してそれっぽい衣装を着せた……哀れな傀儡!
俺は否定する……!奴らの『魔法』など否定する……!)
それがカイジの導き出した答え!
帝愛の『魔法』……それは全て……嘘!
(理由は簡単……!俺達の抵抗の意志を削ぐため……!屈服させ……殺し合いに走らせる為……!
『魔法』など振りかざされたら……諦める者は多い……!それがやつらの狙い!
その為の演出……!
『死者の蘇生』など……どうせ鉄骨渡りの後の利根川のように……なんらかの理由で反故にするに決まっている!
実際は存在しない……『魔法』など! 紙と夢と空想の中にしか……ない!
これなら……『名簿の戦国武将』にも納得が行く!
俺も一瞬思ったからだ……『戦国武将を呼び寄せるなんて、魔法くらいでないと』とな!
それだ……!
おそらくこの名前は……同姓同名!
どこかの馬鹿な親が……苗字に調子付いて……武将にあやかった名前をつけた……それだけの現代人!
1人だけならば効果は薄い。だが、4人も集めて名簿に載せれば……皆思い込む!
これは間違いなく戦国武将で、そんな者を呼んでこられる帝愛は、やはり魔法を持っているのだと……!
自分で言わず……名簿にこうやって毒を仕込む……!参加者が勝手に見て、勝手に呑むのを待てばいい……!
ただし……これはこの同姓同名が普通の人間だったらすぐに瓦解……!
だから、奴らは仕込んでいるかもしれん……洗脳……武将のような鎧……あるいは名前のせいで元々なりきってしまった病人……!
同姓同名本人にも……自分が武将だと思い込ませる……!)
これで『戦国武将の存在』には理屈をつけたカイジ……!『魔法』を1つ否定……!
残る関門……!
(首輪……これはまだ現代でも片が付く。
ということは……残るはやはりこれか……!
『部屋とこの会場への移動方法』……!)
そう。それこそが最大の関門……!
開会式後、カイジは5分を待たずに部屋から出た!広がっていたのは樹海……!
少し怯んだが、カイジは足を踏み出し、外へ出た。
ここまではいい……! 部屋が樹海に設置されている……それだけで済む問題!
しかし……!
(俺はすぐに後ろを見たが……消えていた……!
開け放しだったはずの扉も……いたはずの部屋も……鏡も……モニターも……!
見えなくなったとか、隠されたわけじゃぁない……!俺はすぐ、後ろに向かって手を突き出した!振り回した!
だが……無駄……!何も手ごたえなし……掴んだのは……空気だけ……!
何も存在しなかった……!俺がいたはずの場所が……!
『魔法』だったら簡単な説明だろう……。
『扉を通して空間を繋げた』とでも言う所か……!これも奴らの毒……!出発でも毒を呑ませる……!
5分後に『飛ばす』。これもだ。『飛ばす』というのを『首』以外に考えて部屋から会場に移動させると解釈するなら……これも『魔法』を信じ込ませようと――
!!
待てよ……何故だ。
何故『5分』なんだ。
何故5分の猶予を与える?遠藤は確かにこう言った)
『五分以内にそこから退室してくれ。退室しない場合はこちらのほうで強制的に『飛ばす』。なにを、とは言わんが』
(『飛ばせる』んなら問答無用に皆同時に飛ばせばいいじゃないか。なぜ扉を出る出ないをわざわざ選ばせる?なぜそんな機会を与えた?
『飛ばす』と言う言葉で少しでも追い詰める為? いや、そんなはずがない。
そもそもだ。扉を出ようが、部屋にいようが結局会場へ移動する。なら『飛ばす』ことには変わりない。
なのに、なぜ『退室』なんていう自由権を与えた?
それで、何かを隠しているんじゃないのか?
それがはたして何なのか……!)
「パーイージーーーーーさん!!」
グゲシィイ!
「――――――!!」
その時……!カイジの脛に……激痛走る……!
原因は……真宵……!その小さな足から繰り出された……ローキック……!
かの猛者、弁慶ですら泣いたという説のある脛……!鍛えた人間でも辛い……急所……!たかが少女のキック力と言えど……激痛っ!
カイジ……悶絶……っ!
「な、何……しやがっ……!」
「さっきからパイジさんがダンロの考える人のように『考え中……考え中……どうしよっか何しよっか……考え中……っ』って感じになって固まっちゃったからです!
言っても何しても答えてくれないから私寂しかったです!」
「ダンロじゃない……あ、いや……悪かった」
「まったく……世話が炎上する大人は困ります」
カイジ……今度は自分にも責があるため……反論できずっ!
『世話を全焼させるな』というツッコミすら……不可能っ!
(まあ。他にも疑問はあるが……まずはコイツと『あそこ』まで辿り着かなくちゃな。
考えるのは……その後でもいい)
2人が向かう先……それはカイジが提案した場所。
少し遠いが、ここからは東にほぼ一直線。北の島淵をなぞるように進んでいけばいいっ……!
その場所とは……っ
(エスポワールの主催が帝愛である以上、『あそこ』がただの施設とは考えられない。
何かあるはずだ……!しかも『ギャンブル』などと銘打っている以上、そこにはギャンブルの何かが設置されている可能性があるっ!
となれば……そこには『相手』がいなければならない。
そして、参加者の中でその『相手』ができるのは!!
利根川幸雄……!
奴とは元々Eカードで戦い、石田さんたちに謝らせるつもりだったんだ!
奴は船でギャンブル相手を待ち、同時に優遇されて受け取った強力な武器で……周辺の参加者を脅しているに違いない……!
上等だ……『会長』との約束がまだ有効なら……奴とのEカードもまだ有効のはず……!
ここでどうなろうが……奴との決着だけは……つける!もちろん結果は……勝利!
石田さんたちに謝らせるだけじゃ駄目だ……帝愛の情報を全て吐かせてやる……!)
カイジは向かう……!迷子のカタツムリと共に……!
だが……カイジは知らない……!
利根川はサクラではないことを……!
『会長』ですら参加者であることを……!
本当のサクラは荒耶宗蓮と言う男だということを……!
インデックスがただのガキなどではないことを……!
ここにいる戦国武将はただの同姓同名などではないことを……!
無限に入るデイパックという……更なる関門が手元に存在することを……!
そして……いくら否定しようとも
この会場にだけは、魔法は確実に存在することを……!
ほとんどの考察は……大ハズレ……!カイジは前進したつもりでも……全く進めていない……!
足踏みを……しているだけ……!本人としては歩いたつもりの疲労……だが、実際は全く進まない……足踏み……!
今のカイジは……無知なる蛙でしか……ないっ……!
蝸牛と蛙……2人は、迷い路を抜け出す事は……できるのか……!
【A-2/南西/1日目/深夜】
【伊藤開司@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康
[服装]:私服(Eカード挑戦時のもの)
[装備]:シグザウアーP226(16/15+1/予備弾倉×3)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考]
基本:人は殺さない……なるべく……なるべく人が死なない方向でっ……!
1:八九寺真宵と一緒に行動する。
2:ギャンブル船に向かい、待っているであろう利根川を倒し情報を引き出す。
3:『部屋から会場への移動方法』を魔法なしで説明可能にする。
4:『5分の退室可能時間』、『主催の観覧方法』が気になる。
5:八九寺のボケは基本スルー。
[備考]
※Eカード開始直前、賭けの対象として耳を選択した段階からの参加。
※以下の考察を立てています。
・帝愛はエスポワールや鉄骨渡りの主催と同じ。つまり『会長』(兵藤)も主催側。
・利根川はサクラ。強力な武器を優遇され、他の参加者を追い詰めている。かつギャンブル相手。
・『魔法』は参加者達を屈服させる為の嘘っぱち。インデックスはただの洗脳されたガキ。
・戦国武将はただの同姓同名の現代人。ただし本人は武将だと思い込んでいる。
・八九寺真宵は自分を幽霊だと思い込んでいる普通人。
※デイパックの構造に気づいていません。
【八九寺真宵@化物語】
[状態]:健康
[服装]:私服、大きなリュックサック
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品×1〜3
[思考]
基本:まずはお約束通り、知り合いを探してみることにしましょう。
1:伊藤開司と一緒に行動する。話し相手は欲しいので。でも微妙に反応がつまりません!
2:阿良々木暦と戦場ヶ原ひたぎを捜す。
[備考]
※「まよいマイマイ」終了後以降からの参加。
※カイジの呼び名がツッコまれないので『パイジ』で固定されています。
投下終了です。
感想、指摘、矛盾ありましたら是非お願いします。
投下乙
前話からの引き継ぎの雰囲気作りすげぇw
もしかして今後カイジ視点の地の文は全部これなのかw
指摘としては鎖国時代うんぬんが気になったかな
もしかするとBASARA世界ではそうなのかもしれんが
投下乙です
カイジ…痛恨の空回りっ……!
このままでは…バカイジにっ……!
一方のはちきゅじさんは和みますね
コンゴに気体です
指摘、上にかぶるけど鎖国は江戸幕府の政策なので
時期が少し離れている気がしないでもない
秀吉の天下統一、が近い時期かな?
カイジが素で間違える可能性もあるけど
早めに反応をば。
OTZ
はい。マジ間違えしました。
というわけで以下に訂正
戦国武将……!
かつて、日本がまだ鎖国を解いていなかった時代……!
多くの大名が群雄割拠し……互いが天下を取ろうとし、戦い……陥れ……のし上がっていった時代!
そんな大名、武将の中でも……カイジすら知っている者たち……!だが、ありえない!
↓
戦国武将……!
かつて幕府が倒れ、多くの大名が群雄割拠し……互いが天下を取ろうとし、戦い……陥れ……のし上がっていった時代!
そんな大名、武将の中でも……カイジすら知っている者たち……!だが、ありえない!
やぁこれはひどい空回りですね
っていうか配置的にすんごい勢いでぼっちだから
この状態が結構続きそうだなw
このコンビいいなw
投下乙です
言葉は要らない、誓いを胸に刻めばいい ◆PAWA58Ribc
代理投下します
「それで……田井中さんはお友達とお会いしたいのですね?」
メガネをかけ短かく髪を切った(本当にそれぐらいしか特徴がない)男の人は、玄霧皐月、と名乗った。
職業は教師、それも高校の教師だと本人は言っている。
なので、あたしは玄霧さんのことを、先生、と呼ぶことにした。
たぶんだけど、玄霧さんを先生って呼べば気分だけでもいつもの日常に戻れるかと思ったんだ。
それが成功したのか、それとも先生が上手く宥めてくれたのか、どっちなのかは分からないが、あたしの気持ちも少しは落ち着いてきていた。
今も涙で腫れた目をしたあたしの言葉を聞きながら、先生は優しい笑顔を向けてくれる。
落ち着いてくる、ひょっとすると学校でカウンセラーか何かもやってるいのだろうか?
「う、うん……澪も唯もムギも憂ちゃんも心配だしな……! それに、あたしも……こわ、いし……」
「無理に言葉にしなくてもいいですよ。このような状況で怖い、寂しいと思うことは当然ですから」
強がりにあたしの似た言葉に、先生は相変わらず穏やかな言葉を返してくれる。
先生は不思議な人だ。
あたしがそう答えてほしいと思った言葉を、あたしがそうしてほしいと思った表情と一緒に返してくれる。
「平沢唯さん、秋山澪さん、琴吹紬さん、平沢憂さん……この四人が田井中さんのお友達ですね?」
「ああ。澪はすっごい臆病で、唯とムギは抜けてるところがあるから、その、心配なんだよ……」
そうだ、澪のことだ。
唯やムギ、憂ちゃんも確かに心配だが、一番心配なのは澪だ。
あの臆病なんて言葉じゃ表せないぐらい臆病な澪がこんな状況で動けるわけがない。
たぶん、泣いて蹲っているはずだ。
だから部長で幼馴染のあたしが助けに行ってやらなくてはいけない。
そう考えると、ちょっとした勇気が湧いてくる。
「田井中さんがお友達とお会いしたいと言うのなら、やはり動くべきなんでしょうね」
だけど、そんなちっぽけな勇気を取り戻したあたしと違って、先生は比べ物にならないほど勇気のある人だった。
いや、ひょっとするとただ単純に緊張感のない人なのかもしれないが。
まるで、コンビニに行けば何でもあるから行こう、とでも言うような気軽さだ。
歩きまわる、つまりそれはここから動くってことで。
ここから動く、つまりそれは誰かと会うってことで。
誰かと会う、つまりそれは唯や澪、ムギたちじゃなくて別の人と会ってしまうかもしれないってことで。
別の人、つまりそれは殺し合いに乗った人間かもしれないってことで。
そこまで考えた瞬間、ものすごく背筋が寒くなった。
先生はまだ良く分からないけど、とりあえず人を殺す気は全くないようだ。
それどころか、今みたいにあたしを落ち着かせてくれている。
だから、先生は信用する……って言ったら安っぽいかもしれないけど、一緒に居ようと言う気にはなった。
でも、他の人はそうじゃない。
最初のあたしみたいにビビりまくっている人も居ると思うと……怖くないって言ったら嘘になる。
怯えて、こっちに攻撃してくるのかもしれないのだ。
「大丈夫です、私も一緒に行きますよ」
先生はやはりにっこりと笑って、徐々に勇気を取り戻し始めたあたしの背中を押すように言葉を続ける。
その先生の顔を見て、笑顔は伝染る、と言う言葉を思い出した。
確かにいつも唯やムギが笑っているからか、軽音部の雰囲気は穏やかそのものだ。
後輩の梓――――あずにゃんもだんだんとその雰囲気に溶け込むと言うか取り込まれきたみたいだし。
……こんな時こそ、笑ってみるべきなのかも。
女の武器は涙じゃなくて笑顔だって誰かが言ってた気がするし。
ということで、試しに軽く笑ってみる。
少しぎこちないかもしれないが、笑いを消せないように、ニコニコとしてみる。
……うん、怖くてたまならかった心もだんだんと落ち着いてきた。
凄いな、笑顔。これは唯のことを中々馬鹿に出来ないかもしれない。
よし! まだ怖いことは怖いけど、動こう!
いやぁ、しかし、最初に会ったのが先生みたいな殺し合いをするつもりがない大人と会えて良かった。
「そうだよな、あたしは部長だから……皆とは友達だから……」
「……では、行きますか?」
「………ああ、行くよ。そうするよ、先生!」
なるべく元気よく、大きな声で返事をする。
よぉーし! なんだかやる気出てきたぞー!
って、よく考えると大声を出すのは不用心だった。反省だ、反省。
それでも先生は相変わらず、大声を出したあたしを責めるでもなく優しく微笑んでいる。
それが妙に決まりが悪くて、あははー、と照れ笑いを浮かべながら歩を進める。
優しいのは良いが、場合によっては照れ臭い。
で、月が出ているとはいえまだ深夜も深夜のうちに、頭をかきながら歩いていれば。
当然、地面に躓く。
「ぉおっと……あ、あははー……い、いやぁ! 足元が見づらいなぁ!」
嘘です、どう考えてもあたしの不注意です。
だけどそう簡単に認めるのは、その、恥ずかしいじゃないか。
あたしは照れ隠しをするように小声で叫びを入れる。
でも、実際に危ないよなぁ。真っ暗だし、木とか草とかいっぱい生えてるし。
あ、確かこの袋の中に懐中電灯が……あったあった!
ポチッとなー。
「ほれほれー♪」
あたしはまるで友達とじゃれつく様に、先生へと
先生は顔に手を当てて、少し困ったような、けれど笑顔のまま、あたしの手元へと手を伸ばしてくる。
「田井中さん、懐中電灯は危ないから――――」
っと、確かにそうだ、いけないいけない。
こけるよりも危ない結果になってしまうかもしれない。
あははー、とまた笑ってごまかそうとした瞬間。
パンッ!っていう、自転車のタイヤがパンクした時みたいな乾いた音が響いた。
――――パンッ! こんな風に口で簡単に再現できるぐらい単純な音がして。
――――その音と一緒に、先生の優しい顔に三つ目の目が出来て。
――――だのに、先生は相変わらず笑ってたんだ。
◆ ◆ ◆
身長は高くもなく低くもなく高校生平均ほど、やせ過ぎではないが太り過ぎではない。
動作から利き腕は日本人では一般的な右利きと思われる、髪留めで長い前髪を止めたショートカット。
髪留めを着けているため、おでこがはっきりと出ていて目を隠すことがないので明るい性格だと思われる。
目を合わせたがらない人は前髪で目を隠すというから。
そんな容姿をした少女を『田井中 律』だと私は記録した。
未来の記憶を持った田井中さんはは泣き疲れた様子で地面に座り込んでいる。
とは言え、最初に会った時と比べると大分落ち着いてきたようだ。
まあ、田井中さんが私にして欲しいと望むことを私はしたつもりだから当然とも言えるだろうが。
つまり、私はいつものようにするしかないということだ。
彼女が望んでいることを彼女がするように、彼女を誘導する。
結局、それが一番私のやり方に合っている。
誘導は慣れている、言葉を学ぶということは人よりも優位に立つ方法を学ぶと言うのに等しい。
言葉とは交渉においてもっとも多く使われる物なのだから。
「それで……田井中さんはお友達とお会いしたいのですね?」
ゆっくりと、聞き取りやすいリズムで尋ねる。
相手に触れるような真似はせずに、けれど落ち着いた様子で話しかける。
田井中さんは私の言葉を、詰まりながらもしっかりと返してくる。
最初に会った情緒不安定な時とは大違いだ。
「う、うん……澪も唯もムギも憂ちゃんも心配だしな……! それに、あたしも……こわ、いし……」
「無理に言葉にしなくてもいいですよ。このような状況で怖い、寂しいと思うことは当然ですから」
田井中さんの忘却された記憶。
近い未来の少女の記憶とは言え、私が今まで採集した同じ年頃の少女の記憶と変わりはない。
綺麗な記憶だ、元気のいい女の子そのものの記憶。
この少女は良くも悪くも普通の少女だ。
大きな事件に遭遇したわけでもなく、特別恵まれているわけでもなく、小さな幸せと小さな不幸を味わってきた。
忘却した記憶の中にも特別トラウマになりそうなものはない。
だからこそ、こんな状況を恐怖し、人に優しくされれば立ち直れるのだろう。
「平沢唯さん、秋山澪さん、琴吹紬さん、平沢憂さん。この四人が田井中さんのお友達ですね?」
「うん。特に澪はすっごい臆病で、唯とムギは抜けてるところがあるから、その、心配なんだ……」
バツの悪そうに、目をそらしながら喋る。
心配、つまり探したいと言うことで、だけど一人で出歩くのは怖い。
だから、私について来てほしい、手伝って欲しい。
言外にそう言っているのだろう。
本当に田井中さんは素直な女の子だ、安っぽく聞こえるが普通の女の子と言ってもいいかもしれない。
……田井中さんのお友達と言うのにも少し興味がある。
十年ほど先に生きる少女たちの記憶……そこには私が採集したことがない類の記憶があるかもしれない。
知らないことというのは、エイエンにつながる可能性がある。
未来では田井中さんが特別だ、という可能性もあるのだから。
「田井中さんがお友達とお会いしたいと言うのなら、やはり動くべきなんでしょうね」
だから、私は気軽に田井中さんの希望にこたえた。
死ぬかもしれないが、別に構わない。
――――死は、どうという事はない。
いつだって、私はその結果を受け入れている。
だから、この場で歩きまわることも怖くはない。
強いて言うなら、エイエンを知るまでは死ぬのは遠慮しておきたい、と言ったところか。
だが、田井中さんはそうではない。
あれほど怯えていたのだから、今も死ぬことは怖いだろう。
殺し合いに乗った人物に会ったら――――その恐怖を捨てることはできない。
だけど、彼女は私の言葉に乗るだろう。
記憶から察するに、彼女はそういう人間だ。
私はここでは言葉を続けない。
ここからは、あくまで彼女の意志で決めてもらわなければない。
まずは、彼女を完全に信頼させることが重要。
その後に、時間に暇があり彼女に素質があれば魔術を教えればいい。
「そうだよな、あたしは部長だから……皆とは友達だから……」
「……では、行きますか?」
「………ああ、行くよ。先生!」
想像の通り、彼女はやる気になった。
動く気になれば、後は少しずつ少しずつ操りやすいように誘導していけばいい。
今はその時のために種をまく段階。
そう思いながら、田井中さんを観察していると。
唐突に彼女がこけた。
「っと……あ、あははー……! い、いやぁ! 足元が見づらいなぁ!」
田井中さんはそう恥ずかしそうにつぶやきながら、デイパックに手を伸ばす。
何をするのだろう、と思いながらそれを見ているとそこから懐中電灯を取り出してきた。
しかも、それをこちらに向けてくるではないか。
「ほれほれー♪」
じゃれ合うように、人懐っこい笑顔を向けながら私の顔の周辺をライトアップしてくる田井中さん。
落ち着いたのは言いが、落ち着きすぎだ。
いや、心に残った恐怖を払拭するためわざと強がっているのか。
どっちにしろ、さすがにこれは危険だ。
窘める様に、でも優しく私は田井中さんの手をゆっくりと払いにいった。
「田井中さん、懐中電灯は危ないから―――――」
この状況で光をつけるのは危ない、月の明かりで我慢するしかない。
そう言おうとした瞬間、私は頭に衝撃を受けた。
身体のどの部分にも力が入らず、ゆっくりと地面に倒れこんでしまう。
狙撃されてしまった。
いや、私が反応できない手段の一つを取られるとはこれは辛い。
しかも不意打ちと来たものだ、いや、狙撃とはそういうものだが。
魔術師は兵士と言うよりも学者に近い(中には戦闘に優れた者も居ないわけではないが)。
基本的にデスクワークで、『 』を目指して何か調べ物をしている人間の方がずっと多いのだ。
ましてや、私は【言葉】が突出してるが、それだけの男。
魔術の才を持たないが故の天才が作りだし、別の天才たちが改良し続けた現代兵器にはなんの抵抗も出来なかった。
向かい合ったこちらの言葉が届く状態ならば死にはしなかっただろう。
されど今は視界の届かない、相手に言葉を投げかけることすら叶わぬ敵。
つまり、私はこれか死ぬと言うことだ。
この限られた空間に放り込まれたことが、私にとって一番の災いだった。
私の能力は追手から逃げることに秀でているのではなく、追手に追わせないことに秀でているのだから。
しかし、意外だ。まだ私は考えることができるとは。
頭を撃たれれば多少の誤差はあれど、もっと一瞬で死んでしまうと思っていた。
ふむ、死んだことはないから知らなかったが、どうやら死ぬ間際とは思っているよりも余裕があるものらしい。
激しい痛みと身体が千切れていくような感覚が煩わしいが、ほっとする奇妙な心地よさがある。
しかし、まだ考えれるかも知れない……かな?
ふむ……どうせだし死の間際とやらに何か考えてみよう。
――――――あ、だが、駄目だ。どうやら、ここまでのようだ。
何か考えるか、と思った矢先にお終いが近づくことを理解できた。
悠長に死因を考えてしまったのが失敗だったなのかもしれない。
長くなると痛みに耐えるのが辛いだろうから構わないが、短いと余韻に浸ることすらできない。
ふむ、じゃあ、最後の一瞬だけで済む思考は何だろうか、っとそこで考える。
それで結局最後に思ったことは、ついに一度も私が笑うことはなかったな、なんて呑気な物だった。
エイエンについてでもなく、帰れなくなった家でもなく、ましてやエイエンを手に入れたかもしれない荒耶宗蓮のことでもなく。
ただ、自分があの日以来なくしてしまった心からの笑みが頭に浮かんでいた。
多分、それは私にとって笑顔が重要だったというわけではなく。
―――――きっと、田井中さんの笑顔が急速に冷えていったことを見て連想してしまったからだろう。
【玄霧皐月@空の境界 死亡】
◆ ◆ ◆
支給されたドラグノフを一度使っておきたい。
俺が考えたのはそれだけだった。
目の前の男と女の二人組は普通の人間、見逃しても別に構わない。
だが、カギ爪と遭遇する前、殺し合いに積極的なものと戦闘になる前に『試し撃ち』をしておきかった。
ただ銃弾が30発、銃声によってこちらの居場所が知られ逆に狙撃されてしまう危険性を考えると、無駄は避けたい。
そこで、芽すら見せていないとは言え、僅かにでもある危険因子の除去を相手に試すことにした。
のほほんとしているが、その実どう考えているかは分からない。
それこそ強力な重火器を手に入れていて、この先に遭遇した恐怖のあまりにカギ爪を殺す、なんて可能性も十分にあり得る。
その可能性だけで、引き金を絞るには十分な理由だ。
決めれば行動は早い、スコープ越しに二人組を覗き見る。
……スコープの出来は並、この暗闇故に仕方ないとも言えるが。
これでは一撃で仕留めるのは難しいかもしれない、二弾も使うのはさすがにメリットの方が少ない。
仕方がない、ここでの試し撃ちは諦めるべきだろう。
気付かれないように通りすぎて日が昇るのを待つか、灯りのついた街に行く。
そこで軽く試し撃ちをして、即刻、カギ爪を探す。
大事なのはスピーディな行動と確実な殺害手段だ。
そんなとき、スコープの先に唐突に光が現れた。
懐中電灯だ、と瞬時に分かる。
その大胆さに度肝を抜かれるが、せっかく与えてくれたチャンスは有効に活用させてもらおう。
だから、躊躇いなくトリガーを絞った。
男の額に銃弾が命中したことをスコープ越しに確認し、次は女へと照準を合わせる。
だが、女は懐中電灯を落としたのかその姿は既に暗闇の中へと紛れ込んでいた。
まだ日も昇っていなく草が茂っているこの場所では、たとえ月明かりがあろうとはっきりとした狙いが定まらない。
「チッ……」
自分にしか聞こえない程度の舌打ちを漏らす。
この暗闇の中で撃っても弾の無駄使いになるだけだ。
狙撃銃と言う強力な武器はあるものの、それを利用するために必要な弾丸は30発こっきりだけ。
カギ爪の男を確実に仕留めるためにもここで弾を無駄に消費するわけにはいかない。
ならばと、もう一つの武器である90cmほどの平バールを手に取る。
スコープ越しで身体の輪郭を見る限り、女は武器を持っているようには見えない。
逃げる様子はない、突然の出来事に腰が抜けていると見るのが妥当。
ならば、この距離なら直ぐに詰めれる。
そこで、ふと思いつく。
あの女は腰が抜ける程に怯えている。
ならば、上手く脅せば他の参加者の間引きに使えるのではないか?
ここは広さの割には人が多すぎる。
その多すぎる人の内の誰かがカギ爪を殺す、などと言う展開は避けておきたい。
ならば、銃と平バールと共に支給された最後の一つを使って脅して、間引きに利用するのも、また手段の一つ。
……悪くない、俺が殺すためにカギ爪には生きていてもらわなければいけない。
何処の馬の骨とも知れぬ人間に殺させるわけにはいかないし、その馬の骨を始末する手駒のようなものを持つのも悪くない
そこまで決まれば、後は行動だけだ。
最後の支給品、【ブラッドチップ】なる麻薬を取り出す。
依存性も高く、耐性も付きやすい良薬とも毒とも言える覚醒剤だ。
ペーパーで口に入れてしまえばすぐに溶ける。
純度の高いオリジナルではなく、より多くの人間へと出回すために薄めた初級用と言うのも好ましい。
距離は既に詰め、尻もちを着いた女の前へと立塞がる。
尻もちを着いたまま震えている女が動かないだろうことを確認した後に押し倒し、腕を押さえ身動きを取れなくする。
キョトンとした呆けと深い恐怖を織り交ぜた奇妙な表情を無視し、僅かに開いた口へとペーパーを放り込む。
「っぅぁなぁ!?」
突然の出来事に、女は口を閉じてしまう。
バカなことだ、異物を口にした時は吐き出すのが一番だと言うのに。
もちろん、ご丁寧に「吐き出せ」などと忠告するつもりはない。
口を手で塞いで、放り込んだペーパーを吐き出せないようにしておく。
「……! っぅ!!」
……これぐらい口内に溶かせば十分か。
口に馴染ませて、体内へと飲み込んで、ペーパーが効用を果たす条件は満たされた。
手を口から遠ざけ、驚きに満ちているその顔に向けて一言で飲み込んだものの正体を教えてやる。
「聞け、今のは覚醒剤だ」
「はぁはぁ、はぁ……っあなぁ!?」
その言葉だけで何を飲まされたのかが分かった、と言うことは知識はあると言う事か。
だが、驚きからして正しい知識を持っているわけではないようだ。
どんな優れた麻薬だろうと、一つや二つで元に戻れなくなるわけではない。
たった一つなら、意識を強く持てば、まあ壊れはしない。
大抵の人間が戻れないのは、得てして覚醒剤を飲もうと思う時というのは意識が弱っている時だからだ。
なので少なくとも、この怯えきった女は戻れないだろう。
ちっぽけな知識による偏見とあどけない妄想を募らせて、全ての不快感を薬の所為にする可能性が高い。
そして、「もう一度飲めばこの不快感が消えるのではないか」、そんなバカなことを考えるはずだ。
耐性と依存性の着いていない今ではあまり効果は発揮しないと言うのに。
「……もう、惚けてきたか?」
「っんぁ! ち、違う! そんなこと……ない……ぃっ!」
気分が良くなっているわけではないだろうが、言葉で責めることは十分に効果的だ。
実際にどう感じているのか、なんてことは問題ではない。
さすがに二、三日で人の性格が薬で変えることは難しい。長期服用すると完璧に変わるだろうが。
だが、追い込むことはできる。
大事なのは、この女が情緒不安定に陥り、二つ目三つ目と続けて覚醒剤を適用すること。
ポケットからビニールに包んだ二つのペーパーをちょうど胸に当たる箇所に落す。
「……な、なんだよ、これ?」
「二つだ、二つだけ渡す」
「ふた……つ……?」
「足りなくなれば、日が沈むころに円形闘技場に来い。もちろん、タダでは渡さん」
そこまで、言葉を区切る。
女は自然とこちらに集中してきている、話の内容が掴めていないのだろう。
だから、それが残酷な言葉だとは分かっていても聞かなければいけない。
ちなみに、何度も言うが覚醒剤と言うのは一日や二日でどうこうなるものではない。
【薬の呪縛から抜け出せる、抜け出せない】と言う意味ではなく、その被害の規模の意。
最初はただ辛いだけだ、完全に廃人になるわけではない。
ただ、女は不安定にさせるには十分すぎるギミックだろうが。
そして数秒、いや、もっと短かったのかもしれないが、溜めていた言葉を遠慮なく発した。
「殺せ」
端的に分かりやすく、脅しに重要なのはそれだ。
さらに追い込むために地面に落ちていた懐中電灯をずらし、先ほど狙撃した男に光を当てる。
逆らえばこうなる、という脅し。
殺し合いに乗れば、一先ずは生かしておいてやると言っているのだ。
「カギ爪をつけた年配の男、そう、カギ爪の男以外の全員を殺せ、見つけたならばすぐに殺せ。
いいか、俺から逃げられると思うな。薬を我慢できると思うな」
カギ爪の男を殺せるとは思えないが、万が一にでも殺されたら困る。
念押しのために指でも折ってやろうかと思ったが、五体満足の方が戦果は期待できる。
この女にどんな方法ででも人減らしをさせて、カギ爪の生存率を上げねばならない。
「もしお前が俺の納得できる結果を出したなら、魔法とやらで生き返らせた後に薬抜きもしてやる」
それがどうなるかはまだ分からない。
こんな貧弱な女が役に立つかは分からないが、口約束ならば幾らでもしてやる。
カギ爪と会うまであの男の生存率を上げるための手は打てるだけ打っておきたい所だ。
駄目押しとして、痛みではなく一言だけ与えてやる。
折れかかっている女のその心を再起可能な程度に、けれど確かに折るために、言葉を口にする。
「忘れるな、お前が俺の言葉を反故にするようなら、お前が何処に居ても俺は殺す」
その言葉を最後に、殺した男のデイパックを手に取ってその場を去った。
背中を見せず、闇に紛れる様に。
◆ ◆ ◆
「なんなんだよぉ……! なんなんだよぉ!!」
銃と工具みたいな物騒な道具を持った男が立ち去るのを見届けて、あたしはようやく声が出せた。
だけど出てくれたのは声だけじゃない、目から涙まで出てくる。
あたしはあの恐ろしい雰囲気に完全に呑まれていた。
……呑まれる? 呑まれる……のまれる……飲まれる?
「うぅ……ぁかあ! ぉおえぇ!!!」
そこまで考えて、指をのどに突っ込んでかき回す。
覚醒剤、つまり……麻薬、ってことだ。
それを、無理やり飲まされた。
口の中に入れられた紙みたいだったけど、錠剤や注射でなく紙に馴染ませる形の麻薬があるって
飲まされた、飲まされた、飲まされた、飲まされた、飲まされ飲まさ飲まされた……!
吐き出さなきゃ、でもあれって口に溶けるオブラートみたいなのだったから意味がないの?
ああ、でも、でも吐き出さなきゃ!
「ぁあはゃっ! ……ひぐぅっ!」
指を突っ込んで喘いでいるところで、地面に横たわった先生の顔を見てしまった。
先生のどこも見ていないような眼と全く笑ってない顔が怖くて、あたしは懐中電灯を蹴り飛ばした。
月の明かりでまだ先生が見えるけど、あからさまにライトアップされていたさっきよりは全然マシだ。
それでも、どんなにマシになっても、恐怖は全然薄れてくれない。
あの男の所為だ、そうに決まってる……!
だけどあたし、死ぬ、のか?
いや、それに先生が死んじゃったのってあたしが騒いだから? あたしが懐中電灯をつけたから?
このまま、先生みたいにあの男に殺されちゃうのか……?
でも、そっちの方がいいのかな……他の人を殺すぐらいなら……?
……もう、なんだか気分が悪い。
吐き気がして、頭がぐらぐらして、身体中が熱くて、血を見るだけで鉄の味が口に広がってくる。
もうこんな所はもう嫌だ……居たくない……こんな所になんか、居たくない!
「澪ぉ……!」
あたしはいつものテスト前に縋りつくのと込めた真剣さが全然違う調子で、親友の名前を呼んでいた。
【D-4/森/一日目/黎明】
【田井中律@けいおん!】
[状態]:情緒不安定、風邪に似た症状(?)
[服装]:下着とシャツが濡れた制服(汗で)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(懐中電灯以外)、九字兼定@空の境界、ブラッドチップ・2ヶ@空の境界、その他不明0〜2個
[思考]
基本:死にたくない。皆と会いたい。特に澪と会いたい。
1:とにかくここから離れる。
2:人を殺す……?
※二年生の文化祭演奏・アンコール途中から参戦。
※レイの名前は知りません。
※ブラッドチップ服用中。
【レイ・ラングレン@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:武士のような民族衣装、ランスロットの仮面@コードギアス反逆のルルーシュR2
[装備]:ドラグノフ@現実(9/10)、平バール@現実
[道具]:基本支給品一式×2、デイパック、ドラグノフの弾丸(20発)、ブラッドチップ・3ヶ@空の境界
その他不明1〜3個(玄霧皐月に支給されたもの)。
[思考]
基本:カギ爪の男を八つ裂きにする。
1:基本は動くもの全て排除。
2:だが、利用できるものは利用する。
3:ヴァンは出会えば殺す。だが利用できるなら利用も……。
4:時間があれば日が沈む前に円形闘技場に寄る。
[備考]
※参戦時期は第8話〜第12話のどこかです。
【平バール@現実】
900mmほどの大きさのバール。
細長く、先端が二つに分かれているため鈍器としては優れている。
【ブラッドチップ(低スペック)@空の境界】
起源覚醒を促すオリジナルのブラッドチップではなく、白純里緒が調整した覚醒剤の中でも比較的容易に手に入る類の物。
実際に使用してみた黒桐曰く、「効き始めは服用から十分前後の速効性、持続時間は四時間前後、幻覚性よりも共感覚の方が強い」とのこと。
形は唇に軽く乗るぐらいのペーパー、染み込ませてある。
以上で代理投下終了します
てす
支援テス
支援
エリアE-4、市街地群。
様々な建物が無数の街頭に照らされている。
室内に明かりがついているものもあればついていないものもある。
そんな中、明かりがついた建物の一つから僅かな音が漏れていた。
「チッ……しけてやがんなぁ」
特に変哲もない民家に男の声が響く。
男の名はアリー・アル・サーシェス。
赤いパイロットスーツに身を包む彼は人知れず民家に隠れていた。
椅子に座り、目の前のテーブルに足を投げ出す様子に遠慮は見られない。
何故なら侵入した際に誰も居なかったためだ。
まあ、仮に誰か別の人間が居たとしてもサーシェスはこの場に留まっただろう。
その人間から“ご親切”にデイバックを受け取った後にでも――そう違いない。
何故かオーブンの中に放置されていたタコスを貪りながら、やがてサーシェスは視線を回す。
「ロクなもんがありゃしねぇ。
あんまり期待はしてなかったが……いざこうなると寂しくなるもんよ。
ま、落としちまったナイフの分はこれぐらいでなんとかなりそうだがなぁ」
一言で表せば室内は散乱していた。
キッチンの戸棚、ベッド近くの化粧台など至る所が荒らされていた。
言うまでもなくその犯人はサーシェスだ。
目的は物色。金目のものや利用出来そうなものがないかといったところだ。
しかし、その結果は残念ながら奮わなかったようだ。
愚痴を漏らすサーシェスの様子から容易に想像出来る。
だが、何も収穫がなかったわけではない。
テーブルには文化包丁と鞘付きの果物ナイフが一つずつ、そして作業用のドライバーが数本置かれている。
包丁とナイフは言わずもがなドライバーも投擲に使えるかもしれない。
支給されたナイフを落としてしまったサーシェスは代わりの刃物を調達していた。
それは先刻起きた、片倉小十郎と名乗る男との戦いの結果によるものだ。
そしてサーシェスがこの民家に踏み込んだのも、小十郎との戦いが関係している。
「……あいつはどうしてるだろうなぁ。
別に追ってきてもらってもかまわねぇが、ちぃとばかし骨が折れるんじゃねぇのか。
案外多いぜ、この辺りにある建物の数はよぉ」
サーシェスが小十郎との戦いの末、選択したものは撤退だ。
しかし、ただ走り続け、距離を稼ぐのでは疲労の蓄積が溜まるだけだろう。
まだまだ始まったばかりの現時点で無駄に消耗することは好ましくはない。
それに他者からの襲撃を受ける恐れもある。
深夜といえども無暗に姿を曝け出すのは避けるのに越した事はない。
故にサーシェスはある程度走った後、現在の民家に身を隠した。
周囲に建物が多いのも都合のいい隠れ蓑になることだろう。
流石に一つ一つ、このあたり一帯の建築物を調べる者は居ないと信じたい。
まあ、その時はその時で幾らでも対応のしようがあるのだが。
支援
支援
「そういや――」
そんな時、サーシェスは何を思い立ったのか立ち上がる。
食べかけのタコスをテーブルに放り、向かう先は無造作に床に置かれた自身のデイパック。
屈みこみ、直ぐに目的の品を取り出してパラパラと捲っていく。
それは参加者に配られた名簿だった。
「……知ってる名前はねぇな」
サーシェスに落胆の様子は見られなかった。
知っている名前がなければ自分を知っている人間もきっと居ない。
生憎、無害な一般人であると胸を張っては言えないためその点はやりやすいだろう。
たとえば以前、“ガンダム”を奪取したような口先に頼る状況に陥った時には――
だが、サーシェスはふと考える。
確かに名簿には自分の知っている名前はない。
しかし、それが必ずしも自分が知っている人間が居ないとは限らない。
「いや、絶対に居ねぇとは言い切れねぇか。
クルジスのガキとガンダムのお仲間さんの団体も招待済みかもしれねぇ。
もしそうだったら――こいつは面白れぇコトになりそうじゃねぇか!」
此処に連れてこられるほんの少し前、サーシェスは戦闘を終えていた。
イノベイターに雇われた彼に下った指令はソレスタルビーングへの攻撃だった。
ダブルオーガンダム、ガンダムセラヴィーの二体を自身のアルケーガンダムによる追撃ミッション。
二対一にも関わらず終始押していたサーシェスだが二体のガンダムの出現により撤退した。
あの時、サーシェスと戦闘を行ったガンダムのパイロットは計四人。
「いいねぇ! 続きといこうじゃねぇか!
あいにくガンダムはねぇが……楽しい楽しい戦争ってヤツのパーティをよぉ!!」
その中でもサーシェスが知る限り自分と因縁があるのは二人だ。
四年前の仇打ちを狙ってきた、顔も知らないセラヴィーのパイロット。
そしてダブルオーのパイロットであり、十年前に自分が指揮したテロ組織に少年兵として所属した少年――
自分と同じく、クルジス抗争を生き残ったあのガキも居るかもしれない。
彼らの名前は知らないが、向こうは自分の名前を知っている。
ならば出会いさえすれば向こうが教えてくれるだろう。
その時、借りを返してやればいい。
己の半身を消炭にしてくれた一因である、彼らには相応の借りがあるのだから。
ガンダムマイスター達がこの場に呼ばれている事を願いながらもサーシェスは名簿を閉じる。
知らない名前には特に興味はない。
小十郎の名前がなかったが、これは記されていない例の十二人の事に違いない。
何故十二人だけ伏せるのかは気になるがこれも大きな問題ではないだろう。
自分に都合が悪ければ結局は殺すことになる。
どんな事情を抱えていようが殺してしまえば無意味になるのだから。
閉じた名簿をデイバックに戻し、サーシェスは再び立ち上がる。
「さぁーてどうすっかなぁ」
軽く伸びをしながら今後の動き方に思考を回す。
武器も調達出来、見落としていたガトリングガンの予備弾丸も発見出来た。
配られた食料を使うことなく腹を満たすことも叶った。
小十郎との戦いで負った額の傷も今では止血出来ている。
行動を起こすのになんら問題はない。
いつでもまた戦いに飛び込んでいけるがわざわざデメリットを犯す必要もないだろう。
「しかし勿体ねぇ。
たとえばの話だが三人殺せばボーナスが出る……そんな条件でもあればもっと釣れただろうによぉ。
この俺も含めて、燻ってるヤツらをそれこそ丸ごとなぁッ!」
サーシェスに他人を殺すことに抵抗があるわけではない。
長く戦争屋をしている自分が命の重さなどを口にしたらそれは聖職者に失礼だろう。
だが、これはバトルロワイアルであり最後に勝ち残った者が勝者だ。
途中で幾ら殺そうが死んでしまえばあっけなく終わってしまう。
別に一人も殺さずとも結果的に最後の一人になってしまえばそれでいい。
だからサーシェスはあまり大きな移動をする気にはなれなかった。
もちろん機会があれば人数減らしも兼ねて積極的に殺しにはかかるつもりだ。
小十郎やガンダムマイスターの位置がわかればどこであろうとも向かうだろう。
彼らを仕留める武器は十分にある。
見た目にも関わらずガトリングガンの重量は恐ろしく軽く、片手でも扱えるかもしれない。
刃物類は今しがた調達したばかりであり、更にそれだけではない。
サーシェスに支給された支給品はまだ残っていた。
デイバックからサーシェスが勢いよく引き抜くは一丁の拳銃だ。
「好きだぜ。こういうわかりやすい武器は……殺してやるぜ、って感じになってくるじゃねぇか」
大口径の銃口が二つ覗くそれは“魔王”が使いし銃。
戦国の世に降り立った魔人――第六天魔王織田信長のショットガンが今、サーシェスの手にある。
反動は強そうだが銃口の大きさからその威力は期待出来る。
舌舐めずりをしながらサーシェスはデイバックをテーブルに置く。
初弾の発射の速さにはガトリングガンよりはショットガンの方がいいだろう。
それにどういうことかこのガトリングガンは抜き撃ちに適している。
故に常時持つ得物はショットガンに決めた。
果物ナイフやドライバーはノーマルスーツのポケットにしまい、包丁は鞘などないためデイバックへ。
既に準備は完了済みだがそう焦る事はない。
「だが、時間はまだ十分にある。
特に当てもねぇし、もう少し様子を見ておいてもいい。
ま、なんにせよ――」
じっくりと決めていけばいい。
途中で何人殺そうが最終的な目標は一つだ。
勝ち上がる――特にややこしい注文もない、単純なミッション内容。
食べかけのタコスに手を伸ばし、口に持っていく。
「楽しみになってきたじゃねぇか……神様が居るなら信じてやるぜ。
俺をここへ連れてきたくれた、その神の采配ってヤツをなぁッ!」
最後の塊を一口で喰らいあげ、サーシェスは己の爪を研ぎすます。
戦場で培った、悪意と殺意が入り混じった爪に出番を与えるその瞬間を浮かべながら。
【E-4/北東、市街地群のとある民家/一日目/黎明】
【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:中度の疲労、腹部に打撲の痣、額より軽い出血。
[服装]:パイロットスーツ
[装備]:ガトリングガン@戦国BASARA 残弾数75% 信長のショットガン@戦国BASARA 8/8 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実
[道具]:基本支給品一式、 ガトリングガンの予備弾装(3回分) ショットガンの予備弾丸×80 文化包丁@現実
[思考]
1:この戦争を勝ち上がり、帝愛を雇い主にする。
2:殺し合いをより楽しむ為に強力な武器を手に入れる。
3:片倉小十郎との決着をいずれつける。
4:何処かへ移動する、もしくは暫く此処で様子を窺う。
【備考】
※第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※G-5にナイフ@空の境界が落ちています。
※ガトリングガンは予備弾装とセットで支給されていました。
支給品紹介
【信長のショットガン@戦国BASARA】
第六天魔王こと織田信長が使用したショットガン。
一度に二発の銃弾が発射され、連射も可能。
325 名前: ◆40jGqg6Boc[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 23:59:54 ID:seeG.v2.
仮投下終了です。
なにかあればお願いします。
タイトルは「アリー・アル・サーシェスは大いに語り大いにバトルロワイアルを楽しむ」で。
本投下の方もよろしくです。
あと、信長のショットガンは詳細なスペックがわからないので弾丸数はこっちで決めさせてもらいました。
投下乙です!
サーシェスは傭兵だけあって思考が凶暴ですな
殺害サービスはどうなのかな、ありそうな気もする
しえん
支援支援
しえん
びゅうびゅうと強い風が吹いていた。
黒い海を間近に、黒い空の下で黒い風が吹き、そして少女の同じく真っ黒な髪の毛を激しく揺らしている。
少女――中野梓はただ虚ろな表情で風に髪を乱されるままに立ち尽くしている。
その瞳の色もまた空虚な黒に満ちていた。
少女は足元を見下ろす。
ビルの屋上の端。そこから更に柵を越えたその先の先。端っこ。一歩先はもう空でしかないそこから下を覗き見る。
視線のずっと先。これもまた黒い地面の上に何かが落ちているのが見えた。
それが何なのか、少女はよく知っている。
少女が落としたものだ。少女が落としてしまったものが、そこで壊れて転がっているのだ。
拾い上げることはできない。そこはとても遠くて、少女の手はそこまで届かない。
ただ、失われたという事実だけが、落としてしまったという真実だけがそこに、そして少女の中に残るだけでしかない。
びゅうびゅうと強い風が吹いている。
少女の身体はふわりと浮いて、そして黒い空へと投げ出された。
ただ、落下する。自分が落として壊してしまったものと同じ場所へ、ただそのままに、
落下する――……。
そして、ゆうらりと空を舞い落ちた少女はそのまま地面に、当たり前のように――着地した。
「……………………はぁ」
無音のゆっくりとした時間が過ぎてから、梓はようやく止めていた息を大きく吐き出しその焦点を現実と合わせなおした。
控え目な胸に手を当てて、何度か深呼吸をしてどこか浮き上がっていた心を落ち着かせる。
それはつい先ほどまでならとても難しくてできないことであったが、しかし今の彼女にとってはそうではなかった。
着地した位置よりすぐそこには先に落ちた――いや、落とした彼女が無残な遺体を曝している。
殺してしまったという事実は消えてはいない。
生気を失った目はあらぬ方を向いており、手足は普通ではない方へと曲がっている。
お腹が破れてしまったのだろうか、伏した身体の下からはおびただしい量の血が流れ出ていた。
それらを見ても、梓の心はもう強くは動かない。
ただ、起きたことを事実として認識するだけ。想いは揺れない。彼女には揺れる想いがもうない。
なぜならば、彼女は自身の重さと一緒に、その想いを――辛くて辛くて重く身を苛む想いを他に預けてしまったのだから。
梓は自分が飛び降りてきたビルの屋上を見上げ、そしてそこで起こった不思議なことを思い出す。
少女は、蟹に行き遭ったのだ。
支援
しえん
■
人を殺してしまった。
その事実は少女にとってあまりにも重たいものであった。
重たすぎて心が、いやそれどころか何もかもが根こそぎに引きづられ地面に押し潰されるかとそう錯覚してしまうぐらいに。
いや、錯覚ではなく、もしもこの後のことがなければ少女は確実に地面に墜落した彼女と同じ末路を辿っていただろう。
現実を割り切れるほどのクレバーさは持ち合わせておらず、圧し掛かる事実を支えられるほどの強さも持たず、
何より真実から目をそらせるほど不誠実ではなかった。
卵の殻のように華奢な心は、なすすべもなくグシャリと潰れてしまっていたに違いない。
しかし、そうはならなかった。幸か不幸か、彼女は蟹に行き遭ってしまったから。
少女がそれに気付いたのは空の拳銃を抱いてただ縮こまり震えている時のことであった。
ぐるぐるとぐるぐると己の中で罪悪感と後悔とを循環させ、練り上げられた絶望で自身を押し潰そうとしたその時、
彼女は目の前に大きな蟹が一匹いることに気付いた。
『おもし蟹』
それの名前がそうだということを彼女は知らない。
それが最初からそこにいて、またどこにでもいること、彼女が口を開いたデイパックから出てきていたことも知らない。
それを知らないから、それがただの蟹でなく怪異であること。神と等しい異常であることもまた知りようがなかった。
とあるアロハシャツの男がいれば必要な分も不必要な分も合わせて説明してくれたであろうが、そんな人物はここにはいない。
だがしかし、知る必要はなく、行き遭った少女はただそれだけでこの蟹が何をしてくれるのかだけは理解していた。
そう思ったからこそ、そう想ったからこそ……それが重たかったからこそ、蟹はそこにいるのだと。
お願いします。私を助けてください。
少女から重みが消えたのはその直後だった。
しえん
支援
■
あの不思議な蟹はもういない。
正しくは、いつでも梓の傍にいるのだが、今の彼女にはもう見えない。遭いたいと強く欲さなければ行き遭えないからだ。
「ごめんなさい」
少女は墜落死した彼女の遺体に向かい深く頭を下げる。
長い黒髪の、ツインテールにしたその先っぽが微かに血溜まりに触れ少しだけ色がついた。
「どうすればいいのかはわかりません。でも、なんとかして助けます。だから……ごめんなさい」
そうして、少女は踵を返して夜の中を歩き出した。その足取りはとても、まるで浮くように軽い。
トントンと、靴の底で音を立ててその場を後にしてゆく。
足を止めもしなければ後ろを振り返ることもしなかった。
引きずられるような想いは、自身の重さと一緒にあの大きな蟹へと預けてしまったのだ。
故に彼女をそこに縛り付けるものはもう何もない。遺体を見ても、感慨はTVの画面ごしに見る程度にしかもう感じない。
だけど、
中野梓が彼女を殺してしまった事実は消えない。想いは軽くなっても、記憶がゼロに達することは決してない。
だから、一粒だけ涙。
とても重たい一粒だけの涙を頬に垂らし、彼女は黒い世界の中を往く。
想わないことの罪。重さはないけど重たいその罪を背負って、存在を儚きものとした少女はどこかへと歩いてゆく。
【G-3/路上/一日目/深夜】
【中野梓@けいおん!】
[状態]:健康、体重1/10、存在感(薄)
[服装]:桜が丘高校女子制服(冬服)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、鉈、おもし蟹、不明支給品(0〜1)
:デイパック、基本支給品、S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(0/6)、.38spl弾x60、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本:死にたくない。殺してしまった竹井久を救いたい。
1:軽音部のみんなを探す。
[備考]
※本編終了後から登場。
※おもし蟹がすぐ傍にいます。ですが、姿を消したのでいなくなったと思っています。
【おもい蟹@化物語】
人ひとりほどの大きさのある蟹の怪異。想い蟹、重石蟹とも呼び、土着の神様の一種でもある。
見えないし触れることもない。重く苦しい想いを持った人の目の前に現れ、想いを引き受け、一緒に体重を奪う。
想いを捧げた者からは、その想いに関する心の重さが失われ気が楽になる。
ただし記憶は消えないので、想っていたこととそれを失ったことによる新しい罪悪感が生じる場合もある。
体重はおおよそ1/10まで軽減するが、筋力など重さ以外に関してはまったく変化しない。衣服等は軽くならない。
また、蟹に重さを奪われたものはその分存在感も希薄になり、儚げな印象を他に与えることになる。
支援
支援
しえん
しえん
支援
330 名前: ◆MAKO.0z9p.[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 00:18:50 ID:2rqQ4qf.
以上、投下終了しました。
代理投下よろしくお願いします。
投下乙です!
妖怪こわい!体重が減ったのがどう転ぶのか
図らずも部長を殺してしまったあずにゃんがこれからどんな苦難の道を往くのか、期待します!
しえん
しえん
廃ビルより離れた海岸線沿いに建つ古びた民家。
築30年は経っているであろう木造造り。
海風のせいか腐食が進んでいる箇所も窺える。
昼間に訪れれば、まだ住居としての姿を想像させるだけの外観なのだろうが、星明りの下に浮かび上がる姿はまさに廃墟そのもの。
そんな異界の入り口のような家に年若き男女が一組訪れる。
入り口を潜り、南側の8畳ほどの畳敷きの居間。
そこに緩慢な動きで女が男の体をやさしく横たえる。
窓から射し込んでくるわずかな星明りを頼りに数本の蝋燭を見つけ、火を点す。
蝋燭の小さな明かりが揺らめき、男の姿と顔を照らし出した。
男は瞼を閉じ、時折険しい表情を浮かべている。
女はその苦悶の表情を見て、吐息にも似た小さな溜息と妖艶な微笑を零し、そして、ゆっくりとその手を男の服へと伸ばし始めた。
男は、いまだ……目覚めない。
支援
支援
女の手が男の額に触れる。
安堵の表情を女が浮かべ、額に浮かんだ汗をふき取る。
女の右手が横たわる男の背中に回り、男の体を僅かに浮き上がらせた。
その瞬間、男の表情に再度苦悶の色が浮かぶ。
女は男の耳にそっと口を近づけ、囁く様に言葉を漏らす。
「……落ち着いてください、痛くしませんから……」
吐息と共に吐かれた言葉が男の耳とうなじを撫ぜ、無意識に体温を僅かばかり上昇させる。
女の左手が男の左肩に触た。
女は、まるで羽箒で撫ぜるようにその周囲から穢れを取り払い、最後にチロリと舌を出して男の体から漏れ出した命の残滓を舐めとった。
満足げな表情を女が浮かべる。
男が目覚めるのは、やはり、まだ少し先……。
◆ ◆ ◆
支援
しえん
ヒイロが目覚めた時、その眼前に広がる光景と、自身を取り巻く状況に驚かされることになった。
まず目の前に広がる光景。
星明りと周囲に並ぶ蝋燭の明かりのおかげで辛うじて浮かび上がった板張りの天井と、古ぼけた木の柱。
背中に感じるのは硬いようで温かみを感じる畳の感触。
それ以外は特に何も無い。
自分が今どこにいるのか、それが分からない。
そして、自分が置かれている今の状況。
何処かの古民家だろうということは推察できたが、そんな場所でなぜ自分が寝ていたのかが分からない。
しかも全裸で……。
そう、ヒイロは今何一つ身に纏わない姿だった。
掛けられた毛布を持ち上げ、ゆっくりと体を起こそうとして気がついた。
ヒイロは何一つ身に着けてない。
これは流石に事の異常性を再認識する。
ヒイロの中に浮かび上がるのは目覚める前までの記憶だ。
殺し合い、バトルロワイアル、赤い槍を持った女とその女に襲われていた桃色髪のドレス姿の女。
ドレス姿の女を逃がし、槍を持った女から自分も無事逃げ切った所で、再びドレス姿の女に出くわした。
そんな、記憶の流れの中からいくつかの記憶を取り出し、瞬時に現状への答えを導こうとする。
確か、あのユーフェミアという女が突然銃を……。
そこまで思い出して、自分が怪我を負った状態で海へと飛び込んだことを思い出した。
(俺は……、意識を失ってしまったのか……)
思い出した記憶に従い、そっと撃たれた左肩に右手が行った。
そこで初めて、左肩に巻かれた包帯に気がつく。
(手当てが……、助けられたのか……)
ヒイロは厳密に言えば全裸ではなかった。
銃撃を受けた左肩に巻かれた包帯の感触を右手で確かめ、その治療の確かさを感じ取る。
今まで培ってきた感覚により容易に推察できる治療の的確さ、そして、体の一部と錯覚するほどのフィット感を持つ巻かれた包帯。
それらを実感し、自分の置かれている状況をある程度察した。
(意識を失った俺を何者かがこの家まで運び込み、濡れた服を脱がし、手当てをしてくれた……。だが、いったい誰が?)
再び辺りを見回す。今度はもっと神経を張り巡らせて。
しえん
支援
支援
しえん
しえん
(人の気配……奥の部屋か……)
おそらく自分を助けた人間だろう気配を感じ取り、ヒイロは全身に緊張を張り巡らせた。
毛布を無音で剥ぎ取り、他に何か無いかと辺りを見回し、自身の所持品を探す。
だが、先ほど確認したとおり、何も無い。服も、銃も、デイパックも見当たらない。
一瞬窓から外に出る事も考えたが、自分を助けた相手すら確認せず姿を消すなど心情的に出来るわけもなく、
ヒイロは僅かに迷いながらも、何が起きても対応できるように慎重な動きで部屋の入り口まで近づいた。
襖に手が伸びる。
その時、まるでそのタイミングを狙ったかのように襖の向こうから声が掛けられた。聞いた事のある女の声が……。
「……あら、もう目が覚めたのですか?」
(この声は!!)
先に動いたのはヒイロだった。
記憶に残る特徴的な間延びした声を聞き取り、瞬時に襖の向こうにいる相手の姿を想像する。
襖に掛けていた手を戻し、一歩後退。
その距離は女の姿を想像した時点で連想された女の攻撃範囲。
無防備に、武器も無く接近すればどうなるか容易に想像出来る女の攻撃範囲から僅かに外れたギリギリの死活距離だ。
(なぜあの女が!!)
ヒイロの頭に浮かんだ女、それはこの理不尽なゲーム版にて最初に戦った女の姿だ。
赤い槍を自在に操り、銃弾すら弾く魔性の女。
妖艶な姿と独特な語り口により翻弄されたが、それを差し引いても十分ヒイロを正面から圧倒する戦力を持つ。
今の戦力では正面からは分が悪いと悟り、先ほどは潔く引いたというのに……。
「うふふ……、そんなに怯えなくても良いですよ。ただ、私は貴方とお話がしたいと思っただけなのですから……」
襖がゆっくりと開かれる。
女の姿を確認出来るか出来ないかと言うところで飛びかかろうかとも考えたが、未だ生かされているという事実がそれを押しとどめた。
そう、ヒイロは今“生かされている”のである。
やろうと思えば、ヒイロを見つけたときにでもやれた筈なのに、女はヒイロを生かしている。
あまつさえ、手当てまでして。
「お加減はいかがですか?」
女が現れる。
僅かな光りに照らし出された女の姿は、間違いない、ヒイロの想像通りの姿だった。右手に赤い槍を持っている姿までそっくりに。
ファサリナ。
それが女の名前である。この理不尽な殺し合いに乗った危険人物。
しえん
支援
支援
「……何が目的だ、なぜ俺を助けた」
ヒイロから出た最初の言葉は謝辞でも敵意でもない、ただ純粋な疑問だった。
目の前にいる女は、間違いなく先ほど殺しあった相手だ。
それを理解しているからこそ、現状は果てしなく受け入れがたい。
なぜ俺を殺さない?なぜ治療する?
理解できない相手との対面により、瞬間的に次に移すべき行動を選択できなくなっていた。
「あんまり警戒しないでください……、私は純粋に、貴方とお友達になりたいと思っただけなのですから……」
「ふざけているのか?貴様は殺し合いに乗った人間だろう、なぜを俺を助ける!」
くだらない問答は無用とばかりにヒイロが声を荒げる。
それを受け、ファサリナが悲哀の表情を浮かべた。
「……そう……、やはりそうなのですか……」
ファサリナが残念そうに言葉を詰まらせた。
その姿に、ヒイロも一瞬僅かに上がった熱を強制的に冷やされる。
そして、次に放たれたファサリナの言葉に衝撃を受ける事となった。
「……貴方は誤解しています。私はこんな野蛮な殺し合いには乗っていません」
◆ ◆ ◆
しえん
しえん
「……なんだと……?」
ヒイロの表情の変化を真摯な眼差しで訴えかけるように見つめるファサリナ。
勿論、どんな変化も見逃さないためだ。
そして見つける。一瞬、本当に一瞬だけヒイロに動揺の色が浮かんだのを見逃さなかった。
「馬鹿をいうな。貴様はあの時、あの女を殺そうとしていただろう。言い逃れできる状況じゃ……」
「いいえ……、信じてもらえないかもしれませんが、あれはあの方が先だったのです」
ヒイロの言葉を被せるように即座に否定し、先ほど見つけた動揺の正体を探り出すように用意していた言葉を紬始める。
語り口は単純、先ほどの一件を否定するには、ここには居ないもう一人の当事者に擦り付けるのが道理。
勿論、今の状況では、そんな話が通るほど簡単ではない事はファサリナも十分承知している。
今求めているのは、疑惑を晴らすことではない。
時間を掛けながら目の前の男の事を篭絡する術、それを見つけるためのやり取りである。
それをファサリナは確かな演技力で真実味を持たせるように言葉にしているのだ。
「この地に降り立ち、名簿で私の守るべき大切な人が一緒に参加させられているのを確認したところで彼女が現れました。
彼女は、最初笑顔で近づいてきましたが、突然豹変し、笑顔のまま持っていた銃で私を撃とうとしたんです……」
ファサリナの訴えは真に迫るものがあり、ヒイロはそれを感じ取る。
そして、逆にその反応をファサリナも目ざとく見つける。
言うまでも無いことだが、本来ならヒイロは一度危険視した相手に対し、僅かにでも警戒を緩めるような真似はしない。
それは当然培ってきたこれまでの経験があるからだ。
だが、この瞬間、ヒイロは考えてしまった。
考えて、連想してしまっていた。
あの桃色髪のドレスの女、ユーフェミアとか言う女が笑顔でファサリナに対して銃を向ける姿を……。
「……」
本来なら、ここでヒイロは否定の言葉の一つでもぶつけてもおかしくは無い。
だが、ヒイロは言葉を噤んだ。
その事実だけで、ヒイロに何か迷いが生まれたという事をファサリナは悟った。
「……幸い、あまり腕の立つお方ではなかったお陰で、発砲される前にバックから取り出したこの槍で反撃が適いました。
その時気づいたんです……。
ああ、この地では、こんな力の無い方でも、笑顔で他者に銃を向けてしまうんだ、と……
ならば、争い否定し、平和を愛するあの方“同志”お一人では、いつ危険な目にあってもおかしくは無い……。
それに気がつき、私は決意しました。
同志を守るため、同志の夢を守るため、みんなの夢を守るため、私の夢を守るため……、
この地でも、変わらず同志を守るという使命を果たさなければならい……。
そう思ったから、同士を傷つける危険性のある人間の排除を心に掲げ、彼女に槍を向けました……」
支援
支援
そこに貴方が来た、という言葉を飲み込んだ事に深い意味は無い。
ただ、出来るだけ状況を想像しやすいようにファサリナは話しただけだ。
ここから先は同じ記憶を共有するヒイロの主観に任せた方が都合がいい。
なぜなら、ファサリナ一人が話しているだけでは記憶の押し付けになり、ヒイロの頭の中に浸透しない可能性が出てくるからだ。
ヒイロには出来るだけ考えて欲しい。
考えれば考えるほど、その空気の中から得られる情報も自然と増える。
ファサリナはその瞬間を待っているのである。
「私の話は以上です……。
……当然信じらるような内容ではないでしょう……貴方に対して敵意を向けたのは事実なのですから……。
でもあれは、……あの危険な方を守ろうとした貴方に対し、瞬時に弁明は適わないと判断し、
尚且つ、同志の安否が分からない事から生まれる危機感により一刻も早く危険人物を排除し、
少しでも同志の身の安全を確保しようとした結果の行動……。
冷静になって思えば、あの時はお話もしないで、大変失礼なことをしました……。
心から謝罪いたします……」
それは、戦っている時の妖艶なファサリナとは似ても似つかない程、粛々としたお淑やかな振る舞い。
何処か気品さえも感じられるファサリナのもう一つの姿。
元娼婦という、辛い過去に基づいて生まれた人形としての姿だ。
本来なら、そんな二つの顔を使い分けるような真似はしなかっただろう。
だが、目の前にいるヒイロは容易く人の話を信じ、耳に入れるような隙の多いタイプではない事をファサリナは少ないやり取りで気づいている。
ゆえに、ファサリナは言葉を選び、慎重に事を進めるのだ。
◆ ◆ ◆
しえん
しえん
「……解せないな」
ファサリナからの謝罪の後、少し経ってヒイロは口を開いた。
勿論、巧妙に隠されているファサリナの真意を確認するためだ。
何も、ヒイロは呆然と考えていたわけではない。
ファサリナの話を信じるとすれば、自分を撃ったドレスの女、ユーフェミアが一方的に悪いのであり、一応の筋が通ると理解できる。
ファサリナの行動も大切な者の為と言われれば、自分も似たようなスタンスなので一概に否定は出来ない。
たまたまタイミングが悪かった、そう言われればそう見えてしまう状況、ヒイロは自然とファサリナ寄りの思考に移ろいつつあった。
……だが、それをそのまま信じ切れるほど、ヒイロは他人を信じてはいない。
「その同志とやらを守るためなら、なぜ傷を負い、気絶している俺を助けた。
お前は一刻を争うのだろう?こんな見ず知らずの俺を助けている余裕は無いはずだ。
冷静になって、俺を殺す必要が無いと気づいたとしても、貴重な時間を使ってまで俺を助ける理由は無い、違うか?」
ヒイロの疑問は至極当然のもの。
ファサリナの目的はあくまで大切な人“同志”という何者かを守るために集約している。
なら、たとえ、危険人物を排除していくという方針にしても、出来るだけ多く移動し、他者と接触し、情報を得ていくほうが手っ取り早いと言えるだろう。
ゲーム開始時に出会い、明らかに目的とは無関係とも思えるヒイロとの再度の接触は完全に無意味である。
「……お前は何を考えている……、俺に何をさせたい……」
ヒイロは女の後ろに別の『何か』がいると感じた。
その考えはあながち間違ってないかもしれない。
女を取り巻く空気が僅かだが変わっていることに気がついた。
「……全ては同志のためです」
女が言った。
その時には既に、先ほど見せていた悲痛な面持ちは形を潜め、何の心象も移さない能面のような表情が浮かんでいた。
支援
支援
「貴方は怪我をしていました……。それも正面からの銃撃です。
ライフルでの遠距離狙撃ではないのは傷口を見れば明らか……。
銃弾が貫通していたことを考えると、目視できる距離だったのではないですか?
……そこで疑問に思いました。
貴方ほどの人が、なぜ正面から撃たれて怪我をしたのだろう……と」
ヒイロの手が治療された左肩へと伸びる。
「……貴方は裏切られたんじゃないですか?
優しく近づいてきた誰かに、突然銃を向けられた……。
私と同じように……」
その瞬間、ヒイロはファサリナの言いたいことが分かった。
欲望に目がくらんだわけでも、生き残りたいわけでもない。
自分と同じようにこの地で行われているゲームの本当の醜さを知る者としてヒイロを見つけたゆえに、
志を同じくするものとして協力して欲しい、ただそれだけなのだ……。
「私は貴方を理解します……。
そして、貴方も私を理解できる……。そう思ったから、私は貴方を助けました……」
ファサリナはそう言いながらゆっくりとヒイロへと近づく。
ヒイロは間合いを図るように再び後退。
だが、その行動に先ほどのような迷いの無さが感じられない。
ヒイロにもファサリナの言っている意味は理解できる。
このような場において、一人での優位性など信頼できる者と複数でいる時と比べられるものではない。
特に、大切な者を見つけ、守ると言う使命を帯びた者には、一人で出来ることの限界を容易く現実として実感してしまうのだ。
複数の協力者がいれば、人探しも、危険人物の排除も効率よく行える。
それを理解しているからこそ、信頼の置ける協力者は重要なのである。
だが、その信頼できる者と言うのが問題なのだ。
先ほど、ヒイロもファサリナもその身で実感した。
あのようなお嬢様然とした者が容易く殺し合いに乗っているのだ。
たとえ無害な弱者を見つけても、それが演技か本心かを見分けるのは至難の業である。
ゆえに戸惑い、踏み込めない。
昔からの自分の本当に信頼を置けるものを見つけるまでの間、疑うことを芯に置いて生きてきたものは、
この地では決して仲間など作れず孤立するのが目に見えている。
それだけに、ファサリナは意を決して提案しているのだ。
同じ志を持つもの同士、手を取り合おうと……。
支援
しえん
しえん
「……一つだけ答えろ……同志とは、一体何者だ?」
ヒイロは、あえてその名前を口にした。
これまでのやり取りからファサリナの崇拝する存在のおおよその人となりは想像できる。
出来るゆえに、聞くのが怖かった。
その人物の姿が、ある完全平和と言う夢を掲げる少女と微妙に重なるから……。
「……同志は、とても偉大な方です。
平和を愛し、争い嫌い、人を愛し、人を信じている……。
自身を犠牲にしてまでも、この混沌とした世をその愛で満たし、穏やかに生きる世界へと導こうとしている……。
支配より協調を、征服の代わりにに友情を……。
同志の夢は、この世界の未来のためだけにあるのです」
右手に持った槍を左手に持ち替え、右手を差し出す。
ヒイロはその右手を未だ解けぬ警戒心の狭間で見つめていた。
「……どうでしょう……、私に協力していただけませんか?」
その瞬間、ヒイロの心がざわめく。
何か、得体の知れないものに出会ったような、そんな感触だ。
だが、心なしか、自身が落ち着いていくのを感じていた……。
「私と……お友達になりましょう……」
求めるは女……。
答えるは男……。
果たして……。
【D-1/南、海岸線沿いの民家/1日目/黎明】
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:自前の服
[装備]:ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品3個(確認済み)
コルト ガバメント(自動銃/2/7発/予備7x5発)@現実、M67破片手榴弾x5@現実
[思考]
基本:カギ爪の男を守る。新しい同士を集める。戦力にならない人間は排除。
0:うふふふ……
1:カギ爪の男と合流し、守護する
2:カギ爪の男の意志に賛同する人間を集める
3:明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。
[備考]
※21話「空に願いを、地に平和を」のヴァン戦後より参戦。
※ヒイロの名前はまだ知りません。
【ヒイロ・ユイ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:左肩に銃創(治療済み)
[服装]:全裸
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]
基本:???
1:ファサリナを警戒しつつ、答えを出す
2:リリーナ……
3:ユーフェミアは……
[備考]
※参戦時期は未定。少なくともアニメ後半、ヒイロが精神的に成長した頃以降。
※D-1エリアにおいて数度大きな爆発が起こりました。
※ヒイロの衣類は現在乾燥中。荷物はファサリナの手に渡りました。
支援
しえん
支援
343 名前: ◆70O/VwYdqM[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 00:39:15 ID:eBk8E/gk
投下終了です
代理投下していただけたら幸いです。
投下乙です!
ファサリナの愛撫でヒイロが全裸
この二人の大事な人は両方ちょっとアレですよね
手を組むのか、ヒイロが拒んでピーされるのか、どちらに転んでも楽しくなりそうです
しえん
支援
しえん
しえん
支援
支援
一方通行は裸に毛布一枚だけを巻きつけ、焚火に当たっていた。
場所はC-7エリアの北にあった小さな漁師小屋だと、目を覚ました時にゼクスから聞いている。
毛布は漁師小屋にあったもので、湿った服は水を絞って小屋の所々に適当に引っかけておいた。
――運が良かったァ、て言うのかねェ。
一方通行の焚火を挟んだ対面に、ゼクスも同じように裸になり暖を取っている。
唯一違う点としては、毛布の変わりに元々来ていた上着を羽織っているところか。
――こンな時、どうすりャいんだっけェ?
普通なら礼を言うのが筋なのだろう。
しかし、一方通行にとって助けてもらうなんてことは初めてか――ひょっとしたら、久しぶりのことだ。
さらに言えば、こうして冷えた身体を温めるように介抱までしてくれている。
無論全てが善意ではなく打算もあるのだろうが、それにしては少々サービスが行き過ぎているように思えた。
――待て待て、どう礼を言えばいいのか分からなくて悩むなンて思春期のガキかよ俺はァ。
一方通行はとりあえず、礼について考えるのを止める。
そもそも助けて欲しいなどと言った覚えはないし、礼も既に缶コーヒーで手を打った。
どちらにしろ救助された時に聞いた話からこれっきりのつき合いだし、別にいいだろうと結論を出す。
そして、先ほどから始まっていた情報交換に割いていた意識を戻した。
「超能力者を有する、学園都市か……悪いが聞いたことがない」
「こっちも人型起動兵器なんて知らねェ、てーか巨大ロボットなんてフィクションどころかファンタジーの領域だぜ」
学園都市は一方通行の知るところ、日本の中でも特異過ぎる街だ。
能力者だけでなく、戦闘機や潜水艦を所有するぶッ飛んだ街である。
実際に学園の外にどのように伝わっているかは知らないが、それでもまったく知らないというのは不自然だ。
そして一方通行はゼクスの話す人型機動兵器について、見たことも聞いたこともない。
「なるほど、『元の世界への帰還』か。 魔法など眉唾ものだと考えていたが、これは信じざる終えないか」
「あン、まほー?」
「開会式とやらで主催が言っていたことだが……まさか、聞いていなかったのか?」
言われてみて、一方通行は思い返す。
そういえば、『魔法』という単語を聞いたような気がしなくもない。
なるほど、魔法か。瀕死の一方通行を治療したのがその魔法だと思えば、ゼクスの言う通りあながち嘘とは言えまい。
何故あの時よく聞いていなかったのかと一方通行は考え――思い出し、苛立った表情を浮かべた。
「生憎あン時は混乱しててな、全部は聞いてねェよ」
「……そうか」
支援
しえん
しえん
しえん
一方通行の表情から何か察したのか、ゼクスもそれ以上は追求しなかった。
少しの間、パチパチと薪が燃える音だけが漁師小屋に響く。
――そして、二人が沈黙して1分ほど経過した辺りで、急に部屋の雰囲気が変わった。
「少し明るくなったようだが?」
「そォだな……たった今ちょうど俺の能力が使えなくなったからなァ」
一方通行は、暖を取った時から「反射」を使っていた。
生乾きの服など御免だったため、焚火から放散される熱を反射し、服の乾燥に利用していたのだ。
そして能力の使用から十数分が経過した瞬間、初っ端に主催に喧嘩を売った時のように能力がロストした。
「君が能力を使用してから、今は15分が経過している」
「空で高みの見物してやがったクソ野郎どもに一発撃ち込んでやった時は、1分ぐらいしか持たなかったがなァ」
「単純に考えるなら、能力の強さで使用時間が変わっていると考えるべきか」
つまり能力というエンジンを回すためのバッテリーが15分あり、エンジンをフル回転させるとバッテリーは1分も持たない。
どういう理屈だか分からないが、一方通行の能力にはそんな訳の分からない制限が掛けられれいるというころだ。
さらにゼクスによると、一方通行を助けた時に首輪の裏から赤い光が漏れており、一時間が経過してから今度は碧色の光に変わったという。
そして今、一方通行の首元から漏れている光は――赤。
グリーンが能力を使用できる状態で、赤が能力を使用できない状態だと見るべきだろう。
――まとめると、俺が能力を行使できるのはたった15分。それも全力を出し過ぎると1分も持たねェ。
――そんでタイムオーバーになると、たぶん一時間は能力が使えなくなる。
――首輪はご丁寧なことに、能力が使える時間と使えない時間を教えるためかァ?
俺は家電かゲーム機器かと呟き、すぐにに自分が現在バトルロワイアルというゲームの駒だと気がついた。
ふつふつと、一方通行に殺意が蘇ってくる。
――てめェの都合で呼び出しておいて。
――逆らわれたら怖いからって首輪まで付けられて。
――それで黙ってホイホイ従うと思ってンのかよォ、ああァ!
支援
支援
しえん
殺意の一方で、一方通行は冷静に状況を分析していた。
事実として、能力は制限されている。
最初の『奇襲』こそ上手く行ったが、次は確実に警戒されているだろう。
それに能力の制限が主催側で調節できるとしたら、最悪の時間制限に関係なく能力が封殺される可能性もある。
――待てよ、そう考えると『あの時』はあっちから能力を完全に制限してきたのかァ?
上空にある飛行船に攻撃を加えてあと、急激に能力が使用不可能となったことを思い出す。
ひょっとしたら、あの現象は主催者が慌てて一方通行の反撃を押さえようとした結果かもしれない。
――となると、今度はアレに気付かれないように、一撃で沈めなりャいい訳だ。
それは困難だと、一方通行は分かっていた。
主催とて馬鹿ではあるまい。
今度は一方通行に補足されないように対策を立てるだろうし、何より一方通行の動向により注意するだろう。
また流石に二度目の反逆に、主催側が何の手出しもしてこないとは思えない。
一方通行の首が飛ぶ可能性は、非常に高いだろう。
だが、決して――不可能ではない。
――あっちの最初の攻撃から俺が「反射」するまでに、一気に制限を絞めたってンなら。
――首輪の制御を行ってンのはあの観客席だ。
一方通行の能力は、間違いなく主催側に把握されている。
だが攻撃された飛行船は、一方通行に対してビームで牽制を行った。
それはつまり、一方通行にビームが「反射」されないという確信を持っていたことに違いない。
――ビームはこっちが攻撃してから、速攻で撃ってきやがった。
――つまり、本部なりなんなりに連絡を取ることなくこっちの制限を絞めやがった。
もしも飛行船以外のところで制限を取り締まっているなら、もう少しタイムラグがあるはずだ。
故に――飛行船さえ落とせば、制限は消失する。
流石に、首輪の爆破機構までどうにかなるとは思えない。
だが能力が解放されれば、一方通行にとってそれからはどうにでもなる。
一撃。
主催が一方通行の能力をさらに制限するか、首輪を爆破する前に。
飛行船をぶっ壊すことが出来れば、全てに方がつく。
「……一方通行、君はこれからどう動くつもりだ」
しえん
支援
不意に、それまで黙っていたゼクスが一方通行に問う。
それに対し、一方通行の答えは決まっていた。
「決まってンだろ、このふざけた殺し合いをぶっ潰す」
「何故だ」
「はァ?」
間髪入れずに聞き返してくるゼクスに、一方通行はガンをつける。
理由など言わなくても分かるだろう、そんな視線だ。
だがゼクスは怯みもせず、真っ向から一方通行と目を合わせる。
「君が主催に歯を剥くのは、単なる正義感からではあるまい」
――そりャそうだ、こンな外道にそんなものが残っていたら笑い話だ
「そして単純な反発でもないし、ましてや復讐でもない」
――そりャ、そうだ。 俺はただ、尋常じゃなくムカついたんだ。
――こんな外道でも、誰かを助けられるかもしれない。
――そんなちっぽけな誇りを傷つけられたようで。
「それなのに、何故そこまで死に急ぐ」
何かに気圧され、一方通行はゼクスから目を逸らす。
一方通行は主催への反攻作戦を口に出してはいない、だからゼクスの質問を聞き流し気のせいだと言えばいい。
しかし――死に急ぐという言葉が、何故か耳に残っていた。
「俺はァ……」
言われて見れば、確かに無茶無謀な作戦だ。
そもそも作戦と言えるかも怪しい。
一方通行が考えていることは、全てが推測だ。
確定的な裏付けなどまったくない、綱渡りのようなもの。
「でも、だってよォ」
まるで子供みたいだと自分を自嘲し――ふと、思い出した。
小さく図々しく、生意気なガキのことを。
一方通行の小さな誇りは、どうして生れたのかを。
「……ああ、そうだ――」
そうだ、必死にこのバトルロワイアルに逆らっているのは何のため――いや、『誰』のためだ?
「俺は、守りてェンだ」
支援
しえん
支援
しえん
一方通行は、小さな少女に認めてもらったのだ。
『絶対』でも『最強』でもない、ただ一人の人間として。
それは、一方通行が変わった瞬間だった。
「いけ好かねぇ主催者って奴には、ちっぽけな誇りを傷つけらたけどよォ」
そして、一方通行は少女を守ると決めた。
だから少女に仕込まれたウィルスコードを修正した。
だから少女のために命を掛けた。
「そンなことどうでもいいんだ、重要なことじゃないンだ」
そして――まだ一方通行はやり遂げていない。
少女――打ち止めが、今どこにいるか。確かめなければならねェ。
最初に目を覚ました時に芳川がどうにかしてくれたとか、そんなことを考えていた場合じゃなかったんだ。
「俺は――真っ先にあのガキを守ろうとしなきャいけなかったんだ」
■
――彼は、私と違うのか。
ゼクス・マーキスは、一方通行の戦う理由が知りたかった。
一方通行と話す内に、ゼクスには彼がかつて故郷を失い復讐に走った自分と重なったのだ。
だからこそ彼の本音を聞き出し、ゼクスは自分を恥じた。
――そう、一度目は何も出来ず。
――二度目は間に合わなかった。
――そんな私と違い、彼はまだ一度目すら終わっていない。
だから、ここまで必死なのだろう。
今も大切な者を守るために、取りこぼさないために、我武者羅になっている。
――これが、若さか。
だが、とゼクスは考えを切り替えた。
必死であると同時に、一方通行は無謀になっている。
バトルロワイアルの開始と同時に、主催への即座への反逆。
能力の制限に気付いていなかったとはゆえ、あまりにも後先を考えていない行動だ。
――君を自由に行かせてやりたいとは思う。
――しかし、悪いが私と少し付き合ってもらうぞ。
ゼクスは一方通行を共助した時、介抱した後は適当に隠れるように告げて置き去りにするつもりだった。
その時のゼクスは本気でMSが支給されている可能性を考えており、それならば連れて歩くよりは隠れてやり過ごした方が安全だと考えたのだ。
しかし目を覚ました一方通行により、ゼクスは超能力という異能が参加している事実を知った。
――超能力者に相対するというなら、MSの支給も頷ける話だな。
実際のところゼクスの誤解だが、一方通行が主催者の物であろう飛行船に攻撃を加えてたという話と、目の当たりにしたビームが誤解を推し進めていた。
初めて出会った常識外の人間が、一方通行だからこそ起きた誤解であるとも言えなくはない。
とにかく、ゼクスにとってMSが支給されている可能性は非常に高いものになっていたのだ。
――だからこそ、私が彼が欲しい……そして、彼も私を欲するはずだ。
支援
しえん
ゼクスは軍人であったこともあり並みの人間よりは強いつもりだが、能力者やMSに対してはどこまで抵抗できるかは怪しいところだ。
そして一方通行は能力者であるが、最大で15分、最低で1分しか能力を使えないのだ。 再び使えるようになるまでは、只の少年でしかない。
ならば、この二人が協力するのは自明の理ではないのか?
――加えて、私はリリーナを。
――彼は、大切な誰かを。
――この広大な会場から探し出し、守らなければならない。
一方通行の守るべき者が誰かは知らないが、12人も名簿に載っていない人間がいるのだ。
その内の1人が一方通行の待ち人かもしれない以上、一回目の放送で詳細が分かるとはいえ悠長に待ってはいられまい。
手を組むだけの理由は、揃っている。
ならば後は、私が一方通行を口説き落とすだけだ。
「一方通行、少し私の話を聞いて欲しい」
ゼクスの言葉に、一方通行は逸らしていた目を再びゼクスと合わせる。
バツが悪くなり逸らした目とは違う、力強い目だ。
その瞳に満足しながら、ゼクスは言葉を続ける。
「私のいた世界は、戦争の終局を迎えていた」
それからゼクスは、淡々と自分のいた世界の説明を始める。
唐突に始まった壮大な話に一方通行は煩わしげな顔を浮かべるも、話を聞いていた。
ゼクスの世界では、人類は宇宙と地球に分かれて生活しており、宇宙と地球との間では致命的な確執があった事を。
紆余曲折があったが、現在は宇宙と地球の両派が最終決戦を迎えようとしている事を。
「正確にはコロニーの独立運動組織であるホワイトファングと、地球の全兵力を集めた世界国家軍との決戦だ」
「あァー……要は宇宙の過激派と大人げない地球の軍隊か」
「その通りだ、そして私はホワイトファングの代表としてその場にいた」
宇宙と地球、互いの全兵力をぶつかり合わせ、全ての兵器を抹殺するために。
全ては、地球圏の平和のために。
だが、ゼクスはその目的は果たす直前にこの場所に呼ばれていた。
「よく分からねェな、兵器が無くなったからって平和になるもンじゃねェだろ?」
「そのために、リリーナがいる」
リリーナの功績は、兄であるゼクスの贔屓目を抜いても目を見張るものがある。
完全平和主義を提唱しサンクキングダムを再建し、ロームフェラ財団では傀儡の身を脱して財団全体の支持を集めることに成功した。
戦後を任せられる彼女がいたからこそ、ゼクスは汚名を被る覚悟が出来たのだ。
「だからこそ、私は必ずリリーナを元の世界に戻さなくてはならない」
リリーナの命は、まさにゼクスのいた世界の命運がかかっていると言っていい。
そのため出来るだけ早く、彼女を保護したいのだとゼクスは締めくくる。
そのゼクスを、一方通行は冷めた眼つきで睨んでいた。
間違いなくゼクスが伝えたかったこと――リリーナが死んだ場合には、ゲームに乗るつもりなのだと理解してくれたのだろう。
「……てめェと、そのトレーズって奴はいいのか?」
「無責任な話だが、場は温めた。決戦は避けられない以上、もはや私とトレーズは必ずしも必要ではない」
つまり自分は途中で力尽きても構わないのだと、清々しいほどに淀みなくゼクスは答えた。
それに自分たちより世界に――リリーナに必要なのは、ヒイロ・ユイだろう。
彼は今どこで何をしているかと考え、ゼクスは自嘲した。分かり切っていたことだからだ。
「……おい、結局のところ何でテメェはそんな話を俺にしたンだ?」
「簡単な話だ、君に同志となって欲しい」
支援
支援
しえん
はァ? と一方通行が疑問も声を上げる。
当然と言えば当然だ、まったくもって脈絡のない話だからだ。
「私が殺し合いに乗るかもしれないことを話したのは、対等でありたいからだ」
一方通行に殺し合いに乗る考えがないことは、短い間だったがこれまでのコミュニケーションで分かっていた。
だが、ゼクスには殺し合いに乗る理由がある。
二心を抱えたままの同盟など、長続きする理由がない。
そう考え、ゼクスは一方通行に全てをさらけ出したのだ。
「私は君が欲しい」
ゼクスは改めて、一方通行に同盟を催促する。
先ほど考えた同盟のメリットなど目の前の聡い少年ならば気がついているだろうし、断る理由もあるまい。
確信を抱きながら、ゼクスはなおも言葉を続ける。
「君の1分を預けてくれ、残りの59分は私が全力で守り抜こう」
■
「お断りだ」
返答は、拒絶の言葉だった。
「……なん……だと」
「お断りだってンだろ」
一方通行は耳を小指で掻きながら、面倒だとばかりに答える。
何故だと、ゼクスは一方通行に視線で問いかける。
一方通行は、にやりと笑いかけた。
酷く黒く歪んだ――嗤いを。
「温いンだよ、てめェのやり方はよォ」
気がつけば、少年の身を包んでいた気配は様変わりしていた。
敵意や戦意ではない、あえて言うなれば、殺気だ。
まるで隠しても隠しきれないといった風に、少年から黒い何かが溢れているかのように。
警戒心を強めたゼクスを気にすることなく、一方通行は嗤い続ける。
「そう温ィんだよ、何もかもよォ。アンタは悪人だろう、なのになんでそんな清廉潔白ぶっちゃってんの?超ウケルんですけど。
だいたいそのリリーナちゃんを探し出しで守って、その後どうすんの?ねぇどうすんの?
最後はオマエとリリーナちゃんが二人っきりになりました、さあ後はリリーナちゃんに頭を撃ってもらって終了ですはいメデタシ?
馬鹿じゃねェのかオマエ?」
「そンなもんがなァ! 『守った』ってことになってたまるかつってンだよ!!」
しえん
しえん
支援
絶叫した。
一方通行は誰かに見つかるかもしれないという懸念を綺麗さっぱり忘れ、立ち上がり激怒する。
「ああそォだなァ!オマエのやってることは正しいかもなァ!世界の大事を考えればしょうがねェことかもなァ!
けどなァ!俺は絶対に認めねェ!ド外道だろうとなんだろうと、『あいつ』が誰かを傷つけてヘラっとしてられるような奴かァ!
『あいつ』に誰かを殺させて!『あいつ』を傷つけて!それでハッピーエンドだなんてなァ!絶対認めてやるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!」
途中からリリーナが『あいつ』にすり替わった事に、一歩通行は気がつかない。
それよりも、ゼクスは頭が殴られたような衝撃を受けていた。
正直なところ、それはゼクスがあえて後回しにしていた部分だったからだ。
「ならば、どうするというのだ!」
だが、ちっぽけなプライドかそれを認めるのを拒んだのか。
気が付けば、ゼクスは言い返していた。
一方通行は、嗤う。
「決まってンだろうよォ」
その時になって、ゼクスはやっと気がついた。
彼の殺気は、ゼクスに向けられたものではない。
ここにいない――しかし、ここにいる存在。つまりは、主催者に。
「ひっくり返すンだよ、このふざけたゲーム盤を。
『魔法』なんて手に入れてハシャいで『完璧』で『最強』だと思い込ンでる大馬鹿野郎どもと一緒に――」
闇の中に、白い白い幽鬼が立っていた。
私はひょっとしたら、切り札を得ようとして、鬼札を引いてしまったのかもしれない。
「最短で最速で最高に――――ぶっ壊してやる」
支援
支援
しえん
【C-7/漁師小屋/一日目/黎明】
【ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康 裸
[服装]:
[装備]:真田幸村の槍×2
[道具]:基本支給品一式、缶コーヒー、軍服
[思考]
1:リリーナを探す
2:一方通行を……
[備考]
・学園都市、および能力者について情報を得ました。
・MSが支給されている可能性を考えています。
・主催者が飛行船を飛ばしていることを知りました。
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康 能力使用不可(再度使用可能まで一時間)
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、缶コーヒー×28 ランダム支給品(缶コーヒー以外は未確認)、私服
[思考]
1:このゲームをぶっ壊す!
2:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)
[備考]
・名簿を見ていません。
一方通行の能力制限について
【制限は能力使用時間を連続で15分。再使用にはインターバル一時間】
【たとえ使用時間が残っていても、ある程度以上に強力な攻撃を使えば使用時間が短縮されます】
【今回の使用はあまりに過度の能力だったため、次からは制限される可能性があります】
・ゼクスのいた世界について情報を得ました。
・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
・飛行船は首輪・制限の制御を行っていると仮説を立てました。
・上記二つの仮説はゼクスに話していません。
・『オープニング――《開会式》』での説明を一部聞いていませんでした。
具体的には、ペリカの使い道から、龍門渕透華の死亡までです。
しえん
支援
353 名前: ◆3fkCY45Cg6[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 02:13:18 ID:QZ4BNYYM
投下完了
タイトルは上記の通りに
よろしかったら代理投下お願いします
投下乙です!
一方さん熱血してますね
いいかっこしいのゼクスが果たして素直に彼の言葉を受け取るのか
あとゼクス、全裸で「君が欲しい」とかいうなww
これにて代理投下を終了いたします
多作にわたる投下にお付き合いいただきありがとうございました
支援感謝です!
支援
しえん
代理投下乙でした
投下乙
ゼクスは自分の優勝も視野に入れてるのか……優秀な軍人だから乗ったらやっかいそうだな
一方さんと相互補助しながら対主催路線でいってほしいところだけど、結成か否かは次回次第だな
投下乙
デュオが変態さんに・・・ではなく、セイバーオルタ化回避か、良かった
七天七刀の能力にも気が付き始めたし、セイバーの魔力なら唯閃まで使えそうかも
今回のセイバーさんは期待できそうだ
乙
セイバーは人選に恵まれたな。しかし、デュオはこのまま変態街道を突っ走る事になるのか。
wikiに収録された拙作『黒紅!偶然の邂逅』に関して、下記の加筆をさせていただきました。
改行も調整致しましたので、報告させていただきます。
>だがそれでも。スザクは死者を蘇らせる力の存在を信じられない。信じる気もない。
>人は、一度死ねば生き返ることはない。
↓
だがそれでも。スザクは死者を蘇らせる力の存在を信じられない。信じる気もない。
"死なない"ことと"生き返る"ことは、スザクの中では決定的に違う。
人は、一度死ねば生き返ることはない。
すみません。
慣れない携帯からだったので改行がおかしいですが気にしない方向で…
代理投下行きます
空が赤く光っていた。
安藤が立つ高台から南、ビルの合間から見えるそれは明らかに何かが燃えている事を表している。
「もう、始まってるのかよ……!」
そう、あれは自然に、無意味に起こった爆発事故ではない。
あそこには爆発を起こした者、起こさせた者、巻き込まれた者が居るのだろう。
残酷で悪趣味な生存競争、バトルロワイアルはすでに始まっている。
モニターの向こうで無残に首を吹き飛ばされた少女のように。
あるいは安藤の目の前で漆黒の海原に消えた彼のように。
あの場所で今まさに、命が散ろうとしているのかもしれない。
「駄目だ……そんなの、ゆるしちゃ駄目なんだ!」
殺さなきゃ殺される。
そんな疑心暗鬼に囚われて、互いに傷つけ合い、殺し合う。
(それじゃあ、奴等の……主催者の思う壺なのに)
今、必要なのは互いに武器を向け合う事じゃない。
互いに会話し理解しあう事。
手を取り合い助け合う事。
あの名前も知らないカギ爪の人が、身を持って示したように!
「頼む、生きててくれっ……!」
デイバッグから取り出したマウンテンバイクにまたがり、重力に身を任せ一気に坂を下る。
幸いさっき支給品を見てみた時に、包帯などが入っている事は確認した。
もし怪我人が居たとしても簡単な治療、応急処置くらいならできる。
だから、安藤は急ぐ。
取りこぼさないために急ぐ。
いるかどうかもわからない誰かを救うために。
そこに居るだろう誰かと会話するために。
そして、この悪夢を終わらせるために。
【F-6/道/1日目/深夜】
【安藤守@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康 覚悟完了
[装備]:カメオ@ガン×ソード、阿良々木暦のMTB@化物語
[道具]:デイパック、基本支給品(パンが1つだけ微妙に欠けている)×2、
確認済み支給品0〜3、手紙×3、遺書、カギ爪@ガン×ソード、
包帯と消毒液@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor
[思考]
基本:仲間を集めてゲームからの脱出。
1:爆発の起こった現場に行き、怪我人がいるなら治療する
2:カイジと合流。その際きちんと謝罪して、協力を要請。
3:可能であれば手紙の相手を探して渡す。
4:見知らぬ相手と会ったらまず会話。その後は状況によって判断。
[備考]
※参戦時期はエスポワール号下船後です。
※手紙の相手とカギ爪の男の関係は知りません。
【阿良々木暦のMTB@化物語】
阿良々木暦の愛用していたマウンテンバイク。
通学時ではなく主に遊びに行く時などに使用していた物。
最終的にレイニーデビルの手によって大破、電柱に突き刺さった。
【包帯と消毒液@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
カイジが耳と指の止血に使った物。ただの包帯。
361 名前: ◆BXnAdYmV9c[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 03:16:59 ID:guQS.ZAo
投下完了しました
タイトルは『理由』で。
明智光秀は徐々に明け始めた薄闇の中、市街地を疾駆していた。別にあてがあったわけではない。
ただ、“匂った”。戦場に身を置く者が感じる独特の匂いを、その嗅覚が感じ取ったにすぎない。
いわば、獣のそれ。しかしそれでよかった。ここは閉鎖された箱庭。本当の戦場とは違い、獲物が逃げることはない。
「くふふ…………ん?」
しかし、光秀はその足を突如止める。声がした。若い――まだ童の域をこえないであろう――男の声。それに女の声。どちらも怒声に近い、大声だ。
「ふむ……それも一興」
長い髪をふりまわして、光秀は向きを変える。やや逆方向だが、それでも明確にそこに獲物がいるのだ。そちらを優先して然るべきだろう。
とかく、今の自分の戦力は心もとない。支給品は、絶対の信頼があるとはいえ、この大剣ひとつ。まだ序盤のこの状況では、はたして生き残れるかどうか……。
(まあ、そんなことは大した問題ではないんですがね)
重要なのは、いかに多く、長く、『捕食』できるか、だ。だから声の方へいく。“嗅覚”に間違いがあるとは思わない。
ただ、それが嗅ぎ当てるは猛者のそれ。苦戦は必至。その点、声の主たちは違う。こんなところで声を上げるなど、愚の極み。
勝ち鬨ならわからなくもないが、それとは違うだろう。ゆえに、先に狩るべきはそちら。
光秀は飛翔のごとき跳躍で、おぼろげな闇夜を疾走する。それが幽鬼のようなこの男の不確かさを、さらに強めた。
光秀の嗅覚に間違いはない。このままいっていれば、捕虜の身とはいえ不老不死の魔女と、怪物、反英霊メデューサと相対すことになったのだから。
それに比べ、向かう先にいるのはガンダムなきガンダムパイロット、ヨロイなきヨロイ乗り。そして――――戦意なき騎士王。
負ける所以など、まるでない。
■
デュオ・マックスウェル。『死神』を自負するこの男は、結果として凶刃を振るう騎士王を諌め、無力化した。
それは称賛に値すべき行為であり、主人である衛宮士郎ならば、大歓声とともに自身の拵えたご馳走を振る舞うことであろう。
しかし現実は非情である。
「大丈夫? 何か痛いことされなかった?」
「してねえっつうの」
「あなたに聞いてない!」
「へいへい……」
肩をすくめて、デュオは前に向き直る。戦闘とさきほどの大声の影響を考えて、三人は南下中であった。
いや、正確には面倒事から逃げようとしたデュオをプリシラが咎め、追走し、それに引きずられるようにセイバ―が……という状況である。
そうなるとデュオも本気で逃げるわけにはいかず、速度を落として歩いている。
奴のデイパックはこちらで管理しているが、あの剣技を見るに、体術もよほどのものであろう。
あんな水着一丁の女を絞め殺すくらい、訳ないはずだ。ならば、こうして目の届くところにいた方が安全だろう。
格好はアレだが、あの姉ちゃんは悪い奴じゃなさそうだし。デュオの考えはそのように至った。
そういう面倒見のよさが彼に貧乏くじをひかせているのだが、本人は知ってか知らずか直さない。
やがて足場が不安定な砂浜から、文明を感じられる住宅街に景色は変わった。
その間セイバーはプリシラの慰めや質問に一切反応せず、ただ足元の地面が変わるのを眺めているだけだった。
(何でこうなるかなあ……)
デュオは頭をかいた。自分は襲いかかってきたあの少女から身を守っただけで、少女自身に大した外傷は与えていない。
模範的な正当防衛といっても過言ではないはずだ。なのに、こうして強姦魔呼ばわりされて、いわれない叱責を浴びせられている。
咎められるのも恨まれるのも慣れているが、この手のものはそう経験がない。
(ヒイロならどっちも殺してるんだろうが……)
水着の姉ちゃんは脅しか半殺しで済むかもしれないが、あいつの頭は確実にブチ抜かれていることだろう。
自分はそういう風にはなれないし、なろうとも思わない。ああいうのは1人で十分だ。
「ねえ」
「あん?」
言われて、歩を止め振り返れば、水着の女が一軒の民家に入ろうとしていた。言わずもがな、その手で少女を引き連れて。
「ここ、カギ開いてるみたいなんだよね」
「だから?」
彼女の頬が少し膨らんだ。あ、これ怒ってる。デュオはすぐに察した。が、時すでに遅し。
「入りなさい!」
■
みんなまだ子供なのに、どうしてこんなことをするんだろう。きっとロクな環境で育ってないんだわ――――プリシラの見解はこうである。
また、多くの孤児の面倒を見ていた彼女には、自分より年下の、まだ庇護されるべきはずの子供の凶行が、信じられず、許せなかった。
ゆえに決めた。この二人は、ちゃんと更生させねばと。逆にいえば、そういう感情を持つことで、恐怖を押し殺しているのである。
年上の自分がやらねば。そうした自己暗示のような責任感が、ここでの恐怖と不安を打ち消しているのだ。
「ほら、まずは自己紹介! 私はプリシラ!」
自分の住んでいた倉庫より上等な洋風の家のリビングで、プリシラは声を張り上げる。
それに続いて、ソファーに腰掛けた少年はうんざりしたような顔で、「デュオ・マックスウェル」と名乗った。
しかし、デュオと対面する位置にあるソファーに腰掛けた少女は依然として黙っている。
「どうしたの? 自分の名前くらい言えるよね」
「…………」
「そいつはセイバ―っていうらしいぜ。まあ、偽名かもしれないけどな」
ぴく、と少女は硬直する。プリシラはむっと顔をしかめる。
「そんな言い方ないでしょ! あなたのせいでこうなったかもしれないんだから」
心に傷を負えば、それだけ自己を表現しなくなる。
暴力によってそうなった人間はよく見てきた。とくに、こういう年頃の少女は傷つきやすいのだ、とプリシラは理解している。
だいたいこの子は会ったときからふてぶてしいのだ。自分のところにいた少年たちはあんなに素直なのに。これも年頃ってやつだろうか。
「はぁ……。まだそいつがただの『女の子』だと思ったわけ? 手を握れば気づくだろうに……」
「それは……」
皮膚の厚い、硬くなった掌。あれは何かを握りしめ、擦れた時にできたもの。一回や二回ではない。
気の遠くなるような数をこなしてやっとできるもの。そう、例えば剣の――――。
「“普通の女の子じゃない”。分かってるんだろ? ったくよ、いいかげん話せよな」
デュオが眼前のセイバ―を睨む。一方の彼女は、入ってきたときと変わらず、ずっと目の前のテーブルに視線を落としていた。
やがて、閉ざされていた口が開く。
「私は……ある国の王でした」
「……はぁ?」
何を言っているんだ、こいつはとデュオは顔をしかめるが、セイバ―の話は止まらない。
プリシラも、理解できなかったが、好転の糸口ととらえ、黙することを選ぶ。
「民のために戦いに赴き、自国の平和のために剣を振るいました」
とうとうと、
「しかし、私は民の心を解せなかった。民衆は戦うばかりの王を見限り――――」
語る。
「やがて臣下と家族まで私を敵視するようになりました」
膝の上で組まれていた両手が、自身の頭をはさむようにつかむ。
「私は王の選定をやりなおしたいんです。私以外のふさわしい者がそれを――」
「……ふざけんじゃねえよ」
聞き役にまわっていたデュオの手が、セイバ―の胸倉をつかんだ。当然、彼女の顔は強制的に少年の方を向く。
プリシラは止めるかどうか悩み、結局傍観する。こういうことは、彼にまかせた方がいいのかもしれない。
自分には、スケールが大きすぎるというか、分野外すぎる。
「てめえの不始末のために、俺は殺されかけたってのか」
「…………はい、その通りです」
胸倉をつかんだ手にさらに力がこもる。ギリ、とデュオの歯から音がもれる。
「ふざけんな! てめえのくだらない罪滅ぼしで殺されるこっちの身にもなりやがれ!
だいたいたかがひとつの国ぐらいで何うじうじしてやがる」
コロニーというある種の星を守るガンダムパイロットには、それは矮小だったのかもしれない。
しかし、それは時代と環境の問題にすぎないのだ。無気力だったセイバ―の顔に怒気がこもる。今度はデュオの胸倉がつかまれた。
「たかがひとつの国でも、私は王だ! 王が民への償いをして何が悪い!」
乾いた音がした。
セイバ―がしたたかにソファーにうちつけられるのを、プリシアは防ぐことができなかった。
ただ口を大きく開けることしかできない。
「……それが『ふざけるな』っていってるんだろうが」
強く握られた拳をひっこめずに、デュオは苦々しげに呟いた。
「大した覚悟もないくせに、自分で全部抱え込んで、そのシワ寄せは全部赤の他人……」
セイバ―はぼんやりと少年を見上げているだけであった。
切れた唇から流れる血を拭おうともせず、呆然としたまま。
「そういうのが――」
そこから先は聞こえなかった。
リビングの窓ガラスが盛大に砕けたからだ。
「お取り込み中のところ失礼します」
■
「なるほど。砂浜からの足跡からみて、数は合うようですね」
「ちっ……」
デュオは舌を打つ。異常事態とはいえ、そういったことへの配慮を失念していた。
さらにあの口論。ヒイロに障害として『排除』されても文句は言えないレベル。
だが、怒鳴らずにはいられなかった。自分の境遇が、彼女とよく似ていたからだ。
もし自分も1人でコロニーのために活動していたら、ああなったかもしれない。
できもしない理想ばかりが先行して、自他を大きく傷つける。
そんな悲劇が起こらないと断言できる自信はない。
だから、放っておけなかった。
(こいつ、カトルに似てるのかもな)
ここにはいない仲間を思い出し、少し違うか、と内心で苦笑い。
「しかし、この歳でもう『色』を覚えるとは、感心しませんね」
「ああ?」
何を言っているのだこのロンゲは。自分はどうやらまたひどい誤解をされたらしい。
「とぼけても無駄ですよ。あの格好、淫売といわず、何といいますか」
指さす先にいたのは、キワどい水着のプリシラ。たしかにあの胸部と陰部しか隠していない装束は、海ならまだしも、平素ならそう判断されてもしかたない。とくに戦国時代の人間からは。
「まあ、あなたがたの睦み合いには興味ありませんが」
男はだらりと髪をたらし、持っていた大剣を三人に向ける。ぬらりとした笑みを添えて。
「支給品をいただけないでしょうか」
「あんた、殺し合いに『乗ってる』んだな?」
「愚問ですね」
気味の悪い笑顔でそういわれて、デュオは怖気を感じた。しかしここで「はい、そうですか」と支給品を差し出すわけにはいかない。
かちゃり、と銃をその男に向ける。弾はすでに装填済みだ。
「ああそうかよっ!」
拳銃の弾というには大きすぎる銃弾が放たれ、男の胸へ向かっていく。
しかし、容易く大剣がそれを阻んだ。デュオはもう驚きはしない。
どうやらここにはこういう人間が多いようだ、と思っただけだ。それに、目的は射殺ではない。
「くふふ。逃げようとしても無駄ですよ」
デイパックを掴んで家から飛び出したデュオを、男は笑みをもって追随する。
そう、目的は牽制と陽動。水着姿の、常識人の枠を超えていないプリシラにまかせるのは危険、殺人鬼のセイバ―に武器を持たせるのも危険。
結局、餌のデイパックを持ってひきつけるしかなかった。
(何やってるんだろうな、俺は)
誤解されっぱなしの説教されっぱなしの相手と、自分を殺そうとした相手を守るなんて。
つくづく自分のお人よしに泣いてしまいそうだ。
「ヒィッ――ハァッ!」
振るわれた大剣を横っ跳びでかわし、発砲。左肩の装甲を破くにとどまる。
「ああっ……! なんと重たい一撃。こんな子供にっ……!」
びくびくと喜びに打ち震える男。
(気持ちわりぃ……)
素直に、そう思った。
「ア――ハッハッハ!」
喜悦に歪んだ顔のままこちらに肉迫してくる。それに色々な意味でデュオは恐怖する。
「こっちにくるんじゃねえ!」
「ヒャッ」
頭部を穿つはずの一撃が、上半身を後ろにそらすことにより、かわされた。そのまま下半身が目標へ向かう。
「フヒィ――ヒギャアアアア!」
「ちぃっ!」
上半身の『戻り』の勢いのままこちらに大剣を振るうつもりだ。デュオはデイパックに手をつっこむ。
あいつから没収した刀があるはずだ。
デュオが棒状のものをつかんだ。
男の大剣が迫る。
激突。
衝撃。
交錯。
「これは!」
「何っ!?」
大剣を受け止め、火花を放つもの。
それは大鎌。
「そこにありましたか――――桜舞ッ!」
男は後ろへ跳躍し、自身の大剣に頬ずりする。
「ああっ、信長公……これもあなたのお導きなのですね。
この光秀、嬉しすぎて昇天してしまいそうですッ……!」
デュオは光秀なる男の奇行に目もくれず、じっと手にある巨大な鎌を見る。
おいおい、いくら『死神』といっても、実際に鎌をつかったことはないぜ……。
自身の愛機である『デスサイズ』を連想しながら胸中述懐する。
(いや、待てよ……)
自分のデイパックにもあいつのデイパックにも、こんなものはなかったはずだ。
そこである可能性にいきつく。
――これはプリシラの――――!?
さらに浮かぶは新たなる危険。
――じゃあ刀はまだあいつのところに!?
脳裏に描かれるは、血まみれの刀を携えた少女の姿。
――プリシラがあぶねえ――――!
■
わからない。
私は王だ。王として、民を守るために戦わなければならない。
しかし、民は戦うばかりの私を否定した。
王としてふさわしくないのなら、別の誰かに譲ればいい。そのために戦った。
しかし、士朗は戦う必要はないといって否定した。
それでも押し通そうと、願いのために戦った。
しかし、少年はふざけるなと私を殴り否定した。
わからない。
(私はいったいどうすればいい)
選定の剣は何も教えてはくれなかった。なぜ自分がふさわしいのか、なにをすべきであったのか。
私には戦うことしかない。それを取り上げれば何もない。それなのに、周りはなぜか別のものを要求する。ありもしないものを。
「ねえ」
そちらを見れば、自分を被害者として扱った女性――プリシラがいた。
「どうしよっか」
彼女の視線の先には、壊れた窓があった。あの二人――正確にはデュオ・マックスウェルと名乗った少年のことを聞いているのだろう。
「彼は敵から私達を引き離したのでしょう。追うのは得策ではありません」
サーヴァントでもないただの少年――それも殺そうとした相手――に守られる……自分も堕ちたものだ。
「じゃあ、デュオを襲ったのはあなたなの?」
複雑そうな顔で聞くプリシラに、セイバ―は黙って頷いた。
「そっか」
プリシラはすっきりしたような面持ちで、デイパックのひとつをつかんだ。中からセイバ―が使っていた刀を取り出す。
「じゃあ、わたし1人でいってくるね」
「なっ……」
ソファーに埋まっていた体を、セイバ―は引き起こした。何か勝算はあるのかと水着姿の女に問う。
「なにもないよ。だけど、年下の子にまかせて、自分だけ助かろうなんて思わないから」
それとね、とプリシラは付け足す。
「多分、皆セイバ―のこと嫌いになったわけじゃないと思うよ。悲しかったんだよ、きっと」
「悲しい……?」
「頼ってほしかったんじゃないかなあ。だってセイバ―みたいな子、助けたいと思うもん」
少なくともわたしはそう思うよ、と締めくくり、プリシラはセイバ―に微笑む。
――わからない。
セイバ―は頭を抱え、瞑目する。
王とは民を守る者ではないのか? 民に頼っては王として失格なのではないのか? いや、そもそも自分はなぜ王になろうと思った?
国の繁栄のため? 民の平穏のため? 違う、そんな高尚なもののために戦い始めたわけじゃない。ではなぜ?
選定――――戦争――――対象――――人――――平和――――国――――王――――責務
―――はたすべき――――何を――――何が――――なぜ――――何のために――――私は
あらゆる思念が濁流のように少女の心に押し寄せ、圧迫していく。
――――聖杯――――願い――――生――――死――――士朗――――サーヴァント――――目的
――――責任――――覚悟――――贖罪――――敵――――友――――剣――――騎士――――民
私は
私は――――
私はぁぁあぁぁあああああ!
“現在”にいたるまでの“過去”が映像として駆け巡り、心の感応が、脳の理解が追いつかない。
概念が、観念が、去来し、堂々巡り。思考は集積し、やがて原初へと回帰する。
――――そして騎士王は
――――目の前の
――――女から
――――剣を
――――奪った。
■
「くふふふふっふ。もう終わりですか?」
「ほざけよ!」
最後の一発が大剣に弾かれ、あらぬ方へ消えていった。
これで弾切れ。残弾ゼロ。鎌は少し離れた場所にささっている。
あの時のように、ガンダムのパーツを盾にはできない。
リロードもデイパックを探る時間もこの男は与えてくれないだろう。
万事休す。
「んふふ。命乞いをするなら人質として生かしてさしあげましょう」
にたり、と粘着質な笑みを向けてそういった光秀の頬に、べちゃりと唾液が衝突した。
「冗談は見てくれだけにしな」
「くふふ、むふふふ……それでは早々に――――死になさいッ!」
怒りと狂喜が混ざった顔で、悪鬼は大剣を振るう。
デュオはそれを諦めた目で眺める。不思議と悔しさはなかった。
やれるだけのことはやった。この変態をさっきまでいた砂浜まで移動させた。
それでもういいではないか。プリシラの安否は気がかりだが……まあ、そこは本人に何とかしてもらうしかない。
そこまで面倒は見きれないし、それで死ぬくらいなら、もとから生き残れはしないだろう。
(だけどよ)
任務でならまだしも、こんなわけのわからない殺し合いにまきこまれて、こんな気色悪い奴に斬り捨てられるなんてな。
悪い皆、後の――コロニーのことはまかせたぜ。デスサイズ、こんな甲斐性なしのパイロットでわるい。許してくれ。
カトルやトロワあたりなら大切にしてくれるさ。……ヒイロは予備パーツくらいにしか扱わないだろうな。その時は俺を恨んでくれ。
…………。
…………。
…………。
――やっぱ、やりきれないよなあ。
デュオは目をつぶる。死に際にまであんな男を見ていたくはなかった。
ヒイロ、リリーナのお嬢さん助けて生き残れよ。五飛、あんまり厄介事に首つっこむなよ。
――あばよ、みんな。
――――「何を呆けているのです」
■
受け止めた一撃は重く、細身の剣が折れる心配をしたほどだ。
これを相手にここまで距離と時間を稼ぐとは――なるほど、私を退けるだけはある。セイバーは微笑した。
火花を散らせた刀を返し、男を斬りつけるが、素早いバックステップで避けられる。
それでいい。まずは彼奴をデュオから引き離す。
「おまえ……」
「忘れ物です」
ふたつのデイパックを彼に投げる。どちらかわからなかったので、どちらも持ってきていた。
仮にセイバ―がどちらか判断するために調べていたら、今頃デュオは血溜まりに沈んでいただろう。
「デュオ。私は何をすべきなのかわからなくなりました」
話す相手には振り返らず、八双の構えで、戦う相手を見据える。
「だから――――」
まばゆい光が少女を包み、甲冑を形作る。腕が、脚が、体中が戦いに奮え、充実していく。
「私は『私』が望むことを――!」
電光石火。消えるように移動した“剣”が捉えるは、狂気の権化。
「ひどいですねぇ。ひとの『食事』を邪魔するとは」
「ならばたらふく私の剣を喰らうがいい。その身でな!」
結局、セイバ―には何をなすべきかわからなかった。考えに考え、悩みに悩み、行き着いた先は、願いの根源。
すなわち、『誰かを守りたい』という望み。
「小娘の分際で、大層なことをほざきますね」
「私は王だ!」
異常なまでに長い刀が、大剣を弾く。そう、それだけは否定してはならなかった。否定は逃避でしかない。
「王を志し、王の任を解せなかった――愚かな王だ!」
「世迷言を。王を称すは我が主のみ! 女ごときが口にするものではありませんッ!」
振るわれた太刀を避け、沈んだ剣先を返して振り上げる。右の膨らんだ袴から、脇腹の鎧――突き出た肩当てを斬り落とす。
「んふふふ……たかが童女がここまで……! ああッ! 憤怒が、羞恥が、私の腹の中を引き裂いてしまいそうっ……!」
続く斬撃を軽くいなし、光秀は距離をとる。大剣を掲げると、紫色の妖気が男に纏わりつく。やがて、妖気は緑色へと姿を変え――、
「お遊戯はここまで。あとはいさぎよく……死んでくださいッ……!」
放たれる波動。避けることもできたが、後ろにはデュオがいる。それはできない。
攻撃を防ぐため魔力を鎧に集中する。その時、剣が反応し、電流に似たものが刀身を走る。
もしかしたら、これは宝具なのかもしれない。
――――ならば。
七天七刀を大上段に構え、研ぎ澄まされた感覚を、最大限に高める――――。
――――吼えろ。
走る光が、やがて帯電のごとく刀を包む。一切の躊躇も容赦もなく、振り下ろす――――!
「はぁぁぁぁあああっ!」
綺羅星と見紛うほどの閃光が、邪気を散らす。しかし、その先にいたはずの男の姿はない。
川|∀゜川<支援です
しえん
「くふふ。なるほど。小鹿のあがきと思いましたが、その実、獅子のそれでしたか」
セイバ―からやや離れた場所――大鎌の刺さった位置に彼の男はいた。
粘着質の笑みを崩さず、自身の愛用する武器を拾う。
「しかし、ここでの目的は果たしました。私はこれにてお暇を」
「逃げる気か」
「んっふふっふ。宴はまだ始まったばかり。ここで急くのは愚策というもの」
「貴様……!」
セイバ―は怒気を強める。それを見て、光秀はさらに笑みを深める。
「そうですっ! その顔です! 自身の正義感を嘲笑するような存在を憎むその渋面! もっと見せてくださいッ!
怒りと憎しみが溢れだし、やがて理性を食い破り本能丸出しのあなた! それを私は『食べる』!
そのなんたる芳醇さ! 喜悦の極み!」
そこまで言った後、光秀は大鎌――桜舞の突端をセイバ―に向ける。
「我が名は第六天魔王・織田信長が家臣――明智光秀」
「……セイバ―」
光秀は上から下までゆっくりセイバ―を見る。彼女はその舐め尽すような視線に、言い知れぬ不快感を抱いた。
「…………。心得ました」
今までより一際大きな跳躍によって、悪鬼の姿は視界より失せる。後に残るは、長く伸びた砂埃のみ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何とかな」
拳銃のリロードを済ませ、デュオは立ち上がる。ぱんぱん、と服についた砂を払いながら、
「助かったぜ。俺としては、お前がプリシラをどうかしないかひやひやしてたんだけどな」
それには苦笑いするしかなかった。セイバ―は刀を鞘に納める。
「デュオのおかげですよ。あなたが強くてよかった。おかげで私は外道に堕ちずに済みました」
すると彼はしかめっ面。
「この状況だと、嫌みにしか聞こえねえな」
「そんなつもりはありませんが……」
「わかってるけどな。どうしても、な……」
デュオは銃をしまい、手を服で拭った後、セイバ―に差し出す。彼女は小さく笑い、それを握った。そこでふと――――。
「ああ、そうだ。あなたに殴られた頬がまだ痛みます。責任を取ってください」
その言葉に少年は嫌な顔をするが、やがて何かに気付いたように口角を吊り上げて、
「いいぜ。付き合ってやるよ、お姫様」
「私は王です」
「OK、OK。『女王様』」
肩をすくめて茶化すデュオに、セイバ―は思わずため息。
しかし、嫌悪も苛立ちもない。こういう関係になったことに素直に喜ぶべきなのだ。
そう自身を納得させる。心中で彼女生来の生真面目さが反論するが、黙殺した。
「今はそれで構いません」
彼女は歩き始める。それをデュオが追い、隣を歩く。
『後』ではなく、『隣』。
『前』ではなく、『隣』。
昔ではありえなかったことだ。だが、今は違う。たしかに自分は王だ。それは純然たる事実。
しかし、王も民も同じ人なのだ。サーヴァントであろうと、その本質は変わらない。まずそこから物を見てみようと思う。
(一からやり直そう)
少女は歩く。守るべき人のもとへ。思想も主義も度外視したその瞳は、ただ『守る』という意志を宿していた。
【D-7/砂浜/一日目/黎明】
【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:健康 魔力消費(小)
[服装]:普段着(白のシャツに青いロングスカート)
[装備]:七天七刀@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(未確認)
[思考]
基本:人々を守る。
1:上記の『望み』を実行する傍ら、自分のなすべきことを一から考え直す。
2:プリシラと合流する。
3:士朗ともう一度話がしたい。
[備考]
※参戦時期はアニメ20話途中、士郎との喧嘩直後から。
※戦闘による騒音が周囲に響いた可能性があります。
■
明智光秀は『死者の眠る場所』へ向かって移動中であった。
見晴らしのいい砂浜を避けて動いた結果である。
敗走でありながら、この男には悔しさや怒りは欠片もない。
むしろ喜びに満ちていた。それもそのはず。
自身の愛用する武器が手元にあるのだから。新たなる『美食』に遭遇したのだから。
「うふふふ。次の『獲物』はどんな味がするんでしょうね、桜舞」
そっとなでる。その鎌は、奇妙な空気を纏っていた。
まるで血を欲するように、妖しく光を反射していた。
【C-6/草原南東部/一日目/黎明】
【明智光秀@戦国BASARA】
[状態]:疲労(小)
[服装]:甲冑(一部損壊)
[装備]:桜舞@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式 、信長の大剣@戦国BASARA
[思考]
1:一刻も早く信長公の下に参じ、頂点を極めた怒りと屈辱、苦悶を味わい尽くす。
2:信長公の怒りが頂点でない場合、様子を見て最も激怒させられるタイミングを見計らう。
3:途中つまみ食いできそうな人間や向かってくる者がいたら、前菜として頂く。
【桜舞@戦国BASARA】
明智光秀愛用の大鎌。鋭利な弧状の刃のほかに、柄の先端に鋭い穂先がある。
■
これでめでたしめでたし、ってことにはならんよなあ、やっぱり。デュオは頭をかく。
ここからの脱出方法は分からないし、明智光秀とかいう危ない人間もいる。
自分の愛機も仲間も行方知れず。八方塞がりといっても過言ではない。
(それでも最初よりはマシか)
ちらりと隣のセイバ―を見る。出会った時とはうってかわって、すっきりとした顔。何があったんだか。女はよくわからん。
暗闇を裂くように、ゆっくりと日が昇る。その朝日がセイバ―の髪を照らし、輝くような反射を生む。その横顔と相まって、それはまるで――――。
「女神さまだ……」
「はい?」
デュオは慌てて首を振る。何を言っているんだ俺は。
「何でもねえよ」
「顔が赤いようですが、熱でも――」
「何でもねえよ!」
自分の額に触れようとする手を避けて、『死神』はプリシラのデイパックをセイバ―に見せる。
「それよりさっき服みたいなものを見つけたんだ」
「……そうですか。それは何より」
いかにも釈然としてなさそうな表情のセイバ―。構わずデュオは話を続ける。話題を変えなければ、遠ざけなければという一念から。
「何が入ってるか――――っと」
デュオの手が掴みだしたそれは――――。
「デュオ、あなたという人は……」
セイバ―の軽蔑した眼差し。
「俺が選んだんじゃねえよ!」
デュオの三度目の誤解。
出てきたのはメイド服。華族などの特権階級が廃されたはずの現代日本で、なぜかよく見るそれに、デュオはなぜか親しみを感じていた。
感慨といってもいいかもしれない。ともかく、デュオはこれを“誰かに着せたい”衝動に襲われた。
体は萌で出来ている
血潮は欲で、 心は妄想
幾たびの戦場を越えて不敗
ただ一度の共感もなく
ただの一度も理解されない
担い手はここに孤り
萌の丘で布を縫う
故に、生涯に意味はなく
その体はきっと萌で出来ていた
ご覧の通り貴様が挑むのは無限の萌。妄想の極地。
恐れずして――――。
「デュオ。目が虚ろですが本当に大丈夫ですか?」
「――はっ」
デュオはそこで我に返る。今のビジョンは一体。白衣と眼鏡が脳裏をよぎったような気がするが、あれは何を意味したのだろうか……。
とりあえず――。
「セイバ―、着てくれ」
「断固拒否します」
【D-7/砂浜/一日目/黎明】
【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:ややいろんな意味で疲労
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×93@現実
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、 メイド服@けいおん!
[思考]
基本:なるべく殺したくはない。が、死にたくもない。
1:セイバ―と行動を共にする。
2:プリシラと合流。その後メイド服を渡す。
3:デスサイズはどこかにないものか。
[備考]
※参戦時期は一応17話以降で設定。ゼクスを知っているか、正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
【メイド服@けいおん!】
黒のストッキング、純白のエプロン、メイドカチューシャ、さらに専用の靴まで用意されている。残念ながらエフェクトはオミットされているため、もえもえきゅんっ!(以下、MMQ!と記述)は使用不可。
秋山澪用にカスタムされているため、一部の女性(男性)が着用すると胸部に著しい空間が生まれてしまうがそこはご了承願いたい。
そもそもメイド服(メイドふく)とは、メイドの仕事着、またはそれを模して作られた女性用の衣装を指す俗称である。
かつて19世紀末の英国に実在した家事使用人やハウスキーパーたちが着用した、特定の傾向の範囲内のエプロンドレスを、現代日本(の特にサブカルチャー的文脈)においてはもっぱらこのように呼ぶ。
本来の女中としてのメイドの仕事着は日本では「お仕着せ」と呼んでいた。
現在、一般に「メイド服」と呼ばれているものは、黒または濃紺のワンピース、フリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに、同じく白いフリルの付いたカチューシャの組み合わせが基本である。
今回はさらに黒のストッキングと専用靴を追加装備し、さらに『メイドらしさ』を追求した。
このタイプのメイド服は、19世紀後半の英国においては本来午後用のものであり、午前中はプリント地の服に白いエプロンと、帽子を着用するのが本来の姿であった。
元来、メイド服というものは存在しなかったが、「貴婦人が連れ立って歩いていたら、後ろを歩く女性(メイド)に声をかけてはいけない」というマナーがあったために、
女主人とメイドを明確に区別するために必要とされた経緯がある
現代の日本ではもっぱらウェイトレスの制服やコスプレ用衣装などとしてフレンチメイド・タイプ(レザー製品を着用するボンデージ・ファッションの一種)をアレンジしたものを中心に用いられ、
家政婦などが実際に着用することは稀で、中にはメイド服でコスプレしたスタッフを派遣することを売りとした家政婦・ヘルパー等の人材派遣業も存在するが、これは特殊な例だと言える。
コスプレ衣装専門店で、「メイド服」として売られているものの大半は、フリルやレースなどの過剰な装飾がなされたために仕事着としての機能が失われているものも少なくない。
一方で、本職の家政婦が通常の仕事着として扱う場合は、華美(派手)さを排し機能性を追求したシンプルなものを着用する場合が多い。
(以上、Wikipediaより 都合により一部省略・改変)
■
「あ〜あ。何でわたしがお留守番なんだろう」
こういうことは自分の専売特許のはずなのに、とプリシラはひとりごちる。
専ら留守番は子供たちの役目で、自分は金を稼ぎに出かけているものだ。
そのせいか、どうも体を動かしていないと落ち着かない。
(でもこの格好で行くのもあれだしなあ)プリシラはしかたなくソファーでごろごろ。
家の中はもちろん、近隣住宅を漁ったが、収穫はゼロ。結局、現状のまま。
仕方がないのでおとり役のデュオと、それを追ったセイバ―の帰りを待つしかない。二人とも無事であるといいのだが……。
――『プリシラ、あなたはここにいてください』
――『え、でも』
――『何をすればいいのかはわかりません。それでも、ここで何もしないのは、耐えられない』
――『だったらわたしも』
そう願い出たら、『私はそこまで配慮できない』と断られた。
まさしくその通りで、彼女はヨロイ顔負けの速度で家を出て、民家の屋根を飛び跳ねるように移動している。
(わたし、足手まといなのかな……)
それも仕方ない、とプリシラは思っていた。たしかに自分の運動神経には自信がある。
しかし、それは『常人』の枠を超えたものではない。ヨロイのない自分は『ただの身軽な女』というレベルなのだ。『異常』には到底及ばない。
――――けど。
それでもできること、あると思う。
――でなければ、自分はもう怯えることしかできない。プリシラはその考えを振り払う。
ダメだ、気をしっかり持たなくては。自分はあの二人より年上なのだから。
――――ところで。
ずっと気になっていたことがある。この家に押し入ったあのヘンな人が言っていたことだ。
――『あの格好、淫売といわず、何といいますか』
「『いんばい』ってなんのことだろう……?」
戻ってきたら、セイバ―に聞いてみよう。
【D-7/民家/一日目/黎明】
【プリシラ@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:ミズーギーの水着(白のきわどいビキニ)
[装備]:無銘・短剣@Fate/stay night
[道具]:
[思考]
基本:殺し合いなんてしたくない。
1:いんばい……?
2:二人が戻ってくるのを待つ。
※参戦時期は17話途中、水着着用時。
※名簿を確認していません。
381 : ◆qh.kxdFkfM:2009/11/02(月) 08:00:33 ID:xFkku4BE
以上で終了します。問題なければ代理投下お願いします。
ちなみにこの話の約四分の一はメイド服でできていますが、
メイド●ン●ヘブンとの関係はないような気がしないでもありません。
代理投下終了です。
変態VS変態
2人の変態が織り成すハートフルボッコな展開は
面白かったです
投下&代理投下乙
ちょ、デュオさんどんどん変態になっていませんかww
つーかMMQ!ってアンサイクロのまちがいじゃないのかwwww
デュオ「ま、まさか俺にメイド服の説明をしたのも……」
Wikipedia「それも私だ」
メイド●ン●ヘブンって何?
まだ作品の把握が終わって無いんで、誰かkwsk
>>261 「ひぐらしのなく頃に」で監督の使う固有結界
メイドスキーを語りまくって相手を圧倒するというもの
別に知らなくても困らないただのネタ……多分
入江とデュオの声優さんが同じだってネタなのかな?
とまれ、代理投下乙です!
参戦作品以外のネタなのか…
代理投下行きます
『バトル・ロワイアル』というデスゲームが開始され早数時間、未だ薄暗い森の中を歩く大小2つの影があった。
グラハム・エーカーと天江衣、殺し合いには乗らないという共通の志により行動を共にすることになった2人は、現在とあるトンネルの入り口に立っていた。
「グラハム、これは……」
「あぁ、地図に載っているトンネルと見て間違いないだろう」
手に持ったデバイスと地図、コンパスを見ながら衣の問いに答えるグラハム。
彼らが今行っていること、それは『支給された地図が本当に正しいものなのかの確認』である。
「つまり、支給された地図は信用してもいいってことなのか?」
「いや、我々が地図に掲載されている名所に来たのはここがはじめてである以上、完全に信用することはできん。
だが、少なくとも主催者がゲーム中に参加者の行動に介入してくる可能性は低いと見てよさそうだ」
グラハムは主催者は首輪と支給品以外にも参加者に殺し合いを強制させる『何か』があるのではないかと、脳裏で遠藤とインデックスの口から説明されたバトル・ロワイアルのルールをゲームが開始されてから何度も思い返していた。
その結果、彼が思い至った最初の諸説が『参加者1人1人にさりげなく異なった情報を教え混乱させる』というものであった。
たとえば、ルール説明時に参加者全員に共通して支給すると言われていた共通支給品。
これは、あくまでも『支給されているものが共通』なだけであって、その内容までは共通とは限らない。
もしかしたら参加者1人1人に支給された地図や名簿にはそれぞれに些細な違いがあり、そこから参加者の意見の食い違いなどを発生させ、参加者同士で強い協調性を持たせないようにしているのではないか……
そのため、衣と出会い行動を共にすることになったグラハムが最初に行ったことは互いの名簿と地図の確認であった。
が、これによりグラハムが打ち立てた最初の説は残念ながら間違いであったことが判明した。
衣の地図と参加者名簿の内容もグラハムのものとまったく同じであったからだ。
ならば、と次にグラハムが打ち立てた諸説が『このバトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないか』というものであった。
これは、支給された地図の内容が実際の舞台とは差異があり、参加者が特定のエリアに集まりやすく仕向けられていたり、地図には載っていない隠されたフィールドがあるのではないかというものだ。
そしてグラハムたちは現在この説の正誤を実際に確かめるべく行動しているというわけである。
「さて、天江衣、君は次はどこに向かうべきだと考える?
先も言ったとおり、さすがに名所を1箇所回っただけでこの地図を完全に信用すべきかどうかを結論づけるのは私としてはできない。
となると、必然的に他の名所の場所も可能ならばあと数箇所は確認しておきたいところではある。
地図によるとこの近くに駅があるようだが、現在我々参加者は殺し合いの真っ最中だ。電車が運行しているとは考えにくい。
仮に運行していたとしても、それに乗車し移動するのは目立ちすぎるのではないかという危険性もある。
ならば、また少し歩くことになるが、この4箇所のうちのいずれかに我々は向かうべきだと思うのだが……どうだろうか?」
そう言ってグラハムは地図に掲載されている4箇所の名所を順次指差した。
B-3・城。
A-5・敵のアジト。
B-6・ギャンブル船。
そして、C-5・神様に祈る場所……
「う〜む……」
その小さな身体に似合わないような大人っぽい声を漏らしながら衣は考える。
そして、数秒ほど悩むような模写を顔に浮かべた後、衣は結論した。
「ギャンブル船に行こう!」
「何故?」
普通の子供の口からはまず出されないであろうギャンブルという言葉。
その言葉が目の前にいる少女の口から何の躊躇もなく出てきたため、グラハムは思わず訳を問いただしてしまう。
「グラハムは衣に友達を作ればいいと言ってくれた。
それなら、衣はここでも今まで衣が友達を作ってきた方法で友達を作っていく!」
「……まさか、その方法がギャンブルだというのか?」
「麻雀だ! きっとここにいけば麻雀もできるような気がする!」
『麻雀』という言葉を聴いた刹那、グラハムはほんの一瞬の間だが「この少女の親は一体今までどのような教育をこの娘に施してきたのだ?」などと内心呆れてしまった。
実際は衣が麻雀が大衆娯楽として普通に親しまれている世界の出身者であったり、彼女の両親は既に亡くなっていたりするのだが、現在のグラハムにはそのようなことは知る由もない。
そして、その逆もしかり。
衣はグラハムが自分のいる世界からは数百年もあとの未来の世界の軍人であること、彼の世界では麻雀は大衆娯楽として親しまれていないことなどは現時点では知っているわけがない。
「……天江衣、私の記憶が正しければ、確か麻雀は4人で卓を囲んで行うものではなかったか?
人数が足りないし、何よりも私は麻雀のルールは知らないんだ」
「大丈夫だ、衣が一から教えてやるぞ!
それに、名簿を見る限り衣と同じ日本人もここには大勢いる。
きっと参加者の中には麻雀を打ちたがっている者もいるかもしれないし、そうではない者たちも衣が頼めばきっと対局してくれるはずだ!」
衣は高校生――アマチュアであるが、プロを下し大会で優勝した経験もある全国有数の実力者の1人である。
本人がマスコミ嫌いなこともあったが、それでも雀士たちの間では名前くらいはそれなりに知られていた。
そんな衣が「自分と対局してくれ!」と頼めば、きっと応じてくれる者は必ず現れるはず――というのが衣の考えである。
「グラハム、言われたとおり衣は衣の世界を作り出してみせるぞ!
衣の友達がいっぱいいる世界だー!」
そう言うと衣は善は急げとばかりに早速東の方角へ向かい歩き始める。
(とーか、衣はもう大丈夫だぞ!
これからはとーかの力を借りずとも、衣は自分の力で友達を作ってみせるから!)
今は亡き友人兼肉親であった少女に向けて心の中で誓い立てる衣。
一方、グラハムは、そんな彼女の後ろ姿を見ながら、「……子供を持つ親になった気分だ」と内心呟くのであった。
【B-4/東側トンネル付近/一日目/黎明】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康
[服装]:いつもの私服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(未確認)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:B-6・ギャンブル船へ向かう
2:そして麻雀をして友達をつくる
3:まずはグラハムに麻雀を教える
【備考】
※参戦時期は19話「友達」終了後です
※グラハムとは簡単に自己紹介をしたぐらいです(名前程度)
※参加者は全員自分と同じ世界の人間だと思っています
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(未確認)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退
1:主催者の思惑を潰す
2:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける
3:地図が本当に正確なものかどうかを確かめるために名所を調べて回る
4:衣の友達づくりを手伝う
5:3と4を兼ねて衣と共にB-6・ギャンブル船へ向かう
【備考】
※参戦時期は1stシーズン25話「刹那」内でエクシアとの最終決戦直後です
※衣とは簡単に自己紹介をしたぐらいです(名前程度)
※刹那・サーシェス以外の参加者が自分とは違う世界の人間であることに気づいていません
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
387 名前: ◆56WIlY28/s[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 12:46:18 ID:I9jgyFdo
投下完了です
代理投下します。
もし人がいれば支援よろしく
『それ』は暗い森を進んでいた。
よく整備された道を、止まること無くただひたすらに町を目指し進んでいた。
『それ』は道に先客が居ることに気付く。
対して先客の男は、『それ』に気付いていない。
道を譲る気など、『それ』には更々無い。
だから、男に構わず『それ』は道を進む。
男と『それ』の距離が縮まっていく。
『それ』が男に迫る。
そして―――
―――男は飛んだ。
支援
あ……失敬。まだ議論中のSSでした。
勘違いして申し訳ありません
えーと別のSSを投下します
猿と竜。
神原駿河(かんばる・するが)と伊達政宗(だて・まさむね)。
猿の悪魔『レイニー・デヴィル』の片腕を持つ女と、竜の二つ名を持つ片目の男。
出会った場所は大量の本の山。神原駿河が好む属性が余すことなく詰まった欲望の塊。
政宗が無一文と見なしたゴミを、彼女は一冊残らず己のディバッグに挿入している。
「しまった。ここに隠れていたのか。
“奥州フットー!新ジャンル『勃て政宗』第三巻”。自宅に取り残されたと思っていたが。
こんな事なら、まとめておいた他の巻をしまわずに置いておけば良かった――ああ、すまなかったな。
この“奥州フットー!新ジャンル『勃て政宗』”は政宗受けモノとしては異例の作品なのだが……」
誰も聞いていないのに、勝手に語り始めたぞ。
神原一押しの同人誌。苦しいネーミングセンス。もしかして新ジャンルと独眼竜が掛け言葉になっているのか?
彼女には悪いが、こういう説明描写は大抵、大きく時間を浪費する割りに内容は無いようなので。
「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ」
丁重にカットさせていただこう。
「……今や商業路線はおろかネットでもGET不可能の幻の品だ。全国の武将相手に日夜雄弁を振るう姿がそそるぞ」
草むらに隠れていた最後の一冊をしまいながら、神原は口元からダダ漏れていたよだれを拭く。
まるで赤子を孕んだ妊婦のようにディバッグをさする彼女は充実感でいっぱいだ。
「神原駿河、アンタただの雑魚じゃないな」
一方の政宗の表情は真剣だった。
さっきまで神原と一緒に本の整理をしていたというのに。
いつの間にか手に入れていた木製のスティックを、容赦なく神原に突きつけている。
仕方の無いことだろう。
神原の素行は、生まれたての赤ん坊にポルノビデオを見せるくらい、突き抜けているからだ。
政宗にとっては、怪しげな暗号を羅列されているようにしか思えない。
「そうか。わかった。そこまで聞けば、もう十分だ。つまり、私は脱げばいいんだな?」
「独眼竜は伊達じゃねぇ。アンタがどう取り繕ろうが、この眼は誤魔化されねぇぜ」
「うん、そうだ……ああ、ちょっと待ってくれるかな、筆頭伊達政宗殿。すぐに裸になるから。
初対面とはいえ、史実に残る名将軍と言葉を交わす。ならば裸になるのが礼儀というものだ」
ところで、この『独眼竜は伊達じゃない』という言葉。
ボクにはどこか矛盾しているような気がする。
純粋に伊達政宗は伊達ではない、という意味なのだろうが、傍目にはギャグにしか聞こえない。
「神原駿河、俺の命令を無視して勝手に進めんな。人の話を聞け」
「おお。やはり筆頭はやはりタチだった。私の目に狂いはなかったな。
“苗字が『いたち』と読めるから伊達政宗はタチ”という説が本人の口から証明されたのは、非常にうれしく思うぞ。
ちなみに私は雑魚ではないよ。 むしろネコだ。シャルトリュー種顔負けの人懐こさ、辛抱強さを提供しよう。
ああ。何という事だ。奇しくもこれでお互いの需要が満たされてしまったな――だが、安心してほしい。
そうして欲しいのは山々だが、本音を言えば、操を捧げる相手はもう決めているんだ」
政宗はスティックを強く握り締め、みしみしと音を立てた。
「……差し支えなければ、教えてほしいな。これは尋問なのか」
どうやらそれが功を奏したらしい。
神原は命の危険を感じたらしく、自分で話題を変えた。
政宗がもっと穏やかな人間だったら、あと1時間は性交渉時における攻め手(タチ)と受け手(ネコ)の議論を聞かされていただろう。
「さっきから聞いてりゃ、“攻め”だの“受け”だのfuggyなことをしゃべくりやがって。
新米KUNOICHIか? 俺のよく知った野郎共の話ばかりしやがる。
……兵法を熱弁するのは勝手だが、うちの軍の情報も把握してやがんのか」
「なるほど。尋問なんだな。あなたのような人間にされるなら“駿河問い”が文字通りうってつけだぞ。
もちろん心得はあるのだろう? 下手人を縄で縛って吊るしてしまう拷問だ。
後で開放するのを約束してくれるなら、喜んで受けよう。
放置プレイを捨てるのは惜しいが、あいにく状況が状況だし、私もまだ死にたくない」
「O.K.Garl,洗いざらい全部しゃべっちまうのが利口だぜ? 」
「筆頭の亀頭をしゃぶる事で許されるのなら、私は一向に構わないが、まずは話を聞いて欲しい。
誤解を解くのはそれからでも遅くはないだろう。さあ、私に支給されたこの縄で好きにしてくれ」
数分後、神原駿河の手は後ろに回され、両手首を縛られた。
「あ、うう、あ、太くて、硬い……んっ! 筆頭、もっと深く、もっとキツキツにして……」
もちろんこれは縄の話である。
神原はもっと情熱的な束縛を期待してたのだが、喘ぎ声がうるさかったらしく、政宗は簡易で済ませた。
史実では伊達政宗は沢山の妻と子供を持つハッスルマンだったらしいが、ここにいる彼は常識人のようだ。
「単刀直入に言うと、私は武将の類ではないぞ」
神原は政宗に二度目自己紹介をした。それもより正確に克明に。
自分はレズで、BL好きな腐女子で、ネコ(性行為で受動的な側)で、受けで、ロリコンで、マゾで、露出狂で、欲求不満だと。
言い換えれば、自分の性癖を暴露したといったほうが正しいのだろう。
腕の包帯にあるレイニーデビルについては話さなかった。
本当に話さなければならない事実が逆になっている気がする。
「okey-dokey(はいはい、わかったよ)……BEET YELLってのはつまり男色のことか。不勉強だった」
「なるほど。私はこれまでBLは『ボーイズ・ラブ』の略と信じていたのだが、『ビート・エール』の略という可能性もあるのだな」
恐れていたことが起こってしまった。
もともと外国の慣習に興味のあった政宗は、持ち前の学習能力を生かしてBLを知った。
男色にさほど抵抗のない戦国時代の人間に、神原はこの上ない余計な知識を植えつけてしまった。
今から図書館に行けば、属性について論争を巻き起こす武将たちが絵巻で見られるだろう。
異文化交流というよりタイムパラドックス、明治政府もビックリだ。
「そしてアンタは、お国の動乱と噂話と妄想が大好きな庶民で、欲求不満の変態。OK? 」
「話が早くて助かる。何せ近日中に妻妾同衾する計画を目論んでいるからな。欲求不満にもなるさ」
「Good……ほめとくよ」
武家の慣習に疎そうな発言をふまえたのか、政宗には神原が異国あがりの町娘に見えるらしい。
変態という属性をしっかり抑えているあたり、抜かりが無い。
確かに神原の格好を大名が見れば、バテレンの正装……ってそんなわけあるか。
政宗も人のことを言えた義理ではないと思う。鏡を見ろ鏡を。
「筆頭はこれからどうするんだ? 」
「目指すは天下無双だ。こんなところで足止めくらってる暇はねぇ。敵の根城を叩き潰し、大将を討ち取るまでよ」
「流石は奥州の独眼竜。攻めて攻めて相手をヒィヒィ言わせるところは、相変わらずだな」
ちなみに神原も政宗の素性を詳しく問おうとはしなかった。
政宗が話すことは、ところどころ間違ってはいるものの、歴史上で伊達政宗が活躍したことと一致していた。
神原は政宗を“怪異”、すなわち戦国武将の幽霊のようなものと認識していた。
政宗が嘘を言っているようには見えなかったし、帝愛グループが話していた“魔法”のせいと考えれば合点がいくからだ。
「奴さんは城にコモってりゃ勝てるとでも思ってるんだろうが、あいにく俺はknockもせずに入る性分でね」
「ほう。奇遇だな。私もだ。ホモるだけが全てではない。行為前の絶妙な距離感はワビサビに通じる芸術品だ」
それから彼らはこの島の詳しい地理を把握するために、徒歩以外の移動手段を確保することになった。
政宗は野生の馬を探そうとしたが、神原の提案で、西にある施設に向かうという結論に落ち着いた。
「悪かったな。これでアンタは自由の身だ」
「あっ、そんな殺生な……もっとお戯れを」
「Ha,ha!やなこった」
「さあ、早く、私のことを『この卑しいペットが!』と呼んでくれぇっ」
2人はいたって真面目だが、縄をほどく人間とほどかれる人間の会話とは到底思えない。
というか会話が成立していない。
政宗は神原のイカレっぷりに根負けしたのか、必要以上に彼女を疑うことをやめたようだ。
神原は神原で、とりあえずホイホイとついて行くことにしたらしい。
「本音を言えば、縛ったまま私をおんぶして欲しかったな。焦らしプレイも嫌いではないが別腹だ。
縛られたまま連れ去られる……なんて頭がフットーしそうなシチュエーションなんだ」
「そのsituationをここでやれってか? no joke(冗談じゃねぇぜ)。
将来天下無双になる男を使い走りにするたぁ上等じゃねぇか」
「言われなくともわかっているさ。冗談だ。というより、私が本当にフットーするのは戦場ヶ原先輩と繋がったときだけだ」
神原はハッと顔を強張らせた。
自分の思い人の名前を、思わず出てしまったからだ。
「戦場の焼け野原と繋がる? 命粗末にしちゃってCoolじゃないねぇ」
「そ、そうだった。筆頭はディルドーを知らないのだったな」
「DEAL道? 異国の信仰宗教か? 」
彼女はまだ自分の友人たちのことを政宗に話していない。
戦場ヶ原のことも、千石のことも、阿良々木暦のことも。
「すまない」
神原は恐れているのだろう。
仲間のことを話せば、政宗が彼らを助けるかもしれない。
それは政宗に余計なカリを作ってしまう。
「……今の話は忘れてくれ」
支援
神原の左手には、包帯で隠されているが、猿の手になっている。
人を惑わす妖怪のようなもの――怪異『雨降りの悪魔』(レイニー・デヴィル)の手だ。
『雨降りの悪魔』は、人の魂と引き換えに三つの願いを叶える。
願いを全て叶え終えた人間は、生命と肉体を奪われてしまうのだ。
「Take it easy. (気楽になれよ) どうした? 」
神原はかつて二回、願い事をしている。
色々あって現在は、『雨降りの悪魔』の効果も沈静化しているが、神原には相当の負い目になった。
誰かにカリを作ることが、少なからずプレッシャーとなっているのだろうか?
◇
「見てくれ、あれが鉄道だ」
トンネルの先まで伸びた線路を指差して、神原は政宗の現代文明の力を紹介した。
事前に地図を調べていた彼女は、交通手段の仲介が、政宗の信頼を得る上で一番てっとり早いと考えたようだ。
「 どんな馬屋かと思えば、人っ子ひとりいやしねぇ」
「言われなくともわかっている。馬にまたがって早くどこかにイきたい気持ちは察するが、そうガッカリするな。
というより、筆頭はそれ程までに跨るのが好きなんだな。安心してくれ。しばらく待っていれば、ビッグな馬がやってくるぞ」
駅を目標に、神原たちはBダッシュに匹敵するスピードで山道を駆け抜ける。
「ピィィィィィーーーーーッ!! 」
けたたましく響く高周波。
政宗の指笛だった。
「Why? 例の馬はちゃんと調教されてんのか? 主人の呼び鈴に応えられねぇたぁ……」
「はっはっは。彼はじゃじゃ馬なんだ。笛を鳴らした所で――」
――ボッ
政宗が呼んでからその間わずか1秒足らず。
気圧差による対流の開放に、空気が叫ぶ。
信じられないことだが、じゃじゃ馬は絶妙のタイミングでトンネルを飛び出してきたのだ。
「Hey! こいつぁまたglobalなじゃじゃ馬じゃねぇか! 」
「驚いたな! なんというミラクル☆トレインなんだ。人工知能でも入ってるんじゃないか?
名前を着けるなら、そうだな……『中野陸』! おそらく彼が私たちを呼んだのだ」
電車に中の人などいない! 神原の妄想がまた始まった。
戦場ヶ原ひたぎの声を出す列車が生まれたら、きっと神原は毎日乗車するだろう。
そして車内の鉄棒に体をこすり付けて、桃色の吐息と声を出しながら、色々なものを漏らしていたに違いない。
――プアァァン
「Ok,OK……もうすぐご主人様が鐙を踏んでやっからな」
「む。まずいぞ筆頭! 賢者タイムを考慮しても、我々が乗り込むには時間が足りない」
そのスピードは馬といい勝負かもしれないが、スタミナは馬の何十頭分あるのだろう。
勇猛果敢に線路を走っていた列車は駅に到着した。
しかし駅のホームから神原たちがいる場所までの距離は、乗車するにはやや遠い。
おそらく、神原がホームに着くころに列車はホームを去ってしまうだろう。
「乗り込む? Holy shit!(まさか) 」
だが、それは――
「馬は跨るもんだろ。 戦国乱世を生きる武将に、従えられない馬はねぇ!
俺の知ってる奴らなら、これぐらい朝飯前だぜ。You,See? 」
走っていたのが神原だけの時の話だ。
◇
「奥州筆頭・伊達政宗、武装騎馬、got it!(獲ったり!) Ya-ha-!」
列車の上に胡坐をかいて座る政宗は、高らかに笑う。
そして、ふと己の腰に巻かれていた縄に気がついた。
「いや。お見事。お見事。私にはやはり先見の明があるな。
いずれ来るであろうフットーに備えて、筆頭と私を繋げておいたのだ」
列車に乗る際にぶつけたらしく、神原は頭をさすっていた。
いつの間にか筆頭をロープで繋げていたらしい。
相変わらず無茶なことをする。
でも。その図々しさと持ち上げっぷりとエロさが神原駿河の魅力なのだ。
「Shit!……ま、いいや。 神原駿河、もうアンタの好きにしな」
「いや。最高にスリルを味わえたぞ。肉体から魂が引き剥がされるようなスピード。
ほとんど宙に浮きっぱなしで、時折着地するのがやっとだったよ」
今はまだ政宗に隠し事をしているが、それは彼を信頼したいという裏返しでもある。
しばらくは血迷った真似に走る事はないだろう。
たまった感情をいつか爆発させなければいいのだが。
「ところで筆頭、盗撮プレイはお好みか? 実のところ、私はさっきから濡れっぱなしなんだ」
「Ha!今度はどんなjokeだい? 」
……人が心配してやってるのに。
やはりさっさと本編に戻るべきだった。
ごらんのありさまだよ!
【B-4/列車の上/一日目/深夜】
【伊達政宗@戦国BASARA】
[状態]:健康
[服装]:眼帯、鎧
[装備]:田井中律のドラムスティク×2@けいおん!
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1(未確認)
[思考]
基本:自らの信念の元に行動する。
1:主催を潰す。邪魔する者を殺すことに抵抗はない。
2:信長、光秀の打倒。
3:神原は変態。馬の件は嘘じゃなかったし、とりあえず泳がせとこう。
[備考]
※参戦時期は信長の危険性を認知し、幸村、忠勝とも面識のある時点からです。
※神原を完全に信用しているのかは不明。城下町に住む庶民の変態と考えています。
※列車を馬と勘違いしています。
携帯から
さるった……。誰か続きから頼みます
【神原駿河@化物語】
[状態]:健康 腕に縄縛紋あり テンション↑
[服装]:制服
[装備]:縄@現実
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(未確認)、神原駿河のBL本セット
[思考]
基本:殺し合いをしたくはない。
1:出来れば戦場ヶ原ひたぎ、阿良々木暦と合流したい。
2:政宗と行動を共にする。
[備考]
※アニメ最終回(12話)より後からの参戦です
※政宗には戦場ヶ原たちの情報、怪異の情報を話していません。
※政宗を戦国武将の怪異のようなもの、と考えています。
※彼らが乗った列車にはルルーシュ@コードギアスが乗っています。
列車が出発した後に天井に飛び乗ったので、ルルーシュが気づいているのかわかりません。
399 名前:するがだてシャルトリュー ◆zg9MHZIP2Q[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 15:18:19 ID:gyEAHZ8A
投下完了しました。
しかし規制酷いな
投下は代理が大半、感想もほとんどしたらば……本スレが静かすぎる
「不幸だぁ――――――――っ!!」
ここに来てから既に、何度このセリフを叫んだことか。
多いってことは自分でもわかってる。それでも叫ばずにはいられない。
だって、なぁ。いくらなんでも、さぁ。あー……なんなんだろうね、これ。
俺、上条当麻を悩ませる三つの不幸。そのいち。
初っ端からのプレハブ小屋爆破。
あの遠藤とかいうおっさんの演説が終わり、俺だけに齎された一種のスパイス。
偶然、抽選で選ばれた、俺の居た部屋が、問答無用で爆破されるという、不運。
怪我なく済ませられたのは幸運だとしても、それで俺の運値がプラスに傾くわけじゃない。
上条当麻、本日の運勢は圧倒的にマイナス寄りである。
結構な規模の爆発だったからなぁ……誰かが近くにいれば、寄って来るか遠ざかるかするだろう。
それは爆弾魔に怯えるか弱い少女か、それともクレイジーボマーな人殺しさんか。
予感が告げている。どちらにしたって、ろくな出会いにはならない。こんな状況じゃーな。
殺し合い――バトルロワイアルという名称の、ふざけたゲーム。
あんまり考えたくはねぇが、「はいそうですか」って即答する奴も中にはいるんだろうな。
配られた名簿、俺と境遇を同じくする不幸な皆様の名前を確認していったら、そんな気がしてきた。
俺、上条当麻を悩ませる三つの不幸。そのに。
名簿に知っている名前が載っていた。
インデックスが帝愛とかいう奴らに人質として確保されている時点で、嫌な予感はしてたんだ。
巻き込まれたのは俺だけじゃない。俺やインデックスの知り合いもだった。
具体的に名前を挙げていくと、御坂美琴、白井黒子、一方通行(アクセラレータ)の三人。
御坂美琴は、街中で俺を見かけるとよくちょっかい出してくる能力者の女の子だ。通称ビリビリ。
なんか、俺が記憶を失うよりも前に因縁があったらしいんだが、あいにくそのへんのことは頭からすっぽり抜けちまってる。
白井黒子っていうのは、たしか御坂のルームメイトで『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子だったか?
御坂妹や風斬の件のときに少しお世話になった。あのお嬢様口調が妙に印象に残ってる。
一方通行――この『最強』が一番おっかない。正直、なにをやらかすかまったくわかんねぇ。
御坂妹の件はあれで片がついたとは聞いたが、あれから一方通行がどうなったかなんて俺には知らされてねぇしなぁ。
さて……いるにからには無視できねぇよなぁ、こいつら全員。
幸いなことに、揃いも揃って能力者だ。『無能力(レベル0)』の俺なんかよりは、殺される確率も低いだろう。
学園都市出身のよしみ、インデックスを取り返すのに協力してくれりゃ万々歳なんだが……やっぱあの『最強』が、なぁ。
ため息しか出てこない。
名簿に載ってないのがあと十二人くらいいるって言ってたし、その中には別の能力者が――いや。
むしろ、インデックスと関わりのある魔術師連中がいる可能性だってあるのか。
ステイルや神裂あたりがいてくれりゃ、心強くはあるんだが……言っても仕様がねぇな。
「しかし……ま、なんだな」
今さらでなんだが、現在地を説明しておこう。
業火に包まれたプレハブ小屋からダッシュで距離を取り、デバイスが示すところの【F-6】まで移動した俺は、見知らぬ街の路地裏にいた。
周囲の街並みは学園都市のそれと比べても閑散としている。
夜だからっていうのはもちろんのこと、夜遊びに勤しむ不良の方々や、終電を逃したサラリーマンの姿すら見当たらない。
そりゃそうか。ここはバトルロワイアルのためにあてがわれた特別会場、存在しているのは名簿に載ってる五十二人プラス十二人だけってことね。
しかし、それはあくまでも殺し合いを命じられ、帝愛に首輪を嵌められた『人間』だけの話だ。
殺し合いとは無関係のはずである命も、一応は存在しているに違いない。
山の中を探せば野鳥や昆虫が、家宅を探せばアレやコレが、砂浜を探せば蟹やヒトデが、それこそあたりまえのように生活しているのだろう。
俺にそいつらの暮らしを侵害する権利はない。
ああ、ホント。
こいつらだって――決して巻き込まれたくはなかっただろうに。
「三匹も並ぶと壮観っつーかなんつーか、どういう確率よ、これ」
俺、上条当麻を悩ませる三つの不幸。そのさん。
支給品として荷物に入っていた、三匹の猫。
……そう、猫だ。殺し合うための道具と説明を受けておきながら、俺が引き当てたのは猫なのだ。
なんという籤運の悪さ。デイバックの中に突っ込んだのは左手のほうだったってのに、まるで意味なし。
三匹は三匹とも妙に人懐っこく、俺を目の前にしても逃げようとしない。
こいつらにだって飼い主はいるだろうに、まったく、同情するくらい災難な話だよ。
右端から順に紹介していこう。
まず、この小太り気味の三毛猫は『スフィンクス』。猫に使うには不適切な言葉かもしれないが、顔馴染みだ。
命名はインデックス。拾ったのもインデックス。ただの三毛猫に、随分とご大層な名前をつけやがる。
その隣、やたら高潔そうな黒猫の名前は『アーサー』。毛が黒いからわかりにくいが、目元に黒いブチがある。
さらに隣、アーサーと同じ黒猫ではあるが、腹の辺りが白いので見分けがつくこいつは『あずにゃん2号』。
全部で三匹。ご丁寧にも名前つきの写真が同封されていた、上条さんの支給品である。
なまものかぁ……って、そういうことじゃねぇよ! 支給品って、動物じゃねぇか!
インデックスのやつ、「分配の仕方に作為はありません」とか言ってやがったが、絶対ウソだろそれ!
でなけりゃ納得できねーぞ、こんな不幸。ああ、くそ、いくら叫んでも収まりがつかねー!
「不幸だぁ――――――――っ!!」
のんきに毛づくろいしている三匹を眺めながら、俺は夜空に吼えた。
そんな馬鹿をやっていると、まあ大概、不幸ってもんは畳み掛けてくる。
「――あらあらこれは。独り言の大きい子供がいるなと思ったら、なんだ、阿良々木くんではなく見知らぬ誰かさんじゃないの」
そう、俺を見て放った第一声。
落ち着いた声調、堂々たる眼差し。
路地裏の入り口に毅然と立つ、その存在――
病弱な少女。
体重のない彼女。
噂は噂。
都市伝説。
街談巷説。
道聴塗説。
話半分。
化物語。
――なんてのは、俺にはまったく関係のない情報。
この遭遇が齎すものが不幸か幸運かは、まだ判断しきれない。
上条当麻はその瞬間、戦場ヶ原ひたぎに『発見』された。
◇ ◇ ◇
夜の街を歩いていたら、声に出さなくてもいいものを、わざわざ叫んだりしている男の子の気配を察知した。
ああ、きっとこれは頭のおかしな人か、もしくは阿良々木くんに違いないわね、なんて思いながら探してみれば、答えは前者。
まあ、最初から声質で阿良々木くんではないと断定できたのだけれど。
「えと……どちら様で?」
「通りすがりの美少女よ」
というのは仮の姿――私の正体は、戦場ヶ原ひたぎ。
肩書きは、そうね……ここは彼の面子のためにも、阿良々木くんの彼女であると自称してあげたほうがいいのかしら?
こんな路地裏で三匹の猫と戯れているようなツンツン頭に教えてやる義理はないのだけれど。
「通りすがりの美少女って、おま――」
「勝手に喋らないでくれる。咆哮癖がうつるわ」
路地裏の彼は唖然としている。ここで即座の切りかえしができないなんて、なんだ、大した男ではないわね。
その点、絶妙ともいうべきタイミングと言葉の選択でもって返してくる阿良々木くんは、あら、意外と凄かったのかもしれない。
「固まらないで。話が続かないわ」
「いや、えっと……だな」
「おしゃべりが苦手なのかしら? 友達は少ないタイプ? 失礼、不躾な質問だったわね」
「いやだから、おまえ――」
「名乗るならまず男からでしょう? こういう場合」
彼は口の端をへの字に曲げる。
納得がいかない様子で、私に言った。
「上条当麻だ。で、その上条さんにいきなり声をかけて来やがったおまえは誰だよ」
「名乗るほどの名前はないわ。いいえ、名前ならあるの。両親にもらった大切な名前。ただ、あなたに名乗る価値がないというだけ」
「へえ、そうですか。じゃあ、通りすがりの美少女さんよ。いったいぜんたい俺になんの用だい? 口でケンカがしたいのか?」
彼――上条くんは不機嫌そうに言ってくる。
男子とのコミュニケーションって苦手なのよね、私。
阿良々木くんみたいに扱いやすい部類ならいいのだけれど。
「そうね……まずは状況が状況ですもの。説明するまでもないと思うのだけれど、わからない?」
「むっ……まあ、わからないでもないけどよ……」
「そう。なら話が早いわ。とりあえず、何も言わずに両手を前に突き出してもらえるかしら?」
「両手? こうか?」
私の言ったとおりに両手を前に出す上条くん。
従順ね。
そしてアホね。
制服の袖から、カッター付きのセロハンテープを取り出す。
それを上条くんの目の前で素早く引っ張り、彼の両手首に巻いていく。
ぐるぐると、透明なテープが重なりに重なって白くなるくらいに。
「あの……なにを?」
「黙ってて」
物申したそうな上条くんを制して、彼の両手を拘束する。
続いて、私はその場でしゃがみ、上手い具合に揃っていた上条くんの両足も手首と同じようにぐるぐる巻きにする。
ビッ、という音が鳴った。ちょうどいいところで、セロハンテープはなくなった。芯はそのへんに捨てて、また立ち上がる。
「…………これはいったい、どういった趣向でしょう?」
脂汗を垂らしながら、上条くんは訊いてくる。
随分と遅いタイミングね。なんで拘束が完了した後になって言うのかしら。
神原じゃあるまいし、まさか、そういった性癖を持っているんじゃ?
なんてことかしら。私、見ず知らずの男を悦ばせるような破廉恥な女ではないのだけれど。
それはともかくとして。
両手両足をセロハンテープで縛られた上条くん。
簀巻き状態と言ってしまっても過言ではない彼の身を、勢いよく前に押し出す。
上条くんはそのまま、暗く湿った路地裏の地面に倒れ込んだ。
「知っているかしら? 巻いたセロハンテープって、下手な縄より強度が高いのよ」
下からスカートが覗けないよう、私は姿勢を低くして上条くんに語りかける。
上条くんは見た目芋虫状態だった。いえ、この鬱陶しい頭を見るに、毛虫のほうが似ているかしら。
別にどっちだっていいのだけれど。私にとっても、上条くんにとっても。
「初対面の人間に、随分な真似してくれるじゃねーか。ええ、通りすがりの美少女さんよ」
「されるがままでいたほうが悪いのよ。それともなに? あなた、そういう性癖があるの?」
「ねーよ! つーかとっとこれほどけ!」
「あら、それじゃわざわざ巻いた意味がないじゃない」
「そもそも巻くな!」
「巻かないと安心できない性質なのよ。乙女心とも言うわね」
「そんなものは乙女心とは言わねぇ……!」
……なんて単調な返し文句。
ダメね、全然ダメだわ。
「おまえ……ひょっとして乗ってんのか?」
落胆する私を、さらに落胆させる発言が飛んできた。
「主語を省いた言葉を浴びせないでちょうだい。私がいったいなにに乗っているというのかしら。
なににも乗っていないわよね。ああ、そうか。これは遠回しに、自分の上に馬乗りになってほしいと言っているのね。
ため息の連続で心が切なくなるほどにマゾね。丁重にお断りするわ」
「ちっげーよ! 殺し合いだ殺し合い! 殺し合いに乗ってるかどうかって訊いてるんです!」
「ああ、否定するところ、そこなのね。つまり、マゾであることは認めると」
「認めるかぁ!」
「手足を縛られた格好で主張しても説得力ないわよ、マゾ条くん」
「上条だ!」
「ごめんなさい、噛んだわ」
「嘘だッッ!」
「嘘じゃないわ。故意よ」
「どっちにしろわざとじゃねーかあ!」
やかましい男。
それにしても、なぜこの場には猫が三匹もいるのかしら。
まさかとは思うけれど、彼が引き当てた支給品というわけじゃないでしょうね。
あ、だから不幸……そういうことなのかしら?
「……少しかわいそうになってきたから、質問に答えてあげるわ。殺し合いには乗っていない。この歳で殺人犯にはなりたくないもの」
「じゃあなんで、初対面の上条さんにこんな真似をしてくれやがりますかね?」
「あなたの中に潜むもう一人のあなたが、巻かれたがっていたから――では、答えにならないかしら?」
「初対面の人間に勝手に二重人格設定をつけるな!」
「勘違いしないで。人殺しはしたくないけれど、生きては帰りたいのよ。だからまあ、今は手段を模索している段階」
「え? あ、そこで話が戻るのか……」
「なにか不満でも?」
「いいえ、続けてください」
いちいち面倒くさいわね、この人。
「そう。さて、人を殺さずに生きて帰るにはいったいどうすればいいのかしら。
一番簡単な方法としては、人に見つからないようどこかに隠れて、他が全滅するのを待つ、なんてどう?
我ながらなかなかにチキンな作戦だと思うのだけれど、それでは意味がないのよね。
なにせこのバトルロワイアルという大会には、厄介なことに阿良々木くんも参加しているんだもの。
まったく、彼も彼で不幸な身の上よね。あれかしら。私とあまい一夜を過ごしたことで運を使い果たしたのかしら」
「……イマイチおまえの考えてることが見えねーんだけどよぉ。とりあえず、その阿良々木くんって、誰?」
「“Boyfriend”……いえ、これだと些か語弊があるわね。ここは率直に、“Lover”と紹介しておきましょうか」
「なに? ひょっとして俺、これからのろけ話でも聞かされんの?」
「羨ましそうな目で見ないでくれる? 嫌ね、童貞のひがみって」
「どっ……!? 美少女とか乙女とか言ってる奴がそんな言葉使っちゃいけません! 恥じらいってもんを持て!」
「あらあら、図星をつかれたからって顔をそんなに真っ赤にしちゃって。ウブね」
「……〜〜ッ!」
赤面したまま押し黙ってしまった。
本当にウブだったみたい。
「と、阿良々木くんの話だったわね。阿良々木暦。私との関係は恋人同士……他人に話すには照れるわね、これ。
まあつまりそんなわけで、私は彼と二人で、生きて元の生活に戻りたいわけなのよ。
そのためになにをするべきかは、やっぱり模索中。あの男の話では、生きて帰れるのは最大二人まで。
一人が優勝して、死んだ一人を生き返らせるという形だけれど。それって正直、気持ち悪いわよね。
生き返った人間ってどんな感じなのかしら。リビングデッドとキョンシーのどちらに近いと思う?
さすがにそこまでいってしまうと、今後阿良々木くんを愛し続けていく自信がないわ。こよみゾンビってどう?」
……あら?
長々と語っていたら、いつの間にやら上条くんの表情が変わっていた。
羞恥を表す赤ではなく、険しさを前面に押し出した、おっかない表情。
なにか、彼の逆鱗に触れるような部分でもあったのかしら。
「おいおい……ちょっと待てよ。それっておかしいだろ」
わからない。
上条くんの声が、どうしてこんなにも強張っているのか。
私には推測もできない。
「なんでおまえは、あの帝愛とかいう奴らの言ってたこと、一から十まで全部信じ込んでんだよ。
金で魔法を買った? 死んだ人間を生き返らせる? そんなもん、全部口からでまかせじゃねぇか」
「あら、なんでそんな風に思うの? 実際、魔法は私たちの周りに溢れかえっているじゃない。たとえば、それ」
私が指差したのは、路地裏の端に置かれていた上条くんのデイパック。
容量は無尽蔵、なんでも入ってしまうという、まさに魔法のアイテムのようなそれ。
四次元ポケットって機械の部類に入るんだったかしら。だとしても、これは魔法よね。間違いなく。
だというのに、上条くんは吼える。
「仮に本当だとしても、あいつらが約束を守る保障なんてどこにもねぇだろうが!
六十五人も誘拐しておいて、殺し合いで生き残ったら帰してあげますだって?
はいそうですか、なんて言ってたらあいつらの思う壺じゃねーか!
それでおまえ、もし阿良々木くんが生き返らなかったらどうするつもりだ!?」
やかましいを通り越して暑苦しい。
しかし考えさせられる。
不思議な言葉。
沈黙の間、仮定。
私が優勝して……賞金を使って阿良々木くんの復活を望んだとしましょう。
嘘だよバーカ。
私はあの人たちを殺すでしょう。
逆上して錯乱して絶望した上で自らの命を絶つ――そんな映像が容易に浮かんできた。
「おまえ、あの遠藤とかいうおっさんの演説はちゃんと最後まで見てたよな?
だったらちびっこいシスターさん、覚えてるだろ。インデックスって名前の」
私は頷く。
「あれは俺の家族だ。血縁ってわけじゃなくて、居候だけどな。
普段はあんな仰々しい喋り方をする奴じゃない。そいつらみたいに、食べて寝てが本業みたいな人畜無害の女の子だよ」
上条くんは、傍らの猫たちを視線で指す。
三匹は逃げ出すことなく、揃って私たちのやり取りを見物していた。
「それがあろうことか、人質とかいって奴らに洗脳までされてんだぞ? 信じられるかよ、そんなことする奴らの話なんて!」
「……洗脳、されてるの。あの子」
「俺がなにをやろうとしてるか、教えてやろうか!? 奴らのところに乗り込んで、インデックスを取り返す! 優勝してじゃない、別の道を探してだ!」
宣戦布告。
なんとも大胆不敵で、それでいて無防備な、男の子らしい喧嘩の売り方。
なるほど、溢れんばかりの正義感だ。
阿良々木くんと違うところがあるとすれば――彼はこんな風に、声高らかに宣言したりはしないわね。
素は熱血だけど、表面上はクールぶってるところがあるから。
「それ、具体的な方法とか計画とか、そういうのはちゃんと考えているの?」
「考えたってそう簡単に答えは出てこねぇよ。バトルロワイアルはまだ始まったばっかなんだからな」
「そう。なのにそれだけ大言壮語できるなんて、なんというか、頭蓋骨の中に脳味噌が入っているかどうか疑うわ」
右手を一瞬、スカートの中へ。
捲り上げたと彼が知覚するより先に、忍ばせていたカッターナイフをおでこに突きつける。
チキチキチキチキ……と、刃を伸ばすのに時間という時間はいらない。
「確かめてみてもいい?」
「……なにをだよ」
「脳味噌が入っているか、入っていないか」
「それがおまえの答えってわけか……!」
上条くんは悔しそうに歯軋りをする。
それでも身動きは取れなかった。セロハンテープの拘束具は、ちょっとやそっとの力じゃ千切れない。
つまり、優位は完全に私のもの。
生かすも殺すも。
決定権は、私にある。
――――――――なぁー。
ふと、そんな声が聞こえてきた。
厳密に言うと声ではなく、鳴き声だった。
手に持っていたカッターナイフが、弾き飛ばされ地面を滑る。
私と上条くんの間を縫うように、一匹の黒猫が跳躍していったのだ。
目で黒い影を追っていくと、それは三匹いた猫の内の一匹、目に黒縁のある奴だった。
「……この子はなんていう名前なのかしら」
「たしか、アーサー」
「しつけがなってないわね」
「飼い主は俺じゃないんで」
「そう。じゃあ、あなたに恨み言を言うのは筋違いね」
私は飛んでいってしまったカッターナイフを拾いにいき、これを元の位置に仕舞う。
アーサーというらしい黒猫は、そんな私の様子を嘗め回すように見ていた。
エロい猫ね。飼い主に似たのかしら。
「それにしても――必死ね」
依然、地面に這いつくばったままでいる上条くんに対して言う。
「勘違いしているようだけれど、私は一案として、阿良々木くんと一緒に帰る方法を口にしていただけよ。
なにも本気で言っていたわけじゃないのに。身の危険を感じて死に物狂いの説得を試みた……というところ?
もしも私が本気だったなら、そんなお説教はまったくもって無意味よ。
あなたは今頃、その空っぽの頭蓋を曝け出していたことでしょう」
上条くんは私を見上げる構図のまま、返す。
「……俺の頭に脳味噌が入ってないことは確定ですか」
「あたりまえでしょう。だってあなた、バカだもの」
やっぱり、阿良々木くん以外の異性とコミュニケーションを取るのって難しいわね。
離れてみてよくわかる。私が好きになったあの人のありがたみ、偉大さというものが。
だからこそ、私は強く念じる。
阿良々木くんに会いたい。
一緒に星を眺めたあれは、とてもとても素晴らしい夜だったけれど……まだ全然足りない。
恋人同士。彼氏彼女の関係。男と女。私たちにはまだ、それらしい既成事実がまったくなかった。
ああ、そうだ。戦場で盛り上がる恋。吊り橋効果。そういうのもまた、趣深くはあるわね。
見えていないものを見えている振りしたり。
見えているものを見えていない振りしたり。
そういうのは一切なし。
おかしなことはちゃんとおかしいと言う。
変な気の遣い方はお互いの迷惑だから。
経験は、経験だから。
知ってることは、知ってることだから。
意見が食い違ったら、そのときはまず話し合おう。
私と阿良々木くんの間には、そういう約束がある。
ぶっちゃけ、愛情に飢えているのよ。
イチャイチャしたりないのよ。
阿良々木くんに傍にいて欲しいのよ。
阿良々木くんと、もっと話したいのよ。
もし誰かが阿良々木くんを殺すなら、私は阿良々木くんを殺した誰かを殺すだろう。
もし私が誰かに殺されるなら、私を殺した誰かを阿良々木くんが殺すだろう。
もし阿良々木くんが私を殺した誰かを殺さなかったら、私が阿良々木くんを殺しに行く。
忍野さんには『ツンデレちゃん』だなんて呼ばれていたけれど、そんな自覚は私にはない。
萌えのなんたるかくらいは乙女の嗜みとして熟知しているけれど、私はツンデレでもヤンデレでもない。
ならなんなんだ、と質問されても私はそれに答える意思を持たない。恥ずかしいから。
一度は捨てたはずの文房具で武装して、また戦争を始めようだなんて――阿良々木くんに怒られてしまうわね、きっと。
日頃の行いには気をつけておくべきだ。
どんな環境を生きるとしても。
「だってあなた、バカだもの」
「二回言ったあ!」
上条くんには悪いけれど、私の隣に立つのはやっぱり、阿良々木くんであってほしい。
◇ ◇ ◇
両手両足を縛っていたセロハンテープは、あたりまえのごとく常備していたハサミで綺麗にカットされた。
晴れて自由の身。だというのに、俺、上条当麻の心は晴れない。
文房具女――戦場ヶ原ひたぎの言葉が胸に響く。
具体的な方法とか計画、か。
そんなもの、簡単に見つかりゃ苦労はしない。
こっちに来てから、かれこれ二時間以上が経過……収穫らしい収穫は未だゼロ。
これを収穫と見て取るかどうかにもよるが――正直、判断し切れるだけの度胸は俺にはなかった。
「さて、上条くん。『その愛しの阿良々木くんにぜってぇ会わせてやるから、俺に協力しろ!』だったかしら?」
「よくもまぁ、そんな一字一句覚えてやがりますね……」
「あれだけのこっぱずかしいセリフだもの。忘れろと言われてもなかなか忘れられないわ」
「さいですか」
戦場ヶ原はどうにか剣を、いやカッターナイフを収めてくれた。
こいつの思考はまったく、危険人物のそれだったが、とりあえずは殺し合いを否定する側に回ってくれたらしい。
そもそも最初に言ってたんだけどな。ったく、それならそうと、あんな物騒な真似するんじゃねーっての。
目処なんて、まだなにも立っちゃいない。
なにをするにしたって、先立つものは金ではなく人手だ。
俺は帝愛からインデックスを取り戻すために、戦場ヶ原ひたぎの協力を求めた。
代償として、俺はこいつの恋人である阿良々木暦を一緒に探してやることにした。
当面は二人揃って人探しと情報収集という、計画っていうほどでもない計画。
考え込みすぎて身動き取れなくなるってのもあれだし……今はまだ、こんなところだろ。
「上条くんを助けた黒縁がアーサー、三毛猫がスフィンクス、黒猫があずにゃん2号ね。なるほど、覚えたわ」
「へーへー、そいつはよかったな。こいつらも喜んでるだろうよ」
「猫の気持ちがわかるの、マゾ条くん?」
「まずは俺の名前を覚えろよ!」
三匹の猫と戯れながら、戦場ヶ原はこんな調子だ。
なにが本心でなにが表面上のことなのか、俺には読みきれない。
おっかないというか、掴みきれないというか……疲れるというか。
俺が知り合いになる女子ってのは、どうしてこう、一癖あるのが多いのかね。
「信用してあげてもいいわよ、あなたの言葉。たしかに、あの胡散臭いグラサンに比べればあなたのほうがよっぽど信頼に足るものね」
「褒め言葉として受け取っていいんだろうな、それは」
「もちろんよ、邪推しないで。考えてみれば、そうよね。私があいつらの言葉を信用するわけにはいかないのよ」
「……戦場ヶ原?」
戦場ヶ原は口元に手を当てながら、感慨にふけている。
口を開けば毒舌ばかりだが、黙っている分にはかなりの美人。
薄紅色の唇に細長い指が触れる様が、やたらと色っぽかった。
「――死んだ人間を生き返らせる……お金次第で命が助かる……そんな悪徳宗教みたいな約束、吐き気がする。
あの人のせいで嫌なことを思い出したわ。これはそうね、確かに。乗ってやるわけにはいかない――」
って、なに考えてんだ俺は。
独り言モードに入っている戦場ヶ原をこっちの世界に戻すため、声をかける。
「なあおい、戦場ヶ原」
「戦場ヶ原先輩」
「は?」
「聞けばあなた、私よりも年下だというじゃない。学校は違うけれど、敬称はしっかりすべきだわ」
「はぁ……じゃあ、戦場ヶ原先輩」
「気安く話しかけないで。不愉快だから」
バチン。
戦場ヶ原に手をはたかれた。
「……え、あの」
「ほんの少しの会話でフラグが立つとか思わないでくれる? 私、そんなに安い女じゃないの」
なんとも理不尽な言動だった。
俺、なんか悪いことしましたか?
してませんよね?
……不平を口にしようかとも思ったが、寸前で凄まれて、結局口にできない。
氷点下零度の美麗な容貌。永久凍土が広がる顔面。まるでツンドラのような彼女。
純粋な好奇心から、こんなのと付き合っているらしい阿良々木暦に一目会ってみたくなった。
「あー……こういうとき、人間ってのは癒しを求めるんだな。俺の荷物の中に入ってたのがおまえらでよかったよ。ああ」
冷たくされると、温もりを欲する。それが人間の性だ。
俺は自身の支給品である三匹の猫共を熱く抱擁してやろうと、両腕を広げて姿勢を整えるのだが、
「……両腕なんか広げてなにをやっているの? 鳥にでもなりたいのかしら?」
三匹は三匹とも、俺ではなく、なぜか戦場ヶ原のほうに付き従っていた。
「ちょっと待ておまえら! なんで俺じゃなくて、そいつについていくんだよ!?」
「猫にも選ぶ権利があるということよ。一つ勉強になったわね、上条くん」
「黒猫二匹はまだしも三毛猫! おまえ、毎日甲斐甲斐しくエサやってた上条さんの顔を忘れたのか!?」
この場で一番付き合いの長い三毛猫、スフィンクスはおすまし顔で戦場ヶ原の脚に擦り寄っている。
こいつ、こんなに人懐っこかったか? 『黒ニーソ最高ーっ!』とか言いたげな風に尻尾振りやがって、犬かおまえは!
「あ、そうそう上条くん。一応同行は認めたけれど、あんまり近寄られると咆哮癖がうつるから。半径二万キロくらいは常に離れていてね」
「宇宙まで飛び出さなきゃ無理ですよ!? っていうか俺は咆哮癖なんてわけのわからん癖は持ってねえ!」
「喚きながら言っても説得力がないわよ。不満があるなら訂正するわ。不幸がうつるから近寄らないで」
「…………」
それはマジでうつるかもしれなかった。
いや、うつらないうつらない。
ちくしょう、こいつの術中に嵌められるところだった!
「あのなぁ戦場ヶ原、この際だから言っておくが――」
協定を結ぶ以上、関係は対等であるべきだ。
俺は戦場ヶ原に一般市民としての訴えをぶつけてやろうとして――口の中に、ホッチキスを突っ込まれた。
開いた口がふさがらない。文字通りの意味で。
「もう一つ忠告しておくわ。胸ばかり見ないで。いやらしい」
教訓。
戦場ヶ原ひたぎの攻略難易度は、ベリーハードだったという話。
……「不幸だぁ――――――――っ!!」と叫びたいところだけど、叫んだらたぶん、がじゃこっ、なんだろうな。
泣ける。
【F-6北部/市街地・路地裏/1日目/黎明】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:健康、冷静
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている、スフィンクス@とある魔術の禁書目録、
アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3、確認済)
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
1:上条当麻に協力。会場内を散策しつつ阿良々木暦を探す。
2:神原は見つけた場合一緒に行動。ただし優先度は阿良々木暦と比べ低い。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(小)
[服装]:学校の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。
1:戦場ヶ原ひたぎに同行。阿良々木暦を探す。
2:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
3:壇上の子の『家族』を助けたい 。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
【スフィンクス@とある魔術の禁書目録】
路地裏に捨てられていた三毛猫。インデックスが命名、その後の世話をしている。
飼い主に負けず劣らず食欲旺盛で、上条当麻の財布に深刻な被害を与え続けている存在。
【アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
スザクとユーフェミアが租界で出会った黒猫。スザクの手を噛むのが癖。
ゼロの仮面を被って走り回るなど、アッシュフォード学園内でたびたび騒動を引き起こした。
【あずにゃん2号@けいおん!】
梓や憂の友達の純ちゃんが飼っている黒猫。
番外編において梓が純ちゃんからこれを預かり、その際勝手に「あずにゃん2号」と命名した。
以上代理投下終了
投下乙
代理投下します
『今は亡き王国の姫君』
「ロームフェラ財団による私的な処刑、という訳では無いのかしら」
それなりに大きな何処かのビルのロビー、少し固めのソファに腰を下ろしながら、リリーナ・ピースクラフトは自問した。
地球圏を実質支配するロームフェラ財団にとって、目下最大の脅威と認識されていた、リリーナの国サンクキングダム。
脅威なのは国力では無く、その理念。 『完全平和主義』というあらゆる武力の放棄と、戦争の排除を謳う思想。
死の商人の一面を持ち、現存する最大の武力組織、『OZ』を抱える財団としては、見過ごせぬ敵。
それにより財団は常にサンクキングダムを監視していた。 スキあらば解体するために。
地球連合の解体とそれに伴う戦火の拡大で、徐々に広がりつつある完全平和主義の思想。
財団の誘導により、OZの内部抗争に敗れた前総帥、通称トレーズ派の兵士が流れ込んだ際に、彼らを亡命者として遇し、それを前身とした自警組織の設立。
加えて、コロニーとの融和派であったノベンタ元帥の殺害、コロニーの武力破壊などを行った世界最大のテロリスト、
ガンダムのパイロットの存在までもが囁かれるようになり、
遂にOZによる武力侵攻を受ける事になった。
それが数日前。
サンクキングダムは既に無く、リリーナは財団に賓客という名の虜囚となった。
「ヒイロ! ……トレーズ・クシュリナーダ……それにお兄様。
それからこの二人の名前は確か……」
持たされた粗末なデイパックを探り、中身を確認する。
リリーナの見知った名前は五つ。
ガンダムパイロットであり、リリーナとも因縁浅からぬ相手、ヒイロ・ユイと、同じくデュオ・マックスウェル、張五飛。
OZの前総帥であり、財団の意向に反を唱え幽閉されたというトレーズ・クシュリナーダ。
そして、武力を用いて財団を妨害するリリーナの兄、ゼクス・マーキスことミリアルド・ピースクラフト。
特に、ヒイロとゼクスの二人はリリーナにとっては他人ではない。
無事であったという喜びと共に、この状況に対する不安がいや増す。
サンクキングダム崩壊後のヒイロの行方は知らないが、リリーナ同様に虜囚の身という可能性はある。
ミリアルドの方は宇宙にてOZにゲリラ的な攻撃を仕替けていると以前財団から聞いた。
その件に関して財団から追求の材料にされたが、ピースクラフトの名を冠する者が武力に頼るというなら、それはミリアルドでは無いと回答した為に、その後どうなったのかまでは知らない。
ただ、名簿にはゼクス・マーキスと記されているのが、若干の疑問を齎させた。
リリーナ自身、ピースクラフトではなく、育ての親であるドーリアンの姓で記されてる。
そのことに若干の疑問を抱きながらも、考えても仕方の無いことなので放棄した。
「さて、どうしましょうか」
とりあえずと電気を消してビルを出る。とりあえずはヒイロと兄を探す、トレーズに関しては面識がある程度。
あてなどある筈もないが、この何もせずにじっとしているというのはあまり彼女の性格にはあっていない。
ガンダムパイロット二人については、ほぼ面識が無いので保留するしかない。
トレーズ・クシュリナーダにしても同じ。 無理に探しても向こうがこちらをどう思うかわからない。
支給品の中には銃器の類が二つもあった。 一つはかなり実用に耐えられそうなもので、もう一つは護身か暗殺用。
ただ、それを身に付けることはしない。
リリーナの持つ意思と矜持は、それを身に付ける事を許さないからだ。
あまりにも甘い、現実を見ない少女の戯言、
というわけでは無い。
彼女は賢い、だから己の行動がもたらす結果も予想は出来ている。
一度武器を握れば、その先に対話のみでの解決は存在しない。
殺し合いの最中に電気の付いた建物にいたのも、人を呼び寄せる為。
彼女には最初から、殺しあおうという意思など存在しなかった。
コンッ
「!」
支援
と、そこで路地裏にかすかな物音を聞いて、わずかに警戒を抱く。
彼女自身には殺しあう意思などないが相手は別。
「どなたですか?」
極力平静な声で呼びかける。
相手の感情を刺激しないように、慎重な声で。
己の意思で人を殺す人間よりも、偶発的に人を殺す相手の方が危険な事もある。
「私には貴方を害する意思はありません。
どうか姿を見せてはいただけませんか?」
特にこの場合、前者の人間には話す余地はあるだろうが、怯えた後者にはその余裕すらない。
だから、後者を刺激しないように、勤めて冷静に話しかけた。
しばらく、と言っても5秒程度ではあるが、待つ。
暗い路地裏に動きはないが、明かりを灯すのは相手を刺激する可能性もあるので出来ない。
ただゴミでも崩れただけで、そこには誰もいないのかもしれない。
そう思い始めた矢先の事。
「……動かないで」
「!」
リリーナの背後。
背中に硬質の感触が押し付けられる感覚と共に、少女の声がした。
「静かにして……」
そうしなければ撃つ、と言外に込めた少女の声に従う。
殺害予告をされるのは初めてではない。 後ろからいきなりとは不躾ではあるが。
声は出さず、手をゆっくりと横に上げる。 言われた訳では無いが、こういう場合の行動は概ね決まっている。
「……右に歩いて」
少なくとも、ここですぐに殺されるという事はなさそうだ、とリリーナは判断した。
言われるままに、先ほど向かっていた方向に進む。
何度か方向を転じて、適当なビルの扉をくぐる。
先ほどのビルもそうだが、自動ドアが動く以上電気は生きているようだ。
「座って」
言われるままに腰を下ろす。
先ほどのよりも上等な感触を感じながら、まだ子供と呼べるくらいのピンク髪の少女と向き合った。
◇
「私はリリーナ・ピースクラフト。 サンクキングダムの王女です」
「サンク、キングダム?」
「ご存知ありませんか?
完全平和主義を掲げる国として世界的にニュースになったと思いますが」
「……続けて」
アーニャ・アームストレルムと名乗った口数の少ない少女に、リリーナは答える。
完全平和主義。
名前から内容は容易く理解できるが、耳を疑うような言葉だ。
だが、語るリリーナの静かな声には、その事に関する疑いは一切存在しない。
この状況下でも、その理念に一片の迷いも抱いていないようだ。
「……貴女、凄くバカ?」
リリーナの言葉を聞いたアーニャの口から、素直な感想が出た。
二つの意味で、正気とは思えない。
「どうしてそのように思われるのですか?」
「正義は、力。 立派な言葉も、力が無ければ無力」
「そうですね」
素直に首肯を返すリリーナ。
少し前に、その現実を噛み締めたばかりだ。
戦禍に晒されるサンクキングダム、自警の戦力を用意しようと、強大なOZの武力にかなう筈も無い。
そうして、サンクキングダムは崩壊したのだから。
「少し前に、同じような事を言われました。
戦禍に晒される国の最中にあって、 戦えない完全平和主義に何が出来るのかと。
絵空事に過ぎない、と」
「それが正しい」
「そうですね、だから私は、サンクキングダムの主権を放棄しました」
「……え?」
一瞬、何を言ったのかアーニャには理解出来なかった。
「サンクキングダムがOZの攻勢を受け、武器を持ち戦争しなくてはならない事になりました。
ですから私は、戦争の理由を生み出すサンクキングダムを解体、主権を放棄したのです」
当たり前のように、既に起きた事柄を告げるリリーナ。
そうするのが当然であるからそうしたと。
自分の国が争いの原因となるのなら、それは不要であると。
「…………やっぱり、バカ?」
「そう思いますか?」
「思う」
「ですが、仕方の無いことです。
完全平和主義は、いかなる理由があろうとも戦争を生み出す存在であってはならないのですから。
そうして私は、OZとその母体であるロームフェラ財団に身を預ける事にしました」
◇
はじめは誇大妄想狂かと思った。
倉庫から離れて人を探す最中で、煌々と電気を付けた建物から現れた栗色の髪の年上の少女。
投げた石の音に簡単に引っかかる所から、戦闘経験などは無いのだろう。
外見や名前の響きから欧州の辺りの人間なのだろうが、サンクキングダムなんて名前の国は聞いた事も無い。
EUに属さない、既に植民地化したエリアのどれかの話かとも思ったけどそれほど昔の話という訳でもないようだ。
何より、リリーナという少女が口にした単語。
地球圏をほぼ掌握しているというロームフェラ財団と、その配下の武力組織、OZ。
現在の世界はアーニャの仕える神聖ブリタニア帝国が、EU、中華連邦と三竦みを形成している状態だ。
それも、中華連邦は先だっての事件で混乱状況にあるし、その隙を練った攻勢によって、EUはもはや単独では膠着状態の維持も出来ない。
ブリタニアの征服を阻むものとすれば、まとまりつつある中華連邦と、弱小ではあるがその同盟者の武力組織、黒の騎士団くらいか。
けれど、リリーナの声に狂気の響きは無い。
確たる知性と、揺るがぬ意思を秘めた静かな声。
王女という生まれ持った高貴な地位、という幻想に浸れるような、強い言葉。
アーニャの知る少女に似た、それでいて彼女以上の強さを持った声。
危険だと思う。
恐ろしいとも思う。
皇帝の剣、ナイトオブラウンズの一人として、許してはならない存在だと。
だが、
「そう、わかった。 貴女は凄いバカ」
「そうかもしれませんね、でも……」
「でも、キライじゃない」
「あら、それはありがとうございます」
この少女の言葉は、ある相手を思い出す。
一時期ではあるが騎士を務めた相手。
誰よりも無力でありながら、人の事を思いやれる優しい少女。
その内に、強い意思を秘めた少女を。
「貴女の言葉が本当なら、会わせてみたい人がいる」
だから、見てみたい。
知らない国の知らない王女が、何を齎すのかを。
◇
「とりあえずここから移動。
光が漏れてたのは高い所からならわかった筈」
移動したとはいえ、付近を探索されては危険なのは変わらない。
とりあえずは暗い道を通りながら移動するしかない。
安全な陣地の存在がわからないのも辛い所だ。
「貴女のような子供まで、戦うのですね」
「それ凄く失礼。 あと王女様も子供」
ナイツオブラウンズとは、元々はナイトメアの乗り手に在らず。
今でこそ戦闘の主体が移行したために自ら剣を取る機会は無いが、本の数十年前までは、正しく騎士であったのだ。
アーニャとて、帝国貴族として、ナイツオブラウンズとして不足の無い実力を伴っている。
「私はもう王女ではありませんわ。
主権を放棄して囚われた国の首班、ただの罪人のようなものです」
「じゃあ、リリーナ様で」
別に様を付ける理由はないが、あの少女と接しているような気分になれるから。
少し困りながらも、その呼ばれ方自体にはまるで困惑してない姿は、確かに高貴な地位にあるのだろう。
「あと、一つ。 多分面白くない話がある」
リリーナの話が本当でも妄想でも、面白くない事には変わりがない。
ただ、前者であるなら、少しは嬉しさも感じられるだろうか。
【F-3/倉庫群/一日/深夜】
【リリーナ・ドーリアン@】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、万年筆型の銃(1/1)予備弾×5、AK-47(30/30)AK-47の予備マガジン×5(7.62mm弾)
[思考]
基本:完全平和主義の理念を貫き通す。
1:ヒイロとミリアルド(ゼクス)を探したい。
[備考]
※参戦時期は36話、王国(サンクキングダム)崩壊から38話、女王リリーナ誕生誕生までの間。
【F-3/北東/一日/深夜】
【アーニャ・アールストレイム@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康、記憶が途切れることへの不安
[服装]:ラウンズの正装
[装備]:ベレッタM92(15/15)、アーニャの携帯@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式、ベレッタの予備マガジン(4/4)
[思考]
基本:主催者に反抗する
0:リリーナに自分の世界との相違を告げる。
1:まずはスザクを捜す
2:リリーナの言葉に少しの興味と少しの警戒
434 : ◆00PP7oNMRY:2009/11/03(火) 00:49:34 ID:qf2LQk9s
以上です。
誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
どなたかお手すきでしたら仮投下お願いします。
※マリアンヌの思考
基本:C.C.と合流したい
[備考]
※少なくとも21話より以前からの参戦です
※マリアンヌはCの世界を通じての交信はできません
またマリアンヌの意識が表層に出ている間中、軽い頭痛が発生しているようです
※マリアンヌのギアスに対する制限は後の書き手にお任せします
【アーニャの携帯@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
アーニャが所持している携帯。
アーニャの記憶ともいえる沢山の写真データが入っている
以上です。
誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
どなたかお手すきでしたら仮投下お願いします。
投下、代理投下乙です。
実際アーニャって戦闘力はどれくらいなんだろうなぁ。
本編では生身での身体能力の描写がなかったので今後どう描かれるか楽しみです。
>>302でアーニャ・アームストレルムとなってますがアールストレイムですよね。
テスト
テスト
◆DzDv5OMx7c氏へ
氏の作品について、士朗の参戦時期とSSの内容が噛み合ってないことが議論スレで指摘されています。
具体的には、以下の一点についてです。
・士郎が干将莫邪を投影しているが、参戦時期から考えるとそもそも自分の能力の自覚すら乏しいのではないか
お手数ですが、したらば議論スレにて見解をお願いします
代理投下開始します
申し訳ありません。
まだ仮投下SSが意見待ちでした。
その後のSSを投下するのも順番が食い違うので、代理投下は中止します。
議論の決着が付いたようなので代理投下行きます
「ククク……やはり……わしは王っ……!
そう……これは……王たるものの強運っ……!」
――A−5エリア・敵のアジト内の一室……!
薄暗い部屋の中……和服の老人……兵藤和尊は不気味に嗤っていた……!
ここは殺し合いの場……喜悦を浮かべた笑みを浮かべるには……不釣合いっ……!
それはまさに……狂気っ……狂気の沙汰っ……!
あまりの現実に気が狂ったと思われてもおかしくはないっ……!
(無論……気など狂うておるはずもないっ……! 正常っ……わしは今ビックリするぐらい心が落ち着いているっ……!)
それならば……何が……いったい何がこの老人を歓喜させているのか……?
答えは……目の前にある……奇妙な形をした機械にあった……!
一見して……黒く……ごてごてとしたそれを……なんと表現すればいいのか……?
巨大なモニター……その前に置かれた黒のキーボードとマウス……そして拘束具の付いた椅子……!
それだけならば……無駄に悪趣味な装飾を散りばめたパソコンデスクと言えなくも無いっ……!
しかし……椅子のすぐ横に据え付けられた装置っ……! これがその奇妙な空気の中心点っ……!
病院にある……採血器によく似た形っ……!
だが……しかしっ……その禍々しさは……決して人命を救うために作られたものではないっ……!
そう……まるで……処刑器具のような容赦の無い残酷さが……そこにはある……!
兵藤には……どこか憶えのある……自分の作らせたことのある……幾つかの道具と同じ雰囲気……
帝愛の総帥だったころ……金の代わりを取り立てるために用意した……死の取立て道具……!
その機械には……簡潔に血のように赤い色でこう書かれていた……!
「―――“ギャンブルゲーム”……!
ククククク……やはり……わしの見立ては間違っておらんかった……!
ペリカを得る手段は……ゲーム内でも存在する……! 無論それを使う手段も……!」
(これは優位っ……圧倒的優位っ……!
なぜなら……このわしが……王たるこのわしが……賭博で負けるなどありえない……!
だとすると……他の参加者に比べて得られるペリカは……大っ……!
当然……装備や情報、そして……『魔法』っ……! それらのペリカにより得られる特典も充実っ……!
となれば……開始早々にこのギャンブルゲームを見つけられたことは……僥倖っ……!
誰よりも早く優位に立つこと……それが……勝利への道っ……!)
「さて、ゲームを始めるとするかの……!」
ゲーム開始……! そう書かれた赤いボタンがキーボードの横には置いてある……!
怪しいっ……いかにもな怪しさっ……! 何らかの罠かと躊躇しても決しておかしくはないっ……!
しかし兵藤、椅子に座り……そこに置かれた正体不明の赤いボタンを迷わず押す……!
(命はもっと粗末に扱うもの……! こんなところで躊躇していては……優勝など……夢のまた夢っ……!)
そう……兵藤は知っている……! 必要なときに命を投げ出せなかったものの末路をよく知っている……!
だからこその……この怪しいボタンの……プッシュ……!
ぱちり……!
その行動によって輝くモニター……! その明かりによって……照らされる部屋……!
同時に……両手両足に纏わりつく拘束具っ……! 肘より先しか動かなくなる……もう、後には引けないっ……!
それを……嫌でも思い浮かばせる……過剰な装飾っ……! 死のイメージ……!
ざわ……ざわ……
ざわ……ざわ……
「―――ようこそ、ギャンブルゲームへ。行われるゲームは『麻雀』となります」
年若い……未だ、少女のような言葉とともに……画面には麻雀の卓を模した映像が……映し出される……!
「それでは―――ルールの説明を行わせていただきます」
◇ ◇ ◇
―――ルール説明……!
一口に麻雀といっても様々なルールがある……! しかし……今回用いるルールは単純明快っ……!
変わらないっ……なんら通常の麻雀と変わることのないルール……!
初期持ち点25000点の半荘戦……! そのほかにもアリアリ……裏ドラなど説明されたが……特別なルールは一切なしっ……!
精々がネット麻雀等にありがちな……一手辺りの制限時間10秒という程度……
だがっ……違うのは清算の方法っ……そして……プレイヤーの選ばれ方っ……!
「なるほどの……! これが元手となるペリカを渡さないわけっ……文字通り……命を……切り売りしろと言うことか……!
悪くない……ククククク……悪くないのう……!」
点棒のレートは100点=10万ペリカとされる……が、もしもそれが支払えない場合……血液で支払うことが許される……!
その場合のレートは血液10cc=100点とされる……!
なお清算は東風戦終了時にもあり……その際に血液で支払った場合……その負け分を取り戻すまでは血液が返還される……!
またもしもゲームの途中で退席……ゲームから離れようとした場合っ……!
誰かからの指示を聞いて打った場合……! 途中でハコ……0点未満になった場合……!
その瞬間……首輪を爆破っ……! すなわち……死……!
そして、もう一つの重要なルール……! 自分以外の参加者について……!
これと同じような機械は他の施設にも設置してある……つまりっ……他の施設にいる別の参加者とのマルチプレイにも対応っ……!
面子が足りない場合は主催側から自動的に補充される……!
つまり……どういうことかというと……
「ギャンブルで……『他の参加者を殺すことが出来る』っ……!
無論……デメリット……ゲーム中は完全に無防備っ……襲われればひとたまりもない……というのもあるっ……!
自分とは同時には参加しない場合とてあるだろうっ……!
だがっ……もしも殺すことが出来れば……勝利した際に得られるペリカに加えて……恐らくあるだろうボーナス……!
それも同時に得ることが可能……! 直接的な暴力に弱く賭博に強い……まさにわしの為にあるかのようなルール……!」
まさに自分の思い通り……! 口元を歪めて不気味な笑みを浮かべる兵藤……!
「それでは時間になりましたのでゲームスタートです。
今回は『敵のアジト』さん以外のプレイヤーがいませんのでこちらから人数を補填させていただきます」
少女の声が淡々とゲームの開始を告げる……!
「今回はわしのみか……しかし……ククク……かまわん……! 今は少しでも優位を得たい場面……!
このゲームの情報をわしだけが握っていると言うのは……充分なリードっ……!」
そして……運命のゲームが始まる……!
◇ ◇ ◇
―――東風戦、終了っ……!
だがっ……しかし……圧倒的自信を持って挑んだこの局面……!
「なん……だと……」
兵藤……まさかの焼き鳥っ……一度もあがれずっ……!
のどっち :30500
ハギヨシ :29200
UNKNOWN :25500
敵のアジト:14800
(この……わしが……敗北……? どうして……どうして……!)
ぐにゃあ……! 視界が……歪む……歪むっ……!
兵藤の敗北っ……その理由は……確かに……あるっ……!
まずっ……そもそもからの間違いがあるっ……! 兵藤は帝愛グループの元総帥で……当然……ギャンブルを多く行ってきたっ……!
そして……勝利し続けてきた……! それこそが兵藤の自信の源っ……!
しかしっ……兵藤は特に確率論を学んだり……それを意識して戦っているわけでない……!
では……兵藤が優れているものは何か……?
それは……「観察眼」っ……人を見る眼であるっ……!
他人の弱い心……見え透いた欲望……! そういったものを読み取り……狡猾に利用する……!
それこそが……兵藤の常勝の理っ……!
だがっ……しかし……! これは言わばネット麻雀……! 直接対面して打ち合う訳では……当然無い……!
表情も……仕草も……息遣いも……感じられ無い……! 兵藤……そんなギャンブルは初体験……!
つまり……ここは……純粋な理論の世界……! 勝てない……勝てるわけが無い……!
王者、兵藤……しかし……ここでは……弱者っ……圧倒的弱者っ……!
兵藤……それを認めない……現実を認められない……! 当然といえば当然……!
(認められん……そんなもの……! わしは王……王なのだ……その辺りの……塵芥とは違うんですっ……!)
プライド……王だったプライドが邪魔をする……! その認識の低さも……負ける要因の一つ……!
けれども……兵藤……気付けないっ……理由が分からない……ゆえに……また負ける……! 完全な負の連鎖……!
そして……東風戦終了ということは……当然……取立て……!
「―――東風戦終了しましたので、負け分である1020万ペリカの支払いを求めます」
無情にも……少女の声が響く……! 兵藤……しかし一切のペリカを持っていない……!
ならば……血液……命を……払うしかしないのだ……!
「―――支払いがないので、血液による採取を実行します」
ずぶり……!
「…………! おおおおお……!」
思わず抵抗しそうになる体を……なんとか自制する……!
ゲームの放棄で首輪爆破……ならば……支払い拒否ならば……? 言うまでも無い……!
それに加え……
(今回の負けは……10200点……! ならば……奪われる血液は1020cc……!
2000cc前後の血液を失えば……人間は死……死に至る……! 老人る自分であれば……もっと少ないかもしれない……!
だがっ……まだこれぐらいでは死なない……死なないはずっ……! まだ逆転の機会は残っておる……!)
そういう……打算的な考えがあったため……!
だから……今は耐える……! 耐えるとき……!
やがて……血を抜き終わり……針が抜かる……!
致死量の半分以上の血を抜かれたゆえに……目眩……朦朧とする意識……!
しかし……
「耐えたっ……死なない……死ぬことはないっ……!」
(ならば……ここからが反撃っ……反撃の始まりっ……!)
「……ククク……さあ、次にいこうかの……?」
ギラギラと瞳を輝かせて……兵藤……不適に笑う……!
南風戦が……始まる……!
◇ ◇ ◇
―――南二局……兵藤、聴牌……大きい手の気配……!
結局……兵藤、南一局でも振り込んでしまい残り11200点となってしまっていた……ここはなんとしても和了りたいところ……!
(きたっ……ついに……きたっ……逆転の……機っ……!
和了ることが出来れば……三倍満……24000点……誰に当たっても……逆転……トップっ……!
先の負け分を取り戻し……どころか……儲けを得ることすら可能っ……やはり……王者としての貫禄……凡人とは違う『幸運』……!
しかし……それでは足りん……! 足らんわっ……まるでっ……! わしは……もっともっと……欲しいんじゃっ……! ペリカをっ……! ならばっ……!)
「リーチせずにはおられまいっ……!」
兵藤……ここでリーチっ……和了れば……数え役満32000点……!
43200点で終了となり……差額……1820万ペリカを得ることが出来る……!
それは人一人殺したときのボーナスと予想していた金額の18.2倍……!
輝かしい未来……進むべきはわしっ……わしこそが王っ……!
そして……期待をこめたツモ引きっ……!
がっ……兵藤……和了れず……!
「わしのような王が一発で引けぬ……理不尽が……起こってしまうのだ……ここ一発の勝負では……!」
落胆はするが……受け入れ……次に備える……!
まだまだ……手順はある……! ロンでも……もちろん構わない……!
ところがっ……他家……ベタオリ……しかもほぼ……ノータイムっ……!
これには……流石の兵藤も苦笑いっ……!
「王の手に怯える……当然と言えば当然っ……! ククク……が……愚かっ……!
逃げても……無駄っ……! わしのような王に……二度ツモらせてはいかんっ……!
ククク……二度もチャンスを与えられては……引きたくなくとも引いてしまう……!」
がっ……兵藤……和了れず……!
「なん……だと……」
驚愕っ……けれど……確率を考えれば……むしろ普通っ……! 兵藤の待ち牌は……すでになんと場に2枚……!
地獄単騎待ち……! 無理っ……そう簡単に和了れるはずもないっ……! そもそも他の誰かが握っていれば……ベタオリされた時点で終了……!
欲を……かくべきではなかった……! ここは……リーチせずにロンを待つ……または手を変える……それが正解っ……!
兵藤……痛恨のミスっ……逆転のチャンスを自ら逃す……!
そもそも……兵藤慣れていない……自分が不利な……命の危険を晒すギャンブルに……!
むしろ……それを……他人に強要する立場……! 圧倒的に上の立場だった……!
しかし……今は平等っ……! いや、どころか命をかけているのは自分だけ……?
追い詰められた弱者は少し希望を見せてやるとすぐに飛びついてくる……!
まさに……今の兵藤……! あさはかな……塵芥……凡人となんら変わりないっ……!
殺人ゲームに落とされた中で……十分すぎるほどの不幸……! そのようななかで運に頼るなど……愚かっ……!
所詮……兵藤……大詰めで弱い人間だった……ということ……! やり方を……変えられないっ……マニュアル人間……!
―――結局、流局……!
兵藤……逆転ならずっ……!
(逆転……できなかった……? どうして……どうして……? わしは……王なのに……?
このまま逆転できなければ……いや……さらに負けてしまえば……待っているのは……)
『死』
呆然と……次局へ移る……!
◇ ◇ ◇
―――終局っ……!
「―――ゲーム終了です。お疲れ様でした」
「ククク……ヒヒヒ……!」
あれから何があったのか……? 少しばかりハイライトでお届けしよう……!
南三局にて……親番『UNKNOWN』……かなり珍しい手でツモ……3200オール……!
兵藤……さらに点棒が減り……絶望的状況っ……!
終わった……だれもが……そう、考える……兵藤自身も希望を失いかけた……!
……が……次局にて奇跡が起こる……!
流局し……最終局……! もう終わったかと思われたこの状況……
『UNKNOWN』……なぜか兵藤に差し込むように危険牌をふる……!
その結果……兵藤9600点を得て……計18000点……!
のどっち :30500
ハギヨシ :26000
UNKNOWN :25500
敵のアジト:18000
結果……血液はマイナス700cc……! 300ccを返還され……死には至らない……!
兵藤……生還っ……! おめでとうっ……生還おめでとうっ……!
皮一枚つながる形になり……血液も大量に失った兵藤……が……流石に疲れと落胆の色は隠せない……!
自分がやられた場面を……思い出してしまう……どうしても……!
『ハギヨシ』……基本的にミスのない堅実打ち方だったがそれに安心していると時々混ぜられる強引な手で大きく稼いできた……
『のどっち』……まさか、プログラムだったのではないか……? ほぼ全てノータイムで打牌……まさに……残酷な天使のよう……
『UNKNOWN』……時折ありえない手で和了る以外は普通……点数もぱっとしなかった……が……ある意味最も奥底知れぬものを感じた……
「もう……賭博なんてしない……――」
そんな言葉が出るのも仕方がないことで……
支援
「―――なんて、言うわけなかろうがっ…………!」
ざわ……ざわ……
ざわ……ざわ……
「ククク……最後の和了……! あれこそ天命に愛されし帝王の証っ……! やはりわしこそが……王っ……!
かまわん……狂気の沙汰ほど面白い……! ククククク……! もっとだ……もっとギャンブルを……!」
最早……いや……最初から……この男にまともな道理などは通じないっ……!
狂ったように……強がるように……狂気に舞い堕ちた奴隷はただ一人笑い続る……!
【A-5/敵のアジト内の一室/一日/黎明】
【兵藤和尊@カイジ】
[状態]:血液700ccマイナス、精神的疲労(中)、肉体的疲労(中)
[服装]:和服
[装備]:サブマシンガン
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:優勝し帝愛グループの黒幕をギャンブルで倒し制裁、再び帝愛の総帥に戻る。
0:ククク……わしは……王っ……!
1:ペリカで魔法が買えるのではないか?殺し合いよりペリカ集めを重視。
2:ペリカ集めのためにギャンブルを積極的に行う
3:ギャンブルをおこなうためにギャンブル船へ行く……?
4:ペリカ集めの為弱い人間から殺す。
[備考]
『のどっち』を運営側の用意したプログラムでないかと予想しています。
【ギャンブルゲーム(麻雀)について】
基本的なるルールは一般の麻雀と変わらりません。
・初期持ち点25000点
・半荘戦
その他のローカルルールについては、よほど特殊なものがない以外は特に制限はないので後の書き手に任せます。
またバトルロワイヤルならではのルールとして
・幾つかかの施設にこのようなギャンブルゲームの機械がおいてあります。マルチプレイ対応。
・だれかがハコになった時点で終了。ハコになればどれだけペリカがあっても首輪は爆破されます
・運営の用意した人物にはハンドルネームが設定されていますが、参加者は場所名しか出ません
・ゲームの途中で退席は出来ません。もし行おうとした場合は首輪が爆破されます。
・また周囲からの指示を聞いて打つという行為も禁止されます。その場合も首輪が爆破されます。
・点数の清算は100点=10万ペリカとなります。またペリカを払わず血液での支払いも可能でその場合は100点につき10ccとなります。
なお、午前一時から三時間ごとに一回ゲームが開始されます。二時間半たっても決着がついていない場合はその時行っている回の終了をもって清算に入ります。
ゲーム開始時刻までにエントリーがそろわなければ主催者の用意した代理が入ります。
・のどっち、ハギヨシ、UNKNOWNは『人質』『協力者』『運営の用意したプログラム』のどれかかもしれませんし、どれでもないかもしれません。後の書き手にお任せします。
444 名前: ◆1aw4LHSuEI[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 01:08:16 ID:S1iKy1Mc
タイトルは「どうしようもないわしに光の天使が降りてきたからもう賭博なんてしない」です
一つ目代理投下終了、もう少し行きます
・・・・・・それで、その後僕は遺跡の探索を始めました。
怖くはなかったかですか。
そりゃあ全然平気ってわけじゃありませんでしたよ。
真っ暗闇だし、明かりになるのは渡された懐中電灯くらいしかありませんでしたから。
でも、だからって臆病になってる場合じゃなかった。
式や浅上藤乃がどこにいるかも分からないのに、僕だけ何もしないでいるわけにはいきませんから。
こういう細かい調査なんかは式には向かないですし。
とにかく、手探りでも動くことが重要じゃないですか。移動すれば、調査しながらでも知り合いを探すこともできますし。
もちろん、危ない人に会ってしまう可能性もあったので、そういう橙子は慎重になりましたけど。
喧嘩はあまり得意じゃないですから。あまりというか、全然。
でも、それならそれで別の方向から役に立つこともできますからね。
調べものが好き、ですか。
どう、かな。
あまり好き嫌いを意識したことはないですね。
ただ、調べるなら最後まで、とは思ってるかな。中途半端になっちゃうのは嫌なんで。
得意かどうかは。これも良く分からないな。自分では普通にしているつもりなんですけどね。
ついこの前、あるマンションについて調べたことがあったんですけど、そのときは探偵になることを勧められました。
自分では全然満足行く調査じゃなかったですけど。橙子さんもどこまで本気か分からなかったし。
橙子さんというのは僕が働いてる会社の上司です。一応雇い主ということになるのかな。
本人は会社というより、工房みたいな呼び方をすることが多いですけど。
まぁ他に社員はいませんし、会社というより橙子さん個人の作業所みたいなものです。
何でも高名な人形師で、魔術師でもあるそうなんですが、具体的にどれくらい凄いかまでは僕には分かりません。
ああ、でも。
橙子さんの作る人形は本当に一流だと思います。
ええ。
橙子さんの人形の展覧会をたまたま見る機会があって、それがきっかけになりましたからね。橙子さんの所に転がり込む。
そう言えば、そのときもかなり驚いてました。
何でも橙子さんの事務所には人を寄せ付けない結界みたいなのが張ってあって、にも関わらずそこにたどり着いた僕はかなり特異なんだとか。
そんな凄いことをしたつもりはないんですけどね。
僕としては。
支援
次ですか。
分かりました。
遺跡と言っても、入ってみると実際はほとんど洞窟みたいな感じでした。
僕はてっきりアンコールワットやハラッパーみたいな大規模なものかと思ったので、そこは少しイメージと違ってたな。
まぁ、この本によるとどこかから移築したものらしいですし、だとすると都市遺跡みたいな巨大なものじゃないのはむしろ当然なのか。
どうも、まだ落ち着いてない部分があったみたいです、僕自身。
中はそれ程長くはなかったですね。一番奥まで行くと、石造りの大きな扉みたいなものがありました。
というか、それしかなかったんです。
はい。
途中の壁は懐中電灯で全部照らしながら歩きましたから。
ごつごつした石壁の他は、何もないことは確認しました。
扉は開きませんでした。
そもそも僕一人の力で開けられる大きさじゃなかったんですけど・・・・・・そういうのとはちょっと違うな。
元々開けられるように作ってなかったというか。
もしかしたら、扉自体はただの飾りで、儀式場みたいな意味合いだったのかも知れません。それこそ橙子さんの分野ですけどね。
それと、扉には変わった模様が彫られてました。これがそのスケッチです。
ええ。
一応必要かと思って。
これも真っ暗な中書いたので、あまり正確に写せなかったのが残念ですけど。
その本に書いてあった思考エレベータって言うものが何なのかまでは、ちょっと分かりませんでした。
遺跡についてはそれくらいです。
結局、大したことは分かりませんでした。
残念です。
ええ。
はい。
隠し扉はですね。
見つけられてよかったと思いますね、ほんと。
あのまま孤島で立ち往生せずに済みましたから。
ボートはありましたけど、うまく扱えるか不安でしたし。
場所はですね。
洞窟の遺跡部分のすぐ近くです。扉に向かって左側。
ええ。そこ、岩の模様とかの関係で目の錯覚を起こすようになってるらしくて。
一見すると行き止まりにしか見えないですけど、実は続きの通路があるんです。
で、その奥に行くと、これもすぐ行き止まりになっちゃうんですけど。
その突き当たり部分の壁にですね。ええ、そうです。壁に紛れて分かりにくくなってましたけど、スイッチになってる部分があって。
たぶんどこかから引っ張る仕掛けになってるんでしょうね。
突き当たりの壁がこう、ずれるような感じになって、地下に続く階段が現れました。
ほんと、何の映画だよと思いました。
映画みたいにすぐに見つけられたことは、助かったんですけど。
必死でしたから。僕なりに。
後は、そうですね。地下道は洞窟よりさらに狭くて困りましたけど、特に気になるところはなかったかな。
地図からすると水脈の下を通ってることは間違いないのに、ほとんど浸水が見られないのが不思議だったくらいですね。
どういう技術を使ってるんだろうな、あれは。
それ以外は別に。はい。新たな隠し通路なんて物もなく。
一本道です。勾配が上がってきたなと思ったら、すぐに出口になりました。
それがその出口ですね。外側に取っ手みたいなものはないから、何か噛ませとかないと開けられなくなるんじゃないかな。
もしかしたら、こっちにもスイッチみたいなのがあるのかも知れないですけど。
驚きましたよ。それは。
暗くて狭い通路をやっと抜けられたと思って息を吸ったら。
いきなり象とご対面ですからね。
これが地図で言う「象の像」なんでしょうね。
ええ。それはもう。疑う余地のないくらいそのまんまですよね。
何なんでしょうね、これ。
十メートル以上ありますよ。
外国では物事を始めるときに象に成功を祈願するところもあるって。これも橙子さんの受け売りですけど。
そういうものなんだろうか、これも。
この殺し合いの成功を祈って、とか。
我ながら最悪ですね。
とりあえず、僕からは以上です。
この場所にきてからのことは全部喋りました。
こんなところでいいですか、キャスターさん。
◇
几帳面なまでに区画整理された幅広の道路は、持つべき役割を忘れ去ったかのように静まり返っていた。ときおり吹き付ける風が、がらんとした寂しさを煽り立てる。
幾本も聳え立つ煙突は、死んだようにその脈動を止めてしまった。
工業地帯の一角である。場違いに聳える四足の象の像が、息を潜めるように台座の上に佇んでいる。
人気はない。
無音の街にそれ以上の喧騒をもたらすことなく、キャスターは無音のままそれまで操っていた魔術の手を止めた。
翳されていた腕が優雅な弧を描きながら下がり、ローブの裾を揺らす。夜に溶け込む濃紺の装束に身を包んだキャスターの他には、少年と思しき一つ分の人影しか見ることはできなかった。
黒桐幹也という少年に求めていた情報は、これで全て引き出しきったようだ。
キャスターがそうあれと命じただけで、まだ幼さの抜けきらない少年は意思の抜けた力ない表情のままいつまでもたち続けている。
力強く前を向いていた瞳も、キャスター自身がそう望まない限り、光沢を取り戻すことはない。
相手の意志を奪い、こちらの思うままに喋らせる洗脳魔術の一種である。キャスターにとっては赤子の手を捻るより容易い、初歩の技だ。
暗示はまだ完全には解除せず、ひとまず黙らせるに留める。
キャスターが、当初予定してなかった「象の像」などという珍妙なモニュメントの前に留まっているのには理由があった。
黒桐が語ったのと同じものは、実はキャスターもほんの数十分前にその目で確認している。
「死者の眠る場所」、「神様に祈る場所」、「遺跡」。神殿建設のための三つの候補地の中で、まず訪れたのが、黒桐が探索したのと同じ遺跡だった。
だからこそ、キャスターはこの少年の調査能力が尋常でないことが分かる。
遺跡の奥に隠された地下通路の発見は、本人が口にするほど簡単な仕事ではない。
少なくとも、懐中電灯などという脆弱な力とは比べものにならない魔術の炎を燦々と輝かせていたにも関わらず、キャスターは発見することができなかった。
陣地形成に長けているからと言って物探しが得意というわけではないが、地形を見る能力には長けている。作った側が、通路を本気で隠すつもりだったことは間違いない。
事実、特に不審な点を発見できなかったキャスターは遺跡が霊地としては使いものにならないことだけを確認すると、さっさとその場を後にしてしまったのだ。
黒桐幹也を発見したのはその後だ。次の候補地へ向かう途上、突如眼下に現れた奇妙な造形物に目を取られたのが幸いした。
象の像とは大きいだけの何とも悪趣味な置物だが、それだけにその中から現れた人物の素性には興味を惹かれる。
視界を遮るように空から降り立ち、術を掛けるのは一瞬で済んだ。
魔術抵抗どころか、喧嘩さえもろくにしたことがなかったという少年だ。命を奪うことさえ、何の労も必要なかっただろう。
実際、少し情報を引き出したらさっさと殺してしまうつもりでいた。だが、今は少し考えが変わっている。
しなやかな美しさに飾られた細い指を、形のよい唇に差しあてる。
キャスターは思案していた。この少年は、望外の拾いものになるかも知れない。
恐怖に潰されることなく洞窟の内壁を逐一チェックしていたこと。
一応などと控えめな言葉で渡された扉のスケッチが、キャスターの見たものと寸分違わぬ精巧さを持っていたこと。
そして何より、魔術師の秘した工房に独力だけで辿りついたことだ。
現代の魔術師の操る技などキャスターにすれば遍く児戯に過ぎないが、ただの少年が何の神秘も持たずに突破できる程落ちぶれたわけではないことも知っている。
(「探すもの」としての手腕は一流と言ったところかしら。「像」への考察に関しては、ちょっと頂けないけれど)
この会場を用意したのは間違いなく魔術師だ。
ならば、たとえこの像が彼の言う通りの意味を持たされているのだとしても、こんな分かりやすい形で示すことはあり得ない。
魔術は秘すべきものだ。時代をいくら経ようと、たとえ少女のおまじないレベルの呪術であってもこの常識だけは変わることはない。
だが、無知であることは些細な問題だった。
むしろ、基礎の魔術知識さえ持っていないにも関わらず、独力で神秘を凌駕するその調査能力がキャスターの琴線をより強く震わせる。
会場の調査を手伝わせるとしたら、恐らくこの少年は誰より有用な力を発揮するだろう。陣地形成後、キャスターに代わって動く手足にもなる。
仮に戦いとなれば何の役にも立たないが、贅沢を言うよりここは殺し易いことをむしろメリットと捉えるべきだろう。
「あれ・・・・・・どうしたんですか、キャスターさん。こんな所で休んじゃって」
少年の日本人らしい真っ黒な目に光が戻る。口調もきつくはないが、それでいて強い意志に裏打ちされた彼本来のものだ。
少年を連れて行くことに決めたキャスターはローブの下で薄く笑う。顔の大部分を覆い隠すそれは、彼女の艶やかな笑みを一層深いものにしていた。
「早く次の候補地に行きましょうよ。陣地っていうのを作らないと行けないんでしょう」
少年の意思は、ほぼ元のまま保たれている。完全に傀儡としてしまっては、肝心の能力まで奪うことになってしまう。
魔術の影響は最小限に、ただ『自主的にキャスターに賛同し、従っているかのように』術を施す。
思わぬ形で手駒が入った。子をあやす母親の余裕を持って、キャスターは術中の少年を招き入れる。
獲物を内に、翅を広げた神代の蝶は、風によらぬ力で夜空に再び舞い上がった。このまま、予定通り次の候補地へと赴こう。
黒桐から取り上げたガイドブックとやらの記述は参考程度にしかならないが、少なくともマイナス材料にはならない。遺跡の記述などは有意義だった。
見た目や立地に反して遺跡に霊地としての機能が薄いことが不思議だったが、元の地脈から切り離されたというなら頷ける。
孤ではなくなった陰影が浸食するに闇を縫う。
その視界を遮るように物言わぬ巨体が掠め、すぐに消えた。
とある神話では世界をその背で支えるとも言われる、白亜の巨象。
柳洞寺、キャスターが本拠としていた地で聞いた話だ。
その地で信奉されていた宗教の開祖として崇められていた聖人は、その誕生に際しとある伝説を生み出したという。
曰く、彼の者の母は六本牙の白象を夢に感得し、そして彼の者を身ごもったと。
(聖人の化身、ね・・・・・・)
縫い付けたかのように動かない夜の帳に泳ぎながら、キャスターは思った。
そんな物騒なものを胎に持つこの世界は、一体なにを産み出すのだろう。
【E-3/象の像近辺/一日目/黎明】
【キャスター@Fate/stay night】
[状態]:健康、魔力消費(微)
[服装]:魔女のローブ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3個(確認済み) 、バトルロワイアル観光ガイド
[思考]
基本:優勝し、葛木宗一郎の元へ生還する
1:奸計、策謀を尽くし、優勝を最優先に行動する
2:『神様に祈る場所』『使者の眠る場所』のどちらかに赴き、可能なら神殿とする
3:会場に掛けられた魔術を解き明かす
4:相性の悪い他サーヴァント(セイバー、アーチャー、ライダー、バーサーカー)との直接戦闘は極力避ける。
[備考]
※18話「決戦」より参戦。
【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:健康 、キャスターの洗脳下
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
以下の思考はキャスターの洗脳によるもの。
1: キャスターに協力する。
※参戦時期は第三章「痛覚残留」終了後です。
代理投下終了、これ以上はサル規制になりそうなので自分はここまで
代理投下続き行きます
「……ふぅ……やっと着いた」
ふうと少し疲れた様に少女――福路美穂子――が息を吐いた。
額に浮かぶ汗を拭いながら目の前の目的地を眺める。
それは美穂子が予想したよりも簡素な建物だった。
線路とホーム、それと入り口と売店ぐらいしかない一階建ての建物、駅だった。
掲げられた看板には小さくF-5と書かれている。
「電車はまだ着てない……みたいね」
線路には電車は無くホームもどうやら無人のようだった。
美穂子は駅周辺の安全を確認して、一息を着く。
金のショートボブを整えながら、駅の周りを見始めた。
美穂子がざっと見た所、外見は何処にでもある地方の小さな駅と変わりはしない。
周辺の発展具合から比べると、若干不釣合いな気がする程度だった。
美穂子自身、もう少し大きな路線が幾つかあるような駅を想像していたのだがそれは見当違いだったようだ。
別にそれぐらいの考えはいいかと思いながら、人が誰も居なかった事に少し残念な気分になってしまう。
積極的に誰かに会いたかったと言う訳でもない。
勿論会えればいいなとは思っていたが、それが殺し合いを肯定した者だと困ってしまう。
美穂子自身は先ほどの少女のように戦える術など持っていないのだから。
美穂子が願うのは殺し合いに乗らない自分のような者との接触で、殺し合いを打破するには協力者が必要なのだから。
その為にも頼りになる人が欲しい。
(無いものねだり……かな)
無いものをねだっているのかなと美穂子はつい苦笑いを浮かべてしまう。
先ほど痛感した事、それは自身が戦闘では無力な人間でしかない事。
例え、機転を尽かし、その場の流れを見る事が出来ても襲い掛かられて身を護る術はない。
あの時、少女が退かず襲う事を続けていたのならば勝ち目は無かっただろう。
殺されていたかもしれない。
そう思うと、ぞっとしてしまった。
もしまたそうなった時、護ってくれる人がいたらなぁと思ってしまう。
そんな都合のいい事、ありはしないとは思いながらも。
「でも……だからこそ」
そっと担いでいるものと佩びているものを見る。
担いでるのは一丁のリボルバー。
佩びてるのは小さめの対になっている2本の忍者刀。
リボルバーを入れるバックは最初から一緒についていて、刀を差すベルトは展示場内から拝借した。
この二つは身を護る道具、そして人を殺す道具にもなる。
その二つの武器をみて苦笑いを浮かべながら美穂子はこう呟く。
「……重いなぁ」
それは勿論、単純な重みでは無くて。
武器を持つという意味の重さだった。
無論、美穂子は刀を剣術者の様に扱えるわけが無く、銃も上手く撃てるわけではないだろう。
だが、刀を喉に突き刺せば人は死ぬ。
だが、銃弾が頭に当たれば人は死ぬ。
そう、人を殺せる。
なんて、それは重いんだろう。
そんなものを美穂子は持っている。
人を殺せる道具をだ。
これではまるで殺し合いを美穂子自身が受け入れている様に思ってしまう。
「……だけど、違う」
だけど、違う。
美穂子はそんなものを受け入れていない。
この2つの武器は人を殺す道具だろう。
その事実を捉えて重いと思う。
でも、だからこそ。
「私は殺さない」
だからこそ、美穂子は殺さない。
そう言い切ってみせる。
人を殺せる道具を持つ重みを感じて。
その重みを感じてるからこそ、人を殺さない。
命を奪う重みを感じるからこそ、人を殺さない。
その重みを感じて、美穂子は生きる。
重みを知る人間なら、殺さないことが出来る。
そう美穂子は思ったから。
命を奪う道具の重みを知るからこそ、殺すという選択肢を選ぶ事をしないだろうと思えるから。
だから、美穂子はあえてこの道具を持つ。
人の命を奪えるという重みを感じながら、それでも殺さないと言い続けられるように。
「誰が」
美穂子は思う。
こんな作られた殺し合いに。
こんな凄惨な命の奪いあいに。
「乗ってやるもんか。乗ってやるもんですか」
誰が乗ってやるものか。
誰が言われた通りに殺してやるものか。
意地でも乗らない、乗ってやらない。
皆、皆で脱出してみせる。
そう、強く言えるように。
あの、少女に出会って美穂子は思った。
自分にはきっと殺し合いなんて無理だと。
人を傷つける行為がどんなにも冷たく怖いものだと知ったから。
それを誰かに行う事はどんな残酷な事だろう。
また、自身がそれを行う事なんて、とても怖いものだろう。
そんな冷たい事をする勇気など、美穂子には持てなかった。
あの少女はきっとこんな美穂子を笑うだろう。
だけど、それでいい。
これがいい。
そう、美穂子は強く思ったから。
美穂子は笑い、気合を入れる為に軽く頬を叩く。
その痛みが、何処か温かくてまた笑ってしまう。
「……とはいえ、やっぱり使いたくないものは使いたくないな」
美穂子はそっと刀をもう一度確認する。
見ると、その刀の鍔と鞘が紐で結ばれて抜けなくなっている。
それは美穂子が施したもの。
使いたくないものは使いたくない。
その意志を確固たるものにする為に戒めをした。
自身が危険になるが、それでもだ。
いざとなったら鞘で殴ればいい。
そんな物騒な事を考えつつ後ろのリボルバーの事も考える。
「……弾一つだったなぁ」
そのリボルバーは不思議な事に弾が一つしか入っていなくて。
予備になる弾無く不思議だった。
それでも使いたくなかったからそれでいいと思う。
だけど、美穂子はもしと思う。
もし、この唯一の弾を使うとなったらそれはいつなんだろうと。
それは大切な後輩、池田華菜を護る時?
それとも、自身の身を護る時?
答えは出ず、困ってしまう。
それに、自分には悔しいけど誰かを護る力なんて無い。
そんな自分が池田を護れるといえるのだろうか?
答えは出なかった。
(ひょっとして……)
護る力がほしいのかなと美穂子は思う。
でも、それは同時に殺す力にもなりえて。
自分で考えて、考えた事に後悔しそうになってしまった。
でも、護りたいのは確かなのだ。
じゃあどうすればいい。
そう思って、迷い、そして美穂子は頭を振る。
「……考えても仕方ない」
考えても仕方ない。
そう、美穂子は思って前にある駅に入っていこうとする。
そういえば、無賃乗車なのかなと思いながらホームに向かおうとした時だった。
「まったっ! 其処の奥方!」
振り返る美穂子。
美穂子を止めた声の持ち主。
それは特攻服を着たオールバックの男の人。
見た瞬間、美穂子が思った事は
「……えっと、御免なさい」
「……はっ?」
明らかに危ない職業だと。
そう思った瞬間、何故か謝らずに居られなかった。
その男は呆気に取られ、美穂子を見つめていた。
それが、美穂子と『竜の右目』片倉小十郎との出会いだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「福路殿、驚かして済まなかった」
「いえいえ、気にしないでください」
駅のホームのベンチ座る、男女二人。
男は竜の右目、片倉小十郎。
女は風越キャプテン、福路美穂子だった。
美穂子の誤解も解け、今は二人仲良くベンチに座っている。
簡単な自己紹介を済ませ美穂子は小十郎が自分を見つけた経緯を聞きはじめた。
「まさか政宗様が……」
それによると小十郎はサーシェスと呼ばれる人物と一戦交えた後、名簿を確認したらしい。
書かれていた名前に小十郎は驚愕した。
伊達政宗。
伊達軍君主、そして己が主人であった名前だった。
その名前を見たが小十郎の行動は早い。
小十郎の目的に政宗との合流が加わったのだ。
頼りになる反面、しかしやはり心配な所がある。
政宗が簡単に討ち取られるとは小十郎は思ってもいないがここは戦場である。
何時、如何な時に不意打ちされるかわからない。
もし、政宗を失ってしまえば伊達軍は崩壊である。
だからこそ、小十郎は思う。
「何としてでも、守り通さねばっ……!!」
守り通さなければならないと。
それが竜の右目である小十郎の使命でもあるのだから。
志を新たに掲げ、小十郎は燃えていた。
(政宗……まさか)
その脇で美穂子はただ驚いていた。
小十郎が伊達政宗の部下を名乗った時、驚いたがどうやらそれは本当らしい。
彼の言葉、反応を見るとそれが嘘のようにも見えないのだ。
しかも、現代的なものに何か驚いていた。
他にも織田信長、明智光秀と見知った名前も名簿にある。
(……本当の……武将?)
そして、思ってしまう。
本当の歴史上の人物かと。
小十郎にいたっても気になるのは服装だけだ。
彼の考え、話を聞くとものすごく現実味があるのだ。
だから、惑い戸惑ってしまう。
(だけど……)
だが、それだけの違いでしかない。
普通の人なのだ。
だから、美穂子は普通に話していけると思った。
そう思って、気になる事を聞く。
「やはり、伊達という人が気になりますか?」
「ええ。大切な御方なもので……」
「……そうですか」
「福路殿にもそのような御方が?」
「ええ……大切な後輩が」
美穂子は思う。
彼もそう、守り通したい人が居る。
誰にだってそんな人が。
護りたいと思う気持ちはきっと当然なのだろう。
「片倉さんは強いんですね……そんな危険なサーシェスという人と戦い渡るなんて」
「いえ……お恥ずかしい事に取り逃してしまいした」
面目なさそうに頭に手を当てて呟く小十郎。
でも、美穂子はそんな小十郎を見て真剣に言う。
「いえ、凄いです。戦えるなんて」
「そんな事は……」
「凄いです……私は大切な人を護る事すらできない……」
そう、美穂子は思ってしまう。
自分に力が無い事を。
大切なものを護る力すら無い。
それが、段々悔しくなってたまらなくなって。
悔しくて、悔しくて。
「私は……無力です……華菜ちゃんを……護る事すら出来ない」
涙が溢れてくる。
今、この時だって華菜は襲われているかも知れない。
なのに自分は小十郎のように戦う力もない。
護りたいという意志はあってもそれを行動に移す力がない。
それが悔しくて。
それが悲しくて。
溢れる涙が止まらなかった。
「護りたい……でも、護れない……」
声が震えて。
実感していく。
自分の弱さを。
こんなにも簡単に涙が出てきて。
こんなのじゃ駄目なのに。
そう思っているのに。
涙が止まらなかった。
「泣かねぇでください」
その時だった。
優しい男の声が響いたのは。
美穂子が振り向くと小十郎の優しい顔。
「……この、伊達小十郎、何なら福路殿と福路殿の大切な者も護りましょう」
また、そう告げた。
外見に似合わない優しい言葉を。
美穂子にかけている。
美穂子は驚き戸惑いながらも言葉を発する。
「い、いえ……片倉さんにも護らないといけない人がいるでしょう? 私なんかにかまけてる暇は……」
「確かに政宗様は大切な御方です……ですが」
「……ですが?」
「流石に泣いている奥方を無視できるほど俺はなっちゃいません」
「……で、でも」
美穂子が戸惑い迷いながらも言葉を捜そうとする。
小十郎の手を煩わせてはいけない。
そう、思いながら言葉を捜そうとしたとき小十郎は告げる。
「それに、力無き者達を護るのも俺達の役目です。福路殿。ですから、安心なさってください」
護ると。
それが自分の役目。
武将である片倉小十郎の使命でもあったのだから。
美穂子はその言葉を告げられて。
ボロッと大きな涙の粒を流して。
そして小十郎の手を取って。
「お願いします……華菜ちゃんを護る手助けをしてくださいっ……護る為の力を……貸してくださいっ!」
小十郎にお願いをする。
それは本心からの願いで。
小十郎は真面目に、心を籠めて言葉を返す。
「承知しました」
「……ありがとうございます……ありがとうございますっ……!」
そして、また、美穂子は泣き出して。
ぼろぼろに涙を沢山流して。
そして
彼女は護る力を手に入れたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「片倉さんお茶です」
「かたじけない」
美穂子達はあの後、今後の方針を決めた。
とりあえずは当初の予定通り工業地帯に行く事にした。
今は駅に居るがダイヤを確認して、そして徒歩と電車どちらで向かうか判断するかを決めるつもりである。
だが、今は少し休憩を。
売店からペットボトルお茶を持ってきて飲む事にした。
美穂子は売り物を取る事に少し罪悪感を感じたがこの際仕方ないと思い蓋を開け飲み始める。
「……福路殿」
「はい?」
目の前にはペットボトルを持って真剣に悩む小十郎。
何を悩んでいるのだろうと思ったときに告げられる事実。
それは
「……どうやって飲むのだろうか……?」
飲み方がさっぱり解らないという事。
「……ああ」
そういえば、戦国時代の人だなぁと思い出して。
くすっと美穂子は笑って。
「これはですね……」
何か後輩に物事を教えるようだなぁと思って。
かすかに微笑んだのだった。
【F-5/駅ホーム/1日目/黎明】
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:健康、冷静
[服装]:学校の制服
[装備]:風魔小太郎の忍者刀@戦国BASARA、ウェンディのリボルバー(残弾1)@ガン×ソード、ペットボトルお茶
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜1)(確認済み)
[思考]
基本:池田華菜を探して保護。人は殺さない
1:ダイヤを確認して、電車か徒歩で小十郎と共に工場地帯に向かう。
2:小十郎と行動。
3:上埜さん(竹井久)を探す。みんなが無事に帰れる方法は無いか考える
4:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※忍者刀には紐で鞘と鍔が結ばれて抜けません
【片倉小十郎@戦国BASARA】
[状態]:頭部と腹部に打撲の痣。
[服装]:戦支度
[装備]:六爪@戦国BASARA、ペットボトルのお茶
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2個(未確認)
[思考]
1:美穂子と行動、美穂子を護る
2:政宗と合流する。
3:アリー・アル・サーシェスを必ず倒す
4:殺し合いを開いている帝愛とやらをぶっ潰す
5:帝愛打倒の為の仲間を探す。
[補足]
※名簿を確認して、真田幸村、織田信長、明智光秀、本田忠勝に気付いているか不明です。
※第11話、明智光秀との一騎打ちに臨んだ直後からの参戦です。
【風魔小太郎の忍者刀】
小太郎が使っていた対になっている2本の忍者刀。白と黒で対になっている。
【ウェンディのリボルバー@ガン×ソード】
ウェンディが持っているリボルバー。残弾が一つしかない。
もとは兄のミハエルの所有物。
リボルバーを入れる袋とセットになっていた。
465 名前:涙――tears―― ◆DXXMkAYDjo[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 04:08:40 ID:Ijs7Ea/A
以上で投下終わります。
代理投下終了、もう一つ行きます
ショッピングセンターを目指して南下していた海原光貴は、進路方向の上空に人影を見つけた。
それも二人分。変則的な軌道で飛び回っている。
暗くて良くは見えないが、どうやら飛べる方が飛べない方を振り落としたようだ。
続く急降下と、
――ォォォォン
ほんの少し遅れて地響きが伝わる。
「さっそく始めているのですか。殺し合いがこんなに簡単に行われているなんて、御坂さんは大丈夫でしょうか」
海原は思わずため息を漏らした。
(いや、自分なんかよりも彼女はよっぽど強いですし、いくら心配したところで彼女にとっては迷惑なだけでしょう。)
――それでも、彼は彼女の身を案じずにはいられない。
海原はもう走り出している。
殺し合いに乗っている危険人物は排除しなくてはならない。ショッピングセンターは目と鼻の先だが、悠長に買い物している場合ではなかった。
◇
E-1エリアは最初に海原が飛ばされた岬を最高になだらかな傾斜があり、F-1エリアよりも少しだけ高い丘である。
地図にある橋が、ただの橋ではなくてつり橋だったのもそのせいだ。
この島では基本的jに火山のある方角から海に向かって高低差があると思って良いだろう。
幸運なことに、海原はさほど近づくまでもなく戦闘現場を見渡すことができた。
もちろん、周囲が薙ぎ倒されて開けた場所になったのと、何よりも人物の縮尺のおかげだったが。
そして。
海原の出番がくるまでもなく、じきに戦闘は終了した。
破壊の嵐が吹き荒れた戦場に立つのは1人だけ。
一方は、南東の海上へと撤退していく。
他方は、飛び去る敵に向かって吼え続けている。
海原はブレザーの下に納めた拳銃を強く握り締めていた。
手のひらがじっとりと汗で濡れている。
残る巨人はこちらに気がついていない。
無防備な背を向けて、未だ海上の敵と睨み合っている。
――行くなら、今しかない。
支援
◇
結局のところ。
海原は踵を返して、見つかる前に離脱する他なかった。
今は、ただひたすらに走りつづけている。
◇
「ショッピングセンターでの戦力補強はもうダメですね。
地形を考えても、巨人は自然と近いそこへ向かってくるだろうし、あの広い空間で目的の物を探すのは時間がかかります」
探しているうちに遭遇する訳にはいかない。
少なくとも、彼に対抗し得る武器が手に入るまでは。
「それに、刃物とロープならば別にショッピングセンターでなくとも手に入りますしね」
走りながら探していたものを、手ごろなアパートの一階で見つけると、海原はすかさずベランダに飛び込む。
街中同様に、部屋の中にも人はいない。
ベランダに架かっていた長さ5m程の洗濯ロープを二本、ついでに干してあったタオルを数枚回収する。
そのまま窓から侵入。乱雑で狭い部屋を抜けて、キッチンへと辿り着く。
こちらもすぐ見つかった。
特別よく切れるわけではない、ありきたりな包丁。だが、それでも十分。
鞘は無かったので、柄ごとタオルを巻いてズボンのポケットへ仕舞い込む。
これで、とりあえずの準備は出来たと言えよう。
一息ついたところで先の光景を思い出す。
「それにしても……あれが聖人というものなのでしょうか。 ヒトという枠を大きく逸脱しています。
もう一方は学園都市製の駆動鎧……? それもサイズが桁外れな上、見たこともないタイプですが」
まさに巨人。それより更に頭一つ分大きな方は、フォルムも相まってもはやちょっとしたSFロボットの領域だ。
実際のところ、海原が目撃できたのは戦闘終了間際のほんの僅かにすぎない。
しかし、彼らと周囲の禍々しい痕を見ただけで、十分だった。
武器は手持ちの拳銃だけ、それであの距離ではどうにもならない。
彼らを仕留めるには遠距離からロケットや機関砲を叩き込むしかないだろう。
「殺し合いに乗った危険人物の排除、ですか」
自分の甘さを痛感する。
拳銃なんて物がまるで役に立たない参加者が、現に二人も、こうして暴れまわっている……!
自分の理解を超えた参加者は、きっとまだ大勢いるのだろう。
「やはり、最優先であの魔術を使えるように動くべきでしたね」
今は使えないが、海原には彼らを倒し得る術がある。
例えば、ある魔術師が「水性インクでルーンを刻んだカード」を用いて『魔女狩りの王』を使役するように。
海原光貴は「黒曜石のナイフ」を使って『トラウィスカルパンテクウトリの槍』を放つことができる。
それはどんなものでもバラバラに分解するという必殺の術だ。
「黒曜石のナイフがあれば……、『トラウィスカルパンテクウトリの槍』の術式ならば……!」
手元に無い物をいつまでも悔やんでいるわけにはいかない。
そんな暇があるなら、黒曜石を入手し得る可能性を考えるべきだ。
ところで、黒曜石とは火山岩の一種である。
割れやすいが、それ故に鋭い切っ先となる加工しやすい石。
原始人が扱う石器素材として有名で、世界各地でナイフや矢じり、槍の穂先などの石器として長く使用された。
一説にはアステカが強大な軍事国家を作れたのは、この黒曜石の鉱脈を豊富に掌握していたからだともいう。
そう、「黒曜石のナイフ」には考古学的史料価値があるのだ。
ならば――博物館といった施設があれば展示されているのではないか?
そこまで考えて、地図上にそんな施設が記されていないことに落胆する。
(……いや、学校はどうでしょうか?
なにも専門の研究施設でなくとも良いのです。ある程度以上の学校ならば資料として置いて在るでしょう。
或いは、歴史ではなく地学の分野でも、岩石標本という手があります。
ナイフでなくとも、矢尻や穂先、いっそ岩石でも「黒曜石」であれば構いません。
流石にそのままでという訳にはいきませんが、原始の人間にできて現代の自分に出来ぬ道理はありませんね。)
「小学校ならアウト。しかし中学校以上なら目があるはずです。
この島には学校が少なくとも二つはあります。どちらかで当たりを引ければ良いのですが」
他には……と考えて、線路に目が留まる。
(この路線、東西の市街を結ぶのが便利だろうに、それよりも何もない山間部を優先してありますね。
それも村や墓地といった施設を無視し、トンネルを掘ってまで。それは何故でしょうか。)
「おそらくは、資源を輸送する為でしょう。工業や宇宙開発のエリアには必須です。
地下資源か、もっと別の何かかもしれませんが、周囲にはなんらかの採掘場があるはずです」
もしかしたら。
実際に火山の周辺で石器が出土している以上、この島でも黒曜岩が見つかることがあるかもしれない。
帝愛グループとやらが、わざわざ火山のある島を選んだ理由も気にはなる。
「決まり、ですね」
まずはE-2及び、E-7の学校を回って、それでもダメならば火山へと足を延ばす。
ちょうど線路に沿った形での移動になる。当然ながら多くの参加者と接触するだろう。
情報収集にも励まなければならない。もちろん、殺し合いに乗っていなければ、だが。
自然と銃へ手が伸びる。
「あぁ、他の参加者に支給されている可能性もありますね。
その場合はなんとしても譲ってもらいましょう――この銃弾と交換してでも。」
◇
魔術とは、才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術。
魔術を欲するのに今ほど相応しいときがあるだろうか。
なんとしても魔術を取り戻さなければならない。
彼らを放置していては、その凶刃がいずれ彼女に迫るかもしれないからだ。
それだけは。
それだけは、何があっても許されない!
魔術師殺しの彼では、かの純然たる暴力の塊には適わないだろう。
そもそも、この状況で彼との「約束」は期待できない。
自分がやるしかないのだ!
◇
彼は、ひたすらに走りつづける。
脅威から逃げるのではなく、取り除くために。
そして現在はE-2の中心部。
「もう少し、ですね。学校や駅を目指して人が集まっている可能性があります。気を引き締めて行きしょう。」
一度呼吸を整えると、海原はまた力強く足を踏み出す。
自分が頑張れば頑張った分だけ、それは彼女の安全にも繋がる。そう信じて。
【E-2/中心 住宅地/一日目/深夜】
【海原光貴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(小)
[服装]:ブレザーの制服
[装備]:S&W M686 7ショット(7/7)in衝槍弾頭 包丁@現地調達
[道具]:支給品一式、コイン20束(1束50枚)、大型トランクケースIN3千万ペリカ、衝槍弾頭予備弾薬35発
洗濯ロープ二本とタオル数枚@現地調達
[思考]
基本:御坂美琴と彼女の周りの世界を守る
1:なんとしても黒曜石を調達する
2:人と出会い情報を集める
3: 殺し合いに乗った危険人物、特にバーサーカーと本多忠勝の排除
[備考]
※この海原光貴は偽者でその正体はアステカのとある魔術師。
現在使える魔術は他人から皮膚を15センチほど剥ぎ取って護符を作る事。使えばその人物そっくりに化けることが出来る。海原光貴の姿も本人の皮膚から作った護符で化けている。
※F-1で目撃できたのは、バーサーカーの再生よりも後からです。
すみません、タイトルを忘れていました。「それは、黒く燿く意志」です。
問題が無ければ、本スレへの代理をお願いします。
バーサーカー、投下します
支援
戦国最強との戦いを中断された狂戦士は海沿いに北上していた。
なぜかと問われればその本能の赴くままに、というところだろうか。
理性を奪われた彼に思考する力はほとんど残っていない。参加者に出くわしたら殺す。
彼はバーサーカーだ。その本能のままに暴力を振りまき殺戮する事が存在理由。強さこそが全て。
故に負けるわけにはいかない。彼の帰りを待つ白い少女のためにも、必ず生きて帰らなければならない。
この会場に存在する全ての参加者を鏖殺しこのゲームを終わらせる。
あらゆる障害を破壊し、あらゆる敵を消滅させる。それはこの殺し合いを終えた後も変わらない。
「────────────────」
感じる。
彼の視線は遥か北東に向けられていた。その先にあるものは、学校。
狂戦士の剥き出しの本能、研ぎ澄まされた感覚が直感する。
あそこでは既に殺し合いが始まっている、と。
ならば彼のするべきことはただ一つ。
撃滅し、蹂躙し、粉砕し、叩き潰し、打ち砕き、殺し尽くす事。それだけだ。
彼は手に持っていた立方体のような匣を開き、中に入っていた“モノ”を呼び起こす。
それは最高位の人形師の所有物。とある神話に登場した怪物の複製品だ。
不定形の身体と無数の足と口、毒々しい色彩が魔物が伝説の住人であることを如実に表している。
続いて取り出したものは予備弾丸セットと呼ばれるもの。それを彼は試し撃ちをするべく弾丸を手にとる。
これは本来は銃器に装填して使用するべきもの。しかし彼は銃など持ち合わせていない。
だがよく考えてみてほしい。銃弾とは何の目的で作られたのかということを。
要するに弾が標的に向かって飛んでいけばいいのだ。それが何によって運動エネルギーを与えられているのかは関係ない。
常人は炸薬と銃器で鉛玉を飛ばす。では大英雄はどうするのか? 答えは至って単純。
“投げる”のだ。
巨人の剛腕によって放たれた魔弾は携行火器などとは比較にならない速度で標的となった民家に直撃する。
本来の威力を遥かに超えた弾丸の脅威は参加者の一人である“超電磁砲”と比べても一切見劣りしない。
彼もその威力に満足したのか、予備弾丸セットを腰巻の間に挟み込む。
右手に大斧、腰に弾丸、そして歪な猟犬を引き連れた異形の狩人は改めて学校を睥睨する。
準備は整った。あとは、殺すだけだ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」
鉛色の巨人が咆哮する。
その一撃は破城の鉄鎚。その肉体は不落の城塞。その咆哮は覇軍の行進。
踏みしめた足が大地を抉り──────────殺戮が、始まる。
【E-2/エリア南西部/1日目/深夜】
【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:健康、狂化
[服装]:上半身裸(デフォルト)
[装備]:武田信玄の軍配斧(石動配)@戦国BASARA、予備弾丸セット@アニロワ3rd、匣の魔物@空の境界(耐久力100%)
[道具]:デイパック、基本支給品一式
[思考]
基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。
1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、イリヤの元へと戻る。
2:学校へ向かいその場にいる者を皆殺しにする。
3:本多忠勝とはいずれ決着をつけたい?
[備考]
※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3
・合計12回まで死亡してもその場で蘇生。状態を健康にまで回復。耐久力を大きく上回るダメージを受けた場合は複数の命のストックを消費。
現在残り蘇生回数6回。
・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。
現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works
・首輪の爆発での死亡時には蘇生できない。
※参戦時期は 14話 理想の果て直後です
※バーサーカーの咆哮がE-2全域及び周辺マップに響きました。
※匣の魔物について
戦闘でダメージを受けるたびに耐久力が減少していき、0%になると破壊されます。
耐久力は魔物を匣に戻すことで徐々に回復します。
【匣の魔物@空の境界】
立方体のような形をした大きな鞄の中に無数の口や足を持った怪物が入っている。
人形師である蒼崎橙子の作品。
【予備弾丸セット@アニロワ3rd】
アニロワ3rdに登場したあらゆる銃器の予備弾丸の詰め合わせセット。
弾数は不明。
投下終了
・・・我ながら短いなぁ。
問題点あれば指摘お願いします
471 名前: ◆qWledVrzo.[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 14:37:51 ID:V5AcUrtQ
加治木ゆみ、琴吹紬、浅上藤乃、千石撫子、月詠小萌、投下します。
投下乙
学校に新たなる闖入者がw
どう見ても崩壊フラグです。ほんと(ry
高く聳える灰色の牢獄、その中に幾つか、ふわりふわりと翻る蝶々。
命の尊さ学ぶ校舎内、錯綜する覚悟と決意、迷いと愛の蜘蛛の糸。
教師一人に生徒が四人。コンクリィトに抱かれて少々過激な授業が幕を開く。
縺れ縺れて綴られるは、捻じ凶がった道徳。チャイム代わりは紅の鮮血、黄色い悲鳴。
杯の肴は金色の月、物言わぬ血塗れの骸。惨劇の巣に囚われし蝶、逃げ場一つ此所に無し。
―――――――――――――
やや土色にくすんだ窓硝子の上に、すらりと細く伸びた指先をつうと滑らせる。
ひんやりとした温度が、嫌に肌の内側に纏わり付き、不快だった。
白濁液塗れの女――月詠小萌――は水晶玉の様に透き通った円らな瞳を、窓の外へと向ける。
有象無象を飲み込んだ見知らぬ街並は、此所が今までとは似て非なる常なのだと、小萌に主張していた。
“殺し合い”と確固たる意を以て銘打たれた現実は、しかし茫漠と目前に横たわり、小萌の精神を乱してしようがなかった。
だがそれは、小萌がバトル・ロワイアルの意を計りかねているのではない。
小萌はこの成りでも、教師という職業に就いている。
それが示す様に彼女は馬鹿ではないし、本人もそれは自覚している。
なれば、という疑問が沸くのは当然だ。解を言ってしまうと、単に度の過ぎた非日常性に理解が追い付いていないだけである。
殺し合いを止めると豪語してはみたものの、小萌にはその手段と、それに伴い必要となる力を、持ち合わせてはいなかった。
皮肉なものです、とコンデンスミルクを片手に、小萌は唇の端を歪めてみせる。
教師という称号は、この盤の前では全くの形骸。その威勢に権力が伴っていない言葉では、唯の戯言の枠を出ない。
小萌はまるで朽ちてしまったかの様にしんとした街を見下ろし、浅い溜息を一つだけ吐いた。
見た目がどうであれ、もう自分は子どもではない。
己が社会の一員となっている事を、組織の中の一人、教師月詠小萌という一個人だという事を、自覚している。
それは即ち、社会の理を理解しているという事であり、それに同意している事に同義である。
諄いようだが小萌は大人だった。社会の裏側、不条理な制度、小汚ない上の思考……それらをよく理解している。
小萌はその小さな身体の余りの頼りなさに全身をぶるりと震わせ、俯いた。
教師としての思考が、大人としての合理的判断が、理想と相反する現実が、鎖と化し胸を強く締め付ける。
自分はこの先、恐らくは生き残れない。
殺し合いも止められなければ、誰も救えはしない。そしてその裏で、殺し合いが必ずや加速する。
力こそがこの盤を制する鍵であり、唯一の挽回策となる支給品がハズレであった以上、万策は尽きたとさえ言える。
剰え、この広大なマップで知り合いに合う可能性は限り無くゼロに近く、また脱出策も現時点では無いときた。
にも関わらず殺し合いを止めるだなんて、呆れた発言だ。馬鹿を言うにも程があるじゃあないか。
小萌は被っているフードをくいと下げ、肩をだらんと垂らした。
しんと静まり返った教室が、無力感と絶望感をずいと煽る。
小萌は項垂れた首を左右に振ると、白濁としたコンデンスミルクに塗れた指先を、短い舌で側面から舐めてみる。
口内に広がる筈の蕩ける様な甘味は、しかし砂を噛むにも似た無味無意味さで、
むしろ小萌には、吐き気を覚える程の痛烈な不味さにさえ感じられた。
現実逃避の味は、酷く苦い。
小萌は苦虫を噛み潰したかの様な表情で唸ると、顔を静かに上げた。
夜の街、引いては夜の学校の不気味さは底無しだ。
それは、それらの場が普段活気に満ちているからであり、寂れた場の異常性が、孤独性を傍観者に孕ませるからである。
小萌はサックを背負うと、拳をぎゅうと握り、虚無感に満ちた教室を後にする。
助ける。助けてみせるのだ。
子供が泣いている時に慰められるのは、子供が迷った時に導けるのは、どの時代だって大人なのだから。
小萌は口をへの字に噤み、崩壊寸前の足場を確かめながら、決意の蝋燭を消さない様に、一歩一歩を慎重に踏み出す。
後ろは、振り向かない。そっちは“知ってしまう”からだ。
真理は、答えは何時だって、その大きな口を開けて背後に待っている。
逃げ道は一つとして無い。
どの道此所は、多くが諦観に辿り着かざるを得ない袋小路。
喰われるのが遅いか早いか、それだけだ。
「なら、悪足掻きの一つや二つ、してやろうじゃないですか」
そのくらいしたって、罰は当たらないだろう。
―――――――――――――
ぜひゅう、と辛そうに掠れる喉。体外へと押し出される、生暖かい二酸化炭素。
女一人にも関わらず姦しい足音、慣れぬ疾走に悲鳴を上げる関節。
翻るスカート、猛スピードで四肢を巡る血潮、累乗的に溜まる乳酸。
酸素を求める半開きの口、前歯に張り付く渇いた唇、募る焦躁。
額から飛び散る汗、右手に握られるはデリンジャー。左手に握られるは月光を反射する苦無。
角を曲がるとそこには階段。目認するや否や、眉を顰め小さく舌打ち―――ああ、なんて煩わしい。
靡くスカートを気に止める様子すら見せず、階段を二段飛ばしに降りる女。その名は、加治木ゆみ。
上下左右、目まぐるしく動く景色に、こんなに全力疾走したのは何時以来だろう、と思う。
運動会以来か。いや、運動会でもこんなに全力で走っていなかったかもしれない。
酸素の配給、間に合ってくれよと願いながら、ゆみは脳裏に大切な、いや、愛しい人の顔を浮かべた。
……モモ。絶対にお前だけは守ってみせる。何があろうとッ!
ぎゅうとデリンジャーを強く握り、ゆみは踊り場へとジャンプする。
派手な音が上がるが、それがどうしたというのか。モモの危機と比較するまでもない。
足の裏の鈍痛にぐっと耐えながら、ゆみは顔を上げた。目前には一つの扉。
肩、いや全身で大袈裟な息をしつつ、ゆみはねとりとゼリー状になった唾を飲み込んだ。
音源だと思われるそこの扉の上には、ゴシック体で“職員室”とプリントされた札が貼ってある。
そこへの突入にあたって、一切の躊躇に値する要因はなかった。
しかし直ぐに入室しない理由を、強いて挙げるならば、それは間違いなく覚悟の欠如であるとゆみには断言出来た。
デリンジャーへと、目線だけを向ける。命を奪う為のそれは、想像よりも遥かに軽く、ゆみを今更戸惑わせた。
こんなにも軽いものの引き金を引くだけで、いとも簡単に命を奪える。
それは命を重さを酷く軽視している様にさえ思え、ゆみはそれを持つ事に対して不快な感情を覚えた。
今この戸を引き、中にモモが倒れていたならば、私は一体如何するのだろうか。
何故、私は今デリンジャーを握っているのだろうか。私は、モモの為なら鬼に成れるのだろうか。
成らざるを得ないのだろうか。この銃口を、人に向けてしまうのだろうか。
ゆみは脂汗が滲んだ手でよりいっそう強く銃を握ると、ぎりりと歯を軋ませる。
覚悟をおざなりにしたまま握られる刃と銃は、ゆみには玩具にも等しく見えた。
ふと目線を上げる。目前の扉は、何かをゆみに問うかの如く高く、ずっしりと聳えていた。
―――――――――――――
すう、と冷たい空気を肺に満たす。
火照った身体は内側から冷やされ、冷静な思考を女、浅上藤乃へと齎した。
階段の踊り場横の右端にちょんと腰を掛け、藤乃は無表情のまま暗闇の向こう側をぼんやりと見つめていた。
暗視機能を切ったゴーグルで見る階段は先が見えず、まるで終着点の無い無限廻廊の様に見える。
藤乃は息を潜め、ゴーグルの側面のしぼりを右に巻いた。
どうやらこのゴーグルは大層な代物らしく、赤外線機能や拡大機能、サーモグラフィ機能に、果ては電磁波等も見える様だった。
おまけに対象物までの距離も測れるときた。正に万能、軍用の名は伊達ではないという事か。
さて、と藤乃はその調った尻を踊り場から離した。
立ち上がった拍子に、濃い紫髪がさらりと風に靡く。
藤乃が此所に座っていた理由は他でもない。
この踊り場を曲がり、階段を上に昇った先にある扉の前にいる女が、部屋に入るのを待つ為だ。
女は余程興奮しているのか、周りが一切見えていない様子だった。
尤も、今は深夜。闇に沈んだ校舎内では、周りが見えなくて当然なのだが。
藤乃は闇に隠れて、階上の女の表情を窺った。至って真剣な面持ちで、室内を窺っているようだ。
右手には、拳銃。遠距離からの高速・連続射撃を得意とするそれは、藤乃にとって最も苦手な獲物だった。
無論、自分の周囲の空間を曲げてしまえば拳銃も当たらないのだが、いかんせんタイミングが難しいだろう。
藤乃は親指の爪を前歯で噛むと、歯痒さにゴーグルの下の双眸を細めた。
藤乃は銃には詳しくない。どんな銃かによって対処は異なる上、銃相手に能力を行使した試しがないのだ。
故に最初は面倒が起きる前に曲げてしまおうかとも考えたが、そうすると室内が面倒だった。
あの室内にどんな人間が何人居るかは、現状では判断材料が少なすぎて想像しかねる。
機関銃や爆発物の類を持った危険な人間だったり、両儀式や荒耶宗蓮、果ては藤乃が求める黒桐幹也の可能性だって捨てきれない。
藤乃が能力発動の決断を渋っている最大の要因は、そこにあった。
しかし、ならばと藤乃は思う。
ならば教室に入ろうとしている女――加治木ゆみという名前らしい――を泳がせるのが最善ではないだろうか、と。
加治木ゆみを利用して、内部の様子を探らせる。
その後室内の様子を見て教室に入り、先輩の目撃情報がないかを訊く。
知らなければ……曲げてしまえばいい。知っていても、情報さえ手に入ればもうその人間は用済みだ。
藤乃は骨が捻じ折れる小気味好い音を想像して身震いしながら、表情のみで笑った。
尤も、藤乃本人はそれに気付いてはいない。
浅上藤乃が浅上藤乃である為に、“気付いてはいけない”のだ。
自覚無き快楽殺戮の為に、愛しい人を理由ではなく、口実として利用している事を。
階上から、がらりと扉が開く音が藤乃の鼓膜を揺らす。
少し遅れて、ぴしゃりと閉まる音、小さな悲鳴。
それらは壁に当たり反響しながら廊下を進み、やがて黒い静寂に呑まれていった。
藤乃は音も無く足を踏み出す。
リップ・クリィムで潤んだ豊満な唇は、御免なさい、と小さく紡いだ。
謝罪の裏に潜む悦楽に心を捩らせ、殺戮への依存に身体を委ね、藤乃は階段を昇る。
脳内で延々と、謝罪の言の葉を反芻しながら。
掌が、ずきりと痛む。その嬉しさに感謝しつつ、藤乃は唇を歪ませる。
生きているって、痛みを感じられるって、なんて素晴らしい事なんだろう。
嬉しくて嬉しくて、私、皆さんにこの気持ちを伝えたくて、共感したくて、仕方無い。
「御免なさい。私、本当はこんな事したくないんです」
……でも先輩の為に、皆さんを殺す事は必要なんです。
藤乃はそう続けると、まるで断首台へでも上がるかの様に、力無く段を踏む。
狭い窓から差す白銀の月光が、藤乃の背を照らしてゆく。その美しい紫髪を、するりと撫でてゆく。
コンクリィトに固められた巣の中、まるでそこだけ漂白されてしまったかの様な神聖さが、何時までも藤乃の背を抱いていた。
かつん、とローファーが無機質な音を上げる。
綺麗に真直ぐ揃えられた前髪の隙間から、藤乃は引き戸の小窓を覗いた。
藤乃の双眸が、サーモグラフィ機能と赤外線機能、拡大機能を介して人間を認める。
人数は三人、全て小柄な女性。
武器を手に持っているのは加治木ゆみ一人、温度から判断するに室内に隠れている者は居ない。
藤乃は制服の裾から内側を弄り、一冊の厚い冊子を取り出した。支給品の一つ、詳細名簿だ。
ナイフ程度なら防げるだろう、と見て胸部に宛行っていたそれをぱらぱらと捲る。
目当ての情報は直ぐに見付ける事が出来た。
千石撫子、学生。琴吹紬、学生。藤乃には、二人ともひ弱そうな一般人に見えた。
小萌先生…支援…
「先輩。待ってて下さい。今から私は、先輩の為に頑張ります」
にこりと笑みを浮かべ、藤乃は詳細名簿を閉じながらそう宣言する。先輩の為に戦うのだ、と。
しかし藤乃の宣言は、厳密に言うならば間違っている。
何故なら今から此所で繰り広げられるのは、きっと戦闘ではないからだ。
それは快楽に憑かれた一人の女の、一方的な殺戮劇に過ぎないのだから―――。
―――――――――――――
ややロングめの黒髪の、まだあどけなさが残る女、千石撫子と、沢庵の様な楕円の眉をした女、琴吹紬は突然の来訪者に短い悲鳴を上げた。
突如、この職員室の和やかな空気を切り裂き、果物の名を叫ぶのだ。それは当然驚くというものだった。
「……桃?」
窓の隅に巻かれたカーテンに縋りながら、ぎょっとした様子の紬はそう呟く。
疑問を含め、僅かに上擦った声に少しだけ頷くと、侵入者の女、加治木ゆみは右手のそれをこちらへと向けた。
紬の足元で、小動物の様に縮こまり震える撫子が、再び短く叫ぶ。
そう、ゆみが二人に向けている代物は……モデルガン、だなんて生易しいものではない事を、撫子は知っていたからだ。
信じたくはないが、此所が殺し合いの場である以上、それが本物である事は想像に容易だった。
そしてそれが向けられるとは即ち、こちらへの明らかな敵意を意味しており。
故に撫子と紬は、まるで石膏像か何かの様に身体を強張らせた。
ゆみはそんな二人の様子を確認すると、職員室の内部を視線だけでぐるりと見渡す。
倒れている椅子、散乱した書類、見知らぬ二人、そしてその二人が見せる、この怯えた表情。
詰まるところが、自分の期待と不安は、とんだ見当違いだったという事だ。
緊張の糸が弾けたゆみは、安堵の息を吐いた。……ならば、話は別となる。
「いや、すまなかったな。私はゲームには乗っていない。
つまり、お前達への敵意もまるでない。驚かせてしまったな。謝る」
ゆみの焦躁は、何時しか撫子と紬の怯えた表情に溶かされていた。
ゆみは自分の先走りを反省し、銃口を下げ丁寧に謝罪すると、頭を掻きながらバツが悪そうに続ける。
「ところでお前達、モモを……いや、参加者の東横桃子を知らないか」
大切な知り合いなんだ、と締めると、ゆみは撫子と紬へと顔を向ける。
尤も、未だゲームは開始直後。その問いに、有益な解は期待出来そうにはない、とゆみは踏んでいた。
それでも訊かぬよりは幾分かマシというものだ。
ゆみは獲物をしまい、空になった両手を上げ、敵意の無さを示しながら二人へと近付く。
「えっと……」
撫子は僅かな戸惑いを見せた後、カーテンから離れた紬を上目遣いで見る。
緊張がほぐれたのか、紬は腰を落としている撫子に手を伸ばす余裕を見せながら、首を左右に振った。
「し、知らない……」
乱れてしまった前髪を左手で直しながら、撫子は紬の手を握り、そうゆみに返す。
紬も、ごめんなさい、とだけゆみに言い、撫子を起こした。
二人の答えに予想はしていたものの、とゆみは腕を組む。残念な事に変わりはない、か。
「そうか」
全ては徒労に終わり、牌は流れて振り出しだ。
しかし、此所で挫けては居られない。役満を喰らった訳ではないのだ。
まだまだ、ゲームは始まったばかり。放り出すのは野暮というもの。
そう思ったところでゆみは首を僅かに傾け、表情を和らげると同時に話を切り出した。
「ところでお前達の名前を聞かせてはくれないだろうか。私は、」
―――加治木ゆみ。私がそう告げようとした瞬間だった。
先生不在となり、その存在意義を真っ当しかねている職員室に、四人目の生徒が訪ねてきたのは。
―――――――――――――
なんて、綺麗なお姉ちゃんなんだろう、と千石撫子は先ずそう思った。
桔梗を彷彿とさせる、少し落ち着きながらも、鮮やかな紫を基調とした長髪。
それは、窓の外から入る光を反射し、天使の輪を見せていた。
まるで人知らぬ樹海の清流の如く汚れ無き真直ぐな髪は、思わずその場の三人から言葉を奪う程だった。
整い過ぎたその前髪は、この盤、即ちバトルロワイアルとは一切無縁の清冽さすら感じさせる。
そしてその前髪の奥から覗くは、紅玉の様に透き通った、大粒の紅蓮の瞳。
端正な顔立ちとすらりと伸びた手足、豊満な胸、非の打ち所がない体系。
そして、粉雪が染み込んだかの様な、きめ細かく白い絹肌。
その端麗な容姿は、息を飲み瞬きすら忘れさせる、一種の魔的な何かを確実に匂わせていた。
“綺麗”という言葉は、この女性の為にあるのではないだろうか。
幼心に撫子はそう思った。同時に、何か得も言われぬ怪しさをも感じた。
妖艶、という言葉がある。艶めかしく、故に何処か危うさ、妖しさを感じざるを得ない、そういった様子の事だ。
撫子はその言葉を知らないが、本能的にその意を現在進行系で悟っていた。
「今晩は」
風が吹くと消えてしまいそうな、そんな儚さを感じさせる声で、女は、浅上藤乃はそう零した。
「あ、皆さん、すみません。いきなり入ってきてしまって。私は浅上藤乃、と言います。
今、仲間を探していて……。殺し合いに乗ってる訳では、ないです」
たった今、名前を思い出したかの様に、藤乃は慌てて頭をぺこりと下げた。
そんな謙虚な一面を覗かせる藤乃に、先ずアクションを示したのは他でもない、加治木ゆみだった。
ゆみは、その冷静さも去る事ながら、行動力と積極性、指導制に長けている。
そんな彼女が、紬と撫子よりも先に行動するのは、至極当然と言えた。
「……ああ、すまないな。驚いてしまって声が出なかった。私は、加治木ゆみだ。
ところで、私も人を探していてな。モモ……いや、東横桃子、という子を知らないか?」
ゆみは藤乃へと近付き、右手を差し出す。
藤乃は少々躊躇する様子を見せたが、ゆみへと握手で応えた。
「いえ……期待に添えず、すみません」
申し訳なさそうに呟く藤乃へと、人数に安堵と平静を取り戻したのか、紬と撫子も近付く。
撫子が藤乃へと自己紹介をする中、紬は物腰が低い藤乃へと、親近感を覚えていた。
その言動と気品、漂う非常な何かに、自らと似たものを感じざるを得なかったからだ。
無論、それを感じたのは、紬が一般人から逸脱している事に胡座を掻いているから、といった訳ではない。
あくまでも一般論での話だ。何かただ者ではない雰囲気が、藤乃にはあった、紬はそう感じたのだ。
ゾクゾク支援
剰え、羽織っている制服が恐らくお嬢様学園のもの。修道服に似た作りだ、間違いない。
そこまで想像して、藤乃の視線に紬ははっとした。そうだった。自己紹介がまだだったんだ。
「あ、私は……紬。ムギ、でいいですよ」
ぺこりと頭を下げる紬を一瞥し、藤乃は心が痛むのを感じた。
これからこんな純粋な子達を殺さなければいけない、だなんて。信じられない事。
藤乃はクリィム色の紬の髪を見ながら、ぼんやりとそう思った。
けれど、殺らなければ。
本気に申し訳ないのだけれど、先輩の為に殺らなければいけない。そう、先輩の為に。
「ところで、千石さん、加治木さん、琴吹さん。先輩を……黒桐幹也という人を、知りませんか」
気のせいだろうか、と首を横に振りながらゆみは思った。
目の前の女性、浅上藤乃の声のトーンが若干低くなった様に思えたからだ。
そしてその煌めく大きな瞳も、心無しか光を失った様な、そんな気がした。
「私も、知らない……」
撫子のその声を意識外で聞きながら、紬は脳内で些細な違和感の様な“何か”を感じていた。
<今晩は>
それは何か嫌な予感、といった類ではない。
もっともっと、ずっと確信に近い、約束された黒い未来のような塊だった。
ちくり、と鋭い刃が紬の胸を刺激して止まない。
{あ、皆さん、すみません。いきなり入ってきてしまって。私は浅上藤乃、と言います。
今、仲間を探していて……。殺し合いに乗ってる訳では、ないです}
喉元に大鎌の刃を突き付けられている様な……そんな、恐怖感が四肢を駆け巡る。
おかしい、と紬は唸った。今はこんなにも平和な筈なのに。こんなにも、安堵している筈なのに。
〔……ああ、すまないな。驚いてしまって声が出なかった。私は、加治木ゆみだ。
ところで、私も人を探していてな。モモ……いや、東横桃子、という子を知らないか?〕
にも関わらず怪物の口内に居るかの様な、掌で踊らされている様な、そんな違和感が拭えない。
紬の背筋を、冷たい汗が一筋伝った。
【いえ……期待に添えずすみません】
そう、それは本能が告げる警告。音も無く叩かれる警鐘の轟き。
どくん、と心臓が身体の奥底で跳ねる。まるで何かを主張するかの様に、強く胸を叩く。
《あ、私は……ムギ、でいいです》
紬ははっとした様に、意識を深淵から現実へと浮上させた。
しかしながら、周りの時間が、やけにゆっくりと流れているかの様な、そんな幻想が肌を撫でる。
『ところで、千石さん、加治木さん、琴吹さん。先輩を……黒桐幹也を、知りませんか』
それは噂に聞く、走馬燈によく似ていて。無意識に、隣りに居る撫子の手を掴む。
早く逃げなきゃ。そう思うまでに時間はさして掛からなかった。
(私も、知らない……)
脳天から爪先まで、コンマ一秒の間に稲妻が駆け抜ける。これは最早、確信。
何故ならば。
「そうですか。では、」
……何故ならば、私は、“名字をこの人に教えていない”のだから―――。
紬の思考も虚しく、藤乃は淡々と言う。そう、全ては台本通り。仕組まれた罠。
世界ががらりと、その色を変える。禍々しい、混沌とした死の色へと。
「凶れ」
へ、と笑えるくらい間が抜けた声が、口から溢れた。
瞬間、幻想的な翠と紅の光が、漆黒を走る。漠然と綺麗だな、と思った。
すると何ともおかしな話だが、視「凶れ」界がぐるりと反転した。
続けてべきゃり、と何かが砕ける様な奇妙な「凶れ」音が、身体の内側から産まれる。
ごりゅ、と鈍く悪趣味な音が室内を反響し「凶れ」た。忘れかけていた、恐怖が伝染する。
何が何だか理解出来ないが、致命的な何かが起きた事だけは、本能的に理解出来た。
続けてぶち「凶れ」ぶちと、水分を僅かに含んだデニム生地が引き裂かれれる様な、嫌な音。
「凶れ」私は何故か身体の支えを失って、ワックスを塗られ、月光に輝く床へと落下する。
墜ちてゆく。おちてゆく。……何故だか不思議と、私は私を客「凶れ」観視出来ている様だった。
と言うより「凶れ」も、私は理解の範疇を大幅に超越したこの事実を、他人事として認識していたのだ。
この時点で漸く、焼ける様な激痛が私の脳内を支配す「凶れ」る。
視界「凶れ」が痛みに白く点滅し、真紅から黒へと暗転してゆく。
痛みが弾け電気信号となり、脳を駆け抜け、シナプスを介し、髄を疾走し、肌を焼く。
「凶れ」喉を壊してもな「凶れ」お「凶れ」止まらぬ絶叫が、室内に轟い「凶れ」た。
「……凶れ」
女は、浅上藤乃は、淡々と単語を紡ぐ。壊れてしまったラジカセの様に、同じ言葉を高揚の亡い声でただただ紡ぐ。
白く、淡く照らされた室内を、黒い血飛沫が我先にと飛び交った。
噎せる様な生臭さの中、ぽつんと佇むそ藤乃の身体を、血の雨がひしひしと打つ。
藤乃を祝福するかの様に、同時に汚すかの様に、鮮血の時雨は降り注ぐ。
「ひゅ、な、ばッッ、ぎゃ、わ、た、のッぎ、あァァがびゃあぁぁぁぁッアああじ足びゅぎゃぁあがぎょぁぁッ!!!」
常識を超えた余りの激痛に吹き飛ばされた理性。残るのは本能的思考。
それを基盤にした咆哮を以て、女は―――加治木ゆみは、死の舞踊を披露する。
その両足は無惨にも捻じ切られ、毛細血管が走る乳白色の骨は皮膚を突き破り、桃色の筋肉が露になっていた。
在らぬ方向へと曲がってしまった膝は、その皮膚をべろりとだらしなく下げ、どくどくと脈売っている。
定期的に激しく痙攣する太腿からは、赤と白の筋と血管が溢れ出し絡み合い、まるでブチ撒かれたボロネーゼの様だ。
綺麗なサーモンピンクをした肉の細切れは、藤乃の周辺へと余す事無く散らばり、蠢く加治木ゆみを可憐に飾っている。
生暖かい粘膜のベールをその身に受け、殺人鬼は頬を紅潮させ、迫り来る悦楽の波に全身をがくがくと揺らした。
「……御免なさい」
凶れ支援
藤乃は両手で顔を多い、肩を揺らしながら呟いた。酷く震えた声だった。
翡と緋が織り成す螺旋が右腕に巻き付き、瞬間的に捩じ上げる。
まるで雑巾でも絞るかの様に簡単に、腕は右に左にくねくねと気味悪く踊らされる。
迸る肉汁は、月光を浴びぎらぎらと輝きながら、腰を抜かして絶句する紬と撫子の顔へと降り注ぐ。
ばりばりと、ゴミ収集車がゴミを飲み込む際に上げる音に似た音が、二人を包容する。
常に上がる凄まじい悲鳴は、最早悲鳴と判断してよいのか危うい程、化物じみていた。
ぐじゅ、と砕けた骨が皮を割き、肉を穿り、動脈を喰い破る。
鼓動のリズムに合わせて迸る鮮血が、窓をぽつぽつと打つ。
べっとりと紅に塗りたくられた硝子は、月光を黄昏時を彷彿とさせる、茜色に変えていた。
幻想の夕焼けに染められた室内は、けれどもてらてらと不気味な綺麗さを放っており。
しかしそこにあるのは、単なる殺戮と嗤う女、解体を待つだけの獲物達の一枚絵。
その壮絶な構図は明らかに。
明らかに、異様としか形容出来ない、負の権化を思わせる光景だった。
「凶れ」
……わたしというデバイスに回路があるとするならば、それはいま、間違いなくショートしていた。
全身が蕩ける様な熱さは、最早痛みの感覚とは乖離しすぎており、むしろたんなる電気信号の一つに感じられた。
競う様に指先へと伸びた神経がぶちぶちと千切れてゆく毎に、自らの身体は到底人間の可能な挙動ではない動きをして跳ねる。
びたんびたんと、生簀からたった今取り出した魚の様に、私は跳ねる。
随分とおかしなこうけいだった。思わず吹き出してしまいそうだった。
私は立ち上がろうとしたが、何故か身体が言う事を聞かない。笑えた。
ぶちゅん、と自らの手首が捩れ飛び、皮が剥れた右手が向こうで絶句する紬の頬を殴る。
つう、と涙が溢れた。理由もなにもわからないけれど、たぶん、これはかなしいから。
「凶れ」
何処かできいたその言葉に、螺旋を描きながら私の身体が裏返った。
べきばきと、私の身体を内側から骨が喰い破る。おかしい。
腹を抱えて笑いたいけど、抱えられる腹と抱えるうでがない。
辛うじて見ることができた私の身体は、どちらが前でどちらが後ろなのか、
どちらが表でどちらが裏なのか、その判断すら出来ない状態に晒されていた。ひとことで言うと、酷い有様だった。
漠然と、わたしは死ぬのか、とおもう。同時に、ひとつだけ脳裏にうかぶものがあった。
わたしは、残された力をふりしぼり、両目をかっとみ開く。
がくがくと勝手にゆれ動く視界が喧しい。なかなか焦点があわない。
なんだ。神様はずいぶんと意地悪なんだな。もはや、ゆめすらみさせてくれないのか。
こんなからだじゃ、とうぜんか。もう、人間のかたちじゃないしな。
すまないな。おまえには会えそうにない。今回はつきがわるかった。
もう、さいごだ。だから言おう。
わたしはおまえがすきだった。
好きですきで仕方無かった。
その笑顔がすきだった。
その言動もすきだった。
そのせいかくがすきだった。
おまえのすがたもすきだった。
おまえのきれいなかみもすきだった。
おまえの おおきな目もすきだった。
おまえの照れやなところもす きだった。
おまえのしゃべりかたが すき だった。
ぜん ぶ、すきだった。
す き だった。
すきだった。
だいすきだ った。
「凶れ」
“まだ、終わりじゃないっすよね?”
――――――――――――――けど、もうおわりなんだよ。モモ。
「凶れ」
藤乃が呟くと、今度はゆみの左手が奇妙な弧を描き、職員室の床を暴れ回った。
紬の顔が引き吊る。極限のリアルは、逃亡は勿論、絶叫をも、目を逸らす事すらをも許さない。
がくり、と光を失ったゆみの双眸が紬を凝視する。
ばさばさと散らかった前髪の隙間から、何処までも続く底無しの黒が覗く。
ああ、これが絶望か。紬は不規則に荒れる呼吸の中、その瞳が意味するものを理解した。
「あ……う、ぁ……」
瞬く間に朱色で満たされた視界から、やっとの事で目を逸らした撫子が見たものは、壮絶の一言に尽きた。
隙間なく敷き詰められた血肉の絨毯、それは正に地獄絵図。
ふと自らの腹部に乗る物を見て見れば、それは加治木ゆみの足首から下。
その断面からは生のスパゲッティの麺を彷彿とさせる、柔らかな紐がだらりと伸びていた。
撫子は恐怖に唇を歪ませ、乾いた笑いを口から出す。
ここまで残酷な殺し方が、一体何処の世界にあるというのか。
これに比べれば、自分が体験したあの呪術なんて―――。
そこまで考えたところで、撫子は口元を押さえて俯いた。
競り上がる胃の内容物が、喉と鼻の粘膜を灼き尽くし、ぼたぼたと三つの穴から逆流する。
一方、五体不満足な達磨と化した加治木ゆみを見下ろし、藤乃は狂喜に嗤っていた。
「凶れ」
そうして、動かなくなったその身体をもう一度だけ捩る。
肋骨を粉砕しながら、鮮やかな五臓六腑を床にブチ撒き、加治木ゆみは今度こそ、完全に沈黙するのだった。
子供が玩具箱をひっくり返して遊ぶ様に、藤乃は肝臓を、腎臓を、膵臓を、胃を、腸を、捻じ切る。
ごとり、と加治木ゆみの上半身が静止する。辺りは、あっという間に悪趣味な体液のシチュウの海だ。
「御免なさい、加治木さん。でも仕方無いんです。……琴吹さんも千石さんも、御免なさい」
ゆらり、と身体を揺らし、藤乃はぎしりと、己の首を曲げる。
他でもない背後で震え上がる、二匹の獲物を殺す為に。
「動かないで下さいね」
そう言ってにっこりと笑ってみせる藤乃の右手には、血と脂で塗れたデリンジャーが握られていた。
ふわり、と鮮血を浴びたロングスカートが翻る。
綺麗過ぎて、しかし残酷過ぎるその容姿は、一種のカリスマ性の類すら漂わせていた。
「出来れば、苦しませて殺したくないんです」
藤乃はそう呟くと、ポケットから軍用ゴーグルを取り出し、被る。
まるで血に濡れていないそれは、血濡れの藤乃から酷く浮いて見えた。
藤乃が右手を掲げる。絶対の死刑執行宣言の具象が、その右手の中にある。
「本当に、御免なさい」
そうして、乾いた音が校舎内を谺した。硝子を破壊し、数多の破片を携えて。
―――――――――――――
思えば、今まで碌な人生ではなかった気がします。
飛び散る硝子の破片を見ながら、私はそう思ったのでした。
時間がずいと凝縮されたその瞬間、私は数多の硝子の破片に映る自分の顔を、恨めしそうに睨んでいました。
何時からこんな馬鹿になったのか、自分でも理解出来ません。
自慢じゃあないんですけど、私は自分の頭脳にはそれなりに自信を持っていますから。
だから別に、こんなの放っておけばよかった話です。
見ず知らずの他人の為に命を張るだなんて、非合理的にも程があるじゃあないですか。
煙草と酒に溺れる毎日、あばら屋は破壊されるし、妙な連中が来やがるし、結婚だってまだですよ。
毎日を平穏に暮らしたいだけなのに、何だって、こんな事してるんだか。
でも、と小萌はへの字に口を曲げ、飛び散る硝子の破片を睨む。
それはそれ、これはこれ。この場で全ての称号が無意味である以上、小萌個人の願いは一つ。
……ごうん、と職員室の中で消火器が跳ねる鈍い音。
廊下側から投げられたそれは、窓硝子を粉砕し、職員室の中で上手く破裂してくれたようだった。
白い粉末を目茶苦茶に撒き散らしながら、消火器が暴れ回る音を聞き、小萌は溜息を零す。
やってしまった、と頭を抱えたくなったが、後の祭というやつだ。
もくもくと窓から溢れる煙に顰めっ面を向けつつ、再び溜息を零す。
そして大きく息を吸い、教室の扉を開く。生徒を大声で煽るのは、何時だって先生だ。
尤も、白濁液まみれのロリ先生がそれをして、本当に効果があるのかは甚だ疑問ではあるが。
「逃げてくだしゃあああああああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」
その声は、正に寝耳に水。紬ははっと我に返り、身体に抱き付いている撫子の右手を掴んだ。
そう、今は逃げないと。皆に会わないと。また、あの頃に戻るんだ……!
紬は口を抑えて呻く撫子の腕を肩に掛けると、素早く立ち上がる。
「撫子ちゃん、しっかり! 一緒に逃げますよ!」
……なに、これ。
浅上藤乃は消火器の白煙に噎せながら、薄目で辺りを見渡す。
逃げて下さい? 詰まり、誰かが千石さんと琴吹さんを逃がす為? そういう事?
装着したゴーグルはどうやら隙間はあるようで、煙は遮断されていなかったらしい。
生理的涙と咳に苦しみながら、白亜の世界を藤乃はふらつく。
逃がしてもいいじゃないか、と三割の浅上藤乃が肩を竦めた。
そう、別に無理をして殺す必要もないのだ。また後から殺せばいいだけの話。
...
―――本当に?
ずう、と白亜が急激に漆黒へと暗転する幻想。
ブラックボックスと化した教室の中、藤乃はぎょろりと辺りを見渡した。
そう、その判断は間違っているのだ。そっちは致命的ミステイクへと続く選択肢だ、浅上藤乃。
今、獲物を逃がせば、もし仮に黒桐幹也に彼女達が会った場合、如何すると?
嫌な誤解の芽は摘むべきだ。即ち、ここでの二人の逃亡は、意地でも阻止すべき……!
しかしそこまでの思考を経て、藤乃は更に窮地に立つ。
一秒が永遠にも感じられる中、藤乃の演算は、即座に問題点を叩き出した。
そう、今現在視界は最悪、まるで白亜の四面楚歌。この状況下で獲物を曲げるのは、不可能に近い。
更に外には謎の第三者。この惨劇の一部始終を見られたとするなら、彼女も排除しなくてはならない。
いや、もう確実だろう。この惨劇を見ているからこそ、彼女は乱入し救いの手を差し伸べた。
ならば、と藤乃は直立不動のまま、自らの思考にダイブする。深く深く、解を求める為に。
“黒桐幹也との関係”という行動原力に致命的なミステイクを予感した藤乃はこの時、極限の焦躁に身を焦がす。
それだけは避けたいと思える致命的なミスが、今まさに起きようとしている。
見過ごせないが、改善策もない。この場を乗り切る策は、現段階ではゼロに等しい。正に八方塞がり。
しかし藤乃は諦めなかった。先輩という絶対的存在に縋る様に、藤乃は歯を軋ませ眼球を見開く。
一刻も早く、殺さなければ。一刻も早く、三人を排除しなければ! 曲げなければッ!!
「凶れええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
この瞬間、歪曲の魔眼使い浅上藤乃は、新たな能力“千里眼”を無意識に覚醒させる……ッ!!
―――――――――――――
上条ちゃん、後は、任せましたよ。
先生の変わりに、シスターちゃんをちゃちゃーっと救いやがって下さい。
先生はその間、不良生徒を更生教育しますので、ちょーっと遅れますよ。
大丈夫です。先生、これでも生徒指導と道徳は得意分野なんですよ?
心配いらないです。これが終わったら直ぐ、上条ちゃんに追い付きますからね。
嘘じゃないですよ? 絶対、ぜぇーったい、追い付いてみせるんですッ!
……だから、私が居なくなっても悲しまないで下さいね。
上条ちゃんの悲しそうなところを見ると、私も悲しくなるんですから。
貴方は、何時までも真直ぐでいて下さいね。皆を救って下さいね。
笑顔でシスターちゃんに会いに行って下さいね。
私には、ちょっと荷が重過ぎるので、任せるのですよ。
……ね。上条ちゃん。私が馬鹿なあなたを、信じてやると言ってるのです。
だから胸を張って突っ切りやがれなのです。それだけが、私の、月詠小萌先生の願いですよ。
「貴女の所為ですよ」
煙の向こう側から、ぼそり、と低く唸る様な声。
小萌はデッキブラシを片手に、震える身体を呼吸で落ち着ける。
正直、死ぬ程恐い。というか、死ねる。
身体は完全に畏縮してしまっている。小萌は棒のようになった足をちらりと一瞥した。
足が、動かない。先の惨劇を見て、デッキブラシとチューブだけで彼女の相手を?
……無謀過ぎる。誰が見てもそう言うだろう。
レベル0が能力者に挑むだなんて、お世辞にも賢い選択とは言えない。
「貴女の所為で、折角追い詰めたのに見失いました。私、今すごく怒ってます」
白煙のベールをぎゅるりと捻じ切り、だらりと首を項垂れた藤乃が現われる。
さらりと揺れる前髪の隙間から覗く顔に、朧月夜は深い影を落とした。
「ただの馬鹿じゃないですか。丸腰にも等しい武器で、私に挑むだなんて。滅茶苦茶な人」
藤乃は加治木ゆみのデイパックを背負うと肩を竦め、呆れた様に呟く。
しかしその表情には何処か余裕があった。
「凶れ」
瞬間、階下から凄まじい破裂音が響く。激しい地響きに校舎の窓はかたかたと笑った。
ぱらぱらと崩れる白い塗装の小雨の中、小萌の頬をねっとりとした脂汗が伝う。
目前の女が今、何をしたかは分からないが、見失ったと言っている以上はまだ、あの生徒達は大丈夫。
そんな確信にも似た予感が小萌にはあった。そしてその予感は的中している。
藤乃は発現した千里眼によりこの階下から下る、即ち二階から一階への道を曲げ、紬と撫子を二階に閉じ込めたのだ。
二階から一階へ行くには、廊下を通過しなければならない。更に三階には藤乃。
即ち事実上、この学校は巨大な半密室と化したと言ってもいい。
最早、この曲面でのイニシアチブは完全に藤乃にあった。
「無謀です、月詠さん。少し考えたら分かる事です……貴女は、教師なんでしょう?」
発言に少し驚くが、何故名前と職業を知っているのか、なんて質問をしている暇は無い。
小萌は固唾を飲み込み、パイル地のパジャマの袖を捲った。フードに付いた耳がぴょんと跳ねる。
そう、自分でも理解している。無謀だという事も、馬鹿だという事も、分かっている。
痛いほど、分かっているのだ。
「そうですねぇ」
けれども、一人の人間である前に。合理的に物事を考える前に、卑怯な大人である前に。
「私は馬鹿ですよ。自分でも未だに、こうしている事が信じられません。確かに無謀です」
幾ら自分を偽ろうと、幾ら逃げようと試みようが。
このゲームの前に、地位や立場が関係なかろうがどうだろうが。
「――――――――――――けど、教師が馬鹿で悪いだなんて、一体何処の誰が決めたんですか?」
私は、どうしようもなく、ただどうしようもなく、一人の教師だった。
だから、不敵に笑ってデッキブラシを向けてみせる。足を踏ん張って向けられる。
無謀は承知。何故抗うのか? 重要なのはそんな事じゃあ、きっと、ない。
何故抗えないのか。それが多分、一番重要。
さすれば答えは至ってシンプル。1+1よりもずっと単純で反吐が出る。こんなの誰でも判る解ッ!
腕が震える。足が動かない。全身からは冷や汗が吹き出ている。死ぬのは怖い。それは誰でも一緒だ!
結果なんて知らない。何秒保つかなんて知らない。死のうが生きようが構うものか!
万に一つ敵う筈もない圧倒的力の差、それが何だって?
誰も彼も、足りないのは、単純に“覚悟”だ!
それが自らが犠牲になる覚悟だろうと! 死ぬ覚悟だろうとッ! その式に変化は無いッ!!
ならば月詠小萌は今、糞喰らえな世界<バトル・ロワイアル>に向かって、声高らかに宣言しようじゃないか―――――――
「……凶れ」
―――――――覚悟完了、とッ!!!
支援
【E-2/学校・3F職員室前/一日目/深夜】
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:小疲労、千里眼覚醒、階下を監視中
[服装]:礼園女学園制服(血塗れ)
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録 、参加者詳細名簿@アニロワ3rdオリジナル、デリンジャー@現実
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1 、かすがのくない@戦国BASARA×8本、拡声器@現実、予備弾薬@現実
[思考]
基本:幹也の為、また自分の為(半無自覚)に、別に人殺しがしたい訳ではないが人を殺す。
1:月詠小萌殺害後、琴吹紬、千石撫子を殺す。
2:二人を殺害した後、移動して人に会い、本当に申し訳ないが凶げて殺す。
3:幹也に会いたい。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている。
【月詠小萌@とある魔術の禁書目録】
[状態]:覚悟完了、ミルクまみれでベタベタ
[服装]:パジャマ
[装備]:デッキブラシ@現実
[道具]:基本支給品一式 コンデンスミルクのチューブ@現実
[思考]
1:生徒を逃がす為、浅上藤乃をその身を賭して足止め。
2:上条ちゃん及び他の学園都市の生徒を探し出して保護。
3:困っている人がいたら保護
4:シスターちゃんを絶対に助ける
[備考]
※本編6話以降からの参戦。
【E-2/学校・2F廊下/一日目/深夜】
【琴吹紬@けいおん!】
[状態]:精神的ダメージ大 、混乱と恐怖、動揺
[服装]:制服 (血塗れ)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(未確認)
[思考]
1:撫子を連れて一刻も早く逃げる
2:友人達が心配。非常識な状況下で不安。
[備考]
※撫子が撃たれた事に気付いていません。
【千石撫子@化物語】
[状態]:精神的ダメージ大、嘔吐中 、混乱と恐怖 、左足に銃痕
[服装]:制服 (血塗れ)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(未確認)
[思考]
1:痛い。気持ち悪い。
2:暦お兄ちゃん……
【加治木ゆみ@咲-Saki- 死亡】
【残り 59人】
投下&代理投下乙です
>狂戦士の夜 ◆9kuF45dxA2
予備弾を素手で投げるバーサーカーぱねぇー
完全に戦闘態勢万全かよwしかも行き先が学校って、おい…
>凶壊ロゴス ◆qWledVrzo.
かじゅぅぅぅ!!!良い雰囲気だと思ったのに…藤乃恐るべし…
歪曲の描写が半端ない、よく紬と撫子立てたな
しかもここにバーサーカー向かっているwww
>>369 一つ指摘。
バーサーカーは登場話の時点で支給品が斧だけと判明しているので匣の魔物と予備弾丸出すのは不可能です
見落としていました。修正したものを改めて投下します。
テスト
このタワーはどうやら宇宙開発局全体の管制を行う施設であるようだ。
最上階から降りてきた張五飛は、管制室らしき室内を見回し頷いた。動力は生きている。
ざっと、この宇宙開発局の敷地内のデータを検分する。
見たところ一つの浮島になっていて、出入り口は東西に橋が二つ。
もう一つは高架上の電車だ。駅があるので、ここから乗り降りができるのだろう。
施設はこの管制塔と、北東の展示場。そして民家や工場がまばらに。
展示場なら何がしかの道具が手に入るかもしれない。よもやガンダムやモビルスーツなどはあるまいが。
監視カメラなどないかとしばしコンソールを操作したものの、どうもそういった機能はスリープさせられているようだった。
解除を試みたが、命令権はこのタワーにない。おそらくは主催者が握っているのだろう。
「索敵は不可能……だが、通信はできるか?」
この場所から接続できる施設は、
【太陽光発電所】【展示場】【ホール】【政庁】【ショッピングセンター】、そして二つの【学校】。
それらの施設になら、ここからビデオメールを送信することができる。リアルタイム通信は不可能だった。
主催者としてもあまり参加者同士に密な連絡を取られてはゲームの進行に差し支えると思ったのか、送信できるのはタワーからのみの一方通行だったが。
黙考し、どういった手を打つか吟味する五飛。
一応の方針は決めている。
この殺し合いに乗った者は排除。
弱い者、戦わぬ者には脅威となって戦意を煽り、自らの意思で生きる道を、『戦い』を選ばせる。
どちらの場合も、まず五飛がその誰かと出会ってからの話だ。
虱潰しに探していくのもいいが、それでは50人以上もの参加者に対して己が『悪』であることを示しきれないかもしれない。
「こちらから仕掛けるより、向こうから来るように仕向ける、か……?」
呟いた言葉に着想を得て、五飛はデイパックから『ソレ』を取り出した。
◆
突然の無礼を、まずは詫びよう。
私の名はゼロ。諸君と同じ、このバトルロワイアルの参加者だ。
だが、諸君と私とは決定的に違う点が一つ、ある。
それは何か? 答えよう。
私は自ら望んでこの場所にいる。帝愛グループはいわば私の協力者だ。
この戦い――殺し合いにおいて、私は諸君がこの世界に貫くべき自らの『正義』を見出すことができるか。それに期待している。
おそらくこの状況に戸惑っている者は多いだろう。なぜ自分がこんな目に、と。
戦いたくなんかない、死にたくない、守ってほしい、家に帰りたい。そう考えるのはごく自然なことだ。
心中はお察しする。私とて、無垢なる者に痛みを強制することには同情を禁じ得ない。
だが同時に、私はそのような輩を断固として排除にかかる!
力がないからと言って、他人に自らの命運を預けるな! 生き延びたければ、死にたくなければ――自らの意思で戦え!
力がなければ考えろ。思考の限りを尽くし、戦術を駆使し、あらゆるものを利用して敵の裏をかけ!
他人に守ってもらえるなど思うのは甘えだ! そんな幻想にすがる輩は、自分の命を他人に投げ渡しているだけだ!
自らの意思を表現することができないのなら、それは死んでいるのとどこが違う? いいや、何も違いはしない!
私は戦いを否定しない。戦いの中で生きた実感を、充足感を得られる者もいるからだ。
諸君の中にもそういった者はいるのでなないか? 常に戦場に身を置き、原始的な欲望、衝動に身を任せている者が。
有史以来、人は常に争いの中で発展し、進化してきた。
であればこそ、この殺し合いの中においても人は正しく進化することができるのではないか?
私は、その答えが知りたいのだ。
もう一度言おう。我が名はゼロ!
人々よ、我を恐れよ! 私はここに、諸君ら全員の抹殺を宣言する!
間違っているのは私か? 帝愛か? それとも諸君か?
諸君らが本当に『生きている』と、自らの行いが『正しい』と確信があるのなら――抗ってみせろ!
◆
黒の仮面を外しふう、と息を吐く。
録画した映像は順次施設へと送信され、当該施設の映像機器で繰り返し再生されるようにした。
また、放送設備を用いてこの宇宙開発局エリア一帯にも声を届かせた。
映像が届いていないので実感は湧かないかもしれないが、これで隠れ潜んでいる者も何らかのリアクションを見せることだろう。
踵を返し、管制室を出る。
タワーを出れば、五飛はもう後戻りはできない。
参加者全てに喧嘩を売ったのだ。誰も彼もが、五飛を敵だと見定めているだろう。
だが、それがいい。
明確な敵が、目に見える脅威がなければ、人は危機を実感し辛い生き物だ。
既に誰かに襲われた者ならともかく、友好的な関係を築いた集団は楽観していることだろう。
この調子で仲間を集めていけばみんな助かる、と。
その過程で戦う意思を見出したなら構わない。
だが、集団に埋没し、守ってもらうことを期待するだけの弱者に成り果てたなら――
そんな者に対しては充分な宣告になっただろう。
もちろん、明確に殺し合いに乗ったと判断した者には容赦はしない。
望むのでは殺戮ではなく、個々人の意識の変革だからだ。
途中、休憩室らしきところに寄って、自販機からコーヒーを取り出す。
熱いコーヒーのはずなのに、飲んでいれば不思議と心が冷えていく――決意が固まっていく。
ふと目に付いた窓際の黒く分厚いカーテンを、刀で手頃なサイズに切り出す。
背に翻った布はまるでマントのように。
この仮面にマリーメイア軍の軍服はミスマッチと言わざるを得ない。やはり、このような小道具が必要だろう。
銃弾を防げはしないだろうが、刃物なら一瞬なりと絡め取ることができるかもしれない。目隠しにもなるだろう。
仮面を小脇に抱え、タワーを後にする五飛。
その足取りにもう迷いはない。
タワーを出て、とりあえずは手近な参加者を探すかと歩き出した五飛の目にずらりと居並ぶ車の群れが飛び込んできた。
タワーに併設された駐車場らしい。
足が手に入ればと五飛はその内の一台、乳白色のス○ルR2らしき車に目を付けた。
窓ガラスを腰に挿していた刀の柄尻で叩き割り、強引にドアを開く。
だが、そこで五飛は凍り付いた。
「……足が伸ばせんな」
渋面を浮かべ、五飛。
その車体は外からはわからなかったが、床がかなり底上げされていた。
五飛が乗っても足が途中でつっかえてしまうだろう。
そもそもペダルもなかった。どうやって運転するのか、と思ったが。
「ハンドルに細工がしてあるな……足を使わずに運転できるのか」
その技術力と言うか凝りように驚かなくもなかったが、五飛が乗れないのでは何の意味もない。
足で操作し手をフリーにできるのならよかったのだが。
これは使えないと判断して、五飛は視線を巡らせる。
次に目を付けたのは、駐車場の隅に置かれていたバイク――らしきもの。
一般のバイクと違い、密閉型のバイクだ。これなら防弾性能も期待できそうだ。
近寄り、またガラスを叩き割ろうとした五飛だが、バイクに手が触れた途端キャノピーが開いていく。
どうやら、鍵はかかっていなかったようだ。
「…………」
五飛は先ほど破壊した車を数秒ほど見やり、一礼した。運が悪かったとしか言いようがない。
バイクに乗り込み、これまた鍵がないので回路を直結しようとハンドルの下あたりを探る五飛。
だが蛮行が行われる前に、五飛に別の方法が提示される。
カーナビかと思っていたモニターに文字列が踊った。
「パスワードを入力せよ……か。フン、使わせる気はないということか?」
苛立ちとともに吐き捨てる。コンピュータで制御されるのなら、回路を繋げたところで動きはしないだろう。
まあ考えてみれば考えなしに車など支給すれば、あっという間に殺し合いどころかどこぞの自由都市になってしまうはずだ。
機械による総当たりなどを除けば、パスワード、暗号という物は大きく分けて二つ存在する。
誰かに解かせるものと、解かせる気のないものだ。
前者で言うならクイズ番組などでよく見る、ヒントなどをばらまきその情報を総合して類推できるもの。雑学の範囲で答えられることもある。
後者はある個人のプライベートに関するものなど。設定した本人以外に知られてはまずいものや、誰か特定の人物にのみ知らせたいことがあるときなどだ。
前者ならともかく、後者ならどうやったところで五飛に解けるはずもない。
このバイクの持ち主の名前・思考・性格・素姓などあらゆる情報が不足しているからだ。
溜息をつく。
この様子では他の車も同じだろう。鍵を外したところで動かせなければ車などただの棺桶だ。
「まあ……いい。さして期待はしていなかったしな」
軽く気疲れを感じた五飛は、これと言って特に思うところもなく適当に文字を入力していく。
せっかくだから適当に何か打ち込んでみようと思った、それだけのことだ。
teiai――設定されたパスワードに一致しません。
t・i――設定されたパスワードに一致しません。
endo――設定されたパスワードに一致しません。
y・e――設定されたパスワードに一致しません。
index――設定されたパスワードに一致しません。
帝愛グループ、遠藤勇次、インデックス。数少ない主催者側の名前、もちろんNG。
まったく、無駄足だな――五飛は嘆息し、ここに来る直前のことを思い浮かべた。
指先は踊る。
五飛自身の身の上のこと。
oz――設定されたパスワードに一致しません。
colony――設定されたパスワードに一致しません。
operation meteor――設定されたパスワードに一致しません。
オペレーション・メテオ。全ての始まりにして、今またデキム・バートンによりその模倣が行われた作戦名。
本当なら今も衛星軌道上で追ってくるかつての仲間――おそらくはヒイロ、ウイングゼロだろう――を待っているはずなのだ。
xenlon――設定されたパスワードに一致しません。
Altron――設定されたパスワードに一致しません。
natak――設定されたパスワードに一致しません。
gundam――設定されたパスワードと一致しました。ロックを解除します。
だが、気がつけばこの隔離された島で殺し合いなどをしている。
地球と宇宙、連合とコロニーの争い。その果てに手を取り合ったはずの人類が、今またこうして血を流すことを強いている。
やはり、間違っているのは――
「……何?」
徒然とした思考を打ち切り、モニターを注視する。
見間違いか、と五飛は目を瞬かせた。
だがモニターには確かに、パスワードが一致しロックが解除されたとの旨が通知されている。
「ガンダム……これがパスワードだと?」
ガンダムと言う名はもはや世界規模だ。知られて困ることはない。
だが一般の人々が持つガンダムのイメージと言えばそれは間違いなくただの破壊者だろう。
その本質を力なき者の代弁者、と捉えている者は果たしてどれだけいることか。
しかしだからと言って、自分のバイクにこんな酔狂なパスワードを設定する馬鹿者など――
「……いるな。あの馬鹿ならやりそうなことだ」
と、五飛が思い浮かべたのは三つ編みのおさげも長い死神を自称する少年だ。
同じガンダムパイロットでありながら、ヒイロや五飛、トロワとはあまりにも違う陽気なメンタリティを持つ男。
だが決して軽薄ではなく、締めるべきところは締める男なのだが。
「まあ……いい。デュオ、お前もまた俺を追っているのだろう? もしお前もここにいて、相まみえることあらば……」
X-18999でヒイロは五飛と交戦し、デュオはトロワと交戦した。
トロワはそのままX-18999に残ったことから、もはやマリーメイア軍の仮面を捨てたのだろう。
しかし五飛は違う。ヒイロと戦ったのは演技などではない。
「そうだ……貴様らが正しいのなら、俺を止めて見せろ。俺は逃げも隠れもせんぞ」
正義はどこにあるか。
それを問うに、同じ答えを求め戦ったガンダムパイロットほど相応しい相手もいない。
キャノピーを閉め、アクセルを吹かす。問題なく運転できそうだ。
足の確保はできた。加えてこのバイクは武器にもなる。
とは言え、発見した参加者を有無を言わさず轢き殺しては意味がない。
接敵すれば降りた方が無難だろう。
やがて五飛を乗せたバイクは勢いよく駐車場を飛び出した。
その内部、さきほどまでの五飛は消え、今は黒い仮面を纏った男がそこにいた。
ヘルメットの代わりでもあるが、それだけではない。
(俺は『悪』になると決めた。この仮面はいわば誓いだ)
ゼロの仮面。
己の信じた正義との、決別の証。
全てを0にするか、そうでない道を選ぶのか――
「さあ……見せてみろ! お前達の意思を、お前達だけの『正義』を!」
吠えて、悪の仮面は突き進む。
戦争を捨てることが出来るだけの……それに足るだけの答えを求めて。
【G−5/タワー外部/一日目/黎明】
【張五飛@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:マリーメイア軍の軍服 分厚いマント
[装備]:干将・莫耶@Fate/stay night ゼロの仮面@コードギアス 刹那のバイク@機動戦士ガンダム00
[道具]:デイパック、基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考]
基本:オレが参加者の脅威となる!
1:殺し合いに乗ったものは倒す。
2:ゼロとして『戦う意思』のない者達を追い詰める。……それでも『戦う意思』を持たなければ――
3:人間の本質は……
[備考]
※参戦時期はEndless Waltz三巻、衛星軌道上でヒイロを待ち構えている所です。
※バイクはデュオの私物だと思っています。
※【太陽光発電所】【展示場】【ホール】【政庁】【ショッピングセンター】【学校】にゼロの演説を記録したビデオメールが送信されました。
受信するまで多少タイムラグがあるかもしれません。受信したときは、モニターやテレビなどで自動で再生されます。
また、宇宙開発局エリアに声だけが響き渡りました。
【ゼロの仮面】
ルルーシュ・ランペルージ及び枢木スザクがゼロとなるとき使用するフルフェイスの仮面。
ボイスチェンジャー機能が搭載されており、左目に当たる部分は開閉可能。
視界は狭そうに見えるが、スザクはこれをつけたまま機関砲を避けたりしているので、おそらくセンサーなどを内蔵して視覚を補っていると思われる。
【刹那のバイク@機動戦士ガンダム00】
刹那がマリナ姫と初めて会ったときに乗っていた卵型のバイク。
バイクとは言う物の、車高の低さから見るに車体にまたがるのではなく車の座席のようなシートで操縦している。
その上風防というかキャノピーが閉まる密閉タイプ。またタイヤは異様に太く、車体にはTAXIと書かれている。
ちなみにメガゾーンではないので変形はしない。エクシアのコアファイターでもない。
【小萌先生の車@とある魔術の禁書目録】
月詠小萌の体格に合わせ特注された車。
小萌先生は足がペダルに届かないため、ハンドルにアクセルとブレーキ用のスイッチのようなものが付いている。
※窓ガラスが破壊されました。
※また、他の車と同様パスワードが設定されているかもしれません。
代理投下終了です
乙です!
さすが帝愛。殺し合いにギャンブルを取り入れるなんていかにもだな。
しかし肝心の咲勢は次々と脱落している…!皮肉っ…!皮肉と言わざるをえない…!
なぁに、死んだ三人はモモとキャプテンを覚醒させる為の生贄さ
g
投下します
湯煙が心地よい。
入浴剤のかぐわしい芳香が心と体をリラックスさせてくれる。
力を抜いてゆっくりと手足を伸ばせば、湯船に浸かった五体の隅々までが溶けていくような心地になる。
静かで他には誰もいない広々とした空間は思考をめぐらせるのに最適といえよう。
「さて……まずはこの<<ゲーム>>の核心部分を把握せねばなるまい」
『ロンだじぇ! 東、白、トイトイホンイツ12000!』
ゲーム。これは命を懸けたゲームだ。
個室で説明役が語っていたルールに則ったゲーム。
何者のためのゲームなのか?
――それはもちろん人間だ。人間以外にゲームを嗜む存在など自分が知る限りではいないはずだ。
どんな人間のための?
――殺し合う当人たちではもちろんありえない。
殺すということは元来、とてもシンプルなものだ。
それは端的な言い方をすれば命の破壊行為である。
命とは何かという哲学的な命題はこの際、横においておく。
とすれば、それは肉体を生命活動が不可能なレベルにまで損傷させるという、たったそれだけの味気ない行為だ。
屠殺場で牛や豚を殺すのと変わりはしない。そんなものに喜悦を感じる人間がいないとは言わないが、普通はごくごく少数だろう。
これも悪趣味極まりないことには変わりないが、とりあえずゲームという名のエンターテインメントが成立するには、それとは別のエッセンスが必要となる。
まず、第一。
死という逃れ得ぬ圧倒的なリアルを前に虚飾を引き剥がされた人間の本質を覗き見る愉悦。
下卑た好奇心と言わざるをえないがそれが人間の本質の一部であることもまた事実。
何より己自身も人間の本質を見極めたいと常々考えている。
そして、第二。
誰が生き残るか、勝ち残るかを予想するギャンブル的な要素。古来より競馬からはたまた戦争まで、ありとあらゆる争いごとで行われてきた行為。
だがそれはつまり観客、つまり第三者がいてこそ成立する要素だ。
スポーツにおいても当事者たちは己が勝つために全力を尽くす。
誰が勝つかなどではなく、己の勝利しか考えない。
この殺し合いとてそうだ。負けることは死を意味する。自分の全てが終わるという時に、スリルも興奮も喜悦もエンターテインメントもない。
これは帝愛グループと名乗り、このイベントを監視するものたちにとっての楽しい<<ゲーム>>なのだ。
「……では彼らは一体、どんなゲームを楽しみたいのだろうか?」
『ツモじゃ。タンピンツモイーペーコードラドラ 3000 6000』
遥かな過去、ローマ帝国という国があった。
そこでは戦争で捕らえて奴隷にした異民族同士で、または獣と戦わせ、そして食い殺される様や、逆に獣を討ち取る番狂わせを眺め楽しんだという。
このゲームもそれと同じ類だろう。人間の本質というものは古来より不変だ。
だがそのような下卑た側面だけでなく、光り輝くような奇跡を起こす力も併せ持つのが人間であることも事実。
それゆえに未だその本質を見極めることが出来ずにいる。果たして下卑た醜さと輝く奇跡の力と、どちらが本当の姿なのか。
ともかくいま見極めるべきは、彼らがどんなゲームをしたくてこのルールを定めたのか、だ。
それを見切ることによって、この眼には写らないものも予測し、手の内にいれることが可能となる。
さて、それは単純に血が見たいという残虐な好奇心か。
ならばそれこそ古代ローマのような闘技場で、怪物のごとき凶暴な獣と戦わせればいい。
彼らがこんな会場を用意し、単純な殺し合いから遠く離れた婉曲なルールを作り上げるのは、それとは別のものを見たい欲求があるからだ。
会場が広ければ、そして人数が多ければその分、行動の選択肢は広がることになる。
戦う、逃げる、罠をはる、協力する、騙す、裏切る……やれることは多い。
支給されるアイテムの多彩さと豊富さも幅広い戦略を考える助けとなるだろう。
そのようなルールを定めた彼らの狙いを推測してみる。
「彼らは力ではなく機転や知恵の類を求めている……知略を練り、選択を過たず、そして僅かな天運の細い綱を渡った先に、力の差を埋める逆転の道が用意されているはずだ」
『カン!』
そうでなければ、哀れにも見せしめの役割にされたあの娘のようなプレイヤーは、勝ち残る可能性などゼロに等しくなってしまう。
少なくとも自分が肉体を駆使した真っ向からの勝負で彼女に負けることは考えられない。
ならばそれを覆しうる要素がなければゲームとは呼べまい。それは身体能力の強弱に関わりなく平等なファクター、すなわち頭脳だ。
多少は確率に差があるにせよ、どんな結果でも起こりうるからこそゲームなのだ。
そしてそれに気付かぬ愚者を観察者の立場から嘲笑い、気付いたものを生存する価値のある賢者とするルール。
意地の悪い課題を突きつけ、気付かぬものが馬鹿なのだと、それを知る自分達こそは賢者であり強者であるといわんばかりの傲慢さ。
まさにあの遠藤と名乗る男のイメージとも一致する。
生贄となった少女の首を爆破したとき、あの男は笑っていた。支配の力に酔っていた。
カネで魔法を買ったと、カネは万能だと嘯いた。
「もしそれが真実ならば私はこの世には必要ない。あの遠藤という男も、あらゆる人間は生きている価値がないことになる。
人はカネなどには支配されてはならないと私は思う。そのような世界は余りに悲しすぎる」
『カン! もいっこカン!』
結果として自分がこの『バトルロワイアル』を勝ち抜き、生き残ったとしても、それを肯定することになるならば意味があるとは思えない。
トレーズ・クシュリナーダはこのゲームの根幹を否定する。人がカネの奴隷となる結果は受け入れることはできない。
だがこのゲームのルールは、己が忌避するカネと力の奴隷にこそ有利になるよう仕組まれている。
「無為な殺人を忌避する者はこの状況に戸惑い、その隙にそれを肯定する者たちの食い物にされるだろう。
カネの奴隷となることを善しとせぬ誇り高き者は、進んで奴隷となった者たちにつけこまれ、追い詰められるだろう。
このゲームはそのような仕組みで出来ている。高潔な意志は踏みにじられ、友愛は裏切られるだろう……私はそれを良しとしない」
『ツモ! リンシャンサンカンツ三色同刻ドラ7、12000オール!』
ではどうするか。
まず、このゲームにおいて陥りやすい罠がある。それを防ぐことだろう。
罠……それは殺し殺され合った結果、憎しみを殺人者に向けてしまうことだ。
この状況に陥れた真犯人――つまり主催の帝愛グループを憎むことを忘れ、自分たちと同じく陥れられた者達にそれを向けてしまうこと。
それはとても容易いことだ。まず最初にこの名簿を見ても誰が積極的な殺人者かはわからない。
つまり自分以外のあらゆる誰かが脅威となる。
自身にとってのゼクスなどの親しい知り合いを除けば常に他人を疑いの目で見つめざるを得ない。
これでは協力や対話など望むべくもない。
先刻出会った刹那という男は、対話によって解決すると嘯いていたが、それは現実問題として難しいだろう。
「私にも理想はある。だが全体において、個人の理想とはイコールちっぽけな妄想でしかない。
刹那・F・セイエイよ。君は君の理想を、この下卑た遊戯盤の上で何処まで貫くことができる……ツモ、700 1300の一本場」
『終了だじぇ!』『お疲れ!』『おめでとうございます、三連勝でボーナスプレゼントです!』
短い出会いの中で語り合い、決別した男のことを思う。
もし彼がリリーナ・ドーリアンと会う事があれば、それは互いにとって良き出会いとなるだろう。
そしてそれは個人よりも大きな力を持ち、やがてこの遊戯盤をひっくり返す鍵となるかもしれない。
だがその確率はとてつもなく低いだろう。そして帝愛もそれを黙って看過するとは思えない。
例え我が永遠の友、ゼクス・マーキスことミリアルド・ピースクラフトの力が加わっても難しい。
まずこの名簿に記載されていないものたちが問題だ。現在正体不明。
主催が積極的に殺して回ることを命じて、この戦場に放った刺客であることは充分考えられる。
さらに次の放送で死者の名前が呼ばれるという。これが厄介なのだ。
誰かが死んだということは、それらの人間を誰かが殺したということ。
支援
しえん
つまり殺人者が自分たちのいるこの場所に存在することが確定事項になるのだ。そしてそれが誰なのかは殺人者本人にしか分からない。
見えないということ、知らないということ、わからないということは恐怖を何倍にも増幅させる。
暗闇の中では単なる物音も怪異として受け止め怯えるのが人間だ。
自分以外は全て殺人者かもしれない、だから殺される前に殺す……充分にありえるケース。
その狙いをもって帝愛が刺客を密かに送り込んでいたとしたら。
「……どうやら私がやるべきことは見えてきたようだ。戦い、敗れることを望む私にはお似合いといえる」
『賞品は一億ペリカの引換券です。 バトルロワイアル優勝時に使用することができますので大事に保管してください。
本日はGNスパ内、麻雀風呂をご利用いただきありがとうございました。また、私たちと打ってくださいね』
それは選定だ。
金と暴威が支配する世界においても、その世界の法則に立ち向かう強き意志を持った者たちを見極めること。
そしてそのもう一方で、この世界の奴隷となり、殺戮と背徳に興じる者を排除すること。
トレーズ・クシュリナーダは長い思案の末、ついに結論を得た。
「この麻雀風呂とやらも殺しあうことを促進させるための施設だったというわけか……。
おそらくは優勝賞金の何割かと引き換えに強力な武装を支給するという施設などもあるだろうな。私でもそのくらいは考え付く」
このようなチケットをもらっても、まずは優勝しなければ話にならない。
そこでそのための力を得るための方法があるはずだ。非力な参加者はそうでもしなければ生き残れないからだ。
その交換条件でまず予測できるのは優勝時の賞金だ。その際に一億無ければ帰還できない、命に直結するカネ。
リスキーではあるが、まずは生き残らねば話にならない。そんな参加者に出会ったとき、このチケットはとびっきりの交渉材料となる。
「さて、あとしばらくすれば最初の放送か。どれほどの犠牲が出るのか、そしてそれを受けて殺戮世界の現実を受け止められる者がどれほどいるか……。
ゼクス、願わくばまだ死んでいてはくれるなよ。友としての切なる願いだ……そしてリリーナ嬢にガンダムのパイロットたちよ」
ざばりと水音を立てて、トレーズ・クシュリナーダは湯気を立てる裸身を晒し、そのまま浴場を後にする。
背後には麻雀風呂。そこには大きなスクリーンがあり、コンピューターゲームで麻雀が打てるつくりになっている。
画面には幼い顔立ちのバニーガール少女、メガネをかけたソバージュのフレンチメイド、おとなしそうな顔立ちのネコミミを付けた少女が映っていた。
「君たちは勝利を目指し、私はその勝利を飾るための敗北を目指そう。
誰からも忌み嫌われ、立ち向かうためには手を取り合うことが必要不可欠と誰もが思うような殺戮者に……む?」
ぴんぽーん♪ と軽快な音が鳴る。
麻雀風呂のスクリーンにスコアが映し出されている。
東家 トレーズ・クシュリナーダ40700
南家 染谷まこ(CPU)12000
西家 片岡優希(CPU)11700
北家 宮永咲(CPU)35600
だがそれが突如切り替わり、スクリーンは赤く毒々しい刺激色に染められた。
去ろうとしたトレーズは振り返り、何事かと眉をひそめる。
デスゲーム――そこには大きくそう書かれていた。
続いてルールが表示される。現在の時刻は午前4:00。
・幾つかかの施設にこのようなギャンブルゲームの機械がおいてあります。マルチプレイ対応。
・だれかがハコになった時点で終了。ハコになればどれだけペリカがあっても首輪は爆破されます
・運営の用意した人物にはハンドルネームが設定されていますが、参加者は場所名しか出ません
・ゲームの途中で退席は出来ません。もし行おうとした場合は首輪が爆破されます。
・また周囲からの指示を聞いて打つという行為も禁止されます。その場合も首輪が爆破されます。
・点数の清算は100点=10万ペリカとなります。またペリカを払わず血液での支払いも可能でその場合は100点につき10ccとなります。
・半荘戦ですが、清算は東場終了時の点数でも行われます。
・午前一時から三時間ごとに一回ゲームが開始されます。二時間半たっても決着がついていない場合はその時行っている回の終了をもって清算に入ります。
・ゲーム開始時刻までにエントリーがそろわなければ主催者の用意した代理が入ります。
・選択種目は吸血麻雀です。現在、一人の参加者がエントリー中です。エントリーしますか? yes/no
◇ ◇ ◇
一方、そのころA-5。敵のアジトと地図に書かれた施設の一室。
「こ……これは……!? ワシ以外の参加者がエントリーだとっ……! つまりは参加者……!
おそらくはワシと同じ暴力に秀でていないがゆえに引きこもった類の……つまりは肉体的弱者ッ……!」
吸血麻雀のデスゲームが行われる端末機器の目の前に座る男。
採血のための器具と拘束具に絡め取られた老人が一人。
血色はよくない。だがその眼だけがギラギラと濁った光に満ちていく。
「ツイとる……! ツイておるぞっ……! こやつは王のための生贄……!
このタイミングで……絶好の据え膳っ……食わずにおくべきかっ……!」
参加者――つまりは人間のプレイヤー同士の対戦。
人の上に立つのが王ならば、機械はともかく只人に負ける道理はない。
多少は腕に覚えがあったとしても、そんな程度の連中は数え切れぬほど屠ってきた。
ゆえにこの老人、兵藤和尊はこの機を僥倖ととらえる。
・プレイヤー同士の対戦ではCPUの点数は考慮されません。当人同士の順位でそのまま勝敗が決まります。
・ウマはワンスリー。一位+30 二位+10 三位-10 四位-30となります。
追加ルールが表示された。
いつ誰に襲われるかわからない危険を考えても、あまり長く時間をかけるのは得策でない。
ゆえにこれは好都合……!
まちがいなく半荘一回で勝負が決まるっ……!
ウマによってつく順位点差は最低で20……つまり二万点差……! そして常人の出血による致死量は2000cc……!
死ぬっ……! 万が一死なずとも行動はまず不可能……!
たやすく殺される……この殺し合いでは脱落したも同然……!
「はじめよう……! ギャンブルッ……! 命をゴミのように弄ぶ……ギャンブルをっ……!」
◇ ◇ ◇
ここでは参加者の姿は向こうに映らない。
コンピューターグラフィックによるアイコンが仮の姿となる。
むこうのそれは、ふてぶてしい面構えをした黒シャツの少年だった。
東一局
東家 のどっち :25000(親)
南家 ハギヨシ :25000
西家 太陽光発電所:25000
北家 敵のアジト:25000
『太陽光発電所』か……なるほど、地図を見ればたしかに篭るには適しておる……!
知恵はそこそこ回るようだが……度胸がなくてはギャンブルの闇が覗く、険しく暗い断崖を乗りこえることは出来んぞ……!
ククク……さあどうでる?
『ロン、1300だ』
……。
……。
……は?
なんですか……?
東一局からいきなりノミ手……!
話にならないクズか……!
切るのはほぼノータイム……。
まさにのどっちとやらと同じく機械のようだが……例え性能は秀でていたとしても大局を見極められぬクズ……!
人を統べる王に勝てる道理なしッ……!
話にならない……!
◇ ◇ ◇
東四局
東家 のどっち :31900
南家 ハギヨシ :19800
西家 太陽発電所:24300
北家 敵のアジト:25000(親)
東場オーラス……!
ククク……ワシの親ッ……!
ここまでちょこまかと動いた割に、振らずアガらずのワシよりも下とはな……!
動いて余計なツキを落としおって……でんと構えたワシとは対極よ……!
見よ……!
親になってチャンス手ッ……!
これが王だ……やはりワシは王なのだッ……!
『ポン』
む……?
『ポン』
対面の『ハギヨシ』とやらが仕掛けてきたか。
そして鳴かせたのは『発電所』。
相手の手はみえみえのホンイツ気配……多少の心得があるなら、そのあたりの牌はおさえておくべき……!
やはりクズッ……!
心得もないくせにこのゲームに飛び込んできた愚図ッ……!
冷静な判断力を失うなど愚かの極みよッ……!
む……?
うぐっ……!
さっきの鳴きでツモがずれたか……!
ツモれんッ……!
このクズッ……貴様のせいでッ……!
王の御前なるぞ……邪魔をするなど万死に値する……!
ぐっ……引いて来た……!
危険牌……!
それがどうしたっ……当たる筈が……ないっ……!
通すっ……!
通すっ……!
通すっ……!
通すっ……!
通すっ……!
通すっ……!
『……』
通したっ……!
どうだ……!
ワシは王の力に守られておるのだ……!
こんな――、
『――ツモ。東、北、ホンイツトイトイドラ2 4000 8000』
あ……?
あぁ……?
あ……!!
ワシが親……!
8000点の支払い……馬鹿なっ……!
お……親っかぶりだとッ……!
貴様ッ……貴様ッ……!
これは……このままでは……!
『―――支払いがないので、血液による採取を実行します』
◇ ◇ ◇
南四局オーラス
東家 のどっち :35800
南家 ハギヨシ :28000
西家 太陽発電所:30200
北家 敵のアジト:6000(親)
馬鹿なっ……! こんな……!
こんなことがっ……! 卑怯っ……! こいつの戦略は……勝負ではないっ……!
ワシが親のときに他家の必要牌を鳴かせっ……親っかぶりで彼我の点差を広げる……!
そして軽いが速い……どいつもこいつもチマチマとっ……! ゴミ手の連打……!
まずい……判断を誤った……!
東場終了後に血液を抜かれ、-800cc……!
前回の勝負と合わせると合計で-1500cc……!
大量出血ッ……!
意識がっ……!
……集中できぬッ……!
止められぬ…………崩壊ッ……!
死ぬ……死ぬっ…………死ぬっ………………死ッ……………………!
だが、まだだっ……まだっ…………一発で……ひっくり返せる……オヤッパネ18000……!
起死回生逆転の、一手ッ……!
『――ロンだ。そいつはとおらねえな』
ぐにゃぁ……!
な……んだと……!
今、何と言った……!
嘘だッ……! 嘘だッ……! 嘘だッ……! 嘘だッ……!
こんなのは幻聴だっ……!
『タンヤオドラ2、3900』
この黒シャツ……!
『太陽光発電所』とやらのアバター……!
ふざけおって……!
ワシは王……!
王なのだ……!
ワシは……!
『終了です―――支払いがないので、血液による採取を実行します』
王、だっ………………!
負け……る……はず…………!
『俺の勝ちだな。玄人(バイニン)がトーシロと打(ぶ)って負けるわけにはいかねえのさ』
【兵藤和尊@カイジ 死亡】
しえん
え、えええーー!?
支援
会長wwwww
しえ
◇ ◇ ◇
「…………勝ったか」
そして場面はスパの中へと切り替わる。
湯船の中から飛び出してきてトレーズを絡めとった拘束具と採血器は、役目を終えると再び湯の中へと姿を消した。
大きく溜息をつく。
彼がラス親であったことを利用し、親っかぶりを狙い、そして直後の東場終了採血で揺さぶりをかける。
血を抜かれ、死を実感させることで動揺を狙うというこの戦術は、ことのほか巧くいったようだ。
その後の南場での彼――『敵のアジト』は、死への怯えがミスを誘発したのか、あっという間に崩れていった。
画面の向こうで彼が絶命したことを告げるメッセージがスクリーンに流れている。
勝利ボーナスは先程と同じ一億ペリカ。そして敵が持っていた支給品の譲渡。
遠く離れた場所からいきなり転移してきて、今はトレーズのそばのタイル張りの床に置かれてある。
おそらく最初にここに『飛ばした』のと同じ技術――遠藤の言葉を借りれば、魔法の一種だろう。
「一人救いたければ、一人殺せ。蘇らせたければ四人殺せということか。なるほど、殺し合いを促進させるには効率的だな」
新たに手に入れた支給品を手に取り、トレーズは今度こそ湯煙立つ浴場を後にする。
手に入れた武器はサブマシンガン。だが求める力はこんなものではない。
もっとだ。もっと殺せる力が、忌み嫌われる力が必要だ。
「私が手にかけた名も知らぬプレイヤーよ、私は君を忘れない。
私は死者に対し、哀悼の意を表することしか出来ない。だが、君もこれだけは知っていてほしい。君は決して無駄死になどしていない。
この後の放送で死者として君が呼ばれるのであれば、他に犠牲となったすべての者達の名とともにその存在を刻もう。
その記憶は私の力となる。私が失わせた命の重みが、私から迷いを消し去ってくれる。
迷いを消した戦士の力――エピオンのような、戦神にも等しい力を私に与えてくれたまえ。
そしてその力をも倒す者達がきっとその無念を晴らすだろう」
滔々と謡うようなその声。
そしてドアが開き、閉まる音を最後に広大な浴場は無人となった。
【G-2/太陽光発電所内部・GNスパ男湯麻雀風呂/一日目/早朝】
【トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康、ほっかほか
[服装]:全裸
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜2(確認済)、サブマシンガン、薔薇の入浴剤@現実 一億ペリカの引換券@オリジナル×2
[思考]
基本:全ての参加者から忌み嫌われ、恐れられる殺戮者となり、敗者となる。
1:この争いに参加する。生き残るのに相応しい参加者を選定し、それ以外は排除。
[備考]
※参戦時期はサンクキングダム崩壊以降です。
【一億ペリカの引換券@オリジナル】
ギャンブル勝負で入手できる、防水ラミネート加工されたチケット。
優勝時に一億円の賞金ボーナスがつく。
※A-5に兵藤の死体が放置されています。荷物はトレーズの下へ送られました。
投下終了です、支援感謝。
ご意見ご感想ありましたらよろしくです。
投下乙
か、かいちょーーーー!!
マジに死んじまったのか!!?
カイジをも越えたギャンブルを見せた兵藤がまさかの脱落
先に登場した福本のじいちゃんのこともあったし
永く生き延びるかと思ったけどこれは予想外
湯冷めしそうな施設だな、おい
投下乙です
トレーズ様SUGEEE会長南無…
前のSSでもあったが画面越しだと会長の真価は発揮されないんだな
むしろトレーズが十八番奪った感じだよw
すいません、支給品説明にミスがありました。
×一億円のボーナス>○一億ペリカのボーナス
に修正
か…会長…まさか安藤より早く死ぬとは思わなかった…
予約スレ白熱しすぎだろw
会長さん小物臭がプンプンしてたからな・・・
投下乙です
か、会長ーーーっ!
見たかった、カイジ、利根川、会長の三人が顔を合わせて「どうしてこうなった、どうしてこうなった」って言う場面がw
とりあえず、黙祷
第一回放送後の利根川の対応が楽しみだな
トレーズは五飛と似たようなことを・・・っていうか逆か。
五飛は名簿でトレーズの名前確認したら全部ほっぽりだしてTV最終決戦時の決着つけに行きそうだけど。
投下乙です
会長、まさかこんなにはやく死ぬなんてw
得意なギャンブルとはいえ相手が悪かったか
とりあえず三代目マダ王襲名おめでとうございます
そういえばこれ、wikiの死亡者リストに載る際ってこうなるのか?
名前:兵藤和尊 死因:失血死 凶器:タンヤオドラ2、3900直撃
……もしもマジでこれになったら、パロロワ史上例を見ない死に方になるぞw
>>461 >凶器:タンヤオドラ2、3900直撃
クソ噴いたじゃねぇかw
しかも間違ってないから困るww
兵藤が強敵だって……? こんなに俺と書き手の間で意識の差があるとは思わなかった……!
>>461 どこぞのロワでは桂馬金取りなんていう死因があったわw
代理投下します。支援よろしく
宵闇。少しずつ空の暗闇が太陽へと溶け出し始める頃合い。
街頭に羽虫が群がり、星空は今にも雨粒と成り代わり、大地へと降り注ぎそうな輝きを見せている。
そんな、街の中に不可思議な二人組の姿があった。
宝石に喩えるならば、それはペリドットとアメジスト。
独特の拘束服に身を包んだ黄緑色の髪の女をボンテージのような衣服の紫髪の女が肩に担いで移動していた。
前者の名前をC.C.、後者の名前をライダーという。
バトルロワイアルという遊戯の参加者である二人だが、その関係は対等とは到底言えない。
最初の邂逅においてC.C.はライダーに捕獲され、血液を供給するための食料源として文字通り『持ち運ばれて』いた。
「おい」
「…………」
「おい。眼帯女、いい加減にこの拘束を解け」
「…………さっきからギャーギャーやかましいですね、貴女は。自分の立場が分かっているんですか?」
「もちろん、分かっているさ」
耳元で騒ぐC.Cをライダーが億劫げな表情で見つめた。
C.Cがライダーに捕獲され、こうして荷物のように扱われ移動が始まってから約二時間。
最初の内は吸血の影響でぐったりしていた彼女だが、時間が経つにつれて次第と力が戻ってきたようだ。
その度に血を吸って黙らせて来たのだが、どうやらもう回復したらしい。
とにかく彼女が先程からこの調子で騒ぎ立てるモノだから、ライダーは半ばうんざりし始めていた。
「分かっているのなら『食料』は黙っていてもらえますか」
「なに、今時の食料は口ぐらい使うものだ。腹も減ったことだしな」
「食料に食事を要求する権利はありません。先程も言ったはずですが」
せっかく捕らえた美味しい餌だ。殺してしまうのは勿体ない。
それに何となく、ではあるが――彼女の命を奪うことに対して、ライダーの中には妙に後ろ髪を引かれる想いがあったのだ。
ハッキリした言葉で、その感情を言い表すことも出来ない他愛のないモノ、とはいえ。
(大分市街地も近づいて来ましたし……そろそろ、他の参加者と接触してもおかしくない頃合いですね)
自身の支給品には直接攻撃系の武器はなかったが、幸いにもC.C.の方に丁度良い武器が支給されていた。
『猿飛佐助の十字手裏剣』というそれは、異様なまでに大きな手に持って使用する巨大な手裏剣である。
二つ同時セット、ということで通常、両手に短剣を持って戦うライダーにとって非常に都合の良い武器と言える。
「それでも、腹は減る。身体を拘束され、二時間もこんな格好だ。疲れもするさ」
「わがままな人ですね……」
C.C.の態度が変化したのは、おそらく街が近づいて来たからだろう。
大人しくしていれば、ライダーの気が変わらない限り、彼女はある程度の庇護を得ることが出来る。
が、どうも彼女は今の状態がお気に召さないらしい。
接触した当初は、名前を語ることさえ拒絶していたが、どうもこちらが『素』なのだろう。
精一杯虚勢を張ることで、こちらに対抗しようとしているのならば、可愛らしいものだが――
と、そこまでライダーが考えた時だった。
風がざわめいた。頭上で煌々と瞬く天板が凶星の輝きを示す。
背後から凄まじい速度で飛来して来る物体の気配。
豪、と空気が振動する。そして、大気を切り裂きながら飛来する一条の光。
「グッ――!」
――ドッ、という肉を突き破る音。
完全には避けられない。ライダーの脳がそう思考した瞬間、左肩を一本の矢が貫いた。
真っ直ぐ心臓に向かった飛んで来た矢の直撃を避けることが出来たのは、彼女の運動能力の高さの賜物だ。
闇の中で金属製らしき矢がコンクリートに突き刺さり、甲高い音を奏でる。
「狙撃か!?」
C.C.が身を捩りながら、目を見開いた。
夜空に浮かぶ月と同じくすんだ金色の瞳が驚愕に濡れる。
「……これは困りましたね」
振り返った先は空の果て。向こうは確か、円形闘技場がある方向だ。
障害物などは見あたらないが、同時に狙い撃つことが可能な高台すら存在しない。
だが、ライダーの視界すら及ばない距離からの一方的な攻撃――それこそ、一撃で命を奪われていてもおかしくなかった。
(こんなことが出来る相手――といえば、)
そう頭の片隅で思考した瞬間、闇の中で綺羅星が瞬いた。
ソレはスナイパーライフルから発射される弾丸よりも疾く、そして正確にライダーの身体へと向けて飛んでくる。
弓と矢、という武器は銃が登場した現代社会では役目を終えた武器であるよう認識されることが多い。
しかし、この飛来する矢が持つ力は、銃器では到達することの出来ない極見の世界のモノだ。
だが――飛んで来ると分かっていて、躱すことの出来ないほどのモノではない。
ライダーは手に持った十字手裏剣で矢を叩き落とす。金属の破壊される甲高い音が闇の中に木霊した。
「アーチャーのサーヴァント、ですか」
「……アーチャー?」
C.C.が訝しげな表情で聞き返した。
だが、今のライダーに彼女の相手をしている余裕はなかった。
一般人に該当する戦えない人間が大半であると想像していたこのゲーム。
しかし、ほぼ自身と変わらない能力を持つサーヴァントとのこんなにも早い邂逅――余裕を持って戦える相手ではない。
第五次戦争において、アーチャーのサーヴァントと交戦した経験はないが、敵は三騎士のクラスに属す強者だ。
切り札である宝具を持たないライダーにとっては、苦戦を免れない相手と言える。
結果として――
「C.C.、大変申し訳ないのですが、貴女はここに置いていきます」
そういう、結論を下すことになる。
ライダーの目的が優勝し、元の世界へ生還することである以上、何よりも優先すべきは己の命である。
こちらが先に敵を補足し、攻撃を加えたのならば、C.C.を確保しておく余裕もあっただろう。
だが、逆に不意打ちを食らったこの状況においては――ライダーに彼女を連れて行く余裕はない。
ライダーはすぐさま路地裏へと足を向け、狙撃ポイントから身を隠した。
彼女達の居場所はデバイスで言うE−6の市街地。障害物や建造物は非常に多い場所だ。
超遠距離からのロングレンジ攻撃に備えるにはもってこいの場所である。
「連れて行こうとしたり、置いていこうとしたり……随分と自分勝手な奴だな」
「貴女がそれを言いますか」
「私だから言っていいんだ」
そう呟くC.C.をライダーは溜息を吐き出しながら見つめた。
「……何故、殺さない。ここまで私の身体を弄びながら、飽きたら放り出そうと言うのか」
つまり、その問いかけにこの状況が孕んだ歪みは集約されることになる。
――何故、わざわざ自身に制約を課すような手段を取ったのか。
――何故、優勝を目指す身でありながら戦力にならない同行者を求めたのか。
(妙な感慨など、持たなければ良かったのでしょうかね)
黄金色の瞳が、ライダーを見ていた。
眼帯を身につけているライダーとC.C.では、決して視線は交わることはない。
蛇と、魔女。
共に迫害され、裏切りを受け、幾度となく虐げられて来た存在。
サーヴァントである蛇にとって、戦う力を持たない魔女を殺すことは容易い。
だが、彼女はその選択肢を切り捨てた。いや――『見逃すことすらせずに』彼女を自分のモノとしようとした。
既に半ば気付いていた。彼女のマスターである間桐桜はこの空間にはいない。
彼女を理解出来る人間は存在せず、縋るべき相手は遠い空の先にいる。
なれば、彼女は独り。
その身を理解するモノも、束縛する令呪も存在しない。
聖杯戦争に召喚された英霊としてではなく、悲劇の最期を辿ったゴルゴン三姉妹の末妹――メデューサとしての側面が顔を覗かせていた。
交わいを――求めた。
「気まぐれです。なんとなく、殺す気になれなかった。ただそれだけの話です」
「……ふざけているのか」
「いいえ。私は至って真面目ですよ」
確信には至っている。
だが、それをC.C.へ明かすことをライダーは良しとしなかった。
具体的な言葉にする気にはなれない。それは、まるで自分自身へと語りかけるようだから。
「とはいえ、せっかくなので貴女の荷物は貰っていきます。後のことは頑張ってください。ああ、それと――」
だから――真の意味で、互いを理解し合うことも、肩を並べて歩くことも出来ようはずがなかった。
それは、決して形としての情感も感慨も生み出すことのない出会いだった。
このような場所でなければ、状況でなければ――二人には何らかの関係が芽生えたのかもしれない。
だが、蛇には元の世界に帰らなければならない理由があり、魔女には蛇の隣に居続ける理由がなかった。
これは、それだけの話。
「別れの挨拶代わりに、もう一回だけ血を吸わせて貰います」
心は心。溶け合うこともなく、乾きを潤す術もない。
身体は身体。重なることもなく、温もりは夜風に消えていく。
「…………勝手にしろ」
「それでは遠慮なく」
最後に二人を繋ぐモノは言葉でも感情でもなかった。
蛇の犬歯がゆっくりと横たわった魔女の首筋に迫る。
はだけた首元と浮き出た青色の血管。皮膚から伝わってくるのは夜の静けさとは不釣り合いの熱い体温。
「……っ……ぁ…………」
魔女の押し殺したような声がコンクリートの壁を跳ね回り、そして落ちていった。
泉から湧き出る清水を飲み干すように、ただ蛇は最後の晩餐を味わい尽くす。
口の中に広がる甘く、切なく――苦い味わい。
唾液と血液が混ざり合い、二人の間にアカイイトの橋を架けた。
【F-6/路上/一日目/深夜】
【ライダー@Fate/stay night】
[状態]:健康、魔力充実+
[服装]:自分の服、眼帯
[装備]:猿飛佐助の十字手裏剣@戦国BASARAx2
[道具]:基本支給品一式x2、不明支給品x5(確認済み)
[思考]
基本:優勝して元の世界に帰還する。
1:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。
2:出来るだけ人の集まりそうな街中に向かう。
3:不思議な郷愁感
[備考]
※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。
※C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。
▽
支援
「動き出したか。追うぞ御坂」
「……いや、さ。その前に聞きたいんだけど」
「なんだ」
「あのね。私の目じゃ真夜中に一キロ先なんて見えるわけないっつーことよ。お分かり?」
ライダー達を襲撃したのは彼女の想像通り、弓騎士のサーヴァント――アーチャーだった。
傍らには学園都市に七人しか存在しないレベル5の超能力者の一人にして、《電撃姫》の異名を持つ御坂美琴。
両腕を組んで、非常に不満げな顔で弓を構えるアーチャーの顔を睨みつけている。
「すまんな。忘れていた」
アーチャーが嫌味たらしく、肩を竦めた。
真夜中に数km先のターゲットを弓を用いて正確に撃ち貫く行為。
一見、明らかに常人には可能と思えないが、英霊の身であるアーチャーにとってソレは造作もない所行だった。
彼が持つ《遠目》のスキルならば、4km離れた相手ですら射程範囲に納めることが出来る。
だが、強度の制限により、せいぜい最高で1km程度までしか、その卓越した能力は発揮することは出来ないのだが……。
「つーか、アンタのやってることの意味が分からないんだけど。
黒炭みたいな男から私を守ってくれたのは感謝してるし、
アンタがサーヴァントとかいう人間じゃない存在だってのもそれなりに理解した。でも――」
美琴は小さく言葉を切り、そして確信に迫る。
小柄な身体と明るい茶色い髪が吹き荒ぶ海風に揺られて、踊り遊ぶ。
「そのライダーとかいう、敵みたいな人見つけたら、いきなり攻撃始めるし。
そりゃ、なんか他の参加者を捕まえてた悪人っぽいけどさ。
アンタ、なにがしたいのかっつーか。マジで意味不明なんですけど」
非常に単純で――そして、根源を突く問いかけだった。
美琴はアーチャーを相当に戦闘慣れした人物であり、
同時に冷静で、現実的な物の考え方の出来る相手だと推察していた。
加えて、荒耶宗蓮に襲われている自分を守るために身を呈して戦ってくれたりと、
堅物で皮肉っぽくてウザい性格だが、正義感にも溢れた凄い奴だと思っていた。
――ほんの、数分前までは。
(『アイツ』みたいな、分かりやすい正義の味方……ってわけでもないのか)
正義という行為はやはり『庇護』とか『騎士道』のような概念との関連性が強いように美琴は思う。
敵を見つけて完全に相手が気づいていない状況だからって堂々と不意打ちを仕掛けたりとか、
『セイギノミカタ』ならば、普通はしないのではないか。
「仮にも奴はライダーのサーヴァントなのだ。
奴がこの戦いを勝ち抜けるような器ではないといえ、私の目的に対して障害と成りうる。だから攻撃しただけの話だ」
「だから、その目的っつーのが分からないって言ってんでしょうが」
「答える義務はない」
アーチャーの逆立てた白髪が風に揺れる。
密着タイプの黒のインナーが確かな修練によって鍛え上げられた筋肉を浮き立たせる。
そして、不思議と彼の雰囲気にマッチする赤い外套と褐色の肌。
美琴と比べて相当に背が高いのだが、それにしてもこうも妙にその背中が大きく見えるのが不思議だ。
「無駄話をしてしまったな。行くぞ」
と、勝手に歩き出すアーチャー。美琴は小さく溜息をついた。
(ったく……。でも、そう……例えば……なんなんだろう)
やっぱり、よく分からない。
そもそも、この男が一緒に行動してくれている理由すら曖昧だ。
先程、ビルの一室の中に連れ込まれた時、彼は美琴の不注意を説教すると、藪から棒に共に行動することを持ちかけて来た。
襲われて、殺されかけた身としては喜んでその提案を承諾したのだが――
「…………誰か、会いたい相手がいるとか」
気づくと、そんな言葉が美琴の口から漏れていた。
特にその推測を裏付ける要素があったわけではない。
ただ、アーチャーの目的を適当に推理しようとした時――美琴が頭の片隅で同じことを思ったから。
ツンツン頭の無鉄砲。
他人が傷つく姿を見るのがい嫌で、そのためには自分が傷つくことを何とも思わない。
絶望しかない場所から希望を拾い上げて、光が見える限り絶対に諦めず戦い続ける――そんな少年の顔が浮かび上がった。
(いやいやいや! アイツの顔が浮かんだのは……そう、数少ない知り合いだからってだけの話だけど!
さっさと黒子は見つけないと何やらかすか分かんないし、
一方通行の奴は正直会いたくないけど、さすがにシスターズの時とは事情が違ってるだろうし!
アイツはおまけ! 別に、会いたいとか、そんなこれっぽっちも思ってないんだから!)
美琴はブンブンブンブン!と大袈裟なくらい頭を振る。
脳裏の映像を肯定することは出来なかった。むしろ、思いっきり否定した。
このシチェーションで真っ先に『アイツ』の顔が浮かぶなんて、それじゃあまるで自分が――
「…………会いたい相手、か。恋人の名前でも名簿にあったのか」
「ちょ、は……いやいやいや! ぜんぜん! 全然、違うから!
恋人とか、何馬鹿なこと言い出してんのよ! 会いたい相手とか、私の勘違い。忘れて! ほら、早く行くわよ!」
「……随分と騒がしい奴だな。まぁ『オレ』にも――」
やれやれ、という二度目の肩を窄めるジェスチャー。
あたふたと顔を真っ赤にして、まくし立てる美琴を見て、ぽつりとアーチャーが呟いた。
「決着を付けたい相手ならば、いるがな」
その囁きを聞いていたのは泥のような黒い姿を覗かせている海の流れだけ。
誰に言い聞かせるわけでもない、孤独な言葉。
運命の相手同士を結ぶ――赤い糸のような、可愛らしい因縁ではない。
この同行関係すら、自身を偽り、目的へと至るための擬態に過ぎない――
――――とある世界に、誰かを救いたいと強く願った少年がいた。
彼は自らを犠牲にしても、他の人間のために修羅の路を歩み続けた。
その行為が自らにとっての幸せでもあると信じていたから。
少年は憧れていた。
誰かを守れる大きな背中に。
困っている相手を撫でる暖かい掌に――正義の味方に。
だけど、そんな正義に救いの結果などあるわけがなくて。
彼の見返りのない救いの手に、人々は強い畏怖の感情を抱いた。
裏切られ、迫害された正義の味方は結果として、全ての人を救うことを諦めた。
目に見えている人だけを救う。
彼は英霊となることで、自分に出来うる最も多くの人間を救おうと考えたのだ。
だが、その救済は彼が求めたモノとはまるで異なる行為だった。
誰かを救うために、誰かをこの手で殺めるような――そんな矛盾螺旋。
彼は気付いてしまった。総ての過ちは、彼が抱いた理想の根源にあるのだと。
だからこそ、令呪の束縛から解き放たれた彼が考えることは只一つ。
――――過去を改竄し、エミヤシロウという歪みを糺することで、自分という存在を抹消する。
▽
結論から言うならば、C.C.はアーチャー達にあの後すぐに救助された。
今、彼らはE−5の市街地にある一軒家へ勝手に押し入り、言葉を交わしていた――はずなのだが。
「私は疲れたので休ませて貰う。そうだな……六時になったら起こしてくれ」
「――は?」
既にさんざっぱらわがままの限りを尽くしたC.C.のこの一言に、ついに美琴がブチギレたのだ。
(なんなの、コイツ……自己ちゅーにも程があんでしょうが)
彼女、曰く。
『拘束服のベルトで死者が棺へ納められる時のようなポーズを強制されていたのだ。
身体の節々は痛むし、無理な体勢にもうクタクタだよ。散々血も吸われたしな。
一眠りしなければ、まともに行動することすらままならない』――というの言い分ではあるのだが。
「ちょっと、アンタ! 何様のつもりなのよ!? 助けてもらった立場で!」
極めて常識人の美琴が女王様の如く振る舞っていたC.C.に対して黙っているわけがなかった。
とはいえ、美琴の憤怒も分からないわけではない。
なんというか――C.C.の態度は凄まじく大きかったのだから。
団地の路地裏へアーチャーと美琴がやって来たのに彼女が気づいた時、
『やっと来たか。意外と遅かったな』という、傲岸不遜にもほどがある第一声から始まり、
『腹が減ったぞ。どちらか、ピザを持っていないか』などという状況を完全に無視した自分勝手な言動。
しかも、美琴の支給品に『PIZZA HAT』と書かれた大量のピザがあったことが問題を更に悪化させた。
情報を交換するために、一度屋内へと移動した三人だったが、そこで貪るようにC.C.がピザを食べ始めたため、会話は全く進まなかった。
そして、ピザをぺろりと一枚平らげたC.C.が今から寝ると言い出したのだから最悪である。
仮にも『バトルロワイアル』という最低最悪のシチュエーションで、
『ピザ食ったから寝る』と言い出すアホがいるとは流石の美琴も想像していなかった。いや、想像出来るはずもない。
「……十分に感謝はしているさ。簀巻きのまま放置されていたら、どうなるか分からなかったのだからな。
とはいえ、それはそれ、コレはコレだ。むしろ、お前も眠ったらどうだ。
外はまだ暗いぞ? 子供はベッドに入って休んでいなければならない時間だろう」
「こ、子供!?」
「なんだ、自覚がなかったのか。それは……良くないな。客観的に自分のことを把握する力は重要だぞ」
当然のように――口論になる。
が、一方的に美琴がからかわれている、と言った方が正しいだろう。
まともな舌戦にすらなっていない。今にも掴みかからんばかりに憤慨する美琴。
対するC.C.はベッドで横になり、同じく美琴の支給品であるオレンジ色の球体を抱きしめ、もはや休む気満々だ。
「アンタ、いい加減にっ――」
「御坂。そこまでだ」
美琴の額から雷じみた青白い火花が室内に新たな光源をもたらす。
が、その時だった。この家に足を踏み入れてから、今まで沈黙を貫き通していたアーチャーがその重い口を開いたのである。
「寝かせてやれ」
と。極めて簡潔な一言。しかし、美琴はこれに納得がいかない。
「はぁっ……? もしかして、アンタまでこのピザ女の肩を持つってこと」
「そういう意味ではない」
「そういう意味にしか取れないわよ!」
こうなると、もはや戦いは三者入り混っての泥仕合である。
しかも、バリバリビリビリパリパリと『本当に火花が散っている』のだから、手に終えない。
電撃の矛先がついにアーチャーへと向けられた、その時だった。
「…………悪いな。どう……にも……これは、久しぶりの……感覚だ」
ベッドの方で何かが崩れ落ちる音が響いた。C.C.が完全に眠りの世界へと旅立ったのである。
すぐさま、小さな寝息が聞こえ始める。
「ほ、本当に寝たっ……!」
「むしろ、これが仮初めの眠りであることが驚愕だがな」
「……仮初め?」
真剣に電気ショックをお見舞いしてやろうかと考えていた美琴の手が止まった。
アーチャーの口から溢れた『仮初め』という言葉がやけに印象に残ったのだ。
「この女が普通の人間ならば、既に二度は永遠の眠りについている」
「――ッ!?」
重く、地の果てまで重力に引かれて沈んでいくような言葉だった。
「サーヴァントの行う血を介しての魔力吸収――それは単純に吸われた血液量の問題ではない。
魔力とはすなわち、人の精気そのもの。それを血液という形に変換して摂取しているに過ぎないのだ。
本物の吸血とは小鳥が餌を啄むような、可愛らしいものではない。
言うなれば――捕食さ。こんな状況ならば、尚更の話だ。魔力はいくらあっても困るものではないのだから。
加減を間違えない限り、尽き果てることのない器……ケルト神話に出て来るダグザの釜のようなモノか。
もっとも、杯代わりにされていた本人は、堪ったモノではないと思うがな」
血を、吸われていた。
それが、現場に駆け付けた美琴達に『ライダーに何をされたのか』と尋ねられたC.C.の回答だった。
美琴にとって、吸血という行為から連想するモノは西洋の妖怪・ヴァンパイアである。
しかし、非常に血色もよく、健康的に見えていたC.C.が実際はそこまで切羽詰まった状況だったとは。
「だが――解せんな。あの女ならば、食糧を棄てゆく場合、トドメの一つも差すのが道理のはずだが。
思う存分貪ったにしては、後始末があまりにも不手際過ぎる」
アーチャーがぽつりと呟いた。
やはり、彼とC.C.を襲っていた人物には微妙な因縁があるようだ。
「……結局、私達はこのピザ女が起きるのを待つってこと?」
「まだ、夜明け前だ。闇雲に動き回っても実りはない。
お前も寝ても構わんのだぞ。眠れる時には眠った方がいい。それこそ――死ぬ気がないのなら。
それに、だ――最初の放送でどの程度死ぬか。私は、そちらの方が気掛かりでな」
死ぬ、という言葉に美琴は思わず息を呑んだ。
学園都市最強の能力者の一人である彼女ではあるが、当然のように人を殺した経験はない。
が、同時に十分に人を殺し得る能力を持った矛盾に満ちた存在でもある。
「…………そういえば、」
「どうした」
「魔術とか魔力とか、よく意味が分からないんだけど」
「……話の種にはなるか。
よかろう。簡易ではあるが、話してやろう。あくまで――私の世界の魔術について、ではあるが」
胡乱げな表情を浮かべていたアーチャーが、ゆっくりと口を開いた。
▽
まどろみの、世界。
(どうなって、いるのやら)
夢の中でもまともに頭が休まっていないことに、C.C.は溜息をついた。
まるで思考の海で漂っているようだ。
外とは完全に隔離された空間であるのに、頭は当然のように夢ではなく現実を見ていた。
(弓の男も言ってくれる……常人ならば二度、死んでいた……か)
完全に意識が落ち切る、最後に耳にした言葉だった。
死んでしまえたらよかったのに、と一瞬考えるも、そんな雑感はすぐさま掻き消える。
C.C.の願いは死ぬこと、その存在を永遠に終わらせることだ。
本来ならば、コードの影響で不老不死となっているはずの肉体も、この島の中でならば『死ねるかもしれない』のである。
とはいえ、わざわざここで己の命を絶ち切ろうとはC.C.は思わない。
別に、彼女が死ぬための方法がコレ一つしかないわけではないのだから。
(眼帯女は、何がしたかったのだろうな)
情感らしきモノを抱いていたのか、と考え、C.C.は苦笑した。
『アレ』はそんな生優しいモノではない。
愛でるのでも、啄むのでもない、貪るための唇。愛を語るには少々乱暴過ぎるというものだ。
もっとも、アレだけのことをされてそこまで嫌悪感を覚えたわけでもない自分も、どうかしているのかもしれない。
ライダーと名乗った女が吸血を行ったのは、喉の渇き――以外の潤いを求めてだったようにも思えるのだ。
(なぁ、ルルーシュ。これから、私はどうすればいいと思う――?)
面倒なことに巻き込まれた。出来れば帰還したいとは思う。
だが、どうも一人ではやれることに限界があるようだ。
ルルーシュを探すか。とはいえ、ギアスの力とて万能ではない。共に途方に暮れてしまう可能性は高い。
(私の、やるべきこと……やりたい、ことは――)
ゆっくりとC.C.は天へ向けて掌を翳した。
光も闇もない、深海のような世界。
身体と意識だけが輪郭を保ち、五本の指に絡まる糸もない。
C.C.の根源的な願いはこの島にいる誰よりも異質なモノだ。
つまり、人殺しを行うために用意された殺人空間と相反する――死ぬ、ということ。
だが、彼女は気付いていなかった。
本当の意味で――彼女が望んでいたモノが何なのかを。
『愛されるギアス』を手に入れた彼女にとって、最も手に入れたかったものは冷たい死などではない。
『真に愛される』というソレだけの意志。
見返りを求めず、強制でもない。ただ、純粋に愛されること。
「…………ルルーシュ」
それだけ、だったはずなのに。
【E-5/市街地 一軒家/一日目/黎明】
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:睡眠中、体力枯渇、貧血、左の肩口に噛み傷(全て徐々に再生中)
[服装]:一部血のついた拘束服
[装備]:オレンジハロ@機動戦記ガンダム00
[道具]:なし
[思考]
基本:ルルーシュと共に、この世界から脱出。
不老不死のコードを譲渡することで自身の存在を永遠に終わらせる――?
0:睡眠中
1:ルルーシュと合流する
2:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない
[備考]
※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『過去 から の 刺客』の間。
※制限によりコードの力が弱まっています。 常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:腹に打撲、疲労(小)
[服装]:常盤台中学制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 誰かの財布(小銭残り35枚)@???、ピザ(残り63枚)@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:人を殺したくはない。
1:男(アーチャー)と話をする。
2:魔術って……。
3:上条当麻、白井黒子の安否が気になる。一方通行は警戒。
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:健康 魔力消費(小)
[服装]:赤い外套、黒い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×3
[思考]
基本:過去の改竄。エミヤシロウという歪みを糺し、自分という存在を抹消する
0:御坂に自身の世界の魔術についての説明をする
1:情報を集めつつ、士郎を捜し出し、殺害する
2:士郎を殺害するために、その時点における最も適した行動を取る
3:荒耶に対し敵意
[備考]
※参戦時期は衛宮士郎と同じ第12話『空を裂く』の直後から
※凛の令呪の効果は途切れています
※赤原猟犬は消滅しました
510 名前:アカイイト ◆tu4bghlMIw[sage] 投稿日:2009/11/04(水) 18:37:40 ID:NYOlLTHs
投下終了です。お手数ですが、規制されていない方いましたら仮投下お願いします。
代理投下終了です。支援感謝。
485 :
代理:2009/11/04(水) 22:11:41 ID:u0nmn+kH
代理投下します
「じゃあ、気を取り直してと……」
言っては見たものの、このモチベーションはどうにもならないようだ。
だって仕方ないじゃないか。武器と呼べる支給品が皆無なんだから。
人殺しなんてしたくないし、せめて身を守れる程度くらいのものでも充分だと思っていた。
しかし武器に使えそうなものは全くと言っていいほどなかった。てか、使えないし、使いたくない。
なにしろ、その全部が他人の持ち物なのだから。
しかもその内名簿に載っているのが2人。一体僕に何をさせるつもりなんだろう……。
「……仕方ないな」
なんだかんだで、無防備というのはかなり不安だ。
あまり気が進まないがそうも言ってられない。予定を変更して、この近くの『死者の眠る場所』に行こう。
きっと役に立つようなものがあるに違いない。
あると、……いいんだけどな。
◆◆◆
収穫はあった。
とは言ってもシャベルと竹箒だけだが、無いよりはマシだろう。
武器とされていない日用品でも使い方次第で簡単に武器になってしまうのだから。
近頃はコロコロ(絨毯やカーペットを掃除するアレ)が凶器になったって話もあるくらいだから侮れない。
まあ、殺さないという意志がある以上は、そう簡単に殺せないものだ。
それにしても、死者の眠る場所、か。
…まんま墓場だったな。こんなところには誰も寄り付きはしないだろう。
墓石や卒塔婆がずらりと並んで、奥の方には申し訳程度の小さな供養寺がある。
その寺も、一時的に隠れるにはいいかもしれないが寝泊りするなんてもっての他といったところだ。
全体的にあまり整備はされてないらしい。あの、山の神社よりは大分マシだが。
ここに居座る奴はよっぽどの変態に違いない。
ちらりと、時間を確認する。
「もうすぐ2時か」
現在1時50分。
この時点で誰にも出会ってはいない。
そりゃあ、これだけの広大な敷地で残りの63人に出会うってのも中々難しいんじゃないだろうか。
だとすれば何日懸かるんだろう。食料はこれだけで足りるのか?
49平方キロメートル。歩けば分かるが、1キロでも結構な距離だ。
こんな広い空間、移動してたら直ぐに体力を消耗するし、じっとしていても腹が減る。
それこそ、最後は食べ物をめぐっての殺し合いになりかねない。
それすら叶わず、餓死する人も出るかもしれない。
一般人なら、なおさら――。
タイトル間違ってない?
支援
すいません、タイトル部分が前の時のままでした。
いやな考えを払拭するように歩き続けた。
何としてでも皆を見つけて、守らないと。
自惚れかもしれないが、無力な自分が出来ることといえばそのくらいだろう。
それとも単に、悔いを残したくないからなのかもしれない。
自分の手の届かないところで、彼女達が死んでしまうのが耐えられないから。
僕は強くないから、そうすることしか出来ないのだ。
さて、目の前に線路が続いている。
さっき電車が通ったのが見えたから稼動しているのは間違いないが、無人なんだろうか?
右に行くか左に行くか。当然、町に繋がる右に向かおうと思う。
廃村が北にあるけれども、名称の所為で行く気になれない。
人がいるならばきっと町のほうだろうし。その分、周りへの注意もより一層しなければならないがそれは承知の上だ。
ともかく線路沿いに歩くのが一番いいだろう。
そうして、そのまま右に足を向けたとき。
視界の隅に、人影が映った気がした。
「ん?」
いや、映っている。
首だけを左に傾けると、その人影はちょうど視界の真ん中に入った。
僕に見られて一瞬立ち止まったようだが、またすぐに歩み寄ってきた。
女の子だ。感じからして、多分中学生か高校生だろう。
何故分かったかといえば、制服を着ていたからだ。僕の地元でないようだが。
というか、この距離だとばったり出会ったというわけではなく、相手は何処かに隠れていたということになる。
多分向こうが先に気づいて、様子を伺っていたんだろう。
安堵感から少し気が抜けてしまうが、仕方の無いことだろう。
だって、ようやく出会えた参加者の一人なんだから。
けど、こういう思考は甘い事を、僕は理解できていなかった。
正確には、したくなかったのかもしれない。だって――
「君は……」
「あ、こんばんは」
「その挨拶はなんだかな……」
間違ってはいないけれど、場違いな気がする。
もう少し警戒してはどうだろうか。……言えたことじゃないけどさ。
こうして人に出会えて安堵している僕も、いるのだから。
「私、平沢憂と言います。貴方は…」
「ああ、僕は阿良々木暦…じゃなくて!なんで普通に自己紹介の流れになってるんだよ!別にいいんだけどさ……ん?」
平沢?
それって、確かこのギターの…
「なあ、これって君の家族のか?」
「え?…うん。それ、お姉ちゃんのと同じ型だけど…」
おもむろにギターを取り出してみると、目の前の子は驚いた表情をした。
そりゃあそうだよな。姉の所有物を他人が持っていたら。
「別に盗ったわけじゃないよ。何故か分からないけど支給品として僕のバッグに入ってたんだ」
本当に何故か分からない。
「ほ、本当にお姉ちゃんのなんですか?だったら返してください!」
「落ち着いて。そもそも本人に返すつもりだったんだから、君に渡すよ」
そう言って、僕はギターを彼女に手渡した。
目の前の少女は、愛しむような目でギターを見つめる。
「本当にお姉ちゃんのだ……。ありがとうございます、阿良々木さん」
「いやいや、別に礼を言われることじゃないよ」
だって勝手に僕に支給されてただけなんだし。
実際、彼女に渡すのは誰でもよかったんだろう。だからお礼を言われることじゃない。
必要なのは、これからの対応だ。
「なあ、こんな場所でじっとしているのは拙いから場所を変えないか?色々訊きたい事もあるしさ」
「別に構いませんよ」
訊きたいことはたくさんある。
彼女の知り合いも呼ばれているのかということ。
戦場ヶ原達に会ったかということ。それから今後どうするのか、とか。
とりあえず近くの家に入ることにした。鍵が掛かっているなら庭で話すしかないけど。
ちょうど僕が先に行くような形で、門に手をかけた。
「ところでどうして」
ギターがよく君のお姉ちゃんの物だって分かったな、と言おうとしたのだが。
思えば、この行動が幸いした。
「っぐ……!!!??」
刺すような痛み。
一瞬思考が真っ白になる。
何だ?何が起こった?
そんなことは目の前の光景を見れば理解できる。
僕の腕には、黒い尖った物が刺さっている。
なんだか歴史の教科書の最初の方に載っている石器のようなナイフみたいだ。
というか、まんまそれだった。
なんで、と考える前に離脱を試みる。
本当は背中を貫通して心臓を突き刺すはずだった刃物は、僕が質問の際に体勢を変えた所為で左腕を抉っている。
運がいいのか悪いのか。生きていることを考えれば、良いと言えるのだろう。
刺さったナイフを無理やり振り切るように、身体を回転させてなんとか抜き取った。
だが、それで止まらなかった。
ナイフが抜かれたといっても僕の腕から抜かれただけに過ぎない。
その凶器は、未だに持ち主の手に収まっているのだ。
「なんで……!」
何かしたか?
何か怪しまれるようなことは…していない。
家の中に入ろう、と言ったのだって強制したわけではない。
彼女の気に障るようなことは何もしていないはず。
いや、そうじゃない。考えるべきはそこじゃない。
この娘は、僕を、
「何でなんだよ……!」
――信じたく、なかったのだ。
まさか、僕より年下の、こんな娘が。
最初から、僕を殺す気でいたなんて。
そんなことは、思いたくなかった。
「ごめんなさい」
けれど、これが現実なんだ。
ナイフを片手に持ち替え、空いたほうの手で黒光りする物体を取り出した。
それを見て、僕はぎょっとする。
実際には見たことはなかった。きっと誰だってそうだろう。
こんな物を目にするのは、せいぜいドラマや漫画の中くらいだ。
銃なんて、女子高生が持っているような代物じゃない。
「っ!」
乾いた銃声が響く。
しかし銃弾は当たらなかったようで、僕の身体に風穴は開かなかった。
距離は4m程度か。この距離で当たらないということは、彼女は銃を使い慣れているというわけではないらしい。
だが、使えないというわけではないのだ。
偶然当たらなかっただけだろうし、これ以上近づけば確率はさらに上がってしまうだろう。
それに竹箒で対抗しろというのは無理な話だ。僕の手持ちの道具では、飛び道具を防ぐ役には立たない。
今は逃げるしか、なかった。
「はっ……はっ……」
同年代と比べてもそう足が速いわけではないが、少なくとも年下の女子よりは速い。
まあ、神原みたいなのは例外だけど。
向こうもこっちを追いかけているが、その距離は少しずつ離れていく。
人家まばらな田舎道。畑を突っ切るのはどう考えても自殺行為だ。
逃げるなら遮蔽物の多い場所が良い。
ある程度距離を離したから、僕は咄嗟に近くの家に飛び込んだ。
同時に銃声が響く。
牽制のつもりなのだろうか。当たらないものは当たらないが、それでも恐い。
今の僕では、致命傷となる傷は回復不可能だろう。回復する前に死ぬということだ。
腕から血が滴る。まだ傷は痛んでいる。
忍に血を飲ませたのはちょうど一日前か。
ならば回復力もそれなりにあるはずだけど、もしこれが帝愛グループの奴らが言う『制限』に当て嵌まるのなら、それには期待できない。
どの道、すぐに回復するような傷じゃないことは確かだ。
家の中に入るのは……ダメだ。
攻撃の際のモーションはあっちの方が速いだろうし、奇襲をかけられたら話にならない。
腕を振りかぶるのと指を曲げるのとどちらが速いか考えれば分かる筈だ。
銃さえなければ何とかなったんだろうが…それにしても最初に喰らったのがナイフでよかった。
あの状態で撃たれてたら間違いなく致命傷だっただろう。逃げることも――
「ん?」
そこまで考えて、僕は違和感に気がついた。
だとしたら彼女はなんで・・・
足音が聞こえてくる。
どちらにせよ、覚悟を決めなきゃならないようだ。
この家の庭はやけに広い。
喩えるなら、テニスコート一枚分くらいか。
ちょうどその横幅の距離、つまり、門と玄関に彼女と僕は立っていた。
「血の跡が続いてましたよ」
「知ってるよ、そのくらい」
今は簡単に縛ってあるけどな。
「じゃあ諦めたんですか。…その方が楽でいいですけど。びっくりしましたよ?
完全に殺せるタイミングだと思ったのに突然振り向いてくるんですから」
「ああ、お陰で命拾いしたよ」
彼女の表情はよくわからない。
今はそれなりに夜目が利いてるんだけどな。
「なあ、理由、訊いていいか?」
「理由……そんなの、決まってるじゃないですか」
お姉ちゃん、か。
遭ったばかりで、まだ殆ど言葉も交わしていない。
でも、この娘が姉を想う、家族を想う気持ちは垣間見えた。
その気持ちが嘘じゃないということも、わかった。
「でも、そんなのは…」
「阿良々木さんは勘違いしてます。私はお姉ちゃんの為にしてるんじゃありません。自分の、為なんです。
お姉ちゃんの為なんて言ったら、悲しむじゃないですか」
零れるように、彼女は呟いた。
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
「それは、違うだろ」
矛盾だった。
いくら彼女が姉の為じゃないと言い張っても、彼女が人殺しである事実に変わりはない。
その事実だけで、既に姉を傷つけている。
ワ タ シ
「違いません。そんなの、ばれなきゃいいんです。知らなければ、お姉ちゃんは幸せでいられる」
破綻だ。
彼女は、そんな簡単なことにすら気づけない。
「だから、死んでください。阿良々木さん――」
一歩、近寄られた。
あと五歩も歩かれたら、彼女のナイフの間合いに届いてしまう。
ナイフを防ごうにも、その先には銃がある。
背中を向けて逃げるにはあまりにも近い。銃弾の恐怖に晒される。
上手い二重の牽制だった。一般人にはかなり有効な手立てだろう。参考にする気はないが。
二歩。あと四歩。
だけど、僕の予想が正しければ、この作戦は簡単に打ち崩せる。
正しくなければ諸に餌食になってしまうが、その可能性は低いだろう。
そうでなければ彼女がああした意味がわからない。
だから、これは分のある賭けだ。彼女はまだ、僕が気づいていることに気づいていない。
三歩。
もう、いいだろう。
僕は、脇目も振らずに。
「え…!?」
真っ直ぐに前に、ダッシュした。
向こうも僕の意図したことに気づいたようで、ナイフを振りかぶる。
でも、一度驚いた時の隙は取り戻せない。
僕は三歩分の距離を一気に詰めて、ナイフを持った腕ごと思い切り押し倒した。
僕の全体重を掛けた体当たり。後の姿勢も省みない激突は、彼女の身体を否応無しに地に叩き付けた。
「………!!!」
下が土だとはいえ、人間一人にプレスされた衝撃は彼女の肺の空気を空っぽにした。
その間に、ナイフを手から剥がし、彼女の手の届かないところに捨てた。
銃は、どうでもいい。
だってこれには、弾なんか入っていないんだから。
「これは、映画の撮影とかに使う火薬入りの銃だろ。これじゃあどうあったって殺せはしない。
最初の一撃がナイフだったのも、このせいだよな」
彼女は応えない。
というか、反応してない。
「…え?」
……まさか、死んでないよな?
すぐに首に手を当ててみる。
いや、当てる必要もなかったみたいだ。ちゃんと鼓動している。息もしている。
大方頭でも打ったんだろう。気絶してるだけなら、良しとしよう。
ナイフを拾い、自分のバッグに入れる。
銃は、彼女の方に入れた。
このまま放置しておくのは拙いので、とりあえず背負うことにした。
「ふうん、意外と胸あるんだな」
シリアスなムードぶち壊しの台詞を軽く吐いてから、家の中に入る。
とにかく、これからどうするか。そんなのは最初から決まっているのだけれど…
やることが一つ、増えたみたいだ。
◆◆◆
投下、代理投下共に乙です。
肩を矢で貫かれているのにライダーの状態表が健康なのはミス?
目が、覚めた。
知らない感触。どうやら私は、寝かされていたらしい。
頭が少し痛んだ。倒されたときに気絶したのかな。
起き上がって周りを見ても、誰もいない。あの人も、いなかった。
ふと、傍に紙があるのに気づいた。
何かが書いてある。
『悪いけど武器は預からせてもらった。君はしばらくここで隠れておいてくれ。
君のお姉ちゃんを見つけたら、必ずここに連れてくるから』
誰が書いたかなんて、言うまでもなかった。
「武器は取ったのに…日記は見なかったのかな」
この分だと、日記の中は見られていないようだ。
見ていたらこんなこと書けるはずがない。
でも、私を助けるって…あの人は何がしたいんだろう。
「…そっか、考えるまでもないよね」
彼は会ったことも無い、名前しか知らない人を助けようとしている。
但し、自分とは違う形で。
「でも、それじゃあダメだよ。阿良々木さん」
お姉ちゃんを守ったところで、参加者は減りはしない。
守ってくれるのはありがたいけれど、それじゃあ幸せにはならない。
誰も殺さずに生きるなんて、それこそ矛盾でしかないじゃない。
彼は優しいけれど、私に対して違うと言ったけれど……
バッグの中身を確認すると、無くなっている者があった。
ナイフは説明書と一緒に取られたけど…あれ?
なんで他を取らずにアレだけ持っていくの?
■
「これって…神原のだよな」
スクール水着。
そりゃあもう、昨日の夕方に(自分の時間間隔で)預かったばかりなんだから覚えている。
あいつらは、一体何がしたいんだ…?
正直こんな場で返すのもなんだと思うけれど、これはあいつの持ち物なんだから会ったら返しておこう。
「早いところ出会えるといいな…」
全く、自分から進んで人間強度を下げるなんてどんな話だよ。
でもこれでいいのかもしれない。こうすべきなんだ。
肉親を助けたいって思いは分からなくもない。両親も妹たちも僕にとっては大事だ。
だけど、人殺しなんて罪を背負うことはない。
誰にも分からなくとも、罪はどこまでも付いてくるのだから。
だから、僕が彼女の願いを引き受けよう。
勿論殺し合いに乗る気はない。殺す以外にも方法はある筈だ。
それにしてもよくもまあ自分を殺そうとした人間にここまで親身になれるんだろう。
忍野にも言われたことあったっけな…。
でも、そうせずにはいられなかった。
だって、あの娘は――震えていたから。
殺し合いなんて、本当はしたくないんだ。
だから彼女が犠牲者を出す前に、彼女の目的を達成させればいい。
そうすれば、誰も傷つかなくて済む。かなり難しいだろうけど、だからと言って諦めるわけにはいかない。
そうして僕は、駅を目指すことにした。
電車も通っているようだし、使えば捜索の役に立つだろう。
時刻はまだ3時。
思ったより、時間が進むのは遅いようだ…。
【C-6/線路近くの民家/一日目/黎明】
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:頭にたんこぶ 疲労(中)
[服装]:制服
[装備]:
[道具]:基本支給品一式 日記(羽ペン付き)@現実 ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュR2
ギミックヨーヨー@ガン×ソード モデルガン@現実
[思考]
基本:自分の幸せ(唯)を維持するためにみんなを殺す。
1:日記を書いて逃げ道を消す。
2:この家から出る。
※憂が華菜の支給品を回収しました。
【C-6/線路沿い】
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(小) 左腕に刺し傷(回復中)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、エトペン@咲-Saki-、ゲコ太のストラップ@とある魔術の禁書目録
スコップ@現実(会場調達) 竹箒@現実(会場調達) トラウィスカルパンテクウトリの槍@とある魔術の禁書目録
スクール水着@化物語
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出
基本:知り合いと合流、保護する。
1:線路沿いに歩いて市街地を目指す。
2:戦場ヶ原、八九寺、神原と合流したい。他にも知り合いがいるならそれも探す。
3: 憂の姉を見つけたら、憂の下に連れて行く。
4:……死んだあの子の言っていた「家族」も出来れば助けてあげたい。
5:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※憂から情報を訊くことを忘れています。
523 名前: ◆WWhm8QVzK6[sage] 投稿日:2009/11/04(水) 21:04:26 ID:zHgGB7VQ
以上です。
規制のかかっていない方、誰か本スレに投下お願いします
代理代理投下終了。
――血が、赤い血が流れている。
赤毛の少年は倒れ伏し、黒髪の少女は涙を流し、髪を二つに束ねた少女はその顔に悔いを滲ませる。
どうしてこうなってしまったのだろう。
誰もこんな結末は望んでいなかったはずなのに。
だがどんなに嘆こうと、どんなに悔いようと時は戻らず、事象は還らず、覆水は決して盆に返らない。
ただ時は残酷に一方通行に進むだけ。人の後悔も、人の過ちも、すべてを無慈悲に飲み込みながら。
嗚呼、どんなに人が願おうと――時は巻き戻らない。
* * *
白井黒子は襲撃者を警戒し、少女の介抱を屋内で行うことに決めた。
黒子とて並大抵の相手には勝つ自信がある……が、この場にいるというレベル5の第1位『一方通行』相手ではそうもいかない。
逃げるだけで精一杯であろう。
しかしそれも"気絶した人間"というお荷物を抱えながらだと、その難易度は格段に跳ね上がる。
また自分の能力には集中力が途切れたとき――すなわち咄嗟の場合や大ダメージを受けた場合に座標を演算しきれず瞬間移動できないという弱点もある。
その点、屋内にいれば侵入を察知してから空間移動まで、十分な時間を稼げるはずだ。
さて、黒子たちがいる場所には十数棟の家屋がある。
計8ブロックという広大な領域に広がる廃村エリアに対して、家屋の数が少なすぎる気がするかもしれないが、
廃村エリアの多くは森、そして棚田や段々畑などが割り振られているようだ。
実際に家屋があるのは黒子たちのいる【B-6】ブロック中心……あるとしてももう一角ぐらいのものなのだろう。
そして月夜の中、じっと目を凝らして、黒子はその中から一つを選択する。
黒子が選んだのは赤い屋根の平屋建て。学園都市では見かけない類の昭和風の建物だ。
その建物は、長いこと人が住んだ様子はなく、無残に荒れ果てている。
ガラスは土で煤汚れ、土壁もところどころが剥げ落ち、屋根のトタンには錆が浮いている。
だがそれでも他の家屋と比べればまだマシな方だろう。
隣の家に至ってはツタが壁中を覆い尽くし、壁の穴越しに内部を見れば床板が抜けている場所が確認できる。
「さて、と……鍵は掛かってるんですのね」
だがこの程度の障害、レベル4の空間移動能力者(テレポーター)の前にはまったくの無意味だ。
次の瞬間には、玄関に触れることすらなく少女と共に内部へと"跳んだ"。
後ろを振り返り、施錠されたままの玄関が足止め程度にはなるだろうか……と考えようとしてやめた。
長い間放置されていたせいか、一見しただけでも判るくらい大分ガタが来ている。
これでは大の男がタックルの一つでもすれば、足止めにすらならないだろう。
その後、黒子は床板が腐ってないことを慎重に確認しながら、
埃っぽい廊下を進み、襖を開け、居間兼寝室といった風情の畳張りの部屋へ少女を運ぶ。
窓から差し込む青白い月光を照明代わりに布団を敷き、その上に少女の脱力した体を横たえる。
布団からは多少饐えた臭いがするが、ボロボロの、しかも少なからず埃の積もった畳の上に寝かせるよりはましだろう。
「ふぅ……」
そこでやっと黒子は畳に腰を下ろし、汗をぬぐう。
脱力した体は体内の水分を容赦なく重みへと変える。
華奢とはいえ女性にしては長身であるし、中学一年生の自分と比べると尚更だ。
それに移動のほとんどをテレポートで行ったとはいえ、多少の移動は背負って行わなければならない。
「それにしても……これは何の冗談ですの?」
黒子は独り言ちる。
その"冗談"という言葉が指し示すのは、"ブレ"である。
そう、長距離のテレポートを行った際、転移後の座標に僅かな"ブレ"があったのだ。
試しに手元のボールペンを転移させてみる。
すると指先から重みが消え、意図した場所に出現する。
先ほどの経験から近距離……精々20m程度までならほとんど"ブレ"がなくてすむ。
だがそれ以上となると指定した位置に僅かだが、"ブレ"が出てき始めるのだ。
これが自分の最大射程、81.5mとなればどれほどの"ブレ"が出るのか。
もしも座標指定をミスって石の中に転移でもするような羽目になったら笑うに笑えない。
しかし、一体何故……ウワサのAIM拡散力場とやらに対して何らかの干渉でもしているのだろうか。
「まったく……小癪な真似をするものですわね……。
ま、それはそれとしまして……とりあえずは彼女を介抱するとしましょう」
気を取り直し、まだ伸びきっていない指先を気を失った少女の胸元へと伸ばす。
呼吸がしやすいように胸元のリボンを緩め、そのまま上から2つほどボタンを外す。
傍から見れば不埒な行為ではあるが、そうする少女の顔は真面目そのものだ。
さもあらん。彼女は別段同性愛者という訳ではない。
ただ美琴に対する敬愛の情が行き過ぎて、下着を奪取したり脱がしたり、盗撮写真をコレクションしたり、飲みものに媚薬を混入しようとしたり、シャワー中に乱入して慎まやかな胸を揉んだりするだけなのだ。
それは愛情表現の一環であって、別段百合趣味があるわけではない……はずである、多分、おそらく、きっと。
……まぁ、そんな訳で≪ジャッジメント≫で身に着けた応急処置を施している今も、邪念とは程遠いところにあった。
「んぅ……」
僅かに澪が身じろぎして、悩ましげな声を上げる。
この様子ならもうすぐ目も覚めるだろう、と黒子はあたりをつける。
胸がはだけて危ういところまで見えそうになっているが、同姓であるし気にすることはない、と判断する。
だがその時である。
一瞬魔が差し、ふとした妄想が彼女の脳裏をよぎった。
もしも、もしも、だ。
目の前で倒れている少女が敬愛するお姉さまであったなら……
あの気高く、強く、優しく……だがしかし年相応の可愛らしさも兼ね備えるお姉さまであったならば。
あのお姉さまを好きに出来るチャンスが廻って来たとしたならば……!
「うふ、うふ、くうふふふふふふふふ……うふふひひひ……!!
いけません、いけまわせんわお姉さまぁ……!! そんな無防備な……!
ああっ、でもっ、そんなお姉さまも素敵ですわ……! おっと涎が……」
脳内で漏れ出した全て遠き理想郷にトリップする黒子。
それはもはや外界に対する防御でなく遮断。
溢れ出した脳内物質は、外界からのあらゆる刺激をシャットダウンする。
だから気づくことが出来なかった。目下の澪の瞼がうっすらと開いたことに。
「ん……」
目を覚ました澪がまず最初に感じたのは胸元の心もとなさだ。
そちらに今だ覚醒しきらない瞳を向ければ、肌蹴られたブラウスと、今まさにそれを脱がさんとしている少女の両手がある。
視線はその腕をたどり、少女の顔へと移動する。
その顔に浮かぶのは獲物を目の前に舌なめずりをする飢えた野獣のような表情。
頬に朱が差し、口の端を愉悦に歪めたその表情は、生物の根源にある捕食の恐怖を呼び起こさせる。
そして、極めつけは欲望に歪む口から発せられた言葉だった。
「うふふふふふ、今日こそ黒子と、黒子と、今日こそ大人の階段を上りましょう……!」
これらの情報から澪は結論付けた。
私、秋山澪はどこかに連れ込まれて女の子に襲われているんだ――無論、そういう意味で。
「っ!? あ、あら、目を覚ましましたのね?
お、おほほほほ――よ、よろしいですか? 落ち着いて話を聞いてくだ――」
「い、いやぁぁぁぁぁぁっ! いやぁっ! 放してぇっ!!」
だから暴れた、全力で暴れた。
通っているのが女子高だから、多少過剰なスキンシップはあった。
だが、アレは友人同士の悪ふざけみたいなものだ。
こんな場所で見ず知らずの少女に、服を脱がされているとか次元が違う。違いすぎる。
背筋を駆け上がるのは紛れもない恐怖。
同性とはいえ――いや、同性だからこそ、怖い。
「ちょ、ちょっと暴れないでくださいまし! 音を立てたら隠れている意味が!」
「いやだ! いやっ! 律っ! 助けてぇっ!」
混乱の坩堝にある澪には黒子の説得の言葉も聞こえない。
少女は己の貞操を守るため、親友の名を叫びながら全力で腕を振り回した。
* * *
闇夜の中、一人の少年が山中の獣道を行く。
カーキ色の学生服に身を包んだ少年の名は衛宮士郎。
"正義の味方"を志す見習い魔術師だ。
木々の狭間から漏れる月明かりに照らされた、その表情は厳しい。
「くそっ、ふざけるな……!」
守れなかった。助けられなかった。
モニターの向こう、ボタン一つでいとも簡単に少女の頭は吹き飛ばされた。
誰かを守ろうとして立ち上がった人をみすみす死なせてしまった自分の力の無さに歯噛みする。
どんな場合であろうと衛宮士郎の中に他人の死を良しとする選択肢はない。
例えあいつらの言うとおり、死者蘇生ができたとしてもそんなことは望めない。望めるはずがない。
だから、衛宮士郎は『帝愛グループ』に対し、反抗する。
例えそれがどんな絶望的な状況だろうと。
その絶望の証は彼の左手に残った"一画"の令呪である。
――そう、一画なのだ。
本来なら彼の腕には2画の令呪が残されていなければおかしい。
その答えは簡単である。彼は"この場所"に呼ばれてから、一度令呪を使ってしまっているのだ。
その命令内容は一画目と同じ"セイバーの瞬間移動"であったのだが、その結果、令呪は消費したものの、命令が叶えられることはなかった。
令呪とはその一画一画が膨大な魔力を秘めた魔術の結晶で、限りなく"魔法"に近い"魔術"なのだ。
だがそれすらもキャンセルしたとなると、あの男が言っていた『≪金≫で≪魔法≫を買った』というのもあながち間違いではないのかもしれない。
だが、こんな暗い闇夜にも月明かりがあるように希望はある。
これまでの道中で確認した名簿には確かに"セイバー"の名前があった。
誇り高きセイバーならばあの理不尽に怒り、今も打倒のために動いているだろう。
だが一つ気になるのは、名簿の中に"ライダー"の名前があったことだ。
「まさか……あれで倒しきれなかったのか?」
ライダー……間桐慎二の従えていた騎手の英霊。
だが彼女はまさに昨日、セイバーの宝具開放によって確かに倒したはずなのだ。
彼女の持つ、空を切り裂いた黄金の剣によって。
そしてもう一つ気になるのは名簿に記された"ありえない"名前の数々だ。
その名前とは伊達政宗、真田幸村、織田信長といった戦国の世を駆け抜けた武将たちの名前だ。
普通の思考回路なら、『本人がここにいるわけがない』と一笑に付すだろう。
死者が、それも数百年の時を超えて復活するなど普通は有り得ない。
だが、士郎はそれが"有り得ないことではない"ということを知っている。
クーフーリン、メデューサ……"英雄"と呼ばれる彼らが現代へと降り立つ可能性のことを。
その可能性の名を、"聖杯戦争"という。
7つのクラスに該当する英霊を召喚し、戦わせる殺し合い(バトルロワイヤル)。
そう、士郎たちが放り込まれたこの状況と瓜二つなのだ。
それにしては英霊でない名前も多いが、凛曰く聖杯は"未来の時間軸の英霊"も呼ぶ可能性があるという。
だとしたらこのうちの数人が英雄だとしても不思議はない。
だから士郎は考える。
これは、『帝愛グループ』によって開催された大規模な聖杯戦争で、彼らは新たなるサーヴァントなのではないかと。
もちろん聖杯戦争にしては不可解な点もたくさんある。
(さっきまで私服だったはずの自分が何故制服なのか、とか)
だが何にせよ――唯一つ確実なのは、この島で殺し合いが行われているということだ。
「……とにかく、一刻も早くセイバーと合流しないとな…」
そのためにも誰かと接触する必要がある。
彼が最初に転移させられたのは【A−7】の櫓の上。
周囲を見渡せども呼びかけども人気は無し。
そのまま士郎は海岸沿いに南下し、最寄の施設……ギャンブル船を目指していた。
だが海岸沿いと言っても砂浜でない箇所は切り立っており、地図どおり海岸沿いには移動できそうになかった。
したがってやや南下し、山中の獣道を進んでいたのだ。
そして時計の針が1時を回るころ、士郎は家屋が幾つも並ぶ場所に到達することになる。
「ここは……廃村か」
山中にひっそりと佇む廃村。
人気はなく、建物自体も老朽化が進んでいる。
誰もいない……そう判断し、ギャンブル船に向かおうかと通り抜けようとしたその時、
『放し……っ! たすけ……っ!』
士郎の耳に届いたのは女性の悲鳴と何者かが争うような物音。
瞬間、体が勝手に動きだそうとしていた。
だが廃村には幾つも家屋がある。
焦りながら耳を澄まし、声と物音を拾おうとする。
『いやだぁっ! 嫌……よぉっ!』
『ちょっと、落ち着い……話を聞…てく……いまし!
ええい、こう……多少手荒に……ますけれど――』
続いてきた声も緊張を孕んでいる。
だがおかげで位置が特定できた。ここから2軒先の赤い屋根の家だ。
事態は一刻を争う。ためらう理由などありはしない。
「――投影、開始(トレース、オン)!!」
右手に黒剣"干将"、左手に白剣"莫耶"を投影する。
二つの斬線の上に体重を重ね、脆くなっていた引き戸を粉砕し、そのままの勢いで屋内に突入する。
『今の音はっ!? はやく逃げ出さないと……!』
『いやぁ、こんなの嫌だっ! うああああっ!』
『ああ、ちょっと貴女、大人しくしてくださいまし! そんなに暴れられては跳べるものも跳べませんことよ!』
廊下の突き当たり、襖の先からより鮮明さを増した声が聞こえてくる。
迷わず直進し、半開きの襖の間、体を滑り込ませるようにして突入する。
「くそっ、大丈夫か!」
果たして、勢いよく雪崩れ込んだ彼が目撃したのは――……、
「――――――――え?」
布団の上で、髪を二つに束ねた小柄な少女が背の高い黒髪の少女を押し倒している光景だった。
「なっ……!」
小柄な少女の短いスカートは大きく捲れ上がり、かなり大人びた下着が露になっている。
布地面積の少ないそれはかなり際どい所まで肌色が見えるようになっており、それに包まれた未成熟な果実に不釣合いだったが、
逆にそれが妖しい色香を放っていた。
「え……」
一方、押さえつけられた黒髪の少女のほうはもっとあられもない格好だ。
全力で大暴れしたためスカートはその意味を成さず、ブルーとホワイトのストライプが、健康的な太ももごと丸見えになっている。
また数分前まで上半身をキッチリと包んでいたブラウスは、肩からずり落ちて最早脱ぎかけのようだ。
そして当然、制服に隠されていたショーツとお揃いのブラに包まれた2つのふくらみが露になっている。
更に言及するならばその肩紐は大きくずれ、下手をすれば平均より若干大き目の中身がこぼれ出てしまいそうなほどであった。
月夜に響くのは荒い吐息。
熱を帯び朱色に染まった頬。
上気した薄紅色の肌に張り付いた少女の黒髪。
それらが混在した背徳的で淫靡な光景を、士郎少年は煌々と輝く三日月のせいで、あますところなく目撃した。
「――……あ――」
それは――色に例えるのなら鮮血の赤どころか桃色の世界。
その光景は思春期真っ只中の衛宮士郎には些か刺激が強すぎた。
しかも憧れの少女とはいえ寝顔を見たぐらいで胸をドギマギさせ、その場から逃げ出すくらい純情少年である衛宮士郎のこと。
少女2人が淫らに絡み合うという、百合の花が咲き乱れそうな有様を直視してしまった彼の脳は過剰な情報量を処理しきれない。
その結果、手にした双剣を取り落とし、その状態で完全に行動を停止してしまった。
「――……え――」
そしてそれは澪も同様である。
そもそも秋山澪という少女は極度の恥ずかしがり屋だ。
そんな彼女のトラウマの一つが文化祭のステージ上でこけ、衆人環視の前に下着を晒してしまったことだ。
だが、それでもあの場所にいたのは女子高生ばかりで、しかもそれなりに距離があった。
同年代の少年に、しかもこんな至近距離で痴態を目撃されたことなどありはしない。
羞恥心は限界を突破し、澪の脳裏からは乱暴される恐怖も、殺されるかもという恐怖も、一切合財が消え去ってしまった。
更に限界突破した羞恥心は、自己防衛手段である気絶すら脳に放棄させる。
その結果、澪の思考・行動は共に完全停止してしまった。
その結果生まれるのは、空間における時間の停止。
一切の動き、音が消え、耳が痛いほどの沈黙が廃屋の一室を支配する。
だがそれは決して永遠ではない。時間という薬によって次第に回復してくる可治の病だ。
再始動した士郎の脳が事態を理解し、目を逸らそうとする。
動き始めた澪の頭が事態を消化し、絹を裂くような悲鳴を上げようとする。
「――ごめんあそばせぇぇぇぇっ!」
だが、それよりも早く正確無比なコントロールで投擲された薬瓶が士郎の頭を直撃した。
* * *
そして、現在。
衛宮士郎は額から血を流して板張りの廊下に倒れ付している。
秋山澪は何とか落ち着いたものの、顔を真っ赤にしてしゃくり上げながら、シーツごと自分の体を抱きしめている。
少年は僅かに手足が動いていることから死んではいないようだが、このまま放って置くわけにもいくまい。
この少年も部屋に入ってきたときの様子を見るに悪人ということはあるまい。
とりあえず彼女に事情を説明し、少年を介抱しないと……。
「……って、何で厄介ごとが増えてるんですの……」
こういう場合は迅速に行動を起こさなければならないのに。
『薬剤/ルイス・ハレヴィ』と無骨なラベルの貼られた瓶を拾いながら、白井黒子は頭を抱える。
一体何がどうしてこうなってしまったのか。
誰もこんな結果は望んでいなかったはずなのに。
黒子は出来れば最初の時点まで、時が巻き戻って欲しいと願わずにはいられなかった。
【B-6/廃村/一日目/深夜】
【秋山澪@けいおん!】
[状態]: 健康
[服装]: 桜が丘高校制服(やや乱れ)
[装備]: なし
[道具]: 基本支給品一式
[思考]
基本: 死にたくない
1: 見られた、見られた、見られた……!
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]: 健康
[服装]: 常盤台中学校制服
[装備]: カリバーン@Fate/stay night
[道具]: 基本支給品一式、ルイスの薬剤、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本: 殺し合いに乗らず美琴を捜索
1:少女の警戒を解く
2:とりあえず少年を介抱
3:一方通行を警戒
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
距離に反比例して精度にブレが出るようです。
ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
その他制限については不明。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 脳震盪で気絶中、額に軽い怪我
[服装]: 穂村原学園制服
[装備]: 干将・莫耶(投影)
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]
基本:主催者へ反抗する
1:セイバーと合流。またそのために他人と接触して情報を得る。
[備考]
参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です。
残り令呪:1画。
【ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO】
白井黒子に支給。
イノベイターからルイス・ハレヴィに渡された細胞傷害を抑えるための薬品。
実はテロメア治療のためのナノマシン集合体であり、副作用として脳量子波が微少ながら使えるようになる。
(ソーマ・ピーリス専用であるアヘッド・スマルトロンを操縦出来たのもこのため)
なおラベルには『薬剤/ルイス・ハレヴィ』としか書かれていない。
408 名前:開幕直後より鮮血乱舞 ◆DzDv5OMx7c[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:56:47 ID:5Hko9etU
以上で投下終了です。
ご指摘、ご感想をお待ちしております。
493 名前:開幕直後より鮮血乱舞 修正箇所 ◆DzDv5OMx7c[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 20:43:03 ID:KAGAlGOM
修正箇所A
「――投影、開始(トレース、オン)!!」
右手に黒剣"干将"、左手に白剣"莫耶"を投影する。
二つの斬線の上に体重を重ね、脆くなっていた引き戸を粉砕し、そのままの勢いで屋内に突入する。
↓
「このおっ!!」
全速力で走りながら、ディパックを探り大型のモンキーレンチを取り出す。
手首から肘までありそうな長さのそれを思い切り半壊した玄関に叩きつける。
振るわれた銀線の上に体重を重ね、脆くなっていた引き戸を粉砕し、そのままの勢いで屋内に突入する。
・修正箇所B
その結果、手にした双剣を取り落とし、その状態で完全に行動を停止してしまった。
↓
その結果、手にしたレンチを取り落とし、その状態で完全に行動を停止してしまった。
・修正箇所C+支給品説明追加
[装備]: 干将・莫耶(投影)
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品(1〜3)
↓
[装備]: モンキーレンチ@現実
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品(0〜2)
【モンキーレンチ@現実】
衛宮士郎に支給。
ボルトを締めるための工具。
日本では一般的に先が開いているものはレンチ、開いてないものをスパナという。
ちなみに衛宮士郎は登場人物の一人に「ばかスパナ」という名前をつけられたことがある。
そのせいかスピンオフ作品『Fate タイガーころしあむ』ではみなが銘々の武器を使う中、
彼はスパナ(モンキーレンチだが)を装備して戦っていた。なんでさ。
代理投下終了
投下乙です
CCとライダーは奇妙な絆が生まれたな。本人らは否定するだろうけど
アーチャーはやっぱり士郎狙いかw 無差別マーダーよりはマシだけど不吉だ
野郎一人に相性が悪そうな女二人か。違う意味で不吉だw
ありゃりゃ木さんは純粋対主催だな。なんかほっとする
憂はやっぱりこの程度では改心しないか
士郎www だがこれは不幸なのか?w
黒子、とりあえず謝っとけw
ところでそろそろ新スレ?
投下&代理投下乙です
>アカイイト ◆tu4bghlMIw
狙撃って強いんだよな、しかもアーチャーだから尚更だわ
C.C.はどこでもマイペースか、とりあえずピザがあって良かったな
>Noble phantasm ◆WWhm8QVzK6
さすがにナイフ1本ではここまでか、でも憂はこんなことでは止まらないぞ
それと阿良々木君、事情は分かるがそれはただの変態行為だw
>開幕直後より鮮血乱舞 ◆DzDv5OMx7c
黒子自重wwwそして士郎とばっちりすぎるwww
澪はやはりこういう役回りなのか
>>509 今だいたい483kbだからもうそろそろ次スレ要るな
スレ立て乙です
乙です
議論スレにて、バーサーカーの修正稿についてが議題になっています。
また、修正要求の方法について・議論スレの使い方について発議がされています。
以上、報告でした。
新スレ乙です
ここはもう埋める?
AA使わないと埋まらないな
/ / / ! ヽヽ
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カギ爪の男@ガン×ソード
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竹井久@咲-Saki-
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玄霧皐月@空の境界
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加治木ゆみ@咲-Saki-
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2 0 0 9 年 1 1 月 H 氏
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|@ 2009年 11月 H氏 |
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_ lヽ、 ,,-'/,, -─,- ククク・・・・・・
__`ヽ``ヽ! ゙v'" 〃 ./'"´ ̄``ゝ むろん・・・と言うか・・・・・・・・
`‐:、`` ミ ll ll 〃 〃 " " ``ゝ 言うまでもなく・・・・・・
. <,´ミ ミ ヾ ll 〃 ,, -─‐-.、_ ミ `ヽ わしは 持っておるっ・・・・!
∠ ll/⌒゙`‐:、.__,, -‐''"´ ::::ヽ、 ミ l、 このパーティー会場の誰よりも・・・・・・・・
,l,,,/ ‐- 、 ,, -─‐ :::l、 ヾ. l 持っておるっ・・・・・・・・!
l,,/ ‐ 、`` ‐--‐''"´,, --‐ ::l、ll l | 金をっ・・・・・・!
__.l_l_ .‐ 、`` ‐--‐''"´,, -- ____l ll | 円で・・・ ドルで・・・・・・!
``丶- 、`ヽ、 `` ‐--‐'' ´ , ‐'"´_,, -‐'"´ ::| ll ll | ユーロで・・・・・・・・
. l|. `ヽ\ ゚ ※‐''"´ :::::::| ll | 元で・・・・!
. l . _二二二_\ / _二二二_ :::::/ ll l| 持っておるっ・・・・!
l<´ ̄ ̄。~`y :v" ̄。 ̄ ̄`゙> ::::| ll /⌒ヽ|
. | `゙ミ≡≡'〈 。 :::)゙ミ≡≡≡´ :::::| |/⌒l |.l、 ククク・・・・・・ どこに鼠・・・・・・
|. ミ三三;;〉@ ::(:::ミ三三彡 ゚ :::|lll|/⌒l |ll l 税務署の輩が
. |gヘ、__,ノ:::/ @ :::ヽ 。ヽ、__, 〜●、::| .| ~)ノノ l、 潜んでおるか知れんから
. 、__|_ヽ、_ノ:;l ● 。 ;:::::ノ、 ヽ、__,ノ ___l._|,、_ノ ll l、 大きな声では言えんが
``‐、_  ̄ ̄ ̄ .゙ヽ、__,, ‐'"  ̄ ̄ ̄ ̄ ,, ‐''l:::ヽ、ll ll l、 それぞれ・・・・・・・・
. / ||`_‐、_____,.-‐-、____,,_-‐'ニニ,:::;| l::::::::ヽ、ll l、 100億はくだらぬ預金を
/ll | |ヽ]_LLLLLlコココ.LLLLLLLLロ_|ノ:::;l ll|:::::::::::::::l‐:、 .| 持っておるっ・・・・・・・・・・!
//|ll l. ヾコ.TTTTTTTTTTTTTTTT」コフ:::::;l lll |::::::::::::::::l:::::`:‐
._/:::::| lll l、 ゙U~ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∪~:::::::l l |::::::::::::::::::l::::::::: 最近では・・・・・・・・
_,;‐'"::::l:::::::::| l l、 ━━━ :::。::::::;ノ |l| |,|::::::::::::::::::l:::::: 北半球にばかり金を集中させるのも
:::::::::::::|:::::::::::|. ll ヽ、 ゚ 。::::::::;/ ‖ ll.|,',|::::::::::::::::::|::: どうかと思い・・・・・・
::::::::::::|:::::::::::::l、l‖ ゙‐、______;;:::‐'´ ||| || l,',',|:::::::::::::::::::l オーストラリア・ドルも手にした・・・・・・
:::::::::: |::::::::::::::::l、‖ ll lll ll ‖ ||l /,',','|:::::::::::::::::: ほんの50億ほどだが・・・・・・・・・・・・
:::::::::::|::::::::::::::::::|ヽ、|| || |l| || ‖ l| /,',',',',|:::::::::::::::: 転ばぬ先のなんとやらだ・・・・・・・・・・!
:::::::::::|::::::::::::::::::|',','lヽ、l| ‖ ll| ‖ l|l ,//,',',',',|::::::::::::: 常にリスクの分散は
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兵藤和尊@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor
福本作品ってAA意外と豊富なんだ
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/ \ /::. \ く ´
′ |ミ、∨rf|: : ヽ ヽ
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{ ´三了 /ィ .:.:.:/:l笊圷 } /rュゃ : :. 丶 .|
| fソ. l .: : :./:|ゝソ ′ 込リ| }: : : :ハ |
. |. | 、: : ト 八 ' l/: : :.// !
r‐┴ ┴t ト、: :.ヽ\ ー _/: : :.ィ: : ∧
|::::::::::::::::| | /ヽ: :}_>-‐.≦/:.:/:.|: : : ∧
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l l /¨` ヽ、 //. !ヽ ヽヽ l : . ヘ、
| .L, -<. ソ 〈/ し′ j/ / , L: : ヘ、
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| / _, .{::... / j - 、 \ ヘ、
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| ヽ:l:.V : : ヽ、/ \′ ヽ __ 斗.:彳/:.:/:.:.{ /
\ : : : : 〈 〈: : :.{、: :/| : :/ /
\ : : / ヽ: :l:.V.: :/、 , '
ソ:/ \ヽ/:::::::\ /
龍門渕透華@咲-Saki-