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追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。
【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪
【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部)
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用
【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用
【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作
【作者】リリカラー劇場=リリカル剣心=リリカルBsts=ビーストなのは
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
リリカルなのはBeastStrikerS
ビーストなのは
魔法少女リリカルなのはStrikerS−時空剣客浪漫譚−
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪(リリカラー劇場)
追放処分後の別名義での投稿(Bsts)(ビーストなのは)
スレッド名ですが、正確にはリリカルなのはクロスSSその85です
>>1の前スレ部分も83じゃなくて84 orz
乙!
乙!
乙!
乙!
お待たせしました!!
投下開始します! 支援よろしくお願いします!!!
Tes!
戦いは続いている。
『AHEAD! AHEAD! AHEAD!』
湧き上がる突撃軍歌。
勇ましき祈りの歌。
走れ、走れ、戦い抜け。
『護りたいもののために頑張ってもいいじゃない!』
戦う、戦う、ぶっ飛ばされる。
無数の白い四足の魔導兵器、それに抗う五人の陸士たちが居た。
「インペリアルクロス!!!」
襲い掛かる敵軍、それに四人の陸士が上下左右に四散し、構える。
それは十字架の如き陣形だった。
「ブルクラッシュ!」
「双龍破!」
「デットリースピン!」
「タイガーブレイク!」
「パリィ! パリィ! パリィイイ!!」
切り裂く、貫く、吹き飛ばす、粉砕する、防ぐ。
先頭一人が必死に攻撃を受け流し、他の四人が次々と敵を粉砕し――
「ぬ!? 大物が来たぞ!!」
それは巨大なジュエルビースト。
おぞましき姿だった。魔力の波動に大気が歪む、世界が震撼する、見つめるだけで体に震えが走る強敵。
サイズは大型に近い40メートル。
計測必要も無く発せられる魔力係数はSオーバーだろう。
『OooooOOOAAAAAAA!!!』
腕を振り上げた。
巨大な腕部、それが雲を貫かんばかりに伸び上がり、長大化し、膨れ上がる。
ジュエルシードの魔力、世界を砕くほどの膨大な魔力が物理法則すらも凌駕し、質量保存の法則が弱者の言い訳だと嘲笑うかのように凌駕する。
「っ、退避―!!」
声を上げる暇すらなかった。
音速を超えて、巨大な鉄槌が大地に打ち込まれる、大地震が概念空間を揺るがし、破砕した地割れと隆起した土煙が五人の陸士たちをぶっ飛ばした。
『うわぁああああ!!』
音速突破の衝撃波に、隆起した大地の脈動、世界が終わるかと思えるようなおぞましい光景。
Tes.!
しええええん!
『RARARARARARA!!』
歌声が鳴り響く、ジュエルビーストがおぞましく進化する。
獣の肩から巨大な両腕を誇る石像に、胴体から下部は無く、膨れ上がる腕は鉄槌の如く、その中心部に巨大な眼球を生み出す。
邪神。
世界が終わらんとする恐ろしい光景。魔力の波動が震撼させていく、大気に稲妻すら生み出す、誰もが見上げる、誰もが諦め掛ける。
けれど、それでも――
「アマゾンストライク!!」
吹き飛ばされた陸士、その隊長格が叫んだ。
飛び上がる、重傷を負いながらも陣形を組み替える。
それは突撃形の陣形。
隊長格を前にし、大きく広げた翼のように、矢尻のように尖った陣形。
「怯むな! 俺たちが敗れればミッドチルダUCATが! そして、ルノーちゃんを護れないと思え!!」
『おおおううう!!』
聞こえる歌声。
『AHEAD! AHEAD! AHEAD!』
『前に進もうよ、誰にだって負けられない』
そうだ。前に進め、負けられないのだから。
「うぉおお!!」
叫ぶ、走り出す、五人が走り出す。
邪神の如きジュエルビーストに向けて。
「斬る!」
魔力刃を伸ばし、一人の陸士が切り込んだ。
しかし、それは弾かれる。
あまりにも違いすぎる質量差に、AFMに弾かれて、刃が届かない。
「払う!!」
命を賭けて魔力を流し込み、横薙ぎに魔力場の刃を生み出す。
鉄すらも両断する刃が、敵の発するAMFに食い込む。
「けさ斬り!!」
その上から一人の陸士が刃を重ねる。
三人の陸士が刃を重ねる。
そして、四人目が飛び込もうとした瞬間だった。
『GAッ!!』
邪神ジュエルビーストが蠢いた。
うざったい羽虫を吹き飛ばさんと、両腕を重ねて、空すらも陰させるほどに巨大な鉄槌が産まれる。
重力場すらも支配し、ベクトル操作の魔法を以って速度を増し、振り下ろされる。
――最強打という言葉が何故か頭に浮かんだ。
潰される。誰もがそう思った瞬間、隊長が飛んだ。
両手を前に突き出して、受け止める。
私怨!
支援
支援!支援!支援!
「パリィイイイ!!」
手を伸ばし――全体の十分の一すらもない人影が、その巨腕を――弾いた。
轟音を立てて、隊長が吹き飛ぶ。
だが、生きている。物理法則をその瞬間凌駕していた。
『RU!?』
ジュエルビーストが目の前の現象にAIの演算能力を凌駕したのか、困惑のような咆哮を洩らした瞬間だった。
最後の陸士が駆け抜けた。
「これでトドメだ! ――斬る!!」
刃を重ねる。
そして、四つの斬撃が重なり、その刃が異様な光に満ちた。
一撃目 斬る。
二撃目 払う。
三撃目 けさ斬り。
四撃目 斬る。
すなわち斬る+払う+けさ斬り+斬る = 『マルチウェイ!!!』
全員がそう叫んだ瞬間、無数の斬撃が虚空から出現した。
『おぉおおおおおお!!!』
四方から斬撃が繰り出されて、ジュエルビーストの全身が破砕する。
音速を超えた斬撃がAFMを凌駕し、身体機能の限界を超えて陸士が掻き消える。
加える、加える、叩き込む。
数えるのも馬鹿らしい斬撃がめり込んだ後、光爆が轟いた。
単なる剣技、繰り出されるのは斬撃のはずなのに光が生み出されて、ジュエルビーストの全身が砕け散っていく。
絶叫と共に装甲を、機械油を、配線やパイプなどを撒き散らしていく。
全長40メートル強の巨体が崩れ落ちていく。
「これで、どうだ!!」
ボロボロのデバイスを振り抜き、着地した陸士たちの一人が見上げて叫んだ。
その後ろで「素早さがアップ!」 「運がアップ!」 「HPがアップ!」 「特になし!」 と叫びながら、虚空に蹴りを突き出し、回転していた。
勝利の舞だった。
だがしかし、世界はそんなに甘くはなかった。
ジュエルビースト、それがおぞましい音を立てて再生を果たさんとしていた。
「なにっ!?」
蠢く、吼える、産声を齎す。
大地を喰らう、大気を吸い込む、世界が鳴動する。
ジュエルシード、欲望を叶える奇跡の宝玉、あらゆる破滅を招く力。
それがこのような茶番で終わることを許さない。空気中から新たなる物質を創造し、魔力で生み出された疑似物質が傷口を埋めて、吼え猛る生々しい旋律が恐怖を生み出していく。
戦場に響き渡る歌声すらも飲み込み、絶望に満たさんとしていた。
支援
「ふん。しぶといな」
その時だった。
『だ、誰だ!?』
背後から聞こえた声に、陸士たちが振り返る。
其処には一人の黒いローブを羽織った陸士が一人、すっぽりと被ったローブで顔を隠し、木製の杖を持っている。
「あの敵は俺がトドメをさしてやろう」
「なっ!? マルチウェイでも倒せなかった奴だぞ!! どうやって」
「――アレを使う。全員後ろに下がれ」
そういってローブ陸士は、隊長格の陸士に耳打ちをした。
ゴニョゴニョと少し呟くと、隊長格の陸士が顔を青ざめて叫んだ。
「そ、総員退避ー! 全力で下がれぇえええ!!」
叫びと同時に近くに居た陸士たちが全力で後退を始めた。
残ったのは黒いローブ陸士が一人と再生を続けるジュエルビーストが一人。
誰もが理解する、これから放たれる技が凄まじい威力を秘めているのだと。
そして、それはおぞましくやばいということが分かる。
「クックック、合体ガジェットよ。この技に貴様は耐えられるか? いや、無理だ!」
ローブを翻す。
Sランクオーバーの砲撃魔法を集中砲火で叩き込んでも落とせそうに無いその巨体に、彼は余裕と確信を持って笑みを浮かべた。
コロコロと口の中で舐めていた喉飴を噛み砕き、杖を振り翳す。
その予備動作だけで大気が渦巻く。
これから起こる現象に世界が悲鳴を上げているかのようだった。
「さあ見るがいい。世界が恐れた禁呪、三大魔法が一つ!!」
迫り来る拳、大気が急激に温度を下げていき、世界が戦慄した。
「エターナルフォースブリザード!!!!!」
一瞬でジュエルビーストの周囲の大気が凍り付いた。
そして、相手は死ぬ。
見るがいい、ジュエルビーストの巨体。その周りの大気すらも固体化し、巨大な氷像と化していた。
分子運動すらも停止し、振り抜かれていた拳すらもピタリと停止した。
かつて闇の書を封印するために生み出された氷結魔法すらも凌駕する威力。
「あ、あれはまさか!!」
「知っているのか、ライデン!?」
その後姿を見た陸士の一人が叫ぶ。
「間違いない、あれは永遠力暴風雪(和名)! とある王立魔導学園で研究の末に開発され、誰もが習得を諦めた最強最悪の究極魔法!! まさか中○生以外にもあれを習得していた猛者がいたとは!?」
「――短いな説明!?」
陸士の叫びにも関わらず、ローブ陸士は見上げたままボソリと呟いた。
どこのロマサガですか
支援
「脆いな」
ガラガラと崩れていくジュエルビースト。
再生すらもままならず、氷像がひび割れ、その分子運動すらも破砕される極大の冷気に砕け散っていく。
「残りの二大魔法を使うまでもなかったか」
崩れ去り、冷気の篭った粉塵を巻き上げるジュエルビーストに背を向けてローブ陸士は歩いていった。
彼の魔法はジュエルシードの活動すらも停止させていた。
エターナルフォースブリザード。
それに耐えられるものなどこの世にはいなかった。
戦いは他の場所でも続いている。
機動六課のフォワード陣と追加二名もまた一体のジュエルビーストと死闘を繰り広げていた。
「ハッハー!! 欠伸が出そうだぜ!!」
銃撃、剣戟、ステップを踊りながらティーダが踊りながら戦う。
真紅のコートを翻し、巨体を誇るジュエルビーストの鉄腕を時折同時に繰り出した素手で弾く。
本人曰く「ジャストブロックだ!」とのことだ。
2nd−G概念加護は物理法則すらも超越するのか、それともそのコスプレの本人のイメージがそれだけ強いのか、本人以外には分からない。
「調子に乗らないでよ、兄さん!」
色々と納得出来ないものはあるけれど、ティアナも同じように銃撃を繰り返し、ジュエルビーストの手足にダメージを叩き込んでいく。
兄妹が踊るように戦う。
美しく、スタイリッシュに、閃光のように、狂ったかのように、穿つ、穿つ、穿つ。
銃撃のマズルフラッシュが瞬き、まるで弾丸は嵐のように射ち込まれて、その巨体を削り上げていく。ランスターの魔法、それには貫けないものなどないのだから。
貫通補助、その概念加護が二人の銃撃には宿っている。
さらに。
「フリード!! ブラストフレア!!」
「GIIIiiAAAAAAAAA!!」
竜魂解放、本来の姿を取り戻したフリードリヒが灼熱の炎を撃ち出す。その熱は文字通りの太陽から噴出するフレアの如く、ジュエルビーストを焼き尽くす。
元よりそこらへんの陸士よりも魔力素養も高く、地力も高い彼らは決してジュエルビーストには押し負けない、むしろ凌駕してみせる。
それこそが彼女たちのポテンシャル、その為に結成された予言を崩すための正義の剣。
並大抵の魔導師ならば瞬殺されそうな連続攻撃、だが相手は並大抵の魔導師ではなく、人間ですらない。
巨体を誇るジュエルビースト、装甲を打ち砕かれながらも赤いガジェットの複眼を光らせた。
「っ! ティアナ!!」
「まずい! キャロ!!」
ティーダが飛び下がり、ティアナがキャロを抱えて後方に走った。
そこをジュエルビーストの目から放たれた光の柱の如きレーザーが焼き尽くす。
ジュエルシードによる膨大な出力加護を受け、数え切れないほどのガジェットの動力部を連結し、そのレーザーは従来の比ではない。
当たれば即死。炭も残らないだろう。
だけど、誰も怯まない。
きみは ゆくえふめいになっていた EFBじゃないか!支援
支援
『AHEAD! AHEAD! AHEAD!』
『貫き通せ 己の信念!』
先ほどから響き始めた歌声が勇気をくれる。
誰も諦めていない仲間たちの姿が、立ち向かい続ける陸士たちの姿が、誰の心にも不屈の闘志を宿らせ、燃え上がらせる。
「負けない! 私たちはお前らなんかには負けないんだから!!」
「そうだよ!」
「私たちは決して負けない!」
その時、聞こえないはずの声が轟いた。
「スバル、ギンガさん!? 大丈夫なんですか!?」
先ほどダメージを受けて、後ろに下げたはずのスバルとギンガ、その二人がボロボロのバリアジャケットのまま舞い戻っていた。
所々の裾が千切れ、頑丈さを誇るバリアジャケットが伝線でも起こしたかのように破け、見るからに痛々しい格好。
「大丈夫! 頑丈なのが私たちの取り得だから!」
「寝ていられないわよ」
ニコリと微笑み、ギンガが手を差し出す。
「スバル! 相手はダメージを受けてるわ、さっき打ち合わせた通りに行くわよ!」
「はい、おねえさま!」
は?
ティアナが首を傾げた瞬間、二人が走り出す。
加速、互いのキャリバーがフルドライブを開始、光の翼を生やす。
「お姉さま、あれを使うわ」
「ええ、よくってよ」
会話をしながら加速。
「うわぁあああああああ!!」
咆哮を上げながら、スバルが跳ねた。
ギンガも続いて跳び上がる。
ウイングロードを滑走路に、どこまでも跳び上がる二人の影はまるで流星の如く上空へ達し――ジュエルビーストの遥か高みへと辿り付く。
「ど、どこまで!?」
「!! 来るぞ、衝撃に備えろ!!」
ティアナが戸惑い、ティーダが捉えた。
キャロが指差す。
「二人が落ちてきます!」
加速、加速、落下加速。
重力落下の速度を超えて、二人の少女が足裏から魔力の粒子を迸らせ、電流の如く紫電を纏い落下する。
支援
これはまさかw 支援
Tes!
スバルはともかく、ギンガの心が保たないだろw
支援
「スーパー!」
スバルの咆哮。
「イナズマ!」
ギンガのやけっぱちな絶叫。
『キィィィィック!!!』
二人のユニゾンキックがジュエルビーストの頭部にめり込む、そして衝撃波が撒き散らされた。
爆音、轟音、破砕音。
ジュエルビーストの巨体、表面装甲が波打ち、メリメリと剥がれ落ちていく。
一トンにも満たない、百キロも怪しい二人の少女の体重が数百トン近い巨体を震わせ――貫いていく。
砕く、砕く、砕く。
装甲を破砕し、骨格となるガジェットの集合部を容易く貫き、機械油を噴出させて、火花を散らせて燃え上がらせながらも二人は咆哮を上げて――貫通した。
『GAAAA!!』
ジュエルビーストの絶叫を背後に、その巨体を貫いた二人が地面に着地し、同時に叫んだ。
『――爆!!』
ポーズを取る二人の少女、その背後で爆炎が上がる。
火花が機械油に引火し、ジュエルビーストの全身が炎に包まれた。
「い、色々突っ込みたいけど、やった!!」
「よし、後はジュエルシードを封印すれば!」
そう叫んだ瞬間、ミチミチと奇音を立ててジュエルビーストが体を震わせる。
何度も見た光景、再生を開始しようとしているのだ。
「ちぃい、しぶとい!」
ティーダが両手の拳銃からカートリッジロードし、砲撃魔法を叩き込もうとした瞬間――真横から轟いた斬撃がジュエルビーストを一刀両断にした。
「え?」
『大丈夫ですか! みんな』
それを成したのは鋼鉄の巨人、トラボシブレードを振り抜いた勇装魔神クラナガン。
そして、響き渡ったのはそれに乗り込んだエリオの声だった。
「エリオ!」
「エリオ君!」
『っ、来るぞ。エリオ!』
『分かりました! 皆そのジュエルシードの封印を頼みます! そしたら下がって!』
え? とエリオの声に振り返ると、クラナガンの前方。
そこに二体のジュエルビーストがいた。いずれも巨体、50メートルに達しようとする巨獣たちである。
しかも、その姿はどうだ。
一体はまるでサーベルタイガーの如く牙を長くし、しかもそれを刀剣として生やし、爪はジュエルシードの魔力を使っているのかレーザーのように噴出した魔力力場。動きは素早く、まさしく獣の如く。
そして、もう片方はまるで猪だった。雄雄しく伸ばした角は鋭く、直撃すればクラナガンの装甲すらも容易く粉砕するに違いない。さらには全身がハリネズミのように鋭い針に覆われ、いずれもドリルのように回転している。
攻撃と防御、その両方を追及した進化とでもいうのか。
だがしかし、クラナガンは決して怯まない。
ガンバスターw支援
ちょwwwこれはwww
支援!!!じゃなかったTes.!!
『行くぞ、エリオ! あの二体で巨大ガジェットは終わりだ!!!』
『分かってる! 行くよ、トラボシブレェェェェド!!!』
手首を返し、抜き放たれるのは斬魔巨剣。
その刀身の根元には不死鳥のようの如く雄雄しい翼を象った鍔があり、エリオの咆哮と共にガキンと音を立てて展開する。
三つの魔導炉から、そしてGストーンから供給された魔力が刀身を包み込み、発せられる気合と共に伸び上がる。
それを右後ろに伸ばし、体を前に押し出し、刀身を体で隠す――タイ斜流と呼ばれる剣術に伝わる独自の構え。
『参る!!』
クラナガンが脚を踏み出す、雄雄しいその地響きは体重を乗せた、中国武術における震脚。
それに誘き寄せられるようにサーベルタイガー形のジュエルビーストが跳ねた。爪で地面を深く穿ち、自重の重さを掻き消し、内部にプログラムされたベクトル操作を用いて弾丸のように己を弾き飛ばす。
音速に迫る巨体の突撃。牙を剥き出しに、クラナガンを噛み砕かんと迫る悪意の塊。
並みの戦士には反応出来まい。だがしかし、エリオは、そしてクラナガンは反応した。
――斬光が閃く。
袈裟上がりに一刀が振り抜かれたと気付けたのは何名居ただろうか。
『一刀 燕飛断ち』
ジュエルビースト、その頭部が空を舞い上がったまま、クラナガンの傍を空しく飛び抜けた。
彼は気付いただろうか、己の首が無いことに。
クラナガン、彼が繰り出す一撃は空を舞う燕の翼すらも断ち切るのか。
切り上げた一刀、その刃を緩やかに落とし、駆動部の間接を軋ませながら手元に戻す。
『無駄だ。お前は既に死んでいる』
飛び抜いて、失速したジュエルビーストの巨体が大地に落下する。
ズズンと巨体が地面を削り上げながら動きを止めて、さらに空を舞っていた頭部がゆっくりとその傍に落ちる。
クラナガンの目は見抜いていた。
その頭部にジュエルシードが納められていることに。首から切り離した胴体は動けない。
ジュエルシードの封印は他のものに任せればいい。
『すごい』
エリオは内部で感嘆していた。
クラナガン、巨体でありながらも人間以上にしなやかで鋭い技巧を繰り出せる彼に憧れていた。
『君もいずれ出来るさ』
『そうかな?』
『ああ。だから、私に力を貸してくれ』
うんとエリオが頷き、ストラーダを握り締める。
勇気を沸き上げる、気合を入れる。
『BoOOOOOOOOOO!!!』
瞬く間に片方のジュエルビーストをやられた猪型のジュエルビーストが咆哮を上げた。
全身を震わせて、鳴動。
全身の針の回転速度が高まり、紫電を発し始める。
し・え・ん! し・え・ん!
Tes.!
『なんだ?』
『まさか!? ――ラウンドプロテクター!!』
エリオの咆哮が轟いた瞬間、クラナガンはトラボシブレードとは逆の手を突き出し、その手の平の魔力放出ノズルを解放し、全身を覆わんばかりの巨大な前方障壁を作り出す。
起動・ラウンドプロテクター。
現在提督である高位魔導師の青年が提供してくれた防御術式、クラナガンの魔力炉から組み出す魔力を基幹に、周囲の埃や破片、さらには残留魔力すらも利用し作り出す強力無比な物理・魔力障壁だった。
そして、次の瞬間、ジュエルビーストが破裂した。いや、全身から針を射出した。
『ぬぉおおお!!』
『あぁあああ!!』
二人の叫び声と共に障壁を突き破らんとする針を防ぐ、防ぐ、耐え凌ぐ。
地面が串刺しにされ、周囲の大地が音速を超えたニードルミサイルの威力で爆砕、粉砕、大喝采の如く音を奏で立てる。
粉塵が舞い上がる、周囲の光が届かないほどに濃密な粉塵が。
『PI』
全身の針を飛ばし尽くしたジュエルビーストが赤いアイカメラを輝かせて、粉塵内部の魔力反応を調べようとした瞬間だった。
『ルォオオ!!!』
粉塵を突き破り、飛び出す巨体が一つ。
クラナガンがX−wi−ngを展開し、トラボシブレードを腰に差して空いた右の豪腕を突き出していた。
『キャノン』
右腕部のギミックが作動する。
作動音を鳴り響かせて、手首ガントレットが腕部を覆う。
さらにアームガードが前方にスライドし、剣戟補助用のロケットスラスターが後方に移動し、そのノズルを完全に後ろへと向けた。
背面部のカバーが露出し、ガキンと金属の重なる歯音を立てて飛び出すのは内蔵されていたナックルダスター。
唸りを上げて回転し、大気を飲み込み、その荒々しい咆哮は聞く者全てを震撼させる破壊の祝福。
紫電を生み出し、補助翼がまるでブレードのように鋭く飛び出し、クラナガンの腰が旋転、力強く踏み出された脚部が大地を踏み締める。
『ダスタァアアアア!!』
音響の壁を叩き壊し、それは撃ち出される。
砲撃の如き勢いで飛び出したクラナガンの腕部は目にも止まらぬ速度でジュエルビーストの顔面を殴り飛ばした。
ジュエルビーストの巨体が吹き飛ぶ、二倍近くの巨体でありながらクラナガンのナックルダスターに脚が地面から殴り上げられた。
『ぬぅん!』
それに体勢を崩したと見たクラナガンが背部の翼を激しく吹き出し、その肘から無くした腕から赤く煌めくワイヤーを宙に飛ばす。
そしてそれはスラスターを吹き出しながら放物線を描き、舞い戻るナックルダスターと接続した。
『行くぞ、エリオ!』
『うん! リリカル!』
クラナガンが飛ぶ。
重力制御、ベクトル操作を用いて巨体に掛かる自重と重力を上へと傾け、背部の翼が荒々しく大気を捉えて弾き飛ばした。
舞い上がる。
Tes.!
『マジカル!』
足裏の排熱ノズルから蒸気を噴出し、美しい二本の線を縦に描きながらクラナガンが空を舞う。
ガシンと激しい接続音を響かせ、左手で引き抜いたトラボシブレードを両手で握った。
『ブレェエエイブ!!』
天へと捧げる一刀。
どこまでも伸びる、作り上げられていく刀身、それはどこまでも肉厚であり、どこまでも鋭い巨剣。
魔を断ち、悪を断ち、闇を切り払う聖剣。
伸び上がる刀身は雲を引き裂き、太陽の輝きを帯び、命を祝福するかのように清浄な碧の煌めきを纏った。
『必殺!!』
『エインフェリア! スラァァァァシュッ!!!!』
真っ向両断。
振り抜かれた一撃はジュエルビーストを誰も認識することも出来ずにすり抜けた。
ダンッとトラボシブレードを振り抜いたクラナガンが大地に着地する。
『斬撃』
ピシリとジュエルビーストの中心部に線が走る。
『絶断』
煌めき輝く線は光を溢れさせながら輝きを増し。
『我らが勇気に倒せぬものなし!!』
ズルリとズレ落ちて、崩れ去る。
爆散。
内部に注ぎ込まれた膨大なエネルギー、それが内部を焼き尽くし、粉砕する。
刀身を縮めて、クラナガンは剣を横薙ぎに振るう。
残心、それを忘れずに見届けて、血払いを終えたトラボシブレードを腰に納めた。
『撃破完了』
『やった! これで地上本部は護れたよ!!』
「やったー!」「やったぞー!!」
轟くのは喝采。
喜びに満ち満ちた声が見守っていた陸士たちから上がっていく。
『うむ。これも全ては君のおかげだ、エリ――』
エリオの喜びの声を上げて、クラナガンが感謝の言葉を告げようとした瞬間だった。
「メガーヌの怒りぃいいいいい!!!!」
大地を震撼させる衝撃波が全てを薙ぎ払った。
陸士が、本部が、クラナガンが、吹き飛ばされ、たわみ、打ち震えるほどの凄まじい衝撃波。
上空から打ち下ろされた膨大なエネルギー。
それが大地に叩き込まれ、衝撃の津波となって襲い掛かってきたのだ。
家族バカきたああああああああ支援
『なっ!!?』
『え!?』
『うわー!!』
吹っ飛ぶ、陸士たち。まるで強力な台風に吹き飛ばされるかのごとく陸士たちがぶっ飛んだ。
「なに!?」
「あ、あれは!!」
フォワード陣が指差す。
誰もが見上げた其処には、一人の男と一人の少女が浮かび上がっていた。
「悪いが、乱入させてもらうぞ」
それは茶色いコートを纏った男。左腕には覆わんばかりの巨大なガントレットを纏い、その左手には鈍い光を放つ槍型のアームドデバイス。
鋭い双眸には意思の光を感じ、ざんばらに風を孕んで揺れる髪はまるで闘志の如く揺らめき、彫りの深い顔には隠し切れない強者としての顔があった。
全身から発せられるプレッシャーは大気を震撼させる、見上げる誰もが背筋に恐怖を覚えるほどの闘気。
「させてもらうぞー!」
傍で浮かび上がる紅い少女はそれを頼もしげに見つめ、パタパタと愛らしく翼を震わせて、艶やかな衣装でアピールする。
彼女の名はアギト。
そして、男の名は――
『ゼスト!? ゼスト・グランガイツ!』
クラナガンが叫んだ。
『あ、あれが――ミッドチルダUCAT、最強の武人!』
エリオがコクピット内部で目を見開く。
シグナムからは聞いていた。彼の教えとなるべき人物だと。
ミッドチルダUCATにおいて最強を誇る戦士だと。
何故彼が? 僕らの邪魔をする?
『ゼスト・グランガイツ! 何故貴方が!?』
エリオの叫び。
見知らぬ声にゼストは僅かに顔を歪めたが、すぐに冷たい顔となってその手の槍を突き出した。
「許せとは言わん。だが、破壊させてもらうぞ」
信念に基づいた強い言葉。
それと同時にゼストが脚を踏み出した。虚空を蹴り出す――次の瞬間、クラナガンの眼前に現れていた。
『なっ!?』
数百メートルの距離を一瞬にしてゼロに変えた。
跳躍魔法か、それとも超高速移動か。衝撃波はなく、まるで其処にいるのが当たり前のように佇んでいて――繰り出された蹴りをクラナガンは防ぐことすらも出来なかった。
「ぬぅん!!!」
ドンッと巨体が一人の男の蹴りに吹き飛ぶ。
誰が信じるのか、全長20メートルに到る巨人がたった一人の蹴りで吹き飛ぶなど。
川上作品なら驚くに値しないよなぁ
まさかの全部長の必殺技w 支援
『うわぁあああ!』
エリオの悲鳴が響き渡り、クラナガンがすぐさまに体勢を立て直して脚部背面ノズルから蒸気を噴射する。
衝撃を緩和し、クラナガンが着地すると膝を曲げて、大地を蹴り飛ばした。
『秘剣!』
しなやかに手首が翻る、X−wi−ngの翼が羽ばたき、速度を増す。
トラボシブレードの刃が短く軽く、地面を衝撃で削り上げながら振り上げられる。
『――雷槌墜とし!!』
それは音速を超えた一刀。
クラナガンが保有する雷すらも切り裂くだろう一閃。
それをただ1人の人間を断つ為に使われる、過剰な殺戮武芸。
だがしかし、ゼストは静かにそれを見つめて――
「ふんっ!!」
金属音が響き渡った。
『ば、馬鹿な!?』
切り上げた一刀、トラボシブレードの巨大な刀身が――真下に突き出されたゼストの槍の先端で受け止められていた。
質量差など考える必要も無い馬鹿げた差、常識的に考えればゼストの槍どころかその持ち手すらも両断、粉砕してもおかしくない一撃。
なのに、微動だにしない。
空中に浮かぶゼスト一人動かせない、ギチギチと音を立てる手首が、微細するトラボシブレードがそこに掛かる力の大きさを示していた。
「馬鹿な? だと」
ゼストが告げる。
軽やかにその左手が――信じられないことに押さえ込む槍を持つ手は片手だった――槍を上から叩いた。
次の瞬間、クラナガンの両手が大地に叩きつけられる。
ゼストが押した反動だけで。
『そんな!?』
「俺から言わせて貰えば――」
両腕が叩きつけられたクラナガン、それにゼストが歩み寄る。
その槍がまるでバットのように振り被られて――打ち付けられた。
「その程度で俺の槍が折れるか!!!」
轟音打撃。
クラナガンの巨体がぶっ飛ぶ、まるで風船のように弾き飛ばされた。
『グワァアアアアア』
舞い上がる、まるで巨兵を超える巨神に殴り飛ばされたかのような勢いで。
数百メートルは後方に吹き飛び、大地に全身を叩きつけ、その巨体がめり込み、地響きを奏で立てた。
『う、うぅ!』
『エリオ! 無事か!』
コクピットから聞こえるエリオの声に、クラナガンが懸命に声を上げる。
Tes!
『うん! く、クラナガンは!?』
『私は、平気だ!』
嘘だった。
今の一撃で全身のフレームが悲鳴を上げていた。
喰らった一撃の重さ、クラナガンのAIが計算したところ質量にして500トンを超えるほどだった。
魔力強化にしても重すぎる、人間には不可能な一撃。
『ゼスト――グランガイツ! 私が護るべきUCATの、そして共に戦うはずの貴方が何故! 何故敵に手を貸すのです!! このミッドチルダUCATが落ちれば、この世界が!』
クラナガンの咆哮。
全身の駆動系に悲鳴を上げさせながらも起き上がるクラナガンに、ゼストは冷たく告げた。
「――理由はただ一つ」
槍を構える。
莫大な魔力が迸る、Sランクオーバー魔導師にして最強を誇る武人であるゼストは吼えた。
「世界よりも俺の家族、その重みが圧倒的に上なだけだ!!!」
大気が震動した。
その咆哮だけで爆風が生まれたかのようだった。
ビリビリと胃にまで染み渡るほどの魂の、気迫の篭った咆哮。
一瞬クラナガンが圧倒されかける、だがしかし。
『負けないで、クラナガン!!』
『エリオ?』
『僕らにも大切なものがある! 譲れないものがある!!』
エリオは思う。
後ろにある地上本部、その中にはフェイトがいた。隊長たちもいた。
戦場にはスバルが、ティアナが、ギンガが、そして――キャロがいた。
護りたい、護りたいのだ、この手で。
決して傷つけさせない、死なせたくない、その願いがあるから。
『僕は負けません!! 絶対に!!!』
咆哮が轟く。
勇気ある少年の声が戦場に響き渡る。
誰もが見た。
誰もが讃えた。
その誓いを、その願いを。
『その為にならば今ここで貴方を打ち倒す!! 契約を結ぶ!!』
トラボシブレード、それがエリオの意思で構えられる。
天へと捧げるように。
大地に祈るように。
腰溜めに構えて、吼え猛った。
『我ここに契約す――Tes.!!』
テスタメント!
その叫びが上がる。
この瞬間だったのだろう。
エリオ・モンディアル。彼がUCATの闘士として己の運命を選択したのは。
もう手遅れか…支援
エリオw支援
『エリオ――分かった。私もここに誓おう、君に勝利を齎すと!』
クラナガンが吼える。
その瞳に力を宿し、背部の光の翼を輝かせた。
『Tes.!!』
それに輪唱するように声が上がる、上がる。
「Tes.!」
「Tes.!」
「Tes.!」
契約の言葉が津波のように上がる。
『AHEAD! AHEAD! AHEAD!』
歌声が響く。
進むべき道のための歌が。
『前に進もうよ、誰にだって負けられない』
祈りの歌が響き渡る。
力が湧いてくる。
『AHEAD! AHEAD! AHEAD!』
だから踏み出す。突き進む。
勇気を持って、けれど躊躇わずに。
『だって大切なものが ここにあるから!』
だって大切なものが、ここにあるから。
『うぉおおおおおお!!!』
「いいぞ、来い!」
クラナガンが、エリオが、ゼストが咆哮を上げた。
一機一人合心すなわち一騎、一人の武人に挑む。
――支援とは力である
――トラボシブレードが唸りを上げた。
音速を超える斬撃が袈裟切りに放たれて、それをゼストが受け止める。
火花を散らし、クラナガンの斬撃は止まらない。
手首を返し、腰を旋転し、舞い上がり、打ち降ろし、振り抜き、叩きつけ、斬り出し、打ち抜く。
その全ての斬撃は音速を超えて衝撃波を撒き散らしながら、全フレームが上げる悲鳴すら無視して繰り出していく。
『オォオオオオ!!』
だが、ゼストは弾く、防ぐ、凌ぐ、躱す、打ち払う、斬り捌く。
暴風を纏った己よりも巨大な刀身、それを受け止めると、鼓膜が破れそうな轟音を上げて弾いて逸らす。
巨人と小人の如き戦い。
如何なる悪夢か、鋼鉄の巨人が全身全霊を篭めて攻め抜いても彼は崩れない、押されない、むしろ襲い掛かってくる。
「いい動きだ! だがしかし!!」
燕羽断ち!
そう叫ばれた超高速の斬撃を、縦に構えた己の槍で受け止めながらゼストは静かに告げた。
「俺の槍は砕けない」
『っ! あの槍は一体!?』
『概念加護があるというのか! しかし、貴方の槍は無銘のはず!!』
そう、ゼストは槍に名前を付けていない。
2nd−Gの概念下では脆く弱いはずなのに。
「名はない、だが俺の槍は何よりも強い!」
ガキンッと火花を散らしながら押し込んでいたトラボシブレードを弾き払うと、ゼストは叫んだ。
槍を掲げて、吼える。
「俺の槍は家族の想いが篭められているのだから!」
クラナガンのアイカメラが捉えた。
拡大し、その槍の持ち手に刻まれた文字が見える。
――メガーヌ。
――ルーテシア。
――アギト。
――ガ。
三つの名前となにやら意味の判らない文字。
それが彫り込まれていた。
「想いやりの篭ったなによりも重い槍。貴様に防げるか!!」
ゼストが吼える。
その超弩級の想いの篭った槍の質量は本人以外には数百トンの凶器も同然だった。
理由は分かった。
だが、エリオは思わず叫んだ。
『オヤジギャグー!!』
「何が悪い!!」
開き直られた。
聞こえる、聞こえるぞ。フェイトの悲痛な叫びがw 支援
Tes.
老兵が持ってた娘さんの拳銃はあんなにカッコよかったのに支援
そして、ゼストが脚を踏み出す、虚空から疾走。
それにクラナガンが応える、間接部の悲鳴を無視して一閃。
二つの武具が激突。
世界が震撼する、エネルギーの粒子が爆風のように広がった。
『グゥウウウ!!!』
『ァアアアアアア!!』
二人の勇者が叫ぶ。
だがしかし、ゼストは目の眼光を強めながら――呟いた。
「終わりだ」
その時電子音声が響き渡った。
『Grenzpunkt freilassen.』
トラボシブレード。
そのエネルギー刃が砕け散る。
『なっ!!』
「終われ、クラナガン!!」
エネルギー刃によって伸び上がった刀身を粉砕し、振り抜かれたゼストの槍。
それが生み出した巨大な衝撃波がクラナガンの胴体に直撃し――破砕した。
『ウワァアアアアアア!!』
勇者が吹き飛ぶ。
勇者が倒れる。
偉大なる戦士がここに――敗れた。
ていうかやりやがった……
さいきょうじゅもんを使いやがったよww
確かにこの空間の中ならほんとにその能力どおり発動できるだろうけどww
ともかくTes!!
支援
それをモニターしていたものがいた。
ミッドチルダUCAT、三番地下格納庫のスタッフたちである。
「く、クラナガンが破れただと!?」
「なんてこったー!!」
驚天動地の事態に慌てふためくものたち。
だが、その中で飛び込んできたものがいた。
主任研究者の男だ。
「刃閃鬼鎧エルセア!! それか翼輪光馬アルトセイム!!! いや、聖轟武凱ベルカを出せるか!?」
「駄目です! 三期共にまだ調整中で――」
「く、くそっ!!」
手の打ちようが無いのか。
誰もが机を叩き、うちしがれた時だった。
「ま、待ってください!」
「なんだ!?」
「この反応は――まさか!?」
レーダーに映る光点。
それが最後の希望だった。
「すまないが、トドメを刺させてもらうぞ」
『ぐ、ぐぅうう!』
ゼストが倒れ付したクラナガンに槍を向けていた。
全身から火花を発したクラナガンにはもはや抵抗することする余力すらなかった。
『クラナガン! 動いて! 僕らは負けられないんだ!!』
『しかし! く、動け! 私の体よ!!』
全身の駆動系は断末魔の音を奏で立てていた。
だがしかし、クラナガンは諦めない。
エリオに、そして誰もが為に彼に敗北は許されないのだ。
勝つ。
そして、護るのだ!
『――クラナガン!!』
その瞬間だった。
無線通信が入ったのは。
『今援軍が来た! 魔砲合体の体勢に移れ!!』
『!? 了解!!!』
王道展開支援w
グレート合体ですねヒャッハー支援
「む?」
ゼストがいきなり叫んだクラナガンに、眉を潜めた瞬間だった。
背後から魔力の砲撃が撃ち込まれたのは。
「っ!?」
気配に気付き、躱す。
だがコートの裾が千切れ飛ぶ。
「誰だ!?」
「――私です!!」
それはガリガリと音を立てて爆走する一台の魔導砲台――で戦車だった。
観よ、この威容。
丸みを帯びた車体は巨大であり、強固なメタリックカラー。
全身には様々な文字が描かれて、それがまるで紋様のようだった。
そして、その真上に嵌めこまれているのが直径十数メートルを超える巨大砲台であり、その前方車体から突き出ているのは――ドリル。
巨大なドリルが付いており、その先端に一人の女性が仁王立ちで立っていた。
「聖王教会が一人、シャッハ・ヌエラ! 義理立ち故に只今参上!!」
『魔砲尖車アインへリアル!!』
クラナガンの咆哮で名称が分かった。
かの砲台の名前はアインへリアルであり、その先端に立つのは聖王教会の鬼神!
どこかでカリムがひっくり返るような音がしたような気がするが、錯覚だったろう。
『ありがたい! いくぞ、エリオ!!』
『うん! 魔砲合体だね!!』
クラナガンが背部のX−Wi−ngを吹き出し、地上を抉りながら上昇する。
さらに爆音を立てて突き進むアインヘリヤルの先頭からトゥッとシャッハが脱出した。
操縦していた陸士たちも脱出し、最後に天井の隠しハッチを空けて、レバーを引く。
キャラピラ下に隠されていたバーニアが噴出し、アインへリアルが飛んだ。
『ブレーイクアップ!!』
クラナガンが全身から魔力の粒子を吹き出し、上空にて光に包まれたフィールドを生み出す。
考えてみりゃまだそれがあったw
支援
・――光とは力である
X−wi−ngの概念が働き、アインヘリヤルが全身から光を迸らせながら――分割した。
二つに割れる、さらに四つに割れる。
キャタピラの付いた下部は左右に展開したクラナガンの両足首の真ん中に収まったと同時に、概念空間から排出された接合ボトルが二十。
鉄槌で叩き込むかのように結合、結合、接続、合体!
さらにクラナガンのアームガードが前にスライドし、そして上下に展開。
マニピュレーター部分が回転し、腕内部に納められると同時に誘導されてきたアインヘリヤルの先頭部分二つと結合――概念空間から排出された接続ボトルに、様々なパーツで両腕を覆っていく。
腕が変形し、脚が変形し、さらにアインへリアルに付属されていた概念空間から巨大なプレートアーマーが飛び出す。
それはクラナガンの胸部に結合し、さらに心臓を揺り動かすように巨大な結合ボトルが四本、四方に打ち込まれる。
『グッ、ググウウ!!』
激痛に耐えながら吼え猛るクラナガン。
そして、最後に残った砲台が舞い上がりながら折り畳まれて、その背部に接続された。
轟々と回転しながら、クラナガンの胸部ながら光の粒子を帯びて、胸のシンボルから勇者の勇ましさを現る竜の象が刻まれる!
『うぉおおおおおおおおお!!!』
四つに分かれた光の翼、それはまるで鳥の如く、天使の如く神々しい。
『我は来た!』
手を突き出す、ガシンと音を立てて、ドリルが変形したアームガードから手首が飛び出す。
『友よ我は応える!!』
脚を突き出す。
唸りを上げて大気を蹴り上げ、キャタピラが回転する。
『魔砲合体! グレートクラナガン!! 勇気と気合、そして砲撃を持って悪を討つ!!』
新たなる勇者の誕生だった。
支援!支援!支援!
既に川上氏をアレな意味でスッ飛ばしてるなぁw支援
投下完了!
夜分遅く支援ありがとうございました!!
続きはまた後日!!
では〜 Tes.!!!
三期共にまだ調整中
期?
支援
乙!GJ!ごめん、見入ってしまって支援が間に合いませんでしたorz
とりあえず、強く生きるんだフェイトとカリム。
>>66 誤字です すみません!
他指摘があれば朝まとめで直します ノシ
GJ!!
エリオはもう帰って来れないんですね
シャッハの姉御は月一でリミッターが外れるようでw
GJでした
来たぜグレートクラナガン!! 名前だけの三機が気になりすぎる!
最終的には五体合体のアルティメットクラナガンでデビルゆりかごと次元の海でガチバトルですね、わかります。
――メガーヌ。
――ルーテシア。
――アギト。
――ガ。←誤字なのかそうでないのかわからんw
「トランスフォーマー(実写版)」のサントラ聴きながらの
支援・・・。
次をwktkしながら楽しみにしてます。
さて・・・次は何のサントラをBGMに(ry
い、いいなあ、かっこいい
おれもばかになりたい!!
>>72 そりゃ旦那、相手はガっちゃんですぜ
字が書けないのも愛嬌のうちってもんですよ!
グレート来たああああ!!
しかしゼスト、メガーヌの怒りってアンタそれ…世界の恥部(全部長)の技じゃねえかああああああああww
原作知らんけど、エリオがもう戻ってこれないレベルってのは分かった。
続き楽しみにしてます
川上スレからGJ
全竜部隊はゲスト出演だけで、戦闘には参加しないのかね?
ゼスト家族馬鹿の軍神かよw
でも技は全部長w
ゼスト格好いいのに技が全世界の恥部ww
そして開発部はまだ三機も武神を隠し持ってるのかw
お約束の合体シーンは予想しててもやっぱ燃えるなあ
>>77 荒帝とかサンダーフェロウとかきたら一瞬で終わっちまうじゃまいかw
名無し兵達が格好よすぎるから俺はあんまり気にならん!
79 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/07(日) 10:01:21 ID:mft6rmwC
誤字と思われるもの発見
>>33の タイ斜流と呼ばれる剣術
タイ捨流では?
とりあえず、sageようか…。
あ、すまん sage忘れてた・・・。
82 :
一尉:2008/12/07(日) 16:11:05 ID:2vqIVsk4
よく見たらマイトガインじゃねえええか。支援
<<相変わらずUCAT、GJ!この連日の投下ラッシュの勢いはいったいどこから来るんだ。
やっぱり変態だからか!?(待)
それはそうと、やっとこさCOD4とのクロスが始められそうなんだ。1810に投下したい。
日本全国のソープ、ジャクソン、出来れば支援頼む!>>
支援する!
変態という名の紳氏だよ、支援!
時間になったので投下します。スタンバイ……スタンバイ……GO!
Call of Lyrical 4
第0話 オールドギリーアップ/全ては、ここから始まった
一五年前 ウクライナ北部 チェルノブイリ
ガイガーカウンターの数値は、危険値に指しかかろうとしていた。これ以上進めば、放射能で死ぬ羽目になる。
「放射能が強すぎるな、迂回しないと死ぬぞ」
前を行く彼の上官が、首元の通信用マイクを使って呟いた。だが、視界に広がる枯れ草ばかりの平原には誰もいない。
――分かってる、ギリースーツだ。
自身も装備している植物を模したカモフラージュ用の覆いを見て、彼――プライス中尉は、その効果の高さを再認識した。
今回のような隠密任務では、この手の装備は必需品なのだ。両腕にずしりと頼もしい重さを感じさせるこのM21狙撃銃ですら、消音器が付いている。
「ついてこい、頭は低くしろよ」
視界の片隅でもぞもぞと何かが動き、ようやくそれが上官のマクミラン大尉であることに、プライスは気付く。
このSAS――世界的に有名なイギリス陸軍特殊部隊の中でも、間違いなくトップクラスの狙撃と潜入のエキスパートは、プライスの前方に立ち、少し前かがみになって歩き出した。プライスも彼に付
き従い、後についていく。二人とも、M21を構えたまま前進を開始。
「気をつけろ、ここは放射能汚染区域がある。吸い込みすぎると、あの世行きだ」
分かってますよ、と歩みは止めずにプライスは頷く。事前のブリーフィングがなくとも、この地でかつて何が起こったのかは、世界史を勉強すればすぐに分かる。
チェルノブイリと聞けば、誰でもすぐに思い出せるだろう。原子力発電所として、史上最悪の事故。それが起きた場所。
事故が起きる以前、この都市には何万人もの人々が暮らしていた。遊園地すら建築中だったというから、さぞ活気溢れる街だったに違いない。
そう考えると、周囲の人気の無さは嘘のようだった。道中にぽつぽつと存在する廃車が、長い間ここに人間が訪れていないことを証明していた。
「スタンバイ」
周囲を警戒しながら進んでいると、突然マクラミンが左手を上げ、止まるよう指示してきた。
プライスは素早く壁が外れて、抜け穴のようになった廃屋の中に身を潜め、M21を構える。狙撃スコープの向こうにいたのは、二人の兵士と思しき人影。
――装備はAK-47か。情報にあったテロリストの一味だな。
「敵だな、歩哨が真ん中にいる……」
マクラミンの方に視線をやると、同じくM21のスコープを覗き、敵を確認していた。
事前に通達された交戦規定では、射殺に制限は無い。元より暗殺任務、姿を見られるのはよろしくない。
「姿勢を低く、落ち着いて動け。このギリースーツは味方も欺く」
マクラミンが"動け"と言うことは、すなわち障害を排除しろと言う意味なのだろう。プライスはゆっくり、M21の銃身と銃床を両手で持って匍匐前進。
敵兵たちは気だるそうに歩き、ロシア語で愚痴の零し合いをやっているようだ。哨戒と言うより、ただその辺をほっつき歩いていると言った方が正しい。
これならバレることはあるまい――プライスはM21の銃口を前に突き出し、二人の敵兵のうち、片方に照準を合わせる。
「片方が目を離している隙に、もう一人をやれ」
言われるがまま、プライスは狙撃スコープを覗き込む。敵兵は依然として気付く様子は無い。
吸って吐いて、吸って――呼吸を止める。手ぶれが収まり、狙撃スコープのど真ん中に、敵兵の頭部が映り込む。
躊躇は、出来ない。狙いを外せば、いくらやる気の無いこいつらでも気付くだろう。
悪く思うな――引き金を引く寸前、プライスは敵兵に向かって胸のうちで謝罪の言葉を口にした。
肩に反動があって、狙撃スコープの向こうで敵兵が頭部から鮮血を噴き出し、ひっくり返るのが見えた。
もう片方は、と狙撃スコープを滑らせると、マクラミンの放った銃弾により同じく、一撃で絶命していた。
「おやすみ。行くぞ」
メビウス1イジェークト!
スターズ1もイジェークト!(遠くから悲鳴が聞こえた)
支援
倒れた敵兵たちに一言だけ告げて、マクラミンは身体を起こし、前進を再開する。
しかし、一〇〇メートルも進まないうちに、再びマクラミンが左手を上げて止まれの合図。物陰に身を寄せ、前方の様子を伺った彼は少し考え、「回り込もう」と言ってきた。
プライスは彼の後を追うと、そこに民家があることに気付いた。同時に、中から会話と思しき声も。
民家の壁に張り付き、マクラミンが窓から様子を伺う。先ほどと同じく、AK-47を持った兵士が四名、タバコを吸いながらテーブルの上でポーカーをやっていた。少なくともこの民家の家人ではない
だろう。
「考えるだけ無駄だな」
マクラミンは姿勢を低くして、民家を通過する。こっちは二人、相手は四人。この距離では狙撃銃も取り回しが悪く、AK-47のような小銃に撃ち負けるのは目に見えていた。
プライスは彼に続くが、突然マクラミンにそれ以上進むな、と進路を遮られた。首を傾け、民家の陰から前方の様子を伺うと、またしても敵兵がいた。こちらはしっかりとAK-47を構え、真面目に哨
戒任務を行っているようだ。
――だがそれゆえに、見逃してはくれないだろうな。
悩むことは無かった。M21を構え、プライスは狙撃態勢に移行。呼吸を止めて、敵兵の進路を予測し――撃つ。狙い通り頭部に被弾したこの兵士は、真面目ゆえに命を奪われる羽目になった。
「よし、行くぞ」
いちいち慈悲の言葉をかけてやる余裕は無い。マクラミンに促され、プライスは前進。
廃車、木の陰、草むらと道中に存在するあらゆるものを活用し、二人の兵士は順調に進んでいく。
ちらっとプライスは視線を上げる。その先に映ったのは、教会と思しき建物。構造からして、ロシア正教のものだろう。
その教会の二階に、やはり銃を持った敵兵がいるのが見えた。さらに、北の方からも敵兵が一名、接近中。こちらはAK-47ではなく、ドイツ製の小銃であるG3を持っていた。
テロリストの癖に西側装備とは豪勢だな、とプライスは胸のうちで呟き、マクラミンの指示でわずかに匍匐前進、より視界の開けた木の陰に位置する。
M21を構えたプライスはまずは教会の方の敵兵を片付けるべく、銃口を上に上げた。
教会の二階の窓、敵兵は何も来ないと思っているのか、ふらふらとだらしなく歩き、タバコすら咥えていた。これでギリースーツ装備の自分たちは見つけられないだろう。
狙撃スコープの向こうの敵兵が、後ろを向いたその瞬間、プライスは引き金を引いた。放たれた銃弾は敵兵の頭部を後方から撃ち抜く。
消音器のおかげで銃声も無く、また気付かれること無く射殺しているため、敵が悲鳴を上げることも無い。隠密任務としては、これが正しい。
もう一人も――。
素早く照準を上から下へとずらし、次いで水平移動。狙撃スコープに入り込んできた敵兵、これも躊躇することなく射殺。
「見事だ、行くぞ」
短くプライスの狙撃の腕前を褒め称え、マクラミンは前進再開。先ほどの教会内を通り抜けると、目の前に広がっていたのは墓場だった。
死人が眠る土地の上を行くのはあまり気分のいいものではないが、プライスはマクラミンの後を追いかける。
その時、プライスの耳に聞き慣れない音が入り込んできた。はっとなって後ろに振り返り、M21を構える。
ところが、である。音の主は、とてもではないがM21で対抗できるようなものではなかった。
バタバタバタバタッと耳障りなローター音と共にプライスの視界に映ったのは、ロシアの誇る重攻撃ヘリ、Mi-24ハインド。こいつに狙われたら命がいくつあっても足りない。
「敵のヘリだ、伏せろ」
マクラミンに言われるまでもなかった。プライスは墓場の門の陰に身を寄せ、じっと息を潜める。ギリースーツで物陰に伏せているのだ、サーモスキャンでもされない限り、
上空から見つかる可能性はまずない。
案の定、ハインドはこちらに気付くことなく、行き過ぎていった。それにしてもテロリストが攻撃ヘリまで保有しているとは、情報通り今回の暗殺対象は相当な大物らしい。
「行くぞ」
行き過ぎたハインドを見送り、マクラミンとプライスは墓場の門を潜る。国道と思しき道路を横断して、その向こうにある平原を行く。
数年は放置されているであろう、太い何かのパイプを乗り越えたところで、突然マクラミンが転んだ。
――否。プライスは正面にうごめく物体を目撃して、マクラミンが転んだのではなく大急ぎで地面に伏せたことに気付く。
「伏せろ、早く」
マクミラン大佐 何故あなたは見つからないのですか?
ギリースーツだからさ
支援
大慌てでプライスも地面に逃げるように伏せ、匍匐前進でマクラミンの傍まで行く。
脳の奥にまで響き渡るこの音は、装甲車のキャタピラの駆動音だ。それが何輌も、歩兵を連れてこちらに前進してきていた。狙撃銃一丁で戦いを挑むには、あまりに無謀だろう。
「ゆっくりだ相棒、数が多すぎる……やり過ごそう」
マクラミンの方も、馬鹿な考えを起こすつもりは無いらしい。このままギリースーツの低視認性効果を信じ、低姿勢を保って敵が行き過ぎるのを待つしかない。
装甲車と歩兵は彼らが見えていないのか、そのままの速度で前進してきている。
プライスはM21を身体の下に入れて、地面とサンドイッチさせる。光が狙撃スコープに反射でもしたら、それだけで自分は死ぬ羽目になる。
どさっといきなり、自分のすぐ傍に歩兵が足を下ろしてきた。こいつがちらっとでも視線を下げれば気付かれる可能性があるが――幸いにも、この敵は少し周囲に視線を配ると、す
ぐに歩いて離れてくれた。
ほっとプライスは安堵のため息を吐こうとして、今度は装甲車のキャタピラが眼前に迫っていることに気付く。
――まずい、このままじゃぺしゃんこだ。だが、動いていいものか。
マクラミンの方に視線を送っても、彼も息を殺してじっと敵が行き過ぎるのを待っていた。指示や援護は、期待できそうにない。
ともかくも、見つかるのを恐れて動かなかったのでぺしゃんこになった、では洒落にならない。プライスは素早く、しかし息を殺して水平に移動する。
下手に首も動かせないので、周囲の敵兵がこちらの動きを察知していないことを祈るばかりだ。
移動を終えて、どうにかプライスは装甲車の進路上から外れることに成功した。敵兵たちも、気付いた様子は無い。
「よし、移動しよう。確実に緩やかに……」
装甲車の駆動音が、だいぶ離れたところでマクミランがゆっくり、匍匐前進で移動を再開した。プライスも後を追う。
後方を振り返ると、装甲車と敵兵は国道の方に向かっていた。もう、立っても見つかることはあるまい。
二人はある程度匍匐で前進すると、周囲の安全を確認した上で立ち上がり、徒歩での前進に移った。
前進は続く。放棄された装甲車の陰に身を寄せ、前方の様子を伺うと、一台のトラックが止まっていた。そのすぐ傍には池。トラックの運転手とその助手と思しき敵兵たちが、何か
を池に向かって共同で放り投げている。
狙撃スコープを覗いて何を投げているのか確かめると、兵士の死体がトラックの傍に積み重なっていた。
「買収できない奴は始末したようだな」
なるほど、とマクミランの言葉にプライスは頷いた。相手はテロリストだ、ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約など、守るはずがない。
池の外側の方にM21を向け、狙撃スコープで他に敵はいないか調べてみると、二人の敵兵が周囲を警戒していた。これで見つからずに進むのは、難しそうだ。
「撃ってしまうか、やり過ごすか……お前に任せる」
迅速に進みたいなら撃つまで。プライスはM21を構え、二人の敵兵のうち、遅れて歩く方に照準を合わせる。
――消音機付きだからバレる可能性は低いが、念のため。
プライスはちらっと池に放り込まれる死体の山に眼をやる。
敵兵たちが一つの死体に手をかけ、池に投げ込む――その瞬間、プライスは素早く意識をM21に戻し、狙撃スコープの向こうの敵兵に対して、銃弾を送り込んだ。
死体が池に投げ込まれ、水しぶきが上がるのと、スコープの向こうの敵兵が倒れたのはほぼ同時だった。
もう一人は、プライスの意図を察したマクミランが一撃で仕留めていた。
残すは死体処理をやっている二人の敵兵なのだが――同時に仕留める必要があった。片方を撃っても、もう片方に気付かれては意味が無い。
「俺が位置につくまで待て」
マクミランはプライスにそう告げて、狙撃ポイントを移動。放棄された装甲車の陰から銃口を突き出し、敵を狙う。
プライスは狙撃スコープを覗き込み、敵兵に照準を合わせる。死体を投げ捨てた直後、棒立ちになった瞬間がチャンスだろう。
敵兵が何体目かになる死体を池に投げ捨て、だるそうに首を回す――その瞬間を狙い、プライスは呼吸を止めて、引き金を引く。
狙撃スコープの向こうで、敵兵二名がほぼ同時に倒れた。ちらっとマクラミンの方に眼をやると、親指を立てて成功、とアピールしていた。
「おやすみ」
マクミラン大佐 何故あなたは見つからないのですか?
忍法だからさ
支援
死体の山に仲間入りした敵兵に一言告げて、マクラミンとプライスは歩き出す。
その後、コンテナが複雑に並べられたスクラップヤードを抜けた二人は、道路上に展開する敵兵たちの部隊に出くわした。
トラックが何台も止まっていて、周囲にいる敵兵の数は、先ほどの装甲車の周りにいた連中よりはるかに多い。狙撃銃だけで相手するのは、無謀もいいところだろう。
そして、耳障りなローター音に吹き付けてくる冷たい風があると言うことは、付近にヘリがいるに違いない。輸送ヘリなら兵員を多数搭載しているだろうし、攻撃ヘリなら歩
兵などボロ雑巾のようにしてしまう火力を持っている。どちらにせよ、相手はしたくない。
――しかし、だからと言って迂回ルートもないか。
地図を開いて確認してみると、もうすぐ目標地点だった。これを遠回りしていけるルートは、どこにもない。
「向こうに集まってやがる……合図したら動け、後ろを離れるなよ」
マクミランも覚悟を決めたのか、隠れ蓑にしているコンテナの陰から敵の様子を伺っている。彼は、突破のタイミングを図っているのだ。
「スタンバイ……スタンバイ……」
始まった、とプライスはにやりと笑う。マクラミンのこの口癖は、SAS内では有名だった。
マクミランの思い描く進路上から、敵兵がいなくなる。みんな、降りてきたヘリに視線が集中していた。
「OK……GO!」
マクミランの合図。止まっていた時が動き出したかのように、二人は迅速に、そして冷静に動き出す。
緊張のせいで、血の流れが必要以上に早くなっていく。胸にまとわりつく奇妙な違和感は、恐怖か。
――戦車までいたのか、こりゃ見つかったら終わりだぞ。
そんな状態だと言うのに、頭の片隅はどこか冷静を保っていた。視界に映るものをいちいち気にするのがいい例だろう。
マクミランの考えたルートは、なかなか的確だった。道路上に並ぶ車列にあえて飛び込むことで、敵兵たちの死角を突いたのである。どの敵兵も、警戒しているのは車列の外側
ばかりだった。
「行くぞ」
マクミランは地面に伏せて、縦に並んだトラックの下に入る。敵も、まさか車の下に潜り込むとは思いもしまい。
さらに、トラックの運転手はみんな律儀なのか、きっちり距離を詰めて止めていた。おかげで周囲に姿を曝け出す時間も短くて済む。
――まずいな。
順調に匍匐で進んでいたが、プライスはトラックの列が中途半端なところで終わっていることに気付く。周りはまだ敵兵だらけだから、このままトラックの下から出れば気付かれる。
ちょうどその時、運がいいことに兵員を満載したトラックが一台、車列に加わってくれた。これなら、もっと奥まで進むことができる。
トラックの車列の最後尾に到達すると、マクミランが動きを止めた。わずかに身をよじって前方を見ると、数人の敵兵が進路を塞いでいた。こいつらさえいなくなれば、あとは走って
一目散に逃げるだけなのだが――。
「辛抱するんだ、馬鹿な真似はできない」
M21を構えようとしたプライスを、マクミランは静かに制す。いくら消音機付きとは言え、射殺現場を目撃されれば居場所がバレる。
「スタンバイ……スタンバイ……GO!」
いつものマクミランの口癖の後に、合図が出た。トラックの下から匍匐で姿を現した二人はただちに立ち上がり、一旦正面にあったジープに身を寄せ、目的地方向に誰もいないこと
を確認。
「いいな? 行け」
そして、一目散に二人は走り出す。草むらに入れば、またギリースーツが敵の目を欺いてくれる。
一度M21を構えて後方を警戒するが、敵兵が追いかけてくる様子も無ければ、警戒を厳重にした訳でもない。何とか無事、抜けられたようだ。
「気付かれなかったようだ。移動を続けよう、こっちだ……」
マクミランもさすがに安心したのかほっと一息をつき、しかしすぐに前進を再開する。
マクミラン大佐 何故あなたは見つからないのですか?
出番が少ないからさ。
支援
途中、五階建てのすでに住人のいないアパートにいた敵兵を狙撃で片付け、死体を貪る野犬を無視し、マクミランとプライスはついに目的地の目前まで迫っていた。
兵士は、戦場に感情を持ち込まない。任務に影響を与えるし、最悪自分の生死に関わるからだ。
そのはずなのだが――マクラミンとプライスは、道中にて通過した住宅街に、妙な不安と寂しさを覚えてしまった。
屋内に入ると、何かの店だったのか、ショーウィンドウにテーブルと椅子が並べてあった。壁に貼ってあったポスターは広告だろう。
どれももう何年も使われておらず、埃を被っているものばかりだったが――それは確かに、過去ここに人間の生活が存在していたことを伝えていた。
ふと、プライスは誰もいないはずのこの住宅街で、子供の声を耳にした。そういえば途中、ブランコや滑り台などがあったように思う。
幻聴なのは分かっていた。だが、もし原発で事故が起きなければ、ここは廃墟ではなく、今でも人間が生活していたであろう、そういう場所なのだ。そういう都市なのだ、このチェル
ノブイリと言う街は。
「これを見ろ……この住宅街には五万人が暮らしていたそうだ。それが今やゴーストタウン……こんなのは初めて見た」
失われた人々の営み、その名残。きっと、人類が滅亡すれば地球上はみんなこんな様子になるはずだ。
目的地は、廃墟となったホテルの最上階だった。エレベーターは電源が死んでいるので機能せず、階段を使って彼らは最上階を目指すことになる。
「発砲に注意しろ、ここで情報提供者と会うんだ」
階段を上る途中、マクミランがプライスに確認するように言った。
今回の作戦は、イギリス政府が独自で掴んだ情報を元に立案されたものではなかった。素性の分からない別の組織に属すると思われる人間が、匿名で政府に情報を送ってきたのだ。
もちろん、それだけではSASは動かなかっただろう。諜報機関のMi-6が裏を取らなければ、彼らはここにおらず、イギリス本国で訓練と酒の日々を送っているはずだ。
最上階に足を踏み入れた時、マクミランは何者かの気配に気付き、M21を構える。
「――あんたらだな? こっちの"世界"の、特殊部隊と言うのは」
「!」
じゃり、とコンクリートの破片を踏みつけながら、恰幅のいい、しかし愚鈍さは一切感じられない男が姿を現す。
マクミランはM21の銃口を男に向けたが、男はそれに対し、手を広げて敵意は無いことを証明する。
「あんたが、情報提供者か?」
M21の銃口を下ろし、マクミランが問う。男は頷き、懐から一本の葉巻を取り出し、口に咥えた。
葉巻に火をつけて、美味そうに一服。見つかれば一環の終わりのこの状況下でこの落ち着き払った行動、男は相当大胆なようだ。
「大尉、誰なんです」
もっとも、プライスにとってこの男の行動は気に入らなかった。自分たちは敵の真っ只中を潜り抜けてきたと言うのに、労いの言葉の一つも無い。
プライスの苛立ちが混じった質問に答えたのはマクミランではなく、葉巻を吸う男の方だった。
「私か? 私は――レジアス・ゲイズだ。所属は、君らに言っても信用してもらえないだろうからな、言わないでおこう」
ふぅ、と煙を吐き出し、男――この当時、管理局の優秀な、しかし魔力素質を持たない一人の諜報員でしかなかったレジアスは、不敵に笑って見せた。
ジャクソン、パン買って来い! 支援!!
ってな訳で投下終了です。
COD4のステージの中でも傑作と名高い、チェルノブイリのステージでした。過去
のお話なので、これを0話に持ってきたのです。
これからぼちぼちCOD4のクロスを進めて行きたいと思いますので、よろしければ
読んでください。
追伸
>>86 なんでなのはもイジェクトしてるんだwww
動画は禁止だと何度言えば分かるんだ
この次のステージ、ほんっと初見殺しだよなぁ・・・
∩
( ⌒) ∩_ _ 投下します
/,. ノ i .,,E)
/ /" / /"
_n投下します / / ハ,,ハ ,/ ノ'
( l ハ,,ハ / / ゚ω゚ )/ /ハ,,ハ 投下します
\ \ ( ゚ω゚ )( / ( ゚ω゚ ) n
ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ |  ̄ \ ( E)
/ / \ ヽ フ / ヽ ヽ_//
22:00くらいから予約します。
DODクロス最新回です。
>>99 アンへルー! 俺ダー!! 契約してくれー!!
支援
>>100 「カイム以外却下」と赤き竜が申しております
投下を開始します。19kbの7分割です。
傷の治りを試す、とカイムは『声』で言った。
何故凍傷が忽然と消え、焼かれた痕のみが残っているのか、手掛かりを探したいと告げていた。
それ故カイムは、キャロが届けた薬に全く手を付けていなかった。無理矢理返してしまったが、
気付かれてはいないだろうとドラゴンは思っている。心配そうにしていたものの、治療それ自体を
していることは信じきっているように見えた。事実を知った時の反応が予想できているだけあり、
このまま隠し通せればそれに越したことはない。
だが朝が過ぎ昼が去り夕が行き、辺りに黄昏が滲み出してからも腕に異変は見られなかった。
他者の魔導と己のそれでは肉体に与えるものが異なるのか。はたまた受け止める肉体そのものの
問題なのか……恐らく後者だと竜は考えている。彼の親友の剣が放った氷雪は少なくとも、全身を
凍てつかせるだけの威力を秘めていた。
それだけの大魔法の痕跡が、これ程の短期間で消え失せる筈はない。かねてから保持していた魔
法への高い抵抗力の他に、己のものでない魔力、それに付随する事象を退ける何かが、彼の身に起
こっているのだろう。
そのカイムは竜に寄り添い、先程から眠りに就いている。
昨日逆上から森を焼いたはいいが、彼はあまり広域に炎を放った経験がない。体に慣れない魔法
の行使はさしものカイムとて一定の負荷がかかったらしく、朝キャロが来た時以外の、全ての時間
を休息にあてていた。精神の磨耗に肉体の疲労が重なっていたのか。覚醒していた時に受信した思
念からは混濁の色が薄れていたがしかし、霧がかかったように希薄なそれであった。
しかし彼の閉ざされた口の中で生まれる恐怖を孕んだ喘ぎを、竜は確りと聞き取っていた。
本人に確かめれば否定するかもしれない。しかし男の身に起きた不可思議な変化は、確実に彼の
心に一筋の暗い影を落としていた。如何なる敵を前にしても絶望こそすれ、毛ほどの恐れをも抱か
なかった戦鬼が、己の中に巣食う型の無い何者かに慄いていた。今、目の前で静かに寝息を立てて
いるこの男は、それを自覚しているのだろうか。
――何れにせよ、儘ならぬものだ。人間の心とは。
ふたつ続けて、男を起こさぬ程度に深い息をした。
狂戦士、巨人、そして飛竜や歯の生えた鬼子……次々と迫り来る敵はついにカイムの生命こそ奪
えなかったが、人間が当たり前に持つ脆い部分を、彼から根こそぎ奪い取ってしまったのだろう。
鍛え上げた混じり物の無い鋼ほど、折れやすいものもないというのに。苦痛は訴えればいい。恐
ろしいなら寄り添えば良いものを――かつて人智を超えた敵を前に、恐れ戦いた己のように。
赤い空の下で戦ったあの時よりかは、彼の精神が安定しているのは確かだ。
己が常に傍らにいたという事実が、そこに与えた影響も小さくは無かろう。ドラゴンはそう自負
していたし、それは彼女にとって、ある種喜びでもあった。
しかし結局のところ、自分はやはり、どう足掻こうと人間ではないのだ。人の本質を理解してい
ても、人間と同じように彼に接してやることはできない。竜として、人として認め合う彼らにとっ
て、それは禁忌でもあるのだから。
己だけでは、この者の心に安寧はくれてやれぬ。他の何者かが、人間が必要だ。竜はそう悟って
いた。そうして思い浮かぶのは、あの魔導師たちの顔。
だが果たして、混沌の世界を知らぬあの者たちに、カイムが心を開くことはあるのか?
と、その時であった。
ドラゴンが気付いて、空に向けて首をもたげる。傍らのカイムも察知したのか、眠りから覚めて
半覚醒の状態にある。
仄暗い黄金色の上空から、何かが近づいてくる。
恐るべき速さで。
竜は首を傾げた。これ程の速度、己の翼にも迫るほどの勢いがあるにも関わらず、害悪を為さん
とする気配が無い。
何よりこれが敵なら、追う魔導師たちが居ないのは妙だ。
と、そこまで考えて、竜はその答えの全てを悟った。気配の持ち主から放たれた思念の波が、今
ドラゴンの目の前に居る男の名を、叫ぶように呼んだからである。
声の感触から該当する者を割り出して、ドラゴンはしゅう、と溜め息を吐いた。
本当に、幼い割には聡い娘だ。
新作も出るらしいな支援
果たして竜が思った通りフリードリヒの背に乗ってきたキャロは、しかし予想に反して妙に目が
据わっていた。
翼を解放されたフリードリヒの、荒く息を吐き出す首を撫でている。しかしそれもそこそこに、
白竜に再び封印を施すと、ドラゴンとカイムを正面に見つめる。
右手に例の銀色の薬入れを持ち、左にバリアジャケットの裾を握りしめ、真っ直ぐに歩いてきた。
「これ」
珍しく憮然としたような、それでいて悲しそうな声で言い、手にあるケースの蓋を開けるのだ。
「見てください」
「どうした」
「全然、減ってません」
「ああ」
御座なりに返事をする竜はそれで、少女がどうして現状に気付いたのか理解した。
わざと中身を減らしておくというような、そういった小細工を施してはいなかった。本来それを
するべきカイムは……どうせ忘れていたのであろう。対人関係に策を弄する男でないのは分かって
いた。或いは単に忘れていたのかもしれないが。何れにせよ、そういったことに気を回さないこと
は確かだ。
「……どうしてですか」
と、ドラゴンではなくカイムを見て言う。
普段の少女らしくもなく、というより彼女から初めて向けられる、射抜くような視線。男の気配
が僅かに揺れるのが、竜の脳の裡を過った。
「『必要』だ、と。傷について確かめたい事があったそうだ」
ドラゴンが代弁して言うや否や。
キャロはさっと蒼白になって、カイムの包帯の巻かれた腕の、衣の裾を小さな手に握りしめた。
ばさっと肩に向けて捲り、慌てながら白い包帯を巻き取っていく。一連の作業に対してカイムは
抵抗を示さなかった。示すことができなかったという方が正しいか。
やがて現れた、火傷を負った赤い皮膚の存在に、はっきりそれと分かる安堵の息を吐く。
「…………い」
そうして、呟くように言うのである。
あまりに小さい声だった故に聞き取れず、竜と男が動けないままでいると、
「来てくださいっ」
と俯いたまま言ってカイムの、怪我を免れた手のひらを握って引っ張り、元来た道を逆方向に歩き
はじめた。
相手が相手であり、しかも彼女らしからぬ強引さがある。何より目が据わっている。
それが伝わってきただけに振り払うことも抵抗することもせず、カイムは引かれるままに後を歩
きはじめた。さすがに空気を読んだといったところか、困惑故に動けなかったという点もあるのか。
取り残されたドラゴンが言う。
「……頑な娘だな。存外にも」
「きゅる?」
フリードリヒの返答はやや間の抜けたものだった。
――あの場所からカイムの手を引いて歩き、森を抜け隊舎前に到着する頃には、黄昏を飲み込み
闇が辺りに滲み出ていた。
そのまま彼を強引に連れて、屋上へと続く階段を上る。途中でエリオがぎょっとした表情でキャ
ロとキャロに連れられるカイムを見ていた。しかし何もアクションを見せなかったところからする
と、なす術なしというのが彼の気持ちだったのだろう。キャロは気づいていなかったがカイムはそ
れを見ていて、しかしちらと眼をやりつつも何もできなかった。
手が眼下に森も海も見渡せて、フリードリヒを遊ばせてあげられる屋上は、隊舎内でキャロが好
きな場所だった。ベンチもあって寛げるうえ、何より時折吹く風が心地よい。
置き去りにした赤き竜はやはりキャロたちに追い付き追い越して、空気を読んだのか近寄り難い
のかやや距離を置いている。フリードリヒはキャロの肩の上だ。こちらは離れる気はないらしい。
どういう訳かカイムは素直に従って移動していたが、その真意はキャロの知るところではない。
彼の考えがどうこう、というのがキャロの頭になかった……といった方が正しいかもしれない。
彼女にとって傷とは治すもの以外の何物でもないのだ。
鳥獣使役の訓練の際、膿んだ傷口は何度も見てきた。その悲惨さは熟知している。
「上着、脱いでください」
カイムをベンチに座らせて、自分は例の軟膏の入ったケースを開けながら言い放つ。
極僅かではあるものの、たじろぐような気配がした。内容についてでなく、少女らしからぬ態度
そのものに対してなのだが、そんなことは今の彼女には知ったこっちゃない。
「早くしてください!」
早く治療しなければ、という焦燥に駆られて言う。応じて、ようやく彼は己の衣服に手をかけた。
いつも身に纏っている外套の紐の結び目を解き、上着に手をのばす。
赤い空を共に駆けた鋼の胸当てが無いため割合と簡単だが、銀の帷子などは常に着込んでいるた
め少々時間がかかる。その間にキャロはカイムの傍らに巻いた包帯を、持参していたガーゼを置き、
右の指に半透明の膏薬をすくい取る。
果たして目の前に現れた上半身、その肌は、やはり表面に幾つかの傷跡をに走らせていた。
腕の火傷の下だけでも、明らかに切ったそれとわかる痕が見える範囲に三つはある。うち大きめ
の二つには、左右に色違いの肌が点を打っている……縫った痕だ。引き締まった筋肉の鎧の上には
他にも、かつて皮が削げていたであろう部分や矢が貫通した痕跡がそこここにあった。
しかしキャロは眉ひとつ動かさず、声すら上げずに彼の手を取った。
そこに、離れて立つドラゴンの肉声が届く。
「驚かぬのだな」
驚きませんとも。
傷なんて自分も訓練中に作ったことはあるし、故郷を追い出され旅をする中で幾度となく付けた。
血まみれの動物だって何度も見たことがある。
だから今さら傷だらけの人間の体を見たところで、何ら驚いたり怖がったりすることはなかった。
戦う内に傷が出来るのは至極当然のことだし、ドラゴンと心臓を交換したという過去もある。激し
い戦闘の中に身を置いていたことも聞いていた。
何もかも、以前からもう察しがついていたことだ。そんなことくらいで叫ばないし泣かない。
「怯えるかと思ったが」
「古傷くらいで驚きません。安っぽいドラマや映画じゃないんですから」
……言うようになったな。
という竜の科白を聞きながら、キャロは薬を取った指を、まずは彼の左腕に近付けて告げる。
「沁みます」
腕の表面に大きく乗せ、後から薄く塗り拡げていった。
言った通りやはり少々沁みたらしく、指が肌に触れた瞬間はぴくりと動く。しかしその後は大人
しくされるがままで、両腕を少女の手に委ねていた。
狂気と狂気と狂気と支援
赤き竜は言葉には出さず、心の中にわずかな驚きを持ってその光景を見詰めた。
ドラゴン自身は例外として、容易く他者に身を委ねるような男ではなかったはずだ。
竜とて契約を交わした直後は、カイムは内心に絶対の壁を打ち立て拒絶の意志を隠さなかった。
ドラゴンに打ち解け信を交えるようになった後でも、彼のそのような人間としての性質はさして変
わっているとは思えない。
相手が幼い少女とはいえ出会って間もない相手に、されるがまま治療を任せるような男であった
だろうか。この少女の健気さに、彼の心を揺り動かす何かがあったのか。それとも、
(お主、それほどにまで弱っているのか……?)
つらつらと答えの出ぬ問いを竜が心の中で繰り返している間にも、治療は着々として進んでいる。
左腕にはもう既にまんべんなく薬が塗布されており、キャロが手に取っている右の腕も残る部分
は僅かしかなかった。
その地肌にも細い指が薬を擦りこんで広げ、終わると少女は傍らにあったガーゼを、薬の付いて
いない左手で持ち上げた。幾つかを用いてかなり広めの患部の全てにあてがい、上から包帯を巻い
ていく。
それまでの間、つまりは治療行為が続いている時間、彼らは全くの無言であった。
キャロは治療に集中していて、カイムはその様を、やや虚ろないつもの目で見つめていて。
「ふう」
と、包帯を巻き終えたキャロは一つ深い息を吐いた。
これでようやく安心、きちんと処置は行った。あとは経過を見てシャマル先生の診療を受ければ
大丈夫だと思う。自分の気持ちも少し落ち着いたような気がする。
落ち着くと初めて、周りがよく見えてきた。
薬入れから全く中身が減っていないと分かった瞬間、弾かれたようにフリードリヒの背に乗って
から、もう結構時間が経っているらしいと暗がりの空を見て知る。今の治療にもある程度の手間が
かかった。
時計を見るともう夕方というより夜だ。太陽は既に沈んでいて、深い藍色の闇が天空の果てまで
続いていた。時たまこの場所を訪れるとき、髪を優しく揺らす風も今はない。温度を失いはじめた
空気が、ただ静かにたゆたっているばかりであった。
「……あ」
そうまで考えて漸く、キャロは平静の己を思い出し、今までの行いを省みて不意に声を出した。
あまつさえ手に手を取ってずんずかと森を行進し、今まで一度も使ったことのない激しい語気で
彼に言葉をかけ指示を出し――普通の人のレベルから言えばまだ可愛らしいものだが、彼女にとっ
ては十分「荒々しい」の範囲だった――無理矢理と言っていい強引さで接してしまった事実。
傷の放置を知って居ても立ってもいられなかったとはいえ、普段からして控え目な少女にとって
あまりにもあまりだ。
別に悪いことをしてしまった訳ではないのだし、心配からきた振る舞いなのだから恥でも何でも
ないと言える。だが少女はそうは受け取れなかった。焦りに焦っていた先ほどまでとは異なる理由
から、顔を青くしたり赤くしたりの変化をさせて、
「ご……ごめんなさい、そ、その……」
と、虫けらのような声で言って俯く。今にも消え入りそうな声とは巧く喩えたもので、鋭敏な竜と
竜騎士の聴覚を持ってやっと聞こえる程度のか細い肉声であった。
そうしてその後はもう、キャロは声を出すことすらままならなかった。当然の事であるがカイム
は口を利けない。赤白二頭のドラゴンも口を開くことはなく、キャロは気まずい沈黙の中を耐える
ことになった。
キャロにとっては辛い。
何が辛いって、カイムとドラゴンの視線が真っ直ぐ自分に集中しているのがわかるのだ。どう思
われているのだろうと考えると後ろ向きな考えしか浮かばない。
加えてこの完全なる静謐。無音の空間。キャロにとっては正に、永遠にも思える時間であった。
今すぐにでも逃げ出してしまいたい気分だった。
もう一度謝って、逃げてしまおうか――
と考えた、その時だった。
キャロの脳裡に、ひどく乱れた音声が流れた。
キャロは小さなそれをはじめ、正しく空気を伝わったものだと思った。繰り返すようだが場所は
屋上、閉鎖された空間ではない。何か音があっても不思議ではなかった。
しかし、そうでないと気付くまでは早かった。今この場には二頭の竜と一人の男、そして自分の
他に何者も居らず、誰も彼も身じろぎひとつしていないのだ。しかも屋上には、今は風ひとつなか
った。音など生まれるはずはない。
そんなことを考えている間にも、頭の中の雑音は様々に変化をしていた。
テレビの砂嵐の不快音、雑踏にいるような混雑した音――今までキャロが経験したどれとも違う
その奥に、高低の幅がある何かが在る。まるで何かを隠しているようだとキャロは感じた。そして
それは正しかった。
視線を上に戻して、彼女は知る。
俯いて目を閉じたカイムの姿に、全てを悟った。
雑音の主は彼だった。
「無駄だ」
目を見開き、半ば呆然とするキャロの後方から、しわがれた竜の声が届いた。
相変わらずの、よく通る声だった。
「お主が我に捧げたのは、肉声のみではない……」
言葉の後に続いた間には、如何ばかりの思いが込められているのか。
引き続いて、告げる。竜以外に対して直接意思を伝える、全ての通信手段であると。声帯を震わ
せるそれだけではない。精神そのものに語りかける思念も、その例外には漏れていない。
そうか。
ドラゴンは今ようやく、一つの謎が解けた気がした。積年の……とまで行かずとも、長い間竜の
心の中にわだかまっていた疑問である。
何故にこの男は、契約の代償に「声」を失ったのか。
その者の最も大切なものを奪われる「契約」において、声という代償は軽すぎるのだ。かつての
旅の仲間の契約の代償――世界を写し愛するものを愛でる「視力」、歪んだ心を育てる「時間」、
失った子を再び成す「子宮」といったものと比べれば。
イウヴァルトの失った「歌」もカイムの「声」と似たようなものだが、あれには一応それとわか
る理由がある。許嫁であるフリアエの向ける愛と絆、卓越した剣の技能、魔術の扱い。親友カイム
に対してあらゆる面でコンプレックスを抱いていた彼にとって唯一、歌のみがこの男に勝る一点で
あったのだろう。
この件について、カイムの見解は得られていない。しかしそれが真相なのだろうと、赤き竜は想
像し決着させていた。それゆえカイムにも何らかの、「声」を喪失するに値する何らかの理由があ
るはずだ。竜はそれを疑問として、ずっと胸に抱いてきたのだ。その謎に今漸く、ひとつの結論
が導かれた。
カイムはひとりぼっちだった。
愛する両親を唐突に奪われ、守るべき国を亡ぼされた。たったひとり残された大切な妹でさえ、
程無くして「女神の責務」を全うすべく連れ去られてしまった。
奪われ続けたその果てに、彼の前にはもう誰もいなかった。何もかもが手のひらから零れ落ち、
やがて訪れた理不尽な孤独の中で、どれほど深い絶望が彼の心を苛んだのだろう。
事実竜と出会った時、彼は既に精神に致命的な欠陥を来していた。復讐の名の下に血を啜り肉を
浴び続けた結果、殺人が好きで好きで仕方のない文字通りの狂戦士に成り果てていた。心の奥底に
巣食う憎しみを、最後の生きる拠り所にしていくしかなかったのだろう。たとえそれが、己の身ま
で焼き尽くす灼熱の業火であったのだとしても。
断ち切られるのだ。他者との繋がりが。
他の人間と結ばれる絆は、そうして焼け爛れた心を癒す唯一の手段なのだろう。孤独が歪めた人
格は竜とのそれよりも、やはり人間との繋がりに依ってしか購えないのだと竜は思う。
「声」の喪失はすなわち、人間との絆を喪うことだった。
契約の代償は確かに、彼の大切なものだった。彼の心を治す、数少ない希望であったのだ。
たった今投げた思念の波に、カイムはきっとそれを求めたのだろうと竜は思った。己に対して
優しさと健気さを持って接した、たったひとりの少女の中に。
しかしそんな竜の推察までは、キャロの考えは届かなかった。
ドラゴンと同じことを感じ、同じことを考えることは、少女には出来なかった。彼の過去のおお
よそは聞いていたが、その精神の源流に至るまでは知らなかったから。
その代わり彼女の頭に浮かぶのは、全く別の疑問であった。
この人は今、自分に何を言おうとしたのだろう?
……残念ながらキャロは、一連の戦い全てに決着がついた後もなお、その答えを知ることが出来
ていない。ドラゴンは結局何も教えてくれなかったし、カイムがそれを語る口は永遠に閉ざされた
ままなのだから。
わからないがしかし、この人が初めて自分から意志を伝えようとしてくれたのは確かで。
その試みがどうしようもない理由から、失敗に終わったということだけは理解できた。
答えの出ない疑問が渦を巻き、混乱した頭脳は多くを思慮することができなくなっていく。
錯綜した思考は混乱の果てに、たったひとつの事実へと収束した。
ああ、この人は本当に、もう二度と――。
ひゅう、と風が吹きつけて、キャロがいつも身に着けているバリアジャケットの、大きな帽子を
虚空へと浚った。
それが飛んで行ってしまう前に口に銜えて捕まえ、フリードリヒは空を見上げて気づく。気温が
下がってきたような気配がしていた。治療している間にかなり時間が経っていたらしく、見上げた
天空には藍色の闇がどこまでも続いている。
夜は舎内で休息を取るものだと知っているフリードリヒは、主にそれを伝えようと、止まり木に
している彼女の肩からその顔を覗き込んだ。そしてその目で見る。
キャロはカイムの顔を見たまま、小さなその唇を震わせてひたすらに涙をこらえていた。
口許に手を当てて、あふれ出る何かを抑えていた。
――この人はもう、二度と喋ることができないんだ。
そう思うとなぜか目の奥が激しく熱を帯びたのだ。
嗚咽がこぼれ出てくるまで、それほど時間は必要ではなかった。
「……っ」
仲が良かったわけではない。
ただ少しの間、傍にいただけだった。
今の今まで、こうしてまともに身体に触れる機会すらなかったのに。
なのにどうしてか、なみだがぽろぽろとこぼれた。
「何故おぬしが泣くのだ」
不思議さや呆れや、慈しみや慰めや後悔といった、筆舌に尽くしがたい感情を込めて竜が言う。
だがもう、頭の中はぐちゃぐちゃだ。己の心の機微を感じ取るだけの余裕は、今の彼女にはもう
有りはしなかった。
でもきっと単純なことなんだろうと、何とか残った頭で理解はした。
ただここに在る現実が、目の前の事実が悲しかった。
「……ひっ……ひ……」
だって。だってこの人は、もう二度と口を利けないのだ。
……たったそれだけの真実が、キャロにとっては何故かひどく泣けた。
こんなことがあっていいのか。
こんな酷い話があっていいのか。
「何を泣くことがある? 何もかもを無くしたのは、おぬしとて似たようなものであろうに」
「うぅ……うぇ…………ぇぇっ」
そのうちどうして今自分が泣いているのか、だんだんキャロ自身にもよく分からなくなってきた。
涙を流すうちにその理由を見失い、ただ泣きたいから泣くようになるのだ。人間の涙とはそのよう
に不可解なものでもある。
カイムが喋れないという事実そのものに涙していたのに、いつの間にか彼の全てに対して泣きた
くなった。今まで故郷も家族も友達も、何もかも無くしてきたはずなのに。これ以上にこの人は、
また何かを奪われてしまったのだ。
それにドラゴンに言われたら言われたで、自分の境遇までもがどうしようもなく悲しいものに思
えてきた。後から思えばこの時、今まで溜め込んでいたものが一気に表に出てきていたのかもしれ
ないが、そんなことはまだわからない。
何だかもう世界の全てが悲しくなってきて、訳も分からずぼろぼろと涙が落ちてきた。
「……」
いつの間にか頭の中の雑音は消え失せていて、感情の乏しいカイムの瞳が僅かに疑問の色を宿し
て自分を見ていた。
自分に原因があると理解はしているが、何故少女が泣いているのか心底分かりかねている。そう
いった目を彼はしていた。己の為に涙を流してくれる存在は、彼が失って久しいものだったから。
しかしその瞳の中の輝きに、心を病んだ彼の持つ空虚な光を見て取って、少女の中で何かが弾けた。
鎖が跡形もなく爆ぜ飛んで、止めていたものが堰を切って流れ出す。
それまでキャロはぽろぽろと静かに涙を零していたのだが、その瞬間唐突に大声を上げて、びえ
びえわんわんと泣きはじめてしまった。
泣きじゃくる彼女を為す術もなく見守るカイムは端から見れば無表情そのものだが、思念により
その内心を知るドラゴンからすると、この時カイムは彼らしくもなく狼狽しきっていたという。
キャロが故郷を追われた時も、辛い旅でもその一滴さえ流すことがなかった涙。それは己の不遇を
嘆くものでも、緊張の糸を切る安堵によるものでもなく、純粋な悲しみによるものだった。
しかしそれを知る術は、今のカイムにありはしなかった。
そして戸惑いながら、彼は腕を上げた。
風にさらされる髪の上に手をおろし、少女の頭の表面を、ゆっくりと滑らせる。
そうして静かに、少女の髪を撫でやった。全てを取りこぼし、何も残っていないその手のひらで。
絶望の広がる紅い世界、「敵」の許へ舞い上がる空でかつて、恐怖に怯える竜にしたように。
おしまいです。次で六章が終わる予定。
ではまた。
乙!
GJ
そして泣いてるキャロを見たフェイトが勘違いしてカイムに襲い掛かるんですね
GJ!キャロとの関係はこれからどうなってしまうんだ!?
GJ!
キャロとの関係が気になるぜ!
そして、何故かこんな姿を見た。
いつか呼び出されるヴォルテールが雌で、カイムがなつかれてしまうという姿を!
予想した!
>>113です
申し訳ありませんでした。半年ほどROMのみにします
>117
殺戮王子の目に、アンヘルたん以外が映ると思うなよ?
むしろヴォルテールがアンヘルたんに惚れるのですね、解ります
アンヘル×ヴォルテールなのか、ヴォルテール×アンヘルなのか悩み所。
801板の猛者ならストーリー仕立てて解説してくれそうだが・・・。
>>95 GJ!!です。
狙撃とギリースーツの恐ろしさが、よく分かりましたw
レジアスとどんなやり取りをするのだろう?次回が楽しみです。
>>111 GJ!!です。
王子が困惑w
キャロも多感な時期だからなぁ、泣き止むのを待ってあげることぐらいしか出来ないぜ。
カップリングじゃなくてもアンヘルトヴォルテールの組み合わせは見てみたい。
偉大な竜同士のコンビとか最高じゃね?立場も似てるわけだし。
アンヘル「ほう、異郷の竜も中々やりおるな」
ヴォルテール「ギャオー」
アンヘルを姉御呼ばわりするヴォルテールが浮かんだ
まってたよ!DOD氏!
これでやっと服が着れます
……嘘だけど
全裸待機したのは嘘じゃないといいな
次回も楽しみにしてますぜ!
128 :
一尉:2008/12/08(月) 16:19:47 ID:AwRdCzk0
もちろん支援たよ。
ええと、空いてるかな?
空いてたら、9時45分頃から、読み切り短編を投下しようと思います。
初投稿、というか、SS書くの自体が2年ぶりくらいのリハビリ作のようなものなので、
おかしな点はむしろ指摘してもらえると助かります。
クロス先は、藤田和日郎大先生の名作です。
しえーん
からぶりサーカスか。
それでは時間なので投下します。
クロス先は、藤田先生の短期連載「邪眼が月輪に飛ぶ」です。
注:キャラが死にます。
死ぬシーンを描写したりはしませんが、大量に死にます。
駄目な方は、回避をお願いします。
ちょww大量殺りく梟ww
『むかし、むかし……」
美術史家エルンスト・ゴンブリッジが書いたように、全ての物語は「むかし、むかし」で幕を開ける。
故に、今から語られる物語もまた、「むかし、むかし」で幕を開けるのさ。
むかし、むかし、次元世界の中心地、ミッドチルダは首都クラナガンで、空に穴が開いたことがあった。
前触れもなにもなく、周囲の者が気がついた時には、虚空に黒い小さな穴が開いておった。
その穴は風やら稲妻やら巻き起こして、周囲はあっという間に混乱したそうじゃ。
そんな時、風や光とともに、穴の中からミッドチルダに飛び込んできたものがあった。
小さく、素早くて、その時にはだれも気づかんかったが、ソレは確かにやってきおった。
ソレは、一匹のフクロウだったそうな。
なんでソレがミッドチルダにやってきたのか、それは誰にも分からん。
たまたま次元断層に巻き込まれた漂流者だったのか、誰かが意図的に送り込んだもんだったのかも、全く分からん。
ただ、そのフクロウは一つのルールを持っておった。
そのルールによって、ミッドチルダは恐怖のどん底に落とされたのじゃ。
どんなルールかって?
簡単じゃよ。簡単で単純で、抗いようもないルールじゃ。
そのルールというのは――
―――――即ち【見られると、死ぬ】
それが起こった時、事態を正確に理解した者はおそらく居なかったであろう。
突如として虚空に開いた穴、それを見物にきた野次馬の一人が唐突に――死んだ。
口から、耳から、鼻から、目から。
全身の穴から鮮血を噴き出して、虚空でもがく様にして、死んだ。
死者が噴き出した血を浴びる羽目になった周囲の者たちは、しかしパニックに陥ることもなかった。
次の瞬間には、周囲にいた全員が、等しく血を噴き上げて死んでいたからだ。
死んで、死んで、死んで、死んだ。
その時外を出歩いていた者は、人も動物も区別なく、ことごとく死に絶えた。
建物の中にいて第一の災禍から免れた者も、異常を察し、それを確認しようと外を覗きこんだ瞬間、死んだ。
車の、列車の、飛行機の、様々な乗り物を運転していた者も息絶え、制御を失ったそれらはあちこちに激突し、さらに多くの死をまき散らした。
何が起こっているのか、理解できるものなどいなかった。
理解できないことが、益々の恐慌を招いた。
人々は恐怖に耐えきれず、事態の説明を求めてわけも分からず外へと飛び出し、そして死んだ。
虚空に穴が開き、フクロウが飛び込んできてから3日後。
その街は、完全な廃墟と化していた。
道路には積み重なるように死体が倒れ、制御を失った車が突っ込んだ店舗では火災の名残り火がチロチロと空気を舐めている。
物音一つしない、死んだ街。
その中に二つだけ、生きたモノが立てる音があった。
一つは、その翼の構造から低く抑えられた、鳥の羽音。
もう一つは、何かに呼びかけるように響く、甲高いフクロウの鳴き声だった。
クラナガン一区画が、生存者一人残さずに壊滅。
そんなことになって、平和の管理者だと名乗っている時空管理局が黙っているはずもなかった。
何度も何度も調査隊を派遣して、ようやっと、その破滅の原因が、一匹のフクロウじゃということに気がついたんじゃ。
派遣された調査隊、その全員の死と引き換えにの。
数千、数万の人間が死に、街一つが枯れ果てた。
その原因がただ一匹の鳥だということを知った時の時空管理局の狼狽は、そりゃあ見るに堪えんもんじゃった。
上に下にの大騒ぎ。こんな時まで、下らん利権争いをする連中というのは絶えんもんでな。
ようやっと決まった方針は、前例の無い生物に対するSオーバー級ロストギア指定。
殲滅指定じゃった。
中には生かしたまま捕獲して、そのルールの仕組みを解析したい、ゆうもんもおったそうな。
解析して理解できたら、兵器か何かに転用する気だったのかもしれん。
だが結局、生かしてとらえるなんぞ考えんと、即座に始末するべきじゃという意見が通った。
アレが生きておっては、人はその地で生きてゆかれん、ということじゃな。
人間が手ぇ出すべき力じゃないと、それが分かったのかもしれんわ。
そうして、対策班が作られた。
何せ相手はフクロウだからの。
管理局がこれまで相手しとったのは、人間の犯罪者やら、大昔の遺産やらで、フクロウじゃあない。
しかも、フクロウはフクロウでも、街一つ殺し尽くすフクロウじゃ。
どうやって対処したらいいか、管理局はそりゃあ困った。
そして結局は、総力を上げて戦力を集中させて、一気に片を付ける、という方法を取ったわけだ。
兵隊を片端から集めての、装備やらなんやらも揃えての。
或いは、世界にはまだこんな脅威があるのだと、そう教えたかったのかもしれん。
なんにせよ、時空管理局の持っとる人間やら戦力やらが勢ぞろいしたわけじゃ。
そう、あのエースオブエースや金の閃光、夜天の主もそこにおった。
そして、対策会議じゃな。
まずは目標を確認しようと、遠隔視の魔法が、死に絶えた街にかけられた。
全員がモニターやテレパシーで、死んだ街を見た。
積み重なった死体を見た。
壊れた建物を見た。
そして、その空を飛ぶ、一匹のフクロウを見た。
――或いは、フクロウに見られた、というべきなのかもしれんの。
それで、終わりじゃった。
ジュピロ支援
見られると死ぬ。
ようやく理解されたその単純明快で絶対のルールは、ミッドチルダ全土に一瞬にして浸透した。
管理局局員の8割、およびクラナガン住民の5割の死という対価のもとに。
そのルールに例外はなく、モニター越しでも、魔法による映像投影でも、その視線にさらされた者は、ことごとく死んだ。
もはや、ミッドチルダの住人にとって、空を見上げるということは恐怖の対象でしかなかった。
なるべく外には出ず、窓からも離れて家の中で暮らす。
外を歩く時は視線を低くし、なるべく空の覗かない場所を縫うようにして走る。
そして、フクロウの時間である日没以後は、家の中でひたすら震え、朝まで恐怖に耐え続ける。
社会は麻痺し、組織は立ち行かず、クラナガンの都市機能は、完全に停滞していた。
混乱期に乗じて街を牛耳ろうとする犯罪組織、あるいは管理局の実権を握ろうとする権力者なども少なからずいたが、精力的な動きを見せるものは、その動きの過程でどこか
でフクロウの目に留まり、血を吐いて死に絶えた。
そして、フクロウはそのような地上の些事など気にも留めず、ただ空中を舞い続ける。
フクロウに悪意は無かった。
フクロウに敵意は無かった。
そのフクロウはただそういうルールともって生まれたという、それだけの存在であり、あくまでも一匹のフクロウでしかなかったのだ。
そのあり様に、ジェイル・スカリエッティという名の狂科学者は狂喜にも似た憧憬を抱き、混乱状態の管理局から抜け出すと、歓喜の表情を浮かべたまま、その身をフクロウ
の視線にさらした。
歓喜の表情のまま血を噴き上げ、死に絶える狂科学者。
それを、同じ視線によって殺された彼の娘たちがどう感じたかは誰にも分からない。
フクロウは宙を舞う。ただひたすらに宙を舞う。
虚空を切り裂く、甲高い鳴き声。
鳥の羽音に怯え、空から目をそらす日々に、人々の疲弊が極限に達しようかという時。
動いた者たちがいた。
モニター越しに見ちゃらめえぇぇ支援
それは、たった4人の人間じゃった。
たった4人で、時空管理局を壊滅させたフクロウを撃ち落とそうというのじゃ。
だが、何人おってもアレの視線の前には壁にもならんのだから、いっそ丁度良かったのかもしれんがの。
一人は、クロノ・ハラオウンというての。
若いのに、提督なんぞをやっとった奴じゃ。
フクロウがやってきた時はたまたま他の次元世界で任務中での、助かったらしいわ。
もう一人はシャリオ・フィノーニ、シャーリーとか呼ばれておっての。
こっちはまあ、メカニックだの。
対フクロウ戦用の装備やらなんやらを整備しとって、モニターを見とる余裕もなかったから助かったんだと。
ん? あと二人か?
あとの二人は、正にフクロウの視線が映し出されたモニターの正面におったわ。
正面にいながら、それぞれの理由で助かったんじゃ。
この4人、一人が指揮官で、一人がメカニックなら、残る二人は。
一人が狩人で、一人はまあ、そうさな、希望、といったところだな。
怖い目がきたあああああ支援
「……で、戦闘機の最大速度でフクロウ相手に一気に接近。
相手の軌道と直線状に重なったところで、戦闘機上から狙撃。
そのまま相手を撃ち落とす、と……」
バカだ、バカ作戦だ、と闇夜にそびえる戦闘機の機影を見上げながら、男が呟いた。
色濃いサングラスに覆われた顔は、感心と呆れのない交ぜになった表情を浮かべている。
と、そんな男に背後から近づく影があった。
「そんなにこの作戦に不安があるなら、降りてもいいんだぞ、ヴァイス陸曹」
クロノ・ハラオウンである。
若き青年提督はその身をフライトジャケットで包みながら、からかうようなな咎めるような、微妙な視線で男を見ている。
「降りる気はありませんよ、クロノ提督。
とりあえず今生き残ってる連中の中じゃ一番マシな腕を持ってるつもりですし。
それに、この役目を誰かに譲ろうって気は起きません」
「なら愚痴など漏らすな。士気が下がるだろう」
クロノの言葉に軽く返しながら、男――ヴァイス・グランセニックは肩を竦めた。
その目を隠す黒いサングラスによって視線は覗えないが、表情には苦笑の色がある。
この状況でもあくまで生真面目な自分より年下の提督の言葉が、どこかおかしかったらしい。
「はいはい、一先ずお話はそこまでにしておきましょう」
そこへ、クロノに続いて歩いてきたシャーリーが、ヴァイスに歩み寄った。
手のひら程のプレート――待機状態のストームレイダーを、ヴァイスに手渡す。
「言われた通りの改修は行いました。動作確認も入念に行ったので、誤作動の可能性は少ないはずです」
「お、サンキュー」
「……本当に、平気なんですか? 相当無茶なチューンだと思うんですけど」
手渡しながらも、シャーリーは不安そうな声を出す。
彼女がヴァイスから要請された改修は、とにかく他の機能一切をオミットしてでも、弾速を向上させる、というものだった。
結果、ストームレイダーはその弾速と貫通性ならば他の追随を許さないが、軌道操作も誘導も一切効かない、という魔法にあらざる特性を持ったデバイスと化している。
これで殺傷指定の弾を撃ち出すのだから、質量兵器のライフルとなんら変わらないだろう。
「構わねえさ。
知り合いのハンターに聞いた話じゃ、野生動物ってのはこっちの殺気に反応して、弾が来る前にその弾道から逃げちまうらしい。
こっちの狙った位置を事前に察知されるんじゃ、誘導も何も意味がないからな」
「とにかく、相手が反応する前に打ち込む、以外に処方がないわけだ」
やれやれ、とばかりにため息を吐くクロノ。
こんな無茶な作戦、本来なら彼の好むところではないのだろう。
「まあいい。
そろそろ作戦時間だ。最終ブリーフィングといこう」
「そうですね。
それじゃあ……ええと、ヴィヴィオ」
そこで、ヴァイスはクルリと振り返った。
その場に立っていた最後の一人、金髪の輝くオッドアイの少女に声をかけた。
自分に寄り添うようにして立つ少女の縋るような視線に、心が痛むのを感じながらも、口を開く。
「俺達はちょっと秘密の話があって向こう行ってるから。
シャーリーの姉ちゃんの言うこと聞いて、ちゃんと待っててくれな?」
彼女は高町ヴィヴィオ。
エースオブエース、高町なのはの娘。
モニター越しにフクロウの視線の猛威が吹き荒れた瞬間、本能的に危険を察知したなのはが身を呈して庇ったことによって生き残った、なのはの忘れ形見だった。
少女が素直にコクンと頷くのを見て、安心させるように微笑み、ヴァイスはクロノに続いて歩きだそうとする。
その背に、小さな声がかかった。
「お兄ちゃん……」
思わず、足が止まる。
お兄ちゃん。
その呼びかけは、ヴァイスにとって特別なものだった。
「ヴァイスのお兄ちゃん、帰ってくる?」
不安そうな問いかけ。
幼いながらも、自分が母を失ったことを理解しているのか。
これ以上何かを失いたくないという、それはそんな悲痛な問いかけだった。
「……大丈夫だ」
ヴァイスは答える。
例え実際の作戦の成功率がどれほどでも、ここで口ごもることは許されなかった。
「安心して、いい子にして待ってろよ」
振り返る。
そして、安心させるように、微笑んだ。
「良かったのか?」
と、そう尋ねたのは、クロノ・ハラオウンじゃったそうだ。
「何がですか?」
と、そう返したのはヴァイス・グランセニックじゃな。
男二人は、狭い戦闘機のコックピットの中におった。
その作戦では、クロノが戦闘機の操縦を、ヴァイスが狙撃を担当することになっとったからな。
「ヴィヴィオと、もっとちゃんと話しておかないで良かったのか?
これが最後になる可能性だって……」
「さっき自分で『士気が下がるようなことは言うな』とか言っておいて、いきなりテンション下がること言わんで下さいよ」
無駄話、というわけではなかった。
ようするに、無理やりにでも神経を緩めとったわけだな。
二人とも、必要以上の緊張が害にしかならんゆうことを知っとったからの。
「俺がなんか言わなきゃいけない、てことはないでしょうよ。
俺に父親役なんてできませんし、ましてや高町隊長の代わりなんてのは務まりません」
「そうとも思わないがな」
クロノは、戦闘機の計器を確認しとっての。
ヴァイスは展開したストームレイダーを抱えるように持っておっての。
互いに、緊張の糸を張りつめさせとった。
「それより、すみませんね、クロノ提督。
管理局始まって以来の若き天才提督に運転手やらせるなんざ、本来は言語道断なんでしょうけど……」
「それこそ下らないことを言うな。
管理局自体が、もはやガタガタな状態なんだ。今さら階級も何もないだろう。
それに、先刻君が言った言葉、あれは僕にも当てはまる」
「は? 何のことで?」
「この役目を誰かに譲ろうという気はない、ということだ」
その言葉に、どれほどの情念が篭っとったのか、想像もできんがの。
「妻を、母を、妹を、友人を。無数の部下や同僚を。
ことごとく奪った相手との、直接決着だ。
外から見ているだけなど、だれがそれで耐えられるか」
つまりは、そういうことなのさ。
「……報いをくれてやる」
どっかの死の線やらが見える魔眼も目じゃない凶悪っぷりww支援
「クロノ提督、ヴァイスさん、頑張って……」
飛び立った戦闘機の機影を見つめながら、シャーリーは祈りの言葉を呟いた。
同時に、自分の無力が嫌になる。
デバイスを改修し、戦闘機を使用可能なまでに整備し――しかし、自分が関われるのはそこまでだ。
何の力もない自分では、前線に立つことが出来ない。
こうして行うべきことを終えてしまったら、まだ戦いは終わっていないというのに、既に祈ることくらいしか許されない。
こんな時なのは達なら、自分から前線に飛び出し、もっと色々なことが出来るのに。
いっそ、彼女らの代わりに自分が死んでいたら――
「……ってダメダメっ!」
自分の思考が止め処なくネガティブな方向に沈んでいくのを自覚し、シャーリーは首を振ってそれを払った。
これでは、作戦が失敗したようではないか。縁起でもない。
クロノもヴァイスも、作戦を成功させて、無事に帰ってくる。
ならば、それを盛大に迎えてあげるのが、自分の仕事だ。
そもそも、今に限ったって、自分の仕事はこれで終わりではない。
二人から頼まれた、大事な仕事が残っている。
「さーて、ヴィヴィオちゃん。
それじゃ、お姉ちゃんと一緒に隊舎の中に……」
そうして、シャーリーが最後の仕事――ヴィヴィオを安全な建物の中に移動させようと、周囲を見回した時。
彼女はようやく、自分の周囲に、誰もいないことに気がついた。
あの綺麗なブロンドが、どこを見回しても、見当たらない。
「え? ヴィヴィオちゃん……?」
思わずポカンとして、二度三度と辺りを見回す。
闇に包まれた無人の飛行場に、シャーリー一人が取り残されていた。
飛び立った戦闘機の機内で、クロノはGに負けないよう怒鳴るように告げた。
「そろそろ上昇を始めるぞ!
相当なGが来る! 気絶するなよ!!」
「現役A級ヘリパイロットに向って何言ってんですか!!」
ヴァイスの返答を聞くと同時にハンドルを引き、機首を上げる。
急上昇。下方向へのGが、体をシートに押し付ける。
「ハッハァ! お月さんに向かって飛べぇってな!!」
後部座席で、ヴァイスが興奮したように叫んだ。
全方位へ広大な視野を誇るフクロウ、その飛行中の唯一の死角が、上である。
フクロウの頭上を獲った上で一気に急降下し、なるべく至近距離からその身を撃ち抜く。
それが、今回の作戦の全容だった。
ヴァイスの言葉通り中天に達した月めがけて一直線に飛び、十分な高度を取ったところで水平軌道に戻る。
急造されたレーダー――シャーリー謹製の、フクロウの羽音の周波数のみを拾い上げるパッシブ・ソナーによって、宙を舞うフクロウの、更に直上へ達したことを確認する。
「さて……それじゃあ、準備はいいか?」
「よっしゃ、行けるか、相棒?」
「OK.No Problem,Master」
起動状態に戻したストームレイダー――自分の唯一無二の相棒に声をかければ、力強い返事が返ってくる。
シャーリーの整備は、やはり適切かつ綿密だったらしい。
自分の体の延長のように馴染む銃身を抱えながら、ヴァイスは声を上げた。
「うっし、いつでもいいぜ! クロノ提督!」
「ならば、行くぞ!!」
クロノが、ハンドルを倒した。
機首が一気に下を向き、戦闘機が一直線に降下する。
自由落下より更に速い加速によりマイナス方向のGがかかり、体の内側が持ち上げられるような違和感がわき上がった。
「か、はっ! そろそろだな、キャノビー開けろ! ツラ見られんなよ!!」
「分かってる! そっちこそ、しくじるなよ!!」
急激に迫る地面。この数日で一気に明かりの数が減った夜景。
それを見つめながら、クロノはコックピットの一角に備え付けられたボタンを押しこんだ。
シャーリーによって設置された炸薬が点火され、破裂。
コックピットを覆うキャノビーが吹き飛び、クロノとヴァイスは夜の空気に直に曝された。
「グ……ガァ……!!」
一気に吹き荒れる風圧、叩きつけられる大気の壁に、クロノが思わず呻きを漏らす。
――こんな風圧の中で……狙撃なんて出来るのか!?
思わず脳裏に走る疑問。
その答えを確かめようとした瞬間、後部座席から、長大なデバイスの銃身がクロノの頭上に被さった。
一瞬だけ視線を後ろに走らせれば、そこには悠然とストームレイダーを構えるヴァイスの姿。
向かい来る風も地面も一切関係ない、とばかりに不動を貫くその姿勢は、最初からこの戦闘機に備え付けられていたかのようだった。
どうやらこの陸曹は、自分が想像していたよりも遥かに優秀なスナイパーであったらしい。
その事実に心強さを感じつつ、視線を前へ。
本来の自分の仕事である操縦に専念しようと、レーダーに目を向けたその時。
「……! まずい! 気付かれたぞ、ヴァイス!!」
そのレーダーの光点に、動きがあった。
それまで周回していた軌道から大きく外れ、そのまま真上へと昇り始めている。
「こちらへ向かっている! このままじゃ……!!」
「問題ねえよ! それより、ツラ見られねえように頭下げとけ!!」
クロノの焦燥の混じった言葉を、ヴァイスの叫びが遮った。
既にクロノの言葉を聞くまでもなく、ヴァイスはこちらに向かって一気に突き進むフクロウの存在を察知している。
まだ耐えろ。
まだ撃つな――……。
「……来たっ!!」
クロノの叫びが響いた。
戦闘機の真下、既に肉眼でも確認できるほどの距離に、一羽のフクロウが現れる。
クロノは咄嗟に頭を下げ、ヴァイスは逆に悠然と体を起こした。
フクロウの視線から放たれる呪が、まるで風のようにヴァイスに向かって迸り――
「――無駄だぁっ!!」
瞬間、ヴァイスの両目を覆っていた黒いサングラス、それが呪を受け止めたかのように砕け散った。
濃い黒ガラスの奥から見えたのは、眼球ではなく、その眼球二つを抉り抜いた、生々しい傷痕。
あの瞬間。
管理局内のモニターにフクロウの視線が映り、局員の大半が死に絶えたあの時。
ヴァイスは咄嗟の本能に従い、自分の目を抉り抜いていた。
そうすることで、他の局員たちがことごとく死に絶えた中、彼は生き残ったのだ。
咄嗟に、目を抉る、という選択肢が脳裏に浮かんだ理由。
それが彼の過去、自分の妹の左目を誤射した、あの記憶に根ざしていることは間違いなかった。
自分の腕で、妹の左目から永遠に光を奪ったという事実。
幾度も、自分の目もまた抉ってやろうかと考え続けた日々。
それにより、『目を潰す』という行為が、ヴァイスの中に色濃く残っていたのだ。
それは間違いなくヴァイスのトラウマであったが、そのトラウマ故に、ヴァイスは命を救われていた。
妹に、ラグナに救われたのだと、彼はそう思っている。
――そのラグナも、もういない。
あの日。
管理局内にてモニターにフクロウの視線が映し出された、あの日。
同じ映像をライブ中継していたテレビによって、クラナガン全土で、死者が溢れた。
その中には、兄の仕事を心配して病院のテレビを見つめていた、一人の少女も含まれていたのだ。
「――――お、嗚呼ああぁぁぁぁっ!!」
赤熱する脳内。
それを隠すことなく、ヴァイスは吼えた。
フクロウの呪いは、視線とともに放たれて、相手の目から潜り込む。
その目が隙間なく潰されていたことにより、呪いは一瞬だけ弾け、ヴァイスの前から退いた。
無論、一瞬である。
その身がフクロウの視線の下にある限り、例えその目が潰れていようと、今度は呪いは耳から入りこむ。
盲目程度で防げるほど、そのフクロウの持つルールは甘くない。
稼げたのは、ほんの一瞬の時間に過ぎないのだ。
――そして、ヴァイスにはその一瞬で、十分すぎるほど事足りた。
彼が行うのは呪文詠唱でも魔法発動でもない。
ただ、その引き金を引き絞るだけなのだから。
この距離ならば、如何にフクロウの回避能力を持ってしても回避など不可能だ。
シャーリーによってチューンされたストームレイダーの放つ弾速は、質量兵器のライフルのそれを凌駕する。
故に、今ここでこのフクロウは墜とされる。
ヴァイス・グランセニックの命と引き換えに。
「―――駄目ええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
瞬間、夜空に声が響き渡った。
「な!?」
「んなぁっ!?」
クロノとヴァイスの驚愕の声が重なった。
二人が声の方向に視線を向ければ、狭いコックピットのどこに隠れていたのか、そこには金髪にオッドアイの少女の姿がある。
「ヴィヴィオ!? 君は、なにを……!」
「ダメ! ダメなの! ヴァイスのお兄ちゃんは死んじゃだめ! クロノのお兄ちゃんも死んじゃだめ!
もう、もう誰も死んじゃだめなの!!」
クロノの声にも答えず、ヴィヴィオは叫ぶ。
瞳に涙を浮かべ、拒絶するように頭を振りながら、それでも、強く、強く。
「もう誰も死なせないって、私が皆を守るって……
なのはママと約束したんだからあああぁぁぁぁぁっ!!!」
瞬間、戦闘機が光に包まれた。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。虹色の極彩色の光が周囲を包み、フクロウと戦闘機との間を遮る。
「……聖王の、鎧」
クロノが、呆然と呟いた。
ベルカに古来より伝わる、聖王を守る絶対の盾、聖王の鎧。
まさか、これが……
「……っ! そうだ、ヴァイス、奴は!」
「問題ねえ」
焦りを帯びたクロノの言葉に、ヴァイスは落ち着いた声で答えた。
ヴィヴィオの登場には驚愕した。聖王の鎧にも仰天した。
しかし、このストームレイダーを構えている時の彼はスナイパーであり、全ての感情はその事実の下に統制される。
全ての驚愕から瞬き一つの時間もかけずに復帰し、ヴァイスはそのスコープの向こうにフクロウの姿を捉えていた。
絶対の盾である聖王の鎧をもってすら、このフクロウの呪いは完全には防げない。
虹色の光の隙間から、その呪は染み出すようにしてにじり寄っている。
しかしその速度は遅く、ヴァイスの命を奪うには、あと数秒の時間が必要だったろう。
それは、今度こそ、十分過ぎる時間だった。
「これで、終わりだ」
引き絞られる、引き金。
その銃口から、超高密度に凝縮された魔力弾が音も無く放たれ、大気を、虹色の輝きを割いて直進する。
そして。
ボン、という呆気ない音とともに、フクロウの額に穴が開いた。
「終わった、か」
低空で水平飛行に移った戦闘機、その後部座席で、ヴァイスは呟いた。
その腰には、しがみつくようにして寄り添うヴィヴィオの姿がある。
さて、これは怒るべき場面なのか、とヴァイスは苦笑した。
自分の言いつけを聞かず、勝手に戦場まで紛れ込んだのは、間違いなく問題だ。
しかし、結果としてそれに助けられてしまったわけで、どうにも怒りづらい。
どうしていいか分からず、誤魔化すように、ヴァイスはヴィヴィオの髪を撫でた。
この手の話は最後突き落とす展開が多支援
「……ちょっと待て、これは、奴が落ちてこないぞ? それどころか、今も羽ばたいて……
まさか、まだ生きているのか!?」
レーダーを覗いていたクロノが、唐突に叫んだ。
焦った動きで、キャノビーが吹き飛んだコックピットから頭上を見上げる。
「……問題ねえよ」
なんだか、この夜の間に何度も口にしている気がする台詞を吐きながら、ヴァイスもまた、上を見上げた。
潰れた目に、視界は無い。
しかし、それでもヴァイスは見えた気がした。
呆れるほどの星空と、大きな月。そして、そこを羽ばたく黒い影。
「今思い出したんだが、昔、狙撃仲間のハンターに聞いたことがあった。
野生の鳥の中には、致命傷を負ってもなお羽ばたくことを止めずに、そのまま飛び続ける奴がいるんだそうだ」
「……それじゃあ、奴は死んでいるのか?」
「ああ、間違いねえ。確実に、頭を撃ち抜いた」
そうして、後部座席から立ち上がると、そのまま後ろに体を反らす。
「何がしたかったのか知らねえが、こんだけ殺しまくったんだ。
いい加減、満足しただろうよ」
「違うよ」
ぼそりと宙に投げた言葉には、しかし否定の返事が返ってきた。
怪訝に思って視線を下せば、こちらの腰にしがみついたヴィヴィオが、その目でこちらの顔と、月を泳ぐフクロウの影を追っている。
「違うよ、ヴァイスお兄ちゃん。
あの子は、誰かを殺したかったんじゃない」
ふるふると、悲しげにその顔が振られた。
「あの子はただ、飛んでいたかっただけ。
飛んで飛んで、どこまでも飛んで。いつか、自分と一緒に飛んでくれる人を見つけたかっただけだよ」
一人ぼっちは、悲しいから。
そう呟いたヴィヴィオの脳裏には、どんな思いが渦巻いているのか。
それを想像しようとして、すぐに止めて、ヴァイスは改めて上を見上げた。
見えない目に、浮かぶ光景。
目も眩むような金の月光の中を、どこまでも泳いでいく、フクロウの影。
「……一人ぼっちは寂しい、か」
ぼそりと呟いた言葉にどんな思いが篭っていたのか、自分でも分からない。
「いいさ、飛んでいけ。
悪いが、俺達はお前とは一緒に飛べない。
だから、どこまでも、どこまでも飛んでいけ」
その言葉が宙に消えるのと同時に、空高く昇ったフクロウの影が、月の光の中に融けて消えた。
「本当に行くのか? 僕としては、出来れば残ってほしいんだがな」
「ま、仕方ないでしょう。クロノ提督には、本当迷惑かけるとは思ってますけど」
数日後、クラナガン。
時空管理局の正門前で、4人の人影が向かい合っていた。
クロノ・ハラオウン。シャリオ・フィノーニ。ヴァイス・グランセニック。高町ヴィヴィオ。
あの夜、フクロウと戦った4人である。
その後、ヴァイスが時空管理局を辞職し、ヴィヴィオを連れて何処か旅に出る、というので、その見送りに出ているのだ。
「まあ、確かにこれ以上残っていると、流石に抜け出すこともできなくなるわよねぇ」
シャーリーが、溜め息交じりに呟く。
現在、クラガナンが急激な復興ムードが漂っている。
クロノにより、脅威の原因であったフクロウの撃退宣言が為されてから数日。
はじめの内は、半信半疑で外を窺っていた人々だが、何日たっても特徴的な甲高い鳴き声が聞こえないことで、ようやく脅威が去ったことを受け入れたらしかった。
とはいえ、それで完全に事態が元通り、とはいかない。
なにせ、秩序の中枢であった時空管理局は、未だに機能停止状態なのだ。
これ幸いとばかりに火事場泥棒に手を出す犯罪組織。
時空管理局になり変って次元世界の支配権を握ろうと動き出した各組織。
ある種の抑止力となっていたフクロウが消えたことで、これらのきな臭い動きが、僅か数日のうちにあちこちで漂っていた。
ある意味でフクロウとの戦いより遥かに厄介な、誰が悪で誰が敵なのかも判然としない、ドロドロとした戦いの気配が色濃く成りだしている。
そんな中で、この二人は間違いなくキーとなり得るだろう、とクロノは冷静に思う。
片や、各地のベルカの民が待ち望む、現代に蘇った『聖王』
片や、時空管理局を壊滅させた怪物をその手で撃ち落とした『英雄』である。
彼らを象徴としてプロパガンダを行えば、民衆の心を掴むのは遥かに容易になるだろう。
しかし、だからこそ――
「まあ、これ以上ここにいると、ヴィヴィオに見なくていいもん見せちまいそうだからな。
ヴィヴィオも、まあいつかはそういうのを知って、背負って行かなくちゃいけないんだろうが、流石に今はまだ早い。
俺も、政治の道具にされんのは嫌だしな」
――その通りだろう、とクロノはヴァイスの言葉に頷いた。
確かに、ヴィヴィオは政争の切り札となり得る。
しかしそれは、この10にも満たない少女の肩に凄まじい重荷を背負わせることなのだ。
人造兵器として生まれ、ようやく母を得て、しかし今回、その母を失って。
これ以上、この少女に何を背負わせ、何を奪うというのか。
それならば、『聖王』も『英雄』も、最初からまとめていなかったことにした方がよほど良い。
彼らの分も、自分が血を吐き、泥を被ればいい話なのだ。
――若くして提督などという地位について、それなりに私情と仕事を切り離して考えられるようになったつもりだったけど。
なんだかんだで、仕事よりヴィヴィオという少女を優先している自分に、苦笑が漏れる。
だが、それが悪いとは思わない。
彼女は、自分の幼い頃から友人や義妹の忘れ形見なのだ。
そんな彼女すらも仕事の道具として見るようになっては、人としての破綻だろう。
人の導き手になるのであれば、その者もまた、確かに人であらねばならないはずだ。
「まあ、その通りだな。これから先のことは、ヴィヴィオには明らかに悪影響だ。
フクロウの相手は君に任せたんだ。人間の相手は、僕に任せろ」
「……本当に、すみませんね、提督。
情けないけど、よろしく頼みます」
「しおらしいことだな。
あの夜みたいに、ため口でも構わないんだぞ?」
「勘弁してください……」
フクロウと戦った、あの夜。
途中から精神が昂りすぎたのか、ヴァイスの口調は明らかに乱暴なものになっていた。
クロノとしては大して気にも留めていないのだが、ヴァイスにとってはばつが悪いらしい。
表情をしかめて顔を逸らすヴァイスに、クロノは他意のない笑みを浮かべる。
支援
角から毒を吹く支援
ひっかかっちゃったか…23時待ち支援
「……それじゃ、そろそろ行きます。
あとはよろしく頼みます、クロノ提督。シャーリーも」
「クロノお兄ちゃん、シャーリーお姉ちゃん、ありがとうございました」
「ああ、任せろ」
「ヴァイスさんもヴィヴィオちゃんも、体に気をつけてね」
クルリと背を向けて、ヴァイスとヴィヴィオが歩き出す。
二人の手が自然と重なり、更にヴィヴィオが、目の見えないヴァイスを先導するように数歩前に出た。
重なるように歩きだす二人を、クロノは目を細めて見る。
「……一人ぼっちは寂しいから、か」
或いは、それは代償行為なのかもしれない。
自分を守ってくれる、母親を失った少女と。
自分が守るべき、妹を失った青年と。
互いの抱えていた欠損が似通っていたから、それをお互いの存在で埋めているだけなのかもしれない。
――だが、それの何が悪い。
クロノはそう思う。
彼らは生きているのだ。そして、これからも生きていくのだ。
そのために互いの存在が必要ならば、寄り添うことを躊躇う理由などあるはずがない。
寄り添えるなら、やはり人は誰かと寄り添って生きていくべきなのだ。
誰だって、一人ぼっちは寂しいのだから。
「行っちゃいましたね」
角を折れて見えなくなった二人の方向を見つめたまま、シャーリーは呟いた。
「ああ、そうだな」
「また、会えますよね」
「いつかは会えるだろうさ。別に今生の別れというわけでもない」
そういって、クロノは大きく背伸びをした。
背骨が、ポキポキと音を立てる。
「さて、いい加減戻ろう。
仕事はまだまだ山積みなんだ」
「そうですね、私たちは、私たちのやるべきことをやらなきゃ」
そう言って、クロノとシャーリーが踵を返した時。
ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ
唐突に、クロノの通信素子が甲高い音をたてた。
エマージェンシー。緊急通知だ。
「……なんだ?」
クロノが、疑問符を浮かべながら通信に出る。
「ああ、僕だ……なに? 何を言って……まさか………間違いないのか?」
その応答を横から聞いていたシャーリーは、話が進むごとにクロノの表情がどんどん引き攣っていくのが分かった。
やがて通信が切られると、引き攣りすぎてなんだか半笑いになった表情で、クロノがこちらを見つめてきた。
「……あのー、クロノ提督? 一体なんの通信で……」
「……フクロウに続いて、今度は狐だそうだ」
「は?」
訳が分からず間の抜けた声を出すシャーリーに、クロノは引き攣った半笑いのまま説明する。
「ミッドチルダ郊外で、九本の尻尾を持つ巨大な白い狐が暴れていて、周囲一帯が破壊し尽くされているらしい」
「……えーと、それで」
「僕らに、応援に駆け付けろ、だそうだ」
チーン。
クロノとシャーリー、二人の間に沈黙が横たわり、乾いた風が駆け抜ける。
「…………あの二人を呼び戻せっ! 僕は装備の用意をしてくるっ!!」
「は、はいぃ!!」
バタバタと、クロノとシャーリーは駆けだしたのだった。
『むかし、むかし……」
美術史家エルンスト・ゴンブリッジが書いたように、全ての物語は「むかし、むかし」で幕を開ける。
故にこの物語もまた、「むかし、むかし」のお話なのさ。
むかし、むかし、次元世界の中心地、ミッドチルダが大混乱になったことがあっての。
何の因果か知らんが、立て続けにとんでもなく厄介なことが起きていたのさ。
見られただけで人が死ぬフクロウが現れたり、九本の尻尾が化け物に変化する巨大な狐が出たりの。
謎の病気をまき散らす人形のサーカス団が出現したり、火を吹くバネ足の怪人が町を騒がせたりの。
おとぎ話の中の登場人物が、現実で暴れだした、なんてこともあったわな。
いちばん最初の事件、いま語った、視線で人を殺す『邪眼のフクロウ』の事件で、時空管理局はもうガタガタじゃったから、そりゃあ大変なことになった。
しかしの、そんな中で、事件の中におって、事件を解決しようとドタバタしとった連中がおったんじゃ。
一人は、黒い髪の、生意気な青年将校。
一人は、眼鏡をかけた、穏やかなメカニック。
そんでもう二人が。
そうじゃな、盲目の狩人と、幼い金髪の聖王じゃ。
そう、『四英雄』なんぞと呼ばれとる、そんな連中じゃよ。
今のお話は、その4人が、初めて4人でぶつかった事件。
『四英雄』の初めての事件なのさ。
4人の、始まりの物語だよ。
さ、これで、お話はお終いだ。
……ん? なんだ?
まだ、お話を聞きたい。
……ふふ、しかたないの。
なら『邪眼のフクロウ』の次の事件、『九尾の白面』のお話でもしてやるかの。
よく聞きなさい。
むかし、むかし…………
時空管理局 元帥
クロノ・F・ハラオウンの昔語りより
狐!?
ええい、獣の槍を持てい!支援!
支援
この世で一番強いのはスナイパーさw
投下しゅーりょー。途中で規制をくらいましたorz
2chへの投下は勝手が掴めんなぁ……
何故初投稿で、時空管理局壊滅のヴァイス主人公なのか、自分でも分からんです。
ニッチか、ニッチを狙っているのか。どんだけ狭い需要を狙ってるんだ自分。
それでは、お目汚し失礼しました。
GJ
しかし、クロノのmiddle nameがFってことは……ああ、そういうことかw
GJ!!です。
これは、新しいw脇役キャラが光るSSでした。
ミネルバの殺害までにとんでもない被害を払っているのに、
白面や真夜中のサーカス、ムーントラックした物語の人間まで出てくるとかw
ミッドは呪われているのかwしかも、ちゃっかり生きてるクロノに乾杯w
バネ足はともかくサーカスはゾナハがやばすぎるってw
GJ!
GJ!!
藤田世界の敵がどんどん現れる魔窟になっていくのですね
GJです!
こんなに悲惨なお話なのに、最後には実に綺麗に纏まっていて感動しました。
『邪眼が月輪に飛ぶ』は原作を読んだ事はありませんが、しかし『見られるだけで死』とは恐ろし過ぎますね。
自ら眼を抉って生き残ったヴァイスといい、復讐に燃えるクロノといい、それを見送るシャリオも良いところで登場するヴィヴィオも非常に輝いていました。
そして終わり方も実に見事な綺麗さ&藤田っぷりw
つかお前等、白面の者や真夜中のサーカスやバネ足ジャックまで相手にしたんかいww!
本当に、御伽噺の様に怖くて綺麗な作品でした。
もし良ければ、次回作も期待してお待ちしています。
GJ!!
藤田作品の敵キャラどもは尽く絶望的かつ強大で、
それに立ち向かう者たちはえらくちっぽけな癖に果てしなくカッコいいから困る
そしてこのクロノ爺さん、かつての戦いの日々の中で格闘術を身につけた事があって
DQN気味な孫を連れて、自分のデータを元にして作られた強化兵士を倒しに行くんですね、わかります
クロノ「本当に戦うというのは、日々を生きてゆくことだ
退屈と戦うことだ 働き 学ぶことだ
父さんのように 母さんのように…」
GJ!
ミネルバ程の初見殺しはそういませんよね。
原作(ほぼ現代日本)では最初の3日で400万人超の被害だったし、
こっちでもルールが判明した頃には管理局壊滅状態、クラナガン人口の
5割死亡とは凄まじすぎる。
おおう、感想の多さにビックリ。ジュビロパワーか?
藤田作品は、普通の人間が、歯を食いしばって血まみれになりながら、絶望的な相手に立ち向かう所がミソだと思います。
というわけで普通の人間の方々を気張らせるために、3人娘以下エースの皆さんには退場してもらいました。
ファンの皆さん、申し訳ございません。
あと、藤田作品のラスボスたちは大概が絶望的に圧倒的な連中ですけど、別に次元世界を危機に陥れたりはしないよなぁ、と思うのです。
なので、闇の書事件みたいに、その星ごと吹っ飛ばそう、という結論は出せないわけです。そもそもミッドを吹っ飛ばすのはダメでしょうけど。
なので、時空管理局は後手後手に回り続けてしまうわけです。
……うん、こういうことを後になって言い訳みたく書くんじゃなくて、作中で匂わせるようにしないとな、自分。
それでは、皆さん感想ありがとうございました。
>>163 そういうことです。なにも捻ってません。
ヴァイスとヴィヴィオが寄り添ってるので、残り二人にも寄り添ってもらいました。
>>170 印象を固定してしまうようで申し訳ないですが・・・
映画「ザ・ロック」と「ピースメイカー」2作のサントラCDをBGMに
支援してますた。
とにかくGJ♪
172 :
一尉:2008/12/09(火) 15:41:52 ID:l8MYiEmC
昔お話支援。
クロス元は全然知りませんが、GJでした!
爺さんになったクロノが語り手となるのも、なんか新鮮ですね。
<<さて、こちらブラボー6だ。COD4とのクロスが出来上がったから、投下したい。
1945を予定しているんだが、よかったら支援頼む>>
では、投下を開始します。スタンバイ…スタンバイ…GO!
Call of Lyrical 4
第0.5話 ワンショット・ワンキル/任務限りの付き合い
チェルノブイリ。人の生活が途絶えたその街は、悪人たちにしてみればこれ以上ない隠れ蓑だった。
彼らはそこで人目に触れることなく、核物質の取引を行っていた。
今回の目標――イムラン・ザカエフもその中の一人だ。
野放しに出来る訳がない。テロリストが核物質の売買など、破滅まっしぐらだ。
だから大戦後、初めてイギリス政府は暗殺任務を下したのだが――。
「核物質じゃない?」
狙撃ポイントとしては最適と思われる、廃墟と化したホテルの最上階。双眼鏡から手を離すことなく、マクミランは隣で葉巻を吸う男――レジアスに聞き返した。
レジアスは葉巻の火を床に押し付けて消して、そうだと言わんばかりに頷いた。
「その通り。今回の目標が取引しているのは、核物質じゃない」
「おい、それってどういう――」
「言ってもお前らには理解できない」
またこれだ、とプライスはレジアスの言葉にやれやれと首を振る。
この男、ザカエフが現れると思われる取引現場の位置を正確に掴み、どうやって運んだのか定かではないが、対物狙撃銃として有名なM82A1バレットまで準備していた。
それだけならプライスは、レジアスを任務に関しては間違いなく出来る男だと評価しただろう。
ところが、ときどき交わす会話の中で、こちらが尋ねても彼は答えないことが多い。問い詰めても先ほどのように「言っても理解できない」と逃げるだけだ。
任務限りの付き合いとはいえ、もう少し愛想よくしてもいいだろうに。
このように信用ならない男ではあるが――少なくとも敵ではなかった。狙撃ポイントに到着してから二日、双眼鏡の先に、何輌ものトラックやジープがやって来た。乗員はいずれも武装した兵士ば
かり。レジアスの言うとおり、これから核物質ではない別の"何か"を取引するのだろう。
「プライス少尉、取引が進行中だ。敵の輸送車両が、射程に入った――」
マクミランも気付き、プライスに配置に就くよう促す。
ちらっとプライスは、このためにレジアスに用意されたM82A1の傍らに置いてあった写真に目をやる。写真に映っていたのは、鋭い眼光を持つ痩せた男。今回の目標、ザカエフだ。
彼はM82A1の巨大なその銃身に取り付き、狙撃スコープを覗き込んだ。
この日は、風が強かった。目標を狙撃スコープのど真ん中に捉えても、おそらく弾道は風に流され、狙い通りにはいかないだろう。計算して撃つ必要がある。
「訓練を思い出せ。大気中の湿度変化、風力が弾道に与える影響、この距離だとコリオリ効果も考慮する必要がある……」
SASでトップクラスを誇る狙撃手マクミランの言葉通り、プライスは過去の訓練を振り返る。
コリオリとは、確か地球の自転により飛翔する物体が受ける転向力のことだ。もっとも、これはかなり高所から下を狙うケースなので、弾道落下はそこまで気にしなくていいはず。
となれば風向きと風力だが――運がいいことに、狙撃スコープの向こうに映るトラックに、テロリストたちのシンボルマークを印した小旗が付けられていた。風に揺れるこれを参考にしない訳には
いくまい。
と、ちょうどその時、目標と思しき人物が重そうなトランクケースを抱え、狙撃スコープの中に入り込んできた。
「よし、おそらくあの男だろう……間違いないな、レジアス?」
「ああ、間違いない」
隣で双眼鏡を構え、観測手をやっていたマクミランとレジアスが目標を確認。こいつこそ、テロリストの親玉であり今回の暗殺対象、イムラン・ザカエフだ。
「目標……確認。間違いない、奴がイムラン・ザカエフだ」
マクミランの言葉を聞いたプライスはいよいよ、M82A1のセーフティを解除した。これで引き金を引けば、五〇口径の直撃すれば人体など真っ二つにしてしまう銃弾が放たれる。
しかし、とプライスは引き金にかけた指に力を加えない。スコープに映る小旗が、落ち着きなく右へ左へと風に揺れていた。
狙撃スコープの向こうでは、狙われているとは考えもしないであろうザカエフと、テロリストが取引を始めていた。
ザカエフがトランクケースの中から、何かを取り出す。その瞬間、声を上げたのは他ならぬレジアスだった。
支援……支援……しぇ!?
もう始まってやがる、支援!
「む……やはりか」
「どうした、レジアス? あれがお前さんの言う核物質じゃない"何か"か?」
マクミランが双眼鏡から離れずレジアスに尋ねるが、彼は答えなかった。
もはや大して気にすることなく、狙撃スコープを覗いていたプライスだが、ザカエフがトランクケースから取り出したものを見て、怪訝な表情を浮かべた。
それは確かに、核物質には見えなかった。禍々しいほどに赤く、されど光り輝く宝石にしか、プライスには見えなかった。
わざわざ放射能という危険な香り漂うこの地に来てまで、宝石の販売? 運用資金にでも困っているのだろうか。その割りに西側の小銃や攻撃ヘリなど、彼らはその辺のテロリストとは一線を引くほ
ど装備は豪勢なのだが。
そこまで考えて、プライスは首を振った。余計なことを考えるのはよそう、今は狙撃に集中だ。
うまい具合に、風の勢いも弱まってきた。狙うなら今のうちかもしれない。
狙撃スコープを少しばかりずらし、取引中のザカエフに照準を合わせる――ところが、ここに来て狙撃スコープの視界を遮るものが現れた。
なんだと思ってスコープの倍率を落とすと、攻撃ヘリのMi-28ハボックが、彼らの前に姿を現していた。Mi-24ハインドよりも新しい、新鋭機。あんなものまで、テロリストは保有しているのだ。ま
すますプライスは、何故に彼らが宝石販売を行っているのかが理解できなくなった。
「ッチ、どこから湧いてきたんだ? 辛抱だ相棒、万全を期すんだ……」
露骨に舌打ちしたマクミランの指示に従い、プライスは引き金から指を離す。防弾構造に優れたハボックと言えど、このM82A1でコクピットを狙えば撃墜は可能だが――ヘリが墜落すれば、奴らは
警戒を強めてしまうに違いない。
辛抱強く待っていると、ようやくハボックは引き上げてくれた。ふぅ、と安堵のため息を吐き、プライスは改めてザカエフに照準を合わせる。
狙撃スコープの向こうでは、ザカエフと取引相手のテロリストが、何らかの原因で揉め事を起こしていた。手を振りかざして、ザカエフは怒りを露にしている。
ふとプライスは、先ほどまで風に揺れていたトラックの小旗の存在を思い出し、そちらの方を注視する。小旗は、踊る相手がいなくなったように垂れ下がっていた。
すなわち、今は無風。弾道落下も大して気にしなくていいなら、照準が非常にやりやすい。
取引相手のテロリストが、怒るザカエフを前にたじろぎ、後ずさりして彼から離れた。
チャンスだ、とプライスは考えた。今なら射線を遮るものはなにもない。
「今しかない、撃て!」
マクラミンも叫ぶ。プライスは最後に照準を微調整し、引き金にかける指に力を加える。
ワンショット、ワンキル。ひっそりと呟いた言葉は、狙撃手にとって最も優先すべき使命。
轟音と共に放たれた銃弾は音速を超え――直撃。狙撃スコープの向こうで、予期せぬ方向から予期せぬ攻撃を受けたザカエフの身体は吹き飛び、左腕が千切れ飛んだ。
「目標を倒した、ナイスショットだ少尉!」
マクミランが歓喜の声を上げるが、安心していられない。M82A1の発した轟音とマズルブレーキから放たれた猛烈な発砲煙は、彼らの位置を曝け出してしまう。
「まずいぞ、さっきのヘリがこっちに来る」
レジアスが手早く装備をまとめ、撤収の準備に入った時、先ほど通過したはずのハボックが彼らのいるホテル最上階に向け、接近しつつあった。
「くそ、気付かれたか。プライス、ヘリを撃ち落せ、時間を稼ぐんだ!」
マクミランの指示が飛ぶ。言われるがままプライスはM82A1の銃口をずらし、接近中のハボックのコクピットに向ける。
邪魔な発砲煙が晴れるのを待って、プライスは引き金を引く。再び巻き起こるM82A1の轟音のような銃声。狙撃スコープの向こうでは、ハボックのコクピットが真っ赤な鮮血で満たされていた。
パイロットを失ったハボックは煙と炎を吹き出し、不愉快な甲高い高音を上げながら、地面に落ちていく。M82A1の銃弾が機内を貫通して、エンジン部にでも入ったのかもしれない。
「いい腕だ少尉! さあ、奴らが来る前に逃げるぞ!」
<< 支援する >>
マクミランに言われて、プライスはM82A1を手放し、代わりに通常の狙撃銃であるM21を肩に担ぐ。威力と射程ははるかに劣るが、重量一三キロもあるM82A1を担いで逃げるのは得策ではない。
「こっちだ、急げ」
脱出ルートは、事前にレジアスが用意しておいた。ホテルの窓からロープを垂らし、そこから地面に向かって降下するのだ。
レジアスに招かれ、マクラミンとプライスはロープに捕まり、降下準備に入る――だが、そこでプライスはこのホテルの最上階に向かってくる者を見て、驚愕するほか無かった。
「――人!?」
地面から舞い上がってくる、追撃と思しき敵。だがそれはヘリでもなければVTOL戦闘機でもなく、人間だった。今時コスプレ会場にでも行かないと見れない、どこかファンタジーチックな服装に、手
にしているのは武器と思しき杖。そいつらが数名、空に飛び上がり、プライスたちに迫ってくるのである。
「くそ、違法魔導師もいたか」
レジアスの方に視線を向けると、やはりこいつは何か知っている様子だった。
だが、問い詰める時間は無い。レジアスの言った言葉を借りるなら、この"違法魔導師"たちは武器である杖を構え、自分たちにその矛先を向けてきている。
「俺に続け!」
はっとなって、プライスはロープを使ってホテルの壁を器用に降下するマクミランとレジアスの後を追う。
直後、ホテルの最上階に何かが大量に撃ち込まれ、派手な爆風と衝撃が巻き起こる。それらに吹き飛ばされる形で落ちてきたコンクリートの破片から身を守りつつ、プライスは地面へと生還を果た
した。
「おい、レジアス。さっきの連中は何なんだ。お前、知っているんだろう!?」
着地するなり、マクミランがレジアスに詰め寄り、先ほどの違法魔導師について問いただしていた。
ところが、レジアスは答えることなく、自身の肩に引っ掛けていたドイツ製の小銃、G36Cを構える。その視線を辿れば、こちらの位置を特定したのか、敵兵たちがわらわらと近付きつつあった。
「話は後だ。まずは、脱出地点を目指そう」
「ッチ、ちゃんと話せよ。デルタ2-4、聞こえるか!? こちらアルファ6、現在退却中! 第4脱出地点に向かう!」
通信機のスイッチを入れ、マクミランはM21を構え、走り出す。レジアスとプライスも後に続いた。
「アルファ6、現在ビックバードが向かっている。到着予定時刻――二〇分後」
司令部の方は、救援ヘリを寄越すと言ってきた。二〇分、それがタイムリミットになる。
ただ走るだけなら余裕で間に合う距離なのだが――目の前の住宅街に陣取った敵兵たちは、それを許してくれそうにない。どうあっても、排除する必要があった。
「プライス、俺と一緒に狙撃で数を減らすぞ。レジアスは近付いてきた敵を」
「了解」
「心得た」
二人の狙撃の腕前は間違いなく一級だが、敵兵の数は多い。仕留め損ねた敵は、M21より取り回しのいいG36Cを持ったレジアスが片付けることで対処しようと言うのが、マクミランの考えだった。
ひとまず道路上にあった廃車に身を寄せ、マクミランとプライスはM21を構え、住宅街の方向からやって来る敵兵たちに照準を合わせる。
プライスは呼吸を止めて手振れを抑え、発砲。すでに存在が知れ渡っている以上、消音機は必要ないので外してあった。
M21の銃声が響き渡り、その度に狙撃スコープの向こうの敵兵が倒れ、ひっくり返り、射殺されていく。
とは言え――数の差は覆せなかった。味方の死体を踏み越えて、敵兵たちはプライスたちとの距離を詰めていく。
焦りは禁物だが、敵は目前。どうしても照準が雑になり、ついにプライスは敵の射程に収まってしまう。
AK-47の銃口がこちらを向くのと同時に、廃車の陰に身を隠す。直後に、放たれたいくつもの銃弾が廃車を叩き、火花を散らす。何発かは廃車を貫通し、プライスの身体を掠め飛ぶ。
このままでは撃ち負ける――そう思った瞬間、AK-47の銃声が止んだ。おそるおそる身を乗り出すと、レジアスがG36Cを構え、敵兵たちの側面を突く形で激しい銃撃を浴びせていた。
三〇発のマガジンを全て撃ちきる勢いでレジアスの放った銃弾は、突っ込んできた敵兵たちをズタズタに引き裂いていく。
マクミラン大尉! 大変です。魔法少女が空を飛んでます!
相棒、現実逃避は止めるんだ 支援
「何やってる、進め! 敵のヘリが来たぞ!」
撃ち尽くしたマガジンを交換し、レジアスが叫ぶ。後方を振り返ると、敵の輸送ヘリが後部ハッチからロープを垂らし、兵員を降下させていた。
いちいち相手している暇はない。マクミランとプライス、レジアスは互いに援護し合いながら、前進を再開。降下してきた敵兵たちが撃ちかけてくるが、レジアスはそれらに対して手榴弾を投げる。
爆発。爆風と破片が周囲に飛びかかり、敵兵たちを薙ぎ払う。
「あのアパートで捲くぞ、来い!」
マクミランの指差す方向を見ると、一軒だけ扉の開いているアパートがあった。屋内に入れば、少なくとも空から攻撃を受ける可能性は低くなるはずだ。
最後に三人が一斉に後方に振り返り、なおも迫ってくる敵兵にありったけの銃弾を叩き込み、ついでに手榴弾を投げる。何名かが手榴弾の爆風で吹き飛ばされ、敵の前進は停滞する。この隙を逃がす
訳には行かない。
マクミランを先頭に、三人はアパートへと入っていった。
アパート内はやはり無人だったが、テロリストたちが勝手に住んでいるのか、わずかに生活の名残が見えた。ドラム缶の中で燃え盛る炎は、暖を取るため焚き火でもやっていた証拠だ。
となれば、当然敵が出てくる可能性もあったが――みんな自分たちを探しに出たのか、人っ子一人いなかった。
それでも警戒は決して緩めず、三人は各々の死角を補うように、バラバラの方向に銃を向けつつ前進する。
窓を飛び越え、隣の棟へ。そうして脱出地点へと繋がる道に出るべく一階のベランダから外に出ようとしたところで、マクミランが左手を上げて前進停止の合図をあげた。
「スタンバイ」
いつもの口癖だが、プライスはベランダの向こうで数人の敵兵たちが警戒しながらこのアパートに入ろうとしているのを目撃した。幸い、まだこちらの存在には気付いていない様子だ。
「プライス、急いでクレイモアを入り口に」
「了解」
プライスは腰のバックパックから、一見弁当箱のようなクレイモア地雷を取り出す。前を遮るものがあればただちに起爆し、内蔵された七〇〇個の鉄球が目標をミンチにする代物である。
そいつをアパートの入り口にセットし、プライスたちは一時待機。何も知らない敵兵はアパート内に足を踏み入れ――クレイモア、起爆。哀れな敵兵は全身を高速で飛んできた鉄球に引き裂かれて
しまう。
さすがに入り口から堂々と入るのは危険だと敵も気付き、ベランダ越しから銃撃を掛けてきた。マクラミンは屋内に踏みとどまるのは危険と判断、敵の死体を踏み越えてベランダを乗り越え、屋外へ。
アパートの外に出ると、敵兵たちは激しく撃ってきたが、レジアスがG36Cを構え、水平方向に薙ぎ払うようにして銃撃。絶え間ない銃弾の雨に晒された敵兵たちは、悲鳴を上げて撃ち倒されていく。
「そんな派手に撃って弾は大丈夫か」
「マガジンはあと四つある」
「用意のいいことで」
銃撃を終え、ひとまず視界に映る敵は倒したレジアスはG36Cのマガジンを交換する。プライスは先ほどから派手にぷっ放すレジアスの残弾数が気になったが、彼は腰のマガジンケースを叩き、大丈夫
だと伝えてきた。
「二人とも、安心している暇はないぞ」
マクミランはそう言って、M21の銃口を天に向けていた。プライスとレジアスも、銃口を同じ方向に構える。
「さっきの奴らだ、撃ち落とせ」
やって来たのは、先ほどホテル最上階を襲撃した違法魔導師たちだった。
彼らは各々杖を構え、怪しい青色の弾丸を放ってきた。弾丸はプライスの近くにあった、アパートに住む子供たちのためにあった滑り台の柱を撃ち抜き、倒壊させた。これは案外、直撃すればそれなり
のダメージを覚悟した方がよさそうだ。
「何だよ、スターウォーズは見飽きたぞ!?」
負けじとプライスは空中に浮かぶSFモドキの弾丸を放つ違法魔導師に向けて、M21の引き金を引く。放たれた銃弾は違法魔導師の身体を貫く――はずだった。
違法魔導師が寸前で、手をかざす。すると、青白い光の壁が彼の目の前に現れ、プライスの放った銃弾は進路を阻まれてしまった。
怪しい青色の弾丸にバリア持ちとは、こいつらは本当に人間なのか。ひょっとしたら、自分たちはSF映画の撮影現場に誤って紛れ込んでしまったのかもしれない。だが、それにしたって冗談がきつい。
「防御魔法か、くそ!」
マクミラン大尉! 大変です、東の空にUFOが。
ははは、相棒。また現実逃避を――なんだとぉ!? 支援
同じくG36Cの銃弾を叩き込むレジアスだったが、いずれもが弾き返されてしまう。
やはり、彼は何か知っている――思考の片隅でそんなことを考えたプライスだったが、今はそれどころではない。銃撃が通用しないとなれば、このままでは全員虫の餌だ。
「レジアス、何か知ってるんだろう!? 対抗策はないのか!?」
「後ろから気付かれずに撃てば、あるいは――だが!」
「畜生、ヘリまで来たぞ」
絶望に絶望が重なる。耳障りなローター音を撒き散らしながら彼らの上空に現れたのは、先ほど撃墜したのと同型のヘリ、ハボックだった。
ハボックは違法魔導師たちの後方から接近してくる――突然、それを見たマクラミンがM21の銃口をハボックに向けた。
「大尉、こんなチャチな武装じゃヘリは」
「まぁ見てろ」
こんな状況下だと言うのに、マクラミンは活路を見出したかのように、不敵な笑みを浮かべていた。
彼はM21の引き金を引き、ハボックに向かって銃弾を叩き込む。当然、防弾が施された攻撃ヘリは、歩兵の持つ小火器などでは落とせない。
ところが――二発、三発とそれが続いた時、突然ハボックがローターから煙と火を吹き、姿勢を崩した。
マクミランの放った銃弾は、全てがハボックのローター軸部に直撃していた。結果、ローターの機能に異常が起こり、ハボックはバランスを崩したのだ。
ふらふらと先の読めない不安定な機動を繰り返すハボックは、前方にいた違法魔導師たちに向かって突っ込む。
彼らは我先に逃げようとして、墜落するハボックの鋼鉄の翼に巻き込まれ、ミキサーに放り込まれたように身体をグシャグシャにされていった。
「ろくでなしよ、安らかに――」
静かに呟き、あまりに衝撃的な出来事に呆然とするレジアスとプライスを置いて、マクミランは歩き出す。
だが、世の中はなかなか、思い通りにはならない。落ち行くハボックが突然、搭載するミサイルや機関砲を乱射し始めた。パイロットがやけになったのか、火器管制に致命的なエラーが起こったのか、真実
は分からない。
ミサイルはアパートの壁面を粉砕し、機関砲は地面を耕す。そんな状態で地面に落ちたハボックは、まるで違法魔導師たちの怨念が乗り移ったかのように、プライスたちに迫ってきた。
「ああ、くそ……走れ!」
言われるまでもなかった。恐怖に顔を引き攣らせながら、三人は走り出す。
ハボックはローターで地面を砕きながら迫る。折れたローターの破片は周囲に飛び散り――運悪く、ハボックを撃墜した張本人であるマクミランの足を斬りつけた。
「!」
地面に転倒したマクミランに、ハボックが急接近。このままでは彼は踏み潰されてしまう。
その時、反転して彼の元に駆け寄ったのはレジアスだった。歩けなくなったマクミランを引っ張り、少しでもハボックから離れようとする。
間一髪、地面を削るように迫っていたハボックは、彼らを踏み潰すことなく、寸前で停止した。
もし、レジアスがマクミランを引っ張っていなければ――それほどにまで、ぎりぎりの距離だった。
「大尉! レジアス!」
大慌てでプライスが駆け寄ると、レジアスがマクミランの足の容態を確認し、そして首を振った。この傷で死ぬことはないが、歩くことは到底かなわない。
「くそったれ、足をやられた……すまん、どちらか背負ってくれ」
「俺が大尉を担ぐ。レジアスは、周囲の警戒を頼む」
「分かった――だが、その前にだ」
早速マクラミンを担ごうとしたプライスを制し、レジアスは腰のバックパックから医療キットを取り出した。
しかし、出来ることは限られていた。せいぜい傷口を消毒し、包帯で硬く縛るだけだ。本格的な治療は、基地に戻ってからになる。無論戻れたら、の話ではあるが――。
「行くぞ、脱出地点はもうすぐだからな、まだ間に合う」
レジアスに促される形で、プライスはマクラミンを担ぎ上げ、歩き出した。
マクミラン大尉! 大変です、西の空からハボックが!
相棒。それは普通だ、さっさと撃ち落せ 支援
アパートを脱出し、その後道中で遭遇する敵の捜索部隊を蹴散らしながら、三人は脱出地点へと着実に迫っていた。
「見えたぞ、あれが脱出地点だ……」
肩に担がれるマクミランの言葉で、プライスは視線を上げる。そこに聳え立つのは、巨大な観覧車だった。
どうやら、この建設途中の遊園地が脱出地点らしい。ヘリが着陸するのに充分な平地もある。
開園前に原発事故が起きたため、人で賑わうことが無かったこの遊園地にしてみれば、彼らは初めてのお客様となる。
ひとまずマクミランは地面に降ろすよう指示すると、救援のヘリを呼ぶためにビーコンを起動させた。後はひたすら、ヘリが来るのを待つだけなのだが――敵も、ビーコンの発信源を辿り、こちらの
位置を掴んでいるはずだ。
「皮肉なもんだな、ここで初めて人が賑わうことになりそうだ」
前方を警戒しながら行くレジアスが、独り言のように呟いた。
「――レジアス、そろそろ教えてくれないか? ザカエフの取引しているものと言い、さっきの空飛ぶ連中と言い……お前は何で知っているんだ」
ここに来て、プライスは先ほどからずっと胸に秘めていた疑問を口に出す。また言い逃れるかもしれないが、答えないならもうそれまでだ。こいつには、上官のマクミランを助けてもらった恩もある。
レジアスは少し迷ったような表情を見せたが――また、懐から葉巻を取り出し、ライターで火を点け、美味そうに一服して、答えてみせた。
「そうだな、話してもよかろう――」
信じるかどうかは勝手だが、と前置きした上でレジアスは自身の正体について明かし始めた。
自分は、時空管理局と言うこの世の次元世界を束ね、治安と秩序を維持している組織の一員であること。
その時空管理局の地上本部がある次元世界、ミッドチルダにおいて、ある危険な物質が、この世界――管理局で言うところの、九七管理外世界に流出した。彼は管理局から、流出した危険物質の取引を
行っている人物を殺害し、これ以上の流出と拡散を防げとの命令を受けた。
「それが、ザカエフが取引していたあの宝石?」
「正式名称はレリック、とか言うそうだ。膨大なエネルギーを貯蔵し、兵器に転用すれば――そうだな、こっちで言うところの核弾頭に匹敵する威力がある」
「そいつは大事だな。で、そんな代物がテロリストの手に渡ってはまずい、と我がイギリス政府も動いた訳だ」
レジアスは頷きながら、遊園地の至るところにトラップを仕掛けていた。
敵が来るのは明確である。プライスは遊園地内に持参した全てのクレイモアとC4爆弾を設置したが、それだけでは足りなかった。そこでレジアスが、こうして今手に入るものを駆使して、手製のトラップ
を仕掛けているのであった。
「世界は、裏でその管理局とか言うのと繋がっていたってことか。映画みたいだな」
「事実は小説より奇なり、とも言うぞ。管理局にはこちらの世界出身の提督さえいる」
「――で、あの違法魔導師とか言う連中は? 見たところバリアを張ったり変なもん撃ってきたり、魔法使いみたいだが」
「それで正解だよ、プライス。あいつらはたぶん、管理局の体勢に反発するテロリストだ」
全てのトラップの設置を終えたレジアスの言葉に、プライスは眉をひそめた。さすがに魔法使いなど、冗談にしか思えなかったからだ。
「おい、冗談はほどほどにしてくれ。指輪物語は暇潰しに読んだけどな、幻覚として現れるほど楽しいもんじゃなかったぞ」
「プライス、お前はその冗談や幻覚と交戦したんだぞ。マクミランもだ」
それを言われては、どうしようもない。記憶の中でのあの戦闘は、間違いなく現実のものだった。
「管理局や管理局が管理する次元世界では、ああいう魔法が戦闘の主体なんだ。こういう質量兵器は、誰でも簡単に扱えて人を殺せるからご法度だ」
そう言って、レジアスは自身が使っているG36Cを掲げる。
ところが、プライスはそうした彼の行動に、大きな矛盾があることに気付く。
「――お前、管理局の人間じゃないのか。ご法度なのに銃を使って」
「あいにく魔法は適性がないと駄目でな……それに、工作員が常にルールを守るとは限らない」
「なるほど」
G36Cのコッキングレバーを引き、チャンバーに銃弾を込めたレジアスが、それが当然であるかのように言った。プライスは確かに、と納得してしまう。考えてみれば、自分たちも暗殺任務と言う本来非合法な行為を
行っているのである。
「敵が来るぞ、狙撃位置につくんだ」
マクミランの言葉で、レジアスはお話は終わりだ、と手を振り、射撃に最適なポジションに向かう。プライスは離れていくその背中を見送り、自身も狙撃態勢に入った。
それからほんの数分後、彼らが今まで歩いてきたルートをそのまま辿る形で、敵兵たちが姿を見せ始めた。先ほどと同じように、マクミランとプライスがM21で敵を狙撃し、仕留め損ねた者はレジアスがG36Cで撃破する。
足を負傷したマクミランだが、腕と眼が生きているなら、銃は使える。今回はトラップを何重にも設置したから、そう簡単には近付けまい。
とは言え、こちらはわずか三人。弾薬にも限りがある――もし、敵が損害に構わず突っ込んでくれば、押し切られてしまうだろう。それまでにヘリが迎えに来てくれるのを祈るしかない。
プライスは狙撃スコープを覗き込み、徐々にこちらに接近してくる敵兵たちの一人に照準を合わせる。
「敵を確認……もう少し引きつけよう」
狙撃銃と言えど、距離が長ければ威力は落ちてしまう。一撃で敵を倒すことが可能な距離にまで引き付けた方がいい。
マクミランはそこまで考えて、自身もM21の銃口を敵に向けていた。
「交戦準備……撃て」
静かに、マクミランの口から命令が告げられた。
躊躇せず、プライスはM21の引き金を引く。銃声が響き、狙撃スコープの向こうの敵兵が、ひっくり返るのが見えた。
次の目標に、と狙撃スコープをずらしたところで、プライスは舌打ちする。敵兵たちは、遊園地の前に広がっていた草地に伏せた。これでは、敵がどこにいるのか見え辛い。
「レジアス、そっちの方では見えないか?」
「いや、駄目だ……待て」
首元のマイクを通じて、少し前方で待機しているレジアスと通信でやり取りするが、彼は何かを見つけたようだ。
改めて狙撃スコープを覗き込む――はるか奥地から、どこから現れたのか野犬の群れが、地面に伏せていた敵兵たちに襲い掛かっていた。
こりゃ思わぬ援軍だな、とプライスは胸のうちで呟く。かつてはペットとして人間に忠誠を誓っていたこの野犬の群れは、今は本能に従い、狼のようになっていた。
一方で、敵兵たちにとってはたまったものではない。野犬に追われる形で立ち上がり、前進を再開した彼らに対し、マクミランとプライスは容赦なく銃弾を叩き込む。
撃ち尽くしたマガジンを捨て、プライスは予備のマガジンに交換。ちょうどその時、敵の増援が奥地から現れた。彼らはまずは障害となっている野犬を撃ち殺し、続いてこちらに向かって突撃してきた。
コッキングレバーを引いて、銃弾を装填。息を吹き返したM21を再度構え、プライスはこれらを迎撃する。
とは言え、多いな――。
次々と現れる敵兵の数は、無限にすら思えた。とうとう我慢できなくなったのか、レジアスがG36Cを構え、発砲を開始。狙撃スコープの片隅でマズルフラッシュが瞬く度に、射線上にいた敵兵は倒されていく。
「くそ、中に入られた」
通信を通じて、レジアスの報告が飛び込んできた。敵兵たちの一部が、ついに柵を超えて彼らが陣取る遊園地の中にやって来たのである。
だが――マクミランの方を見ると、彼は気にせず、柵の外にいる敵兵を狙撃していた。
「大丈夫だ、この遊園地の入園料は高い」
支援するよー。
支援
マクミランがそう言った瞬間――遊園地内に侵入した敵兵が、爆発音と共に天高く舞い上がり、柵の外へと放り投げられていた。
クレイモアにC4爆弾、さらにレジアスの設置した手榴弾と遊園地で見つけたワイヤーを駆使したブービートラップ。いちいちこれを解除する余裕がある訳なく、敵兵は屍を築いてこうしたトラップを全て作動さ
せるしか、突破する方法はないのである。
この調子なら――プライスは、これならヘリが着くまで充分持ちこたえられると考えた。現に、ヘリのものと思しきローター音も聞こえてきている。
だが、M21のマガジンを交換するべく、狙撃スコープから眼を離した時、彼はそれが誤りであることに気付く。
ヘリはヘリだったが、やって来たヘリは味方ではなく、敵の輸送ヘリ、Mi-8ヒップだった。後部ハッチを開いて、トラップを設置した場所よりも内側に兵員を降下させようとしている。
「あぁ、くそ、敵のヘリか……!」
文句を垂らしながらレジアスがG36Cを降下してきた敵兵たちに撃ちまくるが、ヒップの数は四機。全ての敵兵を仕留めきれる訳が無かった。
スティンガーミサイルでもあればな、とレジアスは疲れた頭で考え、それでも戦う姿勢は崩さなかった。M21を構え、降下してきた敵兵に向かって撃つ、撃つ、撃つ。
「ビックバード、こちら数的不利にあり! 長くは持ちそうにない、あとどのくらいだ!」
マクミランが首元のマイクに向かって叫び、味方のヘリを呼んでいる。弾薬にもそろそろ限界があった。最悪、敵の落としたAK-47で戦う羽目になる。
「アルファ6、全速力で向かっている。踏ん張ってくれ」
踏ん張れってどのくらいだ畜生、とレジアスが叫び、G36Cを撃ち続けている。
プライスも残弾が尽きたマガジンを交換しようとして、残りの予備マガジンはこれが最後であることに気付く。
「……くそ」
呟き、発砲を開始するも、敵の数は依然として多い。とうとうM21の残弾は尽きて、彼の手元に残ったのは拳銃のUSP、それにナイフだけになってしまった。
ため息を吐いてUSPに持ち替えたその瞬間、ガツンと頭部に強い衝撃が加えられ、プライスは地面に叩きつけられてしまう。
何が起こったのか分からないまま、衝撃のせいでぼんやりする視線を動かすと、AK-47を持った敵兵が、その銃床をこちらに突きつけていた。こいつが殴りつけたに違いない。いつの間にやってきたのだ。
反撃しようとしたが、うまく身体に力が入らない。敵兵は今この瞬間にも、AK-47を構え直し、こちらに向け発砲しようとしていた。
これはダメだな。どこか客観的になった思考が呟いた。
響き渡る銃声。だが、身体には何の痛みも衝撃も無かった。それどころか、ぼんやりしていた視界は、徐々に元に戻っていく。
はっとなって身体を起こすと、倒れていたのは敵兵の方だった。その後方から、大慌てでレジアスがやって来る。
「無事か、プライス!?」
「あぁ――何とかな。くそ、一瞬夢を見ていた気分だ」
「マクミランに感謝するんだな」
レジアスに言われて視線をマクミランに向けると、彼が一度こちらに手を振り、そして狙撃態勢に戻った。さすが、SASでトップクラスの名狙撃手と言ったところか。
その時、今度こそ味方のヘリの頼もしいローター音が、彼らの耳に入った。視線を上げるとそこにいたのは米軍のCH-46シーナイト、双発の大型輸送ヘリだ。
「こちらビックバード、待たせたな。早く乗れ」
遊園地内の平地に着陸したシーナイトは、援護のために搭載していた兵士を展開させる。彼らが援護してくれている間に、逃げ込まなければ。
「ほら、行くぞ。大尉を担ぐんだ、出来るか?」
「大丈夫だ……」
銃床で殴られたプライスを気遣ったレジアスだが、彼はしっかりとした足取りで、負傷で動けないでいるマクミランの下へ向かう。
「さぁ大尉、お家に帰る時間ですよ」
「あぁ、そうだな。早く帰ってスタウトビールが飲みたいもんだ」
最後に向かってきた敵兵をM21で撃ち倒し、マクミランはプライスに担がれた。
レジアス、そして救援にやって来た米軍の援護を受けながら、彼はシーナイトのキャビンに逃げ込むことに成功した。
続いてレジアスも搭乗し、展開していた味方の兵士の肩を叩き、撤収を告げる。
「いいぞ、全員乗った!」
「了解。ビックバード、離陸する」
高鳴るエンジン音。シーナイトは離陸し、ただちに高度を上げる。
まだ生き残っていた敵兵たちは必死に銃撃してくるが、小火器程度でシーナイトは落ちなかった。
その間にもシーナイトはますます高度を上げ、一定の高さにまで達すると、全速力でチェルノブイリから離脱にかかった。
「終わった……」
安心したように、プライスはため息を吐く。まだ殴られた頭部がずきずきと痛むが、それよりも生きて帰れることに、彼は深い安堵感を抱いていた。
「そして、俺たちの関係もな」
突然、レジアスが呟き、いつものように葉巻を咥えていた。機内は禁煙なので、咥え煙草と同じ要領である。
彼の言葉の意味を図りかねていると、マクミランが負傷した足を米軍の兵士に治療してもらいながら、「いいや」と首を振った。
「レジアス、お前がどう思っているかは知らんが、俺はお前を任務限りの付き合いだとは思わん」
「大尉……?」
「俺たちは戦友だ」
マクミランはそう言って、レジアスに手を差し出す。
レジアスはわずかな逡巡を見せて――マクミランの手を取った。
「悪かったな、戦友。隠し事ばかりして」
「誰でも人に言えないことはある」
「そうか、そうかもな」
愉快そうに笑って、レジアスは葉巻に火を点けようとして、米軍兵士に「ここは禁煙です」と注意される。それを見たプライスとマクミランは、これも愉快そうに笑ってみせた。
「お前、さっき言われたばかりだろう」
「……うるさい、葉巻は命なんだ」
「ニコチンで死ぬぞ」
「ええい、しつこい奴らだ。おいお前、お前も笑うな」
ひっそりと笑うのを我慢して、肩を震わせていた米軍兵士を小突くレジアス。マクミランとプライスはそれを見てますます笑った。
任務は完了したかのように思われた。少なくとも、誰もが考えてもみなかっただろう。M82A1の直撃を受けたザカエフが、左腕を失うものの生きているなどと。
一五年後、そのツケを払う日が来るまでは。
無敵砲台マクミラン 支援
投下終了。
…はい、例によってリリなののリの字もない仮想戦記になってしまいました(ぉ
とりあえずプロローグ的な部分はこれで終わりなので、次回よりまともにリリなの
キャラが出る予定です。
…え、レジアスは違うのかって? 彼は普通のリリなのキャラではないのです(ぇ
GJ!
レジアスがなじみ過ぎだ!www
本日は映画「シューター〜極大射程」のサントラ(作曲マーク・マ
ンシーナ)を聴きながらの支援・・・
乙&GJです♪
あの太った体で、戦闘なんて出来るのかw?
きっとこの時はスリムなナイスガイだったんだよ
もしくは肉襦袢着用とか
GJ!
えっと……レジアスさん? クールすぎるよかっこよすぎるよこの親父さん!?
一本の洋画を見ているような感覚で、とても面白かったです!
>>193 自分が何の音楽を聴いていたという、はっきり言ってしまえばどうでもいい情報よりも、
投下されたSSに関するコメントの方がいいと思うのですが、いかがなものでしょうか?
GJ!
なんか木曜洋画劇場見てる気分になりました!
GJ!!です。
ハードな任務を無事成功と思いきや、ツケは何を支払う事になるのだろうか?
この頃のレジアスは、そりゃあもうスリムだったと信じたいw
キャロとバクラの人氏の代理投下行かせていただきます。
カリム・グラシアは朝の祈りを捧げていた。場所は彼女がもっとも落ち着く場所である聖王教会総本山の大聖堂。
前面の壁を覆いつくし、ドーム型の天上まで伸びるのは幾何学的に組み合わされた色ガラス、つまりステンドグラス。
そこから差し込む煌びやかな光を受けて陰を作るのは、ベルカのシンボルたる剣十字のオブジェ。
簡易な魔法を用い自動で動く巨大なパイプオルガンが奏でる厳粛で神聖な調べ。
大衆向けに開放される時間よりも早く、無数の長椅子には誰も座っていない。
一段高くなった祭壇の前、真っ赤な絨毯に目を瞑って片膝を付き、手を祈りの形で組む金髪の美女がいるだけだ。
「……」
カリムはこの朝の一時を愛している。
聖王教会とベルカ自治領の重役、時空管理局の一員という重みを脱ぎ捨てる時間。
俗世の重荷を投げ捨てて、神への愛だけを考える事が許される時間。ただ祈りだけを考える時間。
しかしソレも直ぐに終わりを迎えた。カリムほどの要人となれば一日のスケジュールはギッシリと詰まっている。
本当に名残惜しそうな瞳でステンドグラスを見上げ、踵を返した瞬間……
「■□■□■」
「っ!?」
ガラスの破砕音が響いた。振り向いたカリムの視界に飛び込んできたのは砕かれたステンドグラス。
最高のベルカ芸術と唄われた美しい姿は見る影もなくなり、粉砕されたガラス片が降りしきる中、その人物は立っていた。
肩まで掛かる黒髪の男性。ガッシリと引き締まった長身、野性味を感じさせる顔立ち。
色ガラスの雨を見上げながら、呆然とした表情。重量の引かれた落下は直ぐに収まるが、男は砕けたステンドガラスを見上げていた。
「あの……大丈夫ですか?」
状況を理解できていないのはカリムも同じ事。大好きな場所が破壊された憤りもある。
それでも突然現れた男に対して優しさを示す辺り、彼女の心の広さを感じさせた。
「おい、ここは天国か?」
「え?」
だが突然現れた不審者は思考の内容も突拍子も無いようだ。先程の呆然とした表情とは異なる我が強そうな声。
まるで喜劇か何かのような質問の内容に思わず苦笑を浮かべて、カリムは答えた。
「残念な事ですけど、この世界は天国じゃ無いのですよ?」
「そうなのか……」
質問の内容もそうだが、その失望した子供のような表情と声。まるで不釣合い。
始めてみるタイプの人間だが、カリムはこの男の事が気になった。知的好奇心とも母性本能とも怖い物見たさとも取れる感情。
「よろしければ詳しい話でも…『退屈だ』」
退屈だと? カリムは整った眉を寄せ、端正な顔を歪ませて視線を逸らす。
その自分を見下ろす視線を受け続けると、怒り出してしまいそうな気がしたのだ。
突然現れて、『天国』がどうとか言われた上で次は退屈だと? 本来ならば直ぐにでも警備の者たちを呼びつけて捕らえても構わない不審者なのだが……
「何か面白い事は無いのか?」
「ありません! そもそも世界とは…『なら消えろ』…っ!」
ギシリギシリ、ミシリミシリ、ビキビキビキ。それはガラスが鳴くような異音。
死ねと言われた驚きよりもその音に恐怖を覚えた。男の首元から音を立てて這い上がるステントグラス状のアザ。
ソレは病。人間の宿敵として運命付けられた種属の呪われし証。突き出される手、不意に現れた浮遊する『牙』。
『これと戦ってはいけない』とカリムの本能が声高に叫んだ。
「なにごとですか、騎士カリム!!」
彼女の金縛りを解いたのは飛び込んできた警備の騎士たちの存在。
大きなステンドグラスが割れる音だ。外に居た者達の耳にも届く。
騎士甲冑と呼ばれる魔力精製した防護服を纏い、手には剣や槍などのアームドデバイスを握った数人。
彼らは割れたステントグラス、怯えた自分達の上司、その上司に手を伸ばそうとしている不審者を捉え、判断する。
「なんだ、キサマは!?」
「捕らえろ!」
そんな結論に辿り着くのは目に見えていた。一斉に男に殺到する教会の騎士たち。
聖王教会総本部というベルカにとって無くてはならない施設の警備を仰せつかった彼らの腕前は本物だ。
「騎士か! 随分前に滅びた人種だと思っていたが……面白い!」
強がり等ではない。この男は本当に面白いと感じている。カリムは男が騎士たちに向き直ったスキを付いて大きく距離を取った。
距離を取りながらも男から視線を外さない。その表情 戦いを欲する戦士であり、得物を狩る獣であり、退屈を嘆く子供のよう。
「□■□■!!」
間違えようがない獣叫び。蜃気楼のように輪郭が歪み、男はカワル。
それは既に人間ではない。亜人と表現するのも躊躇われる。それは正しい異物であり怪物。
頭部はデフォルメされ造形美すら漂わせ、白い鬣を蓄えたライオン。ガッシリとした体はステントグラスのような色合い。
その上に蔦を纏う城壁のような鎧を纏い、左右の肩にはラッパを吹く人型の頭部が一つずつ。
「化け物がぁ!!」
片方の肩をグルグル回す人間らしい準備運動をする怪物へ騎士たちが殺到。
その数は四人。速度と武装の関係か敵に到達するまでに集団は個人へと分かれる。
戦闘の男が振り下ろした大剣型アームドデバイス。それをヤツは素手で受け止めた。
「なに!?」
人間とは体の構造が違うとしても、ベルカ騎士の近接攻撃を素手で受け止めたことには驚きを隠せない。
振り払おうとするが恐るべき轟力でビクともせず、引き寄せられた上で殴り飛ばされた。
飛ばされた騎士の体は長椅子の列に突き刺さり、数個を粉砕して止まる。
「このぉ!!」
そのスキを付いて背後から振り下ろされるハルバード。無防備な背中を確かに捉えた。
既に非殺傷設定など解除された一撃は背中に一文字の傷を……付けられない。
バチリと火花が散っただけで、まるでそれがオモチャであるかのように無傷。
「バカな!! グホァッ」
驚きで止まった騎士の頭部を逆に捉えるのは鋭い裏拳。ボキリと骨が壊れる音がして、騎士がまた一人崩れ落ちる。
「よくも!」
「同時に行くぞ!!」
残された二人が左右から迫る。だがソレは慌てない。左右から浴びせられる連撃を鼻で笑う。
左右からの連撃を甘んじて受け続け、騎士たちが疲れたのを見計らって突き出す両の腕。
爪が伸張、そしてミサイルのように撃ち出された。魔法のような詠唱も、持続時間の制限も無し。
何とか受け切ったとて既に満身創痍。容易く殴り倒すのみ。
「つまらん……騎士もこの程度か?」
体のステンドグラス状部分に映る人間体の顔が口々に退屈そうに呟いた。
何百回、何千回と積み上げてきた遊戯と同じく、ソレの心とも呼べない歪な精神構造を永久に充足させるに足りない。
またタイムプレイに興じるか? それとも今度こそ天国に逝く為に善い事をするか?
恐ろしい事にソレの中では人間を食い殺して己に罰と褒美を与える遊戯も、他者を助ける善い事も大差は無い。
ただ退屈な己を満足させる為の行動に過ぎないのだ。またその両極端にして同意である選択をしようとした時……拍手が響いた。
「素晴らしいわ……ベルカ騎士がゴミのよう。まさに神か悪魔の所業ね?」
「なんだ、お前は?」
ソレは訝しそうに自分に賞賛の言葉と拍手を送る者を睨み付けた。最初に遭遇した人間の雌である。
ただの人間……そのはずなのだが……
「私はカリム・グラシア、神のシモベです。貴方は?」
「我が名はルーク。偉大なるチェックメイトフォーの一人だ」
『ワラッテイル』
このルークを前にして、か弱い人間共が神とやらに縋る表情と変わらないはずなのに……
「では偉大なルークよ、ここは天国では無いけれど……天国への逝き方なら教えて上げましょう」
歪な福音は告げられたし。
「さぁ、どうぞ」
人間としての姿をとったルークは自分の前に並べられたモノを訝しげに見つめた。
ここは大聖堂ではなく改めて通されたカリムの執務室。円形のお洒落なテーブル、白くてキレイなテーブルクロス。
その上には高価なティーセットが並ぶ。彼がもっとも視線を向けるのはケーキと紅茶。
自分と向かい合う形でテーブルを囲む人間 カリム・グラシアはソレを勧めてきた。
ルークとしては理解できない状態が続く。人間とは自分に襲い掛かって来た怪物にこんな事をする生物ではないはずだ。
「うん……美味しい」
片やカリムは自分のカップを口元に運び、啜る。味と香りを存分に堪能して、花のような微笑。
もちろんそんなモノに心を躍らせるルークではない。いま彼の心を占めているのは先に彼女が発した言葉『天国への逝き方』だけだ。
「天国への逝き方を教えろ」
「その前に質問。どうして貴方は天国に行きたいのですか?」
質問に対する質問。すぐさま自分の問いに答えない人間。普通ならば躊躇いなく喰ってしまうところだが、ルークはソレを自重。
殺すのは容易い。それでもコイツは自分の意思以外で語りそうに無かったのだ。
キングやクイーンのように力に裏打ちされた余裕ではない。ビショップと同様の知識による優位。
「退屈だ……面白い事など何も無い」
彼のような人を喰らう怪物 ファンガイアは総じて長生きである。
そして彼は永遠に繋がる偉大なる四天 チェックメイトフォーの一人。死という概念すら超えてしまいかねない存在。
しかしルークと言う役職には明確な使命が無い。キングは誇りを失ったファンガイアを粛正し人間の進化を防ぎ、クイーンは裏切り者の抹殺。
ビショップはファンガイアのあり方を管理し導く事を使命としているが、ルークには明確な任務が無い。
それでもチェックメイトフォーの一人として、並みのファンガイアとは一線を画す力を与えられている。
故に向かってくる敵を撃退するのは容易い。戦って楽しいなどと言うバトルマニアな考えを持つ暇も無い。
ならば自己完結できる遊びが必要になる。それが彼の言う『タイムプレイ 得物と時間を限定した狩り』である。
自分に課した数を狩る事が出来れば、自分に褒美を与える。逆に条件を満たす事が出来なければ罰を与える。
他者が関与する事が出来ないから、褒美も罰も全てが己で行う……故に飽きる。
「遣り尽したゲームばかりだ。与え飽きた褒美と罰しかない。だから天国だ……楽しいところなのだろう?」
たまたま公園で居合わせた親子から得た情報だが、実に自信満々といった表情で頷くルーク。
そんな彼を見ながらカリムは『本当に微笑ましい』と言う表情。頷きながらこう返す。
「天国から帰ってきた人が居ないから……ステキな場所なのでしょうね」
「そうだろ!……ん?」
『帰って来た人が居ない→帰りたく無くなるステキな場所』トンでも理論だが、ルークを納得させるには充分。
しかしふと彼は思い出す。そう言えば……天国への逝き方を教えて貰うんじゃなかっただろうか?と
「おい、いい加減に天国への逝き方を教えろ」
「そうでしたわね?……天国に逝くには善行と苦行を積まないといけません」
『実に簡単な事です』とカリムは言い切った。相対する彼はと言えば、頭の上に?マークが飛び交う様相。
「苦行とは何だ?」
「文字通り苦しい事です。その場の快楽を優先せずに現状を受け止め、理解し耐え忍ぶこと。
貴方は苦手のようですね? 初めて会った者に『退屈だ』とか『面白い事は無いのか?』って聴く人に始めて会いましたもの」
ルークは痛い所を突かれた。それが天国に至らなかった理由だと言われれば、納得できてしまう。
むしろその退屈こそが天国へ逝く願いの原因であるのだから、改善の仕様が無いとも言える。
しかしそれを人間何ぞに指摘されるのは非常に腹立たしい。故に不満そうにこう言い返した。
「お前はどうなのだ? 苦行とやらをしているようには見えないぞ!」
「そんな風に見えますか? 心外DEす」
空気が変わった。空気など読む能力があるとは思えない子供のような怪物でも理解できる。
クイーン……いやキング……違う。コイツはもっと違う方向で……ヤバイものだと認識できた。
「私にとって世界の全てが苦行です。私は……私はただ神のお側に居たいだけなのに」
微笑みの色が抜けている。形はそのままだが感情が感じられなくなった。
慈愛に満ちた微笑が歪む。グシャグシャグシャグシャ。ソレはなんと言う表情なのだろう?
「ただ神に祈りを捧げるだけでよかったのに……五月蝿い運命の声は耳元で変えられない定めを囁く。
子供の頃からその力のせいで自由は無かった。同年代が駆け回る自由がとても遠かった……」
カタカタと揺れるカップを置き、フラリとカリムは立ち上がった。
覚束ない足取りで仕事机に詰まれた書類を手に取り……躊躇いなく握りつぶす。
「こんな雑務もやりたくは無かった……ベルカを守り、聖王教会を盛り立てのは重責よ?」
握りつぶした書類を放り捨て、詰まれた書類を苛立ち気に崩し、フラフラとした足取りでカリムは再び席に着く。
「あまつさえ……ミッドチルダの異教徒共に媚び諂うのは屈辱の極みだぁ。
私はただ……神を慕い、神の御許へ逝きたいだけなのに……」
極論すればカリム・グラシアと言う人物は実に子供っぽい。ルークと似た物があると言っても良いだろう。
ただそのベクトルの方向性が異なるというだけで……
泣き出しそうだ… 支援
支援
『でも……』
そう前置きした瞬間、カリムの表情が戻る。人間として正常な、聖女とでも表現できる微笑。
「でも……気がついたんです! この退屈は! この苦難は! 神の私への愛なんだと!!」
カリムの微笑は狂気、陶酔に溺れて絶頂感すら覚える表情へと急変。
もう完全に置いて行かれているルークは呆然とケーキを口に運んでみる。甘かった。
「だから私は与えられた定めを完璧にこなします。退屈もしないし、投げ出しもしない。
私は自分にルールを設けません。結果に対して罰を課すもしないけど、褒美を与える事も無い。
与えられる全ての運命を履行し続けます。完璧なカリム・グラシアを演じ続けるのです」
『その果てに……』
「神がいらっしゃるのだわ」
『全てを理解している』と自分の言葉に満足そうに頷くカリムへ、ケーキを食べきったルークが口元にクリームを付けて呟いた。
「大変なんだな……天国に逝くのは」
自分の認識は甘かったようだ。これからはもっと善い事をしよう。
タイムプレイも褒美も罰も止め……止めるのは難しいな? 回数を減らす位で大丈夫だろうか?
そんな子供じみた対策を内心で纏めているルークに、カリムが言った。
「えぇ、大変ですよ? だからお手伝いして欲しいのです」
差し出された手の意味が解らず、首を傾げるワガママな怪物へ……福音は届けられた。
「一緒に天国へ逝きませんか?」
「面白い……最高だぁ!!」
ガシリと差し出された細い手をルークの人間体でも大きな手が握り返した。
この人間は面白い。最高の暇つぶしであり、上手くすれば天国まで連れて行ってくれるという。
最高のオモチャを見つけた怪物は実に彼らしいギラギラと様々な色を見せる ステンドグラスのような笑みを浮かべていた。
「オレは……オレは善い事をする!」
人喰いの怪物ファンガイア その中でも偉大なるチェックメイトフォーの一角 ルークは力強くそう宣言した。
彼が戦うフィールドは聖王教会本部に隣接した公園、その芝生の上。
戦う相手は芝生の隙間に巣食う雑草。装備は草刈の鎌、手には軍手。黒のタンクトップ姿で、首にはタオルを巻いている。
そう、彼はいま善い事をしているのだ。
カリムがFのメルセデスのようだ
『善い事をすれば天国に逝ける』
それは彼が元に居た世界より持ち続けた行動理由である。
違いがあるとすれば彼の善行を指定するのが『天国へ逝き隊同士』であるカリム・グラシアであること程度だ。
自分で自分に課すルールには既に飽きたルークにとって、他人の指定と言うのは新鮮である。
そしてこれは彼が好んだタイムプレイとは異なり、時間が設定されていない。同時に善行は酷くつまらない物である。
「ふん! ふん! ふぅん!!」
しかし怪物は真剣そのもの。一族の仇と付け狙ってきた狼にも似た気迫で雑草を排除し続けている。
『天国に逝くには善行と共に苦行を積まなければ成らない』
正しく草取りは苦である。しかし同時にソレを行う時間は確実に天国へと自分を近づけているのだ。
そう考えるからこそ、今まで感じた事が無いような気迫を持って草を抜く! 抜く! 抜く!!
「あら? 今日もやってるわね、あの人」
「この前は教会の大回廊を拭き掃除しとったよ」
「まぁ〜若いのに立派だねぇ〜」
近くのベンチに座っていたご老人方から聞こえるのはそんな評価。
カリムとの密約を取り交わして一ヶ月ほどになるが、ルークの日常はもっぱらこのような雑事に終始している。
善行と苦行を同時に積むという破格の条件なので、本来の凶暴性で台無しにする訳には行かない。
最初はやっている途中で目の前のモノを全て破壊したい衝動に襲われたが、それも耐え切った。
現状にも馴れた頃には『雑事を進んで行う気がきく青年』と言うポジションをルークはゲットしている。
「あっ! おじちゃん見つけた!」
汗を拭う人間らしいアクションで、労働の成果を噛み締めているルークに駆け寄ってくる幼女が一人。
近くに有る聖王教会直営の孤児院に身を寄せている普通の人間。手に持っているのは封筒。
「どうした?」
「カリム様からお手紙!」
差し出された封筒は宛先も何も無い真っ黒。ただ城の劣搭に薔薇が重なる紋章だけが描かれている。
乱暴に封を切って中身に目を走らせれば、そこには既に労働に勤しむ好青年の姿は無い。血に飢えた獣がいるだけ。
カリムほどの狂人、もとい達人ともなれば制限なき苦行にも耐えられるだろう。
だがルーク程度ではそうも行かない。適度なリフレッシュも必要である。
それこそが手紙の中身にして、善行と言う名の聖女の悪戯。
『反ベルカ主義』と一括りにされる考え方がある。
色々と難しい定義が存在するが簡単に言い表せば……
『大規模騒乱の主犯たるベルカがミッドの脛を齧って存続しているのが気に入らない』
……と言った所だろう。
そんな主張の中でも考え方に誤差が生じ、多くの分派が形成されるのは歴史の常。
ミッドの管轄と接するベルカ自治領のホテルを占拠したのは、その中でも過激な思想を持つグループの一つだった。
「正面突破は可能か!?」
二階部分の窓から放たれる銃弾で、動きが取れない現地部隊の隊長が部下に怒鳴る。
火薬の炸裂音が連続しジェラルミンのシールドや、盾にしている警察車両が悲鳴を上げていた。
「無理です!! 敵は違法銃器を多数装備している上、こちらの頭を押さえられる場所を確保しています!」
銃撃音に掻き消されまいと部下の返事も怒声。しかし内容は明るいものではない。
「空戦魔道師でも居れば何とかなりますが、境界線近くで装備が限定されているうちの部隊じゃ……」
「中央の増援はまだ来ないの……おい、アンタ!!」
その人物はテロリストと治安部隊が睨み合い、銃弾と魔力弾が飛び交う場所へ平然と歩いてきた。
肩まで掛かりそうな黒の髪を二つに分けたガッシリとした長身の男。
タンクトップの上に黒い皮のジャケットを纏ったその男は、部隊長の前で足を止めると目を合わせることもせずに問う。
「アレがテロリストか?」
「そうだが何だ、お前は! ここは関係者以外……!?」
突き出されたのは一枚の紙。そこに書かれた文字に目を通せば、隊長の顔色が変わる。
そんな隊長の様子に部下達が首を傾げていると、大男は手に付けた無骨なデジタル時計を操作。
タイマーに設定してカウントが動き出すと同時に宣言した。
「タイムプレイの始まりだ!」
男はシールドを構えた者達を押しのけ、ホテルの入り口へと歩き出す。
走るわけでもなく、強固な防壁を展開しているわけでもない。ゆったりとした覇者の足取り。背中には見慣れない紋章が見えた。
勿論そこにはテロリストの銃弾が殺到するが……硬い金属音と火花が少々。
弾頭が潰れた鉛球が地面に転がるだけ。衝撃に僅かに身を傾けたが、足取りは止まらない。
必至なテロリストの銃撃をまるで気にもしないように、治安部隊の努力を嘲笑うように、ソレはホテルの内部へと入っていく。
「尖搭をバッグにした薔薇の紋章……聖王教会の懐刀……」
隊長が見せられた手紙にはベルカ内部でならば、どんな命令よりも優先するべき聖一級命令でこう書かれていた。
『手紙の持ち主の邪魔をするな』 『一切記録に残すな』 『口に出すな』
噂には聴いていた。ベルカ騎士団などの表の戦力とは別に聖王教会が保有する裏の戦力。
「チェックメイトフォー……ルーク」
支援
ホテルの中はテロリスト襲撃時とは違った地獄絵図と化していた。
銃弾も魔力弾も通じないステンドグラスの色をしたライオンの化け物が迫ってくる。
それだけで先程までホテルの客達を恐怖のどん底に陥れていたテロリスト達が泣き叫ぶことになる。
「ひぃ! がほっ」
また一人、テロリストが抵抗空しく命を失う。ルークの戦術は単純明快。
頑丈な体で攻撃を防ぎ、似合わぬ速度で近づき、全力で叩く。
魔力に依存しない生物種としての強健な体構造に物を言わせた純粋な暴力。
ある者は拳で叩き潰し、ある者は首をねじ切り、ある者は爪で突き刺した。
「□■□■□!!」
楽しい楽しいお遊戯 タイムプレイの時間。ガラスの擦れ合うような音を発して、人喰いの怪物は笑う。
『ずっと続けるのは大変だと思いますから、たまにですけど……ゲームを許可します』
善行と苦行のイライラがピークに達していた時、カリムが彼に何気なくルークに言った。
『条件として獲物は指定します……だって私は神に楯突くクズ共を始末でき、貴方は日頃の行いが報われる。
……二人とも万々歳ですよね?』
正に万々歳! 我慢してから行うタイムプレイは今までの何倍も楽しい!!
カリムが指定する人間共は武装していて、歯ごたえも中々のモノ! これをクリアすればご褒美という楽しみも待っている。
「最高だぁ!」
悦楽と共に、何度も踏み潰していたテロリストが息絶えているのに気がつき、ルークは歩を進める。
時々出会うホテルの宿泊客は無視。彼がそれらをテロリストと見分ける手段は武装しているか否か程度なのだが……
「それ以上近づくな!」
実に漫画的、アニメ的、映画的シチュエーション。震える女性を押さえつけ、銃を突きつけたテロリストがいる。
ルークが足を止めたのは決して敵の言う事に耳を傾けたからではなく、このような状況への対処策を思い返すため。
数秒の沈黙の後、ガチャリガチャリと行進を再会。焦った男は声を張り上げた。
「この女がどうなっても良いのか!?」
「オレが殺すと不味いが、お前が殺したのなら問題ない。それに……」
思い返すのは人質が居た時の対処を告げるカリムの言葉。
『気にしないで犯人の沈黙を優先してください。もし殺されても良いんです。
だって我らの民ですもの。偉大なるベルカの為に死ぬ覚悟は出来ているに違いないわ』
カリムの言葉告げた時の犯人と人質の顔と言ったら……
「残念だったな? あの女は正常に逝かれてる」
チェックメイトフォーの中でもっとも力強く、もっともイカレている男が唯の人間の小娘をそう評した。
既に犯人と人質は目の前。何時まで経っても撃たない犯人の手をゆっくりとした動作で捻り上げ、銃が滑り落ちる。
人質は転がるように離れれば、既にテロリストが出来る事など何も無い。
「ドス」
恐怖に歪んだ首元にファンガイアが食事に用いる牙が突き刺さった。
主の意思で自立飛行し、人間に突き刺さってライフエナジーを吸い取る一対の凶器。
ライフエナジーを吸われた人間は色を失い、ガラスのように砕けて消える。
「■□■□■□!!」
本来は無色、色と時を持たない怪物の体を人間から奪った色が満たす。
満腹感のような充足を味わっているとルークの腕から響くのは腕時計のアラーム。
人間の姿に戻り、腕時計の電子音を止めて呟いた。
「タイムアップか……」
既に抵抗を続ける者は居ない。下の階では現地の治安部隊が突入を始めたようだ。
ルークの成すべき事は完遂されたといって良いだろう。つまり……
「ゲームクリアーだ!」
「オレはオレにご褒美を与える!」
最初に通されたのと同じ執務室、やはりテーブルを囲んでルークとカリムは座っている。
違うところがあるとすればルークの前に置かれているのが、ガラスの器に入ったパフェだと言う点だろう。
ソレはご褒美。日頃の善行と苦行、そして先日のホテル占拠事件の鎮圧に対する労い。
そして明日からの苦しい道のりを登るための糧。
「ベルカ一と名高い菓子職人の作品なんですよ?」
そんなカリムの説明など聞いている訳ではないファンガイアは、銀のスプーンを手に取ってパフェへと突き刺した。
なるべく多くを口に運ぼうとした結果、ボロボロとパフェは崩れているが、気にはせず口に放り込む。
口の周りにクリームを付けた姿は正しく子供のソレ。
「美味い……最高だぁ」
正しく至極の一瞬と愉悦に顔を歪めるルークとソレをみて微笑みを浮かべるカリム。
怪物は余りにも嬉しそうにパフェを食べるから、その幸せを少し別けて欲しいと苦しみ続ける聖女が思っても仕方が無い。
「なんだ?」
席を立ったカリムが不意に自分へと抱きついて来たから、ルークはパフェを食べる手を止めて訝しげに問う。
「ちょっと幸せを分けて貰おうかと思って」
「幸せを分け与えるのに、どうしてオレは押し倒されている?」
いつの間にやら椅子から転がり落ちた二人。
ルークはパフェを死守しながら、自分を見下ろす形で腰の辺りに跨るカリムへ、憮然とした言葉を向ける。
「私みたいな女はイヤ?」
法衣のリボンが解かれ、カリムの首元が露出する。それだけなのだが逝かれた聖女からは淫靡な誘惑が溢れ出す。
ゴクリと種族を超えた欲求で喉が鳴り、ルークは思わず呟いた。
「美しい……」
「なら大丈夫ね?」
サラリと鳴る髪の音、細められた瞳には艶やかな色。
まるで人間に自分が食べられるような錯覚を受けて、怪物の背筋に走るのは鳥肌。
ルークが慌てて振り解こうとするよりも早く、カリムが彼の耳元でそっと告げる。
「ア・ナ・タ・にぃ〜夜が来る♪」
「何でお前がその台詞をぉ!? なにをするやめ(ry」
ルークの言葉は続かない。主の意思を感知したかのように部屋の照明が弱まり、カーテンが閉まった。
つまり『夜が来た』のである。
翌朝 何時も以上に満ち足りた顔で祈りを捧げるカリム・グラシア。
そして男として、ファンガイアとしての尊厳も奪われて真っ白になって動けず、公園で子供たちに突かれるルークがいたのは余談。
もう信仰とかどこへw支援
以上です。本当にごめんなさい(ぁ
カリムスキーさん、ごめんなさい。これは私が考えるカリムであり、実際のカリムとは一切関係ありません(ぇ?
特撮は難しいです。ルークのキャラってこんなので良いのかしら?
あっ! 題名は『リリカル☆ルーク』ですw 次は『リリカル☆ビショップ』でも……(通信途絶
ちょwwww ルークの尊厳と誇りが絶滅タイムだwwww
こんな狂ったカリムも読んでると個人的には素敵に思えてくるから不思議です(何
では、代理投下はこれにて終了でした。
このカリムさんはイスカリオテとかそういう機関の長を務めているに違いないwww
怖くて格好良くて、やっぱり怖いよカリムさん!!
自分で調べれば済む話ではあるけど、それでも
何の作品とのクロスか明記しないのはどうかと思うのアタシ。
>>218 ちょwww
どこの川崎支部の将軍ッスかwwww
いちおうクロス先は「仮面ライダーキバ」ですね。
ってかカリムさんがwww
凄いSSだなぁおいwww
>>216 スレ主さんからチェックが入りましたので素直は感想をば・・・
これは、
>>217氏の感想と同じくと言うか・・・これはきっと
ミッド側には宿敵として、銃剣を山ほど隠し持った外道魔導
師が居るワケですな。
とある魔術の禁書目録にいなかったかこのカリム?
あれも本当にイカレキャラだったな…
……ちょっと休憩が長かったね。
お待たせしてすみません。
午後6時50分ごろからミッドチルダUCATの続き。
地上本部攻防戦のラストを投下予約をしておきます。
げふん。昨日の投下に間に合わなかった(´・ω・`)
支援しまする。
Tes.!!
はいはいJud.jud.
228 :
一尉:2008/12/10(水) 14:51:23 ID:lcf+WEac
よかろう承認します。
これが勝利の鍵だああぁぁっっ!!
⊃待機&支援
休憩が長いだって!?むしろ短いですよ!
支援する。Tes
支援 Tes
突然ですが、容量計算していたら70KBに達しそうなのでちょっと分割して今から一部投下します。
誰だ。前は100KBで収まりそうだといった馬鹿は 合計160逝くじゃねえかよ ORZ
支援をお願いします。すみません。
それは激しい戦いだった。
一人の女性が大地を脚で噛み締めると、同時にその両腕に構えた武器を上に放り投げて叫ぶ。
「トンファーパァァァンチッ!!」
大地が砕ける、大気が渦巻く、魔力を流し込み振り被る拳の周囲を魔力制御し、それら全てを圧縮大気として凝縮。
トンファーの力を借りた必倒打撃。
それを繰り出すのはただ一人、聖王教会が誇る鬼神シャッハ・ヌエラ。
それが真っ直ぐに両腕でクロスした少女――バイザーにも似た額当てを付けたナンバーズ・セッテの腕にめり込む。
「っ!!」
吹き飛ぶ。
しかし、セッテは身体を捻り、旋転しながら衝撃を受け流し、数メートル先の地面で柔らかく着地しながら手を振った。
転送魔法、その手に握られた二振りのブーメランブレイドが旋回しながらまっしぐらにシャッハに迫るが。
「甘い!」
キランとシャッハの目が輝き、その両腕が大きく天に振り被られて――
「トンファァアア」
膝と共に大地に叩きつけられる。
「土下座!!!」
ドゴンッという爆音と同時に投げ込まれたブーメランブレイドが瞬時に圧壊した。
土下座のポーズをしただけで何故か二本とも砕け散った。
如何なる原理だろうか、その動作はもっとも衝撃波を生み出し、あらゆるものを圧壊し、破砕するポーズ。
第97管理外世界の極東地方で伝わる伝統的なポーズ。
「……」
理解不可能。
そんな目つきでシャッハを見るセッテ。
その間に、シャッハは立ち上がると、膝の土埃を払って。
「キャッチ!」
両手を上に伸ばし、落下してきたヴィンデルシャフトをキャッチして再び装備。
ジャコンと音を立てて構えながら、シャッハはさらに追撃の手を緩めない。
スタタンと軽やかに地面を蹴って、身体強化、魔法の暴風を纏いながら大地を蹴り――その瞬間、飛び込んできた凶器に両手を閃かせた。
ブーメランブレイド。再転送、さらに武器が増えている。
空中を踊るのは四つの刃、四つの敵意、四つの殺意。
光刃を纏いし投擲刃。それをヴィンデルシャフトで受け止める、激しい金属音と共に弾くが、クルクルとその刃は自律稼働で旋回。
「っ!」
――加速。
刀身背部のスラスターを吹かして突貫してくる、軌道上には首、再び弾いてもキリが無い。
故に。
「なんとぉ!」
ヴィンデルシャフトを左右の地面に突き刺して、シャッハは回避を選択。
右踵でブレーキをかけながら、左足を爪先から上へと蹴り上げるように伸ばす。
上体を逸らして、シャッハは後ろへと倒れこんだ。
眼前をブーメランブレイドの刃が通り過ぎていく、それを見送りながら、ぶわりと空気を孕んで舞い上がる腰布の感触が邪魔だと重いながら、両手を後ろの地面に添える。
「とぅつ!」
両腕の筋肉がしなやかに伸び、腕の骨格がしっかりと己の体重を受け止めて、遠心力の原理と身体のバネを用いてバック転。
回転しながら、シャッハは宙へと舞い上がり、もう一つオマケに飛び込んできたブーメランブレイドの刃を。
「トンファァアア!!」
身体を捻る、空気を掴んで――“大気を蹴った”。
ベルカ式魔法の応用、ルフトメッサーに代表される大気の操作原理、一瞬だけ空気中の大気抵抗を跳ね上げて、それを足場にすることなど造作も無い。
飛行適正はないが、シャッハとて空中戦の手段ぐらい確保済みである。
「サマーソルト!」
蹴り上げる、刀身の側面を思いっきり蹴り飛ばした。
真っ向からの抵抗ならばともかく、真横からの衝撃には予測してなかったのか、ブーメランブレイドの一つが破砕される。
「――ダァブル!!」
さらにもう一段、大気を蹴って飛び降りたシャッハの靴底。
その両足に踏み潰されて――地面にめり込んだ。
ドガシャッとガジェットの装甲すらも粉砕する脚力の前に抵抗は無意味。断末魔の如き火花を散らし、爆炎を上げるも、彼女の足は無傷。
「武器がさらに二本減りましたね」
静かに微笑み、シャッハが告げる。
しかし、その時旋回して戻ってきたブーメランブレイドの片方を受け止めたセッテが静かにシャッハに目を向けた。
「――聖王教会所属騎士シャッハ・ヌエラ。あなたは何故デバイスを使わないのですか?」
セッテは無表情に訊ねる。
しかし、シャッハ首を捻って。
「なにをいってるんですか。使ってますよ」
地面からヴィンデルシャフトを引き抜き、構えながら。
「ほら、この瞬間にも! あと防御の時とか、ガードする時とかですね」
「……理解不能。どうやら私は経験が足りないようです」
そんな問題じゃないぞー! と、遠くで叫び声が聞こえたが。
うるさい、おら縛り上げろ! 金属が駄目なようだから、縄だ! ガムテープだ!! グルグル巻きにしてやんよ! という無数の叫び声と共に沈黙の蓋が落ちた。
シャッハとセッテが対峙する。
背後でムームーと唸り声を上げているチンクがいて、その周りに「とりあえずヤキを入れるか」「よし、舞わそう」「生意気だからマワそう」「コマ紐は?」「うーん、あ、おい。そこの縄もってこい、縄。回すぞ」などと呟いている連中も気にならない。
トンファー支援
ドゴォ
「人の英知はまだ未熟です。故に迷い、悩み、己の力の無さを嘆くのです」
シャッハは告げる。
修道女としての優しげな笑みで。
「そして、それを救うのが信仰です。尊い人を敬い、信じ、自らも憧れて、それに近づこうとする。その研鑽こそが信仰であり、私の力」
セッテに告げる。
誰かに聞かせる。
己の道を突き進むために。
「さあ来なさい。信仰とトンファーの力を魅せましょう。貴方たちを悔い改めさせるために」
「――状況を再開します」
セッテが片手に握ったブーメランブレイドを振り被り、シャッハが緩やかに駆け出す。
背後で「む〜!?」といいながら、クルクルと回転させられているチンクがいて。「いいではないか、いいではないか!」「回れ回れ、メリーゴーランドぉ!」と、愉快に巨大コマ紐を引っ張っている陸士たちの笑い声があった。
BGMを笑い声に、二人の女が激突する。
「Attck」
ブーメランブレイドの背部からスラスターが噴き出す、斬撃補助。
音速に迫る斬撃が迫り、繰り出されたヴィンデルシャフトと激突。
空気を引き裂く音と空気を破砕する音が同時に響き渡り、肉が、骨が、血が震え立つ。
「トンファー・ラァアアアッシュ!!!!」
「――!!」
乱撃、連撃、応酬。
刃をぶつけ合いながら、殴る、打つ、切る、払う。
そして。
「遅い!」
斬撃の応酬が100合を超えた瞬間、甲高い音を立ててブーメランブレイドが振り抜かれた。
クルクルと舞い上がるのはヴィンデルシャフトの片方。
「っ!」
「人体反応の限界です」
セッテの冷たい声と同時に紅い華が咲いた。
真正面から切り裂かれた胸元、そこから血が吹き出し、苦痛にシャッハが顔を歪める。
そして、同時に繰り出されたセッテのハイキックがシャッハの薄い乳房の上から叩き込まれて、彼女の体が吹き飛んだ。
『死夜覇の姉御!?』
陸士たちの驚愕の声が響き渡り、シャッハの身体が地面に叩きつけられる。
むー! と声を上げるチンクの顔に喜色が浮かぶ。が、同時にクルクルと回されて悲鳴に戻った。
「状況終了。次は貴方たちです」
静かに告げるセッテの横の地面に、ザクリとヴィンデルシャフトの刀身が突き刺さる。
墓標のように。
しかし。
「……悪いですが、まだです」
セッテが陸士たちに向き直った時、背後から声。
目を向ければシャッハが残った片方のヴィンデルシャフトを地面に突き刺し、支えにしながら立ち上がろうとしていた。
「――無駄です。貴方のダメージは深い、戦闘の続行は無意味です」
「さて、それはどうですかね」
ニコリと微笑む。
そのシャッハの笑みにセッテは疑問を抱いた。
何故そんな笑みを?
――演算。推測結果、戦闘によるアドレナリンの過剰分泌、痛みを陶酔感覚に変えている。マゾだと結論する。クアットロ曰く、雌豚と呼ばれる人種の同類だろうか。
「何か失礼なことを考えてませんか?」
シャッハが眉をひそめて呟く。
「いえ。激痛による戦闘続行を強く望む人物だと推定しました」
「そうですか。意味は判りませんが、まだ勝負は付いていません。さあ来なさい」
バリアジャケットの損傷部分も復元せずに、シャッハがよろめきながら構える。
セッテは速やかに意識を断ち切り、生命活動を停止させようと戦闘処理演算を開始使用したときだった。
「あ。そういえば一つ質問です」
「?」
「私のヴィンデルシャフト、どこにあるか知りませんか?」
失血による視力低下だろうか。
しかし、答える必要は無いだろう。
「あ、右にありましたね」
自分で気付いたらしい。
けれど、視力低下ならば都合がいい。投擲で仕留められる。
そう考えて、セッテが身体を捻りながら、撃ち出そうとした瞬間。
「実はそれ――爆薬を仕込んでいるので、危ないんですよ」
「っ!?」
その言葉に思わずセッテは右を見た。
しかし、ヴィンデルシャフトはそこには――無かった。
「さようなら……ヴィンデルシャフト37号」
カチッ。
彼女が握るヴィンデルシャフト、その握り手のカバーが開き、そこから出現した紅いスイッチが押されたと理解するよりも早く。
「トンファー・ダイナマイト♪」
彼女の世界を支配したのは爆音と爆炎と光爆だった。
背後から生み出された爆風で、セッテは空高く舞い上がっていた。
衝撃が全フレームを震わせ、地面に墜落し、その衝撃でブラックアウトしていく己の思考に理解する。
それが、意識が遠のくという意味を始めて理解した瞬間であり。
「あ、私から見て右でした」
と、当然のように告げる女性の声が聞こえて。
「これが信仰の力です!!」
嘘だ! と、この時強く心に想ったのが、初めての人間的感情だったと数年後の彼女は語る。
「と、いうことがあったんですよ。騎士カリム」
「……もういいわ。ちょっと頭痛がするから」
簀巻きにしたナンバーズ二人を引きずり、受付から教えてもらった隠し扉を蹴り開けて、トゥッと天井から現れたシャッハは明るい笑顔でカリムに報告したのだが。
「体調でも悪いのでしょうか? 頭痛薬ならばすぐに取りに行きますが?」
カリムはよろよろと机に手を当てて、頭を押さえた。
他の人物たちは既に遠い目をして、茶でも飲むか。ああ、帰ったら休暇申請して息子と遊びに行こう。などと会話していた。
三人娘は卒倒したフェイトを除いて、二人共机に倒れこんでいた。
「……」
頭痛の原因は貴方よ。とはいえない、カリムは空を仰いだ。
――しかし、天井には出番待ちの黒子が張り付いていたので、ちっとも空は見えなかった。というか、見なければよかった。
(……私の元を離れた派遣時代何をやっていたのかしら?)
カリムとシャッハは昔からの幼馴染であり護衛役であったが、四年程前にミッドチルダUCATの宗教監査役として派遣されていた。
そして、一年ほどの出向から帰ってきた時には特に変わった様子もなかったのだが……しっかりと汚染されていたらしい。
――カリムは知らない。派遣されたシャッハが同じように変態の巣窟で心がへし折れたことを。
――カリムは知らない。開き直ったシャッハが死夜覇と呼ばれるほどに荒れたことに。
――カリムは知らない。荒れていたシャッハがとある理由でミッドチルダUCATに出入りする某提督と一緒についてきた青年に惚れ直し、更正した事を。
――カリムは知らない。更正したシャッハがミッドチルダUCATに居た戦う生徒会長と名乗る人物から様々な技を教え込まれたことを。
――カリムは知っている。楽しげなシャッハがバレンタインなどのイベント行事には彼女の義弟と一緒に食事などをしていることを。
――カリムは知らない。数年後、色々と諦めた顔で彼女の義弟が、ある知っている女性を懐妊させその責任を取って結婚することを知らせにやってくることを。
今の彼女は何も知らなかった。
「……エリオ、なんでぇ……」
その時だった。
ぐすぐすと半ば半泣き上体で机にうずくまり、泣いていたフェイトが蚊の鳴くような声で泣き声を洩らした。
「な、泣かないでフェイトちゃん! ほら、ティッシュ!」
なのはが慌ててフェイトにポケットティッシュでその顔を拭いてあげる。
グスグスと涙を流し続けるフェイトが、チーンとティッシュで鼻をかんで。
「わたし……育て方を間違えたのかなぁ……」
「ほら、泣いたらアカンで!」
はやても慌ててフェイトの背中を摩る。
他に何故か沢山の人々がフェイトに必死に励ましのオールを贈った。
それが何故か非常に嬉しい反面辛かった。
「ふむ。実に人情に溢れているな、この世界は。美少女限定かもしれないが」
「それってどこでも一緒だよね。大城部長が泣いていても誰も慰めないのに」
「新庄君。あんな変なオヤジを心配するのは聖人でも不可能なことだ。誰も彼らの度量を責めてはいけない。そう例え新庄君が路傍の石を蹴飛ばしても私が責めないようにね」
などと、暢気に感想を告げている二人を無視して、レジアスはモニターを見ていた。
グレートクラナガン。
現在未調整中の三機による各自合体、そして最終形態を除けば現状最高のミッドチルダUCATの誇る戦力である。
「……勝てるか?」
ジワリとレジアスの額に汗が浮かぶ。
ゼスト・グランガイツ。
彼の実力をよく知る親友であるレジアスは背筋に走る冷たい汗を止めることは出来なかった。
今ここに――合体は完了した。
『これが……グレートクラナガン』
エリオは呟く。
コクピットルーム、その右半面に浮かんだ解析用モニターに浮かび上がる威容に息を飲んだ。
グレートクラナガン。
その全長は25メートルにも及ぶほどに巨大化し、それに比例するように装甲が強化された重装甲体。
その兆候が顕著なのは四肢。脚部はアインへリアルの下部装甲を装着し、脚部裏には無限軌道による履板の環が設置されており、その間のサスペンションにより重装甲での自重にも耐えるための脚となっている。
腕部はクラナガン本体の装甲を内部装甲とし、追加された装甲は外殻として覆い尽くしていた。
見よ。あらゆる危険や災厄をも恐れずに握りつぶせるほどの巨腕を。
両腕の外部装甲には二つに分割された大型ドリルが付いており、それが必要とあれば武器になることをエリオは知っている。
胸部には如何なる世界でも大いなるものを崇められるドラゴンの紋様が浮かび上がり、その力強さを主張していた。
グレートクラナガンの頭部はより一層神々しく光輝き、その意思を熱く燃やして煌めく。
『リカバリープログラム起動――オートリザレクション』
グレートクラナガンの全身が淡く輝き、同時に再生していく。
一部のインテリジェンスデバイスが持ち合わせる自動修復機能。
それがグレートクラナガンにも搭載されており、緩やかにだが傷口を埋めていき、本来の輝きを取り戻していく。
命が溢れるかのように、太陽が陽光を放ち、命を芽生えさせていくかのような優しい光。
『蘇る。蘇るよ、クラナガンは!』
エリオが叫ぶ。
同時に燐粉の如き、或いは羽毛のように舞っていたX−wi−ngの翼がはためく。
X、その字通りにウイングブロックを上下に分割し生み出された四枚の翼は上下左右に展開し、神話に語られる天使の如き光輝を背負う。
『オォオオオオオオ!!!』
風が生まれる。
大気が荒ぶり、赤子の産声のように荒々しくも鮮烈なる音を鳴り響かせる。
風が、空が、大地が、命が、吼え猛っていた。
風が渦巻き、パラパラと装甲周辺にまとわりついた金属のカサブタを吹き払い、光の羽毛が、粒子の燐粉がバッと散った。
見よ、今ここに蘇った勇者の威容を。
息吹を持ち、魂を燃やし、力を発する閃光の如き輝きを見よ。
それは鮮烈なる希望の証。
鋼鉄の巨人から錬鉄の巨神と呼ぶに相応しい闘士。
『ゼスト! ゼスト・グランガイツ!!!』
エリオは叫ぶ。
『我らは!!』
グレートクラナガンが叫ぶ。
『決して朽ちず、折れず、負けぬ地上の剣! 退きはしないっ!!!』
大地の重みを噛み締めて、空の広さを感じ取り、グレートクラナガンとエリオは意思を高めて吼えた。
大気が震える、空が渦巻き、許容量を超えて湧き上がる出力に紫電すら舞い上がる。
そして、それを見て――ゼストは笑った。
「面白い」
歯を剥き出しに、その手に槍を携えて、笑ったのだ。
虚空から魔法の制御を断ち切り、重力落下のままに大地に着地する。
ひび割れた大地を、砕けたアスファルトの上を、ふわりと体重を感じさせないかのように降り立った。
「だ、旦那。アタシもユニゾンしようか?」
「いや、まだ必要ない。どこまで力を付けたのか、試したい」
肩に降り立つアギトの頭を撫でて、ゼストは薄く微笑む。
ポッと顔を赤くし、パタパタと翼を動かして立ち去るアギトを見送った後、ゼストはゆっくりと槍を振るって、手首の調子を確かめる。
「機械の魂。若き闘士。どこまで俺に匹敵できるか、試してやろう」
告げる、告げる、告げる。
傲慢とさえ思える発言。
だがしかし、彼は一片たりとも侮ってなどいない。
どこまでも本気。
誰が知ろう、誰もが知っている。
彼の最強たる由縁を。
誰もが語る。
彼は闘争に見入られ、闘争を食い殺し、己が選ぶ者たちに振るわれる最強無比の暴力だと。
闘神 ゼスト・グランガイツ。
彼に相応しき称号があるとしたらただそれだけだ。
槍だけに生きるには無骨であり、軍に所属して生きるには身勝手すぎる、ただの闘争の化身。
だが、それ故に、それなのに、望むもののためにだけ牙を剥く獣。
『トラボシブレレェエエエド!!!』
『刃よ! 僕らに力を!!』
グレートクラナガンがトラボシブレードを構える。
巨剣とさえ思えたそれが、グレートクラナガンの四肢の前にはロングソードも当然だった。
無骨な指先に包まれ、それはただ1人の神を討つ為の刃と化す。
「こい! その気合、どこまで持つか!!」
ゼストが槍を構える。
無銘、だがしかし、己が愛する者たちの祝福を帯びた唯一無双の長槍。
『――打ち倒す!!』
「――試してやろう!」
勇者たちと闘神が再び激突する。
ヌンチャク支援
一端ここまで。
続きは投下時刻にさせてもらいます。
色々と無作法をやってすみませんでした。
支援ありがとうございました。
冒頭でのチンクの扱いが最初18禁かと期待した私はもうイロイロ汚れてしまったんだぜ・・・・・・
GJでした!続きを全力で待機しまってますぞ!!
待ちきれない子ども達(心が)の為に早めに参上だって?
流石僕らの勇者だ!!
支援
トンファー教ですね分かりますGJ
出雲は何を教えたw
相変わらず馬鹿馬鹿しいぜ!(褒め言葉)
シスターマジ卑怯wwwww
シスター!37号って何回使ってるんだwww
てゆーかもうバリバリに質量兵器ww
戦いは続いていた。
そして、ここでもある意味戦いは続いている。
音楽は鳴り響く。
歌は終わっていない。
世界を鼓舞する祈歌は続いていた。
「信じようよ、自分の世界を」
ラグナは歌っていた。
千里も歌っていた。
曲は再び折り返し、けれどもまったく違う顔を見せていた。
誰もが戦いを終えて、帰り支度をするかのように。
「護ろうよ、大切な誰かを」
痛くて苦しいときに想いが込み上げるように。
竜司がギターを鳴らす、優しく、そして愛する女性に触れるかのように丁寧に。
「突き進もうよ、友達が倒れても」
出雲が汗を吹き出しながらも、ドラムを叩き続ける。
激しいリズムが勇気を湧き立たせて、それをサポートするようにダンのリズムが全体の活気を整えていく。
「歩き出そうよ、どんなに辛くても」
ヒオが、美影が美しい旋律を重ねていく。
幾つも、幾つでも、天へと届くことを祈りながら。
「私の前には誰かがいる」
ラグナが手を伸ばす。
会場の誰もが手を掲げた。
「私の後ろには誰かがいる」
千里もまた手を伸ばして、握り締める。
誰もが息を飲み、手を握り締める。
「仲間が、友達が、好きな人がまっているから」
想いが世界を生み出していく。
聞き惚れるものたちの心に形が生み出されていく。
仲間、友達、恋人、妻、夫、父親、母親、家族。
「私たちは突き進む」
それに辿り付くために。
突き進む。
「私たちは武器を取る」
戦わないと護れないから。
誰もが人生と、命を護るために戦っているから。
「私たちは信じあう」
ラグナが、千里が言葉を紡ぐ。
出雲が、竜司が、美影が、ダンが、ヒオが、祈りの旋律を重ねていく。
手を絡めあっていくかのように。
「手の平を突き出して、掴み取る」
誰もが手を握ることから始まる。
母親が、父親が、世界が、誰かが握り締めて。
世界を、母親を、父親を、誰かを握り締める。
「ただそれだけは間違ってないから!」
咆哮だった。
想いが世界を貫くシャウト。
その言葉がどこまでも響いていく。
全ての終わりにして始まりのクロニクルとして。
命の年代記はこうして紡がれるのだから。
支援
支援!じゃのうてTes!
誇りを、命を、魂を賭けた戦いは続いていた。
『オォオオオオオオ!』
『ハアアアアアア!!』
「ヌォオオオオオ!!」
三つの怒号が上がり、二つの武器が激突する。
互いの間合いは五十メートル程度。
一刀一速には遠すぎる、だがしかし、それすらも刀圏内。
誰が信じようか。
その刃、巨神が振るう太刀にして巨剣。刃渡りは十数メートルではきかぬ、長大なる斬魔巨剣。
その一太刀は山をも引き裂き、大地を抉り、空を切り裂き、魔を断つ刃。
それが、ただ1人の人間すら断てずにいる。
風を切り裂く鋭い唸り声を纏い上げながら、振るい抜く一閃の先を見よ。
荒らぶる神々の怒りでもこれほど激しくは無い。大いなる自然が自然破壊の代価として生み出す土砂崩れよりも重い一刀の刃、それをただの一本の槍で受け止める人がいる。
機神が大地を踏み締め、振り下ろされる一太刀。
それを見上げながら、音よりも早く踏み込み、腰を捻り、肩を伝い、腕と手首を回して力を篭めて、魔力を持って人知を超える威力と変える闘神の一突き。
その顔には笑み。
誰もが驚愕するだろう、笑顔。目元は厳しく、口元は硬く結ばれているもその感情は喜色。
恐れていないのだ。この戦士は、如何なる危機さえも笑い飛ばし、機神が繰り出す粉砕確実の刃さえも恐怖と感じない。
故に放てる、震えることなき己の一撃を。
空より舞い落ちる巨神の一太刀と地より噴き出す一突きが正面から激突し――弾き合う。
爆音。
互いに激突する衝撃波が互いに口付けを交わし、息絶えたかのようにその内部に秘めた破壊を音風として世界に帰還した音。
『ぐっ!?』
『これでも!? 押される!?』
その音を聞きながら、一人の勇者が、一人の少年が、戸惑いの声を上げる。
「中々にパワーは上がったが!!」
ゼストが吼える。
魔力を生成、放出、力場と変える。
見よ、この刃を。空間の空気中物質を核に、疑似物質を製造、製造、製造――構築連結癒着固定。
古代ベルカの術式が一つ。
鉄槌の騎士が使うギガントフォルムと同じ変成魔法の一つ。
無駄に取り回しが面倒なためにゼストは好まないが――打ち合うには丁度いい。
「技が甘いっ!!」
巨大にして長大にして馬鹿げた速度のその巨槍。
巨人が握るが如きそれを両手で握り締め、咆哮を上げながらゼストが大地を踏み締め、周囲の人間全てが知覚出来るほどの地響きを奏でながら、振るう。
如何なる超常現象か。
その先端は霞み、輝き、蒸気が舞う。
Tes!
Tes.
「なんだあれは?!」
見ていた陸士がその光景に声を上げた時、シュタッとその傍に降りたタキシード服にマイクを持った解説役の陸士が叫んだ。
「おお! あれこそは物体の高速移動による水蒸気爆発!! 見てください、彼らの剣戟は空気中の水分すらも爆散させるのです!!」
激突、激突、激突。
斬撃、刺突、薙ぎ払い。
常人ならば百回受けては百回爆散し、千回受けては万回死に果てるだろう斬殺必殺の機神と闘神の攻防。
見よ、彼らが奏でる刃の応酬。
響き渡る金属音の旋律を。
火花散る散る、玉散る破壊に、蒸気が砕けて、赤熱化する。
亜音速を凌駕し、音速を超えて、超音速から神域へと突入する。
『ォオオオオ!!!』
『ァアアアアア!!!』
機神と少年の絶叫が吼え渡り、大地を踏み締め、大気を怒涛の如き踏み込みで爆散させながらトラボシブレードの超巨大刀身が大地を砕いて振り上げられた。
生み出されるのは大気を爆薬に変えて吐き出される衝撃波、付随する瓦礫の巨大散弾。
だがしかし、ゼストは。
「ぬるいわっっ!!」
吼えた。
獅子の如く、あらぶる獣の唸り声が如き、最強に君臨する王者としての威厳と怒りを蓄えて息吹を発し、世界に告げる。
この程度では、障害にならんと。
手首を返し、両腕を旋回させて、全身の細胞に命じ、筋繊維を伸縮させながら稼働、力の流れに円運動を用い、見上げんばかりの巨槍を天へと伸ばしあげる。
震えるがいい。
如何なる鬼人、魔人、悪魔でさえも驚き、戦き、悲鳴を甲高く響かせるだろう恐ろしき光景。
其処から生み出される破壊力に戦慄し、それを振るう闘神の地力を知って悲鳴を上げろ。
「断!!!」
断たれたのは大気か、それとも常識か。
どこまでも美しく、されど壮絶なまでの螺旋を描いて、巨槍が振り下ろされる。
大気という大海を、水面から深海の水底までも叩き切るかの如き一太刀。
巨大な槍の柄がたわみ、矛先が白熱化したのは音響の壁を破砕して、鋭き研磨剤の雪崩となった空気抵抗が故か。
振り下ろされるダイナマイトの爆撃よりも恐ろしい破壊に、迫っていた衝撃波が砕け散り、迫っていた礫が悉く粉砕する。
その威容はまさしくかつて神話に語られた光景、一人の預言者が杖を振り翳すと海が割れた絶景にも勝るとも劣らんほどに凄まじい。
バサバサとゼストの纏うコートが、防ぎきれない風圧によってたなびき、彼は静かに嗤う。
「これは礼だ」
大地に叩き付けた槍が、まるで羽毛のように軽々と舞い上がる。
後ろへと引き戻すように巨槍が側面後方へと伸ばされて――その矛先がゼストの手によって旋回を始める。
風車のようにクルクルと。
回る、廻る、マワル。
森羅万象の理の如く、大気を噛み砕き、風を飲み込み、世界に満ちるあらゆる分子の集合体を引き込みながら、不可視の粒子を紡ぎ上げていく。
『エリオ!』
『――ラウンド!!』
グレートクラナガンがその左手を突き出す。
手首の外部装甲に亀裂が走る、火花を散らしながら外部装甲が展開し、花弁が開くかのように旋回しながら出力アンテナを形成。
手の平中心にある放出ノズルが開閉し、生み出される碧き粒子が一瞬と掛からずに障壁を作り出して行く。
前方空間に描かれるのはミッド式魔法陣。堅固を約束する守りの紋様。
Tes.
土下座って喧嘩番長のアレかwww
おい解説のタキシードってまさかあの変態ならぬ不条理執事かTes!
『プロテクタァァァアア!!!』
絶対防御障壁。
大気を歪ませ、大気中に混じる瓦礫や石礫を核に疑似物質を瞬間製造、同時に魔力保護を用いて生み出された円形の障壁。
次元世界を滅ぼせる奇跡の宝玉ジュエルシード、それを宿し変異し生み出されたジュエルビーストの放ったニードルミサイルすらも完全無欠に防ぎ切った強固なる楯。
だがしかし。
「ルフト!」
舞い上げる、舞い上げる、舞い踊る。
タイフーン級の暴風を生み出し、あらゆる災苦をも穿ち通るこの闘神を受け止めるには非力だったのか。
「メッサァアアア!!!」
この瞬間、ミッドチルダ中のあらゆる人間が聞いたと告げる。
――風の悲鳴を聞いたと。
繰り出された膨大極まる暴風の一突きに、誰もが震撼した。
『ぐぉおおおおお!!?』
叩きつけられる、全長25メートルの錬鉄の巨神をも薙ぎ払わんとする質量の塊を。
ラウンドプロテクターを展開するグレートクラナガンの脚がズリズリと地面を破砕しながら後ろに下がっていく。
吹き付ける瓦礫と砂礫の混じった烈風が、眩く輝くグレートクラナガンの装甲を削り上げ、嬲るように笑い声を上げて吹き抜けていく。
――押し込まれている。
まるで世界中の風が集まり、この機神を排除しているかのように乱暴で強力で傲慢なる質量の暴流。
押される、押される、ひび割れていく。
絶対防御障壁が砕けていく。
防ぎきれない。グレートクラナガンの頭脳素子が演算と処理を終了し、そう結論した瞬間だった。
『X−Wi−ng、フルウイング!!』
エリオが叫び、その背に輝く四枚の翼が大きく羽ばたいた。
「ぬ!?」
ラウンドプロテクターが砕け散ると同時にグレートクラナガンの脚部背面の排熱ノズルから蒸気が噴出し、飛び上がった。
大きく開かれたX−Wi−ngの翼が吹き荒ぶ狂風を受け止め、大きくグレートクラナガンの巨躯が空を舞う。
だが、それだけだ。
防ぎきれない打撃を受けたとき、抵抗せずに大きく吹き飛ぶことでダメージを和らげるように、グレートクランガンの装甲にはダメージを与えない。
遥か後方で屋台を開こうとしていた陸士たちが「あー!!」といいながら、飛ばされていくヤキソバやフランクフルト、ヤキモロコシに絶叫を上げている程度。
バサバサと翼をはためかせて、再びグレートクラナガンの巨体が大地に着地する。
『助かった、エリオ』
『礼は良いよ。この程度出来ないと、僕が居る意味が無い』
コクピットの中でエリオは静かに呟きながらも、額にじわりと浮かんだ大量の汗を拭った。
息が荒い。
生体電流を流し込み、操縦する度にエリオは肉体と精神両方にガクンとした重みと疲労を感じる。
体力的には激しい運動を行うクラナガンのGに耐えるだけなのだが、それ以上に相対したジュエルビーストたちとの緊張と恐ろしさに心を痩せさせて、相対するゼストの威圧感と対峙するだけで死を意識し続ける魂を削る恐怖と戦い続けていた。
息をしろ、呼吸をしろ、戦え。
護るものを意識しなければエリオは膝を付き、とっくの昔に諦めていただろう。
けれど、エリオは今戦っている。
Tes. Tes. Tes!
――支援とは力である。
『負けられない。僕らは負けられないんだ』
呟く。
意識を載せて、忍び寄る恐怖を蹴り飛ばし、勇気を振り絞り、気合いを篭める。
それがクラナガンに内蔵されたGストーンと連結稼働し、願いを叶えるジュエルシードとしての性質が働き、その願いに応えんと力を発した。
希望とは望みだ、望みとは欲望だ。
ジュエルシードを動かすための介入方法が一つ。
だがそれでは私利私欲のために動かすものだけが扱えるものになってしまう。
故にこのミッドチルダに落下してきた二つのジュエルシード、失われたはずのロストナンバーの秘石はあらゆる書類上からも名称を改竄され、Gストーンとして存在する。
Gとはガッツであり、Gとはグレートであり、Gとはガードの頭文字である。
根性で護る偉大なる勇者。
その力の原動力としての願い、すなわち願望が篭められている。
願いを束ね、根性を魅せて、気合を篭めて、希望を結ぶ。
人々が願いの為に戦う。
それこそが勇者の存在意義。
『そうだ。エリオ。希望は折れない、願いは朽ちない、私たちには支えてくれる沢山の人たちがいるのだから!!』
グレートクラナガンがエリオの願いに応えるために、瞳を輝かせる。
ミシミシと悲鳴を上げている全身フレームに鞭を打ち、全身の排熱口から蒸気を噴出する。
揺ら揺らと陽炎が生み出されて、グレートクラナガンの巨体そのものが炎となったかのように揺らめいた。
「……一皮剥けたか」
ボツリとゼストが呟く。
虚空に解け霞む程度の小さな言葉。
「旦那?」
だが、それを見つめる小さな乙女は気付いた。
ゼストの口元に浮かぶ戦いの愉悦ではない、喜び故の綻びに。
「アギト。来い、全力で行く」
「分かった!!」
闘神の呼び声に、烈火の剣精は応えた。
紅蓮を纏い、ゼストの肩に降りる。
乙女の口付けでも交わすかのようにアギトはゼストを抱きしめると、光輝に変わり、姿を掻き消した、
否、消えたのではない。
――融合した。
魅せられる。
誰が判らぬか、誰もが判る、その圧倒的な差を。
ゼストの周囲、踏み締める大地がひび割れる、破砕する、空気を歪めて見せるほどの熱量を纏い、それは不可視の領域たる熱圏と化した。
本来ならば黒ずみ、無骨な顔に相応しい地味な頭髪。
その色が黄金色に輝き、地獄の溶鉱のように燃え盛る焔のように揺らめき、目に焼きつく。
「な、ゼストが金髪に!!」
「不良!? いや、違う!!! あ、あれはまさか!」
「間違いない! ゼストがスーパーミッドチルダ人になったぞ!!」
なにやらほざいている野次馬たちを、ゼストは軽く振り抜いた衝撃波でぶっ飛ばした。
ゴハァアアアンー! と満足そうに吹っ飛ぶ陸士たちに、誰かが「汚い花火だな」と呟いていた。
Tes.!
ここに来て野菜だと!?当然3まであるんですねわかりますTes!
『っ、貴方はぁ!!』
傷つけられた――でも満足げだが、の陸士たちの惨状にエリオは怒声を響かせて、トラボシブレードを横薙ぎに払う。
大地を四散させ、大海原を飲み干す津波の如きその一太刀。
薙ぎ払うために刀身を縦に構えて殴りつける暴力的な一刀。
だが、ゼストは巨槍を片手に移すと、迫るそれに片手を突き立てた。
「おぉおおおお!!!」
破砕する音が鳴り響く、ガガガガガという爆音を吐き上げながらもゼストは倒れない、怯まない、足を動かさない。
そして。
そして――止めた。
ただの片手で、トラボシブレードのあらゆるものを薙ぎ倒す一刀を受け止める。
「――本気で来い」
その分厚い刀身に指をめり込ませ、ゼストはグレートクラナガンを見上げたままに告げた。
「本気で来い。クラナガン!!」
『え?』
「俺も開発に携わった。だから知っているぞ、貴様の全力。本当の太刀を隠していると! ――そうだろう、レジアァァァァスッ!!!」
叫びを上げながらゼストがトラボシブレードの刀身を殴り飛ばし、その長大な太刀が弾き上げられた。
『くっ!』
グレートクラナガンが弾かれた太刀をしなやかに持ち直し、すかさず構えようとした時だった。
『久しいな、ゼスト!』
『――レジアス指令!?』
放送スピーカーから轟いた声にグレートクラナガンが振り返る。
ゼストは地面を軽く蹴り飛ばし、間合いを開くと――その手に握った長大な巨槍を構えながら叫ぶ。
「レジアス! 無事にやっているなら問題ない。出し惜しみは無しだ、さっさと本気を出させろ!!」
『ゼスト。貴様が何故UCATに牙を剥くのかは大体想像がつく。事情もあるだろう、だがしかし今は敵だ! 手加減はせんぞ!!』
「構わん。貴様の作った人造の魂、この地上を護る騎士に相応しいか試しさせてもらう」
ゼストが微笑みながら告げる。
ダンッとその身に掛かる槍の自重を示すように靴底をめり込ませながら、構えた。
(旦那……いいの? あいつら挑発しちまって)
(構わん。本気の奴を打ち倒すことこそ奴らの希望をへし折ることに繋がる。そうでなければ意味が無い)
ゼストはあくまでも冷酷に計算し、アギトに返事を返した。
けれど、彼女は思う。
(……嬉しそうなのは何でなんだろう、旦那ぁ)
ゼストの瞳に浮かぶ期待の光に、アギトは気付いていた。
『ならば、その目にしかと刻み込め! ――クラナガン! 受け取るがいい。荒々しき願いの剣を!!』
レジアスの叫びが轟いた次の瞬間、どこからか光の柱が吹き上がった。
ルーテシアの事かー
しえええええええんっ!
男はいつまでも幼少の夢を忘れないからさTes!
もはや魔法少女ではなく勇者物w Tes.!
ミッドチルダUCAT、三番格納庫。
其処では慌しく作業員たちが、科学者スタッフたちが走り回っていた。
「エネルギー出力を上げろ!! 機殻刃鉄の強度確認、それにクラナガンのフィードバックデータとの調整は出来たか!!」
主任技術者が額から流れ込む汗に染みる目も、眼鏡も拭う暇なく指示の叫び声を上げていた。
「機殻刃鉄の強度確認は問題ありません! しかし、クラナガンの腕部フレームの強度が! それに、まだ未調整部分があり、このまま投入しても使いこなせるかどうか……」
「――馬鹿野郎!!」
嘆きを上げるスタッフの背中を、主任はドロップキックで蹴り飛ばした。
醜い悲鳴を上げてぶっ飛ぶスタッフの首元を引っつかみ、主任は叫んだ。
「クラナガンは私たちの造り上げた命だ! いわば子供だ! それを信じてやらないでどうする!!」
「ぅ……」
「使いこなせるかじゃない! 使いこなす! それが出来るのだと信じ抜け!!」
ガクガクと頷くスタッフを投げ捨てて、主任は顔に掛けていた眼鏡を取り外すと、その汗に濡れた手で髪を撫で上げて、即席のオールバックにする。
「――レジアス中将! こちらの準備は出来ました、承認を!!」
『――レジアス中将! こちらの準備は出来ました、承認を!!』
通信機から聞こえる声、それにレジアスは頷き返す。
戦々恐々ともう勘弁してくれと見つめてくる参加者たちの視線を気にせずに、レジアスは指を鳴らした。
「準備を」
『只今ここに!』
シュタッと出番待ちだった黒子たちが飛び降りてくる。
すかさずレジアスの座る机の前を片付け、恭しく置かれたのは四方にして五十センチほどの正方形の機材。
その上には手形型の紋様があり、【ミッドチルダUCAT司令官専用、触るな吹っ飛ぶぞという】という注意書きがあった。
「よし」
レジアスが右手の手袋を外し、はぁーとため息を付いているオーリスが頭痛を堪えるような姿勢のままそれを受け取る。
ギュンギュンとレジアスが年甲斐も無く楽しげに腕を回転させると――
「――承認!!」
バンッとそれが叩き割れそうな勢いで張り手を打ち込んだ。
その瞬間、機材の四方の側面ブロックがガシャガシャと展開し、強い光を放つ。
「ま、眩しい! というか、これなんの意味があるの!?」
というツッコミがあったのは蛇足である。
やはりレジアスは「この」司令かw 意味を問うなど無粋なんだぜTes!
光が舞い上がる。
キラキラと粒子が回転しながら踊り狂い、まるでそれは妖精たちの祝福のようだった。
ミッドチルダ市民プール、展開したままのその地下500メートルの深層の奥からスポットライトのように輝くそれは新たなる剣のレール。
獣の如き聴覚があれば聞こえただろう。
その奥から鎖を引き千切り、吼え猛る鋼の牙の唸り声が。
地下五百メートルから時速1000キロ、音速とほぼ等しい射出速度を生み出すのは何十にも更正された重力制御による重レールを通り抜け、重力の方角性を変える魔法が故に。
それは荒々しい風の翼を纏いて、飛翔した。
『来たぞ!』
『あ、あれは!?』
それは初めて見るエリオの目には剣で出来た鳥のように思えた。
刃金鳥とでも呼ぶべきか。
光の尾となるスラスターを吹き出し、上空で方角を変えたそれはまっしぐらにこちらへと飛んでくる。
『捕まえる! エリオ、意識を合わせるんだ!』
『うん!』
一瞬チラリとゼストがこちらに襲い掛かってこないことを確認した後、エリオは生体電流を流し込み、グレートクラナガンの脚部、無限軌道を稼働させた。
加速、疾走、激進。
重々しく走り出しながら、飛び込んでくるその刃金鳥に速度を合わせて。
『雄雄ォオオオオオ!!』
飛翔した。
X−Wi−ngの翼を翻し、空に舞い上がりながら、背中を下に、前面を上に翻り、その頭上に刃金鳥を捕らえた。
そして、その腹部にトラボシブレードを握った拳を叩き込む。
『――コンバイン!!』
手の指を広げて叩き付けた部分から刃金鳥の胴体部が展開し、内部に納まっていたクッション材で癒着し、内部から飛び出した金属ボルトが押し込まれたトラボシブレードを格納した。。
僅か数十ミリのズレもなく、収まったそれはまるで雛形から象ったかのようにピッタリと収まり、その刀身と柄を納めていく。
『カウリング!』
X−Wi−ngの翼が一瞬掻き消えて、刃金鳥――否、新たなる剣の機殻はスラスターを吹き出し、その使い手を旋転させる。
上下がひっくり返り、グレートクラナガンの巨体がその刃金鳥の上に乗った。
重力制御と膨大な出力は巨神すらも上に載せてもなお、高度を落とさずに飛翔し、さらには上昇を開始する。
飛翔しながらも機構内部で無数の回転が開始される、キリキリと世界に百と残らない時計調律師が組み立てる歯車仕掛けの時計のように内部の部品が噛み上がっていく。
その長大な内部構造の中で次々と螺旋を描くかのように射出される連結ボルトが組まれていき。
接続、接続、接続。
その接続ボルト数は11であり、最後の連結ボルトこそトラボシブレードそのもの。
『纏え、鋼の刀身を! 新たなる刃を!』
一機と一刃鉄が舞い上がる。
そして、空に輝く太陽の光に二つの影が掻き消えた瞬間、ガキョンと激しい金属音が鳴り響いた。
そして、そして――舞い降りる。
その手に巨大な一つの太刀を携えて。
変態の本気は何処までいけるのか。 Tes.!
今こそTes!
『カウリングエグジストブレェエエエド!』
着地する、その両手に巨大な太刀があった。
左右に伸ばされていた両刃の剣が真ん中から開閉し、下方に向けて折り畳まれる。
さらに射出音を響かせて、内部から飛び出した無数の金属カバーが片刃のエッジを構成していた。
これぞ、クラナガンの最強武装の一つである【機殻化Ex−st−Blade/Type V−Sw】
クラナガンの主兵装たるEx−st−Blade。
概念兵器たるそれを機殻化し、出力を上昇させ、指向性を持たせるための鋼の刀身である。
何故それを最初からしなかったのか?
それには理由があった。Ex−stの巨剣化自体は比較的順調に成功したのだが、それを強化し、指向性を持たせるために機殻化した。
だがあまりにも出力が高すぎる上に、クラナガン単一では腕部ジョイントの耐久限界を凌駕し、マニピュレーターが破砕される強すぎる両刃の刃。
それをクリアするにはいずれか他の機体と合体し、マニピュレーターとジョイントに強化したものでなければならない。
故に通常時のクラナガンにはあえてリミッターのみを付けた剥き出しの剣のみを持つ。
その力を、本来の可能性の燐光のみを噴き出す小刀として。
「来たか! クラナガン! それでこそ打ち倒す価値がある!」
ゼストが歯を剥き出しに嗤うと、その槍が瞬く間に炎熱に飲み込まれた。
燃え盛る。
ギラギラと烈火の如く。
『行くぞ! ゼスト・グランガイツ!!』
「雄雄!!」
グレートクラナガンが機殻化Ex−st−Blade。
すなわちエグジストブレードを振り上げんとした瞬間だった。
『!?』
――僅かな挙動の遅れ。
グレートクラナガンがたたらを踏んだ。
「遅い!!」
一瞬の停滞を見逃さず、ゼストの一撃がグレートクラナガンの胴体を薙ぎ払った。
装甲が破砕する、巨体が揺れ動き、苦痛の破壊音が鳴り響く。
『クラナガン!?』
「どうした! 反撃をしないか!!」
打ち込む。
燃え盛る紅蓮の噴出がグレートクラナガンの頭部を吹き飛ばした。
烈火に燃えて、巨体がかしずく、膝を崩す。
『くっ。どうして!? 動きが――出力は変わってないのに』
「なるほど。調整不足、さらに違和感――貴様“合一”してないな!!」
『え?』
『――必要ない!!』
エリオの疑問を吹き飛ばすように、グレートクラナガンの悲痛な叫び声が轟く。
だがしかし、ゼストは止まらない。
その鍛え抜かれた戦士の身体を旋転させて、巨大な柄を鈍器と変えて、打ち抜く。
ルール無用のTes!
なるほど。読めたw Tes.!
Tes.
「この愚か者がぁあああああ!!」
めり込む。
グレートクラナガンの胴体に紅蓮に燃え盛る棍棒の如き一撃がめり込み、その巨体を吹き飛ばす。
追加装甲がさらに破砕し、その欠片が飛び散り、ガラガラと大地に跳ね返って悲痛な音を奏でた。
『くぅううう!!』
その衝撃にエリオはコクピットでストラーダにしがみ付き、歯を食いしばりながら耐えた。
耐えながら叫んだ。
「クラナガン! 合一ってどういうこと!? まだ何か足りないんですか!?」
コクピットの中に響き渡るように声を張り上げるエリオ。
それに答える声があった。
『――エリオ。よく聞け。私の本来は武神。今の生体電流システム、それはあくまでも仮登録したパイロットで動かすためのシステムだ。通常戦闘には支障は無いが……』
「全力は出せない、の?」
『……ああ。もしも君が私を動かし、このエグジストブレードを動かすには……合一。すなわち融合する必要がある』
「それなら!」
今すぐにでもやるべきだ。
エリオはその意味を理解する暇もなく叫ぶが。
『しかし、それは私の敗北が君の死に直結する!!』
「!?」
『君はまだ若い。そして、UCATに登録している戦士ではない。君はあくまでも善意の乗り手だ』
クラナガンが応える。
その己の魂だけで巨大な刀身を掲げて、再び振り上げる暇も無くゼストに吹っ飛ばされた。
『だから、私が戦う! 君は私のサポートをしてくれるだけでいい! 魂だけで十分だ! 命までは必要ない!!』
打ち出されるゼストの衝撃波。
それをラウンドプロテクターで防ぎ、グレートクラナガンは重たげに刃を振るってゼストと激突する。
しかし、遅い。
彼の処理限界を超えているのか、今までと同じ速度にも関わらずエリオは今身体に満ちる力とは不釣合いだと思えた。
だから。
「合一しよう、クラナガン」
『駄目だ!』
「言った筈だ! 僕は護って見せると! 君は僕に勝利を齎してくれると!!」
叫ぶ。
叫んで、ストラーダを握り締めながらエリオは涙を零して、告げた。
「やく…‥そくは…‥まもらないといけないんだよ、クラナガン」
僕らは誓ったのだから。
Tes.
その聖なる契約に殉じると。
Tes.
Tes.
エリオォォォォォォ!!Tes!
Tes.
アレ?これ何の作品だったっけ?Tes
契約。 Tes.!
Tes.
もとは武神かよw支援
『……』
数秒の沈黙。
だが、永劫に長いと思えた。
命の危機に晒されながら体感する走馬灯のように。
『分かった』
そして、答えが返ってくる。
「本当!?」
『だが、約束してくれ。決して無理はしないと、死なないための努力は私はする。けれど、全てを決めるのは君だ。私の操縦システムを君に全権委託する』
手に握っていたストラーダがその床下から開く亀裂に飲み込まれた。
そして、エリオの周囲に青い光が溢れて――
「二度目の敗北を噛み締めろ、クラナガン!」
――エリオは
――クラナガンと
――化していた。
『おぉおおおお!!!』
繰り出される刺突。
それをエリオは叫びながら、グレートクラナガンの両腕を使って防いだ。
「ぬ!?」
突き刺さる矛先、絶叫を上げたいほどに痛い。
痛い、痛い、痛い。
全身が痛かった。砕けた装甲が痛みとしてフィードバック、操者に襲い掛かる、痛覚として、現実の傷として。
命すらも共有しているに違いない。
だけど。
(クラナガンは今までこの痛みを一人で耐えていたんだ)
エリオは我慢する。
幼い、もっと幼い子供の頃の自分を考える。
優しかった両親の思い出。一人で転んでも起き上がるように言われた、その時の気持ち。
なんで起こしてくれないの?
なんで優しくしてくれないの?
考える、考える。
そして――エリオ、君は強い子だから一人で起き上がれるよ。
かけられたのは優しい言葉。
偽りの記憶だとしても、それが大切だった。
連れ去られた研究所で味わった実験はもっと痛かった。泣き叫んだ。
でも、この痛みに比べてはどれだけマシだったのだろうか。
誰かの為に耐える痛みはこれほどに痛くて、けれども耐えなければいけないと勇気が湧き上がる。
クラナガンは武神だったのか支援
Tes.
Tes.
Tes.
『ゼストォオオオオ!!』
グレートクラナガンの口元のフェイスガードが吊り上がる。
瞳に電光の如き光を宿して、エリオは、クラナガンは、腕を振り抜いた。
「ぬっ!!?」
ぶん殴った。
迫っていたゼストを殴り飛ばした。
吹っ飛んだ、まるで投げ込んだ野球ボールのように、吹き飛んだ、大地に叩きつけられて、粉塵を巻き上げる。
『ハァ、ハァ』
『エリオ。よくやった』
『……クラナガン?』
二重に響く声。
『合一に成功した。ストラーダから得た君の子体自弦振動によって上手く調整が出来たようだ』
僕の武器。僕のデバイス。それが故に成功したのだといわれて、エリオは嬉しくて笑みを浮かべようとした。
そこでようやく彼は気付いた。
自分の視点が変わっていることに。
『こ、これが?』
エリオは巨大な巨神そのものとなっていた。
自分の手足のように感覚が伝わり、反応がある。まるで自分の身体が装甲を纏ったような重み、けれど力強い。
『ああ。これが合一だ。命を共有する故に出来る感覚の同調、武神本来の操縦方法』
『そうなんだ』
すると、エリオは先ほどまで味わっていた痛みが少なくなっていることに気付いた。
オートリザレクションが昨日していることもそうだが、おそらくクラナガンが演算処理と同時に痛覚の減殺化を行っているのだろう。
それがありがたくも申し訳ないような気がした。
「は、はははは!!」
その時だった。
『!?』
声がした。
忘れようのない声が。
粉塵を吹き飛ばし、額から血を流すゼストが其処にいた。
「合一を果たしたか! ならばいい。ならばこそ、戦う価値がある!」
轟々と唸りを上げて、地面に突き刺さる巨槍。
それに手を当てて、持ち上げながら叫ぶ。
「アギト! 炎熱の出力を上げろ!!」
巨大なる槍、それが握り手から火が伸びていく。
メラメラと可燃物でもないのに燃え盛り、それは美しいほどの炎を槍と化して、グレートクラナガンの剣と相対する。
支援
tes.
「アギトの焔。B−Spの聖槍ほどではないが、武神如き灰も残さずに焼き尽くすぞ!」
『ならば、その焔ごと叩き切るまで!』
『これが最後の勝負だ!! 負けて、負けて、けれど最後には僕らが勝つ!!!』
三度目の仕切りなおしの決闘。
それが始まり、瞬く間に激化した。
二つの姿が掻き消えた。
二機が風となって、舞い踊る。
戦場そのものを嵐で包み込むように走りながら、大剣を、巨槍を、叩き付け合う。
粉砕せよ、巨槍を!
爆砕せよ、大剣を!
蒼い粒子が、紅い火花が、お互いを喰らい合うように激突、激突、突撃突貫。
誰もが手に汗握る。
誰もが息を潜める。
誰もが肝を冷やす。
誰もが魂を燃やす。
『おぉおおおおお!!!』
「おぉおおおおお!!!」
若き闘士が、偉大なる戦士に挑みかからんとする光景。
それはすなわちベルカの騎士同士の決闘に他ならない。
その身に叩き込まれた烈火の将、そしてクラナガンが放った剣術の数々を身体で覚えて、さらに喰らい尽くしていくエリオの剣技が、熟練たるベルカの騎士ゼストの槍技に挑みかかる。
危うく、凄まじき、荒々しく、言葉を失う絶景。
だがしかし、それはどこか楽しげでもあった。
必死に挑みかかるグレートクラナガン、それと打ち合うゼストは丁寧に矛先を交えて、弾き、受け止め、斬り返す。
荒々しき過剰殺戮武芸破砕の宴。
天よ裂けよ、地よ割れよ、何もかも顧みない、何もかも背負いして戦う勇猛なる猛獣たちの戦い。
クランガンと合一化したエリオの全身神経は膨大な演算処理を誇る機械と一体化し、人間の動態限界を超える速度で、思考速度で、あらゆる判断を下し、巨剣を叩き付ける。
クラナガンと相対するゼストはアギトのサポートを受けて、出力を上昇させ、人体反応を超える速度の斬撃を予測と経験による未来予測に匹敵する六感で悟り、巨槍を打ち付ける。
それには魔法が関わらない。
それには兵装が関わらない。
合一を果たし、グレートクラナガンの追加武装にもまたリミッターが外れていた。今ならば肩に付けたベルセルクカノンも、両手から繰り出すスパイラルキャノンダスターも放てるだろう。
だがしかし、暇が無い。余裕が無い。それを繰り出す暇が与えられない。
ゼストの肉体はあらゆる魔法が、大気を震わせ、障壁を張り、巨塊を粉砕するための射撃魔法もある。
だがしかし、暇が無い。余裕が無い。それが無粋だと思えるほどに敵が強い。
故に。
打、打、打。
破、破、破。
前に進むために、進みを止めるために、破壊を撒き散らす。
永劫に終わらない戦いのロンド。
互いに力尽きるまで続くかと思えた舞踏。
その時だった。
漢前すぎるwダイノガイストの化身かこの人Tes!
支援です――以上
Tes.!
ロム兄さんもはいってね?Tes
Tes.
『信じようよ、自分の世界を』
歌が聞こえた。
『護ろうよ、大切な誰かを』
音すらも凌駕する鋼鉄を叩き付け合いながら、歌が聞こえる。
『突き進もうよ、友達が倒れても』
誰の為に突き進むのか、誰の為に戦うのか。
『歩き出そうよ、どんなに辛くても』
まだ迷ってる、エリオは迷ってる・
だけど、それでも。
『私の前には誰かがいる』
目標とすべきと言われた人物が笑いながら、矛先を打ち付けて。
『私の後ろには誰かがいる』
護らないといけない人が沢山後ろにいて、それを受け止めて。
『仲間が、友達が、好きな人が待っているから』
勝ち抜くために矛先を弾いて、逸らし。
『私たちは突き進む』
足を踏み出し、無限駆動が唸りを上げて直進して突き進み。
『私たちは武器を取る』
手に持った巨大な刃を、声にならない声で振り翳して。
『私たちは信じあう』
目の前に迫る槍の柄、燃え盛る焔の盾。
それを。
『手の平をつきだして、掴み取る』
打ち砕く。
『ただそれだけは間違ってないから!』
断てると信じて、エリオは真っ直ぐに信じて振り下ろした。
遠くから響く歓声の咆哮に応えるように、エリオは世界に響き渡る絶叫を吼え上げた。
Tes.
Tes.!Tes.!Tes.!
Tes.
Tes.!
Tes.
Tes.
Tes.
Tes!
Tes!
決着は付いた。
疑似物質で造り上げた巨槍の柄を粉砕し、鋼鉄をも灰に還す紅蓮の炎を突き破り、グレートクラナガンの一刀はゼストを打ち飛ばした。
「がっ!!」
血が流される。
己へと迫る巨大なる刃、それを神がかり的な速度で障壁を張り、さらに身体を捻じ曲げて、回避しようとしたゼストの速度。
だがそれでもなお、負傷を負った。
決着は付いた。
「ふ、ふふふ……敗れたか」
衝撃で吹き飛ばされた十数メートル先の虚空で、ゼストが薄く微笑みながらそう呟く。
同時に融合を解除し、その傷を全て背負ったらしいゼストとは裏腹に無傷のアギトが飛び出した。
「だ、旦那! 大丈夫!?」
「ああ、平気だ」
唇から血を滲ませながらも、ゼストはアギトを傍らに抱きしめて――こちらに構え続けるグレートクラナガンを見た。
「いい太刀筋だったな」
『これは僕だけじゃない』
『私だけでは貴方には勝てなかった』
エリオとグレートクラナガンの声が重なり合う。
『私たち二人で貴方を凌駕した。それだけです』
雄雄しく巨剣、魔を斬り、悪を切り裂き、闇を払い――神を断つ。
斬神巨刀と貸したエグジストブレードを構えるグレートクラナガンは傷だらけだったが、僅か数分前よりも大きく、そして力強く輝いているような気がした。
「なるほど。ならば、名も知らぬ若き少年よ。名前を聞いておこうか」
一瞬息を飲んだような間が開いて。
『エリオ。エリオ・モンディアルです。ゼスト・グランガイツ』
「なるほど。覚えておこう。いずれまた会う時までな」
そう告げた瞬間、ゼストが千切れたコートの裾を翻して、アギトを包んだ。
「ああ、そうだ。一言言っておく」
静かに、けれど響き渡るように。
「俺の役目は果たした」
それと同時にその周囲が歪む。
Tes
Tes
Tes.!
『っ! まて!!』
手を伸ばしたグレートクラナガン。
その一瞬前にアギトがべーと舌を突き出して、二人の姿が掻き消えた。
『無理だ。エリオ。転移魔法――いや、転移魔法に対してはジャミングをしいている。高レベル召喚術士による召喚転移だ、間に合わない』
グレートクラナガンが解析した結果を言葉に出す。
おそらくは今までのガジェットなどもその召喚術による転移だったのだろうと、エリオに告げるクラナガンの音声素子は告げた。
『そうか。でも――』
エリオは後ろに振り返る。
グレートクラナガン、彼が振り返った先には喝采を上げる陸士たちが、人々が、そして仲間たちが居た。
『僕は護れたんだ!』
腕を振り上げて、咆哮を上げる。
それと同時に皆がグレートクラナガンに走り出した。
「う、うぅ〜。エリオ〜、立派になったね。私保護者なのに置いてかれそうだよ」
「ほらほら、泣かないで」
「嬉し泣きだよ、はやて」
「男の子だね。ユーノ君とかもあんなんだったのかな? 司書を務めるようになってから凛々しくなっちゃったけど」
悲しい涙から嬉しい涙に切り替わったフェイトが、ポケットから取り出したハンカチで涙を拭っていた。
他の人々も既に感化されたのかパチパチと拍手している。
「友情、努力、勝利! やったね、佐山君」
「うむ。これで新庄君の喜びバリエーションが13個ほど増えた。後で編集して新庄君アルバム、花開く時Ver21として作成しなくては……む? 何故私の襟に手を」
ギューと無言で佐山のネクタイを締め上げる新庄。
青白くなっていく佐山の顔をレジアスは楽しげに見ると、やれやれと肩を鳴らして。
「まあ無事に終わったのぉ」
息を吐いた時だった。
プルルルル。
古めかしいベルの音がした
Tes.
試合に負けて勝負に勝つ!ノリス大佐やビッター少将の手口ですなTes!
デモベ分もはいってるぞwwwTes.
Tes.
Tes.
「む?」
「私が出ます」
シュタッと黒子が持ってきた黒電話を、オーリスは頭痛薬を飲むことを決めながら受け取り「もしもし?」と訊ねた。
「え? ふむふむ、分かった。伝えておく。ああ、関係者はここにいるから問題は無い。病院に搬送してくれ」
ガチャンと電話を切り、オーリスが振り返った。
「レジアス中将。それにはやて部隊長」
「む?」
「なんや」
「――機動六課宿舎が敵の襲撃で壊滅したそうです」
沈黙。
沈黙。
五秒ほど経って、はやては息を吸い込んで叫んだ。
「なんやて〜!!!!」
地上本部攻防戦 成功
第一回 スカリエッティ拿捕大作戦 に移行する
Tes.
Tes.
六課襲撃凄いスルーだなw Tes.!
投下完了!
沢山の支援ありがとうございました!
次回からまた元の魔法少女といつもの平和な日常と壊れなどない話に戻ると思います!
では、また近いうちに!!
Tes.!!
Tes. !! Tes. !!
ないない、それはない。
熱すぎるぜ!!支援!!
こっから機動六化の悪魔のような逆襲が始まるわけですねw Tes!
330 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/10(水) 19:49:43 ID:XxgO7O+h
Tes. !! 最高でした
誤字報告ですが、昨日ではなく機能では?
後・とゆうのが気になりました。
やっべえ、もう流れ的に最終回と思ってたww
襲撃もだけどゆりかごとかも素で忘れてたwww
規制が解けたかどうかテスト
いえっふー
8kbほどと少々短いのですが、20:30に予約します
この作品に全ての支援・GJの言葉はこれになるしかない
Tes.!!
長編GJでした。Tes!
とりあえず地上はほぼ無傷の上数の子も数人とっ捕まったという大手柄。
こりゃ空の連中も文句の出しようがないですね。
次回UCATの逆襲編、機動六課は空気から脱せるのか?
支援するぜ、ふもっふー!!
GJ!
>竜司がギターを鳴らす、優しく、そして愛する女性に触れるかのように丁寧に。
このややエロめwww
やっぱ武神は合一しなきゃ駄目だよね!
最終的に五体合体って何と戦う気ですかミッドUCATはwww
あ、あと誤字見つけたんですが指摘するとウザいですか?
>>337 出来ればまとめコメントにしてくれるとスレ領域を圧迫しないので嬉しいです。
誤字指摘は個人的には大歓迎ですので。
>>333 なのちゃん支援!
「それじゃあ、行くよ」
クロノが持つS2Uのメインコアが青白い燐光を放つ。水銀の光よりも青く、白く。それはもはや幻想ではなく、
病のそれに等しい。燃えるようなアルフの赤い毛皮ですら、その色を十全には保てないでいた。
青の世界の中で、黒だけが染まらない。クロノと、フェイトだ。そのことに何の反応も見せず、そして実際に
何も思わず、クロノは辺りに魔力を打ち込んだ。
本来であれば、こういった荒事は魔力量に優れるフェイトやアルフの仕事だ。膨大ともいえる魔力量に裏打ち
された広域魔法は、それだけで一つの奇跡とも言える。
だが、範囲と対象さえ決まっていれば、クロノの方がよほど緻密に魔力を調整できる。機材もなしに回収した
ジュエルシードの波長を解析せしめるその術は、あるいはプレシアに互するか、凌いですらいよう。
だからこそ、街中での強制発動といった無茶にも出られる。周りに被害が出ないレベルでのジュエルシードの
活性化は、この中でクロノにしか出来なかったろう。他の二人では、完全に発動させてしまうのが関の山だ。
その制御技術、敵に回ると考えれば恐ろしい。手の届かない領域で好き勝手されては、騙されているかどうか
すらわからないではないか。フェイトとアルフの背筋を、怒りとも恐怖とも取れる感情が怪しく撫でた。
止めるとしたら、今しかないのではないか。
警戒する二人を他所に、異変を何一つ起こすことなく、クロノはジュエルシードを探し当てていた。クロノの
脳裏ではS2Uから流れ込んだ情報が像を作り、ジュエルシード周辺の風景が投影されている。
オフィス街ということもあって、見た目はどこも似たようなものだ。道路と街路樹と乱立するビルだけでは、
風景から位置を特定するのは難しい。尤も、その必要はない。位置の情報自体がなければ、その風景を作り出す
ことも出来ないのだから当然だ。
だから、クロノは喜ばない。あるべきものがあっただけだ。クロノの予想に違うものは何一つない。唯一ある
とすれば、それは現地の魔導師の反応がなかったことだけだろう。それもそう長く待つ必要はない。
クロノが打ち込んだ広域魔法に加え、新たに生まれたジュエルシードの反応に気付かない阿呆はいないだろう。
「行こう。早く行かないと、例の子に先を越されるかもしれない」
それは嘘だ。探査魔法に反応がない距離からでは、何をどうしようとクロノ達の方が先に辿り着く。では何故
嘘をついたのか。それはひとえにクロノの気が急いていたからに他ならない。
一秒でも早く、彼女を戦いから――
意識してのことではない。もし明確な意思を持っての発言であれば、それがどれほど背後の二人に疑惑を抱か
せるか、気付かぬクロノではないのだから。
ホテルのエントランスを出て、なのはは声を上げながらぐっと伸びをした。その顔はだらしないほどに緩んで
いて、そこに昼間沈んでいた頃の面影は欠片もない。
アリサとの喧嘩が解決されたわけじゃない。ジュエルシードを巡る戦いが終わったわけじゃない。それでも、
今日なのはは一歩進んだのだ。未来ではなく、過去の歩みを進めることがどれだけ難しいか。
あれから一時間以上も、これまでを埋めるかのように話し合った。最初の頃は幾分残されていた気まずさも、
最後の頃にはだいぶ緩和――流石にいきなりなくすことはできない――されていた。
フィアッセのご飯を一緒に食べようという誘いに後ろ髪を引かれつつも、しかしなのはは断った。家でご飯が
待っているのは士郎に言われていたし、何よりそれでは黒の少年に対応できないかもしれないからだ。
これからは、また次があるのだ。またねといって笑って別れ、今なのはは春の夜空の下にいた。エントランス
から少し歩いて人通りが少なくなった頃を見計らい、ユーノに話しかける。
「ごめんね、ユーノくんまで色々と巻き込んじゃって」
「ううん、いいよ。でもよかったの? よくわからないけど、家族の人だってあの人と一緒にご飯を食べるなら、
少しぐらい帰りが遅くなっても許してくれるんじゃない?」
「あ」
ユーノの言葉に、なのはは今まで何も、それも本当に大事なことを伝えるのを忘れていたことに気がついた。
フィアッセに関しては私事だからいい。巻き込んでしまってから考えるのも問題だが、それでもまあ、多少は
格好がつく。しかし、しかしだ。
ジュエルシードに関することまで伝えるのを忘れて良い理由にはならない。それも恐らくは差し迫った。
「ごめん、ユーノくん。忘れてた!」
耳元で上げられた高い声に、フェレットの耳がきいんと痺れ。
そうして、ユーノが痛みを訴える前に、同時に二人してとある方向をきっと見据える。
「この反応、ジュエルシード!」
これまでなのはが見てきたのと違い、誰かの願いを叶えたわけでも、発動前に青く輝くような様子はないよう
だが、それでも発動した魔力の規模と質を考えればそれ以外考えられない。
間に合わなかった。一瞬でも舞い上がっていた自分が情けなくて、なのはは小さな拳を握り締めた。軽蔑され
ても仕方ない。なじられる覚悟を決めて、なのはは重い口を開いた。
「……言うのを忘れてたのはそのこと。今日、例の子達がジュエルシードを捜すって言ってたの」
「え、何それ。聞いてないよ!」
怒るのも当然だ。なのはに言い訳の仕様などない。
「うん、本当に……ごめ――」
んなさい。そう続けようとした言葉は、しかし他ならぬユーノによって遮られた。
「うん、それじゃあ急がないとね。今日は良い日なんだから、最後までしっかり締めないと」
先ほど悲鳴を上げていたというのに、なのはは裏切ったようなものなのに、明るい声でユーノが言う。驚いて
ユーノを見やれば、目が合った。なのはを励まそうと、不器用にもウインクまでして見せて。
ユーノは何も知らない。今日なのはが黒の少年と話した内容も、フィアッセとの過去の確執も。そんな彼が、
なのはの背を押すのだ。
「うん、そうだねっ」
だからなのはは笑って、胸のレイジングハートに手を当てて、強く決意した。
「今日は、絶対に負けられないねっ!」
「広域結界を張るからちょっと待ってて。まだジュエルシードは発動してないようだけど、念のため。それに、
人目についたらなのはも目一杯戦えないだろうしね」
そう。絶対に負けられない。負けるはずがない。
なのはには、こんなにも心強いパートナーがいるんだから。
小さな少女の手のひら一つに収まる青い宝石が、その実、世界一つを容易に滅ぼしうる力を持っていると誰が
信じられるだろう。フェイトの細い指先が、誘引処理のなされたジュエルシードを玩ぶ様を見て、その滑稽さに
クロノは顔をわずかに引きつらせた。
手渡すまでのわずかな間に握っていた感触は、その宝石のような外見に反せず、冗談みたいな魔力量をまるで
感じさせないものだった。重さもほとんどない。小石と同じぐらいだろう。
感慨などそれでどうして浮かぶものか。そしてその実、世界を滅ぼす鍵にもなる。皮肉にもほどがある。
とはいえ、当たり前とも言える。機能を追及すれば、わざわざ素材や外見に反した感触を求める必要などない。
無駄を求めるのは、余裕からか、あるいは、それを求めているからこそか。我知らず力強くS2Uを握り締めて
いたことを自覚し、己が緊張していることをクロノは悟った。
なぜ、という疑問は不思議なほどに湧いてこなかった。
力関係で言えば、数でも質でも、クロノたちが上回っている。戦えば十度のうちその十度全て勝つ。それでも
緊張を抑えられず、クロノは震える拳に力をさらに込めた。
膝舐めたらし支援
実のところ、クロノを真に強張らせているのは緊張ではない。
仮に記憶があれば。クロノはその正体に気づいたことだろう。そしてそれから逃れるために、己に自己暗示の
類のゲアスをかけていたに違いない。事実、かつて彼自身が議長となって推し進めたプロジェクトでは、障害に
なるとして自分自身の記憶を封印していた。
それほどまでに、誰かを傷つけることをクロノは嫌い、恐れる。
不幸なことに、クロノはその優しい性根とは裏腹に、犠牲を許容する精神的な弱さ――そう。断じて強さなど
ではない――をも兼ね備えていた。
失くした記憶の奥底で、クロノの本質が悲鳴を上げていた。それが肉体を揺さぶるのだ。
意識して選べば、まだしも救いはあったろうに。
だからこそ、恐れと忌避を緊張だと己に言い聞かせ、クロノはその正体に気づこうとしない。疑問を抱かない。
「来た、か」
宣戦布告のつもりだろうか。隠すつもりなどないと、溢れんばかりの魔力を垂れ流しにしたまま、白い少女が
こちらに向かってくるのを第六感が捉えた。
純粋に隠形に長けていない可能性もあるが、これほど揺らぎのない、自信に満ちた魔力を肌で感じでしまえば、
そんなことは些事の一言で切って捨てられた。
肌があわ立つ。純粋な魔力量であれば、恐らくはフェイトのそれは等しいだろう。その彼女には感じたことの
ない恐怖がクロノを襲う。
フェイトと戦うことなどクロノは考えたことがないのだから当然だ。そしてクロノが恐れるのは、誰かを傷つ
けること。であれば、相手が強ければ強いほど、己の手加減が及ばないことを意味する。
下手をすれば、怪我だけではすまないかもしれない。
いらぬ感傷だ。瞳を閉じて、クロノは己を叱咤した。言葉巧みに少女をなだめすかし、戦いを回避する選択肢
だって本来はあったはずなのだ。今晩の衝突は、何よりもクロノが仕組んだものに他ならない。
落ち込む少女を奮い立たせるかのように、フィアッセのことなど教えなければ良かったのだ。さもなければ、
どうしてこうまでまっすぐあの少女がこちらに飛んでこよう。
全ては、万全の彼女を叩き伏せるためではないか。
再びクロノの瞳が開かれたときには、煩悶は全て胸の奥底に押し込まれていた。
以上です
続きはwebでっ!
前回の投下のとき、おっぱいおっぱい言ってたので内容がかすれたという意見を頂きました
ちゃうねん。大きいおっぱいが好きなわけじゃないのです
1:瞳ちゃん
2:十六夜さん
3:フィアッセ
ほら、別におっぱいに拘って、拘ってる、わけじゃ……
>>343 ダウト。
そして、クルクルシュピンとGJ!
> なのはには、こんなにも心強いパートナーがいるんだから。
なのはー! それは死亡フラグだー!(ユーノの)
しかし、クロノVSなのは戦の始まり始まり。
そして、そろそろ時期的にハラオウンが来るか?
これからが運命の別れどころ! 楽しみにしてます!! GGJ!
GJ!!
です。ところでその3人って各シリーズでトップランクのサイズで三人とも90オーバーですぞ
GJ
>煩悶は全て胸の奥底に押し込まれていた。
「煩悩は全て胸の奥底に押し込まれていた」に見え(ry
ユーノに!ユーノに死亡フラグが!
こんばんは、21時に第四話投下させてもらいます。
では行きます。
スカリエッティが計画を発表してから二年の月日が流れた。
スカリエッティは新たな基礎フレームの開発、遺伝子改造に勤しんでおり、
レザードもまた不死者を造る為の、グールパウダーの生成を勤しんでいた。
「ドクター、博士、お話があるのですが」
不意にもモニターに青色の長髪の女性が映る。それは管理局に潜入しているドゥーエであった。
リリカルプロファイル
第四話 移転
ドゥーエの話とは、自分達が住んでいる研究所の上にある遺跡に管理局の調査が入ると言う内容だった。
しかも調査員の中にAAAクラスの魔導師も配置しているという事だった。
「これは…ただの調査だけではなさそうですね」
「私もそう思って連絡を入れてみたのです」
「なるほど、確かに……ドゥーエ、その調査は何時ぐらいに始まるのかね?」
「今から約三時間後です」
となると早急に研究所を破棄しなければならないと考える。
データの纏めは日頃行っているので問題ではない、むしろ各施設の破壊の方が問題だった。
「ドクター、確かガジェットの元型がありましたね?」
不意にレザードが問い掛けてくる。ガジェットの元型、上にある遺跡で眠っていた機動兵器で、
スカリエッティがデコイとして造り上げたガジェットドローンのプロトタイプである。
戦闘用ではあるが防御面が高く魔法バリアを展開する事が出来る。
だが古い為か、すぐにオーバーヒートするという欠陥も存在する。
「確かにあるが、どうするんだい?あんな欠陥品」
「欠陥品にも役に立つ方法がありますよ」
レザードの案は、オーバーヒートしやすいのならいっそリミッターを外し、オーバーロードさせるというもの。
オーバーロードした元型は自身の力に耐えきれず自爆、それを利用することだった。
言うなれば爆弾、しかしそれを全体に施すとなると時間も手間もかかる。
そこで一体のみリミッター解除を施し更にそれが自爆した際、
他の元型のリミッターも強制解除させ自爆させるというプログラムをインストールさせると言う。
「二時間もあれば現存する元型にインストールさせるのは可能なはずです」
「なるほど、では施設破壊はそれで良いとして、次は移転先だが……」
顎に手を当て考え込むスカリエッティ、その時ウーノがある人物の連絡を受けたと聞き、
一旦ドゥーエとの連絡を切り、ある人物の連絡を繋げるようにと告げた。
「……久しいな…“無限の欲望”……」
「これはこれは、最高評議会の皆様」
連絡をしてきたのはスカリエッティが暗殺しようとしている最高評議会だった。
しかし、モニターには何も映っておらず音声も変声されている様子だった。
「どの様なご依頼で?」
「命令だ…我々が発掘した聖王のゆりかごを早急に解析せよ…」
聖王のゆりかご…かつて古代ベルカの王が所有していたと言われている質量兵器で、
大規模な次元振を起こし様々な世界を滅ぼしたと言われている。
最高評議会はどうやらそれを戦力に取り込むつもりのようだ。
「仰せのままに……」
「…では以上だ…」
そう告げ映像が消えると、モニターにゆりかごの位置を告げる地図が現れる。
しばらく静寂が続くと急にスカリエッティが狂ったように笑い出した。
「くくくっ全く…こうも早く見つかるとは!天の配剤とはこういう事を言うのだろうな!」
「……何がですか?」
レザードが静かに問いを投げかけると、スカリエッティは満面の笑みで答えた。
「決まっているじゃないか!我々の新しい拠点さ!!」
聖王のゆりかご、そこを新たな拠点とし計画を進めると、両手を開き叫ぶスカリエッティであった。
三時間後、上空に二つの姿があった。一人は赤い髪で全身も深紅に染めた少女、
もう一人は対照的に白を基調とした服に、栗色の髪を白いリボンで二つに結った少女だ。
二人は管理局の任務により遺跡の調査に向かっている最中だった。すると赤髪の少女が不満を募らせる。
「ったくよぉ、何でアタシ達まで呼ばれてんだ」
「にゃはは、まぁ落ち着いてヴィータちゃん」
「けどよぉなのはは――」
「私は大丈夫だよぉ」
その言葉にヴィータは声を詰まらせる、なのはは気丈に振る舞ってはいるが、
疲労が溜まっているのは明白だった。
そしてヴィータがなのはの身を案じている間に、目的の遺跡にたどり着く二人。
遺跡にはまだ自分たち以外は到着しておらず寒空の中、二人で待っていると、
他の局員が姿を現す、その数は十人を超えていた。
…ただの遺跡調査にこんなに人数が必要か?そんな事をヴィータは考えつつも作業に取りかかり始めた。
遺跡内にはいくつかの質量兵器がずさんに転がっていた、それらを調べていると後方でヴィータを呼ぶなのはの声がした。
「どした、なのは」
「ちょっとみてヴィータちゃん」
そう言ってモニターを見せるなのは、そこには遺跡全体の図が映っており、
その地下には大きな空間広がっている様子だった。
この遺跡の地下には何かあると感じたヴィータは、なのはと共に地下に潜った。
地下空間へ続く道を通り抜けるとそこは、最新の技術で造られた研究所っぽい場所へと出る。
「怪しいね、ヴィータちゃん」
「あぁ、とりあえず地上の奴らに連絡しねぇとな」
そう言ってなのはに背を向け地上の局員と連絡を取ろうとしたその時―――
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
後ろに居たなのはが叫び声を上げる、振り向くとそこには左肩を血に染めたなのはが立っていた。
「なのは!どうしたんだ!!」
「…ゴメン……ヴィータちゃん………油断……しちゃった…………」
そう言いながらヴィータにもたれ掛かるなのは。ヴィータがなのはを抱えると、傷口は左肩ではな無かった。
傷口は左肩から右わき腹に掛けた背中部分で、
深く斬りつけられている為か、大量の血で服を染め始めていた。
そしてなのはが立っていた位置には四足の機械が姿を現していた。
その機械の左前足は赤く染まっており、なのはを斬ったのは奴だとヴィータは理解した。
ヴィータは今すぐ仇を撃ちたい気持ちであったが、自分の腕の中で苦しむなのはの事を考え、その場を後にする。
「こちらヴィータ!地下でなのはがやられた!気をつけろ中には機動兵器が居る!!」
地上にいる局員に簡潔に連絡をかけるとすぐさまシャマルに連絡を掛け、なのはを抱えて遺跡を後にする。
ヴィータは後悔をしていた、なのはの調子が思わしくないのは前々から分かっていた。
いや……分かっていたつもりだった、なのはの疲労は自分が思ってたよりもっとひどかった。
こんな事になるんだったら無理にでも休ませれば良かった…
ヴィータは涙ぐみながらもシャマルとの合流地点に向かっていた。
合流地点でなのはを抱きかかえながら待っているヴィータ、暫くするとシャマルが乗ったヘリが降りてくる。
どうやらかなり無理を言ってやって来た様子だった。
シャマルが飛び出すようにヘリから降りると、直ぐ様なのはの治療を開始する。
「これは……酷い…」
「なぁ!シャマル!なのはを!なのはを助けてやってくれ!!」
治療を施しているシャマルの肩にしがみつくヴィータ、その目には大粒の涙を流している。
なのはの傷はかなり深く、この場で施せる治療は応急処置が限界だった。
応急処置を終わらせるとすぐさまなのはをヘリに乗せる。
「なぁ!なのはを!」
涙を流し訴えてくるヴィータ、するとシャマルは右の手の平でヴィータの頬を叩く、
あたりに乾いた音が響くとシャマルは口を開く。
「しっかりしなさい!ヴィータ!!あなたはベルカの騎士なのよ!」
「っ!!」
「後の事は私に任せて、ヴィータちゃんは任務を続けて……」
そう告げてシャマルはヴィータの肩に手を当てる。
俯きながらも頷くヴィータ、それを確認したシャマルはヘリに飛び乗るとヘリは飛び立っていく。
…ヴィータは左腕で涙を拭い、拭った後の瞳には怒りの色を宿していた。
そしてヴィータは遺跡の方を睨みつける様に振り向く。
遺跡の方向には白煙が幾つか立ち上っていた。その状況に不安を覚えたヴィータは急いで遺跡へと向かった。
「なんてこった……」
ヴィータが上空で呟く…そこには今まであった遺跡が無く、
“遺跡らしきモノ”が存在していた様な跡地と化していた。
至る所で白煙が上る中、ヴィータは先程の機械らしき残骸を発見する。
調べてみると自爆をした様子で、遺跡を破壊した最大の要因と考えた。
そしてここまで遺跡が破壊されているとなると地下の施設も同様だろうと、
そして地下に向かったと思われる局員もまた助かってはいないだろうと考えていた。
そしてそこまで考えると、徐々にグラーフアイゼンを握る拳が堅くなっていく。
「畜生……ち…くしょう………チィッッックショォォォォォォォ!!!!」
深々と雪が降る中……ヴィータの虚しい叫びだけが辺りに響いた………
一方ここは聖王のゆりかご、内部は思いの外綺麗で、至る所に質量兵器が置いてあった。
着くや否や早速解析をし始めるスカリエッティ。
「どうです?」
「これは……色々と面白そうだよ」
レザードの問いに笑みを浮かべるスカリエッティ。
簡単な解析の結果、聖王のゆりかごは幾つか破損している事、そして動かすには聖王の遺伝子が必要な事だった。
「ふっ忙しくなりそうだよ」
「それは何よりで」
「手伝ってはくれないのかい?」
「……考えておきましょう」
聖王のゆりかご……その存在が世界に知られるのはまだ先の話である……
以上です。スカリエッティ引っ越す、なのは撃墜ってな回です。
五話はゼスト達が登場、レザードが暴れる予定です。
それといつも纏めて下さってありがとうございます。
あと誤字、脱j(ry
ではまたです。
なのはが撃沈。無茶しやがって。
GJでしたー。
でも、前投下からせめて30分は空けような?
>・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
>前の作品投下終了から30分以上が目安です。
せめて、ここ読んでくれ ORZ
レザードの人、乙
消滅したサイトにあったナデシコ×VP並みの大暴れ期待してます(マテ
バインドで縛り付けてから嬉々としてプリズミックミサイルで蜂の巣にするレザードを夢想する。
レザードの魔力って初登場の時点で神族ですら主神しか扱いきれないロスト・ミスティックを使いこなすほど凄いんだけど
今現在の奴を管理局のランクで表すとどんなもんなの?w
こんばんは。
ちょっとした嘘予告じみた単発を投下したいのですが、見たところ予約はないようなので、23:15から投下させていただいてよろしいでしょうか。
しえーん
支援
では、まいります。
不可解だ。
八神はやての思考は、要約するとその一言であらわすことができる。
それは、彼女の知識と知恵を総動員しても、目の前の現実が説明できないことを意味していた。
*
ロストロギア・レリックを狙う、謎の機械兵器郡。
六課を創設する以前から、それと接触することは珍しくない。
したがって今回、情報を得ると同時に、スターズ分隊・ライトニング分隊を捜索に当たらせたとき、交戦の可能性があることは覚悟していた。
だが――
彼女の親友が問う。彼女自身も、それが無駄な問いだと解っているのだろう、その声音は曖昧であった。
「……"彼ら"以外にも『レリック』を狙ってる人がいるってこと?」
困惑するのも当然、彼女達が確保するはずだったレリックは、既にそこには存在せず、そして、かわりに夥しい数の機械兵器の残骸が横たわっていたのだ。
大型の4脚歩行型からいつもの浮遊型にいたるまでの、すべてが、既に破壊されている。
「わからん……でも、この状況を説明できる他の仮説は、他に無い」
不可解だった。とにかく不可解であった。
彼女が余暇を捨ててまで原因究明にかかりきりになっても、何も答えは出てこなかった。
身内、すなわち管理局側に、手柄を横取りしようとする者でもいるのかとすら疑ったが、確証のある
彼女は、ついに自力でこの疑問を解決することができなかったのだ。
あの日まで。
*
すなわちDr,スカリエッティが時空管理局に宣戦布告し、地上本部と六課隊舎へ大規模な襲撃をかけた、あの日のこと。
燃え盛る市街でスバル・ナカジマは激昂していた。
青い長髪を血に染め、倒れ伏した己が姉を連れ去らんとする、スカリエッティの手先、戦闘機人たちを見た彼女は、怒りを、目の前の『敵』にぶつけ、ぶつけ、ぶつけつくして、結果、
「ギン姉を……かえ……せ……」
姉を救うことはおろか、目の前に立ちはだかった、自らよりも小さな体躯の戦闘機人ひとりも討つことができず、慟哭し、そこで終わるかに見えた。
だが。
「……スバル……?」
「え?」
連れ去られたはずの姉の声が聞こえる。
幻聴かと思って頭を振るが、弱弱しい声は、確かに彼女の耳に己が存在を訴えかけていた。
振り向き、それを目にして、スバルは仰天した。
――タイプゼロは確保できたようね
――ああ、でもチンク姉、が
――無理をするなノーヴェ。お前もだいぶ派手にやられている。そのくらい解るだろう
――ともかく、チンクはすぐに修理が必要だ。ウーノ、チャンバーを用意しておいてくれ
――わかりました、ドクター
――二つだよ。この箱の中のタイプゼロも"修理"が必要だからね。さて、ウェンディ
――はい、開けるッスよ
ごとん。
――え?
――何?
――嘘!
――まさか?!
――お前っ!
「よう、荒っぽい運転だったな。乗り物酔いは久しぶりだぜ」
「「「「「コブラ!!」」」」」
*
状況を把握するため、撮影された敵の映像をモニターしていたレジアスは衝撃を受け、たまらずひっくり返った。
思わず声にしてしまう、そんな映像を発見したのだ。
「ば、バカな、そんな話があってたまるか!!」
そこ写っていたのは、左腕の肘から先を、黒い銃器に挿げ替えた謎の男。
「中将、どうなさいました!?」
レジアスは叫ぶ。
「どうもこうもない!コブラだ、奴は生きていたのだ!」
「!」
部下が凍りつく。彼も話には聞いたことがあった。
宇宙海賊コブラ。左腕に精神銃――サイコ・ガン――を持つ、不死身の男。
その首にかけられた賞金は天文学的、しかし誰も彼に勝つことはできなかった。
「し、しかしコブラは3年前から姿を現しませんでした。巷では死んだと……」
レジアスの血走った眼が部下を睨む。今まで見たこともないその鋭さに、彼は気圧された。
「次元世界広しといえど、"あんなもの"を左腕につけている者は奴しかいない!……おそらくは、顔を変えて潜伏していたのだろうが……ま、待て!奴が出てきたということは!」
地に伏す。全力攻撃が一切通用しない現実が、彼女から立ち上がる力を失わせしめていた。
「無駄だ。あいにく、俺の身体は特殊偏向ガラスでできていてね。いかなるレイガンも、俺の身体をすり抜けるのだ」
眼前に突如として現れた、透き通った身体を持つ謎の怪人は、その鉤銛とレイガンが一体化した謎の武器と、分身を駆使した恐るべき力で、瞬く間に彼女の妹、ディードを屠り――
「ぐ……」
――そしてオットー自身のIS・レイストームはそいつにまったく通用しなかった。
「おまけに強度は超合金以上……クク、俺こそ不死身のスーパーマンというわけだ!」
六課隊舎は、自分たちより先に、何者かによって襲撃されており、別働で向かったはずのルーテシア、ガリューの姿も見当たらない。
何よりも、聖王の器であるところの、あの娘の姿が見えぬ。
「古代ベルカの超兵器は、海賊ギルドがいただく。貴様は姉妹共々あの世へ行けい!」
――詰んだ。
ISは通用せず、肉弾戦でもこちらに分が悪い。こちらにできることは飛んで逃げることくらいだ。
しかし、彼女は今、妹を片腕に抱えている。逃げる速度が出せるかどうか。
なぜ、こんなことになったんだ。
博士の計画は完璧だったはずだ。管理局はこの攻撃に対処などできないはずだった。
だというのに、謎の敵が乱入して、我らの前に立ちはだかっている。部外者が聖王の器を横取りしようとしている。
現実が、受け入れられなかった。頭がついていかない。ディードの腹部から間断なく漏れる血液の生暖かさにしか、神経が反応しない。
鉤銛がゆっくりとオットーを指向し、レイガンの発射口が真円になる。まっすぐこちらを向いたということだ。
――ああ、自分はここで死ぬのか。
生まれたばかりなのに、博士は世界が自分たちのものになると言っていたのに。
レイガンの銃口が光、自分の眉間を貫いて――
「あれは……タートル号!」
攻撃が来ない。それどころか、謎の男は明らかに狼狽しており、視線は自分の後方を睨んでいる。つられて、オットーもまた振り向いた。そこには。
*
ギンガを救ったアーマロイド・レディと共にタートル号で隊舎へ戻ったスターズ分隊FA陣は、逃げ遅れた戦闘機人を拘束したものの、ヴィヴィオは海賊ギルドによって連れ去られたと知る。
一方、スカリエッティのアジトに潜入したコブラはいつものように破壊の限りを尽くし、レリックの一部と、聖王のゆりかごに関するデータを奪ったあとは颯爽と逃げていくのであった。
面子を潰され、そして対抗馬・海賊ギルドの出現を知ったスカリエッティは、その屈辱により更に凶行へと走ることになる。
そして……
「六課襲撃組は分身する奴に敗れたらし……ああ、ノーヴェ、あのオレンジ頭と違うぞ、暴れるな」
「コブラさんは悪い人じゃありません!ギン姉も助けてくれたし、それに!」
「事態は更に悪い方向に向かっとる……海賊ギルドはスカリエッティみたいに愉悦のための躊躇なんてせんやろなぁ」
「おじちゃん、誰?ヴィヴィオの、味方?」
「サンタクロースさ、トナカイは風邪で寝込んでてね!」
「バカな……戦闘機人であるこの私を、素手で……」
「旦那ぁ、薬持ってき……だからまずいって!そんなに酔ってちゃ!だんなぁぁああ――っ!!」
「ボス!管理局の金色がターベージの奴を真っ二つに!」
「君は私の最高傑作になるんだよ?」
「(私達が居る前で……誘拐してきたガキをいきなり最高傑作だなんて……許せない!!)」
「おかしいなぁ……どうしちゃったのかな、コブラさん……クロスなのはわかるけど、主人公は私なんだよ?」
てんやわんやの次元世界。管理局の明日はどっちだ。いや、機動六課の明日は。
デスクにつんのめって頭を抱える八神はやては、自分の明日がどっちなのかすら知る由も無い。
ヒューッ 支援
362 :
355:2008/12/10(水) 23:20:40 ID:8C1cDJL9
ぐえ。名前欄を忘れていた・・・とんだ失礼を・・・
とりあえず、以上で投下おしまいです。
何も言うまいて・・・
らめぇ、みんな手篭めにされちゃうw
ヒロインが死ぬる
ターベージはまた真っ二つなのかよw
あとヒロインの死亡率結構高いよな、コブラって。
GJ!
コブラさんの精神は絶好調だな、小惑星だって砕けるぜ!
もうコブラさんが主人公でいいよwww
なのは!本音だだ漏れや!
背中の皮剥がすのは止めてっ!
きっとフェイトそんのバリアジャケットはTバック尻丸出しになってるはず
サイコガンVSスターライトブレイカー
はいはいウロスいこうや
372 :
一尉:2008/12/11(木) 15:59:44 ID:rkbA/qCj
・・・・・・これはギャク系かよ。
いや元ネタが既にシリアスなのかブラックユーモアなのか微
妙ォ〜なノリの内容だったし。
(;^_^)y-~~
test
めずらしく今日は投下なしかね
たまにはこんな日もあるさ。
某なのはスレが最近荒れに荒らされてるのに比べれば天国だよ此処はw
唐突に思い浮かんだんだが
エリオがクラナガンと合一して武神使いになったってことは
武神使いの先達としてややエロを敬わないといけないんだろうか
ややエロは人類の最低編なので問題ありません
敬うなら美影さんにしましょう
フェイト「エリオは私にならすっごくエロでも良いんだよ?」
【個別スレに帰れ大回転】
380 :
一尉:2008/12/12(金) 17:20:04 ID:qIGOVxdJ
じゃあエリオ坊主ならきめよう。
エリオ88…
はっ!!俺は今何を!?
投下予告よろしいでしょうか?
20時50分頃より、衝動を抑えきれずに書いた短編一話目投下させてもらおうと思います。
デジモンの方は現在モチベと言うデジソウルをチャージ中なのでもうちょっとお待ちください。
382
デジモンではなく短編を投下されますか。
デジソウルがチャージされるのを楽しみにして待っています。
20時50分から投下される作品、頑張ってください。
作品名は紫の魔女。クロス元はウィッチブレイドで、投下開始します。
臨海第八空港。
原因不明の大火災により、文字通り火の海となったその場所を一人の少女が彷徨っていた。
名はギンガ・ナカジマ。時空管理局陸士候補生の少女は共にこの空港を訪れ、離れ離れになった妹を探し求めていた。
「スバル、スバル! どこにいるの!? スバルゥッ!」
2歳下の大切な妹。
今は亡き母に代わって何があっても自分が守ると誓った、この世の何よりも大切な存在。
ちょっと目を離した隙にはぐれ、空港の迷子センターで呼び出しを掛けてもらおうとした時にこの火災だ。
まさか崩れてきた瓦礫の下敷きになってやしないだろうか、燃え盛る炎に焼かれてやしないだろうか、そんな嫌な考えが浮かんでは消える。
「いや……スバル、返事してよ、どこに行ったの……スバル……」
恐怖に表情を歪め、炎が走る廊下を彷徨う。
妹に万が一のことがあれば自分はどうすれば良い、鼻孔を刺激する焼死体独特の焦げ臭さが否応なしに不安を煽っていく。
管理局に勤める父にも、天国の母にも何と言えば……自分は何を支えにして生きていけばいい。
「スバル……ふざけてないで……出てきてよぉ……スバル……すばる……」
壊れた機械のように繰り返して妹の名を呼び続ける。
もはや恐怖を通り越し、妹を探し求める事しか考えられなくなったギンガがそれに気がついたのは、偶然だった。
「……?」
足元にぶつかった硬い感触。
視線を向け、足元に転がるそれを見やる。
「……腕?」
骨がむき出しの腕に見えたそれは、腕の形をした人工物。
手の甲に赤い宝石のような物がはめ込まれたそれは酷く不気味だが、不思議と魅力的とさえ思えた。
自分でも気づかぬうちに頭の中からスバルの存在が消え、ギンガの右手がその宝石へと伸びる。
指先が宝石に触れた瞬間、転がり落ちていた腕が不気味な光を放ち、触手のような物を伸ばしてギンガの右腕に纏わりつく。
「ひっ!?」
恐怖がギンガを支配するよりも早く、触手が肌を突き破って右腕に食い込む。
悲鳴すらあげる事も出来ぬほどの恐怖と激痛が少女の意識を刈り取るのはほんの一瞬……ギンガの意識は闇へと沈んでいった。
そして視界が闇へと飲み込まれた直後、何故か耳元で不愉快な電子音が響いた。
「うっ……んぅ……」
枕元で鳴り響く電子音により、ギンガの意識は闇の中から引き起こされた。
不愉快かつ喧しいアラームを鳴らし続ける目覚まし時計を掴み、ベットの上でうつ伏せになったままぶん投げる。
派手な音を立てて壁に叩きつけられたデジタルの目覚まし時計は哀れスクラップと化して床の上に落下、無残な姿をさらす。
「ったく朝から喧しいってばぁ……うぁ、頭に響くぅ……」
昨日、仕事帰りに同期の仲間に誘われて食事に行ったのは良いのだが酒を飲んだのがいけなかった。
何度か飲んだ事はあるし、酒に弱いわけでもないのだが飲酒量が多すぎたのか頭痛がする上に少し吐き気もする。
完全に二日酔い。寮の部屋に帰りついてからの記憶も曖昧で制服姿のまま眠っていた事から、部屋についてすぐにベッドにダイブインしたようだ。
幸いにも今日は休暇であり、二日酔いのまま仕事という拷問に等しい一日は何もなければ避けられる。
「にしても変な夢……見ちゃったなぁ」
寝ている間に見ていた夢は間違いなく4年前に自分と妹が巻き込まれた空港火災の時の事だ。
正直、あの時の事はいまいち覚えていない。はぐれたスバルを探し回っていたのは覚えているのだが、酷く記憶が曖昧で詳しく思い出せない。
意識を失い、倒れていた所をたまたま救助活動に参加していた執務官が助けて病院に搬送してくれたらしいが全く覚えていない。
思い出せる事と言えば、目が覚めた病院で再開した妹に思わず泣きながら抱きついた事ぐらいだ。
「これもその時からあるんだっけ……?」
右腕の袖を捲り、白い軟肌に刻まれたタトゥーを見やる。
話によると、救出された時にはすでに刻まれていたそうだ。
検査しても異常は見当たらず、消そうと思ってもなぜか消えない不気味なタトゥー。
結局今まで放置していたが、いざ見ると気味が悪くて仕方がない。
「気分悪くなってきた……とりあえずシャワー浴びよ……」
眠気と頭痛でいまいち回転の良くない頭を強制的に覚醒させるべく、ギンガはベットから降りて備え付けのシャワールームへと足を伸ばす。
制服のボタンをはずして床に脱ぎ捨て、下着に手をかけようとした所で、ポケットの中に入れっぱなしだった通信端末が鳴り響く。
「…………」
このまま無視してやりたい衝動を抑えながら端末を手に取り、音声受信モードでスイッチを入れる。
「はい、ギンガです」
『休日の朝だってのにすまねぇな、ギンガ。事件だ』
拷問が決定した。
端末から聞こえてくる父親にして職場の上司、ゲンヤ・ナカジマの言葉に「あぁ、やっぱり」と心の中で愚痴る。
憧れの存在であった亡き母と同じ仕事に就きたい一心で管理局の捜査官となってからと言うもの、休暇が潰れるのは慣れているが二日酔いな時は勘弁して欲しかった。
『場所はミッドの地下道。トレーラーの横転事故なんだが、どうもただ事じゃねぇみたいなんだ。応援に行ってくれ』
「わかりました」
『じゃ、頼んだ』
通信が切れ、深く深呼吸をしてギンガは脱ぎ捨てた制服を拾い上げて袖に腕を通す。
クローゼットから予備の制服を出すのも面倒なのでこのままで良いだろう。
棚の上にあった薬箱から頭痛止めを取り出し、何錠か手の上に出して口に含み水で一気に流し込む。
最後に制服のボタンを留め、ネクタイを首元に巻いて可能な限り服装を整える。
「ふぅ……」
制服を着用し終え、最後にもう一息ついてから……壁に向かって、全力で、通信端末をぶん投げた。
ゲンヤから連絡のあった事故現場へとギンガは足を踏み入れる。
通信で聞いた通りトレーラーの横転事故のようで積み荷であろう段ボールが散乱し、道路にタイヤの跡を残して横倒しになったトレーラーは大破。
そのすぐ傍で運転手が蹲って震えており、何名かの局員が落ち着かせようと話しかけている様子も見える。
見ている限りではごく普通の横転事故にしか見えないが、通信ではただ事では無いと言っていたので何かあったのだろう。
とりあえず話を聞いてみない事には仕事にならないと、ギンガは近くにいた二人組の局員へ話しかける。
「陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹です。現場検証の応援に来ました」
「お話は伺ってます。どうぞこちらへ」
「トレーラーの横転事故と聞いていますが……?」
「えぇ、ですが妙なところが多すぎまして」
局員の話によると、横転の理由は何者かからの攻撃によって積み荷が爆発した事らしい。
ギンガの視線は自然と積み荷に移るが、転がっている荷は段ボールの中一杯に積まれた缶詰や飲料品で爆発するような代物はない。
そして現場の奥では、トレーラーを攻撃した犯人が無残な姿を晒していた。
「ガジェット? それにあれは……」
そこにはガジェットと呼ばれる最近クラナガンを騒がせている無人戦闘兵器がいくつか、残骸となって転がっていた。
思わず見事と言いたくなるほど完膚なきまでに破壊された残骸。粉々になっている物もあり、数の特定は難しいが最低でも四機以上はいたように見える。
だが、ギンガの注目を最も引いたのはガジェットでは無い。ガジェットの残骸が散らばっている地点のすぐ近くに無造作に放置された物質。
「生体……ポッド……?」
5〜6歳前後の子供が入りそうな大きさの、内側から破壊されたポッドの残骸が転がっていた。
何か重たい物ををひこずったかのような後がすぐ傍に残り、真っ直ぐに下水道へと降りる階段まで続いている。
間違いなく何かがポッドの中にいて、下水道へと降りて行ったのだ。
「ホントに、ただ事じゃないみたいですね」
僅かに残っていた頭痛が一気に治まっていく。
生体ポッドの中身はわからないが、ガジェットまで出てきているのだ……放置していて良い代物では無いのは確実。
溜まりに溜まって近々取ろうとしていた有給休暇も当分お預けは確定だなと思いながら、ギンガは残りの局員に後を任せて自らも下水道へと降りていく。
下水道の中は思ったほど匂いは無いが、それでも鼻孔を下水独特の生臭さが刺激する。
「こんな所を通って行くなんて、どんな子供よ」
ポッドの中身、幼い子供であろうそれが通るような場所では無い。
端末を取り出し下水道のマップを表示させ、それを頼りにギンガは下水道を走る。
生体ポッドに入っていた何かを一刻も早く確保しなければ不味い事になると、捜査官としての直感が告げていた。
休暇中だった機動六課の人間が、レリック入りのケースを持った幼い少女を保護した。
その連絡を受けたのは下水道に降りてから数分後の事で、ギンガはその少女が生体ポッドの中身だと確信した。
聞けば歳も大体5歳程で、レリック入りケースをひこずっていたとポッドのサイズにも、傍に残っていた重たい物をひこずった後もケースだとすれば辻褄は合う。
ご丁寧にガジェットの編隊が地下と空に出現し、湾岸地域の人々には念の為に避難命令が出てとちょっとした騒ぎになっているようだ。
「六課って言えば……そっか、スバルがいる部隊だ」
自分のちょっと後に管理局に入隊した妹が、確かその部隊に引き抜かれていた筈だ。
局内外でも名前を知らない者はまずいない程の有名人、エース・オブ・エース高町なのはと同じ部隊に入れると嬉そうに言っていた事を思い出す。
4年前の空港火災でスバルはその有名人の手で助けられ、その時からずっと憧れを抱いている存在だっただけに喜びようも凄かった。
レリック等、ロストロギア確保を主とした部隊なのだから今回の件にも動くという。つまり、スバルと一緒に仕事ができるかもしれない。
そう考えると、未だに休暇が潰れて少し鬱だった気分も晴れてくる。
「それじゃ、情けない所は見せらんないかな」
自然と口元に笑みが浮かぶ。
お互いに仕事が忙しくなかなか会えないのだから、こんな事件の最中でも妹に会えるというのは嬉しくて仕方がない。
しかし、これが仕事だと言う事を忘れてはいけない。正式に話を通さなければ六課の仕事に108部隊が割り込んできたと問題になる。
ギンガはデバイスの通信機能を使ってまずは直属の上司であるゲンヤへと話を通す為に通信を繋ぐ。
話はすでにゲンヤの方にも通っていたのか、六課の方がOKなら問題はないと言ってくれた。
それならば話は早いと、ギンガはすぐに六課隊舎の司令室へ通信を繋げる。
「陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹です」
『お、ギンガか。久し振りやね』
通信相手、六課部隊長の八神はやての声がデバイス越しに返ってくる。
父の知り合いで何度か会った事もある。歳が二つしか違わない事もあり、それなりに話も合って好感を持っている人物だ。
「お久しぶりです。別件の捜査中だったのですが、そちらの事例とも関係がありそうなので参加してもよろしいでしょうか?」
『そうか……そんならお願いするわ。そっちの一件も、道々教えてな』
許可は取れた。
六課が保護した少女はヘリで病院まで運び、分隊長二名が空のガジェットを叩く為に出撃。
自分は地下でスバル達、六課の前線フォワードメンバーと合流しろと言う。願ったり叶ったりの配置、これで仕事でなければもっと良かったのだが。
『ほんじゃ、ギンガ。そっちが捜査してた別件がこっちのと関係あるかもしれへんって話やけど……』
「はい。私は、トレーラーの横転事故の現場検証の応援に行っていたのですが…」
ギンガは手短に要点だけを説明する。
残骸となって転がっていたガジェットと丁度5〜6歳の子供が入る程度の生体ポッド。
傍にあった何かをひこずったような跡を追っていたところでこの騒ぎ、偶然にしては出来すぎている。
「これは推測ですが、そちらで保護した子供は人造魔導師の素体ではないかと……」
通信機越しに六課メンバーの息を呑む音が聞こえてくる。
人造魔導師、遺伝子レベルで肉体の改造を施され強い魔力を人工的に持たせる禁忌の技術の塊。
よほど頭の可笑しい連中でもなければ手を出さない、製造までのコスト等が割に合わない存在。
『こりゃ本格的に嫌な感じしてきたな……地下の方もなんかあるかもしれへん。気ぃつけて』
「はい!」
リーダーは貴女ね? 状況説明してくれる?」
支援
流石に10歳の子供にリーダーは任せないだろうし、スバルは指揮など出来るタイプじゃない。
消去法でティアナがそうだと判断したギンガの勘は、見事的中していた。
『はい、レリックの反応は大体の位置を掴んでます。一度合流して、ガジェットを潰しながら探しましょう』
「えぇ。じゃあ合流ポイントをそっちで指定し……?」
不意に、ギンガの耳が何かの音を捉える。
足音だろうか……音の感覚からして幼い子供のように思える足音はすぐ近くから聞こえてくる。
『……ギンガさん?』
『ギン姉?』
「……ごめんなさい。ちょっと気になる事があって……あとで合流しましょう」
一方的に通信を切り、ギンガは足音のする方へと移動する。
角を二つほど曲ったところで、ギンガと足音の主たる幼い少女の後姿を視界に認めた。
薄紫の長髪を揺らす、歳は9歳か10歳といったところだろうか。
「ねぇ、ちょっと!」
どうしてこんな場所に一人でいるのか気になるが、それを聞くのは後回しだ。
ギンガは少女の前へと回り込み、しゃがみ込んでその歩みを止めさせる。
「ここは危険だから、お外に出てくれるかな?」
「探し物……してるから……」
「そうなんだ。その探し物も、お姉ちゃんが見つけてあげるから……ね? ここは危ないから外で待ってて」
「邪魔、しないで」
少女の右手が、ギンガの胸に押し当てられる。
ギンガの体が少女の放った魔力で吹き飛ばされたのは、その直後だった。
「きゃぁあっ!?」
悲鳴をあげながら、ギンガはコンクリートの壁に叩きつけられた。
そのまま力なく下水の中へと崩れ落ち、未だ浄化されていない水に体が濡れる。
「あっ……ぐぅ……」
零距離から魔力放出を受けた制服は破け、素肌と下着が露出する。
ダメージは酷い。この体が、普通の人よりも頑強でなければ肋骨が肺や心臓を貫き死んでいたかもしれない。
下水の中でもがくギンガに全く興味を示さず、少女はスタスタと軽い足音を立てながら歩を進める。
「なっ……ちょっと……待ちなさい!」
激痛に悲鳴をあげる体を強引に持ち上げ、ギンガは少女の後を追う。
いきなりの容赦ない攻撃には驚いたが、攻撃されっぱなしで黙っていられる性分では無い。
加え、状況が状況だけに今回の騒動と関わりがあるのでは無いかという疑問に達するまで時間はかからなかった。
もはや衣服としての役目を果たしていない制服の代わりにバリアジャケットを纏うべく、ポケットから待機状態のデバイスを取り出す。
「ブリッツキャリバー!」
『OK』
最近支給された新型のローラーブーツ型デバイス、ブリッツキャリバーを起動、
スバルの使用するマッハキャリバーの姉妹機にあたるそれを両足に装着。左腕には亡き母の形見であるリボルバーナックルを装備する。
バリアジャケットの展開も同時に完了し、ギンガは少女を止めるべくブリッツキャリバーのローラーを回す。
こうなれば多少荒っぽい方法を取ってでもあの少女を止めると決め、ギンガは先回りをすべくローラーで一気に加速する。
「……ガリュー」
しかし、その動きは少女が名を呟いた存在によって阻まれる。
「なっ!?」
ギンガの目の前に一瞬で出現したのは人型の虫。
真っ赤に染まった4つ目がギンガを睨み付け、振り上げられた右足でその体を蹴り飛ばされる。
「くぅっ!」
咄嗟にリボルバーナックルを用いて防御するが、衝撃までは殺せずに下水の中へと再び落ちる。
痛みに歪む顔を持ち上げるのと、少女がガリューと呼んだ虫が肉薄するのは同時だった。
「ガリュー……そいつ邪魔だから、殺していいよ」
振り上げられていた虫の拳が、ギンガの顔面を捉える。
悲鳴をあげる間もなく、後頭部がコンクリートの床に叩きつけられ衝撃で砕かれる。
「が……ぁ……」
殺していいよ。
確かにあの少女はそう言った。この虫は恐らく使い魔か召喚獣の類、自らの主に忠誠を誓う存在だ。
そして、このガリューと言う存在は命令通り自分を殺そうとする。ギンガがそれを理解するよりも早く、ガリューの蹴りが腹部にめり込む。
サッカーボールのように蹴り飛ばされ、ギンガの体が下水を弾きながらコンクリートの上を転がる。
「ぁ……くぅ……ぅ」
痛みでふらつく体をなんとか立ち上がらせる。
ガリューは少し離れた位置でギンガを見やっているが、少女の姿は無い。
この場を任せて自分はさっさと行ってしまったようだ。だが、今はそんな事を気にしている場合では無い。
今はこの敵を、ガリューを倒さなければ自分がヤバいのだから。
「っ……はああああっ!」
ブリッツキャリバーで一気に加速、リボルバーナックルに魔力を込めてガリューへと突貫する。
ガリューも右腕の爪を伸ばし、それに魔力を込めギンガへと突撃する。
互いの間合いに入った瞬間に拳と爪を突き出し、ぶつけ合う。
「ぐっ……ああああっ!?」
数秒の拮抗の後、ギンガの拳が押し負けた。
人とは違う体を持ち高い身体能力を持つギンガであるが、人外の獣たるガリューのそれには及ばなかった。
大きく吹き飛ばされ、下水の中にうつ伏せに倒れこむ。
支援!!
「ぅ……ぁう……っあ!?」
なんとか立ち上がろうと持ちあげた顔が、後ろから踏みつけられる。
ガリューの足がギンガの後頭部を踏みつけ、下水の中へと顔を押し込ませた。
「―――っ!?」
水の中に顔を押し付けられ、息ができない。
流れる下水の川はそれほど深くはないが、それでも人の顔を沈めて溺れさせるには十分だ。
(息が……でき……な……)
それこそ人外の脚力と全体重をかけて踏みつけられている頭を持ち上げる力を、今のギンガは出す事が出来ない。
窒息の苦しみに手足を激しく動かし、もがくが状況は一向に変わらない。
ガリューは無感情な目で、下水にて溺れ死のうとしている少女を見やる。
(こ……こんな、事で……死ぬ……の……?)
諦めにも似た感情と共に、死と言う言葉が浮かび上がる。
死にたくない、死んでしまってはもう誰にも会えなくなる……スバルに二度と会えなくなる。
それだけは絶対に嫌だった。
(誰か……誰でも、いいから……た……すけ……)
誰か助けて欲しい。
誰でも、何でもいいから助けてほしいを心から願う。
それが無理なら、私にこの虫を倒すチャンスをもう一度……もう一度戦わせて欲しい。
こんな処で死ぬぐらいなら何にでもなるからと、この場を脱する力を心の底から、どん欲なまでに欲した。
そして―――――
「っ!?」
―――――少女の中で眠っていたソレが目覚めた。
右腕に刻まれたタトゥーのような傷跡が光を放ち、その衝撃でガリューの体を吹き飛ばす。
「!!?」
何が起きたのか理解出来ずにガリューは大きく吹き飛ばされ、自らも下水の体を濡らす。
そして、解放されたギンガは苦痛に表情を歪めながら右腕を抑えていた。
右腕の光が強くなると共に、右腕に走る激痛と熱さが激しくなり全身に回る。
「ぐ……あ……熱い……腕が……体が……あ、ぁぁあああああああああああああああ!」
それに耐えきれずギンガが悲鳴をあげ、彼女の体を守る防具であったバリアジャケットが消滅した。
否、右腕に出現した赤い宝石に吸い込まれた。そして、それと入れ替わるかのように一瞬にしてギンガの体を別の何かが覆っていく。
髪の毛にまで変化が及び、見開かれた眼の色が変色し……ギンガの姿は一変した。
「はぁ……はぁ……」
目の前で突如変貌したギンガの姿に、ガリューは目を見開いて驚きを隠せずにいた。
バリアジャケットの変わりに胸元や腹部が露出した紫色の鎧にも見える体に張り付いたスーツを纏い、肌の色も若干白さが増したように見える。
紫色をした長髪はほぼそのままながら鋭利な刃物のように先端が変化。首から頬、目元には青い稲妻のような模様が走る。
最も変化の激しい右手は肉食獣のような鋭い爪が伸び、両脚はハイヒールにローラーを組み合わせたような独特の形をしたブーツに。
緑色だった瞳の色も金色に変わり、まるで血に餓えた獣のような鋭い視線をぶつけてくるギンガにガリューは思わず一歩後ろへ下がる。
先ほどまでとは決定的に何かが違う。外見では無く、もっと別の何かが……まともに戦っては危険だと獣の本能が悟らせる。
エロイぜよ! 支援!!
「はぁぁ……」
一方、ギンガはどこか官能的にすら聞こえる甘い息を吐いて正面にて身構えるガリューを見やっていた。
人型をした虫、恐らく召喚獣か何かであろう存在は彼女の予想よりも遥かに強いと、この身をもって確信した。
単なる真っ向勝負でなら少なくとも互角だと考えたのは過ち。あの人型虫に対して、同じく己の肉体その物を武器とする者として失礼であった。
一対一は避けるべき相手、スバル達と合流するのが定石と普段の彼女ならば判断するだろう。
だが、今の彼女はそんな判断を下せる思考を持ち合わせていなかった。
「ウフフ……ねぇ……そこの虫さん?」
舌舐めずりをし、目を細める。
あの虫はもっと強いんじゃないだろうか?
あの虫はもっと速く動けるんじゃないだろうか?
あの虫はもっと激しい攻撃をしてくるんじゃないだろうか?
あの虫は―――――
「もっと、激しくヤらない?」
―――――もっと私を気持ちよくしてくれるんじゃないだろうか?
ガリューの耳がその言葉を聞き取るのと同時に、ギンガはアスファルトの地面を蹴った。
一瞬で数メートルは離れていた距離を詰め、左の拳でその胸部に殴りかかる。
「!?」
ちょっとやそっとの攻撃では傷つかないと自負し、主であるルーテシアの数少ない自慢でもあるガリューの強固な外骨格に亀裂が走る。
ガリューが驚愕に目を見開くよりも早く、ギンガの右腕が顔面を鷲掴みにして地面に力任せに、乱暴に叩きつける。
アスファルトが砕け、陥没する程の力で後頭部を叩きつけられたガリュー。だが、この程度で終わるほど軟では無い。
両腕の骨格と皮膚組織を変化、鋭い爪状の武器を出現させ、隙だらけのギンガの腹部へ遠慮なく突き刺した。
「がぁっ!?」
腹部に走る強烈な痛みに悲鳴をあげた隙を突き、ガリューはギンガの顔面を蹴り飛ばし彼女を引き剥がす。
両腕の武器に付着した白く変色した血を振り落とす暇も惜しみ、ガリューは顔を蹴られ仰け反っているギンガへ追い討ちをかける。
爪を突き刺してやった腹部に飛び蹴り、くの字に体を折り曲げ地面にダウンさせたギンガの心臓目掛け右腕の爪を振り上げる。
これで終いと、ガリューは確信する。
「アハッ……」
だが、その笑い声がトドメの一撃を躊躇わせ、反射的にギンガから飛び退く。
直後、ガリューがいた場所であるギンガの腹部に触手と刃物を融合させたような形へと変化した彼女の髪の毛が群がる。
あと一瞬でも飛び退くのが遅ければあの髪の毛により滅多刺しにされ、そのまま絶命していたであろう事は想像するまでもない。
「避けられちゃった……やるじゃない」
倒れた体を起こしながら、ギンガの体は震えていた。
両腕で自らを抱きしめ、荒く息を吐きながらゆっくりと立ち上がる。
この女、Sだ! 支援
(気持ちいい……何、これ……)
腹を貫かれ、顔面を蹴られて腹にまで飛び蹴りを受けてと酷くダメージを受けたというのに感じるのは痛みでは無く快感。
あの虫を攻撃していた時も、攻撃されていた時も体中を今までに体験した事の無い快楽が支配していた。
あまり戦いを好む性分では無かったはずの自分が心の底から戦いを、その戦いで受ける痛みを求める。
「アハッ……アハハハハハハッ! さぁい……こぉ……最高よ」
変貌した彼女の体で最も激しい変化を遂げた右腕をスッと伸ばし、収納されていた刃を展開する。
肉食獣の腕をそのまま移植したかのような右腕から引き出された刃、鎌と刀を足して二で割ったようなそれをガリューへと向け、ギンガの顔が歪む。
人の物とは思えない、不気味で優越に浸ったこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべていた。
本当に最高の気分。最高すぎて、楽しすぎて、どこまでも果てなく求めたくなる。
「………」
ギンガを見やりながら、ガリューは久しぶりに恐怖という感情を感じていた。
この少女とこれ以上戦うのは危険だと、戦士としての、獣としての自分が警告する。
管理局の局員として立ちはだかっていた筈の少女の姿は無く、ただの戦闘狂、血に飢えた獣がそこにいる。
これが少女の本性とでも言うのか、それとも全身に纏う身を守る防具としては少々露出が多い鎧に原因があるのか。
「さぁ……続きしましょ?」
右腕のブレードを振り上げ、左足で地面を蹴る。
ガリューも右腕の骨格の変形させ、出現させた巨大な爪を構え地面を蹴り突撃。
脳天から真っ二つに切り裂かんと振り下ろされたブレードを爪で受け止め狙いを逸らし、態勢を崩したギンガの腹部へと左手を押し当てる。
押し当てられた左手には、すでに生成されていた衝撃弾が発射の時を今か今かと待ちわびている。
「っ!?」
ギンガがそれに気づくのと、衝撃弾が放たれるのは同時。
零距離で放たれた衝撃弾がギンガの腹をえぐるようにめり込み、骨の何本かを砕きながら少女の体を吹き飛ばす。
壁に叩きつけられ堪らず苦悶の表情を浮かべるが、すぐにその痛みすら快感へと変わっていく。
陥没した壁にめり込んだ体を引き剥がすよりも早く、ガリューの手がギンガの顔を鷲掴みにしてもう一度叩きつける。
人間ならば確実に頭が潰れる程の力で叩きつけたにも関わらず、笑みで歪む口が手の端から除く。
「!!」
ギンガの顔を掴んだまま衝撃弾を再び生成し、零距離から発射。
一発ではなく続けて何発も生成、連射。ギンガの体が更に壁の奥へとめり込んでいく。
十数発は撃ち込んだところでガリューは距離を取る。先ほどまで放っていた物より強力な弾を生成する為、確実に倒す為に。
「!!」
両腕で生成した衝撃弾を放ち、壁にめり込んだまま姿の見えないギンガを飲み込ませる。
相手が普通の人間ならば三度は死んでいるであろう程の過剰攻撃。
「フフッ……楽しいぃ……」
だが、それほどの攻撃を持ってしても少女は笑みを崩さない。
壁にめり込んだ体を引き剥がし、ダメージの大きさに足元をふら付かせながらガリューに愛おしい相手を見るような熱い視線を送る。
あれほどの激しい攻めをしてくれるとは正直予想外、嬉しい誤算にも程がある。
次はどんな攻めをしてくれるのか、次はどうやってに私を壊そうとしてくれるのか、想像するだけで体が快楽に震える。
僅かに残っていた戦う事への、戦いに欲情にも似た感覚を覚え始めていた自分への恐怖が消えていく。
こうしてぎんがさんはSとMで、SMになってしまったのです
ああ、なんということだろう 支援!
「こんなに楽しいの、初めてよ……ウフフッ」
楽しすぎて頭がどうにかなりそうというのはこういう気分の事を言うのだと、ギンガは初めて理解した。
体中が痛みで悲鳴をあげていると言うのに、感じるのは喜びという矛盾。
だが、まだまだ足りない。
体が次なる刺激を求めて疼く、荒く息を吐くその姿は妖しい色気を出しつつも発情期の獣にすら見える。
「はぁ、はぁ……アハハハッ」
ガリューは油断なく、いつでも動けるように身構えながらギンガに対しての認識を改めていた。
もはや恐怖などという感情を通り超えた本能が逃げろと催促する。
だが逃げるタイミングが掴めない。スピードはほぼ互角、あの少女の追撃を振り切る自信は無い。
(ガリュー、大丈夫?)
そんな中、救いの手が伸びた。
脳内に幼い少女の声、ルーテシアの声が響く。
自身を使役する召喚士にして、忠誠を誓う主である少女とガリューは離れていても感覚的な物で繋がっている。
自分の苦戦を知り、心配しているのか表情に乏しい彼女にしては珍しく声に感情が乗っていた。
(撤退するよ。こっちも、セインが来てくれたから大丈夫)
ルーテシアが言い終わるよりも早く、ガリューの足元に魔法陣が展開される。
転送魔法の類では無い、召喚士が召喚獣を元いた世界へと戻す為に使用する物。
召喚魔法の事はほとんど知らないギンガであるが、ガリューが撤退しようとしている事はわかる。
「逃がさないって……!」
右腕のブレードを構え、ギンガはガリューへと全力を以って突撃する。
一瞬にて人には視認できない速度に達したギンガのブレードがガリューへと振るわれ、それの足元に展開する魔法陣が光を放つ。
光が収まった後、そこにはつまらなそうな表情を浮かべたギンガが一人立っていた。
「あそこで帰っちゃうなんてつれないなぁ……煮え切らないじゃないの」
右腕のブレードを振り下ろした直後にガリューは魔法陣の中へと消え去り、撤退していた。
最後に左胸を切り裂いてやったが、傷は深くない……そんな事はどうでも良い。
こんな半端に戦いを切り上げて逃げ帰られた事が最大の不満。最後まで、どちらかが死ぬまで続ける物のはずなのにだ。
「物足りない……全然物足りない」
右腕のブレードに付着したガリューの血液を舐めとり、ブレードを腕の中に収納する。
半端に火照った体の疼きがどうしようもなく止まらない。何かで飢えを、渇きを癒したい。
どこかでまだ戦闘が続いていないか探しにでも行ってみようかと考えた直後、脳内に念話での通信が届く。
支援
『ギン姉、ギン姉!』
「……っ! スバ、ル?」
妹の声を聞いた瞬間、頭から大量の冷や水をかけられたかのように全身が冷めていくく。
『ギン姉、今そっちに向かってるんだけど大丈夫? こっちは逃げられちゃったんだけど』
今こっちに向かってきていると聞いた瞬間、体の疼きが一気に消え去った。
初めて冷静に今の自分の姿を見やり、ギンガは焦りに表情を歪める。
「何、これ……?」
まるで獣のような醜い姿。冷静さを取り戻した頭にはっきりと刻まれた、戦闘に快楽を感じていた自分。
こんな姿、他の誰かに見せられる物ではない。特に彼女に、妹のスバルにだけは何があっても見られたくない。
「あっ……」
途端に冷めていく体の疼きに呼応してか、ギンガの体は元のバリアジャケット姿へと戻る。
どこにも変わった所はない、いつもの自分の姿。
「はぁ……は、ぁ……」
一気に押し寄せた安心感と疲労が、ギンガから意識を奪い取る。
力なくその場に倒れるギンガが最後に見た物は、右腕につけられた醜い形のブレスレッドと通路の奥から駆け寄ってくる妹の姿だった。
これにて投下終了。
「ギン姉にウィッチブレイドつけてみるか」という謎の電波を受信しまして、書きました。
本作はギン姉というか、ナカジマ姉妹の視点、時々その他で進んでいく予定です。
全6〜8話ぐらいで終わる感じでちびちびやっていこうと考えております……割と鬱になるかも?
では、本日はこれにて。支援ありがとうございました。
支援 半泣きでウィッチブレイドコスプレギンガ!(見てみたい)
リリカルセイバーズ氏GJでした。
リリカルセイバーズ本編の方も楽しみにしています。
しかし戦闘機人なら腕切り落として外すという手段が簡単にできそうで困る
GJ!
これはあれだな、エロス到来
GJ!!
ウィッチブレイドクロスでギン姉主役とか、もうエロスの塊みてえなSSだwww
戦闘機人とウィッチブレイドの融合、なんてハイブリッドな存在だギン姉。
このSSは見たところ原作アメコミというかゴンゾのアニメからの出展ですね、アメコミもアニメも大好きなので全力で次回も楽しみにしてます〜。
GJ
スバルがエクスカリバーに寄生されての姉妹対決というのも面白いかもしれない。
ウィッチブレイドの存在が死亡フラグ
なんだかんだで半年ほどこのスレROMってるけど
いい加減に本編見たほうがいいのだろうか
う・・・眩暈が…
てつを分が不足してる・・・
>>408 設定とか拘るなら。ただ人によっては、
特にStSは確実に、ココに限らずその他の良作と呼べるSSには完全に劣ると断言出来なくもないからそこは注意か…
リリカルセイバーズ氏!!本編の方も気長に待ってます!
最近リアルの方がイロイロやばいことになってるので無事とわかっただけでも
安心できました!
>スバルがエクスカリバーに寄生されての姉妹対決というのも面白いかもしれない。
この一文のせいで虫唾ダッシュ!しているスバルを想像した俺は
子安ヴォイスに毒されてるんだと思う。
子安つながりと考えてWAのゼットにいってしまう俺も随分と毒されてると思った今日この頃
ゼットはティアあたりとは相性が最悪そうだな
一方的にティアが嫌悪してゼットが気にも留めずギャグキャラ要員状態な感じw
後はガジェットを閃空鋼破斬で真っ二つにしてオーバーキル分で瀕死になる光景が目に浮かんだ
百魔獣の王とかは使いどころが難しいなぁw
妄想すら出来んw
19時から短編を投下してもよろしいでしょうか?
微妙に長い嘘予告の様なものですが。
「『グレイテック』?」
その名称が初めて古代遺失物管理部・機動六課へと伝わったのは、ナンバーズとの初接触から一月が経った頃だった。
「現地ではそう呼称されている。6000万年以上前に創造された、何らかの兵器の一部だ」
「それを、スカリエッティが収集している? レリックじゃなくて?」
「密輸業者から得た情報だ。既に奴の戦闘機人が3名、現地で確認されている。彼女たちは発掘された『グレイテック』を、少なくとも4つは所有していた」
そう返しつつ紅茶を啜るのは、時空管理局・次元航行部隊に属する提督、クロノ・ハラオウン。
彼と茶の席を共にするのは、聖王教会騎士でありながら時空管理局少将でもあるカリム・グラシア、管理局査察官ヴェロッサ・アコース、機動六課の司令官たる八神 はやて。
彼等は一様に、クロノから齎された情報に表情を硬化させた。
「レリックに代わるロストロギア、ですか……厄介ですね」
「クロノ。それが発見されたのは、何処の世界なんだい?」
「……第131管理外世界」
そして、続くその世界の名称に、ヴェロッサが頭痛を堪えるかの様に額へと手を遣る。
一体何事か、と訝しげな視線を送る義姉とはやてに気付いたのか、彼は訥々と語り始めた。
「第131管理外世界っていうのは……その、第97管理外世界とは密接な関係にあってね。並行世界って聞いた事あるかい?」
「まあ、言葉くらいは」
「しかし、実際に確認されてはいないのでしょう?」
はやてとカリムの言葉に、ヴェロッサは軽く首を振った……横に。
「理論的な証明には至っていない、っていうだけだよ。実際に、余りにも酷似した世界が複数、幾つかの世界について観測されている。それらの間に明確な繋がりを証明する事は出来ていないけれど、何らかの関係がある事は間違いない」
「具体的に言うと?」
「同じ形の大陸、同じ歴史の歩み。だけど、何処かしら存在する明確な相違。主に歴史だけれども、其々に何処かで食い違った時間を編んでいるんだ」
その説明に、はやては納得した様に頷いた。
つまりは第131管理外世界とは、自らの知るそれとは異なる歴史を歩んだ地球なのだろう。
「成程な。その世界に魔法は?」
「いや、無い。第97管理外世界と同じく、固有戦力は質量兵器のみだ。西暦は1953年。第二次世界大戦は勃発せず、代わりにヨーロッパでは未だに第一次世界大戦が継続しているらしい。
グレイテックの殆どは、合衆国陸軍とイギリス軍を中心とした多国籍軍が保有しているそうだ」
「管理外世界の軍がロストロギアを……危険ですね」
「そんなら、後は私らの出番や。なのはちゃんとフェイトちゃん、シグナム達とフォワード陣を送り込んで全ての『グレイテック』を回収する。ロストロギアの回収は、表向き機動六課の設立理由やからな。すぐにでも……」
「駄目だ、危険すぎる」
はやての言葉を遮る様に発せられた否定の声に、3人はクロノを見遣った。
手にしたカップ、その中に揺らめく紅茶の水面を見詰める彼に、はては自信に満ちた声を向ける。
「心配要らへんよ。現代の質量兵器ならともかく、50年代のそれがあの子たちに通用するとは思わん。そりゃ、大きなモンならやばいかもしれへんけど、携行火器程度なら……」
「スカリエッティの戦闘機人3名は、既に死亡している。殺害したのは、合衆国陸軍だ」
再度放たれた声。
今度は、はやても話を再開しようとはしなかった。
唯々、信じられない、とでも言いたげな視線をクロノへと注いでいる。
そして、それは他の2人にしても同様だった。
それに構う事も無く、クロノは続ける。
「傍受した通信から、彼等の名称は判明している」
それは、忌まわしき名前。
機動六課の、そしてナンバーズにとっても、宿敵となる者たちの名称。
「『スペクター』……戦闘機人を殺害し『グレイテック』を回収した小隊の名だ」
『機動六課』。
希望を託された若き魔導師達。
彼等が降り立った地は、破壊の吹き荒れた後、無人となった欧州の地。
「何で、誰も居ないの?」
「駄目……いくら探しても反応が無い。この町には誰も居ないよ」
「住民は、何処へ……?」
壁、地面、建物の内外に張り付く『肉の繭』。
「何なんだよ、これ……」
「破ってみるか……ッ!?」
「ひ……!」
「ひ、人!? いや、でもこの目……!」
天より降り注ぐ機械仕掛けの槍、溢れ返る蟲の群れ、黒い津波。
『ロングアーチよりライトニング、警告! 上空より大型ミサイルらしき反応が接近中!』
「見えた、着弾するよ!」
「不発……ッ!?」
「いや、違う……蟲だ! 蟲が溢れてくる!」
「うぁああああああぁぁぁぁぁッ!?」
「ひ、ひがぁッ! あ、ぎ……た、たすっ……助け、げ、ゴ、ゲェッ」
「武装隊が……」
「蟲が口に、口の中に……!」
「フェイトさん、逃げて!」
そして判明する事実。
敵は『人』に非ず。
人ならざる『獣』。
「何だコイツら!?」
「人間じゃない……これもロストロギアの!?」
「こちらスターズ01、ロングアーチ! 敵は人間じゃない! 繰り返します、敵は人間じゃない! 体表に機械を埋め込んだ未知の生物です!」
飛び交う光弾……魔力、実弾、イオンバースト。
交叉する砲撃……魔法、榴弾、放射線。
「プロテクションを……貫通!?」
「嘘っ、障壁!? 質量兵器が!?」
「違う、これは人類側の攻撃です! 僕等を敵と誤認している!」
「極高出力放射線による長距離砲撃……歩兵携行兵器でこれか! エリオ、決して止まるな! 掠りでもすれば確実に被爆するぞ!」
「抵抗軍、超小型ミサイル群を発射! 数十発、高速で接近してきます!」
「何だ!? 何なんだよ、この世界の兵器は!」
時を同じくして1953年の地球へと降り立った、戦闘機人の少女たち。
異形の悪意に曝される彼女達は、1人、また1人と姿を消してゆく。
「嫌だ! 嫌だ、離せ! 助け、助けてッ! チンク姉、チンク姉ぇッ!」
「ノーヴェ! ウェンディ離せ、離してくれ!」
「駄目ッス! 今行ったらチンク姉もアイツらに……!」
「五月蠅い、離せッ! ノーヴェッ、ノーヴェェェェェッ!」
空を覆い尽くす、鋼鉄の艦隊。
重力に逆らい浮遊するそれは、異形どもの要塞。
「戦艦が……空を……!」
「信じられん、50隻はいるぞ!」
「あれを……あの化け物どもが?」
判明する異形の正体……『キメラ』。
「じゃあ、あいつらは……元は『人間』だったっていうんですか!?」
「どうもそうらしいね。あの肉の繭……キメラウィルスに感染した人間は、あのコクーンと呼ばれる繭になるらしい。その後に各種の『キメラ』と化し生存者を襲うと、この資料には書いてある」
「背中の機械は、何処で?」
「『ハイブリッド』と呼ばれるタイプを筆頭とする戦闘型は、改造センターでコクーンを基に製造されるらしいね。背中の装置は、人間の12倍にも達する新陳代謝力で発生する熱を冷却する為のものらしい」
「じゃあ、他にも『キメラ』のタイプが?」
そして遂に接触した、ロストロギア『グレイテック』回収を目的とする部隊。
特務機関『SRPA』所属、『スペクター』小隊。
『こちらスペクター、『グレイテック』を強奪した一団を捕捉。司令部、指示を』
「な、コイツら!」
「囲まれた! まさか、読まれたの!?」
「行くよスバル、ティアナ!」
「スターズ04、昏倒させて捕らえ……危ない!」
「うぁ……ッ!?」
『ブレイクよりスペクター、警戒せよ。敵は非常識な攻撃手段を持っているぞ。キメラではない様だが、クローヴンの恐れもある。警告は必要ない、即刻射殺しろ』
『スペクター、了解』
魔法にすら対抗し得る、キメラと人類の異常な兵器。
「た、弾が! 弾が追ってくる!」
「ヴィータ、アイゼンだ! アイゼンに付着した初弾を追っているぞ!」
「投擲型の燃料気化爆弾だと……非常識な!」
「こっちも! 針が飛んでくる!」
「壁を貫通してきた! 駄目です、遮蔽物は意味がありません!」
「障壁まで……これも放射線!?」
「攻撃が通らない! くそ、魔法も質量兵器もお構いなしか、あのシールドは!」
「ぎッ……!」
「オットー!?」
「チンク姉、オットーが……オットーが弾けた!」
「くそ、冗談じゃない! あの拳銃弾は受けるな! 爆発するぞ!」
「あ……ヒュ……」
「キャロ、どうし……あ……」
「な、何だ!? おい、どうしたテスタロッサ!?」
「心拍数が……細胞の壊死!? みんな、5秒以上あの光線を浴び続けないで! 生命活動が停止する!」
『こちらクラウディア武装隊、スペクターと接触……があああアアアァァぁぁぁッ!?』
「こちらライトニング01、どうしたの!? 誰か!」
『鋸が、鋸が!』
「なに? 何を言っているの!?」
『回転ソーが追いかけてくる! 何十枚も! 何度も戻って……ああああぁぁぁああああぁぁぁッ!?』
『き、切り刻まれる! 畜生、畜生ッ!』
襲い来る大型兵器、巨大キメラ。
「ガジェット、か?」
「バリアを張って……こっちに向かって来ます!」
「小型20機、中型6機、バリア搭載機2機! 急速接近!」
「ミサイルだ! ミサイルをばら撒いてる! 躱し切れない!」
「ヴィータ、障壁を張れ!」
「無茶言うな! この数じゃ2秒も保たねえよ!」
「四脚歩行型の……対空戦車……!」
「スペクターが交戦しているみたい。介入する?」
「待って、このまま観察しよう」
「あんなものが数万機も……」
『超大型四脚歩行戦車、スピアを発射しました!』
「くそ、蟲だ! また蟲どもが来るぞ!」
『大型戦車、更に6機を確認、接近中!』
「17000人の人間を原料にして……1体のキメラを……!」
「狂ってるよ、何もかも!」
現れるキメラの中枢……『デイダラス』。
念話を通して語られる、異形どもの意思。
「あ……あ……!」
「なのは! なのは逃げて!」
『立ち去れ、異邦人どもよ。これは我々とこの世界の人類との問題だ。貴様ら時空管理局にも、管理世界にも『今はまだ』関係の無い事だ』
「え、なに!?」
「あのキメラ……念話を!?」
『我々に対して魔導師は脅威たり得ない。軌道上の艦と最高評議会、スカリエッティとやらにも伝えるが良い。これ以上干渉する様なら、実力を以って排除すると』
「え……」
『貴様らが『グレイテック』と呼ぶ物体……あれは我々のものだ。奪うというのならば、容赦はしない……』
「ま、待って!」
本局より下される、新たな指令。
それは、とある人物の確保。
「ネイサン・ヘイル中尉……」
『そう。キメラウィルスに感染しながらも人間であり続ける、数少ない人物の1人。彼を確保し、ロストロギアと共に艦へと移送する。それで任務終了となる』
「でも、彼は人類の反撃の要で……」
『これは本局の決定だ。『グレイテック』のみならず、キメラウィルスもまた重大な脅威と看做されたんだ。ネイサン・ヘイルは貴重な検体だよ。何せそのウィルスに適応しているのだから』
「じゃあ、この世界はどうなるの!?」
『人類側の生存者はどんなに多く見積もっても1億人が精々。キメラの勝利はもう確実だ。我々は何としても次元世界をキメラウィルスの脅威から守護しなければならない。私情を挟む事は許さん、高町一等空尉、ハラオウン執務官』
「……了解」
「……その男を拉致すれば、作戦は完了なのですね?」
『そうとも。とはいっても、ナンバーズも残るは僅かに4名だ。ルーテシアとゼスト、ガジェットを増援に送る。彼等と協力して任務に当たってくれたまえ』
「転送はキメラに封じられているのでは?」
『送るだけならば何とかなるさ。回収については追って伝える』
「……了解しました、ドクター」
『ああ、そうだ。あと、キメラの死体を幾つか頼めるかな? 例のウィルス媒介用甲虫なら尚良い』
『スペクター、聴こえるか』
『聴こえます、少佐』
『例の魔導師とかいう連中が、センチネル隊員の拉致を企てているらしい。あの機械を身体に埋め込んだ連中もだ』
『排除を?』
『センチネルは今、シカゴで作戦行動中だ。邪魔をさせる訳にはいかない。すぐに向かうんだ。グリムの群れごと奴等を蜂の巣にしてやれ』
『スペクター、了解』
「『グレイテック』は53式爆弾の製造に不可欠だ。あれが無ければ、キメラの艦隊を撃破する事は永遠に叶わない」
「心配は要らない、マリコフ博士。既にスペクターが向かっている。無作法な客人にはここらでお引き取り願おう」
『グレイテック』の奪取、『ネイサン・ヘイル』の確保。
それは、この世界の人類に残された、最後の希望を奪う事を意味する。
だが、彼等は止まらない。
止まれない。
自らが信じる正義の為に。
自らを創造した者の望みを叶える為に。
逝ってしまった仲間の、姉妹の無念を晴らす為に。
「……ネイサン・ヘイル中尉ですね?」
「何者だ、君達は」
「私達と共に来て貰います。貴方の意思は介在しません。ベンジャミン・ワーナー軍曹、貴方も」
「成る程、ブレイクの言っていた管理局とやらか。悪いが見ての通り、今は忙しい。邪魔はしないで貰いたいね」
「そういう事だ。其処を退いて貰おう」
「……貴方達を拘束します。スターズ01……ッ!?」
「なのはさん!?」
『よお、中尉。随分と可愛らしい娘にナンパされてるじゃねえか』
「ナイスタイミングだ、カぺリ」
『敵ですか? キメラの親戚? って事は殺しちまっても?』
「ブレイク少佐の言葉通りだ、ホーソーン。問題はない」
「……貴様らか、スペクター! 姉妹の仇だ、此処で死ね!」
「此処は俺がやる。行くぞ、アギト!」
「分かってるって、旦那!」
「ガリュー、殺して」
『確認した。キメラもどきが4体に槍を持った男が1名、10歳前後の少女が1名。それとティンカー・ベルが1匹だ』
『子供の周りに蟲らしきものが渦巻いている……くそ、甲冑の様なものが現れたぞ。こっちへ向かってくる』
『フォース・バリアを展開しろ。地雷が作動したら一斉射撃、4秒掃射の後に後退だ。グリムの巣に誘い込むぞ』
『セイバーの到着まで5分。爆撃に巻き込まれるなよ』
『さあ、パーティー・タイムだ』
SRPA、機動六課、ナンバーズによって開かれる、悲劇の戦端。
しかしキメラもまた、己が敵の全てを滅ぼさんと動き出す。
『あかん! スターズ、ライトニング両隊へ! 巨大な火砲を持ったキメラが4体に多脚戦車が向かって来とる! すぐに撤退するんや!』
『ブレイクよりセンチネル、緊急事態だ。タイタンのプライマークが4体にプレデター級ストーカーが2機、接近中。すぐにグリーン・テリトリーへと退避しろ』
「ガジェットが……何だ、あれは!?」
「あれ……キメラのガジェットッスか!?」
『スペクターより司令部、厄介な事になった。プレデター・ドローンのお出ましだ。くそ、ハンターまで居やがる』
『更に悪い知らせだ、スペクター。タイタンのオーバーシーアが1体にスティールヘッドのプライマークが8体、おまけにマローダーが大量のハイブリッドと共に接近中だ。どうやらデイダラスが送り込んだ増援らしい』
『ドロップシップの接近を確認。奴等、ヘルファイアタレットを起動させたぞ』
『了解、セイバーを引き揚げさせろ。連中とキメラどもをぶつけてみよう』
錯綜する情報、浮き彫りとなる真実。
『グレイテックを創ったのはキメラやない?』
「うん……SRPAの解析によると、あれを創り上げたのは6000万年以上前にキメラと敵対していた『何者か』の文明じゃないかって……」
『それは、確実なんか?』
「グレイテックに用いられている技術は、キメラのものとは比較にならないほど高度なものらしいよ。こっちでも出来る限り解析してみたけど、何ひとつ解らなかった……魔力が用いられていないってこと以外は」
「それに……どうやらキメラは、その戦争で敗北しているらしいの。一度は彼等を滅ぼした超兵器、その一部が『グレイテック』なんだ」
「ドクターは何処で『グレイテック』の存在を知った? 全てはキメラとSRPAが有しているだろうに」
「何処かから情報が入ったんじゃないの」
「何処から? 管理局の武装隊も、機動六課でさえも、更には私達だってキメラとSRPAに好い様にやられているんだ。転送すら封じられた状態で、誰が『グレイテック』をこの世界から持ち出せるというんだ?」
「全ての『タワー』が起動すれば、もはや『変革』を止める術は無くなる……あんたはそう言ったな、博士?」
「そうだ。あのタワーを造った者は既に滅びている……6000万年前にな。キメラはそれを利用して、この惑星それ自体に変革を齎そうと画策しているんだ。全ては6000万年前の決着の為……」
「止める為に53式爆弾が必要な訳か。敵旗艦のリアクターから150m以内にそれを設置しろと……無茶を言う」
「ああ。だが、現状では不可能だ。『グレイテック』の数が足りない。爆弾が正常に起爆する為には、管理局とあの少女たちが持つ『グレイテック』が必要だ」
「すんなり渡すとは思えないな。何せ、此方の窮状を知った上で『グレイテック』の強奪とセンチネルの拉致を企てる程だ。話し合いに応じるタマではあるまい」
「どうするのかね、少佐?」
「決まっている。キメラと同じ、殺して奪うまでだ」
アイスランド、ホラー・タワーの激闘を経て、数多くの隊員を失うセンチネル・機動六課・ナンバーズ。
そして全ては灼熱の地メキシコ湾上空へと収束する。
恐竜絶滅の要因と言われる小惑星落着地点、チクシュルーブ・クレーター。
6000万年前の、キメラと『何者か』の決着の地へと。
『何と傲慢な……我々を根絶やすべき病原体と断じるとは。それどころか、我々はより進化した種だというのに』
「スターズ01よりロングアーチ、デイダラスを発見しました!」
『確保して下さい、スターズ01、02!』
「イカ野郎め、スバルとティアナの仇だ! 叩き潰してやらあ!」
『貴様らがのさばるこの次元世界に最初に君臨したのは我々だ。貴様らが直立歩行する以前に我々の時代があり、再びその繁栄の時がやってくる』
「少佐、リアクターはまだか!」
『ブラストドアが通路を遮っている! 其方でハブからオーバーライドしてドアを開けてくれ!』
「了解だ、カペリ!」
「分かってる!」
『急げ! もう弾薬が残り少ない!』
『間もなく空には我々の星が輝き、大地は揺れ動くだろう。その時になって初めて、貴様らは真の苦痛を理解する……』
「クアットロ、止まれ!」
「ひっ……ひぎ、ぁが!」
「クア姉!? クア姉! 嫌だ、嫌だ!」
「くそ、光学迷彩を装備した敵が居るぞ! ウェンディ、しっかりしろ! フローターマインで弾幕を張るんだ!」
『奴等にこの世界は渡せない! あれだけの事を仕出かし、あれだけのものを奪ったのだ!』
『……ヘイル、残念だがキメラが爆弾を掌握した様だ。ブレイクが爆弾を起動させていたとしても、キメラはすぐに戦艦から降ろしちまうだろう』
「俺を運搬ルートへ誘導できるか?」
『イエッサー! エレベーターで外側のデッキに出てくれ、其処から誘導する……急げ、一刻も早く奴らに追い付くんだ! 53式爆弾が無けりゃ、俺達は嬲り殺しだ!』
『俺の見たものを見て、何が『来る』のかを知れば、全力を尽くして『向こう側』へ到ろうとするだろうに……!』
「ココドリーに残ったライトニング02と負傷者達が、スペクターによる追撃を受けています!」
「く……私が行く! クロノ提督、クラウディアを大気圏内へ降下させて下さい!」
「馬鹿を言うな、はやて! 発見されるぞ!」
「そんな事を言っている場合……」
「キ、キメラ艦隊より砲撃! 大気圏を突破……直撃コース、来ます!」
「取り舵いっぱい、回避!」
「駄目です! 間に合わ……」
『人類は我々を拒絶した! 奴等から見れば、我等は共に怪物だ!』
「脱出しろ! 脱出だ!」
「でも!『グレイテック』がまだ……!」
「もう無駄だ、逃げるんだよ!」
『私の意思で、宇宙は変わる……!』
「瓦礫が……集まって……!」
「何が起きているの!?」
「『我々の星』……まさか!」
『取り戻すのだ……』
「デイダラス……いいや、『ジョーダン・シェパード』!」
『全てを!』
『聞こえるか?』
「ヘイル……中尉……?」
『俺達を呼んでる……美しい……』
「な……!」
正当なる『抵抗者』は人類か、それともキメラか……?
『これは、ほんの始まりだ』
WIZARDS and RESISTANCE
Mission of Size『Gray-Tech』
時空管理局本局。
生体カプセル内に浮かぶ、3つの脳髄。
彼等は念話で、計画の最終段階についての意見を交わす。
『クラナガン・タワーの起動まではあと僅かだ。だが……良いのだろうか?』
『今さら何を言う。その為に『無限の欲望』を『塔』へと宛がったのだ。奴ならば確実に『塔』を制御下に置けるだろう』
『……果たしてそうだろうか?『グレイテック』を生み出した存在は元より、キメラの技術と侵略性ですら我々の予測し得た範囲を逸脱している。暴走は時間の問題ではないか?』
『馬鹿な。たとえ暴走が起こったとしても、然程に労も無く鎮圧できる。一体何を恐れているのだ?』
『……キメラは、そして彼等と敵対していた存在は、遥かな過去に次元世界を席巻していた。我々はミッドチルダの『塔』を発見し、その事実を知り得た』
『ああ、そうだ。管理局の設立から……そう、20年ほど経った頃の事だったな』
『其処でキメラの存在を知り、第131管理外世界の存在を知った。全ての技術は我々のものとなる筈だったが、ツングースカの爆発から全てが狂い出したのだ』
『だから如何だというのだ。全ては我々の思う儘、計画通りではないか。もう少しで全てが、そう、全てが手に入る。アルハザードをすら凌駕する技術の全てがだ』
『だが……』
『くどい。一体何が言いたいのだ』
『キメラが、『塔』が存在するのは、本当に第131管理外世界とミッドチルダだけなのだろうか?』
「失礼」
『何だ』
「スカリエッティからの緊急連絡です。クラナガン・タワーの起動に成功。しかし制御を受け付けず。少なく見積もっても百数十の世界で大規模なトランスポーターの展開を確認。キメラの強制転送が開始されたとの事です」
『何だと!?』
「なお、管理世界の約6割、及び管理外世界の5割で惑星上に無数の『塔』が出現。各々がエネルギーフィールドを放ち、次元跳躍により相互に連絡を……」
「クラナガン・タワーが暴走を開始、次元世界各地で同様のタワーが次々に地中から出現しています。どうやら最高評議会は、キメラの脅威度を見誤った様ですね」
「……非常事態宣言を発令、全部隊を本部へと招集しろ。武装は?」
「既に。しかし技術的なノウハウが殆ど無く、量産に間に合ったのはスプライサーとベロックのみです」
「十分だ……今はな。5時間以内にクラナガンの防備を固める。各管理世界にも同様の措置を取るよう指示を出せ」
「了解しました」
「結局、あの男にも『タワー』は制御できなかったか」
「当然の帰結でしょう。キメラと『塔』の建造者が有する技術は、我々の常識を超えています」
「……今ならまだ間に合う。安全な世界へ逃げる気はないか?……オーリス」
「御冗談を……最後まで付き合うわ、父さん」
「……済まない」
悪夢は、次元を超えて拡がり続ける。
6000万年前の繁栄を、遥か過去の戦争の記憶をなぞるかの様に。
『抵抗』の日まで、あと僅か。
微かなノイズ。
アンティーク風のラジオから流れ出る、沁みる様なオールディーズ。
それが途絶えた時、人気の無い都市の一画に、全てに疲れ切ったかの様な男性の声が響きだす。
『こんばんは……お馴染み、ヘンリー・スティルマンがお送りします……ラジオUSA・フィラデルフィア……やれやれ、バーボンももう無いってのに。
人間、追い詰められると妙な幻覚が見えるもんです。
今日、私は竜を見た。
信じられないかもしれませんが、本当の事です。
絵本に出てくる様な白い竜が、このビルの外を舞っていた……背中に、数人の少年少女を乗せて。
10歳くらいでしょうか……赤毛の少年と、桃色の髪の少女、紫と銀の髪の少女の4人です。
彼等は……何てこった。
彼等はビルの合間に降りようとして……ケダモノどもの対空砲火を浴びたのです。
巨大な竜は見る間に全身を砕かれ、火達磨になって墜落しました。
放り出された彼等は、ケダモノどもの群れの中へ……ええ、そうです。
私の妻や!
何時ぞやの少年と父親!
彼らも交じっているであろう、あの枯れ木の様な怪物どもの真っ只中へと落ちていったのです!
私は……何時もと同じ。
妻の時も、あの少年の時も同じだった。
見ている事しかできなかった……私はヒーローじゃないんだ!
あの状況で単なるラジオの司会者風情に何をしろと言うんだ!
飛び出して行ってケダモノどもを薙ぎ倒し、あの子供達を救えとでも!?
そんな事ができるならとっくに……ッ……済みません。
少し興奮していた様です……彼等は不思議な力でケダモノどもと戦っていました。
凄いもんです。
何十匹ものケダモノが殺されていきました。
まるで赤子の手を捻る様に……でも、それだけだった。
数十匹を殺して、それまでだった。
警官隊も、軍隊もそうだった……彼等も例外ではありません。
汚物の管理局は消毒だー!!支援
規制かかったみたいね
429 :
代理:2008/12/13(土) 19:25:21 ID:bjBlmo/s
数十匹、数百匹、数千匹……際限なく数を増すケダモノどもに囲まれ、打ちのめされ、引きずり倒され、噛まれ、蹴られ、引き裂かれて……今は4つの繭になっています。
私は散歩気分で外に出ましてね……何度か落ちてくる瓦礫で首の骨を折りそうになりながら、彼等の許へと辿り着いたんです。
ナイフで繭を開くと……桃色の髪が見えました。
ええ、あの白い竜に乗っていた少女です。
でも、それだけ。
顔も、胴体も……額より下は、もう繭と同化してた。
あの天使の髪の毛の様な肉の糸に絡め取られて……遠目から見ても可憐な少女だったのに、今じゃ肉の繭。
他の三人もそうです。
彼等もいずれ、妻やあの少年の様にケダモノどもの仲間入りを果たすのでしょう。
そしてもうすぐ、私を迎えに来る……ふ、ふふふふふ、ふあはははははははは……あはははははははははははははははあぁぁははは……はぁ……でもね、皆さん。
そんな私にも、話し相手ができたんですよ……2ヵ月ぶりにね。
或いは私の頭が生み出した妄想なのかもしれませんが……喋る槍なんてね。
ところがこの槍、暫く話すと、今度は主人の所に戻してくれって言い出すんです。
彼の主人は、あの赤毛の少年らしいですが……そんなに急がなくても、もう少しで会えるのにね。
他の3人と一緒に、元気に其処らを走り回る様になりますよ。
私も……逃げずに捕まっていれば、今頃はまだ妻と一緒に……皆さん、これからもう一度、散歩してこようかと思います。
もし、まだ人間なら、また明日の昼頃にお会いできるかもしれません。
それでは、おやすみなさい……以上、ヘンリー・スティルマンがお送りしました……ラジオUSA……フィラデルフィア……』
それきり、音の途絶えたラジオ。
数週間にも亘り、絶えず音楽と悲嘆の声を流し続けていたラジオは以後、ノイズ以外の音を紡ぎ出す事は二度と無かった。
しかし誰も、その事実に反応する者は居ない。
唯ひとつ、生物ですらないそれを除いて。
静まり返った都市。
アスファルトの上に転がる、紅玉の嵌め込まれた金色と純白の杖だけが、淡い光を放ち続ける。
もう居ない主を、優しい桜色の光を求めるかの様に。
新暦75年―――西暦1953年。
最後の『抵抗』が、幕を開ける。
430 :
代理:2008/12/13(土) 19:26:41 ID:bjBlmo/s
以上です。
PS3のRESISTANCE 2とのクロスでした。
あんな長い説明いらんがな
余計な事書いて無駄にスレの容量食わすな
乙
>>408 なんだかんだで三期が一番好きな俺もいる。
そう気張らずにな。
6課全滅か……
なんつーか、STG系、FPS系とのクロス短編だと殆ど不幸になってるよなwwww
投下乙乙!
>>431 戦闘シーンがほぼ完全に脳内保管なのは流石にまずいと思うんだ
GJ!!です。
絶望しかないwこんな奴らに人類は勝てるのかwww
避難所の方で蟲の使い方を読みましたがエグイわw
GJ!
ホント戦場は地獄だぜ!フゥハハハーハァー
年代で相手を判断しちゃいけないぜ!例:旭日の艦隊、メタルダー、磁雷神
そして世の中には手を出しちゃいけない人知を超えた存在がある!
お久しぶりです。
ちょっとミッドチルダUCATの特別編が出来ましたので投下してもよろしいでしょうか?
本編とはちょっと関係のない話ですが、少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。
精々12KBなので、支援は少なめで平気です。
Tes.
投下開始します。
IFルート
それは物語が正常な方向に突き進み、そして局地的に大きくひん曲がった時に起きた悲劇である。
1. もしも、ギンガが地上本部襲撃で囚われかけていたら?
それはあまりにも痛々しい姿だった。
「ギン姉?」
「――タイプゼロ、セカンドか」
鮮血と混じり合う機械油と火花の輝きに照らされて、その言葉を語らない少女の凄惨な姿が目に捉えることが出来た。
ギンガ・ナカジマ。
今ここで震えるような言葉を発するスバル・ナカジマの実の姉である少女はどこまでも悲惨にむごたらしく砕かれていた。
手足が折れていた、片方はちぎれ、片方は折れて曲がり、母親の形見でもある左手のリボルバーナックルは赤髪の手甲を嵌めた少女の足の下に踏み潰されていた。
腹が抉られていた。出血はどくどくと止まらずに流されて、床を汚し、血臭を巻き上げる。
鮮血に濡れて、見開かれることの無い瞳を讃えた美貌はより美しく、それでいておぞましさすらも感じさせる苦痛と悲嘆に彩られている。
「あ」
声にならない。
どこまでも脳髄を奔り抜ける大きすぎる感情は制御出来ずに、声として一部が洩れて、彼女の中を巡り、悉く血管を蹂躙し、魂を震え上がらせる。
「ぁあああああああああああああああ!!!」
絶叫が上がる。
怒りが、憎悪が、音と風となって吹き荒れて。
「捕らえるぞ」
「うっす」
「分かった」
冷徹なるナイフを、その肩に支えられた砲台を、鋼鉄の手甲を向けられてもなおスバルは構わない。
怒りによる衝動、脳内に仕込まれた電子チップに指令が走る。
リミッター――解除。
戦闘機人としての機能の発露を承認。
その瞳を黄金色に染め上げて、噴き上がる膨大な魔力を噴出し。
「返せ」
スバルが踏み出す。
マッハキャリバーの限界を超えた駆動を強いて、高速の爆進が発動する。
「ギン姉を返せェエエエエエエエ!!」
悲痛なる叫びを付随させ、触れる全てを粉砕する拳を突き出しながらスバルが駆け出し、
Tes!
『その通り!』
――た、瞬間だった。
無数の声が闇から響き渡った。
「え?!」
『なにっ?』
ドドドドという爆走音を立てて走り迫ってくる影があった。
それはAALALALALALAie!! と怒涛の唸り声を上げる両手を踏み出す足と共に突き出して走る無数の男たち。
15メートル程度ならば川をも渡れそうな怒涛の走り方。
何故か全員鉢巻きをつけて、それを風にたなびかせている。
さらには妙に色合いの強いハッピを身に付けており、誰もが走るには邪魔だと思える看板や団扇などを所持していた。
そして、その先頭には一人の怒り狂った男の姿があった。
唯一もっともまともな格好をした人物なのだが、その目がやばかった。
目が笑っていない、遠くから見てもまるでブラックホールのような黒い輝きを帯びて、さらにはその脚は見えなかった。
あまりにも速すぎて。
「な、なんだありゃぁああ!?」
「へ? へ? へ?」
ノーヴェが当たり前のように叫び声を上げて、スバルが振り上げた拳の行き先を忘れて戸惑い止まる。
それが彼女の命を救った。
『ぶるぁあああああ!!!』
罵声なのか咆哮なのか叫び声なのか喝采なのか、どれとも判断し難く、判断したくない奇声と共に集団が跳んだ。
前に。
前のめりに。
ぴょいーんと。
放物線を描いて、天井近くまで跳んだ。
人間砲弾の如き集団が充血した目を剥き出しに、大口を開けて、飛び込んだ。
『いやぁああああ!!』
それを直視したナンバーズが叫ぶ。
その下をスライディングしたオールバックの男が蹴り飛ばして。
「ギンガは私の嫁だ!!」
と、ギンガを引っつかみ、滑りながらとぅっとその乳と尻を掴みながら跳躍脱出。
『あ』
そして、残るのはナンバーズが三人と。
『るぁあああああ!!』
飛び込む無数の男たち。
そして、轟音。
この日、三人の戦闘機人が血走った目の男たちに数の暴力で捕らえられた。
「……あたしってなに?」
2.もしもギンガが地上本部襲撃で捕らえられて、洗脳されていたら?
泣きたくなるほど辛かった。
痛みが軋み、悲しみが染み渡り、膝を屈したくなるほどの悪夢。
「めぇ、覚ましてよ、ギン姉ぇ!!」
少女は叫ぶ。
青い髪をなびかせ、千切れそうな鉢巻きを風に流しながら叫ぶのは血に染まり、傷を負った少女。
右手に手甲、両足に音を超えるための脚装甲靴を嵌めている。
そんな少女の絶叫――それに答えるのは鉄拳。
殴る。
ひたすらに殴る。容赦もなく、遠慮もなく、慈悲もなく、優しさもなく、ただ殴る。
「あっ!」
頬が殴り飛ばされる。体重の掛かった一撃。
さらに返すフックで腹部を殴られる――バリアジャケットを貫通し、染み渡る衝撃、内腑が痛む、吐瀉物を吐き出したいほどに。
障壁を張る――だけど砕かれる。拳がめり込む、貫いてくる。
痛い、痛い、痛い。
「やめてよぉ!」
叫ぶ、その頬に拳がめり込む。
目の前の少女に襲い掛かるのは無表情の女性。全身になだらかなボディラインを浮かび上がらせるスーツを纏い、その左手に殴り飛ばし続ける少女と同じ手甲を嵌めた美しい女。
それは遠慮が無かった。
それは意思が欠けていた。
正気ではない、狂気でもない、だからなんでも出来る。
己の愛する妹さえも殴り続けられるほどに、彼女には意思が無いただの人形。
「ぁあああ!」
悲痛な叫び声を上げて、打ちかかってくる拳を受け止める。
捌こうとした。だけど、打ち出した腕は蛇の這うように伸ばされた女性――ギンガの腕が張って、少女――スバルの肩を掴む。
「!?」
グンッと掴まれた肩の衣服から下へと体重をかけられて、体勢が崩れた瞬間、打ち上げられた拳が顎にめり込んだ。
衝撃の逃げ場が無かった。
意識が吹き飛び、脳天に激痛が走るほどの衝撃。
血反吐を吐く、口の中を切ったのかもしれない。
今にも膝を屈しそうになる。だけど、それでもスバルはよろよろと自分で展開したウイングロードの上で踏ん張ろうとして――
――振り下ろされる足刀に、スバルは血反吐を吐き出した。
ぶっ飛ぶ。
限界を超えて、吹き飛び、大地へと転げ落ちていく。
(やっぱり駄目だった……)
絶望が体を縛る。
全身から抜ける意思と決意、願いと希望、それらが粉々に砕かれて、迫る追撃の残光を目に焼き付けながら――
響き渡る破裂音に、スバルは気付いた。
支援!
追撃しようとしたギンガが飛び退く。
そして、スバルの体を受け止める何かがあった。
「え?」
空を無数に覆うのは魔力の輝き。
スバルを受け止めたのは一人の男性+α。
「大丈夫かい?」
オールバックの髪型をした男性、スバルをお姫様抱っこで支えつつも、少しだけプルプルしながら笑みを浮かべる彼の顔に見覚えがあった。
「ら、ラッド・カルタスさん?」
階級が咄嗟に思い出せずに、スバルはフルネームで呼んだ。
失礼に当たる行為だが、ラッドは気にせずに苦笑。
「イエスだ。応援が遅れてすまない、編成でもめていてね」
そう告げると、ラッドは近くで俺も俺も〜! と叫んでいる馬鹿を蹴り飛ばしながら、上を見上げた。
其処には撃ち込まれる魔力弾を華麗に回避し、新たなるウイングロードを展開しながら、こちらへと迫ってくるギンガの姿。
その乳と尻と髪と顔と、その全てを記憶に焼き付け、後でギンガをいじるネタにしてやろうと心に誓いながら、ラッドは頷き、吼える。
「αチーム! 射撃を続けろ、βは私と一緒に下がれ! 私たちの仲間、ギンガ・ナカジマを奪還するぞ!!」
『Tes.!!』
聞きなれない返答を返す陸士たちを置いて、ラッドはスバルを抱き抱えたまま走り出す。その周囲を警護するのは五人程の陸士。
「どうして? なんでカルタスさんが!?」
「理由は先ほど言ったはずだが?」
「え、でも。地上本部は壊滅して」
「――馬鹿を言わないでくれ。建物は全損しても、部隊は全滅したわけでは無い。全戦力の投入は厳しいが、幾らかは抵抗手段を用意できる……そもそも、こちらに連絡を取らずに市街地での単独戦闘を強行したのは予測外だったがね」
そのラッドの返答に、スバルはあ! と納得した。
そもそもの話である。
幾ら地上本部という施設が壊滅しようとも、他の地域警固の部隊もあるし、装備全てが使えなくなったわけではないのだ。
スバルとしては機動六課の人間、及び先ほど連絡があった海からの増援だけが戦力だと計算していたのだが、陸にもまだ戦闘隊員はいるのだ。
全身に染み渡る痛みでラッドに抱き抱えられている状態がよく分からないスバルは、ただ納得したように頷く。
「一応そっちのパートナーのティアナ君だったか? そちらにも一個小隊が援護に向かっている、期待はしてくれてもいい」
グネグネとなにやら音がするのだが、多分気のせいだろうか。
支援
「あ、はい。ありがとうございます、カルタスさん」
「ははは、気にしないでくれ。将来の義妹だからね、優しくするのは当然だ」
「?」
「――主任! ギンガが今までに無い情熱的な迫り方をしてきます!!」
「む? プロポーズには心の準備はともかく、まだスピーチのコメントは考えてないのだがね!」
冗談交じりの会話に、ラッドが、スバルが上を向いた。
ギンガが空を駆けていた。
加速――ブリッツキャリバーの性能を全開に発揮し、大駆動バイクの全速並みの速度でかけてくる。
撃ち出される魔力弾は障壁で弾き、或いは躱し、歯牙にもかけない。
「っ、あ、アタシが迎撃を!」
ギン姉を止めなければいけない。
その願いと共に飛び出そうとするも、ガシっと掴んだ腕が許さない。
「は、放してください!」
「断るね。だろう、諸君?」
『おうともさ!』
走る、走る。
走りながら、グングン距離を迫っていくギンガを見て、陸士たちが笑う。
「お嬢ちゃんみたいな可愛い子に無理させたら名折れでな」
「ていうか、俺たちにも意地があるのよ」
「怪我人を出すわけにもいかないし」
『――ギンガは俺たち陸士108部隊の仲間だからな』
え?
その言葉にスバルは気付いた。
かつて地下レールウェイでの調査、それで見かけたことがある人たちだとスバルは思い出す。
ラッドは、そして彼が統率する部隊、陸士108部隊の陸士たちであり――ギンガの同僚。
「ご、ごめんなさい」
理由はあったのだ。
家族であるスバル以外にも止める理由があるのだ。
彼らにとっての仲間がギンガそのものだから。
「気にしなくていい。家族は何よりも強い、君とギンガの仲を比べれば、私たちはよそ者になるさ。まあ、私だけは時間の問題だが」
「主任。平然と嘘をつくのは止めましょうや」
「いや、この人嘘じゃない! 本気だ! 知ってたけど!!」
「ははは、さてギンガ君が来るぞ!」
迫る、ギンガの追跡。
彼女は凶器。
彼女は兵器。
彼女を止める手段はあるか。
「傷を付けたくは無い。威嚇射撃やめ! バインドを仕掛けろ!」
『Tes.!!』
ラッドを除く、陸士たちがストレージデバイスを構えて、魔力光を発す。
空間が歪み、迸るのは光の鎖。
――チェーンバインド。
魔力素質の低い魔導師でも使える拘束術式、それが迫るギンガに迫り――
「!」
ギンガがウイングロードを蹴った。
飛び上がる、上向きにカーブしたウイングロードをジャンプ台に、迫る鎖たちを跳躍して躱す。
「っ!」
非殺傷の魔力弾が、吼え猛る陸士のデバイスから撃ち出されるが――無力。
手の平から発生したシールドがそれを弾いて砕き――飛び降りる彼女の動きを止めることは出来ない。
「ギンガぁ!!」
叫びながら、殴りかかる陸士。
その顔面に手甲の拳がめり込む、血を噴き出してぶっ飛ぶ陸士。
同時に脚が閃く、艶かしい足がまるで鞭のように蠢いて、旋風の如く陸士たちを薙ぎ払う。
「やめてぇ!」
ラッドに連れられて、廃棄都市の角を曲がったスバルの目に見えたのは。
「後は頼みます、ラッド主任!!」
回転するギンガの左手、それに脇肉を削られて血反吐を吐いて倒れる陸士の姿。
痛かった。
心が痛かった。
だけど、ラッドはひたすらに走る。
「やはり、ギンガは強いか。遠慮が泣くなると、低級魔導師では足止めも難しい、と」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ!」
「なに、上司としての勤めでね。っ!?」
瓦礫上のブロック塀が続く道路、其処を掛けていたラッドが不意に跳躍するようにその場から飛び退く。
その居た場所の側面塀が次の瞬間、砕かれた。
それはギンガ。左手のリボルバーナックルのダスターを回転させて、破壊力を増した拳を突き出した美しき女性の人形じみた顔。
支援
「やれやれ、正面対決、か」
「降ろしてください! やっぱりアタシが!!」
「なに、降ろすさ」
スバルをゆっくりとラッドは降ろすと――その前に立ちはだかる。
手にはストレージデバイス、官給品。
「其処で休んでいたまえ。私がやる」
「え?」
「さあ来い。ギンガ、立場の違いを教えてあげよう」
笑う。
ラッドが微笑みながら、魔力を宿すデバイスを構えて告げた。
「――」
彼女は答えない。
ただ砕いたブロックを踏み砕き、大地を疾走し、ラッドを排除し、背後のタイプゼロ・セカンドを潰すために疾走する。
そして、ラッドはただ睨み付けながらも笑って。
「そこだ!」
デバイスが起動。
ギンガが踏み出す数十センチ前から光の網が出現する。
ディレイドバインド。
空間に仕掛けるトラップ型のバインド。
それにスバルが一瞬やった! と思った。
しかし。
「 」
ギンガはただ予測したかのように、或いは分かっていたかのように――廻る。
足を蹴り、その位置から横へと移動し――バインドをかわした。
彼女の目には魔力の光が見えていた。
ラッドが浮かべる表情筋が見えていて、トラップの設置を確信していた。
故に掛からない。
ディレイドバインドが設置された数箇所、それらを避けて、もっとも効率的なルートを通りながら、大地を踏み締めて――殺すための滑走を開始す
――パカッ。
支援
「?」
奇妙な音と共に踏み締めた脚が、異常を感知。
感触が無い。
そして、ラッドとタイプゼロ・セカンドの位置が相対的にせり上がったのを確認して――ギンガは落ちた。
落とし穴に。
パカッと開いた落とし穴の其処へと落下していった。ウイングロードを形成する暇もなく、落ちた。
そして。
その落下する中で、無数の魔力の光が爆発的に轟き、拘束、拘束、拘束のがんがらじめ。
「!?」
全身に縛り上げられるバインド、その術式を辿ると、落とし穴の内部に無数のディレイドバインドの反応があった。
事前に設置されていたことに気付いたと同時に。
「わはー!!」
「いやっはー!!」
「やったぜー!!」
という喝采と同時に様々なものが流し込まれた。
誰が知ろうか、その周囲に息を潜めて配備されていた一個小隊がおり、彼らが投げ網、トリモチ、スライム、なまぬる〜い放水などを落とし穴の内部に流し込んでいることを。
「ハッハッハ、ギンガ。君の負けだ!」
「あ、あの〜?」
トリモチを投げ込みながら、手持ちのハンディカメラで撮影をしているラッドにおずおずと尋ねるスバル。
その手に不意に横の陸士から一つのスライムを渡された。
うねうねと妙に生暖かく、なんか少し動いているような気がしたが……
「……ま、いいや」
えーいと投げ込んだ。
怪我しないで助けられるなら一番いいことだよね。
落とし穴の中で誰かが泣いているような気がしたけど、ギンガはまだ洗脳中だからありえないだろう。
そうスバルは自己完結した。
もしも歴史が正しく動いていれば――こんな物語もあったかもしれない。
強く生きろナカジマ姉妹w
Tes.
投下完了。
支援ありがとうございましたー。
地上本部襲撃が本編通りになったらこんな感じになるのだろうな?
という、ちょっとしたIFルートでした。
お遊びの多い話でしたが、次回は本編の続きの予定です。
今回同様シリアスなお話をお送りできると思います。
GJでした。本編の続きもお待ちしております!
455 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/13(土) 22:30:24 ID:dQpXZ8Mi
ギン姉の愛されっぷりにワロタw
王道なら愛を呼び掛ける、川上なら落とし穴ですね解りますww
GJ!!です。
どっちのスバルもいらない子になってるぅ!w
ギンガの不遇と落とし穴にスライム投げ込むスバル萌え。
GJ!
ラッドさんwwww
GJ!!
相変わらず早い更新ですね。このギンガも可愛いですね
アンリミテッド・エンドラインの本編や外伝を待っている人もいることを忘れないでください
>>430 ま、まさかこの前本閉鎖してしまった某サイトでネギまと洋ゲーFPSのクロス書いていらっしゃった方か!?
とりあえず滅多に見ないけど大好きなクロスでした。GJ
ウロスで出てたネタを元に小ネタのつもりで書いたら、何故か18kb超えました。
投下を1:10より開始しますので、お手隙の方は支援をお願いします。
クロス元は「ワイルドアームズセカンド」。
影の薄いあの人が変身します。
支援w
462 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:12:41 ID:4blNO9+s
一つだけ――鬱です、ご注意を
短編「焔の黒騎士〜ミッドチルダ異聞〜」
かつて世界を焼き尽くした“焔の災厄”――またの名を“焔の魔神”。
究極の概念存在であるガーディアンと同種の存在であり、炎のガーディアンから生まれしデミ・ガーディアン「ロードブレイザー」。
ファルガイアと呼ばれる世界にて、決戦の果てに“人々の希望という願い”によって討ち取られたそれは、聖剣アガートラームと共に……永久に消え去った。
そのはずだった。
如何なる因果か。
これは、一人の青年の物語だ。
――新暦七十五年 春
次元世界ミッドチルダ極北地区ベルカ自治領内に、先日新たな遺跡が見つかった。
自治領の主要宗教組織である聖王教会は、古代聖遺物の扱いに困り、時空管理局に発掘チームによる調査を依頼。
これに応える形で、<無限書庫>司書長ユーノ・スクライア率いるチームが派遣されたのだった。
「司書長ー、こっちの発掘終わりましたよー。特に何の遺物もありません」
司書長、と呼ばれた眼鏡の青年は、やや苦笑しながら元気の良い少年に顔を向けた。優しそうに整った顔立ちに、線の細い体つきの肉体。
発掘用に何時も着ている法衣のようなバリアジャケットと相まって、知的な感じする男だった。
長い金髪はリボンで後ろに纏められ、青年の顔立ちと相まってまるで少女のような雰囲気を漂わせていた。
「ここでは僕は司書長じゃないって、それとご苦労様」
「あー……失礼しました、スクライア隊長。もうお昼ですし、一旦休憩にしませんか?」
そこで全てが終わっていれば、良かったのだと思う。
けれど、ユーノ・スクライアはあくまで発掘馬鹿だった。
「ごめん、あと少しで、何か金属製のものが発掘できそうなんだ」
「金属、ですか? 何でしょう、古代ベルカのデバイスかな?」
「あはは、そうだといいんだけどね……ん?」
―――そのとき。
ガラリ、と壁が崩れ、光り輝く眩い鋼が姿を現した。
ユーノは思わず“それ”に手を伸ばし―――
「熱っ?!」
―――何かが身体に吸い込まれていくのを感じた。
濁流。虚空。光の如き人々の希望。未来を司るガーディアン。失われた左腕。鍛えられた鋼。
―――アガートラーム『銀の腕』。
絶望の大地。失われた大切な人々。焔の煉獄。決して成りたくなかった『英雄』。
突き抜けるような感覚。封印。命が代価。『事象の地平』に彷徨う魂。
「ああああああっ!」
「司書長? おいっ、誰か担架を――」
ユーノは、意識がはっきりとしていながら――何かが、変質していくのを感じた。
空気が。倒れたユーノに駆け寄る人々が。そして何より―――
―――自分自身が。
463 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:14:17 ID:4blNO9+s
同時刻。ベルカ自治領の遺跡を見下ろせる崖の上に、一人の人物の姿があった。
栗色の髪の毛を背中に廻すように纏め上げた、丸眼鏡の奥に嗜虐的笑みを浮かべた少女。
白いコートをまだやや寒い春先に羽織ったそいつは、本当に、本当に楽しそうに呟いた。
「は〜い、それじゃあ、エミュレートプログラム・降魔儀式開始〜!」
酷く楽しげに、少女はスイッチを押した。
展開されるのは、抗魔力の無い人間を魔物の依代に変える術式。
開始せよ、開始せよ、地獄の宴を。
異変はすぐ起こった。禍々しい空気が突如として遺跡内部を覆い尽くし、あちこちで悲鳴と咆哮が響いたのだから。
ユーノの目の前で、駆け寄ってきた発掘隊のメンバーがおぞましい奇声をあげてのたうち回り、身体を変質させていく。
「あが……ギィィいいい……」
「ギ……ししょちょ……助け……」
やがて、人間と呼べる形状のモノは失われ、理性の光を瞳から無くした怪物達がのそり、と立ち上がる。
柔らかい皮膚はメキメキと音を立てて硬質な外殻に。頭髪は瞬く間に外骨格に吸い込まれ、髑髏のような顔は牙を鳴らす。
指もまた、ガントレットのような硬質な皮膚によって鋭いかぎ爪と化し、生者を引き裂くためにその爪は振るわれる。
唯一の生存者、ユーノ・スクライアへと深緑の魔物達の目は向けられ―――影が、一際紅く禍々しい焔が、ユーノの身体に吸い込まれた。
それは残滓、かつて世界を滅ぼした魔神、異界より消え去る寸前に喚び出された一欠片。
欠片となりながら、なおも強い意志を持つその力の塊は、青年の魂に絡みつく。
さあ、始まる。究極の喜劇が―――
「―――う、うわああああああッ!」
眩い、だが邪気を放つ暗黒の焔。その向こうから現れたのは、真っ白な外骨格以外は、周囲の怪物と相似な魔物の姿。
そいつに本能的に恐怖を覚えた緑色の魔物が、涎を垂らしながら飛び掛かる。
「ウワァッ!」
ユーノは咄嗟に腕を払うように突き出し。
「ギャンッ!」
犬の鳴くような悲鳴。ユーノの腕の先端、鋭く尖った爪が魔物の胸を貫いていた。
溢れ出すのは鮮血、吃驚して腕を引き抜こうとすると、ぶちぶちと臓腑が抉れていく。
息絶えた魔物/人間だったものの息絶えるおぞましい感覚に、吐き気を覚えながら腕を抜く。
「ア……」
緑色の外骨格に覆われた化け物の身体は、瞬く間に消えていく。
魔物に取り憑かれた人間の末路……現世に留まることすら赦されざる悪魔憑き。
「コレハ……ボクハイッタイ……」
人間として言葉を紡いだつもりが、発せられたのはごわごわとした怪物達と同じ声。
踏み締めたガラス片を見つめると目眩がした。映っていたのは、純白の外殻の鎧を纏った化け物。
殺した魔物と寸分違わぬ、悪魔だ。
「ナンダコレ……ボクハ……」
464 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:16:53 ID:4blNO9+s
遺跡の内部を彷徨うと、あちこちに自分と同じ容姿の化け物がいた。
遭遇する度に、声をかけても何の返答もなく襲いかかられ、その度に叩き伏せた。
殺したくなど無い。しかし、相手がこちらの命を狙わなくなるまで攻撃すると、殺してしまう。
そのジレンマにボロボロになりながら、一人彷徨い続け……何時しか、ユーノ以外に動くものは遺跡内部にいなくなっていた。
何時間経ったのか分からない。あの禍々しい空気が無くなっても、自分の姿は元に戻らない。
もう嫌だった。誰かを殺すのも、殺されるのも嫌だった。消えてしまいたい……そう願うと、心の奥で何かがもぞりと蠢く。
それが、自害することさえユーノに躊躇わせる。心に浮かぶのは、愛しい人の姿。こんな姿では会いたくない、最愛の女性の笑顔だった。
そして。
「誰か、いませんか?! 時空管理局です、誰か―――」
ここにいてはいけない女性の声。こんな場所にいてはいけない人だ、どうしてここに?
その子はとても可愛くて、初恋の人で。どうして―――
―――記憶が繋がった。
『今日はお休みだから、ユーノ君にお弁当を作ってってあげるね』
約束。他愛のない友人同士の会話。愛すべき日常。
そして、こんな化け物になっている自分。
「ウ……ア」
そして、ぐんぐん声が近づいてきて。
「え……? なん……なの?」
「ミナイデクレ……ナノハ……!」
言葉に、高町なのはは白い喉を上下させ。
「ユーノ……くん?」
魂の最深で大きくなる光のようなもの。そこで、ユーノの意識は眠りについた。
光の中に自我が堕ちる寸前見えたのは、『人間』に戻った自分の腕だった。
夢を見ていた。夢の中で“彼”という存在の境界は曖昧になり、過去を幻視するに至る。
魔神と聖剣を魂に宿してしまった一人の青年。ごく普通の田舎町の、銃士隊員だった彼。
その身を悲劇が襲う。テロ組織によって計画されていた降魔儀式。目の前で化け物と化していく仲間達。
自身も魔神に取り憑かれながら、聖剣の加護と強い意志で人間に戻り。
―――彼は自らの意志で力を行使する。
『アクセスッ!』
閃光より現れたる焔の黒騎士。赤いマフラーを揺らす、破壊神。
魔神と聖剣と人間が入り交じった力の権化。
その姿に憧憬を抱き、青年は。
―――我を、力を望め。
465 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:19:13 ID:4blNO9+s
ユーノ・スクライアがミッドチルダの聖王教会系の病院に収容され、あれから三日が経った。
当初懸念された怪物化による被害は、現場に展開された形跡のあった謎のプログラム魔法によるものと解析され、ユーノの病室は隔離病棟から一般病棟に移った。
彼は目覚めるのを拒否するように昏々と眠り続け、知人友人からの呼びかけにも応えず――無為に時間だけが経っていった。
時刻は午後の昼下がり。病室にはたくさんの見舞いの品が並べられ、一組の男女がベッドの側に佇んでいる。
「ユーノ君……」
高町なのはの不安に歪んだ面を尻目に、クロノ・ハラオウン提督は携帯端末を操作し、情報に詳しい友人へコールする。
几帳面な性格を表した真面目そうな顔つきには、焦りと苛立ちが浮かんでいる。
それは、友人が昏睡しているのに、何も出来ない自分への怒りか。
「うん、僕だ。当時の発掘隊の状況と似た、消失事件が起きていないか調べてくれ……うん、ありがとうヴェロッサ、頼んだぞ。
―――大丈夫だ、なのは。いずれ目が覚めるさ。君も眠った方が良い、なるべく休んでくれ」
「うん……ありがとう、クロノ君。でも……私もう少しここにいるね?」
その言葉にクロノは顔を顰める。彼女が寝る間も惜しんでユーノに話しかけているのを、知っていたから。
故に厳しい言葉が口から溢れた。これでは、あの忌まわしい撃墜事件から何も変わっていない。
無理を無理と思わずに、突っ走るだけ―――何が変わったというのか。
「なのは、はっきり言おう。君は無理をし過ぎている、寝ないと身体が持たないぞ」
「でも、クロノ君……私がもう少し早ければ、ユーノ君は誰も傷つけずに済んだんじゃ、ないかな?
だから――」
「償いのつもりなら、それはユーノを否定する行為だ。彼が取った行動は正当防衛だし、責められる謂われはない。
だから……少し休むんだ、なのは。僕もフェイトもはやても、君が無理をし過ぎるとユーノのことに加えて余計不安になる」
最終的に周りの人間のことを持ち出して、何とか休ませようと試みる。
なのはの返答は、無言。どうしようもない沈黙が降りて、バツが悪くなったクロノが言葉を吐こうとしたとき。
破砕音。眩い召喚陣の光の奥より飛来したのは、大質量の塊。とんでもない轟音が、病院に響き渡った。
何事かと窓辺に駆け寄れば、外の駐車場には、小山のような影。ずんぐりとしたシルエット、青い金属質な甲羅、二足歩行の亀と言った風情―――
―――紛れもない、怪獣であった。
「何……だ?」
突如として現れ、駐車場の自動車を踏み壊しながら迫る巨大怪獣。
ドラゴンのような鋭利な顔つきの怪獣が、吼えながら腕を地面へ叩きつけた。
瞬時に道路の舗装がひっくり返され、土砂が宙を舞って病院の壁面へ叩きつけられる。
上がる怒号、悲鳴に、なのはの身体が震える。
「クロノ君、私、止めてくるッ!」
気がつけば、なのはは外に向かって飛び出していた。
「なのはっ!」
クロノは一度として目を覚まさない友人を見やると、一言。
「いい加減目を覚ませ、馬鹿野郎ッ!」
デバイス『デュランダル』を起動させながら彼女を追った。
戦技教導隊に所属するだけあり、高町なのはの足は速い。この十年で、彼女の運動音痴はだいぶ克服されたらしかった。
彼女の後ろ姿を追って、クロノは走った。
支援
467 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:23:09 ID:4blNO9+s
広大な病院の敷地へ侵入し、暴虐の限りを尽くす召喚獣の姿を、遙か遠方のビルディングの屋上から視認する影、影、影。
一人。背中まで伸ばされた赤紫の髪の毛、白く透き通るようなキメの細かい肌、紅い瞳――人形じみた静謐な美貌の、十歳前後の少女。
黒いドレスのようなバリアジャケットを纏っていること、偽装しているが並々ならぬ魔力量であることから、彼女が強力な術者であることが伺えた。
一人。それを護るように付き従う漆黒の人型。人体を模った形態の、赤いマフラーを首に巻いた黒い召喚虫。少女の従者たる者、ガリューだ。
一人と一騎。ボロボロのロングコートを身に纏った壮年男――顔には深い苦悩の跡――と、古代から生き残った稀少なユニゾンデバイスの主従。
少女が無表情に空間モニターを展開、光学情報として画面に映る、科学者然とした男に話しかけた。
「ドクター、これでいいの?」
《ああ、上出来だとも。とある世界で捕獲した『タラスク』というのだがね、アレは。
あの怪物を単独で御せるとは……流石はルーテシア、と言ったところか》
上機嫌な『ドクター』の顔を見ても、ルーテシアは眉根一つ動かさない。本当に無感動に冷ややかで、ぞっとするほど人形的な視線だった。
その光景を苦々しく思いながらも、男――槍騎士ゼスト・グランガイツは口を出さない。肩に止まるユニゾンデバイス、アギトも同様。
下手に横槍を入れて、ドクターことジェイル・スカリエッティに、妙な条件を突きつけられるよりかはマシだからだ。
ただでさえ最低な要求だ、これ以上最悪になって堪るものか。
《おや、今日は大人しいね、騎士ゼスト。どうしたのかな?》
無視したかったが、律儀に応えてやる。
「どうもせんさ」
《嘘だね、君は怒っている。病院を襲撃するなどと言う外道の所業に、ね》
「分かっていて命じたのか?」
とんとん、とスカリエッティは己の頭脳を指差し、笑った。
《いやはや、私は正気だよ騎士。あえて言うなら、彼――降魔儀式で生き残ったユーノ・スクライア――の力が知りたいのさ。
どんな異能を彼は得て、どんな人間的なものを失ったのか……実に興味深い、人間の業が宿っていそうだね》
「狂人め……そのために、無辜の人々を巻き込むだと? ふざけるな」
《ふむ、君とは平行線を辿りそうだ。この話はこれまでだ――戦いが、始まったようだからね》
爆音。砲撃魔法特有の、原色のけばけばしい光の柱が召喚獣タラスクに突き刺さった。
ゼストの意識は病院での戦闘に向けられ……スカリエッティが楽しげに呟いた。
《さて、何分持つかな?》
sien
支援
470 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:24:49 ID:4blNO9+s
「エクセリオン、バスターッッ!!」
砲撃――魔力光が弾け、轟音が轟いて大気が破裂する。
白いドレスの上から裾の短いジャケットを羽織ったような防護服を纏い、なのはは栗色の長髪を揺らして飛翔する。
杖型のデバイス『レイジングハート』という魔導具を握りしめ、中距離専用にセットしてあるエクセリオンバスターを撃ち放つ。
太い極光が大気を抉りながら直進し、甲羅を持った巨大な怪物『タラスク』に直撃する。
たたらを踏んで後退するタラスクに勝機を見出し、上空からアクセルシューターを発射。
光の弾丸が射出され、その桃色の群れが怪獣の顔面へ突き刺さる。全高十メートルほどの亀の化け物は、これには堪らず悲鳴を上げ。
―――毒の息を吐いた。
「っ?!」
咄嗟の機転。さらに上昇してそれを躱すと、ガスは霧散して効力が失せ。
だが、吐かれた毒の息吹(ブレス)の威力は凄まじい。瞬く間に逃げ惑う人々が昏倒していき、草木は萎れていく。
それを見て、勝ち誇ったようにタラスクは笑う。巨獣が咆哮し、窓硝子が反響して震えた。
そこへ、砲撃。
「ブレイズカノンッ!」
光がタラスクの腕に突き刺さり、その衝撃に巨大な悪意の塊が揺れた。
なのはは漸く現れた味方――ただ一人の援軍に顔を綻ばせた。
「クロノ君!」
「演算が遅いぞ、デュランダル。もう少し高速化出来ないか」
《OK、ボス》
デバイスの機械音声と同時に、敵からの猛毒のブレスが吹き荒れた。
クロノとなのはは左右に分かれてこれを躱し、反撃にと砲撃魔法を撃ち込んでいく。
その度にタラスクの口から悲鳴と、悪意の滲み出す吐息が吐かれた。風に乗った毒は人々の間に流れ込み……声なき悲鳴が溢れた。
黒い戦闘服に身を包んだ若き提督は、次々と倒れ苦しむ人々に目を向け、攻撃の中止を指示した。
「駄目だ、なのは! このままでは、みんな毒で死んでしまう!」
「でも、倒さないと被害が出ちゃうよ――」
「ユーノのいる上の階層まで毒が届きかねないんだ、その頃には地上の人々も!」
悪意の塊である怪獣は、醜悪に歯を見せて嗤うと、毒の息を吐かんとした。
クロノが、悲痛な声で呻いた。
「万事、窮すか……」
471 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:26:04 ID:4blNO9+s
―――我を、力を求めよ。
声が聞こえる。“それ”が、アガートラームの記憶にあった『焔の魔神』なのだと、彼は朧に理解していた。
外界の事象が脳裏に描かれていく。戦うなのは。彼女を助けるクロノ。怪物の猛毒と拡散。苦しみ倒れる人々の負の感情。
デミ・ガーディアンたる魔神にとって素晴らしいものである負の感情が、彼の内的宇宙に宿った微弱な“それ”を強大にしていく。
『銀の腕』の輝きによって、魂を食らい尽くそうとする魔神の力は抑え込まれるが、その頃には彼は決断していた。
『僕は――僕は――“力”が欲しい! 皆を助けられる“力”が!』
―――ならば唱えよ、我との『接続』の言葉―――神を呪い、世界を食い潰す祝詞を。
『――――』
ここに『神に牙剥く者』が誕生した。
「クロノ君、あれ! ユーノ君だよ!」
「何ィッ?!」
突如として現れた人影は、紛れもなく病人であったはずの、ユーノ・スクライアだった。
彼は法衣のようなバリアジャケットを単独展開していて、金の髪を揺らしてタラスクの前に佇んでいる。
タラスクは吐きかけた毒の息を飲み込むと、太い右前足を鉄槌の如く、ちっぽけな青年へ振り下ろした。
「ユーノ君!」
「ユーノ、逃げろっ!」
間に合うわけがなかった。怪物と彼の距離は精々五メートル、どう頑張っても打撃から逃げ切れぬ。
瞬間――なのはが聞いたこともないような、ユーノの雄々しい声が響いた。
「―――アクセェェェスッッ!!」
瞬間、三次元世界からユーノ・スクライアの肉体は消失し、内的宇宙に取り込まれる。
怪獣の前足はアスファルトを砕くだけに終わり、魂の最深部/内的宇宙に宿り拮抗する『焔の魔神』と『銀の腕』の“力”に接触。
莫大な力が宿る虚空に意識を飲み込まれぬために、踏み止まりながら精神で抗い、“すべてを受け入れる”。
その瞬間―――三次元世界に眩く、荘厳で、吐き気がするほど禍々しい光が解き放たれた。
閃光に目を焼かれたなのはとクロノが漸く視界を取り戻すと……
「ユーノ……君? 一体――」
「何だ……?」
それは、破壊の化身。
邪悪なる力、魔神を御する人の意志。
全てを打ち砕く黒き疾風/最も新しい戦禍の申し子。
異形なる焔の黒騎士『ナイトブレイザー』……その生誕だった。
472 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 01:26:44 ID:ElERt8pp
支援
支援
支援するぜ! アクセス!!!
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私怨
477 :
焔の黒騎士:2008/12/14(日) 01:28:43 ID:4blNO9+s
「わかる……戦える、僕はこの力で戦えるんだ……! この、“ナイトブレイザー”でッッッ!!」
存在の格が、概念が人間とは、いや、通常の生物とは根本的に異なる存在を前にして、タラスクは恐怖の悲鳴を上げた。
漆黒と深紅に彩られた外骨格を疾風のように動かし、赤きマフラーを翻らせて、鋭い爪でタラスクの右前足、その強靱な皮膚を引き裂いた。
鮮血――赤黒い血を吹き出す怪獣が絶叫し、その悲鳴をバックコーラスに黒騎士は踊る、回る、斬る。
血と絶叫が響き渡り、タラスクの右腕は付け根までズタズタになった。吹き出す血の雨になのはが目を逸らし、クロノが瞠目。
砲撃魔法でも焦げをつける程度だった巨獣の皮膚を、バターか何かのように裂いていく爪の切れ味とは如何ほどのものか。
何処までも冷徹に、肉塊となったタラスクの右腕を破壊すると、ナイトブレイザーは言霊を告げた。
アガートラームの記憶から“彼”は能力の使い方を引き出し、行使するのである。
「ナイトフェンサーッ!」
唸る、現界する、神鳴る刃が。
黒騎士の両掌に青白い光が集束、高密度のエネルギーが光の剣となって顕現。
全てを切り裂く刃が音速を凌駕する速度で振るわれ、タラスクの正面装甲――硬い甲羅を一撃で切り裂いた。
十字傷によって甲羅が決壊し、内部に仕舞われていた臓腑や血液が赤黒いシャワーのように吹き出た。
怪物が悲鳴を上げるのを聞きながら、さらに黒騎士は魔法を使用する。
のたうち回る怪物を魔力で生成された無数の鎖が縛り付け、身動きを封じる。それは、デバイスの補助無しで魔法を行使するに至った人間の絶技。
プログラムの稼働を自分の脳内で完了するという、人類でも希有な資質の持ち主こそ、ユーノ・スクライアである。
「――チェーンバインドッ!」
魔力の鎖で捕らわれ、身じろぎ一つ叶わないタラスクが悲鳴じみた声を上げて毒の息を吐くも、無意味だ。
ナイトブレイザーは甲羅の割れ目から、魔法生物の核であるコアを見つけ出し、ナイトフェンサーの斬撃によって解体した。
瞬間、猛毒の霧が晴れていき―――タラスクの巨体が、あっけなく物質的に崩壊。
ガラス片が割れるような音を立てて、虚無だけが残った。
それからはあっという間だった。病院関係者が負傷者を院内へ担ぎ込み、てんやわんやの大騒ぎ。
駆けつけた時空管理局地上本部の部隊は混乱する現場で、右往左往し、黒騎士の威容に息を呑んだ。
クロノとなのはは急いでナイトブレイザーの元へ降下し呆然と、超越者と化した青年へ声をかけた。
地面へ光の剣を突き刺して、胸を押さえる焔の黒騎士は、それでも笑っていた。
「ははは……やったよ、なのは―――僕も、戦える力を手にしたんだ……」
「ユーノ君……?」
「ユーノ、お前……」
アクセス(接続)を解除。そのまま、ユーノの意識は途切れた。
今、ミッドチルダを舞台に焔の魔神と聖剣の物語が、紡がれていく。
大いなる戦禍の兆しを見せながら、世界は廻る……
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英雄なんていらない! 支援
支援
オマケ〜ミッドチルダ怪人図鑑〜:ナイトブレイザー(ユーノ・スクライア)
荒野の世界ファルガイアを焼き滅ぼそうとした魔神『ロードブレイザー』と、
それを封じるべく剣の聖女が振るった聖剣『アガートラーム』がユーノ・スクライアに宿ることで生まれた最凶最悪の黒騎士。
ファルガイアで滅ぼされ、次元から消失したロードブレイザーの欠片が、スカリエッティの降魔儀式によって偶然召喚され、青年に宿った。
その暴威と言うべき力が振るわれる度に、ユーノに沸き上がる黒い衝動を喰らい、魔神は力を増長させる。
ナイトブレイザーは、ユーノがアガートラームの記憶から幻視したアシュレー・ウィンチェスターの姿そのままであり、魔剣ルシエド以外の能力の全てがオリジナルと同等。
あとがき
ウロスで見てしまったもの……それは、「ユーノがナイトブレイザーに」というシンプルなものでした。
うん、ノリと勢いでやった、後悔なんて―――ないッッッ!!!!
作者のテンションが続くとロードブレイザー戦まで書くかも?(疑問系
出来れば、ボルテッカことバニシングバスターも撃たせたかった。
ウロスで原案出してくださった方々、支援してくださった方々へ感謝です。
次回を確率は低いのであまり真に受けないくださいorz
鵺の筆も進むと良いなあ……
怪人図鑑かよw!?
GJでしたー!!
変身ヒーロー、うひょー!!!
ナイトブレイザーw登場するとパワーバランスが壊れるやつですな。
またの名をチートブレイザー、とんでもねえ戦闘力もだけどボス戦ですら専用BGMに変える清清しいチートっぷりなんだよなw
オーバーナイトまでいったら6課が空気になりかねないが、できればそこにいくまでくらいは頑張って書いてみて欲しいぜ
でもオーバーナイトにはあれだ、双子の兄妹作っちゃうような相手がいないと…
連載! 連載を!
続きを読みたいので連載化を期待してる!
>>485 なのははヒロインになれるのか? 十九歳の魔法少女はアリなのか?
出来る、出来るのだ。パン屋の娘につとまる役が、高町に出来ぬ道理はない。
――という具合で、公式のカップリング否定ガン無視で。
皆様、お久しぶりです
思いつきで書いたカブトレボリューション&四兄弟の外伝を2時より投下します。
結構短いですが、よろしくお願いします。
カモーン
490 :
一尉:2008/12/14(日) 13:57:39 ID:kFFgFM17
OK変身支援します。
では、時間なので投下させて頂きます
――私は、死ぬんだな
漆黒に覆われた通路の中で、壁に寄り掛かる彼女は死を覚悟していた。
胸部、足、両腕。
全身のありとあらゆる部分に刻まれた傷からは血が溢れ出て、痛覚すら感じない。
辺りには噎せかえるような血、臓物、油の臭いに包まれ、数え切れないほどの機械の残骸が散らばっていた。
生きて帰る為に自分は粉骨砕身戦った、全ての力を出し切った。
それがこのザマだ。
――隊長、メガーヌ、みんな……先に逝ってます、どうか無事でいて下さい
最後の力を振り絞って首を動かし、共に戦った仲間を捜すが何処にも見当たらない。
あるのは戦友達と共に破壊した戦闘機械の成れの果てのみだった。
彼女にはもう、彼らの無事を祈るしかできない。
――スバル、ギンガ、ゲンヤさん……ごめんなさい、もう帰れそうにないみたい
彼女の思考は夫と二人の娘との思い出へと飛んでいった。
それと共に彼女の瞳が自然に閉じていく。
戦闘機人である娘たちはこれから世界から虐げられてしまうかもしれない。
今だって、その危険が存在していた。
母である彼女が最後に出来ることは娘の幸せを祈ることと、その笑顔を思い浮かべるしか無かった。
ありのままの娘たちを受け入れてくれる人間がこの世界のどこかにいることを。
そして、娘たちが戦闘機人であることを知ったとしても笑顔で受け入れてくれる人間がいることを。
信じるしかなかった。
――ごめんねギンガ
シューティングアーツのお稽古最後まで見てあげられなくて
でもとっても強いあなただったらすぐに名人になれるはずだから、頑張って
スバルが泣きそうになったら、お母さんの代わりに励ましてあげてね
――ごめんねスバル
あなたはとっても優しくて良い子よ
でもちょっと気が弱くて泣き虫なところは治さなくちゃね
お姉ちゃんやお父さんを困らせちゃダメだぞ
もう開くことのない彼女の瞼から一粒の涙が流れ、頬を伝わる鮮血に混ざる。
それは残してしまう娘への罪悪感と、娘の成長を見ることが出来ないという悲しみが混ざった物。
研究施設で発見した二人を保護し、娘として受け入れることから母親となった。
初めは戸惑っていたけど娘たちの笑顔を見た日、そんなのはあっという間に吹き飛んだ。
二人がお人形の取り合いで喧嘩をし、叱ったこともあった。
そのせいで泣いちゃったけど、次の日に同じのをもう一つ買ってあげたら嘘のように笑った。
絵本を読み聞かせながら、二人が寝付くのを待っていたこともあった。
それがあまりにも可愛すぎて、思わずキスしてしまった。
たった二年間の毎日だったけど、とても幸せだった。
「スバル……ギンガ……スバル……ギンガ……」
まるで壊れたテープレコーダーのように掠れた声で、愛する娘たちの名前を呼び続ける。
もっと二人のご飯を作ってあげたかった
もっと二人の為の買い物がしたかった
もっと二人を遊園地に連れてあげたかった
もっと二人の笑顔が見たかった
もっと二人を抱きしめたかった
もっと二人の成長した姿が見たかった
様々な願いが頭の中で混ざり合うが、何一つ叶えることも出来ない。
ならばせめて娘の名前を呼んだ、その声が二人に届くことを信じて。
――もっと、二人と一緒に……いたかった
やがて、彼女の意識はそこで途切れていった。
仮面ライダーカブト レボリューション&地獄の四兄弟 外伝
EPISODE 1 開演・俺の名は紅音也
暖かい。
感じたことはそれだけだった。
重い瞼を開くと、そこには純白の空間が存在していた。
そして上半身を起こし、辺りを見渡す。
自らに掛かっていた見覚えのない布団、たった一つ存在する窓に備え付けられた清潔なカーテン、花が添えられた花瓶、四方を包む壁と天井。
それら全てが白で構成されていて、一切の汚れが存在していないかのように思えた。
部屋の雰囲気から見て、ここは病室のようだった。現に自分の腕には点滴と思われるチューブが巻かれている。
彼女――クイント・ナカジマは何気なく自身の海のように青い長髪を掻いた。
一体何故このようなところにいるのか、クイントは自らの記憶を探り出す。
その途端、脳内に浮かび上がってきた悪夢に思わず身震いしてしまう。
戦闘機人事件の調査でゼスト率いる部隊は戦闘機人の生産プラントと思われる施設を発見し、突入を決行した。
結果は大当たりで、そこで数体の戦闘機人とそれらが率いる機械兵器と遭遇の末に抗戦した。
しかし暗闇に包まれた通路にAMFという魔力の流れを遮る空間が発生し、何処からか蟻のような勢いで現れる異形異様の見たことも無い形状の機械兵器の大群。
それらの要因によって部隊は不利な状況に追い込まれ、結果は全滅。自身も戦闘機人の刃に心臓を貫かれ、命を落としたはずだ。
だが、瀕死の重傷を負ったはずの自らの体は微かな痛みは残るものの、五体全てが満足な状態で動かすことが出来る。
もしや自分は助かったのか。
あの暗闇の中で聞こえたのは回廊が崩壊する轟音、毒蜘蛛のように動く機械を破壊する音、隊員達の悲鳴と呻き声。
多種多様な不協和音の中で最も耳に響いていたのは、自身の相棒――リボルバーナックルが唸りを上げて回転する音だった。あまりの回転数に排熱が間に合わず、酷く赤熱していた。
記憶を探り続けていると、部屋のドアが突然開いた。
「おお、あんた起きてたのか」
部屋に現れた女性はクイントとほぼ同じくらいの長髪が黒く煌めき、若々しい表情からはクールな雰囲気を放つ。
女性はどこか勝ち気な笑顔を浮かべて、部屋に備え付けられた椅子に座り込んだ。
「気分はどうだ?」
「え? ……ああ、大丈夫です」
女性はクイントの顔を覗き込みながら問いかける。
「あんたが道端で倒れていたところを病院に運ばれたんだ、一時はどうなるかと思ったけど大丈夫そうだな」
女性の言葉にクイントは自らの耳を疑った。
道端に倒れていた? 一体何を言っているのか。
「申し遅れた、あたしの名前は麻生ゆりと言う。あんたは?」
「あ、クイント……クイント・ナカジマです」
疑念のあまりに普段の彼女らしくない態度で女性――麻生ゆりに自らの名前を名乗る。
別にやましいことがあるわけではないが、無意識のうちに挙動不審となってしまう。
しかしゆりはそれに気を止めることのないまま「そうか」と返す。
「見たところ外人みたいだが、一体何処の国から来たんだ? アメリカか?」
ゆりのクイントは再び耳を疑う。
アメリカとは何だ。そんな地名はミッドチルダに存在しないはず。
やがてクイントは重要なことを思い出し、ハッとしたような表情を浮かべた。隊長ゼストや親友メガーヌを初めとする部隊の人間はどうなったのか。
「すみません、他のみんなは一体どうなったのですか」
「は?」
クイントの言葉に対し、ゆりはぽかんとした表情を浮かべる。
「私以外にもいたはずです、あの戦闘機人の製造プラントに突入したみんなは――!」
「お〜い、ゆり!」
動揺するクイントの言葉を遮るかのように聞き慣れない声が聞こえる。
同時に突然、ガラガラと音を立てながら部屋の扉が開いた。
二人は同時にその方向を振り向く。
「音也!?」
「おっ? 姉ちゃん、起きていたか! そいつは良かった」
音也と呼ばれた男はニヤニヤと笑いながら、病院という場所を弁えないような大声を出す。
中肉中背な彼の年齢はクイントとほぼ同じかもしれない。
片手にチェック模様の入ったギターケースを持つその男は余裕を持った態度で、ズカズカとクイントに近づく。
「あんたはこの前、俺がたまたま道を通りかかったところを発見したんだ。いや実に運が良い」
男はベッドに腰を下ろしながら自らの顔をクイントに近づけ、陽気に語る。
その態度はまさに傍若無人という言葉が相応しかった。
すると男は自らの小指を立てて、クイントに突きつけながら優しく囁いた。
「やはりこれは運命か……」
「え?」
「俺とあんたは赤い糸で繋がれ、こうして出会うことになっていた……」
馴れ馴れしい男の言葉に、クイントは怪訝な表情を浮かべる。
「はぁ?」
「これは決して偶然ではなく必然! 俺達は互いのことを知り合い、やがて結ばれる――ぐえっ!?」
男は最後まで言葉を発することが出来ず、奇妙な呻き声を漏らしながら床に倒れ込んだ。
その後ろには呆れた表情を浮かべ、握り拳を作ったゆりが立っている。
クイントは何が起こったかを理解するのに、数秒の時間も必要なかった。
「ゆ、ゆり……冗談だ……」
「……すまない、こいつのことは忘れてくれ」
ゆりが言う中、男は後頭部を押さえながら喘ぎ、蹲っている。
ベッドの上からクイントは、訝しげな表情で男の顔を見ていた。
「何なんですか、あなたは?」
彼女は口を開く。
それに反応したかのように呻吟していた男はこちらに振り向き、笑みを再び浮かべた。
「俺の名は音也……」
男は名乗る。
痛みのことなど何事もなかったかのように立ち上がりながら、クイントに名乗る。
その男は偉大なるバイオリニストであり、未来を守る戦士の父でもあった。
しかし男もまた、この世界で戦う戦士の一人。
その名は――
「紅音也だ」
その男――紅音也の物語は始まる。
何処までも強く、何処までも自由な男の物語が――
こうして、クイント・ナカジマの時間は再び動き出した。
続く
ノリと勢いで書いた外伝、投下完了。
外伝では本編で出番が少ないキャラ(名護さん、加賀美、音也、大介、ティアナ、キャロ、なのは達)の物語を書いていきます。
影山、剣、糸也、ドゥーエに続いてクイントママまでもが生き返り、1986年にやってきました。
今後の彼女は音也やゆりは勿論、次狼、ラモン、力と一緒にファンガイアと戦います。
もしかしたら、成長したスバルと再会するかもしれません。
次回こそ、カブトレボリューション序章の最終話を投下するつもりです。
>>494 音也、人妻をナンパするなよwwwww
いやそれが彼の持ち味なのかな?
20:00頃に第五話投下させてもらいます。
※今回は暴力的な表現があります。
GJ。音也は濃いよー、アク強いよー。
クイントさんの明日はどっちだ。このままじゃ修羅場に巻き込まれるw
音ーやん、やってくれるぜ!!
クイントさんが人妻ってことを知ったら、ゆりさん共々色々と驚くんでしょかねぇ〜・・・?彼女、見た目若いですし・・・(汗)。
GJ!マジGJ!!
毎回毎回楽しみにしてますが、遂におとーやん登場ですか!
おとーやんの身振り手振りが脳内で再生されてニヤニヤしてますwww
では行きます
拠点をゆりかごに移してから一週間が経ち、スカリエッティとウーノはゆりかご内のデータバンクを解析していた。
その中でレリックウェポンと呼ばれる項目に目を向ける。
レリックウェポンとは、人体にロストロギアを移植することで人体強化を行う方法の事を言う。
「人体にロストロギアを移植……どの時代どの世界でも同じ事を考える人はいる様だね……」
そんな事を思いながらモニターに目をやっていると不意にスカリエッティは考え込み始める。
…この技術と人造魔導士の技術を応用すれば更に強力な力が造り出せるのではないかと。
そんな時、一通の連絡が秘書のウーノに届く……
リリカルプロファイル
第五話 壊滅
場所は変わってここは時空管理局・地上本部の中にある訓練場、ここである二人の男が模擬戦を行っていた。
「どうした、もうへばったのかアリューゼ」
「勘弁…してくれ……ゼスト隊長……」
首都機動防衛隊、通称機動隊の設立者の一人にして機動隊隊長でもあり、
更にストライカーと呼ばれるほどの実力者ゼスト・グランガイツと、
ゼストの部下で機動隊隊員のアリューゼである。
首都機動防衛隊とは、二年前に設立したAクラス以上の局員で構成された部隊で、
現存する首都防衛隊とは異なり、優秀な局員が少数で構成されている為、
迅速に現場に向かう事が可能となり、様々な事件、事故を解決してきた。
その為、事実上ミッドの地上を護ってきたと言っても過言ではなかった。
話は戻り、アリューゼが両手を付いてへばっていると二人の女性がゼスト達の元にやってくる。
「だらしないわね、アリューゼ」
「なんだ……メルとメガーヌ副隊長か」
アリューゼに話しかけてきたのは女性の名はメルティーナ。
アリューゼとは同期で、それ以来の腐れ縁である。
そしてもう一人はメガーヌ、ゼストの部下で機動隊の副隊長でもある。
「模擬戦終わったんだったら早く退いてくれない?邪魔なんだけど」
「うるせぇな…15のガキが……」
「何よ18のおっさんが!」
「メルティーナ……それは私達に対する挑戦状?」
微笑みながらメルティーナを威圧するメガーヌ。
メルティーナと同じAAとは言え、レアスキル持ちで戦闘経験も豊富な為その威圧感は凄まじかった。
メガーヌの威圧に冷や汗を垂らしているメルティーナを尻目にゼストは話題を変える。
「そういえばメガーヌ、子供は元気か?」
「あっ!えぇ、もう一歳になるわ」
「その年だと可愛い盛りだろう」
不意に後ろから話題に乗る男がやってくる。
男の名はゲンヤ・ナカジマ、ゼストの友人でメガーヌの友であるクイントの夫で、
機動隊設立者の一人でもあり、現108部隊長でもある。
因みにクイントとゲンヤを結ばせたのは、メガーヌであり結婚式の仲人はゼストである。
話は戻り、ゼストはゲンヤに話を振る。
「珍しいな、お前がここに来るとは。一体何のようだ?」
「あぁ、本局からゼスト……いやゼスト達に話があってな」
ゲンヤの話とは先日、本局のスーパールーキー高町なのはが撃墜された事件。
事件後、撃墜されたなのはの様態は悪く、二度と飛べないかもしれないと伝えられていた。
そこで本局は、その穴埋めにS+クラスのゼストとAAクラスのメガーヌ、アリューゼ、メルティーナを出向させると言う内容であった。
その内容にアリューゼ達は反論を唱える。
「冗談じゃねぇ!俺達は代用品じゃねぇんだぞ!」
「そうよ!それに今回の事件は本局のムチャが祟ったって言うじゃない!」
メルティーナの話だと、高町なのはとは二年前のジュエルシード事件、闇の書事件の功労者であると。
それ故に本局は彼女の実力を高く評価し、様々な任務を与えていたと。
しかし、二年前の事件で彼女の肉体には大きな負担を抱えていた。
更に本局の激務、彼女は心身共に疲れ果てていた。
その結果の事件だと話す。
「実力はあってもまだ12歳の女の子、そんな女の子に激務を与えて
使えなくなったらポイ捨てする本局なんてゴメンだわ!」
アリューゼもメルティーナの話に賛同するが、ゼストは本局直々の話と言う事で受け入れる様にと二人に釘を刺す。
二人は納得していない顔をしていたが、渋々受け入れる事に。
重い空気があたりを包む中、メガーヌは話題を変える。
「そっそういえばゲンヤの娘さんは元気ですか?」
「あっあぁ、上はもう九歳になる」
「もうそんなになるんですか」
「だが、まだ甘え盛りだよ」
「………そんな時期は直ぐに過ぎるぞ」
後ろから低い声で釘を刺す、振り返るとそこには信じられない人物が立っていた。
レジアス中将、地上本部の最高権力者で機動隊設立者の一人でもある。
予想外の人物に一同敬礼をするが、レジアスは一言言って皆を休ませる。
「それはどういう意味だレジアス」
「そのままの意味だ、男親などそんなものだ」
ゲンヤの問いにレジアスは答える。洗濯物を分けられたり、先に風呂に入るなと言われたり、
自分の反対を無視して入局したりと、次々に例を挙げていく。
その答えにゲンヤは反発する。
「それはお前の娘だからだろ、私の娘達はそんな風にはならない!」
「それはない、誰もが通る道だ」
「………レジアス、そんな話をする為にわざわざ来たのか?」
レジアスとゲンヤが熱くなっている処に割って入るゼスト、レジアスは一つ咳をして本来の話を始める。
「…ゼスト、ゲンヤ、“例の奴ら”の件だ」
その一言に顔色が変わる二人、ここでは話にくいと考えたレジアスは二人を会議室に連れて行くことにした。
場所は変わってここは会議室、中にはレジアス、ゲンヤ、そしてゼストが座っていた。
レジアスの話とは、今から四年前に起きた戦闘機人施設事件の時と同じ研究施設を発見したと。
そしてその研究施設はほぼ間違いなく、“例の奴ら”と関わりがあるという。
「ゼスト頼むぞ」
「あぁ、“その為”の機動隊だ」
そう言うとゼストは立ち上がり、会議室を後にする。
残された二人、だがゲンヤは顎に手を当て考え込んでいた。
「……どうしたゲンヤ」
「…アッサリ見つかりしすぎてる気がしてな、杞憂ならいいんだが……」
中々尻尾を出さなかった“例の奴ら”の足取り、罠ではないか…そんな一抹の不安を感じたゲンヤであった。
時間は遡りここはゆりかご内のラボ、そこではレザードとクアットロが戦闘機人の研究をしていた。
現在スカリエッティは、ゆりかご内のデータバンクの解析に勤しんでおり、
代わりにレザードが引き継いだ様子だった。
「博士基礎フレームの件、どうですか?」
「……そうですね…まだ改良の余地がありそうです」
「さっすが博士!そこがしびれる!あこがれるぅ!!」
「…………今度は何に影響されたんですか」
クアットロ曰く、スカリエッティの寝室に置いてあった本の影響だという。
因みに、ナンバーズの名はスカリエッティがその本の第五部に影響されて付けたと言われている。
話は戻り、レザードは呆れながらも作業を行っていると、モニターの右上にスカリエッティの映像が現れる。
「……噂をすれば影とはこういう時に使うのでしょうね」
「一体何の話だね?」
「いえ…其方こそ用があって連絡をしてきたのでしょう?」
スカリエッティは頷くと用件を話し始める。
先ほど最高評議会から連絡があり、彼等がかつて保有していた研究施設に調査が入ると。
その中のデータは最高評議会にとっては危険な代物の為、調査員の抹殺、更に施設の破壊を依頼されたのだという。
「なるほど、分かりました。ですが一つだけ条件があります」
「何かね?」
「チンクとの同行を許可して貰いたい」
レザード曰く、実戦データの収集と局員相手にどこまで通用するか調べたいとの事だった。
スカリエッティは二つ返事でチンクの同行を認めた。
………だが後ろでチンクに対し、嫉妬の炎を燃やしているクアットロの姿があった。
場所は変わって此処は戦闘機人の研究施設、中では機動隊が調査を行っていた。
メンバーはゼスト、メガーヌ、アリューゼ、そしてAクラスの局員七名の計十名で構成されていた。
メルティーナはメガーヌの子の面倒を見るため局に残った、本人は納得いかない表情をしてはいたが…
話を戻し研究施設の奥には、人体標本や実験動物の檻などが点在しており、
更に奥の施設には幾つかのカプセルが置いてあった。
既に施設の電源は死んでおりカプセルの中にはミイラ化した遺体が入っていた。
「ひでぇなこりゃ……」
アリューゼが一つ愚痴をこぼし更に奥へ進むと広場に出る。
周りには幾つかの傷がありどうやら此処は訓練場だとゼストは感じた。
「やはり、ここで戦闘機人の研究をしていたようだな」
「だがなんで“奴ら”は戦闘機人何かを?」
「……あなた方がそれを知る必要はありませんよ」
アリューゼの質問に答えるかのように声が響く。
ゼスト達が声の主を捜していると、真っ正面の出入口から足音が近付いてくる。
暗い出入り口から足を覗かせ、姿が現れる。
その姿は青を基調とした服に黒いマントを羽織った眼鏡の青年だった。
ゼストは青年に質問をぶつける。
「お前は誰だ」
「答える気はありません」
「何故此処にいる」
「答える気はありません」
「…お前は此処と関係があるのか」
「答える気はありません」
「此処で何が行われていた!」
「答える気はありません」
質問に対し、淡々と答えになっていない答えを出す青年。
ゼストは一呼吸置き質問を変える。
「俺達をどうするつもりだ」
青年は眼鏡に手を当て、不敵な笑みを浮かべながらこう言い放った。
「当然、此処で死んで貰います」
すると青年の腰に付いていたナイフが輝きだし魔導書となって左手に収まる。
ゼスト達もまたデバイスを起動させ戦闘準備に入る。
両者がにらみ合う中、青年が手をかざす。
「開け冥界の霊柩、……直ぐにこの者達を送呈してやろう」
そう言い放ち、ファイアランスと唱えると周りから二つの炎が現れ一人の局員に矢のように向かい突き刺さる。
「ぐっぐあああああああっっっ!!!」
受けた局員は一瞬で火だるまになり、辺りを転がる。
周りにいた局員も必死に炎を消そうとするが、全く勢いが変わらないでいた。
結局その局員は黒くすすけるまで燃やされ続けた。
仲間がやられ怒りの目で青年を見つめると、青年の足下に五亡星が輝き青年の姿が消える。
転移魔法と考えたゼストは周りに気を配れと叫ぶ。
「どこから来るんだ」
「っ!!後ろだ!」
「遅いですよ」
ゼストがいち早く感じたが、一足遅く局員の後ろで手をかざす青年。
青年がアイシクルエッジと唱えると氷の刃が局員に突き刺さる。
「ゼ…ゼスト隊ちょ――――」
彼が叫び終わる前に、氷の刃は彼を蝕み凍り付かせ、無惨にも砕け散った。
「野郎!!」
「迂闊に飛び込むな!アリューゼ!」
だがゼストの制止を無視し、剣を振り抜く。
だがすでに転移したらしく残像のみを斬り払う。
青年は元いた位置に戻ると、指を鳴らす。
「ポイズンブロウ」
そう唱えると、一人の局員の足下に紫の円陣が現れ、紫の濃霧が立ち上る。
その霧が晴れると局員の体は紫に変色していた。
局員は喉を掻き毟りながら、声にならない叫びをあげその場に倒れる。
あまりの状況に、一人の局員が恐怖のあまり逃げ出す。
「チンク」
青年が言い放つと、青年が現れた出入口から三本のナイフが飛び出す。
飛び出したナイフは的確に逃げた局員の後頭部、延髄、心臓を貫き、局員は絶命した。
そして青年は死体を一つずつ指を指しながらこう言い放った。
「焼死、凍死、毒殺、刺殺、……さぁ、どのような死に方がお望みか」
眼鏡に手を当て微笑む青年であった。
そしてその隣に、オーバーコートを着た銀髪の少女の姿が現れる。
少女の手には局員を刺殺したナイフが握ぎられており、
青年が言ったチンクとは彼女だとゼストは判断した。
Aクラスの局員が次々と殺害されていくこの状況、
Aクラスでは相手にならないと判断したゼストは大声で叫ぶ。
「ここは私とアリューゼ、そしてメガーヌで押さえる!他の局員は今すぐこの場から去れ!」
ゼストの命令を聞くや否や次々に逃げ出す局員、それを遠くで見つめる青年とチンク。
「博士、逃げられてしまうぞ」
「それは困りますね」
そう言うと右手を地面に向ける、すると彼の体から青白い魔力が吹き上がる。
そして向けた地面には桜色の五亡星が浮かび上がり、光り輝くと直ぐに消えた。
「これで良し………」
そう告げると同時に、局員が逃げた方向から叫び声が挙がる。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「くっ来るなぁぁぁ!!!」
「たっ助け――うぁぁぁぁぁ!!!」
あたりに叫びが木霊し、消えると今度は地響きのような足跡が響き始める。
出入口から現れたモノは、巨大な白骨の肉体に竜に似た頭蓋骨、手には身の丈ほどの刃物を持つ化け物、
ドラゴントゥースウォーリアと呼ばれる不死者〈グール〉が姿を現す。
そして右の刃先には局員が一人串刺しになっていた。
「…まだ食事が終わっていないのですか、早く済ませなさい」
青年が窘めると、化け物は串刺しになっている局員をゆっくり頭から飲み込み始める。
辺りにガムでも噛んでいる様な音が響き、その後飲み込む音が辺りを包む。
その光景を目の当たりにしたメガーヌは、口元に手を当てる、そして青年は含み笑いを浮かべていた。
その時、アリューゼとメガーヌにゼストの念話が届く。
(聞こえるかメガーヌ、お前はガリューであの化け物を叩き脱出しろ!
そしてアリューゼ、お前は銀髪の少女を叩け、恐らくあれは戦闘機人だ、油断するなよ…)
(隊長はどうするんで?)
(私は眼鏡の男を叩く!)
ゼストの判断では青年はSクラスの実力者、二人では相手にならないと考えていた。
メガーヌとアリューゼは小さくうなずくと、それぞれの相手を見定めた。
「……やれやれ、大人しくやられれば良いものを」
手の平を広げ肩をすくめる青年、一方ゼスト達はデバイスを構えている。
暫く睨み合いが続くと、先手を取ったのはゼストだった。
ゼストは二人にまっすぐ向かい、手に持った槍を振り下ろす、青年とチンクは左右に別れて回避すると、
アリューゼがチンク目掛けて突進、しかしチンクは持っていたナイフを交差させて、アリューゼの突きを防ぐ。
「なるほど、私とチンクを引き剥がしたかった訳ですか」
青年はゼストとの距離を取り、ファイアランスを唱えると、炎の矢がゼストに襲いかかる。
だが、ゼストは槍を目の前で回転させ右から左へ勢い良く振り払うと、衝撃波を生み出した。
衝撃波はファイアランスをかき消し、青年に襲い掛かる。
しかし青年は移送方陣で上空へと逃げると、ダークセイヴァーを唱える。するとゼストの周りを闇が包む。
闇が刃に変わる瞬間、ゼストはバックステップで回避、ゼストは槍を構え刃先を青年に向けると勢い良く突撃した。
しかし青年は右手をかざし、シールド型のガードレインフォースを発生させ、ゼストの攻撃を防ぐ。
「うおおおおおおっ!!!!」
シールドと槍がぶつかり合い火花が散る中、
ゼストは気合いと共に槍に力を込める、すると青年のシールドにひびが入り砕け散る。
砕けた瞬間、青年は左に回避するがゼストの槍は青年の右頬をかすめ抜けて行く。
突撃後、ゼストは次の青年の攻撃に備え、
直ぐ様振り向くが、青年はその場に立ち尽くしていた。
青年は右頬に手を当てる、そこには血は流れておらず、ミミズ晴れのようになっていた。
しかし痛みは斬られた痛みと同じだった、非殺傷設定とはこういうものか……と青年は思っていた。
「なるほど……少々侮っていましたよ」
青年が振り向くとその瞳には余裕の色が消え、真剣な瞳に変わっていた。
その瞳を見たゼストは、気を引き締め槍を強く握りしめた。
一方メガーヌはガリューを召喚し、不死者と対峙していた。
召喚虫ガリュー、肉体を変化させ武器にする能力を持つ人間サイズの召喚虫であり、
メガーヌが最も信頼している召喚虫でもある。
メガーヌはバインドで化け物の右の刃ごと縛り付けると、メガーヌはガリューに命令する。
「ガリュー!」
メガーヌの命令にガリューは反応し、攻撃を仕掛ける。
だが化け物は懐に入らせまいと、持ってた左の刃でガリュー目掛けて振り下ろす、
ガリューは刃を右に回避しつつ、顔面に右のハイキックを浴びせる。
ガリューの蹴りは化け物のコメカミに的確にヒットさせぐらつかせるが、
化け物は直ぐに態勢を立て直し、右のバインドを力任せに引きちぎり、ガリュー目掛けて振り払う。
だが、ガリューは前宙のような動きで攻撃を回避し化け物の頭を蹴るとそのままバク宙でメガーヌの位置まで下がる。
「ずいぶん丈夫みたいね、これはまさしく骨が折れる仕事だわ……」
そんな事を言いながら二人は化け物を見据えていた。
一方アリューゼはチンクに突進を止められていた。
このままでは埒があかないと考え、アリューゼは一旦後方へ飛ぶと大剣を肩に掛け、
力いっぱい右振り払いを放つ。
レイチングスイング、アリューゼがもっとも得意とする力技である。
しかしチンクはバックステップで攻撃を回避し、背を向けたアリューゼの心臓を狙った。
「甘ぇ!!」
アリューゼが一言発しながら体を更に回転、左の裏拳がチンクの左頬を捉える。
スピニングバックナックル、大振りの多いアリューゼの技の中で、大振り特有の隙を埋める技である。
左頬にめり込んだ裏拳はそのままチンクを吹き飛ばす、
チンクは錐揉みしながらも両手を床に付けて体勢を立て直す。
だがアリューゼの追い込みはまだ終わっていなかった、今度は力一杯振り下ろす。
ハイウィンドと呼ばれている振り下ろしである。
チンクは飛び跳ねるように攻撃を回避、空中でコートの中からナイフを取り出し急所を狙う。
だが、投げたナイフは忽ち叩き落とされる。
彼女チンクのナイフは的確に急所を狙ってくる、
それは言い返せば急所しか狙ってこない訳で急所さえ防いでおけば問題はなかった。
「さてと…そろそろてめぇの顔も見飽きたぜ!」
ナイフの軌道もチンクの行動も理解し始めたアリューゼは此処で切り札を切る。
「バハムートティア!カートリッジロード!!」
アリューゼが叫ぶと大剣型アームドデバイス・バハムートティアから薬莢が二つ排出される。
すると刀身は熱せられた金属のように真っ赤に染まると、突きの構えから突進してくる。
「奥義!ファイナリティブラスト!!」
その突進力に危険を察したチンクは上空へ逃げる。
だが、アリューゼが通った後は爆炎と風が吹き荒れ、チンクを更に上空へ吹き飛ばす。
するとアリューゼは突きから斬り上げの構えで急上昇する。
チンクは持っていたナイフを投げると、アリューゼの右肩、左腿に刺さり、左目辺りをかすめる。
だが、アリューゼの勢いは止まらず徐々にチンクに迫っていた。
「これで……終わりだぁ!!」
「それは貴様の方だ」
「なにぃ!?」
チンクが一言発すると同時に肩と腿に刺さっていたナイフが爆発する。
ランブルデトネイター、一定時間触れた金属を爆弾に変えるチンクのISである。
黒煙がアリューゼを包む中、黒煙の下の部分からアリューゼが力無く落下し、そのまま床に叩きつけられる。
「……撃破確認」
チンクはその姿を見つめ確認すると、次のターゲットを探し始めた。
時間は少し遡り、メガーヌは目の前の化け物が結構な堅さと判断し、ガリューに強化魔法を与え更に命令を下す。
「ガリュー!フルパワー!!」
メガーヌの命令を聞きガリューの体の至る所から牙の様な刃が現れ次の瞬間、
矢の如き速さで懐にはいると、左の正拳が体の中心辺りを貫く、
更に回転し左肘、右膝、左後ろ回し蹴りと叩き込み更に、
右アッパーで顎を打ち上げる、化け物の顎が跳ね上がると、
左の踵で顎を引っかけると弧を描くように持ち上げ頭を床に叩き付けた。
叩き付けられた頭は砕け、頭を失った体は光の粒子となって消滅した。
メガーヌ達が化け物を撃破した直後、爆発音が響く。
メガーヌは爆発音がした方向を振り向くと自然落下していくアリューゼの姿があった。
あの爆発では助かってないだろう、半ば強引に自分を納得させ出口に向かった。
上空でターゲットを探しているチンク、その目に出口に向かっていく二つの姿を発見し後を追った。
出口手前まで来ると後ろから気配を感じ振り向くとチンクの姿があった、
メガーヌはガリューを使って応戦を始める。
チンクとガリューの高速肉弾戦が続き、ゼストは青年との戦いの中、考え始めた。
このままでは埒があかない、此処は一つメガーヌを脱出させる為にあの戦闘機人を撃破しよう、そう考えていた。
連続の戦いに双方疲れが見える中、チンクはガリューの一瞬の隙を付きとどめを刺そうとしていた。
「これで終わりだ!」
「させん!!」
後方で叫ぶゼスト、次の瞬間チンクは宙を舞いゼストはいつの間にか床に移動していた。
フルドライヴ、ゼストの切り札であり自信の能力を強制的に高めて攻撃する、体の負担を完全に無視した技である。
ゼストはその場で膝を付くと口端から血が垂れる、どうやら内蔵をやられたらしい。
そして宙を舞ったチンクは頭を床に叩き付け、そのまま力無く倒れていた。
その状況を見た青年は思わず叫ぶ。
「っ!!レナァァァァァァァァァス!!!!」
青年は急いでチンクに駆け寄る、チンクの状態は悪く右目は完全に潰れていた。
「は………かせ………申し訳…………御座い………ません」
「もう喋らなくて結構です、ゆっくりお休みなさい」
そう告げると安心したかのように眠るチンク、青年はゆっくり立ち上がると肩を震わせている。
「よくも……よくも私の“レナス”を!!許せん!!!!」
振り向いたその目には怒りと憎しみが宿っていた。
次の瞬間、青年の体から魔力が溢れ出し、左手に持っていた魔導書が輝き出す。
魔導書は柄の両端に両刃の刃がついた槍に変化し、右手に収まる。
青年はゼスト達に向けて槍を振り払うと強烈な衝撃波を生み出す。
その強烈な衝撃波は瞬く間にゼスト達を吹き飛ばし壁に激突、
ゼスト達は血反吐を吐き床に倒れ込んだ。
ゼストは先程のフルドライヴで内蔵をやられ更に衝撃波で左腕、左足を骨折していた。
「まずは貴様からだ」
青年はゆっくりとゼストに近づいていくと、メガーヌがゼストの前で両手を広げ立ち塞がっていた。
どうやらガリューがとっさにメガーヌを庇い、先程の衝撃波から身を救ったようだった。
それでも衝撃波の影響は大きかったらしくメガーヌの足は震えていた。
「どけ………女」
「隊長を……殺らせる訳にはいかない!」
凜とした目で青年を睨みつけるメガーヌ、後方ではゼストが逃げろと叫んでいた。
その光景に青年は眼鏡に手を当て笑みを浮かべる。
「成程………女、貴様その男を好いている様だな」
「なっ何を言っている!」
「男も…満更では無さそうな様だしな」
「黙れ!!!」
ゼストは吐き捨てるかのように叫ぶと、
青年は見下ろすような目線で笑みを浮かべ言い放つ。
「そうだ!良いことを思いついた…今この場でこの女を“犯そう”」
「なっなんだと!」
「お前達にとって此ほどの屈辱はあるまい」
青年は槍を床に刺しメガーヌの前に向かうと、右手で胸ぐらを掴み服を引き千切る。
すると豊かな胸が顕わになり、メガーヌは両手で胸を隠しその場にへたり込んだ。
しかし青年は左手でメガーヌの髪を掴み挙げると、あまりの痛みに青年の左手を掴むメガーヌ。
その隙に右手を胸元にかざすと赤い呪印が現れる。
そして赤い呪印が輝き出したその時―――
「あっああああああああああああああああっ!!!!」
「メガーヌ!!!」
「う〜ん良い声で鳴く、それでこそ“犯し概”があると云うもの」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
「まだだ、まだイカセはしない、じっくり…じわじわと“犯してやる”」
「ああああああああああああっ!!!!」
メガーヌの悲痛な叫びが辺りに木霊する中、ゼストは右手に持つ槍を強く握り締めた。
511 :
代理投下:2008/12/14(日) 20:42:46 ID:lz0W0sIf
「では…そろそろイキなさい」
そう告げると胸元の赤い呪印は更に輝き出し、
呪印の上に光り輝く球体が現れる。
そして輝く球体は直ぐ様結晶化し、青年の手の中に落ちる。
「貴様!メガーヌに何をした!!」
「なぁに、輸魂の呪で魂を取り出したまでですよ」
「魂を…だと!!」
輸魂の呪、これを用いれば魂を自在に扱えると青年は説明する。
だが、本来苦しむハズが無い輸魂の呪だが、青年は手術の麻酔のような役割を持つ呪式をあえて消し、
魂が引き剥がされる苦しみを与えたのだと言う。
「この……悪魔め!!!!」
「よく言われます、さあ次はあなたの番です。」
そう告げると、メガーヌの魂を床に捨てゼストの方へ向かっていく。
ゼストは動く右手で槍を投げるが、難なく避けられ右手で頭を掴まれると同じ呪印を施される。
「“魂が犯される”気分、存分に味わいなさい」
「ぐっぐああああああああああああ!!!!」
「フフフ……フハハハハハハハハハ!!!!」
ゼストの悲痛な叫びと青年の狂った叫びが辺りに木霊する。
ゼストが叫び終わると青年の手にはゼストの魂が乗っていた。
青年は無造作に魂を捨てゼストの遺体に手を向ける。
「待ちたまえ、レザード」
急に響く声、するとレザードと呼ばれた青年の目の前にモニターが表示される。
「………何のようですドクター」
「君はその遺体をどうするつもりかね?」
「そうですね……焼いて不死者の餌にでもしますよ」
「それは勿体ない、どうだろうその遺体私にくれないか?」
「どういう事です?」
ドクターは今から研究しようとしているレリックウェポンの被献体として、
S+クラスの魔力持ちとAAでレアスキル持ちである二人の遺体が欲しいのだという。
被献体としてボロボロにされるのもまた一興、そう考えたレザードは申し出を受ける。
二つの遺体を移送方陣で送ると、レザードはチンクを抱えこの場を後にした。
静寂が包む中、一人の男が立ち上がる。
痛む右肩を押さえ左足を引きずりながら、二つの魂の結晶を拾い集める。
「ゼスト………隊長……メガーヌ………副隊長……」
二人の魂を握り締めながら、その場でうずくまり呟くアリューゼであった………
512 :
代理投下:2008/12/14(日) 20:43:24 ID:lz0W0sIf
以上です。レザードはやっぱ変態だったってな回でした。
レザードが青年で表示してるのは、一応管理局目線と考えてくれるとありがたいです。
本編から八年前はもう少し続きます。
あと誤字、脱j(ry
ではまたです。
GJ
博士なら、博士なら潰れた目も何とかしてくれる・・・!
しかしアリューゼを見て何も思わなかったのかな?
こんばんわです。レザポ様に続き、22時30分頃、ラクロアを投下したいとおもいます。
よろしくお願いいたします。
騎士ガンダムktkr
支援
高天氏待ってました!!
支援します!!!
支援するぜよーーーー!
待ってましたですよ
最近騎士ガンダムはDVDやらカードダス復刻と
燃えてますねえ
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者
第15話
「が・・・・あ・あ・あ・あ・・・・・」
首に掛かる圧迫感に一気に目が覚める。
手を動かし、自分の首を絞めている手を退けようとするがビクともしない。精々引っかき傷を作れるだけ。
目を見開き、どうにか酸素を取り込もうとするが上手くいかず、
見えるのは嬉しそうに自分の首を絞める銀髪の女性の姿だけ。徐々に目がかすみ、意識が薄れてゆく。
「・・・・や・・・め・・・・・・」
ここで初めて、自分は『死』というものを軽視していたと感じた。
自分は何時死んでも可笑しくない。だから死ぬ事なんて怖くない。今思う、何て愚かだったのかと。
とても苦しい、意識が遠のく感覚が気持ち悪い。目を閉じたら二度と光を見る事ができない恐怖感
「い・・や・・・・しに・・・た・・・く・・・・・ない・・・・」
涙を流し懇願する。手を伸ばし、必至に『やめて』と懇願する。
だが、絞める力は変わることはなく、はやては自分の力が急速に抜けてゆく感覚に襲われる。
腕は力を失い垂れ下がり、瞼がゆっくりと閉じる。そして
衝撃波が放たれ、闇の書の意思は真横に吹き飛ばされた。
「ちっ!?」
「っ!げほっ!げほっ!!」
受身と舌打ちを同士にしながら、衝撃波が放たれた方を忌々しく見つめる闇の書の意思。
圧迫から開放され、咽ながらも涙目で必至に酸素を取り込むはやて。
意識は依然朦朧としてるためか、バランスを維持する事が出来ず、体をゆらゆらと動かしながら前のめりに倒れてしまう。
車椅子から倒れ、床に叩きつけられても、口から唾液を吐きながら咽る。
床に叩きつけられた痛みなど忘れてしまう。とにかく苦しい、この苦しみが何時まで続くのか・・・・でも死にたくない。
そんな時だった、はやての背中に誰かの手が乗せれたのは。
とても暖かな手、その暖かさが背中を伝わり、体全体に広がる。
「・・・・あたたかい・・・・」
いつの間にか咽る苦しさから開放されていた。首を絞められた時の強い圧迫感も徐々に引いていく。
涙で濡れた目を擦りゆっくりと体をおこす。
「・・・はぁ・・はぁ・・・・あの・・ありがとうござ・・・・」
そして、この苦しみを和らげてくれた人物へと顔を向ける。だが、その顔を見た瞬間、
あの時の、首を絞められた時の恐怖が一気に蘇った。
自分を助け、痛みを和らげてくれたその人は、銀髪の美しい女性、自分の首を絞めた人物と瓜二つなのだから。
「ひっ!!」
恐怖に顔を引きつらせ、離れようとする。だが、動かない足では逃げる事などできない。
いや、そもそもこの場所から逃げる事など出来るのだろうか?
辺りを見回しても、出口など見当たらない、一面ほの暗い景色に支配されている。
「はははは!!無理無理、貴方は此処からは逃げられない・・・・だから、とっとと死んで!!!」
はやての心を見透かしたかのように答えた闇の書の意思は、笑いながら攻撃を放つが
その攻撃は、はやての前に出たもう一人の闇の書の意思により阻まれる。
はやては混乱していた、同じ顔の二人の人物に命を狙われたり、助けられたり、一体何がどうなっているのか・・・いや、
「・・・・・なんや・・・・わかる・・・・なんでや・・・・・」
なぜだろう・・・・・一度も会ったことのない人物、それなのに彼女達が何者なのか分かる。
まるで最初から知っていた事を急に思い出した様な感覚に戸惑いながらも、確認するかの様に名前を呼ぶ
先ずは自分を守ってくれた女性を
「闇の書の・・・・管制人格・・・」
そして、今度は自分に明確な殺意を向けている女性の名を呼ぶ。
「闇の書の・・・・・闇・・・」
管制人格と呼ばれた方は、静かに頷き、闇と呼ばれた女性は獰猛にニヤつく。
「そう、こうやって会うのは始めてかしら?現マスター八神はやて。まぁ、そっちの管制人格はちょくちょく貴方にあっていたけど
思い出せない?ああ、会うたびにそいつが記憶を消してるから無理ないか?でも、心当たりがあっただけでも立派なものよ」
「そうか・・・・どうりで会った事があると思ったんや・・・・せやけど、納得できへん。なんでアンタが存在するんや?」
闇の書の闇は防御プログラムの暴走部分、本来だったら管制人格と一緒になっている筈、主である自分が承認しなければ切り離す事など不可能。
否、それ以前に防御プログラムは所詮ただの防衛機能、守護騎士達の様な意思はない。だが、彼女の存在がその考えを否定する。
「アンタは壊れた防御プログラムそのもの、純粋な破壊行動のみで人格なんかあらへん・・・・・そのうえ、私が認証してもいないのに、
管制人格から切り離されてる・・・・・どういうことや!!」
急に頭の中に入り込む知識、おそらく闇の書のマスターとして覚醒したため、基礎知識として入り込んだのだろう。
だからこそ納得できない、彼女の存在が。
真剣な顔で尋ねるはやてに対し、闇の書の闇は眠そうにあくびをした後、詰まらそうに答え始める。
「ふふっ、先ず間違っている事があるわ。私はね、最初から人格はあったの。そこの管理人格やシグナム達の様にね、
まぁ、ヴォルケンリッターが気が付かないのも無理は無いわ。彼女達は私に意思があるとは思っていないから」
ニヤつきながら二人見据える闇の書の闇。その目線をはやては悔しそうに睨みつけながら見つめ返す。
「まぁ、元々私は闇の書から生まれたわけではないわ。夜天の書が『闇の書』に改造された時に付属されたプログラム
そのプログラム・・・・・まぁ、私ね、その私が本来あった防御プログラムと融合して出来たのが、現在の闇の書ってわけ?理解した?」
「ご親切にどうも・・・・親切ついでにもう一つええか?アンタを生み出し、夜天の書を無茶苦茶にした人の目的はなんや?」
「さぁ?もう憶えてないわ。なんか力がどうとか言っていたから、純粋に力が欲しかったのかもね。まぁ、そのマスターも私が殺しちゃったし」
笑いながら、軽々と自分を創った主を殺したと言い放つ闇の書の闇に、はやては初めて敵意をむき出しにする。
仮にも自分を産んでくれた親の筈、なぜこうもあっさりと言えるのだろうか?
「なんで・・・・なんでそんなあっさり言えるんや!!!アンタを産んでくれたんやろ!!親とちゃうんか!!?」
「えっ?だって、私は純粋に仕事をしたまでよ。マスターの『その力を存分に振るえ』って命令を。だから私の生みの親は
栄光ある第一号になったわけ。まぁ、最初は上手く取り込めなかったから、随分もがき苦しんだけどね。あの時は五月蝿かったわ。
『助けてくれ〜』とか『私の命令に従え〜』とか・・・・・・うん、ウザかった記憶しかないわ」
罪悪感など微塵も感じさせない態度・・・否、罪悪感などあるのだろうか?
はやてを支配していた怒りは徐々に抜けてゆく、その変わりとして入り込んでくるのは純粋な恐怖。
そんなはやての表情に満足したのだろう、闇の書の闇はニヤつきながら再び話し始める。
「本当は主であるアンタを消して自由を手にし、いつも通り生物を殺して犯して取り込んで、悲鳴や断末魔の叫びを思いっきり堪能したいんだけど、
八神はやて、あんたという存在がちよっと面倒なのよね」
「私の存在が・・・面倒?」
「そう、今までの主はどんな願いにせよ自分の欲望に忠実だった。だからこそ、闇の書の力を手に入れようと躍起になった。
闇の書が完成した後はね、主は皆此処に来るの。そして私が甘い言葉で誘うわけ、当然皆乗るわ。当たり前よね、自分の欲望を満たせる力が手に入るのだから。
あとは簡単、緩みきった主を取り込む・・・・まぁ殺すわけよ。でもね、今までの主と違って、アンタには欲が全く無い。
守護騎士がいればそれで満足なつまらない子供。それでも管理者権限がある以上、アンタを殺る事は変わりはしないんだけどね。
意識が朦朧としているうちに消そうとおもったんだけど、邪魔するのよね、こいつが」
忌々しげに管制人格を睨みつける。敵意をむき出しにしたその視線を、管制人格は見つめ返す事で受け止める。
「今までは自分は何も出来ないと知ってるから特に何もしてこなかったくせに・・・・まぁ、アンタ達は八神はやてを愛おしく思っている。
邪魔してくるのは当然ね。今までの主とは違い、優しさに溢れていたから。でもね、さっきも言ったけどアンタには何も出来ない・・・八神はやて、貴方にも」
ニヤつきながら軽く指を鳴らす。その直後、二人の体にバインドが施された。
「さて、暴走した今、全ての権限は私にある。でもね、それでもマスターであるアンタは邪魔なのよ。八神はやて、色々邪魔だから・・・・くたばって。
私はとっても優しいから、せめてもの情けにお友達の魔法で逝かせてあげるわ」
何も出来ず、ただもがくだけの二人を満足げに見つめた後、闇の書の闇は魔法陣を展開、周囲に黄金色の光の弾を無数に出現させる。
激しいスパーク音と光。はやてに恐怖を与えるのには十分なシチュエーション。
「フォトンランサー・ファランクスシフト・・・・・・・安心して、痛みを感じる間も無く・・・・逝けるからさぁ!!!!」
黄金色の光弾が一斉に放たれる。それは動けないはやてに向かって容赦なく迫る。自然と目を瞑り、体をこわばらせる。だが、彼女には直撃はしなかった。
爆発音と痛みから来る悲鳴だけが聞こえる。ゆっくりと目を開けたはやてが見たのは、体から煙を漂わせ血を滴り落としてる管理人格が、
ゆっくりと崩れ落ちる姿だった。
「・・・・・・・いや・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
体が拘束されているため、ロクに動く事ができない。それでも、体を芋虫の様に動かし、管理人格へと近づく。
面白い光景だと思っているのだろう。闇の書の闇はニヤニヤしながらその光景を見ていた。
「いやや!!!せっかく会えたのに・・・・・こんなの嫌や!!!『リインフォース!!!』」
主の叫びと、聞きなれない言葉に、失いかけていた意識を無理矢理繋ぎとめる。
閉じそうになった瞼を無理矢理こじ開け、ゆっくりと首だけをはやての方へと向けた。
「・・・・・ある・・・じ・・・・・『リインフォース』とは・・・・一体」
「・・・あんたの名前や!!『管理人格』なんて変やろ、シグナム達にはちゃんと名前があるのにアンタだけ無いのは可笑しい。
リインフォースもシグナム達と同じ、私の家族や!だから死んだらアカン!!お願いや!!」
手で、血で汚れた彼女の頬を拭いたい、ぬくもりを感じたい。だが、体が拘束されているためそれも出来ない。
せめてもと、はやては自分の頬をリインフォースの頬に静かに合わせる。温もりを感じるために。
そのぬくもりはリインフォースへとも伝わった。その暖かさに自然と胸が熱くなり、瞳から涙が流れ落ちる。
「私は・・・・・私は・・幸せです・・・・。この身で主を守る事ができて・・・・素晴しい名前をもらう事ができて・・・・・(はいはい!感動タイムはそこまで〜!!」
大きく手を叩き、二人をこちらへ振り向かせる。そして二人が注目したのを確認した後、再びフォトンランサー・ファランクスシフトを展開する。
リインフォースは咄嗟に体を動かし、はやてに覆いかぶさる。自らの血で主の衣服が汚れてしまう事に変に罪悪感を関してしまう。
だが、一向に攻撃は来なかった。闇の書の闇はその光景を見た後、発射寸前の魔法を消し、リインフォースに再びバインドを施す、
そして上空にテレビモニターの様な者を出現させ、そちらへと体を向けた。
「まぁ、いるだけの管理人格と力をロクに使えない主、何時でも料理は出来るから後回しとして、今は新しい体を手に入れる事を第一にしないと」
映し出されているのは外の映像、辺り一面は海、遠くに見える町は海鳴市だろう。だが、その海鳴市も火災が起きたかのように真っ赤に染まっている。
目を凝らしてみると、地中から火が噴出しているのが分かる。だが、はやての目は直ぐに別の物へと向けられていた。
「な・・・なのはちゃん!!」
今日すずか達と一緒に自分のお見舞いに来てくれた少女、自分と友達になりたいと言ってくれた時はとても嬉しかった。
そんな彼女がボロボロの姿で映し出されている。空を飛び、足からピンク色の翼を生やし、杖みたいな物をもっている。
「彼女が新しい体の第一候補、高町なのはよ・・・・・自動防御プログラムがいい感じに痛めつけてくれている。もうそろそろ再起不能にするからゆっくり見ていて」
戦闘が再開される。だが、正に防戦一方な展開。堪らずはやては叫ぶ、なぜこのような事をするのかと、
その問いを待っていたのだろう。そして答えたくて仕方が無かったのだろう。闇の書の闇は振り向き、心底嬉しそうに答え始める。
「私はね、暴走した後消滅させれれて、転生してまた主を食い尽くす。こんな連鎖に飽きちゃったのよ。もっと長く破壊を楽しみたい。
でもね、結局はアルカンシェルで吹き飛ばされて御終い。だから私は抜け出すのよ、闇の書から。既に管理人格から切り離されてるから私は自由。
後は優秀な魔道師の体を乗っ取て肉体をゲットってわけ。ああ心配しないで、管理人格には私の一部があるからちゃんと暴走はするわよ。それを管理局がいつもの通り
アルカンシェルでズドン!!一件落着ってわけ。いえ、無限再生機能と転生機能を兼ね備えてる私がいなくなるから、もう闇の書は終りってことね」
闇の書が今まで破壊されず、一級指定のロストロギアと言わしめたのはこの二つの機能があったからこそ。
仮にこの二つの機能が無くとも、『一級指定のロストロギア』という肩書きは失われない。だが、壊れれば失われる『物』へと変化してしまう。
「闇の書という呪縛から逃れた私は、羽を伸ばして堪能するわ。破壊と殺戮を、あの子の体を使ってね。私を知る存在が消えた後では
彼女がトチ狂ったとしか思わないでしょ?彼女の仲間や家族はどう思うかしらね?殺される瞬間に・・・・・さて、そろそろかしら」
何かが叩かれる音に自然と映像の方へと目を向ける。
そこに映し出されたのは、海に真っ逆さまに落ちるなのはの姿だった。
「・・・あれ・・・」
「・・・・ここは・・・?」
光が晴れたため、ゆっくりと瞳を開ける。先ほどと変わらないほの暗い街並み、だが、
あの女性やなのは達、そしてナイトガンダムの姿は何処にもなかった。
「ガンダムは・・・なのはは・・フェイトは・・・・何処行ったの!!」
アリサは叫びながら辺りを見回す。だが、辺りには誰もおらず、ただ声だけが木霊するだけ。
一度舌打ちをした後、未だにへたり込みながら辺りを見渡すすずかの腕を掴み立ち上がらせる。
だが、出来たのはここまでだった。正直これからどうしたらいいのか分からない。
辺りを見回したが、この場所には見覚えがある。だが、先ほど自分達がいた場所からかなり離れている。
「何?私達ワープでもしたっていうの?」
「・・・わからない・・・でも、此処ってあの場所からかなり離れてるよ」
あの時ナイトガンダムは『転送』といっていた。おそらく自分達をあの場所から避難させたのだろう。
その判断は正しいと思う、自分達がいても邪魔なだけだ。
それは分かっている・・・・・だが、悔しい・・・・・何も出来ない自分が。
ガンダム達は命を賭けて戦っているが、あの様子からでは間違いなく苦戦している。
「何か出来ないの・・・・・・・私達に・・・・」
出来るはずが無い、嫌でもわかる事だ。学校では優秀と持て囃されているが所詮子供、何が出来るというのか?
『他人の心配より、自分の心配をしていろ』アニメやドラマで聞く台詞が自分の心に木霊する。
徐々に大きくなる無力感。せめて発散させようと、父親に拳骨を喰らいそうな汚い言葉を大声で叫ぼうとするが
「・・・・石版・・・・」
すずかの呟きが、そんなアリサの行動を押さえ込んだ。
すずかもまた考えていた、自分達に何か出来ないかと、だが結果はアリサ同様無力感に苛まれるだけ。
自分は他の人とは違う、だが、あんな相手と戦えるわけが無い。むしろ皆の邪魔になる。
「(せめて・・・・私にノエル達の様な力があれば・・・・・)」
皆の邪魔にならない様にジッとしているしかないのか・・・そう思った。だが
先ほど内心で呟いた言葉に、すずかは目を見開き反応する。
「(・・力・・・・そうだ・・・・)・・・・石版・・・・」
その存在を知ったのはナイトガンダムと出会って間もない時だった。
ナイトガンダムと一緒に落ちてきた欠けた石の板、ノエルのサーチでも解読不可能という事が忍の興味を引いた。
だが、一晩自室に篭り調べてみたが、結局は解らずじまい。
それでもどんなものか知りたかったのだろう、忍が拝むように手を合わせナイトガンダムに尋ねてみると、意外と彼はあっさりと教えてくれた。
「・・・これは、ラクロアに伝わる『選ばれし者に絶大な力を与える』石版の欠片です。おそらく此処に来る時に割れたのでしょう・・・・」
「えっ!そんな大事なものなら探さないといけないんじゃ?」
割れた石版を両手に持ち、静かに見据えるナイトガンダムに、忍は慌てながら尋ねる。
だが、ナイトガンダムは特に慌てもせず、ゆっくりと石版をテーブルに置く。
「・・・いえ、その必要はありません。これは過ぎた力、私には不要なものです。それにこれは二つが揃って初めて効力を発揮します。
割れた状態では、ただの石です。悪用はされないでしょう」
「・・・でも、割れていて・・・・・残りの破片が無いと・・・・・」
自分が知っている事をすずかはアリサに全て話す。だが、その残りの欠片が無いのでは意味が無い。
そのためか、話が終るにつれ、すずかの声のトーンが下がってゆく。
「石版の・・・・破片・・・・・・・ああああああ!!!!もぁ!!!!」
話が終った瞬間、アリサは頭を掻きながら地団太を踏む。突然の大声にびくつきながらも、
自分の話に怒ったのではないかと思ったすずかは、咄嗟に誤ろうとするが、
「ごめん!!すずか!!!」
先に謝ったのはアリサだった。
「私・・・その残りに心当たりがある!!欠片よね?あの時、空から落ちてきた奴かもしれない。
ただの石だったら自慢にならないと思って話さなかった。ああもう!!数週間前の私のバカバカ!!!」
無意識に自分の頭を叩く、だが、今はそんな時間も欲しい、自分達にも出来ることがあるのだ。
ガンダムを、なのはを、フェイトを助ける手段が。
「とにかく急ぎましょ!この場所からだと、私の家の方が近いわ。何があるか分からないから、一緒に!!」
「うん!!」
二人は手を取り駆け出す。勝利のカギを手に入れるために。
・海上
ガラスが割れるのと同じ音が響き渡る。
自信があった防御魔法が砕かれ、拳が自分の顔に迫る。
咄嗟にレイジングハートの柄で防ぐが、勢いは殺すことは出来ずに吹き飛ばされた。
バリアジャケットの効果が無ければ、間違いなく即死してしまうほどの勢いで海面に叩きつけられる。
「・・・こ・・・のぉ!!!」
今までの戦闘から、バリアジャケットの効力もかなり落ちている。体の彼方此方が痛むのがその証拠。
リアクターパージをして上着が無いのだ、贅沢は言っていられない。
逆立ちを失敗して受身を取らずに床から落ちたと思えば、何て事は無い。
「アクセルシューター!シュート!!」
弾ける様に海面から飛び出し、即座にカートリッジをロード、誘導操作魔法アクセルシューターを放つ。
本来は思念操作を前提とした誘導弾。だが、今回は誘導操作はせずにとにかく数を放つ。
それは正にフォトンランサー・ファランクスシフトのアクセルシューター版。そのあまりの多さに、弾丸ではなく一つの壁となって襲い掛かる。
彼女との戦闘でわかったこと、それは動きを止めてはいけないという事。
自分が近接戦闘が苦手なタイプだとこの戦いで知ったのだろう。必要以上に接近戦を仕掛けてくる。
その彼女の戦闘スタイルは砲撃を主体とする自分には正に天敵だった。
砲撃をするには必ず動きを止めなければならない。照準、チャージ時間、放った後の衝撃、どれも避けられない行為。
思念操作もそうだ。相手の攻撃を避けなら思念操作をするなど、今の自分にはまだ完璧には出来ない。
それらの欠点を解消するための切り札である防御とバインドも全く通用しない。
バインドは直ぐに破られてしまい、2秒も拘束する事ができない。
防御魔法も、先ほどの様に正面から砕かれてしまう。
本来自分の戦闘スタイルはアクセルシューターによる思念操作攻撃で相手をかく乱し、
隙を見てバインドで拘束、そしてトドメの砲撃という戦闘スタイルである。
仮に攻撃を受けても、得意の防御魔法で防ぎ、その間にアクセルシューター、もしくは砲撃によるカウンターを仕掛ければいい。正に強固な固定砲台(クロノ曰く)
この戦闘スタイルにより、魔力は上であっても、実力、経験、技量、全てにおいて負けていたフェイトにも勝つ事ができた。
だからこそ、なのははこの戦法に磨きをかけていた。より強い砲撃を放てるように努力し、より強固な防御を作れるように努力し
より多くの誘導弾を思念操作できる様に努力した。
自分は稀に見る天才だとリンディ提督やクロノが褒めていたが、なのはは自分が天才だと思った事は一度もない。
仮に天才だからといっても勝手に強くなるわけではない。天才でも努力し、自分を磨かなければ強くはなれない。
自分は優秀だと認め、何でも出来ると思い込んでいる人間は最弱だ。
父である士郎が兄である恭也、姉である美由希によく言っていたことを思い出す。
だからこそなのはは努力を続けている。だが、その努力も目の前の相手には通用しない。
自分の攻撃は確かに当たっているのだが、彼女はそんな事を気にせずに攻撃を仕掛けてくる。
当たっても顔を顰めるどころか全くの無表情。黙々と攻撃を仕掛けてくる。
「(・・・・もう・・・・ACSしかない・・・・・)」
ダメージは蓄積されている筈、仮に痛覚が無いのだとしても、体は正直に反応する、自分の行動は無意味じゃない。
先ほど放った大量のアクセルシューター、先ず間違いなく直撃するだろう。
あれだけの数、当たったら唯では住まい。必ず防御する筈、そのときが唯一のチャンス。
「レイジングハート!!アクセルチャージャー機動!ストライクフレーム!!」『OPEN』
カートリッジを連続でロード、レイジングハートに計6枚の光の羽を出現させ、先端に魔力刃「ストライクフレーム」を形成。
後は彼女がアクセルシューターを防ぐために障壁を張ったら突撃、あれだけの攻撃を正面から防ぐのだ、彼女の障壁も脆くなる筈、
その後、自分のACSで脆くなった障壁を破壊、零距離からエクセリオンバスターを放つ。
行動は頭の中でシュミレートした、レイジングハートも問題はないといってくれた。
ならあとは行動あるのみ、彼女が障壁を展開した瞬間、一直線に突撃するだけ。
だが、自動防御プログラムの行動は、なのはやレイジングハートの考えとは全く違っていた。
迫り来る無数のアクセルシューター、避けられないと感じたら防御するため、障壁を張るだろう。
だが彼女は違った、彼女は防御する所が、みずからの体をその桃色の壁に突撃させてきた。
一瞬、彼女が何をしたのか理解できなかった。あの中に突っ込むなど、自殺行為にも程がある。
仮にフィールドを張っていたとしても無視できるレベルではないからだ。
『マスター!!!』
レイジングハートの叫びで我に変える、その時には彼女がアクセルシューターの壁を突破し、自分へと迫ってきていた。
シュミレートした結果とは全く違うが、やる事に変わりは無い。
むしろ好都合だと思う。あんな無茶な突撃をしたのだ。ダメージはかなりの物、その上、相手は防御体制を取ってはいない、
直接ACSを叩き込む事が出来る。
「よし・・・勝てる!!!」
勝利を確信したのか、自然と顔が綻ぶ。だが、直ぐに顔を引き締め突撃体制に入る。
自動防御プログラムが、何かを投げたのはその時だった。
一瞬警戒するも、よく見たらただの鉄球。確かに自分目掛けて飛んでは来るが、さほど脅威は感じない。
「エクセリオンバスターACS!!ドライブッ!!!」
そのまま突撃し、破砕してしまえばいい。そう結論付け、なのはは突撃を開始、
桃色の羽を羽ばたかせ、一つの矢となって自動防御プログラムに迫る。途中、軌道上にあの鉄球が迫り来るが、軽々と粉砕する。
だが、その直後
「えっ?」
激しい光と爆音がなのはを襲った。
自動防御プログラムが投げはなった鉄球、それは鉄鎚の騎士ヴィータがかく乱や撤退の時に使う
空間攻撃『アイゼンゲホイル』の機動キーだった。
鉄球に一定の衝撃、もしくは破壊されると発動する仕組みとなっており、発動した瞬間、辺りに閃光と音による強力なスタンを発生させる。
なのははその攻撃をヴィータとの戦いで受けたことがあるが、その時は自分がいた場所と発動した場所とに距離があったこと、
そして咄嗟に耳と目を保護したため、対したダメージを受けることは無かった。だが今回は違う、不意打ちとも言える状態、しかも至近で喰らったのだ、唯ではすまない。
まず両耳の鼓膜が破れた。そして激しい光で視力が一瞬失われる。その結果、ロクに音を聞き取る事も出来ず、目も全く見えない。
なのはは一瞬で五感の内の二つをほぼ失う事となった。その恐怖はAAAランク魔道師とはいえ、まだ9歳の少女には抑えきれない恐怖となって襲い掛かる。
「あ・・ああ・いやぁぁぁぁぁ!!」
加速を止め、叫びながら必至に目を擦る。敵が接近している事、止まらずに後退することなど、レイジングハートが音声を大きくして報告すが。
なのはは聞く耳を持たなかった。鼓膜が破れているといえ、完全に声が聞こえないわけではないが、パニックになっているなのはには、雑音としてしか聞こえない。
だが、真っ暗だった視界が徐々に回復してくると、なのはは少しづつ落ち着きを取り戻していった。
徐々に見慣れた海面が見える事に、心から安心感が芽生えてくる。同時にいつもの冷静さも取り戻しつつあった。
そこでなのははようやくレイジングハートが何を喋っているのか理解できた。
『Run away』
咄嗟に俯いていた首を上げる。目の前には黒い服を着た女性。
ドゴッ!!
その直後、腹部に衝撃と今まで感じた事ない痛みが襲う。
「げほっ!!」
一瞬息が止まり、その代り口から胃液を吐き出す。自然と目線を下へと向けると。
彼女の魔力を纏った拳が、自分の鳩尾にめり込んでいた。
苦しい、とても痛い。痛みに顔を顰め、目から涙を流しながらも、必至に距離を開け様と後ろへと下がる。
その直後、自動防御プログラムは拳をなのはの体から離し、回し蹴りを放った。
手加減など一切無い強力な蹴りはなのはの頭に容姿なく直撃。
並みの人間なら、首が折れるどころか、首が吹き飛ぶほどの衝撃がなのはに襲い掛かる。
直撃した瞬間、叫び声をあげる間も無く意識を失い、錐もみをしなら落下、再び海面に叩きつけられた。
・?????
「・・・・ん・・・・・ここは・・・」
ゆっくりと瞳を開けるが、太陽の眩しさに負け咄嗟に瞳を閉じる。
手で顔を覆い、目が慣れる様にゆっくりとあけた後、上半身を起こした。
「・・・ここは・・・」
空は不気味なほど青く、雲は一つもない。
回りは一面草原で所々に木や岩が飾られている様にあり、遠くには森が見える。
何処かで見たような景色・・・・いや、見た事がある、忘れる筈がない。
「まさか・・・・ここは!?」
自分の考えを確信させるため、辺りを見回す。目的の物はすぐに見つかった。
草原の真ん中に不自然にある岩の壁、それは国の領土を表し、モンスターや盗賊の進入を防ぐための城壁。
間違いない、あそこは自分が助けたフラウ姫の父、レビル王が統治する王国。
その城壁に守られている国の名を、ナイトガンダムは声を出して呟いた。
「・・・ラクロア・・・王国・・・・」
自然とラクロア王国目指して歩み始める。
そもそも何故自分は此処にいるのだろう。確かサタンガンダムの討伐に向かい・・・その後・・・・
「お〜い!!ナイトガンダム〜!!!」
突然名を呼ばれたため、無理矢理現実に戻される。声が聞こえた正面を見ると、1人の人物と1人のMS族がこちらへと近づいてくる。
直ぐに誰だか分かった。間違える筈がない。共に旅をし、共に戦った仲間の事を
「騎士アムロ!!戦士ガンキャノン!!」
自然とナイトガンダムも走り出し、彼らの元へと行く。
色々聞きたい事があった。何故自分が此処にいるのか?自分は今まで何をしていたのか?
だが、ナイトガンダムが尋ねる前に二人は一方的に話し始める。
「まったく、お偉いさんの長ったらしい感謝の言葉を聞くのが面倒だからって、こっそり抜け出すのは勇者としては失格だぞ!」
「だけどその気持ちは分かるけどね。でも、皆感謝してるんだ、サタンガンダムを倒した君に」
「まっ・・・まってくれ!!話が掴めない・・・・サタンガンダムを倒した後、私はどうしていた?」
サタンガンダムを倒した時の記憶はある、だが、その後が思い出せない・・・・・いや、ぼんやりと誰かの姿が頭の中に移し出される。
それを必至に思い出そうとするが、突然、ガンキャノンが頭を軽く叩いた為、有耶無耶になってしまう。
「何ぼっとしてるんだ!?サタンガンダムを倒した後、普通に此処まで帰ってきただろ?まぁ、お前は力を使いすぎて途中で気を失ったけどな」
「あの時はびっくりしたよ。でも、その後はモンスターに襲われる事も無く君を運んでラクロアまで帰ることが出来たんだ。
石版はタンクが封印魔法を施してレビル王に献上した。あれはラクロアに伝わる物だからね。飾っとくらしいよ」
二人が嘘を言っているとは思えない・・・否、嘘をつく理由がない。
そうなると、自分はラクロアに帰国した後、抜け出して此処で寝ていた事になる。
「まぁ、お前は意識を失う程に疲れていたからな・・・・・帰国までの記憶も曖昧なんだろ。でも、俺達の事は忘れてないよな?」
「当然さガンキャノン・・・・しかしすまない、すこしぼんやりしていた・・・・」
頭を左右に振り意識をはっきりさせようとする。そんな態度にアムロは先ほどとは違い、心配な表情で尋ねた。
「体調が優れないのなら部屋で休むかい?みんなには報告しておくけど?」
「いや、大丈夫。調子が悪いというわけではないから・・・・それより行こう。やはり抜け出すのはよくない」
「それでこそ、真面目馬鹿の印象が目立つナイトガンダムだ!!最低3時間は続くぞ!覚悟しとけ」
一度ナイトガンダムの背中を豪快に叩いた後、ラクロア王国に向かって駆け出すガンキャノン。
それに続くようにアムロも走り出す。
ナイトガンダムも続こうとするが、なぜか皆の説明が納得出来ず、考え込んでしまう。
「・・・・・だが・・・何か・・・・大事な事を忘れているような・・・・・」
未だに心に引っかかるモヤモヤした感覚に戸惑いながらも、アムロの声に我に返ったナイトガンダムは二人に遅れないように走り始めた。
こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
編集、いつもありがとうございます。
職人の皆様GJです。
次回もなのはが目立つ予定です。今まで目立たなかったのでその鬱憤を晴らすかの様に
次は何時になるのやら・・・・orz
次回も期待!!
後天氏GJでした!
なのはが負けたー!? いや、ここから立ち上がってくれるのですね!
そして、ナイトガンダムは夢の中に?
シリアス続きで、息をするのを忘れていました。
これからも楽しみにさせていただきます。
それと、避難所の方で三次創作はもうOKという結論が出たようですので。
リリカルセイバーズ氏の、ウィッチブレイド(アニメ版)クロス 紫の魔女の支援SSを投下してもよろしいでしょうか?
セイバーズ氏からの許可は貰っております。
問題がなければ40分頃から投下を開始させていただきます。
>>525 闇の書の闇、人格持ちとは・・・
なのはと闇の書の戦闘、原作よりハードになってる。
そして復活するのか、伝説の三神器が!!!
そろそろ時間ですので投下開始します。
出来れば支援をお願いします。
ちょっとエッチですw
紫の魔女の落日
それはいずれくる破綻の時だったのかもしれない。
心が砕ける。
体が蝕まれる。
自我は歯止めを失い、魂は汚れつくして、飽くなき欲望は鎌首を上げて喝采を上げる。
殺せ。
殺せ。
犯し、冒し、侵し、侵食せよ。
走る、夜闇を。
「ァァァアアアア」
獣の唸り声が響き渡る。
紫蒼の風のような髪を振り乱し、彼女は跳んだ。
獣のように、しなやかにビルとビルの間を飛び抜ける。
彼女は声を洩らす、獣のように浅ましい声を。
「ハッ、ハッ、ハッ!」
跳躍、跳躍、跳躍。
風を切って、髪が乱れる、肌に食い込む風圧の感覚がどこまでも心地よい。
手を覆う金属の――不気味に脈動する呪われた刃が彼女の肢体を拘束し、喰い込み、犯していく。
陵辱されていた。
彼女は動きながら陵辱され続ける、侵され続ける、嬌声が甲高く声を超えた叫び声として響き渡る。
「もっと」
アスファルトの屋上に着地する。
四肢を使い、ダンッと着地の衝撃を殺しながら、少女はその装甲から露出した双球をぶるりと震わせて、恍惚に肌を歪めた。
舌を突き出し、外気に熱を吐き出す。
だけど、足りない。
熱が、熱が、熱が、篭りすぎて、頭の中身が茹で上がる。
「もっと、もっと!」
少女が吼える。
月夜に心奪われた人狼のように喉を震わせて、嬌声を上げる。
ピクピクと下腹部を震わせて、肺を絞り上げて、酸素と二酸化炭素と窒素の混じった化合物を吐き散らす。
少女の全身が月光に浮かび上がる。
それは美しくも痛ましい淫らな格好だった。
右腕は肉食獣が獲物を狩るために進化した鋭い爪のような装甲に覆われ、下腹部と乳房を除く部位にまるで茨のように締め付ける紫色の装甲が覆っている。
死人のように、或いは完成され尽くした人形のように白い肌は月光を反射し、人外じみた壮絶なる美貌を持っていた。
滑らかなる髪はまるで刃物のような鈍い光を放ち、その紅い血潮のような唇は恍惚の形に歪められ、その首から頬、目元にかけて走った稲妻型の模様はまるで戦化粧を施した戦いの神のように美しい。
されど、されど、その本性は獣にしか過ぎない。
魔性に堕ちた闇色の欲望に歪んだ獣欲者。
「ふふふ」
己の片手で自らの乳房を握り締めて揉み解しながらも、右手の爪を少女はしゃぶった。
唾液で舐め取り、爪を研ぐように、或いは恍惚に委ねる己の未来を想像したかのように、彼女は嗤う。
壮絶なる笑みを浮かべる。
「ん……来て」
その場でうずくまり、太腿を苦しそうに擦れ合わせる。
熱い吐息を漏らし、彼女は呟いた。
その耳に聞こえる、鋼鉄の獣の咆哮を聞いたから。
「来てよ!」
絶叫じみた叫び声と、その疾走音が現実となったのは同時だった。
ブォオオオンという耳を劈く咆哮音、それと共に彼女がうずくまる屋上の縁――そこから数台の鋼の騎馬が飛び出した。
「ギンガぁあああああ!!」
鋼の騎馬。
装甲に覆われた現代の騎馬たるバイクに乗った装甲服を纏った男たちが、ギンガと呼んだ少女に迫る。
だがしかし、彼女は。
「アハハハハ!」
笑った。
笑いながら、時速80キロを超える鋼鉄の暴力に喜びの旋律を喉で唸り上げて。
ダンッと飛び上がる。
「っ!?」
彼女は跳んだ。
高々とその肢体を晒し出すかのように、右腕、左腕、右足、左足、それらを肩関節と股関節の駆動を用いて同時に動かし、飛び上がった。
ムーンサルトのように放物線を描き、美しい魔女は空を舞い上がる、空に浮かぶ二つの月を足蹴にするかのように。
「っ!?」
「捕らえろ!!」
走りこんできた陸士たちのバイクが屋上に火花を散らしながら、ターンする。
ガチャリと音を立てて、デバイスが、スタンダンを装填したアサルトライフルが構えられるも。
「――楽しませてよ!!」
咆哮を上げる快楽の魔女には間に合わない。
疾走。唇から鋭い吐息を口笛を吹くように吹き出しながら、ギンガが着地した床に指を引っ掛け、それを取っ掛かりに自らをロケットのように飛ばした。
両足の変貌したブリッツキャリバーが、荒々しい肉食獣のような駆動音を立てて、コンクリートの屋上床を削り上げていく。
まさに疾風。
鋭く伸ばされた少女の右手の斬撃が、二台の陸士たちを切り裂き、バイクを切断し、吹き飛ばす。
「がっ!!」
「っ!!」
血潮が舞う。
ガリガリと陸士たちの居る場所を突き抜けたギンガが、床に脚と指を突き刺し、疾走を無理やりに停止させる。
孤を描くかのように紫色の髪を振り回し、彼女はその四肢を床に突き刺し、まるで扇情するかのような体勢で残った最後の陸士を見つめた。
「もっと」
唇がゆっくりと言葉を刻む。
呪いの言葉を吐き出すかのように、ギンガは目を歪めて、恍惚に染まった頬を動かし、呟いた。
支援
……エロス。
投下するとこ間違ってね?ww
「楽しみましょう?」
にたり。
見るもの全ての背筋を痺れさせ、常人ならば己の持つ黒い情欲を刺激されそうな、娼婦でも浮かべることのないだろうあさましい雌の表情。
だがしかし、それを見たフルフェイスの陸士は告げた。
「悪いが、恥女とやる趣味はねえな」
アサルトライフルを構える。
アクセルを廻し、ペダルを踏み込みながら、静かに告げる。
「後で泣かしてやるから、今のうちに好きなだけ吼えろ」
「つれないわね?」
「ハッ!」
陸士が静かな鼓動を鳴り響かせる己の相棒に命を託し、後輪が唸りを上げてコンクリートの床を噛み締め始める。
スタート。
疾走を開始し、爆音が夜闇に轟く。
「俺は清純派が好きなんだ!」
疾駆。
鋼鉄の騎馬が、己の乗り手の意思に従い、水媒体式のエンジンという心臓を鳴らして、走る。
雷撃の如きスタン弾が、即座に飛び退いたギンガの居た場所に打ち込まれて、電光を放った。
薙ぎ払うように振られる銃口、それから逃れる彼女の速度は早い。走り、跳び、バク転。己の身の軽さを証明するかのように飛んで、跳んで、笑っている。
ハイヒールのような靴、変わり果てたブリッツキャリバーの装甲靴でどうやってそのような動作を可能にしているのか。
常識を超えた運動能力。
されど、陸士は慌てない。ただ冷静に己の騎馬が誇る双輪の猛獣が回転し、彼が解き放つスロットルと共に加速。
距離を離して命中しないのならば、近寄って射ち込む。シンプルなルール。
「あは、挑むの?」
迫る、迫る、その鋼の騎馬にギンガは微笑み――突っ込んだ。
「なにっ!?」
真っ向からの特攻。
撥ねられることを恐れない、自殺じみた疾走。
それに陸士は驚きながらも――スロットルを上げた。
それが彼の命を救った。
激突。
僅かにでもスピードを緩めると判断したのか、それとも激突を望んでいたのか、ギンガの腹部に前面装甲がめり込む。
「ぁあああっ!」
だがしかし、彼女は己に激突するそれに指を突き立てた。
ガリガリと両足で進み続けるそれに急制動を駆けて行く。
誰が信じようか、大型駆動のバイクを、生身の少女が停止させ、受け止めるなど。
「いい」
「!?」
「もっと、もっと、もっと激しく!!」
恍惚の声が上がっていた。
火花を散らし、接触の衝撃で砕けた破片を撒き散らしながらも、ギンガは喜んでいた。
恍惚に、欲情に、快楽に、身を震わせていた。
その瞳に浮かぶのは黒い快楽の色、激情にも似た陶酔の輝き。ギラギラと見るもの全てを引きずり込むような汚らわしい欲望の泥。
もはや戻れないのか。
魂までもが犯され尽くし、おぞましき魔女の刃の侵食に陵辱されて、その魂は穢れに満ちたのか。
「ヤりあいましょう! もっと、もっと殺し合いましょう!!」
喘ぎ声を洩らし、欲望に濡れた舌で頬を舐める彼女。
それに陸士は――
「なら、一人でぶっ飛べや!!」
咆哮。罵声。怒声。
大質量エンジンの怒涛の咆哮を上げて、後ろに体重をかけた。
ウィリー状態、彼女の体を強制的に跳ね上げる。
そして――その後輪が屋上の縁を蹴り飛ばした。
「っ!?」
「共に堕ちろぉおおおおおお!!」
彼女たちは空を滑走する。
キラキラと鋼の馬が、装甲に覆われた魔女が、空を舞う。
高さ数十メートル、人間が落ちれば血肉の詰まった袋も同然に砕け散る高さ。
その中でフルフェイスの陸士は、愉悦に満ちたギンガの笑みを見たような気がした。
――いいわ。
そう告げるような声が聞こえて。
――でも、甘い。
体感時間にして数分、実際には数秒以下の一瞬で、ギンガの髪が乱れた。
誰が予想しようか。
その髪が刃物となり、彼女の刃として蠢くことを。
「っ!?」
素早く引き抜いたスタンバトン――それごと陸士が腹部を貫かれて、吹き飛んだ。
吐き出された血反吐がフェイスの中でこびり付き、ギンガは笑いながらバイクを切り刻む。
バラバラに砕けた部品パーツを夜闇に撒き散らしながら、ギンガは息をするようにウイングロードを形成。
足場を作りながら、跳躍して、付近のビル壁に手を突き立てた。
「死んじゃった?」
ガリガリガリ、落下し、刃で壁を切り下ろしながらギンガは墜ちる、堕ちる、落ちる。
彼女は嗤う。
美しい肢体で落下するだろう、哀れな陸士を眺めて――発生した光の網に目を細めた。
「バインド?」
墜落した陸士の体を、虚空で発生した光の網がキャッチする。
その傍には夜間迷彩をした軍服を纏った陸士が、彼女の肢体を見上げ睨んでいた。
また遊び相手が出来た。
ギンガは楽しそうに微笑んで――次の瞬間驚愕することになる。
「え?」
パキンッと破砕音が響き、彼女が指を突き立てた場所が削り飛んでいた。
落下、重力に引かれて。
ウイングロードを形成しようとして、彼女は迫る光に息を飲んで、ビル壁を蹴った。
射ち込まれる無数の魔力弾。
正確無比なそれを、彼女は両足を広げて、ビル壁を蹴り、重力落下以上の速度で地上に向かいながら、避ける、避ける、躱す。
数秒以上もかけて地面に着地。
バシンと四肢を使って、衝撃を大地に受け流し、ゆっくりと重力の重みを取り戻した髪が地面に触れて、ぶるりと乳房が揺れて、はぁーと安堵の息を彼女が吐き出した瞬間。
「其処だ」
声がした。
落下してくる敵意。
ギンガが後ろに飛ぶ、転がりながら。
その位置に両足を狭めて、着地――否、めり込ませた誰かが居た。
アームドデバイスを両足に嵌めた、ベルカ式の魔導師。
「飽きないわね」
「そうか。じゃ、喰らえ」
指を鳴らした瞬間、虚空から再び狙撃。
ギンガが後ろに飛ぶ、跳ぶ、夜闇に紛れるように、路地裏を疾走する。
追撃が迫っているのを感じた。
危機感が高まり、興奮が昇ってくる。
嗚呼、嗚呼。
もっと追い詰めて。
――狙撃弾が頬を掠める。痺れるような快感。非殺傷弾の魔力を削る感覚、物足りない。
「殺さないの?」
物足りない。
命を賭けて戦って欲しいのに。
「足りないっ」
飛び上がる。
前から迫るワイヤーを持った陸士を蹴り飛ばし、その横からネットを張った鉄棒を叩き込んでくる陸士の腕を取り、流れるように肘をめり込ませた。
骨を砕いた感触。
気持ちいい。
じわりと下腹部に熱が宿るのが分かる。息が荒くなる。体の中で炎が燃え上がるようだった。
537 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/14(日) 23:55:16 ID:pCQ/HxYn
支援
「ハッハッハッ」
獣のように吼える、嗤う、喜ぶ。
ウィッチブレイドが喜びの悶えて、彼女の肢体を締め付けてくる、ギリギリと血管が浮かびそうなほどに、彼女の乳房は揉み解されるかのように揺れる。大地を蹴る両足、それに突き出された臀部が歪みながら、喜びに刺激されて震えた。
汗を掻く。
甘い体臭を発しながら、ギンガは嗤う。
射ち込まれる魔力弾を、その手で殴り倒し、打ち払い、壁を蹴り上がりながら高速移動、狙撃してくる陸士を一人一人打ちのめした。
時折躱し損ねた弾丸が体にめり込み、彼女は痛みによる喘ぎ声を発す。
気持ちいい。
もっと欲しい。もっと壊したい。もっと、もっと、もっと。
「殺し合いましょう! 殺し愛しましょう!!」
正気ではなかった。
狂っていた。
欲望に歪んだ美しくも壮絶な顔を向き出しに、雌獣が走っている。
包囲されて、決められたルートを走っていることを理解しながらも彼女は喜ぶ。
追い詰められていることに、貫かれているかのような性感を感じた。
砕く、走る、破砕する。
その脚部の圧力で大地を砕きながら、魔女の刃は欲望の滾りを尽くしていく。
壊れ果てるまで。
装着者が果てるまで。
欲望は止まらない。
どこまでも疾走しつ続ける、悪夢の道。
しかし。
「来たか」
走りこんできた路地裏の向こう、そこに飛び出た途端、光が彼女を貫いた。
スポットライトが浮かび上がり、その前に数人の人間が立っている。
「ここまでだ。ギンガ」
誰だろうか?
記憶すらも薄れている、ただ殺したい、男だと分かる。
「ふふふ、楽しませてくれるの?」
「私は楽しんでいるがね。君は分からないな」
肩を竦める男。
傍にいる男たちが、肩に構えた機械を彼女に向けて、スイッチを入れ続けている。
駆動音が鳴り響き、それがどことなく不気味で――気持ちいい。
「なら、私を楽しませてよ。さああ!」
「しょうがない」
ため息を吐いて、男が手招きした。
ギンガが走る。八つ裂きにする為に。
「ぁああああああ!」
踏み出す、その一歩で。
パカッ。
「っ!?」
脚部に違和感を覚えた瞬間、ギンガは跳んだ。
高々と。
「この程度の罠で、私を満足させられると?」
落とし穴。
古典的な罠。
でも、駄目だ。
その程度では止まらない。ギンガはクルクルと空を舞いながら、まっしぐらに男の下へと落下して――その胸を貫いた。
「っ!」
血飛沫が舞う。
どす黒い血が彼女の手を染め上げて。
ギンガは笑いながら――己が手遅れだと知った。
「なーんてね」
え?
その思った瞬間、ボンッと目の前の男の首が吹っ飛んだ。
クルクルと舞い飛んだ。
白い液体を撒き散らしながら――自爆する。
「なっ!?」
大量の魔力の散布。
幻影魔法、それに無駄にクオリティの高く、体臭を真似た香水を散布し、全てを再現。
内部に仕込まれた無数の魔力カートリッジに、魔力素の濃度が局地的に高まり、ギンガは魔力酔いを起こした。
「ぐっ」
一瞬足元がふらついた瞬間、全身に絡まる光の鎖。
チェーンバインドに締め付けられて――それが罠だと理解しながら、嗤う。
「アハハハハ!! いいわ、この程度の戒めなんて」
全身の刃が噴き出す。
切り刻む、鋼鉄も、魔力も、魔法も廻りながら斬り飛ばす。
剣刃旋風。
彼女は美しく、壮絶な舞を踊った。
ソードダンサー。
剣舞とは魅せるためのものだと告げるように。
ハイヒールの踵が、地面に穴を開けるほどの回転を見せて、ギンガは嗤い。
――パカンッ。
落下した。
笑いながら落ちた。
「はーい、落ちたー」
「トリモチーGO!」
「ゼラチン流し込め!!」
「スライムー!!」
え? ちょ? ま!?
飛び上がり脱出しようとしたギンガの脳天から、ブロックごと固めた各種投下物が降り注ぎ、底へと叩き込んでいく。
深さ50メートル。
ドリルで開けた穴だった。
「ハッハッハ。二度あることは三度あるのさ!」
こうして、ウィッチブレイドギンガは捕縛された。
天丼は笑いの基本だったから。
投下完了。
支援ありがとうございました。
許可を頂けたセイバーズ氏に感謝を!
ちなみにコンセプトはUCATギンガが、ウィッチブレイド着けたら?
という雑談から生まれたお話です。
本編とは何も関係ないのでご安心下さい。
そこ、二度目とか言わないw
では、またいずれお会いしましょう〜。
Tes.!!
そう来るかー!
つかやっぱUCATかーっ!!
543 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/15(月) 00:05:19 ID:c6HjB/BQ
天丼てあーた
もうオチが見え見えでwwww
GJ!
エロスとワロスのコンビネーションですかwww
いや、バイク乗りとか出てきた辺りで「ん?」とは思いましたけどねwww
勇者王擁するUCATを持ってすれば、ウィッチブレイドの一つや二つものの数でもあるまい。
ところで、空いていたら1:00頃から投下しようと思います。
クロス先は……まあ、タイトルをご覧いただければ一発でわかると思うので。
支援
時間なので、投下しまーす。
というか、なんでこんな深夜に、とセルフ突っ込み。
タイトルは「みっどちる大王」
とある、次元の海の端っこの次元世界。
その端っこにあるとある惑星の。
さらに端っこにある大陸の。
これまた端っこにある、都市移譲計画によって人っ子一人いなくなった廃墟。
その廃墟のまたまた端っこに勝手に設置された隠し通路を通って。
そんな隠し研究所が、広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティさんとその娘たちのマイホームなのでした。
「フッフッフ、ここでうんちカードをくらうっス、ノーヴェ!」
「ああ、てめえウェンディ!!」
「私のターンですね。これで盛岡の買占めを完了します」
「あ!? くそうセッテ、お前らグルだな!?」
長く暗い、金属質な廊下。
いかにも秘密研究所、といった風情のその奥から、雰囲気を台無しにする脳天気な声が聞こえてきます。
スカリエッティさんと、愉快な娘たちの声です。
スカリエッティさんは今日もなんだかよく分からない研究に精を出していて、ウーノがその助手をしています。
他の娘たちも、本を読んだり、トレーニングしたり、お菓子を食べたり、ガンプラを作ったり、ゲーム(桃鉄)に興じたりしています。
なお、今日は「たまたま近くまで来たから寄った」ということで、ルーテンシア御一行も居たりしました。
ルーテンシアとアギトは、セインやディエチと一緒に本日のお菓子であるシュークリームを頬張っています。
ゼストさんは、チンクを相手に将棋を指していました。
ちなみに、これまで3局指して、全てチンクの圧勝です。
それっぽい顔をして腕を組んでいますが、今も「待った」を使い切ってほとんど詰みかかっています。
顔だけですね、このオッサン。
そんな感じで全体として怠惰でアンニュイな昼下がり。
今日も今日とて、スカリエッティ一家は平和なのでした。
そして、そんなスカリエッティ研究所に、突如として咆哮が響き渡りました。
「ぶうぅるるるるああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ううぇっ!?」
「え、なに?」
「何事だこれはっ!?」
いきなり響き渡った、やたらと渋く粘っこい咆哮に、それぞれ寛いでいた面々も慌てます。
それぞれに立ち上がり、辺りを警戒するように見回します。
なお、ゼストさんは立ち上がる際、つま先に将棋盤を引っかけて盛大にひっくり返していました。
「おっとしまったー! これではどちらの勝ちか分からんな!」とか言ってます。
明らかにわざとです、本当にありがとうございました。
非常に大人げないですね、とてもみっともないです。気がついたアギトが呆れた目で見ています。
いまは〜むかしの〜ばびろに○〜 支援!
「こっちだ、廊下から聞こえたぞ!!」
叫んだノーヴェが、そのまま勢いよく駆け出していきます。
チンクが「危ないから下手に動くな」と注意しようとしましたが、その時にはもう廊下に飛び出していました。
流石は数の子随一の猪武者ですね、そんなだから咬ませ犬扱いされるんです。困ったもんです。
なんにせよ、ノーヴェが飛び出してしまったので、他の面々も追わないわけにはいきません。
ここで「放っとけばいいや」といえる人はスカリエッティ一家にいません。
バタバタと走っていると、別室でトレーニングしていたトーレとディードがやってきて、更にスカリエッティさんとウーノも合流しました。
狭い廊下を10人以上で走っているのですから、それはもう狭苦しいです。
途中でウーノが転びかけて、並走していたスカリエッティさんが咄嗟に支え、スカリエッティさんに抱きかかえられたウーノがポっと頬を染める、といった嬉しはずかしなイ
ベントを挿入しつつ、一行は先行したノーヴェに追いついたのでした。
「大丈夫か、ノーヴェ!」
ノーヴェはとある一室の前で突っ立っていました。
奇妙な様子に、チンクが慌てて声をかけます。
しかしノーヴェはそんな姉の言葉にも答えず、ただノロノロとした動きで前を指さしました。
「?」
そんなノーヴェの様子を訝しみつつ、全員が指さされた方向に視線を向けます。
そこは用具室。
スカリエッティさんが実験で使った色々なものが突っ込んである、物置でした。
今後使う予定のないものが放り込まれる部屋なので、基本的に整理されていません。
そして、そんな部屋の中に――
「ハロー エブリワン」
――なんかいました。
もうもうと立ち込める煙の中、よく分からないなにかがいました。
トーレさんが零した「なんだアレ?」という呟きが皆の心を代弁しています。
大きさは成人男性と同じくらい。たぶん、スカリエッティさんと同じ程度です。
色はオレンジ色でした。上から下まで、オレンジ一色です。
形は、楕円形、といえばいいのでしょうか? 中に水を入れたら重みで垂れ下がった風船のような、そんな形をしています。
そんな体から、妙に長い突起が4本出ていました。たぶん、手足です。
やたらと大きな目をしていて、いわゆる猫目になっています。
その口も端の部分がキュッと上がっていて、いわゆる猫口になっています。
そして、その頭には、おそらくは耳と思しき二つの突起が出っ張っていて。
「………ネコ?」
ディエチが呟きました。
確かに、それのイメージはネコでした。
実物のネコとどの辺りが被っているのか、と聞かれると困るのですが、全体のイメージを一言で表すと、ネコでした。
突如として現れた、ネコらしきよく分からないもの。
それを前にして、なんとなく全員沈黙してしまいます。
別に緊張感も緊迫感もないのですが、この次にどう行動していいのか分からず、全員が固まっていました。
ネコらしきものも、こちらを見つめたまま微動だにしないし。
「あ、あれは……」
そんな中、声を出す少女がいました。
ルーテシアです。小柄な体をワナワナと震わせながら、口元に手を当ててネコっぽいなにかを見つめています。
「知っているのですか、お嬢様!」
思わずウーノが詰め寄ります。かの有名な「知ってるのか○電!」システムです。
よく分からない展開に、余裕を無くしていたのでしょう。絵のタッチが○塾風に変わらなくて良かったですね。
「……あれは」
「あれは?」
「あれは、お父さん!!」
「「「「「「ええぇっ!?」」」」」」
いきなりの爆弾発言に、その場にいた全員が驚愕の声を出しました。
後ろの方でゼストさんが、え? 俺は? 俺は!? といった顔で慌てています。
「え、ちょ、待ってください……お嬢様のお父上が、あの、人?、なんですか?」
ウーノが狼狽しながら質します。
なにせルーテシアの母親であるメガーヌさんのことは知っているのですから、その結婚相手がアレだというのは、なんかショックです。
視線をスカリエッティさんに投げかけましたが、スカリエッティさんも「いやいや私は知らないよ」と首を振っていました。
「違う、私のお父さんじゃない」
その言葉に、その場にホッとした雰囲気が流れます。何故だか、皆がホッとしていました。
中でもゼストさんが力いっぱいホッとしています。
なにか思い当たる節でもあるのでしょうか? その場にへたり込みそうなくらいの安心っぷりでした。凄くヘタレっぽいです。
そんな様子を見て、アギトが呆れとも嘆きともつかない溜息を吐いています。
騎士と烈火の剣精の間の信頼関係は、今日一日で崩れ落ちそうな勢いでした。
「お、脅かさないで下さいな、お嬢様。それじゃあ、どなたのお父上なのですか?」
「ヴィヴィオの」
「「「「「「うぇええぇぇっ!?」」」」」」
またしても、全員の驚愕の声が重なりました。
全員の視線がグルリンと回り、一行の一番後ろの方にいた、オッドアイの幼い少女を見つめます。
少女の名はヴィヴィオ。
なんやかんやと色々あって、最近目覚めたスカリエッティ一家の末っ子でした。
色々と事情はあるのですが、とりあえず戦闘機人ではないのでナンバーズではありません。
全員にいきなり注目され、ヴィヴィオがビクリ、と震えました。
そのまま泣きそうになってしまったのを、慌ててチンクがあやしにいきます。
ウーノが再びスカリエッティに問いかけようと視線を投げると――そこには、スカリエッティさんに近づくネコっぽいなにかの姿がありました。
音もなく近づいてくるソレ――よく見ると、少しだけ宙に浮いていた――に、スカリエッティさんも思わず逃げ腰になりますが、そこは家長の意地、なんとか踏みとどまって
見つめ返します。
やがて、スカリエッティさんのすぐ前にたどり着くと、それはそのまま――深々と頭を下げました。
「はぁじめましてぇ。ヴィィヴィオの父です」
やたらと低い声でした。そして渋い声でした。ぶっちゃけCV:若本でした。
異形の魔神を倒す為〜 怒りで火をともせ〜♪
あ、違う大王か 支援!
ちよ父か?w
支援
「あ、これはどうも。ジェイル・スカリエッティと申します」
「こぉれはこれはご丁寧に。いつもヴィヴィオがぁ、お世話になっております」
「いえいえそんな。こちらの方こそ」
「これはぁ、つぅまらないものですが」
「ああ、これはどうも申し訳ございません。ありがたく頂きます」
何故か、やたらと丁寧な大人トークが始まりました。
ネコっぽいなにかがどこからともなく取り出したお土産(クラナガン最中 24個入り)を、スカリエッティさんが受け取っています。
ネコっぽいなにかの態度にもビックリですが、スカリエッティさんがそんな真人間っぽい対応をできることにもビックリです。
数の子たちは全員、もうどこに突っ込んでいいのか分からずに立ち尽くしました。
「………ん? ちょっと待って下さいな。ヴィヴィオのお父様ということは……」
そこで、なにかに気がついたようにクアットロが呟きました。
片手を口元に持っていきながら、何かを考えるように視線を上向かせます。
「……先代の、聖王様?」
「イエエェェス,I am」
「「「「「「どええぇええぇぇぇっ!?」」」」」」
いい加減飽きた感じもしますが、やっぱり全員の驚愕の声が響きました。
そうです、ヴィヴィオは、色々事情があって作り出された、聖王の遺伝子からのクローンなのです。
その父親は順当にいけば作成者であるスカリエッティさんということになるのでしょうが、遺伝的な父親、というなら、それは遺伝子の提供者である先代の聖王ということに
なります。
「いやいやいや! あり得ないでしょ!? あり得ないよ! だってネコだし!」
「た、確かに! お嬢! 一体どういう理由でアレがヴィヴィオの父親なんだ!?」
オットーとトーレが騒ぎます。
直接ネコっぽいなにか――お父さんの方に行くのは怖かったのか、この騒ぎの発端となったことを言いだしたルーテシアに詰め寄ります。
しかし、ルーテシアは慌てず騒がず、ゆっくりとお父さんの方を指さしました。
「見て」
「ん?」
そこには、小刻みに震えながら、七色に体を変色させるお父さんの姿が!!
……カラフルな斑模様が、まるでジャングルに生息する有毒生物の警戒色のようです。
正直ヒきます。ムチャクチャ怖いです。
「……七色の魔力の光。間違いなく、聖王の証」
「いやいやいやいやいや! 『七色の魔力光を放つ』のと『体が七色に変色する』のは明らかに違うだろう!?」
「グラフで比較するとそれほど差はない」
「大有りだ!! というか、ヴィヴィオも魔力に目覚めたら体が変色するようになるのか!?」
可愛がっている末っ子のあまりの行く末に、トーレはほとんど半泣きです。
いつも凛々しい三女の珍しい姿を、他の姉妹たちは見物しています。
セッテが「トーレ姉、可愛い……」とか呟いていましたが、全員が全力で聞かないふりをしました。
「ヴィィヴィオ」
お父さんの声が響きました。
気がつけば、お父さんはヴィヴィオの前に立って――というか浮かんでいます。
目をパチクリさせるヴィヴィオに対し、ヴィヴィオを抱きかかえていたチンクは何か覚悟を固めたような表情をしていました。
いざとなったら、この身を盾にしてでも庇ってみせる、といった顔つきです。何から庇うのかは知りません。
「……え、と。パパ?」
ヴィヴィオが戸惑ったように呟きました。
ヴィヴィオも理論的に理解していたわけではないにしろ、自分の境遇というのはなんとなく分かっていました。
なので、他のナンバーズ同様、スカリエッティさんがお父さん、ということで納得していたのです。
そこに突然本物のお父さんが出てきたというのですから、それは戸惑います。
そんなヴィヴィオの戸惑いを無視するように、お父さんは問いかけました。
「ヴィヴィオ、聖王は好きかい?」
「え? え、と。よく、分かんない……」
「なにっ!?」
クワッとお父さんが目を見開きました。
ヴィヴィオはビクリ、と震えてチンクに抱きつきます。
チンクは益々決死の覚悟を固めてお父さんに身構えます。
「分からないと!」
「きゃうっ!」
「聖王が好きかどうか分からないというのか!?」
ピガガーッとよく分からない稲妻が背後に落ちた気がしました。
お父さんは激しくガタガタと震え始め、その色が再び七色に変色していきます。
「……こんなに虹色なのに、ヴィヴィオは好きかどうか分からないと言う」
「あ、あの……ごめんなさい」
なんだか分かりませんが、ショックを受けているっぽいお父さんにヴィヴィオが謝ります。
すると、ふよん、と軽い動きで、お父さんが宙に浮かびあがりました。
天井スレスレまで上昇すると、そこで口を開きます。
「ヴィヴィオ、君は今はまだ聖王じゃない」
「え、と。うん。それは知ってるけど……」
「君だけの聖王を見つけるのだー」
そう言って、お父さんはグルグルと回転し出します。
「わ、私だけの聖王ってなに?」
「そんなこと、私に聞かれてもなー」
「そ、そんなー!」
そこまで言うと、お父さんは頭から天井に突っ込みました。
グルグルという回転そのままに、頭から天井を掘削していきます。
そのまま、天元突破ッ! と言わんばかりの勢いでドリルのように掘り進むと、地上に出て、そのまま上昇し、青空の彼方に消えました。
HAHAHAHAHA−ッという渋い笑い声がこだまします。
「「「「「「………………………」」」」」」
全員が、ポカーンとしています。
当然です、わけが分かりません。
七色に変色するヴィヴィオwww
支援
穴から覗いた青空が、そんなスカリエッティ一家を小馬鹿にするようにキラリン、と光を放ちました。
その後、スカリエッティさんたちが夕食の鍋を突いていると、お父さんが戻ってきました。
曰く「娘のことが心配だから、しばらく一緒に住ませてもらうよ」とのことです。
色々面倒臭くなっていたスカリエッティさんは、もうどうでもいいですとばかりに了承しました。いい加減疲れてましたし。
こうして、スカリエッティ一家にお父さんが加わったのでした。
一方その頃……
なのはちゃんはなんで飛ぶのーん?
「魔法少女だからなのー」
ふーん。
せやけど、20歳を目前にして魔法少女って、ちょっとアレと違うかなー?
「……少し、頭を冷やそうか」
ぎゃー
「ぎゃーっ!!!」
悲鳴を上げて、八神はやてさんは飛び起きました。
ドキドキと心臓が波打つなか、辺りを見回して安全を確かめます。
――そこは、時空管理局の局内。特別捜査官八神はやてに割り当てられた、個別オフィスのソファーの上でした。
どこからも桃色の砲撃魔法が襲ってこないことを確認して、はやてさんは安堵の溜息をつきます。
非常に心臓に悪い夢でした。
なのはさんにそんなことを言ってしまう、というのもそうですが、はやてさんだって御年19歳の魔法少女なのです。
夢の中の自分の突っ込みは、そのまま自分の胸を抉ります。
天に唾す、とはこのことです。
「……なんでこんな夢見てもうてんやろ?」
疲れてんのかなぁ、と呟きながら、ソファーから降ります。
2日徹夜したあとの、ようやくの睡眠がこれでは色々と心休まりません。
自分の体の上には、薄手の毛布がかけられていました。
おそらく、自分が寝入った後にリインフォースUがかけていってくれたのでしょう。
その事実に嬉しさを感じながらも、はやてさんは厳しい表情を浮かべます。
「なんやろ、なんか、ものすっごい嫌な予感がする……
なんかこう、今までやってきたなんもかんもが台無しになってまうような……」
暗いオフィスにはやてさんの声が響きます。
八神はやてさん19歳。
機動6課の設立に向けて、根回しやらなんやらに忙殺されている、そんな時期でした。
はたしてはやてさんの感じた予感が事実なのか否か、それは誰にも分かりません。
投下しゅーりょー。
みっどちる大王第一話「スカリエッティ一家がお父さんと遭遇しました」の巻。
第二話以降があるかは果てしなく未定です。
いやーネタはあるんですけどねー、面白いかどうかはともかく書きたいネタは。
ギャグやコメディ書くのって難しいわー本当。分かってたけどやっぱり難しい。
リリカル!夢郷学園氏や×DOD氏は凄い。マジ凄い。尊敬します、ひれ伏します。
いやー難しいわー。
GJ!
このお父さんならブラスタースタブレでも跳ね返してくれそうだ!
産物ぅぅぅぅぅ!?そのお父さん想像の産物ぅぅぅぅぅぅ!!
ともあれGJ。何このシュールなゆるゆる空間。第二話以降を期待してしまうじゃないか!
アバタールチューナーから、
エンブリオン5人衆とセラ。
管理局に従うわけ無いし、敵にすら回しそうだ。
>>562 ブラフマンを倒すよう連中をどうしろと。
てかそれはウロス話題だ。
いつの間にか次スレの季節、次スレでクリスマス越えは難しいかな
次の次かな
>>559 GJ!
いやぁ、なんともマッタリとした良いSSですねぇ。
ちよ父、というかヴィヴィ父の若本ボイス脳内再生余裕でした。
てか、スカリエッティ達と普通に馴染んでるヴィヴィオってかなり新鮮だwww
もし次回があるなら全力で待っております、面白いSSありがとうございました!
スレ立ててきますねー
突然で申し訳ありませんが・・・
今現在、創作発表版の二次創作スレ向けの作品と平行してクロスSSを一つ執筆
しています・・・ってか書き始めたばっかですが^^;
つきましては明日または明後日ぐらいに予告代わりのプロローグを投下したいと
思ってます。
クロス元は・・・本編投下時に説明しますが、でも分かる人が見ると何となく
( ̄ー ̄)ニヤリっとする作品です。
こっちは埋めていいのかな?
,ィ
!{ , -−-- _
, -−弋/ , -< ̄
/ , ,r へ 、 \
/ / /i / ヽヽ ハ ヽrヽ
, -‐◯彡 l ! ト, l | l .l l ハ
/ / | ヾ | l l大トト, 斗 ! ト、 l
レ{( .l r,! l ヒソ }ノヒル' ソ }ノ , -−- 、__, -‐- 、
ヾ l ゞl ト{""rv┐ "ハ〈 /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:_.:-< ̄
,.、 ,' / ∧ `ト .ゝ_' .イ_N、\ /.:.:.:.//-−- 、:.-:.、:.:ヽ_ }ヽ
| | / / />k 「`7´ ´ `ヽ ヽ /:.:.,.イ:./7´, ̄! ̄ト!.:.:.:.lヽノ>ヽ) ) ,.:-y:7
./77トレ'7/ / // ,.へ\! 、 i } ト、 /:.:./(|.//|,イ.:ノ!.:,.イ.:!:!:./ / , -  ̄>´二>_
.トゝニ)`7' / / ∠_/i 丶ゝ ヽ! _ノルヘフ. , '_,ィ二ゝ、! ⌒ ⌒/:.lル'/,ィ l / ∨´`i<V´::::::`ヽ
. `<:::ノヽ_/ fニヽ />‐ヘ〈 , -'_ニ- ヘ , \ /.:.|,ィ´ __,ト _`フ)_イ:.:./ { !,不{_七 l }::ヾ<「 ̄` /!
/!:::,ノ人/ 〉V イ ヾ -'/レ'´ ̄ / ,イ∨.:, -_ニ! /l´ .ト、/ 〉、 L -‐∨ィ{ソ じソ ∧:::ト、:::ヽ / /」__//
. / テrく ヽ /二ニゝ [二] 丶rく7 /! } .ト〈 _」::〈 ∨ iく{ ,r'人 ニ<^)イ八 、 "/.! ,レ|::::! ト、:} < ̄>={_ノ´ ´ニ>'7
l / l. ` -,ヘ | |ヽ ヾ 、_.〈::ヽニス! ノ !ノ レ' ヾ::ヽ.l 〈::::ヾK.:.:.:.:.:.:.:.:.) >'7><_,」 ! トノ ', ` .`7/´7 、/ ,ィ,ノl } ヽYゝ
ヽ{ \ ヽ. \ ! ! 〉、_ `ー、ヾ、:::::{彳〉 / `ーヽ / \::::ソ.:.:.:.__,.ノ ( ,/Y 、ヽ! ト,ゝ _ `‐-、 .| | { (|/(ヒj ヒjノ,イハ
丶._ \_ヽ.|/ / ー= /[二]`ー‐r' / `ー-ゝ __,ソ:.:.:.( .`/::\rへl !ノ  ̄) / ,.、ヾゝ ゞi ト _r‐, ノ/ノノ
 ̄_,>!,/ /∧ | ,' \ `ー-{:.) {::::::::::ヽf´ゝ __`ー- 、 (/ |_! ,.ィ7ゞZラY^ヾ
〈__,.イ // ト、 !l \ }ノ Y::::::::::::\ノ ) ̄) ) rf{]::K7 [ /`o⌒)/ _〉
/ // ! l !! ヽ ヽ:::::::,r< ,.ケ<_ -'ス `ス::ノト'〈_ 不_,ノ`K´ \
/ //! , - 、! l ト、 ヽ >'´:::::::`K_ ー,r-v<7て{二_ノ ,.〈イ介ニテべ> .〉
, --− 7´ // レ:::::::::::l | \ _ ‐_二_ヽ_ハ {::i:::::r‐'´rくレ<:::::::::ヽ_∧  ̄ TLゝ==彳{ゝ_/
/ / .// .|:::::::::::l | ヽ //_ -‐r、`ー', `ーr' r‐'! )::::::人,r'  ̄} ヽkニラ、
/ __ -−-、 // l:::::::::::::l | ヽ.//,.イ ! \ l ル'ー、 /´ ̄/ー' , − 、 / ./| l
_ニ三-−  ̄ヽ ヽ,/// !:::::::::::.l | , -_ニヽ } ' ∧ l l ヽ} /ニニヽ::! ./ ./ (7・ω・)うめるよー ! ノ
, ヘ\ /\_/::://ニ_ヽ_!::::::::::/ レ'_/ ,>ソー' } ', ヽ / /::::::::::| l:レ' / r') l T´/!/ 7´| ヽ! ∧
ヽ\_ノ:::::::::::::::/' / `-l:::::::::/,ィ´ニー-‐'_ノノ / ヽ Y /:::::::::::::メ三三7 | l_| 丶ー=ミ、 / ! |ヽ-.ヘ
`-/:::::::::::::::::// l:::::::::::::ヽ  ̄,.イ /--‐‐ヘ ∧. /::::::::::::,イ:::::::::::/ ゝ-、 `ー、))' ! `r、_,ヘ',
あたしは…もう誰も傷つけたくないからッ!なくしたくないからッ!!だから…!
_人人人人人人人人人人人人人人人_
> ゆっくりしたいんです!!! <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
. /三/ / / / .:/l/ .:l //|_:| /| .: / / .: | ', ト \ ∧
/ / /://〃 :.:N゙斗ャl/レ| / /l .: /.:.|.:.|.:.: |リ \:ヽ ∧
. / / :/ ./'/ lヘ:.:ト.:K __,.!/ レ /!__ハ|: /.:.l.:.:/ \ヽ \
/ / :イ /'/ l' ヽ|:.N' (ヒ_] l/ ヒ_ン |/イ/ノイ ', i.: ト\
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| 少し…頭ゆっくりしようか… |
ヽ、_ __________ノ
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|\ , -一ァ
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∠二 `ヽ/´  ̄ ̄ ̄ `丶//⌒ヽ
, '" ̄' ヽ) 、 \
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i ハ Wイi (ヒ_] ヒ_ン ).| .|、 .| \ i
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