1 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html ・Jane Style(フリーソフト)
ttp://janestyle.s11.xrea.com/ ・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
前の作品投下終了から30分以上が目安です。
【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。
【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪
【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部)
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用
【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用
【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作
【作者】リリカラー劇場=リリカル剣心=リリカルBsts=ビーストなのは
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
リリカルなのはBeastStrikerS
ビーストなのは
魔法少女リリカルなのはStrikerS−時空剣客浪漫譚−
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪(リリカラー劇場)
追放処分後の別名義での投稿(Bsts)(ビーストなのは)
>>1さん、乙でした。 すわっ!
8 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/15(月) 21:33:11 ID:XB5Qc5wE
乙です。
あの…ここで初めて予告みたいなの投下しようと思ってるんですけど、ここってそういう短い予告とか投下していいんでしょうか?
なんか誰も居ないようなので今日は引き下がります。
15 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/15(月) 23:04:25 ID:JVaSf8FG
突然すいません。作品内にオリジナルキャラなどを入れても大丈夫でしょうか?
ここはクロススレだよ。
メインじゃなきゃいいんじゃね?
かませ犬的な存在とかなら文句は無いと思う
>>15 オリキャラが入るならエロパロ板の該当スレか、そういうモノの投稿がOKという他のSS投稿掲示板をあたられた方がよろしいかと
>>14 誰もいないって十分位しか待ってないでは無いですか
もう少し様子見たほうが良いかと
我慢弱いですね
ここはクロススレだから添え物位の扱いならまだしもメインにオリキャラはまずい
逆に言えばちゃんとしたクロス作品で尚且つ脇役位なら別にオリキャラがでてもかまわない
23 :
名無しさん@お腹いっぱい:2008/12/15(月) 23:48:28 ID:aPi/zISj
すいません。
クロス小説を書きたいのですが、全く初めてなのでやり方が全然わかりません。
もし、よろしければ教えていただきたいのですが・・・
他人に教えてもらおうなんて考えが浮かぶうちは書かないほうが吉
25 :
名無しさん@お腹いっぱい:2008/12/15(月) 23:54:35 ID:aPi/zISj
載せ方という意味です
ええと、今コメントを書いたのと同じように、文章を書き込めばよろしい。
あ、メール欄に「sage」と入れよう。
まずは普通の小説の短編書いて練習しような。
教えていただいてありがとうございます
教えていただいてありがとうございます
すいません、前スレの方で明日か明後日と言いましたが・・・
それとなく執筆を進めていたら、プロローグ部分だけですが、出来上がって
しまいますた(笑)
今から投下してもOKですか?
投下予告も無いみたいだしいいんじゃない?
だめの反対の反対の反対
では早速・・・ただ本編の方は他板の二次創作スレ向けのSSと同時進行で執筆して
ます故に、ちと遅めになるのでどうかご了承ください。
『皆様、日○航空をご利用いただき有難うございます。当機は間も無く・・・』
目的地への到着を告げるアナウンスの音声が穏やかに響き、”ポーン♪”という心地よ
いチャイムの音とともに”シートベルト着用”のランプが点灯する。
あっちこっちから欠伸をする声や溜息が聞こえ始める中、ビジネスクラスの客席で一人
の少し年配だが美しい女性が一人、やや地味なビジネススーツ姿で携帯端末を見つめ
ていた。
・・・年の頃は四十代半ばだろうか、ブルネットの長髪を後ろで纏めたポニーテルの髪
型にグレーの瞳、美しく整った顔立ちからか何となく少女のような印象のある彼女は
今、携帯端末の画面に映し出されるデータ一つ一つに目を通していた。
「あの、お客様。まもなく着陸体制に入りますのでシートベルトを・・・」
にこやかに話しかけるフライトアテンダントに微笑み返すと彼女は、一度ゆっくりと背筋
を伸ばした後、彼女の横・・・窓側の席で眠っていた少女の肩を軽く揺すった。
「おはよう、ウェンディ♪」
「・・・ん、んぁ?あ、おはよ〜っス、姐さん・・・もう到着っスか?」
「もぉ〜その姐さんってのは止めてって」
まるで寝起きの子供のような仕草で目を擦りながら起きた少女=ウェンディの返事に、
”姐さん”と呼ばれた女性は少し呆れたような表情で苦笑いを浮かべた。
マリアージュ事件から、どれくらいの月日が経ったことだろうか・・・幾つもの更生プログ
ラムを経た所謂”戦闘機人”とよばれる少女たちは、先の事件での活躍を買われてか、
それぞれ”社会貢献”の名目の元で時空管理局の各部署へと配属されていた。
そしてウェンディは他の姉たち数名とともに現在の引き取り先・・・ナカジマ家の長女で
あるギンガと同じ陸士108部隊へ捜査官として配属されていた。
そして今日は彼女が捜査官となって、ちょうど一年目・・・
「あぁ〜もぉ、とうとう最後まで直してくれなかったわね。その呼び方・・・」
「はは、申し訳ないッス。注意してはいるんスけど」
「ウソ仰い、もぉ一回で良いから”アイーシャさん”とか”先輩”って呼んで欲しかったわ。
それも私が現場に居る間に・・・」
そういうと彼女=アイーシャは着陸に備え、携帯端末を片付けながら”やれやれ”と言
いた気な表情で何度目かのため息を付いた。
「でも本当っスか?その・・・今回で現場を引退するって。」
「えぇ、そろそろ現場の仕事もキツくなってきたし、ちょうど良い潮時だと思ってね。それ
に貴女だって、もうこんなオバサンなんかとコンビ組まなくっても・・・」
「止して下さい〜、もう何でそんな事いうんスか・・・」
彼女の言葉に困ったような表情を浮かべるウェンディの顔を面白そうに眺めながらアイ
ーシャは、更に話を続けた。
「それにね、今回の目的地は昔・・・私にとって色々と思い出深い所なの。だから何となく
、何となくだけど最後の仕事に相応しいかなって。」
「へぇ〜、そうなんっスか・・・」
「えぇ、窓を開けて御覧なさい。今ちょうど目的地の真上だから。」
彼女の言葉を聞いてウェンディが覚束ない手を窓の方へと伸ばし、降ろされていたシェー
ドを開くと、そこから明け方の日差しが薄暗い機内にオレンジ色の光を投げかけて来た。
「いかが?第一印象は・・・」
「う〜ん、なんか分かんないっス。なんかこう、モヤってるというか・・・ごちゃごちゃしてる
っていうかその・・・」
「ミッド地上本部陸士108部隊所属ウェンディ・ナカジマ捜査官ドノ♪」
「な、なんッスかいきなり!気持ち悪いッス(汗)」
改まった調子で話す彼女の言葉を聞き、ウェンディが思わずどぎまぎした表情で驚いた時
、その様子を楽しげに見ながらアイーシャは静かに窓の外を指差し、その眼下に広がる街
の名を口にする・・・後々になって捜査官としてのウェンディの人生を大きく方向付ける事と
なる街の名を・・・
「・・・・ようこそ”OSAKA”へ」
今回は・・・以上です。(短くて申し訳ないっス^^;)
まぁ今回はプロローグを兼ねた予告編ということで。
因みにクロス元は・・・二人の目的地でも分かる(?)と思いますが。
アクションスリラーの傑作『ブラックレイン』です。
元ネタは分からん。
が、本編後のウェンディ・ナカジマのお話、というのにはかなり期待。
松田優作しか浮かばん
島木譲二とガッツ石松しか思い出せん
OSAKAって都市シリーズがあったの思い出した
なんつーんだっけ
ケータイ小説っつうんだっけ?この文法
>41
小説のほう?ゲームのほう?どっち?
どうも、昨日予告投下したいと言った者です。
そろそろ投下してみようと思うのですが、大丈夫でしょうか?
よくってよ
では行きます。
クロス元は知る人ぞ知る名作。
超光戦士シャンゼリオンです。
「知っているか!?世界で始めての皇帝は…皇帝は…」
黒岩省吾、またの名をダークザイドの闇の騎士・暗黒騎士ガウザーは、東京国成立とその初代皇帝に君臨し、人間世界掌握の足がかりにするという野望の最中、自らが見下す人間の子供の放った銃弾に倒れた。
彼が最期に何を言おうとしたのか誰も知らぬまま、撃たれた彼の体は冷たい湖の中へと没して行った…
だが、神は彼の死を許さなかった。
「何処だ…ここは…?」
彼が目覚めた場所は未知なる世界。
「あの…大丈夫ですか?」
「お前は…?」
彼を救いしは赤髪の修道女
「このコーヒー…何の豆を使った?」
「え?モカですけど…」
「お前知らないのか?コーヒーはブルーマウンテン4、ブラジル5、モカ1の混合豆を使ったものが一番美味いんだ。
すぐ淹れ直せ。」
「な!?助けられた身の上でなんて我侭な…」
新たな世界で彼が新たに始めし仕事は人の悩みを聞き、助言すること
「貴方は少し仕事を休み、ご自分のご家族に家族サービスをしたほうがいい。そうやって家族と触れ合えば、荒んだ家庭環境も修復できるはずだ。」
「は…はい!ありがとうございます黒岩さん。」
そして…
「まさかこのミッドチルダにまで、ダークザイドが闇次元界から逃げ延びていたとはな。」
「あんたは…ガウザー!?」
もう一つの仕事は…
「馬鹿な!?暗黒騎士ガウザーともあろう者が、人間を守るというのか!?」
「どこかのグータラな探偵と違って俺は律儀だ。一宿一飯の恩は返す主義でな。」
人を守ること。
「ブラックアウトッ!」
暗黒騎士の新たな戦いが始まる。
「知っているか!?世界で始めての…」
リリカルガウザー
はじま…るかも
支援
以上です。あくまで予告です。
予定としては主人公は黒岩。ヒロインはシャッハやカリムで行く予定です。
聖王協会メンバーと黒岩の絡みで話を進めていく予定のため、なのはやフェイトはもしかしたら出ないかもしれません。(ナンバーズは話に絡められそうな目処が立てられたら出すかも)
もし書くことになったら当然暁や速水もでますが、主人公が暁にシフトしちゃう可能性も出てきてしまうので扱いに頭を悩ませています。
文集もまだまだ練習不足の上に構想もまだ十分に立てていないのですが、もし書くことになったらよろしくお願いします。
では今回はさようなら。
知っているか?1レスで終わる程度のものは小ネタとすら呼べん。
>>35 >>46 続けたいとも思わない様な妄想垂れ流すだけならチラシの裏で書いてろクズ
スレ汚しとしか言い様がない
恐ろしい事にここも初期はそんなのばっかりだったという罠
屑とか口がすぎる。
興味ないならスルーしましょう。
酷いな、元からいる作者以外はみんなこうやって切り捨てることしか出来ないんだな。
それは馴れ合いとも呼ばれる
新しい人が来るのは一向に構わないが、
>>1をしっかり読んでから投下して欲しい
>>54 たとえ新人でも、実力のある作者なら認めてもらえる。
逆に新人を理由に未熟だと言い訳する者には容赦しない。
ここはそうやってスレの質や品位を保ってきた。
それを自然淘汰ともいわれる。
>>54 前スレの「邪眼は〜」と、それに対するこのスレの反応とか見てみたまえ
たとえ新人さんでも良い作品は受け入れられ、そうでないものは無視されるか叩かれる
これはいかなる場所でも共通の真理だぜ
ただし
>>51は言い過ぎだと言わざるを得ない
>気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
>逆に新人を理由に未熟だと言い訳する者には容赦しない。
>たとえ新人さんでも良い作品は受け入れられ、そうでないものは無視されるか叩かれる
>>1に書いてある事を読めてないのは、お二人じゃないでしょうか?
叩かれるとか容赦しないとか何様ですか?無視すればいいのに。
見ている人、全員がこういう考えではないと思いますが、これでは投下しにくいでしょうね。
未だにシャニウィンも.hackも全然進まなねぇ!(ぇ
そんなわけで、予約がないようでしたら、8時からLYRICAL KING2話を投下します
確かにナーバスだったかもしれないが、
投下される作品、というかスレの質の低下を考えると止むを得ない処置だとも思うね。
極論だが職人に甘すぎた結果が盗作騒動へと繋がったわけだ。
そして無視すればいいのにと言った君も無視できてないわけ。お分かり?
えーと……これって投下してもいい空気なんですかね? 出直した方がいいのかな?
まぁいいや、この空気を打破するためにも投下。
遊戯王5D's ―LYRICAL KING―
第2話「キングと少女」
底知れぬものを感じた。
あの漆黒と灼熱の竜が姿を現した時には、心底肝が冷えたと思った。
それの放つ気配に当てられた時、五体は震え、思考は止まった。
キングを名乗りし白コートの男――ジャック・アトラスの操る魔物、レッド・デーモンズ・ドラゴン。
天空すらも震わすほどの咆哮に、大地を余すことなく舐め尽くす炎。
大した戦闘能力を持たないガジェットと言えど、6機もの数を一撃の下に焼き払った制圧能力。
否、クリムゾン・ヘルフレアの破壊力ならば、10機は撃墜できただろう。
そして、鋼のごとく鍛え上げられた巨体に宿るのは、その炎にも勝るとも劣らぬプレッシャー。
竜王の絶大なインパクトを間近で見せられた時、ようやくドゥーエは理解したのだ。
何ゆえジャックが王者たるかを。
王者の名をもたらす力の存在を。
なるほどあの竜ならば、下手をすれば管理局の一部隊が相手であろうとも、敵ではないだろう。
それこそ、百戦錬磨のエースをも彷彿とさせる、正真正銘の怪物(モンスター)だ。
未だにばくばくとうるさく鳴り響く心臓を、深呼吸と共に落ち着かせる。
実のところ、ドゥーエには、戦闘の経験がほとんどと言っていいほどなかった。
生まれながらにして腕利きの諜報員のスキルを与えられた彼女に、作戦失敗はありえない。
故に大したトラブルもなく、暗殺任務以外では、敵と刃を交えたことなどなかったのだ。
だからこそ、彼女は知らなかった。
強者の放つ気迫というものを。
一騎当千の覇者の持つ、鬼気迫るまでの殺気というものを。
だから、先ほどは不覚にも、あのレッド・デーモンズ・ドラゴンを前に竦み上がってしまったのである。
それこそ、直接狙われたわけでもないというのに、だ。
だが、しかし。
実戦経験がないということは、別に度胸がないということとイコールではない。
「ふふ……」
故に、妖艶なる密偵は不敵に笑う。
一度は恐怖したものの、彼女はそれで引き下がるような腰抜けではなかった。
むしろ、あの男の存在が、ドゥーエを強く奮い立たせた。
面白い。
こんなに面白そうな相手は、本当に初めてだ。改めてそれを実感させられる。
これほどのスリルは、そうそう味わえるものでもないだろう。
退屈な任務ばかりを続けていた毎日に、全く未体験の刺激が顔を覗かせたのだ。
刺激があるからこそ人生は楽しい。
つまるところ、スリルとは一種の麻薬である。
人はそれを求めて遊園地のジェットコースターに乗り、お化け屋敷に足を踏み入れる。
その行為が恐怖をもらたすものであると、分かっているにもかかわらずに、だ。
「本当、楽しませてくれるわね」
ぽつり、と。
既にここにはいないキングへと呟いた言葉は、風に流され消えていった。
支援
夜。
廃棄都市区画の中心部に位置する劇場は、お世辞にも立派と言えるような場所ではない。
ホールの天井には大きな穴が空いているし、無数の客席にはその全てに埃が積もっている。
当然と言えば当然だ。
かつて何らかのテロに巻き込まれたこの劇場には、もう役者も観衆も姿を現すことはないのだから。
人もいない、劇もない。そんな所に不必要な整備を施す者はいない。
それでも、少なくともこの貧困街に住む者達にとっては、廃ビルなどとは一線を画するこの場所は、まさに最高の物件だった。
そして今、その最高の物件に住んでいるのは1人の男。
他ならぬジャック・アトラスだ。
今や廃棄都市全土にその名を轟かすキングには、確かに似合いの棲み処だろう。
もちろん、気難しい王者と寝床を共にしようとする人間はいないし、そもそも王者自身がそれを許すはずもない。
だからここはジャックのみの家であり、ジャック以外に住む者はいない場所だった。
――その、はずだった。
「……それで、お前は一体どこから来たんだ」
両腕を組みながら、不機嫌そうにジャックが尋ねる。
その相手こそ、前述の前提を木端微塵に打ち砕いた、正体不明の無頼の来客だ。
「わからないの」
しかも相手は、幼い少女である。
キングのそれよりも若干色の濃い金髪に、赤と緑のオッドアイ。外見から察するに、まだ幼稚園に通っているような年頃だろう。
ほとんど襤褸のような服装を身につけた幼女が、ジャックの目をじっと見上げていた。
「分からないだと?」
「うん。じめんのしたをずっとあるいてたけど、いつからあるいてたか、よくわかんない」
地面の下というと、地下の下水道のことだろうか。
あまりに曖昧すぎる情報に、ジャックは思わずため息を漏らした。
そもそも何故彼がそれを聞いたのか。理由は簡単だ。彼女の顔に、全く見覚えがないのである。
元々廃棄都市のコミュニティというものは、都市部に比べると格段と小さい。近所の人間の顔ならば、大体頭に入っているほどだ。
だがこの少女の顔は、少なくとも自分の周辺にいる連中の中にはなかった。
これでは元の棲み処に戻そうにも戻せない。どこにいたのか分からないのだから。
かといって放り捨てることもできない辺りに、我ながら何とも言えない情けなさを感じるジャックだった。
「親はいないのか」
「……うん」
家族に関する問いの答えは、僅かに暗い表情で返された。
こうしたスラムの住民ならば、親のいない子供というケースも、さほど珍しい話ではない。
だが彼女のような見るからにひ弱そうな奴が、果たしてたった1人で生き延びられるものなのだろうか。
もしかすると、元々この廃棄都市にいたわけではなく、よそから流れ着いてきたのかもしれない。
ともかくも、これでこの少女に関することが2つ分かった。
1つが、自身の名乗ったヴィヴィオという名前。
そしてもう1つが、それ以外は何も分からないということだ。
「物覚えの悪い奴だな……」
うんざりしたようにジャックが呟く。
「ご、ごめんなさい……」
そしてその感情を読み取ったのか、おずおずとヴィヴィオが謝罪した。
ともかくも、彼女に関しては分からないことが多すぎる。
ここまでくると、もはや記憶喪失なのではないかと思いたくなるほどだ。
親の顔を覚えていないのはともかく、今までどこにいたのかさえ分からないというのは異常である。
しかし、名前だけを覚えているような、器用な記憶喪失があり得るのだろうか。あるいは、全く別の理由があるのではないか。
「――こんばんは、王様」
ふと。
「?」
不意に、声が響いた。
これまた聞き覚えのない声。どこからともなく聞こえてくる女の声。
突然聞こえてきた声に、「ひっ」と声を上げながら、ヴィヴィオが肩を震わせる。
一方で、ジャックの瞳は、冷静にホールの暗闇を探っていた。
誰かの侵入した様子はない。
相変わらずドアは半開きだし、客席は全席がらがらのまま。舞台に上がっているのは自分達だけ。
であれば、この声は一体どこから聞こえてきたのか。考えられる可能性が、あと、1つ。
(上か)
天井にぽっかりと空いた大穴だ。
首を上方へと傾けると、なるほど確かに、そこには人影があった。
「はじめまして、ジャック・アトラス」
楽しげに挨拶する声は、先ほどの声と全く同じ。
ジャックと大体同年代か、あるいは年上といったところか。声色通りの若い女性が、天井の上に立っていた。
「何者だ」
警戒心を孕んだ眼差しで、誰何する。
「ドゥーエよ」
そこに姿を現したドゥーエの姿は、先ほどまでとは一変していた。
腰まで届く長髪は、桃色から鮮やかな黄金へと色を変えている。
女性的な起伏に富んだ肢体を包むのは、暗色系のフィットスーツ。
身体に密着したそれが、豊満なスタイルをくっきりと浮かび上がらせていた。一種の官能性すらも感じさせる容貌。
宵闇の空で輝く星々に、ぼんやりと照らし出されるその姿は、さながら月下美人とでも言うべきか。
しかし、右手にぎらぎらと輝く銀色が、彼女をただの美女とは大きく隔てていた。
月光の中でその存在を主張するのは、鋭利な鋼の五本指。
ピアッシングネイル。
ドゥーエが創造主ジェイル・スカリエッティより与えられた、正真正銘の暗殺用具だ。
その手の中で鎌首をもたげる刃。更に余裕の笑顔の中に見せる、不穏な空気。
彼に警戒心を抱かせたのは、大体そういったものだ。
「こんな時間に何の用だ。俺の寝首を掻こうとでも思ったのか? だとしたら、見ての通りまだ2時間は早いが」
「ウフフ……期待通りの反応ですこと」
この状況下にあってもなお、まだ左腕のカードを引き抜こうともしない。
悠然と構える王者を前に、ドゥーエは大層面白いといった様子で微笑む。
もっとも、これくらいはまだまだ大したものではない。彼ほどの器ならば理解できているはずだ。
本当に暗殺が目的ならば、わざわざ声をかけるなんて真似はしない、と。
「大丈夫よ。別に貴方の命をどうこうしようというわけではないの」
好奇の色を表情に宿したまま、言った。
そしてその緑の視線を、ヴィヴィオの方へと向ける。正確には、彼女の足元へと。
「ただ、そこにあるケースを回収しないと、私のご主人様に叱られちゃうの」
言いながら、おどけたようにして肩を竦める。
「こんな物が欲しいのか」
ケースを持ち上げながら、ジャックが言った。
ヴィヴィオが引きずってきたと思われる、金属製の大きなケースだ。
アタッシュケース程のサイズを持ったそれは、やはり月明かりに照らされ鈍色に光っている。
幼女とそれを繋ぐのは無骨な鎖。痛々しく足首に巻かれたリングから、ケースに向かって伸びていた。
「そう。高エネルギー結晶体型ロストロギア――通称、レリック」
そう言うと、ドゥーエは音もなくその場から飛び降りた。
ふわり、と。
そんな擬音が似合うかのような、見事な着地。落下したのは、数十キロもの重量を持った人体だというのに。
この女、それなりに腕が立つ。
それが鍛え上げられた強靭な肉体によるものにせよ、卓越した戦闘テクニックによるものにせよ。
(ただ者ではない、か)
改めてジャックは、目の前の女への警戒を強めた。
自分も身のこなしには自信があったが、それはあくまで一般人の範疇だ。
彼はカードを操る決闘者(デュエリスト)であり、自らの身体で戦う魔導師のような人種ではない。
純粋な体力勝負を挑まれれば、恐らく負けるだろう。
女に対して敗北を認めるというのは、それがカード勝負によるものでなくとも、内心屈辱ではあったが。
「どうやら、頼み事をするに当たってのマナーも知らないようだな。どうせ来るなら、日の昇っているうちに正面から来い」
そうした複雑な感情はおくびも見せることなく、毅然とした態度で告げた。
物をもらいに来たというのに、時間は夜で、それも天井からの来訪である。客人のマナーとしては最悪だ。
「ごめんなさいね。でも、そんなにのんびりしてもいられないのよ」
かつ、かつ、かつ、と。
床を叩く硬質な足音が、ジャックの元へと近づいていく。
天より漏れる淡い月明の中。
2つの影が寄り添い、重なる。
「貴方には何の価値もなくても……私達にとっては、他人に先を越されるわけにはいかない、とっても大事な物なんだから」
肩を並べるようにして並び立ったドゥーエが、言った。
ロストロギアというものについて聞いたのは、一体いつ頃のことだっただろうか。
幾多の次元世界の中でも、滅亡した文明によって作られし遺産の総称なのだそうだ。
中には危険なものも少なくはなく、時空管理局が回収し、保管するケースも珍しくないらしい。
無論、そんなものは、ジャックにとっては一切無縁のものであるし、それは世界中の大多数の人間にも、同じことが言えるはずだ。
であれば、何故こいつはそれを欲する。
そいつの主は、その古代遺産を何のために使おうとしている。
「……好きにしろ」
もっとも、それもジャックにとってはどうでもいいことだった。
ヴィヴィオの身体を持ち上げると、その足より伸びた鎖を、ドゥーエに向ける。
「ありがとう」
一閃。
すぱん、と。
微笑と共に、刃が走った。
ただの一発で。カッターナイフが紙を切るように。
鋼鉄の鎖が、ピアッシングネイルの一撃によって、ものの見事に断ち切られた。
「意外と話の通じるタイプなのね。そういう人、私は好きよ」
「無駄話は好かん。こいつを持ってとっとと失せろ」
艶やかな響きを持った声にも、ジャックは取り付く島もない。
少女を床へと下ろすや否や、つれない言葉で拒絶した男を前に、ドゥーエは苦笑しながら肩を竦めた。
「はいはい。しつこい女は嫌いみたいね」
言いながら、戒めより解放されたレリックケースを掴む。
ブロンドを揺らし踵を返すと、そのまま出口へと歩いていった。
遠ざかっていく。かつ、かつ、という足音が。ゆっくりと、しかし、確実に。
一歩一歩が地を叩き、無音の劇場の薄闇の中、その存在感を主張する。
そして、ある時。
かつり、と。
足が、止まった。
「――貴方、次元漂流者なんですってね」
背中越しに、声。
よく通る声が、静寂を切り裂き、響き渡った。
「っ!」
ジャックの肩が揺れる。
紫の瞳が細められる。
これまで何事にも動じなかった王者の、明らかな反応。
次元漂流者。
本来異なる次元世界に住んでいたはずが、何らかの事故や次元災害によって、別の世界へと飛ばされてしまった者を指す言葉である。
主に管理外世界と呼ばれる、管理局とは無縁の世界からの漂着者を意味している。管理世界の住人なら、帰還手段を知っているからだ。
「外の人から聞いたわ。もっとも、そこまで調べるのには、結構骨が折れたけど」
くす、と。
意地悪そうな笑みを湛えながら、ドゥーエが振り返る。
そう。
廃棄都市のキングたるジャック・アトラスは、この世界の人間ではなかった。
かつて彼の暮らしていたサテライトも、彼の操る未知のアイテムも、全ては外の世界のものだった。
何が原因かも知らぬまま、見知らぬ世界へと放り出された、哀れな難民の1人だったのだ。
「……何が言いたい」
微かに眉間へと皺を寄せながら、ジャックが問う。
聞く者が聞けばすぐに分かった。明らかに先ほどまでとは声音が違った。
相手に対して何の興味も持たなかった平坦な声に、明確な怒りの揺らぎが生じている。
痛いところを突かれたのだ。図星を指され、僅かに不快感を覚えているのだ。
「元の世界に戻りたいんでしょう?」
「無論だ」
「だったら、私とは仲良くした方がいいかもね」
妖艶なる笑顔へと、意味深な色を孕ませながら、ドゥーエが言った。
「貴様、管理局の人間か?」
「半分正解半分間違い、といったところかしら」
ひらり、ひらりと。
ジャックの追求を、ドゥーエはことごとくかわしていく。
時空管理局とやらの人間ならば、次元漂流者を保護し、元の世界を探し出してやることは可能だろう。
そしてそのまま、次元航行船という船を使い、その世界へと送り届けることさえも。
しかし、返答は否。それも半分だけ間違っているという、ふざけた返事が返ってきた。
「どういう意味だ。俺に分かるように説明しろ」
憮然とした響きを込め、ジャックが尋ねた。
「そんなに焦らないの。まぁ、私のご主人様なら、貴方を元の世界へと帰すことができる、とだけは言っておくわ」
心底反応を面白がっている笑顔だ。
そんなドゥーエの態度が、より一層彼の神経を逆撫でる。
「それじゃあね。そう遠くないうちに、また来ることになると思うけど、その時はよろしく。……そこのお嬢さんも、ね」
最後に幼い少女を一瞥すると、金髪の美女は闇の中へと消えていった。
後には、ジャックとその足元のヴィヴィオのみが残される。
何もかもが食えない。何もかもが腹立たしい。
よってたかって、キングを何だと思っている。
忌々しげに舌打ちをすると、白いコートを翻し、ジャックの姿も舞台裏へと消えた。
一夜明け、朝。
天上に昇る太陽の光は、いかなる場所でも変わらない。
空が屋根に閉ざされてでもいない限り、全ての人々に平等に、陽光は天より与えられる。
クラナガンの市民達にも。廃棄都市の貧民達にも。
どこからともなく訪れた、別次元よりの来訪者にも。
そのジャック・アトラスはというと、劇場を出て、ひび割れた道路の上に立っていた。
トレードマークの白いコートを、似通った意匠のライダースーツへと着替え、頭にはヘルメットを被りながら。
そして彼のすぐ傍らで、奇妙な存在感を放っているものが、1つ。
「これなぁに?」
寝惚け眼をこするのも忘れ、ヴィヴィオが見上げたそれは、一言で言えば純白の車輪だった。
本当に、車輪なのである。
たとえそれが、長身のジャックの背丈ほどもある、異常な直径を持とうとも。
「俺のDホイールだ。……バイク、というのは分かるか?」
「ううん」
「要するに、乗り物だ」
若干面倒そうな表情を浮かべながらも、首を横に振るヴィヴィオへと、ジャックが言った。
確かに言われてみればこの車輪、ハンドルやらエンジンやら、さながらバイクのような装備が備え付けられている。
そう、これこそが、ドゥーエが廃棄都市の住民達から聞いた、「白いバイク」の正体だ。
ホイール・オブ・フォーチュン。
それが、燦然と輝く白銀の車体に授けられた名前だった。
ジャックの世界に広まっていた、トレーディングカードゲーム・デュエルモンスターズ。
これはそのカードを用いた試合・ライディングデュエルを行うための、れっきとした競技用車なのである。
ハンドルの辺りを見れば、昨日はジャックの腕に嵌められていた円盤――デュエルディスクが置かれているのが分かる。
この機体とは、もう幾度ともなく戦ってきた。王者をその背に跨らせ、数多の挑戦者を屠ってきた。
世にも珍しい単輪バイクは、まさにジャックの分身にも等しき存在でもあった。
車輪の内側へと設けられたシートに座り、エンジンを始動させる。
ごう、と。
重厚なエンジンの唸りと共に、勢いよく排気煙が吐き出された。
その間ヴィヴィオは無言だったが、オッドアイの瞳は、確実にDホイールへと向けられていた。
昨晩まではすっかり怯えきった瞳が、今はきらきらと輝いている。この未知なる乗り物へと、猛烈な興味を寄せている。
「いいか、先ほど言った通り大人しく――」
ぎゅ、と。
言いかけたジャックのズボンを、掴むものがあった。
正面へと向けていた視線を、違和感の方へと向ける
「……何だ」
ヴィヴィオの手が、白い裾を握っていた。
緑のバイザーの先の顔を、物欲しそうな表情でじっと見つめながら。
「ヴィヴィオものりたい」
「何だと?」
ジャックの顔がしかめられる。
これまでこいつに付き合うのも、面倒くさいことこの上なかったが、今回はさすがに度肝を抜かれた。
馴れ馴れしくも、このホイール・オブ・フォーチュンに自分を乗せろと言い出したのだ。
当然多くのバイクがそうであるように、Dホイールもまた1人乗り用である。
否、たとえそうでなくとも、何故見ず知らずの餓鬼を、わざわざ自分のDホイールに同乗させなければならないのだ。
「馬鹿なことを言うな。何故俺がお前などを――」
当然のごとく、抗議の言葉を口にする。だが、それが最後まで発せられることはなかった。
「……む……」
物凄く不機嫌そうな顔で、ヴィヴィオがこちらを見つめ返してきたからだ。
緑の右目で。赤い左目で。それこそ、顔面全体で。
ジャックのそれを遥かに凌ぐ不機嫌っぷりをアピールし、非難の眼差しを送っている。
別に乗せてくれたっていいじゃないか。
自分が乗るくらいのスペースは用意できるだろう。
待っている間1人ではさびしいのだし。
そもそもこんなカッコいい乗り物を見せておいて、乗せないだなんてひどすぎる。
ケチ。ケチ。このドケチ。
辛辣な視線に、ジャックはしばし、困惑したような様子で沈黙する。
「……分かった。分かったから手を離せ」
ため息をつきながら、ジャックが遂に折れた。
全くもって、子供は卑怯だ。どうせここで断れば、わんわん泣き出すつもりだったのだろう。
ぱあっと顔を輝かせるヴィヴィオを尻目に、内心で毒づく王者であった。
キングの名を轟かせる剛の者も、子供にはかなわなかったらしい。その事実が、更にジャックを不機嫌にさせた。
駆け抜けていく。
空も、雲も、道路も、街も。
目の前に広がる全ての光景が、背後に向かって走っていく。
エンジンの放つ轟音が、絶えず鼓膜を打ち続ける。
アスファルトの亀裂を踏むたび、シートから伝わる微かな振動。
前面から吹き付ける風が、前髪を額へと押し付ける。
こんなに強い風を感じたことはなかった。こんなにめまぐるしく変わる世界を見たことはなかった。
短すぎる人生の中、こんなに速く走ったことはなかった。
「わぁ〜……」
故にヴィヴィオの五感全てが、新鮮な喜びに満ちていく。
馬か、はたまたライオンか。まるで大地を駆ける獣になったようだ。
生身の人間では、決して味わうことのできないスピード感。
少なくとも、幼いヴィヴィオには、こんなに速く走ることはできない。
でも、今自分が座っているこの乗り物は、それをこんなに容易く叶えてくれる。まるで魔法のじゅうたんだ。
ジャックがハンドルを操るたび、奇跡はそこに実現する。
白い乗り物は物凄い勢いで加速し、直進し、時に角を曲がっていく。
幸せだと思った。
見知らぬ土地で独りぼっちという、今のヴィヴィオの心境を、しばし忘れさせてくれた。
この荒廃した街の中で、初めてヴィヴィオは、心の底から幸せだと感じていた。
角を曲がった先で、白い乗り物――ホイール・オブ・フォーチュンは減速する。
握られるブレーキ。回転を緩める車輪。弱まるエンジンの音。
ちょうどジャックの腹の辺りに、ロープで括りつけられたヴィヴィオの眼前には、いつしか何人かの人影があった。
見れば、道の左右には、たくさんの物が置かれた屋台がある。
コインと僅かな紙幣を渡し、品物を受け取る者がいる。かと思えば、物々交換を行う者もいた。
ここはスラムのマーケット――つまりは、闇市と呼ばれる場所だ。
左右に広がる露店の間を、ゆっくりとDホイールが進んでいく。
パンや果物などの食糧品だったり、簡単な日用品だったりと、陳列されているものは様々だった。
文無しの巣窟と思われがちな廃棄都市区画だが、一応、このような市場も形成されている。
とはいったものの、品物は大抵が都市からの盗品だ。
貧乏な人間達の溜まり場に変わりないが故に、こうでもしなければ生きられない。
そして2人の乗るDホイールは、それらの店の中の1つの前で、緩やかに停止した。
「よう、ジャック。見ない顔の嬢ちゃんを連れてるな」
大柄な髭面男の声を聞きながら立ち上がると、頭に被ったヘルメットを取った。どうやら彼が店主らしい。
「こいつに合う服を売ってくれ。そっちで適当に選んでくれていい」
ポケットから金を取り出すと、男に向かって突き出す。
そこそこに筋肉のついた浅黒い右手が、「まいど」と言いながらそれを受け取った。
流れ者のジャックだったが、一応金銭は持っている。ゴロツキ共を叩きのめして手に入れた戦利品だ。
「おぉい母ちゃん! ちょっと仕事頼まれてくれ!」
中年親父のだみ声が、奥の方へと大声で呼びかける。
そしてそのまま、ライダースーツの腹から解放されたヴィヴィオを受け取ると、店の中へと連れて行った。
程なくして、男1人が店頭へと戻ってくる。妻に服の見立てを頼んできたのだろう。
「……で、あの子はどっから来たんだ? この辺には、あんな奴はいなかったはずだが」
「本人は下水道を通ってきたと言っていた。後は知らん」
自分よりも二回りも年上の男だったが、そこは仮にもキングと呼ばれる男、敬語を使う気などないらしい。
「下水道から来た迷子か……また妙な話だな」
「全くだ。汚らしくてたまらん」
「ははは、そりゃ災難だな!」
店主の笑い声を聞き流すと、ジャックは不機嫌そうに両腕を組んだ。
実際、彼がヴィヴィオと一夜を共にしてみて、分かったことが1つある。
彼女の纏っている襤褸に、すっかり下水の臭いが染み付いてしまったことだ。
地下に降りて直接本物を嗅ぐよりは遥かにましだが、やはり臭いのは気に入らない。
よって、こうして顔なじみの店へと足を運び、替えの服を買うことにしたのである。
本来は自分1人で来て、適当に選ぶつもりだったが、本人が来たともなれば、実際に試着させてみた方が早い。
「しかしまぁ、ホントに不思議な感じの子だな」
「何がだ」
「あのオッドアイだよ」
ヴィヴィオの目は、片方が赤く、片方が緑色だ。
「翡翠の右目に、紅玉の左目……お前さんは知らねぇだろうが、ありゃベルカでは『聖者の印』っつって、縁起がいいと言われたもんだ」
「お前、ベルカ系だったのか」
若干意外そうにジャックが言う。
ベルカとは、このミッドチルダ同様次元世界の1つであり、数百年前は高度な文明で栄えた世界だった。
とはいえ、それは過去の話だ。現在ベルカ本国は、度重なる戦乱の果てに汚染され、生命の住める環境ではないという。
故に、現存するベルカ民族は、このミッドチルダに設けられた自治区を故郷としているのだそうだ。
何かの折に聞いた話しだったが、そういえば、それを話していたのはこの男だったか。
「ま、母ちゃんが見つかるまでは、お前が責任取って面倒見てやんな」
「何故そうなる」
「キングなんて大層な名前名乗るくらいだったら、それくらいの懐の深さくらい見せてみろってんだ」
からからと笑いながら、男の手がばしばしとジャックの背を叩く。
一方のジャックはというと、やはり仏頂面で沈黙した。
南に昇った太陽が、2人を照らし上げている。
間もなく昼下がりといった頃、ジャックとヴィヴィオの2人組は、広場の石段に並んで腰掛けていた。
しゃく、しゃく、しゃく、と。リンゴを齧る音が聞こえる。
ジャックの隣で赤い果実を食べる少女は、市場で買った服に着替えていた。
薄ピンク色を基調としたTシャツと、赤いスカート。都会の子供に比べれば、随分と簡素な服装だが、あの襤褸よりは遥かにましだ。
釣りをぼったくられたのは腹が立ったが、今後異臭に悩まされることもないと思えば、安い買い物と言っていいだろう。
(聖者の印、か)
その店主の言っていた言葉を、胸中で反芻する。
緑と赤のオッドアイは、歴代聖王家の特色であり、故に尊ばれてきたのだそうだ。
かつてのベルカ祖国の王者にして、現在の聖王教においては崇拝対象に当たる存在――聖王。
(ベルカのキング)
自らの二つ名と同じ立場。
ヴィヴィオの瞳の色が、その象徴となっていた時代が、確実に存在していたのだという。
もちろん、今ここにいる幼い娘を、そんな何百年も前の人物と同一と見なすのは、愚かしいことだとは思う。
だが、どうしても、そう連想せざるを得なかった。
(こいつもまた、俺と同じというわけか……)
異なる世界からミッドへと降り立ち、キングと謳われたジャック・アトラス。
どこから来たのかも分からない、聖王のシンボルを持ったヴィヴィオ。
互いに王の名を持ち、行く先も知らず、帰る道も知らぬ2人。
性別も年齢も異なる2人だったが、その一点においては、似たもの同士と言える存在なのではないか。
(……馬鹿馬鹿しい)
不意にそう思い、思考を頭の外へと弾き出した。
そもそもこいつはオッドアイをしているだけで、聖王でも何でもないではないか。
あまりに話が突拍子もなさすぎたし、何よりこんな、どこの馬の骨とも知れぬ餓鬼と同列に扱われては不愉快だ。
内心の苛立ちを反映するかのようにそっぽを向くと、自身も手にしたリンゴへと齧りついた。
口の中に広がる甘い果肉を、噛み砕き、飲み込む。
「……?」
と、不意に、視線を感じた。
ちょうど先ほどまで、自分が向いていた方から。
視線の主は分かっている。だが、無視するわけにもいかない。しぶしぶと、目線だけをそちらへ向ける。
「何だ」
じっとこちらを見上げているヴィヴィオへと、問いかけた。
「えへへ……」
そんなジャックの機嫌を知ってか知らずか、幼い娘は無邪気に微笑む。
初めて会った時の、びくびくと恐怖に震えた顔が、嘘のように感じられるような明るい笑顔。
「ありがと、ジャック」
何に対してのありがとうなのか。
自分を拾ってくれたことか。
Dホイールに乗せてくれたことか。
服やリンゴを買ってくれたことか。
否、恐らくそれら全てに対してなのだろう。
満面の笑顔を浮かべながら、ヴィヴィオはジャックへ感謝の言葉を述べた。
「フン……敬語もロクに使えんのか、お前は」
鼻を鳴らしながら呟くと、ジャックはまた果実へと噛み付いた。
自分のことは完全に棚に上げた、その言い草が面白かったのか。
あるいは子供心に、そこに照れがあるとでも思ったのか。
どちらが理由だったにせよ、ヴィヴィオはもう一度笑い、またリンゴを頬張った。
「……ええ、やはり間違いありません。我々の探しているマテリアルです」
そして、それを見下ろす者があった。
遥かな高みから。
ところどころが風化した、廃ビルの1つの屋上に立ち。
絹糸のごとき見事な長髪を、風にたなびかせながら、2人を見下ろしていた女がいた。
輝くような金髪と、暗い色のフィットスーツは、紛れもなくドゥーエのそれである。
「本当、まさかこんな当たりに出くわすとは思いませんでしたね……ドクター?」
にこにこと笑うヴィヴィオの顔を、緑の瞳で見つめながら。
にぃ、と。
女の口が愉悦に歪んだ。
投下終了。
前回とは逆に、思いっきり自重するキング。
前の話であんだけ大暴れさせたのは、今回の話と釣り合いをとらせるためだったり。
ヴィヴィオもドゥーエも、あまり歴代の連載ではメインに持ってこなかったような性質のキャラなので、
書いてて難しかったり楽しかったりな回でした。
>>60 >極論だが職人に甘すぎた結果が盗作騒動へと繋がったわけだ。
極論も何も職人を甘くすることが盗作騒動に繋がるというのは因果関係として成り立っていないと思います。
>そして無視すればいいのにと言った君も無視できてないわけ。お分かり?
無視するべきは、気に入らない作品と職人であって、意見として述べることも無視なんですか?
そうやって臭いものには蓋をすることのほうが問題だと思いますが。
だいたい、スレの質の低下とおっしゃいますが、何を基準にスレの質の低下とおっしゃっているですか?
上手い人以外の作品は排斥するということですか?意見を問いたいところであります。
GJ!
ぶっちゃけて言うと放送地域の関係で5D’s見たことな(ry
なのでジャックがどんな顔してんのかも知らんのですが
ヴィヴィオとの触れ合いが和むなあと、そう思います
GJ!なんと言う王者の貫禄…
>>74 ジャック・アトラスde
Yahooなんかで検索すれば結構画像有りますよ
GJ!でした
>>73 落ち着こう。間違った事を言ってはいないと思うが、今は惜しみないGJをw
>>71 GJ!!です。
こりゃ、なのはと相対するヴィヴィオがキングのデュエルはとか言い出しかねないwww
>>71 GJ!キングの使い方が上手いわぁwww
このヴィヴィオの将来が色々な意味で楽しみだ
>>60さんが、意見を出せないようなので。
>運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
>議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
>皆さま是非ご参加ください。
自分が出した問題提起が、運営に関することなのかどうかは分かりかねますが、
こういった一部の書き手の叩きや、住民が書き手を排斥するように読み取れる言葉を放ち
それに対して、なんら、他の住民の方々が意見をださないというのは容認していることなのでしょうか?
そうではないと願いたいところですが、
>>77さんのようにその場を有耶無耶にしてしまうつもりはなくとも、
そのように取られてしまいそうな発言をする感覚がわかりかねます。
もし、そういった一部の書き手のために、他を排斥して『スレの質や品位を保ちたい』というのなら
別の掲示板を借りてそこで一部の人たちで楽しんだらどうでしょうか?
もう一度書きますが
>>77さんが、そのような意図で言ったつもりではないと思いますし、
住民全体がそんな考えではないとも思います。
ただ、無意識にもそういった事に読み取れてしまうことを書いている人がいるので、書かせてもらいました
>>79 とりあえず馬鹿の声は大きいから勘違いするのは仕方ないが
>>51みたいな読み手様なんて基本的に誰も容認してないから
>>51と同意見の奴らですら
>>51に口の利き方に気をつけろボケ
とマイルドにいってるだろ?
皆関わりたくなくてスルーしてるだけだから
そんなわけでお前もスルーして見なかったことにしとけ
ついでにこのレスも返事はいらないからスルーしてくれ
>>51の意見は荒らしとみなして、論外と思いますが
>>56や
>>57の「叩く」「排斥」といった言葉が使われており
それが、結果的に、「スレの質と品位を保つ」という言葉になっているところが
おかしいと思っています。
>>1で書いてある注意事項をろくに見ず、ここまで書けるというのがおかしく
それに対して住人の反応が無いことに、容認されているのではないか?という意見をだしたのです。
もうね、皆ウロスでもどこでも行って話せよ。
本スレで話すな
>>79 ここは議論スレじゃないから、長引くならそっちでやって欲しい。
それと
>>60さんが、意見を出せないようなので。 と言ってるが、何も一日中ここを覗いてる
訳じゃないんだから、その発言は如何かと思う。
ID赤くしてまで議論すんなと
>>82 そうですね。わかりました。誘導ありがとうございます。
ただ本スレしか見ない人もいるかもしれませんので、
それぞれ読み手書き手に考えてもらいたいということで意見をださせていただきました。
まだ、意見を出すことも、出来ないようなスレではないと思ったので。
>>83 私は『意見を出せない』といっただけで
相手側が反論できないとか、そういった意味でいったつもりではありません。
語弊があったかもしれませんが、勘違いなさらないように。
ええと、
>>2のところで
>・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
と書いてありますけど、そういう議論はここでするのかな?
それよも専用の板があるんだったか。
この雰囲気が長く続くと、それこそ職人さんがやり難いと思うんですが。
せっかく反目のスバル氏が空気を変えようと名作落してくれたわけですし。
あ、あと反目のスバル氏、キングGJです。
>>85 意見言うならもっと他人のカンに障らないようなやり方でやれや
作品投下のすぐあとに割り込むなんざ喧嘩売ってるようにしか受け取れん
議論スレのほうに意見させていただきました。
皆様の意見よろしくお願いします。
>>87 何を興奮されているのかわかりませんが、
話の最中だと自分では思っていたので、続きとして書かせていただいたまでです。
それに、投下後に意見をだすなという明記はされてはいないと思います。
ですが、
>>71さんにはご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。
以後はこちらには書き込みはしません。
ご迷惑をかけました。
反目のスバル氏がかわいそうです
感想入れてあげましょう
>>47 GJ、面白そうっすね。
>>71 ジャックとヴィヴィオの不思議なコンビ(?)の今後の
展開が楽しみですね。GJ!
グーグル先生に質問して、キングの顔がようやく分かった。
これでようやく、ヴィヴィオとの絡みを画像化して想像できる。
というか、なに? あの凄まじいストーリー。
ネオ童実野シティってなんだよ
ヒント:遊戯王は昔からネタアニメ。
93 :
一尉:2008/12/17(水) 15:34:19 ID:3a3C0BJp
どりあえすキング総司令官。
16:50分より闇の王女第九章後編 の投下を予約します。
漸く予告通りの内容になりました。長いので支援をお願いします。
支援する!!! ひゃっはー!
開始します。
魔法少女リリカルなのは 闇の王女 第九章後編
こぼれ落ちる。
救いはあったのだ、最初からこの胸に。
「走れ。前を向いて進み続けろ。後悔だけはするな、悔いる必要などお前達には無いのだから」
我は咎人。許されざる罪を背負った罪人。
それでも、神様。貴方は満たしてくれるのですか?
「―――ああ。先に、いくぞ」
預言があった。無数の紙片。書き綴られた古代ベルカ語。
来るべき世界の姿が刻まれた言葉が、確かに存在した。
―――――闇より生まれし漆黒 天翔ける船舟に雷をくだすとき <法の塔>焼け落ち <彼の王>を祀るものは盾をかかげん
<闇の王女>は憎む <彼の王>の新たな生誕を <罪人>は祝福する <闇の王女>の生誕を
<三つの頂>を拝む者どもの船 戦舟より解き放たれし巨人の火の矢の前に 焼け落ち
新たな戦禍芽ばえしとき 暗き闇の底より <鋼の戦士>が蠢き 其の矛をもって巨人を穿ち
<闇の王女>の翼が羽ばたくとき 禍津神は彼の者を祝福し <二人の王子>は其れを嘆く
<二つの月>を見据えし戦舟 大いなる力を放ち 虚空は赤く燃え 戦舟は天を裂き <理想郷>への道を開かん
忌むべき法崩れし時 新たな<千年王国>の時が来る
<禁じられし剣>を手に 永久の栄光 人は再び立ち上がらん―――――
「そう、私達の勝利は約束されていた……そのはずでしょう、シャッハ」
それが、未来予測型レアスキル<預言者の著書>の描き出した唯一絶対の未来。
神から与えられしカリム・グラシアの能力が記す、世界の新たな姿のはずだった。
未来は定められたものではない。こうして人間に与えられた“力”によって幾らでも変えてゆけるものなのだと、カリム・グラシアは両親から教わっていた。
レアスキルによって人生を束縛されたカリムにとって、それは受け入れ難いことだ。彼女の目に映る世界は、何時だって無慈悲。
ただの人間――魔導師ですらない母は敬虔な聖王教徒であり、教会の騎士だった父は厳格な信仰者である前に一人の父親として立派だった。
何処にでもある幸せな家族。義理の弟であるヴェロッサと遊んだり――そんな幸福は、あるときを境に一変した。
“未来を予知する稀少技能”。
その価値は計り知れず、少女が定期的に作成する詩文の正体が“未来予知”の類なのだと知れたときから、カリム・グラシアは教会に拘束された。
一人の少女の人生が、生まれついたときから持っていた能力のために組織に組み込まれた瞬間であり、望まずに彼女は騎士として英才教育を受ける羽目になった。
未来の教会の財産として、彼女の能力と資質は有望であったが故に。家族の意志と無関係に、それは決定されていたのである。
カリムは世界を恨んだ。憎みながら、ままならぬ幼い少女である自分に悲嘆し、涙を幾度も流した。
そんなときだった、人生において親友と言える人物に巡り会ったのは。
桜色の髪の毛を揺らして、その世話役の少女は首を傾げた。
『泣いているんですか……?』
『ひぐっ……ひぐっ……あなた、は?』
『貴方のお世話を今日からします、シャッハ・ヌエラです』
そう言うと、その修道服を着た少女はぺこりと頭を下げて、ハンカチをカリムに差し出した。
泣いているカリムの綺麗な金髪を撫でながら、シャッハは微笑んだ。
『泣かないでください……私が、貴方を一人にしませんから……』
『ほん……とう?』
『ええ、神の御前に誓って。シャッハ・ヌエラは、騎士カリムの側にあります』
それが、約束。子供だった二人の主従を繋ぐ信頼の証。
シャッハという友を失ったことは、カリムにとって世界が終わることよりも辛かった。
時空管理局の兵達は、強い。いずれ聖王教会の精鋭達が護るベルカ自治領にも介入し、自分を捕らえに来るだろう。
このどうしようもなく穢れ/停滞した世界を創り直すという計画も、失敗――あるいは、カリム・グラシアの終着点はこの程度だったのか。
長い金髪を揺らして、カリムは自嘲した。
「私は――貴方という友を失って、どう生きていけば良いんですか?
教えてください、シャッハ。こんなにも愚かな私は、どうすればいいのです?」
道しるべを見失った子供のように。
痛みなど殺してしまえ。この死が染みついた身体に、戦う以外の価値などないのだから。
それでも心は痛みを訴える。あの子達を、妹達を護るためなら鬼になれと理性が諭しても、痛みは止まらない。
武装転送―――幾千の銀光、冷たい鋼の雨が流星のように闇を切り払う光明となりて降り注ぐ。
降り注ぐのは磁力誘導で銃弾並の加速を得たナイフであり、その一つ一つが戦車砲弾に匹敵する炸裂弾と化した代物だ。
銀の雨は容易く魔導師のバリアジャケットを引き裂き、肉に食い込み、その体組織をぐしゃぐしゃに噛み砕いた上で爆弾として炸裂する。
どん、と肉の弾ける音が響き、血の飛沫を上げながら五体が損壊した“人間だったモノ”が、でろりとグロテスクな断面を曝した。
否、それは正確に言えば人間ですらない。機械によって構成された身体を持つ鋼の兵士――戦闘機人。
炸裂弾の雨で肉塊となり、血の海で溺れる最高評議会直下の兵士達。それを冷ややかに見据えると、銀髪隻眼の少女は両手に短剣を構える。
血臭がする地獄で、生き残った兵士が呻く。その機械化された手足は付け根からもげ、恐ろしい傷跡が露わになっている。
「が、うぅ……何故ぇぇ……」
「吼えるな負け犬。敗者の矜持すら持たぬ雑兵が、時空管理局の狗か」
そう呟くと、喉笛を掻き切るように刃を突き出し、血の雫を浴びた。
自分以外に誰一人として動かなくなった戦域……<聖王のゆりかご>内部の通路で少女はただ一人佇み、心を融かしていく虚無の囁きに抗う。
空っぽになれればいい、誰も想えなければいい、そうして、化け物のように戦い続ければいい。その分だけ、自分の妹達は戦わずに済むのだから。
ああ、ああ、だけれども―――自分は焦がれ続けている、憧れを抱いている。“あの”、誰かを殺さなくて良い安穏とした時間に。
ククッ、と自嘲気味に笑いながら少女―――チンクは機械化した片眼を作動させ、闇の奥から迫る新たな敵影を捉えて、驚愕に襲われた。
「な、に――」
ドルンドルン、と爆音が響き渡り、陸戦魔導師の限界を超えた高速移動を行う敵と交差する。
一撃で駆動骨格を砕きかねない加速の乗った拳に、暴風のようなスピードを生み出すローラーブーツ。
長い青髪は背中まで伸ばされ、両腕にはナックルスピナーの付いた鋼の籠手、リボルバーナックル・レプリカ。
その容姿は……八年前、確かに殺したはずの、スバル・ナカジマの母親たる女のものだった。
「―――クイント・ナカジマ?!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり、と床を削る音。急速反転し、壁を蹴りながらそいつは飛び掛かってくる。
チンクの投射――空中へ浮かべた無数の短剣群を磁力によって加速させ、弾丸の如き速度で撃ち出す。
起爆条件を近接接触から時間経過に変更。無数の刃が、血を流す獲物を見つけたピラニアのように襲いかかり、クイントの身体を刺し貫こうと迫る。
人間の反応速度では、障壁及び防御手段を行使する暇もない早撃ち。
だがシューティング・アーツ使いは反応する。
「シィッ!」
口から息を吐きながら、薙ぎ払うように手刀が一閃。射出された無数の短剣の内から、回避しきれないものだけを選び取り、打ち落とした。
時間経過によって炸裂。金属を爆発物へ変質させ、操作する<ランブルデトネイター>の爆破。爆煙の中に動体反応、来る。
幼児体型と言って差し支えない身体が幸いした。横っ飛びに跳躍し、頭蓋骨を粉砕せんと迫った敵の拳を避ける。
チンクの頭部が在った場所を拳が通り過ぎ、壁の装飾が粉々に打ち砕かれる。
魔力による身体強化、それに加えて驚くべき反応速度。
人類の領域を超越している。
「貴様――人間を辞めたな」
爆煙が晴れ、十字路になっている通路を挟んで銀の爆撃手と青い拳士は対峙。
険があるチンクの声に、シューティング・アーツ使いは微笑した。
「それがどうしたの?」
支援する!!
sien
一点の迷いもない言葉に戸惑いすら憶えながら、銀髪隻眼の少女は空間転送を開始。
魔力の行使によって空間と空間を繋ぎ、無数のナイフを召喚し自己の周囲を埋め尽くすほどの数、浮動させる。
その光景はさしずめ槍衾の展開されたような威圧感、されど青い戦鬼は動じぬ。むしろ余裕すら感じさせる笑みを浮かべている。
「……人を辞め、貴様は何を得たというのだ? 人殺しの力か? 何を失った?」
答えは一つ。
「何も失っていないわ。ただ、あの子を――スバルを、貴方達から取り戻すためだけに私はあるから。
あの子を取り戻し、貴方達戦闘機人を斃して……仲間の仇を討つ」
「妹達は、関係ない。それでも―――殺すというのか?」
「勿論」
ならば、ナンバーズのXであり、妹達の姉である自分がすることなど決まっている。
人殺しとしてこの手を穢し、あの子達を護ろう。たとえそれでスバルに憎まれても構わない。
―――元より、覚悟など決まっていたというのに。
「そうか。もう迷わない。貴様は私が殺す、消えろ」
「やって見せろ、ナンバァァーズッッ!」
暴力と暴力の交差。無限に等しい鋼が踊り狂い、磁気誘導によって銃弾的加速を得たナイフの群れが空間を泳いだ。
ローラーブーツを履いた戦士の突撃は、銃弾を上回る狂気を孕んでいた。
通路の縦横を埋め尽くす質量爆撃に、笑いながら相対する――寒気のするほどの殺気。
互いに互いを憎み合い、それ故に決してわかり合えない二匹の獣は、笑った/嗤った。
「<ランブルデトネイター>!!」
悲しく家族を想い続ける銀の影/潰された右目に高性能センサーを埋め込んだ殺人者。
クイントの身体に突き刺さろうとしていたナイフというナイフが爆裂し。
「シャッ!」
片や人体のほとんどを強化細胞に変えた、人造魔導師の完成系。体内のレリックによって魔力量がブーストされた怪物的存在の機動。
魔力によるシールドが爆発の衝撃を押し殺し、化け物じみた身体能力が壁を走るという絶技を可能とした。
爆炎の内側より生まれ出でるように、青い旋風が右の拳を振り上げて飛び掛かってくる。
どれほどの人間性を捨て去り、目の前の女は自分達ナンバーズを殺しに来たというのか。
「ちぃッ!」
咄嗟に空間転送を再開。虚空より武器を取り出す――戦闘機人の筋力でも振るえる得物に限度はある。
だが、そんな道理は無視して最も鋼をよく使われた武装を選択/長大なジャベリン/投擲のための槍。
瞬時に鋼全体をISによって変質させ、予備動作無しの投擲でクイントの胴体目掛けて射出した。
その速度は最早人間による武闘の域を超え、人外どもの吐き気がする戦いへと戦闘の様相は一変。
高速飛翔体と化した矛先の一撃―――それがどうしたと、青い髪の女は先端を左腕で弾き、
「―――貰った」
チンクは勝利を確信して<ランブルデトネイター>の異能を発現させる。
爆発。投擲槍という前時代的武具は、爆風を生み出す圧倒的な兵器へと変わり、クイントのバリアジャケットを紙切れのように吹き飛ばした。
肉を焦がし、骨を焼く灼熱の爆炎。クイントの表情が一気に苦痛に満ちたものになり、狂気のような怒号が口から溢れた。
「おおおおぉぉぉぉッッ! まだ、だッ!!」
先天性魔法ウィングロード発現。空中に生成された光の帯を滑り、女の身体は一直線にチンクへ向けて飛び込んでくる。
左腕は爆炎で焙られ、見るも無惨な有様だというのに―――否、傷口という傷口が徐々に再生されていた。
すぐに骨まで見えていた傷が塞がり、火傷を負っていた皮膚は生まれ変わる。
「自動再生?! ククッ、人間ではないな、本当に!」
「黙れェッッ!」
灰色のロングコートを爆風で翻しながらシールドを形成。魔力攻撃及び質量攻撃を無力化するシェルコートの硬い殻。
ギチギチギチ、と機械的な障壁発生機構が立てる音を聞きながら、チンクは真っ正面から突っ込んできたクイントに向けてナイフを一閃。
肩口に直進するも、バリアジャケットの強度によって弾かれる。それが狙いだ、相手の骨肉を粉砕する爆破こそ我が技能。
爆破。シールドを解除し、背後で巻き起こった爆風に大きく姿勢を崩すクイントの身体に向け、必殺のナイフを、
「―――遅いッ!」
何が、と疑問に思う暇もなく、撃ち出された魔力の弾丸が左肩を抉る。
激痛。神経ケーブルを駆け巡る断裂の痛み。肉が抉られ、機械の身体の基礎部分までを吹き飛ばすほどの威力。
左腕の血肉が沸騰するような痛み。空虚な感覚。腕がもげた。宙を舞うちっぽけな青いボディスーツに包まれた左腕。
まるでマグナム弾の直撃。相手の装備――カートリッジシステム搭載型アームドデバイス――すなわち、瞬間的に魔力量を高める機構。
カートリッジの排莢音。つまるところ、カートリッジの魔力を指の中で弾丸状に固めて撃ち出した……たったそれだけの攻撃だ。
たった一瞬の油断/慢心が招いた地獄のような痛みに、しかし先ほどまで心をざわつかせた、どうしようもない虚無が混じらないのを感じて、
チンクという存在は、笑いながら背後へ跳んだ。顎先を敵の拳が掠めて、衝撃が脳に響きそうになる。
だが、首の衝撃吸収材がそれを緩和し、戦闘行動の継続を可能とする。気づけば、たった二人の戦場で両者は血を流し、笑い合っていた。
共感していた。決して負けられない理由と、不屈の闘志というただ二つの要素で、二匹の獣が笑う。
「クク……化け物め、爆撃が効かないか。ならば――」
「フフ……左腕をもがれて元気なことね? 次で終わらせてあげる――」
温もりの味など忘れて、ただ殺人行為を行う歯車として其処にある。
二匹の戦闘機械と言って差し支えない存在は、愚直なまでに踊るように、互いの全力でぶつかり合った。
空間転送により炸裂弾と化した無数の刀剣を召喚、自己の周囲に浮動させる銀の爆撃手。
ナックルスピナーを回転させ、螺旋の生み出す破壊の力を叩きつけるべく蠢く青い拳士。
その交差は一瞬であり、無限に等しい時間が流れたようにも感じられ―――
―――爆撃手の胸骨は粉微塵に砕かれ、体と体が密着したその瞬間にチンクは笑った。
「IS<ランブルデトネイター>」
「くっ――正気か――?!」
零距離起爆。大いなる爆発の瞬間、爆心地で虚無が弾けた。
手足が丸ごと吹き飛んでいくのを感じながら――チンクは派手に地面を転がった。
遠くで轟く爆音に耳を潰されながら、スバル・ナカジマは走る。白いコートは血で少し汚れていたが、そんなことは気にならない。
負傷したノーヴェはウェンディに預けて、自分は単独行動を取るとだけ言い残し、チンクを探し回って走っていた。
半ば喧嘩別れのように別れて、それっきりの姉――ナンバーズにとってイレギュラーである自分を受け入れてくれた人。
それがたとえ、スカリエッティの命令によるものだったとしても構わない。きっと、今の自分を形作る要素の大部分は、あの人から貰った愛情だから。
だから、だから、だから―――この戦いを終えたら、絶対に仲直りして、ドクターをぶん殴ってでも時空管理局に出頭する。
ギン姉や父さんも、きっとわかってくれる。そう信じて生きると、自分は決めたのだから。
異形の右腕、自身の兵器としての能力を高めるための義手――振動波を増幅。
それを翳して隔壁を破壊し、爆音が絶えない方向へ向けて駆け抜ける。近い――もう百メートルもないだろう。
凄惨な戦場の傷跡――肉片と化した敵側の戦闘機人達を見て、確信する。この戦い方はチンクのものだ。
爆撃による殲滅戦こそ、彼女の流儀。であれば、近くにいるはずなのだが。
―――血の臭いがした。スバルは何だか酷く不安になって、姉の名前を叫んだ。
「チンク姉ッ! ねぇ、いるんでしょ、そこに――」
言葉に詰まって、瓦礫とガラクタと手足が散乱した十字路の中心に立ち竦む。
酷い有様だった。生きているものなんて何処にもないような有様で、爆発の中心地には巨大なクレーターが出来ていた。
辺り一帯は焔によってちろちろと燃えていて、それを<聖王のゆりかご>の自動防衛機構が消していくのを、スバルは異界の出来事のように見つめていた。
ガフッ、と血を吐く音。我に返り、長い銀髪と隻眼が特徴的なチンクの“胴体”に駆け寄る。
そう、“胴体”だけ。首が繋がっているのが不思議なほどの損傷。手足は残らず千切れ飛び、ちっぽけな体だけが残っている。
胴体も無事とは言えず、胸骨が砕け散っていて、チンクは血を吐きながら呼吸していた。
状況から推察できること―――おそらく零距離で<ランブルデトネイター>を発動させ、四肢もろとも敵を吹き飛ばした。
その際に受けた攻撃によって、チンクは強化金属で出来た胸骨を破壊され、さらに爆風で吹き飛ばされたのだろう。
敵は原形を留めないほどに粉砕され―――死んだのだ。その死に黙祷しつつ、スバルは姉の顔を覗き込む。
閉じられていた金色の瞳がゆっくりと開かれ、スバルの顔を見た。
「……スバルか……グプッ……あぁ、私もよほど未練があるらしい……」
血の雫を吐いて、チンクは目をすがめた。その瞳には涙が溜まっていて、つうっ、と白い頬を伝い落ちる。
泣いていた。チンクという少女は、どうしようもなく泣いて、幽かに微笑んだ。
「ああ……嫌だな……死にたくない。死にたくないのに、眠くて、な」
支援支援!
「チンク姉……! やだよ、死んじゃやだよっ! あたしいっぱい考えたけど、誰にも死んで欲しくなくて――だから、全員護るって決めたからっ!
チンク姉が死んじゃったら、あたしどうやって生きて良いかわからないよ……ノーヴェやウェンディだって、チンク姉のこと――」
「私はな、スバル。酷い女だ。お前の母親を直接殺しておきながら、お前を妹として……家族として育ててしまった……大馬鹿者だ。
恨んでくれ、詰ってくれ、殺してくれ……なのに、なァ。今、お前は私なんかのために泣く必要はないんだ。これは、ただの贖いなのだから」
弱々しくそう言うと、妹の頭を撫でようとして、腕がもう残っていないことに気づいた。
彼女の涙ははらはらと流れ落ち、スバルは泣きじゃくりながらチンクの体を抱き締めた。
体から熱が失せていくのは、どうやっても止められないというのに……
「そんなの、あたしには関係ないよ。だって、チンク姉はすっごく優しくて――あたしの、お姉さんだから」
ああ、これが救いですか、神様。罪深い命に貴方がくださった、最後の一欠片。
心など要らないと切り捨てた私への御慈悲。最後の最後に、暖かさを思い出させてくれるなんて。
チンクはもう何も要らなかった。ただ、妹達に生き方を示してやりたかった。
だから、言う。
「走れ。前を向いて進み続けろ。後悔だけはするな、悔いる必要などお前達には無いのだから」
スバルの泣き声が止まらない。そんなに泣かれたら、こっちだって困ってしまう。
ああ、もう。本当に世話の焼ける妹だ。伝えたい言葉はまだあったけれど、もう幕切れらしい。
目蓋が重く、意識が泥のような感覚に沈み込んでいく。無くさなければ気づかないものが多すぎた。
そう言う意味では、人間とは過ちばかりの生き物だろう。あの日、罪はトーレと自分で背負うと決めた。
けどきっと、それも無意味なことで―――ただ一つの願いさえ、神様は叶えてくれない。
そのくせ、最後の最期で人間らしく死なせてくれるから、不思議だ。
スバルの声が聞こえた。
「チンク姉――先に、いっててね。きっと、生き抜いた後に追いつくから―――」
本当に、この子は。
「―――ああ。先に、いくぞ」
意識は暗黒に堕ちて。底なしの闇に飲まれていく中で見えたのは
―――光だった。
(ああ、そうか。私は――)
きっと、チャンバーの中から生まれ出でたあの日から。
どんなに心を取り繕ったって。
(――誰も殺したくなんて、なかったんだ)
武器を取っても、手が震えるわけだ。
それじゃあ、仕方がない。
(すまんな、姉は一足先にあの世を見てくるとしよう)
先は地獄か天国か――そうして、『私』は死んだ。
支援する!!
siensiensien
どうも、支援に感謝しつつ投下完了です。
一番性格弄ったのはクイントさん。ゼスト隊の人間は皆何処か虚無ってる人ばかりです。
一番シグルってるのはゼストですがw
チンクはこれにて退場。
どうしても、クイントを殺したナンバーズである彼女がナカジマ家に入るのだけは想像できず、こうなりました。
というわけで、次回はいよいよクライマックスへ向けて色々動き出す準備を。ではでは。
GJです!
チンク姉、悲しいよチンク姉……その分とてもその生き様が感じられます。
依存していたモノが失われたカリムの空っぽな心も痛いほど伝わってくるようです。
この静から動、そして動から静への移り変わりがとてもよく表現できていて、
登場人物たちの織り成すドラマが沁み渡るようです。
さて、もしこの後どなたもご予約がございませんでしたら、
私のSSの続きを投下させていただいてもよろしいでしょうか?
時間言うの忘れてorz
50分からでお願いします
GJっした。
しかしチンク姉……さようならです。
なんという悲壮なる別離、胸が張り裂けそうだぜ。
ド忘れしてしまい本当にすいませんでした
無いようなので、吶喊させていただきます!
======
「……揺れは、収まったみたいだな」
「う、うん……」
高町家の庭に併設された剣道場。
なのはの兄であるところの恭也は、冷静に地震が収まったのを見計らい、
自分にしがみついたままの妹、美由希に声をかける。
「あー、怖かった……ねぇ、羽ちゃん? 忍さん家にお泊まりに行ったなのは達、大丈夫かな?」
「へっ!? お、おー。だいじょうぶだよ、たぶん……」
妹の身を案ずる美由希の発言に対し、その目を直視することができずに言葉を濁す羽丸。
メッセンジャーとして海鳴に一人残された羽丸は、幼いながらもこの地震が
普通の地震ではないという事を知っていた。
美由希が心配しているなのはが、友人の家などではなく今まさにその最前線にいる事も。
プレシアがジュエルシードから力を引き出そうとして起こした次元震は、
地球全体に震度三程度の軽い地震を引き起こしていた。
地球だけではない。時の庭園をその震源として、いくつもの次元世界に
このような次元震動型の超広域災害が確認されている。
地球では長くこの事が超常現象として扱われ、「地球滅亡へのカウントダウンだ」だの、
「神の怒りだ」だの、果ては「宇宙人の仕業だ」という途方もない説が入り混じり、
人々が飽きてしまうまでの間に多くの混乱を残していった。
本当はこの程度で済む災害ではなかった可能性もあったのだが、人々は知る由もない。
その陰で尽力した小さな子供たちと、勇敢な武者たちの活躍を。
そう、今ひと時とはいえ、世界は確かに滅亡の脅威から救われたのであった。
巻之弐拾九「響くは遥かなる闇の足音やでっ!」
一方その頃、未だ地球人類がその足を踏み入れた事のない極めて近く、限りなく遠くに存在する
歩いて行けない隣の世界、次元空間。
どこまでも広がるその虚無の海原を、堂々と突き進む白亜の巨体があった。
時空管理局が保有する、次元空間を航行するための船……「アースラ」。
それが、その船の名である。
「負傷者は?」
「自分も含め、簡単な手当ては済んでいます」
傷付いた体をろくに癒す間もなく、簡単な手当てをしただけのクロノはその艦長室に立っていた。
その目前に立つ人物……アースラの艦長でもあり、地球に派遣された局員の実質的な総責任者である
リンディ=ハラオウン提督に、時の庭園で起こった全てと、その後の出来事の報告をするために。
「協力者の武者頑駄無も、一人は『重傷』を負っていますが……彼の仲間のおかげで、どうにか」
ひどいダメージを負った斗機丸の事を、壊れたのではなく怪我を負ったとクロノは言った。
無意識の内に、機械ではなく共に死線を潜り抜けた仲間として見ているのであろうか。
「そう……では、プレシア=テスタロッサの容態は?」
「鎮静剤の効き目があったようで、今は眠りについています。ですが……」
そこまで言うと、先の言葉を継げずにクロノは逡巡を見せる。
>>108 なんて悲しいチンク!
やべえ、悲劇多すぎるだろ!!
そして、クイント、本当に死んだのか? あっさりしすぎて信じられん。
そして、スバル。
スカ博士、殴った程度で止まるとは思えんw!
早く、行くんだ! チンクの死を無駄にするな!
「何か問題でも、ハラオウン執務官?」
「彼女は自らの術の完成のために、心も体も相当な無理を重ねていたようです。
……医者の見立てでは、もう長くはないと」
重い表情とともにもたらされた報告に、リンディはこめかみに手を当ててしばし黙考する。
その姿は、厳しい現実を前に、何と言えばよいのか迷っているように見えると同時に、
己の中にある拘泥と戦っているかのようにクロノには映っていた。
「そう……凶行に走ってしまった代償とでも言えばいいのかしら。
けれど、亡き娘を想う心そのものが最後の最後でその目的を阻むなんて……
なんて皮肉な事なのでしょうね」
「……それは同情ですか、艦長?」
そんな態度に加え、発言にも気に障る点があったのか、クロノは半ば突っかかるように問いかける。
それは提督の立場にあろう者が、犯罪を容認するかのような発言に対する潔癖な正論と、
自分が抱いている持論を否定されかねないと言う、若さゆえの青い反発心であった。
「さぁ、どうかしら」
どこか自嘲めいた笑みを浮かべ、余裕を持った調子でリンディは軽くそれを受け流す。
「ただ……一つだけ、あなたに覚えておいてほしい事があります」
「……なんでしょうか?」
かと思えば、今度はうって変わってその眼差しに真剣な光を輝かせ、
射抜くかのような錯覚を持たせるほどにクロノを凝視した。
「彼女が壊れてしまうまでに娘を愛していたように、私にも同じ位大切なものがあります」
一体何を、と訊ねようとしたクロノだったが、その言葉が発せられる事はなかった。
それは不意打ちにも等しい行動。
いつの間に移動していたのだろうか、気が付くと目の前に立っていたリンディは
クロノを優しく抱きしめて、どこか上ずった、作り物でない生の感情そのままの声で語りかけ始めた。
「本当は優しいくせに……頑固で、言い出したら聞かなくて、
いつも一人で何でもやってしまって、母親の事をいつも置いてきぼりにする……」
勢いに任せ、次々とまくしたてるリンディ。
しかし、その言葉は他ならぬ本人の行動によって遮られる。
それは……涙。
公人としての理性で抑えることのできなかった、熱い安堵の感情が彼女の頬を濡らし、
時折嗚咽の混じり始める声を震わせていた。
「かけがえのない、この世界にたった一人の息子が……!」
滲むリンディの視界に映るものは、虚数空間の影響で刻々と変化し続ける次元の歪みのグラフでも、
クロノがざっと書きあげ、目の前のディスプレイに表示されている簡単な報告書でもない。
それは、リンディ=ハラオウンの前に立つクロノ=ハラオウンただ一人。
「心配かけて……! もう、こんな無茶はこれっきりにして……クロノ」
そのわずかな瞬間だけ、二人の関係は提督と執務官のそれではなかった。
この世にたった二人だけに「なってしまった」母と子。
ここまできて、ようやくクロノは母、リンディの言葉の真意を知った。
それは我が子に対して向けられる、人間誰もが等しく持っているはずの心……「愛」。
確かにプレシアのそれは形こそ歪んでしまっていたが、根底に流れるその想いだけは、
決して否定してはならないもの。
目の前の女性が、自分自身にずっと注ぎ続けてくれた、世界中のどんな物より暖かな宝物。
「……ごめんなさい、母さん……」
クロノにだって言い返したい事はごまんとある。
時の庭園に少ない戦力で挑む羽目になったのは相手の策のためで、自分の独断ではないとか、
仮にも提督の立場にある人間が公私混同甚だしいとか。
しかし、自分の事を他の何よりも心配し、無事な姿にこうまで身を震わせてくれる。
そんな母の姿を見て、一体今更何を言えようか。
自分もまた、彼女を何より大切な人間の一人だと認識しているのだから。
「いーい、なのは?」
「は、はい……なんでしょう……?」
同じ頃、艦内に用意された休憩室では、少しばかり不機嫌な様子のアリサが
なのはを問い詰めていた。
「や・ま・ほ・ど! 聞きたい事があるんだからね!?
さっきからずーっと、状況がいろいろ二転も三転も四転もしてて、
あんた達が秘密にしてたあれやこれとかの成り行きをぜんっぜん聞いてないのよ!?」
「あうぅ……」
アリサはなのはの視界全てを埋め尽くすほどに顔を近づけ、そのジトっとした目を
これでもかと見せつけて強力なプレッシャーをかけてくる。
なのははつき立ての餅のように柔らかいほっぺたをつんつんと突かれながら、
困惑した表情を浮かべる事しかできないでいた。
それ以前に正直な話、自分にもここしばらくの状況に関しては把握しきれてなどいない。
その状況の中心にいたか、傍流にいたかの差異こそあれども。
「それを言うならシンヤ達もだよ。どうして地球にいるはずのキミ達やシャチョーが、
こんなものすごい船で、こんな所に?」
そんな中、誰かに構ってもらえるわけでもなく、少々手持ちぶさたであったススムは
なのはに助け船を出そうと試み、疑問に思っていた所を突く。
「なーに、大した事はしてねぇって」
そうはさせるかと介入してくるのは、備え付けられた椅子の上で脚を組みながら、
にやにやと楽しそうにその状況を眺めていたシンヤ。
「トッキー達が消えちまってからすぐに、大声で『答えなかったら聞かされた事全部バラす』って
叫んだら、どこからともなく顔真っ青にして時空管理局だって言う連中がすっ飛んできたぜ。
いやぁ、ありゃケッサクだったな」
「要するにそれって脅迫? って言うか間違いなく脅迫だよね!?」
シンヤは笑顔でさらっと恐ろしい力技体験を言ってのけるが、その一方ですずかは
とても申し訳なさそうに身を縮ませている。
連れが迷惑をかけた人達の真っただ中にいるのだ、無理もない。
「まぁまぁ、緊急事態だったし固い事言うなって」
「……そう言や、シンヤのお父さんって刑事さんだったはずじゃ」
「んで、その人達に事情話して、シャチョーのところまで魔法で送ってもらったって訳さ」
「軽く無視された! ……って、あれ?
そういやシンヤってシャチョーにどうやって連絡取ったの?」
ふとススムの脳裏をよぎる疑問。
シンヤはそれにチッチッと人差し指を振り、懐から何かを取り出し、ススムにそれを見せる。
「携帯電話?」
「そ。トッキーがなのはたちと消えちまう寸前、
俺に送ったメールにシャチョーへの連絡先が記録してあったんだ。
で、シャチョーの所で管理局のおっさん達がクロノを助けに行くって言ったら、
シャチョーもトッキー達が心配だってそのままこの船に乗って来たんだ」
何もかも周到なトッキーの姿を思い浮かべながら成り行きを語るシンヤ。
しかし、そのトッキー本人はここにはいない。
時の庭園で重ねた無茶がたたり、現在武ちゃ丸とシャチョーの見守る中、簡単な「治療」が
行われているためだ。
「けど、なにも皆まで来る事は無かったのに……」
「そりゃあ、お前らが心配だったからに決まってるだろ?
何より、あっちのぴょこ髪女が行く行くってうるさかったしな」
「ば、馬鹿言ってんじゃないわよっ!」
シンヤの言葉が終わらないうちから過剰な反応を示すぴょこ髪女ことアリサ。
自分の叫び声に、その部屋の者の視線が自分に向いたまま、皆言葉をなくしている事に気付くと、
とたんに顔を真っ赤にして、軽く咳払いをし、あれこれと誤魔化し始める。
「そ、その……きっと一生できない体験だろうから、無理言って乗せてもらったのよ!
べ、別になのはが心配だったからって訳じゃないんだからね!」
――また始まった。
真赤な顔でそう回りくどい言い訳をする素直になれないアリサの態度を見て、
なのははそう思った。
けれどもそれが彼女の照れ隠しだなんて事は、なのはにとってはとっくの昔に承知の上。
だから、茶化すような真似はしないで、素直に答えるのが一番いい。
「にゃはは……ありがとう、アリサちゃん、すずかちゃん、それにシンヤ君」
ぷい、とアリサが腕を組みながら目をそらす。
これもまたわかりやすいくらいの照れ隠し。
すずかはいつもそんな二人の微笑ましいやり取りを見てにこにこと笑顔を浮かべているのだが……
今日はとことん肩身が狭そうに、ちょこんと部屋の片隅に座っている。
「しかし、トッキーの奴おっせーなー。人体実験と化されてないだろーな?」
「ちょ、シンヤ、そろそろその辺にしといたほうが……」
かと思えば、その原因を作った張本人は好き勝手に騒いでいる。
そこに「悪かった」という意思は見受けられない。
すずかの爪の垢を煎じて飲ませたいとはこういう事だ――と、ススムはこっそり思っていた。
「やっほー、みーんなー! 乗り心地はどうっかなー?」
と、そこに扉を開けて入ってくる、明るい声が一つ。
「あーっ!」
それはシンヤやなのは達にとっては、どこかで見覚えのある顔。
そう、確かこの人は――
「メイドのおねーさん!」
そうだ、クロノと未来的な通信機で会話していた相手の、メイド服を着ていたおねーさんだ。
「いや、あれはお仕事だから。世を忍ぶ仮の姿だからそこん所よろしく」
頬をほのかに赤く染め、恥ずかしそうにしているメイドのおねーさん(仮)。
ただし、今はどこかの……恐らく、時空管理局の制服らしい青い衣服に着替えているようであるが。
「恥ずかしがることはないですよ、メイドも立派なお仕事ですから。私の家にも……」
「はい、ストップストップ。OK、そこまで。
一般家庭にメイドはいないから。お前ん家が特別なだけだからな、それ」
実際に自宅でメイドを雇っているすずかが、恥ずかしそうにしている彼女に向かって
やっとその口を開くが、話がこじれそうだと判断したシンヤによってそれ以上の発言は
シャットアウトされる。
すずかはかなり不満そうにシンヤを睨みつけている様子だが、どこ吹く風とばかりに
本人は涼しい顔でその乱入者と言葉を交わしている様子。
なのはとススムはハラハラしながらそれを見ているのだが、それを気にする者は
誰一人としてここにはいなかった。
「で、その自分はメイドさんじゃないって言い張るあんたは一体どこの何者?」
「……キミ、結構失礼な子だねー」
「おかげさまで」
「ま、いっか。私はエイミィ。エイミィ=リミエッタ。
この船……『アースラ』のオペレーターとかやってる人だよっ!」
明るい笑顔とともに、エイミィと名乗ったそのおねーさん。
しかし、それでもシンヤはジトっとした目を向けたまま、言葉を続けた。
「メイドさんは?」
「だから……それは、その、世を忍ぶ仮の姿って事に……お願いだから……」
もはや半泣きでそう訴えるエイミィ。
さすがにこれでは埒が明かないと、ススムは一度話をリセットする決意を固め、その口を開く。
「それで、ボクらに何の用なんですか?」
「あぁ、そうそう! かく乱されて目的を忘れるところだったよー。
艦長が皆に話があるから、来てほしいって。さっきも会ったよね? あの緑色の髪の……」
そう言われ、この艦に逃げ込んだ時に最初に会った女性の姿を思い出す。
染めてもいないのに緑色の髪の人間になど会えるものではない。
さすが魔法の世界と変な所で感心してしまったものだが、まぁそれはどうでもいい。
「わかりました。けど、話ってなんだろう……」
「秘密を知ったから消す……って感じじゃないよな」
言う事がいちいち極端なシンヤの発言に笑顔を困ったように歪ませて、エイミィは答える。
「そんな事しないって。んー……例えば、この艦の行き先、とか?」
「行き先って……日本に帰してくれるんじゃないの!?」
アリサが、思ってもいなかったその答えに目を白黒させて叫びをあげる。
それはそうだ。すずかの家に泊まると羽丸に伝言を頼んであるのだから、
あまり長引いてしまうと誤魔化しきれない。
「うん……そうしてあげたい所なんだけど、虚数空間の影響で時空がねじれちゃってて、
このまま帰るのは危険なんだ。それに、あの子達と大事な話もしなきゃならないしね」
「あの子達って……武ちゃ丸達?」
ススムのその言葉に、エイミィの大きな瞳がほんの一瞬だけ困惑の色に染まる。
他の者は気付いていない様子だが、ススムだけは目ざとくそれを捉えていた。
一体、彼女は何を隠しているというのだろうか。
「そう。とっても、とっても大事なお話が……ね」
けれど、疑っていても仕方ない。
何よりこの人達は、己の危険も顧みずに自分たちを助けに来てくれた人達ではないか。
だから、少なくともこの嘘が下手そうな、面白いおねーさんは信じてみよう。
武ちゃ丸だったら、きっとそうするだろうからと、ススムは差しのべられたその手を握る。
その一歩が、何かをつかむための大きな一歩だと信じて。
「斗機丸、わが社の部品の性能はどうだぎゃー?」
「あぁ……まだまだ煮詰めるべき点は多いが、動いてくれる」
その頃、工作室では。
斗機丸が傷ついた部品をシャチョーの用意した部品に交換し、その機能を取り戻していた。
「これはまた随分と手厳しい意見だみゃー。
約束通りチミ達バックアップに全力を注いでるつもりなんだぎゃ?」
「命を預ける部品だからな、厳しくもなるさ。
強度は問題ないが、レスポンスが遅いな。神経パルス伝達にもムラがある。
バイパス回路が機能していない部分があるのかもしれない。戻ったらそう伝えておいてくれ」
矢継ぎ早に繰り出されるトッキーが示したチェックポイントを聞き逃さないように、
シャチョーはメモ帳にペンをさらさらと走らせて、ぎっしりとその一つ一つを書き込んでいく。
「あいあい、こりゃ予想以上に注文が多いお客さんだぎゃー」
「だが……」
「?」
愚痴をこぼしながらも、真剣な顔つきで視線をメモ帳と電卓を行ったり来たりさせて、
その間を飛び交う専門的な単語や数字と格闘するシャチョー。
そんな「もう一つの戦場」で死力を尽くす戦友の姿を見て、トッキーの思考回路に浮かんだのは
とても短い、けれどもそれに全ての想いが詰まった言葉。
「ありがとう。感謝している」
それは、感謝の二文字。
言葉だけが持ちうる、相手の心を暖める為の魔法。
「斗機丸、水臭いぎゃー。ボクちゃん達はあのオニの下で修行してた頃からの仲間じゃにゃーか!
仲間が傷ついた時、手を貸すのは当たり前のことだぎゃー。
けど、もういきなり何の前触れもなく我致止飛とかは勘弁だがや」
「……覚えておく」
それきり、口を閉ざしてしまうトッキーとシャチョー。
二人にこれ以上の言葉はいらなかった。
「絆」と言う名の、決して見えないが何よりも強固な繋がりが確かに存在しているから。
「そやけどシャチョー、よぉこんな短い間にここまで手際よう物資を揃えられたなぁ!」
と、そこに第三者の声が場の空気に変化をもたらす。
難しい話にすっかり退屈になってしまった、武装を解いた武者丸……武ちゃ丸は
その沈黙を待ってましたとばかりに割り込んできたのだ。
「この間、後方支援は任せろっていったぎゃー?
ボクちゃんだって、この半年天馬の国で遊んでたわけじゃにゃーだよ。そんな事より……」
そう言いながら、シャチョーはぱたんと一旦メモ帳を閉じ、部屋の片隅に打ち捨ててあるジャンク……
ではなく、時の庭園での激戦を潜り抜け、見る影もないほどに傷ついた二人の武具にその視線を向ける。
「武者丸だって刀も鎧もズタボロじゃにゃーか! 鎧はともかく、刀の方は……」
「むー……」
シャチョーの言葉を背に、武ちゃ丸は部屋の照明に己の刀をかざす。
そこに強調されて浮かびあがるのは、刀身全体に渡って見られる刃こぼれの数々と、
刀身に多大な負担をかける「道頓堀断裂灼熱斬」の反動で、極度の金属疲労が蓄積された惨めな姿。
それらの深い傷跡を目の当たりにして、武ちゃ丸はそのだらしなくふにゃけた顔を
渋く歪ませる事しかできなかった。
「安モンやないっちゅうても、ワイの使てるのは名刀でも何でもないふっつーの刀やからなぁ……
灼熱斬も立て続けに何発も撃ってしもたし……一ぺん刀鍛冶に見てもらわななぁ」
「しかし、そんなアテあるんだぎゃー?」
「あー、うー……」
シャチョーの言葉に武ちゃ丸は言葉を失う。
今まで戦いから縁遠かったために、武具の整備に関してはとんとご無沙汰であったのだ。
例えるならば浦島太郎状態。伝手も何も、今の彼にありはしない。
「……一人だけ、思い当たる人物がいる」
と、そこにトッキーがゆっくりと起き上がり、困り果てる武ちゃ丸に救いの手を差し伸べる。
「それホンマか、斗機丸!?」
「あぁ。武者頑駄無零壱(ぜろわん)……彼は現在、岐阜県で刀鍛冶のスーパーバイザーとして
活躍しているはずだ。ただ……」
どこか言いづらそうに、その人物……同胞である武者の名を挙げる斗機丸。
しかし、そこから先に言おうとした言葉は、当の武ちゃ丸が胸倉を掴んで
激しくトッキーの頭をシェイクし始めたからだ。
「おぉー、武者頑駄無が刀鍛冶のスーパーなんちゃらかいな! ほんなら話が早い!
サッサと行ってこの刀打ち直してもらわな!」
「お、落ち着け武者丸! 話はまだ……」
「んなもん待ってられるかーい! さっさとイケイケゴーゴーや!」
武ちゃ丸は刀を振りまわし、もう傍から見れば脅しつけているようにしか見えない
ショッキングな光景が繰り広げられている。
シャチョーは「またか」と言わんばかりに二人にジトっとした目を向けているが。
「悪いが、そうもいかない事情があってね」
そんな混沌の渦中に、まだ声変わりも終えていないボーイソプラノの声が割って入って来る。
それは、ついさっきまで共に死線を潜り抜けて来た、信頼に値する少年の声。
「クロノ!」
「斗機丸、君の傷の方は……」
「あぁ、大きな問題はない。それより事情とは何だ?」
ほぅ、と安堵のため息を漏らすとクロノは思考を切り替え、この場に揃った三人の武者の顔に
次々と視線を向けて、そしてゆっくりと口を開く。
「それは向こうでまとめて話す。三人とも、ちょっと僕に付いて来てくれるかな」
口調こそ平静であるが、そこにはかたくななまでに強い意志が感じられるかのようだ。
三人はぴりぴりとしたその雰囲気を肌で感じ、改めて互いの意思を確かめ合う。
「…わかった。二人とも、いいな?」
「仕切んなっちゅーねん! まぁ、行くんやけどな」
「行かない理由はないだぎゃー」
「……ありがとう。じゃ、行こう」
支援
三人を伴い、クロノは廊下を歩きだす。
願わくば、このファースト・コンタクトが最良の結果に結びつく事を願いながら。
「では、改めて。さっきも一度ご挨拶させていただきましたが、
私がこの艦、アースラ艦長のリンディ=ハラオウンと申します。
さぁ、おかけになって?」
所変わって、アースラの別室に集まったリンディと、クロノ。
そして本来この船の乗員でない武ちゃ丸やなのは達、地球からのお客様。
リンディは満面の笑顔で、そんな彼らをもてなそうとしている。
しかし。
「は、はぁ……」
「って言うか、その……何やろな……」
そのお客さん達は、揃って皆一様に複雑な表情を浮かべている。
「? 何か、お気に召さない事でも?」
「いや、その……」
「気に入らないという訳ではないんですが……」
「むしろ、気になるって言うか……」
それぞれが、視線をそこかしこにバラバラに向けている。
決して視線を合わせたくないという訳ではない。
しかし、それはあくまで小学生組と三人の武者達に限られているようで、ユーノとクロノの二人は、
どちらかといえばリンディと同じように、そんな彼らをいぶかしげに見ている方にあげられる。
「どうしたの、なのは? さっきから皆様子が変だよ?」
「ユーノ君……だって、その、部屋が……」
「部屋?」
なのはに言われ、ユーノは部屋の中をぐるりと見渡す。
皆、差された野点傘の下で、赤い毛氈の上に靴を脱いで正座し、小さくも細やかな和菓子を前に、
南部鉄器の茶釜に湯が沸くのを待っている。
これだけ見れば日本伝統の茶の湯の作法に則っているではないか。
「どこか変かな?」
「変よ!!」
「変だろ!!」
アリサとシンヤからほとんど同時にツッコミが飛ぶ。
その気迫にユーノは圧され、リンディはきょとんとした顔を浮かべながらもまったく動じず、
湯を茶碗に注ぎ、茶せんを慣れた手つきで茶を点てている。
「あら、お気に召さなかったかしら?
お話しをしやすいように、あなた達のお国を意識した内装の部屋を選んだのだけれど……」
「あぅ……お気持ちはありがとうございます、えと……リンディ、さん」
まぁ、正直なところ彼らの反応もむべなるかなと言った所であろう。
室内で傘を差す意味がわからないし、無理矢理くさく盆栽が並べられでいるのも、
取ってつけた感が強くてコメントが難しい。
それ以前に、SF映画でよく見る宇宙船の中のような白い壁を隠す意思がまったく感じられず、
安っぽさとともに強烈な違和感を醸し出している。
最近は授業で日本文化を学ぶと言う意図の下、こういった席を授業で学ぶ事も珍しくはないのだ。
子供とは言え、日本育ちな彼らが違和感を覚えるのは当然とも言える。
世界が違うものの、中世の日本に近い文化の中で暮らしている武ちゃ丸達は言うまでもない。
「じゃ、じゃあ本題に移りましょうか。話とは一体何です?」
「そうしましょうか。まずは……」
『ちょっと待ったー!!』
『おいら達の事、忘れないでほしいんだな!』
とりあえず景観問題はスルーして話を始めようと思った矢先。
品のない叫び声が斗機丸の聴覚を破壊せんと、スピーカーから唸りを上げる。
聞き間違えようはずがない、
「あー、そう言うたらおったなこんな連中」
『何ですのその言い方!? 共に死線を潜り抜けた仲じゃないか、諸君!』
「俺の履歴書から削除しておきたい事柄だが、それがどうしたと言うんだ?」
突き放すような……と言うより、汚物を評するかのごとき冷酷無比な発言。
相変わらず、トッキーの堕悪抜け忍組に対する目線は永久凍土に吹くブリザードのように冷たい。
『何で俺達が牢屋みたいな部屋に入れられてるんだって話だよ!』
『俺達にだって温かいお茶とお菓子をくれたっていいと思うんだな!』
「そっちが目的かい! ……って言うか、牢屋?」
「リンディさん、どういう事なんですか?」
短い間であるが、彼らとともに行動した武ちゃ丸とススムはその真意をリンディに問いただす。
しかし、リンディは相変わらずのマイペースでそれに答えた。
「あぁ……彼らは他次元世界侵略を企む軍の先兵であった事から、
ひとまずその身柄を確保させていただいてます」
「あぁ、なるほどね」
「そらしゃーないわ」
『何納得しちゃってんのそこの方々!?』
わかりやすい正論を聞き、それなら仕方ないと二人は光の速さで納得して引き下がる。
しかし、三人組としては大いに不満が有る様子で、あくまで徹底抗戦を訴え、
まだ本題に入る事を許してはくれないらしい。
『我々がやった事はジュエルシードをいたいけな少年に渡して暴走させ!』
『新幹線を乗っ取ったり!』
『何度かそこの武者頑駄無達と戦ったくらいなんだな!』
「アホかーいっ! そんだけやっとったら川原にそっ首並べてなお釣り銭がくるわ!!」
「弁護の余地がないだぎゃー!」
「よし、理解した。
ひとまずと言わず、次に暴終空(あばおわくう)城が来るくらいまでそこで頭を冷やしていろ」
三人同士が連続で畳みかけるように会話をつなげ、ぶつけあう。
それはまさに言葉のジェットストリームアタック。
互いの姿が見えずともぶつかりあう気と気に、奇妙な茶会の空気は震える。
ただし、戦場の持つそれとはほど遠い、演芸場に近いもの。
「……まぁ、これで納得していただいたという事で」
『できるか!』
「話を元に戻しましょうか」
リンディは、スピーカーの向こうで騒ぎ続けている、様々な意味で異次元在住の連中を
完璧なまでにスルーして、にこにこと微笑みさえ浮かべながら強引に話を振りだしへと戻す。
あくまでマイペースを貫くその姿からは、ある種独特の畏怖さえ感じられる。
だとすれば、この後の変わりようも彼女の術中と言うのだろうか。
「あなた達に、確認していただきたい事があります」
紫煙紫煙
晴天の空が、急な気圧の気まぐれによって曇天にその表情を変えるのと同じように、
さっとリンディの表情が真剣味を帯びたものに変わる。
そのあまりの変わりようになのは達は思わず身を固くし、武ちゃ丸達は彼女に負けず劣らず、
表面的には変わったように見えなくとも、身に纏う雰囲気は緊張感を漂わせていた。
「『ヤミを司る皇帝』」
リンディの、美しく形の整った唇からもたらされたその言葉。
神妙な面持ちでそれを聞くクロノとは裏腹に、なのは達は訳もわからず互いの顔を見合わせるばかり。
しかし、その言葉に過剰なまでの反応を示す者達がいた。
「……やはり、心当たりがあるのですね」
なぜこんな所でその名を聞く事になるのか。
彼らの……武ちゃ丸達の瞳は、言葉よりも雄弁にその衝撃を代弁していた。
「えぇ……我々にとっては、禁忌にも近いモノの名です」
「……黒魔神、闇皇帝……!」
かつて、初代頑駄無大将軍を……いや、戦乱の最中にあった後の天宮と呼ばれる国そのものを
窮地に追い詰めた凶悪なる闇の権化。
もとは黒魔神と言う、暗黒軍団を率いる異形なる存在であった。
一度は初代大将軍に倒されるが、未来から来た自分を名乗る同種の存在と融合し、
究極の悪魔になったとされる。
その力は太陽の輝きを暗雲で覆い尽くし、吹く風に瘴気を孕ませ、命息づく林を枯らし、
地獄の業火を地上に撒き散らさせ、そびえる山さえ丸ごと喰らい尽くす。
生きとし生ける者に、遍く死と破壊をもたらす史上最大の邪悪……それが黒魔神闇皇帝。
「なんで、リンディはんがそいつの事を!?」
火が点いたような勢いで、武ちゃ丸はリンディに問いを浴びせる。
想像以上に動揺を見せる彼らのそんな態度を受けて、リンディもまた真摯さを増した視線を向け、
その問いに答えるべく口を動かした。
「そうですね、どこから話しましょうか……あ!」
「どうしました!?」
はたと、リンディは何かに気づいたように自らの口を覆う。
まさかまだ何かあるとでも言うのだろうかと、場に緊張が走った。
「いけない、お茶が冷めてしまうわ! さぁ、召し上がれ」
どこまでも、自分のペースで会話を続けるリンディと、思わずひっくり返るその他一同。
その姿を前に、武ちゃ丸たちはもはや彼女に振り回されるしか選択肢は残されていなかった。
「ウ、ゥ……」
「おや、気が付いたかね忠犬殿?」
視界がぼぉっと霞む。
湿った自らの毛皮の匂いと、焚きしめられた香の独特な香りが、「忠犬」と呼ばれた者……
アルフに、どうやら自分は生きているらしいと感じさせていた。
「こ、こは……?」
そう言ってから、アルフはしまったと内心で後悔する。
改めて自分の姿を見てみると、消耗のためか元の狼の姿に戻ってしまっていたのだ。
兎にも角にもじっとしている訳にはいかないと、慌ててその場から飛び跳ねて、低い姿勢で身構える。
「これ、無理をしちゃいかん。何せ長い事雨に打たれていたのじゃからな。
しばし体を温めていくと良いじゃろう」
声の主……どうやら老人らしい事はわかるのだが、その姿はどこにも見えない。
声の響いてくる方向と、匂いからすれば正面に見える襖の向こう側だろうか。
しかし、その老人はアルフの姿などまるで意に介さないどころか、心配そうに
老人は彼女の事を気遣ってくるではないか。
あっけにとられ、アルフは呑気そうな声の老人に問いかける。
「……じいさん、あたしを見ても驚かないのかい?」
「んん、驚いておるよ? これまで諸国を旅してきたが喋る犬というのは初めてじゃ。
長生きはするものじゃのう、ありがたやありがたや」
その老人は何やら拝み始めたようだ。
両の掌を合わせている姿が容易に想像できる。
完全に毒気を抜かれてしまったアルフは、そこで一番大事な事を思い出す。
自分にとって一番大事な存在の事を。
「そうだ、フェイト! フェイトはどこ!?」
「これこれ、落ち着かんか。お主のご主人さまはそこに寝かしつけておる」
襖の向こうの老人が言うとおり、隣の部屋の畳に敷かれた布団の中で、その少女……
フェイトは静かな寝息を立てていた。
安心したのか一気に力が抜け、アルフはその場にへたり込むと改めて老人に話しかける。
「あぁ、良かった……ありがとう、爺さん。
なんだか助けられちゃったみたいだね。あたしはアルフ。そこで寝ているのはフェイト。
あんたは?」
「フム、先に名乗られたならばこちらも名乗るのが礼儀じゃのう。よいしょっ、と……」
襖をゆっくりと開け、その老人が姿を見せる。
そして、アルフは逆に自分の方が驚きで固まってしまった。
「んん? どうされたか、忠犬殿?
わしがあまりにも『はんさむ』じゃから見惚れてしまったかの?」
「あ……あ……?」
口元の髭をさすりながら、老人はわしもまだ十年は戦えると妙な勘違いをしてご満悦のようだ。
しかし、その老人の特徴何もかもがアルフにとって予想外であった。
「あんた、一体……?」
服装はと言えば、まるでどこかの時代劇に登場する御隠居様のよう。
それはいい。
だがしかし、頭が異様に大きく、その代わり寸詰まりな胴体とごく短い手と足。
そして比喩でも何でもなく陶磁器のように白い肌。
「わしはしょ……もとい、『雷(いかずち)』と申す、ただの爺じゃ。
皆には『パパ』と呼ばれ、慕われておるよ」
「え、ちょ、ま、えぇーっ!?」
その老人の姿を見て、思わず取り乱すアルフ。しかし、それも無理もない事かも知れない。
老人はどこからどう見ても間違えようのない、武者頑駄無の一人であったのだから。
リンディの口からもたらされた衝撃の事実。
闇皇帝の名が彼らに巻き起こした波紋の行方は?
そして、時の庭園から一足早く脱出したアルフとフェイト。
彼女達の前に現れた「雷」を名乗る武者頑駄無は、一体!?
――次回を待て!!
======
今回は以上です。
イベントが前後しているのは、アースラの登場が遅かったから。
その分、息子を心配する母親リンディと、自分のペースで相手を煙に巻くやる手のハラオウン提督
リンディさんの持つ二つの顔を強調して描いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
それでは皆様、読んでくださりありがとうございました!
ではまたー
乙です!
将頑駄無が出るとは…
128 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/17(水) 18:45:02 ID:MU5t1cUr
まさかの黒魔神闇皇帝!?
>>126 武者○伝氏、お疲れ様でしたー!
まさかの母親らしいリンディにときめいたw
あるぇー? こんなリンディなんて原作以来だよ!
物語も無印時代が終わりかけながらも、さらなる展開と期待がありますね。
これからも楽しみにしてます!!
そして。
19時10分頃からミッドチルダUCATの続きを投下してもよろしいでしょうか?
GJ!
将頑駄無キター
これは三人旅か何かのフラグですか
武者頑駄無達と管理局は協力して堕悪闇軍団と戦って欲しい所です
>>128 天鎧王や大蛇飛駆塞虫の登場フラグも立ってるぜ
そろそろ時間ですので投下開始します。
今回はそれほど長くないですが、支援を出来ればお願いします。
夜が明けた。
日付は過ぎ、明るくなった空が浮かぶ。
けれども、昨日とは違う光景があった。
壊れ果てた建物。破壊されつくした大切な場所。
機動六課隊舎、それが全壊していた。
そして、それを悲しげに見つめる者たちがいた。
「……酷いわね」
「そう、だね」
スバルとティアナが見上げて呟く。
力不足を嘆くかのように唇を噛み締める彼女たちの肩を叩くのは、ギンガとティーダ。
「落ち着いて、スバル」
「そうだ。ティアナ。幸い死傷者はいないんだ、建物なんざ幾らでも立て直せる」
「そうですね。そうですよね」
「ギャフー」
二人の言葉に応えるのはキャロとフリード。
俯いていた顔を上げて、拳を握り締める。
「……ヴィータ隊長、シャマル先生、ザフィーラが頑張ってくれたおかげですよね。まさか、まだ戦闘機人が二人も残ってたなんて」
エリオが呟く。
あの時、地上本部での戦いをめくらましに機動六課の隊舎に二人の戦闘機人が現れたのだと聞いていた。
無数のガジェット――それも新型のW型に、二人の戦闘機人と黒い人型の召喚獣を連れた召喚術士によってヴィヴィオが攫われた。
隊舎に残っていたヴィータとリインフォースU、シャマルとザフィーラが応戦したものの、地雷王と呼ばれた召喚獣の震動で建物は崩壊し、追撃を振り切られた。
まだ軽傷だったヴィータは手当てもそこそこに仕事に戻り、重傷を負ったシャマルとザフィーラもまた今は病院で手当を受けているらしい。
重傷者二人、軽傷者多数、施設全損。
それが結果だった。
「僕が……僕がもっと早くあの人を倒していれば」
護られたと信じたのに、護りきれていなかった。
自惚れは自覚となって重くエリオの心に圧し掛かる。
「そんな。エリオ君は精一杯やったよ! あんなに強い人を倒したんだもん!!」
「そうだよ、エリオ」
「そう。エリオは精一杯やったわ。むしろ私たちの方が」
ジュエルビースト一体を倒した。
それだけの結果――常識的に考えればそれだけでも大収穫だというのに、フォワード陣たちは力が足りないと嘆く。
もっと強く。
もっと頑張っていれば。
誰もがそう悔いながら……
「へーい、モロコシ一丁!」
「あ、俺ヤキソバで」
「私、豚汁ね〜」
崩壊した機動六課の施設の傍、炊き出し中の陸士たちから彼女たちの感情は砕かれた。
つい一時間ほど前にガラガラと手製屋台を引きずって、現場検証から邪魔にならない位置で炊き出しを始めたミッドチルダUCATの陸士たちの下に、休憩中の陸士や六課隊員たちが群がっていた。
「あ、俺バターじゃがで」
「私はモロコシかな〜。スバル何本食べるー?」
「え? アタシ三本!」
「あ、僕。バターじゃがください!」
そそくさと駆け寄り、貰うギンガとティーダ。
所詮UCATだった。
そして、それに即座に答えるスバルとエリオもまた適応力が高いと言わざるを得ないだろう。
「……もうやだ、この人たち」
体育座りで地面にしゃがみこみ、のの字を書き出すティアナ。
「てぃ、ティアさーん! 落ち込まないでー!」
必死に励ますキャロだった。
地上本部、中将室。
そこに一人の女性が訪れようとしていた。
「――レジアス中将、先日の被害報告がまとまりました。チェックをお願いします」
プシューと蒸気が抜けるような音と共にオーリス・ゲイズが室内に入る。
と、同時に右を見た。
――マッサージ椅子には誰もいない。
さらに左を見た。
――ルームランナーに走っている姿はない。
前を見た。
レジアスらしき後姿はちゃんと座っていた。
「中将。書類です」
ほっと息を吐いて、オーリスが近づいた。
しかし。
「……が〜」
「?」
何か奇妙な声が聞こえた。
「中将?」
呼びかけるが反応はない。
ゆったり、ゆったりと揺れながら、椅子を揺らしているだけ。
「……」
カツカツとオーリスが近づき、その椅子の頭部分を掴んでこちらに向けさせた。
「が〜……ご〜……」
レジアスがそこにいた。
ただし、アイマスクを着けて。
寝ていた。居眠りこいていた。
「……」
オーリスが笑う。
こめかみに血管を浮かべながら、書類を机の上に置いて。
懐から長くて、白くて、分厚くて、ぎざぎざの角度が入ったものを振り上げると。
「起きろぉおおおお!!!」
パシーンとひっぱたいた。
ひたすら殴った。
叩きまくった。
「ぬお!? な、なんだ!? まだ夜か!? めが、目がぁみえんぞぉおおお!?!」
慌てて起きて、でも、アイマスクで前が見えないレジアスを涙目でオーリスは叩く。
「この馬鹿親ー!!」
ぎゃー!
という景気のいいレジアスの叫び声が地上本部に響き渡った。
今日もミッドチルダUCAT本部は平和だった。
sien
そんな声は下の階でも聞こえた。
廊下で片腕にギプスを嵌めた陸士と片目を覆う包帯を付けた陸士が、ばたばたと騒がしい廊下の邪魔にならないように隅っこで将棋をしていた。
「おー。今日もレジアス中将の悲鳴が聞こえるなぁ」
プルプルと震える指先で、駒を摘む陸士。
「だな」
それに答えて、もう一人の陸士も駒を摘む。
彼らがやっているのは将棋である。
ただし、はさみ将棋。
神経を尖らせて、二人の目つきが真剣さを帯びていた。
「しかし、どうなるんだろうなー」
「あぁ?」
ポツリと片腕ギプスの陸士の言葉に、片目包帯が首をかしげる。
「ほら、地上本部はまあ無事だけどよ。機動六課壊滅したらしいじゃん」
「らしいなー。ああー、ティアナちゃん無事だよなぁ。俺、昨日デバイスで撮影しちゃったよ。スパッツ美少女なスバルちゃんもいいけど。ツンデレは世界の宝だよな」
「ティーダがいなくて良かったな。お前殺されてるぞ」
確かに。
と、同時に頷く二人。
「ま、あれだ。俺が言いたいのはこのままで平気か、ってことだよ」
「あー?」
「だってよ。あ、確かスカリエッティだっけ? 昨日攻め込んできた馬鹿犯罪者」
先日、何名かの陸士と聖王教会の騎士によって攻め込んできた戦闘機人の大半を鹵獲したらしい。
一名ほどロビーで上着を着せただけでほぼ全裸の赤毛の戦闘機人を運んできた陸士が、帰りを待っていたらしい以前逮捕された戦闘機人の一人に蹴り飛ばされて、
涙目で「お前が死ぬまで、殴るのを止めないッスー!! うわーん!!」 と、タコ殴りにされていたらしいが、まあどうでもいいだろう。
そこから尋問で手に入れた情報によると、敵の名前はジェイル・スカリエッティということがミッドチルダUCAT全員に通達されていた。
「あれがさ。なんも言ってこないの不気味じゃね?」
「まあ確かになー」
プルプルと指先で駒を摘み、息を止めながら運ぶ片目包帯陸士。
その前に。
「ほれ」
「ん?」
片手を鼻に突き刺して、舌をベロベロと出した片手ギプス陸士の顔があった。
「ぶっ!!!」
息を吹き出し、駒が反動で落ちる。
同時にガラリと積んだ将棋の山が崩れた。
「ひゃっはー! オレの勝ちだー!! テメエ、ちょっとファーストフードでスマイル頼んで来い!
あ、約束どおり――『僕は君に恋をしてしまったんだ。ああ、僕の心は今にも張り裂けそう、それを防ぐためには君の笑顔が必要なんだ! さあ笑顔を見せてくれ!』 と、あとポーズ忘れるなよ!!」
「ひ、卑怯だぞ!!」
「勝てば官軍じゃー!!」
うるせー! と、逆切れを起こした片目包帯陸士が将棋台をひっくり返した。
やるか、テメー! と、乱闘が始まり、それと同時にその背後で「こ、これで最後だ……」と、慎重に慎重を重ねてジェンガをやっていた陸士の手元が狂い――具体的には崩れた。
「ノ、ノノノノ――ノォオオオオオオオ!!!」
断末魔の如き悲鳴が上がる。
両手を頬に当てて、腰をくねくねと捻り、ジェンガ陸士が血の涙を流し、振り向いた。
「オバエラナルャッデンディスカー!?」
「人語じゃねー!?」
ろれつが廻らない挙句に、人外の叫び声を上げて、ジェンガ陸士が参戦。
馬鹿の醜い争いが始まった。
担架で運ばれている隊員が巻き込まれてぶち切れを起こしたり、近くの仮眠室で寝ていた陸士がデバイスを持ち出して「一晩中戦ってたんじゃー!! 寝かせろや、ごるあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」と、血走った目で参戦するなど。
カオスな状態になっていく。
しかし、これもまたいつものことである。
「……騒がしいなぁ」
「仕方ありません、主。これが彼らのいつものなのです」
そんな喧騒を見ながら、廊下を歩いていた二人の女性がいた。
八神 はやて。
そして、その侍従にして烈火の騎士、シグナム。
積み重なる頭痛に冷えピタを貼って対応しているはやてと違って、シグナムは何を見ても平然としていた。
「……よく平気やな、シグナム」
「まあ慣れました。お忘れですか、主。私の本来の職場はここなのですよ?」
そう告げると、シグナムはふぅっと息を吐いて、少しだけネクタイを緩めて、チラッと襟首を開いた――瞬間、バッとカメラを構えて近づいてきた陸士の一人の腕を掴み「甘い、シグナム背負い!!」と、投げ飛ばした。
風来の支援
「ァー!!!」
ポーンと飛んでいく陸士が壁に激突し、その次の瞬間、彼は鈍器を持った陸士たちに殴打されていた。
抜け駆けすんなー! この不浄ものぉおおお!! お仕置きよ、お仕置きよ! 飛び散る罵声に加えて。
テメエ、しかも失敗しやがってー! と、本音が混ざった怒りだった。
「……油断しないでください、主」
ネクタイを締め直し、慣れた仕草で手櫛を使い髪を整え直すシグナムだった。
「今、シグナムに対する評価が70度ぐらい横に歪んだわ」
「まだ私でも主の刺激になれるのですね。嬉しいです」
私は嬉しくない。と、少しだけはやてが凹んだ。
シグナムが首を僅かに横にかしげると、はやてを先導するように。
「では、行きましょうか」
辿り付いたエレベーターの開閉ボタンを開けた。
ガーと開いた先には『きゃもーん!』『許可します』『ウェルカム!』という感じに親指を立てて、構えた三人の全身白タイツにネコ耳を付けた男たちがいた。
具体的にはこんなの↓
はさみ将棋…?
山崩しじゃ?
ともかく支援
∩
( ⌒) ∩_ _ 許可します
/,. ノ i .,,E)
/ /" / /"
_nきゃもーん! / / ハ,,ハ ,/ ノ'
( l ハ,,ハ / / ゚ω゚ )/ / ハ,,ハ ウェルカム!
\ \ ( ゚ω゚ )( / ( ゚ω゚ ) n
ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ |  ̄ \ ( E)
/ / \ ヽ フ / ヽ ヽ_//
AA使うなw
支援
「……」
言葉も語らず、はやては閉めるボタンを押した。
ガーと閉まっていく彼らはずっと笑顔を浮かべたままだった。
チンッと閉じた扉にはやては一言。
「あれ、なに?」
「ああ、UCATに住み着いているネコ耳精霊ですね。運がいいですよ、主。滅多に出てこないですから」
シグナムは平然と答えた。
その冷静さが逆に恐ろしかった。
「あんなおぞましい精霊がおるかー!!!」
絶叫だった。
はやては頭を押さえて、叫んだ。
「では、こっちのエレベーターを使いましょう」
もう片方のエレベーターの開閉ボタンを押した。
チーンと音を立てて開かれたドアの内部には――
「ほら、奥さん。ちょっとぐらいいじゃないですか」
「え、でも、私には夫が!」
何故か酒屋の格好で、エプロンを着けた女性に迫る光景があった。
「……」
「……」
二人と二人の視線が合う。
エレベーター内の二人はいそいそと離れると、隅に置いた板を取り出し、見せた。
『エレベーター昼メロ劇場第53話 【奥さん、ちょっといいじゃないですか。寂しいんでしょ〜】の巻』
「ご視聴ありがとうございましたー」
「ま――」
バンッ!!
はやては無言でエレベーターの扉を手動で閉めた。
「……ねえ、シグナム。あれなに?」
「ああ。あの二人はたまにエレベーターで寸劇やってるんですよ、さすが主。運がいいですね」
「あほかー!!」
絶叫だった。
はやての常識がまた砕かれた。
粉々だった。
シグナムwwwww 支援
シグナム天然過ぎる支援
「あ、主。今度は普通ですよ」
ポーンと音を立てて開かれたエレベーターは綺麗だった。
「もういい。さっさといくで!」
血気盛んにはやてが踏み出す。
が、一瞬ピタッと足を止めて。
「なあ、シグナム。罠とかあらへんよね?」
「なにいってるんですか」
シグナムは自然に微笑を浮かべて。
「エレベーターに罠なんて常識的に考えてあるわけがないでしょう?」
「アンタが言うなぁああああああああああ!!」
はやての三度目の絶叫だった。
二人が向かう。
エレベーターで階層を昇り、二人が向かったのはある一室だった。
「失礼します」
それはある一室。
ミッドチルダUCATの最高司令官である人物のいる場所。
『どうぞ』
声をかけると、中から声がした。
扉が開く。
そして、はやてとシグナムはその内部へと入った。
「機動六課部隊長、八神はやて二佐です」
「機動六課ライトニング分隊副隊長 シグナム二等空尉です」
踏み出す、中へ。
そして、待ち構えるその人物にはやてとシグナムは敬礼した。
「ようこそ、機動六課の部隊長と副隊長」
そこにいるのはレジアス・ゲイズ。
そして、その副官たるオーリス。
「何用かね?」
静かに訊ねられる問い。
それに、はやては静かに告げた。
「今回の一件。犯罪者、ジェイル・スカリエッティ」
彼女は告げる。
ただ思いの為に。
プライドを捨てて、誰かを護るためだけに。
「その捜査協力を申請します。海と陸、その共同捜査を!」
今、この瞬間に歴史に刻まれる1ページが生み出された。
***
投下終了。
うん、実に普通の内容ですみません。
次回も近いうちに更新予定です。
>>139 地元だとはさみ将棋っていうんです。
いえ、ごめんなさい。
間違えました。修正しておきます!
支援ありがとうございました〜!!
GJ!!
シグナムはこれ単純に言われたこと鵜呑みにしてるだけなんだろうなー
GJ!
いくら事件解決のためとは言え
よくこの変態連中と組む気になったねはやて…
このUCATなら海との軋轢なんてなくね?海もこんな奴らいらないだろうし。
AAwwwwDOD氏のSSにもうまい事使ってる話があったなwwww
>>150 気持ちは分かるがここで出す話じゃないだろ
はやてもこんな奴らと組むとかプライド捨てすぎじゃね?って気がして
真面目っぽい場面なのにはやてが不憫に思えてくる。さすが不憫長。
シグナムの馴染み方が凄えww
変態にならずにUCATを受け入れたのか!!
あとはやてさん、UCATと組んだら絶対存在感食われるぞ。
ラキスケなライダーはしっかり殴られたようでGJ
しかしシグナム姐さんのポテンシャルが高過ぎるwww
あ、はやてが捨てるのはプライドじゃなく恥の概念じゃね?
>>146 GJ 相変わらずネタの混ぜ具合が良いです。
それと文章について
「ほら、奥さん。ちょっとぐらいいじゃないですか」
この場合、「ちょっとぐらい良いじゃないですか」じゃないですか?
GJ
最近は少しシリアスが多かったからなぁ……
久しぶりにギャグメインでした
GJ!
最高にレアな尻の精霊とは遭遇してたなぁ
あい、お久しぶりです。
先日久しぶりにウロスを覗いたら「龍が如く」の話が出ており、突発的に書いた奴を投下します。
まあ分類的には嘘予告の類です。
魔法少女リリカルなのはStrikers×龍が如く 嘘予告
『リリカルが如く』
数多の管理世界の中心でもあるミッドチルダ、その首都クラナガンは無論だがあらゆる分野で発達した未来都市。
工業が流通が、都市を形成するあらゆる機能は最先端、そこに住む人々に快適にして安定した生活を提供している。
それは正に人々の求める理想的な世界の形であった。
だが人間とは清浄なだけでは生きていけない、その精神と肉体には常識的規範の外にあるものを求める事がままある。
酒を飲みたい、女を抱きたい、クスリが欲しい、様々な不浄なる欲望を人は抱き求める。
それに応えるのは無論法治を破る者達、夜の世界に生きる人間、犯罪者の形成する結社。俗にマフィア・ギャング・幇そしてヤクザと呼ばれる存在だ。
ミッドチルダの裏社会を支配するのは【東城会】と呼ばれるヤクザ組織の一つである。
そして、男はそんな組織の一員だった。
△
からん、と音を立ててグラスの氷が揺れた。
そこに満ちるのは琥珀色をした芳醇な芳香を持つ液体、永き時をかけて人々を魅了してきたアルコールと言う名の誘惑。
男はグラスを傾け、その熟成された味わいを楽しんだ。
「ああ……良い酒だ」
口内を通り喉を流れる酒に舌鼓を打ち、壮年を過ぎたその男は感嘆の言葉を漏らす。
だが男の隣りに座った美しい少女は、彼のそんな様子に綺麗な眉をしかめて苦言を吐いた。
「もう、お父さん飲み過ぎですよ?」
艶やかな紫色を持つ長い髪を揺らす美少女、ギンガ・ナカジマは父の飲酒に咎めるような言葉をかけた。
だが当のゲンヤはヒラヒラと手を振り娘の苦言に軽く返す。
「おいおい、まだこれくらい序の口だぜ? それに酒場で一滴も飲まないヤツにゃあ言われたくねえ」
「17歳の娘に飲酒を勧めないでください」
「法的には問題ない筈だが?」
「個人的倫理感です」
「そいつは残念」
男、ゲンヤ・ナカジマは冗談交じりの言葉を吐くと、再びグラスを傾けた。
ここはミッド最大の歓楽街カムロ・タウンにある一軒のバー、来る人間は決して多くないが良い酒と静かで落ち着いた一時を提供してくれる隠れた名店。
様々な職種の様々な人間がその日の仕事の疲れを癒しに訪れる、ゲンヤとギンガのナカジマ親子もまたそんな客の一組だった。
そんな時だった、唐突にガラスの砕け散るような耳障りな音と怒声が店の中に響き渡る。
突然の騒ぎに二人が顔を向ければ、そこには真っ赤に染めた顔を怒りで歪める一人の男が立っていた。
焦点の定まらない目、口から漂うアルコール臭の溶けた息が離れた場所まで漂いそうな程の臭気に満ちており男が完全に酔っ払っている事が良く分かる。
だがそれ以上に目を引いたのは、男の服装と手にしたモノ。
支援
身に付けているのは陸士部隊の制服、そして手には刀剣のような形の得物、俗にアームドデバイスと呼ばれる類の魔道師用の兵装を持っていた。
「ああっっ!? てめえ……俺になんか文句でもあんのかっ!?」
「い、いえ……私はなにも……」
「おうおう! 言い訳しようってのか!?」
男はデバイスの切っ先をバーテンに向けて怒鳴り散らす。
誰が見ても酔っ払った男が一方的に言いがかりをつけている絵にしか見えない状況、自然ゲンヤとギンガは眉をひそめる。
同じ地上本部に所属する人間の酷い様に、二人は注意をしようと立ち上がった。
だがそれよりも早く酔っ払った男に声をかける者が一人。
「おいあんた。ここは静かに飲む店だ、騒ぎたいなら他所でやってくれ」
軽く後ろに撫で付けたオールバックの髪型にカミソリのような鋭い眼光、長身を襟を立てたシャツと白いスーツで包み、服越しにも分かる屈強な五体を有した伊達男だった。
身体から滲み出る気迫から、彼が堅気でないという雰囲気がなんとはなしに感じられる。
だが気迫と眼光の鋭さに反してその口調は穏やか、深みのある声と相まって彼の印象をただのヤクザ者ではない男だと思わせた。
だが、まっとうな注意を受けて酔っ払いの男はさらに逆上して赤い顔を余計に真っ赤にする。
「あんだぁテメエは!? 天下の管理局員様に逆らおうってのか、ああん!?」
威勢よく吼え、酒臭い息を撒き散らしながら酔っ払った男はデバイスを向ける。
だが彼は眉一つ動かさず、むしろ不敵な嘲笑気味の笑みを浮かべた。
丸腰の人間がデバイスを向けられて笑みを浮かべる、それはありえない状況。
だがしかし、獅子が棒切れを向けられたとて怯えぬ様に、彼はデバイスを見ても少しも動揺する事はなかった。
「そんだけクダ巻いて、天下の管理局様とはよく言ったもんだな」
「な、なんだと!? てめえ言いやがったな……表に出やがれ!!」
「ああ、構わねえぜ」
完全に怒り狂った男の言葉にも眉一つ動かさず了承、二人はそのまま店の外へと出て行った。
その様に、ギンガは慌てふためき後を追おうとする。
下手をすれば局の人間が人を殺める可能性もある、焦らない法がどうかしているだろう。
だがそんな彼女の肩を父の手が掴んだ。
「な、何するの父さん! このままじゃ……」
「止めとけギンガ、そりゃ杞憂だ。心配する事ぁねえよ、あの男にはな」
「え?」
「まあすぐ終わるさ」
父の言葉が理解できず狼狽するギンガ。
娘のそんな様子に、ただゲンヤは意味深な笑みを浮かべるだけだった。
心配など無用、何故なら彼は獅子すら超える存在、“龍”なのだから。
そうして先ほどの二人が外へ出てからしばらくすると、凄まじい音が聞こえた。
まるでコンクリートの上に巨大な肉塊を叩き付けた様な、何ともいえない打撃音。
唐突に耳を打った異音にギンガが驚く間もなく、バーのドアが開く。
そこに立っていたのはアームドデバイスを向けていた男ではなく白スーツの伊達男だった。
服の肩部分に少しだけ煤が付き、拳が血で濡れている以外はまったく怪我一つ負っていない。
ついでに言うならば拳の血にしても彼のものですらなかった。
男の姿にバーテンは慌てて声を上げた。
「だ、大丈夫ですか桐生さん!」
「ああ、気にするな、こいつはアイツのだ」
桐生と呼ばれた男はバーテンから紙ナプキンをもらうと拳の血を拭い去る。そこには案の定、傷一つ無い無骨な拳だけがあった。
「あの管理局の人……大丈夫ですか?」
「ああ、軽くオネンネしてもらっただけだ、気にするな。それより迷惑かけちまったなぁ」
「い、いえ。桐生さんがいてくれなきゃ、どうなっていたか。ありがとうございます」
「よせよ、水臭い。俺はここの店で飲む酒が好きなだけだ」
桐生はそう言うと、もう一度“迷惑掛けてすまんな”とバーテンに告げ、明らかに多めに支払いをして店を出て行った。
見ていた客の半分は唖然と、もう半分は納得したような顔をする。
男の素性を知らぬギンガは無論前者の方だった。
「あ、あの人は一体……」
「桐生一馬さ」
「キリュウカズマ?」
「ああ、ミッド最強の極道、堂島の龍と呼ばれる男だ」
ミッドチルダ最大の暴力団東城会、その直系組織堂島組において腕っ節の強さと義理堅い心意気から“堂島の龍”と呼ばれる男。
それが彼、桐生一馬である。
△
店を出た桐生は、夜のネオンが煌めく帰り道を一人歩いていた。
めっきり冷え込んできた夜風が身に染みる、アルコールと派手な立ち合いで得た熱も徐々に冷たくなっていく。
どこか別の店で飲み直そうかとも一瞬考えたが、それはすぐに破棄した。
今日はこのまま帰ってすぐにでも眠りに付きたい気分だ。
懐から出した紙箱から煙草を一本取り出し、長年愛用しているオイルライターで火を点ける。
苦く不味くそれでいて癖になる煙たい味を肺に満たす。
「ふぅ……」
口から一度紫煙を吐き出して空気に溶かし、煙草を口の端に咥えると桐生はそのまま帰路に着く。
そんな時だった、路地裏から妙な音が聞こえたのは。
普通なら聞き逃す、もし耳に届いたとしても気にも留めない、そんな音量の異音。
sein
だが彼は足を止め、ネオンの光の届かぬ路地裏に顔を向けた。
それは桐生の身体と本能に染み付いた習性か、彼は理性で処理できない直感を感じたのだ。
今ここを素通りできない、という運命を。
そして、桐生一馬という男は一度そう決めたらあとはただ突き進むだけだ。
闇に包まれた路地裏に足を進め、夜目の効く瞳で注視してあたりを探る。
すると、そこになにか物体が転がっているのを発見した。
小さな子供くらいの大きさのナニか、いや、良く見ればそれは本当に小さな子供だった。
その事実に気付くや否や、桐生は即座に倒れている子供に駆け寄る。
「おい! 大丈夫か!?」
急いで駆け寄ると、桐生は慎重に子供、金髪の幼い少女を抱き起こした。
見た所、外傷らしい外傷は皆無、だが少女は随分と衰弱しているらしく桐生の言葉にもほとんど反応しない。
ただ生命の証である心臓の鼓動と呼吸をするだけだ。
それでも桐生は少女の息がまだある事にほっと胸を撫で下ろした。
「生きてはいるみたいだな……しかしこんな子供が一体どうしてこんな……」
良く見ればその子供が身に付けている服は酷いボロ、ただの布切れを最低限着れるようにした様な代物だった。
オマケに身体に鎖で妙なケースまで巻きついている。
あまりに奇異な状況に、荒事に慣れた桐生は顔の疑問符を貼り付けて、普段は見せぬ表情を呈した。
そしてこれが最初の出会いだった。
堂島の龍と呼ばれた男と聖王の器、後にミッドチルダ全体を混乱に巻き込む大事件の中心人物となる二人の……
△
次回予告。
邂逅を果たした堂島の龍、桐生一馬そして聖王の器、ヴィヴィオ。
レリックを求めて殺到する謎の機械兵器【ガジェット】の群れに襲われる二人。
そうして、夜のネオン煌めく街で繰り広げられる激闘の嵐!
堂島の龍の拳が唸りを上げて、群がる敵を鉄屑へと変える。
はい、投下終了です。
なんか突発的に妄想が湧いて、その勢いに任せて書いちゃいました。
まあアレだ、この人ならガジェット程度なら潰せるだろ、と。
あと遥ポジにヴィヴィオとか美味しいよね? と。
連載SS待ってる人には申し訳ない、チマチマ書いておりますのでもう少し待ってくれると幸いです。
GJ!!です。
東城会が次元世界にw
真島の兄さんが味方であるなら、2の時のように敵を足止めしてくれるんだろうなぁw
ヒートアクションで、GDを壊しまくる桐生が見えますw
龍が如く久々にプレイしていただけに、これは楽しみにせざるを得ないww
ガジェット相手に「死にてぇ奴から、かかってこい!」と啖呵を切る桐生さんが見えます。
そして、23時25分から紫の魔女2話目投下させていただこうと思いますがよろしいでしょうか?
カモンハリアップ!
目を覚ますと、見慣れぬ天井がギンガの視界に飛び込んできた。
「こ……こは……?」
頭を動かして周囲を確認。
部屋の雰囲気からして、恐らくどこかの病院の一室だろう。
自分もベットの上に寝かされ、服も誰かが着換えさせたのか愛用しているパジャマに変わっている。
「私……なんで……」
確か、自分は事件の捜査中だった筈だ。
下水道の中を探索中に幼い少女とその使い魔に襲われ、応戦するも敗北。
そして、下水に顔を沈められ溺れ死ぬ寸前まで追い詰められていたと記憶している。
「それで……私は……っ!?」
そこまで思い出した時、ギンガの脳裏に浮かび上がるは変わり果てた自分の姿。
心の底から戦いを求める狂った、血に飢える雌の獣。
「あ……あ……ぁあ……」
あの虫との戦いで感じた疼きが、舐めとった血の味が鮮明に蘇ってくる。
痛みを受けた快楽も、痛みを与えた興奮も、虫に対して覚えた性的欲求に似た感情も、何もかも。
「あぁああ!?」
沸き上がる恐怖を抑えきれず、悲鳴をあげてベットから転がり落ちる。
ベットから落ち、自分に覆いかぶさった布団を乱暴に跳ねのけ部屋に備え付けの洗面台の鏡を見やる。
鏡に映るのはごく普通の、飽きるほどに見慣れたギンガ・ナカジマの顔。
「あ……はぁ……はぁ……」
鏡に映った自分の顔にどこにも異常はない。
しかし、それでも体の震えは止まらない。見た目の問題では無く、精神的な物。
はっきりと思い出してしまったあの時の感情や興奮が、ギンガの心を恐怖で埋めていく。
「ギン姉……どうか、した?」
「……スバ……ル?」
小さく音を立てて開かれたドアから、スバルが姿を現す。
管理局の茶色い制服に身をつつんだ妹の表情は、どこか不安そうで心配そうだった。
さっき自分があげた悲鳴は、どうやら廊下にまで聞こえていたようだ。
「あぁ、布団落としてるし! もぉ……ちゃんと寝てないと駄目じゃ「スバル!」」
思わず、ギンガはスバルに抱きついていた。
あの時、彼女からの念話通信が来なければ自分はどうなっていたのか解らない。
そう思うと背筋が凍る。こうして妹に触れていなければ、恐怖で心が潰れてしまいそうだ。
「ちょっ……あの……ギン姉?」
突然抱きつかれたスバルは困惑の表情を浮かべながら、震えている姉に気づく。
まるで何かに脅えている子供のように体を震わせたその様子、普段の頼もしいギンガの面影はない。
こんな姉の姿は流石に見た事が無く、驚きを隠せないが自分を頼ってくれているのかと思うと少し嬉しくもある。
「ねぇ……何かあったの?」
「そうじゃない……そうじゃないんだけど……」
あの変わり果てた自分の事をスバルに話せるか?
話せる筈が無い。あんな化け物のような姿の事を話せば自分から距離を置いて、離れてしまうかもしれない。
嫌だ、それだけは嫌だ。そんな事になれば、間違いなく心が恐怖で押しつぶされて壊れてしまう。
「ギン姉丸一日眠ってて……父さんとか、八神部隊長も心配してたよ」
「うん……」
「目が覚めて、落ち着いたら話聞かせて欲しいって言ってたけど……」
「分かったわ。でも……」
自然と、スバルを抱きしめる腕に力を込める。
ただそれだけで、少しずつ心の中から恐怖が消えていく。
こうして妹と触れ合っているだけで、心の底から安心できる。
「もうちょっとだけ……こうしてていいかな?」
甘えるような言葉で、妹に訴える。
その様子を静かに観察するように、ギンガの右手首についたブレスレッドの赤い宝石が鈍く光っていた。
「それじゃ、その時の事はほとんど覚えてないんやな?」
「はい」
はやての下水道で何があったのかとの問いに、ギンガはそう答えた。
少女の連れていた使い魔であろう虫との戦いの最中に気を失い、気がつけば病院に寝かされていたと嘘をつく。
いかに上官であり、父親のゲンヤやその友人であるはやてが相手でも、自分が変貌した事を話す気にはなれなかった。
「右腕のソレも何かわからねぇのか?」
「……はい。気がついたら、右腕にあって……」
右手首のブレスレッドを手で押さえ、顔を俯かせる。
これも嘘。気がつけば右腕にあったというのは本当だが、自分の変貌に深く関わる物だと言うのは察しがつく。
「ふぅむ……まぁ、覚えてないならええわ。またなんか思い出したら教えてくれる?」
「わかりました」
「ついでに、そのブレスレッドを渡してくれへん? 一応何なのか調べとかなあかんしな」
「はい……あれ?」
いつまでもこんな物を身につけたくはなかったギンガは、言われるままにブレスレッドを外そうとする。
しかし、ブレスレッドは右手首から外れようとしない。
「外れない……?」
「はぁ? 外れへんなんてんなアホな……あれ? ほんまに外れへん」
はやても手を貸し、ギンガの手からブレスレッドを外そうとするが外れない。
まるで右腕に根を張り、食い込んでいるかのようにしがみつき、喰らいついている。
ゲンヤや部屋の外にいたスバルにも手伝ってもらったが結局、ブレスレッドは外れなかった。
「これはどうしようもないなぁ……」
結局、ギンガが日を改めて直接解析の為に本局へ行く事となった。
とりあえず映像だけでもと、デバイスで画像データを記録。データベースへと転送する。
その後、ゲンヤは仕事の都合もあって一足先に部隊へと戻り、はやてが軽い質問を何度か行って事情聴取は終了した。
ギンガの精神的疲労も大きく、記憶も曖昧という事で今日はここまでとはやての方から切り上げたのだ。
「ほんじゃ、私は帰るな」
「あ、それじゃ私も……」
「スバル、今日はもう仕事終わってええよ。ギンガも今日は休ませるってゲンヤさん言ってたし、一日一緒にいてやり」
一緒に帰ろうとしたスバルにそう言い残し、はやては足早に部屋を出る。
「なのは隊長達にはもう連絡してあるからな。明日も出勤は遅めでええよぉ」
部屋を出る直前に、おまけでそう言い残していった。
残されたスバルとギンガは暫し呆然としながら互いに顔を見合わせ、「どうしようか?」と視線で会話する。
どちらも潰れた休暇が突然復活という予想外の出来事に、面喰っていた。
「ギン姉、どうする?」
「そう、ねぇ……一応退院はしていいって言われてるけど」
「そっかぁ……それじゃぁ、母さんのお墓参り行かない?」
クラナガンを一望できる丘の上に、墓地は造られていた。
この街で死んだ者はほぼ例外なくこの墓地に眠る。ギンガとスバルの母、クイント・ナカジマもこの墓地に墓を置いていた。
お互いに仕事で忙しく、二人一緒に来るのも久しぶりなどと軽い会話をしながら、母が眠る墓の前に立つ。
「母さん、命日にはちょっと早いけど……来たよ。今日はギン姉と一緒」
母の名が刻まれた墓の前にしゃがみ、スバルは両手を合わせる。
ギンガもその隣にしゃがみ、来る途中に立ち寄った花屋で購入した花を置き、手を合わせた。
生前、母が好きだった花だ……きっと天国で喜んでくれているだろう。
(母さん。父さんも私も……スバルも元気にやってるからね。心配しないで)
心の中で母へと言葉を送る。
名前も持たなかった頃の幼い自分達を、普通の人間では無いと知りながら引き取り育ててくれた人。
たった二年という短い間しか親子でいられなかったが、返しきれない程の愛を注いでくれた。
憧れ……いや、一種の崇拝にまで達しているかもしれない。それほどまで、ギンガにとってクイントの存在は大きい。
母にシューティング・アーツを学んだのも、同じ仕事に就いたのも、少しでも近づきたかったからだ。
(母さんを殺した犯人も、いつかきっと……)
故に許せない。
自分と妹から母を奪った犯人。管理局の捜査官だった母を無残に殺した存在が、この世の何よりも憎い。
未だに捕まらない犯人を自分の手で捕らえ、裁きを与える瞬間を何度夢見た事か。
(いつか、私が必ず捕まえるから)
この役目だけは、父にも妹にも譲れない。
捜査官となってから、暇を見つけては一人で母が最後に担当していた事件の事を調べ続けるのも全てはその為。
父も独自に調べているが、母との「ちゃんと自分達を育てる」という約束を守る為に捗っていない事を知っている。
だから、私が調べるとギンガは決めた。父親まで失いたくはないから、妹から父を奪わせたくないから。
「スバル……家に帰ろっか?」
「うん。それじゃ、母さん……また来るね」
最後にもう一度、母に声をかけて二人は墓地を後にする。
次に二人揃って来れるのは何時だろうかと考えながら、帰りに何か食べる物を買っていこうかとスバルと話しながら墓地の階段を降りていく。
その最中、不意にギンガの右手首にとりついたブレスレッドが不気味に赤く光を放つ。
「っ!?」
感じるのは気配。
何かが、自分に対して敵対心を持った何かが近くにいるという確信。
それこそ、気の弱い人間なら殺せるのでは無いかと思うほど殺気がギンガの全身に叩きつけられる。
sien
妖艶ギンガに支援!
「……ギン姉?」
スバルの声も聞こえない程の衝動が、ギンガの体を支配する。
あの虫との戦いで感じた興奮と同等の……いや、それ以上のモノを求める欲求が沸き上がる。
この気配の主と戦いたい。きっと、虫と戦った時よりも激しく、強い快楽を得られるだろう。
思えばあの虫との戦いは酷く半端に終わり、煮え切らない物だった……この気配の主で、渇きを癒そう。
「ギン姉! ギン姉!」
「えっ……あれ、私……?」
不意に我に帰ったギンガを出迎えたのは、不安げに自分を見つめるスバル。
「どうしたの? 急にぼぉっとして……顔もちょっと赤いし、具合でも悪いの?」
「あ……いや……ちょっと疲れが残ってた、のかな? もう平気よ」
スバルを安心させようと、ギンガは笑みを浮かべる。
しかし、その笑みはどうにもぎこちない物であり不安げな表情だった妹の顔が一気に変わる。
安心のそれでは無く、頬を膨らませた怒りの表情へ。
「平気には見えないんですけど?」
「え……そう?」
「そうだよ。もぉ……ほら、さっさと家に帰って休もう」
スバルがギンガの手を握り、引っ張るように家路を急ぐ。
「帰ったらご飯にしよ。私が作ってあげるから」
「なら私も手伝うけど」
「ギン姉は休んでて。準備も片付けも、全部私にまっかせなさぁい!」
ギンガの申し出を断り、スバルは笑みを浮かべながら姉の手を引いて歩く。
妹と触れている手から伝わってくる感触が、ギンガの中に沸き上がっていた欲求をかき消していく。
「……それじゃ、任せちゃおうかな?」
スバルにつられて、ギンガも表情を笑みに変える。
僅かに残る渇きが戦いという名の快楽を求め続けるが、それを押さえつける。
今は、妹との休日を思う存分楽しもう。
久しぶりに自宅に戻り、妹の手料理を堪能したギンガはリビングのソファーで横になっていた。
準備も後片付けもスバルに任せている為、やる事が無く暇と言えば暇だがそれはそれで良い。
付けっ放しのTVから流れる芸能ニュースをBGMにして、気兼ねなくのんびりとするのもこれはこれで楽しいものだ。
「ギン姉、お風呂沸かそうかぁ?」
siensiensien
恥女になるのですね、ギンガ!
支援w
リビングの外、廊下の奥からスバルの声が聞こえてくる。
風呂という単語を聞いて時計に視線を移し、もうそれなりに夜も更けてきている事に気がついた。
全く、楽しい時間という物はあっという間に過ぎていく物だ。
「そうねぇ……お願い。久し振りに一緒に入る?」
「アハハ! いいかも、一緒に入っちゃお!」
スバルの足音が浴室へと向かっていくのが聞こえる。
小さい頃はよく一緒に……時々は母や父とも一緒に入っていたなと思い出しながら体を起こし、廊下へと向かう。
「スバル、私ちょっと出掛けてくるわ」
「へ? こんな時間に……どこ行くの?」
「近所を散歩するだけよ。帰りにアイスでも買ってきてあげるわ」
「ホント!? アイスはチョコ味でよろしく!」
「チョコ味ね。了解」
財布を上着のポケットに突っ込み、家を出る。
街燈の灯りがちらつく夜道を歩きながら、それとなく人通りの少ない路地へと入っていく。
路地の奥、人の気配が全くしない処までたどり着いた瞬間、ギンガの表情は一変した。
「はぁ……っ」
ギンガの顔に浮かぶのはだらしのない、淫らな笑み。
口から熱の籠った甘い吐息を吐く姿はまるで娼婦を連想させ、普段の彼女を知る者ならば想像すらできないだろう。
「もぉ……我慢、出来ない……ぃ」
フラフラとおぼつかない足取りで、壁に右手を預けながら路地を歩く。
右手首のブレスレッドは妖しく光を放ち、少女の心を……押さえ付けていた欲求を解放させていく。
スバルと一緒にいる間は押さえつけられた溢れ出る熱が、自分一人になると決壊したダムのように止められない。
家を出たのは、我慢の限界に達していたから。
いかにスバルと一緒でも、これ以上は我慢できる自信がギンガにはなかった。
「はぁ……はぁ……はあぁぁ……」
口から吐息をもらしながら数分ほど歩き、やがて廃棄都市区画にギンガは足を踏み入れていた。
その名の通り廃棄、見捨てられたこの場所に人などいない。管理局の訓練場としてもたまに使用されるだけの空間。
ギンガは廃墟を走る道の真ん中に立ち、呟いた。
「……出てきたら?」
その言葉に反応して、ギンガの周りを取り囲むように数機のカプセル型をした機械が物陰から出現する。
ガジェットだと気付くのに数秒もかからない。仕事で嫌というほど目にした不格好極まりない戦闘兵器。
無機質なカメラアイがギンガの姿を捉え、武器として使用するコードを伸ばしながら3機のガジェットが襲いかかる。
「……はぁ」
音声を拾うセンサーがギンガの退屈そうな溜息を捉えたのを最後に、3機のガジェットは爆発した。
爆発の中、右腕が変貌を遂げたギンガが姿を現す。
品定めをするような視線で残りのガジェットを見やり、浮かべるのは落胆の表情。
面倒臭そうに視線を外し、わざとらしい大きなため息を吐いて……鋭い刃物と化した髪を伸ばし残りのガジェットを串刺しにする。
髪を抜いてから一瞬の間を置いて爆発するガジェットをつまらなそうに見ながら、全身が変貌していく。
「ずっと我慢してたのに……これだけって事は無いわよねぇ?」
ブレスレッドが解放され、下水道で纏っていた鎧へと変わる。
最初のガジェットを破壊したブレードを収納し、ギンガはずっと感じている気配へと言葉を投げかける。
「そっちも……ヤりたくてたまんないんでしょ?」
墓地の帰りからずっと自分の後を付け回し、家にいる間もずっと見張っていた。
こうしてギンガが一人になるまでずっと付け回すつもりだったのだろう……いい迷惑だ。
スバルと一緒でなければ、こんな時間まで心の底から溢れ出る欲望を抑え込む事は出来なかっただろう。
「そうね……そろそろ堪えるのも限界かしら」
ギンガの正面に広がる夜の闇から、気配の主である女性は姿を現した。
恐らくギンガより年上であろうその女性の姿は、彼女を驚かせるのに十分だった。
「……似てる」
色や全体的なデザインに違いはある物の、女性はギンガの纏う鎧とよく似た物を纏っていた。
桃色の長髪に薄紫の鎧。ギンガのそれよりも露出は多く、全身から放つ妖しい色気もあって思わず見惚れてしまいそうになる。
女性は青い宝石の埋め込まれた左腕を持ち上げ、それ自体を螺旋状に渦巻く槍のようなブレードへと変化させ、ギンガへと向ける。
口元をほんの少しだけ歪め、ひび割れたアスファルトの地面を蹴ってギンガへと襲いかかった。
突き出される槍を右手のブレードで受け止め、カウンターで繰り出す左の拳は女性の右手が軽く受け止める。
「フッ……」
女性の浮かべる妖艶な笑みに、ギンガは薄気味の悪さと共に共感を覚える。
この女性も自分と同じだ。戦いに喜びを、興奮を覚えて、欲情しているのだ。
相手と傷付けあい、潰しあう事に何物にも勝る快楽を感じる血に飢えた獣。
「アハッ……」
つられてギンガも、狂喜に満ちた笑みを浮かべる。
ずっとお預けをくらっていた御馳走が目の前にあるのに、喰らいつかないなんて選択肢はあり得ない。
ヤりたい。この女と激しくヤりあいたい。きっと、物凄く気持ち良いに違いない。
支援 究極刃!
「アンタも同じでしょ……っ!?」
ギンガが両足に違和感を感じ、視線を向けると女性の髪が触手のように巻きついていた。
気づいた時にはすでに遅い。女性はギンガの両腕を押さえつけ、静かな笑みで答える。
「えぇ……同じよ。だから……」
桃色の髪の毛が意思を持つかのように蠢き、ギンガの体へと伸びていく。
地を這いずり回る蛇の如く、髪の毛がギンガの体へと巻きついていく。
両手足、腰、胸、首に巻きついた女性の髪の毛が少女の体を完全に拘束した。
「っ……あぅ!」
締めあげられる苦しみにギンガは思わず悲鳴をあげる。
女性はそっとギンガに抱きつき、体を密着させ耳元で囁く。
妖しい響きの声、聞いているだけで誘惑されそうな程の甘い口調で。
「アナタの事……滅茶苦茶にしてあげる」
その言葉の直後、ドスッという鈍い音がギンガの耳に響いた。
腹部に感じる熱い感覚。数瞬遅れて、流れ出る血が少女の足を伝って地面を濡らす。
「っ……が、はぁ……」
ギンガの腹部を、女性の下腹部から伸びた巨大な刃が貫いていた。
女性はギンガから刃を引き抜き、崩れ落ちそうになるその体を拘束する髪の毛で支える。
ぐったりと力が抜けたその様子を見て「少し飛ばしすぎたかしら?」と呟きながら、項垂れたギンガの顎を掴んで顔を持ち上げる。
「フフッ……」
その顔は、笑っていた。
「最初から激しいのね……最高。お礼に……」
ギンガの右腕、両膝、踵のブレードが展開し、体を締め付ける髪を切断。
女性が驚愕の表情を浮かべるよりも早く、ギンガは左手に魔力を込める。
「もっと激しいのをあげるわ」
利き腕たる左の拳を、女性の顔面に叩き込む。
殴られ、よろめいたその体を右腕のブレードを持って突き刺す。
貫いた箇所は自分と同じ腹部。更に自らの髪を刃に変え、女性の体を遠慮なく切り刻む。
「がっ……」
「これはオマケよ」
全体重を乗せた力任せの回し蹴りが、女性の右側頭部を捉えた。
常人ならば首の骨どころか頭蓋骨が砕け散る程の力で蹴り飛ばし、女性の体はひび割れたアスファルトの上を転がる。
腹部の傷から血が流れ出るが無視。今のこの姿なら、どれだけ暴れても、どれだけ血を流してもそれは快楽に変わるのだ。
貫かれた時も感じたのは痛みよりも絶頂とすら呼べる官能的な感覚。感じれば感じるほど深みにハマっていく危うい悦び。
中毒者が薬を止められないのもきっとこんな感覚を味わっているからなのだろう……なら、止めれないのも仕方無いのかもしれない。
「気にいった?」
「……えぇ、とっても」
道路に転がっていた女性が、ゆっくりと起き上る。
ギンガと同じく腹部から血を流し、口の中を切ったのか唇の端からも出血を確認できる。
それを右の親指で拭い去り、薄い笑みを浮かべる。
「そういう激しいのは……結構好きよ?」
「奇遇ね? 私もよ……好きで好きでたまんないわ!」
地面を蹴り、ギンガが夜の廃墟を疾走する。
女性も笑みを狂気のそれに変え、正面から迎え討つ。
異形の雌二匹が、戦いという名の狂ったダンスを踊り始めた。
「ギン姉……遅いなぁ」
リビングのソファーに腰掛け、クッションを抱いたスバルは時計を見やって愚痴る。
姉が散歩に出掛けてすでに一時間以上。この辺を軽く回ってくるだけの散歩にしては遅すぎる。
一緒に入ろうと約束した風呂も、いい加減冷めてしまうではないか。
「そう言えば、ちょっと様子おかしかったし……なんかあったのかな?」
墓参りの帰りから、ギンガの様子はおかしかった。
時々何かを堪えるかのように体を震わせたり、見た事もないような鋭い目つきで外を睨んでいたりと明らかに普通ではない。
やはり昨日の一件で何かあったのではないだろうか……外で面倒な事に巻き込まれているのではないだろうかと不安になる。
「……ええい! 考えても仕方ない! 探しに行っちゃお!」
家で不安に駆られるよりもまず行動。
頭を切り替え、スバルはギンガを探しに家を出る。
たまに気の抜けた処を見せる姉の事だ。もしかしたら道に迷っていたり、公園でぼぉっとしているかもしれない。
「ん〜っとぉ……こっちかな?」
直観任せに姉の姿を探し、夜の街を走るスバル。
さっさと見つけてアイスを買って家に帰り、一緒にお風呂に入って一緒に寝よう。
せっかくの姉妹揃ってとれた休日なのだから一緒に寝たっていいだろう。
小さい頃は一緒のベットで、手を繋いで寝ていた事を思い出しながらスバルは夜の街を姉の姿求めて駆け抜ける。
支援 模造刃!
クローンブレイド支援。
「……そっか。ゲンヤさんとスバルには私から……うん。ありがとな、ユーノ君」
電気の消えたオフィスで、はやては暗い表情を浮かべて椅子に凭れかかった。
先ほどまで無限書庫の室長にして友人であるユーノ・スクライアと通信を交わし、頼んでいた調査の報告を聞いていた。
ギンガの右手首から離れないあのブレスレッドの画像から何か分からないかと。
丁度、手の空いていたらしいユーノが暇つぶしがてらに調べ上げた結果を先ほど受けたが……聞きたくなかったと、心底思う。
「とんでもないロストロギアだったんやな……アレ」
報告によれば、あのブレスレッドはロストロギアとして以前から管理局が追っていた物らしい。
どこで、誰が、何の為に作り出したのかは不明だが、とてつもない力を秘めている武器。
「……スバルとゲンヤさんになんて言えばええねん」
こんな調査結果になるなら、頼まなければ良かった。
はやては遅すぎる後悔をしながら、受け取った報告を思い返す。
ロストロギア名称はウィッチブレイド。
女性にしか装着できない武器。
その装着者に最強の力を与える変わりに、肉体と心を蝕む魔女の刃。
はやてが一番知りたかった、ギンガからそれを外す方法。
それもちゃんとあった。しかし、とても受け入れられる物では無い。
「神様って、意地悪なんやな」
今、目の前に神様がいるのならぶん殴ってやりたい。
そんな衝動に駆られる。どうしようもない自分に、死ぬほど腹が立つ。
八つ当たりに飲みかけのコーヒーを床にぶちまけて、はやては机に突っ伏した。
投下終了です。
夢境さんの支援SS読んだ後だっただけに書かなきゃ駄目だろうと思いまして。
一応言っておくと落とし穴はやりませんよ?w
うまく表現できたかわかりませんが、本作のギン姉はスバル依存症(?)です。
そして、今回ギン姉とバトルしてるのはアニメに出てきたクローンブレイドを装着している誰かです。
ヒントはナンバーズ。
正解した人には……何か考えときます(ぉぃ
では、本日はこれにて! 支援ありがとうございましたー。
GJです!
というかエロいなオイ!!
ギン姉が痴女になっちゃうよ!! やばいよ! いろんな意味でスバルにはトラウマだよ!!
相手のナンバーズは……ドゥーエさんかな?
GJ!
ギン姉がどんどん淫らになってくwww
素晴らしい!
しかし相手、髪が桃色ってことはセッテ? でも髪の色変わる場合もあるしのう。
189 :
一尉:2008/12/18(木) 13:57:48 ID:g0724Wkh
これでよろしいですか。
こんばんは皆さん。
この前予告を投下した者です。
作品タイトル名からとって、リリカルガウザーというコテにします。
この前は、僕が投下した作品のせいで騒ぎになってしまって申し訳ありません。
あんな状況を引き起こした元凶である自分が言うのも変ですが、リリカルガウザーのプロローグが出来ました。
三レスくらいの予定です。
投下していいですか?
許可は無いみたいですけど…挑戦するだけしてみたいので投下してみます。
リリカルガウザー プロローグ
「僕達は、虫けらじゃない!」
これは黒岩省吾がこの世界で他人から聞いた最後の言葉だった。
そしてそれはまだ背の伸びきっていない少年が言った、少年の父親を奪った自分への怒りを込めた言葉だった。
黒岩省吾、またの名をダークザイド最強の剣士・暗黒騎士ガウザーにとって、人間と言う生き物はちっぽけで愚かな、動物以下の種族でしかなかった。
常に私欲に塗れ、自分以外の他人を蹴落とし、愉悦と快楽ばかりを求め続ける。
現に自分の好敵手であった男は、そんな愚かな人間たちの本性を具現化し、自己中心的な最低の人間だった。
「こんな屑共が霊長類として世界に君臨し、我々ダークザイドがこそこそと人間共のラームを吸いながら社会の隅で生きていくしかないなど許せない。」
そう思ったからこそ黒岩は、人間社会征服の為に東京都知事となり、東京を国として独立させ、その皇帝に就任して弱い人間の淘汰と強い人間の選別を行おうとした。
まず東京を手始めに厳しい訓練を強制的に与え、身体能力が低く、訓練についていけない力の無い人々、をダークザイドの餌にして排除する。
そして残った強い人間達を奴隷とし、一生ダークザイドのために働き続ける労力として利用し、子供達にはダークザイド社会に適応するための教育を施す。
やがてはこれを世界中に広め、人間達は弱き者は滅び、強き者はダークザイドのために働き続けるダークザイドのための世界へと地球社会を変えようとしていた。
だが、その野望は好敵手であった光の戦士とその相方の緑色の戦士でもなく、自分が心の底から愛した女性でもなく、自分が見下していた人間の子供達だった。
子供達が投げた手榴弾の爆風が、子供達が撃った銃の弾が、自分の身から生気を奪っていった。
ここでガウザーに変身すれば助かったのかもしれないが、出来なかった。
「僕達は虫けらじゃない」
自分が見下している人間の中でも、もっとも弱い立場にいるはずの子供達が、いづれは世界を統べるであろう皇帝となる自分を恐れずに立ち向かってきた事に驚き、そんな子供達が持つ力に興味を持ったからだ。
「撃ってみろ…その銃でもう一度俺を撃ってみろ!」
子供達のリーダー格であった少年に向かって黒岩は言った。
もし自分が撃たれれば、新しい何かが分かるかもしれない。
図書館で覚えた付け焼刃の知識ではなく、何かもっと実のある何かが分かるかもしれない。
自分の死の果てに見える物が知りたかった。
皇帝になることよりずっと重要だと思った。
少年は銃を撃った。放たれた銃弾は黒岩の胸を貫いた。
だが後悔は無かった。
むしろ自分が…皇帝が死と引き換えに握ったモノの事を思えば、死など安いものだと思った。
黒岩は残った力を振り絞り、付近にあった沼の中まで歩くと、今なお憎悪に満ちた目で自分を見る少年に向けて、自分に新たなモノを見せてくれた少年への感謝を込め、自分が今まで覚えてきた中で一番のお気に入りである薀蓄を語ろうとした。
「知って…知っているか!?世界で始めての皇帝は…皇帝は…」
だが、虚しくも言葉は続かなかった。
力を使い果たした黒岩は、水面の上に倒れ、そのまま沼の中へゆっくりと沈んでいった。
:
冷たい沼の底へと沈んでいく中、黒岩は三人の人物の事を思い出していた。
一人はダークザイドの同士であり、自分の秘書であるユリカ。
黒岩を心から愛し、狂信的とも言えるほど黒岩に尽くしてくれた女
だが黒岩の表面的な強さだけを愛し、内面を分かってくれなかった哀れな女だ。
彼女は黒岩が向かうはずだった皇帝の王座の前で永遠に黒岩を待ち続けるだろう。
例え黒岩がもうこの世にいないことを知っても、何十年も何百年も、死んで骨となっても、永遠に黒岩を待ち続けるだろう。
いつか黒岩が王座に座り、皇帝となる姿を幻視しながら…
黒岩は初めて、この哀れな女に「すまない」と、心の中で謝った。
もう一人は涼村暁、またの名を自らの宿命のライバル・超光戦士シャンゼリオン。
この男と自分は水と油だった。
この男は学も無く、女好きで、毎日毎日楽しいことだけを求め続ける煩いだけの奴だった。
こんな男が自分の最大の障害になっていると思うと、頭から湯が出る思いだった。
だが、感じたのは不快感だけじゃなかった。
黒岩は暁を厄介に思うと同時に、どこかで彼と戦うことに生きがいのようなものを感じていたのだ。
そして、なぜ自分が彼に勝つ事が出来なかったのかも今なら分かる。
暁は最低な人間ではあったが、黒岩には無いものを持っていたからだ。
それは仲間だ。
彼には仲間がいたから、どんな辛い状況に陥っても立ち上がったし、たった一人でダークザイドと言う凶悪な敵たちと戦い続けることが出来た。
黒岩は以前彼が放った台詞をふと思い出した。
「てめぇらに俺のライバルである資格は無ぇ!!ぜってぇ許さねぇ!!」
暁の秘書・桐原るい(この時はまだ秘書ではなかったが)が暁のために作ってきてくれた弁当を闇魔人アイスラーに踏み潰されたとき、暁が黒岩・ガウザーと闇将軍ザンダー、闇貴族デスター、闇魔人アイスラーの四人に向かって叫んだ台詞だ。
彼は怒りを滾らせて戦い、四人を圧倒した。
このことからも、仲間が与える力と、そんな仲間を傷つける悪を憎む心が大きな力を与えることが分かる。
信頼できる仲間を持たず、一人で覇道を突き進もうとした黒岩が暁に勝てるはずが無かったのだ。
「(本当に…俺にお前のライバルである資格は無かったな)」
黒岩はこの時、暁という人間の大きさ、自分と言う物の小ささを理解した。
同時に、今ここで死ぬことに後悔はないが、できるなら彼に倒されたかったと心で思った。
最後は、自分が真に愛した女性、南エリ。
彼女と黒岩は恋人同士だった。
共に愛し合い、唇を交し合った仲だった。
黒岩がユリカではなく、エリを選んだのには理由があった。
エリは自分の内面をしっかりと見つめ、愛してくれた女だったからだ。
付け焼刃の知識を自慢し、他人を見下すことしか出来ない自分の脆さを理解してくれるエリを、黒岩は真剣に愛した。
だが、二人は人間とダークザイド、正義と悪という種族と立場の違いからお互いの仲を裂いた。
だが、彼女への未練は捨てることが出来なかった。
おそらく彼女もそうだろう。
だから自分の死は、自分のためにもエリのためにも、過去の束縛を断つために必要なことだと思えた。
「エリ…どうか…幸せに…」
黒岩は薄れ行く意識の中で、彼女の幸福を願い、瞼を閉じた。
∴
「う…ん?」
太陽の暖かさを肌で感じ、小鳥のさえずりを耳にし、黒岩は目を開けた。
彼の目の前には、青い空と輝く太陽、そして周囲には草花と何本かの木々が茂っていた。
「まさか、天国…なのか?…う!」
初めはここを極楽浄土かと思ったが、違うようだ。
服は濡れ、胸に銃弾の傷が残っている上に、上半身を起こそうとすると激痛が走る。
どうやら生きているらしい。
「まったく…我ながら丈夫なもんだ…」
起きることができないため、黒岩は寝たまま首を動かして周りを見回してみた。
どうやら自分が倒れているのはコンクリートの上のようだ。
木々の少し向こうには建物の壁と古風な作りの出入り口、出入り口から少し視線を上に移すと窓が見える。
建物がかなりの大きさのようであるため、おそらくここはどこかの施設の庭だろう。
だがなぜ自分はここにいる?それに自分は死んで沼に沈んだはずだ。それがなんでこんな庭園に?
黒岩が自分がここにいる理由を考えていると、「大丈夫ですか!?」という女性の声が聞こえた。
ほどなくして、桃色がかった赤い短い髪の、ローブを着た女性が黒岩の傍にやってきた。
「凄い血…大丈夫ですか!?しっかりしてください!立てますか!?」
「あ…あんたは…?」
黒岩はまだ知らなかった。
自分がこれから辿る数奇な運命を…
投下終了です。
皆さんの趣向に合うかどうかは分かりませんが、感想、批判貰えると嬉しいです。
私的にシャッハ達は、超光騎士のようなお助け要因として扱って行きたいと考えています(具体的な方法はまだ考えていませんが)
それにしても黒岩と少年の会話がこれで合っていたかどうか覚えていません…すみません。
GJ!
悪の弱さに気付いた男か……この先どうなるのか、気になりますね。
ところで、22時ごろから投下したいのですが、よろしいでしょうか?
前よりは期待できそうな感じになってきていると思う。
でも、具体的な部分を考えずに書き始めると後がきついんでは?
時間になりましたので、投下させていただきます。
以下注意事項
1.「SHADOWRUN 4th Edition」とのクロスです。
2.実にのんびりとしてます。アクションも何もないくらいに。
3.時系列は、Strikersの後です。
4.ゲストとしてですが、オリキャラが出ます。
5.タイトルは「Lyrical in the Shadow」。10レス+1です。
(>)どんなものにも、幕間は必要さ。
派手な事をやらかしたあとは、ほとぼりが冷めるまでおとなしくしないとな。
(>)フロッガー
(>)装備を整えたり、いろいろ習得したりと、やる事も多いしね。
もっとも、先立つものがないと、身体を売る羽目になっちゃうけど。
(>)マーファン
それでは、始まります。
あんたはわかってないんだ! こんな糞みたいな式をずーっと眺めてたって、呪文なんか覚えられるわけないじゃん? 数学のクラスに戻ったみたいだ。あたし数学は赤点だったんだよ。
―――フォックスアイズ、シャーマン
Lyrical in the Shadow
第2話「アウェイクンズ・マッドパーティー!」その1
〜日々は平穏に過ぎていく〜
この世界について、早2週間がたった。その間、救難信号は、「こちらの魔法使いに気付かれにくいように」とのアレンさんの提案から、不定期で短時間しか出していない。おかげで、今なおここにいるわけだが……
しかし、こちらでの生活を余儀なくされた以上、何もしないわけにはいかない。そのためには、この世界の事を知る必要があるため、私はアレンさんやフェイさんに、いろいろと教えてもらう事にした。
まず、この世界が「2070年の地球」だという事。そして、「私たちの地球」とは、僅かに――そして決定的に違う歴史を辿ったという事。
その1つが、身体に機械を埋め込む「サイバーウェア」や、薬品などで身体機能を向上させる「バイオウェア」と言った、身体改造技術。戦闘機人みたいに「機械に身体を合わせる」訳じゃないけど……なんでそんな事が必要なのか、わからない。
「失った機能の代わりに」ではなく、「よりよい機能のために」身体を改造するなんて、私には理解出来ない。
しかも、それだけに留まらず、遺伝子さえ改造する「ジーンウェア」と言うものも、実用化に向かっているそうだ。……倫理観と言うのは、何処に行ってしまったのだろうか?
さらに、戸籍番号とも言うべき、「システム登録番号」――通称「SIN」。これがないと、「書類上存在しない」事になり、違法なんだそうだ。つまり、今の私は、「存在していない人間」であり、「犯罪者」という事になる。……望むと望まざるとに関わらず。
SINがない、という事は、買い物でさえ困難になるそうだ。反面、政府や警察、企業からの監視がなくなると言うメリットがあるらしい。もっとも、そのメリットをまっとうに生かす方法が思いつかないが――少なくとも、私には。
そのSINをはじめ、免許や口座残高などの各種個人情報をまとめた、情報操作端末にして通信機器なのが「コムリンク」。あらゆる電子的なやり取りをこれでやるために、日常生活では無くてはならないらしい。
ちなみに、この二つについては、私たちの分をアレンさんが何とかしてくれるらしい。ありがたいんだけど……その方法については、深入りしない事にした。
地図も随分変わった。あの超大国アメリカは見る影もなく、「カナダ・アメリカ合衆国(UCAS)」として、辛うじてその名を残しているだけだそうだ。かと思えば、私の故郷である日本は「日本帝国」を名乗っている。呆れて物も言えない。
そして、「魔法」。アレンさんのような「ヘルメス様式」の魔法使い――所謂「メイジ」にとって、魔法と言うのは、「世界を構成する公式であり、化学式」だそうだ。その感覚は、私達に近いかもしれない。
ただ、その魔法を生み出す呪文は、「商品」としてお金にもなるらしい(なんと、著作権まであるそうだ)。そんな事、向こうでは考えた事もない。商魂逞しいと言うか、なんと言うか……私の理解を越えているのだけは事実だ。
アストラル界についても、教えてもらった。そこを感知する方法や、投射する方法も。でも、教えてもらう様式が違うせいか、なかなかうまくいかない。今のところ、何とか薄ぼんやりと感知できる、と言ったところだ。
魔法の「復活」(ここでは、そう言われているそうだ)と共に、伝説の中にいた者たちも帰ってきたそうだ。
フェイさんやランドールさんのような「オーク」や、黒ひげさんのような「ドワーフ」。他にも、「エルフ」や「トロール」などもいるらしい。ドラゴンもいる、と聞いたときは、さすがに驚いた。
もっとも、物理的、魔法的のみならず、政治的、経済的にもとんでもない力をもっているそうなので、「関わり合いにならないのが一番」だそうだ。でも……
ドラゴンが、変身魔法も使わないで会社の社長になってるってキャロやヴォルテールが知ったら、どう思うだろうか。気になって仕方がない。
それと……この2週間でもっとも理解した事。それは……
ここが、ヴィヴィオの教育上よろしくないという事。それも、ここにいる人たちが原因で……
ここの家主であるアレンさんは、まだ常識的なほうだ。問題があるとすれば、暇があるとお酒を飲もうとする事と……問題児に何もいわない事。既に、諦めの境地に入っているみたい。
で、問題児その1のフェイさん。アレンさんとチームを組んでいるので、ここに入り浸る事は問題ない……かもしれない。だけど……
ここにいる時間のほとんど全てをトリデオ(なんと、3Dのテレビだよ)にかじりついて、延々と香港アクション映画の鑑賞に費やすと言うのは、どうだろうか? しかも、目を輝かせてるし。
もっとも、事務所の掃除を率先してやっているところを見ると、まだましなのかもしれない。多分、「狂的なまでのガンアクション好き」と言うだけなのだろう。それだけでも十分だが……
それに輪をかけてひどいのが、問題児その2のランドールさんだ。と言うか、もはや「ひどい」というレベルじゃない気もする。
何せ、この2週間、ランドールさんが話しているところを見た事がない。と言うか、声そのものを聞いた事がない。しかも、やってることがあまりにも自堕落だ。
事務所に来て、部屋の片隅で寝転がっているだけ。たまに起き上がってくると、トイレに行くか、いつの間にか注文していた宅配ピザを食べるか。後はひたすら寝転がっている。
いったい何をしているのか。アレンさんによると、ネットゲームに興じているらしい……わざわざアレンさんの事務所まで来て。
今は、ここ、アレンさんの事務所兼自宅の部屋を借りているような状態だ。あまり大きな事は言えない。だけど……
ヴィヴィオが、この人たちの真似をしないように気を付けねば。そう心に誓った、高町なのは、19歳の晩秋でした。
「うぉ〜い、お届け物だよ〜」
そんな、微妙に胃が痛くなる日々を過ごしていたある日、フェイさんが小包をもって、事務所にやってきた。どうやら、アレンさん宛の小包らしい。
「さっきそこで『アレンに』って渡されたんだけど、何頼んだの?」
……と言うか、無茶苦茶怪しいと思うんですけど……そんなものを持ってきますか?
そんな事を思うが、当のアレンさんは、まったく意に介すこともなく、
「あぁ、頼んでおいた奴が来たんだろう」
と返す。そして、私たちの方を振り返り、その小包を渡した。
「……と言うわけで、ようやく、待望のコムリンクの到着だ。もちろん、SINのデータも入っているし、口座も作って、多少なりとも金も入れてある。
……言っておくが、安い買い物じゃなかったと言うことだけは、覚えておいてくれ」
「あ……ありがとうございます」
「ありがとうございます、アレンさん」
……随分と脅しが利いてます。ヴィヴィオは気付いてないみたいだけど。
とは言え、これについては、感謝するしかない。これで、ある程度の行動の自由が出来たのだから。
……やっぱり、お金って大切だよね。この2週間は、特にしみじみと感じたよ。
心の中で涙と共に感謝しながら、箱を開ける。そこに現れたのは、携帯電話を一回り小さくしたような機械が二つと、流星をイメージしたちょっと大きめのバレッタと、リボンのついた子供用のカチューシャが1つずつ。
「これが……」
「うわ〜、かわいいっ!」
ヴィヴィオは素直に喜んでいる。確かに、このカチューシャは可愛いと思う。だけど、これだと髪型変えないといけないかなぁ……
そう思いながら、ヴィヴィオにカチューシャを着けてあげる。とりあえず、髪を留めているリボンの位置に、飾りのリボンがくるように調節してあげる。……悪くは無いんだけどねぇ……
「にあう?」
「う〜ん……髪型変えたほうが、もっといいかもしれないね」
「むぅ……」と少しむくれるヴィヴィオを見ながら、自分もバレッタを着ける。こういうのならともかく、カチューシャみたいのだと、髪型から変えなきゃいけなくなるんだけど……
「へぇ〜、トロードにしたんだ」
「あぁ。余分な装備を付けれない分、そっちの方が安いからな」
……そんなフェイさんとアレンさんの会話が、私の顔を引きつらせた。ごめんなさい。いろいろと負担をかけてごめんなさい。
ちなみに、トロードと言うのは、脳と直接、超音波での信号のやり取りをする装置だそうだ。それがどう言うものかは……「着けてみればわかる」とはぐらかされたけど。
こういった出力機器は、アレンさんの片眼鏡や、フェイさんのコンタクトレンズのように、いろいろな形態があるみたい。中には、ランドールさんみたいに、コムリンクごと脳内に埋め込む人もいるとか……
なんにせよ、これでコムリンクを使う準備が出来た、と言うわけだ。早速起動してみると、視界の片隅に、空間モニターのようなウィンドウが現れ、メーカー名らしきものを映し出す。これが起動画面、と言うわけか。
それが終わると、そのまま日付やら時刻やらの情報が映るウィンドウを残し、何の変哲もない視界に……って……
「あの〜、この時計って、消えないんですか?」
[設定で消すことも出来るよ。やってあげようか]
「はにゃっ?!」
突然現れたランドールさんの顔に、間抜けな声を漏らしてしまった。もうちょっと、心の準備がほしいなぁ……
「あ……いえ、やり方だけ教えていただければ……」
……などと言ってるうちに、時計がなくなり、視界にあるのは、ランドールさんが映っているウィンドウだけになった。……え〜と……
「……こういうのって、持ち主以外の人がいじれるものなんですか?」
[まぁ、それが僕の仕事だしね]
「ハッカーが相手なんだから、諦めたほうがいいよ。アレンなんて、管理者権限すらあるのか怪しいし」
……それはそれでどうかと思います。って……
トニー社長よりはマシだよ。支援。
「ランドールさん、ハッカーだったんですか」
衝撃の事実に、思わず、ランドールさんの方を見……そういえば、
「……って、なんでランドールさんは、通信越しでしか話さないんですか?」
未だ寝転んだまま、身動き1つしていないランドールさんを見て、そう尋ねた。
そう、今聞いている声は、「前から」聞こえるのであって、「ランドールさんの方から」聞こえるわけではないのだ。つまり……ランドールさん、一言もしゃべってないです。
[まぁ、今はマトリクス――簡単に言うと、仮想現実で作られた、コンピュータネットワーク空間にいるからね。そこからチャットソフトで話してるから、仕方がないんだよ]
「……そういえば、ランドールの肉声聞いたのって、いつ以来だろう……?」
……え〜と……新手の引きこもり?
とは言え、そんな事を本人に聞くわけにもいかないし、フェイさんもどう言っていいのか悩んでるみたいだし。アレンさんは、いつの間にか、出かける準備をしているし。
……って……
「それじゃ、ちょっと打ち合わせに行ってくるわ」
[お土産よろしく〜]
「うまくいったらな」
ランドールさんの要求に、「期待するな」といわんばかりの返事を返し、恐らく仕事――彼らが言う「シャドウラン」の打ち合わせなのだろう。
そういえば、コムリンクとかSINとかで、随分と無理をしてもらってるんだった。申し訳ない気持ちになってくる。
何か、手伝えるといいんだけど……
「でも、この空間モニターって、触れないんだね」
そんなとりとめの無い思考を、ヴィヴィオの声が遮った。
[あぁ、それは視覚情報しかないからね。
って言うか、君たちの世界にも、似たようなものがあるんだ]
「えぇ。モニターとかキーボードとかを、何もない空間に出すことも出来るんです」
本当は、ちゃんと魔法陣を利用するんだけど、あまり間違ってないし、いいかな。2人とも、納得してくれたみたいだし。
[こっちでは『アロー(ARO)』――『強化現実オブジェクト』って言うけどね]
「アロー……ですか」
[そう。現実世界に情報をオーバーレイする『AR』――『強化現実』の中で、視覚情報を持ってる物の総称、と思えばいいかな。
このウィンドウみたいに、視覚情報しかない物もあるし、今ヴィヴィオにつけたみたいに、触覚情報をもつものもある]
「はい?」
何か今、すごく不穏当な発言があったような……そんな気がしたので、ヴィヴィオを見て見ると……
ネコ耳(+鈴リボン付尻尾)を着けたヴィヴィオがそこにいました。
……って……ぇええええぇっ!!
「まぁ、ヴィヴィオにもちゃんと見せとく?」
と言うが早いか、フェイさんはヴィヴィオに鏡を渡してしまう。
鏡の中の自分を見て、頭の上にあるネコ耳をぱふぱふと叩いて、腰から生えた尻尾を揺らして、ヴィヴィオは、自分に起きた事を理解した。
顔がほころんでいく。瞳が、喜びで輝いていく。そして、禁断の言葉を発してしまった。
「うわぁ〜、かわいいっ!」
嗚呼、何か大切な物を失わせてしまったようだ。私は、思わず涙を……
「なのはママッ、にあうっ?!」
「うん、とってもかわいいよ」
……私も、人として越えてはいけない一線を越えてしまったようです。嬉しそうに言っちゃだめでしょぉっ?!
嗚呼、でも……心の葛藤とは裏腹に、ヴィヴィオの頭を撫でてあげる。いつもの髪のさらさらした感触に加え、ネコ耳のふかふかした感触が……っ! 嬉しそうに揺れる尻尾に合わせ、涼やかな音を立てる鈴が……っ!
くっ……癖になりそうです……
「……って言うか、何であんなプログラムもってんのよ」
[備えあれば憂いなし、って言うでしょ]
「どんな備えよ、いったい……」
フェイさんとランドールさんの間で、そんなやり取りがあったそうですが、私には、完全に意識の彼方でした。
高町なのはとヴィヴィオがここに来て――正確に言うと、この世界に来て、2週間がたった。
その間、俺は、なのはがいた世界について、いろいろと訊く事が出来た。
まず、なのはが地球出身だという事。ただし、今俺たちがいる「地球」ではなく、別の「地球」――しかも、60年は昔の日本だと言うことだ。そこには、魔力をもつものなどほとんどおらず、なのは自身が「異常」なのだそうだ。
ヴィヴィオは「ミッドチルダ」と呼ばれる次元世界(なのは達はこう言うらしい)の出身だが、両親がいないので、なのはが養女として迎え入れたらしい。20にもなっていないそうだが、随分と思い切った事をしたものだ。
生活費とか養育費とかはどうするのか、と訊けば、ちゃんと仕事をしていると言う。
なのはが所属しているのは、「時空管理局」と言う、無数の次元世界の治安維持と司法を受け持つ組織。その中でも、教導隊員だと言うから驚きだ。
言ってしまえば、エースの一人だ。ヴィヴィオが言うには、「エース・オブ・エース」と言われているらしい。どんだけ強いんだよ……
まぁ、ローンスターを辞めざるを得なかった俺からすれば、うらやましい限りだ。俺のように、「見なくていい物」を見ないように、祈るしかない。
それと、ミッドチルダでは魔法技術が発展しており、武器に至っては、ほぼ全てが魔力を使うだそうだ。魔力を使わないものは、拳銃でさえ、そう簡単には許可がおり無いらしい(フェイが悲鳴をあげたのは、言うまでも無い)。
サイバーウェアなんかも、義肢程度のものならともかく、身体能力を向上させるような物は無いらしい。そんな状態で、治安維持を行わねばならんのか……マンデイン(魔力を持たない者)達の悲鳴が聞こえる気がする。
そんな世界でエース・オブ・エースなんて呼ばれているわけだから、当然なのはも魔法使い。何でも、「ミッドチルダ式」と呼ばれる、魔力を使ってさまざまな効果を発生させる様式らしいが……そりゃ、普通じゃないのか?
まぁ、そういうのが苦手な様式もあるそうだから、向こうじゃそんなもんなんだろう。あまり細かく突っ込んでも、教えてくれそうに無かったし。
あと、魔法と言っても、彼女たちにとっては、プログラムの一種らしい。こいつについては、公式として考える俺達メイジに感覚は近いのかもしれない。
それにあの謎の宝石――レイジングハート。何でも、「デバイス」と言う魔法の補助をしてくれるものだそうだ。こっちで言うところの「収束具(フォーカス)」と言ったところか。
しかし、レイジングハートのようなAIをもつデバイス――インテリジェント・デバイスだと、呪文の維持や魔力の増加だけでなく、勝手に防御魔法を使ってくれると言うのだから……理解の限界を越えた何かだという事はわかった。
もっとも、魔力の増加については、「カードリッジ」と呼ばれる、弾薬のようなものが必要だというのだから、今ひとつ、万能と言うわけではなさそうだ。
しかし……あの不恰好なマガジンがそれだったとはなぁ……おかげで、レイジングハートから
『It cannot be thought the expression to a lady』
なんていわれるし、フェイからは
「AIに呆れられるなんて、すごいね」
なんて賞賛(?)を受けるし……
って言うか、何でそこまで言われなきゃならんのだ、俺?
なぜか孤独を感じながらも、とりあえずやらねばならないことも理解した。
まずは、彼女達がこっちで生活するために必要なものをそろえることだ。服やらなんやらはフェイに任せるとして、偽造SINは、さすがにフィクサーを頼るしかない。ついでに、コムリンクも一緒に、だ。
とりあえず、住居については、俺のアパートの空き部屋で我慢してもらおう。レイチェルに頼む、というのも考えたが……あっちも「企業側」の人間だ。彼女なら、非人間的な扱いはしないだろうが、周りまでは保障出来ない。
あとは、魔法を極力使わせないこと。目立たれても困るのだ。いろいろと。
ちなみに……「オークの女を引っ張り込んでいる」「オークの男を引っ張り込んでいる」という評判に加えて、「日本人の母娘を引っ張り込んでいる」という評判が加わったのだが……
……泣いていいよな?
しえーん
ここしばらくは、ニュースを確認する事が日課になっていた。それも、地元の話題からゴシップ関係の物まで、手広く確認するのだから、面倒と言えば面倒だ。
だが、俺達の仕事としては、大事にしてしまったのだから、その経過を調べないと、おちおち次の仕事を引き受けるわけにはいかない。
まぁ……レイチェルに確認はとったとは言え、さすがに、「家に車を突っ込ませて炎上させる」というのは、過激だったかもしれない。
とは言え、さすがはビッグテン(10大メガコーポ)の一角を占める三浜の敷地内での出来事。数日のうちに、この話題は無くなってしまった。
元は向こうのミスなのだからこそ、そこまで手を回してもらえた、とも言えるが。
なんにせよ、必要なものの値段が値段だけに、財布の中身が寂しい限りだ。もうそろそろ、一仕事しておきたいのだが……
「うぉ〜い、お届け物だよ〜」
と、小包を抱えてフェイがきたのは、そんな事を切実に感じていたときだった。
「さっきそこで『アレンに』って渡されたんだけど、何頼んだの?」
あの野郎、ちゃっかりサボりやがって。
まぁ、必要な物が来たのだから、良いとしよう。それに、2週間で用意してきた事については、感謝するしかない。その分、飛んでいったものも大きいが……
「あぁ、頼んでおいた奴が来たんだろう」
偽造SINとシム・モジュール装備型のコムリンク、それに、トロードを各2セット。それを早急に。
はっきりいえば、無茶もいいところだ。こんな注文、よく受けたと思う。まぁ、発注したのは、俺なんだが……
「……と言うわけで、ようやく、待望のコムリンクの到着だ。もちろん、SINのデータも入っているし、口座も作って、多少なりとも金も入れてある。
……言っておくが、安い買い物じゃなかったと言うことだけは、覚えておいてくれ」
……実際、レイチェルの援助がなければ、身体を売る必要さえあった額だ。五臓六腑ばら売りセールを敢行しなくてすんだのは、まさしく、レイチェルのおかげだ。おかげで、しばらくは頭が上がらんのだが……
「あ……ありがとうございます」
「ありがとうございます、アレンさん」
無邪気に感謝するヴィヴィオとは違い、なのははさすがに何かを感じ取ったようだ。まぁ、子供の前でするような話ではないし、そもそも、恩着せがましくいう気もない。ただ、にじみ出てしまうだけだ。
「これが……」
「うわ〜、かわいいっ!」
箱の中身を見ての最初の感想が、それだった。注文したとは言え、俺も見るのは初めてだ。果たして、どんな物を送ってきたのか、と期待してしまう。特にトロードは、様々な種類があるから、どんな物を選んできたのかと興味がある。
見れば、流星を模した髪留めと、子供用のカチューシャ。なるほど、センスは悪くないようだ。
「にあう?」
「う〜ん……髪型変えたほうが、もっといいかもしれないね」
早速トロードを着けて、きゃいきゃいやってるのを横目で見ながら、フェイが話しかけてきた。
「へぇ〜、トロードにしたんだ」
「あぁ。余分な装備を付けれない分、そっちの方が安いからな」
視覚情報しかないアローだけなら、眼鏡やコンタクトレンズという手段もあった。日本人だから、眼鏡をかけてても問題はないだろうし。……っと、これは偏見か?
だが、他の情報――特に触覚情報となると、さらに装備が必要になる。それなら、シム・モジュールでコンピュータの信号を神経信号に変換し、トロードで直接神経に送り込んだほうが、随分と安上がりだ。
もちろん、欠点もある。その最大の物が、電子的な視覚強化が行えない――つまりは、暗かろうが眩しかろうが、補正してくれるものがない、ということだ。
いざというときには問題になるが、その「いざ」というときなど、ランナーでもなければ、そうそうある物ではない。ならば……ということで、この選択をした、というわけだ。
あとはまぁ、気に入ってくれるかどうか、だが、それに関しては、問題なかったようだ。ほっと一安心。
と、そんな時にコールがなる。件のフィクサーから、電話が来たようだ。
『Hoi, chummer. お届け物は届いたかい?』
「あぁ、今、それで騒いでるところだ」
まったく、計ったようなタイミングだな。
『しかし、随分と思い切った買い物をしたな。そんなに羽振りが良いとは思わなかったぜ』
おいおい……
「おかげで残高はほぼ0だがな」
というか、むしろマイナスだ。まったく、情けのない話だが。
『そいつはよかった。ちょうどお前さん向きのビズがあるんだが、どうだ? 伸るか反るか、今すぐ決めてくれ』
……なるほど、そのためにこのタイミング、と言うわけか。
「生憎、財布の中身が友達を欲しがっててね。断れそうもない」
もっとも、そのまままたどこかに旅立ってしまいそうだが。
『後悔するなよ』
「後悔はするものだ。
で? 仕事の中身は?」
『何、ちょっとした人探しだ。まぁ、時間は掛かるだろうが、見入りは悪くないだろう。
いつもの『アイアンフィスト・グリル』に待たせてある。可及的速やかに頼むぜ』
「あぁ、分かった。早速向かうよ」
電話を切って、ちらりと振り返れば、まだきゃいきゃいやっているようだ。そんな騒がしさをBGMに死ながら、愛用の防弾コートを羽織る。
「それじゃ、ちょっと打ち合わせに行ってくるわ」
未だ騒いでいる連中に向かって、とりあえず呼びかけておく。どうせ、返事はないだろう、と思っていたが……
[お土産よろしく〜]
……なんとも味気ない見送りだ。
「うまくいったらな」
もはや、何度切ったか分からない空手形を、今回も切りながら、俺はその場を後にした。
打ち合わせの場所に来て見れば、すでに話が通っていたのだろう、日本人らしき男が、軽く手をあげて挨拶をしてきた。
きっちりしたスーツに、貼り付けたような笑顔。いかにも社畜(サラリーマン)然とした男だが、たった一つの特徴が、その全てを打ち壊した。
両目を真一文字に切り裂いたかのような刀傷。それが全てを打ち壊している。
そして、もう1つの違和感。それは、この男がたった1人だということ。つまり、護衛も無しに、ランナーとの打ち合わせに来ている、ということだ。
恐らく、見た目どおりの男ではあるまい。そう肝に銘じ、声をかける。
「ミスター、あなたが依頼を?」
相手は、こちらの問いかけに軽くうなずき、
「えぇ。その通りです。アレン・ブラッカイヤーさん。
あなたの友人から聞いていますよ。他はともかく、探す事だけはそこそこ出来る、と」
……あの野郎、どういうい紹介をしやがった……
「申し遅れました。私は……そうですね、『刃衛』と申します。以後お見知りおきを」
……おいおい……
「……ミスター、こういうのは初めてかい?」
「はて、何かおかしな事でも?」
心底不思議そうに尋ねてくる。そんな様子に、小さくため息をついてしまう。
「何、いくら通り名でも、ランナー相手に名乗るミスター・ジョンソン(企業代理人)っていうのは、まず、いないからな」
「『まず、いない』というのは、『まったくいない』というわけではありますまい?
それに、これには重要な理由もあるのです」
理由……ねぇ。
「まずは、こちらの依頼を述べてもいいですかな?」
こちらが理由を予想するのを遮るかのように、刃衛さんは話し始めた。
依頼そのものは、単純なものだった。会社のデータを持ち出して出奔した2人組を探し出して、データ共々確保する。それだけだ。だが……
「これ以上の情報は、引き受けてくださった後で。あと、私から言える事は……
報酬は、1人につき1万新円。もちろん、捕獲対象ではなく、あなたのチームの1人につき、です」
鵜堂さん?支援。
この報酬に、俺は、口に含んだコーヒーを噴き出しかけた。むせて咳き込むのをこらえながら、何とか声を出す。
「ちょ……ちょっと待ってくれ、ミスター。その報酬は、その……破格過ぎないか?」
そう、その額は、半年近くは生活できるほどだ。いくらなんでも、そんな額を……
そんな怪訝そうな顔に気付いたのか、刃衛さんは軽く微笑みながら続けた。
「もちろん、仕事を完遂した場合のみ、です。それと、期間は一週間と、内容の割には少々短期ですので、それを考慮した額になっています。
なお、前金2、成功報酬8、という事になります。もっとも、状況によっては減額する事もありますので、ご了承いただきたい」
……それでも、あまりに高すぎる。何か裏があるのではないか、と勘繰ってしまうほどに。
[……アレン、どうするんだい?]
ランドールからの通信。チャットソフトを使った電子音声のはずなのに、そこには警戒の色が見て取れた。
「不審に思われるのも仕方がない事ですが、こちらとしては、人物もデータも、それだけ重要なものである、ということです。それ故のこの額だ、と認識していただければ、幸いです」
突然割り込んできたランドールにも動ぜず、刃衛さんは説明を追加した。
しかし、そうなると……
「つまり、それだけの危険もある、ということですか」
「そう思っていただいても結構です。もっとも、最大の敵は『時間』だと思われますが」
そう薄く笑う。なんともいやな笑い方だ。即決を求める事だけは分かったが、それでもやはり、訊いておきたい事はある。
「最後に1つだけ。あなたは何処から来たのですか?」
あまりに直接的過ぎる問いかけだ。だが、時間がないと言っている以上、下手に遠まわしな言い方をするより、答えてくれそうな気はする。
「……今はお答え出来ません。請けて頂けるのでしたら、言わざるを得ませんが」
……なんとも、徹底しているな。こうなっては、これ以上は無理か……
はっきり言ってしまえば、これはかなりヤバそうな仕事だ。大体、あまりに気前のいい仕事は、それだけ危険が多い。
とは言え……やる事は人探し。それにデータが付いてきているが、売却済みとなれば、こちらの手からは離れる。しかも、肝心の人探しさえ、シアトル限定ときた。
そうなると、この額は恐らく、口止め料と考えたほうがいいか。物によっては、口封じの可能性もあるから、危険である事に変わりはない。
これが、懐が暖かいときなら、こんなヤバそうな仕事なんて、そう悩みもせずに断るところだが……今の状況が恨めしい。
しかし……そういった危険が予想出来るなら、対処も出来る。そこに賭けるか……
「……分かりました。引き受けましょう」
どこか諦めに似たものを滲ませながら、俺はそう答えた。
だが、俺は1つ、とんでもない事を忘れていた。
俺はなぜか、幸運の星から見放されている、という事を……
以上です。
しかし、ヴィヴィオの髪型、本当にどうしましょうねぇ……あのままだと、カチューシャはあいそうにないんですよねぇ。
ちなみに、刃衛さん、データから自作という、いろいろとギリギリのキャラです。出してしまったけど……よかったのでしょうかね?
それはともかく、著作権ネタ、盛り上がってるなぁ……出遅れた感じがして、ちょっとさびしい。
>209
「刃衛」……どこかで聞いた名前だと思ったら……
最近読み直したばかりだと言うのに、忘れてました。ごめんなさい、鵜堂さん。
それでは、また。
(>)魔法式は魔力がなくても組めるからな。著作権者がマンデインだった、って言うのは、それなりにある事例だ。
もっとも、実践出来ないから、魔法式を作ったら、契約した魔法使いに試してもらうらしいが。
そのせいか、たまに変な魔法が出てくる。例えば……エステのための魔法とかな。
(>)ウィンターホーク
GJ!
こっちの世界のことがよく分かって良かったです。
カアザーがクラウザーに見えて
DMCのことかと思った。
214 :
一尉:2008/12/19(金) 14:35:02 ID:oJ3gk37g
マサーが変形したよ。
投下予約とかありませんか?
無いなら投下したいんですけど……
今のところないようです。
じゃあ投下始めます。
誤字、脱字があるかも知れませんが、どうか脳内補管でよろしくお願いします。
──あの時は、間違いなく死んだと思った……
薄い暗闇に包み込まれた部屋で、影が蠢いた。
影はその独特の体躯をせわしなく動かせて、死んだように横たわる黒みをおびたパイプ
や、無理矢理引き伸ばした血溜りを連想させるコード、惚けたように天井を眺め続けるく
すんだ銀色の機械、等に埋め尽された部屋のあちこちを行き来していた。その部屋の中心
には、闇に薄暗く着色された壁に淡い光を投げ掛ける円筒状の機械が直立していた。
ふと、影が立ち止まって光を見据えた。
──これに、あんな力があるとは思わなかった……
影は、愛しむようにそれを見つめ続け、思い出したように溜息を吐いた。
綺麗だ。
それが影の感想だった。今まで見てきたあらゆる技術と一線を画す美貌を持つ光は、影
の心を完全に虜にしていたが、惹かれたのはその美しさにではなかった。
いきなり影は顔を顰めた。嫌なものを思い出した、と言わんばかりの顔で、自分の脳裏
に映像を結んだ。影は光の先にある何かを睨みつけるように渋面を作り、先程まで平静そ
のものだった胸中はどす黒いもので掻き乱されている。
関係ない人間全員をを船ごと爆破した男。
反抗を企て勇敢に戦う同志を悉く殲滅した男。
そして……
影の表情には一層皺が増え、胸中の思いそのものをはっきりと表した。
自分の緻密かつ周到な計画をぶち壊し、逃げる背中を躊躇なく撃ち抜こうとした男。
そこまで思考を進めた影の顔が、いきなり穏やかなものとなった。眼前の光をより愛し
く見つめ、鎮座する円筒を撫でた。
変わらず部屋を照らす光は、背中から迫る自分が最も嫌う物質の奔流を防ぎ、一挙に転
送らしき処理をして主を守ったのだった。そのことに影は心から驚嘆し、感謝した。この
光が、自分が今まで調べてきたどんな技術よりも頑強で、精悍で、信頼に値することが分
かったからだった。
それ以来、影はこの光に関する研究を続けていた。その姿は、まるで意中の女性を理解
しようとする若い男のようにも見えた。
──とにかく、今はこの光のエネルギーのことを調べよう……
影が背を向けて、またせわしなく動き出した。
それ故、影は気付かなかった。円筒の中で光が大きく揺れたことに。
光が刻むダンスは悲しむように、だが何処となく嗤っているように見えた。
それは誰も知らない、暗黒の彼方の出来事だった。
「研修……ですか?」
「そうだよ。経験を積むことは大事だからね〜」
エイミィ・リミエッタは、応接室のソファから腰を浮かしてそう言うと、合成繊維製の
腕章を、目の前できょとんとする金髪と茶髪の少女にそれぞれ手渡した。
「あの……、具体的には何をするんですか?」
高町なのはは、三色ラインが入った腕章をおずおずと右腕に通しながら言った。白を基
調とした武装局員士官候補生の制服が目に眩しい。
「そんなに構えなくても大丈夫だよ」エイミィは笑顔を浮かべて宥めるように言った。
「多分、やるのは簡単な書類仕事ぐらいだから」
私もそうだったしね、と付け足した執務官補佐兼管制官に、なのはとは対照的な黒色の
執務官候補生制服に身を包んだフェイト・T・ハラオウンが尋ねた。
「期間はどれくらいなの?」
「今から二週間。その間、二人はこの艦のクルーとして扱われるけど、皆知ってる人だ
から大丈夫だよ。」
心配しないでね、と言って空間モニターを呼び出し、指を動かして操作した。
すると、顔を向かい合わせていた二人の目の前に冊子状の文書ファイルが現れた。
「それ、読んでおいてね。あたし、ちょっと行く所あるから」
そう言うと、エイミィは応接室のドアを開けて、さっさと出ていってしまった。呆気に
とられた二人はただ、言われた通りに書類を読み始めるしかなかった。
「二人にはとりあえず、書類整理をお願いしてね」
柔和な笑みを浮かべながら、リンディ・ハラオウンは空間モニター越しに言った。はい
、と返事をした自分の部下の顔がモニターと共に消え、先程まで目を滑らしていた今回の
研修についての書類が視界に戻ってくる。
「いきなりですね。彼女達の研修」
「確かにね。」
艦長席の隣に立つクロノ・ハラウオンが呟くような声を聞き、リンディは振り向きもせ
ずに緑茶を啜った。
「大方、上の意向でしょうけどね。」
「何故?」
「さぁ?分からないわ」
漆黒のバリアジャケットを着た執務官が諦めたように溜息を吐いたが、緑髪の女艦長は
何食わぬ顔で続けた。
「まぁ、彼女達のことだから、問題は起こさないでしょうし…。大丈夫よ。ちょっとや
そっとでは折れないわ」
クロノは何か言いたそうに口を開いていたが、嫌なものを見た表情をして黙ってしまった。やけに疲れた表情だった。
──駄目だ…臨界点を突破した……
常ならば薄暗い部屋に、光が撒き散らされていた。それはひどく暴力的で粗雑なものだ
ったが、佇んでいる影には、部屋を刺す光にそこはかとない拒絶の意思を感じた。
「結局、この光については何も分からなかったな……」
彼は諦感を顔に滲ませながら自嘲気味に言った。焦る時期はとうに過ぎていた。打つべ
き手は全て打ったのだ。
──光を調べようとしたことが間違いだったのかもしれない。或いは何らかの外部的要因が──
やめろ。カタは付いたんだ。影はしぶとく論理的に考えようとする思考を止めようとした。一度は助けられた光に自分が消されようとしている。それが事実なのだ。
──まるで奇跡だった……次元の違いすら感じた……
今だに生きている思考は、光に対する率直な思いを打ち明け続けていた。その間、影はうんざりしたような顔で黙っていた。
──どんな願いでも叶える存在……魔法……そう、魔法のようだった……
魔法か……。影はつまらなそうに言った。
既に光は自身の視界を白色に塗り潰し、今まさに、蓄えたエネルギーを爆発力として放出しようとしていた。仮に逃げても、数秒後には完全に気体になる未来はねじ曲げられないだろう。
「…なら、どうにかして欲しかったよ。あの男を、ウルト──」
次の言葉は出てこなかった。その時、既に膨大な力は外界に解き放たれていたからである。
力は円状に広がり、空間を振動させた。その時、奇妙な紋章が力の中心地点にあること
を垣間見たものがいたかどうかは定かではない。
衝撃は何の前触れもなく起きた。
床から鋭く突き上げたそれは、艦内で多くの両足を掬い取ったに違いあるまい。
だがそれだけではなかった。少しずつ視界が暗くなり、体から力が抜けていくように感
じた。方向感覚が狂い、天井と地面が断続的に入れ替わる。得体の知れない恐怖に襲われ
たなのはとフェイトは、整理した書類を放り出し、無意識の内に両膝を抱えてその間に顔
を埋めようとしていた。不思議なことに、その光景は艦の至る所でも見られた。誰も彼も
が同じ奇妙な姿で硬直し、彼女らの乗る艦もまた、光を恐れて暗がりを求める動物のよう
に次元の海をのろのろと進んで行った。
帰ってきたウルトラマン×魔法少女リリカルなのは
第一話 侵犯
事務用デスクの前で蹲っていたなのはは、自分に何かを強要していたものが、徐々に消
えていくように感じた。自分が両膝をしっかりと抱き、胸をその膝に苦しい程押し付けて
いると知覚した時、全身の硬直が解け、深く息を吐き出した。ゆっくりと目を開いたが、
視界は一向に明瞭にならなかった。
──電気が消えてるのかな……
今だに霞掛っている思考をフル回転させ、何が起こったのかを理解しようとしたが、全
く検討が付かなかった。体を起こした時に体のあちこちの筋肉が伸びる感じでは随分長く
そうしていた筈なのだが、記憶は一瞬で途切れていた。妙な感じだった。
突然、はっとした表情になったなのはは辺りを見回して親友の姿を捕えた。先程の自分
と同じ奇妙な格好をしているフェイトの肩を揺り動かし、呼び掛ける。
「フェイトちゃん!起きて!フェイトちゃん!」
すると、これまた自分と同じ動作をして身を起こしたフェイトは、眠そうな目を擦りな
がら大丈夫と言った。安堵するなのはを見て罪悪感を感じたのか、困ったように眉をハの
字にしていたが、薄暗い室内が弱々しい赤色の非常灯で申し訳程度に照らされているのに
気付いたのか、凛々しい声で質問した。
「なのは、何が起こったの?」
「分からないよ……。わたしが起きた時にはもう、こうなってたから……」
不安そうに答えたなのはだったが、次の言葉は彼女に内在する力に満ちたものだった。
「ここにいつまでもいたら何も変わらないよ。行動しなくちゃ」
彼女はこういう人間だった。常に前向きに考えて行動する、強い意志を持った人間だった。
わかった、と答えたフェイトは艦橋に行くことを提案した。艦の中枢とも言える場所な
ら少なくとも何が起こったかぐらいは分かるだろう。
大きく頷くことで了承の意を表したなのはは、事務室のノブを捻った。かちゃりと金属
の触れ合う音が通路に木霊したことに僅かな戸惑いを覚えた。
通路は事務室と同じ非常灯によって一定の間隔で照らされていたが、長く続いている為
に灯りが届かない部分がより強調されていて、全体的に暗い印象を受けた。
二人はドアを閉め、艦橋に向かって駆け出したが、足を動かす毎に得体の知れない圧迫
感を感じていた。静か過ぎるのだ。まるで時間が止まってしまったかのような完璧な静寂
は耳を刺激し、心を蝕んでいく。
今の二人には赤色の非常灯と黒色の闇が不吉なものに思えた。
艦橋の扉を開くと、不可解なことに先程の自分達と同じ格好で艦橋内の人間が全員倒れ
ている光景が視界に飛び込んできた。手分けして肩を揺すり、起こして回っていくとフェ
イトはあることに気付いた。艦長席の横で目を開いたクロノの質問がそれと結び付いたからであった。
「艦長は……何処に行ったんだ?」
「えっ…。クロノは知らないの?」
「いや、僕が気絶する前から艦長席に座ってた筈なんだが……」
強かに打ち付けたらしい頭を押さえ、姿の見えない艦内最高責任者の痕跡を見つけよう
としたクロノだったが、もう一人の少女の声にその行動は中断された。
「クロノくん、フェイトちゃん、みんな!モニターを!」
頭を上げて艦橋の前方に浮かぶ空間モニターを見た艦橋の全員が一瞬にして固まった。
毒々しい程、清々しい映像だった。
前方に広がる緑は強靭な生命力を想起させる木々が林立していた。その向こうにはやや
低い起伏が青み掛った緑に覆われているのが見えた。モニターの上辺に視線を移すと、何
処までも続くような雲ひとつない青空が天球を包み込んでいて、太陽の光が万偏なく降り
注いでいるのが分かった。
クロノ、艦橋内のクルーは総じてぽかんと口を開けていた。
「……何処だ…ここは……」
共通の疑問文が艦橋の天井に付きそうな位、数多く浮かび漂っていった。こうして艦の
中枢部は再び静寂に支配されたのだった。
空は澄み渡っていて視界は無限大。穏やかな風が吹き、既に葉を付けた深緑が揺れてい
る早春の日は、いつもよりも気温が高くて気分も晴れやかになる。そんな日だった。
「いい天気だなぁ」
独りごちた男はキャノピの外に広がる蒼穹を見上げた。太陽光が大気圏を突き抜け、地
表をやわらかく照らしているのが感じられた。男は満足そうに唇を上げ、第三者が聞けば
無責任ともとられかねない言葉を水鏡のように穏やかな心中に響かせていた。
だが、
「……!」
頭の中に鋭い何かが触れたように感じた。急いで周囲を見渡し、耳をすませるが、小刻
みに揺れる座席と機体外から響くエンジンの叫声以外には何も知覚することが出来なかった。
男が眉を顰めていつの間にか前に乗り出した姿勢を直した時、僅かな電子音が鼓膜に響
いた。右手でヘルメットからマイクを引き出してシステムを入れ、通信を接続する。
男は答えた。
「はい。こちらMATアロー1号、郷です」
MATとは、Monster.Attack.Teamの略称である。国際平和機構の地球防衛組織に所属し、
本部をニューヨーク、支部を世界各地に置いている。その内、MAT日本支部は国家組織「
地球防衛庁」に属し、東京湾海底に基地を構えている。
彼らの使命は、人々の自由を脅かす者と命を懸けて戦うことにあった。
「宇宙船?」
無線の向こう側から聞こえる音声にはしばしばノイズが乗っていたが、通信を行なうの
に支障はなかった。
<<ええ、午前11時27分。遠見市北、瀬礼州地区で宇宙船らしき物体が発見されたとの報告
が入りました>>
事務的な口調で淡々と情報を告げる声に耳を傾けながら、郷秀樹は先程の謎の感覚より
も幾分鈍いものの、体中に纏わりつくような感触を頭の端で得ていた。
<<郷隊員はパトロールを中断。ただちに現場に急行して下さい>>
「了解」
短く答えて操縦悍を傾ける。スロットルバーを前に押し出し、出力を上げた。
耳を劈く爆音を空間に撒き散らすアロー1号は、まるで電車に弾かれた小石のように大
気を切り裂いて進み、青い空へ吸い込まれていった。
強い太陽光を反射してちかちかと白く瞬く船体に反して、艦内の状況は最悪だった。
まず、艦内乗組員の3割が軽傷を負っていた。これは全乗組員が意識を失う前に起こっ
た唐突な衝撃によるものと推測されたが、詳しいことはよく分かっていない。
次に、各種レーダー、探知機、及びシステムの7割が中破。これには艦の電子機器担当
の管制官も頭を抱えていたが、今は全力でその復旧を行なっている。
だが、その作業を大幅に遅延させる要因があった。
「エンジンが動かないと、どうしようもないよね……」
<<うん……>>
染め抜かれた青に白色のスカートが静かに舞い、空に一点の刺繍を縫い付けていた。見
下ろすパノラマには緑が広がり、同色の起伏の向こうには灰色の波が押し寄せているのが
わかる。
アースラ上空で空中警戒の任をまかされたなのは、フェイトの二人は今だに回復の兆し
が見えないらしい艦機能に不安を抱きながら、取り留めのない話をしていた。本来ならば
艦付きの常勤武装局員が行なうべきなのだが、前述の負傷した乗組員がそれに集中してい
た為、有能なインテリジェントデバイスと、それを巧みに扱う魔導士である二人が選抜さ
れたのだった。
彼女らは生き残ったレーダーの死角を埋めるかたちで空中警戒を行なっているが、最低
限の注意は受けているだけで、実戦に即した局地的警戒任務に関しては素人同然だった。
「……けど、大丈夫だよ」なのはは努めて明るい調子で言った。「クロノくんもエイミィ
さんも、アースラのみんなが頑張ってるんだから、きっとすぐ直しちゃうよ」
<<……そう、だね。…うん、きっとそうだ>>
フェイトの顔が綻ぶのがなんとなくわかる。今は効率的な警戒の為に別々の場所にいる
が、念話越しの彼女の声は先程よりも幾分、力強いものとなっていた。
なのはは満足そうな微笑を浮かべながら顔を上げ、地平線の彼方を見つめた。
「?」
視界の中心に黒い点が浮かんでいる。目を擦って凝視するが、黒点は消えるどころか徐
々に大きくなっているような気さえする。
得体の知れない何かが近付いている。親友が自分の安否を問う声以外の何かが、遠くか
ら耳に張り付こうとしているのがわかった。
紛れもない音。なんということのない日常の中で何度か聞いたそれが、何故か怪物の雄
叫びのように思えた。
それは──甲高い轟音。飛行機械の咆哮だった。
──くそっ…何故無線が通じないんだ?
ヘルメット内蔵の小型無線通信機は機体内に配置してある大出力通信機と既にリンクし
ていたが、耳に聞こえるのは体に悪そうなノイズだけだった。郷は今の状況をすぐにでも
MAT本部に伝えたかった。
視線を滑らせて右主翼の先を『飛んでいる少女』を見遣る。
──酷く若い。下手すると、次郎君よりも幼いかもしれないな…
身長は小さく、手足もまだ伸びきっていない印象を受ける体駆だった。人間ならちょう
ど小学生だろう。だが、郷が最も注意を向けていたのは細い首の上に乗っている頭──と
りわけ、顔だった。
「目が大きい……」
耳よりも大きい瞳、それを内包する瞼。ぱっちり、という言葉では描写仕切れない程肥
大化した目は、普通の人間とは明らかに違う箇所だった。それ以外が人間に近い分、際立
って印象に残ってしまう。
その硝子細工の様な目が機体右だけでなく左からも──則ち機体両方向から向けられて
いる。監視しているらしく、視線は固定されたままだった。
機体は、先程から操縦悍を傾けているにも関わらず全く動かなかった。
原因不明の操縦、通信不能に謎の少女の出現。それが郷を取り巻く現状だった。
すいません……。
どうやらさるさんに引っ掛かったらしいです……。
sien
何というアニメ顔支援
「あれ?エイミィさん何処にいたんですか?探してましたよ?みんなが」
「ん〜……。ちょっとね……」
歯切れの悪い返事をしたエイミィは言葉少なにコンソール前の席に座った。艦内の非常
灯は既に消され、備蓄電源による予備電灯が次元航行部隊の制服を薄暗い艦橋に浮かび上
がらせている。
「なのはちゃんから報告はあった?」
「え?ぁ、いえ、まだありませんが……」
出し抜けに発せられた質問に若い管制官はしどろもどろになりかけながら答えたが、エ
イミィは表情ひとつ変えずに口を動かした。
「なら不味いね。艦の前方750に巨大な生物反応があるから」
──っ!!
耳の奥で何かが声を上げた。少しずつ、這い寄るように外界へ移動する予感が頭を、次
いで体を侵食していく。
はっとした郷は意識を視界に広がる樹木の群れを隙間に集中した。風防ガラスの向こう
にある地面が隆起し、『それ』独特の触角のような二対の尾が現れ、やがて奇怪な巨体を
太陽の元に晒した。
──怪獣!
首を振り、両脇の少女達の様子を伺う。幸いにも目の前の怪獣に気を取られているらし
く、大きい目を更に見開いて呆気に取られている様子だった。
祈るような気持ちでゆっくりとスロットルバーを引き、操縦悍を倒す。機体は郷の思惑
通りに少女二人の間を下降して行った。
気付いた時には遅すぎた。眼前に展開する光景に驚いた一瞬を突かれ、アースラが見付
からないコースを辿らせようとした戦闘機は樹木を薙ぎ倒しながら進む巨大生物に突進し
ていった。何故?という疑問を頭の片隅に追い遣り、思わず声を荒げてフェイトを呼ぼう
としたが、その声は連続した爆音に遮られた。
「フェイトちゃんっ!」
なのはが凛々しい表情で叫んだ。その真意を汲み取ったフェイトが、眉をハの字にして
頭を振る。
「でも──」
一際大きな爆音が響いた。振り返って見ると、戦闘機が黒煙を吹きながらどんどん高度
を下げている。
そのまま、あっと言う間に近くの山に吸い込まれ、爆発してしまった。
「……」
声が出ない。あの戦闘機には間違いなく人が乗っていた。それが今、間違いなく……。
戦闘機が突っ込んだ部分は赤い炎に覆われている。巨大生物はそれを見て嬉しそうに体
を揺らした。喉の奥から捻り出す様な声を上げ、体を捻った。
「……不味いっ!アースラに向かってる!」 巨大生物は長い尾を振り、進み始めた。
229 :
代理:2008/12/19(金) 18:59:10 ID:XD0MGo41
なのはの瞼の裏に撃墜され、鉄の塊と炎に成り果てた戦闘機がフラッシュバックし、ア
ースラにそれが重なる。
とてつもない悪寒がなのはを襲った。一瞬だけ視界が黒く染められ、周囲から自分だけ
が隔絶されたように感じた。
──嫌だ。そんなことは、絶対に。
左手に握る金と白のデバイスを振り下げ、巨大生物を見据えた。……が、同時にアース
ラと巨大生物との間に、魔力とは違う別の力のうねりが発生しているのに気付いた。
それは徐々に大きくなり、激しくなり、そして一点に纏まっていく。フェイトもそれに
気付いたらしく、力の集中する空間を凝視していた。
そして────光が、瞬く。
死者を思わせる様な暗闇の中でそれは蠢めいていた。その姿は人間の造形とは一線を隔
すものだった。
ピンポン球の様な球形の目。蝉を連想させる顔。爪先が釣り上がった足。闇の住人にふ
さわしい灰と黒の体色。そして、腕についた巨大なハサミ。
「これでいい……」
彼は俄かに呟いた。そして、独特の体躯を揺らし始める。最初は小さく、徐々に大きく。
嗤っていた。彼の種族にしか出せない声で。
「さぁ!試合再開といこうじゃないか!まだ一回の裏だ!楽しもうじゃないか!」
新たな力をその身にひっさげ、彼は『帰ってきた』のだった。
「そうだろう?『ウルトラマン』」
彼は地球ではこう呼ばれていた。
『バルタン星人』と。
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ……………………………………………………
230 :
代理:2008/12/19(金) 18:59:51 ID:XD0MGo41
投下終了です。長文&連続レスをしてしまい、申し訳ございませんでした。
代理任務完了。
投下乙!!
帰ってきたぞ、帰ってきたぞ!ウールトラマンー
とどろく叫びを耳にして………!!
超GJ
町が危ない〜死が迫る〜轟く悲鳴を〜耳〜にして〜帰ってきたぞ帰ってきたぞ帰ってきたぞ〜ウルトーラマンウルトーラマンウールトラマーン
GJ
GJ!!です。
これは珍しいw
なのはたちと、この世界の人間は体格的というか目の大きさが違うのかw
限りなく人間に近いグレイって感じるのかなぁ?
そして、バルタン星人の自身は魔法を手に入れたことから来るのかな?
GJ!
>>目の大きさ
もう完全に異星人扱いにしてしまうのか・・・う〜ん・・・
異次元魔道師 ミッドチルダ人
宇宙忍者 バルタン星人 登場
のテロップが見えたw
GJ
乙です。
なのは側がやってくるというのは珍しい展開だ。このままウルトラマン世界
の地球で話しが続くのかな?
>>235 少し目が大きいってくらいじゃないかな?
実際、そういう人いるしね。
本文をちゃんと読もうぜ。ぱっちり、という言葉では描写仕切れない程肥
大化した目は、普通の人間とは明らかに違う箇所だったってあるよ。
これはもう、少しとかそんな次元じゃないw
まだ言葉を交わしてないよな
なのは達の言葉が「まっほまっほ」としか聞こえないんじゃないだろうか
遅れ馳せながら……
>>230氏
代理投下ありがとうございます。
稚拙な文書ですが、どうか寛大な心で読んで頂ければ幸いです。
22:55分に投下を予約したいと思います
それでは、時間になったので投下します
「来た、か」
空を見上げる。薄暗い広域結界の中に、一際目立つ純白に身を包んだ少女。その表情はどうしたことだろう。
クロノがこれまで見たことがないほど笑顔が浮かんでいた。ともすれば、好戦的とすら見えるだろう。
「来たよ」
見ればわかることを。胸中でクロノは苦笑した。こうまで明け透けに自分をさらけ出すことなど、クロノには
できないだろう。よほどの覚悟がなければ、こうはいくまい。どうにも、少しばかり眩しさが過ぎる。
逃げるように、クロノはフェイトらへと振り返った。いまだ芯の定まらないクロノにとって、戦う理由は多け
れば多いほどいい。その一つ、ジュエルシードがフェイトの手に握られているのを確認する。
本来であればデバイスの中にしまわれてしかるべきであるそれは、露にされていれば同時に極上の餌ともなり
うる。奪われさえしなければ有用なことこの上ない。そのためには、クロノが少女を倒すことが重要だ。
そうして、向き直る。ジュエルシードの在り処を視線であえて教えたことで、幾分かは少女の注意はそちらに
割けただろう。半身になり――それ自体に特に意味はない――、クロノは少女へと杖先を突きつけた。
「来て……どうするつもり?」
声色は、SU2のそれと同じく黒。言葉の選択を誤れば、一瞬でその杖先に魔光が灯るに違いない。むしろまだ
魔力が込められていないことこそが不思議なほどだ。
しかし、そこにクロノの制御技術の恐ろしさがある。
フェイトは知っている。この状態から、クロノは魔境の域に達した精度を以って、一呼吸と置かず攻撃が可能
なのだ。むしろ、相手にそれと知られる予備動作こそがクロノにとっては障害となる恐れすらあった。威力では
フェイトや少女に劣るだろうが、それだけが魔道ではないことをクロノは身をもって体現していた。
それを感覚的に理解したのだろう。ある種天才的なセンスで察した少女の顔に、警戒の色が浮かぶ。ただ瞳に
込められた光だけは、変わらない。
「来て――何をするかなんて決まってるよ。名前を教えてもらって、お話を聞かせてもらうんだからっ!」
杖を構えていないのが不思議なほど、強い意志を感じさせる口調。いや、これが既に構えに等しいのだろう。
そう納得させるほどに意思の込められた瞳は、真っ直ぐにクロノを貫いていた。
「……もう一度、昼間と同じことを言うよ」
果たして、クロノはどちらを望んでいるのだろう。
「フィアッセさんと向き合えなかった君が、何を聞けるのかな?」
正か非か。それはクロノ自身にもわからない。そしてどちらであろうと、意味はないのだろう。完全な期待も、
完全な不信も、等しく意味がない。白でも黒でもなければ、残るのは色の度合いだけだ。それをどこかで分ける
ことができないのであれば、意味を求めることは無駄でしかない。
少女が立ち直っていることを望むと同時に、立ち止まっていることも期待する。
立ち直った矢先にその機先を制すれば、衝撃はより大きくなるだろう。逆に塞ぎこんでいるのであれば、叩き
伏せてもそれほど酷くはならないだろう。
どちらも本音であり、またそうではない。そしてそれに意味はない。
クロノに許された行動は唯一つ、彼女を叩き伏せることでしかない。
だというのに少女に期待だけは寄せている。それが今のクロノであり、フェイトとアルフの二人が不信を抱く
のも、自明の理と言えた。
しかし、その余分をこなさなければもはやクロノはクロノとして足りえず。余分に気を取られているクロノは
それに気づかず、少女の返事を待っている。
本来であれば、ジュエルシードは秤にかけるべきではないのだ。クロノはフェイトのために動くと決めている。
その矛盾は、本人がそれと知らぬうちに罪悪感となり、比例するかのように少女へかける期待は大きなものと
なっている。
クロノの煩悶は、長いが一瞬だった。
少女が、花開く笑みを見せたからだ。
「フィアッセさんとは、ついさっき仲直りしてきたばかりだよ」
その瞬間だけは少女の瞳からは一切の余分は消え、喜びだけに彩られていた。敵であるクロノですら、戦場で
なければ見惚れるか、一緒に微笑んでいただろう。
前もって戦う心積もりができていなければ、今この場ですらそうだったかもしれない。
それはつまり、クロノはどこかでこの結果を予想していたからに他ならない。それと同時に、この短時間でと
いう驚愕も存在し。
既知と未知がクロノの頭の中で混在する。その混乱のほどは、余人には理解し得まい。S2Uを握る手から力が
一瞬抜けて――
忘れてはいけない。少女は、たった一人で戦ってきたのではない。
エースと呼ばれるにふさわしい魔導師は、まだ他にいるのだ。
クロノは一瞬忘我の淵にあり、フェイトとアルフの注意は彼と少女にばかり向けられていた。
油断があったのは事実だろう。確実に勝てるだけの力量差があり、そのための舞台も整えた。だが、この場に
いるのはいくら才能があるとは言え、実戦経験の少ない駆け出しのルーキーばかり。ベテランからは程遠い。
――仮に、もし仮に、クロノが内心全てをフェイトたちに打ち明けていたら。フェイトとアルフが、クロノを
もっと信用するか、問い詰めさえしていれば。
直裁に言えば、三人が真に仲間足りえていたら。
注意のリソースを他に割かず、それと気付けただろう。だが、不幸にもそうではなかった。
ほんの一瞬。少女とクロノらとの間の戦場の空気が消え去ったその時、フェイトとアルフの足元に緑の燐光が
走り、円の魔方陣を象った。
一度緩んだ緊張の糸は容易に張りなおせない。
意識の間隙を突いて、緑の鎖がどこからともなく放たれる。
遠距離からの精密操作。クロノの域には達していないそれは、しかしフェイトとアルフ相手に限っては十分な
ほどの精度を保っていた。
「なっ!」
「これは!?」
「バインド!?」
三者三様の驚きの声が上がる。残る一人、白の少女だけは落ち着きを保っていた。
「ナイス、ユーノくんっ」
少女が向けた視線の先では、布施のような姿勢で四肢を地面に食い込ませ、魔法を維持している例の小動物の
姿があった。今なおバインドに魔力を注ぎ込み、今やクロノが駆け寄ろうと一瞬の解呪は不可能としていた。
してやられた。クロノは臍を噛んでいた。餌は自由に動かなければ囮足り得ない。それを封じられた。
たとえ一対一であろうと、少女には負けない自負はクロノにはあった。しかし、優位を潰されたのは事実だ。
間違いなく、相手を侮ったクロノの失策だ。
そして、今ここで犯した失敗は、ただの失敗ではない。それ以上の意味を孕んでいた。その結果が、今出る。
「よし、これで一対一。まずは君の名前を――」
少女の言葉を遮って――
「裏切ったな、クロノ!」
初めてアルフがクロノの名を呼んだ。それは怒声、悲鳴のどちらともとれ、驚きクロノが少女のことも忘れて
身を翻せば、アルフはディスペルすら思いつかないと猛り、力任せに鎖を引き千切ろうとしていた。
いくらアルフが膂力に優れていようと、それでは体を苛むだけた。
「アルフさん、落ち着いてっ!」
「うるさいっ。裏切り者が偉そうに! よくも、よくもフェイトのことを裏切ったな!! あの女と同じだ!
お前なんか、お前なんかを少しでも信用したアタシが馬鹿だった!!」
それは明確な拒絶だった。感情任せの言葉だったのだろう。だからこそ、アルフの心底から本気だと知れた。
「あ……」
わずかに震えた喉から漏れた声は言葉にならず、だからこそそれ以上の意味を持つ悲鳴だったのだろう。縋る
ようにクロノがフェイトを見れば、俯く彼女とは視線すらも合わない。
そうしてようやくクロノは知った。「また」自分は失敗したのだと。
フェイトは、あの白い少女が好きではなかった。ジュエルシードの収集の妨害に始まり、こちらは譲れないと
いうのにその理由を聞こうとしてくる。教えれば手伝おうとでも思っているのだろうか。
フェイトはミッド人であり、魔法の秘匿の原則を知っている。管理局が法を全て把握しているわけではないが、
それでも罪を犯している自覚はあった。
それを手伝う。荒唐無稽な話だった。
それにあの瞳。真っ直ぐにフェイトやクロノを見つめてくるその視線が、苦労を知らないようで気に入らない。
だけど、だけどだ。
クロノは違うのだ。
初めてできた家族とは違う間柄。フェイトの世界の中に母の後押しを受けて苦もなく入り込んできた少年は、
間違いなくあの少女に惹かれていた。そこまではいかなくても、確実に影響は受けていただろう。
とらないで!
フェイトは心の中でずっと叫んでいた。
優しくしてくれる。手伝ってくれる。困ったときは、手を差し伸べてくれる。そんな同年代の子は、クロノが
初めてだったのだ。
プレシアのように血の繋がりはない。アルフのように盟約を交わしてもいない。
それはどれほどの不安だっただろう。いつの間にか消えてしまったリニス。それは、フェイトと彼女の間に、
確固たる何かがなかったからではないのだろうか。
では、ではクロノはどうなる。
記憶を取り戻したら、ジュエルシードが集め終わったら。あるいは、母の気まぐれ一つで、クロノはフェイト
から離れていってしまうかもしれない。
――それなら、フェイトは諦められたかもしれない。仕方ない、と自分を慰め、昔のようにプレシアの愛情を
求めるだけの少女に戻っていただろう。
だけど、今は違う。
クロノはきっとまだ記憶を取り戻していない。ずっと彼を見てきたフェイトにはわかる。
クロノはきっと、あの少女が放つ光に目が眩んだだけなのだ。
裏切ってなんかいない。フェイトから離れたりしない。
少女が、クロノを奪おうとしているだけなのだ。それも――ジュエルシードごと。
「いや……」
全身をに力が入らなかった。それでも緑の鎖はフェイトを縛り続ける。虚ろにフェイトは笑った。視界は暗く、
目の前にあるアスファルトすらようとして見えない。耳を震わせるアルフの罵声もどこか遠く、このまま意識を
失ってしまえばどれほど楽だろう。
だが、それは許されないことだ。
「いや、いや……」
諦めたが最後、フェイトはほぼ全てといっていいほどのものを失う。
バリアジャケットごしに手の平を刺す感覚だけが、フェイトの意識をなんとか保たせていた。
これを無くしたら、母はきっと失望する。少女らに捕らえられたら最後、もう母の手伝いはできないだろう。
必死に心に念じて――
だってそれは、クロノと過ごす時間の終わりをも告げている。
リニスと同じで、楽しかった時間が消えてしまうのだ。
「とら、な、いで」
フェイトの手の中で、ジュエルシードが、封印されているはずのジュエルシードが輝きを放つ。
クロノは何一つ失敗をしていない。このジュエルシードは、専用の準備でもしなければ、活性化するはずはな
かったのだ。
本来であればありえない異常。だが、類まれなるフェイトの資質と、純粋でどこまでも強い願いが、不可能を
可能にしていた。
「フェイトっ!?」
いち早く異常に気付いたのはクロノだった。ついで、あまりの魔力の波動にバインドが解けていた――それは
フェイトとて同じだが――アルフ。最後に、フェレットと少女だった。
混乱が全員を襲っていた。
このジュエルシードの発動は、これまでと規模がまるで異なる。フェイトの魔力がそれをさせるのか、願いが
破滅を望んでいたのか。ただ、このジュエルシードだけが特別だったのか。
答えを出す暇はない。その前に震える世界が自壊する。
「わた、しから、クロノ、を取、らないで」
フェイトは、それに気付いていない。ただ、少女は願うだけだ。
「私を、一人にしないでっ!!!」
と。
投下完了です。
スーパーユーノタイム始まって終わりました。
今回のクロノの失敗は、二度目というわけじゃありません。
自分の記憶を消したり、なのはと出会ってしまったり、ISを暴走させてしまったり、○○さんを見捨ててしまったり
割と完璧っぽく見えて失敗をしてます。
作中で、全員色々失敗を重ねることに成功できれば、と思っています。
いやっはー!
――スーパーフェイトそんヤンデレタイムきたぁあああ!(まて)
ユーノ汚いよ、ユーノ。さすが獣!
いやまあ、地力で劣る分小細工と賭けに出るのはしょうがないですが、それでもクロノとアルフの仲に決定的な溝を入れた一瞬でしたw
なのは、次回フェイトにめっためたにされそうで怖いw
間違いない、フェイトそんは隠しているけど、独占欲が強いタイプ!
本性が出たとき、彼女は病む 間違いない!
クロノ、にげてえええ! 願望どおりだと、一生監禁生活よぉおww
次回がすげえ楽しみです!!
GJ!!
おお、なんというユーノタイム、彼がこうも目立つSSはそうないので新鮮でした。
でもまあ、なんという気になる終わり方、いったいどうなるんだフェイト!?
次回も楽しみに待ってます。
しかしリリカル氏、クロノはいつから戦闘機人になったんですか?
>>ISを暴走させてしまったり
JSの間違いだお。
IS=イデアシード
原作はアニメで言うジュエルシードの働きをしてました
イデアシードは人の記憶を吸い取って力にする物で、クロノが開発したものだったはず
確かに晶の友人をパワーアップ、見たいな事にはなってたけど
GJ!!です。
修羅場ですね。真の信頼を勝ち取っていなかった事が原因なんて。
フェイトの願いをどのように解釈して、発現しようとするのか楽しみです。
冗談ですが、数年後のフェイトは、ここにずっといるんだから、手足は要らないよね?ってデバイス起動させるのか?w
さすが、プレシアの娘ッ!そこに痺れるッ!憧れるぅ!
GJ!!
なのですが、今回はおっぱいネタはないのですか?
254 :
一尉:2008/12/20(土) 13:08:42 ID:uZ/6a7kZ
いやむしろ合体ネタはないですか。
予約がなければ16時40分からゴッドオブウォークロス投下します。
支援w
クレイトスさんが流星のようにミッドに墜落……いや着地www
「ゴッドオブウォー 最後の奪還」
命の息吹なき荒野に、一陣の風が吹いた。
小石が転がり、砂塵が舞う。
音を発する物など無い荒野を、ほんの少し騒がして、風は何処へ行くのだろうか。
荒れ果てた大地は知らない。
雲垂れこめて灰色の空は知らない。
それはきっと、神のみぞ知ることであった。
命の息吹なき荒野を、一人の男が歩いていた。
小石を蹴転がし砂塵を裂き、男はただ歩を進めた。
声一つ発することは無く、靴音を除けば、静かなる荒野に溶け込もうとしているようにさえ見える。
異装の男であった。
年かさは、三十を超えるだろうか。
錆た色の籠手や具足、腰巻き、右腕の金色の装身具、そして腰の後ろに重ねた片刃の双剣以外、何の荷物も持ってはいない。
水場や草木、四つ足の見当たらぬ荒野を行くにしては、あまりに軽装だった。
足を動かしている以上、男は生者なのだろう。
しかしそれにしては、肌が死人のように白い。
雪ではなく雲ではなく、白骨を連想させる白。
頭に毛は無く、眼光鋭く、口は固く引き結ばれ、顎の先には黒々とした茂みがあった。
五体に無駄な脂肪は欠片も見当たらず、といって筋骨隆々という訳でもない。
まるで獅子や豹のような、しなやかな肉体である。
顔や左腕、左胸に踊る真紅の帯は、自分を鼓舞するための戦化粧か。
男が何処へ行くのか、それは神でさえ知らない。
神は、彼の手によって滅ぼされたのだから。
男の名はクレイトス。
かつて、スパルタの亡霊と恐れられ、畏れられた戦士だった。
オリュンポスの神々は、ギリシアの地から姿を消した。
オリュンポスの剣を握ったクレイトス、そして積年の恨みを晴らさんとするタイタン族の総力に、アテナやアレスといった主力を欠いた彼らに勝ち目はなかった。
主神ゼウスは、クレイトスの手によって討ち取られた。
アテナの危惧した父殺しは、楔に打ちつけられて揺るぎようのない宿命であったのかも知れない。
かつてゼウスが、父クロノスを追放したように。
オリュンポスを滅ぼし、自分を陥れた報いは受けさせた。
だが、クレイトスにとって、そんな勝利など何の価値もない。
塵芥も同然である。
妻と娘を殺した悪夢は、依然変わらずにクレイトスを苛む。
ゼウスへの復讐は、少しく気を紛らわせたが、根本的な解決にはならなかった。
全てを滅ぼした後には、ただ狂気だけが残った。
スパルタには、戻れない。
胸内から漏れ出した狂気が、いつしかスパルタさえ焼き尽くしてしまうような気がした。
妻を殺し子を殺し、その上に祖国の民の屍まで連ねては、まったく笑い話にもならない。
故に、クレイトスは荒野を歩く。
優しき死が、いつか救いをもたらすと信じて。
「………!」
クレイトスは足を止めた。爪先が砂利を撥ねる。
人の気配を感じたのだ。
例えクレイトスを狙った盗賊の類が百人いたとして、彼は歯牙にもかけない。
実力差に気づき尻尾を丸めて逃げるならそれでいい。
牙を剥かなければ、クレイトスには用のない生き物である。
逆に、得物を手に取り囲んでくるようならば、その時は大地が血肉で潤うことだろう。
だが、クレイトスの感じた気配は一つ。それも、毒矢を受けた鹿のように弱弱しい。
襲い掛かって来るどころか、動く様子さえなかった。
それでも気網を周囲に広げて油断することなく、クレイトスは気配の元に寄った。
(子供と……竜か)
異様な組み合わせを目にしたクレイトスである。
といって、眉一つ動くことはない。
ただ、桃色の髪をした童女と、小さな白い翼竜が、折り重なるようにして倒れていただけなのだ。
童女の纏う垢染みた民族衣装は、貼り付いた茶の砂埃も相乗して、クレイトスよりは荒野に似合う姿をしていた。
翼竜は、童女と同じく砂埃で霞んではいるが、白というより白銀に近い体色である。
合わせて売り飛ばせば、それなりの財にはなるだろうか。
しかし、金など今となってはくだらない。
少なくとも、五体が心が渇望する物では、決してなかった。
(……カリオペ)
瞼の閉じた少女に、クレイトスは娘の幻影を見た。
いつもなら瞼の裏に見る娘の幻影は、やはり血塗られていた。
クレイトスの手で刻んだ刀傷もそのままだった。
罪に塗れた身では、娘の居るエリュシオンに入ることは叶わない。
かつて、ペルセポネに迫られた選択。
娘と共に消えるか、二度と会えなくなるとしても、娘のために世界を救うか。
クレイトスが選んだ後者は、果たして正しかったのだあろうか。
娘を傍に置いての消滅こそが、自分にもたらされる最後の救いだったのではないか。
全ては、取り返すこと叶わぬ過去の彼方、である
(……カリオペ)
クレイトスは、再び胸中で娘の名を呼んだ。
幼いこと以外に、カリオペと名も知らぬ少女に似たところは一つもない。
それでも当て所ない父性は、彷徨って娘の代わりを求めるようであった。
だが、クレイトスにとって、娘は何にも換え難い至宝である。
代用物など、在ってはならない。
それを自ら汚してしまう気がして、耐えかねたクレイトスは少女から視線を外した。
この場から立ち去れば、後は荒野が全て片付けてくれる。
クレイトスは踵を返し、足早に少女から離れようとした。
一歩。
二歩。
三歩。
四歩。
五歩。
六歩目を踏む前に、首を後ろに捻じ向ける。
何時の間にか、何処に隠れていたのか。
灰色の狼どもが五匹、少女を取り囲んでいた。
剥き出しの牙の間隙から涎が絶え間なく漏れ出し、鼻息も荒い。
食糧に乏しい荒野では、幼い子供や痩せた竜も馳走に見えるのだろう。
クレイトスは、それを咎めるつもりはない。
弱肉強食がスパルタ人の掟。
死して野に転がるは、自らの弱さ故なのだ。
これから少女と竜が狼に食われるのも、生きる術を知らなかった無知の報い。
助けてやる義理も義務もない。
狼の長い舌が、少女の頬を一舐めした。
味見、といったところだろうか。
悪食どもが、生意気なことをするものだ。
そして、好みに合ったかどうかは知らないが、狼が大きな口を開いた。
いよいよ、である。
一瞬、間を置いて、血飛沫が舞う。
狼の血だった。
―――――ギャ
短い、断末魔である。
狼の首が、ごとりと地に落ちた。
荒野が、久々の滋養と美味そうに血を吸い込む。
狼狽する狼どもの上を、血塗られて紅い毒蛇が行き過ぎた。
毒蛇の名は、ブレイズ・オブ・アテナ。
柄尻とクレイトスの腕とが鎖で結ばれた刃は、鞭が如く変幻自在の軌道を描き、戦斧に勝る重い斬撃を繰り出すのだ。
緩やかに弧を描いたブレイズ・オブ・アテナが、クレイトスの右腕に戻る。
クレイトスは軽く血振りをくれてやると、明らかな怯えを見せ始めた狼どもに向けて咆えた。
「失せろ! 獣が!」
声が、稲妻のように静寂を裂いて響き渡った。
そのクレイトスからしてが、血に飢えた野獣の面である。
狼はそもそも、好戦的な生物ではない。
勝ち目のない狩りは、仲間を全滅させる恐れがある。
事実一匹が、ただの一撃で首を落とされていた。
仲間全てを失う覚悟をし、それで得る物が子供と竜では、命の割が合わない。
―――――ウォン
鳴き声が示す所は、考えなくともわかった。
文字通り尻尾を丸め、狼どもは退散していった。
地平線の果てで、灰色の空に混じるかのようである。
荒野に、再び静寂が舞い降りた。
「……ふん」
クレイトスはブレイズ・オブ・アテナを腰の後ろに収めた。
戦いとさえ呼べない、つまらぬ殺である。
いやそもそも、何故少女を助けたのか。
見捨てると決めた思考に反し、腕が勝手に刃を放ったのだ。
クレイトスが損得を無視して助けるのは、妻と子と、そして極一部のスパルタ人のみの筈だった。
その他は、ただ利用するために生かし、終われば少しの逡巡も無く殺した。
クレイトスが恐れられたのは、その強さのみではない。
そこに怪物さえ悲鳴を上げるような、悪鬼が如き残虐性が加わってこそ、スパルタの亡霊は完成する。
それが、柄にもない人助け、である。
クレイトスは心身の不可思議に舌打ちすると、少女を肩に担ぎ、子竜を摘み上げた。
生木が弾ける音で、キャロは目を覚ました。
瞼を開くと、霞む視界の向こうに、忙しく揺れ動く赤があった。
顔に伝わる熱は、自分が炎であるという赤色のささやかな主張か。
顔だけ、ということは、炎に包まれている訳では無いらしい。
「ん……」
目を擦りつつ、キャロは身を起こした。
彼方から寄せる寒風を、傍から来る暖かな大気が相殺する。
冷と熱、二つの温度に挟まれながら、キャロは眠りに鈍った頭でこれまでを回想した。
ル・ルシエの里を追われて一週間。
荒野に迷い込み、持たされた食糧は尽き、フリードと共に死を待つばかりだった筈である。
それでも前に進んだ足は、決して生に向かうものではなく、ただ余力を削るだけの惰性だった。
それが今、こうして命を永らえている。
天の助け、だろうか。
下から聞こえる寝息に目を遣ると、フリードがこちらに腹を向けて転がっていた。
「フリード……」
とりあえず、相棒の無事を確認したキャロは、今度は周囲を見渡した。
後ろを見ると、薄い夜闇の中に草が青々と広がっている。
どうやら荒野を越えた所には、草原があったようである。
キャロが寝ていた場所は土が剥き出しであり、円を描くように綺麗さっぱりなのは、人工的に草を刈ったのだろう。
その中心で、焚き火が枯れ木を喰らって燃え上がる。
天と地が、細い白煙で繋がっていた。
「起きたか」
炎を突き抜けて、低い声がキャロの耳朶を震わせる。
声量は、決して大きなものではない。
しかし声ははっきりと辺りを回り、夜気に溶けてなお鼓膜にこびり付いた。
膝立ちになって焚き火の向こうを見ると、明らかに切り倒されたばかりの丸太の上に、禿頭の男が座していた。
口を固く引き結び、まるで石像のようだった。
「飲め」
男の太い腕が伸びる。
手には、白湯がなみなみ注がれた木椀が乗っていた。
「あ、ありがとうございます」
炎に手を触れないように気をつけながら、キャロは木椀を受け取った。
正座し、縁に口付けるように白湯を呑む。
喉の渇きが一掃され、体の芯から熱が生まれた。
自分達を助けてくれたのは、目の前の男で間違いはないようである。
見た目は恐ろしげではあるが、心はこの白湯の様に暖かい人物なのかも知れない。
木椀から口を離し、キャロは男に声をかけた。
「助けてくださって、本当にありがとうございました。なんとお礼をすればいいのか……」
手に木椀がなければ、両手をついて拝み倒したいほどである。
万感を込めてのキャロの礼の言葉は、しかし沈黙で返された。
瞼一つ動かさず、男は揺れる炎をじっと見詰めていた。
声を放った以上生きてはいるのだろうが、それを踏まえても息をしているのかさえ怪しい。
背筋が、寒風の所為ではなく凍えた。
フリードは未だ寝こけている。
実質二人しかいない場に、嫌な空気が流れた。
弱った身にはそれも耐え切れず、キャロは再度声をかけた。
「あの、お名前は?」
そこで初めて、男の目が動いた。
瞳に映るは、現ではない炎と氷である。
炎は、限りない憎しみを喰らって寄るもの全て焼き払う業火。
氷は、果て無き悲哀が凝結し、触れるもの全て傷つける氷牙。
在り得ない筈の共存に、キャロは一瞬、戸惑った。
里の誰一人として、このような瞳をした者はいなかった。
ただ、里を去らんとするキャロを見送る眼は、厄介払いが出来たといういやらしい安堵ばかりだった。
両親までもが同じ眼をしていたことを思い出し、放浪の間に流れて消えた筈の寂しさが胸に込み上げる。
眼尻から、涙さえ零れ落ちそうだった。
「………クレイトス」
声に、キャロは我に帰る。
何時の間にか俯いていた顔を上げると、男が再び唇を動かした。
「私は、クレイトスだ」
巌のような顔は、酷く不機嫌そうだった
クレイトスは、黙々と草原を歩んだ。
野生えの花も草も踏み付けて、騒々しく足を進める。
その後に続く、軽い足音と羽音が一つずつ。
昨日と違い、空には燦々と日輪が輝き、降る光がうっとおしかった。
昨日と違うのは、それだけではない。
足音羽音を無視して、クレイトスは前に進んだ。
その背中を追う、小さな気配が二つばかり。
蝶や四足の類ではない。
クレイトスは辺り憚らぬ舌打ちを響かせ、風を起こして振り返った。
「何故、私の後をつける」
常より一段声を低くすると、二つの気配が立ち止まる。
桃色の髪の少女と、白い子竜。
キャロとフリードとは、昨晩勝手に名乗られた名前である。
助けたのが災いしてか、なるで子犬のようについてくるのだ。
忌々しげに歯を剥き出しにすると、一人と一匹は少しく怯えたようだった。
といって、この場より去る様子はなく、返って足は動かずこの場に留まる。
「他に、行くところなんてありません」
「私が貴様らの面倒を見ると思うか!」
クレイトスは声を荒げ、その勢いのまま腰からブレイズ・オブ・アテナを抜き放った。
流れるような動作で、銀光る凶刃を少女の眼前に突き付ける。
昨日は助けたが、所詮は気の迷いだとクレイトスは決めつけていた。
ほんの少し押せば、切っ先を額に埋め込み、冥界の石榴のようにすることができるだろう。
敵兵一人嬲り者にするより遥かに簡単だった。
だが、少女が退くことはなかった。
クレイトスの殺意を、その痩身余す所なく浴びて、である。
「……あなたに殺されるのなら、それでもいいです。どうせ、あそこで死んでいたはずなんですから」
少女の唇から紡ぎ出されたのは、少女には似つかわしくない言葉だった。
真っ直ぐにクレイトスを見据える双眼に、恐怖の色は微塵もない。
覚悟が、眼球の形をしているかのようである。
暦戦の勇士でも、クレイトスの凶刃に引き裂かれる寸前、瞳に恐怖と絶望を滲ませる。
中には命乞いをする者もいたが、彼が聞き入れたことは一度としてなかった。
それらの例外が、あろうことかクレイトスの半分も生きていない少女だった。
ブレイズ・オブ・アテナの切っ先が揺れる。
魂そのものが、揺れている。
知らず、クレイトスは刃を腰の後ろに収めていた。
かのスパルタの亡霊が、子供に気圧された。
これまで彼が殺めてきた者達が聞けば、驚愕に目を剥くに違いない。
「………好きにするがいい」
唸るように言って、クレイトスは前を向いた。
そして、キャロとフリードは好きにした。
結局のところ、クレイトスはキャロとフリードの面倒を見る破目になったのである。
一人と一匹で果物を拾い集めている時に折悪く山賊が現れ、悲鳴を聞いたクレイトスは刃を打ち振るった。
キャロが疲れか病を得たか熱を出せば、不本意ながらも薬草を集め、煎じて飲ませた。
殺す以外に使う事など無いと思っていた腕で今さら子供の世話とは、タルタロスで拷問を受ける亡者でさえ腹を抱えて笑い転げるかも知れない。
あの荒野での一件を除けば、クレイトスが少女を見捨てる意を示したことは、一度たりとも無かった。
細い首を刎ね飛ばすのは簡単だというのに、どうもその気になれない。
いつかいつかはと行動を先延ばにしたまま、ずるずると共に旅をしているのだった。
旅の合間に、キャロは時々、自分のことを訥々と語った。
仏頂面のクレイトスとただ対面しては間が持たぬか、それとも辛さ寂しさの発露か。
半分以上を聞き流しにしていたが、要約するとこうである。
アルザスという土地に、ル・ルシエという少数民族がある。
それは竜とともに生きる部族であり、子供の内から竜を召喚し、使役するのだという。
大きな争いもなく、平和を貪っていた彼らの中に、ある日それを崩す力を持つ者が生まれた。
それがキャロだった。
少女にはフリードともう一体、ヴォルテールと呼ばれる強大な力を誇る竜を召喚することができた。
だが、それ故に、キャロは部族を追放されることになったのである。
―――強い力は争いと災いしか呼ばない。
昔なら、馬鹿らしいと笑い飛ばしていただろう。
だが、クレイトスは強い力を求めたが故に妻子を永久に失った。
蛮族に処刑される寸前アレスなどに祈らなければ、死ぬのは自分一人で済んだという可能性が、今もクレイトスを苛む。
勇猛を持って知られるスパルタンにあるまじき、それは惰弱というものかも知れない。
といって、力への恐れを少女一人に押し付け、放り出して安心しているル・ルシエに対しては、やはり馬鹿らしいという他になかった。
キャロの両親もまた、他の里人同様に彼女を外へと押し出したと聞く。
クレイトスは腸が煮え滾るのを感じた。
自分なら、カリオペが怪物と化そうとも、両腕で抱き締めてやれる。
望むなら、この身全てを捧げてやれる。
許されるのなら、この身が滅びるその瞬間まで傍にいてやりたかった。
全て、今となっては叶わぬ夢である。
それを、自ら捨てた愚か者ども。
今すぐにでも行って、首を叩き落としてやりたい程である。
人としての情か、当て所のない親心か。
とにもクレイトスのキャロに対する態度は、少しづつ、雨垂れが石を削る程度に少しづつでははあるが、軟化していった。
キャロも、クレイトスの纏う鬼気に慣れたか、それとも鬼気の方が薄れたか、傍に寄ることが多くなった。
対し、フリードはあまり近くには来ない。
野生が、クレイトスの身に染み付いた血臭を恐れるようである。
黙々と焚火を見つめるクレイトスと、それに寄り添うキャロを、少し離れた位置からフリードが見詰める。
それが、何時しか一行の日常となっていた。
―――――だが。
クレイトスが、今までそうであったように。
キャロは、やはり力が災いを呼び寄せるのか。
平和は、長くは続かなかった。
ある、晴れた日のことである。
火の始末をしていたクレイトスの背に、キャロの声が掛った。
その中に、フリードの羽音が微かに混じる。
「水筒に水を汲んできますね」
近くに川があることは、昨日の内に確認していた。
この草原一帯は草木豊かであり、食糧となる四つ足も数え切れぬ程であった。
「……ああ」
相も変わらず、クレイトスの低い声である。
キャロもいい加減耳に慣れたか、からからと水筒を鳴らしながら、フリードを連れて川に向かった。
子供の元気さで、足音は軽くて速い。
木の枝で、既に冷め切った木墨を崩しながら、クレイトスは思考を巡らせていた。
はたして、このままキャロとフリードを連れ立って良いものか。
そもそも、クレイトスの旅は、何か目標があってのものではない。
ただ残りの命を使い果たすための、言わば死出の旅であった。
それが、クレイトスだけならば良い。
妻子を永久に失ってまで、この世に望む物は一としてない。
だがキャロは、若い命は違う。
死に掛けはしたものの、無事ならば洋々たる大海原を渡ることさえ可能なのだ。
決して、タルタロスに赴かんとする男の傍らに置いてよい命では無い。
この先街に辿り着くことがあれば、クレイトスはそこでキャロとフリードを誰かに預けるつもりであった。
別離は、スパルタの亡霊をして辛いものになるだろう。
それでも、キャロがこの世に生きて壮健に暮していれば、欠けた魂が夜泣きすることはきっとない。
愛するが故に離れる。
それは、我を超越した親心だっただろうか。
戦神でもなく殺戮者でもなく、今のクレイトスは、親であり人であった。
「きゃああっ!」
クレイトスは弾かれたように座を立った。
起きた風に灰が舞い飛ぶ。
耳朶に馴染んだキャロの声、それも悲鳴を聞き間違える筈がなかった。
脳裏に、遠き日の惨劇が浮かぶ。
胸を無残に裂かれた娘と妻。その血に汚れた両腕。
魂に焼き付いて消えぬ、永劫の悪夢。
まさか、悲鳴はそれの繰り返しか。
足元の土を蹴立て、クレイトスは駆け出した。
風の様な、いや風を超えた疾駆である。
背の高い草が揺れまどい、それはそのまま男の胸中の現れだった。
程なく、せせらぎが耳を撫でる。キャロが水を汲みに行った川が近かった。
クレイトスははたと足を止めた。
川を挟んだ向こうに、異装をした、五人の男の姿を認めたのである。
年の頃は、どいつも三十代を越えまい。
髪の色は赤や青、金と目にうっとおしい。呪術師の着るようなローブに似た衣装は、それぞれ形状が大きく違う。
ただ、全員の手にある金属製の杖と、不遜がありありとした顔だけが共通していた。
久し振りに、気に障る面ばかり。
それでも、積極して突っかかって来なければ、捨て置きにして目もくれない。
………だが。
しえん
「!!」
クレイトスは瞠目した。
男の内、奥の一人が右腕にキャロを、左腕にフリードを抱えている。
どちらも眼を固く閉ざし、どうやら意識を失っているようであった。
クレイトスは、たしかにキャロとフリードを誰かに預けるつもりでいた。
しかしその誰かは、こんな胡乱な男達では断じてない。
一人が、ようやっとクレイトスに気付き顔を向けた。
眼には、地を這う虫を見るかのような気配がある。
「なんだぁ、お前は」
「その子供に何をした!」
咆哮であった。
大気が震え、地を揺るがさん程である。
先に口を開いた男が、煩そうに首を振った。
「ただ気絶させただけだよ。ったく、いくらレアスキル持ちだからって、わざわざ俺達を派遣しなくったって―――」
男の愚痴に、キャロとフリードを抱えた男が釘を打ち込む。
「原住民に構ってる暇は無いぞ。目的は果たしたんだ。さっさと帰還しよう」
応じたのは、別の男だった。
「まあ待てよ。そこまで急ぐことはないだろ? せっかくこんなとこまで来たんだ、少し遊ばせろ」
「そうだ。これくらいの楽しみがなければ、こんな仕事やってられないよ」
会話が、下卑た笑いを交えて男達の中だけで回る。
聞き耳を立てていたクレイトスは、彼らが何をするつもりなのかを理解した。
嬲り殺しである。
その目的で得物らしきが杖ということは、男達はおそらく呪術師の類なのであろう。
魔法ならば、クレイトスも少しは使う。
一番の得意は武器術であるが、それでも人間などは歯牙にもかけない。
それにしても――――
(未練者どもめ)
間抜け、愚かの体現が、目の前で踏ん反り返っている。
これほどの滑稽はなかなかない。
五対一の優位を感じているのだろうが、囲みも構えもせぬ内に、よく調子に乗れたものだ。
クレイトスも、捕らえた敵兵を嬲りものにしたことが少なからずあった。
しかしそれは情報を得るためであり、相手が自分よりも力の劣る者だと確信してからである。
力ある者、知恵ある者は早々に処刑しなければ、必ずや手痛い反撃をしてくるのだ。
それを、傷一つ負わせぬ内に、それもスパルタの亡霊に対して。
臍で茶を沸かすとは、まさしくこのことであった。
「付き合ってられん。先に行っているぞ」
奥の、キャロとフリードを抱えた男がそう言い捨てる。
下らぬ遊びに参加するつもりがないのなら、それでクレイトスには必要のない生き物である。
だがその腕の中にあるもののために、言葉を聞き捨てにしておくことはできなかった。
「待て!」
クレイトスは思わず腕を伸ばした。
その僅か数秒速く、男の足元に輝く魔法陣が浮かび――――次の瞬間、その姿を消した。
クレイトスはたたらを踏んだ。
透明化ではない。それなら、気配で分かる。
男は、完全にこの場から消えたのだ。キャロとフリードと共に、である。
…………また、奪われた。
「どこに行ったぁっ!!」
クレイトスの眼に、赫怒が業火と燃え上がる。
現の炎として、全てを焼き尽くさんばかりの熱気を放つ。
だが、愚鈍なる者どもは気付かない。
知らず逆鱗に触れたことに、傲慢なる者どもは気付かない。
男が一人、前に進み出た。
「知る必要はないだろ? これから死ぬんだから」
そう言った口辺に、嫌な笑みが寄る。
不快を、そのまま表情として顔に張り付けたようであった。
クレイトスの死は、彼の中で既に決定されて動かぬらしい。
男が、杖の先をクレイトスに向けた。
虚空に、突如として魔法陣が出現する。
先程、男が消えた時の物とは、また別種のようである。
魔法陣の中心、杖の先にあたる部分に、人の頭程の白い光球が生じた。
それを放って、クレイトスに当てる。そんなところであろう。
発動が鈍いのは、余裕を見せつけたいのかそれとも術者の腕の現れか。
何にせよ――――噛みかかってくるのなら、噛み返すまで。
「まずは、右腕だ」
お定まりの文句と共に、全く予想に反せず、光球が放たれた。
狙いが右腕なのは、言われずとも軌道を見れば分かることである。
それにしても、選りに選って右腕とは。
悪いのは、籤運か頭の出来か。
思いながら、クレイトスは自ら右腕を光球に向けた。
それをどう捉えたのかは知らないが、男が笑みに一層残酷な色を加える。
直後、光球が破裂した。術者の顔面を焼きながら。
「がっ!?」
悲鳴を置いて男が吹き飛ぶ。
嬲るためか威力は弱く、白煙を口から白煙を吐くものの、頭は体に付いたままだった。
何が起きたかわからず、それにしても身構えさえせぬ愚鈍どもを眺めながら、クレイトスは右腕を下げた。
その腕には、金色の装着物が陽光を撥ねて輝いていた。
メデューサの放つ石化の眼光さえ撥ね返す金羊の毛皮に、人づれの魔法など通る筈もない。
クレイトスは、腰のブレイズ・オブ・アテナを抜いた。
そもそも、今の今まで抜かなかったことが、クレイトスにとっては異常だったのだ。
キャロとフリードとの旅が、彼の中の獣に首輪を巻いたのかも知れない。
それが解き放たれた以上は、血が流れぬことには、もはや収まらなかった。
といって、皆殺しにはできない。一人生かして、情報を得る必要があった。
ならば、要らぬ残りで少し遊ぶか。
「は、挟むぞ!」
「おう!」
動揺から立ち直った二人が一息で川を飛び越え、距離を置いてクレイトスを挟んだ。
その足が、僅かながら地から浮いていたのを、クレイトスは見逃さない。
一撃が弾かれるのなら、二方向から撃つという発想は悪くはない。
だが最善は、クレイトスの手の届かぬ遠い遥か彼方に飛び去ることであった。
戦神と戦い、ただの人が如何にして勝とうというのか。
彼等は、間違え過ぎた。
間違いの代償は、死である。
「喰らえっ!」
二人の声が重なり、右から氷柱の群れが、左から赤と燃える炎が放たれた。
クレイトスは、不動である。死を選んだ訳では無論ない。
氷柱の先が、火炎の熱が肌に触れんとした、その時。
クレイトスの右手から、ブレイズ・オブ・アテナが強弩の速度で離れた。
走る魔刃の唸りは、倒れた一人の傍で呆然としていた男の胸で止まった。
血を吸って真紅の切っ先が、男の背から顔を出す。
自分の身に何が起きたのかを理解する間もなく、男は跳んだ。
クレイトスが、ブレイズ・オブ・アテナの柄尻と腕を繋げる鎖を巻き戻しているのだ。
同時に、クレイトスは後退した。
入れ替わるようにして、ようやっと吐血を始めた男が氷柱と火炎の境に立つ。
避ける術はなかった。
「あがああああっ!?」
左半身を氷柱の群れに喰い破られ、右半身を炎に呑み込まれる。
その苦痛は如何ばかりか。クレイトスが尋ねる前に、男は絶命した。
残り、二人。
口をだらしなく開け、瞠目して凍り燃え縮む仲間を見詰める間抜けが二人。
呆けている暇があるなら、攻め続ければ良いものを。
スパルタにあれば、全ての共同体から排し顎髭の半分を刈るところである。
もっとも、これから刈り取るのは、別の物だったが。
クレイトスは、高々と跳躍した。撃つのなら撃てと挑発するように、両腕を大きく広げて。
着地点は、氷柱を放った男である。
「ひっ」
気付いた男が、引き攣った悲鳴を上げた。
直後、クレイトスは男を蹴り倒し、馬乗りになった。
すかさずブレイズ・オブ・アテナを逆手に持ち、抵抗できぬように男の両腕に刺す。
切断せずに縫い止めれるように、刃筋と腕は並行であった。
「かっ………!!」
血走った眼球が、眼窩から飛び出そうになる。
あまりの激痛に、悲鳴さえ喉奥に引っ込んだようである。
舌を噛んで死なれるのも退屈だ。
クレイトスは柄から手を離すと、拳を握り固めた。
「もっといい声で鳴かせてやろう」
クレイトスは拳を振り上げた。
男の眼尻から涙が零れ落ちる。
その一滴に、どれほどの懇願が込められているのか。
分かる筈もなく、また分かる必要もない。
一切の容赦なく、クレイトスは拳を男の顔面に叩きつけた。
鈍い感触、何かが潰れる感触が、拳に伝わった。
悲鳴は上がらなかった。ただ、体が一度びくりと大きく跳ね、それで終りであった。
どうやら、絶命したようである。
怪物ならば、二、三発は耐えて素晴らしい悲鳴を聞かせてくれるが、人は一撃が限度らしい。
クレイトスは詰まらなさそうに、顔面から拳を剥がした。
ぱらぱらと落ちた赤の混じった白い粒は、圧し折れた歯である。
拳に叩き潰された男の顔面は、血と砕けた骨とよく分からない液体の入り混じった、よく分からないものになっていた。
これでは、親も目を背けるだろう。
いやそもそも、判別さえできまい。
支援
274 :
代理:2008/12/20(土) 17:56:13 ID:KRBa8Oel
「雑魚が」
唾を吐きかけ、クレイトスは腰を上げた。
そういえば、もう一匹の獲物がやけに静かである。
振り返ると、男は火炎を放った位置から、少しも離れていなかった。
反撃さえせず、仲間が惨殺される光景に腰を抜かしていたのである。
よく見れば苦味の走った顔は、涙と鼻水で見る影もない。
返す返す、情けない男だ。
「どうした? 私を殺すのではなかったのか?」
歩み寄りつつ、クレイトスが低い声を投げ掛ける。
それだけで、男の肩が大きく揺れた。
これが油断させるための演技ならば買えたが、どうやらそうではないらしい。
先程まで仲間に混じり余裕の笑みを見せていたのが、少し強気を見せただけで怯えて震える。
クレイトスには理解できぬ惰弱である。
「たっ……たすけっ」
「立て。立たなければ殺す」
男の命乞いを無視し、クレイトスは命じた。
今の内に胸の中で燃え盛る怒りを多少なりとも弱めて置かなければ、生かすと決めた一人まで殺してしまいそうだった。
弱めるためには、贄が要る。
男が、生まれたばかりの山羊の弱弱しさで立ち上がった。
だが、肝心の得物を握る手は、だらりと下がったままである。
クレイトスは小さく舌打ちした。
どうせ贄なら、活きの良い方がいい。
「もう一度、火を放ってみろ」
「ひっ…いいいいっ!」
杖を構えようともせず、男は首を横に振った。
焦れたクレイトスが怒号を浴びせる。
「撃て! 杖を構えろ! 撃てっ!」
「いいっ…いやだああああっ!」
狂気の滲んだ悲鳴を上げ、男は宙に舞い上がった。
彼が空を飛べることは、既に知っていた。
しかし、それで襲いかかってくるのかと思いきや、あろうことかクレイトスに背を向け、全く逆の方向に飛んで行く。
今さらの逃亡は許されない。
クレイトスは先程と同じように、今度は左手のブレイズ・オブ・アテナを投擲した。
銀の光線のように飛んだ刃は、男の背から入って腹を食い破る。
舞った血が煌めいて美しい。
275 :
代理:2008/12/20(土) 17:56:49 ID:KRBa8Oel
「ぎゃあっ!」
苦痛による絶叫が、青い空中に響き渡る。
それを心地良い音楽と聞きながら、クレイトスは腕を引いた。
「ぬん!」
時の巻き戻しのように、男が大地に向かう。
しかし元々立っていた位置には帰らず、クレイトスの横を行き過ぎて地面に激突した。
骨の砕ける音が耳朶を撫でる。
男は反作用により大きく跳ね、宙に浮き上がった。
そこで、クレイトスは再び腕を引いた。
突き刺さったま肉に食い込んだブレイズ・オブ・アテナは主の意志に従い、悲鳴さえ上げなくなった男を地面に叩きつける。
浮かぶ。
叩きつける。
浮かぶ。
叩きつける。
しばし、その繰り返しだった。
いい加減に飽いて、クレイトスはブレイズ・オブ・アテナを手元に引き寄せた。
血が刃から鍔を伝って手に纏わりつく。
さて、その血の原泉は何処へ行ったのやら。
辺りを見回すと、それは少し離れた場所に転がっていた。
赤い、血塗れの肉団子。
これが人であったと、誰が信じるだろうか。
全身の骨が砕け、五体の区別はまるでつかず、遠目に見れば生物の死体かどうかさえ定かではない。
人として、あってはならぬ死の一つであっただろう。
びゅうと、一陣の風が吹き抜ける。
さわやかな筈の草原の風は、やけに生臭かった。
クレイトスには、嗅ぎ慣れた臭いである。
別段気にした様子もなく眼を背けると、川を飛び越えて生かしておくと決めた一人の傍に寄った。
気を失っていることを除けば、男は意外にも軽傷だった。
術が弱かったこともあるだろうが、何か防御力場のようなものに包まれているらしく、頬や顎などに軽い火傷を負っているだけである。
ならば、口を動かすくらいはできる筈だ。
クレイトスは男を軽く蹴り転がすと、背中側から彼の首を鷲掴みにした。
そのまま、猫でも掴んでいるかのように変わらぬ足取りで川縁まで進むと、男の頭を容赦なく流水の中に沈めた。
一分も経たずに水面に泡が浮かび、足が陸に上がった魚のようにばたばたと動く。
頃合いと見て、クレイトスは男の頭を引き上げた。
口や鼻から水が流れ落ち、川縁の剥き出しの土に黒い染みを作る。
276 :
代理:2008/12/20(土) 17:57:21 ID:KRBa8Oel
「目は覚めたか?」
「げっ……がはっ……な、なんでお前っ……」
気絶していた男が、一連を知っている筈もない。
それでも、獲物がこうして壮健でいることから推測すれば、答えを出すのは容易である。
頭の回りが悪い男が理解できるように、クレイトスは前髪を掴んで前を向かせた。
川の向こうの惨状に、顔色が面白いほどに青く染まっていく。
かつて仲間たちだった物体に、余程の衝撃を受けたようだった。
さて、何時までも遊んではいられない。
クレイトスは、奥歯をかちかちと噛み鳴らす男を宙吊りにした。
垂れ下った手には杖が握られたままだが、抵抗をするのなら首の骨をへし折ってしまえばいい。
「貴様らは何者だ?」
訊きたいことは山とあるのだ。
金貨袋を逆さにするように、間断なく吐いてもらわねばならない。
問われて、男は固く口を閉ざしていた。
仲間を殺された意趣返しか、男の意地とやらか。
しかし首を掴む力を少しばかり強めると、打って変って情報を吐き出した。
「かっ管理局……時空管理局だ!」
聞いたこともなかった。
が、最初に時空ときて、おそらくは人の集まりの分際で管理などという言葉が付くのならば、どの様な連中かは大体想像がつく。
ギリシアにいた、スパルタを差し置いて世を席巻しようとしていた愚か者ども、その同類であろう。
「何故、あの子供を攫った?」
「任務でっ……人手不足だから……レアスキル所持者が必要なんだ……」
実のところクレイトスは、誘拐自体を責めるつもりは毛筋程も無かった。
スパルタにおいて、ヘイロタイ――奴隷からの強奪は禁じられておらず、むしろ推奨されていた。
その程度ができなければ、いざという時に兵士として役に立たないからである。
ただ、彼らが攫ったのはキャロとフリードだった。
クレイトスの、言わば持ち物である。
奪われたなら、奪い返すまで。
今度こそ、今度こそ。
血が滲むほどに奥歯を噛み締め、クレイトスは問いを続けた。
皆殺しの予感支援www
278 :
代理:2008/12/20(土) 17:58:19 ID:KRBa8Oel
「私を、あの子の許に連れて行け」
すると、男は激しく暴れ出した。
「そ……そんなことはできない! 任務失敗どころじゃ……ぐげっ!」
全身で拒否の意を示す男の顔面に、クレイトスは軽く拳をくれてやった。
それほど力を込めたつもりはなかったが、鼻の骨が折れたらしく、二つの穴からだらだらと血が垂れ流しである。
それで、男の反抗心は完全に殺がれてしまったらしい。
お情け無く下がった眉の下の眼は、怯え一色であった。
クレイトスは再び命じた。
「もう一度言う。私を連れて行け」
「わ……わがっだ。つ、連れて行くがら……待って……」
男の、杖を握る手が動いた。
余計な事をすれば、クレイトスの手が首の骨肉ごと命を毟っていく。
それが分からぬほど愚かでもないだろう。
男が杖を掲げると、次の瞬間足元に魔法陣が描かれた。
クレイトスは、ふむと喉を鳴らした。
彼の使う神の力を借りた魔法とは違う、見慣れぬ術だった。
「本局からの補助で……艦無しでも二、三人くらいなら転送できるんだ……すぐに、着く……」
息も絶え絶えに男が言葉を紡ぐ。
要らぬ説明であるし、無駄口を叩く余裕があることが気に入らず、再び拳を叩きこもうと思ったクレイトスだったが、万が一殺してしてキャロの手掛かりを失うのも馬鹿らしい。
思う間に、転送とやらが始まっていた。
一瞬、草原が世界が白く染まったかと思うと、瞬く間に新たな景色が視界に映る。
クレイトスは、捕らえた男はそのままに、灰色の廃墟の中に立っていた。
見たことのない材質で固められた広い道の左右には、崩れかけた背の高い建造物が均等に間を置いて並んでいる。
神殿には見えない。
過去にはおそらく街だった時節があったのだろうが、今は生活の気配など微塵も感じられない、ただの廃墟である。
吹く風も、どこか寂しげに鳴き叫ぶ。
上空から降る無数の気配に、クレイトスはほとんど土の露出の無い大地から視線を外し、首を振り上げた。
279 :
代理:2008/12/20(土) 17:59:15 ID:KRBa8Oel
「……小蝿どもめ」
クレイトスは思わず呟いた。
建造物によって狭く切り取られた空に、気配と同じ数の人影があった。
呪術師のローブに似た服、あるいは甲冑に身を包み、手に握った武器は杖や剣、槍に鉄槌など雑多である。
男だけでなく、女も少なからずいた。
ふと見ると、未だ首を掴まれたままの男が、血塗れの顔に薄い笑みを浮かべている。
何時の間にやら、仲間を呼んでいたらしい。
途中で気付いたならば生かしておかなかった事を思えば、その度胸は買おうと思えば買えた。
空でこちらを見下ろす群れの内の一人が、居丈高な声を放つ。
「そこのお前! 人質を解放し、速やかに投降」
ごきり。
声を遮って、鈍い音が廃墟に木霊した。
そしてクレイトスは、彼らの望み通り男を解放した。
しかし、男の目は現世を見ておらず、首は不自然な曲がり方をしていた。
誰の目も、彼の死は明らかだった。
敵がこれだけおり、わざわざ待ち構えていたのなら、とにもクレイトスの望んでいた場所ではあるのだろう。
使い終わった道具は、始末するのが常である。
クレイトスには、その程度の意識しかなかった。
まるで虫を殺すかのような鮮やかさに、空に浮かぶ群れは、しばし困惑していた。
「こいつ……っ!」
と、誰かが怒りの声を上げると、それに触発されたか、怒気が膨れ上がっていく。
対してクレイトスは………何も変わらなかった。
いつも通り眉間に皺を寄せ、口を引き結び、怯え気負いは一切ない。
むしろ自分に向けられた怒気を心地良いとさえ感じながら、クレイトスはブレイス・オブ・アテナを抜いた。
先程と同じである。
暴れて、一人生かし、情報を得る。
ふと、脳裏にキャロの笑顔が過った。
再開の折、もしこの両手が返り血に塗れていたのなら、果たして少女は受け入れてくれるだろうか。
そんな懸念が浮かび、そして消えた。
空が、無数の魔法陣で虹色に輝く。
彼らの行く先は、タルタロスかエリュシオンか。
「我が名はクレイトス! カロンへの渡し賃をくれてやる!」
かつて滅ぼした冥界の魔人を思い返しながら、クレイトスは駆けだした。
以上です。申し訳ありませんが、どなたか代理をお願いします。
と言うわけで代理でした。
クレイトスさんマジ容赦ねぇwww
乙、むーざんむーざん。
>>224 真面目に考えたら奇妙な構造だ
萌2Dと3Dの違いを今、理解した
GJ!
さすが洋ゲーの主人公!情け無用だ!
この男が管理局と相容れることはないなw
GJ!!です。
うわぁ、怒らせちゃいけない人を怒らせたw神すら殺す男だものなぁ。
絶対キャロの元までいけそうだよw圧倒的な力で一人以外を惨殺し、
一人残して半殺しにして情報を聞くを繰り返すんだからwww
格好がポテイトスだったらとたんにギャグにw
短編なのかな?続きを書いていただけると嬉しいです。
一応短編になっております。
でももしかしたら続き書くかも……
GJ!
局員どもは戦う相手を間違えたなw
あ、代理の方どうもありがとうございました。
そうですか。
キャロの元まで辿り着いて、キャロの安全の為にとクレイトスを捕まえる為に追いついたフェイトにキャロを預けるとか見てみたいです。
キャロが志願したのだけど、知らずに六課にいて戦闘をしていることを知って小娘ぇぇぇ!!と殴りこみとかキレるとかw
クレイトスさん、クレイトスさんじゃないかっ!
GJです! 血の海と屍の山を築き上げそうな戦神とキャロのふれあい、何とも言えず素敵でした。
うぉぉん、何だか書きたくなってきた……!(GOW的な意味で)
どうもこんばんわ
20時45分よりカブトレボリューション序章最終話を投下します。
クレイトスさんは護るべき市民を自害させていい笑顔で鍵を持っていく素敵な人!
では、時間なので投下します。
戦闘機人。
身体能力を強化する為に人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得たミッドチルダの技術。
いわゆるサイボーグに等しい。
倫理的、技術的に大きな問題がありタブーとなっているが、一部の非合法組織では未だに開発が進んでいる。
少女の名はスバル・ナカジマ。
一見すると、何処にでもいそうな普通の少女かもしれない。
その正体は姉のギンガ・ナカジマと同じく、陸戦魔導師の捜査官クイント・ナカジマの遺伝子を用いて、戦闘機人の実験体として人工的に生み出された『タイプゼロ』。
14年前、戦闘機人の捜査を進めていたクイントに発見され保護される。
その後の検査で姉妹の遺伝子がクイントと一致すると知り、クイントと夫のゲンヤ・ナカジマは二人を娘として受け入れた。
閉鎖された廃墟の都市、渋谷の一部――エリアZ。
地下深くに存在するその部屋は暗闇に包まれ、コンクリートと鋼鉄によって異常なまでに冷えており、鉄の生臭い匂いが漂う。
そんな劣悪な部屋に置かれているモニター画面の前にバットは立っていた。
『ほう、ゼロセカンドの捕獲に成功してくれたか!』
「その通りです」
画面に映る男はバットの報告に気持ちを高ぶらせ、歓喜の声を上げている。
それはまるで無邪気に遊ぶ小さな子供のようだった。
その男は自身の身体を白衣に包み、薄紫の長髪は肩にまで伸び、瞳は金色に染まっていた。
ジェイル・スカリエッティと呼ばれるその男は多くの犯罪を起こし、広域指定次元犯罪者として指名手配されていた科学者だった。
かつて自らが起こしたミッドチルダを震撼させたJS事件の末に逮捕され、第9無人世界の「グリューエン」軌道拘置所に数年間収容されていた。
彼の正体は時空管理局最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出した人造生命体であり、無限の欲望を意味するコードネーム――『アンリミテッド・デザイア』を名付けられた異能の天才児。
あらゆる分野に驚異的な知識を持ち合わせていて、それを用いて数多くの技術を生み出している。
もしも、違法研究に手を染めなければ間違いなく後世にその名を残していただろう。
現在は解放された娘たちと共に、ワームを補佐する技術者となっている。
「もう少しであれを元にしたホッパーが完成します」
『ご苦労だった……さあ、早くアジトに帰還して後はこちらに任せると良い』
「いえ、これから最後の仕上げに入るところです。ですから帰還はそれを終えてからで」
『そうか、ではそちらでお願いしよう』
「分かりました」
そのままスカリエッティは嬉々した態度で口を開く。
モニター画面から放たれる光で蝙蝠を模した仮面が照らされる中、バットは一礼する。
顔を上げてから見えるスカリエッティの笑みは、何処か落ち着いた物となっていた。
『それにしても君はゼロセカンド相手によくやってくれた。パーティーの一つでも開きたいくらいだ』
「それ程の事でしょうか? あまりにもあっけなくて拍子抜けしましたが」
『それでも、ISを使わせなかったのは大したものだよ』
「恐れ入ります」
スカリエッティは感嘆したように言うが、バットは大した仕事をしたとは思っていなかった。
戦う為に生み出され、常人を遙かに上回る力を持ち、ISという機能までも付いている。それがバットが聞いた戦闘機人という存在だ。
その為に計画の一環としてネイティブの肉体を強化改造したバットが捕獲を担当された。
ところが実際やってみれば、確かに向こうは異様な運動能力とネイティブにダメージを与えるほどの力は持つ。
しかし救援に来た同胞の不意打ちに敗れ、そこから攻撃を数発加えればあっけなく意識を失ってしまった。
『しかし君らネイティブやワームの擬態能力、ファンガイアの変化とは実に素晴らしい。私の生み出したライアーズ・マスクをも上回るとは……管理局の情報を引き出すのに助かる』
「いえ、前に確かめてもらいましたがあれもなかなかでしたが。あのような物を組み込める貴方のような方が我々に加わってくれて本当に助かります」
『そうかい、それは光栄だ』
バットは仮面の下で喉を鳴らしながら、スカリエッティと似たような笑みを浮かべる。
「さて……そろそろ作業に入ろうと思うのでこの辺で」
『そうか、では我々は待っているよ』
そのやり取りを終えるとモニター画面の光は消え、再び部屋に暗闇が包まれる。
それと同時にバットは微かな青い光に照らされる見慣れた廊下に出て行く。
最後のデータ書き換えを終えれば、邪魔者を始末する為の戦力が飛躍する。
喉を鳴らし続けたままその思いを胸に抱え、乾いた足音を響かせていた。
その思考はすぐに終わりを告げる。
静寂に包まれたはずのエリア内に、突如としてけたたましいサイレン音が鳴り響く。
青く照らされている廊下の照明が赤く明滅し、否が応でも緊急の事態が起こったことをバットに知らせる。
警報音が通路に響く中、一体のネイティブが慌ただしい様子で駆け寄ってくる。
「何事だ!?」
「カブトです、カブトが現れました!」
それを聞いたバットは仮面の下でぎょっとした表情を浮かべる。
そのままネイティブは続けた。
「全力で抗戦していますが、とても太刀打ちできません!」
「何故カブトが現れた!?」
驚愕に支配されるバットに対し、ネイティブは「分かりません」としか返せない。
「お前達で何とか食い止めろ! あと一歩で――」
「カブトの勢いは凄まじく、このままでは全滅してしまいそうです!」
苛立ちを覚え、バットは渾身の力でコンクリートの壁を殴りつける。
信じられない。
この計画はかつて、地球を支配しようとした根岸の意志を継いだごく一部のネイティブ内でしか伝わっていないはずだ。
ここでバットは一つの可能性を模索した。
もしや裏切り者がいて、ZECT総帥――加賀美陸に情報を垂れ流し、カブトを送り込んだのか。
だとしたら危険だ、このままではゼロセカンドを奪われた挙げ句に計画が察知される危険性がある。
今からデータ書き換えの手術をしたとしても間に合うとは思えず、逃げ出そうとしても鉢合わせするに違いない。
仮面の下でバットは歯をギリギリと音を立てて鳴らすと、そのまま廊下を駆けていった。
広大な廃墟の一角で、その青年は足を進めていた。
ファッション雑誌からそのまま切り抜いたようなセーターやジーンズ、マフラーに身を包む彼の年齢は若い。
彼はこの場所を困惑した表情を浮かべながら見渡している。
鼻を塞ぎたくなるような硝煙の煙、墓石のように並び立つ瓦礫と鉄骨の山、倒壊したビル、原形を留めていないほど破壊された車、折れ曲がった看板と標識。
周囲に漂うそれら全てが地獄の光景と呼ぶに相応しく、灰色に曇る空がその薄気味悪さを一層引き立てていた。
何一つの希望を感じさせい廃墟がこの世界に存在していたのか。
こんなにも恐ろしく、絶望という言葉が相応しい場所がこの世界にあったのか。
そして、一体この場所に何があったのか。
長年閉じた世界で育ってきた彼にはそれが理解出来なかった。
青年がこの場所を訪れた理由は一つ、彼とつき合いの長い相棒と父の遺した品の告げる声に導かれて。
その声は、この場所に異変が起こっていることを知らせている。
ここは警察の手で何十にも封鎖されていたが、青年は目の届かない場所から何とか忍び込んで進入することに成功した。
「にしても何なんだここ、ファンガイア以外にもヤバイ雰囲気が漂ってやがるぜ……」
青年の傍らで羽を羽ばたかせ、蝙蝠を連想させるモンスター――キバットバットV世はぽつりと呟いた。
その赤い両眼で、彼もまたこの廃墟をきょろきょろと見渡していた。
対する青年はそれに答えず己の本能のまま、ひたすら足を進める。
如何なる物が待ち構えていようと、彼は進むだけだった。
やがて、彼の前に灰色の建物が現れる。
そこは瓦礫の山が広がるこの場所には珍しく形が整っており、鉄門がそびえ立っている。
青年は感じる異変がここから放たれていると本能で察知すると、途端にその表情が強張っていく。
脆弱から一変、それは決意を感じさせる物となった。
「キバット!」
「了解〜!」
青年の呼び答えに対し、キバットバットV世は軽い口調で返す。
そして青年は右手にキバットバットV世を収め、その口を反対の手の甲に噛みつかせた。
「ガブッ!」
キバットバットV世はその声と共に、自らの牙を青年の左手に突き刺す。
その途端、彼の身体に凄まじい量の魔皇力――アクティブフォースが駆け巡る。
すると青年の下顎にステンドグラスを彷彿させる模様が浮かび上がり、腰には鎖が巻き付かれ、バックルへと変質していく。
彼はキバットバットV世を握る右手を勢いよく前方に突きつけると、その言葉を力強く言った。
「変身!」
青年はキバットバットV世をベルトの台座――キバックルにぶら下げるように取り付ける。
キバットバットV世が止まり、バックルはキバットベルトに変化する。
するとその体は、ベルトからの波動によって生まれた魔金属――ルシファーメタルで生成されたアーマーに包み込まれた。
青年の姿は人ではなく異形へと変わり、黄金色の両眼は輝く。
様々な情報収集器官を集約し、あらゆる衝撃から頭部を守るマスク――キバ・ペルソナ。
伝説の悪魔の顔を象った首飾り――ダークネス・チョーカー。
全身を守りながら内蔵する力の暴発を押さえつけ、赤と銀を基調とした吸血鬼を彷彿させる鎧――キングシングレット。
幾重にも枝分かれした筋が通り、胸部を守る真紅色に染まった力の貯蔵庫――ブラッディラング。
銀色に輝き、内蔵する力を押さえつける為に存在する両肩部の拘束具――プテラ・プレート。
超人的腕力を与える為に巻かれ、両手首で銀色に輝くブレスレット――キングブレス。
下半身を守り、いかなる極限状態からも青年を守る漆黒に輝くインナースーツ――ドランメイル。
それぞれの膝を守り、足先へと流れる力をコントロールすることが可能な防護具――シルバニア・ニーガード。
封印の鎖――カテナに縛られ、銀色に輝くプレートで堅く構成された右脚の拘束具――ヘルズゲート。
彼の名は紅渡。
またの名をキバ。闇の一族――ファンガイアと戦い、王の力を持つ鎧――仮面ライダーキバ キバフォームがそこに立っていた。
仮面ライダーカブト レボリューション 序章
その3 二人の英雄 新たなる仮面
マスクドライダーシステムの秘密を握り、永久に閉ざされた筈の廃墟――エリアZ。
荒れ果てたその空間は、青色の灯に照らされていた。
侵入者を拒むようなシャッターやドア、階層の移動に使われるはずのエレベーターは既に朽ち果て、その役割は果たしていない。
老朽化の所為か所々の壁が剥がれ落ちており、無惨に床に散らばっている。
時間が止まったかのような静寂に包まれるその空間には、複数の殺気が一ヶ所に集中していた。
それは武骨な銀色の鎧が特徴のライダー――仮面ライダーカブト マスクドフォームに目掛けての物だった。
殺気を放っているのは蛇を連想させる仮面で顔を覆い、黒を基調とした装甲に身を包み、鞭を片手に持つ異形――スネークと、それが率いる五体のネイティブ。
そしてカブトに傷を負わされながらも、何とか背後から追ってくる二体のネイティブ。
彼らはいずれもカブトに対する敵意を全身にみなぎらせていた。
何の事情も知らない常人がいきなりこの状況に放り込まれれば、ほんの一瞬で正気を失った後に死を覚悟するだろう。
だが敵意をまともに浴びているカブトは取り乱すどころか、一片のうろたえも見せていなかった。己を鍛え続け、数多の戦いを乗り越えてきたカブトにとってこの程度は何の脅威にもならない。
睨み合いはほんの一瞬で終わり、スネークが率いるネイティブは呼吸を合わせてカブトに打ちかかってきた。
濃緑の爪は前後左右から襲いかかり、続くように鞭が飛んでくる。敵は集団戦に慣れているのか、闇の中でもその動きには調和があった。
対するカブトは本能に従って動いた。ほんの僅かでもそれが誤っていればアーマーを傷つけられ、ダメージを受けてしまう。いくら防御に特化されているマスクドフォームでも油断は出来ない。
襲いかかる複数の爪と振り下ろされる鞭は、一寸の狂いがないように見えても僅かながらのズレが存在する。そこを見分ければ陣形が崩せる。
カブトクナイガン アックスモードを右手に持つカブトは、重量感が溢れるそのアーマーからはとても想像出来ないくらいに軽やかな動きで敵を翻弄し、斧の一撃をネイティブに浴びせる。
一体、また一体。
皮膚を裂かれたネイティブは、痛みのあまりに蹲る。
残りの敵は背後を取られないように壁や柱を背負うようにしているが、変幻自在な動きで爪を避けるカブトはそのようなことを構いもせずに斧を振るう。
数では圧倒的に敵の方が有利だが、カブトには心得があった。
多数と戦うときは自らが絶えず動き回り、敵の体勢を崩すのが上策だ。荒れ果てていて足場の条件は悪いが、この室内は広いので問題にはならない。
徐々に倒れていく敵は地の利で補おうとするが、カブトとの実力に差がありすぎる。戦闘が始まって三十分以上経つはずなのに、カブトには傷を何一つ負わせられない。
ネイティブは焦ってきたのか、その爪を乱暴に振るう。
しかし力に任せただけの攻撃など、カブトには無駄以外の何者でもない。
カブトは恐ろしいほど早く、そして正確にその爪を避けながらネイティブの脇に回り込むと、斧を用いて皮膚を切り裂き、怯ませる。
時折飛んでくるスネークの鞭を斧で弾きながら、その勢いでネイティブ達の皮膚を斬り続ける。
やがて全てのネイティブはその場に倒れ込み、残されたのはリーダーと思われるスネークのみだ。
カブトは拳銃を構えるかのような形でクナイガンを持ち替え、銃口をスネークに突きつける。
「お前達、一体ここで何を企んでいる?」
闇の中でカブトは問いかけるが、スネーク率いるネイティブは答えない。
何故エリアZの封印を解いたのか。一体ここで何をするつもりなのか。
そして、自らの前に立つ異形は何なのか。その仮面からは殺意以外の感情が一切感じられず、まるで殺戮機械を彷彿とさせる。
カブトは、左手で自らのゼクターに付く角を九十度の角度で起立させた。それを合図として銀色の鎧が外れていく。
腕部、両肩、胸部、頭部
全てのアーマーが外れると、その単語を呟いた。
「キャストオフ」
『Cast Off』
ゼクターホーンを左側に倒すと、瞬くような電子音が響き渡る。
頭部の装甲が分離し、全身の鎧が暗闇の中で弾かれ、空気を切り裂くような勢いでスネークに激突していった。
その直後、顎からは角がせり上がり、青い単眼を複眼へと変えた。
『Change Beetle』
ライダーフォーム。
それがその姿の名前だった。
全てのアーマーを脱ぎ捨てて現れたのは、スリムなスタイルが特徴的な真紅の鎧。
ボリュームのある角を持つその仮面はカブト虫を連想させ、輝きを放つ双眸を力強く向ける。
現れたのは太陽の如く赤い輝きを放ち、絶対なる強さを誇る仮面ライダーカブトの真の姿。
カブトは形態を変えるのと同時にクナイガンの引き金を引く。
暗闇の中で銃口が瞬くと、数回の轟音が響いた。
眩い閃光と共に放たれる光弾は、超高速でスネークの装甲に殺到する。
「!!!!!!!!」
刹那、光弾が命中した箇所からは火花が飛び散り、スネークは仰け反った末に硬直する。その隙を逃さずカブトは姿勢を低くし、異形の懐に飛び込んだ。
硬直はほんの数秒で解けたが、手遅れだった。スネークの目前には刃があり、闇を照らすかのように鋭い輝きを放つ。
カブトは刃を持つ形状へと変えたクナイガンを一閃させると、焼け跡が残る装甲はまるで豆腐か何かのようにすっぱりと斬れ、火花が再び噴出した。
その勢いを保ったまま刃を返し、カブトは力を込めてクナイガンを振るう。変幻自在に軌道を変える斬撃に、相手はただ耐えるしかできない。反撃など不可能だった。
息が続くままカブトはクナイガンを振るい続け、その一撃の為に勢いを溜めるように構えると、息と共に薙ぎ払う。
「はあっ!」
渾身の力を込めたカブトの一撃によってスネークは吹き飛び、背中から壁に叩き付けられて崩れ落ちた。
その衝撃によりコンクリートが破壊され、ガラガラと音を立てながら敵の上に落ちる。
カブトは油断することなく、クナイガンを構え続ける。
斬撃の連続によって乱れた呼吸を整えながら武器を手に、スネークの方へ慎重に歩き出した。動かないのなら良し、もしまだ戦えるのなら即刻にトドメを刺す。
そのまま近づいていく。だがあと一歩という距離まで近づいたとき、その足が不意に止まった。
「これは……?」
その異変に気が付くのはすぐだった。
瓦礫に埋もれたスネークからは動く気配が感じられない。だがカブトは目の前の出来事を把握することが出来なかった。
自身のクナイガンで切断したスネークの装甲は、硝煙の匂いと火花に包まれている。
その切断面からは、この世に存在する物とは思えないような金属製の回路が剥き出しになっていた。
そこからすぐにカブトは踵を返し、ネイティブ達の方へ歩を進める。
「話して貰おうか」
目前へと迫るカブトを見て、ネイティブ達はその体をぴくりと震わせる。
そのまま腰が抜けた様子でへたり込み、這い蹲るように闇の中へ逃げ出した。
だが逃がすつもりなど無い。
後を追う為に動き出そうとしたその時、それは起こった。
「ギャアアア…………」
突如、闇の中から金切り声が生まれ、廃墟の中に響き渡る。
続くように断末魔の悲鳴は一つ、また一つと増えていく。
それらは瞬時にカブトの鼓膜に入り込み、無意識のうちにその足を止めてしまう。
「何だ!?」
カブトは言うが、誰もそれに答えない。
目を凝らしても全てが闇に覆われていて、状況の把握が出来ない。
警戒を強めると、突然幽霊でも現れたかのように暗闇の中からぼうっと人の形が浮かび上がる。
しかし現れたそれは人の姿をしておらず、蛸を連想させる風貌をしていた。今までに見た怪物――ワームとは明らかに姿が違う。
支援
その異形――オクトパスファンガイアに続くかのように暗闇から気配が迫る。
同じように現れたのはワームとはまた別の怪物と思われる異形だった。
蛾を連想させる異形――モスファンガイアは片手に剣を持ち、距離を詰めてくる。
新手か。
突き刺さる殺気からカブトは判断すると、背後から足音が鳴り響く。
気配を感じて振り向くと、そこには暗闇と同調するかのような漆黒のマントに覆われた異形が立っていた。
その異形は先程戦ったスネークのように、蝙蝠を模した仮面を被り、全身が装甲で守られている。
「役立たず共が……足止めもできんのか」
現れた異形――バットは感情を殺した冷たい声を出す。
今の一言でカブトは察する。ネイティブ達はあの異形に殺された。
「奴等はお前の同族じゃなかったのか」
「使えない奴などファンガイアの餌になればいい、邪魔でしかない」
「ファンガイアだと?」
カブトは現れた異形を再び見向くと、陸から聞いた話を思い出す。
根岸の意志を継ぐネイティブやワームと結託し、この世界に暗躍している魔の一族――ファンガイア。
それはワームと同じく人間の姿に化けて、社会に潜みながら人々を襲い、その生命力を糧としているモンスターと聞く。
その活動はワームより遙かに古く、太古の時代から人間を襲っていたらしい。
自分を止めなかったことにより、あのネイティブ達はファンガイアの餌に利用されたとカブトは判断する。
「我々を裏切ろうとした奴等など、消えて当然だ」
吐き捨てるようなその一言に怒りを覚え、カブトは仮面の下で眉を歪ませた。
周囲を囲む異形達は輪を作るようにカブトの周りに立ち、殺気を突きつけている。しかしそれに怯むことはない。
カブトは周囲の敵を見定める。この連中の戦闘力はワームとほぼ同等かもしれないが、油断は出来ない。
殺意に立ち向かうように、クナイガンを構え直す。
荒れ果てた廃墟でカブトは一人、この状況を打破する為の算段を立て始める。
しかし、それは長くは続かなかった。
――轟。
突如として、静寂は終わりを告げた。
閉塞された空間の中に強烈な震動が襲うと、何かが壊れる音が響く。それはすぐ近くにあるコンクリートの壁が破壊される音だった。
その壁の中心に巨大なヒビが走ると、耳をつんざくような凄まじい轟音が室内に響き渡る。
降り注ぐ破片と一緒に、人型のシルエットが浮かび上がる。
それにより猛烈な勢いで煙が吹き出し、周囲の視界を遮っていく。
「!?」
一体何が起こったのか。
薄明かりしかない暗闇の中、四人はその方向を瞬時に見る。
やがて煙が晴れていき、その形が浮かび上がっていく。そこから現れた存在に、カブトは驚かざるを得なかった。
「何……!?」
現れたのはライダー。しかし今までに見たことがないタイプの物だった。
腰に巻かれるベルトには、ゼクターと思われる蝙蝠に類した物体が付けられている。
もしやZECTの新型ライダーなのだろうか。
支援だぜ!!!
「き、貴様は……キバ!?」
取り乱しているようなバットの声に反応し、カブトは現れたライダーを再び見つめる。
闇を照らすかのような金色の両眼、赤と銀、そして黒の三色を基調とした吸血鬼を連想させる鎧――仮面ライダーキバの姿がそこに確認出来た。
カブトはキバと呼ばれるライダーに目線を合わせる。敵味方の判別はつかないが、その双眸からは殺意が感じられない。
しかしカブトは素性の分からない奴を信用するつもりは無かった。このような場所に現れたからには何か得体の知れない能力を持っているはず。
今のバットの対応からすると、目の前の異形とは敵対関係にあるのだろうか。
だがもしも自分の敵ならばバットとファンガイアもろとも始末する、そうでなければ放置しておけばいい。
暗闇の中で二人のライダーは、視線を異形達に向ける。自らに突きつけられている殺気に臆することなく、前に踏み出した。
バットを目掛けたカブトは一陣の風となり、右腕を標準に定めてクナイガンを振り下ろす。
その一撃によりバランスを崩し、装甲に守られた胴体ががら空きとなってしまう。続けざまに素早く右から左へ、左から右へと変幻自在に腕を振るう。
バットには連続を受けることしかできない。洗礼された戦士の斬撃を止めることなど不可能だった。
「――!」
やがてその攻撃に耐えられなくなり、声にならない悲鳴をあげながら床に転がる。
バットが倒れた辺りへと近づきながら、カブトはクナイガンの刃を突きつけた。
「終わりだ」
冷たく言い放つが、バットはその仮面の下でカブトを睨み付ける。
すると突然バットは立ち上がり、自らの左手を突きだした。
「死ねぇ!」
バットの掌から幻想とも呼べるような槍が出現し、空気を裂くようにカブトを襲う。
そのまま轟音と共に、壁が破壊されていった。
あまりに唐突すぎる出来事にカブトは対応しきれず、槍にアーマーを貫かれ、為す術もなく身体が吹き飛び、壁に叩き付けられる。
コンクリートを突き破りながら床に転がり、一寸も動けなくなってしまう――
はずだった。
『One』
突然鳴った電子音声に違和感を覚え、背後を振り向く。
そこにはカブトが何事もなかったかのように立っていた。襲わせたはずの槍は何処にも見られない。
バットの構えを見たカブトは何かが来ると確信し、瞬時に床を蹴りつけながら跳躍し、かわすことに成功したのだった。
刃は微かに足を掠めたが、何ら問題ではない。彼はカブトゼクターのボタンに手をつける。
『Two』
勝利へのカウントダウンを告げる音声を連れて、カブトはゆっくりと歩を進める。
その行為を妨害するかのようにバットは荒い息遣いで拳を振るう。
だがカブトにとって粗暴なだけの攻撃など何の問題でもない。荒々しく迫る握り拳を姿勢をずらしながら軽々と躱し、無防備の脇腹を目掛けて拳を打ち込む。
拳を六発打ち込み、装甲を歪ませる。最後の一撃を終えるとその身体は容赦なく吹き飛び、地面に転がっていく。
『Three』
最後のカウントが鳴り響く。
蹌踉めきながらも立ち上がるバットを尻目に、彼はゼクターホーンを反転させる。
準備は完了した。
カブトは、その一撃を放つ為に静かに呟いた。
「ライダー……キック」
『Rider Kick』
宣言と共にゼクターホーンを再び反転させる。瞬間、ゼクターからタキオン粒子が噴出され、稲妻を模しながら角を駆け巡った。
エネルギーは左足へと流れ込み、青白い輝きを絡ませる。
タキオン粒子が宿る回し蹴りをバットに放ち、乱暴に瓦礫の中へと吹き飛ばした。纏ったエネルギーが全て敵に流れる感触を足の裏から感じる。
粒子は体内を縦横無尽に踊り、組織を粉砕していく。
やがて暴走に耐えきれなくなった身体にはヒビが入り、亀裂から光を放つ。
異形の身体は断末魔の叫びを上げるかのように爆発四散し、稲妻が轟いたような轟音が廃墟に響いた。
ふと、カブトは周囲を見渡すがそこには暗闇が広がるだけで、何一つの気配が感じられない。
あのファンガイアと呼ばれた異形達も、キバと呼ばれたライダーも、そこには見られなかった。
太陽の光が厚い雲に遮られ、空は灰色に染まっている。
見捨てられた瓦礫の山の一角で、三つの異形は駆け巡っていた。
醜悪な外見を誇る二体のファンガイアは、弱者を蹂躙するかのような殺意を放っている。
しかしそれは完全な物でなく、微かながら畏怖の念も混ざっていた。
左右から放たれるファンガイアの敵意に怯むことのないまま、仮面ライダーキバは己の本能のまま立ち向かっている。
オクトパスファンガイアはその拳を乱暴に振るう。しかしキバは膝を軽く折り曲げながらそれを軽々と避けて、ファンガイアの側面に回り込む。
自らに襲いかかる拳を腕ごと掴みながらモスファンガイアに目掛けて、背負い投げの応用で投げ飛ばす。
両手を暴れさせるオクトパスファンガイアは弧を描くように空中を舞いながら、モスファンガイアに激突し、勢いよく地面に転がる。
これで勝てる。
そう確信したキバは、ベルトの脇に備え付けられている赤い笛――ウェイクアップフエッスルを取り出し、キバットバットV世の口に押し込んだ。
「ウェイク・アップ!」
キバットバットV世が叫ぶと美しい笛の音色が鳴り響く。それは幻想的で、どこか美麗だった。
灰色に染まる大空は漆黒に覆われ、巨大な満月が浮かび上がる。
真夜中のように深い宵闇の中、キバは両腕を胸の前で交錯させながら低い息を漏らし、右脚に力を込める。
地面を蹴るようにそれを勢いよく振り上げると、蝙蝠の羽が羽ばたくかのように拘束具が開かれ、封印の鎖は断ち切られた。
そして残った左脚を利用し、天へと跳躍する。そのまま満月の光を背に、急降下で右脚をオクトパスファンガイアに向けた。
「はあああああああっ!」
矢のような勢いを持った必殺の蹴り――ダークネスムーンブレイクをオクトパスファンガイアの心臓に打ち込み、そのまま地面へと叩き付ける。
その足の先から膨大なエネルギーが流れ込む。地割れが起こったような轟音が響き渡り、地面に皇帝の紋章を象ったようなクレーターが深く刻まれた。
ファンガイアの身体は内側から徐々に崩壊していき、やがてガラスが割れるかのように肉の破片が飛び散った。
右脚が再び封印の鎖に縛られる。夜の闇が晴れ、空は元の灰色を取り戻す。
キバは残るモスファンガイアに視線を移し、対峙する。キバの双眸を向けられたファンガイアは後がないと判断したのか背を向けて、走り去っていく。
その時、突如としてキバの脇に光が走る。一筋の熱線はモスファンガイアの身体を貫いていき、その身体を粉砕させた。
一体何が起こったのか。
背後を振り向くと、異形が立っていた。しかしその姿はファンガイアとは大きく異なる。
大柄の女のような姿をし、金属的な輝きを放つレオタードのような外装に身を包み、たった一つ付いているバイザーのような巨大な瞳。
正体は分からないが、味方が来たという可能性をキバは瞬時で否定した。証拠に、瞳からは並のファンガイアを凌駕するような殺気が放たれている。
現れた異形――マリアージュの手にはアサルトライフルが握られ、その口からは煙が空に昇っている。
「おいおい、また変なのが出てきたぞ!」
突然現れた未知の敵に対し、キバットバットV世は驚愕する。
先程から立て続けに起こる未知の出来事に、彼は軽い混乱状態に陥ろうとしていた。
脅威に立ち向かうかのように、キバは身構える。ファンガイアを一撃で葬れる力を持つから、無力とは思えない。
ほんの僅かな睨み合いが終わると、キバは前に踏み出す。
マリアージュの持つライフル銃からは複数の光が放たれるが、素早く姿勢を低くしながら避けていき、懐に入り込む。
無防備の腹にストレートを当て、身体を傷つける。続けるように連続で拳を繰り出した。
一発目はその身体を守る役割を持つ布を切りながら、胸部を目掛けて突き出す。切断面からは銅色の装甲が現れる。
それを見逃すことのないまま、力を入れた二発目を繰り出す。微かながらマリアージュが揺れる。
再びその場所に狙いを定め、三発目を叩き込んだ。鋼鉄が殴られる鈍い音が周囲に渡る。
この勢いならば逃れることは不可能、あとは渾身の力を込めた一撃で吹き飛ばせばいい。キバの連撃はマリアージュの胴体を目掛けて突き進んでいた。
四発目を打ち込む。
しかし、マリアージュがそれを浴びることはなかった。
突然、キバの視界が光に包まれる。眩しいと感じたときには彼の身体が宙に浮いていた。その勢いで瓦礫の上に叩き付けられる。
凄まじいほどの粉塵が吹き上がる中、キバの胸部には灼熱の激痛が広がる。
痛みに耐えながらも立ち上がり、仮面の下でマリアージュを睨む。その手に握られている拳銃からは煙霧が昇っていた。
自身が撃たれたと判断していると、再びその銃口が光る。
そこから嵐が降るかの如く閃光が襲いかかり、四肢に火花が飛び散る。
「ぐあっ……!」
悲痛な呻き声を漏らし、数歩後退ってしまう。
肩、胸、腕、太股と次々に衝撃が走る。
まるで地肌を直接火で炙られているかのような痛みにじわじわと襲われるが、吹き飛ばされないよう踏ん張りを入れる。
光の雨は止むが、その途端にキバはがくりと膝をついてしまう。
痛みのあまりに視界が歪む中、マリアージュはじりじりと詰め寄ってくる。
手強い。
初めて遭遇する敵の強さに、唇を噛み締める。
気がつくと、その両手は自身が与えた衝撃で痺れていた。このままの状態で戦っても絶対に勝てないだろう。
そう、このままでは。
全身が痛みながらも身体を持ち上げ、彼はベルトの脇から黄金色の笛――タツロットフエッスルを取り出す。
叫ぶようにその名を呼びながら、フエッスルをキバットバットV世の口に装填させる。
「タツロット!」
キバが出す吶喊の声と共に、聞く者全てを奮い立たせるような力強い音響が廃墟を駆け巡る。
それに答えるかの如く軌道を描き、空の彼方から彼は現れた。
「びゅんびゅんびゅ〜ん! 只今見参〜!」
現れた彼は人の頭一個分の全身が黄金色に輝き、その姿は龍を彷彿とさせる。
彼の名は魔皇龍タツロット。キバットバットV世と同じく彼もまた、ファンガイアと戦う渡にキバの力を貸している。
タツロットは高速でマリアージュの懐へ飛び込み、自らの身体を用いて突き飛ばす。
そしてキバの元へと向かっていった。
「テンション、フォルテッシモ!」
タツロットは羽をパタパタと動かしながら浮遊し、キバの身体から封印の鎖と拘束具を解き放っていく。
両腕、両肩、胸部、両股、背部。
全ての封印を順番に解き放つと、彼は自らキバの左腕に装着していく。
「変身!」
タツロットは叫ぶ。
その鎧に宿る魔皇力が溢れ、闇夜を照らすかのような輝きがキバから発せられる。力は全身に張り巡らされた血管と神経に流れ、新たなる装甲を精製する。
頭部の仮面が形を変え、続くように全身の装甲が生まれ変わっていった。背中には羽織る者に威厳を感じさせる真紅のマントが作られていく。
マリアージュは起き上がりながら、ただ呆然とその姿を見ているようだった。
眩いほどの光から現れた、凛然たる黄金色の皇帝を。
その名はエンペラーフォーム。
自らの中に封印された全ての力を解放した、仮面ライダーキバの本来の姿。
皇帝は絶対なる威圧感を放ちながら、マリアージュに近づいていく。それを迎撃するかのようにマリアージュの銃口から閃光が走る。
襲いかかる光を前にキバは大股で前進する。当たった箇所には火花が分散するだけで、蚊を刺す程度の痛みすら感じない。
彼は避けようとしなかった、いや避ける必要がなかった。この程度の攻撃で揺らぐなどあり得ないからだ。
光の嵐を物ともせずに進み続け、マリアージュに拳の甲を叩き付ける。
「はあっ!」
息と共にキバは打ち込み、その箇所に数トンの衝撃を与え、装甲を砕く。
鮮紅色の双眸を向けたまま、固めた拳は金属を容赦なく破壊していき、血飛沫が飛ぶかのように破片が飛び散る。
二度、三度と同じ攻撃を繰り返し、亀裂の入った胸部に蹴りを放つ。拳と同じく数トンの威力を持つ脚に勢いよく吹き飛ばされていく。
マリアージュの身体は宙を舞い、鋼鉄の欠片を乱暴に散らばせながら地に転がる。この連続をまともに喰らえばただで済むはずがなかった。
だが敵は攻撃など何ともなかったかのように立ち上がり、キバに視線を向ける。
しかしその装甲には拳ほどの穴が胸部を中心に所々空いていて、これまでの攻撃がいかに凄まじい物だったかを窺わせる。
キバの右手が、タツロットの頭部であるツインホーンヘルムを掴み、二本の角を引く。
その瞬間、タツロットから魔皇力が注ぎ込まれるのを知らせるかのように、中央のインペリアルスロットが回転する。
チャージはすぐに終わり、スロットの回転が止まった。
「ウェイクアップ・フィーバー!」
タツロットの軽快な声と共にキバは両腕を交差させ、両足に力を込める。すると灼熱の波動が全身から発せられ、辺りの瓦礫と空気を焼いていく。
キバは地を蹴りながら身体を伸ばし、空を目掛けて再び高く飛び上がった。
一瞬、マリアージュはキバの姿を見失ってしまい、追うように空を見上げる。
そこには、空を背にしたキバが黄金色の身体を太陽のように輝かせ、両足を真っ直ぐに伸ばしていた。
足の先からは、波動が突き刺さるように飛んでくる。
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
力強く、威厳の込められた皇帝の雄叫びが聞こえる。
キバは両足に魔皇力を纏いながら、矢のような勢いで己の身を落下させ、敵に蹴りを打ちつけた。
足の裏が胴体に当たったことを感じると、様々な蹴りを繰り出しながらマリアージュを壁際に追い込んでいく。
一発、また一発と蹴りを与えるごとに装甲に魔皇力が流れ込み、体内の鋼鉄を爆発させる。
全力の連撃――エンペラームーンブレイクを受けたマリアージュにはどうすることも出来ず、ただ浴びるしかできなかった。
勢いを保ちながら、マリアージュの背中をコンクリートに叩き付けた。それと同時にキバは空に舞い上がり、地面に着地する。
マントを翻すと、マリアージュの中をエネルギーが駆け巡り、皇帝の紋章が刻み込まれる。やがてその暴走に耐えられなくなり、地に伏せてしまう。
キバが背を向けたのが合図になるかのように、最後の言葉を告げるかの如くマリアージュの身体は吹き飛ばされていった。
破壊の音と同時に、この場所から放たれていた異変が消えていく。
ファンガイアの気配が消えたことを察知すると、彼は廃墟から去っていった。
戦いを終えた彼のベルトにはカブトゼクターは止まっておらず、既にエリアZから離れていた。
天道はただ一人、薄暗い廊下を歩いている。そこはマスクドライダー計画の実験が行われていたエリアXに、内装が非常に酷似していた。
やはりこの世界には異変が起ころうとしていると、天道は確信した。
支援
何故なら永遠に閉じられたはずの朽ち果てた通路に、何者かが通ったような跡が残っているからだ。
あのファンガイアと呼ばれる連中に、ネイティブはマスクドライダーシステムの秘密を売り、協定を結んだのか。
恐らく先程撃破した異形は、ネイティブの作り出した戦闘兵士だろう。元々胡散臭いとは思っていたが、まさか影であのような物を作っていたとは。
それに対抗する為に、ZECTはあのキバと呼ばれるライダーを生み出したのか。異形の反応を見る限り、ホッパーのように秘密裏で開発を進めていた可能性が高い。
歩いている内に、彼の前にそれが姿を現した。
金属製の大きな鋼鉄の扉。天道の背丈に頭二個分が乗った大きさで、横幅は少し広い。
前に踏み出すと、息を吐くような音を立てながら横に開いた。その中は今までの空間とは異なり、電源が生きている。
青色の蛍光灯に加え、明滅するコンピューターの光に部屋が照らされていた。
しんと静まりかえっていた未知の空間に、天道は足を踏み入れる。不規則に並ぶ機械の先からは、気配が放たれていた。
もしやまだネイティブが潜んでいるのだろうか。
彼は警戒を強めながら足を進め、一際広い空間に出る直前に止める。
機械の影からそこを覗き込む。部屋の中心には検査台が置かれ、その上には人影が見える。
天道は目を凝らし、正体を確認する。直後に彼から驚愕の表情が生まれた。
「ナカジマ……!?」
視線の先からは一ヶ月前、突如家のリビングに現れた少女――スバル・ナカジマの姿が飛び込んできた。
彼女は今日、Bistro la Salleでバイトをしてたはずだ。
天道は周囲に敵がいないかを確認すると、パネルの上に横たわっているスバルの元へ向かう。目を閉じた彼女は息をしており、気絶しているだけのようだった。
その呼吸音は、この静寂した空間内では否応なく響き渡ってしまう。
見ると、服の随所が泥で汚れていた。まるで靴の裏で踏みつけられたかのようだ。
その腰には自分や加賀美、矢車や影山が所持するのとはまた別の形状の金属ベルトが巻かれていた。
ライダーベルト。天道の頭の中でその単語が瞬時に浮かび上がる。
まさかあのネイティブ達は彼女を拉致し、ここでマスクドライダーの資格者にする為、身体を弄くろうとしていたのか。
その所為に、天道は吐き気を促した。ネイティブは数十年前、拉致した少年をマスクドライダー計画の実験に利用し、自分に擬態させた。
それをまた繰り返そうとしているのか。
ふと首を動かすと、整然と立つ台が目に飛び込む。
そこに置かれているファイル状の妙な冊子に気付き、手を伸ばす。
「戦闘機人 タイプゼロ・セカンド……?」
天道は表紙を開き、最初に書かれた文字を読み上げた。一体何のことなのか。
新しいマスクドライダーの名称か? 頭の中に疑問が芽生える中、彼はゆっくりとページを開く。
そのページは、機械的な細かい字でビッシリとした説明で埋まっていた。
時空管理局
陸戦魔導師
元機動六課隊員
港湾警備隊 特別救助隊
接触兵器『振動破砕』
覚えのない単語の羅列が、天道の脳裏に埋まっていく。
書かれていることの殆どが何かの組織名のようだった。最も、それら全てが理解の範疇を超える物だが。
俺は一体何を見ているんだ。そう思いながら呆然と見るしか出来ない。
次のページを不意に開く。瞬間、そこから飛び込んできたデータを見て天道は自身の目を疑った。
「これは……!?」
「うっ……」
張り付いたような背中の冷たさと、身体に広がる激痛によって、スバルは深い眠りから強制的に目覚めさせられた。
重い瞼を開いた先に広がるのは、薄闇の世界。申し訳なさそうなくらいの淡い電灯の光に、照らされている。
それが何なのか分からないが痛む身体を起こし、周囲を確認する。そこは機械に覆われた部屋だった。
「何ここ……痛っ……!」
起きあがった瞬間痛みが広がり、呻き声が漏れてしまう。
一体ここは何処なのか。そもそも何故こんな所にいるのか。
スバルは一瞬で思い出した。あの蝙蝠を模した仮面を被る異形と、昆虫の蛹を連想させる異形に姿を変えた男達に襲われ、意識を失ってしまった。
多少は抵抗したが不意打ちに負け、そこから完膚無きまで叩きのめされた。
「気がついたようだな」
自分の不甲斐なさに唇を噛み締めていると、聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返ると、そこには天道総司が両腕を組んで佇んでいた。
「天道さん!? 何で……」
「それはこっちの台詞だ」
驚愕するスバルの言葉を遮るように天道は冷ややかに答える。
ふと気がつくと、腰に異物感を感じる。見るとそこには、ずっしりと重たい奇妙なベルトが巻かれていた。
これは一体何か。
「ナカジマ、見させて貰った」
新たなる疑問が頭に芽生えてくると、天道はその口を再び開く。
すると天道からファイルのような冊子を突きつけられ、スバルはそれを受け取る。
「何ですか、これ……?」
「戦闘機人 タイプゼロ・セカンド」
不意に天道が出した言葉に、スバルは両目を見開いてしまう。
一体何故それを知っているのか。
居候としての自分ではなく、戦闘機人である自分を知っている。
スバルは受け取られたファイルを開く。見るとそこには機械によって書かれた様な無個性な字で、自分のことについて記されていた。
戦闘機人である自分についてと、振動破砕の概念。機動六課所属時と特別救助隊での功績。使用魔法について。
そして、管理局員である自分について。
それら全てが一寸の間違いもなく、スバルの持つ戦闘能力のデータだった。
「一体お前が何者なのか、全て話して貰おう」
冷静な表情のまま、天道はスバルの顔を見ながら詰め寄る。
逃げられない。
その様子を見て―瞬で確信した。
スバルは自分の正体、ファイルに書かれている単語の説明を始めた。
時空管理局
魔導師
戦闘機人
時空管理局とは、数多にある次元世界の平和を守る為に存在する組織で、それを行う者達が魔導師と呼ばれる。
そして、自分は戦う為に人の身体に機械を融合させた存在――戦闘機人であることをスバルは告白する。
振動破砕とは自身に組み込まれた戦闘機能であり、四肢から振動波を発することによって目標物を破壊する性能を持つ。
それを終えると、彼女は先程会った異形達に襲われたことも話した。
それら全てを天道は何一つの疑いを持たず、真摯な表情で聞いていた。
管理局のこともそうだが、正体については出来ることなら言いたくなかった。けれど彼は全てを知ってしまった。
もしかしたら天道は、自分のことを拒絶してしまうかもしれない。
何だかんだで天道イイ男
支援支援
「成る程な……」
全ての話を聞き終えた天道は、納得したように言葉を出す。
その瞳から見られるのは、いつものように冷静そのものだった。
「あの裂け目から現れた時点でお前がただの人間とは考え難かったが、そういうことか」
「驚かないんですね……」
「今更驚いてどうする」
悲しい表情を浮かべながら告げるスバルに対するかのように、天道はあっさりと返す。
その言葉はスバルを呆気にとらせたが、同時に微かな安心を覚えさせた。
それがいつかは分からない。けれどずっと昔にも似たようなことを聞いたことがあるような気がして、心が温まっていく感じがする。
「一つ聞こう」
暗闇の中で、広がる静寂を破るかのように天道は口を出す。
「本当にお前は偶然この世界にやって来たんだな」
「そうですけど、何で」
「本当だろうな」
スバルは断固とした物言いの天道に振り向く、見るとその瞳には何処か厳しさが混ざっていた。
彼女の中に疑念が生まれる。まるで時空管理局という組織にいる自分を疑っているのかのようだった。
しかし一ヶ月前、彼の家のリビングにあんな現れ方をして、ロクに素性を語らなかったんだ。疑われても当然かもしれない。
だけど、全てを言うことによって心の靄が少しながら晴れた気がした。本来ならば管理外世界の人間に対してミッドチルダに関する情報を教えるなどあってはならないはずなのに。
「……本当です」
スバルは嘘のない答えを返す。仮に言ったとしてもすぐに見破られるだろうから。
それを聞いた天道は数秒の沈黙の後、スバルにその声を聞かせる。
「とにかく、これ以上ここにいても仕方がない。帰るぞ」
「え? でもあいつらが……」
「奴らはもういない」
言葉を終えると天道は背を向けて、そのまま部屋から去っていく。
「あ、ちょっと!」
正体不明のベルトを腰に巻いたままスバルはベッドから降り、暗い通路に向かう。確かにこれ以上こんな訳の分からないところにいたくなかった。
彼女は天道の背中を道標に、暗闇の中を進んでいった。
まるでそれは暗闇を照らす松明のように光を放っているような気がして、安心が出来た。
途中、彼女は手をゆっくりと腰に伸ばした。指に触れる冷たい鉄の感触に、視線を落とす。
そのベルトは、人工的な金属の輝きを放っていた。
その暗闇からは、何の障害もなく脱出することが出来た。
天道が言うように自分を襲ったあの異形の気配は感じられず、待ち構えてもいない。
荒れ果てた通路を抜け出した先に飛び込んだ地上の光景を見て、スバルは言葉を失った。
理由は単純。そこはまるで世界の終わりでも訪れたかのような場所だったからだ。
無意味に広がる瓦礫の山、ひび割れた劣悪な道、原形を留めていない建築物。
どれをとってもミッドチルダに存在する廃棄都市区画を彷彿とさせた。
「何をやってるんだ、置いてくぞ」
轟くような音を含ませながら、横から飛び込んでくる声によってスバルは意識を取り戻す。
見ると声の主である天道は黒いフルフェイスのヘルメットを被り、真紅色に煌めくバイクに跨っている。
そのハンドルには同じようなヘルメットが掛けられている。
「天道さん、ここは一体……?」
「黙って乗れ」
驚愕で上手く言葉が出せないスバルは疑問をぶつけるが、天道にあっけなく遮られてしまう。
言われるままスバルはハンドルに掛けられたヘルメットを被り、両腕を天道に絡ませながらバイクに跨る。
今の彼女に出来ることはそれしかなかった。
バイクのエンジン音が唸り声を上げ、瓦礫はタイヤに抉られる。
アクセルが吹き出しながら地面から粉塵が舞い上がるのを合図にして、真紅のバイク――カブトエクステンダーは疾走を開始した。
その勢いは凄まじいの一言だ。持ち主である天道の性格を現すかのように堂々とし、如何なる壁も突き破っていきそうだった。
スバルはその背中にしがみついた。
ちょっとでも力を抜いたら、バイクから振り落とされてしまうような気がしたから。
その晩。月夜の光が差し込む自宅のバイオリン工房の中で、紅渡はバイオリンを弾いていた。
その旋律はとても繊細で、とても美しく、とても神秘的だった。
渡の奏でる優しい音色を聞きながら、彼の周りを回るようにキバットバットV世とタツロットは部屋の中を飛び回っている。
「それにしてもキバットさん、あのロボットみたいなのって一体何だったのでしょうかね〜?」
「さあな…… タッちゃん、俺はどうにも嫌な予感がするんだよな。何かヤバイことが起こる前触れというか……」
「一体どんな?」
「ん? そりゃあ……あれだよ。何かヤバイことだよ」
彼らは羽を動かし浮遊しながら語り合う中、渡は考えていた。
ファンガイアの潜んでいたあの廃墟の中で出会い、太陽の如く赤い輝きを放つ甲虫を模した戦士。
青い双眸を向けた彼もまた、ファンガイアと戦う為に青空の会に生み出された戦士の一人なのだろうか。
もしかしたらあの戦士もキバを人類の敵と見て、狙っているのか。
だがいかなることがあろうとも、自分はキバとなって戦わなければならない。戦う理由があるから。
尊敬する父は教えてくれた。人間は皆、心の中で音楽を奏でている。生きている限り、ずっと。
彼はその音楽を守りたいと祈り、戦っていた。
同じように彼もまた、自分の音楽を見つける為に戦っている。そうすれば自分は強くなれるはずだし、みんなも幸せになれるはずだから。
そして大切な物を守る為に、戦わなければならない。
その為に彼はキバとなって戦っている。
(父さん、僕は戦う……父さんが祈りを込めて戦ったように。父さんは父さんだけの音楽を見つけた、だから僕も僕だけの音楽を見つけます。大切な人を守れるくらいに強くなる為に)
渡は父の写真を見ながら、思いを込めた演奏を奏でる。
今はここにいないけど、この思いが届くことを信じて。
偉大なる父――紅音也への祈りを込めながら、彼はバイオリンを弾き続けた。
天道の家に帰宅したスバルは夕食を済ませ、皿洗いを終える。
樹花は夕食を終えてすぐに自分の部屋に向かったので、リビングにはスバルと天道の二人しかいない。
その時を見計らい、天道はスバルにゆっくりと一つずつ語った。
この世界には八年前巨大隕石が落下し、瓦礫の山と変貌した渋谷と呼ばれた都市。
落下した隕石に潜み、人間を襲いながら社会に潜伏する怪物――ワーム。
それに対抗する為に設立された組織――ZECT。
対ワームへの対抗機能――マスクドライダー。
スバルを襲ったワームの亜種――ネイティブによる人類ネイティブ化計画。
全てを聞いた彼女は、言葉を失った。そのような非現実的な出来事がこの世界で繰り広げられていたのに信じられなかった。
何より、このような異常事態に管理局は気付かなかったのだろうか。
「そんなことがこの世界であったんですか……」
スバルはテーブルの上に置かれているベルトに目を向ける。
自身の腰に巻かれていたそれは天道の推測によると、マスクドライダーの新型である可能性が高いという。
しかし平穏と思えるこの世界で、そのような物を作る必要性などあるのだろうか。
「恐らく連中は戦闘機人であるお前を弄くり、手駒にするつもりだったのだろうな」
「あたしの身体を!? 一体何の為に……」
「そんなこと俺が知るか」
天道は冷ややかに返すと、スバルはネイティブと呼ばれる異形の所為に嫌悪感が覚えるのを感じた。
かつて生体改造に異様な情熱を持ち、研究の為に命を弄んだ科学者――ジェイル・スカリエッティに対するそれに似ている。
命とは取り返せない尊い物だ。それを私利私欲や野望の為に好き勝手にしていい理由など何処にも存在しない。
本来ならば今すぐミッドチルダに帰還し、このことを管理局に報告しなければならない。だが彼女は次元を渡る手段を持ち合わせていない。
スバルは悔しさで、唇を噛み締めてしまう。
「何にせよ、これからお前は狙われるだろうな」
「え?」
「お前が別次元の住民であることを嗅ぎつけたくらいだ、連中の情報網は計り知れない」
その言葉を聞いて、スバルは息を呑んだ。
天道の言うことには納得が出来る。あのファイルにはこのような管理外世界に伝わるとは到底考えられないような、自分に関するデータが書かれていた。
もしやネイティブ達はミッドチルダに飛ぶ為の手段を持ち、局員に化けて管理局に潜伏しているのだろうか。
きっと、あの廃墟から脱出したこともすぐに察知しているだろう。
やがて天道は溜め息を吐きながら、呟いた。
「一体この世界に何が起ころうとしているんだ……」
ネイティブ達の陰謀を阻止した天道総司
しかしそれは始まりに過ぎなかった
かつて世界を恐怖に陥れた宇宙生命体――ワーム
蘇った魔の一族――ファンガイア
二つの脅威と手を結んだネイティブの目的は何か
そして、キバとは何者か
二つの世界を繋ぐ物語は、次のステージへと進む
To be continued
仮面ライダーカブト レボリューションに続く
天の道を往き、総てを司る
支援
これにて、全三話のカブトレボリューション 序章終了。
もうネイティブが完全にショッカーとなってます。
名護さん、音也に続いてようやく渡も参戦し、初っ端からマリアージュ相手にエンペラーフォームで飛ばしました。
渡と天道が直接会うのはもう少し先になるかもしれません。
今後、彼らは先輩ライダーとしてスバルのことを導いていきます。
TV版のキバもそろそろ終わりですが、次回作のディケイドでカブトとキバの活躍を信じてます。
次回から、全力全開で完全オリジナルなストーリー展開を目指していきます。
ではまた。
GJっす!!
ようやく現在の「キバ」こと渡が登場ですか〜・・・。
天道やスバルたちが、今後どのように行動するのかが見物ですね。
そして、自分になり代わって「スバル・ナカジマ」として活動してるワームのことを知った場合、スバルはどういう気持ちになるやら・・・?
予告以下の超小ネタ
「時空管理局だ!おとなしく投降しろ!」
「やれやれ…」
スカリエッティは護衛をつけなかった己の迂闊さを呪った
それは本来、すぐ済む用事だった
ただちょっといたずら心を出したらこれである
「街頭で生放送をしていたら、誰だって邪魔をするものだろうに」
カルシウムが足りないのではないか?と呟いてるが、色々足りていないのは
他ならぬスカリエッティのほうだろう。
「早く出て来い!さもないと…!」
そう言いながら男が自身のデバイスをスカリエッティが隠れている物陰に向けた
物陰ごと吹き飛ばしかねない剣幕に、どうしたものかと悩み始めた
その時だった
「待てい!!」
その声に反応した二人が見たものは
「「全身タイツ…?」」
一人の、限りな〜く怪しいマー○ルな男だった
「一般市民を守る男…!」
「スパイダーマッ!!!」
続かない
ソードビッカーで一撃ですね
分かります
>>316 むしろダーマとの格闘中に突然スカリエッティが巨大化
変顔の威力が倍増しそうだな
319 :
一尉:2008/12/21(日) 15:19:44 ID:sE4Wy8GG
しかし、ドライアスと同盟にしまうスカリエッティ。
空いてたら、7:50頃から投下しまーす。
みっどちる大王第2話。
しかしギャグやコメディってのは難しい。
まあ練習だと思って書くとしよう、うん。
というわけで、時間なので投下します。
「もうすぐだねー、フリード」
「キュルルルー」
とある次元世界の廃墟の上空、そこを、巨大な影が横切っていました。
影の正体は、大きな翼を広げた銀の竜と、その上に乗る桃色の髪の少女です。
「この辺はいつ来ても人がいないねー。
まあそっちの方が、私も尾行とかを気にしなくていいから楽だけど」
少女の名前はキャロ・ル・ルシエ。
とある次元世界に住んでいる少数民族ル・ルシエの民です。
ある時、一族の掟に従って竜の召喚を行ったところ、強力すぎる奴が空気読まずにひょっこり出てきてしまったものだから部族を
追放されてしまった、そんな不幸な少女です。
まあ詳しくはStS本編を見れ。
「あ、そろそろかな。
それじゃあ下降して、フリード」
「キュルルルー」
キャロの言葉に、フリードが高い声で答えて下降します。
ちなみに、フリードの背中に乗っているのはキャロだけではありません。
キャロの後ろには、ロープと防水布で頑丈に括られた荷物が幾つも載っています。
――いくら可哀そうな少女でも、だからといって世の中が特別扱いしてくれるわけではありません。
ぶっちゃけ、部族を追放されてしまった以上、自分でお金を稼がないと、その内飢えて死んじゃいます。
そこでキャロが目を付けたのは、やっぱり自分とともにある竜のフリードでした。
最初のうちは、自分が部族を追われる原因となった力を使うことに抵抗がありましたが、ひと月しないうちに「だって使わないと
死んじゃうし」と開き直りました。
『命あっての物種』
キャロが部族を追われて、最初に学んだこの世の真理です。
人間、飯も食えないとなると綺麗事も言ってられないのです。
そういうわけで、色々なバイトをしつつキャロが始めたのが、このお仕事。
フリードの背中に荷物を括り付けて、次元世界のどんな場所に、どんな物でも運び届ける運送業。
『よろず運送代行業 フリードリッヒ』
一人と一匹の零細企業ですが、未舗装のどんな辺境にも確実にお届けするので、お得意様も結構ついた、業界では割と知られた名
前だったりします。
「スカリエッティ博士〜。運び屋フリードリッヒでーす」
そして、この廃墟にやってきたのも、そんなお仕事の一環なのでした。
なお、時空管理局の許可も得ずに魔法を用いて勝手に物品を輸送、売買する、これ、立派な違法行為だったりします。
みっどちる大王 第二話
「運び屋キャロさんがお父さんと遭遇したようです」
下降したフリードの背中から飛び降り、キャロは目の前にそびえるビルの壁に向きなおりました。
「…………? スカ博士〜、お届け物ですよ〜」
いつまで経ってもうんともすんとも言わないビルの壁――そこに設えられた隠し通路の扉に、キャロは首をかしげます。
いつもなら、声をかけるまでもなく、フリードを降ろすと勝手にここの扉が開くのです。
大概の場合ウーノさんかチンクさんがそこにいて、中に入れてもらうのですが。
「留守かな、フリード」
「キャルル〜」
相方とそろって首を傾げます。
留守なのかもしれませんが、スカリエッティ一家は大家族です。全員居なくなることはなかなかありません。
前もってお届け時間帯はお知らせしておいたわけですし、誰かが残っているのが筋でしょう。
「う〜ん」
キャロも一応なりともプロです。ここで、荷物を放り出して帰る、という選択肢はいただけません。
とはいえどうしたものか。
キャロが腕を組んで考えていると――
「やあ、こんにちわお嬢さん」
「ふぇ?」
後ろから、唐突にやたらと渋い声をかけられました。
不意をつかれて間の抜けた声を漏らしつつ、キャロが振り返ります。
そこには、なにやらオレンジ色をしたネコっぽいイキモノがいました。
扁平な体を宙に浮かせつつ、シュタッと右手を上げています。
「……ええっと」
「はじめましてお嬢さん。ヴィヴィオの父です」
「あ、はじめまして。運び屋フリードリッヒ代表のキャロ・ル・ルシエと申します」
「これはこれはご丁寧にどうも」
「いえいえとんでもありません、こちらこそどうも」
「いえいえいえ、こちらこそ」
「いえいえいえいえ、こちらこそ」
「いえいえいえいえいえ……」
「…………」
「……」
よく分からない譲り合いは、フリードが「キュルルルー」と突っ込むまで続きました。
竜に突っ込まれる人間とネコっぽいイキモノ。
ここに、種族の枠を超えた漫才が成立しました。
「それで、何か御用かな、お嬢さん。
ここはスカリエッティさんのお宅なのだか」
「あ、そのスカリエッティさんに、お届け物なんです」
ようやく話も本筋に戻り、キャロとお父さんが話し始めます。
それにしてもキャロさん、お父さんを相手にして、全くひるむ様子がありません。
アルザスの召喚師ともなれば、この程度の異種族くらい目でもない、ということでしょうか?
……違うっぽいですね。
現にフリードは、「ご主人なに普通に話してんスか? てゆーかなんなんスかそいつ? ヴィヴィオの父っておかしいでしょう!
? なんでヴィヴィオの父親がそんなネコだかなんだかよく分かんないヤツなんスか!? ねえご主人っ!?」と言いたげな視線
で見ています。
そもそもお父さんのようなUMAがポコポコ召喚されるところなんて見たくありません。
キャロの器が大きいのでしょう。きっとそうです。そういうことにしとけ。
「ふむ、お届け物かね」
「はい、食糧とか、日用品とか。
あと、ゲームとかCDとか雑誌とかの娯楽品ですね。
あ、ヴィヴィオからお菓子とかも頼まれてますよ」
ポン、とフリードの背中に背負われた荷物を叩きながら言います。
ちなみに、それ以外にもスカリエッティさんの研究に使う違法改造デバイスとかが含まれてたりするのですが、その辺はぼかして
ます。
キャロさん、笑顔に隠れて結構腹黒いです。
「……うむ、トマトはあるかね?」
「トマトですか? 野菜全般は満遍なく揃えてますけど」
「いや、他の野菜とかはいい。トマトはあるかね?」
「えと、あります」
「よろしい。
では扉を開けるとしよう」
何故か非常に満足げに、お父さんが言いました。
次の瞬間、その場でクルクルと回転を始め、体が七色に変色していきます。
思わずキャロが一歩下がり、フリードはドン引きしまくっていました。
ブラストフレア発射5秒前です。
「ぶううぅるるるるうううぅぅあああああぁぁああっ!!!」
ガシャー
次の瞬間、廃墟にお父さんの咆哮が轟き、同時に軽い音をたてて隠し扉が開きました。
派手なアクションの割に、結果は至極地味です。普通に扉が開いただけです。
やがて、お父さんが回転をやめて再びオレンジ色に戻ると、扉の中から出てきたものがいました。
「ハロー」
「ハロー」
お父さんです。
こっちもお父さんです。お父さん2ndです。
外で回転していたお父さんと寸分変わらぬお父さんが、隠し扉の中から出てきたのでした。
ただし、色だけが微妙に違います。
外にいたお父さんがオレンジ色なのに対して、中から出てきたお父さんは黄色っぽい色をしていました。
きっと2Pカラーです。もしくはアニメ版カラーです。
「すまないね、開けてもらって」
「いやいや、このくらい構わんよ」
シュタッと互いに右手を上げて、お父さんとお父さんが挨拶します。
向かい合うお父さんとお父さん。互いを見つめあう猫目と猫目。
悪夢的というかなんというか、妙に夢に見てしまいそうな風景です。
そこにあるだけで、この世がシュールレアリズムの世界に汚染されていくような、そんな変な電波が出ている気がします。
「それでは、ありがとう」
「なに、気にするな
それではさようならお嬢さん」
そう言って、黄色いお父さんは宙に浮かびあがりました。
アイキャンフラアアアァァイと言いながら、そのまま急角度で空へと飛び立っていきます。
やがてキラリン、という輝きを残して、黄色いお父さんは空に消えました。
HAHAHAHAHA−っという笑い声が、どこからともなく響きます。
「お友達ですか?」
「うむ、魂の同朋というヤツさ」
「………キュルク〜」
キャロさん、平然としています。
フリード、突っ込みたくて仕方ありません。
今日ほど人間の言葉を喋れないことを恨んだ日は、きっとないでしょう。
「それではいらっしゃい。
歓迎するよ、お嬢さん。とはいえ、私の家ではないのだがね」
「お邪魔しまーす。ほら、行くよフリード」
せんせー、お腹痛いので帰っていいですか?
ダメですか。
ダメですね。
ダメですよね。
何かを諦めるような心地で、フリードは暗い隠し通路の中へと入っていくのでした。
「それでははやりん、この件はそちらに任せるぞ」
「…………」
「続いては、じゃ。こっちの案件なんじゃが。はやりん……」
「あの、レジアス中将」
「なんだねはやりん」
「はやりん言うの止めてもらえませんかね?」
「……むう、何故だね?」
「私が嫌だからです」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「…………儂のことはレジリンてよんでくれてかまわんよ?」
「………………………ヤッチマイナー」
「紫電一閃っ!」
「ラケーテンハンマー!」
「フリジットダガーですぅ!」
「シャマル手料理っ!」
「ワンっ!」
ぎゃー
「ノーヴェ姉様、ちょっと肉取り過ぎ」
「うるせえ、こっちは育ち盛りなんだよ!
お前はもう無駄に育ってんだからいいだろがディード!!」
「無駄にって……なにが?」
「そりゃ言えないっスよね〜、ノーヴェの胸に秘めたプライドにかけて。ねえセイン?」
「そだね〜ウェンディ。ノーヴェだってその小さな胸に大きな野望と希望を込めてるのさ〜」
「うるせーっ! つかお前らだって似たようなもんだろうが!!」
「お前らうるさいぞ、食事中はもっと落ち着け」
「あれ、キャロ、全然取ってないね。
貴方が持ってきてくれた食材なんだし、もっと遠慮なく食べていいのに」
「あ、そうですか? それじゃあ有り難く」
「って本気で遠慮なくもっさり取りますわね……」
「どうですかドクター、新しいレシピを試してみたのですが」
「うん、なかなか美味しいよ、ウーノ」
「ヴィヴィオ、トマトを食べるんだ」
スカリエッティさん一家の夕食風景です。
あの後スカリエッティさんのお宅にお邪魔してからは、何らつつがなく時間が過ぎていきました。
フリードが猫舌であることが判明し、お父さんに舌を引っこ抜かれそうになったりもしましたが、大した問題ではありません。
フリードは人生に疲れ切ったかのような顔をしてテーブルの下でグッタリしてます。
そうしているうちにスカリエッティ一家が帰宅して――家族みんなで映画を見てたそうです。お父さんは途中で気がついたら消え
てた――ようやくキャロは荷物を届けることに成功したのでした。
お父さんと普通に馴染んでいるキャロに信じられないものを見るような視線を向ける一家をスルーしつつ、ウーノさんに荷物の点
検を頼みます。
ついでに、お菓子などをつまみ食いしようとするセインやウェンディを蹴り落とします。
穴が開くほどトマトを凝視しているお父さんには丁重に引き下がってもらいました。
そうして荷物の点検も終わり、さあ帰ろうか、となったところで、お父さんに夕食に誘われたのでした。
ウーノさんの料理は美味しいので、有り難く御馳走になります。
「……それにしてもキャロ、お前、アレの存在に疑問を抱かんのか?」
トーレさんが、周囲に音が漏れないように内緒話をするポーズでキャロに話しかけます。
秘密にしたいのは分かりますが、却って周囲の注目を浴びるポーズですよね。
「アレって、お父さんのことですか?」
「まあそうなんだが……そもそもまずアレが『お父さん』ということについて普通に受け入れてるのかお前は」
「ご本人もそう名乗ってましたから。ヴィヴィオのお父さんなんですよね」
「そういうことらしいが……いや、やっぱり自分で言ってて疑問になってきた。
なんでヴィヴィオの父親がよく分からんネコなんだ」
トーレさんは頭を抱えます。
まだ往生際悪くお父さんの存在に疑問を抱いているみたいです。
真面目な人ですね。でも多分いろいろ損をするタイプです。
「でも、よく見れば確かにヴィヴィオのお父さんなのかな、って気もしますけど」
「…………すまん、何でだ?
どの辺を見ればそういう納得が得られるのか、全く分からんのだが」
「なんというかこう……全体的に?」
「……それはつまり、ヴィヴィオとお父さんが似ている、ということか?」
「アッハッハ、何言ってるんですかトーレさん。
よく分からないネコっぽい外見のお父さんとヴィヴィオのどの辺が似てるっていうんですか。
そう見えてるなら眼医者さんに行った方がいいですよ」
「……………もういい」
トーレさん、諦めたようです。
考えてみれば、ルーテシアも一発でお父さんをヴィヴィオのお父さんと見抜いてました。
なにか、召喚師にしか分からない見分けポイントがあるのかもしれません。
あっても知りたくありませんが。
「ほら、フリードも食べなよ」
「キュルク〜」
「本気で遠慮がなくなりましたわね……」
「というか、フリードの目からなんだか生気が無くなってない?」
「ってああ! ノーヴェ、私の皿からおかず取るなっス!!」
「うるせえ! 食事ってのは弱肉強食なんだ! 油断した方が悪いんだよ!!」
「そうなんだ、オットー」
「そうらしいね、ディード」
「って止めんか馬鹿者!! ノーヴェ、ウェンディ! オットーとディードがなんか変な学習をしてしまうだろう!!」
「あ、ディエチ、マヨネーズとって」
「ハイ……ってセイン姉、いくらなんでも酢豚にマヨネーズはなくない?」
「それにしても本当にウーノは料理が上手いなぁ。
これならば、いつどこに嫁に出しても恥ずかしくないね。
私としてはやはり寂しい思いもあるが」
「よ、嫁!? そ、そんなドクター。私としてはドクターにお仕えできればそれで十分というかいえ勿論嬉しいんですけどでもや
っぱりそんなだって私たち親子でもあるわけでやっぱり、でも、ああ!!」
「ウーノ姉。食事中にクネクネし過ぎ」
賑やかですね。
賑やかというより騒々しいです。
チンクさんがノーヴェとウェンディにお説教していて、セインはマヨネーズの素晴らしさを声高に語っていて、ウーノさんがイス
の上でクネクネしてます。スカリエッティさんは完全スルーで食事中です。
トーレさんは大きくため息を吐くと、自分も食事に戻ったのでした。
「おや、トーレくん。食事が進んでいないね。さあ、トマトを食べるんだ」
「あ。い、いや。これから頂くので、そこに置いておいてください、うん……」
やっぱり、苦手意識は消えないみたいです。
廃墟の夜の空を、フリードとキャロが飛んでいきます。
「う〜ん、やっぱりスカリエッティさんの家は賑やかでいいね〜、フリード」
「キュルク〜……」
キャロの言葉に、フリードは力ない声で答えました。
フリード、今日一日でなんだか急に年をとったように見えます。
どうしたんでしょうね、まるでこの世の理不尽にことごとく遭遇してしまったかのような顔です。
心当たりのないキャロは、首をかしげました。
「ま、いいや。
明日は私一人で問題ない仕事だから、ゆっくり休んでよ、フリード」
「キュルク〜」
言われなくでもそうします、とばかりの声を聞き流しつつ、フリードの背中にゴロリと転がります。
「さ〜て、明日もがんばろ〜!!」
目の前に浮かんだ月を掴むように、両腕を握ります。
そんな感じで、キャロの一日は過ぎていくのでした。
――夜空の彼方を、飛び去ったお父さんの友人が飛んでいきました。
投下しゅーりょー
キャロが何故かスカリエッティ側に近い人になってしまいました。
理由は分かりません、たぶん深い意味もありません。
キャロとバクラの人氏の書かれるキャロが素敵過ぎるのが原因だと思います。
千年リングもモンハンクロスも大好きです。続編待ってます。
いやー、しかしそれにしても難しい(しつこい
閑話が反則だw
はやりんにレジリンってw
GJ
はやりんって一体どうなってしまったんだw
レジリンww一体どんな化学反応でそうなったんだww
GJ!待ってた、待ちわびてました!
レジリンは……なるほどそこのポジションか。いやあ、面白い。
GJ
はやりんレジりんとかwwwww
ツボッたwwww
「女子高生とか好きだからー!」 → 「○○○○とか好きだからー!」
さて、レジリンなら何てぶっちゃけるのかwww
スカ一家はあご足付きか。髪結い伊三次とクロスとか思った。
>「…………儂のことはレジリンてよんでくれてかまわんよ?」
>「………………………ヤッチマイナー」
>「紫電一閃っ!」
>「ラケーテンハンマー!」
>「フリジットダガーですぅ!」
>「シャマル手料理っ!」
>「ワンっ!」
この流れに吹いたwwwてか翠の呪い人形www
レジリンwwwっとそうだった。
他の予約がなければ22:50から投下しても構いませんか?
どうぞ
時間になりましたので投下開始します。
『今でこそ犯罪者に向けられているが、その拳はいつ何時市民へと向けられるか分かったものではない。現に!
奴が犯罪者を捕まえる過程で破壊した建物には歴史的な建造物も含まれておる! これこそ奴がただ勝手気ままに暴力を振るう無法者である証拠である!』
「時空管理局地上本部のレジアス・ゲイズ中将は記者の質問にこう答えられ、また時空管理局地上本部は市民の間でマスクド・ライダーと呼ばれ親しまれつつあるこの怪人"BLACK"を指名手配しました。
これについて管理局創設当初から多大な援助を続けるミッドチルダ有数の資産家オルシーニ家のうら若き当主であり、先日首都クラナガンにマスクド・ライダークラブを開かれたジュリア・オルシーニ氏からコメントを頂いております」
『黒い怪人だからBLACKとはまた安直だが、マスクド・ライダー"BLACK"なら少しはいいかな? 私は彼の胸に書かれている文様が"RX"と読めることからRXと呼ぶことを提唱したいのだが…ん?
ああ、彼が捕まったら保釈金を払う用意はある。これでいいかね? ああ最後に一つ、RX。これからも私をワクワクさせて…』
ミッドチルダでは稀にいる才覚の持ち主らしくどう見ても十になるかならないか位の偉そうな小娘のコメントが流れる途中でウーノは不愉快気に眉を寄せてテレビを切った。
光太郎は恐らく今日は帰ってこない。
ヴィヴィオという赤子を助けてから、光太郎は管理局内で勢力を伸ばしつつある新興の家ハラオウン家と連絡を取っている。
今日はヴィヴィオの様子を見に来ないかとクロノ・ハラオウンに誘われて出かけていった。
光太郎が非合法の研究所で保護した幼子はヴィヴィオと名付けられ、ハラオウン家に引き取られることになっている。
管理局の調査では、保護した研究所で生み出された人造生命体であること約300年前の古代ベルカ時代の人物が元になったということまで分かっているらしい。
これ以上詳しく調べるのは聖王教会の協力か無限書庫のユーノ・スクライア司書長の休暇を犠牲にして資料を漁ってもらわなければ困難らしく、調査は今は打ち切られている。
この話をした時のドゥーエの様子から、ウーノにはヴィヴィオの正体に一つ心辺りがあった。
ハラオウン家の養女フェイト・テスタロッサ・ハラオウンがスカリエッティを執拗に追いかけている為ウーノは関わらないようにしていたが、恐らくは間違いないだろう。
詳しい話まで聞くつもりはウーノになかったし口を挟むつもりもなかった。
光太郎には気付かなかったと言えば良いし、スカリエッティの不利になるかもしれないので現状は静観でいいと判断していた。
それよりもウーノにとって切実なのは光太郎の態度から見るにハラオウン家を気に入っているようだということだ。
そのハラオウン家といい、この女といい光太郎に協力するという者が少しでも現れて来たのは非常に気に入らない。
このままでは光太郎の中でウーノの地位が危ぶまれてしまうからだ。
ウーノの情報で動いていたからスカリエッティにとってよい結果も引き出せる可能性がある。
他に信頼の置ける情報源が出来てしまってはウーノの情報を必要としなくなるかもしれないではないか…誓ってそれだけである。
そう、それだけだ。言い聞かせるように何度か確認しウーノは妹達と会う為に家を出て行った。
*
その頃光太郎は、第97管理外世界の海鳴市を訪れていた。
友人の手引きで日の昇る前、人通りの少ない時間を見計らって第97管理外世界へと移動した光太郎は、まず故郷の地球と表面的にはそっくりな第97管理外世界の地球を郷愁と物珍しさに満ちた表情で歩き回った。
故郷とこの世界との違いを肌で感じ、開店する時間を待って図書館に立ち寄って本を漁る…光太郎はウーノの懸念に全く気付いてはいなかった。
そうやってわかったのはこの世界には仮面ライダーはいないらしいということだ。
先輩の姿を、仮面ライダーという漫画や特撮の中に見つけた光太郎の表情は、悲しいような、嬉しいような…相反する感情が混ざり合ったなんとも言えぬ表情を浮かべた。
「…どうでした?」
「ん?…ああ、探し物は終わったよ」
そうすることで多少なりとも光太郎の気持ちを読み取ろうとするかのように、金色の目を真っ直ぐにあわせ尋ねるフェイトに光太郎は言葉を濁した。
「ありがとう」と休暇を取り光太郎に街を案内してくれたフェイトに礼をいい、光太郎は彼女と共にハラオウン家に向かった。
探し物も理由も説明しようとしない光太郎の態度は不満だったが、フェイトには一歩踏み込んで尋ねることはできなかった。
子供相手にならそうでもないのだが、自分より年上の大人の男性に対してはまだまだ経験が足りない。
親友なら「お話聞かせて欲しいの」と踏み込んでしまうのだろうけど、とフェイトは光太郎を先導しながら思った。
「光太郎さんこっちです」
「ま、待ってくれよ」
「クロノ、貴方と会うのを楽しみにしてるみたいですよ」
でも…まさかあの怪人の中身がこの人だなんて。
黒髪黒目、整った顔立をしていてスタイルも良い。服装の趣味も自分の義兄に見習わせたいくらいと、マスクド・ライダーの姿からは想像できない。
光太郎の外見をフェイトはそう評価していた。
この世界に来た当初、十数年程流行がズレたせ界からやってきた光太郎の服の趣味は洗練されたとは言いがたかったのだが、最初はチンクに、最近はウーノのによって矯正されているのだった。
二人は並んでハラオウン家に向かった。
ハラオウン家は管理世界にも家を持っているらしいのだが、数年前の事件の折にこの世界でマンションを借りてからそこに住み続けている。
フェイトに案内され、光太郎は今その家の前に到着した。
少し待っててください。
そう言ってフェイトが中に消えると、光太郎は少しだけマンションから見える街並みを観察した。
部屋はマンションの上の方の階にあり、そこから見える街並みは光太郎を和ませる。
ミッドチルダで暮らすよりもこの街の方が穏やかに暮らせるのかもしれない。
そう思っていると家の扉が開き、光太郎の知らない女性が顔を出した。
「いらっしゃい。貴方が光太郎さん?」
「はい。あの、貴方は…クロノのお姉さんですか?」
「お上手ね。私はリンディ・ハラオウン、クロノの母親ですわ」
光太郎より年上の息子がいるとは思えない若々しさを保つリンディは嬉しそうに笑う。
「す、すいません…」
「誤らなくってもいいのに。さ、中に入ってくださいな」
恐縮したまま、光太郎はクロノの母、リンディ・ハラオウン総務統括官に促されるまま家に上がる。
よく掃除された、清潔感のある玄関を通りリビングまで通された光太郎は促されるまま席につく。
「クロノは…」
「ごめんなさいね。あの子、急な仕事が入って一足違いで出て行ってしまったの」
「そ、そうだったんですか!? 困ったな…」
どうしたものかと光太郎は呻いた。
クロノがいなくても目的を果たすことはできるのだが、初めて訪れる友人の家に当の友人がいない間に上がりこむことに光太郎は少し抵抗があった。
「御気になさらないでくださいな。あの子が悪いんですから」
向かいに座りながら言うリンディに相槌を打ち、光太郎はフェイト達にあやされているヴィヴィオへと視線をやった。
検査の結果ではヴィヴィオは平均より高い魔力を持つだで特におかしな点はないとお墨付きを頂いていた。
人造生命体であるがゆえに未知の能力を秘めているかも知れないとも言われていたが。
優しい眼差しを二人目の養女に向ける男性をリンディは観察していた。
今日が初めての訪問と言うわけではないが、何度見ても目の前の青年がミッドチルダの一部で有名人となっているマスクド・ライダーとはとても思えなかった。
リンディがなんとなく分かるのは、光太郎は誰か大事な人を亡くしたのだろうということだ。
隠しているようだが、整った横顔の上に時折過ぎる憂いの色に覚えがあった。
この表情はかつて、ロストロギア『闇の書』を輸送する任務で夫のクライド・ハラオウンが命を落としてすぐの頃、毎朝見たものと同じだった。
クロノが少し童顔なせいか、リンディの息子であるクロノよりも1才年下らしい光太郎の憂いを覗かせた横顔は十も上に見えた。
だがクロノから聞いた話や今こうして言葉を交わした感想としては、逆にクロノよりもずっと幼い印象を受ける。
詳しくは尋ねていないが、故郷を離れて色々とあったらしく不安定になっているようだった。
闇の書事件も無事解決しクロノも一人立ちしたせいかもしれないが、母性本能をくすぐられてリンディは微苦笑を浮かべてた。
余り見るのも失礼に当たる。リンディは視線を外しずっと角砂糖を入れ続け、飽和した砂糖がほんのちょっぴりカップの底に溜まったコーヒーを出した。
笑顔で受け取った光太郎は口をつけ、「ありがとうございます……ブッ」
そして噴出した。
「ゲホッゴホッ…な、なんだこれは!?」
「あら光太郎さん。そんなにむせてどうしたのかしら? さ、これで吹いてくださいな」
「あ、ありがとうございます…こ、これは」
「甘くておいしいでしょう? 今日はクロノもいないし、私が淹れさせてもらったわ」
「そ、そうですね! と、とても個性的な味でちょっとびっくりしちゃいましたよ」
「でしょう! 底に砂糖が溜まってるから上澄みだけ飲むののが通の飲み方よ」
上澄みだけを飲む飲み方も幾つかあることは知っていたが、何か違うんじゃないか?
そんな気がしたが、苦笑いを浮かべたまま真剣な顔で暫しコーヒーとリンディを見つめた光太郎は、覚悟を決めてグッと飲み干した。
胸焼けでは済まされない甘さが、光太郎を襲う!
微かに震えながらそれを飲み下した光太郎の前には、二杯目の甘い、まったりとしていてどろりとした黒い飲み物が出されるのだった。
ヴィヴィオをあやしていたフェイトは、やせ我慢をして二杯目を飲み干す光太郎を見て苦笑いを浮かべている。
「母さんそれくらいで止めた方が…光太郎さん、苦い顔してるよ?」
「そうしから? 残念ね。慣れればおいしいと思うんだけど…」
そう言って自分の分を飲む母の隣にフェイトは腰掛けた。
膝に光太郎の方へと行こうとしているのか手足をばたばたさせる義妹を乗せる。
「はは、疲れている時にはいいと思いますよ…」
「光太郎さん…やせ我慢も程ほどにしてください。ねぇヴィヴィオ〜やせ我慢は体に悪いよね〜?」
膝に乗せたヴィヴィオの顔を覗き込んで尋ねると、ヴィヴィオは小さく首を傾げた。
小さな両手を持って上下に動かす娘に玩具にしないのと注意して、リンディは苦笑を浮かべた。
義妹が出来て以前より家にいる時間が増えたのは嬉しいのだが、フェイトがまだまだ子育てをするには少し早いようだ。
リンディは再び光太郎に目を向ける。
「ところで光太郎さん」
呼びかけられ、膝に乗せされたままのヴィヴィオの手に指を与えていた光太郎はリンディを見た。
ヴィヴィオに指を握られたままの光太郎に言う。
「良かったらフェイトのお友達にも会ってあげてくださらないかしら?」
「母さん、それ私が言うつもりだったのに」
「…それは構いませんが、一体どうして」
相槌を打った光太郎に少しむくれるような顔を見せたフェイトが言う。
「はやては貴方の大ファンなの。それで貴方の話を聞いて一度会って見たいって。それと…」
言いづらそうに、フェイトは光太郎の硬い指を強く握って放そうとしないヴィヴィオの後頭部に視線を落とす。
窓から入る光を反射して、額から垂れたフェイトの髪とヴィヴィオの幼い子供の柔らかい髪が黄金に輝いていた。
不思議に思いながらもフェイトを待つ光太郎を顔を下げたまま、上目遣いに見てフェイトは言う。
可愛らしい少女からのお願いに光太郎は困ったような顔をして、ヴィヴィオに差し出していた手を引いた。
指を追って身を乗り出すヴィヴィオを慌てて押えるフェイトとリンディに光太郎は首を振った。
「すまないけど、俺は」
「光太郎さん、一度会ってみてからもう一度考えてあげてくれないかしら…」
支援
断りの言葉を遮って口を挟むリンディと視線で訴えかけてくるフェイト…母娘二人の視線に光太郎は渋い顔をした。
二人はどうして光太郎が躊躇うのか理解できていない様子だった。
管理世界には人造魔導師を始めとした非合法な研究によって生み出された魔導師が多数いるが、彼らはその力に疑問を持たない。
姿においても、人型の昆虫がいるくらいで写真で既に見ている彼女らには心構えもある程度は出来ている。
だが光太郎にとっては進んでみせるものではない。
故郷の地球では戦いに巻き込まないように正体を隠して戦い続けるのが常であり、余程信頼を置くものでなければ正体は隠していた。
要は慣習の違いなのだが、フェイトの膝に座るヴィヴィオを見て光太郎は頷いた。
クロノ達は信頼の置ける人物だし、ヴィヴィオの件では世話になっている。
大半はその借りを少しは返したいという気持ちからだった。
残り少しは、余り深く考えずに郷に入れば郷に従おうと思ったからだが。
頷くと同時に、光太郎が立った今入ってきたばかりの扉が開き、ダダダッと騒々しい足音を立てて一人の少女が現れる。
茶色がかった黒髪をショートカットにし、瞳を好奇心に輝かせたその少女は光太郎に向かって軽くおじぎをした。
「初めまして光太郎さん。うちは八神はやてって言います。よろしゅうお願いします!」
無邪気な笑顔を向けてくるはやてに光太郎が返答に困っていると、はやての後ろから赤い髪をポニーテールにしたスタイルの良い凛々しい女性が入ってくる。
見たところ二十歳前後くらいの女性の足取りは訓練された人間のもの。鋭い眼差しは光太郎を値踏みしているようだった。
恐らくはこの二人がその友人なのだろうが、困惑する光太郎を見かねてか困ったような笑顔を浮かべてフェイトが言う。
「…はやて。せめて呼ぶまで待っててって言ったのに…」
「ごめんフェイトちゃん、あのマスクド・ライダーに会えるって思たらいてもたってもいられんかったんよ」
「リンディ総務統括官申し訳ありません。主はやては何故かとても楽しみにしておりまして…」
はやてと名乗った少女とそう言って頭を下げる女性の振る舞いを光太郎は少し不思議に思った。
家族だと聞いたばかりなのだが、何故か年上のはずの女性の方が一歩引いた場所にいる。
不思議に思う光太郎を他所に女性…「剣の騎士」の二つ名を持ちはやての守護騎士(ヴォルケンリッター)のリーダーを務めるシグナムは垂れた頭を挙げて、提案した。
「光太郎。私は今すぐでもやれますが、いつやりましょうか?」
「あ、あなたねぇ。光太郎さんはお客様なんですから…」
「構いません。先に済ませちゃいましょう」
そう言うと、光太郎は甘ったるいどろどろとしたコーヒーを飲み干して、席を立ち上がった。
決闘趣味とも言える趣向を持つシグナムは、自分より背の高い光太郎と視線を交わし不敵な笑みを浮かべた。
渋っていたわりにやる気のある光太郎と最初からやる気満々のシグナムをフェイトの膝に座るヴィヴィオは色の違う瞳で見つめていた。
光太郎が受けたことで、マンションの周りには速やかに結界が張られていく。
マンションの屋上にたった光太郎は結界が張られ外界との間に薄い壁が出来た周囲を不思議そうに眺める。
原理はよくわからないが、これで気兼ねなく戦える…らしい。
その間にシグナムは戦う準備を整えていた。
彼女も魔導師だとばかり思っていた光太郎は、戦闘準備を終えて光太郎を待つシグナムの姿を見て面食らっていた。
鞘に収められた剣を片手に、大きな胸など体の線が見えるボディスーツの上からジャケットを羽織っている。
下半身もスカートのようになっているもののスリットから太ももが露になっていて、なんだか昔やったゲームに出てくる戦士のように見えた。
なにより、なまじ人間を超えた視力を有するせいで一瞬とはいえ肌が露になったのがとても気恥ずかしい。
顔が赤くなっているのがばれないかと光太郎はひやひやしたが…既に臨戦態勢となったシグナムにそんな様子は見られなかった。
「どうした? まさかそのまま戦うというのではないだろうな」
気付かれていないようであるし、ただの手合わせとはいえ気持ちを戦いへと向けた光太郎は気持ちを速やかに静め……無言で肩幅に足を開いた。
人間の姿のままでも、彼の足は猟犬の速さを有していた。
ベルトの位置で左手を大地に向け、右手が太陽へと手を伸ばす。
その手は人間の姿のままでも岩を砕き、鉄の板を容易く突き通すが目の前の超常の力を有する美女を相手にするには恐らく足りない。
シグナムが怪訝そうに眉を潜め、観客としてその場にいるフェイト達も首を傾げる中、ただ一人"わかっている"人間であるはやては目を輝かせていた。
天を指す右手がゆっくりと下ろされ、中心に至ると横へ真一文字に振るわれる。
ベルトの、キングストーンの位置にあった左手も薙ぎ払うように横へと振るわれ、空を掴み引き寄せられた。
その瞬間、光太郎の目の奥。
スカリエッティが魅せられた火花は巨大な光に変わった。
ベルトから一瞬、太陽の如き閃光が迸り、この空間を覆っていた結界を消し飛ばす。
閃光の中で光太郎の姿は変貌していった。
黒い飛蝗人間へ、そして更に黒い甲冑の如き皮膚が体を覆い、飛蝗怪人へと…光太郎は一瞬の内に変貌を遂げた。
軽く曲げた左拳を前に、握り締めた右拳を腰に構えた光太郎…いや、RXは変身に伴い全身へと行き渡った莫大なエネルギーの残滓が微かにベルトで輝いていた。
「俺は太陽の子、仮面ライダーBLACKRXッ!!」
「あ、あの…光太郎さん? 母さん、急いで結界を張りなおして!」
慌てて叫んだフェイトをきっかけに、シグナムは突進した。
一息で構えをとったままのRXへと距離を詰め、流れるような動作でアームドデバイス"レヴァンティン"を抜刀する。
マスクド・ライダーはシグナムの間合いに入っても、抜刀したレヴァンティンを振り上げても微動だにしなかった。
今回はミッドチルダに潜伏していた犯罪者を複数挙げた実績を考慮してか、主からも加減無用と言われている。
非殺傷設定にはしてあるが、RXは魔導師ではない為場合によっては大怪我を負う可能性もあるというのに、だ。
つまり存分に真剣勝負にのめり込めるということ。
シグナムは未だ動きを見せないマスクド・ライダーに構うことなく刀身を振り下ろす。
胸に刻まれたRXの文様へと刃が迫っていく一瞬が、集中力で引き伸ばされシグナムにはとても長く感じられた。
そのまま切り裂かれるかと思われたRXは、機械兵器や魔導師の結界と防護服を物ともせぬ魔剣レヴァンティンの刃をいつの間にか左手で掴んでいた。
全身を使い一刀に込めた力も気迫も、全てのエネルギーが始めからなかったかのように無造作に止められていた。
掴まれたレヴァンティンはその場所に固定されたかのように動かない。
自分の体力では引く事も押すこともできない。
微かに腕を動かしたシグナムはそう悟ると、左手に掴んだ鞘を振るおうとしているかのように重心を傾け、鞘を持った左腕を動かした。
それに気付いたRXが、右手を出すと同時にレヴァンティンが圧縮魔力を込めたカートリッジをロードした。
刀身の付け根にあるダクトパーツがスライドし、魔力増強の為に組み込まれた魔力増強のシステム"カートリッジシステム"の特徴でもある排莢が行われる。
薬莢が吐き出され、爆発的にシグナムの魔力が跳ね上がると共にレヴァンティンの柄から剣先へ向かって炎が燃え上がる。
吹き上がる魔法の炎によって微かに力が緩むのをシグナムは見逃さなかった。
鋭さを増した刃を引き戻し、再びレヴァンティンを振り上げる。
驚異的な力で刃を固定していたRXの左腕へ向けて、裂帛の気合と共に炎を纏ったレヴァンティンの刃が振り下ろされた。
「紫炎一閃ッ!!」
そのまま胴まで。否途中にある物は全て切り裂くつもりで放たれた斬撃はRXの腕に食い込んだ。
しかし、そこまでだった。硬い金属同士が衝突したような音が鳴り、レヴァンティンが弾かれる。
刹那驚愕に囚われるシグナムへ、それまで動きを観察していたRXが襲いかかった。
傷つけられた前腕を気にも留めず、RXは腕を伸ばし弾かれたレヴァンティンの腹を左手の甲で叩く。
甲高い音が鳴った。軽く手首のスナップをきかせただけの一撃がなまくらな剣など粉々に砕き、並の剣士の腕から剣を弾き飛ばすのに十分な威力を持っていた。
そのどちらにも当てはまらないシグナムとレヴァンティンは、見た目とは裏腹に重過ぎる一撃に持っていかれそうになる腕を堪える。
筋に痛みが走ったが、シグナムは表情を変えることなくその場から飛び退く。
それを追って、屋上の床を蹴ったRXの左拳がシグナムの腹に突き刺さった。
いや、かろうじて鞘を間に入れ直撃を防ぐことに成功したシグナムは、鞘を突き抜けて肺腑を突く衝撃を後ろへ飛ぶことで更に多少なりとも逃がす。
喉の奥から上がってくる熱いものを吐き出すのを堪えながら、シグナムは確かめるようにレヴァンティンの刃とRXの腕を見比べた。
「…ッ」
紫炎一閃が通じない…いや、黒い腕に走る傷を見てシグナムは思う。
決定打にならないとは。
魔法による強化を受けずにこれほどの力を持つ相手は久しく見えたことがなかった。
驚愕と体に走る痛みを歯を食いしばって耐えながらシグナムは、体の奥から歓喜が湧き上がってくるのを感じた。
「面白い…ッ! お前の力、全て見せてもらう。レヴァンティン!」
"Explosion."
シグナムがレヴァンティンを振るうのを合図に、再びレヴァンティンがカートリッジをロードする。
過剰なカートリッジロードは制御不能や暴発をまねく危険性があるが、シグナムは後数回カートリッジロードを行うことが可能だった。
刀身の付け根にあるダクトパーツで、三度スライドと排莢が行われる。
レヴァンティンには片刃の長剣以外にも鞭状連結刃へ刃を変えるシュランゲフォルムと大型の弓となるボーゲンフォルムがあったが、三度カートリッジをロードしてもフォルムに変化はなかった。
クロスレンジは同等の速度で動き、パワーで上回るRXの方が有利かもしれないが引く気はなかった。
今見せられたRXの反応速度では鞭の先端を叩き落し、矢を避けるかも知れない…いや、とシグナムは頭に浮かんだ建前を鼻で笑った。
フォルムを変えないのは、何より心が躍るからだ。
シグナムの足元に三角形の魔方陣が現れる。
小さな円を隅に配置し、中央で剣十字が回転する古代ベルカ式魔方陣。
技量ではシグナムが勝っているが、彼女には力が足りない。
カートリッジで一時的に増した魔力が行き渡り、シグナムに力を与えていく。
「行くぞッ」
裂帛の声を上げ、魔法による強化を終えたシグナムが床を蹴った。
RXも同時に床を蹴り、体を低くしてシグナムへ一直線に向かってくる。
それに対しシグナムは宙を舞い、上空から剣を振り下ろした。
初太刀をシグナムの左側へかわすRXへ、魔法により空中を自在に舞うシグナムは追撃を行う。
重力を無視した動きに微かに対応が遅れる相手へとシグナムはフェイントを交えた斬撃を見舞う。
物理的な法則を無視して行われる落下や浮上に惑わされ、RXは面白いようにフェイントに引っかかり手足を強打される。
真正面から打ち合ったかと思えば、頭上から剣を叩きつけ、着地したかと思えば滑るように低空を飛び距離を置く相手にRXは次第に防戦を強いられていく。
それを見る観客。
シグナムと翻弄されるRXの動きを辛うじて目で追いながら、その道に関する造詣の深いはやては知ったような顔で深く頷いた。
「んーやっぱり仮面ライダーの弱点は空戦やね」
フェイト達も頷く。
RXの拳圧が強風となって髪を揺らした。
「そうだね。もしかしたら遠距離攻撃や広範囲も対応できないのかも」
「それは多分、間違いないと思うんよ」
「どうして?」
「だって仮面ライダーやもん」
「?」
首を傾げる親子を見て、わかってないなと言いたげな顔ではやてはため息をついた。
そして目を輝かせながらもはやての頭の中では、光太郎をどうすれば引き抜けるだろうかと考えが膨らもうとしていた。
臨海空港で起こった大規模火災の現場を体験し、定めた夢。
自分の部隊を、それも少数精鋭のエキスパート部隊を持つという夢にどうすれば参加してもらえるだろう?と。
最初は翻弄されてばかりだったが、RXは徐々にシグナムに慣れてきている。
胴体や頭部へ受けた一撃はなく、両手足が何より強力な盾となってレヴァンティンを受け止めていた。
何発もカートリッジをロードし強力になった斬撃を受け腕が傷だらけになっているようだが、その傷がこうして戦っている間にも少しずつ直っていくのもはやては見逃していなかった。
魔導師で部隊を組む場合、隊員は特性に基づいて陣形中のポジションを割り当てられる。
そうして各々の部隊の中でどのように動くのかを徹底して訓練していくのだが…
二人の戦闘を見ていると、単身で敵陣に切り込んだり、最前線で防衛ラインを守るフロントアタッカーにRXがどうしても欲しいと思ってしまう
攻撃時間を増加させ、サポートの必要性を減らすため、防御能力と生存スキルが重要となるポジションにRXが入れば、その部隊の能力がどれ程上がるものか。
「はやてちゃんダメよ。そんな目で見ちゃ…」
物欲しそうな目で亀のように縮こまって攻撃を凌ぎ、隙を窺うRXを見るはやてを咎めるようにリンディが言う。
「彼は存在自体が管理局法で違法になる可能性が高いわ」
「…リンディ総務統括官でも無理ですか?」
「無理とは言わないけど……簡単な話しじゃあないわ。彼の出身世界、彼の体…皆興味深々でしょうね。私も、なのはちゃんやフェイトについてもらいたいんだけど」
抱きかかえたヴィヴィオをあやしながら言うリンディにフェイトは表情を曇らせた。
リンディもそれを見て抱きかかえたヴィヴィオの手を握ったまま押し黙る。
フェイトとはやての親友、なのはは蓄積された負担の所為で瀕死の重傷を負ったことがあった。
教導隊所属になり、昔ほど無茶をする機会は減ったが…なのはを良く知る者は口を揃えて「なのはだから心配なんだ」と言っている。
なのはが重体になった時、彼女の両親を説得した分ある意味フェイト達よりもショックを受けたリンディはその気持ちが強かった。
今実力を見たリンディはなのはか、あるいは二の舞にならぬようにフェイトの手助けをして欲しいと考えていた。
速やかに管理局に引き入れそれを実現するにはリンディでもかなりのコネを使わなければならないだろうし、RX…光太郎には迷惑な話でしかないが。
押し黙った彼女らを置いて、二人の戦闘に決着がつく。
レヴァンティンがRXの首の前で止まり、RXの拳がシグナムの鳩尾の前で止まっていた。
*
二人の戦闘が終わり、光太郎が再びハラオウン家に戻って談笑している頃。
干してあった洗濯物を畳み、食器も洗い終えてお茶で一服していたウーノは、ニュースを見てお茶を吹いた。
「けほっ…! けほ」
キャスターも戸惑った様子で読み上げた最新ニュースは、幼稚園バスを襲う覆面の男達を獣人の男性が蹴散らしたという話題だった。
その銀髪の獣人についてはウーノも知っている。
八神はやての守護騎士の一員『盾の守護獣』ザフィーラ。
蹴散らされている者達はウーノも初めて見る。
だがそのベルトのバックルに描かれたデザインのタッチはどこかで見た覚えがあった。
慌ててISを使って情報を調べて見ると…ベルトのバックルに描かれた絵はやはり妹の、ウェンディが描いた絵と良く似ているような気がした。
証拠となるものは何もない。似ているような気がするだけだ。
だが、ウーノはスカリエッティの犯行に違いないと確信していた。
「チンクは何をしてるの!? あれほどドクターの自由にさせちゃ駄目って言っておいたのに…!」
その後、犯人は煙のように溶けて消えた。
手がかりとなるものも一切残らず、同一犯による犯行も行われなかったが、その犯行は一部の者達の記憶に強く残った。
以上です。「俺は炎の王子!炎の力は、俺のエネルギーだ!」の台詞は今後の為にとっておくことにしました。
変身への軽いストッパーとして漫画版の服が破けるというのを入れていたのですが、
何度かご指摘を受けましたし、あるおしかけ妻っぽいUさんから苦情が来ましたのでこれを機会に原作番組どおり変身できる仕様に戻しました。
支援ありがとうございました
GJ!!です。
主要陣と知り合うの回ですか、
それにしても、スカ博士……量産ライダーを作るとはw
ただ、弱い、ベルトの絵はショッカーのマークかな?www
GJっしたー。
後職人の皆様は今一度イベントスレを見る事をお勧めします。>クリスマスイベント
GJ
アレですか、スカはイーッイーッなのを再現したとw
うん、まあガジェットよりは悪の科学者っぽいけどww
戦闘員のみなさーん!
なんだけど、ライダー版じゃなくて秘密結社でいこうの正社員のお姉さん達で脳内変換されて困るw
投下GJ!
幼稚園バスジャックktkr
未だに「杖」も「液体」も使ってないから先が楽しみだw
ライダーパンチとライダーキックも使っていないしなww
GJ
シグナムさんの裸をちらっとでもみた光太郎うらやましす。
そういえばウィキペディアに書いてあった情報で台詞を作るとき、たとえば「知ってる?〜は〜で〜だったんだよ」という物事を説明するときの台詞を作るときにコピペではないとはいえ(ウィキペディアより)という出典を台詞の最後に入れなければダメなんですか?
説明不足だった…
先のレスであげた物事を説明する台詞を作るときにコピペではないとはいえウィキペディアに書いてあった情報を使うなら台詞の最後に(ウィキペディアより)という出典を入れなければ違反になってしまうんですか?
てつを最高!
え〜っと、20:00位に第六話投下させてもらいます。
時間になったので行きます
「―――此処は…?」
「気が付いたみたいね」
不意に目を覚ますアリューゼ、此処は医療室。左にはメルティーナが座っていた。
起き上がると右肩と左顔は包帯が巻かれており、左足は吊されている状態だった。
何故自分が此処にいるのかメルティーナに聞いてみると、
施設に突入した機動隊の応答が消えた為、本局が施設に突入。
そして施設内でうずくまっていたアリューゼを発見、保護したと答える。
一通り説明したメルティーナは、逆にアリューゼに質問を投げかける。
「アリューゼ…隊長と副隊長は?」
メルティーナの質問に一つため息を吐き、左の机の上に乗っている二つの結晶体に目を向け呟くように答えた。
「………死んだよ」
リリカルプロファイル
第六話 離反
機動隊壊滅事件、後にそう呼ばれるこの事件は機動隊隊長であるゼスト・グランガイツが無断で施設を調査、
その調査の中、施設によって改造・破棄されたと思われる魔法生物の群が襲撃、
結果、機動隊は壊滅し死者九名、重傷者一名の惨事を出した。
この事件により地上本部の株は大きく下がり、機動隊は解散を余儀なくされた。
一方で元機動隊隊員である、アリューゼ、メルティーナ両名は本局への編入を命じられていた。
「冗談じゃねぇ!こりゃあ一体どういう事なんだ!!」
事件から五日後…ここは地上本部中将室、その中でアリューゼ達が二枚の書類を机に叩きつけ猛抗議を行っていた。
中央では手を組み座るレジアス中将、更に左の壁側付近にはゲンヤが佇んでおり、
二人はアリューゼの主張を静かに聞いていた。
アリューゼの主張とは、自分が報告した内容とは全く異なった報告書を送っていた点である。
まず今回の事件はレザードと言う魔導師が起こした事件であると。
そしてあの施設は魔法生物の研究施設ではなく、戦闘機人の研究施設であったと語った。
「全てがでっち上げじゃねぇか!!」
「……………………」
更にゼスト隊長には濡れ衣を着せ、それを盾に機動隊を解散、
そしてアリューゼ達は本局への編入を余儀なく決定させたと今度はメルティーナが語る。
「これじゃあ事件を利用した、ただの引き抜きと潰しじゃない!」
「……………………」
必死に声を荒げて抗議するメルティーナ、しかし全く聞き入れる様子がないレジアス達、その態度にアリューゼは叫ぶ。
「これが管理局のやり方なのかよ!!」
「……………………」
「何とか言ったらどうなんだ!!」
「……………………」
「隊長は無実の罪を着せられてんだぞ!!」
「……………………」
「隊長は…隊長はアンタ達の親友じゃ無かったのか!!」
アリューゼが拳を机に叩きつける、するとレジアスはゆっくり立ち上がり、腕を後ろに組み窓の前に立つ。
そしてはっきりとした口調でアリューゼの問いに答えた。
「……公私は分けている」
その一言ですべてを理解したアリューゼ達。
レジアス達は自分達の立場が惜しい、自分達の立場さえ守れれば
友すら切り捨てる…そう感じ取ったアリューゼは、
舌打ちをしメルティーナと共に部屋を出ようとドアノブに手を伸ばした。
「あぁ、そう言えば」
ドアノブを回した瞬間、急な大声に立ち止まり振り向くアリューゼ達。
振り向くと先ほどと同様に背を向けているレジアスが話し始めた。
「これは独り言なんだが、ゼストはいつも部屋が綺麗だった。
だがな、その部屋で何故かディスクが一枚机に置きっぱなしなのだ。
しかも映像ディスクだ、一体何が映っているのだろうな?
機動隊の本来の役割と関わりのある事だと思いたいがな」
二人に聞こえるように独り言を話すレジアス。
その言葉はまるで今回の理不尽な対応に関係があると、
そしてディスクの中にその答えがある、そうレジアスが語っている様に感じた。
二人は今までの非礼を詫びるかの如く敬礼をすると、直ぐ様ゼストの部屋へと向かった。
「……随分デカい声の独り言だったな」
一言残し、ゲンヤは部屋を出て行く。
…部屋は静寂が包み込み、その中でレジアスは独り寂しく肩を震わしていた………
此処は地上本部の寮、アリューゼは管理人にゼストの部屋の鍵を借りると、ゼストの部屋に赴き扉を開け中へと入っていく。
中は綺麗に掃除されており、リビングには白いソファーがおいてあった。
隣の部屋は寝室になっており、机の上にはパソコンと例のディスクが置いてあった。
アリューゼはディスクをパソコンに取り込む。
暫く待つと画面にはゼストとメガーヌが白いソファーに座っている映像が映り出す。
どうやら撮影場所は此処らしく、画面の右下には二年前の日付が表示されていた。
そして映像のゼストが静かに話し始めた。
「……この映像を見ている者へ、君がこの映像を見ているという事は、既に我々は存在していないという事だろう…
私の名はゼスト・グランガイツ、首都機動防衛隊の隊長である、そして隣の女性はメガーヌ・アルピーノ、副隊長を務めている」
映像のゼストが自己紹介を済ませると本題に入る。
「さて……何故我々が機動隊を設立したのかと言うと、最高評議会の実情を明らかにする為なのだ」
最高評議会とは、政治・経済、そして管理局全てを掌握している組織で約百五十年前に設立したと言われている。
ゼスト達は何故その様な組織を調べているのかというと、
それはある一人の女性の死がキッカケだと言う。
女性の名はクイント・ナカジマ、ゼストの部下で、メガーヌの友人であり、ゲンヤの妻であると。
彼女は捜査官で、二年前、アリューゼ達にとっては四年前のとある事件を追っていた。
そして彼女はある組織にたどり着いたとゲンヤに話し、
自分がもしもの時はプライベートファイルを見て欲しいと告げていた、そしてその翌日に亡くなったと言う。
ゲンヤはクイントの死後、彼女のプライベートファイルを開けてみると
そこに載っていた物は最高評議会に対する調査記録であった。
調査記録には最高評議会は二年前の事件と関わりがあると書かれ、
恐らくそれを知ったが為、クイントは殺害されたとゲンヤは考え、ゼストに協力を仰いだ。
ゼストとゲンヤはクイントの情報を元に直訴、しかしそれは受理されず
寧ろ改ざんされた情報でクイントの死因を収めたという。
管理局の対応に納得いかなかったゼスト達は、レジアスに協力を仰ぎ新たな部署を設立、それが機動隊だと言う。
表向きは迅速な行動で事件に対応する部署、
しかし裏では外からゼストとメガーヌ、内からはレジアスとゲンヤが最高評議会を調査する部署として機能していた。
「我々はクイントの意志を引き継いでこの部署を建てた。
しかし…もし我々が消され部署が消えた場合、今見ている者がこの意志を引き継いで欲しい」
このディスクの所在を知っているのは、ゼストとメガーヌ以外にはゲンヤとレジアスのみだという。
彼等には信頼出来る人のみにこのディスクを教えて欲しいと伝えていると言う。
「彼等の目に適ったものなら我々も信用できる、頼む!最高評議会から世界を護ってくれ!!」
そう言うと頭を下げるゼストとメガーヌ、そしてそのまま映像は消える。
…暫く部屋は静寂包まれる、そしてメルティーナは独り呟いた。
「そう言う事だったのね……」
するとアリューゼは無言で背を向けゼストの部屋を後にする、暫くしてメルティーナも後から部屋から出ていく。
部屋を出た彼等の瞳には決意の灯が宿っていた。
寮から出たアリューゼ達…空は日は沈み始め、寮と空を真っ赤に染めていた。
二人は道なりを歩いてあると分岐点に当たり足を止める。
そしてメルティーナが話かけてくる。
「……アリューゼ、アンタはどうすんの?」
「……俺は…隊長の意志を継ぐ!」
左拳を握り決意を見せるアリューゼ、メルティーナは本局へ行くのかと聞いてみるが、
今の管理局は信用できないと首を横に振る。
「じゃあどこに?」
「聖王教会に行こうと思っている」
聖王教会、管理局と協力体制を取っている組織で、中には優秀な調査官がいると聞く。
「それに彼処には“烈火の将”がいる、情報と鍛錬、両方得られるからな」
そう話すアリューゼ、そしてアリューゼもまたメルティーナに質問を投げかける。
「お前はどうするんだ」
「私はルールーを引き取って本局の無限書庫へ行くわ」
無限書庫、管轄する全ての世界の情報が集まっていると云われている部署。
彼処なら最高評議会の情報も得られるかもしれないという。
二人はこの先進む道を決めると、目を合わせ別れの挨拶をかける。
「じゃあ、またな」
「えぇ、またね」
そして二人は別々の道を歩きだした……
一方此処はゆりかご内のラボ、培養液の中には怪我を負ったチンクが入っており、
それを心配そうに見つめるレザードの姿があった。
「チンクの容態はどうだい?」
「……ドクターですか」
チンクの容態は思わしくなく、基礎フレームの一部が破損、右腕の強化筋肉が切断していた。
「治療には暫く掛かりそうですよ。それより其方の方はどうなんです?」
レリックウェポンの事かい?っと聞くとレザードは頷く。
男の方は肉体が破損している為、改造を施していると、女性の方は生体ポットで保存をしていると話す。
レザードは何故両方使かわないのかと聞いたが、状態の悪い男の肉体をデータ取りとして先に使うという。
「では融合させる物はジュエルシードで――」
「いや、データバンクを解析していたらいい物を発見したのでね」
当初はジュエルシードを融合させるつもりだったが、レリックを使うという。
レリックとは高エネルギーの結晶体で刻印が刻まれているという。
そして元々レリックウェポンはレリックを融合させる事で完成するという。
「ではジュエルシードはどうするので?」
「ガジェットにでも使うよ」
「そうですか…では用はそれだけで?」
「いや、“ルーン”を発動して貰いたいのだよ」
「“ルーン”をですか」
と言うことは計画を第二段階に進めるのかと聞くと、頷くスカリエッティであった。
……場所は変わり此処は闇に閉ざされた空間、その闇の中で赤・青・黄の明かりが灯る……
―――ゆりかごの反応が消え、その姿も消えたという報告が来た―――
―――姿が消えた?どういう事だ―――
―――報告ではゆりかごが存在していた空洞は空になっていたと―――
―――転移か…“無限の欲望”はあれを奪ったという事か―――
―――……日を同じくして“無限の欲望”との連絡が取れなくなった恐らくはな―――
―――どうする?“無限の欲望”にとっては過ぎた玩具だぞ―――
―――…捨て置け―――
―――何故です!ゆりかごは我々の―――
―――“宮殿”の目処が立った―――
―――なんと!では“先兵”も―――
―――うむ……我々が“神”になる日も近い…―――
支援
以上です。今回はレザードが少な目でした。
ちょっとした補足を
レザードの魔力は通常時がS〜S+ぐらいと考えています。
本気出されると………正直クラス分け出来ないかもしれません(自分の魔力で自分だけの世界を作れるぐらいですから)
あとアリューゼですが18で傷の無いアリューゼなので分かんなかったって事で一つ。
本編から八年前はこれで終了です。
それではまたです。
支援
乙、三脳が中二病に見える件について。
368 :
一尉:2008/12/22(月) 22:40:48 ID:rtM4GDu6
支援
乙でした。
さて。俺は映画館から帰ったところだ。今色々心の中で燃え滾っているんだが、いかんせん文章に起こす力がない。
誰か、レスキューフォースとのクロスをや ら な い か ?
つ「言い出しっぺの法則」
レザポ氏GJです。
23:50に投下予約をお願いします。
それでは投下開始します。
等間隔に設置された灯りが、視界の端で勢い良く流れていく。
だが、その速さが気に入らない。
――もっと、もっと急げ。
どれだけ急いでも、時間は待ってくれないのだから。
最後までやり遂げる使命。
成し遂げなければならない使命がより、体を奮わせる。
しかし、ふと、顔をしかめる。
走り続けた事による苦痛からではない。
とある事に気付いたからだ。
――俺はいつも、置いてきぼりだな。
様々な出来事に振り回され、いつも出遅れ、そして気付いたら多くの物を失っている。
追い付きたい、という単純な望みが湧き上がってくる。
その為にも、スネークはひたすらに走る。
戦いの中へと向かって。
第十六話「希求」
バンダナの先を揺らしながら駆け込む先は、この地下アジトの中でもかなりの巨大さを誇る空間。
そこは、一週間前にスネークが捕縛された場所だ。
「……メタルギアッ!!」
スカリエッティご自慢のメタルギアも、異様な存在感と共にスネークを待ち構えていた。
その機体に与えられたコードネームはSOLID。
荒い息を整える最中にも迫り上がってくる不快感に、スネークは顔を歪ませる。
……急がねば。
起動前に破壊出来るのならばこれ以上に幸運な事は無い――
――の、だが。
C4プラスチック爆弾を取り出したスネークの前に、モニターが現れた。
見間違える事も無い、全ての元凶。
画面一杯の薄ら笑いにスネークは怒鳴り声を上げる。
「……スカリエッティッ!」
『――やっと蛇が巣から出てきたみたいだっ! ジョニー君の手引きで出てきたみたいだが、目的はSOLIDの破壊かい?』
言うまでもない、とスネークは嘲笑う。
核の発射等、許すつもりは無い。
――ここで、メタルギアを破壊する。
「……管理局も本格的に動いている。下らない計画は諦めるんだなっ」
スネークの言葉にスカリエッティが目を丸くする。
そしてクスクスと笑ったかと思えば、さもおかしいといった様子で大声を上げた。
『フフ、下らない? 下らないだって? 君が言うか、スネーク君!』
「……」
『私達は皆、世界の闇として、影として作られた怪物だ。呪われた運命に今も束縛されているっ』
リキッド・スネーク。
噛み締めるようにゆっくりと、その名前を呟くスカリエッティをスネークは睨み付ける。
『彼もそうだ。彼も運命から解放されようと自ら立ち上がった。……君によって、それも失敗に終わったがね』
「……奴はただ、盲目だっただけだ」
ビッグボスの遺伝子を再現する為に、「優性」ソリッドの対極である「劣性」として生み出されたリキッド。
彼は自分という存在に関わった全てへ復讐しようと決起した。
遺伝子という名の呪いに縛り付けられた、体中に付き纏う絶望を打ち破るために。
溢れる憎悪を自分自身の呪われた肉体にも振りまき。
そして、『スネーク』の系譜には未来など無いと信じきって。
――しかし、道は一つではない。
落ち着いて周りを見渡してみれば、未来へと繋がる道は無数に広がっているのだ。
スネークも、戦いの中で生の充足を得る事が自身の人生における全てだと思っていた時期がある。
確かにビッグボスを再現する為に生み出された戦士である以上、戦いとは切っても切れない縁があるのかもしれない。
逃げ続けて、それでも逃げることの出来ない戦いを幾度と無く経験してきたのだから。
それでもスネークには、自分の為だけでない戦いを選択する事が出来る。
子供達が悩み、苦しみ、そして笑い合う未来作りの一旦を担う事が出来る。
「――未来は誰にでも、どんな生まれ方の人間にも平等に存在している。それに気付いていないのはお前達だ」
『いいやっ我々に未来なんて無い! 作られた理由がある限り、存在理由は作った連中にしか無い。これは……「私」という全存在を賭けた戦いだ!!』
自分という者は自分以外の何者でもない。
そんな当たり前の事が否定される恐怖。
人間としての、たった一つの悲痛な願いを元に戦って目指すのは、何者にも束縛される事の無い支配の外側に存在する天国。
強い抑揚でそれの創設の決意を語るスカリエッティに、スネークは辟易した。
――これ以上話していても無駄、か。
『……スネーク君。つまりは君も、本来はこちら側に来るべき存在なんだけどね、どう思う?』
「ふん、丁重にお断わりさせて貰おう。……俺は貴様等を止める。絶対に、だ」
ははは、とスカリエッティが笑い声を上げる。
まるでスネークの答えを予想していたかのように。
『大層な自信だ。まぁその選択が、現実から目を背け続けてきた君の象徴かな。……フッ、フフフッ、SOLID対ソリッド……被造者同士の決戦だなんて、心が湧き立つよ!』
スカリエッティの軽口に、やはりか、と眉をひそめる。
――この変態野郎が俺を生かしておいた理由。
それはメタルギアによって無惨に殺されるソリッド・スネークを見たかったからに違いない。
だが、そう簡単に負けてやるつもりなど、さらさら無い。
スネークは無言で身構え、それに合わせてモニターに映るスカリエッティも行動を起こした。
『君の戦いを観賞したい所だが、ゲストの相手をしなければならないのでね。ここで失礼させて貰うよ』
ゲスト、という言葉にスネークは眉をひそめる。
そして、思い当たるのは。
――フェイトか?
「……シャーリー、彼女に注意するように言っておいてくれ」
『分かってます!』
嫌な予感がする。
わざわざスカリエッティがフェイトの元へ出張るのだ、何かある事は間違いない。
この化け物を倒すだけでは駄目。
スカリエッティを、ゆりかごを何とかしないと事件は解決しない。生命の息吹を吹き込まれたのか、メタルギアが活動を開始する。
その角張った翼を目一杯広げると同時に、耳をつんざく咆哮が空間全体に響いた。
野獣を連想させるそれは、人間の恐怖心を駆り立てるには十分な物。
スネークは普通の人間なら立ちすくんでしまう圧力にも屈せず、真っ向から立ち向かう。
ともかく今は目の前の戦いに集中だ。
そう自分に言い聞かせ、思考を切り替える。
『――さぁっ! 歴史の闇に還るかっ、それとも歪な「影」として「光」に抗ってみせるか……スネーク君っいくぞ!!』
スカリエッティの演説が終わり、モニターが消失する。
戦いの始まりは、メタルギアの肩の魔力砲が放つ閃光。
――スネークはこのような敵と戦ったきた長年の経験で、攻撃のタイミングを予期していた。
大体は自己満足の演説の終了と共に、だ。
それらの経験を喜ぶべきかどうか、微妙な心境だが。
ともかく、攻撃の始まりが分かれば避ける事は可能。
スネークは消し炭にならぬよう、思い切り横にローリングして回避する。
先程まで立っていた場所に魔力砲が着弾。
弾ける光と熱風がスネークの頬を焦がす。
その衝撃で一瞬スネークの目の前を星がちらついて、激しい耳鳴りが襲った。
「っ――!!」
スネークは声にならない叫びを上げると、頭を何度か小突いてふらつく体を何とか立ち上がらせた。
――俺は今、メタルギアと戦っているんだ。
スネークはREXのミサイルを避けた時を思い出して、そう改めて自覚させられた。
身を翻し、スティンガーで脚部を攻撃する。
……駄目だ、効いていない。
もう一発今度は腹に撃ち込んで、同様の結果に舌を打つ。
このメタルギアの装甲はやはり、相当な物なのだろう。
当ても無くちまちま撃ち込む余裕も時間もない。
何の情報も無いのはさすがに辛いか。
『スネークさん! 過去のメタルギアはどうやって倒したんですか?』
堪えきれないのか、シャーリーが苦しげに声を上げた。
――アウターヘブン、ザンジバーランド、そしてシャドーモセス島での戦い。
起動前に破壊したTX-55メタルギア、そしてスネークの親友フランク・イェーガーが操縦するメタルギア改Dは致命的に脚部が脆かった。
リキッドが操るメタルギアREXは、センサーを集結させたレドームを壊し、コックピットを抉じ開け中から破壊した。
――つまり、この化け物との戦いではどれも参考に成り得ない。
それを早口で伝えると、シャーリーの苦しげな声が返ってくる。
『AI制御された無人機にはコックピットなんて無いでしょうしっ……うぅ〜……!』
『……なんとかなる、弱点は何かしらある筈だ』
自身が勝利した姿を連想してもう一度、なんとかなる、と内心で呟き。
そうやって自分自身を勇気付け、スネークはメタルギアに向き直った。
それに、こいつは無人機だ。
リキッドやフランクが操縦したメタルギアから感じた程の威圧感、恐怖感は感じられ無かった。
巨大ロボットは人間が直接動かすべき、とはオタクの友人の弁だがよく言ったものだ。
メタルギアの唸りが再び部屋を満たすと同時に翼が動き、青い噴射炎が地面に向かって噴き出された。
ふわり、とその巨体が持ち上がる。
――本当に空を飛んだぞ、おぞましい。
器用に羽の向きを変えて、スネークへと近付く。
そして自由電子レーザーが力を蓄え始めるのを見てスネークは戦慄した。
あれに当たれば体が綺麗に分断される事は間違いない。
スネークはフランクを思い出して、彼の二の舞にならないように直ぐに行動を起こした。
高密度のレーザーが甲高い、耳障りな音を出しながら発射され、スネーク周辺の空気を切り裂く。
スネークはジグザグに走り回る事でかろうじて回避する。
苦し紛れにチャフグレネードを投げ、それがセンサーを撹乱させる事を期待するが、動じない。
――くそったれ。
寿命が縮むような恐ろしい攻撃の中、悲嘆に暮れる余裕も無く回避していると、しばらくしてメタルギアが綺麗に着地してみせた。
どうやら、レーザーでスネークを切り刻むのは諦めたようだ。
しかし、メタルギアは安堵する間を与えてくれなかった。
メタルギアの翼を包むカバーが開き、オレンジ色の中身とミサイルポッドが露出。
メタルギアは、ホーミングミサイルで応戦する事を選んだらしい。飛ぶだけでは無く、攻撃能力も兼ね備えていたのだ。
標的を定めて飛来する幾つものミサイル。
「ぐぉっ……!!」
スネークは回避行動を取ったお陰で体がバラバラになる事は避けられたが、メタルギアの足元へと吹っ飛ばされてしまった。
なんと運が悪い事か。
寝転がった状態で呆然とメタルギアを見上げる。
それは、畏敬の念さえ呼び起こす程の巨体だった。
――そして、俺を滅ぼす悪魔の兵器だ。
メタルギアの賢いAIも転がり込んだスネークを見逃すつもりは無いらしく、巨大な足を持ち上げて彼を踏み潰そうとした。
ゴロゴロと体を丸太のように転がして、体がぺしゃんこになるのを寸前で回避する。
だが、光が見えてきたぞ。
スネークは急いで立ち上がり、可能な限り全速力で距離を取る。
(――ミサイルポッドが弱点に違いない!)
堅い外殻に身を包んでいるという事は、中身は柔いのだろう。
少なくとも、翼は落とせる。
ならば、スネークはそれを狙うだけだ。
翼のカバーが開くまで逃げ回り、射出されるホーミングミサイルの網を掻い潜りながら、カバーが閉じる前に攻撃する。
そこまで妙な既視感と共にシミュレーションした所で、なかなかハードじゃないか、と苦笑する。
「……だが、やるしかない」
『スネークさんっ……頑張って!!』
祈るような応援に、ああ、と短く返して拳を握る。
スネークはおおよそ三、四分間だろうか、メタルギアが繰り出す猛攻を必死に凌ぎ、機会を待った。
勿論象に豆鉄砲を撃ち込むような事なのも分かっていたが、スティンガーやグレネードを何発も撃ち込んだ。
余りにも絶望的で長い、数分間の攻防の後、ようやくメタルギアが動いた。
肩に付けられた二発の魔力砲がそれぞれ光を帯び、順番に爆ぜる。
スネークはハリウッドの映画を思わせる見事なダイビングを披露させ、その二発を辛くも避け切った。
それに合わせてメタルギアの翼カバーが開く。
くそ、なかなか悪知恵は働くようだ。
数秒後には、追い詰められたスネークに爆撃が降り注ぐだろう。
――そしてそれは、最大のチャンスでもある。
スネークは無理矢理な態勢でスティンガーを放った。
成形炸薬弾がメタルギアの右翼に直撃するのと、ミサイルポッドからホーミングミサイルが射出されたのはほぼ同時。
右翼から発射されたミサイルは、数瞬後に自らが飛び立った巣を攻撃されて巻き添えを食らい誘爆を起こし、それがさらなる追撃となる。
爆発音を覆い隠す程の、恐ろしい、甲高い悲鳴がメタルギアから発せられた。
ざまあみろ、だ。
右翼が大きく火花を散らして、だらしなく肩からぶら下がった状態になった。
元気な左翼が、より右翼の不恰好さを際立たせている。
――これで、飛ぶ事は出来なくなった。
少なくとも、ゆりかごとの合流は不可能だ。
だが、スネークにそれを喜ぶ暇は無かった。
左翼から飛び出した四つのミサイルはまだ生きていて、スネークに依然として牙を剥いている。
毒付く暇もなくスネークはスティンガーを放る。
そしてFAMASを構えると、がむしゃらに5.56ミリ弾丸を空中にばらまいた。
奇跡的に弾倉が空になった時には四つのミサイルは見事に破壊され、スネークに着弾する前に弾けていた。
スネークは咄嗟に腕で爆風から顔を守ったが、スニーキングスーツ越しでも伝わった焼けるような痛みに悶える。
『――っ、スネークさんっ!!』
「っ!? くそっ!」
ほんの一瞬の隙。
慌てて振り返ると、メタルギアが地面を揺らしながら迫っている。
『甘いぞ、スネーク!』
そんな幻聴が聞こえたような気がして、慌ててバネのように体を跳ね起こした。
けれども既にメタルギアは踏み潰さんと足を上げていて、スネークはその影にすっぽりと埋まっている。
駄目だ、間に合わない。
本能的に腕を上げて体を庇う動作を取るが、無駄である事は自明だった。
――俺はここで死ぬのか。
スネークは遂に目を閉じ、そして――
轟音が響いた。
「っ……!?」
空気が止まる。
おかしい、俺はまだ生きているのか?
うっすらと目を開けば、影に覆われていたはずの足元が照らされていて。
その光に導かれるまま頭上を見上げると、翡翠のバリアがメタルギアの足を受け止めていた。
スネークが、何が起きているのかを把握する前に、怒号が飛び込んでくる。
「早く、逃げろっ!」
この場所にある筈の無い叫び声。
だが、スネークの体は自然とそれに反応していた。
瞬時にローリングし影の外へ飛び出して、声の元へと視線を向け、目を丸くする。
「――ユーノ!?」
「やぁ、スネーク。……ふむ、少し重いね、ちょっと待ってて」
彼が平然と言うや否や、翡翠の巨大なバリアが鉛直方向上向きに加速。
二足歩行のメタルギアはバランスを崩し、轟音と共に不様な格好で転んでみせた。
スネークは土煙の先のメタルギアをちらりと見て、得意気な表情のユーノに向き直る。
「何故っ……!?」
何故此処にお前が。
その単純な疑問さえ余りの驚きに、喉で詰まり言葉となって出てこない。
「おいおい……分かるだろう? 君を助けに来たのさ」
スネークと対照的に、フフン、と得意気に眼鏡を押し上げているユーノ。
幻では無いようだ。
スネークの口から動揺、驚愕、安堵を筆頭とした、様々な感情を乗せた息が漏れ出す。
――少なくとも、悪い物ではない。
「ゆりかごの場所が分からなかったのか、方向音痴。ヴィヴィオは向こうだぞ」
「なのはと分担作業さ。向こうはなのはが、こっちは僕が、ね」
クロノから無理矢理許可を取ったんだ、と明るく笑うユーノ。
「……司書長様がわざわざ助けに来て下さるなんて、全米が感動の渦に呑み込まれるよ」
スティンガーを素早く拾い上げながら皮肉るスネークへ、ユーノは途端に真剣な表情を見せると首を振ってみせた。
僕は無限書庫司書長ではない、そう言って。
ユーノは訝しむスネークに素早く近寄り、治癒魔法を掛ける。
体を包む柔らかな光と、暖かい感覚。
「今はスネークの親友として君を助けに来た、只のユーノ・スクライアさ」
――無視し続けても存在を主張していた傷の痛みが、やんわりと遠退く。
司書長としての仕事は全て終わらせてきたからこれはプライベートだね、なんて軽口を叩いているユーノが憎たらしくて――非常に心強い存在だった。
スネークは一歩前に出て、スティンガーに弾を再装填する。
「フン、貴重なプライベートを潰させてしまって申し訳ないよ。……体は鈍ってるんじゃないのか、相棒?」
「まさか。君の後ろは任せてくれよ」
「よし。……あのグロテスクな翼はもう動かんが、ここから完全に手詰まりだ。どうする」
――翼を落としたところで、核発射は止められない。
涙が出る程ありがたい増援でも、攻撃力に関しては些か頼りない。
堅牢な複合装甲はそう易々とは砕けないだろう。
ユーノが視線を走らせ、おもむろに呟く。
「一つ、考えがあるんだけど。聞いてくれるかい?」
「待ってくれ、ポップコーンとジュースの準備がまだだ」
「……君、僕の事どう思ってるんだ」
ヒクヒクと顔を引きつらせながら視線を向けてくるので、スネークは肩を大げさにすくめる。
「クドクドと無駄に長話をする骨董オタク、と言ったところか?」
骨董オタク、という言葉にユーノはあからさまに不快感を滲ませた。
怒りを露にしながらスネークへ詰め寄る。
「オタクは止めろ! そもそも僕が、要点を分かりやすーく簡潔に話さなかった事があるか!?」
単純明快、簡単な質問。
スネークは顎髭に手をやり、記憶を掘り返して。
ざらざらとした感触を味わいながら、即答。
「ふむ、無いな」
「うおい! くそ、助けに来た事を今更後悔してるよっ」
「ははは。……へらず口はそこまでだ。考えとやらを教えてくれ」
君から始めたんじゃないか、とむすくれるユーノへ、スネークは不適な笑みを投げ掛ける。
戦場でユーノとこんな掛け合いをするのも久しぶりだ。
ユーノは呆れたように大きく溜め息を吐くと、考えの内を話し始めた。
「君が六課にやってきたくらいの頃かな。フェイトがガジェットV型残骸の動力部に、局の保管庫から盗まれたロストロギアを見つけたんだ。……それの名前は、ジュエルシード」
「……V型にロストロギア? 随分気前が良いじゃないか」
大量に戦線投入されているV型。
嫌になる程見続けてきたそれに、過去の貴重な遺産が組み込まれる。
どうにもおかしい話だが、ある程度の推測は可能だった。
いくらでも代えが効く機体の心臓、動力部へそれが組み込まれていたという事は――
支援
「盗みだされたロストロギアは二つで、残りの一つはまだ見つかっていない。恐らく……」
「――動力として出力可能なロストロギアが、メタルギアに組み込まれている……?」
そういう事。
ユーノが神妙な面持ちで一言、そう頷いた。
そのV型はテストで、その結果が好評を博してメタルギアにも使用される事となった、という憶測。
成る程、信じる価値はありそうだ。
「それさえ止めれば、なんとかなると思う。……動力部の位置は――」
ちらり、と藻掻き続けるメタルギアを一瞥するユーノに合わせて、スネークも視線を巨体に向ける。
――人間は心臓から体中に血液を送り、脳が下す命令で活動している。
スネークが可能性の最も高そうな胸部に注目し、その事に気付いたユーノが同調の意志を見せる。
「心臓発作を起こさせる訳か。そのジュエルシードとやらを破壊すれば良いのか?」
とんでもない、とユーノが慌ててその案を却下した。
「暴走したら適わないからね、僕が封印処理をするよ。確保しなきゃ」
「封印処理? ここからパパッと出来ないのか」
「無茶言わないでくれよっ」
魔法が何でも出来ると思い込まないでくれ、とユーノが不満気な表情を見せた。
――まずった。
スネークが後悔する間もなく、そのままユーノの愚痴が始まる。
「あーあー、そもそもここはAMF濃度が酷くて僕にはとてもよろしくない環境なんだよ、って言っても君みたいな魔法いらずで戦える非常識人間には分からないかなっ?」
あぁ成る程、と少し気圧されつつ頷く。
そういえば、メタルギアにはAMFが搭載されているとかジョニーが言っていたな。
さすが伝説の傭兵、なんて皮肉るユーノへスネークは素直に謝罪し、話の軌道を修正する。
「すまなかったユーノ、落ち着け」
「……ゴホン。ともかく、ジュエルシードは体内深くにあるだろうから、せめて胸部外壁を崩してこじ開けてくれれば何とか――」
「成る程な、了解だ」
あっさり返事をしたのが逆に妙な不安を与えてしまったのか、ユーノが大丈夫かい、と問い返してくる。
スネークは苦笑し、この世界で最も長い付き合いである親友の肩を軽く叩いた。
「なんとかなるさ。どうにかこじ開けてみせる、任せておけ」
一瞬の間を置いて、ユーノがくく、と笑いをこぼした。
「そうだね、君がそう言うなら心強い事この上ないよ」
滑らかに、それでも機械らしい動きで立ち上がり始めるメタルギア。
そして同時に発せられる、怒りの咆哮。
身構えたスネークの背中に、ユーノから物憂げな声が掛かる。
「スネーク。いつか、君に話したよね。……地球にばらまかれてしまったロストロギア」
何ヵ月も前。
汚いテントの中で話された内容を思い出し、そして直結する。
――そのロストロギアが、ジュエルシードか。
スネークは無言を貫き、メタルギアが立ち上がる様を睨み付ける。
「ジュエルシードは、象徴なんだ。僕の弱さ、僕の罪のね。ここで……これで一つの区切りを付ける!!」
「――ユーノ。……さぁっ行くぞ!!」
掛け声と共に始まったコンビ戦。
とても苦しい状況の中、最後に行われてから半年ばかり経っていた相棒を共にした戦いは、酷く懐かしく感じられた。
ユーノが作り出す障壁が、降り掛かる攻撃からスネークを守り。
時には鎖がメタルギアを捕縛し、動きを止める。
スネークは親友が生み出した隙を最大限利用。
正確に、コツコツとスティンガーをメタルギアの胸部に当てていく。
まるで扉が開くのを、ひたすらノックして待ち続けるかのように。
――そしてようやく、堅い扉が軋みの声を上げる。
何発目だろうか、スティンガーの成形炸薬弾がメタルギアに喰らい付いた時。
ギギギ、と。
確かにその異質な音は、メタルギアの咆哮に混じって、スネーク達の耳へと届いた。
『――ユーノッ!』
『うん!!』
それまで援護に回っていたユーノが、スネークの呼び掛けに含まれた意味を瞬時に理解。
グググ、と溜める動作を見せる。
スネークもスティンガーにもう一発弾を装填して、照準を合わせた。
――これで、終わりだ!
好ましい反動を残して、ランチャーからミサイルが射出され、真っすぐメタルギアに吸い込まれていく。
盛大な爆発音と共に、メタルギアが実際に痛みを感じているかのように咆哮を上げた。
胸部を覆うプレートがずるり、と剥がれ落ちるのと同時に、スネークの真横を高速で通り抜ける影。
それは、メタルギアの体内奥から漏れる青い光へと、ロストロギア・ジュエルシードへと数秒で到達する。
「……、――ジュエルシード、シリアル八……封印っ!!」
呪文の後に、メタルギアの体内を突き抜けるように眩い光が放たれ、空間を支配する。
――スネークが目の眩みから復帰した時には、全てが終わっていた。
余りに小さな宝石は既にユーノの手の中に収められていて、メタルギアに流れる時間は停止している。
こんな物がメタルギアの中枢を担っていたなんて。
力が抜けたかのように、メタルギアソリッドはガクン、と膝を付いて、そのまま倒れこんだ。
――勝った、か。
『スネークさん、ユーノ司書長! やりましたね! 凄かったですよ!』
「ケホッ……気に入ってもらえてよかっ……ゲホッ、ゴホッ!」
シャーリーの声が響くのだが、生じた土埃を思い切り吸い込んでしまって、苦しげに咳き込むスネーク。
彼と対照的に、感慨深げなユーノがスネークの元へ舞い戻る。
「スネーク、罪や過ちは誰にでもある。それらが消える事はないけれど、僕らは前へ進まなければならない。それが人間なんだからね。……やっと、一区切り付いたよ」
「ゲホッ……そりゃあ、おめでたいね。だが、この事件はまだ終わりじゃない」
そうだったね、と苦笑するユーノ。
「フェイトの所にスカリエッティが行く筈だ、急いで追うぞ」
「了解であります中尉っ」
「……似合わんから止めておけ」
「むぅ……」
黒幕がまだ残っているのだ、こんな事件はさっさと終わらせてしまおう。
スカリエッティにだけは、負けられない。
奴の考えを認める訳にはいかないのだから。
第十六話投下完了です、支援ありがとうございました。
という訳でメタルギア戦でした。
次回も戦闘が続いていくわけですが、この作品で殆ど空気になってるゼストさんとかを筆頭にした人々は大体原作通りの展開を迎えている、という解釈でお願いします。
それでは、次回もよろしくお願いします。
GJ!ユーノかっけええええ
GJッス!!
お〜お〜、このフェレット司書長と迷い蛇ったらすっかりコンビが板についちゃって・・・・。二匹ともカッチョイイゼッ!!
GJ!
やっぱスネークとユーノが最高のカップルだ!
GJ、ユーノかっけぇえええwww
けど気になったのが……
ビッグボスの遺伝子を再現する為に、「優性」ソリッドの対極である「劣性」として生み出されたリキッド。
ってあるけどこれはリキッドの勘違いで遺伝子的には実際には「優性」リキッド、「劣勢」ソリッドだったはずだけど
このことについてかいとかない、そこまでMGSに詳しくない人は勘違いする気が……
GJ
>>387 ソリッドスネークは真実を知らない。
知ってるのはソリダスとオセロットだけだから、ソリッドスネークの視点で描かれるこの話ではこれで良いと思うよ。
神の視点から話を進めてる訳じゃないし。
GJ!
ところでミサイルポッドの所で、妙な既視感って
もしかして、OPSのラシャ戦の時かな?BIGBOSSの記憶と被った?
予約がないようでしたら、5時50分頃から投下させていただきます。
いつもの連載ではなく、「トライガン・マキシマム」との単発クロスネタです
支援
しえーん。
なんだろう。ガンホーか? ミカエルか?
では投下します
――それは恐ろしく何かを欠いた、悪夢のような戦いであった。
“男”は何一つ手を出してはいなかった。
武装した管理局員達が、ただ互いに殺し合っていたのだ。
隣の男にデバイスを突き立て、互いの骨をへし折り合い、自らの手で心臓を抉り出す。
悲痛な絶叫を上げながら、しかしその手を一切止めることはなく。
まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図と言うべき、凄絶な光景が広がっていた。
正確には、彼女が目撃したのは最後の5人分の末路だけだ。だが、残る10人の局員も、恐らく同じ運命をたどったのだろう。
何と卑劣で残忍なことか。何と残虐非道な殺し方をすることか。
気がつけば、激昂した彼女は、轟転するリボルバーナックルを持ち上げていた。
何事かを叫びながら、突撃。
加速、加速、加速。
沸騰寸前にまで陥った意識の中、マッハキャリバーの速度を最大限に発揮。
一瞬にして“男”と彼女の距離が詰まる。
クロスレンジ。極限にまで鍛え上げられた、無手の拳の間合い。
殴る。蹴る。魔力弾をぶっ放す。疾風怒濤の連続攻撃。
ひらり、ひらり、と。怒りの猛攻の数々が、しかしことごとくかわされていく。
ここにきて“男”は、遂に自ら武器を取った。
痛烈なる反撃。四肢を襲うのは烈火の痛み。
反応できなかった。それほどの疾さだった。
何が起こったのかを理解したのは、炎上する施設の床に不様に転がってからだ。
燃え盛る炎の焦げ臭い臭気。ゆらゆらと揺らめく陽炎に歪む視界。
急速に薄れゆく意識の中、彼女の瞳が“男”を睨む。
灼熱に照らし出されたのは、息を呑むような長身の美青年だ。
されど、それはただのまやかし。
悪鬼羅刹。はたまた死神の化身か。狂気と凶器を携え微笑む、地獄の使者のごときその姿。
左の二の腕には髑髏のレリーフ。右の肩には中世の拷問具のごとき針。
髑髏の口から伸びた糸。指先に繋がったそれが操るのは、拷問具より伸びる凶悪な腕手だ。
鋭利な刃物を備えた三つ又のアームには、真紅の雫が滴っている。まさしくそれこそが、彼女を襲った殺人道具。
炎とは対照的な青い髪に、全身を白いコートに包んだその姿は、ともすれば彼女自身をも彷彿とさせる。
されどその目に宿した光は、彼女とは似ても似つかない。凶悪で、冷酷で、空虚な光。
それがなお一層、彼女の神経を逆なでさせる。
許せない。
こんな奴に自分を重ねてしまったことが。
これだけの力を持っているというのに、あんな残虐な殺し方をしていたのが。
故に、彼女は叫ぶ。
眼前に立つ“男”へと。
圧倒的な力と悪意をその身に孕んだ、許されざる殺人鬼へと。
「――お前は一体、何なんだっ!」
コートを翻し立ち去る“男”の姿を最後に、スバル・ナカジマ防災士長の意識はそこで途絶えた。
LYRICAL NANOHA StrikerS × TRIGUN MAXIMUM
― 兇人襲来 ―
「レガート・ブルーサマーズだな」
眼帯をつけた銀髪の少女――戦闘機人チンク・ナカジマが、その名を口にした。
聖王医療院の病室。
清潔な純白のベッドにその身を横たえるのは、未だ目を覚まさぬ入院着のスバルだ。
全身に巻かれた包帯が痛々しい。医療器材は絶えず電子音で、弱々しい脈拍を伝えている。
瀕死の重傷と火災による酸欠が、彼女の意識を奪っていた。
応援として駆けつけた1個小隊が、そのまま襲撃者に殺されていたら、今頃どうなっていたことか。
一歩間違っていれば、確実にスバルの命が奪われていた。
最愛の妹を想い、時空管理局捜査官ギンガ・ナカジマは、背筋が凍えるのを感じた。
「……それで、そのレガートって?」
気を持ち直し、目の前の姉妹へと尋ねる。
チンクを筆頭とした、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディの4人組。
かつてのJS事件を経てナカジマ家へと仲間入りした、元ナンバーズの4姉妹だ。
広域次元犯罪者にして、異端の科学者ジェイル・スカリエッティ。彼の技術の下に生み出されたサイボーグ。
特にディエチ以外の3人は、直接ギンガをぶちのめしたこともあっただけあり、
遠慮なく接してくれるまでにはそれなりの時間を要した。
それでも、共に過ごした時間――そして何よりスバルの明るさが、彼女らを家族として結びつけたのだ。
「あたしらがまだナンバーズだった時に、ドクターが拾ってきた奴だよ」
赤毛と金目のノーヴェが言った。
サンプルにした遺伝子がギンガやスバルと同じだったこともあり、顔立ち自体は似通っている。
「カンオケみたいな、白い変な容れ物に入ってた奴でさ……調べてみたら、両手両足がバッキバキに砕けてた」
彼女らが語るのは、このスバルを傷つけた張本人と思しき人物だ。
昨晩ミッドチルダ陸士部隊を攻撃した、謎の襲撃者。
たまたま位置が近かったこともあり、特別救助隊も応援に向かうことになったのだ。
そしてスバルもまた、休暇返上で現場へと駆けつけたのである。
結果は見ての通り、完膚なきまでの敗北。
陸士隊の人間や、特別救助の先遣隊もろとも、たった1人の男に倒されたのだった。
彼女を救出した小隊の証言によれば、犯人は青い髪に白いコートの長身男性。
更にマリエル・アテンザ技官がスバルの身体を調べたところ、人工筋肉への電気的な干渉の痕跡が見られた。
そしてそれらの情報から、レガートの名が導き出されたのである。
「確か、次元漂流者だったよね」
「ノーマンズランドって、砂漠の星から来たって言ってたッス」
栗色の長髪をリボンでまとめたディエチと、赤髪赤目のウェンディが補足する。
「奴の『技』は、対象の脊髄に差し込んだ金属ワイヤーを介し、筋肉に電気信号を流すことで、自在に相手の身体を操るもの……
そんな戦い方をする奴は、まず間違いなくレガートしかいない」
身体的特徴も一致している、とチンクが言った。
人間の身体を操作するのは、脳から発せられる微細な電流だ。それが命令を伝達し、筋肉を動かすのである。
そしてレガートの武器は、それと同質の信号だ。
微細な金属の糸を介し、対象にパルスを送り込むことで、彼のステージの準備は整う。
操るのは己の精神。操られるのは生きた人間。
対象の筋力を限界まで引き出し、関節のない箇所であろうとも強引に可動させ、その上痛覚だけはそのままに。
レガート・ブルーサマーズの戦場は、恐怖と混乱と殺戮の人形劇(ギニョール)と化す。
抗える人間などいない。一度食らえば、死を免れることはできない。
そう――人間ならば。
「直接攻撃で倒したのは、あたしらの人工筋肉のおかげッスね」
右腕を数度曲げたり伸ばしたりしながら、ウェンディが言った。
「あたしらの身体は普通と違うから、電気信号のパターンも違う……だから、野郎もスバルを操ることはできなかったんだろ」
「つまり、私達戦闘機人だけが、彼とまともに戦うことができるというわけね……」
互いにスバルの寝顔へと視線を落としながら、ノーヴェとギンガが言う。
この場にいる全員が、機械の身体を持った戦闘機人だ。
ギンガとスバルの、元祖ナカジマ姉妹の2人さえも。
一般の局員達が例外なく鏖殺された中、唯一スバルのみが生存できた。
仮に再びあの男と戦う機会があるとすれば、その時対抗しうるのは、同じ戦闘機人だけだ。
「でも、どうしてレガートの奴、生身で動き回れたんスかねぇ?」
そこへ、ウェンディが疑問符を浮かべる。
先ほどノーヴェが述べた通り、発見された当時のレガートは、己が四肢を完全に粉砕された状態だった。
何が原因で、そのような凄惨な身体となったのかは分からない。
だが確かなことは、彼は自身の糸で動かす容れ物の中にいなければ、身動きすることすらできなかったということ。
そしてスカリエッティの診断の結果、二度とその手足が使い物になる時は来ないと予想されたということ。
優れた戦闘能力を持っていながら、JS事件の戦場に一切投入されることがなかったのは、そのためだ。
にもかかわらず、事件現場に現れたレガートは、その中身のコート姿だった。
2本の足で大地を踏みしめ、管理局員達を虐殺したのだ。
「これは姉の推論だが」
と、チンクが口を開く。
「奴はこの2年のうちに、自分の身体すらも、己が『技』の制御下に置けるようになったのかもしれん」
「うげ……自分で自分に糸通してんのかよ」
ぞっとするような仮説。だが、筋は通っていた。
要するに、こういうことだ。
本来他者を操るための「技」を、その時と全く同じ要領で脊髄に通し、自らの身体を傀儡とする。
関節や骨格の限界さえも、筋力で突破する操作術だ。たとえ四肢が砕けようと、そこにはいかほどの意味もない。
もはや人形師(ドールマスター)の身体は脳の制御下にすらなく、己が技術に隷属する人形(ドール)となった。
理論上は不可能ではない。だがその実現のために、一体どれほどの鍛錬が必要となるのだろう。
他人を殺すのとは訳が違う。一切の違和感も感じさせることなく、電波を身体の一部へと変えなければ。
何万回、何億回。積み重ねられた研鑽は、もはや常人の想像力では計り知れない。
「どっちにしても、あたし達で倒さなきゃいけない相手だってのは確かだね」
「だな。あの野郎が何考えてんのかは分かんねぇが、あたしらの家族に手ぇ出したってんなら容赦はしねぇ!」
ディエチの声に、ノーヴェが勇む。
ぱし、と。
左手で作った平手へと、右の拳を叩きつけた。
「再来週には、ティアナがお見舞いに来るって言ってたわ」
ティアナ・ランスター執務官。
スバルと同じ元機動六課の新米執務官は、半年前に着任して以来多忙を極め、ずっと本局勤務の日々を送っていた。
だが、親友が戦場で倒れたともあれば、放っておけるはずもない。
現在担当している事件が片付き次第、ミッドへと顔を出すことを決めたのだそうだ。
「私とN2Rのみんなでリターンマッチ……全部終わらせて、ティアナを迎えてあげましょう」
ギンガの言葉に、4人の姉妹が力強く頷いた。
軌道拘置所と呼ばれる施設がある。
数多くの凶悪次元犯罪者を収監するための監獄で、大体が無人世界の衛星軌道上に設置されている。
第6無人世界のキリーク及びゲルダ、第17無人世界のラブソウルムの合計3ヶ所。
厳重な警備が敷かれており、当然脱走などは不可能だ。
そして彼女はそれらのうち、キリークの1番監房へと収監されていた。
短く切られた青紫の髪は、2年の時を経て僅かに伸びている。
凛々しく輝く黄金の双眸。鋭き眼光と眼差しが、短い髪と相まって、一種男性的な険しさを醸し出していた。
――戦闘機人ナンバーV・トーレ。
かつてのナンバーズ戦闘隊長に割り当てられた室内には、無数の空間モニターが展開されていた。
紫の髪を伸ばした主ジェイル・スカリエッティを筆頭に、同じナンバーズのウーノ、クアットロ。
そして更に、もう1人。
『確かにレガート・ブルーサマーズは、昔私が拾った次元漂流者だよ』
スカリエッティがその男へと語りかける。
厳つい顔に白髪を蓄えた、老齢な印象を受ける男だった。
刻み込まれた皺の数々から、それなりの歳であることは推測できる。しかし、その脂ぎった表情には未だ衰えはない。
管理局地上部隊の茶色い制服を身に纏うのは、ゲンヤ・ナカジマ三佐。
陸士108部隊の長官であり、部下のギンガの父親であり、チンク達を引き取った男でもある。
自分達とは決して関係浅からぬ男が、この日こうしてコンタクトを取ってきたのだ。
『で、そのレガートの目的は何なんだ? あの野郎、今日までに3ヶ所も局の隊舎を潰してやがるんだが』
若干苛立ったような声で、ゲンヤが問いかけた。
どうやら“地上”の方では、かつてアジトに住まわせていたレガートが、不穏な動きを見せているらしい。
『目的、ね』
にやり、と。
画面の向こうのスカリエッティが、不敵な笑みを口元に浮かべる。
トーレに対してのものではない。恐らく別の場所で彼を見ている、ゲンヤに向けられた微笑みだ。
『彼の目的は単純明快、至ってシンプルな回答だ。
元の世界に住んでいる……確か、ナイブズ、と言ったかな? ともかくも、その主人の元へと帰ること』
他に彼が興味を持つことなどありはしない、とスカリエッティが言った。
回想する。ゆりかご攻防戦で敗北するまで住んでいた、自分達のアジトでの日々のことを。
突然スカリエッティが回収してきたあの男は、よほどのことがない限りは、恐ろしく無口な男だった。
自分達ナンバーズにも、自分を救った恩人たるスカリエッティにも、一切の興味を持っていなかったのだろう。
問われれば答えた。ただし、それだけだ。時には答えることすらないこともあった。
だがただ1つ、主君のことに関しては、ほんの少しだけ饒舌になっていた気がする。
――ミリオンズ・ナイブズ。
いかなる人間なのかは知らないが、人類殲滅の野心を秘めた、兇人レガートをも従える男。
彼のことを語る時だけは、その無表情な口元に、微かな笑みを浮かべていた。
(まともな笑い方ではなかった)
今でも、あの笑顔には怖気を覚える。
思い返しただけでも、ぞわりと情けなく背筋が粟立つ。
自身と同じ黄金の瞳に宿された、全く底知れぬ深さの闇。主の名を口にした瞬間、そこに宿される不気味な光。
この光と闇の混沌を、狂気と言わず何と呼ぶ。
あの男は心底イカれている。奴の狂的忠誠心は、もはや病気の域に達している。
たとえ神が相手であろうとも、あの信奉ぶりは異常だった。
狂信者レガート・ブルーサマーズ。
今日も彼の存在が、彼女をびくりと震わせた。
『それで、そのナイブズとかいう奴が、一連の襲撃事件とどう関係があるんだ?』
『私はね、ナカジマ三佐。元の世界へ帰る方法を聞かれた時に、管理局の次元航行船の存在を引き合いに出したのだよ』
耳に入る2人の男の声が、トーレの意識を現実へと引き戻す。
『彼はああ見えて、あまり深く物事を考えないタイプだったからね……大方、言われるままに船を探しているのだろう』
有り得る話だ。
以前レガートが、元のノーマンズランドとやらへの帰還手段を問うた時を思い出す。
あの時確かにスカリエッティは、「管理局の船を使えば帰れるかも」と言っていた。
本当に、それだけだったのだ。
ナイブズを第一に思考し、他のことは特に意に介さぬレガートのことだ。
自在に動ける身体を手に入れたのならば、すぐにでも元の世界へ戻るために、性急な手段に出てもおかしくない。
どこに船があるのか分からないのだから、手当たり次第に施設を襲ってもおかしくない。
『次元航行船を奪って……それで本気で帰れると思ってやがるのか? 操縦はどうするんだよ』
『彼はナイブズという主人の人格上、人間を嫌ってるフシがあったからね。
できることなら、これ以上無駄な接触をすることや、管理局に頭を垂れることはしたくないのだろう。……さて』
そう言って、スカリエッティは一旦言葉を切った。
一拍の間を置くと、再度唇を開く。
『そろそろ本題に移ろうか、ナカジマ三佐。君がわざわざ面会を申し出たのは、何も事情聴取のためではないのだろう?』
にぃ、と。
無限の欲望の表情が、挑発的な色に歪んだ。
『……さすがに察しがいいな』
ぽりぽり、と頭を掻きながら、ゲンヤが応じる。
『現在そのレガートと、N2R隊が交戦態勢に入ってる。ギンガも一緒だ。
だが、相手は陸戦AAのスバルを、ほとんど無傷で倒しやがったと聞いている……肉体操作が通じないにもかかわらず、だ』
N2Rとは確か、ナカジマ家組の4姉妹によって結成されたチームだったはずだ。
要するに今ミッドチルダでは、チンク達がレガートと戦っているということか。
奴の実力の程は推測するしかないが、ゲンヤの言葉を信じるならば、随分とまずいことになる。
スバルを圧倒するということは、すなわちほとんど同レベルの実力の、ノーヴェやギンガにも勝るということ。
戦闘スタイルの差はあるが、ウェンディの戦闘力も同程度だろう。
前衛メンバーが叩きのめされ、懐にでも入られれば、バックスのチンクやディエチに勝ち目はない。
『危険な勝負だね』
スカリエッティの一言が、トーレの思考を的確に表していた。
『ああ。結論から言えば、人手が絶対的に足りねぇってことだ。
家内の仇に頼み事ってのは、ハラワタが煮えくり返ることこの上ねぇんだが……娘達のためだ、仕方がねぇ』
ゲンヤの妻――すなわち、クイント・ナカジマ。
かつてゼスト隊が攻め入った時に、自分とチンクとクアットロ、そしてガジェット達で撃退した魔導師。
トーレも心は人間だ。こうした形で遺族の姿を見せられれば、胸が痛みもする。
クアットロも、ウーノも、特に気にした様子はなかった。ただ彼女だけが、ほんの僅かに眉を潜めた。
『今回だけでいい。ギンガを、そしてチンク達を救うためにも……レガート・ブルーサマーズの確保に、手を貸してはくれねぇか』
捜査協力依頼。
今まで幾度となく持ちかけられ、幾度となく断ってきたこと。
それがまた、ゲンヤ・ナカジマ三佐によって、彼女らに突きつけられていた。
スカリエッティはと言うと、一瞬、ふぅむと呟きながら首を傾げる。
『……だ、そうだけど。君達はどうしたいんだい?』
そして、何でもないといった様子で、ナンバーズの3人娘へと問いかけた。
「それは要するに、チンク達の命を人質に取っているということか?」
真っ先に口を開いたのはトーレだ。
妹達の命が惜しければ、自分達に力を貸せ、と。そう言っているのかと。厳しい口調で詰問する。
そしてこの瞬間こそが、この面会において、初めてトーレが言葉を発した瞬間でもあった。
『結果的にゃ、そうなっちまうんだろうな……だが、俺の本心からの頼みだ』
『クアットロは?』
『冗談じゃありませんわぁ。私達を裏切って、管理局に尻尾を振った連中なんかのために、命なんて投げ出せませんもの』
丸眼鏡が特徴的なクアットロが、僅かに憤慨したように言う。
姉妹の中でも、創造主の邪悪な面を色濃く受け継いだ彼女は、管理局に屈服するつもりなど毛頭ない。
故に、チンク達が更生プログラム受講を裏切り行為と見なし、未だにどこかで腹を立てているのだろう。
『それに私のシルバーカーテンも、ブルーサマーズには無意味ですもの。
いくら幻影を展開しても、その都度ワイヤーを当てられて見破られちゃ、たまったものじゃありませんわ』
胸の前で腕を組みながら、ふん、と鼻を鳴らした。
実際に一度だけ、スカリエッティがレガートに、金属糸を使ってみてほしいと頼んだことがある。
その時の展開速度を考えれば、たとえ幻影でかく乱したとしても、それら全てに一瞬で糸を差し込まれるであろう。
当然、反応のない相手は偽物。手ごたえがあるのは本物。
ある意味でクアットロにとっては、相性最悪の相手だった。
『ウーノに戦闘ができるはずもないし……となると残るは、トーレとセッテか』
モニターの向こうのスカリエッティの目が、明らかにトーレに向けられる。
「……私は……」
『ちょっとちょっとトーレ姉様ぁ。トーレ姉様まで、こんな奴らの言いなりになっちゃうんですかぁ?』
クアットロの非難の声。
正直、返事に迷った。
これまで自分が妹達を心配しながら、それでも捜査協力を断ってきた理由――敗者なりの矜持。
自分達は敗北者なのだ。時空管理局と正面きって戦い、結果敗れた。
そんな勝者に情けをかけられるなどということは、自分にとって最大の侮辱。
生き恥を晒させられるくらいなら、この冷たい牢の中で朽ち果てた方が遥かにまし。
そのはずだった。
だが、今回だけは事情が違った。
今まさに地上では、妹達が窮地に陥ろうとしている。
自分の誇りだけではない。同じ創造主から生み出された、家族の命がかかっている。
優先すべきはどちらか。
矜持(プライド)か。
家族(ファミリー)か。
答えを出さねばならなかった。
「……聖王教会に、連絡を繋いでくれ」
踊るがいい。
踊るがいい。
この手の中で踊るがいい。
操り糸が使えずとも、元よりそれは必要ない。
小細工などを弄せずとも、勝手に奴らは踊ってくれる。
突き出された烈なる拳が。大気を焦がす閃光の砲が。投げ放たれた爆撃の刃が。
全てがことごとくやって来ては、全てがことごとく通り過ぎる。
何と無様で滑稽な舞踊。
遅い。鈍い。のろい。
どれほどの力を込めようと。どれほどの速さを込めようと。
そんなものではまだまだ足りない。
足りないが故に踊るのだ。虚しく空振りを続けるのだ。
さぁ、舞い踊れ。
道化のごとく舞踏せよ。冷たき木偶人形達よ。
この手の中の狂乱の舞台で。
「らああぁぁぁぁぁーっ!」
咆哮。
ノーヴェ・ナカジマとジェットエッジ。
機人の少女が叫びを上げて、具足のエンジンが唸りを上げる。
猛烈な加速。回転するは鋼鉄のスピナー。
果敢な雄たけびを上げながら、ノーヴェが男へと襲いかかる。
青い髪を持った男。白いコートを身に纏った男。拷問具のごとき右肩と、髑髏の左腕を持つ男。
憎きレガート・ブルーサマーズへと。
手のひらは大地を突く。両足は天空へと向かう。身体はその狭間で回転する。
さながら独楽を回すがごとき、豪快な蹴撃の大回転。
ひらり、と。
青い髪と白いコートが舞い上がる。
猛烈な速度で繰り出された回転蹴りは、しかし難なくレガートにかわされた。
「チッ!」
これでも駄目か。
このパワーとスピードでも捉えきれないのか。
渾身の一撃を軽々とかわされたノーヴェは、苛立ちも露わな表情で舌打ちする。
だが、この攻撃に意味がなかったわけではない。
即座に金色の瞳を、兇人が跳び去った方へと向ける。
幾多に輝く桃色の星。数多に煌くエネルギーの弾丸。構えられるはライディングボード。
エリアルショット、展開完了。
レガートの予想着地点には、既にウェンディが照準を定めている。
たんっ、と。遂にその両足が、大地を踏みしめ折れ曲がった、その瞬間。
「食らうッスよーっ!」
一斉砲火。
鳴り響くは激烈なまでの轟音。放たれるは根絶の流星雨。
IS・エリアルレイヴによって展開された全てのエネルギー弾が、一挙にレガート目がけて押し寄せた。
着地の瞬間を狙ったのだ。硬直した相手の足は一瞬鈍る。総勢12発の弾丸を、回避しきれるはずがない。
その、はずだった。
「なっ!?」
がし、と。
男の腕が伸びた。右手が地面を掴んだ。
瞬間、白き一陣の風が吹き抜けた。
両足は一切使われていない。着地した時の曲がった姿勢のままだ。
ただ、右腕の力を使っただけで、自身の身体を思いっきり弾き飛ばした。
伝達されるインパルス。己が筋力を限界まで引き出し、動かぬ身体を引き寄せる。
地を滑るように駆け抜けたレガートは、砲弾のスコールの全てを、見事にかわしてみせたのだ。
これにはさしものウェンディも度肝を抜かれた。あんな動き、人間にできるはずもない。
レガートの隙はウェンディの隙へと移り変わる。
瞬間、加速。
迫りくる白き死神。押し寄せるは死を呼ぶ蒼き風。
「ウェンディッ!」
ぶすり。
肉を貫く音。
N2Rの紺色の戦闘服から、真紅の飛沫が勢いよく噴き出す。
右肩の拷問具が解放されていた。凶悪なる三つ首の野獣が牙を剥いた。
「く、は……っ」
ずるり、と。
三つ又の殺人アームが引き抜かれた瞬間、ウェンディの身体は力なく崩れ落ちた。
地面に仰向けに倒れ伏し、びくり、びくりと痙攣する。
滴るは命の色。広がるは鮮血の波紋。人工の血液が水たまりを作っていく。
恐るべき身体能力。恐るべき反応速度。
人の肉体を持ちながら、もはや戦闘機人すら凌駕したそれは、果たしていかに形容すべきか。
これぞ兇人レガート・ブルーサマーズ。
何者であろうとも触れられず、何者であろうとも避けられぬ、人の姿成す死の権化。
青き髪を風に揺らせ、白きコートをはためかせ、男は戦場に君臨する。
絶対の王者の従者たるために、その身に塗り固めたのは絶対の力。
最強の魔技と最強の肉体を振りかざす、常勝無敗の狂信者。
「てぇんめえぇぇぇぇぇーッ!」
「よせ、ノーヴェッ!」
親愛なる姉の制止も聞かぬまま、怒れるノーヴェが突っ込んだ。
紅の髪は炎となり、金の瞳は豹眼となり。ジェットエッジの爪跡を地に刻み、さながら獰猛なる魔獣と化しながら。
「くっ……ディエチ、フォローを頼む!」
「分かった!」
チンクの要請に合わせ、ディエチが自らの得物を構える。
戦闘機人スナイパーにのみ許された、大形火砲イノーメスカノン。誇張なく、矛盾なく、まさしくディエチ専用の銃口。
ISヘビィバレルを行使。
ぽぅ、と地に浮かぶのは、サイボーグ兵士のテンプレート。
眩い光に照らし出され、尻尾のごとき栗毛をたなびかせ。
その重厚なる砲身へと、己が内に秘めたエネルギーを注ぎこんでいく。
「よくもウェンディをやりやがったなぁぁっ!」
遂にレガートの目前へと迫ったノーヴェが、鋼の右拳を振り上げたのは、ちょうどこの瞬間だった。
前方からのブレイクライナー、右側からのヘビィバレル。
格闘と砲撃の包囲網が完成し、兇人を同時に狙い撃つ。
「ファイア」
かちり。
トリガーが引き絞られた。
刹那、解放。
テンプレートのそれを遥かに凌ぐ極光が、長大なイノーメスカノンより放たれる。
光が成すのは一条の線。暴力的なまでの破壊の奔流。迸るはオレンジの灼熱。
もはやその破壊力は、エリアルショットの比ではない。ナンバーズ12姉妹の中でも、文句なしの最大火力。
一撃必殺の激流を食らい、まともでいられる奴などいない。
かわす素振りも見せぬレガートへと、一直線に殺到し――命中。
「がああああああああああああああああああッ!」
「な……!?」
驚愕。
常にぼんやりとしているディエチの目が、これでもかと言わんばかりに見開かれる。
確かに命中したはずだ。イノーメスカノンの砲撃は、確実にレガートを捉えたはずだ。
なのに、灼熱の砲火の中から聞こえる絶叫は――ノーヴェの声。
そして、息を呑む。
瞠目し、砲撃の掻き消えた先にある光景を見据える。
そこには、無傷でたたずむレガートと、ずたぼろになったノーヴェの姿。
紅髪の戦闘機人の右腕が、男の右手に握られていた。
ノーヴェの拳をかわしたレガートが、一瞬の早業でその手を掴み、砲撃の盾とすべく手繰り寄せたのだ。
「あ……あぁ……」
自分は今一体何をした。
放り捨てられ、地面を転がるのはノーヴェ。
やってしまった。
自分の砲撃で撃ってしまった。
自分の引いた引き金が、家族を容赦なく傷つけてしまった。
もはや焦点すら定まらず、ディエチの意識は一挙にパニックへと陥る。
「っ、ぐ……ぁ……」
刻まれたのは痛烈な衝撃。
描かれたのは野獣の斬撃。
さながら太古の巨竜か何かが、凶悪なる爪で切り裂いたかのような。
赤き三本の爪跡が、ディエチの身体を真紅に染めた。
「ノーヴェ! ディエチッ!」
1テンポ遅れて、チンクが悲痛な叫びを上げる。
いいや、彼女らだけではない。守るべき3人の妹達が、僅か一瞬で蹴散らされた。
ほとんど歯牙にすらかけることなく、戦闘機人の3人を、あっという間に蹂躙したのだ。
恐るべきはあの青と白の魔人。
あるいはあのスバル・ナカジマも、こうして何もできぬままに終わったのか。
「!?」
ゆらり、と。
巨大な鉄塊が蠢く。
長大な砲身が宙を舞う。
全てがスローモーションに見えた。
レガートがイノーメスカノンを掴むのも。それを思いっきりチンクへと投げつけたのも。
反応しきれない。ガードシェルが間に合わない。身体がぴくりとも動かない。
ここで全て終わるのか。
何も為すこともできぬまま。
妹を守ることもできぬまま。
奴に報復することもできず。
ぎゅ、と。
金色の隻眼が、固く閉じられた。
「――トライシールドッ!」
炸裂音が鳴り響いた。
瞼越しにスパークが煌いた。
いつまで経ってもこの身を襲わぬ衝撃に、恐る恐る目を見開く。
「! 義姉上っ!?」
ギンガ・ナカジマの青紫の髪が、真っ先に視界に飛び込んできた。
続いて、その眼前に輝く光。襲い来るイノーメスカノンを受け止めた、防御魔法の三角魔法陣。
近代ベルカの象徴が、トライシールドをなして立ちはだかる。まさしく鉄壁の防御。
振りかぶるは右手。収束されるは紫の魔力。
「ふんっ!」
白銀の籠手が展開する盾。漆黒のグローブは矛となる。
リボルバーナックルが受け止めた大砲への、強烈な右ストレート。
重厚な輝きを放つ砲身が、拳一発で押し返される。
「大丈夫!?」
「ん……ああ……」
肩越しの問いかけに、答えた。
そしてチンクの声に頷くと、ギンガは両足のデバイスを始動させる。
雷神の名を関する白銀の具足・ブリッツキャリバー。純白のインテリジェントデバイスが、猛烈なエンジンの咆哮を上げる。
大切な家族を傷つけられた、怒れる獣の放つ雄たけびだ。
「レガート・ブルーサマーズッ!」
叫ぶ。
疾る。
ギンガの肢体が加速する。
速く、速く、もっと速く。猛烈な勢いで上昇するスピード。
青紫の長髪をたなびかせ、濃紺のリボンをはためかせ。
白と黒のバリアジャケットが、純白のコート目がけて一直線に突っ込んでいく。
「今度は私が相手よっ!」
素早く、鋭く。
ナックルスピナーの回転と共に。
吐き出されるカートリッジの薬莢と共に。
込められるナックルバンカーの魔力と共に。
三位一体の破壊の拳が、レガートの懐へと襲いかかった。
防御。
瞬時に蠢く、三尖の腕手。刃のアームが盾となり、リボルバーナックルの直撃を阻む。
「――戦闘機人というものも、所詮はこの程度か」
ぼそり、と。男の声が呟く。
レガートの声だ。
遂に発せられた兇人の声が、至近距離のギンガの鼓膜を打った。
「貴方は一体……何が目的なのっ!?」
何のために管理局の施設を襲う。何のために罪なき局員を傷つける。
それら全てを折り込んだ問いを、凶刃の向こうの敵へと投げかける。
「目的か」
にやり、と。
鉄仮面が微かに歪む。
何事にも関心を持たない顔が。
これまで無表情だったレガートの顔に、不気味な笑みが浮かび上がった。
「そこの連中なら分かるはずだ。僕に目的があるとしたら、それはあの方ただ1人のためだとね」
みしみし、みしみしと。
拳撃強化魔法の付与された一撃を受け、三つ首の野獣が悲鳴を上げる。
嫌な音を立てながら、右肩のアームが軋んでいく。
それすらも一切意に介することはなく。狂気を孕んだ薄すら笑いを止めようともせず。
背後のチンク――かつてのナンバーズへと視線を向けながら、事も無げに言い放った。
「君達管理局は持っているんだろう? 僕がナイブズ様の下へと帰還するための術を」
「それはこんな所にはないっ! それに、元の世界へ帰ることを望むなら、ちゃんと保護を受ければいいだけの話でしょう!?」
ぎり、と奥歯を軋ませながら、苦々しげな表情でギンガが叫んだ。
こいつの気配は一体何だ。
この鋼の五体を震わせる、底知れぬ暗黒は何なのだ。
その黄金の双眸の中でぎらぎらと輝く、狂気の光は何なのだ。
無限に広がる宇宙の闇、天上に煌く魔性の月。闇と光が織り成すのは、気が触れそうになるほどの混沌(カオス)。
飲まれそうになる。気を抜けば気迫で圧倒される。嫌な汗が頬を伝うのを感じた。
「僕は急いでいるんだ。これ以上蛆虫共の都合に合わせて、無駄な時間を使うのは御免だよ」
蛆虫。
ぴくり、とギンガの眉が動く。
こいつは自分達人間のことを、害虫程度にしか思っていないのか。
最愛の妹のこともそうやって、害虫を駆除するかのように傷つけたのか。
許せない。
許すわけにはいかない。
魔力が怒りに呼応する。筋力が憎しみに呼応する。
白銀のリボルバーナックルへと、更なる力が込められた。
「あああぁぁぁぁぁっ!」
打ち砕く。叩き潰す。粉砕する。
遂に限界を超えた三枚刃が、怒りに震えるギンガの拳によって破壊される。
金属の部品が虚空を舞った。ばらばらばら、と地に落ちた。
破壊の鉄拳の勢いは死なない。その手に更なる贄を求め、防御の奥へと突き進む。
吐き気を催すような笑みを浮かべる、青髪と白コートの兇人へと。
「こちらだ」
声は、後ろから響いていた。
「!」
まずい。
今動かなければやられる。
本能が訴える。
後頭部から伝わる金属の冷気が、ギンガに死を直感させる。
己が一瞬のひらめきを信じ、反射的に首を右へと傾ける。
――どん。
「うぐっ! あ、あああっ!」
撃発の音が轟いた。火薬の臭いが鼻を突いた。背後で閃光が瞬いた。
絶えず続く重厚な音。
狙われたのは、先ほどまで頭があった場所に位置する左肩。
どん、どん、どん、と。
音と光を感じる度、焼けつく激痛がねじ込まれる。
鮮血が噴水のごとく飛び散るのを感じながら、崩れ落ちるようにしてその場に倒れた。
「技」は通用しない。唯一の武器たるアームも砕かれた。にもかかわらず、痛みを与えられた。
そのレガートの手の中で、鉄色の輝きを放つ痛みの源泉は――銃。
ごつごつとした無骨なピストルが、ガンスモークを放って陽光に輝いていた。
隠し持っていた第3の武器。質量兵器の規制された管理世界では、所持する権利を得ることさえも難しい代物。
上方から突き付けられた拳銃が、ギンガ目掛けて鉛弾の雨を降らせたのだ。
もはや動けるものなど存在しない。
全てがことごとく打ち倒され、死屍累々と積み上げられる。
最後に残されたチンクの視界には、完膚なきまでに打ちのめされた姉妹達と、全くの無傷のレガートの姿。
圧倒的すぎる。
差がありすぎる。
土台無理な話だったということか。
スティンガーを握る手ががたがたと震えた。
「チン、ク……姉……逃げて……っ……」
ノーヴェが呻く。
非殺傷設定で放たれたイノーメスカノンに倒れた彼女は、衣服の乱れこそあったもの、基本的には外傷はなかった。
すた、すた、と。
にじり寄る。歩み寄る。
明確な青と白の形を伴った死が、一歩また一歩と近づいてくるのが分かる。
最後に残された自分へと、確実にとどめを刺すために。
「君達も災難だったね。あの科学者が僕を拾うことさえなければ、こんなことにはならなかったものを」
銃口が持ち上げられた。
仄暗い穴が覗いた。
確実に脳天直撃コースの照準だ。
「まぁ、いい」
動けない。
今すぐここから逃げなければ。いや、大事な家族を救わなければ。
相反する2つの命令が、しかしどちらも叶えられることなく、チンクの五体が縛られる。
足が竦んだ。汗が滲んだ。意識の全てがレガートのみに集中し、他のことが考えられなくなる。
「君達は先に逝け」
狂気の微笑み。
兇人の指先が。
凶弾の撃鉄を。
――ずどん。
「!?」
突如、異変が起こった。
強烈な物音は、しかし拳銃の撃音とは違う。
細い瞳が、これでもかと言わんばかりに見開かれる。
青い頭が急速に落ちていく。
引き金を引く寸前のところまで迫ったレガートの身体が、不意に不可解な曲がり方をした。
下方向に胴をくの字に折り、あからさまによろめいたのだ。
衝撃を受けている。何者かによる攻撃を食らっている。
だが、であれば襲撃者は一体何だ。レガートにも、チンクにすらもまるで見えなかった。
兇人の化け物じみた反応速度すらも、遥かに凌ぐ音速の機動。
即座に態勢を立て直した男が、後方目がけて銃を構える。
突如として上空から舞い降りた、姿なき襲撃者の正体は。
「こちらだ」
同じ声が響いた。
ギンガが後ろを取られた時。レガートが後ろを取られた時。
背後へと振り返った兇人の、更に背後へと人影が姿を現した。
すなわち、チンクの眼前。
今度はその隻眼でしかと捉えた。
自分達と同じ、N2Rの戦闘服に身を包んだ1人の女性を。
さながら男性のような、短い青紫の髪を持った、長身の女戦士の持つ背中を。
腕が伸びる。頭を掴む。
レガートが振り返るよりも早く。速く。疾く。
次の瞬間、巻き上がったのは盛大な土煙だ。
一切の汚れなき純白のコートが、土の色に染められた。
襲撃者の右腕が、男の顔面を思いっきり地面へと叩きつけたのだ。
今こそチンクはその名を呼ぶ。その声音に、僅かな戸惑いを込めながら。
戦士の名を。
かつてのナンバーズ戦闘隊長の名を。
家族の中でも随一の力と速さを有した、ジェイル・スカリエッティ最大最強の戦力の名を。
「……トーレ、なのか……!?」
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉォォォォ―――ッ!!!」
天地震わす猛将の雄たけびだ。
今となっては懐かしき、厳格なる三女の放つ怒号が、びりびりと空気の悲鳴を煽る。
レガートを抑え込む右腕が、地面をがりがりと容赦なく抉る。
大地を削り、空を切り裂く疾走は、さながら百獣の王者の写し身かと。
姉妹と、仇敵と。
四肢に煌くインパルスブレード。紫の光翼のもたらす速度が、急激にその距離を空けていく。
「今だ、オットー!」
刹那、顕現。
X番とV番を分かつ壁。
主戦場を抜けたその瞬間、現われたのは緑色の輝きだ。
戦闘機人エネルギーによって形成される、緑碧の光輝を放つ結界――聖王教会へと所属した妹の、プリズナーボックス。
対象捕獲技能と銘打たれたフィールドが、男女を隔絶した、その瞬間。
「IS――ライドインパルスッ!」
獅子咆哮。
遂にその名を絶叫した。
己が得物に宿りし名を。
高速機動、ライドインパルス。
ナンバーズ12姉妹全員の中で、最速にして唯一の音速技能。
瞬間、全ての音は置き去りにされた。
地を巻き上げる音も、風を切り裂く音も。
全てが遥か彼方の障壁で響く、炸裂音よりも遅れて伝わった。
刹那の瞬きの間に、壁面から向かい側の壁面へと突撃。
豪快に持ち上げたレガートの身体を、容赦なくエネルギー壁へと叩きつける。
全てが万事、一瞬で完遂だ。
それがなされたとチンクが気づいたのは、女が元の位置へと舞い戻り、壁面に打ちつけられた男を目撃してからだった。
「……やはり、君か」
ぱらぱらと土埃を払いながら、レガートが対岸の獅子へと言い放つ。
誇り高くも荒々しき美獣。
理論上最高クラスとされている、オーバーSランク魔導師にすら匹敵する身体強化。
一瞬で音速の域への到達を実現する、固有技能ライドインパルス。
「僕に対抗しうるとしたら、君かオットーくらいだと思っていたよ」
初めて土を着けられた瞬間だった。
ダメージらしいダメージを、初めて負わされた瞬間だった。
にもかかわらず、青き死の風は不敵に笑む。
この異常な殺戮者を前にしても、おくびも怯んだ様子を見せぬ、この烈なる牝獅子へと。
「レガート・ブルーサマーズ……不甲斐無い妹達を相手に、随分と好き放題やっていたようだが」
猛火の視線が向けられた。
対象を視殺せんとするほどの眼光が、射抜くようにレガートを睨みつける。
「これ以上、私の家族を好きにはさせん」
その厳しい物言いも、強固な意志も。
全てが軌道拘置所にいたはずの、三女トーレの持つものだ。
既に2年も顔を合わせることのなかった姉が、突如としてこの戦場へと現われ、兇人へと牙を剥いている。
何が何だか分からなかった。
これまで捜査協力の一切をはねつけていたという彼女が、何故このミッドチルダに姿を現したのか。
何故自分達N2Rのスーツを与えられ、このタイミングで戦場へと躍り出たのか。
「大丈夫か、チンク」
はっ、と。
壁越しにかけられたトーレの声に、チンクはようやく我に返った。
「あ、ああ……」
「動けるのなら、ディードと共に、ディエチ達を連れて後退してくれ」
言われてみれば、確かに自分の元へと、聖王教会の装束を纏った2人組が歩み寄って来ている。
茶髪の姉妹、オットーとディード。
ここにいないはずもなかった。現にトーレはオットーの名を呼び、プリズナーボックスは発動していた。
「御無事ですか、チンク姉様」
気絶したウェンディを肩に担ぎながら、ディードの無機質な声が確認する。
ノーヴェは休ませればダメージが抜けるだろうが、残る3人は相当な重傷だ。
いかに強靭な戦闘機人の肉体といえど、この傷は明らかにまずい。早急な治療が必要となる。
トーレの指示は的確だった。
支援
支援
「ああ、だが……トーレはどうするんだ……?」
しかし、戦場に取り残されるトーレはどうなる。
光の壁によって外界から隔絶された姉へと、チンクが問いかけた。
もはや彼女が何故ここにいるのかはどうだっていい。今尋ねるべきは、そこだった。
「案ずるな」
返ってきたのは淀みない答えだ。
一切の逡巡すらも介在せず、一瞬のうちに発せられた返答。
「こいつの相手は私がする」
プリズナーボックスの檻の中、トーレが静かに構えを取った。
今や緑碧の結界は、2人の戦士の決闘場(リング)と化していた。
鋼の四肢に音速の翼を輝かす、戦闘機人最強の女。超常の力と反応速度を持った、異界から出でし狂信者。
「一瞬で音速に到達する君のIS……反応速度で劣ろうと、スピードそのもので勝るのならば、確かに対抗はできるだろう。
加えてこの鉄壁の結界。非力な僕を閉じ込めるには、最適な檻と言えるだろうね」
結局のところ、レガートは魔導師でも戦闘機人でもない。並はずれた「技」を有しただけの、ただの人間だ。
脳の無意識制御を無視し、筋力の100パーセントを発揮したとしても、この場の全員の反応速度を凌駕したとしても、そこまでである。
魔力やISにより強力な弾丸を撃つことも、絶大なスピードを得ることもできはしない。
彼が持っている武器は、拳銃と己が肉体だけなのだ。
どう考えても人間の身体だけでは、音速に達することはできないし、拳銃では結界には歯が立たない。
トーレかオットーならばいい勝負ができるというのは、そういうことだ。
「さてと……ならばその条件で、君はどこまで追いすがれるかな?」
それでも、レガートの自信は微塵も揺るがない。
変わらぬ邪悪な微笑と共に、じっとトーレを見据えている。
「……オットー、フィールドを頼むぞ」
「分かりました」
姉の声に、妹が答える。
中性的な容姿を持った、ともすれば少年にも見えるオットーが。
それが合図だった。
光輝くプリズナーボックスの空気が、みるみるうちに鋭さを増す。
気迫。敵意。殺気。
四角いリングに満ちゆく闘争の気配。磨き上げられた互いの闘志が、百万の刃となって激突する。
「戦闘機人ナンバーズのV・TRE the RIDE IMPLSE(ライドインパルスのトーレ)」
烈火の獅子と微笑の兇人。
トーレとレガート。
極限の力と速さとの激突が。
今、その幕が。
「――ゆくぞッ!!!」
切って落とされた。
続かない
支援
死を呼ぶ蒼き風支援
というわけで投下終了。
今回登場させたのは、あのナイブズの懐刀・レガート・ブルーサマーズさんでした。
……どうしてよりによってコイツにしたのか分かんない。きっと疲れてたんだ(ぇ
今回、銃の出てくるタイミングが遅かったので、
歴代作者の方々が書かれたトライガンクロスとは一風異なる、接近戦メインの内容となっております。
ディープスペースうんたらかんたらガンアクションなのにね。うん、反省。
レガートGJ!
なんというチート能力者を持って来たんだ、こいつの技は魔道師相手にも普通に嫌すぐるwww
しかし、それが効かない戦闘機人相手にもこの強さ、正に最悪。
単発で終わるのが残念なくらい良いSSでした、GJです。
GJ!
まーたあんたは危険人物呼んで…
こと人間相手には最強で最凶な最狂兄さんですからねぇ、レガートさん。
超磁場発生装置とかいうわけ分かんないカラクリ出さなきゃバッシュにも勝ってそうだったし。
そりゃあ相手が悪いでしょう。
トーレさんも凄え格好よかったっス。
GJでした!
GJ!!です。
何たる化け物。
事前情報無しで管理局云々で逮捕しますなんて言わなきゃいけない魔導師は勝てないだろうなぁ。
イベントスレもよろしく!
418 :
一尉:2008/12/23(火) 22:54:15 ID:ajn5vs+0
こっちにも支援します。
今日は投下どころかレスも一切なしか?
まあイブだしなぁ
めりーくるしみます
しっと団の活躍する日ですね
まあイベント優先ってことで。
「100万回生きたスカリエッティ」
100万年もしなない男がいました
100万回も死んで、100万回も生きかえったのです
りっぱな悪の科学者でした
彼はいつも何かを求めていました
ある世界では巨人たちを従えて、他の巨人たちと
伝説のバナナを求めて戦いました
ある世界ではみょうにペラペラしたどこか憎めない悪の秘密結社と協力して
世界征服をたくらみました
ある世界ではふしぎなナマモノがいっぱい住む島で
騒動を起こしては鼻血ばかり流していました
ある世界では伝説の傭兵といっしょに戦って
珍しくかっこいい人になりました
どの世界でも彼は有名になり、ともだちや伝説も増えていきましたが
彼は満たされないままでした
100万個めのある世界で、彼はそこに住むことを決め,ひとりの女性を
世話係として雇いました
青紫の髪の美しい女性です
彼は女性にいいました
「私は100万回も死んでいるのだよ!」
といいました
紫の髪の女性…ウーノは「そうですか」といったきりでした
スカリエッティは愉快げにわらいました
なんせ変人ですから
次の日も、次の日も、彼は彼女にいいました
「きみはまだ一回も生き終わっていないのだろう?」
彼女は「ええ」といったきりでした
ある日、彼は段ボールをかぶりながらいいました
「私はスニーキング・ミッションをしたこともあるのだよ」
彼女は「そうですか」といったきりでした
「私は…」といいかけて彼は「そばにいてくれるかい?」
とたずねました
彼女は、「はい」といいました
彼は彼女のそばにずっといました
彼女はかわいい娘を11人も生みました
スカリエッティは、ウーノとたくさんの娘たちが
自分よりも好きになっていきました
やがて娘たちは大きくなって、それぞれどこかに行きました
「娘たちもりっぱになったなあ」と、彼は満足していいました
「はい」と彼女はいいました
彼の足りなかったものは満たされました
ある日、ウーノはスカリエッティのとなりで
しずかにうごかなくなりました
彼はわらいながら、はじめて泣きました
夜になって、朝になって、100万回も泣きました
朝になって、夜になって、ある日のお昼に、彼は泣きやみました
彼はウーノのとなりで、しずかにうごかなくなりました
スカリエッティはもう、けっして生きかえりませんでした
おしまい
…これクロスSSなんだろうか?
御目汚しすいません
100万回生きた猫ですか〜名作ですよね。偶には児童文学作品とのクロスも良いかもしれません。
絵本なら「モチモチの木」とか「雪だるま」とか、児童小説なら「ぽっぺん先生シリーズ」とか「少年探偵団シリーズ」とか「僕は王さまシリーズ」とか、
ミスマッチにも程があるけどさ!
なのはキャラ全投入して「スイミー」を書いてみる
猛者はいないかね?
よくたべるスイミ〜
だいすきなスイミ〜
>425
「スイミーのセレブ基金」を海鳴市に送るのか!
【どこの“At Last the 1948 Show”だ】
GJ!!です。
名作とのクロスですか。
スカ博士のいい話wというか生き過ぎwww
スイミーの場合、スイミー達を食べようとするでっかい魚はなのはか?w
>>428 超級覇王電影弾よろしく魔王フェイスが先端に存在するSLBがスイミー達を飲み込んでいくシーンが…w
お久しぶりです。
まず第一に、前回は三次創作などという不祥事を起こしてしまい、
スレの皆様にもご迷惑をおかけしてしまったことを謝罪致します。
さて、予約がないようでしたら、5時40分くらいから投下を開始しようと思います。
えー、またしてもライダーとのクロスです。クロス元ライダーはクウガ。
はい、マスカレードもブレードもどうにも筆が進まないので、やっちゃいました的な新作です(ぇ
それでは、始めは短めですが投下開始します。
西暦2001年1月30日―――
中央アルプス長野県九朗ヶ岳。
全ての始まりであったこの地には今、猛烈な勢いで吹雪が吹き荒れていた。
それはまるでこれから吹き荒れるであろう戦いの嵐に感応するように。
周囲一面を白銀の世界へと変え、国道沿いに停車された二台のバイクに雪が降り積もる。
勿論それは、バイクの所有者である二人の青年にも等しく降り積もっていた。
厚い雲に覆われた空には、暫く青空が拝めそうな気配はない。
それはまるで青年の心を現しているかのようで。
青年が不安がるのも無理はなかった。
1年間という期間に渡って、共に戦ってきた友を、自分の手で殺さねばならないのかもしれないのだから。
それは仮に、“もしも彼が心から優しさを枯らしてしまった場合”のことではあるが。
勿論彼を信頼していない訳ではない。寧ろ彼ならば古代の伝説をも塗りかえるのではと期待さえさせる。
それでも心から不安が消えないのはやはり、慎重な性格のためなのだろう。
出来る事なら、彼にはこんな寄り道はさせたく無かった。
出来る事なら、彼には冒険だけをしていて欲しかった。
ここまでずっと付き合わせてしまった事に、罪悪感を感じずにはいられなかった。
彼は笑顔を絶やさなかった。元々暴力なんてものは嫌いな筈だったのに。
本当なら誰かを殴る事も、ましてや殺すことも嫌だった筈なのに。
それでも彼は、戦い続けた。何度挫けそうになっても、必ず立ちあがって。
自分の身体すらも、自分の物で無くなってしまうかもしれないという恐怖にも負けず。
人々の命と、そして何よりも人々の優しい「笑顔」を守るために、彼は戦い続けたのだ。
だが、そんな戦いもこれで終わる。大勢の人々の命を奪い続けてきた者達と、最後の決着が付こうとしていた。
――じゃあ、見てて下さい。
――俺の、変身。
彼は最後に、こう言った。
親指を突き立てて――所謂サムズアップのポーズを取りながら。
自分は大丈夫だと言わんばかりに、微笑みを浮かべて。
笑顔で親指を突き立てるというこの動作自体が、彼のトレードマークの様な物なのだ。
彼は青年に背中を向けると、いつも通りに変身の動作を取った。
未だ不安な瞳で見つめるしか出来ない青年の眼前で、彼の姿が変わっていく。
ベルトを中心に、全身が漆黒の鎧に包まれて。その直後、金のラインが走る。
その体を漆黒で塗りつぶすと、今度は頭部を仮面が覆う。
彼は既に、人間の姿ではない。戦士としての姿へと、文字通り“変身”を行ったのだ。
全身が黒に覆われたその姿は、漆黒の――凄まじき戦士のもの。
禍々しく突き出た両肩の突起。頭部に輝く黄金の角は4本。
今までのどの姿とも違う。彼は成ってしまったのだ。
伝説の存在に―――「究極の闇を齎す存在」に。
されど不思議と、恐怖という感情は感じなかった。
最後に戦士が振り返った時、その目は燃える炎の様な真紅の色をしていたから。
これが、青年が最後に見た、「戦士クウガ」の姿であった。
EPISODE.00 青空
三ヶ月後―――
警視庁、未確認生命体合同捜査本部。
一年前から突如現れ、普通の人格を持った人間には大凡理解不可能な
殺人ゲームを繰り返した異形の集団を、人々は「未確認生命体」と呼んだ。
彼ら未確認生命体は、当初は人類の開発した兵器では対処不可能とされた。
しかし、確認された未確認生命体の中に、人類にただ一人味方する者が現れた。
後の研究でそれは未確認とは別個の存在である事が明らかにされたが、
人々は皆彼をこう呼ぶ―――未確認生命体第4号と。
この世界の人々の間で、「4号」という言葉は最早、英雄の如きカリスマ性を湛えているから。
一年間、未確認の連中から人々を守るために戦い続けた4号はまさに希望の象徴とも呼ぶべき存在であった。
そんな4号に協力して戦ったのが、警視庁内に設けられた、未確認生命体合同捜査本部なのである。
しかし、4号と0号が最後に確認された九朗ヶ岳での事件以来、未確認はその姿を現す事は無くなった。
それ故にこの部署も解散となり、現在未確認に関する資料を纏めていた最中であった。
一条薫は、数枚が束ねられ、一つの束となった資料に目を通していた。
未確認生命体関連事件捜査資料。この一年で起こった全ての未確認関連事件の全容が記された資料だ。
この一年間の記憶を呼び覚ましながら。ゆっくりと頁を捲るその表情は、重々しい。
一条が見詰めていたのは、未確認生命体第0号に関連する事件資料であった。
資料写真として載せられているのは、0号が引き起こした事件について。
それは今から時間にして約三ヶ月前。究極の闇と称される0号が単独で行ったと思われる、大量虐殺事件。
その影響で、長野県長野市及び松本市は壊滅―――0号によって虐殺された被害者は三万人を超えた。
しかし、後の4号との決戦を堺に、0号はその姿を現さなくなった。
資料に記されているのは、以下の文である。
未確認生命体第0号
平成13年1月30日、長野県駒ヶ根町室木、
九朗ヶ岳名伊里曽沢に於いて第4号と交戦、
第4号と共に失踪。
(平成13年1月30日、午後7時から8時頃)
一条の表情が険しくなる。
0号が4号に倒されたのならばそれでいい。
だが、4号まで一緒になって消えることに、一条は未だに納得が出来ずにいた。
自分が二人の決戦の跡地へと駆け付けた時には既に、二人の姿は無くなっていた。
白銀の世界をただ一ヶ所、真っ赤な鮮血で染めて。
だが、どうにも4号が死んだとも思えない。
何故か彼なら、今でも何処かで冒険を続けているのではとすら思えてくる。
それはやはり彼の人柄故なのだろうか。
支援
しかしそれならば一言くらい「冒険に行ってきます」くらい言ってくれても良かったんじゃないかと思えてくる。
と、そんな事を考えていると、一条の表情からふっ、と笑みが零れた。
一条が思い描いたのは、彼の相変わらずの飄々としたマイペースな態度。
どういうことか、彼の笑顔を見ていると、こっちまで笑顔になってくる気がした。
例えそれが記憶の中の姿でも、だ。
それだけ彼は、皆に笑顔を振り撒いた存在だったのだ。
「五代さんじゃない人が4号だったら、最後まで戦えなかったかも……」
ふと、一人の同僚の言葉に、一条は耳を傾けた。
4号として戦った彼――五代雄介の話とあれば、自然と意識が向けられる。
「そうだね。いつでも笑顔で頑張れる五代さんだったから。最後の最後まで」
また一人、同僚の刑事がそう言った。
一条の脳裏に未だ焼き付いて離れないのは、五代の屈託のない笑顔。
本当なら辛い筈なのに、五代はいつでも笑顔を絶やさず、皆の笑顔を守り続けた。
絶対に弱音も吐かずに、例え心の中で涙を流し続けていても。周囲の皆を笑顔にする為に、
五代は最後の最後まで、笑顔を絶やさなかった。それを一条はこの目で確認しているのだから。
「何でだよって言うくらい、いい奴だったもんな……」
今度は別の同僚が言った。
一条も小さく頷きながら、それに同意した。
五代ほど人がいい奴は、一条だって見たことが無かったから。
彼ほどの男は、他にそうはいないと確信しながら、ふと窓の外をみやる。
窓から見えるのは、どこまでも広がっていく美しい青空。
五代が戦い続けて守った、心が澄み渡る程の青空だ。
「それにしても……彼は今、何処で何をしてるんだろうなぁ」
青空を見つめる中、一人がそう言った。
だけど恐らく、誰も五代が死んだ等とは思っていない。
その理由の一つとして、五代が乗っていたBTCS――通称ビートチェイサー2000が、姿を消していたことが挙げられる。
BTCSが無くなったという事は、それに乗る者が居たということ。ひいては、五代がそれに乗って行ったのでは、とも考えられる。
別にそれだけでは大した根拠にはならないのかも知れないが、何よりも彼らは五代雄介という人間を信頼している。
故に、あのまま0号と心中した等とは到底思えなかったのだ。
きっと彼は、0号との決戦後に失踪した後も、何処かで冒険を続けているのだろう。
それこそもしかしたら、並行世界の壁すらも超えてしまうような壮大な冒険をしているのかも知れない。
そんなあり得ない想像をしてしまう程に、五代雄介は規格外の男だったのだ。
が、それは彼らには解らないこと。ただ一つだけ、彼は今も生きているということ。
生きて笑顔で冒険を続けていること。それだけは、彼らも確信していて。
彼が守った青空を。どこまでも続く青空を。
一同はじっと眺めていた。
支援
さて、まだなのは達は出てきていませんが、今回はここまでです。
とりあえずこの作品は短めの尺でこまめに更新して行こうと思っています。
いくつか注意点もありますが……それは次回投下時に説明させて頂きます。
オダジョの出世作または黒歴史ですね
クウガは放送当時楽しんで見ていたので続きが楽しみです。
GJ!!です。
プラズマで人間を大量虐殺する化け物が次元世界に入っちゃったのかw
どの時代のどの陣営に拾われたり、味方をするのか楽しみです。
20:50分に投下予約します
支援
「あ、ああああああああああああああああ!!」
それは人の形をした悪夢そのものだった。魔力がそのまま颶風となって吹き荒れる。太刀風が唸り、アスファ
ルトをまるでバターのように引き裂いた。それすらも、ただの余波で起きたことだった。
最も近くにいたアルフは、とうに吹き飛ばされている。風に混じった赤い飛沫は彼女の血だろう。それだけで、
もはやジュエルシードは正しくフェイトの願いを叶えているのではなく、暴走状態であると知れる。
何が起きようと、フェイトがアルフを傷つけるはずがない。
鋭い風に頬を切り裂かれながら、クロノは己の愚鈍さが恨めしくて仕方がなかった。傷つけるはずなどない、
そのはずの彼女にそうさせたのは、他ならぬ自分自身だ。
吹き飛ばされそうになる体を、S2Uを地面に突き刺して支える。どうすればいい。考える時間はない。しかし、
無策で飛び込めば魔力の余波だけでクロノなど粉微塵だ。フェイトが望まずとも、ジュエルシードの力が結果と
してそれを引き起こす。
あるいは、それでこの暴走が収まる保障があれば、クロノはそれを選んだだろう。世界と自分の命。正確には、
そこに住む人々。捨て置けば全てがご破算だ。一人の犠牲で済むのなら、それが自分自身であれば、クロノには
もはや迷う余地などない。
だが、それでは届かないのだ。クロノ一人の力では、何をどうしようとフェイトまで届かない。それは恐らく
不幸なことだろう。可能であれば、世界は救われたのだから。そして、その選択を取りえるクロノのあり方が。
吹き荒れる魔力の風は一秒ごとに勢いを増していた。これまでとは比較にならない規模の発動。さもありなん、
これまでジュエルシードに込められた願いは大きくなりたい、誰かと一緒にいたい、強くなりたい。その程度だ。
誰かを拒絶するような、何かを否定するようなものは何一つない。魔導師によるものも。魔力によって願いを
叶えるジュエルシードが、どうしてこれまでと同じでいられよう。
「ふえ、ふえ! 何これ! 今までと、ずっと違う!!」
「暴走、してるんだ。このままだと……」
「どうなるの、ユーノくんっ!」
「わからない。わからないけど、この規模の魔力だと、この街なんか跡形もなく――」
何を悠長な。
この街どころではなく、世界そのものの危機だ。一度起きたが最後、次元崩壊は連鎖するように周囲の空間を
巻き込み、魔力物質の区別なく強制的に自壊させる。例え起点がどれほど極小だろうと止める手段は人の手では
およそ不可能だ。防ぐには、自壊を強引に捩じ伏せるだけの魔力を持ってくるか、一帯を強制的に相転移させる
ぐらいしかない。どちらも、今この場では不可能だ。
それほどの災害、天災。いや、そんな言葉では到底物足りない破滅だというのに、街一つ。危機を理解できて
いない二人に、クロノは苛立ちを隠せなかった。何よりも彼自身に打つ手がないという苛立ちもあってからか、
彼らしからぬことだがクロノは舌打ちをした。
それに、甘いのは彼も同じだ。いや、それ以上かもしれない。生まれる犠牲を正しく理解しておきながらも、
フェイトを殺すという方法を選択できないのだから。
ただそれでも、フェイトが人を殺すなんて許せない。吹き荒れる魔風に四肢を絡めとられながらも、しかし、
クロノはS2Uを構えた。今から必要なのは魔力ではない。不必要に流れに対抗しようとすれば術式は乱れ、その
機能を十分に発揮できない。
一度だけ空を見上げ、未練を振り切るように瞳を閉じる。この状況下にあってなお、クロノの第六感は周囲を
正確に把握していた。
そこ――瞑目したまま、杖先を向ける。発動した魔法は、ごく単純な転移魔法/アポートだった。引き寄せた
のは、吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられたアルフ。息も絶え絶えといった様子だが、一瞬でアルフの
容態を見終えたクロノは胸中で安堵の息を漏らした。
少なくとも、命に別状はない。呼吸が乱れているのは、強大すぎる魔力に当てられたことによる一時的な魔力
酔いだ。血のように見えたそれは、恐らく彼女の赤い毛並みがそう見せたのだろう。肌にまで届くような裂傷は
見た限りでは見当たらない。あったとしても、かすり傷程度だ。毛皮を濡らすほどの出血はどこにもない。
「ク、ロノ、なんで……」
「しゃべらないで。今は一秒でも早く回復を」
起き上がろうとするアルフを制して、クロノは言葉をかけた。話し合う余裕はない。肌を打つ魔力は刻一刻と
勢いを増している。その行き着く先は、もはや言うまでもない。
それを防ぐにはクロノ一人の力だけでは到底足りず、時間は惜しいが傷を癒して協力する体制を作らなければ
ならない。
しかし、全員に共通の認識を持つ前に、頭上でははや動きがあった。
「とにかく、放っておけないってことだね」
金属音を奏で、少女がデバイスをフェイトへと向けていた。
何を。現実離れした光景に、クロノの理解は追いつかなかった。
まさか封印するつもりか。ありえないとすぐにその考えを打ち消す。この魔力が吹き荒れる中、直接ならまだ
しも遠隔、それも砲撃では、無謀を通り越して無意味に近い。仮に攻撃であろうとそれは同じだ。触れる前に、
余波にかき去れるだろう。
しかし、そのまさかだった。
少女が構えるデバイスの先端部分が、変形する。
「ディバイン――」
砲撃に特化した杖を構え、少女が今、裂帛の気合を上げる。
「――バスター!!」
その一砲は一目でそれとわかるほど、かつてクロノが見たよりも遥かな威力を秘めていた。クロノの手札では、
防ぐことは不可能ではないかと思わせるほどに。
魔力のこもった風を吹き飛ばし、桃色の閃光が空間を切り裂いていく。
そして、そこで終わりを迎えた。核たるジュエルシードの前を前にしては、障壁もないというのに立ち込める
魔力の暴風に、一瞬と持たず掻き消える。
距離もあったろう。減衰もしただろう。しかしそれらを差し引いても、無駄でしかなかった。
今ここにある力が違う。フェイトが仮に正気を保っていたとして、それでもなおジュエルシードの方が全員の
魔力の総和よりも強大なのだ。
それだけの力の差がありながら彼らが無事だったのは、ジュエルシードがただの機構であり、自発的に破壊を
撒き散らしていないからに他ならない。
指向を持たぬ状態ですらこれ。
だから、少女の砲撃は最悪を通り越し、もはや言葉にすらできない。こめかみに突きつけられた銃の引き金を
自ら引くことに等しい愚行だ。
いつの間にか、フェイトの悲鳴のような咆哮は止んでいた。
「ああ、そう、そうだよね。やっぱり、邪魔、するんだね」
正気を失っていたかと思われたフェイトの口から、ようやく意味を持った言葉が放たれた。
そしてその冷たさは、向けられていないはずのクロノですら、背筋が凍る思いだった。
意識は確かにあるのかもしれない。だが、これはクロノが知るフェイトの声ではない。普段は抑揚こそあまり
ないが、それでもそこに優しさは感じられる。温泉で少女に向けた声も、硬くはあっても冷たくはなかった。
だからだろう。直感的に、クロノは本来彼女がしないだろう行為の可能性に気が付いた。
千波万波と押し寄せる狂濤の中、アルフの治療を打ち切って術式を編み上げる。精度すらも打ち捨てて、ただ
効果だけを優先し。
「……消えちゃえ」
フェイトが少女に指先を向けるのと、クロノの魔法――少女を強引に牽引する――の発動は同時だった。
それは冗談のような奇跡だったろう。
願うだけで発動する魔法に先んじられたのもそうなら、向けられた力のあまりの強大さに、少女が身を竦めて
何一つ抵抗しなかったこともそう。
少女を紙一重で掠めるように、金の閃光が走り抜ける。余波だけで術式が灼かれた。遠くで結界を突き抜ける
音。それすらも置き去りにして、数秒でその悪夢のような砲撃は成層圏にまで達していた。
それほどの距離がありながらもなお、ありありと感じ取れるほどの威力。
人一人を消すには、あまりに過剰な火力だ。というよりも、むしろ、人一人が出すにはあまりにも無謀な、と
評するべきか。
落ちてきた少女を魔法でやんわりと受け止めたクロノの視線の先では、指と言わず手と言わず、肘の先までも
無残に引き裂かれたフェイトの腕が、赤く鮮明に血を滴らせていた
「フェイト……駄目だ」
よろよろと、無理やり震える体を意志の力でねじ伏せてアルフが立ち上がる。その瞳にはこれまで見たことが
ないほどの悲痛の色が浮かんでいた。彼女とてわかる。フェイトが破滅に向かって進んでいることを。
理解できていないのは、フェイトただ一人だ。
「なんで、アルフ?」
どこか幼さを感じさせる声。舌っ足らずにフェイトは続ける。
「ジュエルシードは集めなきゃ。邪魔なやつは消さないと。それでまた皆で集めるの。何で駄目なの? 私と、
アルフと、クロノでジュエルシードを集めて。母さんに褒めてもらうの。
ねえ、何で駄目なの?
そしたら、きっとみんなで一緒にいられるよ。かあさんがどうして集めてるのかしらないけど、こんなにも
クロノはがんばったんだ。
いっしょにいるの! ほめてもらうの! もう、リニスのときみたいに失敗しない!
だから――だから、邪魔なの、その白い子!!」
やはり、正気ではない。アルフに傷を負わせたという自覚もなく、少女にすべての不幸を押し付けて。それで
何もかも解決できると思っている。もしかしたら、その脳裏には、幸せな夢が描かれているのかもしれない。
期待が大きければ大きいほど、それと同時に不安もまた大きくなる。そのやり場を、今までフェイトは持って
いなかった。その矛先を見つけた、見つけさせられてしまったのだ。
事の正否ではない。ただの八つ当たり。
本来の心優しい、敵にすら情けをかけたフェイトではありえなかったろう。どれだけ狂おうと、本質までもが
変わることはそうあることではない。ましてそれが一夜であれば、もはやありえないといって良い。
それを無理やりに引きずり出したのが、ジュエルシードの暴走だった。
それを引き起こしてしまったのが、クロノの失敗だった。
一秒ごとに青白くなるフェイトの顔。歯軋りをして、しかしその時間すら惜しく、クロノは少女に告げた。
「放っておけば、彼女は、フェイトは死ぬ」
「えっ……」
「それだけじゃない。そのときは、この街どころか、星ごと崩壊する。君に向けられた魔力も、その余剰分だ」
少女は絶句していた。それもそうだろう。自分を塵一つ残さず消し去るほどの威力の砲撃が、まさか片手間の
ものだとは想像に難い。
ようやく、彼我の実力差とこの絶望的な状況を理解したのか。小刻みに、その少女の小さな体が震えていた。
「クロノ……邪魔しちゃ、いやだよ。その子は敵なのに。どうして、たすけようとするの?」
圧力が、一際力強さを増した。敵意は含まれていないはずなのに、クロノをして体を竦ませて。背後の少女は
小さく悲鳴を漏らしたほどだった。
内心では、クロノとて大差はない。ただフェイトを傷つけたくない一心で、恐怖を押し隠しただけだった。
「君に――」
猫のように細められた視線に射竦められながら、粘り気のある唾を飲み込んで何とかクロノは言葉を捜した。
今のクロノには、もはや何が正しいのかわからない。欲しい答えは誰も教えてくれず、そして十分な時間など
与えられない。異邦人の彼に、誰が何を与えられるのか。
クロノは一人、素直に心情吐露することしかできなかった。
しーえんしーえん
「――君に、後悔、してほしくないんだ」
一瞬の静寂。フェイトが目を見開いたのは、何を言われたのか、わからなかったからだろう。その瞳に理解が
宿ると、ゆっくりと、だらしなく表情を緩めていた。
「ふふ。やっぱり、クロノは優しいね。だいじょうぶだよ。わたしは後悔なんかしないから。あのね、ジュエル
シードだって、今ならかんたんにどこにあるかわかるんだよ。
山のほうにさんこ。海のほうにごこ。どこだろ。むこうの水の中にもいっこある。
ね? すごいでしょ? きっとかあさんだってほめてくれる。クロノのことだってゆるしてもらえるよ。もし
だめだったら、わたしからおねがいしてもいい」
それが正気のときの言葉なら、どれほどクロノの胸を打ったろう。しかし、今クロノの胸に去来しているのは
むしろその逆。悲しみですらあった。
だからこそ、その優しさに答えるため、否定するため、クロノはフェイトを止めなければならない。
「フェイト」
「なあに、クロノ?」
今度は、何一つ迷わず言葉を探し出せていた。
「それで君が手を汚すぐらいなら、僕はこのまま消えるほうがいい」
笑って、クロノは言った。わずかたりとも悲痛を見せない、どこか喜びすら込められていたと、聞いた全員が
理解できただろう。記憶にはないが、死を受け入れた老人のようだな、と他人事のようにクロノは思っていた。
自分が否定されたことを、そして容易くクロノが死を選んだことを理解できなかったのだろう。呆けたように、
フェイトが口をあけた。その一瞬の隙が万金に値することを、それこそ理解できないクロノではない。
今が、最後のチャンスだ。必ず助けるという誓いを胸に、背後に控えた全員に指令を出す。
「――は! もう一度フェイトへ砲撃を! アルフさんと使い魔は出来た「道」を少しでも長く維持を!!」
「え、でもさっきは……」
「なのはっ。今は彼の言う通りにっ!」
混乱しながらも少女と使い魔はそれに従い、
「策はあるんだろうね、クロ坊主!」
アルフは小馬鹿にした、しかし親しみのある呼称を取り戻していた。我知らずクロノは微笑み、自信に満ちた
頷きを返す。それ以上は、言葉すらもいらなかった。
今は何においても、ジュエルシードの暴走を鎮めることが先決だ。
「ディバインバスターっ、いくよっ」
言葉と同時に、桃色の光が一閃。暗い結界の中、四方を照らしながらフェイトに向かってフレアのように伸び
続ける。なのはと呼ばれた少女の砲撃は、既に一度放った後だというのに疲労を感じさせないほどの大きさで、
クロノの錯覚でなければ、その先ほどのものより大きいのではないか。ビルの一つや二つは容易く倒壊せしめる
威力を秘めている。
しかしそれほどの一撃でも、フェイトに触れるかと思ったが最後、まるで幻のように消え去っていた。二人の
間に魔力の空白地帯が出来上がっていなければ、それと信じさせただろう。
しかし、あるのだ。海が割れたかのように、そこに道が。
それこそが目的だったと知らぬフェイトが冷笑を浮かべようとして、しかし、一瞬の内に強張った。
魔力の海の中に浮かび上がったその道を、轍を連想させるような間を挟む形で緑と橙の魔力が支えていて――
例えるなら橋だろう。その只中を、クロノが駆け抜けていたのだから。
間に合うか。
一秒、また一秒と時が過ぎるごとに、二人掛かりだというのに四方からかかる圧力に耐えかねて、橋が崩れて
いく。それだけの魔力量。近づいたからといって何が出来るというわけでもない。それでも反射的にフェイトの
意思を反映して、魔力が橋とそれを守る壁を削っていく。
そうなれば、たかがクロノ一人、耐える暇もなく吹き飛ばされるだろう。アルフより薄く軽いクロノであれば、
それだけに飽き足らず、命すら危うい。
今のフェイトには、そんなことですら頭が回らないに違いない。それと知らず、躊躇なくクロノに死を下す。
それでもクロノの胸には一片の恐怖もなかった。いや、あったかもしれないが、自分が死ぬことでは怖くない。
為しえなかったその時、フェイトに手を汚させることこそが怖かった。
だから、クロノは絶対に諦めない。諦めるのは自分独りで充分だ。そこにフェイトもアルフも、少女たちも、
巻き込んでいいはずがない。
駆ける足に一際力を込め、刃のように全身を膾にする魔力の只中にクロノは飛び込んだ。
「クロノ、なんでっ!」
あと半瞬遅ければ、きっと間に合わなかったに違いない。クロノの背後では翻った防護服が千切れ飛んでいた。
そして眼前には、フェイトの驚愕に満ちた顔が視界一杯に広がっていた。彼女が発した言葉を理解するよりも
早く、きっとこんなにも狼狽したフェイトを見るのは初めてだろうな、などとずれた思いがクロノの頭の片隅を
よぎる。
そして、最後になるかもしれない。
皮肉でもなく、純粋に笑って、クロノは瞳を閉じた。ここから先は、五感は邪魔になる。耳を塞ぎ、肌を忘れ、
自分を捨てて。どこか慣れ親しんだ手順を踏んで、クロノは魔力を放ち続けるフェイトの手を取った。
「だめっ、クロノっ!!」
果たして、フェイトの必死の静止はクロノに届くことはなく。
同時に、クロノの両手を覆う手甲が、アンダーごと弾け飛んだ。今度こそ、散る赤い飛沫は血のそれだ。
「く、うっ……」
ジュエルシードをただ制御するための機械となったはずのクロノの漏れた悲鳴は、肉体によるものではなく、
魔力を扱う第六感が、魂からのもので。それだけにその意味は比するまでもない。
無茶だ。やめろ。柘榴のように弾けて死ぬぞ。
生存本能とも呼ぶべき魂からの声が、クロノに命の危機を必死になって叫んでいた。しかし、どうしてそれが
届く道理があるのだろう。クロノはもはやクロノであってクロノでない。唯一つの機能を突き詰めた機械なのだ。
それも、安全装置を外している。フェイトと同じで、もはや破滅に突き進むしかない。
――本当に?
しかし、どこかで同時に別の声も上がっていた。クロノ・ハーヴェイと同じで違う、もう一つの声。
――本当に僕は、これを制御できない?
疑問の声はどこか、不満すら滲ませていた。呆れていたのかもしれない。解法を知りながら、答えを導き出せ
ない生徒に向けるような響きがある。
――そうだ。確かに、そうだ。
限界以上に魔力を搾り出しておきながら、こうしてわずかであろうと思考に機能を割いているこの状況こそ、
その証明だ。本当に我を捨てていたのであれば、こんなことは成り立たない。
クロノが瞳を、ゆっくりと、開いた。
意識してしまえば、それだけの余裕があった。指先は正視に堪えなくなってはいたが、しかし、見て取れる。
「クロノ、だめ。死んじゃうっ!」
泣き叫ぶフェイトの声ですら、いつしか耳に届いていた。あとは矢継ぎ早に残る五感を取り戻す。
痛覚は、悲鳴を上げていた。痛い、と。だが、それだけだ。
クロノ・ハーヴェイの限界は、まだもっと先にあると、その痛みこそが教えている。五感を捨てる必要など、
どこにもない。必要なのは、手を伸ばすこと。今のクロノに不可能であろうと、手を伸ばせば、一歩踏み出せば、
きっとそこに手が届く。
だから、思い出せ。とく思い出せ。そうすればクロノはただ一言呟くだけでいい。フェイトが挺身しようと、
その言葉のほうが何倍も早い。
思い出せ、思い出せ、思い出せ。
失った過去/捨ててきた記憶/忘れてしまった自分自身/クロノ・ハーヴェイを思い出せ!!
「クロノくん!!」
その一言が、頑なに閉じていた扉を開く鍵だった。瞬間、全てが、願いを叶えるジュエルシードも、クロノの
苦しみも、フェイトの涙も、何もかもがクロノの中で意味を失って。
「なのは、でいいよー」「また……会える?」「ありがとー……何か、お礼をしないと」「えへへ、半分こ」
「やーめーなーさーいー!」「特別なのは……少し?」「どこか、行っちゃわないでね?」
「おかーさんが死んじゃうのも、わたしやみんなのこと忘れちゃうのも……嫌だぁあ!!」
――目覚めの、刻だ。
「レイデン、イリカル、クロルフル……」
何をすればいいのか。もはや考える必要すらなく、それほどまでに慣れ親しんだ手順を憎みながら、クロノは
己の相棒に向かって叫んでいた。
その瞳には、何故か涙すら滲んでいて。
「S2U! レベル7!!」
ようやく、この乱痴気騒ぎに幕が下りる。
「あはははははは! アハハハハ!
やっと、やっとよ! とうとう、やっと! 扉を開けた。アハハハハ!!」
ほの暗い研究室の唯一の光源。アリシアのポッドに頬を寄せて、プレシアは狂ったように笑っていた。空気に
皹を刻みながら歓喜に震えて手を伸ばし、冷たい強化ガラスの表面を何度も何度も何度も撫ぜる。
それは間違いなく愛情の発露だ。寒さに震える子どもの手を包むのと同じレベルで、プレシアは硬いポッドを
体全体で覆おうとしていた。
けれど、違う。本人は確かに守ろうとしているのかもしれない。けれども、本当は縋っているのだ。過去から
逃げるための理由。痛みと悲しみ、自分の失敗を無かったことにしようとしているに過ぎない。
そこに愛情が確かにあることこそが、プレシアにとって最大の悲劇だったのだろう。一人孤独に、誰もいない
研究室の中で狂っていく。
「思い出した、思い出したのよ、ようやく! あの役立たずの人形が、とうとうやったのよ。ねえ、アリシア!
あと少し。あとほんの少しだけよ。この中で辛抱してちょうだい。すぐに、すぐに出してあげるからね……」
ねっとりと、粘性を持った言葉には空気を震わせる以上の力があって……。響いた後も、その形のない何かは
一室の中に残されていた。
なのはのレイジングハート、フェイトのバルディッシュと同様、クロノの愛杖・高速計算法術杖S2Uにもまた、
大きく形状を変化させたりはしないが、別の顔がもう一つあった。
変わるのはフォルムではなく、その内側。オーバークロックによって演算能力を何倍にも高めるその機能こそ、
かつてクロノがヒドゥンを退けるための、十数にも及ぶイデアシード制御のための切り札だった。
であれば、いくら暴走していようとたかが一つ。ジュエルシードなどがどうして脅威になるだろう。
「ジュエルシード、シリアル――」
封印。
それまでの苦戦がまるで嘘のように、荒れ狂っていたはずの魔力の嵐はすんなりと収まっていた。それこそ、
今わの際に見た幻覚と己を疑ったかもしれない。
だが、満身創痍のクロノの姿が、それが現実であることの証明だった。
ぽたり、ぽたりと余すところなく全身に傷を負ったクロノの足元に血の雫が滴り落ちる。
その痛みすら、どこか心地よい。
達成感などではない自虐にも似た思いが、クロノの胸に去来していた。
取り戻した記憶は、クロノに振り返らせることを許さなかった。どうしてこの自分が顔向けできる。そして
それは、眼前の少女にも同じことが言えた。
誰も傷つけたくなくて、犠牲は最小限だと誓っておきながら、周り全員を傷つけて、クロノ・ハーヴェイは
どうしようもない嘘つきだ。虚言にもほどがある。
どこに行けばいい。
どこにも、行けるはずがない。
「クロノ! クロノ! 大丈夫!?」
「小坊主!!」
「クロノくんっ! 早く治療しないと!!」
「動かないで。今魔法をかけるからっ!」
四者四様の気遣わしげな声。それすらも重く、疎ましい。
――僕は、消えるべきだったのに。
その自嘲を最後に、クロノは涙を零しながら意識を手放し、黒い闇の中に落ちていった。
はあ、長かった。
やー、今回が一番書きたかったところの一つなのです。
て言うか、今までバトルをずっとずっとほとんどスルーしてきたのは、ここのためにあったといっても過言ではありません。
だけども、ガチは一期と原作双方通じて空気がちょっと違うなと思って逃げてしまいましたが。
すたこらさっさだぜ、とまで潔く行けないあたりが、微妙なへたれ具合を示してますがががが。
さて、話は変わるのですが大掃除したら、連載開始前のメモ帳(プロット)を発掘したので、ちょっと見てみました。
フェイトがジュエルシード握る>怪我>クロノが奪う>ジュエルシードの逆流で記憶戻る>失神
全然違う上に、数的な戦力差をどうやって誤魔化すつもりだったのか、我ながら不思議でありません。
ねりねりと、色々修正した結果が今回でしたとさ。
ここでネタバレ。
大体の人はわかっているかもしれませんが、またしばらく派手なシーンありません。
好きな人には申し訳ありませんが、ご了承ください。
きっと、私の作品にそういうのを求めている人は少ないと思っているので気はある程度楽ですがw
GJ
クロノに記憶が戻っちゃった…
幸せになって欲しいなあ…
ちぇっ、魔法少女ヤンデルフェイトもいいモノだったのに勿体無い…うそですゴメンナサイ
さぁて、この小坊主はどんな未来を選ぶのやら?
しかし“なのは”かぁいいなぁ(決して「さん」は付かない)
ちょっとリリちゃ箱起動してくる!
GJ!!です。
記憶を取り戻しましたか……取り戻したら取り戻したできついんですよね。
元の世界の戻れるのだろうか?
乙です! 本編中の記憶を取り戻してしまったか。
過去の自分と向き合えるようにならないと、自分をどんどん追い込んで行きそうなリリちゃクロノ。
失う事、傷付ける事を恐れる弱さゆえに自分が幸せになる選択肢が無かった彼がどうなっていくのか。
次も期待してます
456 :
367:2008/12/26(金) 00:47:50 ID:z5hq8TvR
投下しますー
クロス元は矛盾都市TOKYOの一発ネタです
457 :
367:2008/12/26(金) 00:49:47 ID:z5hq8TvR
欧州系の架空型都市クラナガンの管理局の人員が、神田の時詠人形の視察に来るという。
本来なら大人たちが対応すべきだろうに、政府とか企業とかで色々あったらしく総長連合が応対する事となってしまった。
……面倒だなぁ。
そんな事を考えながら事前に指定された場所に管理局員がやって来るのを、大太郎を乗せた君と二人で待っている。
戦後、独逸の言詞爆弾をはじめとした数々の危険な技術や喪失技巧を、個々の国によるものではなく一つの組織が一括して
管理すべきだという動きが起こった。
当然各国は、うちの国が中心に、とそれぞれにもめたらしいが、結局は『魔法』による優れた封印技術などをもつクラナガンに
その組織が置かれ、人材を各国から集めるという形で合意に達する。
そうして生まれたのが管理局であり、現在に至るまで彼らは様々な国家・機関から独立した形で活動している。
と、御山の教官の講義を思い出してみんとす。
管理局としても、直接時虚遺伝詞に影響を及ぼす時詠人形は気になる存在なのだろう。
それが、人形を停止させようとする連中とかとの利害が色々あって、僕らが今ここに立っているというわけだ。
実際、やって来るのは管理局でも結構偉い執務官とやららしい。
……どうせ、偉そうなオッサンとかが来るんだろうなぁ。
こんな面倒な仕事は他に任せてしまいたかったが、先輩は別に仕事があったし、雪の字は右に傾きすぎてるから外人に斬りかかりかねない。
小坊主じゃ力不足だし、生意気な口を利いて後で問題になったりしたら大変だ。
……常々思うが、碌な連中がいないなぁ。
「あ、あれじゃない? あれ管理局の制服だし」
オッサンという僕の予想に反して、やってきた管理局の執務官さんはかなりの金髪美人だった。
補佐とかで一緒にきた助手さんもなかなかのもんだ。
地位の割に若いようだが、そういえば、管理局は優秀なら誰であれ登用するらしい。
来て良かったなぁ。
おいおい、いくらなんでも節操なさすぎじゃありませんか僕?
「餌…」
……大太郎、人間まで餌言うな。
挨拶や自己紹介も適当に済ませ、なんか妙にやる気な君を先頭に僕らは歩き出した。
執務官さんが着ていたのは素っ気のない制服だが、そのスタイルを隠すには少々足りない。
……いい尻だ。
僕の視線に気づいたのか、君が僕の方を見ながら執務官さんたちに色々吹き込み始めた。
「おいおい待て待て。いくらなんでも初対面の相手の尻を揉んだり撫でたりなんて奇行に走るわけ無いだろう。
愛でるだけだ、愛でるだけ」
そんな抗議も空しく、執務官さんと助手さんの俺に対する視線は微妙に白いものになっていた。
理不尽だ。
458 :
367:2008/12/26(金) 00:50:35 ID:z5hq8TvR
実は神田の時計館の視察は明日だという事で、今日は暇らしい。
じゃあ適当に、と君が言い出したので、適当にいつものラーメン屋へ。
……いいのかなぁ? と思いつつもそれに続く。
「おや、脳が貧相な猿が来たね? 来たね?
ちょうどよかった、いつものようにここのオヤジの薄っぺらい味わいのラーメンを、殴って極上にしてくれたまえ」
狭い店の真ん中の席を占拠する品性が貧相な猿を奥に向かって殴り飛ばし、カウンター席に並んで座る。
適当に五つ頼んだラーメンが並べられ、割り箸が配られた。
「餌餌餌餌餌ぁーぅ」
と、大盛りで頼んだラーメンを一瞬で呑み込んだ大太郎を見た管理局の二人が唖然とした。
……あれは引くよなぁ。
まぁ、そんな事をしているうちに僕らの、ついでに奥の博士のラーメンを不味いところが微妙に残るように加減して殴り飛ばす。
『思い信じて打撃すれば、エネルギー保存の法則に従い、いかなるものも打撃力を受ける』
うむ、と頷く。
転がる不味いところが少し変わっているということは、オヤジも腕を上げたということらしい。
……いずれにしろ、具じゃなく麺とスープの問題か。
ともあれ人生の様にほんの少しの不味さと大量の旨さでできたそれは、完璧ラーメンだ。
それを口にして、執務官さん達は驚き、馬鹿は歓喜に涙して店から叩き出される。
いつもの風景だ。慣れてない人たちもいるが気にしない。
459 :
367:2008/12/26(金) 00:53:27 ID:z5hq8TvR
投下終了ー
むちゃくちゃ短いですがTOKYOならこんな感じかなと
クロスssで管理世界に引っ張り込むのは良く見かけるので、今回は管理局を都市の世界に引っ張り込んでみました。
誤字脱字など確認しましたが、発見した場合ご報告を
……クロス元、通販本だけどこのスレなら大丈夫ですよね!
つまり、リーゼ姉妹大活躍、と
現在493Kb
そろそろ新スレかな
え?俺のところじゃ482kbになっているぞ?
こっちも482 KBの表示だけど、投下予告があったら立てるようにしたほうがいいかのも
>>459 こういう世界も良いですね。
良かったです。
こんにちは。
リリカルガウザーです。
第一話のパートAが完成しました。
長めなので、六レス投下したら5分休憩を入れ、それからまた投下するという方法を使ってさるを防ごうと思います。
でもできれば支援をいただければ幸いです。
一応ウィキペディアから得た知識を使った部分があるので、その箇所には出典を記しておきました。
投下いいですか?
467 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 12:24:59 ID:LeUoYQ/6
盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作盗作
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>>467 あれ?あれって出典記せば良いって聞いたのですが、違うのですか?
469 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 12:28:03 ID:LeUoYQ/6
盗作は正当性にはならない
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単に情報を知るために使っただけなんだから何の問題もねーよ。
というわけでさっそく投下だ。
俺は詳しいことは知らないがLeUoYQ/6が基地外だってことは分かる
良かった…大丈夫なんだ…でも一応出典は記しておきます。
ではいきます…
リリカルガウザー
一話「闇の騎士、魔法の国へ」パートA
「大丈夫ですか!?立てますか!?」
ローブを着た短髪の女性は黒岩の濡れた体に触れながら大声でそう聞いてきた。
黒岩としてもここが何処かも分からず、痛みで立つこともできない状態なので、彼女の助けを借りる事にした。
エリ以外の人間に頼るのはあまり気が乗らないが、この際意地を張っても仕方が無い。
「痛みで上半身も起こせない…手を貸してくれれば助かる。」
「分かりました!少し荒っぽいかもしれませんけど、ちょっとの間ですから我慢してくださいね!」
女性はローブの裾をまくり、黒岩をひょいと抱き抱える。
「細身の割には力がある女だ」と黒岩は思った。
女性はそのまま出入り口の方まで黒岩を抱えながら歩いた。
:
女性は建物の中に入ると、古風な作りをした回廊を歩いた。
そして英語で「Medical room」というプレートが付けられた扉の前まで来ると、その部屋に入り、備え付けられていたベッドに黒岩を寝かせた。
そして医療用のツールを用意し、黒岩の上半身の服を脱がせるとツールを使用して黒岩の体から何発もの銃弾を抜き、いくつもの傷口を消毒して止血し、ガーゼを貼り付けた。
「これでよし…」
手当てを終えた女性は額の汗を拭い、傍に置いてあった椅子に腰掛けた。
「かなり多くの傷を負っていました。応急手当てだけじゃ心配ですので、今から救急車を呼びます。」
「いや…これでもういい。」
黒岩はゆっくりと上半身を起こした。
いくら死にかけていたとはいえ、闇生物の体は人間以上の自然治癒力を持っているため、適切な手当てさえしてもらえればある程度は動けるようになる。
あと数日もすれば体全体が万全の状態に戻るだろう。
「え!?さっきは上半身を起こすのも痛いって…」
女性は黒岩がいきなり上半身を起こしたことに驚き、目を丸くした。
「生憎、結構タフな体なんでな。銃の弾さえ抜いてもらえれば、後はもう大丈夫なんだよ。」
「はぁ…それは凄い…」
「所で、アンタは一体誰だ?ここは何処だ?」
「ああ、そうでした。私はシャッハ・ヌエラ。この協会の修道女です。そしてここは、聖王教会の本部です。」
「聖王教会?」
黒岩は聞きなれない単語に目を細める。
図書館で世界中の知識や建物、文化を調べ、数多くの教会の名前も知っているが、そんな名前の教会は聞いたことが無い。
黒岩は詳細な情報と、知らない教会についての知識を得るため、シャッハと言う女性にもう少し詳しい話を聞いてみようと思った。
「なんだその教会は?俺は地球上のありとあらゆる知識を頭に入れているが、そんな名前の教会は聞いたことが無いぞ。」
「地球の…あらゆる知識?何でも知ってるんですか?」
「ああ、例を見せてやる…」
黒岩は言葉を一端切り、一息吸うと、目つきを変えてシャッハを右手の人差し指で指した。
というかそのまんま文を転載するのでなければ出典表記もいらんだろ。
(では表記も消して起きます。大丈夫…ですよね?)
「知っているか!?世界で初めてキリスト教が国教として認められた国は、301年のアルメニアだ!その時の教会の建築は、シリアの影響を色濃く受けたものであったと言う!」
「そうなんだ…」
シャッハは腕組みをしながら感心して言った。
シャッハも地球についての知識はある程度持っているが、ここまで詳細な話しは知らなかった。
シャッハは黒岩がどの程度教会や宗教についての知識を知っているのか聞いてみたくなり、他の話題を聞いてみることに決めた。
「じゃあ、世界で最も古いステンドグラスについても知っていますか?」
「勿論だ。世界最古のステンドグラスは、ドイツのロルシェ修道院で、破片の形で見つかった!その修道院は七世紀に作られたが、ステンドグラスが作られたのは九世紀代と推定されているという!」
「そうなんですか…いろいろあるんですね…」
シャッハはこの話を聞いてさらに知らない知識への興味を持った。
彼女にとって聖王教会の修道女兼騎士として強さも大事であるが、博識であることもそれと同様に大事だ。
いや、むしろ修道女と言う戦いとは普通関わらない立場から考えれば、博識であることの方が大事かもしれない。
シャッハは自分を磨くために新たな知識の獲得を考え、黒岩の話を本格的に聞くことに決めた。
「じゃあ、色々な宗教についての知識を教えてください!まだまだ修行中の身である私にとって、貴方の話はとてもためになりそうです!」
もちろん、一度には覚えきれないため、宗教についての知識だけではあるが。
「ほう…俺の話が聞きたいか…よかろう、知っているか!?」
黒岩は自分の薀蓄を聞いてくれる人間がいたことを喜び、有頂天になって薀蓄を語り始めた。
黒岩の薀蓄は、好敵手だった暁には適当に流され、愛していたエリにさえも「あんたの薀蓄はもうウンザリ」とまで言われていたほど煩がられていた。
だが、今は自分の薀蓄を興味を持った目で聞かせて欲しいと言ってくれる人間が目の前にいる。
黒岩は煩がられたうっぷんを晴らすかのように、情報を得ることも忘れ、薀蓄を語り続けた。
:
2時間後、黒岩の薀蓄がようやく終わりを告げた。
シャッハは2時間休み無しで語り続けた黒岩への感謝と健闘を称える拍手をし、黒岩の額には熱弁した証である汗が光っていた。
「はぁ…はぁ…どうだ?」
「素晴らしいです!まさか宗教だけでもこんなに細かな知識があったなんて驚きました!修道女として、一歩高みに歩み出せた気がします!」
「そうか…それは良かった…ん?」
黒岩はようやく思い出した。
自分はこの聖王教会についての情報を問おうとしていたのに、いつの間にか自分の薀蓄教室になってしまっている。
久々に自分の薀蓄を嬉々として聞いてくれる人間がいたので、調子に乗ってらしくもなく熱くなりすぎてしまい、本題を聞くことをすっかり忘れていたことに黒岩はやっと気付いたのだ。
黒岩は恥ずかしさを感じ、それをごまかす為に「ゴホン」と一回咳払いをすると、気を取り直し、先ほどの質問をシャッハにもう一度した。
「ところで、聖王教会とはなんなんだ?」
「あ!そうでした!」
シャッハも他人の質問を忘れていたことに恥ずかしさを感じたのか、一瞬だけ頬を赤く染めて慌てると、姿勢を直した。
475 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 12:37:48 ID:LeUoYQ/6
盗作の次は自演か?
救いのない奴だ
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皇帝様支援
「そういえば、貴方の名前を聞いていませんでしたね。」
「俺は黒岩、黒岩省吾だ。」
「そうですか…黒岩さん、貴方はミッドチルダや時空管理局について知っていますか?」
「ミッドチルダ?それに時空管理局だと?」
黒岩はさらに頭を悩ませた。
ミッドチルダに時空管理局、どちらにも聞き覚えは全く無い。
管理局というからには何かを管理するのだということは何とか分かるが、ミッドチルダと言う単語についてはさっぱりだ。
「どちらも知らん。」
「分かりました。それともう一つ、貴方は地球出身で、地球人なんですよね?」
「は?」
さらに訳が分からなくなった。
いくら正体が闇生物とはいえ、自分は人間の姿をしているのだから地球人なのは当然だろう。
シャッハの話の内容が理解できなかったが、一応問いに答えることにした。
「当たり前だろう。俺は地球人だ。まるでここが地球ではない別の星で、あんたは地球の人間じゃないようないいぐさだな。」
「その通りです。」
「は?」
「この世界はミッドチルダ。貴方が居た地球とは、別の次元世界です。つまり私は、ミッドチルダのミッド人という訳です。」
「な、何だと!?」
黒岩は思わず声を張り上げた。
流石の彼も、冗談で言ったはずの台詞に冗談のような回答が帰ってくるとは思っていなかった。
だがよく考えてみると、そんなに驚くほどのことでもなかった。
自分達ダークザイドも、闇次元界という地球とは異なる世界から、滅びた闇次元界の変わりに地球に移住するという目的のために地球にやってきた。
自分達が住んでいた世界のことを考えれば、地球でも闇次元界でもない世界が存在してもなんら不思議ではない。
「…そうか…異世界なのか…」
「?、案外簡単に納得されるんですね。もっと混乱したり、「嘘をつくな」と笑い飛ばされると思っていました。」
「確かに驚いたが、その…俺はそういう異世界についての知識も多少持ち合わせているんでな、派手には驚かん。」
「異世界についての知識ですか…それより単刀直入に聞きます、地球に帰りたいですか?帰すだけなら、簡単に出来るのですが…」
「…いや、帰るつもりは無い。」
黒岩は今更地球に帰る気は無かった。
悪の脆さを知り、皇帝になって世界を統べること以上に大きなモノを握った彼にとって、もう地球を支配する気もシャンゼリオンと決着を付ける気も無かった。
愛するエリにさえ、彼女の今後のことを考えると会わない方が良いと思えた。
「黒岩さんは、故郷に帰りたくないんですか?いろんな次元漂流者を見たことがありますけど、帰れる故郷に戻りたくないなんていった人間は黒岩さんが初めてです。」
「そうか…頼みがある。仕事を探したいんだが、何処かに職業安定所はないか?」
黒岩は人間への支配欲もシャンゼリオンへの闘争心も湧き上がってこない今、どうせ異世界に来たならこの世界で生き、この世界で働き、この世界で死んで行こうと思った。
この世界にはシャンゼリオンもザンダー達幹部も居ない為、シャンゼリオンに今まで受けた仕打ちの仕返しとして決着を挑まれる事も、ザンダー達と関わり、戦いを強要されることも無いため、ひっそりと生きるには丁度良い場所だと思えたからだ。
自分を待ち続けているだろうユリカにも、謝るために会うつもりは無かった。
彼女は黒岩の強さに惚れ込んだ女性だ。
黒岩が皇帝として君臨することを望む彼女にとって、皇帝であることを辞めた自分の姿を見せて幻滅させる気にはなれなかったからだ。
それにもし謝りに行ったとしても、自分が愛していた黒岩のイメージを粉々に砕かれ、狂乱するのは目に見えている。
だから彼女のためにも、このままそっとしておこうと黒岩は思った。
「仕事?この世界で働きたいんですか?」
「地球には少し嫌な思い出があってな。戻りたくないんだ。」
「そうですか…なら一つ聞きますけど、カウンセリングの仕事の経験はありますか?」
「え?あ、ああ。経験どころか、俺はそれが本業だった。」
黒岩は地球では東京都知事に就任する前は「黒岩相談所」というダークザイドのための相談所を開いていた。
ダークザイドの目的は、人間社会に紛れ、「人知れず密かに」を掟とし、人間の生体エネルギー・ラームを吸い取って種族の保存のために生きていくことであった。
だが、人間社会に密かに隠れながら行動しなくてはいけないダークザイドたちの中には、人間社会の厳しさに苛まれ、仕事に嫌気がさしてアルコール中毒になった者、人間関係の悪さから胃に穴が開いた者、
ノイローゼとなり自殺した者などが少なからずおり、不満を溜めて掟を破り、大掛かりに人間を襲おうとしている闇生物達が大勢居た。
黒岩の仕事は、それらの悩める闇生物達の相談に乗り、アドバイスをしてやることだった。(後の世界征服計画のため、東京都知事当選の票稼ぎに彼らを利用するという裏の目的があったが。)
このアドバイスで助けられたダークザイドの数は多く、黒岩も自分のカウンセラーとしての能力には自信を持っていた。
なのでカウンセリングと言う仕事は黒岩にとって得意中の得意だ。
そして黒岩の「本業だ」という言葉を聞いたシャッハは、目を輝かせて右手でガッツポーズを作った。
「なら!ちゃんとした仕事があります!悩める人々を助ける、崇高な仕事です!」
「何?…」
「どういうことだ?」と黒岩が台詞を続けようとしたときだった。
「ちょっとシスターシャッハ!探したよ〜!二時間も何処にいたの!?」
シャッハと同じローブを身につけ、水色の髪をした少女が医務室の中に入ってきた。
彼女は怒った表情をしながら、シャッハに近づいてくる。
「あ、セイン!」
「騎士カリムが呼んで…あれ?」
シャッハの隣まで歩いた所で、セインと呼ばれた水色の髪の少女は、上半身に沢山のガーゼを貼り付けている黒岩に気付いた。
「うわ!凄い怪我…てか、アンタ誰!?」
「紹介します。黒岩省吾さんです。怪我をして庭園に倒れていたところを、私が助けたんですよ。」
シャッハは見慣れない男性の痛々しい姿に驚いているセインに、黒岩のことを紹介した。
黒岩はいくら命の恩人とはいえ、知り合ったばかりの女性に自分のことを他人に紹介されるのは何か可笑しな感じがしたが、特に口に出すことはしなかった。
「そうなんだ…う〜ん…」
セインはくりくりとした丸い目で黒岩の顔を覗き込む。
そしてしばらくしてから顔を離すと、腕を組んだ。
「中々良い男ジャン。もしかして、シャッハの彼氏か何か〜?」
「な!?」
セインは目を細め、すこしやらしげな声を出してシャッハをからかい、シャッハはそんな彼女のからかいに見事引っかかって頬を染めた。