あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part215

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part214
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1234692557/

まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 01:37:28 ID:vjPvYXuP
>>1乙ー
3名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 01:38:49 ID:IQNwBC/i
>>1
4名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 07:04:41 ID:Lkpnjlop
>>1
5名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 07:48:24 ID:4z/iQgMn
                                          ○________
                               なぎはらえー     |:|\\:::::||.:.||::::://|    /イ
                                              |:l\\\||.:.|l///|  .///
                         __ ィ   ,. -――- 、     |:|:二二二二二二二 !// /
                        /    /          \.   |:l///||.:.|l\\\|/  /
                / ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./  / /   l l l lハ  |:|//:::::||.:.||:::::\\l    /
  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -――く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
.    \\_____ivvvvvvvv|   V.    (  (  /Tえハフ{  V   ‐一 '´ /     __. -―=-`      /  / l  l
       \!      |   / 入_.V/|      >-ヘ  \:::∨::∧  ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ /        /   / l.  l
 __  |\       l/V  _{_____/x|    (_|::::__ノ   }ィ介ーヘ  /  ,.-‐ ' ´           /       ____  ̄ ̄フ ∧  l
  )-ヘ j ̄} /|        /___/xx|       _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___           {     /      `<  /  \|
  {  V  /`7.         /___./xXハ    ( |:::::::::::::::::ハ   >' ____ 二二二二二二>   /   __    〈
.  \_   |/        /___l XX∧     __≧__::::::::/:∧/   `丶、           /     {   {____ハ    }
    |   ヽ        /____|]]∧  __|__L.∠ ム'  <`丶 、 `丶、       /       \_____/    /
    |     ',         {     |]]]>'  __      ∧ l\ \   丶、 ` 、   ∠ -――-  ..____ノ   /
   ノ     }       l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/  V'  \ ヽ    `丶\/                 /
  / ∧   { \      |      .|>' /      // :/ :/ :   ', l   \ ヽ  ,.-――┬      \         /
 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
`ー′   \  `<  | {      /   | /〃   :|/  __V/ ̄| ̄ ̄{_     \_      ` <
        \  `' ┴ヘ     {    .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' |    /  ノ`y‐一'  >、_/   / ̄ 7丶、_   丶
         \    ヽ   /`ー「と_し^´ |  |    }  ム-‐'  /     /    \_/  /  /  ヘ    \
           ヽ   _>-ヶ--∧_}   ノ  j   /` 7 ̄ ̄ ̄{      (         ̄ ̄`ー‐^ーく_〉  .ト、_>
            ', /     人__/   .ィ  {__ノ`ー'    ヽ    人     \__              {  }  |
            V     人__/  / | /           ̄{ ̄  >‐ ァ-、    \             〉ー}  j
                {  / ./  ∨      __      ̄ ̄ >-</  / ̄ ̄         廴ノ  '
      <ヽ__      /し /        < )__ \   _r‐く___/  /    < ) \     {__ノ /
        Y__>一'    /         ___r―、_\ >'   `ー' ,.  ´       >.、 \__ノ    {
     ∠二)―、       `ー‐┐    ∠ ∠_r‐--―      <__       ∠ )__          \_
       ∠)__ノ ̄`‐⌒ヽ__|>      ∠)__r―――-― ..__{>        ∠_廴,. ⌒ー'  ̄ \__{>
6名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 07:50:00 ID:FhB3dvFD
NGID
4z/iQgMn
7名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 09:36:27 ID:3OBmgfNX
そろそろSIRENからSDK召喚物が来ることを信じて疑わない
まあ異界とか平行世界移動できるから普通に帰ったり出来そうなんだが
SIREN2のあれってたしか自分の意思じゃなくて召喚されたんだったよな?
8名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 09:44:15 ID:MhEAsnRR
小ネタで学園が常世に召喚されるやつなら会った。
SDK来ても、あの世界の魔物は動物とあんまり変わらないし、すぐに帰りそう。
だからと言って、あのタツノオトシゴ召喚しても、飢饉でもなければ食われないだろうし
光に弱いから広場で召喚されてもすぐに死ぬぞ(これは2の敵にも言える)
9名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 11:59:36 ID:a/kyzbMa
才人VS7万戦直前にテファに召喚されて戦闘に乱入、アンドバリの指輪で操られてる死者皆殺しにして即帰還
何が起こったか分からずあっけに取られる才人とか

以前投下されたFF8のギルガメッシュ召喚の小ネタもこんな感じで面白かった
10名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 12:48:52 ID:pMT8n7/k
SDKと見るたびにスーパードンキーコングと読んでしまう。
11名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 13:50:50 ID:mCsc2UAq
スーパードクターK
12名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 13:58:00 ID:K3a2TZ1r
Software Development Kit
13名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 14:21:56 ID:bUSYipcU
Sugoi Daisuki Katorea
14名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 14:31:33 ID:X1X2Tip2
S もってて
D よかった
K マナライフ

>>10
もうドンキーにしか見えない
15悠二の人:2009/02/20(金) 15:37:11 ID:VNkxpoq7
予約なかったら15:45に投下します
16名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 15:38:48 ID:qUtrO5xe
>>1乙ッ!そして支援
17残り滓の使い魔-04:2009/02/20(金) 15:45:27 ID:VNkxpoq7
「で、君の結論は?」
「あの少年は、『ガンダールヴ』です! オールド・オスマン」
学院長室では、コルベールが学院長であるオスマンに『ガンダールヴ』について力説していた。
今年の春の使い魔召喚の儀式で、ある女生徒が呼び出した使い魔である、平民の少年の左手に刻まれたルーンが、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンと一致していたからだった。

「じゃあ本人に来てもらって、確かめてみようかの」
オスマンはそう言うと、おもむろに杖を振り、ドアのほうへ声を掛けた。
「ほれ、入ってきなさい」
部屋の外でドアに耳を当て聞き耳を立てていた悠二は驚いた。
(気づかれてた? いったい、いつから? 中の音も全く聞こえなかったのに、急に聞こえるようになるし)
逃げても何も意味はないと思い、促されるままに部屋に入ると、口を開けたまま悠二を見ているコルベールと、いかにも偉そうな、美髯をたくわえた老人がいた。

「聞き耳を立てていて、申し訳ありませんでした」
部屋に入るなり、第一声にそう言い頭を下げたが、悠二は目の前にいる二人を警戒していた。
(内容は聞こえなかったけど、もし機密事項を盗み聞きしてたからって理由で、攻撃を仕掛けてくるようなら)
いつでも封絶を張れるようにしながら、コルベールと学院長と思われる老人の様子を伺った。
「そんなに警戒しなくても大丈夫じゃよ。中で何を話していたかも、わからなかったじゃろ?」
相手に敵意がなかったので、幾分警戒をとき返答する。
「はい。中の話は全く聞こえませんでしたが、魔法ですか?」
「『サイレント』の魔法をかけていたからの。ところで、なんで盗み聞きなんかしておったのかのう?」

オスマン、コルベール、悠二の三人は部屋に据えられた椅子に腰掛け、話を始めた。
「その前に、一つ質問して良いですか? どうして部屋の外に僕がいることがいるとわかったんですか?」
悠二がどうにも腑に落ちないと思い聞くと、オスマンはいたづらが成功したかのような表情で言った。
「なあに、簡単なことじゃよ。おいで、モートソグニル」
そしてやって来たのは、小さなハツカネズミだった。ルイズから使い魔の主人は、使い魔が見ているもの、聞いているものがわかると聞いていた。
なぜ見つかったのか謎が解けた悠二は、自分が見つかった理由のあまりの呆気なさに、自身の未熟さにため息をついた。
「何事もふたを開けてみれば、意外に単純なものなのじゃよ。それで、盗み聞きの理由は何かの?」

「間違っていたら恥ずかしいんですけど、コルベール先生が、学院長先生に僕のルーンについて何か重要な話をするんではないかと思って」
悠二の言葉を聞き、オスマンは少し眉間に皺を寄せた。
「どうしてそう思ったのかね?」
悠二はさきほど廊下でコルベールとした会話、そこからの自分の推察を簡潔に二人に説明した。悠二の説明に、オスマンは目を丸くしながら黙って聞いていた。
「ほう、君は驚くほど頭の回転が速いのう」
悠二の話を聞き終わると、オスマンは感嘆の声を上げ、コルベールは自分の行動に頬を赤くしつつも悠二の鋭さに舌を巻いた。オスマンはしばらく黙考した後、口を開いた。

「おおよそ君の予想したとおりじゃ。内容を教えてもいいが……その前に、君が隠していることを教えてもらおうかな?」
そう言って悠二を見るオスマンの目は、先ほどの好々爺のような色はなく、鋭く悠二を見据えていた。
18残り滓の使い魔-04:2009/02/20(金) 15:49:21 ID:VNkxpoq7
「隠しているって、何のことでしょうか?」
悠二は、自分がまだこちらの世界に来てから誰にも話していないことを思い浮かべた。
自分が異世界から召喚されていること、“この世の本当のこと”、それに付随する自身の存在に関すること。いずれも簡単に信じられることではないが、あまり他人に知られるのは良くないことと思っていた。
それは、自分が今の『坂井悠二』になってから“この世の本当のこと”を知ったときに受けた衝撃、普通の人間である、友人の吉田一美が“この世の本当のこと”を知らされてしまった時に感じた恐怖、それに類する感情を相手に与えたくないという悠二の気持ちでもあった。
自分が“この世の本当のこと”、本当の『坂井悠二』の残り滓から作られた代替物であり、誰にも悟られぬまま消えていくということを、
その時はまだ名前を持っていなかった『炎髪灼眼の討ち手』、彼女と契約し力を与えている“天壌の劫火”の真名を持つ強大な“紅世の王”アラストールの、一人にして二人である彼女らに教えられた時は、そのあまりの突飛さに驚き、そして自身の境遇にひどく落ち込み悩んだ。
吉田一美の場合は、高校入学時からひそかに恋心を寄せていた坂井悠二が『トーチ』であると知らされてしまった。その時に、彼女は悠二の目の前で半狂乱状態のようになってしまった。
平和な生活を守り続けていきたいと決心した悠二には、“紅世”にかかわっている人以外には“この世の本当のこと”など知らずに過ごしていてほしかった。

(元の世界に戻るための協力を得るのに、異世界から来てることは言ってもいいけど流石に“紅世”のことは言えないな)
異世界について教えてしまうことで生じるデメリット、教えないことで発生する不都合、両方を考慮し、元の世界に戻るのに、より効率の良いほうを考える。
ここで、異世界から召喚されたことを言わなかったら戻るための協力を得ることが出来ない。それに、隠し続けても意味はないし、ルーンについても情報を得られないかもしれなかった。
そして、悠二の問いにオスマンは答える。
「隠していることの内容はおぬししか知らん。だから、何のことかはわからんのう。しかし、言わないようなら何も教えることは出来んな」

しばらく室内に沈黙が訪れた後、一つ息を吐いてから悠二が口を開いた。
「僕が話せば、ルーンについて教えてもらえますね?」
「それは約束しよう。なに、私はここの学院長オスマンじゃ、口の堅さは心配いらん。同様にこのコルベールの口の堅さも保証しよう。これで、君の秘密がばれることはないじゃろう」
「なら、お二人を信用してお話します」
そう前置きしてから、悠二は言った。
19残り滓の使い魔-04:2009/02/20(金) 15:51:11 ID:VNkxpoq7
「僕はこの世界とは違う、魔法がない世界から来ました。僕がいた国には貴族などの身分の人はいませんでした。
そして、僕はそこにどうしても戻りたい。そのためには、出来ることなら何でもしようと思ってます」
そう悠二は言い切り、
(でも、フレイムヘイズとか“紅世”のこともあるから、魔法使いもいるかもしれないけど)
思っていたことは、胸の中にしまった。

オスマンとコルベールは静かに悠二を見つめていたが、ふと、オスマンが呟いた。
「にわかには信じられんのう」
「信じられないかもしれませんが、これで僕が隠していたことは言いました。だから、ルーンのことを教えてください」
そして、不意に悠二はポケットの中に入っていたものを思い出す。
『決戦』とも称されるクリスマス・イヴに際して用意したもの、普段から外出時に持つような財布・携帯電話・家の鍵、三枚の栞(二枚は非常用の自在法が込められたもの、一枚は『吸血鬼』)、お守りとして持つ宝具『アズュール』。
そして──『決戦』の為に持ってきていた二枚の手紙。

「あ、ちょっと待ってください。これで証明になるかわかりませんが」
そう言って悠二が取り出したのは、財布だった。
財布から何枚かの紙幣と、数個の硬貨を手に取り、テーブルの上に置く。
オスマンは見て、
「これは、ハルケギニアでも見たことがない字じゃし、ここの技術ではここまで精巧なものは作れないじゃろう。
……ふむ、私はおぬしが言ったことを信じよう」
納得し、頷きながら紙幣と硬貨を手に取っていた。
しかし、問題なのはコルベールであった。鼻息が荒く、紙幣を眺めては感嘆の声をあげ続けた。
「これはどうやって製造しているのかな? ほう! これは光にかざすと透けて絵が現れますぞ!」
ハルケギニアには高度な印刷技術がないので、悠二が取り出した紙幣の印刷技術はコルベールにとっては特に素晴らしいものだった。

「あの、これで信じてもらえたと思うので、ルーンについて教えてください」
コルベールの異様なまでの興奮ぶりに戸惑いながらも悠二が言うと、オスマンは、ふむ、と一つ頷いて言った。
「そのルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンじゃ」
「その、『ガンダールヴ』って言うのは何なんですか?」
「それは、君が隠していることを全部言ったらじゃな」

そう言ってウィンクをしたオスマンに悠二は、二つの意味で、尻の穴にツララを突っ込まれたような気分になった。
20残り滓の使い魔-04:2009/02/20(金) 15:53:05 ID:VNkxpoq7
「ええと、それはどういう意味ですかね?」
「どうもこうも、文字通りの意味じゃよ」
断言するオスマンに、悠二は素直に尊敬の念を抱いた。
(どうしてばれたのかは、わからないけど、学院長なら信用できそうだし、教えても問題ないかな)
そう悠二は心の中で呟いた。

「学院長には、何も隠せないみたいですね」
「伊達に年はとっておらんよ」
お茶目な表情でそう言うオスマンに、悠二は呆れたように言い、自嘲的な笑みを浮かべる。
大きくため息をつき、真剣な表情で言った。
「これから話すことは、他言無用で。それに、先ほどより荒唐無稽で信じられないかもしれませんし、ショックを受けるかもしれませんが、本当のことです」
その言葉に、いまだ興奮冷めやらぬコルベールも表情を引き締めた。
そして悠二は、“この世の本当のこと”について語り始めた。

「まず、大前提にこの世にある動物・植物、人・物、あらゆる存在が“存在の力”というものを持っています。
普通は生きているうちに無くなることはありませんが、もし人が“存在の力”を無くしてしまうと、その人の存在自体が初めから無かったことになってしまいます。
ちなみに、“存在の力”は、普通の人は感じることが出来ませんが、僕には感じることが出来ます。ここまでは、わかりましたか?」
「う、うむ。続けてくれ」
オスマンは目を瞑り黙って頷き、コルベールはうろたえながらも理解を示した。
「次に、“紅世”と呼ばれる世界について説明します。その世界には“紅世の徒”と呼ばれる存在がいて、そいつらは僕が住んでいた世界“地球”にやってきます」
「えーと、君は“チキュウ”から来ていて、その“グゼのトモガラ”という人たちは“チキュウ”に行っているということだな」
「そうですが、“徒”は人ではありません。まあ人型の徒もいますけど。そして、“徒”は地球で人の“存在の力”を喰らいます」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 先ほどの話では“存在の力”を無くしてしまうと、消えてしまうんではなかったかね?」
コルベールが額に浮かんだ汗を拭いながら、あせったように悠二に聞く。その間もオスマンは目を瞑り相槌をうっている。
「その通り、消えてしまいます。もともといた人の存在が無くなってしまうのだから、当然矛盾が発生します。そして、その矛盾が積み重なり、世界の歪みになります。
歪みが大きくなると、具体的にはどうなるかはわかりませんが、『大災厄』と言われる大きな災いが起こると言われています」
いつのまにかコルベールの額には汗が滴り、オスマンの眉間にも深い皺がよっていた。
「それを阻止するためにフレイムヘイズと呼ばれる人たちが、“徒”を人知れず討滅しています。それが僕の住む地球での“この世の本当のこと”です」

オスマンもコルベールも黙っている。部屋の中が嫌な沈黙に包まれていた。
「奇奇怪怪な話じゃが、おぬしが嘘を言っておるとは思えんしのう」
「それで、君は、そのフレイムヘイズという者なのかね?」
その静寂はオスマンの質問によって破られた。
「違います。僕は“徒”に“存在の力”を喰われた『トーチ』という存在です」
「!? ということは、君は消えてしまうということか!?」
コルベールが顔に驚愕の色を浮かべ、半ば叫ぶようにして言った。
「僕の場合は違います。『トーチ』というのは、その人が喰われて残った“存在の力”の残り滓で作られ、自分でもわからず徐々に消えていくんですが、偶然にも僕は毎日“存在の力”を回復できるので例外的に消えずにいるんです」
悠二のその言葉に、コルベールは安堵のため息をつき、オスマンも小さくため息をついた。
21残り滓の使い魔-04:2009/02/20(金) 15:54:23 ID:VNkxpoq7
「それで、君がフレイムヘイズとやらではないのに、なぜ戻らないといけないのかね?」
話を変えるようにオスマンは悠二に問いかける。
「それは、仲間のフレイムヘイズと共に世界を守ろうと、“徒”との戦いを終わらせようと決めたから」
そう言い切り、悠二はオスマンの眼を見据える。その言葉は、悠二が兄になったと知った日に決めたことだった。

(嘘をついているようには見えんし、嘘をつく意味もないからのう)
オスマンは悠二の話を反芻し、考える。
(しかし、彼はこの若さでなんと重いものを背負っておるんじゃ)
到底信じることが出来ないような話であったが、それでも今日はじめて会った少年の言葉を信じ、考える。
(それにしても、“徒”などと戦うとはどうやって戦うんじゃ?)
さまざまな疑問が浮かび、再度悠二に質問する。

「君はどうやって“徒”と戦うのかね?」
「自在法と呼ばれる魔法のようなものや、剣ですね」
「では、その自在法とやらを見せてくれないかね?」
一度学院長室内をぐるりと見回してから、悠二は言う。
「いいですけど、ここだと危ないので外で人目につかないところなら。その前にルーンについて詳しく教えてくださいよ?」
「もちろん。君がここまで話してくれたからには、私も話さなきゃの」
悠二の話が終わり、今度はオスマンが話し始めた。

「『ガンダールヴ』とはさっき言ったように伝説の使い魔じゃ。始祖ブリミルが使役したといわれる四体の使い魔のうちの一つで、神の左手やら神の盾と言われとる」
「ちょっといいですか? 始祖ブリミルって何者ですか?」
「始祖は約六千年前の偉大な魔法使いで、失われた虚無の魔法と四系統の魔法を使ったと言われておる」
悠二が頷くのを確認して、オスマンは続ける。
「『ガンダールヴ』とは、あらゆる武器を使いこなしたと言われておる。伝説の使い魔じゃから詳しいことはわからんが、こんなとこじゃろう」
オスマンが話し終え、しばらく悠二は考えをめぐらす。
(今朝の身体能力の向上は『あらゆる武器を使いこなす』ってことかな)
悠二は、一応は武器を握ったときの現象に納得できた。
「大体はわかりました、ありがとうございました」
「いやいや、君からあんなことを聞いといてこれしか答えてあげられんのは残念だが、役に立って良かったよ。それと、ガンダールヴのことは秘密にして、出来ればルーンも隠してくれたほうがいいのう」
オスマンの言葉に悠二は了承の意を示した。

「それで、話は変わるんですが、元の世界に帰る方法はありますか?」
今、最も気になっていることについて、オスマンに尋ねた。
「残念ながら、わからんのう。手助けはしてあげたいんじゃが」
「もちろん私も出来ることがあれば何でもしますぞ!」
帰る手段がないことに落ち込みはしたが、こっちに来て事情を知り手伝ってくれる存在が出来たことに悠二は感謝した。
「ありがとうございます。じゃあ、何か使い道がわからない物だったり、ここでは見たことがない珍しいものがあったら教えてください」
悠二がそう言うと、オスマンが首をかしげた。
「はて、そういえば『破壊の杖』の持ち主も言っておったの、『元の世界に帰りたい』と」
22残り滓の使い魔-04:2009/02/20(金) 15:57:38 ID:VNkxpoq7
「その話、詳しく教えてもらえませんか?」
おもわず、前のめりになりながらオスマンに先を促した。
「あれは、三十年前の話じゃ。私が森の中を散策していると、ワイバーンに襲われた。そのとき現れたのが『破壊の杖』の持ち主じゃ。
二本あった『破壊の杖』のうち一本を使いワイバーンを倒した。彼は怪我をしていて、その後倒れてしまい、学院に連れ帰り必死に看護したんじゃが……」
「……すみません」
悠二が申し訳なさそうに言うと、オスマンは努めて明るい声で言う。
「いやいや、いいんじゃよ。私が言い出したことだしの。じゃから、もしかすると『破壊の杖』は君の世界のものかもしれん」
「できれば、見せてほしいんですが」
「すまんが、『破壊の杖』は宝物庫に厳重に閉まってあっての。簡単にあけることは出来んのじゃ」
悠二は落胆を隠して言った。
「いえ、いいんです。学院長にとって大事なものでしょうし」

そうして悠二は部屋に戻ろうと椅子から立ち上がろうとしたが、何かを思い出したように座りなおした。
「あの、ここに来てから知らないことがたくさんあるんで、教えてもらえますか? それと、魔法についても詳しく知りたいんですけど」
「そんなことなら、私に任せてください。そのかわり、チキュウについても教えてもらえるかな?」
コルベールがそう言って名乗りを上げた。彼にとっては、教育者・研究者としても願ってもない申し出だった。

「最後に、これは重要な質問なんじゃが、この学院内に『トーチ』はいたのかの?」
硬い表情のオスマンが聞くと、ニヤケ顔だったコルベールも一瞬にして引き締まった顔つきになった。
「朝に食堂を見ただけですけど、いませんでしたよ」
生徒、教師ともに無事であると聞き、二人は安堵のため息を漏らした。
「でも、“徒”がいないとは限らないので、出来れば大きな町で確認したいですけどね」
「その時に出来れば武器も買ってくれ。ガンダールヴのルーンが本当か確かめたいしの」
「じゃあルイズに言ってみます」
そこで初めてルイズの名前が出て、コルベールとオスマンは使い魔の問題がまだあったことを思い出した。
「ユージ君にお願いがあるんだが、君の主人であるミス・ヴァリエールにも先ほどの“紅世”の話を教えてあげてくれないか?」
これを聞いて、悠二はわずかに顔をしかめた。それを見たコルベールは慌てて先ほどの言葉の理由を言った。
「メイジにとって使い魔は一生の問題であるし、ミス・ヴァリエールに何も言わずにいなくなってしまうというのはあんまりだろう? 事情がわかれば、君が帰るとき、彼女も納得してくれるだろう」
悠二としても、気は進まないが教えることに異議はなかった。
(でも、あのルイズが信じてくれるかな? そもそも話を聞いてくれるかも怪しいし)
手間のかかる主人を思い嘆息し、ルイズにも説明することを約束した。

「おそらく異世界から来たと言っても面倒だろうから、他のものには、東方から来たといっておけば良いじゃろう。あと他に質問とか言っておきたいことはあるかね?」
悠二、コルベールともに暫し逡巡し首を横に振った。
「よし! これで難しい話は終わりじゃ。ところでユージ君、君は昼食をとったかの?」
「いいえ、まだですが……」
「それじゃあ、この世界についての説明がてら、厨房で何か食べながら世間話でもしないかね?」
その提案に真っ先に賛成したのはコルベールだった。
「それはいい考えですな! 私もチキュウの技術に関して色々聞きたいこともありますしな!」
コルベールの剣幕に若干気圧されながらも、悠二も賛同し三人で厨房に向かった。
23悠二の人:2009/02/20(金) 15:59:46 ID:VNkxpoq7
以上で投下終了です
自分の文才の無さに愕然とします
早く一巻の終わりまで書きたい……
24名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 16:02:30 ID:0oKKdF8J
乙ー

まあ、見るなって言われても、封絶と修復があるから、どこの壁でも気軽にぶち壊して
好きなだけ見ればいいわけではあるが
25名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 16:23:28 ID:qRVbvRUB
乙、ワクワクしながら続き待ってるぜ
26名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 16:51:30 ID:owAeiQK4
乙でしたー

一巻終わりといわずテファまでお願い
27名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 17:56:46 ID:pMb4wkGP
>>8
ジョジョスレだと「日光の波長が違うから大丈夫」って感じだったな。
・・・まぁあいつらが晴天の中元気に這いずり回ってたらすごい違和感あるけどな。
28名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 18:05:44 ID:RnBnDCFZ
>>24
封絶は、外からは認識できないし、内部の人間は止まってしまうから、見せることはできないと思う。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 18:16:36 ID:0oKKdF8J
>>28
破壊の杖の話。
30名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 18:39:54 ID:HHwk2DGS
>>24
悠二は現状、この世界の魔法の仕組みや宝物庫の構造を知らないからねぇ。
入り込んだとして、防衛用の魔術があらかじめ掛かっていたり、魔法的な番人がいる可能性、
触れることで発動するトラップ、安置してあるアイテムそのものに危険物がある可能性。
その辺り思いつかない悠二でなし、そもそもいきなりぶっ壊して侵入するほどバイオレンスな性格はしていない。
もちろん、必要があると見なせば躊躇なく、万全の準備をした上でやらかす決断力と行動力は持っているけれども。
……なんてやっかいな奴だ。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 18:50:08 ID:0oKKdF8J
しかし封絶内だとトラップも番人も全部無効・・・極端な話、魔法学院を片っ端から破壊しながら構造把握、
修復してから封絶解除って手段も取れるわけで

まあ、魔法の正体が分かるまでは、自重するのが奴らしいか。
32名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 18:52:07 ID:HHwk2DGS
封絶
33名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 18:57:15 ID:HHwk2DGS
ミスorz

この世界に魔術的な番人が存在するとして、封絶で動きを止めるかどうかとか。
封絶中に自分がキーになってこの世界の魔法が発動するかどうかとか。
そもそも封絶に介入しうる何らかの力が存在するのかとか。
その辺り含めて現状不明だからねぇ。
そして何よりこの世界で無双だからといって、力を好き勝手に振るう性格もしていない。
というか、その手の奴が来ていたら今頃学園は……w
34名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:15:26 ID:3PE73tBm
いろいろ設定いじらないと。
ワルドが偏在をつかった! 封絶。
エルフが出たーっ! 封絶。
で身も蓋もない話になるよね。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:24:23 ID:kCunC4TC
始めのころしか知らないけど悠二そんなに強くなったの?
封絶もつかえんのかよ
36名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:25:55 ID:4R9SX0p2
「もやしもん」から沢木惣右衛門直保召喚。
魔法とか虚無とかバトルとかと全く関係ないところで
ハルケギニアに革命を起こしそうだw
37名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:27:28 ID:kCunC4TC
貴族?なにそれ?それより酒作ろうぜ!!
とかになるんですね
38名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:31:26 ID:dq+Jd+Jm
>>35
14巻終了時点だと、ハルケギニアではほぼ無敵だろうね。とにかく封絶使えば
ハルケの住人は全く動けないわけで、一方的にフルボッコ可能。しかも、やられた
方は自分が何をどうされたのかも分らないわけだし。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:31:27 ID:0oKKdF8J
>>35
書店行って、最新18巻のカラーイラスト見たら「誰だお前www」と爆笑すること請け合いだ
40名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:34:34 ID:NYqQHNK2
>>38
ザ・ワールド!
41鋼の人 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 19:35:49 ID:ysiCvBzD
こんばんわ。第二部に向けて鋭意準備中の作者です。
しかし、このままじゃガリア組のパワーが弱い。かといってこれ以上、サガシリーズから引っ張ってくるには知見がない。
どうしようかなぁ……(手に取ったのはWA2の資料集)
いいよね?


投下予告は19:45.
42名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:39:16 ID:HHwk2DGS
>>35
この作品中に登場する時点での悠二は、雑魚レベルの紅世の徒ならそれこそ雑魚レベルに殺せる実力。
それにくわえて、頭の方の切れ味は相変わらず。
本編最新の時点ではさらなる進化を果たしたというかなんというか……。
まあ、39の言うとおり、最新刊をチラ見して笑うといいかと。
ここしばらく本編見てないなら、あれはもう笑うしかないw
43名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:41:59 ID:0oKKdF8J
鋼さん支援

思う存分どぞー
44名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:43:53 ID:jseO9CaU
まあ、突き詰めれば面白ければTSUEEだろうがテンプレだろうが別に構わないわけで
45鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 19:45:14 ID:ysiCvBzD
 丘の中腹にへばり付くように飛翔機は墜落している。斜面を茂る林の中、腹をこすりつけて落ちた機体は木々に挟まれ止まっていた。
 身体を捻って機体と地面の隙間から、ギュスターヴは脱出する。片手には何とかデルフを掴んでいられた。
「流石に死ぬかと思ったな…」
「運が悪ければぺしゃんこだぜ?まったくよー」
 悪態の尽きないデルフを腰に挿し林から出たギュスターヴに、丘の上から見下ろせる戦場の全景が入ってくる。
「…思ったより戦況が良くないな…」
 トリステイン軍が北に位置し、アルビオン軍が南、背に村を負った形になっているのがギュスターヴには見えた。
(タルブを守る戦でタルブから切り離されてしまっている…よくないな)
 アルビオン軍はこのままタルブに入り込むことが出来てしまうのだ。それではいよいよトリステインに勝ち目がなくなってしまう。
 …だが、アルビオンの軍勢はなぜか村に下がる事無く、トリステイン軍に向かって兵を進ませていた。指揮を執る者が居ない以上、
目の前の敵に向かっていくしかないのであった。
「なんだあの軍団、指揮官が居ないのか…?」
 ギュスターヴの目からすれば優勢であるはずのアルビオン軍が、まるで烏合の衆でしかないという一種の矛盾に、不可解な雑音のような感覚を受けた。
 そのままじりっと戦場を眺めていると腰元の剣が騒ぐ。
「相棒、ぼやっと見物してないで嬢ちゃん探そうぜ」
「ん、そうだな…」
 
 
 デルフに促されるまま、ギュスターヴは丘を降りた。降りた先は丁度、アルビオン軍の真後ろに当たった。
 既に四方には累々たる屍が転がり、死臭が立ち込めている。美しい葡萄畑を湛えるタルブに似つかわしくない、死の世界だった。
「ルイズがもしタルブの戦場でアニマを集めるなら、こうして死体の転がる場所のはずだ…」
 死した生物のアニマは肉体を離れて大地に還る。
 仮に生物からアニマを吸い取るというのなら、生きている者より死に掛けている者の方が容易いだろう、という程度には
アニマの学問に対する知見がギュスターヴにもあった。
 横たわる死体の中をギュスターヴは歩く。視線の遠くでは行進するアルビオンの兵隊が見えた。
「……」
 自分一人戦場に突撃しようと、それは戦況になんら影響を与えないこと位、ギュスターヴも分かっている。だが、ギュスターヴの心情はトリステインに傾く。
この国に、この国の人々の恩を受けたのだから、助力する術が何かあれば…とも思うし、国を動かしていたものだからこそ、
国難をこの国の力で乗り越えて欲しいものだ、とも思った。
 二つ心をどちらかに固められるほど、ギュスターヴは超然ではない。
 
「うぅ……」
 傍の死体からうめき声が聞こえた。振り返ってその死体に駆け寄ると、アルビオンの傭兵であった。鎖帷子に固めた身体をずたずたに切られていたが、
ほんのわずかだが息を残していた。
「あぁ…メイジの旦那……」
 死に体の兵士は血を失った顔色で、ギュスターヴを見る。
「わりぃけど傷…埋めてくれねぇかい…?」
 マントをつけていた姿を見て傭兵はメイジだと思ったのだろう。ギュスターヴは声をかけるべきか逡巡したが、言葉なく首を横に降った。
「けっ……なら一思いに…殺してくれ……苦しくてかなわねぇ……」
 空ろにそう言って、傭兵は冷えた目でギュスターヴをじっと見る。戦場の喧騒を背に、ギュスターヴは少し迷ってから、デルフを抜く。
 一呼吸置いて、兵士の喉笛を一突きに貫いた。
「っ!…!!………」
 声なき叫びを上げた傭兵は、やがてその目から光を消して、ぐったりと斃れる。
「やりきれないねぇ」
「戦場だからな…」
 寂寥とした気分を催す一人と一振りだった。
 だが、そこに黒い一陣の風が吹き込んだ。ギュスターヴは埃から目を覆う。
「うっ…」
「ふふふ…あははは……ああ、だれか、誰かいないのかい?トリステインの兵士で生きているものは……」
 風に乗って、誰かの嗤い声が聞こえてくるのだった。
 
46鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 19:48:05 ID:ysiCvBzD
よし、言質とったよ!wでは投下続き
‐--------------------
「ああぁ…どうやら戦場で迷子になってしまったようだ…詰まらない……もっと僕はトリステインの兵士を殺さなくちゃいけないんだ…殺して、殺して、殺し尽くして、
僕がトリステインを手に入れる。トリステインを手にして僕は、世界を…この世の真理を手にするんだ……ははははは…あぁ……」
 聞き覚えのある声だった。しかしそれは以前にも増して狂気と死の匂いを深めている。抜剣したままのギュスターヴは声のする方に剣を向けた。
「んん?…あぁ、いるじゃないかぁ。まだ生きている兵士が…ふふはははは!」
 声の主は血に濡れた身体で杖を振った。放つ真空の刃をギュスターヴはデルフで受け止めると声の主に向かって飛び掛る。
「おぉ?!」
 声の主は曖昧だった風情から一転、杖を構えて振り下ろされるデルフを受け止めると、血走った目でギュスターヴを睨みつけた。
「何だ…?お、ま、えは…何故ここに居るんだ?…ガンダールヴ…」
「アルビオン以来…随分と様子が変わったな、ワルド…」
 キリキリと杖と剣が鳴り、二人の視線がぶつかる。瞬間、ワルドは歯をガチガチと鳴らして力任せに杖を振り切ってギュスターヴを払い飛ばした。
「ガァンダァールヴぅぅぅぅ!」
「!!」
 ギュスターヴは叩きつけていたデルフごと弾き飛ばされるが、どうにか踏みこらえて剣を構えた。
 叫びを上げたワルドが皮手袋の左手で顔を引っかきながらぶつぶつとつぶやく。血に塗れた手で触れた顔に、屠った兵士の血で化粧がされていく。
「ガンダァァルヴゥゥ…何故お前が居るんだよぉ…えぇ?お前は、瓦礫の下敷きになったんじゃあ、ないのか?ん?……お前の役目はなぁ…俺の腕と引き換えに
死ぬ事だったんだ」
 徐々に狂気の波を高くするワルドの周囲に、黒い帯が広がるように風が渦巻く。風の帯は漆黒を深め、その戦端が布を広げるように『飛び掛った』
「駄目じゃあないかぁ!役目を終えた配役はぁ!」
 飛び掛る黒い帯は鋭い『爪』を振りかざし、ギュスターヴに叩き付ける。
「っ?!『ディフレクト』!」
 未知の魔法にギュスターヴは咄嗟の防御技で打ち払った。黒い帯は払われるとそのまま掻き消えた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!」
「っ?!」
 咆哮に振り向けば、驚く事にワルド自身が猿(ましら)のようにギュスターヴ目掛けて飛びかかろうとしていたのだ。
「だぁ!」
 ワルドは振りかぶっていた左腕をギュスターヴに叩き付けた。それを受けたデルフから、硬い金属同士を叩き合わせた甲高い音が響く。
「死んでなきゃあ可笑しいだろうがぁぁぁぁぁ!」
(お、重い…!)
 叩きつけるワルドの左拳はギュスターヴの知る中でも一、二を争う重さを持っていた。しかもそれは剣に正面から叩きつけても傷をまったく負わない怪異なる拳だった。
「らぁ!」
「!!」
 拳に目を奪われていたギュスターヴだが、さらにワルドが右手の杖を横なぎに叩きつけようとしていた。
ギュスターヴはさっと後ろに飛んでこれをかわすと、再び剣をワルドに向けた。
「相棒!どうするんだよこいつ?!」
「知るか!だが分かるのは、こいつをどうにかしないとルイズを探しにいけないってことだ」
 瞬間、ギュスターヴは思考からルイズを追いやって目の前のワルドに集中した。
(気を散らせては負ける…今のワルドは以前とは比べ物にならない危険を秘めている…)
 睨み付けるギュスターヴに、ワルドは杖を縦横に振って再び黒い風を束ねていた。
「はははははは!…殺してやる、殺してやるぞ、ガンダールヴ!今度こそ俺の手で、お前を殺してやるぞ!」
 
 
 
 『タルブ戦役・七―再戦、狂気のワルド―』
 
 
 
47名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:49:08 ID:/aWQeQ42
>>41
つまり「反射」付きのプルコギドンですね、わかります。
48鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 19:50:11 ID:ysiCvBzD
 ワルドの血に染まった軍杖が、楽団の指揮棒のように軽く振るわれた。
 たったそれだけで、跳ね上げるどす黒い風が空飛刃【エア・カッター】となって飛び掛る。
「『剣風閃』!」
 デルフを目にも止まらぬ速さで振り抜くギュスターヴ。払われた剣戟が風を伝って迫る刃をかき消した。
 だが、霧散する風の背後から、杖先が吶喊する槍先のように伸びてギュスターヴの脳天を目指して迫った。
「『ディフレクト』!」
 空かさず防御技を降るい、杖先はデルフに遮られて止まった。杖を握るワルドの姿は、ない。
 ワルドは真空鋲【エア・ニードル】を纏った杖を投げつけたのだ。
「ハァっ!」
「っ!?」
 自分の背後から迫る影と気配にギュスターヴの体は反射的に右方向へと逃げる。一瞥すれば一拍前まで自分の居た場所に、
ワルドは左手で握った短い杖に作った真空鋲を地面に突き刺していた。
「ふはははは……どうしたぁ?ガンダールヴゥ…手も足もぉ…出ないかね…?」
 距離をとって立つギュスターヴに向かって、投げつけた杖を拾いながらワルドが喋る。
「あぁ、参ったね。偏在【ユビキタス】を使わぬとは恐れ入ったよ」
 軽口を吐きながらも、ギュスターヴは内心焦りも感じていた。以前のワルドは優秀な戦士ではあったが、もっとスマートな戦闘を行うタイプだった。
教科書的な、正統な訓練を積んだ、詭計のない…。
(今のワルドはまるで獣(けだもの)だ…動きが読みづらい。それでいて以前と同じか、それ以上に速い…)
 一瞬で立ち位置を変える、まさに『閃光』の速さであった。
 
 にやにやと嗤うワルドが、短杖をしまって軍杖を振るう。雷雲のような黒い雲気を撒き散らしながら、狂気の男は語るのだった。
「偏在など所詮人の業だ…そうだろう?トリステインを戴く僕が使うべき、始祖の真理を得る資格のある者が使うべき、魔法の御業があるのだよぉ、えぇ?
…分かるまい。ただ剣を振るうしか能のないお前にはなぁ」
 かくかくと身体を揺らして、ワルドは嗤う。
「どうやら片輪になって頭が壊れたらしいな。…お前のような狂人には何も出来やしない」
 話しながらギュスターヴも、じりじりとワルドとの間合いを詰めようとしていた。ワルドはどろりとした目で片手に握る軍杖を縦横に振った。
「切って捨てる…か…?」
 おどけ芸人のように、ワルドはゆらゆらと身体を振るった。振りまく雲気が濃く、深く……ワルドとギュスターヴを包み込んでいく。
「なら切ってみろ…突いてみろ…お前のたった一つの刃で…」
 徐々に視界は、ただ黒い霧の中へと落ち込んでいった。根深い、まるで闇のような霧だ。三歩先も見えやしない、血と殺意を染み込ませた邪な心でその場が満たされた。
たった一人の手によって。
「………」
 一滴の冷や汗を背に、ギュスターヴは半歩下がった。だが、あくまでもデルフの切っ先はワルドを向いて鋭く輝いた。
 ワルドは杖を振り上げて仰ぐような姿勢で固まる。
「狗のぉ…餌になって…死ねェ!」
 一陣、突風がギュスターヴに吹き付けられる。わずかに視界を遮られたギュスターヴが再び正面を見た時、視界全域はワルドの生んだ黒い霧の中だった。
(まずい!)
 ギュスターヴが危機を感じた際に、地面を踏み切る音と風を切る音が聞こえた。
「ッシャアァ!」
 『ディフレクト』を仕掛けることも出来なかった。暗い霧の中から飛び出た『何か』がギュスターヴの腕を薙ぎ、また霧の中に戻っていく。
「っ!…」
「相棒?!」
「いや、大丈夫…。布を持ってかれただけだ」
 腕自体はかすり傷を残しただけだったが、その上の革布が千切り取ったように破けていた。
 安堵したのも束の間、再び風切り音と共に霧の中から『何か』が飛び出してギュスターヴに迫る。
「…『ディフレクト』!」
 硬い金属音が響いて『何か』を弾き返した。
「…くくく……おぉしかったなぁ?ガンダールヴ」
 霧の中よりワルドの声がまるで四方八方より聞こえるような錯覚を起こさせる。
49鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 19:52:29 ID:ysiCvBzD
(気後れするな…気後れなど…)
 こんなところで足止めを食っている場合ではないのだ。ルイズを見つけなければならないのだから。
 呼吸を整え、構えを変える。左手のルーンに光が篭り、霧の奥を駆ける足音と呼吸音が鮮明に聞こえた。
 ワルドの踏み切り音を聞いて、ギュスターヴは聞こえる方向に向かってデルフを打ち込んだ。
「『払い抜け』!」
 飛び込んだ先で、霧の中で鮮明に見えない人影とすれ違う。その刹那、左の頬を冷たい『何か』が掠め、剣先にも金属を切りつける感触が伝わった。
「んー。惜しかった…今のはとても、惜しかったぞ…」
 着地して振り返ると置き土産のようにワルドの声が聞こえた。手ごたえはあったが、負傷は与えられなかったようだ。
 ワルドの次の攻撃、特に背後を警戒しながら、ギュスターヴは問いかけた。
「…デルフ。生きてるか」
「…生きてるぜー。っていうか生きてるのか俺様?ま、いいや…で、なんだいこんな時に」
「さっき切りつけた時、何か判ったか」
「当たったのは左腕だ。でも前みてーにスパッと行けなかったぜ。わりぃ」
 話している中、再度霧の中から『何か』が飛んでくる。それを今度は横飛びに避ける。
「…気にするな。防具の類じゃなさそうだな」
「おつむも普通じゃなくなってるしなー」
 遠くから兵士達の喧騒が聞こえる中、一人と一太刀は変わり果てた男の嘆きを聞いた。
「あぁ!残念だガンダールヴ…やっとお前と戦えたのに。今の僕とお前じゃ話にならないじゃないか」
「好き勝手な事を言う…」
 飽いた玩具を投げ棄てるように、ワルドから芝居がかった嘆きの声が聞こえてくる。
「もういい!残念だ。残念でならないよ!お前を豚の挽肉のようにバラバラにしてこの倦んだ気分を雪ぎたいんだ!だからさっさと死ぬんだ。
抵抗できず、恥知らずに喚いて死んでみせろ」
 霧の奥から聞こえる音がギュスターヴに飛び掛ろうと迫り来る。ギュスターヴは自身の間合いにやってくる、拳大の『何か』をじっくりと見た。
集中する意識が時間を引き延ばしていく…。
(霧の中から飛び掛る物体…踏み込んでも切り倒せず…素早く逃げられる…)
 平手に伸びきった左手が、ゆっくりとギュスターヴの頭を狙って飛んでくる。
(切る…たった一つの剣で…一つ…一方から…)
 引き伸ばされた意識の中が、ワルドの攻撃の正体を発見させ、ギュスターヴの脳裏に煌く。
 
 その時、電撃が身体を駆け巡った。
 
50名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:52:53 ID:8zgG/qjM
支援
51名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 19:54:51 ID:wgHWBq5V
さて、前スレでいったと思うが鋼のを支援だ
52鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 19:55:13 ID:ysiCvBzD
 瞬間、ギュスターヴは身体をよじってワルドの『どこからか飛び出した』左手を避ける。
「…デルフ」
「あによ」
 柄を握り直し、ギュスターヴは笑った。
「閃いた。あの逝かれた若造を…殺る。壊れずにいろ」
「ちょーっと自信が無いけど、いいぜ」
 不可思議であった。屍の転がる場所で、狂人と戦っているのに。
 ギュスターヴは何故か晴れやかに笑ったのだ。
 
 霧の中で対峙していたワルドは自身の生み出した死角越しに、澱みきった目でそれをまざまざと見た。そして相に浮かべる狂気の無表情をぐずぐずと崩す。
ぎりぎりと歯を鳴らし、眉を震わせると…大きな声で叫んだ。
「あぁぁぁぁああぁああぁあぁああぁあぁアアァアアアァアアアァアアァァァァァ!!!!」
「わ?!なんだ??」
 デルフが突然の叫びに驚く。だがギュスターヴは逆に冷静な目で声のする方に構えなおす。
「ふっざけるなよガンダールブなぜ嗤うんだお前は今から殺されるんだ僕の手で魔法に負けて体中を切り刻まれて狗でも食わぬゴミに変わるんだ
そうだあの目立つ鎧が気に食わないなんだあればお前のような狗が身に着けるに値しない過分なものだそうだろうなんだなぜ嗤う僕を嗤うのか?
僕の何処を嗤う僕はこれからトリステインを手に入れて世界を手に入れるんだお前が嗤える筈がないんだお前がおまえがオマエガオマエガオ
マエガオマエガオマエガオマエガァ!!」
 ぶつぶつとつぶやき、激昂に叫ぶワルド。
 ギュスターヴはそれを見て、さらに笑う。何処までも晴れやかに。
「ワルド。お前も笑ってみせろ。目の前をよく見てな」
「ガァァァァァァンダァァァァルヴゥゥゥゥ!!!」
 極まるワルドの狂気が風に乗って集まる。黒い、余りにどす黒い意思が風の魔法に込められて渦巻いていた。
「デルフ。まずは…あいつを捕まえるぞ」
「おう、ばっちりやんな」
 霧が風に乗って吹き付けてくる。視界を取られ、姿勢を崩されるような強烈な風。
 その強烈な風を縫うようにワルドの左拳がギュスターヴの左胸に突き刺さった。
「ぐっ!…ぅ…」
 鋼の鎧を変形させて肋骨に食い込んだ拳を、意識が一瞬飛びかけたギュスターヴは右手で抜けないように押さえつけた。
「鎧を着けていて…助かったな…」
 食い込んだ拳の、手首から先を手繰り寄せた。細い鎖が霧の先まで伸びているのが分かった。
 ギュスターヴはそれを、一気に手元まで引っ張った。
「うぉぉぉ!」
 引き寄せるワルドの体目掛けて、デルフの切っ先を突き出す。
 引き寄せられたワルドは右手の杖を逆手に握り、魔法で黒い霧を生み出していたが、力任せに引き寄せられた姿勢で杖を叩きつけようと振りかぶった。
 兵隊服と鎖帷子を絶つ感触と、肩を何か硬いものが突き刺さっていく感覚を覚えて、ギュスターヴの視界から濃霧の遮りが消えた。
 
 
53鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 19:57:35 ID:ysiCvBzD
「この…使い魔…無勢がぁ…!」
 呻くワルドが今、はっきりとギュスターヴの視界には映っていた。
 以前断ち切ったはずの左腕、それを細工仕込みの義手に変えたワルドの手管も、腹に深々とデルフが食い込んだ今、使うことは出来なかった。
 暴れ紛れにワルドはデルフを腹から抜き、間合いを取って構えた。
「……まだ、やるかい?」
 ギュスターヴもまた深手を受けた。鎧越しに胸を打たれたし、肩には今も杖先が刺さっている。
 しかし血を多く流しているはずのワルドは短杖を抜き、真空鋲を纏わせてこちらを睨む。
 死闘まだ終わらず。ギュスターヴも肩に刺さる物を抜き棄て、構える。
 にらみ合う二人の間がじり、じりっ、と詰る。集中する意識が視界を陽炎のように歪ませる。ただ、ギュスターヴの鎧の擦れ音とワルドの杖先を渦巻く風の音が、
互いの耳に聞こえていた。
 数呼吸、先に動いた狂人がまさに『閃光』の二つ名に相応しいスピードで、ギュスターヴの額を貫いた。
 手に残る感触が、軽い。目の前のギュスターヴが消えた。
「…ぁ?」
 ワルドは背中に違和感を感じた。何か硬いものが押し付けられるような感覚に振り返ると、霧散するギュスターヴの残像を見る。
「な、に…っ?!」
 さらに違和感、今度は左脛を何かが打ち付ける。さらに右肩、右腰、右脛、左脇腹…
「ぇ…ぁ…?」
 それは徐々に違和感では無く、痛覚となってワルドに認識された。幾何級数的に増え続けてワルドの全身を覆う。
 周囲を囲むギュスターヴの残像が同時複数的に切りつけることによる不可避の攻撃だった。残像が全体ではなく、たった一人に向けて
無数の方向より攻撃することに遣われたのだ。
 残像がワルドを切り続ける中で、実体のギュスターヴが大上段にデルフを構えて飛び込む。
「『全方位剣』(マルチウェイ)!」
 右肩から縦に身体を割る一刀両断の一撃がワルドに滑り込んだ。デルフリンガーの耀く剣先が皮を裂き、肉を切り、肺腑まで達してようやく、その勢いを止めた。
 血の花が大地に咲き乱れる。鋼の大帝の髪も、肌も、鎧も、男の血飛沫を逃れられなかった。
 
「っが!…あぁっ…はぁっ……」
 膨らまない肺腑が呼吸を奪いながら、常人ならショックで絶命する一撃を、ワルドの意識は偶然にも、その脳裏にこびりついて残っていた。
 剣を自分に振込み、肩で息をする血染めの『使い魔』を見て、クロムウェルから貰い受けた左腕を突き出し、喉輪に手をかけた。
「ぐっ…」
 ギリギリと締め付けてやると顔を顰めるギュスターヴ。それを見て、ワルドは嗤った。
「ククク…殺して…やるぞ…ガンダールヴ」
 最早ワルドには己が死につつある事すら、分からなくなっているのだった。何故苦しいのか、なぜ戦場にいるのか、なぜ戦っていたのか。
ただ、戦っていればかつて、自分が欲したものを手に入れられるのだと、漠然と思っていたから。
 銀の指先が頸の肉に食い込んでいくが、徐々にワルドの息も細くなっていく。
「お前を殺し…て…トリステインを…」
 そこまで言って、ワルドの表情にわずかにだが、理性の光が蘇ったように、ギュスターヴは思った。
「…ズ…みに……くの……」
 二、三語繰り返し、最期に知らぬ女性の名前をつぶやくと、デルフで身体を割られ、ギュスターヴに指を食い込ませた男は、険しい表情のまま、逝った。
 
 デルフを引き抜き、指を外す。ワルドの身体が人形のように固まったまま地面に倒れた。
「……若造が才走りやがって」
「やりきれねぇな…相棒」
 肩で息を整えながら、斃れたワルドの開ききった目を、じっと見た。
「死に際に、微笑まぬ者は…」
「ん?どうした、相棒」
「……いや」
 デルフを拭いて鞘に収め、ギュスターヴはその場を後にする。その目には言いがたい、戦士の悲しみが滲んだ。
 
 
 
54鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 20:00:13 ID:ysiCvBzD
 ギュスターヴはデルフと共に東の丘を目指して歩く。西の丘から見た戦場が今、どうなってるのか、既に分からなくなっていた。
見えるのはアルビオンの兵隊の後姿ばかりだからだ。
 さらにギュスターヴ自身、疲労に身体の自由を取られていた。膝が笑い、息が上がる。
「無駄に時間と体力を使ってしまったな…」
「加えて相棒、『ガンダールブ』の力、あんまり使えてなかったしな」
 話しながらも周囲を見渡す。遠くから喧騒、そして砲撃音が聞こえる。
「本来ガンダールヴは主人の盾なんだ。主人の危機に対してガンダールヴの力が発揮される。さっきみてーに手前一人のピンチじゃ殆ど、
ガンダールヴの力はでねぇから」
「つまり年相応の体力とパワーしか出せてなかったってことか…」
「おう。ま、相棒もともと剣の達人みたいだし、あんまり大事にならねーですんだけど、体力の方はどうにもなんねーな。相棒、いい年だし」
「一言多いんだよ…」
 話しながらギュスターヴは東の丘の中腹に立ち、改めて戦場を鳥瞰した。上を向けば船が漂い、下に向けて砲を撃っている。
地面はそのせいか、炎の壁があちこちに立ち上がっているように見えた。
「このままだとトリステインが負けるぞ…」
「でもお嬢ちゃんも見つかんねーしなぁ……おおぅ?」
「どうした、デルフ」
 カタカタとデルフが騒ぐ。
「なんか、ものすげーよくないものがくる…感じがする」
「良くない物?………っ?」
 デルフが鳴る、というより震えているのを抑えると、急に視界が暗くなるのに気付く。
 空浮かぶ船の間から空を見ると、厚い雲が掛かり始めているのだとわかった。
「雨…か?良くない物って」
「いや、ちげー。もっと上からくる」
「もっと、上…??」
 曇天が雷雲のように呻り、タルブ北面街道が震えた。木板を引き裂くような轟音が劈くほどに鳴り響くに至って眼下の戦場でも、にらみ合う両軍が
異変を察知して俄に矛を止め始めた。
 ギュスターヴは切れ間に見える天上の暗さに、ふと変貌したルイズが携えていた怪しげな卵を脳裏に蘇らせていた。
 経年が養った直感が、この空をルイズと結び付けさせた。
「………来るぜ」
「何?」
 両軍が立ち止まっても尚、空は割れんばかりに鳴り響いて止まない。さらに曇天は濃くなり太陽の光は薄く、暗く……。
 
 そして。天上の雲を切り裂いて落ちる一筋の光が、不吉な戦場の真上に零れた…と思った瞬間。
 
 光が空に浮くアルビオン軍艦の一つを貫いた。
 
 爆音、熱波、閃光が高度約400メイル上空から戦場全域に向かって放射した。戦場に居る者はギュスターヴを含め、知らぬ間に
悉く目を覆い身を屈めさせるほどの音と光と熱が、一瞬であらゆる者に叩きつけられた。
「「「っ?!」」」
 そして目を見開いた時、ギュスターヴの視界には火達磨になった船が地面に落ちようとする姿があった。
55鋼の使い魔(後書き) ◆qtfp0iDgnk :2009/02/20(金) 20:02:10 ID:ysiCvBzD
投下終了。第一部終了まであと2話。
WA2の件ですが多重クロスではなくあくまでもイメージソースとしたいので(今回のワルドの攻撃もその一つだったり、シマスヨ)
ああ、その前に卒業か留年かによっては投下にこれなくなってしまうかもしれませんが…では。
56名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 20:47:56 ID:He/Zh8AT
鋼の人乙ー。
続きwktkしながら待ってます。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:02:29 ID:trcIMWka
鋼の御大。乙でありまする。

自分ももうちょっとで、もうちょっとで投下できる……。
なんとか今日に間に合わせたいな。今日は、今日は大事な日なんだが…
58名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:02:33 ID:YC9dkT7R
59名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:09:25 ID:hDiUsHPr
ワルドはサルゴンみたいなポジションになるかと思ったがあっさり退場したな
60名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:17:24 ID:vz3FbLTQ
鋼の人おつです
烈風剣来るか?と思ったけど術技だった
61名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:25:00 ID:K6EDrD3P
>>「死んでなきゃあ可笑しいだろうがぁぁぁぁぁ!」
一瞬ザビーネがきたのかと思ったw
62名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:27:35 ID:FIuJ0oMW
鋼の人乙!
降り注ぐ光りが奴の『シューティングスター』ならば、
幾多のプレイヤーを困らせた確実に『アレ』を撃ってくるな……
『スタークエイク』を。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:27:37 ID:ySwdmGbt
お前は死んでなきゃあああ!
64名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 21:54:00 ID:67WWUZdU
原作の方で悠二は現在、最強レベルの強さだが
何ら問題はないしな
主人公はシャナなわけだし
ラスボスは強ければ強いほどいいだろうさ
65名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:14:03 ID:r+z6tbnA
>>62
俺は「世界の合言葉は森」だと予想
66名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:20:50 ID:sQc3IH12
ザビーネ召喚…
あれ結構ありなんじゃないか…?
67名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:24:07 ID:a/kyzbMa
だけどザビーネが忠誠を誓うような貴族ってゼロ魔にいるか?
68名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:26:12 ID:dJDoshyt
虚無の使い魔が、右手、左手、頭部、胴体と脚部で巨大ロボットになれる作品ないかなーとか・・・
69名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:28:13 ID:ySwdmGbt
逝っちゃってるザビーネが再生する話なら見てみたい
70名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:28:16 ID:MGVRG73x
>68
泣くようぐいす、という週刊少年マガジンに連載されていたの最終回を思い出した。
71名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:30:30 ID:IQNwBC/i
>>66
四人の使い魔をクロボン繋がりで喚ぶとか。
主が貴族であることに拘るザビーネを喚ぶのが誰になるか。

残り三人はカラス、カリスト、あとハリソンあたりを喚べばとてもカオスな事に。
72名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:31:56 ID:kCunC4TC
駄目じゃないかキーンケドゥゥゥ!
73名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:32:06 ID:a/kyzbMa
ハリソンはルイズが召喚だろ、ロリコン的に考えて
74名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:32:09 ID:4et2JNrg
>>71
ハリソンがルイズorタバサに一目惚れする展開が見えたw
75名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:33:50 ID:ySwdmGbt
>>68
コスモ、Aメカ、Bメカ、Cメカとそれぞれの担い手が契約
そして全てが揃った時……
76名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:35:14 ID:IQNwBC/i
ハリソンはあえてテファ。

テファは胸的にロリから外れるのだろうか?
それともロリ巨乳というレア属性なのだろうか。

作者的にトビアが出っ張りの少ない体型好みなのは間違いなさそうだけど、
ハリソンはどうなのだろう。
77名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:35:30 ID:cI0Gpjrc
グレン・キャノンもだ!
78名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:38:45 ID:La9D20tt
イデオンガンを忘れるなんて!


そして消え去るハルケギニア
79名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:38:46 ID:4R9SX0p2
>>68
神の左手ガンダルヴ。必殺技はマクロスアタック。
神の右手ヴィンダルヴ。仕事は艦載バルキリー隊の指揮。
神の頭脳ミョズニトニルン。艦長席から戦闘全体を指揮。
そして記すことさえはばかられる「四体目」……神の要塞「メガロードゼロワン」
80名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:39:14 ID:qtPdOVQG
Bメカに乗った人が死ぬのですね
まさに死のBメカ
81名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:40:56 ID:2QLvJkY5
>>70
全滅じゃねーかw
82名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:42:53 ID:kCunC4TC
もういっそのことゲットマシン三機を…ドワオッ!
83名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:49:06 ID:UwJUBv5U
そこはアクエリオンだろう。
84名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:51:58 ID:mGKaPrKb
ふと思ったんだがメイジの二つ名ってどうやって決めてるんだろ?
85名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:55:35 ID:IQNwBC/i
>>84
設定・考察スレその11
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1231939394/68

あたりで考察されているな。
86名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:56:16 ID:7N5mhxJF
自称だろ

しかし青銅だの赤土だのは絶対かぶってる人多いよな
87名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:57:12 ID:vaGWjuLP
>>83
コッパゲ「気持ちイイ…」

こうですか、分かりません!
88名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:57:50 ID:niovVQxb
>>84
多分得意な系統魔法とか戦法で決めてるのでは?

ワルドの場合は攻撃が早いから『閃光』
ルイズの母もといカリンは強力な風の使い手だから『烈風』
コルベールの『炎蛇』の由来は多分原作で使う炎で作った蛇。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 22:59:07 ID:mGKaPrKb
>>85
サンクスです
90名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:03:47 ID:8aUxkJIb
邪気眼のルイズとか嫌すぎるだろ

今まで召喚された奴でカッコイイ二つ名は…オリンピアの恋人とか
キングオブハートかなあ
91名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:05:08 ID:kCunC4TC
ギィさん…アシハナの人も復活しないかな…なにより藤田成分が足りなさ過ぎる
92名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:07:49 ID:H1kDRwpQ
藤田分か。
ゾナハ蟲召喚とか。
93名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:07:50 ID:U6Js2W1j
>>カッコイイ二つ名
南斗爆殺拳のルイズ
94名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:09:02 ID:wXvixqnc
南斗爆殺拳のルイズとかは見たいがw
95名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:09:48 ID:7N5mhxJF
爆殺はどっちかというと北斗の領域じゃないか?
96名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:11:03 ID:mGKaPrKb
南斗爆殺拳は定着しそうだw
97名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:12:35 ID:U6Js2W1j
>>95
確かアニメ版北斗の拳のジャッカルのダイナマイト攻撃が「南斗爆殺拳」だった気がする
アニメオリジナルは南斗人間砲台とかアホな南斗聖拳が色々あった
98名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:13:39 ID:SBdDW+bN
一瞬、「少林寺撲殺拳のルイズ」に見えて焦った
99名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:13:42 ID:IcU7L9OT
アニメオリジナルなんてそんなもんだろう

鋼鉄聖闘士とか……
100名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:14:11 ID:a/kyzbMa
アニメ版だと南斗聖拳の流派の中には人間大砲とか無茶苦茶な技があったから
本当に爆殺拳とかあってもおかしくないw
101名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:14:46 ID:CuXVrCDk
>>83
スカロン「あなたと合体したい…」

こうですか?
絶対に嫌です!!
102名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:15:58 ID:4aLmjjBX
火薬に頼って何が拳法だ、とケンシロウに呆れられてたやつか。
しかし男塾にはさらにデタラメな拳法が山のように出てきてたりする。
103名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:16:19 ID:eiFROKzv
>>92
フェイスレス召喚して新たなフランシーヌをデスネ…

ルイズが"白金O"バリに魔改造されかねないな
あとテファがピンチかもしれん
104名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:18:30 ID:dJDoshyt
>>コルベールの『炎蛇』の由来は多分原作で使う炎で作った蛇。
深く考えると「炎蛇」ってけっこう奥が深い二つ名だったりする。
「炎」は破壊と情熱のほかに創造とか、火の発展が科学技術の発展って見方があるから「進化」「発明」なんて見方もできるし、
「蛇」は善し悪しはあるけどキリスト教、ギリシャ神話とか錬金術で「知識」の象徴してる生き物なわけで。
そう考えるとコルベール先生マジスゲェ!!まぁオレの勝手な考えだ。
105名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:19:03 ID:wXvixqnc
ナルミを呼ぼう。怒ったらルーンの力まで活性化されて無敵になる
ロボになった後ならジョゼフの加速にも追いつきかねない
106名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:19:51 ID:U6Js2W1j
>>鋼鉄聖闘士
聖闘士星矢の原作最終回後の一輝ニーサンが召喚される話で
シエスタの祖父とその友人達が鋼鉄聖闘士
アニメで急に見かけなくなったのはハルケギニアに迷い込んでいたのが原因だった!
ってのを考えてた事もあったっけ

シエスタが祖父達の影響で
平民<(越える事は不可能じゃ無い壁)<貴族<<<<<<<(越えられない壁)<<<<<<<<<聖闘士
って認識を持ってしまって決闘イベントではギーシュに対して
「み、ミスタ・グラモン!今すぐ地面に額をこすりつけて命がけで謝罪の言葉を!!聖闘士さまにたかが貴族程度が勝てるわけは無いのです!」
とか言っちゃう魔改造系
107名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:20:04 ID:kCunC4TC
し、進化って気持ちいいよね、ね?コーウェンくん?
108名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:23:37 ID:La9D20tt
>>107
そ、そうだね、スティンガーくん
109名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:24:36 ID:dJDoshyt
>>進化って気持ちいいよね
「アグモン進化だ!!」「気持ちイィ・・・!」って想像してしまった。
110ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:24:52 ID:GRngfwP+
お久しぶりです。
ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェルを投下させていただきます。
23時30分を予定しております。
111名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:26:21 ID:kCunC4TC
>>108
スティンガーを演じてどうするwwww
そうだね、スティンガーくぅんだぜ。コーウェンくんは

そして支援
112名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:28:28 ID:UwJUBv5U
幻魔皇帝ってアサルトバスターか? 支援。
113名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:28:39 ID:La9D20tt
>>111
ずいぶん前にやったスパロボDの記憶だったんだ、すまない

ヒャッハー!支援だー!
114名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:28:46 ID:myjxR5ln
死の茄子色カブト虫
支援
115名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:28:53 ID:U6Js2W1j
久しぶりの支援
116ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:30:21 ID:GRngfwP+
ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 1 「二人の帰還と王女の来訪」

フーケと真駆参の逃走から三日後
アルビオン王国サウスゴータ地方、ウエストウッド村。
領主の騒動があってか、この村は孤児達と一人の娘以外はいない。
お昼を過ぎたあたりの頃、付近の住民があまり近寄らないこの村に、二つの足音が近づいていた。
「はぁ・・・」
ローブにしては比較的動かしやすい格好をした女性が溜息をつく。
(あの娘にバレているなんて・・・せめて私が、土くれのフーケという事には気付いてほしくないね・・・)
緑の髪を垂らしながら、自身にとって最悪の状況まで達していない事を祈る。
しかし、自分が後ろめたい事がお互いに知ってしまったのが、マチルダは余計につらく感じていた。
「どうすりゃいいのかねぇ」
「それを、話す為に帰るのだろう」
後ろを歩く、真駆参もそれ以上の事は言わなかった。
二人は、あの後港町から、船に乗りこのアルビオンに帰って来ていた。
その途中、お互いに会話を交えながらもこの話題には触れる事は無かった。
「あいつは、マチルダの事を傭兵かなんかだと思っている」
「そうだといいねぇ、私が土くれだと知ったらあの娘は私にこんな事をやらせないだろうね、けど、
盗賊じゃないからって、今回の事で絶対に私の事を止めるだろうね」
自分を待つ少女の、心配する顔は怒った顔よりも自分にとっては答える物であった。
「自身の身内が危険な事をしていたら、止めるのは当然であろう」
(そう、当然の事なのだが、俺には実感できない・・・)
そう言いながらも、自身がその言葉の意味を理解だけはしているために、真駆参の言葉はどこか弱さを含んでいた
「アンタは私を止めないんだね、アイツラじゃないけど、アンタは私の事を見過ごすようには見えないしね」
フーケとして、自身が初めて正体を明かした相手だけに、マチルダは真駆参の意図を理解できないでいた。
「俺個人ならば、お前を役人にでも突き出すさ・・・」
(けど、それでは解決にはならない・・・)
自身が直面している問題の難しさを真駆参は解っていた。
会話しながら歩くうちに、二人の拠点が見えてきた。
それが見えた事で、マチルダの足はさらに重くなるのを感じた。
もう一つの要因である、拠点に居るであろう少女に渡す袋の中をのぞき見る。
「今回はイマイチだったからね」
何時もからすれば、少ないがそれでも数ヵ月はあそこに住まう者達を賄う事が出来た。
しかし、最大の獲物である魔法学院が不発に終わり、次のターゲットであったモット伯には行く事も出来ず、
有るのはその前に手に入れた物を換金しただけであった。
そして、それは彼女の次の仕事の機会が早まった事を意味していた。
「そうは言っても、彼女はお前を当分どこにも行かせないさ」
真駆参が自身の主の行動を予想して、マチルダにくぎを刺した。
そうする内に、扉の前まで二人は歩いていた。
117ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:31:05 ID:GRngfwP+
金髪の少女は子供達を昼寝につかせた事で、一日の半分が消化したことを実感した。
ここ数日、少女は不安があったがドアを叩く音とその声を聞いて数日の不安が解消された。
「おかえり、マチルダ姉さん、マークスリー無事だったのね!」
色言いたい事があったが、彼女達の姿が変わらない事が彼女には一番うれしかった。
「ただいま、無事も何もテファ、私は、
トリステインの魔法学院で秘書をしていただけだよ、私は危ない事はしてないわよ」
普段なら、その言葉を自信持って言えたが、今のマチルダにはその言葉は重かった。
「まぁ、俺が行く必要もなかったな、テファ、俺達が居ない間に問題はなかったか?」
マチルダからお金を受け取った、金髪の少女、ティファニアを見ながら真駆参が近況を聞く。
「こっちは大丈夫よ、真駆参、姉さんの事ありがとうね」
安堵と嬉しそうな顔で、ティファニアが自身の使い魔の労をねぎらう。
「ただ見に行っただけだからな、マチルダは長旅で疲れている。早く休ませてやってくれ」
「分かったわ、姉さん今日はゆっくり休んでね」
何時もの文句であるが、ティファニアのその言葉は何か含むものがあった。
「そうかい、少し早いけど休ませてもらうよ、夕食はいらないわ」
自身も、合いづらかったせいか、どこかぎこちない応対をしながら自分の部屋に歩いてくる。
(マークスリー・・・)
一瞬だけ、妹の使い魔と顔を会わせながら、何かをすがるように彼の顔を見た。
「疲れているだろ、今日はもう休め」
意図を読んだかどうか解らないが、少なくとも彼女は信用する事にした。
彼女が部屋から出た後、久しぶりに二人だけになった。
「マークスリー、ありがとう姉さんを助けてくれて・・・」
「俺は唯、アイツと会っただけだ」
そう言いながら、彼女の顔を見ず武器を置く。
「彼女の言う通り秘書をやっていたそうだ、俺は言った事無いから仕事までは解らなかったけど」
彼女の言を繰り返すように、真駆参は同じ事を繰り返す。
お互い日も浅いと言う事を抜きにしても、その間には距離感はあった。
「今回は、そうかも知れない・・・けど!姉さんは絶対に危険な事をしているの!」
「彼女はメイジとして腕が立つ、そう言った事もするだろう」
他人事のように、真駆参が否定とも肯定とも言えないような答えを返す。
その答えに、ティファニアは何か言いたそうな顔を見せる。
「ティファニア、俺はあまり言える事がない」
(俺には、ティファニアに偉そうなことを言う事は出来ない)
「マークスリー・・・」
全てではないが、自身の使い魔が何かを言いたげな表情が彼女にも伝わってくる。
真駆参はティファニアに近寄りながら、彼女を見つめる。
「マチルダを信じてやってくれ。そして、アイツとお前は俺が必ず守る。俺が言える事はこれくらいだ・・」
「・・・・ありがとう、マークスリー」
そういいながら、自身の使い魔を抱擁する。
お互いにすべてを伝える事は出来なかったが、大事な事はティファニアにも伝わった。
今、一刻の時間が流れる中では、それだけで充分であった。
118ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:31:48 ID:GRngfwP+
それから、さらに数日後
ルイズは、夢を見ていた。そして、その主役は自分では無く自分の使い魔であった。
舞台は自分の家ほどではないが、それでも平民からは程遠い家であった。
どうやら、何か重要な日であるらしく、その家の周りには十数人が集まっていた。
「ニュー、今日からお前は騎士の従者になるのだ、それは騎士としての一歩を踏み出すのだ」
その家の入口で、どことなくニューに似た者が告げる。
「はい、お父様、立派な騎士になれるように頑張ります」
あまり、違いは解らないが若いニューがそれに応える。
(この夢って・・ニューの昔の事?)
「お前は、我が家の名に恥じぬ立派な騎士になるのだぞ」
ありきたりの文句であるが、気持ちの入った言葉は余り着飾る必要がなく、それだけでも意味があった。
「はい、行って参ります。」
一礼をして、その場を後にする。
その様子を玄関の家族が、満足そうに見ている。
(ふーん、昔は真面目だったんだ)
今が不真面目という訳でもないが、どちらかと言うと冷静で、
毒舌なニューがルイズのイメージであったので、今の若いニューは新鮮に見えた。
彼が門を出ようとすると10数人がその様子を熱烈に見送る
「ニュー様、お父様に負けない、立派な騎士になって下さい」
「頑張ってください、ニュー様」
使用人や、良くしてもらっている平民達がニューにエールを送る。
それに対して、ニューが馬上から笑顔で応える。ただ、どことなくそれは本心には見えなかった。
(・・・気楽に言ってくれるよな)(え!)
何も言ってないのに、ニューの声が頭に響く。
(お父様みたいな騎士になれって言われたって、僕には剣の才能がまるっきりないのに・・)
その声は若いが、いつものニューと変わらない者であった。
ルイズはニューの顔を見る、笑顔ではあるが、どことなく表情は暗かった。
(はぁ、どうしたらいいんだろう、ゼータやリ・ガズィに稽古でボロ負けしたなんて言えないし)
見送りがなくなった事で、笑顔が消え憂鬱の一言で表せる顔に戻る。
(ニュー・・)
この間、ニューが言っていた過去の話を思い出し、
ルイズがそこにいるニューに声をかけ出そうとするが・・・
「・・ルイズ、起きろ」
どうやら、ルイズが現実の方に声をかけられてしまった。
見やるとそこには、若くないそして、何時ものニューの顔があった。
「ニュー・・・・」
ルイズが、何かを確認するように、ニューの顔を見やり名前を呼ぶ。
「朝だぞ、今日は何かの式典があるのだろ?準備をしたらどうだ?」
洗った洗濯物を仕舞いながら、今日の予定を教える。
「うん、分かった」
夢でニューを見た事、そして、自身がまだその境界にいる事で、ルイズはそう言うだけであった。
119名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:32:02 ID:trcIMWka
支援するのもやぶさかじゃない。こいつがな
120名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:32:47 ID:+SqLGx8r
支援
121ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:33:00 ID:GRngfwP+
一人の少女が自身の責任を果たす為に、トリステイン魔法学院へと向かっていた。
そして、周りの道を民衆が見守る中、街道を走る馬車の中に一人の少女がいた。
少女――アンリエッタ・ド・トリステインは民衆に見られると言う事がすでに何であるかを気付いていた。
幼いころは、それが何であるかは解らなかったが、時が経つにつれ徐々にそれは自身では無い何かに目を向けているのだと言う事に気がついた。
自分を見ているわけでは無く、王女を見ている。それからは、彼女は見られると言う事にあまり感じる事が無かった。
民衆に手を振ると、歓声が上がるしかしそれは、自分の後ろにある糸のついた王女に向けてのものだろう。
そして、自分もいつしか民衆では無くそこに見える糸のついた何かに向けて手を振っていた。
(はぁ、けどこれは自分の役目だし、それに、彼女にも会えるから)
そう言い聞かせながら、自分の席に着きながら周りを見回す。
アンリエッタは余り王女としての責任感は無かった。それは、自分が無力な存在である事を誰よりも早く知っていたからである。
(彼らは、私に何を期待するのかしら、明晰な頭脳も魔法の才も政治的な能力もない私に、私などより、マザリーニに期待すればいいのに・・・)
自身にとって疎ましくもあり、そして最も頼りになる老けた男の顔を思い浮かべながら、アンリエッタは自嘲の感情を持つ。
彼女は思うところがなくなり、辺りを見回す。もしかしたら、アンリエッタの会いたい人物の顔があるかもしれない。
そして、その目論見は当たっていた。
彼女の会いたい人物は、列の一番前に陣取り自身に回りと変わらない視線を送っていた。
(ああ、ルイズ、会いたかったわ!)
会いたい人物を見つけ、アンリエッタの顔も明るくなる。しかし、数秒後にはその顔も無くなる。
(・・・あれは何かしら?)
ルイズの隣にある、人間程の大きさのゴーレムもどきがアンリエッタには気になってしょうがなかった。
そして、そのゴーレムもどきの表情はなんとなく自分の表情に似ていると感じた。
そこから離れた所には、4人ほどの人影が遠目からその馬車を眺めていた。
「ふーん、あれがアンリエッタ王女ね、私の方が美人じゃない」
燃えるよう赤い髪に褐色の肌のキュルケが自身の美貌と比べ誰と問わず勝ち誇る。
しかし、残りの三人はある種の期待通り、反応が薄いものであった。
「・・・」
青い髪の少女、タバサは見向きもせずにお菓子に手をつけながら、読書に講じている。
当然キュルケの対決にも、全くと言って良いほど興味を示さなかった。
「まぁ、俺はどっちも美人だと思うぜ」
そう言いながら、見向きもせずに、お菓子を頬張るダブルゼータにはまったくの説得力がなかった。
「てめぇが美人かどうかなんか分かる訳ねぇだろう、岩でも見てろ!」
からかう様に、テーブルに立て掛けられたデルフがダブルゼータに絡む。
しかし、お菓子を食べるのに夢中でその声は届いていなかった。
「あなたに、そんな事は期待いていないわよ、ゼータ、あなたは?」
キュルケが答えを聞きたいゼータに尋ねるが、その声は違う意味で届かなかった。
「おお、美しい、フラウ姫やユイリィ姫の様だ」
ゼータは何やら、アンリエッタを見ながら自分の世界に浸っていた。
「そんな事を言ってると、またシルフィードに襲われるわよ」
呆れ半分でゼータに忠告するが、その声もやはり届かなかった。
「それにしても・・・」
アンリエッタでは無く、キュルケがその周りにいる中の一人に注目する。
「あのルイズの顔は何、飼い主に再会して感極まった犬みたい」
アンリエッタを見るルイズの表情を、罵倒とも言える表現で表すが誰も聞いている物はいなかった。
122ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:33:22 ID:GRngfwP+
罵倒では無いがルイズの表情を見て、似たような感想を漏らす者が他にもいた。
「アンリエッタ王女、素敵ですわ・・・」
その感想をもつ者は、称賛の言葉を漏らすルイズを見ていた。
(ルイズ、クックベリーパイが運ばれて来た時の3割増しといった表情だな)
そう思いながら、その対象であるアンリエッタを見る。
確かに、彼女は物語に出てくるような絵に描いた王女であった。
ただ、その笑顔から何も感じる事が無かった。
(昔の、私見たいな顔をしているな)
自身も王族では無いが、幼少の頃から衆目に晒されてきただけに、彼女の顔はそれに慣れ親しんだ者であった。
期待されると言う事は、必ずしも悪感情では無い。しかし、期待されても自身にその能力がないと分かると人は卑屈になる。
そして、それに慣れすぎるともはや他人事のように、感じてきてしまう。
今の手を振る彼女は、まるで、自分に対してでは無い何かに対して民衆が手を振っているのであり、我関せずと言った表情であった。
その時、彼女とふと目が合う。彼女の眼は、この世界に来てから珍しい反応では無かった。
だが、ニューにはその感情こそが初めてアンリエッタ本人の顔に見えた。
ニューは、それが何となく気まずくなって目をそらす。そして、再び視線を彷徨わせるとまた別の視線と合わせる事になった。
その視線の主は、帽子をかぶった金髪の顔の整った男であり、個人の感想としては髭が似合わないと思った。
だが、ニューが気になったのは、アンリエッタと同じように、偶然視線が合っただけなのにアンリエッタのとは違う物を感じた。
その男の顔には自身に対する、興味が現れていた、それは珍しくないのだが。
(私が、珍しくないのか?)
何かを冷静に目測するような眼で見る男に、ニューも何かを感じ取った。
お互いが何かを感じたのか、ほぼ同時に目をそらせた。
(まぁ、気のせいだよな・・・・)
ニューはそれ以上の感想を持たなかった。
数分後、アンリエッタは無事、魔法学院の門をくぐったのだった。
123ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:33:53 ID:GRngfwP+
アンリエッタの来訪の簡単な挨拶も終わり、生徒達は昼食をとっていた。
「ねぇ、あの姫様の周りにいた髭のお方、かっこ良くなかった?」
アンリエッタでは無く、その周りの話題をキュルケが口にする。
(さっきの男かな?)
良くは見てないが、何となくその条件に当てはまりそうな男である様な気がした。
「ん?それってワルド様の事?」
クックベリーパイを食べながら、ルイズもまた条件に合いそうな男を上げる。
「ルイズ、知り合いなのか?」
何となく、自分も気になっていたのでニューもその男の情報を求める。
「スクウェアクラスのメイジでグリフォン隊の隊長よ、家が近いから何度か遊んでもらったわ」
(昔はよく遊んでもらったけど・・久しぶりだな・・・)
ルイズが、それだけ言いながら、食べる事を再開する。
(年は違うが、幼馴染というやつか)
ルイズの話では、もう過去の出来事であるらしい。
「ルイズの相手なんて、それは苦労したのだな・・・」
自身も、友達と言えばやはり家の付き合いでの延長であった。
それに、ニューは彼女の相手をしているだけに、その男の苦労も何となく感じた。
「ふざけんじゃないわよ!この、馬鹿ゴーレム!」
ニューの感想に対して、ルイズはフォークで応えた。
「隊長か、なるほど、是非手合わせしてみたいな」
「俺を忘れんなよ、相棒」
ゼータとデルフが、ワルドの実力を聞いてそのような願望を持つ。
「やめときなさいよ、アンタが弱いわけじゃないけど、この間のモット伯とは違うのよ、
技は魔法に弱いし」
ルイズが、ゼータの特性から勝利の難しさを語るが、その言葉はニューにとってある疑問が浮かぶ。
(なんでルイズは、その事を知っているんだ?)
かつて、彼らの団長を務めた男と同じ言葉を聞いて、ニューはその疑問をぶつける。
「ルイズ、何で技が魔法に弱い事や、力に技が強い事を知っているのだ?」
「その事?夢を見たのよ、よく分からない夢だったけど何となくその事は覚えていたのよ、ニュー、どうかしたの?」
ルイズが、何か聞きたそうなニューに対して不審に思い逆に質問する。
だが、ニュー自身も的を射た答えがないのか
「そうか、何でもないんだ・・・」
そう言って、曖昧に答えるだけであった。
(夢か、よく解らんな・・・)
ニューにとっては些細な事としか思えなかったので、そこで話題を打ち切る事にした。
124ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:34:20 ID:GRngfwP+
ルイズ達が昼食をとっている頃、護衛の魔法衛士隊はアンリエッタの護衛の為に、配置についていた。
「ワルド様、護衛の配置完了いたしました。」
自分よりも一回り上の副隊長がワルドに報告する。
「わかった、後は交代で休ませながら、警護に当たってくれ。土くれのフーケの襲撃騒ぎがあった後だ、油断してはならない」
「はい、わかりました」
年下のワルドに対して、全く嘲る態度を見せず副隊長が忠実に職務を実行する。

「アンリエッタ王女、警護及び護衛の配置、終わりました」
ワルドが自身の仕事が完了した事を、学院長室のアンリエッタに報告する。
「ありがとうございます。ワルド隊長、貴方はたしかヴァリエール家と家が近かったですね?」
アンリエッタが、報告を聞いた後、何かを思い出したようにワルドに問いかける。
「はい、ヴァリエール家には良くしていただきました」
「私も、ヴァリエール家三女のルイズとは良く遊んだものです。そのルイズが、今はこの学園にいるそうです。」
ルイズがこの学院にいる事をあげながら、アンリエッタが過去に思いをはせる。
「ルイズは良く言っていましたよ、ワルド様が大好きだと、お会いになってはどうです?」
ウインクしながら、ワルドをいたずらっぽく見る。
「ルイズ様は私もお相手を務めさせていただきました。彼女に会いたいとは思いますが、しかし、自分には護衛の任務があります」
ワルドが、そう言いながら笑顔で応える。
そして、一例をしながら部屋を退出する。
「ルイズ様か・・・まだ、脈ありって所ね・・・」
そう言いながら、アンリエッタは自身の行動の為の準備に入った。

夜 ワルドに充てられた部屋
「あれが、報告にあった使い魔達か・・」
朝見かけた、三体の使い魔そして、自身が知っている人物が召喚した使い魔と目があった事をワルドは思い出す。
ワルドが聞いた報告では、三体の使い魔はかなりの力を持ち、モット伯の邸宅を襲撃し、土くれのフーケを追い詰めた。
それを聞くだけでも、ワルドは戦慄すると同時に、意欲が湧いてきた。
(ルイズ、君がその使い魔を召喚するとは、やはり君はすごいよ・・・)
ワルドはその中でも特に、魔法を使うニューに対して、興味を持った。
自分達とは全く違う魔法を使う、卓越した術者。
「彼とは、是非手合わせしてみたいな」
そして、あわよくば・・・そう言いながら、ワインを一口だけ口に含む。
窓から外を見ると、フードを被った人影が女子寮に向かっていた。
125ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:34:56 ID:GRngfwP+
深い闇の中、一つの命が生を終える。
「ばかなっ!」
見るからに屈強な男が崩れ落ちる。
「ふむ、この世界の騎士とはこの程度ですか、大した事はありませんね」
男に刺さった剣を抜き、それはつまらなそうに呟いた。
「これがあるとはいえ、幾らなんでも弱すぎますねぇ」
それは退屈していた。そして、近くにいた人影を見つめる。
「これが、契約ですからね、どうぞお食べ下さい。
ああ、そろそろ私の標的も来ますからそちらも準備して置いて下さい」
そう言い残し、それは森の奥深くに去っていく。
「化け物ね・・・・私が言えないけど」
自身の“食事”を失わせるくらいの光景を人影は見ていいた。


「はぁ、退屈だわ・・・」
馬車から、民衆を眺める少女
彼女の来訪が第2幕の開幕を告げる。
PROLOGUE

「22マークスリー、お帰りなさい」
エルフの少女 ティファニア
マークスリーを召喚する。
MP 250

ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル

少女は本来豪華な椅子に座りながら人に指令を出すが、自身の使い魔にはそれを適用しなかった。
「アレックス、今度はラグドリアン湖の調査をして来てくれないか」
自身の使い魔に対しては、命令と言うよりも頼みごとの様な口調になってしまう。
「いいよ、イザベラ。ではすぐに、行ってくる」
命令を受け、きびすを返して、彼女の使い魔が部屋を出ようとする。
「まっ、待ちなよ、どうせ急ぎの任務じゃないんだ、それに・・」
彼女はそう言って口ごもる。
「どうしたんだい?」
「アンタは私の使い魔なんだから、もう少しここでゆっくりしてったらどうだい」
「分かったよ、イザベラ」
そう言いながら、彼女の使い魔は自室へと戻っていた。
(調子狂うねぇ・・・)
彼女の使い魔に対する感想はその一言であった。
126ゼロの騎士団:2009/02/20(金) 23:36:36 ID:GRngfwP+
以上で投下終了です。
タイトルにもある通り、2部はクロムウェルさんがラスボスです。
けど、幻魔皇帝だからと言ってHPが80,000になる訳でわありません。
127名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:42:35 ID:La9D20tt
幻魔って聞くとラビエルを思い出してしまうぜ
>>126
128名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:48:08 ID:RnBnDCFZ
>>127
同じく

>>126
乙です
129名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/20(金) 23:57:06 ID:g/GJa3Rn
>>126乙です
ストーリーの流れが原作と同じSSって投稿されているのか?
あったら教えて欲しい
順番改変作品のが好ましいなら今考えてる話をそうしようと思ってるんだが
130名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 00:05:13 ID:JJzZY2DO
>>129
流が同じって作品は山ほどある気が。
大事なのはどう作品に肉付けするかだと思うんだが。
ぶっちゃけで面白ければ正義。
131零魔娘娘追宝録の者:2009/02/21(土) 00:05:42 ID:dS1+5MAE
くっ、間に合わなかったか!

お久しぶりでございます。零魔娘娘追宝録の者です。
13話ができたので、今日と、いや昨日というめでたい日に投下させていただこうと思ったのですが。
推敲やら何やらで投下宣言ですら21日なってしまう始末。
それでもまぁ、一応出来たものは出来たので投下したい所存であります。
道が空いているようであればすぐにでも投下させていただきたいがよろしいか?
132名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 00:06:15 ID:jwfTorme
>>86
ゼロってルイズが自分から名乗らないのを考えると、他人から見た感想な気がする
痛風のマルコリヌとか付けられたら自殺もんだが
133零魔娘娘追宝録13:2009/02/21(土) 00:12:39 ID:dS1+5MAE
とりあえずボチボチやらせていただきます
-------------------
『アルビオンに蠢く黒い影』


 やれやれ、と息をつきながらフーケは言う。
「ずいぶんと手間取ったみたいだけど、これでようやくアルビオンも我らが版図というわけかい」
 戦闘の痕も生々しいニュー・カッスル城。その中庭をぐるりと見回す。
 こここそが、『アルビオン王国』最後の領土であった場所だ。

「王とその取り巻きが要らぬ抵抗をしてくれたおかげでな」
 彼女の隣を歩く青年、閃光のワルドは言う。
「戦力差は百倍で、こちらの損害も十倍だ。……我が軍はしばらく動けんな」
「大陸の端に陣取られ、空を背にして大火力で一方的に滅多打ち、かい? 
言っちゃあなんだが、もう少しマシな作戦は立てられなかったもんかね? 馬鹿丸出しじゃないかい」
「まともに指揮のできる人材が払底していたからな。それにメイジの頭数も足りなかったのが原因だ」
「はっ、処刑しておいてよく言うよ」
 損害の規模だけで言うならばレコン・キスタ全軍の中では微々たるものだ。
 旧アルビオン王国のほぼ全てを飲み込んだレコン・キスタは、文字通り一国の軍隊に匹敵する戦力を持っている。
 たかが千や二千の損害などものの数ではなかった。
 しかし今回の戦いでレコン・キスタ軍の脆さ、すなわち指揮系統の脆弱性を露呈することとなってしまったのだ。
 それをどうにかして解消しなければ、これまでのように連戦連勝とはいかなくなる
 このまま一気呵成にトリステインへと攻め込んで、というわけにはいかなくなったのだ。

「貴様のゴーレムでもあったならば話は別だったろうさ」
 憮然としたワルドの言葉に、フーケは顔を真っ赤にして怒る。
「冗談! こちとらこの腕につけられた腐れ忌々しいパオペイのせいで、どこかの誰かさんにくっついてなきゃならないからねえ。
そのどこかの誰かさんは片腕失って後方送りときたもんだ!」
 フーケはその腕に嵌められた腕輪の宝貝、動禁錠によって大きくその自由を制限されている。
 ワルドがフーケの動きを戒めようとしたり、あるいはワルドが意識を失ったり彼から離れたりすればたちまちフーケの身体は地面に縫いとめられるようになっているのだ。
「こちらに伝えずに勝手に移動して、身動き一つできなかった私の身にもなれってんだ!」

 フーケはワルドがアルビオンに行っている間、ラ・ロシェール近郊の森の中でずっと身動きできずにいた。
 なんとか魔法を使うことはできたから、ゴーレムを使って獣から身を守ったり雨風をしのげはしたものの。
 彼女の存在を思い出したワルドが遍在の一人を向かわせた頃には、すでに精魂尽き果てた彼女の姿がそこにあった。
 食事もできなければ風呂にも入れなかったのだ。当然といえば当然であろう。
 身柄を遍在のワルドに回収された後、じっくり休息をとった彼女が最初にしたのはワルドに殴りかかることだった。
 人間の足とはあんなにも高く上がり、後頭部を捉えることができるのか。とワルドは今でも戦慄する。

「わかったわかった……ドウキンジョウの解除命令は出しておいてやる。それで文句はないだろう?」
「工具か武器のパオペイでもあれば破壊できるはず、か。ま、それでよしとしておいてやろうかね」
 並みの道具では破壊は不可能だが、武器の宝貝の刃であれば動禁錠は破壊できる。使用者であるワルドが破壊に対する『許可』を与えていれば、の話だが。
 とりあえずはその許可を引き出せただけでもよかろう、とようやくフーケは納得を見せた。
「しかしなんだって我らが『皇帝陛下』は王子様の死体を寄越せなんて言うんだろうねえ?」
「……」
 ワルドはその目的を知っていた。しかしあまりにも荒唐無稽な、信じがたい目的であるため、無闇にそれを口に晒すのは憚られる。

「ま、大方晒し首にでもするんだろうけどさ。悪趣味なことだよ」
「口が過ぎるぞ。聞かれでもしたら面倒に――と、このあたりのはずだ」
 焼け落ちた礼拝堂。その中心、祭壇の近く。そこにウェールズの遺体はあるはずだった。が、
「これは……焼き捨てたのかい?」
「そのようだな。油と火薬まで使っている。ずいぶんと念入りなことだ」
 そこにあるのは人間大の煤けた燃えカスのみ。
 しかも身に着けていた貴金属の類まであらかた焼け焦げている念の入り様だ。
「これじゃあ晒し首ってわけにもいかないねえ。首だか胴だかわかったもんじゃありゃしない。
しかし、仮にも王族の遺体をこうまで損傷させるとは。甘っちょろい貴族のお嬢ちゃんにしては思い切ったことをする」
134零魔娘娘追宝録13:2009/02/21(土) 00:13:26 ID:dS1+5MAE
「……」
 やはり、とワルドは思う。自分と渡り合ったあの娘とあの剣、そう簡単にくたばるようなタマではない、と。
 であれば、いずれまた戦うこともあろう。たとえどこあろう、彼の故郷、トリステインででも。
「ま……色男もこうなっちまうとお仕舞いだね。哀れなもんだよ」
 フーケの言葉に、ほう? とワルドは意外そうな声を出す。
「ずいぶん同情的だな。おまえとしてはいろいろ思うところのある相手だろう?」
 フーケ、その彼女の本当の名であるマチルダ・サウスコーダとアルビオン王族との間には何やら確執があったらしいということは知っている。
 フーケが貴族をやめて盗賊などに身をやつしたのもその悶着が原因であるらしい。
「そうなんだけどね。――そんでも、死んでしまえば同じことさ」
 死者は死者、生きる者は生きる者というわけだ。ドライといえばドライではあるが、ある意味では優しい言葉でもある。死者に対してまでも生きる者のしがらみはぶつけるものではない、と。

 だがワルドは、
「……私はそうまで割り切れん」
 苦い思いを含ませながら、彼にしては非常に珍しく生の感情を剥き出しにして呟く。
「へえ? あんたも意外と――」
 言いかけたとき、別の方向から声が響く。
「子爵! 様子はどうかね!」
 甲高い、神経質そうな男の声だ。
「おや、皇帝陛下のお出ましだ」
「黙っていろ」

 面白がるように言うフーケの脇を肘でつつきながら、ワルドは現れた男に方膝をつく。
 現れたのは誰あろう、レコン・キスタ首魁。クロムウェルであった。
「ワルド子爵。王子の亡骸の様子はどうかね?」
 同じく方膝をついたフーケは、ちらりとクロムウェルを見る。
(これが皇帝陛下という柄かね)
 心中で苦笑する。目の前の男に、それほどの威厳があるとも思えない。
 ただ、気になることがあった。

「……」「……」
 先ほどから一言も喋ろうとしていないが、クロムウェルは二人の女を連れていた。
 一人は目深にフードを被った、黒装束の女だ。顔はわからないが、かすかに覗く口元に浮かぶ笑みは皮肉げに歪んでいる。
 この女は、ただものではない。そうフーケは確信した。
 高位のメイジやてだれの騎士という気配ではない。しかし、この女からは何か尋常ならざる気配を感じる。
 この手のいかにも食わせ物という風体の人間には注意を払わねばならない。かつて自分がそうであったから故の警戒だ。

 そしてもう一人の女、これはわからない。
 黒装束の女と違い、こちらは顔を隠していない。
 顔立ちは整っているが、取り立てて美女と評するほどでもない。どこにでもいるような女だ。
 戦禍に荒れる城を見つめて、悲しげに目を伏せている。
 しかしこの女も、どこか普通の人間と違うような空気を纏っている。
 黒装束の女と違い脅威を感じさせるものではないが、得体の知れない不気味さという意味では同じようなものだ。

 静かに観察を続けるフーケをよそに、ワルドは報告を続ける。
「陛下。申し訳ありません、どうやらわざわざ王子の遺体を焼き捨てたものが居たようで。残っているのはこの――」
 消し炭の傍に転がっていた杖を拾い上げる。
「――王子の持っていた杖くらいなものです。この分では手紙のほうも期待できないかと。
この失態の責任は私にあります。いかようにも罰をお与えください」
 そう言って深く頭を垂れるワルドを、フーケは見えないよう笑う。
 いかなる罰を、とは笑わせる。この人材不足の折に、ワルドのような者をみすみす失わせるような度胸をこの男が持っているわけないだろう。
「ふむ……手紙のほうは仕方あるまい。どうとでもなる。
それに子爵、君はまことによく働いてくれている! そんな君を咎めたりするものかね!」
「そう言って頂けるは望外の喜びというものです」
 案の定。クロムウェルはワルドを罪には問わなかった。
 もっとも、これはクロムウェルの言葉通り、ワルドは精力的にレコン・キスタのために働いているのもあるだろうが。
135零魔娘娘追宝録13:2009/02/21(土) 00:14:22 ID:dS1+5MAE
「しかし、これでは陛下の完璧な計画が上手く行かぬのではありませんか? 王子の躯がこのような状態では、陛下の虚無と言えど……」
「たしかに、余の虚無もこの有様では万全な効果は期待できぬ。
しかし、だ。余のカードは虚無だけではないのだよ子爵」
(虚無だって?)
 フーケは我が耳を疑った。虚無といえば、失われたと言われる第五の属性の魔法だ。
 今では伝説、いや御伽噺というような代物だ。それをこの貧相な『皇帝陛下』はもっているのか?

「ミス・シェフィールド! そういうわけであるらしいがどうかね?」
「……王子愛用の杖が一本あれば十分ですわ」
 シェフィールド、と呼ばれたのは黒装束の女だ。
 黒装束の女――シェフィールドは、傍らのもう一人の女に言う。
「レイシン。ウェールズ様を起こして差し上げなさい」
 黒装束の女の言葉に、レイシンと呼ばれたは女は悲しげな顔で首を振る。
 それに対して黒装束の女はチッと舌打ちし――レイシンの首を絞めるように握りこむ。
 首を絞められたレイシンは、苦しげに顔を歪ませる。
「私に逆らえると思っているのか? おまえが『道具』である以上、おまえの『機能』は私の思うままに制御できるんだよ」
 黒装束の女の言う『道具』『機能』、そしてこの人間離れした雰囲気。
(このレイシンとかいう女……パオペイか!)
 であれば、レイシン持つ異常な雰囲気にも納得がいく。
「さぁ、レイシン。あんたを<使いこなして>あげるよ」
 そして女の額が仄暗く光り始める。


 数分後。全ての事は済んだ。
 クロムウェルたちは『王子様』を連れてすでにこの場を立ち去った。
 フーケの足元には未だに消し炭が転がっているが、もはやそれに興味を示す者はいない。
 一部始終を見ていたワルドは唸るように言う。
「流石は宝貝、というべきか……。よもやあのような事ができるとはな」
「あの宝貝に興味が沸いたのかい?」
 反逆者の汚名を被ってまで、レコン・キスタに尽くそうとするワルドの目的はわからない。ただ、先ほどの死人に対する態度といい、何かしら普通ではない目的。
 地位や名誉とか、あるいは金銭のような安っぽい目的ではないことはわかる。
 もしやレイシンの機能がその目的を果たすために役立つのか、とフーケは思ったが。
「いや、あのパオペイの欠陥にはおおよその見当がついた。あれは私が求めるべきものではない」
 と、ワルドは首を振って否定する。

「あのパオペイの欠陥だって? それは一体何だって言うのさ?」
「殺したのが自分とはいえ、杖を交えた相手がどういう男だったかくらいは承知している、ということだ――そういうマチルダ、貴様はどう思う?」
 答えにならない答えを受け、そして逆に問われる。
 あのレイシン、とかいうパオペイ女のやったことを思い出し、フーケは胸中に溜まるドス黒いものを吐き棄てるように言う。
「気に入らないね。ありゃ悪趣味なパオペイさ。あんなものを好んで使うような輩とは仲良くしたくはないね。
それに、あの陰気なパオペイも気に入らないが、何よりあの黒服の女が気に入らない。
なんだってあんなことをする必要がある? ――死人は、死人のままにしておけばいいのにさ」

                  *

「あら。ミスタ・コルベール、ごきげんよう」
 疲れた身体を引きずって学院の廊下を歩ういていたキュルケは、ばったりと禿頭の教師『炎蛇のコルベール』と出くわした。
 こちらに気づいたコルベールは彼が誰にでもそうするように、にこやかに笑って言う。
「やぁ、ミス・ツェルプストー。補習はもう済んだのかね?」
「……お陰様で。それはもう楽しい授業でしたわ」
 そうなのだ、彼女は今の今まで補習授業を受けていたのだった。
 理由はずばり『出席日数の不足のため』である。
 さもありなん、何日も無断で学院の外に出ていたのだから無理もない。
136零魔娘娘追宝録13:2009/02/21(土) 00:16:14 ID:dS1+5MAE
 アンリエッタ王女から非公式ながら正式に依頼を受けていたルイズや、半ば強引ながらも同じく正式に仕事を任されていたギーシュは特例として留守中の授業は出席扱いとなっていた。
 同じく授業を抜け出していたはずのタバサなどは何処吹く風、いつの間にか姿を消していた。
 とはいえ、彼女はキュルケと違って用事のないときは概ね真面目に授業を受けていたから補習に呼び出されることもないのだが。
 結局キュルケ一人が『楽しい授業』を受ける羽目になってしまったのだった。
 逃げ出そうにも補習の担当はあの『疾風』のギトー。逃げられるはずもない。
「若者にはときに道を外れることも必要だ。寄り道は心を豊かにしてくれる。しかし、それは外れた道を戻る労力を惜しまないことが前提だよミス・ツェルプストー」
 うんうん、と頷きながらしたり顔で言うコルベール。先ほどまでギトーの嫌味たらしい説教を聴いていたキュルケにはもううんざりだ。

「お説教はたくさんですわ。――それで? ミスタは学院長に何用で?」
 話を変える意味をこめて、コルベールに問う。
 コルベールが姿を現したのはオスマン学院長の部屋の前。彼が学院長に用があったであろうことは言うまでもない。
 キュルケの問いに、コルベールは何故か慌てたようになりながら、取り繕うように言う。
「あー、いや……その、なんだ。い、田舎から知人の娘と息子が出てきてね。しばらく私の元で働かせて欲しいというから、その許可をいただきにね」
「出稼ぎ、というわけですか?」
 別段それは珍しい話ではない。一般平民が、貴族の縁故を頼って職を得ようとするのはよくあることだ。
 貴族の血を引くと言っても全ての人間がメイジたりえるわけでもなく、ましてや公職につける貴族たりえることもない。
 そんな中で、このコルベールは、その風采に似合わずこのキュルケが所属するトリステイン魔法学院で教鞭を振るえる資格のあるほどの男である。それなりの融通も利くのだろう。

「私が個人的に雇い入れるだけで、学院から賃金が支払われるわけではないんだがね。まぁ、いろいろ事情があって居候することになったわけだ」
「それはけっこうなことで」
 興味が無い、とばかりにキュルケは肩をすくめる。実際のところ、コルベールの事情になど興味は無い。ただの話題転化のための世間話だ。
 それでは、とコルベールの脇を通り過ぎようとしたとき。
「……話は済んだの?」
 別の方向から声がした。
 見やれば、コルベールの背の向こう。廊下の奥に二人の人影立っていた。
 若い女と小さな男の子だ。先ほどの声はこの女のものだろう。
 二人とも、とりたてて特徴のある者ではない。女は学院で働くメイドたちと同じ服を着ていて、少年の方も一般的な平民と同じような服装をしている。
 ただ、その仕立てや生地の織り目はよく整っている。意匠が平民のものでなければ、キュルケが着ていてもおかしくないほどの出来栄えだった。
 女の言葉にコルベールは返事をする。

「ああ。許可はもらったよ。君たちの部屋は……私の工房の裏手に作るがかまわないかね?」
「……どこでもいいわ。同じことだもの。どこに居たって私達の運命は変わらないんだから」
 俯いて投げやりに言う。鬱屈しているというよりは言葉の通り心底どうでもいいといった感じである。
 女のあまりにも失礼な態度に、傍らの少年は慌てる。
「りゅ、リュウレイさんってば! そんな失礼な言い方しちゃ駄目ですよ!
申し訳ありません、コルベール様。僕たちこれからお世話になるというのに……」
「いやいや。かまわんよ」
 少年の謝罪に、コルベールは苦笑する。どうやらもう、この女の態度には慣れたものであるらしい。
 当の女はというと、そんな二人のやり取りなど気にしないといった様子で焦点のあってない瞳で宙を眺めている。
 これが温厚な、もっと言うならば軟弱なコルベールでなければ無礼討ちにされてもおかしくない態度だった。

 少年はコルベールの寛大な言葉に感極まったように頭を下げて礼を言う。
「本当にありがとうございます。――それで、そちらの方はどなたですか?」
 こちらを見て不思議そうに尋ねる。どうやら彼はまだこの学院に来て日が浅いらしい。
「彼女はミス・ツェルプストー。優秀な火のメイジでね、私の生徒の一人だよ」
 コルベールの言葉に、顔を輝かせて少年を一礼する。
「はじめまして! ツェルプストー様。僕はソウゲンと言います!」
 少年らしい実にはきはきとした挨拶だとキュルケは好感を覚える。
 陰気な平民メイドはともかく、この少年――ソウゲンは礼儀正しいよい人間のようだ。
137零魔娘娘追宝録13:2009/02/21(土) 00:17:38 ID:dS1+5MAE
 ソウゲンは隣の女を手で示して言う。
「それでこちらがリュウレイさんです。僕達は、えーっと……」
 困ったようにコルベールを見上げる。
「さっきも言った私の知人の娘と息子だよ」
「はい! そういうことになってます!」
 自信満々にそう言うソウゲンの言葉に、キュルケは眉を寄せる。
「そういうこと?」
 そういうこととはどういうことだ?
「あ! えーっと、な、なんでもありません!」
 コルベールはやれやれ、と顔を手で覆っている。
 どうやらなにかしらの事情があるようであるが、このソウゲンという少年の真っ直ぐな態度には邪な人間の気配は感じない。
 これでも人を見る目には自信のあるキュルケは、あえて追求してソウゲンを困らせてやることもあるまいとそれには触れないことにした。


 それに何よりこの少年の瞳。
 吸い込まれそうなほど深いのに、それでいて暖かさと強さを感じられる不思議な瞳をしている。
 よほど精神の捻じ曲がったものでもなければ、この少年に好感を覚えずにはいられないだろう。


「まぁいいわ、よろしくね。ソウゲン君」
「はい!」
 キュルケはよろしく、との言葉通り彼に手を伸ばす。握手をするつもりだった。
 だがその手は――
「……っ」
 横から伸びた手に打ち払われる。
「何するのよ!」

 キュルケの手を打ち払ったのは他に誰あろう、リュウレイの手だった。
 リュウレイは恨みがましい目でキュルケを見ながら、ソウゲンの頭を抱きかかえる。
「……私のソウゲンに触らないで」
「さ、触らないでって……」
 キュルケは何もソウゲンに危害を加えようとか、そういうつもりで手を伸ばしたのではない。ただ親愛の意味をこめた握手をしようとしただけだ。
 リュウレイはソウゲンに向き直り、低い声で言う。

「……ソウゲン。ああいう女のほうがいいの? もしそうなら早く言ってね。死ぬから」
「ち、違います違います! 違いますから! 挨拶をしようとしただけです!」
 うわ、とキュルケは一歩引く。この女、危ない。
 自分の恋路も他人の恋路も踏み歩いてきてキュルケにはわかる。たまにいるのだ、こういう少年趣味というやつの女が。
「あんたって『そういう』趣味なの?」
 半ば揶揄するようなキュルケの言葉に、リュウレイは――思いのほか真剣な顔で言う。
「……『そういう』がどういうものかは知らない。だけど私は『ソウゲンのことが』好きよ。愛してるわ」
 ソウゲンのことが、に比重を置いた言葉。それは彼女がただの少年趣味の女ではなく、純粋にソウゲンのことだけを愛していることがわかる。
 ソウゲンが少年だから、ではない。ソウゲンがソウゲンであるからだ。

「……だから貴方みたいな女が面白半分でソウゲンにちょっかい出すのは許さない」
 これは本気の――恋する女の目だ。こんな目をして恋をする女には敵わない。
 そうキュルケの本能は悟る。『微熱』のキュルケの名は伊達ではない。
 参った、とばかりに手を挙げる。
「私の負け。降参。微熱のキュルケ、野暮なことは好まないわ。――でも握手はさせてもらうわよ、ソウゲンとじゃなくて貴女とね、リュウレイ?」
「……なんですって?」
 キュルケの言葉に、意外そうな声音でリュウレイは聞き返す。
138零魔娘娘追宝録13:2009/02/21(土) 00:19:11 ID:dS1+5MAE
「私が貴女のことを気に入っちゃったからよ」
「……正気?」
「正気も正気。私、本気で恋をしてる人って誰であろうと気に入っちゃうのよね」
「……やっぱり正気じゃないわね。狂ってるわ」
「かもしれないわねー。それで、どうする? する? 握手」
 そう言って伸ばされたキュルケの手を一瞥し、リュウレイはそっぽを向く。
「……お断りよ。気持ち悪い」
「あら残念」
 つれないリュウレイの言葉にも腹は立たなかった。
 何故ならば、そっぽを向く瞬間。リュウレイの頬に朱がさしていた――ように見えたからだった。

                  *

「この辺りは安っぽい酒場が多くて本当は好きじゃないんだけど。
だからと言って貴方を私が普段行くような店につれていっても困るでしょう?」
 昼下がりのトリスタニア。路地に面した店の一角を陣取り、悠然とエレオノールは言った。
「はぁ。まあたしかに、エレオノールさんのいらっしゃるような店に連れて行かれても困りますが」
 言われた静嵐は納得しているようなしていないようなはっきりしない喋りで同意する。

 ぼんやりとした口調は、普段の彼女であれば「はっきり喋りなさい!」と怒りの対象になるのであろうが、
 そこはそれ、恋は盲目というやつである。
 この状況、もはや言うまでもない。エレオノールの『お礼』なのだ。
 ここ、トリステインの首都トリスタニアで静嵐がエレオノールを助けてのが数週間前のこととなる。
 それからこちら、エレオノールは『お礼』と称してたびたび静嵐を誘おうとしてきたのだが、
 その度に邪魔が入り、今日やっと静嵐を街に連れ出すことに成功したのだった。
 思えば長い道のりであった。彼を誘おうと魔法学院に出向いても、その度に『盗賊退治です』だの『内密の学院外授業です』だのですれ違う日々。
 たまに会えたかと思えば、空気の読めない妹の許婚が邪魔してくる始末である。

 そう言えば、あの妹の許婚。何やら大ポカをやらかして国外追放処分となったらしい。いい気味だ。

 だがそれも今はいい思い出だ。会えなった時間が二人の仲を濃密なものにしてくれる。
 そう思えばこそ、こうして今日二人でのんびりできる時間にも意味があるというものだ。
 結論づけ、エレオノールは満足げに息をつく。

 ――しかしその一方。連れ出された当の静嵐といえば、
(エレオノールさんってば、ずいぶんと義理堅い人なんだなぁ)
 というくらいにしか思っていないのだから報われない話だった。

「貴方と一緒でなければこんなところまで来ないわ」
 こんなところ、とはあまりな物言いかもしれないが。彼女の言葉はけして的外れとも言えない。
 今、二人がいるのは治安こそ悪くないとはいえ、あまり上品とは言えないような通りなのである。
 少なくとも、トリステインでも有数の貴族の出自であるエレオノールが寛ぐには少しばかり品格というものが足りない。
 しかし相手は平民である静嵐だ。あまり上等なところに連れて行っても息が詰まるだけだろう。
 今回はあくまでも静嵐の勇猛果敢な悪漢退治(とエレオノールは都合よく記憶していた)に対するお礼なのである。静嵐が寛げないようでは本末転倒だ。
 本来エレオノールはそうした相手のことを気遣う細やかな配慮の出来る女なのであるが。
 悲しいかなそうした機会にはとんと恵まれなかったのである。

「なにせここには魅惑の――なんと言ったかしら? まぁなんでもいいわ――魅惑のなんとか亭なんていう、
若い娘に如何わしい服装をさせて酌をさせるような店まであるらしいし」
「歓楽街なんだなぁ、とは思ってましたが。そんな店まであるんですか。若いお嬢さんに酌をさせるような店まで」
 静嵐は納得する。今は昼間であるから、そういった店のほとんどは看板を下ろしている。しかし、歓楽街特有の空気というのは日差しの下でも消えはしない。

「そう、十代の若い娘に……若い……娘……ったく! 若いのが何だって言うのよ! 
尻の青い小娘に鼻を伸ばすなんて馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの!?」
 何かが彼女の触れてはいけない琴線に触れたのか、ドン! と苛立たしげにテーブルを打つ。 
 それに比べて、とエレオノールは一瞬前と打って変わって相好を崩す。
「なかなか悪くないわね。この『お茶』というやつも。酒なんかよりよほどリラックスできるわ」
 彼女たちが先ほどから賞味しているのは酒ではない。『お茶』と呼ばれる代物だ。
 ここはお茶を専門に出す、トリステインでも新しい『カフェ』なる店だった。
139零魔娘娘追宝録13:2009/02/21(土) 00:20:38 ID:dS1+5MAE

 ずずり、と一口。静嵐は茶をすする。
「ああ、なるほどたしかにこれはお茶ですね。……僕の知っているお茶とはまた違う感じですが」
「あら? ここのお茶は東方――ロバ・アル・カリイエから持ち込まれた貴重品だと聞いているのだけど」
「ううん? たしかにお茶はお茶なんですが、微妙に感じが違うかなぁ」
 茶葉そのものは上等下等の差はあれ、種類としての大差はないだろう。おそらく収穫した茶葉を加工する工程が静嵐の知っているお茶とは異なるのではないか。
 武器の宝貝としての観察力を無駄に発揮し、静嵐はそう分析する。

「一口に東方と言っても広いんでしょう? 貴方の住んでいたところとは違う産地のものなのかもしれないわね」
「そうなんでしょうねえ……いやぁ、しかしこれは何と言いますか」
 ズズズ、とまた一口茶を啜り。
「落ち着くねえ」
「そうね……」
 そうしてエレオノールもまた、息をつく。
 このお茶というやつには精神を落ち着かせる効果があるのかもしれない。
 やはり酒などよりこのお茶というのがよほど性に合っている。
 それに、このゆったりと落ち着いたいい雰囲気!
 この状況ならば、と。
 エレオノールがテーブルの上に置かれた静嵐の手に、自分の手を重ねようと手を伸ばしたその時。

「ああ、居た! セイラン!」
 何処からか聞こえる静嵐を呼ぶ声。
「はい?」
 呼ばれた声に静嵐は立ち上がる。
 当然、静嵐の手を取ろうとしていたエレオノールは、肩透かしを食らった格好になってしまい、テーブルの上に突っ伏した。

「あれ? キュルケじゃないか。どうかしたのかい?」
 静嵐が見やれば、路地に見慣れた褐色の肌の少女が立っている。
 見間違うはずも無い。静嵐の主人の級友であるキュルケであった。
「どうした、じゃないわ。貴方に用事があって探してたのよ」
「僕に用事?」
「そ。ちょっといいこと思いついてね。貴方の力を借りたいのよ」
「そりゃかまわないけど。……いいのかな?」

「『彼女』の許可なら取ったわ。あの娘ったら随分とおかんむりだったわよ。ねえタバサ?」
 いつものようにキュルケの傍らにぽつりと佇むタバサは、思い出すようにして口を開く。
「……『私が学院長から命じられた、詔を考えるのに悩んでいるっていうのに、あのバカ使い魔はどっか遊び歩いて! 
え? あいつを借りたい? 好きにしなさいよ。いえ、むしろコキ使ってやりなさい!』
 それはおそらくルイズの言った台詞であろう。
 伝えているのはタバサなのに、静嵐にはルイズの声が頭の中でありありと再生されてしまった。
「ううん。怒ってるなぁ」
「見たところ貴方も何か用事があったみたいだけど――忙しいようなら後にするわよ?」
 テーブルの上に突っ伏した金髪の女を見やり、キュルケは問う。
 どう見ても静嵐はこの女性とお茶を飲んでいたところだ。
 自分の用事といえば別段火急の用というわけでもない。お茶を飲み終わるくらいまで待つのも吝かではない。


 しかし静嵐はといえば、
「いやぁ、全然忙しくはないよ。むしろのんびりしていたところさ」
 嘘ではない。事実二人はのんびりしていただけだ。これが何かの作業中などであればともかく、今は忙しいことなど何一つない。
 であれば、主の承諾を得ているキュルケの用向きを優先するのが理に適っていると分析する。
 しかし、今回の場合二人でのんびりすることそのものがエレオノールの目的だということに全く気づいていない。


「……貴方がいいならいいんだけど。――それではレディ。このおマヌケさんは借りていきますね」
140名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 00:22:51 ID:dS1+5MAE
 未だにテーブルの上でうつ伏せになったままの女性――顔までは見えなかった――に断り、
 静嵐の首根っこを掴んでキュルケは歩いていく。
 ずるずると静嵐を引きずっていくキュルケは、なんとなく気分がいいと上機嫌だ。
 それは、本人が知る由もないのだが、ヴァリエールとツェルプストーの因縁にまた新たな一ページが加わったことによるものであった。

 静嵐たちが立ち去って数分後。微動だにしようとしない彼女の様子を訝しがった店主がおそるおそる彼女に声をかけようとしたのそのとき、
「セイランの主人……たしか『彼女』とか言ってたわね」
 低い声でつぶやきながら、むくりと彼女は起き上がる。
 その形相を見てしまった店主は「ひっ」と小さく声を漏らして店の奥へと逃げ去っていく。
「知らぬとはいえ、私の邪魔をするとはいい度胸ね。
いったいどこの小娘か知らないけれど、もし会う事があればただじゃ済まさないわよ……!」
 静嵐の主人、『彼女』。
 まさかそれが自分の妹であるとは露知らず、エレオノールは静かに怒りの炎を燃やす。
 全く自分のあずかり知らぬところで謂れのない恨みを買うルイズ。
 そんなところもまた、ルイズが静嵐刀の主たる由縁なのかもしれない。

                  *

 ずるずると引きずられながら、静嵐は問う。
「それでキュルケ。どこに行くのさ?」
 問われたキュルケは嫣然と笑う。
「決まってるでしょう? パオペイ探しよ!」

                              (続く)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
投下終了。誰もいないうちに投下してしまったがよかったのかな…

ともあれ、
初めまして、あるいはお久しぶりです零魔娘娘追宝録の者でございます。
どうしても、どうしても20日に間に合わせたかった! というわけで第13話をお送りしました!
20日はというと、あれです。封仙娘娘シリーズ最終巻の発売日なのです!長かった、長かったよ!
ちなみにまだ自分は最終新刊読んでません。
地元の本屋には置いてないので密林さんからのお便りを待つ日々です。
明日明後日には届くそうですが。まだかなまだかなー。
最終巻の展開次第では、特に静嵐の動向次第ではこちらのほうもどうなるかわかりませんが、
それでもなんとか続けていきたいので生暖かい目でご支援ください。

てなところでまた次回。あ、今回のルイズの出番がなかった!
141名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 00:47:29 ID:M8p56C0g
追宝録の人乙
14年も待った貴方は偉いw
142名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 00:50:53 ID:FYuXF+Mm
俺は今読んでるとこ。
上巻の時の帯に付いてた応募券、後生大事に保存してたのに、下巻には付いて無くて絶望した!

はー、次はリジィオの新刊出してくれないかなー。
143名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 00:57:46 ID:WBFElDAU
オリンピック男どころじゃなくなりましたね、リジィオ。
メルヴィ&カシムの新刊でないかなあ〜。
144名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 01:01:58 ID:FYuXF+Mm
あと富士見で言うとヤマモトヨーコとダンシング・ウィズ・ウィスパーズだなー。
あとザンヤルマの剣士の単行本未収録短編あんだろ、アレ早く本にしろー。
145名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 01:02:43 ID:a1gqVbyE
確かに放置期間が長すぎたな
とりあえずアマゾンで買った俺がいる
146名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 01:03:20 ID:bs4brH9v
EGFと星屑を…
147名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 01:10:04 ID:74CAUjlW
ミナミノミナミノ・・・と、星界の続編を
148名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 01:12:38 ID:jMKuNerN
静嵐の人乙です
俺もまだ読んでないけど、もし四本刀が合体して巨大化とかしてても、
それはそれで完結前に書いた二次ってことで問題ないんじゃないすかねー
エレオノール頑張れ
149名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 01:44:14 ID:lD59hOu2
>>132
プリン体を取りすぎたのか……
150名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 02:08:17 ID:U0edVoaa
149見るまで「いたかぜ」のマルコリヌって読んでた・・・
痛車みたいな
151名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 02:11:55 ID:vCWeI2vA
ある意味あってるのでは

ここのSSでもよくハァハァ言ってるし
152名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 02:23:48 ID:19Dk8Ipn
そろそろ誰かが、モンタナ・ジョーンズから誰か
召喚すべきだと思うんだ。
153名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 02:31:32 ID:X63P/3hU
延々と宝探し編になる
154名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:03:10 ID:85kAmNUE
クロムウェル、ワルド、フーケがニトロ博士のメカローバにのって
ルイズ達と財宝争奪戦を繰り広げるのか
155名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:05:40 ID:t91Ehiz4
予約なさそうなので投下します。
156名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:07:03 ID:19Dk8Ipn
OK雑談中止 支援
157アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:07:07 ID:t91Ehiz4
港町ラ・ロシェールは山に囲まれており、いわゆる盆地になっている。
空に浮かぶ大陸アルビオンへの玄関口として知られているこの街へ行くには、峡谷に作られた道を通らねばならない。
数々のメイジが協力して道を切り開き、作り上げられた街道は、絶えず人と馬車が行き来していた。
ラ・ロシェールは人口三百人ほどの小さい街だが、交易の要所故か人通りが激しく、人口の十倍以上の人間がいるように見えるだろう。
巨大な一枚岩の岩壁を、優れたメイジ達が『練金』して、岩壁に埋め込まれた見事な建造物の数々を作り出した。
その見事な景観は、訪れた人にしか解らないだろう……



「岩壁に建造物か…日本にも似たようなものがあったなあ、投入堂だっけ」
人修羅は、コルベールから聞いたラ・ロシェールの様子を思い返し、ちょっとしたホームシックを感じてしまった。

ため息をつきつつ、前を行く馬一頭と、グリフォンを見る。
今は昼を過ぎたところだろうか、早朝に魔法学院を出発した一行は、休憩も食事も取らずに走り続けている。
ギーシュは既に疲れ切っており、馬の背に倒れるような恰好でしがみついている。
途中の駅で二度も馬を代えて走り続けるなど、馬に馴れたギーシュでも相当な負担なのだろう。

一方、ワルドはルイズをグリフォンに乗せて、休むことなく走らせ続けていた。
疲れを見せずに走り続けているグリフォンも凄いが、それに乗り続けるワルドもルイズも凄いと思えた。

「ギーシュのヤツ、大丈夫か?」
人修羅は最後尾を走っているが、時々馬から降りて、自分の足で併走し馬の負担を減らしていた。
砂漠と化したトウキョウに比べれば、踏み固められた街道はとても走りやすいので、疲れなど皆無だった。
人修羅は馬の背をかるく撫でて合図をすると、ひょいと馬に飛び乗り、ギーシュの隣へと移動し声をかけた。
「大丈夫かー」
「………」
ギーシュはグリフォンに追いつくのがやっとのようで、人修羅の方を振り向く余裕も、返事する元気もないらしい。
倒れそうになったら『ディア』で回復してやろう…と思いつつ、ギーシュの恰好が気になった。
寝そべるように馬に乗ると、少し楽かな?そう考えて馬の背に体を預けてみた。…震動が酷い。普通に座った方が良さそうだ。



「ちょっと、ペースが速くない?」
ルイズは、ワルドに抱かれるような格好でグリフォンに跨っていた。
ワルドはそれを聞いて少し首をかしげる。
「ギーシュも人修羅も、へばってるわ」
後ろを見ると、ギーシュも人修羅も、馬の背に倒れるような恰好でしがみついていた。
「ラ・ロシェールの港町までは、止まらずに行きたいんだが……」
「無理よ。普通は馬で二日かかる距離なのよ」
「へばったら、置いていけばいい」
「そういうわけにはいかないわよ、使い魔を置いていくなんて、メイジのすることじゃないわ。それにギーシュだって、一応仲間なんだし」
「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかがきみの恋人かい?」
ワルドが笑いながら言う、とルイズは顔を赤らめて否定した。
「こ、恋人なんかじゃないわ」
「そうか。ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」
そう言いながらも、ワルドの顔は笑っていた。
ルイズをからかっているつもりだと一目で分かるのだが……後ろでその会話を聞いている人修羅には、冗談なのか本気なのか解らない。


「やっぱりロリコンだよなあ…いや、でも日本だって戦国時代には凄い年の差で結婚したと言うし…でも『ショックで死んでしまう』は恥ずかしい台詞だよなあ…」

人修羅は、文化の違いに戸惑っていた。


◆◆◆◆◆◆
158アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:08:32 ID:t91Ehiz4
走り続けて更に数時間、既に日が傾いており、街道沿いに生えた木の影が長く伸びている。

「うう…もう半日以上、走りっぱなしだ。どうなってるんだ。魔法衛士隊の連中は化け物か」
ぐったりとしたギーシュの呟きに、「どこかで聞いたことがある台詞だ」と人修羅が応える。
ギーシュはふと、人修羅の方を見た。
人修羅は馬から下りて己の足で走っている。

…走ってる!?

「…なんで走ってるんだ」
「は?」
「いや、何で君は馬から下りてるんだ?」
「今頃気づいたのか。時々降りて併走すると馬の負担を減らせるんだよ、伊賀の影丸に書いてあった」
疲れた様子が感じられない人修羅に、ギーシュは絶句した。
まさしく開いた口がふさがらない様相のギーシュに顔を向けて、人修羅が口を開く。
「ところでさ、ギーシュ。……あの二人、年齢差があると思うんだけど…この国ではあれぐらいの年齢差で結婚するのは珍しくないのか?」
人修羅は辺りに気を配りつつ走っていたが、ルイズとワルドの様子もしっかりと見続けていた。
ワルドがルイズの体に触れるたびに、セクハラではないか、ロリコンではないか、ペドフィリアではないかと思ってしまう。
ルイズの実年齢は人修羅と大差ないので、日本でも結婚可能な年齢だったとは思うが、何しろルイズは見た目がちょっと幼い。
同級生にはタバサという少女もいるが、仮にワルドがタバサの婚約者だったらそれこそ『犯罪だー!』と叫んでしまうだろう。

ギーシュは、人修羅の質問を聞いて、ニヤニヤと笑った。
「ぷっ…もしかして、きみ……、やきもち焼いてるのかい?」
「やきもち?いやいや…どっちかって言うと倫理的な問題かなあ」
人修羅は、ハルケギニアの文化に、ボルテクス界とは違った意味でのギャップを感じ、ため息をついた。


◆◆◆◆◆◆


一行は馬を何度も替えて、ひたすら力走させてきた。
そのため、夜中にはラ・ロシェール入り口に到着することができた。

人修羅がラ・ロシェールの岩山を見上げると、峡谷の向こうに大きな月が見える。
よく見ると、峡谷の岩壁には明かりが漏れている箇所があった、あれがきっとラ・ロシェールの建物なのだろう。
「ホントに山なんだなあ」
人修羅の呟きを聞いて、ギーシュが怪訝な声で言った。
「きみは、ラ・ロシェールは初めてかい?」
「本でしか知らない、実際に空の港を見るのは初めてだよ。俺の故郷じゃ空の港と言えば平地が主なんだ」

ラ・ロシェールに到着すれば休めると思ったのか、ギーシュは少し元気を取り戻し、饒舌になっていた。
「はるか昔、優れた土系統のメイジがこの地を砦として作ったんだ。そのメイジは当時のトリステインから勲章を賜っているよ、今ではほとんどが宿や店になっているけどね」
「へぇー…ギーシュ!止まれっ!」
人修羅はすぐに馬を止め、次いでギーシュの馬を制止する。
直後に崖の上から何本かの松明が投げ込まれ、一行の姿が照らし出された。

「な、なんだ!」とギーシュが叫ぼうとしたが、人修羅はギーシュの頭を押さえつけ馬の影に伏せさせた。
戦の訓練を受けていない馬は、松明の炎を見ておびえたが、人修羅が「静まれ」と呟くと、ぴたりと動きを止めた。

そこに、何本もの矢が夜風を裂いて飛んで来た、スカッ、カッ、と軽い音を立てて、幾本もの矢が地面に突き刺さっていく。
「き、奇襲だっ!」
ギーシュが叫ぶと、無数の矢が人修羅とギーシュに殺到した。
「ギーシュ!後ろだ!伏せたままでいいからバックアタックを警戒しろ!」
そう指示をとばしつつ、人修羅は背中からデルフリンガーを抜き放つ。
次々に飛んでくる矢を弾き、弾き、弾き続ける。
159アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:09:20 ID:t91Ehiz4
夜目が効くお陰で、矢を放つ男達の姿はしっかりと見えている、ちらりとルイズ達を見ると、ワルドが魔法で風の障壁を作っていた。その質は高く、大抵の弓矢では傷一つつけられないだろう。

人修羅はデルフを左手に持ち替え、ガンダールヴのルーンに意識を向ける…するとルーンが輝きを増し、人修羅の体に『最適な力加減』が浸透していった。
右手でコルベールが作ったナイフを取り出すと、その使い方も、最適な力加減も、自然と体に染みこんでいく。
人修羅は自分の経験と、ルーンからもたらされる武器の使い方を照らし合わせながら、崖上の男達に向かってナイフを投げた。
「うわっ!」
崖の上から叫び声が聞こえた、人修羅の投げたナイフが山賊らしき男の腕に突き刺さったようだ。
それを機に矢の雨が止まり、ワルドとルイズが人修羅の元へ近づいてくる。
「夜盗か、山賊の類か?」
ワルドが呟くと、ルイズがはっとした顔でワルドを見上げた。
「もしかしたら、アルビオンの貴族の仕業かも……」
だがワルドはそれを否定する。
「貴族なら弓は使わないだろう…ん?」

ワルドは空に何かがいると思い、上空を見上げ、目を細めた。
人修羅も空を見上げる、すると聞いたことのある、ばっさばっさという羽音と共に、崖の上から男達の悲鳴が上がった。

人修羅は周囲に気を配りつつ、崖の上の、更に上へと目を懲らす…すると、そこにはタバサの使い魔シルフィードが居た。よく見ると数人を乗せて飛んでいる。
そのうち一人が風の魔法を使い竜巻を起こした、男達の放つ矢を反らすだけでなく、男達を吹き飛ばしてしまった。
「おや、風系統の呪文じゃないか」
ワルドが呟く。

弓を射っていた男達はごろごろと斜面を転がり、所々に体をぶつけ、崖の上から落ちてしまった。
体を打ち付けた男達は、骨の折れるような音、水っぽい音が聞こえてきたので、人修羅は「うわ…」としかめっ面で呟いた。
痛みのあまりうめき声を上げる男達を見ると、ちょっと可哀想な気もするが、こちらを殺そうとしたのだから死ななかっただけマシだろう。

「シルフィード?」
ルイズが空を見上げ、呟く……空にいた何者かの正体は、タバサ達だった。
シルフィードは地面に降りてくると、赤い髪の少女が風竜から飛び降り、髪をかきあげた。
「お待たせ」
ルイズはグリフォンから飛び降りキュルケの元に近寄ると、声を荒げた。
「お待たせじゃないわよッ! 何しにきたのよ!」
「助けにきてあげたんじゃないの。朝に偶然あんたたちを見かけたのよ、面白そうだから急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」
キュルケは風竜の上のタバサを指差した。タバサはなんとパジャマ姿だったが、それでも気にした様子はない、黙々と本のページをめくっている。

そしてもう一人、ミス・ロングビルがシルフィードから降りて、こちらに近づいてきた。
「ミス・ロングビル?どうして貴方まで」
「それが……」
ルイズの質問にロングビルが答える。
ロングビルはオールド・オスマンに人修羅の監視を依頼されていた。
ラ・ロシェールから出航するまでは影ながら見届けるように…と言われていたが、ルイズ達があまりにも馬を急がせていたので、なかなか追いつかず困っていたらしい。
それを見つけたキュルケ達が、シルフィードに乗るよう勧めてくれたので、その好意に甘えて乗せて貰ったのだとか。


「あああもう…ミス・ロングビルはともかく。ツェルプストーには言っておくことがあるわ。これはお忍びの任務なのよ!遊覧気分で付いてこられちゃ困るのよ!」
ルイズが声を荒げるが、キュルケは気にした様子もない。
「お忍び? だったらそう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない?ま、あなたたちを襲った連中を捕まえた分は、感謝してくれても良いわよね」
そう呟きつつ、キュルケは倒れた男たちを指差しす。
怪我をして動けない男たちは、ルイズ達に罵声を浴びせかけており、丁度そこにギーシュが近づいて尋問を始めるところだった。

キュルケは余裕の笑みでルイズを見る。
「勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの。ねえ?」
キュルケはしなをつくると、グリフォンに跨ったままのワルドに近寄った。
「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」
流し目を送るが、ワルドはちらりとキュルケを一瞥しただけで、左手で押しやった。
「あらん?」
「助けは嬉しいが、これ以上近づかないでくれたまえ」
「なんで? どうして? あたしが好きって言ってるのに!」
160アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:10:45 ID:t91Ehiz4
キュルケはとりつく島のないワルドの態度に驚いた、自分に言い寄られた男で、動揺しなかった男は居ないのを自慢にしていたからだ。
しかしワルドにはそれがなく、極めてドライな態度を崩さない…不思議に思ってワルドを見つめていると、ワルドがルイズの方を向いた。
「婚約者が誤解するといけないのでね」
その言葉と視線に気が付いたルイズは、頬を染めて、困ったようにもじもじし始めた。
「なあに? あんたの婚約者だったの?」
キュルケはつまらなそうに言うと、ワルドが頷く。
そんなワルドの様子を観察して、キュルケは、まるで氷のように冷たい瞳だと思い、鼻を鳴らした。
「つまんない」

人修羅を見ると、ロングビルと何かを話している。
キュルケはそーっと人修羅に近づくと、ぴょいと抱きついた。
「ほんとはね。人修羅が心配だったからよ!」
人修羅は驚いて、その場に硬直してしまった。
「ちょちょちょ何を!?」
慌てふためく人修羅は、まるでウブな学生のようであり、内包している魔力からは考えられないほど純情な少年だった。
「ツッ、ツェルプストー!」
ルイズが怒鳴る、と、キュルケは人修羅を放して、ルイズに近寄った。
「やきもち?」
「こ、この…」
ルイズは両腕を握りしめてぷるぷると震え、唇を噛んだ。
するとワルドが、そんなルイズの肩に優しく手を置き、ルイズに微笑みかける。
「ワルド……」
そこに、男たちを尋問していたギーシュが戻ってきた。
「子爵、あいつらはただの物取りだ、と言ってます」
「ふむ……、なら捨て置こう」
ワルドはひらりとグリフォンに跨り、颯爽とルイズを抱きかかえた。

「今日はラ・ロシェールに一泊して、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」
一行にそう告げると、ワルドはグリフォンを走らせた。
ギーシュも馬に跨って後を追う、風竜の上のタバサは、本から視線を逸らして人修羅を見る…人修羅は何かを考え込んでいた。

不意に、人修羅が口を開く、
「タバサさん、キュルケさん、悪いけど先に行ってくれないか。俺はちょっと聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
キュルケが首をかしげた。
「最初、松明が投げ込まれたとき、先頭を走るワルドさんがグリフォンに乗っているのも理解できたはずだ。四人ばかりの物取りが、メイジ三人と従者一人の列を襲うと思うか?」
それに…と言いかけて口をつぐむ。
これは勘にすぎないのだが、物取りだと自称する連中が、どうも嘘をついているような気がしてならないのだ。

キュルケは人修羅の言いたいことを理解したのか、解ったわと呟いて微笑むと、シルフィードに飛び乗った。

「ロングビルさんは…俺の監視だから仕方ないですよね。俺の馬に乗って、ちょっと待っててください」
「それは良いですけど、何をするんですか?」
「飴と鞭ってやつですよ」
人修羅が笑った。
161アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:11:32 ID:t91Ehiz4


地面に転がっている男達に近づき、比較的元気そうな男を見やる。
男は太もも血を流していた、修羅が投げたナイフが当たったのだろう。

「なんだ、てめぇ…もう、俺たちに、用は、無いだろ」
「いや、ある。お前ら誰かに雇われたな?」
人修羅が視線を合わせて質問すると、男は微かに眉を震わせた。
「雇われたって、金貨を積まれたって、貴族なんか相手にするもんかい」
そう言い放つ男の前に、人修羅がポケットから取り出した金貨を落とす。
「悪いようにはしない」
「…し、しらねえ」
男は、あからさまに視線を逸らした。

人修羅はふぅとため息をつくと、すぐ側で倒れている男を見た。足と手があらぬ方向に曲がり、苦しんでいる。
「『ディア』」
手をかざして呪文を唱えると、薄緑色の光が男を包み込んだ。
「………あ、あれ?」
痛みが消えて、手足がまともに動くのが不思議なのか、その男は自分の手足を振ったり、さすったりして感触を確かめた。

「怪我は治した。さて…何故俺たちを襲ったか教えてくれないか?正直に答えてくれたらお前の怪我も治そう」
人修羅は、足を怪我した男に向き直り、もう一度質問する。
すると男は観念したのか、辺りを気にしながら、小声で呟き始めた。
「わ、わかった…実は……」



◆◆◆◆◆◆



ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』亭。
ルイズとワルドを除く一行は、この宿の酒場で疲れを癒していた。
宿の一階部分が酒場になっており、その内装も貴族を相手にするだけあって、見事な石造りのものとなっている。
テーブルも床も、すべて岩壁を『練金』で削りだして作られたもので、それらには見事に見事に細工が施されている上、ピカピカに磨き上げられている。

ギーシュがテーブルに突っ伏していると、そこにワルドとルイズが帰ってきた。
二人は桟橋へおもむき、アルビオン行きの船を探して、乗船の交渉をしてきたのだ。
ワルドは席につくと、困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
ルイズは口を尖らせて呟く、と、そこで人修羅の姿が見えないことに気が付いた。
「人修羅は?」
「何か話があったみたいよ、すぐに来ると言っていたけど?」
キュルケが答える。
「そう…」
ルイズは残念そうな、寂しそうな雰囲気を瞳に漂わせて、俯いた。

「おー、見つけた見つけた。ここかここか」
と、その時人修羅が酒場へと入ってきた。
「人修羅!もう、何やってたのよ」
「ごめん、ちょっと調べごとがあって」
「調べごと?」
ルイズが聞き返す。
と、人修羅はギーシュとタバサの間に座り、タバサに顔を向けた。
「この場所はシルフィードが教えてくれたよ、ありがとう」
「………」
タバサはこくんと頷く。
162アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:13:53 ID:t91Ehiz4
人修羅はルイズに視線を合わせると、緊張感を漂わせて、口を開いた。
「…さっき、俺たちを襲ってきた物取りから、ちょっと聞き捨てならないことを聞いたんだ」

そう言うと、人修羅はルイズに着席を促した。

「『通りかかる貴族の一行を襲え』…って内容で、白い仮面とフードを被った男に雇われたらしいが……報酬としてエキュー金貨で15枚を渡されたそうだ。」
「なによそれ…明らかに私たちが狙われたんじゃない」
ルイズが呆れたように呟く。
「エキュー金貨で15枚!かなりの額じゃないか、それなら、メイジの傭兵だって何人も雇えるさ」
ギーシュも驚きの声を上げた。

人修羅はワルドに視線を移す。
「ええと…ワルドさん、どう思いますか」
「貴族の一行を襲えというのならば、我々を狙ったものとは限るまい。仮に野党を仕向けたのが貴族派だとして…おそらくアルビオンに渡るトリステイン貴族の動向が気になり、過敏な対応をしたのだろう」
「なるほどね…」
人修羅はワルドの意見を、肯定せず、否定もしない。
ただトリステインの貴族がどういった考えを導き出すのかを知りたかった。

キュルケに視線を移すと、キュルケは両手を肩の高さに挙げて、手のひらを上に向けた。タバサはキュルケの隣で本を読んだまま。
ギーシュは複雑そうな顔をして、人修羅を見ている。
「あの物盗りは、僕たちを妨害するために雇われたってことかい?そんな素直に喋るとは思えないけど、いったいどんな手を使って」
「飴と鞭さ」
人修羅がニッと笑うと、ギーシュは顔を引きつらせて、笑った。


「まあ、この宿なら大丈夫だろう。ラ・ロシェールは元々砦として作られているし、この宿は貴族専用だ。ここを襲おうとする奴らもいない。今日はもう寝よう。部屋を取ってある」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュと使い魔くんが相部屋、僕とルイズは同室だ」
人修羅はぎょっとした表情でワルドを見た。
「婚約者だからな。当然だろう?」
「そんな、ダメよ! まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」
ルイズが慌てたように言うが、ワルドは首を振ってルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」


◆◆◆◆◆◆


ワルドとルイズが二階への階段を上ると、人修羅は神妙な面持ちでテーブルに肘をついた。
「…なあ、キュルケさん。あれぐらいの年齢差で結婚するのって、珍しくないのか?」
人修羅が呟くと、キュルケはあっけらかんと答える。
「あれぐらい普通よ、男の方はむしろ遅いぐらいじゃない?」
「そうなのかー」
「もしかして、あの男に嫉妬してるの?あんな男より人修羅の方が可愛いわよ」
人修羅の肘が滑った。
「か、可愛いとか言われたのは初めてだなあ。まあ嫉妬と言うより、文化の違いって言った方がいいかな…あ、すいません、水下さい」
人修羅はウェイトレスに水を注文しつつ、故郷の話をする。
「俺の故郷は、百年ぐらい前までは15歳で大人の仲間入りだったそうだ。その頃は平均年齢が50歳ぐらいかな?だから婚期も早い。
でも……俺が居た頃だと平均年齢も80歳を超えていたから、幼いころ婚約を交わすなんて、珍しいものになっていったんだ」
「平均年齢で80?それって、貴族階級のことかしら」
「いや、国民全体でだよ。前にも言ったけど、平民と貴族みたいな階級差は無いんだ」
ギーシュ、キュルケが驚く。
「本当かい?それは凄いな、70歳を超えられるのは希、オールド・オスマンのように年齢が解らないと言われるのは本当に極々希だと聞くよ、余程の長命種族なんだな」
「凄いわねえ、でも、しわくちゃのおばあちゃん時代が長かったら、ちょっと困るわね」
人修羅は、いつの間にか運ばれてきた水を飲み込むと、話を続けた。
「だからさ、ワルドさんのような見た目の人が、ルイズさんぐらいの人に堂々と求婚できるなんて、俺の故郷じゃ百年も前の話なんだ。
俺の生まれた頃は…だいたい25歳が結婚適齢期かなあ。ダンディなオジサンが高校生に求婚したら、『ロリコン』って言われてもおかしくないし」
その言葉にタバサが反応を示した。本から人修羅へと視線を移し、口を開く。
「ロリコン?」
163名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:14:04 ID:F21zariu
支援
164名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:18:05 ID:19Dk8Ipn
支援
165アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:21:48 ID:t91Ehiz4
「そう、ロリコン……なんて言うかな、年下の『女の子』しか愛せないってヤツ、そういう意味かなあ」

タバサは、そう…とだけ呟いて視線を本に戻すと、キュルケはタバサを見てにやりと笑った。
「年が近ければ問題ないんでしょ?」
「そうだよ。同年代ならまあ、フツーかな」
「良かったわねタバサ、年が離れてなければ大丈夫ですって」
キュルケの言葉に、タバサはほんの少しだけ不機嫌そうに眉をひそめて首を振った。
「ちょっと待て、なんの話だ」
困惑気味の人修羅がキュルケに問う。
「あら、だって貴方達を見つけて追いかけようとしたのは私だけど、タバサも凄かったなのよ。
貴方達が馬で出かけたと言ったら、パジャマ姿で飛んでいこうとするんだもの。タバサがそんなに慌てるなんてねえ…きっと春が来たのね」

タバサはぶんぶんと風を切る音が聞こえるほど首を左右に振っている。
ギーシュは、そんな様子を見て呟いた。
「ご主人様には婚約者が居て残念だったが、ミス・タバサが相手になってくれるなら破格の待遇じゃないか?やるなあ人修羅!」
「おい、ちょっとお前ら話を変な方向に持って行くな!」

しばらく人修羅とタバサはからかわれていたが、タバサが殺気のこもった目でギーシュに杖を向けた辺りで流れが止まった。

そんなこんなで、ワインを飲み干すと…ギーシュが欠伸をし始めた。
「ふあ…すまないが、僕はそろそろ休ませて貰うよ」
「俺はもうちょっと飲んでるよ」
「じゃあ、鍵を渡しておこう」
自分は『ロック』があるから良いと言って、人修羅に鍵を渡し二階へと上がっていく。
ギーシュを見送った人修羅は、キュルケに向き直ると、少しばかり真剣な表情で話し出した。

「キュルケさん、すまないが、俺はこれから外に出てくる。その間何かあるかもしれない…もし襲撃があったら、戦力として期待させて貰うけど、いいかい?」
「あら?そういって一人で出かけて…女を買うつもりかしら」
「違うよ。野党から聞き出した話が気になってさ…一応それらしい酒場とかを見てくる」
「ずいぶん用心深いのね?」
「そうでもないよ。本当に用心深かったら、こんな任務にルイズさんを連れてこないよ…アルビオンは戦場かもしれない。それならここも何時戦場になってもおかしくないからな」

視線を逸らして呟く人修羅の表情からは、何を考えているのか想像も出来ない。
しかしその用心深さは、取り返しの付かない後悔から来ているのだと直感的に理解できた。

「あーあ、ルイズも幸せ者ねえ、貴方みたいな人にこれだけ大事にされてるんだから」
「どうかな、俺のせいで荒事に巻き込まれてるかもしれないぞ」
「今まで陰口をたたかれ続けてたルイズに、自信を付けさせようとしてるでしょう?端から見ていると仲の良い兄弟みたいに見えるわ」
「兄弟ねえ」
「そうよ…ま、心配しないで見ていらっしゃい」
「あいよ。悪いな」

手をヒラヒラさせて、キュルケが人修羅を見送る…人修羅は振り向かぬまま手を挙げてそれに応え、ラ・ロシェールの街へと繰り出していった。

人修羅を見送ると、キュルケはグラスに残ったワインを一気にあおる。
そしてタバサの頭をちょんと小突いた。
「私たちも寝ましょ」
「…わかった」

二人は二階へと上がり、部屋へと入って、寝る準備をし始めた。
タバサはパジャマ姿なのでこのまま寝てしまいそうだが、そのまえに体を軽くタオルで拭いている。
その隣ではキュルケが髪の毛をまとめている、ふと、タバサが呟く。
「どうして、興味を持ったの?」
「え?」
キュルケが首をかしげた。
「今まで、人修羅を避けてた…なのに今日は、親しそうにしている」
「ああ…そのことね」
くすりと笑って、キュルケがベッドに腰掛けた。
166名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:23:38 ID:MiMt0gEu
F2支援
167アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:23:47 ID:t91Ehiz4

「別に避けていた訳じゃないわ、ただ、距離の取り方が解らなかったのよ。
…彼に近づこうと思ったけど、焼き尽くされそうな気持ちになるのよ、こんなの初めてだわ、そこには情熱も何もないのよ、無感情に焼き尽くされる…言うなれば虚無ね」
タバサはキュルケの言葉を聞きながら、隣に腰掛けた。
「でも、彼って…その魔力には不釣り合いな程純情よね。ルイズと同じで、からかうのが楽しそうだから、思い切ってから交うことにしたのよ」
「…そう」
タバサは納得したのか、こくりと頷いた。



「そういえば…」
タバサの呟きに、キュルケが怪訝な顔をした。
「ミス・ロングビルの姿が見えない」
「…わざわざ別の宿に泊まったのかしら……じゃあ、これから逢い引き…?人修羅って年増趣味? 故郷じゃ結婚適齢期が遅いって言ってたわね…」

その日タバサは考え込むキュルケを放って、早々に寝てしまったらしい。


◆◆◆◆◆◆


『女神の杵』亭からだいぶ離れた、町はずれといっても良い場所に、平民がよく利用する酒場兼宿があった。
ロングビルは狭い裏通りの奥へと入っていき、はね扉のついた酒場へと入っていく。
スクウェアメイジの魔法で、一枚岩を削りだして作られたラ・ロシェールの街は、岩の建物と木の建物で明確な格差がある。
この酒場はいわゆる平民の、その中でも粗野な者達が利用する酒場で、酒樽の形をした看板に『金の酒樽亭』と書かれているが、廃屋にしか見えないほど小汚い建物なので名前負けしている。
酒を飲んでいる者達も、ほとんどがならず者と思われるような風体の者であり、ロングビルを見ては下卑た笑みを浮かべている。


その日の『金の酒樽亭』は、内戦状態のアルビオンから帰ってきた傭兵たちで溢れており、口々にアルビオンを笑い、けなし、乾杯していた。

「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」
「いやはや!共和制ってやつの始まりだな!」
「では、『共和制』に乾杯だ!」

そう言って乾杯しあって、がははと笑っているが、共和制とは何なのか彼らは知らないだろう。
ただ、雇い主だったアルビオンの王党派が敗北寸前まで追いつめられたので、早々に逃げ出して貴族派に媚びを売っているだけである。

具合良く酒が回ってくると、この酒場には似つかわしくない、フードを被った女に目がいく。
目深にフードをかぶっているので、顔の下半分しか見えなかったが、それだけでもかなりの美人に見えた。
女は先ほどワインと肉料理を注文し、隅っこの席に腰掛けて、給仕にチップとして金貨を渡していた。
「こ、こんなに? よろしいんで?」
「泊まり賃も入ってるのよ。部屋は空いてる?」
ロングビルの上品な声を聞いて、男達は溜まらず顔をにやけさせた、女一人どうとでもなる…目つきがそう物語っていた。
給仕が頷いて去っていくと、幾人かの男たちが、目配せをしながら立ち上がり、ロングビルのの席に近づいた。
「お嬢さん。一人でこんな店に入っちゃいけねえよ」
「そうだそうだ、アブねえ連中が多いからなあ。でも、安心しな。俺たちが守ってやるからよ」
そう言いながら、ごろつきがロングビルのフードを持ち上げた。
ロングビルの切れ長の目に、細く、高い鼻筋…男達からすればまるで貴族のような上玉であった。
「こりゃ、上玉だ。見ろよ、肌が象牙みてえじゃねえか」
男がロングビルの顎を持ち上げようと手を伸ばすと、その手をぴしゃりと撥ねる。
すると別の男が、ロングビルの首にナイフを当てた。
168アクマがこんにちわ:2009/02/21(土) 03:25:22 ID:t91Ehiz4
だがロングビルは恐れる様子もなく、袖の中で握っていた杖に意識を向け、周囲に聞こえない程の小声で『練金』を詠唱する。
男の持ったナイフがぐにゃりと歪み、ぼろぼろと土くれに変わって、崩れた。

「きっ、貴族!」
男たちは慌ててロングビルから離れた、マントを羽織っていないので、男達はロングビルがメイジだと気づかなかったのだ。
「はん、わたしはメイジだけど、貴族じゃないよ…そうだね、迷惑料代わりにちょっと話を聞きたいんだ。あんたたち傭兵なんでしょ?」
ロングビルがそう言い放つと、男達は呆気にとられて、顔を見合わせた。顔にはどこか安堵が浮かんでいる。
何らかの理由で貴族でないメイジならば、ここにいる皆が討伐されることも無いだろうと思い、年長者らしき男がロングビルに近づいた。
「確かに傭兵だ、だが、あんたは?」
「この街に入る貴族を襲え…そう命令した奴がいるそうじゃないか、それについて話を聞きたいのさ」

瞬間、男達が顔色を変えた。
ロングビルの発言に驚いているのではない…いや、一度は驚いたがそれも一瞬のこと、男達の視線は別のものに向けられている。

男達の視線に合わせて、酒場の入り口を見ると、仮面を被った男が音もなく羽扉を開けて、中へと入ってきた。

顔を覆い隠す、真っ白な仮面を被った男は、傭兵たちを見回して一言「失せろ」と呟いた。

男達はいそいそと酒場の宿へと逃げていった、仮面の男はその間にロングビルへと近づくと、ヤケにくぐもった声でこう言った。

「奴らを雇ったのは私だ…探したぞ『土くれ』。いや、マチルダと呼んだ方がいいか」

ロングビルの顔から、血の気が引いていった。



ーーーーーーーーーーー

今回はここまでです。
169名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:26:28 ID:Cj3dzqHx
>>140
ずっと待ってた
170名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:26:35 ID:wR6Ct1sC
投下乙

いつも楽しみにしてるんだぜ
171名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 03:45:08 ID:Cj3dzqHx
アクマの人乙
起きてた甲斐があった
172名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 04:46:07 ID:19Dk8Ipn
投下お疲れ様でした。次回も楽しみにしております。
>>154
それは小ネタに使えそうだな。
あと、ニトロ博士のメカローバーは、人力とか、薪とか、石炭とかで
すごい出力で動くやつがほとんどだったから、ニトロ博士がこっちに来たら作る
ことができるかも知れんな。
キュルケが資金提供、コルベールが技術提供したら、とんでもないものが
作れる気がする。
173名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 05:10:32 ID:m/7wmn2Y
虚無が召喚するのがARMSのコア。
それも黒銀紫緑のコアで、ブリミルの正体が白。
エルフの反射は量産型女王で、魔獣、騎士、白兎もそっちサイド。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 05:55:17 ID:LIjnne4n
コアだけ喚んでも適合しないんだから意味ねえだろ
175ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:21:34 ID:V2OEPK8p
誰もいない、10分後に投下するなら今の内。

しかし、ゆっくり書いていたら二月になってたよ…
176ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:31:22 ID:V2OEPK8p
 
 トリステイン魔法学院で行われたフリッグの舞踏会から約一週間が過ぎた。
勉強もこれからだという時期なのに魔法学院の生徒達はあの時が忘れられず、この教室でも何人かがそのときの思い出を話していた。

ある者は恋人が出来たとか、とても美味しい酒やご馳走を楽しめた等々色々だった。
そんなホンワカとした雰囲気の中、ただ一人ルイズだけが何かを考えているような表情でイスに座っていた。
フリッグの舞踏会があったその日からルイズの頭の中には学院長のある言葉が残っていた。
それは春の使い魔召喚の儀式で喚んでしまい、今では使い魔ではなく居候と化している霊夢へ放たれた言葉であった。

――――君に記されていたというルーンはこの神の左手と言われた『ガンダールヴ』のルーンじゃ。
    ―――そう…『虚無』の使い魔であり、ありとあらゆる武器を使いこなす伝説のガンダールヴ!!

学院長はハッキリとそう言った。ガンダールヴなら私でも知っている。
大昔にかの始祖ブリミルと共に東にある『聖地』へ赴いたという始祖の使い魔の内一人。
ありとあらゆる武器と兵器を使いこなしブリミルの盾となった。
そしてそのルーンが、霊夢についている『筈』らしいが…


   ―――馬鹿言わないでよ!それにアンタの左手にルーンが刻まれてるでしょ?それが使い魔の証拠…

―――そんなの何処にも無いけど?

               ――…え?嘘、なんで!?

最初に自室へ連れて行ったときにはちゃんとキスしたはずなのにルーンが左手の甲から消え失せていた。
だからそのときにきっとガンダールヴのルーンとやらも消えてしまったのだろう。
ミスタ・コルベールはそのルーンをスケッチしたそうだが…今となってはもう関係ない。
(というよりも…私が伝説の『虚無』の担い手のわけがないし…。)
そう、ガンダールヴを召喚できるのは『虚無』の系統を操れる者と言われている。
『虚無』事態は既に歴史の彼方に消え去り、本当にあったのかさえ良くわからない。
177名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 06:32:50 ID:NMhQAGdr
>>154>>172
「ニトロ博士、事情を説明してもらおうか?」
「いま少し、時間と予算を頂ければ……」
「弁解は、罪悪と知りたまえ!……お前達、これで勝ったと思うなよーーっ!!」

こうですね。
178ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:33:56 ID:V2OEPK8p
 
ルイズがそんな事を考えていると、一人の教師が突然ドアを開けて入ってきた。
と同時に、今まで喋っていた生徒達も黙ってしまい全員緊張した顔で教壇に注目する。

入ってきた教師はミスター・ギトー。
黒い長髪に漆黒のマントと、いかにも絵本で悪役として出てきそうな姿をしている。

体に纏っている雰囲気は冷たく、生徒達どころか給士や衛士、教師達からもあまり人気が無い。
現にルイズ達の学年を初めて見たときにも「今年は不作だな。」と馬鹿にしていた。
ギトーは教壇に立つとゴホンと咳払いをし、生徒達を見回す。
そして一通り確認し終えると、満足そうに頷き口を開いた。
「…では授業を始める。皆が知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ。」
ギトーは軽く自己紹介をすると、怠そうな顔で教壇の方を見つめているキュルケへと視線を向けた。
教師の視線に気づいたキュルケはハッとした顔になると先程の態度を誤魔化すかのように軽く咳払いをする。
「ふむ…突然だがミス・ツェルプストー。この世で最も最強の系統を君は知ってるかね?」
「え?」
突然の質問に、一瞬だけ言葉に詰まってしまったがすぐにいつもの得意げな顔になるとキュルケはその質問に答えた。
「簡単ですわミスター・ギトー。伝説と豪語されている『虚無』とやらじゃないんでしょうか?」
いつものように小馬鹿にした感じでキュルケはそう言ったが、ギトーはそれを首を横に振って否定した。
「君はいつからミスタ・コルベールの様な学者になったのだ?私は現実的な答えを求めているのだよ。」
馬鹿にするつもりが、逆に馬鹿にされてしまったキュルケは少しだけカチンときた。
「それはすいません…なら答えは『火』ですわ。全てを燃やし尽くせる威力とその情熱は如何なる存在にも匹敵します。」

『微熱』の二つ名を持つ彼女らしい答えに、ギトーは唸ったが…すぐに口を開いた。

「確かに、『威力』だけを考えればあながち間違ってはいないが。残念ながらそれは違う。」

ギトーはそう言うと腰に差していた杖を勢いよく引き抜き、キュルケの方へ顔を向けた。
「試しに、この私に『火』の魔法で攻撃してみたまえ。」
その思いがけない言葉に、キュルケどころか他の生徒達もギョッとした。
「どうしたミス・ツェルプストー?君は『火』系統が得意では?」
もはや挑発ともとれるその言葉に、キュルケが黙っていられるはずが無かった。
「火傷どころか、退職騒ぎになるような状態になっても知りませんわよ?」
キュルケはそう言うと胸の谷間から杖を引き抜き、ギトーの方へと向ける。
しかしギトーはそれには動じず、鼻で笑うと更に言葉を続けた。
「面白い、今まで私に挑んできた『火』系統の生徒達も君と同じようなことを言っていた。」
それを聞いたキュルケは目を細め、いつもの小馬鹿にしたような笑みを消し詠唱を開始した。
ある程度詠唱をすると杖を軽く振った。すると目の前に差し出していた右手の上に小さな火の玉が現れた。
次いで更に詠唱をしていくとそれに伴い火の玉も大きくなっていき直径1メイルほどの大きさとなった。
179ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:37:44 ID:V2OEPK8p

他の生徒達はそれを見て慌てて机の下へと隠れた。
あの大きさともなると爆発したときの範囲はルイズの失敗魔法並である。
キュルケは深く深呼吸をすると右手首を回転させ、胸元にひきよせると思いっきり火の玉を押し出した。
唸りを上げて飛んでくるソレをギトーは避ける動作すら見せず杖の先を火の玉に向けると剣を振るようにして薙ぎ払う。
直後、烈風が舞い上がり火の玉がかき消えた。と同時にギトーは疾風の如くキュルケの元へと駆け寄る。
キュルケが気づいたときには既に遅く、ギトーの足払いにより体勢を崩し、そのまま地面へと仰向けに倒れた。

ギトーは杖を戻し、軽く呼吸をすると頭だけを出して様子を見ていた生徒達の方へと体を向けた。
そして舞台の上に立った大役者のようにおおげさに腕を上げ、何か言おうと口を開こうとした時――――



「 あ や や や や ! 失礼いたしますぞ!」



突然ミスター・コルベールがもの凄い勢いでドアを開けて教室に入ってきた。
その体に纏っているローブにはレースの飾りや刺繍が躍っており、頭には馬鹿でかいカツラをのっけていた。
コルベールは早足で教壇の所にまで来ると軽く咳払いをし、辺りを見回した。
突然の乱入者に活躍の場を奪われ唖然としていたギトーはハッとした顔になるとコルベールへと詰め寄った。
「どういうおつもりですかミスタ・コルベール?今は授業中です。」
詰め寄ってきたギトーに対しコルベールは陽気な口調で返事をした。
「おぉミスター・ギトー!すいませんが今日の授業は全て中止ですぞ!」
コルベールの口から放たれた言葉は周りの生徒達にも伝わり、ざわ…ざわ…と辺りが少しだけ騒がしくなる。
それから数秒おいてからコルベールはウンウンと頷くと怪訝な顔をしているギトーを放って説明をし始めた。
「えー皆さんに嬉しいお知らせがありますよ。」
もったいぶった調子でそう言うとエッヘンとのけぞった、しかしその拍子に頭からカツラが取れてしまった。
「なんと今日はトリステインの花であるアンリエッタ姫殿下がこの魔法学院の視察に――」
だがそれに気づいていないのかコルベールは両腕を振り上げながら説明を続けた。

それを見て今までざわついていた生徒達の間からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。
やがてそれは他の生徒達へと伝わり、大きな笑い声となっていく。
「―その為今日は各自歓迎のための準備…え?ホアァ!?」
笑い声に気づいたコルベールはふと足下を見てみると自分が頭に乗せていたカツラがあるのに気が付いた。
変な声を発して驚いているコルベールへ向けて、タバサがポツリとこう呟いた。

「――滑りやすい。」

その瞬間、タバサの顔に咄嗟にコルベールが投げたカツラが直撃した。
180ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:39:28 ID:V2OEPK8p
場所は変わり、トリステイン国内のとある山奥。
太陽が出ているのに空を覆うように生えた大木の所為で森全体がとても薄暗く、不気味な雰囲気を出している。
こういう場所は狼や野犬、そしてある程度の知能を持った恐ろしい人外にとっては快適な場所なのだ。
そんな危険な場所を大きな篭を持った女の子が自分の腰ほどの高さもある雑草だらけの山道を歩いていた。

この地方を管轄している領主もこんな山奥に道を作ろうとはしないので荒れ放題である。
篭には少女の好物である蛙苺と呼ばれる野苺が沢山入っていた。
家を出るとき、両親からは森の奥には入ってはいけないときつく言われていたが、以前に内緒でココヘ来たことがあったので気にしなかった。
…村の近くに生えているのは酸っぱかったが、きっとこの山奥に生えているコレはおいしいに違いない。
少女はそんな事を思いながら自分の家がある村を目指し歩いていた。


その姿を、草むらで身を隠しじっくり観察している人外達がいる。『オーク鬼』である。

オーク鬼の姿は二本足で立っている豚―――という例えがピッタリと当てはまっている。
でっぷりと太った大きな体には狼や鹿から剥いだ皮を纏っていて、首には荒縄で人の頭骨で作った首飾りを下げていた。
身の丈は2メイル、体重は人間の優に5倍とかなり厳つく、手には大きな棍棒を握りしめている。
このオーク鬼達は自分たちの巣へ帰ろうと、ふと人間の匂いがしたため近づいてみたら丁度良い餌が目に入ったのだ。
主に鹿、兎などの草食動物や人間すら食べるオーク鬼達は、小さな子供が大好物という困った嗜好を持っている。
オーク鬼達は全部4匹おりその内一匹がフゴフゴ…と鼻を鳴らすと後ろにいた残りの3匹は頷き、ゆっくりと草むらをかき分け、少女に接近し始めた。
流石は厳しい大自然で生きる者達、一匹たりと音を出す者はおらず気配を殺し、獲物へと近づく。
篭を両手で持っている少女はそれに気づかず、鼻歌を口ずさみ始めた。
今頃彼女の頭には家で美味しい美味しい蛙苺を食べている自分姿を思い浮かべているに違いない。
オーク鬼達は尚もゆっくりと近づき、後2メイルという所にまで差し掛かった直後―――


―――― ボ ン ッ !



突如空からもの凄い速度で飛んできた「紙」が草むらに隠れていた一匹のオーク鬼の体に直撃し、爆ぜた。
少女は足を止めてキョトンとした顔になり後ろから聞こえてきた爆発音に何事かと後ろを振り返った。
「キャアッ!お、オーク鬼!!」
今まで気づかず自分の後ろにいた恐るべき人食い鬼がいたことに悲鳴を上げた。
攻撃を受け、地面に突っ伏しているオーク鬼の頭は見事真っ黒に焦げており、ピクリとも動かない。
少女はそのオーク鬼が死んでいることに気づかず早くここから逃げなければと思い、篭をその場に投げ捨てると脱兎の如く村の方へと逃げていった。
そんな少女を逃がすまいと一匹のオーク鬼が立ち上がる。

「プギィ!……ギャッ!?」
しかしその直後、今度は空から飛んできた一本の針が立ち上がった絵オーク鬼の右目を刺した。
オーク鬼は甲高い悲鳴を上げながらもその針を抜こうとするが、あの紙が目をやられたオーク鬼に目がけて飛んでくる。
ただ今度は照準が狂ったのか、それは直撃はせず地面に当たり、直後爆発を起す。
爆発の衝撃で近くにいたそいつは吹き飛ばされ、そのまま道の外れにできた急斜面を転がり落ちていった。

残り2匹となったオーク鬼達は素早く立ち上がると目標を上空にいると思われる敵に視線を向けた。
直後、空から一人の少女がオーク鬼達目がけて飛んできた。オーク鬼達は怒りの叫び声を上げて棍棒を振り上げ迎え撃とうとする。
少女は地面まで後5メイルというところで、両手に持っていた紙を勢いよく二匹に投げつけた。
投げつけられた紙は地上にいた残り二匹へと飛んでいってその内一匹だけ直撃し、そのオーク鬼もまた最初の奴と同じく黒こげとなった。
最後の一匹はその紙を運良く棍棒で薙ぎ払う事に成功した。
代わりに棍棒が爆砕したが接近戦で人間に負けたことがない彼にとっては何の問題にもならない。
オーク鬼は綺麗に着地した少女に駆け寄ろうとしたが、直後に少女は左手に持っている「杖」をオーク鬼へと向けた。
今更杖を抜いても詠唱する暇など無い。メイジとも何度も戦闘経験がある彼はそんな事を思いその大きな拳を振り上げた。

「―――夢想封印。」

少女がポツリと呟いた瞬間、目の前にあの紙が大量に現れ、
オーク鬼は自慢の拳で攻撃することも出来ずその紙の弾幕によって削り殺される事となった。
181ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:42:21 ID:V2OEPK8p
「ふぅ…こんな所かしらね。」
オーク鬼を倒した少女、霊夢は一人そう呟いた。
「それにしても、何処にでもこんなのはいるものね…。」
霊夢はそう言うと黒こげになったオーク鬼の死体を一瞥する。
暇つぶしにと空中を散歩をしていた彼女は豚によく似た妖怪が棍棒持って今にも人を襲おうとしていたので退治した。
勿論オーク鬼達は妖怪という分類には入らないかも知れないが、霊夢から見ればこういう連中は全て妖怪に当てはまる。
それにこれが初めてということもなく、以前にも外へ出たときに何度か遭遇し撃退している。
ある時はこの様に襲われそうになっている人を助けたり、森の中で休んでいる時などには野犬なんかが襲いかかってきた。
野犬や狼等動物の類は軽傷程度の攻撃で済ましているが、こういうオーク鬼のような人外は完膚無きまでに叩きのめしている。
とりあえず散歩に戻ろうと霊夢は踵を返し空へ飛び上がろうとしたとき、ふと何かが目に入った。
それは先程襲われそうになった少女が持っていた蛙苺の入った篭だった。
食欲をそそる赤色の小さめのソレが篭から零れるほど入っていた。
「篭…の中に入ってるのは苺かしら?」
霊夢は篭の中から外へこぼれ出ている蛙苺を1個を手に取るとパクッと口の中に入れ…

「……酸っぱい。」
途端、言いようの無い酸味が口の中いっぱいに広り、顔を顰めた。
どうやらまだ熟していなかったらしい。

クウゥ〜〜…

しかも食べ物を口に入れたせいか小腹まで空いてきた。
可愛く鳴る腹の音に霊夢はやれやれ、と肩を竦めた。


――再び場所はトリステイン魔法学院へと変わる。
その学院の正門の周りでは学院中の生徒達が整列していた。
この時間帯は皆授業中だというのに誰一人それをとがめる者はいない。
どうして生徒や教師達がこんな事をしているのか――答えは今正門をくぐって学院に入ってきた馬車にあった。
無垢なる乙女しか乗せないと呼ばれるユニコーンにひかれた馬車が入ってきた途端、生徒達は手に持っていた杖を一斉に掲げた。
小気味の良い杖の音を出しながら皆が皆その馬車に尊敬と憧れの念が混じった瞳で見つめている。
馬車はオスマンが佇んでいる本塔の玄関先の近くで止まると召使い達が素早くじゅうたんを敷き詰めた。
傍にいた衛士は大きく息を吸うと、大声でこう言った。

「トリステイン王国王女!アンリエッタ姫殿下のおなーりー!!」

その言葉を待っていたかのように馬車の扉が開き中から誰かが姿を現した。



しかし――生徒達はその「王女」という言葉に似つかわしくない姿を見てポカンとする。

それは坊主が被るような丸い帽子をかぶり、灰色のローブに身を包んだ年老いた男だった。
髪もひげに既に白く、指は鳥の骨にそっくりであった。その男はマザリーニ、という名前を持っている。
彼はまだ四十代であるが、枢機卿としての長い長い激務や他人を蹴落とし合う国の政事が彼をこの様な姿にした。
その様なエピソードを持つマザリーニに対し、生徒達の内何人かが馬鹿にするように鼻で笑う。
平民の血が混じっているという噂があり、その為貴族は愚か平民達にすら支持されていないのである。
182ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:46:29 ID:V2OEPK8p
マザリーニの登場により、辺りは気まずい雰囲気になったが…馬車の中から今度は綺麗なドレスを身に纏った少女が出てきた。
年は17。すらりとした顔立ちと薄いブルーの瞳と高い鼻が目を引く美少女であった。
その姿を見た生徒達はその場の雰囲気を一気に変え、辺りを歓声が包む。
少女は軽く微笑むと生徒達に向かって小さく手を振った。

そう、その少女こそがトリステイン国王王女、アンリエッタなのであった――

生徒達が王女の登場により気分が高揚している中、たったの1人だけが白けた目でそれを見ていた。
「あれがトリステインの王女?まだまだ子供じゃない。」
そう言ったのは後頭部に小さなたんこぶが出来ているキュルケであった。
授業でミスター・ギトーにやられたのがよっぽと応えたのか、気分が高揚しないまま参加したのだ。
そして隣では騒ぎなど気にも留めず、立つどころか座って本を読んでいるタバサがいる。
「……本当、あなたって周りの事はどうでもいいというか、相も変わらずね。」
キュルケはそんなタバサを見てポツリとそう呟くと目だけをキュルケの方へ向け…直ぐに本へと視線を戻した。
そんな友人を見てキュルケは怠そうなため息を吐くと隣にいるルイズへと視線を移す。
「ねぇヴァリエール、あなた程でも無いけどあの王女様はまだまだ子供―――ってあら?」

ルイズの顔には僅かに赤みが入っており、いつもの彼女の顔ではないことに気が付き少し言葉を詰まらせた。
キュルケは急いでルイズの視線を追うと、そこには羽帽子を被った立派なグリフォンに跨っている衛士がいたのだ。
ぼんやりとした表情のルイズとその衛士を交互に見比べると、今まで不機嫌そうなキュルケの顔から笑みが戻り始める。
そして口元を大きく三日月形に歪ませ、手で口元を隠し含み笑いをするとボソッと心の中でこう呟いた。

(もしかしたら私、ヴァリエールの一目惚れ…というより初恋の瞬間に立ち会っちゃったかも。)
183ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:47:36 ID:V2OEPK8p
そんな歓迎ムードな学院で一つの激闘が繰り広げられている場所があった。
「おい、クロステーブルはちゃんと敷けたか!?」
「ティーポットの替えって何処にしまってあったっけ?」
厨房ではシェフや給士達が鍋や皿を相手に大格闘していた。
今回アンリエッタ王女はここで昼食と夕食を取る。その為厨房の者達はセッティング等で忙しいのである。
学院お抱えの料理人達は日頃鍛えている腕を奮って料理を作り、給士達はそれを盛りつける皿を準備する。

給士の一人であるシエスタは、純白のテーブルクロスを両手に抱え食堂の中を走っていた。
ここで働いてから月日はかなり経っていたため、しっかりとして足取りで走っていた。
ただテーブルクロスの所為で足下が見えなくなっており、その為に地面に転がっていた石ころに気づかなかった。
「ふぅっ…ふぅっ……あぁっ!」
案の定石ころにつまずいたシエスタはテーブルクロスを咄嗟に放り投げ、大理石とキスすることになった。
数秒おいてから、シエスタは小さなうめき声を上げ鼻を右手で押さえながら立ち上がる。
そしてよく考えればせっかくの綺麗になったのが台無しになってしまったと思い、ため息をついた。
「あぁ〜…やっちゃったなぁ…ってあれぇ?」
そんな事をぼやきながら瞑っていた両目を開け、地面に落ちている筈のテーブルクロスが無いことに気が付いた。
一体何処かと思い、辺りを見回しているとふと後ろから声を掛けられた。
「あんたの探してる物って…これかしら?」
振り返ると、そこには頭からテーブルクロスを被った誰かがいた。
背はシエスタよりも少しだけ低めで頭から白い布を被っているとお化けのようだ。
声はまだ幼さが残っており、「少女」と言う言葉がピッタリと当てはまる。

「あっ!すいません、私ったら…。」
誰だか分からないが失礼だと思い、急いでテーブルクロスを取った。
「前を見るのは良いけど、ちゃんと足下見て走りなさいよ。」
そして…頭から被っていたのがヴァリエールに召喚された霊夢だと知った。
嫌そうな表情になっていたが、すぐにいつもの表情に戻ると彼女は辺りを見回した。
つい先程まで森の上空を飛び回っていたのだが、少し小腹がすいたため何かつまむ物は無いかと学院に戻ってきたらこの騒ぎようである。
「随分と忙しそうね、また宴会か何かでもする気?」
「あぁ、実は今日アンリエッタ王女が視察をかねてここでお食事をするんです。だから準備に追われていて…」
「アンリエッタ王女…?誰よソレ。」
シエスタの口から発せられた聞いたことのない名前に霊夢はキョトンとした顔になる。

「え、知らないんですか?この国の王女様で、とっても綺麗なお方なんです。
 もし顔を見たいのなら今は学院本塔の中を見学中の筈ですから行ってみたらどうです?」

では、私はこれで。と最後に言い、シエスタはテーブルクロスを抱え廊下の奥へと走り去っていった。
(王女、ねぇ…まあどうでもいいか。別に会っても何か起こるわけでも無いし。)
それより今は何か食べるものはないかと王女に全くの興味を示さない霊夢は厨房へ足を進めた。
184ルイズと無重力巫女さん:2009/02/21(土) 06:52:12 ID:V2OEPK8p
これにて今回の投稿は終了です。

ゆっくり書いていたらもう二月
月日が経つのは早いな…
185名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 06:57:38 ID:7MBAO6tX
乙です。ああクレしんの人の続きが読みたい。
186名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 07:25:47 ID:NMhQAGdr
ゆっくりした結果がコレだよ乙
187名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 08:23:28 ID:kwxUkUNX
シルフィードの友達フラグがバキ折れ、だと……!
188名無しさん@お腹いっぱい:2009/02/21(土) 09:51:01 ID:o6ycTrTY
そろそろ、雨の日に生まれたレインが召喚されないだろうか?
まあ召喚されたら絶対にゼロ魔側は惨殺地獄になるだろうが。
レインが嫌いな連中が多すぎるし。
189名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 10:09:46 ID:XX/Jjx/t
じゃあ雨の日のレインつながりで妹ことプルーを
犬だけどな
190名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 10:12:29 ID:vCWeI2vA
そこでデビルガンダムに取り込まれたレインを召喚ですよ
ゴッドガンダムごと

突然目の前で行われる熱い愛の告白
191名無しさん@お腹いっぱい:2009/02/21(土) 10:17:25 ID:o6ycTrTY
違います、私の言っているレインは吉野匠さんの書いている。
最強の魔法戦士のことです。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 10:30:39 ID:f1zEHeFY
ここって物乞いする場所とは違うんじゃね?
193名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 10:42:15 ID:Oq96gGic
レインって、岩倉玲音のことか?
ルイズがワイヤードに逆召喚とか
194名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 10:43:34 ID:vCWeI2vA
>>192
スマン
自重する
195名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 11:40:28 ID:8Jc69JD/
>>193
タバサが自殺して
キュルケがもう一人の自分見てピーガガー
ですね

絶対怒られるわ
196名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:01:45 ID:RwZxD4CT
最新刊読んだんだけど
197名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:12:56 ID:O07DjjUh
ネタバレ


マルコメに彼女が出来た




らいいね
198名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:14:57 ID:gw4TZVci
ネタバレ

ポロリもあるよ!
199名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:26:59 ID:Sf5K9PBM
野比のびたを召喚
200名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:30:43 ID:ICr36a1t
>199
実弾、ビーム、怪光線。銃なら何でもござれの反面、自分の撃った銃で怪我した相手を見て気絶するからなあ。
しかしショックガンのような非殺傷の銃があれば、ほとんど無双状態。さらに召喚された非日常世界なら大長編補正がかかりそうだ。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:45:59 ID:VnkygJTc
しずかちゃんのシャワー程度で伸びる奴に、ハルケギニアは優しくないぞ。
202名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:47:38 ID:C6fb1pFH
>>201
結構じっくり入浴中をのぞいていると思うが
203名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 12:59:45 ID:4x2gPFmb
>>197
と言うか立ち読みにその下りが載ってるネ
204名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:05:45 ID:4x2gPFmb
それはそれとしてタバサはガリア女王になって最前線から離れるかと思ったけど
スクェァになったんだから偏在と言う手があるんじゃね? と思い至った。

でもしばらくは対ロマリア対策に専念しそうだなぁ。

・・・などと早売りゲットが始まったゼロ魔総合スレに行けないのでココで書いて見るテスト。
205名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:20:18 ID:O07DjjUh
206名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:27:36 ID:TjaCCHUG
え?なに?シエスタ死んだの?背後霊なの?
207名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:34:15 ID:3Z4jStoz
>>206
イチャイチャ中に背後霊・・・ある!
208名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:37:43 ID:qdisZBM1
生霊じゃね?
209名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:38:50 ID:kgeBkiSo
背後霊かつ生霊
…六条御息所という名前が浮かんだんだが…
210名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:39:19 ID:ZqkImRKo
自分が死んだ事に気づいて無いパターンと見た
211名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:40:59 ID:4x2gPFmb
あー、でも偏在の距離は精神力に比例するのか。
偏在が出るとしたらもう少し話が進んでからかな。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:42:26 ID:KNwBD2yn
ゼロ魔も2、3巻で終わらせるつもりだったけど、人気が出て引き伸ばしに出たジャンプ型作品なのかな?
お風呂場シーンならかげろうお銀を召喚、くのいちは役に立つだろう。
213名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:43:05 ID:JJzZY2DO
単純に色が薄くなってるだけで普通に後ろにいるに一票
214名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:44:42 ID:pliEm/2B
色が薄いんじゃなくて影が薄(ry
215名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:45:51 ID:Mm+GxRO6
そばかすがないから偽物だな
216名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:51:24 ID:KV1BzPfz
サイトの目の前で学院の屋上から飛び降りて、自分のことを一生忘れないでもらおうとしたシエスタの想いが顕在化したものではないだろうか
217名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:52:33 ID:LIjnne4n
アモス「誰か」
ドランゴ「忘れちゃないか」
218名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 13:52:45 ID:8VI2cbgO
>>203
立ち読み2,3ページかと思ったらずいぶん読めるんだねー
219名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 14:38:19 ID:BRf/TCV3
おいィ?今日は2巻同時発売なんだが?何とは言わないが


ネジ子かわいい
220名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 14:56:53 ID:fM/JNawe
16巻、正式な発売日は25日だっけ?
首都圏の中型書店なら今日でも入手できたが。

>>215
元絵にはちゃんとソバカスあるよ。
加工済みだから仕方ない。
221名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 15:07:03 ID:Wtr2Yw56
そういえばソバカスをニキビの親戚だと勘違いしていた
友人と喧嘩になった事があったっけ・・・・。
222名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 15:14:13 ID:f5Da+ogw
>>221
紫外線の浴びすぎでできるんじゃないのか?
223名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 15:26:13 ID:vCWeI2vA
>>222
顔の皮膚にあるポルフィリンが紫外線を吸収すると
活性酸素が作られて炎症を起こす
つまりニキビの原因になる

って姐さんが言ってたぜ
224名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 15:32:45 ID:lD59hOu2
あの姐さん、早く本格的に出てこないかなぁ
225名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:06:46 ID:myLSL9ti
最新刊読んだ。今夜は飲む。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:31:19 ID:KV1BzPfz
SS書けなくなるからって本編読むの我慢してる人っているだろうなw
227ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:33:06 ID:jdM15Xk7
 こんにちは。

 本日フラゲした16巻を見て『ぎゃあああああああああああ〜〜!』と苦しみつつ、『……いや、むしろこれでやり易くなったというモノよ! ふははははは!!』と開き直ったりしましたが、私は元気です。

 さて、他に予約の方がおられなければ、16:45から第29話の投下を行います。
228名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:37:04 ID:f5Da+ogw
>>223
そーなんだ
ためになるなあ、ためになるねえ
229名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:37:38 ID:SHbotwI5
ラスボスさん支援ぬ
230名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:41:31 ID:RvZSAHx8
ツンデレねえさま支援
231名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:43:19 ID:301TROPr
支援 ティファニアに報告したらチカがどうなるか気になる
232ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:45:00 ID:jdM15Xk7
 時刻は深夜。
 星明かりと月明かりがあるおかげで幾分かは明るいが、それでも夜闇にまぎれるには十分すぎる暗さである。よほど接近しなければ、相手の顔を確認することも出来ない。
 ユーゼスとルイズ、そしてギーシュとモンモランシーはカモフラージュのために木陰に潜み、加えて黒いローブを着込んで、水の精霊を攻撃する襲撃者を待ち構えていた。
「や、やっぱり、来るのかしら……」
「……ここ連日は毎晩襲撃してるって話だから、多分……」
「……………」
「……………」
 緊張をどうにか振り払おうと震える声で会話を行うギーシュとモンモランシー。だが自分たち二人しか会話をしていないので余計に沈黙が際立ち、結果として更に緊張を募らせてしまう。
(……そろそろだな)
 実際に戦った経験はあまりないが、多くの戦いを『見て』きたユーゼスの予感が、戦闘が近付いていると告げている。
(上手く行けば良いが……)
 二重三重に罠や策を用意しても、突破される時は突破されてしまうものだ。
 問題は、どうやってその突破の芽を潰すか。
 これにはやはり、相手を可能な限り早く確実に仕留めることが要求されるのだが……。
(我々は戦闘に関しては、素人の集団だからな……)
 7人の中で唯一の『戦い慣れている人間』であるシュウ・シラカワは、直接には戦闘に参加していない。
 せめて一人くらいは場数を踏んだ人間が欲しかった。
 ……見れば、隣には不安げな顔で自分のローブの裾を掴んでいるルイズがいる。
 ハッキリ言って、今の主人も戦闘において役に立つとは言い難いのだが、それでも作戦の『詰め』においてはかなり重要な役割を担っている。
 ルイズの精神状態がかなり危ういため、不安はかなりあるが、しかし。
(……無い物ねだりをしても始まらないか……)
 もうこうなったら、手持ちの材料でどうにかするしかない。
 気持ちを切り替えて、ユーゼスは襲撃者を待った。

 そして1時間もした頃、岸辺に人影が出現する。
 人数は二人。
 自分たちと同じく漆黒のローブで身を包み、更に深くフードを被っているので男か女かも分からない。
「き、来た……!」
「アレが襲撃者……なのかしら……?」
 いくら何でも『ただ岸辺に現れただけ』の人間を問答無用で攻撃するわけにもいかないので、取りあえずは様子を見る。
 そうして観察していると、謎の二人組は水辺に立って杖を掲げ始めた。
 おそらくは呪文を唱えているのだろう。
 この段階になれば、いちいち躊躇している暇などは無い。すぐにユーゼスはギーシュへ指示を飛ばした。
「やるぞ」
「わ、分かった」
 音を立てないようにしながら、ユーゼスは木陰の間から二人組の背後へと向かった。
 取りあえずの初手としては、横で控えているギーシュが虚を突いて二人組に隙を作り、その隙を突いて背後から自分が攻撃……という手筈である。
 実力に大きな差がある相手と戦う場合は、ワルド戦のように虚や隙を突くしか突破口は無い。
 まあ、それも毎回通用する訳ではないが。
 何しろ、お互い正体不明なのである。
 相手がこちらについての情報を持っている場合は油断も生まれてくる可能性があるのだが、いきなり襲撃されてはこちらの実力を警戒しない方がおかしい。
 よって、今回の作戦のコンセプトは『相手を驚かせて、隙を作る』ことに重点を置いていた。
233ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:46:30 ID:jdM15Xk7
 ユーゼスは無事に二人組の背後に移動し、隠れると、デルフリンガーを取り出してギーシュたちにしか見えないように掲げた。『準備完了』の合図である。
 ちなみにデルフリンガーに対しては『声を出したら湖に投げ捨てる』と言い含めてあるので、迂闊に声を出すような真似はしないはずだ。出したら本気で捨てるつもりだが。
 そして合図を受けたギーシュが呪文の詠唱を開始する。
 次の瞬間には、二人組の立っている地点の土がうごめき、触手のようにして二人組の足に絡みついた。
(いけるか……?)
 ダッ、と木陰から飛び出すユーゼス。
 二人組までの距離は、おおよそ30メイルほど。自分の足なら5秒弱はかかる。
「!」
 やはりと言うべきか、敵は即座に対応を行ってきた。
 背の高い方のメイジは杖の先から炎を飛ばし、自分たちの足を束縛していた土の触手を焼き払う。どうやら水の精霊の情報通りに火のメイジらしい。
 更に、背の低い方のメイジはユーゼスの存在を察知していたらしく、くるりと振り向くと自分に魔法を放ってきた。
(やはり、そう上手くはいかないか……!)
 空気のカタマリが自分に向かって来るが、ユーゼスはそれをデルフリンガーを一振りすることで掻き消す。
 しかし息をつく間もなく、今度は無数の氷の矢が飛んで来た。
「くっ!」
 とっさに回避行動を取るが、そう簡単に避けきれる攻撃でもない。
 自分に当たりそうな氷の矢をデルフリンガーで叩き落としながら、どうにか凌いだ、と思った直後……。
 今度は背の高い方のメイジが、補うようにして火球を繰り出した。
「……!」
 避けるのは無理だ、と判断したユーゼスはデルフリンガーを構え、その火球を吸収させる。
 だが火球の熱波と舞い散る火の粉は吸収しきれなかったようで、ユーゼスはその余波を受けて立ちすくむことになった。
 不味い。今の自分は隙だらけだ。
 このままでは遠からず、やられる。
 ……だがそれは、戦っているのが『自分一人だけ』だった場合の話である。
 その時、ガシャガシャガシャ、と金属がこすれる音が複数響いた。
 二人組は思わずそちらの方に目をやって何が起こっているのかを確認し、ユーゼスはその隙に一旦距離を取る。
(出来ればもう少し早く出て来てもらいたかったが……)
 無論、ユーゼスはその『金属音』の正体を知っている。
 距離がそれなりに離れており、更に夜闇にまぎれさせるため黒く塗装させたので姿を確認することは出来ないが、現れたのはギーシュのワルキューレであった。
 予定通りならば、その数は4体である。
「む……」
 背の低い方のメイジは状況が切り替わったことを素早く看破したのか、即座に杖をワルキューレの集団に向けた。
 ……せっかくの戦力が潰されるのを黙って見逃すほど、ユーゼスは悠長な性格をしていない。
 なので、かつて自分の難敵だった男が使っていた鞭を取り出し、それを思い切り、背の低いメイジに振るった。
 鞭はかなりのスピードで相手に向かって行き、詠唱中の背の低いメイジへと……。
「っ!」
 バシィン、と鞭は地面を叩く。
 攻撃は避けられた。
 自分が攻撃されることを察知した背の低いメイジは一瞬で詠唱を中断すると、咄嗟になりふり構わず地面に飛び転がって鞭をかわしたのである。
(推測通り、一筋縄ではいかんか……)
 ギーシュやフーケのゴーレム、ワルドの『偏在』など、少々変則的な戦法を使う相手ならばそれなりにやりようはあるのだが、自分にとってはこのような『普通に強い』相手が最もやりにくい。
(やはり、ジェットビートルの機銃を使うべきだったな……)
 ギーシュとモンモランシーだけでなく、エレオノールまで一緒になって『いや、さすがにそれはちょっと……』と止められてしまった攻撃方法に思いを馳せる。
 アレを上手く使っていれば、今頃この二人は『穴だらけ』どころか『原型すらよく分からないほど細かく砕かれて』いたはずなのに。
(せめて、もう少し強力な手駒が欲しかった)
 自分たちの戦力の低さと敵の手強さを改めて認識しつつ、ユーゼスは溜息を吐いた。
 ……今はまだ敵もこちらを侮ってくれて……いや、様子見の段階に留まってくれているから何とかなるものの、本気になられたら十中八九終わりである。
 その前に、始末を付けなくてはならない。
234ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:48:00 ID:jdM15Xk7
 火は水に弱い。
 必ずしも『その通りだ』と言い切ることは出来ないが、大抵の人間が抱いている共通認識だ。
 これはハルケギニアの魔法も同様で、同じクラスの水のメイジと火のメイジが、それぞれ同じランクの自分の属性魔法をぶつけ合った場合、多くの場合は水が勝つ(火球の総熱量にもよるが)。
 まあ、つまるところ。
 火のメイジは、少なくとも戦闘においては水のメイジと相性が悪いのだ。

 バジュンバジュン、と火球が水の盾にぶつかり、消えていく。
 ギーシュが繰り出した4体の黒いワルキューレの前には、厚さ10サントほどの水の壁が展開されていた。
 無論、水の盾の操っているのはモンモランシーだ。
 ドットメイジの彼女は風属性と掛け合わせて『氷を作る』ことは出来ないが、ただ『水を操る』だけならば簡単である。
 それにここは湖の岸辺であり、いちいち空気中の水分を凝結させるまでもなく至近距離に大量に水が存在している。それだけでも他の属性相手には大きな優位性を確保出来ていた。
「はっ!」
 掛け声と共にモンモランシーが杖を一振りすると、水の壁から水の弾丸が飛び出して敵を襲う。
 避けられてはいるが、それでも回避されている間は敵の攻撃の手は止まっている。
 消費した分の水は湖から補充しているので、壁がなくなることはない。
「それっ!」
 また、水の弾丸だけでは敵が何らかの対抗手段を講じてくる可能性があるため、合間をぬってワルキューレによる弓矢の攻撃も織り交ぜていた。
 ……相手をするのが背の高い火のメイジではなく、背の低い風のメイジだった場合、メインの攻撃は『水の弾丸』ではなく『青銅の弓矢』の手筈になっていた。
 弓矢などは風が少し吹けばアッサリと軌道を逸らされてしまうため、火のメイジよりも苦戦は必至である。火のメイジがギーシュ&モンモランシー組の相手に回ってくれたのは幸運だった。
 その風のメイジも時折こちらに杖を向けて火のメイジのサポートはしているが、どうやらあちらはユーゼスの相手にウェイトを置いているようだ。
 おそらく『水の壁』や『水の弾丸』、『弓矢』などの単純な攻撃方法よりも、『魔法を吸収する剣』や『鞭』などの特殊な攻撃方法の方が厄介だと判断したのだろう。
 特に、この暗がりでは防御と攻撃の方法の詳細が掴みにくいだろうから、汎用性に優れている風のメイジがユーゼスを担当するのは妥当と言える。
 ともあれトライアングル(あるいはスクウェア)の火のメイジが一人と、ドットの土のメイジと水のメイジの二人は、どうにかこうにか一進一退の攻防を繰り広げている。
(……それでも、こっちは決め手に欠けるんだよなぁ……)
(わたしとギーシュは、どっちもドットだし……)
(大技を使われでもしたら……いや、その隙を与えないための連続攻撃なんだけど)
(……ホントに大丈夫なんでしょうね、この作戦?)
 取りあえずではあるが『戦いを同じ状態でしばらく続けさせろ』というユーゼスの事前指示に従い、ギーシュとモンモランシーは攻撃と防御を続けるのであった。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:48:42 ID:agTl81Cv
支援
236ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:49:30 ID:jdM15Xk7
 ……使用してくる魔法は『エア・ハンマー』や『エア・カッター』などの分かりやすい風魔法と、『ジャベリン』に『アイス・ストーム』などの氷系の魔法。
 それらを巧みに組み合わせて、こちらの動きを封じ、また確実にダメージを与えようとしている。
 こちらの戦闘方法が不可解だと思ったのか、途中から分析するような様子が加味された。判断力も高いようだ。
 夜闇に黒いローブなどを着込んでいるせいで細かい動きは分からないが、身のこなしも普通ではない。
(手強いな……)
 これがワルドのように余裕たっぷりで、もったいぶってこちらを痛めつけるなどしてくれていれば、もっと攻略は容易なのだが。
(実戦経験が豊富、ということか)
 どうにもやりにくい相手、と言うか完全に自分の手には余る敵だ。
 魔法を吸収するデルフリンガー、ガンダールヴのルーン効果、攻撃……と言うか牽制のための鞭の一つでも欠けていれば、とっくに自分は負けている。
(それに……)
 そろそろ、体力も限界に近付きつつある。
 何度も繰り返すが、ユーゼス・ゴッツォは戦う人間ではないのだ。
 並行世界の『ユーゼス・ゴッツォ』とて、謀略や研究はしても生身で直接に戦うことはしない。……自分の脳をいじって念動力を備えたり、機動兵器を操縦したりはしているようだが。
 何にせよ、そういう実戦はイングラム・プリスケンなどの『手駒』の仕事なのである。
(……もう一度『作る』のも手か?)
 そう考えて、すぐ却下する。
 かなりややこしいことになりそうな上に、何より『作ったモノ』が下手に『自意識』などを持ち始めでもしたら、前回の二の舞になりかねない。
 自意識を持った人造人間であるサブローやワルダー、トップガンダーなどは命令を聞かないことがザラにあったし、戦う時も変に自分のプライドにこだわったせいで負けていた。
 それに色々と別の世界も覗いてみたのだが、余計な知力を備えさせると創造者の意図を外れて勝手に暴走してしまう……という例は枚挙に暇がない。
 『マシンナリーチルドレン』、『ガンエデンの巫女』、『バルシェム』、『Wシリーズ』、『テクニティ・パイデス』、『知の記録者』、どれもこれも『手駒』として使うには不適当だ。
(洗脳も駄目だろうしな……)
 『精神操作の失敗例』は、今のルイズとミス・ロングビルを見れば一目瞭然である。
(やはり、自分で行動するしかないか)
 無駄な思考だったな、と気持ちを切り替え、改めて目の前の敵に集中した。
(……ふむ)
 互いに様子見と牽制をし合って、今では一種の膠着状態に陥りつつある。
 詳しい状況までは分からないが、どうやらギーシュたちの方も似たような状況らしい。
(ここまでは予定通りか……)
 ある程度は拮抗してくれているようで、何よりである。
 二人のメイジが分散してくれたから何とかなったものの、これが本格的な……ギャバン・シャリバン・シャイダーや、キカイダー兄弟レベルの連携を取られたら危険だった。
 その場合の対策も考えてはいたが、今よりももっと苦戦していたのは間違いない。
 どうやらこの二人は、個々の実力はかなり高いし『それなりの連携』も取れるらしいが、『実際に二人一緒に戦った経験』はあまり無いようだ。
 とは言え実力では負けているのだから、このままではジリジリと押されて負けるのは明らかである。
(頃合だな)
 それでは『相手を驚かせて、隙を作る』コンセプトに従って、この二人を仕留めにかかろう。
237名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:51:49 ID:u1AtLGBj
sien
238ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:52:24 ID:jdM15Xk7
「フッ!」
 呼気を吐き出し、デルフリンガーを無意味に三度ほど振る。
 それが、後方で控えている主人に対する合図だ。
 『自分の指示以外の行動をするな、自分の指示には絶対に従え、もしこの言葉に背いたらお前とは一生口を聞かない』と言ってはおいたし、ルイズもそれに対してガクンガクンと首を激しく上下に動かして了解してくれたのだが、ちゃんと従ってくれるのだろうか。
 そう思った、次の瞬間。
 戦っているユーゼスたちの頭上で、盛大な爆発が発生した。
 ルイズの魔法である。
 『エクスプロージョン』ではなく失敗魔法の爆発だが、派手に爆音を響かせるのが目的なのでこちらの方が好都合だと判断したのだ。
(よし……)
 案の定、二人組のメイジは面食らっている様子を見せている。
(……む?)
 いや、それどころかギーシュとモンモランシーまで驚いているようだ。事前の打ち合わせはしておいたと言うのに。
(まったく……)
 仕方がないので、少し危険だが声を上げて指示を行うことにする。
「やれ!!」
「……っ、わ、分かった!」
 少々どもりながらではあるが、返事をよこすギーシュ。
 そんな自分たちのやり取りがした直後、二人組のメイジは更に何かに驚いたようだったが、いちいち相手の事情を詮索している余裕はない。
 ギーシュはバラの造花を二振りし、二体のワルキューレの腕に『錬金』をかけた。
 そこから繰り出される攻撃は……。
「無限っ、パーーーーンチ!!」
 拳に『錬金』をかけて新しい手首と拳に変化させ、その拳にまた『錬金』をかけ、現れた新しい拳にまた『錬金』……『錬金』、『錬金』、『錬金』、とにかく『錬金』。
 結果としてズズズズ、と見る見る内に腕は伸びていき、敵に向かっていく。しかもそれが二体で二つ。
「!」「ええっ!?」
 二人組のメイジは驚いているようだ。
 まあ、こんな攻撃を見たら普通は驚く。
 と言うか、驚いてくれないと困る。
「…………!!」
 『錬金』をかけ続けるギーシュは、随分と集中しているようだ。
 無理もない。ただでさえややこしいやり方で『錬金』を行っているのに、それを二つ同時にこなさなければならないのだから。
 そして、伸び続ける二本の腕は……。
「っ!」
 二人組のメイジを挟み込むようにして、綺麗に敵を素通りした。
 その直後。
「……曲がれっ!」
 ギーシュがまたバラの造花を二振りすると、二本の腕はグイッと曲がり、グルグルと二人組に巻きつき始める。
 そして『腕』が二人組をまとめて束縛し終えた時点で、ギーシュは適度な長さを見計らって伸びた腕を切り離した。
「モンモランシー、後は……!」
「分かってるわよ! ……あんまり気は進まないけど……」
 ブツブツ言いながら、ギーシュに言われたモンモランシーが前に出る。
「えっ、ちょっと待ちなさい! あなたたち……!」
 敵が何か言っているが『命乞いは聞くな』、『下手に情けを見せたらその瞬間に殺されると思え』などとユーゼスとシュウから散々に言われているので、無視する。良心はかなり痛むが。
 ……敵の声に聞き覚えがあるような気もするが、そこは心を鬼にして無視させてもらおう。
「で、出来れば死なないで!」
 言いながら杖を一振りするモンモランシー。
「ッ、ガ……ッ!」「ゴボッ!?」
 すると二人組を包み込むように水柱が発生し、鎖で縛られた二人組のメイジはなすすべなく水の中に閉じ込められた。
「よ、よし、上手くいったみたいだね……」
「……あんまり嬉しくないけどね」
 第一目標だった『敵の動きを封じること』がひとまず成功したことを見届けると、ギーシュは更に『仕上げ』を行うべくまたバラの造花を振る。
「……恨まないでくれよ、君たち」
 その言葉が届いているのかいないのか、二人組のメイジ……特に背の高い方はこちらに向かって何かを訴えようとガボゴボやっているようだったが、その訴えは厚い青銅の壁によって閉ざされる。
 ギーシュが『錬金』を使って青銅のタルを作り、水の束縛ごと二人を閉じ込めたのだ。
239名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:52:28 ID:Us/GufzR
ビートル支援
240ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:53:56 ID:jdM15Xk7
「……まあ、これだけやれば十分だとは思うけど、『詰め』はやっておかないといけないのよね……」
 ゴンゴン、と内側から青銅のタルを叩く音がする。
 しかし、トドメは刺さなければならない。開放した直後に逆襲される可能性も、決してゼロではないのだから。
「ううぅ…………え、えいっ!」
 モンモランシーが嫌そうに杖を振ると、青銅のタルの中からゴガンゴガン、と『“人間大の何か”が派手にぶつかる音』が響いてきた。
 ……彼女の魔法によって、中の水がきりもみ回転をしているのだ。
 これぞユーゼスが原案(無限パンチで伸ばした腕による束縛)、エレオノールが補足(念のため水で包む)、シュウが改良(青銅のタルで閉じ込めてきりもみ回転させる)した作戦である。
 なお、『仕上げ』を考案したシュウ曰く。
「超電磁タツマキを受けた際の、実体験を元にしてみました」
 だそうである。
 しかしそれを実行してしまった人間は、少々精神的に参っていた。
「わ、わたし、人を、人を殺しちゃった……」
「……モンモランシー、それは君一人だけの罪じゃない。僕だって同罪だ。だから、君だけがそんなに自分を責める必要は……ないさ」
「ああ、ギーシュ……!」
 ひし、と抱き合うギーシュとモンモランシー。
 そんな二人をよそに、ユーゼスは今回の戦闘を反省する。
(……決定的に実力が不足している)
 これはギーシュやモンモランシーではなく、自分自身のことである。
 ガンダールヴの効果があるからどうにかなっているものの、そのカバーがあった上でも弱い。
 弱すぎる。
 今回はたまたま上手く行ったが、こんな騙し騙しの戦法がどんな敵にも通用するわけがない。
 極端な話、今の自分とギーシュが戦った場合には、80%程度の確率でこちらが負けるだろうという予測している。……ちなみに残りの19%が引き分けで、勝つ確率は1%ほどだ。
 ガンダールヴの力を発動させてもワルキューレ7体相手では負けるだろうし、仮に実力が同レベルだとしても攻撃のバリエーションが多い方が有利なのは明白だ。
 また、デルフリンガーでは『錬金』で作られたゴーレムの吸収は出来ない。
 数で攻められれば、剣や鞭などはあまり役に立たない。
 何と言うか、『人間』には色々と限界があるのである。
(これがドモン・カッシュや東方不敗、早川健などであれば……いや……)
 そこまで考えて、あの連中を引き合いに出すのは根本から間違っていると気付く。
 素手でデスアーミーを倒したり、変身していない状態で不思議獣と渡り合ったりするような奴らなのだ。
 『人間』というカテゴリーに当てはめて良いものかどうかすら怪しい。
 ……まあ、あんな怪獣のような人間は置いておくとして、今は自分のことだ。
 正直、手段を選ばなければ、色々とやりようはある。
 並行世界を検索して『戦闘の得意なユーゼス・ゴッツォ』を見つけ、それと融合、またはコピーして自分の意識を上書きする。
 自分で自分の身体を改造する。
 開き直って、戦闘の際には因果律を操作して相手を攻撃・消去する。
 ダメで元々、DG細胞を自分に使ってみる。
 やはり『手駒』を作って、戦闘はそれに任せる。
 自分でも手軽に使える強力な兵器を持って来て、それを使う。
 クロスゲート・パラダイム・システムを駆使して、ガンダールヴのルーンそのものを改良してみる。
(むう……)
 この場で思いつく限りの方法を羅列してみたが、全てにおいて、それぞれかなり問題があるような気がする。
 強いて言うなら『兵器を持って来る』が比較的良い案ではあるが、その兵器を常に携行しているとは限るまい。
(戦闘そのものには全く参加しない、というのも一つの手だが……)
 このハルケギニアにおいて、それは通用しないだろう。戦いという物は、どんなに避けようとしても出くわしてしまう時には出くわしてしまう物だ。
(コンバットスーツのような物があれば……いや、アレは宇宙刑事の中でもかなり厳選された者のみが与えられる装備だし、私に扱い切れるとは思えん……)
 自分の強化方法を思い浮かべては、それを否定するユーゼス。
 ―――しかし、ここで『真面目に身体を鍛える』という選択肢が発生しないあたりが、ユーゼス・ゴッツォのユーゼス・ゴッツォたる所以であった。
241ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:55:30 ID:jdM15Xk7
(アドレナリンやドーパミンの量を調節して、強制的にガンダールヴの効力を底上げさせる……駄目だな、理性を保てる保証がない。因果律を操作すれば何とかならないでもないが、調整を誤れば廃人になりかねんし……)
 こういう時、生まれつき特殊能力を持っているタイプの種族は悩まなくて便利だな……などと思いつつユーゼスが自分の強化方法について思考を巡らせていると、
「ユぅぅぅぅぅぅゼスぅぅぅぅぅうううううううっっ!!」
「!」
 木陰から全速力でルイズが走って来て、悩んでいる最中のユーゼスに飛びついた。
 そして『自分がユーゼスの言いつけ通りにやった』ことを、まくし立てるようにアピールする。
「ね、ね、ユーゼス。わたし、ちゃんと出来てたよね? ユーゼスに言われた通り、ちゃんと爆発起こしたよね? そのほかのこと、何にもやってないよね?」
「……まあ、そうだな」
 これはその通りなので、ユーゼスとしても認めるしかない。
 ルイズはその言葉を聞いてパア、と顔を明るくすると、自分の身体を盛大にユーゼスにこすり付け始める。
「それじゃあ、わたし、ユーゼスとお話をしてもいいのよね。いっぱい、いーっぱい、お話をしましょう。ね?」
「露骨に身体を密着させるな、御主人様。変な気分になってくる」
 そんなルイズに辟易しつつ引き剥がそうとするが、言って従ってくれるようならば最初から苦労はしなかった。
 取りあえずやんわりとルイズを拒絶しつつ立ち尽くしていると、離れた地点で様子を窺っていたエレオノール、そしてシュウとミス・ロングビルがやって来る。
「ああもう、ルイズ! 『ユーゼスにベタベタ引っ付くんじゃない』って何度言えば分かるの、もう、はしたない!!」
「……フンだ、わたしの時代はエレオノール姉さまの時代と違うんだもん。女の方から積極的にいっても大丈夫な時代なんだもん。オバサンは後ろの方でじーっと手をこまねいてればいいんだもん」
「オ、オバ……っ!?」
 ビキリ、とエレオノールの顔が引きつった。
 それを意図しているのかいないのか、ユーゼスがポツリと呟く。
「その理屈で言うと、私はオジサンか……」
 実際の年齢は『お爺さん』なのだが外見年齢で言うならばエレオノールとほぼ同い年なので、彼女を『オバサン』とするなら『オジサン』と呼んで差し支えはあるまい。
「やん、ユーゼスは『オジサン』じゃないわ。だって心が若いもの。そしてわたしは心も身体も若いわ。ついでに言うと、エレオノール姉さまは身体もそうだけど心がオバサンだわ」
 恋は盲目、とはよく言ったものである。
 まさか今のユーゼスの様子を見て『若い』という単語が浮かぶとは。
 そしてその『若い』という範疇から除外されてしまった女性はと言うと……。
「ほ、ほぉう……。そんな風に思ってたの、ルイズ……。へぇえ……」
 表情その他を小刻みに震わせながら、暴言を吐いた妹に詰め寄りつつあった。
 『踏み込んではいけない領域』に踏み込んでしまったことに今更ながら気付いたルイズは、しかしこれ幸いとばかりにユーゼスに救いを求める。
「きゃっ! 怖いわユーゼス、オバサンが図星を突かれて逆上してくるの!」
「うるっさいわね、どこからどう見ても子供にしか見えない幼児体形のくせにっ!!」
「はあ? 姉さまの胸のサイズで、そういうこと言われたくないんですけどぉ〜?」
「あなただって同じくらいでしょうが!!」
「でもぉ、よーく見比べてみたんですけどぉ、胸の大きさならぁ、わたしの方が勝ってませんかぁ〜?」
「んなっ……、そりゃあカトレアに比べれば負けてる『かも知れない』けど、あなたに負けてるってのは心外だわ!!」
 ユーゼスを挟んでキーキー言い合うヴァリエール姉妹。
(胸が大きいからと言って、何かメリットがあるのだろうか……?)
 そう思うユーゼスだったが、余計なことを言うと例によって例のごとく不可解な事態になりそうなので黙っていた。
242名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:55:40 ID:yZ0G/mZn
わくわく支援
243ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:57:02 ID:jdM15Xk7
 と、そんなやり取りを続ける一同に向かって、シュウが問いかける。
「……どうでもいいのですが、『コレ』はどうするのですか?」
 シュウが指差したのは、中に水の精霊の襲撃者の入った青銅のタルである。
「中を開けてみる、って言うのは……」
「……水死体なんて見たくないわよ、わたし……」
 おっかなびっくりな様子のギーシュとモンモランシー。だが、それに対するシュウのセリフで二人の表情は一変した。
「いえ、おそらく中の人間はまだ生きているでしょうね」
「え!?」
「そ、そうなんですか!?」
 驚く二人に、シュウはサラリと説明する。
「ええ。もちろん、このまま放っておけば確実に死にますが」
「なら、助けるべきでは……?」
 そう提案するギーシュだったが、即座にユーゼスから反対意見が出された。
「甘いぞ、ミスタ・グラモン。その中にいるのは所詮『敵』だ」
「で、でも、殺さなきゃいけない理由はないだろう!?」
「生かしておかなければいけない理由もない」
「……うぅ……」
 理屈ではユーゼスには勝てない……と半ば屈しかけるが、それでもギーシュはどうしても諦めきれないようだった。
 ともあれ、議論している間にもタイムリミットは迫っているのだが。
 と、そこに、
「きゅいきゅいきゅい〜〜!!」
「きゅるきゅるきゅる〜〜!!」
 いきなり空の彼方から青い風竜と、その背に乗ったサラマンダーが飛来してくる。
「敵ですか?」
「おそらくこの中に入っているメイジの使い魔だろうな。殊勝にも主人を救いに来たらしい。……だが、風竜とサラマンダーだと……?」
「……何だか嫌な予感がしてきたんだが……」
「…………奇遇ねギーシュ、わたしもよ」
 『倒してしまった二人組』について、おおよその察しが付き始めてきたユーゼスとギーシュとモンモランシー。
「おや、どうしましたみなさん? この二体を倒さないのですか?」
「……メイジを倒しておいて、どうして使い魔を倒さないのよ?」
 シュウとエレオノールは『この使い魔たちの主人と思しきメイジ』と直接の面識がないため、何故ここで攻撃を止めるのか分からないようである。
「きゅい! きゅいきゅいきゅい!!」
「きゅるきゅるきゅるきゅる!!」
 面識があるような気がする風竜とサラマンダーは何かを必死に訴えているが、人間にはその言葉が理解出来ないので判断のしようもない。何の面識もない赤の他人の使い魔である可能性も、ゼロではないのだ。
 ……そして、タルの中のメイジを解放した途端に逆襲される可能性も。
「せめてこの二体の言葉が翻訳でも出来ればな……」
 どうしたものか、と悩むユーゼス。
 すると、意外なところから判断材料が舞い込んできた。
「あ、私なら使い魔の皆さんの言葉が分かりますよ」
「……何?」
「おやチカ、そうなのですか?」
 シュウの肩に乗っている青い鳥の姿をしたファミリア、チカである。
「種別は違えど、同じ使い魔ですしね」
 えっへん、と胸を張るチカ。そして不適かつ自信たっぷりに言葉を続ける。
「ククク……、この私の力を持ってすれば、ハルケギニアの幻獣と意思の疎通を行うことなど造作もないことですよ……。
 いやー、一度言ってみたかったんだよなー、このセリフ」
「―――前置きはどうでもいいから、とにかく通訳を頼む」
「はいはい」
 そして、チカを通訳とした風竜たちとの会話が始まった。
244ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 16:58:30 ID:jdM15Xk7
「きゅいきゅいきゅい!!」
「えーと、『お姉さまを早くそこから出すのね!!』だそうです」
「お姉さま? 名前は分かるか?」
 もう大まかな目星はついているのだが、違う可能性も捨てきれないので確認を取ってみる。
「きゅいきゅい!!」
「きゅるきゅるるる!!」
「そっちの青いでっかいのの主人がタバサで、こっちの赤いのの主人がキュルケって名前だ、と言ってます」
「ああ〜、やっぱり……」
「よ、よりによってクラスメートを……」
 ギーシュとモンモランシーは二人揃って『うわあああ』と頭を抱えて後悔に苛まれる。
(……事が済んでから後悔するくらいならば、始めからやらなければ良いだろうに)
 まあ、後悔とは先に立たないからこその『後悔』なのだが。
「しかし、相手がミス・タバサとミス・ツェルプストーだったとはな」
 確証を得たことで、この数奇なめぐり合わせを怪しむユーゼス。
 ……ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲み、解除薬の材料が品切れで、水の精霊と直接交渉しにラグドリアン湖に向かい、その水の精霊から頼みごとをされた。
 その『頼みごと』と、タバサとキュルケの二人の事情(どのような事情があるのかは知らないが)が合致する確率はどれほどだろうか。
「きゅいきゅい!! きゅいきゅ〜いっ!!」
「きゅるきゅるきゅるっ!」
「『シルフィたちが出て来た時点で、そのくらい気付くのね、この馬鹿!!』、『いやそんなことはどうでもいいから、早く御主人様を出してくれよ!』だそうです」
 通訳のチカの言葉を聞いて、一同はハッと事態の深刻さに気付く。
「……ユーゼス、まさか『二人を助ける理由は無いから、助けるな』とは言うまいね?」
「…………お前は私を何だと思っている、ミスタ・グラモン。あの二人には色々と借りもあるからな、『止めろ』などと言いはせんよ」
「言いそうで怖いんだよ……」
 妙な汗を流しつつ、ギーシュはバラの造花を振る。
 すると青銅のタルは光と共に消失し、中に閉じ込められていた大量の水と、ワルキューレの腕に拘束されたタバサとキュルケが現れた。二人とも黒いローブのフードはめくれ、素顔があらわになっている。
「む?」
「これは……」
 出て来た二人を見て、ユーゼスとシュウの表情が少し動いた。
(……いかんな)
 ほんのわずかに焦った様子のユーゼスは、素早くギーシュとモンモランシーに指示を送る。
「ミスタ・グラモン、拘束を解け。ミス・モンモランシ、二人が飲み込んだ水を吐かせろ」
「あ、ああ」
「分かったわ」
 『腕』が霧散し、タバサとキュルケの口からゴブリと水が吐き出された。
「……ミス・ヴァリエール、御主人様を抑えていろ」
 ある程度の量の水が排出されたことを確認すると、次にエレオノールに指示を飛ばす。
「え? いいけど……何をするの?」
「あの二人を触診する。触る度に邪魔をされたのでは正確な診療と治療が出来ないのでな」
「『診療』と『治療』……って、あなた医術の知識なんてあったの!?」
「『医術の知識』と言うよりは『生物学の知識』と言うべきだが。簡単な医療行為ならば可能だよ」
 これは本当である。
 かつてユーゼスが多くの星の大気浄化を行った際には、環境汚染の度合を測るためにその星に生息する動植物などを詳しく調査する必要があった。
 また、自分の複製人間であるイングラム・プリスケンを『作った』のは、他でもないユーゼス・ゴッツォである。
 人体の構造やその正常なコンディション程度ならば、完璧に把握しているのだ。
「……あなた、そういうことはもっと早く言いなさい」
「今まで質問されなかったし、言う必要もなかったのでな。……ともあれ、御主人様を抑えておいてくれ」
 そしてユーゼスが、倒れたまま動かないユーゼスが二人に駆け寄った。
 ……その光景を見たルイズがギャーギャーと喚いているが、そこは無視する。
 続いてペタペタと二人の身体を触り、念のためクロスゲート・パラダイム・システムも使って二人の因果律も調べてみると……。
(…………不味い)
 死んではいないが、危険な……と言うか、既に手遅れな状態だった。
 放っておけば死ぬのは間違いないし、適切な処置をしたところで脳か身体のどちらか……あるいは両方に深刻な後遺症が残るのは間違いあるまい。
(事前のやりとりに時間をかけすぎたか……)
 まさに後悔先に立たず、である。
245名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 16:58:40 ID:yZ0G/mZn
チ、チカが役に立つ?嘘だっ!
246ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 17:00:50 ID:jdM15Xk7
「……どうします、ユーゼス・ゴッツォ? 『このままでは』そのお二人は危険ですよ?」
「分かっている」
 わざとらしく声を上げるシュウに、少し不機嫌な素振りで返すユーゼス。
 おそらくシュウは、一目見ただけで二人が危険な状態にあることを看破しているはずである。
 そしてこの二人を救えるのは、少なくともこの場においては自分とユーゼスしかいないことも理解しているはずだ。
(…………やむを得んか…………)
 出来ればシュウにやってもらいたかったが、あの男が頼みごとや命令に黙って頷くタイプの人間ではないことは承知している。
 ならば、自分がやるしかない。
(半分程度は私の責任のようなものだからな……)
 正直に言って、非常に気が進まない。
 しかし恩人を見殺しにするのも、後味が悪い。
「……………」
 ユーゼスは憮然とした表情で、まずはキュルケの状態……因果律を調べてみる。
(頭蓋骨にヒビ、脳内出血……これは青銅のタルにぶつけた時に出来たものか。あとは酸素欠乏性に、内臓を幾つかやられているな……)
 症状の把握が出来れば、あとはそれを『健常な状態』に調整するだけだ。
(……そう言えば、このように因果律を操作するのは初めてか)
 ガイアセイバーズにやられた異次元人ヤプールを復活させたり、超神形態の自分の身体を再生させたことはあるが、他人の治療に使ったことは今までにない。
(ハルケギニアに召喚されてからというもの、初めて尽くしだな……)
 しかも、よりによって人命救助とは。
 まさかクロスゲート・パラダイム・システムをこんなことに使うとは思ってもみなかった。
「……………」
 ともあれキュルケの背中に手を当て、気付けを行う『振り』をする。
 そしてその身体の因果律を操作し……。
「……ッ、ゲホッ、ゴホッ!! ッ、カハ、……ッッ! ……あ、あれ? 確かあたし、水の中に閉じ込められて……? って、ギーシュにモンモランシーにユーゼスに、ルイズとそのお姉さん? ミス・ロングビルまでいるし……見慣れない顔もいるけど。どうなってるの?」
 『健常な状態』に調整する。
(これでミス・ツェルプストーに関しては問題ない……)
 続いてはタバサである。
(…………脳死する一歩手前か。肺にもかなりダメージがある。心停止はしていないが……)
 メイジが脳死にでもなったら、その使い魔はどうなるのだろうか……などと考えつつ、キュルケと同じようにタバサの因果律を操作して、『健常な状態』にする。
「カハッ! ……ゲホ、ゲホッ……! ……? ユーゼス・ゴッツォ?」
 これでよし。
 そう言えば前にハルケギニアで一度だけ超神形態になった時にも、このタバサという少女が絡んでいた。
 因縁と言うか因果と言うか、そのような巡り合わせでもあるのだろうか。
(『例外』はこれのみにしたい所だが……)
 とにかく自分に原因がある場合か、余程のことがない限り、こういう因果律の操作は絶対に行わないようにしよう……と固く決心するユーゼス。
 ―――その『固さ』がどの程度の物なのかは、決心した本人にも不明ではあったが。
247名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:02:08 ID:RvZSAHx8
支援
248ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 17:02:25 ID:jdM15Xk7
「……まさか、クラスメートに殺されかけるとは思わなかったわ。しかもあんな……えげつない方法で」
「いや、それは謝ってるじゃないか、こうやって! ちゃんと! って言うか、方法を考えたのは僕じゃあない!!」
「実行したのは、あなたとモンモランシーじゃない」
「うう……。言わないでキュルケ、今でもけっこう罪の意識に襲われてるんだから……」
 嫌味ったらしくネチネチとギーシュたちに文句を言うキュルケ。
 どうやら戦いの結果とは言え、あのような扱いを受けたことが相当腹に据えかねているらしい。
「まあ、どうせユーゼスが考えた方法なんでしょうけど……」
 キュルケはそう言ってチラリとユーゼスの方を見ると、その近くに立っている男にようやく意識が向いた。
「あら、いい男じゃない」
 標的を見定めるや否や、キュルケの行動は早かった。
 ギーシュとモンモランシーへの嫌味を即座に切り上げると、乱れた髪や衣服をサッと直して、紫の髪に白衣を着込んだ男に駆け寄っていく。
 そして、その男へとにこやかに話しかけ始めた。
「うふふ、初めまして。あたしはキュ―――、ッ」
 だが自己紹介の途中で、彼女の言葉は強引に中断される。
 傍らに控えていたミス・ロングビルが『ブレイド』を使い、その魔力の刃をキュルケの首に突きつけたのだ。
「ミ、ミス・ロングビル……?」
「……それ以上軽々しくシュウ様に近付いたら殺すよ、売女」
「ば、ばいた……!?」
 いきなり本気の『殺意』を向けられて、キュルケは困惑する。
(ミス・ロングビルって、こんな人だったかしら……)
 キュルケの知っているミス・ロングビルと言えば、『いつも物腰が柔らかくて知的』というイメージだったのだが、同一人物のはずの目の前の女性からはそんな空気は微塵も感じない。
 まるで裏家業の人間である。
「落ち着きなさい、ミス・ロングビル。彼女は初対面の私に挨拶に来ただけです。杖を収めなさい」
「ですが、シュウ様……」
「……私は『杖を収めなさい』と言いましたよ?」
「は、はい……」
 しずしずと下がるミス・ロングビル。
 そんな光景を見て、キュルケは唖然としていた。
「申し訳ありません。……ミス・キュルケですね? 私の名はシュウ・シラカワと言います。貴女の話はユーゼス・ゴッツォやミスタ・ギーシュから伺っていますよ。何でも優秀な火のメイジであるとか」
「はあ……。……あの、失礼ですがミス・ロングビルとはどのようなご関係で……?」
 何だかよく分からないが、ミス・ロングビルとただならぬ関係にあるのは明白である。
 好奇心旺盛なキュルケとしては、ぜひそこを聞いておきたかった。
「彼女との関係、ですか……。そうですね、『惚れ薬を飲んだ人間』と『その効果を味わっている人間』、というところでしょうか?」
「惚れ薬ぃ?」
 なるほど、そんなものを飲んでしまえば普段のミス・ロングビルとは違ってしまって当然かも知れない。
 だが、惚れ薬とは……?
「詳しくは、そこにいるミス・モンモランシーに聞いてください」
 ははぁん、とキュルケはおおよその事情を理解した。
 どうせ浮気性のギーシュに怒ったモンモランシーが禁制の惚れ薬を作って、それを誤ってミス・ロングビルが飲んで、その場にはこのシュウと言う男がいて……とかいう所だろう。
 それをモンモランシーに詰め寄りながら確認してみると、予想通りに肯定した。
 しかもミス・ロングビルだけではなくルイズまでその惚れ薬を飲んでしまい、その惚れた対象はユーゼスだと言う。道理で自分からは動かなさそうなユーゼスや、ルイズの姉がここにいるわけだ。
「…………つまり、そもそもの発端はあなたたちじゃないの」
「いや、まあ、うん、その……そ、そう言えないコトもなくはない可能性があるかも……」
「……仕方ないじゃない。ギーシュったら、浮気ばっかりするんだから……」
 バツが悪そうなギーシュと、ぶつくさ文句を言うモンモランシー。そんな二人……特にモンモランシーを見て、キュルケは呟く。
「まったく……自分の魅力に自信がない女って、最悪ね。おかげでこっちは死にかけるし」
 はあ、と溜息をついて、ガックリとうなだれるモンモランシーを見るキュルケだった。
249ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 17:04:00 ID:jdM15Xk7
 一方、こちらはユーゼスとエレオノールとルイズ、そしてタバサである。
「つまり、ミス・タバサの『実家』が領民から請け負った仕事をミス・タバサ自身が引き受け、ミス・ツェルプストーはそれに付き合っただけだ、と」
「そう。水の精霊の仕業で湖の水かさが増えて、被害が出ている」
「成程」
 湖の水かさが増える、というのは確かに一大事だ。
 そこに住んでいる領民はともかく、周辺の自然環境が著しく破壊されてしまう。
「……水の精霊にその辺りも尋ねてみるか。言葉は通じるのだから、やりようはあるかも知れん」
「………」
 こくり、と頷くタバサ。
 タバサとしても、戦わずに済むのならそれに越したことはない。
「では、早速ミス・モンモランシに……」
「ちょっと待って、ユーゼス」
 もう一度水の精霊を呼んでもらおうとしたら、エレオノールに声をかけられた。
 ユーゼスは何故このタイミングで声をかけられるのかが分からず、エレオノールの方を見る。
「何だ、ミス・ヴァリエール?」
「……一つだけ聞かせてちょうだい。あなたがさっきその二人にやった『診療』と『治療』って、どんな人間にも効果があるの? 例えば……『不治の病に冒された人間』とか」
 ピクリ、とエレオノールの言葉を聞いたタバサの表情が、微妙に動いた。
 しかしユーゼスとエレオノールはそんな些細な動きには気付かず、会話を続ける。
「……それは今、答えなくてはならないことか?」
「疑問は早い内に解決しておきたいのよ」
「……………」
 内心で盛大な溜息を吐くユーゼス。
 やはり因果律を操作したのは失敗だったかも知れない、とまた後悔の念がぶり返してくる。
 一度でもこういう『奇跡』を見せてしまうと、人間というものは取り憑かれたように『再びの奇跡』を求め、渇望してくるのである。
 他でもない自分がそうだった。
(ここは一度、釘を刺しておくか)
 そう考えた後で、ユーゼスは口を開く。
「……やってみなければ分からない、としか言えないな。私の手には負えない可能性も十分にある」
「じゃ、じゃあ、取りあえず……」
「だが」
 一瞬だけ期待の色を顔に浮かべたエレオノールだったが、ユーゼスはすぐにその期待を手折りにかかった。
「仮にそれが出来るとして。私がそれを行う理由は無い」
「なっ……!?」
 エレオノールは絶句する。
 予想通りの反応を見せた金髪の女性に対して、ユーゼスは更に言葉を放つ。
「……お前は何か勘違いをしていないか? 私は『善意の奉仕者』でも『救世主』でも『救いの神』でもない。一度簡単な治療を行った程度で、過度な期待を抱いて縋り付いて来られても迷惑だ」
「べ、別に縋り付いてなんか……!」
「ならば私を頼ろうとするな。……それにミス・タバサとミス・ツェルプストーに行った『治療』は、ごく初歩的なものだ。あれが通用しない『患者』など、掃いて捨てるほどいるぞ」
 嘘は言っていない。
 死にかけた人間を治療したり、死人を生き返らせることなどは、因果律操作の初歩である。やろうと思えば、本当に『一つの世界を完全に支配する』ことも可能なのだ。やる気は毛頭ないが。
 それに『脳の治癒』や『臓器の治癒』が、このハルケギニアに存在する全ての『患者』に通用するわけがない。
(詭弁もいいところだな……)
 軽い自己嫌悪に苛まれるが、この場合は仕方がない。
 闇雲に大きな力を使えば、必ずどこかに歪みが生じてしまう。
 その歪みは人を狂わせ、運命を狂わせ……やがては世界を滅ぼしかねない、大きなうねりとなる。
 うねりを起こした張本人である自分が言えたことではないが、しかしここはどうしても譲れない一線であった。
 光の巨人―――宇宙の調停者、そして守護神たる存在。
 今更その存在意義を否定はしないが、あれが自分に与えた影響を考えると、ここはエレオノールを突き放しておくのが最善の方法に思えるのだ。
250名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:05:22 ID:RvZSAHx8
支援
251ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 17:05:30 ID:jdM15Xk7
「……そう、期待した私が馬鹿だったわ」
 落胆と苛立ちを交えながら、エレオノールが呟く。
 タバサもまたガッカリした空気を出していたが、ユーゼスはそれに気付かなかった。
 ……『諦めてくれたか』と安心する反面、ユーゼスはそんなエレオノールの様子を見て妙な心苦しさを覚えていた。
(良心が痛んでいるのか?)
 自分が行った選択は、『ほぼ100%救えるのに、救わない』ということだ。
 それが間違っているとは思わない。
 しかし、目の前のエレオノールに悪印象を持たれるのは……どういうわけか、避けたいと感じている。
(?)
 自分で自分の精神状態が、よく分からない。
 ともあれ、このままエレオノールを放っておくのはいけない気がしたので、ユーゼスは付け足すように喋る。
「……その『患者』とやらの症状の見立て程度ならば、別に構わんがな。『治療するかしないか』と『病状の把握』は別問題だ。……案外、そこから治療方法が見つかるかも知れんぞ?」
「……………」
 じぃっとユーゼスを見るエレオノール。
 そのまましばらく沈黙が続いたが、やがてエレオノールは不機嫌そうなままでユーゼスに告げた。
「それじゃあ、近い内に『患者』の詳しい情報を送るわ。それを見て病状を判断してちょうだい」
「分かった」
 エレオノールの声が少し冷たい。いや、元々声が冷たい感じの女性ではあったのだが、今はそれに輪をかけて冷たくなっている。ギーシュあたりなら平謝りしそうなほどに。
 先ほどのユーゼスの『妥協案』で取りあえずある程度は機嫌を直してくれたようだが、それでも『普通』な状態には遠いようだった。
(むう)
 こういう時にどうすれば良いのか、人付き合いの経験が極端に少ないユーゼスには判断がつかない。
 ただ、それでも言っておかなければならない言葉は、何となく浮かんで来ていた。
 なので、その言葉を告げる。
「……済まないな、ミス・ヴァリエール」
 一言、詫びた。
 結果のみを言うと、それだけである。
 だがそれを聞いたエレオノールはしばらく考え込むようにして立ち尽くし、再びユーゼスをじぃっと見つめて、
「…………はぁ」
 大きく息を吐き、諦めたように言い始める。
「いいわよ、別に。残念と言えば残念だけど、元々そんなに大きな期待もしてなかったし。……ただ、『病状の把握』とやらはキッチリとやってもらいますからね」
「それは約束しよう」
 そんなやり取りをするユーゼスとエレオノール。
 傍から見れば、何ということのない会話でしかない。
 だがユーゼスが僅かながらも『感情を込めて』語り、しかも『謝る』ということは非常に珍しいことであったし、エレオノールにしてもユーゼスからそのような(マイナスの方向ではない)感情を向けられるのは……まあ、悪い気はしなかった。
「では、水の精霊との再交渉をミス・モンモランシに頼むか」
「そうね。……これでようやくルイズが元に戻る目処が立ってきたわ」
 いつもの調子に戻りつつあったエレオノールに、ユーゼスは本人も意識しないまま安堵する。
(……しかし、『機嫌を元に戻す』ということは難しいな……)
 たまたま自分の謝罪が上手く行ったから良かったものの、これが通用しなかったら完全にお手上げだった。
(ミス・ツェルプストーかミスタ・グラモンにでも、その辺りの秘結を聞いておこうか……)
 自分の苦手分野の一つである『人付き合い』の巧者である二人の姿が頭をよぎったので、水の精霊との再交渉が終わったら早速質問してみよう、と思い立つ。
 あの二人であれば、おそらく自分には思いも付かないアイディアを提供してくれることだろう。それを採用するかどうかは別として。
 まあ、いずれにせよ、全ては水の精霊との再交渉を済ませてからだ。
 エレオノールとばかり話していたので非常に不機嫌な様子のルイズをあしらいつつ、ユーゼスはモンモランシーの元へと歩くのだった。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:06:10 ID:hOzf7JE1
支援するしかないじゃないか!
253ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/21(土) 17:07:00 ID:jdM15Xk7
 以上です。

 ……つくづく私は『戦闘描写』が苦手である、と痛感しております。
 苦手は苦手なりにやりようもあるはずなんですが、どうにもこうにも……いや、もう割り切ることも一つの手段かな、と思ったりもしますが。

 チカと幻獣たちの意思の疎通は、まあ鳥として作られたはずだし、同じ使い魔だからこういうのもアリじゃね? とか思った次第です。
 今後、チカが使い魔コミュニティみたいなものに参加出来れば良いのですが。

 それと今回、初めて本格的に因果律を操作しましたが……。
 ……元々クロスゲート・パラダイム・システムって、こういうチートな物なんです。極端な話、因果律を操作すれば気に入らない相手を『消滅』させることも出来たりします。
 まさに全能。
 …………スーパーヒーロー作戦におけるユーゼス・ゴッツォというキャラクターには確かに魅力を感じるのですが、主人公としてはこの全能の能力が致命的に向いていません。
 以前に『シュウを主人公にしない理由』を話しましたが、あれよりももっと性質が悪いのです。
 そのため、こじ付けに近い理由付けをして『全能』を封印させてみたのですが……これだと単に意地悪してるだけに見えるかなぁ、と不安だったりもします。
 『さじ加減』って難しいですね……。

 ちなみに超電磁タツマキは実際には渦がきりもみ回転するような束縛方法ではないのですが、その辺りはご容赦をw

 それでは、支援ありがとうございました。
254名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:10:57 ID:RvZSAHx8


超電磁はスパロボで見る以上キリモミに巻き込んでるようにしか見えないからなw
255名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:17:30 ID:Us/GufzR
乙です

たしかに全能は難しいわな
話の中でユーゼスが挙げて却下してる方法も案外、問題なく出来るかもしれないし
256名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:23:05 ID:KV1BzPfz
乙。
全能なるが故の苦しみ、というには違うけどユーゼスがあんなに老成している理由がわかるというか……
損な人生だよなぁ
257名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:29:33 ID:pliEm/2B
俺はそれよりもユーゼスとシュウが、ギーシュとモンモンにやらせたえげつない戦法に吹いた
確かに土で拘束して水で溺れされるのは、SSでもいくつかの例があるし効果的だが
258名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:30:01 ID:gw4TZVci
乙。
あまりのえげつなさがいっそ笑えたw
259名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:33:48 ID:MYdfS0gu
乙。
誰がどうなるか分かりませんが、次回以降の各人各所の惨劇に期待。
260名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:36:33 ID:5AN18LpJ
ラスボスの人お疲れ様でした
相変わらず各キャラの立て方がうまくて面白かったです。
261名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:36:34 ID:e+G4aaG/

>……敵の声に聞き覚えがあるような気もするが、そこは心を鬼にして無視させてもらおう。

まさに外道!
262名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:47:03 ID:GNBIWk3Y
意識がなくなるまでの数分間、息が出来ない苦しみ…
想像するとオソロシス

ラスボスの人乙。
263名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:51:59 ID:vCWeI2vA

つかタバサもキュルケも脳死寸前とか頭蓋骨骨折とか致命傷だったな
天才マン曰く溺死は最も苦しい死に方の一つらしいし

あとチカ誕生の経緯ってSRW本編でなんかいってたっけ?
魔装機神操者でもないシュウがなんでファミリア持ってるのとか
264名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:59:06 ID:fM/JNawe
乙です。
全能だと、困難を乗り越えるカタルシスがないからなぁ。

>戦闘描写
ラスボスの戦闘描写は、読みやすくて好きだけどな。
ボードゲームやカードゲームのような感触。
キャラの行動がはっきり伝わってきて、それを裏付ける動機を把握したり想像したりしやすい。
美々しく飾り立てた文章だと、キャラの行動を読み取るだけで疲れちゃうんだよね。
キケロの弾劾よりはガリア戦記ってことさ。
265名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 17:59:29 ID:de1IFblb
考えてみたら、惚れ薬のエピソードってキュルケとタバサが死んでもおかしくない場面が出てくるのね。
よく召喚されている物騒な使い魔がここに来たら怖い事になってしまう。
266名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:00:14 ID:fM/JNawe
ageちゃった orz
スマンです。
267名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:10:53 ID:HzVjkhsb
>>265
惚れ薬で物騒な使い魔=蒼い悪魔
ってなる俺はこのスレのせいでゼロの使い魔を読み始めたぜ
268名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:21:18 ID:uJiNQUl2
ラスボスの人乙です。
毎回思うのだけど、ユーゼスの考察面白いな〜どこかズレてるw
比較対象が宇宙刑事、光の巨人、ガンダムファイター、早川健とかバケ物揃いで
結局最後には自分には向いてないって結論に・・・・

これからも楽しみにしてます。がんばって下さい。
269名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:23:22 ID:jdM15Xk7
>>263
ゲーム本編では語られていない裏設定になってしまうのですが、
シュウが少年の時に母親のミサキ・シラカワに殺されそうになった際に精神が崩壊しかけてしまい、その精神の補完のためにルオゾールが作ったはずです。
270名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:28:55 ID:pliEm/2B
>>269
ほう、そんな設定が……
銀英伝のロイエンタールみたいだな
271名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:36:55 ID:EsQnK1X7
ラスボスの人、毎度乙です

ユーゼスのが思い浮かべる対象が、どう見ても人類から外れてますって
それと比べるとは、もうご苦労様としか言いようが無いですw
いったい、この先誰の名が出てくるのかも、楽しみの1つなので、
どうか、頑張って下さい
272名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:38:12 ID:v8HPOWJR
乙でふ

1ページに収まらなかったので後で修正お願いしまふ
273名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:38:12 ID:vCWeI2vA
>>269
たしか魔装機神の設定を考えた坂田氏が
同人誌に寄稿した小説(たしか闇の記憶ってタイトルだっけ?)
で語ってたんだよな?

母親は地上からラ・ギアスに召喚されてラングラン王と結婚したはいいけど
ホームシックになっちゃって地上に帰るためにヴォルクルスの力を使おうとした
そのときの生贄にシュウを使った

であってたっけ?

でも実の母に生贄にされそうになったっていうのに
母から貰った名前「シュウ・シラカワ」を好みで名乗ってたような
本名はクリストフ・グラン・マクソードだったか
274名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:41:41 ID:e+G4aaG/
ちなみに母ちゃんがシュウを生んだのは母ちゃんが12の時だったはず
275名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:43:22 ID:XrNMSGXm
ろ……ロリコン……
276名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 18:48:30 ID:jdM15Xk7
>>272
wikiへの登録、ありがとうございます。
区切りの箇所の修正などを行わせていただきました。
277名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 19:27:29 ID:2UEH7fOj
現実でも10歳が
出産した
ぐらいだし
278名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 19:39:00 ID:ixj1jHTX
イスラム教国なら女9歳から結婚できるしな
279名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 19:47:44 ID:yU440h3Z
アイマスのP召喚・・・ハルケギニアにアイドルブーム到来!
アイドル=崇拝=廃れるブリミル教=虚無何それおいしいの?
280虚無と賢女の人:2009/02/21(土) 19:51:58 ID:GcopQKuw
ラスボスの人、『さじ加減』の難しい中での投下乙です。

では、予約なければ20時ちょうどから投下をしたいと思いますが、
よろしいでしょうか?
281名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 19:55:56 ID:jdM15Xk7
支援します。
282名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 19:56:37 ID:nBLZr7Qx
>>279
おっぱいエルフがあずささん役か!
283名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 19:59:12 ID:ArBFHYX5
>>282
SPだと結婚して引退まで行くんだぜ・・・
284虚無と賢女05話 1/10:2009/02/21(土) 20:00:15 ID:GcopQKuw
では、投下開始です

二つの月が照らす中、エレアノールは一本の剣を振るっていた。百五十サントほどのある長剣―――デルフリンガーを
振い、躍るように―――踊るように剣舞を続ける。時折、サイドステップや左腰に挿していた小剣を抜いて受ける動作を交え、
自らの身体を慣らすように、確かめるかのように、挑むように、エレアノールの剣舞は徐々に速度を上げていった。
時間にして十分ほど続け、エレアノールは動きを止めて一息つく。息を整えていると、デルフリンガーが愉快そうにカタカタと
刀身を揺らしだした。

「おでれーた! 相棒の動きは凄いねぇ、一朝一夕で身につく動きじゃねーな」
「ええ……、ちょっと色々ありましたから。でも、貴方と小剣を同時に使うのは難しいですね」

『色々』というところで、エレアノールは何とも言い難い微笑みを浮かべる。実用性と装飾を両立した小剣―――あの後、
トラブルを収めたことへの謝礼を含めて格安で譲ってもらった―――の鞘を撫でながら、デルフリンガーに顔を向ける。

「それにしても、このルーンの力なのでしょうけど……武器を持っていると身体能力が高くなるのが不思議なのですが」
「そりゃあ、相棒は『使い手』だからな」
「その……武器屋でも言ってましたけど『使い手』というのは?」
「知らん! 忘れた!」

堂々と自信たっぷりなデルフリンガーの言葉に、エレアノールの肩がわずかながらコケる。その様子に、デルフリンガーも
多少は気後れしたのか慌てる。

「い、いや相棒、おれっちはもう六千年ほど生きてるから、一つや二つ忘れることもあるって!」
「六千年……ですか」

エレアノールは授業で聞いたこの世界の歴史で、始祖ブリミルが降臨が六千年前にあったということを思い出した。

「随分と長生きされているのですね。―――それはそうと、いつまで隠れておられるつもりですか?」

少し離れた植え込みに視線を向けて、隠れている者たち―――先ほどの修練の時から二〜三人の気配を感じていた―――に
呼びかける。ガサっという物音と共に、ルイズとキュルケが誤魔化すような引きつった笑い顔で姿を現し、続いてタバサが
無表情のままで出てくる。

「ほ、ほら、ツェルプストーが驚いて声を出すからいけないのよ!」
「何を言ってるの。そっちが最初に声を出してたじゃない」

責任を相互に指摘しあいながら、ばつの悪そうにトボトボと歩いてくる。

「……責任の軽重は二人とも同等」

最後尾のタバサは平然と歩いてきた。

「何か私の御用ですか、ご主人様? あとお二方も」
「べべべべ、別に用ってわけじゃないわよ! ちょっと夜の散歩を楽しんでただけなんだからね!」

真相。魔法の特訓をするために中庭に出てみたら、エレアノールの修練に出くわして、声を掛けづらくてついつい隠れた。

「あたしたちもただの散歩よ。……それにしても、惚れ惚れするような腕前ね」

真相。暇潰しにタバサの部屋を訪れたが留守中で、探してみるとルイズと一緒に隠れてエレアノールを見ているタバサを発見。

「散歩」

真相。エレアノールのルーンと技量を直に観察しようと思い立ち中庭へ。潜もうと思った植え込みに先客のルイズが居たが、
気にせず並んで身を隠した。

「ええ、ありがとうございます。まだまだ……未熟なのですが」
285名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:01:15 ID:nBLZr7Qx
支援
286虚無と賢女05話 2/10:2009/02/21(土) 20:02:29 ID:GcopQKuw
キュルケの賞賛に礼を言いつつ、後半の言葉を半ば自分への言い聞かせとして紡ぐ。
今はルーンの力で不慣れな長剣―――デルフリンガーを扱うことが出来たが、あくまで『理想的な剣の技を振える』だけと、
エレアノールは今の修練で感じていた。足取りや重心の移動、脳裏に思い浮かべた相手との間合いの見極めまではルーンも
効果を及ぼさず、ましてや身体能力の向上に感覚が追いついていないのだ。

「未熟って……、どこがなのよ?」
「そうですね……。簡単に言えば、自分が今どれだけのことが出来るか出来ないかが把握しきれてないことでしょうか」
「ま、相棒ならすぐにでも慣れると思うぜ。おれっちを使ってた剣士の中じゃ、文句なしの最上位の腕前だからな」

ルイズの問いかけへの答えに、デリフリンガーが補足するように褒める。エレアノールはその言葉に苦笑半分、照れ半分の
微笑みを浮かべる。
その時、沈黙を守っていたタバサが口を開いた。

「修練が必要なら、相手役をしてもいい」
「え? タバサ?」

隣に立っていたキュルケが、信じられないものを見たような驚きの表情を浮かべる。ルイズも無口でどこか浮世離れした
クラスメイトの言葉に目を丸くする。

「相手役がいるといないとでは効率が違う」
「はっはっは、そりゃあそーだ! 娘っ子の言うとおりだぜ!」

デルフリンガーの笑い声があたりに木霊する。それを聞き流しながら、エレアノールはタバサの意図を探ろうと見つめ直し、
最初にその冷たい目の輝きに息を呑んだ。目的のために何かも、自分のことすら捨て去る覚悟を秘めた目。かつての仲間の
―――もっとも先方は、仲間とは思っていないのだろうが―――同じ目をした没落騎士の少女を彷彿とさせる。
どうするべきか考えていたエレアノールに、キュルケが友人に話しかけるような気軽な笑みと歩みで近寄ってきた。

「エレアノール、タバサの親切を受けてあげなさいな」

そのまま抱き寄せるかのように身を寄せて、耳元で言葉の続きを告げる。

「―――あの娘が他人に関わりを持とうとするなんて滅多にないの。無下にしないでほしいわ」

「お願いね♪」と身を離すキュルケを見送り、エレアノールは改めてタバサへと視線を戻す。
自分の主人であるルイズよりも年下―――のように見える―――少女にどんな事情があるのかは分からないが、先ほどからの
立ち振る舞いの中にも隙らしい隙が見当たらない。恐らくは実際に命をかけて戦った経験すらもあるのだろう、と判断する。
エレアノールは深呼吸を一ついれ、蚊帳の外に置かれつつあったルイズに顔を向ける。

「ご主人様、ミス・タバサのご好意をお受けしてもよろしいでしょうか?」
「え? べ、別に構わないわよ!」
「ありがとうございます、ご主人様。それではミス・タバサ、よろしくお願いします」
「ペコリ)……わたしを呼ぶ時はタバサでいい」

エレアノールからの感謝の言葉と、タバサの一礼にルイズは「べ、別に感謝しなくてもいいわよ!」と呟きながら、
明後日の方向へ顔を背ける。ただし、その方向に居たのは犬猿の仲のキュルケ、何やらニヤニヤと笑っていた。

「大した度量じゃないヴァリエール。正直、見直したわよ」
「ううう、五月蝿いわね! じゃ、じゃあちょっと適当に散歩してくるから、怪我しないように気をつけるのよ!」

キュルケのからかい半分の賞賛に、ルイズは顔を真っ赤にしてその場を―――逃げるように―――後にした。
287名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:03:44 ID:nBLZr7Qx
>>283
ということは……あの乳革命と……ゴクリ

おっぱい支援
288虚無と賢女05話 3/10:2009/02/21(土) 20:04:27 ID:GcopQKuw
距離にして数十メイルほど歩いて、学院の本塔のすぐ前でルイズは歩みを止めた。振り返ると、手合わせが始まっているのか
エレアノールとタバサの二人が激しく位置を変えながら戦っているのが見えた。

(はぁ……本当に多才よね……)

ルイズはエレアノールのことを思い浮かべ、深くため息をつく。最初は平民だと思って失望した、しかしその思量深さと
優しさに癒された、そしてその強さに心が躍った。そして今、そんな彼女に対して自分は何なのかということに気付いた。
『メイジの実力を知りたければ使い魔を見よ』の言葉、それが今のルイズを悩ませていた。

(私って本当にエレアノールに相応しいメイジなのかしら。魔法もあれから全然成功しないのに)

半ば無意識に杖を振るって呪文を唱え、魔法を解き放つ。―――間を置かず、数メイル先の地面で爆発が起こった。

「やっぱり『ゼロ』のままなのね……」

あの決闘の後、ルイズに表立って嘲笑する者は居なくなったが、その分、影で何を言われてるか気になるようになった。
キュルケだけは変わらず『ゼロ』のルイズと言ってきていたが、その方がかえって気にせずに済むようになった―――
言い返して口喧嘩になるけど。
再び呪文を唱え、杖を振るう。今度はさらに数メイル先の地面が抉れる。呪文、杖を振る、そして爆発。それを何度か
繰り返し続け―――

「あ……」

頭上の本塔の五階あたりの壁で爆発が炸裂した。固定化がかかってるはずの壁にヒビが走り、パラパラと細かい破片が
落ちてくる。

「ど、どうしよう……」

自分の失態にしばし見入るルイズ。彼女を照らす月光が巨大な何かの影に遮られたのは、それから僅か十数秒後のことで
あった。





―――時間は少し遡る。
『土くれ』のフーケは、本塔五階の外壁を丁寧に調べていた。壁の向こうは宝物庫、彼女の狙う『雷の宝珠』が安置されて
いる。二〜三度、足を使って壁を蹴りその音の響き方や感触を確かめる。

「……物理攻撃が弱点、とはよく言ったものだわ。こんなに分厚かったら弱点にもならないじゃないの」

音と感触を確かめ、吟味し、正確な壁の厚さを推察する。『土』系統のエキスパートだからこそできる芸当であった。

「かかってる魔法は『固定化』のみ、か……。でも、これじゃあ私のゴーレムでも突破するのは難しいねぇ……」

本塔の壁に張りついたまま腕を組み考え込む。何かもう一押しされあれば突破できる……が、その一押しが思いつかない。
考え込んでいたが、遠く……数十メイルほど先に人影が現れたことに気付いて、すぐに地面に降りて植え込みに隠れる。
隠れたまま息を潜め、様子を伺っていると長剣を構え、まるで舞うように剣を振るいだす。月明かりだけでは誰だか
判別できなかったが、遠目でも分かる見事な剣舞にフーケはつい見入ってしまう。

そのうち、さらに三人ほど人影が増えた時、フーケは今夜は諦めるべきかと考え出す。様子を伺いながら、撤収の機会を
探っていると、小柄な人影が一人こちらへと向かってきだした。

(見つかった……わけでもなさそうだね)
289虚無と賢女05話 4/10:2009/02/21(土) 20:06:15 ID:GcopQKuw
もし見つかってるのなら三人がこちらに向かってきて、一人は教師に連絡に走るだろうと判断し、逃げ出したくなる衝動を
抑えてジっと様子を見る。視界に入ってきたのはルイズであった。

(あれはヴァリエールのお嬢ちゃん?)

一部始終を見守っていると、魔法を唱え杖を振って爆発を引き起こす。いつもの魔法の練習なのだろうと見ていると、
頭上で爆発が起こり、先ほどまでフーケが調べていた外壁にヒビが入っていた。
―――それはフーケが望んだ一押し。スクウェアクラスのメイジ数人分の固定化を解除させるルイズの爆発。原因や理屈を
考えるのは後回しにしてでも、このチャンスを逃す手はない。

(感謝するよ! ヴァリエールのお嬢ちゃん!!)

得意のゴーレム生成呪文を唱え、地面に杖を振る。音を立てて地面が盛り上がり、徐々に人型へと形を整えだした。





ルイズが背後を振り返った時、そこには巨大な三十メイルほどもある土のゴーレムが立っていた。呆気に取られるルイズの
ほんの四〜五メイル先に足を振り下ろし、そのまま彼女を無視して本塔の壁に拳を叩きつけ始める―――彼女の魔法が
ヒビを入れた、ちょうどその場所を。

「ゴーレム!? 何よこれ!?」

叩きつけられるたびに衝撃と壁の欠片が周囲に飛散する。そして、そのまま重力に引かれ人の靴ほどの大きさの欠片群が
落ちてくる―――ルイズの立っている場所へも。

「―――ッ!?」

ルイズに出来たことは咄嗟に頭を両手で抱え、座り込むことであった。雨のように落ちてくる壁の欠片、その一個でも
当たれば大怪我―――打ち所が悪ければ死んでしまうかもしれない。ルイズは目の前に迫った濃密な死の気配を感じながら、
衝撃に備えた。

―――衝撃。ただし、それは上からではなく横から来た。続いて何かに抱えられて移動している感触と、それが
高速であることを感じさせる風圧。―――恐る恐るルイズが目を開けると、

「ご主人様! お怪我はありませんか!?」
「え……ええ、大丈夫よ」

エレアノールがルイズを抱きかかえていた。周囲を見回すと、先ほどまで居た場所からたっぷり二十メイルは離れていた。
心がむせ返るほどだった濃い死の気配が、急速に薄らぎ消え去る。エレアノールの手に握られたままのデルフリンガーが
カタカタと鍔を鳴らして気軽な声をあげた。

「間一髪だったな娘っ子、相棒じゃなかったら助けが間に合わなかったかもな」

抱きかかえられたままゴーレムを改めて見直す。その肩の上に黒いローブを被った人影が見える、恐らくは術者のメイジ
だろうと見当をつける。

「あれって、街で聞いた『土くれ』のフーケ……かしら?」
「恐らく……その通りだと思います。手口も同じようですし」
「やっぱ聞くと実物を見るとでは大違いだな、おでれーた」

やがて外壁に大きな穴が開くと、その人影はゴーレムの腕を伝って中に入っていき、すぐに出てくる。ただ、手に何かを
持っているようにも見えた。そして、ゴーレムはクルリと向きを変えて歩き出した。

「逃げ出すわ! 追いかけないと!」
290名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:08:05 ID:nBLZr7Qx
支援支援〜♪
291虚無と賢女05話 5/10:2009/02/21(土) 20:08:14 ID:GcopQKuw
しかしエレアノールは動かずに、ただその背を見送っていた。

「エレアノール!! 何をしてるのよ!?」
「あれは……恐らく囮です。巨大なゴーレムに乗ったまま逃げるのは、あからさまに目立ちすぎます」

エレアノールの言葉にルイズは息を呑む。その直後、上空をタバサが呼び寄せた風竜シルフィードが翔けぬけ、ゴーレムの
追跡に移るが、学院の塀を越えてすぐゴーレムは崩れて大きな土の山へとなった。しばらく、その上空を旋回していたタバサと
シルフィードもやがて、何も見つけられないまま学院の中庭へと戻ってきた。
そして、数人の教師と衛兵たちがキュルケの知らせを受けて駆けつけたのは、さらに数分後のことであった。





翌朝。トリステイン魔法学院は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。宝物庫の外壁は破られ、中に収められていた
秘宝『雷の宝珠』は消えうせ、代わりに―――

「『雷の宝珠、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』か……やれやれ、宝物庫を力技で突き破るとはのぉ」

オスマンは壁に残されたフーケの犯行声明を淡々と読み上げた。周りには学院中の教師と衛兵の隊長、そして目撃者である
ルイズたちが集められていた。

「『土くれ』のフーケめ、ついに我が学院にも現れたか! 随分とナメた真似を!」
「衛兵は一体何をしていたんだね!」
「衛兵など、所詮は平民! 当てにならん! それより当直の教師は誰だったんだね!?」

口々に勝手なことを言い合い、責任の回避と擦り付けに終始する教師たち。その口論に参加してないのはコルベールと、
当直をサボっていたシュヴルーズ、そしてオスマンくらいであった。
その様子をルイズはやるせない苛立ちと共に、キュルケは三流の寸劇を観劇するような退屈さと共に、タバサはいつもの
無表情のままで、そしてエレアノールは深い憂いと共に見ていた。結局、昨夜は学院は大混乱に陥り、今朝になって改めて
事情聴取に呼び出されたのであった。

「ミセス・シュヴルーズ!! 当直の貴女は一体何をしていたのですか!?」

槍玉に上がったのはシュヴルーズ。当直にも関わらず自室で熟睡していた彼女は、自己弁護も反論も出来ずに泣き崩れる。
さらに追い討ちをかけようとした教師たちを、オスマンが手を上げて制する。

「これこれ、今さら責任を彼女に押し付けてどうするのじゃね? もっとも考えるべきは『雷の宝珠』を取り戻すこと
じゃろうが」
「しかしですな、オールド・オスマン。これだけの失態に何ら責任を取らせないのはいかがなものかと?」
「ふぅむ……」

立派なヒゲを撫でつつ、オスマンは視線を集中させている教師たちを見回す。

「では責任の所在を明確にする前に確認しておくが……、この中で当直をまともにしたことのある者は何人おられるのかな?」

その問いに教師たちは一様に顔を見合わせる。一人、コルベールが控えめに手を上げるが、それだけだった。衛兵隊長も、
コルベールだけが確かに当直を勤めていたと証言する。

「当直をしていたのはコルベール君だけじゃのぉ。しいて言えば、コルベール君が責任を追及することができるのじゃが?」
「……いえ、オールド・オスマンと同じく、今は責任を追及する時ではないと考えております」

コルベールの言葉に深く重厚に頷くと、オスマンは責任追及に息巻いていた教師に再び目を向ける。

「そういうわけじゃ、ミスタ……ええっと、なんだっけ?」
「ギトーです!」
「ミスター・ギトー、君に責任を追及する権利はないのじゃよ。無論、諸君らが当直をサボっていたことを管理指導
できなかったわしにも権利はない。わしも魔法学院が賊に襲われるなど、考えてなかったからのぉ」
292名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:08:51 ID:jdM15Xk7
支援
293虚無と賢女05話 6/10:2009/02/21(土) 20:10:16 ID:GcopQKuw
オスマンは項垂れる教師たちから視線を外し、ルイズたちに合わせる。

「それで、犯行現場を見ていたのは君たちかね?」
「はい、この三人です」

衛兵隊長が―――使い魔であるエレアノールを除く―――ルイズたちを腕で示す。オスマンは衛兵隊長の言葉に頷きつつ、
エレアノールを興味深げに見つめる。

「ふむ……君たちか。詳しく説明したまえ」

三人の中でルイズが前に進み出て、昨夜の目撃したことを正直に証言する。―――自分の魔法が外壁にヒビを入れたことも
全て話したが、教師たちのほとんどは「何をバカなことを」と取り合わなかった。ただ、オスマンは深く頷き、コルベールは
それについて何かを考え込みはじめる。

「ほっほ、三十メイルもあるゴーレムとな……。つまりは『土くれ』のフーケは最低でもトライアングル級、下手すれば
スクウェア級の土メイジということになるのぉ」

スクウェア級と聞いて、ざわっと教師の間で動揺が走る。教師たちの中にもトライアングル級やスクウェア級のメイジは
いるが、ほぼ机上の論理のみか安全な体制で行う実地訓練を行う程度で、このような荒事には慣れていなかった。

「後を追うにしても手がかりナシか、厄介じゃのぉ。ミス・ロング……? む、ミス・ロングビルは居らんのかね?」
「そういえば今朝から姿が見せませんな」
「この非常時にどこに行ったのじゃろう?」

そんな風に噂をしていると、宝物庫の入り口からロングビルが入ってきた。

「おお、ミス・ロングビル! どこに行ってたのじゃ?」
「申し訳ありません。この騒ぎを知り、朝から急いで調査をしていたものですから」
「調査じゃと? 仕事が早いの。それで何かわかったのかの?」
「はい、有力な証言を得られました」

有力な証言と聞き、宝物庫にざわめきが広がる。コルベールに至っては「なんですと!?」と驚きを大声で表す。

「恐らくはフーケの居所と思しき場所が判明しました。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に黒ずくめの
ローブを着込んだ男が入っていくところを見たそうです。恐らくは黒ローブの男こそフーケではないかと」
「黒いローブ! 間違いないです! フーケはそれを着ていました!!」

ルイズの証言が調査内容を補強する。

「場所は近いのかね?」
「はい、徒歩で半日。馬だと四時間といったところでしょうか」

その言葉に誰もが一様に頷く中、エレアノールは眉をひそめる。隣のタバサも僅かに首を傾けた。

「すぐに王室に連絡しましょう! 王室衛士隊に頼んで兵隊を差し向けてもらわなくては!」
「ばかもの! そんなことをしている間にフーケに逃げられてしまうわ! その上、魔法学院の宝が盗まれて、
それを取り戻すのに我らで解決できないようでは何が貴族じゃ!!」

コルベールの主張を一喝して退ける。そして、改めて教師たちを見回し、厳かに言い放つ。

「では、捜索隊を編成する、我と思うものは杖を掲げよ」

……誰も杖を掲げない、困ったように顔を見合すだけであった。一人、コルベールは顔を伏せて、何かに思い悩んでいる
ように見えた。

「おや、おらんのか? どうした! フーケを自らの手で捕まえようとする者は居らんのか!?」

オスマンの言葉に、ルイズが思いつめた表情で杖を高く掲げる。
294虚無と賢女05話 7/10:2009/02/21(土) 20:12:19 ID:GcopQKuw
「ミス・ヴァリエール! 貴女は生徒なのですよ!? ここは教師に任せてるところですよ!!」

シュヴルーズが驚いて声をあげ、他の教師も同様に驚きで目を剥いていた。

「でも、誰も掲げないじゃないですか!!」

ルイズは唇を強く結んで、凛々しくも美しく、そして強く言い放った。隣で見ていたエレアノールも驚嘆の色を隠しきれずに
その横顔に見入っていた。

「ふふ、ヴァリエールだけに任せておけませんわ」

続いてキュルケも杖を掲げる。最後にタバサも杖を掲げ、

「心配」

キュルケを見ながら呟いた。

「そうか、君たちが行ってくれるというのか」
「オールド・オスマン! 私は反対です!!」

シュヴルーズが押しとどめようとオスマンに食い下がる。

「何、心配することもあるまい、彼女たちは優秀じゃよ。ミス・タバサはその年で『シュヴァリエ』の称号を持つと
聞いておるし、ミス・ツェルプストーは優秀な軍人を多く輩出するした家の出で、彼女自身も優秀な火のトライアングル、
そして―――」

教師たちは実力者のみに与えられる『シェヴァリエ』の称号をタバサが持っていることに驚き、次いでキュルケが
トリステインとゲルマニアの間で戦争が起こるたびに、最もトリステインを苦しめるツェルプストー家の人間であることを
改めて思い出した。
オスマンは最後にルイズに視線を向けるがコホンっと咳払いすると、目をそらして続ける。

「ミス・ヴァリエールは……その、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだね、
将来有望なメイジと聞いておる。それに、彼女の使い魔は―――」

天井や壁などを行ったり来たりしていた視線をエレアノールに合わせてくる。

「平民ながら優れた剣技であのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンに決闘で勝っているではないか。
もしこれ以上の布陣を望むのであれば、この三人に勝てる者だけになるだろうが……誰かおるかね?」

教師たちはすっかり黙ってしまった。オスマンは少しの間、その教師たちの反応を伺うが誰も名乗り出ないことを確認する。

「では、ミス・ロングビルは調査で疲れているところを悪いが、馬車で彼女たちを案内してくれたまえ」
「はい、オールド・オスマン。もとより、そのつもりですわ」

そして、ルイズたちへと向き直り、威厳のある声で宣言を開始する。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
「「「杖にかけて!」」」

三人の宣言の唱和が宝物庫に響き渡った。その宣言の中で、ロングビル―――フーケが妖艶な微笑みを浮かべてることに
誰も気付かなかった。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:14:02 ID:jdM15Xk7
支援
296虚無と賢女05話 8/10:2009/02/21(土) 20:14:25 ID:GcopQKuw
馬車はゴトゴトと音を立てて、目的地への道のりを順調に進んでいた。
御者にロングビルが座り手綱を握り締めて、屋根のない荷台にルイズたちが思い思いに座っていた。暇そうにしていた
キュルケが、ロングビルへと話かける。

「ミス・ロングビル……。手綱なんて付き人にやらせればよかったじゃないですか」
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」

オールド・オスマンはそういったことに拘らない方なのですけど、とにっこり笑いながら続ける。そのことを興味津々と
いった表情でさらに聞こうとして、ルイズがそれに口を挟む。

「よしなさいよ。昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて、トリステインじゃ恥ずべきことよ」
「ちょっと、おしゃべりしようと思っただけよ」

不満そうに呟くキュルケだが、ルイズの言葉にそれなりの筋を感じ取ったのか素直に黙る。話が終わったのを見計らって、
エレアノールはロングビルへと話しかける。

「ところで、フーケに盗まれた『雷の宝珠』とはどういうものなのです?」
「元々は伝来の秘宝ではなくて、三十年ほど前にオールド・オスマンが自ら納めた宝珠なのですが、これくらいの
大きさの―――」

ロングビルは指で空中に円を描き、大体の人の手のひらに納まる大きさを伝えてくる。

「―――青色の宝珠です。何でもそれを使うと、呪文を詠唱することなく強力な雷撃を引き起こして全てをなぎ払うとか」
「手のひらに収まる程度の青い宝珠―――ですか」

エレアノールの言葉に、ロングビルに代わりキュルケが頷く。

「ええ、あたしも見たことあるわ。―――もっとも、『宝珠』の割には華やかさが欠けてて、飾り立てるようなものでも
なかったわ。秘宝なら秘宝らしく、こう……パーとキラキラした外見であるべきよね」
「ツェルプストー……、学院の秘宝をそういう目で見てどうするのよ? 私なんか、中に秘められた魔力の凄さを聞いて
驚いたわよ」
「ということは、ご主人様も見たことがあるのです?」

ルイズは「ええ」と頷く。横でずっと本を読んでいたタバサも、本から目を離すことなく小さく頷いて見た経験があることを
伝えてくる。

「それで、『雷の宝珠』がどうかされたのですか?」
「いえ……、いざという時、形状や能力を知っているか知っていないかで、状況が一変すると思いまして……」

ロングビルに答え終えると、エレアノールは馬車の進行方向に視線を合わせて黙り込む。左手をメイド服の小物入れに突っ込み、
中に入れている『手のひらに収まる程度の青い宝珠』―――トラップカプセルを握り締めた。

(実物を見ないことには断定できませんが……『雷の宝珠』はトラップカプセルに間違いないのでしょう。恐らく、
サンダー系のトラップが入っているのでしょうね)

広範囲用を複数設置して同時起動させれば周囲一帯をなぎ払うことも可能と、胸のうちで計算する。自分たちの世界では
魔法使いはトラップカプセルと相性が悪くてそれを使用できないのだが、こちらの世界でも同じ法則が適用されるかどうかは
分からない。

(もし……フーケが『本当に証言どおりの場所』に居たら、そしてトラップカプセルを使用できたら……)

―――非常に厄介かもしれません。
暇をもてあまして、軽い口喧嘩を始めつつあるルイズとキュルケに視線を向けて、胸中で暗澹なため息をついた。
297虚無と賢女05話 9/10:2009/02/21(土) 20:17:01 ID:GcopQKuw
鬱蒼と茂った森を進み、途中で馬車から降りて徒歩になった一行は開けた場所―――森の中の空き地へと出る。空き地の
真ん中あたりに廃屋と評するに相応しい小屋がポツンと立っている。五人は森の茂みに身を隠したまま、廃屋を見つめた。

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

ロングビルの言葉に四人は頷く。

「あたしには人が住んでるように見えないのだけど、本当にフーケがいるのかしら?」
「……確かめる必要がある」

キュルケのもっともな言い分に、タバサは地面に杖で絵を描き始めた。小屋と五人の分の絵を描き、矢印を引きつつ説明する。

「偵察兼囮役が小屋まで行って確認、中に居たら外へ誘い出す」

小屋から飛び出す人の絵と矢印を描いたところで、顔を上げて四人を見回す。

「ゴーレムを作り出す前に集中砲火」
「確かに……昨夜のゴーレムを作られると厄介ですからね」

エレアノールが最初に頷き、他の三人も思い思いに頷く。

「では、わたしが偵察兼囮役をしましょう。でも、その前に―――」

エレアノールはロングビルへと視線を向ける。

「ミス・ロングビル、貴女も土系統のメイジと聞いております。何か意見はありませんか?」
「同じ土系統と言っても……わたくしはラインですから、トライアングル以上のフーケには手も足も出ませんわ。それに、
ゴーレムを作り出す前に決着をつけるミス・タバサの作戦にも、付け加えれるような意見はございません」
「なるほど……」

エレアノールは頷いて、胸中に秘めていた次の質問を切り出した。

「もう一つ。もし、フーケがゴーレムではなくて『雷の宝珠』を使って反撃してきた場合はどうします?」
「それは―――」

ロングビルは答えを詰まらせる。言葉を続けたのはタバサだった。

「十分ありえる。だから、この奇襲は最初の一撃が命運を分ける」

一人、まるで場慣れしてるかのように冷静なタバサの訓告。隣で聞いていたルイズとキュルケも、背筋が凍る思いをしながら
頷いた。
これ以上の意見はもう出ないと判断したエレアノールは、デルフリンガーを鞘から抜いて立ち上がる。

「それでは、行ってまいります。皆さんもくれぐれも油断されないように」
「……エレアノールも、気をつけてよね」

ルイズの言葉に「はい」と頷いて、茂みから一足飛びで小屋の側まで近づいた。窓に近づき、中を覗きこむ。中は一部屋しか
なく、一見して誰もいない―――人の気配すら感じられない。人が隠れるような大きな家具も物陰になりそうな場所もない。
エレアノールは小声で手元のデルフリンガーにささやき掛ける。

「デルフ……、貴方は潜んでいる人の気配は感じられますか?」
「いんや、わかんね」
「そうですか……」

エレアノールは少し考えて、皆を呼ぶことにした。四人が隠れている茂みに手を振り、中に誰もいないことを伝える。そして、
茂みからルイズとキュルケ、そしてタバサの三人がおそるおそる近寄ってきた。

「……え?」
298虚無と賢女05話 10/10:2009/02/21(土) 20:19:11 ID:GcopQKuw
一人足りない、ロングビルの姿がなかった。エレアノールはゆっくりと近づいてきたルイズへ問いかける。

「ご主人様、ミス・ロングビルは?」
「え? ミス・ロングビルなら周囲の偵察に行ったわよ。『雷の宝珠』で一網打尽にされるから、固まって行動しない方が
いいって」

エレアノールは森へと視線を走らせるが、鬱蒼と茂った木々の間にその姿は見えなかった。

「それより、フーケはいなかったの?」
「ええ、中には誰もいませんでした」

エレアノールの言葉に三人は頷く。そして、今度はタバサが一人先行し、小屋のドアの前で杖を振った。

「ワナはないみたい」

『探知』の魔法の効果に頷いて、ドアを開けて中へと入っていく。

「誰か外で見張りをしておいた方がいいでしょう。もし、フーケが帰ってきたら、小屋ごとゴーレムで叩き潰される危険も
ありますし」
「そうね……。じゃあ、私が見張りするから、エレアノールはツェルプストーとタバサと一緒に中を調べてきて」

ルイズが見張り役に小屋の前に残り、エレアノールはキュルケに続いて小屋の中へと踏み入る。窓から覗いたとおり、
小さな家具と炭焼き用と思しき薪が転がる、隠れる場所も何もないガランとした小屋。先に入ったタバサとキュルケが歩く度に
ホコリが舞い上がっていた。少なくとも、最近、人が寄り付いた形跡すらない。

(……昨夜のゴーレムと同じですね。目に見えて分かりやすい『囮』に注意を引き付けて『本命』から目を逸らす手法で、
逃げに徹したのでしょうね)

小屋の様子に―――元々、可能性は高いと考えていたが―――フーケの策に乗せられたと思い、小屋を探索する二人に気付かれ
ないようにため息をつく。

「……あった」
「え!?」

チェストを探っていたタバサが、中から青い球体―――『雷の宝珠』を見つけ出した。エレアノールは思わず驚きの声を上げ、
タバサの元へと駆け寄る。タバサの手にある『雷の宝珠』は、正しくエレアノールにとって見慣れたアイテム、トラップ
カプセルであった。

「それは、本当に『雷の宝珠』なのでしょうか?」
「ええ、そうよ。宝物庫に置いてあったので間違いないわね」

キュルケの言葉にタバサも同意するように頷く。

「あの……、ちょっとお借りしてもいいですか?」
「……(コク」

手渡されたトラップカプセルを手に取り―――左手のルーンが、それが何であるかを脳裏へと浮かび上がらせる。

(やはりサンダー系のトラップが入っていて……壊れてもないのですね。でも、何でここに置いてあるのです?)

トラップカプセルをタバサへと返し、エレアノールの脳内で少しずつ情報を整理を進める。しかし、それを整然と並べることが
出来ない。違和感を拭えないまま考え込んでいた、まさにその時―――

「きゃあああぁぁぁッ!?」

―――外から、ルイズの悲鳴が小屋の中へと響いた。
299名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:23:22 ID:dd4VN4Br
賢女さん乙

>>283
・・・・回避しようと思ったけどアイマス格差社会買うか。
300虚無と賢女代理:2009/02/21(土) 20:24:34 ID:nBLZr7Qx
最後の挨拶でさるさん喰らったので、どなたか代理投稿お願いします。
本文↓

以上で今回の投下を終了します。皆さん、ご支援ありがとうございました。

……今回は、ちょ〜とばかり悩みました、悩みましたともデルフの装備位置に(苦笑
デルフ+細剣にするか、デルフ+逆剣にするか、きちんと左手に持たせるべきかと延々と
まぁ、今は『利き腕の右手でデルフを振るう』ということにしました……、
ベアルファレス原作では各キャラ利き腕の設定などなかったですけどね、
一部のキャラの立ち絵で右手に剣、左手に盾程度くらいしか……。

では、また次回も、支援をよろしくお願いします。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:25:19 ID:nBLZr7Qx
代理終了〜
302名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:27:35 ID:jdM15Xk7
賢女の方、乙でした。
5話でフーケ戦……私の倍ぐらいのペースですな。さくさく進んでいて羨ましいです。
今のところはテンプレに沿っているようですが、ここからどのような差異を見せていくのか楽しみにしています。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:37:28 ID:IAy1COv1
お疲れ様、使用目的からすると確かにデルフは逆剣かもw
目に見えるのは囮、本命は別にある、あのウザすぎるミッションかw
304名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:41:43 ID:11tQqdEF
色々と乙ー

ところで
>>「んなっ……、そりゃあカトレアに比べれば負けてる『かも知れない』けど、あなたに負けてるってのは心外だわ!!」
>>カトレアに比べれば負けてる『かも知れない』
>>『かも知れない』
………ツッコミてぇ
305名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 20:47:11 ID:yU440h3Z
>>304
もう忘れたのかい?
「目に見えて分かりやすい『囮』に注意を引き付けて『本命』から目を逸らす」だぜ。
306名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:14:38 ID:SSFGJDcA
小ネタ投下します
307るいずと! 前編:2009/02/21(土) 21:16:11 ID:SSFGJDcA
ルイズ・フランスワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはため息をついた。
それは、昨日行われた春の使い魔召喚の儀式で、使い魔を契約できなかったからである。
召喚できなかったのではなく、契約、つまり『コントラクト・サーヴァント』が出来なかった。
ルイズが召喚した使い魔が、高位の幻獣だから契約ができなかった、というわけではない。

そうであったほうが、都合が良かったと言っても良かった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

生徒も教師も、召喚された彼女を見て言葉を失っている中、
「ここはどこだ!? ぼくじょーか!?」
甲高い声が響いた。その声を放った人物を召喚したルイズが、目を丸くしている彼女に優しく声を掛ける。
「私はルイズって言うんだけど、あなたのお名前は?」
「よつば! こいわいよつば!」
元気よく返事をする、ルイズに召喚された、よつばであった。
「よつばちゃんは何才かな?」
「6さい! よつばは6さいだ!」
そう言って広げた手は、五本の指しか立っていない。
「えーと、よつばちゃん何才だっけ?」
「6さい!」
「指は?」
「5ほん!」
ルイズはこの先に不安しか抱くことが出来なかった。

すると、冷や汗をかきながらも教師であるコルベールが近づいてきた。
「よつばちゃんは、自分の家はどこにあるかわかりますかな?」
「はげだ! つるつるだな! おもしろいな!」
無邪気に笑顔でそう言うよつばに、コルベールは苦笑を漏らす。40歳を過ぎ、いまだに独身である彼は、子供の世話などしたことがなく、どうしたものかと光り輝く頭を掻いた。
「家はどこにあるのかな?」
もう一度コルベールが聞くと、よつばは辺りを見回し、その後次第に表情が曇っていった。
「どこだここは? とーちゃんはどこにいった?」
茫然自失の表情で呟き、よつばは泣き出してしまった。
周囲からもルイズをバカにするような声はなく、よつばの泣き声だけが響いていた。
308るいずと! 後編:2009/02/21(土) 21:17:55 ID:SSFGJDcA
そのあと、ルイズは学院の自室へよつばを連れて行き、泣き止んでから簡単に事情を説明した。
「あのね、実は私がよつばちゃんをここに呼び出しちゃったの。ごめんね?」
「ゆうかいか? みのしろきんもくてきか?」
「ううん、そうじゃなくて。私が魔法で呼び出しちゃったの」
ルイズがそう言うと、よつばは一瞬聞きなれない言葉にきょとんとした。
「まほうってあれか? ねこになったり、ひをつけたりするやつか?」
「猫になるのは先住魔法じゃないと無理だけど、火をつけたりする魔法はあるわよ」
「じゃあ、ルイズもまほうつかえるのか?」
そのよつばの疑問にルイズは肩を落とし、声がさっきよりも低いトーンになった。
「私はね、魔法が苦手だから使えないのよ」
「そうかー。ルイズもがんばれ、な?」
「あ、でもこれなら出来るわよ」
ルイズはそう言い、ぱちんと指を弾くと、よつばの近くにあったランプの灯りが消えた。月明かりで見えるよつばの表情は、これでもかというぐらい晴れ、まさに喜色満面と呼ぶにふさわしかった。
「すごいな! よつばもできるのか!?」
そう言い、よつばも指を弾く動作をしたが、カスカスと乾いた音しかせずランプは灯らなかった。徐々によつばの顔が曇っていくのを見て、ルイズは慌ててフォローする。
「今は出来なくても、少ししたら出来るようになるから! ね?」
「がんばります! よつばがんばります!」
とりあえず機嫌が直ったようで、安堵のため息をついた。

その後も色々と説明をしてあげようとしたが、眠くなってしまったらしくこっくりこっくりしているよつばを見て、ルイズは微笑んだ。
「すぐにお父さんを見つけてあげるから安心してね?」
うつらうつらと船を漕いでいるよつばをベッドの中に入れ、毛布をかけてあげる。
使い魔を召喚しようとしてよつばを呼び出してしまったときは驚いたが、こうして幸せそうに寝ているよつばを見ると、自分に小さな妹が出来たようで微笑ましい気持ちになれた。
たとえ平民の子であっても、憧れでもある自分の姉──カトレア──のように優しくしてあげようと決心し、ルイズも床に就いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それが昨日のことの顛末だった。そして今、ルイズは目を覚まし、隣に寝ているであろうよつばを起こそうと思い、見てみたが、……いなかった。
慌てて部屋の中を見渡すが、いない。しかし、ベッドの中にはよつばが寝ていた温もりがあり、昨日の出来事が夢ではなかったことを確認した。
ルイズはベッドの中で、これからの忙しさを思い、ふう、とため息をついた。

──しかし、ルイズの顔には、紛れもなく笑顔が浮かんでいた。


小ネタ よつばと! から小岩井よつばを召喚


…………………………………………
以上で終了。いずれはこのネタで長編書いてみたいかも……
309名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:26:28 ID:UaXxE0Zy
遅れながらラスボスの人乙です。
ドモン・カッシュや東方不敗を人外扱いって・・・
いや、まあ、生身でMS(デスアーミー)と戦って勝てる連中だから間違っちゃあいないんだけど。
310名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:26:45 ID:BHeXy9eD
乙w
このルイズの二つ名は子持ちで決まりだなw
311名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:33:01 ID:vCWeI2vA
>>309
一番最初のGジェネだとドモンは強化人間だった記憶があるw
312名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:33:54 ID:GNBIWk3Y
よつば乙。
すさまじいほのぼの感だ
313名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:35:21 ID:yU440h3Z
よつばと乙!
とーちゃんとジャンボが一緒に召喚されても面白そうだなぁ、
そして後に語られることの無い第四の使い魔「やんだ」。理由はあいつダメだ
314名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:37:54 ID:teoDvGJb
駄目だけど好きなキャラだ
315名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:38:16 ID:lD59hOu2
>>311
ドモンはずっとOTだったはず

強化人間はヒイロかと
316名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:45:16 ID:hCPzti4c
しかし、呼べば出てくるガンダムは思念操作で呼び出しているんだよなぁ。
ローズガンダムのローゼスビットも同じ原理でコントロールしているはず。


まぁ、UC世界もF91ぐらいの時代にはOTでもファンネルを動かすぐらいならできるんだが。
それ以上に、ファンネルジャマーとかの技術が進んですたれたが>ファンネル
317名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 21:53:34 ID:Lmt341TG
ヒイロはGジェネで強化人間にされてたのかw
まあ確かに強化してはいるが、肉体的な意味で
318名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:10:56 ID:11tQqdEF
昔やったGジェネ系だとジョルジュだけNTだった気もするが俺にはどうでも良い

しかしルイズ、しんのすけの時とえらい態度が違うのう
319名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:17:26 ID:IdNgWHnT
某現人鬼も言う通り可愛いは兵器なのだろう。
320名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:20:05 ID:VGPy6wiP
遊戯王5D'sの遊星を召喚。

元からゼロ魔の平民より下のような階級だし(出身自体はかなり上だけど)
平民を見下し気味の貴族相手にはなかなか面白い反応できるんじゃね?
321名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:21:52 ID:dd4VN4Br
言うとファンは怒るだろうけど、
Gジェネもスパロボも公式二時創作だからな。
設定は参考以上にしない方がいいだろう。

てかガンダムはバンダイとサンライズの二つ公式があるからな。
322名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:23:31 ID:IdNgWHnT
遊戯のキャラはゲームに乗ってくれる遊び心が豊富な相手じゃないと真価を発揮できないからな活躍が難しいのじゃないか。
323名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:32:05 ID:U0edVoaa
嫁たちなら問題なさそうだけどね
324名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:38:52 ID:6bGht4oY
まとめのページに作品入れるのってどうやればいいのかな?
ゴーストステップ・ゼロがまだ入って無いからやろうと思ったんだけど・・・。
325名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:40:19 ID:hCPzti4c
>>318
それは>>316の事情だな。
アレが、NT用の兵器という位置づけだったので、その流れでNTになったという。
326名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:44:09 ID:pJeoK+sW
>>316
ファンネルジャマーは初耳だが、そんな公式設定あったっけ?
327名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:46:23 ID:8RNcw26O
ムーンクライシスに出てきたけど、黒歴史扱いじゃなかったっけ?
328名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:48:42 ID:pJeoK+sW
二次創作やんか
それが公式なら、G3が忍者に盗まれたりコロニーがザクに変型したり
赤いオッサンがMSのビームサーベルを真剣白羽取り出来るのが丸ごと公式に出来てしまう
329名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:52:46 ID:EvFeM860
>>308
よつばは迷子だったのを保護して、結局親が見つからなくて日本に連れ帰っちゃった子だから、
ハルケギニアでも順応するだろう。
シルフィに懐きそうだな。
330名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 22:53:42 ID:lD59hOu2
>>326
たしかレオンに出てきた。

あの三部作非公式作品だけどな
331名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:07:45 ID:FXQbvV3B
Vガンの量産型のコンティオのショットクローは
無線式のインコムだったと思う
332名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:08:25 ID:yU440h3Z
>>329
よつばはヴィンダールヴだろうね
しかも人間、人外かかわらず(バグベアーと梟は苦手)
333名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:11:41 ID:jc7vjfSU
>>324
wikiのヘルプとか読んでやってみたら?
ゴーストステップ・ゼロ-17のページを新しく作って、そこにメモ帳か何かでまとめた本文をコピペして登録。
あとは、ゴーストステップ・ゼロのページにそのページを追加すればいいんだと思うけど。
334名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:16:34 ID:lD59hOu2
>>324
ここを見ればいいかと
http://www35.atwiki.jp/anozero/pages/152.html
335名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:25:32 ID:sQ7DFAxC
アンチIフィールドって言う名前で聞いたことはあるな…

ロト紋のポロンクラスの魔法使いを呼ぶとさすがに蹂躙とか言われるのかなあ…
336名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:28:12 ID:wEpamu8y
一方、ユニコーンはハッキングした
337名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:30:31 ID:85kAmNUE
一人ヘキサゴンだからな
でも性格とか肉体能力とか書き様はあるな
338名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:34:35 ID:nFnVnE2d
ポップと大して変わらないんだから別にいいんじゃね?<大賢者ポロン
339名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:50:54 ID:tIP7y8M5
ブルーディスティニーを召喚したら、EXAMシステムが
周囲のメイジをニュータイプと判断して暴走モードに入るんだろうか…
340名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:55:07 ID:gTEjkm5l
>>339
有り得ない
先ずはニュータイプのなんたるかをググれ
341名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:55:25 ID:zwWSJzyn
サイトの母親の落胆と憔悴具合を見てると
よつばを失ったとうちゃんやジャンボや綾瀬家の人々の悲嘆振りは想像を絶するな
342名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/21(土) 23:56:40 ID:TjaCCHUG
ゼロ魔スレでこういうマジレスするのはどうかと思うが……
>>339
あれは殺気を電磁波として察知するシステム。
戦場みたいに殺気で溢れてる場所か、メンヌヴィル並みに異常な殺気を放ってるやつに発動する。
343名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:04:50 ID:piIErDyz
>>340
しかしジオン=ダイクンの提唱した真の意味での
ニュータイプは結局現れなかったんだろうなぁ
344名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:07:09 ID:yU440h3Z
>>341
ジャンボ「そういや最近よつばを見ないがどうした?」
とーちゃん「ん・・・あれ?」
345名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:12:56 ID:9PUhtBsR
>>343
真のニュータイプって言ったら、レビル将軍の評したあの言葉だろ
「ニュータイプとはな、戦争なんぞしないで済む人間の事だ。超能力者の事ではない。」
これに当て嵌まる者は一人も出てないな。
346名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:14:28 ID:h96uaD+/
ティファがいるじゃないか
347名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:19:04 ID:m06BuWyw
それって渋川さんのことじゃね?
348名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:21:36 ID:tlDvGCCX
>>346
でもあの娘のせいで起こった戦争(喧嘩)はあったよね。
しかも超大量破壊兵器をふたつもぶら下げてるジャン!
349名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:21:46 ID:Mio/5nQA
まあ、おかげでダイクン氏の息子さんはグレて
地雷女を量産したり地球に変なものを落としたがる厄介な病気を患ってしまったけど
350名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:37:47 ID:TfKy5Hm2
渋川さんの場合、近付くまでもなく危険を認識できるだけで戦争せずに済むかは別物。
351名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:38:00 ID:piIErDyz
>>345
あら、そうだったっけ?
ダイクンさんが言ったものと勘違いしてたわ
しかしそんな人間が本当にいたら
超能力者なんて変わった能力持つ人間程度だよな
352名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:42:45 ID:boN5AYss
世界のすべてがコーディネーターならラクスこそがそれなんだけどな。
実際、火星ではラクスタイプがすべてを支配してうまくやってるみたいだし。
353名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:43:48 ID:Mio/5nQA
コーディネーターってのは優れてるとか洗脳能力があるんじゃなくて
人と人とをつなぐ者だってのはファーストコーディネーターの人のお言葉だったはずだ
354名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:45:15 ID:+yd9bH3Z
こんばんは。
よろしければ50分ごろに投下したいと考えている新参者です。
召喚されるのはFF5よりエクスデスです。
よろしくお願いします。
355名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:46:24 ID:Mio/5nQA
カメェェェェェッー!支援
356名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:46:33 ID:N5Sv/V1w
グレンが何言おうと派生作品含めた作中でのラクスの能力は
コーディネィターへの支配力だぜ
357名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 00:47:01 ID:pcs7w6+V
ファファファ
358聖樹、ハルキゲニアへ1-1/9:2009/02/22(日) 00:51:46 ID:+yd9bH3Z
聖樹、ハルキゲニアへ―1




「わたしは ネオエクスデス すべての記憶 すべての存在 すべての次元を消し そして わたしも消えよう 永遠に!!」

そこにもはやエクスデスの意志など無かった。

追い求め、とうとう手に入れた無の力。
世界を制するその力を手にいれ、もはや誰にも届かない強さを得て、全てを従えるはずだった。

それが

我の名を語る何かが

世界を

全てを消し去ろうとしている


・・・・・やめろ!
何をしている!
勝手な事をするな!
そんなことは我は望んでなどいない!

深い深い闇の中で意識を失いかけていたエクスデスは自身を奮い起こし、何としてでも
止めねばならぬと、感覚も感じられない中で必死に手を伸ばし、闇の中をもがく様に進んでいく。
そんな彼の眼に飛び剣を構え飛び込んでくる人が見えた。

バッツ!!

幾度となく戦ってきた宿敵の顔を見間違えるエクスデスではなかった。
359聖樹、ハルキゲニアへ1-2/9:2009/02/22(日) 00:54:16 ID:+yd9bH3Z
ボロボロに傷つき血を流そうとも怯むことなく向かってくる。

倒れれば立ち上がり、更に強さを増して困難に挑み、勝利していった青年。
光の戦士、それだけでは説明できぬ強さと輝きを持った存在。
それが今我に、いやネオエクスデスに向かってくる。
(我をも飲み込まんとするこの闇に怯みもせんとは・・・)

バッツの体が輝きに包まれ、一筋の光となって向かってくる。
その姿を見てエクスデスは安堵していた。
以前の我ならばなんとしてでも消し去らんとしたであろう光を見て、己の内から湧き上がる不思議な感情に。

「ファファファファ!来いバッツ!
 このネオエクスデスを見事止めてみせるがいい!
そうすればお前たちの世界はお前たちの手に帰る!
それが勝者への褒美だ!
そして我は消えよう!
それが敗者の定めだ!」

不思議と叫んでいた。
自分は消えようともバッツ達が残るならば世界は大丈夫だろう。
力で全てを押さえつけ従わせようとした自分とは異なる方法で、世界を導いてくれるだろう。
根拠はないがそう確信できた。

光がネオエクスデスに衝突する。
飲み込まれそうになった光は大きく強く輝きネオエクスデスを飲み込む。
その光は中にいるエクスデスにも到達した。
途端、自分を取り囲んでいた闇がけし飛び、代わりにまばゆい光に包まれる。

「見事だ・・・・この輝きを・・・我ももっと早く見ることができたなら・・・」
人の可能性、その力に自分は敗れたのだ。

「さらばだ・・・
・・・もし、我でも・・・生まれ変わることができるのならば・・・。
お前たちのように・・・仲間とやらや・・・大切なものとやらを・・・
360聖樹、ハルキゲニアへ1-3/9:2009/02/22(日) 00:56:41 ID:+yd9bH3Z
見つけることが・・・・出来たら・・・」

薄れる意識の中で、エクスデスは光の中へと消えていった。




・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・?
ゆっくりと己が引き上げられていく感覚、エクスデスは自分の意識が消えていないことに気づいた。
それどころか体も存在していることにも気がつく、指を動かすことができたのだ。
(我はあの光の中で消えたのでは・・・?)
視界を開けてみるとそこには夕焼け空が広がっていた。
(あの無の空間ではないだと!?ならばここは一体どこだ!)
がばっと上半身を起こし辺りを見る。
「きゃあっ!」
「ぬ?」
同時に聞こえてきた声の方に目を向けると、ピンク色の髪をした少女が尻もちをついていた。
(・・・人間か)
微弱だが魔力も感じられる。魔導士か?
なぜこんな少女が自分の前にいるのだ。
我を知らぬものはいる筈がない。
このような技量の者で我が討てると思っているのか。
そうだとしたら・・・
さらに周囲を見渡せば少女と同じような服を着た者たちが取り囲むようにこちらを見ている。
ぼそぼそと何か喋ったりもしているようだがはっきりは分からない。
それに寄り添うように様々な動物、そして魔物とおぼしき姿も見受けられる。
(やはり数で来るしかあるまい・・・)
最も、いくら人数で来ようとも実力が伴わなければ意味が無い。
蹴散らすことに決めたエクスデスがゆっくりと立ち上がると、周囲にいた生徒達はびくりとして一歩下がる。
(どうやら蹴散らす必要もなさそうだ・・・)
361聖樹、ハルキゲニアへ1-4/9:2009/02/22(日) 00:59:14 ID:+yd9bH3Z
ならばこれで追い払おうとエクスデスは自身の負の力を纏った殺気を放とうとした―――――――――――が。
「ちょ、ちょっと!何人のことを無視してるのよ!こっちを向きなさい!」
なにやら腰元で騒がしいものに視線を向けると、先ほどのピンク色の髪の少女が腰布をつかんで怒鳴っていた。



一方教師コルベールは顔面蒼白になっていた。
ルイズことミス・ヴァリエールが何十回という失敗の果てに出てきたのは見たこともない装飾が施された鎧のような物。
かと思いきやそれはやおら起き上がり生徒たちを見渡しながら立ち上がる。
そうしたら今度は周囲の視線が気になったのか、あれから発せられる深く強烈な負の情を感じて杖を出そうとしたら、
ミス・ヴァリエールがそれの腰布を引っ張って怒鳴りつけている。
得体の知れぬ、しかも何処かの騎士か、はたまたメイジ、貴族かもしれない相手を怒鳴りつけている。
もし異国の重鎮などで下手をすれば外交問題、悪くて戦争と考えるだけでもまずい。
が、それ以上にあれから微弱だが漂ってくる闇の気配がコルベールの不安を高まらせていた。

万が一の時はこの身を犠牲にしてでも生徒たちを、ミス・ヴァリエールを守らなければならない!

固く決心したコルベールが場を収めるために声を掛けようとした矢先、

「何黙っているのよ!なんとか言いなさいよ!」
ぱしん
ルイズがエクスデスの腰元を引っぱたいた。
コルベールは目の前に絶望という言葉が走っていくのが見えた。

「・・・何用だ人間の娘よ」
「ちゃ、ちゃんと喋れるのね。いいわ、会話が出来るのは合格よ」
深く響くような声に押されながらも、ここで引いては主にはなれないとルイズはしっかりとエクスデスの目・・・の辺りを見つめて会話を試みる。
相手の雰囲気にのまれては駄目だ。
362聖樹、ハルキゲニアへ1-5/9:2009/02/22(日) 01:01:52 ID:+yd9bH3Z
「あなたはわたしが呼び出したの。」
「何の為にだ」
「使い魔にする為によ!」
「・・・人間の娘よ。我を知らぬのか?」
「知らないわよ!メイジだか騎士だか分からない変な恰好して!
・・・もしかして貴族なの!?」
「貴族といった者ではない」
「じゃあ平民ね。その服装は大道芸人かなにか?」
「それでもない、我はエクスデス。それ以上それ以下でもない」
「エクスデス、それが名前ね。じゃあエクスデス、そこに跪きなさい」
「何故だ」
「わたしの使い魔にしてあげる。契約をするのよ」
「断る」
「使い魔にしてあげるっていうのに何で逆らうのよ!」
「弱きものに従う必要がどこにある?」
「な・・・なんですってぇ!どんな根拠があって私が弱いっていうのよ!」
「言って分からぬなら教えてくれようか?」
「平民の分際で!分かったわ、契約の前に躾てあげる!」
「面白い!来るがいい!」

「やめなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
互いに杖を取り出して戦闘態勢をとる、ミス・ヴァリエールのほうはともかくとして、エクスデスのほうは・・・・信じ難いほどの魔力量を感じる。
冗談抜きでまずい。
一発触発状態になっていたルイズとエクスデスの真ん中に割って入る様にコルベールが乱入してきた。
ぜぇぜぇと息を切らして今にも倒れそうだ。
「・・・ミス・ヴァリエール!はぁっ、どんな事情があろうともっ、ぜぃ
 勝手な私闘は認められません!」
ルイズも反論したがコルベールはとにかく戦いは認められないと一歩も譲らなかった。
ふとルイズが気付けば周りの生徒達はいなくなっている。
コルベールが万が一に備え先に学園に帰していたのだ。
「エクスデス・・・殿でしたね。いろいろとお騒がせしてすみません。」
「別に構わん。ところでここは何処なのだ」
エクスデスの問いにコルベールは丁寧に説明する。
だがトリステインはおろか各国の名前は知らぬ物ばかり、逆にエクスデスが自分がいた地
363聖樹、ハルキゲニアへ1-6/9:2009/02/22(日) 01:04:06 ID:+yd9bH3Z
の説明をするがコルベールもルイズもさっぱりな様子。
ならばと自分の素姓を明かしてみたが、ルイズには
「だからあんたの名前なんてどんな本でも見たことも聞いたこともないわよ!」
と一蹴。
コルベールもしばらく考え込んでいたが
「申し訳ありませんが、私の知る限りでは・・・・」
といった有様。
「・・・ところでさっき普通に話してたけど、あんたって・・・・木なの?」
「うむ。ムーアの大森林の一本の木、それが我だ。信じられぬか?」
「信じられるわけないでしょう!」
「私も・・・にわかには」
どうやらいまいち信じてもらえんようだ。
「では証拠を見せよう。人間には目で見せたほうが早いからな」
ならばとエクスデスは自身の中の闇をゆっくりと開放していく、みるみるうちに
エクスデスの体から枝が湧き上がり下半身を覆いながら伸びあがり、5メートル程の大きさになって動きを止める。
「これでどうだろうか?」
二人はエクスデスを見たまま固まっていた。



「ミスタ・コルベール!召換のやり直しを!大道芸人どころじゃなくて、こいつは―――
 これは魔物です!」
「人間の感覚からすれば確かに我は魔物だが、先ほどから良く大声が続けて出せるな娘よ」
元の人型の体躯に戻ったエクスデスの前でルイズがコルベールを揺さぶっていた。
「確かに彼のような存在を呼び出したというのは前代未聞だが・・・使い魔
 の召喚の儀式にやり直しは認められない。それに・・・」
(底知れぬ魔力を持ってひとつの世界を破壊寸前までに追い込んだような存在を野放しにするということは出来ない)
口には出さなかったが、コルベールはもしこのままエクスデスが放置されたらどのような行動をとるか分からないというのが正直な気持ちだった。
ルイズとしてはまさかこんな魔物を呼び出してしまったなどと家族は当然のこと、誰に言えようかと半ばパニックになっていた。
そんな二人の心を見透かしたのかエクスデスは
「どうやらこの世界に我を知る者はいないようだ」
静かに独り言のように言うと二人がこちらを見る。
364聖樹、ハルキゲニアへ1-7/9:2009/02/22(日) 01:06:23 ID:+yd9bH3Z
「それに我は一度は敗れ去り、消えていたかも知れん。それがなぜこの地に呼ばれたのかは知らぬが、とても騒乱を起こす気分にはならん」
「では、ここで力を振りかざすといったことはしない・・・と?」
「うむ」
「本当ですね・・・?」
「うむ」
「・・・・・ということです、ミス・ヴァリエール」
コルベールからの言葉には出ない催促のようなものをルイズは感じた。
「そうは言っても・・・。
 それってつまり、わたしの使い魔になってくれるの?」
「うむ」
「でもさっき自分より弱いものには従わないって・・・」
「気が変わった、とでも言っておこう。
 それに人間に仕えるとうことでなにか見つかる物もあるかもしれんのでな」
しばらく考えこんでいたがルイズだが、深呼吸をしてエクスデスに向き直る。
「エクスデス、そこに跪いて」
本来の自分ならば命令口調などされた途端に相手を消し飛ばしていただろうに。
なぜか悪い気はせず、素直に跪きルイズと目線を合わせる。
「それじゃ契約するわよ・・・。
 えっと・・・口はこの辺りでいいのよね」
目と思わしき穴の下の部分の口であろうところに見当をつけて、ルイズはエクスデスに口づけする。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ・・・」

これが主従の契約の方法かと考えていたエクスデスだが、ルイズが言葉を紡ぎ終わると同時に左手に熱さを感じた。
見れば手の甲に見慣れぬ文字が刻まれている。
「これでミス・ヴァリエールとあなたの契約が完了しました。このコルベール、確かに見届けさせていただきました」
内心どうなるかとひやひやしていたコルベールだが、エクスデスが思いのほか大人しいことに安堵していた。
その言葉を聞き手のルーンを見たエクスデスはルイズに向き直り
「今日この時をもってルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 汝を我が主とする。
365聖樹、ハルキゲニアへ1-8/9:2009/02/22(日) 01:08:21 ID:+yd9bH3Z
我が名はエクスデス。全身全霊を持って汝の力になると誓おう」
頭を垂れて宣言した。

いろいろと方づいた頃にはすでに辺りも暗くなり、三人は学園へと戻った。
道中この世界のこと、自分の世界のことを語り合いながら歩いて行き、エクスデスはつくづく自分がここに何故飛ばされたを考えていた。
(急いたところで答えは出まい、ゆっくりと考えるとするか・・・)

学園にてコルベールと別れルイズの部屋へと向かう、途中自分を見つめる視線をいくつか感じたが放っておくことにした。
見ているだけなら構わないが仕掛けてくるならば応じるという殺気をかすかににじませながら。


「狭いな」
「そういうこと言わないの!ここに来る前がどんなに偉かったかは知らないけど、
あんたは今は使い魔なんだから、特別扱いはしないわよ」
「うむ、そうであったな。ところで使い魔はいいが具体的には何をすればいいのだ?」
「あ・・・まだ説明してなかったわね。ええっと・・・」
答えかけたルイズはエクスデスの身に付けているマントや腰布が目に入った、さっきはいろいろ忙しく気にならなかったのだが良く見るとところどころ汚れている。
模様かと思ったら黒っぽいシミみたいなのもあるようだ。
「その黒いのはシミ?」
「これは血だ。付着した物が乾いただけであろう」
さらりと言う。
その返事に意識が遠のきかけるが、ぐっとこらえて耐える。
「・・・それ洗濯したことある?」
「洗濯とはなんだ?」
洗濯を知らないとは予想外。
嫌な予感がしたルイズは掃除、炊事等一般常識的な物を挙げて聞いた。
「我には必要なかった」
戦闘以外の経験値、ほぼゼロ。
ルイズはベッドに倒れ伏した。

「今まではそれで良かったかもしれないけど、これからは覚えてもらうわよ」
そう言い渡してルイズは着替えて寝てしまった。
366聖樹、ハルキゲニアへ1-9/9:2009/02/22(日) 01:10:28 ID:+yd9bH3Z
「・・・なかなか難儀な主に仕えることになったようだ」

ルイズのずれた毛布を直し、窓から見える二つの月を見ながらつぶやく。
(暗黒魔導師とも呼ばれ畏怖を一身に集めてきた我が・・・こんな小娘に従うか)
前の自分ならば周りの人間もろとも無に帰そうとしただろうに。
いっそここでこの娘を消すかとも考えたが、安らかに寝息をたてるルイズを見ているとそんな気も無くなってしまう。
自ら誓いもたてたのだ、それを今更撤回するのも情けない。
このルーンが関係しているのか?
しげしげとコルベールがスケッチまでしていた手の紋様を見る。
しかし特殊な力も感じないので気にするのは止めた。

(・・・・我も眠るとするか)
マントやアクセサリー、武装をはずし腰布だけになりソファーに横たわり、ルイズから渡された毛布をかけて視界を閉じる。
(明日は人間が行う奥儀を覚えなければならぬからな・・・。
 洗濯・・・人間が日常的に行うという行為。
 その積み重ねがあのバッツ達の強さの一つなのだろう。
 他の・・・掃除や炊事とやらも無を超える重大な力なのだ。
 それを目の当たりに出来るというのだから・・・こんな幸運はあるまい。
 明日が楽しみだ、ファファファ・・・)

いろいろ勘違いしていた。


367聖樹、ハルキゲニアへ:2009/02/22(日) 01:12:41 ID:+yd9bH3Z
以上です。
エクスデスさんは人間の営みが気になっています。
ありがとうございました。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:17:19 ID:Tc9lSiqe
おつー
最初エクスデスかよっwと思ったけど普通に良かった
369名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:17:38 ID:CDmI3Q88
支援。ちなみにエクスデスの声は刑事コロンボ(笑)
370名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:17:44 ID:Xy4M3ZNu
なんかユーゼスと被る
371名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:20:29 ID:4z3YOt6A
エクスデスさんの人、乙です
渋いイメージの割りには、勘違いが可愛い

>>370
でも、少なくともユーゼスば人類の筈だw
372名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:33:39 ID:dolWr3NK


奥儀が掃除選択炊事に吹いたw
373名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:43:24 ID:hh6rnxWQ
FFシリーズの傑作に対してこれはいくらなんでもないんじゃないか。
374名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:44:03 ID:feZvSXLh
>>320
デュエル中の遊星とジャックを召喚して、
異世界に召喚されてもかまうことなくデュエルを続けて走り去ってしまう。
というのを思いついた。
問題はデュエルが終わっても帰れないことだ。
375名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 01:45:29 ID:vKY5BdfH
エクスデスの人乙です。
なんというほのぼのエクスデスw
wktkしつつ待機。
376名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 02:14:58 ID:5ofyx0lX
エクスデスの人GJ!
がんばってくれ!
377名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 02:19:22 ID:8tlJYXwG
こんなに温かいエクスデスを見たのは初めてだw
GJ!
378名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 02:33:08 ID:qJxOOn7N
>>374
決闘イベントで「おい、デュエルしろよ」ですね、わかります。
379名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 02:37:35 ID:G7KRVTxo
ギーシュ、ゴーレム、おマチさん、ワルド辺りがどんな目にあうか・・・
Sな想像に浸ってしまう自分がいる!

期待するので頑張ってください〜!
380名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 02:42:35 ID:lFZMymuV
投下乙!

ラスボスになるヤツが来たり、ラスボスだったヤツが来たり、ハルケギニアも大変だw
381ゼロの社長 20:2009/02/22(日) 02:45:18 ID:GIJI1uXi
こんな時間ですがやっと見直しができたので第20話を3時から投下したいと思います
時間はあったはずなのに超時間かかってしまった。19話から1ヶ月…ですむのかなぁ
382名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 02:57:15 ID:GIJI1uXi
やわらかい日差しが差し込む、トリステイン城の一室。
暖かな日差しとほのかに香る紅茶の匂いに包まれながらも、その部屋の主である少女の表情は、あまり晴れてはいなかった。
少女の名はアンリエッタ・ド・トリステイン。
トリステイン王国の王女であり、国王亡き後のトリステインの象徴であった。
それゆえに彼女には多忙な日々が続き、やっと得た安らぎの時間である今であっても、
トリステイン…ひいてはアンリエッタ自身に関わる問題であるため、晴れやかな気持ちになどなれるはずもなかった。
「結婚…か…」
目下現在のトリステインの状況は、あまり良いものとはいえない。
もともと『大国』とは到底言えない程度の国土。そのうえ、浮遊大陸にあるアルビオン王国で起きている『革命』
『アルビオン王国』とハルケギニアを統一するという思想の元に動く貴族連合『レコン・キスタ』との対立。
レコン・キスタはアルビオンの多くの貴族を束ね、アルビオン王国に反旗を翻したのだった。
今のトリステインの政治の根幹を担っているマザリーニ枢機卿曰く、
近いうちにアルビオン王家は滅び、レコン・キスタの目的であるハルケギニア統一のための次の矛先は、
このトリステインに向くだろうとのことであった。
そのためにトリステインとしては、帝政ゲルマニアとの同盟を結びそれに対抗する力を得なければならない。
先日行われたゲルマニアとの会談において、ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世が、同盟の為に出した条件は、アンリエッタが彼と婚姻を結ぶ事であった。
政略結婚…なるほど、国のために自らを犠牲にするヒロインとでも喩えようか。
ならば、何時の日か自分を救いにきてくれる王子様が現れてくれるのを期待しようか。
自虐的な妄想の中浮かんだのは、一人の皇子であった。
アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダー。
アンリエッタは彼を愛していた。
彼と出会ったラグドリアン湖の水の精霊に、愛を誓えるほどに。
(彼は、精霊に誓ってはくれなかったけれど…)
懐かしい過去に、苦笑が漏れる。
だが、懐かしい思い出に浸っているわけにはいかない。
ゲルマニアとの同盟の成立を妨げてしまうたった一つの『手紙』
ウェールズに宛てた、アンリエッタの思いの篭められた『手紙』
(なんて言う皮肉かしら…。自分が送りつけたものを自分で取り戻さなければいけないなんて…。)
そんな事を思いながら、ふと窓の外に目を移したとき、激しいノックの音が部屋に木霊した。
「失礼します!姫様、一大事にございます。」
「アニエス?一体どうしたの?」
扉の向こうにいたのは、衛兵の一人アニエスだった。
女性ながら剣の腕に優れ、平民あるために魔法が使えないが、それを補う能力を持つため、現在はアンリエッタの近辺の警護を任されていた。
故にアンリエッタとも自然と親しくなり、アンリエッタもまたアニエスについてよく知っていたが、
そのアニエスが慌てたように声を荒げるというのは、珍しい事だった。
「城内に賊が侵入し、既に何人もの兵士が倒されました。
賊は城内を駆け回り、荒らしているとのことです!」
「そんな、この城に直接敵が来るなんて…。敵の詳細は?どこの国のものです!?」
「詳しい事はまだ…。ただ、見たことのない術を使って亜人を使役していたと。
また、賊は貴族の少女を人質にとっているようです。人質がいるため、下手に手出しもできず…ワルド子爵も倒されました。」
「なっ…なんですって!?」
383名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 02:59:18 ID:GIJI1uXi
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
風使いのスクウェアメイジにしてトリステイン王国魔法騎士隊「グリフォン隊」の隊長を勤める彼が敗れた。
それは、トリステイン最強のメイジが破れたといっても過言ではないだろう。
そんな強力な相手がなぜ?という疑問が浮かぶ。
と、その時、下のほうから物を砕くような破壊音と、兵士達の悲鳴が聞こえてきた。
そして、聞き覚えのある不思議な音。
その時アンリエッタは、一つ思い浮かぶ事があった。
「くっ!もうこんなところまで…姫様!お隠れください!」
「―――アニエス…その賊の左腕には、少し小さめの盾のような物がありましたか?」
「なぜ、今そんな事を…?あ、いえその、そこまで詳しい事は聞いておりません。」
「…いいえ。聞く必要はなかったわ。やはり、思っていた通りだったもの。」
「…それはどういう…?―――――!?」
廊下の先、階段のほうから黒猫がかけてくる。
「あれは…姫様の飼い猫の――」
そして、その黒猫を追うように、少女を鎖で繋いだ――――敵が現れた。



時間は少しさかのぼる。
ルイズ達が追いかけてきた黒猫は城の中に入ってしまった。
ルイズは当然のように、王城に入るのはまずいと海馬を止めたが、それで彼の進行が止まるはずもなく、
ルイズが横で文句を言っているのを完全無視しカイザー・シーホースを召喚して門番を昏倒させた。
そしてそのまま走ってトリステイン城内での黒猫との追いかけっこが開始されたのだった。
「っていうか、アンタの魔法カードでこの鎖解除できないの!?ほら、魔法除去とかあったじゃない!」
「そんな事はとっくに考えてある。」
「じゃあさっさとやりなさいよ!」
「ダメだ。時間がかかる。」
「はぁ!?」
海馬の検証により、デュエル以外での通常時のデュエルディスクを使用したモンスターの召喚及び魔法、罠の発動にはいくつかの条件が枷られていることが判明した。
『最初にドローした5枚より先のドローは、時間制限がついており、一定時間がたたないと次のドローができない。』
『カードはデッキからドローしたカードしか発動できない』
『デュエル時以外のモンスターの召喚は生け贄無しで行うことができる。』
『罠カードの発動は魔法・罠ゾーンに配置してから一定時間過ぎないと発動できない』
『魔法カードをセットした場合、一定時間過ぎた後はいつでも発動できる』
『効果対象が指定されていない効果は、視認できる範囲が効果範囲となる』
『LPは命そのものであり、0になったときプレイヤーの命は尽きる。』
「魔法除去を使えばこれは解除できるかもしれん。だが、できないかもしれん。
こういうものは、まず正規の手順を踏んで解除するほうがいいものだ。」
「…つまり、あの猫を捕まえるしか手段はない。」
「そう言うことだ。」
ルイズは、はぁ…と大きなため息をつかざるを得なかった。
そのためとはいえ、王城に勝手に入り込むなんて…しかも門番を殴り倒して。
こんなところをもし、自分を知っている人間に見られでもしたら…
「そこまでだ、賊め!この神聖なるトリステイン城に入り込むとは、無謀としかいいようがない。
さぁ、人質を解放し、おとなしく降伏たまえ!」
384名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:01:51 ID:GIJI1uXi
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
言ってる傍から知っている人物の登場である。
魔法騎士隊グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
ルイズの知人というだけでなく、戦闘力もトリステインでは最上級。
まさにこの場で出会いたくない相手No.1であった。
にもかかわらず出てくるとは全く空気の読めない男である。
「むっ…ル、ルイズか!?くっ、貴様!ルイズを人質に取るとは、まさか貴様も虚m『ファイアボール!!!!』うぼあぁぁぁぁ!?」
ワルドが何かを言い始める前にルイズはいつもの失敗魔法をワルドにぶち込んだ。
ボンッ!ズルッ…ごろごろごろごろごろ…
ルイズの失敗魔法の衝撃で真っ黒焦げになりながら階段下まで転がっていくワルド。
「身内を問答無用とは…。なるほど、貴様も鍵を取り返すのに全力を出す気になったようだな。」
「うるさいうるさいうるさい!」
ちらりと階段下を見るルイズ。
(どうかワルド様が今あった事を全て忘れますように…)
「ワッ、ワルド隊長!?どうかしっかり!―――皆のもの!賊はワルド隊長にまで手をかけたぞ!なんとしても賊をひっ捕らえるのだ!!」
『おおー!!!!』
自分達の部隊長が倒されたというのに意気が落ちないトリステイン軍は、精神的な面では他国に劣らないだろう…。
そんな事を考えながらルイズ達はその後も襲い来る兵士達を蹴散らしながら、黒猫を追いかけ上へ上へと登っていった。
「思ったんだけど…上に上りきっちゃって、猫を捕まえた後、どうやって戻るつもり?
さすがに下に下りても素直に帰らせてもらえるとは思えないんだけど…」
「そんな事より猫を捕まえる手段を考える方が建設的だぞ。結局俺たちはいまだ猫を捕らえられていないんだからな。」
「その上魔法除去もドローできない…なんか便利そうなカード引けてないの?」
「残念な事に手札が良すぎる」
ちらりと眺めると、そこにはブルーアイズを含めて強力そうなドラゴンや、禍々しすぎる罠カードが手札に加わっていた。
「ところでルイズ、この城はどこまで上があるんだ。」
「たぶんそろそろ最上階。あの猫もそろそろ逃げ場が無いはずよ。ただ…」
「どうした?」
「ン〜…今更なんだけど、あの猫どこかで見たことがあるような…」
ルイズが黒猫の事を思い出そうと頭を捻っているうちに,二人は何度目かの階段を上りきった。
その時、途中で上げてしまった爆発による煙が霧散するのと被さるように、
通路の向こうの方から澄んだまっすぐな声が響いた。
「やはりここにきましたか!賊!私は…アンリエッタ・ド・トリステインはここにいます!」
そこにはこの城の姫、アンリエッタ・ド・トリステインが階段を上りきった先の大きな廊下に立っていた。
傍らにはアニエスを従え、そしてルイズ達の目標であるところの黒猫を胸に抱えていた。
385名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:02:27 ID:HWs0CXqI
まさかこんな時間に社長くるとは!
たとえ一人でも支援するぜぃ
386名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:04:24 ID:GIJI1uXi
「ひ、姫様…」
「ル、ルイズ?ルイズ・フランソワーズなの!?どうしてあなたが…。」
「それは…その…」
感動的な幼少時期からの友人の対面…ではあるはずなのだが、そう言う暖かい空気を作り出せる状況ではなかった。
アンリエッタはルイズと海馬を結ぶ鎖を見て、キッと海馬を睨みつけた。
「卑怯者!この城を土足で踏み荒らすだけでなく、私の大切な友を人質に取るとは…」
「姫様それは違っ…」
「ふん。別に俺は目的のものさえ手に入ればそれでいい。貴様が抱えているその猫の咥えた鍵…それを渡せばすぐにこんな鎖といてやる。」
「ちょっ…!?」
ルイズは海馬にしか聞こえない程度の小声でささやいた。
(ちょっと…どういうつもりよ?そんな言い方して!まるで悪人みたいじゃないの!)
(貴様とあの姫は知り合いなのだろう?鍵を手に入れて鎖をといたら、貴様から今日の事のあらましを伝えて何とか説得しろ。)
(正直、あれだけの事をしておいて許してもらえると思えないわよ…)
(ふん、姫という割には器量が狭い…)
(アンタがやりすぎなのよ!どこの世界に鎖の鍵を取り戻すためだけに城中荒らしまわる奴がいるのよ!)
「残念ですが…たとえなんであろうと、賊の要求に屈するような、トリステインではありません!」
「ほう…」
海馬は内心感心していた。
見た目にまだ幼さが残る姫であるために、情に任せて鍵を渡すかと思ったが、なるほど、幼くとも王亡き後の象徴として育てられた、
国を代表するだけの気概を持っているということか?
「では、どうする?友を見捨てるか?」
「あなたはワルド子爵を倒したほどの力を持つ。そして…『決闘者』ですね」
「「!?」」
この世界で決闘者…デュエルの事を知っている。
それが何を意味するか。
アンリエッタはアニエスに命じて部屋の中にあるものを取りに行かせた。
そして胸元から黒猫をアニエスに預け、「ソレ」を受け取ると、左腕に装着した。
「トリステイン王家には、始祖より伝えられたいくつかの物と伝承があります。
王家の一子相伝。始祖より託された力の一つが、コレです。」
デュエルディスク。
水を連想させるような涼しげな青色を基調としたソレは、まさにアンリエッタにふさわしいものだった。
「デュエリスト同士ならば、デュエルで決着をつけましょう!
私が勝てば、ルイズは解放してもらう!あなたが勝てば、あなたの望みをかなえましょう!」
カシャン!と、アンリエッタのデュエルディスクが展開される。
「お待ちください、姫様!デュエルで負けたら…ライフポイントが0になったら、姫様の命が…。
こんなことに命を賭けるなんて絶対にダメ!セト!だめよ、絶対に受けちゃダメ!
ちょっとそこのアンタ!あんたも姫様を止めなさい!」
必死に訴えるルイズにアニエスも気圧されたのか、アンリエッタに問う。
「姫様、あの娘の言う事は事実なのですか?」
「えぇ…確かに負ければ命は失う。そう言うものだと教えられてきました。」
その言葉にアニエスは青ざめる。
387名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:07:03 ID:GIJI1uXi
「おやめください!姫様の命を賭けなければならないようなことではありません。
私があの男を殺し、人質を取り返せば済むことです!」
「友一人救えなくて、何が姫ですか!私がこの国の象徴というのならば、私には国を守る義務がある。
この城も、ルイズも、私が守ってみせる!アニエス…ルイズ…私の戦いを見届けなさい。」
「「姫様!」」
アニエスとルイズ、二人の声が重なる。
それを見届けた海馬も、アンリエッタのほうへ一歩前へと進んだ。
「貴様がそれほどの意志を固めているのならば、もはや言葉は不要だ!」
そういって海馬もまたデュエルディスクを構えた。
相対する二人のデュエリスト。
不意に、アンリエッタが右手を天に掲げ、パチンと指を鳴らした。
ゴゴゴゴゴゴ、という音と振動の後、廊下の天井が開き、床がせり上がっていく。
「なっ…何事だっ!?」
そのまま天井を突き抜け、屋上へと登った。
トリステイン城の天守が開き、空と一体となる。
これはまるで、海馬コーポレーション屋上のデュエル場のようだった。
「わが父、先代トリステイン王が、この城を改築する際に作り上げた天上決闘場…これが私達の決戦の場です!」
「良いだろう…」

『 決 闘 (デュエル)!! 』 

「私の先攻!ドロー!私はグリズリーマザーを攻撃表示で召喚!
カードを1枚伏せて、ターンを終了します。」
大きな熊のモンスターと、カードが1枚フィールドに現れる。
グリズリーマザーは両腕を交差させ、今にも襲い掛かろうという力強い構えだ。
(実戦は初めてだけれど、決して引くわけにはいかない!…相手を決して見くびらずに、自分の力を奢らずに…勝つ!)
「俺のター…ルイズ、何をしている。離せ。」
ドローしようとした右腕が、なぜか動かない。
みれば右腕の鎖を力いっぱい引っ張っているルイズがいた。
「…させない。デュエルなんかさせない!」
「ルイズ…?」
「デュエルなんかしたら、姫様がお怪我を…命だって落としかねない。
私達がマジックアイテムに引っかかったせいで、姫様にそんな事をさせてしまうなんて絶対にダメよ!
セト、私達メイジは国のため、ひいては姫様のために力を振るう者。
それが姫様の前に立ち闘うなんて、あってはならないことよ。」
388名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:07:08 ID:HWs0CXqI
支援
389名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:09:16 ID:GIJI1uXi
「ルイズ……」
「姫様…紹介が遅れました。彼は私がサモン・サーヴァントで呼び出した、海馬瀬人。
ご存知の通り、デュエリストであり、相当の腕を持つものです。
ですが、少し思慮に欠け、大切なお城と兵を傷つけてしまいました。この責任は私にもあります。城内を荒らしまわった罰は、どんなものでも受けます。ですからどうか、この場をお収めください。」
ルイズは深深と、頭を下げた。
「アニエス…二人に鍵を渡して。」
ハッと顔を上げるルイズに、アニエスから鍵が渡される。
鍵を鎖に触れさせると、パキンッという音がして鎖はバラバラになった。
「姫様…」
「事情はわかりました。そして、あなたの気持ちも。
ですが、城内を荒らしまわった賊を、そのまま放置するわけにはいきません。
それに…一度はじめたデュエルを、決着をつけずに終わらせる事などできません。
逆巻く水よ、命の壁を作りて場を包み込め!」
アンリエッタが呪文を唱えると、どこからか水が回りを包み込み、あたりを半球上に覆った。
「ライフフィールドという魔法です。父が私にデュエルを教えるときは、この魔法を使っていました。
デュエルによるデュエリストへのダメージを、この結界が受け流すものです。」
「姫様?」
ルイズは状況がうまく理解できなかったが,アンリエッタの意図を察した海馬はデッキに手をかけ,デュエルを再開した。
「俺のターン!ドロー!…俺は手札から、Xヘッドキャノンを召喚!グリズリーマザーに攻撃!」
「ちょッ…セト!?」
海馬の手札から呼び出された、2つの砲をもつ機械兵器が、グリズリーマザーを攻撃する。
その攻撃はグリズリーマザーを破壊し、当然その余波がアンリエッタへと降りかかる。
だがその直前に、周りの水が集まり壁を作り余波からアンリエッタを守った。
「グリズリーマザーのモンスター効果!デッキより、攻撃力1500以下の水属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚することができる。
私はフィールドに、スター・ボーイを特殊召喚します。」
眩い光とともに、星型で不気味な顔をした人手のモンスターが召喚される。
「ほう…水デッキか、なかなか面白い。カードを1枚セットしターンエンドだ。」
「早いですわね。数枚でこちらのデッキを見破るとは…。
一筋縄ではいかない相手ということですね。私のターン!ドロー!」
「…なんでなのよ。」
ルイズにはアンリエッタと海馬が,なおもデュエルを続行する意味がわからなかった。
いくら魔法によって命の危険がなくなったからといって、もう戦う意味などないはずなのに。
そう思っていると、ルイズは不意に腕を引っ張られ、ライフフィールドの外へと出された。
もちろん水でできたフィールドを抜けたためにずぶぬれである。
390名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:11:38 ID:GIJI1uXi
「ぷはっ!ちょ…一体何…」
「失礼。ですが,あの中に我々がいても邪魔になるだけでしたので。」
ルイズを引っ張ったのは、同じように髪をぬらしていたアニエスだった。
「邪魔ってどういうことよ!」
怒気を強くして返すルイズとは目を合わせず、アンリエッタと海馬のデュエルのほうを見ながらアニエスは答えた。
「我々のように剣を使う者は、訓練であっても決闘のように全力で戦ったりもします。
それは知らぬ者が見れば、殺し合いのように見えることもありましょう。」
「それがなんだっていうのよ。」
「私の目には、姫様は楽しんでおられるように見える。
姫様が、殺し合いをしながら笑顔を浮かべられるようなお方ではないことは、あなたもご存知でしょう。」
「……」
ルイズは黙って二人のほうへと視線を戻した。
先ほどアンリエッタの場に呼び出されたモンスター、スター・ボーイがもう一体場に召喚されている。
そして、アンリエッタがカードを発動させると、城の屋上は一変して草原へと変わった。
「フィールド魔法、湿地草原を発動します。
これにより、レベル2以下の水属性水族モンスターは、攻撃力が1200ポイント上昇し、
更に2体のスター・ボーイは、お互いの効果により攻撃力が上昇します。」
「ふん。フィールド魔法とモンスターとの3連コンボで低レベルモンスターを最上級モンスタークラスにまで強化してきたか。
国でただ伝えるだけでなく、貴様自身も相当研究を重ねているようだな。」
「当然です。私のデュエルの力が、このトリステインの最後の力。
ですがそれだけでなく、私にとってデュエルは父と…後もう一人、その二人と全力で向かい合える大切なもの。だからこそ、私は強くなる事ができた。」
国王である父親は政務で忙しい人であったが、アンリエッタとのデュエルの稽古は、欠かさず行っていた。
厳しいながらも、その中に親の愛情を感じられたその時間は、アンリエッタにとって大切な時間だった。
「バトルです!スター・ボーイで、Xヘッドキャノンを攻撃!スターダスト・インパルス!」
スター・ボーイの触手が鞭のようにしなり、Xヘッドキャノンへと襲い掛かる。
Xヘッドキャノンは、攻撃力2750まで上昇したスター・ボーイの攻撃の前にもろくも崩れ去った。
「もう一体のスター・ボーイ、ダイレクトアタックです!」
同じ様に触手をしならせて襲いくるスター・ボーイ。
ライフフィールドが守りはしたが、この2回の攻撃で海馬のライフは残り300となった。
「セトのライフが!?」
「なるほど…モンスターを召喚し魔法を用いて闘いあう。これがデュエルというものか。
メイジ同士の魔術戦に似ているな。」
391名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:13:51 ID:HWs0CXqI
シエンダァ!!!
392名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:13:52 ID:GIJI1uXi
対象は左右の2枚!貫けっ!アイスニードル!」
「私はカードをもう1枚セットし、ターンを終了します。」
もう一枚場にカードが伏せられる。
(そう簡単に、これだけ攻撃力の上がったスター・ボーイは倒せないはず。
しかし念には念を…)
「俺のターン!ドロー!」
引いたカードは、『サイクロン』
(このカードを使い湿地草原を破壊できれば、スター・ボーイの攻撃力は1550まで低下する。
それならば手札のモンスターでも破壊する事は可能…だが奴の2枚の伏せカード。
うかつに攻撃はできん…だがっ!)
「おれは手札より!サイクロンを発動する!」
「くっ!やはり引いて来ましたか!」
フィールドが破壊され、元の屋上へと戻る。と、同時にスター・ボーイの攻撃力が下がる。
「手札より、カイザー・シーホースを召喚!伏せカードごときで、俺の進攻を止める事はできん!バトルだ!」
カイザー・シーホースの槍が、スター・ボーイめがけて突き進む。
が、その時アンリエッタの伏せカードが展開された。
「罠カード、『血の代償』を発動!500ポイントライフを支払い、手札から『氷結界の風水師』を召還し、更にもう一枚の罠カード『緊急同調』を発動!
レベル3『氷結界の風水師』でレベル2の『スター・ボーイ』2体をチューニング!」
「なにっ!?このタイミングでシンクロ召喚だとっ!?」
「流れる流水が凍てつき凍り、全てを貫く槍と化す!シンクロ召喚、氷結界の龍グングニール!」
小さいヒトデモンスターが、巨大な龍の姿へと変わり、アンリエッタのフィールドに降り立った。
そしてそのまま、カイザー・シーホースを迎え撃とうとする。
「グングニールの攻撃力は2500!これで決まりです!」
「くっ!亜空間物質転送装置を発動!エンドフェイズまで、カイザー・シーホースをゲームから除外する!」
ひゅんっとその場からカイザー・シーホースが姿を消した。
あのまま自爆特攻していれば、そのまま海馬のライフは0になり、敗北が決定していた。
「くっ、奇を衒ったつもりったのに…。フィールドから除外して回避するとは、流石です。」
「いやいや、貴様こそ清楚な顔をしてえげつない策を使う。低レベルモンスターを強化するデッキと見せかけつつ、最上級のモンスターを即座に展開する。
なかなかのタクティクスだ。」
(…グングニールの攻撃力は2500。カイザー・シーホースが戻ってきても、このままでは倒される。そして、この手札…)
「オレはカードを3枚セットし、ターンエンド。」
「…ッ。セトの手札が0になって、ライフも残り300」
「あのカードを媒介にプレイするという事は、カードの枚数の差が戦況の有利不利に大きく関わってくるという事か。
姫様の場にはあの巨大なドラゴン、片や奴の場には亜人の槍使い。」
「しかも次は姫様のターン。この攻撃を凌げなければ、セトのライフが0になって敗北が決まる。」
「私のターン、ドロー。」
(グングニールのモンスター効果で、伏せカードを2枚は破壊できる。これで攻撃が通れば、私の勝ちが決まるッ)
氷結界の龍グングニールのモンスター効果は、手札を2枚まで捨て、その捨てた枚数分のカードを選択し破壊するという強力な効果。
アンリエッタは残りの手札2枚を全て捨て、効果を発動させる。
「グングニールのモンスター効果で、伏せカードを2枚破壊します!
393名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:15:16 ID:mrEnPud/
アンリエッタが……アツいッ!!!
394名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:16:12 ID:GIJI1uXi
>>392一番上の1行が一番下に入る分です…なぜこんな事にorz

グングニールの口から吐き出された氷の針が、伏せカードを破壊していく。
だが、それに対応して海馬が伏せていたカードを発動する。
「速攻魔法発動!貴様が選択した右のカードは、非常食。
このカード以外の魔法・罠カードを好きなだけ墓地に送り、1枚につき1000のLPを回復する。
俺が墓地に送るのは、貴様が破壊対象に選んだ左のカード『聖なるバリア・ミラーフォース』だ。」
海馬のライフが1000回復する。
だが、それはアンリエッタにとって些細な問題であった。
(ミラーフォースは強力な罠カード。ライフは回復されたとはいえ、これでその危険はなくなった。これで決められる!)
「攻撃です!グングニールで、カイザー・シーホースを攻撃!フリージング・トライデント!」
100発100中の神槍の名を持つ龍の生み出した凍てつく氷の槍が、カイザー・シーホースごと海馬を貫く。
「せっかく回復したライフが、また500まで下がった。」
「対する姫様のライフが…3100。お互い手札が0とはいえ、奴の場にはグングニールの攻撃を防ぐ事ができなかった伏せカードだけ。
対して姫様の場にはグングニール。奴に勝ちの目はなくなったか。」
客観的に見ていた二人がそう口走る。
コルベールと海馬のデュエルディスクを用いないデュエルを見て来たルイズにも、この場ではじめてデュエルを見たアニエスにも、
海馬の圧倒的不利は見て判った。
だがそれでも、海馬の『敗北』を信じていないものが2人いた。
海馬自身とルイズ。
この圧倒的不利に見える状況でも、『勝利』を信じていた。
「姫様には失礼かもしれないけれど…まだセトは負けていない。」
「だが、それも時間の問題だ。」
「じゃあ、言い直すわ。『セトは負けない』
根拠はないし、そんなに長い間一緒にいたわけでもないけれど、なぜか信じられる。
絶対にセトはまけないわ。」
ルイズ自身、こう思える理由が良く判らなかった。
一緒に死線をくぐったわけでも、まして愛し合った恋人でもないけれど、なぜだろう。
セトの…海馬瀬人の姿を見ているだけで、どんな不利な状況でさえ逆転する。
そんな気がしてくるのだった。
(歯の浮くような事を言う詩人ならば、この少女に『それが恋だ』とでもいうのだろうか。)
アニエスは心の中で苦笑した。
「俺のターン!ドロー!俺は命削りの宝札を発動!手札を5枚になるようにドローし、5ターン後全ての手札を墓地に送る。」
「この土壇場で、手札増強カードを引くなんて!なんという運の強さ…。
ですが、そう簡単にこのグングニールを倒せるモンスターは…」
395名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:16:14 ID:FCca5ybK
まだ出回ってない最新のシンクロモンスターだと!?支援
396名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:19:18 ID:GIJI1uXi
「貴様が上級のデュエリストである事はわかった。だからこそ、俺の全力を見せてやろう。
1枚カードを伏せ、マジックカード手札抹殺を発動する!
互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分のカードを手札に加える。俺は3枚」
「私に手札はありません。」
「俺は魔法カード、魂の解放を発動!自分と相手の墓地よりカードを5枚になるまでゲームから除外する!
俺は墓地のXヘッドキャノン、カイザー・シーホース、そして『3体のブルーアイズホワイトドラゴン』をゲームから除外する!」
「「「なっ!?」」」
墓地にあるはずのモンスターは、戦闘で破壊されたXヘッドキャノンとカイザー・シーホースだけのはず。
にもかかわらず、その他に3枚のブルーアイズが墓地にあるという事は、さっきの5枚引いたカードのうち3枚がブルーアイズホワイトドラゴンだったということ。
しかもルイズからすれば、あの強力なブルーアイズが3体もデッキに入っていたという2重の驚きであった。
「さらに手札から永続魔法、魔力倹約術を発動!これにより、魔法カード発動に必要なLPを払わずに発動する事ができる。
続いて手札から次元融合を発動!」
空に歪みが生じる。そしてそのゆがみの中から、何かが現れようとしていた。
「次元融合は、ライフを2000払うことでゲームから除外されているモンスターを、可能な限り特殊召喚する。
だが、魔力倹約術によってライフを支払わずに発動できる。
現れよ!Xヘッドキャノン!カイザー・シーホース!そして、我が最強の僕!ブルーアイズ!ホワイトドラゴン!!!」
デュエルモンスターズ最強のドラゴンにして海馬デッキ最強のモンスター、ブルーアイズホワイトドラゴンが3体、場に出揃った。
「伝説の白き龍…始祖が残した伝承にあった最強の龍…」
「アンリエッタ王女。貴様の強さは本物だ。だが、俺のほうがその一歩先へと行っていた。
ブルーアイズの攻撃!滅びのバーストストリーム!」
ブルーアイズの輝くブレスが、グングニールを消滅させる。
そして、2体目のブルーアイズの攻撃が、このデュエルの決着をつけた。



「ふふっ…。久しぶりのデュエルでしたけれど、本当にいい勝負でした。」
デュエルから数時間、日も暮れかかった頃。
城の変形が元通りになり、4人はアンリエッタの私室に戻っていた。
城の中ではいまだ海馬たちを追いまわしている兵士達の怒号が聞こえてくる。
「いい勝負…はいいのですが姫様。この騒ぎ,どうしましょう…」
アニエスが入れた紅茶を受け取りながらも、騒ぎのためにすすまないルイズ。
一方で気にせず飲んでいる海馬はやはり大物というべきか、どこか違うというべきか。
「とりあえず、今日のところは窓からドラゴンに乗ってお逃げなさい。
今日のことは誤解が重なった結果と言うことで、私が穏便に収めるように言っておきます。」
「しかし、そう言うわけには…」
「今日はとってもいい日になったわ、ルイズ。幼い頃の友人であるあなたにも会えて、こんなに強いデュエリストともデュエルができて。
またいつでも来て頂戴、ルイズ、セトさん。」
「ひっ姫様、こんな奴にさん付けなんかで!」
「帰るぞルイズ。」
「アンタも人の話を…ちょっ!待ちなさい!」
結局、城の中を荒らすだけ荒らした海馬たちは、そのままブルーアイズに乗って学院へと戻っていった。
それを窓から眺めながら、アニエスはため息混じりに呟いた。
「嵐のような1日でしたね…姫様。」
「私にとっては、快晴のような気分になれる素晴らしい日だったわ。」
(それはあなたも台風の目と一緒になってたからでしょうに…)
アニエスは思ってはいても口に出さずに、遠くに消えていく純白のドラゴンを眺めていた。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:22:45 ID:feZvSXLh
支援
398名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:24:20 ID:GIJI1uXi
うおー、さるさんに引っかからずに投下できた!
量が多すぎるからダメかなぁとか思いながらびくびくしつつ投下してたです。
たぶんアンアンのデッキを考えるのに一番時間をかけてたと思う。
水デッキは決まってたけどカエルはモンモンだしあんまり氷氷しすぎるとタバサじゃね感が
いっぱいだったので…折衷的な感じになりました。
考え途中でグングニールの情報が来て、これだぁ!とw
第20話楽しんでいただけたなら幸いです。
支援ありがとうございました。
週刊でかけるといいなぁ…
399名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:26:44 ID:VRfz20Rp
これは・・・何故かワルドも普通にデュエルディスク持ってそうな予感
400名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 03:31:31 ID:HWs0CXqI
社長の人乙です。
こんな強いアンリエッタみたことねぇ!
つかスターボーイとか懐かしすぎる。
と思ったら未発売カードまでアンリエッタどんだけだぜ!?
あと血税をつかって決闘場作るとか国王自重しろwww
続き待ってるぜぃー
401名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 04:07:51 ID:vKY5BdfH
海馬の人GJ
なんという最強アン様w
wktkが止まらない。
402名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 07:51:43 ID:5ofyx0lX
GJ
403名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 08:42:10 ID:dwC6i+Iv
つ ま ん ね え
404名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 08:45:14 ID:3fWqETMf
ね ん ま つ ?
405名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 08:57:48 ID:bZkWu0bv
同情するいわれは無い。
しかし今回に限りワルドに同情させてもらいます。……あわれ。
406名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 10:00:14 ID:evhSZ8OS
乙でした!
しかし、決闘場には吹いた。
長くねぇな、トリステインも。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 10:08:36 ID:feZvSXLh
>>400
血税使って作った攻撃衛星を、デュエルで勝った相手にあっさり与える王子に比べればたいしたことない。
408名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 10:11:16 ID:dolWr3NK
ワルドwww
409名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 10:19:19 ID:feZvSXLh
あと、5D'sの時代には普通に国立決闘場とかありそう。
予約なければ2分後に投下しますねぃ。
44.フォンティーヌの休日

二人が落ち着いてしばらくしてから、姉妹は少し遅めの昼食を取った。
エレオノールがやって来たのは一時間程前で、
まだご飯を食べていなかった。そしてカトレアはずっとルイズを見ていたからだ。

「で、よろしいのですか?私の様な者も一緒で」

実家にあるテーブルと違い、円卓状になったそれの傍に立つグレイ・フォックスが、
主人であるカトレアに聞いた。

円卓のテーブルの意味はそこに座る者は皆同じであり、
貴賤の差無しという事である。
カトレアはこのテーブルで使用人と共に食事を取っている。

「構いませんわ。妹を運んでいただきましたしね」

ペコリと頭を下げて、グレイ・フォックスは貴族らしい、
ちゃんとした作法で座り、昼食を取ることにした。

「しかし、まさかハーフエルフとはね。アルビオンにそんなのがいたなんて」

エレオノールはルイズから詳しい話を聞いている。
彼女のぎこちないながらも優しい笑顔なんて見たことが無いルイズは、
多少緊張した面持ちで話している。
まるで年の若い母親が娘に学校で今日何があったのかを聞いているようで、
とても微笑ましいものだった。

「で、でねエレオノール姉さま…」

自分の隣に座り少し顔を赤らめて説明するルイズは、
ほんの数ヶ月前までは考えられない程に、
良い目になっているとエレオノールは気付いた。
叱りつけた事しかなかったな――とエレオノールは思う。
可愛い妹だというのに。ふと無意識の内にルイズの頭に手が伸びる。

「ね、ねえさま…?」

優しく撫でられるルイズは、今何が起こっているのか信じられない目で、
エレオノールを見ている。明日は矢が降るわ。
いいえ、大砲かしら?そんな不届きな事を考えてしまう。

「いい、い、いままで悪かったわね。ここ、これからは、
 多少は優しくしてあげるから。か、感謝しなさい!」

ひ、とルイズは怒っているかの様な剣幕で、
まくし立てるエレオノールから身を逸らそうとしたが、
内容を頭の中で理解してから顔を真っ赤にした。

「は、はい!」

そんな、一風変わった昼食の風景をフォックスは見ている。

「エレオノール姉さまは、あの子をほめた事が無いのよ。
 さっきは上手くいってたんだけど。やっぱり素直になれないのね」

カトレアは笑顔でフォックスの疑問に答えた。
何も言っていない灰色狐は、は?と言いたげな表情でカトレアを見る。
「勘が良いのよ。シェオゴラス様譲りでね」

な、と叫びそうになったが、シェオゴラスに頭をやられたとしたら、
この城の事も理解できる。と自身を納得させた。

シェオゴラス信者はヤバイと聞いた事はあるが、
誰かを殺傷したという話は聞いたことがない。
大丈夫か。信者の数はタムリエルでも上位だし。
とフォックスはコロコロ笑っているカトレアに、
にこやかで生暖かい笑みを返した。

「あら?苦い慈悲をいただいただけよ。ラルカスもね」

楽な死を選ばずに、苦しくても生きる。
それが生きる者の義務だ。だが、真っ当に生きていけない者達はどうする?
それでも死んではならない。だから、狂ってでも生きるべきだ。
俗世を捨て、正気で生きていけぬ者を狂わせるのは慈悲だ。苦い慈悲だとも。

なんて事をシェオゴラスが言ったかどうかは知らないが、
彼は狂わせてでも生かすべきという考えで行動している節がある。
もっとも、彼にとって狂っているのはタムリエルの自称マトモな連中であり、
自分こそが正気なのだとも考えている。何が正しくて何が間違っているのか、
その判断は常に難しく、簡単に出来る事ではない。

「苦い慈悲?あまり意味が分かりませんが…」
「生かす為に、本来してはならない事をすることですわ」

はぁ。とフォックスは気のない返事をして食事を食べる。
シェオゴラスにせよその信奉者にせよ、
その心の内が常人に理解出来るはずがない。
適当に返事するか。と彼は美味しいご飯を食べることにした。


昼食が終わり、しばらく経った。
ヴァリエールの美麗三姉妹は城の外にいる。
カトレアは動物たちと遊んでいる。
ルイズとエレオノールはそれを近くの木陰で座りながら眺めて喜んでいた。

「ちいねえさま…ほんとに元気になったんだ」

エレオノールはふう。と息を吐いた。
喜んでいるには違いないが、何処か影の差す大人の笑みを浮かべていた。

「体の方は――アカデミーの技術力を結集させて薬を作ったから、
 病気が治ったら色々凄い事になるのよね」

「え?」

エレオノールは気まずそうに頭をかいた。

「あの子には相当負担を掛けたから…えーと、シェオゴラスだっけ?
 何かどっかの小国の王子様に諭されて、その後随分性格変わったけど。
 で、薬よ。病気の進行遅らせる為に体を無理矢理元気にさせたの」

「えと、ちいねえさまのお体って、それで無理矢理大きくなられたのですよね?」

「そ。で、まぁ…水の秘薬主体の薬なんだけど。
 あー…出所は聞かないでね?水の精霊の機嫌が悪い原因の一つだから。
 それで病気ってね、体が弱ければ弱いほど尚更悪くなるのよ。
 体の芯がどうしても治せないから、仕方なくそれ以外を強化してたってわけ」
そう言えば昨日ちいねえさまがそんな事を言っていたような。
とルイズが思い出していると、エレオノールが低い声で言った。

「だから、あの子の力は結構凄いのよ?
 熊とか普通に持ち上げてたし。
 その分相当体に無理をさせたのだけれどね。
 ルイズ。あなたカトレアが白い髪だったの覚えてる?」

コクリと頷いた。

「本当はあなたと同じ髪色なのだけれどね。
 薬の影響で体に相当な痛みが走っていたの。
 それが原因で髪が白くなって…それ以外にも色々あってね。悪い事をしたわ」

「あねさま…」

しんみりとした空気が二人にまとわりつこうとした時、
ごうと一陣の風が二人を包んで、空気ごと吹っ飛ばした。
上空100メイル近くまで吹き飛ばされるが、
レビテーションの魔法でゆっくりと地面に落とされる。
軽く当ててそんな空気はダメと言いたかったのだろうが、
加減が出来ないのは母親譲りだろうか。

「あら、ごめんなさい。弱くしたつもりだったけれど…」

やっちゃった。とカトレアは笑う。ルイズはエレオノールをじっと見た。
女史はあさっての方向を向いている。

「ねぇあねさま。これも薬の…?」

コホン、とエレオノールは咳をした。

「魔法についてはまた少し話が変わってくるの。
 あー…今から話すことは誰かに言ったりしたらダメだからね?」

ルイズが興味深げに頷いたのを確認してから、
エレオノールは語り出す。

「わたし達が知っている魔法の系統は全部で五つ。
 なのに、四つまでしか使えないのって、変だって思った事無い?」

「あるけど…残り一つは伝説だもの」

「そう。そこが問題なのよ。それのせいで皆本題からずれるのよ!」

ビシっと指を立ててエレオノールはまくし立てる。
ルイズは、ずれるの意味が分からなかった。

「虚無は伝説の系統。あるかどうかすら分からない。故に他のメイジは使えない……。
 だからメイジは四系統の魔法を使うわ。そこまでは何の問題も無いの。けど、
どうして最高でもスクウェアクラスまでにしかなれないのかしら?」

エレオノールの自信たっぷりな笑みを少々引きながらルイズは見ている。
「本当はそれ以降もあるし、ちゃんといるのよ。それ以降のスペルを一人で使える人が。
 ただ、その『伝説』を利用してスクウェアまでって事にしてるだけなの。
 皆が使えるのは四系統までだから、四つまでしか系統を足せない。そういうことにしてるのよ。
 カトレアも『スクウェアの先』へ到達した一人よ。けれどどうやったら到達出来るかは、
 まだよく分かっていないの。そもそもクラスの変化がどの様にして起こるか、
 そこまで解明されていないからね。精神の状態というか、気分というか。
 そういう不確かな何かが大きく関係するみたいなのだけれど」

そういうのは理論で割り切れる物ではないからね。とエレオノールは説明を終えた。
ルイズは口も目もあらん限りに見開いて驚く。ふふん。とエレオノールは笑っている。

「そ、その「それ以降」ってもしかして…」

あり得る。というより母はスクウェアではない。そうでなければおかしい。
とルイズは何度も思ったことがあった。
そんな桃色の髪の妹はエレオノールの言葉に恐れを抱きながら、
一つの質問をした。

「ででで、では、母さまは」

「あれは仮に言うならオクタゴンクラスね…。
アカデミーの研究で何人か風のスクウェアに出会ったけれど、
 成体の火竜をドットスペルで気絶させる様な人はいなかったわ。
 まぁ、始祖の定めた法に外れるってことになっているから、今のは人前で言っちゃダメよ。
 異端呼ばわりされて、敬虔なブリミル教徒に何されるか分かったものじゃないわ。
アカデミーとか、そういった魔法研究の場じゃ一般的な事だけどね。
ところで、あなたどの系統に目覚めたの?」

カトレアは教えてくれなかったのよ。
と凄くぎこちない笑顔でエレオノールは言った。
同じくぎこちない笑顔でルイズは考える。
本当の事を言うべきかどうか。言うべきかしら。

「その…ええと…『虚無』なの。エレオノール姉さま」
「…ねぇおちび。冗談はほどほどにしときなさいよ?」

ルイズは錬金の魔法で辺り一帯を黄金色に変え、それから母親譲りのカッタートルネードを放った。
エレオノールは眉一つ動かさず、その様を眺めて――

「あねさま?」

ルイズが声を掛けるが返事が無い。とんとんと肩を叩くとそのまま崩れ落ちた。
気絶したらしい。まぁ、それもそうよね。と思いながら、ルイズはエレオノールに寄り添った。
風が草原を吹き抜ける。先ほどの疲れが現れたルイズは、
そのままエレオノールの隣で眠りに落ちた。カトレアは動物たちと一緒にその隣に座る。
そしてルイズを優しげな瞳で見た。

「良い日だわ。始まりの門出に相応しい爽やかな、ね。
 ルイズ、選ばれたのはあなたよ。何が起こるかまでは、
 本には書かれていなかったわ。あれは予言書じゃないし。けれど――」

ごう、と強い風が吹く。木がざわめき動物たちがめいめいに驚いて鳴いた。

「あなたがこれからを支えるの。それだけは間違いないわ。ね、『パラヴァニア』?」

鳶色の目を猫の様に細め、カトレアはコロコロと笑った。
そんなこんなで夕方が過ぎ、夜となる。
いい加減帰らないとマズイだろうとのことで、
ルイズは来たときの様に、風竜に乗って学院に戻る事になった。

「またね、ルイズ。今度はそのマーティンさんも連れてきてね」

カトレアは笑って手を振っている。ルイズも笑って手を振る。
先ほど気が付いたエレオノールはとても美しい笑顔で、ルイズに近寄っていく。
ルイズは立ちすくみ、顔を引くつかせて苦手な姉を見る。

姉の顔は見たことの無い程綺麗な笑顔だった。
ただ、それは妹に向けるものではなく、
何か自身の研究を躍進させる物を見つけたような、
最良の実験台的な、なにかを見つけたような。
そんな笑顔のまま、エレオノールはルイズを見つめている。

「夏期休暇中は絶対アカデミーに来なさい」
「ごめんなさいあねさまいやですその手はやめていひゃい!ふぉめんなひゃい!!」

地獄の悪魔っぷりを、エレオノールは纏い始めた。
誰に習ったわけでもない。おそらくそれは、エレオノールのどこかに眠っていたのだ。
今までは、レベルが低くて表に出なかっただけなのだ。
かつては無意識の内にこぼれるだけだった己の悪魔を、
エレオノールはルイズの反応を見ながら操り始めた。
サディストな笑みを浮かべ、まず右の頬を強くつねった。
それだけで、ルイズは音を上げそうになった。

それだけでは飽きたらず、頬をつねたまま手を左右上下に動かし、
それから左の頬をつねった。両の頬が引っ張られてルイズの顔の皮膚が伸びきり、
ルイズの美しい顔を描くラインが台無しになった。同時に軽蔑を多分に含んだ流し目を送る。
そうなるとルイズはもう、涙を流して許しを請うだけで精一杯になってしまった。
オブリビオンの精鋭デイドラですら震え上がるような、しかしとても静かな声で、
エレオノールはルイズに言い放った。

「もう一度聞くわ。来るわよね?」
「ひゃれ…わひゃりまひた!!いきまひゅ!いきまひゅかや!」

怖い。この姉ちゃんすんごく怖い。ブラヴィルのスクリーヴァくらい怖い。
と、シロディールの姐さんカジートを思い出しながら、風竜の上でフォックスは震えた。

「そう、良い子ね。あなたの使い魔も連れてくるように…良いわね?」

絶対零度よりなお冷たい声で、エレオノールは優しく言った。
ごめんなさいルイズ。やっぱり優しくなんて出来そうにないわ。
と、つねりあげる事でどこか心が高揚していく自分を感じながら、
ルイズの悲鳴を聞く。その顔は満ち足りていた。

投下終了。エレ姉さんはなんだかんだで人をいじめるのが好きな人だと思うんだ。ではまた次の投下まで。
416名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 12:24:10 ID:YnVf4zSR
エルダーの人、乙。

近所の書店で16巻を売ってたので購入して今読み終わったところだが……。
なるほど、これはラスボスの人が「ぎゃあ」とか「むしろやりやすくなった」とか言うわけだ。
417名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 12:58:41 ID:RYdHaqMd
おーつーでーすーよー

…なんとなく前回のシェオゴラスのアレさが思い出されるぜw
418名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 14:33:18 ID:jXIfrCwj
>416
エルダーの人、の一言で何故かおボクさまを思い出した。疲れているのかなあ。
419ウルトラ5番目の使い魔:2009/02/22(日) 15:40:15 ID:e34OHQ0M
こんにちは皆さん、では36話の投下開始しようと思います。
問題なければ15:50からでいかせていただきます。
今回は魔法学院に戻って、青野声のあの宇宙人が登場しますよ。
 
それから、遅まきながらラスボスの人、そして社長の人乙でした。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 15:43:47 ID:+K5rwI2V
ウルトラ支援!
421名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 15:44:22 ID:YnVf4zSR
ほう、青野声と言えば……怪獣コンピューターですね支援
422ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (1/15):2009/02/22(日) 15:53:40 ID:e34OHQ0M
 第36話
 シルフィを返して!! (前編) 二大怪盗宇宙人参上
 
 宇宙超人 スチール星人
 怪宇宙人 ヒマラ 登場!
 
 
 それは、ある夏の日、例えばギーシュあたりが。
「もーいーくつ寝ると、なーつやーすみー♪」
 とか下手な歌をのたまわってる、いつもと変わらないそんな蒸し暑い日の夕方から始まった。
「美しい……」
 この日、誰にも知られずにトリステインにやってきた宇宙人ヒマラは、トリステイン魔法学院の尖塔の上から、夕焼けに
照らされる魔法学院をしみじみと眺めていた。
 そして、その隣では同じく黒マントの怪人が学院の庭を這いまわったり、宙を飛んだりしている幻獣たちを見て。
「珍しい生き物たちだ……」
 と、つぶやいていた。
 そして、二人の怪人はやがて顔を見合わせると。
「ふっふっふふふ、では計画にとりかかろうか」
「むふふふふふ……首尾よくな」
 果たしてその"計画"とは何なのか。それは、まだ誰も知らない。
 
 
 それから、特に騒ぎも起きないまま、一週間ほどの時が流れて、またトリステインに朝が来た。
 小鳥がさえずり、パンの焼ける匂いが香ばしくただよう平和な朝。けれど、そんな平和は長くは続かなかった。
 
「死ねーっ!! このバカ犬ーっ!!」
 早朝の学院に、朝の静寂をぶっ壊す怒鳴り声と、それに遅れて轟いてきた爆発音が、屋根の上の雀たちを
追い散らして、魔法学院に朝が訪れた。
「おお、今日はまた一段とすごいなあ。この威力だと、寝ぼけてルイズのベッドにサイトが潜り込んでたってとこかな?」
 爆発の音量から推理して、ギーシュがのんきな声で言いながら男子寮から出てきた。
「おはよう、ギーシュ」
「今朝はこれまでも五指に入るほど大きな音だったな。おかげでばっちり目が覚めたよ」
 ギーシュに続いて、女子寮からかなり離れているはずの男子寮から、今の爆発音で叩き起こされた生徒達が
続々と着替えて登校を始めていた。
 この、週最低一回程度は必ずある大音響は、春以来魔法学院の名物になってきていて、いい目覚ましとして
学生達にはもはや慣れたものとなっている。最初の頃はうるさいと苦情が来て、ルイズにもコルベールから
注意があったこともあったのだが、キレたルイズがそんなこと覚えているわけもなく、またこれがあった日には
例外なく学院の全員が目を覚ますので、遅刻がゼロになるという副産物もあり、今となっては奨励する空気も
あるくらいである。
423名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 15:54:58 ID:YnVf4zSR
>シルフィを返して!!
サブタイで盛大に吹いたwww支援
424ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (2/15):2009/02/22(日) 15:55:21 ID:e34OHQ0M
 そんな中で、ギーシュは登校しようとせずに、寮の周りをキョロキョロとしている太っちょの生徒を見つけて
声をかけた。
「おーいマリコルヌどうした? 探し物かい」
 そういえば、フリッグの舞踏会の時から彼と話をするのも久しぶりだなと思いながらギーシュは彼に歩み寄っていった。
あのとき、ガラキングとバンゴに追いかけられて、必死に逃げていた姿は忘れられない。
「あっ、ギーシュか……なあ、ぼくのクヴァーシル見なかったかい?」
 ギーシュは記憶の井戸の底から、しばらく聞いていなかったその名前を引っ張り上げた。
「クヴァーシル? ああ君の使い魔の……確かミミズクだったっけ」
「フクロウだよお。昨日から、何度呼んでも来ないんだ、今日は使い魔を使った実習があるっていうのに」
 丸っこい顔を、人から見たらあまり危機感を感じさせないふうにこわばらせてマリコルヌは言うが、やはり
その顔のせいでギーシュはあまり真剣になれずに答えた。
「鳥の使い魔はどこに飛んでいくか分からなくなることがあるからねえ。エサをやり忘れて遠くに行っちゃったんじゃ
ないのかね?」
「そんなあ……まあ、確かに最近世話をサボってたかもしれないけど……そんなひどいことはしてないはずだよ」
 とは言うものの、学院の生徒で使い魔の世話を真面目にやっている者は少数派に入る。タバサのシルフィードや
キュルケのフレイム、ギーシュのヴェルダンデはかなり恵まれているほうなのだ。なお、当然のことだがもっとも
扱いのひどい使い魔は才人である。
 試しにギーシュが地面に向かって呼んでみると、すぐさま地面が盛り上がって大きなモグラの頭が顔を出してくる。
「おお、やはりすぐに来てくれたか!! やはり君は可愛いねえ。ほらねえ、常日頃から愛情を持って接していれば、
使い魔はすぐに答えてくれるものなんだよ」
 誇らしげに胸を張ってギーシュは言う。一般には伝わっていないが、惚れ薬の巨大化事件以来、ギーシュの
溺愛ぶりにも磨きがかかったようだ。
「うーん……そこまではちょっと、けどこれまでは呼んだらすぐに来てくれたのになあ。感覚の同調もできないし、
まさか鷹か何かに襲われてなければいいけど……いや、まさか悪い奴に捕まったりしてるんじゃないか」
「おいおい、フクロウ一羽を誰が捕まえるって? 心配しすぎだよ、それじゃあそのうちヤプールの仕業だとか
言い出すんじゃないだろうね」
 それはもちろん冗談だったのだが、どうやらマリコルヌはそうは聞こえなかったようだ。
「そ、そうだそうに違いない!! きっとぼくの才能に目をつけて、クヴァーシルを人質にとって言うことを聞かせようと
しているんだ!! 悪の手先になって学院の女の子達に手をかけることになってしまったら……ああ、ぼくには
とてもできない。その前に、愛する君達の手でぼくを殺してくれ」
「……」
 流石に、ギーシュさえも言うべき言葉を失ってしまった。同類と思われては敵わないと、そっと距離をとっていく。
 そこへ、端から見ていたらしいギムリとレイナールがおはようと声をかけてきた。
「災難だったなギーシュ、しっかし気色悪いなあいつは」
「うーん……悪い奴じゃあないんだけど、あの癖はちょっといただけないねえ。それにしても、使い魔が
いないとメイジとして格好がつかないだろう。早く見つかるといいんだけどな」
425ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (2/15):2009/02/22(日) 15:57:13 ID:e34OHQ0M
 使い魔とメイジは2つで1つ、切っても切れない関係にある。ギーシュの場合はいきすぎの感があるが、
それにしても、いるのといないのではメイジとしての評価に大きな差が出る。
「そうだね。けれど、そういえば最近使い魔を連れている人が少ないみたいに思うな。何か、悪いことの前兆で
なければいいんだけど」
「おいおいレイナール、まさかお前もヤプールの仕業かもしれないっていうのか? 考えすぎだよ、ろくに世話も
せずに使い魔に愛想をつかされる奴が多いってだけさ」
 ギムリは楽観的に言ったが、レイナールはバム星人、そしてスコーピスの事件に立ち会って、事件の前兆を
察知する危機探知能力、端的に言えば第六感が鋭くなってきているように見える。
「本当に、誰か恐ろしいことを計画してるんじゃなければいいんだけど……」
 外れていれば、それが一番いいが……と、レイナールは自分が間違っていることを切に願った。
 
 
 だがしかし!!
 そのころ魔法学院では、本当に世にも恐ろしい計画がスタートしようとしていた。
 
 ここは普段誰も近づかない学院の宝物庫。
 そこに、今不気味な笑いを浮かべる一人の男がいた。
 彼は壁の一角にしゃがみこみ、ぼそぼそと手のひらの何かに語りかけている。
 
 その正体とは……
 
「うひょひょ、行けモートソグニル、この日のために準備した秘密の節穴を通って、女子更衣室という禁断の花園の
秘密を暴いてくるのじゃーっ」
 なんと、魔法学院学院長のオールド・オスマンその人であった。彼は、己だけのユートピアを作り上げるという
野望の元、公務の合間を縫って、この恐るべき計画を進めてきたのだった。
 だが、長い下準備を終えて、今こそ作戦をスタートしようとしたとき、彼の後ろにどす黒いオーラをまとった
何者かが姿を現した。
「ちょっと、オールド・オスマン」
「なんじゃ、今大事なところなのに……げぇ!? ミス・ロングビル、いつの間に!!」
「最初からです。それよりも、わたくしだけではありませんことよ」
 こめかみに青筋を浮かべるロングビルの後ろには、同じような顔をした女生徒がいっぱいのたくさん。
 皆さん無言で乗馬用の鞭やら棒っきれやらを持っている。
「ま、まさか最初からということは……」
「蛇の道は蛇といいますか、それよりどれだけセクハラに耐えながら貴方の秘書をしてきたと思ってるんです? 
さて、皆さん。この哀れな子羊に厳正な裁きを」
「死刑」
 
 こうして、世にも恐ろしい悪魔の計画はスタート前にストップされた。
 魔法学院は、今日も平和だった。
 
 
 だがしかし、本当に、本当に恐ろしい計画は、別のところですでに開始されていた。
 そのことを、事前に感知できた者は、残念ながら誰一人としていなかったのだ。
 
 学院にルイズの大爆発が響き渡るよりも前、生徒達が起き出すより早く、食堂のコック達は生徒達の朝食を
用意するのと平行して生徒達の使い魔のためのエサを作っていた。
426ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (4/15):2009/02/22(日) 15:59:32 ID:e34OHQ0M
 この魔法学院は2年生からそれぞれメイジのパートナーとなる使い魔を召喚して、共に生活していくのが
カリキュラムとなっており、元はといえば才人もそれでこの世界に呼び出されたものであった。
 使い魔の種類は才人のような例外を除けば、モグラ、カエル、鳥などの一般的な動物から、珍しいところでは
キュルケやタバサのようにドラゴンの類などの幻獣を呼び出す者もいる。
 しかし、この日はどういうわけか集まってくる使い魔達の数がやたらと少ないように見えた。
「変ですねえ。いつもならみなさん、この時間になると飛んでくるんですのに」
 本日の餌やり当番になっていたシエスタは、使い魔達の少なさに不思議な顔をした。
 使い魔達の中で、特に目立つ風竜のシルフィードやサラマンダーのフレイムはいる。けれども、それ以外の
やや小さめな使い魔達の頭数がどうも少ない。
「ふうん、ねえシルフィちゃん、みんなどこに行ったのか知らない?」
「きゅーい?」
 シルフィードは分からないというふうに、首をひねって答えた。竜は幻獣の中でも特に頭が良く、ある程度人間の
言葉も理解できるというので、試しに聞いてみたのだが、やっぱり無理だったかとシエスタはため息をついた。
もっとも、隠しているのだが、ある程度どころか完全にシルフィードはシエスタの言葉を理解していた。ただ、シルフィードは
他の使い魔達と違って、森の中に自分だけの居住スペースを作って住んでいるので、本当に知らなかったのだ。
 エサが大量に余ってしまったシエスタは、仕方なく料理長のマルトーに相談に行ったが。
「どうせ貴族の放蕩息子達のことだ、適当に連れまわしてるんじゃねえか、ほっとけ」
 そう言われて仕方なく引っ込んだのだが、その次も、そのまた次もやってくる使い魔達の数は減り続けた。
 シエスタは不安に思ったのだが、生徒達からは何の達しも無かったので何も言えず、日々減っていく使い魔達の
数を数えているしかできなかった。
 
 そして3日が過ぎた朝。
「この、超、超、大馬鹿犬ーっ!!」
 AZ1974爆弾も真っ青な大爆発とともに、またにぎやかな朝が来た。
 けれど、この日は3日前のようにさわやかな目覚めとはいかなかった。
 
「フレイムー、フレイムー、どこ行っちゃったのーっ!!」
「ヴェルダンデー!! ぼくのヴェルダンデー!! 出てきておくれーっ!!」
 
 朝から、授業も忘れて使い魔達を探す声がいくつも学院に響き渡る。
 すでに使い魔の厩舎は空になっており、さらに主人と同居している使い魔や、放し飼いにされているものも
ほとんどがいなくなっていた。
「これは……もうただ事じゃねえな」
 その騒動を、才人は日課の洗濯をしながら眺めてつぶやいた。だが、その顔はどうにも緊張感に欠ける、なぜなら。
427ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (5/15):2009/02/22(日) 16:00:03 ID:e34OHQ0M
「あの、サイトさん……お顔、大丈夫ですか? 手当てしたほうがいいんじゃ……」
 と、シエスタがたまりかねて言ったように、才人の顔はルイズのこっぴどい折檻によってシュガロンかオコリンボールの
ようにボコボコになっていたからだ。けれど、もはや慣れたものである才人のほうは、一応声だけは平然とした様子で答えた。
「ああ、大丈夫大丈夫、もう2、3時間もすれば腫れもひくって」
「そ、そうなんですか……すごいですね。ところで、今回は何をしたんですか?」
 引きつった顔で感心するシエスタの隣で、とりあえず才人は洗濯を続けながら話した。
「別にたいしたことじゃねえよ。引き出しの中にカエルのおもちゃを入れておいただけなのに、あんにゃろ親の敵みたいに
目ぇ血走らせながらぶっ叩きやがって。いくらなんでも鞭が三本もダメになるまで殴ることはねえだろ。おまけに最後は
超特大の爆発ときやがった」
 才人はルイズがカエルが苦手だと知って、ちょっとしたいたずらを仕掛けたのだが、まさかここまでルイズが怒るとは
予想していなかった。が、シエスタは仕方なさそうに言う。
「それは、ミス・ヴァリエールも怒りますって、サイトさんだってゴキブリやネズミは嫌いでしょう。それと同じですよ」
「でもさ、あいつは日ごろからたいした理由もないのに俺を殴るしさ、限度ってもんがあるだろ」
 シエスタはそれを聞いて苦笑した。なぜなら、シエスタにはルイズの気持ちが手に取るように分かったからだ。
一言で言ってしまえば才人に構ってもらいたいけど適当な理由がないから、特に意味無く怒って気を引こうとする。
シエスタはとっくに卒業した心理だが、その程度も分かってやれない才人も鈍い。
 才人はなかなか自分の非を認めようとはしなかったが、シエスタに。
「でも、今回はサイトさんのほうから手を出したんでしょ?」
 と、言われて言葉に詰まり、やがて自分のしたことが以前ギーシュと決闘したときの理由と同じと追い討ちされて、
ようやく自分が悪いことをしたんだという気持ちになった。
「けれども、この状況はどうなってんだろうな。使い魔達が揃っていなくなるなんて」
 頭を切り替えて当初の問題に返ると、とりあえず洗濯の手を動かしながら周りを見渡した。
 庭には、今朝使い魔がいなくなったギーシュ、キュルケのほかにも、マリコルヌやギムリなど2、3年生が数人探し回っている。
「ええ、今朝はとうとうタバサさんのシルフィちゃんしか来なくなっちゃったんです」
「ふーん……けれど、ほとんどいなくなった割には騒いでる奴は少ねえな。自分の使い魔がいなくなったってのに」
 シエスタは少し悲しそうな顔をした。
「ほとんどの生徒さん達は、使い魔がいなくなってもたいして気にしていないみたいなんです。世話もわたし達に
投げっぱなしの人も多いですし……」
「……」
 それを聞いて才人も露骨に嫌な顔をした。要するに、ペットの世話がめんどくさくなって捨てる飼い主と一緒だ。
人間の都合で連れてこられたというのに、飽きたらポイ、地球でも動物が主役のアニメや映画が流行る度に
似たような問題が起こるので、才人にもなじみはある。そういう者達に比べれば、才人は主人が構ってくるだけ
まだ恵まれているほうか、痛いけど。
428ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (6/15):2009/02/22(日) 16:01:04 ID:e34OHQ0M
 しかしギーシュ達のように使い魔を大切にしている者には重大な問題だ。
 
「サイトー!! ぼくの、ぼくのヴェルダンデを見なかったかね!!」
「あたしのフレイムも、昨日からずっと見ないのよ。希少種だからだれかにさらわれたんじゃないかって心配で」

 彼らのほかにも、ギムリ、レイナールとおなじみのメンバーが才人の周りに集結している。
「おいおいみんなかよ。悪いけど、どれも見てないぜ。それよりも、先生には知らせたのか?」
「いや……使い魔の管理は主人の義務だから、使い魔のことには教師は関与してくれないんだ」
 そりゃ単なる責任放棄じゃねえのかと才人は思ったが、この学院の教師は数人を除いてろくなのがいなかったな
と思い返して納得した。
「お願いダーリン、フレイムを探すの手伝って。あの子があたしを放っていなくなるわけないわ。きっとフーケ
みたいな盗賊の仕業よ」
 いつもカラカラと陽気なキュルケも今回ばかりは焦っている。初めてキュルケと会ったとき、フレイムのことを
随分と自慢していたが、秘めた愛情ぶりはギーシュに負けないくらいに熱い。微熱に隠れた高熱か。
 単なる使い魔の家出なら手を出すつもりはなかったが、いいかげん事件性を帯びてきた以上、見逃すことも
できないかと才人はあきらめた。
「まさかこんなことにヤプールは絡んでないと思うけど、一応調べてみっか」
 そう言う才人の顔はいつの間にか腫れも引いてすっかり元のさえない面構えに戻っていた。再生怪獣
ギエロン星獣かライブキングの遺伝子でも入っているのではなかろうか。
 
 そしてルイズとタバサも呼んできて、さらにルイズにロビンを見なかったかと尋ねていたモンモランシーも
加わって、またまたこの面子が勢揃いした。
 
 と、その前に。
「ルイズ、今朝はごめん。俺が悪かった」
「な、なによ。まだわたしが怒ってるとか思ってたわけ……わ、わたしは全然っ怒ってなんかないからね、
だから、もう……頭を上げなさいよ」
 顔を赤くして必死に視線を逸らすルイズと、ほっとした表情を浮かべる才人、どうやら仲直りできたようだ。
けれど、物陰から嫉妬深い目で見ている何者かがいたが、この際無視して問題あるまい。
 まあ、どうせ明日になったらすっかり忘れてまた揉めるに決まっているんだし。そんなこんなで、時間を
とられて、気づいたときには昼を過ぎて太陽が傾き始める時刻になっていた。
 
 
「それにしても……まーたこの顔ぶれか、なんか妙な因縁でもあるんじゃねえのか」
 授業をサボって集まったそうそうたる顔ぶれに、見えざるものの手を感じて才人は頭を掻いた。
429ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (7/15):2009/02/22(日) 16:01:54 ID:e34OHQ0M
 けれど、早くも状況を忘れてお祭り気分のギーシュは皆を見渡して演説をぶる。
「なーにを辛気臭いことを言ってるんだね。学院の危機に我ら水精霊騎士隊ことWEKCの勇士8人が再び勢揃いした。
これは未来の栄光へと続く始祖のお導きに違いないではないか!!」
「いや、別に学院の危機でもなんでもねえし」
「そもそも8人ってなによ。あたしはあんた達の騎士ごっこに参加した覚えはないわよ」
 調子に乗るギーシュに才人とルイズが冷静にツッコミを入れる。タバサやモンモランシーもそうだそうだと
うなづいているが、ならなんでこんなところにいるんだと言われれば、そばにいないと安心できない人間が
いるからだと思うしかない。が、口が裂けてもそれは言えない。
「で、これからどうするよ?」
 女子達のきつい視線がいい加減痛くなったので、とりあえずの主題に話を戻した。
「決まってるだろ、ぼく達の使い魔をさらっていった奴を探し出してぎったんぎったんにしてやるんだよ!!」
「そうよ、あたしをコケにしてくれたからにはただじゃ済まさないわ。丸焼きどころか骨の髄まで火を通して
やんなきゃ気がすまないわよ!!」
 今回ギーシュとキュルケのテンションが異様に高い。特に火系統のキュルケは文字通りに燃えている。
二人とも使い魔への愛情度は学院でも5本の指に入るのは間違いなく、その怒りのボルテージはマックスを
向かえようとしている。
 しかし、意気込みはいいが具体的にはどうするべきか。
 こういうときには知恵袋たるレイナールの出番だ。
「えーと……賊の正体はわかんないけど、ぼく達の使い魔が狙われているのは間違いない。だから、賊は
必ず学院に残ったほかの使い魔も狙ってくるはずだ。そこを狙って現行犯でとっ捕まえるてのはどうかな」
「なーるほど、それで残った使い魔といえば……え、俺?」
 皆の目が才人に集中する。一応才人も使い魔のうちだ。
 だが数秒後には「だめだな」と言わんばかりに一斉に視線を逸らされた。
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えよ!! ああどうせ俺は誰も欲しがりませんよ。悪うございましたね!!」
 逆ギレしたくなる気持ちも分からないでもないが、どんな好事家も才人は初言でいらないと言うだろう。
 けれど、才人はダメだとしても囮はいる。今学院で他に残っている使い魔といえば……
「タバサ」
「……わかった」
 キュルケの懇願するような眼差しに、タバサは空に向かって口笛を吹いた。すると、空の彼方から青く
大きな姿が一直線に舞い降りてくる。
「きゅーい!」
 着陸したシルフィードはうれしそうにタバサにすりより始めた。フレイムやヴェルダンデは主人に溺愛されて
いるが、シルフィードほど主人に懐いている使い魔はいないだろう。
 が、タバサはそんなシルフィードに無表情のまま『錬金』で作った首輪をひょいとはめてしまった。
430ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (8/15):2009/02/22(日) 16:03:02 ID:e34OHQ0M
「きゅい?」
 目を瞬かせながら、シルフィードは「何これ」と言うようにタバサを見た。
「エサ」
「……きゅいーっ!?」
 気づいたときにはもう遅い。見守っていた才人やルイズ達は仕方が無いとはいえ、手を合わせたりして
一斉に祈りを捧げた。
「……ごめんねタバサ、あなたの使い魔をこんなことに使わせちゃって」
「どうせシルフィードもいずれ狙われただろうから、別に問題ない。今は、これが打てる最善の手」
 まあタバサの言うとおりなのだが、シルフィードはそりゃないよと涙目になっている。
 けれど、ギーシュはどうやら違う考えがあるようだった。
「いや、ミス・ツェルプストーの考えにも一理あるが、もっといいエサがあるぞ」
「は?」
 すごく誇らしげな顔をしているギーシュを見て才人はやな予感がした。こいつの言ういい考えが当たった
ためしがないからだ。
 無駄な時間をとられることを恐れた才人はとっさに一計を案じた。
「へーっ、その様子じゃ自信ありそうだな。ようし、それじゃお前と俺達でどっちが早く犯人を捕まえられるか
競争しようぜ」
「ほほお、それはいい考えだ。では、ギムリ、レイナール、ぼくに着いて来たまえ、手柄はぼく達のものだぞ!!」
「おお、頑張れよー!!」
 こうして、ギーシュがなかば強引に二人を連れて行ってしまうと、才人はニヤリとほくそえんだ。
「うし、大成功」
「悪知恵が働くわねあんた。それともギーシュが単細胞だからかしら、まあ、向こうには期待しないで
こっちでさっさと解決しちゃいましょ。日が暮れたらもう探しようがないわ」
 いつの間にか、夏の長い日もだいぶ落ちて、日差しに赤みが混じり始めて、夕焼けがそろそろ始まろうとしていた。
 囮役のシルフィードはいまだにわめいている。
「きゅーい!! きゅーい、お姉さまひどいのねーっ」
「ん? 誰か今何か言ったか?」
 聞きなれない声がして、才人は思わず周りを見回した。
「気のせい、気のせい……このっ!」
 なんでかシルフィードの頭をぽかりと殴ったタバサに怪訝な顔をしつつ、逃げられなくなったシルフィードを
引き連れて一行は森に向かった。
 
 
 一方そのころ、学院のてっぺんにある学院長室では、オスマンが椅子に縛り付けられて、夕日に赤く
照らされながら、黙々と書類と向かい合わされていた。
431ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (9/15):2009/02/22(日) 16:03:57 ID:e34OHQ0M
「とほほ、もういい加減許してくれんかのー」
 あの覗き未遂事件以来、ロングビルと女子生徒達によって9/10殺しくらいに痛めつけられたオスマンは、
かろうじて一命をとりとめたものの……いや、ルイズでさえここまではやらないだろうというくらいにぼろ雑巾の
ようにされて生き残っていること自体奇跡と言えるが、これによって信用を完全に失ったオスマンは、杖を
取り上げられたあげくに、魔法の拘束具によって学院長室に閉じ込められて、たまっていた仕事を一日中
やらされているのであった。
「はーあ、どうしたらいいんじゃ、これ」
 机の上には文字通り山積みの書類の山、溜め込んでいた自分が悪いとはいえ、さすがに気が滅入る。
「なあ、ちょっと休ませてくれんかの?」
「ダメです。その書類が全部片付くまで、絶対外には出しません」
 扉の外から見張りの冷たい声が響く、女子生徒達の怒りはまだ収まっておらずに、生かさず殺さずの
復讐が連日こうして続いていた。カンヅメにされる漫画家みたいなものだが、トイレ以外本当に一歩たりとも
外に出されないのはつらい。食事も以前の才人並の粗末なものに落とされていた。
「ふぅ……ところで、ミス・ロングビルはまだ帰らないかね?」
 ロングビルは昨日王宮に提出する書類を持っていってもらい、そろそろ帰ってきてもいいころなのだ。
「いいえ、まだお帰りになっていません」
「ふむ……また何か事件に巻き込まれていなければよいのだが」
 そう言って、気晴らしに窓の外を何気なく眺めたとき。
「ん、あれは……」
 学院の西の塔の先端に、黒い人影らしきものが立っているのが見えた。夕日が逆光となってシルエットしか
分からないが、マントをして、手に何か箱のようなものを持っているようだ。
「学院長!! しっかり仕事してください!!」
「はっはぃぃ!!」
 しかし、ちょっとでもサボろうとすると鬼のような声で雷が落ちる。比喩ではなく本当に雷撃が来るので
無視することはできない。すでに、年寄りをいたわろうとする気持ちは誰一人持っていなかった。
 しぶしぶ、それらの苦痛の山に向かうオスマンであったが、何気なく手にした一枚の便箋に目が止まった。
 そこには、ハルケギニアの文字で短く。
 
"ガクインヲ、イタダク  ヒマラ"
 
 と記されていた。
 
 
 そして、学院長室の真下の中庭の一角では、ギーシュがなにやら奇妙な作戦を実行しようとしていた。
432ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (10/15):2009/02/22(日) 16:05:00 ID:e34OHQ0M
「なあ、こりゃ何の冗談だよお、放してよお!」
 そこには地面に打ち込まれた木の杭に縛り付けられている丸っこい物体。つまりはマリコルヌが
はりつけにされて放置されていた。その異様さといったら、通りかかる女子生徒やメイドがのきなみ目を覆って
逃げ出していくほどである。
 この、前衛芸術のオブジェも真っ青の気色悪い見世物に、少し離れたところから隠れて見ている
レイナールとギムリはギーシュに意味を問いたださずにはいられなかった。
「おいギーシュ、あれは何の冗談だよ!?」
「あんな気色悪いカカシは今まで見たこと無いぞ、何だ!? 呪いか、呪いの儀式なのか」
 しかしギーシュは憤る二人に自信たっぷりに言った。
「ふふ、君達……この天才ギーシュ・ド・グラモンの頭脳が犯人の狙いをズバリ突き止めたのだよ。
狙われているのは使い魔、つまり普通では手に入らない希少な生き物達だ……それはつまり?」
「つまり……?」
 二人は、このころになってようやく才人が感じた嫌な予感を感じ始めていた。が、それでも一応は
WEKCの隊長ということになっている男の言うことに、一縷の希望を抱いて聞くが。
「つまり、犯人は珍獣コレクターということだよ!! そして珍獣といえば、このミスターマリコルヌを
おいて他にはいな……あれ、どうしたのかな君達、杖なんか出しちゃって?」
「ギーシュ、ほんの少しでも」
「お前を信じた……」
 二人は肩をぶるぶると震わせて、そして目いっぱいの怒りを『エア・ハンマー』と共に吐き出した。
「「俺達が、馬鹿だったよ!!」」
 二人の渾身の一撃がギーシュを盛大にふっとばし、学院の壁に見事な『大』の形のくぼみをこしらえた。
「あーアホらしい、おいサイト達のほうを手伝いにいこうぜ」
「そうだな、行こう行こう」
 もはや壁の一部となったギーシュには目もくれず、二人は踵を返すと学院の外へ向かって歩き始めた。
 だが、ふと上を見上げたレイナールの目に、学院の尖塔の上から小さな人影が紙切れのようなものを
投げたのが映った。
「あれは……おいギムリ、あれを……」
「ん……?」
 けれどもギムリが反応するよりも早く、その小さな紙切れのようなものが一瞬にして空を覆うほど広がって、
彼らの視界を真赤に埋め尽くしてしまった。
 
 
 しかし、そんなことは露知らぬ才人達は、シルフィードがねぐらにしている森のちょっとした広場で、
首輪をつけたシルフィードを森の木に鎖で結んで、犯人が現れるのを今か今かと待ち構えていた。
「きゅーい、きゅーい!!」
 あからさまに囮役にされているシルフィードは、よせばいいのに悲しげに泣き喚いている。
433名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 16:05:14 ID:YnVf4zSR
シエスタが大人だな支援
434ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (11/15):2009/02/22(日) 16:06:58 ID:e34OHQ0M
 そんなことをしてもかえって犯人を呼び寄せるだけなんだが、離れた藪の中から見張っている才人達は
心の中でそう突っ込んでいた。
「さーて、見え見えの囮作戦だけど、果たして引っかかってくれるかな?」
 我ながら、下手な作戦だと思うが他に方法がないので仕方が無い。なお、当然のことであるがギーシュのほうに
期待を寄せている者は、モンモランシーも含めて一人もいない。
「けど、犯人はどうやって学院の誰にも気づかれずに使い魔達を根こそぎさらって行ったのかしら?」
 待っていて退屈な間、キュルケがタバサに何気なく尋ねた。いくら適当に管理されている学院とはいえ、
メイジが大勢おり、学院自体一種の城砦となっている、そんなところから誰にも気づかれずに使い魔を根こそぎ
さらっていくなど、どういう手品を使ったのか。
「私も少し調べてみたけど、厩舎あたりで魔法が使われた形跡はなかった。それに、人間より大きなヒポグリフや
バグベアーみたいなのまで一度に消えてる。正直に言えば、見てみないとわからない」
「なるほど、そんなに簡単に分かればすぐに捕まえられてるわね。それにしても、同じ使い魔なのに、なんで
ダーリンは狙われなかったのかしらね?」
 キュルケにそういう目で見られ、才人はぽりぽりと頭を掻いた。
「そりゃ人間だし、使い魔と見られなかったんだろう。まあ、俺のところに来たらギタギタにしてやるけどな」
 ガッツブラスターを握り締めて、不敵な笑みを浮かべる才人の背中で、「なあ俺を使ってくれよ」とデルフが
わめいているが、長剣とビームガンではどっちが頼りになるか言うまでもない。ただし、ガッツブラスターの
残弾にはもうあまり余裕がないので、ここぞというときまでは使うまいと心に決めていた。
 そんな意気込む才人を見て、ルイズは冷ややかに言った。
「ま、仮に使い魔が狙われているとしても、あんたみたいに無能な使い魔、だれも狙いはしないでしょうけどね」
「む、どーせ俺は掃除洗濯しかとりえがありませんよーだ。火とか吐けなくて悪かったね」
 わざとらしくふてくされる才人の態度にルイズも調子に乗る。
「ふんっ、そーんなどうしようもない使い魔をずっと保護してあげてるあたしってば、なんて慈悲深いのかしら。
あんたみたいな無能者は、このルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが精々保護してあげるわ」
「よっ、胸はないけど器はでかい」
「なぁんですってぇーっ!!」
「ぐばぁ!!」
 例によってルイズのストレートパンチが才人の顔面に炸裂する。ほんとにこいつは一言多いというか、傍目で
見ていたキュルケやモンモランシーも、いつまで経っても変化の無い二人に呆れるしかない。
「はいはい、夫婦漫才はそのへんにしておいて、しっかり見張りしなさいよ。いつ犯人が現れるか分からないん
ですからね」
「ちょ、誰が夫婦漫才よ!! え? あ、ああ、あたしとこいつが、夫婦!? それってつまり、あたしとこここ、こいつががが」
 急にパニックに陥ってしまったルイズは照れ隠しのように才人の体をげしげしと蹴る。それがまた皆の笑いを
誘うことになっているのだが、才人はいい迷惑としか言いようがない。
435ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (12/15):2009/02/22(日) 16:07:48 ID:e34OHQ0M
 だが、そうして待っているうちに、シルフィードに怪しい影が近寄っていた。
「みんな、あれ、あれ!!」
 藪の中から目だけ出して、全員がシルフィードに近寄る影を見つめた。
 そいつは、真っ黒な服とマントをはおい、さらに黒い帽子をかぶった老人の姿をしていた。才人とルイズは一瞬
ヤプールの人間体かと思ったが、ヤプールのような禍々しいオーラは感じないから別人だと判断した。
「あいつが、あたしのロビンやギーシュのヴェルダンデを?」
「しっ、まだ分からないわ。もう少し様子を見ましょう」
 男は足早にシルフィードに近寄って、値踏みするように右から左からじろじろと眺めている。シルフィードは
自分を観察してくる怪しい男に嫌そうに顔を背けるが、男はそれでもぎょろりと目を見開いて観察を続けている。
もはや、限りなく黒に近いグレーだが、確証がつかめるまではと一行は息を呑んでそれを見守る。
 だがやがて、男はシルフィードの前に立つと、にやりと笑った。
 
「ふよふよふよふよふよふよふよふよふよ」
 
 意味不明な言葉を男がつぶやいて、バッとマントを翻すと、なんとシルフィードの巨体が手品のように消えうせてしまった。
「なに!?」
 見守っていた才人達も、あまりに驚くべき出来事に愕然とした。しかし、男が踵を返して逃げ出すと、はっと我に返って
藪から飛び出した。
「あいつが犯人だ!!」
「逃がさないわよ!! あたしのフレイムを返しなさい!!」
「あたしのロビンもよ!!」
 叫び声をあげて一行は黒マントの男を追いかける。しかし、男はふよふよと奇怪な笑いを立てながら、どんどん
加速していって全力で走ってもまったく追いつけない。
「なっ、なんて逃げ足の速い奴!?」
 走っても追いつけないと知った一行は、『フライ』の魔法で飛翔して追うことに切り替えた。飛べないルイズに
いたっては才人が抱えてガンダールヴで突っ走る。なお、前回脇に抱えたのが不評だったために、今回はルイズを
お姫様だっこしている。しかし、荷物扱いよりはましだが、やっぱりすごく恥ずかしい。さらに、抜き身じゃ危ないからと
ガンダールヴ発動のためにガッツブラスターを使われてデルフがいじけている。というか、背負えばいいのではないのか?
 だが、そうして馬で走るくらいの速さまで加速したというのに黒マントの男には追いつけない。時速に換算すれば
優に60キロは出ているだろう。
「ありゃ人間じゃない」
 どこの世界に時速60キロで突っ走れる人間がいるものか、そうと分かればなおさら逃がすわけにはいかない。
436ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (13/15):2009/02/22(日) 16:08:48 ID:e34OHQ0M
「しめた。この先は学院よ、追い詰めてしばりあげてやるわ」
 学院に行けば、もはや勝手知ったる自分の庭、他の生徒もいることだし逃がしはしまいとキュルケは不敵な
笑みを浮かべた。
 しかし、森を抜けて西日が彼女達の目を焼いて、もう一度目を開いたとき……
 最初は道を間違えたのかと思った。
 目をこすってみると、この時間は学院の尖塔ごしにしか見えないはずの夕日がはっきりと見える。
 けれど、学院のあるべき場所には、大きな四角形の穴が空いているだけで、他には何も無い。
 そこには何もない、だだっ広いだけの平原が広がっていたのだ。
 
「がっ……学院が……ないいぃぃっ!?」
 
 一行は夢でも見ているように、穴のふちに止まって学院があったはずの場所を眺めた。
 黒マントの男も穴の手前で止まって笑っているが、もうそれどころではない。
 だがそのとき、突然頭の上から不敵な笑い声が降ってきた。
 
「フフフフ……ハーハッハッハッ!」
 
「誰だ!?」
 その声の主は、夕焼けの光の中から姿を現すと、黒マントの男の頭上で停止した。
 そいつは黒いマントをつけて、真っ黒い仮面のような顔に大きな赤い目のついた怪人、一目見ただけで
即座に宇宙人だとわかるスタイルをしていた。
「君達だね? この星を守っているのは」
 宙に浮いたまま、怪人は悠然とそう言い放ってきた。
 才人は、こいつは俺とルイズがウルトラマンだと知っているなと思ったが、それには答えずに目の前の
見たことも無い姿の宇宙人に言った。
「お前が学院を消したのか?」
「いかにも、私の名はヒマラ、ここの他にもトリスタニアの街のいくらかもいただかせてもらったよ。次はガリア
あたりに行こうかなと予定しているんだ」
「お前も、ヤプールの手先か!? シルフィードや他の使い魔達をさらって行ったのもお前らか」
「ヤプール? あっはっはっ、あんな芸術を理解しない無粋なやからといっしょにしないでくれ。まあ、成り行きとは
いえ、この世界の存在を教えてくれたことだけは感謝しているが、私は何もこの星を侵略しに来たわけではないのだよ。
そういう野蛮なことは私の趣味ではないのでね。それに、私は生き物は専門外でね」
 すると、今度は追ってきた黒マントの男が笑いながら大きな頭部を持つ宇宙人の姿になった。
「ふっふふ、私はスチール星人だ。お前たちの飼っている珍しい動物たちは、私が全部いただいた」
 スチール星人、こいつなら才人もエースも知っている。かつて同族が地球のパンダを全部盗んでいこうとして
やってきたという、数いる中でも特に妙な趣味をしていた宇宙人。なるほどこいつなら並の動物園真っ青の
使い魔達に目をつけたとしてもおかしくは無い。侵略ではないとはいえ迷惑な奴だ。
437ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (14/15):2009/02/22(日) 16:09:58 ID:e34OHQ0M
 しかし「いただいた」と言われて、「はいそうですか」とあげる奴はいない。キュルケはもちろんタバサも
珍しく怒気を見せて杖をスチール星人に向けた。
「ふっざけんじゃないわよ、このこそ泥!!」
「シルフィードを……返して!」
 けれどもスチール星人は、恐らく笑っているのだろう、頭を微妙に上下に揺らしながら言った。
「ふふふ、お前たちにできるかな? それに、しばらく観察していたが、人間共はお前達が使い魔と呼んでいる
動物達を粗雑に扱っていたのではないか? ならば私が大事に飼ってやったほうが彼らのためではないかね」
 確かに、ここにいる者達のほかの生徒達は使い魔の世話を真面目にしているとは言いがたい。けれど、
そんな盗人猛々しい詭弁に揺り動かされるほど彼女達の怒りは生やさしくは無い。
「泥棒が偉そうなことほざくんじゃないわよ! 人のものを勝手に盗っていくような奴が何を大切にできるっていうの、
丸焼けにされる前にさっさとみんなを返しなさい」
「ぬぅ……」
 今にも爆発しそうな彼女達の気迫は、星人さえも黙らせるには充分だった。
 だが、ヒマラはそんな様子を見下ろしながら含み笑いを浮かべていた。
「ははは、威勢のいいお嬢さん達だ。けれども、一度目をつけたものはどんな手を使ってでも手に入れるのが
コレクターというものだから、返すわけにはいかないねえ」
「コレクターですって?」
「ああ、彼とはこちらで会って意気投合してねえ。ものは違えど美しいものを愛する者同士に壁はないのさ。
それに、私も見つけてしまったのさ、実に美しいものをね。この星には、この広い宇宙でも、ここともう一つの
星にしかない美しいものがある、なんだか、分かるかね?」
「……」
 才人らが答えずにいると、ヒマラは誇らしげに語り始めた。
「それはね、夕焼けの街だよ。私は一目で心を奪われた、私は気に入ったものは手に入れることに決めている。
だから、私が美しいと思ったものはすべて、私のものなのだよ」
 どこまでも自分勝手なヒマラとスチール星人に、才人達もついに怒ってそれぞれの武器を抜く。
「なんだと!! ふざけるな、そんな勝手が通るか、学院のみんなをどこにやった」
「ふふ、悪いが夕焼けの街は前に手に入れそこなったことがあるので、私も引けないのだよ。それと、人間達は
余計だったな。見苦しいので後でまとめてどこかにポイしてしまうつもりだよ。フフフ、ご希望とあれば案内するよ」
 そう言うとヒマラは手を大きく広げると、ぐるりと体の前で回し、一行の視線がそれに集中したとき。
「ハアッ」
 突然、ヒマラの額からビームが放たれた!
「危ない!!」
 とっさに才人はルイズを突き飛ばしたが、その代わりに才人がビームをもろに受けてしまった。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 16:10:03 ID:2kJW/r4E
支援
439名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 16:13:47 ID:kRev5Nur
あのパンダ誘拐犯か・・・・・・支援
440名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 16:23:14 ID:YnVf4zSR
>それはね、夕焼けの街だよ

お前はマックスの時のメトロン星人か支援
441名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 16:29:16 ID:YnVf4zSR
685 名前:ウルトラ5番目の使い魔 投稿日: 2009/02/22(日) 16:14:22 ID:UaGIgJYU
すいません、最後の1レスとあとがきを残して、またさるさんを受けてしまいました。
こちらに投下しますので、どなたか代理投下お願いいたします。


では僭越ながら私が。
442ウルトラ5番目の使い魔 第36話 (15/15) 代理:2009/02/22(日) 16:30:25 ID:YnVf4zSR
「うわっ!?」
「サイト!!」
 ルイズははっとして才人を見るが、才人の体は一瞬発光すると煙のように消えてしまった。
「ええっ!?」
「ちょっ、サイトをどこにやったのよ!?」
「ハッハッハッハ、彼はリクエスト通り仲間のところに送ってあげたよ」
 慌てて怒鳴るが、ヒマラとスチール星人は笑いながら、すぅっと消えていってしまった。
 
 
 そして才人は、ヒマラの放ったテレポート光線によって、どこか別な空間へと飛ばされていた。
「あいてて……こ、ここは?」
 見渡すと、そこは夕日に照らされた見慣れた広い芝生の上に立つ巨大な幾本もの塔、魔法学院の前であった。
 けれど、学院から離れた場所にはトリスタニアの街並みがそびえ、見慣れた風景とはまったく違う。
 というか、あっちこっちにオランダの風車やイースター島のモアイ像、パリの凱旋門からタイの寝仏、はては
巨大なタヌキの置物まで訳の分からないものがずらりと並んでいて何て言えばいいかわからない。
「消された街か……コレクションするっていうのは、こういうことかよ」
 すると、彼の目の前にヒマラが今度は巨大な姿となって現れてきた。
「ようこそ、私のコレクションルーム、『ヒマラワールド』へ、ここは外界から隔絶された擬似空間だ。私の集めた
美しいものを、ぜひ君も見物していってくれたまえ」
「そうはいくか、こんな贋物の世界、すぐにぶっ壊してみんなを元に戻してやる。なあルイズ!! ……ルイ……」
 そこで才人は、大変な事実に気がついた。ここに飛ばされたのは自分だけだ、ルイズは元の世界に置いて
きたまま、つまり。
「し、しまった!!」
 変身……できない。
 
 続く
今回は以上です。支援してくれた皆さん、ありがとうございました。
と、いうわけで前回まで重い話だったので、息抜きにかるーく作ってみたお話でしたが、いかがだったでしょうか。
意外にも、シリアスよりギャグのほうが難しいですね。
ウルトラシリーズとゼロの使い魔のビデオを交互に見ながら書いてますが、やっぱり超ウルトラ8兄弟のDVDは何回
見ても飽きません。
 
「今日から、ウルトラマンが始まるんだ!!」
「ウルトラマン?」
そう言うあなたはイデ隊員。
 
「この世界を、僕が守る!!」
 
「待ってろダイゴ!!」
「今行くぜ!!」
ダイゴ、アスカ、我夢の覚醒。

「行こう、ウルトラの星へ!!」
もう、かっこよすぎます。
 
ところで、藤宮は果たしてアグルの記憶を取り戻したのでしょうか?
 
さて、ウルトラシリーズ屈指の変宇宙人二人を相手にして、少年少女達はどうするのか、来週を待とう!!



ウルトラの人、乙でした。
確かに「パンダを返して!」は時代を反映しすぎというか、まあ、異色と言えば異色だったなぁ……。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 16:40:12 ID:lqbCBaIm
なんと傍迷惑というかこそ泥のような連中だなw
セブンにも鉄が無いからと自動車を巨大ロボットに強奪させていた宇宙人がいたが
445名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 16:42:50 ID:+K5rwI2V
ウルトラの人乙でしたー
今回の話はスチール星人とヒマラの二大宇宙人が登場しましたが
特にヒマラの方はリアルタイム時のダイナで見た事があります。
終盤時のヒマラの姿がとても可笑しく憎めないキャラでした
次回はサイトとルイズがどう変身するか、すごく楽しみです
446名無しさん@お腹いっぱい:2009/02/22(日) 17:12:52 ID:hwxLqQjY
ウルトラの人、今回もGJでした!
まさか、パンダ欲しくて地球にやってきたアノ宇宙人まで
ハルケギニアに来ちまうとはwww

何気に変身不可能な拙い状況のサイト達がどう逆転するのか、後編も楽しみですw
447名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 17:24:10 ID:k9ycqjgK
ウルトラの人、乙。
ヒマラは知らないが、スチール星人は人間体の珍妙な言動が印象に残ってる。
あの声が…、パンダグッズを奪ったあの声が…。

どうやってピンチを乗り切るのか……次回に期待です♪
448名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 17:33:53 ID:VRfz20Rp
原作はパンダ盗んで一体何がしたかったんだろうな・・・
449名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 17:35:52 ID:whSWy72+
>>448
多分モフモフしたかったんじゃね?
450名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 17:36:59 ID:lqbCBaIm
もふりたかったんじゃね?
今だったらアルパカが盗まれそうだw
451名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 17:49:17 ID:RYdHaqMd
え? 信玄公?
452名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 17:50:00 ID:dolWr3NK
パンダネタで
「静かなる侵略が始まった」
というマンガを思い出した
453名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 18:00:32 ID:DuA1L7ma
確か「パパパパパンダくん」だっけ?
454ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:31:11 ID:GYVpz1Rk
18:40から風雲アルビオン編旅立ちの巻を投下したいと思います。

7レスの予定ですが、予定は未定という言葉もありますので、違っても怒らないであげてください。
私は褒められて伸びる子です。
455名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 18:32:00 ID:lqbCBaIm
自分で言うんじゃないw
まあ支援はするつもりだ
456ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:40:05 ID:GYVpz1Rk
 王女殿下がルイズの部屋にやってきた翌朝、アプトムとルイズとギーシュの三人は、アルビオンに向かうため馬に鞍をつけていた。
 こんなはずではなかった。アプトムはルイズを連れて行くつもりなどなかった。
 究極の戦闘生物を自認する彼は、いかなる戦場に単独で飛び込んでも生還する自信がある。しかし、誰かを守って戦えるのかと言われれ
ば、難しいと言わざるを得ない。
 なまじ強靭な肉体と、高い生命力を持っているだけに、うっかりと無茶をしてルイズに無駄な危険を冒させてしまう可能性を考えると、
置いていきたいところだが、そうもいかない。
 何故、そんな事になってしまったのかと言えば、それはギーシュのせいである。
 アプトムは、ルイズの部屋の前で聞き耳を立てている何者かを王女の護衛だと思い込んでしまった。
 そいつを連れて行くから、学生でしかないルイズは残っていろと言ってしまった。
 だが、そこにいたのは、ルイズと同じく学生の身でしかないギーシュであり、その少年を連れて行くのにルイズは置いていくというわけ
にはいかなくなってしまった。
 いっそ、最初から一人で行くと言えば良かった。そうすれば馬に乗る必要もなかったのに。と思ったのも後の祭り、世界はこんなはずじ
ゃないことばかりである。こんなときに限って、ルイズはちゃんと早起きしてるし。

 まいったなと、ため息を吐いていると、ギーシュがルイズに話しかけた。アプトムに敵愾心を持つこの少年が、決闘以外でアプトムに対
し口を開くことはなく、必然ルイズにのみ話しかけることになる。

「お願いがあるんだが……」
「なによ」
「ぼくの使い魔を連れて行きたいんだ」
「あんたの使い魔なんて、どこにいるのよ。って言うか、あんたの使い魔って何だっけ?」

 考えてみれば、ルイズは他人の使い魔に興味を持っていなかったので、アプトム以外の使い魔は、キュルケのフレイムとタバサのシルフ
ィードくらいしか、記憶していない。
 そんなわけで尋ねてみると、ギーシュは、ここだと何もない地面を指差した。
 何もいないじゃないかと言ってくるルイズに、ギーシュは笑い、指差したそこを杖で叩く。と、地面が盛り上がり、そこからクマくらい
ある巨大モグラが顔を出した。

「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
「そうだ。ぼくの可愛いヴェルダンデだ」

 うれしそうに、モグラを抱きしめるギーシュである。
 おそらくは、本人にとっては自慢の使い魔なのだろうが、はたから見ていると滑稽な事この上ない。
 まさか、自分も、ああ見えているんじゃないだろうなと、アプトムを見てしまうルイズだが、彼女はもっと酷かったりする。主に朝の食
堂とか。
 それは、ともかく。

「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の下を進んでいくんでしょう?」
「そりゃ、モグラだからね」
「そんなの連れていけないわよ。わたしたち、アルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れて行けるはずないじゃない」

 言われ、そういえばそうだったかと、ギーシュは、あと一勝で甲子園に行けたはずの球児の如く崩れ落ちる。
 畜生、なんて時代だ。と涙を零すギーシュに、モグラのヴェルダンデは慰めるように彼の両肩に前足を置いてくれたりもする。良い主従
である。
 何の漫才だ? などと思いつつ、アプトムが見ていると、ヴェルダンデは、ふと何かに気づいたように鼻をひくつかせルイズの方に擦り
寄っていった。
457ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:42:42 ID:GYVpz1Rk
「ちょっと、何よこのモグラ」

 そんな抗議の声など聞こえぬとばかりにヴェルダンデはルイズに圧し掛かり押し倒す。

「やめなさいよ! ギーシュ! アプトム! なんとかしなさいよ!」

 大モグラの鼻で体中を突かれながら助けを求めるルイズであるが、押し倒されて着衣が乱れた姿にギーシュは何やら鼻の下を伸ばし、アプ
トムはというと、どうしろと? などと考えていた。
 殺せというのなら簡単だが、この大きさの生物をルイズから引き離せというのは難しい。

「こいつは、人を食うのか?」

 違うとは思うが、もしそうならルイズに危害を加えられる前に始末しなくてはならないなと、尋ねてみるアプトムに、ギーシュはムッとし
た顔になる。

「ぼくのヴェルダンデが、そんな野蛮ことをするわけないだろ! ヴェルダンデの好物は、どばどばミミズだよ! 人間なんか食べるわけな
いだろ!」
「なら、あれは何をやっているんだ?」

 まさか、発情しているわけじゃないだろうな。と問われ、ギーシュは難しい顔でヴェルダンデを眺め、しばらくして大モグラがルイズの右
手の薬指にはまった指輪に鼻をつけるのを見て納得する。

「ヴェルダンデは、宝石が大好きなんだよ」

 つまり、ルイズの指には、昨夜王女から任務のための資金の足しにしてくれと送られた指輪が光っており、それに反応して押し倒す結果に
なったというわけである。
 なるほどなと、ルイズに危険がないことを納得するアプトムだが、同時にそれは普通に強盗じゃないのか? と思ったりもする。

「納得してないで、助けなさいってば!」

 叫ぶルイズに、しょうがないなとアプトムは拳を握る。危うし、ヴェルダンデ。彼は今その愛らしい頭部を岩をも砕く拳で粉砕されんとし
ていた。ついでに、元々良好とはいえないギーシュとアプトムの間の人間関係も、取り返しのつかない破局を迎えようとしていた。
 その直前のことである。一陣の風が走り、大モグラは吹き飛ばされていた。

「誰だッ! ぼくのヴェルダンデに何をするんだ!」

 ギーシュは激昂して叫ぶ。その何者かが起こした風がなければ、大事な使い魔が撲殺されていたと気づかぬがゆえの言葉である。知らない
ということは、幸せだ。
 風が吹いてきた方向からは、一頭の幻獣を従えた一人の男が歩いてきており、頭に血の上ったギーシュは薔薇の造花を取り出すが、その瞬
間には杖を抜いた男の魔法で造花は吹き飛ばされていた。

「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任
務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」

 そう言って一礼した男は、魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵であると名乗り、文句を言いかけたギーシュは、そこで固まった。魔
法衛士隊は、貴族の少年たちの憧れである。当然ギーシュも例外ではない。そんな憧れの対象にどうこう言えるほど彼の心臓は剛毅にできて
はいない。
458名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 18:43:37 ID:lqbCBaIm
手加減しろよwww支援
459名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 18:43:39 ID:dolWr3NK
支援砲撃
460ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:45:05 ID:GYVpz1Rk
「すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」

 そんな事を言いながら、ワルドはルイズに歩み寄り、少女の華奢な体を抱き起こす。

「久しぶりだな! 僕のルイズ!」
「お久しぶりでございます」

 抱きかかえられ、頬を桜色に染めるルイズの顔は、喜びに満ち溢れ、あんな顔もするのだなとギーシュは珍しいものを見れた幸運を喜ぶべ
きだろうかと思う。アプトムの方はというと、何かを考え込んでいてルイズの様子に気づいていないようだが、何を考えているのかギーシュ
には分からない。

「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」
「……お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ」

 そう言われ、下ろされたルイズが、ギーシュとアプトムを紹介すると、二人はそれぞれ頭を下げた。

「きみがルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな。僕の婚約者がお世話になっているよ」

 気さくに話しかけるワルドに、アプトムは「ああ」と気のない返事を返し、無視された形のギーシュは、内心ムッとしていた。
 というか、ギーシュはワルドのことが気に入らない。理由は分からない。ヴェルダンデのことが尾を引いているのではないかとも思うが、
なんとなく違う気もする。
 ワルドの他者を見る眼が、アプトムが自分を見ている眼と同様の相手を同格と認めぬ冷たい視線であるがゆえの嫌悪感なのだが、そのこと
に、ギーシュは気づけない。ギーシュがアプトムを敵視しているのは、自分より下の立場のはずの者が自分を見下しているからで、ワルドの
ような立場の者が自分を見下すのは当然であろうと理解しているから。
 そんなギーシュの内心の葛藤に他の三人は気づかないというか、興味もない。
 そして、ワルドは自分の連れてきたグリフォンにルイズを乗せ、反対側に立ったアプトムが、ルイズを下ろした。

「……」
「……」

 何事もなかったように、またルイズを持ち上げグリフォンに乗せるワルド。そして下ろすアプトム。

「……」
「……」
「どういうつもりだい?」
「そちらこそ、どういうつもりだ? なぜルイズを連れて行こうとする?」

 元々、この任務にルイズとついでにギーシュを連れて行くことに、アプトムは賛成ではない。それなのに何故連れて行く事になったのかと
言えば、アプトムにハルケギニアの土地勘がないからであるが、ワルドという男が共に行くのなら、二人を連れて行かなければならない理由
はなくなる。
 そのことを言うと、当然ルイズは反発したが、知ったことではない。彼のここでの最優先事項はルイズを危険から遠ざけることである。あ
る程度の我侭なら聞いてやるつもりであるが、わざわざ行かなくてもいい虎穴に入らせる気はない。

「きみは、随分と僕のルイズを大事に思ってくれているんだね。しかし、大丈夫さ。ルイズの身には傷一つ負わせないと僕が約束しよう」
461名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 18:46:22 ID:lqbCBaIm
なんだこの漫才w支援
462ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:47:35 ID:GYVpz1Rk
 そんなことを言ってワルドはルイズの好感度を上げるが、アプトムは納得しない。
 お前がそうするのは勝手だが、ルイズは足手まといになるためにアルビオンに行きたがっているわけではあるまい。ルイズも任務のことな
ど、忘れて立派なメイジになれるように勉強していろ。王女だってそう思ってワルドを寄越してくれたんだろう。などと言われると、ルイズ
もワルドも反論の余地がない。
 もちろん、アンリエッタにそんな考えはない。元々彼女はワルドにも行かせるつもりであり、黙っていたのはワルドがルイズの婚約者であ
ることを知っていたがゆえの悪戯心である。

 しかし、そんな事を知る者はおらず。かくして、アプトムとワルドは二人でアルビオンに向かい、ルイズとギーシュは置いて行かれること
となった。
 もちろん、アンリエッタの手紙をルイズから取り上げることを忘れるような、うっかりはやらない。




 二人が旅立った後、しばらくしてルイズは、のろのろと再起動し、馬を厩に帰しに行く。
 アプトムの言うことは、もっともであると理解はしたが、心から納得したわけではない。
 とはいえ、ルイズにアプトムを納得させる答えは見つからず、思いついたとしても今更どうにもなるまい。だから、ルイズは自分の部屋に
戻る。
 二度寝しよう。授業なんかどうでもいいや。アプトムいないし、今日はシエスタも起こしに来ないだろうから。
 そんな投げやりな事を考えて、自室に戻った彼女を迎える声があった。

「ちょっと、また俺のこと忘れてってるよ相棒。おっ、娘っ子。相棒と一緒に行ったんじゃなかったのか? まあいいや、すぐ俺を相棒のと
ころに連れて行ってくれ」

 それは、インテリジェンスソードのデルフリンガー。あまりの存在感のなさにアプトムが忘れて行ってしまった魔剣である。
 と本人は思っているが、実際は必要ないというか、邪魔だと判断されて置いて行かれただけである。
 しかし、ルイズにはそんなことは分からない。この剣に限ったことではないが、武器を持つと左手のルーンが反応して獣化しようとしてし
まうアプトムの事情などしらぬ彼女は、すぐに届けてあげなければならないと、アプトムについて行き姫さまの持ってきた任務に自分も参加
できる言い訳ができたことを内心で喜びながら、剣を持って走る。
 剣だけ受け取ったら追い返されるだろうとは、考えない娘である。
 それはともかく、先ほどまでいた所に戻ると、ギーシュがまだそこに立っていた。彼もまた、ルイズと同じように置いて行かれたことに納
得などしていなかったのである。
 そして唐突に気づく。今から馬をもう一度用意して追っても、追いつけるものではないと。
 そんなとき、ばさりと頭上から羽音が聞こえてきた。




 ある居酒屋での話である。
 そこに、フードで顔を隠した一人の女がいた。
 その居酒屋は、ならず者が客として訪れるような場所であり、本来なら女が一人で来れるような店ではないのだが、女は周囲を意に介さず
黙々と食事を摂っていた。
 彼女は、フーケ。『土くれ』の呼び名で知られるメイジの盗賊である。
 荒くれ者といえど、ほとんどの者はメイジに手を出すような馬鹿なことはしない。だが、そんな彼女の隣に、一人の男が訪れた。
 白い仮面で顔を隠したその男に、フーケは「おや、早かったね」と、どうでもよさそうに声をかける。
463名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 18:49:32 ID:lqbCBaIm
召喚された奴とその周囲の人間の思惑がこうもかみ合ってないのも珍しいw支援
464ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:50:05 ID:GYVpz1Rk
「予定が狂った」

 前置きなしの言葉に、「なんだい。そりゃ?」とフーケは首を傾げる。
 彼の予定では、アルビオンの玄関口である、ここ港町ラ・ロシェールへ向かってくる、ある四人組をここにいる傭兵に襲わせる予定であっ
た。そのための傭兵は、先にここに来たフーケが雇ってある。
 だが、襲わせる対象は四人ではなく二人になってしまっていた。
 なら襲撃を中止するのかと問うフーケに、仮面の男は首を振る。
 襲撃の目的は、一行の数を削ることであったが、その二人、正確にはその一方の実力を測るには、ちょうどいいかもしれないと彼は考えた。
 その答えに、フーケは唇を歪め、そりゃあ気の毒にと、傭兵たちに同情する。
 彼女は、仮面の男が実力を測りたがっている相手のことを知っている。
 あれは、バケモノだ。自分などでは到底敵わない能力を持っている。傭兵などでは、返り討ちにあうのがオチだ。
 それほどのものなのかと問う仮面の男に、彼女は笑って頷く。それが何故か誇らしげなのだが、そこには仮面の男は突っ込まない。
 どんな能力なのかを問いかけてみてもフーケは答えない。聞いても分からない。見れば分かる。分かっても対策なんて立てられない。それ
が彼女の答え。ついでに言えば、彼女はあのバケモノの能力の一部を知っているだけである。
 それに、とフーケは続ける。彼女は、その相手を敵に回したくはない。敵に回せば確実に命がないことを理解しているから。仮面の男に協
力している時点で敵になっているようなものだが、それでも相手に敵とみなされるような行動は最低限避けたいと思っている。
 だから、彼女は話さない。その相手の能力を知るものが、今のところ自分しかいないから。話せば自分が敵に回ったと思われる恐れがある
から。
 そんなフーケに、仮面の男は何も言わない。彼女が恐れる相手がどれほどのものか知らないが、結局のところ自分には敵わないだろうと楽
観しているからであり、役に立つだろうと、わざわざ引き入れた手駒を、たった一人の相手の情報のために手放すようなことをするのは馬鹿
らしいと思っているゆえに。



 朝、魔法学院を出発したアプトムとワルドは、夜中近くになってようやくラ・ロシェールの近くまでたどり着いていた。
 ワルドのグリフォンは、アプトムの乗る馬を置いていこうとする勢いで疾駆し、しかし途中で馬を交換するときだけは待ってくれていた。
 今回の任務にあたっての、アンリエッタがウェールズに充てた手紙はアプトムが預かっていたのだから、当然ではあるが。
 そうして、町まであと少しという所の渓谷に挟まれた道を進んでいた時、崖の上から何本もの松明が投げ込まれた。
 特に慌てることもなく、なんだろうと頭上を見上げようとするアプトムだが、馬のほうは驚き暴れようとする。
 やれやれと、馬から飛び降りたアプトムが改めて頭上を見上げると、そこに矢が射かけられた。
 そのままだと、自身を貫いてたであろう何本かの矢を掴み取ったアプトムは、これはどういう状況だろうかと頭を悩ませる。
 普通に考えれば、賊の襲撃なのであろうが、銃騨ですら脅威に感じない彼にとって、この弓矢を使った襲撃は、例えるなら子供が玩具の刀
を持って殴りかかってきている状況のように危機感がなく、どう対応したものか判断がつかない。
 こんな襲撃でも危険に感じるであろうルイズがいれば、即座に殲滅という選択をしただろうが、いるのは魔法衛士隊隊長という肩書きを持
つ、こんな襲撃で命を落とすことはないであろう男だけである。
 叩きのめしてもいいのだが、少しワルドの手並みを見せてもらおうとそちらを見ると、魔法で小さな竜巻を作り出して身を守りながら、同
じようにこちらを観察してくるワルドと眼が合った。どうやら、お互いにこの襲撃を脅威に感じておらず相手の対応を見守ろうとしていたら
しい。
 成す術がないというのならともかく、お互いにどうとでもできる能力を持っているために、どう対応するか悩んでしまうというのも皮肉な
話だ。などと、やはり緊張感のないことを考えているアプトムは、もう賊のことは無視して町に向かおうかとやる気のないことを考える。
 彼にとって、間断なく降ってくる矢など、全て受け止めてしまえるし、当たってもダメージにはならない。馬は置いていくしかないが。
 ワルドの方も、問題なく防げるようだし、別にいいだろうと思っていると、ばさりという羽音と共に崖の上にいる賊のものであろう男たち
の悲鳴が聞こえ、何人かが転がり落ちてきた。

「おや、『風』の呪文じゃないか」
465ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:52:36 ID:GYVpz1Rk
 ワルドの呟きに、何者の仕業かを察したアプトムであるが、何故ここに現れたのか分からないでいると、更に残った男たちも落とされてき
て、その後に青い風竜が舞い降りた。
 そうして、風竜の背から降りてきたのは、シルフィードの主であるタバサ、そしてルイズとキュルケとギーシュであった。




 キュルケの朝は、特に早くはない。休日なら昼前まで眼を覚まさないし、平日でも遅刻はしないが、食堂に一番乗りしたことは一度もない。
 そんな彼女が、その朝たまたま早く眼を覚ましたのに特別な理由はない。納得がいかなければご都合主義とでも思えばいい。
 さて、そこで早起きしたキュルケが最初にしたのは窓から外を見ることである。この行動に意味はない。ただの習慣である。そうして、彼
女は見知った三人を発見する。
 馬を用意している三人が、こっそりどこかに出かけようとしているということは見れば分かる。だが、どこに出かけようとしているのかは
分からない。
 だからといって、それをわざわざ知ろうとも思わない。面白そうなことには首を突っ込む主義だが、あの三人がどこかに出かけようとして
いるという程度では、眼を覚ましてすぐの寝ぼけ気味の頭を覚ますほどの面白さを感じない。
 そんなわけで、ぼんやりと三人を見ていた彼女は、そこに四人目が現れたことで、パッチリと眼を覚ますことになった。
 そこに現れたのは、先日の王女一向の中にいた美丈夫であった。
 キュルケは惚れっぽい少女である。とはいえ、一度遠目に見ただけの相手に惚れるということはあまりない。
 そんな彼女が、その男に惹かれたのは、その男が魔法衛士隊という外に自慢できる立場の人間であり、見目の良い青年であったからであり、
ついでに今窓の外でルイズと親密そうに話しているのを見て、あの男をルイズから奪えば面白い事になるとキュルケは考えた。
 思い立ったら行動の人であるキュルケは、飛び起きると親友の部屋に走った。いらん判断力を持つ彼女は、今から急いで着替えて外に出て
行っても、その前に四人が出発してしまう可能性が高いことを考えて、すぐに追える様に親友の使い魔に頼ることを選択したのだ。

 そうして叩き起こされたタバサにとって、それは迷惑極まりない頼み事であった。
 彼女は、キュルケのように魔法衛士隊の男にもルイズにも興味はないし、できる限りルイズの使い魔には関わりたくないと思うようになっ
ていた。
 しかし、親友の頼みを無碍にしたくはないし、放って置いてアプトムを嫌っているキュルケが虎の尾を踏む事になって、死にでもすれば、
どれだけ後悔しても足りないし、困ったことに彼の危険性をキュルケに知らせることもできない。別に口止めされているわけではないが、何
が彼の逆鱗に触れる事になるのか分からない現状では、ヘタな事を話すわけにはいかない。
 そんなわけで、キュルケの頼みを聞き入れたタバサはノロノロと着替えを済ませた後、使い魔を呼んだ。
  風竜の幼生であるシルフィードに乗れば、少しくらい離されても追いつけると理解しているキュルケは、着替えに戻った自室でしっかり
と丹念に身支度をしてからタバサの元へ向かう。
 それでも、タバサが着替えるのに遅れなかったのは、さすがである。
 そして、いざ四人を追いかけようとシルフィードが舞い上がった時、彼女らは置いてけぼりになっていたルイズとギーシュを発見すること
になった。



 シルフィードから降りたルイズは、早速アプトムに剣を渡し、「忘れ物をするなんて、うっかりしてるわね」などと言ってくる。
 忘れてきたわけではなく、置いてきただけだとか、そんなボロ剣の代わりくらい必要なら、いくらでも用意できるとか、デルフリンガーが
聞いたら泣きそうな事を、いろいろと言いたくなったアプトムであったが、飼い主が投げたボールを咥えて帰ってきて褒めてほしがっている
子犬のようなキラキラとした瞳で見られると、さすがに口を噤むしかない。
 うっかりしていた。助かった。などと言いながら、頭を撫でてやると本当に子犬のように目を細めて喜ぶルイズの姿に、不気味だと思うタ
バサがいたが、その視線に二人とも気づかない。付け加えると、あの冷徹なアプトムが主人とは言えルイズの頭を撫でるという行為もタバサ
から見れば不気味である。
 ちなみに、この光景を見れば、ルイズに対して親愛を、アプトムに対して嫌悪を覚えるであろうキュルケは、現在ここにいるもう一人の人
物であるヒゲの美丈夫に釘付けである。
 ルイズがアプトムに駆け寄ったように、キュルケはワルドに歩み寄り、「ねえ。あなた」などと呼びかけている。
466ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:55:07 ID:GYVpz1Rk
「おひげが素敵よ。情熱はご存知?」
「何が言いたいのかね?」
「好きだって言ってるの。ほら、あたしの胸がこんなにドキドキ言ってる。触ってみる?」
「悪いが婚約者がいる身でね」

 素気無く押し離そうとするワルドに、キュルケは不思議そうな顔をする。たとえ恋人や婚約者がいても自分が言い寄ってこんなに冷たい態
度をとった相手は今まで一人も……、一人いたなと少し不機嫌になりながらも、彼の見てる方を見て、アプトムとルイズを発見して憮然とし
た顔になる。
 そこにいたのは、その一人であり現在彼女が最も嫌悪する男と、最近お気に入りになっている少女がいた。
 もし尻尾があれば、勢いよく振っているであろうルイズの姿は、キュルケに笑みを浮かばせるものであるが、その相手がアプトムであると
いう事実には顔をしかめざるを得ない。
 この光景を婚約者さんはどんな顔で見ているのかねとワルドを見て、その眼が嫉妬などとは縁のない冷たいものである事に気づく。
 なにこいつ、これが婚約者を見る眼なの? とキュルケは不快になる。こんなに不快な気分になったのはアプトムが主であるルイズに対し
て好意も悪意も抱いてないのだと知ったとき以来だ。
 そうして、もう一度ルイズたちの方を見ると、ワルドが見ている事に気づいたのだろう。顔を赤くして、真っ先にアプトムに駆け寄ったこ
との言い訳をしながらワルドのところに来て、ついでにキュルケを睨みつける。
 そんなルイズにワルドは微笑みかけるが、その眼は冷たいままだとキュルケは気づいていた。
 気に入らない。それが正直な感想だったが、だからといってどうこう言う気はない。貴族の婚約に本人の意思など意味を成さないのだと理
解しているキュルケには、ワルドがルイズに好意を持っていないからといって、文句を言う筋合いはないし、ルイズのほうがワルドに好意を
持っているのなら、それでいいのだろうと考える。
 つまんない。もう帰ろうかしら。などと思うキュルケだが、もう夜も遅いしシルフィードも疲れているだろうという配慮くらいはある。
 ついでに言えば、アプトムとワルド、種類は違うがそれぞれに対し好意を持っていて、しかし両方から好意をもたれていないルイズが心配
でもある。おそらく、彼女は帰る気がないだろうし。
 とりあえず、今日のところはラ・ロシェールで一泊して、その後の事はその時に考えようとキュルケは決意する。
 ちなみに、そんなキュルケを心配そうに見ているタバサがいたりする。
 彼女は、アプトムに対する敵愾心を隠さない親友が心配で仕方がない。いっそ、あのバケモノの真実について離してしまおうかとも考える
が……、

「キュルケ。あのルイズの使い魔について話したいことがある」
「あら? 何かしら」
「あの男はバケモノ」
「ふーん。そのバケモノって……、こんな顔をしているのか?」

 そう言ったキュルケであったはずの者はアプトムの顔をしていた。

 なんてことになる想像をしてしまい、背筋が冷たくなる。
 アプトムと吸血鬼退治に行った経験は、タバサの心に軽いトラウマを残していた。
 そんなふうに、それぞれに考え事をしていると、ギーシュがやってきて、あの男たちはただの物盗りのようだと報告してきた。
 そう、彼は一人真面目に賊の尋問をしていて、そのせいで描写されなかったのだ。決して存在を忘れていたわけではない。
 なんにしろ、それなら捨て置こうとワルドが言い。一行は、ラ・ロシェールに宿泊することになったのだった。
467名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 18:56:36 ID:lqbCBaIm
他のキャラたちのアプトムに関する評価が酷すぎるw
ルイズは可愛いけど
468ゼロと損種実験体:2009/02/22(日) 18:56:54 ID:GYVpz1Rk
投下終了。支援に感謝。

原作沿いから離れようとするアプトムとそれを許さない作者の水面下での熱い戦い。
なんてことは考えてなく、ルイズならこう行動するだろうと考えてると原作沿いになる不思議。
あえて原作から離そうとも考えてませんが。書くのが難しくなるだけだから。
469名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:15:19 ID:dIEZ6V8N
乙ー

>「ふーん。そのバケモノって……、こんな顔をしているのか?」
こえぇw怖すぎるわwww
オバケ嫌いなタバサならママンと同様の状態になるまで精神崩壊するほどのダメージだなw
470名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:19:42 ID:dolWr3NK


>>469
やってることはのっぺらぼうと同じだしなw
471名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:27:40 ID:mLB0Djfk
フェイトゼロからウェイバーとイスカンダルが召還される話は浮かんだんだがゼロの使い魔見たことがないから書けないっていう
472名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:29:51 ID:ciy470Ef

怪談話じゃないんだからw

>>471
型月は別スレでやれ
473名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:39:36 ID:slni4pDg
>>471
理想郷にいって来い
あるから。かなり前のだがな。完結してるし。
474名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:40:36 ID:HoyIvFpc
アプトム乙です
>>470
殺し屋さんを呼べばやってくれそうだ
2巻の「俺は一体何者なんですか!?」の彼にやったことを考えれば魔法とかにも対応してそうだし
長期契約という風に納得させれば使い魔もできそうだな
475名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:40:49 ID:slni4pDg
>>473
すまぬ下げわすれた
476名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:43:39 ID:/bG/YJD9
どんな人間にも化けるゾアノイドいたから
あいつ食ってれば変装なんて楽だな
477名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:48:04 ID:myzep+Ta
>>476
おいおい、確かあいつは、設定ではアプトムの仲間の一人だったはずだぞ。元々一人しかいなかったし、とっくに死んでいるから、どっちみち無理だけどな。
478名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:48:07 ID:bl940dPC
イスカンダル…デスラー総督召喚…
479名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 19:54:53 ID:Xy4M3ZNu
脳内召喚よゆうでした
480名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:22:43 ID:NzkCh7Vt
アプトムが一番の萌えキャラに見えるから困る
481名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:26:08 ID:lUDoorv3
>>480実際原作でもアプトムさんは萌えキャラだから困る
482名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:28:31 ID:4mION28b
デスラー総統はガミラス人だよ。

イスカンダルならサーシア(守とスターシアの娘のほう)を召喚。
赤ん坊を召喚して、ちい姉さまを真似して母親になろうとするルイズ。
しかしあっという間に十代後半の美少女に成長されてルイズ涙目。
もっともたった一年で充分な教育のできるキャラがゼロ魔にはいないんだけど。
483魔法少女リリカルルイズ:2009/02/22(日) 20:28:33 ID:PrNY3BbW
35分から投下させてください
484名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:30:30 ID:riIQ6PIF
脳内でいいなら十騎士第零位の騎士ラベンダードラゴン召喚とか

というか敵に捕らわれて助けに来てもらったら洗脳(とはちょっと違うけど)されてたとかヒロインポジションだよね>アプトム
485名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:33:58 ID:mRhV+lpq
>>483
万歳!万歳!!万歳!!!
復活だァァァァ!
待っていました!
と言うわけで全力で支援します!
486魔法少女リリカルルイズ:2009/02/22(日) 20:36:21 ID:PrNY3BbW
空を飛ぶ竜の背で感じる風は一時も休まることなく頬を叩き髪をなびかせる。
目に入りそうになった髪の一筋をかき上げたキュルケは指の間から見えるひときわ大きな雲の中におぼろげに光る何かを見つけた。
髪に当てた手をそのままに目をこらしていると、それは横に広がる輪郭を雲の中に映していき、なんの支えも無く宙に浮くその姿を見せていく。
「見つけたわ。あれ」
それこそがアルビオン。霧のベールをまとうが故に白の国とも呼ばれる浮遊大陸である。
その大陸にそびえる山に積もった万年雪が日の光を照り返し、まるで自らの内から発していたかのように輝いていたのだ。
キュルケが見たものと同じ光を見たタバサが、自らの使い魔である風竜の耳元で囁くと、それは翼を大きく羽ばたかせ首をアルビオンに向けた。
アルビオンの周りを囲む雲が後ろに流れるたびに、それまで淡い影だった大陸は徐々にはっきりとした輪郭と色を得ていく。
「ギーシュ、出番よ」
「ふふん。ぼくのヴェルダンデにまかせたまえ」
シルフィードの背に乗りラ・ロシェールから飛び立ったものの、キュルケ達はルイズがアルビオンのどこに行ったかは全くわからない。
それを見つけるための決め手こそギーシュの使い魔ジャイアントモールのヴェルダンデなのだ。
「さあ、頼むよ。ヴェルダンデ」
ギーシュが使い魔に命令する、と言うより麗しい女性のように頼まれたヴェルダンデは鼻を少し上げて左右に振り始めた。
モグラは元々嗅覚に優れた動物である。ジャイアントモールの嗅覚はさらに優れており、地中深くにある宝石を探し出し、嗅ぎ分けることすらできる。
それならヴェルダンデの嗅覚を使って水のルビーを見つければ、それをつけたルイズも見つけることができる。
ギーシュはそうラ・ロシェールでヴェルダンデと再会した後に蕩々と語ったのだ。
「ふんふん、なるほど」
「どう?ルイズはどこにいるの?」
ギーシュはさらさらの髪をかき上げ、ふっと鼻で笑うと答えた。
「わからない、だってさ」
「タバサ、ちょっと宙返りして。余計なもの捨てるから」
それを聞いたタバサは全く躊躇することなく真顔で頷く。
「わ、わ、わー、ちょっと待ってくれたまえ」
ギーシュの必死の叫びに何か思うことがあるのか、タバサはシルフィードの傾きかけた体を水平に戻す。
ただ、後ろを向いてギーシュを見る目は一見いつもと変わらないものであったが、被告人の言葉を聞く冷酷な裁判官のようでもあった。
「いいかね。いくらヴェルダンデの鼻が優れていると言ってもアルビオン全部の宝石の臭いが分かるほどじゃないんだ」
「それで?」
キュルケの二つ名は微熱。
だが、その言葉は吹雪よりも冷たい響きを秘めていた。
──つまらないことだったら落とす
とでも言いたげに。
「アルビオン全部はムリだけど見える範囲くらいなら十分嗅ぎ分けられる。それでも目で探すよりはずっと早いし確実なはずさ」
ギーシュはさらに説明を続ける。
ここで落とされたらメイジといえどもたまったものではない。
フライやレビテーションの魔法を使うにも限界はあるのだ。
「だからアルビオン上空をくまなく飛んで欲しい。必ず見つかる。いや、見つけてみせる」
「それしかないわね」
もう一度アルビオンを見たキュルケは溜息を一つついた。
ヴェルダンデが現れた時にはアルビオンが見つかればすぐにわかるというように聞かされていたのに随分と話が違ってしまった。
だからといってキュルケはここでルイズ探しをやめる気はない。
それどころか絶対に見つける気でいた。
「あなたが起きていればもっと別の方法もあったかも知れないわね」
キュルケは胸に抱いていたフェレットのユーノの背を毛並みに沿って撫でる。
まだ死んではいない。
しかし血を流しすぎた白い獣からは温かさよりも冷たを感じる。
「思ったとおりにはいかないものね」
シルフィードが雲の中に滑り込んだ。
視界が一瞬だけ白く覆われ、すぐに晴れる。
雲を抜けるとその下にはもうアルビオンの大地が広がっていた。


──思ったとおりにはいかない
まさしくその通りだ。
キュルケとギーシュは竜に乗り慣れていない。
タバサもシルフィードの主人ではあるものの未だ竜の乗り手として熟練しているとは言いがたい。
特に移動するアルビオンまでの航路の知識は船乗りには及ばないし、フネとの速度差も実感してはいなかった。
故に彼女らが思ってもいないことが起こっていた。
487魔法少女リリカルルイズ:2009/02/22(日) 20:37:35 ID:PrNY3BbW
窓の外を見るルイズの目に映るいくつもの雲は流れては消え、また消えては流れる。
だが、それは瞳に映るのみで心は全く違う二つのものを見ていた。
1つは彼女の婚約者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
手を引かれてラ・ロシェールの港に走っていくのはまるでおとぎ話の1シーンのようでもあり、夢のようでもあった。
彼がいればこの任務を必ず果たせると確信できる。
それに彼は魔法も満足に使えない自分のことを覚えていてくれたし、結婚まで申し込んでくれた。
その時のことを思いだし、ルイズは頬を赤らめ、ほうと溜息をついた。
もう一つは彼女の使い魔、ユーノ・スクライア。
剣と魔法を操り、無数の傭兵の前に立つ彼の後ろ姿は自分よりもずっと年下なのにとても頼もしく見えた。
彼は今一番近くにいて欲しい人。
だけどその後ユーノは追いかけては来なかった。
その時のことを思いだしたルイズはレイジング・ハートを固く握りしめた。
(ユーノ、私はここよ。こっちよ)
声は届かなくても念話なら届くかも知れない。
届けば空を飛べるユーノなら必ず追いかけてくるはず。
(早く来て)
ワルドの申し出にどう答えるか。
その答えはもう決まっていた。
だけど、どうしても言えずにいた。
ワルドの前に行こうとする足は止まり、答えを伝えようとすれば喉がつまる。
──ユーノならきっと喜んでくれるわよね
そうすればきっと答えられるような気がした。
ルイズは再び外を見る。
青い空が見えた。流れる白い雲が見えた。眼下には大地が見えた。
アルビオンはまだ見えなかった。
ユーノはどこにも見つからなかった。


これはシルフィードがアルビオンの大地に影を落としたのと同じ時刻のこと。
ルイズの乗るフネは未だアルビオンを離れた空にあった。


ヴェルダンデの鼻があるとはいえ、どこにいるかわからないルイズを見つけるにはアルビオン中を飛び回るしかない。
しかしシルフィードの背に乗り、空を飛ぶギーシュ達はルイズを見つける前に逆に見つけられていた。
「うわああ、来た、来た、来た!」
酷くうろたえてギーシュはちらちらと後ろを伺う。
「ちょっとは落ち着きなさい」
「そりゃそうだけど」
アルビオン大陸中央部に入ってからすぐの事だ。
たまたま後ろを見ていたギーシュは雲間に小さな影を見つけた。
何かと考えているうちにどんどん接近してくるそれを見続けていたギーシュは思わずそれはもう情けない顔──モンモランシーには見せなくない──をしてしまった。
それは風竜だったのだ。
ただの風竜ではない。背中に人を乗せている。つまりは竜騎士だ。
アルビオンはほとんどレコン・キスタの勢力下にあるという。
だったら、こんなところを飛んでいるのは間違いなくレコン・キスタ側の竜騎士だ。
杖を振りかざして「降りろ」と合図を送っているのが見えるほどに近づいたが、冗談ではない。
アルビオン王家に接触しようとしているトリステイン貴族が捕まってただですむはずがないではないか。
ルイズと一緒にいるワルドがレコン・キスタに着いていると予想されている今ならなおさらだ。
「もっとスピードは出ないのかい?このままじゃ追いつかれる」
「無理」
完結に答えたタバサの後ろでまたもギーシュは情けない声を上げる。
シルフィードも風竜ではあるがまだ子供。しかも、こちらは3人乗りで向こうは軽装の1人だけ。
どう見ても向こうの方が速い。
「ど、ど、ど、どうするんだよ」
追いつかれるのも時間の問題だ。
これ以上速度が上げられないシルフィードの下を村が通りすぎ、街道が通りすぎる。
草原を通り過ぎた後は森が広がっていた。
タバサは握りしめた杖の頭を上に向ける。
「私に考えがある」
タバサがあの時──学院で大砲を持ったゴーレムと戦った時──と同じように呟いた。
488名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:38:24 ID:mLB0Djfk
>>472>>473
申し訳ない、最近きたばかりなのでよくわかってなかった。
まぁ文才もないので書いてもろくなものにはならないんだが。
489名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:38:56 ID:feZvSXLh
支援
490魔法少女リリカルルイズ:2009/02/22(日) 20:39:05 ID:PrNY3BbW
サウスゴータ地方に配属された竜騎士である彼はいつもの通り哨戒を続けていた。
すでに王国軍が一掃されたこの辺りの任務で退屈をしていた彼は、大あくびの途中で思いがけないものを見つけた。
こんなところを風竜が飛んでいたのだ。
しかもその背に乗っているのはレコン・キスタに参加しているとは思えないどこかの学生らしき人だ。
つまりは不審竜と不審者である。
ぴしゃりと頬を叩いて眠気を晴らした彼は手綱を操り、風竜の速度を上げ不審な風竜を追った。
近づいて合図を送るが速度をゆるめる気配はない。
それどころか速度を上げて逃げようとまでしたのだ。
当然彼も任務を果たすべく速度を上げて追う。
逃げられるはずがない。風竜の大きさもさることながら乗っている人数の差から考えても無駄なことだ。
そうしてサウスゴータ近くの森林上空まで来た時だ。
逃げる風竜の周囲にいくつかの光点が突如発生したのだ。
「なんだ?」
彼もメイジだ。
その光点が何かはすぐに知れた。
魔法で作られた火球がカーブを描きながら飛んでくる。
自動的に目標を追いかける火の魔法、フレイムボールだ。
「くっ」
この風竜は残念ながら使い魔ではないが彼も竜騎士になったばかりの新米ではない。
音に聞こえた無双ともうたわれるアルビオンの竜騎士なのだ。
普段の訓練通りにマジックアローを飛ばし、一つずつ火球にぶつけ相殺していく。
「やるな」
その火球の起こす爆発に彼はいささか舌を巻いた。
火球の速度、大きさから考えても腕の悪いメイジではない。
おそらくトライアングル以上のメイジだ。
爆風が晴れると逃げる風竜が急激に上昇を始めていた。
「これを狙っていたか」
上空には折り重なった分厚く、濃い雲があった。


「しっかり捕まって」
タバサはそうぽつりといつものように言うと、キュルケの返事も聞かずにシルフィードの首を真上と見まごうくらい高く上げた。
「ひっ」
後ろからのギーシュの悲鳴を聞きながらキュルケはシルフィードの背びれに両手でしっかりとしがみついた。
途端、目の前に厚すぎて灰色になった雲が迫る。
その分厚さにキュルケは目の中に雲が入ってくるような錯覚を覚えて思わず目をきつく閉じた。
それは手ばかりでなく足でもしがみついているギーシュや不思議な掴まり方をしているジャイアントモールのヴェルダンデも同じだった。


逃げ続ける風竜が雲の中に隠れても彼はまだ余裕があった。
相手の風竜を操る乗り手の腕は悪くない。いや、彼の所属する竜騎士団の中でも中の上には位置するだろう。
まるで風竜に言い聞かせるように自在に操っている様子から考えると、あの風竜は使い魔なのかも知れない。
だが、いかんせんあの風竜には荷物が多すぎたし、乗り手は空戦の経験に不足しているようだ。
分厚い雲に隠れるという発想はいいが、入り方がいかにもまずい。あれでは飛ぶ方向がはっきりわかってしまうではないか。
先ほどの魔法の応酬で距離は開いてしまったが追跡に問題はない。
彼もまた手綱を引いて竜の首を上げ、雲に飛び込んだ。
──このままやつの頭を押さえる
視界が雲に覆われても焦りはなかった。むしろ余裕すらあった。
このような時には経験がものを言う。
その差を確信したが故に彼は目前にぼんやりとした竜の影を見つけた時、笑みさえその顔に浮かべた。

首の後ろをひんやりとしたものが掴んだ

それが何かを確認する暇さえなく、突如無数の針に首を刺されたような痛みを感じた瞬間、彼の心と体は力を失い自らの竜の背に身を横たえた。
491名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:39:41 ID:feZvSXLh
支援
492名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:40:15 ID:riIQ6PIF
しえーん
493魔法少女リリカルルイズ:2009/02/22(日) 20:40:28 ID:PrNY3BbW
投下終了です
494名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:45:40 ID:mRhV+lpq
>>493
しゃれにならない病気にかかったと読んだ時は心配しましたが、
無事、回復したようでよかったです。
支援絵、描かせてもらいます!
495名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:47:52 ID:mRhV+lpq
すいません。
なぜか、上がってしまいました。
496名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:48:34 ID:riIQ6PIF
復活祝の 乙
今まで待たされた分期待するんだぜ
497名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 20:59:10 ID:LxIIMVl3
リリカルルイズが復活だあぁ!お帰りなさい!!
498名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 21:31:23 ID:VveiFJRw
アプトムの人乙です。

>「ふーん。そのバケモノって……、こんな顔をしているのか?」
こ、こえぇ
499名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 22:36:31 ID:4mION28b
毎週週末には投下ラッシュがあるけど、今週も豊作で満足満足。
500名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 22:47:00 ID:pkDrojyj
アプトムの人乙。
シリアスな文章なのに、何で笑いを誘われるんだろう?ww

日本一の人も復活して欲しいw
501ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 22:52:44 ID:FvvTAlJ/
アプトムの方、リリカルルイズの方乙です。
第2話「祈祷書と動き出す歯車」投下予告させていただきます。
23時を予定しております。よろしくお願いします。

502ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 23:00:47 ID:FvvTAlJ/
ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 2 「祈祷書と動き出す歯車」

夜、ルイズの自室
明日の使い魔の品評会の前に、ルイズは溜息をついていた。
「せっかく姫様が来てくれたのに、明日の品評会に出られないなんて」
ルイズは、この品評会でニューの魔法を披露しアンリエッタから言葉を頂きたかったのだが、
自身の使い魔の存在が、ルイズの晴れ舞台を阻止したのだ。
「仕方ないだろう、オスマン殿が言った事なのだから」
ニューが、何度も聞いているのか、投げやりな態度で応える。
ルイズ達、三人の使い魔は既に学園内での認知はされていたが、
さすがに、王女を相手にニュー達の力を見せる訳にはいかなかった。
特に、ニューの魔法は下手をすれば、アカデミーが手を出すかも知れないので、
ルイズは自身の姉を思い浮かべ、渋々それに従った。
もっとも、キュルケとタバサは留学生という事もあり、特に落胆は無かったが、
当初、ルイズは優勝間違いなしと思っていただけに、溜息ばかりを付いていた。
その時、ルイズ達の部屋を叩く音が聞こえた。
誰だろう?そう思いながら二人が顔を見合わせる。
キュルケなら、勝手に入ってくるであろうし、タバサはそもそも部屋に来た事がない。
「どうぞ、あいていますよ」
ニューが取り敢えず、入室の許可を出す。
それを聞いて、部屋の扉を開ける音がして、フードをかぶった人影が入ってくる。
中に入るなり、小声で何かを言いながら、中の様子を確認する。
そして、徐にフードを取った顔を見た時、思わず驚き二人は声を上げた。
「姫様!」
それは朝、周りから見たアンリエッタの顔であった。
その反応に、特に気にせずアンリエッタが部屋のルイズに近づく。
「合いたかったわ!ルイズ」
そう言って、ルイズの手を取る。
「姫様、どうしてこんな所に!?」
「貴女に会いたいからに、決まっているわ!ずっと貴女とお話ししたかったの!
ルイズ、今日、私、道にいた貴女の隣に変わったゴーレムを見かけましたの!
初めて見ましたわ、ルイズ、貴女も使い魔召喚に成功したのですね、見せて下さらない?」
アンリエッタが早口でまくしたてるが、その中の内容が気になったのか、ルイズは言葉を濁らせる。
「姫様、そのゴーレムって、赤い羽根の様なものを付けていません?」
アンリエッタの背中に居る、ニューを見ながら困惑した顔でルイズが伝える。
「そうですわ、ルイズ、あれは何なのか知っていますの、教えて下さらない?」
アンリエッタが嬉しそうに、自身が見たゴーレムが何なのかを見る。
「姫様、後ろにいるのが、そのゴーレムだと思います」
ルイズが、後ろにいるニューを指差す。
それを見て、アンリエッタが振り返るとそこには朝、馬車から見たゴーレムが居た。
「そう、これです。ルイズ、このゴーレムは何ですか?」
アンリエッタが、彼女は初めて見た玩具の様に興奮気味な状態で更に手を強く握る。
「それは・・・私の使い魔です」
本当に、申し訳なさそうにルイズが声を出す。
「初めまして、アンリエッタ様、私はルイズの使い魔をしているニューと申します。」
丁寧に、ルイズが知っている限り、主にもやった事のない動作でニューが自己紹介する。
503ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 23:01:32 ID:FvvTAlJ/
それを見て、アンリエッタは驚きからか、握った手を弱める。
「話すのですか?あなたは一体・・・」
話した事がよっぽどショックだったのか、アンリエッタは言葉を失う。
「姫様、ニューはスダ・ドアカワールドと言う異世界からやって来たらしいです。
本当は信じたくないのですが、この世界の生物と認識するのが怖いのでその言葉を信じる事にしています」
「さりげなく、酷い事を言っていないか?」
ルイズの、自分の説明の中に、明らかに悪意のある部分を感じ取り指摘する。
ルイズとニューはお互いに、アンリエッタにニュー達の事を話した。
アンリエッタも、最初は驚いていたが、三人の行動を聞くうちにそれもなくなり、終には、笑いだす程であった。
「そうですか、あなた達三人がフーケを捕らえたのですか、今度何かお礼をしないといけませんね」
「いいですよ、姫様、コイツにお礼なんて」
ルイズが、ニューを指差しながら、謙遜する。
「ルイズ、そう言う事は私が言う事だ、ちなみに、お前は何も私にしてくれなかっただろう」
「調子乗ってんじゃないわよ、この馬鹿ゴーレム!」
ルイズが、いつもどおり拳を見舞いそれを見たアンリエッタが笑いだす。
室内には和やかなムードが漂っていた。
「姫様、ところで、何でこんな時間に?」
ルイズが、ふと気になったのかアンリエッタに理由を尋ねる。
アンリエッタならば、自室にルイズを呼んで人払いをすれば良いだけである。
「気になった事がありますので、それに貴女にある物を渡したかったのです」
アンリエッタはそう言うと、小さな辞書の様な本を取り出した。
「ルイズ、「始祖の祈祷書」を知っていますか?」
「たしか、始祖ブリミルが記述したという古書と言われる奴ですよね?」
ルイズが自分の知識から、知っている情報で応える。
始祖の祈祷書はその存在よりも、歴史上、数多の偽物とそれにまつわる物語を生み出してきた曰くつきの一品であった。
トリステイン王家が所有しているが、それを偽物だと言う貴族まで居る始末であった。
「これは、その始祖の祈祷書です」
「えっ!これが祈祷書ですか?けど、この祈祷書がどうしたのです」
ルイズが疑問を抱きながら、祈祷書を見つめる。
「私は数日前、夢の中で始祖の祈祷書を貴女に渡せと言われました。
そして、あなたが虚無の力を持っている、そう告げられました」
アンリエッタが、目をつむりながら数日前の出来事を話す。
「私が虚無・・・」
「ルイズ、虚無と言うのは確か4系統では無い系統では無かったか?」
講義で習った事を思い出しながら、ニューが虚無についての知識を披露する。
「そうです、今は失われてしまった系統、それが虚無です。そして、ルイズには虚無の系統であると言っていました」
今でも、おぼろげながらその光景が忘れられず、アンリエッタが呟く。
「けど、それは夢ですよね、だいたい、誰がそんな事を言っていたんですか?」
「はい、姿は解らないのですが、それは、光の化身と名乗っていました。そして、それはこうも言っていました。
この世界に邪悪なる物が現れようとしている。
そして、そこからさらに邪悪なる物が現れ、この世界を破滅に導くであろう」
暗い表情で、アンリエッタが話を終える。
(ルイズよ、汝の世界は大きな闇に包まれる。汝は戦わねばならん)
ルイズにはいつかの夢の言葉が思い出された。
(それって、私の夢でも言っていた事なのかな)
「・・・姫様、実は私も似たような夢を見ていたのです」
「まぁ、本当なのですか?ルイズ」
504ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 23:02:06 ID:FvvTAlJ/
アンリエッタがその事に興味を持ち、夢での事を説明する。
「あなたも、そんな夢を見るなんて・・・偶然とは思えないわ」
アンリエッタが頷くのを見ながら、ルイズは、ニューの方を見やると何か考え事をしていた。
「ニュー、何考えているの?」
「ドライセンの事を考えていたのだ」
ニューは先日での、モット伯での出来事を思い出す。
ドライセンは何者かの命令で動いていた。そして、それはモット伯まで知っていたのだったから。
「ルイズ、アンリエッタ王女にすべてを話そう」
ニューがルイズに伏せていた話の許可を求める。
(モット伯の事は秘密にしていたかったのに)
ルイズが、アンリエッタの方に顔を向ける。
ルイズ自身がここ最近の出来事は夢の様な出来事であっただけに、話すのは躊躇われた。
「かまいません、ニューさんお話し下さい」
アンリエッタは聞く気になっていた。アンリエッタにとってこの間の夢といい、
自分は何一つ知らない、だからこそ全部知っておきたかった。
ルイズは二人に見つめられて覚悟を決めて、隠しておいた話を切り出した。
モット伯の家に向かった事、そして、その途中でニュー達の敵であるドライセンと戦った事、
学園の宝物庫にある物がニュー達の世界である物であり、宝物庫にある獅子の斧をモット伯が狙っていた事。
ルイズは、本来秘密にしておくべき事をアンリエッタに明かした。
「そうですか、これで納得行きました。夢などでは無く警告であると言う事に・・・」
(レコン・キスタでは無い邪悪なる物、そして、ニューさん達の世界の魔物がこの世界に現れた事、
ハルケギニアに危機が迫っているのは本当の事なのですね。)
アンリエッタはすべてを聞いた後、自身の夢が唯の夢ではない事を確信するのであった。
「モット伯は私が喚問します。ルイズ、お告げ通りに私はあなたに始祖の祈祷書をお渡しいたします」
自身のやるべき事に従い、アンリエッタはルイズに始祖の祈祷書を渡す。
「いいのですか?これはトリステイン王家に伝わる大切な物なのに・・・」
「始祖の祈祷書は、私の婚姻に立ち会う巫女に貸し出すものです。私はルイズに頼もうと思ったから、時期が早まっただけです」
ルイズの顔を見ながら、アンリエッタが、嬉しそうに笑う。
「姫様・・・」
「けど、私はなにも力がありません。あなた達の力を借りる事になります」
「はいっ!ちょっと、ニュー!アンタも返事しなさいよ!」
「厄介な事になったな・・・まぁ、分りました。アンリエッタ王女、私達、アルガス騎士団も力をお貸しします。」
(帰るつもりが、厄介な事になった。
しかし、ドライセンといい、ルイズや姫様が見た夢と言いこのまま無事に済むわけは無いだろうな)
ジオンの残党がいるなら戦わねばならない。という理由はアンリエッタとルイズに力を貸す理由は充分であった。
「あなた達が力を貸してくれるのを、アンリエッタ、心より感謝いたします」
アンリエッタが畏まって礼をする。
その後、二人はアンリエッタを彼女の部屋の近くまで護衛した。
後日、二人を呼び出す約束をしながら。
「何か凄い事になっちゃったわね、私が虚無だなんて」
長年失われた、伝説の系統と言われても未だに、魔法が使えないルイズには喜べることでは無かった。
「そうだな、よりにも寄ってルイズがいきなり虚無だと言われたら、それは姫様も戯言だと思うよな」
もっともらしく頷き、ニューはルイズを見るがそこには居なかった。
「この馬鹿ゴーレム!何、ご主人様に失礼な口きくのよ!」
ニューにとっては、その日は珍しく、3度目の制裁を受けるのであった。
505ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 23:03:14 ID:FvvTAlJ/
次の日は品評会の日であったが、出場の必要の無いルイズ達には休みと変わらなかった。
アンリエッタは忙しいのか、その日のうちに城へと戻って行った。

そして、品評会から次の日 朝
ルイズ達が朝食を食べて出席すると空白の席が二つあった。
「あれ、キュルケとタバサはいないの?」
二人が朝食に来ないのは、ルイズは二人が寝坊しただけだと思っていた。
「タバサは知らないけど、キュルケはダブルゼータを連れて、この間のアルビオン旅行に行ったわよ、
ギーシュが勝っていれば、私達が行けたのに」
この間のレースを思い出し、モンモランシーは二人の居ない理由を語る。
タバサは時々、このように居なくなる事があったから驚かなかったが
「アルビオンに旅行って、今の状況知らないの?」
アルビオンは現在内戦状態で、旅行に行くなどと言う精神がルイズには理解できなかった。
「あの二人ならやりかねないわよ、私も明日から出かけるんだけどね」
「別に、アンタの用事なんてどうでもいいわよ」
つまらなそうに、ルイズが答える。
「そう言えばここ最近ミス・ロングビル見ないんだけど、あなた達何か知らない?」
モンモランシーの何気ない話題が二人をあせらせる。
「しっ、知らないわよ」
「ああっ!家族に何かあったんじゃないか」
突然自分達にとってのマイナスな話題に、ルイズとニューは慌てて否定する。
自身の趣味で雇った人間が盗賊であったなどと言ったら、
敵の多いオスマンはタダでは済まないし、それを見過ごす程老いぼれてはいない。
帰ってからすぐに、ルイズ達に緘口令をひいて、自身の失態を洩れないようにしていた。
「まぁいいけど、何であなた達出なかったの?多分優勝できたわよ」
優勝したの、ギーシュだったしと、モンモランシーが付け加える。
昨日の品評会は本命がおらず、結果的に、綺麗な鉱石を見つけ出し、献上したギーシュのヴェルダンデが優勝した。
「仕方ないじゃない、ニューの魔法を見られて、アカデミーに連れていかれる訳にはいかないし」
ルイズ自身も優勝を確信していただけに、欠場は悔しかった。
「まぁ、確かにあなたの使い魔は凄いからね」
「使い魔の部分を強調していない?モンモランシー」
ルイズがこめかみをひくつかせながら、モンモランシーに笑顔で犬歯を剥く
「だって、ニューは凄いじゃない、攻撃だけでは無く、
回復まで使えるし、何時だったかゼータを蘇生させたのは先住魔法よ」
自身が、水系統であり、傷を治す事が出来るだけに、ニューの回復魔法は凄まじい者であった。
「リバイブは疲れるからあまり使える事は出来ないがな」
「それもだし、マディアも凄いわよ、普通ルイズが教室爆破した時はけが人の手当てが大変だったのよ」
一年の頃、自身が怪我しているにもかかわらず、
更に重傷のギーシュを手当てした時の苦労を思い出し、モンモランシーはその事を振り返る。
「ちょっと、モンモランシー、ニューにあんまり話しかけないでよ、コイツは私の使い魔なのよ!」
二人が近くなった事を気にして、その間にルイズが割って入る。
その後、いつも以上に気合の入った挑戦で、教室は全壊し、
ニューの魔法が改めて頼りにされているのをモンモランシーは実感した。
506ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 23:04:22 ID:FvvTAlJ/
それから3日後、ルイズ達は約束通りアンリエッタに呼び出され、アンリエッタの私室へとやって来た。
(さすがは、王族だな・・・)
アンリエッタの私室は小さいながら、調度品などはやはり王族としての風格を漂わす物であった。
「ルイズ、ニューさん大変な事が起こりました。」
そう言った、アンリエッタの顔は暗く緊張感が現れていた。
「今朝、モット伯が・・・・死にました」
「うそ!」「なんだって!」
ルイズとニューもモット伯の死に驚きの声を上げる。
「死因は自殺と言う事ですが、不審な点が多すぎます」
一昨日、アンリエッタは3日後にモット伯の喚問をする為に、使者を送ったばかりである。
しかし、モット伯は今朝、毒物をワインと飲んで、死んでいたと言う。
「いったい誰が・・・」
「おそらく、レコン・キスタの手の物でしょう」
「レコン・キスタ・・・」
ルイズもその名前には聞き覚えがなかった。
「アルビオンの反乱軍の組織名です。このトリステインにも、入り込んでいると言われております。
おそらく喚問の情報を聞きつけて、さきにモット伯を始末したのでしょう」
アンリエッタが、沈痛な面持ちでつぶやく。
アンリエッタは今回の喚問を表向きはただの、謁見のみと言う情報であった。
しかし、レコン・キスタはモット伯の名前が危険だと気付き、処分したのであろう。
レコン・キスタの存在は掴んでおり、一部には内通者がいる事は掴んでいたが、特定までは出来なかった。
今回の事でも、アンリエッタ自身にしてみれば、後手に回ったと言える。
「ルイズ、レコン・キスタの次の目標はおそらくこのトリステインです」
「この国だと言うのですか、それにまだ、アルビオン王国軍が居るじゃないですか!」
ルイズが知っている限り、アルビオンは現在内戦中である。
アルビオンはアルビオン王立空軍を始めとした、強力な軍事力を保有している。反乱軍に負けるとは思えなかった。
「反乱軍の首謀者はオリヴァー・クロムウェルと言う男で、噂では虚無のメイジ等と呼ばれております」
当初は、一部の貴族と平民の反乱かと思われていたが、
徐々に、貴族を取りこみ平民を増やしながら、卓越した情報戦を展開し、攻守を逆転してしまった。
もはや、アルビオン軍はニューカッスル城にまで追い詰められていた。
「この間言った通り、ルイズ、貴女に頼みごとがあるのです」
「はい、姫様私でよければ、何でも申して下さい」
礼をしながら、ルイズが片膝をつく。
(安請け合いをするな、ルイズ!)
ニューがその様子を見て、ルイズを罵倒する。その状況で、出される頼み事は決して簡単なことでは無い。
(しかし、モット伯はドライセンとつながりがあった、そして今回の自殺といい無関係ではないだろうな・・・)
モット邸の所に現れたドライセン、
そして、そのモット伯を自殺に追い込んだレコン・キスタ・・・それは、何かしらの繋がりを示していた。
「姫様、それは危険な事ですよね?」
「ニュー、アンタは黙ってなさい!」
ニューが意図を含んで、アンリエッタに問いかけるのを見て、ルイズが不快感を表す。
しかし、アンリエッタは不快感を示さず首を無言で縦に振るだけであった。
「いいのです、危険な事に変わりはありません。頼みたい事とはあなた達に、
アルビオンに赴きアルビオン皇太子、ウェールズ・テューダー様から、手紙を回収してきて欲しいのです」
「内戦地区に、ルイズを送り込むのですか!?」
自身が考えていたレベルよりも、過酷な任務にニューも声を荒げる。
ニューは精々、レコン・キスタの内通者が町に居ないかを見つけて、報告するだけだと思っていた。
しかし、出された任務は、内戦地区への潜入及び回収である。
ルイズは、素人の上に旅慣れていない。そんなルイズを送り込むなど正気の沙汰とは思えなかった。
507ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 23:05:20 ID:FvvTAlJ/
「危険な事は解っています。しかし、その手紙をレコン・キスタはおそらく狙っており、
それを口実にレコン・キスタはトリステインを攻め入るでしょう」
「だからと言って、ルイズは素人です。こう言った任務に適した人物はいないのですか?」
おそらく、こう言った事を行うのに適した人物がいるであろう。ニューはそう思いアンリエッタに詰め寄る。
「軍人の中にはレコン・キスタの息のかかっている者もいます。
信頼できる人物に頼みたいのです。もちろん、腕の立つ護衛をつけます」
「ニュー、アンタは黙っていて!姫様、このルイズ、必ず使命を果たして見せます」
感極まったように、ルイズが承諾する。
「勝手に、承諾するな!今は、ゼータやダブルゼータが居ないんだぞ!」
(私だけでは、負担が大きすぎる)
ニューは二人に劣っているとは思っていない。しかし、自分が全てを行えるとも思っていない。
それは、尊敬するアレックスやナイトガンダムも同じであろう。
二人との仲が悪かった頃のニューなら絶対考えないであろう発言であるが、強敵との戦いや、
数多くの修羅場を潜り抜けて来ただけに、今回の任務はあの二人の力は必要であると感じていた。
また、戦いに勝つために私利私欲を考えず、時に自分が犠牲になりながらも、
自分達を支持するアムロはニューにとって、尊敬する一人であった。
「ニュー・・・アンタ、ダブルゼータやニューが居ないと戦えないの?」
ルイズが、先ほどの熱くなった表情から、途端に冷笑と軽蔑の籠った眼差しに切り替わる。
「何、ルイズそれはどういう事だ?」
ルイズのその言葉に何かを感じたのか、ニューも切り返す。
「別に、アルガス騎士団の隊長などと言っている癖に、二人が居ないと何もできない何て言うから、
少しねぇ・・あなたが臆病者だなんて、初めて知って驚いているだけよ」
そう言いながら、ルイズが含みのある視線を送る。
(ニューが居ないと、さすがに私だけでは任務は行えない。ここはニューを挑発して上手く動かさないと)
ルイズの事を付き合っているうちに、動かすポイントを見つけたニューだが、それは、ルイズも同じである。
ニューとて、聖人君主では無い、言われて嫌な事はある。そして、ルイズはそれを見つけていた。
「ふざけるな!これは大事な事なんだぞ!」
ニューも珍しく激昂する。
ニューにとってのそのポイントはゼータとダブルゼータである。悪と言う訳ではないが、
だからと言って必要以上に慣れ合う訳でもない。
特に今でも、二人より劣ると思われるのはニューにとっては遺憾であった。
3人は戦友であり、ライバルでもある。見下してはいないが、かといって劣っているとも思っていない。
その関係がアルガス騎士団の扱いを難しくさせる原因であり、アレックスを悩ませていた所であった。
「そう大事な事、だから二人を待ってはいられない。
それに私はあなたの事を信用しているの、あなたが二人に劣る訳ないわよね、法術隊長のニュー?」
ニューの肩書を強調しながら、ルイズがささやく。
その様子を見て、アンリエッタが心配そうに二人の顔を見やる。
「当然だ、あの二人が居れば成功率が上がるだけで、私一人でも問題ない、
ただゼロのご主人様が心配だったから保険をかけただけだ、
アンリエッタ様、主ルイズと、このニューその任務、遂行させていただきます」
ニューが片膝をつき、アンリエッタに承諾の意思表示をする。
「やっていただけるのですね!ルイズ、ニューさん、よろしくお願いします」
そう言いながら、自身の指輪を外し、ルイズに手渡す。
「これは水のルビーです。これを見ればウェールズ様はきっとお分りになってくれます」
自身にとっては思い出の品であるが、ルイズ達の身分を証明する事になるだろう。
「では、失礼いたします」
二人が、一礼し、部屋を出ていく。
「頼みましたよ、ルイズ、ニューさん」
誰に聞こえるともなく、アンリエッタは呟き窓から外を見る。
自身の最愛の人が居る大地は暗い雲に包まれていた。
508ゼロの騎士団:2009/02/22(日) 23:09:20 ID:FvvTAlJ/
「23 ルイズ、頼みましたよ」
王女 アンリエッタ
ルイズに、始祖の祈祷書を託す。
MP 30 (相手のHPを吸い取る。)


「24はぁ、優勝すれば賞金が手に入ったのに」
香水のモンモランシー
ギーシュの恋人?
MP 300


ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 2

目の前に、異形ともいうべきものが現れる。
彼は自分がもうすぐ死ぬのではないかとその時思っていた。
「いやだ、私は死にたくないのだ」
それは何も言わなかった。
ただ、それは、指輪をかざすのみであった。
「やめてくれ!やめて・・・」
言葉が途切れ、瞳に正気を失う。
彼はただ、グラスをあおる。
「おやすみ・・・」
その一言を最後に、朝まで沈黙が訪れた。

以上で投下終了です。

キュルケ達のアルビオン行きと、コルベールケンタウロススペシャルが書きたい為に、
2部の1話にしようとしたのですが、あまりにも馬鹿らしいので番外編として書きました。
次回の3話「三人と吸血鬼退治」は前中後の三編に分かれています。

509名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 23:17:39 ID:jla1KvM/
>MP 30 (相手のHPを吸い取る。)
ワロタ 最新刊を思い浮かべるとイメージばっちりw
510名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 23:30:14 ID:X7CUmJCq
最新刊のネタバレ話なんかして良いのか?
511名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 23:34:48 ID:PX3NtJGt
いちいち細かいことで噛み付かないでスルーしろよ
しつこいとバレコピペ貼っちゃうぞ
512名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 23:40:32 ID:PJAqpWDB
スルーしてやってもいいが、お前の態度が気に入らない(AA略
513名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/22(日) 23:55:10 ID:3JhO/X2z
シエスタが死にます
514毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:05:22 ID:kErRstCk
どうも、毒の爪の使い魔の第31話前編が書き終わりました。
予定その他が無ければ0:10から投下します。
515名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 00:10:44 ID:XbjE7zCe
支援
516毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:11:18 ID:kErRstCk
では、時間ですので投下開始します。

ルイズは、ぼんやりと夢を見ていた。
故郷であるラ・ヴァリエールの領地に在る、屋敷の夢だった。
夢の中のルイズは六歳ほどで、屋敷の中庭を逃げ回っている。
姉達と比べられ、魔法の覚えが悪い、と親に叱られ、それで逃げているのだ。
中庭をあっちこっちへ逃げ回り、そして…ルイズは自身が『秘密の場所』と呼んでいる所へ逃げ込んだ。
そこは中庭にある池で、ルイズが唯一安心できる場所だった。
その周囲には季節の花々が咲き乱れ、小鳥が集い合唱する綺麗な石のアーチとベンチがある。
池の中央に点在する小島には綺麗な白い石で作られた東屋が建っていた。
見た目にも非情に整った美しい池である。
その池には一艘の小船が浮かべてあった。
舟遊びを楽しむ為の物であったが、現在ではこの船で舟遊びを楽しむ者はこの屋敷にはいない。
姉達は成長し魔法の勉強で忙しく、軍務を退いた地方のお殿様である父は近隣の貴族との付き合いと狩猟以外に興味は無く、
母は娘達の教育とその嫁ぎ先以外、目に入らない様子だった。
故に、忘れ去られた場所であるこの池を気に留めるのはこの屋敷ではルイズ以外無く、
同時にルイズにとって嫌な事があった時のこの上ない、絶好の隠れ場所となった。

ルイズは小船に乗り込み、船着場から漕ぎ出す。
池の中央辺りに来たところでルイズは漕ぐのを止め、立てた膝に顔を埋めて泣き出した。
そんな風にしていると、小船の上に唐突に誰か他の人の気配がした。
誰だろう? とルイズは思った。
ふと、いつも自分を抱え上げ、この場所から連れ出してくれた優しい子爵の姿が頭に思い浮かんだ。
憧れの貴族であり、幼い頃に父同士で結婚の約束も交わした人。
しかし、ルイズは首を振った。
”もうここにあの子爵が来る事は無い”
子爵は薄汚い裏切り者だったのだ。自分が持っていると言う力を狙った貪欲な男。
皇太子の命を狙い、結婚を断った自分をも手にかけようとした残忍な殺人者。

そして、あの男は死んだ……。
あのピエロによってこの世から消された…、永遠に…欠片一つ残さず…。
だからここへあの子爵が来る事は無い。…では誰だろう?

すると、その何者かはルイズの肩を叩いた。
「誰?」
尋ねながら顔を上げ……ルイズは目を丸くした。
目の前に立っている、自分の肩を叩いたその人物はタバサだった。
「タバサ? な、何であなた此処に!?」
驚きながら立ち上がるルイズ。夢の中の事なので、ルイズの姿はいつの間にか現在の十六歳に戻っていた。
タバサは静かに首を振る。
「解らない。気が付いたらあなたが目の前にいた」
「…そう」
「それよりも、此処は何処?」
「何処って、わたしの実家の……って!?」
ルイズは周囲を見回し、絶句した。

いつの間にか…周囲の風景はガラリと変わっていた。
澄み渡った青空は赤黒くなっており、辺りに暗闇を振りまいている。
池は色鮮やかな真紅に染まり、何処までも大海の様に広がっている。
そう、周囲に岸辺は見当たらない。季節の花も、池の小島も、屋敷も、何もかもが見当たらなかった。
そんな周囲の光景にルイズは暫し呆然となった。
「…何よ、これ?」
「解らない」
ルイズの独り言にタバサが静かに返す。
ルイズは屈むと真紅に染まった池の水を眺める。
「何かしら? この赤い水」
言いながら手で掬う。ドロリとした感触が手に伝わる。
水とは思えないその感触に思わず背筋が震える。
517毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:13:57 ID:kErRstCk
「な、何よ、この水?」
「水じゃない」
タバサが言いながら、その真紅の液体を覗き込む。
ルイズは怪訝な表情でタバサを見つめる。
「水じゃない? じゃあ…何よ?」
ルイズの問いかけにタバサは直ぐに答えた。
「血」
「血!?」
驚き、反射的に掬った掌を裏返す。
掌に乗った真紅の液体が池に落ち、波紋を作る。
慌ててルイズは小船の上の毛布で手を拭った。
毛布が変わりに赤く染まったが気にしない。
手を拭い終わり、呼吸を整える。
そんなルイズと対照的に、タバサは血の池を目の前にしても実に落ち着いていた。
「あ、あなた…よく落ち着いていられるわね?」
「慣れてる」
「…そう」
少し考え、ルイズは納得する。
彼女はガリアの騎士団の一員として多くの任務をこなして来たのだ。
当然、血を見る様な事も多々あったはず。慣れているのは当たり前と言えた。

と、タバサの目付きが変わった
どうしたの? と尋ねながらルイズは彼女の視線の先へ目を向ける。
すると、そこに一つの人影が見えた。
誰だろう? そんな事を考えていると、徐々に人影の姿がハッキリと見えてきた。
それは実に見覚えのある人影だった。
二メイル近い長身に紫色のコートを着込み、同色の帽子と長いマフラーを身に着け、両の袖から爪を生やした猫の亜人。

「「ジャンガ」」

二人は同時に亜人の名を口にした。



自分の名を呼ばれてもジャンガは血の池の上に呆然と立ち尽くしている。
ただただ静かに足元に広がる血の池を見つめ続ける。
「どうしたのよ、ジャンガ?」
ルイズは再度声を掛けた。が、やはりジャンガは答えない。
返事を返さないジャンガにルイズは頭にきた。
怒鳴りつけてやろうとして……しかし、ジャンガの悲しげな表情に気が付いた。
どうしたんだ? と考えているとジャンガは爪で足元の血を掬う。
無論、爪の隙間から血は次々零れ落ちていく。
その様子をジャンガは静かに見つめる。

『随分、流れたな〜…』

唐突に声が聞こえた。
それがジャンガの物である事は二人とも解ったが、聞こえ方が少々変だった。
目の前にジャンガはいるのに、声は目の前から聞こえているのではない。
なんと言えばいいのだろう? 周囲のあちらこちらから同時に聞こえてくるような感じだ。
洞窟の中で声を発すると辺りに響き渡って耳に届く、それと似ている。
ジャンガの言葉は続く。

『俺の爪で流れた血……これだけの量になっちまったんだな〜……』

その言葉に二人は血の池を見渡す。
何処までも続く赤い池――これが全てジャンガの仕業だと言うのか?
518毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:17:44 ID:kErRstCk
『まぁ…そりゃそうだろうな…、何人殺したかも…覚えちゃいないんだしよ…』

そんな風に続けるジャンガは、誰かに話すと言うよりは独り言を呟いているような感じだった。

『最初に殺したのは……誰だったっけな…?』

ジャンガがそう呟いたと同時に、周囲の風景がグニャリと歪んだ。
歪んだ風景は別の物を形作っていく。
そして目の前に現れたのは、此処とは別の光景だった。
家の中らしいそこで、誰かが小さな子供を痛めつけている。
痛めつけている二人の男女も小さな子供もどうやら人ではなく亜人のようだった。
男女も子供も猫顔の亜人だ。
男女は鬼のような形相で子供を痛めつけていた。

――まったく、お前には困った物だ!――

――他所様の子に怪我を負わせるなんて…恥を知りなさい!――

怒鳴り散らしながら、男女は更に子供を痛めつける。
その子供は薄い紫色の毛をしており、両手は指の変わりに真っ赤な三本の爪が生えていた。
それを見てルイズとタバサは理解した。…あの子供はジャンガだと。
どうして一目見て解らなかったか? それは彼が子供だからだけではない。
彼はいつものコート姿ではなく、ボロボロの雑巾を張り合わせた様なみすぼらしい服を着ており、
首にはマフラーも巻いていなかったのだから。

幼いジャンガは傷付きながらも困ったような表情で男女を見上げる。

――だって……あいつら、俺を苛めるんだよ…。この手が不気味だって…、化け物って…――

しかし、幼いジャンガの訴えを男女は聞き入れない。
その頬面を男が引っ叩いた。

――うるさい! 口答えをするな! お前がどうなろうと知った事か!――

――そうよ! 貴方の手が不気味なのは見れば当然でしょ? 私達だってそんな手はしていないわ。
貴方だけなのよ…そんな気色の悪い、化け物みたいな手をしているのは!――

――だって…――

何かを言おうとしたジャンガの頬面がまた叩かれた。
今度は女の方だ。

――口答えをするんじゃないわよ! はぁ……なんで、貴方みたいな化け物が産まれたのかしらね?
私はもっと…優しくて、理知的で、可愛い子供が欲しかったわ――

――お前の所為じゃない。…悪いのはこんな姿で産まれてきた、このガキだ――

ガックリと肩を落とす女を男が慰め、床に蹲るジャンガを憎々しく睨み付けた。


ルイズとタバサは男女の会話の中に気になる単語を聞いた。
目の前の女のジャンガに対する言葉……産まれた、子供。
「もしかして…」
「…ジャンガの両親?」

二人が頭を悩ます間にも目の前の話は進む。
519毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:21:56 ID:kErRstCk
――もう、限界…。こんな子要らないわ…――

――そうだな――

母親が呆れ果てた口調で言う。
父親もそれに同意し、頷く。
ジャンガは訳も解らずに自分の両親の顔を交互に見比べる。

――父ちゃん? 母ちゃん?――

そうジャンガが呟くと、父親がジャンガの首を絞め始めたのだ。
苦しさの余り、ジャンガは爪で父親の手を引っ掻いた。
父親は手に付けられた傷の痛みに思わず手を引っ込める。
解放されたジャンガは苦しそうに咳き込んだ。

――な、何するんだよ?――

――決まってるだろ!? お前はもう要らないんだよ!――

――要らない?――

――そうよ! 他所様には迷惑を掛けるわ、私達の言う事を聞かないわ、正直もう限界なの!――

――要らない…? 俺の事…好きじゃないの?――

――バカ言うな! 誰がお前みたいな化け物を好きになるんだよ!? その気色悪い手を自分で見てみろ!――

――ああ嫌だ嫌だ…、こんなのが私のお腹の中から出てきたなんて……気色悪い事この上ないわ――

――こんなの…、化け物…――

――好きになってほしいなら、大人しく死んでくれ! 死んでくれたら礼の一つも言ってやるよ!――

――貴方が生きている限り、私もこの人も幸せにはなれないの。だから…死んで頂戴!――


目の前の光景に二人は呆然となり、同時に激しい嫌悪感と怒りを覚えた。
ジャンガの両親の言葉はあまりにも酷い、酷過ぎる。
子供への親の愛情と言う物は欠片も感じられない。
魔法が出来ないルイズも叱られる事こそあったが、それでもここまでの酷い仕打ちを受けた事は無い。
タバサは論外だ。幼少時代は常に優しい両親と共にあったのだから当然と言える。
そんな二人はふと思い出した事があった。
以前のジャンガとの決闘…、その時の命乞いで彼は親に良い思い出が無いと言っていた。
その時はただの出任せかと思っていたが、それは違ったのだ。
――彼は本当に親に恵まれなかったのだ。
手の形が多少違うだけで化け物扱い…、苛められていたというのに庇ってももらえない。
これでは親と言う物を嫌悪するようになっても仕方がない。

『…ああまで言われて、黙ってられるかよ…』

ジャンガの声が聞こえ、二人は顔を上げる。そして、同時に目を見開いた。
目の前は真っ赤に染まっていた。迸る鮮血で彩られているのだ。
その鮮血の中央に幼い彼は立っていた…、量の爪から鮮血を滴らせ、体中に返り血を浴びながら。
彼の足元には体中を切り刻まれた両親の屍が横たわっている。
それを見下ろす彼は無表情だった。
彼は血の滴る爪を自分の目の前に持ってくると、ジッと見つめた。
それと地面に横たわる両親を交互に見比べる。
520名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 00:22:13 ID:dubz+v5m
支援
521毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:26:16 ID:kErRstCk
やがて、彼は冷たい視線を両親に向け、口を開く。

――なんだ…、こんなに弱かったのか…? 口だけかよ…ザコが――

幼いジャンガはそう吐き捨てた。


『…初めて殺したのがテメェの親だった…』

目の前の光景が消え失せ、あの血の池とその上に立ち尽くすジャンガが現れた。

『愛情だか何だか知らないが……俺は殺したあの二人には特に特別な感情は抱いていなかった…。
いや、寧ろ……目障りだった。やりたい事をやらせてもらえず、毎日毎日道具のように扱き使われて…最悪だった。
殺した瞬間、凄く気分が良かった。これでようやく静かになる…、自由になる…、そう考えると実に清々しい気分になった』

と、血の池が消え、また別の光景が姿を見せる。

暗い…路地裏と思われる場所。
そこで幼いジャンガは他の裕福そうな亜人の男を見下ろしていた。
男は身体に切り傷を負い、倒れたまま涙目で命乞いをしている。
幼いジャンガは召喚された当時、当たり前のように浮かべていた凶悪な笑みを浮かべている。

――助かりたいのか? 残念だなァ〜、テメェはあの世行き決定だゼ。ああ、金目の物は置いて行けや……キキキ――

そう言って幼いジャンガは爪を振り下ろした。
物を言わなくなった男からお金等を剥ぎ取ると、その場を意気揚々と引き上げた。

『…あのバカ親共を殺してからは、随分と長い間をボルクのスラム街で暮らしたもんだ…』

今のジャンガの声が響く中、目の前の場面は次々と変わる。
何れも幼いジャンガがスラム街で行った悪事の数々だった。

『時には盗み、時には脅し、時には殺した…。罪悪感も何も無ェ…、それが俺の生き方だからよ』

ジャンガのターゲットは相手を選ばなかった。小さな子供だった時もあれば、年老いた老人の時もあった。
何れの場合もジャンガは躊躇せずに相手から物を奪った。

『そんな生活が五年も続いた時だったか? ――あいつが現れたのはよ』

また別の光景が広がった。



ルイズやタバサと同年齢位のジャンガの姿が見えた。
手には奪った食料や水、金品の類が詰まった紙袋を抱えている。

――キキキ、大量大量。これだけありゃ暫くは困らねェゼ――

笑いながらジャンガは意気揚々と歩いていく。
と、前方に地面に倒れている人影を見つけた。
近寄ってみると、それはどうやら女性のようだった。
その小柄な体付きは、まだ少女と言ってもいいだろう。
長く綺麗な桃色の髪が背中に靡いている。

ルイズはその髪の色が自分や大好きな一つ下の姉に似ている事に気が付いた。

ジャンガは暫く地面に倒れる”それ”を見つめていたが、無視を決める事にしたようだ。
522毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:29:56 ID:kErRstCk
――行き倒れなど、ここでは珍しくないからだ。
そして、此処で暮らす者は自分が生きるので手一杯。他人を助けようなど、夢にも思わない。
ジャンガもそれに習い、横を通り過ぎるとそのまま歩き去ろうと、歩を進める。

グゥ〜〜…

――なんとも、間抜けな音が響き渡った。
その音にジャンガは後ろを振り返る。
そこには少女が倒れているだけだった、他には誰もいない。
気にしない事にしたのか、ジャンガは再び歩き出す。

グ、グゥ〜〜…

――またしても音が響いた。
イライラした様子でジャンガは後ろを振り返る。
少女は微動だにせずに倒れていた。

――誰もテメェの世話なんかしねェよ…、此処に来たのが運の尽きだゼ。じゃ、あばよ…――

冷たく突き放す言葉を吐き捨て、ジャンガは再び歩を進める。

グググ、グゥ〜〜…

――先程よりも一際大きい”腹の虫”が鳴いた。
ジャンガは遂に堪えきれなくなったのか、少女に向かって怒鳴った。

――だァァァ〜〜! ルセェんだよ!? 行き倒れなら行き倒れらしく、とっととくたばってやがれ!!?――

グゥ、ググゥ、ググググゥ〜〜…

――返事は更なる腹の虫の大合唱だった。



――ハム、ハグハグ、ングング、モグモグ――

ジャンガは呆然となっていた。
彼の目の前では、行き倒れの少女が凄まじい勢いでパンやら肉やらを平らげ、水を飲んでいる。
それらは彼女の腹の虫の大合唱に耐え切れなかったジャンガが差し出した物だ。

――ぷっっはぁ〜〜〜……生き返ったぁ〜〜♪――

食料を粗方食いつくし、少女は満足げな表情を浮かべた。

その少女の顔を見てルイズは目を見開く。
「…わたし?」
そう、その少女は随分とルイズに似ていた。
ネコ耳や尻尾など、亜人としての特徴もあったが、顔は実に良く似ている。
だが、顔が似ているだけあり、ある一点の違いが彼女としては我慢が行かなかった。
それは…”胸”。
そう、顔がそっくりなその少女は胸があった。
特別大きいと言うわけではないが、一目見てハッキリと解る位には大きかった。
「…別に羨ましくないわ」
一言そう吐き捨てると、目の前の光景に向き直った。

少女はジャンガを真っ直ぐに見つめるとニッコリと微笑む。
523毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:34:02 ID:kErRstCk
――ありがとう、おかげで助かりました――

――ああ、そうかよ。…なら、とっとと失せろ――

そう言い、ジャンガはその場を立ち去るべく、歩き出した。

――ったく、余計な出費をしちまったゼ。…クソ――

そんな悪態を吐きながら歩くジャンガの背に、少女が抱きついた。
ジャンガは苦虫を噛み潰したような表情で背後の少女を振り向いた。

――何の真似だ?――

――ねぇ、貴方の名前は?――

――…俺は”とっとと失せろ”と言ったぞ?――

――名前は?――

――失せろ――

――名前――

――失せろ――

――教えて――

人でも殺せそうなジャンガの鋭い視線にも少女は怯まない。見た目に反して中々気の強い少女だ。
そのまま暫くやり取りは続き、互いに黙った。
ジャンガは少女を睨み付け、少女はジャンガを真っ直ぐに見つめる。
やがて、ジャンガは大きくため息を吐くと、渋々と言った感じで口を開く。

――…ジャンガ――

――え?――

――ジャンガ……それが俺の名前だ。知ってる奴からは”毒の爪のジャンガ”って呼ばれてるがよ――

――ジャンガ…、いい名前だね。”毒の爪のジャンガ”ってのもカッコいいかも――


『正直、自分の名前がどうとかなんて、考えた事も無かった。”毒の爪のジャンガ”の通り名もいつの間にか付いていた。
カッコいいかどうかなんて解らないし、解る必要も無かった。ただ、”ああ、そう呼ばれてるんだな”て位の認識だった。
だから……素直に自分の名前を褒められて、何となく胸が暖かくなった感じがした時は、正直と惑った…』


――な!?――

見て解る位、ハッキリとジャンガは同様の色を浮かべる。
その様子に少女は意地の悪そうな笑みを浮かべた。

――ああ〜〜照れてる〜♪――

――ンだとコラッ!? テメェ、刻むぞ!?――

――そんな言葉使いなのに、可愛い〜♪――

笑う少女は実に楽しそうだ。
524毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:37:05 ID:kErRstCk
ジャンガは暫く少女を睨み付けていたが、忌々しそうに鼻を鳴らすとそっぽを向いた。
少女はそんなジャンガに歩み寄る。

――ありがとね、ジャンガ――

――チッ、…名前は教えたんだから今度こそ失せろ――

そう吐き捨て、ジャンガは今度こそ立ち去るべく歩き出す。
その腕に少女が抱きついた。
ジャンガはため息すら出ない様子だ。
腕にしがみ付いた少女をジロリと睨みつける。

――まだ何かあんのかよ?――

――うん――

――…なんだよ?――

――連れてって――

――……はぁ?――

思わず間抜けな声がジャンガの口から漏れる。
無理も無い事だろう。初対面の男に面と向かっていきなり「連れてって」と言う奴が何処にいる?
――ジャンガの目の前に一人いるが…。

――何処へだ…?――

――貴方の行く所――

――…俺は寝床へ帰るんだよ――

――うん、そこでいい――

――一緒に来るつもりか?――

――そう言ったじゃない?――

――張っ倒すぞ!?――

――ふざけて言ってるんじゃないの…――

――ああ?――

――私……帰る家が無いの…――

――ああそうかよ? 俺には関係無ェな…――

歩き去ろうとすると、また腕を掴まれる。

――連れてって――

――…あのな――

――お願い…――

ウルウルとした瞳で見つめてくる少女にジャンガも流石に困った様子だった。
525毒の爪の使い魔:2009/02/23(月) 00:39:59 ID:kErRstCk
『女と…いや、他人とあんな風に話したのは初めてだったからな……正直、困ったゼ。
普段通りなら爪で切り捨ててるんだがよ…、どうにもな…あいつにだけは、それができなかった…。
理由は解らなかった……少なくともその時は』

ジャンガは暫し悩んでいたが、やがて盛大にため息を吐いた。

――勝手にしろ…――

――わ〜い♪――

ジャンガの答えに少女は笑顔で飛び跳ね、喜びを表現する。
何処までも天真爛漫だった。
ため息を吐きながら歩き出すジャンガの後ろを、少女は嬉しそうに付いて行く。
暫く歩き、ジャンガは徐に少女を振り返る。

――そういや、テメェの名前を聞いてなかったな?――

――名前?――

――ああそうだ。これから…気に食わねェが、一緒に暮らすんだろうが?
…名前ぐらい教えろ、ってか…俺にだけ名前を喋らせるなよ?――

――そうだね。ごめんごめん――

てへ、と少女は舌を出して笑う。
そして自分の名前を嬉しそうにジャンガに教えた。

――私はシェリーだよ。宜しく、ジャンガ♪――

――ああ――

嬉しそうに語る少女=シェリーの言葉にジャンガはメンドくさそうに答えた。



『…そうだ。こうして俺はあいつに……シェリーに会ったんだ…』





以上で投下終了です。オリジナル設定であるジャンガの過去話の回です。
無論、過去話はまだ続きます。少しばかりの間ゼロ魔成分が殆ど無くなりますが、どうかお付き合いお願いします。
では、今回はこれで…アデュー!
526名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:01:40 ID:XbjE7zCe
gj
527名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:02:33 ID:Rw1Huwns
js
528鋼の人 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:19:05 ID:813rYzWn
G.J.
ぁー、投下したいが、感想タイム明けたいし、んー…1:30から。
529鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:30:56 ID:813rYzWn
反応ないけどいいのかな?投下します
--------------------
 北面に再展開したトリステイン軍2000はその時窮地に立っていた。
 士気はアンリエッタの元で依然高くあったが、数度の激突は最精鋭であるはずのメイジ兵を激減させ、さらに今、敵アルビオン軍がタルブを背に負って対峙している。
 最前線で散開した銀狼旅団が一騎当千を体現する活躍で支えていたものの、敵が下がってしまえば軍略的敗北であり、かといって全力突撃すれば
空からの砲撃を諸に受ける。
 漸減攻勢を維持するしかない状態だった。
 反面、アルビオン軍は勝利の一手前、いや、半手前という中だった。
 陸上指揮官の不在の中、艦砲を頼みの攻勢。統率の取れない烏合の衆でありながら、だからこそ集団維持のための突撃が活きていた。
 
 そう、そんな中のことだった。
 俄に変わった空模様、曇天と轟音に警戒した最中、突如の閃光の後にアルビオン分艦隊右翼のフリゲート一隻が爆発炎上する。
船はそのまま真下に布陣するアルビオン地上部隊へと落下した。
 フリゲートを操舵する150人余りの乗組員が火達磨と化した瞬間に悉く炭塊になり、さらに真下に居た兵士約300人が爆沈に巻き込まれて焼死し、
或いは崩れ撒かれる瓦礫によって圧死した。
 アルビオン軍はここで指揮官不在の弱点を露呈して攻勢に歯止めがかかり、さらにトリステイン軍は逆に反撃の機会を掴もうとしていた。
 
 全ては両軍ならぬ、第三者の手によって…。
 
 
 
 『タルブ戦役・八―始原者の亡霊―』
 
 
 
530名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:32:32 ID:hgxer2D/
支援するぞ!
531鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:33:16 ID:813rYzWn
「一体…何が起こったんだ…」
 東の丘、中腹の林から戦況を見ていたギュスターヴの目に、地面に墜落して炎と瓦礫を飛散させる船が見える。
「上だよ」
「デルフ?」
 脇でデルフが鳴った。
「俺様目ないから眩しくても大丈夫なのよ、まぁもの見えるけど。…さっきな、船に向かって真上から何か光る玉みたいなのが落っこちたよ。
そんで多分、それが船の火薬庫とかに当たったんじゃねーかな」
「真上だと…」
 たしかに閃光の直前、空に流星のような一筋の光が見えた気がしたのをギュスターヴは覚えていた。
「間違いねー。…相棒、ありゃ始祖の使った『術』だ」
「『術』?」
 ささやかな違和感が滲む口ぶりであった。
「おう。空の上のもっとずっと上から石や光を好きな場所に落せる。落す時のモノがでかいほど当たった時の威力が馬鹿にならねー。
ブリミル達が使ってた時でも、一抱え位の石を落としてちょっとした林が一つなくなっちまうくらいの威力があった」
「ちょっと待て…始祖の術だというなら、これは…」
 驚くギュスターヴを知ってか知らずか、デルフが淡々と話す。
「相棒。『ガンダールヴ』はそもそも、始祖を守る盾なんだぜ?こんな事ができそうなのは今のところ一人しかいねーだろうよ」
「…ルイズか」
 戦慄を禁じえなかった。仮にも周りから『ゼロ』と呼ばれたルイズが、これほどの威力ある魔法を使ったなどと…。
 …と、そこでギュスターヴははたと、デルフの言葉に感じた違和感に行き着く。
「…待てデルフ。今『術』と言わなかったか?」
「言ったぜ?こいつはハルケギニアのメイジが遣う『魔法』とは違うんだ。世界全体から力を借りて世界に働きかける。
俺の知る限り、ブリミル達は今のメイジが使う『魔法』は使えなかったし、だから俺様を作ったんだったと思うぜ」
 カタカタと鳴り続けるデルフが、人が咳払いをするように一旦止まる。
「…そんなことより相棒、急いだ方がいいぜ。俺様には船の落ちた辺りからどっかに向かって人が移動してるように見える」
「人が移動?」
 視線を麓に戻し目を凝らして見るが、ギュスターヴには燃える船とそれを遠巻きにして囲む兵隊しか見えなかった。
「見えるって言うか、感じるって言うかさ…とにかく人みたいな感じがどっか一点に向かって動いてるんだよ。
お嬢ちゃんは死体からアニマを…世界の力を集めてるんだろ?」
 普段の砕けた具合とは少し様子の変わった魔剣に驚くギュスターヴ。饒舌に話すデルフリンガーが以前、己の出自について話したことを思い出した。
「…デルフ、お前記憶が」
 デルフは以前の使用者や、それ以前の記憶を失っていたはずなのだ。指摘された剣は嬉しそうに唾を鳴らした。
「まだ、ほんのちょびっとだけどな」
 驚くばかりのギュスターヴだったが、徐々に視界がまた、暗くなり始めて行くのを感じ取った。
 どうやらルイズらしき何者かが先ほどと同じように、戦場に光を落すつもりでいるようだ。
「デルフ!アニマの流れる先は何処だ?」
「こっから反対側の丘の天辺だ!おでれーた。俺様たちとんでもねー遠回りしてたみたいだぜ!」
 聞くや否や、ギュスターヴは林を抜けて丘を駆け下りていく。
(早くルイズを止めなければ。この力はどうしようもなく危険だ!)
 左腕のルーンに、じわりと光が差し始めていた。
 
 
 
532名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:34:20 ID:m+So4Kvy
支援
533名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:34:59 ID:7lOukc6C
ハルケギニアに鋼鉄軍の嵐が来る予感支援
534鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:35:18 ID:813rYzWn
 トリステイン軍本陣は色めき立っていた。転変地異かと思う空の変異、そして謎の閃光の後に、空を漂うアルビオンの軍艦が爆沈して兵士の上に落ちたのであるから。
「今が好機!全軍、突撃せよ!」
 誰もが呆然とする中でいち早くグラモン元帥が声を上げた。満身創痍の部下達を鼓舞してアルビオン兵へ向かって躍り出る。
「トリステインの誇りを示せ!天の恩寵を取りこぼすな!」
 その声に周囲の兵士達が気がついたように動き出す。騎獣が負傷したため下馬していたド・ゼッサールもまた、檄を飛ばすと手勢とともに戦線を押し上げていく。
 アルビオン軍は混乱の最中でますます追い立てられた。船が落ちたことで街道が狭まる。
 逃げ場のなくなりつつある地上部隊の命脈が切れようとしていた。
 
 
「はっ…はっ…はっ…」
 全力で走るギュスターヴは鎧の重さも疲労の濃さも感じなかった。まるで馬に乗っているかのごとき速度で戦場の最北面、トリステイン軍の真後ろを移動していた。
「おでれーたぜ!相棒どうして『ガンダールヴ』が発動してるぜ!」
「みたいだな!俺もどうしてかわからんよ!」
 軽口を叩きながら尚も身体は軽く、早く、風を切って戦場を走る。
「けど『ガンダールヴ』が発動してるって事は、主人の危機って事なんだろう!」
 と、閃光の前と同じように、空から轟音が鳴り始める。空気が震え、曇天がさらに影を濃くしていく。
「また空から光が落ちるぜ!急ぐんだ相棒!」
 デルフが急かすまでも無く、ギュスターヴは西の丘の麓を駆け上った。
 
 
 アルビオン分艦隊旗艦『レキシントン』の艦橋に男の無様な悲鳴が響いた。
「な、な、なんということだ!!先の閃光はなんだ!僚艦が撃墜してしまった上に友軍を巻き込んだじゃないか!艦長、状況の報告を求めるぞ!
このままでは本国で何を言われるか分からないではないか!!」
 閃光と爆音に再度、艦橋へ飛び込んできたジョンストンはボーウッドの前で無様に汗と鼻汁をまきながらすがりつく。
「サー。現在情報の整理をしております。他艦艇に異常はなし、艦砲にも不調はないとのことです」
「他の船の事はどうでもいいのだ!今問題にすべきは船を一隻失ったと言う事なのだよ!あぁ、このままではクロムウェル閣下はじめ議会は
私を国有財産喪失の罪で叱責、最悪財産の没収を決定するかもしれん」
(自分の未来だけが大事か!)
 奥歯を噛み殺してボーウッドは呪詛を吐いた。軍帽を被り直して顔を作ると、目の前の無能な上官に正対する。
「サー。提案があります。地上部隊が後退を始めつつあります。タルブを占領できれば作戦目的は達成されるものと考えます」
「む。そうか!では本艦で敵軍を足止めして友軍の占領行動を支援しろ!」
「サー。しかし」
「作戦司令は私だ!これは命令だ!」
「…サー」
 命令である、と言われれば従わざるを得ない。先ほどのように目の前でボイコットする訳にもいかず、ボーウッドは苦渋の表情を背中に、操鑑を指示した。
 
 
 
535名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:38:28 ID:/qfEDo0n
支援
536鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:38:31 ID:813rYzWn
 ギュスターヴは丘の斜面を駆け上る。斜面は切り立ち、本来登るには適さない所を『ガンダールヴ』で引き出された身体能力で強引に昇っていた。
「この上だ!もうちょいだぜ相棒!」
「ふっ…ふっ…ふっ…」
 『ガンダールヴ』の力が限界を迎えつつあった。ワルドを相手にしたことが今になって悔やまれる。恐らく『ダンダールヴ』の効果が切れれば暫く動く事もできないだろう。
 だが、一瞬たりとも休んでなどいられない。使い魔の契約の力か、それとも養われた直感か、今のギュスターヴにはこの丘の上にルイズがいるという確信があった。
そして、コルベールを襲った時に振りかざした、灼熱に盛るファイアブランドの事が脳裏に掠める。
 一族の家宝とされながら、ギュスターヴ自身にとってどこまでも忌まわしき産物。
親兄弟を解体し、弟を呪い、そして今はルイズ―異界ハルケギニアで無能と端弾かれていた者に握られている。
 これ以上、あんなものに振り回されるわけにもいかない。そしてそれに巻き込んでしまったかもしれない、ルイズを助けなければならない。
 
 
 丘を登りきって頂上に辿り着く。そこは木々が倒されていて開けている、戦場が見えるような場所だった。
「ルイーズ!ルイズどこだー!」
 既に『ガンダールヴ』は殆ど用を成していない。肩を揺らしながら藪目を歩いて声を張った。
 「ぅっ…!」
 街道から吹き付ける一陣の風が視界を遮り、振り向きなおした時、揺れる桜色の波がギュスターヴの目に入り込んだ。
「『一つ…二つ…また一つ…心地いい躯の歌声が聞こえるわ。力があるということが、こんなに素晴しいことなのね。けれど』」
 聞こえる声はこの二月、聞かぬ日がまるで無かったもののはずなのに。
「『やはりまだ足りないわ。もっと強い力を使うためには』」
 提琴のような可憐な声が、今は悪魔のつぶやきにさえ思える。
 ルイズは居た。天に向かって燃え盛るFBを掲げ、もう片手に怪しげなる卵を握って。
 ルイズの掲げるFBが、空に漂う中で一際巨大な船を指した。
「『招来冥府星【ゼノサイド】』」
 刹那、黒く曇った空が割れ、一滴の光が落ちて…。
 
 二度目の閃光が戦場を包んだ。
 
「「っ!!」」
 光に遅れて爆音と暴風が駆け抜ける。目が開けられるようになった時、隘路に漂っていた巨艦は巨大な炎の塊と化していた。
「『さぁ、落ちなさい。落ちれば戦場は火の海となって多くのアニマを吹き上げるわ』」
「ルイズ!!」
 声に気付いて振り返ったルイズの金瞳が妖しく光っている。すぅっと細めた目が、まるで路傍の汚らしい石を見るようにギュスターヴを認めた。
「『何をしに来たの?あんたに用はないわ』」
「俺にはある。ルイズ、お前を止めに来た」
「『止める?何を。私はやらなくてはいけない。多くのアニマを集め、やってきた道を還れなければならない』」
「やってきた…道、だと…?」
 ルイズが身体をこちら向ける。風が髪とマントを揺らし、片手にある卵をはっきりと見せた。
 石を削って磨いたような卵が、火達磨の巨艦から照り映える炎をおぼろげに映しこんでいた。
「『吾々は遥かな昔、滅びの淵より混沌を飛び越え、この大地へやってきた。緑溢れるこの大地のアニマは芳醇だったが、その時の吾々には手が出せなかった。
だからこの大地に吾々を馴染ませるために時間をかけたのだ』」
「何を言ってるんだか全然分からないな。肝要なのはルイズが今FBとその卵を使って多くの人間の命を散らしていると言う事だ」
 正対する距離にして4メイルの空間が、まるで練り固めているかのような重苦しさを作っている。
(ルイズの中に…何かがいる…のか…?)
 語り口、振る舞い、それらがギュスターヴに伝えてくる。ルイズがただ単に力に溺れているわけではないことを。
 ルイズの携える卵がやはり、元凶なのだろうか。
 
537名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:39:37 ID:7lOukc6C
支援
538鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:40:20 ID:813rYzWn
 ルイズは実に詰まらなそうな顔をして、FBをギュスターヴに向けて振った。学院の時と同じようにギュスターヴの身体を炎の波が包み込む。
「あっちぃぃぃ!!」
 腰元でデルフが悲鳴を上げている。それなのにギュスターヴは顔を覆ったまま、まるで怯む様子を見せなかった。
やがて浴びせられた炎はギュスターヴのマントなどを焦がしつつ、消えた。
「『ふん。鉄の術阻害と自分の性質で殆ど術が効かないのか』」
 煤に汚れた顔をまんじりとせずに、その深い瞳でルイズを視る。
「ルイズ。いや…ルイズの中にいる、危うい何かよ。これ以上好き勝手な事を許すわけには行かない」
 ルイズは…いや、ルイズの中の何かがそれを聞いてニヤッと嗤った。
「『私はね、とても悔しかった。魔法が使えない、とても駄目な自分が大嫌いだった。
…アルビオンと戦争になって、婚儀が沙汰止みになって…その時ね、自分の中が真っ暗になったの。すごく冷たくて、痛くて、淋しくて。私は知ったわ。
自分が何者でもない屑だって』」
「黙れ!ルイズの口でそんなことを言うな!」
 ルイズに取り付く『何か』はひらひらと妖しく身体をくねらせながら、嗤う。
「『あら、少なくともこの身体の持ち主はそう思ったみたいよ。とても絶望したから、私はこの身体を借りる事ができた。
自分の無力に絶望して、なんでもいいから力が欲しいと思ったから、私は力を貸してあげた。多くのアニマを操り、世界を動かす真実の力を』」
 さらにFBが振るわれて炎の術がギュスターヴに幾重にも叩きつけられる。ギュスターヴは火達磨になりながらも、一歩も下らずにそれを耐え、浴び続けた。
「『吾々が欲しかったのは身体だ。己の運命を嘆き、悲しみ、自分以外を貶めることになにも感じなくなった人間に手を差し伸べてやったのだ。
空ろなお前には分からないだろう。アニマ無き出来損ないよ』」
 そう話す『何か』は絶え間なくFBから炎の術を浴びせ続ける。全身を炎に包まれたギュスターヴは、突然暴れるデルフを抜いた。
ルイズはそれを見て身を固めたが、ギュスターヴはデルフを構えず、そばの藪に投げ捨ててしまった。
「あちぃぃぃー!!……って、相棒!」
「『どうした。血と汗と涙を流しても何も流れぬ者よ』」
 火達磨のまま、ギュスターヴは一歩、また一歩と歩き出す。そして…ルイズの目と鼻の先に立った。
「ルイズ……」
 炎に身を舐められ、満身創痍のギュスターヴを前に、ルイズはファイアブランドを振り上げた。
「『死ね』」
 灼熱の、斬るという性質が引き出せたFBがギュスターヴの脳天に振り下ろされる。
 ギュスターヴはそれを、かわさなかった。
「相棒ー!!」
 
 
 
539名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:40:21 ID:8DdzBoVj
ゼノサイド支援
540名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:42:23 ID:7lOukc6C
マルチなでなで支援
541鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:43:17 ID:813rYzWn
「『ロイヤル・ソヴリン』が落ちてきます!」
「見れば分かります!全軍、後退せよ!」
 突撃攻勢に出ていたトリステイン本陣へ伝令が飛ぶ。
 アンリエッタは伝令を叱咤してユニコーンの手綱を握る。
 トリステイン軍の前には高度20メイルまで下った焼け落ちる巨艦が視界一杯を塞いでいる。
 そしてついに巨艦『レキシントン』は地面に落ちた。巨体を支えるだけの強度を持たない船は炎と瓦礫を撒き散らして戦場の中に崩れる。
 アンリエッタが枯れ尽くさんばかりにそのうららかな声を張り上げた。
「全軍反転!混乱する敵兵を叩くのです!」
 巨艦がその真下に布陣していたアルビオン兵700を巻き添えに爆沈し、敵陣に大きな穴を開けたのだ。
 トリステイン軍はさらに攻勢に出て、残るアルビオン地上部隊を駆逐していった…。
 
 
 燃え盛るFBはその姿に相応しい切れ味で、ギュスターヴを両断するはずだった。
「……の…」
「『何?…』」
 鋭くなった切っ先がギュスターヴの掌に食い込んで止まっている。引き裂かれた肉から鮮血が飛び散り、ルイズの頬を濡らす。
「借り物の力で…いい気になるな…ルイズ」
 裂けた手でFBの刀身をぐっと握り締める。力を込めると鮮血が沸き毀れた。
「『放せ』」
「ルイズ。お前が欲しかったのは、こんな…こんなただの力、だったのか?」
「『放せ』」
「お前が欲しかったのは、もっとありふれたものじゃなかったのか?」
「『…放せ』」
「学友と語らい、成績を競い、未来を想って、過去を笑う。それができるだけのものじゃないのか?」
「『……放せ』」
「ただの力で何ができる。そうじゃないだろう?ルイズ。…お前は、貴族である前に、メイジである前に、誰である前に…ルイズじゃないのか?」
「『は…な…せ…』」
 ルイズの身が暴れるのを押しとどめるように、FBを握りこんで引き寄せる。
「取り戻すんだ。手に入れるんだ。自分を」
 ルイズの身体が徐々に震え始めた。ギュスターヴは尚も力強くFBの刀身を握り締める。肉がさらに深く切り裂かれる痛みで顔が僅かに歪む。
「『ハ…ナ…セ…』」
「ルイズを返してもらうぞ…!」
 ギュスターヴの右手が腰に残した短剣を抜く。ルイズに潜む『何か』は強張りを見せる四肢を不自然に身体を揺らしている。
が、足が地面に吸い付いたように、動こうとしなかった。
「『デキ…ソコ…ナイメ……』」
 ルイズを借りて『何か』がそう言ったと同時に、ギュスターヴは右手の短剣でルイズの左手に握る卵を叩き払った。
 払い落とした卵が藪に生える樹木に叩きつけられて、ルイズは突如意識を失いギュスターヴの身体にもたれかかるように倒れた。
「………」
「世話が、焼ける…」
 握り締めた左手が解かれて熱を失ったFBが地面に落ちた。ギュスターヴの胸で、親に抱かれた幼子のような顔でルイズは眠るのだった。
542名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:43:28 ID:1T4Txpsy
>>348
ティファの兵器はささやかだよな。
543鋼の使い魔(後書き) ◆qtfp0iDgnk :2009/02/23(月) 01:44:12 ID:813rYzWn
投下終了。次回で第一部完結。
初長期連載もあと少し。がんばろう。
544名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 01:47:17 ID:7lOukc6C
乙です。
エッグ対ギュス様の本格的な対決が楽しみだなぁ。
545名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 02:04:33 ID:aUNpBVx+
>>533
あっちじゃ恐怖の鋼鉄兵もこっちじゃ全身強力な固定化でもかけてないとあんまり役に立たないんじゃね
546名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 03:16:12 ID:9O7+PIhK
>>544
サガフロ2ファンの夢だよな
547名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 04:15:34 ID:pzxH2NCt
そういや最新刊にワルドは出てくるの?
ここまでライバル不在の期間が長すぎると流石にな
548名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 06:13:38 ID:81DFGQsU
いやネタバレ推進するような発言はよそうぜ?
549名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 06:56:09 ID:91qMn29t
ワルドはもう、いないんだよ

だって領地取り上げられちゃったじゃん
550名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 07:27:34 ID:zBoNcaBp
ワルドはみんなの心の中で生き続けるよ
ヘタレ代表として
551名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 08:19:57 ID:1kLkD9Zl
時々綺麗なワルドが混じっています

魔砲の人のワルドに活躍の場は残ってるいるのかどうか、
それが問題だったり問題じゃなかったり?
552名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 08:42:46 ID:RyH44yPp
毒の爪の人も鋼の人も乙
ジャンガ……そりゃ性格もゆがむわ
そしてルイズ、シリアスにおっぱいは関係ないよ、多分
553名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 09:33:43 ID:pzxH2NCt
ラスボスの人がやりやすくなったってのはそうか、そういうことか
554名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 10:16:10 ID:1kLkD9Zl
む、MF文庫J公式サイトで16巻が購入可能になってる。
うーん、まぁ25日発売って事になってるからなぁ・・・
今日あたりから地元の本屋を見張ってみるか。

まぁネタバレ云々は抜きにしても
裏切りバレて久しいんだからワルドの領地は取り上げられて当然だゎなぁ
ほんでサイトに与えられる可能性濃厚。
555名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 10:52:38 ID:iqa8hH9n
ジャンガの人、鋼の人、乙です。

ギュスの言葉にソフィーの面影を見た……
556名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 11:05:41 ID:9ADYMhlX
毒の爪の人乙!
しかしスラムの背景的に考えると、無防備と言うよりしたたかな奴だなあって感想だな、シェリーは。
557名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 11:10:22 ID:P5R2QIux
>>550
DBからシェンを召喚ですね
558名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 12:20:41 ID:1xE3O1qe
四人の虚無の使い手がそれぞれ呼び出したのが

・実写版デビルマンのデビルマン
・実写版キャットウーマンのキャットウーマン
・ルパン三世念力珍作戦の次元大介
・実写版シティーハンターの冴羽遼
559名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 12:43:55 ID:sr9WMDVd
>>558
三番目が誰か知ってる奴がこのスレに何人いるんだwww
560悠二の人:2009/02/23(月) 12:56:54 ID:NtPmTe5x
13:05まで予約なかったら投下します
561残り滓の使い魔‐05:2009/02/23(月) 13:05:39 ID:NtPmTe5x
悠二が学院長室で互いの情報を交換している頃、ルイズは部屋で目を覚ました。
悠二がいなくなってしまったと思い込み、枕を濡らしているうちに眠ってしまっていたのだった。眠ったからなのか、ルイズは寝る前とは心機一転していた。
(使い魔がご主人様を置いていなくなるなんて、ありえないわ)
ルイズは、昨日から今日にかけての悠二の発言を振り返ってみることにした。
(そういえば、使い魔のこと何も知らないわね)
今更ながら、自分が使い魔から何も聞いていないことを思い出した。
(まあそれは、あいつが帰ってきてから聞けば良いわよね)
自分が覚えている限りのことを思い出そうとするが、
(……あいつの話ちゃんと聞いておけばよかった)
悠二の話をあまり覚えていなかった。
(でも、ミスタ・コルベールのこと聞いていたわね)
朝食を食べているときに、悠二にコルベールについて聞かれていたことを思い出した。この時は気にも留めていなかったが、よくよく考えてきるとおかしかった。
(ミスタ・コルベールとは何も関係なかったはず。ということは、ミスタのところ!)
ルイズは飛び起き、一直線に部屋の外に出ようとしてドアの前まで行き、すぐさま回れ右した。
(泣いたまま寝ちゃったし、ひどい顔になってるかも)
そう思い鏡を覗いてみると、案の定目は腫れて、頬には涙のあともついていた。
(まずは、顔を洗わなきゃね)

ルイズは顔を洗ってから、本塔と火の塔の間にあるコルベールの研究室である小屋に来ていた。
「ミスタ、いらっしゃいますか?」
何度かドアをノックして、呼びかけてみたが中からの反応はなかった。
失礼します、と言ってドアを開けると、立ち上ってきた異臭にルイズは顔をしかめ、鼻をつまんだ。
鼻をつまみながらも、小屋の中に入ってコルベールがいるか確かめようとしたが、それも即座に頓挫した。
「もう限界! この臭いには耐えられないわ! それに何回も呼んだのに返事がなかったし、いないのよね」
ルイズの悠二の手がかりは早くも無くなってしまった。
(そういえば、昼食抜きにしたからお腹空いてるはずよね)
今度は、厨房に向けて歩き出した。

厨房に来てみると、昼食の後片付けと夕食の下ごしらえのためにコックやメイドたちが忙しなく働いていた。
貴族の存在に気づいたのか、黒髪でそばかすがあるメイドが近寄ってきた。
「何か御用でしょうか?」
「私の使い魔ここに来てない?」
それを聞いたメイドは昼食の時に食堂の前で会った少年を思い出した。
「ミス・ヴァリエールの使い魔の方なら、ミスタ・コルベールに会いに図書館に行きましたよ」
「そう。もし、私の使い魔が来たら、私に教えに来てちょうだい」
ルイズはそう言い残し、図書館に向けて歩き出した。

結論から言うと、図書館にはコルベールも悠二もいなかった。この時は学院長室でまだ話をしていたのだが、ルイズには知る由もない。
この時、図書館に司書がいなく、生徒が一人いるだけだった。
(あれは、確かタバサよね? キュルケの友達の)
ルイズよりも小柄な青髪の少女に話しかけた。
「あの、私の使い魔かミスタ・コルベール見なかった?」
タバサは読んでいた本から顔を上げ、ルイズの顔を一瞥し短く告げた。
「知らない」
タバサはそれだけ言うと再び本に顔を向け直した。

ルイズは再び自室に戻ってきていた。戻ってくる途中、キュルケに話しかけられたが思考の海の中を漂っていたルイズはキュルケに気づかなかった。
(図書館に向かってから消息が不明ね。これは迷宮入りかもしれないわ)
そう結論付け、ルイズはうんうん唸りながらベッドに腰掛けていた。しばらくすると、ドアがノックされた。
「開いてるわよ」
「失礼します。ミス・ヴァリエール、使い魔の方が厨房にいらっしゃいました」
メイドの言葉を聞き、
(あんの使い魔ったら、ご主人様に心配かけるなんて……)
クククと黒い笑みを浮かべて厨房に向かうルイズに、黒髪のメイドことシエスタは言い知れぬ恐怖に震えた。
562残り滓の使い魔‐05:2009/02/23(月) 13:07:35 ID:NtPmTe5x
悠二、オスマン、コルベールの三人は厨房に来ていた。
オスマンとコルベールが来たにもかかわらず、厨房で働いている人たちは挨拶もそこそこに、すぐに仕事に戻ってしまう。
学院長室からここに来る間に、二人から、ハルケギニアの身分階級を聞いていた悠二はこの態度に首をかしげた。
(この態度から、二人とも厨房によく来てるみたいだし、貴族とか平民とかの身分もあまり気にしないみたいだな)
そして、悠二は思い出していた。こっちに召喚されてから、ルイズには同じ椅子に座ることさえ許されなかった。
そして、周りの人たちもそれを当たり前のように見ていたことを。
それを鑑みると、学院長室に入り盗み聞きを咎められなかったこと(普通は身分階級にかかわらず、盗み聞きをしてはいけない)や、
同じ椅子に座ったことなどが特殊なケースであることを自覚した。
そこに、四十過ぎくらいの丸々とした体の男性がオスマンとコルベールに笑顔で話しかけてきた。
話によると、その男性はコック長のマルトーと言い、二人とは中々に仲が良いようだった。

「それで、お二人さんの横にいるその少年は誰だい?」
マルトーが二人との冗談の言い合いも終わると、二人の横にいた悠二に訝しげな視線と共に問いかけた。
「彼は、ユージ君と言っての、この間の使い魔召喚の儀式で呼び出された少年じゃよ。今では、私らの友人じゃ」
「ああ、お前が噂の使い魔か! 貴族にこき使われて大変だろうが、俺らは味方だからな!」
悠二の首に腕を回し、ガハハと豪快に笑った。
「シエスタ! 三人に何か食べるものを持ってきてくれ!」

喧騒に包まれた厨房の中で、二人は悠二の話に耳を傾けていた。オスマンからの助言で、悠二は東方から来た平民と言うことでマルトーに紹介され、マルトーが仕事に戻ってからは地球での生活を話すことになった。
やはり、異世界の話というのは興味深いのか、二人とも熱心に聞いていた。
コルベールに至っては、そのまま近づいて悠二に熱い接吻をしてしまうのではないか、と誤解してしまうくらいに前のめりになって話を聞いていた。
「身分階級がなく、誰でも教育が受けられるというのは素晴らしいことじゃのう」
悠二が、まずは、と思い学校の話をすると、二人とも感慨深いからなのか、うんうん唸りながら頷いていた。そこへ、マルトーに食事の用意を言われたシエスタがおいしそうな料理を運んできた。
「たいしたものは出せませんが」
そうは言っていたが、見ているだけで涎が出てしまうくらいの料理が目の前に並んだ。並べ終わった後に、シエスタは悠二の耳元に口を寄せ、
「さきほど、ミス・ヴァリエールがユージさんをお探しになってましたよ」
囁いた。では、ミス・ヴァリエールをお呼びしてきますね、とぺこりと礼をしてからシエスタは厨房からいなくなった。
疑問に思う。ルイズは、あまり悠二自身に興味ないはずなのに、なぜ探しているのだろうか、と。
(どうせ、使い魔は側にいないとダメなのよ、とか言われて怒られるんだろうな)
その予想はあながち間違いではなかったが、実際は惨劇が繰り広げられると思うほどルイズが怒っているとは、その時は思っていなかった。
内心で大きくため息をつき、目の前にある料理を頬張った。
「これ、すごくおいしいですね!」
悠二は召喚されてから初めてまともなものを食べ、感動のあまり大きな声で言っていた。
「私はこれを食べたいがために、こうして厨房まで足を運んでしまうんじゃ」
「マルトーさんが作る料理は絶品なんですよね」
オスマンもコルベールも、そう言って食べ続け、悠二はつかの間の幸せを貪った。
563残り滓の使い魔‐05:2009/02/23(月) 13:08:56 ID:NtPmTe5x
(あんの生意気な使い魔にどんな罰を与えてあげようかしら)
勝手にいなくならないように首輪でもつけようかしら、一週間縄で縛っておくのもいいかもしれないわね、などぶつぶつと言いながらルイズは厨房にやって来た。
ちなみに、ルイズの後ろをついてきていたシエスタは、厨房に着くまでルイズから発せられ続けた毒の強い言葉に顔面蒼白になりつつあった。

悠二は厨房の入り口からの不穏な気配を感じ取り、振り向いてみると青筋を立てながら笑顔を浮かべているルイズがいた。
この時悠二は、笑顔は肉食獣が獲物を前にしたときに浮かべる表情だと聞いたことを思い出していた。
(ははは、冗談には聞こえないな……)
これから自分の身に降りかかる不幸を思い、それから逃れられぬことも知り、自身の境遇を呪った。
「おお、ミス・ヴァリエール! いいところに来ましたな!」
そういった彼の輝く頭頂部に、悠二は希望の光を見た。
「ミスタ・コルベールにオールド・オスマン! どうして厨房なんかで私の使い魔と!?」
「そう! そのことでルイズに大事な話があるんだ!」
ルイズからの怒りを逸らすために、ここぞとばかりに大きな声を出した。
幸いにもルイズは混乱しているようで、既に悠二に対する鬱憤は霧散していた。
(え? なによ、急に大事な話って。まさか、私がひどいことをしたとか言い出すんじゃないでしょうね。
そんなわけないわね。ということは、わわ、私の、み、魅力に……)
ポカンとした表情を浮かべたと思ったら、急に頬を赤く染めてもじもじし始めたルイズに、悠二は訝しげな視線を向けたが、
ルイズは、いきなりそんなことを言われても、だとか、貴族である私が平民なんかとは、とか小声で独り言を言い続けていた。

「と、とりあえず今日の夜にヴェストリの広場で待っておりますぞ」
そう言い残し、コルベールは、メイドたちにいやらしい視線を送っているオスマンを引っぱり、去っていった。
残された悠二は、厨房にいる人たちに感謝の辞を述べ、いまだにくねくねしているルイズを連れ部屋に戻った。
564残り滓の使い魔‐05:2009/02/23(月) 13:10:06 ID:NtPmTe5x
部屋に戻る頃にはルイズも冷静になっていたが、そうなると次第に悠二に対する怒りがふつふつと沸きあがってきた。
(だ、大事な話とか言ってご主人様を騙すなんて! やっぱり一回しつけなおさないとダメかしら)
しかし、とりあえず主人である自分がいかに寛大であるかを教えてあげよう、と思ったらしく、部屋に入るなり怒鳴り散らす、などということはせずに、ルイズなりに優雅に椅子に腰掛け、
「それで、大事な話って何かしら?」
やはり上目線で問いかけた。
「学院長とコルベール先生にはもう話したんだけど、実は、……僕はこことは違う魔法がない世界から来たんだ」
悠二がそう言うと、ルイズはまるで汚いものを見るかのような目で悠二を見下した。
「で、それをどうやって証明するわけ? そうじゃなくちゃ信じられないわ」
オスマンとコルベールをも納得させた道具──財布──を、(仰々しく、とまではいかないが)悠二がポケットから取り出す姿には、
──これを見たら絶対に信じる──という自信が滲み出ていた。実際に悠二の自信はその通りで、ルイズも一応は信じたようだった。

「あんたが異世界から来たってのはわかったわ。で、それが大事な話ってわけ?」
「いや、ここからが本題なんだけど、簡単に言うと、僕は普通の人間じゃない。それで、元の世界を守るために戻らないといけない」
悠二は言ってしまった後に後悔した。
(うわ、この言い方だと自分を正義の味方だと思ってる頭の痛いやつみたいだな)
自分の今の発言を思い出し、あまりの酷さに笑いそうになったが、ここで笑ってしまうと場違いだし、ルイズに信じてもらえないだろうと思い必死に我慢した。
ルイズはそんな悠二を、養豚場のブタでもみるかのように冷たい目で見ていた。
「あんたの大事な話ってそれ? 冗談を言うならもっと面白い冗談を言ってよね」
「冗談に聞こえたかもしれないけど、本当なんだ。それを今日の夜に証明するから」
ルイズはまだ悠二を軽蔑の視線で見下していた。その視線を感じながらも、
(ルイズに“この世の本当のこと”は教えたくないしな)
聞いたとき受けるであろう衝撃を考慮し、何も言わなかった。
565残り滓の使い魔‐05:2009/02/23(月) 13:11:37 ID:NtPmTe5x
その後、夕食を食べ(悠二は当然のように床で固いパンとスープのみ)、ほとんどの生徒の部屋から明かりが消えた頃、ルイズと悠二はヴェストリの広場にいた。
「ちょっと! 私、明日も授業あるんだから早くしてよね!」
「静かにして。他の人たちに気づかれたら困るから」
ルイズはつむじを曲げながらも、とりあえず静かになった。


魔法学院近くの森の中。
(こんな夜に、誰……?)
彼女は女性の甲高い声が聞こえ、目を覚ました。


数分後、オスマンとコルベールが暗闇に包まれたヴェストリの広場に現れた。
「待たせてしまったかの?」
「いえ、じゃあ始めますね」
悠二がそう言うと、オスマンは周囲にサイレントの魔法をかけ、コルベールは悠二にディテクトマジックをかける。
「これで音が外に漏れることはないから安心じゃ」
「探知魔法でも、やはり普通の人間のようですな」
こうして準備が整い、悠二が自在法の基礎でもある炎弾を見せる運びになった。
悠二は目を瞑り右手を胸の前に出す。
(僕の体を形作っている“存在の力”を統御する)
一度実戦で使用したことにより、明確に『戦うための力』として認識できるようになった、
(そして、炎のイメージで──)
己の力を、具現化する。銀色の炎が悠二の手のひらの上に浮かぶ。その大きさは、ちょうど手に収まるほど。
悠二は具現化と同時に目を開け、他の三人の様子を伺う。三人とも驚愕の表情を浮かべている。
「先住魔法のようだが、それとも違うようじゃな。色も普通の炎とは違うしの」
「ええ、先住魔法も詠唱無しでは使えませんからね」
オスマンとコルベールは悠二の手のひらの上に出ている炎について検証しているが、
ルイズは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたまま、硬直してしまっていた。


闇の中に銀の炎が浮かんだ。
(──あれは、──?)
手のひらに炎を浮かべる少年を、彼女は目撃した。


手のひらにあった炎は、悠二の元を放れ、あらかじめ用意していた的──数本の木の枝──に向かう。
手のひらの炎は残滓も残さず飛んでいき、的を吹き飛ばした。
(よし。今までより確実にコントロール出来てる!)
力の繰り方にも満足し、三人へ振り返る。
「とまあ、こんな感じです。まだ基礎しか出来ませんが、他にも色々パターンはありますよ」
説明をちゃんとした二人は納得したようだったが、ちゃんとした説明をしてない一人──ルイズ──は腑に落ちないという顔をしていた。
「おぬしの判断次第じゃが、あまり公にはしないほうがいいのう」
その言葉に悠二は頷き、四人は各々帰った。


部屋に戻るとルイズが一気にまくし立ててきた。
「あんた、なんで先住魔法のようなもの使えるのに言わなかったのよ! それで、なんか他にできることはないの?」
ルイズにとっては、使い魔がなぜ力を使えるかではなく、使い魔として何が出来るか、自分の使い魔が有能なのかのほうが重要なようで、自在法についての質問は一切なかった。
「あとは、剣が使えるんだけど、今は持ってないから……」
実際には『吸血鬼』を栞にして持っていたが、あまり自分の手の内を見せたくない、それとハルケギニアでの武器が見たかったという理由で言わなかった。
(魔法がかかってる武器があるかもしれないし)
すると、ルイズはわずかに考え込み、
「次の虚無の曜日に剣を買いに行くわよ」
宣言した。


深い闇の中。
彼女は先ほど目にした現象を思い出す。
──銀の炎に映し出された黒髪の少年の姿を。
566悠二の人:2009/02/23(月) 13:13:47 ID:NtPmTe5x
以上で投下終了です
今更ながらなんで悠二を選んじゃったんだろ。面倒すぎる
次にはギーシュ戦いけそうだ
567名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 13:19:43 ID:3xRikmjE
お疲れさん

封絶はマジ厄介だよなw 自分の立場確保のためならギーシュ戦はやった方が得だけど、ゴタゴタを避けようと
思うなら、ギーシュがのたくた言ってきた瞬間に封絶、シエスタを担いで厨房に連れてってから解除、で、周囲が
勝手につじつま合わせて、「あれ?僕が踏んだんだっけ?」になっちまうしなあ
568名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 13:21:58 ID:kMaW7ui/
>>559
じゃあ三番目は実写版キャシャーン
569名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 13:24:51 ID:1kLkD9Zl
>>568
実は実写版をちゃんと通して観たことないんだけど
フーケのゴーレムを手刀で真っ二つにするキャシャーンを幻視した。
570名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 14:00:29 ID:LDqsLf90
悠二の人乙です。それにしても封絶って相当のチート技だな。
原作後半の悠二が全力で封絶を展開すれば街一つ……は無理でもその半分くらいは覆えそうだし、
周囲に普通の人間(メイジはいるけど)しかいない以上、封絶の中では好き放題出来るからな。
七万の大軍が相手でもやりようによっては何とかなるんじゃないか?
571名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 14:02:08 ID:/Dzg4Fl0
実写版シャアでおk
572名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 14:09:34 ID:vmKue5y8
ログを整理していたら
パート177から一つもログを消してなかった。
573名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 15:16:20 ID:i+4G6eQ9
封絶は他作品に出張すると範囲と対運動物以外はザ・ワールドの上位互換だからな・・・・
574名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 15:51:37 ID:McIMdCYd
つーかね、召喚された時点の悠二自身が大した自在法を使えないからなぁ。
悠二が存在の力を喰らうことを善しとしていない以上、1体1なら無敵でも、
対7万戦とかだと戦場を封絶に取り込んだ後、悠二が自分で敵兵一人ひとりの
武装を解除していくとかいう間抜けなことになりかねないよ。
575名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 15:53:30 ID:xvVfenFP
封絶の中で物が壊れたり、(フレイムヘイズや特殊な自在法で動いてる以外の)人が死んだりしても、チョチョイのチョイで直せるしな。
576名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:00:27 ID:IGB81CFo
>>559
ワンピースから黄猿呼べばいいと思うよ! 思うよ!
577名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:14:36 ID:cvyrqgNo
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part215(実質Part216)
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1235088757/

そろそろ容量がギリギリなので、重複スレに誘導します。
578名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:22:29 ID:3xRikmjE
>>574
ザロービ2体をまとめて砕いてるとこからして、炎弾でそこそこの範囲攻撃はできるぞ。
なんなら大砲代わりにメイジ持ち歩いて、封絶張って移動、解除して詠唱攻撃させる、封絶して移動を繰り返してもいいしな。

それに、わざわざ7万が攻めてくるまで待たなくても、野営地を襲って司令部を壊滅させとけばいいわけで。
579名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:22:34 ID:Q6bvCNo6
スター・トレックとか何とかとかな。
580名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:25:58 ID:q2IUk+HR
足止めが目的なんだから一定範囲を封絶した時点で目的完了だろ……
581名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:37:04 ID:xvVfenFP
そう言えば、よくよく考えればマトモに7万人と戦う必要ってないんだよな。
582名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:49:16 ID:Za4CqPma
ビダーシャルだってマトモに戦う必要はない
583名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 16:58:44 ID:McIMdCYd
確かに自在法でまともに戦う必要ないわけだが、悠二って才人と違って、
アルビオンとかの作戦会議で一目置かれて、普通に参謀役をやってそうな
気がする。

まぁ、問題は、残る3人のヴィンダーとミョズともう一人も、ほぼ確実に
紅世関係者だってことだよなぁ。
584名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 17:59:50 ID:zJT8D16n
585名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 18:03:19 ID:Km7G27EZ
だが、あの時点で生存していた原作キャラなら、ほとんどの奴は悠二相手に
敵対的に出ない/出られないという事実。
なにしろ「直前」だったからのう……。
586名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 18:13:50 ID:hvOd/5BW
>>585
無論だ。

フレイムヘイズ召喚すりゃいいじゃんと思ったが、まず召喚した相手に従わんな。
587名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 18:16:38 ID:gynzipSC
486k
588名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 19:10:19 ID:rvzFGccg
日ハムのイースラーを召喚だ!
589名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 19:18:38 ID:InobepRJ
広島のスラィリーを召喚
あのピロピロでみんなの脳みそが・・・
590遠い目:2009/02/23(月) 19:19:34 ID:mMgVebz+
野球選手なら元ヤクルトの鰐喰い外国人助っ人のパリッシュがいいんじゃまいか。
実在の人物ではあるが。
そういや昔、ファンロードにそんなネタ送ったら載ったなぁ。
591名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 19:24:47 ID:rvzFGccg
イチローはとっくに召喚されてるから、初芝を
592名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 19:25:38 ID:813rYzWn
>>589-590
ヒント:360モンキーズの細かすぎて伝わらない物まね
593名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 19:52:16 ID:B/OFrY8W
じゃあ大リーグでプレー経験もある日ハムのあの人を・・・
594名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 19:53:01 ID:o2eAmPh9
おーら 「香水」じゃねーよ! タチムカウ
    土くれ 散り散り タチムカウ
むしろ 犬死にの衛士 タチムカウ

おー狂い咲く 中ボスの証明

(ヴェストリに)何故居たか不思議でしょ 勝てるわけもないのに
僕たちの哀しさは ガンダにはわからない

僕たち弱いんだな 弱いから増えるんだな
閃光(笑)と笑うんだね 誇り高きスクウェアの証明

あなたがたは強くて 左手も伝説で
破壊のナントカなら ゴーレムは一捻りでしょう

学院の窓の外 召喚の春ですね
チートキャラの様です

てめーら コラ! な め る な よ !!

(ワルキューレ*7)「オー!」

僕ら 平民と決めて タチムカウ
   悪役かまして タチムカウ
僕ら 二股隠して タチムカウ
   無敵のメイドに タチムカウ
しかし なめてんじゃねーよ タチムカウ
    暗黒ルイズに タチムカウ
むしろ 一輪散らして タチムカウ

おー狂い咲く グラモンの証明

かかってきなさい どうってことねえよ
いつかはこの悪奴に 土下座させるぜ! 

「なあ兄弟?」 (遍在*4)「オー!」

僕ら セクハラこらえて タチムカウ
   土くれかざして タチムカウ
僕ら 不発の兵器で タチムカウ
   仕送りの為に タチムカウ
しかし ティファニアフラグも道連れ
    ふざけんじゃねーよ タチムカウ
むしろ ヒロイン目指して タチムカウ

おー狂い咲く 怪盗の証明

おーら なめてんじゃねーよ タチムカウ
    佐々木のマシンに タチムカウ
あえて ふられると知って タチムカウ
    ママンを求めて タチムカウ
もはや ロリコン マザコン タチムカウ
    折りしも革命 舞い散り

さらば 放置のライバル タチムカウ

おー狂い咲く 閃光の証明
595名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:19:15 ID:rvzFGccg
メジャアッー!♂リーガアッー!!♂(笑)ですね、よく分かります
596名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:23:09 ID:wKsL0dwk
日本ホモファイタアッー!ズ
597名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:29:06 ID:T7o+mxXm
疾風アイアンリーガーとな?
598名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:34:16 ID:dacjyENx
たのしい甲子園から太田召還
599名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:35:59 ID:q9cl/gQU
あばばばば
600名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:49:47 ID:C1Ce0KhK
>>598
どっちかというとツキシマを……
601名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:55:04 ID:NZnd4QAD
俺がガンダールヴだ。
602名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:57:34 ID:aV/8szlE
アスカ・シンを召喚して、ウルトラフォークだ!
「見たか俺のファインプレー!!」
603名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 20:59:42 ID:xvVfenFP
>>602
アンタって人はぁぁぁああああああああ!!

おっと、間違えちまったい。
604名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:01:29 ID:VMA0suD7
           ,. --_─── ァ-- 、
          ィ     ノ三三 ::/:三三\
        ォ/   イ三三三三ヽ三三三ヽ、
       〃..:.: イ三三三三三三:ヾ 三三ハ` .
       }j イ.::.:三三三三三三三三Vスィ三∧:.ヽ
       { :.:.:.:.:.:.三三_三=ォ ェ オテく :.:.: V 三}.:.:.:゙ .
       V:.:.::.:.:.イ:.矛:.j:.:/:.::ハ:从:| ゝ:.:.:.ヾV.:.:.:.:.:. ヽ
         Vイ::::/ :/ /:.:.:// _j_j}_j|  ヾ:.:.:.:.\:.:.:.:  ハ
         /:.::/:イ .:/ |:./:ォ'´ |:/_jj= 、  \:.:.:. ヾ:.:.::.:ハ
         .' :.:.イ_j:|_:j|_ / i/   /イr.::.ハ!   ミ:.:.::.:.:ヾ:.:.::.ハ
         イハ从!jj_、       V:少    `'⌒ヽ:.ト:、.:.ト ゝ
          l!ハ:!:ハV ff:ハ     ´      '⌒) 八::.:.\
          ! !|:.:.从 :少,              rン .イ:.:.::ハ:.:. ヾ
         ゝヾ:.:.:.:.:!              广´:.|:.:.:.::.:.:ヾ:.:.ノ
           V:.人    ,  -        |:.:.:. !:.:.:.|:.:.::ハ}
           V:.:.:へ            |:.:.:.:.:.:.: !!:.:.:!ノ
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             |/レハ:.:.! :.i>-r へ. '´  ,.-_二>ノ|::リ                   -‐…== 二二、 、
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             V丶: : : :\: : : : : : : : : :` ー─ √ヽ     V !:.:/ V              r少 .'/  /
             !: : ヽ: : : : \: : : : : : : : : : : : :/   !      V∠___j  ヽ    丶    ´  .イ
            ハ : : : : : : : : :` . : : : : : : : : :: }   !     ´    `ヽ   \     `   イ;:ノ
             : : : : : : : : : : : : : :` ー: : : : :ノ!    ! /       人   / `ー… ´ /´
             ! : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : }    レ′      / l l ` (
               !: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ノ  /       .  ´  l l   ヽ
           ノ : : : : : : : : : : : : : :` . : : : : : : レ'       . ´ !    j|   \
605名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:10:16 ID:6y0QxuIo
500k なら黒歴史となっている駄文を発表する!
606名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:13:14 ID:0iAOnqxA
黒歴史は明るみに出てこそ完成するんだぜ
607名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:15:50 ID:+w4lxqAq
ここはいっそ幕張から鉄人を……

野球も出来るし目の前を通過する車両の可愛い子をチェックする化け物じみた動体視力、
さらに受験勉強の邪魔と言う理由で暴走族を一人で壊滅に追い込む戦闘力

ただ問題は他の使い魔が奈良を始めとした変態集団吉六会やゴリになる可能性が……
608名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:17:58 ID:CfjX8wl3
>>607
うぐいすと混じってね?
609名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:18:43 ID:ln0c5CxO
カメレオンから相沢直樹を召喚
610名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:20:13 ID:VMA0suD7
幕張懐かしいな
銀魂のひとだっけか?
下品なギャグ漫画だったとしか覚えない
611名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:21:09 ID:aUNpBVx+
>>609
ここはどう考えても矢沢だろ
612名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:21:59 ID:+w4lxqAq
>>607
すまん混ざってるかも
>>610
今ヤンマがで喧嘩商売って漫画書いてるよ
613名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:22:50 ID:ln0c5CxO
相沢はケンキチの霊がついてるんだぜ
614名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:23:26 ID:2s04vj1t
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part215(実質Part216)
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1235088757/
615名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:31:48 ID:QQK4UGst
ヤンキー漫画なら、やっぱり男坂の菊川仁義のほうが良いだろ。
ラストシーンも書きやすいぞwww
616名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/23(月) 21:33:20 ID:rvzFGccg
500KBならTDN召喚
617名無しさん@お腹いっぱい。
                            . ≦  ̄ ̄ ̄ `ミ ‐  .
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                       .′ |/⌒_  , く__ノ  /⌒)) x /_)..:|   ヽ
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                      / __.ノ/ / 斗十 :ト/ノノ} : 7丁フ}: ト}:. ヽ `≧‐   i
                   ′` 7 :{ : : /,斗≧ミ´ ノイ'´孑≧ミハ: }: ハ.    l
                   {_ノ  /{小 {!ノ〃トr::.f.}`     ト.r::f.l`y| |/ }ノ    '.
                 /  /{.:.:/.:.{.小 ヘ.辷ツ      辷.ツ ノ}/小 ′     ヽ  終わりなんだよ
                . イ  / /.:./:.:.:.V .:. .:::::::.    ,     .::::::. ハ|ハ      l
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