リリカルなのはクロスSSその101

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
ゲット・雑談は自重の方向で。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその100
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1248851739/l50


規制されていたり、投下途中でさるさんを食らってしまった場合はこちらに
本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1231340513/

投下直後以外や規制されている場合の感想はこちらに
全力全開で職人を応援するスレ(こちらは避難所になります)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1214480514/

*雑談はこちらでお願いします
リリカルなのはウロス雑談スレ52
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1246246181/

リリカルなのはウロスのほほん雑談スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1227711727/

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/05(土) 20:56:09 ID:ewExKpD0
【書き手の方々ヘ】
(投下前の注意)
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  ttp://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

(投下後の注意)
・次の人のために、投下終了は明言を。
・元ネタについては極力明言するように。わからないと登録されないこともあります。
・投下した作品がまとめに登録されなくても泣かない。どうしてもすぐまとめで見て欲しいときは自力でどうぞ。
 →参考URL>

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、さるさん回避のため支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は避難所の応援スレ、もしくはまとめWikiのコメント欄(作者による任意の実装のため、ついていない人もいます)でどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
・まとめに登録されていない作品を発見したら、ご協力お願いします。
 →参考URL

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
・携帯からではまとめの編集は不可能ですのでご注意ください。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/05(土) 20:57:11 ID:ewExKpD0
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。

【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪

【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部)
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用

【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用

【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作

【作者】リリカラー劇場=リリカル剣心=リリカルBsts=ビーストなのは
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
         リリカルなのはBeastStrikerS
         ビーストなのは
         魔法少女リリカルなのはStrikerS−時空剣客浪漫譚−
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪(リリカラー劇場)
       追放処分後の別名義での投稿(Bsts)(ビーストなのは)
4名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/05(土) 21:03:13 ID:11KlsEiB
>>1
R-TYPE氏帰ってこないかな?
5R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/05(土) 21:57:41 ID:A8W025Y/
>>1さん、スレ立て乙です
前スレで予告した第二十九話の投下ですが、どうも今夜中には無理そうです
時間はまだ分かりませんが、明日の午後に投下させて頂く事にします
例によって投下数がそれなりにあるので、その際は支援と、場合によっては代理投下をお願い致します
では、また明日
6名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/05(土) 22:10:59 ID:FD4EGTCU
自分はこのスレで新参なのですが
今作品を一つ練っていて、投降しても良いでしょうか?
もちろん盗作ではありません

良作、駄作かはおいておくとして
7名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/05(土) 22:33:33 ID:kxww/PT2
>>6
このスレは軍隊でも警察でもない。

推敲さえ終わらせれば投稿は自由だ。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/05(土) 22:47:50 ID:V7OiVfol
明日の午後とは…また長いことだ。
全裸待機しているヤツ等が新フルエンザにかからないよう祈ろう
9名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 02:44:58 ID:zc3us/pG
波動砲をチャージしながらR-TYPE Λ氏を待ってる
>>6
とりあえず投下の際はほかの人とかぶらないように
予約する時間に気をつけてください
10レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:02:38 ID:5U1fORGN
おはようございます。
R-TYPE氏が午後からみたいなので今のうちに投下させてもらいます。
11レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:05:06 ID:5U1fORGN
 ―――我等の試練に討ち勝ちし者達よ、見事である―――
 
 ―――さあ…我等の下へ来るが良い、そして汝の強さを示せ―――
 
 ―――さすれば我等は汝の力と成らん事を約束しよう―――
 
 
                  リリカルプロファイル
                   第二十七話 五層
 
 
 第四層の試練も、なのは達の活躍により無事突破した一同は、
 帰ってきたなのは達に激励をすると、今回の目的でもある神が住まう地、第五層へと足を運ぶ。
 目的の地まで今までとは異なる程に長い階段を下る一同は、今までの試練を思い返していた。
 
 最初はスバルとティアナが憧れ、そして目標である母と兄の壁を乗り越えた。
 次にエリオとキャロが自らの内に潜む暗い闇に打ち勝ち、
 はやてとヴオルケンリッターは自分達の罪を乗り越え、
 そしてなのはとフェイトは守る意志を試され、父と母に打ち勝った。
 
 …全ての試練を乗り越えた今ならば……そう考え気合いを込めていると、神が住まう地へと辿り着く。
 それは今までとは異なり、とても広く三倍近くの面積があり、柵の外には見上げる程の巨大な柱時計がゆっくりと時間を刻んでいた。
 
 そして神との対峙に鼓動が高鳴っていくと、床に描かれている二つの魔法陣が赤と青の色に分けて輝き出し、
 なのは、ヴィータ、スバル、ティアナ、シャマルの身が赤い魔力に包まれ始め
 フェイト、シグナム、エリオ、キャロ、ザフィーラの身が青い魔力に包まれていく。
 
 その中ではやて一人だけがぽつんと無色で佇んでおり、自分の身を何度も確認するが、
 周りのような変化が起こらず、思わず怒鳴り散らすはやて。
 
 「なんや!何で私だけなにも変化せぇへんのや!!」
 「あ〜たぶん定員オーバーなんですよ」
 
 今回は神がバランスよく二班に分けた結果、一人余ったはやてが留守番する事になったとディルナが語ると、
 全く納得いかない表情を表しながらシャマルに指を指し怒鳴り散らしながら抗議する。
 
 「んじゃ何か!私よりシャマルの方が役に立つっちゅうんか!!」
 「……それはどういう意味かな?はやてちゃん…」
 
 シャマルはとても綺麗な笑みを浮かべながらこめかみに血管を浮き出させて質問する。
 その表情に思わず慄くが、直ぐにつふてくされるはやて。
 
 「私はもう真の夜天の王になったっちゅうねん、なのに何でハブかれなきゃいかんのや……」
 
 ブツブツ言いながら体育座りで呟くはやてをリインが慰めているところで、なのは組、フェイト組は転送されていき、
 その場にははやてとリイン、それにディルナが取り残されていた。
12レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:06:08 ID:5U1fORGN
 そしてディルナは落ち込むはやての肩に手を当てると顔を見上げると優しい笑みを浮かべ出迎える。
 
 「心配なのはわかりますけど、大丈夫ですよ!試練を突破した皆さんなら!!」
 
 そう言って励ますディルナ、確かに此処に来てから自分を含め成長したかに見える、
 自分が此処で出来る事…それは皆の無事を祈る事であるだろう…
 そう考えたはやてはディルナの励ましに感謝して立ち上がるとディルナはある方向を指さす。
 
 其処にはカフェなどに置いてありそうなお洒落な白いテーブルとチェアーが置いてあり
 テーブルクロスの上には白いティーポットとカップ、それにクッキーが入ったバケットが置いてあった。
 ディルナ曰わく神が用意してくれたようで、此処で暫く休息を堪能して欲しい為の処置のようである。
 そして説明を終えたディルナとリインはいち早くテーブルに向かい、はやては困惑しながら、テーブルへと赴くのであった。
 
 
 場所は変わりなのは達は一面白い大地に覆われた場所に転送され、フェイト達もまた似たような別の場所に転送されていた。
 一同は離れないように纏まって警戒をしていると両者の目の前に魔法陣が現れ中心から等身大の神が姿を現す。
 その姿は金髪に三日月を彷彿させる杖を持ち、黒いローブを着ていて背中には六枚の翼、頭には金色の輪が浮かんでおり、
 両者に現れた姿はほぼ同じなのであるが、なのは達の下に現れた神は赤い翼と魔力に覆われ、フェイト達の下には青い翼と魔力に覆われていた。
 一同は神の出現に唖然としていると、神が静かに言葉を口にする。
 
 『よくぞ辿り着いた…』
 「我は男神ガブリエ・セレスタ」
 「私の名は女神イセリア・クイーン」
 『我等はこの世界の住人にして主である』
 
 別の場所で言葉を合わせるように話す流浪の双神、様々な修羅場を潜って来た一同だが
 その圧倒的な存在感に息を飲まれていると、その中でなのはだけが先陣を切るように神に問いかける。
 
 「流浪の双神よ!私達は―――」
 「皆まで言わずとも分かる、我等の力を貸して欲しいのだろ?」
 
 此処に来る者は、大抵腕試しか力を借りに来たかの二択位で
 なのは達は入って来た当初から力を借りに来たというのは分かっていたと語ると、
 流石、神を名乗るだけの事はあると考えつつも話が早いと考える一同。
 すると双神は杖で一同を指すと力強くこう述べる。
 
 『我等の力を欲するのであれば、我等に強さを示せ!!』
 
 神の言葉を合図に一同はデバイスを次々と起動させ神と対峙するのであった。
 
 
 …フェイトは仲間と念話で作戦を伝える、先ずは自分とエリオが先手を打ち
 次にザフィーラが時間差で攻撃、そしてキャロの援護と共にシグナムが攻撃を仕掛けるものであった。
 フェイトの作戦に一同は頷くとフェイトはザンバーフォーム、エリオはデューゼンフォルムに変え構える。
 
 「行きます!!」
 
 気合いがこもったフェイトの声を合図に二人は飛び出し縦横無尽に動き回りフェイントをかけながらフェイトは上空から振り下ろしエリオは地上から突き上げる。
しかし神、ガブリエはフェイトの攻撃を左上の翼で、エリオの攻撃を右中央の翼で難なく防ぐ。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 07:06:36 ID:3mv09gE9
支援
14レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:07:26 ID:5U1fORGN
 だが時間差でガブリエの右後方上をとったザフィーラが拳を合わせガブリエの後頭部を狙うが
 それすらも右上の翼によって防がれる。
 
 ザフィーラは一つ舌打ちをするとそれを合図に三人は怒涛の連撃を繰り出すが
 それぞれの翼にて難なく防がれてしまい、流石の三人も困惑の色を見せていた。
 
 「そろそろ…此方も攻撃を仕掛けるか……」
 
 ガブリエは小さく呟くように言葉を口にすると右手に持つ杖の先端が鈍く光る。
 杖の先端の三日月部分は刃物のように鋭利で首を跳ねやすくする為に出来ている。
 そしてフェイトとエリオの攻防で一直線に首が並んだところを狙い杖を右に振り抜くガブリエ。
 
 しかしいち早くフェイトが気が付きエリオに念話で下がるように指示を送り二人は
 ソニックムーブにて回避、二人の前髪を何本か切り散らしただけですんだ。
 
 だがガブリエの杖は更に進み後方を捉えていたザフィーラの頭部に迫るが、障壁を展開させ一撃を止める。
 ところがガブリエの一撃は徐々にザフィーラごと障壁を押し上げ、
 こう着状態から直ぐに障壁が砕けると、その勢いによりザフィーラは吹き飛ばされる。
 
 一方ガブリエが背中を向いている位置にはキャロがおり、勝機と考えたキャロはフリードリヒにブラストレイを命じ
 フリードリヒはブラストレイを撃ち込むと、既にキャロの動きを察していたガブリエが左手をかざしファイアランスを唱え相殺する。
 
 動きを読まれていた事に気が付いたキャロは驚きの表情を見せていると、
 既にガブリエは目の前で見下ろしており、振り上げた右手には杖が握られていた。
 
 「…まずは一人目」
 
 そう小さく呟くと容赦なく杖は振り下ろされる、しかしガブリエの一撃はキャロの頭上を直撃する事はなかった。
 何故ならガブリエとキャロの間をシグナムが割って入りレヴァンティンにて防いだからである。
 
 そしてシグナムはキャロに下がるように指示をすると、キャロはフリードリヒに乗って後方上空へと避難
 横目でそれを確認したシグナムはカートリッジを消費し刀身は炎に包まれ押し返すように紫電一閃を振り抜く、
 
 シグナムの一撃はガブリエの予想を大きく上回り後方へと押し返されるが、
 その勢いに乗りながら左手をかざしクールダンセルを唱え氷の刃を持った氷人形がシグナムに襲いかかる。
 
 シグナムは一つ舌打ちをすると氷の刃を受け止め鍔競り合っていると刀身が凍り始め、
 カートリッジを使用して溶かそうと考えた瞬間、金色の閃光がクールダンセルをバラバラに切り裂く。
 そしてその場にはライオットブレードに切り替えたフェイトの姿があり、
 愚直なまでに真っ直ぐ上空に移動したガブリエの下へ向かう。
 
 フェイトはガブリエの目の前でソニックムーブを行い一気に後ろをとるが、動きを既に予測していたガブリエは右上の翼にて防ぐ。
 ガブリエの翼とフェイトの攻撃により火花が散る中で、フェイトはエリオに念話で合図を送る。
 
 (エリオ!!)
 (了解です!フェイトさん!!)
 
 エリオもまたフェイトに念話を送り応えると、カートリッジを二発消費、
 ストラーダの矛先をガブリエに向け構え、スピーアアングリフを打ち出す。
 
 そして見る見ると距離を縮めていきガブリエに迫るが、中央の二枚の翼にて受け止められエリオを吹き飛すように跳ね返し、
 ガブリエは更に翼でフェイトを後方へ吹き飛ばした後エリオに迫ると、止めとばかりに杖を振り下ろす。
 
 だがエリオの左手は電撃に覆われており、それに気が付いた瞬間の隙を狙いガブリエの顔を目掛けて紫電一閃を打ち抜く。
15レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:09:55 ID:5U1fORGN
 エリオの紫電一閃が迫る中でガブリエは振り下ろした杖の先端を向け攻撃を防ぐが、
 エリオはそのまま拳を振り下ろしガブリエを吹き飛ばす。
 しかしガブリエは体勢を立て直し床に静かに着地するのであった。
 
 一方、空中から落ちて行くエリオをフリードリヒが口でキャッチ、
 エリオは一言礼を言うとフリードリヒの背中ではキャロが微笑みを浮かべていた。
 そしてガブリエはそれぞれに目を向けると口の端が徐々につり上がる。
 
 「…成る程……がしかしまだまだこの程度では無かろう、さぁ…もっと強さを見せて見ろ!!」
 
 そう言ってけしかけるガブリエを後目にフェイト達は冷静に今の状況を整理し対峙するのであった。
 
 
 一方なのは達も念話によって作戦を練りそれぞれの役割の為に移動し始める。
 そして定位置に付くとまずはなのはとティアナがアクセルシューターとクロスファイア合わせて12発で牽制する。
 
 更に魔力弾に合わせるようにスバルは地上を滑走、ヴィータが上空を飛行してイセリア下へ迫りデバイスを堅く握る。
 二人が放った魔力弾がイセリアの下へ辿り着き次々に着弾する中でスバルとヴィータは合わせるように一撃を放つ。
 
 「ラテーケン!」
 「リボルバー!」
 「ハンマァァァ!!」「キャノォォォン」
 
 二人の叫びが合わさると共に振り抜きヴィータの一撃は頭部に、スバルの一撃は腹部にそれぞれ直撃する。
 だがイセリアは平然とした表情で右手に持つ杖を振り抜き二人を吹き飛ばす。
 
 その間になのはとティアナは次の行動に入っておりアクセルシューターとクロスファイアが二人の前で激しく回転していた。
 
 「アクセルシューター…」
 「クロスファイア…」
 『スパイラルシュート!!』
 
 此方も声を合わせて放つと魔力弾が螺旋を描きながらイセリアへと迫る。
 しかしイセリアは持っていた杖を振り抜き衝撃波を発生させると魔力弾をかき消し更に二人に襲いかかり、
 衝撃波に飲まれた二人は吹き飛ばされていると、シャマルが二人の後方にヴァルヒ・スツーツを張り難を逃れる。
 
 その頃スバルは反撃とばかりにイセリアへ向かうと拳と蹴りのコンビネーションであるキャリバーショットを繰り出すが
 イセリアは平然と攻撃を体で受け止め、その状況に困惑するスバル。
 
 「…どうしたの?もう終わり?」
 
 イセリアの優しく問いかける言葉にスバルの体に戦慄が走り、思わず離れると今度はヴィータがギガントフォルムに切り替え頭上から振り下ろす。
 しかしイセリアは全く動じることもなくヴィータの一撃を頭で受け止め更に左手をかざしイグニートジャベリンを唱える。
 そしてヴィータの頭上から光の槍が降り注ぎ、危険を察知したヴィータはパンツァーシルトにて攻撃を防ぎつつ後退すると、
 一同はなのはを中心に集いイセリアを睨みつけながらも頬に冷たい物を垂らす。
 
 …神とはこれ程の実力を持ち尚且つここまで差があるとは思っていなかった。
 だからといってこの差を何とかして縮めなければ神の協力を得られない…
 なのははそう考えているとイセリアの口がゆっくりと動き始める。
 
 「さて……そろそろ体も解れてきたようですし、始めますか」
 
 今までの一連の動きは全て只の準備運動に過ぎず、今から本番であるとイセリアは話すと
 赤い魔力が全身から噴き出し、魔力が衝撃波となって身を貫き、恐怖心をかき立てる。
16レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:12:22 ID:5U1fORGN
 なのはは震える左手をまるで恐怖心を押さえ込むように握り締めると、
 自身の最大の能力であるブラスターシステムを起動、それを皮切りに次々に能力を解放させる。
 それを見たイセリアは不敵な笑みを浮かべ杖をなのは達に向けると第二幕を開始する。
 
 先ずはシャマルがスバルとヴィータにブーストアップのアクセラレイションとストライクパワーのツインブーストを掛けると
 スバルはA.C.Sドライバーを起動させて突進、ヴィータもまたギガントハンマーに
 フェアーテを加えて加速、イセリアの後方へと回ると一気に振り下ろす。
 
 一方イセリアはスバルの一撃を左手一本で受け止め、ヴィータの一撃は杖にて受け止める。
 するとヴィータはすぐさまその場から上空へ逃げ込むと、スバルの左手に環状魔法陣により発生した魔力球が握られており、
 そのままイセリアの胸元に打ち付けると右手を突き出しディバインバスターを撃ち抜く。
 
 イセリアはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされるが、魔力を放出し攻撃を吹き飛ばすと
 上空から追い討ちとばかりにギガントハンマーを打ち出すが簡単によけられ、むしろ杖で弾き飛ばされ返り討ちに合うヴィータ。
 
 するとイセリアの下へクロスファイアが弧を描いて襲いかかり、イセリアは杖で次々に払いのけるとティアナの下へ向かい一気に杖を振り抜く。
 だがティアナは陽炎のように消え、辺りには無数の五人の幻影が姿を現す。
 
 ブーステッドイリュージョン、ティアナの幻術をシャマルのブーストにより増幅・強化させたものである。
 流石のイセリアも驚きの表情を隠せずにいると後方から桜色の直射砲が襲い掛かり
 それに気が付いたイセリアはギリギリのところで回避すると左右からクロスファイアが二発襲い掛かる。
 
 「ちっ!」
 
 イセリアは一つ舌打ちをするとその場で回転を行おうとしたところ、幻影の一つがシャマルに変わり戒めの鎖にてイセリアを縛り付けるとそのまま退避、
 イセリアはなす統べなくクロスファイアを受けるが対したダメージは負っていなかった。
 
 すると左右からショートバスターが襲い掛かり後方へ退避すると後ろの幻影がヴィータに変わりラテーケンハンマーを背中に受け、
 そしてヴィータはそのまま退避し幻影の中に溶け込む。
 イセリアはこのままでは埒があかないと考えた結果一つの案を導き出し
 幻影の森よりも更に上空へと逃げ込み地上を見下ろす。
 一方地上からはリボルバーシュートやアクセルシューター、クロスファイアに
 シュワルベフリーゲンなどがイセリア目掛けて襲いかかって来ていた。
 
 「ちっ!仕方がないわね」
 
 そう言うと足下に巨大な多角形の魔法陣を展開すると詠唱を始めるイセリア。
 
「…我、久遠の絆断たんと欲すれば……」
 
 イセリアの詠唱により更に上空には巨大な槍が姿を現し縦回転を始め、
 その状況を唖然とした表情で見上げる形のなのは達。
 
 「まさか!アレは広域攻撃魔法!!」
 「…言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう」
 
 すると巨大な槍の矛先がなのは達に向けられ、動揺の隠せないなのは達に対し
 不敵な笑みを浮かべ見下ろしながらイセリアは杖を振り上げこう述べた。
 
 「分からないから全てを吹き飛ばすだけよ!ファイナルチェリオ!!」
 
 そして杖を振り下ろすと巨大な槍の鍔部分から魔力が放出し真っ直ぐ勢い良く落下、
 床に激突すると辺りに衝撃が走り幻影ごとなのは達を吹き飛ばし、その勢いは床全体を超えるほどの広がりを見せ
 その光景を上空にて見下ろしているイセリアなのであった。
17レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:13:56 ID:5U1fORGN
 一方フェイト達もガブリエとの戦いにおいて切り札を切り始める。
先ずはフェイトがライオットザンバー・スティンガーに切り替え、二刀流による牽制を促す、
 だがガブリエはいとも簡単にフェイトの猛攻を防いでいると、左後方へと先回りしていたエリオが突き刺す、
 
 しかしガブリエは左手一本でストラーダをつかみ取り受け止めると、
 エリオはウンヴェッターフォルムに切り替えノイズから金の針が飛び出す
 
 「サンダァァ!レイジ!!」
 
 エリオの叫びを合図にフェイトが退避しガブリエの周囲は稲妻に覆われ始めその身を打つ。
 しかしガブリエは動じることなくエリオごとストラーダを振り投げ杖を向けるとキャロによるアルケミックチェーンに縛られる。
 
 「フリード!ブラストレイ!!」
 
 更に追い討ちとばかりにブラストレイを撃ち抜きガブリエの身は炎に包まれ、
 加熱された鎖が身を締め付ける中でガブリエは魔力を一気に解放、炎と鎖両方を弾き飛ばした。
 
 しかし弾き飛ばした瞬間の隙をザフィーラが突き鋼の軛にてガブリエの身を呪縛する。
 そしてガブリエの前方にはフェイトとシグナムがおり、フェイトはスティンガーをカラミティに換え空いた左手をかざし、
 シグナムは居合いの構えをとっており、両者はカートリッジを使用する。
 
 「飛竜一閃!!」
 「トライデントスマッシャー!!」
 
 次の瞬間、金色と炎の直射砲がガブリエに迫り直撃、それを目撃した一同はフェイトの下へ集う。
 二発の強力な魔法が直撃した場所は白煙に包まれており、白煙から上空へ突き抜けるようにガブリエが姿を現し、左手をかざし詠唱を始める。
 
 「冥府の底で燃え盛る聖玉の採光…贖罪無き罪は罰と化し裁きの時を呼び寄せる」
 
 するとガブリエから炎が放たれフェイト達の周りを青く染め包み込むと球体となって上昇、徐々に赤く染め上がり一気に爆発した。
 ペイルフレアー、ガブリエ・セレスタが放つ闇属性の広域攻撃魔法である。
 
 そして跡地をガブリエはじっと見つめていると、中からブーステッドプロテクションを展開しているキャロと
 エクストラモード起動させ更に多重障壁を展開させているザフィーラが姿を現し、
 二人の障壁に守られる形で姿を現す一同、その状況を上空で見下ろしていたガブリエは、ゆっくりと下降し床に足を着ける。
 
 「よくぞ耐え抜いた!だが貴様達の強さは此処までなのか?」
 
 ガブリエは誉めながらも挑発を促し、一同はガブリエの挑発に乗る形で次々に力を解放させる。
 そしてまずはエリオが動き出す、その動きはまさに地を走る雷鳴の如き動きで、
 一回り小さくなったストラーダを右手に携え振り上げ、払い、通り抜けるように振り下ろすと、
 全身に光る雷光が更に輝き出し加速、ストラーダから繰り出される突きは最早、人の目では認識出来ない程の速度にまで至っていた。
 
 「奥義!エターナル!レイド!!」
 
 加速された無数の突きはガブリエの身を突き、最後の一撃はすり抜けるように貫き通すと
 次に真の姿のレヴァンティンを握り締めたシグナムが薙払うように振り抜く。
 
 「火龍一閃!!」
 
 撃ち出された火龍一閃は瞬く間にガブリエを飲み込み辺りが炎に包まれる中、
 ガブリエが炎の中から飛び出すと、その周囲は長方形の刃に囲まれ飛び回りながらガブリエの身を切り裂いていく。
 そして右腕に次々と刃が連結し巨大な刃に変わると一気に振り下ろすザフィーラ。
 
 「奥義!グリムマリス!!」
 
 振り下ろされた一撃をガブリエは杖で受け止めるが、ザフィーラは力を込めガブリエに直撃させると、
18名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 07:16:31 ID:3mv09gE9
支援
19レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:17:33 ID:5U1fORGN
 真・ソニックフォームの姿をしたフェイトが閃光の如くガブリエの下へ向かい、残像を発生させながら次々とその身を切り裂いていく。
 
 「無限の剣閃、アナタに見えますか!」
 
 そう言いながら徐々に加速しつつ斬りつけ最後はカラミティに切り替えて一気に振り抜き吹き飛ばす。
 だがガブリエは最後の一撃に耐え抜き見上げると上空ではキャロが召喚したヴォルテールが見下ろしており、キャロはヴォルテールの肩の上で
 エクストラモード起動させを起動させるとヴォルテールの胸元に竜紅玉が姿を現し魔力が集い始める。

 「奥義!ドラゴンドレッド!!」
 
 キャロの命に呼応するように胸元から強力な光線が発射され、ガブリエに直撃すると爆発
 辺りは爆風と衝撃が響きフェイト達の身を揺らす。
 その中でフェイトは確かな手応えを感じ、拳を握り締めるのであった。
 
 
 一方、ファナルチェリオを受けたなのは達は辺りに横たわっており、それを見かけたイセリアはゆっくりと床に着地する。
 するとゆっくりとではあるが、確実に起き上がる一同にイセリアは不敵な笑みを浮かべながら話し出す。
 
 「成る程…耐え抜いたか……しかしその分では抵抗すらままならそうだ……」
 
 見下すような目線で見渡しているが、なのは達の目は未だ諦めの色が見えず、
 その死んでいない瞳に密かに期待を寄せているイセリア。
 そして全員が立ち上がるとなのはが振り絞るように声を発する。
 
 「まだ……まだ私達は負けていない!」
 
 そう力強く言葉を口にするとそれぞれの全力を解放させる。
 先ずはスバルがエクストラモードを起動させてカートリッジを消費すると、体に纏っている赤い魔力が増大し威勢良くイセリアの元へ向かう。
 そして右拳を突き出し、振り下ろし、更にその場で左回転して勢い良く振り上げ、
 更に左回転から体ごと持ち上げるようにアッパーを繰り出しイセリアの体を持ち上げながら的確に顎を狙い撃つと
 床に着地、そして床を打ち砕くように拳を振り下ろした。
 
 「奥義!ブラッディカリス!!」
 
 次の瞬間、床から大量の赤い魔力がイセリアに襲い掛かり、その身を何度も打ち抜いていく。
 そしてスバルの攻撃が終わると間髪入れずティアナの攻撃が始まる。
 
 ティアナはエクストラモードを起動させると、エーテルを散弾のように撃ち出すクリティカルフレアと呼ばれる攻撃で牽制する。
 牽制が功をそうしたのか続いてクロスミラージュを平行に構えると白い直射砲サンダーソードを撃ち出し、
 そして間髪入れずにカートリッジを消費すると魔力によってエーテルが増大、ティアナの前で巨大な球体となって姿を表す。
 
 「奥義!エーテルストライク!!」
 
 次の瞬間、エーテルストライクはイセリアを飲み込み辺りは閃光に包まれていき
 閃光が落ち着き始めると今度はヴィータの番とばかりに力を現す。
 
 ヴィータの全身には稲妻が走り右手は重厚な鉄の手袋、そしてその手にはツェアシュテールングスフォルムのグラーフアイゼンを握り締め
 稲妻がグラーフアイゼンに伝わると目を瞑りたくなる程までに金色に輝き出していた。
 
 そしてグラーフアイゼンの先端が外れ柄の部分を稲妻で繋ぐとヴィータは頭上で回転させ始める。
 そして金色の環を描き最大加速に至ったところでイセリアの頭上目掛け一気に振り下ろした。
 
 「食らえぇ!ミョルニルハンマァァァ!!」
 
 振り下ろされたツェアシュテールングスフォルムの先端はドリル状で稲妻を発生ながら回転しており
 流石のイセリアも息を飲み杖にてヴィータの一撃を受け止める。
20レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:20:01 ID:5U1fORGN
 しかしヴィータの一撃はイセリアを中心として広範囲に渡って稲妻が走りまたもや辺りを閃光で包む、
 そして閃光が消え始めると跡地からイセリアがヴィータを睨み付けながら上空へ飛び出すと
 その瞬間的な隙をついてシャマルが鋼の軛を打ち出し、イセリアの身を貫き動きを止める。
 
 するとシャマルの動きに呼応するようになのはが6基のブラスタービットを六角形の形で置き
 イセリアより更に上空でなのはは構え、なのはとブラスタービットの前には桜色の魔力が収束されていた。
 
 「全力全開!スターライト…ブレイカァァァ!!」
 
 七発のスターライトブレイカーはイセリアを飲み込み着弾地点では桜色の魔力光が球体の形となって輝いていた。
 そして―――――
 
 「ブレイクゥシュゥゥゥトォォ!!!」
 
 なのはの言葉と共に七発の収束砲が消えると中央で形成されていた魔力球が膨張、
 一気に爆発し天を貫くと言わんばかりの桜色の魔力柱が姿を現しそれは徐々に細くなって消滅、
 スターライトブレイカーが直撃した地点の床は大きくクレーター状に窪み、其処にはイセリアの姿を見受けられなかった。
 その頃上空では肩で息をし左手を抑えながらなのはがゆっくりと降下し床に着くと力が抜けたかのように膝を付き、
 その姿に一同は集まり、跡地を見つめ確かな手応えと安堵が見え隠れしていた。
 
 
 両者の世界は静寂に包まれ試練の終わりを感じる頃、それは起こった。
 なのは達そしてフェイト達の下へ竜巻の如き勢いで姿を現した流浪の双神が仲間達を次々に巻き込んでいく。
 それはまさに疾風怒濤、一騎当千に相応しい動きで相手を叩きつけるように次々と杖を振り下ろし
 次に吹き飛ばすが如く突き刺すと、今度は回転しながら移動、なのは達フェイト達はなす統べなく跳ね上げられ、
 更に流浪の双神の回転が増すとガブリエは青いイセリアは赤い魔力の嵐を生み出し、一同はまるで木の葉の如く舞い上がる。
 そして流浪の双神は持っていた杖を力一杯振り下ろした。
 
 「力とはこういうものだ!!」
 「これぞ真の裁き!!」
 
 別空間にいる両者の声が重なる瞬間に合わせ、空間が断裂するほどの激しい衝撃がなのは達フェイト達の身を貫き、力無く次々に床に落ちていく。
 
 …女王乱舞、流浪の双神の切り札ともいえる怒涛の連撃で、これを受けた者は立ち上がる事が出来ないとさえ言われる程である。
 故に床に落ちたなのは達フェイト達は一切動きを見せてはおらず、流石に流浪の双神も此処までだと考えその場から転送しようとしていた。
 
 だがなのは達フェイト達はゆっくりと身に染み込む痛みに耐えながら徐々に体を動かし始め、
 それぞれはまるで生まれたての動物のように弱々しく…しかし確実に力強く起き上がり
 あれだけの攻撃を受けてもなお彼等の瞳は死んではいなかった。
 
 そんな彼等の行動に自分達が知る人の強さを垣間見た流浪の双神は、歓喜に震え笑みを浮かべる。
 流浪の双神の見たかった人の強さ、それは不屈、根性、“ガッツ”とも言えるもので
 かつてこの地を訪れた人の中で何度も倒れても立ち上がり、結果自分達は倒す人物が現れた。
 その敗北から人の強さ不屈の精神を知り、同じ精神を持つ人物には力を貸すという考えに至っていたのである。
 
 そして流浪の双神は杖で床を叩くと一面が変わり、其処でなのは達フェイト達は合流を果たす。
 互いはボロボロの姿に笑い合い心配し合いしていると、流浪の双神が一同を回復させて更にゆっくりと話し始める。
 
 「お前達の強さ、確かに見せてもらったぞ!」
 「その強さならこの力に溺れる事もないだろう…受け取るが良い!」
 
 そう言うと流浪の双神の前に杖が姿を現す、魔杖アポカリプスと聖杖ミリオンテラーである。
 この二本は持ち主の能力を高める事出来るほか、アポカリプスはペイルフレアーが
ミリオンテラーはファントムデストラクションが撃てるようになり、
21名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 07:20:22 ID:3mv09gE9
鬱陶しいと思ったら、俺のIDをNGによろしく、支援続行
22レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:21:02 ID:5U1fORGN
 更に杖を媒介に此処の魔法陣を展開させれば流浪の双神を一回だけ召喚が出来ると語る。
 しかし流浪の双神を召喚し終えると媒介となる杖は消失すると付け加えられた。
 
 「では…お前達の武運を祈る」
 「ありがとう…流浪の双神」
 
 そう言ってなのは達を転送させると、先程までの戦いを思い返し自分の身を確かめる。
 彼女達の攻撃はとても優しく、今まで此処に来た者に無い攻撃であった。
 故に彼女等なら自分達の力を正しく扱ってくれるだろう、そう確信にも似た気持ちで考える両者であった。
 
 
 一方で神との契約を終えた一同ははやての下へ転送されると其処ではへばったはやてとディルナの姿があり
 一同ははやて達の下へ駆けつけると、はやての手にはひまわりの種が握られていた。
 
 「何があったの?!はやてちゃん!」
 「いや…ちょっとネズミがな……それよりどうやったんや?」
 
 はやての言葉になのはとフェイトは首を傾げるものの、証拠の品でもある杖を見せる。
 証拠を見たはやては頷き褒め称えると、頭を掻き照れ臭いようで赤く染め、
 そして先程までへばっていたディルナが復活し、一同を連れて出入り口へと転送されるのであった。
 
 
 …此処はセラフィックゲートの出入り口、それぞれが一列に並ぶと対面にはディルナが佇んでいた。
 
 「またのご利用をお待ちしておりま〜す!!」
 
 そう言って手を振るとなのは達も別れの挨拶を交わす。
 …だがその中ではやてだけが苦い顔をしながら見つめていた。
 結局あの場でなにが起きていたのかは教えてくれなかったが、
 きっと酷い目に会ったのだろうと言うのが一同の展開である。
 
 
 
 
   そして…ディルナに背を向け一同は魔法陣に足を踏み入れ、聖王教会へと意気揚々に戻るのであった………
23レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:23:35 ID:5U1fORGN
 〜おまけ〜
 
 此処はあらゆる時間・次元・事象を超越した世界セラフィックゲート。
 
 故に様々な異形な生物が犇めいており、強者を今か今かと待ち望んでいる。
 
 …これはひょんな事から強敵に出会った矢神はやての災難な物語である。
 
 
 
 
 なのは達フェイト達が神の協力を得る為、転送された後では
 白いチェアーに座り白いテーブルに置いてあるTカップを片手に寛いでいる姿がある、
 機動六課部隊長矢神はやて二佐とリインフォースII曹長、そしてセラフィックゲートの案内人ディルナ・ハミルトンである。
 
 なのは達が激戦を繰り広げている中ではやては紅茶を静かに飲み、リインはクッキーをかじっており、
 クッキーをかじるリインの姿はまるでリスかネズミのような様を見せていた。
 
 …後にはやては語る、今思えばこれはあの激戦への序章だったのかもしれないと……
 
 
 はやては手にしているティーカップを静かに置くと小さくため息をはく、
 今回の戦いに自分は参加する事は出来なかった、その事も辛いが、此処でただ祈って待っているだけと言うのも辛いものである。
 そんなはやての心境を後目にリインとディルナは和気藹々とティータイムを楽しんでいると
 リインはあるモノに気が付き指を差しながらはやてに問い掛ける。
 
 「はやてちゃん!アレ何でしょう?」
 「んあ〜?…ありゃあハムスターやないか」
 
 何故こんな所にハムスターが?はやては疑問を持ちながらも毛繕いをしている行動に癒しを感じ
 ほんわかとしていると、この感情を共有しようとディルナに呼び掛けると……
 
 
 
 
   ……其処には真っ青な顔をしたディルナの姿があった……
 
 
 
 
 それだけではない、頬には冷や汗を垂らし少し震えてもおり、はやてはディルナの様子を心配すると
 まるで有り得ない事が有ったかのような険しい形相で立ち上がりハムスターを指差す。
 
 「何故!何でいるの!!“封印石”の効果があるハズなのに!!!」
 
 ディルナの口から“封印石”と言う聞き慣れないフレーズを耳にしたはやてはディルナに問い掛けるとまずセラフィックゲートの仕組みから説明するディルナ。
 このセラフィックゲートに訪れる者には二通りある、一つははやて達のように力を借りる為、もう一つは腕試しである。
 腕試しの方は本来の形であればいいのだが、力を借りる者には厳しい環境な為
 “封印石”と呼ばれる水晶玉の力を使い、訪れる者に合わせて世界を変化させているという。
 今回使用した封印石はeasy.modeと呼ばれる物で、これによって強者を封印、建物内も簡易化し試練のみのセラフィックゲートとなっていると説明を終える。
24レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:25:05 ID:5U1fORGN
 此処からが本題である、今目の前にいるハムスターは“本来の姿”のセラフィックゲートに存在する生物で、
 封印石の効果によって封印されているハズなのである。
 だがハムスターの体は小さい、もしかしたら建物内の隙間に入り込み、難を逃れた可能性があると震えながら語る。
 
 しかしはやては未だに腑に落ちない点があった、それは今目の前にいるハムスターの事である。
 ハムスターにはディルナが恐れるような印象が感じられず、むしろ可愛らしい印象の方が強いのである。
 警戒しすぎなのではないのか?そう思ったはやては警戒心無く近づき手を差し伸べるとディルナが止めに入る。
 
 「危ないです!!」
 「そない言われてもなぁ…大丈夫そうに見えんけどな」
 
 そういって指しのばした手で触れようとした瞬間、強烈な衝撃がはやての頭に響き吹き飛ばされテーブルに激突、
 そしてはやての身を案じてリインが近付くと、はやての頬に小さな足跡がくっきり付いていた。
 するとディルナの震えが更に酷くなり顎をガタガタ鳴らしながら言葉を口にする。
 
 「まっままままさか!こっ公太郎!!」
 
 公太郎…それは目の前にいるハムスターの名で、ハムスターの中のハムスター、ハム☆スターと言っても過言ではない存在なのである。
 その余りにも違う次元の存在に慌てふためいている中ではやてがゆっくりと起き出す。
 
 公太郎…この存在が此処に居座られては、帰ってきたなのは達にも被害が及ぶかもしれない…
 しかし公太郎と自分にはかなりの実力差があるだろう、
 それでも追い返すぐらいは出来るはずだ!…そう自分を鼓舞するとリインとユニゾン、
 公太郎と対峙すると今まで震えていたディルナが、はやての覚悟に呼応するように立ち直り手を貸すと弓を構えた。
 
 
 そしてまずディルナが牽制とばかりに矢を放つが、すり抜けるように回避され、はやての懐に入ると右前足を振り抜く。
 しかしはやてはプロテクションとパンツァーシルトの多重障壁で受け止めるが、
 簡単に砕かれはやての頭上から公太郎の尻尾が振り下ろされる中を、はやてはフェアーテにて後方へ回避、
 すると公太郎の尾撃が床に接触すると激しい音と衝撃が発生しクレーターが生まれていた。
 そのクレーターを見てはやては青ざめた、あんな一撃を頭に貰えば熟したトマトのように一瞬にして潰されてしまう。
 
 最初の一撃はまさに挨拶程度であったのか…頬に冷たい物がつたる中で
 公太郎がはやてに迫る瞬間を狙って矢を放つが、体を右にひねりながら矢を回避、
 そのまま右前足振り下ろすとはやてシュベルトクロイツを剣に変え受け止める。
 すると刀身が燃え始め紫電一閃を振り抜くが、公太郎はギリギリで回避しバク宙しながら床に着地する。
 
 すると公太郎は一つ舌打ちをするとだだをこね始め、それを見たはやて達はほんわかとした表情を見せていると
 一瞬にして公太郎は目をギラつかせ落ちていた石を投げつける。
 
 石は風を切る音を奏でながらはやての耳を掠め、
 それによって我を取り戻したはやて達は大量のブラッディダガーを発射、ディルナもまた大量な矢を放ち
 二人の攻撃はまるで雨のように公太郎の頭上に降り注ぐが、縫うように回避しながら後方へと移動、互いに距離をとるのであった。
 
 このままでは埒があかない、しかし相手は小さくすばしっこい為に攻撃が当たらず、どうしたものか考えていると
 公太郎は何かを呼び寄せるように手をこまねいている、すると大量のハムスターがまるで覆うように押し寄せてきた。
 その光景に危機感を感じた二人は逃げまどうとディルナが慌てるように叫ぶ。
 
 「これはカモンレミング!!」
 「なんやそれ?!」
 
 はやては逃げまどいながらディルナに問い掛けるとディルナもまた逃げまどいながら説明を始める。
 カモンレミングとは仲間のハムスターを呼び出しフルボッコする極悪技で、この技の餌食になった強者は数知れないと簡単に語り終える。
25レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:26:20 ID:5U1fORGN
 その間にも二人の後方ではハムスターが更に増え追いつきそうな勢いで迫ってきており、
 このままだと危険だと感じたはやてはディルナの手を握り上空へと避難する。
 
 「あっ危なかったわぁ〜」
 
 はやては上空で肝を冷やした様子で言葉を口にすると床一面はハムスター一色に染まり
 その中央では公太郎が激しい怒りの表情で見上げ一つ舌打ちをする。
 
 公太郎の様子にはやては挑発を促し反撃とばかりに杖を向けると
 公太郎は何かひらめいたように手のひらをポンッと叩き尻尾で何かの合図を出す。
 すると埋め尽くされたハムスターの群れが徐々にうねり出し、波のようになると
 潮が引くようにハムスターが集まり、はやて達がいる上空より更に高い巨大な津波となって押し寄せてきた。
 
 「なっ?!卑怯やで!!」
 
 はやての吐き捨てるような抗議も空しく、巨大なハムスターの津波ははやて達を飲み込み
 それを見上げていた公太郎は勝利の笑みを浮かべていた。
 
 しかしそれはすぐにも消え去る、なぜならはやて達を飲み込んだハムスターの津波は凍り付き始めていたのだ。
 そして完全に凍り付くと粉々に砕け、まるで粉雪のように辺りを降らしその中央でははやてが杖を突き上げていた。
 はやてはハムスターの津波に飲まれる瞬間、アーテム・デス・アイセスと呼ばれる氷結系の広域攻撃魔法を撃ち込んだのである。
 
 「小動物がぁ!!粋がんなや!!」
 
 はやては吐き捨てるかのように悪態を付くとシュベルトクロイツをハンマーに変えディルナを連れたまま公太郎の下へ向かい振り下ろすが
 公太郎は跳ねるように後方へと回避、そしてカモンレミングによってまたもや大量のハムスターを呼び寄せる。
 
 「舐めんな!人間マップ兵器と呼ばれた私に数で勝てるんと思っとんのか!!」
 
 そう叫ぶとシュベルトクロイツを杖に戻し床を叩き鋼の軛を打ち出し流れを止めようとするが
 その上を乗り越えてハムスターは迫り今度はソード型に変え炎に包まれると振り抜き火龍一閃を放ち焼き払う。
 しかしこんがり焼けたハムスターの屍を更に乗り越え迫り、今度は杖に戻してアーテム・デス・アイセスを撃ち抜き凍り付かせる、
 それでもなおハムスターは凍った屍を乗り越えて迫り、今度はフレースヴェルグを三発撃ち抜き、
 ハムスターを屍の山にすると事でカモンレミングを積止める事に成功した。

 するとハムスターの屍の山から公太郎が飛び出しはやてに迫ろうとしたところを、
 ディルナが弓で牽制、公太郎の出鼻を挫くと
 ハンマーに変えたシュベルトクロイツを抱えスレイプニールとフェアーテを併用して加速、公太郎にラテーケンハンマーを撃ち抜き
 ハムスターの屍の山を吹き飛ばす程の衝撃が辺りに木霊した。
 
 「ハァハァ……やったか?……」
 
 流石のはやても多数の広域魔法を使った為、肩で息を切らしながら呟くとハンマーの下では両手で支える公太郎の姿があった。
 そして公太郎はハンマーを押し返し吹き飛ばすとはやての腹部に一撃、はやては血反吐を吐いて気絶するとトドメを刺そうと再度飛びかかる。
26名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 07:27:14 ID:3mv09gE9
支援
27レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:29:51 ID:5U1fORGN
 その時である、公太郎に潜む野生の感が背後に敵がいると呼びかけられ、振り向くと其処には誰もいなかった。
 …まさか気のせいか?イヤしかし、先程から強烈な殺気が辺りに満ちている…
 すると耳元で畏怖の念が込められた言葉が入ってくる……
 
 
 
  「…あまり…調子に乗らないでください……」
 
 
 
 すると公太郎は頭の先から尻尾まで全身が硬直していくのを感じ、額には脂汗をかいていると、
 はやてが気が付き腹部を押さえながら起きあがる、そして目の前には隙だらけの公太郎がおり、ディルナは声を荒らげる。
 
 「今です!はやてちゃん!!」
 
 はやては自分が気絶している間に何が起きていたのか分からないでいるのだが、
 目の前にいる公太郎はピクリとも動かずいる為、確かにディルナの言う通りチャンスと考え攻撃に移る。
 
 そしてはやてはラグナロクの準備に入り、三角形の魔法陣の三点に魔力が集まると一斉に発射
 ラグナロクは公太郎に見事に直撃し、流石のはやても膝を付き限界と言った表情を表していた。
 
 すると着弾地点から一つの影が姿を現す、それは公太郎である。
 はやては一つ舌打ちをするも、もはや杖にしがみつく位しか体力が残されていない為
 覚悟を決めた様子で睨みつけると、公太郎は左前足を差し出す。
 
 公太郎のいきなりの謎の行動に首を傾げるも、はやてもまた手を伸ばすと
 公太郎からひまわりの種を貰い受ける、ディルナ曰わくどうやらはやての力を認め更に信頼の証として渡したいらしい。
 
 はやては公太郎からひまわりの種を受け取ると、公太郎は何処かへと消えるようにこの場から去ると、
 どっと疲れが出たのかその場で倒れ眠りにつくはやて。
 
 
 
 …そして暫くして神との契約に成功したなのは達が現れるのであった……
28レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/06(日) 07:32:36 ID:5U1fORGN

 以上です、なのは達はチート杖とチート技術を身に付けたってな回です。
 
 自分がよく使っていた大魔法ファイナルチェリオ…
 詠唱を読むと何となくnice boatを思い出すのは自分だけだと思いたい……
 
 後、支援助かります、有り難う御座いました。
 
 やっとセラフィックゲート編が終わり、話もいよいよ後半へと入り次は決戦前を予定しています。
 
 それではまた。
29一尉:2009/09/06(日) 13:16:04 ID:AzbbjoTe
万次郎支援
30R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 15:42:10 ID:R63kOVw7
こんにちわ

修正が終了したので、17:30からのR-TYPE Λ 第二十九話の投下を予約させて頂きます
本編の総容量は74KB、投下数は27レスを予定しております
投下数が多いため2分半おきに投下しますが、規制を考えるとかなりの時間が掛かると思われます
申し訳ありませんが、投下の際には支援をお願い致します

なお、これまでに規制を受けた際の経緯から、1度目の規制を受けた際は18:00の解除を待つ事にします
ですが、それ以降に規制を受けた際は、申し訳ありませんが、どなたか代理投下への協力を宜しくお願い致します
31名無しさん@お腹いっぱい:2009/09/06(日) 15:44:34 ID:Bi0oMPwI
支援
32R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:34:46 ID:R63kOVw7
時間ですので投下します



広大な空間に響き渡る、不気味な轟音。
頭上を覆う合金製構造物の破片を除け、ギンガは周囲を見回す。
機械的強化の施された眼には、暗闇など僅かたりとも障害とはなり得ない。
非常灯の明かりすら消え、完全な闇に閉ざされたトラムチューブ内には、落下した構造物の破片以外には何も存在しなかった。
数十秒前に彼女達を襲った衝撃、それとほぼ同時に飛び込んだメンテナンス・ハッチから抜け出し、油断なく周辺の様子を窺う。
そうして、これといった脅威が存在しない事を確かめると、ギンガは背後のハッチへと声を飛ばした。

「周囲クリア・・・大丈夫よ」

その言葉を受け、ハッチ内部より這い出す5つの影。
スバル達だ。
影の1つ、ウェンディが周囲を見回しつつ、呟く。

「何だったんスか、さっきの・・・」
「あの化け物、もう此処まで来やがったのか?」

続いて発せられたノーヴェの言葉に、ギンガは微かに表情を顰めた。
ノーヴェの言葉が不快だったという訳ではない。
666と交戦中である筈のR戦闘機群はどうしたのかと、最悪の予想が脳裏を過ぎったのだ。
だがその思考は、続くランツクネヒト隊員の言葉によって否定される。

『放射能除去用ナノマシンが散布されている。どうやら外殻で核爆発が発生したらしい』
「核爆発!?」

スバルの上げた声に、ギンガもまた驚きを隠そうともせず隊員を見やった。
彼は床面に片膝を突いて周囲を見回しているが、同時にインターフェースを通じて膨大な量の情報を取得しているのだろう。
やがて銃口でトラムチューブの奥を指すと、無感動に状況を告げた。

『Aエリア外殻近辺でアイギスのミサイルが起爆したらしい。それ以上の事は分からない』
「アイギスって・・・まさか、汚染?」
『だろうな』
「冗談じゃない、Aエリアには生存者が集結しているんだぞ。彼等はどうなっている?」
『大多数は無事だろう。爆発の最大効果域は外殻に達していない。コロニーからの迎撃を感知した12発の弾頭が、回避不可能と判断して起爆したんだ。被害は受けたが、外殻の崩壊には至っていない』
「内部の人間は?」

スバルの問いに対し、隊員は口を噤む。
その沈黙こそが、彼女の懸念が的を射たものである事を雄弁に語っていた。
スバルは、更に問い掛ける。

「外殻が無事だとしても、あの衝撃は尋常じゃなかった。Aエリアの人員に被害が無いとは思えない」
『まあ、そうだろう。多少の犠牲者は出ている筈だ』
「・・・輸送艦の安否は?」
『不明だ。既にシステムの80%が沈黙している。こちらから港湾施設に行くしかない』

言いつつ、彼は強襲艇より持ち出した、自動小銃よりも1回りほど大きい銃器の弾倉をチェックする。
見る者に威圧感を与える重厚な外観は質量兵器全般に共通するものだが、目前のそれは通常火器にしては幾分だが禍々しさに過ぎる印象が在った。
自動小銃に酷似してはいるが明らかに異なり、かといって散弾銃でもない。
未知の質量兵器に対する警戒心が、自己の意識へと反映されているのだろうか。
取り敢えず、ギンガはその銃器について尋ねてみる事にした。

「その銃、何か特別な機能でも?」
『唯のガウスライフルだ。バイド相手には気休めにもならないが、アサルトライフルよりかはマシだ』
「コイルガンの一種か」
『正確には炸薬との複合式だが』
33R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:37:02 ID:R63kOVw7
グリップ後方に位置する弾倉を外して内部をチェックし、再度装着して初弾を装填する。
金属音、そして小さな電子音。
隊員は更に、同じく強襲艇より持ち出したバックパックから幾つかの部品を取り出し、見事な手際でそれを組み立てる。
完成したそれは、長さ40cm程の銃身下部に弾倉のみを備えた、奇妙な銃器だった。
彼はそれを、ガウスライフルの銃身下部へと固定する。
最後に、展開したウィンドウ上で幾つかの操作を終えると、彼は再度バックパックを装甲服に固定して立ち上がった。
其処で漸く、ギンガ達の視線が自身へと集中している事に気付いたらしい。
数秒ほど沈黙した後、何処か白々しく言葉を紡ぐ。

『唯の銃だ』
「初速は?」
『2930m毎秒』

呆れの混じった溜息を吐く者、沈黙のままに隊員を見据える者。
周囲の反応に、彼は些か戸惑っているらしい。
そんな彼へと、次々に浴びせられる言葉。

「それの何処を見れば「唯の銃」なんて言えるッスか」
「歩兵に持たせるなよ、そんな物」
「それはコロニーの中で発砲して問題は無いのか?」
「どう見たって魔法よりヤバいじゃない・・・」
『分かった、俺が悪かった・・・頼むよ、勘弁してくれ・・・』

周囲から相次いで放たれる野次に、彼はとうとう音を上げた。
微かに肩を落とし、スバル達から顔を背ける。
これまでになく人間味を感じさせるその素振りに、ギンガは微かな笑みを零す反面、何処か釈然としない感情を覚えていた。

これまでギンガを始めとする攻撃隊の面々が目にしてきた、地球軍による数々の非人道的な言動。
一方でランツクネヒトの構成員については、少なくとも非戦闘員および敵意の無い者に対しては友好的な態度を示している。
だが、その根幹は地球軍と何ら変わりない事も、ギンガは理解していた。
民営武装警察という肩書が在るが故か、被災者に対し惜しみない人道的支援を行う彼等は、しかし同時にスバルとノーヴェを兵器として扱った一面をも併せ持っている。
彼女達のオリジナルの体組織から制御ユニットを作成し、R戦闘機へと搭載する事さえしたのだ。

被災者に手を差し伸べる彼等と、平然と非人道的な行いを為す彼等。
目前でスバル等にからかわれる姿と、嘗て自身の眼前に銃口を突き付けた姿。
どちらが真の姿なのか、等という問いが無意味なものである事は重々に承知しているが、思考せずにはいられない。
少なくともギンガにとっては、目前の光景はそれだけの違和感を孕むものだった。

「大体それ、どう見たって生身で振り回せるサイズじゃないッスよ。筋力増強が在ること前提じゃないッスか」
『魔導師だって似た様なものだろう。あんなにデカいデバイスを棒切れみたいに振り回しているじゃないか』
「秒速3kmの弾を放つ銃器など、歩兵には明らかに過剰火力だと思うが」
「小銃で十分じゃないかなあ」
『爆弾魔や拳で機動兵器の装甲に穴開ける連中が言っても説得力は無いぞ』
「おいテメエ、それ以上チンク姉を侮辱すると・・・」

じゃれ合っているとしか見えない5人を前に、ギンガは諦めと共に息を吐く。
これ以上は考えるだけ無駄だろう。
そんな結論に達した時、微かな機械音と共にトラムチューブ内の非常灯が点灯した。
一瞬だが眼が眩み、しかしすぐに光量調節機能により正常な視界が確保される。

「明かりが・・・」
『電力供給経路が第2核分裂炉にシフトした。第1は既に機能を停止しているらしい』
「輸送艦はどうなっているの」
『其処までは・・・』

途切れる言葉。
何事か、と訝しむギンガ等の前で、彼はウィンドウを展開する。
表示された情報は、トラム運行状況。
34R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:39:01 ID:R63kOVw7
「・・・トラムがどうかした?」
『A-00エリア、管制区・第3トラムステーションに車両が停車している。妙だな、もうとっくに退避したものと思っていたんだが』
「自動運行で着いた可能性は」
『有り得るが、どうにも・・・待て』

更にウィンドウを操作し、彼は何らかの情報を読み取っている様だ。
数秒後、彼はウィンドウを拡大すると、其処に管制区ステーションの立体構造図を表示する。
ステーションの一角には、赤く表示された4つの人影が横たわっていた。

「これ・・・」
『死亡している。管制区内の状況までは分からないが、検出された体温からして死亡後にそれほど時間は経過していない』

ウィンドウが閉じられる頃には、既に全員がトラムチューブの奥へと向き直っている。
展開したテンプレート上に立つノーヴェが、隊員へと問い掛けた。

「管制区までの距離は?」
『このまま2km、その後に垂直方向へと1.5kmだ。車両かエレベーターを使おう』
「そんな悠長な事してる暇は無いッスよ。こっちの方が早いッス」

そんな事を言いつつ、自身のライディングボードを叩くウェンディ。
その言葉の真意を正確に受け取ったのだろう、隊員は助けを求めるかの様にスバルの方を見やる。
だが、返された言葉は非情なもの。

「また、だっこします?」
『・・・人生最悪の日だ』

恨み事を呟きつつ、彼はウェンディとライディングボードへと歩み寄る。
ぎこちなくボード上へと乗る彼の姿を確認すると、ギンガは鋭く指示を発した。

「私が先頭、スバルは後方を警戒。速度はノーヴェとウェンディに合わせるわ」

重なる了解との声を背に、ギンガはウイングロード上を駆ける。
数分で管制区へと続くシャフトへと到達、今度は螺旋軌道を描きつつ上昇。
途中、重力作用方向が変化し始め、5分程でステーションへと到達した。
先程の衝撃の為か、破損し火花を散らす車両を避け、ステーション内部へと滑り込むと同時に周囲の安全を確認。
待合所には4つの死体が散乱しており、床面もまた赤く染め上げられている。
壁面や天井面に血痕が付着している事から推察するに、やはり核爆発の衝撃で周囲へと叩き付けられた事が原因で死亡したらしい。
遺体の潰れた顔から思わず目を逸らし、ギンガは後続の皆へと念話を飛ばす。

『ステーション、クリア』

ローラーが床面を削る音。
振り返れば、丁度ノーヴェの背からチンクが、ライディングボードから隊員が降りたところだった。
チンクはこれといって問題は無いが、隊員の方は何事か不満らしき言葉を呟いている。
そんなに嫌だったのかと、ギンガは場にそぐわないとは思いつつも、微かに苦笑の表情を浮かべた。
だがそれも、続く隊員の言葉によって掻き消える。

『前方500m、管制室付近に複数の動体を感知。接近中』

ガウスライフルを構えつつ、隊員は4つの遺体が散乱する待合所の陰へと身を隠した。
ギンガとノーヴェは通路傍の壁面に、スバルとチンクは反対側の壁面へと走り寄る。
ウェンディは隊員の傍で砲撃態勢に入り、目標の接近に備えていた。

『400m』
『人間、それとも敵?』
『不明。もう少し近付かない事には・・・』
『ウェンディ、もし敵であれば砲撃後にフローターマインを配置しろ。通路を塞ぐんだ』
『了解ッス』
35名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:39:01 ID:g8aYRikM
遂に始まった
支援
36R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:41:59 ID:R63kOVw7
ライディングボードの砲口とガウスライフルの銃口が通路奥へと向けられている事を確認し、ギンガは拳を握り締めて接触に備える。
目標が人間であれば良いが、最悪の場合には何らかの汚染体である事も考えられるのだ。
それが行き過ぎた警戒などでない事は、これまでに嫌という程に思い知らされている。
アンヴィルとは別の経路から、666以外のバイドが侵入していないとも限らない。
緊張を高めるギンガ、しかし。

『待て、待て・・・確認した、人間だ。デバイスの所持を確認』

銃口を上へと向け、隊員が待合所の陰から姿を現す。
ウェンディがそれに続き、2人は通路傍のギンガ達へと歩み寄ってきた。
隊員はウィンドウを開き、それを操作しつつ通路へと踏み込んで行く。
その傍らを歩きつつ、ギンガは彼へと問い掛ける。

「目標は管理局員?」
『そうだ。14名、いずれもデバイスを所持している・・・ああ、ランスター一等陸士も居るな』
「ティアナが?」

スバルが驚きの滲む声を上げるが、ギンガも内心は同様だった。
ティアナがこんな所で何をしているのか、見当も付かなかったのだ。
特に666の迎撃に当たっていた様子も無かった為、被災者の誘導に当たっていたものと思っていた。
13名、死体となった者達も同様とするならば、計17名もの局員を引き連れて何をしているのか。

「何処に向かっているの」
『第5トラムステーションらしい。こっちの車両は、もう使い物にならないからな。生存者の捜索に来たのか?』
「管制室には管理局のオペレーターも居ただろ。そいつらを探しに来たんじゃないか」
『こちらのオペレーターが退避したなら、連中も一緒に退避している筈だ。行方不明者でも居るのかもしれない』

言葉を交わしつつ、6人は徐々に足を速める。
ティアナ達までの距離は400mといったところだが、向こうも移動している為にすぐに追い付く訳ではない。
先程までは接近していたのだが、第5トラムステーションまでの経路が横に逸れている上に向こうは飛翔魔法を用いているらしく、今は徐々に遠ざかっている。
念話で呼び掛けてはみたものの、システムの大部分が沈黙している為に繋がらなかった。

こうなっては、ティアナ達に追い付く以外に術は無い。
ギンガとスバルはデバイスを、ノーヴェとウェンディは固有武装を、チンクは慣れない飛翔魔法で通路を翔けるが、魔導師でも戦闘機人でもない隊員はそうもいかなかった。
多少なりとも肉体的強化は為されているのか、重装備にも拘らずかなりの速度で駆けてはいるが、それでもギンガ達と比べれば遅い。
このままでは引き離されるばかりだと、ギンガは新たに指示を飛ばす。

「スバルとノーヴェは私に着いてきて! チンクとウェンディは彼と一緒に後から!」
「了解した!」

チンクの返答を聞き留めると、ギンガは一気に加速した。
主要通路に進行を遮る物は無く、背後の2人と共にローラーブレードから火花を散らしつつ駆ける。
幾度か交差路を直進した後、第5トラムステーションへと続く通路へと床面を削りつつ滑り込む。
ティアナ達までは100mといったところだ。

「畜生、無駄に広いんだよ此処!」
「これだけ大きなコロニーなのよ、管制区が広いのも当たり前・・・」
「居た! ティアナ達だ!」

スバルの声に、ギンガは前方を注視する。
彼女の言葉通り、前方の交差路を曲がる数人の姿が見えた。
更に加速し、後を追って角を曲がるギンガ。

「待って・・・ッ!?」
「おい、何してんだ!」
「ティア!?」
37名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:43:29 ID:g8aYRikM
SHIEN!
38R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:44:01 ID:R63kOVw7
その先に待ち受けていたのは、ティアナのクロスミラージュ、その銃口を始めとする無数のデバイスの矛先。
予想だにしなかった敵意の壁に、ギンガは思わず足を止めてしまう。
だが、予想外であったのは向こうも同様だったらしく、殆どの局員が驚いた様な表情でこちらを見つめていた。
最前部の1人が、呆けた様に声を漏らす。

「ナカジマ陸曹・・・?」

その声とほぼ同時に、突き付けられていたデバイスが次々に下ろされる。
ギンガは張り詰めていた緊張を解く様に息を吐くと、集団の中でクロスミラージュを手に佇むティアナへと視線を移した。
彼女は何をするでもなく、こちらを見つめている。

「ティアナ・・・」
「・・・御無事で何よりです、ギンガさん」

軽く息を吐きつつ、ティアナは言葉を紡ぐ。
言葉は安堵を表していたが、その顔に浮かぶのは仮面じみた無表情。
少々の不自然さを覚えたものの、この状況では無理もないと思い直した。

「搭乗機が撃墜されたと聞きましたが、不時着に成功していたのですね」

そういう事か、とギンガは納得する。
どうやら彼女は、自分達の搭乗していた強襲艇が撃墜された事を知り、安否を気遣っていたらしい。

「何とかね。それより・・・」
「ティアはこんな所で何をしてるの?」

ギンガの言葉を遮る様に、スバルが問い掛ける。
少々の驚きと共に、妹を見やるギンガ。
発言の途中で割り込まれた事にではなく、スバルの声に若干の不審が含まれている様に感じられたのだ。
軽く窘めようかとも考えたが、続くティアナの言葉にその思考は霧散する。

「・・・捜査活動、ってところね」
「え・・・」

再度ティアナへと視線を移すと、彼女は常ならぬ険しい表情でこちらを見やっていた。
何事か、と戸惑うギンガ達に対し、ティアナは幾分潜める様な調子で語り始める。

「ナカジマ陸曹。バイドに関する情報で、可及的速やかにお伝えしなければならない事実が在ります」

バイドに関する情報。
その言葉を聞き止めたギンガの意識に浮かび上がる、微かな疑問。
此処でその様な事を言い出すという事は、その情報はこの管制区で得たという事なのだろうか。
ギンガの疑問を余所に、ティアナは言葉を続ける。

「バイドは、単なる・・・」
「ギン姉ぇ、やっと追いついたッス!」

ウェンディの声。
自身の右側面へと振り返れば、其処にはチンクとウェンディ、そしてランツクネヒト隊員の姿が在った。
チンクとウェンディの後方、隊員は幾分疲労している様に見えた。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:45:19 ID:g8aYRikM
粉骨砕身全身全霊全力全開支援
40R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:46:00 ID:R63kOVw7
「2人とも御苦労さま」
「お守は疲れるッスよ。次からは問答無用でボードに括り付けるか、ノーヴェかスバルがお姫様だっこして運ぶッス」
『だから・・・もういい』
「ティアナ達は?」
「此処に居るわ。今・・・」

言葉を交わし、ティアナ達へと向き直る。
だが其処には、奇妙な光景が在った。
ティアナを含め、全ての局員が再度デバイスを構えているのだ。
絶句するギンガに、ティアナが問い掛ける。

「ナカジマ陸曹」
「・・・何?」
「ウェンディの他に、誰が居るのですか」

この交差路は60度ほどの急角度で形成されており、ウェンディ達の姿は壁面に遮られティアナ達から確認する事はできない。
声からウェンディが居る事は判断できたが、音声出力装置を通した聞き慣れない声と、そしてギンガの言葉から更に1名以上の人物が其処に居る事を推察したのだろう。
ギンガは納得しつつ、チンクと隊員の存在を告げんとした。

「チンクとランツクネヒトの・・・」
『陸曹』

その言葉を遮る、隊員の声。
そちらへと視線を移せば、彼は壁面越しにティアナ達の方向を見やっていた。
もしや見えているのかと訝しんだのも束の間、彼が紡いだ言葉によってギンガの思考は中断する。
先程までの人間味が嘘の様に消え失せた無機質な声で以って紡がれる、予想だにしなかった言葉。

『何故、彼等が「アーカイブ」を所持している』



直後、無数の誘導操作弾がギンガ達の側面を掠め、空間を突き抜けた。



「な・・・!」

愕然とするギンガ。
余りに突然の事に、反応する隙さえ無かった。
クロスミラージュから、周囲の局員達が手にするデバイスから。
数十発もの誘導操作弾が放たれ、それらがギンガ達の側面を掠めて背後へと抜け、交差路の先に佇んでいたランツクネヒト隊員へと襲い掛かったのだ。

壁面越しに異常を察知していたのであろう、隊員は咄嗟にウェンディの背後へと隠れる様に跳躍。
ウェンディはギンガと同様、状況を理解する隙など無かったであろうが、眼前に迫り来る魔導弾幕に対して咄嗟にライディングボードを翳した。
貫通力に関しては直射弾に劣る誘導操作弾は、ボード表層部で小さく炸裂するものの防御を破るには到らない。
だが、数発がウェンディを迂回する軌道を取り、彼女の背後の床面に倒れ込んでいた隊員の胴部へと直撃する。
小さな爆発音と共に炸裂する魔力、強力な力によって十数mもの距離を弾き飛ばされる隊員の身体。
ギンガの背後、叫ぶスバル。

「ティア!?」

ベルカ式の局員が2名、ギンガ達の間を擦り抜けウェンディ達の居る通路へと飛び込む。
男性局員は右手にナックルダスター、左手にジャマダハル型のアームドデバイスを、女性局員は右手にショートソード、左手にマインゴーシュ型のアームドデバイスを携えていた。
動きが鋭すぎる。
明らかに高ランク、それも尋常ではないレベルで完成された近代ベルカ式魔導師。
飛行には適さないバリアジャケットのデザインから推測するに恐らくは陸士、覚えが全く無い事から何処かの管理世界にて治安維持に就いていた陸の人員だろう。
こんな未知の高ランクが居たのかという驚きはしかし、床面に触れるジャマダハルの切っ先から弾け飛ぶ火花、そして床面へと異常なまでに深く刻まれた傷によって掻き消される。
非殺傷設定、解除状態。
41R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:48:00 ID:R63kOVw7
「止めてッ!」

咄嗟に叫んだギンガの声に、チンクが応じた。
数十本のスティンガーを展開し、数本を2人の足下を狙って射出。
2人が前進を中断すれば良し、縦しんばそれを回避したとしても残るスティンガーが通路を塞ぐ様に展開している。
如何に高ランクであろうとも、近接戦闘に特化したベルカ式魔導師がスティンガーの壁を突破する事は、決して容易ではない。
自身の経験からギンガはそう判断し、自身もブリッツキャリバーで2人の後を追う。
だが。

「な・・・ッ!」

一瞬だった。
一瞬で、彼等は張り巡らされたスティンガーの壁を突破していた。
あの状況下で、足下へと放たれたスティンガーを無視し、更に加速して自身等が潜り抜ける分だけのスティンガーをナックルダスターとマインゴーシュで破壊し、その開いた空間を通ってチンクの後方へと躍り出たのだ。
想定を超える事態とその速度に反応できないチンクの背後、ジャマダハルとショートソードの刃が隊員へと迫る。

だが、チンクの行動は無駄とはならなかった。
彼女が稼いだほんの数瞬で、隊員は状況に対応する機会を得ていたのだ。
吹き飛ばされていた隊員はその姿勢のまま、左手のガウスライフルではなく、右手で抜いたハンドガンの銃口を2人へと向ける。
そして、発砲。
連続して発砲炎の光が瞬く中、2人は怯む事も無く突進、刃を振るった。

「駄目!」

爆発する魔力光。
其々の刀身に纏った魔力を、刃を振ると同時に炸裂させたのだ。
恐らくは2人とも被弾していたのだろう。
刃による直接的な斬撃ではなく、魔力による間接攻撃へと切り替えたらしい。
魔力を感知したに過ぎない筈の自身のリンカーコアを震わせ、肉体的な苦痛すら齎す程に強大な魔力爆発。
それが轟音と共に通路を破壊し、床面と壁面、天井面を十数mに亘って跡形もなく抉り取る。
極近距離に限定された範囲と引き換えに圧倒的な破壊を齎す、拡散型近距離疑似砲撃魔法。
全身が跳ね上がる程の衝撃、脳裏へと浮かび上がる最悪の結果。
ギンガは咄嗟にリボルバーナックルを振り被る。

「貴方達・・・ッ!?」

直後、男性局員の背から血が噴き出した。
驚愕と共に足を止めたギンガの目前で、更にもう1箇所から血が噴き出す。
と、男性局員の陰から側面へと、ハンドガンを握る腕が突き出された。
銃口の先には女性局員。
彼女は咄嗟にショートソードの側面で頭部を庇うも、発射された弾丸はバリアジャケットを貫き大腿部と頸部を撃ち抜く。

だが、その一瞬の隙に男性局員が動いた。
ジャマダハルを構える左腕が振り抜かれ、彼の陰から延びる隊員の腕が跳ね上がる。
腕が陰へと引き込まれ、更に銃声が3度。
局員の背から、同じ数だけ更に血が噴く。
零距離射撃、弾体貫通。

「ギン姉、ノーヴェ!」
「畜生ッ!」

スバル、ノーヴェが突進。
男性局員が、背中から床面へと倒れ込む。
灰色のバリアジャケット前面は、鮮血によって赤く染まっていた。
女性局員は頸部を撃ち抜かれ倒れてから、被弾箇所を両手で押さえつつのた打ち回っている。
そして、露わとなった男性局員の陰に、ランツクネヒト隊員の姿は無かった。
崩壊した構造物だけが、空しくその内面を曝している。
その先に拡がる階下および階上の空間については、立ち込める粉塵によって見渡す事ができない。
崩壊した通路の縁に駆け寄り、ギンガはスバル等と共に呆然とその先の空間を見つめる。
42名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:48:05 ID:g8aYRikM
皆!R-TYPE氏に支援を!!
43R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:49:01 ID:R63kOVw7
「何て事・・・」
「逃がすな!」

呟くギンガの聴覚に、信じ難いティアナの声が飛び込んだ。
直後に、ギンガ達の左右から突き出す、無数のデバイスの矛先。
忽ち高速直射弾の嵐が眼前へと現出し、粉塵の中で無数の魔力爆発が巻き起こる。
数瞬ほど、ギンガは信じられない思いでその光景を見つめ、やがて視界に移るデバイスの1つを反射的に掴むと、咄嗟にその主へと拳を打ち込んでいた。
周囲ではスバルやノーヴェ、チンクとウェンディも似た様な光景を繰り広げている。
簡易砲撃を放とうとしていた数名にガンシューターを撃ち込みつつ、ノーヴェが叫ぶ。

「イカレてんのか、テメエら! いきなり殺しに掛かりやがって!」
「ティア、ティア! どうして、何でこんな事!」
「ウェンディ、退がれ!」

近接戦闘を不得手とするウェンディを庇う様に、チンクが再度スティンガーを展開せんとする。
だが1発の甲高い銃声と共に、全ての戦闘行為が停止した。
ティアナだ。

「・・・其処までよ。各自、デバイスを下ろしなさい」

その冷え切った声に、ギンガは1人の局員のデバイスを押さえたままそちらを見やり、僅かに躊躇した後にその手を解放した。
追撃を警戒したが、どうやら局員達もティアナの指示に従っているのか、一様にデバイスの矛先を下ろしている。
幾分荒い呼吸もそのままに、ギンガは周囲を見回した。

「それで、どういうつもり? 何故こんな事を」

殺気すら込めてティアナを睨み据え、問い掛ける。
ギンガは、現状を理解する事ができなかった。
ティアナ達は唐突にランツクネヒト隊員の殺害を試み、攻撃を受けた隊員は2名の局員に重傷を負わせて逃亡。
否、2名の治療に当たっている局員の様子から推測するに、致命傷となっている可能性もある。
男性局員は胸部から腹部に掛けて少なくとも5発の銃弾が貫通し、女性隊員は大腿部と頸部に銃弾を受けているのだ。

だが、隊員の行動が過剰な反撃であったかと問われれば、ギンガは否定も肯定もできない。
隊員は疑似拡散砲撃が放たれた際、後方へと距離を取るのではなく、逆に前進して局員の懐に入る事で砲撃の拡散点より内へと逃れた。
その策が功を奏したからこそ無事であったものの、もし失敗すれば完全に砲撃に呑まれていただろう。
如何にランツクネヒトの装甲服を纏っていると云えど、非殺傷設定を解除された上で更にこの破壊規模、跡形もなく消滅していたであろう事は想像に難くない。
つまり、近接攻撃を実行した2名の局員については、その殺意の存在は疑うべくもないのだ。
では、ティアナ達はどうか。
答えは、ウェンディから齎された。

「・・・全弾非殺傷設定解除とは、随分と念入りな事ッスね。下手すりゃチンク姉もアタシも死んでたッスよ」
「貴様ら、正気か」

スバルが、懇願するかの様にティアナを見つめる。
だが、ティアナは感情が抜け落ちたかの様に冷然とした面持ちを崩す事はなかった。
そして意外にも、次に言葉を紡いだのはノーヴェ。

「アイツが言ってた「アーカイブ」ってのは何だ」

その単語には、ギンガも聞き覚えが在った。
彼が言ったのだ。
何故、ティアナ達が「アーカイブ」を持っているのか、と。
攻撃は、その直後に始まった。
ティアナは答えないが、ノーヴェは大方の状況を理解したらしい。
44R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:51:00 ID:R63kOVw7
「成程、それを持っている事がランツクネヒトに知られちゃ不味い訳だ。だからアイツを殺そうとしやがったな」

ノーヴェが述べた内容は、ギンガの推測とほぼ同じもの。
そして、恐らくは限りなく正解に近いものの筈だ。
だが、ティアナは沈黙したまま。
言葉も発する事なくクロスミラージュをワンハンドモードへと移行し、床面に転がる男性局員のアームドデバイス、ジャマダハル型のそれへと歩み寄る。
膝を突き、空いた左手を伸ばすティアナ。
デバイスに触れ、無言のままにその刃を見つめている。

「答えろ!」
「少し違うわね。正確には「第97管理外世界の人間」に知られると不味いのよ」

焦れたノーヴェの叫びに、極々自然な声を返すティアナ。
彼女の左手にはジャマダハルが握られている。
今更ながら、その刃が半ばまで赤く染まっている事に気付き、ギンガは自身の血の気が引いてゆく事を自覚した。

「貴方達、本気で・・・」
「御互い様だと思いますが。こちらは2人が死に掛けていますし、被害の度合いとしては向こうの方が小さい位でしょう」
「そんな事を言っているんじゃない!」
「そんな事? この結果を招いたのは貴女達ですよ。はっきり言いましょう。貴女達が邪魔さえしなければ、2人があの男を殺して終わりだった」

ギンガには最早、言葉も無い。
呆然とギンガを見つめるが、しかし問い詰めるべき事はまだ在ると、思考を切り替える。
ティアナ達が所持する物についてだ。

「「アーカイブ」とは、何なの」
「このコロニーのデータベースユニット、その中枢ハードウェアの事です」

言いつつ、ティアナはジャマダハルを傍らの局員へと手渡し、バリアジャケットのポケットから5cm程の正方形、厚さ2cm程のメディアユニットを取り出した。
それをギンガ等に見せる様に手の中で弄び、再びポケットへと戻す。

「第97管理外世界の民間人4名が快く協力してくれました。アンヴィル暴走の混乱に乗じて、全てのユニットがランツクネヒトによって破壊される前に、1つだけ回収してくれた。本当に良いタイミングだった。
アクセスコードまで手に入ったのは、幸運としか云い様がありません」

快くとの言葉に、ギンガは寒気がした。
そんな筈はない。
第88民間旅客輸送船団の人員は、その殆どが後より合流した管理局員を強く警戒している。
そんな彼等の1人がどういった経緯でランツクネヒトと地球軍に対する背信行為に及んだのか、或いはそう誘導されたのか、少なくともギンガとしては考えたくもなかった。
また、アクセスコードの入手は幸運だったとティアナは言うが、実際にはそれすらも予定の内であった事は明らかだ。
そして、協力者の人数は4名と、ティアナは言った。

「あの死体・・・まさか!」
「ああ、死んだのね。あの衝撃で無傷で済むとは思わなかったけど」

何という事だ。
第3トラムステーションの待合所に散乱していた、あの4つの死体。
あれこそが、ティアナの言う協力者達の末路だったのだ。

「気の毒にね」
「抜け抜けと・・・っ! 初めから殺すつもりだったのだろうに!」
「いいえ、違うわ。初めは単に口止めと警告で済ませるつもりだったのだけれど、これの内容が予想以上だったものだから、そうもいかなくなってしまった。だから、眠らせてあそこに置いてきたのよ。
あの衝撃は想定外、本当はこのコロニーごと消える筈だった」

チンクが激昂するも、周囲の局員達は全く動じない。
信じられなかった。
非戦闘員を作戦に巻き込み、挙句の果てに「死なせる」つもりで放置したというのだ。
ギンガにはもう、眼前の人物が自身の知るティアナ・ランスターであるという、その確信が全く持てなかった。
しかしそれでも、彼女は気丈に問い掛ける。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:52:40 ID:g8aYRikM
支援一辺倒。
スマンが読むのは後になろう。
46R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 17:53:03 ID:R63kOVw7
「内容とは?」
「バイドの正体」

息が止まった。
見れば、スバルやノーヴェ等も、瞼を見開いてティアナを見つめている。
そして再度ティアナを見やれば、彼女は変わらず感情の抜け落ちた様な瞳でこちらを捉えていた。
紡がれる言葉。

「バイドは、異層次元生命体なんかじゃない」

意識を抉る根幹を抉る言葉に、ギンガの喉から小さな音が鳴る。
言葉は続く。

「そんな都合の良い存在じゃない。バイドは「質量兵器」だ」

脳裏へと鳴り響く警鐘。
覚悟も無しに、それ以上を聞いてはならない。
戻れなくなる。
もう2度と、同じ価値観には戻れなくなる。

「その「質量兵器」バイドを創造したのが」

駄目だ、聞くな。
戻れなくなる、全てが崩れる。
止めろ、黙れ、それ以上は喋るな。
全てを知るのは、全てが終わった後で良いのに。
なのに、もう。



「第97管理外世界「地球」よ」



もう、戻れない。
ギンガの中で砕け散る、1つの世界、それに対する全て。
印象も、情報も、侮蔑も、憧憬も。
全てが塵と消え、新たに再構築されてゆく。
そして、全てが変質した。

*  *  *

「異層次元から現れた未知の侵略性生命体なんて、何処にも居なかったのよ。初めから、居たのはたった1つだけ。彼等が・・・彼等の子孫が作り上げた最悪の質量兵器、唯1つだけ」

理解できない。
スバルの脳裏には、そんな事しか思い浮かばなかった。
ティアナの言葉は続いているものの、何を言っているのかすらおぼろげにしか解らない。

「26世紀の第97管理外世界は、外宇宙の「敵」と戦う為に強大な戦略級質量兵器を生み出した」

バイドは、第97管理外世界が創造した質量兵器だった?
馬鹿げている。
質量兵器が全次元世界を呑み込み、数億人を虐殺し、更に全てを喰らわんとしている?
有り得ない。

「自然天体に匹敵する大きさのフレームに内蔵された、星系内生態系破壊用兵器。一度発動すれば、効果範囲内に存在するあらゆる生命、意識体、情報集約体を喰らい尽くすまで、決して活動を止めない絶対生物。
局地限定破壊型質量兵器の到達点、それがバイドだった」
47名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:53:42 ID:g8aYRikM
PSPで新作が出たそうな
支援
48名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:59:21 ID:g8aYRikM
…五分経過。遂にさるったか?
49名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 17:59:22 ID:UOaVlHI9
支援せざるを得ない。
50R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:01:12 ID:R63kOVw7
振動。
戦闘の余波が此処にまで届いている。
666とR戦闘機群の戦闘によるものか、それとも汚染されたアイギスと防衛艦隊の戦闘によるものか。

「26世紀の第97管理外世界は、これを敵勢力の中枢が存在する星系へと転移させて発動、敵勢力を殲滅する事を画策した。ところが、どんなミスか知らないけれど、間抜けな事にその質量兵器は彼等自身の星系で発動してしまったのよ」

全く理解できない。
26世紀だと?
地球軍は22世紀の第97管理外世界から現れた。
其処から更に400年もの未来に建造された質量兵器が、何故此処で出てくる?

「自らが創造した兵器の癖に、彼等は暴走したそれを滅ぼす術を持たなかった。彼等は自分達にさえ手の負えない化け物を、自らの手で創り上げてしまった」

信じられない。
現在から100年後の時点でさえ想像を絶する科学力を有しているというのに、更に遥か未来に創造された質量兵器。
その創造主達でさえ、自らが創り出した兵器を制御できなかった?

「それで・・・それで、どうなったんだ・・・ソイツらは?」
「捨てたのよ」

思わずといった様子で問うノーヴェ。
返すティアナの言葉は、またも想像を超えていた。
スバルも、呆然と声を吐き出す。

「捨てた、って・・・」
「そのままの意味。暴走開始から150時間後、彼等はその兵器の周辺空間を崩壊させて、異層次元の彼方へと葬り去った。少なくとも26世紀では、それで事態が決着したと考えたんでしょう」
「それが何で・・・」

4世紀も前の時代に。
その問いが放たれる前に、ティアナは答えを齎す。

「異層次元がどんな所かは知らないけれど、少なくとも単一存在が自らの存在確率を維持する事すら困難な環境らしい。そんな空間へと墜とされてなお、その兵器は機能を失わなかった。
課せられた目的を失い、手駒となる戦力を失い、機能中枢に刻まれた情報以外の一切を失ってもなお、それは発動時に攻撃目標として設定された星系および文明に対する殲滅を諦めはしなかった。
当然よね。自我なんか在りもしない、単なる戦略兵器だもの。創造主に施されたプログラム通り、作戦目標の達成かシステムの破壊、それ以外の理由で活動を停止する事は有り得ない」
「だから・・・何だというんだ? そいつが何故、22世紀に関係する」

チンクが問う。
ティアナは未だ、その疑問に答えていない。

「数十年、或いは数百年か。もしかすると数秒かもしれないし、数億年かもしれない。そもそも、私達の知る時間の概念と同一の現象が存在していたかすら怪しい。そんな中で、兵器は進化を繰り返した。
詳細なんて私には知る由もないけれど、少なくとも人間の脳で理解できる様な生易しい変貌ではないでしょうね」

ティアナの傍らに立つ局員が、指先でリストウォッチを軽く叩く。
彼女はそれを横目に見やり、軽く腕を振って移動を促した。
周囲の局員が歩きだす中、ティアナの言葉は続く。

「あらゆる存在を無へと帰す空間の中にあって、その兵器は逆に存在を創造し、空間を支配するまでに進化した。そして、遂には時間という概念すらも引き裂いて、既知の異層次元へと帰還を果たす。その先に存在したのが」
「まさか・・・!」
51名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:01:35 ID:dAZ+nQ/q
支援
バイドを質量兵器という考えで捉えるのはどうかと思うが
52名無しさん@お腹いっぱい:2009/09/06(日) 18:01:44 ID:Bi0oMPwI
支援
53R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:03:07 ID:R63kOVw7
思わず、声が零れる。
それを聞き止めたか、ティアナは軽くスバルを見やった。
そして視線を戻し、告げる。



「22世紀・・・4世紀前の第97管理外世界よ」



誰も、言葉を返さない。
返すべき言葉が見付からない。
ティアナから齎された真実は、それ程までに衝撃的なものだった。

バイドは、正体不明の侵略性生命体などではない。
バイドとは紛う事なき人造生命体であり、それとの絶望的な戦いに明け暮れる第97管理外世界の未来に於いて建造された、戦略級質量兵器である。
創造主たる第97管理外世界の人間達により異層次元へと投棄されてなお、活動を停止する事なく異常な進化を遂げ、4世紀もの時を遡り過去の第97管理外世界へと現れた、悪魔の兵器。

完結している。
完結すべきである。
全てが第97管理外世界より始まり、そして第97管理外世界へと収束している。
バイドを創造したのも、バイドと交戦状態にあるのも第97管理外世界「地球」だ。
其処に他者を、他の世界を巻き込む事など在ってはならない。
その理由も無い筈だ。

だが、現実には次元世界全域がバイドと地球軍、2者間の戦争へと巻き込まれている。
其処には、選択の余地など無い。
一方的に、そして極めて理不尽に。
バイドと地球軍との闘争へと巻き込まれ、逃れる事のできない絶望の縁へと立たされているのだ。

「嗤えるでしょう? この戦いは全て「地球」の自業自得、因果応報よ。彼等は、遥かな未来に自らの子孫達が創り上げた兵器から、余りにも唐突で滑稽で絶望的な戦いを仕掛けられた。
未来からよ・・・過去の遺産っていうならいざ知らず、400年も先の未来から。こんな馬鹿げた話って無いわ。自分達が後世に残した負の遺産から兵器が生まれ、それがそのまま今の自分達に返ってきたのだもの。
今までに滅びた世界の記録は嫌というほど見てきたけれど、此処まで愚かで救い様の無い世界なんて見た事ないわ」

再び、振動が一帯を揺さ振る。
先程よりも衝撃が大きい。
戦域が近付いているのか。

「自分達の犯した失態の癖に、それへの対応の余波に次元世界まで巻き込んでいる。その事実を隠し、同じ被害者面を装って協調体制なんて嘯いていたのよ」
「それは、バイドが・・・」
「どっちから仕掛けたとしても同じ事よ。バイドを創ったのはあの世界なんだもの。それに・・・」

三度、振動。
ティアナは言葉を区切り、手振りでスバル達を促して歩き出す。
数瞬ほど遅れ、その後に続く5人。
すぐに飛翔魔法を使用しての移動に移り、通路を加速してゆく。
飛び込む念話。
現状では距離が離れると念話は使用できないが、ごく近距離ならば問題は無い。

『バイドは既に、無数の文明を滅ぼしている。第97管理外世界の存在する恒星系を内包したものに限らず、無数の銀河系や異層次元に存在していたあらゆる形態の文明、或いはそれに酷似した情報集約系を片端から汚染し、喰らい、同化してきたのよ』
『何でそんな事・・・目標は第97管理外世界なのでしょう?』
『ええ、ですからその下準備です。22世紀の第97管理外世界を確実に滅ぼす、唯それだけの為にバイドは、接触したあらゆる文明の全てを喰らってきたんです』
『じゃあ、まさか』

スバルの思考へと浮かんだのは、余りにもおぞましい推理。
この事態が引き起こされた理由、バイドの目的。
続くティアナの念話が、それが的を射たものである事を証明する。
54R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:05:50 ID:R63kOVw7
『ランツクネヒトがアーカイブへと追加していた情報を解析した結果、西暦2169年に発動された第三次バイドミッション「THIRD LIGHTNING」はバイドの物理的戦力を大きく削ぐ事には成功したけれど、作戦そのものは失敗に終わった事が判明しています。
バイド中枢の破壊は成らず、制御統括体として機能していたマザーバイド・セントラルボディの深々度異層次元投棄のみに止まったと。その際、バイドはR-9/0 RAGNAROK-ORIGINALの攻撃により、機能中枢部に重大な損傷を受けたと予測されている。
其処からランツクネヒトや地球軍が推測した、バイドによる次元世界侵攻の目的は・・・』
『新たな戦力の確保と中枢の修復・・・!』
『地球軍に邪魔されずに失われた戦力を再生産できる空間、それと更なる自己進化の為の新しい「餌」を求めて、ってところでしょうね。
聖王のゆりかごや巨大なレリック、他にはアタシ達が遭遇した化け物も、バイドが次元世界で魔導技術を取り込んだ結果、より強化した上で複製されたものでしょう』
『ロストロギアまでか・・・』

前方、第5トラムステーションの表示が視界へと映り込む。
車両に乗り込む局員達の中には、先程の戦闘で銃撃を受けた2人の姿も在った。
他の局員に身体を支えられている事から推測するに、一命は取り留めたものの戦闘への復帰は絶望的だろう。

『まだ肝心の質問に答えてないッスよ』

唐突に割り込むウェンディの念話。
彼女の方を見やれば、未だ猜疑と敵意の滲む目がティアナを見据えていた。
念話は続く。

『それがどうして、協力者やアイツを殺さなきゃならない理由に繋がるんスか』
『解らないの?』

問い掛けに返されるティアナの念話は、接触後に初めて若干の感情を滲ませるものだった。
微かだが、苛立った様な感情の波。
念話から伝わるそれは、スバルを動揺させた。
ステーションの床面へと降り立ち、ティアナは口頭で以って言葉を繋げる。

「ランツクネヒトも地球軍も、バイドが第97管理外世界で建造された兵器であるという情報だけは取り分け厳重に隠匿していた。それだけ私達に知られたくなかったという事よ。何故だか解る?」
「・・・それを知った管理局・・・違うな、次元世界全てが第97管理外世界を危険視する。それを危惧していたって事か」
「次元世界に無数に存在する多種多様な文明の多くが敵に回るとなれば、如何に地球軍とはいえ唯では済まない。バイド建造の真実が私達に漏れたと彼等が知れば、それこそ生存者を抹殺してすら天体外部への情報漏洩を防ごうとするだろう。
だがコロニーのシステムが停止している以上、ランツクネヒトへの情報の伝達は直接的に接触しなくてはならない。それを避ける為に、お前達は彼等を始末しようと考えた訳か」
「半分正解、半分外れね」

車両へと乗り込む一同。
ドアが閉じられ、車両が発車する。
車両内に表示された行き先はA-14エリア第1トラムステーション。

「彼等は次元世界の敵対を懼れてなどいない。彼等がこの情報を隠匿する理由は2つ。現状での次元世界被災者による叛乱の防止と、後の手間を省く為」
「手間?」

車両を揺さ振る衝撃。
特に機能へと異状は生じていないが、小刻みな振動が途切れる事なく続く。
局員がウィンドウを開き、何事かを確認。

「彼等にとって地球文明圏以外の文明に対する認識とは、バイドに新たな戦力を与える「餌」というものでしかない。
第97管理外世界と他文明圏の接触は、その全てがバイドによって汚染された敵性体群の地球文明圏侵攻、或いは遭遇戦という形でしか実現していない」
「・・・地球文明が他文明と接触する前に、その全てがバイドによって滅ぼされていたというの?」
「ええ、これまでは。ところが今回に限り、彼等は未だ健常な文明と接触してしまった。バイドにより完全に汚染される前の、文明圏としての機能を保ったままの世界と。
そしてランツクネヒトの連中は、合流した地球軍パイロット達から第17異層次元航行艦隊内部に於ける、今後の戦略概要を聞かされていました」
「内容は」

言葉を区切り、ティアナは息を吸う。
そして、沸き起こる何らかの感情を抑えているかの様な僅かに歪んだ表情で、その言葉を紡ぎ出した。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:06:28 ID:g8aYRikM
しえんのいちげき!
56R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:08:01 ID:R63kOVw7
「当該異層次元に於ける汚染拡大は既に致命的な段階へと達しており、更に当該異層次元の規模と2165年の事例を鑑みるに、短期間の内に地球に対する重大な脅威と化す事は想像に難くない。
第88民間旅客輸送船団および資源採掘コロニーLV-220の捜索・救助完了、ヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦アロス・コン・レチェの発見・破壊を以って、即時当該異層次元の脱出作戦へと移行。
その後、司令部との通信が回復すれば増援と各種解析・研究機関の派遣を要請。通信回復失敗時は地球圏を含む通常3次元空間を除き、当該異層次元の破壊へと移行」
「破壊!?」

次元世界の破壊。
その言葉に、ギンガが声を上げる。
スバルは、声を出す事もできなかった。
それでもウェンディが、どうにか問い掛ける。

「破壊って・・・どうやって!」
「次元消去弾頭という兵器だそうよ。当然、これも質量兵器。数千発も使用すれば、ひとつの異層次元を完全に消滅させる事ができる。尤もバイドや地球軍の兵器みたいに、異層次元航行能力を有する存在に対しては全くの無力との事だけど」
「消滅・・・」

気が狂いそうだ。
想像すら付かない規模、概念での破壊。
地球軍は、そんな常軌を逸した破壊すらも可能なのか。
それでも、バイドを滅するには到らないのか。

「連中は地球というたった1つの文明圏を護る、唯それだけの為に次元世界を破壊するつもりよ。其処に存在する無数の文明の事、況してや其処に暮らす人々の事なんか考えもしない。自分達が全ての元凶の癖に、保身の為に他の全てを滅ぼそうとする」

スバルは気付いた。
ティアナの手、固く握られたその拳が震えている。
爪が肉に食い込んでいるのか、指の間には紅いものが滲んでいた。

「数億人・・・数億人も殺されている。まだまだ増えるでしょう。もしかすると外ではもう、その十倍以上も殺されているかもしれない。でもこのままでは、数十億どころか次元世界そのものが消されてしまう。それもバイドではなく、地球軍の手によって」

拳だけではない。
既にティアナの声は、先程までの無感情なものではなかった。
微かに震え、明らかな負の感情を滲ませる声。

「ねえ、信じられる? 文明なんて、無限に広がる宇宙や次元世界には、それこそ無数に存在しているのよ。万か、億か、それ以上か。なのにアイツ等は、その全てを一方的に自分達の戦いへと巻き込んで、しかも一方的に消し去る事ができる。
唐突に、理不尽によ。これまでに幾度もそれを実行してきた。それも全て、ただ自分達を護る為だけに。ふざけてる。許せるもんか。自分達で生み出して、自分達が戦って、自分達だけが死ねば良いものを。
何の関係も無い文明を片端から巻き込んでは滅ぼし、挙句の果てに生き残ろうと戦い続けている世界まで、自分達の都合だけで滅ぼそうとしている」

誰も、言葉を挟まない。
否、言葉を発する事ができない。
レールと車両間の摩擦音と怨念じみた言葉だけが、スバルの意識を埋め尽くす。

「アイツ等は人間なんかじゃない、ケダモノよ。自分達が生き残る為なら他の生命体、全てを殺し尽くす事も躊躇わない。そもそも躊躇う様な精神構造を持っていない。悪魔というのなら、アイツ等こそがそれだわ。
バイドなんかじゃない。アイツ等こそが最悪の悪魔よ」

悪魔は、最悪の存在とは、バイドではない。
それを創り出し、それと戦い、自らを除いて悉くを破壊し、殺し尽くす存在。
最も非力な存在でありながら、最もおぞましい狂気を内包した存在。
あらゆる神秘と奇跡に見放されながら、あらゆる神秘と奇跡を科学で以って否定し蹂躙した存在。
尊われるべき概念を凌辱し、尊われるべき生命を喰らい、尊われるべき世界をも破壊する存在。
それが、それこそが。



「アイツ等・・・「地球人」こそが!」



警報。
瞬間的に我へと返り、車両内を見回す。
ウィンドウを開いていた局員が、焦燥した様子で忙しなく指を走らせていた。
同じく我へと返ったらしきティアナが、鋭く声を飛ばす。
57R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:10:00 ID:R63kOVw7
「どうしたの!」
「解りません、車両のコントロールが急に・・・!」
『Error. Illegal override to the service program was done』

響き渡る人工音声のアナウンス。
その内容に、スバルは愕然とする。
そしてそれは、他の局員達も同様だったらしい。

「オーバーライド!? 何処から!」
「不明です! システムが回復していない上に、干渉は迂回に次ぐ迂回の上で行われています! ルート変更、A-00に戻っている!」
「アイツだ」

叫びにも似た声が次々に上がる中、スバルの意識へと飛び込む静かな声。
ノーヴェだ。
彼女は座席へと腰を下ろしたまま、鋭い視線で中空を見つめていた。

「アイツだよ。まだ生きてるんだ。アタシ達を逃がさないつもりだ」
「馬鹿げてる! 腹を貫かれているんだぞ、もう失血死していたっておかしくない!」
「そんな簡単に死ぬかよ。アイツ等、医療用のナノマシンを投与されてるんだろ? 治り切る事はなくても、止血位はすぐに済んでる筈さ」
「それに、向こうもこっち並みに必死な筈ッスからね」

ノーヴェの発言に、ウェンディが続く。
ティアナが視線も鋭く2人を見据え、ウェンディに続く言葉を促した。

「何が言いたいの」
「ちょっと訊くッスけど、さっきの地球軍の戦略、あれ知ってるのはランツクネヒトの全隊員なんスか?」
「・・・いいえ。指揮官のアフマド中佐を始めとした、数人といったところね。下部構成員はバイド建造に関する情報の隠匿を厳命されている程度よ」
「ならアイツは多分、今頃こう考えている筈ッスね。管理局の一部局員がバイドに関する情報を得て、その上で反乱を企てている。どうにかしてその事実を仲間達に伝えて、アーカイブが他の局員の手に渡る前に叛乱部隊を殲滅しなきゃならない。そりゃ必死にもなる訳ッス」

やがて、車両が減速を始める。
A-00エリア、管制区・第1トラムステーション、到着。
ティアナはウェンディの発言に対し言葉も返さぬまま、クロスミラージュを手にドアの傍へと立つ。

「サーチャーは?」
「駄目です、ジャミングが張られている。このエリアのシステムを限定的に回復、乗っ取られた様です」
「周囲警戒を怠らないで。生存者はA-05から12までのエリアに集結しているから、此処に居るのはあの男だけよ。確認の必要はない、目標と思しきものは全て撃って」

ドアが開き、局員達が車両外へと展開する。
ステーションに人影は無い。
変わらず響き続ける振動だけが、降車するスバルの聴覚に鈍い轟音となって届く。

「誰も居ない」
「サーチャーを接触式に変更、通路を索敵して。反応があれば・・・」

その時、ステーション内に警告音が流れた。
何時か耳にした音、緊急ではなく平時に聴いたそれ。
一体、何処で?

「ノーヴェ・・・この音って、確か・・・」
「・・・ヤバイ!」
58名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:10:07 ID:dAZ+nQ/q
支援
管理局も狂ってきそうだw
59名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:10:34 ID:g8aYRikM
ティアナってこんなキャラたっんなwwwww
60R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:12:31 ID:R63kOVw7
咄嗟に振り返り、車両内に残る局員へと向かって叫ぶノーヴェ。
負傷者2名と、その治療に当たる1名の局員、計3名。
時間が無い。
あの警告音は、そして徐々に大きくなる鉄の擦れる異音は。



「トラムだ、逃げろッ!」



直後、減速すらせずにステーションへと侵入してきた車両が、停車中の車両へと激突した。
3人を乗せた車両は一瞬にして拉げ、その破片と火花が車両外の局員をも襲う。
反射的に頭部を庇った腕を引き裂いてゆく、無数の鉄片。
数秒ほど、全身を襲う衝撃と鼓膜を破らんばかりの轟音に耐え抜いた後、漸く腕を下ろし見開いた眼の先には、どちらの車両もレールさえも存在しなかった。
視界に映るのは破片と火花、そして天井面から噴き出す消火剤だけ。
車両及びレール、崩落。

『The accident occurred at the first tram station. The rescue team was called into action』
「・・・クソッ、やられた! 被害は!?」
「車両内の3人はバイタルが途絶えた! 受信距離が短くなっているんで断言はできないが、この・・・」

ティアナの問いに答える局員の言葉は、最後まで言い切られる事なく途切れた。
突然、彼の胸部が消し飛び、肩部より上が床面へと落ちたのだ。
腹部より下は未だバランスを保っており、一拍遅れて鮮血を噴き出しながら2・3歩よろめき、やがて倒れる。
そして、呆然とその様を見つめるスバルの眼前で、今度は別の局員の頭部が弾け飛んだ。

「銃撃だ!」

局員の叫び。
直後に、ステーション内部は再び弾け飛ぶ火花と鉄片に埋め尽くされ、金属を引き裂く耳障りな異音が何重にも響き渡る。
咄嗟にマッハキャリバーを用いて後退し、チンク、ノーヴェと共に待合所の陰へと身を隠したスバルは、この状況が何によって引き起こされているかを理解していた。
壁面の向こうより構造物を容易く貫き飛来する無数の銃弾、バリアジャケットを容易く貫く程の高速で破壊された構造物の破片を飛散させるそれ。

「ガウスライフルだ!」
「遮蔽物諸共に撃ち抜くか! やはり過剰火力ではないか!」

スバルに続き叫ぶチンク。
余りの攻撃の激しさに、まるで身動きが取れない。
弾体のみならば隙を突いて移動する事もできかもしれないが、其処に飛散する構造物の破片が加わっただけで全ての動きが封じられてしまう。
壁面構造物は然程に強度が無く、弾体通過時に撒き散らされる衝撃波によって粉砕され、銃弾さながらに飛散するのだ。
こうなると、もはや弾幕と何ら変わりない。
破片は防御の薄い箇所を抜くには十分な速度を有しており、更に弾体そのものに到っては構造物越しにも拘らず易々とバリアジャケットを貫く程。
しかも突撃小銃なみの発射速度で継続射撃されている為、待合所の陰から顔を出す事もできない。
それでも何とかギンガやウェンディ、ティアナ達の安否を確認しようと僅かに顔の右半分を覗かせると、忽ち額の皮膚が引き裂かれ、更に右耳が半ばから縦に切断された。

「ぅあぁぁッ!」
「畜生、引っ込めッ!」

反射的に顔を背け、額と耳を押さえつつ再度に身を隠す。
襲い来る激痛に声を漏らし、歯を食い縛るスバル。
蹲り足下へと向けられた視線の先、切断された右耳の一部が鮮血に濡れて落ちていた。

「スバル・・・!」
「・・・大丈夫」

息を呑むチンクとノーヴェへと無理矢理に声を返し、何とか痛みを堪えつつ耳を澄ませる。
何時の間にか破壊音は止み、周囲には構造物の破片が落ちた際の微かな金属音のみが響いていた。
銃撃、停止。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:14:43 ID:dAZ+nQ/q
STGの敵って何かと理不尽なんだよな

支援
62名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:15:21 ID:g8aYRikM
ニュータイプがなんだ!!
支援!!!
63R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:15:32 ID:R63kOVw7
「・・・おい、止んだぞ」
「分かってる。ギン姉達は何処?」

先程以上に警戒しつつ再度、顔を覗かせる。
こんな時にセインが居れば良いのだが、彼女のISは直接戦闘に向かない上、彼女自身も戦闘能力に秀でている訳ではないので、今は生存者の誘導に当たっていた。
無い物強請りである事を自覚しつつも、スバルは舌打ちせずにはいられない。
あのガウスライフルに狙われている事を知りつつ、それでも射界に身体を曝す事は御世辞にも良い気分とは云えないのだ。
そうして、スバルは破壊され尽くしたステーション内の光景を、余す処なく視界へと捉える。

「どうだ?」
「・・・酷い」

ノーヴェの問いに対し、スバルはそう答える以外に言葉が浮かばなかった。
ステーションは最早、元の様相を留めてはいない。
壁面には拳大の穴が無数に穿たれ、周囲の壁面構造物は根こそぎ剥がれてステーションの其処彼処に散乱している。
そして、散乱する無数の赤い塊。

「・・・何人やられた?」
「分からない・・・みんなバラバラに・・・待って」

構造物の破片に混ざり散乱する、人間にしては小さ過ぎる幾つもの肉塊。
その向こう、トラムチューブ内メンテナンス通路へと降りる為の階段が設置されている箇所に、ギンガとウェンディ、その他数名の姿が在った。
向こうもこちらに気付いたのか、ギンガが手振りで人数を伝えてくる。

「トラムチューブに8人、ギン姉にウェンディ、ティアナも居るって」

スバルは視線を動かし、次いで其処彼処に散乱する肉塊へと視線を移した。
思わず逸らされそうになる視線を無理やりに固定し、肉塊に付着する衣服の残滓、或いはそれらの間に転がるデバイスを探す。
漸く見付けた幾つかのデバイスは、そのどれもが酷く破損していた。

「・・・今のところ、私達も含めて生存者は11名」
「という事は8名が死亡、若しくは生死不明か」

チンクと言葉を交わす間にノーヴェが待機所の陰から顔を出し、すぐに手で口許を覆って頭を引き戻す。
その顔は見る間に酷く青ざめ、手は小刻みに震えていた。
苛烈な性格とは裏腹に、彼女の精神は繊細だ。
スバルもそれは良く解っていた為、チンクと軽く視線を交わすと再度、彼女自身が陰から顔を覗かせる。
丁度その瞬間、スバルの足下から響く鈍い金属音。

「え?」

戦闘機人特有の反射速度にて、足下へと視線を落としたスバルの目に、奇妙な物が映り込む。
それは床面にて反射し、後方へと弾んで行く小さな円筒形の物体、総数3。
かなりの勢いで弾んだそれらは、更にその先の壁面へと衝突して跳ね返り、まるで意思が在るかの如く宙を舞ってスバル達の頭上へと落下してくる。
スバルの脳裏を過ぎるのは、訓練校での座学で学んだ質量兵器の歴史。

「グレネード!」

叫び、待合所の陰から飛び出す。
視界の端には同じく飛び出したノーヴェと、彼女に抱えられたチンクの姿も在る。
直後、背後から膨大な熱量と、脊椎を粉砕せんばかりの衝撃が襲い掛かった。
64名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:17:08 ID:g8aYRikM
質量兵器UZEEEEEE
支援
65R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:18:01 ID:R63kOVw7
「がぁッ!」

一瞬にして身体が制御を失い、マッハキャリバーによる加速を遥かに超えた速度で壁面が迫り来る。
スバルはそのまま、真正面から壁面へと衝突した。
咄嗟に顔を庇った腕を中心に衝撃が全身を打ちのめし、そのまま仰向けに床面へと倒れ込む。
ぼやける視界の中、鉄の臭いが嗅覚を侵し始めた。
打ち付けた鼻から、そして頭部から血が出ているのだ。

「う・・・」

呻き、身を起こそうと試みるスバル。
だが、身体が動かない。
全身が軋みを上げ、力を込める事ができないのだ。

そんなスバルの視界へと、ガウスライフルの銃撃によって壁面に穿たれた穴から飛び出す、数発のグレネード弾が映り込む。
弾体の軌跡を目で追えば、榴弾は次々に床面で兆弾、その勢いを保ったまま天井面から壁面へと、縦横無尽に空間を跳ね回るではないか。
唖然とするスバルの眼前で、榴弾は複数の角度からトラムチューブの方向へと跳ね、全弾が狙ったかの様にメンテナンス通路へと向けて落下してゆく。
其処で漸く、彼女は気付いた。

インテリジェント砲弾。
状況に応じて誘導方式を能動的に選択し、自己を正確に目標へと到達させる機能を持つ砲爆弾。
まさか魔法でもない質量兵器、それも個人携行火器の弾薬にその機能が備わっていようとは、夢にも思わなかった。
グレネード弾の反射は受動的なものではなく、榴弾自体の制御下に置かれた運動だったのだ。

「逃げ・・・」

辛うじて振り絞った声が発し切られる前に、メンテナンス通路から複数の叫び声が響く。
次いで、爆発。
爆発の瞬間に撒き散らされる無数の小さな破片と、それによって引き裂かれてゆく周囲の構造物。
恐るべき威力だ。
ギンガやティアナの無事を祈りつつも、スバルはあれを受けた自身の背中がどうなっているのかを想像し、其処で全身の感覚が薄れてきている事に気付いた。

不味い。
どうやら自身が思っていた以上に、負傷の度合いは酷い様だ。
四肢の末端が冷えてゆく感覚は、大量の出血によるものか。
可能な限り早く治療を受けねば、このまま失血死してしまうだろう。

「・・・誰か・・・手を貸してくれ! 誰か!」

そんなスバルの思考は、突如として意識へ飛び込んできた叫びによって中断された。
朦朧とする思考のまま、声の方向へと首を巡らせる。
どうにか動かした視線の先には、倒れ伏すノーヴェを引き摺るチンクの姿。
だが、どうにも様子がおかしい。

「誰か・・・誰か居ないか! 返事をしてくれ!」

チンクに引き摺られるノーヴェの両脚は、膝から先が無かった。
傷口から零れ出る血液が、床面に血溜まりを作っている。
更に全身を破片に切り刻まれたのか、スーツの其処彼処が破れ、その下から覗く皮膚は深く抉られていた。
スバルと同様、彼女も重大な傷を負っているのだ。
チンクはそんな彼女の左手を右手で掴んでいるが、何故かその身体を背負う事はしていない。
良く見れば、彼女には左腕が無かった。
それだけではない。
両脚の脹脛は引き裂かれて筋組織が剥き出しとなっており、やっとの事で立っている状態だ。
66名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:19:54 ID:HaNLJ8pi
7ループ支援
67R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:20:30 ID:R63kOVw7
そして何よりも、チンクはその唯一残されていた左眼の位置から、夥しい量の血を溢し続けていた。
更に良く凝視すれば、何と左眼周辺からその下部に掛けての皮膚組織、そして骨格が根こそぎ失われているではないか。
頬骨が抉られ、内部組織が零れ出しているのだ。
どうやら榴弾が炸裂した際、スバルより僅かに退避の遅れた2人は、至近距離から破片を浴びてしまったらしい。
恐らくは、聴覚も機能を破壊されているのだろう。
何事かを呟くノーヴェに気付かないまま、掠れる声で周囲の返事を求めつつ、チンクは覚束ない足取りで歩き続ける。
彼女の向かう先には、破壊された壁面以外には何も無い。
だが彼女には、それを知る術が無いのだ。

「チンク姉・・・も・・・良い、から・・・逃げ・・・」
「誰も居ないのか!? ノーヴェが、ノーヴェが負傷しているんだ!」

溢れ返る血液が気道に流れ込むのか、チンクの声には無数の泡が弾ける様な音が混じっていた。
余りにも凄惨な光景に、スバルは自身の負傷さえも忘れて立ち上がろうとする。
何とかうつ伏せになり、背中の感覚が一切無い事に冷たいものを覚えながらも、床面に手を突いて力を込めた。
四肢が震え、ただ立つだけの事であるにも拘らず、内臓を締め付けられるかの様な感覚が彼女を襲う。
それでも、ノーヴェを救わんと歩き続けるチンクの姿を視界へと捉えながら、遂にスバルは立ち上がる事に成功した。
ふらつく身体を何とか支えながら、チンクに手を貸すべく歩み出す。
その時、引き摺られつつも周囲を見やっていたノーヴェの顔が、丁度スバルの方向へと向いた。

「スバル・・・!」
「ノーヴェ・・・待ってて・・・すぐに・・・」
「頼む・・・チンク姉を・・・このままじゃ・・・」

言われずとも解っている。
今のチンクは、視覚も聴覚も奪われているのだ。
恐らくはすぐ其処に居るにも拘らず、反応の無い事からノーヴェの状態を推測したのだろう。
事実、ノーヴェは動ける様な状態ではない。
だがチンクとて到底、無事とは云えない状態だ。
念話を用いている様子もない事から、肉体的な負傷だけでなく意識の保持すらも危ういのだろう。
スバルは遅々とした、しかし僅かにチンクを上回る歩行速度で、徐々に距離を詰めていった。

「チンク」
「誰か・・・」

そうして傍らへと辿り着き、名を呼びつつ左手を伸ばしてその肩を掴もうとする。
指先が触れた瞬間、チンクは目に見えて身体を震わせた。
スバルも一瞬、反射的に手を引いたものの、再度すぐに腕を伸ばす。
チンクの身体を支え、そのまま3人で物陰へと退避する為だ。
そして左手が、チンクの右肩へと置かれる。
次の瞬間、スバルの視界の中から、彼女の左腕が消え去った。

「あ・・・え・・・?」

呆然と、スバルは自身の左腕が在った空間を見つめる。
今はもう、其処には何も無い。
解れた筋組織と僅かな機械部品の残骸だけが、残る肩部から垂れ下がっている。
そして一拍遅れて、大量の血液が噴き出した。
スバルは悲鳴も上げない。
否、上げられない。
自身の腕が吹き飛んだという事実よりも、その先にある光景こそがスバルの意識を捉えて離さなかった。
68名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:21:17 ID:g8aYRikM
結末が見えんwwwww
支援
69R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:23:01 ID:R63kOVw7
「チンク姉・・・?」

呆然と放たれた、ノーヴェの声。
恐らくは、目前の光景が信じられないのだろう。
スバルにとっても、それは同様だ。
今は失われた腕、その先に佇んでいたチンク。
彼女の一部もまた、スバルの左腕同様に消し飛んでいた。
呆然とその姿を見やるスバルの眼前で、チンクの小柄な身体がバランスを失い倒れ込んでゆく。
数秒前よりも、明らかに小さくなった身体。
在るべきものが無い、不格好な身体。

「嘘・・・」



「頭部」と「右半身」の無い「チンクだったもの」。



「チンク・・・」
「チンク姉ぇッ!」

余りにも軽い音と共に、その肉塊は床面へと叩き付けられた。
断面から血液が溢れ出し、周囲を赤く染めてゆく。
絶叫と共に、ノーヴェが激しく身を捩りながら、残されたチンクの肉体へと縋り付いた。
半狂乱にチンクの名を呼び続ける彼女の身体は、脚のみならず腰部までもが大きく抉られている。
チンクの身体とスバルの左腕を粉砕した数発の銃弾が、そのまま倒れ伏すノーヴェの身体をも穿ったのだろう。
叫びつつチンクの身体を揺さ振る度に、ノーヴェの腰部からも大量の血が溢れ出す。
既に彼女の上半身と下半身は、僅かに残った左側面の体組織によって辛うじて繋がっている状態だ。

「やだよ・・・やだよチンク姉ぇっ! 死んじゃやだ・・・死んじゃやだよう・・・」

チンクだった肉塊を腕の中に抱き止め、泣き叫ぶノーヴェ。
そんな彼女を前にスバルは、無くなった左腕を掻き抱く様にして、微かに震えていた。
恐怖による震えではない。
抑え切れぬ感情の波、彼女を内側より突き破らんとする激情からの震え。

何故、どうしてこんな事になった。
こんな事、余りに残酷すぎる。
何故、チンクは死ななければならなかった。
車両内に残った3人は、壁面ごと撃ち抜かれた7人は。
彼等は何故、同じ人間に殺されなければならなかったのだ。
共通の敵、絶対的な力を有する悪夢が其処に在るというのに、何故。

「あ・・・ああ・・・!」

震えは秒を追う毎に強まり、遂にスバルは膝から崩れ落ちる。
追い詰められた身体、追い詰められた精神。
もう、立っている事すらできなかった。

「誰か・・・!」

未だ泣き叫ぶノーヴェへと覆い被さる様にして、スバルは震える声を絞り出す。
今の彼女には、地球軍やランツクネヒト、次元世界全体の事を思考する余裕など無かった。
残酷な現実に折れた心の中、残されたのはたったひとつの強迫観念。
70名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:23:35 ID:g8aYRikM
IAAAAAAaaaaaa!!!!!
71R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:25:31 ID:R63kOVw7
救わねばならない。
目の前の彼女、同じ遺伝子を持つ姉妹を救わねばならない。
それを為そうとし、しかし叶わずに逝ってしまった彼女の姉に代わり、自身が彼女を護らねばならない。
でも、不可能。
左腕が無い。
脚も動かない。
圧倒的に血が足りない。
心臓の鼓動さえも、何時止まるとも知れない。
だから、叫ぶのだ。

「助けて・・・ギン姉・・・ティア、ウェンディ! ノーヴェが・・・ノーヴェが死んじゃう! 死んじゃうよおっ!」

血を吐きつつ、スバルは叫ぶ。
様子見か、新たに壁面を貫通してくるガウスライフルの銃弾。
それが残る右腕を吹き飛ばしてもなお、その叫びは破壊されたステーション内に響き続けていた。

*  *  *

「どけ」
「いいえ、断るわ」

短い問答の後、ウェンディは躊躇う事なく、ライディングボードの砲口をティアナの眼前へと突き付けた。
だが、ティアナは動じない。
変わらぬ無表情のまま、クロスミラージュを持つ手を動かす事もなく佇んでいる。

「これで最後。どけ」
「もう一度言うわ。チンクは死んだ。戻っても意味は無い」

途端、ボードの砲口に魔力が宿った。
脅しではない。
ウェンディは本気で、眼前に立つティアナを殺すつもりだった。
だが直後、砲口とティアナの間に影が割り込む。
ギンガだ。

「止めなさい、ウェンディ! ティアナ、貴女どうしてしまったの? スバルとノーヴェは、まだ生きているのよ!?」

言いつつ、彼女はティアナへと詰め寄る。
そう、チンクがランツクネヒト隊員により殺害された事は、先程まで聞こえていた助けを求める声とバイタルが途絶えた事で判った。
だがスバルとノーヴェについては、未だそのバイタルは健在なのだ。
2人は、まだ生きている。
にも拘らずティアナは、2人の救出、それ自体が無駄な行為であると言い切ったのだ。

その言葉に、ウェンディは激昂した。
ふざけるなと一喝、ボードを手に立ち上がる。
そんな彼女の前に、ティアナが立ち塞がった。
その結果が先の問答である。
72名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:26:12 ID:g8aYRikM
久々の絶望感にgkbr
73名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:31:04 ID:JkdtLcGF
負傷した仲間で釣るのはスナイパーの常套手段だからティアナも警戒してるんだろうなあ。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:32:07 ID:zc3us/pG
ピンボール爆弾にはパーフェクトダークでよくお世話になりました支援(主に自爆的な意味で
75名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:32:16 ID:g8aYRikM
「助けてください!誰か…誰か助けてください!!」
を思い出した。
76名無しさん@お腹いっぱい:2009/09/06(日) 18:33:11 ID:Bi0oMPwI
すごい絶望感これは支援せざるを得ない
77名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:33:56 ID:g8aYRikM
七分経過。さるかな?
78R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:41:20 ID:R63kOVw7
「無駄ッスよ、ギン姉。ソイツはもう、アンタやアタシの知ってるティアナじゃないッス」

いつもの口調で吐き捨てると、ウェンディは2人の傍らを擦り抜けてボードを浮かべた。
ボードの上へと飛び乗り、推力を引き上げんとする。
そんな彼女の背後から、思わぬ言葉が投げ掛けられた。



「あの2人はもう、私達の知ってるスバルとノーヴェじゃない」



瞬間、ウェンディはボード制御に関する、全ての情報をキャンセルした。
床面から50cmほど浮かび上がったボードの上に立ったまま、背後のティアナへと振り返る。
視界にはティアナの後姿、そして彼女を見やる驚愕の表情を浮かべたギンガが映り込んだ。

「ランツクネヒトが用意した新しい身体に、2人の脳髄が移植された事は知っているでしょう」
「・・・勿論」

知っている。
知らない筈がない。
それを聞いた時の衝撃は、今でも鮮明に思い出せる。
2人は誕生から慣れ親しんだ身体を、永遠に失ったのだ。

「2人の体組織から培養された生体ユニットが、無人のR戦闘機に搭載されている事は」
「知っているわ。それが?」
「それですよ、ギンガさん」

途端、全身が冷え切ってゆく様な感覚が、ウェンディを襲う。
脳裏に浮かぶ、最悪の予想。
そんな事はない、と否定しながらも、それで辻褄が合うと冷静に指摘する理性。
そして遂に、ウェンディが最も望まなかった答えが、ティアナから齎される。

「あの2体の身体に移植されたのは、オリジナルの脳内情報を転写された培養体。オリジナルの2人の脳髄は、あの身体に移植されていない」

周囲の全てが冷え切ってゆく。
そんな錯覚が、ウェンディを侵食していた。
ボードの高度が徐々に下がり、床面に接触する。
ウェンディは覚束ない足取りでボードを降り、ゆっくりとティアナへと歩み寄った。

「なら・・・それなら・・・」

震える両の腕を伸ばし、ティアナの肩を掴む。
力加減など考えもしなかったが、ティアナは特に反応を見せない。
冷たい瞳だけが、ウェンディを真正面から見据えている。

「2人は、何処に・・・?」
79名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:41:38 ID:g8aYRikM
さるとみなしてよろしいかな?
よし、サザエさん見よ。
80R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:43:30 ID:R63kOVw7
答えはすぐに齎された。
同じく、最も望まなかった、最悪の真実。
スバルを、ノーヴェを。
そして、最後まで2人を護ろうとして命を落としたチンク。
3人の命と尊厳を踏み躙り、徹底的に侮辱する事実。



「「TL-2B2 HYLLOS」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」・・・それが、スバルとノーヴェの「移植先」よ」



トラムチューブ内に響く、泣き叫ぶ声と助けを求める声。
それらの声を聞き留めながらも、ウェンディは動く事ができなかった。
ギンガを、ティアナを、そして自分を呼ぶ声に、応える事ができない。

「初めから、2人を返すつもりなんて無かったのよ。オリジナルを生体ユニットに加工し、私達にはオリジナルを模したコピーを返す。本当の事は、ランツクネヒトの上層部だけが知っていた。あの2体は情報収集ユニットとしての機能を担っていたのよ。
念入りにも、通信を用いて情報を転送するのではなく、回収して情報を吸い出すタイプのね。こうして逸れる事ができたのは幸運だったわ。さっきは2体が居たから、この事を貴女達に伝える事もできなかった」

そう言うとティアナはウェンディの手を払い、トラムチューブの奥へと向かうべく歩を進める。
その左肩は、鮮血に塗れていた。
先程トラムチューブに落下してきた、榴弾の炸裂による負傷だ。
彼女だけではない。
ウェンディもギンガも、そして他の5人も。
皆が皆、少なからず傷を負っていた。

「とにかく一旦、此処を離れましょう。向こうは私達を此処から逃がす訳にはいかないけれど、それは私達も同じ。体勢を立て直して砲撃戦を仕掛ける。壁ごと撃ち抜くのは、何も奴らだけの・・・」
「ティアナ」

と、ティアナの言葉を遮る、ギンガの声。
見れば彼女は、左腕のリボルバーナックルに右手を添え、ステーションの方向を見据えていた。
チューブ内には未だ2つの声が響いており、次いで悲鳴の様な叫びが上がる。

「私は、あの2人を助けに行く」

毅然と放たれたその言葉に、ウェンディは自身の心が揺さ振られた事を感じ取った。
決然としたギンガの声には、懼れなど微塵として滲んでいない。
その目には、迷いなど欠片も浮かんではいない。

「正気ですか、ナカジマ陸曹」

感情のまるで感じられない、冷たく無機質な声。
ティアナだ。
そちらを見やれば、彼女は足を止め、しかし振り返る事なく佇んでいた。

「あれはスバルでもノーヴェでもない、単なるランツクネヒトと地球軍の情報収集ユニットですよ。それを理解した上で言っているんですか」
「本物かどうか、なんてのは問題じゃないわ。あの2人は、自分の事をスバル、そしてノーヴェだと信じ切っている。ある意味、間違ってはいないと思わない?」
「あれを救い出すつもりですか? 馬鹿げてる。人間でも、戦闘機人でもないのに」
「彼女達は私達と同じ遺伝子を基に生み出された、言うなれば姉妹よ。どんな目的があって生み出されたのかなんて、どうでも良い。助け出して、ランツクネヒトの呪縛から解放する。スバルもきっと同じ事を望むわ」

そう言い切ると、ギンガはステーションへと向かい歩み始める。
数秒ほどその姿を見つめていたウェンディだったが、すぐにボードへと飛び乗り、その後を追い始めた。
その背後から掛けられる、ティアナの声。

「その選択がどれだけの危険を孕んでいるか、本当に理解しているんですか!? あれはランツクネヒトが送り込んだ諜報員なんですよ!」

ギンガは答えない。
ウェンディはその背を視界へと捉えつつ、同じく振り向かずに歩を進める。
再度、掛けられる声。
81R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:46:30 ID:R63kOVw7
「勝手にすれば良いわ! スバルとノーヴェは私が救い出す! 偽物なんかじゃない、本物を救ってみせる!」

そんな声を背に受けつつ、ウェンディは加速し前方を行くギンガへと追い付き、その僅か前方へと位置する。
ギンガの瞳は既に、戦闘機人の証である金色の光を帯びていた。
彼女は微かにウェンディへと視線を向けると、静かに語り掛けてくる。

「貴女は、これで良かったの?」
「水臭いッスよ、アタシ達はみんな姉妹みたいなモンじゃないッスか。其処に新しい妹が2人ばかり増えるだけッス。それに」

前方、薄らとステーションの明かりが見えてきた。
2つの声は未だ響き続けていたが、その勢いは随分と弱まってきている。
急がなければ、危ない。

「チンク姉だって、そう言うに決まってるッス。お姉ちゃんの意思も酌めない妹じゃ、くたばった時に合わせる顔が無いッスよ」

震えそうになる声を、明るい声で無理矢理に誤魔化す。
滲む視界。
拳を瞼に当て、乱暴に水分を拭い去る。
チンクは、あの小さな身体の、しかし何時だって姉妹達の事を考えていてくれた姉は、もう何処にも居ないのだ。

「ウェンディ!」

ギンガが、鋭く声を発した。
もう一度、瞼の上を拭い、ウェンディは瞠目する。
前方のステーション下、トラムチューブの中央に、潰れて落下した車両の残骸が燃え盛っていた。
その少し先、ステーションから零れ落ちる大量の火花に照らし出され、見慣れたデバイスが転がっている。

「・・・ッ! 急ぐッスよ!」

リボルバーナックルだ。
それを装着した腕部そのものが、血塗れとなって転がっていた。
先程の悲鳴はこれか。

ボードの角度を吊り上げ、上昇に移る。
一息にステーションへと到達すると見せ掛け、直前で反転し降下。
直後、眼前に火花と鉄片の壁が出現する。
ガウスライフルによる銃撃、陽動による回避成功。
その隙を突いて展開されたウイングロードの上を、ギンガが一瞬にして駆け抜ける。
銃撃の火線が後を追うも、再高速度にまで達したギンガを捉えるには至らず、飛散する壁面構造物の破片が背の一部を切り裂くに留まっていた。
だからといってこのままでは、遠からず直撃弾が出る事は明らかだ。
しかし、既に策は成っていた。

「アタシを忘れてたのが・・・」

ウェンディ、空中でボードに手を添え上下を反転、そのままの勢いで着地しつつ砲撃態勢へ。
戦闘機人の有する強靭な耐久力で以って衝撃を耐え抜き、既に魔力集束を開始したボードの砲口を頭上のトラムチューブ壁面へと向ける。
ガウスライフルの射撃点は既に、ギンガを追う火線の射角変化から割り出されていた。
視界へと表示される目標に照準を合わせ、集束値が臨界を迎えた事を知らせる表示の点滅と同時。

「運の尽きッスよ!」

ウェンディは一切の躊躇い無く、集束砲撃を放った。
砲撃が壁面をへと突き立ち、次いで壁面内部で起こった魔力爆発が周囲の構造物を消し飛ばす。
それを最後まで見届ける事なく、ウェンディは更に6回の簡易砲撃を放ち、ボードへと飛び乗り加速、スバルの右腕を回収しつつステーションへの上昇に移った。
この砲撃でランツクネヒト隊員を無力化できたとは考えていないが、しかし少なくとも同じ地点からの射撃継続は不可能だろう。
そうしてステーションへと到ったウェンディの視界に、余りに凄惨な姿となったスバルとノーヴェ、その2人を庇う様に抱え込むギンガの姿が映り込んだ。
3人の傍らには、自身のそれと同様のスーツを纏った小さな、頭部と右半身の無い死体。
それが誰のものであるかを理解し、ウェンディの胸中へと言葉にならない感情が込み上げるが、それを無理矢理に押し込める。
そんな彼女へと、ギンガは焦燥を隠そうともせずに言い放った。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:47:09 ID:g8aYRikM
ま さ に 外 道
83R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:49:01 ID:R63kOVw7
「出血が激しすぎる! すぐに医療施設へ運ばないと!」

その言葉に、既に意識を失ったらしきスバルとノーヴェの全身を見やれば、2人は全身を切り裂かれた上、スバルは両腕、ノーヴェは両脚が吹き飛んでいるではないか。
更に、無数の鉄片が背面へと食い込んでおり、深く抉れている箇所も10箇所以上あった。
戦闘機人でなければ、疾うに死亡していただろう。

「A-04だ! あそこなら医療ポッドが在る!」

口調を取り繕う余裕すら無く、ウェンディは叫ぶ。
ギンガがスバルとその右腕を、ウェンディがノーヴェを抱え上げると、数瞬ほどチンクの遺体を前に躊躇し、しかし軽く目を伏せて別れの言葉を呟くと、A-04エリアへと向かう為に視線を引き剥がした。
その、直後。

「な、あッ!?」

巨大な衝撃が、周囲の全てを揺るがした。
立つ事はおろか、その場に留まる事すらできない程の衝撃。
まるで至近距離で爆発が起きたかの様なそれに、ウェンディ達は為す術もなく弾き飛ばされ、幾度となく壁面へ床面へと身体を打ち付けられた。
そんな中でもウェンディは、腕の中のノーヴェを必死に庇い続ける。

発動した防音障壁越しにも届く、鼓膜を引き裂かんばかりの轟音。
それが響き続ける中、辛うじて数瞬ほど見開かれた眼。
その視界には大量の火花と、巨大な黒々とした何かが眼前の構造物を引き裂いてゆく光景が映り込む。
直後、全身を襲う浮遊感。
落下している。
数秒ほどそれが続いた後、ノーヴェを抱えたまま衝撃に身構えていたウェンディの身体を、誰かが抱き止めた。
落下速度が減速している。
見開いた瞼の先には、こちらを見下ろす血に塗れたギンガの顔。

「ウェンディ・・・無事?」
「・・・助かったッス、ギン姉」

漸く、構造物に足が着いた。
腕の中にノーヴェの姿が在る事を確かめ、ウェンディは周囲を見回す。
振動が絶え間なく続いており、何処かで爆発が連続的に発生している事が窺えた。
傍らには、スバルを抱えたギンガの姿も在る。
どうやら右腕1本で、落下するウェンディを受け止めたらしい。
近くに落下していたのか、少々破損したライディングボードも見付かった。
だが、それらよりも、ウェンディの意識を引き付けたもの。

「何スか、これ・・・」

高さ数百mにも亘って構造物が崩落した、広大な空間。
粉塵に埋め尽くされているものの、僅か20秒程度で出現したとは信じられない程に広大な其処は、其処彼処に燃え盛る炎の光が粉塵に反射し、不気味に薄く照らし出されていた。
何もかもが崩壊した、元が技術の粋を集めて建造された施設とは到底信じられぬ、破壊の痕跡のみに支配された空間。
その中、ウェンディ達の前方100m程の地点に、壁が在った。
禍々しい、黒々とした壁。
周囲の全てが凄絶なまでに破壊されている中、その壁だけは損傷といった損傷も無く、この空間に於いては明らかな異常として存在していた。
呆然とその壁を見つめるウェンディに、ギンガから声が掛けられる。

「ねぇ、あれ・・・」
84名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:49:40 ID:g8aYRikM
両方とも救える気がしない…
85R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:50:08 ID:R63kOVw7
その声に振り返れば、ギンガは正体不明の壁、その一部を指し示していた。
指の先を辿るも、それ以外に注目すべきものは見付からない。
どうにも解らず、もう一度ギンガを見やると、彼女は何処か呆然と告げた。



「あれ・・・戦艦じゃ・・・」



ノーヴェをそっと足下に横たえ、ウェンディはライディングボードの許へ走る。
ボードを手に取り、数発の直射弾を頭上へと発射。
弾速を落とし、多少に過剰なまでの魔力を供給されたそれは、桜色の光で辺りを照らしつつ上昇してゆく。

余りに巨大過ぎて気付かなかったが、数十mもの大きさを持つミサイル格納部らしきハッチが直線上に並び、遥か頭上にまで連なっていた。
光源である直射弾の周囲を拡大表示すると、100m近い長大な砲身が2つ連なった砲塔が2基、闇の中に轟然と浮かび上がる。
艦体は更に続いている様だが、その先はコロニーの構造物に埋もれて確認できなかった。

間違いない、これは戦艦だ。
だが何故、そんなものがコロニーに突っ込んできたのだ。
この戦艦は、何処の勢力に属するものなのか?

「ギン姉、この戦艦って・・・」
「入りましょう、ウェンディ」

こちらの問い掛けを遮る様に放たれた言葉に、ウェンディは暫し呆然とした。
だが、その間にもギンガは、スバルとノーヴェを抱えて戦艦へと歩み寄る。
スバルの右腕から回収したのか、ギンガのそれには右手用のリボルバーナックルが装着されていた。
そんなギンガの行動に戸惑いつつも、ウェンディは再度に問いを発する。

「何の為に?」
「これを迂回してA-04まで行くのは無理よ。だけど、これだけ巨大な艦なら医療施設も有している筈。私達が目指すのはそれよ」
「・・・けど! 突っ込んできたって事は、間違いなくコイツも汚染されてるッスよ!?」
「だから?」
86名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:52:27 ID:g8aYRikM
チンク救われねぇ…(';ω;`)
87R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:53:47 ID:R63kOVw7
立ち止まり、不敵に声を返すギンガ。
こちらへと振り返った彼女の眼は、試す様にウェンディを見据えていた。
思わず息を呑むと、彼女は決意に満ちた声で続ける。

「この娘達を救う為なら、その程度の危険なんかどうでも良いわ。此処で何もしなければ、2人が死んでゆく様を見ている事しかできない。そんなのは御免よ。それに・・・」

ギンガ、ウイングロード展開。
紫の魔力光を放つ道が、緩やかなループを描きつつ遥か上空へと続いている。
2・3度、ブリッツキャリバーの調子を確かめる様にローラーを鳴らし、ギンガは言い放った。

「人間と殺し合うより、バイドと殴り合う方が余程やり易いわ」

途端、彼女はブリッツキャリバーから火花を散らしつつ、空中へと駆け出す。
ウェンディは数瞬ほど躊躇い、次いで息を吐くと頭上を仰ぎ見た。
そして額に手を当て、握り拳を作ると少々強めに頭を小突く。
ボードを倒し、その上へと飛び乗って加速、上昇角を吊り上げてギンガの後を追い始めた。
ボードの推力を上げ、更に加速を掛ける前に一言。



「ああもう、畜生! 今日は人生最悪の日ッスよ!」



紫と桜色の光が、破壊に彩られた闇を切り裂く。
絡み合う様に上昇してゆく2条の光に焦燥はあれど、絶望の色は微塵も存在しなかった。
88R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2009/09/06(日) 18:56:04 ID:R63kOVw7
投下終了です
支援、有難う御座いました

中佐「リンカーコアが無ければビッグコアに乗れば良いじゃない」
隊員「ツンデレは追い詰めると暴発するって散々言っただろうがよおオォォォ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
中佐「ヘナップごめんなさいホントもう言いません」
地球軍「ツンデレとサイボーグっ娘のハーレム狙うとか馬鹿なの? 死ぬの?」

グラVって弾幕系だったんですね
迂闊に買って2週目1面で死にました
てかビーコン先生と壁コア鬼畜過ぎ

という訳で、地球軍というより地球人の悪事、軒並み大暴露&ティアナブチ切れの巻でした
バイド創ったのも地球人(未来)、バイドに襲われてるのも地球人(過去)
救い様が無いというか、第三者から見れば「何やってんのアンタら」みたいな状況です
他の文明が存在するというのは「TACTICS」中でも触れられていましたが、バイドがそれを食い荒らしているというのは「TACTICSU」からの公式設定みたいです
「T」と「凵vに登場したグリーン・インフェルノが「他の文明が総力を挙げて建造した戦艦をバイドが汚染したもの」という設定になっていますので
ところで、初見の時ライディングボードがネオビッグコアに見えたのは自分だけだろうか

次回は、再び外殻での対バイド戦です
今度はR戦闘機も出ます



じゃ、俺はEDFにカチコミかけてくる ノシ
89名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 18:56:14 ID:g8aYRikM
ここまで人の闇を描いたものを俺は始めてみた。
プロフェッサーギルまでもここまでせんな。
…そして俺のアイドル、ロリ姉チンクがぁぁaaaaaaa
90名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 19:03:10 ID:JkdtLcGF
確かバイド作った26世紀の地球文明は次元の彼方に吹っ飛ばした後崩壊してることになってるんだっけ?

R戦闘機の中の人がスバルとノーヴェだったのはやられた……。
91名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 19:12:23 ID:zc3us/pG
最初はランツクネヒト隊員との心温まるやりとりににやにやしたが
それすらも孔明の罠か!
絶望した!和解フラグを立てた後自分でそれをぶち折る地球軍に絶望した!
92名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 19:48:46 ID:ZBr8/60o
皆……皆死んでもうた……
なんかもうこっちの心が折れる

つーかティアナはデッドエンドルートに行ったような気がする
生存ルートはギンガ方面だろこれ
93名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 19:53:49 ID:7/N9whhN
治療を受けたなのはや、はやても何か仕込まれてそうな気がする・・・恐るべし地球軍!
次回作が待ちどうしいのう。
94名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 20:16:50 ID:G730l5NX
地球軍が鬼畜外道なのは今に始まった事じゃない
ないけど、此処まで盛大にフラグブレイクされると逆に清々しいw
もうティアナさえ確保された時に何かしら仕込まれてる気がするわ
例えば今回の叛乱も思考操作された結果だとしても不思議じゃない
95名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 20:35:49 ID:UOaVlHI9
R-TYPE Λ氏は相変わらず容赦がないなぁ。だがそれがいい。
って、秒速2900メートルオーバーって現代の戦車砲より遥かに高初速www
そりゃあチンク姉もあんな状態に……ウッ( ;ω;)
96名無しさん@お腹いっぱい:2009/09/06(日) 20:49:57 ID:Bi0oMPwI
地球軍ここまでド外道だと逆に清々しさすら感じるな
97名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 20:56:38 ID:EWZfY/i0
ギンガかっこいいなぁ
なんか主人公の風格が出てるよ
それに比べてティアナは……
捨て台詞とか絶対脂肪フラグじゃないか
今回に続いて次の内部編もまたぞろ血生臭くなりそうだ
しかし、せめてチンクさえ生きてればあのほのぼのもまた見れそうだったのに……


> EDFにカチコミ

ストームリーダーに大口径狙撃銃によるヘッドショットで『峰打ち』されるんですね。わかります。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 21:11:14 ID:jlHILhRY
>>28
無事に完了でGJ!
はやてにはこのまま活躍の場はあるのかw
それにしても公太郎の公だから、ハムスターなのだろうかw
99名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 21:12:01 ID:P0NsUHwB
GJ!地球軍は外道だなあ、そしてティアナはちゃくちゃくと死亡フラグをたててるきがすんのはおれだけだろうか・・・
100ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/06(日) 21:16:14 ID:XPhvzCcv
間に合えば24時45分頃に投下予約。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 21:30:01 ID:g8aYRikM
!?
本物か!?帰ってきたのかロクゼロ氏!?
102名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 22:28:29 ID:B9drvAfl
最初に堕ちたのはやはりティアナだったか……
バイドの建造に魔導力学が用いられているのに触れず、質量兵器と呼んだのは後々の
フラグなのだろうか、リンカーコアを使わない異端魔法なんて質量兵器だろjkなんだろうか

建前でも綺麗事でも、管理世界の良心的主義を貫き通せる人はいるのだろうか
ギン姉、ウェンディ、たとえレプリカでも救おうとしてくれてありがとう
どんな結果に終わるとしても……

>>97
火星でハンマー片手に解体作業の方かもしれんぜ
103名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 23:11:38 ID:MS/Guwdw
>>100
全裸でワイングラス片手にお待ちしております。
104名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 23:30:58 ID:ZBr8/60o
>>100
前作読みながら待機します
105名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/06(日) 23:35:46 ID:F6n55qTa
GJ!
いよいよバイド化だろうか。
ティアナは死亡フラグ立ててるような気が…。
106名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 00:48:02 ID:XxW55qWC
投下マダー?
107名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 00:51:22 ID:XxW55qWC
支援バスターチャージ
1…2…3…
108名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 00:55:55 ID:SmWa0xho
支援ナックル
109ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 00:55:59 ID:WtBeYXqs
それじゃあまあ、ボチボチと。
110ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 00:58:01 ID:WtBeYXqs
 誰かが、ゼロを呼んでいた。

 彼の名を叫び、彼の心に訴え、彼の姿を呼び起こそうとしている。

「シエ、ル……?」
 無意識に、その大切な存在の名を呟きながら、ゼロは薄く眼を開いていく。彼は奇妙な
空間にいた。色も音もない、寂しく虚しい空間。傷ついた彼はそこに倒れ伏し、静かに朽
ち行くときを待っているかのようにも見えた。
「ここは、確か以前にも」
 身体に思うように力が入らないのは、傷だけが理由ではない。空も大地も存在しないこ
の空間においては、浮遊感どころか身体に対する実感も失われてしまうからだ。
 そして、かつてゼロはここを訪れたことがある。いや、正確には連れて来られたのだ。
 一人の男の、彼の親友の力によって。

 ゼロの目の前で光が集まり、一つの姿を形作ってゆく。ゼロは、それを確認しながらゆ
っくりと立ち上がった。
「エックスか」
 結集した光は、ゼロの友となって彼の前に現れる。

――ゼロ

 サイバーエルフエックス。実体を失った彼は、電子生命体となってかろうじて自身を世
界につなぎとめている存在となっていた。

――僕の言った通りだったろう? 君はやはり、オメガには勝てなかった

 それみたことか、という口調ではなかったにせよ、あからさまな憐憫が含まれているこ
とをゼロは感じ取っていた。エックスは氷剣にも似た視線をゼロに向けながら、言葉を続
けた。

――実に君らしい負け方だったね。悩むことなく目の前の敵に斬りかかり、なす術もなく
敗れたわけだ

 事実なので反論しようもないが、ゼロはエックスがひがみっぽくなっていると感じた。
こんな物言いをする奴だったか、しかし、過去の記憶がないゼロにとってそれは考えるだ
け無駄なことだった。
「あれはどういうことだ? オメガの力は、明らかに以前のそれを超えていた」
 油断していたわけではないし、余裕など欠片もなかったゼロであるが、それでも彼は過
去に一度、記憶のないときを含めるなら二度、オメガを倒している。オメガは確かに凄ま
じい強さを誇っているが、決して戦えない相手ではなかった。最強は、まだゼロと同じ次
元に存在していたのだ。
 にもかかわらず、ゼロはオメガに完敗した。最強の救世主は、爆炎の剣聖たるユニゾン
ゼロを、圧倒的な実力で撃砕したのだ。ゼロがオメガより衰えた、弱体化したという可能
性は当然あるが、オメガにしてもダークエルフ、いや、マザーエルフとの融合が解けてい
るのだから、その力が半減していてもおかしくはないはずなのだが……

――あれがオメガの、いや、オリジナルゼロの力だ



          第16話「勝者のいない日々」

111名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 00:58:11 ID:XxW55qWC
帰還ktkr!
112名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 00:59:10 ID:XxW55qWC
支援バスター…発射ぁぁぁぁぁ!!!
113ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 00:59:22 ID:WtBeYXqs
 かつて、ドクター・バイルは最強のレプリロイドであるオメガを制御するため、いくつ
もの細工を施していた。一つはスカリエッティが自信で再現して見せた、オメガが持つ圧
倒的なパワーを抑え込むための、拘束具としての役割を持つ鎧。そしてもう一つは、凶暴
にして獰猛な自我を抑え込むための、精神支配。
「アーマーで力を押さえつけ、マザーエルフで人格制御をしていたのか」
 それほど不思議な話ではなかった。ゼロとしても、何故あれだけ強大な力を持つオメガ
が、明らかに能力が劣るアーマーなどを装着していたのかは常々疑問に思っていたことで
あるし、オリジナルゼロのボディを隠す意図があったのだとしても、それをする理由はな
いはずだ。当時、抵抗を続けていたシエルらレジスタンスに精神的打撃を与えるためにも、
大々的に自分が偽物で、オメガが本物であると宣伝しても良かったはずなのだから。それ
をしなかったのはアーマーの内側にいるオメガがあまりにも強すぎて、おそらくバイルを
持ってしても手が付けられなかったのだろう。
 マザーエルフに関しても、なるほど、ゼロはマザーエルフがレプリロイドに与える影響
を目の当たりにしている。存在の変質、変革、あれだけの力であればオメガの猛獣のよう
な人格を制御することも可能だろう。

――アーマーとマザーエルフ、その二つを利用することでバイルはオメガを支配下に置い
ていた。バイルは、意図的にオメガを弱体化させていたんだ。能力的にも、精神的にも

 でなければ、とてもオメガを支配し、制御することなど出来はしなかっただろう。そし
て、スカリエッティはその封印をすべて解いたのだ。
「解放されたのは、オリジナルゼロが持つ最強の力というわけか」
 オメガは決して強くなったわけではないのだろう。以前が弱すぎたのだ。数々の制約や
抑制、それらにとって拘束されていた力がすべて解き放たれ、文字通り全力で戦うことが
出来るようになったのである。ゼロはハンデを背負っていた相手を倒したに過ぎず、そう
とも知らずに勝ったと思いこみ、したたかな逆撃を被ったのである。

――付け加えるなら、あれはオメガの全力なんじゃない

「なに?」

――オリジナルゼロの力は、あんなものじゃないよ。それは僕が一番よく知っている。君
はオメガという存在が持つ力の一端に打ち負けたに過ぎない

 あれだけの力を見せつけておいて、まだ余力を残しているというのか。戦いにおいて臆
病になどなったことは一度もないゼロであるが、このときばかりは慄然とした表情を隠せ
なかった。彼はオメガに負けた、永い眠りから目覚めてから初めて、英雄は救世主の前に
敗北したのだ。
 そしてゼロ自身、自分が負けるとは思っていなかったのである。それがおごり高ぶり、
自己過信であるかはともかく、負けると思って戦いに挑む奴はいない。勝てると思って、
勝たなくてはいけないと誓って戦いを挑み、それを打ち砕かれたのだ。
「エックス……オレは」
 オメガがゼロに敗れたと言うことは、単にレプリロイド同士の戦闘の結果というだけに
は留まらない。ゼロは本人の意思とは関係なく常勝の英雄として祭り上げられており、そ
れは弱者たるレジスタンスにとって希望の星だった。ゼロに対する人望や信頼も、彼が勝
ち続けてきたからこそであり、実績が評価されたに過ぎないのだ。だからこそ、彼は誰に
も負けることわけにはいかなかったし、彼がゼロでいるには、ゼロであり続けるには戦い
に勝つしかなかったのだ。
 しかし、ゼロは敗北した。オリジナルゼロの前に敗者となり、常勝の英雄は脆くも崩れ
去ったのだ。ゼロは所詮コピーゼロであり、オリジナルゼロであるオメガに勝てないのだ
と、そう思われても不思議はない。
「オレは、オレは本当に」

 ゼロなのか?
114ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:00:25 ID:WtBeYXqs
 呟いた疑問は、ずっとゼロが胸の内に秘めていたものだったのだろう。記憶もなく、過
去もなく、自分がゼロであるという実感を彼は持てないでいる。誰にも話してはいないが、
彼はゼロという自身に対してなんら確信を憶えていないのだ。彼が自分はゼロであると
名乗っている≠フは、他者によって認められたからであり、それ以外に理由はないのだ。
オメガが彼の前に現れ、オリジナルゼロとしての姿を見せたときも、自分は驚くほど冷静
に事実を受け入れていた。あるいはそれこそ、ゼロが自分はゼロであると本心から思って
いない証拠だったのではないか。
 ゼロの疑問に対して、エックスは無言だった。このような質問が来ることも、予想はし
ていたのだろう。だが、彼にはゼロがここまで気落ち、気弱になっていることが意外だっ
たらしく、それを非難するかのような表情を向けていた。どうせ答えなど求められてはい
ないのに、それでも口を開いたのはエックス自身にも理解できない感情からだった。

――君が悩んでどうする。さぁ、もう目を覚ますんだ。君のことを心配している人がいる

 声が響いている。悲しみに満ちた、少女の声が。ゼロは戻らなければいけない。少女の
元へ、そして、もう一度オメガと戦うために。
「エックス、オレはオメガに勝てると思うか?」
 これもまた答えなど求めていない問いかけであり、勝てるといわれたところで保証など
どこにもないのだが、エックスの言葉は意外なほど真剣な物だった。

――方法がないわけじゃない。けれど、今はまだそのときじゃない。ゼロ、オメガを、君
自身を倒すのは君しかいない。それだけは、忘れないでくれ

 夢はそこで途切れた。エックスのいう方法とやらが、果たして必勝の秘策だったのか。
ゼロは特に興味を持たなかったし、無理に聞き出そうとも思わなかった。彼がこのときの
選択を後悔するのは、ずっと先のことである。


「ゼロ! ゼロ! しっかりして」
 シエルの声に、ゼロは目を覚ました。ゼロは見慣れぬ部屋の一室で、どうやら修理をさ
れていたらしい、メンテナンスマシンの中にいた。一瞬、元の世界に戻ってきたのかと錯
覚を憶えたのは、設備があまりにも高度だったからだろう。
「シエルか……っ!」
 意識が回復すると共に、身体が痛みを認識し始める。修理が不完全なのか、しかし、こ
の程度なら耐えられる。ゼロは自分で面天成す用の危惧を外し始める。
「ダメよ、ゼロ。まだ修理は完全じゃ」
「この程度なら、自動修復で治る」
 破損箇所を覆っている液体金属の皮膜に煩わしさを憶えながら、ゼロは室内を見渡した。
「それで、ここはどこだ?」
 見慣れぬ部屋であるが、よく見ると如何にも即席といった感じの空間だった。置いてあ
る機材も、高度な技術が使われているように見えてどこか乱雑に配置されており、そこに
科学的な機能美など存在しないように見える。
「どこって、機動六課だけど」
 シエルの話によると、この部屋は機動六課の空き室を利用して作った、即席のメンテナ
ンスルームらしい。ゼロの損傷度合いが酷いことを知ったはやてが、ツテのある先端技術
医療センターから機材を掻っ払い、もとい揃えてシエルに提供したのだという。はやてが
自分にそこまでしてくれたことに率直な驚きを憶えたゼロであるが、彼が訊きたいことは
他にも山のようにあった。
115名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:01:20 ID:XxW55qWC
寂しかったぜゼロ!
記念の支援だ!受け取れ!
116ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:02:33 ID:WtBeYXqs
「あれから何日が経った」
 あれからとは、即ち自分が負けてからという意味で、言葉を聞くシエルの表情は暗い。
彼女もやはり、ゼロの敗北がショックだったのだろう。誰よりもゼロを信じていたからこ
そ、その衝撃はゼロ本人より強い物だったかも知れない。
「五日間よ。戦闘が終結して、あなたがここに運ばれてから、それだけの時が過ぎた」
「五日、だと」
 それはゼロが想像していたよりも、ずっと長い時間だった。目覚めたばかりのためか、
体感時間というものがゼロはまだハッキリしていない。精々、長くても三日やそこらだろ
うと思っていただけに、五日間という日数はゼロを焦られるには十分だった。
「オメガは、他の連中はどうなった!」
 思わず声を荒げ、シエルの両肩を掴んでしまったゼロであるが、声の荒さと大きさにシ
エルが目を瞑って怯んでしまうと、途端に冷静さが復活する。
「……すまない」
 肩から手を離し、ゼロは宙を見上げた。まったく、らしくない。敗北が自身の精神を掻
き乱しているのだろうか? 今のゼロは明らかに冷静さを欠いており、感情は奇妙に高揚
していた。動揺や焦りが渦巻いており、不甲斐なさや情けなさに苛立ちと怒りがこみ上げ
てくるのだ。
「大丈夫、ゼロ?」
 まだ本調子ではないゼロを気遣うシエルであるが、彼は気遣いよりも情報を、現状につ
いての説明を求めていた。オメガとスカリエッティはどうなったのか、共に戦っていたは
ずのアギトやセインはどうしているのか、自分が五日間倒れていても、世界は動きを止め
てはくれないのだ。
 ゼロの疑問に対して、無論シエルは順序立てて説明するつもりだった。情報の重要度と
してはどれも同じであるが、シエルはあくまで管理局にとっては部外者であるから、用い
る情報の内容に関しては密度の濃さに違いがある。まず、アギトが無事であることをシエ
ルは告げた。今はセインが看ているそうで、六課の医務室にて療養中らしい。負傷具合が
それほど酷いものではなく、医務官であるシャマルの話では、ゼロが庇ったかららしい。
その点に関してゼロは明言しなかったが、シエルが続けた言葉に眉を顰めることになる。
「今の状態だと、ユニゾンは難しいって……無理にやると、彼女の身体が」
 快復しつつあるアギトであるが、完治にはほど遠いものであり、再びユニゾンを行うに
は尚も数ヵ月の療養が必要だという。彼女をそんな目に合わせた原因として、ゼロは責任
を感じずにはいられない。本人はさほど気にしておらず、むしろ敗北とゼロの力になれな
かったことに悔やみと歯痒さを憶えているようであるが、力及ばなかったのはすべてゼロ
の責任なのだ。少なくとも、本人はそう思っている。
「次に、スカリエッティたちについてだけど……」
 本題とも言える話に、ゼロの表情が鋭いものになる。自分の今いる場所が機動六課であ
るということは、未だ全面的な攻勢は行われていないのだろうか? オメガの力と勢いを
持ってすれば、ゼロを欠いた機動六課を壊滅させることなどわけもなかったはずだ。これ
は決して他者を軽視しているわけではなく、誰だっても今のオメガを止めることは出来な
いと、ゼロが確信しているからである。
「オメガの動きは、あれから全くない。多分スカリエッティのアジトにいるんだろうけど、
実はスカリエッティも表だっての動きは見せていないのよ」
「どういうことだ?」
 策略と策謀、そしてオメガという圧倒的破壊力を持って時空管理局を完敗せしめたスカ
リエッティであるが、彼はその強大な力を行使しようとはせず、一転して管理局相手に交
渉を始めたらしい。自分の有利で、相手にとっては不利だが要求を呑まざるをえない状況
を作り出し、狡猾にして悪辣とはまさにこのとこか。実際にどのような交渉が繰り返され
ているのかは、部外者であるシエルの耳には届かない。しかし、聞き及んだところによれ
ば交渉は難航しておらず、スカリエッティの前に管理局の上層部は完全に屈したらしい。
はやてを初めとした若手将校による抗議や抵抗が行われているそうだが、それも無視して
取引を断行するつもりだという。
117名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:03:37 ID:XxW55qWC
ゼロ4が手にはいらねぇ…
支援
118ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:04:25 ID:WtBeYXqs
「近々、管理局の監視下にあるナンバーズが解放されて、スカリエッティに引き渡される
そうよ」
「引き渡される方は迷惑極まりないだろうな」
 苦々しげに、ほとんど事実であろう言葉を発しながら、ゼロは現状という名の現実を噛
みしめていた。管理局がスカリエッティに屈したところで、それはゼロにとって関係ない
ことだ。情けないとは思うが、組織には組織の事情があるわけで、ましてや異世界の話だ。
そこまで干渉するつもりはないし、その資格もない。だが、自分がスカリエッティと事を
構えるに当たって、管理局まで敵に回すことになるのだとすれば、話はまた違ってくる。
はやては、その辺りのことをどう考えているのだろうか? 抗議をしていると言うことは、
上層部の意思や決定に不満があると言うことだが……そういえば。
「肝心なことを忘れていた。フェイトは、あいつはどうしている?」
 ゼロの問いは、本筋から離れたことで幾ばくかの固さが抜け、何気なささえあった。け
れど、それの問いに対するシエルの表情は哀しげで、気まずささえあった。訝しむゼロに
対し、シエルはゆっくりと口を開く。
「あの人は――」


 先の戦闘でフェイトが負った傷は、表面的に見れば思いのほか軽いものであった。意図
的に急所を外された攻撃は、鋭いが故に出血がそれほど多くはなく、少ないとは言えない
にしろ大事には至らなかった。駆けつけた救援部隊に救助され、病院へと搬送されたフェ
イトであるが、三日後には自宅療養に切り替えられるほどに快復しており、外傷に関して
だけいえばこの五日間でほぼ完治していた。だが、それはあくまで目に見える傷のことで
しかなく、フェイトが心に負ったとされる傷は、抉られ、刻み込まれた痛みは常人には計
り知れないものがあった。
「そう、なのはは向こうで元気にやってるんだ……」
 その日、病室状態となっているフェイトの自室に、友人にして幼馴染みのユーノ・スク
ライアが訪れていた。彼は早期の面会を希望していたが、フェイトが拒み、主治医である
シャマルが謝絶したのだ。意識を回復した当初、フェイトが重度の錯乱状態にあって、と
ても人と話せる状態ではなかったという。そんな保護者の姿を目の当たりにしてしまい、
エリオやキャロはショックを受けたというが、その二人を差し置いて先にユーノと面会し
たのは理由があった。彼は見舞いの品とは別にとあるものを持参しており、それは二人の
共通の友人にして親友、高町なのはからの手紙だった。ユーノに宛てて書かれてものを、
フェイトは彼に勧められて読むことにしたのだ。
「フェイトちゃんにもよろしく、か」
 養女であるヴィヴィオが地球での暮らしに慣れ始め、義理の親族であるなのはの親兄姉
を自身の家族として認識してきたことなどを書きつづりながら、日々の暮らしであったこ
とや、地球にいる共通の友人に関することなど、戦いや争いとは一切無縁な、平和な日常
がその手紙の中にはあった。手紙の最後に書かれたフェイトちゃんにもよろしくという一
文は、即ちなのはがフェイト宛には個別に手紙を出していないことを表している。自分が
ユーノ以上になのはの友人、親友であるとは思っていないにせよ、フェイトはそれがどこ
か寂しかった。もっとも、今の彼女には寂しがる資格すら、ないのかもしれないが。
「私、全然気付かなかった。ただ、なのはが帰ってきてくれた、私の元に戻ってきてくれ
たんだって、そう信じて、思い込んでた」
 高町なのはの姿を形取り、完全なる擬態を見せたナンバーズ二番ドゥーエ。誰一人気付
かれことなく、最後まで高町なのはであり続けた彼女の存在は機動六課全体に衝撃を与え
ていた。元々なのはと交流が少なかったゼロは仕方ないにしても、他の面々はそうではな
い。友人、戦友、教官と教え子、立場はそれぞれあるにせよ、誰もがなのはと交流を持ち、
彼女の仲間だったのだ。なのに、誰一人として正体を見破ることが出来なかった。
119名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:04:36 ID:XxW55qWC
どおりでZXの方がつおいわけだwwwwww
120ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:06:31 ID:WtBeYXqs
「もっと早く、気付くべきだった。彼女が私との同室を避けたとき、これ見よがしに左手
を使ったとき、レイジングハートの故障のことだって!」
 フェイトがドゥーエにとって受けた痛手は、深刻なものだった。他の仲間とフェイトに
違うところがあったとすれば、フェイトはなのはの親友だった。言葉にすると単純だが、
事実としては大きすぎる、揺るがしようのないもの。フェイトは親友の偽者に気付くこと
が出来ず、その手のひらの上で下手なダンスを踊らされてしまったのだ。終わってみれば、
滑稽では済まない屈辱がそこにはあった。
「もうダメだよ。私、もうなのはに会えない。会わせる顔がない」
 ドゥーエの能力が如何に優れており、完全な擬態を可能とするものだったといっても、
そんな事実はなんの慰めにもならなかった。フェイトがなのはの親友である時点で、彼女
は騙されてはいけない、騙されるはずがなかったのだ。でなければ、なにが親友かと嘲笑
されてしまうではないか。偽者と本物の区別も付かず、言い様に利用され、騙されて……
なのは本人だと思って話した話も、大切な自分の想いも、一笑された。
 手紙を握りしめるフェイトの手に、力が籠もる。ユーノにとってそれは大切なものであ
るのだが、咎める気分にはなれなかった。
「フェイト…………」
 こんなとき、自分はなんていえばいいのだろうか? 騒動の外で、怠惰的な毎日を送っ
ていた自分に、情欲で気分を紛らわせるだけだった愚かな人間が、どのような声を掛け、
言葉を紡げばいいというのか。忸怩たる思いを抱きながら、しかし、ユーノには明確な答
えが出せなかった。いつこうだ。言葉を掛けるべきときに、自分は一言も発することが出
来ないでいる。臆病な心がそれを拒んでしまう。なのはもまた、それを望んでいたはずな
のに。
 重苦しい空気が渦巻く部屋の前に、ゼロの姿があった。フェイトの見舞いに来たのだが、
室内の雰囲気を察して入室を躊躇っているのだ。なのはに擬態したドゥーエの件が発覚し
たのは彼が倒される前であったから、当然ゼロも事情は知っている。けれど、だからとい
ってゼロはこの件に関しては部外者に過ぎず、騙された馬鹿共の一人でしかなかった。
「ゼロ! もう大丈夫なの?」
 部屋の前に佇むという不審者さながらの行為をしていると、丁度傍を通りかかったセイ
ンが駆け寄ってきた。
「セインか……お前こそ、怪我はなかったか?」
「私はちょっとすりむいたぐらいだから大丈夫だけど、アギトさんが」
 人手が足りない時期であり、セインも看護要員として慣れない仕事に従事しているらし
い。セインは無意識というより自然にゼロへ抱きつきながら、こんなところでなにをして
いるのかと訊ね、答えを得るよりも早く部屋のネームプレートを見てしまう。
「……入らないの?」
「オレにも、掛けるべき言葉がない」
「顔ぐらい、見せて上げた方が良いよ。あの人も、ゼロのこと凄く心配してたから。さっ、
早く!」
 背中を押され、半ば無理やり部屋へと入るゼロ。扉にロックがされていなかったため、
ほとんど自動ドアのように開いてしまった。突然の入室にフェイトとユーノは驚いたが、
ゼロの姿を確認すると、フェイトの表情は幾ばくか柔らかいものになった。沈みきった陰
りが、消えることはなかったが。
「じゃあ、僕はこれで」
 ゼロの入室に、ユーノが席を立った。逃げるように、という形容の仕方が似合っている
が、事実として彼は逃げたのである。そんな自分に嫌気がさすものの、これ以上ここにい
たところでなんの役にも立てないだろう。唯一の救いは、フェイトがユーノの行動を見て、
気を利かせてくれたのだと勘違いしたことであったろうが、ユーノの見送りと称して自身
は入室しなかったセインも同じように感じていたので、臆病者の弱虫が露見することはな
かった。
 室内に残された二人、ゼロとフェイトは無言のときを過ごしていた。お互いに傷つき、
そして倒れた。大丈夫かと訊くのも妙であったし、心身におったであろう傷は誰よりも深
い。まあ、ゼロにいわせれば彼に心など存在しないのだが。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:07:09 ID:XxW55qWC
支援
122ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:08:37 ID:WtBeYXqs
「ゼロ……こっちへ来て」
 小さな声で、フェイトはゼロを呼んだ。ゼロはその声に従い、ベッドに寄り掛かるよう
にフェイトへ身体を近づける。そして、彼女はそんな彼の身体を、とても弱々しい力で抱
きしめた。突然のことに驚きを憶えるゼロであったが、突き放すことなど出来なかった。
フェイトは、彼に身体と顔を押しつけながら、泣いていたのだ。
 ゼロを抱きしめるフェイトの腕は、彼が思っていたよりもはるかに細く、触れれば折れ
砕けそうなほどに脆かった。彼女は魔導師であり戦士であると同時に、一人の少女だった
のだ。ゼロは、今更ながらにそれを痛感していた。
「私は自分が魔導師として再び戦うことを知ってる。けど、今すぐには無理。だから少し
だけ、貴方の胸の中で……」

 泣いて、いいですか?

 涙を流して縋り付くフェイトを、ゼロはそっと抱き返した。英雄だなんだといわれても、
実際には傷ついた女の子一人慰めることもでない。ゼロはまたしても、自分の無力さを噛
みしめることになった。


 さて、一方完全なる勝利者として凱旋したはずのスカリエッティであるが、彼の居城た
る時の庭園は不気味なほどの静けさを保っていた。庭園の大きさに比べて元々の居住者が
極端に少ないため、戦傷パーティが開かれることもなければ、それぞれが独自の空間を作
ってそこに籠もるという事態に発展していた。無論、先に帰還していたスカリエッティは
勝者であるオメガの帰還を労い、祝いの席を用意しても良いといったのだが、オメガは不
機嫌そうな表情で一瞥すると、そのまま適当な空き部屋に引っ込んでしまった。メンテナ
ンスシステムでの整備を薦めるスカリエッティを無視し、その気迫にスカリエッティが強
制するのを断念したほどだった。さすがに戦勝を労う相手に斬り掛かるほど理不尽な真似
はしてこなかったが、オメガはなにがそこまで気に食わないのか、触れれば激発しそうな
怒気を発していたのだ。
 そんなオメガと共に帰還したギンガ・ナカジマであるが、彼女もまた言葉少なめに、食
堂から1ダースの酒瓶を掻っ払うとそのままオメガの後を追って彼の私室へと入り込んで
しまった。ルーテシアは目を丸くしたが、スカリエッティは特に気にした風もなく、それ
を放置した。ギンガに対する関心が、彼は著しく薄いのだ。
 オメガは当初、この自分の傍に身を置こうとする女に不快気な視線を向けていたが、実
力で排除する気分にもなれなかったのか、アルコール臭の漂う室内でなにをするわけでも
なくジッとしていた。ギンガはそんな彼を観察しながら、やはりなにか言葉を発するわけ
でもなく、無言のときが二日ほど続いた。二日目になって、さすがのオメガも自分を観察
し続ける女の存在に煩わしさを感じたのか、不快でしかないアルコールの臭気を振り払い
ながら口を開いた。
「女、お前はそこでなにをしている」
 テーブルに酒瓶を並べて、椅子に腰掛けながら飲み続ける女。一般的には少女という年
齢でも通用するのだろうが、オメガの価値観からすると目の前にいるのは女でしかなく、
少女などという可愛らしい′`容詞を使う存在ではなかった。その可愛らしくない
女と思われているギンガは、オメガの問いに対してタンブラーをつかみかけていた手を止
める。
「別に、なにもしてないわよ」
 酒をかっ食らっているだけだとでも言いたげな声に、オメガは更に不快感を刺激された
らしい。近くに転がっていた空き瓶をつかむと、凄まじい勢いを持ってギンガの顔に投げ
つける。普通の人間であれば血と肉の塊となって原形すらとどめないであろう一撃を、し
かし、ギンガは片手で払いのけた。女に振られた空き瓶は、不本意にも床と接吻して砕け
散る末路を辿った。
123ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:10:46 ID:WtBeYXqs
「我の前から失せろ」
「イヤよ。一人でいてもつまらないもの」
「我はお前といても面白くない」
 低俗な、オメガとしては信じられないほど低次元の会話だった。ケラケラと笑う女の顔
に、オメガは顔を背ける。自分が女如きに弄ばれているのが気に食わないのか、それとも
自分に近づこうとする女の存在を拒んでいるのか、それは定かではない。
「面白いとか面白くないとか、それは貴方の都合でしょ? 私は貴方に興味と関心を持っ
ている」
「迷惑だ」
「つれないわね、こんな美人が心にもないこと言ってるのに」
「殺されたいのか、貴様」
 確かに女の容姿は、美しいと自画自賛するだけのことはある。けれど、だからどうだと
いうのだ。ゼロと違ってオメガは幾分か女の容姿や美しさ、体付きなどに関心は持ってい
るのだが、彼の趣味はいささか特殊だったので、目の前にいる女に興味を抱けなかったの
だ。
「消えるか、それとも我に壊されるか。好きな方を選べ」
 大体、この女は何者なのか。成り行きで共に行動していたが、よくよく考えればオメガ
は女の名前すら知らなかった。名乗られた気もしたが、特に気にも止めなかったし、どう
して自分にまとわりついてくるのか、理解できない。女にまとわりつかれるのは初めての
経験ではないが、あれは、あの二人は女と言うよりはむしろ……
「貴方に私は壊せないわよ」
 感傷に浸りつつあったオメガに、挑発的な声が響き渡る。自嘲気味な笑みを浮かべなが
ら、女がオメガを見つめている。その奇妙な自信に満ちた表情に、初めてオメガは女に対
する関心を抱いた。無論それは、負の感情でしかなかったが。
「どういう意味だ?」
 短く問いかけながら、オメガはゆっくりと女に向かって近づいていく。女は動じず、怯
えた風もなく椅子に腰掛けながら、オメガが自身の眼前に来ても微動だにしなかった。
「そのままの意味。貴方に私は壊せない」
「我に破壊できぬものなどない。人であろうと、物であろうと」
「無理ね、貴方が破壊者だろうが救世主だろうと、私は……」
 言い終わる前に、ギンガはオメガに殴り飛ばされた。防御する間もなく、ギンガは床に
叩き付けられる。オメガはギンガにのし掛かると、その首を締め上げた。
「ほざくなよ、小娘が。誰に向かって口を利いて」
 ギリギリと首を締め上げていたオメガだが、無抵抗のギンガの表情に違和感を憶えて、
僅かにその力を弱めてしまう。ギンガは力任せに腕を払いのけると、荒い息を吐きとほと
んど酒の液体を吐き散らしながら、オメガを見据える。
「貴様……まさか」
「あら、気付いたみたいね。さすがの貴方も、私は壊せないってことを。だって、私は」
 元から、壊れてるんだから。
 自嘲という名の嘲笑を上げるギンガは、まさに壊れきった存在そのものだった。如何に
オメガが破壊者であっても、既に壊れきった者を再度壊すことは出来ない。ギンガは瞳は
どす黒く、常人には見透かすことも出来ないほどの深みがあった。この娘が抱え込んでい
るものは相当なものだと、直感によってオメガは悟っていた。しかし、今はそれに対する
興味や関心よりも、上回るものがあった。
「舐めるなよ、女」
 オメガの口調が変わった。戦闘を行うときとはまた違う、なにかを楽しむような声の高
さ。その変化を察したのか、ギンガは訝しげな表情を作る。
「女、名前を訊こうか」
「……ギンガよ」
 性を名乗らなかったのは、彼女がその性を捨てたからであり、オメガもそこを追求はし
なかった。彼としては、呼び名があった方が便利だから訊いたに過ぎない。
「ギンガ、貴様は一つ勘違いをしている」
 言いながら、オメガは組み伏せたギンガの右足を持ち上げる。
124ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:12:51 ID:WtBeYXqs
「勘違い……? ひゃっ!?」
 渇きとは無縁の水気が大いに含まれた舌が、ギンガの太股を舐め上げる。経験がないわ
けではないにしろ、ギンガはそのあからさまな舌の動きに身をよじり、逃げようとする。
「な、なにするのよ!」
 しかし、強烈なオメガの力に押さえつけられたとあっては容易に逃げ出せるわけもなく、
自分でも吐き気がするほど情けない声をギンガは出してしまう。オメガは太股を重点的に
舐めあげながら、視線だけをギンガに向けている。
「我を見くびった報いを受けろ」
 短く呟くと、オメガは舐め上げた太股にかぶりついた。いや、噛み付いたという表現が
妥当か、彼は一切の躊躇もなく、まるで猟犬が獲物の食らい付くかの如く自然な形で、ギ
ンガの肌に自身のキバを食い込ませたのだ。

 悲鳴を超えた絶叫が、室内に響いた。

 室内は防音であり、他の住人たちとは居住している階層が違う。ギンガが悲鳴を上げよ
うが叫ぼうが、その声が外に漏れることも、他者に聴かれることもなかった。
「悪くない味だ。少し、酒臭いが」
 食らい付いた太股から口を離し、唇に付着したギンガの血を舐めるオメガ。一方で猟犬
のキバから解放されたギンガの太股は、文字通り獣に噛み付かれたかのような跡を残しな
がら血を流していた。
「……痛っ」
 半ば涙目になりながら、強い瞳をオメガに向けるギンガ。なかなかに肝の据わった娘だ
と思いながら、オメガは傷ついた彼女の太股を再び舐め上げる。
「痛っ! ちょっと、いい加減にしなさいよ!」
「自分の持ち物に目印を付けるのは、子供ですらやることだ」
「キスマークってわけ? 随分荒々しいやり方もあったものね。第一、いつ私が貴方のも
のなんかに……」
 言葉を吐き出そうとして、ギンガは頬を殴り飛ばされた。脳が揺れて、意識が吹き飛び
そうになる。オメガの視線は、冷徹なほど鋭く、一切の抵抗を彼女に許してはいなかった。
「いい加減に黙るのは貴様だ。もっとも、一時間しないうちに貴様は満足な言葉を発する
ことも出来なくなるだろうがな」
 オメガは凶暴なる眼光でギンガを貫くと、そのまま彼女の身体をむさぼり始めた。


 三時間後、太股の辺りから血を流しながら、足を引きずり歩くギンガがルーテシアに発
見された。ルーテシアは驚き、そしてなんらかの感情に動かされたのか、拒むギンガを医
務室へと連れて行った。
「酷いね、これ」
 消毒液を浸したガーゼを押し当てながら、ルーテシアが小さく呟いた。なにをどうすれ
ばこんな怪我をするのか、彼女には想像も出来なかった。
「ねぇ、染みるんだけど」
「だって、薬だし」
「痛いんだけど」
「大人なんだから我慢して」
 どうしてこのような傷を負ったのか、ルーテシアは訊ねてみようかと思ったのだが、ば
つの悪そうなギンガの表情を見ると訊くのも躊躇われた。頬が上気しており、軽い興奮状
態にあるようである。
125名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:14:07 ID:XxW55qWC
やりたい放題だなスカ。
そして氏よ。最初あたりの「メンテナンス用の」を読み返してみよう。
すごいことになってるぞwww
126ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:15:03 ID:WtBeYXqs
「そういえば、なんで貴女はこんなところにいるのよ」
「……暇だから」
「貴女のスカリエッティはどうしたのよ?」
 質問に、今度はルーテシアがばつが悪そうに顔を背けてしまう。なにかあったようだが、
ギンガはルーテシアと違って躊躇いもなく核心に踏み込んだ。
「あぁ、ドゥーエとかいうのと一緒なんだ」
「――っ!」
「それで? 気を訊かせたルーテシアちゃんは席を外してるの?」
 面白おかしく言葉を繋げるギンガに、ルーテシアの表情が見る見る赤くなっていく。羞
恥か、それとも怒りか、悔しささえ滲ませた表情を向けていた。
「ドクターが誰となにしようと、それはドクターの自由。私がとやかく言うことじゃ」
「あらあら、大人だこと」
「ば、馬鹿にしないで!」
 抗議の声を上げる少女の初々しさに、自分にもこんな時期があったのだろうかと考え、
そんなはずあるわけもないとギンガは自嘲した。ルーテシアはスカリエッティとドゥーエ
の間に、そういう関係≠ェあるのではないかと疑っているようだが、ギンガとしてはあ
の二人が籠もってなにかをしているという事実に胡散臭さを感じていた。
「馬鹿になんてしてないわよ。ただ、自分のものにしたい奴がいるなら綺麗事言ってない
で、常に離さないことね。まあ、あんな奴のどこが良いのかは私には判らないけど」
「……他人にドクターの良さを分かって貰おうとは思わない」
 自分自身、なにが良いのかよく判っていないのだから。恋とか愛を実感する前に、関係
だけを先行させてしまったがための弊害だった。感情と勢いに任せすぎたのだろうと思う
が、それは今更の話だった。
「まあ、いいけどね。大した忠告でもないし」
 ギンガは包帯を巻いた足を見ながら、痛みを無視して立ち上がった。ルーテシアは不機
嫌そうな表情をしていたが、ふとなにを思ったかギンガを呼び止める。
「待って」
「まだなにか用?」
 痛んでいるのは決して太股だけではないから、それを隠すのにギンガは必死だった。く
だらない説教など垂れたのも、ルーテシアの意識をそちらに向けないためだった。
「これ、使えば」
 ルーテシアが自分が足に着けている足飾りを、ギンガに指しだした。包帯が取れても、
おそらくギンガの太股にはしばらく跡が残るだろう。いつまでも包帯で隠すわけにもいか
ないし、かといって放置するには目立ちすぎる。なににやられたのかは知らないが、女と
して人目にさらせる傷ではないはずだ。
「……ありがと。それに、手当もしてくれて」
 どういたしまして、とルーテシアは言わなかった。必要性を感じなかったからであるが、
それとは別にギンガの言った忠告とやらを考えていたからである。ギンガの言葉は軽口で
あったにせよ、ルーテシアが耳を傾けるだけのものではあったらしい。可愛い娘だと、そ
う思いながらギンガは医務室を後にした。成り行きでこんなことになってしまったが、そ
う悪い気分ではない。とりあえず酒でも飲んで、どうするかはその後に考えよう。

127名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:16:52 ID:XxW55qWC
最近18禁傾向多いなぁ…
いや、いいぞ、もっとやれ。
ただし本質は見失わずに。
128ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:17:31 ID:WtBeYXqs
 当然のことながら、この頃のスカリエッティとドゥーエの間に肉体関係があったかどう
かを記す史書は後世に残されていない。スカリエッティ自身は否定も肯定もしなかったそ
うだが、それがヤキモチを焼くルーテシアを見て楽しむための嘘であったかどうかも、ハ
ッキリとしていないのが事実である。判っているのは完勝に近い形で管理局を叩きのめし
て以降、スカリエッティは帰還したドゥーエと行動を共にし、自室で連日連夜なんらかの
密談を繰り返しているということだった。
「管理局はほとんど無条件に私の要求を呑むそうだ。我々の工作が功を奏したということ
だよ」
「情けないですね、管理局も」
「そのほうが我々としては楽だけどね。なんでも若手将校を中心に抗議が行われているよ
うだが、上層部は聞き入れないだろう。最高評議会亡き後、責任を取るのは彼らになるの
だから、自己保身を図りたい気持ちもわかる」
「組織のため、という逃げ道もありますしね」
 このように、二人の間に交わされる会話は散文的なことこの上なかった。二人のときを
過ごすといっても様々なものであり、感性が近い二人の会話ほど面白味に欠けるものはな
い。もっとも、面白味に欠けるというのは第三者たる聞き手の意見であって、二人として
は十分にお互いの話を楽しんではいるようである。
「どちらにせよ、後少しだ。後少しで私の夢は叶う」
 手の中にある小箱を弄びながら、スカリエッティは意味ありげに呟いた。ドゥーエはそ
んなスカリエッティに、同じく意味ありげな視線を向ける。
「夢を、叶えるつもりですか?」
 質問は、ドゥーエが彼の夢を知っているからこそ出来たもの。口調から、彼女が彼の夢
に必ずしも賛同して異な事が窺える気もするが、あるいは興味の無さの表れだったかも知
れない。
「……ギリギリまでは自分でなんとかしてみようとは思うんだがね。それで無理だったら、
私は自分の夢に賭けてみるしかない」
「まあ、私はどんな結果であろうとドクターに従いますけど……それにしても、長かった
ですねぇ」
 感慨深げに言葉を漏らすドゥーエと、それに頷くスカリエッティ。まったく、ここまで
来るのにどれだけの時間と労力を有したか。思い返すのも馬鹿馬鹿しいが、考えずにはい
られなかった。
「管理局から連絡が着た。明後日、ナンバーズの引き渡しを行うそうだ」
「交渉開始から一週間、早いですね」
「向こうも早く片付けたいのだろう。引き延ばしたところで、私の握っているデータを削
除できるわけもないのだから」
 問題があるとすれば、解放されるナンバーズが素直にスカリエッティの元へと戻ってく
るかどうかだが、それに関しては「希望する者はともかく、拒む者は赦免状の発行をした
後に自由の身へするように」と管理局に言い伝えてある。どうせ戻ってくるのは一人だけ
だろうし、その辺りに関してはスカリエッティも弁えているつもりだった。
「自由か……ドゥーエ、君はもし私がお役御免だといったらどうする?」
「死にますね」
「過激な意見だ」
「私の意見はドクターのそれと同じだと言うことを、お忘れなきように」
 その通りだと、スカリエッティは頷いた。

129名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:18:41 ID:XxW55qWC
そういやラーニングしたISはどうなってるんだ?
支援
130ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:19:39 ID:WtBeYXqs
 スカリエッティの言うとおり、時空管理局の上層部は彼の脅しとも言える要求を前に完
全に膝を屈して、受け入れる方向で事を運ばせつつあった。事態を知った若手将校、中で
も三提督と以前から交流のあった機動六課総隊長八神はやての抗議は猛烈なものであった
が、三提督は煩わしげにそれを一蹴した。
『スカリエッティは管理局を根底から揺るがす情報を握っている。これを無視して彼の逮
捕に踏み切れば、管理局が崩壊してしまう』
「しかし、奴が約束を守る保証など、どこにもないではありませんか!」
『信じるしかないだろうな。犯罪者を信じるというのもおかしな話だが、他に方法もない。
第一、奴が約束を破ればそのときは我々による容赦ない復讐が待っているのだから、奴と
て自分のみを滅ぼすような真似はすまい』
 楽観的すぎる、そう思いながらもはやては真剣に抗議を続けた。スカリエッティのこと
である、自身の身が絶対に安全となった時点で情報を暴露し、管理局が手も足も出させぬ
ままその崩壊の途上を見守る程度のことは考えているかも知れない。いや、まず間違いな
くそのような手段を執るはずだ。
『これはもう決まったことなのだ。その場しのぎであるといわれようが、最高評議会が消
滅した今、時空管理局と多次元世界の秩序を守る義務が我々にはある』
「提督!」
『八神はやて准将、貴官は所詮一部隊を指揮する将官でしかない。それを個人的な繋がり
があるからといって、局の重鎮たる我々意見するとは、公私混同も甚だしいのではないか
な?』
 有無を言わせぬ口調で、三提督は一方的に通信を切った。妥協する気も、意見に耳を傾
けるつもりも、まったくない。はやては怒り任せにデスクを叩くが、そうしたところで分
からず屋どもが考え直すことはないのだ。
「はやてちゃん……」
 心配そうにリインが見つめるも、はやてはそれから十分あまり一言も言葉を発しなかっ
た。ジッと考え、この状況においてなにが最善なのか、自分になにが出来るのか、それだ
けをただひたすらに考えていた。
「なぁ、リイン」
 しばらくして、ふいにはやてが口を開いた。
「なんですか、はやてちゃん?」
「お前、私が明日からニートになったら、どうする?」
「……就職活動をお勧めしますけど、それがなにか?」
「いや、まあ、色々とな」
 言いながら、はやてはデスクの引き出しを開けて奥の方にあった便箋を取り出した。一
通、手紙を書かなくてはいけない。それに電話も。動くときが来たのだ。上からの命令に
回れ右をするだけの日々は、これで終わりにしよう。
「ここから先は、自分の足で歩く。私は今、そう決めた」
 手紙を書き出すはやて。懐かしき人に送る手紙は、はやての決意の表れだった。
 世界は動く。人々の意思に関係ないこともあれば、動かすために力を振り絞る人間もい
る。はやてがこのとき取った選択は、後の世を揺るがす最大の事件となって、後世に語り
継がれることとなる。

                                つづく
131名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:20:51 ID:XxW55qWC
スカ家にはロクデモない奴等がいっぱいwwww
支援
132名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:25:11 ID:XxW55qWC
終了宣言カモン
133ロクゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/07(月) 01:27:42 ID:8NfQteSt
第16話です。
いやー、お久しぶりというかなんというか、これ以上筆力が落ちるのはまずい気が
したので復活してみました。
案の定、指摘があったとおり誤字脱字が多いですね。やれやれだ。
後10話ぐらいで完結できればいいなと思っているので今月からボチボチと書き進めます。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
134名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:32:34 ID:ph7ZXiKX
乙っした!
続きをたのしみに待ってます
135名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:32:56 ID:SmWa0xho
お帰りなさい! 待ってました。
ゼロ… フェイトそん……
なのははもう帰ってこないんでしょうか…
傷心に浸ってたら…ちょwww引きこもりオメガ自重www
でも彼によっこらセックスされて傷を負う程度で済んでるギンガもすごいっすね
136名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:43:20 ID:Go2Er82s
ゼロ氏GJ!
飯屋自重www
なんだかんだではやてが独立は珍しい?
137名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:45:24 ID:XxW55qWC
お久しブリーフ&GJ!
…ほんっとボロッボロだな管理局側。
しかしやられたら倍以上に返すのが英雄!
負けるなゼロ!おまえは一人ではない!

そしてスカ側の甘くて濃厚な出来事にwktkする自分ガイル。
オメガの特殊な趣味とか女に対する思いが気になってしまうwwww
フラグが立っても持ち前の鈍感で破談にさせたのはいくつやら…
人格はレプリカの方に移ったけど、記憶はそのまんまなんですかねぇ?
次回にwktk
138名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 01:50:36 ID:kE1cv0z6
ゼロの一乙
エックス冷たいなw
139名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 02:46:55 ID:oqH9oDSO
ゼロ氏お久しぶり&乙です。
しかしず欝で容赦がないですな……光が見えない。
誰か、ゼロフェイに希望の光を与えてくれよよ……。
少々意味が違いますが、漫画版X3のシグマの台詞が浮かびます。

「休ません!一片の勝機もあたえん!」

マザーエルフこう言う時に力を貸してよマザーエルフ。
でもゼロ氏のテイストを考えるとそれは望み薄でしょうか?

そしてエックスもピシャリ……お前もまた少しは働け!www
140名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 03:14:43 ID:GVO4nALx
>>137
自分のレス抽出して見直せ
此処はニコじゃねえぞ見苦しい
141名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 06:01:27 ID:npD9yaeV
>>140
142名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 06:37:29 ID:7UxzVAXi
スカさん側がエロイつーか昼ドラだww
しかしお久しぶりぶりGJ!
143名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 07:14:49 ID:DOT5mcte
>>140
こりゃ凄い

「XxW55qWC」の検索結果:
>>106
>>107
>>111
>>112
>>115
>>117
>>119
>>121
>>125
>>127
>>129
>>131
>>132
>>137
144名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 07:44:30 ID:hDCX+H8P
なぜだ、何故誰も突っ込まない。いや、オメガは突っ込んでるが・・・・・・。

レプリロイドに生殖能力なんてありましたっけ?

まぁ、漫画版X読んでないからそっちの設定なのかもしれませんが。



そしてヘヴィな空気。しかも内容がとことん暗い。悪いという意味ではなく。ただ作風がまるで違うなぁと思うくらい。


てかエックス冷たいよ! 謎めいた言動が得意なのは知ってるけど、にしても口調とか冷たすぎるよ!



ていうわけで、GJでした!ww
145名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 09:00:26 ID:hDCX+H8P
>>143
まさかたった一人の信者によるものとは・・・・・・。


こんなことしても氏は喜ばんだろうに。
146名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 09:10:45 ID:mmaWkMY5
大半が支援でやっているからたいした事じゃないんでは。
147名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 09:41:11 ID:7YqKR1RY
むしろ支援を控えろという>145が何を言いたいのかわからん
148名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 09:49:28 ID:thsooHga
両氏とも乙でした。

バイドの正体がバレましたが、クロス世界観の場合は通説よりシンプルな仮説が成り立つんですよねぇ。

過去に滅んだ文明の破棄したロストギアと考えた方が、未来から時を遡って現れたとするよりわかりやすい。
地球人類と共通するDNAなんて次元世界にはありふれている訳ですし。

さて、スバル達のコピー?とか地球軍がトンデモ化してきましたが、本当にオリジナルをR戦闘機にのっけたのかも含め、今後の展開が楽しみにしてます。

149名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 09:59:32 ID:8wudkDLw
支援レスにまで信者とか言って難癖をつけるのか……

まあ、なにはともあれお久しぶりのお疲れ様です。
かれこれ2〜3ヶ月ぶりなのかな。はやいものです。
150名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 10:08:44 ID:mmaWkMY5
まあ、ちとはしゃぎ過ぎであったやもしれんが。
151名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 10:10:47 ID:2Q/+eWps
>>145
ありがとう、お前がさるさんが発生しないシステムをすぐにでもあげてくれるのだろう?

まぁ、何にせよ、さるさん回避をさせてくれると、言外に言ったお前に期待させてもらうよ
152名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 10:28:20 ID:8wudkDLw
とりあえず久々に投下してくれたんだし、揉めることなく感想書こうぜ。
153名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 11:07:13 ID:leCoEgU3
ゼロ氏乙です
154名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 13:16:21 ID:Uu20epqY
遅ればせながら、ゼロ氏GJでありました!

・相変わらず要所での登場となるエックス(なのは組との邂逅もあるかな?)、
・一命は取り留めたものの、戦力的にも精神的にも前作以上の苦境に立たされたゼロとフェイト、
・九割九分九厘以上「勝ち」の立場にあるものの、「二つの諸刃の剣」を抱えているスカ博士(SさんやAさんの二の舞臭が・・・)、
・色々な意味で「底の知れない面」を見せるオメガ(オリジナルボディ・・・とんでもなさ過ぎます)、
・地獄兄弟や柳生妖火(マイナー過ぎるか・・・?)も真っ青なくらい、どこまでも堕ちていくギンガ、
・「スカ一味の良心(&清涼剤)」のポジションを確立しつつあるルールー、
・またもや「動かなかったツケ」を払う羽目となり、そして今回も動かず「逃げ」の選択肢を選んで
 着実にキング・オブ・ヘタレ(by君のぞドラマCD)道を歩みつつあるユーノ(巻き返しはあるのか!?)、
・「ナンバーズ表舞台入りフラグ」のためとはいえ、「保身」に目がくらみ、最悪の選択肢を選んでしまった管理局(の三提督)、
・ついに管理局を「(黒キャラになってでも)のし上がるべき組織」から「叩き直すべき組織」と切り替えたはやて(まさに反撃の烽火か)、

・・・などなど、今回も見所と魅力満載でしたよ。次回以降も焦らずワクワクしながら待っております。
155名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 14:15:42 ID:VLDzwHbP
>>148
何、生態ユニットが駄目なら普通にパイロットぶちこめばいいじゃない
ほら都合よく何か負傷してる輩もいるしさHAHAHA
とにかく死亡フラグだ、死亡フラグをたてろ!

そんなことよりおなかがすいたのでバイ丼食べよう
156名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 17:42:55 ID:2L6Rxw+1
ティアナってさ、特定のR戦闘機に殺されそうな気がする
157名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 18:26:37 ID:hDCX+H8P
>>149
すまん、そんなつもりではなかった。


支援レスが大半だったのを忘れていた。
158名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 19:10:40 ID:cHf0M3gs
>>156
確保された時は地球側がデコイ作成能力を高く評価してたからあの時は、ティアナ、パパンみたいにR戦闘機にされてしまうん?
とか思った。
159シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 19:33:24 ID:CFeQwjbs
こんにちは。
第2話を書いたので、2000時頃投下したいと思いますが、いいですかな?
160名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 19:47:07 ID:Uonqqt87
支援
161シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:04:53 ID:CFeQwjbs
それでは時間になりましたので投下したいとおもいます。
162シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:05:34 ID:CFeQwjbs

「マクロスなのは」

第2話 『襲撃』


アルトは開けられない窓から下界を見渡す。
ここはあの高層ビル内部の診療所だ。コンサート終了後すぐにアルト達は、検疫のためここに連れて
来られていた。
検疫の重要性はアルト達アストロノーツ(宇宙移民者)ならば常識だ。たとえその星が地球とまったく同
じような奇跡の星≠ナも、彼らは簡単に宇宙服を脱がない。それはこの星でも例外ではなかった。
アルト達はVF−25に乗っている間に厳重な大気の検査などを実行していた。
結果的にインフルエンザウィルス≠ニいう過去に撲滅されたウィルスの存在が確認されたが、抗体
の生成など予防策は万全だった。
下界には今あまり人はいない。暴動をしていたと思われる群衆は解散したようだった。しかしアルトに
は引っ掛かることがあった。
(よく見えなかったが、人が何にも着けずに飛んでたような・・・・・・)
そんな悪い夢でも見たような感覚に取りつかれていた。だがその悶々とした感覚は、背後のドアが開い
たことで打ち消された。
「あっ、アルトくん」
「…いよぉ、大丈夫だったか?」
ランカは頷くと、枝のように細い腕に付けられたガーゼを見せた。
「血液検査だけだっただからね。アルトくんも?」
「ああ。しかしここはどこな─────」
アルトが言おうとした時、閉鎖されていたドアが開き、2人の女性が現れた。制服だから堅苦しいかと思
いきや、2人共優しい物腰だ。比較的ルーズな軍隊らしい。
それに防護服を着ていない所を見ると、彼らにとっても血液検査はシロ≠セったようだ。
「こんにちは。私は時空管理局地上本部、地上部隊所属の八神はやて二等陸佐です。」
「同じく、高町なのは一等空尉です。」
そう挨拶する2人に、アルトは挨拶を返す。
「俺は惑星『フロンティア』の民間軍事プロバイダ『SMS』所属の早乙女アルト中尉だ。彼女の方は・・・
まぁ知ってるよな?」
ランカとシェリルは、今やギャラクシーネットワークの音楽ヒットチャートの連続1位という記録を伸ばし
続けている。
だからどんな辺境の惑星でも噂ぐらいは聞いているはずだ。ましてはこれ程整備された都市なら知ら
ぬはずはない。しかし2人は迷いなく頭(かぶり)を振った。
「ごめんな。ちょっと私らの記憶にはないなぁ。だってこんなにかわいい子を忘れるはずあらへんもん。」
どこか関西弁の混じった、ショートカットの茶髪に2種の髪止めが似合っている八神はやてと名乗った
少女が言う。
悪意もないし、嘘はついていないようなので、本当に知らないようだった。
ランカは相手が自分を知らぬことに気を悪くした風もなく、名乗った。
「私はベクタープロモーション所属の歌手、ランカ・リーです。さっきはみんな、どうして新曲でもないの
に喜んでくれたのか、やっとわかりました。」
彼女は笑みを浮かべて今は誰もいない窓の外を示した。
163シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:09:04 ID:CFeQwjbs
「・・・・・・まぁ自己紹介も済んだところで本題なんだが、ここはどこだ? おそらく入植して20年は下ら
ないと思うが。」
アルトが街並みを眺めて言う。アルトは5カ月前に、SMSの出張で惑星エデンのニューエドワーズと
いう新・統合軍の基地に行っていた。そしてこの窓から見える街並みは、入植から40年を経ているエデ
ンのそれより洗練されて見えた。
「20年? 歴史書によると、もう2000年以上前から暮らしていたはずだよ。」
麗しい長い栗色の髪を左に束ねた高町なのはという少女のセリフに、更に混乱するアルト。
フォールド航法によって銀河大航海時代と呼ばれる時代が始まってからまだ50年ほどしか経ってい
ない。2000年というのは時間的にあり得ないはずだった。
(となると惑星『ゾラ』みたいな非地球人類種か・・・・・・)
それならばフォールド技術がない事も、ランカを知らぬ事も説明がつく。
しかしはやてとなのはは違う結論を出したようだった。
「やっぱり2人とも次元漂流者みたいだね。」などと結論を出している。
「次元漂流者って何なんだ?・・・いや、まずここの銀河絶対座標を教えてくれ。地球に救難信号を送
るから。」
アルトのセリフに、なのははやっぱりという顔をし、はやては落ち着かせるように答えた。
「驚かないで聞いてや。この星は太陽系、第3惑星地球≠ネんや。」
はやての答えに絶句する2人。そこになのははトドメをさす。
「多分2人とも、他の次元世界(パラレルワールド)から来たんだよ。」
2人の説明によると、つまりはこういうことらしかった。
・この世界には次元世界(パラレルワールド)が存在していて、自分達は何らかの事故によって次元の
壁を乗り越え、この世界に迷いこんでしまったこと。
・彼女達の所属する時空管理局は、次元世界の平和維持のために組織された軍・警察組織で、100
年近く前からその職務を続けていること。
・この世界には魔法&カ明が発達していること。
「ちょっと待て、魔法だと!?」
しかし信じざるを得なかった。目の前で飛行されたりすれば・・・・・・
だがその魔法もテクノロジーに支えられたものと知ったので、2人の理解は早かった。なぜなら元より
OTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス)という昔の人が見たら十分魔法に見える技術を持ってい
たためであった。
164シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:13:05 ID:CFeQwjbs



「・・・・・・まぁ、とりあえずここは俺達の地球じゃないんだな?」
アルトの確認になのはが頷く。
「じゃあ、お前達の地球はどうなんだ?」
「うーん・・・私達の地球でもあんな飛行機はなかったなぁ・・・」
この時空管理局本部ビルの置かれている第1管理世界ではなく第97管理外世界出身のなのはが、外
に駐機してあるVF−25を見ながら首をかしげる。隣に座るはやても覚えは無いようだ。
「それじゃあここや、そっちの地球の新・統合政府はどんな政策を?」
「は? なにそれ?」
はやてとなのはの声が見事にハモる。
知らないことに一番驚いたのはアルトやランカだった。アルト達の世界では統合政府の運営する統合
軍なしではやっていけない。それは生きるためには物を食べなければならない。という真理にも近いも
のだった。
「1999年に落下したASS(エイリアンズ・スター・シップ)−01(後の初代マクロス)の技術を巡る戦争
で、当時の世界各国が統合されてできた世界政府の後身だ。2009年に起こった第一次星間戦争で、
ゼントラーディが加わった中央政府なんだが・・・・・・」
アルトの説明に更に首を捻るなのは。
「えいえすえすわん?ぜんとらーでぃ?・・・・・・まぁ私達の世界は今2009年だけど、私達の住んでた
日本って国は64年間そんな大きな戦争はしてなかったよ。」
なのはは答えるが、その64年前に起こった太平洋戦争について彼女はよく知らなかった(戦争相手国
が、アメリカ合衆国であることすら知らなかった)。
そのため彼女の近所に住んでいた老夫婦が、4年前なのはが帰省した際に「今年で終戦から60周
年。」と、喜んでいたことの受け売りに過ぎなかったのだが、日本という単語を聞いたアルトの反応は
激烈だった。
「ニホン? ニホンってあの歌舞伎のある日本≠ゥ!?それに2009年から64年前の戦争って太
平洋戦争のことか!?」
「そっ、そうだけど・・・」
「なんや、知っとるんかいな?」
たじろぐなのはの代わりにはやてが聞く。
「太平洋戦争は今なお語り継がれる伝説だ。」
彼からすれば太平洋戦争はすでに100年以上前の出来事。それらはもう歌舞伎の演目としての体を
確立していた。例えば真珠湾奇襲を描いた『ニイタカヤマノボレ』や、硫黄島での玉砕を描いた『日本皇
国に栄光を』などがある。しかし、残念ながらそれらは大幅に美化されていたりする。
自らの知る日本≠アルトは説明した。それは、なのはの会った老夫婦やその筋の人が聞けば、
「君のような若者があと百万人もいれば・・・」と涙するほどだろう。それほどに彼の知る日本は美化され
ていた。そしてそれゆえに、彼は地雷を踏んだ。
165シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:20:40 ID:CFeQwjbs
「2009年の日本はどうなってるんだ?やっぱりまだ経済成長が続いてるのか?」
少年の瞳は純粋だった。それゆえなのはもはやても口をつぐんだ。
アルトの世界では統合戦争によって前後の歴史が曖昧化している。そのため、日本については1990
年代前のバブル経済から詳しいことはわかっていなかった。
そのため彼らの予想では、バブルの芽≠ヘ中央銀行(日本銀行)の緩やかな′定歩合引き上げ
によって段階的な収束を迎え、マクロス落下の1999年まで持ち前の経済発展を続けたというのが定説
だった。
無論第一次星間戦争を生き延びた日本人もおり、そのままバブルが弾けて大不況に陥ったと主張した
が誰もそれを信じなかった。
そんなバカなこと≠器用な日本人がするわけがないと考えていたからだ。
しかし実際には中央銀行の急激な公定歩合引き上げにより市中銀行が企業への貸付をひかえ、次に
資金を回収しようとした企業が一斉に土地や株式の売却に走り、地価及び株価は大幅に下落。こうして
バカなこと℃タ際に起こり、バブルは崩壊した。
また、それに関連して経営の再構築などと称したリストラが進み、経済成長を支えた日本型終身雇用
制度と年功序列制度も崩壊前夜だ。
その後第97管理外世界で失われた10年≠ニ言われるように、アルトの世界でも1999年にマクロ
スが降って来るまで変わらなかった。
これが真実だ。
それは2009年に到達した第97管理外世界の日本でも変わらない。
1度、期間面で「いざなぎ景気」を超えたなどという好景気が訪れたが、それは企業を潤すのみで、家
計の収入を増やさない偽りのものであった。
また、アルトの知る日本人像はいわゆる古き良き時代の日本人像≠ニ酷似しており、最近増えてき
たいじめや凶悪犯罪。近所間の助け合いの精神の低下。若者のモラルの低下等々。おそらく彼はこれ
らの事を知ったらさぞや失望するだろう。
しかし2人はそんなことをして快楽を感じる、いわゆるS≠ナはなかったし、彼の純粋な瞳を汚したく
なかった。
そこではやては強引に話をねじ曲げる事にした。
「そんな事より! アルト君が日本を知っとる、ちゅうことはタイムスリップに近いけど、少しちゃうみたい
やね。」
「・・・そ、そうだね。多分うちに近い次元世界から来たんだ。」
はやての機転にサッ≠ニなのはは乗る。おかげでアルトも論点を変えた。
「それじゃ結局、俺達の世界は見つかってないのか?」
そのアルトの質問に2人が答えようとしたその時、また部屋のドアが開いた。
そこにはさっきの暴動でランカからマイクを借りたフェイトと名乗った女性と1人の男性が立っていた。
「済まない、じゃましたかな?」
「・・・あんたは?」
「私はクロノ・ハラオウンという者だ。この管理局では次元航行部隊の護衛艦隊(次元航行艦隊)、第3
艦隊提督をしている。」
そう言って彼は右手を出す。アルトはそれを握り返すと、先ほどの質問を繰り返した。
「ああ、現在惑星『地球』の名を持つ世界はここを含めて確か24見つかっているが、どれも君達の世界
とは違うようだ。」
こちらは助けてもらったのに、役に立てずすまない。とクロノは頭を小さく下げる。
「マジかよ・・・」
そう呟きながら先ほどから楽しそうに話している4人娘を見る。
(あいつらもう打ち解けてるよ・・・・・・)
それを見ると少し落ち着いた。まったく女性という人種のバイタリティーの高さには頭が上がらない。
「我々も全力で君達の世界を探す。だからどうか絶望せず、待っていてほしい。」
クロノが真摯な態度で言った。
「・・・わかった。でもそれまで俺たちは─────」
どうすればいい。と言おうとしたところ、話に夢中かと思っていたうちの1人、はやての口から突拍子の
ない提案が出た。
166シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:27:57 ID:CFeQwjbs
「もしよかったら、ウチらが新しく作る部隊に入ってけーへんか?」
その提案に「はやてあれは・・・」と口を濁すクロノ。
「実はランカちゃんの歌からは超高濃度のAMFが展開されとったんよ。」
聞き慣れない略語に、ランカは首を傾げ「えーえむえふ?」と繰り返す。
「そうや。『アンチ・マギリンク・フィールド』。略してAMFってのはな、空気中の魔力素の結合を阻害し
て魔法を弱体化する現象を作るフィールド魔法のことや。本当はAAAランクレベルのリンカーコア出
力を持った魔導士か、巨大なジェネレーターとか専用アンプがいるんやけど、これを見てみ。」
そう言ってはやてはホロインターフェースを展開、操作する。すると比較的大型のホロディスプレイが
出現し、何かの動画を再生する。よく見ると先ほどのライブの映像だった。
クロノは初めて見るらしく、「なるほど・・・これは威力絶大だ。特にキラッ☆≠ニいうのが・・・」などと
呟いている。
「なんやクロノくん、一目惚れ?」
「ば、バカ!そんなわけあるか!妻に謝れ!」
「はいはい♪」
この世界の階級制度がどうなっているか知らないが、陸佐というのは艦隊提督より偉いのだろうか? 少
なくともこの4人はお互いの階級を気にしている様子はなかった。
アルトが彼らが親友や身内であることを知るのはもう少し後だった。
「─────それでこれを魔力素の結合を見えるようにするスペクトル・フィルターに掛けると・・・」
画面に何かが被せられる。するとランカを中心に強く光り、バルキリーがそれを増幅する様がみてとれ
た。
「最初はあの飛行機かと思ったんやけど、フェイトちゃんの使った時には全く反応しないし─────」
「・・・フォールド波だな。」
アルトの断言に一同の視線が集まった。
「ランカはこっちの世界でもバジュラという生命体とフォールド波によってコンタクトできるんだ。」
そう言ってアルトは携帯端末のデータベースからフォールドに関するデータを呼び出し、この世界の規
格に変換すると彼女のコンピューターに送った。
そうしてデータを元に原理を探ると、案外簡単だった。
どうやら物質の最小単位である量子を振動させる歌エネルギーのサウンドウェーブと、次元干渉を起
こすフォールド波によって本家とは発生方式が違うが、擬似的なAMFができているらしかった。
「それでランカを・・・俺達をどうするつもりだ?」
アルトはランカを庇うようにして立つ。
「実は今、管理局システムは本局に重きをおいてミッドを守る戦力が乏しくなっとるんや。地球全体は
各自治領にそれぞれ自衛組織があるし、次元世界レベルの凶悪な事件は起こらんけど、管理局の本
部のあるミッドじゃそうはいかん。他の次元世界からの攻撃に備えなきゃいけないんや。でも近年の地
上本部は、予算の減少による練度の低下に喘いでいて、しかも動かすコストが高いことが悪循環に繋
がっとる。」
フロンティアでの新・統合軍のようだな。と、軍に籍を置いていた期間のあるアルトは同情した。
また、これと同時にはやての声に徐々に熱がこもっていくのをアルトは敏感に感じ取っていた。
「そこで所属は本局でも、ミッドを守るための部隊。それがウチの考える新しい部隊の構想や。艦船が
ないから本局でも通常の10分の1の予算しか出してけーへんけど、まだ陸士部隊みたいな地上部隊
よりは多い。それで高ランクの魔導士を隊長にすえて、残った予算で未来の管理局を引っ張っていく人
材を育てるんや。」
はやては残った予算と言ったが、実は高ランクの魔導士は友人や身内が務めるため実質掛かる費用
は限りなく安い。そのため新人を育てるお金や設備には糸目をつけない莫大な投資をしていた。
しかしなぜはやてはそれほどまでにひた向きに頑張るのだろうか?
無論、彼女がすべてにおいて勤勉であることは周知の通りだ。しかし彼女には仕事だから≠ニいう理
由以上の思いがあったのだ。
実は彼女は、かつて夜天の魔導書(闇の書)≠ノよって多数の人にかけた迷惑や、自らに力のなか
ったことを今も気にかけていた。それは彼女の無意識を支配していて、それが彼女を強く突き動かして
いた。
アルトはそんな彼女の演技にも似た生き方に共感を抱いた。もちろん彼はそんな事情は知らない。た
だ感じたのだ。同業者の空気という物を。
167シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:33:55 ID:CFeQwjbs
「・・・・・・そこでランカの歌を何に使うんだ?」
「そう、重要なのはそこや。新しい部隊には当然ミッドの治安維持も任務に入っとる。そんでミッドで起こ
る大概の事件は魔法を使ったものや。だから、正面から行ったら大被害を被るような場面で、ランカちゃ
んが歌ってくれれば相手も改心してくれるかもしれんし、突入も容易になるやろ? それで安全無事に犯
人確保。めでたくスピード解決って魂胆なんやけど・・・どうやろか?」
「・・・つまり、戦争や人殺しには使わないんだな?」
彼女が悪人には見えなかったが、グレイスに騙されたフロンティアの二の舞は御免(ごめん)なため、こ
れは外せない確認事項だった。
「もちろん!管理局は元々平和のために質量兵器を禁止したんや。今頃戦争なんてウチらがさせん!」
はやてはなのはとフェイトを脇に抱える。そしてクロノすら巻き込んで大見得をきった。
よく見るとランカもそれに参加している。どうやら彼女はもう決めたようだ。
「・・・・・・仕方ない、付き合ってやるよ。」
アルトはしぶしぶ答えた。



30分後

アルトはガウォーク形態のVF−25を、一山越えた郊外へと向かわせていた。
管理局の広報担当者曰く「例えあなた達の物でも、質量兵器を管理局本部ビルの前に置くのは体面も
あり困ります。だから受け入れ先が見つかるまで、郊外の施設中隊のヘリ格納庫に移動してください。」
との事であった。
また、今後VF−25はシール(封印)されるか、武装が全て撤去されてしまうそうである。
「しかし、魔法の世界とはなぁ・・・・・・」
アルトが呟く。検査によると、自分とランカにもオーバーAランク相当のリンカーコアが存在することが
確認されていて、この世界でも十分やっていけることがわかっていた。
(EXギアなしで空を飛べるのか・・・・・・)
アルトは内心ほくそえんでいると、レーダーに映る多数の小さな機影を発見した。
そちらの方向をみると、人間ほどの大きさの全翼機、魚でいうエイのような形をした航空機がいた。数
は70機ほど。それらは綺麗な編隊を組んで飛んでいた。
168シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:35:17 ID:CFeQwjbs
(管理局のゴースト(無人機)か?)
そんなことを考えるうちにそれらは麓に到達。そこで急降下し、レーザー様のものを撃ち始めた。
(え・・・?)
アルトは驚愕しつつもカメラで彼らの行方を追う。着弾地点はどうやら学校だ。どう見てもそこは軍事
基地には見えないし、下で逃げ惑う子供は小学生程度にしか見えなかった。
そこでは警備の者が散発的な対空射撃を行っているが、当たらないのかそれらはびくともしない。
そのゴーストは後にガジェットU型≠ニ呼ばれる機体で、速い上にAMFとシールドを展開している
ので全く歯が立たないのだ。
防衛側は徐々にそのレーザーに倒れていく。建物に当たってもなんともないところを見ると、非殺傷設
定のようだが、それは子供に当たれば後遺症を残すに十分だろう。なぜなら彼らはバリアジャケットと呼
ばれる装甲服を着ていないからだ。その程度のことは、はやてやなのは達からこの世界のこととして説
明されていた。
アルトは急いで出ていきたい衝動にかられるが、はやて達から厳重に質量兵器(バルキリー)の使用禁
止命令を受けていたため、あと1歩を踏み出せずにいた。
しかし、そこでアルトは見た。
運動場の端の小屋からみんなのいる校舎に逃げ込もうとしたのだろう。子供が1人、運動場の真ん中
を走りながら横切っていた。
(バカ野郎!小屋にいれば安全なのに!)
もちろん彼の思いは届かない。
また、更に悪い事に彼は転んでしまった。それに興味を持ったのか、数機のゴースト(ガジェット)達が
子供へと向かい、撃ち始める。
そこに1人の警備員が駆けつけた。彼は全方位バリア(魔力障壁)を張って子供を庇う。
しかし、ゴースト達は執拗だった。何発も何発もレーザーを撃ち込む。それは無人機が行うのに殺意
すら感じられる。
そして遂に破られ、レーザーが子供に覆い被さった彼の身を焦がす。
その光景はアルトに、かつてフロンティアを襲った第2形態のバジュラの大群が、そこを蹂躙する光景
をまざまざと蘇らせた。それと同時に、恋人を守って宇宙に吸い出されていった親友であり戦友であっ
た者の姿が、その警備員と重なった。
瞬間、彼の中で何かが切れた。

169シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:36:18 ID:CFeQwjbs
アルトは即座にファイター形態に可変すると、パイロンに装備されたスピーカーをパージ。同時に全て
のプロテクトを解除する。
多目的ディスプレイに映る兵装モニターが緑色のSAFETY(セーフティ)≠ゥらすべて赤いARM
(アクティブ)≠ノ変化する。
そして現場への到着と同時にさっきの2人とゴーストの間をわざと飛び、フレア(赤外線ミサイル回避用
の高熱源体)を数発落とす。
すると、予想どうり危険度の優先順位を再設定したゴースト達は、こちらを追ってきた。その数は総数
の半分程度にすぎないが、2人が逃げ込むには十分な時間を与えたはずだ。アルトは2人の退避を横
目で確認すると、一路、海を目指す。
(こんなとこに墜とせるかよ。)
下は住宅地。ゴーストが墜ちたらその被害は計り知れない。また、VF−25の装備するFASTパックの

追加武装であるマイクロミサイル型HMM(ハイ・マニューバ・ミサイル)は、対バジュラ用のMDE(マイク
ロ・ディメンション・イーター)弾頭を搭載している。
バジュラの反乱に備えて改良と生産の続くこの弾頭は1発、1発が超小型のブラックホール爆弾のよ
うなものだ。そんなものが万が一外れて民家に当たったら・・・と思うと背筋が寒くなる。
幸い海までは10キロなく、すぐに眼下は青く染まった。
「ここなら・・・」
呟くと、スラストレバー(エンジン出力調整レバー)をフルリバースして簡易ガウォーク形態(噴射ノズル
のついた足を展開するだけで、腕を省略した形態)に可変して足を前に振り出し、強烈な逆噴射を行う。
それによって、従来の戦闘機のエアブレーキとは比較にならない加速度で減速、さらにバックした。
対してVF−25を全力で追っていたゴースト達は、当然そんな機構などなく、勢い余って通り過ぎてし
まった。
アルトはミサイルのスイッチに指をかけると、ゴースト達を流し見る。するとそれに連れてコンピュータ
ーが敵にマルチロックオンを掛けていった。そして数にして20強の敵をレティクルに収めたのを確認し
た。
「アタァークッ!」
アルトの掛け声と同時に、バルキリーのエア・インテーク(吸気口)上に装備されたミサイルランチャー
の装甲カバーがガパッ≠ニ開く。
それと同時に内部のHMMが飛翔していった。
音速を遥かに超える戦闘機やバジュラに対抗する為に作られたこのミサイルは、内蔵するAI(人工知
能)によって敵の迎撃をかわしつつ1機につき2発ずつ、着実に命中した。
炸裂と同時に40もの紫色の異空間が出現し、空間をえぐりとっていく・・・・・・
『少々オーバーキル気味だったな。』と後悔したがもう遅い。
あっという間に20数機の友軍を失ったゴーストだが、そこは無人機。本隊との合流を果たすと、再び
向かってきた。
アルトはさすがに焦った。
VF−25は単体としてミサイルを搭載していないが、ブースター以外パージしていなかったFASTパッ
クの追加武装によって60発近い(肩部に38発、胸部20発)マイクロミサイルを搭載している。しかし、
ファーストストライクでミサイルは、その4分の3を使いきっていた。
また、MDE弾頭はお世辞にも安全とは言い難い。大気圏内で空間を抉り取れば、そこにあった大気
は当然消滅する。すると気流がめちゃくちゃになり飛行を妨害する。
また、同時に放射される大量のフォールド波の奔流も人体に悪影響を及ぼさないという保障はない。
アルトはミサイルの斉射を見送ると、兵装をチェックする。
「ガンポッドとビーム機銃、あと格闘しかないか・・・・・・」
VF−25は再加速して敵に対峙した。
170シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 20:38:05 ID:CFeQwjbs



5分後

残る敵の3分の1を撃破したが、ガンポッドの残弾は半分近くになっていた。
また、敵もこちらが完全無欠の質量兵器だとわかったのだろう。エネルギーを防御力に転換するアドバ
ンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)にかかる負荷が先ほどから大きくなっていて、構造維持のキャ
パシティ確保を脅かしている。これは相手の攻撃が殺傷設定になったという事だろう。
そして転換装甲にエネルギーを回したため、両エア・インテークの隣(バトロイド時は腰)に装備された2
5mm荷電粒子ビーム機銃(マウラーROV-25改)も打ち止めだ。
脚部の装甲兼用のコンフォーマルタンクに入った推進剤もこの戦闘機動を続けるには残り少ない。通
常飛行なら無尽蔵に存在する空気を圧縮膨張させて推進剤にすれば十分だが、通常の推進剤を使え
ば(アフターバーナー等で)推進力は約4割アップする。またVF−25の各所に装備された高機動スラ
スターを作動させるにも推進剤は必要だ。自らを数倍する敵にあたるには推進剤に頼る他に選択肢は
ない。
しかし、ミサイル同様推進剤はほとんどなくなってしまっていた。
「おっと、」
敵の激突覚悟の特攻攻撃に、ファイターのまま可変ノズル基部に装備されたスラストリバーサを吹か
して急減速。そのままバトロイドに可変して肩すかしを食らったゴーストに射角を調整すると、『ハワー
ド GU−17Vガンポッド』を一斉射。装填されていた対バジュラ用58mmMDE弾で大穴を空けた。
残弾を確認し「そろそろヤバいかな・・・」と思い始めた時、陸の方から飛んでくるものがあった。目を凝
らすと、人が音符のような杖を持ち、編隊を組んで空を飛んでいる。どうやらあれが空戦魔導士というも
のらしかった。
「やっと来たか」
アルトはホッとしたが、内心気が気でなかった。「果たして彼らにゴーストが落とせるのだろうか?」と。
その結果はすぐ出た。
ゴーストに対して魔力ビームによる砲撃が行われるが、AMFによって出力を下げられ決定打にならな
い。そこで魔導士達は、2人1組になって1機に同時に着弾させる事によって初めて撃墜することに成
功した。その技量はなかなかのものだ。しかし、いかんせん数が足りなかった。
速度もゴーストの方が速く、5〜6機撃墜したあと、その機動力で連携を崩され、逃げ惑うばかりになっ
た。
アルトは仕方なく虎の子のミサイルを、彼らの撤退を援護するように全弾発射。なくなったミサイルラン
チャーをパージする。
この援護によって魔導士のほとんどが敵の追尾を逃れたが、1人だけ孤立してしまった魔導士の少女
がいた。
彼女は他の魔導士のように飛ばず、足元に道を展開しつつその上を走るように移動する方法をとって
いた。
また、敵を撃破するときも魔力弾や魔力砲撃でなく、直接殴って撃破するという珍しい戦い方をしてい
た。それゆえ1人でも撃破率は高かったが、移動方法は効率が悪く、MDE弾頭の起こした気流の激
変に煽られて、逃げ遅れたらしい。
周りは彼女を助けようと援護するが、彼女は周囲の敵の数に翻弄されて動けなかった。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 20:52:27 ID:Uonqqt87
支援
172名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 21:01:00 ID:XxW55qWC
ひょっとしてさるった?
支援間に合わなくてすまん
173シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 21:16:26 ID:CFeQwjbs



彼女の名はスバル・ナカジマといい、今回の出撃は有志だった。なぜなら通常スクランブルするはず
だった空戦魔導士達はさっきまで労働争議をやっていて、疲労のため使い物にならなかったからだ。
彼女は『ミッドチルダ防衛アカデミー』と呼ばれる管理局員を養成する学校の3年生である。
防衛アカデミーの推薦を獲得した彼女は、最後の実習地として第1試験中隊≠ニ仮称で呼ばれてい
るはやての部隊を彼女の親友と共に志願していた。
まだ実績もない部隊であることに級友たちが敬遠する中、彼女がそこを選んだ理由は簡単だった。そ
れはガイドブックの教官の欄に、彼女の尊敬する「高町なのは」の名があったからだ。
スバルがなのはに憧れる理由、それは6年前の事故がきっかけだった。
その日彼女はデパートに家族と出かけていたが、運悪くはぐれ、これまた運悪く火災にまかれてしまっ
たのだ。
その時まだ幼かった彼女を救助に来たのが、当時出世街道を順調に登っていたエース。高町なのは
二等空尉だった。
スバルはそれ以来なのはに憧れ続けた。彼女はAランク相当のリンカーコアを持っており、成績も主
席、次席クラスと、極めて優秀だったため、再三再四本局の誘いが来た。しかし彼女はそれを全て断
り、わざわざ地上本部、地上部隊を選んでいた。それは陸士部隊の部隊長である父や、同じく陸士部
隊に籍を置く姉の影響もあったが、同じぐらいに大きくなのはの存在があった。
(最後にもう1度、なのはさんに会いたかったなぁ・・・)
時折ベルカ式魔力障壁を越えてくるレーザーに身体を焼かれる痛み。それは徐々に彼女の気力を奪
っていき、観念しかけた。
しかしその時、ノイズ混じりの念話が入った。
((させるか!))
174名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 21:19:15 ID:XxW55qWC
SHIEN
175シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 21:20:12 ID:CFeQwjbs
どこだと思い発信源を辿ると、こちらを援護してくれていた質量兵器からだった。それは機関砲を乱射
しながらこちらに突撃してくる。そしてスバルのすぐ隣を擦過していった。
顧みると、質量兵器はその間にいた敵を全て蹴散らしていて、そこにはぽっかりと切り開かれた道が
あった。
チャンス!とみたスバルは即座に自身の移動魔法ウィングロード≠その穴に高速展開し、その上
をインラインスケート型の簡易ストレージデバイスで駆け抜けていった。
しかし、そこに1機の航空型魔導兵器が体勢を立て直し、立ち塞がる。
スバルはカートリッジを2発ロード。最高速で走りながらデバイスを着けた右腕を振りかぶる。
「一撃、必倒!ディバイィン、バスタァァ───!」
右腕から発射されたゼロ距離の魔力砲撃は、粗いながらも強靭な破壊力を見せ、シールドを貫通。そ
れを粉砕した。
その後抜け出るまでの穴の保持は友軍と、いつの間にかロボットに変形した質量兵器がやってくれた
らしい。
それ以上詳しい事は分からなかった。なぜなら抜け出ると同時にさっきとは違う念話が入ったからだ。
((総員直ちに射軸上から退避してください。))
それは聞き覚えのある声だった。同時に出現したホロディスプレイの射軸線を頼りに発信源を辿ると、
地上の海岸線だった。果たしてそこには巨大な魔力球が集束されつつある。それはオーバーSランクレ
ベルの魔力砲撃を示唆していた。瞬間、誰もが射軸上から逃げ出す。
スバルも退避しつつ、あの魔力球に不思議な懐かしさを覚えていた。原色に近い桜色の魔力光。あの
声。そしてSランクの魔導士。それらは1本につながった。
「(あれは、)なのはさんだ!」
スバルがその名を呼ぶのと、なのはが発砲するのは同時だった。
空を切り裂く一条の桜色の光線は、あやまたずガジェット達に突き刺ささった。そしてそれらの展開す
るシールドを易々と貫き、ほぼ全てを叩き落とした。
スバルはそれを神を見るかのように、見つめていた。



少し離れたところで、ガウォークに可変してそれを見つめていたアルトは驚愕した。
ガンポッドに残る全弾を注ぎ込んで管理局の魔導士を助け、機体のシステムプロテクトをスルーして出
現したホロディスプレイの退避要請に従って退避してみればこの砲撃だ。
バリキリーのセンサーによると、VF−27『ルシファー』の重量子ビーム砲と比べても、見劣りしない数
値を叩き出していた。
いったいどんな兵器だ。と思ったアルトはモニターで発砲地点の倍率をあげる。するとそこには、自身
の特徴的な杖から大量の煙を出し、構えを解いた高町なのは一等空尉の姿があった。しかし彼女の顔
は先ほどまでランカと談笑していた少女の顔ではなく、歴戦の戦士の顔がそこにあった。



その後残るゴーストの掃討は彼女の参加で拍子抜けするほどあっけなく終わった。
176シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 21:22:32 ID:CFeQwjbs



海岸にはなのはの要請した救急車が待機している。そこには先ほどの傷の酷かった魔導士の少女が
担架に乗せられていた。
しかしなかなか搬送されない。不審に思ったアルトは、高感度指向性マイクを照準した。
すると少女の声に混じり、なのはの声が聞こえてきた。
『なのはさん・・・?』
『ん? 大丈夫だった?』
『は、はい!いえ、あの、高町教導官・・・一等空尉!』
『なのはさん≠ナいいよ。みんなそう呼ぶから。・・・6年ぶりかな?背、伸びたね。スバル。』
『! えっと・・・あの、あの・・・』
『うん。また会えて嬉しいよ。』
続くスバルと呼ばれた少女の嗚咽。しかしそれが痛みや悲しみの嗚咽でないことはわかった。
『私のこと、覚えててくれたんだ。』
『あの・・・覚えてるって言うか・・・あたし、ずっと、なのはさんに憧れてて・・・』
『嬉しいなぁ。バスター見て、ちょっとびっくりしたんだよ。』
『んあっ!』
ガタッ≠ニいう、その救急車を大きく揺らすほどの彼女の驚きは「なんだ元気そうじゃないか」と、心
配していた周囲の魔導士達に笑顔をよんだ。
『す、すみません。勝手に・・・』
『うふふ。いいよ、そんなの。』
『え、でも、その・・・』
『まぁ、確かに独学で使うには少し危ないかな。これから私も見ていてあげられる≠ゥら、一緒
に頑張っていこうね。』
『はい!・・・え!?』
『ふふ。隊員さん、この子の搬送、よろしくお願いします。』
『了解しました。』
なのはを降ろした救急車は病院へと走っていった。
177シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 21:24:40 ID:CFeQwjbs



その後、アルトのバリキリーに関する事情が、なのはの口からその場の空戦魔導士部隊の隊長に説
明された。
そしてなのはがアルトを格納庫までエスコート・・・と言えば聞こえがいいが、それは見かけだけだが、
機体をバインドする強制連行になった。
これは「『質量兵器は禁止』という主張を堅持するための体面的なものだろう。」と、たかをくくっていた
アルトはその後質量兵器、とくにD(ディメンション・次元)兵器の使用について(「次元震が起こったらどう
するんや!」とかで)はやてから恐ろしい折檻を受ける事になるが、それはまた別の話である。



現場から少し離れた山の展望所には、事件のすべてを見ていた1人の人影があった。
「またあの子達?まったく恐ろしい程の悪運ね。」
彼女は普段のキャリアウーマン風の緑色のスーツに身を包み、呟く。
いつもならここで遠い≠「所から見ている彼ら≠ェ茶々を入れる所だが、今彼女は時空どころか
次元おも通り越してしまっている。そのため、いかがフォールドクォーツを使用した精神リンクと言えど
繋がらなかった。
「まぁ、その方が面白いわ。健闘を祈るわね。ミッドチルダの皆さん。」
転送魔法が行使される。そして彼女、グレイス・オコナーのいた痕跡を何一つ残す事なく、いずこかへ
消え去った。



178シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 21:26:43 ID:CFeQwjbs

「さるさん」という規制に掛かってしまいましたが、やっと終わりました!
お騒がせしました。すいません。
179名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 21:28:31 ID:WtBeYXqs
>>178
所謂連投規制である「さるさん規制」は2分おきに投下することで発生率を
軽減させることも出来ますけど、引っかかるときは引っかかるので、そのと
きは代理スレの利用をお勧めしますよ。
180シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/07(月) 21:34:03 ID:CFeQwjbs
>>179
はい!ありがとうございます!以後、気をつけます!
181名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 22:15:54 ID:UnDq58nz
マクロスの人乙
だがアルト、狸との口約束は拙いぞ〜
その狸戦闘に使わないってどんな意味か解ってないかもしれんぞ〜
182名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/07(月) 23:02:57 ID:hDCX+H8P
>>181
狸言うなやwww


マクロスの人乙です。

ひとつ気になったのは説明を詰め込み過ぎなとこ。はやてにスバルと過去話をあそこでわざわざ説明する意味はないような。どちらも後でキリのいい所で説明すればいいんだし。


ちなみに戦闘が唐突で焦ったので、背景や過程の説明が欲しかったかも。しかし早速の戦闘GJでした!!

ただこれでミサイル使い果たしたし、これからは7のような戦闘スタイルになるのかも。


ではでは、これからも頑張ってください(^-^)/
183一尉:2009/09/07(月) 23:15:48 ID:iYYbBjkV
あ望支援
184名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/08(火) 11:30:40 ID:5FuQAxJx
SSを書こうとネタを2週間かけて練ったのに、2バイト分で止まってしまった……
ガックリ……考えたものを文字にするってこんなに難しいのね…………
今まで気楽に読んでるだけだったのを全職人さんに詫びたいわ……
185一尉:2009/09/08(火) 18:35:04 ID:a76dZaPh
マリネット支援
186名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/08(火) 20:28:41 ID:caIFgfyK
まあ、頑張れよ。じっくりとな。
モノを生み出すのは山あり谷あり、
挫折は味わうのは当然さ。それを乗り越えて人はまた一歩進んでいく…




と、何年もプロットばっかで書きに移らない俺が言ってみる
187名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/08(火) 21:14:48 ID:StfcEDK2
まぁ、酷い奴(俺)なんかは掌編ですら完結作品を作るのに六年以上かかったからな。
188名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/09(水) 23:11:26 ID:a+LvbGDX
2バイトって…かえって凄いわwww
189名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/09(水) 23:24:40 ID:e/HXFunn
>>187
むしろ創作で完結させるまで熱入れたお前に感服
190名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/09(水) 23:33:56 ID:5fsqZ/hp
投下乙です
現代日本の解説に介意しては違和感がありますけど
191シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/09(水) 23:46:44 ID:JLHooh+z
第5話ぐらいまでプロット書かずに勢いで書いた僕が通りまーす。

>>190
どこら辺がいけないでしょうか?実をいうと自分はまだ学生で、実体の知識というものがなくて・・・
192名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/09(水) 23:54:04 ID:x/o4k1ed
ちょっと遅いですが、R-TYPE Λ氏GJです。絶望の先にある、さらなる
絶望を書くことにかけては他のSS書の追随をゆるしませんね。

それにしても軍上層部向けの情報にアクセスできるコードを一体どうやって・・・
193名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/10(木) 00:14:03 ID:kKE7UKz2
>>191
いや、あんまり言うとすれ違いになりますけど
単に自分としては最近の若者のモラルが低下したとも(最近の若者は大学に立てこもって火炎瓶投げたりしませんし)いじめが増えたとも思いません。
それに、これから就職活動を行う身としては今までの好景気は十分家計を潤してただろと感じざるをえないので。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/10(木) 00:18:23 ID:5wEK7udE
>>193
あー、それ判るわ。小津安二郎の作品とか見れば判るけど、結局はどの時代も
同じこと言ってるんだよね。最近の若い者はとかなんとかさ。

結局のところ、人間の本質なんてものは十年前も五十年前も大差ないんだろうね。
文化や技術だけが進歩して、先行して。本質が変わるんだとすれば、それはもう
進化なんだと思う。
195シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/10(木) 00:37:01 ID:WoswBdWN
ふむふむ。なるほど・・・
自分も少し先入観があったかもしれませんね。修正の検討をしてみます。
丁寧にお答えいただきありがとうございました。これからもそういう指摘でも
お待ちしております。
196名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/10(木) 00:50:25 ID:31qx6ux9
>>195
なるたけそういうのは本スレじゃなくて自分のコメ欄でやろうね。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/10(木) 01:32:14 ID:bkstO8kg
本当かどうか知らんけどエジプトのピラミッドに「最近の若い奴は」って刻まれてるらしい
198名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/10(木) 10:24:51 ID:H3EhcO8Z
>>196
でもコメ欄にそういう書き込みがあることってほとんどないよね。


応援か、感想か、はたまた熱狂的応援か。
199名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/10(木) 14:03:41 ID:3g5WBaBT
>>197
現存する中では世界最古の愚痴じゃないか?
200名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/10(木) 18:36:43 ID:MBVYfJtk
>>197
メソポタミアのシュメールの粘土板にも同じような事書かれてるらしいな
201名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/11(金) 10:24:32 ID:BIfNqmqG
200年後にも言ってるんだろうな、それ
202名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/11(金) 12:51:33 ID:qax1He/H
つうか少年犯罪も凶悪犯罪も昔よりずっと減ってるよ。
203名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/11(金) 12:56:03 ID:BOom8h+3
マスコミが取り上げるから多く見えるだけだな
204無名 ◆E7JfOr0Ju2 :2009/09/11(金) 15:54:27 ID:Nb9LyWNd
お久しぶりです。

実は執筆中のリリライの投下ではなく、ちょっとしたものを書いてしまったのでそちらを投下に来ました。楽しみにしてくださっている方には申し訳ありません。


では10分後に投下したいと思います。昼間ですし嘘企画、かつプロローグ的なものなので1レスもかかりませんので、この時間でもご容赦ください。
205無名 ◆E7JfOr0Ju2 :2009/09/11(金) 16:12:18 ID:Nb9LyWNd
では投下開始します。





 ミッドチルダを襲ったJS事件は大きな波紋を呼んでいた。
 経済の破綻、防衛力不足の露呈、失業者の増加。それらは管理局を逼迫し、特に強力な指導者を失った地上本部を苦しめていた。
 JS事件後、再び第一管理世界としての地位と名誉を取り戻し、目覚ましい復興を遂げるミッドチルダだが、その影には多くの官僚達の努力と苦労があった。



「防衛問題は最優先の課題だ! 今は早急な防衛力、対テロ力の拡充が必要なんだ!」
「そうしてオートスフィア開発を企業に推し進めさせたら何人の失業者が出ると思っているんだ! 彼らは今までここを必死に守ってきたのに、それを裏切るつもりか!」
「今必要なのは復興支援です! こんなときこそ企業を動かせる我々が動かなければならないんです! 体裁を気にしている余裕はない!」
「ミッドチルダは管理局でも屈指の管理世界だぞ? それが本部すら半壊では示しがつかず、新たなテロを誘発してしまうじゃないか! 復興は本部が優先だ!」
「僕達には、デバイス開発企業を守るための法律が必要なんだ!」



   官僚達の夏 〜in Midchilda〜





     to be continue



※すみません、これは嘘企画です。筆休めみたいなものですので、期待はしないでください。


ではこれにて投下終了ですΣ
206名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/11(金) 18:37:59 ID:JwxD6qdb
GJ!
その発想に完敗だぜwww
レジアス中将の苦労がよく分かる。
207無名 ◆E7JfOr0Ju2 :2009/09/11(金) 18:55:54 ID:Nb9LyWNd
一応書き忘れていたのでクロス元を書いておきます。


クロス元は『官僚達の夏』ドラマ版です。原作本は読んだことないです(^^;
208名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/11(金) 20:55:49 ID:3Di/qY51
>>194
でも時代によって人が変わらないっていうなら
俺らの親の時代に、警察署に爆弾仕掛けたり、ゲバ棒や火炎瓶で機動隊とやりあったり
ハイジャック、立てこもり、銀行強盗、銃撃戦、内ゲバみたいなことやって日本を引っくり返そうとしていたやつらは
いったいなんだったんだ
って思うよな
209一尉:2009/09/11(金) 21:09:04 ID:TFZFOznY
子孫
210シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 17:09:58 ID:Ycs9G9Bn

なんか誰も投下しないみたいなので30分後ぐらいから第3話を投下したいと思いますが、
後方支援願えるでしょうか?
211シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 17:39:32 ID:Ycs9G9Bn
それでは時間になりましたので投下したいと思います。

あと、この前の教訓を生かして2分半以上離して投下しようと思いますが、もし捕まってしまった時は、
どなたか代理投下のご協力願いたい。
212シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 17:42:11 ID:Ycs9G9Bn

『マクロスなのは』 第3話「設立 機動六課」

あの襲撃事件から1週間。
結局事件は重傷者3名、軽傷者18名を出すに止まった。幸いなことに、負傷したのは全て管理局局員
と学校の警備員で、子供達に被害はなかった。
そして襲撃してきた魔導兵器は、張り巡らされたレーダー網によると突如上空に出現したものらしい
が、それ以上詳しいことはわかっていない。
しかしマスコミは公務員である地上部隊が労働三権を行使するという違法な労働争議と、それによって
出動の遅れた時空管理局地上本部を叩くことに夢中だった。
そのため人命救助のために質量兵器を行使した(D(ディメンション)兵器使用は伏せられた)アルトや、
労働争議を止めたランカの参入は、比較的穏やかに受け入れられていた。



日当たりのよい海岸線。そこには新しく建てられた立派な隊舎があった。しかし隊舎の正門にある表札
には、まだ何も掛けられていない。
だがその反対側にある広場では、今まさに産声を上げようとしている部隊の設立式が行われていた。
部隊員全員が舞台を前に整列している。季節柄風は温かく、太陽の下行われている設立式は順調に
進んでいた。
そこに彼らの、まだ若い部隊長が壇上に上がった。
「本、部隊の総部隊長、八神はやてです。……平和と、法の守護者『時空管理局』として事件に立ち向
かい、人々を守っていくことが、私達の使命であり、なすべき事です。この部隊は管理局の、対応が遅く、
練度の低い地上部隊を支援するために設立されるテスト部隊です。そのためこの部隊は1年でその役
目を終えますが、現状の管理局システムの修正など残す物は多いでしょう。また、テストといっても、
実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。それぞれ優れた専門技術の持ち主
のメカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって事件に立ち向かっていけると、信じています。
私はこの部隊での1年を、実りのある1年にする所存です。ですから報道機関、管理局の庇護の元に
生活する市民の皆さんの、温かいご理解と、ご協力をよろしくお願いします。」
報道関係者がときたま焚くフラッシュを無いもののようにスルーし、地上部隊の制服(茶色を基調とした
正装。新人から佐官まで幅広く使われる。)を着た少女、八神はやて二等陸佐はそう締めくくり、舞台を
降りた。
その後彼女は、部隊隊長の席に腰を降ろすと、次の予定のために部下達を準備に走らせる。その間
記者の質問に応じる事となった。
213シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 17:45:25 ID:Ycs9G9Bn
「部隊長であるあなたや、分隊を指揮する隊長が若すぎるとの批判がありますが、これについて…」
「これからの管理局を背負っていくのは若者です。また本、部隊設立の目的の1つが管理局システム
の刷新にあります。そのためには若者の、柔軟な発想に基づく部隊運用が求められるからだと、私は
考えます。」
「あなたを含めて隊長陣が全員オーバーSランク魔導士。副隊長でニアSランクですが、管理局の規
定にある『1部隊の持ちうる魔導士ランクの限界』についてはどうなっているんですか?」
「私を含め、隊長格位には能力限定用のリミッターが設定されております。例えば高町なのは一等空
尉の通常ランクはS+ですが、リミッターにより2、5ランクダウンのAAにまで落としています。しかし、
どうしても必要な時のみ解除する権限を与えられています。」
その後も応対は続き、時間の関係で次を最後としたところ、こんな質問が出た。
「では、新設された部隊の名称を。」
その質問に、はやては我が意を得たりとにっこり微笑むと─────
「本部隊の名称は……あちらをご覧ください!」
一斉にはやての指し示す方向に数十台のカメラか振り向く。その瞬間彼らの目前十数メートルを航空
機が察過していった。
「あれはバルキリー!」
記者の1人が興奮気味に言う。
そう、そこを飛ぶは、純白に赤黒ラインを施したVF−25。バルキリーの名は報道された際に広まった
通称だ。
バルキリーは雲一つない晴天の青空の元を一通りアクロバットすると、突如パイロンに搭載した増槽
のような円筒形の箱からMHMM(マイクロ・ハイ・マニューバ・ミサイル)を乱射する。
その行為は、すわ質量兵器か!と驚き、頭を抑える者。または、青白い軌跡が織り成す美しさに魅せ
られ、見惚れてしまう者とを生み出した。
MHMMは、乱舞しつつ上昇していく。そしてそこで一斉に自爆した。そこには花火のように文字が浮か
び上がっている。
機動六課≠ニ。
「これが管理局の新部隊機動六課≠竅B」
はやての不敵な声が、辺りに響き渡った。
214シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 17:51:03 ID:Ycs9G9Bn



15分後

はやてが『時空管理局 本局 機動六課』と書かれた表札を正門に掛けたりするなど、式らしいものを終
わらせると、上空待機していたバルキリーが会場へとガウォーク形態で降りてきた。
記者達は何事かと、片付け始めていたカメラを再び引っ張り出す。
『これより、機動六課のイメージソング「アイモO.C.〜機動六課バージョン〜」の視聴会を行います。歌
うは時空管理局期待の歌手、ミス、ランカ・リー!』
その瞬間記者達が色めきだった。
ランカは暴徒鎮圧ライブ以来姿を見せたことはなく、名前は報道されたが、1週間で半ば伝説となって
いたからだ。
バルキリーが地面に降りる寸前にホロディスプレイで大きなテロップが流れる。
『魔法を行使している方はただちに使用をやめてください。ご協力お願いします。byランカ・リー』とある。
なぜそうしなければならないかを彼らは知らなかったが、彼女の頼みとあっては聞かないわけにもいか
ない。彼らは飛行魔法の解除などしっかり従った。
全ての魔法行為が止まったことを確認したのか曲が流れ出す。そしてそれに合わせるようにキャノピー
が開いてゆく…

♪アイモ アイモ ネーデル ルーシェ! …♪

果たしてそこには地上部隊の制服を着たランカが歌っていた。しかし、フラッシュどころかシャッターす
ら全く炊かれない。誰もがそれに聞き惚れ、茫然自失となっているのだ。その中を彼女の力強く澄んだ
歌声が沁みわたる。


♪振りかざせ 今我らの 旗を ここは我らの神の国!

進め!機動六課 誇り高き名を抱いて
飛べ!機動六課 眠れし力呼び覚ませ

アイモ アイモ ネーデル ルーシェ!

ライトニング(雷・いかずち)を携えて 進め ここを護れよ我が故郷

選ばれしフロンティアマン(開拓民・たみ)よ
スターズ(流星・りゅうせい)と共に 大空舞え
闇を切り裂いて 永久(とわ)の平安(へいあん)を 我らの手に!……… ♪


その後歌が終わっても、皆が我にかえるのに数十秒を要したという。
215シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 17:55:38 ID:Ycs9G9Bn



2時間後

マスコミがいなくなり、六課の隊舎ではささやかな設立記念パーティーが行われていた。
「今日はみんなのおかげでマスコミの人たちに目にもの見せてやれた。ありがとうな。今日はよく食べ
て英気をやしなってや。」
八神はやて二等陸佐はいつもの柔らかい関西弁を操るはやて≠ノもどり、楽しそうに飲み食いする
同僚達を見守っている。自分が入ると、階級のせいで気まずくなることがわかっているからだろう。まっ
たく強い少女だ。
その頃彼女から「みんなに挨拶しておきな。これからは同じ釜の飯を食べる戦友になるんやから。」と
言われていたアルトとランカは、今最も人の集まっている食堂に来ていた。
そこは広く、平時には食券を買うのであろう自動券売機が並んでいた。
「2人とも久しぶり。」
フェイトが歳のわり(無論若いという意味で)には落ち着いているいつもの物腰で挨拶してきた。
しかし両手には大量の食べ物。
(とても1人では食べられない。こんなに食べるの…)と思う2人の視線に気付いたのだろう。彼女は頬
を赤らめると、
「いやこれは…エリオ、キャロ」
「「はーい」」
遠くで2人分の返事が聞こえる。どうやら、あの2人のためらしい。育ち盛りの子供がこちらにとてと
て≠ニ、やってくる。
フェイトは「気をつけてね。」などと注意しつつ、2人に皿を分けて渡した。
そこでありえないとわかりつつも我慢できなくなったのかランカが問う。
「あ、あのぅ、フェイトさん」
「ん?」
「…お子さんですか?」
その問いにフェイトは一瞬キョトンとした顔を見せると、笑みを浮かべて応えた。
「ふふ、そうとも言うのかな。この2人は私の保護している子でね。今度ライトニング分隊の3と4を務め
るエリオ君とキャロです。」
ライトニング分隊とは、先ほどイメージソングで歌われたが、もう1つのスターズ分隊とともに前線を務
める分隊の事だ。ちなみに、六課にはもう2つ分隊があり、その名をフロンティア分隊とロングアーチ分
隊という。
フロンティア分隊は当初の予定になかったアルトとランカが属する分隊だ。フロンティア1にはアルト
が、2にはランカが相当する。任務はVF(ヴァリアブル・ファイター)という汎用性の高い特殊な機体とラ
ンカがいるため超広域に渡り、必要なら宇宙や海中おも守備範囲としていた。
そしてロングアーチ分隊は歌われこそしなかったが、はやてなどが属し、その名の示す通り縁の下の
力持ちとしてこの隊舎にある指揮管制所で現場指揮の補助などを行う。
話は戻るが、エリオと呼ばれた方は、赤い髪をした利発そうで中性的な顔立ちをした男の子。キャロと
呼ばれた方は、少し気の弱そうなピンクの髪をした女の子だった。
2人はそろって「こんにちは」と、可愛く頭を下げた。
アルト達も挨拶をかえすが、その幼さが気にかかった。
216シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 17:59:59 ID:Ycs9G9Bn



「あ、アルト君、ランカちゃん久しぶり〜。」
フェイト達と別れてすぐ会ったのはなのはだ。彼女の手にも皿がのっており、こちらは慎ましい和食中
心だ。
2人は挨拶を返すと、なのはとランカは話に夢中になっていった。
「さっきの歌良かったよぉ〜」
「ありがとうございます!」
「六課バージョンらしいけど、元はどうだったの?」
「元は、機動六課の所に、私のいた船団の名前だったフロンティア≠チてのが入るんですぅ。」
「フロンティアかぁ…。昔見てたドラマに『宇宙、それは最後のフロンティア』ってナレーションで始まるの
があったなぁ。」
「あれ?それってまさか『宇宙戦艦エンタープライズ号が…』って続きませんでしたか?」
「え!?うん、そうだよ。やっぱり『ス〇ートレック ネクストジェネレーション』って名前?」
「はい!やっぱり劇場版のエンタープライズEのデザインが感動ものです!」
「うんうん、わかるわかる!スラッ≠ニしたフォルムがなんとも言えないかっこよさだよね!…でも私
はどちらかというとヴォイジャー#hかな…」
「ああ、あのワープするときワープナセルが可動するあれ≠ナすね。…でも私の世界だと戦争で68
話以降が焼失しちゃってるんです……あの後ボーグは?ジェインウェイ艦長は最後どうなったんです
か!?」
「68話?…ああ、生命体8472≠セね。あそこで終わってるんだ…あそこは重要な転換点だから
ね。…聞きたい?」
なのはがいたずらっぽい笑みを浮べながらランカに問う。
「はい!!ぜひ、おねがいします!!」
「うん、実はね、あの後セブン・オブ・ナインってボーグと……」
と、そんなこんなでどんどん話が進む。


<わからない君は『STER TREK』シリーズを見よう!初めての君は2009年公開の映画『STER TREK』
から入る事をおすすめする。
ファースト世代(宇宙大作戦世代)は「カークがただのチンピラだし、チャーリーも変人ではないか!」と
か「ストーリーに無理がありすぎる。」(この評価はファースト世代に限った事ではないが…)といって駄
作という評価が多いが、絵の美しさはこのシリーズへの入り口には持ってこいだと思われる。
そして次にはネクストジェネレーションかヴォイジャーを10話以上見ればこのシリーズの素晴らしさが
わかるはず!(注、ファーストの宇宙大作戦は多少難解なため、ファンになってから見よう。)by筆者>


マニアの会話は、得てしてノコノコと知らない者が入っていける空間ではない。
この時も同様であり、いわゆるスタトレファン≠竍トレッキー≠ニ呼ばれる人種ではないアルトには
何の話かさっぱりなので、やんわりと戦線を離脱した。
217シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 18:04:29 ID:Ycs9G9Bn
すると、少し離れた所で呼び止められた。
「おまえが早乙女アルトか?」
アルトはその誰何(すいか)に肯定しつつ振り向くと、そこには特徴的なピンクの髪をポニーテールにし
た20(はたち)ぐらいの女性がいた。
しかし、アルトは驚く。彼女にはその歳ならば少しはあるはずの頼りなさが全く感じられない。逆に何か
を守るという意志の光が強く灯っている。そして全身からにじみ出るオーラは、みまごう事なき武人のも
のだった。
「主、はやてから話は聞いている。先日の襲撃の時は、対応の遅くなった管理局の代わりに初等学校
を守ってくれ、感謝している。」
彼女はコクリと頭を下げた。しかし、その動作のどこにも隙がない。例え今この会場の全員が、彼女を
倒そうと襲いかかっても失敗するだろう。そんな雰囲気を醸し出していた。
「いや、あの時俺は偶然あそこにいて、偶然それに対応できるだけの装備があっただけだ。」
「では、その巡り合わせにも感謝せねばな。」
そういうと彼女は不敵に微笑んだ。
「自己紹介がまだだったな。私はシグナムだ。この部隊ではライトニング分隊の副隊長を務めさせても
らう。だが、同時に特別機動隊(地上本部直轄の特殊作戦部隊)の隊長だからあまり六課には顔を出せ
ないだろう。」
残念だ。と肩を落とす。
「なぜ?」
アルトが問うと彼女は不思議そうな顔をした。
「なんだ?お前はこちら側≠フ人間ではないのか」
彼女は待機状態のデバイスを仮起動させる。それは剣の形をしていた。
どうやら彼女はこちらを同業者と思っていたようだ。確かにアルトは「役者は演じる全ての事に精通して
いなければならない。」という父の教えから剣技だろうが料理だろうが並みの稽古はしてこなかった。ど
うやらそれはプロの目から見てもまだ衰えていないらしい。
「確かにそうだが…」
「ではまたいつか手合わせ願おう。」
烈火の将シグナムはそう言うと食堂から出ていった。



その後、医務室で医師を務めるシャマルやスターズ分隊のヴィータと笑撃的(?)な出会いをするがこ
こでは割愛させていただこう。

218シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 18:09:01 ID:Ycs9G9Bn



アルトは同じくパイロットのヴァイス陸曹と、世間話に花を咲かせていた。
「おまえのバルキリーだったか? あれには敵わんが、俺にも遂に新鋭機が回って来たんだ。」
「ほう…どんな?」
「いままで乗ってたちゃっちい小型ヘリじゃねえ。輸送ヘリでな、デバイスとのリンクで飛躍的に機動力
があがるんだ。 これならランカちゃんやなのはさん達を運ぶのに安心だ。それになんでもPP…何とか
ってバリアが張れるらしい。」
アルトは一瞬OTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス)のPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)
だろうか?と危惧したが、それを問う前に人が来た。
「早乙女先輩!」
そう呼びながら近づいてくる2人組。こちらを呼んだ青い髪をした少女には見覚えがある。あの襲撃の
とき敵に囲まれて進退極まっていたスバルという管理局の少女だ。
それを見たヴァイスは、アルトに「じゃあ、また。」と言い残し、サッと姿を消す。
「お、おい。ったく…」
気がまわるのも、時たま罪だ。
「早乙女先輩、あの時はありがとうございました!」
深々と頭をさげる少女。それを隣のオレンジ色の髪をツインテールにした少女は、そのあまりの元気の
よさにあきれたのか微笑を浮かべながら見守っている。
「あたし、スバル・ナカジマっていいます!コールサインはスターズ3です。」
「あぁ、よろしく。あと、早乙女はやめてくれ。アルトでいいぞ。」
「はい!」
アルトもその類い稀なる元気のよさに、少々たじろぎながら挨拶を返す。その間スバルの同僚はこちら
を凝視していた。
どうやら彼女が見ているのは、アルトが上着の下に着ているチョッキに架かった拳銃らしい。これはS
MSが配給した5.45ミリ『SIG−2000』というもので、バイナリー(二液混合)火薬式の質量兵器だ。しか
し、今はアルトの魔力で電磁気を作り出し、それによって質量物を打ち出すレールガンのような魔導兵
器に改良されている。
ちなみにVF−25のガンポッドも現在この方式に改良されている。
「スターズ4のティアナ・ランスター二等陸士です。」
明らかに不満のあるように名乗り、敬礼すると、答えも聞かずスバルを引っ張って行く。
「え?ちょっとティア、今のはマズイよぅ〜」というスバルの悲鳴が聞こえるが、ティアことティアナは我
関せずとばかりに立ち去る。
スバルは申し訳なさそうにこちらに頭を下げると、彼女を追っていった。
(お、俺が何をした!?)
百戦錬磨のアルトの頭の中は、ゴーストV9に狙われた新人バルキリー乗りのような恐慌状態に入っ
ていた。
(最初から機嫌が悪かったのか?いや、スバルを見守るティアナは確かに笑ってたよな…)
そしていくつかの可能性が脳内会議で上がるが、1つ1つ消えていき、やがてそれは堂々巡りになる。
その思考から抜け出せたのは、誰かが彼の肩に触れたからだ。振り返るとそこには、心配そうにこちら
を覗き込むなのはの姿があった



「そっか……ごめんね。ティアナは、こういう質量兵器が嫌いなの。」
事情を聞いたなのはの手が、アルトの懐に鎮座する拳銃に当てられた。
「昔彼女には、地上部隊の空戦魔導士・首都防空隊にいたお兄さんがいてね。両親を早くに亡くしたか
らずっとそのお兄さんと2人暮らしだったの。でもある時お兄さんが質量兵器を扱う商人の大捕物をし
て、お兄さんをその時に…。根はいい子だから、ゆっくりでもわかってあげて。」
なのははそれだけ言うと、「ね!」っと悪戯っぽくウィンクして立ち去った。
しばらく立ち尽くしていたアルトだったが、一通り挨拶してまわると、自らの愛機の待つ格納庫へ向かっ
た。
219名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/12(土) 18:11:25 ID:ckWItN60
支援
220シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 18:17:00 ID:Ycs9G9Bn



外は既に日が暮れ、空はあかね色に染まっていた。そして風に乗ってやってくる心地よい潮の香り。し
かしそんな美しい空も香りも、彼の胸のうちを快晴にすることはできなかった。
アルトは胸に焼き付く悶々とした気持ちを飛ぶことで解消しようと思ったが、それは無理だった。EXギ
アがあの襲撃事件からすぐ、地上本部の技研(技術開発研究所)に送られてしまっているからだ。
VF−25は格納庫で眠っているが、EXギアなしで操縦するのは不可能だった。
フロンティア船団の新・統合軍が装備するVF−17をデチューンした現主力人型可変戦闘機VF−17
1『ナイトメアプラス』であれば、EXギアなしでも何とかなるが、マニュアルのVF−25では真っ直ぐ飛
ばす事すら難しいだろう。VF−25はそれほどのじゃじゃ馬だった。
ちなみに先の設立式では、アルトは民間機よろしくオートパイロットの見張り役とミサイル(花火)発射の
ボタンを押しただけで自由に飛ばした≠けではなかった。
空を1週間も飛べていない事と、さっきのティアナの事が重なり、更に彼の胸の内を悶々とさせた。
「アルトくん、」
そんな時に声をかけてきたのは、シャーリーの愛称を持つ、六課の管制及び技術主任だった。
彼女とは、バルキリーの改修でよく相談するため、比較的顔を合わすことが多かった。ちなみに、先の
レールガン型の発射方式を考案したのも彼女だった。
「技研から届いてたわよ。」
そう言って渡されたのは、シェリルから借りっぱなしになっているイヤリングだ。これもフォールドクォー
ツのサンプルとして技研に差し押さえられていた。
アルトはそれを受け取ると、いつも首に掛けているお守りの中に入れる。
「あのね、それとEXギアの方なんだけど…」
シャーリーに向き直ると、目をそらしてもじもじしている。
アルトの長年の役者のカンが、一斉に非常事態宣言を発した。『彼女はこれから物凄く嫌なことを言う
であろう』と。
「どうしたんだ?」
「実は…」
彼女の視線が、VF−25の入った格納庫とは違う格納庫で止まる。確かあそこはヴァイスの新型ヘリ
が入ることになっているはずだが…
アルトは彼女に促されるまま格納庫のドアを開けた。
「なんにも見えないぞ。」
外の明るさに慣れた目は格納庫内部の弱い光を感知しなかった。
「ごめん。今電気点けてくるから…」
外に設置されている配電盤のところへ行こうとしたシャーリーだが、一瞬立ち止まると、「何があっても、
絶対に驚かないでね。」と言い残し、今度こそ出ていった。
(おいおい、何があるんだよ…)
不安と暗闇の中待っていると、突然辺りが閃光に包まれた。
221シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 18:25:04 ID:Ycs9G9Bn
アルトは目が慣れるのを待つと、目の前に鎮座する多数の用途不明の部品類を見渡す。それらは綺
麗に床に並べられており、丁寧に分解されたらしく壊された形跡はない。しかし1つだけ、原型がわかる
ものがあった。あれは─────
「熱核反応エンジン…?」
しかもそれは、EXギア用に開発された小型のものだった。
原子炉にOTMの重力制御技術を組み込んだ反応炉(核融合炉。反応弾と違い物質・反物質対消滅機
関ではない。)というエンジンには複雑すぎて手が出なかったらしい。
しかし近づいて見ると、しっかり炉心は止まっている。残留熱もないようで、止められたのが1日以上前
であることがわかる。
「本当にごめんなさい!」
戻ってきたシャーリーがドアの前で両手を合わせ、深々と頭を下げている。
「本当はもう3日前にはEXギアは返って来てたの。その時はこう…じゃなくてまともな状態だったんだ
けども、ちょっと魔がさして…気づいたらバラしてて…直そうにも上手くいかなくて…」
彼女はそう一気にまくし立てる。どうやらEXギアを解体した張本人は技研でなく彼女らしい。
「はぁ…部品があるから元には戻せるとは思うがな、この炉の火を完全に消すと、また点けるのにどれ
だけ苦労すると思ってるんだ?」
「……」
「ここの設備じゃ1ヶ月はかかるだろうな。どうしてくれるんだ?」
うつむくシャーリーを責め立てるアルト。
しかし実は大嘘も良いところ。
確かにこの世界で最もポピュラーな発電方法である核分裂炉を1基を貸してくれるなら別だが、それ以
外の方法では数十万度という必要な熱がなかなか手に入らない。
そして、これを組み直すのには1週間ぐらいかかるかも知れない。しかしVF−25の熱核反応炉を繋
げてスターターにすれば10秒かからず炉は再稼働するはずだった。
もしここにランカがいれば、それぐらいの知識は常識としてあるため「やっぱりアルトくん、意地悪だ
よぅ〜!」と、言った事だろう。しかし、シャーリーには代案があったようだ。
「だから、これを作ったんです!」
彼女がポケットから何か≠出す。アルトは手を伸ばし、シャーリーの出した物を受け取った。それ
は先ほど返ってきたシェリルのイヤリングに酷似していたが、フォールドクォーツの紫の輝きはなく、代
わりに青色の宝石がはまってる。
やがてそれは光り始めた。
「予算をちょろまかして2日かかって作ったんです。アルト君、確かオーバーAランク相当のリンカーコ
アがあったから、これで代わりになれないかなって。」
シャーリーが説明する内に光は収まった。
「これはインテリジェントデバイスです。今ので登録が終わったわ。」
すると、青白い光が点滅した。それと同時に聞こえてくる声。
「Nice to meet you. sir.(よろしくお願いします。サー。)」
アルトはイアリング型デバイスに「ん?あぁ、よろしく。」と返すと、シャーリーに向き直る。すると彼女は
不敵な笑みを浮かべて言った。
「バリアジャケットに着替えてみて。もうイメージデータは入れてあるから。」
「あ、あぁ…」
アルトは頷くと、強烈に押し寄せる気恥ずかしさに耐えながら、皆がそうするようにデバイスを掲げてこ
う宣言した。
「セット、アップ…」
するとデバイスは再び光り始め、「Yes sir.」といって四散する。そしてその青白い光は彼を包んだ。数
瞬後、光が収まった時彼が最初に感じたこと、それは身体の一部であるかのような着心地だった。
222シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 18:30:28 ID:Ycs9G9Bn
「これは…EXギア…」
それは分解された軍用EXギアと寸分変わらぬ形状をしており、パワーアシスト機能も健在だ。
「そう。さすがに反応エンジンは無理だったけど、あなたの魔力でそれを代替して空を飛べるし、ミッド式
の魔力障壁も展開できるわ。もちろん、元の機能は全く同じよ。」
シャーリーは自らの端末を操作してマニュアルを呼び出す。
「武装は、あなたのバリキリーに搭載されてたリニアライフルをモデルに作ったけど……」
アルトはマニュアルからリニアライフルの記述を探す。どうやらそういう追加装備は「〜装備。」と言うだ
けでいいらしい。アルトは早速「リニアライフル装備。」とデバイスに命令を発する。すると、光の粒子が
アルトの右手に集まり、瞬時にそれを生成した。
「発射するのは通常の魔力弾だけど、弾頭の生成の時に色々な弾種を選択できるわ。」
マニュアルによると、通常の魔力弾や魔力砲撃、対AMFシールド貫通弾と多彩だ。
「あと、あたしの自信作がこれ!」
そういって示されたのはマニュアルの項目。タイトルは『PPBS』とあった。
「ピンポイントバリアシステム…」
「そう!EXギアのデータベースを解析したら、その基礎理論があって、作っちゃった。」
どうやらこれの犯人もコイツだったらしい。ヴァイスのヘリに付けられるバリアはおそらくピンポイントバ
リアシステムだ。
アルトのEXギアのデータベースにはパスワードをかけたSMSの機密情報と美星学園の卒業試験突
破のために教科書が一通りアップロードされていた。
確かその教科書のなかには最新のOT(オーバー・テクノロジー)・OTMの基礎理論があった。
しかし、とアルトは思う。もし基礎理論だけで彼女はそれを作ってしまったのなら冗談抜きで天才だ。あ
れら超科学には理論だけでは解析不能なところがあったためだ。
「これで許してもらえる…かな?」
そう上目遣いで聞いてくるシャーリーを見ていると、機密などどうでもよくなったアルトは、礼を言うに止
めた。
それを許してもらったと解釈したシャーリーは、「ありがとう。じゃあ、また明日ね。」と言い残し、宿舎に
退散していく。おそらく3日間不眠不休だったのだろう。今思うと彼女の目の下には隈があった。
「…そう言えば、おまえの名前は?」
アルトはリニアライフルに付いた青い宝石に問う。
「I don't have name. Please regiter.(名前はありません。登録してください。)」
アルトはしばし黙考すると、VF−25のペットネームを思い出す。
「…じゃあメサイア≠ナいいか?」
「No problem.(問題ありません。)」
心なしか嬉しそうに見えた。そして、未だにあかね色に染まる空を見上げると、当初の予定を思い出す。
「メサイア、いけるか?」
新しい相棒にはそれだけでわかったようだ。主翼を広げ、スバルと同じような魔法による道ができる。し
かし、それはひたすら真っ直ぐで取っ手がついている。まるでどこかにあるカタパルトのように。
「All the time.(いつでも。)」
メサイアの歯切れの良い返事とともに、アルトは取っ手を握る。
「よし!」
掛け声とともにEXギアは急激な加速に入り、アルトの体は暮れかけの空を舞った。
223シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 18:32:03 ID:Ycs9G9Bn
投下終了です。支援してくださった方、ありがとうございます。
224名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/12(土) 18:39:43 ID:PILCSaDW
乙でしたー
アルトとアルトの対面は一体いつごろになるのでしょうか
225名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/12(土) 18:40:46 ID:CTh4ra7k
感想は置いておくが、歌詞を書くのはやめておいた方がいい
やばいことになる可能性があるからな
226名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/12(土) 19:14:44 ID:Yy/6Iozr
>そのため人命救助のために質量兵器を行使した(D(ディメンション)兵器使用は伏せられた)アルトや、
()はなるべく使用しない方が読みやすい。特に二重()はかなり読みにくいので避けるのが無難。
>本、部隊
何故に”、”を入れる?

また、はやてのセリフが少々長すぎ。中に地の文を挟みつつ小間切りにした方が読みやすいと思う。
>みまごう事なき武人
まごう事なきではなく?……でもこれはどっちでもいいかも。
>アルトの魔力で電磁気を作り出し、それによって質量物を打ち出すレールガンのような魔導兵

それ思いっきり質量兵器じゃん! まぁ、魔力を使えば基本的に質量兵器ではなくなるかもしれんが、質量物を飛ばすってことは非殺傷には切り替えられないからアリとは言い難い気が……。
ぶっちゃけ簡易デバイスとして魔力弾撃つ構造にした方が楽だったのでは?

それと歌詞を書くなら参考資料として歌手と曲名は最後に付けるべきかもしれん。
プラス♪はショボさが出ちゃうから止めておいた方が良いかと。

最後に、GJでした!!
227一尉:2009/09/12(土) 20:01:52 ID:mOvnJgdh
まっ良い代支援
228シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/12(土) 22:53:28 ID:Ycs9G9Bn
>>224
そういえば同名の人がいましたね。まとめの方に載せるときに追加しようと思います。もし追加してあったらコメ
欄で批評していただければ幸いです。

>>225
ん〜やっぱり歌詞書くのはヤバイですか…マクロスといったら歌だから入れたかったんだけどなぁ…歌詞を
改造してもいけないんでしょうか?

>>226
いろいろご指摘ありがとうございます。まとめのほうではその指摘を生かしたいと思います。
しかし質量兵器についてですが、ヴィータの鉄球もありますし、自分はありだと思っています。でないとバルキ
リーが杖をもって戦うことに…(それはそれで愉快な気がしますが…)それにこうしないと後々出てくる<検閲削
除>が描けなくなってしまうので…ご容赦願います。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/12(土) 23:28:13 ID:JnPSww7D
>>228
動力だけ変えれば質量兵器じゃないって流石に無理がありませんか?
まぁ魔力で打ち出す魔法(笑)も存在するから余り気にするのもアレですが
アインヘリヤルの例もあるわけで、魔力弾を質量兵器と交換すればいいんじゃないかと思います。
勿論本来の武装よりも格段に威力が落ちるとは思いますが

それと歌詞の掲載は絶対にやめた方がいいと思います
精々曲名か一フレーズ程度に収めるのが無難でしょう

マクロスはよく知らないので余り感想らしいものが書けなくて恐縮ですが
新人さんはもう世紀末の水より貴重な様で、更新頑張ってください
230名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/12(土) 23:29:48 ID:1kcqBbJW
>>228シレンヤ氏
JASRAC(俗称・カスラック)を甘く見たらいかんでえ・・・・・・。
奴等、版権絡みで銭儲けと権威見せ付けが出来そうな隙有らば
世間非常識な難癖そのものないちゃもんでも『業界常識ですから!(キリッ!』って
厚顔無恥に言い放ってリアル訴訟に持ち込もうとすっかんね。
231シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/13(日) 00:19:21 ID:W9jZnl4k

了解しました。歌の方は表現でなんとか補ってみます。


また、レールガン型発射方式は物語の根幹部分に触れており、数の明言は避けますが、数あるストック
もそれをもとに書き進めております。これをオミットすると物語が崩壊してしまう可能性もあり、なにとぞ
ご理解願いたい=B
わがまま言ってすいません。でも、これだけは譲れないんです。
232名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 00:39:17 ID:8YMH9rD6
>>231
ま、レールガンの方はそう言うなら「後にそれなりな納得度を示せる展開有るんだろうなぁ」と
末永く見守りましょうや。 謙虚に読み手意見を参考に取り入れるのは
感心出来る事と思いますが、あまり書き手側が譲ってばかりですとそれこそ
「作品としての軸がぶれる」事になりかねませんからね。
233名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 09:24:07 ID:RMpd8J7R
動力源が魔力なゆりかごが質量兵器の分類だからなあ。
234シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/13(日) 11:05:33 ID:W9jZnl4k
>>233
それって積んでる兵器が質量兵器(ただの粒子加速のビーム砲とか凝集光砲とか)なのでは?
でなければ次元航行船も質量兵器になってしまいます。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 11:15:44 ID:bcR8tRgr
投下以外では名無しにしておいた方がいい忠告しておく
236名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 11:18:55 ID:1zIDUwI+
AMFが高濃度なゆりかごが質量兵器を積んでない訳ないだろーから、結果的に分類上質量兵器になるのかねー? 正確には魔導兵器と質量兵器のハイブリットなんだろーけど
237一尉:2009/09/13(日) 12:56:12 ID:mnvdRNqr
戦力支援にする
238レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 12:57:36 ID:cAII4eXP
今日は、予約が無さそうなので13:10頃に第28話を投下させて貰います。
239レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:10:27 ID:cAII4eXP
 では行きます
 
 
 今から150年以上前…あらゆる次元世界に戦いが蔓延していた頃、ミッドチルダに三人の魔導師が存在した。
 三人の魔導師は、ミッドチルダ南西部のとある地方において謎の石を発見する。
 その石は真っ二つに割れたかのように欠けていて、外見はただの石であった。
 
 …しかし石の内部には謎のエネルギーが残留しており、更にそのエネルギーを解析すると、
 エネルギー内には魔法技術や質量兵器技術、果ては様々な世界の歴史など膨大な知識が保存されており、
 中には伝説級のアルハザードの技術や情報、神話級の魔法技術や情報が蓄積されていたのである。
 
 …これらの情報を知った三人の魔導師は、ある野望を抱く事となる。
 この情報と技術を応用・併用すれば、この次元世界を纏め上げ事すら不可能ではない。
 それは正に神の所業、つまり我々は神になる事が出来る…
 三人の魔導師は互いに協力し合い、神になる為の道を歩み進む事となった…
 
 
                 リリカルプロファイル
                  第二十八話 角笛
 
 
 …その後、三人の魔導師は石の情報を基に次元世界を纏め上げ平定、
 75年後にミッドチルダに時空管理局を設立し、三人は最高評議会と名を変え表舞台から姿を消す。
 
 設立から月日が経ち、石を中心とした巨大なデータベースを保有した超巨大次元船を設立、
 その後次元船は本局と名を変えデータベースもまた無限書庫と名を変え現在に至るのであった。
 
 
 そして現在…ミッドチルダに東部の森に存在する洞穴の前に三人の人影が存在する。
 ヴェロッサ、シャッハ、アリューゼである、彼等はなのは達がセラフィックゲートに向かっている頃
 スカリエッティの居場所兼ラボである聖王のゆりかごへの潜入と魔法技術のルーンを解除の為に、
 ティアナによって齎されたディスクの情報を頼りに此処へと赴いたのである。
 
 「…しかし来たのはいいが、どうやって潜入する?ルーンって奴で存在次元を曲げられてんだろ?」
 「勿論、此方にもそれなりの用意はあるさ」
 
 アリューゼの疑問にヴェロッサは答えると、懐から液体が入った二つの瓶を取り出す。
 ルシッドポーション、これは無限書庫に記載されていたルーンの情報を基に、一時的に存在次元をずらし透明にするものであるという。
 つまりはルーンが起動している時と同じ現象を作り出す代物なのだが、効果は五分程度であるのが弱点であると付け加える。
 
 「でも五分もあれば僕のレアスキルで潜入することは可能だからね」
 
 そう言うとヴェロッサの下に半透明の猟犬が多数姿を現す、ウンエントリヒ・ヤークトと呼ばれるヴェロッサの魔力を用いて
 目視や魔力深査に対し高いステルス性を誇る猟犬を作り出すレアスキルであり、
 更にコンピュータにアクセスしての情報収集や、障害物を通り抜けたりする事も出来るのである。
 そして今回はルシッドポーションを猟犬に振りかけることで、効果を与え侵入を可能とするものであった。
 
 「でも…君が潜入するとはねぇ」
 「何だ?まだ文句があんのか?」
 
 …本来アリューゼはこのような任務は得意ではない、寧ろシャッハの方が能力的に適している。
 しかし今回はアリューゼたっての希望でヴェロッサ達に嘆願し、シャッハに代わって潜入する事になったのだ。
 
 「まぁいいさ、とりあえずがんばって」
 
 ヴェロッサは一つ挨拶を交わすと開始時間となり、アリューゼは受け取った瓶の中身を飲み干し
 ヴェロッサは猟犬達に振りかけると徐々に姿を消し見えなくなる。
 
 だが本人達は消えた事が分からないようなのであるが、五分しか保たない為に急いで洞穴を通る。
240レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:11:55 ID:cAII4eXP
 …比較的長い洞穴を駆け足で抜けると広い空洞に当たり、中には巨大な船の姿がある。
 
 「これが…ゆりかごか……」
 〔惚けてる時間はないよ〕
 
 猟犬からヴェロッサの窘める言葉が響く中で、入り口らしき場所を見つけると
 猟犬は早速ハッキングを仕掛け、直ぐに扉を開けると飛び込む形で乗り込み直ぐ様扉を閉める。
 
 「大丈夫なのか?」
 〔うん、痕跡は残していないからね〕
 
 直ぐにバレるようじゃ査察官は務まらないと猟犬から笑い声が響く中で、
 ヴェロッサは直ぐに真剣な口調へと変え此処から先は二手に別れようと提案する。
 自分は引き続きルーンの解除とスカリエッティの居場所の詮索
 アリューゼはアリューゼが望む事をしてくれと説明を終える。
 
 「気付いていたのか……まさか!てめぇ思考捜査を!?」
 「…君は簡単に顔に出るんだよ」
 
 嘆願の頃からアリューゼは何かを胸に秘めていたのが分かっていた、だからシャッハも快く代わってくれたと話すと
 頬を掻いてばつの悪そうな顔をするアリューゼ、それを後目に猟犬はゆりかごに放たれ、
 アリューゼもまた自分のすべき事の為、先に進むのであった。
 
 
 場所は変わり翌日の朝、此処はミッドチルダ北部聖王教会から更に北に位置する雪に覆われた巨大な山
 此処は年中雪に覆われており、梺の村では大雪山と呼ばれている場所でもある。
 その極寒の地の奥にある木々が大茂る森の中に、一カ所だけ切り取られたかのように草木が生えていない場所がある。
 
 其処には青い線で描かれた魔法陣が刻まれており、その前に一人の女性が立っていた、メルティーナである。
 メルティーナは無限書庫の情報によりこの場所を知り、なのは達を送った後此処へ赴いたのだ。
 そしてメルティーナは徐に魔法陣に手を伸ばし触れると、無限書庫で得た詠唱を始める。
 
 「…極寒の地にて眠りし冷厳なる魔狼よ…我が前に姿を現せ!!」
 
 すると魔法陣が輝き出し、中央から巨大な狼が姿を現す。
 メルティーナが呼び出した狼は、かつてこの地域で信仰されていた伝説の狼なのであるが
 傲慢な態度と我が儘な行動で誰にも従わず好き勝手に暴れまわり、
 結果的に人々から畏怖の念で見られ此処に封じられた存在なのである。
 
 そんな狼の体は大きく氷のような青い体毛に覆われ、首下には金色の首輪が付けられており、
 目は赤く輝き口から白い息が漏れ出す中で、狼はメルティーナに問い掛ける。
 
 「俺を呼び出したのは貴様か?」
 「そうよ、私の名はメルティーナ、率直に言うわ、アンタの力が欲しい!!」
 
 メルティーナは狼に指を指して答えると、狼は大声を上げて笑うとメルティーナの申し出を断る。
 狼曰く…俺は俺の為に生きており、誰かの…ましてや女に使役されるつもりは無いと、傲慢に満ちた表情で答える。
 
 だがメルティーナも負けてはおらず徐に左手を狼に見せると其処には、金色の絹糸のような紐で出来た腕輪が付けられており、
 その腕輪を見た狼の表情が一転する。
 
 「貴様!何故それを…グレイプニルを手にしている!!」
 
 メルティーナが身に付けている腕輪の名はグレイプニル、狼の首に付けられた金色の首輪と同じ材質で作られた封印の切っ掛けとなった代物である。
 …かつてこの地を訪れた高僧が片腕と引き替えに取り付けた物で、この腕輪を身につけた者に逆らう事が出来ず
 それにより狼は封印され、腕輪はこの地に安置されていたのだが、管理局が腕輪をロストロギアと判断した為、場所を本局へと移し
 永らく本局の保管庫内で埃を被っていたところを、無限書庫の情報によって知ったメルティーナがパクっ………借りたのである。
241レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:13:15 ID:cAII4eXP
 
 「これさえあればアンタは私に逆らえない!」
 
 メルティーナは狼以上に傲慢な態度で挑むと歯噛みしながら睨み付ける狼。
 しかしどれだけ悔しがってもメルティーナに逆らうことは出来ない
 何故ならグレイプニルは狼の動き全てに作用し、封じられ果ては意志に背いた形で動きを操られしまうからである。
 
 それを知っているからこそ、メルティーナはあの様な横柄な態度をとれるのである。
 ……尤もメルティーナ自身の度胸も関係してはいるのではあるが……
 
 「ぬぅ……仕方あるまい…しかし!寝首をかかれる覚悟はあるのだろうな!!」
 「ウルサいわね!アンタは私の飼い犬になっていればいいのよ!!」
 
 狼の威圧もメルティーナは横暴な態度と言葉で一刀両断し
 口を紡ぐ狼を見て更に見下すメルティーナであった。
 
 
 場所は変わり此処はゆりかご内の施設、中ではナンバーズ達が最終決戦に備えて模擬戦を行っており、
 その中には戦闘スーツで身を飾ったギンガの姿もあり、すっかり馴染んでいる様子であった。
 
 「では各自励むように…以上!!」
 
 トーレの掛け声を合図に解散するとチンクとトーレは最後の調整として話し合い始め
 ギンガはディエチと共に食堂へと赴こうとしていると、そこにノーヴェとウェンディが姿を現す。
 
 「どうしたの?二人とも」
 「二人に質問ッス!どうやったら二人みたいなコンビネーションが出来るんッスか!!」
 
 今回の模擬戦の中でギンガはディエチと組み、ノーヴェはウェンディと組んで行った。
 結果は一目瞭然でギンガの動きに合わせてディエチはウェンディの動きを牽制
 ノーヴェは真っ向勝負をかけるが、ギンガの動きはフェイントで、実はウェンディを狙っており
 
 ノーヴェはすぐさま追おうとしたところをディエチに出鼻を挫かれ
 ウェンディは焦りながらエリアルショットにてギンガを迎撃しようとするが難なく回避
 ライディングボードごとウェンディを叩き付け吹き飛ばし、一方でノーヴェはディエチの下へ向かおうとするが、
 ディエチは既にイノーメスカノンからスコーピオンに持ち替え迎撃、ギンガ達の勝利で幕を閉じたのである。
 
 二人の息の合った動きと更に言えばギンガの能力はノーヴェと酷似している為に、参考として聞きに来たのである。
 すると二人の向上心に感心したギンガは快く応じ、その中で休みたいのに引っ張り出されるディエチであった。
 
 
 その頃レザードの自室では席に座ったレザードがナンバーズ達とギンガの仕上がりを確認していた。
 仕上がりは良好で、特にギンガの洗脳は今までゆりかごで暮らしていたかのように順応しており、
 順応こそが最大の洗脳効果である事を証明していた。
 
 一方で戦闘面での仕上がりも良好で並の魔導師や不死者では相手にならない程まで成長している…と践んでいると、
 後方から助手であるクアットロが資料を持って話しかけてくる。
 
 「博士!強化型の不死者の量産の目処が付きましたよぉ」
 「それはよかった、では見せて貰いましょうか」
 
 レザードはクアットロが手にした資料を受け取ると流し読みする。
 資料にはドラゴントゥースウォーリアを始め、自爆を主としたウィル・オ・ウィスプ、後方支援に適したイビル・アイ、
 三体の獣を合成したパラミネントキマイラ、高い回避率を持つグレーターデーモンなど
 
 今までとは全く異なる強力な不死者の量産成功が綴られており、
 流石のレザードも眼鏡に手を当て喜びの笑みを浮かべ、それを見ていたクアットロもまた笑みを浮かべていると
 レザードのデスクのモニターに目がいき、つい質問を投げかける。
242レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:16:46 ID:cAII4eXP
 
 「博士?これは?」
 「ん…これですか?対エインフェリア用の強化プランですよ」
 
 三賢人が造り出したエインフェリアは高性能で、多数の不死者で相手をしたとしても焼け石に水の状態は目に見えている、
 その為、質に対し量で適わぬのなら質を上げるしかないという考えに至ったレザードは、
 スカリエッティと共同でナンバーズのレリックウェポン化を決定したのだという。

 かつてレリックウェポンに使われているレリックは危険なロストロギアであったのだが
 二人のレリックウェポンやベリオンなどのデータにより、安定した魔力を供給することが出来る
 安全な高エネルギー資源へと生まれ変わった為、今回の強化プランを実行出来たのだという。
 
 レリックによる強化は身体強化が主なのであるのだが、
 トーレはインパルスブレードの出力強化、チンクはヴァルキリー化の際の能力向上
 セインはフィールドを用いた対消滅バリアを展開し、バリア・フィールドに覆われた場所もダイブする事が出来るようになり
 
 セッテはブーメランブレードをクロスに重ね手裏剣のような形で投げれるようになった事と、回転速度・精密度などの向上
 オットーは更なる広域攻撃化と結界の強化、ノーヴェは失った右足の強化と
 両足に加速用のエネルギー翼を展開する事でA.C.Sドライバークラスの突進力を実現させ
 
 ディエチは超遠距離の精密射撃の実現と弾頭の軌道操作能力
 ウェンディはセインと同様の対消滅バリアをライディングボードに展開させる事が出来るようになり
 ディードはツインブレイズのエネルギー刃を伸ばすことが出来るようになり、四階建てのビルなら両断出来る程の能力などが加わるのだという。
 
 「へぇ〜それで博士私は?」
 「……貴女は前線に出ないでしょう?」
 
 クアットロは不死者及びガジェットの操作・制御を主にしている故に
 強化プランは必要無いと肩を竦め答えるレザードに対し、心なしか残念そうな顔をするクアットロであった。
 
 
 場所は変わりスカリエッティの研究施設では、ゆりかごの調整に勤しんでいた。
 そんな施設の中で二つの似つかわしくない物が存在している、
 一つは左手用で指先が鋭い金属で出来たグローブ型のデバイスと
 刀身が艶のある黒に禍々しい印象を感じる飾りが付いた鍔と片手用に短くなった柄の片手剣である。
 
 剣の名は魔剣グラム、かつて手に入れた妖精の瓶詰めを基に錬金術により変換した
 オリハルコンを材料に造られた剣型アームドデバイスである。
 恐らくこの世界で、レザード以外にアーティファクトを元にしたとはいえ、オリハルコンを作成したのはスカリエッティだけであろう。
 
 そしてもう一つは防と縛に特化したアームドデバイスで、此方は流石にオリハルコン製ではない。
 その二つのデバイスを目にしたウーノはスカリエッティに質問を投げかける。
 
 「ドクター?これは一体……」
 「あぁ、私専用のデバイスだよ」
 
 今回の戦闘は総力戦といっても過言ではない、自分が育てた“愛娘”達が負ける事はないと思うが
 万が一乗り込められた場合を想定して造ったと語ると
 ウーノは胸に手を当て大声を上げてスカリエッティに訴えかける。
 
 「大丈夫です!もし攻め込められたとしても、私が命を懸けて―――」
 「いや…ウーノにはもっと重要な任務がある」
243レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:19:03 ID:cAII4eXP
 そう口にすると突然席を立ち、徐にウーノの唇に優しく手に掛け顔を近づけ、スカリエッティの突然の行動に顔を赤らめ目線を逸らそうとするが、
 スカリエッティの澄んだ瞳を避ける事が出来ず、じっと見つめ続けているとスカリエッティは静かに甘い吐息混じりで言葉を口にする。
 
 「……私の子を孕め」
 
 ウーノは他のナンバーズ、特に初期の三人の中で体の作りは人に近く、子供を孕む様に出来ている。
 それに…もし自分が消える事になった場合、自分が生きた“証”を残しておきたい。
 
 その一つは“歴史”であり、もう一つは“遺伝子”である、そして“証”の内の一つである“遺伝子”をウーノに受け取って欲しいと告げる。
 
 ウーノはスカリエッティの言葉を一字一句聞きながらもその瞳は逸らさず
 話を終える頃にはウーノの瞳は妖美に満ち、徐に上着を脱ぎ捨て、たわわに実った果実を晒し出すと
 スカリエッティに抱き付き、更に首に手を回して見つめ合うと、甘い吐息を吐くのように応えるウーノ。
 
 「…私の体はドクターのモノです……」
 
 その妖艶な笑みと口調にスカリエッティの理性が飛び、口付けを交わしながら実った果実に手を伸ばし
 倒れ込むように押し倒して、二人の濃密な時間が流れ始まるのであった……
 
 
 場所は変わり翌日の夜、聖王教会の会議室に対策本部を設置したクロノはユーノを始め本局、ゲンヤを始めとした地上本部と共に今後の対策を練っていた。
 しかしその面子の中にカリムの姿はなかった、彼女は自室にて翻訳された予言を読み返していた。
 予言の大半を読み返していると一つの文に目が行く、それは――
 
 “神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く”である。
 
 神々とは恐らく神の三賢人の事であろう…しかし死せる王とは一体誰のことを差すのであろう…
 歪みの神はレザード、無限の欲望はスカリエッティというのは、既に明らかにされている。
 
 今回の事件の張本人達が次々に明らかにされていく中で、死せる王が誰なのからない…
 故に不安は未だ拭えず眠れぬ夜が続いているのであった。
 
 翌日の昼、今日も朝から議論が交わされている中で一報が届く。
 それは神の協力を得る為に向かったなのは達機動六課前線メンバーが、今し方帰ってきたというものである。
 
 その一報を聞いた対策本部はざわめき始める、なのは達は神の協力を得られたのか?それとも敗北による撤退だったのか?
 いずれにしろ報告する為ここに顔を出すだろう…クロノがそう考えていると対策本部にノック音が響く。
 クロノは返事をするとなのは達が部屋へと入り、その顔は今までとは異なる程自信に満ちていた。
 その表情に淡い期待を胸に秘めながらクロノはなのは達に問い掛ける。
 
 「先ずは無事に帰って来て何よりだ……それで神の協力を得られたのか?」
 
 するとなのはとフェイトは互いに目を合わせ頷くと、腰に添えてある杖を見せる。
 この杖は神の協力を得た証拠であると話すと、対策本部は一斉に沸き立ち
 歓喜に満ちる中でユーノがなのはに抱きつきながら激励を込める。

 「やったね!なのは!!」
 「ちょ!?ハシャぎ過ぎだよユーノ」
 
 そう言ってなのはは顔を赤らめ照れていると、その様を見たはやてが出発前の事を思い出す。
 
 …そうだ!無事生還したらなのはと共にお祝いの赤飯を炊かねばならんかった…
 
 はやては歓喜に満ちた対策本部をこっそり抜け出して、食堂にある厨房へと赴く、
 そして暫くすると対策本部には赤飯に鯛の尾頭付き、更にビフテキにカツカレーなどがズラリと運ばれて来た。
 今回の祝杯と今後の栄喜を養う為に、はやて自らが腕を振るい更に監修して用意したようである。
 対策本部は一時宴会場と変わり、飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。
244レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:22:05 ID:cAII4eXP
 
 
 翌日、場所は変わりスカリエッティの指揮の下、ゆりかごの最終チェックが行われていた。
 ゆりかごは当初、激しく損傷していたのだが、長い時間をかけて修復を完了
 そして動力炉に繋がれた聖王の遺伝子を所有したベリオンによる動力炉の起動確認も完了し、
 更に余ったレリックを使う事で動力エネルギーを手にする事が出来た。
 
 後はこの最終チェックを完了させればゆりかごを起動させる事が出来る、
 すると其処にレザードとクアットロが姿を現す、レザードの方は既に準備が完了しており、
 後はスカリエッティの演説と“ゆりかごの主”の合図を待つばかりであると。
 その時である、いつもいる彼女がいない事に気が付いたレザードはスカリエッティに問い掛ける。
 
 「おや?ウーノの姿が見当たりませんが?」
 「あぁ、ウーノは船を下りたよ」
 
 スカリエッティは最終チェックを行いながら淡々と答える。
 ウーノには重要な任務を与えた、しかしそれは此処ゆりかご内で出来る事ではない為
 彼女を船から降ろし任務に専念して貰ったのだと語る。
 
 その為、ゆりかご内の防衛及びガジェット・不死者の官制はクアットロに全て任せると告げると
 ウーノの代わりとはいえ責任ある任を受け、笑みを浮かべ喜ぶクアットロを後目に、逆にスカリエッティが質問を投げ掛ける。
 
 「ところで“聖王”の方はどうなんだい?」
 
 すると眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべると話し始める。
 “聖王”には“聖王”としての自覚を持たせ、更に王の印たる二つのレリックを取り付ける事により、
 “聖王”として完成を迎え、今はゆりかご内に存在する王の間にてその時を待っていると。
 …ただ、今の“聖王”はかつての姿とは異なり“貫禄”が身に付いていると語る。
 
 「ほう…それはすばらしい、では早速行こうか」
 
 レザードの会話の中で最終チェックを済ませたスカリエッティは席を立ち、
 王の間へと向かうと、あとに続くレザードとクアットロであった。
 
 
 そして夜…聖王教会の対策本部にはまだ灯りが灯っており、昼夜問わず議論が重ねていた。
 その時である、議論を提示するモニターにノイズが走り映像が切り替わると、スカリエッティを映し出した。
 
 この電波ジャックはミッドチルダ全土に及び、なのは達は待合室でその様子を観察していると
 映像のスカリエッティは狂気に満ちた表情でゆっくり口を開き始める。
 
 「ミッドチルダに住む諸君…久し振りだね、私を覚えているかい?」
 
 …誰もが忘れる訳が無い、地上本部壊滅の一端を担い世界を破滅に導く存在を…
 そんなミッドチルダ全土の思いを後目にスカリエッティは話を続ける。
 …いよいよ彼等は動き始める、今までの時間はミッドチルダを壊滅させる為の準備期間であったと。
 
 「見たまえ!これが我々の戦力だ!!」
 
 すると映像は引き絵に変わり、画面には夥しい数のガジェットと不死者が犇めいており、
 ガジェットには新たな武装が追加され不死者も今までとは異なる凶悪さが垣間見てとれた。
 
 スカリエッティ曰わくガジェット及び不死者はこれで全部なのではなく
 至る場所に量産施設が存在し、其処から無数の軍勢として姿を現すと饒舌に語る。
245レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:25:17 ID:cAII4eXP
 
 「だが…コレだけではない、我々は遂にベルカの王を復活させたのだ!」
 
 スカリエッティは両手を広げ宣言すると映像は王の間に切り替わり、
 左右にはナンバーズ達が立ち並び、その列にギンガの姿も存在していた。
 
 一方でギンガの姿を見かけたスバルとゲンヤは思わず目を見開き、
 スバルに至っては両膝をつき、そのいたたまれない姿にティアナはそっと肩に手を置く。
 しかしその光景を後目に映像は続き、奥の王の座が映し出されると其処には一人の女性が座っている。
 
 その女性の年齢は17歳前後で服装は黒を基調としたバリアジャケットと騎士甲冑を合わせた造りの服に
 髪をサイドポニーで纏め、その髪型は普段のなのはと酷似していた。
 
 そして女性は目を開くと左右が紅玉と翡翠色をしたオッドアイで、その目を見たなのははヴィヴィオである事を確信した。
 …いや確信せざるを終えなかった、あの瞳を見る前からそうではないかとなのはは感じており、
 実際にそれが合っていた事に対し、流石のなのはも動揺を隠せずいると
 映像のヴィヴィオが立ち上がり一つ間を置いて言葉を口にする。
 
 「…私の名は聖王ヴィヴィオ、このゆりかごの主にしてベルカの王である」
 
 ヴィヴィオの口から放たれるその言葉は威厳に満ちており、その佇まいは風格すら感じる。
 そしてヴィヴィオは自分達の目的を話し始める。
 
 「我々の目的はこのミッドチルダを土台に我々の世界…新たなベルカを創り出す事にある」
 
 元々古代ベルカは此処ミッドチルダに侵略する為に来た、
 故に本来の目的を知ったヴィヴィオはミッドチルダと言う“土台”の上にベルカを設立すると語る。
 その言葉に苦虫を噛むような表情で映像を見るはやて。
 
 「冗談やない!私等は肥やしやない!!」
 
 はやては対策本部の机と強く叩き吐き捨てるように言葉を口にすると、それに呼応するように周りの人々が一斉に頷く。
 一方で、はやては同じく演説を聞いていたカリムの顔を見る、するとはやての行動に気が付いたカリムははやての顔を見てにこやかに微笑む。
 
 「安心してはやて、幾ら彼女が聖王だったとしても教会は協力を惜しみません」
 
 …確かにかつてベルカはミッドチルダに侵攻した、しかし今は友好的な繋がりが出来ている、
 それを捨ててまで聖王に…ましてやスカリエッティにつく事は有り得ないと断言するカリム。
 しかしヴィヴィオの演説はまだ終わってはいなかった。
 
 「この世界の住人に出来る事…それは速やかに死ぬ事、抵抗は無意味…死を受け入れなさい」
 
 そうすれば苦しむ事なく生から脱却できると言葉にすると、
 間髪入れずに老成の声が辺りに響き渡る。
 
 「…いつからミッドチルダは貴様達のモノになったのだ?」
 
 するとモニターが二分割され、其処にガノッサが映し出されるとクロノは歯噛みしながら睨み付ける。
 ガノッサの周りにはエインフェリア達がずらりと並び立ち、ガノッサは杖で床をつつくと話し始める。
 
 「ミッドチルダに住む諸君、いよいよ時は満ちた!貴様等が我々の礎となる為のな!!」
 
 すると映像は海上を映し出し、ルーンを解除したヴァルハラがゆっくりと姿を現す、
 …今までの潜伏は戦力を整える為のものであり、既にそれが揃った今だからこそ行動に移すと息巻いた様に語るガノッサ。
246レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:27:51 ID:cAII4eXP
 「見よ!これが我々の切り札である!!」
 
 ガノッサは杖を高々に上げると映像が切り替わり、二つの月が映し出され、その間に何かが出現する。
 其れは巨大な赤い水晶体のようなものに両端には竜の翼を象ったものがあり、
 そして水晶体の中心からは管が何本の伸びており、ラッパのように先端が広がった砲口に繋がれていて、砲口には竜を象った飾りが付いていた。
 
 人々がその存在に困惑する中で、クロノの端末に独自の諜報員からのデータが今し方送られてきており、
 それに目を向けると驚愕し、思わず映像に目を向け声を荒らげた。
 
 「奴らなんて物を!!!」
 「さぁ終末を告げる笛の音よ!今こそ奏でてやろう!!」
 
 ガノッサは高々と上げた杖を振り下ろしながら宣言するのであった。
 
 
 
 …場所は変わり此処はミッドチルダ西部エルセア地方、人々はスカリエッティと三賢人の演説に聞き見入り
 空は満天の星空で雲が一切無く星々が人々の頭上で力強く輝く頃、
 一つの赤く輝く星の光が徐々に輝きを増し更に巨大化すらしていき、
 それが映像に映し出されている攻撃であると気が付いた頃には辺り一帯を赤く染め上げ
 
 攻撃が大地に突き刺さると一気に広がりを見せ、その光はエルセア地方全土を包み込み
 赤い光が一筋の光となって消滅すると、エルセア地方は巨大なクレーターとなってミッドチルダの地図から消滅したであった…
 
 
 この一部始終はミッドチルダ全土に流れており映像には巨大な魔力砲を撃ち終えた砲口が映し出されている。
 
 「これが我々の切り札、その名もドラゴンオーブである!!」
 
 ドラゴンオーブ、二つの月の軌道上に設置された巨大魔導兵器で、
 左右の二枚の翼で月の魔力を受け止め、中央の赤い水晶体によって増幅・圧縮、
そして砲口にて加速され撃ち放ちその威力は一目瞭然、常軌を逸していた。
 そして今の今までその存在に気が付かなかったクロノは八つ当たりするように机に向かって拳を振り下ろす。
 
 「情報が………遅すぎる!!!」
 
 一方で現場や他の地域はアリの巣をつついたかのような大騒動に発展しており、
 その情報は対策本部にまで伝わっており、ゲンヤの指揮の下、対応を取り始める中
 映像には未だガノッサとヴィヴィオが相対するように映し出されていた。
 
 「我々はこの力でミッドチルダを破壊し全ての憂いを晴らし神の道を行く!!」
 「そうはさせない、この世界は我々の世界の礎として必要な物である、破壊などさせてたまるか!!」
 
 互いは相対しながら睨み合い、宣戦布告すると両者の映像が消え、
 その中でカリムは一人、予言の一文を思い返していた。
 
 
 
  …神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く…と……
247レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/13(日) 13:29:19 ID:cAII4eXP
 以上です、開始合図が鳴ったってな回です。
 
 
 ドラゴンオーブはあれです、カイ○スギリーの片玉を無くし、翼を付けたってな解釈でお願いします。
 
 
 次はいよいよ大戦……を予定しています。



 それではまた。
248名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 17:36:29 ID:P/1nSUgh
今ひとつ練ってる作品があって
物書きの仕方の勉強しようとクロス倉庫みてたら同じ作品をクロスしたのがあったんだけど
作るのやめたほうが良いかな?
249名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 17:43:48 ID:Ny0VF3Y0
>>248
別に同じ作品のクロス書くの禁止っていうルールはないんだから、
それで書きたいって思ってるんなら書けばいいし、書く気がしないなら書かなければいいと思うよ。
250名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 17:47:50 ID:P/1nSUgh
おけ
練り終わったら投降する
251名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 18:27:22 ID:9b+7/cRK
>>250
パクリさえなければいいと思うが、ちなみになにと被ってるの?
252名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 18:38:43 ID:P/1nSUgh
>>251
なのは×HELLSING
だれもやらないだろうと予測してたがまさか居るとは・・・
253名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 18:39:50 ID:P/1nSUgh
それにグロ表現出る可能性が極めて高そうな予感がする
254ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 19:11:52 ID:gPf9x+vb
間に合えば23時45分から投下予約。
255名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 20:33:26 ID:ZUsftTRM
なん……だと……?(早さ的な意味で)
256名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 21:08:16 ID:OLCJqEp1
別に急がなくても完成してからで良いと思うの…
257名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 22:03:48 ID:mO5AFhtf
>>247
GJ!
なんというラグナロク。これは間違いなく地獄絵図。
258名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 22:13:30 ID:2U5eP81W
>>247
GJ
ウーノさんにハァハァ。
それと言っていいのかわからないが、精神と時の部屋みたいでわくわくする。
259名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 22:23:27 ID:6ewPB9Hd
>>254
明日テストなのに眠れないじゃないか!
260名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/13(日) 23:04:18 ID:fyNVIrnW
>>259
勉強しろよw


ところでまとめwikiに替え歌もあったけど今でも投下しても大丈夫なのか?(主に某○スラック的な意味で)
261ロックマンゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:45:25 ID:gPf9x+vb
ボチボチ投下します。
262ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:46:37 ID:gPf9x+vb
 第九七管理外世界地球、英国はウェールズの片田舎に一軒の邸宅があった。そこには老境を迎えつつある紳士
と、彼の身の回りの世話をする若い姉妹が住んでいる。紳士は人当たりのいい人格者であり、近所の評判は悪く
なかった。長く海外で仕事をしており、引退を機に故郷での隠棲を始めたらしい。その人柄を評価した人々が、
一度ならず地元に名士にと彼を推したことがあるのだが、その度に穏和な笑顔で謝絶し、単なる人望篤い老紳士
としての立場を保ち続けている。読心術に長け、人心を容易に掌握することが出来るため、以前は軍の仕事して
いたのではないかという噂もあったが、例えそうだとしても忌避するだけの理由にはならない。当人は仕事の話
をしたがらず、歴史書や時代小説を読みふける毎日を送っているという。
 そんな老紳士の邸宅に、気のいい郵便屋から郵便が届けられたのは、とある初夏の一日だった。老紳士はいつ
ものように書斎で歴史書を読んでおり、彼は長く海外≠ナ暮らしていたため、故郷の歴史、特に近代史に詳し
くないのだ。暖炉には初夏だというのに小さな火が燃えているが、それは比較的温暖で知られるウェールズにお
いてこの辺りが寒冷な地域に属するからであり、老紳士の手足の動きが、歳のためか鈍くなってきているからで
もあった。手足だけではなく、二年前に腰を痛めてからは杖も手放せない。めっきり老け込んでしまったと彼の
世話をする娘、双子の姉妹は嘆くが、面と向かって言ったことは無論ない。二人は老紳士が若き日の如く律動的
になることを望んでおり、名士として地元の要職に付くことを、話が出る度に薦めてきた。しかし、娘である姉
妹の願い、訴えも頑なに拒み、老人は年老いて行くだけの日々をジッと過ごしているかに見える。姉妹はさらに
嘆くが、それがある種の贖罪行為であることも悟っており、強く薦めることも出来ないのが現状だった。
 気のいい郵便屋から届いた郵便を受け取ったのは姉妹の片割れで、宛名を見るや書斎へと飛び込んできた。そ
のとき姉妹のもう片割れは老紳士に紅茶を淹れており、品のない相手に対して非難がましい視線を送っていた。
「どうした、ロッテ。血相変えて」
 老紳士は歴史書を読むのをやめて、便箋を手に飛び込んできた姉妹の一人に目をやる。真剣な瞳は、ただ事で
はない雰囲気を醸し出している。
「お父様……これを」
 入ってきた勢いに比べて足取りがゆっくりなのは、幾分か落ち着いたからだろう。大切そうに差し出された便
箋は、飾り気のない至ってシンプルなものだ。宛名を見たとき、老紳士の表情が変わった。それは真剣と言うよ
りは穏やかなものであって、どことない懐かしさを憶えているようだった。
「あの子からとは、随分久しぶりだなぁ……アリア」
 紅茶を淹れていた姉妹の一人に声を掛けると、既にペーパーナイフを用意していた。便箋を渡して、綺麗に封
を開けて貰う。数枚の手紙は直筆であり、送り主である少女の近況報告から始まっていた。楽しげにそれを読ん
でいた老紳士だが、手紙が二枚目に、本題へと移ると徐々にその顔から笑みが消えていった。
263ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:48:49 ID:gPf9x+vb
「そうか……管理局はそんなことになっているのか」
 手紙は老紳士へ助力を請うものであった。苦境を訴え、自らの力になってはくれないかと、手紙の送り主であ
る少女が助けを求めてきたのだ。老紳士は少女のプライドの高さを知っていたから、それを捨て去ってまで人の
力を頼ろうとしている現状に確かな危機感を憶えていた。詳細が書かれた手紙をすべて読み終えると、すぐには
なにも言わず紅茶に手を伸ばした。アリアとロッテの姉妹は、そんな父親の姿を心配そうに見つめている。
「しばらくは、この紅茶が飲めなくなるかも知れないな」
 名残惜しそうな声で呟くと、老紳士は掛けていた眼鏡を外して椅子から立ち上がった。アリアがそれを助けよ
うとするも、老紳士は手で制して自らの力だけで立ち上がり、歩いた。ここ数年ではあり得なかった光景である。
「このまま隠棲を続け、老いて朽ちるだけだと思っていた。私のような愚か者には、それしかないと……」
 老病を理由に要職に付くことも拒み、一介の市民として生を終えるつもりだった。今の自分にはそれがお似合
いであり、死に行くその日まで、誰に迷惑を掛けることなく静かに生きていく、そう誓ったはずだったのに。
「アリア、ロッテ、私はまた間違いを起こそうとしている。大恩あるはずの古巣に、弓を引こうとしているの
だ」
「お父様、それは」
「だが、素知らぬ顔は出来ない。お前たち同じように、娘や孫のように思ってきたあの子が、助けを求めている。
私はそれを無視するぐらいなら、愚か者と罵られてもいい、彼女の力になってやりたい」
 父親の意志が固いことを姉妹は悟っていた。枯れ木のように老け込んでいたはずの皮膚に光沢がさし、まるで
若返ったかのような印象を受ける。背筋は伸び、瞳には生気がみなぎっている。
「私たちは、お父様に従います。お父様の良きように、やりたいことをなさってください」
「ご命令があれば、なんなりと」
 その言葉に、老紳士は顔を顰めた。自分の愚かなる行動に娘たちを巻き込んでいいものかと思う気持ちも、僅
かながら存在していたのだ。しかし、老紳士は説得しようとして諦めた。家族に対する愛情と、絶大なる忠誠心。
そうしたものを二人の表情から見出して、もはや姉妹らの意思に任せる他はないと判断したのだ。
「まず、人を集めることが先決だ。心当たりはいくつかあるが、もう何年も交流がない。どれだけの人間が協力
してくれるかは判らないが、私の名前を使って連絡を取ってくれ。私の、ギル・グレアムの名で」



        第一七話「叛逆者たちの初陣」


 ジェイル・スカリエッティによる策略と策謀の被害に遭い、時空管理局地上本部は本部ビルを失った。天から
降り注いだ雷とも言われるラグナロクの砲火は、地上のシンボルを一撃の下に消滅させたのだ。地上部隊の士気
は打ち砕かれ、市民の不安は増大し、クラナガン一帯を重苦しい空気が包んでいるかのようだった。
 せめてもの救いというべきか、本部ビルの地上部分は砲撃によって一掃されてしまったが、地下施設に関して
は無事な箇所が多く、現状において地上本部すべての機能が地下へと集約されていた。査閲部もその一つである
が、地上部隊のほとんどが壊滅的な被害を受けた中で、この部署だけはこれといった被害を受けていなかった。
査閲部は前線任務とも後方支援とも離れた部署であり、主任務は訓練や救助、国内における部隊の管理と運用す
ることにあり、先の戦闘とは関わりがなかった。もっとも今は残存部隊の統合や、被害地域の救助活動などを積
極的に行っており、主要部署が地上ビルと共に消し飛んだ今となっては一時的な司令部署としての役割を担って
いる。まして、部長職にあるのが前防衛長官にして故人のレジアス・ゲイズ元帥の娘であるオーリス・ゲイズと
もなれば、英雄として人気のあった故人の影響力もあって、現存する地上部隊がまとまりを取り戻すのにあまり
時間は掛からなかった。
 そんな査閲部長オーリス・ゲイズに、機動六課総隊長八神はやてが面会を求めてきた。予め面会の予約は取っ
てあり、用件も公用だ。はやては先の戦闘を指揮した指揮官として、報告義務があるのだ。
264ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:49:48 ID:gPf9x+vb
 一般的に、はやてとオーリスの仲は良くないとされている。オーリスの亡き父であるレジアスがはやてを嫌っ
ており、はやて自身も相応の対応をしていたからだ。例えば、かつて地上本部にて開かれたなにかの祝賀会には
やてが出席したときである。パーティドレスに身を包んだ小娘≠発見したレジアス、当時は中将の階級にあ
った彼が、聞こえよがしにこのようなことを言ったのだ。
「八神はやて二等陸佐か! 貴官も随分と出世したものだな。犯罪者に等しい立場からここまでのぼりつめると
は、さぞ汚い手を使ったのだろうな」
 この言葉に対する八神はやての反応は、次の通りである。
「ごあいさつ、いたみいります。きっと中将閣下にはご理解いただけるものと思います。私の人生の出発点が、
閣下の人生の終着点でしょうから」
 どちらも人として欠点があったのであろうが、はやてが可愛げのない女であり、レジアスが大人げない上官で
あったのは事実だ。オーリスは娘として、気持ちの上ではレジアスに傾いていた。しかし、公人としては直属の
上司であるレジアスの言動を窘める必要もあった。そもそも、はやてに対して個人的な反感や敵意などを持って
いたわけでもないのだ。
 二人の面会は形式的なもので終わるはずだった。オーリス自身、はやてとの面会は数ある予定の一つに過ぎず、
それほど重要視もしていなかった。形式的なやり取りと、必要とされる報告さえ受ければそれで終わりのはずで
あり、事実として一度は終わりかけた。はやてが用件とはまるで関係のない話を切り出すまでは。

「今、なんと言いましたか?」
 確認するオーリスの声は、驚きよりも不審に満ちていた。彼女のはやてを見る目に好意的な色は一切なく、そ
れどころか本来は持ち合わせていなかったはずの不快感すら滲んでいた。
「ジェイル・スカリエッティと地上本部、そして最高評議会の間にこれまであった密約、取引、各種やり取りな
ど、貴女の知りうる限りの情報を多次元世界に向けて公表して欲しい。そのように言いました」
 小さなスプーンでコーヒーを掻き回しながら、クリームの白い縞模様を眺めるはやて。彼女の口調は何気なく、
自身が発した言葉の重大さを理解していないかのように見える。
「本気ですか?」
 正気ですか、と本当は訊ねたかったのだが、オーリスは慎重に表現を選んでいた。相手の意図が、今ひとつ読
めていなかったからだ。
「こんなおもろない冗談いうほど、私のセンスは酷くないですから」
 ハッキリ言い切ると、はやては実に優雅な動作でコーヒーを口に運び、一口だけ啜った。あまり高い豆は使っ
ていないなと思ったが、おそらく予算削減のためだろう。まあ、不味いコーヒーでもクリームをぶち込めば意外
に飲める物である。
「私は前防衛長官であるレジアス・ゲイズ元帥の娘……その私が、自ら父の勇名、武名を汚すような真似をする
とでも?」
 レジアスは英雄として死んだ。戦死による特進ではあるが、念願であった元帥号を授与され、今は静かな眠り
へとついている。人々は彼を命がけで地上を守った英雄として称え、その名は後世にも語り継がれるだろう。父
親の死は悲しいことであるが、オーリスにとっては父に対するそうした評価がせめてもの慰めになっていた。
「貴女はレジアス長官の副官だった。公人として、そして私人としても彼に一番近かった貴女だ、彼が裏でなに
をしていたかは、ご存じだったんでしょう?」
「知らない、私はなにも……」
「嘘だ、貴女は現に後生大事に当時の資料を補完している」
 何故そのことを知っている!? はやての指摘に思わず驚くオーリスだが、カマを掛けられただけだと気付く
のに十秒以上も掛かってしまった。オーリスは自身の反応ではやての言葉を肯定してしまったのである。
265ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:51:40 ID:gPf9x+vb
「オーリス査閲部長、貴女もスカリエッティのことはよくご存じのはずです。彼がどんな性格で、どれほど悪辣
な人間かを。管理局の上層部はそんな奴に膝を屈し、その要求を呑もうとしている」
「だとしても、地上本部は所詮管理局の一部に過ぎません。その決定に従うのが、管理局員としての勤めです」
「それは、本心からの意見ですか?」
 はやての指摘は鋭い。口に出して表明こそしていないが、オーリスは今回の上層部の決定に不満を抱いている
一人であった。スカリエッティをそれなりに知っているというのも理由の一つではあるが、なんといっても彼は
父親の仇だ。実際に手を下したのは彼の部下だが、直接の原因がスカリエッティに帰することは疑いようがない。
出来ることなら彼を逮捕したいと思うのも当然だろう。要求通りに赦免状が与えられれば、少なくとも当面の手
出しは出来なくなる。
 個人的な復讐心という意味では、オーリスはスカリエッティを憎んでいる。しかし、彼女は自ら復讐者になろ
うとは思わなかった。彼女には亡き父親、レジアスの名誉を守る義務があり、彼の名声に泥を塗るような行為に
は耐えられなかったのだ。自分一人が我慢すれば、レジアスは英雄として眠り続けることが出来る。娘として、
それは本望であるはずだった。
「報告はもう済んだはずです。次の予定がありますから、即刻退室なさい」
「父親の栄誉や名声のために、貴女もスカリエッティに膝を屈するんですか」
「退室なさい、今すぐに!」
 叫び声に、はやては腰を浮かした。説得は無益と悟ったのであろうか? 強情なオーリスに失望を感じていた
ようだが、その瞳には僅かな哀れみの色があった。肉親というものを持ち得ないはやてにとって、オーリスの気
持ちはわからない。家族を亡くしたことがないはやてにとって、故人の栄誉を守ろうとするオーリスの行動は理
解できない。けれど、納得がいかないわけではなかった。人には守りたいものがあり、その優先順位を決めるの
は当人しかないのだから。
「二〇パーセント」
 立ち上がったはやてが、小さな呟きを漏らした。オーリスは顔を顰めたが、その表情が変化するまで時間は掛
からなかった。
「地上本部ビルを吹き飛ばした砲火は、最大出力と比較して二〇パーセント程度の威力だったそうです」
「なっ……!?」
 突き付けられた事実に、オーリスは言葉を失った。地上本部ビルと周辺施設を完全破壊したラグナロク主砲の
一撃は、前述のようにオーリスを含めた地上部隊員の士気を打ち砕き、市民を恐怖のどん底に突き落とした。権
力者は政府関係の建物が破壊されたときに血の気を失うとは、昔から言われ続けてきた皮肉の一つだが、オーリ
スもその例に漏れず、ましてや難攻不落で知られた地上本部ビルだ。鉄壁は瞬時に燃え尽きる紙切れのように脆
く、あっさりと崩れ落ちた。それに彼女は一般的な権力者と違って市民に対する配慮や心配といった感情を持ち
合わせていたから、一〇〇パーセントの出力で放たれるラグナロク主砲の威力を想像してしまったのだろう、焼
き尽くされる地上の惨然たる光景が脳裏に浮かび、悪寒に全身を包まれていた。
「スカリエッティはその気になれば、いつでもこの地上を焼き尽くすことが出来る」
「……………………」
「貴女の御父上が守りたかった地上世界、貴女にはその遺志を継ぐ義務があるのではないですか?」
 言われるまでもない。オーリスが今日まで休職せず職務に精励してきたのは、仕事で辛い気持ちを忘れようと
していただけではなく、地上世界を守ろうと最後の最後まで力を尽くしていた父親の遺志を、少しでも形として
残しておきたかったからである。
「それでも、私には出来ない。レジアス元帥は、お父さんは英雄として死んだ! その事実を、私は覆すつもり
はありません」
 仮に事実を公表すれば、レジアスに送られた元帥号は剥奪され、世間の評価は一八〇度修正を施されることに
なるだろう。レジアスが生きていれば抗弁も反論も出来るが、彼はもういない。であるならば、娘である自分が
守るしかないではないか。
「貴女の地上に対する想いも、所詮はこの程度ものですか」
 はやての呟きには、失望と自嘲、冷笑のすべてが混ざり込んでおり、非礼極まりないものであったが、自己の
発言や行為に対する後ろめたさもあってか、オーリスは咎める意欲にかられなかったらしい。
266ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:52:41 ID:gPf9x+vb
「よくわかりました、貴女の家族愛は尊敬に値しますが、それでは地上を守れない。ご理解いただけているとは
思いますが……それでは失礼します」
 さすがの物言いにオーリスの表情が変化するも、はやては余裕のある足取りで退出していった。今のは挑発に
過ぎないのだが、半分は本音だったかも知れない。怒りも苛立ちも、相手がいなくなったことで急速に熱が冷め、
オーリスは静かにデスクの椅子へ腰を下ろした。
「地上を守る、か……」
 それは、ことあるごとに彼女の亡き父親が口にしていた言葉だった。八神はやては、管理局に逆らってまでそ
れを為そうとしているのだろうか? 本来なら、レジアスの娘である自分はやるべきことなのに。
 オーリスはデスクの引き出しを開け、中から一枚の写真を取り出した。そこには幼い頃の自分と、若き日の父
親の姿が写っている。
「父さん……」
 自分はなにをやっているのか。自分はなにをすればいいのか。彼女に命令を与え、為すべきことを支持してく
れるレジアスはもういないのだ。だからこそ、オーリスは決めなければいけない。自分自身の意思で、地上にと
って最善と思われる道を。


 地上本部から出てきたはやてを、リインが待っていた。士官ではない彼女は、本部内に入る許可が下りなかっ
たのである。今の本部に待合室やロビーなど存在しないから、必然的に外で待つしかない。帰りの地上車の傍に
リインは浮かんでおり、どこかで休もうにも辺りは先日砲撃によって廃墟となっている。走路の瓦礫を撤去し、
壊れた部分を簡易舗装するだけで手一杯だったという。
「はやてちゃん、お話しの方はどうでしたか?」
「んー、まあ、本人次第やな。肉親や自分自身に対して非情になれるかどうか、決めるのあの人であって、私じ
ゃない」
 強制する権利などありはしないし、はやてとしては精々相手の感情を刺激して、奮い立たせる程度のことしか
できない。話し合いによる説得など無益だし、その手のことは元から得意ではない。
「人には人の責任がある。私が今やろうとしていることは私の責任以上のことで、給料以上の働きやけど、あの
人はそうでもないからな」
 地上車に乗り込み、機動六課へと戻る道のりを入力する。自動運転であり、設定が終わるとはやてはシートを
倒してくつろぎ始める。リインはその姿に内心呆れていたが、彼女が激務の只中にあるのは知っていたので、口
に出してはなにも言わない。
 走り出した車の中で、はやてもリインも無言だった。はやては考え事でもしているのか、それとも寝ているの
かは知らないがずっと目を閉じており、普段は騒がしいはずのリインも、気を使ったのか黙り込んでいたのだ。
はやてとしては別になまけ心で寝ているのではなく、単に疲れているのと、考えることが多すぎて口を開くのも
面倒になっているだけなのだが、六課へ帰るまで丁度半分ほど過ぎた辺りで、ふいに車中への届け物があった。
「アイタッ!」
 突然、はやての頭に封筒が落ちてきた。本当はリインの頭上に現れたのだが、彼女が咄嗟に避けたためにはや
てに当たったのだ。
「なかなかどうした、気のいい郵便屋は配達が早い」
 出した手紙の返信が、どうやらもう届いたらしい。郵便屋の早さに礼をいうべきか、それとも送り主に感謝す
るべきか。まあ、手紙の内容が自分の意に添ったものであるとは限らないのだが。不思議なことに、はやてはそ
の点に関する心配をしていないようだった。いささか乱暴に封を開けると、幾枚かの手紙を取り出し、手早く読
み込んだ。
「ほほう、これはこれは」
 何度も手紙を読み直し、その度にはやての表情は嬉しそうに綻んでいく。わが意を得た、ということだろう。
「やっぱり、物わかりのいい紳士は違うな」
 それまで気怠そうにしていたはやての表情が、徐々に引き締まっていく。自らの願いを聞き届けて貰ったから
には、働かなくてはいけないのだ。仮に向こうがこちらの要求を拒絶すれば、はやては異なる方程式を立てるた
めに今しばらくの時間を必要としたのだろうが、そうでない以上は早急に事を進めねばならない。本当に給料分
以上のことをしているという自覚はあるが、そもそもの話、その給料をくれる組織に刃向かおうとしているのだ。
「切り札を手に入れた限りは、こっちもカードを切らなあかん」
 例えそれがどんな結果になろうとも、やらないで後悔するよりは、やって後悔したい。八神はやてとは、そう
いう女性だった。
267ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:55:03 ID:gPf9x+vb
 その頃、はやて不在の地上六課では、個人規模ではあるものの戦闘が行われいた。敵襲というわけではなく、
あくまで訓練の一環、しかし、訓練の一言で片付けるにはあまりに苛烈で過激な戦いだった。
「プラズマランサーセット!」
 フェイトの周囲に大きめの鏃にも似た光が出現する。数は十基を超え、それらすべてが正面の相手へと狙点が
固定されている。強力な速射誘導弾にロックされても、相手は回避行動を取ろうとしない。
「貫け!」
 プラズマランサーが発射され、対象を貫かんと突撃する。だが、狙われた相手は冷静に武器を構え、チェーン
ロッドを持って襲い来るランサーを弾き飛ばした。
「直線的すぎる」
 ゼロは呟くと、チェーンロッドを巧みに操り、フェイトの攻撃を防ぎきった。彼はそのまま前に出ると、槍状
に変化させたロッドで突き崩しに掛かる。鋭い一撃を、フェイトはデバイスを持って受け止めた。トリプルロッ
ドと違い、チェーン機構を有するチェーンロッドは接続時の強度が脆い。それ故に攻撃の威力は低く、近接戦闘
ではいささか不利だった。
「バルディッシュ、ザンバーフォーム」
 大振りの大剣が光り輝き、ゼロへ振り上げられた。これをチェーンロッドで受けきるのは不可能と判断し、ゼ
ロはゼットセイバーを引き抜いた。
「デァッ!」
 先制攻撃は、小回りの利くゼロが早かった。繰り出される斬撃にフェイトは防戦一方となる。ゼットセイバー
の一撃では大剣であるザンバーを叩き折ることは出来ず、ゼロとしてはより強力な一撃を叩き込む必要があった。
けれど、その攻撃に転じる隙をついて、フェイトは反撃を行うだろう。
「だが、このままでは勝ちもない」
 無意識の呟きに、ゼロは自分が勝ちに拘っていることへの驚きを憶えた。フェイト相手に、自分はこうも勝ち
に行こうとしている。
 一瞬の思考は、隙となってフェイトに機会を与えた。彼女はゼットセイバーを弾き返すと、中空へと逃れて構
えへ取った。
「チッ!」
 ゼロは全身を輝かせ、チャージ斬りでの迎撃態勢を取ろうとした。だが、しかし……
「――っ!?」
 ふいに、視界が揺らいだ。中空にあって自分を見下ろすフェイトの姿を見たとき、中空に跳んだ敵≠フ存在
を意識したとき、ゼロはこれまで経験したことがないような感覚に身を包まれていた。
「なんだ、これは」
 ゼロの全身が、思考が、戦うことを拒んでいる。正面からの激突を避け、逃げろと言っている。馬鹿な、こん
なはずあるわけがない。これではまるで、まるで自分が……
「ハァァァァァッ!」
 フェイトが斬り掛かった。恐るべき速度と威力を持って。思考に足を取られていたゼロは、見事に反応が遅れ
た。直撃する、ゼロは覚悟を決めたが、そうはならなかった。
「うっ…あ……」
 攻撃を当てる正にそのとき、フェイトがデバイスを取り落とした。顔が真っ青に青ざめ、全身がガタガタと震
えている。
「フェイト!」
 思わずゼロは駆け寄るも、フェイトは弱々しい表情を返すばかりだった。
「ごめん、ゼロ。折角付き合って貰ったのに、こんなで」
「いや、オレは……」
 復帰後、いつでも戦闘に参加できるようにとフェイトは自主的な訓練を始めた。身体的にはともかく、精神的
な不調を抱えているため心配の声も上がったが、フェイトはそれらを無視して、単一の戦闘訓練の相手にゼロを
指名してきた。今の六課には彼ぐらいしかフェイトの相手を務めることが出来なかったというのもあるが、ゼロ
自身拒まなかった。彼も、修理後の身体を戦闘になれさせる必要があったからだ。
 けれども、結果はご覧の通りである。ティアナやスバルなど、観戦者は壮絶な激闘と、それに続くフェイトの
不調に心配の声を上げるが、同じく観戦していたシエルは別のことを気に掛けていた。
「ゼロの動き、鈍かったね」
 シエルの考えを、口に出して代弁したのはセインだった。ゼロのファン≠ナある彼女から見ても、今の戦闘
は違和感のあるものだったらしい。ほとんどは急に倒れたフェイトのほうに目をやっているが、ゼロしか見てな
かった彼女たちからすれば、ゼロの戦い振りに彼が本調子ではないことを悟らざるを得ない。
268ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:56:34 ID:gPf9x+vb
「ゼロはまるで、なにかに怯えているようだった」
 本人に聞こえないからこそ、シエルは言葉にして呟いた。信じられない話だが、ゼロは恐怖心に足を絡め取ら
れているのではないか。オメガによって刻み込まれた敗北が、戦闘に対するある種の恐怖、トラウマになってい
るのではないか? 思えば、ゼロがあれほどまで徹底的に叩きのめされたことは一度もない。戦士としての矜恃
も傷ついただろうし、オメガという圧倒的な存在を前に気圧されているのかも知れない。
「そんなことないよっ! ゼロは、今度こそあいつに勝つ」
 セインの言葉は、半ば自身の願望に近いものだった。シエルだって当然同じ意見ではあるが、ハッキリ言って
実力差がありすぎる。いや、実力差ではない、性能差だ。技量においてゼロはオメガに劣ってなどいない。劣っ
ているのは、負けているのは機体のポテンシャル、レプリロイドとしての純粋にして単純な性能なのだ。オリジ
ナルの力を持つオメガと、コピーでしかないゼロ。埋められるわけもない溝を、ゼロは飛び越えなければいけな
い。そうしなければ、ゼロはオメガに勝てない。
「プログレス……始動させるときが来たみたい」
 シエルの小さな呟きは、セインの耳に入ってはいなかったようである。彼女がゼロへと駆け寄るのを確認しな
がら、シエルもそれに続いた。例えどれほどの性能差があろうとも、ゼロは戦う道を選ぶ。ならば自分は、その
道を走る彼に、出来うる限りの手助けをする。それしか、自分には出来ないのだから。


 スカリエッティと時空管理局上層部による密談が続けられる中、とうのナンバーズは蚊帳の外にあったとされ
る。彼女たちは進んでいく事態に口を挟むことも出来ず、そもそもスカリエッティが自分たちの赦免を管理局に
要求したのでさえ、セインからの連絡で知ったほどだ。自らの意思などというものは、ほとんど無視されている
ようなものだった。
「私は戻る気なんてない。あんな仕打ちを受けて、戻る方がどうかしている」
 施設にある談話室において、セインとセッテを除いたナンバーズの健在組が話し合いを行っていた。セインは
施設外にいるから当然として、セッテは未だに独房の中なのだ。
 話し合いの口火を切ったのはディードであり、彼女は先の戦いで機能停止したオットーの一軒から、スカリエ
ッティを強く恨んでいる。憎しみの度合いで言えばナンバーズの中で最も高く、セインの次に離反したのも彼女
だった。そんな彼女が赦免されたとしてもスカリエッティの元へ戻らないというのは当然のことで、チンクや
ノーヴェも当たり前のように受け止めた。
「ノーヴェはどうするっスか?」
 こちらも戻る気はないウェンディからの問いかけで、彼女は管理局に与するつもりはないが、ドクターに尽く
すつもりもないといった姿勢を見せている。
「あたしは、チンク姉の判断に従うよ」
 元より他に選択肢など無いと言いたげなノーヴェだが、実のところ決めかねているだけである。残っているナ
ンバーズの中では、セッテとは違う意味でスカリエッティに対する想いが強いのだ。創造主として、父親として、
家族として、未練や期待を捨てることが出来ない。
 視線を向けられたチンクであるが、彼女は即答しなかった。本心をいえば、彼女は戻りたいと思っていた。セ
インなどには理解されないだろうが、しがらみ以上の関係と感情が、自分の中にはある。それはセッテのような
忠誠心であり、ノーヴェのような父性愛でもあるのだが、それ以上に長きに渡る時の流れが合った。チンクは十
年近くスカリエッティの部下をやっていたのであり、彼を突き放す、見捨てることなど容易には出来ないのだ。
もっとも、スカリエッティからしてみればチンクが離反したところで痛くも痒くもないのだろうが。暗愚である
はずはないが、部下の忠誠心を軽視する傾向がスカリエッティにはあった。それは彼が人を信じること、信頼す
ることが出来ないからであるが、彼が先の戦いで多くのナンバーズを躊躇なく切り捨てたのは、根底としてその
ような事情があるからだった。
269ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:57:41 ID:gPf9x+vb
 そこまで判っているからこそ、チンクはスカリエッティの元へ帰りたかった。自分になにが出来るとも思えな
いが、自分は彼にとって不必要な存在にはならない。性愛と情愛の対象であるルーテシアはともかく、ドゥーエ
などではスカリエッティを変えることが出来るはずもないのだから。
「私は……戻るつもりはない」
 にもかかわらず、チンクがこのように自らの考えを偽ったのは、偏にノーヴェやセインのことを考えたからだ。
自分がスカリエッティの元へと戻れば、必ずノーヴェは着いてくる。ウェンディがどうするか判らないが、セイ
ンはその決断に嘆き悲しむだろう。忠誠心の篤いセッテは仕方ないにしても、再び姉妹間における戦闘など、二
度と行ってはいけないのだ。
「チンク姉がそうするなら、私もそうする」
「私も二人と同じっスね」
 案の定、ノーヴェはチンクに従い、ウェンディも流れに身を明かせることにしたようだ。ディードが戻るわけ
もないし、とすればスカリエッティの元に戻るのはセッテだけだろう。説得しても無駄であろうし、彼女の意思
に任せるほかない。
 これにて話し合いも終わり、後はセインにそれぞれの意思を伝えるだけだと思っていた、そのときだった。
「あたしは戻るよ」
 それまで無言だったディエチが、沈黙を破って自己の決意を告げたのだ。普段は結わいている髪を垂らしなが
ら、瞳に強い色を帯びている。チンクを含め、その場にいた姉妹の全員が絶句した瞬間でもあった。
「本心で言っているのか、ディエチ?」
 問いかけるチンクの声には、疑念が色濃く混じっていた。確かにディエチはこれといってスカリエッティを嫌
っている娘ではなかったが、先の大戦で友人のように付き合っていたクアットロを失って以来、彼に対する感情
は冷めきっていたはずだ。それがどうして、今更戻るなどと言い出すのか。
「馬鹿げてる、見損なったぞディエチ。お前がそんな愚かな選択をするだなんて」
 声を荒げるディードであるが、彼女は本心を言えばセインにいる六課に赴き、スカリエッティを討つべく協力
をしても良いとさえ思っているのだ。赦免状を取り付けてくれた相手に対して、名にもそこまでしなくても良い
ではないかと思えるが、彼女にも彼女の言い分がある。前大戦における仕打ちもそうだが、スカリエッティは管
理局が保存している「機能停止、もしくは死亡したナンバーズの遺体」に関しては、自らが引き取る旨を申し出
ていた。自分たち生者の意思を無視しただけあって、死者の遺志など考えもしないらしい。オットーの遺体がス
カリエッティに奪われるかと思うと、ディードは彼に対して好意的になどなれないのだ。
 だからこそディエチの選択が理解できず、それはディードだけではなく、他の姉妹も同じであったが、彼女の
表情を観察していたチンクは、開きかけた口を閉じて、それ以上はなにも言わなかった。ディエチの意思が重い
のか硬いことを悟り、説得の無益さを感じ取ったからである。ディエチの意図や考えは不明だが、スカリエッテ
ィ本人が赦免後の身の振り方は各人の自由意思に任せると言っているだけに、チンクがなにかを強制することも
出来なかったのだ。
 ディエチはこの件に関して多くは語らず、言いたいことだけ言って自室へと引っ込んでしまった。追求され、
本心を晒すことを避けたのだろう。粗末な部屋の中には装飾品の欠片もなかったが、写真立て一つ、ベッドの脇
に置いてあった。いつだったか、クアットロが気まぐれにディエチと一緒に撮ったものである。
「私は、私のやり方で前に進む……」
 写真を抱きしめながら、ディエチは呟いた。ディードとはまた違った意味で、彼女はある決意をしていた。
「ドクターは、私が殺す」
 心の中に渦巻く負の感情は、まだ誰にも悟られていない。
270ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/13(日) 23:58:44 ID:gPf9x+vb
 場所を機動六課に戻して、地上本部より帰還した八神はやてが全隊員を招集していた。全隊員といっても先の
戦闘で負傷した者も多く、集まったのは全体の七割程度である。
「今日みんなに集まって貰ったのは、私の今後に対する考えを表明し、伝えるためや」
 はやてが現在の管理局に叛意を見せており、その決定を不服に思っていることは隊員たちも知っている。だが、
口に出してはやてがなにかを言うのは初めてのことであり、隊員たちの間に緊張が走った。はやてまず、管理局
の上層部がスカリエッティの要求を呑み、彼を赦免する考えであることを告げた。それは管理局こそ多次元世界
の頂点にあると、盲目的に組織を信じる隊員たちにとってショックな出来事であり、そうではない隊員たちから
しても納得のいかないことであった。管理局がたかだか一個人の犯罪者に屈したことは、理由はどうあれ深刻な
までの衝撃と動揺を彼らに与えたのだ。
「私は聞き分けのいいガキやないから、悪あがきをしてみようと思う」
 自殺行為に過ぎないことを、はやては平然と言ってのけた。そうした総隊長の姿を大胆だと思うか、どこかず
れていると感じるかは人それぞれだが、はやては宣言通り自己の意思を表明したのである。
「私に出来ることは本当に微々たることで、なにをどうしたところで決まった流れを塞き止めることは出来ない。
けれど、流れの赴く先を変えることぐらいは、可能かも知れない」
 自身も言うとおり、これは単なる悪あがきでしかない。スカリエッティは脅迫を持って管理局を屈服させたわ
けだが、はやてはなにも持ち合わせていない。その気になれば、管理局はスカリエッティではなくはやてを叩き
潰すために行動を起こすかも知れない。多次元世界最大の組織と、事を構えるというのか?
「もちろん、私の勝手な考えに付き合って貰う必要はない。どのみち、管理局がスカリエッティに屈した以上、
六課は近いうちに解散となる定めや。残って協力してくれる者はともかく、そうでない者にも強制するつもりは
ない……ただし」
 はやては強い瞳で隊員たちを見据えると、瞬時に起動したデバイスを突き付けた。
「仮に私の考えを外部に漏らし、管理局に媚びを売って転向しようとする者がいるなら、私は容赦しない。また、
協力を拒む者にも強制こそしないが、決行のその日まで身の自由は奪わせて貰う!」
 これでは恫喝や脅迫ではないかと、リインやシャマルが顔色を変える。元よりはやてと行動を共にする予定の
フェイトは表情一つ変えなかったが、ティアナやスバルなどは若干動揺したのか、オロオロとしている。
「六課はなくなる、それでも私らは前に進む必要と理由がある! 立ち止まる奴にはなにも残さないし、着いて
こない奴にも用はない」
 管理局のその他大勢としてスカリエッティに屈するか、八神はやてという一個人に付き従って叛逆者となるか。
容易に選べるものではないが、選ぶときは今しかなかった。

 そして、はやては自分が最高の仲間たちに恵まれたことを知るのである。


 はやてによって機動六課の意思統一が行われている中、ゼロはシエルと共に格納庫へ訪れていた。機動六課の
隊員でないゼロは集まりに参加する必要がなく、部外者であるから行ったところで邪魔者扱いされるだけだ。セ
インは通信室で他のナンバーズと連絡を取り合っており、この場にはいない。
「これは……」
 シエルによって案内された先、そこには一台の大型二輪車があった。要するにバイクなのだが、バイクと形容
するにはあまりに大きく、重厚感ある装甲は機動兵器のそれを思わせた。
「本当はもっと早く完成させるつもりだったんだけど」
 セルヴォが構想し、シエルが開発、完成させたゼロの支援機。六課に放置されていた一台のバイクを元に、シ
エルが持ちうる限りの技術を注ぎ込んだ特注品。赤く染まった装甲に、端々に見られる攻撃用の装備。単なる移
動用でないことは見れば判ることで、強力な武装を備える戦闘用だった。
271ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/14(月) 00:00:28 ID:VvgZKzeE
「機体名プログレス――私とセルヴォの合作だけど、性能面は保証するから」
「いつの間に、こんな機体を?」
「あなたが寝ている間、っていう言い方はおかしいけど、この六日間で頑張って。六課の人たちにも協力して貰
ったのよ」
 ただ一人、勝手にバイクを使われたことで放心状態になった隊員がいるとかいないとか、その辺りの事情はシ
エルも知らない。もはや原形など残されていないし、実のところセルヴォの設計図からも大きく変わっているの
だ。後にセルヴォが完成したプログレスを見た際に、「シエルの趣味の塊みたいな機体だ」と呆れることになる
のだが、それだけに完成度は高かった。
「素材はほとんどミッドチルダ製か……」
 呟きながら、ゼロが機体に触れようとしたときである。

『汚い手で私の身体に触れないでください』

 柔らかいが、しかし、ハッキリとした拒否の言葉が辺りに響いた。驚くゼロの目の前で、プログレスのモニ
ターが表示され、そこから小さな人影が浮かび上がってくる。
「この子はプログレスの管理人格よ」
「管理人格?」
「サイバーエルフを元に、この世界のデバイスシステムを応用して作ったの。この子がいるから、プログレスは
完全な自立行動が可能なの」
 大きさは、リインやアギトほどであろうか? 日本の角のようなヘッドギアを頭に付けて、ふわふわとした髪
はデータ体であるにもかかわらず柔らかそうになびいている。ヒラヒラとした服やスカートはシエルの趣味だろ
うか?
『あなたが私のマスターになる方ですか?』
「そうらしいな」
『武骨な顔してますねぇ。本当に私を扱えるんでしょうか。まあ、安心してください。私の制御システムはとて
も優秀なので、あなたを守り抜いて見せますから』
 守り抜く、まさかこんな小さな存在からそのようなことを言われるとは思ってもみなかったゼロであるが、管
理人格とやらは挑戦的な視線と笑みを浮かべ、ゼロが失いかけている自信や余裕を持っていた。
「ゼロ、私に出来るのはここまでで、私はいつもここまでしか出来ない。だけど、お願い……負けないで」
 本当なら、「行かないで」というのがシエルの本音だった。ゼロがオメガに敗れ去ったとき、シエルは自身の
存在がかき消えるような、絶望感に包まれた。それ以前にも幾度か味わった気持ち、本心を言えば、シエルは今
すぐゼロを連れて元の世界に帰りたいのだ。そうして仲間たちと共に静かに暮らせればどんなに幸せか。けれど、
それは願望どころか空想でしかない。
 ゼロはもう一度戦うだろう。例え恐怖に支配されようと、彼はオメガと決着を付ける。ならば、私は……
「負けないで、ゼロ。私はあなたと一緒に元の世界に帰りたい、だから」
 勝つと約束して欲しいなどとは言えないし、誰が保証するわけでもない。自分はゼロを縛っているのかも知れ
ない、だけど、言わずにはいられない。
「シエル……」
 オメガに対する恐怖心や怯えは、確かにゼロの中で芽生えつつあった。彼がそれを自覚していたのかどうかは
判らないが、彼はそれを摘みきらないうちに、三度の決戦に挑もうとしている。
「オレは、勝つ。勝って決着を付ける」
 オメガは過去だ。オリジナルゼロという自身の過去に打ち勝たない限り、自分はいつまで経っても前に進むこ
とが出来そうにない。ゼロは前に進みたかった。過去のことになど捕らわれず、ゼロとして、目の前にいる少女
と共に歩むことが出来れば――
「だからこそオレは、お前を倒す」
 ゼロが発した闘気をオメガが感じ取ったという証拠はどこにもない。それどころか、後に二人のゼロと呼ばれ
ることになるゼロとオメガの争いは、当人たちが予想もしなかった状況へと転じることになる。
 互いに決着を付けることを信じて疑わなかった両者であるが、そこに意外な結末が待っていることを、ゼロも
オメガも知る由はなかった。

                                つづく
272ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/14(月) 00:02:10 ID:gPf9x+vb
第17話です。
まだ筆力が回復しきっていないですけど、速度は上がってきた気がします。
話の中にあるレジアスとはやての会話は、とある作品からのリスペクトです。
二人の関係は、きっとこんなだったらいいなと思ってます。
次からはまた戦闘パート、というかここから先はほとんど戦闘だらけになると
思いますが、書ききれるように努力します。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
273名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/14(月) 00:12:34 ID:taNItU4j
乙っした
続きが気になって仕方ない
274名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/14(月) 00:22:49 ID:xj96dx0L
ロックマンゼロ先生、今回もGJでありました!!

『劇場版パトレイバー2』ばりに洒落にならない状況(腐敗組織も敵同然)でも、
六課とゼロ、そしてナンバーズや現状を良しとしない局員たちによる
反撃の下地が着々と出来上がりつつある中、
ここからの逆転劇に期待あるのみですが…
まだまだ波瀾の気配はありそうですね。
これからも大注目で見守らせていただきます。
275名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/14(月) 00:33:04 ID:P1cGgHZK
GJ!
今回ははやてのターンでしたね。彼女はほんと切迫した状況にあってこそ輝くキャラだなあ…
すごい自然に文中に出てきて吹いたwww>性愛と情愛の対象であるルーテシア スカ自重しろwww
支援機の登場に、揺れるナンバーズと、相変わらず今後の展開が楽しみ過ぎて仕方ありません。
全力でお待ちしております
276名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/14(月) 00:54:32 ID:V09zPpME
乙でありました! ディエチに死亡フラグが……

名前すら出してもらえなかったあの人のバイクが……ww
しかもサイバーエルフ的人格が宿ってるとな!?
ラ○ドロン以上に優秀なのか?(爆)

何はともあれ、オメガはDr.Wの最高傑作なだけあって
原作でも世界を滅ぼしかけた事実がありますが、
彼も人間の手で作られた存在です。決して不死身の怪物ではありません。
(ただし、過去に幾度も蘇ってるから、少々怪しい物がありますが…)
(そしてオメガの全快=X5の覚醒ゼロ?)

どんな波乱やドラマが展開があるにせよ、結果的に皆がそら等を超えて行き
ハッピーエンドで締めくくってくれる事を自分勝手に願っています。



ところで、疑問に思ったけど、度々出てくる
『気のいい郵便屋』とは一体何者なのか?
277名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/14(月) 01:02:30 ID:5vrk2+iY
ゼロ氏GJ!
『ライドチェイサー』じゃなくて、『バイク』なのか。
278名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/14(月) 07:39:05 ID:RfSzv72n
ゼロ氏GJです!!

以前某絵師が書かれていたアレをいよいよ実現させるわけですね。『プログレス』・・・・・・"前進"の名を持つ装甲騎はゼロに未来を見出だしてくれるのでしょうか?


ちなみにライドチェイサーじゃない=浮いてないってことですよね?
279一尉:2009/09/14(月) 20:30:46 ID:Yj2Ln5MO
無料支援
280名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/14(月) 21:21:11 ID:KmGY0koa
GJ!
>性愛と情愛の対象であるルーテシア
つまりこれはチンクがスカの所に居たころからすでに手を出してたってことかw
281名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/15(火) 13:11:03 ID:okDMhQ++
このたび避難所整理の結果、したらばのスレがいくつか統合または本スレに役割譲渡される事になりました。
詳しい経緯は運営議論スレhttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1241792804/でご確認ください
282名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/15(火) 19:54:08 ID:zbSZ8L1F
なぜかこのごろ投下がないので替え歌でも考えて投下しようと思ったが
いかんせんなかなか思いつかない

あとゼロ氏GJ
283一尉:2009/09/15(火) 20:43:09 ID:sCSmDyOk
人神
284名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/15(火) 23:04:56 ID:Sq6oT6nd
まおー
まおー
あの娘は魔王ー
285名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/16(水) 18:13:55 ID:7Eb48Evn
一つ替え歌作ったのだが投下して大丈夫だろうか?
286一尉:2009/09/16(水) 18:30:24 ID:r2uaQLQM
人種支援
287名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/16(水) 23:58:54 ID:SrvVwqe7
進路クリア、支援
288名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/17(木) 17:33:12 ID:KuCJS+CR
>>285
JASRAC(別名カスラック)がイチャモンつけてくるかもしれないから様子を見たほうがいいと思う
289名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/17(木) 21:29:12 ID:ponCMeOg
IRC入れなくなったんだが、入れてる人いる?
290名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/18(金) 01:07:43 ID:+igraled
なんでいきなり誰もこなくなったの?
291一尉:2009/09/18(金) 20:27:46 ID:t9BOBdhg
賢い人支援
292ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 20:41:15 ID:uMmiUrtY
23時45分頃から投下予約。
293名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/18(金) 22:34:23 ID:vmIp8xzj
なんと!
完全に速筆復活ですか
294ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:45:34 ID:uMmiUrtY
ボチボチ投下します。今回は長いです。
295ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:46:44 ID:uMmiUrtY
 ジェイル・スカリエッティと時空管理局の間に交わされた幾種類かの密談と、その結果によって執
り行われることになった取引の場所として選ばれたのは、ミッドチルダ南部にあるアルトセイム地方
だった。ミッドチルダの中でも自然が多く残されていることで知られている彼の地だが、ここが取引
場所に選定されたのは単に首都から離れた辺境であるからで、管理局としてはそれ以上の意味はなか
った。その事実を知ったフェイト・T・ハラオウンなどは感傷深げな表情をしたというが、それはあ
くまで彼女の事情である。現在はスカリエッティが所有している時の庭園は、かつてフェイトの母親
が持っていたものだった。フェイトも幼少期を過ごした場所であり、アルトセイムには庭園が幾月か
滞在していた時期があるのだ。もっとも、そんな古い話を管理局の上層部が知るわけもないし、スカ
リエッティだって認識はしていないだろう。たまたま選ばれただけであり、時の庭園が再びアルトセ
イムに下り立つのも、運命の巡り合わせの一つに過ぎない。
 そのアルトセイム地方に、時空管理局は本局より派遣された六隻の次元航行艦が停泊している。大
型艦を中心とした艦艇群は、少数ではあるものの艦隊と呼べるものであり、管理局が抱える心理的不
安を見て取れる。本来、赦免状を発行するだけなら艦艇一隻で事足りるし、このように数を揃える必
要はない。むしろ、取引相手に不審の念を抱かれる可能性すらあり、その動員は避けるべきであるは
ずだった。にもかかわらず、取引を装っただまし討ちの可能性があるだの、移送中のナンバーズが暴
走するかも知れないといった、言い訳という名の理由をこじつけて、管理局の上層部は艦隊という形
でこの度の使者を派遣したのである。これは彼ら管理局側がスカリエッティを信用していない証拠で
あり、そもそも信用する、しないの次元から始まった話でもないのだ。相手に対する不審が防衛本能
を呼び起こし、過剰なまでの対応をしてしまう。仮にも多次元世界を管理する大組織のトップがなん
とも情けないことではあるが、それを言うならこんな取引に応じたこと自体が情けないことなので、
今更問題視しても仕方のないことであった。
 艦隊の指揮と、発行した赦免状を手渡す使者としての任を承ったのは、本局の次元航行艦隊に所属
するクロノ・ハラオウン提督である。二〇代にして提督の称号を得たエリートで、三提督の覚えも良
い高級士官だが、彼も今回の件における上層部の対応には思うところがあるらしい。命令であるから
して逆らうことなく従事こそしているが、その姿はあからさまなまでに真面目さを欠き、幕僚たちに
呆れられているという。彼とてこのような不快な任務は受けたくないのだが、三提督としても自分を
信頼して、言い換えれば裏切ることがないだろうと判断して、重要な任務を任せてくれたのである。
それに応えればなんらかの理由を付けて昇進させてくれることは間違いないし、逆に彼が突っぱねれ
ば、降格以上の処罰を覚悟せねばならないだろう。クロノ個人のとしては地位に恋々とするつもりも、
昇進に焦る気持ちもないのだが、家庭を持つ身としてはそうも言っていられないのである。
 大型艦クラウディアを旗艦とした艦隊は、決められた時刻よりも一時間早く到着し、アルトセイム
の地に停泊をしている。取引内容としては管理局側が用意した赦免状と、スカリエッティが持ってい
る彼と最高評議会、地上本部などが過去に行ってきた数々のやり取りを記録したマザーデータを交換
し、その後にナンバーズを引き渡すことになっている。スカリエッティの元に戻ることを決めたのは
セッテとディエチの二名だけだが、他の姉妹もクラウディアの中にいる。赦免後は自由の身となるた
め、監視施設に残してくるわけにもいかなかったのだ。
 時の庭園がアルトセイムの空に出現したとき、クロノは幕僚たちと共に昼食を取っていた。なんと
呑気なことと思われそうだが、別に昼食を取ること自体は悪いことでない。緊張感に欠けると言われ
ればその通りであろうが、スパニッシュオムレツを丸々平らげ、食後のコーヒーを飲んでいるところ
に報告が入った。
296ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:48:04 ID:uMmiUrtY
「来たか……」
 ほぼ定刻通りである。時の庭園は地上からはるか上空にて静止しており、庭園自体が降りてくるつ
もりはないようだ。クロノは手早く身支度を調えると、艦の外に出た。デバイスは持っているが起動
はしておらず、服装もバリアジャケットではなく管理局員の制服である。あくまで取引であって戦闘
をしに来たわけではないというアピールなのだろうが、艦艇数を揃えている時点でどれほどの効果も
ないように思われる。とはいえ、艦艇数を決定したのも上層部であるから、その責任の目をクロノに
向けるのも筋違いなのではあるが……
 渋い表情を浮かべながら上空に浮かぶ庭園を眺めていたクロノだが、ふいに庭園の底部が光り輝き、
光の柱が地面へと降りてきた。なかなか凝った演出と言うべきか、光の柱を通って三人の男女が降り
てくる。
「やぁ、管理局の諸君。ご苦労様」
 言うまでもなく、ジェイル・スカリエッティその人である。



         第一八話「姫君を我が手に」


 管理局との取引に先立ち、時の庭園では誰が取引場所に赴くかで一騒動があった。スカリエッティ
は当然としても、随員は必要である。一人で行ったことで、現地の将兵がスカリエッティの逮捕また
は抹殺という誘惑に駆られないとも限らない。物が赦免状でなければ本人以外が受け渡しに出向いて
も良いのだが、管理局に対する最低限の礼儀や節度は弁えておくべきであり、相手が急に気を変える
可能性もある。スカリエッティの手元に来るまでは、赦免状の効果は発動しないのだから。
 自薦、他薦が行われるほど庭園に人はいないのだが、ルーテシアが随員となることを希望してガリ
ュー共々即座に了承された。例え却下されてもルーテシアは着いていくつもりだったが、さすがに彼
女には甘いというか、ほとんど無条件で許しが出たのだ。スカリエッティはルーテシアを手招きして
自身の腰の上に掛けさせると、庭園の移動が終わるまでずっとあやしていたらしい。それがどういう
意味のあやすであったのか知る者はいないが、時折聞こえる嬌声に室外にいたガリューが頭を抱えて
いる姿をドゥーエが目撃したという。二人きりの時間も久しぶりと言うことで、溜まっていたものが
爆発したのだろう。
 ルーテシア以外に同行するのはギンガであり、これもまた本人の希望である。深い理由はないらし
いが、外の空気を吸いたいなどと言っており、冗談で言っているのか真面目な話なのかも判らない。
ギンガはお尋ね者であり、しかも今回の赦免状のリストには記されていないので、管理局はその気に
なれば彼女を逮捕することも可能なのだが、ギンガは別に構わないという。抵抗する、しないはとも
かくして、だが。
 スカリエッティの半身にして最大の腹心とされるドゥーエは同行せず、当然ながらオメガも残留で
ある。前者はともかく、後者はまず戦いの機会などあるわけがないし、管理局の方としても平穏無事
に取引が終わってくれないと困るのである。向こうの艦艇への対応としてオメガを連れて行くという
手も考えられるが、こちらまで不必要に相手を刺激することはないだろう。第一、オメガ本人からし
て行くつもりはないのだ。とはいえ、興味が皆無だったというわけではないらしく、ギンガが赴くこ
とからも一定の関心は示していたようだ。
「どこぞに出掛けるらしいな」
 私室のベッドの中で、オメガはギンガへと問いかける。たくましい腕に抱かれながら、ギンガは彼
の身体を舐めていた。
「別に、ちょっと外の空気吸ってくるだけよ」
「この部屋の匂いは嫌いか?」
「そうね、好きじゃないわね。こんな窓もないような部屋」
 窓があったところで、こびり付いた血と汗の臭いは容易に消え去るものではない。肺に新鮮な空気
を入れたいと思っても不思議ではないだろうし、ギンガとしては綺麗な水も一杯欲しいところであっ
た。ここ数日は自分で飲んだ酒と、オメガに飲まされた液体以外は口に含んでおらず、あまり気分が
良いとはいえなかった。それでも唇がある程度の潤いを保っているのは、獲物を前に舌なめずりする
獣の如く、唾液にまみれた唇と舌を押しつけられるからであり、ギンガもそれを拒まないからだ。
 それにしても、成り行きでこうなってしまったとはいえ、今の自分は愛玩動物以下だろう。愛玩動
物はまだしも人間によって調教されるが、ギンガを抱いているのは人よりも獣に近い存在だった。こ
のような扱いを受けること自体は初めてではなく、幼少期の段階で既に済ませているのだが、それで
も不愉快な気分に苛まれることがある。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/18(金) 23:49:07 ID:AJpNZtpQ
支援
298ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:49:08 ID:uMmiUrtY
 オメガがどうというより、彼との関係をそう悪いものではないと感じ始めている自分に吐き気と嫌
気がするのである。さしたる抵抗もせずに彼を受け入れている自身を、引き裂いてやりたいとさえ思
う。それが出来ないでいるのは、オメガが与えるものをギンガが求めてしまっているからであろう。
快楽に負けたというよりは、身体にしみ込んだ本能にあらがえず、反応してしまうのである。
 だからギンガは敢えて淫蕩な生活から抜け出そうとはせず、本人にその気があるのかさえ不明瞭だ
った。彼女は決して人格的にも知性的にも劣悪な人間ではなかったのだが、性的な部分では意外なほ
どだらしなかった。はじめこそ強要と強制で始まった関係であるが、それほど長く続いているわけで
もないのに今ではギンガのほうが強く求めている節さえあるのだ。彼女は明らかに貞操観念が欠如し
ていたのだが、それもこれも幼少期の体験や境遇から来るものであって、一概に彼女を非難できるも
のではなかった。大体、ギンガがオメガと関係を持っていたところで、特別咎める理由があるわけで
もないのだから。
 とはいえ、心配する声は僅かながらにあったようで、ルーテシアがスカリエッティに相談を持ちか
けたことがある。相談というよりは報告近い形であったようだが、彼女はギンガが負った生々しい傷
跡と、仕打ちのほどを知っている。後者に関しては明言こそされてないが、容易に想像はつく。自分
とスカリエッティのような関係も、世間的には問題であるのかもしれないが、この場合はギンガとオ
メガの関係のほうが問題視されるべきであろう。
 ルーテシアはそう思ったのだが、訴えを聞いたスカリエッティはそれほど興味を示さなかった。他
人の情事に対して無関心というわけではないのだろうが、彼としてもギンガが誰と関係を持とうと、
別に不都合はないのである。関係の始まりが強引なものだったとはいえ、今ではほぼ合意に近いもの
となっている。であるならば、殊更問題視して事態をややこしくする必要もあるまい。
「オメガがギンガで満足しているなら、与えておくにこしたことはない」
 スカリエッティの発言は女性に対する彼の価値観が見え隠れし、ギンガを物のように扱った為、
ルーテシアは不満に思ったという。事実、スカリエッティはギンガをオメガの餌、もしくは性処理用
の道具程度にしか考えていなかった。非情なことこの上ないが、彼としてはギンガを取り上げたこと
でルーテシアに手を出されるようなことがあっては堪ったものではなく、ギンガで満足しているとい
うのならそれにこしたことはないのである。
 こうした理由から、黙認というより放置されていた二人の関係であるが、ギンガはともかくオメガ
はどう考えていたのだろうか?
 本来、彼の″好み≠ゥら言ってもギンガは大きく外れているはずであり、趣味ではないはずだった。
とはいえ、彼の女の好みや趣味を熟知する者がスカリエッティ一味にいるわけもないし、その点に不
審を抱く者は皆無だろう。オメガはゼロと違って欲求の塊であったから、性欲に関しても自己の衝動
を満たすために精力的だったが、それでも個人の価値観が介在する余地はあるらしい。特殊すぎるた
め明記は避けるが、彼がギンガの前に関係を持っていたのは、彼女とはかけ離れた容姿や性格の持ち
主たちであり、他者が知ればオメガという存在の意外過ぎる一面を見ることになったのは疑いようも
ない。もっとも、今となっては不可能なことであるが。
 オメガがギンガをどう思っていたのか、どのような感情を抱いていたのかは結局判然としていない。
一つ言えるのは、当初は嫌悪感すら見せていたギンガの存在に対し、オメガはまんざらでもない
態度を取るようになり、気に入ったのかは知らないが私室など自分の傍に置くようになった。暇つぶ
しや気を紛らわせるのに丁度いいと思ったのか、彼にしては珍しく成熟した女の肉体を弄ぶことに楽
しみを覚えていたらしい。他にもいくつか理由はあるのであろうが、少なくともギンガを嫌ってはい
なかった。好いていたかどうかは、また別の話になるのだろうが。
 戯れるという表現を使うには、いささか過激な肉体接触が一、二時間ほど行われた後、ギンガはシ
ャワーで血と汗を流してオメガの私室を後にした。その十数分後には携帯型食料をかじりながら何食
わぬ顔でスカリエッティやルーテシアの前に現れたというのだから、ある意味では尊敬に値するかも
しれなかった。

299ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:50:23 ID:uMmiUrtY
 仰々しいまでの演出と、堂々とした態度でアルトセイムの地へと降り立ったジェイル・スカリエッ
ティ。彼は勝者としてこの大地の土を踏んでおり、先に到着していた管理局の士官や兵士たちは、敗
者として彼を待ち受ける存在でしかなかった。随員は二人と、クロノが思っていたよりも少ない。彼
も取引にあたり数人の部下を同行させているが、副官は当たり前としても数は三人以上いる。数の少
なさは自信の表れか、それとも勝者故のおごり高ぶりか? おそらくは前者であろうと、スカリエッ
ティの両脇に立つルーテシアとギンガの姿を見ながらクロノは苦々しげに思う。ルーテシアはともか
く、元管理局員であるギンガのことを彼は知っており、一度は戦闘も行ったことがあるのだ。
 結果として戦闘自体はクロノの敗北として終わり、その出来事は彼のプライドを傷つけた。しかし、
彼は個人的復讐心を任務よりも優先しようとは思わず、表情を見えないカーテンで閉ざすと、ギンガ
のことは無視して取引に望むこととした。逮捕することも可能ではあるのだが、状況がそれを許さな
かったとでも言うべきか。ギンガがノコノコ≠ニ出てきたのにも、管理局の意気地なしに自分を逮
捕することなど出来ないと、核心に近い洞察を働かせたからである。
「この度は遠路はるばるご足労頂き、誠にありがとうございました。管理局を代表して御礼申し上げ
ます」
 などとは当然言わず、クロノはあくまで形式的な態度を崩そうとしなかった。それが彼の矜恃であ
るのか、それとも意地であるのかは判らないが、負け犬の遠吠え程度の効果もなかったであろう。ク
ロノはスカリエッティに対して一応の礼儀を順守したが、随員が内心呆れてしまうほどに誠意に欠け
る姿だった。クロノの手には人数分の赦免状、艦内に残っているナンバーズの分を抜いたものが握ら
れており、対するスカリエッティは手ぶらである。見れば、ルーテシアが小型のケースを抱えており、
どうやら彼の取引材料はそちらに入っているようだ。
 ルーテシアがケースを開け、小型のマクロディスクをクロノに差し出す。クロノはそれを部下に渡
すと、手早く再生機器で中身をチェックさせる。これがマザーデータであるなどと信じてはいないが、
これ自体が偽者である可能性もなくはないからだ。確認が終わると今度はクロノが赦免状を手渡す番
であるが、スカリエッティは自分では受け取らず、ルーテシアに受け取らせて、中身を見せるように
言った。ほとんど流すように視線を走らせ、十秒もしないうちに彼はチェックを終わらせたらしい。
「もういいよ、ケースを閉じてくれ」
 そう言って、結局自分では一度も触れることなく確認作業を終えてしまった。双方時間にして五分
も掛かっておらず、これに先だって行われた協議や密談の長さからすれば、驚くほど短かった。それ
でも常識の範囲から言えば一週間程度で話がまとまること自体が異例なので、全体的に考えてもこの
取引は短く、そして早急に終えられたと言えよう。
 続いてスカリエッティの元に戻るナンバーズを引き渡すのだが、そこにディエチの姿を見つけてス
カリエッティが意外さを憶えなかったというのは、恐らくは嘘になるだろう。セッテがいるのは当然
としても、逆に言えば彼女以外は自分の元に戻ることを拒否するだろうと思っていたからだ。セッテ
は独房生活が長かったせいか若干痩せていたが、それでもスカリエッティを前に滲み出る覇気は健在
であった。いつでもドクターのために戦うことが出来ると、全身が物語っている。一方のディエチは
監視施設とはいえそれなりの礼節を持って遇されていたため、肉体的には健康であったが、表情は
カーテンよりも厚いシャッターで閉じきっていた。スカリエッティとの再会に喜び、涙するなどとい
うことも当然ない。
「お帰り、二人とも」
 簡潔に、けれど誰にも真似できない口調でスカリエッティは言ってのけた。セッテは無表情で応じ
たが、ディエチは表情に掛けたシャッターが崩れかけ、一瞬ではあるが動揺した。その反応がスカリ
エッティには面白いのだが、ルーテシアは複雑そうな視線を向けている。ギンガは元より、興味なさ
げに宙を見上げていた。
 これにて取引は終わり、後は何事もなかったかのように帰還するだけである。今後管理局はスカリ
エッティに一切の手出しをせず、その見返りにスカリエッティも争乱や騒動を起こさない。守られる
保証などあるわけがない約束だが、少なくともこの場ではそのように締結されたのだ。
 しかし、それに抗おうとする者たちは、まだ存在する。
300ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:51:36 ID:uMmiUrtY
 最初に気付いたのは、クラウディアの艦橋要員、オペレーターの職にある士官たちであったという。
船外で行われている取引を、固唾を呑んで見守っていた彼らだが、ふいに通信回線が一方通行に開い
て、一隻の艦艇から通信が送られてきた。何事かと思って読んでみると、管理局の上層部より応援に
派遣されたという艦艇がすぐ近くまで来ているというのだ。無論、そんな報告を彼らは受けていない
し、この段階で応援というのも妙な話である。しかし、艦系はいささか旧型ではあるものの管理局で
使われているものに間違いはないし、三提督や上層部が臆病風に吹かれて増援を派遣した可能性も、
決して低くはなかった。
 単なるオペレーターでしかない彼らには応援部隊を受け入れる権限も、追い返す権利もなかった。
判断を仰ぐべきは艦隊指揮官たるクロノであるが、彼は今現在船外でスカリエッティとの取引を行っ
ている最中だ。主要な幕僚も随員として着いていったため、仕方なしに艦橋に残留した中で最高位の
士官の判断にゆだねた。この士官というのが思慮深いが優柔不断で、決断力に欠けることで有名な男
だった。決断力がある上官の下ではその思慮深さを遺憾なく発揮できるが、いざ本人が決断する立場
になると途端に迷いが生じ、容易に答えを出せなくなるのだ。悩んだ末、彼が出した答えは船外にい
る幕僚の誰かに連絡することで、その程度の結論を出すのにも僅かながら時を必要とした。そして、
連絡を受けたクロノの副官が、事の次第をクロノへ伝えようとしたときは既に遅かったのである。

 強力な魔力の砲火が、矢となりアルトセイムの大地に突き刺さった。

 距離は遠く、標準もデタラメだったため実害はほとんどなかったが、それでも爆発が起こって、辺
りに恐慌を渦巻かせるぐらいは出来た。もっともこの場合、動揺していたのはクロノたち管理局側だ
けであり、スカリエッティやギンガは一ミクロンの動揺もしていなかったと言われている。船外活動
中に砲撃を受けたと合っては退避せざるを得ず、クロノはスカリエッティに挨拶を交わすことなくク
ラウディアに向かって走り出した。随員たちもそれに続くが、その最中に中空を見上げ、驚愕の声を
上げた。
「あれは、まさか!?」
 一隻の次元航行艦が、アルトセイムの空に姿を現した。艦形は古く、型式は十年以上前のものであ
ろうか。クラウディアよりも小型だが、堂々と出現してきたその姿は、クロノがよく知っているもの
だった。何故なら、かつて彼はその艦に乗船し、執務官、そして艦長と、重要な役職を歴任してきた
のである。提督の称号を受けると共に、当時の最新鋭艦であったクラウディアを受領し、それ以降は
過去の船として半ば記憶の片隅にしまい込んでいたのだが……
「アースラ、なのか」
 過去に艦長を務めた艦艇の名を呟きながら、クロノは愕然とした気持ちを抑えきれずにいた。
 クロノは剛胆とは言えないものの、決して臆病者ではなかった。臆病者が二〇代で提督の称号を手
に入れることなど出来るはずもなく、艦隊指揮官には相応の勇気と武勲が求められる。その彼をして
も中空から次元航行艦に砲撃され、しかもそれが見知った艦艇からのものだという事実には、戦慄を
憶えずにはいられない。取引が終了していないのならまだしも、終了している以上はこんな場所に残
る必要はない。さっさとこの場を離れるべきだろう。気がかりがあるとすれば、スカリエッティがこ
れを管理局のだまし討ちと誤解しないかと言うことであるが、弁明している暇はないし、したところ
で現実に管理局の艦艇から砲撃を受けている以上、信じて貰えるとも限らなかった。
 旗艦へと逃げ込むクロノを無視して、スカリエッティは中空に浮かぶ艦艇、アースラのみを見つめ
ていた。彼はこんな状況においても薄笑みを浮かべており、表情からは自信と余裕の色が見て取れる。
「機動六課が来たか」
 実に面白そうに、楽しそうに呟くと、スカリエッティは片手を高々と上げた。それが合図となって、
敵艦よりも高い位置に静止していた時の庭園から、パンテオンを初めとした機動部隊が降下を開始し
た。ちゃんと用意していたと言うことか、数だけでも三〇〇機を超える大軍がアルトセイムの大地に
着地し、敵を倒すべく待ち構える。
301ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:53:18 ID:uMmiUrtY
 一方、敵艦アースラからは……
《試験運転もそこそこ、もう実戦だとは思っても見ませんでした》
 格納庫において、凜とした少女の声が響いている。はつらつとしているが、どこか幼さの残る声色
は、少女が生まれたてであることの証であろうか。まだ恐れを知らない表情は自信に満ちあふれてお
り、挑戦的ですら合った。
「一回やれば十分だろう。後は本番で憶えていけばいい」
《一回やれば十分? あんな乱暴に私を扱って……初めてだったのに》
 時間がまるでなかったので、練習や試し乗りをほとんどしなかったことに文句があるらしい。
「痛くないように突っ込んだつもりだが?」
《突っ込む方は気楽で良いですね。私がどれだけ痛い思いをしたか。大体、バックの練習とかもまだ
じゃないですか》
「練習など必要ないだろう」
《練習もしないでいきなり本番なんて、痛いじゃないですか!》
 繰り返すようだが二人が話しているのは試運転についてであって、それ以外のことであるはずがな
い。にもかかわらず、格納庫の音声を拾っていたシエルが表現しがたいほど不機嫌な表情をしていた
というのは、後日になってシャリオ・フィニーノが証言するところである。
「言い合っている暇はない。そろそろ行くぞ」
 語気を改め、ゼロの表情に鋭さが出始める。大抵の人は精悍な顔立ちと評するだろうが、少女は若
干気圧されたかのように、怖い顔しちゃって、などと呟きながら自身のすべき作業に取りかかった。
 機動兵器に座して、ゼロは呼吸を整え精神を安定させる。レプリロイドの彼にとって、一連の動作
にどれほどの効果があるのかは不明だったが、少なくとも今のところ怯えや恐怖などは見受けられな
い。目覚めてから二日と経っていないが、既に克服したのだろうか。

「こちらゼロ……プログレス、出撃する!」

 叫び声と共にハッチが開き、ゼロは赤き機体と共に戦場へ飛び出した。


 八神はやて率いる機動六課が、誰にも気付かれることなくアルトセイム地方に姿を現した理由は、
当然ながらいくつかの事情と理由があった。今回の取引は極秘に行われていることではあるが、管理
局内において一部情報が漏れているところがあり、そこから詳細をたぐり寄せることはそう難しいこ
ともでなかった。三提督を初めとした上層部は、主に地上本部に多いとされる不穏分子の叛乱に備え、
現在地上本部を統括しているオーリス・ゲイズ査閲部長に、これの監視を強化するべく通達を出して
いたが、オーリスはその通達に対し即座に返信を行った。単に命令を受諾する、という内容ではない。
「人手が足りませんが、いかが致しましょうか」
 オーリスの返信は皮肉であるが事実でもあり、先日の戦闘において地上本部の人的資源は著しい衰
退と減少を遂げた。被害区域の対処に当てる隊員すら不足しているのに、誰とも判らぬ不穏分子を監
視するために避ける人員などいないというのだ。そもそも、疑惑のある部隊や人間をすべて取り締ま
ることなど物理的に不可能だ。
 こうしたオーリスの訴えは地上の現状と照らし合わせても正当なものであり、解決方法があるとす
れば本局が人員を割いて地上に回すことだけだ。しかし、三提督を初めとした上層部は貴重な次元航
行艦隊や、本局の局員を地上に回す選択を避け、現在の地上本部の規模で、可能な限り監視をせよ
≠ニいう再通達を出すに留めた。スカリエッティの動向が気がかりだったため、本局の人員を地上に
は降ろしたくないと思っていたのであろうか。あからさまな地上軽視の考えに、地上本部に詰める士
官たちは不快感を禁じ得なかった。オーリスもそれは同じであったが、彼女は通達に従い粛々と指示
を実行に移し、僅かな部隊に命じて、不穏分子かも知れない$l々のリスト作り、その監視に当た
らせた。
302ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:54:45 ID:uMmiUrtY
 そのリストの中に八神はやての機動六課が含まれていなかったのは、単なるミスか、それともオー
リスの目に彼女たちは不穏分子として映らなかったのか、理由はハッキリとしていない。一説にはわ
ざと記載しなかったのだという意見もあったが、はやてとオーリスの関係を考えればそれはあり得な
いと、当時は判断されていた。しかし、後世においての検証では、当時却下された意見こそが正鵠を
射ているという見解で一致しており、オーリスの単純ならざる心境を伺わせることとなった。
 地上本部の監視すらも受けなかったはやては、兵器工廠において保管されていた愛船のアースラへ、
やや強引に乗船するとそのままアルトセイム地方に進軍を開始したのである。予めクロノ艦隊に自分
たちの情報を与えたのは小細工であり、はやて自身、蛇の巣に花火を投げ込むような真似をしている
と感じていたが、これは意外なほどの効果を発揮した。クラウディアの艦橋要員が対応を決めかね右
往左往している内に、アースラはアルトセイムの上空にたどり着いたのである。
「長距離砲斉射用意、狙点はデタラメでも良いが、派手なの一発頼むでぇ!」
 わざわざ自分たちの姿を誇示するかのような命令に、砲手たちは訝しんだりもしたのだが、指揮官
の考えを信じて砲撃を実行に移した。はやては先制攻撃で戦闘の主導を握り、その勢いを持って敵を
瓦解させるという戦術プランを立てていた。本当ならば奇襲による一撃で敵に大打撃を与えたいのだ
が、より正確な砲撃を行うには今ひとつ距離があり、しかも、これ以上近づけば敵に自分たちの存在
を感知されてしまう可能性があった。はやては見かけ倒しの砲火で機先を制し、その後、六課が誇る
機動兵力によって敵を畳み掛ける以外に手はないと判断したのだ。
「狙うはスカリエッティの首ただ一つ。生死は問わない、争乱の元凶を倒せ!」
 激励によって戦友や部下を送り出したはやてであるが、彼女はアースラの指揮座で全体の指揮を執
り行う予定であった。はやて本人は自身の出撃と、最前線における指揮を望んだのだが、指揮官自ら
前線に立ち、万が一のことがあったらどうするのかという慎重論に、いさぎよく退くしかなかったの
だ。
 戦闘の要となるのは左右両翼の戦闘要員で、この二人が敵軍を蹴散らしながら先手先手を取り、総
大将たるスカリエッティを急追するというのだ。その片翼を指揮するのは、当然とも言うべきかフェ
イト・T・ハラオウンに決まっていた。精神不調から完全に回復してはいなかったものの、それでも
並の隊員よりはよほど良い動きをするし、戦闘能力においては比べようもなかったからだ。
 そしてフェイトと共に片翼から敵軍へと斬り込む役目を担ったのは、正確に言えば機動六課の隊員
ではない。けれど、その実力はフェイトをも勝る存在であった。
「行ってこい、英雄」
 はやての密かな期待を受け、異世界の戦士であるゼロが作戦の要として出撃した。実力から言えば
申し分ないものの、はやてが決断した人選を意外に思うものも少なくはなかった。多少の誤解を交え
ながら、彼女が未だにゼロのことを嫌っていると考える人が、機動六課には多かったのである。
 決してそれは間違いではないのだが、今日では正しいとも言えない見解だった。

 プログレスの赤い機体を走らせながら、ゼロは戦場を走り回っていた。拘束移動する機動兵器に座
すゼロを、パンテオンは捉えきれずにいる。無意味な射撃が繰り返されたが、彼らを待ち受けていた
のは威力と速度にして三倍以上はあろう銃撃の荒らしだった。プログレスに装備された重機関銃が、
敵を撃ち倒すべく火を噴いたのである。
 一般的にバイクの形状をしたものに機関銃などといった大型武装は積み込めない。反動からまとも
に姿勢制御できるものではなく、運転も困難を極まる。正確な標準など望みうるわけもなければ、ど
んなに理論上において可能であっても、武装の選択としてはあり得なかった。それを可能としたのは
異世界の技術者であるセルヴォが立案した画期的な運用方法と、シエルがミッドチルダで知った新た
なる技術を応用してのことだ。委細は省くが、これによってかなりの武装を詰め込むことにシエルは
成功していた。
「ルクリュ、少し速度を落とせ。こう速いと銃撃も出来ない」
 高速射撃というものにも限度があり、機動兵器とはいえプログレスは異常な速度で戦闘を避けてい
る。
303ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:56:18 ID:uMmiUrtY
《嫌です。私の計算によると、この速度を維持することで機体へ降りかかるダメージを最小限に抑え
ることが出来ます》
 まさか、少しぐらいは当たっても良いだろうとはいえないが、ゼロとしてはそれぐらい覚悟しない
でどうするという気持ちだった。ルクリュは戦術コンピュータを元に自身が導き出した計算式の上を
走っているようだが、戦場に必ず当て嵌まる方程式など、存在するわけもないのだ。
「いいから落とせ。お前を傷つけないように努力はしてやろう」
 心にもないことを投げやり口調で言ってみたが、ルクリュは黙って速度を落とした。まったく、か
わいげのない性格である。
 ところで、ルクリュ≠ニいうのはゼロが付けたプログレスの管理人格AIの名称である。名付けの
理由は、デバイス兼サイバーエルフの名前を、何気なくゼロが訊ねたことから始まる。
《名前、ですか?》
 予想外の質問だったのか、意外そうな声を少女は上げた。ゼロとしては、名前を尋ねたことにどう
してそこまで驚くのかが理解できない。
「プログレスは機体名だろう。サイバーエルフのお前の名前はなんだ」
 深い意味はなかったのだが、少女が凛々しい顔を曇らせ、俯いてしまう。ゼロは怪訝そうにそれを
見るが、実のところ少女にはまだ名前というものがなかったのだ。完成だけを目標に急ピッチで制作
をしていたシエルは、そういった細かい部分にまで気が回っておらず、批難できることではないにし
ろ、彼女にしては配慮が欠けていたかも知れない。
《別に、プログレスでいいですよ。機体名ですから》
 やや粗雑な口調で少女は言うが、その表情は寂しげであり、意識的に気にしないよう努めているこ
とは明白だった。プログレスという名称が男女どちらに似合うかは判らないが、少女にあったものだ
とは思えない。
「ルクリュ、というのはどうだ?」
《え――?》
「新しい兵士、という意味らしい」
 ゼロとしては呼び名があった方が便利だから提案したまでで、提示した名前にしても昔他者から訊
いたものの流用である。
《兵士って、女の子に付ける名前じゃありませんよ》
「……………………」
《けど、ルクリュっていう響きはいいですね。ルクリュ、ルクリュ……判りました、今日から私の名
前はルクリュです。マスターゼロ》
 宣言しながら、気に入ったのか自分の名前を繰り返し少女は呟いていた。プログレスの管理人格AI、
サイバーエルフルクリュ≠ヘ、こうして命名されたのである。
 とはいえ、ゼロとルクリュのコンビは結成して間もないと言うこともあったろうが、あまり息が合
っているとは言いづらかった。直感を信じて果断速攻のゼロに対し、ルクリュはデータ称号と計算か
らなる慎重な動きを基本としていた。成功度や完成度で言えば後者の方が高いのだが、それ故に機敏
さや勢いといったものが犠牲にされている。ゼロはそれが不満であり、単調すぎる攻撃と回避の繰り
返しに苛立ちさえ憶えていた。
「ルクリュ、戦闘区域をサーチして、特定のレプリロイドの反応を調べられるか?」
《可能ですけど、対象は?》
「……オメガだ」
 低くなった声と、表情の消えた顔。ルクリュは数秒ほど無言であったが、特に気に止めなかったの
か、同じく数秒ほどで戦闘区域のサーチを終えた。数百のレプリロイド、メカニロイドがひしめいて
はいるものの、オメガの反応は発見されなかった。
304ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/18(金) 23:57:22 ID:uMmiUrtY
「そうか、オメガはいないのか」
 難敵が不在であることにゼロは安堵し、安堵した瞬間、冷水を掛けられたかのように身体が強ばっ
た。今、自分はなにを考えていた? オメガが、倒さなくてはいけない敵がこの場にいないことへ、
安心を憶えていた? 馬鹿な、そんなはずはない。
「そんなことが、あってたまるか」
 ゼロが自分に芽生えた恐怖心を自覚していたかは定かではない。そもそも彼は自分に心≠ェある
とは思っていなかったので、説明されても理解できなかったのではないかと言われている。現にルク
リュはゼロの身体データを照合し、彼が人間で言うところの怯えや興奮に近い感情に苛まれているこ
とを看破していたが、口に出してはなにも言わなかった。彼女は彼女で自分のやるべきことに手一杯
であり、初陣の少女は他者に気を使うほどの余裕を持ち合わせていなかったのだ。
《マスターゼロ、通信が入っていま……って!?》
 報告するルクリュを遮るように、威勢のいい声が飛び込んできた。
『元気してますかー? リインちゃんでーす!』
 ルクリュに割り込むかのように、はやてのユニゾンデバイスであるリインが現れた。無論、通信用
の映像に過ぎないが、ルクリュを押しのけて本人曰く格好いいポーズをゼロに向かって決めている。
「なにか用か?」
 仮にも戦闘中に、このような通信を送れるのはリインぐらいのものである。思わず気が抜けそうに
なるが、登場の仕方とは裏腹に、彼女が持ってきた情報は軽視できるものではなかった。スカリエッ
ティの正確な位置を把握した、というのである。
『スカリエッティは現在、モニタ上に表示されるこの部分にいます。丁度、あなたから直線上のライ
ンにいるので、そのまま突っ切っちゃってください』
「判った、確かにそれが一番速いな」
『はやてちゃんも機を見て出撃すると言ってますから、大丈夫ですよ、この戦いは勝てます』
 元よりそのつもりであるが、リインの勝利を信じて疑わない笑顔は、ゼロの感性を刺激するものが
あったらしい。苦笑とも微笑とも取れる笑みを浮かべて、リインとの通信を切る。
《な、なんですか今のは! 戦闘中に割り込んでくるなんて非常識ですよ》
 自身の表示端末に割り込まれたのが気に食わなかったのか、ルクリュが不機嫌そうに声を荒げる。
「貴重な情報を持ってきた相手だ。あまり悪くも言えないだろう」
《情報って、直線コースを取れることは無理です。そのスカリエッティという人間の周囲には、百機
近い機動兵力が配置されているんですよ? それを突っ切るなって自殺行為です!》
 時間は掛かっても損傷や消費の少ない迂回コースを取るべきだという意見に、ゼロは賛同しなかっ
た。ルクリュの慎重論に痺れを切らしたのである。
「ルクリュ、操縦をオートからマニュアルに切り替えろ」
《えっ、なんで……》
「お前は火器管制をやれ。オレはこのまま直進して、敵を突き抜ける」
《そんなの無理に決まっているじゃないですか! 貴方ですね、私のことも少しは考えて》
 叫ぶルクリュを無視して、ゼロは強制的に自動操縦モードを解除した。続けて多段型の小型ミサイ
ルを発射して、正面のパンテオンたちを吹き飛ばす。百機程度なら、対処しきれない数ではなかった。
トリプルロッドを構え、パンテオンやその他メカニロイドがひしめく敵の只中へと、ゼロは突っ込ん
だ。
305ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/19(土) 00:00:56 ID:75jfJvbv
「機動六課もなかなかやるじゃないか。それとも、ゼロの実力が為せる技かな」
 素直に相手の攻勢を評価するのは、油断よりも多くの余裕をスカリエッティが持っていたからであ
り、この時点において彼は戦場にあっても戦火を避け、見物を洒落込めるほどの優位を保っていた。
こちらの兵力は数百機足らずだが、相手の兵力は数十人に満たないのである。一時、メカニロイドの
猛攻を突破した魔導師がいたものの、スカリエッティが整然と並べたパンテオンの銃火に撃ち倒され、
彼に辿り着くことなく敗死している。それでも六課が戦線を維持し、更に敵の総大将を倒すべく攻勢
を続けられたのは、無論ゼロの影響もあるのだが、基本的には個々の隊員の非凡さから来るものだっ
た。買いかぶりではないにしろ、ゼロは両翼の一つを任されていたに過ぎず、機動六課の各隊員たち
も善戦し、その非凡さを証明するかの如く奮戦していたのである。数において圧倒的に劣る六課では
あったが、その分横の連携がしっかり取れており、逆に敵機動部隊は指揮官らしい指揮官が存在しな
い、数に任せた烏合の衆であった。各個撃破にさえ注意すれば十分戦える相手であり、これはスカリ
エッティの戦略ミスと言えるだろう。
 六課の陣容に弱点があるとすれば、ゼロと同じく片翼から敵部隊を切り崩しに掛かったフェイトの
存在だったのだろうか。戦闘中、いつ精神不調が再発するかもわからない。そのためエリオが補佐役
として付き従っていたが、彼にとって母であり姉であるとされた彼女は、その律動的なまでの力強さ
を、このときは遺憾なく発揮していた。興奮に身を震わせる被保護者の少年の前で、ほとんど一騎当
千に近い勇戦振りを示したのである。
 迫り来るパンテオンをザンバーで薙ぎ倒し、中空を飛び回る飛行部隊をプラズマランサーで貫き、
ハーケンセイバーで道を切り開いてはひたすらに前へと進み続ける。はやての読みは当たり、ゼロと
フェイト、この二人によって敵陣は大いに乱れ、壊乱状態に陥ったのだ。一つは、二人とも高速機動
戦闘を展開していたため、パンテオンの処理能力が追いつかずに敵を捕捉することが出来なかったこ
とにある。ゼロとフェイトに対処しようとしていたパンテオンが、スバルやティアナといった隊員に
撃ち倒された例は意外に多く、数の上での劣勢は徐々に無くなりつつあったのだ。
「ドクター、私にもなにか武器を。敵の攻勢に対処します」
 機動部隊の不利を感じ取ってか、セッテがそのように申して出てきた。優勢が劣勢に変わりつつあ
る状況で、未だにルーテシアやギンガは動きを見せようとしない。実際にはルーテシアも視線でスカ
リエッティに訴えかけてはいるのだが、何故か無視されてしまうのだ。まだ、そのときではないとい
うことか。
「必要ないよ。それよりもセッテ、君はディエチを連れて先に庭園へと戻っていてくれ」
「ドクターは、如何なさるのですか?」
「私は今少し残る。なに、一人で帰るつもりはないから安心してくれ」
 命令に忠実なセッテは、彼女とは違う理由で戦場に残りたがっていたディエチをつかむと、そのま
ま時の庭園と向かって飛んでいった。スカリエッティからすれば、この戦いは確実に勝利せねばなら
ないものではなく、負けなければそれでいいのだ。戦いそのものには意味がないし、意味があるとす
ればそれはおそらく……
「ほう、意外に早かったね」
 敵機動部隊を蹴散らして、ゼロとプログレスが現れたのだ。トリプルロッドを片手に敵を斬り払う
ゼロの姿は、さながら古代の騎馬を思わせる光景であった。予想よりも早い到着であるが、ここまで
来ること自体は計算済である。
「見つけたぞ、スカリエッティ」
 獲物を捕らえたハンターの視線を向けるゼロに対し、応えたのはスカリエッティではなくルーテシ
アだった。彼女も口は開かなかったが行動でゼロに対する敵意を示し、地雷王を召喚して彼に叩き付
けた。プログレスもバイクにしては巨体だが、地雷王のそれには敵うはずもなく、突進の一撃で、機
体ごとバラバラになるかも知れない。
306ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/19(土) 00:02:24 ID:75jfJvbv
「……邪魔だ」
 ゼロもルクリュも、甲殻を持つ巨大虫と正面激突するつもりはなかった。ゼロは自然な動作でプロ
グレスから重機関銃の一つを取り外すと、狙いを付けて連射を開始した。撃ち出される超硬鋼弾は地
雷王に直撃し、硬いはずの甲殻を突き破った。一発や二発ならまだしも、毎分五〇〇発近い銃撃を浴
び続ければ如何に甲殻が硬かろうと貫通する。地雷王は巨体故に攻撃を当てやすく、それこそ虫けら
のように吹き飛ばされてしまった。
 唖然とするルーテシアに、威嚇の意味も込めてゼロは重機関銃を突き付けた。撃つつもりはないだ
ろうが、強力な地雷王をあっさり打ち負かされたショックからか、ルーテシアは僅かにたじろいでい
た。ギンガはいつでも攻撃を行えたが、ゼロがルーテシアに狙いを付けていると言うこともあって迂
闊な行動は避け、構えすら解いてしまっている。
「観念しろ、スカリエッティ」
 重機関銃の標準をスカリエッティに固定すると、ゼロは重々しく呟いた。
「観念? なんの話かな」
 その気になれば自分を蜂の巣にすることも可能な武装を突き付けられても、スカリエッティが余裕
を失うことはなかった。彼はこの場で自分がゼロに負けるとは、欠片も思っていないのだ。
「お前の野望はここで終わらせる。オレが、今すぐに」
「オメガを倒せなかったといって、私に刃を向けるのかい? それは少し短絡的というか、君らしく
ないな」
「スカリエッティ、お前はこの世界にとって大きな害悪になりすぎた。オメガまでも利用したお前を、
オレは放置するわけにはいかない」
 随分な言われようだが、否定も出来ることでもなかった。スカリエッティはあくまで自分の価値観
と意思に従って行動しており、その行動理念はどこまでも自分本位、自分勝手なものだった。彼は国
家や組織、主義や主張、社会や思想などを背負って戦ったことがなく、精神的革命家とは対極の位置
にいた。けれど、ゼロの物言いを否定できなくとも、反論することは出来る。
「君が私の行動を否定すると言うことは、君が守るべき姫君、ドクター・シエルのことも同時に否定
することになるけど、それは理解しているのかな?」
「なに?」
「以前、ドクター・シエルにも言ったことだが、私たちは本質的部分からなにからなにまでよく似て
いてね」
 スカリエッティの言葉は、怒りより困惑を持ってゼロに迎えられた。彼がなにを言いたいのか、咄
嗟に理解できなかったのである。
「そう、私たちはよく似ている。似すぎている。生まれからしてそうだ。彼女がネオ・アルカディア
の実験によって、過去の偉人の遺伝子から生み出されたように、私も古代世界の住人の遺伝子を改良
されて作られた」
 告白にルーテシアは驚きを憶えるが、スカリエッティの口調は淡々としていた。彼は最高評議会が
自分たちを長く生き存えさせる技術と、彼らの命令通りに事を運ぶ優秀で聞き分けのいい頭脳を必要
としていた。古代世界アルハザード、半ば伝説と化している存在も最高評議会にとっては現実の存在
であり、そこから採取された人間の遺伝子を元に研究が進められ、そうして誕生したのがスカリエッ
ティなのだ。彼が誕生するまでに気付き上げられた死体の山は、たった一人の完成系と、数多い失敗
作の存在を明確に表していた。
「天才として生み出され、天才として育てられ、天才として弄ばれた。私も若い頃は色々あってね、
最高評議会に対して憎しみを憶えることに時間は掛からなかったよ」
「出生が似ているからと言って、お前とシエルを一緒にするな」
「それだけじゃないさ、他にも色々ある。例えば成長した彼女はネオ・アルカディアの存在と行動に
異を唱え、レジスタンスを結成して抵抗活動を始めた。私はどうかな? 最高評議会と時空管理局を
倒すためにナンバーズやガジェットを制作し、テロリスト的行動を開始した。ドクター・シエルと、
なんの差違がある?」
307ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/19(土) 00:03:23 ID:uMmiUrtY
 物は言い様である、と突き放すにはゼロも慎重だった。スカリエッティの言葉は表面上だけ捉えれ
ばシエルの経歴と類似しているが、だからといって彼とシエルが本質的に同じなどという戯言を認め
るわけにもいかなかった。ゼロがなにかを口にしようとして、しかし、言葉が口から出てこないでい
ると、畳み掛けるようにスカリエッティが語りを続けた。
「聴いているんでしょう、ドクター・シエル。貴女は最初から判っていたはずだ、私と貴女の類似点、
私が貴女と同一の存在であることを」
 スカリエッティが断定したように、シエルはプログレスを通じてゼロたちの会話を聴いており、そ
の表情は青ざめきっていた。アースラ内の私室で、デスクに身体を預けながら、崩れかかる身体をな
んとか支えていた。
「極めつけは武装蜂起後の行動だ」
「シエル、耳を貸すな」
 ゼロの言葉と、スカリエッティの言葉が二重に響き渡る。シエルがどちらの声に耳を傾けていたの
かは、本人にすら判らなかった。

「私が伝説のゆりかごと聖王を頼ったように、貴女も伝説に希望を託した。ゼロという伝説の英雄に
ね。すべては自分のため、己が目的を果たすために!」

 決定的な一言が、鋭利な刃物となってシエルの心を貫いた。

『ゼロ、私……』
「シエル!」
 弱々しいシエルの声が、プログレスを通じて聞こえてくる。
『私は彼を、スカリエッティを否定できない……!』
 泣き叫ぶような声には、弱々しさが消える変わりに、異常なほどの感情の高ぶりがあった。初めて
あったときに感じた既視感と、会う度に感じていた奇妙な感覚。それは本質を同じとする同族のみが
抱く嫌悪感。シエルはスカリエッティと同じであり、スカリエッティはシエルと同じ存在だった。出
生も、行動も、違っていたのは結末だけであり、シエルが手にした伝説は本物で、スカリエッティが
手にしたのは偽物でこそなかったが、脆く崩れ去ってしまった。彼の言うとおり、彼を否定すると言
うことは自己否定なのだ。今までの自分の行いと、それに関わってきたすべての人々を否定すること
になる。
「シエル、惑わされるな。お前はスカリエッティとは違う!」
 励ますゼロであるが、具体的になにが言えるわけでもなかった。先日のフェイトのときと同じく、
彼は少女にとっての英雄はあったが、その力は戦いにおいてでしか発揮されないのだ。
「同族は同族と共にいるべきだ」
 ゼロの姿を嘲笑気味に眺めながら、スカリエッティは最後の言葉を紡ぎ出した。

「だから、貴女は私が連れて行く。ドクター・シエル、貴女は私と来るべきなのだから」

 その声は、他でもないシエルの真後ろから聞こえてきた。驚き振り返ると、そこにはジェイル・ス
カリエッティ本人が、悠然と立っていた。不気味な笑顔を浮かべながら、シエルに向かって片手を突
き付ける。
「行きましょう、ドクター・シエル。我が庭園へ」
 声を上げるようも早く、シエルの身体は赤い魔力の糸に絡め取られていった。

308ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/19(土) 00:05:34 ID:75jfJvbv
 あり得ないことが起きていた。中空にいたアースラが小規模ながらも爆発し、中からスカリエッテ
ィが飛び出してきたのである。あまりのことにゼロは愕然とするが、彼が重機関銃を突き付けていた
スカリエッティは、爆発が起こると同時にその姿がかき消えた。お得意の、立体映像だったのだ。
「しまった!」
 こんな単純な手に引っかかると思っていなかったゼロであるが、慌ててアースラより飛び出してき
たスカリエッティに視線を向けると、彼は勝ち誇った笑みを浮かべると共になにかを抱きしめていた。
 あれは、まさか……

「シエル!!」

 意識する必要すらなかった。ゼロは自分の持てる限りの跳躍力を使い、スカリエッティからシエル
を、自らの一番大切な存在を取り戻すために跳んだ。二段ジャンプを駆使した驚くべき跳躍力は、ス
カリエッティを確実に捉えていた。だが、彼の手はシエルに届かなかった。
「行かせないわよ、ゼロ」
 シエルへと伸ばした手を払いのけるかの如く、ギンガが彼の前に立ちはだかったのだ。ゼロと相見
える機会を、ギンガはここに来てようやく手にいれたのであるが、対するゼロはギンガのことなど見
ていなかった。
「邪魔をするなぁぁぁぁぁ!」
 怒声と共に打ち込まれたゼットセイバーが、一撃の下にギンガを叩きのめした。ギンガは受けきれ
なかった斬撃に体勢を崩し、地面へと落下していく。しかし、ゼロはその姿をも確認しようとはしな
い。
「シエル、シエル、シエル、シエル」
 守ると誓った。自分が守ると、彼女の力となって戦うと言ったのに。自分は役立たずの能なしでは
ないか。大切なものを守れずして、なにが英雄だ! シエルがいなくなれば自分はお終いだ。彼女が
いるからこそ彼は、自分は、オレは……

「ゼロで、いられるんだ」

 バスターを撃つわけにはいかなかった。ギンガに阻まれ、届かぬ距離となった今、彼に出来るのは
それぐらいしかなかったが、シエルに当たる可能性を考えると、なにも出来なかった。

「シエル――――――――――!!!」

 ゼロは叫んだ。彼に残された唯一出来ること。そして、その叫びに囚われの姫となったシエルも応
えた。

「ゼロ―――――――――――!!!」

 二人の距離は遠く、ゼロの手はシエルに届かなかった。やがてはそんなシエルの姿すらも遮るかの
ように、超重量の巨躯がアルトセイムに出現した。味方であるはずのパンテオンすらも巻き込んで、
巨大なる巨体を見せつける。
「なんだ、こいつは」
 ルーテシアによる召喚術。状況の不利を悟った彼女は、スカリエッティを援護するために自身が持
つ最強の召喚虫を召喚したのだ。圧倒的な質量と体格、轟く鳴き声が周囲にあるすべてのものを恐れ
戦かせる。

「ドクターの邪魔は誰にもさせない。白天王、みんな、みんな殺して」

 少女が放った冷酷なる命令を実行に移すため、白天王が動き出す。地面へと着地したゼロは、怒り
に満ちた表情を新たなる敵に向けていた。

「そこを、どけ!」

 叫び声を上げると、その規格外の敵を倒すべく、ゼロは剣を手に駆け出した。まるで巨獣に立ち向
かう、勇者のように。

                                つづく
309ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/19(土) 00:07:36 ID:75jfJvbv
第18話です。
後半戦に突入と言うことで、筆力と速度を底上げしてきました。
まだまだ足りない気もしますが、なるべく早く完結させようと思っているので
週2〜3のペースを作ろうかなとも考えています。
出来るか出来ないかは、また別の話ですけど。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
310名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/19(土) 00:25:42 ID:mgAsqflr
ゼロ先生、今回もGJでした!仕事疲れも眠気も吹き飛びましたよ。

スカ一味だけでなく、(まるでギンガの状況とシンクロするかのように)どこまでも堕ちてゆく管理局に対する
鬱憤を吹き飛ばすかのようなアースラの一撃&六課の反撃(フェイトも現状は無事で何より)や、
まさに「泥中の蓮」として動いたオーリス(クロノやユーノは彼女に続けるか!?)、
“恐れ”を抱えつつもブレないゼロ&ルクリュ(プログレス)の勇姿には燃えましたし、
ただやられるだけでは終わらず手痛い反撃もやってのけるスカ博士の動向にも注目させられましたね。

ここからはオメガとの決着だけでなく、本当に「囚われの姫」となったシエルを救い出すため、
ルーテシア戦を皮切りとした『ボスラッシュ』となるのでしょうが・・・焦らず慌てず期待しておりますね!!
311名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/19(土) 05:59:03 ID:+UdIlQB0
なんというGJ。
あいかわらずスカ勢はフリーダムですね。当然、性的な意味で。
プログレスの初参戦ですね。この二人がどう息を合わせて力を発揮していくのか楽しみです!
そして……思わず画面に向かって叫びそうになりました。シエル!フラグが立ってましたけどやっぱり…
あんな歩く18禁を集めたような庭園に捕らわれるとか別の意味で恐ろしいんですがw
では続きをお待ちしております。
312名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/19(土) 08:55:51 ID:lyYlHfjS
GJです!!

ロボ(?)姦にロリコンと、カオスな状況ですね、ホント(苦笑)。スカ勢がとんでもなく強いですが、それ以上に内部がとんでもない状況に・・・・・・。


今回六課勢は誘い出された感がありますね〜。まぁ、はやての性格と状況を鑑みればこの罠は順当でしょう。シエルに執着するとは、筋金入りのロリコンだな!ww


最後にプログレスの勇姿、良かったです! 1がコピー能力乱舞がメインだったのに対し、2では様々な武装を使うゼロが見られて楽しいです!


これからも応援しています。頑張ってください!
313一尉:2009/09/19(土) 15:40:54 ID:9FykATZc
目運支援
314シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 15:51:36 ID:KPr847HB
こんにちは
1700時頃に「マクロスなのは」の第四話を爆撃したいと思います。
対空ミサイル「ミスター・モンキー」に捕捉されぬよう制空権維持の支援、願います!
315シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:03:18 ID:KPr847HB

そろそろ時間になったので爆撃開始します!
撃墜された時はどなたか代理願います!
316シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:06:44 ID:KPr847HB

マクロスなのは 第4話 『模擬戦』

設立から1ヶ月。
スターズ分隊の3(スバル)、4(ティアナ)。そしてライトニング分隊の3(エリオ)、4(キャロ)。この4人の新
人達、通称『フォワード4人組』に対する訓練は熾烈を極めていた。設立式の次の日から始まった訓練
は、朝から日の暮れるまで続いた。
簡易ストレージデバイス(別名「手作りデバイス」)であったスバルとティアナのデバイスは、過酷な訓練
によって3日でおシャカ≠ノなってしまってしまい、ヴィータを初めとする教官達に「そんなデバイスで
戦場を生き残れると思っているのか!」ときつくなじられた。
しかしそれは教官達には予定どうりだったようだ。なぜなら宿舎にトボトボ帰ってきた4人を出迎えたの
はシャーリーと、新しいデバイスだったからだ。
ティアナには二挺拳銃型のインテリジェントデバイスである「クロスミラージュ」。
スバルには、ローラースケート型のアームドデバイス(ミッドチルダ式に多い杖のようなものではなく、剣
やハンマーなどその名の通り武器の延長のようなベルカ式のデバイス。ベルカ式カートリッジシステム
がほとんどの場合で搭載される。)「マッハキャリバー」。
ちなみに右腕の籠手(こて)型ストレージデバイス「リボルバーナックル」は、彼女の母の形見で、十分
実戦に耐えるため共用となった。
一方フェイトの与えたデバイスを使っていたエリオとキャロも、それぞれ槍型のアームドデバイス「スト
ラーダ」と、グローブ型のインテリジェントデバイス「ケリュケイオン」をアップデートして継続使用するこ
とになった。
そしてそれらのデバイスには新機軸としてPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)が装備されたことは
言うまでもない。
次の日の訓練は、ガジェットT型のホログラムを相手に行われた。
スバルとエリオは近接戦闘を。ティアナは指揮と援護射撃を。キャロは3人の魔法の出力を上げるブー
ストの訓練だ。
しかし、教官側に誤算があった。PPBSの存在である。
317シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:11:55 ID:KPr847HB
本来この訓練は、AMFを展開する敵機の恐ろしさを体感する目的で行われた。
魔力素を空中で結合して実体化させる物理的なシールドである魔力障壁は、AMFの影響を諸(もろ)に
受けてしまう。一方PPBSは、術者体内のリンカーコアで魔力素を結合して魔力エネルギーに変換、そ
のままデバイスに流し込んでさらにバリア用に時空エネルギーへ再変換する。そうした過程をたどるた
め、空気中での魔力素の結合に頼らないエネルギーシールドであるPPBSの効果は並のAMF中では
全く揺らがない。
また、ベルカ式カートリッジ1発で数度の展開に耐えられ、強度も通常時展開の魔力障壁に匹敵する
ため、防御力も抜群であった。
特にスバルは打撃系のため、PPBパンチというおまけ以上の攻撃力を与えた。
なのは達が気づいた時には4人は完全にPPBSを使いこなし、ガジェット相手に無双を演じていた。残
念ながらすぐさま禁止令が出て、本来の地獄を味わうことになったが・・・・・・
その後PPBSの存在の重要性は格段に上がり、遂には六課の実戦部隊全てのデバイスに標準装備
されることになってしまった。
また、どんどんOTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス。主に初代マクロスから入手した技術。)
や、OT(オーバー・テクノロジー。人類がプロトカルチャーの遺跡やゼントラーディの艦などを研究して
開発した後発的な技術。)を解析してしまうシャーリーは、その後も慣性を抑制するOT『イナーシャ・ベ
クトルキャンセラー』など次々開発、採用していった。
つい1週間前には近接戦闘の多いスバルやエリオ、そして出力が大きい隊長や副隊長のデバイスの
フレームに、VF−25でも使われる『アドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)』が採用されていた。
六課に少しずつオーバーテクノロジー系列の技術が採用されていく中、アルトとランカはそれら技術の
漏洩については沈黙を守った。
アルトはこの1ヶ月、4人と一緒に訓練などをして過ごしていた。そのためEXギアを模したインテリジェ
ントデバイス『メサイア』の扱いにも慣れ、なのはに習った魔力誘導弾『アクセル・シューター』を改良し
た『ハイマニューバ誘導弾(バルキリーのミサイル同様、打ちっぱなし式。誘導はメサイアが担当。誘導
中メサイアの処理容量の大半を持っていかれるが、デバイスとしての付与機能が封印されるのみであ
り、EXギアとしての機能に支障はない。)』、そしてリニアライフルを自在に使いこなし、生身でも並みの
空戦魔導士を優に越える技能を手に入れていた。
またランカも、隊長、新人問わず超AMF(効果範囲内の全ての場所で魔力素の結合を、空気中では完
全に、体内でも99%不能にさせるAMF濃度)下の訓練へ協力や広報で働き、金食い虫であったVF−2
5の改修をして余る程の資金を獲得(VF−25の改修費以外は労働状況改善に善処する地上本部に寄
付された。)するなどそれなりに成果を納めていた。そして─────

318シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:18:55 ID:KPr847HB



「みんな。今日の午前は、模擬戦を行います。」
早朝のウォーミングアップと軽い基礎演習が終わった4人に、なのはは本日の訓練内容を告げた。フォ
ワード4人組はいままでずっと基本練習だったため、自らの腕がうずくのを感じた。
(相手はガジェットだろうか? だったら今度こそボッコボコにしてやる!)
彼らはそう意気込んだが、それは次の言葉で脆くも打ち砕かれた。
「相手は私とフェイト隊長、そしてアルト君のVF−25≠ナ行いま〜す。」
全員の顔が青ざめる。
(隊長2人とアルト先輩が相手? 何の冗談だ。)
しかし隊長陣は不敵な笑みを浮かべている。どうやらマジらしい。
VF−25は前日改修が終了し、テストとしてヴィータとの模擬戦が行われていた。結果はバルキリーに
軍配が上がっている。つまり、バルキリーはヴィータ副隊長より強い敵なのだ。
「私達の内、誰か1人に一撃を与えればあなた達の勝ち。」
微笑を浮かべながら言うなのは。しかし4人には今、それは死神の笑顔だ。
だがアルトには事前に話されていなかったようだ。なのはに反論する。
「おい、なのは。さすがにそれは厳し過ぎるんじゃないか?」
「あれ? じゃあ、アルト君1人でやる?」
え?≠ニなるアルト。しかし、なのはは1人で納得すると「あぁ、やっぱり負けるのが怖いんだ?」と一
言。
アルトはその一言にタガが外れた。
319シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:24:01 ID:KPr847HB
「怖かないさ!条件はなんだ!?」
「バリキリーの出力の8割カットと、マイクロハイマニューバミサイルの使用禁止。」
なのははさらっと言ったが、それはバリキリーの可変機構が使えず、PPBSもエネルギー転換装甲す
ら起動できない。かろうじてバトロイド形態で通常の戦闘機動をするのがやっとというレベルだろう。
ちなみにここで言うマイクロハイマニューバミサイルとは、純正のMHMMの改良型だ。これは特殊化
学燃料ロケットモーターではなく、新開発した魔力推進ロケットモーターを装備している。
また、爆薬やMDE弾頭の代わりにベルカ式カートリッジシステムの大容量カートリッジ弾(直径15mm
全長45mm。大出力を要するなのはなどが使用する)が8発ほど封入されており、それを強制撃発させ
た魔力爆発となっている。さらに噴射ノズルに通常、魔力砲撃を行う時展開される偏向・集束バイン
ド(環状魔法陣)を掛け、それをまた推力偏向ノズルとするので、機動性能も純正以上の優れ物だ。
このミサイルは現在、六課の隊舎に整備される自動迎撃システムの一端を担うことになっている。ま
た、六課隊舎を守るシールドを展開するために、本格的な大型反応炉の敷設が計画されている。これ
が実現したとき、六課は完璧な要塞となるだろう。
ちなみに六課解体後は、時空管理局本部ビルから地上部隊司令部が独立して六課隊舎に移転する
ことが予定されており、上層部もこの要塞化に乗り気だったようだ。
そして余談だが、設立式で放たれたミサイルはこのマイクロハイマニューバミサイルだ。
ここで話は戻るが、この魔力推進のマイクロミサイルは、はやての要請でミサイルランチャーと共に潤
沢な予算を注ぎ込んで急遽開発、生産されたもので配備数がまだ少ない。だから実戦用に取っておく
つもりなのだろう。
どうやらなのははフォアード4人組と同時に、アルト自身の実力をも計るつもりのようだった。
「いいだろう、その条件乗った!」
アルトは言い放つと、格納庫へ飛翔していった。
これまでの話をを見ていたティアナは内心歓喜していた。
(あんな大きな的にどうやって外すのよ。)
大きくてのろくさい質量兵器1機に一撃。それは容易いことに思えた。しかし、それが間違っている事に
気づくのはすぐのことだった。

320名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/19(土) 17:26:45 ID:lyYlHfjS
sien
321シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:31:28 ID:KPr847HB



訓練場

そこは海上を埋め立てて作られた台地にあり、普段はまっさらな300メートル×300メートルの見た
目コンクリート打ち付けの島だ。しかし、そこはホログラムによって市街地から森まで自由に再現できる
訓練所だった。
ホログラムとは光子によって物質を擬似的に構成させるもので、設定の変更によってそれを触ったりで
きるようになる。
これはアルト達の世界(管理局では『第25未確認世界』と呼称されている)ではOTMによって初めて
触る≠アとが成し遂げられたが、この世界では独自で開発していた。これはミッドチルダの技術力が
魔法だけでなく科学でも進んでいる事を示していた。
すでになのはのレイジングハートからデータを受け取ったコンクリート島は、市街地となっている。なの
はによると、そこは比較的開けた市街地で、撃墜されたら逃げ込む避難所以外は破壊可能な設定らし
かった。
すでにアルトの操るバルキリーは、4人とは建物を挟んだところで準備はOKだと言う。
「みんな、相手はアルト先輩とはいえ、とろい大きな的よ。相手がこちらに来たら、まずわたしが先制の
砲撃をかける。 そしたらスバルとエリオは挟み撃ちで一気に白兵戦に持ち込んで。キャロは、私のとこ
ろで全体の魔力ブーストをお願い。」
「「了解!」」
3人の声が唱和した。
現在ティアナ達は公園のようなところに陣取っていて、ずいぶん開けていた。
「はーい、それではこれより模擬戦を開始します。アルト君の勝利条件は制限時間の10分が経つか、
4人の撃破。フォワードの4人の勝利条件はアルト君への有効弾とします。・・・・・・それではよーい、始
め!」
開始と同時に4人が動く。スバルとエリオは左右に、ティアナとキャロは後方の一軒家に。
典型的な待ち伏せ陣形だが、アルトに・・・いや、ヒトに対して使うのは初めてだ。
果たしてアルトは来た。
丁度ティアナ達がいる一軒家とは公園を挟んで対面となるため、狙いやすい。
現在彼女のクロスミラージュからは赤外線など各種センサーを騙すためにジャミングが行われてい
る。本来ならば全域にバルキリーの高性能な電子機器を騙すほどのジャミングなど無理な相談だが、
キャロの魔力ブーストがそれを可能にしていた。
((みんな、準備はいい?))
ティアナは全体に念話で呼び掛ける。
((いつでも))
右側のアルトから死角になった建物からスバルの声。
((どこでも))
今度は左側のこちらも死角になった草むらからエリオの声。
「どこへでも」
後ろからキャロの声。そして自身の目の前には砲撃用の魔法陣。
「((いくわよ!)) ファントム・・・ブレイザー!」
322シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:36:50 ID:KPr847HB
放たれるオレンジ色をした自身の砲撃。必中の思いを込めたそれはバルキリーに吸い・・・込まれな
かった。
当たる直前にバルキリーが射軸から消えたのだ。よくみると、バルキリーは前のめりになっている。
(転倒?)
ティアナはそれを見てそう思った。確かにその挙動から転倒にも思えるが、実は違う。
バトロイド形態のバルキリーは、ただ立っているだけで大きな位置エネルギーを持っている。そのため
ティアナの砲撃を普通の機動では避けられない。と判断したアルトは重力の加速を使ったのだ。
バリキリーはそのまま前転を繰り返し、前、つまりティアナ達のいる一軒家に急速に近づいていった。
最初の挙動を転倒と捉えたティアナ達の対応は遅れに遅れた。
気づくとそれは目の前にいた。
壁が破壊され、巨大な頭が現れる。そして顔に着いた緑のバイザーがこちらを向き、2対の頭部対空レ
ーザー砲がこちらに向け─────
ティアナはとっさにキャロを巻き込んで左に跳ぶ。
すると、先ほどまで自分達の居た場所をホログラムのレーザーが地面を赤く染めた。
即座に次なる回避場所を探すが、残念ながら部屋に隠れられる場所はなかった。
(万事休す・・・)
しかし、バリキリーは次の攻撃をせず、横っ飛びに退避する。同時に聞こえる相棒の突撃する叫び声。
どうやら足の速いスバルが間に合ったようだ。だがそれはすぐに悲鳴に変わった。
「わ〜、ティア援護ぉ〜!」
ティアナはすぐに一軒家から出ると、スバルを探す。すると彼女はウイングロードを展開して必死に離
脱をかけていた。後ろには魔力誘導弾(そのくせ青白い尾を引いている)が、親についていく子供のように
大量についている。
どうやら誘導性を優先したため弾速の遅いその玉は、必死に回避するスバルを嘲笑うようにつきまとう。
「キャロ、エリオとこの戦線の維持をお願い。私はスバルの援護に行くから。」
「はい!」
ティアナはスバルの援護に走った。しかし、それがアルトの狡猾な罠とは見抜けなかった。
323シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:42:16 ID:KPr847HB



3区画離れた場所(最初の場所から500メートル以上走った事になるが、コンクリート島から足を踏み
外す事はない。理由は後述する。)でスバルを捕まえ、迎撃を始める。20秒ぐらいだろうか、ティアナは
その全てを叩き落とした。
礼を言う相棒を尻目に、エリオ達と合流するために念話を送る。しかし耳障りなノイズ音しかしなかった。
(しまった、ジャミングか!)
つい最近まで念話を阻むものがなかったことが仇となる。
VF−25に装備されていたそれは、元々バジュラ達のフォールド通信を妨害するためのものだった
が、フォールド波の応用である念話にも使う事ができた。
3区画離れた場所にバルキリーが現れた。それと同時に雑音が消える。
((すみません。どうにか戦線を維持しようとしたんですけど・・・))
エリオの申し訳なさそうな声。どうやらキャロ共々撃破されたらしい。
その時、初めてティアナは自分がアルトに嵌められたことに気づいた。
スバルをすぐに撃破しなかったのは、ティアナが彼女を助けるのを見抜いたため。確かに非常時には
念話があると思って行動したが、それもお見通しだったのだ。
結果としてそれは、戦力の分断と指揮系統の混乱という、戦いを統べる者なら誰もが学ぶ基本原則を
成功させてしまった。しかもアルトはそれを数の劣位と出力ダウンという大きなハンデを背負った上で
行ったのだ。なんというしたたかさ。そして計算高さだろうか。
さて、話はそれるがここで問題となるのが発生する戦闘音であり、同時に訓練場の広さの問題だ。
前述した通り300メートル×300メートルの広さしか持たないこのコンクリート島からなぜ彼らは足を
踏み外さないのだろうか。
それは結論を言ってしまえばほとんどその場を動いていない≠ゥらだ。
読者の皆さんはルームランナーをご存知だろうか?
幅のあるベルトの回るグラインダーのような台の上を、人間が走る機械の事だ。
これを使えば我々は無限に走ることができる。
だが無論そんなものがここに敷き詰められているわけではない。だが、もしあなたがこの訓練場に顕
微鏡を持ち込んだのなら謎はすぐに解けるだろう。
そこに広がるは、外見から予想されるコンクリートの平面ではなく、たくさんのパチンコ玉が整然と並べ
られたような光景が広がっているはずだ。
本当はこれだけでは正常な走りは再現はできないのだが、このホログラム機構を語ることは本稿の主
旨に合わないのでまたの機会に譲る。
つまるところ彼らはお互いに100メートル程しか離れていないのだ。
そしてティアナが実質100メートル先で行われていたエリオ達の戦闘に、気づかないほどの音の問題
だが、そこは逆位相の音波の照射による定常波消滅や遮音シールドなどで補っている。
ちなみにそれほどの広さを必要としない場合は、実測の建物等を普通にそのまま具現化する。
さらに余談だが、この訓練場だけで六課の全予算の5分の2が費やされたという。
閑話休題。
ティアナはアルトの老獪な作戦に舌打ちした。しかし、まだ諦めるつもりはなかった。
「スバル、私が援護するからアイツに特攻かけて。」
「OK!」
ティアナの不屈の精神を感じ取ったスバルは親指を立ててウィンク。
「制限時間はあと3分。一気にカタをつけるわよ!」
「了解!」
スバルはアスファルトの地面を駆ける。ティアナはその進攻を援護するため、クロスミラージュを1挺に
し、機関銃顔負けの連射でバルキリーの動きを抑える。
順調に突撃は進行していた。しかし、ティアナは小さな違和感に苛まれていた。
(なぜ反撃してこない!?)
いくら頭を抑えたといっても、近づくスバルに牽制ぐらいの反撃は出来るはずだ。しかし目の前のバ
リキリーは、巨大なミッド式魔力障壁を展開したまま動かなかった。
『バッテリーのチャージだろうか?』とも思ったが、反撃しなければジリ貧であるこの状況。それでも沈
黙を守る理由・・・・・・そこでティアナは気づいた。しかし、それはまたしても遅すぎた。
324シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:47:36 ID:KPr847HB



肉薄していたスバルは、バルキリーまであと5メートルほどのところで信じられない物を見ることになった。
突然バルキリーの姿が、バラバラになってかき消えたかと思えば、そこに浮かぶは先ほどと同じハイマニ
ューバ誘導弾。
「ちょ!幻影!?」
実際はVF−25に装備されていたイベント用のホログラム投影機からの映像だったが、魔法のそれと
同じ効果を発揮した。
数瞬後、容赦なく音速で突入してきたハイマニューバ誘導弾はあやまたずスバルに命中。ド派手な爆
発がスバルを包んだ。
「ああ・・・」
煙が晴れると、模擬弾が命中したことを示すホログラム製白ペイントが彼女のあちこちに付着してい
た。・・・そのある意味扇情的な光景のなか、スバルはトボトボと近くの避難所に歩いていった。



ティアナはスバルの撃墜直後にアルトからの奇襲を受けていた。
最初の攻撃はガンポッドの一斉射だったが、その攻撃を回避できたのは奇跡だった。ティアナは目の
前の、青くペイントされたアスファルトを見て、それと同様に青くなる。
バルキリーは街頭から飛び出すと、ティアナに間断なくホログラム弾による砲撃を浴びせる。
その砲撃は鉄筋コンクリートの壁をまるでベニアのように易々と貫通していった。
(これが質量兵器の力・・・か!)
ティアナは瓦礫に隠れると、幻術を展開した。
対するバルキリーは、幻影全てへのマルチロックによる全力射撃で広域掃討。
隙をついたティアナの狙撃にアルトの超反応。
そんな攻防が1分は続いた。
ティアナのデバイスには重力制御で慣性を抑制するシステム、OT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』
が装備されている。しかし機動が限界に達し、それで拾いきれない慣性が発生すれば、術者は制動を
失う事になる。
ティアナがまさにそうだった。
建物から建物への迅速な移動をしようと思い立ったティアナは、デバイスに内臓されたビームアンカー
を対面のビルに固定、一気に乗り移った。しかし、そこで連続使用に耐えかねた搭載バッテリーが干上
がり、来ないと思っていた横への慣性ベクトルが彼女の足元をすくいあげ、転倒させてしまった。
「しまっ・・・!」
アルトにはその一瞬で十分だった。ガンポッドの一斉射が彼女を襲う。咄嗟に展開したシールド型PPB
と魔力障壁はその猛攻によく耐えたが、続くハイマニューバ誘導弾を止めるには足りなかった。
325シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 17:53:09 ID:KPr847HB



5分後

そこには青(ガンポッド)と赤(頭部対空レーザー)、そして白(ハイマニューバ誘導弾)にペイントされた4
人。そして、バルキリーから降りたアルトが、なのはの前に集合していた。
ちなみに、フェイトとヴィータは模擬戦終了と同時に「(アルトに)負けてられない。」と言って今は海上で
演習中だ。
「今日は初めての対人模擬戦なのによく頑張りました。今日の訓練はここまで。4人は午後に今日の
模擬戦についてのレポートを書き、提出してください。以上。では、解散。」
みな一様に疲れた様子でトボトボ歩き出す。
アルトは所々跳弾でペイントされた純白の愛機に向かうところをなのはに呼び止められた。
「ちょっと来て。」
手招きされるままにホログラム製の木の影に入る。
「・・・どうだった、うちの新人は?」
「そうだな・・・基本はよく訓練されている。指揮もしっかりしていれば、分隊として十分機能するだろうよ。」
なのはの問いに実感で答えるアルト。でなければ、指揮系統の混乱など思いつかない。彼はそれほど
にはティアナの実力を評価していた。
「わかった。でもあともう1つ。アルト君、手加減したね?」
表面上は疑問形だが、その有無を言わさぬ迫力に少したじろぐ。
「FASTパック≠フ使用許可は出したはずだよ。」
「いや、それは・・・」
アルトは口ごもる。しかしすぐに持ち前の役者精神が復活。「ただ、新装備で魔力消費を心配しただけ
だ。」と、強がった。
そんな2人を遠くから隠れて見る真っ白な1人の少女がいた。ティアナだ。
彼女にはふぁすとぱっく≠ェなんのことかわからなかったが、手加減されたということへの悔しさた
るや壮絶なものだった。そしてその事が、彼女に1つの決意の炎を灯した。
(次は絶対アルト先輩に勝ってみせる!)
ティアナはそう心の中で誓うと、2人に見つからぬように宿舎に戻って行った。
326シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 18:00:16 ID:KPr847HB



模擬戦2日前

クラナガンから離れた郊外の地下に作られた秘密基地では、ある科学者が狂気の笑みを浮かべていた。
「なにがそんなに面白いのかしら?」
そこに現れたのはグレイスだった。
「アぁ、君か。まったく君の世界の技術は素晴らしい。魔法に頼らず、ここまでできるとは、ハッハッ
ハッ・・・」
狂気の天才科学者ジェイル・スカリエッティは額を押さえて笑う。彼の目の前には、ある機体の設計図
があった。それはグレイスと手を組む時に渡されたものだった。
「そう・・・とりあえずレリックのほう、お願いするわよ。」
「あぁ、わかっている。あれはこちらでも必要なものなのでね。」
彼はそう返すと、図面に向かい格闘を再開した。
OTやOTMに初めて触れて4ヶ月。もう対応してしまった彼はさすが天才であった。
彼の格闘する図面には前進翼と1基の三次元推力偏向ノズルを備えた機体が描かれている。しかし
そこには戦闘機最大の弱点とよばれるシステムパイロット≠フ乗るスペースがなかった。
今1つの世界を震撼させた幽霊の名を冠された先祖が、ここに復活しようとしていた。


次回予告

ひょんなことからVF−25を壊してしまうアルト。
それを修理するため地上本部傘下の技術開発研究所に向かうことになるが─────
次回マクロスなのは、第5話『よみがえる翼』
不死鳥は、紺碧の翼をもって再び空へ!
327シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/19(土) 18:04:25 ID:KPr847HB
投下終了しました!支援してくださった方、おかげで無事に生きて帰ることができました。
ありがとうございます。
328名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/20(日) 11:59:00 ID:X+M9eedl
遅くなりましたがGJ


ちょっと説明過多になりぎみかなぁ。かなり読みにくかった。説明はさりげなーく、何かのおまけみたいな感じにしてくれ。


このネタがわかるやつはいないだろうなぁwww
329シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/20(日) 12:30:00 ID:lCHAiC7A
ああよかった。だれか来てくれた。「このままスルーされちゃうのかな?」と自己嫌悪に陥っていた作者
です・・・

>>328
説明ですね。すいません。これを書いてたときはネットに投稿するどころか人に見せる予定がなく、
自己満足だけで「できるだけ分量を増やす!」というバカなモットーの元書き進めていたのでその名残
が残ってしまいました。
再発防止策を尽くすと同時にまとめの方に置く際は適切な改良を加えたいと思います。


ネタってなんでしょうか?それほど意識したつもりはないのですが。
330一尉:2009/09/20(日) 13:28:16 ID:shBgOnGe
やる気支援薬にします。
331名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/20(日) 15:19:00 ID:aGpW9R8i
>>329
たぶんなんかのテンプレなんでしょう。ほら、

「べ、別にあんたの作品なんかGJだと思っていないんだからね! ホントにホントよ!!」

みたいな感じの(富野が他作品を貶すときはその作品を賞賛しているときみたいな。

説明が多い分新人達との戦闘が鮮明に映ってよかったと思います。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/20(日) 17:15:27 ID:X+M9eedl
うん、変なネタ使ってごめんよ。誰も気付かないのは分かってたよ。


職人様の作品は全然関係ないので気にしないでください。


それと雑談スレと統合されたんだから雑談しようぜ。
333シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/20(日) 17:19:17 ID:lCHAiC7A
>>331
ああ、なるほどです。ありがとうございます。

334ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:05:20 ID:zTuqYsSa
シレンヤさん、乙

2ヶ月ぶりの投稿で覚えていないかもしれないけど、ギルティとのクロスの続きを投稿してもよさげ?

良ければ2:15から投稿開始っす
335ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:18:38 ID:zTuqYsSa
碧空、遠くにだけ見える白い雲。
雲を隔てる大地と、人の生活が感じられる家々。
澄み渡る空の下に人々の営み、その光景は平和の一言に尽きる。

――――――石畳をリズミカルに叩く音

人がいて、家があって、街があって。
雨に濡れて、風に揺れて、陽に照らされる。
日常はめくるめく巡っていく。

――――――いくつもの風を追い越しながら

そこには笑顔があった。
その為に多くの時間を費やした。
だからこその平和がこの街には溢れていた。

――――――高く広がる空に声を上げた。

「こんのクソ鳥、こんなところにいやがったか!」

ムラサキツバメが見下ろした光景に一つの黒い影。
高速で飛行するツバメだ、次々に移り行く街並みになど目も留まらぬはずだ。
それでもツバメはその影…一人の男から目を離せなかった。
空を飛ぶこともかなわぬ人の身、大地から足を離なせない人間が鳥に追いつくはずもない。
だが、現に男は寸分遅れずツバメの後について来る。
常識はずれもいいところだ、人間にしても、鳥から見ても。
生物は常識外のものを恐怖する、ならば常識外の速度で迫るその男はツバメにとって恐怖になりえるのではないか?
しかし、ツバメに恐怖はなかった。
むしろ男を興味深く、そして面白いと感じていた。
男に敵意はあるが、殺意はない。
ただただツバメと速さ比べをしたいだけ、それをツバメは如実に感じ取っていた。
戯れか、ならば追いついてみろ――――――ツバメは速度を上げる。
男の口に笑みがこぼれる。

「上等じゃねーか、このクソ鳥!絶対、ぶち抜いてやるぜ!!」

ツバメの加速を挑戦と捉えた男はそれを好意的に受け取った。
好戦的な男だ、売られた喧嘩は必ず買う。
男にとってそれは短所であり、同時に美徳でもあった。
好戦的な性格が美徳か、と問われると首を捻りたくなるもなる。
だがしかし、間違いなくそれは彼の美徳であった。
言い換えれば挑戦を恐れない精神の持ち主、とも言える。
彼は挑戦を恐れない、彼は挑戦しないことを許さない。
挑み続けること、それはあくなき向上心の証である。

駆ける、人の作った石畳を駆ける。
駆ける、人が作った家の壁を駆け上がる。
翔る、家の屋根から燦燦と輝く太陽のいる大空を翔け――――――

「うわわわっ!!!」
「シッショー!!!」

魔法少女と正面衝突した。

出会った少女と男。
一瞬の邂逅だが、閃光のような出会い。
だからこそ輝かしい話になりえるかもしれない。

チップ・ザナフ、大統領を目指す風来坊はこの日、魔法少女と出会う(事故る)。
336ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:23:15 ID:zTuqYsSa
魔法少女リリカルなのは GG ver.β

2.5 Sack A Sage

空の主演が太陽から月に変わって数刻、平等に大地を静かに照らす。
生命はその優しい光に誘われるように眠りにつく。
花も鳥も風も、月に誘われて眠りにつく。
生きとし生けるもの達が穏やかに安らぎを得る時間、その中に未だ眠らないものたちの影が二つ。

「Damm!どうして当たりやがらねぇ!!」

細身ながらに引き締まり、全くといって無駄がない。
その肉体はしなやかな柔軟性により俊敏に動く。
すでにその動きは人の域に留まっておらず、まさに目にも留まらぬ動きをしていた。
縦横無尽に、まるで重力を無視したかのような動きをし続ける男だったがその全てが虚しく空を切り続けている。
逆立つ白髪は汗に濡れ、元より赤かった目はより赤さを増したかのよう―――――文字通り血眼になって空を切り続ける。
若かりし頃のチップ・ザナフ、一度は薬におぼれその身を破滅させた過去を持つ。
そんな彼を立ち直らせてくれた人物がいた。
それこそチップが血眼になって攻撃している男、毅であった。
毅の動きは明らかにチップよりも遅い、しかしその全てを毅は無造作に、いとも簡単に避け続けていた。
それはまるで宙を舞う木の葉のように、流れる水のように自然に身を任せている。
チップの攻撃は確かに鋭く迅い。
が、それだけだ。迅いだけ、とは言うものの先にも言ったがそれはすでに人の域を超越している。
人の目には見えないものを人が避けている、それもいとも簡単そうに。

「ふむ…」

それまで回避に徹底していた毅はチップの猛攻を避けながら、頃合を見定める。
チップの相も変わらず鋭い突きを紙一重で避ける、チップの手首を両手で添えるように掴む。
この時点でチップは毅に手首を掴まれていることに気づいていない。
毅はチップの突きの勢いを殺さないように、そのベクトルを変えていき真逆方向に変更する。

「What!?」

関節の曲がらない方向へチップの手首を大地に向け、毅はそのまま体の力を抜く。
気づいた時にはすでに足が大地から離れ、寝転んでいた。
毅は自分の力を全く使わずに―――――つまりはチップの力をそのまま利用してチップを地に伏せた。
自然と空を仰ぐ形になったチップ、空には満天の星空。
負けるたびに見てきたお馴染みの星屑達。
負けん気が強く、負けを人一倍嫌うチップだったが、負けるたびに眺めるこの景色だけは嫌いになれなかった。
337ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:29:15 ID:zTuqYsSa
「ちっきしょう…どうして勝てねぇ」

ドラッグの中毒症状もすっかり抜けて、薬の誘惑に打ち勝ったチップは日々、毅との組み手に勤しんできた。
そしてその全てに負けてきた、その度にこうして反省を繰り返す。
そうやって修正を繰り返すことで今の自分がある、それは間違いない。
しかし、積み重ねてきた自分の技が未だ毅に届いたことはない。
そう、届いたことがないのだ。
敗因はそこにあるのはわかりきっている。

「なぁ、師匠。どうして俺の攻撃は師匠にあたらねぇんだ?」

焚き火越し、寝転んだ体勢から飛び起きる。
炎の向こうにいつもと変わらず静かに瞑想にふける毅の姿があった。
今までチップはなるべく毅に聞かずに自分で考えて戦ってきた。
考えるだけ考えた、お飾りになりかけた脳みそを総動員して知恵を振り絞った。
そうしてついに行き詰った。
それまで毅に聞かなかったのは単に倒すべき相手からの助言に頼りたくなかったからだった。
だが、このままでは毅にこの拳は届かない。
毅は倒すべき目標でもあり、もっとも頼れる人物でもある。
この相反する要素を持ち合わせた相手にチップはプライドを捨て意見を求めた。
―――――――それは間違いなく、チップという人間において大きな一歩だった。
毅は変わらずに無表情を貫く、その鉄面皮の裏側に愛弟子の確かな成長への喜びを隠しながら。

「お前の攻撃は当たれば痛いからだ」

しかしまだ若い―――――――まだまだ考えてももらわなければ、チップのためにならない。
そう考えた毅は答えをはぐらかす、嘘ではないが真実でもない。
ただ一つの心理をチップの思考への呼び水として伝えることにした。

「…まだ当たってもいない攻撃が痛い訳ねぇだろ。意味がわからねぇ」
「誰だって痛い思いはしたくない」

的を得ないアドバイスに若干の苛立ちを覚える。
そのピリピリした空気を肌で感じながら毅は続ける。

「痛いと思うから必死に避けるのだ」
「だから、その必死に避ける師匠に一発当ててぇんだよ」
「必死なのだよ、誰しも。しかし、必死という意味を考えたことがあるか?」
「あぁん?エターナル・フォース・ブリザードだろ?要は?」
「…なんだ、それは?」
「相手は死ぬ、それ即ち“必死”だろ?」

変わらず瞑想を続ける毅の眉間に皺が寄る。
まだ、薬が抜けきってないのか?
………いや、元々こういう輩だったか、毅はそう思い直す。

「必死という定義も色々あるのだということだ」
「また小難しいことを…」
「………………」

前言撤回する、この男何も成長していない。
早く何とかしなければ、毅は婉曲した言い方を改める。
338ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:34:09 ID:zTuqYsSa
「チップよ、お前の防御力は紙だ」
「それと攻撃が当たらないことに何の関係があるんだ?」
「しかしお前が紙なら私の防御力は“膜”だ」
「膜?何言ってやがる?」
「膜は触れただけで破れる、触れただけだ」
「…………?」
「触れ方は一つではない、ということだ」

その一言を機に毅は立ち上がる。
ゆっくりと首をかしげるチップに背を向けて森へと歩を進める。
―――――――足元にある小石に気づかぬまま

「!!」

考え込んでいたチップは突然の物音に考えるのを中断し、身構える。

「……何してんだよ、師匠」

が、そこには己が師が横たわっているだけであった。
毅は足首を抱え込んでいる、新手の修行か?チップがそう思ったのもつかの間だった。

「……………折れたかもしれない」








「そりゃねぇだろ、師匠!!」
「きゃっ!」

夢の中とは言え、あんまりな展開にチップは思わず飛び起きてしまった。
自分がどうして夢を見る羽目になったかも忘れて。

「あん?」

何やら少女の小さな悲鳴が聞こえた気がした、その方を見やれば尻餅をついた金髪の少女の姿があった。

============================================================
339ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:40:15 ID:zTuqYsSa
「そうかよ…世話になったな」
「いえ、こちらこそすみませんでした」

チップとフェイトは頭を下げあう。
次元管理局の存在を上手くはぐらかしながらチップに事情を説明する。
当然、自分たちがスカリエッティおよびソル=バッドガイを追っている事も。

「しっかし、空を飛ぶガ…女か。とんでもねぇな」
「そ、そうなんですか?」
「いなくはねぇが、そういった奴らは大抵MONONOKEだな」
「モノノケ、ですか?」

物の怪、人にとりついて祟(たた)りをする死霊・生き霊・妖怪の類を言う。
まだ海鳴りに住み始めて数ヶ月しか経ってないフェイトには聞きなじみのない言葉だったため、チップの言葉を100%理解出来ていなかった。
それは不幸中の幸いと言うべきか、どうか。
その言葉の意味を知っていれば、今自分たちがいる世界の異質さをよく理解できた事だろう。

「それよりも…そこにくたばっている女の具合はどうだ?」
「怪我はないんですが…どうにも目を覚ましません」

チップと空中で衝突したのはなのはのほうだった。
突然、高空まで猛スピードで現れたチップを避けきれずに空中で衝突、チップともども気を失ってしまっていた。
戦闘中であれば避けられたかもしれない、避けられないまでも防御は出来ただろう。
そうであればなのはが気を失うことなどおそらくなかっただろう。
非戦闘中であってしかも敵との戦闘の危険性がほとんどない場所での飛行中だ、突然現れたチップに反応するほうが難しい。
絵に描いたようなたんこぶを頭に作り、寝込んでいるなのはを心配そうに見つめるフェイト。
それを見たチップはどうにもバツが悪くなり、思わず顔を背けて舌打ちをする。

「チッ、まずい事しちまったかもな…未来の大統領が女を撥ねただなんて洒落になんねぇぜ」

大統領、というフレーズが気になったフェイトはなのはからチップに視線を移す。

「未来の大統領?」
「あぁ、そうだ。俺は大統領になる」

聞いてから後悔することは数多くある。
今回の質問もどうやらその範疇に入りそうだ。
フェイトの中でのチップの人物像が少しずつ出来上がっていく。

「俺は大統領になって、この世界を平和にするんだ!」
「……………………」

言葉を失うとはこういうことか、フェイトは開いた口がふさがらなかった。
大統領になる?目の前の、チンピラに見えなくもない日本かぶれの忍者が?
……とまではフェイトは思っていないが、少なくとも大統領を目指すような品格のある人物には間違っても見えなかった。
驚くフェイトの顔を見て、少しだけ機嫌を損ねるチップ。

「………お前のような反応をする奴はゴマンと見てきたぜ」
「いえ、馬鹿にしているつもりは…」
「まだ、馬鹿にしてるとも何とも言ってねぇ」
「あ、うぅ…」
340ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:44:07 ID:zTuqYsSa
慌てて取り繕おうとしたのが命取り、ますますチップの機嫌を損ねてしまった。
酷い罪悪感に苛まれ、頭を抱えて涙目になるフェイト。

「…別にかまわねぇよ、俺は元ジャンキーで人間を辞めるすれすれのところまで行った人間だしな」
「い、いえ!あの…」
「だから、なりてぇんだよ。大統領に」

自虐的な物言いを聞いた時にはついに涙があふれそうになったフェイトだったが、次にチップが口にした言葉が涙を留めた。
純粋で、穢れなき願い。
それが一人の少女の涙をせき止めた。

「俺みたいな奴を増やしちゃいけねぇ、その為には腐った場所を知っている俺が先導を切らなきゃなれねぇ」
「………………」

またも言葉が出なかった、しかし今度はいい意味で。
確かに装いはそれにふさわしいとは思えない。
忍者が大統領の国などギャグの世界だ。
しかし――――――それを信じてみてもいいと思ってしまった。
むしろその世界を見てみたいとさえ思ってしまった。
どん底を知ったものだからこそ、それを高みに伝えたい。
その気持ちを知っている、フェイトはそれを誰よりも理解できた。
涙はどこかに消えた、変わりに自然と笑みがこぼれた。
フェイトの表情の変化を見て、またチップの表情が渋くなる。

「…何がおかしいんだよ」
「え?」
「顔が笑ってやがる」
「あ!これは…あはは!」

どうしてか、笑いをこらえる気にはならなかった。
そこに馬鹿がいる、心より世界を重んじる夢を見る馬鹿がいる。
社会的な常識が欠けたものを馬鹿という。
しかし、それの何が悪い。
いつだって世界を切り開くのは新しい発想を持った一握りの人間だ。
そういった人間は必ずそれまでの常識にとらわれない考えを持った人間だ。
必ず馬鹿と言われただろう人間のみが世界を切り広げる。
その世界に何があるかは誰にもわからない、それでもフェイトは信じたくなった。
誰もが笑って暮らせる世界を、この馬鹿は切り開いてくれると。
それを考えただけで頬緩む、それがフェイトの笑いが止まらない理由だった。

「はぁ、ガキ相手に熱くなってる暇はねぇんだよ」
「ははは、そうですね。私にかまっているよりも有意義な時間の使い方がありそうですよ、大統領さん」
「生意気なガキだ」
「そうかもしれませんね」

舌打ちが響く、朗らかに、まるで気分のいい時に歌う鼻歌のような。
チップが求めたものがそこにある、不機嫌になどなろうものか。
フェイトが笑いをこらえられない、楽しげで幸せそうな笑顔を。
そしてそんな笑顔こそ、チップが心からも願うものなのだから。
彼の願う世界とは“薬のない世界”である。
それはあまりに具体的すぎて、実を言うと未だチップの中で漠然としたイメージしかない。
薬を根絶して、一体どうするのか?
その先をまだ考えていないのである。
薬をない世界――――――自分のような人間が生まれない世界。
チップは自分の描くifの世界を夢見ている、もしもあの時薬に手を出さなかったら。
あの時薬に関わるしか生きる術はなかった、他にのたれ死ぬ他になかっただろう。
だが、もしもあの時それ以外の道があったとしたら、それこそ真っ向に生きていけたなら。

きっと今のフェイトのように笑うことが出来たのではないだろうか?
341ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:49:01 ID:zTuqYsSa
「Hum。で、お前ら何を探してんだ?」
「え?」
「借りを作ったままってのは寝つきが悪いからな、俺にできる事があればやってやるよ」
「そんな、借りだなんて…」
「未来の大統領がガキの一匹や二匹救えねぇでどうする?」
「そんな、悪いです、そんな……」
「それに、Give and Takeってやつだ。悪く思うなら俺が立候補した時に俺に投票してくれりゃいい」

さて、フェイトは困ってしまった。
チップの好意はありがたい、素直に甘えたいところだが、ここは管理外世界。
そこで探索活動をしていること自体、この世界の秩序を乱しかねないのに、赤の他人を巻き込むわけにもいかない。
まぁ、すでにチップを轢いてしまった事からして十二分によろしくないのだが…。
フェイト個人としては、チップに協力を仰いでもいいと思った。
が、それは個人で判断していい範囲の問題ではなく、ここは丁重に断るほかに選択肢はない。
苦渋の表情でフェイトは意を決し、チップに断りの意を伝える決心をする。

「出たね、ゴルゴムの紙怪人!!管理局の嘱託魔導士高町なのはがお相手します!!!」

絶妙のタイミングでなのはが飛び起きて、レイジングハートをチップに向ける。
もちろん目は虚ろで焦点も合っていない。
言っていることもちぐはぐだが、自分の身分だけは一字一句間違わずに言えている。
それが性質が悪く、何かの間違いであってほしいとフェイトは眉間を押さえた。
そして、

「BULLSHIT!?てめぇら聖戦管理局のもんかよ!一杯食わされたぜ!」
「聖戦、管理局?」
「聞く耳もたねぇ!大統領になる前に成敗してやる!!」

今まで伏せてきた管理局の名前がこうも裏目に出るとは思わなかった。
管理局の名前を聞くだけで豹変し、戦闘態勢に入るチップ。
全てが裏目に出たフェイトは目頭を押さえる、両者を止めることさえ忘れて。

「師匠………見ててくれよ」

右手につけたブレードを固定しなおす、甲高い音が森に鳴り響く。
その音でようやくなのはは目を覚ます。

「あ、あれ?え、っと…私……」
「ガキといえども容赦しねぇぞ!!洗いざらい吐いてもらうぜ!!」

状況を読みきれていないなのはだったが、目の前の相手が自分に襲い掛かろうとするのだけは理解できた。
ここまでの経緯は全くわからない、寝起きに攻撃される覚えは全くないが戦いが避けられないというのなら仕方があるまい。
こみ上げる怒りを奥にしまい、レイジングハートを握りなおし――――――矛先にいるはずの男の姿がいないことに気づいた。

「αブレード!」

なのはの背後から男の声が聞こえた、じゃりじゃりと地面を削る音と共に。
何をされたか全くわからなかった、なのははオートプロテクションが発動していることでようやく自分が攻撃されたことに気づく。
それでも防ぎきれなかったのか、バリアジャケットの左腕の裾がほんの少し切れている。
レイジングハートの反応速度すらも上回るその速さになのはは驚愕する。
もしも、これ以上に早い技があるとすれば致命傷にすらなりうる。
342ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:54:21 ID:zTuqYsSa
「妙な術を使いやがって!スシ!!」

左手になのはの魔力の光に似た桃色の光をまとった拳を放つ。
今度はオートプロテクションが間に合ったが、先よりも数段重い一撃に思わず後ずさる。

「スキヤキ!バンザイ!!」
「うわっわわ!!」

足元を刈る足払いにバランスを崩した隙に、間髪いれずに飛び上がって踵落とし。
なのはは思い切って後ろに倒れこみ、そのまま背後に飛びずさる。
相手の得意な間合いをクロスレンジと判断したなのははそのまま空中に逃げる、距離を置いて砲撃で完封する。
そうでもしなければ、自分に勝機はない。

「シュート!」

後退間際にディバイン・シューター、牽制を行いながら間合いを保つ。

「うぉわ!てんめぇ!」

7発のディバイン・シューターのうち、2発を被弾したチップ。
後退するなのはを追撃するつもりで全力で飛んでいたためカウンター気味で当たってしまう。

「効くかよ!TOO LATE!!」

迫りくる5発を前にチップは額に指を当て、念じる。
チップの姿がその場から消えて、土煙だけが残る。
視界から消えたチップを探すなのはだったが、視界に移るのは自分の背後から伸びてくるチップのブレードだった。

「ハラキリ!」
「させないよ!!」

喉元に迫り来るブレードを振り払い、レイジングハートで後方にいるチップをなぎ払う。
すかさずとび蹴りで対抗するチップ。

「やぁあ!」
「ショーグン!!βブレード!!」

蹴りに続きブレードを振り上げながら迫りくるチップを紙一重で交わし、そのまま距離を置いて着地する。
チップよりも先に着地し、同時に砲撃魔法の詠唱を始める。

「ディバイン…」
「フジヤマゲイシャ!!」

なのはよりも遅れて着地したはずのチップだったが、なのはよりも早く次の行動に移っていた。
今までの攻撃の何よりも早い、すでに目視できるスピードの域を超えている。

(迅いっ!!……でも!)

先に見えなかったαブレードよりも距離が開いている。
視覚は反応出来なくともなのはの卓越した戦術勘がチップの姿を捉えている。
間に合う、少なくとも相打ちにはなる。
これまでチップの攻撃を受け続けてきたなのはには一つの確信があった。
チップの攻撃は、迅いが軽い。
遅いが重い攻撃が主体のなのはにとってもっともやりにくい相手とも言える。
しかし、このタイプの相手ならば、

(相打ちに持ち込めば…押し勝てる!!)
343ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 02:58:35 ID:zTuqYsSa
目の前に迫り来る影、暴発寸前までに凝縮された魔力。
その二つが重なり合うその刹那――――――

「いい加減にしなさい!二人とも!!!」

その場にいた誰よりも早く、そして誰よりも強い一撃。
バルディッシュ・ザンバーモードの横っ腹のリーチに富んだ一撃が激突寸前の二人を吹き飛ばした。

「シッショー!!」
「あ、お花畑…」




「ほんっっっっっっっっとうに!!すみませんでした!!!!」
「こっちこそ、悪かった。今腹切って詫びるぜ」
「いやいやいやいやいや!!やめてください!!!」
「いざ、HARAKIRI!!」

後に意識を取り戻したなのはとチップに事情を説明(今度は管理局のことも話した)、そうしてお互いがお互いに謝罪しあう泥沼の展開に。
意外や意外、チップは説明を聞かないタイプかと思ったがそうではなく、自身に非があればそれを認める潔さを持った人物であった。
しかし、その潔さがこの二人して土下座しあい、はたまた切腹するなどと言った馬鹿げた状態に陥っている。
三度、頭を抱えるフェイト、埒が明かない為条件を提示する。

「では、こうしましょう。チップさんにわかることがあればお教えください、それでこの件は水に流しませんか?」
「あぁ、俺でわかることがあれば何でも答えるぜ」
「ちょ、ちょっとフェイトちゃん!」

なのはがフェイトに異議を申し立てるが、フェイトの“そもそも誰のせいでこうなったんだ?”という殺意にも似た視線を浴びせられ、無言のうちに却下。
先の謝罪合戦の名残か正座したままのなのは、チップに並んで正座しているその様はまるでフェイトに二人そろって叱られているようだった。
どこか滑稽な空気を残しながら会話は進んでいく。

「私達はジェイル・スカリエッティという次元犯罪者を追っています」
「カメレオンジェイル?聞かねぇな」
「真面目に言っているんですか?というかその単語を言いたいだけではないでしょうね?」
「違げぇよ、ともかく!そんなやつの名前は知らねぇな」

ぶっきらぼうに言い放つ、もちろん正座のまま。
やけに姿勢がいいのは、日本に傾倒し、外人ながらに忍術を学んだ故か………間違った日本に傾倒しているのはこの際置いておく。
どうしてアークシステムワークスの忍者は碌なのがいないのか…。
閑話休題、チップが嘘を言っているようには見えない。
そもそも嘘を言えるような人物ではないことはフェイト自身がよく知っている。
さて、チップがスカリエッティを知らないというのなら仕方がない。

「では、ソル・バッドガイという人物は知っていますか」
「…知ってるぜ」
344ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 03:02:25 ID:zTuqYsSa
短く、簡潔に。
鋭い視線がフェイトを射抜く、そこにソルとチップとの浅からぬ縁を感じ取った。

「俺よりも強い野郎はゴマンといる、まだまだ精進しなきゃならねぇ…が、こいつには修行しても追いつけるかどうかわからねぇ」
「…チップさんが?」
「あぁ、何度か戦って勝った事だってあるが、そのどれも本気で戦ってねぇ。正直、底が知れねぇ気に食わない野郎だ」

なのはと互角に戦えたチップが敵いそうもない実力の持ち主…とんでもない話だ。
フェイトも、そしてなのはもその話に驚きを隠せない。
チップが言うにはソル以上に強い人間はいない、いるとするならばそれは人間ではなく化け物だと。

「戦う前に震えたのはあれが初めてだ、結局野郎をぶっ倒す事は出来なかった、勝負が終わった後何事もなかったかのように帰っていきやがった」
「とんでもない話です、チップさんの速さをもってしても倒せないなんて」
「でもよ、多分そんな悪いやつじゃねぇな、多分」

唐突に切り出される違った切り口のソルの人物像。
チップは薄々感づいているらしい、自分たちがソルの捕縛を命じられている事を。

「捕まえられるようなことは…してるかもしれねぇが、その次元管理局、っていうのか?そこに目をつけられるようなことをするような奴じゃねぇ」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「もし他の次元世界とかに手を出すような野郎だとしたら…もっと下賤な野郎ならこっちの世界がまず目茶目茶になってるだろう?」
「他の世界にここにはない何かがあって、どうしてもそれが欲しい…と思ったとか」
「多分、ねぇな。それならとっくのとうにこっちから行方を眩ませてんじゃねぇのか?」

確かに、一理ある。
この世界にはどうやら次元を渡る手段はない。
独自の魔法体系を構築してきたこの世界では魔法…この世界で言う法術が主にエネルギー問題解決に使われている。
その果てに軍事的に転用され、ギアが生み出された。
そして100年もの間、人類とギアとの間で戦争が続けられた。
そんな世界にどうして次元を渡る技術が生み出されるであろう?
人類の存続をかけた戦いのさなかにそんな余裕がないのは火を見るよりも明らかだ。
…もっとも次元をわたる手段がないかといえばそうではない。
厳密には次元を渡っていない…いや、管理局の定義する次元とは違う世界を行き来する手段は確かに存在する。
言うなればこの世界は多元世界、いくつもの層を持ちそれらを束ねて一つとした世界になっている。
例えば、なのは達が一番初めに行き着いた世界、こちらの世界ではHellと呼ばれている世界がその例だ。
Hell…捻りも何もないまさしく地獄、この地球上には存在しない別次元の世界。
そういった数々の世界を束ねてこの世界が形成されているようだ。
故に、これだけの魔法文化を誇りながらも、次元を渡る手段を確立できない…いや気づけないのかもしれない。
また閑話休題。

「それに…他に固執するもんでもあるんじゃねぇか?あの破壊神ジャスティスを破壊した時なんていつものあいつらしくなかったな」
「ジャスティス?聖戦の元凶である史上最悪のギア?」

史上最悪、という言葉にほんの少しだけ眉をひそめるチップ、それこそなのはやフェイトが気づかない程度に。
すぐに表情を引き締め話を続ける。

「あぁ、聖戦を終わらせたのはあいつと言っても過言じゃねぇ」
「……ますます遠い存在に思えてきた」
「とは言え、話が通じねぇ相手じゃねぇ、話してみりゃいいんじゃねぇか?」

お前が言うな、という言葉を胸のうちにしまいつつチップの助言を記憶する。
話の通じない相手ではない、チップの言ではすさまじい力はあるものの理性を持った人間であると言うこと。
制御不能の存在なのはその力量の問題であるだけなのだ。
不安も増強されたが、少なからず希望もわいた。
アースラを出発した時のような悲壮感はすでにない。
345ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 03:06:18 ID:zTuqYsSa
「…てめぇらガキの癖に大変だな」
「望んでやっていることです、私の魔法の使い方はこうあるべきなんです、誰かの為になれるのなら」

誰かのためになるのなら、その言葉はこれからのチップのモットーとなるべき言葉なのだろう。
世のため、人のため…チップは世界から薬をなくすために大統領を目指している。
ただただ誰かの為に、そうやって世界を動かさなければならない事をチップは知っている。
だがなのはの言葉はチップにとって何故か悲しく聞こえた。
本人がそう言うのならそれでいい、昔のチップなら何も気に留めない一言だったかもしれない。
しかし、理由はわからないがどうしてか悲しかった。
子供が望んでやっている、大人の仕事を。
その姿は以前、薬の売人として大人たちに働かせられていたチップ自身と知らず知らずの内に重ねてしまっていたのにチップは気づかない。
だから、何となく悲しかった。

「薬の根絶のほかに、やらなきゃならねぇ事があるかもしれねぇな」
「何の話です?」
「いや、こっちの話だ、気にするな」

風が吹いている、森がさわさわとざわめいている。
風に吹かれている、それぞれが別々の風に吹かれている。
頃合を告げる風。

「ソルの野郎に会ったのは…意外と最近だな、ここよりずっと北に行けば星と岩だけの場所に出る、そこで一戦やったのが最後だな」
「ちなみにどれくらい前ですか?」
「あぁ〜、一昨日…いや昨日か?」
「最近にも程があるね…初めっから聞いておくべきだったかな?」

苦笑い、そっぽを向いて頭をかくチップ。

「あ〜…よくわからねぇが、頑張れよな」
「色々とありがとうございました」
「チップさんも頑張って大統領になってくださいね、私、応援してます」
「応!よかったらお前らも投票してくれよな!!」

強い風が吹いた、それにつられてチップはなのは達に背を向けて走り始める。
出会ったときと同じように追い風すらも味方にしながら。

「…おもしろい人だったね」
「なのはも中々おもしろいことしてくれたね」
「えぇっと、フェイトちゃん、ちょっと怒ってる?」
「いいや、全然」

その“全然”に全く感情がこもっていないところになのはは恐怖を覚える。

「ところで、チップさん私達に投票権がないことわかってないのかな?」
「多分、ね」
「にゃはは」
「でも…チップさんらしいよ」







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346ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 03:11:37 ID:zTuqYsSa
「見つけたぜ、このクソ鳥!!」

なのは達と出会う前に追っていたムラサキツバメをはるか前方に確認する。
人には決して追いつけないであろうスピードで空を飛ぶ。
それならば、懲りずに追いすがるあの人間は何なのだろう?
人ではない?否、正真正銘の人間である。
その人間がどうしてツバメを追っているのか?
届かぬとわかっていてどうして追いかけるのか?
否、それは前提からして間違っている。
人間は――――――チップ・ザナフは追いつけないなどと思っていない。
必ず、追いついてみせる、と胸に誓っている。

ムラサキツバメはどうしてか楽しかった。
自分の天敵になりうる人間に追われているのにも関わらず。
命の危険すら感じるような場面なのにも関わらず、楽しそうに鳴く。
空に響く、鳥の声。
それは、長い旅路の間、冷たい風に耐えて編隊を組むツバメが、一日の終わりに互いにかける声。
言葉には出来ないけれど、あえてするのならこうなる。

――わたしがいて、あなたがいて、うれしい――

「あんの鳥、なめやがって!!ぜってーぶち抜いてやる!!!」

チップも笑っていた、目指すべき目標があんなにも高い場所にいてくれる事。
それがうれしいから。

鳥は飛ぶ、共に入れる喜びを感じながら。
人は翔る、高みを望む夢を追いかけながら。
347ナッパ ◆1jOfzim.ew :2009/09/21(月) 03:16:49 ID:zTuqYsSa
以上で終わり

このスレ、また盛り上がるといいっすね
微力ながら力になれればうれしい
348一尉:2009/09/21(月) 14:27:02 ID:DN9d/5ys
傭兵支援
349レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:18:51 ID:k+R181Gg
今日は、誰も予約が無さそうなので今のうちに投下しておきます。


※暴力シーンが含まれている(書いた本人はそう思っている)ので、苦手な方はお勧めしません。
350レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:20:30 ID:k+R181Gg
 時間はドラゴンオーブの砲撃が行われるより前まで遡り、
 ゆりかご内ではヴェロッサが放った猟犬がルーンの解除の為に走り
 アリューゼはゆりかごのデータが入った端末を頼りに、自分の目的の為ゆりかご内を走っていた。
 
 彼の目的はただ一つ…ゼストに会う為である、彼の懐には今、二つの結晶体が入っている。
 それはかつてレザードの手によって抜き取られたゼストとメガーヌの二人の魂で、
 アリューゼは常に御守りとして持ち歩いていたのである。
 
 アリューゼは前々から考えていた事があった、魂を元の肉体に戻せば元のゼストに戻るのではないのかと…
 そんな淡い期待を胸に秘めつつ今もなお、ゆりかご内を走り続けるのであった。
 
 
                リリカルプロファイル
                 第二十九話 開戦
 
 
 しかし此処ゆりかご内は広く、ガジェットや護衛ロボなどが警備を行い、
 思うように先に進む事が出来すアリューゼは舌打ちを鳴らしていると、ヴェロッサから一報が届く。
 現在猟犬はルーンを発見し解除作業を行っており、ルーンが解除されれば警備も厳重になるであろうと説明した。
 
 一方外ではヴェロッサが猟犬を使ってアリューゼに連絡を送りつつルーンの解除に躍起になっており、
 シャッハは周囲を警戒しつつ端末にて宣戦布告を試聴していた。
 
 そしてヴェロッサがルーンの解除を完了したと同時に恐ろしい一報が届く。
 それはエルセア地方が一瞬にして消滅したと言う内容であった。
 すると、まるで呼応するように二人がいる場所が揺れ始める、どうやらゆりかごが本格的に起動するようである。
 
 「此処は危険だ!シャッハ避難するよ!!」
 「でも中にアリューゼが!!」
 
 彼なら心配無い、彼の実力はシャッハの方がよく知っているだろ?そう説得を促し
 暫くしてシャッハは頷くと二人はその場から退避する、しかし目の前にはガジェット達が転送されており、
 ヴェロッサは一つ舌打ちをするとシャッハが更に一歩前へと出る。
 
 「斬り込みます!!」
 
 そう言うや否やデバイスを起動させ一迅の風となって次々にガジェットを切り裂いていき、
 その圧倒的な攻撃に流石と感心しながらもヴェロッサはシャッハと共に闇に包まれた森を駆け抜けていった。
 
 一方でアリューゼはゆりかごの振動に動き始めたか…と考えていると体に違和感を感じ始める、
 どうやら起動と共にAMFを展開させたようで、かなり濃度が高いようである。
 アリューゼは余りチンタラ出来ないと一つ舌打ちを鳴らし、身を隠しながらゼストの居所を探し始めた。
 
 一方で演説を終えたスカリエッティ達は戦闘準備の為、各自配置に付き始めていた。
 その中でルーンが解除されている事に気が付いたスカリエッティは、レザードに問い掛ける。
 
 「レザード、ルーンが解除されているようなんだが?」
 「まぁ、問題ないでしょう」
 
 元々ルーンはこのゆりかごを隠す為に使用していただけで、起動した今では無用の長物である。
 寧ろルーンを解除した者がこのゆりかご内に存在している可能性があると指摘する、
 
 しかし内部には大量のガジェット及び不死者がおり、更にAMFも起動させている為、問題は無いだろうと考えている…
 …だが万が一の事も考慮すればゼスト辺りに探索をさせておこうとレザードは提案すると、
 スカリエッティは提案を飲み、本来の目的である不死者及びガジェットを転送を行い始めた。
351レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:21:36 ID:k+R181Gg
 場所は変わり、空が白ずみ夜明けが近づいている事を告げている空の下、
 聖王教会対策本部は未だに慌ただしく、様々な情報が飛び交っていた。
 
 先ずはドラゴンオーブの件である、エルセア地方を消滅させたドラゴンオーブの威力を本局が分析した結果、
 ミッドチルダに七発、ドラゴンオーブを撃ち込まれれば、その威力と衝撃により自軸はズレ自壊するという結果が出たのだ。
 更に深夜、第二射が実施されミッドチルダ北部ベルカ領の更に北に位置する万年雪に覆われた山が、一瞬にして消滅したという一報が届く。
 
 事は急を要する、ドラゴンオーブはその威力を維持する為に連続発射が不可能な構造をしてるのだが、いずれは残り五発も確実に撃ち込まれてしまう、
 その為に本局は早急に討伐隊をドラゴンオーブへと派遣するが、ドラゴンオーブにはエインフェリアであるイージスとミトスが護衛に付いており
 派遣から30分後、討伐隊は暗礁領域となり果て幕を閉じたのである。
 
 …本局の戦力では二体のエインフェリアを相手するのは荷が重すぎる、
 そこでクロノに白羽の矢が当たり、彼が率いるクラウディアチームによるエインフェリアの撃破、
 その後本局が有するアルカンシェル隊を配置し、ドラゴンオーブを撃破するという作戦を立てる。
 
 だが次元空間を生身で行動するのは不可能である、其処でクラウディアにフィールド・結界技術を応用した
 安定した力場を発生する装置を装備させてクラウディアを足場とするのだという。
 現在クラウディアはその装備の設置を急いでおり、完了次第現場へと赴く事となった。
 
 続いてミッドチルダ全土についてである、現在各地域に不死者及びガジェットが出現、
 更にそれに連動するように量産型エインフェリア、アインヘリアルも出現し各地は戦火に包まれていた。
 戦況は不死者3とガジェット10に対し、量産型であるが高性能なアインヘリアル1という量対質の構図が生まれ五分五分という事である。
 
 これに対し管理局は住民の避難を最優先とし地上本部局員は住民の誘導を担い、
 一方で機動六課及び教会騎士団は不死者とガジェット及びアインヘリアルの撃破を優先する為、
 隊舎崩壊以降から出ていた案により移動本部として改修されたアースラに乗り込み、
 アースラはゆりかご及びヴァルハラが向かうであろう場所に先回りし、各隊員は各地域へアースラからの転送及び移動となった。
 
 二隻の次元船の目的地点は、二つの月の公転軌道が交錯する地点、軌道ポイントと呼ばれる地点である事は明白で
 もし此処で二つの月の魔力を得る事になれば、ゆりかごはその力を高め、
 ヴァルハラに至ってはドラゴンオーブとドッキングする可能性があるという。
 
 …つまり二隻の次元船を飛び立たせてしまえば、此方の敗北となるのは必死、
 管理局は全戦力を投入する勢いでこの“未曾有の災厄”に対処するのであった。
 
 
 場所は変わり此処はゆりかご内の管制室、室内ではクアットロが戦況を見守っており、
 五分五分といった戦況に眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべていた。
 
 「ふふふっ…下賤な者達を見ると笑いが止まらないわぁ……」
 
 しかしレザードはこの戦況ではジリ貧は必死、ここらで一石投じるべきだと考え始める。
 一石とは即ちナンバーズ達の投入である、このまま膠着状態が続けばヴァルハラはドラゴンオーブという手を使う可能性がある為だ。
 
 とは言えチンク及びゼストは侵入者の事を考慮して残しておくべきとの考えに至り、
 レザードは振り返りその旨をスカリエッティに伝えてみる事にした。
 
 「如何でしょう?ここらでナンバーズを投じてみるのも…」
 「そうだね…頃合いかもしれない」
 
 スカリエッティもまた戦況を見つめながら同じ事を考えていたらしく、賛同するとレザードは軽く頷き背を向ける。
 そして不敵な表情を表しながらレザードはクアットロに命じ、ナンバーズ達を各地域に展開させるのであった。
352レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:22:50 ID:k+R181Gg
 一方此方はヴァルハラ内に存在する管制室、此方ではガノッサが戦況を見守っており、
 五分五分といった戦況に顎に手を当て考え込んでいた。
 
 …このままではジリ貧は必死、ならばここいらで一石投じるべきであろう…
 此方の一石、つまりはエインフェリアの投入の事である、ドラゴンオーブという手も無きにしろ有らずだが、
 ヴァルハラが飛び立つ前に自壊してしまう可能性があるためおいそれと使えないのが現状である。
 取り敢えず此処までの旨を三賢人のエンブレムに問い掛けてみる事にするガノッサ。
 
 「如何成されよう?ここいらでエインフェリアを投じてみるのも…」
 「ならば…早くするのだな」
 
 三賢人の一人が淡々と答えるとガノッサは深々と頭を下げエンブレムに背を向ける。
 そして顔を上げたその表情は怒りとも屈辱とも取れる表情を表しながら
 ガノッサの秘書官である青色で長髪の女性に命じ、エインフェリアを各地域に展開させるのであった。
 
 
 場所は変わり現在はやては、沿岸付近に出現した不死者及びガジェットの殲滅を担っていた。
 既にはやてはリインとユニゾンしており、リインによって逐一戦況が報告を受けており、
 
 それはまさに地獄絵図とも言える戦況であった、ある地域ではドラゴントゥースウォーリアによって
 強化されたパラミネントキマイラが住民ごと局員を噛み殺し
 
 局員達の攻撃に対しウィル・オ・ウィスプは周囲を巻き込む形で自爆を行い、更にイビル・アイによる蘇生によって復活
 極めつけは回避能力の高いグレーターデーモンによる一方的な惨殺などが伝えられていた。
 そんな戦況を耳にするも、はやては冷静にそして的確に指示を促す。
 
 「各隊員に告げる!あの球体型は一定のダメージを与えるんと自爆する!倒すんやったら一気に倒すんや!!」
 
 他にもドラゴントゥースウォーリアは先に倒すと他の不死者を強化させてしまう為に最後に片付ける事や
 グレーターデーモンの回避能力に対しバインドで拘束してからの攻撃
 イビル・アイは優先的に撃破するなどを命じていると、はやての耳に新たな一報が届く。
 
 
 場所は変わり此処はヴァルハラが優雅に飛行している海上、目の前にはガジェットII型が多数姿を現し、ヴァルハラに攻撃を仕掛けようとしていた。
 しかし次の瞬間、海上に巨大な氷山が生まれ、氷山の中には攻撃を仕掛けようとしていたガジェット達が凍り付いており
 氷山は煌びやかにガジェットごと砕け散ると、目の前にはエインフェリアの一体ゼノンが佇んでいた。
 
 …一方、首都グラナガンもまた戦火に包まれており、路地裏では一人の少女が必死にパラミネントキマイラから逃げ惑っていた。
 少女の両親はガジェットのミサイルによって四散し、助けにきた局員もパラミネントキマイラによって食い散らかされ、
 余りにもの出来事に恐怖に支配され少女は必死に逃げ惑っていたのだが、とうとう行き止まりにぶつかり足を止める。
 
 振り向くと少女の目の前にはパラミネントキマイラが涎を垂らしながら迫ってきており、
 思わずその場で座り込み少女は死を覚悟し目を瞑る。
 
 しかし少女に不死者の牙が届くことはなかった、パラミネントキマイラの三つの頭は切り落とされ、光の粒子となって消滅すると
 目の前には黒い甲冑を着たエインフェリア、アドニスが佇んでいた。
 少女は目の前に現れた救世主に礼を述べる為、立ち上がりアドニスへと駆け寄る。
 
 「あっありが―――」
 
 次の瞬間、少女の頭部は胴体から離れドスッと音を立てて地に落ちる。
 そして胴体から夥しい量の血飛沫があがり辺りを赤く染める中で、
 口の部分が開いた仮面に覆われたアドニスの口が、つり上がり始め言葉を口にする。
 
 「テメェも対象なんだよ!」
 
 アドニスは高笑いを浮かべながら次の獲物を探しに足を運び始めた。
353レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:25:18 ID:k+R181Gg
 場所は変わり此処北西地区の上空ではアインヘリアルの猛攻を受け、教会騎士団は苦戦を強いられていた。
 戦況は騎士団が劣勢、このままでは全滅する可能性がある中で、一人の騎士が風を感じる。
 するとアインヘリアルは三分割され更に騎士団も同様に刻まれた。
 
 そして肉片と残骸が落ちていく中でトーレがインパルスブレードを展開させながら佇み
 不意に来た戦闘機人に戸惑いつつも攻撃を仕掛けようとする教会騎士団。
 
 「セッテ!」
 
 しかし教会騎士団はトーレに接近する前にセッテのブーメランブレードにより頭部と胴体が切り離され、
 トーレは残りのアインヘリアルの元へ向かうと、その手に展開されているインパルスブレードで
 
 アインヘリアル達の首・胴・手足などを切り離し、更には袈裟斬りや振り下ろしなどで両断した。
 そして周りを見渡しあらかた片付いた二人はその場を去り、その後不死者達が次々に出現し住民への殺戮が始まった。
 
 一方で此処は東部12区内に存在するパークロード、その上空に二つの影が存在する。
 ルーテシアとガリューである、そしてルーテシアは地雷王を召喚し各配置に付けると局地的地震を起こし、
 パーク内に複数存在する建物を次々に倒壊させている中で、逃げ惑う住民達を冷徹な瞳で見つめるルーテシア。
 
 「ガリュー…」
 
 ルーテシアは一言命じるとガリューは頷き、逃げ惑う住民を片っ端から切り裂く。
 そんな阿鼻叫喚の中で必死に逃げる少年が一人、年齢はルーテシアと同い年ぐらいであろう、
 
 そんな少年の前にルーテシアが降りてきて、道を塞ぐと少年に左手をかざす。
 少年は震えながらその場で竦んでいると、ルーテシアの口が動き始めた。
 
 「……さようなら」
 
 そしてルーテシアの手からファイアランスが放たれ、少年は一瞬にして消し炭と化した。
 それを目の当たりにした大人達は戦慄した、とてもでは無いが子供が行うような行動ではないからだ、
 しかしルーテシアの瞳は冷たく、まるで何もなかったかのように次の相手に手をかざすのであった。
 
 
 戦況は一気に変化した、エインフェリア及びナンバーズ達の投入によりアインヘリアル及びガジェット・不死者の数が減少していった。
 しかしそれだけではなくエインフェリア及びナンバーズ達は局員・住民にも襲いかかっており
 全体的の流れとしては未だ殲滅戦から脱却していないのが実情であった。
 
 しかし教会騎士団並び管理局局員は、不死者・ガジェット及びアインヘリアルならば幾らか相手に出来るが、
 エインフェリア及びナンバーズ達では歯が立たない、そんな状況の中で司令部から一報がはやての耳に届く、
 
 現在首都グラナガンの上空にギンガと思しき人影を捉え、
 ベルカ領上空にはヴィヴィオらしき人影を捉えたという。
 
 その一報を聞いたなのはとズバルは動揺を隠しきれないでいると
 はやては機動六課メンバーをエインフェリア並びにナンバーズ達に当てることを提案、
 それぞれ近場の相手、若しくは割り当てられた相手の元へ急ぐのであった。
354レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:28:13 ID:k+R181Gg
 場所は変わりゆりかご内でもまたアリューゼが戦闘が行っていた。
 アリューゼが相手にしているのはガジェットIII型が複数、しかしレンチングスウィングにより次々に鉄くずに変えていく中
 更に不死者とガジェットの増援が姿を現す、アリューゼは一つ舌打ちをしながら剣を構えると、カートリッジを一発消費
 
 アリューゼの体が闇に包まれるとそのまま増援の元へ突撃し敵陣は待ってたかの様にアリューゼに襲いかかるが、
 敵陣の攻撃はアリューゼに一切届かず、寧ろ背後をとられ、レンチングスウィングにて肉塊と鉄くずとなり果てた。
 ダークと呼ばれる黒い魔力を帯び闇に紛れるように相手の攻撃を無効化しつつ背後をとる魔法である。
 
 「チッ!キリがねぇな!!」
 
 幾らアリューゼが一騎当千とも言える実力を持っていても、高濃度のAMFの中で限りが見えない数を相手にするのは流石に分が悪い。
 それにゼストを捜さなければならない、此処でモタモタしている時間はないのだ。
 何処か身を隠す場所はないものか…すると何処からともなく声が響いてくる。
 
 「こっちだ!!」
 
 アリューゼはその声に罠ではないかと警戒するが、現状を考え仕方なくその声に従う。
 そして一つの扉が開いた部屋に辿り着き、アリューゼは部屋に飛び込むと一気に扉を閉まる。
 部屋の中には黒い甲冑を纏った不死者グレイが扉の前に佇み扉の向こうの気配を探っていた。
 
 「……行ったか」
 「…テメェ、不死者か?」
 「まぁ、一応な…」
 
 自分は自我を持ったまま不死者となり、此処の情報を集め古い友人に渡した張本人であると語ると、
 グレイの話に信憑性を感じるアリューゼ、そしてゆりかご内を詳しく知っていそうなグレイにゼストの居場所を聞き出す。
 
 ゼストは今、管制室を抜けた先にあるスカリエッティのラボにいるはずだと
 しかし現在ゆりかご内はアリューゼという侵入者により警戒態勢に入っており、
 更には戦闘状態でもある為にこの警戒態勢は解除される事は無いと語る。
 となれば、強行突入しかないとアリューゼは考えているとグレイもまた手を貸すと言い始める。
 
 「いいのか?テメェは奴らの仲間なんだろ?」
 「元より仲間になったつもりはないさ」
 
 それにグレイもまた頃合いを見てゆりかご内で暴れる予定であったらしく、
 思わぬ珍客とは言え都合が良い戦力であると話すとデバイスを起動させ始める。
 
 「なら良いが…お前名は?」
 「………グレイ」
 
 名を聞いたアリューゼは持っていたデバイスを掲げ、グレイもまた掲げると切っ先を交えキンッと甲高い音を奏で、
 それを合図に一斉に部屋から飛び出し、敵陣に斬り込む。
 
 「行くぜ!ファイナリティブラスト!!」
 「奥義!アイシクルディザスター!!」
 
 アリューゼの真っ赤に熱を帯びた刀身とグレイの真っ白く冷気を帯びた刀身が、敵陣の中を突っ切り
 二人が通った後は、凍り付いた不死者と溶解したガジェットが横たわっていた。
355レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:31:53 ID:k+R181Gg
 一方北西上空を移動しているトーレとセッテは辺りを見渡しながら次の街へ飛行を続けていた。
 アインヘリアルは不死者と同様、重点的に街へ配置しているようで、
 下に広がる森林地帯には配置されていないと考えていた。
 しかしそれは甘かった、森林中から一つの影がトーレに襲い掛かり、トーレはインパルスブレードで辛くも攻撃を受け止める。
 
 「トーレ姉!!」
 「くっ!何者だ!!」
 
 その影の正体はエインフェリアの一体クレセントであった、どうやら油断しているところを狙い打つ算段であったようである。
 しかし当てが外れたなと、一つ笑みをこぼすとクレセントもまた意味深な笑みを浮かべ、
 その笑みに不安感を感じた瞬間、セッテの腹部から刀身が姿を現す。
 
 「ガハッ!!」
 「セッテ!!!」
 「先ずは一人…いや一体かな?」
 
 セッテの背後にはエインフェリアのセレスが含み笑いを浮かべながら
 腹部を突き刺した刀身を引き抜くと、力無く落ちていくセッテ。
 
 それを見たトーレはクレセントを蹴り飛ばし急いでセッテを抱きかかえる、
 セッテの傷口は酷く向こう側が見えており、更に血と共に火花を散らしていた。
 
 「……す…すみません…油…断を………」
 「無理に喋るな…傷に響く」
 
 現在セッテはレリックのエネルギーによって応急処置を行ってはいるが、助かる可能性は五分五分といった状態である。
 トーレはゆっくりと森の中に入り、セッテを木に凭れさせるとすぐさま飛び立つ。
 
 そして二体のエインフェリアがいる前まで昇るとインパルスブレードを展開、
 それは先程とは異なり高圧縮されて稲光が走っていた。
 
 「貴様等……直ぐにスクラップにしてやる!!」
 
 トーレの瞳には激しい怒りの色が宿り二体を睨み付ける中で
 セレスとクレセントは余裕のある表情を見せながら対峙した。
 
 場所は変わりパークロード内では依然としてルーテシアが暴れ回っており、
 逃げ惑う住民をバーンストームで吹き飛ばし、ファイアランスで焼き尽くし、ポイズンブロウで毒殺していた。
 
 一方でガリューもまた逃げ惑う人々に襲いかかっており、
 ルーテシアは新たなターゲットである女性局員を補足し歩み寄ると、局員は魔法にて応戦
 
 しかしルーテシアはガードレインフォースにて攻撃を弾き返すと左手で無造作に長い髪を鷲掴み、右拳を振り上げ顔面を殴る。
 局員の鼻から血が垂れ更に殴りつけていると、後ろでルーテシアを呼ぶ声が聞こえ振り向く。
 
 「その人を放しなさい!!」
 「……誰かと思ったら…アナタ達」
 
 其処にいたのはエリオとキャロ、連絡を受けた二人はルーテシアの凶行を止めるべく、いち早く現場に向かっていたのだ。
356レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:34:45 ID:k+R181Gg
 そしてルーテシアの手に握られた女性局員を放して貰うべく説得を始める。
 
 「止めるんだ!君はそんな人じゃないはず!!」
 「……体の良い台詞…でも…分かった」
 
 そう言うと掴んでいた左手を振り抜くように手放し、女性局員は一目散にエリオ達の元へ向かう。
 しかしルーテシアは放した左手をかざしたままファイアランスを唱え、二人の目の前で女性局員は黒こげとなって倒れ込んだ。
 
 「新しい相手も現れた訳だし……」
 
 ルーテシアは冷淡に言葉を口にする中で、足下に転がった出来たての焼死体を目の当たりにし、
 エリオは目を背けキャロは口元を押さえ嘔吐する。
 
 しかしルーテシア二人の行動を冷淡に見つめながら指を鳴らしガリューを呼びつけると
 ルーテシアの行動に気が付いた二人はお互いをを鼓舞しながら力強く見つめた。
そんな二人の行動に舌打ちを鳴らし不快感を示すルーテシアであった。
 
 更に場所は変わり南地区は炎に包まれていた、原因はエインフェリアの一体カノンによる魔法攻撃によるものである。
 そして上空では燃え盛る街並みを高笑いしながらカノンは見つめていると
 左右から緑色の光線が襲い掛かり、カノンはバリアを展開させてこれを防いだ。
 更に首もとに気配を感じ振り返ると、其処にはオットーとディードが構えており、
 その姿を見たカノンは笑みを浮かべ新たな獲物である二人に手をかざし構えた。
 
 一方首都グラナガンではアドニスによる一方的な殺戮が繰り広げており、
 辺りはアインヘリアルや教会騎士団、地上本部局員に住民、果てはペットなどの遺体が犇めいていた。
 そしてアドニスは新たな標的である幼い兄妹を発見し路地裏へと追い込む。
 そして刀身にて音を奏で相手の恐怖心を煽り立てながらゆっくりと追い込む。
 そして兄妹達を行き止まりまで追い込むと狂気に満ちた表情で大剣を肩で担ぐ。

 「くくくっ!ここがお前等の終着地点だぁ!!」
 
 アドニスは一言告げると刀身を振り上げ目の前の二人目掛けて振り下ろし、
 二人の兄妹は互いの温もりを確かめる様に抱きしめ死を覚悟し目を瞑る。
 
 だが二人はその凶刃の餌食になる事はなかった、何故なら二人とアドニスの間を分かつ存在ザフィーラがいたからだ。
 ザフィーラは左手に障壁を巡らせアドニスの凶刃を受け止め、更に右拳を握り魔力を込めると
 真っ直ぐアドニスの胸元を打ち抜こうとした。
 しかしアドニスは拳が触れるギリギリのところでバックステップを行い難を逃れる。
 
 「テメェ……ナニモンだぁ!」
 「弱き者を護る盾……ザフィーラ!」
 
 ザフィーラは名乗ると二人を逃がす為にアドニスに襲いかかり拳を振り抜く。
 しかしアドニスは刀身を盾にザフィーラの攻撃を防ぎつつ圧されていると、ザフィーラは左足に魔力を巡らせ一気に蹴り抜く。
 
 その重い一撃に吹き飛ばされ道を拓くとザフィーラは二人に逃げるように叫び、
 ザフィーラの言葉を聞き二人は急いで駆け抜けると、
アドニスは後を追おうとしたが行く手を塞がれ一つ舌打ちを鳴らす。
 
 「テメェ…よくも俺の獲物を!!」
 「この……狂犬め!」
 
 ザフィーラは吐き捨てるように言葉を口にして両拳を構えると、
 獲物を逃がしたザフィーラを怒りの目で睨みつけ報復だとばかりにアドニスは上段の構えで対峙した。
357レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:37:04 ID:k+R181Gg
 一方でシグナムは一人でアインヘリアル及び不死者を相手にしていた。
 いや正確には先程まではヴィータと共に相手をしていたのだが数が少なくなってきた為、二手に分かれ現在に至っているのである。
 
 「飛竜一閃!!」
 
 撃ち出されたシグナムの一撃は残りの敵を焼き尽くし、殲滅を終えると
 上空に気配を感じシグナムは見上げる、其処にはエインフェリアのエーレンが姿を現していた。
 
 「…エインフェリアか」
 「私の名はエーレン、機動六課シグナムとお見受けします…」
 
 エーレンはデバイスを起動させて中段にて構える、その佇まいにただ者では無いと見たシグナムは
 真剣な面持ちでエーレンを睨み付け、レヴァンティンを鞘に戻し居合いの構えで対峙した。
 
 一方でギンガ、ノーヴェ、ウェンディ、ディエチは首都グラナガンに向かっていた。
 ギンガとノーヴェはその足で、ウェンディとディエチはライティングボードに乗って移動していると、
 
 四人の前に二つの影が行く手を遮るように立ち並んでいた、スバルとティアナである。
 二人の姿を見たノーヴェは一つ舌打ちを鳴らしていると、先行していたギンガが足を止める。
 
 「ギン姉……」
 「まさか…こうも早く会えるとはね…タイプゼロ・セカンド!」
 
 ギンガの言葉に流石のスバルも動揺を隠せないでいた。
 何故なら自分達は戦闘機人でありながら人として生きてきたのに、それを忘れたかのような台詞を吐いたからである。
 
 そしてティアナはギンガの変貌に洗脳を受けているのでは無いのかと感じていると
 ノーヴェとウェンディとディエチが一歩前に出てギンガを隠すように立ち並ぶ。
 
 「ギン姉さん…此奴等は私達が…」
 「それじゃあ…任してみようかしら」
 
 ギンガはそう言って後方へ下がり腕を組むとノーヴェは拳を鳴らし構え
 ディエチはイノーメスカノンを手に持ちウェンディもライティングボードを手に掛け構える。
 
 
 …どうやらギンガを救う為には先ず、彼女等を大人しくさせないといけないと悟り
 スバルとティアナはそれぞれ構え始め、三対二の団体戦の火蓋が切って落とされた。
358レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:38:08 ID:k+R181Gg
 そしてヴィヴィオはベルカ領上空を飛行し聖王教会に向かっていた、目的は聖王教会の破壊とカリムの抹殺である。
 既にベルカは当時とは異なる考えを持ち、更には“聖王”である自分に弓を引いた、
 だからこそ報復としてヴィヴィオ自らが制裁しに来たのである。
 
 そして聖王教会の建物が薄等と見え始めた距離で、後方から高い魔力が物凄い勢いで近づいて来るのを感じ思わず振り返る。
 振り向いた先には桜色の魔力の塊が徐々に近づきヴィヴィオの前で止まると、
 塊がほぐれ中からはエクシードモードを起動させたなのはが姿を見せた。
 「……ヴィヴィオ」
 「…高町…なのはか」
 
 ヴィヴィオは…なのはの名を口にするがその瞳は鋭く、敵対心と殺気を表情から滲み出しながら睨み付ける。
 その変わり果てたヴィヴィオの姿と表情になのはは、胸を締め付けられるような表情を表しながら
 それでも平静を装うように静かに目を閉じ、深く息を吐き目を開くと決意ある瞳でヴィヴィオを見つめる。
 
 「…ヴィヴィオ、なのはママだよ?」
 「……残念だけど、私は貴女の娘ではない、今の私は“聖王”ヴィヴィオだ」
 
 故に偽りの親子ごっこは終わりを告げた、今は聖王として自らの使命を果たす
 そしてその使命を邪魔するのであれば、誰であろうと全力全開で排除する、
 ヴィヴィオは右手を握り締め自分の決意が本物であることを告げると、なのはもまた言葉を口にする。
 
 確かにヴィヴィオにとっては偽りの親子関係であったのだろう…
 しかし…短くとも私と過ごして来た日々、機動六課の皆と過ごした日々は偽りではない。
 少なくとも私はヴィヴィオを実の娘として見ている、その心に偽りなど無い!
 
 そんな愛娘が道を、それも人としての道から外れようとしている…
 母親として私が出来る事…それは体を張ってでも叱りつけることである!
 そう力強く宣言すると、左手に持つレイジングハートでヴィヴィオを差すなのは。
 
 「だから…私がヴィヴィオを止める!!」
 「言ったはずだ!誰であろうとも私の邪魔をする者は排除すると!!」
 
 互いの決意が交差し合い、ヴィヴィオはいっそう拳を握り締め、
 なのはもまたレイジングハートを握り締めると戦いの開始の合図を鳴らすのであった……
359レザポ ◆94CKshfbLA :2009/09/22(火) 10:43:26 ID:12UMizrR
以上です、序章ってな回です。
 
 
 なんだがゴテゴテ急ぎ足になっていますが、フェイトだけがいつものように影が薄い……

次は次章を予定しています。



 それではまた。


360一尉:2009/09/22(火) 12:35:38 ID:kK3nMEY3
大理石化薬支援
361偽アキラ:2009/09/23(水) 13:05:48 ID:ytYAqjyW
かつてアキラの名を語って
「sageってなんですか?」って
聞きまくった俺が通りますよ^^)
362ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 21:02:16 ID:mem8gzpl
22時45分頃から投下予約。
363ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:47:03 ID:mem8gzpl
ボチボチ投下していきます。今回も長いです。
364ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:48:11 ID:mem8gzpl
 地の鳴動と暴風の唸りに、砂礫が舞い上がる。雷鳴さながらの音響は騒音の如くアルトセイムに響
き渡り、耐え難い圧迫感を大地に立つ人間たちへと与えていく。召喚された異形の巨体は、存在その
ものが揺れ動くかのように、一歩足を踏みしめるだけで周囲を震動させている。
 白天王――ルーテシア・アルピーノが誇る、最強にして最大の究極召喚虫だった。硬質な外殻に、
膨れあがった筋肉、二足歩行が出来る人型の巨躯は、昆虫を起源とする身でありながら、弱々しさと
はまるで無縁の威容を誇っていた。
「でかすぎる……!」
 間近で感じる白天王の異様な圧迫感を前に、ゼロともあろう者が圧倒され、地面へと叩き付けられ
てしまった。激情のままに攻撃を行おうとして、弾き返されたのである。地に打ち倒され、なんとか
起きあがりはしたものの、もはや怒り任せに攻撃を続ける余裕などなかった。
《マスター、乗ってください!》
 駆けつけたプログレスに飛び乗り、ルクリュの判断の下に後退することしかゼロには出来なかった。
過去に幾度となく死線をくぐり抜けてきた彼は、自身よりもはるかに大きな存在とも戦った経験があ
り、その都度勝利も収めてきた。けれど、今回はさすがに規格外、桁外れだった。
《質量が桁違いです! いくら私の複合装甲でも、あんな巨体に踏みつぶされでもしたら超硬度鋼ご
とペシャンコになります》
 プログレスの装甲は、シエル曰くミサイルでさえ傷一つ付けられない強靱さを誇り、セラミックや
結晶繊維を超硬度鋼と結合させることであらゆる物理攻撃に耐え、機体表面に施した鏡面処理によっ
て光学兵器ですら跳ね返すという。つまり、並のレプリロイドの火力では吹き飛ばすことはおろか、
押しとどめることさえも出来ないのだ。
 しかし、それも相手がレプリロイドであればの話だ。あんな一五メートルほどはあろう巨体と質量
に攻撃されては、無力ではないにしろ耐えうることは不可能だろう。ルクリュは高速かつ緻密な計算
でその事実を知り得ており、即座に後退を行った。ゼロも後退を止めなかったし、彼としては激情が
冷めたことで、いくらか冷静になる時間が欲しかったのである。
 生まれたとのルクリュは当然としても、実のところゼロも白天王を見るのは初めてで、存在すら今
まで知らなかった。意外なようだが、思い返してみれば前回の大戦で白天王が出現した際、ゼロは聖
王のゆりかごというスカリエッティが復活させた移動戦船に乗り込んでおり、地上で行われていた戦
闘には関知しなかった。大戦終結後も、ゼロに対して白天王の存在を告げる者などおらず、特別その
必要もないはずであった。
「距離を取ってばかりでは攻撃が出来ない。ギリギリまで近づくぞ」
《ちょ、ちょっと待ってくださ――》
 叫ぶルクリュを無視して、ほとんど意を決してといった感じにゼロはプログレスを加速させた。長
距離用の武器はないので、攻撃をするにもある程度は近づかなければいけないのだ。それに、あれだ
けの巨体が俊敏に動けるはずもなく、小回りが利く面から言えばプログレスの機動力は不利ではない。
ゼロは操縦技術に関しても一流であったが、その動きは攻撃を主体とした荒っぽさが目立つため、見
ている者をヒヤヒヤさせることが多い。まして、同乗に近い形のルクリュは激しさに目を回さんばか
りであった。
 大口径の重機関銃が斉射され、白天王の身体に直撃した。的の大きさからいって外すわけもなく、
毎分500発の銃撃が尽く命中する。地雷王であれば軽く吹き飛ばした銃火も、しかし、白天王には通
じなかった。硬質の外殻は超硬鋼弾であっても貫くことは出来ず、仮に貫けたとしても強靱な筋肉に
弾き返されるだけだろう。続けて多段型ミサイルも発射されるが、目に見えての効果はまるでなかっ
た。虫相手に使う比喩ではないだろうが、蚊に刺された程度にも効いていないのだ。
 ゼロはバスターを構えるが、機関銃もミサイルも弾き返すような相手に、バスターショットなど通
用するとは思えなかった。どこかに弱点でもあるなら話は別だが、そうでないなら今現在のゼロの装
備では太刀打ちが出来ない。
「ルクリュ、奴の弱点は探れるか?」
《やってみますが、時間が必要です。ある程度、敵から距離を取ることを提案します》
「……それは」
 スカリエッティに連れ去られたシエルを、一刻も早く取り戻す。ゼロの頭の中にはこの事しかなく、
それを為すためには一秒でも早く白天王を倒す必要があった。
365ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:49:51 ID:mem8gzpl
「判った、しばらく後退する」
 不本意であるし、敵に後ろを見せるなどゼロにはあり得なかった。ルクリュの案とはいえ、彼には
退けることも出来たのだ。それでもゼロは後退を選択肢、白天王の前から逃げ出した。表現の方法は
どうあれ、彼は逃げたのだ。彼自身がこのとき、それを自覚していたのだから。
 ただし、ゼロは決して白天王から逃げたのではない。奇妙なようだが、彼は白天王の存在そのもの
に恐れ戦いたりしなかった。おそらく彼は、重ね合わせてしまったのだろう。白天王の巨大な圧倒感
と、自分を撃破したオメガの圧倒感を。
 ゼロはオメガから、自分自身から逃げていたのだ。



            第19話「祝福の勇者」


 究極召喚に対して、機動六課が取り得る対処法は少ない。規格外の相手に苦慮するのはゼロも六課
も同じことで、普通ならばアースラによる艦砲射撃を行うのが妥当なところであったろう。だが、
アースラはスカリエッティの侵入と、脱出時に伴う爆発によって軽微ではあるが損害を負っており、
その補修作業を行うために戦線から大きく遠のいていた。不用意に攻撃を行えば、それこそ逆撃の一
発で撃沈されてしまう。
 はやてはアースラの修理を急がせつつも、自身はリインと共に出撃の準備に入っていた。これには
シャーリーを初めとした艦橋要員からの反対も出たが、戦力的な劣勢が形となって現れた以上、はや
て自身も前線に出ることで差を埋める必要があったのだ。
「究極召喚には究極召喚や。至急、キャロに連絡を取れ!」
 その判断は全く持って正しく、ルーテシアの白天王に対抗するには、同じく究極召喚であるキャ
ロ・ル・ルシエのヴォルテールしかいない。真竜と呼ばれる巨大な火竜が相手となれば、白天王とて
ただでは済むまい。あるいは、ヴォルテールで白天王を足止めし、その隙にスカリエッティを急追す
るという選択も取れなくはないはずだ。
 これらすべての考えが、キャロに正確に伝わったわけではない。命令するまでもなく、彼女は敵の
召喚術に対応できるのは自分しかいないと思っていた。ただ、パンテオンなど敵機動部隊の攻撃にあ
い、早々に竜騎召喚を行える状況ではなかったのだ。彼女はスバルやティアナの助けを借りて乱戦を
脱すると、フリードリヒに乗って中空へと羽ばたいた。ヴォルテールを召喚するにもある程度の空間
が必要とされ、精神を集中させることも重要であったからだ。場所を探すキャロであったが、同じよ
うに周囲を見渡し、キャロ自身を捜していた人物がいた。
「見つけた!」
 戦場において似つかわしくない、子供特有の高さと、みずみずしさが含まれた声。飛行型のガジェ
ットの背に乗りながら、凄まじいスピードでキャロへと迫ってくる存在があった。正面から飛び込ん
できた相手に対して、キャロもフリードリヒも反応が遅れた。
「貴女は!?」
 見覚えのある顔だった。自分と同年代と思われる背格好に、紫色の長い髪。瞳は強い輝きを放ちな
がらこちらを見据えており、以前に見られた迷いやよどみのようなものは消えていた。
 ルーテシア・アルピーノ、スカリエッティ一味に与する召喚術士の少女であった。キャロは、この
少女と一対一で顔を合わせたことがあるのだ。
 ジェイル・スカリエッティ事件と言われる前大戦の最終局面、クラナガン決戦においてキャロと
ルーテシアは出会い、激突した。ルーテシアは召喚虫の大軍を指揮し、地上部隊を圧倒していたが、
来援した六課の前に苦戦を強いられ、自身もキャロとの戦闘の末に敗れている。もっとも、キャロに
言わせれば確かにルーテシアを退かせはしたが、それは自主的な戦線離脱に近く、彼女を負かしたと
いう感覚は薄かった。ヴォルテールの火力を持ってしても白天王を仕留めることは出来ず、よくいっ
て互角といったところであったろう。
 だが、ルーテシアとしてもキャロを倒すことは出来なかったわけで、しかも戦闘を中断して離脱を
行ったわけだから、とてもじゃないが勝ったという気分にはなれなかった。負けはしなかったが、勝
ったとも言えない。同じ召喚術士、それも同年代の少女を相手に引き分けた経験は、ルーテシアの心
に深く刻み込まれているようだった。
366ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:51:11 ID:mem8gzpl
 この二人は互いに異なる理由で相手に大して興味を持ったわけだが、キャロが消極的な理由で再
会≠望んだのに対し、ルーテシアは積極的な理由で再戦≠待ちわびていた。そのために今日ま
で修練や鍛錬を続けてきたのであり、ルーテシアにとってキャロは倒すべき敵であったのだ。
「お前は、私とドクターの邪魔になる。だから、ここで!」
 膨大な魔力の波が急激に高まり、ガジェットUの上でルーテシアは魔法陣を展開した。攻撃に備え
て身構えるキャロであるが、何分唐突な遭遇戦と言うこともあって、その反応はやや遅れた。
 なにかの魔法が発動し、強い衝撃がキャロの身体を打ち付けた。それは吹き飛ばされるような衝撃
波ではなく、上から叩き付けられるかのような衝撃感。体勢を崩したキャロは、フリードリヒの背か
ら落下してしまう。
「フリード!」
 竜を愛称で呼びながら、キャロは更なる追撃の可能性を考えルーテシアの姿を確認した。しかし、
意外なことにルーテシアはキャロの落下を確認すると、そのまま背を向けて時の庭園と帰還する針路
を取っていた。白天王と合流するわけでもなく、まるで自分の役目は果たしたと言わんばかりである。
このままキャロが地面に落下して死ぬとでも思ったのだろうか? どこかやり遂げた感のある奇妙な
笑みを浮かべながら、ルーテシアは戦線を離脱していった。
 困惑するキャロを、たまたま近くで戦闘を行っていたエリオが助けた。彼は中空で彼女の身体を抱
き留めると、追いついてきたフリードリヒの手綱を片手でつかんだ。
「あ、ありがとう、エリオ君」
 このところ特に会話もなかった同僚に抱き留められながら、キャロは気恥ずかしさのようなものを
憶えていた。以前はこんな風にエリオに助けられても、特になにも感じなかった。もちろん、感謝の
心はあったが、気恥ずかしさを憶えるなど初めてのことだ。
「キャロ、怪我はない?」
 彼女が自身の感情に戸惑いを憶えていることなど知らず、エリオは当然の質問をした。
「大丈夫、平気だから」
 やせ我慢の類などではなく、事実としてキャロは無傷であった。叩き付けられた衝撃も、バリアジ
ャケットを破損させるようなものではなかったし、フリードリヒの背から落とされはしたが、それに
よって負傷したわけでもない。放出された魔力の割に、攻撃としては弱いように思えた。追撃をかけ
てこなかった点も気になるし、キャロはルーテシアの真意を読めなかった。
 まあ、すぐに理解させられる羽目になるのだが。
 エリオと共にフリードリヒに跨り直し、キャロは戦闘から離れた小高い丘のような場所に降下した。
ここで、ヴォルテールを召喚しようというのである。
「……あれ」
 異変が起きたのはその直後だった。召喚のための呪文を詠唱し始めたキャロであるが、すぐに違和
感を憶えて中断してしまう。召喚のための魔力が高まらず、補助のためのデバイスも起動しないのだ。
「キャロ、どうしたの?」
 見る見る顔が青ざめていくキャロに、エリオが動揺しながらも声を掛ける。キャロはその声を聴い
ているか聴いていないのか、がっくりと地面に膝を突いてしまった。
「召喚術を、封印された……!」
 愕然としたようにキャロは声を上げ、言葉の意味を理解したエリオも声を失ってしまう。
「ヴォルテールを、召喚できない」
 こうして機動六課は最大の戦力を、登場させる間もなく封じ込まれたのだった。

 敵の召喚術を封じ込んだことは、ルーテシアにとって大きな成功、戦果であった。彼女はキャロと
直接に戦闘を行うことを避け、最初からその召喚術を封じる戦略を立てていた。自身もそうであるが、
召喚術士は召喚術に特化するあまり、単体での戦闘能力はあまり高くない。ならば、その最大の武器
である召喚術を封じてしまえば無力化したも同然となり、戦力的にはなんの意味も持たなくなる。戦
闘を行って撃破するよりも、はるかに効率がいいはずだ。
 そう考えたルーテシアは、厳しい修練の間にキャロ対策として封印魔法の勉強を行った。時の庭園
の図書室には魔導書も数多く残されていたが、どれも古い物ばかりで、それを読み解くのは困難を極
めたが、いくつかの書物と、知り得た魔法式を組み立てた結果、古式ながらも強力な封印魔法を開発
することにルーテシアは成功していた。その効果は、見ての通りである。
367ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:52:59 ID:mem8gzpl
「後は、白天王に任せても大丈夫」
 ヴォルテールを封じ込んでしまえば、白天王に敵など存在しない。対抗手段が残されているとすれ
ば、次元航行艦による艦砲射撃程度だが、管理局が発行した赦免状はルーテシア自身のみならず、そ
の下僕たる召喚虫に対しても記載がされている。故にクロノ率いる艦隊は白天王に手出しが出来ず、
はやてのアースラだけでは白天王を倒すことなど不可能だろう。
 ルーテシアの洞察は正しく、ヴォルテールが使用不能となったことで六課は窮地に立たされていた。
如何にフェイトが剛勇を誇ろうと、はやてに知謀の冴えがあろうと、規格外というものは存在するの
だ。全力全開で挑めば、倒せないことはないかも知れない。だが、こんなところで力を使い切れば、
スカリエッティを追撃することが出来なくなってしまう。力を温存しつつ、敵を退ける。白天王が相
手ではその選択を取ることすら難しかった。
 それが判っているからこそ、ルーテシアは悠然と時の庭園へと引き返すことが出来たのだ。白天王
には敵を殲滅ないし蹴散らした後に撤退するように命じてあるし、その前に時の庭園の方が捕捉不能
な宙域まで逃げおおせるかも知れない。どちらにせよ、スカリエッティにとって悪い方向に転ぶわけ
もなく、それがルーテシアには嬉しい。
 白天王の登場によって機動六課は総崩れとなった。元々数が多いわけでもなく、スバルやティアナ
なども巨大な召喚虫相手にまともな戦いが行えるとは思っていなかった。ここでパンテオンを初めと
した敵機動部隊が全面攻勢に移れば、間違いなく六課の機動兵力は壊滅していただろう。そうならな
かったのは、白天王の攻撃が敵味方容赦ないものであり、パンテオンの多くが巻き添えを食ったから
だ。中には白天王を敵と判断して反撃を行う機体すらあり、この混乱が六課に体勢を立て直す時間を
与えたのだ。
「とはいえ、あれをどうにかしないと先には進めない」
 フェイトは深刻そうな表情で、事態の核心を突いていた。白天王を無視して進めるなら良いが、そ
れはおそらく不可能だ。やりようによっては、例えば誰かが白天王の注意を引きつけ、その攻勢を受
け流すことによって別働隊がスカリエッティを急追する、などという戦法もとれるかも知れないが、
それには少ない数で白天王を足止めする必要があり、そんな芸当が出来る実力者は六課であっても多
くはなかった。
「倒すしかない。けど、どうやって?」
 一斉攻撃をかけようにも、現在の六課は格闘戦を得意とする白兵の戦士が多かった。フェイトやス
バルは、登録の上では魔導師だがその技量は接近戦の格闘術、剣術などに特化しており、エリオも一
人前ではないにしろ勇猛な騎士であった。白天王は巨体故に動作も遅いが、近接戦闘を行うには危険
すぎる。大出力の砲撃魔法などで狙い撃ちにするほうが、まだ効果もあるだろう。
 それが出来るのはただ一人、フェイトの親友だけだ。苦く、陰りのある表情を浮かべながら、フェ
イトはその考えを振り払った。自分には、もう彼女を頼る資格はおろか、思い出す資格すらなかった。
 やがて、はやても合流すると白天王を倒すべく即興で作戦が立てられた。大雑把であるが、緻密な
作戦など立てている余裕もない。白天王を撃破できずとも、差し当たって行動不能に追い込めば良い
のである。
「ま、言うだけは簡単やな。問題はそれを実行できるか、やるしかないと言ったところではあるが」
 アースラに敵の、それもスカリエッティの侵入を許したことは、はやてのプライドを大いに傷つけ
た。しかも、六課にとっても貴重なブレーンとなりうるはずだった科学者のシエルを連れ去られ、止
めることすら出来なかったのである。ゼロは既に知っているはずだが、彼に会ったらなんて言えばい
いのか、指揮官であり艦長でもあったはやてにはアースラ内の安全対策にも義務を持っていたし、珍
しいことに責任を感じていたようでもあった。ゼロと違い、シエルに対しては心理的軋轢など抱いて
いないからだろう。
 そのゼロであるが、六課が戦力再編のために再結集した場に姿はなかった。六課の隊員ではないか
ら別に構わないと言えば構わないが、フェイトはルクリュを通じて彼にも連絡はしていたのだ。歴戦
の戦士である彼の意見を仰ぎたかったというのもあるだろうし、単純に顔を見たかったという気持ち
もある。
368ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:54:17 ID:mem8gzpl
「リイン、早急にゼロを見つけて私らと合流させろ。単独行動は各個撃破の対象になるし、戦力は集
中させておいた方がいい」
 シエルを奪われたことで、ゼロは戦意ばかり先行させて暴走しているのではあるまいか? はやて
はそのように考えたが、そもそも混乱極める戦場においては容易に合流できるものでもない。まして、
敵陣深く斬り込んだゼロであれば、単に合流に手間取っているだけかも知れない。
「あ、ゼロを呼びつける際はフェイトちゃんが呼んでたと言うといてな」
「ちょ、ちょっとはやて、どうしてそんな」
「んー、だって私が呼びつけるよりは素直に聞いてくれそうやし」
 大体、さほど間違ってもいないはずだ。リインを送り出すと、はやてとフェイトは作戦を実行に移
すべく行動を開始した。アースラの補修作業が終わるまでの時間に、なんとしても白天王を撃破しな
ければならなかった。

 話に上がったゼロであるが、彼は戦場にあってひたすらパンテオン部隊を撃破していた。さすがに
パンテオン程度に後れを取るゼロではなく、プログレスの高機動もあってか、次々に敵を撃砕してい
く。この間にルクリュが白天王の生体スキャンを行い、弱点など調べているのだが……その結果はあ
まり芳しいものとは言えなかった。
《防御力、耐久力の基準値が桁外れです。大きさに釣り合う強固な身体とでも言うんでしょうか、と
ても私たちの武装じゃ歯が立ちません》
 プログレスはゼロに不足しがちな火力を補うため、重武装が施されている。しかし、その全武装を
解放させても白天王は倒せない。ルクリュの戦術コンピュータはそう答えを導き出しており、あげく
にもっとも有効な手段は撤退、つまり逃げることだと言う始末だった。
「弱点はない、ということか?」
《そうは言っていません。私たちに有効打がないと言うだけで、例えば相手の防御力や耐久力を上回
る攻撃を加えれば、当たり前の話ながら効果はあります》
 極端な話、熱核兵器でも使用すれば白天王とて一溜まりもないはずだ。もしくは、それに匹敵する
火力や爆発力を持った攻撃なら……まあ、これは無い物ねだりでしかない。
《後、考えられる方法があるとすれば、生物的な弱点を突くことです》
「生物的?」
《気温変化とか、体温変化とか、あれだけの巨体を持っていても生物はそういったことには敏感です。
ちょっとやそっとの変化なら適応してしまうでしょうが、それが急激なものなら適応率を振り切って
心身にダメージを与えることが可能かも知れません》
 一理ある意見だが、現実問題として身体機能に影響を与えるほどの環境変化など起こせるわけがな
い。あるいは、フェイトたち魔導師ならその手のことも魔法で行えるのかも知れないが、ゼロは天候
や気候を変動させる力など持ち合わせていない。実現性の低い方法であった。
《目や口、腋などに攻撃を集中させたとしても、あまり効果は得られません。内部から破壊しように
も、まさか毒を盛るわけにもいきませんし》
 要するに万策尽きたということか。核ミサイルとは言わないが、今ひとつ強力な一撃でないと白天
王は倒せない。仮にゼロが空を飛べたなら、白天王など無視して時の庭園へと乗り込んだだろう。だ
が、ゼロに空を飛ぶための翼はなかった。

――太陽に挑むか、イカロスよ

 かつてオメガから投げかけられた言葉が、鮮烈さを持ってゼロの中で響き渡る。ゼロは自身では言
い表せぬ感情を噛みしめながら、オメガの幻影を振り切るようにプログレスを加速させた。
《マスターゼロ、機動六課の魔導師たちが敵巨大生物に攻撃を開始しました》
「なに?」
 あれだけ大きければ、遠目からでも白天王の姿は視認できる。幾本もの光の鎖が白天王の巨体を縛
り上げ、物理的に動きを封じ込めようとしているのが見えた。
「どうするつもりだ」
 ゼロはプログレスの進路を変えると、事態を確認するべく白天王へ向かって走り出した。
369ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:55:41 ID:mem8gzpl
 はやてとフェイトが立案した、当人たち曰く大雑把な作戦というのは次のようなものであった。ま
ず、白天王の進行方向に幾人かの魔導師を配置し、強固なバインド魔法を展開させる。効果のほどは
判らないが、僅かにも動きは鈍るはずだから、そこを狙って全隊員による集中攻撃を浴びせかける、
というのが基本方針だった。
「とにかく足を狙え。片足だけに攻撃を集中して、体勢を崩させろ」
 相手の重量、質量を考えれば、それを支える足に攻撃を集中させ、負荷を与えることは決して間違
っていない。はやての指示が飛び、魔導師や騎士による一斉攻撃が開始された。
 効果はあった。白天王は騒音に近い叫喚を上げたが、それは痛みよりも彼の怒りを増大させてしま
ったようだ。尚も攻撃は続けられたが、いつまでも無抵抗でいる白天王ではなかった。乱暴な動作で
自身に絡みつくバインドを引きちぎると、腹部の水晶体に魔力を集中させる。
「いけない!」
 それがなにを意味するか、キャロだけが知っていた。故に彼女は叫んだが、声に気付いた隊員は少
なかった。
 雷鳴にも似た音響と共に、白天王の魔力砲が撃ち放たれた。瞬時のことで、魔力は十分に高められ
てはいなかったが、それでも六課の隊員たちを蹴散らす程度の威力はあった。たった一撃で、はやて
とフェイト、そしてフォワード四人を除いた戦闘要員が壊滅してしまった。あまりといえばあまりの
威力に、胆力には自信があるはずのはやてでさえ唖然としてしまったという。
「一時撤退、しかないか?」
 究極召喚を舐めていたわけではないが、やはり付け焼き刃の作戦でどうにかなる相手ではなかった
のだ。負傷者の救助を行いつつ、アースラへの撤退を決めたはやてであるが、怒り狂う白天王を前に
した撤退行動は困難であると思われた。とはいえ、攻撃を続行するだけの兵力は残されていない。
「私が、出来る限り敵を引きつける。だから、その隙にはやてたちは撤退を!」
 フェイトはそう言い放つと、単身白天王と戦うべく飛翔した。はやてはその姿に危険なものを感じ
て、一度は止めようとしたという。友人が、まるで自分自身を摩耗するかのように戦いを求めている
ことを、彼女は悟っていたのである。本人が気付いているかは、別として。
「プラズマ――スマッシャァァァァァ!」
 両腕に高めた雷撃の魔力を、魔力砲としてフェイトは撃ち出した。白天王のそれとは比較しようも
ないが、対人魔導師戦闘であれば十分に威力を発揮する砲火である。放射された雷撃砲は白天王の顔
面に直撃し、爆発光を煌めかせた。続けてプラズマランサーが射出され、光の雨となって敵に降り注
ぐ。怒濤の連続攻撃は、フェイトの勇猛さを知らしめはしたが、敵はそれに感嘆も驚嘆もしなかった。
 攻撃をほとんど無傷で耐え抜くと、白天王は巨体から信じられないほどの速度で腕を振り上げた。
実際のところ、ルーテシアの召喚虫の大半がそうであるように、白天王も格闘タイプなのである。柱
よりも太い筋肉の塊を、フェイトはザンバーの大剣を持って受けきろうとした。しかし、振り下ろさ
れた腕の一撃はザンバーごとフェイトを弾き飛ばし、地面へと叩き付けた。
「うぐっ!」
 手加減なしの攻撃を行って、それすらも跳ね返されてしまった。フェイトもはやても、白天王の力
を甘く見ていたのだろうか。こちらの攻撃を無視する狂熱は、今やフェイトを爆砕する勢いであった。
「まだ、まだ」
 体勢を立て直すと、フェイトは正面に飛び込んでハーケンスラッシュの斬撃を白天王の足へと叩き
込んだ。負荷限界にはほど遠いが、それでも痛みは感じるのか白天王の身体が僅かに揺らぐ。
「ハーケンセイバー!」
 高速で魔力刃を撃ち出し、敵の足首へと直撃させるフェイト。圧倒的なまでの技の冴えは、芸術的
な鮮麗さがあった。さらにザンバーフォームを再起動したフェイトは、敵の足首を打ち砕くべく、ジ
ェットザンバーの一撃を繰り出した。
「これで、どうだ!」
 トドメとなるはずの一撃に、あろうことか白天王は逆撃を持って迎え撃った。敵の攻撃の芸術的価
値など認めぬとでも言いたげに、痛むはずの足で蹴りを放ったのである。フェイトがジェットザン
バーを叩き付けるよりも早く、白天王の足は彼女の身体を蹴り飛ばしていた。バリアジャケット越し
にも伝わる、強い衝撃。意識が吹き飛ばされそうになるのを、フェイトは必死で堪えた。
370ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:56:52 ID:mem8gzpl
「ま、まずい」
 身体が痛みを訴え、思うように動かない。この状況で白天王からの追撃を食らえば、抵抗する間も
なく敗れるだろう。
 フェイトは咄嗟に防御魔法を展開したが、白天王は構わず突撃してきた。彼女を踏みつぶすため、
足を踏み上げる。ディフェンサープラスはそれなりの硬さを持つ防御魔法だが、元々高速機動戦に特
化したフェイトにとって防御は不得意な分野だった。まして、発動したのが防ぐことよりも反らすこ
とを重視した魔法であれば、白天王の超重量に一分も耐えられないのではないか。ここは痛みを無視
してでも、高速移動魔法で離脱するべきではないのか。
 その結論は、実行に移されることがなかった。フェイトが動くよりも早く、白天王が彼女を踏みつ
けたのである。圧倒的な巨体と、超重量を持って。


「フェイト……ダメだ、逃げろ」
 移動しつつ戦況を確認していたゼロは、今まさに白天王の前に敗れようとしているフェイトに対し、
弱々しい叫び声を上げていた。その声が彼女に届くわけもなく、ゼロの言葉は虚しさと共に消え失せ
ていく。
《マスター、最大加速で敵に接近し、あの魔導師を救出しますか?》
 ルクリュの提案は、効率よりもゼロの心情を気遣ってのことであった。けれど、気遣われた方は即
断を持って答えることが出来なかった。
「近づいて、敵の攻撃を受けずにフェイトを助け出せるか?」
《保証は出来ません。というより、こちらから攻撃を行ってある程度、敵の注意を引きつける必要が
あります》
「そう、か……」
 自分はなにをしているんだ。即決し、今すぐフェイトを助けに行かなくてどうするのだ。プログレ
スの機動力を持ってすれば、まだ十分に間に合うではないか。なにを躊躇う、なにを恐れる。いつか
ら、自分はこんなにも弱い存在へとなりはててしまったんだ。
「くそっ、どうなっているんだ!」
 声を荒げるゼロに、ルクリュは失望感を滲ませた視線を送っていた。
《もう少しマシな男かと思っていましたが、所詮はこの程度ですか》
 声は小さいが、確かな侮蔑の言葉であった。
「なんだと?」
 ゼロの表情が変化するも、怒りというより傷つけられた少年のそれに似ていた。不本意な言葉であ
り、けれど否定することが出来ない。
《英雄という肩書きがあるぐらいですから、少しは期待していたんですけどね。今の貴方は英雄どこ
ろか戦士にすらなりきれてないじゃないですか》
「……………………」
《この際だから言っておきますが、私は――》
 ルクリュが更に言葉を畳み掛けようとしたとき、それを遮るかの如く別の声が響き渡ってきた。
「ちょっと、こんなところであなたはなにやってるんですか!」
 涼やかな声が、ゼロとルクリュの会話に割ってはいる。ルクリュと同程度の小柄すぎる身体が、ハ
ヤブサのような速さでゼロへと飛び込んできた。
「リインか」
 はやての命を受け、戦場でゼロを探し続けていたリインが、遂にこれを発見して合流したのだ。ゼ
ロがプログレスで高速移動していたこともあるが、散々探し回った挙げ句の合流であり、リインは見
るからに不機嫌そうだった。
「早くフェイト隊長を助けに! このままだと六課が全滅してしまいます」
 判ってはいる。リインの言うとおり、ゼロは今すぐにでもフェイトを助け出すべく行動を起こすべ
きなのだ。
371ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:57:51 ID:mem8gzpl
 それなのに、決断することが出来ない。動くことへの、戦うことへの躊躇いがゼロにはあった。
「オレが……オレが行っても、やられるだけだ」
 嘘ではなかった。現に、今のゼロではどうしたって白天王に勝てないことは、ルクリュも同意する
ところなのだ。剛勇を誇るフェイトですら手も足も出ずに敗れ、ゼロであっても結果は見えている。
「今のオレに、フェイトを助ける力は……」
 ない、と言い切ることがゼロには出来なかった。彼が言葉を言い終えるより早く、リインの足が彼
の頬を打ったのだ。
「なに、ウダウダ言ってるんです! 今は拗ねてるときなんかじゃないでしょう」
 呆然とするゼロに、リインは声を荒げながら捲し立てる。冷めていたルクリュの瞳と違って、彼女
の瞳は怒りに燃えていた。そして、情けなくも自信を喪失した英雄に対し、彼女は辛辣だった。
「拗ねてる、だと?」
「要するにいじけてるだけじゃないですか。自分の思い通りにならないから、負けたことがそんなに
悔しいんですか」
「なっ!」
 核心を鋭利な刃物で突き刺しながら、ゼロが自身で気付いていたかも判らない本質を、リインは無
理やりえぐり出した。物事の順序など一切無視して、彼女は英雄の傷心に槍を突き立てたのだ。ルク
リュが微妙に表情を変化させたが、口に出してはなにも言えなかった。
「誰だって負けるときは負けるんです! 勝ちたいと思って勝てないときもあれば、負けたくないと
思って負けてしまうときだってある! あなたはそんな中の、たった一度の経験をしただけじゃない
ですか」
「だが、オレが負けた事実は次の勝利に繋がるものじゃない。オレと奴の間には、実力差がありすぎ
る」
「なんでそんなことが言いきれるんですか? あなたはまだ、なにもしていない。なにかをする前か
ら諦めて、それでどうするんです」
「無理なんだ。奇跡でも起きない限りオレはオメガに、オリジナルゼロには敵わない!」
 言い切ると同時に、リインがゼロの顎を蹴り上げた。小さな身体からどうしてこれほどの力がある
のか、ゼロが思わずよろめいたほどだ。
「最初から奇跡に縋っているような人が、どうして勝利をつかめますか! あなたにはまだ動く身体
と、戦えるだけの力が残ってるでしょう。それを使わずに、戦う前から負けを認めるなんて、リイン
は許しません」
 リインが許す、許さないの問題ではないはずだったが、言い返そうにもリインは目に涙を溜めてゼ
ロを睨み付けていた。
「やるべきことがあるのなら、あなたは行動すべきです。一人で前に進めないというのなら、リイン
がいくらだってあなたの背中を押してあげます……だから」
 ゼロの額に顔を付けながら、リインが嗚咽混じりの声を上げている。ゼロはそんな彼女の身体を、
指で優しく抱き留めた。ハッとするリインに対し、彼の表情はまだ薄暗かった。
「今のオレは、弱すぎる」
「えぇ、弱っちいです。これでもかってぐらい、見る影もなく」
「もう一度オメガと戦っても、勝てる気がしないどころか、まず間違いなく負けるだろう。それでも
……本当にそれでも」
 良いと言うのか。
 ゼロの問いかけは、答えを求めてのものだった。かつては孤高を貫いていたはずの彼が、誰かに自
身を肯定して貰いたくて、必死になっているようにも見えた。
「……良いですよ、それでも」
 問いかけに対するリインの声を表情は、温かみに満ちたものだった。
「負けるときは、いっそとことん負けた方が良いんです。勝利までの道が遠ければ遠いほど、男は強
く、そして格好良くなるんですから」
「リイン……」
 驚きに目を見開くゼロの前で、リインの身体が光り輝き始める。温かな光は、包み込むようにゼロ
へと纏われていく。
「私の力を、あなたに捧げます。ゼロ、あなたに――」

 史上最高の、祝福を。

372ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 22:59:06 ID:mem8gzpl
 白天王の一撃を前に、ディフェンサープラスによる防御は抵抗も虚しく破られようとしていた。こ
のままでは冗談抜きで殺されてしまうと、生命の危機を感じるフェイトであったが、そんな窮地に追
い込まれても、彼女の身体は動くことが出来なかった。
「……ジェケットパージ!」
 フェイトが叫ぶと同時に、バリアジャケットを構成していた全魔力が解放され、魔力衝撃波が周囲
に撒き散らされた。瞬間的な攻撃は、振り下ろされた白天王の足を払いのけるのには十分だった。だ
が、バリアジャケットを犠牲にするこの攻撃は、一瞬ではあるが敵に無防備な状態を晒す致命的な欠
点がある。バリアジャケットを再構成するにも魔力は必要だし、今のフェイトにはそれを短時間で行
う自信がなかった。本当にその場しのぎの、悪あがきにしかならない攻撃だった。
 白天王は当然の衝撃に仕留め損なった獲物を、今度こそ仕留めようと再度足を振り上げ、振り下ろ
した。
「やられるっ――!」
 無理やり起きあがろうとして、傷の嫌みや骨のきしみにフェイトは苦悶の表情を浮かべた。万事休
す、フェイトが自分の死を覚悟した瞬間だった。親友に詫びることも、仲間を守ること出来ずに死ん
でいく。こんな惨めな最後が待っているとは思わなかったが、これも運命なのだろう。
「ゼロ、ごめん」
 最後にもう一度、一目会いたかった男の名を呟きながら、フェイトは自らの死を受け入れた。
 少なくとも、本人はそのつもりだった。

「いや……謝るのは、オレのほうだ」

 氷烈の風が、辺りに吹き荒れた。

 白天王が唸り声を上げる中、一瞬でフェイトの姿が眼下から消え失せる。彼が踏み砕いたのは魔導
師ではなく、地面に張った氷の塊でしかなかった。細かく砕けた氷を撒き散らしながら、白天王は敵
の姿を追った。
 フェイトを助け、白天王の鉄槌を邪魔した存在は、青白い光りを放ちながら、悠然とした姿勢で立
っていた。その手にフェイト抱えながら、のぞき込むように彼女の顔を見つめている。
「遅れてすまない、本当に」
「ゼロ……貴方、その姿は」
 青く輝くボディに、肌寒い感触。クールなゼロが、更にクールになってしまったかのような涼やか
さ。バリアジャケットをより華麗にしたような装備に身を包みながら、ゼロは身体から強い魔力をみ
なぎらせていた。

 祝福の勇者――異世界の英雄であるゼロと、古代ベルカの融合機、そのレプリカであるリインがユ
ニゾンした、新たなる戦士が降臨したのだ。

「フェイト、お前はアースラに戻っていろ。プログレスがお前を連れて行く」
 いつの間にか到着していたプログレスが、多目的マニピュレーターを使ってフェイトの身体をつか
み上げる。
「でも、いくら貴方でもあいつ相手に一人じゃ」
「大丈夫だ」
 フェイトの心配を吹き飛ばすかのように、祝福の勇者は微笑を浮かべていた。
「すぐに、終わらせる」
 プログレスの機体から重機関銃の一つを外すと、ゼロはそのまま飛び上がった。翼はないが、羽衣
のようなものが彼を空へと誘っていく。白天王は小賢しくも現れた敵に拳を振り上げるが、ゼロは受
け流すかのように軌道を変えて、その攻撃を避けきる。実に静かな動作だった。
373ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 23:00:08 ID:mem8gzpl
「お前は少し、暴れすぎだ」
 重機関銃を構えるゼロの手の中で、銃器の形態が変化していく。機関銃はロングレンジの、長距離
用の大型狙撃銃のようなものへ変形していった。
 狙いを付け、ゼロは変化した武器を斉射する。
「ブリザードアロー!」
『フリジットダガー!』
 ゼロが撃ち出した氷の矢と、リインが投げ放った氷の短剣が白天王に襲いかかった。硬質の氷は、
強靱な白天王の外殻を貫き、発達した筋肉へとめり込んでいく。奇声が上がり、それと同時に血が噴
き出した。白天王が久方忘れていた肉体的な痛みを、ゼロは思い出させてやったのだ。
 振り上げられた腕は、ゼロが抜きはなった二刀の短い刃、これもまた変形したゼットセイバーの双
撃に弾き返された。斬撃を受けた箇所が凍結し始め、さすがの白天王にも動揺が広がっていく。ルク
リュは言った。生物であれば、急激な温度変化には弱いものであると。で、あるならば……
 白天王は叫喚を上げながら、腹部の水晶体に魔力を再集中した。最大出力の魔力砲撃で、ゼロを吹
き飛ばすつもりなのだ。
「オレはもう、逃げない」
 魔力の高まりを肌で感じながら、ゼロは冷静にトリプルロッドを構えている。目には強い輝きと闘
志が宿っており、彼の中でなにかが吹っ切れた証拠だった。
「オレは悩まない、悩むことなく、目の前にいる敵を叩き斬る。誰に言われたわけでもない、オレが
そう決めたんだ」
 それがオレの、ゼロの生き方なのだ。
 トリプルロッドを中心に、氷塊が結集し始める。白天王はそれに気付いていたが、彼は最大出力を
持ってゼロを倒すことに拘り、対応が僅かに遅れてしまった。そしてその僅かな時間が、ゼロにとっ
ての有効打となったのだ。

「氷烈斬!!」

 投擲された氷の槍が、白天王の水晶体を貫いた。

 今まさに砲撃を行わんと魔力を高めていた水晶体は砕け、放出された白天王自身の魔力が、彼の身
体を打ち付けた。
『今です! 捕らえよ、凍てつく足枷――フリーレンフェッセルン!』
 リインの叫びがこだますると共に、トリプルロッドによって貫かれた腹部を中心に、白天王の身体
が凍結を開始した。もがき苦しむ白天王であるが、凍結し、そして氷結していく自身の身体に、動く
ことすらままならなくなっていた。これはルーテシアがキャロに行ったことを、形を変えて再現した
のだ。ゼロとリインは、圧倒的すぎる白天王を撃破するのは難しいと考え、瞬間凍結による封印を行
ったのだ。
 巨体が氷塊へと姿を変えていきながら、悲しみに満ちた鳴き声がアルトセイムの大地に響き渡った。
それは戦場を離れた主人に向けてのものだったのか、判断できるものは誰もいなかった。
「やったか……」
 氷付けとなった白天王を確認しながら、ゼロはゆっくりと降下し始める。だが、その途中で突然ユ
ニゾンが解除され、彼はかなりの距離を着地する羽目になった。解除されるにも早すぎる時間であり、
極端に相性が悪いと言うことがなければ、かなり長時間はユニゾンを維持できるはずである。
「どうした、リイン?」
 ゼロの手のひらに降ってきたリインは、肩で息をしながら辛そうな表情を彼へと向けた。
「さすがに、あれだけ大きな存在を封印するには、疲れますね」
 魔力を限界まで出し切ったのだろう。白天王を封印したことで、リインは全力を使い果たしたのだ。
ゼロは強い瞳で彼女を見つめながら、その戦功を労った。
「お前のおかげだ、リイン。お前のおかげで、オレは勝てた」
「なに、当たり前のこと言ってるんですか……けど、いいですね。やっぱりあなたはそういう目をし
てないと。リインはヒーローみたいに格好いい貴方が、大好きなんですから」
 言いながら、リインはそのまま気を失ってしまった。最後の辺りはほとんど無意識で呟いたのだろ
うが、ゼロに聞こえたかどうかは定かではない。彼はリインの身体を労りながら、時の庭園が消えた
空を見上げた。
374ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 23:01:33 ID:mem8gzpl
「シエル、待っていてくれ。オレは必ずお前を、助けに行く」
 ゼロとリインの奮闘によって、白天王は倒された。一時的な封印ではあるが、補修を終えたアース
ラの出航が邪魔されなければいいのだ。はやてはリインを医務室に移すよう指示をだしながら、同時
にアースラのアルトセイム離脱を告げた。訊くまでもないが、一応の目的を問われて、彼女は答えた。
「時の庭園へ、スカリエッティの根拠地まで」

 取り残されたのは、クロノ率いる時空管理局本局の次元航行艦隊であった。戦場から遠く離れた場
所まで後退していた彼らは、戦闘終結後にノコノコと戻ってきて、六課が収容しきれなかった負傷兵
の救助活動などを始めていた。
「つまり、なにが仰りたいんですか?」
 通信スクリーンの前で、クロノは不快そうな気分を表情と声に出さないように努力しつつ、半分以
上失敗していた。
『貴官は艦隊指揮官という地位を賜りながら、叛乱分子の鎮圧すら行わず事態の推移を眺めているだ
けだった。これはどういうことだ』
 アルトセイムにて戦闘が発生し報を受け、狼狽した三提督はオーリス・ゲイズに通信回線を繋いだ。
どうして機動六課を監視しなかったのか、何故叛乱を未然に防げなかったのか、そのようになじった
のだが、オーリスは冷静に対処した。
「私は上層部の命令通り、可能な限り≠フ不穏分子を監視しました。ですが、人員が足りないこと
は事前に申していたはずですし、補充要員の申請もちゃんと行いましたが?」
『貴重な本局の戦力を、地上などに回していられるものか!』
 そう叫ぶと、地上に対する悪態を散々付いてから三提督は通信回線を切った。それでも気分が収ま
らなかったので、今度は現場指揮官であるクロノに不平を鳴らす番と言うことになったのだ。クロノ
はオーリスほど冷静ではなかったが、激情していた三提督に比べれば、大分マシな方であったと言え
る。
「我々が不用意に六課と戦闘を行えば、スカリエッティが配置した機動兵力に攻撃を受ける恐れがあ
りました。ですが、赦免状がある限り我々が反撃を行うことは出来ません。我々は六課とスカリエッ
ティ双方を敵に回しながら戦闘を行えるほど器用ではありませんし、そもそもスカリエッティは大軍
を持って六課を迎え撃っていました。そこに我々が援護しても影響は微々たるもので、効果などあり
はしないと判断したのですが」
 色々理屈をこね回しはしたが、正直なところはそこまで面倒見切れるか、という気分が強かった。
『だが、機動六課とは貴官も薄からぬ繋がりがあったはずだ。説得して暴挙を止めさせることも、出
来たのではないか』
「戦闘の影響で、付近の磁場が乱れ、通信を行うにも困難な状況にありました。近づこうにも苛烈極
まる戦闘の余波など受けては大変です。小官には、艦隊を守る義務がありますから」
『馬鹿な、叛乱分子を捉えずして、なんのために六隻もの艦艇を派遣したと……』
 どうやら、数の多さは敵ではなく味方に対する牽制だったようだ。クロノは怒りを通り越して呆れ
たが、呆れてばかりもいられなかった。
『それで、機動六課はどうしている』
「スカリエッティを追いましたよ。当たり前でしょう」
『ならば、どうして貴官はそれを追撃しない!』
 したくないからだ、などとは当然言えないので、クロノは用意しておいた答えを相手に渡すだけだ
った。
「命令がありません。小官に下された任務はスカリエッティとの取引を行うことのみで、それは無事
に果たしました。その後における帰還以外の行動は指揮官の独断となり、軍規でも厳しく戒められて
いることと思われますが」
 動かしたいなら正式な命令をすることだ、そうクロノは言ってやってるのだが、意外にも相手は罵
声を発することなく、クロノの言葉に納得したようであった。三提督の一時的な不興を買って、さっ
さとこの場から離れようと思っていたクロノは、当てが外れたのである。
『クロノ提督に命ずる。貴官の艦隊を持って逃亡した機動六課を捕捉、これを捕縛しろ。生死は問わ
ない、抵抗ある場合は撃沈、撃滅も許可する』
 ハッキリそう宣言されてしまい、クロノは逃げ道を失った。ここで断れば、一時的な不興では済ま
ない事態となる。クロノは数秒の後、黙って頭を下げた。それは、表情を隠すための動作であって、
命令の拒否をするものではなかった。
「命令、謹んでお受けいたします」
 逃げるスカリエッティと、追う機動六課。そしてそれを更に追いかける時空管理局と、三者が織り
なす追撃戦がここに幕を開けたのだった。
                                つづく
375ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o :2009/09/23(水) 23:04:49 ID:mem8gzpl
第19話です。
SW期間中に沢山書き進めるつもりが、なんだかんだと色々あって結局1話だけに。
さよなら地上、飛び立とう大空へ、今回は振りきる話ですね。いや、吹っ切るかな。
9月中もしくは10月の初旬に完結できるように頑張ります。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
376名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/23(水) 23:14:56 ID:Oh86dqaD
ゼロ先生、今回もGJでした!

・ボスラッシュの第一幕として、前期では叶わなかったゼロvs白天王。
・ゼロの(心身にわたる)敗北の傷どころか、前作の不遇っぷりすらも一蹴してのけたリィンの叱咤激励と
まさに『史上最高の祝福』・・・。(リィンは前作からお気に入りだったので感激しました。)
・そして彼女の思いに応えるようにブレない心の再起と、新たなる力を得たゼロ。
・(クロノ奮起フラグとはいえ)今回の痛快劇すらも陰鬱に叩き落とすダメダメ三提督(ある意味一番最後に締めるべき相手か!?)・・・

・・・などなど、迅速かつ充実の内容にはただただ圧倒かつ魅了されましたよ。
次回以降の混迷の事態にも、不安以上の期待と共に、焦らず慌てず待たせていただきますね。
377名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/23(水) 23:33:38 ID:HLpFnI/Y
乙!
リインやっと出番が回ってきたなw
378名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 00:17:01 ID:SKv+8IMr
ゼロ氏乙です!
早い投稿こちらも非常に楽しく読ませてもらっています
ここからのゼロやはやて達の逆転劇を楽しみに待っています
379名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 10:21:15 ID:V14Ze+5K
ゼロ氏の速筆に驚嘆しながらGJ!!


まさかの白天王バトルですね〜。やっぱりデカいボスとの戦いもロックマンの魅力だったりしますからね。

ついに果たされたユニゾン! 長い長い伏線でしたねwww


さて、ようやくゼロも本来の自分に戻れたみたいですし、プログレスも駆使して頑張ってもらいたい!


そしてゼロ氏頑張って下さい!
380名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 16:09:57 ID:yGaHPrWa
毎度毎度無意味な改行鬱陶しいな
381一尉:2009/09/24(木) 18:02:57 ID:mBDBKF1B
偽者は支援
382379:2009/09/24(木) 18:57:43 ID:V14Ze+5K
>>380
悪い・・・・・・読みやすいかと思ったんだが。
383ロクゼロ ◆3edSxDUK0o :2009/09/24(木) 20:29:30 ID:rFHvR2Ck
>>382
雑言など気にすることはない。私が読みやすいかどうかなのだから。
384名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 21:31:56 ID:lf0OilNl
>>359
GJ!
遂に決戦開始!
アドニス外道!
このなのはとヴィヴィオの戦いはマジで燃えるものがあるぜ!
385名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 21:49:41 ID:oyb02sZB
あのゲームレザードも仲間に出来るのだから再戦の際
セラフィックゲートで強くなったのは貴方たちだけではないのですよとか言って来るのだろうか
386名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 22:43:31 ID:YMG6AaI9
>>385
だとしたら絶望しかないzy(ry
387名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/25(金) 01:19:57 ID:mxiYVkUV
もうそうなれば次元を超えてUCATの変態共を投入、ギャグ補正で

ぐあぁ、何をs(ry
388名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/25(金) 17:16:46 ID:/qQDLJKC
>>387
あいつらだけは止めてくれ byヴィータ
やめてくださいやめてくださいやめてくだs(ry byリーンフォースU
『…………』(無言かつ暗い表情のナンバーズ。うち、なぜか顔を赤くしているヤツ二名)
『……………………』(珍しく疲れた顔&涙目な三人娘)

二ヶ月立ったけど、やっぱり最終回は難しいんだろうな。
あと、他にも色々書いているらしいし。
……ここ最近、どっちも更新ないけど。大丈夫かな?夢境学園氏
389一尉:2009/09/25(金) 18:45:07 ID:QZqXRQU4
万ロ支援
390名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/25(金) 19:38:01 ID:Zktf7fyn
ならば最強のメイドガイを
ん誰だこんな時間に
391名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/25(金) 20:38:01 ID:uvkWc/Q6
>>388
氏は他スレでなんか忙しいと話してたぞ。
見る限り、2〜3スレで平行して書いてるようなんで大変なんだろう(2スレは確定。つか、俺の出入り先w)
どっちの作品も読みたいけど、無理はせずによろしくです。
392シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/25(金) 23:04:39 ID:I0ZWCsTH
こんばんは!『マクロスなのは』第5話を投下したいと・・・ああ、容量って500までですよね。
新スレに移行するまで修正作業してます。
393一尉:2009/09/26(土) 16:54:19 ID:kFDpyThm
遺作支援
394名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 19:00:12 ID:rk3F1XVw
395名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 19:01:22 ID:rk3F1XVw
………Sagaって……なんだよorz
本気でごめんなさい。拷問受けてくる
396名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 19:14:11 ID:HYSruMgG
>>394
おいおい、新テンプレも決めてないのに勝手に立てるなよ。
避難所へのアドレスとか全部そのままのコピペじゃないか。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 19:17:09 ID:iXTmSYdS
じゃあさっさと決めれば良かったじゃない
398名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 19:17:27 ID:rk3F1XVw
あ…本当ゴメン…
399名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 19:21:23 ID:JWoDAWME
さっさと決めれば良かったのは事実だけど先走りもよくない。
大体、建てる前に自分が建てると一言自分が建てる旨を断るもんじゃない?
そうすれば「テンプレまだだから待った」と止められたんだけどな。
400名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 23:46:23 ID:QvhTPODO
修正したテンプレ書き込めばいい話
401名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 05:12:37 ID:PdGQo9E+
つーか、次スレの時期だけどテンプレ練り直してないって誰も言わなかったんだから
みんなに責任有だろ?
ンなワケで、あんま気にスンナよ、ID:rk3F1XVwさん

つってもほとんどの人も次スレに行ってそうだがな
402名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 10:36:10 ID:kKrSlRJ7
取り敢えず新テンプレに盛り込むのは避難所から何が何処に移ったかと、雑談OKになったことだな。

移り先のURLをまずは用意しないと。
403一尉:2009/09/27(日) 10:40:08 ID:/qcicI8f
コカトリスを支援
404名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 03:32:07 ID:S1VGp+wy
クロスとは違うのだろうけどリリカルなのはを今川監督が担当したらというのを考えたが

まず魔法使わなくても超人並みになりそうだ
405名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 12:05:40 ID:Hinw/0MP
>>400
議論は無視しない。
406名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 12:16:04 ID:zfuzv65K
>404
真魔法少女リリカルなのは 衝撃!無印編
別名「スーパー都築大戦」、クロスは都築作品・JANIS作品から?
407名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 13:22:33 ID:+U9U69e5
なのはの兄が無双する作品の評判の悪さを時折耳にするが
今川監督が制作に関わっているのなら別になんら可笑しくない気がするのは気のせいだろうか
408名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 13:28:33 ID:9A69ltKR
気のせいだな。
今川作品なら敵側も無双要素持ってるから。
一方的蹂躙はない。
409シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/28(月) 14:38:29 ID:KXlTHhL+
あの新スレに投下していいんでしょうか?
もし1600時までに反対意見が出ないようなら「マクロスなのは」第5話を投下したいと思ってますが・・・
410名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 14:52:18 ID:4A1m5Gtq
>>406
最後、ヴィヴィオがすべてを裏切って自決の一人勝ちということか
411シレンヤ ◆/i4oRua1QU :2009/09/28(月) 14:52:46 ID:KXlTHhL+
・・・と、反対意見が出たのでまた次回に。では。
412一尉:2009/09/28(月) 17:57:42 ID:olK3H/u+
賛成支援
413名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 20:28:34 ID:Hinw/0MP
>>411
少々お待ちを。今新テンプレ作成議論中ですから。


そして雑談はOKだが議論は無視しないよーに。
414名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 22:35:26 ID:S1VGp+wy
>>406
それこそは 

それこそは! 

それこそは!! 

それこそは!!!

そ れ こ そ は ! ! ! !


なのは「ディバイィィィーーン バスタァァァーーー!!!」
415名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 23:54:17 ID:1I2e9ozI
議論は議論スレで行うものだろう。あれは元々テンプレを決めるスレだ。
416名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/29(火) 12:39:39 ID:iTn3Gmj4
このままじゃ、職人さんが動けねぇし、とりあえずは次スレ使い始めようや

んで、テンプレ案を、避難所の議論スレでやりゃあどうだい?
そんで、次スレが埋まりそうな頃に、このテンプレでみたいにすりゃいいじゃん、とか思ったんだが

予約した方に待てといった状態なのに、一向に進まないんだし、さ
417名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/29(火) 14:36:23 ID:YWjPdMLQ
同意。テンプレ議論中だからと言っても、次々スレから使えばいい話だと思う。
投下したい人がいるのに、その場所がない。いつ使えるか分からないというのは。

そんなに取り急ぎ整備しないとスレが全く動かせないなんてものでもないと思う。
418NZ:2009/09/29(火) 18:42:57 ID:T525l7dI
はじめまして
わたしにはスレは立てられないのでどなたか立てていただくと
職人さんもらくだとおもうのですが・・・(勝手なこと言っていてすみませ
ん)
419名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/29(火) 19:19:54 ID:GS4IG2lt
420一尉:2009/09/29(火) 19:25:43 ID:qtTK3m27
黒炎斬支援
421名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 12:32:59 ID:O9Pl7F3i
埋めなくていいのかここ?
422名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 13:22:58 ID:wTuGXKEo
埋めればいいじゃない
423名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 16:37:33 ID:nZvz2GQz
とりあえず埋め
424NZ:2009/10/01(木) 17:46:09 ID:1VODetRN
埋め以下う連続ううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううう
(容量を埋めるつもりで荒し同然の事をしてしまい誠に申し訳御座いません
でした)
425一尉:2009/10/01(木) 19:22:26 ID:4zipeZj5
新人を埋める
426NZ:2009/10/01(木) 19:36:20 ID:1VODetRN
またまた埋め
427名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 20:06:51 ID:9KpyUwtV
AAとか容量埋めの方がいいんじゃないか
428NZ:2009/10/01(木) 20:09:16 ID:1VODetRN
埋め以下う連続ううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううう
(容量を埋めるつもりで荒し同然の事をしてしまい誠に申し訳御座いません
でした)


429名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 20:21:32 ID:FEc+COnx
   ∧             /i,  /|
  ヽ Y   ∧     ,.   | ,'//
   'i |   i !    / |  i ' /
    i i ∧/ /   / i  /  /
.    'i ',ヽ ' /   〈  i / /
    | ' j |    ヽ. V /
    ヽ、 i !     〉 ./
      ヽ,,; |    //
      i:〉 ´''''''''゙'r ´`>
.      i´ : :,.,.,. :. ヘ/
      !: : :,'r‐ァ : : ヽ
     /: : ,',. `´: : : : : ゝ、
    ;;;;;;; : : : : : ,.;;; : : : : `‐ .,
    ヽ,_ : :_, 1:;:;'' : : : : : : : :ヽ.、
          i': : : : : : : : : : : : : ;`‐- .,
.         |: : : : : : : : : : : : : : ,',',:',:',:ヽ、
.         | : : : : : : : : : : : ,;',;',;',;',;': :, '::.ヽ
         i: : : : : : : : : : ,; ; : ; : ;: ; : : : ; :
        名前 マタオオニシカ
        学名 Michelle Higgins Cervus
        英名 Cervus of Akahi
        分類 偶蹄目(ウシ目)シカ科売日属
        分布 The New York Times
430名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 20:28:37 ID:FEc+COnx
   _| ̄|○ _| ̄|○ _| ̄|○ 酋 ○| ̄|_ ○| ̄|_ ○| ̄|_
 ∧∧           §飯研スレ之門§             ∧∧
<;‘∀‘>∩ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓∩<‘∀‘;>
     ..⊃┃”我を過ぐれば三十路以上の園なり、”    ┃⊂
 \ /... ...┃”我を過ぐれば昭和の匂い香し、”      .┃ \ /
   \  ......┃”我を過ぐれば寒冷の洒落甚だし”   ..  .┃  /
       ....┃”汝等こゝに入るもの一切の慎みを棄てよ”.┃
   ......  |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
       |  | さぁ、来るんだ同志>>975、      ...  |  |
       |  |              ハン板の極北へ .....|  |
    .._ |_|       ∧∧      ∧∧      ....|_|_..
       |  |      <   > ∧∧ <   >     ....|  |
       |  |      (==\<`Д´>テ==)     ..|  |
       |  |       >λ )(   ) | i 丿      ..|  |
       |  |       ○ ( ) O人O ( )        ...|  |
       |  |/          ∫ ∫        ......\|  |
       |  |           ∫ ∫ズルズル      .... |  |
     .._|/|      _ _ _ _ _ _ _ _ _ _     .....|\|_
    / ..|  |   _  駄洒落 駄洒落 駄洒落      ......|  |  \
       |  |/_/ 駄洒落 駄洒落 駄洒落 駄...\_\|  |
     .._| /_/ 駄洒落 駄洒落 駄洒落 駄洒 \_\ |_
       /_/ 駄洒落 駄洒落 駄洒落 駄洒落  .\_\
     /  / 駄洒落 駄洒落 駄洒落 駄洒落 駄洒 .\  \

             カチャ             ドゴ――――――ン !!!
         ─┬=====┬─┬─┬
           ヽ┴-----┴ 、/_ /
         ==||:|: 乃 :|: 「r-┴──o,,...-:':::":~~,,. ~~""':::":~~,,. ~~""''':::..,,,
   ____________ |:|:__ :|: ||--┬┘ -::..,,,. ;;;;;,,,...:::--,...,.... ;;;;;,,,...:::--''''"~
   |ミ///ロ-D/   ~~|ミ|丘百~((==___  (|   |)
 . └┼-┴─┴───┴──┐~~'''''-ゝ-┤
   ((◎)~~~O~~~~~O~~(◎))三)──)三)
    ゝ(◎)(◎∩◎)(◎)(∩)ノ三ノ──ノ三ノ
431名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 20:29:38 ID:FEc+COnx
  _, ._
  ( ゚ Д゚)
  ( つ旦O
  と_)_)

    _, ._
  ( ゚ Д゚)   ガシャ
  ( つ O. __
  と_)_) (__()、;.o:。
          ゚*・:.。

   _, ._
  ( ゚ Д゚)   トゥルルルルル
  ( つ O. __
  と_)_) (__()、;.o:。
          ゚*・:.。

                ./t''./─
             。./"゜ /"   __,,,,,,     ドゴーーーーーーーーーーーッ!!
            |]l.   [  ./"゛゜
   _, ._    ハッシャ!!〈 ]r   「  "   ./─
  ( ゚ Д゚)       〈          ヾ  _____
  ( つ O. __   /  |  ./''''^^^^^^─   ゚ `、================================
  と_)_) (__()    ヽ ヾ
           \   
              (  ^.     /      _================================
             [     ^^^^^^   __
            |   。.         ^
            |   | .ヽ   ^^^^^^
             t、  ゚l(、 \---.
              \、  ゚.ヽ
                  /
           /|    _ _ / _/_/ /
          _ / !//  _/ ._/  _/
              /           ジュッ
    , '´⌒´ヽ       ̄ ̄ ̄ ̄二三二 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    ! 〈ル'ハ)〉☆         三三三二
    ! (l゚ ‐゚ノ!    __二三三三二_______
    !i ⊂'ハiつ .ヽl\l    l l l  >>
    !i_ /_j〉,ゝ         ∪∪
      し'ノ
   すみません水瀬さん、技を借りますね。
432名無しさん@お腹いっぱい。
                 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 | ちょ、ちょーとまって!!!今>>481がいいこと言った!!
     , ,-;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:,.  ヽ─y──────────────   ,-v-、
    /;:;:;:;:;:;:ミミ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;`、                          / _ノ_ノ:^)
    /;:;:;:;:彡―ー-、_;:;:;:;:;:;:;:;|                           / _ノ_ノ_ノ /)
    |;:;:;:ノ、     `、;;:;:;:;:;:i                        / ノ ノノ//
    |;:/_ヽ ,,,,,,,,,,  |;:;:;:;:;:;!                      ____/  ______ ノ
    | ' ゚ ''/ ┌。-、  |;:;:;:;:/                     _.. r("  `ー" 、 ノ
    |` ノ(  ヽ  ソ  |ノ|/               _. -‐ '"´  l l-、    ゙ ノ
_,-ー| /_` ”'  \  ノ   __       . -‐ ' "´        l ヽ`ー''"ー'"
 | :  | )ヾ三ニヽ   /ヽ ' "´/`゙ ーァ' "´  ‐'"´         ヽ、`ー /ノ
 ヽ  `、___,.-ー' |   /   /                __.. -'-'"
  |    | \   / |   l   /            . -‐ '"´
  \   |___>< / ヽ
:.,' . : : ; .::i'メ、,_  i.::l ';:.: l '、:.:::! l::! : :'、:i'、: : !, : : : : : :l:.'、: :
'! ,' . : i .;'l;' _,,ニ';、,iソ  '; :l ,';.::! i:.!  : '、!:';:. :!:. : : : :.; i : :'、:
i:.i、: :。:!.i.:',r'゙,rf"`'iミ,`'' ゙ ';.i `N,_i;i___,,_,'、-';‐l'i'':':':':‐!: i : : '、
i:.!:'、: :.:!l :'゙ i゙:;i{igil};:;l'   ヾ!  'i : l',r',テr'‐ミ;‐ミ';i:'i::. : i i i : : :i
:!!゚:i.'、o:'、 ゙、::゙''".::ノ        i゙:;:li,__,ノ;:'.、'、 :'i:::. i. !! : : !:
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: i ,'. . : :',      、,,_            ,.:': ,r'. : , : : !: :        あやまれ!!
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               |  '゙''"'''゙ y-―, あ ふんぐるい むぐるうなふ まてにむ
               ミ ´ ∀ `  ,:'     
             (丶    (丶 ミ   いあ    いあ
          ((    ミ        ;':  ハ,_,ハ   ハ,_,ハ
              ;:        ミ   ';´∀` '; ';´∀` ';
              `:;       ,:'  c  c.ミ'  c  c.ミ
               U"゙'''~"^'丶)   u''゙"J   u''゙"J


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     ,―-y'"'~"゙´  |   それ  ぐらびてぃ うがふなぐる しんあか
     ヽ  ´ ∀ `  ゙':
     ミ  .,/)   、/)    いあ    いあ
     ゙,   "'   ´''ミ   ハ,_,ハ    ハ,_,ハ
  ((  ミ       ;:'  ,:' ´∀`';  ,:' ´∀`';
      ';      彡  :: っ ,っ  :: っ ,っ
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