あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part212
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part211
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1233687479/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
あっち崩壊寸前じゃん><
○________
なぎはらえー |:|\\:::::||.:.||::::://| /イ
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__ ィ ,. -――- 、 |:|:二二二二二二二 !// /
/ / \. |:l///||.:.|l\\\|/ /
/ ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./ / / l l l lハ |:|//:::::||.:.||:::::\\l /
ト、 ,.  ̄ ̄Τ 弋tァ― `ー / l从 |メ|_l l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄ | イ
ヽ \__∠ -――く __ .Z¨¨\ N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\| / / | / !
ヽ ∠____vvV____ヽ < ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐ . \ / / \ / l
. \\_____ivvvvvvvv| V. ( ( /Tえハフ{ V ‐一 '´ / __. -―=-` / / l l
\! | / 入_.V/| >-ヘ \:::∨::∧ ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ / / / l. l
__ |\ l/V _{_____/x| (_|::::__ノ }ィ介ーヘ / ,.-‐ ' ´ / ____  ̄ ̄フ ∧ l
)-ヘ j ̄} /| /___/xx| _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___ { / `< / \|
{ V /`7. /___./xXハ ( |:::::::::::::::::ハ >' ____ 二二二二二二> / __ 〈
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| ヽ /____|]]∧ __|__L.∠ ム' <`丶 、 `丶、 / \_____/ /
| ', { |]]]>' __ ∧ l\ \ 丶、 ` 、 ∠ -――- ..____ノ /
ノ } l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/ V' \ ヽ `丶\/ /
/ ∧ { \ | .|>' / // :/ :/ : ', l \ ヽ ,.-――┬ \ /
入ノ. ヽ く ヽ______7 ー―∠__ 〃 l :/ :l l \V ヽ \ ,. '´
`ー′ \ `< | { / | /〃 :|/ __V/ ̄| ̄ ̄{_ \_ ` <
\ `' ┴ヘ { .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' | / ノ`y‐一' >、_/ / ̄ 7丶、_ 丶
\ ヽ /`ー「と_し^´ | | } ム-‐' / / \_/ / / ヘ \
ヽ _>-ヶ--∧_} ノ j /` 7 ̄ ̄ ̄{ (  ̄ ̄`ー‐^ーく_〉 .ト、_>
', / 人__/ .ィ {__ノ`ー' ヽ 人 \__ { } |
V 人__/ / | /  ̄{ ̄ >‐ ァ-、 \ 〉ー} j
{ / ./ ∨ __  ̄ ̄ >-</ / ̄ ̄ 廴ノ '
<ヽ__ /し / < )__ \ _r‐く___/ / < ) \ {__ノ /
Y__>一' / ___r―、_\ >' `ー' ,. ´ >.、 \__ノ {
∠二)―、 `ー‐┐ ∠ ∠_r‐--― <__ ∠ )__ \_
∠)__ノ ̄`‐⌒ヽ__|> ∠)__r―――-― ..__{> ∠_廴,. ⌒ー'  ̄ \__{>
こんな早くに薙ぎ払うなんて!
7 :
虚無と賢女の人:2009/02/08(日) 23:25:51 ID:2YZOV2Y0
予約なければ23:30から投下します。
しえーん
いたるところで生徒たちの雑談が行われ賑やかな教室、彼らの脇に鎮座する多種多様な―――見たこともない生物も含めた
動物たち。恐らく全て使い魔なのだろう。生徒の中には雑談しながら使い魔と遊んでる者もいた。
(それにしても)
と思う。
教室のあちらこちらから向けられる好奇心と侮蔑が入り混じった視線に居心地の悪さを覚え、
エレアノールは内心でため息をつく。召喚された時の野次や先ほどの朝食の時にシエスタやマルトーから聞いた評判、
そして今の状況から考えれば、ルイズは明らかに周囲から見下されている。
一人の少女にこれだけの侮蔑や嘲笑を集中させて恥ずかしくないのだろうかと思うが、思わないのだろうと諦めにも似た
結論に思い至る。かつて、彼女が困窮しきった農民を救うべきじゃないかと周囲に相談した時、同じような嘲笑を
浴びせられたものだ。
(世界が違っても王侯貴族は特権と誇りに溺れて堕落するものなのですね……)
失望を表情に出さぬようにちょっとした努力を払い、彼女の立ってる場所のすぐ隣の席に座るルイズに視線を向ける。
その小さな身体―――十六歳と聞いて驚いたが―――にこれだけの悪意を受け続け、なお折れずに前を向き続けている
誇りと意志の強さ。
(私よりもずっと強いのですね、ルイズ……)
彼女を支えたい、とエレアノールは思う。しかし、この世界では―――ここが遺跡の中で生まれた想像の結晶たる虚構であれ、
『新しき世界』の結果生まれた確固たる存在を持つ現実であれ―――自分は異邦人。いつか、可能ならば元の世界に帰る
仮初の住人である自分。彼女を支え続けることなど出来ない。
仲間たちの元へと帰りたいと思う気持ちと、ルイズの側でずっと支えてあげたいという気持ち、矛盾する考えが頭の中を巡る。
「皆さん、お喋りの時間はもう終わりですよ」
教室の扉から帽子をかぶった中年の女性が入っていた。一瞬間をおいて、教室中の雑談が静まりはじめ、
生徒たちは座りなおして前を向く。教壇のつくと女性―――先生は教室中を見回す。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、毎年最初の授業で召喚された使い魔を
見るのがとても楽しみなのですよ」
教室を巡る視線がルイズと横に立つエレアノールに向けられる。
「特にミス・ヴァリエールは変わった使い魔を召喚したものですね」
その瞬間、教室がドっとした笑い声に包まれる。シュヴルーズの様子からからして蔑んでるわけではないのだろうが、
エレアノールからしてみればルイズに向けられてる悪意に無頓着すぎる発言と感じられた。
「ゼロのルイズ! 召喚に失敗したからといって、平民を雇って連れてくるなよな!」
「な……!」
「ご主人様!」
激昂したルイズが立ち上がり言い返そうとして―――エレアノールに制される。声に含まれる強い意志と、
それを信念に込めた表情に思わず従う。
「ははは、言い返しもしないか! やっぱりゼロのルイズは召喚できなか―――ヒィッ!?」
嘲笑に追従しようとした生徒は、エレアノールの視線に言葉を詰まらせる。その視線に込められているのは純然たる怒りと、
殺意にも近い敵意。人間よりも強靭な魔物相手に毎日のように命がけの戦いを繰り返していたエレアノールからの殺気に、
悠々自適な学園生活を送るだけの生徒は恐怖で震え上がる。笑っていた他の生徒たちも、異常な雰囲気に気づき
次第に静まっていく。
何人かの男子生徒を侍らせていたキュルケも恐怖の感情を隠しきれなく、ただ一人、青いショートカットの小柄な眼鏡の少女が
平然とエレアノールを見つめ返していたが。
「はいはい、皆さん。友達を中傷することはいけません。授業を始めますから前を向きなさい」
唯一、エレアノールの殺気を向けられていない―――空気が読めてない―――シュヴルーズは手を叩いて
事態を収束させる。同時にエレアノールから放たれていた殺気も立ち消え、恐怖で凍り付いていた生徒もドっと椅子に
沈み込んだ。
傍らのルイズは最後までエレアノールを見上げていたが、安心させるような微笑みを向けられて前に向き直った。
授業はシュヴルーズの自己紹介、『赤土』という二つ名とこれから一年の授業で教える土の系統魔法のこと、そして基本的な
おさらいから始まった。この『世界』の魔法に興味をひかれたエレアノールは、ルイズから筆と数枚の紙を借りてメモを
講義の内容を書き記す。
(魔法の四大系統と虚無の系統……、それにしてもこちらの魔法は生活に密接しているのですね)
教壇で石ころを真鍮へと変えさせたシュヴルーズの『錬金』を見て素直に感心する。説明を聞く限りでは、
上位のメイジなら石ころから金をも作れるようだ。
(トライアングルとかスクウェアというのがメイジの格みたいですね)
授業の後でルイズに詳しく聞いてみようと思っていると、再びシュヴルーズの視線がこちらに向けられた。
「では、ミス・ヴァリエール。今の錬金をやってみてください」
「え? 私、ですか?」
ザワ……と教室中の生徒がざわめき、キュルケが困ったように手を上げる。
「ご存知、ないのですか? 彼女に実技をさせるのは止めといた方がいいと思いますわ」
教室中の生徒たちがその言葉に一斉に頷く。そうだ、そうだと声を上げて同調する者も居た。
エレアノールは最初はルイズへの侮蔑かと思ったが、どうやら違うようだ。彼らは本心から恐れている。
「私は彼女が努力家と聞いております。さぁ、ミス・ヴァリエール、失敗を恐れずにやってごらんなさい」
「先生!」
なおも食い下がるキュルケに、ルイズは意を決して立ち上がる。緊張しているが、迷いはなかった。
「やります!」
「ルイズ、止めて……!」
キュルケの制止を振り切って、教壇まで歩いていく。同時に教室中のほぼ全ての生徒が机の下に潜り込む。教室から
使い魔と共に出て行く生徒も居た。一人、事態を把握しきれないエレアノールは呆然と教室を見回していた。
教壇では、シュヴルーズが生徒たちの突然の行動に同じように呆然としていたが、それを問いただすことよりルイズへの
指導を優先して、呪文を唱える彼女ににっこりと笑いかける。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです。きっと上手く―――」
シュヴルーズの指導は、ルイズが杖を振り下ろしたと同時に中断することとなった。錬金により石ころが他の金属に変わった
ためでなく、閃光ともに爆発したのだ。爆心の間近で爆風をまともに受けるルイズとシュヴルーズ、隠れていた席ごと
吹っ飛ばされて悲鳴を上げる生徒、突然の爆発に驚いて暴れだす使い魔たち。
「―――ルイズ!」
阿鼻叫喚の大騒ぎの中、最初に冷静さを取り戻したのはエレアノールであった。混乱する生徒と使い魔―――何かを丸呑み
してた大蛇を踏みつけるが気にも留めず―――を掻き分け、仰向けに倒れてるルイズの下へと走る。
「ルイズ!? しっかりしてください!?」
煤で真っ黒になったルイズを抱き起こす。幸い、服がボロボロになっていたが外傷もなく、爆発のショックで放心状態に
なっているが無事であった。
「ルイズ! ルイ―――ご主人様! 大丈夫ですか?」
エレアノールの呼びかけにルイズの瞳の焦点が合い、ぷるるっと頭を振って立ち上がる。すぐ近くで倒れて痙攣している
シュヴルーズ、次に教室の惨状を見回す。
「ちょっと失敗みたいね」
言うまでもなく、言うほどでもないのだが、ルイズの一言が教室中からの大ブーイングを引き起こす。ムキになって
言い返すルイズと、さらに言い返す生徒たち。
(なるほど……成功率『ゼロ』が由来なのですね……)
幼稚な口喧嘩にエレアノールはため息をつきながら、現時点で最も救護が必要な人物、シュヴルーズの介抱を始めた。
「アフロ」
廊下に退避していた生徒の一人、青髪の少女が倒れてるシュヴルーズを扉の間から覗き見て呟いていたが、
口喧嘩中の教室中の生徒たちには聞えてなかった―――聞えていたエレアノールも聞こえなかったことにした。
エレアノールの介抱により意識を取り戻したシュヴルーズは、授業の中止と爆発の片付けをルイズとエレアノールに
命じると、ヨロヨロとした足取りで教室を後にした。もちろん、罰の意味を込めて魔法の禁止も言い渡していたが、
魔法の使えないルイズには大して意味はなかった。
黙々と部屋の片付けをこなすエレアノールに対し、ルイズはボンヤリとしながら雑巾で机を拭いていた。時々、
何か言いたそうにエレアノールの方を向き、しばし葛藤するように小声で自問自答をして、再び雑巾がけに戻る。
お世辞にも効率的に掃除してるとは言えなかったが、エレアノールは気づかないふりをしていた。
そんな重苦しい教室に掃除道具を持ったメイド―――シエスタが入ってきたのは、遅々とした片付けがようやく
半分終わった頃であった。
「ミス・ヴァリエール、片付けの手伝いを言い付かって参りました」
「え……? そ、うなの?」
はいと頷いて、持ってきた掃除道具でまだ片付けだけで掃除が出来てなかった部分を磨き始める。掃除道具の扱う動きは
実に慣れたものであった。呆然とシエスタの動きを見ていたルイズだったが、やがて雑巾がけを再開する。
ルイズを横目で確認しつつ、エレアノールはこっそりとシエスタに近づく。
「シエスタさん? 本当に先ほどの教師から手伝いを言われたのですか?」
「いいえ、言われてないですよ」
小声であっさりと否定する。
「実を言えばこの教室の片付けと掃除の仕上げは、私たちの役目になるのです。あまり時間がかかると昼からの
授業に間に合いませんし、私たちも休憩を取る時間がなくなりますから」
ペロっと悪戯っぽく舌を出しての本音。それに、と続けて、
「手伝いを言われたのは事実ですよ、教師じゃなくて用務員の人からですけど」
「なるほど……」
したたかな言葉に納得する。
「後はちょっとした好意と好奇心もありますけど―――あ、エレアノールさん。その机の向こう側を持ち上げくれませんか?」
「え? ええ、わかりました。……こうですか?」
ルイズがこちらの様子を伺っていることに気づいた二人は、わざと大きな声で誤魔化す。ルイズもしばらく不思議そうに
二人を見つめていたが、やがて自分の作業に戻る。プライドの高いルイズが、自分への罰なのに平民が手伝いを申し出たと
知れば、強硬に反対するだろうと二人は分かっていたのであった。
片付けが終わりに近づいた頃、エレアノールはシエスタの動き―――重心、足の踏み位置、体さばき、バランスの取り方
などが熟達されていることに気づいた。それも、一見だけでは分からないほどに自然な動き。今も重いガラス板を軽々と
窓にはめている。
(そういえば……、今朝も十個近い洗濯籠を苦もなく持ち歩いていましたね)
水汲み場のことを思い返し、護身術か何かを習っているのだろうと推測する。同時に、手習い程度ではあれだけの
技量を身につけることは出来ないはずと思い至るが、本人に確かめるほどでもないと黙っていることにした。
シエスタの手伝いにより昼前に片付けが終わり、元の仕事に戻るシエスタを見送った二人は、爆発で掃除でボロボロに汚れた
ルイズの着替えのために寮の自室へと戻っていた。今朝と同じくエレアノールが手伝う。二度目ということもあり、
すぐに着替えは終わった。
「ご主人様、終わりましたので確認をお願いします」
エレアノールの声にルイズは、ああそうと生返事を返す。その目はどこか虚ろであった。
「ご主人様?」
「……ねぇ、何か言いたいことないの?」
「何か……とは?」
ルイズの声に只ならぬ気配を感じたエレアノールは努めて感情を抑えて聞き返す。
「……さっきのことよ。私が魔法を使おうとするといつもああなるの、……ドカンって爆発。
実はね、貴女を召喚する時も何回も失敗したの、呪文を唱えるたびに爆発、爆発、爆発」
せき止めていた水が一気に流れ出すように、何もかもを喋りたい衝動。それがルイズを突き動かす。
「それでね、貴女が来てくれたの。周りから野次飛ばされたけど嬉しかったわ、ようやく魔法が使えるようになった。
もう私は『ゼロ』なんかじゃないって。契約も……爆発も何も起こらず、一回で成功した時はもっと嬉しかったわ。
それなのに……、それなのに……」
つぅっとルイズの頬を伝って涙が零れ落ちる。
「貴女だって変だと思ったでしょ? 魔法の使えないメイジ、出来損ないの貴族って!? 何で!? 何でなのよ!?
何で私は魔法が使えないのよ!?」
感情のタガが外れ泣き叫ぶ。
エレアノールは自己嫌悪のまま泣き続けようとしたルイズを抱きしめた。
「……落ち着いてください、ご主人様―――いえ、ルイズ」
「え……?」
「ルイズは、私のために―――仲間と離れ離れになった私のために、会いに行ってもいい、旅費も出してもいいって
言ってくださいました。その優しい心遣いはとても嬉しいです」
ルイズの頭に手を回し、そっと抱き止める。プライドの高いルイズは自分の泣いているところなど―――例え感情のタガが
外れているとは言え見られたくないだろう。だから見ない、抱き止めるだけ。
「使用人の人たちからも聞きました。ルイズはずっと一人で侮蔑と嘲笑に耐えてきたのですよね? それは本当に
素晴らしいことです。貴女の気高さは少しも損なわれてなかったのですから」
「……ぅく、……ぅぅ」
「だから少しだけ、わずかな間だけ休んでください。そして、いつもの誇り高きルイズに戻ってください……」
抱きしめたまま、ルイズの頭を優しく撫でる。ルイズの気が済むまでずっと抱きとめておこう、と。
(まるで……ちいねえさまみたい……)
懐かしい想いに浸り続ける。遠くから昼食の予鈴が聞こえ、同時に空腹感も覚える。
しかし、ルイズはずっとその懐かしい暖かさを感じ続けることを選んだ。
アルヴィーズの食堂では既に食事が始まっていた。ルイズとエレアノールは賑やかな生徒たちと、
空き皿や新しい料理を持って行ったり来たりするメイドたちをかき分けて席にたどり着いた。
「じゃあ、貴女も食べに行ってもいいわよ」
エレアノールの引いた椅子に座りながら、いつもどおりの口調と表情に戻ったルイズは振り返る。
「はい、ありがとうございます。それでは―――」
「あ、ちょっと! さ、さっきのはと、とと特別に許してあげるけど、ご主人様って言わないとダ、ダダメなんだからね!」
「……ええ、失礼しましたご主人様」
顔を真っ赤にして照れているルイズに、クスリっと微笑む。
「あ、あと……、ぜぜ、絶対に他言無用よ! 誰かに話したりしたら承知しないのだから!!」
賑やかな食堂とはいえ、周囲の席に丸聞こえ。何人かの生徒が何事かと注目してくるか、ルイズはそれに気づかなかったようだ。
「承知しております、ご主人様。……御用は以上でしょうか?」
「そうよ、他にはないわね」
改めて一礼するとエレアノールは厨房へ向かっていった。その姿が見えなくなるまで見送ったルイズは前を向き直り、
そして自分に注目する周囲の生徒の視線にようやく気づいた。慌てて食事の前の始祖への祈りをすばやく言い、
昼食に取り掛かる。周囲もうろんな者を見るような視線を向けていたが、すぐに興味をなくしたのか思い思いに
雑談や食事の続きへと戻っていった。
厨房は文字通り戦場であった。台の上に所狭しと並べられた高価そうな皿に置かれていくデザート、空いた大皿を流し台へと
積み上げるメイドたち。戦場以外表現しようがなかった。
(賄いをもらえるような状況じゃありませんね)
昨夜と今朝はたまたま手隙のタイミングだったのだろうと考え、手近の顔馴染みとなったのコックへ声をかける。
「すみません?」
「ああ、何だって!? ……あ、エレアノールさん!」
忙しさのあまり殺気立っていたコックは、相手がエレアノールだと知ると慌てて表情を緩めた。
「あの、何か手伝えることはありませんか?」
「え? えええ!? いや、それは助かりますが……、しかし」
「マルトーさんには後から話しておきますから」
コックは根負けしたようにため息をついた。
「……分かりました、ではこっちのデザートを配るのを手伝ってください」
ルイズは思い悩んでいた。それは、目の前の料理の付け合せにたっぷりとハシバミ草が使われていたことでも、
魔法が使えないこと―――無論、重要なことであったが今は思考の隅に追いやっていた―――でもなかった。
(はぁ〜……、何してるのよさっきの私……)
フォークで鶏肉をブスブスと刺しながらため息をつく。使い魔の前で感情を爆発させて泣いてしまった。
さらに抱きとめられて、ご主人様じゃなくてルイズの名で呼ばれて……威厳も何もない。
(ああ、もう! さっきはちょっと変だったのよ! 異常だったのよ! だから無かったことに!!)
鶏肉を刺すフォークはブスブスからザクザクへと進化し、比例するように鶏肉も刻一刻とミンチになりつつある。
そのまま先ほどの記憶を打ち消そうと躍起になってフォークを突き刺し続けるが、それでもエレアノールに抱きとめられた時の
安心感と温もりは心に強く響く。ルイズと呼ばれることにも嫌悪感は何もなく、ホっとする気持ちになる。
出会ってまだ一日ほどなのに、何でこんなに自分は彼女に心を許してしまうのか。
貴族としての誇りと安堵感の板ばさみになっているルイズ、その硬直は目の前にデザートのケーキが置かれてようやく解けた。
「ケーキでございます、ご主人様」
―――否、突然のエレアノールの声で解かれた。
「な、ななな!? 何で貴女がケーキを配ってるのよ!? 食事はどうしたのよ!?」
「いえ……厨房の皆さんも忙しそうだったのでお手伝いを、と思いまして」
先ほどの掃除のお礼もありますしね、と微笑みエレアノール。
「そ、そうね……。じゃあ、頑張ってきなさいよ」
「はい」
デザートの配膳作業に戻ったエレアノールが十分に距離を取ったのを確認して、ルイズは再びため息をつく。何となく、
今の悩んでいるところを見られたくないっと思ってしまう。
(多分……見られてないよね。うん、見られてない)
気を取り直して、目の前のケーキに意識を移す。大好物のクックベリーパイじゃないのが残念だが、おいしそうなケーキ。
ルイズはデザート用の小さいフォークに持ち替えて、まずは一口分切り取って口に運ぶ。
(ん……おいしい♪)
しっかりと味わって二口目、三口目―――ちょっと離れたところで、何やら騒ぎが起きてるが気にせずにケーキを頬張る。
栗色の髪の一年生の少女と巻き髪の少女―――モンモランシーが相次いでその騒ぎに飛び込み、泣きながら、そして怒りながら
走り去っていった。―――四口目、どうやら騒ぎの原因はギーシュらしい。あのキザ男が二股でもしてたのだろう。
(自業自得よねー、まったく)
むしろ今までバレてないだけ幸運な方よねと思いつつ、最後の一口を口へと運ぶ。
「どうしてくれる! 君が香水の瓶を拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉に傷ついたじゃないか!? 機転を利かせて
こっそり渡してくれるくらいしたらどうだ!?」
八つ当たりかっこ悪い。ただ、その八つ当たりの対象は誰なのか興味がわいたので、改めて騒ぎの現場に視線を向ける。
「しかし、二股をされていた貴方に責があるのでは?」
対象→自分の使い魔エレアノール。しかも、怒り心頭のギーシュに反論している。
「ええええぇレア、ケフッ! ゴフォゴフォッ!?」
ルイズはケーキを口に含んだまま叫ぼうとして、思いっきりむせて咳き込むのであった。
「しかし、二股をされていた貴方に責があるのでは?」
「そのとおりだギーシュ! お前が悪い!」
エレアノールの言葉に周囲の男子生徒たちが、どっと大笑いする。ギーシュは羞恥と怒りで顔を赤くする。
「とにかくメイド嬢。僕が二股かけていようと、君の軽率な行動が原因でこうなったんだ。それについて謝罪するつもりは
無いのかい?」
「私が何もしなくても時間の問題だったと思いますが……。それに、服を借りているだけで私は学院のメイドではありませんよ」
「何だって? ……ああ、なるほど」
エレアノールの顔をしばし見つめ、納得したように頷く。
「ゼロのルイズが呼び出した平民だったな。全く、ルイズもルイズなら使い魔も使い魔だな」
バカにしたように鼻を鳴らして、やれやれと首を振る。
「―――どういう意味ですか?」
「決まっているじゃないか、ゼロのルイズの使い魔に機転を期待するのは、愚かだ……った、と……」
得意気に芝居がかった仕草を取っていたギーシュは、エレアノールからの視線―――教室の時に比べて幾分抑えていたが
―――に言葉が詰まりだす。
「私への批難は甘んじてお受けしますが、ご主人様への侮辱は取り消してください」
声色こそ平静を装っていたが、有無を言わせないほどの迫力を秘めていた。ギーシュは髪からまだ滴り落ちるワインとは
別に冷や汗をかいている自分に気づき、続いて猛獣の尻尾を踏んでしまったことを察した、致命的に強く踏みつけたのだ。
無意識のうちに一歩下がりそうになり、その場に踏みとどまる。『命を惜しまず名を惜しめ』のグラモン家の家訓が
辛うじてギーシュを支えていた。
「ふ…ふふふ、ふふ、よかろう! 君がそれを望むのなら決闘で決着をつけようじゃないか!!」
自分を奮い立たせるように大声で宣言し、青銅の薔薇の造花をエレアノールに突きつける。
「いいでしょう……、それでここで決闘ですか?」
「こんな狭いところでは満足に戦えまい、ヴェストリの広場でするぞ。君もケーキを配り終わったら来たまえ」
ギーシュはくるりと体を翻して先に食堂を後にした。何人かの生徒たちが期待に満ちた表情で続く。
後に残されたのはエレアノールと何人かの―――こちらも期待に満ちた表情で見つめてくる―――生徒たち。
「……待たせるのも悪いですね」
ふぅっとため息をついて、ケーキの配膳を誰か手近のメイドに任せようと周囲を見回すと、ちょうどシエスタが目の前まで
寄って来ていた。
「あ、シエスタさん、申し訳ありませんが―――」
「エレアノールさん!!」
シエスタは表情と声色に剣呑なものを浮かべていた。
「エレアノールさん!! 貴族と戦ったら……ダメです!!」
続いてようやく落ち着いたルイズもエレアノールの元へと駆けつけてくる。咳き込んでてエレアノールとギーシュの会話を
聞くことが出来なかったが最後の『決闘』という不穏な単語はしっかりと耳に届いていた。
「貴女! 何勝手に決闘の約束なんかしてるのよ!! 勝てるわけがないでしょ!!」
「今ならまだ、謝れば間に合うかもしれないです! 下手に戦うと厄介なことになりますよ!!」
説得しようと押しとどめる二人をエレアノールは両手を向けて遮る。
「心配してくださってありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
見るもの安心させる微笑みを二人に返して言葉を続ける、腕にそれなりに覚えはありますから、と。そして、残っていた
生徒の一人に案内を頼むと二人を振り切るようにして食堂を後にする。
残されたのは怒りで涙目になっているルイズと、ケーキの配膳台を受け取ったシエスタ。
「な、何なのよ、もう……! いくら冒険者してて腕に覚えがあっても、メイジに勝てるわけないじゃない!!」
地団駄を踏んで叫ぶ。一方のシエスタは「ふぅ……」とため息つくと、ケーキの配膳台をさらに手近の同僚に任せる。
「ミス・ヴァリエール、私たちも行きましょう」
「え……?」
「お気づきじゃなかったのかもしれませんけど、エレアノールさんはミス・ヴァリエールへの侮辱を取り消そうと
していたのですよ」
「え? 何、よ……それ?」
ルイズの問いに、シエスタはにっこりと笑って答える。
「ミス・ヴァリエールのことを想っておられるのですよ。それに……エレアノールさんなら案外あっさりと勝っちゃうと
思います」
(エレアノールさんが、私の知ってる『エレアノールさん』だったら……ですけどね)
言葉の半分を飲み込んで、ルイズを先導するように歩き出した。一歩遅れたルイズは慌ててその後を追う。
「え? え? ちょっと、あっさり勝っちゃうってどういうことよ!? ちょっと待ちなさいよ!!」
シエスタはルイズに問いに答えなかった。ただ胸中でため息混じりに呟く。
(ミス・ヴァリエールの後ろ盾もありますし、勝っても厄介事は少なくすむかもしれませんしね)
オールド・オスマンとは誰かと問われた人が十人居れば十人ともこう答えるだろう。トリステイン魔法学院の学院長、
齢百歳とも三百歳とも言われる古老、偉大なるメイジ。
しかし、秘書のロングビルからしてみればただのセクハラ爺、隙あらば胸に飛び込もうと虎視眈々と狙う重度の女好き、
使い魔のネズミにスカートを覗かせようとする変態……等等。
「ふぅむ……」
今も古書を片手に部屋中を歩き回ってる……フリをしてロングビルの後ろに回り込もうとしていた。おそらく、後ろから
抱きつくかお尻を撫でるか、はたまた胸を鷲掴みにするか狙っているのだろう。
「オールド・オスマン。気が散るので出来れば席に座ってジッとしていただけると助かるのですが」
「いやなに、今読んでる内容が難解でのぉ……、こうやって身体を軽く動かしていると理解できそうなのじゃよ」
さりげなくロングビルの執務机に歩み寄り、服の上からも分かる形の良い両胸に視線を合わせる。
「わたくしの胸を見るより本を読んでくださ―――」
チュチュッ!
足元でネズミが駆け回る気配、慌てて足元を見ると逃げていくネズミの尻尾。
「オールド・オスマン!!」
「油断大敵じゃな、ミス・ロングビル。ふむふむ……そうか白か、純白か」
立ち上がって詰め寄るロングビルを軽く受け流して、ネズミ―――モートソグニルからの報告に頷く。威厳もへったくれもない。
「しかし、しかしじゃな、ミス・ロングビルには黒の下着が似合うじゃろう。熟した色気がよりいっそう薫りたって―――」
ゴスッっと重量感のある音が学院長室に響く。オスマンは頭に走る激痛にその場に蹲る。
「あら、重くて手が滑りましたわ」
いつの間にか飾ってあった花瓶を手に持っていたロングビルは、用が終わった花瓶を元の場所に戻した。
「あだだだだ……、年寄りに、いたわりの気持ちを持たないのかね?」
「セクハラを自重する年相応の分別こそ、オールド・オスマンに必要かとわたくしは真摯に考えておりますが?」
ヨロヨロと立ち上がるオスマンを切って捨てる。
「セクハラくらい良かろう! そんなに目くじら立てるから婚期を逃すのじゃ―――」
ドゴ、ガシ、ゲシゲシゲシゲシゲシゲシ。
順に……膝蹴りが腹に、腹を押さえたところに脳天に一撃、倒れて痛みに悶えてるところに踏みつけの連打。
「痛! ちょ、やめ!? あだだッ!! 死、死ぬ!?」
ロングビルによるオスマン虐待は、学院長室のドアが開くまで続いた。バタンっとノックもなしに勢いよく学院長室に
入ってきたのはコルベール、一睡もしていないか目の下に隈が浮かんでいたが目の光はしっかりとしたものであった。
「オールド・オスマン! たたた、大変です! 大発見です!!」
「何じゃね、騒々しい……ノックもなしに」
オスマンは窓際で外からの日差しが渋く決まるように立っており、ロングビルも執務机について黙々と書類作業を
していた。刹那の一瞬の早業である。
「『始祖ブリミルとその使い魔たち』じゃないか、こんな埃臭い文献など漁っておるほど暇でもあるまいに。
それでこの本がどうかしたのかね……ええっと、ミスタ何だっけ?」
「コルベールです!!」
「おお、そうそう、そうじゃったなコール・ミー・タクシー君」
「コルベールです、コ・ル・ベ・ェ・ル!!」
大声で訂正しながらも、書物を開いて挿絵のページを示し、続いて昨日の春の使い魔召喚の儀式でエレアノールの左手に
現れたルーンのスケッチを手渡す。一目見た瞬間、好々爺だった顔が、引き締まった練達のメイジの顔になる。
「ミス・ロングビル、席を外しなさい。それと急な用件以外の訪問は受け付けないと教師たちに連絡をしてくれたまえ」
急に雰囲気が変わったオスマンに怪訝な表情を浮かべつつも、ロングビルは学院長室から退出していく。
「どういうことかね、ミスタ・コルベール。詳しい説明を聞けるのじゃろうな?」
コルベールは興奮で顔を真っ赤にしながら説明を開始した。
―――昨日、ミス・ヴァリエールが人間を召喚し、その手に刻まれたルーンが見慣れるモノであったということ。
気になってフェニアのライブラリーに一晩中篭って文献を漁り、つい先ほど、一致するルーンが書かれた書物
『始祖ブリミルとその使い魔たち』に行き着いた、と。
「つまり、君の結論ではミス・ヴァリエールは伝説の『ガンダールヴ』を召喚したというのかね?」
「そのとおりです! 間違いなくあの女性は『ガンダールヴ』です! これは大変な大発見ですよ、オールド・オスマン!!」
興奮気味のコルベールに対し、オスマンは深く考え込むように椅子に身を沈めた。
「ふむ……、ルーンが一致したからといって確実に『ガンダールヴ』とは言えまい。決め付けるのは早計かもしれん」
「それもそうですな」
「ところで、そのミス・ヴァリエールが召喚したという女性は、君から見てどのように見えたのかね?」
普段の女性に対する好色さを全く纏わないオスマンの問いに、コルベールは数度深呼吸して落ち着いてから答える。
「そうですな……、召喚された時に見につけていた防具といい隙の無さといい―――戦い慣れているように思えました。
恐らく、傭兵か何かを生業にしているのかもしれません……が、粗野な雰囲気も一切感じさせませんでした」
「ほう、荒くれ者の傭兵なのに粗野じゃないとは……なかなかミステリアスな女性じゃのぉ」
一度、会ってみるべきかもしれん、と考えていたところにドアのノック音が室内に響いた。
「誰じゃ?」
「私です、オールド・オスマン。先ほど、教師の方から至急の用件があるとの伝言を承ってまいりました」
「ふむ、入りたまえ」
オスマンの許しを得てロングビルが入室してくる。
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。野次馬の生徒たちが集まって大騒ぎになっており、教師たちも
止められないようです」
「まったく、暇を持て余した貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰と誰が決闘なぞしておるんじゃね?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン。もう一人はミス・ヴァリエールの使い魔の女性です」
今まで話題になっていた『ガンダールヴ(仮)』の女性が出てきて、オスマンとコルベールは顔を見合わせる。
「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」
「たかだかケンカに秘宝を使うまでもなかろう。念のために水魔法に長けた教師を何人かヴェストリの広場に向かわせて、
あとは沈静化するまで放っておきなさい」
「分かりました、そのように伝えてまいります」
指示を受けたロングビルは教師たちに伝えるために学院長室を後にした。十分に足音が遠ざかったのを確認して、
オスマンとコルベールは顔を再び合わせる。
「オールド・オスマン」
「うむ……、グラモンのバカ息子には悪いが見極めるのにちょうどいい機会じゃ」
オスマンが壁にかかった大きな鏡に向かって杖を振ると、そこに外の光景―――野次馬で埋まっているヴェストリ広場で
対峙しているエレアノールとギーシュの様子が映し出された。
20 :
虚無と賢女の人:2009/02/08(日) 23:56:14 ID:2YZOV2Y0
以上で投下完了です。
いや、まぁ……ベアルファレスはマイナーすぎるってツッコミありましたけど、
愛着のあるゲームでしたからね、キャラクターもストーリーも。
あとはまだ元ネタ作品でまだ題材になってなくて、かつキャラクターを把握できてるのは
これくらいしか無かったもので……。
何はともあれ、皆様、おやすみなさいませー
乙です。
次回はギーシュ戦ですね。
楽しみです
乙。これで主人公が呼ばれてたら、フリップパネルとかの効果が
どういうことになってたのかが気になるわwww
こんばんわー。
以前プロローグを書かせていただいた者です。
一話ができたのでよろしければ20分ごろに投下したいと思います。
キャラはサモンナイト2のビーニャです。
よろしくお願いします。
ゼロと魔獣のような悪魔―1
「悪魔がきたりて牙をむく」
トリステイン魔法学園。
そこでは学園の恒例行事である使い魔召喚の儀が順調に進んでいた。
そう、一人を除いては・・・
チュド―――ン・・・
爆発が起きる。
そこに爆発の産物である大きな穴が開く。
その横には同じぐらいの穴が開いているが、一つや二つではない。
大小に差はあれど、ざっと30はその穴が出来上がっているのである。
新しく空いた穴の前で、それを作った人物が肩を震わせていた。
桃色がかったブロンドの美しい少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・
ヴァリエール。
彼女は肩・・・いや、全身を微妙に震わせながら、泣きそうになる自分を必死に抑えていた。
周りの生徒達は次々と召喚を成功させ、コントラクト・サーヴァントもすいすいと進めていく。
なのに自分はなにもない穴ぼこを大量生産している。
「ゼロのルイズ!穴を掘っても地面の下に使い魔はいないと思うぞー!」
「それとも穴掘り職人にでもなるのかー?」
「木を植えたりする穴を掘るんだったら便利そうね」
「なんならウチで雇ってやろうかー?あ、それなら魔法より庭師の勉強をしておいてくれないと」
「ははは!そりゃいいや、それならゼロじゃなくて「庭のルイズ」っていう素敵な名前
がつくぞ!」
周囲から飛んでくる野次。
それを背に受けてルイズの震えが大きくなった。
(・・・・なんで成功しないのよっ!)
顔を赤くさせ拳を握り締めながら、ルイズは穴を見つめていた。
この召喚の儀式の責任者であるコルベールはそんなルイズの様子をずっと見ていたが、
そろそろ止めるべきかと思っていた。
失敗とは言えあの爆発にも力を使う、一つ一つは小さくともそれが蓄積すれば大きな消耗となる。
このままでは彼女は倒れるまで続けるかもしれない。
いや、倒れるまでやるだろう。
コルベールはルイズの性格は承知していた。
「ミス・ヴァリエール。今日はここまでにして明日、また挑戦しましょう」
「いえ!このままでは終われません!」
自分の問いに対するルイズの返事も予想通りだった。
「・・・では、あと一回だけサモン・サーヴァントを許可します。
どちらにせよ、今日はここまでですよ?」
「はい!」
ルイズもその提案に納得したので、コルベールはその場から少し下がる。
「心を落ち着かせて、神経を集中させて呼んでみなさい」
アドバイスもつけて。
ルイズは目を閉じて、大きく、そして長めに深呼吸をする。
全神経を召喚に集中させ、今までのようにではなく大きな声で呼びかけた。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!
私は心より求め、訴えるわ!我が導きに答えなさい!」
ルイズが詠唱らしき宣言を終えると同時にそこに大爆発が起きた。
これには野次を飛ばしていた周りの生徒や見守っていたコルベールも仰天した。
爆風に生徒の何人かは吹っ飛ばされ、召喚された各使い魔達が騒ぎ始めた。
(そんな・・・・失敗なの!?)
またもの爆発にルイズは落胆しかけたが、土煙が収まり始めると中央部に何かの影が
あるのが見えた。
「やった!何かいる!」
思わず口に出してしまう程、ルイズは嬉しかった。
そしてその影の主が姿を現す。
(え・・・・人・・・?)
そこにいたのは妙な服を着た自分と同じぐらいと思える少女。
ところどころにケガをしているのか血を流して荒い呼吸を繰り返してる。
顔色が悪く見えるのはそのせいか、とにかくケガをしているのならば治療が必要だ。
やっと成功した私の使い魔。
とにかく今は治療しようと呼びかけることにした。
「ねぇ、あなた。ケガしてるのなら」
その先は言葉にならなかった。
目が合ったと思った瞬間、少女は腰元から短剣を抜き放ってルイズに飛びかかったのだ。
召喚された少女、ビーニャは混乱していた。
自分は死んだものかと思っていたが、光が収まり目をそろりと開けてみると周りには召喚師とおぼしき連中が周りを取り囲んでいる。
そいつらの周囲には召喚獣と思われる物も見える。
自分は悪魔形態から仮の人間の状態にもどっている。
あの調律者の末裔のアイツはどうした?
あのメトラルのアイツは?
その仲間どもは?
周囲に気を配るがそれらしき奴は一人もいない。
周りは見慣れないが同じ恰好のガキ年齢の召喚師。
お育ちが良さそうだ、身なりの綺麗さが目立つ。
金の派閥の連中か。
数がやたら多いが、アレか、残党狩りか。
調律者御一行どもはアタシが死んだと思ってどこかに行った。
それで金の派閥の連中がアタシの死にざまを確認しに来て、魔獣の生き残りがいないかを見にきて、もしアタシが生きてたら消耗してるだろうから多人数なら勝てると踏んだ。
ろくに戦いの経験もないようなガキを出しても倒せる、と。
ナメた真似してくれんじゃない。
しかも目の前に一人いるし。
なんか笑ってる、しかも手をこっちに向けてくる。
あっそう、私一人で十分ってやつ?
そうかもね、悪魔でもここまでボロボロならガキ、しかも女でも一人で倒せるかもしれないじゃない。
護衛獣もいらないってワケね。
あっそう、それじゃお望みどおり、
殺してあげる。
>>20 投下乙でした。
俺も両主人公でほぼ全員のEDを見てたりしますから結構愛着のあるゲームですw
嫌いな敵はブーエヤダーニ。
それと支援。
短剣を振りかぶりルイズを襲うビーニャ。
(しまった!なにをやっているんだ私は!!)
コルベールは爆発に気を奪われ過ぎていた自分を叱咤した。
いやそれよりもルイズを!
杖を抜きビーニャに向け炎を放たんとする。
間に合え―!!
狙いは首、大きく横に振りかぶりそのまま薙ぐ、それでこの桃色娘は血をまき散らして
死ぬ。
そう確信したビーニャだった。
「キャハハハハ・・・ハ・・・あ・・・れ・・・・?」
だが、その凶行を止めたのはビーニャ自身。
正確にはビーニャの体だった。
悪魔の形の時に血を流し過ぎていたのだ。
疲労困憊、満身創痍、それに加え状況に対する頭の混乱。
そんな矢先に激しく動いたのがまずかった。
いろいろ限界だったビーニャはそれで意識を失い、そのまま二、三歩前にふらつき
どさりと
「きゃあ!」
ルイズのもたれかかる様にして倒れた。
「ちょっ、ちょっとなんなのよ!あんたいきなり!」
はずみで一緒に倒れてしまったルイズだったが、意識がない人というのは存外重く
うまく動けない。
「ミス・ヴァリエール!大丈夫ですか!?」
すぐさまコルベールが近寄り、抱えるようにルイズからビーニャをどかす。
同時にまだビーニャが握ったままだった短剣も取り上げた。
コルベールはルイズに怪我がないかを確認すると、懐から布を取り出してビーニャの
出血場所と両手を合わせて縛る。
両手のほうは万一目を覚まして再び暴れそうになったときのためだった。
そしてルイズの手を取り立たせると、
「今日はここまでです!私はミス・ヴァリエールとこの少女を連れて帰りますので、
皆さんは使い魔と先に戻っていて下さい」
周りでこの事態に唖然としていた生徒達だったが、コルベールの言葉にはっとして
吹っ飛ばされた友人や気絶している使い魔を起こして慌ただしく飛んで行った。
「なんでいきなり襲ってきたりしたんでしょうか」
「ミス・ヴァリエール。この少女は少々錯乱しているのかもしれません。
このケガでは正常な思考でいられなかったとも言えます。
まずは彼女を治療して落ち着いてから話をしましょう」
コルベールの話を承知したルイズはビーニャの顔を見て。
「何があったのかは分からないけど、あんたは私の使い魔になるんだからしっかりしなさいよね・・」
優しく頭を撫でるのだった。
了
乙
まぁなんというか…ルイズ逃げてー!
ビーニャ…あ、あいつか
以上です。
ビーニャの短剣はゲーム、サモンナイト2の20話で
悪魔状態になる人型の時の最後の状態で装備しているレイエッジという短剣
です。
また変てこなデザインの服は内側にいろいろ入れられる
ポケットがたくさんあるという想像なので、これからアイテム類も豊富に出したいと
思います。
それではありがとうございました。
乙!
ビーニャを喚んじゃいましたか〜
残酷な事でも軽く楽しくやる悪魔ですし
この先ルイズの使い魔としてどの様に動くか……
楽しみですぜ!
34 :
ゼロストの人:2009/02/09(月) 00:46:08 ID:x15h2WRm
結局ここに投下することに・・・しました
何もなければ、始めたいのですがかまいませんね?
フロスト兄弟は普段の衣装に着替えていた。
「やはり、普段はこの方がしっくりくるな」
「そうだね、兄さん」
黒いコートに白いシャツはシャギア、青と白のジャケットに紫っぽいシャツはオルバ。
以前には厚手のスーツを着たこともあったが、そこはかなり寒い場所だったので数にはカウントしない。
そこに、主人からの呼び声がかかる。
「ねえ、あんたたち」
「おや、これは失敬。女性の部屋で着替えるのは失礼だったかな?」
「いや、それもそうかもしれないけどそうじゃなくて・・・」
次の言葉は、彼ら兄弟の予想の斜め上をいく答えだった。
「着替えさせて」
開いた口がふさがらないとはこのことか。
「・・・まさか、着替えが出来ない訳じゃあないよね?」
「違うわよ!この国の習慣では――」
「貴族が着替える時に、使い魔がそばにいるようなら着替えさせてもらう・・・か。妙な風習だな、オルバ」
「そうだね、兄さん。でも『郷に入りては郷に従え』って言うし、仕方ないかもね」
ジョセフ・ジョースターでもなしに、兄弟はルイズの台詞を完全に先取りしてしまう。
「え・・・ええ!?あんたたち、エスパー!?」
その言葉に、兄弟は自嘲気味に表情を崩しながら答える。
「まあ・・・そうだ。我々が持つ能力・・・一般人より感受性が高く、心を読むことが出来、見えずとも居場所が分かる。
高い認識力と洞察力を持つ者・・・少なくとも、我々は一般人以上の力を持つ存在だ」
「普通の人間以上の力があった。兄弟2人、どんなに離れていてもお互いを、心で感じあう事ができた」
「だが・・・それだけだった。たった一つの落ち度で、我々は全てを否定され、『似て非なるもの』の烙印を押された」
「まあそれでも、僕らはニュータイプに限りなく近い存在だ。だからこれぐらいの真似はできる」
ルイズは泣いていた。まるで自分と同じ。ひょっとすると自分以上の苦労を。彼らはくぐり抜けてきていた。
「約束して欲しい。我々の前で、『紛い物』、『フェイク』、『似て非なるもの』と言うのはやめてくれ」
「分かった!絶対言わない!約束するわ!」
「じゃあ僕達は寝るね」
ここでルイズはハタと困ってしまう。まさかこんな辛い身の上を持つ二人に、「床で寝ろ」とは言えまい。
「えっと・・・あの・・・特別に!私のベッドの3分の1使わせてあげてもいいわよ!?」
「いや、魅力的な提案だが遠慮しよう。我々は毛布でもあれば十分だ」
「じゃあ、おやすみ」
ルイズは彼らに対し、一種の共感を感じていた。つらいのは自分だけではない。自分も頑張らなくては、と。
「よし!・・・って、こらーーー!着替えさせなさいよーーー!」
とは言ってみるものの、その言葉には本当にやらせるつもりはなく。・・・だが。
「ちえっ、ばれちゃったね兄さん」
「そのようだ」
その言葉に、彼女の脳裏に最悪の方程式が浮かんでくる。
「・・・もしかして、あの話って全部ウソ?」
「いや、それは本当だ。ただ、『着替えさせる』ということが気まずかっただけだ」
「僕らの世界じゃ、着替えさせるなんて赤ちゃんぐらい――」
「きーーーー!!この私が、この私が赤ちゃんだって言うの!?」
「いや、そういう訳では――」
言い切る前に2人に魔法が炸裂し、2人は強制的に床で寝る破目になる。
完全に意識を失う前に、『それ、起きたら洗っておきなさいよ!』という言葉と共に何かを投げつけられた感触があった。
月は出ているか!…二つある!?
フロスト兄弟の朝はそれなりに早い。何故かは知らないが、今日は特に目が早く覚めたと感じた。
――実際にはそう早く起きた訳ではないのだが。
「う・・・うーん。今何時だ・・・?」
「お・・・おはよう兄さん。なんか体が痛いんだけど」
「えー・・・と。まあ、彼女を起こす事が先決か?」
「そうかもしれないね・・・ふああ・・・」
彼女の傍らに立ち、
「お休みの姫君。起きる時間です」
「起きろ。行動を開始する時間だ」
へんじがない。かのじょは、ねぼすけのようだ。
「ルイズ・・・君には困らされる・・・」
「さあ、起きて」
・・・へんじがない。
「・・・いい気になるな!」
「うるっさい!」
寝ぼけ踵が2人のどてっ腹に見事にクリーンヒット。陸にあがった魚の如く床をのたうちまわる。
「ぐおおおおお・・・!」
「ぐぼっ・・・ごほ、ごほ!」
痛みに堪えきった2人は、寝ている彼女に対し強攻策を仕掛ける。
「なるほど・・・悪い事、するんだね?」
「そうだ・・・悪い事、だ!」
そうと決めれば話は早い。2人してベッドから思いっきり突き落とす。
「いったたたたた!何事よ、もう・・・!」
「朝だぞ、起きろ」
「って、あんた達誰!?人を呼ぶわよ!」
「おいおい、お前が昨日我々を召還したのだろう」
「うーん?そういやそうだったわね・・・ってまだ6時じゃない!あと1時間後に起こしなさいよ!
あと、洗濯やったの!?やっときなさいよ、もう・・・!やっときなさいね、わかった!?じゃあ寝るから!」
「・・・つくづく彼女には困らされるね、兄さん」
「まったく、つくづく彼女には困らされる・・・」
「そうだね、兄さん・・・で、ここはどこ?」
「・・・どこだろう。人っ子一人見かけないとは・・・」
何せ、かなり早く起きた(と思い込んでいる)ので頭がまだ正常にまわっていないのだ。
「仕方ない・・・洗濯できる場所を占いで探してみるか・・・」
果たして。占いによると洗濯できる場所は・・・・・・。 現在地近辺である。
「うん?中らない八卦でもでたのかな、兄さん?」
「そんなはずはない・・・我々のニュータイプ占いは的中率100%だぞ」
占いが外れたのでは?という焦りから急速に頭脳が回転し始める。すると。
「あ、人がいたぞオルバ」
「しかも思いっきり洗濯してるし」
メイド服を着た少女が思いっきり洗濯していた。
「そこの少女。1つ訊きたいのだが」
「洗濯のやり方って・・・教えてくれるかい?」
メイド服を着た少女は、文字通り「傍らに人無きが若く」――本来の意味とは違うが――洗濯に集中していた。
「あー・・・。こういう時どうすればいいのだろうか、オルバよ」
「実は僕もさっぱりさ・・・」
まあ仕方ないと言えば仕方ない。何せ彼らは、19年間を世界に復讐するためだけに生きてきた。
社交辞令などのある程度のマナーは知っていても、見知らぬ少女への声のかけ方はまったく知らないのだ。
「・・・おっほん。そこの少女、聞いているか?」
「えっ?あっ、はい!私ですか?」
少女が振り返り、
「あっ!あの、失礼しました!すいません!えっと・・・」
そういって彼女は短い思考に入った。学園内の人間なら、自分が顔を知らないはずがない。
だがこの2人は知らない顔だ・・・だがしかし、その内1人はマントのようなものを羽織っている。
おそらくもう1人は従者だろう・・・目つきの鋭さや雰囲気、出で立ちは平民のそれではない。つまり・・・貴族?
「あああっ!あの、たいへん失礼しました!貴「我々は貴族ではない」族の方に私めの・・・えっ?」
「聞いてなかったのかい?お嬢さん。何を怯えているのかは知らないけど、僕達は貴族じゃないよ。ねえ兄さん?」
「貴族共からは平民とバカにされ、メイドからは貴族と恐れられ、我々はいったいどういうポジションなんだ?オルバよ」
「え?で、でもその格好は・・・」
目を凝らしてよく見る。すると、なんのことはない、ただの――それでも普段見慣れない――洋服だったようだ。
「実はだな、我々は非常に大きな問題を抱えている」
「な、なんでしょう!?」
貴族でないにしろ、貴族っぽい格好だ。さぞ大問題なのだろうと固唾を呑む。
「・・・洗濯を頼まれたのだが、我々は女性用の下着というものを洗った事がない」
「たった・・・それだけですか?」
「たったそれだけ!?流石は女性なだけある。僕らでは手におえなくて困ってたんだ。
仕事が増えるから迷惑だというなら仕方ないけど、迷惑でなければ・・・手伝って欲しい」
「いえ、別に全然問題ありませんが・・・えっと・・・」
「私はシャギア・フロスト。フリーのMS・・・もといルイズとかいう娘の使い魔です。
こっちが私の可愛い弟、オルバ・フロストです。以後お見知りおきを、ミス・シエスタ」
「えっ!?あなた方がミス・ヴァリエールの召還した使い魔・・・でもなんで私の名前を?ええっ?」
シエスタは混乱していた。貴族の使い魔だということもあるが、自己紹介もなしに自分の名前を言い当てられたことにも驚いた。
「兄さん、ダメじゃないか。彼女が混乱しちゃってるよ」
「う、うむ。我々は生まれつき勘がよろしいのですよ、ミス・シエスタ」
「あ、ああ!そうだったんですか!でもすごいですねぇ、まるで読心術者みたいです!」
――読心術者どころではなく、彼らはニュータイプに限りなく近しい存在ではあるのだが――彼女は純粋に驚いていた。
「僕達にできることがあったら何なりと言ってね。僕達も助けて貰ってばかりじゃあ悪いし」
「ギブ&テイクだ。何なりと言ってみろ、ミス・シエスタ」
「そ、それではお言葉に甘えて・・・」
「(洗濯は大変か?オルバよ)」
「(そっちこそ、荷物運びは大変じゃない?兄さん)」
「(思ったより気苦労で大変だ。勢いあまってストライククローをブッ刺してしまわないかと・・・)」
「(こっちは肉体的に大変だよ。けっこう量があるし)」
「「(ヴァサーゴ(アシュタロン)をこういう時にうまく活用できたらいいのだがな(いいんだけどね))」」
お前らはロラン・セアックか。
「荷物の運搬に関してみれば、いったん慣れてしまえばヴァサーゴは便利だと思われる。腕伸びるし」
「洗濯物の乾燥に関してみれば、うまく固定すればアシュタロンでいけると思うよ。空飛んでればいいし」
精神的及び肉体的に疲れている双子は、今回の経験からそれぞれの機体の平和利用を本格的に考えているようだった。
「問題は洗濯だ・・・こればっかりは自分でやるしかない」
「マルチパーパスサイロだっけ?洗濯もできるのって・・・」
お前ら、近くの山でもほじくり返してろ。な?
「すいません、手伝ってもらっちゃって・・・」
「なに、あとはルイズを起こ(ぐーっ)・・・」
「(ぐーっ)・・・まあこんな日もあるさ」
「あの・・・よろしかったら、食事をごちそうしましょうか?そろそろ貴族の方の食事のお時間ですので」
「・・・これでまた1つ借りが出来たな、ミス・シエスタ」
「いえ、べつに構いませんよ?」
「・・・美味い」
「美味い以外に、何か他の褒め言葉の1つぐらいはあるんじゃないのかな?兄さ・・・美味い」
「そう言ってくれるとうれしいです」
とびきりの笑顔を見せるシエスタ。どこかやりにくそうな兄弟。
「(オルバよ、これが世間一般で言う『かわいい』という奴なのか?)」
「(どちらかというと、『萌え』の方が正しいかもしれないね、兄さん)」
彼ららしいといえば彼ららしい、ある意味正常な反応。
「うむ、たいした腕だ。馳走になった」
「また1つ借りが出来ちゃったね、ミス・シエスタ。後で返しに行くよ」
「いえいえ。是非またどうぞ」
満面の笑顔で、彼らを見送った。
「あれ?今何時だっけ?――・・・兄さん、あれを見て」
「・・・セブンアワーか・・・行くぞオルバ!」
彼らの慌しい朝はこれからだ。
42 :
ゼロスト:2009/02/09(月) 00:55:58 ID:x15h2WRm
今は以上です
今日中に、ギーシュまで進めるといいなぁ
1/4などを入れるのを忘れてました。
今回は間違いはないですが、次回から気を付けます。
失礼しました。
やっぱりMSはでかいですから、
繊細な作業は難しいですね。でも壊したりしないところを見ると
フロストさん,sの技量の高さが分かります。
投下おつです
会話しかない…台本みたいだな
なんかほのぼの感が溢れているね
ルイズも似たもの境遇だから相互に精神的な成長が期待できそう
確かに地の文少なすぎるな
乙
出来れば皆が元ネタを知っているとは限らないと言う事を踏まえて書いて欲しい
うーむ・・・
心を読まれる事にルイズが何とも思わないとは・・・
18時頃に、ギルティギア2から、カイの妻になっちゃったディジー召喚話投下します
待ち時間長いよ
十分位前に宣言しなおしてよ
>>20 ぶっちゃけこの時点のカルスの冒険者達の強さは完璧チートだからなあ……
ギーシュ、いとあわれ
そろそろ鷲の人来ないかなー
眠りの鐘が使われた展開は初めて見るから続きが気になってしょうがない
鷲の人は、古代ローマ人と現代日本男子高校生から見たハルケギニア文化に対する
感じ方の違いとか、そういったところが面白くて大好きだぜ
「魔法などという不思議な力が使えてもまともな法律さえない蛮人」という
ハルケ貴族に対するプッロとウォレヌスの評価が痛快すぎた
古代ローマ関係の知識は読んでて色々と驚かされる事が多いから、そういう意味でも楽しみなんだよなあの作品
鷲も楽しみだけど、いぬかみのヒトと円還少女のヒトも続編を待っている。
いぬかみでは、総攻撃直前
円還少女では、サイト君、ルイズ嬢をキズモノにしてから逃げて女のとこに居るそうで。
どちらもイイとこで中断してるから、続きが楽しみでしかたがない
>>54 そういやハルケギニアって法律とかあんのかね?
やっぱり貴族による法律?そんなもん知るか俺様が法律だ!!状態なんかね
>>57 王家が定めた法律があるぞー。平民の土地購入不可とか3巻で言われたよな。
後リッシュモンが高等法院の偉いさんだよ。
>57
流石に法律はあると思うけどローマほどではないんじゃないかな?
まぁ、原作中ではあんまり法律とか触れられてないから中世レベルだと個人的には
考えているけど。平民の百姓はそれこそ人格すら否定された農奴がいそうだな。
60 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/09(月) 13:16:49 ID:cfAoz67H
>>50 カイの嫁とかあいつどんだけロリコンなんだよ
平民が貴族を訴えるのは可能なのかな?
「0」という概念がない時代からというのを生かしてたよね
そういやそんなに古い時代じゃないんだな、アレ思いついたの
オイラ的には爆熱の人を待っているぜ!
>>57 「魔法の魔法による魔法のための世界」とはいえ一応文明国家
法律というか「ルール」は絶対存在するはず
貨幣経済なぞ法律がなければ運営出来ない
ただメイジが平民を軽く見、平民がメイジを恐れる描写はあっても
実際に平民が虐待されるシーンがないのでイマイチ平民の恐怖に
リアリティを感じない。
何か(現代人から見て)理不尽な理由での無礼討ちなんて場面があるとよかったのだが
民事裁判あるのか?
そろそろ設定スレへどうぞ
俺的には「虚無のパズル」が楽しみだ
ゼロ魔とマテパ、両方の原作の魅力がうまくマッチしてると思う
…つっても最近見かけたばっかだから待ち遠しいって程じゃないが
待ち遠しいって意味なら「GIFT」だなあ
欝ルイズSSの中で、俺の趣味にベストマッチなんだ
>>62 爆熱の人はな…もう帰ってこないんだよ……
ミーディアムの人ー!サイヤの人ー!カムバーック!!
社長マダー
またこの流れか
69 :
サイヤの使い魔:2009/02/09(月) 15:44:47 ID:ujrRaM2L
>>66 ごめんもうちょい待って
ネタは出来てますんで
>ネタは出来てますんで
ワルドがジッパーを下ろすんですね
ワルド好きだねえ貴方たち。
ところで前スレ >750 バイブ星人はそんな変な宇宙人じゃないぞ。
まあワルド星人は…
カテゴリーF、できれば姉妹スレに来て欲しいものだけど、そこは作者が選ぶところか
あそこはもはや核の冬だよ……
ガンダムが召喚とかじゃなくて巨大ロボが召喚されたとかやっときゃよかったのに
細かく分類わけしたらそれだけ受け入れられる人も減るだろうし
>>65 元ネタでもそうだが先が読めないからな
意外と死にやすい身体って設定もあるから途中まで優勢だったのに病気で倒れるって事もあったし
ただ、ハルケギニア世界だとプリセラが出てきた場合
互角以上に渡り合える一個人がいるのかが少々疑問だが
よくそんなに待ってられるな
1ヶ月投下がないと危険信号、3ヶ月で続編はあきらめ、半年たった頃には忘れてるよ
花嫁が再開した時には忘れてたから保管庫を読み直したぜ
>>72 少し状況が落ちついたら温めてたネタを姉妹スレに投下しようと思ってる。
だからもう少し待ってほしい。
予約がないようなら19:00より、シーン15の運命の扉を開きます。
予定では19kb、後書きを含めると8レスとなる予定。
前回の後書きで少なくとも、ラ・ロシエール脱出まで行くといっておきながら。…orz
>>75 半年はまだ大丈夫だろ
ただこの間の騒ぎ以降投下ないのはちょっときついかなあ
何も言わずにやめた人もいるだろうし……
シエンスタ
大丈夫そうなので、シーン15の扉を開きます。
ワルドの部屋に来ていたルイズは困惑していた、なにしろワルドが自分の事を褒めちぎるのである。
曰く、きっと素晴らしい才能をもっている。
曰く、魔法が爆発してしまうのは、きっとその才能が目覚めきれていないからだ。
曰く、その才能が目覚めれば、きっと始祖ブリミルに匹敵するほどのメイジになれるに違いない。
等々、そういった賛辞を情熱的な台詞に織り交ぜて語りかけてきたのだ。
確かに嬉しい、今まで自分の事をそこまで評価してくれる人はいなかったのだから。
今までの人生で、自分が家族以外の他人から得た評価は、常に低く、侮蔑と嘲笑が混じったものだった。
だからこそ、困惑する。
確かに、ヒューからも似たような事は言われた。しかし、それは彼がハルケギニアの常識を知らないが故に言えた事だろう。
だが、ワルドは違う。彼はこのハルケギニアで貴族として生きている、ならば何故この様に言いきれる?
一体、何を根拠にそこまでの事を言いきれるのか。
ゴーストステップ・ゼロ シーン15 “Night of la-losier”
シーンカード:カゲ(死/これまで潜伏していた勢力が動き出す。刺客襲来。昇華。)
もしかして、今日まで放っておいた罪滅ぼしや罪悪感から言っているのだろうか。いや、もしかしたら単にご機嫌取りの言葉
かもしれない。
実際、可能性としてはそれが一番ありえそうな話だ。自分の実家であるヴァリエール公爵家は、ここトリステインでも有数の
名家だ、誼を結ぶ事が出来れば貴族としての格も上がる。その上、この任務を無事にこなせば姫様からの覚えもめでたくなる
だろう。
そこまで考えて、ルイズはふと引っかかりを感じた。
何かがおかしい、奇妙な感じ…というか不快感を覚える、何かが食い違っている様な、喉まで出かかっている言葉が出てこな
い…そんな感覚だ。
思考の海を漂うルイズだったが、ワルドが告げた言葉に無理矢理引き戻される。
「ルイズ、この任務が終わったら結婚しよう。」
ルイズは一瞬、息をする事も忘れていた。
ぽかんと、間抜けな顔のままワルドを見返す。
今、何を言われた?任務が終わったら結婚しようとか言わなかったか?
ルイズの表情がゆっくりと変わっていく、間が抜けた表情から真剣な表情へ。そして瞳はワルドの目をしっかりと見据えている。
対するワルドはルイズの変化に驚き戸惑っていた。この部屋に招き入れた当初、彼はルイズを篭絡するため、自らの推測をあ
る程度ぼかしながら会話を進めた。実際、宮廷にいる大概の貴族は、ここまで褒め称えれば自らの自尊心を満足させて、表情
を緩めて油断する事を、彼は自らの経験上承知していたのだ。
しかし、目の前にいる少女は、自分が何か言う度に眉根を寄せて考え込んでしまった。
ワルドは困惑する、かなり長い間放っていたとはいえ、朝方から交わした会話の感触から見ても悪感情は持たれていないと
確信していたのに、この部屋に招き入れて会話を交わし始めた時から何かが狂い始めたのだ。
何をもって彼女に警戒心を抱かせたのか、ワルドには全く分からなかった。
そんなワルドにルイズが言葉を返す、その言葉にはほんの少し棘が含まれていた。
「ワルド、いきなり何を言いだすの。」
「いきなりじゃないよ、ルイズ。僕はね、誰からも認められるような男になったら君を迎えに行こう、と常々思っていたんだ。」
「それは、ヴァリエール家に相応しくという意味かしら?」
ワルドは内心ほくそえんだ。なるほど、ルイズは「自分ではなく家の力を欲しているのでは」と思っていたのだろう。
しかし、とワルドは心の内で頭を振る。真実、自分は欲しているのだ、彼女の『虚無』を。
話はワルドがレコン・キスタに参加し、それなりの評価を受けるようになった頃に遡る。
その頃、ワルドはレコン・キスタの盟主であるオリヴァー・クロムウェルから、奇妙な指令を受けた。
その指令とは、“トリステインの貴族に魔法を使えない者がいる場合、その人物を監視せよ”というものだった。その時、
彼の脳裏に浮かんだのは誰あろう、自分の名ばかりの婚約者であるルイズの事である。
確かに、指令の内容と見事に一致していた。しかし、ここでワルドは不審を覚える、何故この様な指令が出たのか…。
魔法が使えない以上、戦力になり得ないのは自明の理だ、ならばこの指令には何か裏があるのだろう。
戦力にならない存在を警戒する理由、それにはそれだけの理由があるはずだ。
そして、その“理由”は程なく理解できた、他ならぬレコン・キスタの蜂起によって。
彼等はこう宣言して立ち上がったのだ。
「始祖ブリミルの悲願を蔑ろにした王家に代わり、我等は始祖ブリミルの悲願を達成すべく立ち上がった。
もはや王家に始祖ブリミルの恩寵はあらず、我等が盟主オリヴァー・クロムウェルこそ、始祖ブリミルの恩寵を新たに享
けた存在なのだ。
そう、彼こそが始祖ブリミル以来、誰も扱い得なかった『虚無』の使い手なのだ。」
その宣言を聞いた時、ワルドはまるで雷をその身に受けたかのような衝撃を覚えた。
始祖のみが使えたと言われる、最強の系統『虚無』。それを手にするクロムウェルが何故、力を持たない者を恐れる?
否、彼は…クロムウェルは恐れていたのだ。自らと同じ者が『虚無』として覚醒してしまう事を。
それを確信した後、ワルドは始祖に関する情報をかき集めた。『虚無』とは何か、始祖はどのような行動をとったのか、それ
こそありとあらゆる情報を集め・調べ・検証した。殆どの情報は全く使えなかったが、いくつか確かな情報もあった。
“人、もしくは亜人が使い魔であった事。『虚無』の呪文は『系統』のそれと比して長い事。”
少ない情報だったが、使い魔に関しての情報は朗報だった。何しろトリステイン魔法学院では、2年の進級時に使い魔を召喚
しなくてはならないのだ。この時、ルイズが人を召喚するようなら、ほぼ確実に『虚無』の使い手だろう。
もし、違っていてもルイズを娶れば、ヴァリエール公爵家に恩を売れる。レコン・キスタがトリステインを併呑するようなら
切り捨てればいい。ワルドにとってみれば、なんとも都合が良い話だった。
そして、運命の日。ルイズはワルドが睨んだとおり、人を召喚し使い魔とする。何とも風変わりな男だったが、ワルドにとっ
てみれば魔法を使えない平民など、気にする程のことでもなかった。
そうなると、ルイズとの間に出来た空白をいかにして埋めるかが思案の種だった。婚約者とはいえ所詮、双方の父親が酒の
席で戯れに交わした口約束に過ぎない。ルイズの力をあの当初から知っていれば、何としてでも空白は作らなかっただろう
が、流石に後の祭りというものだ。
年単位で放っておいた癖に、いきなり尋ねるわけにもいかず、どうしたものかと考えていると、ルイズとその使い魔の活躍が
耳に入ってくる。
何と、召喚した男は風のスクエアだというのだ。その上、天下を騒がせていた盗賊“土くれ”のフーケから、盗品を奪い返し
たという話まで聞こえてきた。
ワルドは焦った、例の男は使い魔だから恋仲になるなどありえないだろうが、どのような事にもイレギュラーというものは
ありえる。ここはルイズの進級を名目に会いに行くべきか…等とゲルマニアからの帰還中に考えていると、レコン・キスタ
から、再び指示が舞い込んできた。王女とゲルマニア皇帝の婚姻に対する妨害工作である。
護衛をしながら王女を見ると、確かに何やら悩み事があるように見える。
そういえば王女とルイズが幼馴染だった事を思い出したワルドは、周囲に人がいなくなった頃を見計らってルイズに相談する
よう持ちかけた、もちろん彼女に有能なメイジの使い魔がいる事を匂わせながら。
自分の提言にまんまと乗った王女は、予想通りルイズにウェールズ皇太子が持つ手紙の奪還を依頼した。
遍在を使って2人の話を盗み聞いていたワルドは、この展開に笑い出したくなった。丁度良い、この機会にルイズをレコン・
キスタに誘おう、そうすれば組織内における自分の地位はより磐石なものになる。その上で手紙を奪い、皇太子を暗殺できれ
ばもはや言うこと無しだ。
ルイズの部屋から戻って来た王女を言いくるめて、自分も任務に参加できるように仕向ける事は造作もなかった。なにしろ
この身は自身を守護する魔法衛視隊の隊長である上、「婚約者が心配だ」「マザリーニ枢機卿からも姫殿下の命に従えと」等
と告げれば良かったのだから。流石に任務の内容に関しては何も話さなかったが、十分知っていたので聞く気も無かった。
そう、自分が欲しいのはルイズの家系ではなく、ルイズの力なのだ。
ルイズの疑念が篭った声に、ワルドは明るく笑いながら答えを返す。
「やれやれ、何を言い出すかと思えば。僕の大事な人はそこまで僕を信用してくれないのかい?
言っておくけど、僕が言った事は全て心からそう思ったからなんだよ?
君に特別な力を感じたし、確信もしている。
流石に、今まで放っておいて、会った途端に結婚を言い出したのは性急すぎたかもしれないけれど。ただ僕がどれほど君の
事を思っているか、それだけでも分かってはくれないだろうか。」
ワルドは、じっとルイズの瞳を見つめながら話しかける。
そんな、ワルドの視線にルイズは頬を染めながら目を逸らし、口の中で何やら呟く。
実際、ルイズとて嬉しいのだ。これまでの人生、あまり褒められた事も口説かれた事も無かった。そういった意味ではルイズ
は本物の箱入り娘と言っていいだろう。
「それは…。疑ったりしてないわ。
けど、私は未だ実技では失敗ばかりだもの。それなのに、いきなりあんな事を言われても理解できないのよ。
第一、貴方があそこまで言える根拠って何なの?私にはメイジとして誇れるものなんて何もない…。」
「いや、君は忘れているだけだよ。」
「え?」
「君の使い魔の彼さ。確か、ヒュー・スペンサーだったか。
聞いた話では、遍在すら使いこなす優秀なメイジだという話じゃないか。そんな人物を使い魔にできるほどの力を君は持っ
ているんだよ。
古来、幻獣や韻獣を使い魔にした例はあっても、メイジを使い魔にしたメイジなんて聞いた事が無い。これは誇っていい事
なんだルイズ。
君には力があるんだよ。」
「え、ええ。ヒューが凄い人だっていうのは分かっているけど…」
言いよどむルイズを見て、ワルドは少し焦りすぎたかと省みた後、偽りの笑顔を浮かべつつルイズに話しかける。
「すまない、思った以上に美しく成長した君を見て、焦ってしまったみたいだ。」
「ワ、ワルド。いきなり何を言い出すの!」
「醜い男の嫉妬ってやつだよ。
笑ってくれルイズ、僕は君に再会してから今まで、ずっと君の事が頭から離れなかったんだ。
叶うことなら、君を薔薇に包まれた屋敷に隠して、世の男共の目に触れさせたくない位さ。」
「そんな、そんなこと言われても困るわ。だって私達、これから姫殿下の任務を果たさなければならないのよ?」
「ああ、そうだね。
残念だけどこの話は一度引っ込めよう、この話は任務が無事終わった後、改めて考えようじゃないか。」
自ら引いてくれたワルドにルイズは、なにやら申し訳ない気持を抱いた。その気持からだろうか、ワルドの部屋を辞する時に
ふと、言葉が零れたのは…。
「ごめんなさい、ワルド。でも、貴方の事を嫌ってるわけではないの。」
「ああ、分かっているとも。愛しい人。
謝るのは僕の方さ。いきなり、あんな事を聞いたら普通は混乱してしまうからね。
さあ、もう夜も更けてしまった。まだ旅は始まったばかりだ、疲れを残さない為にも早く休んだ方がいい。」
「ええ、ありがとう。ワルド、おやすみなさい。」
「おやすみ、ルイズ。」
ワルドはルイズの額に優しく接吻をした後、部屋から送り出した。
ルイズを送り出し、一人部屋に戻ったワルドは、ベランダでワインを傾けつつ、計画通りにいかない現実に歯噛みしていた。
自分の有能さをルイズに見せる為、ヒュー達を置き去りにした結果、予定外の戦力が増えた。
孤独な学生生活を送っていたはずのルイズにいた友人や、彼女の成長…予想外の事が次々と起きている。
恐らくこういった事の原因には、あの使い魔の男“ヒュー・スペンサー”が絡んでいるのだろう。認めたくはないが、あの男
が緩衝材になることで、ルイズが周囲に対して目を向けるようになったのだ。
ルイズが孤独だったら篭絡する事は容易かっただろう。孤独な人間は一見、いくら強く見えても、容易く揺らぐ。恐怖で、そ
して、偽りであろうとも愛情で。
再びルイズを孤独にするには、あの使い魔が邪魔だった、ヒューをなんとかすればルイズは自分に頼らざるを得なくなるだろう。
何といっても自分とヒュー以外は学生しかいないのだ。ヤツを何とかすれば後の小娘や小童はどうとでもなる。
一番いいのは、ヤツを消してしまう事だが相手は自分と同等か少々劣る位の使い手だ。慎重に事を運ばなければ手痛いしっぺ
返しを食らいかねない。
どうしたものかと、考えているとワルドの視界ギリギリに見覚えのある、コートが翻った。
よく見ると、今まで対策を考えていた男…ヒューだった、色街に行くつもりなのか、ギーシュを連れて行っていないのは都合
が良い。
即座に遍在を唱え自分の分身を生み出して、ヒューを追わせる。すでに見えなくなっていたが、その場合は待ち伏せをさせる。
場所は、この宿へつながる路地裏、数箇所に配置しておけば、どこから戻ろうと必ずどれかに引っかかるだろう、相手が遍在
を使う前に怪我の一つも負わせておけば、後々仕事もやりやすい。
ワルドは未だ、自分がついていると疑いもしていなかった。
ヒューは1人、宿を抜けてラ・ロシエールの街を歩いていた。
マチルダに教えてもらった、キンバリーという商店へ向かっているのだ。
元々、アルビオンへ渡った際、地元の協力者を得る為にマチルダに協力を依頼したのだが、タバサも参加した為、もはやただ
の配達人となっている。
<IANUS>経由で<ポケットロン>に移した地図を見ながら、街の影を縫うように歩いて商会に向かう。
「ここか…」
フネを意匠化した看板には、ハルケギニア語でキンバリーと記されていた。
周囲を確認して、人がいない時を見計らい商会の扉を叩く。
しばらく経った後、扉に備え付けられているスリットが開き、中から誰何の声が飛ぶ。
「どちら様でしょうか?本日の営業は終了しましたが…」
声に対して、ヒューは封筒の封蝋が見えるようにスリットにかざす。
「こちら様だよ、悪いけど入れてくれるか?」
「!少々お待ちを。」
暫く〔といっても5分もなかったが〕待った後、人一人やっと通れる位の隙間が開く。
滑り込む様にヒューが中に入ると、中には3人の男がいた。正面に初老の男が1人、右斜め前に少年が1人、そして扉を開け
たであろう壮年の男が短剣を携えて左側に立っている。
ヒューはその立ち位置を確認すると、不敵な笑みを浮かべて両手を上げる。左手にはマチルダから受け取っていた封筒がある。
壮年の男が封筒を受け取ると、中央にいる男に渡す。
渡された初老の男が封筒の中を確認している間、ヒューは警戒の視線にさらされたが、気にする風も無く上げていた両手を下
ろし、扉に背を預けた。
手紙を読み終わったのか、初老の男がヒューに話しかけてくる。
「さてヒュー・スペンサー様でしたか、自己紹介が遅れましたな、私はキンバリーと申します。
手紙によると何か依頼したい事があるとか…、ご要望をお聞きしましょうか。」
「情報が欲しい。王党派、レコン・キスタ双方のなるべく詳細な現状だ。それとなるべく詳しい地図があったら見せてくれ。」
「ほう、手紙には案内人の紹介云々とありましたが、それはいいのですかな?」
「ああ、そちらについては何とかなりそうだからな。」
「左様ですか。情報でしたな…大まかな所は巷で広がっている通りです、レコン・キスタの勢いに押され、王党派の軍は既に
千を切っております。今ではニューカッスルに立て篭もっている者で全てでしょう。」
「対峙している軍の概要は?」
「王党派に対峙しているレコン・キスタの軍勢は傭兵も含め5万、フネの方はロイヤル・ソヴリン…レコン・キスタでレキシ
ントンと改名した最新鋭の戦艦を始めとして10数隻が参戦しております。」
「よくもまぁ、それだけの戦力差がついたもんだな。アルビオンの王家っていうのはそこまで無能だったのか?」
ヒューの呆れたような感想にキンバリーは頭を振った。
ワルドにピエロは似合う支援
「いいえ、可もなく不可もなくといったところでしょうか。」
「となると、何か理由があるのか?」
「はい、この騒動…いえ、内戦では度々奇妙な裏切りが続発しております。」
「奇妙な裏切り?」
「そうです、王に対して絶対的と言っても良いほどの忠臣の裏切りが多発しまして。」
「それが」
「ええ、恐らく彼等が言う『虚無』による力ではないかと。」
ヒューは、クロムウェルが『虚無』の使い手ではないという事は確信していた。何しろ覚醒に必要な要素が普通の方法では、
まず手にする事が出来ない物なのだ。仮に王家の落胤だったとしても、残り二つを手にするには天文学的な確率の幸運が必要
になってくるだろう。だからこそ、次にする質問は決まっていた。
「他に人の精神や心に干渉できる魔法やモノに心当たりは?」
「そうですな、禁制の水の秘薬なら可能性はありましょう。後は…そう、『先住』という可能性もあります。」
「レコン・キスタのクロムウェルっていう男は、水の使い手なのか?」
浮かびあがった疑問をキンバリーに聞く。
「例の司教ですか。いえ、系統魔法を使えるという話は聞いた事はありません。」
(となると何がしかの薬か道具という線か…。)
キンバリーの答えを聞いたヒューは、クロムウェルの力に関して考えを巡らせた後、別の質問をする。
「じゃあ、次は王党派だな、何か聞いているかい?」
「特に何も。王が体調を崩されている為、実質的に率いているのは皇太子だ、という事くらいでしょうか。」
「後、アルビオン関係で何か話を聞いていないか。」
「…そういえば、最近妙な空賊がよく出るという話です。」
「妙な空賊?」
「はい、大体ラ・ロシエールから出るフネを狙って襲っているという話ですよ。」
「その空賊は何かおかしいのか?」
「メイジの数です。」
「多いのか?」
「はい、逃げ帰った船乗りの話では、船長以下10名以上のメイジがいたとか。」
「普通はどれ位なんだ?」
「5名もいれば多い方でしょう。」
「なるほどな、参考になったよ。」
そこまで聞いたヒューは、アルビオンの地図を見せてもらって商会を立ち去った。
【相棒、なんでまた空賊の事をあそこまで聞いたんだ?】
「可能性の問題かな。」
【可能性?】
「ああ、もしかしたら思ったより早く皇太子と会えるかもしれない。」
【そいつは、どういう意味だい?】
「こいつはもう推理とかそういったもの通り越して、ただの願望だからな。当たればもうけものっていうヤツさ。」
【良く分からんが、当たれば良いなその願望。そうそう、そういえばさっき言ってた話なんだけどな、心当たりがあるぜ。】
「というと?」
【心を操るとかいう話さ。】
「お前が知っているとなると、『虚無』関係になるのか?」
【いいや、『虚無』じゃない。確か『先住』にそういった類の…】
デルフリンガーと会話をしつつ、宿への近道とばかりに裏道へ入った瞬間、不意にヒューがデルフの口を止める。
「デルフ」
【どうした?相棒】
「お客さんだ。」
支援
街を歩いていると、デルフがヒューに小声で語りかけてくる。
人がすれ違える事が出来るかどうかという位、狭い路地裏に1人の男が立ちふさがっていた。
杖にマント、貴族らしい出で立ちだ。顔は仮面をかぶっているので分からないが、露になった口元からは髭が覗いている。
ミラーシェード<弥勒>の下に隠れたヒューの目が、冷たい光を湛えた。
(貴族派か…となると、存外連中の手は長いようだな。上手い事捕まえる事が出来れば御の字だが。)
「どいてくれると有難いんだけどな。それともこちらがどこうか?」
まずは軽く話しかけてみる、敵対するにしろ懐柔するにしろ、相手の人となりは知っておきたい。
しかし、そんなヒューの思惑を知っているのか、男は杖を抜いてヒューに突きつける。どうやらバディにはなれないらしい。
男が構えた杖は、中々立派な拵えのもので武器としても十分機能しそうだった。
ヒューは内心、舌打ちをしながら戦闘態勢を整える。左手で懐からナイフを取り出し、右手にデルフを構える。
<IANUS>に音声と映像のバックアップを最大レベルで命じながら、相手の出方を伺う。相手を見ると不思議な事に、
どこか戸惑っている様に見える、あたかも聞いていた話と違うモノを見たような反応だ。
「さて、人違いならいい加減、勘弁して欲しいところなんだが…。どうする?ミスタ」
ヒューのその軽口に激昂したのか、それとも元からそのつもりだったのか、男の杖から風の槌=エア・ハンマーがヒューに
向かって飛ぶ。
ここが狭い路地裏だという事から、確かにこの選択は間違いではなかっただろう。左右にも後にも、そして下にも逃げる余地
など無いのだ。フライだろうとレビテーションだろうと、唱えて宙に逃れる前に空気の槌に打ち据えられるだろう。
しかし、男が対峙しているのはメイジではなかった。災厄の街から来た“幽霊”ヒュー・スペンサーだ。
ヒューはエア・ハンマーが到達する刹那、周囲の壁を確認する、N◎VAと比べる事すら愚かしいほど起伏に富んだ壁面、
なればこそ、可能な回避方法があった。
“それ”を見た時、仮面の男は自分の常識に疑惑を、対峙している男…ヒューの能力に驚愕を抱いた。路地を埋め尽くした
回避不能のエア・ハンマー。しかし、あろう事かヒューは必中の攻撃を“壁を駆け上がって避けた”のだ!
しかも、左手に携えていたナイフを恐ろしい程の速さで投げつけて来る。その為、ヒューがフライやレビテーションで回避し
た際に使おうと準備していたエア・カッターで迎撃せざるをえなかった。
ナイフを打ち落とした後、辺りを見るがヒューの姿はどこにも見えない。あせってヒューを探す仮面の男の耳に、どこから
ともなく、からかう様な声が響いてくる。
「じゃあな、ミスタ・クラウン。風を吹かせたければ風車かフネの帆にでもやっている事だ。」
急ぎフライを唱え、周囲を上空から見回したが、ヒューの姿は大通りの人波にまぎれこんだのか、もはやどこにもなかった。
そう、あたかも“幽霊”の如くその姿を眩ませたのだ。
シーン15
地図
…<IANUS>は自動でバックアップを取る機能がある。(録画2分、録音30分/Revolution)
回避方法
…カゲの特技、猿飛の事。リプレイ時は修得していなかったが特技枠が2つ余っていた為、ここで修得させた。
猿飛(特)
…超人的な体術を表すカゲの特技。
跳躍で壁を登ったり、木々やビルの谷間を渡ったりするばかりか。水上でさえも移動が可能になる。
個人的にカゲの特技の中では、最も華がある特技だと思う。
支援ありがとうございました、以上で今回の運命の扉を閉じたいと思います。
さて、偏在ワルドとの戦闘でヒューが少し成長しました。使用した経験点は、ハルケギニアに来て以降の物を使用したという
事で納得していただけると助かります。
それから何故、偏在ワルドとの戦闘を切り上げたかというと、伏兵の存在や地理的な不利を感じたからとでも思って下さい。
(猿飛がある時点で、地理的な不利は解消されているんでしょうけど…。)
そうそう、ワルドがアンアンに言った「枢機卿」云々はもちろん嘘です。
次こそはラ・ロシエールから出たい、というか出ます。
乙
ヒューかっけぇ
乙です。
なんとなく「逃げるんだよォーーーッ!」てのが思い浮かんだw
乙。
慢心せずして何が貴族か!ってぐらいのワルドさんだ
一応最大級の警戒してるつもりだけど権謀術数じゃ役者が違うわな
アンアンは話にならんw
今更、間違いを発見。orz
“【相棒、なんでまた空賊の事をあそこまで聞いたんだ?】 ”
の前に↓の一文を挿入しなきゃならないのに、間違った所に入れてました。
“街を歩いていると、デルフがヒューに小声で語りかけてくる。”
94 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/09(月) 19:55:11 ID:LwrLO26h
ゴーストステップ乙!
…アンアン…うん、期待はしてなかったけど
まあ、聞かれもしないのに自分から喋ったんじゃないだけマシじゃないか?
アンアンの人気に嫉妬w
乙
行動するとそれが味方の不利益になる人だからなアンアン
ふと思ったが
ハルケギニアの宗教のこととか何も知らない
他の世界の価値観持ってる奴らから見たら
虚無より四系統のほうがすごいとか思う可能性もあるんだよな
4系統相手は加速だけで勝つる
人修羅「プレス稼げねえじゃんイラネ」
番長「1モアできねぇじゃんイラネ」
虚無であっても加速は無敵
相手の背中に毛虫入れたり靴に泥流し込んだり財布掠め取ったり鼻の穴にカラシつッ込んだり
パンツ脱がせたり
102 :
ゼロの社長:2009/02/09(月) 20:57:11 ID:GAtvB2sX
>>67 お待たせしてますorz
話を再構築したり試験だったりで全然進まなくて…
ただ、また時間ができたので近いうちに投下できると思います。
>>97 科学知識をある程度持ってると錬金だけでも脳ミソでんぐり返るショック。
火の呪文とかは「エネルギーどっから持ってきたの?」くらいの衝撃度だが、錬金やゴーレムは……
>>100 チューしようとしているサイトとルイズの場所を変えて、ルイズの居る場所にマリコルヌを置いておく、というのはどうだ。
>>101 タルブの戦いでルイズのエクスプロージョンが破壊対象を限定できる事を語ってるわけだから。
パンツをピンポイントで消滅させようぜ。あとコッパゲの毛根をピンポイントで・・・
>>103 酒造りから家の建築からゴーレムまで錬金は応用範囲が異常。
>>103 なら俺は回り込んでサイトのいる位置にコッパゲの尻を置いておくぜ!
>>103 それはもはや超スピードとかちゃちなもんじゃ断じてないぞ。
なんという嫌がらせww
某能力の時間停止って、超スピードを超えた動きをすることで時間が止まってるように思える
って話を聞いたことがある。
つまりジョゼフのくせに時が止められるってことか?
加速だっつってんだろ、このダボがぁ!
奥歯の辺りにあるスイッチを押すんだろ?
二段階に加速できるのか
服がマッハに耐え切れずにマッパになるんですね、分かります
マッパハンチ!
肉体がマッハに耐えられず骨がむき出しに
肉がむき出しになるのは超マッハだからマッハならまだ大丈夫なはず
エイトマンは時速3000kmだったな
1960年代にはすごい科学があったんだな
>>118 約マッハ2.5か、009のが早かったのか勉強のなった
加速といえばアメコミで超スピードで走るクイックシルバーは能力失ったな
コンビニでのバイト帰りにスーパーで買い物して、バスに乗り遅れて転ぶ姿は涙無しには見れなかった
こんばんわー。毒にも薬にもならない鋼ですよーっと。
話に名前を出しておきながら読んだ事のなかった十角館の殺人を読んだり、日経文庫の経営学入門を今読んでたりしながら作った続き。
…21:35から投下予約。
お前らいい加減にしろよ、
決戦の舞台で親の仇がマッパで加速しながら笑ってるときのタバサの気持ちがわかるか?
>>122 映像が脳裏に浮かんで色々吹いた
しかも何故かタケちゃんマン笑いしてた ジョゼフが
支援だ!
毒にも薬にもならないならいつでも食べられるじゃないか。支援支援
支援、支援
127 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/09(月) 21:31:53 ID:NOiY2G9/
>>122 素知らぬ顔でシェフィールドがニギニギしてるのだな!?
タルブ村北面街道は今、切り立つ石板の砦を挟んで両軍がぶつかる激戦を繰り広げていた。
石板を遮蔽にした長銃射撃、それを背後に負った切り込みが統率力を落としているアルビオン兵を徐々に切り崩す。
流れで押し切れると考えていたアルビオン上陸部隊は急いで頭上の艦隊に砦を砲撃するように伝え、アルビオン艦隊はそろそろと砲撃を眼下の石列に
投げ込んでみようとした矢先。
東の丘に配した銀狼旅団砲撃隊が、滞空するアルビオン艦隊へ砲撃を始めたのである。アルビオン艦隊の注意は、物言わぬ巨石の群から
緑茂る丘から飛んでくる砲弾に流れ、砦を崩すはずの艦砲が地上から見るとあらぬ方向へ飛んでいく。
「でぃぃぃぃぃやぁっ!」
アニエスの振るう湾刀が間近の兵士を縦に両断する。わずかに息を吐き、彼女は飛ぶように戦場を走った。
(トリステイン王軍が到着するまで、我々はタルブに一兵たりとも入れさせるわけには行かない…)
村主幹部を落とされればアルビオンはそこを拠点に更なる強固な陣を組むことが出来るだろう。
それに村まで兵士が入れば森に避難している住人にも危険が迫るのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
シエスタとロベルトは激突する両軍の怒号が彼方に聞こえる中、必死に西の森へと向かっていた。
足腰の衰えたロベルトを慮り、シエスタは村から森への最短ルートを取らず、領主の屋敷の方向へ一度抜けて森に向かうルートを取っていた。
お屋敷の麓は葡萄畑の収穫を手早く運び出す為に、よく整備された小道が走っているのだ。
「もう少しだから頑張ってね。大爺ちゃん」
「やれやれ…ウィリアムさんのようにはいかんな。身体がしんどくてかなわん…」
矍鑠して健康とはいえ齢100を越えたロベルトは、急ぎ足で進むシエスタについていくのが精一杯だった。
二人の目の前に丘の一部を崩して作られた領主のお屋敷が見えた。麓を石垣で区分けされた葡萄の畑が広がっている。
普段なら人が入っているだろう無人の畑に、東側から土煙を上げて前を横切っていく何かがいた。
「あっ…?!」
遠景にしても、それは馬に乗った数人の兵士だった。10名にも満たない兵士が秘かに石板の砦を抜けてブドウ畑を横切り、領主の屋敷へと迫ろうとしていたのである。
しかし騎兵達はシエスタ達の前を過ぎると向きを変えて此方に向かってきた。5メイルほどの距離を隔てて、騎兵は二人の前に止まった。
「隊長。村人らしき者がいましたぜ」
手綱を取りながらどこか粗野な風情の騎兵が叫ぶ。
隊長、と呼ばれた者は、ゆっくりと馬を進めて部下の騎兵に近づく。その格好は羽帽子に、鮮やかな浅緑の兵隊服。アルビオン兵士のものではなかった。
張り詰めた緊張の中、シエスタとロベルトはじりじりと下がりながら無意識の内に互いの得物に手をかけていた。
「初めに言ったはずだ……ふぅ、目に見えた者は…殺して…しまえ」
どこか曖昧な口調で、『魔法衛士大隊兵服』の男…ワルドは言った。
『タルブ戦役・五―集結―』
突然現れたルイズが目の前から消えさり、残されたギュスターヴは傍らに倒れているコルベールに駆け寄った。
「コルベール師、しっかりしてくれ!」
「ぅ…ミスタ・ギュス……」
コルベールは気色が蝋人形のように白くなり、息も絶え絶えとなっていた。
彼の身を起こしていたギュスターヴに、女子寮から二人の人影が駆け足でやってくる。
「ギュ〜ス!、ミスタ・コルベール!」
キュルケとタバサはただならぬ状態にある二人を見て声を上げた。
「どうしたの一体?!」
「こっちが聞きたい位だ…。教えてくれキュルケ、なぜルイズが女子寮から飛び出してきたんだ。いや、そもそも王宮に出かけているはずのルイズがなぜここに居たんだ?」
タバサが杖を抜いてコルベールに寄り添う。
「話は後。まずミスタ・コルベールを助けてから」
抜いた杖先をコルベールに向けてタバサがルーンを紡ぐ。治癒【ヒーリング】は本来、外科的な治療に効果を発揮するが、多少であれば内部疾患にも効果がある。
タバサの魔法でコルベールの呼吸は緩やかになったが、蒼白の気色は変わらない。これ以上は専門の秘薬などが必要であった。
三人は研究塔の中にあるコルベールのベッドに彼を運ぶ。最中キュルケは伏目がちながらも女子寮で見たことを話し始めた。
「お昼の後部屋に居たんだけど、隣…ルイズの部屋ね。そこで爆発が起きたの。幸い部屋壁が吹き飛んだりはしなかったんだけど、慌てて飛び出して
ルイズの部屋に入ったわ。そこにはルイズが居て、不思議な形の剣を持っていて、『ルイズ、どうしたの?』って聞くと、ニヤッって笑って窓を割って外に飛び出しちゃったの」
「いつ帰ってきていたか分かるか?」
「それが…全然」
「彼女は朝外出したきり部屋に戻っていなかった」
タバサがいつもの風情で話し出す。
「爆発の起きる時、私はキュルケの部屋に居た。ルイズが部屋に入るなら扉の鍵を開けるはず。でも、彼女の部屋の鍵は閉まったままだった」
音に敏感な風属性のメイジなら、隣の部屋鍵の開け閉めくらいはすぐに気が付くだろう。
「ルイズは突然部屋に現れた。そして窓を飛び出した。私達に分かるのはそれだけ」
「そうか…」
ギュスターヴの前に現れた時のように、またそこから立ち去った時のように、ルイズは突然現れたとしか思えない。
「ミス…ヴァリエールは……」
「…コルベール師」
ベッドに横たわるコルベールが途絶え途絶えに言葉を紡いでいた。
「私から…何かを吸い取っていました……それを『アニマ』と言ってました…」
「アニマ?」
聞きなれないキュルケは首を傾げるが、ギュスターヴはルイズの語った事を思い出していた。
(アニマ……ルイズはコルベール師からアニマを奪い取った。そしてタルブに行くと言っていた…)
ふと、ルイズが片手に握っていた卵のような物体が記憶に蘇る。
(なんだったんだ、あれは…。何か良くない物のような気がしてならない…)
果たして、それはナイツの一族が永年追いかけ続けた、あるグヴェルに酷似していたことなど、ギュスターヴに知る由もない…。
>……ふぅ
戦場のど真ん中で賢者タイムとはさすがワルドさんはパネェな支援
「ルイズったら、どうしちゃったのかしら。引っ掻き回した挙句もう何処にもいないし…」
「タルブだ」
「え?」
「ルイズはタルブに行くと言っていた。あそこは今、アルビオンとの戦場になってるんだ」
言ってギュスターヴはキュルケとタバサにジェシカからの手紙を見せる。
「ルイズはタルブで…集まった大量の兵士からアニマを手に入れるつもりらしい。何のつもりかは、知らないが…」
「ねぇ、アニマって何なのよ?」
キュルケの問いかけにギュスターヴはわずかに逡巡した後、タバサやルイズに聞かせた内容を説明した。
キュルケは最初、ギュスターヴがハルケギニアの人間ではないと聞いて驚きはしたものの、次第に落ち着き、首肯してくれた。
「ふぅん。つまりアニマって精霊みたいなものなのかしら…」
キュルケが一応納得していると、タバサがギュスターヴに向き合った。
「どうするつもり?」
「…ルイズをか」
「そう。多分、敵味方関係なくタルブで沢山の人間がミスタ・コルベールのようにアニマを吸い取られてしまう」
戦場の混乱の中でアニマを奪い取れば双方に混乱を招くだろう。しかもルイズの変貌した様子から見れば、丁寧にアルビオン兵だけを狙って…というのは考えにくい。
現に目の前でコルベールが倒れているのだから。
「連れ戻すなり顔ひっぱたいてやらないといけないわね。ってことでタバサ、シルフィード連れてきて「無理」ってどうしてよ?」
意気揚々と踏み出そうとしたキュルケのマントを掴んでタバサが引き戻す。
「私達は外国人。下手に戦場に出ると外交問題になる」
「ぅ…そ、そうかもしれないけど。このままってわけにいかないでしょ」
二人が言い合っている中で、ギュスターヴが立ち上がる。
「ミスタ…?」
ギュスターヴは無言のまま塔内を歩き、部屋隅に置かれた自分の鎧に手をかけた。
それは以前、ルイズの部屋からコルベールの部屋へ移していた、召喚された時に身に着けていた鋼の大鎧だ。
「俺が行く。ルイズがなぜああいう状態になったのか知らないが、このまま放っておくわけには行かないだろう。タルブにいるシエスタも心配だしな」
「でもシルフィードが使えないのにどうするつもり?」
「外の飛翔機を使う。燃料を全部使えば片道くらいは行けるはずだ」
話しながらギュスターヴは服の上から鎧を身につけ始める。
「…俺はルイズの使い魔だからな。主人が乱心したら讒訴するくらいはしてやるさ」
左右の盾甲、胴、手甲がつけられる。ギュスターヴの鎧は軽量化のために重要部分以外は革が多量に使われている。その分、使われている鋼の装甲は強靭である。
「どうやって止めるつもり?」
足甲が付けられると、具合を確かめるように身体を動かした。
「どうやって、か。『引っぱたいて』でも止める」
言われてキュルケがきょとんとした。タバサは軽く頷くだけだった。
最後に折りたたまれていたマントが留め金に止められる。久しぶりの鎧は少し重いような気さえしたが、ギュスターヴはかまわず塔の扉を開いて外に出る。
飛翔機の搭乗部に鎧のまま身体を押し込めると、機内に置かれたままだったデルフが鳴る。
「おおっ?!相棒随分とめかしこんでるじゃねーか。どうしたよ」
「何…」
ベルトを無理矢理鎧の留め金に結びつけ、初めて空を飛んだときと同じように、レバーの様子を見て、リールを回した。
そしてレバーを引いて噴射器が炎を吐く。
「ご主人様を連れ帰るだけだよ」
炎と煙の尾を引いて飛翔機が飛び去っていくのを、キュルケとタバサが見送っていた。
「行っちゃったわね…」
「彼なら大丈夫。死にはしない」
「そりゃそうかもしれないけど…あぁもあっさり『引っぱたいても』って言われちゃうとね」
キュルケはともかく、タバサはほんの少しだが、ギュスターヴのことが分かりかけていた。
ギュスターヴはいつでも、引くか進むかなら進む方を選ぶ。その根底には自分の未来を自分で切り開いてきたという意志の強さがあるのだ。
(ルイズ。お前に何があったか知らないが、そんな乱暴な力で何ができる。そうじゃないだろう?ゼロと呼ばれたお前だから、自分の力で道を切り開くべきなんだ…)
操縦スペースの脇に貼り付けられた簡易地図、方位磁石と視界を見比べながら、ギュスターヴの乗る飛翔機は一路、タルブを目指す…。
>>130 やめろwwww俺も同じふうに思ったけどさwwwwwww
タルブの村の端で、シエスタとロベルトの二人は自分達を囲む騎兵達とにらみ合っていた。柄の悪そうな、明らかに正規の兵士ではない騎兵が
馬上より二人を見下ろしている。
「へへへ…悪いなお嬢さん。隊長があんた達を殺せっていうからさ…」
「だからさぁ爺さん、その物騒な弓矢捨ててくれないかなぁ?」
騎兵はいずれもメイジではなかったが、その手には机上槍(スピア)が握られている。
シエスタも腰からプリムスラーヴスを抜いて構えてはいたが、足先がわずかに震えている。
当然である。野犬や狼、クマの類を追い払うのとはわけが違う。相手は人間、しかも武器を持った兵隊なのだから。
「こっ…来ないで下さいっ!」
「アハハ、声が震えてるぜ…ほれっ」
騎兵の一人が馬を操ってシエスタにけしかけると同時に槍を繰り出す。
「っ!」
とっさにシエスタはプリムスラーヴスを横なぎに振るった。槍先は弾かれると、騎兵の握りが甘かったのか馬の前足の付け根に突き刺さった。勿論馬は驚いて暴れだし、
馬上の兵士は慌てて手綱を取りなおした。
「くっ、このアマァ!」
「!」
騎兵達の注意が反れた瞬間、シエスタの後ろに居たロベルトは矢筒から矢束を抜き、空に向かって束ごと弓で打ち上げた。
「あ?!」
「逃げるぞ!」
「えっ?」
ロベルトはシエスタの手を引いて全速力でその場を離れ、来た道引き返し村主幹部へ逃げた。
「ちっ、追いかけるぞ!」
いきり立つ兵士達は逃げるシエスタたちを追おうとした、その時。
「!!」
静観していたワルドが馬から飛び降りる。瞬間、上空から矢が雨のように降り注いで騎兵達を刺し貫いた。
「「ぎゃぁぁぁぁ?!」」
固まっていた騎兵達は全員が矢の餌食となった。あるものは脳天を刺し抜かれ絶命、もしくは落馬して一命を取り留めたものの、矢が当たり暴れだした馬に
踏み殺された。
「がふっ…」
10人に満たない騎兵隊は老人の矢で一瞬の内に壊滅するのだった。しかしたった一人、上陸部隊隊長にして騎兵を率いていたワルドは無傷のまま、
悠然と倒れ付す部下達を見下ろしていた。
「た、隊長…助けて…」
辛うじて息の残っていた兵士が呻く。頭を覗いていたワルドは、ゆっくりと近づくと、靴底を鉄板で補強したブーツを振り上げ、体重を乗せて振り落とした。
ぐにゃりと硬くて軟らかいものを潰した感触を覚えたと同時に、まだ息のあった兵士から声が途絶えた。
「すまんなぁ。始めからお前達は殺してしまうつもりだったんだ…僕が一人で動けるように…」
滑り止めの鋲の打たれたブーツで強かに、はっきりと、執拗なまでにワルドは踵を何度も何度も、兵士の柔らかな顔面に落しながら、
踵に感じられたわずかな起伏がなだらかになっていく。
「あぁ…死んでしまった。あの老人、なかなかやるじゃぁないか…ふふふ、はははははは…」
鋲の間から血が滴り、乾いた笑いを遠く響かせながら、ワルドはゆっくりと歩き出した…。
支援
タルブ村南面街道の入り口には、トリステイン王軍のうち、騎兵を中心に足の早い部隊が既に終結しつつあった。
「兵士の皆!私とともに行くのです!」
勇ましくユニコーンの背に乗ったアンリエッタが檄を飛ばす。
「グラモン元帥。別働隊を任せます」
「はっ。全速を以って敵陣の背後を突きましょう!」
「ド・ゼッサールには制空するアルビオン艦隊へのけん制を任せます」
「はっ。ワルドめにて着せられし汚名を雪いで見せましょう」
「殿下!アンリエッタ殿下!」
先行させていた偵察隊から伝令が舞い戻ってくる。
「アストン伯らとともに、見慣れぬ兵士が戦っております。東の丘にも陣を敷いて敵艦をけん制している模様」
それを聞いて控えていたグラモン卿とド・ゼッサールが動揺する中、アンリエッタは自若として頷いた。
「問題ありません。その者たちは私が遣わしたのです。…兵士達よ!今こそ存亡の時!ここを抜かれれば明日はないと知りなさい!」
アンリエッタの声がいっそうに兵士達を煽り立てる。
「では殿下。我々はこれより出陣します。行くぞ!」
グラモン卿は今回の戦に借り出された3000の兵士の内、騎兵500を連れてタルブの東の丘を迂回するルートへ向かい、ド・ゼッサールも魔法衛士大隊45騎を連れて
空へ上がったのだった。
「…これでよかったのですね」
「はい。やれるだけの事はしたかと」
騎乗するアンリエッタの下でマザリーニが応えた。戦場への同行を命ざれたものの、マザリーニは最後方で100の兵とともに待機し、退路の確保を行う。
「殿下、ここで勝ったとしても、その先があることをお忘れなく」
「分かっています。…既に決めたことですから。それにまだ勝つと決まったわけではないでしょう」
「負けるおつもりで?」
「戯言を」
アンリエッタはそれきりで前を向き、自ら戦旗を掲げる。
「兵士達よ!私に続きなさい!」
一際の歓声とともに、アンリエッタ率いる兵士2400は集結後、タルブへ入っていった。
投下終了。
ワルド賢者タイムとか酷いっすよ(w
とはいえ見てのとおりワルドさんは頭がヤバい感じになってもらっているのでいっその事賢者タイムだったと解釈しても別に何の問題もないっ!(ぇ
飛翔機はこの展開の為に用意したと言っても過言ではないのは公然の秘密。では。
投下乙です。
なんか、このワルド物凄く悪役してる。てか、壊れてる気がする。
ワルドじゃなくてワルだに改名したほうがいい(笑)
で、毒の爪の使い魔の29話が書き終わりました。
他に予定その他が無ければ22:00から投下開始します。
乙です
作者公認の賢者タイムか
>ワルドじゃなくてワルだに改名したほうがいい(笑)
だから悪人と書いてワルドと読むんじゃないのか?
いっそのことワルター・ワルザックでいいんじゃね?
ジャンガー!俺だー!結婚してくれー!!
では、時間ですので投下開始します。
日も落ち、ラ・ロシェールに夜の帳が下りる頃、
フーケの襲撃を何とか凌いだジャンガ一行は、『女神の杵』亭へと移動していた。
『女神の杵』亭の外で待っている間、ギーシュとキュルケはタバサとモンモランシーから話を聞いていた。
「つまり、タバサは目が覚めて彼…ジャンガが居ない事に気が付いて、モンモランシーに事情を聞かされた。
それで心配になったから、着替えてシルフィードでここまでやって来たと?」
ギーシュの言葉にタバサは頷く。
「そして、モンモランシーはその付き添いで付いて来たのか」
モンモランシーは小さくため息を吐いた。
「しょうがないじゃない? 止めても聞かないんだから。無理をして倒れられても困るから、付いてくる他無かったのよ」
「しかし、タバサの母上の事は…」
「オールド・オスマンと、ジャンガと仲のいい給仕の子に頼んできた」
ギーシュの問いにタバサは静かに答えた。
ジャンガと仲のいい給仕、と聞いてギーシュは以前、自分が八つ当たりをした少女が頭に浮かんだ。
そう言えば仲が良かったな、とギーシュは一人納得。
「ふぅん。…でもタバサ、本当に良かったの?」
タバサはその声に一瞬、ドキリとした。
「…良かったって?」
「あなた、あんなにお母さんの事を心配してたじゃない。…あんまり蒸し返すような事じゃないけど」
キュルケの言葉にタバサは彼女が何を考えているかを悟った。
要するに、一度は彼女達を裏切るような事をするほど、自分は母を大切にしているのに、
何故母を置いて此処にやって来たのか? と、そう言いたいのだ。
タバサは逡巡し、口を開く。
「あの人はわたしと母さまを助けてくれた。だから、今度はわたしがあの人の力になる。
恩も返さずに自分の事ばかり考えるのは……身勝手だから」
「…そう。なら、あたしはもう何も言わないわ。あなたの好きになさい…」
キュルケの言葉にタバサは静かに頷いた。――その時だ。
バンッ、という大きな音と共に、勢い良く扉が開かれた――否、蹴り飛ばされた。
一体なんだ? と言った表情で全員が一斉に振り返る。
開け放たれた扉からジャンガが飛び出してきた。
彼の姿を認め、ギーシュは声を掛けようとし――
「オイッ!? 桟橋ってのは何処だ!?」
――いきなりジャンガに怒鳴られた。
「一体どうしたと言うんだね?」
「いいから答えやがれ!!! 桟橋は何処だ!!?」
ジャンガの物凄い剣幕にギーシュはたじろぐ。
何とか気持ちを落ち着かせながら、答える。
「今から桟橋に行っても無駄だよ」
「あン!? そりゃどう言う意味だ!?」
怒鳴り散らすジャンガ。
ギーシュは唐突に、ジャンガの背後の空を見上げながら指差す。
つられてジャンガも夜空を見上げる。
見上げた先、夜空を一隻の大型船が飛んでいくのが見えた。
遠ざかっていく船を見つめながら、ジャンガは呟く。
「まさか…」
「そうさ。あれがぼく達が乗るはずだった船さ。今夜のような二つの月が重なる晩は『スヴェル』の月夜と言ってね、
その翌朝、浮遊大陸のアルビオンはこのラ・ロシェールに最も近づくんだ。だから今の時間は最も出港に良いのさ」
そんなギーシュの説明を聞きながらジャンガは今し方、店の主人とのやりとりを思い返す。
――とっくに此処を発っただーーー!?――
――は、はい。お供の方々はここで帰る手筈になっていると…――
ギリッ、と歯を噛み締める音が響く。
そこで説明をしていたギーシュは、ジャンガに尋ねた。
「あ、そうだ。ワルド子爵とルイズは?」
ジャンガはそれに答えず、タバサに向き直る。
「タバサ、シルフィード出せ! とっととあの船を追いかけるぞ!!」
あの速度ならシルフィードで追いつける。そして、追いかけるのならばまだ目視できる今がいい。
そう考え、ジャンガはタバサにシルフィードで追撃する旨を伝えた。
しかし、タバサは首を横に振る。
その返事にジャンガはタバサの両肩を思わず掴んでいた。
「何でだよ!? テメェの使い魔なら楽に追いつけるだろうが!?」
「まだ怪我が治りきっていない」
静かな口調だったが、良く聞き取れた。
タバサの言葉にジャンガは、ハッとなる。
シルフィードがジョーカーによって負わされた怪我は、ジャンガのそれと同じ位酷い物だ。
あれから十日ほどが経過し、ある程度は癒えてきてるとは言え、完治にはまだ至っていない。
加えて、今回のタバサとモンモランシーを乗せての飛行でも消耗している。
故に無理がきかないのは至極当然と言えるだろう。
ジャンガは小さく舌打ちし、タバサの肩を掴んでいた爪を離す。
背を向け、帽子で顔を隠しながら一言呟く。
「…すまねェ」
「気にしてない」
タバサがそう返答すると、今度はキュルケがジャンガに尋ねた。
「ねぇ、それよりもルイズとワルド子爵はどうしたの?」
「そうだ、ぼくもそれが聞きたかったんだ」
暫くジャンガは船が消えた方向を静かに睨み、やがて大きくため息を吐いた。
その様子を怪訝に思ったモンモランシーが聞く。
「どうしたの?」
「…あいつらなら、もういねェ。多分、あの船に乗ってたんだろうな」
「「「「え?」」」」
四人は一斉に声を上げる。
ギーシュが驚いた調子で聞き返してくる。
「ど、どう言う事だね? ルイズと子爵が今の船に乗っていたと言うのは?」
「言ったまでの意味だ。…俺達ゃ、除け者にされたんだよ。ご丁寧に足止めまで残しやがってよ…」
「あ、足止め?」
何の事か解らない、と言った表情をするギーシュ。その横でタバサが静かに答えた。
「フーケの事」
「フーケ?」
先程の事が思い返される。
タバサは頷き、言葉を続ける。
「彼女が去り際に言っていた、”足止めはできた”と」
「そ、それって…フーケと子爵は、裏で通じていると?」
「多分、間違いない」
あっさりと肯定され、ギーシュは顔が僅かに青ざめる。
「そ、そんな…あのワルド子爵が…」
「ま、これであの男があんなにやたら冷たい目をしているのも解ったわ。獅子身中の虫だったわけね」
つまらなさそうにキュルケは言った。しかし、その内では熱い炎が燃え始めていた。
自分達を騙していた事に対する怒りもあったが、
何よりほんの少しとは言え、そんな男に見惚れてしまった自分に対する苛立ちもまた大きかった。
そんなギーシュとキュルケを他所に、ジャンガは地団駄を踏んだ。
「クソッ! クソックソックソッ! あのヒゲヅラ…舐めた真似しやがってェェェーーー!」
苛立ち、悪態を吐くジャンガの腕をタバサが掴む。
「ン?」
「とりあえず、桟橋に行く」
「行ってどうするってんだ? もう船は出ちまってるだろうが!」
「次の便の出港時間を聞く」
「うっ…」
頭に血が上っていてそこまで考えが回らなかった。
タバサの至極当然な考えにジャンガは口篭る。
「…チッ、まァ確かにここで喚いてても仕方ねェな…」
そして、ギーシュへと向き直る。
「オイ、桟橋に行くぞ! とっとと案内しろ!」
ギーシュはまだショックから立ち直れていなかったが、ジャンガの声に我を取り戻した。
「あ、ああ…解った」
そして一路、一行は桟橋へと向かった。
桟橋へと着くや、一行は船の出港予定を確認する。
案の定、先程見かけたのが乗る予定の船だった事が解った。
その船にルイズとワルドが乗ったかどうかの確認もしたが、人の顔など一々覚えていない、との事で解らずじまい。
そして、次の出港は明け方との事らしく、今夜は『女神の杵』亭に泊まる事となった。
「フゥ…」
部屋のベランダに出たジャンガはため息を吐く。
手すりに頬杖を突きながら重なり、一つとなった月を見上げる。
赤い月が青い月の後ろに隠れ、青白い輝きを放っている。
それはもう見る事の叶わない、帰りたいとも思わない世界の月をジャンガに思い出させる。
無論、ジャンガがため息を吐いたのは”向こう”を思い返したからではない。
本当の理由は……
「ルイズが心配?」
「…なんでそうなるんだ?」
「ため息を吐いてばかりだから」
「あのな…」
…自分の隣に立つ青髪の少女だ。
本来ならば、ギーシュとモンモランシー、キュルケとタバサが同室となり、
自分は一人きり(デルフリンガーは数に入れていない)になるつもりだったのだ。
だが、タバサはジャンガとの同室を望んだ。ジャンガが駄目だと言っても、頑なに拒否。
結局、ジャンガが折れる形で渋々了承したのだった。
ジャンガは再度ため息を吐いた。
(ったく、なんだって、毎度毎度こうなるんだ?)
――どうして自分は、こうつくづく年下の少女に懐かれるのだろうか?
ジャンガは自分の境遇を素直に疑問に思った。
いや、勿論自分が懐かれるような事をしたと言うのもある。
あるが……それでもやはり納得が行かない。
大体、”あいつ”と会った時だって――
「……チッ」
ジャンガは脳裏に浮かんだそれを振り払うべく、首を振った。
忘れられない事だと言うのは解っているが、軽々しく思い返していい身分でもない。
自分は罪人…、”あいつ”とは最早、違う場所に居るのだ。――閑話休題。
隣に立つ少女=タバサを横目で見る。
「どうして、俺と同じ部屋にしたいと言ったんだよ?」
「一緒がいいから」
「あの雌牛と談笑してりゃいいじゃねェか…。と言っても、テメェは滅多に笑わねェか」
そこまで話して気が付く。タバサの表情が曇っている事に。
気になり、ジャンガは聞いた。
「どうしたよ? まさか、親友のあいつと同室が嫌だった――とか言う訳じゃねぇだろうな?」
「嫌じゃない」
「じゃ、なんで俺の所に来た?」
「……」
口篭るその様子にジャンガは怪訝な表情になる。
>――とっくに此処を発っただーーー!?――
どちらの出身で? 支援。
タバサは静かに口を開いた。
「わたしは裏切り者だから…」
「……ハァ?」
目が見開かれ、間の抜けた声が口から漏れる。
そんなジャンガの様子を気にも留めず、タバサは手にした本を手渡す。
手渡された本をジャンガは繁々と見つめる。
それがアーハンブラ城で、タバサが読んでいた本だとジャンガは気付く。
「『イーヴァルディの勇者』ねェ…。で、この本が何だってんだ?」
本をちらつかせながらタバサに聞き返す。
「その話…『イーヴァルディの勇者』は原点が存在しない。
だから、話の筋書きや登場人物も色々と違う物がたくさん在る」
「だから、何だって――」
「その中に、この話にも出てる女の子が友達を裏切った話が在る」
「……」
「結局その子はイーヴァルディに助けられ、裏切りを赦されて話は終わるの」
「…何が言いたい?」
返事は無い。タバサは黙ったままだ。
暫くの間沈黙が流れ、タバサは口を開いた。
「現実は物語じゃない…」
「…ああ」
「壊れた友情が簡単に戻るなんて、現実にはありえない」
「…そうだな」
「わたしは皆を裏切った」
「…結果的にはな」
「裏切り者は赦されないのが普通」
「…そりゃそうだ」
「だから…、わたしは彼女と一緒の部屋にはいられない」
そこでタバサは俯いた。頬を一筋の涙が伝う。
肩を震わせ、小さく嗚咽を漏らす。
「おい…」
ジャンガが声を掛けたが、タバサにはもう返事をするだけの余裕は無かった。
――怖い、怖い、怖い
そんな事、あるはずがない。
彼女は言った、自分は親友だと。決して見限らないと。
言葉だけでなく、行動でもそれを証明した。
だから、そんな事はないと解っている。解っているが……それでも怖い。
自分は実は既に嫌われているのではないか?
恐れられているのではないか?
…そんな不安が今でも心の中に残っている。
振り払おうとしても、心の中に残り続ける。
だから、さっきも彼女の声で怯えてしまった。
ずっと一緒だった親友を、信じ切れない……なんて酷いんだろう。
自分は親友の気持ちを踏み躙ってる。
そう考えると、更に涙が溢れてきた。
――そんなタバサの考えは、頭を乱暴にぐしゃぐしゃとやられて停止させられた。
顔を上げると、ジャンガが半ば呆れた表情で自分を見下ろしている。
「ったく…、乳離れできてないガキの分際で、小難しく物事考えてるんじゃねェよ」
>「フゥ…」
部屋のベランダに出たジャンガはため息を吐く
ジャンガも賢者タイムか支援
「……」
「テメェは親救いたくて、悩んだ末の結果だろうが?
結果的に裏切りだとしてもな、あーだこーだ非難される理由は無ェ。
大体、テメェは最後には、あのクソガキ助けたじゃねェか。つまり、裏切りきれてねェって事だ。
ハンッ…、そんな奴が裏切り常々で悩もうなんざ、百年早いんだよ。
同じ裏切りなら、俺の方がよっぽど刺激的で、ドロドロしてるってもんだゼ。
それに比べりゃ…テメェの裏切りなんざ、子供のウソと同レベルだな」
タバサは呆然とジャンガを見つめる。
そんな彼女の鼻先にジャンガは爪を突きつけた。
「いいか? 下らない事でもう悩むんじゃ無ェ。
裏切りの罰なら、テメェはもう十分すぎるほど受けてんだ。
これ以上テメェに罰を望むんなら…それは、そいつの傲慢だってんだよ。
だから、テメェはもう悩むな。普通にしろ。――いいな?」
ジャンガはタバサの眼前に顔を近づけ、半ば脅すような感じの口調で言った。
タバサはそんな口調に怯えるそぶりも見せず――否、寧ろ慰められて安堵した表情を見せた。
涙を拭い、ジャンガに向かって笑顔を返す。
「ありがとう」
「ハァ〜……ったく、本当に世話の焼ける奴だゼ…」
迷惑そうに呟くも、実際はそれほど悪くは思っていない。
そして、もう一度大袈裟なまでに大きなため息を吐く。
「明日は雌牛とちゃんと真っ直ぐに向き合えよ?」
「うん」
頷くタバサを見て、ジャンガは小さく安堵の息を漏らした。
「よう、話は終わったか?」
手すりに立て掛けたデルフリンガーの声に、ジャンガは不機嫌な表情を浮かべる。
「最後まで口挟むんじゃねェよ…ボロ剣」
「そんな睨むなって。話の途中で口挟まなかっただけでも良かったじゃねぇかよ?」
必死に弁解するデルフリンガー。
ジャンガは忌々しげに鼻を鳴らす。
「フンッ。…で、何の用だ?」
「ああ。…相棒のルーンの事さ」
ジャンガの片方の眉が、ピクリと動く。
「一つだけハッキリさせておきたい事があるんだ」
「何だ?」
一拍置き、デルフリンガーはジャンガに聞いた。
「相棒……前に、何か妙なモンに触れたりしなかったか? こう、力のあるマジックアイテムのような…」
「…何?」
僅かながらの動揺。それを見て、デルフリンガーは話を続ける。
「あるのかい?」
「……」
デルフリンガーの言葉に答えず、ジャンガは過去を振り返る。
思い返されるは嘗ての”相棒”と組んでいた時。
利用する為に組んだとは言え、充実していた毎日。
その日々の中での僅かなすれ違い。
そして――
「相棒…大丈夫か?」
「ジャンガ?」
デルフリンガーとタバサの声に、ジャンガは過去の回想から現実に引き戻された。
見ればデルフリンガーはともかく、タバサは心底心配そうな表情をしている。
「どうした?」
ジャンガの問いかけにデルフリンガーは心配そうな口調で答える。
「そりゃ、こっちの台詞だぜ。相棒急に黙りこくったかと思えば、何か怖いような、悲しいような顔するし。
正直、何を考えているのかまるで解らなかったぜ。相棒、一体何考えてたんだ?」
「…昔を思い返しただけだ」
「昔…」
小さく繰り返すタバサに頷いてみせる。
「辛いなら、無理に思い返さないほうがいい。あなたも追及しない事」
ジャンガを気遣い、続いてデルフリンガーに釘を刺す。
「解ったよ、眼鏡の娘ッ子」
了承の意を示すデルフリンガー。
そんなデルフリンガーにジャンガは言った。
「お前が言うような事だが……一つだけ心当たりはある」
「本当かよ?」
「詳しくは言いたかないけどよ…」
「そうかい」
そう言い、口を閉ざす。
ジャンガは怪訝な表情でデルフリンガーを見つめる。
「…何か気になるのか?」
「いや、それはもういいさ。別の話題にする」
「…ふん」
「なぁ相棒…、確か…ルーンが消えた時より以前にも何度か――」
タバサは思わず顔を上げていた。
「ルーンが消えた? それってどう言う事?」
「そういや…テメェは眠ってて知らなかったんだな」
ジャンガは簡潔にタバサに自分のルーンが消えた事、そして身体の調子が悪くなった事を教えた。
その説明でタバサは、彼があれほどまでにフーケのゴーレムに苦戦していた事に納得した。
「そう」
「ま、そう言う事だ。…ほら、続けろ」
ジャンガはデルフリンガーを促す。
「ああ。…相棒は以前にも何度か手を押さえて痛みを訴えていた事があったよな?」
その言葉で、タバサの脳裏に浮かんだのはあの日の出来事。
オールド・オスマンに報告した後、突然左手を押さえて苦しみだした彼。
「確かに、あの日もあなたは苦しんでいた」
「それが、何だってんだ?」
ジャンガの問いにデルフリンガーは答える。
「そいつは…言う事を聞かない使い魔への懲罰じゃないか、って俺は思うわけよ」
「懲罰…ねェ。やっぱりそうなるか…、それならあの痛みも納得が行くってもんだしよ。
なら、ルーンの消滅と身体能力低下も、やっぱ懲罰の一つか?」
「さぁ…解らん」
「あン?」
「使い魔の契約は一生の物だ。主人か使い魔、そのどちらかが”死ぬまで”契約は続く」
それを聞いてジャンガは、デルフリンガーが何を言いたいのか気付く。
「つまり…”生きている内に契約が外れる事は無い”って、そう言う事か?」
「ああ。相棒のようなケースは恐らく前代未聞、ハルケギニア中のメイジがビックリするだろうな」
「どうしてそんな”起こりえるはずの無い事”が起こった?」
「解らんね…、俺はメイジじゃないしさ。それに言ったろ? 前代未聞だってよ」
ジャンガは顎に爪を当てて考える。
解らないとデルフリンガーは言ったが、偶然にしては一致し過ぎる。
前代未聞の契約解除、今の著しい身体能力低下、そして…あの声。
…とても無関係とは思えない。
ジャンガは顔を上げるとデルフリンガーに問う。
「おい…、ルーンてのにはテメェみたいに”意思”てのはあるのか?」
「ん? そりゃまた…唐突な質問だな、相棒。何か気になるのかい?」
「手に痛みが走る時……って言っても最近の事だがよ…、声が聞こえたんだよ」
「声?」
「ああ…」
デルフリンガーは暫し悩んでいたが、申し訳なさそうな口調で答えた。
「悪いが、解らねぇ。何しろ、お前さんみたいなのは珍しいんだ。ルーンが消えたって事以前によ」
「どう言う事だ?」
それに答えたのはタバサ。
「使い魔で呼ばれるのはハルケギニアに住む生き物。だから、大体人語を解さない」
そう言えば…、とジャンガは他の生徒が召喚した使い魔の面々を思い返す。
鳥に蛇に犬に猫…、それ以外の幻獣もシルフィードのように人語を話す事は出来ないような連中ばかりだ。
なるほど……確かに、話が出来る使い魔は珍しいと言えるのも納得だ。
「ああ…、納得したゼ」
納得したジャンガにタバサは頷いてみせる。
そこでデルフリンガーが口を挟む。
「だからよ、ルーンに意思が在るかどうかなんてよ、解らないな。
だから、相棒の聞いた声がルーンの物かどうかなんて確かめようもねぇ」
「そうかよ」
ジャンガは最早何も浮かんでいない綺麗な左の手の甲を見た。
迷惑極まりなかったが、こうして無くなると妙に寂しくもある。
それに、今の不調も早急に何とかしたい。
「じゃあ…、俺の身体能力低下はルーンが戻れば治るか?」
「それも解らん。生涯に二度の使い魔契約をした使い魔なんて、このざた見た事が無いからね」
「なら、やってみるか」
その声にデルフリンガーは愕然となる。
「あ、相棒? まさか、あの娘ッ子の使い魔に戻るつもりかよ!?」
「あくまでこの不調を戻すだけだ。あのクソガキの使い魔なんざやるつもりはねェ」
「…まぁ、相棒ならそう言うと思ったよ。…けどな、やめた方がいいと思うぜ?」
「前例が無いからか?」
「ああ」
「んなの関係無ェよ」
「危険」
そう言ったのはタバサ。
「危険? 何が…」
「色々ある」
「具体的に言えよ」
「んじゃ、俺が説明してやる」
そう言って、デルフリンガーは言葉を続ける。
「障害は二つある」
「言ってみろよ」
「まず、『サモン・サーヴァント』だな。そいつを唱えた際、サモンゲートってやつが使い魔となる者の前に開く。
で、そのゲートを潜れば召喚成功となるんだ」
「それの何処が問題なんだ?」
「ゲートが相棒の前に再び開くかどうかが問題なんだよ。いやな、使い魔がどうやって選ばれているのか
実際のところ…まだよく解っちゃいないんだ。四系統なら、それを象徴する幻獣やら動物やらの前にゲートは開く。
あの赤髪の娘ッ子のサラマンダーや、眼鏡の娘ッ子の風韻竜なんか言い例だな」
「なるほど」
「だが”虚無”の系統は解らねぇ…、何しろ伝説だからね…。どういった基準で選ばれてるのか、皆目見当がつかねぇ」
「フンッ、そうかよ。…じゃあ次」
「『コントラクト・サーヴァント』」
「それはどう言った物だよ?」
「そいつは――」
そこでデルフリンガーは口篭る。
その様子にジャンガは怪訝な表情を浮かべる。
「どうした?」
「…あ〜いやな、その…なんだ…?」
「?」
「…どうしても聞きたいのか?」
「…なんだよ、いきなり?」
「後悔しない? 俺に何もしない?」
「…だから何だってんだ?」
そこへタバサが口を挟んだ。
「キス」
「ン?」
「キスをする」
「……ハッ?」
――一瞬、思考が麻痺した。
こいつは今…何を言った?
「おい…もう一度言え。…何をするって?」
タバサはジャンガの目を真っ直ぐに見つめ返しながら言った。
「キスをする。それで契約は終了して、使い魔のルーンが刻まれる」
「……」
ジャンガの頭の中で今入った情報が高速で処理される。
――キス?
――唇と唇を合わせる”あれ”か?
――それが契約?
――それを俺はした…いや、された?
――寝てる間にか?
――誰と?
――あのクソガキと!?
そこまで情報の整理が完了した瞬間、ジャンガは激しく鬱な気持ちに襲われた。
そして、手すりに手を付き、項垂れる。
その様子に流石にデルフリンガーとタバサも心配になった。
「あ、相棒……大丈夫か?」
「気を落とさないで」
そんな二人の励ましも然程効果を上げない。
寧ろ、ジャンガは更に鬱な気持ちになっていく。
「俺が…キス? あんな…クソガキと? 寝てる間に? ありえねェ…、ありえねェ…、ありえねェ…」
何かをブツブツと呟きだした。
「相棒、気を落とすな。キスとは言っても、契約の為の儀式だ。だから、邪な気持ちとかは無い。
相棒がどんな人生歩んできたか知らないが、決して相棒の趣味を俺は疑ったりはしねぇよ。いや、絶対!」
「わたしもあなたを変な目で見たりしない。だから気を落とさないで。
それにあれは契約。だからノーカウント、絶対ノーカウント」
デルフリンガーはともかく、タバサはそれまで見せた事の無いような必死な口調で慰める。
表情はそれほど変わらないが、その瞳の奥にはある種の闘志の炎が燃えていた。
暫くし、ようやく立ち直ったジャンガはタバサから再度説明を受ける。
「で? その…キスする”だけ”のやつの何処が危険なんだよ?」
「あなたは気絶していたから知らないけれど、ルーンを身体に刻むのは可也辛い」
「…んなもん、今更じゃねェか?」
「いや、問題なのは苦痛じゃねぇんだよ」
そう言うデルフリンガーに眉を顰める。
「どう言う意味だ?」
「先に言った事だけどよ、二度の使い魔契約なんざ前代未聞だ。
加えて言えば、相棒のルーンの消え方はあまりにも不自然すぎる」
「と言うと?」
「”生きている健康な状態”で相棒のルーンは消えたんだぜ?
そりゃ、負傷はしてたが…ルーンが消えるほどじゃねぇ。
これが、”瀕死の重傷を負って、一度心臓が止まった後に蘇生した”ってんならまだ解るさ。
一時的にとは言え、心臓が止まったんなら死んだも同然だからよ。だが、相棒はそんな状態ですらなかった。
だから、二重の意味で心配なんだよ」
「……」
「相棒、それでもやるのかい?」
そんな風に尋ねるデルフリンガーに、ジャンガは鼻を鳴らす。
「まぁ、確かに多少抵抗はある。…が」
ニヤリと笑ってみせる。
「このまま、毒の爪の名が地に落ちたままってのもいただけないゼ」
それは最早、決定事項だった。
翌朝。
ジャンガ達は桟橋から朝の便に乗り、一路アルビオンを目指した。
ラ・ロシェールに最も近づいているとは言え、アルビオンとの距離はあるらしく、暫し空の船旅は続いた。
「くわァァァ〜〜〜」
甲板で寝転ぶジャンガは大きな欠伸をする。
部屋に居るよりも、こうして陽に当たって寝転んでいた方が気持ちがいいのだ。
――突然、陽が遮られた。
目を開けると、タバサの顔がそこにあった。
「お前か」
「寝ていた?」
「半ば起きてたよ」
そして、身体を起こす。
大きく伸びをし、タバサを振り返る。
「何の用だ?」
「もう少しで到着する」
「そうか…」
空を見上げれば太陽は大分傾いていた。
二つの月も薄っすら姿を見せている。
と、タバサが驚いた様子で声を掛けてきた。
「ジャンガ、前」
「ン?」
視線を目の前に向け――驚き、目を見開いた。
「ンだ、こりゃ?」
ジャンガの目の前にはエメラルド色の卵のような形をした、鏡のような物が浮かんでいる。
驚いた表情でそれを見つめるジャンガの隣でタバサが呟いた。
「サモンゲート」
「…何だと?」
改めて目の前の鏡=サモンゲートを見つめる。
自分の目の前にこれが開いたと言う事は、誰かが使い魔として自分を呼んだのだろう。
だが、誰だ?
悩んでいると、ゲートから声が聞こえてきた。
「誰か…、誰か助けて!」
その声にジャンガは眉を顰め、鞘から飛び出したデルフリンガーがいつもの調子で言う。
「はぁ…、どうやら相棒はあの娘ッ子の使い魔になる星の下に生まれたみてぇだな…」
「言ってろ…」
「でも、何で『サモン・サーヴァント』を?」
そんなタバサの疑問に答えるかのように、ゲートから別の人間の声が聞こえてきた。
「どのような使い魔が来るかはしらぬが…、契約もできぬ状況では無意味だ」
その声にタバサとデルフリンガーは息を呑み、ジャンガは見て解る位ハッキリと不愉快な表情を浮かべた。
ゲートからの声は続く。
「言う事を聞かぬ小鳥は、首を捻るしかあるまい…。残念だよ、この手できみの命を奪わねばならないとは…」
その言葉に、事態が切迫した物である事を三人(?)は悟った。
ジャンガはタバサに目配せをする。
タバサは静かに頷く。
「後から追いかける」
「…大丈夫か?」
「多分、大丈夫」
「そうか」
それだけ言うと、ジャンガはデルフリンガーを背中に背負い、ゲートへと飛び込んだ。
ジャンガがゲートに飛び込んだのを確認し、タバサはキュルケ達を呼びに船室へと急いだ。
ゲートから飛び出すと、眼下に床に這い蹲る様な格好で倒れた桃髪の少女が見えた。
そして、前方――声から想像していた通りの人物がそこに立っている。
見間違うはずが無い。見ていてムカツク、あのヒゲヅラだ。
ジャンガは驚きで呆然としているその男に、ニヤリと嫌みったらしい笑みを浮かべて見せた。
そして、空中で回転して勢いを付け、両足を揃えた見事なドロップキックを、その顔面に手加減抜きで叩き込んだ。
顔面にドロップキックを諸に受けたワルドが派手に吹き飛ぶ。
大きな音を辺りに響かせながら、椅子を蹴散らし、粉塵や破片を撒き散らしながら床に落下した。
それを見届けながらジャンガは床に着地する。
そして、辺りを見渡した。
どうやら、礼拝堂のような場所らしい。目の前には何かの神様の物だろう、像があった。
そして、像の目の前で血を流して倒れる若者の姿を確認する。
身形から察すると、それなりに偉い人物のようだが…。
「最悪…」
突然、背後から掛けられた声にジャンガは振り返る。
いつもと違う、白いマントを羽織ったルイズが自分を見つめている。
「ああ…、俺も最悪だ。テメェに使い魔として”また”呼ばれるなんざよ…」
そしてルイズは項垂れる。その拍子に涙がこぼれた。
ジャンガは鼻を鳴らし、ルイズに言った。
「ほらみろ…、見事に裏切られたじゃねェか。だから、言っただろうが…」
「ええ……そうね…、見事に裏切られたわよ。…でも、まさか…ワルドが『レコン・キスタ』だったなんて」
『レコン・キスタ』…聞きなれない単語に眉を顰めるジャンガの耳に、ワルドの声が聞こえた。
「アルビオンの貴族派……いや、国境を越えて繋がった貴族の連盟の名さ」
声の方へと顔を向けた。
身体に乗った壊れた椅子の破片を落としながら、ワルドがゆらりと立ち上がっている。
ドロップキックをまともに受けた所為か、鼻から夥しい量の鼻血が流れている。
鼻血は立派な顎鬚を赤く染め、ポタリ、ポタリと床に滴り落ちていた。
ワルドは引き攣った様な笑みを浮かべ、ジャンガを睨む。
「随分とやってくれたね…”元”使い魔君」
「テメェが昨日してくれた分の礼をしてやったまでだ。…で、”レンコン”と”パスタ”がどうしたって?」
「『レコン・キスタ』だ。我々はハルケギニアの将来を憂い、集った。我々に国境は無い。
ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの降臨せし『聖地』を取り戻すのだ」
「ご大層な演説ありがとうよ。まァ…、そんな鼻血ダラダラの顔で言われても何の説得力も無いけどよ」
言われてワルドは鼻血を拭った。
支援
155 :
代理:2009/02/09(月) 22:44:40 ID:ZTWQfmap
すみません、規制を受けました。どなたか代理投下お願いします。
キキキ、とジャンガが笑うや、ワルドは頭に血が上りかけた。
しかし、何とか平静を保つ。
「それにしても、何故彼女のサモンゲートに飛び込んだ?」
「…解るのかよ? 俺があのガキの開いたゲートだと知っていたと?」
「そうでもなければ、あのような見事な蹴りは放てまい」
「そりゃごもっとも、キキキ」
「まぁ…それは置いておく。それで、改めて聞くが…何故君は彼女の開いたゲートに飛び込んだ?
死地へとやって来た? 私に遅れをとるくせに何故此処へ来た?」
「言う必要があるのかよ?」
「なるほど! 言えるはずも無い! 貴様のようなメイジに劣る野蛮な亜人が貴族の娘に恋をしたなどとな!
滑稽な事だ! 叶わぬはずの無い恋だと言うのに! あの高慢なルイズが貴様如きに振り向くはずもないというのに!」
ジャンガは黙ってワルドの言葉に耳を傾ける。
「ささやかな同情を恋と勘違いしたか……愚か者め!」
その罵倒の数々に、ジャンガではなくルイズが耐え切れなくなった。
「ワルド! あなた、いい加減に――」
「ったく…相変わらずウゼェ」
ルイズの声を遮ってジャンガは呟いた。
ルイズもワルドも怪訝な表情をする。
ワルドはジャンガを睨み付けた。
「何を言っているんだ貴様?」
「ウゼェつったんだよ…ヒゲヅラ」
「何?」
そこでジャンガは盛大にため息を吐いた。
「ったく……口を開けば恋だ何だ…、僕のルイズ、僕のルイズ、バカの一つ覚えみたいに繰り返しやがってよ。
テメェなんかと同じ趣味にされたらたまらないゼ…ロリコンが」
「なっ!?」
ワルドは絶句する。
「俺はテメェなんかと違って女の理想は高いんだよ! ちゃんと”女と解る”奴が好みだ。
このガキはどうだ!? 可愛げ無くて魔法は駄目。編み物も駄目なら給仕も出来ない。
付け加えれば背も低く、尻も出てなきゃ胸も無ェ!! 正直、”服装”と”髪型”だけで女と解るレベルだ!
男装させりゃ、誰も貴族どころか…”女”とすりゃ解らねェゼ!
こんな”幼児体系”のガキを本気で物にしたいと思うのは、テメェぐらいのものなんだよ!
解ったか!? ヒゲヅラロリコン!!!」
一気に捲くし立てたジャンガの勢いに飲み込まれ、二人は沈黙した。
が、それも一瞬の事…、すぐさまルイズは震える声でジャンガに文句を言い始める。
「ジャ、ジャジャ、ジャンガァァァーーー!? あ、あああ、あんた…あ、あたしに……ななな、何て事を…」
しかし、ジャンガはそれを無視する。
ワルドも表情を引き攣らせていた。
「…流石に、僕も今の君の意見には賛同しかねるな…。色々な意味で…」
そして、咳払いを一つし、ジャンガを見据える。
「では、君は何で此処に来たんだね?」
ジャンガはニヤリと笑った。
「こいつが俺の”所有物”だからさ。…いや、こいつだけじゃねェ。トリステインに有る物は全部俺のものだ」
「ほう、大きく出たな?」
「ハンッ! どうせなら野望や目標はデカイ方がいいじゃねェかよ? ま、そう言う事だ。
このガキの髪の毛一本、血の一滴、テメェにくれてはやれねェゼ。
精々、そこらのドブネズミのメスでも愛でてやがれ、ヒゲヅラ!」
ジャンガの言葉にワルドもまた笑みを浮かべる。
「いいだろう…、君如きが相手にならないのは既に承知の事実。ここで完全に仕留めるとしよう」
「キキキ、悪いな…二度も敗北するかよ!」
そして、両者は構えを取った。
それを、ルイズは固唾を呑んで見守る。
「これで終わりだ! ”元”ガンダールヴ!」
「ガンダールヴじゃねェ! ”毒の爪のジャンガ”様だ! 良く覚えとけ、ヒゲヅラァァァーーー!!!」
そして、第二ラウンドの幕が上がった。
あれ、どうした?
157 :
代理:2009/02/09(月) 22:54:57 ID:ZTWQfmap
以上で投下終了です。
なんて言うのかな……これじゃジャンガがただのセクハラ親父だ(爆)
いや、ジャンガはあれでいて、女性に対する理想は高いと思うんですよ?
ティファニアレベルとは言わなくとも、アンリエッタかシエスタクラスは欲しいんですよ。胸が(笑)
あと、性格も多少お転婆な感じがある方がいいと思う。
だからカトレアが多少元気になってくれたような感じが一番ベストかと。
まぁ、幼女もそれはそれでいけそうですがね。
どっちかと言えば、それは意地悪な兄貴が妹に悪戯して楽しんでるのと同じ感覚になりそう。
ちなみに、タバサへの接する態度は父親のような感覚ですな。
さてと、次回でアルビオンもおしまい…になるかな?
では、今回はこれで。アディオ〜ス♪
158 :
代理:2009/02/09(月) 22:56:04 ID:ZTWQfmap
代理終了
ジャンガの人乙でした
作者さんも代理さんも乙です
タバサ涙目w
乙でしたー………泣けたw
乙でした。
ジャンガもタバサも可愛すぎてそろそろ致死量です・・・
毒の爪&代理乙。
色々すっ飛ばしたなー。
でもまあ、二次創作を呼んでる人は大体原作の展開も知り尽くしてるだろうし、これも一つの手段かも知れぬ。
まあどの作品も空賊うんぬんのところはもういい加減すっ飛ばすように読んでるしな・・・
すっ飛ばすのはそれはそれで上手いやり方だと思うよ
・・・タバサじゃなかった。
ウェールズちょお涙目w
毒の爪乙!
しかしタバサがジャンガのストライクゾーンから大きく外れすぎてたww
タバサが惚れてもジャンガ的にはいろいろ無理なんだろうなw
ジャンガさんがデレただと……!許せる!好きだ!結婚してくれ!
空賊で思い出したが、クラゲ団の居候娘はどうした
風の聖痕から八神和麻
「なんでお前みたいなガキのパシリをしなければいけねーんだ」
「う、うるさーい」
「知ったことか」
「使い魔は秘薬とか集めたりしなければならないんだからっ!」
「っけ」
「あと主人の身を守らなければならないのっ」
「突然、知らない土地に連れてこられて奴隷にするのがこの国の文化なのか?」
「だ、だから人が使い魔として呼ばれるなんて普通は無いの!このトウヘンボク!」
「だったら送り返すなりするのが人としての最低ラインだろうが」
「・・・出来ないのよ」
「だったら知ってる奴を探すなりしろよ」
「それは・・・マジックアカデミーの連中なら研究しているかもしれないけど」
「よし、まず其処へ案内しろ」
ワンマンなルイズと
ワンマンな和麻がどうかみあうか
>>157 毒の爪の人乙
ジャンガもデレ期ですね!最高!
キスで落ち込むジャンガが可愛すぎる乙
ノノノノノ
( ○○)
(||||) ・・・・・・ふぅ。
アリスマチックから誰か呼ばれないかな
ジャンガの人&代理の人、乙です
キスの事で鬱るジャンガも、それを気遣うタバサも可愛いな〜
ジャンガのタバサへの態度は父親みたいな感じですか
でもまだタバサにも望みはあるはず!
このまま娘ポジションを維持しつつ健気に尽くしてれば、数年後にはジャンガをゲットできるかも?
タバサがんばれ!w
ルーンの事も謎解きに入ってきたのかな?
例の声が何だったのか気になる…
ssのwikiへの編集って各作者がやってるのか?
ここに投下してる人でもその人の後の作品がどんどん編集されてるし・・・
〜の作者さん登録してくださいとか言わないと駄目そうだな。
>>175にテンプレのこの言葉を送る
「まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!」
どうしてこうもまとめwikiのトップどころかテンプレすら読まんやつがいるんだろう。
ROMってる分にはどうでもいいが…
気づいた人がねぇ・・・
でもまぁ自分の気に入った奴以外の作品は対外無視でしょ。
気づいててもスルーしてんの多そうだし。
>>102 まさかレスして頂けるとは
頑張って下さい
>>157 毒の爪の方、乙!
キスの事で落ち込んだり、セクハラ親父っぽい発言をしたり、
更にはデレ期なジャンガがGJすぎる。
…け、結婚してくれ!>ジャンガ
面白いと思ってくれる人がいたら登録されるだろう。
されなかったら面白くないってことさ。
と思ってるので自分で更新したことがない。
テンプレにそって一時期載ってないのはしから更新してたが
原作判らない作品や肌に合わない作品のチェックがすごく苦痛だった。
今は読んでる作品で更新されてないのだけしかまとめてないな。
普通はそうだろ
で、それを問題あるように言われる謂われもない
作者でもないのに読んでないもんまで律儀に登録してる人もいるのか。
好きな作品だから他の人にも読んでもらいたいと思って登録するもんじゃないの?
まぁ人それぞれだからどうでもいいか。登録すること自体はいいことだし。
気づいた人がってのは、登録したいと思った人が登録しろってことだろう。
まあでも始まったばっかのやつって、作者でもないと登録しないわな
一話かそこらじゃまだ評価の段階まではいかないだろう
手間かけさせるのが申し訳ないので自分でやってる
1:30より投下します。
すいません1:40の間違いです。
>>69 居てくれただけでほっとしたよ(´;ω;`)
焦らず書きたいものを書いてください。まっとりますw
支援
投下します。
その日も校庭の端で爆発が起きていた。この一週間というもの、毎日学院に爆発音が響き渡り、
そして爆心地にはいつも桃色がかったブロンドを煤けさせた少女と、鮮やかな真紅の鎧を纏うゴー
レムがいた。5回ほど爆発を起こした後、少女は盛大に溜息を付くと校舎に背を預けて座り込んで
しまった。
「はぁ……、やっぱり駄目ね。どうやっても成功しないわ」
ルイズは思わず独り言を呟いてしまう。相変わらず身動き一つなく立ち尽くしているゴーレムに
話しかけた所で返事が帰ってくるはずもない。この場に愚痴を零せる相手がいないため、ルイズは
結局ぶつぶつと文句を垂れ流していた。
一週間前のギーシュとの決闘でルイズの使い魔であるゴーレムは圧勝したものの、その後のギー
シュの辛辣な指摘により、有頂天になっていたルイズの鼻先はへし折られた。使い魔が強力である
ことに越したことはないが、真に認められたければメイジとしての実力をつける以外に道はない。
それまでの思い上がりを反省し改めて魔法の練習をすることにしたルイズであったが、生まれてこ
の方満足に使えなかった魔法が一週間程度の練習で使える様になる筈もなく、成果と呼べるものは
たった一度小石を不純物だらけの青銅へ錬金できたくらいであった。
「なんでわたしがあんたみたいなゴーレムを使い魔にできたのかしらね。あんただってもっと優秀
なメイジに呼び出されたかったでしょうに」
返事はないと分かってはいるが、ルイズはついゴーレムに話し掛けてしまう。自虐的な愚痴を黙っ
て聞いてくれるという意味では、このゴーレムは実に適役だった。
空を見上げ、この世の理不尽さを嘆くルイズに近付いてくる2つの影があった。ルイズの前に立ち、
見下ろしてきたのはサラマンダーを引き連れたキュルケと、青みがかった銀髪の少女だった。
「あらルイズ、今日も魔法の練習? 相変わらず爆発ばっかりさせてるみたいね」
「……あんたもこんな所にわざわざ来るなんてよっぽど暇なのね。男漁りしてる時間があるならもう
ちょっと勉強でもしなさいよ」
あからさまに小馬鹿にしたキュルケの言動に、自然とルイズの反応も刺々しくなる。もっとも日常的
にいがみ合っているため、特に珍しい光景という訳でもなかった。
「こないだの決闘騒ぎで随分と落ち込んでるじゃない。この一週間あなたを眺めてたけど酷い有様だわ。
人のことをとやかく言える立場かしら?」
キュルケの挑発にルイズは噛み付くことはしなかった。事実、今週のルイズは様々な意味で散々な目
にあっていた。授業中、決闘時の自分を思い返し、どうすれば使い魔だのみの現状を打破できるか。そ
れにはどれだけ失敗しようとも魔法の練習をするしかないのか、などと一人悩んでいたせいで教師に指
名された時、咄嗟に回答することが出来なかった。当然教師には何を聞いていたのかと叱られてしまった。
魔法の実技では散々な結果を残しているルイズだが、筆記・暗記等の学問としての成績は非常によい。
魔法関連の不出来を何とか補うため、毎日夜遅くまで勉強しているのだ。教師の質問には完璧な回答を。
それがルイズの信条だというのに、この一週間は何かと回答ミスを犯し幾度も教師に叱られていた。それ
が更にルイズの憂鬱に拍車をかけることになっている。
「そのゴーレムを召喚したからっていい気になっていた罰ね。いい気味だわ。あなたなんていつまでも
そうやって落ち込んでいればいいのよ」
「……あっそ。言いたいこと言ったならとっとと帰りなさいよ」
キュルケは更にルイズを挑発するが、当のルイズの反応は極めて薄いものであった。今までならそれ
こそ顔を真っ赤にして言い返してくるほどだというのに、どうでもいいから早く帰れと言われ、キュルケ
は面食らう。
「……ふんっ、つまらないわね。もういいわ。タバサ、帰りましょう」
傍らに無言で佇む青髪の少女にそう言うと、キュルケたちはルイズの元から去っていった。ルイズは
もう一度ゴーレムを見上げ、またも溜息をついた。今しがたキュルケが挑発してきたが、もしかしたら
落ち込んでいる自分を励まそうとしたのかもしれない。そこまで考えた所で、ルイズは落ち込んでいる
ときは馬鹿げた発想をするものだと自嘲した。あのツェルプストーがそんな気の効いたことをするもの
か。ルイズは立ち上がり服に付いた土ぼこりをぱんぱんと叩いて落とすと、着替えるために自室へと向
かった。
夕食を終え、ルイズが自室で自習をしていると、扉が控えめに叩かれた。入るようにいうと、シエスタ
がポットを持って入ってきた。
「ミス・ヴァリエール、紅茶はいかがですか?」
「ちょっと待ってちょうだい。今片付けるから」
ルイズはごそごそと勉強道具を片付け、シエスタが用意してくれた紅茶を飲むためにテーブルへ向かう。
散々だった一週間、このひと時だけが気の休まる時間であった。紅茶を飲みながらシエスタととりとめの
ない世間話をする。今使用人の間で飛び交っている噂や誰が誰と付き合っているという色恋話、回し読み
されている流行の官能小説。ルイズにとってどうでもいい話題も多かったが、そのどうでもいい時間が
ルイズの心を癒していた。
ギーシュとの決闘があった翌日から、シエスタは決まってこの時間に紅茶の差し入れを持ってくるよう
になった。最初はただ助けてもらった恩から気を効かしているだけだろうと無愛想に接していたのだが、
それでもめげずに差し入れを持って来てくれるシエスタの姿に、少しずつではあるがルイズの他人を拒絶
する硬く凍った心は溶け始めていた。平民と親しくするなど、ついこの間の自分からは想像できない。
しかしそれも気にしなくなりつつあった。孤独な思春期を送っていたルイズにとって、友人という存在が
できたことは一種の革命とも呼べるものだった。表面上は若干つんけんしているが、自覚していない内心
ではやはり喜んでいた。
「そういえば、なんでもフーケがまた盗みをしたらしいですよ。今度は自分の屋敷が狙われるんじゃない
かって貴族の方々が怖がってるとか」
「フーケねぇ……。王宮は何やってんのかしら。凄腕のメイジったって王宮総出で捕まえようとすれば捕
まえれるでしょうに」
「そうですねぇ……。ここまで好き勝手されちゃ王宮の面目も危ないんじゃないんでしょうか」
今度は巷を騒がす大怪盗、『土くれ』のフーケの話題に移る。強力な土のメイジであるということ以外、
全くの素性不明の怪盗は厳重な警備を掻い潜り、有力貴族の屋敷や王宮管轄の保管庫から容易く貴重な宝を
盗み出す。去り際には『お宝は頂きました』の書置きも忘れないという実に貴族を小ばかにした態度を貫く
フーケは、当然のことながら王宮から目を付けられ、幾度も討伐隊が編成されるほどであったが、未だ捕縛
には至っていない。何度か人死にも発生しており、早急な逮捕が望まれている。
「ま、いくらフーケといっても、流石にここには盗みに入れないでしょうね。メイジの巣に飛び込む人間が
いるとしたら相当の馬鹿に違いないわ」
「うふふ、そうですね」
シエスタと雑談をしていると、だいぶ夜も更けてきた。シエスタはそろそろ戻ります、とルイズに言うと
ポットを手に退室していった。静かになった部屋を、ルイズは少し寂しく感じた。ゴーレムは話し相手として
頭数には入っておらず、しかもその感情の無さには寒々しさすら感じる。他の生徒と違い生物ではないので
感情が無いのも当然なのだが、それでも話しかけても完全に無視する大柄なゴーレムにルイズはかすかな怖れ
を抱いていた。
明日も早い、ルイズは頭を振ると寝巻きに着替える。ベッドに潜りながら明日は成功するだろうかと、どう
しても考えてしまう。いい加減授業中に無関係なことを考えるのはやめよう。ルイズはそう決めると、さっさ
と眠ることにした。
生徒や教師が皆寝静まった丑三つ時、校舎本塔の宝物庫の前で声がする。普段誰も通らず、いるとすれば
当直の教師だけというこの寂しげな空間に、二人の人間の声が響く。一方の人間の声はくぐもっていてはっ
きりしない。
「……ミス……、ま……君が……!」
「すい……ん、ミスタ……。あな……別れ…………残念で……」
言い争う声は誰にも聞かれることはない。男と思われる者は必死に抵抗しているようだ。
「やめ……! ……なことをし…………ただで済むとお……か!」
「わたしをだ……とお思いにな……。さ、もうお別……間です」
「や、や…………!!」
男の声は消え去り、宝物庫はまたそれまでの静寂さを取り戻す。目深にフードを被った人物は宝物庫の扉
を開け、悠々と内部に侵入する。しばらくごそごそと探し物をしていると目的の代物を見つけたようで、
万年筆と紙切れを一つ取り出すと、さらさらとメッセージを書き留める。それを宝物庫の扉に針で留めると、
その人物は誰にも見つかることなく静かに立ち去っていった。
その紙切れにはこのように書き留められていた。
『破壊の杖は確かに領収いただきました。土くれのフーケ』
翌日、学院は前代未聞の大事件に騒然となる。
その日、ルイズは騒がしさに目を覚ました。何やら廊下で教師が大声で叫んでいる。ぶつぶつとベッド
から這い出ると扉を開けた。廊下には他の生徒達も出てきており、にわかに雑然とした空気が漂っている。
ルイズはキュルケを見つけると、とりあえず話しかけることにした。
「ちょっとキュルケ、何があったのよ」
「……何でもあの土くれのフーケがここの宝物庫を襲ったらしいわ」
「はぁ!? フーケが、ここを!?」
キュルケも流石に青い顔をしている。普段なら真っ先に出てくる皮肉を言うこともなく、素直にルイズの
質問に答える。ルイズにしてみれば、つい昨日の夜にシエスタとそのフーケについて話しているのだ。まさ
か本当にこの学院に盗みに入るとは。想像の上を行ったフーケの行動にルイズは唖然となる。しかもそれを
成功させてしまうとは。
「宝物庫の前で当直だった先生が殺されてたらしいのよ。だからあんなに焦ってるんでしょうね」
「誰が殺されたの……?」
「さあ、そこまでは分からないわ。でも危険だから部屋で待機しているようにだって。今日の授業は中止
になるんじゃないかしら」
その後、教師に部屋に入るよう注意され、ルイズたち生徒は皆自室へと入った。部屋の中でルイズは月並
みだが、何とも大変なことになったと怖くなった。どこかで国家間の小競り合いが起きても学院はいつも平和
だった。血生臭い事件とは縁遠いここで、このような事件が起きるとは。もし自分が危険な状況に陥ったら、
このゴーレムは守ってくれるだろうか。きっとその強靭な体を使って守ってくれるだろう。それでもやはり、
ルイズは湧き上がってくる恐怖を抑えることは出来なかった。
翌日からは普段どおりに授業が行われることとなったが、学院全体を覆う重い空気は如何ともし難かった。
この日予定されていたフリッグの舞踏祭は中止になり、張り切っていたキュルケが肩を落としていたが、流石
に事態の重さを理解しているのかその不満を口には出さず、若干顔色は良くなかったが普段どおりの態度を取っ
ている。
顔色が悪いのはルイズも同じであり、昨日は全く勉強に身が入らなかった。目的の宝を盗み出した以上、
もうこの近辺にはいないとは思うが、それでも人が一人死んでいるという事実は、ルイズの未成熟な精神を
大いに揺さぶった。そして他の生徒も大差はないようだった。
生徒達の噂を聞いていると、第一発見者は学院長秘書のミス・ロングビルだということらしい。早朝の教員
会議に顔を出さない教師に気付いたロングビルは学院長に許可を取って探しに行った。散々探し回った挙句、
最後に向かった宝物庫の前で件の教師が首から血を流して倒れているのを発見した、という経緯のようだ。
ロングビルは絹を引き裂くような悲鳴を上げ、他の教師達が駆けつけた、とそういうことらしい。伝聞なので
どこまで事実なのかは分からないが、少なくとも悲鳴を聞いた者はそれなりにいたようだ。
事態を重く見た教師達は、すぐさま王宮に連絡を取り、駆けつけた王宮の監察官は昨日の夜から現場の検分
を行っている。果たしてフーケを逮捕できるかどうか、事件を知る者の間では今回も駄目かもしれない、とい
う意識が蔓延していた。
以上です。
投下乙!
殺されたのは誰だ?
フーケのゴーレムに極太レーザー炸裂するかしないか楽しみだ!
投下乙
最初から人死にが出てて王宮に連絡となると、筋もちょっと変わりそうですな。
200 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 02:36:45 ID:GdSZwsX6
消して書いて消して書いて消して書いてを繰り返してたら、投下が怖い病に罹って悶えてました
久しぶりですが50分から投下させてください
おお、我らの「闇」が帰ってきた!
おお、ちょっと前回の話見てくる。
203 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 02:50:50 ID:GdSZwsX6
トリスティン魔法学院の一室。キュルケは豊満な肉体を薄い寝間着に包んだまま、苛立たしげに腕を組んでいた。
せっかくルイズは魔法を使えるようになったのに、今度は授業をサボりっぱなし。一時は見返されバツの悪そうに黙っていた生徒たちも、また元気づいてあれこれと文句を言い始めている。
努力を止めたら足元をすくわれると窘めてやろううにも、最近はめっきり顔を合わせられない。決闘の後、恐ろしい速度で飛んで行ってしまってからは、食事時しか姿を見ていなかった。避けられているのだとは思いたくないが、そう考えても仕方が無いほどすれ違っていた。
そして始まる直前にやって来たかと思えば、すぐにどこかへ行ってしまうのだ。アンロックで部屋に押し入っても留守ばかりで、ことごとく声をかけるタイミングを逸してしまっている。
「まさか、ルイズに限って……ね」
キュルケは大げさに肩を竦めると、起きるのには早すぎる時間を指す時計を一瞥し、無理やりに布団をかぶった。
ルイズが何か恐ろしいものに取り憑かれているのではないか、という不安を感じていた。あの時に感じた悪寒が間違いであってほしいと願う。
キュルケの中で、ヴァリエールはまだライバルなのだ。向こうが同じように思ってくれているかは分からないが、少なくともキュルケはそう考えていた。
決しておぞましい何かではない。気を張っているだけの弱くて寂しがりやな女の子、それがキュルケがたどり着いたルイズの本性である。
それを寄って集って皆で殴打し、傷つく姿を見て笑っていた自分たちこそ責められるべきなのだ。ルイズにどう思われようとも、キュルケはルイズのライバルという立ち位置を貫ぬこうと考えていた。
「大丈夫かしら……。ルイズも……、タバサも」
頭を振って目を閉じる。目蓋の裏に浮かぶのは、同じく姿を消してしまった親友の姿だった。
ひたすらに他人を拒絶するその姿に、何か事情がありそうだとは感じていたのだけれど、今回のだけはルイズ絡みだと思うのは考えすぎだろうか?
そういえばギーシュが魔法を使えなくって、"無能のギーシュ"などと呼ばれている事も気にかかる。彼は決闘の対戦者だったし、もしかすると……。
「ったく! そんな訳、ないでしょう?! ……私ったら、何を考えているのかしら」
主の不機嫌を察したのか、ベッドの下で使い魔のフレイムがぎゅるぎゅると気遣わしげな声を上げる。
キュルケは頼りになる使い魔の存在に少しだけ安心し、変な時間に起こしてしまったと謝りながら、大きく深呼吸して目を閉じた。
きっと大丈夫だ。ルイズはちょっと舞い上がっているだけで、すぐにいつも通りのルイズに戻ってくれるはず。タバサだって単なる偶然だろう。だから心配する必要なんてない。
やがてキュルケが微睡の中へと落ちて行った時、学院の外に風竜が降り立った。
事前支援開始!
エルザをつれて帰ってきたのか
支援
206 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 02:53:24 ID:GdSZwsX6
朝露に濡れた芝生をザクザクと踏みつぶしながら、それぞれ別々の種族である3人は密かに学院の中へと入る。
門や周囲を守っている衛兵たちは気づいているだろうが、あの風竜がタバサの使い魔であることは周知の事実だ。オスマンもタバサの複雑な事情を知っているから、こんな時間に出入りしていても不振には思われない。
その証拠に、見回りをしていた槍兵がルイズたちに声をかけようと近づいてきたが、途中でタバサの蒼い髪に気づいたらしく踵を返した。
本来なら文句の一つぐらい言われてもいい行動でも、彼らは所詮幾らでも替えの効く立場。余程の事でなければ直接注意など出来はしないのだ。
一行は当然とばかりに門をくぐった。村へ行っていた間に雨でも降ったのか、学院全体が朝日を受けて光を反射している。
ルイズは演技のためにエルザの腕を取り、身を屈めて少女の顔を覗き込んだ。エルザは小さく声を漏らし、子猫のように体を震わせる。それを見てルイズは蛟のような笑みを浮かべた。
直接学院長の部屋に行ければそれが一番よいのだが、下手な行動をすれば怪しまれる恐れがある。これから行うのは命のやり取りなのだから、出来る限りオスマンの警戒心を呼び起こすような真似はしたくなかった。
狭い学院の中とはいえ、そこの最高権力者に会いに行くのだ。一生徒が正式に入るには、誰か教師の案内が必要だった。
しかし、こういった面倒事を頼めるような教師となれば限られてくる。
新任のシュヴルーズでは不足だし、ギトーのような偏屈者には頼みたくない。
そこで教師の中では一番同情してくれそうな、コルベールの下へとやって来たのだった。石造りの外壁に寄り添うように立てられた、薄汚れた小屋が彼の住居だ。
在室中の札かかかっている扉の前に立ち、ルイズはエルザと繋いでいない右腕で、薄い木製の扉を軽くノックする。
今のルイズがその気になれば、たとえこの扉が鋼鉄製であっても簡単に打ち壊せた。だが、今は怪力より丁寧な合図こそが必要だ。
しばらく待っても返事が無いので、再び薄っぺらい木の扉を叩く。眠っているのかと思われたが、しばらくして欠伸交じりの返事があった。
ルイズは自らの名前を名乗り、重要な用件があると扉越しに伝える。やがて何かを蹴倒すような音と共に、部屋の主である炎蛇のコルベールが姿を現した。側頭部の髪が寝癖で跳ね回っている。
「朝早くから失礼します。ミスタ・コルベール」
「ふむ、ミス・ヴァリエール……? どうやら……何か、事情がありそうだね。散らかっているが、どうぞ入ってくれ」
不安げに身を寄せているエルザに気づいたのか、コルベールは額に眉を寄せながらもルイズたちを迎え入れてくれた。やはり彼は優しい。
しかし、この部屋に対してはかなりスパルタなようだった。薄暗かった部屋に明かりが灯ると、ただでさえ酷い中の惨状がよくわかる。
まず、床がほとんど見えない。最低限の足の踏み場はあったが、それ以外は理解に苦しむガラクタが山のように積み上げられていた。ここが自室ではなくて、実はゴミ捨て場だと言われても信じてしまいそうだ。
ごちゃごちゃと計算式が書かれた羊皮紙などもあちこちに放置されており、踏みつけてうっかり足を滑らせでもしたら、全身打撲で包帯を巻くはめになるだろう。異臭もかなり酷い。
遅くまで実験でもやっていたのか、何かの薬品と汗が混じりあい、とても清涼な空気とは言えなかった。人間よりも鋭敏な五感を持つ吸血鬼には辛いものがあるようで、エルザは残った左手で袖で鼻と口を覆って呻いている。
「掃除の必要性は、分かっているんだけれど……。どうしても……なかなか、手が出なくてね」
コルベールは苦笑いしならがら言った。かれからすれば、掃除している暇があれば実験器具を弄り回していたいのだろう。
応接用だったらしいソファーの上に並べられていた雑多な物を手早く脇に積みなおし、どこからか持ってきた雑巾で軽く埃を払った。部屋に薄く埃が舞ったが、ルイズは笑顔を崩さずに待つ。
どうにか物置から椅子へと分かる程度に片付けると、コルベールは手を振って3人に座るように促した。ガラクタの山の乗ったテーブルを挟んで、次は自分の据わる場所を適当に確保する。
朝早くに起こされたというのに、相変わらずのお人よし。容易く籠絡できるだろうと見くびっていたルイズだったが、顔をあげた瞬間に思わず目を疑った。
207 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 02:55:02 ID:GdSZwsX6
向かい合ったコルベールの眼は鋭く、二つ名を体言するように狡猾な色を浮かべている。ルイズでさえ思わず息が詰まった。
普段の優しげな表情からは想像もつかないほどで、なるほど、炎蛇とはよくいったものだと感心する。発されるオーラも常人とは明らかに違う物であり、人選ミスかとルイズは内心で舌打ちしたが、エルザのフォローによって窮地を救われた。
「お姉ちゃん……。怖いよ……」
「……大丈夫よ、エルザ。安心して」
見透かすような視線に恐怖を感じたのか、エルザはルイズの薄い胸板に縋りついた。ルイズもそれに合わせて、なだめるような演技をする。
狡猾さという点においては、30年の時を生きたこの吸血鬼も負けてはいない。蛇と鬼の化かし合いだ。
エルザの大きな瞳にはうっすらと涙も浮かんでおり、村を出た時に着ていた継ぎ接ぎのある洋服と相成って、捨てられた平民の子供という雰囲気をよく出していた。
そうと知る者でも、うっかり気を抜けば騙されてしまいそうな迫真の演技。何十年も人間を欺いて生きてきただけのことはある。
怯えているエルザを優しく撫でるルイズの姿を見て、コルベールは苦しげに呻くと眼光を元に戻した。罪悪感でも覚えたのか、それともルイズには計り知れない過去のことでも思い出したのか。明らかに動揺が見て取れる。
それを見たルイズは微笑みを絶やさぬまま、内心で唇を釣り上げてほくそ笑んだ。
まさかコルベールが、優しくどんな相手にも理解を示すという鞘の中に、こんな剥き身の刃を隠しているとは予想外だった。
しかし、彼自身がそれを嫌っているのなら、後は簡単な仕事である。どんな人間でも、耳触りの良いものを信じたがるものだから。
「実は……」
コルベールに発生した揺らぎを見逃さず、ルイズは流れるように物語を紡ぐ。
タバサは家庭の事情によって任務を背負わされており、今回はルイズも手伝うことになった。
その任務とは森林の開拓に邪魔になる翼人を排除することであり、命令なので逆らうわけにはいかない。
ルイズたちは仕方なく実力行使に出ようとするが、村には翼人と恋仲であった者たちがいた。
そこでガーゴイルを使って一芝居うち、翼人と村人を一つにするという作戦に出た。
経過は順調であり、成功するかと思われた。しかし数人の村人が翼人の一人を騙し打ちし、死に至らしめた。
許す訳には行かないと、殺気立った彼らは再び闘争が始まるところであったが、少女の登場によって一気に終結する。
その少女の名前はエルザ。翼人と人間のハーフで、たった今母親を失った、忘れ形見になってしまった少女。
私は村の人を許すから、皆も許してあげてくれと、気丈に胸を張って懇願した。
母を目の前で殺された少女の言葉は翼人も人間も無関係に胸を打ち、今度こそ村には平和が戻った。
しかし一方だけが殺人を犯したとなれば遺恨が残るのは当然であり、それを憂いた父親は自殺して村人の罪を償った。
悲劇の象徴として、手を取り合ってエルザを育てる……などという甘い選択肢はない。翼人からしても人間からしても混じり物であり、まだ彼らはその段階には至っていなかった。
もう少し理解が進めば、いずれそういう日は来るだろう。だが、それではあまりにも遅すぎる。
こうして孤児になってしまったエルザを、ルイズたちが引き取ったのだと。
部屋は静まり返り、ただエルザがしゃくり上げる音だけが響く。本当に哀れな少女を抱きしめながら、ルイズは何度も大丈夫だと呟いた。
タバサも人形のような能面を割り、かすかに哀れむような表情を漏らした。唇を強く噛み締めると、ソファーの上で握りしめられているエルザの小さな手の平を包むように、そっと己の物を重ねる。
支援!
209 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 02:56:36 ID:GdSZwsX6
「そう……、でしたか。すみません、辛い事を、思い出させて……」
コルベールは長い間黙っていたが、やがて言葉を押し出すようにして、それだけ呟いた。
普段の柔和さ嘘だと思えるほど深い皺が苦痛と共に刻まれ、コルベールは右手を上げて己の表情を鷲掴みにする。その後で何かに疲れ果てたような苦渋の色を出したかと思うと、彼は普段以上に優しげに笑った。
心に欠陥がある人間は扱いやすい。他人からすればルイズもそうだろうし、タバサだって同じだ。利用されるやつが悪いのである。
「それで……。エルザを、私の部屋に置くことを、許可して頂きたいんです。迷惑はかけさせませんから、お願いします!」
ルイズは深々と頭を下げ、その体勢を維持したまま返答を待った。
失敗への不安がない訳ではないが、9割以上成功するだろうという自信もある。
十年以上も蔑まれ続けただけあって、ルイズは他人の悪意にだけは敏感だ。いまのところコルベールは、先ほどと違ってこちらを疑ってもいないし、悪く思ってもいない。
元々の優しさにも加えて、貴族が平民のために頭を下げたのが効いたのだろう。軽く視線を上げて顔色を伺ってみると、目じりには僅かだが涙さえ見えた。
かつては自分に理解を示してくれた教師を貶めるのは気が引けたものの、所詮は彼は人間の味方で、自分とは永遠に相容れない。
「わかりました! オールド・オスマンの許可が必要でしょうが……。必ずや、説得してみせます! ついてきてください!」
果たして、コルベールは張り切って席を立った。部屋の隅に積み上げられていた物が、その振動でガラガラと音を手ながら雪崩を起こす。
彼はそれを気にも留めず前だけを見て、それでいて足もとのガラクタを的確に避けながらドアへと向かった。
ルイズは牙を剥いてその背に続く。心の中でトゲのような物が疼いたが、甘い復讐の蜜を嗅ぐと気にならなくなった。
少し前までは寝起きの一服として暢気に水タバコをふかしていたオスマンだったが、今は冷や汗を垂らしながら壁際までジリジリと下がるはめになっていた。
その原因は先ほどから熱烈な説得を続けているコルベールその人であり、オスマンは必死に彼を落ち着かせながらも、迫り来る肌色の大平原から逃げ続けている。
自慢の白髭やローブに脂汗がつくのは遠慮したい。詰め寄られるならハゲ親父ではなく、ロングビルのような女性の方がいい、などと下らない思考がオスマンの脳裏を過ぎった。
「わかった! わかったから、落ち着け!」
「……お、これは、申し訳ない。少々、興奮してしまいまして」
あらかじめサイレントを詠唱していなければ、扉の向こうに居るだろうルイズたちを驚かせるほどの声を出して、オスマンはようやく一息つけた。
朝からとんだ災難だ。適当な椅子に座って煙草をふかし、溜息と煙を同時に吐きながら、冷静になったコルベールの説明を嚥下していく。
大体のところを飲み込んだオスマンはルイズの行動に感心したが、争いの種を持ち込んでくれたという面倒な思いも確かにあって、盛大に顔をしかめた。
支援!
211 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 02:58:30 ID:GdSZwsX6
「なるほどのう。翼人と人間のハーフ、か……」
煙と共に苦悩を吐き出したオスマンは、しばらく自分の長い髭を撫でながら熟考を始めた。
せっかくこの前の決闘騒ぎが無事に終わったというのに、今度は比べ物にならないほど馬鹿でかい爆弾が持ち込まれるとは。生徒と自分の平穏を願う彼としては好ましく無い事態である。
しかし、害にしかならないとは言い切れない。伝説である虚無のメイジ候補をコントロールするためにも、彼女に恩を売っておけばプラスになるはずだった。
嫌な考え方だが、やたらと虚無に動き回って欲しくないオスマンからすれば、そのエルザという少女は都合のいい楔となってくれる。
エルザを放置してあちこちに出かける事も出来ないだろうし、後々でこの話をちらつかせれば、貴族の建前さえ気丈に守っているミス・ヴァリエールのことだ。簡単に大人しくさせることが出来るだろう。
コルベールを言い包めるのも面倒だし、話を聞かない頑固ジジイという言われようより、いざというときは頼りになるお爺さんの方がいい。
「ふむぅ……」
しかし、そうなると問題になるのは、プライドが服を着て歩いているような貴族たちだ。
もし平民と翼人のハーフであるという事実がばれてしまったら、こぞって嫌がらせや悪戯を仕掛ける可能性がある。書類の山が出来るような事態が起きるかもしれない。
危険人物を学園に置いただのなんだの、自分の非を棚に上げて他人を追及する術には異常なほど長けている馬鹿が多いのだ。この国の腐敗の一端である。
優秀な秘書であるロングビルが来てからは、面倒な事この上ない書類の始末も少しはましになったが、だからといって自分から手間を増やすような真似はしたくなかった。王都の酒場に行って、綺麗な姉ちゃん相手に一杯ひっかける機会が減ってしまうではないか。
また、考えたくは無いが、エルザが生徒に害を与えるという可能性もあった。
不幸な人間とは、大抵が卑屈で攻撃的な性格になるものだ。
なんだかんだ言っても生徒は大切に思っているし、虚無のメイジが暴走でも起こしたら、どんな恐ろしい結末が待っているのやら。
「なるほどのう……。手間も省けるし、どうじゃね? コルペース君が引き取るというのは……。
その年で嫁さんもおらんし、この機会に子供とセットでお見合いをじゃな……。ロングビルは渡さんが」
「コルベールです、オールド・オスマン。……真面目に考えてください!」
肺の中に残っていた最後の煙を溜息として吐き出したオスマンは、これをどう捌くべきか思案を巡らせる。
もしミス・ヴァリエールがペットを拾うような無責任さで連れて来たのなら、打てる手はいくらでもあった。飽きた頃にこちらのコネで適当な里親を見つけ、そこに送ってしまえばいいのだ。
その後はなるようになるだろう。見た目は平民の子供と変わらないようであるし、もしかすれば先住魔法が使えるかもしれない。
適当に戸籍を作ってやれば、就職口ぐらいなら何とかなるはず。だからその後のことは、自分ではなく運命が扱うべき物になる。
感情論だけで済むものならば、オスマンとてその少女を見捨てたい訳ではない。しかし過去に泥沼のパワーゲームを経験した物としての本能が、安易に決定することを許さなかった。
全体を100とした場合、犠牲になるのが10であるのなら、90を危険に晒してまで助ける意味や価値は無い。成功すれば英雄になれても、失敗すれば大馬鹿者か無能でしかないのだから。
「ふぅむ……、そうじゃな。とりあえずは、顔合わせといこうかの」
無数の可能性とそれによって齎される面倒事を思い浮かべ、更にその解決方法にも手を伸ばしたところで、オスマンは様子見や熟考という皮を被った先送りの一手を打つ。
問題の少女、エルザが扱いやすい人物なら心労は幾分か軽減されるだろう。あのミス・ヴァリエールの専属メイドという扱いにしておけば、滅多な理由では他の貴族は手出し出来ない。
待ってたぜ支援
支援せざるを得ない
支援、支援だー!
えらいホラ吹いたな
支援
216 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 03:02:13 ID:GdSZwsX6
学院つきのメイドに暴行などを働く生徒は、非常に悲しい事ではあるがたまに出る。そういった場合、基本的には教師が絞った後で実家へ治療費を請求するなどして、金で済ませるのがこの学院での通例だった。
平民たちにも権利がある。いくら権力や財力のある貴族とて、それを真っ向から無視することが許されている訳ではない。
そんな事を黙認してしまったら、国が立ち行かなくなるのは目に見ている。極端な話になるが、貴族が廊下で転んだからといっても、いちいち施設の床板を壊されては困るのだ。
学院つきのメイドでこれなのだから、それが個人所有の、さらには大貴族の娘に仕えるメイドともなれば尚更だろう。下手をすれば戦争の切欠にもなるぐらいの事は、子供でも分かっているはず。
しかしミス・ヴァリエールを公然とゼロ扱いするような、まだ精神的に幼い生徒たちの事だから、その意味も分からずちょっかいを出すかもしれなかった。
「……ま、その時はその時じゃな」
責任が学院側にあるならまだしも、自らの思慮の浅さによってどのような罰を受けようと、オスマンはそこまで口を出す気にはならなかった。
自分とて若い頃やった馬鹿のお陰で後ろ指を差されたことはあるし、人はそうやって成長していく物だろう、と彼は思っている。
伊達に長生きをしている訳ではない。酔っていたとはいえ、今思い出しても顔を覆いたくなるようなクサいセリフを、髭の生えたオカマに向けて熱弁した事もあった。今思い出しても吐き気がする。
この失敗を生かしたオスマンは、あれ以降、酒は飲んでも正体を失くすほど飲むのを止めた。
アンロックが重大な校則違反になっていても罰則が特に無いのは、「馬鹿をやるのは勝手だが、起こした行動に対する責任は自分で持て」というのを教育する意味もあるのだ。
親しい仲にも礼儀あり。将来は統治者として何百人、何千人という人々の命に関わる決定を下す事もあるだろう。そういう時に配慮に欠ける行動を起こされては洒落にならない。
常日頃から他人の部屋へのアンロックを多用している生徒が泥棒疑惑をかけられ、屈辱的な二つを名を頂戴した後で退学処分にされたという記録は腐るほどある。
もう少し酷いのになると、大量の使用済み下着を知らぬうちに棚に押し込められ、生涯下着泥の変態として扱われることになった生徒とか。
後者は実に羨ましかった。教師に呼ばれて訪れた寮の一室で、下着の山の中でトリップしている姿を見たときは、本気でワシと変われと叫びたくなったものだ。ワシならもっと上手くやるのにと。
当時勤めていた美人教師の物もそこに含まれていると知った時にはすでに遅く、現場検証と称して何枚か貰っておく機会を逸してしまっていた。
しかし……。あの頃は密かに狙っていた彼女も、既に十数年前に流行病で死去した事を思い出してしまった。
かつて親しかった者たちも、今はもう誰も居ない。300年の時は人間が生きるには長すぎたように思われ、オスマンは一瞬だけ足元が崩れていくような不快感を感じた。
ろくな親孝行も出来なかった両親。自分がまだ子供だったころ、彼らがどんな顔で自分を育ててくれたのか、それすら忘れたのはいつ頃だっただろうか。
楽しい記憶はすぐに消えてしまうのに、嫌な記憶ばかりがしつこく脳を埋めている。
「失礼します、オールド・オスマン」
金属の機構が立てるガチャリという音で我に返った。オスマンは背で隠しながら頬を叩くと、皺がよっていた服に張りを与え、コルベールに迫られた件でやや乱れていたローブを整える。
普段どおりの態度を心がけながら、素早く学院長の顔を作った。応接用の机の上に積まれていた未処理の書類を脇にどけ、問題の一行にソファーを勧めながじっくりと観察を開始した。
コルベールの説明では、少女の名前はエルザといったか。見た目は本当に人間そっくりだ。
翼人についてはある程度の知識はあるものの、人間とのハーフが生まれたという記録は見た覚えが無かった。
そもそも亜人と人間というのは基本的に不仲。同じ人間同士でも下らない小競り合いや戦争が六千年も続いているのだから、種族すら違う両者の間に子供が出来た事例など、片手の指で数えられるほどだろう。
軽々と抱き上げる事が出来そうな身の丈は、人間で言えば5歳かそこらに見える。翼人とのハーフである事を考慮しても、10には届いておるまい、と当たりをつけた。
217 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 03:04:01 ID:GdSZwsX6
「ふぅむ……。まずは、おかえりと言っておこう。無事に帰ってこれて、なによりじゃった。
君の行動は全て正しかったとは言えんが、讃えられはすれども蔑まれる物では決してない。
我が魔法学校の生徒が、このような行動を取ることができる、真の貴族の精神を持っている事を誇りに思おう。
しかし……、だ。分かっているね? ミス・ヴァリエール」
「……はい、オールド・オスマン」
だが勧められる前に椅子に座らない辺り、ある程度の躾は出来ているらしい。オスマンは密かにエルザを見直した。
タバサとルイズの間に挟まれて座っているエルザは、柔らかすぎるソファーがどうにも慣れないようで、子供らしく何度も座る位置をずらしている。
ルイズの細い腕に体を寄せている様が可愛らしく、もしどうしても引き取り手が見当たらなければ、自分の娘にするのもいいかもしれないとオスマンは唸った。
彼に少女趣味は無いが、子供というのは、何かと手間がかかる頃を過ぎたこの辺りの年齢が最も可愛いものだ。
「あー、だからして、正しい行いとて時には害悪になる事もある。
自分に取れる責任の大きさを把握し、それを逸脱しない範囲で杖の振り方を……」
サイレントによって完全な静寂に包まれている学院長室に、オスマンの低い声だけが響いている。
ルイズは学院長直々のお話だからと酷く真剣に聞き耳を立てているようが、喋っている方は内心でかなり飽きていた。
他人を叱り付けることに優越感や快楽を見出すタイプではないし、またエルザという少女も居るのだから、長々としたお説教は可哀想だ。
下らない事をしでかした生徒に対するならまだしも、ルイズの行いは長らく学院長を務めてきたオスマンをして唸らせる物であったのだから。
しばらく念仏のような小言を吐いていた口を閉じ、オスマンは威厳たっぷりにゴホンと咳をする。
「まあ……こんな所じゃ。授業を抜け出した事については、多めに見ておこう。
彼女の扱いについては、わしに任せてもらいたい。……なに、悪いようにはせんさ」
「ほ、ほんとうですか?! あ、ありがとうござます!」
感激を態度で表すルイズを見て、オスマンは今の選択が間違いではなかったと頷く。
緊張の糸が解けたのか、両手で涙を拭いながらさめざめと泣き出してしまったエルザを、ルイズは妹にでもするようにギュッと抱きしめていた。
壁際では、コルベールが年甲斐も無く潤んでいる。オスマンは中年の涙より、思わず抱擁したくなる美女の涙が見たいと頭の隅で思った。
「ありがとうございます! オールド・オスマン!
あと、その……。私の、属性について、なのですが……」
来るべくして来た地雷に、オスマンは短く息を吐いて覚悟を決める。
ここからの対応は極めて重要だ。ミス・ヴァリエールはまだ子供で扱いやすいが、だからこそ敏感だろう。無碍にはできない。
トリスティン魔法学院から虚無のメイジが送り出されれば、この学院の評判は正にハルキゲニアを駆け回る。その過程で、ここに多数の生徒が集まる事は間違いない。
だが道を誤った彼女が魔女のような行いをすれば、在学中の教師陣の無能と合わせ『あろう事か虚無のメイジを歪ませた最悪の無能集団』として、そっくりそのまま裏返った風評により、骨屋台が揺らぐような事態になる恐れもあった。
実際にそうなのだから反論できないのだが、そうなるとオスマンも立場が無くなる。コルベールも顔を上げ、ルイズへ多分の期待と少量の不安が混じった視線を送っていた。
「虚無、かの?」
「……っ! は、はい……。たぶん、そうだと、思うのですが……」
先手を打って切り出したオスマンの言葉に、ルイズはしどろもどろになりながらも答える。
伝説を口に出す愚かさは分かっているようで歯切れは悪いが、座学ではトップを守り続けたルイズの言う事には説得力があった。
翼人と村人の争いが起きた際、通常の水の属性では考えられない治癒を行えた。具体的には、水の秘薬もなしに折れた骨を繋いだというのだ。
日常的にするような軽い怪我ならば、極めて短時間で十分な治療を行える水の系統魔法だが、深い傷になればなるほど難しくなる。
不注意から木から落下して、完全に足が折れ曲がってしまうほど砕けた骨となれば、尖った先端が肉を引き裂くなりしている事は想像がつく。
潤沢な秘薬があればそこらのメイジでも対処可能だが、一滴も無いのではお手上げだ。スクェアでも完治させるのは無理だろう。
支援!
219 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 03:06:03 ID:GdSZwsX6
「その時は必死で、その……。よく、わからなかったのですけど……」
「凄い力だった。たぶん、スクェアでも足りない」
少々信じがたく脚色を疑いたくなるが、シュヴァリエを持つ少女が言うのであれば、恐らく真実なのだと納得するしかなかった。オスマンは白い髭を摩りながら熟考する。
始祖ブリミルが4つに分けたという虚無のうち、このトリスティンに伝わるのは水の力だ。
今頃はゲルマニアに居るであろう、アンリエッタ姫の指にある大きな宝石のついた指輪、水のルビーがその証である。
虚無に覚醒したミス・ヴァリエールが引き継いでいるのが正にそれであり、伝承に記されているような破壊力は、火を象徴するゲルマニアなどに伝わっている、とすればどうだろうか。
確かに最近の彼女は、一時期からは信じられないほど落ち着いてきている。平民のために杖を振るう行動など、聖母のようだと言って差し支えない。
少々虫が良すぎるかもしれないが、彼女の虚無が癒しを司っている物であれば実にありがたかった。オスマンは喉の奥で小さくため息を漏らす。
虚無で吹き飛ばされる学院が何度か脳裏をよぎっており、必要ならルイズを退学処分なりにして追い出す算段すらつけていたのだ。
「ふむ……、ミスタ・コルベール。例の書物はどこに?」
「あ、それは……。調べ物をしておりましたので、私の部屋にあります。持ってきますので、しばらくお待ちを」
学院長室を去っていくコルベールを視界の端で捕らえながら、オスマンは再びルイズたちを観察する。
ルイズの右手には今もヴィンダールヴのルーンがあり、ぼんやりとおぼろげな光を発していた。
言っても仕方がないことだが、これさえ無ければ信じずとも済んだろうに、と苦々しく思う。ずいぶんと光が薄いように見えるのは、化粧か何かで隠しているのかもしれない。
いくら神聖なルーンとはいえ、うら若き乙女の肌をキズ物にしていることは事実だ。それに失敗の証のように思われていたようだし、隠したくなるのもわかる。
まあ、やたらと見せびらかして欲しい物でも無いので、これは好都合だった。
もしヴィンダールヴのルーンに先にたどりつかれ、やたらに自慢されたら、それこそ大事になっていだろう。アカデミーにでも嗅ぎつけられてしまったら、まともな対応はとれなくなる。
「どうしたの? エルザ」
ルイズを値踏みしていたオスマンが最も小さい少女に視線を戻すと、彼女は縋るような視線をオスマンへと向けている所だった。
すでに彼女は、警戒すべき対象から外れている。それに、危険人物かもしれないという色眼鏡を外してみれば、将来が実に楽しみな美少女である。
上目遣いは天然なのか、大人殺しというヤツだ。実に可愛くて保護欲を誘われる。もう少し年が行っていれば、思わずお尻に手が伸びていたかもしれない。
「あの、ね……。抱っこして、欲しい……んです……。
失礼だとは、分かって、いるんですけど……。その、えっと……」
煩悩を展開するオスマンとは打って変わって、エルザは今にも消え入りそうな声で告白した。
オールド・オスマンの雰囲気が、村人でも唯一理解を示してくれた老人に似ているのだと言う。この前の冬を乗り切れずに亡くなってしまったが、友達の少ないエルザにとって、両親の次に大好きだったと。
涙を拭いながら言い切ったエルザに、先ほどまでの重苦しい沈黙とはまた違った、しんみりした空気が部屋を包んだ。オスマンは馬鹿な事を考えたなと少し後悔する。
「お泣きなさるな、お譲ちゃん……。わしでよければ、いくらでも胸を貸してやるぞい!
ま……、本当は、あと10年ぐらいした後の方が、もっといいんじゃがな?」
極めて真面目な表情で言い放たれた戯言は空気を溶かし、少女達の笑い声がクスクスと響いた。
オスマンは己の頭をぴしゃりと叩き、おどけた態度によってさらに笑いを誘う。右腕に握っていた杖を机に置き、嬉しそうに机を回ってきたエルザを抱き寄せる。
ふんわりと甘い香りがオスマンの鼻をくすぐる。何かの香水の匂だろうか、それともこの少女特有の体臭なのか。なんにしろ心地よかった。
しわがれた両腕だが、小さな少女を支える程度の事は難なくこなせる。「お爺ちゃんの香りだ」耳元で囁かれた呟きは嬉しげで、オスマンも孫が出来たようで悪くない、と思った。
短いながらも平穏な時間。これから起こるであろう騒動に頭を抱えなければならないオスマンにとって、午後のひと時のようなこの時間は貴重だと思えた。
220 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 03:07:12 ID:GdSZwsX6
「エルザったら……。"見つかったら大変"よ?」
オスマンの腕の中でエルザがぴくりと動いた。
怖い大人でも思い出してしまったのか、オスマンの老いてはいるが枯れてはいない体に力強く抱きついている。
首筋にかかる温かな息遣いと高い体温が、命を抱いているという感覚を伝えてきた。今となっては既に遅いが、息子や娘が居ればこういうものなのだろう。
「ところで、オールド・オスマン……?」
ルイズの呼びかけに応えるべく、オスマンは抱きしめているエルザの体から視線を持ち上げた。
「なゃんじゃね、ミス……」
その瞬間、彼の首筋に鋭い痛みが走る。同時に何かを吸い取られていくような虚脱感が全身を駆け抜けた。
「なっ?! ま、まさか……!」
緩んでいた思考に傾国の火花が飛び散る。長年かけて培ってきた感性が、極めて重大な緊急事態だと告げている。
反射的に杖を取ろうとしたオスマンだったが、彼の武器である重厚な黒い杖の上には、いつの間にかルイズの靴と足が乗っていた。
あの杖で魔法を使おうとするなら、少女の体重を片手で跳ね飛ばす必要があった。若い頃ならいざ知れず、今のオスマンにそれは無理だ。
後ろ手にはタバサの首を鷲掴みにしており、ルイズが少しでも力を加えた場合、彼の大切な生徒の一人が手遅れになるまで破壊される事は明白だった。
オスマンは左手を伸ばして懐に隠してある予備の杖を握ろうとしたが、あまりにも状況が悪すぎる。
おそらくミス・ヴァリエールをグールに変えたであろう吸血鬼を叩こうにも、距離が近すぎて、とっさの魔法ではどこに暴発するか理解の外だ。
守るべきは老い先短い自分か、それとも将来有望な生徒か。
その一瞬の躊躇が致命的となった。
伸びてきたルイズの腕によってエルザごと突き飛ばされ、半端に立ち上がりかけた体勢からソファーへと押し戻される。鈍痛が肩を叩く。
視界は急速にぼやけ始めており、助けを呼ぼうとこじ開けた口からは空気しか洩れない。窮地を抜け出す奇策が必要だというのに、思考はどんどんと散漫になっていく。
「ヴァ……、リエー……ル」
全身を耐え難い寒気が襲い、オスマンは小さく震えながら、その長い生涯を終えた。
221 :
虚無の闇:2009/02/10(火) 03:09:33 ID:GdSZwsX6
今回は以上です
200キロバイト超えたのにまだ1巻分すら終わっていないという恐怖っ!
そしてオスマンが好きな人、ごめんなさい
オスマン死んだ!? 支援!
乙
ついにオスマンが犠牲に……。
この後どうなるのかドキドキします。
闇の人乙!
なんだかオラ、この先の展開にワクワクしてきたぞ!
フーケの盗難騒ぎで、ひとまずうやむやになる可能性もと思ったが容赦ないぜ乙
よーし、本編を書きました書かせてもらいました。
そして予想以上にまた大きさが膨れ上がりました!
このままでは、闇の人みたく200kbを超えることに……超えるだろうなぁ。
そんなわたくしですが、もしおヒマがあれば支援をお願いします。
03:50投下予定です。
そこは地獄、魔界、異界、門前。
それは――鉄火の間(戦場)だった。
荒廃した地平。茜に染まる空。
大地は見渡す限り血に濡れ。
大地は見渡すまでもなく死に溢れていた。
遠く聞こえる剣戟、銃声、打撃音、破壊音、爆発音、金属音、理解できない音。
遠く響く怒号、雄叫び、悲鳴、罵倒、絶叫、狂笑、認識してはならない声。
そこは戦いの坩堝で、虐殺の輪廻で、蹂躙の回帰。
人がいる。人に似た人がいる。人を模した人がいる。
犬がいる。犬に似た犬がいる。犬とは似ても似つかぬ犬がいる。
猫がいる。猫に似た猫がいる。猫らしき猫がいる。
鼠がいる。鼠に似た鼠がいる。鼠の皮を被った鼠がいる。
鳥がいる。鳥に似た鳥がいる。鳥の範疇を超えた鳥がいる。
■がいる。■に似た▲がいる。●は■■■■■■■■■■■■がいる。
それらは争い争い争い争い争い争い争い争い――
血を、肉を、武器を、防具を、外法を、命を、屍を。
失い、欠け、落し、亡くし、使い、奪い、拾う。
ここは鉄火の間(戦場)だ。
誰もが発狂しよう、この無為で充実した長き時を過ごすことで。
誰もが無心となろう、この無駄で有益な戦いを眺めることで。
誰もが諦めよう、この無限で刹那な争いに身を投じることを。
殺し殺され殺し合うこの場所で。
目の前に広がる無数の屍。
それらは一様に苦悶を刻み、倒れ伏す。
ある者は希望を糧に身を擦り切り。
ある者は絶望を苗に押し潰され。
ある者は悲願を望み使い潰れ。
ある者は理解する間もなく摘み取られた。
それら全ては憤怒に、悲哀に、絶望に、狂気に、虚無に彩られ。
ただ1人としてまともな死を得られなかったのだろう。
そんな屍たちの只中。
散乱した武具に混じり、それが鈍く、光る。
憎悪に染まる空に照らされ、憤怒に燃える大地に突き立ち。
それは――折れ、刃こぼれし、錆びた剣だった。
途中から折れたのか柄は無く、激しい戦いを抜けたのか刃こぼれし、長くここ
にあるのか錆びついている。
それを使うぐらいなら、まだ良い剣はそこらに落ちている。
だが刃は鈍く、曇りなき輝きを放つ。
その柄無き剣を握れば己が手に食い込むだろう。
その折れし刃を振れば己が手を切り裂くだろう。
だが、その鋼を使えば――
「止めておけ」
伸ばした手が掴まれる。
なんだと振り返る先。
「お前にはまだ、鋼を纏う資格が、剣を握る意志が、刃を振るう力が、
――足りない」
そこには、黒髪褐色の男の姿が――
「…………」
開けた目に入ったのは見慣れた天井。
「あら、目が覚めたのね」
そしてなぜかこちらを覗き込むにっくき相手。
「……ふえ?」
わたしが目を覚ましたのは決闘から2日後だった。
タイトルの変更忘れてました。
支援いたそう!
「あはははははっ! にしても、傑作じゃない!」
「…………」
馬鹿笑いがその部屋に響き渡った。
その笑いを聞いて部屋の主は仏頂面で黙りこくる。
「貴族がどうとか、杖がどうとか言いながら……」
それを見守るは、ニコニコ顔のシエスタと。
「……結局、剣の方で勝っちゃったんだから! あははははっ!」
ケラケラ笑うキュルケと。
「そうだな、偉そうなことを垂れながら、なんだ。汝は蛮人か」
追撃を放つ使い魔――
「――って、なんであんたまで一緒になって言ってのよ!」
ルイズは耐え切れないという風に叫んだ。
「だって、ねえ?」
キュルケがアルへと顔を向ける。
主語のない同意を求められアルは。
「うむ、ここで攻めずにいつ攻めろというのだ」
ばっちり頷いた。
「あんたはわたしの使い魔でしょうがーーっ!!」
今日何度目かになる声が、女子寮に響く。
「それはそれ、これはこれだ」
それをシエスタは微笑ましそうに見守っていた。
そもそもなぜこんな状況になったかと言うと。
停学3日間。
それがルイズに課せられた処罰である。
禁則である貴族間の決闘を行い。大勢の生徒を無駄に煽り、風紀を乱した。
だが周囲から伝わるギーシュの事情。ギーシュの発言。ギーシュの取った行動。
とまあ……誰が一番馬鹿であり、誰に一番非があるかは一目瞭然である。
ルイズは実技こそは失敗だらけだが。座学の成績は優秀であり、貪欲に教師に
質問する熱心な生徒でもある。
それに少し家柄を追加され。
部屋を訪れたコルベールは罰則として停学3日を告げた。
その3日間も、ルイズが寝ていた日にちを入れての計算であり。
2日間眠っていたルイズは。実質、停学1日というゆるい処罰になったのだ。
それに明日は虚無の日。
ほとんど2連休と変わらない。
そんなこともあり、処罰を受けている身とはいえ休日気分でゆっくりしようと
も思ったのだが。
なぜか目が覚めた時にいたキュルケは、ルイズが目覚めるとさっさと出て行っ
た。
しばらくするとコルベールが来て処罰を告げ、それと入れ替わるように、朝食
を持ったシエスタとアルと半固形粘液系生物――ダンセイニが入ってきて。
2日間、飲まず食わずで眠り。いつもなら残す量の朝食も、空腹が手伝ってルイ
ズはそれを完食した。
満腹になり、落ち着いたルイズにシエスタは庇ってもらったことに礼を言い。
それを恥ずかしそうに「べ、べつにあんたのためじゃないんだから!」とかベ
タなこと言っているうちに。
「はあい、なんだか面白そうじゃない」
キュルケが堂々と戻ってきて、今に至る。
「なんであんたはご主人様を庇わないのよ!」
ルイズが猛然とアルに突っかかるが。
「ふん、知るかそんなもの」
「なんですってぇ!」
興奮したルイズの肩が叩かれる。
――ポンポン。
「なによっ!」
イラつきながら振り返ると。
「てけり・り」
そこには“まあ、落ち着いて落ち着いて”と言うように触手を蠢かすジェル状
生命体がいる。
「あ……う……」
露骨に顔を引きつらせるルイズ。
そんなルイズにシエスタが微笑みを絶やさず言う。
「ルイズ様。あまり騒がれるとお体に障りますよ。病み上がりなんですから」
「そうよルイズ。あんまり興奮すると体に良くないわよ」
と、キュルケが楽しそうに添えた。
それにルイズは、誰のせいよ! と言うかのごとくキュルケを睨むが。
「〜♪」
当のキュルケはわざとらしくヤスリで爪の手入れをしていた。
ルイズは何をしても無駄だと思ったのか、シエスタに向き直ると。
「あー……シエスタでいいのよね?」
「はい、ルイズ様」
ニコニコとシエスタが答える。
「あの……」
言い難そうにルイズは口篭ると。
「その、ルイズ様っていうのを止めてくれない?」
その言葉を聞いて、シエスタは首を傾げると。
「なぜですか? ルイズ様?」
そう聞き返した。
「いえ、それはね……なんというか……」
本来のルイズならそんなことは言わなかったろう。ラ・ヴァリエール領内の民
達、実家の使用人たちもみんな様付けするので慣れているはずなのに。なぜだ
かシエスタに言われると……落ち着かない。
「どうかなさいました?」
まごまごするルイズを、微笑とともに見守るシエスタ。
領内の民が敬っているのはルイズではなく、ルイズの父と母である。
実家のメイドたちが敬意を払うのは、それが仕事であるからだ。
公爵家に生まれ、幼いころから社交界に連れられ。それなりに人を見る目を養
っていたルイズから見て、シエスタの言葉はルイズ自身へと注がれている。
それだけなら、ルイズも気にしまい。貴族の心得を持つ者として、それぐらい
は受けとめられる。
だが。
「……?」
そう、それだ。
先ほどから優しさに満ちた視線が非常に気になるのだ。
その視線は、敬う平民でも、敬意を払うメイドでもなく。
年の離れた妹を見るような微笑ましさが含まれている。
それが実家にいる下の姉と被り。様付けで呼ばれるたびに、下の姉に傅かれて
いるような落ち着かない気分にさせられる。
うんうんと唸るルイズに、意外なところから助け舟が来た。
「ああ、そうね。たしかに様付けはいらないわ」
「キュルケ様?」
キュルケは額に指を当て。
「なんていうか、こう。あなたに様付けされると、落ち着かないのよ……悪い
意味じゃなくて」
「……はあ」
同じことを思っていたのか、キュルケが珍しく少し困った風に言う。
「では、ミスと――」
「もっと気楽でいいわ」
妙に堅苦しい方向へいこうとしたシエスタをキュルケが止める。
「……それでは、キュルケさん……でいいでしょうか?」
シエスタは少し考えたそぶりを見せ。
「まだ堅い気がするけど……それでいいわ。ルイズもいいわよね?」
「ええ」
キュルケの言葉にルイズも同意した。
「では、ルイズさんとキュルケさん。これからはそうお呼びしますね」
そう言い、シエスタは微笑んだ。
ふと、ルイズはキュルケに聞く。
「そういやあんた、授業はどうしたのよ」
それは先ほどから気になっていたことである。
一応、停学中かつ病み上がりであるルイズは、ベッドから降りることなく(生
理的な現象は除く)部屋にいる理由があるのだが。
「いいのいいのあんなもの。1日ぐらい構わないわよ」
ケロリと言うキュルケに、ルイズは懲りずに突っかかる。
「いいわけないでしょう! ここはあなたの休憩場じゃないのよ!」
「あーもう五月蝿いわね。そんなことでグチグチと、ほんと胸と同じで器も小
さいわね」
「な、なんですってっ!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐルイズに、めんどくさげにあしらうキュルケ。
「ええい、騒がしい小娘達だ」
「てけり・り」
それを見て漫然と腕を組むアルと震えるダンセイニ。
3人を見つめ、堪え切れないようにシエスタが笑う。
「ふふ、私の部屋に寝泊りしてたアルさんは知らないでしょうけど。実はキュ
ルケさんルイズさんが寝ていた2日間ずっと――」
「そこ! なにを言ってるの!」
「え? なに? まさかキュルケ、あなた私が寝ている間にここを休憩所代わ
りに!」
「あーもう! 違うわよ!」
「五月蝿いぞ汝ら!」
「ずっと顔を眺めてたと思ったら、乱れた髪を直したり、心配そうに話し――」
「なんであなたが知ってるのよ!」
「メイドですから」
「てけり・り」
「答えになってない!」
「キュルケなにをしようとしてたのよ!」
「黙らんかぁぁああっっ!!」
この場は騒がしく、そして楽しき空気が広がる。
長い階段を上がる中、コルベールはふと人の気配を感じた。
(賊か? いや、白昼堂々とこの魔法学院に忍び込むような輩はいまい)
だがこの先にあるのは宝物庫。
意表を突くために忍び込んだ賊がいないとも限らない。
最低限の注意を払いつつ、コルベールは塔の階段を上る。
いよいよ宝物庫に近づくと門が見る位置へと張り付き、そっと覗き込む。
そして門を前にして佇む人影があった。
人影は門を開けるでもなく、ただ観察するかのごとく門を見回す。
コルベールは杖を手に取り気配を消すと、その人影の背後へと回り込んだ。
「そこでなにをしている」
背に杖を突きつける。
突如現れた気配に影はぴくりと動き。
それを敏感に感じ取り、動きを制しようとしたが。
「動くな、妙な動きをすれ、ば……」
コルベールの声が小さくなる。
「妙な動きをすれば、どうするのですか? ミスタ・コルベール」
人影はため息を吐くと、コルベールに言った。
「み、ミス・ロングビル!」
慌てふためくコルベールに人影――ロングビルは疲れたような声をだす。
「ミスタ・コルベール。できれば背中の杖をどけてほしいのですが」
「は、はいっ! とんだ失礼を!」
メイジの命である杖を取り落としそうになりながらも、コルベールは杖を仕舞
う。
支援
ようやく一息を吐き、ロングビルはコルベールに向き直る。
コルベールは最近抜けが激しい頭部をさすりながら謝った。
「も、申し訳ありませんミス・ロングビル」
「いいえ、しょうがありませんよ。ここは宝物庫、不審な者がいれば当然の行
為です」
それにロングビルは微笑む。
「それに、見かけによらず。随分とお強いようで」
微笑みに艶が入る。
「これでもメイジの端くれですが、私は反応すらできませんでした」
「ああ、いえ、その……」
その微笑みを向けられコルベールは顔を赤くしながら、気圧される。
「昔なにかおやりになっていたんですか?」
更に詰め寄るロングビルに、コルベールは慌てて話題を逸らした。
「そ、そういえばミス・ロングビルはどうして宝物庫などにっ」
あからさまな話題変更にも、ロングビルは気分を害した風も無い。
「宝物庫の目録を作ろうとオールド・オスマンから鍵を借りたのですが……」
そう言うと、ロングビルはスッと片足を前に出す。
「お、おおっ!?」
すらりとした足がスカートのスリットから覗き、コルベールはそれに釘付けに
なる。
そしてロングビルはスカートへと手をかけ、裾を上げていく。
肉付きのいい太ももまで晒され、
「お、お、お、おおおっ!!」
――太ももに巻きついたゴムベルトからその鍵を抜き出した。
「どうやら別の場所の鍵らしく、扉が開かないんです」
鍵を手に持ちながら、ロングビルはコルベールに問いかける。
「ミスタ・コルベール?」
「は、はいっ!」
未だ太ももをガン見していたコルベールは、その声で正気に戻ったのか直立不
動となる。
「今から、オールド・オスマンに鍵を交換してもらうにしても。オールド・オ
スマンは、多分今は寝ているでしょうし」
スリットから足が覗く。
「は、はい! そうですか! あのクソジジ……げふんげふん、ご老体は!」
ドンドンのぼせ上がるコルベール。
「実際、宝物庫の目録作りは急ぎではないのですが。少し興味がありまして」
ロングビルは巨大な鋼鉄の門を見上げる。
それは傍目から見ても頑丈であり、メイジが見ればその門を含み壁全体に何重
にも『固定化』が掛けられていることがわかる。
多少腕のあるコソ泥やメイジではびくともしないだろう。
「それで」
顔が際限なく赤くなるコルベールに、ロングビルは近づくと。
「ミスタは、宝物庫に入ったことはおありで?」
「あ、ありますとも!」
コルベールは急に近くなった顔にもう動悸が抑えられない。
「それではやはり価値にある物や、道具がたくさんあるんでしょうね」
煮立った頭でコルベールは応える。
「ええ! それはそうです! ここは大陸有数の魔法学院なのですから!」
彼の頭にはもう、いかにロングビルの注意を引くかでいっぱいである。
「へえ、例えばどんな物があります?」
その問いにコルベールは頭をフルに回転させ、記憶を掘り起こす。
「そ、そうですね! 色々ありますがやはり目を引くのは『破壊の杖』ですか
ね!」
「どんな物なのですか?」
更に顔が近くなる。
目の前には薄紅色に染まる小さな唇。たった一歩踏み出せばそれは容易く触れ
合うだろう。
それにコルベールは仰け反りながら、応える。
「そ、それは言葉で表せないような奇妙な形の杖でして! オールド・オスマ
ン自らが持ち込んだ曰く付きの代物です!」
「そうなんですか」
そう言うとロングビルが離れ――
『おやおや、それだけでは少々物足りませんね』
それは“人知の闇”。
人が人であるがゆえにある闇。“人だからこそ覗かぬ場所”から声を上げた。
その声は、聞こえず、響かず、発せられることはない。
『ここは一肌、私が脱ごうじゃありませんか。なあに、喜劇は楽しいほうが良
い、悲劇は悲しいほうが良い、惨劇は悲惨なほうが良い』
無形であるそれは、決まった個がないからこそ、ありとあらゆる姿を持つ。
善人にも悪人にも狂人にも凡人にも個を変質させるそれの本質は変わらない。
『さあ、人類には刺激が必要だ。
人生にはスパイスが必要だ。
刺激のない人類には進退なんぞありもしない。
スパイスのない人生なんて退屈退廃極まりない』
その本質は無限にして唯一無二、空虚にして絶対、それは純然たる悪意。
凡人にして純悪、狂人にして純悪、悪人にして純悪、善人にして純悪。
『刺激を与えるにはどうすればいい?
不幸に事故に挫折に障害!
スパイスを与えるにはどうすればいい?
塩に胡椒に山椒に辛子!』
それは闇の中から腕を生やし伸ばす。
人では収めきれないその存在を、人として押し込めた“彼女”はグルグルとそ
の腕を回す。
『刺激を見つけたらかき回そう。
スパイスを入れたらかき混ぜよう。
廻れ廻れ不幸よ廻れ!
回れ回れバターになぁれ!』
回る→腕。回る→空気。回る→空間。廻る→因果。
全てが回転しかき混ぜかき乱されていく。
『さあ仕掛けはできた!
さあ仕込みはできた!
それでは待とう計ろうその時を!
捻じれた時計のそのままにっ!
狂った時間の意のままにっ!』
いつの間にか手に握られた懐中時計。
曲がり捻じれた奇妙な時を刻む4つの針が、きりりと逆回転し。
時→捻じれ≒歪み→破壊≠回転>再生=逆転
“純粋たる穢れた悪意”の意思と共に、時空は捻じれ巻き戻る。
…………………………………………………←
………………………………………←
……………………………←
…………………←
………←
←
「あ、ありますとも!」
コルベールは急に近くなった顔にもう動悸が抑えられない。
「それではやはり価値にある物や、道具がたくさんあるんでしょうね」
煮立った頭でコルベールは応える。
「ええ! それはそうです! 巷で有名な泥棒『土くれのフーケ』も狙うよう
な物が多数あります!」
彼の頭にはもう、いかにロングビルの注意を引くかでいっぱいである。
「へえ、例えばどんな物があります?」
その問いにコルベールは頭をフルに回転させ、記憶を掘り起こす。
「そ、そうですね! 色々ありますがやはり目を引くのは『破壊の杖』ですか
ね!」
「どんな物なのですか?」
更に顔が近くなる。
目の前には薄紅色に染まる小さな唇。たった一歩踏み出せばそれは容易く触れ
合うだろう。
それにコルベールは仰け反りながら、応える。
「そ、それは言葉で表せないような奇妙な形の杖でして! オールド・オスマ
ン自らが持ち込んだ曰く付きの代物です!」
「そうなんですか」
そう言うとロングビルが離れ――る前に、コルベールは被せるように言う。
「――それともう1つ」
ロングビルが動きを止めた。
「もう1つ?」
少し間を置き、もったいぶると。
「――『異端の書』と呼ばれる書物があるんです」
「異端の……書? それは王家が指定した禁書のことでしょうか?」
――禁書。内容が政権に対しあまりにも異端、あるいは侮辱的な物であるから
出版どころか所有することさえ禁止された書物。
ロングビルは首を傾げた。
それを見ると、コルベールは首を振る。
「いいえ、そんなものとは違います」
「では?」
詰め寄るロングビルにコルベールは得意気に応えた。
「オールド・オスマンでさえ使えこなせなかったという――強力なマジックア
イテムらしいのです」
「それは……」
ロングビルの目が妖しく光る。
「どのような書物なのですか?」
その問いにコルベールは首を振る。
「さすがに厳重な封印がされているらしく。僕も見たことはありません。
ただ――」
コルベールはおどけて笑う。
「それを見たならば、一目でわかるそうです」
「それは、とても奇抜な外見なのでしょうね」
「ええ、そうでしょう」
ロングビルは口元に手を当て、コルベールは顔を赤くして。なにが可笑しいの
か笑い合う。
「…………」
話が途切れ、空いた間にコルベールは頭を回転させた。
「あ、あのミス・ロングビル、今度ユルの曜日の『フリッグ舞踏会』に――」
意を決した言葉は。
「すいませんミスタ・コルベール。そろそろ溜まった仕事を片付けないといけ
ないので」
あっさりと受け流された。
「あ、は、はい……」
微笑を浮かべ、ロングビルは言う。
「興味深いお話、ありがとうございます」
「いえいえ! あれぐらいならいつでもお話いたしますよ!」
もう一度ロングビルは微笑むと早々に背を向け、階段を下りていった。
それを見送るとコルベールはため息を吐く。
支援
「はあ…………ん?」
ふと、なにか違和感があった。
部屋の小物が1つだけ動かされているような、取るに足らない違い。
グルリと周囲を見渡す。
堅牢な鉄の門、しっかりと組まれた石造りの壁。
どこにも異状はない。だが先ほどと比べ、色がくすんでいるような……。
首を傾げていたが。先ほどの断りが頭によみがえりコルベールは肩を落す。
「まあいい……調べ物はまた今度にしておこう……」
そしてトボトボと階段を下りながら。
「……はて。そういえば、私はあの書のことをいつ聞いたのだったか」
その背後。パラリと、鉄の門から石の継ぎ目から、錆と砂が落ちた。
カツカツと響く足音。
足音の主は長い階段を下りながら微笑をもらす。
「ふふ」
それは餓虎か、賢狼か。
つり上がる口元は牙のように鋭く。
「さあて、決行は明日。だけど、問題は突破する方法……」
羊の皮を被り、潜む猛獣はその知恵を絞り。
「ようし……連中の度肝を抜いてやろうか」
細められる目は剣呑な光を放った。
「まったく……何しに来たのよあいつは」
ため息を吐きながらルイズは枕へ頭を乗せた。
日が傾き始め。散々居座り騒いだキュルケは、大きな欠伸をすると早々に帰っ
ていった。
程なくずっと付き添っていたシエスタも、さすがに晩は忙しいのか。食事を後
で持ってくると言い残し部屋を出た。
「ふん、文句を言う割には寂しそうだな」
「違うわよ」
ルイズは頭を枕に乗せたままアルをにらみつけた。
ここに残るはルイズとアルだけ。
なぜかダンセイニはシエスタに付いて行ってしまった。
「…………」
「…………」
奇妙な沈黙が流れる。
それは張り詰めた絃のように強く。蜘蛛の糸のごとく細められ。
「――ねえアル」
どれが切欠だったのか。
「なんだ?」
「あの時の“力”は……あなたの魔法なの?」
今まで避けてきたことを、避けざる得なかったことへルイズは切り込んだ。
先ほどまではキュルケがいたシエスタがいた。
キュルケは何でもないように振舞っていたが内心では聞きたかったであろう。
だが、自分の中でも整理のつかないことを話す気にはならない。
そしてシエスタはメイジではない。こんな話をしても場の空気が緩んでしまう
可能性がある。
その2人がいない今が、ルイズにようやく許された時間である。
左手を目の前に翳す。
力が入らず、それはふらふらと頼りなく揺れる。
だだ目を閉じると思い出すのは、溢れんばかりの熱。
炎の如く熱き力が全身を駆け回る感覚。
「そうだな……」
閉ざされた暗闇に、アルの声が染みる。
未だ消え去らぬ熱を、燻りを胸に。静かに響く声を傾け。
「――知るかそんなもの」
寝ている状態なのにスッ転ぶという貴重な体験をした。
一気にずり落ちた布団を掴みプルプルとルイズは震える。
「し、知るかって……なんでわかんないのよ! 状況的にどう考えてもあんた
の仕業でしょう!」
「知らんものは知らん」
「知らないじゃないわよ!」
「妾の管轄外だ」
思わず詰め寄りそうになったルイズは、上半身を起こし。
そのまま後ろに倒れた。
「――じゃあ、どうしてわたしはこんなに衰弱しているのよ。“自称”最強の
魔導書さん」
そう、目が覚めてからルイズは1度たりとも、1人ではベッドから起き上がって
いない。
起きるときもシエスタの助けを借りなければ今のように上半身を維持するのも
難しい。
なんとかキュルケがいる間は虚勢を張っていたが。キュルケが席を外すたびに
幾度か倒れこんだ。
好奇心旺盛なキュルケがルイズの部屋にいたのに。決闘での疑問を追及しなか
った理由の1番は、ルイズの衰弱を看破したからだろう。
「ふむ」
アルは腕を組んだ。
「まあ、いくつかの仮説は立てられるが……」
「なんなのよ」
憮然とするルイズにアルは“それ”を指差した。
「このルーンが問題なのだろう」
指差した先にあるのは掲げられたルイズの左手の甲。その手の甲に刻まれたル
ーン。
「ルーンが?」
疑わしげに聞き返すルイズにアルは同意する。
「うむ。まず、妾と汝は完全なる契約を結んでおらん非常に中途半端な状態だ」
「…………」
その言葉にルイズから少し落ち込むような気配がしたがアルは続ける。
「半端といえど仮にも契約を結んでおるからには、妾と汝の間にはパスが通っ
ておる」
「パス?」
「共感呪術とも言われるものだ」
首を傾げたルイズに説明をする。
「触れ合ったもの同士は影響を与え合う、何かしらの絆。契約とはその強化さ
れたものと考えろ。汝が前に言っていた使い魔との視界の共有などは、この契
約のパスを経由しているのだろう」
「へー」
「まあ、汝の使い魔の契約の場合は。汝から来たパスは妾へと繋がるのではな
く、妾を経由して汝自身へと帰っておるがな」
酷く判りづらい言い方であった。
「それは……普通の繋がりとどう違うのよ」
「一番の違いを言うならば。汝の契約の影響は妾にはほとんどないということ
だ」
「なによそれ!」
アルはヒステリックに叫ぶルイズにめんどくさそうに手を振る。
「ええい騒がしい、話を戻すぞ」
仕方なくという風にルイズは黙った。
再びアルは続ける。
「それでだ。そのパスは妾を経由しておるがゆえに、汝の変化も多少なりとも
感じられる」
「…………」
「あの時、汝が剣を握った瞬間。パスを通じて大きな力が妾を通過した」
「大きな……力?」
呟くルイズ。
「そうだ、そしてそれは汝の左手」
ルイズは自身の左手にあるルーンを覗き込んだ。
「そのルーンから流れ込んできたものだ」
「この……ルーンから」
そこにあるのは、今まで習ったどんなルーンにも類似しない形。
「おそらくそれは、ルーンの持ち主を強化する効果があるのだろう」
使い魔と契約した場合、契約した対象が主人の言うことがわかるぐらいに知能
が上がる事はある。
もしかしたら効果こそ違えど、似たようなことが自分に起きているのかもしれ
ない。
「汝が衰弱しているのは前日から続く疲れと、慣れない力を急に使った負荷だ
ろう」
召喚の儀式前夜から徹夜、当日は長時間の召喚、人外の使い魔との邂逅、返さ
れた契約、翌日の恐怖生物との接触、失敗した魔法の後片付け、ギーシュとの
決闘、そしてとどめにルーンの急激な負荷。
なるほど……確かに倒れても仕方ない。
ルイズは力ない左の拳を握り、そのまま力を込める。
「…………」
拳を握る。
「……………………」
拳を握る。強く。
「………………………………」
拳を握る。強く強く。
「………………………………………………」
拳を握る。強く強く強く。
「……………………………………………………………………………………」
拳を――
「何も起こらないじゃない!」
「知るか!」
「知るかじゃない! なんとかしなさいよ!」
「ええいっ五月蝿い! なにかしらの発動条件があるのだろうな」
その言葉にルイズは考えた。
発動条件……確かに、今ここで左手に力を込めても。あの時の熱は欠片さえ感
じられない。では、なにがあの時の熱を呼び起こすのか。
思い出されるは決闘の時、アルから渡された剣を握った直後のこと。
そこから熱は体を駆け巡っていた。
「……剣」
ルイズがポツリと呟いた。
「そうだな。確かに偃月刀を握ってから汝のパスから力が流れ、そして汝自身
の動きが変わった」
「剣か……」
「うむ」
頷くアルにルイズが問う。
「そういえば、あの偃月刀だっけ? あれってあなたが『錬金』したのよね?」
「厳密には『鍛造』だがな」
「……? まあどっちでもいいわ。あれを作ってみて」
手に青銅をバターのごとく切り裂く感触が甦った。
ルイズの言葉にアルは腕を組み。
「無理だ」
偉く自信満々に胸を張る。
「……っ」
我慢した。ルイズは我慢した。それはもう我慢した。
「そ、それはなんで?」
酷くつまらなそうなアル。
「今の妾は1から作り出すには力が足りない」
「力が足りない? どうしてよ」
支援!
「どこぞの小娘が無茶苦茶な召喚をしたおかげで、妾は完全ではないのだ」
ルイズは我慢――
「く、っく」
――しきった。
「じゃあ、どうするのよ」
ふむと呟き。
「1から作ることは難しくとも、何か媒体となる物があればよい」
「媒体?」
「そうだ。そうだな、剣あるいは火に属する棒などがよい」
「剣……または火に属する棒……ね」
剣を作るのに剣が必要とは本末転倒のような気がするが、あの金属を断つほど
の剣に勝るものは早々無いだろう。
そして、媒体として脳裏に火掻き棒が思いついたが。そんな物で作った剣を持
つのは嫌だったので却下。
「そうね……探しておきましょう」
そう言い、窓を見た。
窓の外。まだ地平の果てには太陽の残り灯があり。溶け切らぬ赤は濃い青へと
侵蝕され蹂躙されて、その本質を染め上げる。
塗り潰す濃い青は黒へと本質を変え、朝には朱へ蹂躙される。
その中で、白く、地面に突き立つように――穢れぬ姿がある。
それは気高く、誇り高く――酷く孤独な巨人。
「アルそういえば、まだ聞いてなかったわね」
なぜかその姿が、夢の中の剣と重なり、心を震わせる。
その震えは大きくなり。
「あのゴーレムは――」
「アルさん、ルイズさん晩御飯を持ってきましたよ」
「てけり・り」
開いた扉から入ってきた2人の存在に消し飛ばされた。
「ふふん! ようやくきたか! 妾は待ちくたびれておったぞ!」
「はいはい、待ってくださいね。今並べますから」
「てけり・り〜」
急に駄々をこね始めるアル。それを優しくいなしながら料理を運ぶシエスタに
ダンセイニ。
「…………」
「ルイズさんどうしました?」
「……いいえ、なんでもないわ」
崩れ去った空気の残滓を感じながら、ルイズはため息を吐いた。
「ふむ、これも中々……」
「って! わたしより先に食べるんじゃないわよ!」
「ひゃにをひゅひぇほる……むぐむぐ……ほおのわひゃくにくひょうひょく」
「食べながら喋るなぁっ!!」
「ふふ、慌てなくてもたくさんありますから」
「てけり・り!」
なにごともない一日が終わる。
はろーはろー、こちらは地球。応答せよ、えすおーえす
・・・なに?地球が消えちゃった?それは大変びっくり我輩のロッケンロォォオオオオッルが必要な今がその時だ!
なに、御代は特にいりません。お題なくとも我輩のこの!
スーパー無敵ロボ28轟デラックスR2ver.TANIGUCCHIが!
あらゆる無理難題もズビっと命令強制しちゃった上で我輩の思うがままにしちゃうのであ〜る!
おう?これってもしかして我輩地球の支配者だったり?
あ、それってつまり我輩ジ・アース、イコール地球の方式?
オ〜ウ!つまり我輩は地球で地球は我輩!
皆が生きる宇宙船地球豪に我輩はなるの・・・・
そう、この絶対無敵の大天才だるドクタァァァァァァァァッッウエッストトトォォ!は最終兵器我輩だったりするのであーる!
分かったか凡人?なに、分からない?ぶぴーっ、まあ分からなくても仕方ないであるな。
凡人には我輩の深淵で哲学的でコズミックな我輩の頭脳を推して知るべしなど不可能だからぁっ!ワオ!
そんなわけでしゃーないから支援してやるのである。
ところで、我輩の出番マダー?
これで今回は終わりです。
おっかしいなぁ……予定ではこの一日は10kb以内で終わるはずだったのに……。
まあ、これで次はようやく虚無の休日です!
さてこれで、このスレの影(となった)の主要キャラであるデルフ君が登場します!
彼は無言となって消え去るのか、ただの材料として消えていくのか。
どうなってしまうのか!
これから書くので、私にもわかりません!
では、支援ありがとうございました!
>>243 ふっふっふ……期待してもしなくても、無駄に応えるのが○○○○です、とだけ言っておきます。
では名無しに戻ります。
投下乙であーる
べ、別に我輩の出番がなくて寂しいわけじゃないんだからね!
投下乙!
あああああ…
デルフ死亡フラグがビンビンと漂ってくるようなw
できれば意識は消えないで欲しいな〜
アルとデルフって相性よさそうな気がするからw
エルザのこともあるタバサがトリステイン行く時付いて行くかどうか気になりますね
次回も楽しみにしております!
毒の爪の人GJ!
ジャンガクールだよジャンガ
闇の人キタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
もうずっと待ってた!
次の投下もまってる!あたいまってるから!!
後はIDOLAの人が来れば今年は勝てるな
249 :
悠二の人:2009/02/10(火) 08:02:19 ID:/O8cQWNN
誰もいないと思うけど
8:10まで予約なかったら続き投下します
ところがぎっちょん、いるわけです。
支援
目の前に真っ黒な自分がいる。薄っぺらいような、水面に映る影のような、真っ黒な自分が。
(これは、夢だ)
すぐに理解し、思い出した。
一度だけ見た、真っ黒な自分が目前にいる夢。
今度は、何も声を発しない。確認のような、詰問のような、どちらともとれない問いはなかった。
──ふいに、影が揺れる。
自身に接するほど近くに在ったはずの影は、手を伸ばしても届かない距離までに離れていた。
引き止めることは、しない。影も、縋るようなことは、決してしてこない。
影が自分から離れていっているのか、それとも小さくなっているだけなのか、判断は出来ない。
そして、ついに見えなくなってしまった。
悠二がただ一つ直感的にわかることは、ここにいる間はもう現れることはないということだった。
「…………ユージ……」
「シャナッ!?」
シャナに呼ばれたと思い、飛び起きた悠二だったが、そこは悠二にとって見慣れた場所ではなかった。
(そういえば、昨日召喚されたんだったな)
異世界に召喚されていたことを思い出し、暗鬱な気持ちになった。
(さっきのは、ルイズの寝言か)
ベッドを見ると、自分をこちらに呼び出した元凶であるルイズが気持ちよさそうに寝ていた。
(やっぱり、シャナの声と瓜二つだよな)
目の前で寝ている少女と、フレイムヘイズの少女を思い、考える。
(なんか性格も似てるっぽいし。素直じゃなさそうなところとか)
苦笑をもらし、立ち上がると大きく伸びをした。
床に寝ていたにもかかわらず体は全く痛くなかった。それでも伸びをしたのは、気分の問題だった。
そして、悠二はもう一度ルイズを見てから、既に習慣になっている早朝の鍛錬をするために部屋の外に出た。
悠二は、考え事をしながら廊下を歩いていた。
(そういえば、なんで何事もなく使い魔のルーンが刻まれたんだろう)
悠二は、身の内に宝具『零時迷子』を宿している“ミステス”である。
過去、“紅世の徒”との戦いでは『零時迷子』にかけられている自在法『戒禁』によって、『零時迷子』に触れた“徒”はその“存在の力”を悠二に吸収されていた。
(魔法が例外なのか、『零時迷子』自体に関係がなかったから『戒禁』が発動しなかったのかな)
そこまで考察し、[仮装舞踏会]の巫女“頂の座”ヘカテーに『戒禁』の奥に刻まれた刻印を見た。
この刻印によって[仮装舞踏会]は常に『零時迷子』の位置をわかるはずであった。
(今日見た夢のせいか、確信を持てる。[仮装舞踏会]ですら僕の居場所はわからない)
根拠のない自信であったが、悠二はそれを信じて疑わなかった。
(居場所がわからないから、皆心配してるんだろうな。特に母さんは身重だから心配だな)
自分がいなくなって混乱の極地であろう御崎市を思い、知らないうちにため息をついていた。
そうこうしていると、朝もやに包まれた外が見えてきた。
(気分転換ってわけじゃないけど、今日は『吸血鬼』を使って鍛錬しようかな)
寮塔の外の広場に立つと、悠二はそう思い至って、封絶を展開した。
銀色の炎が悠二を中心にドーム状に広がる。
悠二がポケットから一枚栞を取り出すと、それは瞬時に大剣『吸血鬼』に変化した。
剣を握ると、悠二は驚きに眼を見開く。左手のルーンが輝き、自身の“存在の力”が増したように感じた。
一瞬“存在の力”の増加にあっけに取られたが、すぐに冷静になると再び驚愕することになる。
“存在の力”が増加したと思ったが、それは勘違いだった。
(
これは“存在の力”の増加というよりは、『洗練』って感じかな?)
その『洗練』は身体能力の向上として現れ、いつもより体が軽くなったように感じる。
しかし、それは長くは続かなかった。なぜなら、悠二が『吸血鬼』を再び栞に戻したからだった。
(ルイズから使い魔のルーンには付与効果があるとは聞いてたけど)
悠二はルーンの効果について検証したかったが、もしそれに対する代償、デメリットが有った場合のことを考え、とりあえず見送ることにした。
(そういえば、昨日コルベールっていう先生がルーンをスケッチしてたから、何か知ってるかもしれないな)
今日中にコルベールのもとを訪ねることを決め、封絶を解いた。
近くの森に行き、落ちていた適度な長さの木の枝を拾った。
このときはルーンが反応しなかったので、いつもと同じように木の枝を使った鍛錬をすることにした。
シャナの剣を振る姿をイメージしながら、悠二は枝を振り続けた。
学院のほうでメイドさん達が働き始めるのが見えると、枝を振るのを止め、悠二は部屋に戻るために歩き出した。
悠二が部屋に戻ると真っ先にルイズの下着が目に入り、思わず赤面した。
(とりあえずルイズを起こして、それから洗濯をしにいこう)
悠二はベッドに近づき、いまだに寝ているルイズの肩を揺すった。
「んにゅ」
「ルイズ、そろそろ起きたほうがいいと思うよ」
「はぁ〜〜〜。今起きる」
ルイズが寝ぼけ眼で上半身を起こし、大きくあくびをした。
「服」
…………何も反応がなかった。
ルイズが目をこすり部屋の中を見回すが、既に使い魔の姿はなかった。
そこでやっと、寝ぼけていたルイズは一瞬にして覚醒した。
「え? 使い魔は?」
今起こしてくれた使い魔がいなくなっていることに呆然としたが、すぐに怒りに取って代わった。
「あああ、あんの使い魔。ご主人様の世話をしないなんてどういうことかしら……」
静かに怒りのオーラを発散しているルイズをよそに、悠二はのんきに洗濯をしに行っていた。
悠二が洗濯を終え部屋に戻ってくると、制服姿のルイズが仁王立ちで睨みつけてきた。
「ああ、あんた。ごごごご主人様の身の回りの世話をしないでどこに行ってたのかしら?」
「え? 洗濯をしに行ってただけなんだけど……」
なんか怒られるようなことした? という言葉を呑み込み悠二はルイズの様子を探る。
こと戦闘になると、歴戦のフレイムヘイズでさえ目を見張る鋭い冴えを見せるが、それはあくまで戦闘時であって、普段の生活、特に女心(この場合女心かは疑問であるが)には殊更鈍感だった。
「私言ったわよね。使い魔の仕事は身の回りの世話をすることだって」
「それで、洗濯に行ってきたんだけど」
「ご主人様を起こしてすぐにいなくなる奴がどこにいんのよ!」
「えーと、それはごめんなさい?」
ルイズは荒い息をついていたが、数回深呼吸をした。
「まあいいわ。次からは気をつけなさい」
とりあえずルイズの怒りは収まったようで、悠二はルイズに見えないようにため息をついた。
食堂に向かうためにルイズと悠二が部屋を出ると、同時に赤い髪の女生徒が廊下に出てきた。
「おはようルイズ」
「おはようキュルケ」
ルイズが嫌そうに返事をすると、キュルケと呼ばれた生徒は悠二を指差し言った。
「あなたの使い魔って、それ?」
「そうよ」
キュルケと呼ばれた生徒はあからさまにルイズと悠二を馬鹿にしていたが、悠二はほとんど聞いてなかった。
自分を『それ』と言われた事に懐かしさを感じていたからだった。
(シャナも最初のころは僕のことを物扱いしてたんだよな)
と回想していたが、急に現実に引き戻された。
「熱っ! って真っ赤な何か!」
いきなり現れた真っ赤な生物に熱気に悠二は驚いた。
「あはは! 大丈夫よ。これが私の使い魔のフレイム。火竜山脈のサラマンダーよ、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
「あんた『火』属性だからお似合いね」
得意げに使い魔自慢をするキュルケに、ルイズが実に憎憎しげにつぶやく。
「ええ。この『微熱』のキュルケにぴったりよ。そこの平民も『ゼロ』のあなたにはぴったりよ、ルイズ」
「ふん! 早く食堂に行くわよ!」
ルイズは憤怒の形相で悠二を引っ張るが、後ろから声をかけられる。
「ところで、使い魔さんのお名前は?」
「坂井悠二です」
「そ、よろしくね」
ルイズに力の限り引かれながら悠二は答え、そのまま食堂に向かった。
ルイズは食堂に向かいながら、いまだに怒っていた。
「キィー! なによ、あいつ! 自分がサラマンダー召喚したからって!」
独り言を言って話しかけにくかったが、悠二は先ほどの会話で気になったことを聞いてみた。
「あのさ、『微熱』とか『ゼロ』とかってあだ名のようなものでしょ? 『微熱』っていうのはわかったけど『ゼロ』って何?」
「あんたには関係ないでしょ!」
ルイズはそう言って誤魔化そうとしたが、悠二は気づいた。
(ひょっとしてひょっとすると、身体的な特徴のことなのかも)
横目でルイズの『ゼロ』と思わしきところを見ていると、ルイズから右ストレートが飛んできた。
「痛っ! なにするんだよ!」
ルイズがジト目で悠二を見据える。
「あ、あああんた、今ご主人様のことを失礼な目で見たでしょ」
「え? な、なんのことかわからないなあ。あははは……」
図星をつかれた悠二は、冷や汗をかきつつも笑って誤魔化した。
(少なくとも、シャナよりはあるんじゃないかな?)
そんな失礼なことを考えて。
そうこうしているうちに二人は食堂に着いた。
ルイズは悠二に色々と説明した。
メイジの大半が貴族であること、貴族としての作法なども学ぶこと、平民は本来入れないことなど。
実際、食堂の装飾や料理の豪華さに悠二は圧倒されていた。
(トーチはいないみたいだな。ここだけなのか、この世界全体なのかはまだわからないけど)
「あんたの食事はそれだから」
そうやって差し出されたのは、床に置かれたスープと硬そうなパン二切れだった。
「……これだけ?」
「普通だと使い魔は外、あんたは私の特別な計らいでここにいるの。まだなんか文句あるわけ?」
(文句はあるけど、言ったら怒るんだろうな)
これ以上の面倒ごとを避けたい悠二は文句を心の中にしまった。
「あのさ、ちょっと質問があるんだけど」
「あによ、文句あるって言うの?」
ルイズがサラダを食べながら悠二を一瞥する。
「文句じゃないんだけど、コルベール先生っているよね。で、先生は普段どこにいるのかなと思ってさ」
「ミスタ・コルベールなら、本塔と火の塔の間にある研究室じゃなかったかしら。で、なんであんたがミスタ・コルベールのいる場所を聞くわけ?」
「別に、ちょっと気になっただけだよ」
本当は、ルーンのことについて聞きに行こうと思っていたのだが、ルイズに言うのはまずい気がして、顔を背けながら下手なごまかし方をした。
しかし、ルイズは自分の使い魔が何を考えているのかなど、別段気にならないようで、また食事を始めた。
256 :
悠二の人:2009/02/10(火) 08:20:02 ID:/O8cQWNN
以上で投下終了です
書き手の大変さが身にしみてわかりました
乙ですー
悠二の人乙です。やっぱり声優ネタ来ましたか……。
これからの展開が凄く楽しみです。
ところで、他に予約が無ければ十分後に投下してもいいでしょうか?
避難所にシャナの人の書き込みもあったし、暫くしたらシャナ二本立てになるかな。
wktkしながら次も待つ。
投下します。
トリステイン魔法学院の中心にある本塔。その西側にヴェストリの広場はあった。
その広場は、普段は日中でも日の辺りが悪いことから人の行き来も少ない静かな場所である。
ところが、今そこは常の静けさとはうって変わった賑わいを見せていた。
「決闘だ! ゼロのルイズの使い魔とギーシュが決闘だ!」
無責任に囃し立てる学院の生徒達に囲まれて向き合うのは、この喧噪の原因たる一人の青年と一人の少年。
ゼロのルイズの使い魔と、彼女の同級生である青銅のギーシュだ。
今の世において貴族同士の決闘は御法度。しかし、貴族と平民の決闘は禁じられていない。
そんな理屈を振りかざし、青年を決闘の場に引き摺り出したのはギーシュだった。
かつて王が力を持ち、貴族が貴族らしくあった古き良き時代には名誉と誇りを掛けた決闘が各地で行われていたらしい。
だが、実際には傍から見ると下らない理由で魔法を唱え合っていたそうだ。例えば一人の女性を二人の男性が取り合って、などである。
この決闘の理由も、傍から見ると下らないものであった。
ギーシュが恋人から貰った香水の瓶をうっかり落としてしまい、それを学院のメイドが拾ったことがきっかけで彼の浮気がばれた。
ギーシュがそのメイドに八つ当たりしているところを、ルイズの使い魔の青年に「自業自得だ」と説教された。
それに腹を立てたギーシュが青年に決闘を申し込み、そしてこの状況に至る、というわけだ。
経緯を説明すると実に下らない。だが、少なくとも当事者達にとってやる意味のある戦いではあった。
「よく逃げなかったね。その蛮勇だけは称賛に値するよ」
髪をかき上げ、芝居がかった口調で青年に言い放つギーシュ。余裕綽綽といった様子である。
思い上がった平民に対し、少々キツい灸を据えてやる。それが少年の戦う意味だった。
少年の言葉を聴いているのかいないのか、青年は目を閉じ、腕を組んで黙っていた。
青年の心に浮かぶのは絶対的強者から理不尽な怒りを向けられたメイド、シエスタの泣きそうな顔だった。
シエスタは気立てのいい娘だ。突然この世界に召喚され、右も左もわからない自分に親切にしてくれた。
そんな彼女の泣き顔など見たくはない。それが青年の戦う意味だった。
「その蛮勇に敬意を表して最後のチャンスをあげよう。土下座して僕に詫びるんだ。そうすれば許してやらないこともないよ?」
「お断りだ。オラが謝る理由はねえ。おめの方こそシエスタとあの娘っ子達に詫びることがあるんでねえか?」
ギーシュの顔が怒りに歪んだ。彼の杖たる薔薇の造花を振るい、叫ぶ。
「そうか……なら、後悔するといい! 貴族に逆らったことを!」
造花から地面に落ちた一枚の花弁が、たちまちの内に鎧を纏った女性の像となった。
魔法の力で生み出された青銅のゴーレムである。
ギーシュは己の傍に立つ等身大のゴーレムを見て獲物をいたぶる猫のような笑みを浮かべた。
「僕の二つ名は『青銅』。土のメイジだ。よってこの青銅のゴーレム"ワルキューレ"を以てお相手しよう。よもや卑怯だとは言うまいね?」
「構わん。魔法でも何でも好きに使っだらええ」
動揺の欠片も見せない生意気な平民の態度に、ギーシュの苛立ちは高まるばかりだった。
この平民は恐れるべきなのだ。顔を蒼くして後悔の表情を浮かべるべきなのだ。
だというのに、この余裕は何だ? 気に喰わない。実に気に喰わない。
その苛立ちが思わず口を吐いて出そうになったが、それは彼のプライドが許さなかった。
どうせ自分の勝ちは揺るがないのだ。これ以上平民の戯言に付き合って無駄に神経を疲れさせる必要は無い。
「行け! ワルキューレ!」
ギーシュが造花を振ると同時、青銅のゴーレムが青年に向って躍り掛かった。
周囲の歓声と悲鳴。誰もが次の瞬間青年が無残な姿を衆目に晒すことを疑わなかった。だが。
「豪石!」
右腕を真っ直ぐに突き出し、青年――アキタ・ケンは叫んでいた。その身体が強く光る。
掌にある神の石「豪石玉」から、ケンの身体に力が流れ込んだ。閉じた目の裏に浮かぶのは舞い散る火の粉のイメージだ。
広場全てを照らし出すようなその光が止んだ時、そこにいるものの姿を見てその場の誰もが仰天した。
角と牙をあしらった赤い仮面。出刃包丁型の肩当て。怪物の顔のようにも見える胸当て。腰に巻かれたベルト。全身を包む真っ黒なボディースーツ。
秋田の英雄、超神ネイガーがハルケギニアの地に降り立った。
「はっ!」
裂帛の気合を込め、ネイガーが左拳をワルキューレの胸元に叩き込んだ。轟音と共に拳がめり込む。
すかさず拳を引き抜き、左、右、左。怒りの鉄拳が唸りを上げてワルキューレの身体を乱打した。
一息のうちにワルキューレは人形の体を為さなくなった。
前衛的なオブジェと化したゴーレム目掛け、ネイガーの回し蹴りが止めとばかりに放たれた。
青銅製のゴーレムはその重量と硬さを持って蹴りを受け止めようとするものの、破壊的な威力の前に抵抗虚しく吹っ飛ばされ、どうと地面に倒れ伏した。
「ギーシュ! 二股を掛けた挙句、それがバレたからど言ってシエスタに八つ当たりするとは許せん! おなご泣かすおどこは最低だっておがさんに
習わながったのが、このほじなしめ!」
ネイガーが見得を切って見せた。それは人の声であり、神の声であり、鬼の声であった。
ネイガーに力を貸すは、来訪神ナモミハギ。ナモミ=長時間火にあたり続けることによって生じる皮膚の変質、つまりは怠け者の印を刈り取る者である
ナモミハギは、転じて刃物を持ち悪や厄を剥ぎ落とす神となった。
秋田には人が人を超えて鬼神となる儀式が存在する。角と牙を持つその姿を人と呼ぶには恐れ多い。
人を惑わす悪神・悪鬼を諌め懲らしめるその存在は、まさに神をも超えたもの。ネイガーとは、正しく超神を名乗るものなのだ。
「ほ、ほじ……!?」
ただの平民だと思っていた相手が亜人に変身し、あっという間にワルキューレを破壊した。
理解を越えた事態にギーシュはただ呆然とするばかりだった。ただ一つはっきりしていることは、目の前の亜人が圧倒的に強いということ。
「ワ、ワルキューレ! やっつけて誤魔化せ!」
慌てる余りギーシュは自分でも訳のわからないことを言ってしまった。それでも何とかゴーレムを練成するための呪文を唱え、一気に六体を召喚した。
ゴーレムはこれで打ち止めだ。正に背水の陣である。
「キリタン・ソード!」
その声と共に、ネイガーの両手に一対の白刃の剣が現れた。左手のルーンが眩く輝いた。
キリタン・ソード。ケンの祖母手作りのきりたんぽが豪石玉の力で変化したきりたんぼ型の剣である。
「悪い子はいねがあぁぁぁぁぁぁ!」
右の剣に家族愛。左の剣に郷土愛。二つの大きな愛が込められた刃を携え、ネイガーが咆哮を挙げて突進した。
超神ネイガーは戦う。理不尽に脅かされて泣く子のために。地位と権力を振りかざす悪い子をごじゃぐために。
かつて秋田がだじゃく組合の手によるカメムシの大発生という恐るべき事態に直面した時、ただ一人田を守るために戦ったアキタ・ケンの熱い心は遠く
故郷を離れた今でも一転の曇りも無かった。
暴嵐の如き勢いでネイガーがキリタン・ソードを振るう。悪者を睨みつける鋭いまなぐ。出刃包丁の切っ先のように鋭い斬撃。烈火の如く燃え上がる
闘志はそれ自体が分厚い壁となって敵を寄せ付けない。その姿はまさに鬼神だった。
「天然記念物並の必殺技――比内地鶏クラッシュ!」
炎の羽が舞い踊った。立て続けに放たれた飛ぶ斬撃がワルキューレ最後の一体をバラバラに切り裂く。そして、爆発。
響き渡る鶏の声が、決着を高らかに歌い上げていた。
超神ネイガーからのメッセージ
「皆! 二股は人の心を傷付けるとても酷い行為なんだ! 軽い気持ちでやったりしたら絶対に駄目だぞ!
もしそんなほじなしがいたら、このオラがごうじゃくしてける! オラは皆の笑顔が大好きだぞ! へばな!」
分かりにくいと思われる方言の解説
・おがさん→母親。
・ほじなし→間抜け。分別の無い者。
・だじゃく→乱暴。横暴。
・まなぐ→瞳。
・ごうじゃぐ→叱る。
・へばな→じゃあな。
小ネタでしたが、投下終了です。ネイガーの格好良さは本物だと思います。
水木の兄貴が歌うテーマソングも熱い。
投下乙
そういえばどっかにネイガーと提携してるゲームがあったような
闇の人きてたのか!ずっと裸で待ってた甲斐があったぜ!
私怨
まさかネイガーまで召喚されるとは…GJ!
これは長編で読みたいな
>>264 ローカルヒーロー来たーw
しかし、人前で変身しちゃって良いのか?
正体ばれるとヤバかったはずだが。
そのまま長編にシフトしても問題ないクオリティだと思うぜ。
271 :名無しさん:2009/02/02(月) 03:06:28ID:rYrYlgp2
SS見て久々にアンサガやりました
レアパネルばっかでルイズ達ちょっと羨ましかったり
273 :作者 ◆kjjFwxYIok:2009/02/02(月) 17:34:20ID:DcKxpSys
応援ありがとうございます。
今現在、他の事に時間がとられてて、プロットしか書けていませんが、2月中には13話を投下したいと思います。
スキルパネルに関しましては、話の都合上、武器系パネルとかを取らせるとおかしいので、探索、交渉、補助系パネルが中心になります。
274 :作者 ◆kjjFwxYIok:2009/02/02(月) 17:35:32ID:DcKxpSys
おっと、安価忘れてた。
>>273は
>>271さんに対してです。
300 :作者 ◆kjjFwxYIok:2009/02/09(月) 22:16:19ID:GdnEpY6c
なんでここで言うの?
せめて雑談か運営で言えよ、カスが。
302 :名無しさん:2009/02/09(月) 22:26:16ID:GdnEpY6c
やべっ、トリ外してなかった。
とりあえず、ここで相談するような事柄じゃないからね。
>>265 ゲップだな、プレイ中のネトゲと同じ運営のようだ
そういえばテーマソングも同じく水木のアニキだぜ
ゼロつながりで壊れたゼロ呼ぶ妄想が浮かんだ
>>273 大きさにもよるだろうけど同じ大きさならば
ダスドゼロはワルキューレ1体にすら負ける気がするw
>>273 破壊されてシティに→セイバーで再召喚とか燃える妄想しちまったじゃねーか
>>274 50tて考えたら最低3〜5mはありそうだぜ・・・
まあトンとは明言されてないから重攻みたいな扱いも出来るが
>>273 壊れてて……直せるのか?
コルベールあたりが頑張るのか?
>>276 右目潰れて片手が鉤爪で片足が義足で歯車が露出してるだけだから大丈夫だ…多分
>>274 少しなら溶岩にも耐えるし、青銅の方がぶっ壊れそうじゃね?
フーケのゴーレムに踏まれたらバラバラになりそうだが
>>273ー277まさかこんなところで同胞に巡り会えるとは思わなんだ…w
あとでポルドシティでボクと握手だ!!
ゼロっていうからロックマンゼロのほうかと思ってたしまったよ
考えたらゼロって名前のキャラはわりといるな
カービィのボスの目玉お化けもゼロだし、デジモンのマンガでもゼロってデジモンが主役だったし
あとゼロったら誰がいるだろ
ガルファのハゲ
コードギアスのゼロとウイングガンダムゼロは覚えている。
ガンダムW
>>279 「俺の事を全力で思い出せ!」
他にはゼロ・ムラサメとかゼロゼロ1/7親指トムとか
ゼロゼロナンバーズはちっと違うかな
カオスヘッダー0(ゼロ)
去年の劇場版ポケモンの悪役もゼロだったか
改めて思い出そうとすると中々思い浮かばないもんだな
「なんか強そうなゼロ」ってことだとバハムートとか牙突とかもあるね。
元祖は零(れい)式戦闘機か? 創作系は知らんが
MGS3のトム少佐
我を越えるも者は誰も居ない、故に我が名は0(ゼロ)
って言ってるアンドロイドもいたと思う
コブラだっけかな?
ひゃあ、我慢できねえ、ゼロだ!
ああ、いたなあ。コブラのゼロはかなりのチートキャラだった。
心臓もぎ取らないと勝てないアレか
ただ召還されてもロクな兵器がないから折角の能力が生かせないな
まあ基本スペックの時点で高すぎるから問題ないだろうけど
心臓が外れている状態で召喚しないと契約できないだろうな
コブラと絡めるんだと敵側に召喚された悪役とかも絡められそうだな
ゼロ相手だと大抵の奴が涙目だが
>>291 今気付いたが、お前のID試作戦闘機っぽいな
294 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/10(火) 16:24:08 ID:YY62fNlD
そういや「泣くようぐいす」にも出てきたな、ブラックソードゼロって
>>293 ガンダールヴのコブラ
ミョズニトニルンのクリスタルボーイ(特殊強化ガラスのボディを持ちレーザーetcが無効、バズーカ砲クラスの砲撃でないと傷がつかない)
ウインタールヴのブラックソード・ゼロ(兵器類と融合可能で、心臓が無事ならどんな破損でも修復できる)
憚られる黒竜王(人の恐怖を喰らい操る事が出来る最悪の存在、おそらく悪魔)
とか
>>296 コブラって「左手」がサイコガンじゃなかったっけ。
てかクリスタルボーイも全身偏光透過ガラスが売りだから、
下手なところにるーんが刻まれるとヤバイんじゃないかな。
(片手が鉤爪だから大丈夫かもしれんが。)
>>296 黒竜王だけ本当にそれっぽい件
ヴィンダールヴとミョズニトニルンの能力は活かせそーにねえなw
コブラのキャラで好敵手もしくは本当にヤバかった相手を抜き出したらこうなった
ボーイは策士、ゼロの方は動物じゃなくて機械を従える(融合)って事で勘弁してくれw
なんかゼロが「ルーンの影響で生物とも融合出来る様になりました」とかなりそうな悪寒
ボーイは・・・確かにどうしようもないな
アムロ・零とかはどうだ
しかしこの世界サイコガン以外光学兵器が全く無いので
ボーイのボディってば「ただカタくてスケてるだけ」なのが残念
ルイズの爆裂消球・・・・もとい爆発魔法が勝利の鍵?
>>302 そこはライトニング系の呪文を透過ですよ
ライガーゼロもいるぜ
ゼロムスとかいってみる
仮面ライダー電王からゼロノス。
忘れられていく彼を、ただ一人だけ覚えているルイズが必死になって助けようとする話になりそうだな。
アプトムもいいけど、あれってゼクトールが初登場と再登場版共にすさまじく格好良いデザイン過ぎてもう……
ゼクトールもアプトム並みに再登場活躍してくれて良かったと思うんだ
>>300 ブラックソード・ゼロなら元々生物とも融合できるぞ。
巨大蜘蛛とかブル軍曹と融合してたじゃないか。
>>309 残念
巨大蜘蛛はロボでした
で、軍曹はサイボーグ
>>309 ブル軍曹はサイボーグだから機械部分だけ融合、あの蜘蛛もロボットか機械生物だと思ってた
蜘蛛は生物じゃなくてロボットだったはず
ブルはサイボーグ
融合は機械に限定されてる
あの蜘蛛ロボだったのか。読んだのは結構前だから細かい事は忘れてたぜ。
W00とか・・・あのチャラ男とハルケギニア
割と愛称は良さそう
ムゲフロ風カットインが想像できたのはキュルケだけだが
wooと聞いてプロトタイプウルトラマンを思い出したのは私だけですごめんなさい
>>279 なぜにコブラでこんなに盛り上がる? いや、俺も好きだが。
前に短編でコブラ呼ばれてたと思うが、長編にしたら確実にキュルケが喰われるなぁ。
前もそんな話があったがコブラは子供には手は出さないぜ?
キュルケはイエローかもしれんけどおマチさんがレッド過ぎるw
ラスボス倒した直後にハーケン召還すればナハト、アーベント、ゲシュペンストがお供でついて来たりして。
ナハトとアーベントは半アインスト製だから勝手に自己修復するからメンテフリーだし。
ぶっ壊れたロボ系が召喚される
↓
ルイズと興味を覚えたハゲが必死になって修理しようとする
↓
プロジェクトX風にいかに修理に苦闘したかについてのSSになる、別に虚無とかは話に出ない
こんなのが浮かんでしまったから困る
牛姫を召喚して、ルイズのコンプレックスでも刺激したれw
そういや、コミックス版であの大剣は自在に召喚できるって言ってたから、
デルフがいらない子になってまうんだよな。
いらない子なのはある意味原作再現じゃないか
>315
プロトウルトラマンを知らない俺には責めることも出来ないんだぜ
臍プリンセス召喚だとひんぬーコミュ確立
メッシュエージェント召喚でルイズスパンキン・・・流石にしねーか
駄狐召喚でPC無いハルケギニアで禁断症状とメタ発言連発
色々考えた結果、毒牛頭とテファに幸せな家庭を築いてもらうということで・・・
ゼロ魔はやっぱり子供が多いから、関係者を次々食っちまう系のキャラも
その方面では案外活躍させにくいよね。
ゴルゴ13とかがルイズあたりを相手にするのはやっぱり想像しにくい。
あれで意外と気遣いが出来る人ではあるけどねゴルゴ
もっともあの無口ぶりではルイズが癇癪起こして呆れたゴルゴが出てっちゃいそうだけど
ゼロ魔の世界でロリに目覚めるゴルゴを描けばいいんだ!
>>325 まあ、そんな事を安易にやったらそれはもうゴルゴじゃねぇと言う
意見が飛び出しても何ら不思議は無いがな。
ルーンの力ですっていったら何やっても許されるわけじゃあない
PAPUWAから気遣いの紳士を召喚
「俺はもうガンタールヴを辞める。そして、エプロンをつける」
クロムウェルの「あぁ、死ねばみんなともだちだった」ってどんな皮肉?
ロボットの類はよく話題になるけど、アンドロイドや人造生命体の類はあんま語られないな。
こないだ避難所に投下された長門がタバサに呼ばれるのはよかった。
そういう自我が希薄な奴がルイズといっしょに成長していくのもおもしろそうだ。
Wikiにあるメタルサーガのアルファとかのほかにどんなのがいるかな?
終わりのクロニクルから大城全部長を召喚
フィギアなどの趣味があの世界を感染する……
>>324 「遣」の字が一瞬「違」に見えて驚いた。
ゼロといえば超兄貴の新作だろ、JK
>>331 終わりのクロニクルから、天然ガンダ補正持ちの軍神パパ召喚。
愛妻と愛娘に会えなくなるって知った瞬間、使いものにならなくなりそうだけど。
>>330 ミュウツーとかシャドウとか?
人工生命体は大好物です
病弱繋がりで、ちいねえさまに召喚されるシャドウを妄想した
記憶はなくとも、同じように病弱で外に出られなかった幼なじみを重ねるとか
人造生命体じゃないけど、ミサカ・シスターズをまとめて召喚しよう。
流石のルイズも1万人分の食費で破産するか。
あと、マリコルヌが歓喜のあまり死んじまいそうだ。
>>336 そこは二万一人分じゃないですか?
ミサカネットワークで、完璧な集団連携の取れたガンダー部隊二万一人。
武器にメタルイーターを装備……
少なくとも七万ぐらい平気で粉砕できそうな気がする。
ゼロと言ったら虚無
虚無と言ったら世紀末思想
世紀末思想と言ったら悪魔
って事でデーモン木暮閣下召喚
そういえば、禁書で風斬を召喚というネタを考えたことがあるな。
風斬=AIM拡散力場なので、結果として230万人まとめて召喚とか。
間違いなく収拾つかないけど。
たまにキースシリーズの話題が出たりするけどね>人工生命体
ブルーで考えてたりするけど、魔弾タスラムにどこまで応用力があるかよくわかんないからなぁ…
まぁ、「ドーマウスが進化した!?」の一言で片付けられそうだが
341 :
蒼い使い魔:2009/02/10(火) 19:51:07 ID:Nt3blqEm
みなさまこんばんは
おさらいのために初代デビルメイクライを引っ張り出して
四時間でクリアしてきた、思ったこととしては、
なんであんなのにバージルが負けたのか、不思議でしょうがない
それと1のダンテはすごく人間臭くていい感じでした。
んなことより予約がなければ36話書き終わったので投下したいと思います
20:00に投下予定です
都市シリーズにしろ終わクロにしろホライズンにしろ、あの作者の作品はメインキャラはほぼ全部くっついてるから展開がなぁ
やるならアデーレ×ギーシュとかか?
バージルだと・・・
クシャルダオラと戦ってる場合じゃない!
支援準備だ!
「……………あの馬鹿はどこにいったのよぉ!!! "待て"も出来やしないの!?」
バージルとシルフィードがそんなやり取りをしている時、ようやく待ち合わせの場所に到着したルイズは悪魔の咆哮をあげた
「ひでぇぜ相棒……娘っ子たちに見つけてもらえなかったらどうするつもりだったんだ……」
ルイズの手には先ほどバージルに投げ捨てられたデルフがしくしくとすすり泣いていた。
「ボロ剣! あいつ変なことしようとしてなかったでしょうね!?」
ルイズが手元のデルフに向かい怒鳴りつける、ルイズ達が馬で街へ向かっている途中
運よく道の真ん中に突き刺さりさめざめと泣いているデルフを発見し回収したのであった。
「なんもしてねぇよ、ちょーっとからかっただけなのに投げ捨てるなんてよ……」
「前から思ってたけど、あんたって意外と冒険者よね……、まぁいいわ、タバサ? あいつが今どこにいるかわかる?」
ルイズが少し呆れたように言うとタバサにシルフィードの場所を尋ねる。
「わからない、彼の背中が見える」
目をつむっていたタバサが短く答えた、おそらくシルフィードが背中にしがみついているからだろう
「んなっ!! あぁぁぁもう! あのばか! なんで抵抗しないのよ!」
その言葉を聞きルイズは地団太を踏みながら怒りを爆発させる、手に握られているデルフが振り回されるたびに悲鳴を上げる
「いいなぁ、ダーリンの背中に抱きつくなんて、そんなマネ命捨てる覚悟がなきゃ出来ないわよ」
以前から挑戦し続けその度に当て身を入れられ地に伏してきたキュルケが両手を頬にあてうらやましそうに言った。
「あぁ、あの頼りがいのある背中、それを独り占めできるなんて……想像するだけでゾクゾクしちゃう」
キュルケがルイズをからかうように体をくねらせうっとりとした口調で言う、
すると、ミシッっと言う何かが軋むような音が、ルイズが持っていたデルフから、そしてタバサの持つ杖から聞こえてきた。
「……急いで追うわよ、これ以上好き勝手やらせるもんですか……!」
答えるようにタバサも頷き、ずんずんと音を立てながら足早に街の中へと入ってゆく
デビルトリガーを引いた二人にキュルケが思わず後ずさる、そしてはっと我に返ると急ぎ二人を追いかける、
二人の魔人をこのまま街に入れるわけにはいかない、この状態でバージル達を発見してしまっては大変なことになる。
「ちょ、ちょっと二人とも!? お願いだから落ち着いて! ね!?」
キュルケの悲痛な叫びが朝の街に響き渡って行った。
秘薬屋へ向かうために大通りをバージルとシルフィードが歩いてゆく
先ほどと違うのは、シルフィードがバージルに後ろから腕を回し背中にしがみついている点か、
そのおかげで非常に歩きづらそうだ。
「……食わんのか」
バージルが自分の胸元に視線を落としシルフィードの手に掴まれている包みを見る、
先ほど手渡されてから、中の串焼きには手を付けずに背中にずっとしがみついたままここまで歩いていたのだった。
「きゅい、いいの、後でおにいさまと一緒に食べるのね」
そう言いながら甘えるようにぐりぐりと背中に頭を押し付けてきた、押し付けられている部分が妙にむず痒い。
バージルは鬱陶しそうな表情を浮かべると、視線を背中のシルフィードに向ける
「いい加減離れろ、歩きづらくてかなわん」
「いやなの」
次に聞き分けのないことを抜かしたら殺す、と宣言されているにも関わらずシルフィードが拒否する、
眉間に皺をよせバージルが口を開く
「次はないと言ったはずだ、忘れたのか? これが最後だ、離れろ」
「それでもいやなの、シルフィはもうおにいさまに殺されちゃっても後悔はないのね、だってそのくらいうれしかったんですもの」
シルフィードは静かに、そしてきっぱりと言い切るとしがみつく腕に力をこめさらに強く抱きしめてくる。
どうやら本気でそう言っているらしい、突き飛ばし閻魔刀を突きつけたところで、今のシルフィードは喜んでその刃を受け入れるだろう
次はない、と言っておきながら、本来の目的はシルフィードを元に戻すための秘薬の材料を求め街へ来たのだ、
それを殺してしまってはここにきた意味どころか、貴重な移動手段まで失ってしまう、
さらに悪いことに、シルフィードはハルケギニアに伝わるスパーダの伝説を知っていると言う、
少しでも情報が欲しい今、なんとしてもそれは聞いておきたい、
先ほどより事態が悪化している、やはり買い与えるべきではなかった、軽く後悔しながらバージルは半ばあきらめたように溜息をついた。
支援
Shien!
初代DMCとか懐かしすぎるw
支援
紫煙だ
「あぁしてみると……確かに恋人っぽい……っていうか完璧に恋人同士にしか見えないわね」
二人のその様子をキュルケが物陰から覗き込みながら呟く、
それに続く様に樽の中からルイズとタバサが顔を出した
「も、盛り上がってるのはシルフィードだけじゃない! バージルは全然相手にもしてないわよ!」
「でも、あの子の顔みてごらんなさいな……アレ、完全に女の顔よ? もう身も心も捧げますって感じの、あたしが言うんだもの、間違いないわ」
キュルケがシルフィードを指差す、確かに、さっき見た時とは違う雰囲気が漂っている、一方のバージルは醒めきっているが……。
惚れ薬の効果がより強くなったのであろうか? あれだけはしゃぎまくっていたシルフィードが、どことなくしおらしくなり、うっとりとした顔になっている。
「よく言うわ、あんたの"身も心も捧げます"ほどアテにならない言葉はないわよ」
「あたしだってそんな経験くらいあるわよ……、本当はまだ言ってないだけ、あぁ、この想い、ダーリンに届けばいいのに!」
両手を胸の前で組み歌うように言いきったキュルケを冷めた目で見ながらルイズが口を開く、
「そーいう割にはあんた、最近手を出してこないみたいじゃない?」
「んー? だってそれは……」
キュルケが何か言おうとしたその時に、不意にタバサが樽の中から飛び出した。
「移動する」
「あっ、ちょっとまってよ!」
それを急いでルイズが急いで樽の中から飛び出し後を追いかけて行った、
「あんたたち見てる方がおもしろいからね」
その二人の様子を見てキュルケはクスクスと笑いながら呟くと、二人の後を追いかけて行った。
「本当に道を知っているのか?」
バージルがようやく背中から離れ腕をからめて隣を歩くシルフィードに確認を取る、
先ほどから結構歩いているにも関わらず一向に目的地にたどり着かないことに、流石に不安を覚えたようだ
「きゅい、もちろんなの、でも……ちょっとだけ遠回りしてるのね」
「何だと?」
「もう少しこうしてたいからなの、だめ?」
シルフィードは頬を赤らめ、もじもじしながら上目づかいにバージルを見つめる
並の男性なら一撃で撃墜されかねないセリフとシチュエーションである。
「ダメだ、お前の都合など知らん、下らんことに時間を取らせるな」
そんなシルフィードにバージルはこれ以上ないほど冷たく言い放つとジロリと横目で睨む、
「きゅい……おにいさまはシルフィと時間、どっちが大切なの?」
「くだらんことを聞く暇があったら、さっさと秘薬屋に案内しろ、最短ルートでだ」
「……いじわるなのね、きゅい」
シルフィードは少し切なそうな表情をすると、絡めている腕にぎゅっと力を込めた、
「おにいさま……シルフィのこと好き?」
「二度も言わせるな、少しは静かにできんのか」
「ふんだ、もう決めたのね、おにいさまがシルフィのこと好きって言ってくれるまで、背中に乗せてあげないのね、きゅい」
そう言うと顔をぷいっとそむけてしまった、もちろん組んだ腕は外そうとしない。
これ以上シルフィードに付き合っているとこっちまでおかしくなりそうだ、
なぜ俺がこんな目に……、眉間にふっかーい皺をよせズキズキと痛む頭を抑える
しばらくそんな風にして歩いていると、ふとバージルが足を止める、そして先日アンリエッタから受け取った袋を開け中身を確認しだした。
袋は結構な大きさがあり、中には新金貨と宝飾品が入っている、
バージルは一個宝石を取り出すと何かを考えるようにそれを指先で弄んだ
「おにいさま? どうなさったのね?」
「……予定を変える、秘薬屋に行く前に宝石を金に換える、宝石屋かもしくは換金所のような場所は知っているか?」
一国の王女であるアンリエッタが直接手渡してきた宝石だ、紛い物ではなく上質な物であることには間違いない
だったらただ持っているより、現金に換えてしまうのが一番だ、そう判断する。
それに、キュルケの話によると『精霊の涙』は少々値の張る物らしい、万が一、ということもある、金は多く持っていることに越したことはない
「きゅい、宝石屋さんは……確か、そこの角を曲がったところなの、すぐそこなのね」
そう言うとシルフィードは通りを指差す、すると宝石を象った看板が目に入る、
バージルは持っていた宝石を袋に戻すと、シルフィードを連れ宝石店へと入って行った。
「なっ! なんで宝石屋に入ってくのよ! 秘薬屋に行くんじゃなかったの!?」
その様子をまたもや物陰から見ていたルイズが地団太を踏む、
そんなルイズをからかうようにキュルケがわざとらしく手をぽんと叩いた。
「あ、もしかしてシルフィードにプレゼントとか?」
「そっ、そんなの絶対にヤダ!!」
ルイズは少し涙を目尻に溜めながら胸元のペンダントをぎゅっと握りしめ、必死に首を振り否定する
「違うもん! ただあの子に無理やり引っ張って行かれただけだもん!」
「わ、悪かったわ、落ち着きなさいって、みんな見てるからほら……」
子供のようにキュルケを叩きながら喚き散らすルイズをなだめていたその時、
「そうです! あんなはしたない人が恋人だなんて絶対に認めません!」
「「うわっ!?」」
突然背後から聞こえてきた声にルイズとキュルケとタバサが驚きながら振り向く
そこには昨日、食堂で灰と化していたシエスタが立っていた、
泣き腫らしたのであろうか、目の周りが赤くなり、隈が出来てしまっている。
「シエスタ!? あなたいつの間にきてたの!?」
「朝にみなさんが出て行くのを見たんです! バージルさんだけ見当たらなかったので、おかしいとおもって急いで追いかけてきたんです!」
そう怒鳴るように言うとドンと地面を踏みつける。
「っていうかあなた仕事はどうしたの?」
「そんなことしてる場合じゃありません!」
「そんなことってあんた……」
ズバっと言い切ったシエスタは捲くし立てるようにルイズ達に質問をする
「あの人は一体誰なんですか!? あんな人、学院じゃ見たことないですよ!」
「えっと……それは……タバサ? いい? 説明しちゃって」
憤るシエスタを見てキュルケが困ったようにタバサに視線を送る、
タバサは少し目をつむり考えた後、静かに頷くと、シエスタにも事情を説明した。
「えぇっ!? それじゃあ、あの女の人って……ミス・タバサの使い魔のっ!?」
「声が大きい」
些かオーバーリアクション気味に驚くシエスタをタバサがピシャリと止める
「も、申し訳ありません……それにしても……惚れ薬ですか」
なんだか秘密もへったくれもないほどシルフィードの正体が周囲の人々にバレて行く
このままでは学院全体に知れ渡るのも時間の問題かもしれない。
「このことは秘密、誰にも言わないで」
軽い頭痛を覚えつつタバサはこれで三回目のセリフを言う。
「え、えぇ……もちろんです、これでも口の堅さには自信があります」
シエスタは口元を両手で押さえコクコクと首を縦に振った。
「でもちょっと安心しました、惚れ薬を飲んじゃったシルフィードさんが一人で暴走してるだけなんですね」
「大体そんなところよ、なんだか雲行きが怪しくなってきたけどね……」
ほぅっと安心したようなシエスタにキュルケが肩をすくめながら言った。
そんな中、ルイズはシエスタに昨日何があったのか尋ねてみることにした。
「それにしてもシエスタ、あなた昨日一日灰になってなにやら呟いてたけど、一体何を見たの?」
「えっ……えっと……それがですね、シルフィードさん、いきなりバージルさんに――」
「出てきた」
シエスタがきゅっと唇を噛み締め悔しそうな表情で昨日目の前で起こった事を言おうとした時、タバサが宝石店を指差す、
三人の視線が傍から見れば腕を組み仲睦まじげに歩くバージルとシルフィードに釘付けになる。
バージルの腕に組みついているシルフィードから明るい声が聞こえてきた。
「おにいさまとってもお金持ちなの! おどろいちゃった! きゅい!」
――ぶちっ。
その言葉を聞いたルイズから何かが切れる音が聞こえてきた。
「ふっ……ふふっ、ふふふふ、そう、そうだったの……みんな、アイツのこと邪魔しちゃ悪いわ、行きましょ」
「どっ、どうしたの?」
ついに壊れた、その場にいた全員がそう思いながら突然不気味にクスクスと笑い始めたルイズを見る、
「私達もせっかく街に来たんだもの、お買いものしない? もうパーっとド派手に」
大げさに腕を広げると、とてもいい笑顔でルイズが言う、そんなルイズの提案に三人はお互いに顔を見合わせた。
「そうは言うけど、あたし達今日そんなにお金持ってきてないわよ? それにダーリンやシルフィードはどうするの?」
キュルケのその一言にシエスタとタバサが頷く、だがルイズはそれには構わずに急に真顔になるとさらりと言った。
しえん
ヤバイおにいさまヤバイ
353 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/10(火) 20:05:26 ID:JUdH+0Yh
>>347 DMCっていうとデビルメイクライやった事無いから、クラウザーさんのDMCしか思い出せない自分がいる。
しかし惜しみ無く支援!
「何言ってんの? 全額アイツ持ちに決まってんじゃない」
「えっ……そんな! バージルさんに怒られちゃいますよ!」
「怒られるだけならまだマシ」
ルイズの思いもよらぬ言葉に三人が首を横に振る、バージルのことだ、恐らく言葉の前に閻魔刀が飛んでくるだろう。
しかしルイズは知ったことではないと言わんばかりに腕を腰にあてふんぞり返る。
「わたしが許可するわ、文句なんて言わせるもんですか! シエスタも遠慮することなんかないわよ、もうガンガン買いなさい」
そう言うと、強くシエスタの手を引っ張り、近くにあった洋服店へと入ってゆく、
貴族専門の物を多く取りそろえた、トリスタニアでも有数の高級店だ。
突如暴走を始めたルイズに唖然としていたキュルケ達も急ぎ店内へと入ってゆく
「今期の新作! 全部頂戴! あとこの地味なメイドを着飾ってあげて!」
「じっ、地味……」
ルイズは店内に入るなりいきなり店員に向かい大声で服を持ってくるように指示を出す。
「キュルケ? なにボサっと突っ立ってるの? 早く好きなもの選びなさい、こんなこと二度とないわよ?
ほらほら、タバサも! 拒否は許さないわ! 好きなの買いなさい! 気に入ったのがないなら他のお店に行ってもいいわよ!」
「お客様、お支払いの方はいかがいたしましょう」
「請求はトリステイン魔法学院のバージルで!」
「はい、バージル様ですね、かしこまりました、ではここにサインを」
差し出された請求書にルイズがサラサラとサインを書きこんでゆく、
「ふふふふ、あいつの驚く姿が今から楽しみだわ……わたしを怒らせたらどうなるか……たっぷりと思い知らせてやるんだから……!」
ルイズはダンッ! と力強く机を叩くと高らかに笑い始める、
後日、その場にいた人間は語る、その姿はまるで悪魔のようだったと。
「そろそろ戻る」
思い出したかのようにタバサが口を開く、ショッピングに夢中になり時間を忘れていた、
太陽はもう少しで真上に来そうだ、タバサの言うとおりそろそろ学院に戻らなくては迎えの馬車を待たせてしまうだろう
「そう……それじゃあ気を付けて、シルフィードは任せておいて」
タバサはその言葉にコクリと頷くと踵を返し大通りを後にする、
「この子のことは任せておきなさい、じゃ、お先に失礼するわ」
それに続く様にキュルケも軽く手を振りながらタバサの後を追って行った。
「あ、私もお仕事をほったらかしたまま来ちゃったんでした! 私もそろそろ戻りますっ!」
「そう、じゃあ、私達のお供で街まで来た、そう言うことにしておきなさい、その代りに、この荷物を私の部屋に運んどいてね」
朝の仕事をすべて放棄してここまで来た事を思い出したのか、やや顔を青くするシエスタにルイズが軽いフォローを入れ、荷物を渡す。
何度もお辞儀をしながら学院へと戻るべく小走りで去って行くシエスタを見送った後、ルイズはバージルと合流すべく、秘薬屋へと向かって行った。
「久しぶりにたくさん買い物しちゃったわ〜」
キュルケが満足そうに手に持った包みを見て微笑む、そしてふとタバサへと視線を落とした、
「ねぇねぇ、タバサ? 前々から思ってたけどあなた……随分ダーリン……ううん、バージルにご執心よね〜?
今まで誰にも興味無いって感じだったのに、あたしも安心しちゃったわ〜」
とうとうこの小さな友人に恋を知る時が来た、と何やら感動すらしている様子でうんうんと頷いた。
「違う」
ところが、そんなキュルケの考えとは裏腹にタバサは小さく首を横に振る、予想を裏切られたキュルケは「あらっ?」と肩をずるっと落とす。
――おそらく、違う
いや、もしかしたらそう言う気持ちも、少しは混じっているのかもしれない、
けれど彼に抱く感情はある種の憧れ、理想だ、言ってしまえば崇拝に近い、
己が無力を嘆き、ひたすら力のみを追求し闇へと堕ちた者、それが彼だ、
そのために己を殺し、心を殺し、人であることですら捨て、それでもなお足りぬと力を求め続ける苦行。
おそらくそれは、彼の命が尽きるまで終わらない。
それに挑み続ける彼は、復讐に生き、同じように力を求める自分にとっての理想だ、自分も彼のようにありたい、そう願っている
彼の姿は理想の自分、未来の自分に重ね合わせていた。
全てを薙ぎ払う強大な力、高密度の魔力の塊である幻影剣を大量に放っても息切れ一つ起こさぬほどの底なしの魔力
――彼の持つ全てが欲しい
奇しくもそれは、バージルが父スパーダに対し抱いた感情と同じであった。
その言葉を最後に黙りこくってしまったタバサにキュルケが別な話題はないかと慌てて切り出す。
「そういえばタバサ、どうしてこの時期に実家に?」
「異常気象」
その質問にタバサが短く返す、
「大雪」
その言葉を聞きキュルケは思わず空を見上げる、雲ひとつない快晴だ、さんさんと照りつける日差しに思わず目を細める。
もう少しで季節は夏に差しかかる、確かにこの時期に雪はあり得ない
タバサの実家はどこかは知らないが、地理的にここら辺にも多少影響が出てもいいはずだ、しかし最近の気温は上がって行くばかりである、
にもかかわらず局地的に大雪が降るなどあり得ることなのであろうか?
ともあれ実家の様子が心配になり様子見に帰るのだろう、キュルケはそう見当をつけるとタバサの頭にポンと手を乗せる。
「そう、この時期に大雪は確かにありえないわね……ま、大丈夫よ、寒かったらこの私の"微熱"で暖めてあげるわ、ふふっ」
キュルケは優しくそう言うとタバサの頭を自分の胸に抱き寄せた。
一方そのころ、シルフィードの案内でようやく秘薬屋にたどり着いたバージルは店内に入るなり、店主にメモを手渡し素材の秘薬を探させる、
しばらくすると、店主が少々困ったような表情をして秘薬を持ってきた。
「旦那、ウチで取りそろえられるのはここまでです、『精霊の涙』はもう入荷が絶望的でして……、ウチもですが、今はどこ探してもありませんぜ?」
「……どういうことだ」
バージルが眉間に深い皺をよせ店主に聞き返す、ここにきて『精霊の涙』が品切れ、まるで示し合わせたかのような展開に軽い眩暈を覚える。
「へぇ、実は、ガリアとの国境の近くにあるラグドリアン湖、そこに住んでる水の精霊と最近連絡がつかなくなっちまいましてねぇ……」
店主はそう言うと、深刻そうな表情で事情を話し始める、
「なんでも、機嫌を損ねちまったのかなんなのか、めっきり姿を現さなくなっちまった上に、
急に湖の水位が上昇しだしたり、さらに周辺では季節外れの大雪が降ってるって話でさぁ」
「その精霊とやらを湖から引っ張り出す方法はあるのか?」
バージルが不機嫌そうに尋ねると、店主はとんでもないと驚いたように首を横に振った。
「まさか精霊とやり合うおつもりですかい? 旦那ぁ、悪いことはいわねぇ、やめときなせぇ、
水の精霊は滅多に人前に現れない上に恐ろしく強い、万一怒らせるようなことがあっちゃ――」
「俺はそんな事を聞いているのではない、そいつを引きずり出す手段があるか否かを聞いているんだ」
バージルの射るような鋭い視線に店主が思わず竦み上がる、やり場のない怒り、それがひしひしと伝わってきた。
「へ、へぇ、引きずり出す方法は兎も角、高名な水の使い手のメイジ様ならお目通り叶うかもしれませんねぇ」
水のメイジ……こればかりはルイズに聞いてみなければ分からない、もしいなかったらさらに事態が悪化してしまう。
ますます悪くなるばかりの状況にバージルはギリと奥歯を鳴らす、この事態を長引かせた『水の精霊』、ただでは済まさん……。
「……そうか、代金だ、確認しろ」
「へい、確かに頂きました」
店主が差し出された新金貨の数を確認し、秘薬分の代金を受け取る、『精霊の涙』が手に入らなかったせいか、随分と安く済んでしまった。
バージルはそれを確認し、金貨の入った袋と、秘薬を受け取ると店の外に出る。
太陽は真上に来ており、陽射しが強くなり始めていた。
「きゅい……おにいさま?」
すると、今まで背中に張り付いていたシルフィードが話しかけてきた、
「何だ」
「ラグドリアン湖、そこはおねえさまのご実家の近くなのね、ちょっと心配なの、きゅい」
「湖の場所を知っているということか、丁度いい、そこまで道案内をしてもらう、無論最短ルートでだ」
そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、またもやシルフィードに道案内を命じる、
タバサの実家の安否に関してはまるで興味がないらしい。
さて、『精霊の涙』は手に入らなかったものの目的は一応達した、もうここには用はない、後は学院へ戻るだけだ、
その前にルイズと合流しなくてはならないが……、
そう考えていると、小走りでこちらに走ってくる桃色の髪をした少女、ルイズの姿が見えた。
さすが兄貴だ!シルフィにもフラグを立てる!そこに痺れるッ!憧れるゥッ!
「バージル!」
「ルイズか、用は済んだ、帰るぞ」
「あんた第一声がそれ!? 街の外で待ってなさいって言ったじゃない! なんで勝手に行っちゃうのよ!」
あまりにぞんざいな扱いにルイズが眉を逆立て怒りを再燃させる、
「コイツが秘薬屋を知っていると言ったんでな、案内させた……拾っていたのか」
しれとバージルが受け流すと、ルイズの手に握られたデルフをみる、どうやら回収されていたらしい。
「ひでぇじゃねぇか相棒! いきなり投げ捨てんなよ! マジで泣いちまっただろうが!」
「フン……行くぞ」
カチカチと訴えかけるデルフを無視すると、学院へと戻るべくルイズを連れ歩きはじめた。
ルイズは隣を歩くバージルをチラと見る、背中には相変わらずシルフィードがべったり張り付いている、
それなのにバージルは何も言わずに前だけを見ており、隣を歩くルイズなど気にも留めていないようだった。
「(何よ……わたしだってこんなに甘えたことないのに、こいつもこいつよ、なんで何も言わないのよ……)」
「何をブツブツ言っている」
そんな風にルイズがぼそぼそと呟いていると、バージルが横目でルイズを見た、
「なっ、なんでもないわよ!」
ルイズは顔を赤くしながら俯く、もし自分が今のシルフィードみたく思いっきり甘えたら……
バージルは何も言わずにこんな風に気にも留めないのだろうか?
そんな事を考えながらおずおずとバージルの手を握る、今回も握り返して来なかったが……
鬱陶しそうにもせず、振り払いもしなかった。
本当はシルフィードみたくおもいっきり甘えてみたい、けど気持ちが邪魔をしてそこまですることが出来ないルイズであった。
そんな風にして街の外まで歩き、人目のつかない場所まで移動したバージルはシルフィードに相も変わらず傲岸な口調で命令を下す、
「学院に戻る、変化とやらを解け」
「嫌なのね、おにいさまがシルフィのこと好きって言ってくれるまで背中には乗せてあげないのね」
だが、シルフィードはツーンとそっぽを向くと、両腕で自分の身体を抱きしめうっとりとした表情で体をくねらせながら口を開く、
「それで理想としてはぁ、こうぎゅうーっと抱きしめて、耳元で『愛している、シルフィード』そう囁いてくれるだけでいいのね!
……ふがっ! 想像したら鼻血がっ!」
「なっ! 何勝手なことを! ダメ! 絶対そんなことしちゃダメ!」
ボタボタと鼻から血を流すシルフィードを心底ウンザリした表情で見ていたバージルは踵を返し街へと歩きだした
「ちょっ、ちょっと、どこ行くのよ」
「馬車があったな、それに乗って行く、金がかかるが仕方あるまい」
バージルは呼びとめるルイズにそう言うと、さっさと街の中に戻ってしまった。
ルイズは少し安心したような表情を浮かべると……すぐにバージルの後を追う
「きゅいきゅいきゅい! 好きって言うだけなのに! ひどいのね〜〜〜〜!」
その場に取り残されたシルフィードはきゅいきゅいと喚きながら小走りで後を追いかけた。
「それで、探し物は見つかったの?」
帰りの馬車に揺られながらルイズが隣に座るバージルに尋ねる、
バージルは眉間に皺をよせ、不愉快そうに答えた。
「いや……一つ秘薬が手に入らなかった。明日ラグドリアン湖へ向かう、そこで『精霊の涙』とやらを調達する」
「そこってガリアとの国境にある湖よね、確か距離的に馬で二日かかるわよ?」
ルイズがそう言うとバージルががっくりとうなだれる、どうやら馬で移動することを想定していなかったらしい。
シルフィードならば一日とかからず到着できる距離なのだが、馬だと話は別だ
事態がさらに悪くなっていく状況にバージルがギリと奥歯を鳴らす、
案の定、その話を聞いていたシルフィードがずいっと身を乗り出し指でバージルを顔を撫でながら見つめてきた。
「うふふふ、おにいさま? 素直になるのね、一言シルフィのこと好きって言えば、そこまでびゅーんと乗せて行ってあげるのね!」
「断る」
それを鬱陶しそうに手で払いのけ冷たく一蹴する、意地でも言うつもりはないらしい
「言うだけなの〜〜〜! お願い言ってなのね〜〜!! きゅいきゅいきゅい!」
「ふんっ、ざまぁみなさい」
ルイズが腕を組みじたばたと駄々をこねるシルフィードを見ながら鼻で笑う、
同時に少し不安になる、目的の為なら手段を選ばないバージルが、どうしてここまで拒否するのだろうか?
そりゃ正直なところ、ギーシュの様に好きだ、とか、愛していると囁くこの男を想像することが出来ない、
出来ないのだが、バージルはその言葉自体、口に出すことすら嫌っている、そんな感じすらする。
誰も同意してくれないが、怒ってる時のルイズが一番可愛いSHIEN
「ところでルイズ、水のメイジに誰か心当たりは?」
そんな風に考えていると不意にバージルが話しかけてきた、少しビクっと反応するとルイズは答える。
「えっ、水のメイジ? それだったらモンモランシーがそうね」
どうやらこれ以上の事態の悪化は防げたようだ、首根っこを掴んででも連れていけば問題ないだろう
「あ、そうだ、おにいさまに買ってもらった串焼き! 食べるのね! きゅい!」
バージルがそんな事を考えているとシルフィードがなにやら思い出したかのように持っていた包みを開け、中から串焼きを取り出した、
冷めてしまっているのだろうが、タレのいい香りが漂ってきた。
「はいっ、おにいさま! 一緒に食べるのね!」
「……いらん」
バージルは目の前に突き出された串焼きを鬱陶しそうに手で払うと、足を組み目をつむってしまった。
「もぐもぐ……、おいしいのね! だから一緒に食べるの〜〜! きゅいきゅい!」
串焼きを食べながら落ち着きなく騒ぐシルフィードをよそに、ルイズがバージルのコートの裾を引っ張る
「……何だ」
「ねぇ、シルフィードに買ってあげたのって……あれだけ? 他に買ってあげたんじゃないの? 正直に言いなさい」
「何の話だ」
低いトーンで話すルイズに何の話だかさっぱりわからないと言わんばかりにバージルが返す
ルイズはむっとした表情になりながら口をへの字に曲げ質問を続ける
「とぼけないでよ、シルフィードと一緒に宝石店に入ったでしょ? わたし見たんだから……」
「宝石店? あの女から受け取った宝石を金に替えただけだ、他に何の用がある?」
その言葉にルイズの顔からサーっと血の気が引いてゆく、もしかしてわたし、とんでもない勘違いを?
「ほ、本当に? 何もしてない?」
「他に何をするというんだ、こいつに聞け」
バージルはそう言うと、シルフィードへと視線を送る、相変わらず串焼きをパクパクと幸せそうに食べていた。
「シ、シルフィード? バージルにそれ以外に何か買ってもらった?」
「きゅい? シルフィはこれだけで十分幸せなのね! もうおにいさま以外いらないのね! きゅいきゅい!」
「やめろ、コートが汚れる」
シルフィードがタレでベッタベタになった口元を拭おうともせずにバージルに頬を摺り寄せてきた
それを鬱陶しそうに払いながらルイズを見る、ルイズの顔は生気を失ったんじゃないかと思われるくらいに真っ青になっていた。
「顔色が悪いぞ? 吐くなら外だ、この速度なら飛び出しても問題あるまい」
そんなルイズを心配することもせずバージルが窓の外を顎でしゃくる、いざとなったら外に飛び出せということらしい。
「べべべべべべべ別になななななな何も? よよよよ酔ってなんかななななないわよ?」
ルイズがしどろもどろになりながらブンブンと首を横に振る、そんな態度に不信感を抱いたのかバージルが静かに口を開く。
「……何か、余計な事をしたのではないだろうな?」
「なななななんにも!? なんにもしてないわよわわわわわわたし!」
ジト目で睨みつけてくるバージルから必死に目をそらす、汗が滝のように流れてきた、手に持ったデルフが何も言わないのが救いだ。
もしバージル名義で思いっきり買い物をしたとバレてはどうなるか分からない……
しかも請求書が届いたら一巻の終わりだ、それまでに何とかして対処法を考えよう……ルイズは堅く心に誓うと馬車の隅で小さくなってしまった。
学院につくまでルイズは黙ったっきり一度も目を合わせなかったという。
支援
日も傾き始めたころ、ようやく学院へと到着したバージル達は、
すぐさまモンモランシーの部屋へと移動する、
部屋の中で準備を進めていたモンモランシーに調達した秘薬を渡し『精霊の涙』が手に入らなかったことを伝えた。
「それで? どうするのよ、『精霊の涙』がなければ解除薬は完成しないわよ?」
自分の命がかかっているにも関わらずどこか他人事のような口調でモンモランシーが肩をすくめる、
「決まっている、売ってないのであれば直接取りに行くまでだ」
そんなモンモランシーの態度に眉を顰めながらバージルは言葉を続ける。
「無論貴様にもラグドリアン湖に来てもらう、水の精霊とやらを引きずり出すのに協力してもらう、拒否は許さん」
その言葉を聞きモンモランシーはいかにも行きたくなさそうな声を上げた。
「えええええ!? 学校どうすんのよ! それに水の精霊は滅多に人前に姿を現さないし、ものすごーく強いのよ! 怒らせちゃったりしたら大変よ!」
「モンモランシー……、この状況下でよくそんなことがいえるわね……」
ルイズが心底呆れたようにモンモランシーを見る、ここまでくると尊敬の念すら覚える。
「私は絶対に行きませ――」
そこまで言ったモンモランシーの言葉が止まる、
鼻の先1サント手前に妖しく光を放つ閻魔刀の切っ先が突きつけられていたからだ
「何か言ったか?」
「――す……行きます……」
これ以上ないほどの殺意がこもった視線を浴びへなへなと座り込んだモンモランシーは顔を青くしながらコクコクと頷いた。
「では、明日の早朝に出発する」
バージルがそう言うと閻魔刀を納刀する、するとシルフィードが背中におぶさるように抱きついてきた。
「きゅいきゅい! おにいさま知っていらっしゃる? ラグドリアン湖に伝わる伝説!」
「知らん、興味がない、離れろ」
淡々と言葉を並べ腕を振りほどこうとする、しかしシルフィードは構わずに言葉を続けた。
「ラグドリアン湖に住む水の精霊! その前でかわされた誓いは決して破られないって言い伝えがあるのね!
シルフィとおにいさまは、そこで永遠の愛を誓うのね! きゅいきゅいきゅい!」
「なっ! 何言ってるのよ! そんなこと絶対させないわよ! っていうかバージルから離れなさいこの雌竜ぅぅぅ!!」
その言葉を聞き真っ赤になりながらルイズがシルフィードを後ろから羽交い絞めにしてバージルから引きはがした。
そんな中シルフィードの拘束から解放されたバージルはコートを手で払いながら何やら苦々しげな表情を浮かべる
「愛だと? くだらん……」
憎悪すら感じさせるバージルの呟きは騒ぐルイズ達によって掻き消されていった。
後書き+言い訳
これにて投下は終わりです、ご支援感謝
普段殺伐ツンツンとしてるんでこのくらいはっちゃけてもいいかなと思い
このような暴挙に出たことを深くお詫び申し上げます、だってまぁバージルがダンテに勝てなかった理由、それはクレイジー分不足だったからでしょう
宝石店で宝石売れるの?って質問は野暮だぜHAHAHA!
タバサがあんまり文句言わないのは、性格の問題と、シルフィードと感覚を共有してるんじゃね?ってことで、使い魔経由でおいしい思い。
好きって言ってやれよ、と書いてて思うけど、あくまで俺の自己解釈ですが、思慕の情というか、
愛はバージルが最も嫌う人間の感情だと思うんです、3で親子愛すら否定しましたからね、ハゲの芝居だったけど
例えそれが本心にないことでも、そう簡単に好き、とか愛してる、とか言ってくれんでしょう、もしかしたら一生言わないかもしれませんが。
そんな感情が自分の中に芽生えたとしても、必死に否定しにかかるでしょうね、認めてしまえば人間としての自分を認めることに繋がりかねませんから。
そんでもって、タバサは…ダークスレイヤー度が進んでますね、どうやってブレーキかけてやんべ……
ではまた次の投下に…応援してくださる方がいる限り、俺のDTゲージは減りません
やっちゃったZE☆
支援
バージルの人GJ!
あぁやっちゃったよルイズwwww
wktkが止まらない。
これだけの作品を読んで「やっぱりルイズは可愛いな」にたどり着いしまう俺は多分もう末期w
作者さま乙ッス。
乙
あとルイズ墜つ?
投下乙
ルイズ・・・
身から出たサビだ。
頭を丸めるしかないなw
乙です。
そっか、主人が死んでも契約は切れるんだっけ・・・時間の問題かな?
僕の小規模な使い魔生活
もっ もっ もっ もっ )))
乙
そろそろマジギレしそうだなバージル
ルイズ・・・そんなに自殺したかったのか
370 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:45:26 ID:jWGMA7Eb
ゼロの花嫁16話、20:55より投下します
371 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:55:19 ID:jWGMA7Eb
ゼロの花嫁16話「帰郷」
シエスタはきょとんとした顔でルイズの話を聞いていた。
「はぁ、実家にですか」
「そうよ、貴女も偶には実家に顔を出して両親を安心させてあげなさい」
ルイズ達が実家に帰るに伴い、ルイズはシエスタも自分の実家に戻ってはどうかと持ちかけたのだ。
「仲が悪いとかなら、無理には勧めないけど」
シエスタはぶんぶんと首を横に振る。
「いえいえ、そんな事はありませんが……そうですね、私も実家には随分と顔を出してませんから」
モット伯の一件以来、ルイズは随分とシエスタに目をかけていた。
シエスタの身柄は学院からモット伯へ移動し、そこからルイズが強奪してきたのだが、その罪が不問になったという事で現在はルイズ達の共有財産のような扱いになっている。
学長に話を通し、従来と同じ立場で働けるように取り計らってもらったのだが、他の使用人とは違い、ルイズ、キュルケ、タバサの専属となっている。
給金は学院から出る形にしてあるので、この三人の専属にする必要は何処にも無く、学院のメイドとして働くのが正しい姿だ。
しかし、実際問題やたら生傷の耐えないこの三人プラス一人は、特に注意して世話をする必要があり、又他の使用人は恐れおののいて世話をしたがらないという問題もあり、今の形に落ち着いている。
なので四人の内三人が出かけるとなると、急に仕事が無くなってしまうのだ。
現在学長オールドオスマンともツーカーである彼女達の話ならば、問題も無いだろうとシエスタは考える。
同じ事を使用人達のリーダー格であるコック長マルトーも言ってくれたので、シエスタは有り難く休暇を頂戴する事にした。
貴族嫌いで通っている(そんな男が貴族だらけの学院で働くなとか言うな)マルトーであったが、モット伯の件以来、問題児四人組への心証はすこぶるよろしい。
元々時々燦が調理を習いに調理場に顔を出していたので、マルトーも燦の素直さ優しさを知っているというのもあったが。
部屋で荷物をまとめているシエスタの目に、数枚の紙きれが映る。
燦が調理を覚えるのに使っていた紙だ。調理場にあると邪魔なので、シエスタが部屋に持って来てあったのを忘れていた。
これを初めて見た時、何処か引っかかる物があったのだ。
それが何なのか、荷物まとめをそっちのけで考え出すシエスタ。
燦の居た国の言葉らしく、全く読めない。何とも角々しい文字だと思ったものだが……
シエスタはぽんと手を叩く。
「そうだ、何処かで見たと思ったら、確か曾おじいちゃんの……」
似ている。……と思う。多分。いや、見たの随分前だから記憶に薄いのだが。
曽祖父の遺言に、石に記した文字を読める者に竜の羽衣を譲ってくれというものがあった。
ちょっとした興味から、シエスタは燦のメモも荷物に詰め込む。
直接見てみればわかるだろう。そう思ったのだ。
ぼけーーーーーーーっとした顔でベッドから起きると、窓から差し込む光はそろそろお昼が近い事を教えてくれた。
随分長い事規則正しい生活を続けていたが、ここに帰ってきてからは毎日この調子である。
寝ぼけ眼で頭を掻くと、寝癖で固まった髪がぴんと真上に突き上がってる事に気付く。
直すのメンドイ。
見せる相手も居ない事だし、と自らに言い訳をして居間に向かう。
とうに起き出して朝食を済ませ、更に午前中の間子供達を相手にきっちり遊び相手をしてやり、ついでに昼食の準備に取り掛かっていた愛する妹は、困ったような顔でこちらを見ていた。
「マチルダ姉さん、もうっ、今日もこんな時間ですか?」
目に入れても痛く無い程可愛いとはこの事か。
妹分であるティファニアの声を聞くだけで、何とも幸せな気分になれる。
「休暇の時ぐらいは勘弁してよ。テファ、今日のお昼は何かしら?」
テファはテーブルを整え、昼食の準備をしてくれた。
この素朴な味がたまらないのよね、貴族向けの豪勢な食卓何て目じゃないわ、とばかりににこにこしながらご飯を頬張る。
わたくしことロングビル兼、土くれのフーケ兼、マチルダ・オブ・サウスゴータは、学院から盗み出した宝を知り合いの商人に叩き売った後、アルビオンにあるウエストウッド村に帰ってきた。
足元見られたとか、もうそんな事はどうでも良かったわ。
372 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:55:43 ID:jWGMA7Eb
アレ見てるとそれだけで泣きたくなるぐらい、情けない気分にさせられるんですもの。
アニエスにも一言も無し。まあ、何か言えって言われても何も言えないんだけどね。
平民じゃ一生かかったってお目にかかれないようなお金もある事だし、しばらく盗みする気も起きないし、のんびりさせてもらうわ。
食事も終わったし、仕方が無い、たまには子供達の相手もしてやるか。
と、勢い込んで外に出たものの、日差しが眩し過ぎて立ちくらみを起こしそうになる。
まーずいわ、これ寝すぎだわきっと。
やっぱり食っちゃ寝の生活は良くないわねぇ。楽だけど。心底幸せだけど。
他所じゃ戦争やってるって話だけど、この辺はのどかなものよね。
尤も、地図にもないような村にわざわざちょっかい出しに来る程、軍も暇じゃないでしょうけど。
知人の商人の話はどうやら確かであったようで、アルビオン軍はそこらでぼっこぼこにやられてる。
程なく反乱軍に制圧されるだろう。
うん、ざまーみろ。
いっそ手貸してトドメ刺してやるのも悪く無いわね。
ま、めんどーだからやらないけどー。勝ち戦なんて乗った所で報酬なんてたかが知れてるし。
確かに王家に腹は立つけど、そんなものここでの日々に比べればゴミ屑みたいなものよ。
テファは可愛いし、子供達もすくすくと小生意気に育ってくれてるし。
こいつらがもっと成長してくれて、自分で働けるようになれば後はもう悠々自適よ。
流石にそこまで引っ張れる程今回の稼ぎは大きくないけど、まー当分は……
ハタと気付く。
あるびおんぜんどでせんそーですか? それってそれって、もしかしてまたそこら中で孤児とかぼろぼろ出てくるんじゃない?
言うなれば身内同士の争いだから、そこまで平民達の被害は大きく無いとは思うけど、やっぱり被害は出るはず。
マズイ。究極にピンチ。牛車一杯のはしばみ草を凝縮搾り出し100%天然素材ジュースよかヤバイ。
いえいえ、冷静になって考えなさい。
ここまで逃げてこれる孤児なんてそうそう居ないわよ。
幾らなんでもウチのガキ共拾ったみたいな話がまた起こるなんて、そんな都合の良い、というか悪い話はそう無い、はず。
でもなぁ、私最近運悪いから……ここ一番でエライのに出くわす何て事ありそうで嫌。
子供達に走り回らされながら、一緒になって遊んでいるテファを見る。
あー、やっぱ私がやるしか無いわね。
常に二手三手先を読んで動いているからこそ、テファはああして何時でも笑っていてくれるのよ。
あの笑顔を守るのは私なんだから。
おしっ、決めた。例の件やる。
物凄く落ち込んでた事もあって、手出すの止めようと思ってたけど、うん、やっぱりチャンスは見逃すべきじゃない。
アルビオン王家に一泡どころか、末代まで呪われるぐらいのお怒りを買うよーな作戦。
ばーか、死んじゃったらそれまでなのよ。せいぜい墓の下で泣き言言ってなさい。
そう、アルビオン王家に恨みつらみを叩きつける作戦名「アルビオン火事場泥棒大作戦」よ!
王家の貴重な宝物を、何処かに持ち出す前にちょろまかしてやろうという激イカスプロジェクト。
盗賊土くれのフーケの悲願、アルビオン王家から宝物を盗むという洒落にならないミッションも、今の状況ならチャンスはある。
くっくっくっくっく、代々必死になって守ってきた王家の宝物を、ゴミか何かみたいにそこらの商人に売り飛ばしてやるわ!
大まかな段取りは頭の中にあるけど、細かい所の詰めはしなくちゃならないわね。
さー、忙しくなるわよー。
ごめんねテファ。私またちょっと危ない橋渡る事になるけど、きっと無事に帰ってくるから。
何、私に任せなさい。がっつり稼いで今度こそ長期休暇取る事にするから。
373 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:56:26 ID:jWGMA7Eb
貴女の笑顔は……
でも、同時にもう一人の笑顔が脳裏に浮かんだ。
きっと、怒ってるだろうなぁ。
私との関係疑われて、取調べとか受けてなきゃいいけど。
「ロングビルがそんな真似するはずがない!」なーんて言ってたりしたら再起不能かも。主に私が。
ごめん、何て、言えないわよ。
許してくれるはず、無いもの。
また何処かで会って、久しぶりって、声をかける事も出来ないもの。
私のやってる事って、つまり、そういう事だもの。
ごめん……ごめんねアニエス。
三人での道中はつつがなく進み、ルイズ達はキュルケと別れ、実家へと向かった。
一報は入れてある。返信曰く、エレオノールも呼んで久しぶりに家族全員での時間が取れるとの事だ。
今回は怒られるような事もしでかしてないので、ルイズも気楽なものである。
無論、ガリアの王族拉致って来たのがバレたら、前回の比ではない程怒られるであろうが。
『……いや、怒られるっていうか、そのままヴァリエールの家に生まれた事すら無かった事にされそーよね』
一応ルイズもしでかした事の大きさは理解していた。
だがまあ、それでもタバサの立場考えれば他に選択肢もあまり無かった訳で、後悔なぞは欠片もしていない。
いつまでもこのままで居る事も無理だろう、だが、せめて後少しの間ぐらいは、離れ離れであった母との時間を取ってあげたいとも思うのだ。
それが甘いと言われれば、ごもっともと答えるしかない。
「……やっぱり私って行き当たりばったりなのかしらね」
そう愚痴を溢すと、燦は不思議そうな顔でルイズを覗き込む。
「どうしたん、急に」
「もうちょっと考えて行動しないといけないわね、って話よ」
耳が痛いのか、燦も眉根に皺を寄せる。
「うー、私もよくそれ言われるー」
「せめて実家に居る間ぐらい、お互い良い子にしてましょう。心配ばっかかけてるしね」
ふと、燦が俯く。
物思いに耽っているのか、目線を落としたまま黙り込む。
燦が何を考えているのかも想像はついたが、今のルイズに出来る事は無い。
『やっぱり、燦もご両親の元に帰してあげないといけないわね……』
それは想像するだけで寂しくて泣いてしまいそうな事だが、主人として、燦の面倒を見ている者として、絶対にやらなければならない事だと思っているのだ。
ルイズと燦の二人は領地に入る。
途中幾つか領地に関する説明を燦にしてやった所、目を丸くしていた。
「ウチのシマよりデッカイでー。それにあのお屋敷! まるでお城みたいじゃ!」
見慣れた風景なので、ルイズはその大きさにはさしたる感慨も無かったが、燦が驚き、目を輝かせているのを見るのは嬉しい。
「サンの家も領地を持っているの?」
「うーん、どっちかというとルイズちゃんのはお役人さんとかじゃろ。私の実家はヤクザだから、領地というのとはちょっと違うんよ」
374 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:57:27 ID:jWGMA7Eb
信じられないといった顔で肩を竦めるルイズ。
「ヤクザ……ねえ。こっちじゃ犯罪者の集まりでしか無いし、サンがそこの出と言われてもピンと来ないわ」
ルイズの言葉に燦は憤慨する。
「そういうんはヤクザ言わん! チンピラじゃ! ヤクザは心に任侠を持ってないとイカン! ルイズちゃんにもブン太・ウィリスの活躍見せたげたかったな〜」
燦が映画役者の名前を挙げると、ルイズは興が乗ったのか詳しく聞こうとする。
「リーサル任侠って映画があってな! それで……」
嬉々としてブン太・ウィリスの話を始める燦。
そして長い事燦に毒されていたせいか、ルイズにもブン太・ウィリスの良さが伝わってしまう。
仁義やら極道やらて、いやもうそれ女の子の話題じゃないだろう。といったツッコミをしてくれる者は誰も居なかった為、二人は屋敷に入るまでそんな話を続けるのだった。
入り口まで辿り着くと、かなり前からその馬車を捕捉されていたのか、待ち構えるように使用人達が整列していた。
そしてその中心に、ルイズにとっては懐かしい、一番会いたい顔があった。
「ルイズ!」
「カトレア姉さま!」
顔を見るなり駆け寄り飛びつく。
とても斬った張っただの「往生せえやド外道がああああ!」だのの話で盛り上がっていたとは思えない無邪気さだ。
燦も一応見た事があるエレオノールも既に来ていたのか、ルイズの出迎えをしてくれていた。
「ほら、二人共早く入る。お父さまもお母さまもお待ちよ」
ヴァリエールの美人三姉妹。
流石に三人揃うと壮観である。
燦は仲睦まじく話す三人を惚けたように見ていた。
ルイズとカトレアはエレオノールに引っ張られるように屋敷の中へと入っていく。
慌てて燦も後を追おうと思ったのだが、屋敷の使用人が荷物を預かり、それが当然であると言わんばかりに別室へと案内しようとする。
そういうものかと燦は納得して使用人に任せようとしたのだが、ルイズがそれを止める。
「サン、貴女もいらっしゃい。みんなに紹介しなきゃならないんだから」
部屋に入ると、家族が寛げる居間のような場所があり、父母が揃ってゆったりと椅子に座っている。
燦にはルイズの席の後ろに控えるように言い、何時もそうであった椅子に座る。
執事達は何も言わずとも家族分のお茶を用意する。
この時出される焼き菓子を、幼い頃のルイズはとても楽しみにしていた。
懐かしい、父も、母も、エレオノール姉さまも、カトレア姉さまも、ずっとそうであったように、自然に家族の中での居場所に着く。
帰ってきた。そうはっきりと自覚出来た。何も変わらない実家は、それだけでとても嬉しいものであった。
父母とエレオノールは既に半月程前にルイズと食事をしている。
だから少し遠慮したのだろう、今はカトレアがルイズを質問攻めにしている。
それを皆が楽しそうに見ている。ルイズも楽しかった事や、面白かった事ばかりを並べて姉を楽しませようと頑張った。
しばらくそうしていると、カトレアは少し疲れたのか質問攻めを一段落させる。
そこでふと、ルイズは燦の事を思い出した。
「そうだわ、紹介しなくっちゃ。こちらはサン、私の使い魔なのよ」
誇らしげにそう言ったのだが、家族一同、物凄く微妙な顔になった。
真っ先に口を開いたのはエレオノールだ。
「平民の使い魔? それ本当に使い魔なのかしら?」
内容も容赦無い。ルイズはムキになって言い返す。
「本当だもの! ほら、手の甲に使い魔の紋章だってあるわ!」
胡散臭そうにしながらエレオノールは燦の紋章を確認する。
確かに「書いた」物ではない。
エレオノールのアカデミー在籍は伊達ではない。それを見抜くぐらいは出来る。
「……でも、見た事無い紋章よね。これ、調べたの?」
そういえばコルベールが随分前に調べると言ったっきりだ。
「いえ、先生にお願いしてそれっきり」
「使い魔召喚の儀式からどんだけ経ってるのよ……全く、怠慢よね」
すっと燦から手を離すエレオノール。
375 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:57:53 ID:jWGMA7Eb
「まあ、どの道平民じゃ大した事も出来ないでしょうけど」
こんな事ばかり言っているからルイズに嫌われていると思われるのだが、どうにもこの性分は治せない模様。
「違うもん! サンは凄いのよ! 本当に強いんだから!」
「あら、強いって言われてもねぇ。平民同士の間でどれだけ強かろうと物の役に立たないのは一緒じゃないかしら?」
「そんな事無いっ! サンならメイジにだって負けないわよっ!」
無茶苦茶言い出すわねこの妹は、なんて可哀想な物でも見るかのようにルイズを見下ろすエレオノール。
「……そう、じゃあ試してみる?」
売り言葉に買い言葉。
「ええ、いいわよ! サンならどんなメイジにだって負けないんだから!」
燦は燦でおろおろしてるが、話は当事者抜きで進んでいく。
「そうねぇ……なら、そこの壷。あれ確か固定化かかってましたわよね。あれを割れたら、認めてあげても良くってよ」
ぎょっとした顔の公爵に誰も気付かない。夫人はただ見守るのみ。カトレアは、やはり燦と同じくおろおろしていた。
ルイズは即座に了承した後、実際に壷を自分で持ってみる。
「うん、これなら余裕ね」
結構な重量があるはずなのだが、片手で軽々と持ち上げている。
その不自然さに家族達が眉をひそめている間に、ルイズは燦に立ち位置を指定する。
「そう、そこの少し後ろなら剣振っても大丈夫ね」
燦は背中に刺した剣を握りながら、あまり乗り気でない模様だ。
「……その、本当にええの? それ、結構高いんじゃ……」
「構わないわ! さあ行くわよ!」
いや構おうよ、そんな気配を醸し出しつつ片手を上げかける公。
ルイズは無造作に、手首だけを返して壷を放り投げた。
その瞬間が見切れたのは、ルイズと公爵夫人のみ。
がらん、という音と共に壷が床に落ち、綺麗に二つに分かれて倒れた。
ルイズはそれ見た事かと得意気に胸をそらす。
カトレアは目を丸くして驚いた後、ぱちぱちと拍手を送った。
訝しげに壷に歩み寄ったエレオノール、二つに分かれた壷を手に持って確認するが、不正が行われた証拠を見つける事は出来なかった。
不意に、公爵夫人が発言すると、他の全員は目を剥いた。
まさか平民に夫人が声をかけるなど、誰も予想していなかったのだ。
「サン、と言いましたね」
「は、はい」
「その剣は何処で?」
公爵もカトレアもエレオノールも、燦の持っている剣にこそその秘密がある、それを見抜いた故夫人はそんな言葉を口にしたと思った。
「えっと、私の実家におる政さんって人に教わりました。ホントに強い人で、組内でもヤッパ、じゃない剣振らせたら一番なんよ」
何を勘狂った答えを、と皆が思ったのだが、どうやら燦の答えで正解のようで、夫人は更に仰天するような言葉を口にした。
「そうですか。マサ、ですね、覚えておきましょう。貴女のその腕だけならば王室の直衛を任せてもいいくらいですわよ」
彼女が誰かを褒めるなどそれこそ滅多に無い事なのだが、それをよりにもよって平民にするとは。
呆気に取られ言葉を失う面々。
やはり最初は同様に驚いていたのだが、自分の使い魔があの母に認めてもらえたという事に気付いたルイズは、歓喜に震える。
これだけで燦を使い魔にして良かったと思える程、嬉しかった。
燦はその凄さがわかっていないのか、照れくさそうに礼を言う。
「えへへ、ありがとう……」
「あ、ありがとうございます!」
燦の語尾に重なるように、ルイズは感動を口にした。
いやさ、何で誰もあの壷の価値に関して言ってくれないのかなー、とか公爵は一人でちょっといじけていた。
キュルケが実家に戻ると、久しぶりだというのにいきなり説教であった。
決闘騒ぎは大目に見てもらったが、その後のモット伯の件は笑い事では済まなかったらしい。
376 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:58:28 ID:jWGMA7Eb
しかも説教の最中に話がずれてきて、婿を取れだのなんだのとぎゃいぎゃい騒ぎ出した。
適当に相槌だけして、早々に話を切り上げる。
何やら婚約者の候補が云々言っていたが、知らぬフリをして放置する気満々だったので、どうでもよい。
それより、ここに来た目的の一つを果たさねば。
オールドオスマンは既にミス・ロングビルをゲルマニアの貴族だと吹聴してまわっている。
後付けもいい所だが、それを真実にしてやらなければならない。
ただ貴族位でありさえすればいいのではない。誰かが調べても、確認出来ぬ状態でなくばならないのだ。
これは単にロングビルに貴族位を与える作業にあらず。
彼女の出自が正当なものだと証明する事で、今のオルレアン大公夫人の偽装をより完璧にする為の仕事なのだ。
老いてボケた没落貴族。娘が既に没していると尚よろしい。
そんな条件に合う相手を探すのも一苦労だ。
調べ物を進めるキュルケは、もう一つ、考えている事があった。
実家には偉大な先祖の軌跡が記された書物がある。
この中から「火」のメイジとして勇名を馳せたご先祖の記録を引っ張り出す。
「……そう、これよ。確か、この人たったの一撃で百人を薙ぎ倒したのよね……」
キュルケはそれがどのような魔法であったのか、何としてでも突き止めてやろうとここへ来たのだった。
晩餐になると、燦は席を外し家族のみとなる。
やはり話題はルイズの事が多い。
長い間家を空けていたので無理もないのだが。
そこでルイズが何の気無しに言った言葉が、ヴァリエール公とエレオノールを硬直させる。
「魔法ですか? 私まだ使えませんわよ?」
カトレアはそれを口にするルイズの心情を慮ってか、すぐに話題を逸らしてくれた。
しかしヴァリエール公は呆気に取られ、対ルイズ諜報戦を任せているエレオノールに耳打ちする。
「エレオノール、ルイズはまだ魔法が使えないのか? いや、それでどうやって決闘やらモット伯やらを……」
「わ、私もびっくりしましたわ。使い魔も居る事ですし、てっきり……」
「あの異常に強い使い魔がやったという事か?」
「それで一応納得出来ますけど……モット伯ってあの波濤のモット伯ですわよね? だとしたらメイジ殺しなんてレベルじゃありませんわよ」
「そもそも固定化を剣で破るなぞ、おかしいだろう。アレ人の皮を被った別物なのではないか?」
「ありえますわね……後であの紋章もう少し調べてみますわ。それで何かが解るかもしれませんし」
うんうんと頷き合う二人。
エレオノールは良い機会と、更に調査の結果を公に報告する。
「学院では決闘の際味方であったタバサという子と、忌まわしいツェルプストーの娘、そして使い魔の子とルイズの四人で何時も行動しているようですわ」
「ふむ、見るからに劣悪な環境だな。そのタバサという娘は何者か?」
「トライアングルメイジで、シュバリエの称号を持つガリアの貴族らしいのですが、それ以上詳しい事は私でも調べられませんでしたわ」
他にはルイズに関わる事多い人物は居ないのか、という問いにエレオノールは更に二人の名を上げる。
「グラモン家の四男、これはルイズに決闘で負けた惨めな男ですが、こいつがしつこくルイズに付き纏っているようですわ。後は、そう、これは朗報なのですが、そのグラモン家の四男の恋人、モンモランシ家の娘とも仲が良いようです」
公は眉をひそめる。
「恋人が居るにも関わらずルイズに付き纏っているだと?」
「付き纏うというか、ルイズに負けたのが悔しいのか何度も挑戦して、その度負けてるようですわ」
愉快そうに鼻で笑う公。
「それはそれは、無様極まりないな。元帥もこのような不甲斐ない息子を持ってさぞ嘆かれている事だろう」
「残りが優秀ですから気にもしていないのでしょう。一番年が下なので溺愛してるそうですわよ」
続けてエレオノールはグラモン家の内訳を説明する。
皆一線級の仕官ばかりで、特に長男は年若いながら、尚武を誇るグラモン家の軍を率いる器であると。
公は怪訝そうな顔になる。
「良くそこまで調べたな」
377 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:58:56 ID:jWGMA7Eb
はたと気付いたエレオノールは、真っ赤になってぶんぶんと手を振る。
「い、いえ! たまたまですわ! その、たまたま詳しい人間に聞いただけですからっ!」
急に焦り出したエレオノールを訝しげに見つつ、公は一安心とワインを手に取る。
「いずれにしても、ルイズにあらぬちょっかいをかける者はおらぬという事だな。それは重畳」
いい加減子離れしろと思わないでもないが、まあ気持ちはわかるので黙っているエレオノール。
安心した故の公の冗談であろう、普段なら口にしないような事を陽気に話す。
「ルイズ、学院でお前のめがねに適うような男はおるのか?」
少し考えた後、ルイズはにこっと笑って答えた。
「誰も彼も、百年早いですわ」
公は膝を叩きながら声を上げて笑う。
「はっはっは、そうであろう、そうであろう。ルイズをレモンちゃん呼ばわり出来る男もそうはおるまいて」
口に含んだワインをぶちまけそうになったエレオノールは、母の前である為、必死になって口元を手で抑える。
当のルイズは不愉快そうに眉根を寄せた。
「れ、レモンちゃんって……平民ですら恥辱の余り自ら命を絶つような言葉、誰が使うというのですか」
「はっはっはっはっは、その通りだ。全く最近の若い者達は色だの恋だの節操が無くていかん。ルイズのように節度を持ってこその貴族だというに」
上機嫌の公と、肩を揺らしながら何とかワインを喉の奥に流し込んだエレオノール。
公にだけ聞こえるよう、エレオノールは小声で話す。
「お、お父さま……もしかしてあの本の続き、お読みになりましたか?」
遅ればせながら、公は致命的な失言をしてしまった事に気付く。
片眉が跳ね上がり、引きつった顔で、ギギギと首が音を鳴らしながらエレオノールの方に向き直る。
「……も、もしかしてエレオノール。お前も……その、読んだ……のか?」
ぼっと火がついたように赤面するエレオノール。
二人はお互いから目を逸らし、以後、二人の間に物凄く気まずい雰囲気が流れるのだった。
人を遣って手配させていた爵位の件はどうにか良い物が見つかりそうだ。
日中にキュルケ自身が出向いて確認した元持ち主の零落っぷりはいっそ見事な程で、もう二十年以上も前に娘は借金のカタに売り飛ばしたと言っていた。
ならばその更に娘が居たとしてもおかしくはない。当時娘は17歳、その後の消息は不明であった。
縁者も居るが、売り飛ばした娘の面影を覚えていそうな者もおらず、条件は完璧にクリアされた。
話を聞きに来たと知ると、老人は年老いた体に相応しいしょぼしょぼとした目を爛々と輝かせ、金銭を要求してきた。
以前ならば嫌悪感しか抱かぬはずの態度にも、キュルケは悲しそうにじっと見据えるだけだ。
調査によって彼の今までの人生を知ってしまったキュルケは、無為と知りつつ、小金を握らせてやった。
人を救うのに必要な物は、同情や僅かな金銭ではない。
人事ながら、今回の件でそう、思い知った。
力量さえあれば幾らでも上を目指せるゲルマニアの風土を、嫌いになったのはこれが初めてであった。
帰り道、品の良さそうな顔立ちの婦人が、魚屋の入り口で店主と大喧嘩をしてるのを見た。
身なりは平民そのもの。怒鳴り声もとても貴族のそれとは思えぬ下品な口調だ。
それでも、キュルケは行方知れずになった娘が、こんなきっぷの良い婦人に成長して元気にやってると、そう信じたいと心から思ったのだ。
シエスタが実家に戻ると、久しぶりとの事で家族が総出で出迎えてくれた。
元気な姿を見せればきっと喜ぶ、そう言ってくれた主人の心遣いに感謝するシエスタ。
食事を共にし、学院での様々な事を家族に語ってきかせると、田舎の事しか知らぬ家族達は皆目を丸くして聞いてくれる。
そしてこれが一番大事とばかりに、ルイズ達がシエスタを救ってくれた顛末を滔々と語る。
父はモット伯の元に行くという話を聞いた所で激怒し、母はルイズが傷だらけになりながら助けてくれたと聞いて顔中を蒼白にした。
そして大団円。
シエスタは家族に、自分は以後、命を賭してミス・ヴァリエールにお仕えすると告げる。
378 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:59:21 ID:jWGMA7Eb
皆大きく頷き、良き主人に巡り会えたシエスタの幸運を喜んでくれた。
兄妹達は、とても信じられないと口にするが、シエスタはムキになって言い返す。
確かに、貴族が平民一人にそこまでするなどとても信じられる話ではない。
何か勘違いしている部分もあるのだろう、両親はそう思い、話の内容に驚きながらも話半分と考えていた。
それにしてもシエスタが恩を受けたのは恐らく本当であろうから、ならば聞き流しても問題はあるまいと。
しかし、実家に戻った翌日、兄妹が戯れに外でその話をした所、流れの行商人が仰天する。
「おいおい、ヴァリエール家のご息女って……それってあのモット伯晒し者事件の事じゃねえのか!?」
彼はトリスタニアに居て事の顛末を、市井レベルではあるが良く知っていたのだ。
あんまりな話の内容に、馬鹿にしていた村の若い衆達も、良く村にも顔を出してくれる行商人までもが言い出した事に驚き、確認せねばとシエスタを呼び出す。
そこでシエスタは初めて、その一件が王都を賑わす程の大事件になっていた事を知る。
何せ学院の中のみで生活している為、外の時事ネタにはどうしても疎くなりがちなのだ。
行商人は興奮した口調で語る。
教会の尖塔に吊るされたモット伯の顔は俺も見た。もう血だらけで誰が誰だかわかりゃしねえんだこれが、だの。
何でも噂じゃ本来とても許されないような罪なのにお咎めなしなのは、ヴァリエール家の威光で他の貴族を黙らせたせいだ、だの。
トリスタニアで気の利いた奴なら誰でも知ってる、ヴァリエール家のルイズ様は平民にも優しい女神様みたいな人だって、だの。
真っ青を通り越して蒼白になるシエスタ。
そんな事は何も聞いていない。私は何も知らなかったというと行商人は訝しげな顔になる。
「おいおいおいおい、あんだけの騒ぎの中心だったんだろ? ルイズ様は何もおっしゃらなかったのか?」
シエスタは口元に手を当てたまま、事実のみを、言い訳でもするかのように話す。
「ミス・ヴァリエールがお城に呼び出されたのは知ってましたが……それでもあの方は『別に、何も無かったわよ』と笑いながらおっしゃって……そう言えば、余り外には出るなとも言ってらっしゃいましたが、まさか私にこの事を知られぬ為に……」
モット伯とのトラブルの種を、あのタイミングで人目に晒すのはよろしくないとルイズは思っただけなのだが、受け取り方は人それぞれである。
感極まったように手を叩く行商人。
「そうに決まってらあ! アンタに心配かけないようにと、あんだけの大騒ぎがあったってのに……くうっ! 泣かせる話じゃねえか! 貴族の鑑だぜルイズ様は!」
若衆達も驚き、そして彼女が平民の味方である生き証人達を前に興奮を隠せない。
こんな貴族の話、誰も聞いた事が無かったのだ。
波濤の二つ名で知られるモット伯と対決し、自らも血を流しながら平民を守る。
これほど平民である彼らを喜ばせる話が他にあろうか。
こりゃ一大事とばかりに、皆が村中に話して回る。
その晴れ舞台の一役をこの村出身者が担ったという事が、何より騒ぎに拍車をかけた。
その日の夜には、何故かシエスタが村長の家で演台に立ち、村中の人間が聞き入る中、その時の様子を語るハメになってしまう。
それはとても恥ずかしかったが、自分の主人がこうして皆に褒め称えられるのは、何より誇らしい事であった。
夜も更けてきて、全員が寝室へと向かった時間。
ヴァリエールの屋敷の一角で、エレオノールが悲鳴にも似た絶叫を上げる。
驚いた使用人が何事かとエレオノールの私室をノックをすると、乱暴にドアが開かれ、鬼の様な形相のエレオノールが飛び出してきた。
後に使用人は語る。
喰われるかと思った、と。
ルイズはカトレアのベッドで横になっていた。
すぐ側に姉の吐息が感じられる、そんな距離が凄く嬉しかった。
「ねえ、ちいねえさまにだけは話すわね。私、実はサンに剣を教えてもらってるのよ」
「まあ」
ルイズの期待通り、カトレアは頭ごなしにダメな事だと決めてかからなかった。
訓練の苦労話から始って、失敗した事、うまくいった時の喜び、負けた時の悔しさ、思いつくまま次々と話し続ける。
カトレアも嬉しそうに話すルイズを見てるのが楽しいのか、うんうんと頷き、時に驚きながら話を聞く。
驚く所では済まないような話ばかりなのだが、カトレア生来のおっとりとした気性故か、焦るでもなく、慌てるでもなく、笑顔を絶やさぬまま聞き続ける。
本当はルイズもこんな話を家族全員にしたいのだ。
でも、きっと認めてもらえないのは解っている、だからカトレアだけに話すのだ。
379 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 20:59:43 ID:jWGMA7Eb
話が一区切りつくと、カトレアは愛おし気にルイズの頭を撫でる。
「ルイズは学院でも頑張ってるのね。でも、危ない事だけはしないでね。私はルイズが元気で居てくれるのなら、それだけでもう幸せなんだから」
カトレアはたったの一言で、エレオノールに無数の悪口雑言を浴びせられるより効果的な痛撃をルイズに与えた。
「う、うん、わかったわちいねえさま……えっと、出来るだけ無茶はしないように、出来るだけね、出来ない分は仕方が無いとして……」
カトレアは、しどろもどろになって言い訳するルイズの顔を自らの胸に埋める。
「可愛いルイズ、どうかこの子に始祖ブリミルのご加護があらん事を……」
バタンッ!!
突然カトレアの部屋のドアが開かれる。
こんな無礼な真似が許されるのは、この屋敷では親族のみだ。
ルイズとカトレアがベッドから並んで顔を出して確認すると、ドアの前に血相を変えたエレオノールが仁王立ちしていた。
『エレオノール姉さま?』
「今すぐ着替えて居間に来なさい!」
エレオノールの後ろには、手を引かれてきたのか燦が困りきった顔でルイズに助けを求めている。
「る、るいずちゃーん、おーたーすーけー」
すぐにエレオノールに怒やされる。
「いいから貴女は先に居間に行くわよ!」
言いたい事だけ言うと、燦の手を引いたままずかずかと廊下を歩いていった。
顔を見合わせるルイズとカトレア。
何が何やらわからぬが、あんな顔した姉は始めてだったので、二人はすぐに支度を済ませた。
何と、エレオノールは父母も引っ張り出したらしい。
父が代表して文句を言うが、エレオノールは無視してテーブルの上に一冊の本を開いて見せる。
「まずは、これを見て下さい」
公が開かれたページを覗き込むと、そこには始祖ブリミルの偉大な使い魔に関する記述があった。
「これが……」
「そこにある紋章、それとこれを見比べてもらえますか?」
サンの手を引っ張り、甲が見えるように本と並べる。
訝しげな公の表情が一変した。
「カリン!」
公が夫人を愛称で呼ぶなど、娘達は聞いた事もない。
夫人もその表情から何かを感じ取ったのか、公に倣って本とサンの手の甲を見比べる。
瞬間、室内の空気が一度下がった。そんな気がした。
ルイズの母で、味方だと認識していたサンが思わず身構えそうになる程、夫人の鬼気は鋭く激しいものだった。
夫人は確認するようにエレオノールに問う。
「……この書の信憑性は?」
「王家に伝わる始祖覚書の写しです」
エレオノールは嘆息する。
「ルイズの使い魔という事ですから、特殊なルーンなのではと思いそういった類の物を探してみたのですが……まさか始祖ブリミルの使い魔にぶつかるとは思いもしませんでしたわ」
ルイズとカトレアは蚊帳の外でぽかーんとしている。
だが事がルイズの使い魔に関する事だ。
ルイズはおずおずと問う。
「……えっと、つまりどういうお話なのでしょうか……」
エレオノールはルイズを睨みつけ、言い放った。
「貴女の使い魔は、始祖ブリミルの四人の使い魔の一人、ガンダールブと同じルーンを持っているって事よ」
380 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:00:04 ID:jWGMA7Eb
カトレアは驚きに目を見開くも、すぐにルイズが衝撃を受けているだろうとルイズの表情を伺った。
ルイズは、カトレアが今まで見た事もない顔をしていた。
「……ガンダールブというと、神の左手、ですか。それは……なるほど、わかります。サンの強さも、それなら納得出来ますわ」
すたすたと窓際まで歩くと、がらっと窓を開き、燦を手招きする。
「サン、見世物みたいで申し訳無いんだけど、ここでハウリングボイス見せてあげて」
「え? ええけど……じゃ、じゃあ、あの木狙うな」
窓から身を乗り出し、燦はハウリングボイスを披露する。
ただの一撃で、緑生い茂る、つまり柔軟性も耐久性も最も高いはずの生木がずたずたに引き裂かれ、轟音と共に地に臥した。
「他にも色々な『声』があります。メイジでもないのに何故こんな真似が出来るのか。サンはこの世界の存在では無いからです」
コルベールやキュルケ、タバサと話し合ったサンに関する考察を皆に伝える。
「この子自身は悪意もない、年相応の女の子です。むしろ心優しいと言ってもいいわ。だけどこの力を知られたら色々と面倒な事になると思い、今まで隠していました」
魔法も使えぬ私には過ぎた使い魔だとは思いますが、と卑下するでなく冗談めかして付け加えた。
ルイズが窓を閉めるのを確認した後、夫人が口を開く。
「あくまで可能性の話ですが、伝説の使い魔を呼び出したルイズに、虚無の力があると考える事も出来ます」
それは考えていなかったのか、ルイズは驚いた顔で夫人を見返す。
「いえ、でもそれは……」
「虚無の系統は失われて久しいです。ならば貴女に虚無の力があったとて、その操り方を知らなくても不思議はありません」
公は鷹の様に鋭い目で夫人に問う。
「確認する術はあるのか?」
「虚無に関する何か、遺物でもあれば反応するかもしれませんが、確証はありません。つまり、ルイズが虚無でないと証明する事は不可能だという事です」
ならばと公は即断する。
「この件は他言無用だ。ここに居る全員が墓場まで持っていけ。これは当主の厳命である」
そして、とルイズに、今まで向けた事もない厳しい視線を送る。
「今後一切虚無に関する研究を禁ずる。間違っても虚無であるかどうか、ましてや虚無を目覚めさせるなどと考えてはならぬ」
エレオノールは縋るように公に言い寄る。
「そんな!? せっかくルイズにも魔法の芽が見えたというのに……」
しかしそんなエレオノールを公は一喝する。
「馬鹿者! ルイズに虚無があるかもしれぬ、そんな疑いを誰かに持たれてみろ! いらぬ野心を目覚めさせる火種になりかねんぞ!」
夫人も公の意見に賛成なのか、異は唱えずエレオノールに強い視線をぶつけてくる。
それでもエレオノールは折れなかった。
「いいえっ! 納得出来ません! ルイズが魔法を得る為、どれ程の努力を積み重ねてきたか!? そのせいでどれほど苦しんだか父さまもご存知のはずです!」
「くどい! ルイズを守るにはこの方法しか無い!」
尚も言い募るエレオノールを、ルイズが手で制する。
「ありがとうエレオノール姉さま。……今の言葉、一生忘れないわ」
自分がやっている事の意味に気付いたエレオノールは、顔中を真っ赤にして怒鳴り返そうとするも、何と言っていいやらわからずわたわたと手が宙を泳ぐ。
ルイズは常に無い程真剣な眼差しの父を、負けるものかと見返す。
「父さま、それは私とサンは何処か人目につかぬ所で残る生涯を過ごせ、という事ですか」
言おうとしていた事を先に取られて鼻白む公。
「そ、そうだ。カトレア同様領地を与えてやろう。そこで私が信の置ける夫を見つけてくるまで、のんびりと待つが良い」
「私が先王陛下に賜った大恩はどうされます?」
ルイズの言葉に激昂する公。
「それはお前が考える事ではない!」
何故だろう。以前ならば父の怒りは全てを投げ打ってでも忌避すべき事であった。
いや、父だけではない。
母も、姉も、本気で怒ったのなら絶対に勝てない。そう思っていた。
しかし今こうして怒りに震える父の考えている事が良く見える。
自分は何と幸せなのだろう。
王家にあれだけ大きな借りを作った娘を、父はその持ち得る力を全て駆使してでも守り抜こうとしてくれているのだ。
そして母もまたそれが解っていながら異を唱えない。
父母はこんなにも私を愛してくださっているのだ。
苦手だったエレオノール姉さまは、私が魔法を身につけようと必死になっていた事も、しっかりと見ていてくれた。
381 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:00:31 ID:jWGMA7Eb
あろう事か、そんな私を哀れに思い、父に逆らうなんて真似までしてくれた。
ちいねえさまは、きっと私が外で何をしようと、溢れんばかりの愛情で迎えてくれる。
ついさっきベッドでしてくれたように、何時もと変わらぬあの笑顔を浮かべて。
真剣勝負、人生を賭ける程に必死な人間と相対してきた経験が、妥協許さぬ濃密な時間を過ごした事が、ルイズの視点を大きく変化させていた。
決して引けぬ立場にある人間を力づくで捻じ伏せる、それが杖を、剣を合わせるという事だ。
ならばこれもまた、剣を合わせず終われるはずもない。
「父さま、私にそこまでしてくださるお心遣いには感謝の言葉もありません。ですが私もまた王家に仕えるヴァリエール家の人間です。女王陛下が望まれるのなら、否と答える事は出来ません」
「ええい黙って……」
「例え! 女王陛下が虚無を利用するつもりであろうともです!」
ここが勝負所と、ルイズは声に力を込める。
「私は既に王家の秘事を託されております。今更引くなど許されようはずもありません」
公は怪訝そうな顔でルイズを覗き込む。
「秘事とは何だ?」
「それを明かしては秘とは言いません。これ以上はどうかご容赦を。又今の私の言葉は、無かった事として頂きたく」
「馬鹿を言うな!」
怒り狂う公の怒声にも、ルイズは一歩も譲らず。
決して秘事を明かそうとはしない。
嘘はついていない。まあルイズが抱えているのは王家は王家でもガリア王家の秘事ではあるが。
いずれにせよ、ここで幽閉を受け入れられるような状況でないのは一緒である。
公が力づくでと強引に事を進めようとすると、ルイズは静かに宣言する。
「ならばサン。立ち塞がる全てを打ち倒し、学院に戻るわよ」
「……わかった」
その一言で、公はもう言葉も無い程に沸騰し、本気で今この屋敷に居る兵を全て集めようとするが、それを夫人が制する。
「ルイズ。如何に強い使い魔とて、貴女には魔法の力が無いのでしょう。自身すら守れぬようでは、出来る事などたかがしれてますわよ」
「ご心配無く。モット伯を腕づくで黙らせたのは、サンではなくこの私ですから」
夫人はそれに気づいていたのだろう。
ルイズの挙動が何も知らぬ乙女のものではなく、訓練を重ねた戦士のものである事に。
「いたずらに屋敷を騒がせるのは本意ではありません。今すぐ着替えて外に出なさい。ヴァリエール領を力づくで突破しようというのなら、この私を倒してからにしてもらいます」
夫人は夫を省みる。
「いかがでしょうか」
ルイズの反抗っぷりに沸騰していた公の頭が、夫人の参戦というありえない事態により急速に冷え下がる。
しかし公もまた貴族。場の流れを見て取る能力は高い。
「……よかろう。良いかルイズ、負けたならば素直に言う事を聞くのだぞ」
「では私が勝利しましたら、笑ってお見送り下さいますよう」
「そんな事がありえるかっ!」
まず夫人が、そして続くようにルイズが退室する。
燦もまたルイズに続いて退室したので、残されたのは公とエレオノール、カトレアの三人である。
カトレアは不安そうに懇願する。
「どうか、そのような乱暴な事は……ルイズが怪我でもしたらどうするのですか」
「うるさいっ! こうなった以上引くに引けぬわ! 心配するな、アレならば無傷で黙らせてくれるであろう」
エレオノールもまた、不安を隠し切れ無い。
「し、しかし母さまがもし、使う魔法を選び損ねたら、怪我では済まないかもしれませんし……」
「アレがそのようなミスをするものか! ふん、お前達は知らぬだろうが、現役当時はトリステイン最強の名を欲しいままにしておったのだ。瞬く間も与えず綺麗に終わらせるであろうよ」
長らくそんな口出しをしてこなかった夫人の行動に公も戸惑いを隠せない。
しかし、どれほど娘が跳ねっ返ろうと、ガンダールブと目される使い魔を擁していようと、絶対に勝てぬ相手でもあるのだ。
ならばこの場は任せるのが一番。
今にも泣き出しそうな顔をしている二人の娘を見ないようにしながら、公は心の中だけで漏らす。
382 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:00:56 ID:jWGMA7Eb
『泣きたいのは私の方だ。何故ルイズに虚無の疑いなぞ……しかもあのように反抗的な態度まで取って……一体何故このような事になってしまったのだ』
時刻は深夜、家人にも知らせずヴァルエール家一同が屋敷を少し離れた草原に集まる。
視界を確保する為、公とエレオノールが松明を手にしている。
夫人はルイズが見た事も無い厚手の軍服に身を包んでおり、杖の他に細身の剣を差している。
ルイズは何時もと変わらず。学院の制服に燦からデルフリンガーを預かり、剥き身のまま地面を引きずらせている。
「使い魔も一緒で良いのですよ?」
「それでは私の力がわかりませんでしょう」
二人が交わした会話はそれだけだった。
後は何も言わず、自然と数メイルの距離を空けて対峙する。
魔法を使う者同士の決闘は、こうして距離を空けて行うのが常識だ。
ルイズは魔法を使えないが、その作法に倣った上で打ち破ってこそのメイジ殺しだと理解しているのだ。
「父さま! 開始の合図をお願いします!」
いきり立つ闘牛のように闘志をむき出しにするルイズを、夫人は冷徹な視線で迎え撃つ。
「始め!」
公の合図と同時に、ルイズが正面から一足飛びに踏み込んで行く。
メイジ同士であるのならまずは詠唱ないし回避、そう決まっている決闘でまっすぐに相手へと突っ込む動きは想定外だ。
しかし夫人は表情一つ変えず、開始と同時に唱え始めた術を唱え終え、静かに杖をかざして放つ。
不可視であるはずの大気の槌、これをルイズは詠唱のみで見切り、横に動きながら体を半回転させるだけで紙一重にてかわしきる。
このかわし方ならば、突進の勢いを失う事もない。
次の詠唱が始る前に、ルイズは夫人に肉薄する事が出来よう。
夫人はルイズの動きを見るなり詠唱を止め、腰に差した剣に手をかける。
ルイズ得意の、真後ろまで振りかぶったデルフリンガーによる、全力打ち込み。
最近は燦ですら受けるのに苦労する程、鋭く、強い斬激に対し、夫人は剣を抜きながら上へと斬り上げる。
『なっ!?』
例え固定化がかかっていようとへし折れるだろう勢いであったにも関わらず、まるで魔法にでもかかったかのごとく、ルイズの剣は上へと逸らされてしまう。
剣ならばと自信を持って放ったルイズの心中如何ばかりか。
勢いの付きすぎたルイズの剣と、受け流し次へと繋ぐ事を考えていた夫人の剣。
どちらが早く次の動きを行えるかは自明の理だ。
夫人は振り上げた剣を、まっすぐルイズの肩口へと振り下ろす。
その閃光のごとき素早さはどうだ。高齢でありブランクがあるだなどと、この動きを見た誰が信じよう。
必死に身をよじってこれをかわすルイズ。
しかし夫人は更なる連撃を用意していた。
最大六連撃、これを受けきった者は夫人の記憶にも数える程しかいない。
だがルイズは夫人史に残るよりも、攻撃を行う事を選んだ。
身をよじってかわすと同時に体勢を低く持っていき、左足を振り上げ、必殺の後ろ回し蹴りを放つ。
初見でこれをかわせた人間を、ルイズは見た事が無い。
夫人の脇腹へと吸い込まれていくルイズの足が、勢い良く空を切る。
ルイズと同じく身をよじりながら、真横に大きく夫人は跳んでいた。
連撃を途中で止められた夫人は、表情には出さぬが驚愕の思いでルイズを見つめる。
又ルイズも、この後ろ回し蹴りがかわされた事に驚きを隠せない。
『……なるほど、これならルイズが調子に乗るのもわかりますね』
『母さまがこんなに動けたなんて……』
例え近接での戦闘力が高くても、距離を空けられてはまた不利になる。
ルイズは更に追撃をと足を前に出しかけ、そこで急遽真後ろに飛び下がる。
夫人は一度ステップバックした後、魔法ではなく剣による攻撃を始めたのだ。
目で追う事すら至難な剣の軌道は、しかし確実に急所に狙いを定めている。
元々細い剣であるせいか、剣速が圧倒的に早い。
383 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:01:21 ID:jWGMA7Eb
ルイズはこれを受けきるのみで手一杯である。
機会あれば受け方一つでこんな細身の剣はひん曲げる事も出来ようが、そんな余裕のある打ちこみを夫人は決してしなかった。
遂にバランスを崩したルイズに、夫人の突きが襲い掛かる。
『かかった!』
崩れ、弱い体勢であったはずのルイズの足元は、しかし万力のような力で簡単に体位を蘇らせ、不用意な大振りにこちらから踏み込んで行く。
頬をかすらせただけで突きをしのいだルイズは、通りすがりの抜き胴とばかりに夫人の胴へと剣を真横に走らせる。
その夫人の姿がルイズの視界から消えてなくなる。
一瞬、完全に夫人を見失った事で動揺し、場所も構わず全力で自身の周囲を囲むように剣を振る。
当然そんな所に夫人は居ない。
気付いた時には遅かった。
夫人は、ルイズに突きこんだ後、更に大きく奥へと踏み込む事でルイズの視界から消え、そのままルイズの後方に走り抜けていたのだ。
そして今のこの位置関係。
決闘開始時の距離に戻っただけ、そう見る事も出来るだろうが、実際戦っているルイズはそんな悠長な気分にはなれない。
魔法を掻い潜って近接する。
これがどれ程の集中力を要するか、どれ程のリスクを負わねばならぬ行為か、ルイズは良く知っているのだから。
夫人の視線が言っている。
最早手加減無用、と。
次からは、容易くは踏み込ませてくれまい。
それでも。
ルイズはそれのみが己の生きる道とばかりに夫人へと向かって行く。
夫人は、今度はメイジとしての技量をルイズに見せ付けるべく杖を振るった。
決闘を見守る公、エレオノール、カトレアの三人は、目の前で起こっている事が現実なのか、信じられぬ思いで見つめていた。
母の強大さを知らぬエレオノールとカトレアは、両者の余りに次元の高すぎる戦闘に目を白黒させる。
妻の強大さを知っている公は、それ故娘がまともに打ち合えている事が不可思議でならない。
しかし、形勢ははっきりとしてきた。
一度近づく事に成功するも、それ以後は夫人の魔法の前にルイズは近寄る事すら出来ずに居る。
見ていて心臓が止まりそうになる程際どく魔法を回避してはいるが、それも時間の問題だろう、そう思えた。
遂にエアハンマーの直撃をルイズが受けると、エレオノールとカトレアは居ても立っても居られなくなる。
「母さま! もう充分ですわ!」
「ルイズ! もういいからお願い下がって!」
駆け寄ろうとする二人の前に、燦が立ちはだかる。
「まだじゃ! ルイズちゃんはまだ勝負を捨ててない!」
使い魔ごときにこんな事を言われる筋合いなど無い。
エレオノールは力づくでどけようとするが、燦はぴくりとも動かない。
「あの程度ルイズちゃんなら十発や二十発もらおうと耐え切る! 見てみ! 最初の頃から全然動き落ちてないじゃろ!」
知った事かと燦をどけにかかるエレオノールを止めたのは公だ。
「止めろエレオノール。ルイズがまだ勝負を捨てていないのはあの目を見ればわかる。邪魔立てするな」
何時もならば真っ先にルイズを心配するはずの公は、腕を組んだまま決闘を見据えている。
公の言葉に渋々引き下がるエレオノール。
燦も決闘に目を遣り、自分も今すぐにでも飛び出して行きたいのを懸命に堪える。
離れて見ている燦には、二人の思惑が手に取るようにわかった。
夫人はルイズの接近を完全に封じる事で、戦意の喪失を狙う。
実際、あの魔法の間隙を縫うのはルイズには無理だと思えた。
燦ですら絶好調時でもなければ踏み込みきれない、そう思える程に隙の無い組み立てだったのだ。
詠唱の早さ、ルイズの状況に合わせて術を変える判断の素早さ、そしてタバサの風の魔法すら凌駕するだろう威力。
口ではああ言ったが、さしものルイズも十発も二十発も喰らっては、動きが鈍るかもしれないと思う。
しかし、ルイズ唯一の勝算があの一点である以上、ここは堪えるしかない。
年齢的にも夫人は長時間の戦闘には向いていないはず。
384 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:01:48 ID:jWGMA7Eb
ならば耐えに耐えぬいてスタミナ切れを待つしかない。
毎日アホみたいに走ってきたルイズは無尽蔵と言っていい程の体力を誇る。
きっと、チャンスは来る。
同時に燦はそれが厳しい条件である事も理解している。
夫人がその場から動く事はほとんど無いが、ルイズは戦闘中一度たりとも足を止めていないのだ。
更に夫人の苛烈な攻撃は、ルイズの体力を容赦なく削り取っていっている。
倒れないだけでは駄目なのだ。ならば喰らっていい魔法の数も種類も限られてくる。
動きを鈍らせるような、それ程の痛撃をもらわずに凌ぎきるしか、ルイズに勝利への道は残されていないのだ。
夫人も程なくルイズの思惑に気付く。
ならばと攻撃の種類にバリエーションを増やす。
隙を見つけたとして、それでも踏み込まぬではルイズの思惑は果たされまい。
夫人の側に見透かされてはルイズの勝率も著しく低下してしまうのだから。
だから罠を張る。
意図的に作った隙に、ルイズは恐れる気もなく踏み込んでくる。
その勇気と決断力は素晴らしいが、次の仕掛けを潜り抜けられなければ意味は無い。
攻撃魔法と見せかけて放つ魔法はエアシールド。
ルイズの前進を阻害する風の壁を作り出す。
即座に効果範囲を見切って迂回出来る魔法への理解と、魔法戦闘への慣れは見事であるが、それで出来た間隙と、恐らく見た事もないであろう次の魔法には対処出来まい。
夫人は、当たれば即死の高位魔法、ライトニング・クラウドを躊躇無く撃ち放った。
自らの周囲から雷撃を放つこの魔法は、稲妻の速度を持つ為、ロクな回避も出来ない。
威力は抑えてある為、死に至る事はあるまいが、それでも三日三晩はまともに動く事も出来ぬであろう。
夫人の技量ならば決して外れぬはずの魔法がルイズを僅かにそれ、片腕をかすめて後ろへと突き抜けて行った。
かすめた勢いだけでルイズの突進を止め、大きく後ろに転倒させるだけの威力はあったのだが。
しかしルイズは身を起こし、再度突入の隙を伺っている。
夫人は魔法を放つ直前、自らの杖に向けて放たれた何かの正体に気付き舌打ちする。
ルイズはマントを止める金具、学院の生徒である証を飛び道具にしたのだ。
今はマントもはらりと地に落ち、所々擦り切れた白いブラウスが顕になっている。
つくづく、戦士になってくれたものだわね。と心中穏やかではない夫人。
意図的に作った隙であるが、ルイズは疲労を待つだけではなく、隙が出来た時の為の打つ手をも用意してあったのだ。
この調子では下手に誘いなぞしようものなら、次にどんな手で付け込んで来るかわかったものではない。
ならば、我慢比べに付き合おうではないか。
何処まで鍛えてきたのか、私のこの目で確かめてあげましょう。
夫人とルイズにとってはどちらが有利ともつかぬ持久戦。
しかしそれは見ている者にとっては、圧倒的に夫人が有利なワンサイドゲームにしか見えない。
最早憎しみに近い視線を夫人に送るエレオノール。
カトレアは正視に耐えないのか、目を覆ってしまっている。
燦とて軋む音が聞こえる程に歯を食いしばり、一方的な攻撃に晒されているルイズを見守り続けている。
ルイズは、既に致命的ではない魔法を十数発その身に受けていた。
常人ならば気を失ってしまってもおかしくない程の激痛に、しかしルイズは不敵な表情を崩さない。
実際手を合わせているルイズにしかわからぬ微かな気配ではあったが、遂に夫人に疲れの兆候が見え初めていたからだ。
夫人が考えていた以上に、並の戦士では足元にも及ばぬレベルで、ルイズは打たれ強くなっていた。
385 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:03:09 ID:jWGMA7Eb
計算を外された夫人は、心の中で大きくため息をつく。
まさか、これを出すハメになろうとは。
唐突に夫人の放つ魔法が途切れた。
もう少し粘ると思っていたルイズだが、これが限界だというのなら容赦するつもりもない。
もしくは、限界を前に勝負に出たか。
ならば勝敗は一瞬だ。
確実にルイズを仕留められる、そんな手で夫人はルイズに攻撃をしてくるだろう。
それさえかわせれば、ルイズの勝ちだ。
突進するルイズの目が信じられぬ物を映し出した。
『母さまが三人!?』
これぞスクウェアメイジにのみ許された風の魔法最終奥義「遍在」である。
その存在は知っていたが、それこそこんな大魔法を使えるのは国に一人居るか居ないかのレベルだ。
それを、この場所で、よりにもよって自分の母が行おうとは。
勝負は一瞬、それは変わらない。
ならば迷いは捨てろ、三人が三十人だろうと、母はたった一人なのだから。
怯む事無く、まっすぐに突き進むルイズの前に、二人の母が立ちはだかる。
ルイズは止まらない。いや、ここまで勢いを付けては止まれないと言った方が正しい。
それは咄嗟の行動であった。
構える二人の母が一瞬だが、呆気に取られる。
ルイズは手に持った剣を走りながら前方に放り投げたのだ。
優しく、丁寧に投げられた剣は剣先を地面に付き、柄の部分が上に、そんな形で着地する。
ルイズの足が跳ねた。
大地を蹴って宙に舞ったルイズは、地面と直角になっていた剣の柄、それも上部の僅かな範囲を足場に更に上空へと飛びあがったのだ。
何というバランス感覚か。
さしもの二人の母も対応が数瞬遅れてしまう。
ルイズの狙いはただ一つ、二人の母を飛び越え、僅かな硬直から立ち直った遍在ではない母。
懐から自分の杖を抜き、その先端を突き出し、落下しながら母に突き立てんと飛びかかる。
二人の母もルイズの思惑に気付いて振り返るなり剣を振るう。
本物の母は剣も使わず、いや用いる暇が無いと判断し、身を翻してかわす事に全力を注ぎこむ。
母の首元1サント手前に突きつけられた杖の先端。
それをなしたルイズの首元には二本の剣が当てられている。
彫像の様に身じろぎもせず互いを見つめる。
最初に力を抜いたのは、やはり人生において一日の長がある母であった。
「これまでです」
「はい、母さま」
ルイズが杖を引くと、二人の遍在も消えてしまう。
激戦の後でありながら凛とした態度を崩さぬ夫人は、夫の側に戻るとルイズの方を見もせずに告げる。
「貴女も疲れたでしょう、今夜はもう休みなさい」
夫と共にさっさと屋敷に戻っていく夫人。
ルイズは、怪我と疲労からその場にへたり込んでいた。
やっと動けるとばかりにルイズに駆け寄るエレオノールとカトレア。
物凄い勢いで喚き怒鳴るエレオノールの側で、カトレアは涙ながらにルイズを抱き抱えている。
山ほど言いたい事のあるエレオノールをカトレアはルイズの怪我を理由に嗜める。
エレオノールもルイズの怪我が気になって仕方が無かったので、すぐに同意した。
「え? いや目立った外傷も無いし、このぐらいだったら寝てれば治る……」
『ルイズ!!』
386 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:03:36 ID:jWGMA7Eb
二人の姉の血相に押され、ルイズは素直に治療を受ける事にした。
「最後の最後で手を抜きおって。お前の遍在が二体だけなはずあるまい」
公は屋敷に戻る途中、そう言って夫人を責めるが夫人は悪びれる様子もない。
「そもそも遍在使うのも予定外でしたわ」
「ふん……で、あれは見た目通り引き分けだったのか?」
「ですわね。剣は使い魔に習ったのでしょうが、あのしぶとさは習って覚えられるようなものではありませんわ」
「ああその通りだ。まったく、嫌な物を思い出させてくれる」
「嫌なものですか?」
公は夫人を指差した。
「お前の若い頃だ。やたら強情で例え相手が大貴族だろうと、こうと決めたら一歩も引きやしない」
「失礼な、私はあんな無軌道ではありませんでしたわ」
「法と規律に従ってさえいれば、神すら恐れぬお前が無軌道なぞと良く言えたものだ」
夫人はまあ、と言って口元に手をやる。
屋敷に入るなり公は、夫人の着替えとタオルと水差しを大至急部屋に持ってくるよう使用人に伝える。
夫人は、夫の前でしか見せぬ柔らかな微笑を見せる。
「ふふっ、いつもこうして手間をおかけしてましたわね」
「お前は意思の力で汗や疲労を堪える事が出来るからな。全く、お前以外でそんな真似が出来る奴にはついぞお目にかかれ無かったぞ」
「皆の修行が足りていない証拠です」
強靭な意思の力で落ちていた体力を支えていた夫人は、しかしもう限界が近いのを公は知っている。
自分の有様を確認した夫人はぼやく。
「年は取りたく無いですわねぇ」
「年甲斐の無い事をするからだ」
階段を昇る足に乱れは見られないが、そこから僅かに力が失われている事に公は気付いていた。
「あら、でも貴方もこれからあちらこちらと飛びまわるのでしょう?」
仏頂面ここに極まれりといった風情の公。
「……お前がそうだったように、ルイズはこれからも好き放題暴れまわるであろうしな。止めた所で無駄どころかこちらの損害が増すだけなのは、お前で存分に思い知ったわ」
上品さを失わぬ、それでいて何処かいたずらっ子のように笑う夫人。
「いいではありませんか。そうやって動き回っている方が、公らしくて私は好きですわよ」
「ああ、ああ、本当にお前は変わっておらぬ。面倒を押し付ける時だけ殊勝になる所もそのまんまだ。いずれルイズもそうなるか……絶望的な気分だ」
ずっと心は繋がっている確信はあった。
だが、たまにはこうして、互いにしか見せ得ぬ表情で直接確認するのも悪くは無い。
睦事を交わすように囁き合いながら、長年連れ添った夫婦はそんな事を考えていた。
翌朝、朝食の席で公から、お前が思うようにせよ、しかし報告だけは欠かすでない、とお許しが出る。
そして小声でエレオノールにぼそっと。
「……ルイズへの調査は続けよ。きっと、それが役に立つ時が来る」
「わ、わかりましたわ」
公は最後に、これはエレオノールにも聞こえぬような小声で、
「同じ王都に居る事だし、きっとお前も苦労して苦労して苦労して苦労して苦労するハメになるだろうからな……」
と自重気味に漏らした。
ルイズは姉カトレアを中庭に呼び出していた。
体の弱いカトレアは余り外に出る事もないが、屋敷の近辺であるのならと快く了承し、ルイズに付き合っている。
晴々とした陽気に、ルイズもカトレアも、そして付き添いの燦も上機嫌だ。
「ルイズ、体は本当にいいの?」
むしろ昨晩の修羅場で傷ついたルイズの方がカトレアから心配されているが、流石は母、手加減の仕方も良く知っているようで、後に残るような怪我はしていなかった。
「もちろんっ、絶好調よ」
387 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:03:59 ID:jWGMA7Eb
口だけではなく実際軽快に動きまわるルイズの様子からは激闘の後など見られず、カトレアはようやく安心してくれた。
呼び出しには理由があるものだ。
カトレアはピクニックでもやる気分であったのだが、ルイズにはしっかりとした目的があった。
「実は、ちいねえさまに秘密の道具を持って来たのよ」
燦が先程から抱えている布に包まれた細長い棒はカトレアも気になっていた。
ルイズが合図すると燦は布をほどく。
「これは学院に古くから伝わる伝説の槍よ! ……えっと、名前なんて言うんだっけ?」
「迷槍涅府血遊云(めいそうネプチューン)じゃルイズちゃん」
「そうそれ! どんな病気でもたちどころに治してくれる魔法の槍なの!」
今回はルイズが何かをする度、驚いているカトレア。
「まあ、でも学院の大切な物なのではなくて?」
「大丈夫! 学長にはきちっと許可を取ってきてるから!」
これでカトレアの病気を治してやると息巻いているルイズ。
カトレア自身は、そういった試みを何度も行って全て失敗している為、大きな期待を寄せる事も無かった。
しかしルイズがこうしてカトレアの病気を気にかけてくれている事は、やはり嬉しいと思えるのだ。
「まあまあ、私の為にありがとうルイズ」
学院の秘宝を持ち出している事を余り他人に知られるのはよろしくないので、わざわざ人気の少ないだろう場所まで来たのだ。
早速試してみようとするルイズ。
「えっと、コレ投げればいいんだっけ?」
「うん、タバサちゃんはそれでうまくいったで」
しかし、とルイズは思う。
槍は結構な重量である。これをカトレアに向かって投げろと言われても、そんな危なっかしい真似など出来るはずもない。
とりあえず物は試しとばかりにカトレアとは違う方向に向かって構えるルイズ。
気合を入れて肩に担ぐと、心なしか槍が重くなった気がする。
それでも片手でどうにかなる程度だったので、ルイズはえいやっとばかりに槍を放り投げた。
槍はタバサの時と違い、まっすぐルイズが狙った一本の木へと飛んでいく。
前回と全く同じ事が起こった。
突如槍が光輝き、空中でぴたっと制止する。
これは期待出来るかもしれない、そんなきらきらとした眼差しで槍を見つめるルイズ。
槍は空中で半回転し、投げたルイズの方に向き直る。
「へ?」
するともんの凄い勢いでルイズに向かってかっ飛んで来たではないか。
ルイズの反射能力を持ってしても何をする間も無い。
幸い槍はルイズの顔の真横を通り過ぎてくれたので、ルイズに被害は無かった。
しかし、その後ろには……
恐る恐る後ろを振り返るルイズ。
そこに居たカトレアは、何が起こったのかわからぬといった顔で、ルイズと、胸元に突き刺さった槍を交互に見やった後、
「あら〜」
と言って倒れてしまった。
「ちいねえさまああああああああああああああ!!」
大慌てで駆け寄るルイズだったが、同じぐらい慌てている燦が先にぶすっと槍を引っこ抜いてしまう。
「ば、ばかああああ!! 血が噴出したらどうすんのよおおおお!!」
「槍がああああ!! 槍が刺さってしもたああああ!! 医者あああああ! 医者は何処じゃああああ!!」
「お、お、落ち着きなさいサン! 貴族は何時でも冷静によ! メディックメディーーック! 早く来て! ちいねえさまがあああ!!」
同レベルである。
「う……ん……」
388 :
ゼロの花嫁:2009/02/10(火) 21:06:11 ID:jWGMA7Eb
側で大騒ぎをしたせいか、はたまたそれ以外の理由からか、カトレアはすぐに目を覚ました。
ルイズも燦も両腕にしがみつきながら怪我の有無を確認するが、特にそんな様子も無い。
盛大に安堵のため息を漏らす二人組。
しかる後、揃って平謝りである。
土下座も笑い飛ばす程の平身低頭っぷり。
愛する姉に槍をぶっ刺すハメになるなど、豪胆を持ってなるルイズすら涙目になるような出来事だ。
むしろ被害者であるカトレアが、わんわん泣き出す二人を宥める始末。
昨晩のアレは一体何だったんだと思える程取り乱している二人を何とか落ち着かせると、今度はルイズが槍に当り散らし始めた。
「こんのバカ槍! 何なのよ一体! よりにもよってちいねえさまに襲いかかるなんて!」
がんがんに踏みつけている。お前学院の宝に何してくれてんだと。
ようやく怒りも収まる頃には、槍はぐしゃぐしゃにひしゃげてしまっていた。
「捨てましょうこんなもの! あーもう何て事なの! ちいねえさまのお役に立つと思って無理言ってまでわざわざ持ってきたっていうのに!」
そこでようやく、無理を言った相手の顔を思い浮かべられた。
それはつまり、この槍の所有者の顔を思い浮かべたという事であり、これはどんなに役に立たないヘボ槍だろうと学院の宝だという話も思い出したわけで。
怒りで真っ赤になってたルイズの顔が、今度は真っ青に青ざめていく。
見ていて大層愉快である。
カトレアは静かに嘆息する。
「ルイズは昔から後先考えない所あったから……」
「どどどどどうしよう!? サン! 何かこううまい言い訳無い!? オールドオスマンがはっはっはって笑って済ませてくれるようなかっこいい言い訳!」
「いやー、オスマンさん、絶対に壊すな言うてたしー」
「ぎゃー! 言わないでー! と、ととととにかく直すわよ! ひん曲がっただけですもの! もう一回逆側から蹴っ飛ばせば!」
槍を引っくり返して踏みつけるルイズ。
ぽきん、と軽い音がして、槍は半ばから二つに分かれてしまった。
「ぎゃあああああああああ!! 折れたああああああああ!!」
学院に戻ったルイズに、罰として学院中の廊下全てを拭き掃除せよとの命令が下る。
生徒達が何事かと顔を出す中「何見てんのよ、殴られたいの?」的な視線をそこらに振りまきながら、たったの一拭きで塗装すら剥げそうになるほどの力を込め、丸々一日かけ拭き掃除を終えた。
日が昇ってから沈むまでの間延々休み無く拭き続けていたルイズは、最後の廊下を拭き終わると同時にダウン。
燦にずるずると両手を引っ張られながら、部屋へと戻っていった。
勇気ある証人達は後に語る。具体的には白であったと。
曽祖父の遺産が置かれた場所で、シエスタは驚きと興奮に包まれていた。
石碑に刻まれた文字、それは燦が紙に記した文字とそっくりなのである。
「もしかしたら、サンならこれが読めるかもしれない」
そしてそんなサンならば、曽祖父の遺産、竜の羽衣という不思議な道具の事も知っているかもしれない。
シエスタは石碑の文字を丁寧に書き写し、大事そうに懐に収めるのだった。
以上です。次も今回程ではありませんが長くなりそうです。でも目指す一週間は何とかクリアしたいと思います
おつおつー
投下予約無ければ3分後に投下しますねー
39. The Elder Scrolls
タルブの村のはずれで爆音が響く。豪快なそれはルイズの気分が、
晴れやかな事を表しているのかもしれない。
マーティンは音の鳴る方へ進み、ルイズに薬が出来た事を伝えた。
「早いわね。流石エルフだわ」
そういう問題なのだろうかとマーティンは口に出そうとしたが、
ルイズの天にも昇りそうな満面の笑みを見ると何も言えなくなった。
「それじゃあ、ちいねえさまの所に行かないと」
ルイズが小さい頃は同じ屋敷で暮らしていたが、
八年程前から別の屋敷にいる。本格的な病気治療の為に造られたのだ。
それがあるのはフォンティーヌ領で、ヴァリエール公爵はカトレアを不憫に思った結果、
残りの生涯を家名に縛られずに生きて欲しかった為、名を変えさせた。
ルイズは何度かお見舞いに行った事もあるので、
その場所を覚えている。
「ルイズ?どうやって行くって言うのよ」
キュルケの問いに、ふふふ。とルイズは自信たっぷりに笑った。
「空を飛んで行くに決まってるじゃないの!これだけ力があるんだもの。
何も問題無いわ。まだ試してないけど」
「虚無」なのだからその自信は身の丈に合ってはいるのだろう。
それは良いことだが、今の彼女の自信は少々あらん方向を向きつつある。
魔法を過信しすぎているとでもいうべきだろうか。
キュルケはルイズを落ち着かせようとした。
「空を飛ぶのって、結構難しいのよ。今はやめとき――」
キュルケの制止も聞かず、ルイズは地面から離れた。
そして大空を飛ぶ。この上なく愉快そうに。
キュルケが言った言葉を一蹴するかのように速度を上げ高度を上げ、
地上からでは豆粒の様に見える大きさくらいになった時、ルイズは満面の笑みで下を見た。
「ふんだ。もうゼロじゃないもん!」
そしてルイズは高速で地面に近づこうと試みた。――しかし彼女は魔法のイメージよりも、
キュルケにどう言い返してやろうかと考える事を優先してしまった。
魔法を使う際にもっとも大切な事はその魔法をイメージする事である。
「錬金」等で特に言われるが、他の魔法もただ唱えれば良いというわけではない。
簡単なコモン・マジックでも、それを初めて使うのならしっかりとイメージしなければならない。
唱え慣れた呪文なら体が覚えているが、ルイズは昨日今日で唱えた呪文が成功するメイジになった。
つまり新米メイジである。彼女は空を飛ぶというイメージを忘れ、地面に降り立った後の事を考えてしまった。
結果、そのまま真っ逆さまに落ち始めた。
ぎゃぁああああと叫びながらルイズは落ちる。
空のとても高い所から降ってくる。その絶叫の様は記すことすらはばかれる。
少なくても彼女に恋心を抱いている男がいたとしたら、
その人物にとっては千年の恋も冷めるような顔だった。
やれやれと思いながらキュルケはレビテーションの呪文を唱える。
多少ゆらゆらとぶれながらルイズはゆっくりと落ち始めた。
マーティンはぽりぽりと頭を掻き、今度からは私も付き添うかと、
無茶な事をする彼女は誰かがいないとダメだと思い直した。
「まったく。私がいなけりゃ頭かち割ってたわよ?」
低空をゆっくりと落ちるルイズはあうあうと手足をばたつかせている。
とっさの対応が出来るほど空を飛んだことがないのだ。
落下の衝撃は慣れていないとパニックを引き起こす。
その為、杖で呪文を唱えなおすという考えが思い浮かばなかった。
地面の近くまで来て、レビテーションが解かれる。
軽い音と共にルイズは落ちた。お尻をさすりながら少し顔を赤らめて、
二人の方を見ないように呟いた。
「…ちょっと調子にのっていたわ。でも、どうしようかしら」
ちょっとどころではないが、まあ仕方ない。
なにせ魔法が使える様になったのだから。とその場にいた二人は流す。
「フォックスに頼んでみたらどうだろうか」
伝説の盗賊頭であるグレイ・フォックス。
彼のことだからめぼしい貴族の屋敷はマークしている事だろう。
なるほど。とルイズはマーティンの意見に同意した。
ルイズがギルドハウスに戻った時、既にアンリエッタは去っていた。
呼んでちょうだいよ。と彼女は文句を言ったが、すぐに会えますよ。
とフォックスは事も無げに返し、本題に答えた。
「ええ、かまいませんとも。ミス・フォンティーヌなら大抵自分の領地にいるでしょうし。
お送りしましょう。なぁに、グリフォン以外にも色々と空を飛ぶ獣はいますからな」
灰色狐が口笛を吹くと、どこからか風竜が現れた。
竜はフォックスに甘えるように顔を近づける。
シルフィードと同じか、もう少し幼い感じのする竜だ。
「タルブ近くの森で怪我をしてましてな。助けたところ懐かれたのです。
といっても、こいつはフォンティーヌの屋敷を知りませんから私が指示を出すのですがね。
では、参りますかなミス・ヴァリエール。少々飛ばして夕暮れ時には着くでしょう」
コクリとルイズは頷き、マーティンを見た。
「どうしようかしら。マーティンも来る?」
「うーん。いや、私は二人と先に学院に戻るよ。オスマンさんに事情を言わないといけないだろうし」
分かった。とルイズはフォックスと共に風竜に乗り、地上を後にした。
ふむ。とそれを眺めてからマーティンは家の中に入る。
キュルケも暇になったのでタバサを弄ろうかしら。なんて思った。
「そういえば、彼女の姉――カトレアだったかな?」
マーティンがキュルケに尋ねた。
「ええ、ゲルマニアでも有名よ。病弱な人だって」
「そんなに酷いのかい?」
「最近は良くなったみたいだけど。昔は病気のせいで髪が真っ白になった事もあったとか」
マーティンはそれを聞いて以前、重い病を持つ者は段々と髪の色が抜け落ちてしまうのだ、
と治癒師から聞いた事を思い出した。
「ルイズからはあの髪色と同じだと聞いたけれど」
「そ。あの子と同じ鮮やかな桃色がよ?相当重い病なのでしょうね」
少しでも良くなればいいが。もう見えない、風竜の飛んで行った方向をマーティンは見ながら、
エルフの薬が効くことを祈った。
フォンティーヌ領にあるカトレアの屋敷は、彼女の趣味に合わせた造りとなっている。
つまり言うなれば、植物園と動物園を一体化したような建物だ。
様々な動物が建物中で暮らし、植物は鉢植えどころかツタが天井を這い、
うっそうと屋敷内に張り巡るそれらは部屋や廊下の窓の光をさえぎり、
さながら暗い森を思い起こさせる。住んでいる動物たちもヒバリや犬、猫程度なら問題は無い。
蛇も毒が無ければ可愛いものだ。だが、虎とクマはどうだろうか?
小グマや猫と見まがう子供の虎ではない。立派な大人の猛獣のそれである。
それらが和気あいあいとしているのだ。何か変だと思う召使いは多い。
しかし主人がああなのだから、動物たちも影響を受けるのだろうと、
ある程度ここで働いた召使い達は思うようになる。
屋敷内の内装もトリステイン的な豪華さを持った調度品と色彩のそれではない。
きらびやかな調度品が飾られ、美しい色に彩られながらも、
光があまり当たらないせいかどこかほの暗く不気味だ。
東方のある島の伝統的な造りから着想を得てから改装したらしいが、
どうやってその地の事を知り得たのか、今のところ彼女の姉と使い魔以外は誰も知らない。
この屋敷で生活をしているのは彼女だけではない。
当たり前な話だが、彼女は貴族である。貴族の世話を召し使い達がするのは、
ハルケギニアにとっての常識だ。従者達の中でも新入りは、動物の世話もしないといけないだなんて。
性格は良いのだけれど。と事あるごとに愚痴をこぼしている。
「本当に、良いお方なんだけどなぁ」
最近奉公に来た年若いメイドが、廊下を掃除しながら言った。
トリステインで五本の指に入る大貴族であると共に、
気むずかしさでも五本の指に入るヴァリエールの生まれでありながら、
気さくで優しく、平民貴族分け隔て無く接する彼女に好意を持つ者は多いが、
その趣味を理解できる者は少ない。このメイドもその一人だった。
「ほら、口動かす前に手を動かしなさい」
「あ、すみませんメイド長」
ペコリと頭を下げて、若いメイドは白髪交じりのメイド長に謝った。
随分長い間ヴァリエールに仕えた女性は、
何とも言えぬ笑みを浮かべてメイドを見ている。
「お前が言いたい事は分かるけれどね」
「…失礼とは思うのですが、使い魔でもないトラや熊を放し飼いするのは…。
その、怖くて」
怪我をしている動物を治療することは悪い事ではないだろう。
しかし、どんな事でもやり過ぎると良いとはいえなくなる。
内装のことは慣れたら問題もないが、獣の世話は少し変わってくる。
特に猛獣として知られる、元野生の動物たちの世話もしなくてはならないメイドは、
少し青い顔をしてメイド長に言った。
「ああ、そうだろうね。どういうわけか大人しいけれど、
いつ豹変するか分からないからね。けれど――」
メイド長は肩を落としてゆっくりを息を吐いた。
「これでもご主人様は昔と比べると、随分良くなっているんだよ?
まぁ、分からないだろうけれどね」
「何の話かしら?」
件の主人、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌがいつの間にかいた。
気配その物を感じなかったのは、お喋りに高じすぎていたからだろうか。
それとも、主人は本来人が持っているはずの気配を何処かに落としてきているからだろうか。
ひぃ。と若いメイドは膝をつき頭を床に付けた。電光石火の早業である。
「別に構わないわ。お掃除頑張って下さいね」
そう言って笑顔を浮かべるカトレアは、
たくさんの動物たちを引き連れながらその場を後にした。
若いメイドは息をぜいぜい吐いている。
「あの人は簡単に命まで取ったりしないよ」
涼しい顔をしてメイド長は言うが、メイドは冷や汗を垂らしてぶんぶん首を横に振る。
「い、え、普通ご主人様の事を陰口で叩いていたらどうなるかなんて…」
想像したくもない。子供の事を言うのならまだしも、
そこの主人を悪く言ったらどうなるかなんてどんな馬鹿でも即座に理解できる。
つまり、命が惜しくないわけだ。そこからどのような罰が下ることか。若いメイドはまた体を震わせた。
「まぁ落ち着きなさい。そう決めているのよ。
あの人の指に嵌めてある変わった指輪を見たことあるかい?」
メイド長は彼女の背中をさする。ようやく震えが収まったメイドは、
そろそろ50の大台の半ばを過ぎる自分の上司に答えた。
「あ、ああ。あのスプーンの頭を模した指輪ですか?」
「八年前からね、ずっと身につけていらっしゃるんだ」
「何か思い入れのある品なのですか?」
ああ。とメイド長は続けた。
「何でも、さる国の王子様から賜ったそうだよ。
その時に、無闇やたらと殺生をしないと決めたとか。
おかしいのは、指のサイズが合わなくなっているはずなのに、
ずっと嵌めていらっしゃる事だよ。何か魔法がかかっているのだろうけれどね」
「へぇ。そう言えば、使い魔のミノタウロスも八年前に呼び出したんでしたっけ」
使い魔は通常、系統に見合った生物が現れる。火には高温に強い生き物や火竜等が、
水には水棲の動物や水が好きな生き物が、風には空を飛べる動物が、
そして土はジャイアントモールの様な土の中で過ごす生き物、
または地を駆ける生き物等が呼ばれる。カトレアは彼女の言葉を信じるならば、
土、土、水のトライアングルで選ばれた系統は土だった。ミノタウロスは大当たりの類と言えるだろう。
「そうそう。ラルカス様だね。ミノタウロスが喋るだなんて驚いたけれど、
元々ミノタウロスは片言で物を言えるらしいから、
使い魔になって流ちょうに話す事が出来るようになったんだとさ。
魔法まで使えるって分かった日にはもっと驚いたけれど、それもルーンの力だとか」
使い魔の方が平民よりも位は高い。その為知性ある使い魔には敬称を付ける。
「はぁ〜。やっぱり貴族様の魔法ってすごいんですねぇ」
「まったくだよ。さて、さっさとここの掃除を終わらせるんだよ。
仕事は山積みなんだからね」
メイド長は自分の仕事をする為に、どうにか元気良く返事をする若いメイドのいる廊下を後にした。
「ノクターナルはこの頭巾を被ったら、
誰からも認識出来なくなる呪いをかけているのです。
そしてそれをかけたかどうかすら忘れているようで…」
やっぱりボケてるのかしら。大ボケですな。
はっはっはと二人は笑った。
「で、先代に頭巾を渡された時にその呪いにかかったの?」
「そうなのです。いやぁもう何年も昔の話でございますが」
5.6時間も竜の上に乗るのは退屈だ。
フォックスが持ってきていた軽い昼食を食べながら、ルイズは昔話を聞いている。
ところどころをぼかしてはいるが、元々貴族階級の出であり、
長い間盗賊達の頭を務めてきたフォックスにとって、ルイズに答えたくない疑問を持たせない様に話を聞かせるのは簡単だった。
「それで、腹心の部下に呪いを解くためのアイテムの入手を任せたのですが、ドジりましてな」
「なんでまた?凄い盗賊だったのでしょう」
いやぁ、とフォックスは口元をゆるませた。
「見たことの無い書物があったらしく、思わず声を上げたらしくて。
そこにいる僧兵達は目が見えぬのですが、代わりに耳がとても良いのです。
目はエルダースクロールだけの為に使うため、普段は目隠しをして暮らしています」
「エルダースクロール?」
「昔々の大昔に、エイドラによって創られた既言の書にして予言の書の事です」
そんな物まであるの。何か凄いわねぇタムリエルって。
ルイズは口に出さず考えたが、ふと疑問が沸いた。
「ねぇ、予言書ってそこに書かれた事全部起きるの?」
フォックスは首を横に振った。
「いえ、起こった後は皆同じ内容が見えるのですが、
それまでは見る者によって、差違が存在するほど難解に書かれているのです。
そしてエルダースクロール、またの名を星霜の書と言うのですが、
その内容を理解するには特別な訓練が必要でございまして。
そして最も重要なのは、書を読むにつれて視力が無くなっていく事です。
エルダースクロールは事象毎に別の巻物に書かれているのですが、
どれか一つを読み切ってしまうと、目は何も映さなくなるのです」
先を知る代償という奴ですな。とフォックスは締めくくった。
なるほど、大きな力は代償も大きいのね。とルイズは納得する。
「本来、その書物に干渉する事は神々ですら不可能だと言われているのですが――」
フォックスは肩をかしげながらルイズに言った。
「何故かノクターナルには可能だったようです。
最初にこの頭巾を被った男の名をこの世から消した事によって、
エルダースクロールのある巻に、何も記載されていない欄が出来てしまいました。
私が名を取り戻すには、そこに最初に頭巾を奪った男の名を刻めば良いのですが、
それを盗む事に失敗してしまって…失意に浸る中、
気が付けばティファニアに呼ばれていたという訳です」
「事情を話して借りれば良いじゃない」
最も一般的な解答かもしれない。しかし、グレイ・フォックスは首を横に振る。
「お嬢様。ヴァリエールお嬢様。私はしがない盗人です。そんな男の話を聞く者など、
誰がおりましょうか。それに、グレイ・フォックスは伝説なのです。
実在の誰かであってはならぬのですよ」
アンヴィル伯としての顔は皆忘れてしまった。
そしてエルダースクロールへの干渉は基本的に不可能であり、
特に「過去」となった記録については、絶対に書き替えが出来ないとされている為、
名無しならずっと名無しである。と考えられているのだ。
そして、フォックスは貧民達の英雄であると共に、伝説の盗賊頭でなければならない。
盗賊ギルドはなにも貧民だけがメリットを持つわけではない。
組織的な犯行と不殺を含む掟は、都市での突発的な犯罪と凶悪な犯罪の抑制を促す。
誰だって初めは金が無いから仕方なく、一切れのパンを盗む事から始めるのだ。
味を占めて人の命を盗むようにならず、金目の物をいくらか頂くだけで終わるのならば、
それに越した事はない。犯罪そのものを無くすことは不可能だが、
組織を作ることによって減少出来るのなら、それには目をつぶる。
タムリエルで盗賊ギルドを支援、または黙認している上層階級の役人や貴族は、
この様な考えからギルドを支持している。
「そんなものかしらね」
「そんなものなのですよ」
ふうん。とルイズはパンをかじりながらフォックスの顔を見た。
頭巾に覆われた顔はほとんど感情を見せないが、どこか疲れている感じではあった。
年を取った男は、自分をじっと見つめる少女をいぶかしむ。
「そんなものかしらね」
「そんなものなのですよ」
ふうん。とルイズはパンをかじりながらフォックスの顔を見た。
頭巾に覆われた顔はほとんど感情を見せないが、どこか疲れている感じではあった。
年を取った男は、自分をじっと見つめる少女をいぶかしむ。
「あ、何でもないわ。後どれくらいかしらね」
「そうですな。後一時間程でしょう。テファの薬は良く効きますからきっと良くなりますよ」
「ねぇ、あの子の魔法って」
さて、とフォックスは首をひねった。
「ああ、何でも精霊達から教わっているとか。私はメイジではありませんから、
魔法は使えてもその原理までは理解していませんので、彼女の魔法が何なのかは分かりません。
便利ですけれどね。風石とか作れますし」
「何ですって!?」
風石はアルビオンへ行くための必需品だが、あまり多く採掘できる物ではない。
そんな貴重品をエルフは自身の力で作り出す事が出来ると聞けば、
驚くのも無理はない。フォックスは話を続ける。
「何でも、精霊の力の行く先を指定する事で、
精霊の力をため込んだ結晶体にすることが可能なのだとか」
ふあーとルイズはため息をついた。
「流石エルフだわ。反則も良いところじゃない」
「ミス・ヴァリエールも出来るのではないのですか。『虚無』なのでしょう?」
ルイズは首を横に振った。
「ダメよ。さっきマーティンから教わった魔法も試したけれど、
使えなかったわ。でも――私にはエルフの血が混じっているかもしれないのに、
どうして使えないのかしら」
「偶然か、それとも神のいたずらか…この世の中分からない事の方が多くございます。
そして、分からない方が良いこともたくさんございます」
理由は知らぬ方が良いかもしれません。とフォックスが答えてしばらく経つ。
ルイズは、ふと今朝の事を思い出した。
「ねぇ、メリディアって知ってる?」
「確か――無名のデイドラ王子の名でしたな。その存在のほとんどが謎に包まれたデイドラです」
「息子の名前がウマリルって言うらしいわ。どこかでその名前聞いたんだけど、忘れたの」
おお、とフォックスが声を上げた。
「ウマリルというと、伝説でペリナルと戦ったアイレイドの長ですよ。「羽を失いしウマリル」なんて、
ご大層な肩書きを持っていたそうですが。ああ、羽が不死を表しているのだとすれば納得がいきますな」
不死でなくなったという意味に聞こえる。とフォックスは言った。
「う〜ん。何か違う気がするけど…」
「まぁ、真実を知るには本人に聞くべきでしょうな…私もいずれ神々に聞かねばなりません。
聞くことが出来ればの話ですが」
と、フォックスは答えた。それからも世間話をしつつ、風竜は空を舞う。
しばらくして一行はフォンティーヌの屋敷に着いたのだった。
素晴らしい、圧倒的なボリューム。
しかしお母様ともまともにやり合えるようになるなんて、
やっぱり凄いな俺のルイズは。
なんて感想打ってる間にまたもやw
支援
投下終了。
モロウウインドじゃないもの。助けられもするさ。それではまた次の投下まで。
たまにはこんなカトレアさん像もアリかなーみたいな。
>>398 感想の邪魔してごめんよ。支援ありがとーう。
>>400 ゴメンどころか嬉しくて小躍りしちゃうw
オブリビオンはやったことないけど、ウェルドオブイストリアは好きだったし、
盗賊ギルドとか響きだけでなんかときめく。
そしてなにより調子に乗って空から落ちるルイズが最高過ぎるw
これはGJせざるをえない。
25分に初投下、くだらねー一発ネタ
60行ちょい超えてたので、2回に分けて投下予定
ルイズは不機嫌だった。
その理由は、目の前に展開するレコン・キスタ率いるアルビオン艦隊によるものではない。
彼女が呼び出した使い魔のせいだった。
横目でその使い魔を見やると、いつものように妙な服装と靴?をはき、鉄で出来たよくわからない乗り物に乗っている。
本人がそう言ったとはいえ、この姿を見ていったい誰が彼を格闘家だと思うだろうか。
というかそもそも、彼がパンチだのキックだのしている姿を見たことがない。
手からエネルギー波みたいなものを飛ばす姿ならよく見るが。
その使い魔―――リョウ・サカザキと名乗る男―――が呼び出されてから、自分、いやこの国全体が大きく変わってしまった。
最初は変な服と乗り物に乗ったただの平民だと思ってがっかりしたものだ。
しかしその考えはすぐに訂正されることになる。
まず、人の話を全く聞かないのだ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだと何度も名乗っているのに、なぜか自分をユリと呼んでくる。
話を聞くとどうやら彼の妹の名前らしいが、ルイズにこんな兄がいたという事実はない。
ようするにルーンの忠誠心からくる彼の勘違いなのだが、話を聞かないせいで未だに気づいてない。
そしてどんな時にも変な乗り物から降りようとしない。
結構なサイズにも関わらず異様に小回りが利くので大概の場所なら移動できるのだ。しかも馬よりはるかに速い。
あと何でか飛べる。おかげでこの乗り物に乗せられてアルビオンまで行く羽目になった。ワルドは置いてかれた。
そして、ここが一番重要なのだが、彼は異常に強い。
ギーシュとの決闘はまだいい。ワルキューレをあの乗り物で吹っ飛ばしただけだから。
しかしフーケのゴーレムとの戦いでルイズは信じられないものを目にすることとなった。
さすがに30メイルのゴーレムを轢くわけにもいかないらしく、どうするのかとルイズは不安だった。
そしたら何かこんな声が聞こえてきたのだ。
「魔法を使うやつが相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない!」
そして大きいエネルギーっぽいのが手から撃ち出され、ゴーレムの上半身を吹っ飛ばした。
あとフーケが破壊の杖を使って何かしようとしていたがあっさりと轢き殺されてしまった。
ワルドとの対決でもその覇王翔吼拳とやらを使い、風のシールドを全く無視して吹き飛ばした。
アルビオンから離れる際に、覇王翔吼拳を撃ちまくって艦隊を次々と沈めていったのは記憶に新しい。
こんな活躍から彼はトリステインの救世主と呼ばれ、また虚無であることが判明した自分の評価もうなぎのぼりだった。
しかし、である。この使い魔は、こういった数々の魔法みたいな戦い方を彼流の拳法であるといって聞かなかった。
おかげでトリステイン軍は今では彼の使う拳法―――極限流とか言うらしい―――が正式採用されている。
それによりトリステインという国自体がもとの優美な貴族式社会から、無骨で筋肉質な質実剛健社会に変わってしまった。
一度だけ王女にこのままでいいのかと訴えたが、肝心のアンリエッタ自身が使い魔にベタ惚れでなんともならなかった。男の趣味悪っ。
国が変化すること自体は仕方ないし、昔の貴族社会はどちらかというと良い点より悪い点のほうが多かったので歓迎すべきかもしれない。
しかし国軍が全員鉄製の乗り物に乗って敵を轢き殺していくというのはどうなんだろう。これなんて世紀末世界?
ちなみにこの鉄製の乗り物の量産化はコペンハーゲン先生の尽力のたまものである。
どうせこの戦いも勝つのだろう。トリステイン軍は陸戦では無敵だし、空戦も自分の使い魔がたぶん何とかするのだから。
それでもルイズは不機嫌にならざるを得ない。
自分の使い魔のせいで国が変わってしまったし、そうは言っても自分にはこの使い魔を止められない。
強いのはいいのだが、これならまだ何も個性のないただの平民のほうがよかったのかもしれない。
そう考えてるうちに戦いが始まった。予想通り陸戦ではトリステインが圧倒的である。
しかし空戦では使い魔くらいしかまともに戦えるのがいないので、竜騎士や艦隊の差でだんだん押されてくる。
さすがにちょっとまずいか?と思ったその時。
―――――「そこら中で派手にやったる!」
とかいう声がして、なんか鉄の箱っぽいのが飛んできて竜騎士を撥ね飛ばしていく。
使い魔が叫ぶ「ロバート!」いや誰だよロバートって。
そして鉄の箱の中の人も叫ぶ「覇王翔吼拳!!」お前もかよ!
その後覇王翔吼拳が二つに増え、一つだけでも結構な損害を受けていたアルビオン軍は一気に瓦解していった。
この戦いの後、ロバートとかいう男も(やっぱり)極限流の使い手だということが判明し、極限流の名は一気にハルケギニアに轟くことになる。
そしてこの極限流をいち早く採用したトリステインはその後ハルケギニア一の強国となっていく。
しかしルイズとその使い魔はガリアとの戦争の後忽然と姿を消してしまったため、現在では極限流の正体を明かせる人間はいない。
ただ、その後トリステインで極限流がどのように発展していったかは、元銃士隊・現極限流隊隊長アニエスの著した書物からうかがい知ることができる。
極限流―――――それはバイクと飛び道具をくみあわせたまったく新しい(ry
龍虎の拳(を基にした某所ネタ)より、リョウ・サカザキ(お覇王)召喚
投下終了
書いてみてから思ったけど、こういうのは元ネタ知ってないと面白くないかも
GJといわざるを得ない!
乙といわざるを得ない
元ネタはMUGENのキャラクターよりって訳ですねGJ
空手とブーメラン、空手とブーメランなのか?
トリステインの極限流は格闘技としては?だけど軍事戦闘術としては有りですね
ロバート派の後継者が戦車の始祖を開発する日も近いかも
オールドオスマンを助けた地球人はMr.カラテですね。わかります
二次創作からの三時創作はアウトだぞ
>>414 ネタだしおもしろいからイイじゃないか。
前例にされちゃ困るけどな、でも俺は大好き ちゃんとオチがついてるだけで許せちゃうのは基準が低くなりすぎ?
マジでくだらねぇ(褒め言葉)
GJだと言わざるを得ない
まあ、どんな出来だろうが三次創作って時点でどうかと思う。
三次がNGって、一瞬実写とかからのがダメかと思ったじゃないかw
いやしかしこれは面白いw使わざるをえない最強すぐるw
って、これがNGというのなら、既にまとめに登録されているジョインジョイントキィや
その他のパロディが元になってる作品群だってNGって事になるじゃんねぇ。
遡及法ってやつだな。
このスレは三次創作とのクロスは禁止になっているはずなんだが……
あれ?
そうなのか?
最強の使い魔で セガール召還ってのを考えてたけどこれもパーか・・・・
間違えた。
×遡及法
○法の不遡及
だった。
>>426 自分で書いといてアレだが、三次創作とのクロスって事は四次創作か?
なんか凄そうだなw
正しくは「二次創作とのクロスは禁止」な
とりあえずテンプレとwikiには三次制作とのクロス禁止云々はないけど・・・禁止なのか?
四次元クロォォォォス!って、なんかキン肉マンに出てきそうな必殺技みたいだw
明文化はされてないけど、そうなってる。
異議がある場合は、避難所の運営議論スレでお願いします。
盗作やエロでもない限り、まずは面白いことが絶対正義だと思うんだ
彩光少年2巻表紙のアクアちゃんが可愛くて生きてるのが辛い(挨拶)
1:00頃から投下させてください。
>>433 >面白いことが絶対正義
各人で面白いの基準は違う
題材に使われた二次創作に嫌悪感を持ってる原作ファンがいる可能性も十分にある
支援!
翌朝……。
鍾乳洞につくられた港の中、ニューカッスルから疎開する人々に混じって、ティトォは『イーグル』号に乗り込むための列に並んでいた。
先日拿捕した『マリー・ガラント』号にも、脱出する人々が乗り込んでいる。
(いいの?)
ティトォの頭の中に、声が響く。
(黙って先に行っちゃってさ)
幼い女の子の声……、アクアの声である。
「ルイズのこと、怒らせちゃったから。顔合わせづらくて」
ティトォは小声で呟き、頬を掻いた。
(ありゃルイズだって悪いんだよ。あのガキ、癇癪持ちでどうしようもないね)
アクアが鼻を鳴らす。まるで肩をすくめる仕草が見えるようで、ティトォは小さく笑った。
(それにしても、結婚式か……)
「うん」
(プリセラは、見たかったんじゃないかな……。結婚式)
「……そうだね」
ティトォとアクアは、魂の同居人に思いを寄せた。
と、そのとき。
急に、胸がざわざわとして、ティトォは小さく顔をしかめた。
この感覚は、ティトォのものではない。
「……プリセラ?」
不死の三人の最後の一人・プリセラの魂がざわめいて、ティトォの魂を揺らしていた。
さてその頃、ルイズは戸惑っていた。
今朝方早く、いきなりワルドに叩き起こされ、ニューカッスル城の敷地にある礼拝堂に連れてこられたのである。
始祖ブリミルの像が置かれている礼拝堂には、ウェールズ皇太子が待っていた。
周りに、他の人間はいない。皆、戦の準備で忙しいのだろう。
寝ぼけた目でぼんやり皇太子を見ていると、ワルドがルイズの耳に顔を寄せ、「今から結婚式をするんだ」と言った。
「え」
ルイズは思わず目をぱちくりとする。
結婚式?なにそれ。
寝起きの悪いルイズは、まだ自分が夢を見ているのかと思った。
呆然とルイズが突っ立っていると、ワルドはアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に乗せた。
魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく清楚な作りであった。
甘い花の香りが、ルイズの鼻をつく。
どうやらこれは、夢ではないらしい。
いったい、何が起こってるっていうの?
ルイズは昨日の、ティトォとのやり取りを思い出す。
(わたし、ワルドにプロポーズされたの。今決めたわ。わたし、ワルドと結婚するわ。あの人、頼りがいがあるから、きっと安心ね)
あれは、ティトォへの当てつけで、つい口にした言葉だった。
ラ・ロシェールで受けたプロポーズへの返事をどうするかは、実際のところ、まだ悩んでいた。
もしかして、ワルドは昨日の話を、どこかで聞いてたのかしら。
それで、わたしがプロポーズを受けたのだと思ってるのかしら。
ええ、そんな。どど、どうしよう。
「あのね、ワルド。えと、その」
ルイズがあたふたしているうちに、ワルドはルイズの黒いマントを外し、同じく王家から借り受けた純白のマントをまとわせた。
新婦しか身につけることを許されぬ、乙女のマントであった。
「そそ、そのね。ふ、不幸な行き違いがあったと思うの……」
ルイズはしきりに手をいじりながら、ごにょごにょと呟いた。
「似合っているよ、ぼくのルイズ」
ワルドがうっとりと声をかける。
竜虎の拳アニメ版はなんで必殺技カットしちゃったのかね、餓狼では使ってたのに。
三次は作者とのトラブルがあるかもしれないからやらないに越した事はないかと。
ルイズのつぶやきは、ワルドの耳にはまったく届いていなかったようだ。
ルイズは本当に困ってしまった。
どうしよう。どうすればいいんだろう。
「あのねワルド」
「では、式を始める」
ルイズが口を開くのと同時に、ウェールズがおごそかに宣言した。
その言葉に、ルイズの隣に立ったワルドが、恭しく一礼した。
ダメだ。ダメだこの人たち。
人の話、全然聞いてない。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。
「新婦、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。
「いえ、ですから……」
ルイズは困った顔でウェールズに進言しようとした。
これは、ワルドの早とちりなんです。ふたりの間に、ちょっとした誤解があったんです……
「……汝は始祖ブリミルの名に置いて、このものを敬い、愛し、夫とすることを誓いますか」
ルイズはハッとなって、ウェールズを見る。
ウェールズは明るい紫のマントを身に纏い、七色の羽を着けた帽子をかぶっている。アルビオン王家の礼服である。
ウェールズの後ろには、両手を前に突き出した始祖像が鎮座している。
困惑していて気付かなかったが、これは正式な結婚式だ。
略式とはいえ、始祖の前に誓う婚礼の儀である。
ルイズは気付いた。今、答えを出さなくてはいけないのだ。
決心がつかずにのらりくらりとかわしていた、ワルドのプロポーズへの返事を出すのが、今なのだ。
ルイズは俯いて、考える。
相手は、憧れていた頼もしいワルド。
幼い頃に交わした結婚の約束、それが現実のものになろうとしている。
でも、ちょっと話が急すぎない?
プロポーズを受けた(とワルドは思っている)次の日に結婚式だなんて。
そんな話、聞いたことないわ。
キュルケの奴が『殿方は強引なくらいじゃなきゃだめよ』なんてのたまってたけど、これはあんまり強引すぎじゃないかしら。
「緊張しているのかい?仕方がない。初めての時は、ことがなんであれ、緊張するものだからね」
そういってワルドはにっこりと笑った。
ウェールズが続ける。
「まあ、これは儀礼にすぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は、始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し……」
式は、ルイズの与り知らぬところで続いている。
ルイズはなんだか腹が立ってきた。
ルイズの脳裏に、昨日の夜の、ティトォやウェールズたちへの怒りが甦ってくる。傲慢な男たちへの怒りであった。
ワルドだってそうだ。強引で、なにもかも勝手に決めてしまってる。
そういうの、なんかいやだわ。気に入らない。
ルイズの心は、決まりつつあった。
でも、そんなことでプロポーズを断っていいものかしら?
ワルドのことは、憧れだった。
魔法衛士隊の隊長ともなれば、結婚の相手としては理想的と言えるだろう。
それを「なんだか気に入らない」なんて言葉で、袖にできるものなのかしら?
そんなの、何の理由にもなってないわ……。
ルイズは少し悩んだが、やがてふうっと息を付いた。
ルイズの脳裏に、ゆうべティトォに投げかけた言葉が思い出された。
(プロポーズを受けるかどうか、悩んでるわ。これは理屈じゃない、気持ちの問題よ)
そうだ。これは、政略結婚でもなんでもない。
ならば結婚は、理屈でするものではない。
だったら自分の今の気持ちに、従ってみよう。理由なんて後から付いてくるわ。
「……夫とすることを、誓いますか」
ウェールズの言葉に、ルイズは小さく首を振った。
>>435 そんなん一次だって同じだろw
例えば俺はなのは大っ嫌いだぜ。
イチイチ噛み付いたりはせんが。
「新婦?」
「ルイズ?」
二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。ルイズはワルドに向き直った。
そして、申し訳なさそうに目を伏せて言った。
「ごめんなさい、ワルド。あなたとは結婚しないわ」
いきなりの展開に、ウェールズは首をかしげた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「その通りでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」
「……緊張しているんだ、そうだろルイズ。きみがぼくとの結婚を拒むはずがない」
ワルドはルイズの手を取って、言った。
「ごめんなさい、ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うの」
「あの使い魔か?あの男に恋したのか、ルイズ!」
「そんなんじゃないわ」
「ではなぜ!」
「本当にごめんなさい。でもワルド。今のあなた、なんだか気に入らないの」
ワルドの頬に、さっと朱がさした。
「ふざけるな!そんな理由があるもんか!」
ワルドは、ルイズの肩を掴んだ。その目が吊り上がる。熱っぽい口調で、ワルドは叫んだ。
「世界だルイズ!ぼくは世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!」
ルイズはワルドに怯えて、後じさった。
そりゃあ、あんな理由で結婚を拒んだのだ、ワルドはきっと怒るだろうとは思っていた。
しかし、ワルドの豹変ぶりは尋常ではない。歪んだ目の光が、爬虫類を思わせるような冷たいものに変わっている。
「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう!きみは自分で気付いていないだけだ、その才能に!」
ワルドの剣幕に、ルイズは震え上がった。ルイズの知っているワルドではない。いったい何が、彼をこのような物言いをする人間に変えてしまったのだろうか?
見かねたウェールズが、間に入ってとりなそうとした。
「子爵……、きみはフラれたのだ。いさぎよく……」
「黙っておれ!」
ワルドはその手をはねのける。
ウェールズは、ワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。
ワルドはルイズの手を握った。ルイズはまるでヘビに絡みつかれたように感じた。
「ルイズ、きみの才能がぼくには必要なんだ!」
ルイズはワルドの手を強引に振りほどき、きっとワルドを睨みつけた。
「あなたのこと、気に入らなかった理由がやっとわかったわ」
ルイズの肩は、怒りで震えている。
『なんだか気に入らない』程度だったワルドへの感情は、はっきりとした嫌悪に変わっていた。
「あなた、ちっともわたしを愛してないじゃない。あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、ありもしない魔法の才能だけ。そんな結婚、死んでもいやよ!」
ワルドはまたしてもルイズに掴みかかろうとする。しかし、その行く手にウェールズが立ちはだかった。
ウェールズは、ワルドに杖を突きつけている。
「見苦しいぞ、子爵!今すぐにラ・ヴァリエール嬢から離れたまえ!」
ワルドはやっと身を引くと、どこまでも優しい笑顔を浮かべた。
しかしその笑みは、嘘に塗り固められていた。
「こうまでぼくが言ってもだめかい?ルイズ。ぼくのルイズ」
「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」
ワルドは天を仰いだ。
「この旅で、きみの気を惹くために、ずいぶん努力したんだが……」
両手を広げて、ワルドは首を振った。
「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦めよう」
「目的?」
ルイズは首をかしげた。どういうつもりだと思った。
ワルドは唇の端を吊り上げると、禍々しい笑みが浮かべた。
割り込みすまない支援
確かなのはは公式の二次創作(こういうの何て言うんだろう)じゃなかったか支援
ワルドは右手を掲げると、人差し指を立てて見せた。
「そうだ。この旅におけるぼくの目的は、三つあった。ひとつはきみだ、ルイズ。きみを手に入れること。しかし、これは果たせないようだ」
「当たり前じゃないの!」
次にワルドは、中指を立てた。
「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」
ルイズははっとした。心の中で、いやな想像がふくれあがる。
「ワルド、あなたまさか、貴族派に……」
「そして三つ目」
ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、ウェールズはすべてを察した。
「貴様、『レコン・キスタ』!」
ウェールズは杖を構え、呪文を詠唱した。
しかし、ワルドは二つ名の閃光のごとく杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。
ウェールズの呪文が発動しようという瞬間、ワルドの杖がウェールズの杖を薙ぎ払った。
ウェールズの水晶の杖は真っ二つに切り裂かれ、宙を舞う。
「三つ目は、貴様の命だ。ウェールズ」
ワルドは小さく呟き、ウェールズの胸を狙って杖を突き出した。
ルイズは立ちすくみ、その光景をまるでスローモーションの映像を見るかのように、見守っていた。
杖を中心に、青白く光る鋭い空気の渦が発生している。杖を刃と化す『風』の魔法、『エア・ニードル』だ。
ワルドの杖の切っ先が、今まさにウェールズの心臓を貫かんとしたとき……、
突然、がくんと身体を揺らし、ワルドの動きが止まった。
「なに!」
ワルドが困惑して、叫んだ。
ぐん、と見えない力で引っ張られて、ワルドの身体はウェールズから引き離される。
ワルドはそのまま、宙に浮いた格好で動きを封じられた。
「身体が、動かん……!貴様、何をした!」
ワルドが叫ぶ。
しかし、ルイズもウェールズもわけが分からず、困惑した目でワルドの姿を見ていた。
ふとワルドが、杖を握った、動かない右腕に目をやると、手の甲を何かが這い回っていた。
それは小さな蜘蛛であった。
よく見ると、ワルドの腕に、脚に、身体に、細い糸が絡み付いている。
ばかな。こんな細い糸が、身体の動きを封じているというのか?
「マテリアル・パズル」
礼拝堂の入り口から響いてきた声に、ウェールズと、ルイズ、そしてワルドは振り返った。
「魔法の炎で蜘蛛をパワーアップさせ、操った。そしてパワーアップした糸を出してもらった」
そこにいたのは、ハルケギニアでは珍しい、黒い髪と黒い目を持った少年。
『イーグル』号でアルビオンを脱出しているはずの、ティトォであった。
「ティトォ!」
ルイズが目に涙をいっぱいためて、叫んだ。
「貴様……」
ワルドが苦々しげに呟く。
「なぜにぼくの裏切りがわかった?ミョズニトニルン。きみに疑われるような真似は、しなかったつもりなんだがね」
「確かに、お前の行動におかしなところはなかった。ぼくは疑いもせず、『イーグル』号に乗り込むところだった」
ワルドは怪訝な顔になる。
「ならばなぜ?」
「勘さ」
「勘?勘だと!」
ワルドは驚いて、叫んだ。『勘』、それはこの少年に、もっとも似つかわしくない言葉に思えた。
ティトォはなにごとも細かく観察し、論理的に分析する人間だ。
『勘』などという曖昧なものにそって、行動するとは思えない。
「ぼくだけだったら、まんまと騙されてた。でもぼくの中のプリセラの魂が囁いたんだ。「ワルドはなんだか気に入らない」ってね」
女の勘ってやつかな、とティトォは呟いた。
そしてティトォは、火のような怒りを含んだ目で、ワルドを睨みつけた。
「よくもルイズを裏切ったな」
ルイズには、ティトォの黒い瞳の色が、一瞬青く色を変えたように見えた。
これはティトォだけの怒りではない。不死の身体に眠るアクアの、プリセラの怒りだ。
そして、結婚式でルイズを裏切ったワルドに、一番腹を立てているのはプリセラなのだ。
プリセラの魂が震え、ティトォの怒りを大きくしていた。
ワルドはティトォの言葉の意味がわからず、首をひねっていた。
しかしやがて残忍な笑みを浮かべて、言った。
「いやはや……、さすがは伝説の使い魔と言ったところか。きみには驚かされてばかりだよ」
妙に余裕を感じる口調である。
ティトォはいぶかしんだ。
「ルイズ、ウェールズ皇太子を連れて逃げるんだ」
ティトォの言葉に、ルイズははっとして、ウェールズに駆け寄った。
「ウェールズ様、こちらに……!」
「あ、ああ」
ウェールズは困惑していたが、その言葉に従い、ルイズの手を取った。
しかし……
どこに潜んでいたのか。突然、ウェールズの背後に長身の貴族が現れた。
その貴族は風のように身をひるがえらせ、青白く光る杖で、背後からウェールズの胸を貫いた。
ウェールズの口から、どっと鮮血が溢れ出る。ティトォの目が驚愕に見開かれる。ルイズは悲鳴を上げた。
ウェールズの身体が、どう、と床に崩れ落ちる。
杖を鮮血に染めた長身の貴族は、悠然とそこに立っていた。白い仮面が顔を隠している。
ルイズは腰を抜かしてへたり込んだ。
この貴族は、ワルドのグリフォンに乗っていた……!
仮面の貴族は、ふわっと身を翻らせると、ワルドの身体にからみつく蜘蛛の糸を杖で切り裂いた。
身体の自由を取り戻したワルドが、すたっと地面に降り立つ。
「ルイズ!」
ティトォがルイズとウェールズの元に駆け寄る。
右手に握ったライターから、大きな火柱が燃え上がっている。
「ホワイトホワイトフレア、この者の傷を癒せ!」
ティトォはウェールズの身体に、魔法の炎を叩き込んだ。ウェールズの全身に、炎が燃え広がる。
「無駄だよ、心臓を貫いたのだ。ウェールズは即死さ」
せせら笑うワルドと、その隣に立つ仮面の男を、ティトォは睨みつけた。
そして、奇妙なことに気が付く。
身長、呼吸の間隔、骨格、全身のバランス。この二人は『すべてが同じ』なのだ。
「風の遍在〈ユビキタス〉……」
「おや、さすがだね、一目で見抜くとは。やはり『遍在』を隠しておいて正解だったよ」
仮面の貴族は、すっと顔に手を伸ばすとその真っ白の仮面を外した。
ルイズははっと息を呑んだ。その仮面の下から現れたのは、ワルドの顔だった。
二人のワルドが、こちらを見て笑っている。
「風のユビキタス。風は遍在する。風の吹くところ、何処となくさまよい現れ、その距離は意志の力に比例する」
「ラ・ロシェールで襲ってきた傭兵の手引きをしたのも……」
「その通り、ぼくだ。遍在は、それ自体が意志と力を持っているからね。離れたところでいろいろと動かせてもらった」
ワルドが得意げに語る中、跪くティトォの背後、ウェールズの身体がぴくりと動いた。かは、とウェールズの喉から空気が漏れる。
それを見て、ワルドの眉が吊り上がる。
「傷を塞ぎ、蘇生したというのか。どうやらきみの魔法を甘く見ていたようだな……」
ワルドの遍在が、薄笑いを浮かべて杖を構えた。
「だが、貴様はウェールズの治療で動けまい!二人まとめて、地獄に送って差し上げよう!」
ワルドを睨みつけるティトォの額に、冷や汗が浮かぶ。
ワルドの言う通り、ウェールズは危険な状態だ。完全に治療が終わるまでは、動かせない。
そのとき、杖を構える遍在の足下が爆発した。ぼごんっ!と激しい音が響く。
ワルドとティトォが振り向いた。杖を構えたルイズが、ワルドと遍在を睨みつけている。
ワルドが素早く杖を振るう。ルイズは風の障壁に横殴りに打たれ、紙切れのようにふっとんだ。
ルイズの身体は、ティトォとウェールズの近くまで転がって、ようやく止まった。
「ルイズ!」
「あぐ……」
全身の痛みにルイズが顔をしかめる。
「ルイズ。愚かなルイズ。きみは変わってしまったな。昔はぼくの言うことはなんでも聞き入れたのに」
「ふざけないで、変わったのはあなたよ……!トリステインの貴族であるあなたが、どうして!」
「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない。ハルケギニアは我々の手によって一つになり、始祖ブリミルの降臨せし『聖地』を取り戻すのだ」
ルイズが呪文を唱え、杖を振るう。しかし呪文はワルドにかすりもせず、ワルドの背後の壁を爆発させた。
ワルドが杖を振るう。風の刃が、ルイズの肌を薄く切り裂いた。
「うあ……!」
「共に世界を手に入れようと言ったのに、聞き分けのない子だ」
ティトォの手が、ルイズの肩に伸びた。ルイズの全身を炎がまとい、傷が消えていく。
二人のワルドは冷たい瞳で、ルイズを見下ろす。
「言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかないだろう?なあ、ルイズ」
遍在が呪文を唱えると、杖が青白く輝きだした。先ほどウェールズの胸を貫いた、『エア・ニードル』の呪文だ。
(結構なダメージでも、その炎が回復させてしまうからな……。このまま、一撃で確実に首を落とす)
遍在が杖を振りかぶる。
ルイズは恐怖に目をつむりそうになったが、気丈に遍在を睨みつけた。
怖い、逃げ出したい。でも。
負けるもんか。
薄汚い裏切り者なんかに、負けるもんか!
「ウル・カーノ……!」
ルイズが呪文を唱える。それより早く、遍在は杖を振るった。
しかし。
ぼごんっ!と激しい音が響き、爆発とともに遍在は吹っ飛んだ。遍在は、ワルドの背後の壁にぶち当たり、消滅した。
「何!」
ワルドがうろたえる。ルイズの詠唱より、確実に遍在の動きの方が速かったはずだ。
しかし実際には、先に発動したのはルイズの呪文だった。
「え……?」
ルイズも、あっけにとられた顔で自分の杖の先を見つめた。
信じられないくらい、身体が速く動いた。それだけじゃない。あの距離で魔法を外すことはないとは思っていたが……、なんだか『狙ったところに魔法が当たった』ような感覚があったのだ。
ワルドが杖を構え、呪文を唱える。
「ラナ・デル……」
「ウル・カーノ!」
ルイズが杖を振るのと同時に、ワルドは呪文の詠唱をやめ、飛び退った。ワルドの立っていた空間が爆発し、礼拝堂の床板を巻き上げた。
「なんだと!」
ルイズは確信した。
当たる。
今の自分は、狙った場所を爆発させることができる。
しかも爆発の威力も、いつもの失敗魔法より、数段上がっている。
「この力は、いったい……」
「……マテリアル・パズル。魔法の炎を、ドレス化して身に纏わせた」
ルイズの背後で、ウェールズを治療しているティトォが言った。
「魔法の炎は、生き物の潜在能力を引き出してくれる。蜘蛛をパワーアップさせたように、ルイズの身体能力・魔力・そして魔法のコントロール力を強化した!」
ティトォの叫びに呼応するかのように、ルイズの身体を纏う炎が、いっそう強く燃え上がった。
「……ルイズ」
ティトォが、苦しそうな声で言う。
「ぼくは、ウェールズ皇太子の治療で動けない。それに、残念ながらぼくは、あいつと戦えるだけの攻撃力は持っていない。……女の子に戦わせるようなことをして、申し訳ないと思う。情けないと思う。
そのかわり、ぼくの魔力は、できるだけきみに送る。ダメージも一瞬で回復させる。きみはぼくが命をかけて守る!だから、きみの力を貸してくれ!」
「……当然だわ!ワルドはハルケギニアを戦渦に巻き込もうとする『レコン・キスタ』の一員よ。それに、ウェールズ様やわたしをなんとも思わず殺そうとした。命をなんとも思わないゲスな男!」
ルイズは視線をワルドから外さずに、頷いた。
「トリステイン貴族として!あなたはここで倒す!」
「は!勇ましいことだ、小さなルイズ」
ワルドが笑う。
「もう、小さくないわ!」
ルイズが杖を振るうと、ドンドンドンと続けざまに爆発が巻き起こった。
ワルドは素早い動きで爆発を交わしながら、早口に呪文を唱える。
「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ!」
『風』の二乗と、『水』ひとつのトライアングルスペル、『ウィンディ・アイシクル』。
空気中の水蒸気を凍らせた無数の氷の矢が出現し、ルイズに殺到する。
「ウル・カーノ・ジエーラ!」
ルイズが素早く杖を振るう。立て続けに爆発が起こり、氷の矢はすべて撃ち落とされた。
「やるね。しかしこの魔法は撃ち落とせないぞ!」
ワルドはすでに、次の呪文を完成させていた。ワルドの周りの空気が、バチバチと帯電している。
「『ライトニング・クラウド』!」
ルイズが魔法の正体に気付いた瞬間、ばちん!と空気がはじけた。ワルドの周辺から稲妻が伸び、ルイズに襲いかかる。
「きゃあああああ!」
身体にしたたかに通電し、ルイズは悲鳴を上げた。『ライトニング・クラウド』は、まともに受ければ命を奪うほどの危険な呪文である。電撃はルイズの胸を直撃し、そのショックで心臓が止まる……
「ホワイトホワイトフレア!」
ティトォの叫びとともに、ルイズの纏う炎が勢いを増す。心臓はふたたび動き出し、電撃によって負った火傷もすべて消え去った。
「……っは、はあっ!」
ルイズは荒い息を付いた。身体にダメージがまったく無いことを確認すると、ふたたびワルドに向け杖を構える。
ワルドは小さく舌打ちをする。
やっかいだな。
ルイズの力は大幅に強化されている。しかし、ルイズは魔法発動のための媒体にすぎない。今、実質的にぼくが戦っているのは……
ワルドはルイズの背後、倒れ伏すウェールズの側に跪くティトォを見る。ティトォは、こめかみを指でトントンと叩きながら、ワルドのことをじっと見つめている。
……実質的にぼくが戦っているのは、あの後ろにいる少年というわけか。ならば。
ワルドは口の端を吊り上げ、呪文を唱える。
「ラナ・デル・ウィンデ……」
空気の槌、『エア・ハンマー』が、礼拝堂の天井を砕いた。崩れた天井が、ティトォとウェールズに降り注ぐ。
「ティトォ!」
ルイズは素早く呪文を唱え、天井の破片を爆発で砕いた。
しかし、砕ききれなかった破片がティトォの頭にぶつかる。ごつ、と鈍い音が響き、額からつうっと血が一筋流れる。
ルイズがティトォたちに気をとられた瞬間、ワルドがルイズに襲いかかった。
「余所見をしたね。迂闊な!」
至近距離で『ウィンド・ブレイク』の魔法をくらい、ルイズは吹っ飛んだ。ごろごろと、ティトォの近くに転がる。
「ぐ……」
うめきながら身を起こすと、またも身体のダメージが消えていくのがわかった。
「このくらい、かすり傷よ。わたしのことより、あんたは皇太子の治療に専念して」
ルイズが、隣にいるティトォに言った。
「……でも、どうしよう。どうやって戦えばいいの?いくら魔力を強化したって言っても、相手は魔法衛士隊のスクウェアよ。戦いのセンスとか、勘とか、そういうのではわたしぜんぜん敵わないわ」
「わかってる。でも、もう少しだけ、ワルドを足止めしてくれ」
ワルドから視線を外さず、ティトォは言った。こめかみを指で叩き続けていて、額に流れる血を拭おうともしない。
「あと少し……、あと少しでわかるんだ」
「?……わかったわ」
よく分からないけど、ティトォはなにか考えがあるようだった。
こうしてSS読むとあらためて思うが
ホワイトホワイトフレアってチート魔法だよな支援
ワルドが杖を振りかぶると同時に、ルイズも魔法を発動させた。
ワルドの真上の天井が爆発し、破片が降り注ぐ。さっきのお返しだ。
ワルドがばらばらと落ちる破片をかわした先に、爆発を起こす。巻き込まれるワルドを見て、ルイズはやった!と思ったが、ワルドは無傷だった。風の障壁で爆発をいなしたようだ。
すぐさまワルドが、『エア・カッター』をルイズに撃ってきた。ルイズは素早く魔法をぶつけ、『エア・カッター』を相殺する。
ワルドが忌々しげに呟いた。
「やはり、あの使い魔を先に仕留める必要があるか……」
あの少年を倒せば、魔法はじきに解ける。ルイズとウェールズの回復もできなくなる。
しかし、魔法の攻撃はルイズに撃ち落とされてしまう……
ならば……
「イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ……」
ぶわっ、とワルドのまわりから、白い煙が巻き起こった。いや、これは煙ではなく、雲だ。雲はみるみる礼拝堂に広がり、ルイズたちに襲いかかる。
「わぷ!」
綿菓子のように濃密な雲にまとわりつかれ、ルイズは思わず声を上げた。
いけない、この呪文は『スリープ・クラウド』!眠りの呪文だわ!
あわてて口を塞いだが、魔法の炎を身に纏っているためだろうか、眠気には襲われなかった。
しかし、眠りの魔法にはかからなかったものの、濃密な雲がルイズの視界を奪っている。
ルイズははっとなった。
まずい、ワルドの姿が見えない!
「ティトォ!ティトォ、狙われるわ!逃げて!」
ルイズの叫びを聞きながら、ワルドはせせら笑った。
無駄だよ。治療の終わっていない皇太子は動かせない。それに、君たちからはぼくの姿は見えないが、ぼくにはちゃんと見えている。『風』の流れを読むのは、ぼくの得意とするところなのだ。
しかし、あの使い魔の少年は得体が知れないからな。念には念を入れて……
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
呪文を完成させると、ワルドの身体がいきなり分身した。風の遍在。しかも、その数は先ほどのように一つではない。
二つ……、三つ……、四つ……、本体とあわせて五体のワルドが現れ、ティトォににじり寄った。
ルイズは真っ白な雲の中、なんとかワルドの姿をとらえようときょろきょろしている。
ティトォは相変わらず、ウェールズに魔力を送りながら、こめかみを指でトントンと叩いている。
ワルドはにやりと笑い、小声で呪文を呟く。すると、杖が青白く光りだした。『エア・ニードル』だ。
「さよならだ、『ミョズニトニルン』」
ワルドは静かにティトォの背後に忍び寄り、杖を振りかぶった。
トン、とティトォが、指でこめかみを叩くのをやめた。
「……よし」
口の端を吊り上げて、ニッと笑顔を作る。
「できた!」
ワルドが杖を振り下ろした。首を正確に狙った、必殺の一撃だ。
しかしティトォはふっと身をかがめ、その一撃は空を切った。
「なに?」
ワルドが驚きの声を上げる。
「かわした?ばかな、見えているのか。いや……」
ティトォは変わらず前を見据えていて、その視線の先には、五人のワルドの誰もいない。
おまけに、ティトォのすぐ横に立っている、別の『遍在』にも、まったく気付いてないように見えた。
「……空気の流れを感じるとか、気配を察知するだとか、こいつにそんな能力はないはず。かわしたのは、偶然だ」
ワルドはふたたび杖を掲げ、ティトォを狙う。
「来る」
ティトォは呟くと、くいっと右手を動かした。
次の瞬間、ティトォの背後、杖を振りかぶった遍在が爆発した。遍在は吹き飛び、消滅した。
「なんだと!」
残った四人のワルドは驚き、飛び退る。
今のは、ルイズの爆発魔法だ。しかしなぜ、この雲の中『遍在』の位置がわかったんだ?
何が起こっているというのか。まったく説明がつかない。
一方、遍在に向けて魔法を放ったルイズも困惑していた。なにせ、自分の意志でなしに勝手に身体が動き、呪文を唱えたのだ。
(ルイズ、聞こえる?ルイズ)
ルイズの頭の中で、声が響いた。
「ティトォ……、ティトォなの?」
それは果たして、ティトォの声だった。魔法の炎を通じて、ルイズの頭に直接言葉を伝えているのだ。
(目をつむって、ルイズ)
「は?」
(どうせ視界は閉ざされてるんだ。ぼくが炎を操ってきみを導くから、きみは炎の流れにそって動いてくれ)
「目をつむるって……、ええ、わかったわ」
ティトォの声には自信が宿っていた。その言葉を信じ、ルイズは固く目を閉じる。
ワルドは困惑していた。
「偶然の偶然だ……、でなければ説明がつかない」
そう呟くと、今度は2体の遍在を、一度にルイズに襲いかからせた。
「右方向から一人、杖に風の刃を形成しつつ突撃……、さらに背後でもう一人が左方向に6歩分移動、呪文を唱える」
ティトォはなにごとかぶつぶつと呟くと、炎を操りルイズの身体を動かした。
ルイズは杖を振るう遍在の一撃をかわし、背後で呪文を唱えるもう一体の遍在に爆発を叩き込み、消滅させた。
「ワルド、お前の戦闘行動は……」
ティトォが呟いた。
「すべて把握した」
ルイズはそのままぎゅるっと身をひねり、突っ込んできた遍在の鼻っ柱に、強烈なパンチを叩き込む。
魔法の炎で強化されたルイズの拳は、いともたやすく遍在の鼻を叩き折った。
遍在が痛みによろめくと、すぐさま魔法を叩き込む。至近距離の爆発を食らい、遍在は消滅した。
「ばかな……!」
ワルドが驚愕の声を上げる。
さらにルイズはこちらを振り向きもせず、魔法を放った。
ワルドの横に立っていた最後の遍在が爆発で吹き飛ばされる。
「ばかな!」
「子爵、あなたはぼくに、手の内を見せすぎた」
ティトォが誰にともなく呟く。
「この旅で、そしてこの戦いで、あなたが発した言葉の一言一句。あなたが見せた表情。あなたの動き。『すべて記憶している』」
記憶。
記録。
展開。
判断。
発想。
発祥。
計算。
創造。
「心の底からの、本気の言葉!本気の表情は!それはお前の真実のピース!断片を知ることで、お前のすべてを『透し見る』!これが、魔法と同じく100年の間に培われたぼくの能力、『千里算総眼図』!」
ワルドは焦り、魔法をティトォに打ち込んだ。その魔法を、すかさずルイズが撃ち落とす。
身を翻し、ルイズに無数の風の刃を放ったが、撃ち落とすまでもなく、すべて避けられた。
「見えているんじゃない、読まれているんだ……、行動が……?思考が……?」
ワルドは狼狽し、ティトォを見る。
視界の効かないはずの雲の中で、ティトォははっきりとワルドの方を向いていた。
どくん、とワルドの心臓が跳ねる。
まずい、視界を奪った意味がない……!
悔しいが、ここは一旦引いて……
ワルドが後じさると、背後からルイズが飛びかかった。炎を纏った拳を、ワルドに叩き付ける。
「げふ!」
振り向きざま顔に一撃をくらい、ワルドはよろめいた。
ルイズの拳を受けたワルドの頬から、めらめらと白い炎が燃え上がった。ルイズの纏う魔法の炎が、ワルドに燃えうつったのだ。
炎はまたたく間にワルドの全身に燃え広がる。
ワルドはルイズから飛び退りながら、いぶかしんだ。
なぜ、回復魔法をぼくの身体に燃え移らせた……?
ワルドの背筋に、ぞくりと悪寒が走る。まずい!と思った時には、もはや手遅れであった。
「マテリアル・パズル分解せよ!炎に、戻れッ!」
ティトォの叫びとともに、癒しの炎はその力を失い、すべてを焼きつくす業火となった。
「ぐあああああ!」
全身から炎を吹き出し、ワルドは悶絶した。炎はあっという間にワルドの全身を焼き、ぶすぶすと煙を上げた。
ワルドは口からもわっと煙を吐くと、どう、と倒れ込んだ。衝撃で取り落とした杖がカラカラと音を立てて床を転がり、礼拝堂を覆っていた眠りの雲が、さあっと晴れていった。
炎を纏ったルイズと、ティトォ、黒こげのワルド、そしてティトォの足下に横たわるウェールズの姿が現れる。
ウェールズの身体からは、すっかり傷が消え失せ、その顔には血色が戻っていた。
ティトォは、拳で胸を軽く叩くと、宣言した。
「我が勝利、魂と共に」
タッグ・チーム戦になると凶悪だよな、ティトォの能力
ティトォ単体だと戦闘型の魔法使い相手にはどうにもならないけどね
以上です。
ゼロ魔2巻の見せ場と、マテパ2巻の見せ場を同時に書けて楽しかったです。
支援ありがとうございます。
規制受けたそうなので代理です。
乙でした、こういう頭脳派キャラが応用効く能力もつと手に負えませんな。
乙でした
ウェールズが生きているというのが、これから先にどう影響していくのか楽しみです
ティトォ単体(一般人レベル)でもホワイトホワイトフレアで12倍程度は強化されるからな(単行本2巻より)
化け物クラスの人間でも消耗は激しいけど約2倍の強化できるし
ルイズがホワイトホワイトフレア受けたのはこれで4回目か
投下乙!
ティトォの千里算総眼図はまじチート
でもティトォのチートっぷりを上回るチート身体能力の持ち主がプリセラなんだよな・・・
ジール・ボーイの合成魔法拳生身で受け止めて「いてて」で済むとかありえないっすよ、しかもその状態で力かなりセーブされてるわけだし
ティトォの人GJです。
つくづくティトォの能力は反則と思う今日この頃。
戦利算総眼図は確かにチート並みだか相手を分析する時間がな・・・
突発に襲われたりなんかだとすぐにはできない
戦利じゃねえ千里だ
>>458 ティトォはチート、プリセラもチート
だから噛ませに抜擢される、分かり易く強いアクアが哀れだよな
ブラックブラックジャベリンズの威力は半端なく異常なんだがなあ
マテパの人乙です。
ジル戦みたいに全員集合で戦っても歯がたたずプリセラ登場かと思ってたんで予想外だった…
そっか、遍在って言っても同一人物だから仙里算使えるわな
しかし、姐さんどこで登場するんだ…
ルイズ・カトレア・プリセラの桃髪三姉妹を見てみたいと思う今日この頃
あれ、誰か忘れてるy(ry
乙。ウェールズ存命か
さすが、原作でしょっちゅう人死にが出る中
「ティトォがいる前では一人も死んだことがない」だけのことはあるなw
>>463 設定上は作中最強クラスの呪文なのに、なぜかまともに決まったことが一度も……
>>464 プリセラの初登場(顔見せ)は6巻
活躍は7巻
つまり七万戦まで待てということだ!
普通に喰らえば即死だからかえって描き辛いんだと思うよ
一応ヨマは二度まともに喰らったけどあいつの場合は特殊な例
>>467 > つまり七万戦まで待てということだ!
7万フルボッコにした後「最強ォーッ!」と叫ぶプリセラを幻視したw
七万戦って結構後じゃないかw
しかも今ウェールズ生きてるから戦争もどうなるかわからなくなってきてるし
いや、ウェールズは結局戦死してティトォは魔法の使い過ぎで逝く可能性もあるか…
とりあえず、ワルドはこの後アビャクのようにティトォから母親の写真取り上げられて極楽連鞭だな
ガンダムF91からバグを召喚
学園は壊滅に…
ヘイトだ…?
アルビオンの兵7万を抹殺しろと命令されたらこうもなろう!!
>471
もしバグがメイジを人間と認識しなかったら・・・?
とかだったら平民vs貴族の全面戦争など別の展開が期待できそうだ
果たしてザムス・ガルが安置されてるのはダルブかロマリアか
ティトォが「女の子に戦わせるような真似をして申し訳ないと思う」なんて言ってるけど
強敵とのバトルとなるとわりとすぐアクアやプリセラに体あけ渡すよねテイトォ君
それともアレか、100年も体共有してると女の子とかそういう目で見れなくなっちまったのかw
うろつき童子から・・・いや、何も聞かなかったことにしてくれ
>>470 東京から大阪まで行くのにどんな道を通っても方向さえあっていれば辿り着ける。
7万戦も起こるさ。
シエスタの祖父が召喚キャラのネタ元の世界の住人に変わっても、シエスタが生まれてきているようにな。
いやその理屈はおかしいなどの突っ込みは受け付けない。
セワシ君かw
>>474 死なない事が大前提だからな
自分じゃ勝てない場合はさっさと交代しないと
張遼を呼んだらニューカッスル戦で夜襲しかけそうだよな
ターミネーター3であんだけみんな頑張ったのに結局戦争が起こったようなもんか
最近は3自体黒歴史にしようとしてるみたいだけど
4が製作されるにあたって、3は無かった事になったという話は聞いた
482 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:39:49 ID:HB9l/BkH
おはようございます。ご予約なければ十分後位から投下します。
483 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:51:09 ID:HB9l/BkH
ゼロの魔王伝――21
ぱたん、と物悲しい音を小さくたてて、扉は閉じた。交わった二人の運命が離れて行く事を表すように、閉ざされた扉は二度と開く事が無いように見えた。
本当に部屋を出て行ってしまったDの背を、見えなくなってもしばし幻視していたギーシュは、ひどく悲しげに眉根を寄せて、ルイズを振り返った。
なんて愚かな事を。そう思う反面、ルイズらしいとも思っていた。震えそうになる声を必死に押し殺して、Dの身を案じるが故に別離の言葉を選んだルイズ。
彼女がこれまでの人生を灰色に塗り潰していた、“ゼロ”のコンプレックスの底なしの闇に、救いの手をのばしてくれたDを、自ら手放すという選択。
それを、選ぶ事の出来たルイズだから、Dもこれまでルイズの使い魔としての日々を許諾していたのだろう。そんな二人だから、命懸け、いや命を捨てるにも等しい今度のアルビオンへの旅路では別れる事からしか始まらなかっただろう。
ギーシュは振り返ってルイズの顔を見て、一層悲しみを増して顔を俯かせた。ルイズの顔は、見る者の心を打つ悲しみに濡れていた。
そうなると分かっていたのに、君はDに別れを告げたのか。そんな言葉が喉から出かかり、ギーシュはそれを噛み殺した。ひどく、力の要る行為だった。
ルイズはDの身を案じたというのに、自分はDが同行しないかもしれないと知るや、怖気づいてしまった。そんな自分を卑怯者としか思えなかった。
「ルイズ、明日は早い。早く寝た方がいい」
結局、ギーシュの口から出たのはそんな言葉だった。多くの人々の目を楽しませ、心に潤いを与えるのが薔薇――そんな言葉を日々口にして置いて、目の前の傷ついた少女の心を慰める術も知らない自分が、ひどく情けなかった。憎くさえあった。
「分かっているわ。貴方も早く部屋へ戻りなさいよ。……今は、誰かと一緒に居たい気分じゃないの」
「ルイズ……。分かったよ。その、元気を出せなんて言えないけれど、無理はしない方がいい。誰も見ていない所で位、泣いても恥ずかしい事じゃないよ」
「……はやく、出て行ってよ」
「ごめん、それから、おやすみ」
「おやすみ」
再び、Dが開いた時の様に扉が開き、同じように閉じた。ぎい、と蝶番の軋みと共に開き、ぱたんと軽く小さな音を立てて閉じる。ぎい、ぱたん。たったそれだけの音が、ルイズとDの運命の別離を告げる現象だった。
ルイズは、力無く、操り糸の切れた人形のようにベッドにあおむけに倒れ込んだ。しばらく茫然と天井を見上げる。頭の中が真っ白だった。なにも考えられない。いや、何も考えたくなかった。
今、自分が部屋に一人でいる意味も。明日魔法学院を発つ時、傍らにDがいないという未来も。Dという名の青年が、自分の傍からいなくなってしまった事実も。それを自分自身が選択したという過去も。
――D、今までありがとう。
そう告げたのは自分。
――達者でな。
そう答えたのはD。たったそれだけ、それだけで、二人はもう他人だった。
「……っ、ぅ……うぅ」
不意に、胸の奥から熱いものが込み上げて来て、視界がぼんやりと揺れて行くのをルイズは感じた。胸が熱い。たぶん、その奥にある心も。まるで鋭い刃物で切られたように胸が痛い、苦しい。張り裂けてしまいそうだった。
喉の奥から絶え間なく溢れようとしている嗚咽を堪えようと、ルイズはうつ伏せになって枕に顔を押しつけた。
瞳を閉じた。自分に背を向けたDの姿を二度と、幻でも夢の中でも見る事を拒絶する様に。
唇を固く引き締めた。もう二度とDと別れを告げる言葉を紡ぐことが無いようにと、きつく、きつく。
「う、ぅぅ、ひっく、っう、ぇぇえ……うぇえぇ〜〜〜んん…………」
ルイズの耳に自分の声が聞こえた。泣き声が。暗い夜の森の中でひとりぼっちになってしまった幼子が、手を離してしまった父母を求める様な、そんな声が。
さよなら、D。これまで、ありがとう。
閉じた瞼から枯れる事を知らぬように、熱く流れて行く涙と、塞いだ唇の奥から堪え切れずに漏らしてしまう鳴き声が、感謝と別れの言葉の代わりに溢れ出た。
ルイズは、ずっと泣き続けた。そうしていても、Dが戻ってくる事はないと知っていても、そうする事しか、もうできないと悟っていたからか。
484 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:52:15 ID:HB9l/BkH
ルイズがアンリエッタ王女から賜った資金と、渡しておいた黄金をパウチにしまい込んだDは、黙して魔法学院の中を歩いていた。
夜の暗闇と月光の海の中こそが真に在るべき世界と見えるのは、やはりその身に流れる、不死者の血故であろうか。
慈母の手の様に頬を撫でる月光を浴びていたDが、不意に足を止めた。腰のあたりに垂らした左手から、嗄れた老人の声が聞こえた。気のせいか、どことなく力が無い。
「どうした?」
「いや、気の所為だ」
「なにが?」
「……」
Dは止めていた足を再び動かし始めた。その耳に、ルイズの泣き声が聞こえた様な気がしたから、足を止めたとは、本人でさえ気付いているかどうか。
「それで、この後どうする気じゃ。幻十を追う気なら一刻も早くせい。今回は夜に戦ったから良かったが、昼間だったらお前でも勝てん相手じゃ。武装した城の奥に引っ込んだ貴族を滅ぼす方がよほど気楽に思えるわい」
「……」
「お嬢ちゃん達、お前の助けなしでは生きて帰ってはこれまい。これで今生の別れか」
耳が痛くなるほど静まり返った夜の学院の廊下を歩き続け、Dはほどなく目的の部屋の前まで辿り着いた。二色の月光に照らされて、淡く光を纏った様な石壁に嵌め込まれたドアのノッカーを叩き、夜遅くの来訪への返答を待った。
規則正しく、三度だけ。かん、かん、かん、と。木と木とが打ち合う音は、山彦の様に廊下の奥まで続く夜の闇の中へと響いては、消えていった。
ほどなくして、部屋の中から足音が聞こえ、ドア越しに訪問者を問う声が聞こえた。若い女のものだ。
「どなた?」
「おれだ」
冷たい鋼の声。斬り裂くのは声を聴いたものの心だ。冷たい響きと鋼の硬質とが見えない刃となって相手の心に触れる。
訪問者が誰かを悟り、部屋の主は息を呑んだようだった。いや、ひょっとしたら心の臓が、一瞬止まったのかもしれない。
夜の訪れを受けるにはあまりにも危険な相手だと悟ったからだろう。Dは部屋の鍵が開かれるのを待った。あまり待たずに済む事は、すでに分かり切っているのか、特別急ぐ風でもない。
死の運命を告げに来た死神を迎える様に恐ろしげに、扉がゆっくりと開かれて、部屋の中の灯りが廊下の暗闇に差し込み始めた。開くに連れて太くなる光条に合わせて、開いた扉の隙間から、ひょっこりと妙齢の美女が顔を覗かせた。
薄緑色の髪は艶やかに流れ、声の主の正体に思いを馳せてうっすらと紅色を刷いた雪肌は、嗅いだ者の脳を昏倒させそうな雌の匂いがかすかに立ち上りつつあった。
ガウンを羽織り、シルク地の白い寝間着姿のフーケであった。春の陽気が夜にも残る時節だからか、寝巻きは随分と薄い。
薄布を纏って浮かび上がる肉体の淫らなラインは、下心を持たずに訪れた男をその場でケダモノに変えてしまいそうなほど色っぽい。今夜の様なフーケの姿を見た男は、その夜、夢の中で思う様フーケの肢体を貪る淫夢を見る事だろう。
Dの顔を見て、顔面の筋肉を数秒間崩壊させたフーケは、それからようやく声を絞り出した。喘ぎ声に聞こえない事もない、かすれた声であった。
「な、なんのようだい、こんな時間に」
「頼みがあってな」
「血を、吸いに来たのかい?」
今にも酸欠を起こしそうな苦しげな声とともに、フーケは左手で寝間着の首元をからげた。わずかに頤を上向かせ、白い首筋をDに見せつける。
かすかに開かれたフーケの唇から零れる息は熱く、しっとりと濡れているかのようだった。自らの喉に牙を突き立てた、と思い込んでいる相手を前に、フーケはかつてない欲情に細胞の一つ一つを震わせていた。
Dがいた『辺境』の吸血鬼に、一度でも血を吸われた犠牲者達は、夜ごとに自分達の元を訪れる吸血鬼達を、夢見心地のまま待つという(極稀に、吸血鬼の嗜好や犠牲者の体質によって、常と変わらぬ行動が可能な例外はあるが)。
自分達を人間から生ける死者、死せる生者たる吸血鬼の眷属へと変える、忌むべき吸血行為を犠牲者たちが待ち望むのは、ひとえに血を吸われる代わりに与えられるこの世ならぬ快楽の為だ。
血を吸われるごとに肌は白蝋の如く青ざめ、瞳は常に宙を彷徨って自我の光を失い、鼻孔から零れる吐息は細く冷たくかわり、呼吸そのものの回数も極端に減る。熱い血潮を全身に送り出す心臓が、脈打たぬ吸血鬼の心臓へと変わりはじめるのだ。
体の中に氷があるように自分の体が冷たく変わってゆくのを感じながら、犠牲者達は待ち続ける。性的なエクスタシーなどものともしない、人外の快楽を。
485 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:53:13 ID:HB9l/BkH
人間という生き物から、呪われた生命と謳われる吸血鬼へと変わる代償に得られる一時の法悦に胸を焦がすのだ。
ハルケギニアの吸血鬼の吸血行為がそのような快楽を与えるものかどうかは分からない。だが、今のフーケの欲情した姿は、『辺境』の吸血鬼達の犠牲者の姿を思い起こさせるものだった。
だが、Dはフーケの血を吸ってはいない。ならば、なぜフーケが頬を紅に染め、内股を擦り合わせ、空いた右手は自らを抱きしめる様に腰にまわされて、内からじわじわと燃え上がりつつある肉欲の火を抑えているのか。
それは、やはりというべきだろう。血を吸われたと思い込まされているフーケは、自分の肌に触れるDの唇に、突き刺さる牙に、そしてDの喉を通って一体となる自らの血を想起して興奮しているのだ。
この魂までも捧げてしまいたくなるほどに美しい男の唇が触れ、その血肉に自分の血が混じる――倒錯した想いは淫らな熱となってフーケの体を、瘧に掛かった様に震えさせていた。恐怖と歓喜と、淫らな思いを織り交ぜて。
Dの黒い瞳に、鮮やかな朱を昇らせたフーケのうなじが映っていた。
ハルケギニアではない地球と呼ばれる星で、今ではないある日、誰かがこう思った――のかもしれなかった。誰か、とは神と呼ぶべき存在だったかもしれない。あるいは悪魔と呼ぶべき存在だったかもしれない。
その神か悪魔はこう思った。人間は進化の袋小路に入った、と。
夜天の彼方の月にまで手を伸ばし、翼を持たずに空を飛び、鰓を備えずに海の中を泳ぎまわり、獣の足を持たずに大地を疾駆するまでに進化した人間を、見限ろうとしたのかもしれない。
人間の科学や魔術、叡智がどれほど『進歩』しようとも、それが『進化』ではない以上、人間は人間の領域を越える事は出来ぬまま、悠久の時の流れの中で、いつかは滅びるだろう。
だから、誰かは、こうも思ったのかもしれない。ならば、人間を『進化』させよう。今の人間とは全く別の、次の段階に進んだ人間を選んでみよう、作り出してみようと。
そしてそれには相応しい舞台が必要だった。袋小路に入ってしまった現行の人類が生み出した環境とは全く異なる、それこそ母なる青き星“地球”の誕生以来、これまで存在していなかったような、劇的に異なる環境が必要とされた。
環境は用意された。
殺人、盗み、暴力、麻薬、裏切り、ありとあらゆる背徳を集め、過去と未来と現在とに存在するあらゆる魔性の者達を集め、あらゆる背徳を封じ込めた異世界“魔界”という名前の環境。
魔界は、198×年、9月14日逢魔ヶ時に発生した都市直下型地震を皮切りに、新宿区の変貌という形で青い星の上に、正常な細胞を侵食する癌細胞の様に誕生したのだ。
『魔震』と呼ばれた地震による直接死亡者数七五四四名、二次災害死亡者数三万七千四百五十六名の生贄と引き換えに生まれいで、人界を犯した魔界は、魔界都市<新宿>と呼ばれる事になる。
舞台はそうして整えられた。ならば、後はその魔界に相応しいモノの誕生を、促し、試練を与え、やがて姿を現すのを待つだけだ。
魔界には魔界に相応しい申し子が生まれるだろう。生産は環境が決定する。魔界から生まれた申し子は、尋常なこの世に生まれたこの世ならざる異世界の可能性といえよう。
そして、魔界都市誕生から十数年を経て、申し子は二人にまで絞られた。
一人は、秋せつら。月輪も恥じ入るかと見える美貌のせんべい屋兼マン・サーチャー。悪鬼羅刹を名前とし、自らを“僕”、そして“私”と呼ぶ男。
残る一人は、浪蘭幻十。秋家と長い抗争の歴史を持つ浪蘭家に生まれた秋せつらの幼馴染。そして、今はハルケギニア大陸に召喚された異邦人。
幼い頃、瓦礫の山となった<新宿>の一角で、かくれんぼや宝探しをして遊んだこともある二人は、どちらかが命を落とさずには決着のつかない死闘を行い、そして幻十が敗れた。
かつて地球の覇者だった原生人類が、突如出現した新興勢力である現生人類に滅ぼされたように、ネアンデルタールとクロマニヨンの様に、現生人類を淘汰する新たな人間を選ぶ戦いに、幻十は敗北して死ぬはずであった。
だが、彼はいかなる運命のいたずらか、異世界ハルケギニアに召喚され、生を長らえた。あるいは、それさえも進化の可能性を求める為の布石であったかもしれない。
地球の覇者たる現在の人類すべてをやがて滅ぼすだろう新人類の礎となるべき青年が、異世界で、はたして何をなすのだろうか。
支援
487 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:54:11 ID:HB9l/BkH
ぴちゃぴちゃ、と子猫がミルクを舐める様な水音が長い事、そこに響いていた。薄暗いどこかの部屋と思しい空間だ。窓辺に置かれたベッドに、開け放たれた窓から二色の月光と星の光とが降り注いでいる。
誰もが一度は身惚れた事があるだろう、天空の輝きを横顔に受けて、浪蘭幻十はより一層美しく映えていた。Dの一刀を浴び、左鎖骨部から右腹部までを横断する斬痕が刻まれている。
いかなる名医も上回る魔糸による縫合で血管や細胞さえも既に塞がっていた。ベッドの上に仰向けに寝転がり、シャツの前を割いて、美をつかさどる神もうっとりと頬ずりしてしまう様な胸を露わにしている。
幻十の体に跨り、ぴちゃぴちゃと小さな舌と唇を休む事無く動かして、幻十の胸元を濡らしていた血を舐め啜っているのはエルザだ。
金そのものを加工したように月光に煌めく髪が、頬に掛かるのを時折かき上げながら、休むことなく舌を幻十の肌に這わせていた。
病的なまでの輝きを放つ白い肌は、恍惚の桜色に染まり、絶対の主君の体を清め、その血を啜る行為への興奮が如実に表れている。
ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃと、エルザの舌がそこだけ別の生き物のように淫猥に動き回り、幻十の肌を血と唾液とが混じり合った混合液でぬらぬらと濡らし、それを小さな唇がじゅるじゅると舐め啜る音を立てて吸ってゆく。
舌が波打つように動き回り、頬をかすかにすぼませて幻十の血を啜る音だけでも、耳にしたものが思わず頬を赤らめてしまいそうなほど、淫らだった。
事実、外見で言えばわずか五歳かそこらのエルザの尻はゆらゆらとゆれ、喉を通る度に味わう幻十の血の甘美さに、吸血鬼として、そして雌として、エルザは悦楽の極みに達しつつあった。
妖しい熱に浮かされる様な幼女の痴態は、その手の趣味の持ち主なら目撃したその場で絶頂に達してしまいそうなほどに背徳の色香に充ち溢れていた。
その様をまるで興味の欠片も見せずに、幻十は見つめていた。幻十の無関心を知らず、エルザはただただ口の動きを繰り返していた。
不意に、幻十が顔を上げて、窓に切り取られた夜空を見つめた。その先から迫りつつある何かに、気づいたのだ。
「来たか」
エルザが雷に打たれたように体を強張らせるほど、冷たい声であった。
朝霧が立ち込める中、ルイズは一人で魔法学院の正門に立っていた。とりあえず三日分の着替えやらを詰め込んだ鞄を馬の鞍に乗せ、同行者であるギーシュの到着を待つ。
ほどなくしてギーシュが姿を見せた。いつものフリル付きのシャツ姿ではなく、五芒星のタイ留めも外して、裕福な商家の跡取り息子みたいな服装だった。それでも胸元の造花の薔薇だけは相変わらずだ。
ルイズの顔を見て、おや? と眉を寄せたがすぐに笑顔を浮かべて片手を上げながら挨拶をしてきた。ルイズは珍しく化粧をしていた。しかも一目で厚すぎると分かる不格好な化粧の仕方であった。
「おはよう、ルイズ。制服は着ていかないのかい」
「秘密の任務で、自分達の身分を盛大に宣伝してどうするのよ。貴方だってそんな恰好している位なんだから、分かっているでしょうに」
「まあね」
足元の乗馬用のブーツはともかく、男装姿と見える乗馬服を着こんだルイズの姿を、まじまじとギーシュは見ていた。艶やかな桃色ブロンドも、邪魔にならないよう絹の組紐で結えていた。
スカート姿で長く馬に乗るわけにも行かないのは分かるがよくもまあ、トリステインでも三指に入る大貴族ラ・ヴァリエールの子息であるルイズがこんな服を持っていたものだと、感心しているらしい。
とはいっても、アルビオンへの玄関口であるラ・ロシェールまで早馬でも二日、それまでとそれからの旅路も考えれば、今の二人の格好でもまだ適当なものとは言い切れないが、根っから貴族として育てられた二人にしては及第点の準備をしたと言った所か。
さて、そんな時、ギーシュがやや気まずそうに口を開いた。ルイズはなによ、と昨夜の睡眠不足からくる苛立ちもあってやや目を吊り上げながら聞いた。
「実は、一つお願いがあるんだが」
「あによ?」
ルイズの『なによ?』が『あによ?』になる時はすこぶる機嫌の悪い時だ。まだそれが分かるギーシュではなかったが、妙に迫力のあるルイズの様子に、これはもったいぶるのはやめようと即断した。
「ぼくの使い魔を連れていきたいんだ」
「別にいいけど、貴方の使い魔ってどこにいるのよ」
「ここ」
488 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:57:06 ID:HB9l/BkH
とギーシュは地面を指した。茶色い地面がある。なにもないじゃない、と言おうとして、ルイズは使い魔召喚の儀の時の事を思い出し、ギーシュの使い魔の正体に思い当たった。
「たしか、ジャイアントモール?」
「その通りさ。さあ、おいでぼくのヴェルダンデ!!」
たん、とギーシュの足が地面を叩くのに応じて、もこもこと地面が盛り上がり、小さな熊ほどもある茶色い生き物が顔を覗かせた。土に汚れてはいるがなかなかに愛嬌のある顔立ちをしている巨大モグラだ。ルイズには、さすがに大きすぎて近寄るのはちょっと怖かったが。
「ああ、ぼくの可愛いヴェルダンデ!! 君はいつ見ても可愛いね。ぼくの可愛いヴェルダンデ、どばどばミミズはお腹いっぱい食べて来たかい?」
そう言うや否や、すさっと地面に膝を着いてヴェルダンデに頬ずりを始めたギーシュを、ルイズは、うわぁ、と一歩引いた目で見ていた。決闘騒ぎ以来、ルイズの中で株を挙げていたギーシュの評価はこの時、一気に落ちた。ヴェルダンデはもぐもぐ、と嬉しそうに鳴いた。
モグラって、本当にもぐもぐ、って鳴くのねー、知らなかったわー、とルイズはどことなく投げやりな様子で呟いていた。まあ、それなりに可愛らしくはあるが。
「ルイズ見てくれたまえ、このふさふさとした柔らかな毛並みを!」
土で汚れちゃって台無しね、と心の中でルイズ。
「ルイズ見てくれたまえ、このつぶらな瞳を。まるで満月がそのまま瞳になった様に美しくはないかね!」
あー、まあ、確かにつぶらではあるけどね、と心の中でルイズ。
「いつ見ても、どこで見ても可愛いぼくのヴェルダンデ。君と契約できたぼかぁ、五ヶ国一の幸せ者だね!」
うっとりとヴェルダンデの土に汚れた毛並みに頬擦りするギーシュに、少し気まずげに、そして大いにドン引きした様子で、ルイズはこう言った。
「ねえ、だめよ、ギーシュ。その使い魔は」
「ヴェルダンデと呼んでくれたまえ」
間髪入れずに訂正を要求するギーシュのやたらと真摯な眼差しに、ルイズはああ、もう面倒くさいわねえと思いながら、仕方なく従った。反論したらもっと面倒くさそうな事になるのは明白だったからだ。
「……ヴェルダンデ」
「もっと、愛を込めて」
おいおい、愛って。人の使い魔の名前を呼ぶのになんで愛を込めなきゃいけないのよ、と喉まで出かかった言葉をルイズは、ごっくんと音を立てて飲み込んだ。
「ヴェルダンデ」
「もっと、溢れんばかりの、この愛らしいぼくのヴェルダンデの名を呼ぶにふさわしい声で、ヴェ・ル・ダ・ン・デ! はい!!」
ぱんぱんと手を叩き、厳格な教師の様にギーシュは、ルイズへと一切の妥協を許さぬ声を浴びせた。かなりの使い魔バカらしい。ああもう、朝から何なのよ!? とルイズは半ば自棄になって叫んだ。
「ヴェルダンデ!」
「違う、ヴェルダンデじゃない、ヴェェルダァンデ!! いいかい、ブェ、じゃない。ヴェ、だ。いいかね? はい、もう一度!」
「しつっこい!!」
「はおあ!?」
思い切りよく振られたルイズの右足が、ギーシュの股間に直撃した。男にとって最も切ない場所への呵責ない一撃に、ギーシュはさっと顔色を紫色にして倒れ伏した。
両手で股間を抑え、膝を着いて額を地面にこすりつける。ああ、あうあああ、と男なら誰だって同情する様な切ないギーシュの声が零れるが、ルイズは一切斟酌せずに、ふん、と鼻息を荒くしてギーシュを見下ろしていた。
「はは、少しは元気が出たみたいだね」
「え」
「いや、しばらく一緒に行動するんだ。萎れた花みたいに元気の無い君よりも、いつもの君の方が旅のしがいもあるからね」
「貴方ねえ、もう少しましな方法があったんじゃない?」
「そこはそれ、ぼくなりに精いっぱいやったというか」
「ギーシュ、貴方って自分で言うほどモテないでしょ?」
う、とギーシュは押し黙る。図星だったらしい。やれやれとルイズは溜息を吐き、暗い影がずいぶんと消えた顔になった。不器用な目の前の学友に、少しだけ感謝してあげる事にしよう、そんな気分だった。
「とりあえずお礼は言っておこうかしら?」
「だったら、ルイズ、ぼくのヴェルダンデを」
「それは無理」
「そんな殺生な」
489 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:58:06 ID:HB9l/BkH
やたらと古風な言い回しをするわね、とルイズは眉を寄せたが、それはそれ、これはこれときっぱり言った。
「あのね、私達はアルビオンに行くのよ。そこのところ分かっているの? 地面の下を掘りながら進んでゆく貴方のモグラの使い魔じゃ連れていけないでしょう。それに馬にだって置いてかれちゃうわよ」
「そんな事無いさ。結構地面の下を掘って進むのだって速いんだぜ。なあ、ヴェルダンデ」
うんうん、とヴェルダンデは頷く。まん丸いつぶらな瞳に見つめられて、ルイズは多少ぐらついたが、それでもダメを出した。
「じゃあ、それから後はどうするのよ。船にその子を乗せて行くの? ギーシュ、大切な使い魔と離れたくないって言う貴方の気持ちも分からないわけじゃないけど」
「あ、いや、ぼくの方こそ調子に乗っていたよ、すまない」
「いいわよ、別に。それにこれから先は危ないんだし、その子の事が大切なら連れて行かないって選択肢もあるのよ」
使い魔との別れを経験したばかりのルイズの前で少しはしゃぎすぎたかと、ギーシュは遅まきながらに気づき、申し訳なさそうにルイズに謝罪した。人の気持ちが分からない朴念仁ではないらしい。その時だ。巨大モグラが鼻をくんかくんかと引くつかせたのは。
「ん? どうしたんだい、ヴェルダンデ」
主人の声にこたえるよりも早く、ヴェルダンデはルイズに擦り寄った。
「な、なによ?」
とややたじろいだ様子のルイズを、ヴェルダンデは容赦なく押し倒した。ルイズのお腹のあたりに鋭い爪のついた手をあてて、傷つけないように器用に掌で押し倒した。
ルイズは、熟す前の桃みたいに甘酸っぱい魅力に溢れる小さなお尻を地面にぶつけて、ちょっと痛そうに片目を瞑ったが、目の前のモグラが、鼻で自分の体中をつつき回すのに、落ちつく間もなく目を白黒させた。
先端に行くにつれて細長くなるヴェルダンデの鼻先が、くんかくんかと音をたてながら、ルイズの体を乗馬服越しにまさぐり始めた。
しっとりとした湿り気を帯びたモグラの鼻先が、うなじや敏感な脇腹、誰にも触れさせた事の無い太ももの内側をかすめる度に、ルイズは、ひゃん、と小さな声を上げて身を小さく震わせる。
特に耳の裏やうなじ、臍のあたりの感度が抜群に良いらしく、服越しにもヴェルダンデの鼻先が通過し、触れる度にんん、と身じろぎしながら殊の外色っぽい声を挙げる者だから、思わずギーシュもヴェルダンデを止めるよりも見入ってしまう。
「ううむ。巨大モグラと戯れる美少女というのは実に官能的なものだな」
と大宇宙の真理の一つを解き明かした学者みたいにやたらと真面目な声で呟いた。
巨大モグラと戯れる美少女=官能的、という公式がギーシュの脳内で導き出されたが、発表しても何の称讃も得られない阿呆な公式であった。
「ば、馬鹿なこと言ってないで、ひゃ、そこは、だめって、言っているでしょ、このモグラ!? あ、ああんたの使い魔でしょ、止めなさいよっ。ひぅ」
ルイズの右の耳から首筋、肩、二の腕の内側と順に弄っていたヴェルダンデの鼻が、ルイズの右手の薬指のルビーに引き寄せられた。アンリエッタから渡された水のルビーだ。アンリエッタが母より譲られたという王家に伝わる指輪だ。
先ほどからルイズの体を弄っていたのはその指輪に惹かれたかららしく、ヴェルダンデはルビーに鼻先を擦り寄せて離れようとしない。
「ちょ、この、無礼なモグラね!? 姫様から頂いた指輪に鼻なんかくっつけないでよ」
「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。ましてやそんなに立派な宝石なら無理もない」
「解釈はいいから止めなさいってば! イヤなモグラね、このもぐもぐは!?」
なんとかヴェルダンデを引き剥がそうとルイズは悪戦苦闘しているのだが、いかんせん、ルイズの細腕ではヴェルダンデの体重の前には意味を成さない。爆発魔法で吹き飛ばせば簡単だが、自分も多少は煽りを受けるだろうし、流石に可哀想だ。
「イヤとか言わないでくれたまえよ。ヴェルダンデは土の中から宝石や貴重な鉱物をぼくの為に見つけて来てくれるのさ。『土』系統のメイジであるぼくにはこの上ない協力者なのだよ
「ああそう、お似合いね!? でも、だからって、姫様から頂いた指輪なのよ。それを自分の使い魔が舐めまわしました、なんてあんた、姫様に報告できるの!?」
「む、それは、まあ。しかたない、ヴェルダンデ、ルイズから……」
490 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 08:59:11 ID:HB9l/BkH
已む無しとヴェルダンデに離れる様に言おうとしたギーシュの目の前で、ヴェルダンデは朝霧を割いて吹き荒れた一陣の風に吹き飛ばされ、地面にどうっと音を立てて倒れて目を回してしまう。
小さな熊ほどもあるヴェルダンデの体を吹き飛ばしながら、ルイズは髪をやや乱した程度の影響しか受けていない。恐るべき風の精度といえた。
尽きぬ愛情を注ぐ使い魔が気絶している姿に、ギーシュが即座に怒りで脳を沸騰させた。風の吹き荒れた方へ、薔薇の杖を向けながら怒声を放つ。
「誰だっ!」
激昂したギーシュに応えるように朝霧の中から、白乳色の粒子を纏った長秦の貴族が姿を見せた。漆黒のマントに身を包み、真白い羽帽子を被っている。まだ若いが歴戦の猛者の風格を漂わす青年であった。
「貴様、ぼくのヴェルダンデに、なにをする!」
よほどヴェルダンデを傷つけられた事が悔しいのか、ギーシュはルイズが初めて耳にするほどの怒りを滲ませた声を出すと共に、杖を一振りした。風に舞った花びらの一つがたちまち青銅のゴーレム“ワルキューレ”と化して、青年貴族に襲いかかる。
ギーシュなりに工夫を加えたものか、あるいはルイズとの決闘の時は隠していただけなのか、ワルキューレは右手に長剣を握っていた。Dが決闘の時に使っていた弧を描く刃と同じ意匠だ。
鈍く光る刃の煌めきよりも早く、青年貴族の手にした杖が振るわれる方が早かった。よく耳を凝らしても聞きとれぬほどの高速の呪文詠唱と共に、放たれた『ウィンド・ブレイク』が容易くワルキューレを吹き飛ばす。
自分の足もとまで吹き飛ばされ戻ってきたワルキューレに動揺する素振りを見せず、ギーシュは、二体目のワルキューレを精製する。
その詠唱の隙を突いて青年貴族が、研ぎ澄まされた刃のように鋭い『エア・カッター』で杖を斬ろうとしたが、ギーシュはそれを自分の足元のワルキューレを起き上がらせて盾にし、見事防いでみせる。
二体目のワルキューレは、青年貴族の頭上に散らした薔薇の花弁が変じたものだった。突如頭上に青銅の戦乙女が現れた事に、青年貴族は迅速に対応した。
目を向ける事もなく、悠然と杖の先をちょうど自分の頭に戦鎚を振りおろそうとしていたワルキューレに向けて、小さく唇を動かす。
放たれた空気の槌『エア・ハンマー』は、一撃でワルキューレを粉砕し、砕かれたワルキューレの破片がぱらぱらと青年貴族の体に降り注いだ。その様子に、ギーシュは不敵な笑みさえ浮かべて見せた。
わずかに青年貴族の凛々しい眉が寄せられるのと、粉砕されたワルキューレの破片が、姿を変えるのは同時だった。くるりと手の中の薔薇を回転させ、気障な動作を交えながら青年貴族の胸元へ向けて突きつける。
系統魔法の源は精神力だ。精神力は感情の高ぶりに応じる。ギーシュのいちいち小芝居がかった動作や言い回しも、そのように振る舞う事で自身を鼓舞する為の、ギーシュなりの精神力増強の手段なのだった。
再び叫ばれるワルキューレの名。さっと身構えた青年貴族の周囲の破片の約半数が、瞬き一つの間に、光を放ってワルキューレのパーツの一部に変わった。
ワルキューレ全体ではなく、その両腕部のみが出現し、青年貴族のマントや体にしがみついてその動きを封じようとする。肘から先、およそ4、50サントほどだが、中まで隙間なく青銅が埋め尽くし、相当の重量になる。
青年貴族の体に群がったワルキューレの手の数は数えて八本。ワルキューレの四体分の手の数だ。それがどれほどの重量となって束縛したのか、青年貴族の膝がわずかに屈したではないか。
更に、残る破片は、地面に落ちると同時にそれぞれが細長い槍衾と化して青年貴族の足もとで変化する。ギーシュが『錬金』で変化させたものである。
ワルキューレの一部を小出しにする事で温存した精神力を使い、膝を突いたが最後、全身を串刺しにする青銅の槍を作り上げたのだ。
いずれ、またDやルイズに試合を挑む時の為に温存しておいた攻撃パターンだが、ヴェルダンデを傷つけられた怒りが、ルイズの目の前であっても隠す事を忘却させた。
自分の必勝を確信し、ギーシュは浮かべた笑みを深いものにした。それと等しい笑みを、青年貴族もまた浮かべる。
全身にワルキューレをしがみつかせながら、青年貴族の口元が動き、次の瞬間に発生した小型の竜巻が、地面の槍も、ワルキューレの手も全てを吹き飛ばしてみせた。吹き荒れた風に思わず腕で顔を庇ったギーシュの視界から、青年貴族の姿が消えた。
抑えようとしても抑えきれぬ動揺に突き動かされて、周囲を探るべく首を動かそうとしたギーシュの背に、鋭い何かが押し付けられた。見るまでもない。青年貴族が携えていたレイピアのように鋭い剣杖の先端であろう。
491 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 09:00:42 ID:HB9l/BkH
「くっ」
「大したものだ。最近の学院の生徒は君位に出来るのかな?」
「貴様、アルビオンの反乱軍のものか」
歯噛みするギーシュの言葉に、青年貴族は一瞬、皮肉気な笑みを浮かべたが、すぐにそれを消して、ギーシュの体を挟んで自分を見つめる鳶色の視線を見つめ返していた。ギーシュの質問の答えは、その鳶色の瞳の主、ルイズが出した。
「ワルド様! ギーシュ、その方は反乱軍の手のものなどではないわ。れっきとしたトリステインの魔法衛士隊の方よ。姫様の御一行の中にお姿があったでしょう?」
「え? そういえば、そのマントに刺繍されたグリフォンの雄姿は、グリフォン隊の」
「いや、すまないね。ぼくは敵じゃないよ。今回君達の危険な任務に、姫殿下から同行するよう命じられたものだ。お忍びの任務故に一部隊を着ける事は出来なかったが、ぼくがその代わりというわけさ。
女王陛下の魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵だ、よろしく。それと、先程は君の使い魔がぼくの婚約者を襲っているように見えたから見過ごせなかったのだが、少々乱暴に過ぎた。謝るよ」
「い、いえ。ぼくの方こそヴェルダンデが貴方の婚約者を……婚約者?」
この明らかに自分よりも格上の立派な青年貴族の言う、婚約者が誰だか一瞬分からなかったギーシュは、はてな? と首を捻ったが、その疑問に答える様にワルドと呼ばれた青年はルイズに歩み寄って、軽々と抱き上げた。
「お恥ずかしいですわ」
「相変わらず君は軽いな、まるで羽毛の様だよ!」
朗らかに笑いながら言うワルドに、ルイズは恥ずかしげに頬を染めて抱きかかえられていた。
「お恥ずかしいですわ。わたくし、十年たっても小さいままなんですもの」
「なに、十年間もほったらかしにしていたぼくからすれば昔に戻った様で親しみやすいよ。もっとも、君自身は眼を剥くほど美しく成長しているけれどね」
「ワルド様ったら」
これまでDという会話をする甲斐が無いことこの上ない相手と日々を過ごしてきた反動化、饒舌に、しかもルイズを褒めるワルドの言葉に、ルイズは嬉しげに眼を細めた。瞳には懐かしさという名の光が輝いている。
「ふむ、とはいえ、いささか化粧をするには君はまだ早いかな。素のままの君でも十分に魅力的だとぼくは思うけれど」
「これは、その」
と、ルイズは慣れぬ化粧をした理由をはぐらかした。ワルドはそれを気にするそぶりは見せず、にっこりとルイズに笑いかけた。
「いいさ、君だって女の子だ。綺麗でありたいと願うのは当然の事だ。さて、可愛いぼくのルイズ、彼の事を紹介してくれるかな?」
ワルドはそういって優しくルイズを地面に下ろした。こほん、とルイズは咳払い。まるで幼子みたいにワルドに扱われた事が恥ずかしいのを、誤魔化すためだろう。
ワルドは、ギーシュ以外に人影が無いか周囲を探ったが、誰もいない様子に安堵した様な表情を一瞬だけ浮かべた。あの黒尽くめの美影身の姿を恐れたのだろうか。
口を開こうとするルイズを手で制し、ギーシュが優雅に一礼した。
「ギーシュ・ド・グラモンです」
「グラモン元帥のご子息か。ぼくも一時期、君の父上にはお世話になったよ。あの勇猛なグラモン元帥の血を継ぐとなれば、生徒ながらあれだけのゴーレムを操ってみせたのも分かる。これは心強いな!」
そういうやワルドはギーシュに近寄ってその華奢な肩をバンバン叩いて、気持の良い豪傑笑いをした。この若さで最エリートである魔法衛士隊の隊長を務めるだけあって、実力だけでなく人徳みたいなものもある。
それから、ワルドは口笛を吹いた。立ち込める朝霧の向こうから、鷲の頭と獅子の下半身を持った幻獣グリフォンが姿を見せた。雄々しく羽ばたく翼も、鋭く伸びた爪や嘴、毛並みもまた見事なグリフォンだ。
軽やかにグリフォンの鞍に跨ったワルドは優しくルイズに手を伸ばした。わずかに躊躇する素振りをルイズは見せたが、すぐにおずおずとではあるが、ワルドの手を握ってその後ろに跨った。
492 :
ゼロの魔王伝:2009/02/11(水) 09:01:34 ID:HB9l/BkH
ギーシュの方はヴェルダンでの介抱に向かっていたが、ワルド達の方を振り返ってこう言った。
「先に行っていてください。ルイズの馬も返しておきます。どうせ明日は『スヴェル』の夜なんだ。アルビオンへ渡る船は明後日にならないと出ない。どの道ラ・ロシェールで足止めですしね」
「ほう、良く知っているね」
とワルドは感心したように呟いた。
「いえ、事前に調べておきましたので」
「そうか、では明日の昼頃にでもラ・ロシェールに着くよう、のんびりと行こうか。道中どんな危険があるかもわからないから、なるべく体力は温存しておきたい」
それに、先程精神力をいくらか消耗してしまったからね、とワルドはルイズに悪戯っぽく囁いた。
「では、ギーシュ君、ぼくたちは先に行くよ」
「ちゃんと追いかけてくるのよ」
「分かっているよ。では、お気をつけて」
羽ばたいて舞い上がるグリフォンを見送りながら、ギーシュは嘆息した。ルイズが化粧をしている事情を知らぬ以上、ワルド子爵があのように言うのも無理はない事だが、出来ればルイズが化粧をしている事については言及して欲しくはなかった。
誰の目にもはっきりと分かる位厚い化粧は、そうしなければ泣き腫らした顔を隠す事が出来なかったからだ。
「ルイズ、君にとってDは本当に大切な人だったんだなぁ」
ギーシュの呟きは、晴れた朝霧の彼方に広がる青い空に吸い込まれて消えた。
今回はこれで投下終了です。支援ありがとうございました。ではでは、お邪魔しました。
投下乙
フーケたんにエルザたんがとてもエロいよハァハァ
あとギーシュがレベルアップしてるな
これなら人狼や巨獣は無理でも大蜘蛛ハンタークラスにはなれるかも
魔王伝の人GJ!
なんというエロス!
エルザエロいよエルザ
おマチさんエロイよおマチさん
次回にwktkしつつ正座待機。
フーケえろいよフーケ乙
>>375 どうせなら同じファンタジーとして超次元伝説ラルから・・・いやなんでもない
お前らエロいしかいうことないんかいwハァハァ
GJそれにしてもだれが来たんだ?
しかし、今の状況はカオス、まさか最後で「神祖」が来るんじゃないだろうな……。
きたらメフィストと手を組みそう。
こんにちは。
他に予約の方がおられなければ、11:45より第28話の投下を行います。
……まだ明るい内に投下するのも久し振りな気がしますな。
支援
宇宙刑事シエン
ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲んでしまった翌日の夕方。
「解除薬が作れない、ですってぇ!!?」
「す、すいませぇん……」
その惚れ薬の製作者であるモンモランシーは、エレオノールに怒鳴られていた。
「どういうことよ!?」
「それが、その……解除薬の調合に必要な秘薬の『水の精霊の涙』が、売り切れで……」
「っ………、…っ」
エレオノールは昨晩ベッドの中で『眠れない夜』を過ごしたため、目の下にクマを作って明らかに寝不足な状態であった。
何せユーゼスが目覚めて最初に目にした光景が、『どんよりした目で自分を見るエレオノール』だったほどなのである。徹夜をしたと言ってもいいだろう。
モンモランシーの作った『眠気覚まし用ポーション』で一時しのぎはしているが、それも所詮は気休めに過ぎない。眠気は隙あらば襲って来ようとしている。
そんな寝不足な状態でいきなり頭に血が上ったせいか、エレオノールはクラリとめまいに襲われた。しかし頭をブンブンと振って強制的に意識をハッキリさせると、モンモランシーへの詰問を再開する。
「くっ……、……次に手に入るのはいつなの?」
「ラグドリアン湖に住んでる水の精霊と接触が出来なくなったみたいですから……、多分もう、絶望的なんじゃ……?」
「何ですってぇ!!?」
「……少し冷静になれ、ミス・ヴァリエール」
激昂したエレオノールがモンモランシーの胸倉を掴もうとしたが、後ろで話を聞いていたユーゼスがエレオノールに声をかけてそれを制止する。
「お前は確かに優秀ではあるが、感情のコントロールが不得手なのが最大の欠点だな」
「あなたは感情をコントロールしすぎよ!」
「そうか? 自分ではかなり苦手な方だと思っているのだが」
「あなたが感情的になってるところなんて、今まで見せたことないじゃないの!」
「……むぅ〜……」
感情の薄い銀髪の男性と、感情むき出しの金髪の女性のそんなやり取りを見て、カヤの外に置かれた桃髪の少女は不満そうに頬を膨らませた。
「ユーゼスは、やっぱりエレオノール姉さまの方がいいの? わたしより姉さまと一緒にいたいの?」
「む?」
不安そうな顔で自分の使い魔を見上げるルイズ。
ユーゼスはその問いかけに『ふむ』、と頷いてしばらく考え込んだ後、
「……そうだな、少なくとも今の御主人様よりは『共にいたい』と思うが」
サラリとそんなことを口走った。
「!」
「…………!!!」
その言葉に、ヴァリエール姉妹は過敏に反応する。
「うぅぅぅううう〜〜……!」
「なっ、ななな、いきなり何を言ってんのよ、あなたは!!」
ルイズは涙目でポカポカとユーゼスの背中を叩き、エレオノールは強めに一度だけバシンとユーゼスの頭を叩いた。変なところで似ている姉妹である。
……ちなみに他の面々は、と言うと……。
「何とまあ、臆面もなくあんなセリフを言うとは……」
「うーむ、アレは狙って言っているのだろうか……。それとも何も考えていないのか……」
「私は『何も考えていない』だと思いますけどねぇ。『朴念仁』って言葉が服着て歩いてるようなあの男が、意識してあんな言葉を言えるワケありません。
……大体、狙って言ってるとしたら相当な恋愛巧者ですよ、アレ」
「やはり君もそう思うかね、鳥くん。……だが、『下手に言葉を並べ立てるよりも、単純な一言の方が女性の心を打つこともある』というのは意外に真理かもしれないな……」
「私の名前は『鳥』じゃなくてチカです。……まあ私も昨日悟ったんですけど、回りくどいやり方よりはそっちの方が効果的なこともあるっぽいんですよねぇ。
特にエレオノールさんとか、ルイズさんとか、それと貴族のボンボンさんのお相手のお嬢さんみたいな、『素直じゃなくて少々ひねくれてる方』には」
「僕は『貴族のボンボン』じゃなくてギーシュだ。あとモンモランシーはひねくれてないぞ、多分。……しかし『女性を口説く時には最大限の言葉を尽くす』というのが僕のポリシーであって……」
「……そんな風に『他の女性を口説くこと前提』で話を進めてるようだから、彼女の愛想が尽きかけてんじゃないですか?」
「何気に失礼なヤツだな、君は!」
ギーシュとチカのコンビは、ユーゼスたちをダシに親交を深めており。
「ほう……。一段階クラスが異なるだけで、随分と可能な範囲が異なるようですね……」
「あぁん、シュウ様ぁ〜♪」
シュウはユーゼスが製作したレポート(エレオノールの添削つき)を次から次に読みふけり、ミス・ロングビルはウットリしながらそんなシュウに張り付いていた。
……なお、ミス・ロングビルはその本名が知れ渡ってしまうとかなり問題になってしまうため、魔法学院内においてシュウと二人きりでいる時以外は『ミス・ロングビル』で通すことにしている。
「と、ともかく!」
何だか微妙な空気になりつつあったユーゼスの研究室内で、エレオノールはゴホンと咳払いをした後に高らかに宣言した。
「取り寄せが望めないのなら、こっちからラグドリアン湖に行くしかないわ!!」
「えええええっ!? が、学校はどうするんですか!? それに水の精霊は滅多に人間の前に姿を現さないし、しかも物凄く強いし、怒らせでもしたら……!!」
「学校なんてサボりなさい。1日や2日休んだくらいでどうなるものでもないわ。……それに、モンモランシ家はその『水の精霊との交渉役』を代々勤めて来たんでしょう。ご機嫌取りの方法くらい伝わってないの?」
「そんな都合の良い物があったら、苦労してません……!」
アワアワしながらラグドリアン湖行きを回避しようとするモンモランシーだったが、続いてエレオノールが放った言葉によってその態度は一変する。
「じゃあ、王宮にあなたの所業を……」
「い、行きますぅぅぅうううううう……! …………ううぅっ」
さすがに自分の将来や命、家の衰退までかかってしまっては頷かざるを得ない。
「安心してくれ、恋人よ。僕がついてるじゃないか」
ガックリと肩を落とすモンモンランシーに対して、ギーシュが肩を抱こうとするが……。
「……気休めにもならないわ。あなた、弱っちいし」
モンモランシーはスルリとその手をすりぬけ、ボソッと呟いた。
ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲んでから、2回目の朝。
『今日はもう日が暮れかけているし、出発は明日の朝にしよう』ということであの場は解散となり、ユーゼスは今、ルイズの部屋のベッドの上で睡眠を取っていた。
なお、移動手段はジェットビートルを使うことになっている。
シュウによればプラーナコンバーターの調整は既に終了しているらしいので、もうプラーナ切れを起こす心配はないだろうが、操縦者であるユーゼスはいち早く起床して発進準備を進めなくてはならない。
「……む」
目を閉じたままで、意識が覚醒する。
現在時刻は、起床予定時間ピッタリのはずだ。
クロスゲート・パラダイム・システムを使えば、目的通りの時間まで完全に熟睡し、更に眠気の余韻などを残すことなく完全に目覚めることなどは造作もないのである。
(……イングラムに知られたら、卒倒されそうな使い方だが……)
まあ、特に因果律を乱しているわけでもないのだから、大目に見てもらおう。
「……………」
身体の状態を確認してみると、どうやら自分は今、右半身を下にして横向きで寝ているらしい。眠る直前には仰向けだったはずなのだが……おそらく寝返りでも打ったのだろう。
「ふむ」
少し身じろぎして目を開く。
すると、目の前にエレオノールの寝顔があった。
(そう言えば一昨日と同じく、昨日も御主人様とミス・ヴァリエールと三人で眠ったのだったか……)
再び『三人での睡眠』に至った経緯については、以前の焼き直しになるので割愛する。
「……………」
「……すぅ……すぅ……」
エレオノールは昨日よく眠れなかった反動か、今日はよく眠っているようだ。『眠れなかった理由』は自分にはよく分からないが。
眠る前にあおった、睡眠導入用のポーションも効いたらしい。
(……起こすのも気が引けるな)
音を立てないよう、慎重に身体を起こそうとするユーゼス。
だが、それがかえって動きにぎこちなさを生じさせてしまい、結果としてユーゼスとエレオノールの膝がガツンとぶつかってしまう。
「ぬ……」
「…………んぅ、ぅ……?」
(いかんな……)
エレオノールの瞳が開き始める。
「ぁ……ユー、ゼス……?」
どうやらほとんど覚醒しつつあるようだ。
……起こすつもりはなかったのだが、起こしてしまった以上は謝るしかあるまい。
いや、それよりも先に挨拶をするべきか。
「お早う、ミス・ヴァリエール」
(……しまった)
挨拶をしてから気付くのも何なのだが、自分もエレオノールも、まだお互いに横になっているままだった。
せめて起き上がってから挨拶をするべきだった。これでは礼を失することになってしまう……と後悔するが、すぐに『それも含めて謝ろう』と切り替える。
―――ユーゼス・ゴッツォという人間は、一度執着し始めた対象に対しては『死ぬまで』執着するのだが、割り切るべきだと判断した対象に対しては恐ろしいまでの割り切りを見せるのである。
ともあれ、ユーゼスからの目覚めの挨拶を受けたエレオノールは、徐々にではあるが意識をハッキリとさせていった。
「…………ぅゅ……、ぉはょ……………、……!?」
自分と相手との距離を認識し、自分の体勢と言うか姿勢を認識し、そして相手の姿勢も認識し、自分の今の服装を思い出し、『自分が現在置かれているシチュエーション』を確認し……。
「き、き、きゃぁぁあああああああああああああああああああああ!!!??」
「ぐぅ!?」
軽いパニックに陥って絶叫しながら、エレオノールはユーゼスの腹部に蹴りを叩き込んだのであった。
「わ、わわ、高い! 速い! 凄い! 何この乗り物、一体何なの!!?」
「はっはっは。モンモランシー、興奮するのは分かるけど落ち着きたまえよ? 迂闊に動いたら危険だからね」
『初めてジェットビートルに乗ったハルケギニア人』として非常に正しいリアクションをするモンモランシーと、そんな彼女をたしなめるギーシュ。
ギーシュとてビートルに乗り込むのは二度目なのだが、少なくとも初回よりは余裕のある態度であった。
何せ、今回は前のようにいきなり猛烈な加速はしていないし、ユーゼスも操縦に慣れたのか振動やグラつきが少ない。要するにかなり快適なのだ。
「しかし、これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやぁ、なんとも綺麗な湖だな! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ! ヤッホー! ホホホホ!!」
旅行気分、精神的な余裕、更にモンモランシーの前という状況のせいかテンションが上がって浮かれまくるギーシュ。
「ええい、邪魔だな、この『べると』とか言うのは!」
ベルトで固定された状態から身をひねって窓の外を眺めるのがわずらわしくなったのか、ギーシュはガチャガチャとその金具を外し、立ち上がる。
「そろそろ着陸するぞ」
「え?」
そしてギーシュが立ち上がった瞬間、ユーゼスの報告と共にガクンと機体が揺れた。
固定器具を外した上に、座席に腰掛けてすらいないギーシュは当然バランスを崩し……。
「うぉおおおおおっっ!!?」
盛大に頭から転んで、派手に顔面を床に叩き付けることとなった。
「い、痛い、痛いぃぃぃいいいいいいいい!!」
「……はあ。やっぱり付き合いを考えた方がいいのかしら」
鼻血を流してのた打ち回るギーシュを見て、モンモランシーが溜息をつきながら呟く。
一方、そんな彼らには構わず、ユーゼスはゆっくりとビートルを着陸させつつラグドリアン湖を眺めていた。
「ほう、美しい湖だ……」
これはユーゼスの素直な感想であったが、その言葉に過敏に反応する者がいた。
「……ね、ユーゼス」
ジェットビートルを操縦しているユーゼスの膝の上に座っている、ルイズである。
ビートルを発進させる際、一人で座席に座るのを嫌がって駄々をこねまくり、まんまと『絶好の位置』を獲得したのだ。
ルイズは少し拗ねたような顔で、愛しい使い魔に問いかける。
「わたしとラグドリアン湖と、どっちが綺麗?」
「む?」
いきなりそんな質問をぶつけられたので、ユーゼスは少々困惑してしまう。
だが、問われたからには答えねばなるまい。
と言うか、そんな質問の答えなど考えるまでもなく決まっている。
「ラグドリアン湖だな」
「!!」
ガーン、とショックを受けるルイズ。
……そもそもユーゼスは『人間の“外見の”美醜』に対して、あまり興味がない。
そのような時代・世代・国・地域・個々人の判断や精神状態によって評価が大きく異なるような薄っぺらいモノなどに、価値を見出せないのである。
強いて言うなら『人間の“生き方”の美醜』、あるいは『人間の“在り方”の美醜』に対しては惹かれる物を感じはするが、少なくとも現在のルイズからそれは感じない。
『外面的な美しさ』でユーゼスが感じ入るのは、やはり自然などの『普遍的なモノ』に対してのみだ。
「う、うぅぅう〜〜〜……!!」
しかしそれを『恋は盲目』状態のルイズが理解も納得も出来るはずがなく、ポカポカとユーゼスの胸を叩くことで抗議の意をアピールする。
「ぐっ……。叩くのはやめろ、御主人様」
苦悶の表情を浮かべて主人の行動を止めさせるユーゼス。
そんな苦しそうな様子を見て、ルイズは途端に心配そうな顔でユーゼスの身体をさすり始めた。
「どうしたの、ユーゼス? 身体の具合が悪いの?」
「……いや、今日は起きた直後に、腹部に強い衝撃を受けたのでな。そのダメージが残っている」
言った直後に、ガタンと隣で音がした。
その方向を見れば、エレオノールが赤い顔をしながら横目でこちらに視線を向けている。
「…………ともあれ、着陸するぞ」
ユーゼスはあえて言及せず、手頃な場所にビートルを着陸させた。
「着きましたか、ユーゼス・ゴッツォ」
先にラグドリアン湖に到着していたシュウとミス・ロングビルが、ユーゼスたちを出迎える形で歩いてくる。
この二人はネオ・グランゾンを使って移動していたのだが、さすがに戦闘機程度でネオ・グランゾンのスピードに敵うわけもなく、こうして大きく引き離されたのだ。
「……ネオ・グランゾンはどこに隠した?」
「そこの森の中です。『かくれみの』は使っていますから、余程のことがなければ発見されることはありませんよ」
そしてシュウはラグドリアン湖を見回して呟いた。
「しかし、この景観……さすがはトリステイン随一の名所と言われるだけのことはありますね。水の精霊がここに存在しているということも納得がいきます」
「……シュウ様、シュウ様」
「何です、ミス・ロングビル?」
その呟きを聞いたミス・ロングビルは、若干の期待を込めた態度でシュウに尋ねた。
「私と、このラグドリアン湖……どちらが綺麗ですか?」
ピク、とルイズが反応する。
シュウは一瞬だけ妙な動きをしたルイズに目をやるが、すぐに気を取り直してミス・ロングビルへと返答を行った。
「難しい質問ですね……一概に比べることは出来ません。何せ『美しさ』の種類が異なります。物理的な『強さ』と精神的な『強さ』を同列に扱うことが困難なようにね」
「そうですか……」
シュン、となるミス・ロングビル。
しかしそんな緑髪の女性に、紫髪の男は続けて声をかける。
「ですが、この湖が『この湖にしかない美しさ』を持つように、あなたには『あなたにしかない美しさ』があります。
それが外面的なものなのか、内面的なものなのかはそちらの判断にお任せしますが、それを生かすも殺すもあなた次第だということは覚えておいて下さい」
「……あ、はいっ、シュウ様!」
その言葉を聞いた途端、ミス・ロングビルはパッと表情を明るくする。
なお、他にそのやりとりを聞いていた面々は、『よくあんなセリフがサラッと出て来るなぁ』と感心する者、ジトッと自分の使い魔を睨む者、『おお、ああいう風に言えば……!』と学習する者、そんな馬鹿の頭を叩く者、と様々なリアクションを見せていた。
ともあれ、いつまでも喋ってはいられない。
早速、水の精霊とやらとの交渉を行わなければならないのだが……。
「……変ね、湖の水位が上がってるわ」
「水位だと?」
「ええ。ラグドリアン湖の周辺は、ここよりもずっと向こうだったはずなのよ。……ほら、あそこに屋根が出てるわ。村が湖に呑まれてしまったみたいね」
「ふむ……」
モンモランシーが指差した先には、確かにワラぶきの屋根が湖から突き出ている。更に水面をよく注意して見れば、家が丸ごと水の中に沈んでいることが分かった。
ユーゼスとエレオノールとシュウの研究者組が首を傾げていると、モンモランシーは波打ち際まで歩いていって水に手をかざして目を閉じる。
「……水の精霊は、どうやら怒っているようね」
「ほう、よく精霊の感情などというものが分かりますね。契約でもしているのですか?」
感心したように言うシュウ。
「『契約』じゃなくて、どっちかって言うと『交渉』に近いです。『水』のモンモランシ家は、水の精霊との交渉役を何代も務めてきましたから」
「『務めてきた』……過去形ですね」
「うっ……そ、それは……」
シュウの指摘に、思わずモンモランシーは口ごもる。
ちなみに、モンモランシーはシュウに対しては敬語を使っている。
「察するに、交渉時に何らかの不手際、あるいはトラブルが発生して交渉役を解約された……というところですか?」
「……その通りです」
その推察がほとんど的を射ていたので、モンモランシーとしても肯定せざるを得ない。
「しかし『長年に渡って交渉役を務めてきた』というのが事実であれば、我々のような何の繋がりもない人間が接触しようとするより、よい結果を得られる可能性があるでしょう。ではお願いしますよ、ミス・モンモランシー」
「……はい」
若干シュウに気圧されつつも、モンモランシーは腰に下げた袋から自分の使い魔のカエルを取り出し、自らの血液を媒介として水の精霊との交渉を開始した。
岸辺より30メイルほど離れた水面が輝き、ゴボリとうねり始めた。そして見る間に水面が盛り上がり、その水はぐねぐねと形を変え続ける。
「アメーバ……不定形生物か?」
「いえ、さすがにそれを『精霊』呼ばわりはしないでしょう。不定形という点では共通しているようですが、本質的には全く異なる存在のようです」
「……ユーゼス、『あめーば』って何のこと?」
「……後で説明する。今は水の精霊とのやり取りに集中するべきだ、ミス・ヴァリエール」
研究者組の言葉の応酬に構わず、モンモランシーは姿を現した水の精霊に話しかけた。
「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をしてちょうだい」
その言葉に反応したのか、水の精霊とおぼしき水のカタマリは大きくうごめいて、人の―――モンモランシーの姿を模して彼女と会話を始める。
「…………覚えている。単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が52回交差した」
「よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」
「……………」
沈黙する水の精霊。
そんなモンモランシーと水の精霊の交渉をじっと見ているユーゼスたちは、それぞれの考察を交えながらこの『水の精霊』について議論を行っていた。
「一部……ということは、アレは水の秘薬の集合体なのか?」
「『水の精霊の涙』って名目で秘薬が市場に出回ってるくらいだから、そのはずよ。まあ、精霊がホントに涙を流すわけがないとは思ってたけど」
「私としては、精霊に『形』があることの方が驚きですね。ラ・ギアスの精霊は人と心を通わせることはままありますが、このように物理的な形をとって『会話』を行うとは……」
「ふむ。水そのものに意思があるのか、何らかの意識体が水を媒体として意思を現出させているのか……ただ見ているだけでは判断が付かんな」
「『水の精霊は個にして全。全にして個』って話は聞いたことがあるわ。『千切れても繋がっていても、その意思は一つ』とも。少なくとも、私たちとは全く違う生き物なのは確かね」
「『生き物』と分類が出来るのかどうかも、議論が分かれるでしょうね。
……精霊レーダーやREBスキャンを使えば何らかの分析結果が出るでしょうが、それを察知されて下手に機嫌を損ねられるわけにもいきません」
「私のシステムも同じ理由で使えないな。……アレが因果律を感知する可能性もゼロではない」
「ちょっと、『れーだー』とか『すきゃん』とか『しすてむ』とか、何の話?」
「我々の出身地の技術だ。長くなるので詳しい話は避けるが……、しかし分析結果か。許されるのなら、ぜひじっくりとアレを研究してみたいものだ」
「確かに。私もかなり興味があります」
「それについては同意するわ」
ユーゼスとエレオノールとシュウは、水の精霊をほとんど実験動物のように見ているが、そこには特に気負った様子も後ろめたさもない。
この3人は、良くも悪くも『研究者』であった。
そしてしばしの沈黙の後、モンモランシーの願いに対して水の精霊はキッパリと告げる。
「断る。単なる者よ」
その言葉を聞いて、今まで興味深げに水の精霊を観察していたエレオノールの表情が一変した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! ルイズはどうするのよ!?」
ずい、とモンモランシーを押しのけて水の精霊と対峙するエレオノール。
「ミ、ミス・ヴァリエール、水の精霊を怒らせたらどうするんですか!?」
「ミス・モンモランシ、あなたも交渉役を自称するんだったら、もう少し食い下がりなさい! ……とにかく、水の精霊! 私の妹のために、あなたの身体の一部を分けてちょうだい!!」
「……………」
エレオノールが叫ぶが、水の精霊は何も答えない。
「お願い! 何でも言うことを聞くから―――」
頭まで下げて、悲痛に訴え続けるエレオノール。
プライドの高い彼女がそこまでしたという事実に、他の面々は驚いたり感心したりしていた。
その訴えに効果があったのかどうかは分からないが、水の精霊はまたぐねぐねと何度も姿を変え、再びモンモランシーの姿に落ち着くと一つの問いを投げかけた。
「余の理を知らぬ単なる者よ。貴様は『何でもする』と申したな?」
「い、言ったわ!」
一縷の望みが出て来たことで、エレオノールの顔に喜色が差す。
「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を、退治して見せよ」
「退治?」
一同は顔を見合わせる。
「左様。我は今、水を増やすことで精一杯で、襲撃者の対処にまで手が回らぬ。その者どもを退治すれば、望み通りに我の一部を進呈しよう」
「……分かったわ。引き受けましょう」
「ええええっ!!? そんな安請け合いしないでくださいよぉ!!」
「うるさいわね。お望みなら、牢獄の中で一生を送らせてあげても良いのよ? それで問題が解決するわけじゃないけど、少なくとも私の不満は少しだけ解消されるでしょうから」
禁制の惚れ薬を作ったことを、あることないこと付け足した上で王宮に報告してやる……と、エレオノールはモンモランシーを暗に脅しているのである。
このカードを切られてしまっては、モンモランシーは嫌でも協力せざるを得ない。
「うう、分かりました……。協力させていただきます……」
「じゃあ取りあえず、その相手の情報を聞きましょう」
こうして一同は、水の精霊に対する襲撃者とやらを撃退することになったのだった。
「私は直接には手を出しませんよ」
では作戦会議を……という段階になるや否や、いきなりシュウが言い放った。
「ちょ、ちょっと、どうしてよ? あなたのあの……デモンゴーレム? だっけ? アレはかなり戦力になると思ってたのに、いきなりそんな……」
エレオノールはその言葉に面食らいつつも、何とか引き留めようとする。……貴重かつ強力な戦力を、みすみす手放すわけにはいかないのだ。
ちなみにネオ・グランゾンのことを知っているのは、この場ではシュウ以外にユーゼスとミス・ロングビルだけである。
「デモンゴーレムなどを使ってしまっては、このラグドリアン湖周辺の地形が変わってしまいますからね。それはあの水の精霊としても望むところではないでしょう。
それに……」
「そ、それに?」
シュウは、自身の『根幹』とも言えるセリフを口にする。
「いかなる世界であろうと……私に命令が出来るのは、私だけなのです」
「っ……」
圧力を感じ、エレオノールは思わず一歩後ずさった。
しかし、そんなエレオノールをかばうようにしてユーゼスが割って入る。
「……そこまでにしておけ、シュウ・シラカワ」
「フッ……、そうですね。少し脅かしすぎましたか」
肩をすくめつつ、薄い笑みをエレオノールとユーゼスに向けるシュウ。
「『直接に手を出すことはしない』とは言いましたが、アドバイス程度ならば構いません。『手は出さないが口を出す』、ということです」
「ほう……良いスタンスだ。私も見習わせてもらおう」
シュウの宣言に対してユーゼスは感心したように呟くが、即座にエレオノールから口を挟まれた。
「って、あなたは前衛で戦うに決まってるでしょう!!」
「私が? 何故?」
「あなたのそのインテリジェンスソードはメイジに対してかなり有効な防御手段になるんだから、当然よ!!」
「……別に私が使う必然性も無いのではないか? 御主人様あたりでも構わないはずだが」
「…………この中で『武器を上手く使うこと』に関して、あなた以上の人間がいる?」
「ミスタ・グラモンのワルキューレならば、あるいは……」
「あんなドットメイジが作ったゴーレムごときが、腕の立つメイジ相手にそうそう役に立つわけないでしょうが!!」
「何気に馬鹿にされてないか、僕……?」
「でも事実でしょ」
話を聞いて微妙な表情になるギーシュと、それにツッコミを入れるモンモランシー。
ついでに言うと普通にガンダールヴを発動させた時の『生身の』ユーゼスの戦闘力は、通常のワルキューレ3〜4体分ほどである。
「ミス・ロングビルはどうする? そう言えば戦えるのかどうかも知らないが」
「私はシュウ様が命じられるのであれば戦いますが……」
とろんとした目でシュウを見るミス・ロングビル。
「ふむ……。あなたの戦法では、私と同じようにこの辺りの地形に影響を及ぼしてしまうでしょうね。ここは私と一緒に観戦していましょう」
「はい、分かりましたぁ。……シュウ様と一緒に……シュウ様と……」
うふふ、とミス・ロングビルは笑みを浮かべながらシュウの台詞を反芻する。
ユーゼスは続いてモンモランシーの方を向き、一方的に彼女の参戦決定を告げた。
「ミス・モンモランシは参戦してもらうぞ」
「ええっ!? 嫌よわたし、ケンカなんて!!」
「戦闘において水メイジは重要だからな。試してみたいこともある」
「どうしてわたしがあなたの実験台にならなくちゃいけないのよ!?」
「……いやモンモランシー。ユーゼスが一度こうなったら、もう彼がある程度納得するまでは開放してくれないんだよ……」
「何それ!?」
諦めたように言われたギーシュのセリフに、モンモランシーは悲鳴を上げるのだった。
「では、戦闘に参加するのは私と、ミスタ・グラモン、ミス・モンモランシに……御主人様か」
「…………ちょっと、何で最初からミス・ヴァリエールが除外されてるのよ?」
戦闘メンバーを発表するユーゼスに、モンモランシーが噛み付く。……自分の時は問答無用で参入させたのに、この扱いの差は一体何だと言うのだろうか。
「………」
そしてそのモンモランシーの言葉で、あらためて自分が『最初から』除外されていることに気付いたエレオノールがユーゼスの方を見て、他のメンバーもまた同じくユーゼスを見た。
「……説明が必要か?」
「必要よ!」
ユーゼスは仕方なさそうに、エレオノールが戦闘メンバーに含まれていない理由を説明した。
「ミス・ヴァリエールは、理論の組み立てや『魔法の使い方』の運用・応用方法の考案については目を見張るものがあるが、決定的に直接戦闘に向いていないからだ」
「わたしだって向いてないって言ってるじゃない!」
「サポート程度ならば出来るだろう? 何も先頭に立って戦えと言っている訳ではない」
モンモランシーは納得の行かない顔でユーゼスを睨むと、ポツリと小声で言った。
「……あなた、何だかミス・ヴァリエールに甘くない?」
「む?」
「なっ……!」
「え……っ!?」
僅かに反応するユーゼスと、うろたえるエレオノール、そして一気に不安そうな顔になるルイズ。
「そんなつもりは無いのだが」
「そうかしら……」
しれっと否定するユーゼスに対してなおも訝しげなモンモランシーだったが、そこにエレオノールが口を出してきた。
「そ、そうよ! ヤブから棒に変なこと言わないでちょうだい!
そんな、ユーゼスが私だけ特別扱いしてるとか、私のことを守ろうとしてるとか、私のことを大切に思ってるとか……そんなことは全然、別に、あんまり、そんなに、少しも……いえ、少しくらいは……とにかく無いかも知れないはずなんだから!!」
少々パニックと言うか暴走しながら、否定なのか肯定なのか判断の付きにくいアピールを行うエレオノール。
「……お前は何を言っている、ミス・ヴァリエール」
そんな支離滅裂なことを口走る金髪の女性に、銀髪の男は冷静にツッコミを入れた。
「…………そこでアッサリ切って捨てないでよ、もう」
「? 何か言ったか?」
「何にも言ってないわよっ!!」
「……?」
顔を赤くしながら怒るエレオノールに、ユーゼスは首を傾げる程度しかリアクションが出来ない。
―――そして、モンモランシーの言葉に過剰に反応する人物は、エレオノール以外にもう一人いた。
「うっ……、ううぅ……っ、ひっく、ぐすっ……」
言わずもがな、惚れ薬の影響の真っ最中にあるルイズである。
「や、やっぱり……ひっく、やっぱりユーゼスは、わたしよりエレオノール姉さまが……良いのね、うぅ、好きなのね……うっ、うぅっ」
「……またか」
どうしてこの状態のルイズは、やたらと自分とエレオノールの関係を意識するのだろう……と、再び首を傾げるユーゼス。
「いいもん、いいもん……勝手にすれば? ……ぐすん。
で、でも……わたしのこと嫌いにならないでぇ〜! うわぁぁあ〜〜ん!!」
泣いたり怒ったり、わめいたり叫んだり、すねたり駄々をこねたり、と酷く情緒不安定な様子である。
ユーゼスとしては『泣いている女性への対処』など、どうすれば良いのかサッパリ分からないので、取りあえず放っておくことにしたのだが……。
その内、ミス・ロングビルがそのルイズの言動に触発されたのか『わ、私を捨てないでください、シュウ様ぁ〜!』とシュウに泣き付き始め、余計にワケの分からない事態になってしまった。
「ぐぅ……」
「……すぅ」
ラチが明かないと判断したシュウの手によって、ルイズとミス・ロングビルは眠らされ、ようやく正常な作戦会議がスタートする。
「ではまず、相手の情報についてだが……」
「水の精霊の話によると、『背の低い風系統のメイジ』と『背の高い火系統のメイジ』の二人らしいですね。直接に水の精霊のテリトリーである水中に入り込んで攻撃を仕掛けている以上、かなり自分の実力に自信がある……と見て良いでしょう」
なお、この会議の司会は『対フーケ会議』と同じく、ユーゼスである。
「となると……この際、敵の実力はスクウェアクラスと仮定しておくべきだな」
「……それはちょっと、高く見積もりすぎなんじゃないかしら。スクウェアメイジなんて、そうそうお目にかかれるものじゃないわよ?」
『敵の実力』の見当を付けたユーゼスに対して、エレオノールが意見を出した。
確かに水の精霊に挑むくらいなのだから『敵』の実力はかなり高いのだろうが、スクウェアが二人というのは過大評価が過ぎると考えたのである。
「一理あるが……敵の実力は高く見積もっておくに越したことはあるまい。相手の力を低く見積もって、結果として敗北した例を私は数多く知っているぞ」
「まあ、そういうことなら良いけど……」
そしてユーゼスは『仮想敵』に対するイメージを明確にするべく補足を行う。
「……ミス・タバサとミス・ツェルプストーをそれぞれグレードアップさせた相手を、同時に敵にすると思えば良いだろう。連携を使うことも考えられるから、それもあの二人のレベルを上げれば良い」
良い手本が身近にあって幸運だ、と頷くユーゼス。
その言葉にギョッとしたのは、ギーシュとモンモランシーである。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! サラッと言うが、『あの二人をグレードアップさせて同時に敵に回す』ってメチャクチャな前提条件だぞ!?」
「そうよ、大体キュルケとタバサがスクウェアになったら、ドットのわたしたちじゃ対処のしようが……。……いや、でも、あくまで仮定の話だし……」
この二人は、要するに『もう少しハードルを下げようよ』と言っているのである。
そんなカップル未満の二人に対し、ユーゼスは冷静に告げた。
「……では、現れた敵が本当に二人ともスクウェアクラスの実力者で、ミス・タバサとミス・ツェルプストー以上の連携を見せた場合、どうするつもりだ? 『ここまで強いとは思っていなかった』とでも言いながら敗北するか?」
「「うっ……」」
言葉に詰まるギーシュとモンモランシー。そう言われてしまっては、言い返すことも出来ない。
しえん
「では、前提条件も決まったところで、作戦立案に入るが……」
「……その前に、少しよろしいでしょうか?」
それぞれの意見を出し合おう、という段階になって、シュウが口を挟んでくる。
「何だ、シュウ・シラカワ?」
「『前提条件』……と言いますか、ユーゼス・ゴッツォはともかく、ミスタ・ギーシュとミス・モンモランシーにはお話をしておきたいことがあります」
「え? 僕たちに?」
「な、何でしょう……」
身構える二人に向けて、シュウはある確認を取る。
「ミス・モンモランシー。あなたは先程、『ケンカは嫌だ』と言っていましたね? そしてミスタ・ギーシュもその言葉に対してあまり反応はしなかった……これはミスタ・ギーシュも戦闘行為に対しては同じ見解、と捉えてよろしいのでしょうか?」
ジッと見られて、ギーシュとモンモランシーは怯みつつも答えた。
「ま、まあ、生身の人間相手には、ちょっと……。ワルド子爵は『偏在』で作られた分身だったし……」
「ケンカが好きな人なんて、そんなにはいないと思いますけど……」
シュウはその言葉を聞くと、二人に向かってキッパリと言う。
「―――では生き残りたいのであれば、そのような甘い考えは今すぐ捨てることです」
「え?」
「そもそも戦闘行為を『ケンカ』と表現している時点で、あなたたちの認識の甘さがうかがえます。
……これから行うのは『殺し合い』のための作戦会議です。せめて相手を殺す覚悟程度はしておいてください」
「なっ……」
「そ、そんな……!」
言われた言葉に絶句するギーシュとモンモランシー。
「な、何も殺すことはないんじゃ……!」
「ほう、それでは相手が我々のことを『殺しに来ない』という保証がどこかにあるのですか? 下手に手心を加えて、結果は殺された……などと、笑い話にもなりませんよ?」
畳み掛けるように、シュウは言葉を続ける。
「戦いで人が死ぬのは当然のことです。そしてあなたたちメイジには、最下級のドットであろうともそれを容易に行えるだけの力がある。しかしどうしても人を殺したくない、と言うのであれば……」
「……………」
二人は息を呑んで、その言葉を聞いていた。
「……敵を生かすために、あなたたちが殺されることですね」
その非情とも取れる勧告に、ギーシュは声を絞り出すようにして反論する。
「っ……必ずしも、殺す必要はない、はずでしょう?」
「ええ、『今回は』そうですね。……ですが『次の戦闘』は?
特にミスタ・グラモン。あなたも一応は貴族の子息であるならば、戦場に立つこともあるはずです。その時に戦場で『人を殺さずに済ませよう』と虫の良いことを言うつもりですか? 相手は確実にあなたを殺しに来ますよ?」
「そ、それは……」
動揺する様子を見せるギーシュ。
この目の前の男に対して何とか言い返そうとするが、上手い言葉が出て来ない。
横を見れば、モンモランシーが不安げな顔で自分を見ていた。
彼女を安心させるためにも、せめて何かを言わなくてはならないのだが……。
「僕は……」
敵を殺す。
たったそれだけのセリフが、どうしてか酷く、重い。
そうやってギーシュが逡巡していると、横から助け舟が出された。
「……シュウ・シラカワ、戦闘前に士気を下げ過ぎるな。全滅してしまったらどう責任を取るつもりだ?」
ほんの僅かに表情を厳しくしたユーゼスが、会話に歯止めをかけたのである。
シュウは悪びれもせずにユーゼスに向き直り、自分の発言の意図を説明した。
「フフ……、これは申し訳ありません。いずれ必ずぶつかってしまう壁ならば、早い方が良いと思ったのですが……余計なお世話というやつでしたか?」
「そんなものは『時期』が来るなり『事件』が起こるなりすれば、本人がどれだけ拒否しようとも身に付いてしまうものだ。意図的に与える類のものではない」
「確かに」
それきり、この話については打ち切られた。
ギーシュとモンモランシーは今の話が少々応えたのか、俯いているが……それに構っている余裕も、それほどない。
そして今度こそ作戦会議を……とユーゼスが場を仕切ろうとしたら、エレオノールが少し緊張した顔で話しかけてきた。
「……ユーゼス、少しいいかしら?」
「何だ、ミス・ヴァリエール? ……先程の心構えについての話なら、お前は直接戦闘に参加はしないのだから―――」
「いいえ。私のことじゃないし、彼らの問題は彼らに考えてもらうわ。ただ……」
「ただ?」
「……一つ、いえ二つだけ聞かせて。あなたは、その……『心構え』が出来ているの?」
「ああ」
何でもないことのように、ユーゼスはエレオノールの問いを肯定する。
シュウとの会話の内容から察しは付いていたが、やはりユーゼスはとっくの昔に『殺す覚悟』を済ませていたらしい。
……今更ながら、タルブで『作業』のように竜騎士を撃ち落していたことを思い出す。
あの時は色々ありすぎて、ユーゼスの細かい部分にまで注意が回らなかったが……。
「なら、あなたはどうやって……何がきっかけで『心構え』が出来たの?」
「知りたいのか?」
「ええ」
エレオノールとて、普通ならここまでヅカヅカと他人の事情に踏み込んだりはしない。……しかし『ユーゼスに対しては変に遠慮はしない』と、これもあの時に決めたのだ。
「……………」
言ってくれるまで引き下がらない、という意思を込めて、エレオノールはユーゼスを見る。
やがてユーゼスは軽く溜息をつくと、別に構わないかと口を開く。
「…………これはあくまで『私の経験』であって、御主人様やミスタ・グラモンの参考にはならないだろうが」
「別に参考にさせるつもりはないわよ」
やり取りの後で、ユーゼスはごく簡単に『自分の体験』を語った。
「今となっては、何が引き金となったのかすら曖昧だが……。……そうだな、一度目に死んだことが『きっかけ』の一つではあるだろう」
「……どういう意味?」
今まで問われたことに対して淡々と事実を答えていたユーゼス・ゴッツォにしては、随分と抽象的な表現である。
「―――私は今までに、二度ほど死んでいるからな」
「?」
今度は具体的な答えが返って来るだろう、とエレオノールは思っていたのだが、それに対する補足もまた彼女にとっては抽象的なものだった。
「……無駄話はここまでだ。襲撃者の対策について話し合うぞ」
「え、ええ……」
そうして、対象の殺害まで視野に入れた対策会議が始まる。
だが……。
(二度、死んでる……?)
会議を続けながらも、エレオノールの心の片隅には疑問が渦を巻いていたのだった。
以上です。
……ストーリー上、ほっとんど必要ないのに、何故に私は『ユーゼスとエレオノールの寝起きドッキリ』などを書いてしまったのか……。
最近、この話が何処に向かっているのか自分でも不安になって来ているような……。
つーか、書いてる途中でエレオノールに対して『27歳の女の子』という矛盾にまみれた言葉が浮かんできてしまいました。私はもう、色々と駄目かも知れません。どうしましょう。
そしてルイズの空気っぷりにも拍車が……。ま、まあ、後で挽回出来る……かな?
……しかし、シュウって切れ者すぎる上に存在感もハンパないので、登場するとどうしても主人公より目立ちますなぁ……。
スパロボでシュウがチョコチョコとしか出ない理由が、何となく分かった気がします。
それでは、支援ありがとうございました。
二日目の朝?
乙
嫌味ったらしいけど正論だなシュウ
そこがまたマサキに嫌われる原因なんだろうけど
いくつになっても心が乙女なら女の子だもん!
ラスボスの人GJ!
なんというビター&スイート
27歳の女の子…違和感ねぇww
次回を正座して待ちます。
そういえばサイフィスってマサキと意思の疎通のようなことしてなかったっけ?
480kb超えてますので、新スレ立てますね。
>521
乙!
レス500過ぎで480KB越えるとはね…
ラスボスの人待ってました乙!
27歳のラブコメ・・・なんという新ジャンル、だがそれがいい
次回以降の展開もwktkが止まらねぇー!
ラスボスはもはや1番の期待作です。
>>526 でもあんまり言い過ぎて作者のプレッシャーにならないかと不安も感じる
頑張って欲しい
500kbなら俺の期待してる作者さん全員が怒涛の30日連続投下してくれる
ラスボス期待作だけどうっかり使い魔たちが本気で戦っちゃうとハルケギニアの太陽系が・・・
そういや微妙に仲良くないな、使い魔二人
___ _
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500kbならサーバイン召喚
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500なら途中で止まっている一発ネタを完成させる
ぬるぽ
538 :
一発ネタ:2009/02/11(水) 16:37:43 ID:4QxhV6In
カブトムシのような姿をした獣化兵、ゼクトールは、天高く舞い上がる。
かつては、全ゾアノイドの頂点に立つ超獣化兵と呼ばれた彼は、死んでいった仲間の復讐のために、その呼び名を捨てた。損種実験体と
なることと引き換えに力を得た。
その力で、彼は仲間の仇であるアプトムとガイバーVを叩きのめし、後は止めと言うところまで追い込んだところで、邪魔が入った。
ガイバーに似たそれが、ギガンティックと呼ばれることになるガイバーの強化武装であることなど、ゼクトールには分からない。
分かるのは、それがガイバー以上の強敵であろうという予想だけ。
全てを捨ててまで、力を手に入れた自分が負けるとは思わない。だが、そいつと戦っている間に、せっかく追い詰めた仲間の仇に逃げら
れるかもしれない。
そんなことは許容できない。もはや彼には仲間の仇を討つ以外には何もなく、無茶な再調整のために寿命を縮めた肉体では、ここで逃が
せばもう奴らを追うことができないと悟っていた。
だから、彼は全てを消し去ることにした。
ゼクトールには、必殺の攻撃手段がある。周囲の光と熱量を奪い、それを放出する超高熱の熱線砲、ブラスターテンペスト。光量の少な
い地下ですら、100メガワット以上の出力を誇る粒子ビームであるガイバーの最強武器メガスマッシャーに匹敵すると言われたそれを、太陽
の光を直接吸収して撃ち出せば、地上は焦土となり、撃った自分も生きてはいられまい。
だが、躊躇いはない。どうせ長くない命。最後は派手に散らせてもらおう。
そう思って飛ぶ彼は、向かう先の前に、光る鏡のような物を見つけた。
なんだあれは? 敵が使った何かの能力か?
そう思い回避するが、その鏡は空中に固定しているように動かない。
なんだか分からんが、諸共に消し飛ばしてしまえばいい。そう思ったゼクトールは中空で自身の位置を固定し、羽を広げて太陽光からエ
ネルギーをチャージする。
「喰らえ、ファイナルブラスターテンペスト!」
叫びと共に撃ちだされる超超高熱の熱線砲は、撃った彼自身すらも焼き尽くす熱量で地上に撃ちだされ、同時に地上ではガイバー・ギガ
ンティックがメガスマッシャーの100倍以上の威力を誇る自身の最強の武器、ギガスマッシャーを撃ち放っていた。
結果として、ブラスターテンペストはギガスマッシャーに撃ち負けて地上に被害を出すことはなく、二つの光条が消えた時、そこにあっ
た鏡も消失していた。
その日、ガリアの王都リュティスは消失した。
王城である宮殿グラン・トロワから高熱度の光が発せられ、それが全てを消し去ったのだ。
何が起こったのか、正確に理解していたものは存在しない。
ガリア王ジョゼフが、サモン・サーヴァントを唱えた事を知る者もいなければ、そこに現れた召喚の門からあふれ出した光が全てを飲み
込む事になったことなど、最初にその光に飲み込まれて消えたジョゼフ本人にも分かるまい。
はっきりとしているのは、王都が焦土と化したという事実と、これで生き残った王族は、王弟の娘であるシャルロット姫一人だけになっ
たということだけである。
そして月日は流れ、ある日、ロマリアの若き教皇がサモン・サーヴァントの呪文を唱えた。
その魔法がガリアという国に、癒えぬ傷を残したと知らぬ彼は、しかし知っていても、それを行ったであろう。
なぜなら、それは必要な行為であったから。彼は、自らの属性である虚無の使い魔を必要としていたから。そして、彼は、召喚の門から
訪れる己が使い魔を待つ。
同じ頃、ハルケギニアから遠く、異世界地球の新宿と呼ばれる地の上空に、ドラグロードと呼ばれる、獣神将カブラールが数千人の獣化
兵を融合同化という能力で取り込み巨獣神変化をなした者がいた。
それは、上昇の途中に、その巨体に比べると小さな鏡を発見していたが、特に気にすることもなくその脇を通り過ぎ、今は地上に立つ難
敵ギガンティックエクシードに向けてギガスマッシャーにも匹敵する超熱量の超破壊光線砲であるウェールス・プルガトリウムを撃つため
のエネルギーチャージをしていた。
そして、地上のギガンティックエクシードもまた、天に向けて、マイクロブラックホールを撃ち出す必殺武器、グラビティ・インプロー
ジョンのためのチャージをしていたのだった。
強殖装甲ガイバーから何を召喚したことになるんだろう?
タイトルは虚無の光
マテwwwwGJ
500kbなら止まっているSSが全て再開する。
500KBなら次スレに今書いてる第一話を完成させて投下する
それはない
5000KBならさっきの嘘