リリカルなのはクロスSSその80

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
ゲット・雑談は自重の方向で。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその79
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1223807316

規制されていたり、投下途中でさるさんを食らってしまった場合はこちらに
本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1199025483/

投下直後以外や規制されている場合の感想はこちらに
全力全開で職人を応援するスレ(こちらは避難所になります)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1214480514/

*雑談はこちらでお願いします
リリカルなのはウロス雑談スレ46
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1224073741

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/20(月) 18:27:08 ID:IdBKZDwg
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  ttp://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/20(月) 18:28:08 ID:IdBKZDwg
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。

【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪

【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部) 
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用

【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用

【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作

【作者】リリカラー劇場=リリカル剣心=リリカルBsts=ビーストなのは
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
         リリカルなのはBeastStrikerS
         ビーストなのは
         魔法少女リリカルなのはStrikerS−時空剣客浪漫譚−
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪(リリカラー劇場)
       追放処分後の別名義での投稿(Bsts)(ビーストなのは)
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/20(月) 18:32:05 ID:RkadBLgJ
>>1乙です
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/20(月) 18:38:54 ID:aNHRfCH+
>>1
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/20(月) 18:40:21 ID:ShD+eewD
>>1乙
7高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 20:59:24 ID:Hhcfs/2D
こんばんわです。
>>1乙 です。
22時頃、ラクロアを投下したします。よろしくお願いいたします。
8名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/20(月) 21:15:49 ID:9DKo8Adi
支援
9高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:01:16 ID:Hhcfs/2D
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第11話

・アースラ内救護室

疲れてはいたが、不思議と眠気は訪れなかった。
2〜3度寝返りを打ったが一向に眠気が訪れないため、仕方なく体の位置を仰向けにし、リンディの到着を待つ。
途中大きな音がしたため自然と首を嵌め殺しの窓の方に向けると、夜の様にほの暗かった景色か金属で出来た壁に変わっていた。
おそらく本局内のドックだろうと結論付けたナイトガンダムは首を戻し、天上を見据える。
「(・・・・今更だが・・・・ラクロアではベッドで寝る事など、ほとんど無かったな)」

ラクロアでの生活は9割、いや10割が旅と言っても過言ではなかった。
湖でフラウ姫を助けそのまま城へ行き、そこでサタンガンダムの存在を知り討伐の旅に出た。
旅ゆえ、殆どを野宿で過し、たまに止まる宿でも値段からか、布団が硬かった事を思い出す。
それに比べ、月村家で自分に提供された部屋のベッドは逆に居心地が良すぎ、当初は全く眠れなかった。
「あの時は隠れで床で寝ていたなんで・・・言えはしないな・・・・」
今ではその様な事は無く、ふかふかのベッドの感触を味わいながら眠る事が出来るようになった。
自分としては凄い成果だと思う。(アリサには猛烈に笑われたが)
今寝かされているベッドも、月村家の物に負けず劣らず心地よい。それでも眠気が襲ってこないとなると、
体質によるものか、見知らぬ部屋だという無意識の警戒心によるものだろう。諦めるしかない。

「・・・・昔の私も・・・そうだったのだろうか・・・・」
自分という存在がラクロアに何時からいたのか、正直今でも分からない。
気が付いたら焼け野原の真ん中にいた。それ以前の記憶など全く持ち合わせていなかった。
あの時は景色、建物、食べ物に関しても、見る物全てが新鮮だった。どれも知らない物ばかり。
剣の腕に関しては記憶には無いものの、体に染み付いていたため剣士だったのかという予想しか出来ない。
まさに自分の事は何一つ知らない。だが、この世界に来る切っ掛けとなり、三種の神器の力を借りてどうにか倒す事ができた強敵、
『サタンガンダム』に関しては別だった。奴の名前は、当時はレビル王からはじめて聞かされたため、記憶になかった。
だが、奴の姿を見た瞬間、邪悪な気配と途轍もない魔力に圧倒されはしたものの、初めてとは思えなかった。
「・・・・奴に・・・会った事があるのか・・・・・」
ならあの戦いの時、奴が自分に何かを言ってくる筈。もし、以前の自分か奴に手を貸していたのなら尚更だ。
だが、奴は自分を『自らの城に潜入してきた敵』としか見ていなかった。自分を全く知らなかった。
「・・・・知っていたのは私だけ・・・・・ならば私は・・・・・やめよう」
軽く頭を振り、考える事をやめる。手掛りがない以上何を考えても仮説で終ってしまうからだ。
「お待たせ〜」
そのタイミングを待っていたかのように扉が開き、トレイに軽食をもったリンディが入ってきた。


リンディが持って来たサンドイッチとスープの軽食を、ナイトガンダムはお礼を言った後黙々と食べた。
自分でもこれほど空腹だった事に驚きながらも全て平らげ、スープを飲み干す。
その光景を満足げに見つめていたリンディに改めてお礼を言った後、今回の戦闘に関しての報告を事細かに説明した。

フェイトを人質に取った仮面の男。
守護騎士達は主に内密に収集活動を行っている事。
闇の書の主は争いを望んでいない事。
そして、闇の書の力が主に必要不可欠なこと。
10高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:02:04 ID:Hhcfs/2D
「なるほどね・・・・・それなら、彼女達の行動も納得がいくわね・・・・」
10年前の闇の書事件の時の彼女達と比べると行動が積極的でない事、人間に対してはリンカーコアから魔力を吸収するのみに留めている事、
そしてアルフとナイトガンダムの報告から纏めると、今回の主は闇の書の完成を望んではいない、その力を欲してはいない、これはほぼ確定と言って良いだろう。
それなのに彼らは闇の書の完成を望み、魔力を集めている。
「闇の書の力が主に必要不可欠ね・・・確かにガンダム君の言う通りね・・・そうとしか考えられない」
「はい。ですが、主が望んでいないのに、なぜ彼らは集めるのでしょうか・・・・そういえば、
闇の書が完成したら絶大な力が手に入るとしか聞いてませんが、その力に他に使い道があるのでは?」
それなら彼女達の行動にも納得がいく。絶大な力といっても、三種の神器のような、ただ自分の力を底上げするだけではない筈。だが
「いえ・・・・それは無いわ。無限書庫・・・ああ、とても大きな図書室と考えてくれて良いわ。ユーノ君がね、そこで闇の書に
ついて調べてくれてるの。さっき途中結果を報告してくれたんだけどね・・・・」
躊躇するように言葉を詰まらせた後、リンディは報告通りに話し始めた。

闇の書の本来の姿、使い道。そして、持ち主に対する性質の変化。

「一定期間、魔力の収集が無いと、持ち主の魔力や資質を侵食し始めるのよ」
「なら、彼女達の行動も理解できます。主を救うためには十分な理由です」
それなら、自らの誇りを踏みにじってまで魔力を集める彼女達の行動も理解できる。だが、
「だけどね、もし完成したらそれこそ主の命を縮めるのよ。完成した闇の書は持ち主の魔力を際限なく使わせる。
無差別破壊の為に。だからね、ここで疑問が出るのよ。なぜ彼女達はあえて完成を急がせるのか?
確かに一定期間、魔力の収集が無いと、持ち主の魔力や資質を侵食し始める。だけど完成させたら結果は同じ、矛盾している」
たしかにそれでは矛盾している。間を置いて収集するならまだしも、シグナムの様子から、闇の書の完成を急いでいたように見える。
これでは逆に主の命を縮めることにる。だが、剣を交えたからこそ分かる。シグナムが嘘をついてはいないと。心から主を救おうとしていることを。
「・・・リンディ殿、闇の書の力というのは、本当に無差別破壊のみにしか使えないのでしょうか?」
「ええ、局のデータに残っている物や、ユーノ君が調べてくれた昔の物まで確認したけれど、それ以外で使われた事はないわ。
主に関しても、完成後、全員が・・・・・・」
「その時、シグナム・・・・守護騎士達はどうしていました?やはり主の護衛を?」
ナイトガンダムの質問に、リンディはハッとする。
そういえばそうだった、自分達は『闇の書』そのもに関しては徹底的に調べているのに対し、守護騎士に関しては殆ど調べを進めいていない。
『主を守るための騎士』それで十分だと思っていた。
「ちょっと待って、前回の事件なら今すぐ調べられるわ」
リンディは早速、端末を取り出し前回の闇の書事件のデータを漁る。
程なくして、目的である『闇の書完成後の守護騎士』についての報告書を発見、その内容にただ呆然とする。
「・・・・・前回の事件、彼女達は主によって『収集』されているわ・・・・・・彼女達はリンカーコアからなる『魔法生命体』
『収集』されたとなると・・・・消滅、人間で言うと死と同じ事ね」
「ならば・・・・・まさかだとは思いますが、シグナム達は闇の書の完成が主に齎す本当の影響を知らないのでは?」
「まさか」と声を出し否定しようとするが、リンディはその言葉を咄嗟に飲み込む。

そう、よく考えてみれば可笑しい。なぜ闇の書事件は今まで同じ様な末路を辿ったのだろうか?
確かに効力からして主に逃げ道は存在しない。だが、今までの主は収集を率先して行っていた。正に自滅である。
魔力の収集に関しても『一定期間』であり、直に収集が滞ると侵食されるわけではない。いっそ、ある程度集め、
繰り返し使ったほうが効率としてはいい筈。だが、主達は完成を急いだ。
(守護騎士達を戦力として使用したケースもあるか、結果的には完成させている)
闇の書に操られての行為かと思ったが、そうなると今回のケースは当てはまらない。
それ以前になぜ守護騎士達は主を侵食する事を話さなかったのか?確かに完成させるために彼女達が収集されるケースもある、
だが全てではない。だからこそ末路を知ってる筈。
11高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:03:20 ID:Hhcfs/2D
主に使える守護騎士である以上、いかに外道な主でもその事を言わないのは可笑しい。ならなぜ闇の書の長所のみを説明したのだろうか?
考えられる可能性は一つしかない。守護騎士達がその事を忘れているという事。
そもそも闇の書自体、悪意のある改変が原因で恐ろしいデバイスと化している。その影響が守護騎士達に反映されていても可笑しくはない。

自然とリンディは目を閉じ腕を組み、自分の中で考えをまとめていく。
そして自分の中の考えがまとまったのか、ゆっくりと瞳を開け、ナイトガンダムを見据える。
「・・・・・確かに、主を想っている彼女達が、早期に闇の書を完成させようとするのは可笑しいわね。
本当に影響を知らずに、絶大な力が手に入るとしか信じていない。ガンダム君の考え・・・・間違ってはいないかも知れない。
とにかく、今までの守護騎士達についても調べてもらうように頼んでみるわ。ああ、ガンダム君はすずかさんの家に戻らないとね。
あと、君の鎧は治しておいたわ。傷だけだったからアースラの設備でもそれ程時間は掛からなかったわ」
その好意に早速お礼を言おうとしたが、『すずかさんの家』という単語を聞いた直後、ナイトガンダムは目に見えて慌てた。
「リ・・・リンディ殿!!私はどの位眠っていましたか!!?今は何時でですか!!!何時ですか!!!朝ですか!!?」
「ふふっ、落ち着いて。あの戦闘から一日しか経っていないわ。すずかさんの家にも、私の家に泊まる事になったって連絡は入れてあるから大丈夫よ」
その言葉に心底ほっとするナイトガンダムに、リンディは悪いとは思いながらもつい笑ってしまう。
その笑みに、ナイトガンダムもまた、目に見えて慌てた自分の恥を隠すかのように俯いた。
「さて、私は行くわね。帰るときは本局の転送装置を使うと良いわ。あと、よかったらフェイトさんの様子を見てあげて。
君にお礼がいいたいって言ってたわ・・・・あと、これだけは言わせて、本当にありがとう、フェイトさんを助けてくれて」
笑顔で手を振りながら退出するリンディを見送ったナイトガンダムは、一度大きく背伸びをした後ベッドから下りる。
「・・・・・新品のようだ・・・・・感謝しなくては」
そして、近くの机に飾られる様に置かれた自分の鎧を一度関心の瞳で見つめた後装着し、部屋を後にした。

・アースラ内救護室

「よかったよ、命に別条が無くて」
「・・・・・うん・・・・・・」
心から安心するナイトガンダムとは裏腹に、フェイトの表情は重病人ではないかというほど曇っていた。
その表情にナイトガンダムは何か言葉をかけようとするが、それより早くフェイトは言葉を吐き出した。
「私・・・・役に立てなかった・・・・騙されて・・・・捕まって・・・・リンディ提督が優しい言葉をかけてくれたけど、
私に・・・・・・そんな言葉をかけてもらう資格なんて・・・・・無い!!!」
シーツを握り締め、吐き出す言葉にナイトガンダムは沈黙で答える。
フェイトもまた、感情に任せて吐き出した事に、今になって後悔した。
「(私・・・・何を言っているのだろう・・・・・・まるでガンダムを攻めるかのように言葉を吐き出して。
彼は自分を助けてくれて・・・・・心配してくれるのに・・・・・・最低だ)」
静まりかえる病室が心を重くする。もう何も言いたくは無かった。一人になりたかった・・・・否、消えてしまいたかった。今すぐこの場から。
「・・・・・フェイト・・・・・・」
名前を呼ばれただけで体をびくつかせてしまう。
いつもよりナイトガンダムの声は重かった。こんな自分に怒っているのだろう。当然だと思う。
だからこそ怖くて顔を向ける事が出来なかった。自然と体をこわばらせる。そして

                  ビシッ!

平手にしたナイトガンダムの腕が、フェイトの頭に軽く打ち付けられた。
俗に言う『空手チヨップ』を受けたフェイトは、呆気に取られながらも、顔をガンダムの方へと向ける。
其処にいたのは、フェイトが予想していた怒った表情をしたナイトガンダムではなく、
いつもの笑顔で優しく自分を見据えるナイトガンダムだった。
12高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:04:41 ID:Hhcfs/2D
「フェイト、自分を責めてはいけないよ。誰にでも失敗はある。誰にでもだ。だからこそ、今回の失敗を次の教訓にすればいい」
「・・・・でも・・・・・」
自分の中で納得が出来ないのか、フェイトは再び俯こうとする。だが、それより早くナイトガンダムの掌が、彼女の頭に優しく置かれた。
「それに、失敗をしない人なんていない。私やクロノ、リンディ殿さえ失敗はする。
失敗というのはね、物事を行ないう時には必ず体験する事なんだ。問題は経験した失敗に押しつぶされるか、
その失敗を今後の糧にするかだよ。私は、フェイトになら出来ると信じているよ」
「・・・ガンダム・・・・・」
「それに、君はリンディ殿だけじゃない・・・・なのはやアルフ、色々な人に甘えていい。君は確かに優秀な魔道師だ。
だけど、それ以前に君は子供なんだ。甘える事に資格なんて必要ないよ」
優しく頭を撫でられながら語りかけるナイトガンダムに、フェイトは恥ずかしいと思いながらも、暖かい気持ちに包まれる。
だからこそお願いしてみようと思う。恥ずかしいけど、早速実行に移してみようと思う。
「ガンダム・・・・その・・・・お願いがあるんだけど・・・・・」
やはり恥ずかしい。言葉が出ない。だけど・・・・・やってもらいたかった。だからこそ勇気を振り絞った。
「・・もうちょっと・・・撫でて・・・・ほしいな・・・・・」
顔を真っ赤にし、俯くフェイトに、
「かしこまりました。お姫様」
ナイトガンダムは一度恭しく頭を垂れた後、再びフェイトの頭を撫で始めた。



これで本局へ来るのは3度目、さすがにナイトガンダムの存在に慣れたのか、すれ違う局員からの目線も珍しい物を見るような瞳で
自分を見るような事は少なくなってきた。
後は特に用事は無いため、真っ直ぐに転送装置室に向かうナイトガンダム。すると、後ろから聞き覚えのある声に呼び止められた。
声からしてクロノだろうと思い、後ろを振り向く。案の定声の主はクロノだった。だが、彼の後ろには見覚えの無い女性が二人立っていた。
「(・・・・・・顔が似てる、双子か?・・・・それに獣の耳と尻尾・・・・使い魔か?)」
クロノには使い魔はいない筈、そうなると彼の知り合いの使い魔だろう。だが、ナイトガンダムはそれ以前に気になる事があった。
双子の使い間の内、髪が短い方の女性が、一瞬ではあるが自分に殺気を放った事に。
「クロノ・・・・彼女達は?」
「ああ、紹介するよ。僕の恩師の使い魔で、僕の魔法の先生でもある」
「リーゼアリアよ」
「リーゼロッテだぞ〜!」
優しく微笑みながら自己紹介をするリーゼアリアと、無邪気に微笑みながら自己紹介をするリーゼロッテ、
数年来の友の様に気さくに挨拶をする二人に、ナイトガンダムは先ほどの殺気はただの気のせいとして処理する事にした。
「クロノの先生でしたか。私は(知ってるよ」
自分も膝をつき、頭を垂れ自己紹介をしようとするが、先ほど明るい声で自己紹介をしたリーゼロッテに止められる。
「異世界『ラクロア』から飛ばされた次元漂流者にして闇の書事件の協力者にしてクロノの友人である騎士、ガンダム君、噂は聞いてるよ。
今じゃ本局じゃちょっとした・・・・かなりだね、有名人だしね」
『有名人』と聞かされ、恥ずかしい気持ちになる。ある程度は覚悟してはいたが面と向かって言われるとその覚悟も簡単に折れてしまう。
「あ〜も〜照れちゃって、可愛いね〜、クロノと一緒に可愛がってやりたいよ〜」
「ロッテ、そんなにからかわないでくれ・・・・・帰るのかい?」
クロノのフォローに内心で感謝をし、これから月村家へ帰る事を簡潔に伝える。
なにか用事があれば少しの時間だか手伝うと申し出たが、クロノはその好意を直に断った。
13高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:06:37 ID:Hhcfs/2D
「気持ちはありがたいけどね。君はなのは同様、ここの事を秘密にしている。君が世話になっている家に何時までも帰らないのは不味いな。何か進展があったら
連絡するから、今はゆっくり休んで来ると良いよ。アリア、ロッテ、僕達は急ごう。立ち話をしている時間も、今は無駄には出来ないからね」

何も知らない人から見れば、クロノがさっさとナイトガンダムの元から去るかのように行動しているかのように見える。
だが、実際にはそうではなかった。これにはクロノなりのナイトガンダムへの気遣いが含まれていた。
「(悪いね。でも、この二人と一緒だと別の意味で君が危険なんだよ)」
これ以上会話を続けると、ロッテあたりがナイトガンダムに何をするか(十中八九悪戯だろうが)分かった物ではない。
彼はとにかく真面目だ。彼女の悪さの良い鴨になる事は間違いない。
過ちは繰り返してはならない・・・・・生贄はユーノだけで十分だ。
だからこそ、彼には速やかに休息を与えてあげようと考えたクロノは二人を急かし、その場を立ち去ろうとする。
有無を言わさず歩き出すクロノに、リーゼ姉妹も一度手を振った後ナイトガンダムを見るのを止め歩き出した。
本当ならこれで終わり、クロノ達はエイミィの元へ向かい、ナイトガンダムは転送装置室に向かう筈。だが、
「あっ、クロノ、一つだけいいかい?今回の事件に関してなんだけど」
ナイトガンダムはクロノを呼び止め、リンディの話した闇の書事件の自分なりの予想を簡潔に話した。
一応リンディも納得した予想だったため、現場のリーダーでもある彼にも聞いてもらいという彼なりの配慮。
要点だけを話し、詳しい事はリンディに聞くように言った後、ナイトガンダムは一度頭を下げ、今度こそ転送装置室へと向かった。

「・・・・・・ねぇ、クロノ。彼の意見、どう思う?」
「簡潔に聞いただけだけど、納得出来る部分が多い・・・・・一度母さん・・・・提督に詳しく聞いてみるよ」
「そっか〜」と天上を見ながら呟いたロッテは、ゆっくりとアリアの方へと顔を向け彼女の瞳を見据える。
「(計画を早める必要・・・・ありそうかもね・・・・・・)」
「(あの騎士・・・・実力もさることならがら頭も切れる。まったく、厄介なお客さんを連れてきたよ、クロノ達も)」
クロノの後ろを歩きながら念話で会話をする二人。当然クロノに聞かれては不味い内容。だが、ロッテは隠す事無く顔を顰める。
時より通りかかる局員が彼女の表情に体をびくつかせながらも、その表情を崩す事は無かった。
「(ロッテ、感情丸出しはやめなって・・・・・クロノに気付かれるよ。さっきも殺気を出していたでしょ?)」
「(ああ、ごめん。あの時の戦闘を思い出すと・・・・・・ついね。)」
あの戦闘のことを思い出すと否が応でも腹が立つ。あの一撃のダメージは今でも完全には抜け切れていない。
もし此処に自分達しかいなかったら遠慮なく攻撃を加えていただろう。
「(でもさ、あいつ正直厄介だよ。下手すれば父様が望む結果を滅茶苦茶にしかねない・・・・・消す?)」

確かにロッテの言う通りだと思う。正直、今回の闇の書事件を担当するアースラのクルーは自分達の思い通りに動いてくれている。
重要なポジションにいる人物は友や知り合いや弟子で構成されており、主戦力も執務官という立場からクロノが満足に動けない以上、
力はあるが、実戦経験に乏しいあの子供達だけとなる。確かにあの二人は素質があり下手な魔道師よりは戦力にはなるが所詮それだけ。
自分達では行動はせずにクロノ達の指示に従うだけの所詮経験が浅いお子様、どうとでもなる。いや、民間人が混じっている以上、クロノ達も行動を自首する筈。
後は表向き強力体制を取り、裏では仮面の男となって活動すればいい。
システムのクラッキングやリンカーコアの収集など、今の所全て上手くいっている・・・・いや、いっていた。

「(私もロッテと同じ考えを持っていたわ。あの騎士が話した『闇の書事件の予想』当事者じゃないかという位に当たっている。
だけどね、あのプログラム達がその事を『はいそうですか』って信じると思う?大方あのトンカチが『ふざけんじゃねぇ!!!』って叫びながら
襲い掛かってくるのがオチよ・・・・・ある意味では可哀想な連中・・・・いえ、哀れね)」
14高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:08:49 ID:Hhcfs/2D
アリアは正直、守護騎士『ヴォルケンリッター』には多少だが同情の念を抱いていた。
主を救うために死に物狂いになりながらも、主を消して救う事が出来ない彼女達に。
慕う主を知らずに自分達の手で死に追いやっている彼女達に。
使い魔として生きている自分達も、主である父様には絶大の信頼と忠誠を誓っている。
だからこそ、あの連中の気持ちも分からなくはないし同情もしたくなるが、所詮それだけ。救ってやろうという気持ちは微塵も持ち合わせていない。

「(な〜る、確かにアリアの言うとおりだ。それなら、特に計画の変更は無しって事で)クロノ!さっさと行くよ!」
突然大声と友に背中をたたかれた事に、クロノは遠慮なく顔を顰めるが、ロッテは笑顔でそれを受け流し、彼の肩を押す。
その光景を「やれやれ」と言いたそうな顔で見ていたアリアも、二人に続くように歩みを速めた。


今日はつくづく人に会う日だとナイトガンダムは思う。

「あっ、ガンダムさんだ〜!!!」
転送装置室に到着し、いざ中に入ろうとした所で、聞き覚えのある幼い声に自然と歩みを止め、顔を向ける。
其処には声の主であるスバルと姉のギンガ、そして笑顔で軽く手を振る母親のクイントがいた。
スバルはナイトガンダムを見つけるや否や、真っ先に走り出し抱きつき、ギンガもまた抱きつきはしなかったが
嬉しそうに近づいてきた。
「あらあら、モテモテね。家の主人が見たら『娘はやらんぞ〜!』って言いそうな光景だわ」
どう見ても目の前の光景を面白がっているクイントに、ナイトガンダムはスバルの頭を撫でながら乾いた笑いを漏らす。
「・・・・それで、クイント殿はどうして此処へ?確か地上本部という所での勤務なのですよね?」

昨日の昼食で、此処とは違う地上本部の局員の筈の彼女が、昨日に引き続き此処にいることに疑問に思ったため何となく尋ねてみる。
クロノから聞いた話だが、地上本部に勤めている人間が此処に来ることはあまりないらしい。何でも不仲など、色々と理由があるらしいが。
だからこそ、昨日に引き続き地上本部の局員であるクイントが本局にいる事に疑問を抱く。
まぁ、不仲といってもおそらく上に立つもの同士の事だろう、クイント個人が嫌いとは思えない。

「・・・スバル達と一緒という事は・・・・・見学でもさせているのですか?」
「あ・・・・・・・え、ええ、まぁそんなところ。もし駄目だなんて言うと、またスバルが一人でどこかに行っちゃうから。
それで、ガンダムさんは今帰り?」
曖昧に答えた後、その話題を無理矢理終らせるように話題を変えるクイントに少し不審感を抱きながらも、彼女の問いに答える。
だが、その答えに不満を抱く人物が目の前にいた。
「え〜!?ガンダムさん、遊ぼうよ〜!!」
スバルである。本当なら昨日の昼食の後、彼女はギンガと一緒にナイトガンダムを遊ぶつもりだった。
だが、あの時はナイトガンダムに急な仕事(クイント曰く)が入ったため、我慢して諦めた。だからこそ、今日こそ遊んで欲しい。
「ねぇ?お姉ちゃんも遊びたいよね?」
彼女も妹であるスバルと同じ気持ちであった。だが、迷惑ではないのか?仕事帰りで疲れているのではないかという彼女の
気遣いが、本当の気持ちを押しとどめていた。
「スバル、私も同じ気持ちだよ。だけど、ガンダムさんも疲れてるから、また今度にしよ?」
「そうよ、お姉ちゃんの言うとおり。ガンダムさんが好きなら、家に帰してあげましょ?」
大好きな母と姉に諭されたスバルは、頬を膨らませ不満を表しながらも、納得したのかナイトガンダムから離れる。
シュンとするスバルに申し訳ない気持ちになりながらも、正直ギンガとクイントの気遣いには感謝していた。
疲れに関してはゆっくり眠ったため残ってはいなかったが、あの月村家襲撃事件以来、全く顔を合わせていないイレインの事が気がかりだったからだ。
「今度日を改めて遊ぼう。それまでいい子にしてるんだよ」
笑顔でスバルとギンガの頭を優しく撫でた後、転送装置の中に入るナイトガンダム。
後は扉が閉まり、ハラオウン家が借りているマンション内に設置されている転送ポートに転送されるだけ。誰もがそう思っていた。
閉まる扉に滑り込むようにスバルとギンガが入ってこなければ。
15高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:10:41 ID:Hhcfs/2D
スバルはあまり我侭を言う少女ではない。それに他人の気持ちを理解できる子でもある。
だからこそ、母と姉の言う事もちゃんと理解し、ナイトガンダムと遊ぶ事を諦めた・・・・かに見えた。
「(でも・・・・今度は何時会えるのかな・・・・・・)」
よく考えてみたら、ナイトガンダムと会えたのは全て偶然だった。決して連絡を取ったりしたわけではない。
また偶然が続くのか?そう考えるといてもたってもいられなくなる。
「(ねぇ、お姉ちゃんもそう思わない?)」
「(・・・・・・・うん、スバルの言う通りかな・・・・)」

母親であるクイントには内緒にしているが、スバルとギンガには心の中で互いに話す事ができた。
念話と言われる魔法に似ているが、自分達はまだ魔法は一切使えない。おそらく自分達の体が特別だからだろう。
互いに近くにいないと伝えられないという欠点はあるが、この能力は自分とスバルを繋ぐ絆のような物だと感じていた。

「(だからさ・・・お姉ちゃん)」
スバルが考えたアイデア(スバルは『作戦』と言っていた)にギンガは危ないから止めようと言おうとしたが、結局言う事ができなかった。
理由は簡単、ギンガもまた、スバルと同じ気持ちだったからだ。
「(・・・・・わかった。私もガンダムさんと遊びたいから・・・・・・お母さんには一緒に怒られよ)」
こうして、二人の作戦は見事に成功し、一人の騎士と二人の幼い姉妹は、海鳴市へと転送された。


・海鳴市

「・・・・・・二人とも〜・・・・・・大胆な事をしてくれたわね〜・・・・・」
端末越しにニコニコと笑顔で二人の娘に話しかけるクイント、だが、その笑顔を向けられているスバルとギンガは怯えきっており
彼女達の後ろで様子を見ていたナイトガンダムもまた、圧倒されたかのように一歩後ろへと下がった。
「(・・・・なんとう覇気・・・・・・これが母親というものか・・・・・・)」
顔は笑顔そのものだが、端末越しからでも分かるクイントのオーラにナイトガンダムは感心すると同時に
情けない事にスバル達同様恐怖を感じていた。だが、このままでは二人は怒られっぱなしになってしまうのではないかと思ったため
意を決して、二人の変わりに対応する事にした。
「クイント殿、二人も悪気が会ったわけではありません。もうそれくらいでよろしいでしょう?」
「・・・・まぁ、ガンダムさんがそういうのなら・・・・・・でもごめんなさいね、迷惑かけちゃって。
貴方も疲れてるでしょうに・・・・・それに貴方がお世話になっている家にも迷惑が掛かるんじゃ」
「その様な事はありません。とても親切な方々ですよ。お二人は私にお任せください」
歳が近いすずかとなら良い友達になれるだろうと思う。
お世話になっている月村家の人達に嘘はつきたくはないが、管理局の存在を隠す以上、
スバル達に関してはクロノの従妹と言う事でどうにかごまかすしかない。
「ありがとう。私は手続きを終えてからそちらへ迎えに行くわ。君達がいる地球は管理局の管理外世界だがら
許可やら手続きを取らないと行く事はできないのよ。少し掛かるかもしれない」
「それでしたらリンディ殿に相談をされてみてはいかがでしょうか?今、アースラスタッフは此処に拠点を置いています。
話しの分かる方ですし、迎えに行く位でしたら簡単に許可をいただけると思いますよ。おそらくまだ本局にいる筈ですから、
こちらで連絡を入れておきますよ」
「そう?それじゃあ御願いするわね。最後にスバルにギンガ、もう怒らないけど、こんな無茶をしちゃ絶対駄目だからね」
先ほどとは違い柔らかな笑みで諭すよう語りかけるクイントに、スバルとギンガはゆっくりと頷いた後、声を揃えて謝った。
16高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:12:27 ID:Hhcfs/2D
・1時間後

:月村家正門前

ナイトガンダムのおかげで苦労せずにリンディと会う事ができたクイントは、彼女のおかげで
驚くほど時間を掛けずに地球へ来る事ができた。
「だけど・・・こうもあっさりと・・・・いいのかしら?」

ナイトガンダムの態度から、リンディ・ハラオウンという人物は自分と同じ局員だとばかり思っていた。
実際そうだったのだが、提督とう地位はクイントに必要以上の緊張感を与える事となった。
提督といえば地位は勿論の事、次元航行艦・・・・しかも艦隊クラスの指揮権まで持つ事が出来るほどの地位である。
自分が所属している隊の隊長よりはるかに偉い。緊張するなという方が無理である。だが
「ああ、クイント・ナカジマさんね?ガンダム君から話を聞いてるわ」
緊張していた自分が馬鹿だったかのように、リンディ・ハラオウンは気さくな人物だった。
自分の地位を鼻に掛けないで、まるで友人と話すかのように話しかけるリンディに、
クイントは呆気に取られながらも緊張していた自分を恥じた。
そしてあっという間に許可をとる事ができ(と言っても「ええ、どうぞ、家の転送ポートを使って」というあっさりとした許可だったが)
此処へくる事ができた。ちなみに、直に許可が取れたにも拘らず此処まで来るのに一時間を要したのは
リンディにお茶の誘いを受けたからであったのだが・・・・・今ではその事を猛烈に後悔している。
子を持つ親同士、話しはとても弾んだ・・・だが、出されたお茶は宜しくなかった。

「あの味覚・・・・・息子さん、糖尿病にならなかったのかしら・・・・・・さて、この月村さんの家にいるはずだけど」
良くない思い出だけをさっさと忘れたクイントは、改めて表札を確認した後、インターホンのボタンを押した。


「手加減無用!!覚悟ぉ!!!」
アリサの声と友に、力の限り投げられたバレーボールが容赦なくスバルを襲う。だが、
「えい」
可愛い声と友に片腕でアリサの必殺魔球を軽々と受け止め、
「やぁ」
同じく可愛い声で投げ返した。
アリサに迫り来るバレーボール、可愛い声とは裏腹に、どう見ても子供が投げたとは思えないスピードで迫り来る。
だが、そのボールがアリサに直撃する前に、すずかが前へと出て片手で受け止めた。
すずかの掌に直撃した瞬間、激しい音が響き渡り彼女の髪が棚引く。傍目から見てもそれなりの衝撃がすずかを襲ったかに見えたが、
彼女は顔を顰めるどころか相手を称えるかのように微笑む。そして、ボールの勢いが殺されないうちに、掴んだ腕を1回転、
「それっ!」
遠心力を加えて投げ返した。
すくい上げるように投げられたボールは回転しながら突き進み、スバルの隣にいるギンガに襲い掛かる。
大の大人でも当たれば悶絶間違いなしの剛速球。だが、ギンガは逃げる事無く両手を差し出しボールをキャッチ、
体を踏ん張ってはいたが、反動で体が無理矢理後ろに引きずられる。だが、受け止める事には成功した。
「・・・やるね、ギンガちゃんにスバルちゃん」
「すずかさん達も・・・・・すごいです」
「まぁ、アタシとすずかのペアに喰らいついていく実力は褒めてあげるわ!!だけど、これまでよ!!」
「アタシとお姉ちゃんも負けないぞ〜!!!」
17高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:15:48 ID:Hhcfs/2D
一方、外野では
「ねぇ・・・ガンダム。これって遊びよね?」
既にボールを当てられたイレインが木にもたれ掛りながら、同じくボールを当てられたガンダムに尋ねる。
時より聞こえるアリサの叫び声、何かが土にめり込む音、ボールが強く当たる音。
それらを乾いた笑いと友に受け流すナイトガンダムは
「・・・・・・おそらく・・・・・」
かなり間を空けた後、短く答えた。
「・・・・思うんだけどさ、アリサ、このままじゃ不味いんじゃない?この中じゃまともな人間、彼女だけよ?」
彼女なりにアリサを気遣うが、その言葉にナイトガンダムは引っかかりを感じた。
確かにすずかは夜の一族の血を引いているため、常人より体力はある。だが、スバルとギンガは普通の人間の筈。
見た所力はあるが、魔法はまったく使っていない。仮に使ったとしてもイレインが察知できるとは思えないが。
「イレイン、その言い方は感心しない。確かに力はあるが、それではまるで人間ではない様な言い方だ」
その発言にイレインは心底不思議な顔をする。そして腕を組んで数秒考えた後、確認するかのようにナイトガンダムに尋ねた。
「・・・・まぁ、すずかの事は謝るわ、だけどあのスバルとギンガって子、貴方本当に知らないの?」
「どういう事です?」
ナイトガンダムの表情から、本当に知らなかった事にイレインは意外そうな顔をする。
数秒沈黙した後、別に隠す必要もないと結論付けたイレインは、顔をスバル達の方へ向け呟くように答えを明かした。

          「あの二人はまともな人間じゃない。私やノエル達と同じよ」


「いや〜、最近の子供はパワフルねぇ〜」
日当たりの良い庭に置かれたテーブルと椅子。この家の主である月村忍はその椅子の一つに腰掛け、
右手に紅茶が入ったカップを持ちながらすずか達の様子をうかがっていた。
彼女に向き合うように座っていたクイントもまた、忍の言葉に釣られたかのようにスバル達の様子をうかがう。
歳が近い子と楽しく遊ぶスバル達の様子に、自然と顔が綻ぶ。
正直、この笑顔を見られただけで彼女の心は温かい気持ちになった。
スバル達はその存在から、未だに学校などに通わせるような事はしなかった。そのため、同年代の友達などは未だにいない。
だからこそ、歳が近い子達と遊べるのはとても良い経験だと思う。
「ありがとうございます。スバル達もとても楽しそうで・・・それにこんなに美味しいお茶もいただいて」
「気にしない気にしない、ガンダム君の知り合いなら、私達の知り合いでもあるから気にしない。だけどあの子達、スゴイ運動神経ね〜。何か習い事でもしているの?」
以前顔を向けたまま尋ねる忍に、クイントは言葉を詰まらせるが、特に何もやっていないと答えた。
「・・・・・ふ〜ん・・・・・そうなんだ・・・・・」
意味ありげに頷いた後、忍はゆっくりと顔をクイントの方へと戻し、紅茶のカップを置く。そして

     「当然よね?あの子達、体に機械が埋め込まれている、ただの子供じゃないんだから?」

クイントはその言葉に反応するかのように即座に立ち上がろうとする。だが、
「クイント様・・・お座りになっていてください」
先ほどまで自分達の様にスバル達の様子をうかがっていた筈のメイド『ノエル』が、クイントに気配を感じさせる事なく後ろに立っていた。
そして、彼女の両肩に手を置き、無理矢理椅子に座らせるかのように押し付ける。
「(何?この人!?なんて力なの!)」
違法とは分かってはいるが、魔力で体を強化し、無理矢理抜け出そうとする。
だが、それでももがくのが限界、脱出する事は出来なかった。
18高天 ◆7wkkytADNk :2008/10/20(月) 22:17:49 ID:Hhcfs/2D
脱出が不可能と痛いほど理解したクイントは、せめてもの抵抗とばかりに忍を睨み付ける。
「・・・・貴方・・・・・いったい何者・・・・・」
射殺さんばかりに睨み付けるクイントの視線を忍は微笑みながら受け流す。
そして顎に手を乗せ、正面からクイントを見据えながら、ゆっくりと話しだした。
「何者っていってもねぇ・・・・・私はここの家の主、月村忍。決して火星人でも木星人でもないわ。
だけど驚いたわ・・・・あんな小さな子がいるなんて・・・・・世界は広いわね・・・・」

クイントは忍の言葉を信じてはいなかった。戦闘機人の技術は公式に公開されてはいない。
それこそ一般人、しかも管理外世界の住人が知る筈がない。
なのに目の前の女性はスバル達を機械が埋め込まれている人間『戦闘機人』と見抜いた。
彼女の態度から、カマを欠けたとは思えない。絶対の自信からでた結論だろう。
検査もしないで見抜けるという事は『戦闘機人』関係に詳しい人物、それこそ開発に関わった人物でもない限り不可能と言っても良い。

「・・・・・・で、貴方は何が望み・・・・・・」
局員としての性格からだろう。クイントは脱出を諦め、忍の話しに付き合う事にした。
『戦闘機人』に詳しい以上、彼女を無視するわけにはいかない。だが、後ろのメイドは無論、下手をしたらナイトガンダムとも戦わないといけなくなる。
正直勝ち目は無い。おそらく自分に出来ることは、救難信号を送り、管理局にこの場所を知らせる事くらいだろう。
おそらく向こうも自分が何かしらの行動を起こすと思っている筈。だが他に方法は無い。
「・・・望みねぇ〜・・・」
目を瞑り、考え込むように黙りこむ。時間にして10秒程度、だがクイントには数時間にも感じられた10秒。
「まぁ、考えるまでも無いんだけどね」
以前自分を睨みつけるクイントの目線を正面から受け止めた忍は、ゆっくりと自分の望みを呟いた。

           「スバルとギンガ・・・あの子達を私にちょうだい」




こんばんわです。投下終了です。
>>1乙 です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
なのはの出番がヤバイ・・・・orz
次は何時になるのやら・・・・orz
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 02:24:40 ID:yc8219JT
>>18
今回のGJです!!!
なのはの出番が無かったのは流石にヤバイですね。
それと今八神家の状況が気になります。

スバルとギンガ・・・月村家に取られちゃうの!?
クイントの選択は如何に?
20キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:21:18 ID:BI+n+wqS
これよりキャバクラ氏の代理投下始めます。
21キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:21:47 ID:BI+n+wqS
そこは田舎である。管理世界でも発展が遅れている部類に入るだろう。
都会では見られない建物が並び、舗装されていない道が緑の耕作地の間を歪に走っていた。
住民の殆どが農作業に従事しており、若干お年寄りが目立つ。
犯罪にもテンで縁が無い損な場所だからこそ、その少女は違和感無く溶け込めた。

「キャロ〜? あんたに封筒が届いているよ」

年季が入った木造の二階建ての建物。一階部分には農作業の道具や藁が詰め込まれている。
その入り口から上へと向かって声を上げるのは持ち主である老婆。

「は〜い、お婆さん」

ギシギシと音を立ててボロい梯子を降りてくるのは桃色の髪の少女。
名前はキャロ。数ヶ月前にふらっと町に現れ、『空いている部屋があったら貸して欲しい』と尋ねてきたのだ。
既に夫は他界し、子供達も都会に出ていて一人暮らしだったから、老婆は簡単に頷いた。
別に部屋は余っているのだから、母屋でも良いと言ったのだが、キャロが選んだのは納屋。

「また前の人かい? 送り主の名前が無いけど……」

だからと言って付き合いが悪いわけではない。
食事は一緒にするし、忙しい時期は農作業を手伝う。少ないながらも家賃を払ってもいた。
基本的にはとてもいい子なのだが、老婆は一つだけ不思議な事があった。
それは時々送られてくる送り主が無い封筒。

「はい。またちょっと空けますけど、大丈夫ですか?」

そしてその封筒が届いた後、何処かへ行くことだ。短い時で三日、長い時には一ヶ月にわたって家を空ける。
最初の一回だけ、老婆は理由を聞いてみた。しかしキャロはそれに答えず、曖昧な笑みを浮かべるだけ。
故に彼女はそれ以上聴かなかった。人には色々あると長い人生で解っているから。

「大丈夫だよ。出来れば収穫の時期には帰ってきて欲しいけど……」

「クスッ! その頃にはたぶん……」

「それじゃ、行っておいで」

そして老婆は豊満な体でキャロの小さなソレを抱き締めた。
これが見送りの挨拶。何時も通り普通の光景。老婆はキャロを中心としたすべてに疑問を感じた事は無かった。




「フリード〜出かけるよ〜」

悲鳴を上げる梯子を駆け上がり、キャロは納屋の二階部分に顔を出して叫んだ。
そこには一階のような農具や藁が詰め込まれた乱雑とした空間ではない。
簡素ながらもしっかりとしたベッドやテーブルがあり、年季は代わらない床もきれいに掃除されている。
電気が通っていないので、夜に明かりを取る為のランタンが天井に吊るされている。
農具に紛れていたボロボロの縫い包みも継ぎ接ぎされて形を取り戻し、壁際に並ぶ。
古いながらもモダンテイストという言葉を用いるならば、かなり快適な空間と言えるだろう。
22キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:23:07 ID:BI+n+wqS
「キュルル〜」

呼びかけに答えるのは薄いカーテンが遮っていた窓の向こう、空中から聞こえる鳥のような鳴き声。
羽音一つさせて部屋に入ってきた相棒には目も向けず、キャロは豪快に服を脱ぎ始める。
着ていた普段着、農作業にも適した着古したジーパンなどを脱ぎ、新たに纏うのはお洒落なワンピース。

「さぁ、出〜かけよぉ♪」

歌いながら壁に掛けられた有名なブランドの大き目のショルダーバックを手に取る。
旅支度を詰め込むには丁度良いだろう。一番下には下着などの衣服の替えを敷き詰めて、更に……

「一切れのパ〜ン♪」

テーブルの上、カゴの中から保存性を優先した硬そうなパンを無造作に鞄に放り込む。
そして同じくテーブルの上に在った柄と鞘で構成された物体。鞘を取り去ればソレは……

「ナイフ〜♪」

冷たい金属光沢を示すナイフ……と言っても小型で在るが故に、少女が護身用や果物の皮剥き用に持っていても違和感は無い。
刃に欠損が無いかを確認し、丁寧に鞘に収め直してやはり鞄の中へ。
最後は……

「フリード〜鞄に詰め込んでぇ〜♪」

これまた手頃な所で毛づくろいをしていた相棒を鞄に押し込み、若干遅れて上がる抗議の声を黙殺。
淀み無い動きで鞄を閉めた。僅かな隙間から覗く嘴が恨めしげにパクパクしている……何か可笑しなところでも?

「しゅっぱ〜つ!」

生物的な曲線を描きながら僅かに動く鞄を背負い、お気に入りの白い丸渕帽子を被って完成。
最後に雨が吹き込まないように窓を閉め、目を落とすのは先程届けられた封筒の中身。
小さな長方形の紙は次元航行船のチケットであり、記された文字は『ミッドチルダ クラナガン行き』。
これは何処にでもある少女のお出かけ準備。





そこは先の『田舎』と言う単語とは全く正反対を行く、多次元世界の中心地 ミッドチルダ クラナガン。
その中でも富と権力の象徴とも言える高層ビルの最上階。そこを満たすのは本来の雰囲気ではない。
ピリピリとした暗い緊張感、室内にいるの人影は管理局の制服、漂うのは香しい血の香り……ここは殺人現場である。
23キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:23:56 ID:BI+n+wqS
「こっちの写真は取ったか?」

「あぁ、ガイシャは解剖に回してくれ」

「攻勢、防護、特殊……魔力反応は無しだ」

事件の捜査と言うのは管理世界でも非魔法文化の世界も変わりは無い。
現場からあらゆる証拠を収集して殺害状況を推測、被害者の交友関係や殺害時間の目撃情報などと重ね合わせて、犯人を特定する。
魔法が使われようとそれは変わらない。ただ魔力の残渣の特定などが増える程度であろう。
状況を永遠に保存して置ける手段としてカメラのフラッシュが瞬く中、男性ばかりの現場に入ってくる二人の女性。


「ギンガ・ナカジマ捜査官です。遅れて申し訳ありません」

「えっとティアナ・ランスター捜査官補佐です。よろしくお願いします!!」

一人は藍色の長い髪を伸ばした女性 ギンガ・ナカジマ。
そして前者よりも若干若く、オレンジ色の髪をツインテールにした少女 ティアナ・ランスター。
どちらも管理局局員の制服に身を包んでおり、幸か不幸か名前も知れている。故に室内の局員達も驚かない。
あのJS事件で中心的な活躍をした二人だからこそであり、この場を任された理由もソコにある。

「ガイシャは動かさない方が良いですかね?」

「はい、お手間を取らせてすみません」

室内には争った形跡は無かった。しかし赤いインクをぶちまけたように染まっている。
いたって普通の調子で歩くギンガの後ろをおっかなびっくり歩くティアナ。
そんな様子からして、二人の経歴の違いが周りの誰から見ても明らかだった。

「首に裂傷が一つだけ……これが致命傷ですか?」

「はい、他に外傷はありません。動脈切断による失血死で間違いないかと」

二人が辿り着いたのは豪華なこの部屋の主……の死体のところ。
手馴れた動きで手袋を装着し、色を失った死者の首元を動かして傷を覗き込む。
キレイな傷だった。躊躇いが無いし、一度で的確に切断している。プロの仕業だと考えて間違いないだろう。
手袋越しで触れた傷口の感覚も無駄な損傷が一切無いとギンガに伝えている。
乾きかけた傷口を弄ることでぐずぐず……何とも言えない音。固まった血がパリパリ剥がれ落ちていくさま。
その様子にティアナは思わず顔を顰めて呻いた。

「うっ……」

「あっ……ゴメンなさい、ティアナ。何時もの調子でやっちゃって」

ギンガは根っからの捜査官であり、機動六課への出頭が例外的な処置だった。
もちろん様々な事件の現場に立ち会うわけで……殺人事件の担当として、死体と相対するのは珍しい事ではない。
対してティアナは救助部隊からの機動六課入り。相手はガジェットばかりで死人を見ることなど無かった。
24キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:24:57 ID:BI+n+wqS
「いえ! 無理を言って付いてきてますから、ご迷惑をかけるわけには……」

では何故そんなティアナが無理を押して殺人事件の現場に居るのか?それは彼女の長年の夢である執務官に由来する。
執務官は次元世界を股に掛けて、捜査から逮捕、起訴まで一括して行う権限を持つ職種。
知識だけではなく魔道師能力も問われ、エリートだけが選ばれる超難関。
そこに僅かでも近づく為、次の配属先が決まるまでティアナは上司である執務官に言われたのだ。

『ギンガのところでお仕事を見てきたらどうかな?』と

規模は大きく異なるが事件での捜査などを担当する捜査官は、執務官の仕事に通じる部分も多い。
故にティアナはここに居る。もちろん向上心の塊である彼女はやる気満々であり、可能な限りの予習もしてきた。
それでも初めて見た死体は余りにも鮮烈。
温かみを失った土気色の肌……服を濡らす赤黒い斑模様……死んだ魚のような濁った目……何かを掴もうと虚空でもがく手……

「私も最初の頃は全然ダメだったもの」

コレばかりは慣れるしかないとギンガは苦笑。自分の経験が妹の親友の反応の正しさを裏付けているから。
ティアナもそれに頷きかけて……

「じゃあ、他二つの遺体も見てみようか?」

「……はぁい」

……意外とギンガはスパルタだと気が付いた。



「大丈夫?」

「なんとか……」

捜査が終了したわけでは勿論無い。
視界的に惨劇の現場が入らない場所 現場の外で若干青い顔をしたティアナが長いすに腰を下ろしていた。
休憩所らしく壁際に紙コップの自販機が並んでおり、ギンガが気遣いの言葉と共に差し出したのもそこで購入したホットコーヒー。
液体がすべて血のように見えて仕方が無かったティアナだが、こんな事でめげてられない!と口に含む。

「熱っ!」

「さて、執務官希望さんに問題を出します」

「え?」

舌を襲う熱さと痛みに上げた小さな悲鳴をかき消すように、隣から掛けられるのはそんな言葉。
謎掛けのような言葉だったが『執務官になる為の問題』と理解して、ティアナは気を引き締めた。

「この事件には不自然な点が幾つか有るんだけど、それを可能な限り列挙してみて」
25キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:25:46 ID:BI+n+wqS
「不自然な点……」

言われてティアナは状況を思い返す。被害者は三人。
このビルのオーナーであり大手建設会社の社長、その秘書とボディーガードの計三人。
外傷はみんな首に裂傷が一つだけ。何処にでもあるナイフによるものと思われるが、犯人はその道のプロだということ。
しかしこれと言って不思議なところなど無いようにティアナには感じられた。

「残留魔力反応も無いし……特に不自然なところは無いと思うんですけど……」

「う〜ん、スバルならその答えでも良いんだけど、優秀なティアナはそれじゃダメね」

しかし返ってきたのは残念そうな叱責の言葉。ふぅ〜とため息をつくギンガを見ると本当に自分がダメな奴に思えてティアナは頭を垂れた。

「まずは……魔力反応が無いから不自然な事は無い……そう考えてはダメね?
 残留魔力反応が無い、つまり魔力を使った形跡が無いからこそ、この状態は不自然なの」

一旦区切ったギンガは首を捻りながら思案する。どのように説明するのがこの子にとって良い経験となるか……

「例えばティアナ、もし『正面からナイフを持った不審人物が近づいてきた』とするわよ?アナタなら如何する?」

「デバイスを機動して警告。警告に従わない場合は撃破し、拘束します」

「うん! 管理局員として模範的な回答ね」

素晴らしい笑顔で拍手をされると『褒められたのか?』と逆に解らなくなるティアナは首を傾げた。

「資料で見たと思うけど被害者の一人はボディーガード 魔道師よ。
 そんな人物ならば貴女の答えと同じ行動を起こすと思わない?」

「それは……そうですね」

「そうなった場合、事件現場には不自然な事があるんだけど……」

そこでティアナは再び思考の海へと潜る。ここまでヒントを出されて答えられないようでは、執務官なんて夢のまま。
自分と同じ反応 交戦して無力化を被害者の一人が選択した場合、現場が今の状態では不自然……

「そっか! 荒らされた形跡、つまり戦った跡が無いって事ですね!?」

「そういう事。そしてその不自然と関連する不思議は多いの。
 この部屋に居たのが一人ならば奇襲を受け、抵抗する暇も無く殺された可能性も考えられる。
 けどあの部屋には三人も人が居た。まぁ、三人ともガイシャな訳だけど……わかる?」

「三人居ても争った形跡が無いのは不自然……」

被害者が一人の場合、犯人が殺しのプロだと仮定すれば奇襲により、無抵抗で殺害されることは考えられる。
だが被害者の数はその三倍。逆に言えば争うことも無く被害者が殺される可能性は三分の一……いや、それ以下。
26キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:27:05 ID:BI+n+wqS
「不自然な点……」

言われてティアナは状況を思い返す。被害者は三人。
このビルのオーナーであり大手建設会社の社長、その秘書とボディーガードの計三人。
外傷はみんな首に裂傷が一つだけ。何処にでもあるナイフによるものと思われるが、犯人はその道のプロだということ。
しかしこれと言って不思議なところなど無いようにティアナには感じられた。

「残留魔力反応も無いし……特に不自然なところは無いと思うんですけど……」

「う〜ん、スバルならその答えでも良いんだけど、優秀なティアナはそれじゃダメね」

しかし返ってきたのは残念そうな叱責の言葉。ふぅ〜とため息をつくギンガを見ると本当に自分がダメな奴に思えてティアナは頭を垂れた。

「まずは……魔力反応が無いから不自然な事は無い……そう考えてはダメね?
 残留魔力反応が無い、つまり魔力を使った形跡が無いからこそ、この状態は不自然なの」

一旦区切ったギンガは首を捻りながら思案する。どのように説明するのがこの子にとって良い経験となるか……

「例えばティアナ、もし『正面からナイフを持った不審人物が近づいてきた』とするわよ?アナタなら如何する?」

「デバイスを機動して警告。警告に従わない場合は撃破し、拘束します」

「うん! 管理局員として模範的な回答ね」

素晴らしい笑顔で拍手をされると『褒められたのか?』と逆に解らなくなるティアナは首を傾げた。

「資料で見たと思うけど被害者の一人はボディーガード 魔道師よ。
 そんな人物ならば貴女の答えと同じ行動を起こすと思わない?」

「それは……そうですね」

「そうなった場合、事件現場には不自然な事があるんだけど……」

そこでティアナは再び思考の海へと潜る。ここまでヒントを出されて答えられないようでは、執務官なんて夢のまま。
自分と同じ反応 交戦して無力化を被害者の一人が選択した場合、現場が今の状態では不自然……

「そっか! 荒らされた形跡、つまり戦った跡が無いって事ですね!?」

「そういう事。そしてその不自然と関連する不思議は多いの。
 この部屋に居たのが一人ならば奇襲を受け、抵抗する暇も無く殺された可能性も考えられる。
 けどあの部屋には三人も人が居た。まぁ、三人ともガイシャな訳だけど……わかる?」

「三人居ても争った形跡が無いのは不自然……」

被害者が一人の場合、犯人が殺しのプロだと仮定すれば奇襲により、無抵抗で殺害されることは考えられる。
だが被害者の数はその三倍。逆に言えば争うことも無く被害者が殺される可能性は三分の一……いや、それ以下。
27キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:28:01 ID:BI+n+wqS
「殺害方法はみんな同じ、首元を一切り。
これはそう言う方法に詳しい知り合いに聞いたんだけど……後ろから首を締める要領でナイフを引いて切るんだって」

『どんな知り合いですか? ソレ』
なんて聞く勇気は残念ながらティアナには無かった。ギンガは気にせずに続ける。

「これは逆に言うと正面から行うのは相手の抵抗などを考えればとても難しいことになる。
 それなのに揉み合った形跡無し、一人目が殺されているうちに他の人が動いた跡も無し。
 順番的に最後の犠牲者と思われる秘書に至っては仕事机に座ったまま、目の前にある電話に触れることも無く……」

『魔法でしか出来ない』
そう言いかけて、ティアナは首を振った。残留魔力反応が無かったのは確認済みだからだらだ。
全く想像できない不思議と言うものが存在するのか……ティアナが背筋に走る冷たい感覚を覚えた時。

「在りましたよ、今回のような事例」

「え?」

数枚の紙の束を持った管理局員が二人に近づきながら事も無げに言った。
ギンガも落ち着いた様子で紙を受け取り、目を通し始めたものだから、ティアナは呆気に取られてしまう。

「そんな……」

「世界は広いわ。管理局が管理しきれないくらいにね。
公表されていない不可思議な未解決事件なんてたくさん在る……」

「確認されているだけで17件、被害者は全部で34人。
 今回のように魔道師を含む複数人が犠牲になっているケースも多いですね」

渡された資料を読みながら、ギンガは問うた。
覗き込むように見ていたティアナの目には、本日の惨状に劣らぬ現場の写真が複数映る。

「ホシの目星は?」

「依頼者など情報からフリーの殺し屋だと言う事程度しか解っていないそうです」

思わぬ不意討ちに顔を青ざめているティアナを他所に、本物の捜査官二人の会話は弾む。
色々と言葉を交えた末に結局解らない事が多すぎて、行き着くのは実に関係の無い部分。

「あ〜後は誰がつけたか洒落たあだ名が一つ」


魔道師を含む多くの人間が無抵抗に首を掻き切られている様子から、捜査が進まないある世界の担当官が苛立ちと共にこう叫んだ。
『全員居眠りでもしてたんじゃねえのか?』
苛立ちの声を聴いて、聞いて彼の同僚は苦笑しながらこう返す。
『それで死んでじゃ世話無いな〜』

そんな会話の果てに付いた殺し屋のあだ名は……『死に至る眠り』
28キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:28:57 ID:BI+n+wqS
穏やかなクラナガンの昼下がり、陽光の下に広げられた白のパラソルの群れ。
いわゆるオープンテラスといわれる場所で、人々は食事やお茶を楽しんでいた。

「あ〜ん! う〜美味しい〜」

大人、もしくは親子がその利用者を占める中で、その桃色の髪の少女は目立っていた。
まずは子供が一人で食事をしていると言う事、そしてテーブルの上に並べられた料理の数々。
肉があり、魚がある。ライスの隣にはパンが並び、パスタとピザも存在する。サラダとスープとデザートが相席する。
非常にカオスな状況だが、席の主は全く持って嬉しそうであり、蠢くナイフ・フォークと飲み込み続ける口には淀みが無い。

「コレだけが楽しみです〜」

フライを放り込んだ口に、すぐさまアイスを詰め込みつつ飲み干し、少女 キャロは至福の表情を浮かべる。
彼女は都会が好きではない。大きな建物が空を塞ぎ、近代的なデザインは無機質で理解できない。
キャロは田舎が好きだ。かといって……生まれ故郷ほどの辺鄙な場所は好きではない。あれは田舎ではなくて、秘境である。
都会に来るのは仕事だから仕方が無い。だからこそ他の楽しみを見つけないとやっていられない。

「フリードも美味しい?」

「キュルル〜」

円形テーブルの左側の席に置かれたキャロの鞄。その隙間から伸びる嘴が器用に魚のムニエルを摘み上げ、上を向いて飲み込む。
他人が見ていたら奇異の視線は避けられない異様な光景である事は間違いない。
そんな様子を眺めつつ、楽しげに食事を続行していたキャロが、テラスの入り口で目を止めた。
テンガロンハットに薄茶色のサングラス、ド派手な色のシャツと皮のズボン、そしてサンダルと言うとんでもないカッコの男が居る。
手にジェラルミンケースを持ち、誰かを探すように辺りを見回している。
キャロは手を上げて、満面の笑みを浮かべて言う。

「お父さ〜ん! こっちこっち〜」





『お父さん』
仕事相手との待ち合わせをしていたはずのテラスで、そんな声をかけられた男は大いに困惑した。
彼の仕事は『運び屋』もしくは『調達屋』と呼ばれる裏の職業である。
同じく裏の仕事である殺し屋なり強盗なりが仕事で使う道具 デバイスなどを調達し、指定された場所で安全に依頼主に渡すこと。
簡単なように見えて物の移動と言うのは、人が移動するよりも難しい部分がある。
人は身分証明書の一つで簡単に信頼を得る事が出来るが、物 特にデバイスは現物を押さえられたら終わりだ。
更に言えばその仕様用途に応じたモノを、どんな場所でも即座に手に入れるのは至難の業だ。
そこで専門職に需要が生まれるのだ。殺し屋は殺しに、強盗は盗みに専念する為に、得物の確保・運搬を専門にする職業。
29キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:29:50 ID:BI+n+wqS
「おぉ〜待たせて悪いな、マリア」

故に男も驚いてばかりは居られない。彼もこの道で生きているプロなのだ。
大事な受け渡しを前にして、周りから要らない注目を浴びるのは避けなければならない。
実に親しい様子で少女 キャロに向かい合う形で腰を下ろし、顔を寄せて耳元で小さく囁く。

「君みたいにカワイイ娘を持った覚えは無いんだけど?」

「こうすればどんな人物とでも怪しまれずに同じ席に座れるんです」

「ほぉ〜それはいったい誰に…『運び屋ジョンさん』…なに?」

「取引を始めましょう」

この子供が自分の取引相手だというのか?
確かに長い事をやっていれば犯罪者になんて見えない奴が仕事を依頼してくる事はある。だがこの少女では余りにも……

「品は?」

「ご注文どおり」

しかし取引場所に居て取引がある事を知っている事、自分のコードネームを知っている事から、この少女が依頼人で間違いないのだろう。
散乱していた空の食器を恥に寄せ、小さなジェラルミンケースをテーブルの上に置く。
開けば動かないようにクッションで固定された黒に橙色のコアを抱いた手袋状の物体が姿を現す。

「指定されたとおり召喚・使役に特化したオリジナル・ブーストデバイス ナハティガル」

「呪文処理は?」

「インダストリアル社製統合処理システム ジェネラル」

「魔力触媒は?」

「第二十三管理外世界で採掘される魔法鉱石 ノヴァクリスタル」

「バリアジャケットは?」

「オートフィット式対衝撃・対魔法特化型タイプ黒」

「パーフェクトです」

満足そうに少女はナハティガルを装着して起動させる。軽く慣らし運転のつもりでコアが数回輝き、処理速度を告げた。
それを聞いた少女は満足げに頷き、デバイスを待機状態 味気ない黒の宝玉へと変えて、懐へ。
そして代わりに取り出されたモノこそ、オレがもっとも欲していた……

「はい、次もあったらよろしくお願いしますね!」

報酬。分厚い封筒の中身を僅かに覗く。生きていて良かったと思える至福の時。

「まいどあり〜」
30キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:30:44 ID:BI+n+wqS
「それじゃ、私はコレで」

それだけ言うと少女は席を立った。大きな鞄を背負い直して、背を向けて歩き出す。
取引さえ成立すれば後はお互いが無関心・非干渉を貫くのが裏の流儀。
知られたくない事がお互いに多すぎる。それにしても……

「ど〜もあの子の鞄、モゾモゾ動いているような〜気になるな〜」

決して金儲けのためでは無い。純粋にあの鞄の中身が気になるのだ。人間、好奇心が無ければ発展もしなかっただろう。
聞いてみたい気もしないでもない。だけどそれは裏では命取りになる故にグッと自重。
『襲った子猫が大虎だった』
そんな話が裏では腐るほどある。





「また?」

「はい。首の動脈を一掻き、争った形跡無し。間違いなく……死に至る眠りです」

先程の現場から捜査本部に戻り、今後の方針を決定すべく会議をしていた捜査班に飛び込んだ知らせ。

「ふぅ……捜査本部の看板を書き直さなきゃいけないわ」

この捜査チーム実働部隊のトップであるギンガはため息混じりに呟いた。
早速張り出される被害者のプロフィール。現場まで行って確認する時間は無い。
次元を股にかけるような犯罪者を相手にした場合、時間との勝負と言う面が大きい。
本来ならば足を行かして虱潰しに探したい所なのだが、殺しの方法でしか区別が付かないのが今回の犯人だ。
けど相手は仕事をした。つまり死に至る眠りは今もこのクラナガンに潜伏し、食事をしたり睡眠を取ったりしている。
近くて遠い異世界に逃げられるまでならば、充分に早期解決を図る事が可能。

「……これまた大物ね?」

張り出された被害者の写真、もちろん生前のモノ。その下に羅列される名前や経歴。
その人物にティアナは覚えがあった。更に言えば捜査班のメンバーで知らない者は居ないだろう。

「ギャング……ですよね?」

「ヴァリエル・リスモンド。クラナガン周辺の廃棄都市を中心にした黒いネットワークの元占めの一人。
 『ミッドチルダで悪い人を五人挙げなさい』って問題ならば、間違いなく一角の名前が入る大物。
 こりゃ〜後継者争いや利権の争奪で大荒れになるのが目に見えるわ……仕事が増えた〜」

酷く残念そうに机に突っ伏して、不味いインスタントコーヒーを啜るギンガを見ながら、ティアナは痛感した。
仕事って言うのは一つのことだけを考えて居れば良いものではないのだと。
31キャバクラ氏代理:2008/10/21(火) 13:31:20 ID:BI+n+wqS
その証拠に苦労が積る捜査官はすぐさま立ち上がり、周りの仲間に問うた。

「リスモンドと前の被害者、クラナガン建設社長 ダニエル氏との関係性は?」

誰もがその事を考え、調べも既に付いていた。
ホワイトボードを睨みつける同士の一人が手元の資料を捲りながら答える。

「ありません。裏の献金なども探りを入れてみましたが白です」

「ふ〜ん……でも死に至る眠りは違う依頼主からの仕事を、一緒くたにこなすかしら?」

殺しと言うのは安い仕事ではない。鉄砲玉のような使い捨てではなく、多くの利用者に信頼で雇われるプロフェッショナルは高給取りだ。
三十四人以上を殺しているのに、殺害方以外の事を知られない死に至る眠りは、間違いなくそのプロに該当する。
一つの仕事でも充分な報酬を得る事が出来るだろう。

「たまたま依頼の場所が被ったから二つ受けた? 考えにくいわ」

「つまり同じ人物から纏めて依頼されったことですか?」

「そう言うこと……やっぱりこの二人の関係、共通点が鍵になるわね」

もし二人の共通点、例えば同一人物に恨まれていたりすれば、依頼主の特定が可能になる。
それに上手く割り出す事ができれば、まだ依頼を果たそうとしていれば死に至る眠りの先手を取れる。
これ以上の被害者を出す事無く、音に聴こえた殺し屋を逮捕する絶好のチャンスだ。


「おいっ……エライ事が解った」

若干青い顔をして部屋に飛び込んできた管理局員が神妙そうに呟いた。
ピタリと室内の空気が止まる。忙しそうにしていた誰もがそちらに視線を向ける。
それだけ彼の雰囲気に説得力に似た緊張感が漂っていたのだ。

「二人とも……レジアス中将と関係があったんだ」

レジアス・ゲイズ。地上本部にとってそれは英雄の名前であり、忘れ難い汚点でもある。
海から冷遇される低予算と低装備、引き抜かれていく人材をモノともせずに、地上の治安を守り抜いてきた英傑。
だがJS事件で殉職した後、様々な不正が明らかになり死してなお、犯罪者として見られている身でもある。

「それはまた……物騒な関係」

「マイケル氏はクラナガン建設に勤める前、学生時代にアルバイトをしていたファストフード店で会っています。
 その後クラナガンの未来についての論争をした後に意気投合、社長に上り詰めてからはレジアス氏の最大の支援者です」

「リスモンドは?」

「若き日のレジアス中将が追っかけては捕まえ、捕まえては逃げられを繰り返していたそうで……
 裏を統べるようになってからも……まぁソリが会うはずも無く……宿敵でしょうか?」

正直、後者は微妙な気がしないでも無い。しかし続けての言葉に誰もが閃く事になる。
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 13:43:13 ID:x6Fv16d7
支援
33キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:02:34 ID:a8g4Xeyg
「そして二人とも、例の裁判に証人として出廷を予定していたんです」

裁判。それはレジアスを中心とした元地上本部上層部が行ってきた不正を明らかにし、公正な地上本部への回帰を目指したモノである。
と言うのが……建前だ。

「アレは裁判じゃない」

「公認の吊るし上げだ……」

「……海に都合の良い地上にする為に……な?」

生粋の陸士、叩き上げの捜査官達から漏れるのはそんな言葉ばかり。
海との親交もあるギンガは口を閉ざし、これからは海で執務官補佐をする事に成っているティアナは顔を青くしている。

「マイケル氏は当然レジアス中将を擁護するだろうな。だがリスモンドは……」

「イヤ、リスモンドの方が厄介かもしれん。アイツが通じている相手はレジアス中将ではなかったら?」

「そうか……奴ほどの大物、今も地上本部の上層部に君臨する人物……海と繋がりが在ってもおかしくは無い。
 亡きライバルへの手向けとばかりに在る事無い事喋られたら、何人も首が飛ぶ」

そんな会話が積み上げられる中で、ふとティアナが思いついたように顔を上げた。
しかし周りは歴戦の捜査官達。若輩の自分が発言をして良いものか? だから小さく呟いてみた……

「裁判ってことは……被告が居るんですよね?」

「当然でしょ?」

ティアナの呟きを受けて、ギンガは当然と返す。誰も被告人席に居ないのでは締まらない。
体の良い吊し上げであるならば、尚の事だ。その被告はレジアスの娘にして副官。

「裁判を主導したのは海とそれに近い勢力……でもレジアス中将は陸を中心に人気で……評価するべき事が多すぎる。
 私なら……無理やりにでも裁判を中止にさせます」

「……!! オーリス・ゲイズを!?」

捜査本部に走るのは衝撃。若輩の見習いが導き出した突飛な妄想。だがそれでも可能性を秘めるのならば、推測しなければならない。
裁くべき対象が居なくなれば、審議を無理やり中断させる事もできる。
孤立無援の状態に持って行き、陸を飼いならすには……オーリス・ゲイズは知りすぎているのだ。
どうしようもなかった陸の状態、それを改善せんとする奔走する父の姿。
『未だに多くの者から支持を集めるレジアス・ゲイズをこれ以上語られるのは不味い。証人と一緒に始末してしまおう』
……そんな考えが浮かんでも不思議は無い。不思議は無いからこそ……
34キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:04:05 ID:a8g4Xeyg
「彼女はいま何処?」

ギンガが脱いでいた上着に袖を通しつつ、誰にでもなく投げかけた疑問。

「第三地区の拘置所です」

しかし誰もが事の重大性を理解している。故には返答は早い。

「警備体制は?」

「普通のシフトですよ……脱走は絶対に考えられませんから」

考えられない。例え新レジアスな一派が脱走を手引きしても、オーリスは拒むだろう。
父の正義にすら疑問を抱くほど、地上とソレを守る正義を信奉していた有能な副官。
そしてそれは今も変わらない。だからこそ……厄介なのだ。

「連絡をとって」

「もうやってます……あれ? 出ないぞ」

騒然とした対処と行動の錯綜が始まる。





「世知辛い世の中だぜ……」

第三拘置所の職員が夜勤の最中にふと呟いた。平凡な拘置所に過ぎない彼の勤め先には、とある有名人が拘留されている。
オーリス・ゲイズ。元地上本部のナンバー2とも言える人物。
偉大なリーダーと父をいっぺんに失った上に、その罪を被るような形で拘留されて、裁判を待つ身。
古い陸士ならば、過去のクラナガンを知っている者ならば誰もが、レジアス中将の功績の意味を知っている。
それを思案し、実行し、維持し続ける事に必要な労力も理解できる。
平和な地上しか知らない若い者、地上なんて何とも思っていない海の連中、そんな奴らは何も解っていないのだ。

「なぁ〜にやってんだろ……オレ」

しかし優先されるのは心情ではない。今の管理局の意向であり、自分の保身だ。人なんて碌なものじゃないとつくづく思う。
今もそうだ。手には支給品のデバイスと懐中電灯を握り、口には職務規定違反だがタバコを咥えて、警備の最中。
罪を問い、拘束されるべきではない人間を確実に拘束させ続ける仕事。

「ん? 何の音だ……」

憂鬱に下を向いていた顔が羽音のようなモノに導かれて上を向き……何かが顔に当った。
液体……だったと……思う……直ぐに気化して……白い煙が……

暗い闇に沈んだ意識のどこかで、サクリと軽い音を聞く……何かが裂けた音だ。

切り裂かれたのは自分の首……あれ?
35キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:06:09 ID:a8g4Xeyg
第三拘置所には特別棟というものが存在する。他の牢とは独立した場所にあり、二十四時間見張りが付く。
だが同時に他よりも僅かに人間らしい生活が遅れる場所。いわゆるVIPが収監される場所だ。
そこは今、異常な状態にあった。

「バシュッ」

水が噴出すような音。人工の明かりの元で撒き散らされた液体の色は紅。
ゴトリと転がされるのは首元を引き裂かれ、大量失血により命を失ったばかりの死体。
それだけでも異常なのだが、さらに不可思議な事がある。それは静かだと言う事だ。
確かに他の棟とは独立管理される場所ではあるが外の見回りが一人、中には二人の当直が付いている。
だと言うのにまったく異常事態を知らせる警報も鳴らなければ、仲間が一人殺されたと言うのに、反撃すら見せない。

「ん〜んん〜♪」

故に侵入者にして殺害者は鼻歌を歌いながら、悠々と室内を闊歩する事が出来る。
黒い帽子に黒いコート、黒いシャツに黒いロングスカート、黒いブーツに橙色のコアを抱く黒の手袋。
上から下まで真っ黒な装束だが、その身長は小さい。
ピッチリ留めたコートの長い襟で隠れた口元と帽子の狭間では桃色の髪が覗く。
髪の下には僅かに愛らしい少女の顔。澄んだ瞳がキャンプに行く子供のように輝く一方、片手に握られるのは小さなナイフ。
軍用の堅牢な仕様ではない。鞘で隠れていればペーパーナイフだと言っても誤魔化せそうな可愛らしい大きさ。
それでも人の命を奪うには充分だと言う事が、既に切り裂かれた被害者の首と血に塗れた刃が証明していた。

「眠れ〜眠れ〜今際の夢、安らかであれ〜♪」

遂に声を出して歌い始めてしまうが、やはり周りに動く気配は無い。
早くも無く、音を立てないわけでもなく、隙を見せないわけでもない。
ただ歩く。楽しそうに軽々しく、次の得物へと向かう。
歌いながら、踊りながら近づいてくる敵。なぜ陸士は動かないのか? 
答えは至極単純……倒れ伏すように……寝ているから。

「踊れ〜踊れ〜茨の靴を履くシンデレラ〜♪」

しかし職務中の居眠りなどと言うレベルではない。完全に意識を失うような眠り。
周りで仲間が殺されていようと、殺人犯が歌い踊りながら近づいてきても眠りから醒めない。
首元にナイフを当てられ、引っ張られる。噴出す鮮血と共にカッと見開かれる瞳。
ようやく自分が何かをされた事を理解しても既に遅い。噴出す血と風前の灯たる命を見つめられる時間は僅か。
力尽きたソレを捨て置き、少女は前へと進む。二人の人間を殺していようが、軽い足取りは変わらない。
窓の外からバサリと聞こえる羽音。そして鳴き声。普通の鳥では発する事が出来ない音だろう。
そこに居る何かに安堵の微笑みを浮かべつつ、殺人者は進む。奥まった部屋。
堅牢なロックが成されているが、鍵など既に殺して拝借済み。

「寝てますかぁ?」
36キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:08:36 ID:a8g4Xeyg
ゆっくり開けた扉の向こう。罪人が繋がれるには恵まれたスペース。
差し入れられたのだろう本が詰まれた机に突っ伏すような人影が一つ。
寝ている事を前提にしている少女は平然と室内に侵入して、驚いた。

「なに……貴方は……」

寝ているはずの人物が僅かながらにも動き、言葉を発した事に驚きの表情を浮かべる。
苦しいと表現するのが適切な眠気に襲われている女性 オーリス・ゲイズを尻目に侵入者は窓を開けた。

「あれ〜? 換気扇からチャンと入れたんだけど……フリードォ〜」

そこには出入りが出来ないように鉄格子が施されていたが、室内に飛び込んできた小さな影には無意味だった。
それは鳥……? 橙色の羽と極彩の飾り羽が目立つ鳥?

「はじめまして、『死に至る眠り』です」

「あの……殺し屋?……この眠気が……特異な殺害方法の……仕掛けね?」

自分でも驚きを覚えるほど、オーリスは迫り来る確定的な死を前にして、冷静だった。
気を抜けば一瞬で引き込まれるドロのような眠気の為、まともな思考が出来なかった事もある。
しかしある程度は予想が出来た事でもある。自分は……知り過ぎている。強いていうならば現れた刺客が少女だった事が驚きである程度。

「私はひ弱なんで、眠っている相手を殺すので精一杯なんですよ?」

『死に至る眠り』
最初にそうこの殺し屋を命名した人間は実に的を得ていたと言える。タネはバラして見れば至極簡単。
フリードと呼ばれた奇妙な鳥 とある世界ではヒプノックと呼ばれる鳥竜種の特性 催眠液の活用。
気化したガスを僅かにでも吸ったが最後、屈強な狩人も一瞬で眠りに叩き落す。
そんな劇薬を換気扇なりから室内へと送り込めば、中の人間は何かをする暇も無く睡眠へと沈む。
その眠りは近くでドラゴンが暴れていようと気がつかないほど深いのだ。後はゆっくり寝ている人間を確実に始末すればいい。
オーリスが完全に意識を失わなかったのは彼女の体質や空調など、様々な偶然が重なった奇跡に等しい確立に違いない。

「なるほど……最後に……聞かせて。いったい……誰が……」

自分に向けて嘴を開く怪鳥を、今にも閉じそうな瞼で見つめながら、オーリスは呟いた。
しかし死に至る眠りは笑顔でこう答える。何時だって彼女はそうして来たから。


「さぁ…『私の明日の朝ご飯のために死んでくれ』…としかいえません〜」


怪鳥が吐き出すのは眠りの結晶。差し出される無碍の命を……主はただ刈り取った。
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 15:10:32 ID:XsnmgQLk
マジ怖えぇぇ!支援。
38キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:12:30 ID:a8g4Xeyg
「間に合わなかった……」

ティアナ・ランスターは兄を失った時に匹敵する虚脱感を得ていた。
捜査本部のフルメンバーに加え、動かせる人員を可能な限り動員して、可能な限り早く駆けつけた。
しかし第三拘置所の特別棟にあるのは惨劇の現場。外に一人、中に二人の拘置所の職員の遺体。
そして牢の中では……

「えぇ……次元航行船を可能な限りチェックよ。
仕事を終えた死に至る眠りはこのミッドチルダを離れる可能性が高いわ。
正規に旅客船だけじゃなくて、貨物船や密輸船まで虱潰しに……解ってるわ、『可能な限り』でしょ?」

ティアナの傍らで電話をかけていたギンガも、携帯を懐に収め肩を落とした。
自分達の横を通り過ぎて行くのは、すっぽりシートで覆われた担架。そこに乗っているのは遺体。

「私たちは守れなかったんですね?」

「でも……こんな現場じゃ日常茶飯事よ。他の世界に逃げられたら、陸の捜査部はどうしようもないしね」

「そんな……」

そこでティアナふと思い至る。
数多の次元を統一したのは管理局。そのせいで巧妙な犯罪者は広範囲で猛威を振るうようになった。
しかしそれに対処するべき管理局は海と陸に分かれており、関係は良好とはいえない。
さらに平和の礎となろうとした管理局の勇士は、同胞の依頼によって犯罪者に殺される。
矛盾……理不尽だ。

「ねぇ、ティアナ。執務官が扱う事件にさ……殺人事件ってあった?」

「そりゃありますよ!」

「じゃあその数は多い?」

「……アレ?」

執務官は一握りのエリートだ。多次元世界に渡る捜査特権などの強権を、現地の陸士たちに振るう事が許される。
根強い諍いの境を無視して、事件の解決を図る事が出来る。そしてそんな執務官の数は少ない。
故にどうしても捨て置けない事案、それこそ世界その物の危機やロストロギアなど安易に計りきれない不安への対処に割かれる。

「仕事は仕事。目の前の案件を一つ一つ片付ける。
それが如いては多くの人を守る事になる。解ってる……解ってるんだよ?
海が優先する案件には相応の理由がある。世界が一つ失われる被害は計り知れない。
だけどさ……」

ふっと優秀な捜査官が見せた暗い影。疲れ果てた老人、老いた戦士。
そんな言葉が似合いの使命も正義も色褪せているのに……夢を捨てきれない子供のよう。
39キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:14:19 ID:a8g4Xeyg
「時々……本当に時々だよ? ふとした拍子に考えちゃうんだよね……
『人の命は世界よりも軽いのか?』って……『世界が無事なら人はどうなっても良いのか?』って」

「ギンガさん……」

仕事をするってこう言う事だ。みんなそんな風には感じさせないだけで、みんな悩んでいるのかも知れない。
フェイトさんやなのはさんだって……

「ティアナにはそんな事をたまにで良いから……思い出してくれる執務官になって欲しいな」

「……はい!」





突然だが……旧姓キャロ・ル・ルシエ、多くの偽名を持つキャロは『死に至る眠り』である。
その事を知るのは彼女自身以外には相棒であり、大事な仕事道具でもある名をフリードと言う眠鳥ヒプノックだけだが……

「そろそろだね〜フリード」

一仕事を終えて彼女はターミナルで列車の到着を待っていた。クラナガン発でミッドチルダの山岳部を周る特急。
移動の為のスピードと言うよりも、豪華な設備や景観を楽しむ事に特化された娯楽の列車。

「キュルル〜」

「管理局の皆さんは必至に次元航行船を当たってるのかな?」

頭上から聞こえる相棒の声にキャロは小さく笑う。
金持ちの娯楽と言って良い特急の乗り場はラッシュアワーのような人混みとは無縁だ。
『人殺しはどんな方法を用いてでも、殺害現場から速やかに遠くへ行きたいモノ』
その認識は間違っていない。だけどソレは素人の場合に限定されるのだ。プロは違う。
プロも現場からは当然離れる。だがそこにはどんな負い目も存在しない。
殺し屋と言うのは何人殺そうが普通にしている人間を言うのだ。


キャロは辺りを見渡す。

「あんな風にオドオドしてはいけない」

キョロキョロと辺りを見回し、手元の案内図と見比べるのは若いサラリーマン。

「かといって、ギラギラしていてもいけない」

どう見ても堅気ではない派手な格好の男が周りに向ける殺気の篭った視線。
ふと思い返すと村を出て直ぐの自分はああいう風だったのかもしれない。
何もかもが怖かった。だから怯えて脅して殺した。初めての時の事は覚えていない。
正当防衛って呼べるものだったような気がする。確か路地裏で襲われたんだったかな?
フリードが私を守る為に催眠液を始めて吐き……眠った相手を刺し殺した。
40キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:16:01 ID:a8g4Xeyg
「それはそれは怖かった……」

怖かったはずなのだが……慣れとは恐ろしい。慣れれば人は学習し、成長し、辿り着く。
『この方法はどんな強者も効率的に殺す事が出来る……お金になるかな?』
悪魔の答え、天の啓示。そしてここに居る。

「あっ! 来た〜」

ホームに入ってくる特急にキャロは歓声を上げた。こんな事が出来るのも一重に彼女が導き出しては成らない答えを導き出したが故に。
最高の地獄を自侭に遊ぶ。人の命を刈り取りながら。だけど……油断してはいけない。

「明日はわが身……か」

例えばキャロから僅かに離れた場所で扉が開くのを待つ男性。
黒い髪を刈り上げ、彫りの深い顔に大き目のサングラス。引き締まった肉体を高そうなスーツとコートで包む。
手には革の鞄を提げているがどう見ても……どう感じてもサラリーマンなどではない。
常に臨戦態勢のように隙がないが、殺気など全く放っていない。周りを見ていないようで全てを把握している。

『勝てない』

何せ自分ではなくハトに混じって屋根に留まっているフリードへ、視線を向けているのだから。
そこまで思案してホームへと上がってきた集団にキャロと男は気がついた。

「管理局?」

「……」

見覚えのある制服。特にキャロのような職業は忘れては成らない格好。
どうやら聞き込みを行っているらしい。二人に駆け寄ってくるオレンジの髪をツインテールにした局員の少女。

「管理局です。今日はどちらに?」

その質問にキャロは初めて強者だろう男と視線を合わせた。
同じような仕事をしているようなシンパシー。困った時の助け合い。

「娘と旅行だ」

「ねぇ〜パパ! 電車行っちゃうよ〜」

男はキャロを側に引き寄せ、それに逆らう事無くキャロもコートに抱きついた。
上げるのは実に子供らしい声。即興にしては満点を上げて良い名演技だろう。
そんな様子に管理局員の少女も笑顔を作る。

「ご協力感謝します! よい旅を」

キャロはもちろんこの少女が自分を追ってきた事がある程度予測できた。
しかし人物の特定は不可能に近い。正しく悪あがきであり、『少女一人』から『親子連れ』へとチェンジした自分を疑うはずもない。
だからこう言ってやった。内心にある嘲りなど欠片も見せず、輝かしい笑顔と共に……

「お姉さんもお仕事頑張ってね〜」
41キャバクラ氏代理の代理:2008/10/21(火) 15:18:22 ID:a8g4Xeyg
いじょ、代理投稿終わり
こっから下は依頼スレにつけた俺の感想


デュークこんなとこでなにしとんねん!

最後の最後でGにつきもののアのシーンを想像してしまって、
それまでの感想が頭から消えうせてしまった俺はダメ人間。

「恋のサントロペ〜!!」
42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 15:20:46 ID:XsnmgQLk
乙。殺し屋世界は地獄だぜ フゥハハフゥー!
43名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 15:24:57 ID:9vZ/bqPV
作品自体はどうでもいいが、キャバクラという略し方はどうなんだ。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 15:33:40 ID:a8g4Xeyg
>>43
作者ご自身がそう名乗っておられますwwww
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 19:11:04 ID:ID/hPwoq
GJだぜ!キャバクラ氏!
なんかこのモンハンシリーズのキャロは出て来るたびに凄みがましてる気がするぜ!
最後にヒップノック乙!
46リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 19:45:40 ID:tO2RsY+G
21:00頃に投下予約をお願いします。
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 19:54:37 ID:Hqbw0MZj
支援
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 20:07:41 ID:EirMMIYm
( `д´)b オッケー!
49リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:02:32 ID:tO2RsY+G
そろそろ投下開始します。
50リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:03:47 ID:tO2RsY+G

銃を持ち、イラクで初めて人を撃ち殺した瞬間から、スネークがその重さを考えない時はなかった。
人が銃を握る時、その手に掛かる重さは『キログラム』という単位だけではない。
人が人命を奪う度、その責任は絶える事なく積み重なっていくものなのだ。
それは誰にでも平等に、そして正当に、その手にのしかかっていく。
そしてスネークの手に掛かる重さは、あまりに重く感じられた。
これからもそれは重くなっていくのだろうか。
その答えは、まだスネークにも分からない。

第十二話「未来」

『伝説の傭兵』、そして『不可能を可能にする男』。
そんな風に呼び讃えられてきた歴戦の兵士スネークは、珍しく困っていた。
表情にこそ表れてはいないが、逃げ出したい気持ちで一杯である。
機動六課の寮の一室、スネークの視線の先には、泣きじゃくる少女。
そして、その少女を必死にあやしながらスネークに念話を飛ばすなのはだ。
さらにその周囲で、新人達があたふたしている。

『スネークさん、助けて下さい……』
『断る。公費で腕の良いベビーシッターでも呼んでこい』
『ううぅ……』

聖王教会に行く件で、大事な話という事でスネークも隊長三人と同行する事になったのだが。
六課が保護した少女ヴィヴィオはなのはに懐いてしまって、離れたくないと駄々を捏ねたのだ。
なのはは新人達にヴィヴィオの面倒を見るように頼んだのだが、この通り。
子供の世話に慣れていない新人達は、この世の終わりなのではないかと思わせるような金切り声で泣き喚くヴィヴィオに圧倒されて、おたおたしているだけ。
結果、なのはは最年長のスネークに事態の収束を頼んだ訳だ。
しかし、スネークも子供のあやし方等知っている筈もない。
そんなにっちもさっちもいかなくなった状態で、ふと現れた空間モニターはスネークにとってまさしく天恵そのものに思えた。

『あの、何の騒ぎ?』
『あっフェイトちゃん。実は……』

一層強まる泣き声。
よもやこんな場所でうるさい子供と相対する事になろうとは、なんとも複雑な気分である。
その様子を見て事態を把握出来たのか、「すぐに行く」と言葉を残すフェイトとはやて。
数分後には、到着したフェイトによって騒々しかった空間は、魔法を掛けられたかのように落ち着きを取り戻した。

51リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:05:56 ID:tO2RsY+G

静音効果が高く、静かなヘリの中。
なのはが照れ臭そうに苦笑していた。

「ごめんね、お騒がせして……」
「いやー、ええもん見させてもらったわ」
「観客は楽しいだろうがな……そういえばフェイト、君はあの人形を使ってヴィヴィオに洗脳でも掛けたのか?」
「んなっ!?」

失礼な、とフェイトがむすっとする。
だが事実、ものの数秒で子供を大人しくさせたそれは、スネークには立派な魔法に見えたのだ。
フェイトが人形を揺らすと同時にヴィヴィオが頭を揺らしていたので、あながち間違いでもないと思ったのだが。

「……私、子供あやしたりとか、そういう経験は豊富ですから」
「子持ちという事で解釈しても?」
「スネークさん、次そんな妄言を口にしたらチョップをお見舞いしますよ。……甥っ子と姪っ子の事です」
「あ、ああ。すまなかった」

軽い冗談だったのだが。
右手を構えるフェイトの目が怖くて、スネークはすんなりと謝る。
女性は怒らせると何時の時代も恐ろしいものだ。
微笑ましくそれを見ていたなのはとはやてだったが、はやてがふと神妙な面持ちになった。

「……しかし、あの娘はどうしよか? なんなら教会に預けとくんでもええけど」
「平気、帰ったら私がもう少し話して何とかするよ。……今は周りに頼れる人がいなくて不安なだけだと思うから」

優しい瞳で語るなのはに、スネークも頷く。
あんな小さい少女に、あまり不安や重荷を背負わせるべきではない。
たとえ人工的に造り出された生命だとしても、幸せになる権利は十分にある筈だ。
多くの生命を奪ってきたスネークはともかく、あの純粋な少女には。


聖王教会、大聖堂の一室。
どうぞ、というノックに対する返事と合わせて、なのはとフェイトが入室と共に敬礼して名乗り上げる。

「高町なのは一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官であります」
「ソリッド・スネークだ」

敬礼どころか敬語すら使わないスネークに、なのはとフェイトが諫めるような視線を送る。
ふむ、と唸って流れるような金髪を揺らす女性、そして黒い制服に身を纏った黒髪の男に向き直る。
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 21:06:03 ID:VJMNOVa8
支援
53リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:08:18 ID:tO2RsY+G

「失礼致しました、民間協力者のソリッド・スネークです。大仰に敬礼もした方がよろしいでしょうか?」

ぷっ、と はやてが堪え切れずに吹き出した。

「スネークさんの敬語、何と言うか、合わへんですね」
「安心しろ、俺もそう思う」
「普段通りで構いませんよ。……初めまして、聖王教会、教会騎士のカリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」

清楚な美人のカリムがくすくすと笑っている。
スネークが会える美人は戦場ばかりという事もあって、どうしても性格に難がある女性ばかりだが、ここは地球と違い新鮮な気分になれる。
この世界に住民票を移すのも良いかもしれない。
スネークはそんな事を考えながら、案内されるがままに席につく。
こういう高貴な雰囲気の場所は正直苦手なのだが、我慢するしかないのだろう。
ああ、タバコが吸いたい。
クロノとなのは達から呼ばれた男がスネークに向けて口を開いた。
「初めまして、スネークさん。貴方の事はユーノから伺ってますよ」
「……またか。奴は何と?」
「『頑固で負けず嫌いで強がりで意地っ張りな所があるけれど、十分信用出来る男』だと」

言いたい放題だ。
頭が痛くなるのを感じながらも、スネークは差し出された手を軽く握り返した。
ユーノがシグナムを初め、色々と吹聴していそうで不安になるが、そんな悩みに苦しめられる余裕も無くカーテンが閉まり、緊迫した空気に包まれる。
こほん、という咳払いの元、クロノが話し始めた。

「――六課設立の表向きの理由は知っての通り、ロストロギア・レリックの捜索と、独自性の高い少数部隊の実験例だ」

クロノ、カリム、そしてクロノとフェイトの母親リンディ・ハラオウンの支援。
さらに、三提督とかいう上層部の連中からの協力も確約しているらしい。
たかが実験部隊、とは言えないだろう。
カリムが立ち上がり、その手に収められたカードを束ねていた布を取り去る。

「かの三提督までもが動く理由は、私の能力と関係があります。私の能力、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)」

眩い光と共にカードはカリムを取り囲むように円を描いて浮遊する。
まるで、ケチなマジシャンが好みそうな演出だ。

「これは最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出した預言書を作成する事が出来ます」
「……預言だって?」

預言能力、即ち未来を見通す力。
二つある月が上手く重なった時にしか発動せず、回数にして年に一回。
古代語なので解釈も変わり、的中率も高くない、との事。
スネークは目蓋を揉みながら口を開いた。

「それで、その未来予知の内容は相当酷いんだろうな? ……勿体ぶらずにさっさと教えてくれ」

どう考えてもその予言関連でここに呼ばれた事は間違いないのだろう。
数年前からある事件が書き出されている。
カリムはそう言い、クロノ、はやてに視線を向け、頷き合う。
そしてゆっくりと噛み締めるように話し始めた。
54リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:10:25 ID:tO2RsY+G

「旧い結晶と無限の欲望が交わる地
死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る
死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる
それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ち、天国が誕生する」

法の船が砕け散る、という言葉になのは、フェイトが息を呑む。

「それって……」
「まさか……」
「ロストロギアをきっかけに始まる、管理局地上本部の壊滅。そして――」

――管理局システムの崩壊。

一同言葉を失い、ひたすらに重苦しい雰囲気が漂う。
強固だと信じていたものが崩壊するというのは、確かに愕然とするのも仕方がないだろう。
まして数多の世界を管轄する管理局が無くなれば、影響は計り知れない。
――だが、馬鹿馬鹿しい。
スネークはカーテンを開けて大きく伸びをする。

「俺に解釈させてもらえば……翼、ふむ。その預言は鳥人間コンテストの開催と失敗、だろうな」
「なっ……」

カリムがスネークへ唖然とした表情で視線を向けた。
茶化している場合ではないだろう、と。

「そう『ビビる』必要も無いという事だ。狙われるのが分かっていて、その対処の為に日々準備をしているのだろう?」
「それは、そうですけど……」

流れるような動作でタバコを取り出して、くわえる。

「未来予知なんていらない。未来を変えていく勇気があれば十分だ。……違うか?」
「そう、ですね。……でも」
「ん?」
「ここは禁煙です」

シュッ、とカリムは素早い動作でスネークの口元のタバコを奪い去り、ゴミ箱に捨てる。

「スネークさんの言う通り、希望を捨てず、前を向いてしっかりやるべきですね。局を、そして世界を守る。……皆さん、改めてお力添え、お願いします!」


決意の籠もった表情で頷き合う若者達。
スネークも、誰にも気付かれぬように拳を握った。
恐らく、スカリエッティが絡んでくるのは間違いないだろう。
どうせ碌でもない事を企んでいるだろうし、それを実現させてやるつもりもない。
絶対に。


55リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:12:27 ID:tO2RsY+G

「陸士108部隊より出向となりました、ギンガ・ナカジマです。よろしくお願いいたします!」

夏の暑さ漂う八月もあっという間に過ぎて、気付けば九月に突入。
よく通った挨拶と共に、落ち着きのある微笑みが六課の訓練場に振りまかれた。
周りにはお馴染みの新人達と隊長陣、そして珍しくシグナムもいる。
そして六課に出向扱いでやってきたギンガ・ナカジマだ。
スバルの二つ上の姉でありさすがよく似ているが、スバルとは違った美しさを持った美人である。

「……予想通りだな」

気付けば、スネークはそう呟いていた。
暖かく迎えられたギンガはスネークの言葉にキョトンとする。

「え、と。ソリッド・スネークさんですよね。何がでしょうか?」
「俺の予想通り、君は美人だった」

前回の出撃では声しか聞いていなかったからな、と付け加える。
途端に顔を赤く染めていくギンガに、スネークは苦笑を溢した。
こんな事を軽くあしらえないのでは、まだまだ若い。

「えええっ!? い、いきなり何をっ!」
「スネークさん、ギン姉を口説かないで下さい!」
「あのっ私まだそういう事にはちょっとっ! その、ごめんなさい!」

何だかんだで振られてしまった上、スバルに詰め寄られてしまう。
スバルは普段と違ってなかなか凄みがあり、その迫力にたじろぐスネーク。
そんな中、ふとスネークは殺気を感じた。
――誰もいない後方から。
勿論振り向いても誰もいなかったが、直後頭に感じる鈍痛が何かいた事を必死に訴えている。

「スネークさん、程々にして下さいね」

にこにこ。
穏やかに、そして優しい笑顔のフェイトが手を擦っている。
色々と聞きたい衝動に駆られたが、なんとかそれを堪える、
自重した方が良さそうだ。
今だに微笑んでいるフェイトが、そうだ、と手を合わせる。

「なのは。後でやる隊長戦、スネークさんにもフォワードチームに参加してもらわない?」
「いいねー」

なのはが賛同して、その横のシグナムも目の色を変える。
冗談じゃない。

「ふむ、久々にスネーク、お前と手合せ出来るな?」
「……おい。俺はやるなんて一言も――」
「やるんですよ、スネークさん」

ね? とスネークの肩を掴むフェイト。
美人だからと言って男が何でも聞くというのは、思い違いも甚だしいだろう。
スネークは振り払おうとするが、力強くキリキリと掴まれていてそれが出来ない。
流れる冷や汗。
六課手製のペイント弾を手渡され、スネークは諦めた。


56リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:14:59 ID:tO2RsY+G

ALTERNATIVE MISSIONS
SEARCH FOR SNAKE
LEVEL 10

ソリッド・スネークを捕らえ、部隊長室へ連行せよ!
段ボールを被って隠れているかもしれない。十分に注意しろ!

制限時間 30分00秒
スネーク 1人


「……なんてね」
「なのはママ?」

首をかしげるヴィヴィオ。
何でもないよ、と苦笑を返して、繋がった手を握り返す。
保護責任者としてなのはが親代わりとなる事に志願したので、今は愛娘という形だ。
隊長チームとフォワードチームの模擬戦でスネークは、彼をしつこく狙うシグナムにペイント弾を何とか当てた直後、フェイトに撃墜された。
なかなかの検討だったのだが、訓練の後から行方が知れない。
それ自体はいつもの事。
しかし部隊長のはやてが、話があるという事でスネークを放送で呼び出したのだが、反応が無い。
そこでなのはに任務が与えられた訳だ。

「まだりょうにかえらないのー?」
「うん。スネークさんを探さないとね」
「へびのおじさんー!」

最初こそヴィヴィオはスネークに近づこうとしなかったが、今は『蛇のおじさん』という愛称と共によく懐いている。
幼い子供でも話し掛けやすい何か、信頼出来る何かが彼にはあるのだ。
とはいえ今回のように呼び出し放送も無視したりと、色々性格に問題があるのだが。
そんな不思議な男スネークは、なのはの予想を裏切ってあっさりと見付ける事が出来た。
相も変わらずタバコをふかし、ベンチにゆったりと腰掛けている。
「へびのおじさーん!」

ヴィヴィオがスネークに向かって声を上げるが、反応が返ってこない。
様子がおかしい。
なのはが何度か声を掛けても結果は変わらず、肩を叩いた所でスネークはようやく振り返った。

「なのは、ヴィヴィオか。何だ?」
「何だ、じゃないですよ。スネークさんこそどうしたんですか?」
「……未来予知、いや、預言関連で少し昔の事を思い出していた」

そう語るスネークは、どこか寂しそうで、悲しそうで、憂いに満ちていた。
普段のような、頼れる精悍な様子も伺えない。
何か、思い悩んでいるのだろうか。
ヴィヴィオを抱えて隣に座る。

「あの、私で良かったら何でも話して下さい」

君に話す事でもない、と苦笑してみせるスネーク。
それさえも無理矢理作った苦笑に見えた。
なのはには、六課でスネークを見ていて改めて分かった事がある。
なのはの恋人ユーノも言っていたのだが、スネークは他人から気遣われることを好んでいない。
そして自分一人で何でも抱え込んで解決しようとする節があるのだ。
なのはは思わず口を開いた。

「人は一人では生きてはいけません。スネークさんはもう少し人を頼った方が良いと思います。……だからお話、聞かせて下さい」
57リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:18:12 ID:tO2RsY+G

スネークには不器用な所があるのだろう。
だが、彼も普通の人間だ。
困っているのなら周りに助けを求めるべきだし、なのは自身、助けてあげたいと思っている。
スネークは、なのはとユーノの恩人なのだから。
ボソリ、といつもよりも低い声でスネークが話し始める。

「……俺は。俺はシャドーモセスで色々な男と戦い、殺してきた。マンティス、レイブン、そしてリキッド……」

スネークが静かに語り始める。

「彼らは皆こう言った。『スネーク、お前には過去も未来も無い。今この瞬間だけを生きて戦い、人を殺している怪物だ。救われる事は無い』とな」
「そんな事はっ……」
「……ユーノとの旅で俺は、『人は未来に想いを伝える事が出来る』と知った。あいつとの旅以来、俺はそれを探し続けてきた」

タバコの先から流れる煙が儚く夕焼け空へ消えていき、スネークはそれをぼんやりと眺める。
なのはも何も言えず、黙って見ているだけ。

「俺は確かに作られた怪物なのかもしれない。おまけに、生まれながらに子供を作る能力を取り上げられた存在だ」
「……」
「そんな俺が何を未来に伝えられる? そもそも何かを伝える事自体間違っているのか?」

スネークは戸惑いを隠すかのように力強くタバコを揉み消し、携帯灰皿に突っ込んだ。

「その答えを見付けられないままに銃を握っている事に、ふと疑問を抱いた。それだけだ。……それだけなんだ」

――悲しい人。
なのははそっとスネークの手を取る。
この手には、今までスネークが奪ってきた多くの生命に対する責任が積み重なっているのかもしれない。
だがそこには同時に、人である事を証明する暖かさがあった。

「スネークさんは怪物ではありません。私やユーノ君、部隊の皆が証人です。……それに貴方にだって、未来を夢見る事は出来ます」
「……未来を、夢見る?」

聞き返すスネークに頷く。
なのはの膝の上でウトウトと舟を漕いでいるヴィヴィオを優しく撫でた。

「ヴィヴィオや皆が幸せに、笑って暮らす事が出来る未来。それを実現する為にスネークさんが伝えられる事もきっとあるはずです」
「……未来の為に戦う、か」

スネークはそう呟くとしばらく立ち尽くす。
そしてだしぬけに、なのはへと振り返った。
普段の力強い精悍な目付き、そして信頼できる、頼れる表情。
いつものソリッド・スネークだ。

「なのは、参考になった。……ありがとう」
「いえ、困った時はお互い様です。スネークさんのお陰で、私もユーノ君も笑っていられるんですから。……あ、そうだ」

ふと、スネークを部隊長室へ連行する任務を思い出す。
すっかり忘れていたようだ。
ヴィヴィオを揺すって起こす。

「ヴィヴィオ、そろそろ行くよ。……スネークさん、はやてちゃんが呼んでます。部隊長室へお願いします」
「ああ、分かった。今行――おいヴィヴィオ、髭を触らないでくれ」
「んー、じょりじょりー」

なのはは苦笑しながら寝惚けたヴィヴィオと手を繋ぎ、立ち去るスネークを見送った。
彼がどうか自分という存在に自信を持ち、強く、そして幸せに生きていく事を願って。
58リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:21:31 ID:tO2RsY+G



「スネークさん、どうぞ」

機動六課・部隊長室。
スネークを待っていたのは、厳しい表情のはやてだった。
いつものような好感を持てる温和な笑顔ではない。
スネークの遅刻を怒っている訳でも無さそうだ。
ソファーに座らされたスネークが一息付くと、はやては早々に重い口を開いた。

「早速ですがスネークさん、先日の聖王教会での話を覚えていますか?」
「……公開意見陳述会が狙われるという話だろう?」

勿論だ、と呟いた。
公開意見陳述会。
預言の解釈によって、敵に狙われる可能性が高いと危惧される催し物。
そもそも地上本部のレジアス・ゲイズ中将は預言自体信用していないらしい。
地上本部は本局と確執があり、本局側も表立った介入が出来ないとの事。
だからその対策として地上で自由に動ける部隊、即ち機動六課が誕生した、と。

「……公開意見陳述会は中止にでもなったか?」
「いえ」

はやては腕を組んだまま、スネークの軽口にも反応を示さない。
自然とスネークの表情もより引き締められていく。

「スネークさん。貴方は公開意見陳述会の警備に行けなくなりました」
「……何だって?」

予想もしない宣告に、スネークは呆然と呟く。

「レジアス・ゲイズ中将自ら却下したんです。『魔力を持たない男を警備に付けるほど地上本部は脆弱ではない』と」

何とも胡散臭い。
溜め息と共に目蓋を揉む。
そんな理由だけでないのは明らかだろう。

「……どういう事だ?」
「分かりません。何故中将がスネークさんを除外したか……」
「俺を会場に近付かせたくない?」

無言が返ってくる。
理由も目的もさっぱり分からない。
まさかとは思うが、スネークがどこぞのイカれた男のように、突然銃を乱射し始めると思っているのではないだろうか?
数秒の間、場を支配する沈黙。
……埒が開かない。

「何かある事は間違いないな……まぁ、許可が下りないなら仕方がないだろう。俺は当日大人しく留守番しているさ、酒でも飲みながらな」
「……何か、嫌な予感がします」

俯くはやてに、不安か、と問い掛ける。
気丈に部隊長という立場を努めていても、やはり年相応の弱さ、そして不安を抱えているのだろう。
59リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 21:23:39 ID:tO2RsY+G

「……ん、不安はいつだってありますよ。皆の事、これからの事。でも、今は悪寒が霧のようにずっと掛かってて……嫌な気分です」
「……大丈夫さ、なんとかなる」
なんとかなるさ、ともう一度力強く続ける。
先程なのはに励まされ、ポジティブ思考に拍車が掛かっているようだ。
自信有りげに話すスネークに、ようやくはやてが顔を上げ、頬を緩めた。

「フフ、なんやスネークさん、結構楽観的なんですね」
「俺のモットーだからな。……希望を失ったら最後だ。希望が無くなったと思い込んだ瞬間に、無力になってしまう。絶望は死へとつながる」
「……そうですね。なんとかなる、なんとかしてみせる。ここを乗り切れば事態は必ず好転する!」

はやてはグッと腕を構えてスネークに向き直る。
部隊長らしく自信のある、頼れる目付きに戻っている。

「スネークさん、頑張りましょう!」
「そうだな」

未来の為に。


それから一週間。
九月十二日、公開意見陳述会当日。
既に前線メンバーは警備に付いている。
そして今、機動六課で待機していたスネークの目の前には一人の男がいた。
笑みを浮かべているが真意が掴み辛い、緑の長髪男。
手元の時計にチラリと視線をやると、午前十一時五十五分。
公開意見陳述会の開始まで後三時間を切った所だ。

「――初めまして、スネークさん。ヴェロッサ・アコース査察官です」
「アグスタで見た顔だな」
「あ、覚えてくれてたんですか。嬉しいなぁ」
「……何の用だ?」

スネークとアコースを挟む机の上には、FIM-92A、通称スティンガーミサイルが静かに鎮座している。
スネークがシャドーモセスで使っていて、現在は局が保管している筈の地対空ミサイルだ。
スネークの装備でダントツの重量と破壊力の武器。
コレが今ここにあるという事は――

「――スネークさん。時間がありませんので、単刀直入に言います」
「……言ってみろ」
「つい先程、スカリエッティのアジトを発見しました。……貴方に単独潜入任務を頼みたい」
「……」

戦いが、始まる。
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 21:56:38 ID:LKo3djMU
サル被害が起きたのですか?支援
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 22:00:46 ID:tO2RsY+G
てす
62リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/21(火) 22:02:33 ID:tO2RsY+G
規制解除されました、お騒がせ失礼致しました

少々駆け足気味でしたが、第十二話投下完了です。
多くの支援ありがとうございました。

スネークの敬語は本当に合わないなぁ、と思うのですが、一応ゲーム本編でも敬語で話す部分あるんですよね。
初代メタルギアの無線で「コチラソリッド・スネーク。オウトウネガイマス」とかそんな感じで、やっぱり違和感たっぷりでした。

次回は番外編となります。と言ってもおまけを長くしたような物なのですが。
そしてその次、第十三話からはシリアス一辺倒となって完結目指していきます。

という事で、次回もよろしくお願いします。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 22:14:30 ID:MRb72vaS
GJ!
隊長陣とスネークの模擬戦がほほえましい。
ダンボールでの追跡も見てみたいですw
それにしても、傷ついた戦士が癒されるというのは良いですね……。
64名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/22(水) 00:36:25 ID:rK68DASP
>キャバクラ

正直何を描きたいのか解らん。
小難しく深遠にSS書いたら何を言いたいのかが解らなくなったって感じだな。
印象として残るのは人殺しまくるキャロ。そんだけだな。
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 01:06:25 ID:Hsl0lwwR
そこまで深く考える必要もなくね。
キャロKOEEEEEEEで

リリカルギア氏続き楽しみにしてます。
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 01:16:57 ID:Jid0vwJz
>>64
それいったらかなりの作品がドボンだと思う


リリカルギア氏GJ!
次は潜入か、スネークの本領発揮だな
67名無し@お腹いっぱい:2008/10/22(水) 09:55:41 ID:JUT6vnkL
>>64


むしろ最後の13ゲスト登場に噴け!
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 14:22:27 ID:cWWLvapr
>>64
十分分かりやすいと思うがね

酷いのだと読んでるのに理解できないなんてのもあるし
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 15:56:31 ID:XkgulXEi
ヒプノックじゃ追い出される理由にならん気がするが…
ヴォルテールポジションがアカムかウカム?
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 16:22:10 ID:Jid0vwJz
フリードポジションをアカム
ヴォルテールポジションをウカムにすれば……
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 17:29:39 ID:2hXsPJYk
キャバクラ氏GJでした!
もしかして、ちょっと出てきたギンガの知り合いってピノッキオ?

そしてスネークはやっぱりダンボールで潜入するのか?
続きを期待します。
72ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:02:56 ID:laeUGz59
ちょこっと全3話のお話の序章を投下させていただきます。
クロス先は「モノノ怪」。設定クロスの中編です。

20:15より開始。
73ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:17:58 ID:laeUGz59
おんおんおんおん――啼いている。

忌まれた、生まれたばかりの存在が笑う横。

嘆きの中でそれは言う。

宵闇の中――また殺してしまう、と。


夜の気配がやってきた。
闇は濃く、海鳴の街も灯されるころ。
薬売りと少女は問答を。
真の宵が来るにはまだ早い、街には人、人、人の群れ。
では、ここには何人が?

『何が言いたいんですか?』

『知りたいですか?』

『勿論』

チリン、と揺れる天秤。

『では始めましょうか、現世を照らす幻灯草紙を』

ぽん。
壁に映し出される影絵。
それは、少女に出来た初めての家族。

『幻灯草子、八神家の家族』

――輪廻転生。それが、私達の歩んできた道。

――多くの命を刈り取るように奪い、ただの道具として生きてきた。

――主、八神はやてに出会うまでは。

剣士は、穏やかな時を生きてそう述懐する。
剣を収めた彼女の顔は何処か晴れやかで、生きる喜びを噛み締めるようだった。
74ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:18:50 ID:laeUGz59
――あたしは、はやてが大好きだ。

――ギガ美味いご飯を作ってくれて、優しくって。

――あたしたちを人間として扱ってくれるはやてが、とっても好きだ。

髪をおさげにした少女はそう笑うと、照れたようにぬいぐるみを抱きしめた。
少女は鉄槌の騎士。異なる世界で生まれた戦禍の申し子。でも、今は八神家の一員だ。

――私は、ずっと傷つける為に力を使ってきた。

――でも、今ここにはやすらぎがある。

――ありがとう、はやてちゃん。

風の癒し手は、そう言って可憐に笑った。
髪が揺れ、フライパンの上で焦がした料理を見て苦笑した。

――我々が今のような平穏を甘受できるのは、主のお陰だ。

――戦いに明け暮れた我々が、こうして生きられる……

――そのことに、感謝を。

そう言うと、守護獣は寝そべりながら丸まった。

男の微笑みは、不気味なまでに妖艶だった。
滑らかな声が開幕を告げる。物語の、始まりを。

『さて、それは本当にあったことなのでしょうか?』

……玄関の扉が開かれた。
75ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:19:37 ID:laeUGz59
「鵺 序の幕」

八神はやては、魔法を知っている。
ある日、孤独の真っ只中にいた少女に幸せをもたらすもの――それを魔法と呼んでいいのなら、はやては魔法を知っていると言える。
ついこの前まで、彼女は孤独の只中で生きる運命を背負ってきた。
誰にも孤独を打ち明けられず、家族の温かみも知らずに生きて、動かぬ足の冷たさに泣き笑った。
死ぬまで続くと思われた孤独――けれど、それはある日の出会いによって変わった。
<闇の書>の守護騎士ヴォルケンリッター達との出会い――暖かな家族を得た喜び。
最初こそ、今までの主と違うはやての対応に戸惑っていた彼女達だったが、すぐに八神はやてという少女の『家族』としての生き方に馴染んでくれた。
八神家で一番騒がしい家族で、自分に懐いてくれた少女のヴィータ。甘えん坊なのがちょっと困るかもしれない。
剣の道を究めた女性、烈火の将シグナム。きりっ、とした誰よりも規律を重んじる性格。
うっかりしてて、料理が下手な湖の騎士シャマル。最年長だけれども慌てん坊だ。
寡黙な盾の守護獣ザフィーラ。本当は人間の姿にもなれるけれど、狼の姿でいることを好んでいる。

それは、八神はやての大切な存在だった。

だから今日もまた、彼女は台所に立つのだ。
味噌を出し汁に溶かしながら、鼻歌交じりに味噌汁を仕上げていく。
はやての好みは、甘めの味噌汁――西日本側の味噌を使ったものが好きだ。

「ふわ……はやて、ご飯はまだかぁ〜?」

「はいはい、まず顔洗ってからなー」

起き出したのは、八神家の最年少ヴィータだ。おさげにした髪が揺れた。
燃えるような赤毛と碧眼を持つ可愛らしい少女で、今は不気味な兎のぬいぐるみを抱えて目を擦っている。

「ん〜、わかったぁ〜」

車椅子で台所に立つはやての邪魔にならぬように、周りこみながらそっと洗面所に入ったヴィータ――じゃばじゃばと顔を洗う音。
庭で素振りをしていたらしいシグナムが、竹刀を手にリビングへ入り、鼻腔を突く朝餉の匂いに微笑んだ。

「主はやて、おはようございます」

相変わらず堅苦しい挨拶だった。

「変わらんなあ、シグナムは」

苦笑と一緒に、味噌汁の準備をし終えて、白いご飯をしゃもじで掻き混ぜる。
結構な量が炊いてあったが、すぐになくなってしまう。それが嬉しくて、ふふふ、と笑いながらご飯を茶碗へ分ける。
炊き加減、水加減よし――ちょうどいい硬さに炊けている。
ご飯粒を口に運んでいると、声。

「あーっ! はやてずりぃ、先に食べてるー!」

ちろっと舌を出して一言。

「ちゃうちゃう、これは味見や」

「詭弁だー!」

シグナムは黙って食器を運んでいたが、途中で見かねてヴィータへ声をかけた。
眉根を寄せて注意する。

「主が困っている、落ち着けヴィータ」

「そういう問題じゃねーっ! ご飯は皆で食べるもんだろ? だから――」
76ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:20:48 ID:laeUGz59
そこで、金髪の美しい女性が台所に駆け込み――スリッパに躓いて転んだ。
高い声――ちょっとした悲鳴が上がり、台所に微妙な沈黙が流れた。

「きゃっ?! いたた、ごめんなさいはやてちゃん、朝ご飯の仕度に間に合わなくて」

「……えーと、シャマル? スリッパで転んだらあかんよ」

駆け込んで着た女性は、湖の騎士と呼ばれるシャマル。
守護騎士ヴォルケンリッターの司令塔的役割を果たす彼女は、とんでもなく料理が下手だった。
ついでに、うっかりしている――これは天然やな、とははやての予測だ。
ヴィータが笑いながらシャマルに言った。

「ま、まあシャマルの料理食べずに済んだからいいや」

「あ、ひっどーい! ヴィータ、ちょっとお話が……」

「うわ、はやて助けて!」

賑やかやなあ、と苦笑しながらリビングへ移動すると、ちょうど青い大型犬も起き上がったところだった。
はやては頭を少し下げながらその犬に声をかけた。車椅子の車輪が止まる。

「おはよう、ザフィーラ」

「おはよう、主はやて」

所謂、魔法の産物であるザフィーラは、人間同様に喋ることも出来る存在だ。
前々から犬が欲しいと思っていたはやてにとっては、その存在自体が嬉しかったりする。
車椅子を自分の何時もの定位置に移動させ、シグナムとシャマルが並べたご飯、味噌汁、おひたし、目玉焼きなどの朝食を眺める。

「それじゃ、みんな席ついて、ご飯食べよーなー」

八神家の朝は、今日も平和に訪れた。



「これで当分の食事は大丈夫でしょう」

「今日の買い物は、こんなものかしら。はやてちゃん、そろそろ帰らない?」

「ほなそうしよーかー。ヴィータもお腹空かしてるやろうし……ん?」

シグナムとシャマルと一緒に街に買出しに行った帰り、はやては奇妙な露店を見つけた。
ふと目を凝らさねば見過ごしてしまいそうな程小さく、ひっそりした佇まいの店である。
街を歩く人も、そのほとんどが存在に気づいていないのではないか。はやてがそれに気づいたのは、ほとんど偶然だった。
極彩色の布地で彩られた店は、『薬屋』と書かれていて、店の中央には妖しい魅力の美青年が佇んでいる。
青年は年齢がわからぬ美男で、色素の薄い肩口まで伸ばされた髪の毛、顔には隈取のような奇妙な化粧をしている。
服は異国情緒漂う極彩色の着物で、足には革靴を履いている――和洋折衷といったところか。
奇妙な格好だというに、意識しなければわからないところが不気味だった。
靴が奇抜なのではなく、全体の印象が霞のような――。
それだけが和風の衣装の中で浮いているのだ。
異人、と云う言葉が脳裏をよぎった。なるほど、日本人離れした容姿ではある。
露店で許可無く薬を売るのは違法なのであるが、そんなことは頭から吹き飛ぶほどの――違和感。
他人と異なる因果を背負っているのではないか、と思い、わけもなく背筋に怖気が走った。
しかし、それでも消せぬ妖艶な空気を纏った店主と思しき青年に見とれていると、声をかけられた。
容姿に似合わぬもったいぶった喋り方だ。
77ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:21:59 ID:laeUGz59
「もし、そこのお嬢さん方。お薬は、如何ですか?」

「いや、私達は……」

シグナムが断ろうと一歩前に進み出たが、はやてはそれを引き止めた。
服の裾を引っ張りながら、声をあげた。

「……ちょっとだけなら、ええよな。な、二人とも?」

気づけば、引き込まれてそう言っていた。
シグナムとシャマルの二人は顔を見合わせて苦笑した。
幼い主の願いだ、少しくらいならいいだろう、と。
シャマルは金の髪を揺らしながら車椅子を押し、露店の薬売りの前にはやてを移動させた。
近くで見れば見るほど、引き込まれそうになる妖しい魅力の持ち主で、はやてはしばらくその非人間的な妖艶さに見惚れた。
シャマルもちょっと頬を赤くしている。唯一無反応なのはシグナムで、彼女はじろじろと店の薬を検分している。
薬売りの男が、声をあげた。

「で、どんな薬を?」

「え? あー、シャマル、うちに足りない薬何かある?」

「今は、少し熱冷ましが足りないかしら」

ごそごそと棚を開けると、薬売りは紙包みに入った粉末を取り出した。
丁寧に包みに入れると、シャマルに手渡す。薬売りと手が触れた彼女の顔がやはり若干赤くなった。

「まいど……七百円です。他にもいい薬があるんですが……」

「あら、どんな?」

「例えば……」

こそこそと耳打ちされた顔が真っ赤になり、あらあら、と困ったような声をあげた。
どうしますか、という薬売りの問いに、シャマルはうーんと唸っていたが……。

「シャマル、仕送りで我々は食べているのだ。自重しろ」

シグナムのきつい一言で見事に玉砕。

「う……そうね、すいません薬売りのお兄さん」

「それは残念。またのお越しを」

「ほな、またよろしゅうー」

シャマルはやての車椅子を押して立ち去っていき、桃色の髪を揺らしてシグナムもそれに続く。
三人の後姿を微笑みながら見つめる薬売りの青年は、やがて物音に気づき、はっとした。
音――背後の行商用の薬入れの中から聞こえる、鈴の鳴る音。
振り向いて、引き出しを開けると……天秤がひとりでに立ち上がり、揺れていた。

「これは、これは……物の怪、ですか」

青年の呟きは町の喧騒に紛れ、誰もが気づかぬうちに、その姿は消えていた。
影一つ、残さずに。
78ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:23:48 ID:laeUGz59
きん、きん、きん――快音の嵐――それは斬撃であり、剣舞のような戦闘機動の証だ。
夜の闇がうっすらと天空を覆いつくした頃、海鳴の街は異界の技術体系に侵されていた。
人っ子一人いない街並み――現世から隔絶された戦闘空間。それは、たった四騎の騎士を捕まえる為の罠。
ヴォルケンリッター。ロストロギア<闇の書>の守護騎士であり、多くの犠牲を世界に強いてきた存在。
云わば、悪――裁かれるべきモノ。ゆえに、時空管理局は包囲を敷いた。
封時結界――広範囲を世界から隔離する術式によって封鎖された空間で、時空管理局の武装隊とヴォルケンリッターは争っていた。
それぞれが各々の騎士甲冑を纏った状態で、激しく切り結びながら空中を翔ける。
その度に血風が吹き、シグナムやヴィータに倒された武装局員のリンカーコアをシャマルが“蒐集”していく。
把握不可能な位置からの蒐集に、なす術も無く意識を失っていく局員達の姿は、まるで死んだ雲霞の群れだった。
リンカーコアを蒐集された一人の青年が、苦悶の表情を残して地上に落下。
このままでは、地表に叩きつけられる――という寸前。高価なマンションの屋上から、一人の子供が飛び降りた。
強風に呷られながら、デバイスを天にかざした。

「――間に合え」

閃光――。
黒い髪、黒いバリアジャケット――杖のストレージデバイスS2Uを片手に握り締めた背の低い少年は、全速力の加速で行く。
彼の名は、クロノ・ハラオウン。次元航行艦アースラクルーの事実上のナンバー2にして、優秀な魔導師であり執務官だ。
彼は片腕で、落下する青年の体を支えると、ゆっくりと地面へ横たえた。

「う……ハラオウン執務官?」

「喋るな、傷に響く。あれが――ヴォルケンリッターか……」

管理局の情報処理システムでもその存在が捕捉出来ない、未知なる魔法プログラム生命体。
アースラ後方部隊の実質的指揮官、エイミィからの通信が入り、その存在位置の特定結果が届いた。
これだけ近く――同じ次元世界の、同じ街の中での出来事なのだ。
亜空間に浮かぶ次元航行艦からのサーチよりも、結果はすぐに出せる筈だった。

「エイミィ、どうだ?」

返って来た答えは、意外。

《駄目……存在しているのに存在していない……? 何これ、探査装置じゃ存在位置が特定できないよ、クロノ君!》

探査装置での探査結果は、奇妙な数値を示していた。
あえて表現するならば、虚無としか言いようの無い不気味な数字。
そこに何かがあることはわかっているのに、数値自体は零を示し続けるという異常。
その結果を聞いても、クロノは冷静だ。静かに問い返し、戦況を見据える――こちらの不利だ。

「相手がプログラム生命体であることに関係があるのか?」

《……違う、数値が虚数空間と一緒だなんてありえない……まるでお化けを相手にしてるような……》

「相手は実体がある、幽霊ではない。そんな非科学的な――」

《――でも! 昨日のなのはちゃんへの襲撃も、まるで察知できなかった……》

静かにS2Uを構え、魔力の刃を数十本生成、空中に展開しながら高速で射出――爆発的破砕音と共に着弾地点で爆煙があがる。
空中に出来た爆煙の中心地から三つの鉄球が飛来するも、クロノはこれの直線的弾道を見切って回避した。
背後で大質量の直撃にアスファルトが砕け散る。

「――フェイトも上で戦っている! 弱音を吐くなっ!」
79ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:25:25 ID:laeUGz59
《……クロノ君、虚数値の範囲増大――転移される! 
空間座標特定不可能、転送妨害不可! 駄目、逃げられちゃう!》

飛翔しながら魔方陣を幾重にも展開し、砲撃魔法の準備を進める。
リンカーコアの魔力が魔方陣へ注ぎ込まれ、うねる光の渦を形作った。

《クロノ君、何を――》

「ブレイズカノンで転送を捻じ曲げる! 魔力の干渉が近距離で起これば、転移魔法は機能しない筈――ぐっ?!」

飛び蹴り――空間転移と同時に飛来した矢のような爪先。虚空から転移魔法の煌きと同時に現れた人間――仮面。
目論みは、仮面をつけた長身の男の飛び蹴りによって霧散した。内臓に爪先が捻じ込まれ、凄まじい衝撃が加えられる。
吹き飛ばされ、地面へ叩きつけられたクロノ・ハラオウンを尻目に、ヴォルケンリッターは転移魔法で逃げ切った。
それを見やると、仮面の男の体もまた空へ消え、やがて転移魔法の光が夜空を裂いた。
クロノの手が虚空へと伸び……握り締められる。

「くそっ!」

昨晩に続き、アースラチームの敗退だった。
クロノは敗北感を覚えながら、こちらに上空から接近してくる義妹を見た。

「クロノ……」

「言うな、フェイト。僕達の、完敗だ――」



管理局の武装隊が張った結界から逃れ、無事撤退したヴォルケンリッターは、夜道を急ぎ帰路につきながら話し合っていた。
議題は、突然自分達を助けた怪しい仮面の男に関してだ。
シグナムとヴィータが信用できないといい、シャマルは迷い、ザフィーラは沈黙を貫いている。
あでもない、こうでもない、と話すうちに、ヴィータが噛み付くようにザフィーラに話を振った。

「なんか言えよ、ザフィーラも!」

「……いや、そろそろ夕餉の時刻なのではないかと思ってな」

途端、一同は走り始めた。

「そういうことは早く言えよ!」

「議論に白熱していたのはお前らだろう」

「いいから急ぐぞ、主はやてがお待ちだ」

シグナムの叱咤――シャマルは不安そうに眉を歪ませた。
都合のいいことを口にしていると自覚はあるが、それでも言いたかった。

「はやてちゃん、怒ってないといいけれど……」

「怒っていたら、謝るしかあるまい……」

何処か観念した様子でシグナムが言ったのに、ヴィータとシャマルが吹き出した。
くすくすと笑いながら、三人と一匹は玄関の戸を叩き――そして。
声が聞こえた。

『さて、それは本当にあったことなのでしょうか?』

……扉が開かれた。
80ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:26:26 ID:laeUGz59
八神はやてに幻灯草子を見せていた薬売りの男は、いささか唐突にそれをやめた。
リビングからでも、玄関の戸が開いたのがわかったからだ。
この薬売りは、皆が用事で出かけ、暇をもてあましていたはやての目の前にふと現れたのである。
昼間の露店の薬売りが、どうやってこの八神の家を突き止めたかは謎だったが、男は突然問いかけをしてきた。
ここには、何人がいるのでしょうね? と。
その問いの回答として幻灯草子を見ていたのだが――。
はやては、

「あ……」

と声をあげかけたが、薬売りが取り出した異様な札の束に目を奪われた。
いったい何処に入っていたのか、その札の束はとてつもない厚みがあり、何百枚と重ねられているのがわかる。
リビングから玄関へ繋がる扉が、薬売りの迅速な動きによって開け放たれ、突然現れた異様な衣装の男に唖然としている四人の目の前で、

「はっ!」

裂帛の気合とともに札を投げ放った。
びたびたびたびた、と投げ放たれた札が家中の天井、壁に張り付き、表面にひとりでに無数の呪文と目のような模様が浮かび上がりて、
黒い文字が紅く変色していく。蛾の羽の模様に似た赤い眼の模様が、ヴォルケンリッターを見据えるように蠢いた。
途端に玄関の扉が堅く閉じられ、家の中を中心に見えざる結界が展開された。
戸と言う戸が閉まり、外界からの干渉を閉ざす家の中が『異界』へと変貌していく。
封時結界とも異なる――いや、ミッドチルダ、ベルカの両方に存在し得ない異形の結界技術。
結界を構築した、妖しい魅力の美青年――昼間の露天商を、シグナム達は睨みつけた。

「貴様……!」

「なんだ、てめェ!」

そんなこと何処吹く風という、涼しい顔で薬売りは告げた。はやての方に向き直り――。

「物の怪の『形』を為すのは人の因果と縁(えにし)」

ちりん、と何処かで鈴が鳴った。
芝居がかった男の声は、家中に異様な空気を作り出していく。

「よって皆々様の『真』と『理』」

朱に塗られた鞘、鬼の顔と髪の毛、鈴がついた柄の短刀。
それをすらりと腰から取り出した薬売りは、その鞘を掴んで口上を述べあげた。

「お聞かせ願いたく候――」


二の幕に続く。
81ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/10/22(水) 20:31:25 ID:laeUGz59
投下終了です。

タイトルは「鵺」。
文字通り登場するモノノケは「鵺」ですが、如何なる存在かは――
――後編をお楽しみに。
82ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 21:02:18 ID:NS+LDRnM
22時50分に投下予約を。
83地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 21:12:20 ID:epTz/aPd
投下乙です。
後編も期待しています。


空気を読まずにすみません。
22時30分よりカブトレボリューション 序章を投下させて頂きます。
よろしくお願いします。
84地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 21:13:45 ID:epTz/aPd
あ、ゼロ氏のを読まずに失礼
自分の予約は取り消しします。
85ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 21:18:48 ID:NS+LDRnM
>>84
私は、23時45分に変えても良いですが。どうぞお先に。
86地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 21:27:30 ID:epTz/aPd
>>85
あ……すみません。
ではお言葉に甘えて22時30分よりさせて頂きます。
87地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:30:27 ID:epTz/aPd
ゼロ氏、申し訳ありません。
では時間なので第2話を



聖王教会。
その日、聖王教会の騎士――カリム・グラシアの周りに、彼女自身のレアスキル――プロフェーティン・シュリフテンにより生み出された光を放つ複数の古紙が回り出していた。
年に一度、二つの月の魔力が上手く揃うとき発動できるその力は最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出し、そこから予言書を作り出すことが出来る。
やがてカリムは回っている一枚の紙を取り出し、内容を読み出した。


遙か彼方の異国の地より 全てが歪む。

冥府より蘇る偽りは無限の欲望を手中に収め 一族と交わり合う。

異国を救った光に導かれる若き鉄拳の使い手が仮面を被らされ 異国より舞い降りた闇に導かれる若き槍の使い手が仮面を授かる。

暗黒が踊るその日 光を信じた仮面は偽りの王に抗い 闇を信じた仮面は無限の欲望に抗う。


カリムはそれを神妙な面持ちで見つめていた。
同時に彼女の中で胸騒ぎが起こっていく。まるで数年前にこのミッドチルダを震撼させたJS事件に匹敵、あるいはそれ以上の恐怖となりかねない何かが起きる。
そんな不安にカリムは支配されそうになっていた。





仮面ライダーカブト レボリューション 序章

その2




天道総司には認めた男がいた。
カブトの力を手に入れたその日、ワームと戦う為に存在する機密組織ZECTの見習い隊員――加賀美新と出会う。
その男は決して才能に恵まれているわけではなく、未熟で敵に対して甘くなってしまう一面が強い。
しかしその一方で何事にも諦めずにひたすら真っ直ぐに進み、誰であろうとも裏表のない態度で接し、本音で語り合う熱い一面も持つ。
彼は幾多の悲しみにぶつかりながらもそれを乗り越え、戦いの神――仮面ライダーガタックの資格者となり、ワームと戦い人々を守り抜く。
そんな男に興味を引かれた天道は共闘と激突を繰り返し、やがて二人の間に絶対なる友情と信頼が芽生えた。
そして戦いを終えた彼は人々の安全を守る為に、警察官の職に就いた。






「天道さん、これから何をすれば良いんですか」
「黙って待ってろ」

洋食店Bistro la Salleの小綺麗な店内にはスバル・ナカジマと天道総司の二人しかいない。
閑静な住宅街でひっそりと営業しているその小さな店は、澄んだ木の香りが店内に漂い、大きな照明一つが天井に取り付けられていた。
店の奥には真っ白な壁に囲まれた厨房が見える。
今日は定休日なのか客や店員の姿は見られない。
管理外世界と思われる場所に突如ワープし、天道と出会ったスバルはこの店に連れられ、テーブルに備え付けられた椅子に座っている。
そしてスバルは何故か天道に仕事を命じられた。
テーブルと窓ふき。
食器洗い。
床の掃除。
88カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:31:59 ID:epTz/aPd
理由を尋ねると『面接の一種』と返され、全て終わってから『合格』と烙印を押される。
しかしスバルにはそれが何を意味しているのかは理解出来なかった。スバルには目の前にいる天道という男の思考が読めそうにない。
やがてこの静かな洋食店の扉が開く。
笑い声と共に現れたのは一組の若い男女だった、二人ともスバルより年上に見える。

「あれ、天道……?」

店に入ってきた女性――日下部ひよりは天道の顔をぽかんと見つめる。
その表情は物静かな雰囲気を漂わせるのと同時に、花のような優しさを感じさせた。
右手に持つ買い物籠からは食材がはみ出している。
ひよりの隣に立つ青年は物静かな彼女とは対照的に活発なオーラを放ち、人当たりの良い好青年という印象を与える。
天道と同い年に見える彼――加賀美新はスバルの顔を怪訝そうな表情で見つめてくる。

「ん? 君は誰だ」
「あたしは……」
「こいつの名前はスバル・ナカジマという」

加賀美と目が合ったスバルは自己紹介をしようとするが、天道にそれを遮られてしまう。
だが、それに気にすることはなく二人に「初めまして」と会釈していく。

「僕は日下部ひより」
「俺は加賀美新だ、よろしく」

スバルは二人に対して「よろしくお願いします」と笑顔で返答する。
どうやらこの二人は天道とは違って、まともな人間のようだ。
それが終わるとただ一人腕を組む天道は口を開いた。

「ここは最近人手不足と聞いた、そこで今日はいい知らせがある」

言いながら天道は右手の人差し指でスバルを指す。

「明日からこいつをここでバイトとして使うといい」

その衝撃的発言にスバルは自分の耳を疑った。
いや、彼女だけでない。加賀美とひよりも天道が言った言葉の意味を理解出来ず、ぽかんとした表情を浮かべる。
数秒の沈黙が部屋を包んだあと、ようやく口を開いたのは加賀美だった。

「天道、いきなり何を言ってるんだ?」
「今日からこいつをバイトとして使えと言ったんだ」
「そういう事じゃなくて……」
「技量なら問題ない、皿洗いや掃除の腕は悪くなかったぞ」

天道は得意げに語るが、加賀美は納得するわけがなかった。
当然といえば当然だ。何処の誰かも分からない初対面の少女をいきなりバイトとして使えと言われても使えるわけがない。
加賀美は天道が変で、無茶苦茶なことばかり言う人間だということをずっと前から知っている。現に彼自身、天道の意味不明な言動に振り回されたことが多々あった。
またこいつは変なこと言い出してきたよ。
内心で加賀美はそう毒づきながら、天道に呆れたように溜息をつく。
89カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:34:17 ID:epTz/aPd

「そういうことだ、明日からしっかり働けよ」

天道の一言により、唖然たる面持ちをしていたスバルはハッと我に返っていく。
彼女は自分に言われたことを頭の中で整理するので精一杯のようだった。
それが終わったスバルは、天道に問いかけた。

「天道さん、何であたしがここでバイトしなきゃいけないんですか」
「修理費だが」

天道は冷静に即答する。

「お前が家に来たときにリビングはだいぶ荒れたんだ。窓や食器は割れて、ドアも吹き飛んだ……その修理費を払うのは当然だろう?」
「うっ……」

その言葉によってスバルはばつの悪い表情で黙り込んでしまう。
確かに奇妙な空間を通って天道の家のリビングに辿り着いたとき、周りを見渡すとまるで台風が通り過ぎたかのように荒れていた。
原因は間違いなく彼女だろう。
だがそれでも納得がいかないスバルは再び口を開く。

「でも、あたしは別にリビングを滅茶苦茶にするつもりなんて……」
「お前が荒らしたことには変わりはない、違うか?」

スバルの反論を無理矢理止めるかのように天道は言う。
彼女は諦めた。これ以上、何を言っても聞き入れてもらえるとは思えない。
まだ天道と出会ってから一時間にも満たないが、これだけは確信出来る。
それに故意でやった事ではないとはいえ、壊してしまったことは事実だ。
二人の会話を見ている加賀美とひよりには何のことなのか分からず、首を傾げている。

「わかりましたよ……」

スバルが溜め息混じりに言うと、天道は「それでいい」と返答する。
無論、加賀美とひよりは反論したが天道家の修理費を稼ぐという名目で、無理矢理だが二人を納得させていく。
何が何だか分からず納得のいかないまま、未知の世界に流れ着いたスバルはBistro la Salleでバイトをすることになってしまった。




その頃、時空管理局の迷路の如く複雑な廊下に、一つの足音が響いていた。
デバイスルームでの用事を済ませた彼女の姿は港湾警備隊 特別救助隊員――スバル・ナカジマに異様なまでに酷似している。
歩き方、皮膚の色、エメラルドグリーンの瞳、海のように蒼く鮮やかなショートカット、銀色をベースとした救助隊員の制服。
それら全てが一寸の狂いもなくスバルのそれだった。
スバルの姉――ギンガ・ナカジマや亡き母親――クイント・ナカジマの遺伝子を元に生み出されたナンバーズ――ノーヴェ・ナカジマのように『似ている』ではなく『同じ』だった。
その手にはスバルの相棒である空色の水晶――マッハキャリバーが握られている。

「ねえ、マッハキャリバー」

スバルの形をした『それ』はマッハキャリバーに語りかける。

『何でしょうか、相棒』
「これからはあたしがしっかりした相棒になってあげるから安心して」
『それはどういう意味ですか』
「何でもない、ちょっと言ってみただけ」

マッハキャリバーは『そうですか』と肯く。
そのままスバルの形をした『それ』は話を続けた。
90カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:35:35 ID:epTz/aPd

「今日の仕事が終わったらちょっと寄りたいところがあるんだけど良い?」
『構いませんが』
「分かった、ありがとう……」

彼女は優しく微笑む。
そのままマッハキャリバーを胸ポケットに収納すると、誰にも気付かれることの無いように喉を鳴らしながら、本部の外へと向かっていった。





億万長者が住むのに相応しく見える、天道総司の豪邸。
その広い庭に満ちているのは、眩いほどの太陽の輝き、当たりを包む静寂な空気。
それを裂く一撃が放たれる。
スバルが放つ正拳は、空気を裂く音さえ響かせる必殺の一撃だ。
そこからまた一撃。続けるように回し蹴りを放つ。
彼女がミッドチルダから管理外世界と思われるこの世界に流れ着いてから既に一ヶ月が経過していた。
まだ完全ではないにせよ、スバルは東京と呼ぶこの街での生活に馴染んでいた。
どうやらこの世界の文化レベルはミッドチルダに近いようだ。コンクリートで舗装されている道路には車やバスが通り、活気で満ちあふれた都心部には高層ビルが立ち並んでいる。
だがミッドチルダと異なる点もないわけではない。
通貨はミッドチルダには電子マネーが流通しているのに対し、こちらの世界では札や円という貨幣が一般的なようだ。
よってスバルがいくら電子マネーで稼いだとしても、この世界においてそれの意味は何一つ持ち合わせていない。
次元間交流が盛んなミッドチルダなら通貨の両替が出来るのかもしれない、しかし管理外世界の可能性があるこの世界にそんなのがあるとは思えない。
その他にも通信においてミッドチルダでは専用の端末を使うのに対し、この世界では電話が主となっているようだ。
そして、故郷の夜空では二つの月が輝いているのに対して、こちらでは一つだけしか月は昇っていない。
スバルは現在、Bistro la Salleでバイトをしながら天道家の家事手伝いをしている。
バイト代を稼いで、天道家のリビングの修理費は全額支払った。
だが、ミッドチルダに帰る手段を持ち合わせていないスバルはBistro la Salleでバイトをしながら天道の家に居座るしかない。
彼女は天道家の空き部屋を借りて、食費を負担しながら毎日を送っている。
正直な話、家政婦同然の今のスバルにとってこの毎日は休日の連続に等しかった。
いくらこの広い豪邸を掃除すると言っても、元が綺麗すぎるので終わるのに一時間もかからない。
食器洗いもこの一ヶ月ですっかり慣れてしまったのか、三十分以内で終わるようになってしまう。

(父さん、ギン姉、マッハキャリバー、なのはさん、ティア………みんなごめん、あたしまだしばらく帰れそうにないかも)

やがてスバルは故郷や管理世界でそれぞれの使命を果たしている家族、相棒、恩師、友人のことを思うようになる。
彼女の中で二つの罪悪感が芽生えていた。
一つは家族に対する罪悪感。
恐らく自分が行方不明になったことで管理局は大騒ぎとなっているだろう。
特に父親のゲンヤ・ナカジマや姉であるギンガ・ナカジマは半狂乱となっているかもしれない。
自分だってこの二人の内どちらかでも急にいなくなってしまったら不安でいっぱいになり、食事もロクに喉を通らなくなるだろう。
もう一つは特別救助隊員である自分の助けが必要な人々に対して。
もしかしたら今頃、自分がいなくなったことによって救えるはずの人々が何人も命を落としているかもしれない。
そう考えると、悔しさでいっぱいになってしまう。
ミッドチルダに早く帰らなければならない。だがその手段が見つからない。
唯一の希望が時空管理局の所持する次元航行艦だろうが、こんなロストロギアとは無縁そうな世界に管理局の手が伸びるとは到底思えない。
それでも万が一、自分の事を捜してくれる管理局員を信じて、天道の庭を借りて毎日シューティング・アーツの練習に励んでいる。
もし迎えに来てくれたにしても、体が鈍っていてはレスキューは出来ない。その時に備えて練習をする必要があった。
無論、そのような事実は天道には話しておらず『毎日の習慣』という名目だ。
やがてスバルは動きを止め、朝日で輝く青空を見上げた。

(お願いだから早く迎えに来てよ〜! ティア〜)

次元航行部隊執務官として数々の事件を解決している親友――ティアナ・ランスターを再び思うようになる。
自分が突如消えたことを彼女は何て思うだろう。悪態をつきながらも探してくれているだろうか。
91カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:37:48 ID:epTz/aPd
だが何にせよ、こんな事を思っていても何も始まらない。せめて少しだけでもやれることはやるべきだ。
この家には天道が体を鍛える為のトレーニングルームがあるが、戦闘機人である自分が本気でやったら器具を壊してしまう危険性がある。
庭に植え付けられている木、花が植え付けられている花壇を傷つけない程度に再び空気を切り裂く一撃を放つ。
少女が繰り出そうとしたその瞬間。

「なるほどな」

と、男性の低い声が割り込んできた。
スバルが縁側を向くと、この家の主である天道総司が腕を組んで立っていた。

「あ、天道さん」
「それは見たところ格闘術のようだが、武道でもやってるのか」
「……まあ、そんなところですね」

いつもの見慣れた涼しい表情で言う天道に対して、適当な嘘をスバルは返す。
そこからは相変わらず得体の知れないオーラを放ち、その内面には何者にも覆すことの出来ない絶対的な強さが潜んでいるように思える。
本当は時空管理局からの迎えに備えているのだが、そんなこと言えるわけがない。

「基礎だけはお母さんが教えてくれましたけど、殆どはお姉ちゃんから教わったんです」

スバルは屈託のない笑顔を浮かべながら言う。
すると天道は何を思ったのか、自らの左手を広げる。

「ナカジマ、一発打ち込んでみろ」
「え?」
「打ってみろと言ってるんだ」
「いや、でも……」
「打てと言っている」

彼は右手の人差し指を指しながら言うが、そんなの出来るわけがなかった。
目の前に立つ天道と言う男は普通の人間であり、自分は本来戦う為に生み出された戦闘機人だ。
その上この体はシューティング・アーツで鍛えられ、相当の実力を持つ。そんな彼女が打ち込んだら怪我をするに決まっている。

「どうした? やってみろ」

自信満々な態度を取る天道からは引き下がる気配が感じられない。
仕方がないのでスバルは適当に加減をするという条件で、彼に乗ることにした。ISを使うなど論外だ。
何にせよ、怪我をさせるわけにはいかない。
そう思いながらスバルは右の拳で打ち込んだ。






「………!?」

スバルは今、自分に起こっている現実を判断することが出来なかった。
手応えはあった。寸分の狂いもないはずだ。
92カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:40:11 ID:epTz/aPd
人々を守る為に鍛えられたスバルの拳は、これまで多くの敵を倒してきた。
例えデバイスを持たないまま手加減をしても、単純な力比べならばその辺の屈強な男にも負けないはずだった。
戦闘機人の肉体があれば、普通の人間に対してなら半分の力を込めれば身体能力は上回るはず。
だが目の前に立つ男――天道総司は戦闘機人――スバル・ナカジマの拳を平然とした顔で受けとめていた。
いや、彼も日々トレーニングルームで体を鍛えている所をたまに見るからその成果と考えれば無理矢理だが納得がいく。
しかしそれでも常人を遙かに上回る筋力を持つ自分の拳をあっさりと受けとめられるのは信じられない。
スバルの表情が驚愕に染まっていく中、天道はその左手に包む拳を振り払う。

「本気でやれ」

冷ややかな声を出しながら、その左手を再び広げた。
天道は今の一撃が本気ではないと気付いたのか。
だがそれ以前にこの拳を受けとめていて何ともないのか。
スバルは驚愕で舌が上手く回らない中、右手の人差し指でその掌を指しながら口を開く。

「て、天道さん……その手、痛くないんですか……!?」
「いいから本気でやれ」
「で、でも……!」
「本気でやれと言っている」

その一言からはとてつもない威圧感が発せられている気がした。
同時に瞳の中に込められている絶対なる強さと存在感。それらがスバルに目掛けて突き刺さるような気がし、思わず彼女の額に汗が流れる。
彼女は戦闘機人の能力を使わないまま、渾身の力を込めてもう一度打ち込む。
それでもパシン、と拳が掌に当たった乾いた音が庭に響くだけで、結果は数秒前と何一つ変わらなかった。
本気の拳を難なく受けとめられた。それも片手で。

「な、何で……!?」
「まあまあだな」

天道はその表情を一切変えないまま静かに言い放つ。
スバルはその手を振り解こうとするが、全く微動だにしない。
万力で潰されているような凄まじい圧力が彼女の拳を襲う。
その気になれば、拳を包んでいる天道の掌を破壊するなど容易と思われたが実際は全くの逆。
いやむしろこのままではスバルの拳が砕かれてしまいそうだった。
あまりの出来事で頭が真っ白になろうとするその瞬間、ようやくその手が解放された。

「樹花がお前と街に行きたがっている、シャワーを浴びてとっとと着替えろ」

スバルが呆然としている中、天道は言い放ちながら家の中へと戻っていく。
やがてハッ、と気がついたスバルは彼の言われるままに浴場へと向かっていった。
基本的に天道家は天道と彼の義理の妹――天道樹花の二人暮らしだ。
天道樹花とは常に冷静で傲慢な一面が強い天道とは対照的に、明るく活発で天真爛漫な少女だ。
スバルより年下の彼女は兄である天道や、自信を育てた祖母のことを心から尊敬しており、自らを『天の道を往き、樹と花を慈しむ少女』と称している。
そんな彼女がスバルと意気投合するのに時間は必要なく、出会ったその日にお互いに打ち解け合い、本音で話せる仲となった。
もっとも、スバルの方は自らの正体、ミッドチルダと言う名の異世界、時空管理局の存在に関しては兄の天道と同じく一切口外していない。
仲のいい相手に対して隠し事をするというのは気が引けてしまうが、こればかりは仕方のないことだ。





天道は微かな熱と痺れが残る自分の左手を見つめていた。
一ヶ月前、突如リビングに生じた謎の亀裂から現れた少女――スバル・ナカジマ。
その正体を探る為に家政婦として家に置いたが、今の出来事でただの人間である可能性は見えなくなった。
何故あのような華奢な肉体で、この左手に鋼鉄をぶつけられたような痛みを残すことが出来るのか。
いくらトレーニングを積んでいたと説明されてもおかしい、まるで何らかの戦闘訓練を受けているようだった。
93カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:41:02 ID:epTz/aPd
当初、新手のワームかと思案したが自分や樹花に危害を加える気配は一切見られない。
あるいは自分のことを油断させて、妹を誘拐しようとしてるのか。
だがもしその二つが当てはまるならば、ベルトを持つ自分の元にカブトゼクターが来るはずだ。
そしてもう一つ、彼女の周囲の物を見る目がどうにもおかしい部分がある。
夜空の月をまるで初めてそれを見るかのような目で眺めていたり、自分に電話の使い方を尋ねる。更には日本円のことなど何一つ知らない素振りすらもあった。
もしや彼女はこの時代の人間ではなく、何処か別の時代からやって来た人間なのだろうか。
だとすると銀色を基調としたあの見慣れないスーツも合点がいく。
これまでの振る舞いは全て演技で、ZECTのような組織がこの世界に影響を与える為にスバルを刺客として送り込んだ――
それも絶対とは言えないが、一つの可能性として頭の中に刻み込む必要がある。
何にせよ正体が分からない現時点では、彼女のことを完全に信用するべきではない。
そう思った天道は受話器を手に取った。




洋食店Bistro la Salle。
天道は目前に座るスーツ姿の男と視線を合わせるかのように、テーブルに備え付けられた椅子に腰掛けている。
棒のような痩身、知性を感じさせる眼鏡、固く尖る容貌。
それら全てが老紳士というイメージを与えるような気品を放っている。
警視総監であり、かつてワームと戦う為に設立された機密組織ZECTの設立者であり総帥、加賀美陸。
数秒の間を空いて、不敵な笑みを浮かべながら陸は口を開いた。

「こんな所に呼び出して、一体何の用かな……?」
「この世界に何が起こっている」

淡泊な声音に対し、天道は率直に言う。

「一ヶ月前、家のリビングに時空の裂け目が現れて、そこから子供が一人飛び出してきた」
「ほぅ……」

陸は興味ありげな素振りを見せるように呟く。
それに続くかのように天道は次の声を出す。

「あんたなら何か知ってるはずだ、最近多発している皆既日食と何か関係があるのか」

天道は冷静な態度と声を保つ。
もっとも、その内面に強烈な意思が込められていることには変わりはなかった。
やがて二人の間に生まれた僅かな沈黙を破るかのように陸は答える。

「平行世界……ミッドチルダ」

きっかけはその一言だった。

「根岸の意志を継ぐネイティブが、ハイパーゼクターを利用して時空の道を歪め、その世界にワームを送り込んでいるとの情報が入った」
「何を言っている」

沈黙の後に、ようやく聞いた言葉で天道の表情に僅かながら疑問と驚愕が生まれた。
それに気に留めることのないまま陸は続ける。

「そして蘇った魔の一族と結託し、この世界に暗躍している」
「魔の一族?」

陸が呟くように言った言葉を、天道はあっさりと反芻する。
眉の下にある黒き瞳には、一切の揺らぎがない。
まるで世界の危機を知らせようとする絶対の意思が伝わった。
やがて陸はその渋みのある声を出して、言った。

「その一族の名は……ファンガイア」
94カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:43:30 ID:epTz/aPd


こんな所でのんびりしてていいのだろうか。
良い訳がない。
ミッドチルダには自分の助けを待っている人が大勢いるはずだ。
本当ならその人達の為に動かなければいけないのに。
何でこんな所にいるんだろう。
一日でも早く帰らなければいけない。
でも、その方法が見つからない。


「スバルさん、どうしたの?」

スバルが一人で考え事をしていると、隣から声が聞こえてくる。
気がつくと心配げな表情を浮かべる少女――天道樹花が自分の顔を見つめていた。

「樹花ちゃん……ごめんごめん、ぼーっとしちゃって」
「大丈夫、大丈夫!」

スバルは笑顔で謝罪し、樹花も同じように笑顔で返す。
二人は今、街の一角に店舗を置く喫茶店に訪れ、外に備え付けられた席に向かい合って座っていた。
樹花が言うにはこの店のアイスは毎日行列が出来るほどの人気で、料理上手な天道の次に絶品らしい。
それを聞いたスバルは目を輝かせ、大きな期待を抱えていた。
そして彼女の中で安堵も芽生えていた。
彼女が現在身に纏っているのは、余ったバイト代で買ったこの世界で溶け込める感じの一般的な洋服だ。
特別救助隊員の制服で道を歩き回っているわけにはいかない。

「それより早く食べないと、アイス溶けちゃうよ?」
「へ?」

その一言で、スバルは何かが握られている感覚がする自分の左手を見た。
見るとコーンの上に乗っているはずの三段重ねアイスが太陽の光で溶け、形が歪んでいる。
それを見たスバルは慌てて口の中に放り込んだ。
口内に心地よい冷気が刺激し、バニラの味を舌で転がせていく。
そして彼女は恍惚な表情を浮かべながら満足げに口を動かす。
アイスの味はこの世界でも共通のようだった。
その様子を見た樹花はアイスを食べる口を止め、横目でスバルを見つめる。

「スバルさん、美味しい?」
「うん、すっごく美味しい! 連れてきてくれてありがとう!」

すっかり上機嫌となったスバルは満面の笑みで樹花に言う。
その様子は仲の良い姉妹、または長年のつき合いである親友同士のようだった。
しかし心の何処かにあるミッドチルダへの思いで、スバルはこの平和な一時を素直に楽しめないでいた。
だがそんなことを気にしていては、このような素敵な場所に連れてきてくれた樹花に対して失礼だ。
今は特別救助隊員としてでなく、天道家の居候でもなく、戦闘機人である自分を捨てて、この子と接しよう。
そう思ったスバルはミッドチルダにいる自分を知る人間全てに対して、心の中で『ごめん』と再び謝罪する。
それを終えた彼女は抱えている全ての心配を捨てて、この平穏な一時を満喫することを選んだ。
それから二人は笑顔でショッピングモールを歩きながら買い物を楽しんでいた。
アクセサリーや洋服を買ったあとはゲームセンターに訪れ、キャラクター物のキーホルダーやストラップを少しだが入手した。
まるで絵に描いたような平和な時間で、多少の後ろめたさを感じながらもスバルは楽しむことが出来た。
ふと彼女は思うようになる。
このような世界にはロストロギアなどあるわけがない。いや、あってはならない。
もし存在していたとしたら樹花や天道みたいに何の罪も無い人々がその犠牲になってしまうだろう。
95カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:45:35 ID:epTz/aPd


この一日を最後に、平穏な毎日は終わりを告げる。
二つの世界に危機が迫っていた。
魔の一族が牙を研ぎ、宇宙の生命体は異世界へと舞い降りている事実を知るものは少ない。
それに巻き込まれるかのように次元を跳んだ者がいた事、新たなる戦士が生まれた事を知る者もまた少なかった。



そしてその日を境に、スバルの運命は唐突に変わることとなる。



その日も、洋食店Bistro la Salleでのバイトを終えたスバルは帰りの道を歩いていた。
ぽつりと肌に水滴が落ちるのを感じた。ふと夕暮れの空を見上げると、灰色にたれ込めた雲からは突如雨が降り落ちてきた。
傘を持たない彼女は急いで帰ろうとした。
濡れない為に無意識のうちに、人気のない近道を通ることを選ぶ。
薄暗い道を走ろうとするが、スバルは足を止めてしまう。
周囲を取り囲むコンクリートの壁から、亡霊のような影のようにゆらり、と数人の男が姿を現した。
全身が黒ずくめだった。
がっちりとした体型を包むビジネススーツに、太陽の光から視力を守るサングラス、同じく黒で光沢のかかった革靴。
それだけを見ればサラリーマン、あるいは公人の護衛のような姿だ。
そしてサングラスからうっすらと見える両眼からは、見るもの全てを震え上がらせるような鋭い眼光が感じられる。
そして、じりじりとスバルの通路を塞ぐようにして広がっていく包囲の輪。
人数は全部で十人。
それら全てがコピー機でトレースしたかのように同じ格好だったので、スバルは薄気味悪さを覚える。

「お迎えに上がりましたよ、スバル・ナカジマさん」

一体自分に何の用があるのか。
抗議の声を発しようとした途端、一人の男がスバルの前に出た。
他の男とは異なり、サングラスを掛けない変わりに漆黒のマントを羽織っている。
数本の薔薇を束ねた花束を持つその男は、まるで長年の友人でも相手にするかのような笑顔を浮かべてスバルに近づく。

「今日からあなたは私達の仲間となるのです」

感情を感じさせない他の男達とは違い、楽しげな態度で話すその男からはうふふ、と喉から声を漏らす。
その異様な態度に、スバルは軽く嫌悪感を覚える。
それ以前に何故自分の名前を知っているのか、こんな奇人を知り合いに持った覚えはない。
だが何にせよ、こんな集団は無視するべきだ。
その嫌悪感を抱かせるような男の脇を通り過ぎようとした瞬間――

「まあ、こう言った方が正しいですね………戦闘機人、タイプゼロ・セカンド」

その一言でスバルは足を止めてしまう。
気がつくと、周囲の男達の外見は人のそれではなくなっていた。
マントを羽織った男の姿はコウモリを連想させる仮面を被り、全身を漆黒の装甲とマントに身を包んだ異形――バットへと姿を変えていた。
それに続くかのようにサングラスの男達の姿もバットとはまた別の醜悪な怪物へ変化を遂げていた。
毒々しい緑の醜悪な肉体、頭から伸びる大きな角、腕には鋭く尖る長い爪。
昆虫のサナギを連想させる異形――ネイティブへと姿を変えた男達は一斉に、スバルに標準を定めて殺気を放つ。
あまりの出来事にスバルの顔は驚愕に染まっていく。
何故、管理外世界の住民であるこの男達は自分の正体を知っているのか。そして今の変化は何なのか。
答えが得られない中、ネイティブの爪は容赦なくスバルに襲いかかってくる。
しかしシューティング・アーツを学び、現役の陸戦魔導師として前線に立っていた彼女にはそんな物は脅威ではなかった。
八方から襲いかかってくる爪を物凄い速さですっと避けながら脇に迂回し、それぞれの胴体に必殺の拳を叩き込む。
その細い腕には負担にならず、恐ろしいほどの正確さで硬い皮膚に入る。
肉が裂かれず、骨も砕かれることはない。しかしそれを受けたネイティブ達は僅かながらのダメージを体に抱えた。
醜悪な鳴き声を発した三体のネイティブの体が傾くと、そのまま崩れるように地面に倒れ込んだ。
それをちらりと見たスバルは戦闘体型を取る。
96カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 22:48:24 ID:epTz/aPd
「あんた達、あたしのこと知ってるの!?」

抱えていた疑問を吐き出した。
この連中は何者なのか。何の目的があって自分に接触したのか。
そして、何故戦闘機人である自分を知っているのか。
もしや時空管理局が行方不明となった自分を捜しに局員を送り込んだ――
その可能性は瞬時に否定する。それならばこのような殺気を放つとは到底思えない。
今はこの危機を脱する為に、殺さない程度にダメージを与えるべき。
そして正体を聞き出そう。
判断を下したスバルは再び体を動かそうとする。
しかし一瞬の間に頭の中を駆け巡らせたその思考が隙となって、彼女の負けは決まった。

「うっ……!」

突如背後から後頭部に激痛が走り、スバルの姿勢が崩れる。
それを好機と考えたのかバットは自らの膝を飛ばし、スバルの腹部に入れる。

「がはっ……!」

異様なまでのパワーにより、少女の体は吹き飛んでしまう。
そのまま背中から灰色のコンクリートに叩き付けられた。
意識を失い欠けてもまだスバルはその精神力でギリギリ保ち、なおも動こうとする。
しかしそれを嘲笑うかのようにネイティブ達は彼女の周りを囲み、その中でバットは華奢な体を目掛けて蹴りつける。
激烈な痛みが治まらず、呼吸困難で苦しむ中にそのパワーが襲いかかる。
一発蹴られる事に全身にスタンプのように痣を残しながら、悲痛な呻き声を上げていく。
常人ならば即死してもおかしくない衝撃を耐えられるのも、戦闘機人の強靱な肉体を持ってこそだった。
だが次第にそれも限界へと近づいていく。
度重なる打撃により、激痛による熱を持った腹部は痛みの感覚すら薄れ、次第に感覚が麻痺していった。
それでも蹴りが止まることはない、何故ならバットは知っていた。
この状況下の中でもなお、スバルは襲いかかる足を冷静に見極め、タイミングを伺っていたことを。
もし一瞬でも戦闘機人に隙を与えてしまったら、そこから敗北に繋がる可能性がある。
やがて無意識のうちにスバルはその行為が無意味と悟ったのか、瞳から輝きが消える。
ISを使用する暇を与えてもらえず、デバイスを持たないスバルにはこの状況を打破出来る方法など何一つ存在しない。
もはや状況を立て直すことなど出来なかった。

「あっ……」

やがてその一撃が決定打となり、スバルの口から血液が混ざった唾がバットの膝に飛ぶ。
次の瞬間、糸が切れたかのようにくたりと項垂れた。
気が失ったことを悟ったバットは仮面の下で喉を鳴らす。

「これでよし、エリアZへ戻るぞ……」

虚ろな瞳で意識を失わせているスバルを荷物を扱うかのように抱え、バットはすぐそばに留められている車に向かう。
力無く開かれたスバルの口からはぽたぽたと涎が垂れ、コンクリートの地面に染み込ませる。
やがて異形の集団は自らの目的を遂行する為に、その場から姿を消していった。

97カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 23:02:09 ID:epTz/aPd
僅かな雨に濡れた灰色に伸びる道を、一台のバイクが颯爽と駆け抜けていた。
その勢いはまるで主の世界を守るという揺るぎない信念を表すかのように、堂々としていた。
真紅のバイク――カブトエクステンダーに跨る青年は黒いフルフェイスのヘルメットで頭部を守り、ハンドルを動かしている。
長身痩躯の運転手――天道総司の腰には金属質のベルトが輝いていた。
天道は自分を導くかのように宙を舞う相棒――カブトゼクターを真摯な瞳で見つめている。
夕飯の買い物に出掛けようとした途端、突如として現れたカブトゼクター。
まるで世界の異変を知らせるかのように慌ただしく、主人の力が必要だと訴えているようだった。
長年のつき合いからか天道はそれを瞬時に感じ取り、その軌道を辿っている。
先日聞いた陸の話と、一ヶ月前の出来事を彼は頭に思い浮かべていた。
この世界と平行するかのように存在する世界――ミッドチルダ。
地球の覇権を握ろうとした男――根岸の意志を継ぐネイティブがハイパーゼクターの力で時空を歪め、蘇らせたワームと結託したこと。
時空の歪みに飲み込まれて消えた、マスクドライダーの変身ツール――ザビーブレス、ドレイクゼクター、サソードヤイバー。
この世界で暗躍する魔の一族――ファンガイア。
それらのほとんどが連日の皆既日食と何らかの関連があることが、陸の調べで判明していた。
恐らくこれから待ち受けていることも、一ヶ月前スバルがリビングに現れた事態も皆既日食が何らかの関連性があるのには間違いない。
だがどのような真実が待ち構えていようと、今やるべき事はカブトゼクターの導きを信じ、前を進むだけだった。
やがてコンクリートで舗装された道はひび割れた物となり、硝煙の煙が周囲に漂う瓦礫の山が広がっていた。
廃棄されて久しい劣悪な建築物群が不気味なモニュメントのように広がるそこは、八年前に隕石が落下して壊滅した都市――渋谷だった。
多くの死者を出したその凄まじい災害による被害は計り知れず、復興のメドは未だに立っていない。
警察の手により何十にも封印されているそこは公人、あるいはごく一部の研究者にしか立ち入りが許可されていない。
しかしそのようなことを気にしている余裕は天道には持ち合わせていなかった。
カブトゼクターの導きにより通る道が、彼には見覚えがある。
そこはマスクドライダーシステムの鍵が眠ると言われ、一年前にカッシスワーム グラディウスが率いるワームの軍勢と攻防戦を繰り広げた地、エリアZだった。
この場所は平和となった今の時代、もう必要ないと判断した陸が渋谷の中でも特に厳重に封印し、未来永劫開くことがないはずだった。
しかし鋼鉄製の厚い扉が開いていて、何者かが侵入した形跡が残っている。
エンジンを止めてカブトエクステンダーから降り、ヘルメットをハンドルに掛けた天道は歩き出した。

「止まれ」

不意に声が聞こえたので、天道は足を止める。
振り向くと、そこにはラグビー選手のようにガッチリした体格を漆黒のビジネススーツに包み、サングラスを装着しているという格好をした男が数人立っていた。
男達は天道を目掛けて殺気を飛ばしているが、彼にとってそんな物は何の意味も成さなかった。

「貴様、天道総司か」
「ここは全面閉鎖したはずだ、今になって何故――」
「知る必要はない」

天道の疑問に答えることの無い男達の体は妖しい光に覆われると、突如表面がドロドロと溶けだした。
次の瞬間、その体は昆虫のサナギを連想させる異形――ネイティブへと姿を変える。
それを見た天道は軽く溜息をついた。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:03:08 ID:GdM6ydN+
支援
99カブトレボリューション序章 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 23:03:29 ID:epTz/aPd

「どうやら、一波乱起きそうだな……」

ぽつりと呟くと、彼は傍らに飛んでいたカブトゼクターを右手で掴む。
その男の瞳からは、内面に宿る圧倒的かつ絶対なる強さ、威圧感、存在感を全て吐き出していた。
ゼクターの角を天に指しながら右手を左肩まで持ち上げる。
やがて、その呼び声を静かに告げた。

「変身」
『Hensin』

彼はカブトゼクターを銀色に輝くベルトに装着する。
電子音が発せられると同時に、ヒヒイロノカネがカブトゼクターから噴出されていく。
やがてそれは六角形の金属片へと変化していった。
そこに現れたのは天道であり、天道ではなかった。
アンテナのように額に付くカブトレシーバー。
頭部を守る仮面の青きコンバウンドアイ。
銀と赤を基調とした全身を守るマスクドアーマー。
左肩に刻まれるカブト虫を元にした、赤きZECTマーク。
下半身を守る黒いサインスーツ。
かつてこの世界を危機に陥れたワームから人々を守り、世界を救った太陽の神――仮面ライダーカブト マスクドフォームへと天道総司は姿を変えた。



その3へ続く。


100地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/22(水) 23:07:00 ID:epTz/aPd
これにてカブトレボリューション序章 第2話終了です。
四兄弟で地獄兄弟の仲間になったエリオがホームレスとなったのに対して、ミッドチルダに帰ることの出来ないスバルは天道家の居候となりました。
ストラーダもマッハキャリバーもなく、リリカルもカブトもなくなる展開の連続かもしれませんが、どうかよろしくお願いします。
次回から天道が再び戦います。


次の投下は四兄弟の予定です。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:11:40 ID:EIobuxPE
GJです。どちらもいい所で終わってるので次回がすごく楽しみです。
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:19:46 ID:tBmNFx1t
ゼロ氏が投下だと! ええい私を寝かさない気かッ!

全力でお待ちしております
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:27:48 ID:gJ5TiByS
各員に通達!! 全力でゼロ氏をお迎えしろ!!
104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:41:27 ID:I1dvu9LO
おっかなびっくり待機
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:46:01 ID:VOa9zJNm
X8やりながら待ってました
106ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:48:02 ID:NS+LDRnM
「これはもう、切るしかなさそうね」
 聖王のゆりかご内において、スカリエッティから全システムの制御と管理を
任されていたのは、ナンバーズ4番クアットロである。
 最深部の制御室にてゆりかごの内外で起こる戦闘を見物していた彼女だが、
スカリエッティが敗北し、彼の切り札であった聖王ヴィヴィオまでもが倒され
た事態を前に、小さく息を吐いた。眼鏡を外し、表情からは普段見せている笑
みが消えていく。
「ドクターもこうなってはお終いね……格好悪い」
 情けない、と言わなかっただけまだマシだろうか。モニターに移る大広間を
見ながら、クアットロは思考を巡らせていた。
「抵抗を続けるだけの余力は、もう残ってない」
 防御機構をフル稼動し、船内の自動修復を開始すれば、ある程度までは回復
するかも知れない。しかし、聖王ヴィヴィオはゼロとの戦闘で駆動炉の力を使
いすぎた。予備を起動させるにも時間が掛かるし、その間に戦力を再編させた
地上部隊が、ゆりかご内へと攻め込んでくるだろう。
 そうすれば、スカリエッティどころか自分もお終いだ。
「素直に認めるべきね。ドクターは、いえ、私たちは負けた」
 ゆりかごと並ぶ破壊兵器であった聖王が敗れた時点で、こちらの勝ちはなく
なった。スカリエッティの計算も計画も、策謀も陰謀も、彼と彼の切り札が倒
された時点で無効となったのだ。
 故に、クアットロは考えなければいけない。

 スカリエッティを助けるか、それとも見捨てるのかを。

「ここは最深部、脱出するだけでも時間が掛かるし、私が無事に逃げるには、
大広間に行っている暇はない」
 クアットロは、右手で自分の腹部に触れた。彼女の体内には、スカリエッテ
ィによって植え付けられた種がある。一部ナンバーズのみに植え付けたとされ
る、スカリエッティのコピークローンの子種だ。
「そうよ、あそこにいるドクターが死んでも、私さえ生き残れれば、ドクター
はすぐに復活するんだから」
 スカリエッティが死ねば、クアットロの体内にあるクローン子種が反応し、
活性化を始める。一ヵ月もすれば、それまでのスカリエッティの記憶をコピー
したクローンが生み出されるのだ。
 ならば今いるドクターに固執する理由など、どこにもない。
「安心してください、ドクター。生まれてくるあなたのクローンは、私が責任
を持って育てますから。今度こそ誰にも負けない、私の好みの天才にしてあげ
ます……だから」
 今日の所は、このゆりかごと共に死んでください。
 クアットロは、自らの創造主たるスカリエッティの排除を、彼を切り捨てる
ことを決断した。スカリエッティ本人が散々やってきたことだ。彼に文句を言
う権利などありはしない。
「まずは私の脱出路以外の隔壁を閉鎖し、大広間には残る全てのがジェットを
投入し、自爆。これで空間ごと破壊する」
 そしてゆりかごの駆動炉を暴走させ、クラナガンに落とすなり、適当にやれ
ばいい。いずれも自分の脱出した後の話だ。
「ドクターの夢は、私が引き継ぎます。私さえいれば、後は何も――」
 いらない、必要ない。そう呟きながら、クアットロは作戦を実行しようとコ
ンソールパネルに手を伸ばした。
 生みの親でさえ見捨てる冷酷さを醸し出す彼女に対し、

「あなたがドクターの夢を知っているなんて、初めて知ったわ」

 一つの声が、発せられた。



         第25話「赤き閃光の英雄」

107ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:49:08 ID:NS+LDRnM
 声に、クアットロは慌てて振り返った。背後に人がいるのに、気付くことさ
え出来なかった。
 クアットロ相手にこんなことが出来るのは、ただ一人だけ。
「ドゥーエ……お姉さま」
 狼狽したように、クアットロは相手の名前を呼んだ。
 ナンバーズ2番、ドゥーエ。偽りの仮面を身につけた、姿偽る諜報者。
「久しぶりね、クアットロ。再会までの帰還を考えれば、懐かしいと言ったほ
うが正確かしら?」
 くすんだ金髪を靡かせながら、ドゥーエは妹に笑顔を見せた。そして一歩、
妹に向かって足を踏み出す。
 そんな姉に対して、クアットロは後ろに後ずさっていく。
「どうして、聖王のゆりかごに」
 スカリエッティからの命令で、ドゥーエは数年がかりの長期任務に就いてい
た。故に彼女の存在を認識し、会ったことがあるのはナンバーズの中でも、セ
インから上の番号のみである。
 そんな彼女が何故ゆりかごに、しかも最深部である制御室にいるのか。
「この船、広いでしょう? だから、迷っちゃって」
 微笑みを崩さないドゥーエに、クアットロは完全に気圧されていた。
「それに、はじめにあなたに会いたかったのよ。私が唯一教育を担当した妹が、
どのように育ち、成長しているのかを真っ先に見てみたくて」
 ドゥーエは、クアットロの教育係であった。姉に対し、妹は常に弱い立場に
あり、妹は姉に抗うことが出来ない。
「任務は、どうなさったんですか?」
「終わったわけじゃないけど、私はある一定の条件下では、自己の判断に基づ
き行動することが許されているの。あなたは知らなかったでしょうけど」
 知らなかった。そもそも、今ここにドゥーエが現れるまで、クアットロは彼
女の存在を失念していた。
 何故戻ってきたのか、どんな目的があるのか。
「ドクターは、あそこにいるのね」
 モニターに映る大広間を見ながら、ドゥーエは呟いた。そして、すぐにクア
ットロへと背を向け歩き出そうとした。
「ま、待って下さい。助けに行くんですか!?」
 クアットロの声に、ドゥーエが足を止めた。
 そして、ゆっくりと振り返る。一つ一つの動作に、クアットロは圧倒されて
いる気分になった。
「今から行っても、何の意味もありません! 私と一緒に逃げればいいじゃな
いですか? ドクターなら今ここで死んでも、後で復活を――」
 妹の提案に対し、姉は別の問いかけを行うことで遮った。
「一つ、聞き忘れたけど……クアットロ、あなたは」
 瞬間、ドゥーエの声からそれまであった明るさが消えた。

「あなたはドクターの夢を、本当に知っているの?」
108ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:50:12 ID:NS+LDRnM
 問いに対する答えを、クアットロは持っていなかった。しかし、例え持って
いたとしても彼女にはそれを答えることは出来なかっただろう。

 ドゥーエのピアッシングネイルが、クアットロの胸を貫いていた。

 何が切欠だったのかはわからない。当たり前の話、クアットロは突然現れた
姉の存在に狼狽し、動揺こそしていたが、姉が自分に攻撃を行うとは思ってい
なかったし、考えるわけがなかった。
 ドゥーエがクアットロを殺す理由など、あるわけがないのだから。
 クアットロの胸が、ドゥーエの中指のピアッシングネイルに貫かれた瞬間も、
彼女は歪んだ表情に笑みを浮かべていた。彼女の表情が驚愕へと変化したのは、
言葉の代わりに口から血塊が溢れだしたときだろう。
 どんなものにも恐怖という感情を見せたことがなかったクアットロが、呆然
とした表情で、口元を血で汚しながら、地面へと膝を突いた。自分を貫いた姉
の行動が、彼女には理解できなかった。
「クアットロ、私はあなたが大好きよ。顔と存在を知る、三人の妹の中では一
番好きだし、ただ一人の姉さんよりも好きだった。けどそれはあなたが」

 姉妹の中で、自分の次にドクターに似ていたから。

「あなたは私と違って、ドクターの面白い部分だけが似てしまったわね。その
残忍さや冷酷さが小さければ、私はあなたを大好きなままで居られたのに」
 クアットロの性格はスカリエッティに似ていた。似ていたがために、彼女は
最後の最後に自分を優先させてしまった。
 創造主にして製作者であるスカリエッティではなく、自分の身を守ることを
考え、彼がナンバーズにしてきたように、スカリエッティを見捨てたのだ。
「あなたが内心で何を考えようが、それはあなたの勝手だし自由……だけど、
ドクターを切り捨てるなんて論外、あり得ないことよ」
 軽い口調や軽薄な行動を取る裏で、常に策謀をという名の本音と本心を隠し
持っていたクアットロ。しかし、それは彼女の教育係であったドゥーエに、全
て見透かされていたのだ。
「私のドクターは、あなた程度の存在が仕掛ける策謀で消えていい人じゃない
の。あなたは他人を観察する目には長けていたけど、他人があなたをどう見る
か、その視線を気にしなさ過ぎたようね」
 故に、ドゥーエはクアットロを処刑した。意味などない、ただの私的感情に
過ぎない。ナンバーズ一の策謀家は、そうした類の感情に気付くことが出来な
かったのだ。事実、クアットロは死の瞬間まで、自分がどうしてドゥーエに殺
されるのか、理解することが出来なかったのだ。
「お姉…さま、私……たちの、楽園……」
 目に涙を浮かべて、クアットロはドゥーエを見上げた。姉妹の中で唯一敬愛
し、尊敬の念を抱く姉に対し、助けを求めた。しかし、彼女の消え失せてゆく
視界が最後に見たのは、自分よりも遥に冷酷な表情を浮かべる、姉の姿だった。

「やっぱり、知らなかったじゃない」

 人差し指のピアッシングネイルが、クアットロの額を突き破った。

109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:50:59 ID:huYPQbeI
いきなり姉妹で修羅場ww支援
110ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:51:02 ID:NS+LDRnM
「あっ―――?」
 その頃、死闘が行われていたゆりかご内の大広間では、聖王からその姿を元
に幼女へと戻したヴィヴィオが、小さな悲鳴を上げて床に倒れこんだ。
「大丈夫か!?」
 駆け寄るゼロだが、死んだわけではないようだ。力の使いすぎで、気を失っ
たのだろう。
 だが、大丈夫かと問われるべきなのはヴィヴィオではなくゼロだ。少なくと
も、アギトはそう思った。回復呪文でなのはの出血を抑えていたアギトだが、
それにも限界が来ている。早く脱出し、しかるべきところで治療を受けさせな
いと、なのはは死ぬ。
 ゼロだってそうだ、ゆりかご内での度重なる戦闘に、スカリエッティ、聖王
ヴィヴィオと連続で戦い、身体の損傷と負傷は限界を超えている。立っていら
れるのが、不思議なくらいだ。
「ゼロ、早く脱出を――!?」
 叫ぶアギトの目の前で、信じられない光景が目に入った。スカリエッティが、
ヴィヴィオに打ち倒されたはずの彼が、起ち上がっていたのだ。

 口元に、歪みきった凶悪な笑みを浮かべながら。

「まさか、聖王を倒してしまうとはね……いやはや、君は私の想像と理解を超
えた存在だったようだ」
 起ち上がりはしたが、ダメージが回復したわけでもないらしい。スカリエッ
ティの息は荒く、声も決して大きくはなかった。
「だが、どうして、無敵にして最強の聖王は負けたのだ。古代ベルカ王朝に君
臨したベルカの英雄が、何故……」
 本当に、スカリエッティは理解できていないのだ。例えゼロであっても、聖
王に勝つことなど出来るわけがないと、ゼロが勝つという発想がスカリエッテ
ィには存在しなかった。
「英雄とは、そんな単純なものじゃない」
 ゼロも絞り出すように声を発していたが、聖王をも怯ませた眼光は未だに衰
えを見せない。
 スカリエッティは、自身の頭を掻きむしった。
「わからない、わからない、わからない、わからない、わからない!」
 今すぐにでもゼロを押し倒し、その身体の隅々を調べ上げ、弄くり回したい
衝動に駆られるも、創造者から敗北者となったスカリエッティには不可能だっ
た。
 そんなスカリエッティに対し、ゼロは静かにゼットセイバーの刃を向けた。
「気が変わった、やはりお前はここで倒す」
 根拠のない直感、戦士の勘、それがゼロにスカリエッティを倒せと、こいつ
をこれ以上のさばらせるなと、告げている。
「殺すのかい、私を? 武器も持たない、無力な人間を」
 武器も失い、ただの人間と化したスカリエッティ。それでもゼロは、躊躇は
しなかった。
 残させた力を、全身全霊の力を振り絞って、ゼロがスカリエッティに斬り掛
かろうとした、その時である。

「――――ッ!?」

 魔力によるバインドが、ゼロの身体を封じ込んだ。
111ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:52:32 ID:NS+LDRnM
「拘束、魔法」
 全身を強い力で締め付けられながら、ゼロはそれでも倒れまいとした。見れ
ば、アギトも同様にバインドに拘束され、地面へと落下している。
 スカリエッティはその光景を驚いたようにみていたが、すぐに何事が起こっ
たのか、明確に悟ったようだ。
「そうか……そういうことか」
 薄笑いをしながら、スカリエッティは大広間の入り口を見た。そこには、一
人の女が立っている。
「来てくれないかと思ったよ、ドゥーエ」
 声を掛けられた女は、スカリエッティによく似た種類の笑みを返しながら、
大広間へと入ってきた。
「そんなわけないじゃないですか? 私が唯一自己の判断で行動を行えるのは、
ドクターの身に危険がおよびそうになった時だけなんですから」
 ナンバーズの戦闘スーツを着込み、女は余裕のある足取りでスカリエッティ
の元へ歩き、その横に立った。
「紹介しよう、ゼロ。ナンバーズ2番、ドゥーエだ」
 現れたドゥーエに満足そうな表情を向けながら、スカリエッティはその存在
を知らしめる。
「ナンバーズ2番、だと」
 セインも存在のみを知るだけの、最後のナンバーズ。それが今、ゼロの目の
前に現れている。何とかバインドを解こうと藻掻くが、激しく動けば体勢が崩
れ、倒れてしまうだろう。
「もう少し早く来るかとも思っていたが……ほぅ」
 スカリエッティは、ドゥーエのピアッシングネイルが血に塗れていることに
気付いた。乾ききっていない、まだ新しい血だ。
「寄り道をしていたのか……その様子だと、クアットロもダメだったのかい?」
 それが誰の血であるのか、スカリエッティは判ったようだ。
「えぇ、ダメでした。私の教育不足でしょうか?」
 妹を殺害してきた事実を、淡々と語るドゥーエ。スカリエッティがナンバー
ズを切り捨てるときと同じように、感慨も感傷もない口調であった。
「いや、君のせいじゃない。クアットロも、所詮はその程度だったということ
さ」
 二人が会話をする最中、ウーノの意識が戻った。会話の内容は半分も聞こえ
なかった彼女だが、ドゥーエが現れドクターの危機を救ったということだけは
理解できた。
「よくやったわ、ドゥーエ……」
 ウーノは、久方ぶりにその姿を見せた妹に声を掛ける。ドゥーエが気付き、
ただ一人の姉へと顔を向けた。
「さぁ、早く私にも、手を貸して」
 意識が回復したといっても、聖王の力で吹っ飛ばされたのだ。身体全体が痛
みを発し、一人では起きあがることも、立ちあがることも出来なかった。
 助けを求め妹に手を差し出すウーノだが、ドゥーエは何ともつまらなそうな
表情をしながら、
「何を勘違いしているのかしら? ウーノは」
 長姉であるウーノを、鼻で笑い飛ばした。クアットロでさえ頭が上がらない
とされた姉に対し、ドゥーエは対等以上の存在であったのだ。
112ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:54:05 ID:NS+LDRnM
「私はドクターを助けに来たのであって、あなたを助けに来たんじゃないの、
そこの所、おわかりになってる?」
 ウーノは、ドゥーエが何を言っているのか、即座に理解することは出来なか
った。負傷が、彼女の明晰な頭脳を鈍らせていたのだろう。
「馬鹿なこと言わないでっ……ドクター、ドクターからもドゥーエに命令を、
私を助けるようにと!」
 懇願するウーノに対し、スカリエッティはドゥーエとさほど変わらぬ種類の
表情を向けていた。
「残念だがね、ウーノ、君とはここでお別れだ」
 その声は、いつもと何ら変わりなかった。非情さも卑劣さもない、事実を口
にし、突きつけただけのもの。多くのナンバーズに対してそうであったように、
スカリエッティは動けなくなったウーノを切り捨てるに、一ミクロンの迷いも
見せなかった。
「何を、仰っているのですか」
 ゼロやアギトでさえすぐに理解した言葉の意味を、ウーノだけが理解できな
かった。いや、理解は出来たのかもしれないが、信じられなかったのだろう。
自分がスカリエッティに、捨てられようとしている事実と、現実が。
「冗談は止めてください、こんな、ドクターが私を見捨てるだなんて!」
 激情に駆られて叫ぶウーノだが、そんな姉のみじめな姿を、ドゥーエが侮蔑
をこめた視線で見つめている。
「ドクターは、ドクターはこう仰っていたはずです。例えナンバーズの全員が
裏切っても、私は、私だけは裏切らない、唯一信用できる存在だと、仰ってい
たではありませんか!?」
 スカリエッティは言ったことがある。誰も信頼することのない彼が、ただ一
人だけは信用していると。裏切りや離反が多発する中、たった一人だけは裏切
らないと、そう断言した。
 しかし、それは――
「確かに私は、ナンバーズの戦闘機人、ただ一人に対してだけは信用をしてい
る。ナンバーズ12人、その中の11人が裏切っても、彼女だけは裏切らないと言
い切ることができた」
 ならば何故、自分を見捨てるなどと、切り捨てようとするのか。動揺と混乱、
絶望によって発狂寸前であったウーノに対し、スカリエッティは決定的な言葉
を突きつけた。

「けど、それが君だなどと、私はいつ言ったかな? ウーノ」

 言葉に、ウーノは全身の血の気が引くのを感じた。恐怖に、身体が硬直する。

「私が信用している唯一の存在、確かにそれがいるのは事実だが、それが君だ
とは一度も言ったことはない。君が勝手にそうだと思い込み、誤解をしていた
だけだ」
 全ては、ただの勘違いと、先入観に過ぎない。ウーノは公私に渡ってスカリ
エッティをサポートする立場から、自分こそがスカリエッティに唯一信用され
ているナンバーズだと思い込み、妹たちもまた、不満はあれ長姉たるウーノ以
外にはあり得ないだろうと先入観で納得していた。
113ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:55:38 ID:NS+LDRnM
 だが、事実と現実はウーノの存在を否定した。ならば誰が? ルーテシアや
ギンガだとでもいうのか、いや、スカリエッティは12人中の1人と言ったはず
だ。彼女らのはずがない。
「まさ、か……!」
 ウーノは、スカリエッティの傍らに立つ妹を見た。まさか、そんなことが、
あっていいはずがない。
「二番目にして最高傑作、私の因子を最も色濃く受け継ぎ、性格や行動原理を
共通させ、共有することのできるただ一人の存在、それがドゥーエだ」
 言葉を紡ぐスカリエッティの声を聞きながら、ドゥーエの顔に勝利の笑みが
浮かびあがっていく。事実、彼女は長姉たるウーノに勝ったのだ。自分が何年
傍を離れていようと、ウーノが何年ドクターの傍にいようと、彼の考えは変わ
らなかったのだから。
「そんなドゥーエを、私が信用するのは当然のことだろう?」
 スカリエッティにとっては、姉妹らが勘違いしたことの方が不思議なのだ。
もっとも半数以上がドゥーエの存在など見たこともないのだから、無理からぬ
ことといえなくもないのだが。
 絶望を超越した何かが、ウーノの身体を支配した。今までの日々や、持って
いたはずの優越感、スカリエッティに対する想いなどが、全て打ち砕かれて
しまった気がする。
「私は、私はドクターを……あなたを、愛していたのに」
 最後の最後になってこぼれ落ちた想いに対し、反応したのはスカリエッティ
本人ではなく、ドゥーエだった。
「それで? あなたが愛していたからなんだっていうの? あなたは自分の愛
に、見返りでも求めるのかしら」
 ドゥーエは姉を嘲笑い、明らかに見下していた。スカリエッティがそうであ
るように、基本的に彼女も他人を見下すことしかしないのだ。
「ドゥーエ……!」
 怒りに満ちた視線を、ウーノはドゥーエに叩き付けた。しかし、例え視線で
人が殺せたとしても、妹は姉の嫉妬を軽く避けただろう。
 スカリエッティが、ドゥーエを制止しながら、前に進み出た。
「君の愛はありがたいが、君は私を愛するほどに、私という存在を理解してい
るのかな?」
 例えば、そう――

「ウーノ、君は私の夢を、知っているかい?」

 それは、スカリエッティがこれまで何度も、ナンバーズに対して行ってきた
質問。

「生命操作技術の完成、それを自由に行える空間を作り、私たちの楽園とする
……ドクターは私に、そう語ってくださいました」
 それがドクターの、私たちナンバーズの悲願、夢であるはずだ。
 訴えかけるようなウーノの解答に対し、スカリエッティは表情を変えなかっ
た。しかし、彼の隣で耐えきれなく、堪えきれなくなった者がいる。
「それ、本気で言ってるの?」
 ドゥーエが、声を上げて笑い飛ばした。何がそんなにおかしいのか、笑い転
げる勢いだった。
 そんなドゥーエを無視し、スカリエッティは静かに首を振った。否定の意味
を成す、横に。
114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:56:34 ID:GdM6ydN+
ロボット三原則?あの土下座はしても反省はしない眉毛じじいが
そんなものいれるわけはない。支援
115ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:57:00 ID:NS+LDRnM
「君も、やはり知らないのか……」
 ウーノの目が見開かれた。そんなはずはない、かつて、スカリエッティは確
かにそのように語ったことがあるのだ。嘘でもなければ、思い違いでもない、
記憶違いなどあり得ない。
「ドクター、そんな適当なこと言ったんですか?」
 一通り笑い終えたのか、ドゥーエが確認する。
「適当ではないさ、そんなことを言ったのも事実だ。けど、それは目的や目標
の一つであって、別に私の夢じゃない」
 野心や野望の一環であり、究極的な意味での夢とは言わない。
「なるほど、ウーノやクアットロはそれを勘違いしたわけですか……残念だっ
たわねぇ、ウーノ?」
 殊更嫌みったらしく喋るドゥーエ。ウーノはその態度に苛立ちを憶えるより
も先に、一つの疑問を感じた。
 それは、考えたくもない、事実と現実を超えた、真実。

「ドゥーエ、あなたはもしかして……知っているの?」

 ドクターの、本当の夢を。

 ウーノやクアットロでさえ知り得なかった確信を、ドゥーエは、ナンバーズ
2番の戦闘機人は知っているというのか。
 ドゥーエは笑うのを止め、これまでの嘲笑が嘘のように静かになった。実は、
彼女にとってその質問は意外だったのだ。
「知ってるに決まってるじゃない?」
 出なければ、スカリエッティが信用し、信頼に近い感情など抱くはずもない。
スカリエッティの夢を知っているから、ドゥーエはクアットロやウーノを笑い
飛ばすことが出来たのだ。
「夢どころか、私はドクターのことは大抵知ってるけど……」
 愕然とした答えが、ウーノの身体にのし掛かった。
 それは一体なんなのか、喉まで出かけた問いを、ウーノは何とか飲み込むこ
とに成功した。問いに対し、ドゥーエが正答を持って答えでもしたら、ウーノ
は永久に妹に勝てなくなるのだ。絶対に、嫌だった。
「ドクター、そろそろお時間です。お言いつけ通り、本局の次元航行艦体に対
する工作はしてきましたが、既に体制を立て直し、艦体の再編を済ませ出撃し
ているでしょう。お早い脱出を」
 急に事務的な口調になったドゥーエ。彼女の目に、最早ウーノの存在など映
ってはいない。
 ウーノは、這いずるように身体を動かし、何とか起ち上がろうとした。
「ま、待って下さいドクター、私も……私も連れて行って」
 目に大粒の涙を浮かべながら、ウーノは必死で叫んだ。
「ダメなんです、私は、ドクターの側でないと、あなたに付き従うこと以外に、
私の生きる理由はないんです!」
 助けて欲しい、一緒にいさせて欲しい。
 ウーノの最後の懇願に対し、スカリエッティは意外にも困った表情をした。
彼なりに、ウーノへの愛情や愛着があったのだろうか? いや、そんなはずは
ない。彼にとって、ドゥーエ以外のナンバーズなど、等しく物に過ぎない。
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 23:57:02 ID:huYPQbeI
ここまでドロドロしたスカ家がかつてあっただろうかw支援
117ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:58:38 ID:NS+LDRnM
「だそうだが、どうする、ドゥーエ?」
 連れて行くのは、実のところどちらでも構わないのだ。しかし、それを為す
のはスカリエッティではなく、ドゥーエだ。スカリエッティはともかく、彼女
にとってウーノなど足手まといにしかならない。

 そして妹は、姉に対してどこまでも非情で冷酷だった。

「生きる意味がないなら、ここで死ねばいいじゃないですか?」

 呟きと共に、三本のピアッシングネイルが、ウーノの腹を貫き、突き破った。
「がっ――!?」
 正確に、ドゥーエはウーノの腹を、体内に眠るスカリエッティの子種を潰し
た。何も悪意があったわけではない、今後ウーノの死体が回収され、種を管理
局に採取でもされたら困るからだ。
 しかし、ウーノにとっては最後の希望を潰されたようなものだ。

「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 死にたくない、死ぬのは嫌だ、死ねば、ドクターと一緒にいられなくなる。

 泣き叫び、必死で懇願するウーノの姿に、スカリエッティは完全に興味を失
い、むしろ失望も感じたようだ。ドゥーエに目配せし、黙らせるように諭した
のだ。
「じゃ、遠慮なく」
 放たれた衝撃波が、ウーノの身体を強く打った。腹から血を流しながら、ウ
ーノはショックで意識を失った。
「やれやれ、理知的だと思っていたが、あんなにも取り乱すとはね。長い付き
合いだが、付き合いだけ長ければ良いわけでもないらしい。」
 倒れたウーノの姿を見ていたのは、ほんの数秒だった。スカリエッティは、
未だにバインドで拘束されたままのゼロに視線を向けた。
「いや、すまなかったね、ゼロ。君を置いてけぼりに、下らない醜態を見せて
しまって」
 ゼロは目の前で繰り広げられた異様な光景に無言を貫いていた。正確に言う
と、何と言って良いのか判らなかったのである。
「お前という奴は……どこまで!」
 しかし、必死でスカリエッティに縋り付こうとしたウーノの一途さに、敵と
はいえゼロの思うところがあったらしい。腐りきった性根をしているスカリエ
ッティに対し、ゼロは完全な殺意を抱いたようだ。
「怖いねぇ、あれだけ戦ったのに、眼光がギラギラと鋭さを増していく」
 結局のところ、スカリエッティはゼロという存在の大きさを読み違えたのだ。
彼はゼロを自分の計算式に組み込み、壮大なる計画の中で動かそうとしていた
が、それが結果として全ての破綻と崩壊を招いた。明らかにスカリエッティの
失敗であり失態なのだが、不思議と彼は後悔も反省もしていないようだった。
118ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/22(水) 23:59:29 ID:NS+LDRnM
「さてと、それじゃあ私はそろそろ失礼するよ」
 ドゥーエに身体を支えられながら、スカリエッティはゼロに向かって言葉を
放つ。
「逃げるのか、負けを認めて」
「あぁ、今回の計画はこれで終わりのようだからね。成功はしなったが、まる
きり失敗というわけでもない……この辺りが潮時だろう」
 逃げるという言葉をあえて否定せず、自分の負けを素直に認めるあたり、ス
カリエッティも短絡ではないらしい。ゆりかごや玉座の聖王に関しても、特に
執着心はないようだ。
「ドクター、聖王の器はどうしますか?」
 ヴィヴィオのほうに目をやりながら、ドゥーエが尋ねる。
「いや、あれはもういい。もういらない。聖王も、それにゆりかごも、私の思
い描いていたものとは微妙に違った」
 興味を無くしたと言うより、飽きたのか、スカリエッティはヴィヴィオには
顔を向けず、ゼロだけを見ていた。
「ゼロ、君のおかげで面白いゲームになったよ。私を倒し、聖王を倒し、君は
間違いなく英雄となった。けれども、ゲームクリアにはまだ早い」
 魔王倒せばそれで終わりではない、まだエンディングが残っている。
「精々、聖王のゆりかごから無事に脱出してくれ。二度と会うこともないだろ
うが、またゲームをやるときは君にも参加してほしい……君は迷惑だろうがね」
 笑いながら、スカリエッティは宙を見上げた。片腕を失い、無様にも惨敗し
た天才科学者は、最後まで凶悪な笑みを浮かべて、こう呟いた。

「あぁ――楽しかった」

 ジェイル・スカリエッティは、呟きと共にゼロの前から姿を消した。

119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:00:32 ID:4bCm3Bk4
支援
120ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:00:52 ID:UdZlowpf
 ゼロは力尽き、倒れようとしていた。
 敵を逃がし、追撃しなければいけないと判ってはいるのに、身体が言うこと
を聞かない。バインドで拘束されていると言っても、普段のゼロならそれを破
ってでもスカリエッティを倒しただろう。相次ぐ激戦が、限界を超えた体力と
疲労が、ゼロを叩き潰そうとしていた。
「オレも、ここまでか……」
 重くなった瞼を閉じられ、ゼロの身体が地面へと倒れ込む。もう、支える力
すら残ってはいなかった。スカリエッティという敵が居なくなったことで、緊
張の糸が切れたとでも言うのか?
 身体が崩れ落ちる、幾度もの戦いを制し、遂に倒れることの無かったゼロが、
ついに――

「まだ、終わってない。あなたは、こんなところで終わらない」

 声は、流れるようにゼロの身体に響いてきた。金色の光りが、倒れようとす
るゼロの身体を、抱き支えた。
「フェイト、か」
 自分を助けた魔導師の名を、ゼロは呟いた。
「遅れてゴメン、大丈夫……じゃなさそうだね」
 フェイトはゼロのバインドを解除する。拘束されていた身体が軽くなり、何
とか自分の足で体勢を立て直すことが出来た。
「そっちこそ、大丈夫か?」
 ゼロは軽装備となったフェイトの身体を見ながら、全身が傷だらけであるこ
とに気付いた。彼女もまた、壮絶な戦闘を行ってきたのだろう。
「ゼロに比べたら、これぐらい平気……スカリエッティは?」
「逃がしてしまった、ナンバーズの2番が助けに来た」
「そう……でも安心して、外には仲間が大勢居るし、ゆりかごから出てもすぐ
に捕まるはず」
 言って、フェイトは自身の言葉が嘘になるだろうと思っていた。ゼロも予想
はしていたが、スカリエッティは見事逃げおおせるだろう。根拠はないが、何
故か二人ともそんな確信が持てるのだ。
「あれ―――なのはっ!?」
 地面に倒れる親友の姿を発見したフェイトは、慌ててなのはの側に駆け寄っ
た。近くに転がっていたアギトのバインドを解除してやりながら、親友の惨状
を目の当たりにする。
「これは、この怪我は」
 なのはは生きていたが、虫の息といっていい状態だった。
「血は止められたんだけど、傷口が全然塞がらなくて……」
 アギトも頑張りはしたが、彼女が使える回復魔法では何とか死なせないよう
にするのが精一杯だった。
「早く医者に診せるべきだな、その状態は危険だ」
 ヴィヴィオを抱きかかえながら、ゼロが歩いてきた。歩けるぐらいの体力は、
回復したのだろうか。フェイトは頷き、なのはを抱えてあげた。親友の身体は
異様なほど軽く、暖かみに欠けた。
「すぐに脱出を――」
 フェイトが言い終える直前、ゆりかご内にけたたましい警報音が響き渡った。
 突然のこと、ゼロとフェイト、アギトの動きが固まった。
「な、なに!?」
 驚きに顔を上げる中、警報と共に響き渡る声がある。
121ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:02:03 ID:UdZlowpf
『聖王陛下の反応消失、最終防衛ライン聖王を突破されました。これよりゆり
かごは自動防衛モードに切り替わります』

 電子音が、船内中に流れていく。
「自動防衛モード?」
 呟くと同時に、フェイトの身体に違和感が生じた。魔力リンクが、切れてい
る。いや、強制的に切られたのだ。
「バルディッシュ!」
 呼びかけるも、黒色の戦斧は反応をしない。デバイスまで封じ込まれてしま
った。

『船内の全魔力リンクを強制解除、自動修復開始。これよりゆりかごは、安全
空域までの退避行動に入ります』

 聖王のゆりかごの最終システム、玉座の聖王が破壊された場合、それを放棄
しゆりかご本体を守ることのみを考える、防衛システム。
「ゆりかごが、上昇している……」
 どうやら、メインシステムはゆりかごを二つの月の魔力圏内に退避させるつ
もりのようだ。確かに、それが一番確実に船を守る方法ではあるが。
 ここで聖王のゆりかごを放置すれば、大変なことになる。しかし、魔力を封
じられた今のフェイトに、これを食い止めることは出来ない。一度脱出し、船
外からの攻撃を試みるしか――

「フェイト」

 黙って電子音を聞いていたゼロが、フェイトに顔を向けた。そして、彼女に
近づき、抱きかかえているヴィヴィオを差し出す。

「ヴィヴィオとそいつを連れて、お前は逃げろ」
 えっ――? 
 フェイトは、ゼロが何を言っているのか判らなかった。逃げるのは当たり前
だ、早く脱出しなければ、なのはの命に関わる。
 けど、今の言い方じゃ、まるで……
「ゼロ、もちろんあなたも一緒に」
 自分を安心させようと、ゼロに否定して貰いたくて、フェイトは問いかけを
行おうとした。
 しかし、ゼロはフェイトの問いかけに対し、首を横に振った。

「オレは、このままゆりかごの駆動炉を破壊しに行く」

 衝撃が、フェイトの背筋を凍り付かせた。思わずなのはを取り落としそうに
なったほどである。
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:02:41 ID:2WjqycGb
あれ?赤い人恒例の死亡フラグじゃね?
支援
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:04:26 ID:pweGvmQ9
でもマッドサイエンティストが無事逃げ延びたら生存フラグになる
支援
124ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:05:08 ID:NS+LDRnM
「そんなの……そんなの無茶だ、出来るわけ無い」
 叫び声を、フェイトは上げた。僅かな怒りすら含まれる叫びと共に、フェイ
トはゼロに詰め寄った。
「ボロボロの身体で、もう立ってるのだって辛いはずだ!」
 一緒に脱出しよう、お願いだから、一緒に来て欲しい。
 フェイトの必死さに、ゼロは肯定を持って答えることはなかった。彼は、フ
ェイトの肩に手を置いた。まるで力の籠もらない、掌を。
「次元航行艦隊が間に合わなくても、機関部の駆動炉さえ破壊すれば、ゆりか
ごの活動は停止する。停止しなくても、これ以上の上昇は阻止できるはずだ」
 理屈である。確証なんて無い、ただの理屈。
「オレは魔導師じゃない。魔力リンクとやらが解除されても、自由に活動でき
る。可能性があるなら、それに賭けるしかない」
「でも、例えそれが出来ても! あなたはどうやって脱出するの!?」
 どうしてそこまで出来る、何でそんなことが出来る。何の関係もない、異世
界のこと、スカリエッティも倒して、戦いも終わったはずだ。後は、一緒に脱
出して六課に、仲間の元へ帰るだけなのに。
「あ、あたしは一緒に行くぞ! いいだろ?」
 アギトも叫ぶが、ゼロはいささか乱暴に彼女をつかむと、フェイトに向かっ
て投げた。
「ダメだ、お前もフェイトと一緒に行け。お前には、まだ他にやることがある
だろう」
 言われて、アギトの脳裏にルーテシアの顔が思い浮かんだ。確かに、自分は
もう一度あの少女と会わなければいけない。
「ゼロ、お願い……私と一緒に、脱出して!」
 震える声で、フェイトが言葉を紡ぎ出した。
 しかし、ゼロは彼女の肩に置いた掌を、そっと離した。目を見開くフェイト
の前で、ゼロは彼女にヴィヴィオを託し、背を向けた。
「早く行け、自動修復システムが外壁を修理すれば、脱出できなくなるぞ」
 既に歩き始めているゼロの背中に、フェイトは何かを叫びたかった。しかし、
言葉が出てこない。
「待って……お願いだから、行かないで」
 フェイトは、ゼロが死を覚悟していると思った。ここで別れたら、もう一生
会えないような、そんな恐怖が彼女の身体を支配した。
 ゼロはフェイトの声に、足を止めた。頼みを聞いたわけではない、わけでは
ないが、彼は彼女に背を向けたまま、呟いた。

「フェイト、オレを……信じろ!」

 一言、叫ぶと共にゼロは駆け出した。

125ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:07:18 ID:UdZlowpf
「聖王のゆりかごの活動が活性化しています!」
 アースラにおいて戦力の再編を行っていたはやては、シャーリーからの報告
に顔色を変えた。変えたと言っても、彼女もまた気力だけで意識を保っている
ようなものであり、既に指揮座から起ち上がることが出来なくなっていた。
「突入要員との連絡は?」
 なのはやフェイトが、あの中にはいるのだ。
「船内の魔力が切られて、高濃度AMFが発生しています。とても連絡が出来る
状態じゃ……ま、待って下さい!」
 ゆりかごから、反応があった。正確にいうと、ゆりかごから強い魔力反応が
飛び出してきたのだ。塞がりつつある外壁の穴から、魔導師と思わしき魔力が
感知された。
「フェイトさんです、フェイトさんと……微弱ですが、なのはさんの魔力も感
知!」
 続けて、フェイトからの入電。なのはの負傷が著しく、緊急を要するという。
はやては無理矢理、身体の代わりに声を上げて指示を飛ばした。
「近くを飛行するヘリに救助に回せ! それで、脱出したのは二人だけか?」
「いえ、ヴィヴォちゃんとかも一緒みたいです」
 アギトなどの名前が判らなかったのでヴィヴィオと一緒くたに説明したシャ
ーリーだが、逆に言えばヴィヴィオ以外に名前の判る存在がもう居なかったか
らである。
「……ゼロは?」
 はやての口からその名が出たことに、シャーリーは意外さを憶えないでもな
かった。しかも、顔色が悪いせいもあるだろうが、心なしか心配そうに見える
のは、彼女の気のせいか?
「脱出の確認は、まだ出来ていません」
 報告に、はやては一瞬だけ目を閉じた。不安そうにリインが見つめる中、ア
ースラの艦橋に長距離通信が入った。
 次元航行艦隊、総旗艦クラウディアからだ。
『はやて、我が艦隊は既に戦力の再編を済ませ出撃をしている』
「数と、到着までの時間は?」
『戦闘艦艇十五隻に、工作艦三隻、補給艦二隻だ。45分以内にゆりかごを射程
圏内に捉える』
 さすが、次元航行艦隊の若き提督。短時間で必要とされる数の戦力を再編し、
出撃にまでこぎつけた手腕は見事なものだった。
 しかし、はやては無条件でそれを褒めるわけにもいかなかった。
「45分じゃ……間に合わない」
 あと30分もあれば、ゆりかごは衛星軌道上へ到達する。船内を修復しながら、
ゆりかごは上昇することだけにエネルギーを回しているといっても良い。二つ
の月の魔力圏内に入れば、クロノの艦隊など蹴散らされるだけだ。

「ゼロ、お前はまだ、あそこにいるのか――?」

 ならば、切り札は、頼みの綱は彼しかない。

「アースラ及び全地上部隊は、ゆりかごに一斉攻撃を開始! ゆりかごを絶対
に止めろ!」

 はやては起ち上がり、指揮官として最後の指示を飛ばした。

126ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:09:25 ID:UdZlowpf
 船内を、ゼロは走っていた。彼の持つ端末には、当然の如く駆動炉までの地
図もインプットされている。ガジェットによる妨害という懸念もあったが、ゼ
ロやフェイト、なのはによってほとんど駆逐されたのか、船内には残骸しか残
っていなかった。
「オレは英雄なんかじゃない……オレは悩んだことがないし、アイツやフェイ
トみたいに、きっと泣いたこともない」
 駆動炉に向けてひたすら駆け続けるゼロ、古い記憶が少しだけ目覚めたのだ
ろうか。元いた世界でも、この世界でも、自分は英雄視されている。
 しかし、英雄はなるものじゃないし、なろうと思う物でもないはずだ。

「これまでも、そしてこれからも、オレは自分の生き方を変えないし、変える
ことは出来ない」

 アイツが、出来なかったように。

 やがて、ゼロの瞳に駆動炉がある機関部の扉が見えてきた。ゼロは減速せず、
ゼットセイバーを引き抜きこれを斬り裂いた。薄暗い室内に入り、駆動炉らし
きものを探そうとする。

「――――――――!」

 そんなゼロを、幾つもの赤い光点が照らし出した。

「やはり、こうなるか」
 半ば予想は出来ていたのか、ゼロは目の前に広がるガジェットの……もはや
部隊ではなく大軍と称するべき軍団を見回した。
 四つ足の、今まで見たこともない形である。
「それが、どうした」
 ギチギチ、ガチャガチャと、ガジェットたちが近づいてくる。足を踏みなら
し、ゼロを敵と判断、いや、断定したのだ。数え切れないほど室内を埋め尽く
すがジェットを前に、ゼロのゼットセイバーを持つ手に力が籠もる。
「もしオレがこの世界に来た理由が、この争乱を止めることだったのだとすれ
ば、いいだろう、最後まで責任を持とう」
 軍団の中から一機、ゼロに攻撃を仕掛けんと迫ってきた。しかしゼロは、そ
の場から動こうとしなかった。

「オレは悩まない――」

 ガジェットが、一瞬で残骸と化した。何が起こったのか、単純な思考回路し
かないガジェットには、理解できなかっただろう。

「目の前に敵が現れたなら…叩き斬る…までだ!」

 ゼロはゼットセイバーを構えながら、ガジェット軍団に向かって突撃した。
あるはずのない力を振り絞った、ゼロの最後の戦闘が、始まった。

127ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:11:01 ID:UdZlowpf
「離して、私を行かせて!」
 その頃、ゆりかごの外では脱出したフェイトが輸送ヘリに救助されていた。
「無茶です、ゆりかご内では魔法が使えないんですよ!?」
 なのはやヴィヴィオを任せ、ゆりかごに引き返そうとするフェイトを、スバ
ルとティアナが必死に止めていた。偶然にも彼女らが乗り合わせたヘリに救助
されたのだが、二人が居なければフェイトは有言実行をしただろう。
「でも、あそこにはゼロが、ゼロがまだ戦ってる!」
 地上部隊は残された全ての力をゆりかごに叩き込んでいるが、ゆりかごの上
昇は止まらなかった。次元航行艦隊も間に合わないとすれば、例えゼロが今は
まだ無事でもゆりかご内に閉じこめられ、やがては異物として排除されてしま
う。だからこそ、フェイトは自身が傷だらけにも関わらず、再出撃をしようと
必死になっていた。
 けど、スバルとティアナはそんなフェイトを止めた。それは、既にそのよう
な行動を実行することが、不可能だと判っていたから。
「ゼロ……」
 フェイトは涙で赤くなった瞳を、ゆりかごに向けた。あそこいるのに、あそ
こで、私たちのために必死になって戦ってくれている人がいるのに、私は、助
けることも出来ないのか。

「ゼロ――――――――――ッ!」

 フェイトの叫びが、クラナガンの上空に響いた。魔導師でも戦士でもない、
一人の少女の悲痛な叫びだった。

128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:13:30 ID:2WjqycGb
ヒッフッハ記念支援
129ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:13:53 ID:UdZlowpf
 赤き閃光が、輝いている。
 ガジェット軍団の中を駆けながら、一機、また一機と斬り裂いては、ひたす
らに前へと突き進む。
「ダァッ!!」
 既に百機以上は斬ったのか、それともまだ十機も斬っていないのか? それ
すらゼロは判らなくなっていた。目の前にいる敵を、向かい来る、迫り来る敵
を斬り飛ばして、彼は道を作る。
 ガジェットの一軍が密集し、光線をゼロに浴びせかけた。ゼロは即座にシー
ルドブーメランを展開すると、その攻撃を何とか受けきった。
「これでっ!」
 ゼロはそのままシールドブーメランを投げ放ち、横薙ぎの一閃が幾つものガ
ジェットをまとめて斬り裂いた。しかし、いつもは回転しながら手元に戻って
くるはずのブーメランが、ガジェットたちの中へと消えていく。

 そんなゼロの背後、ガジェットの一機が彼の腹部を貫いた。
「ッ――!?」
 鋭利な刃物のような脚部が、鋭き牙のように突き刺さり、貫いている。目標
は倒した、そう判断したがジェットが一時攻撃を停止しようとするが……
「ウォォォォォォォォォオッ!!!」
 ゼロの叫び声が、ガジェットたちに轟き響いた。彼は背後のガジェットをゼ
ットセイバーで貫き返して破壊すると、腹部に刺さった足を引き抜き、投げ捨
てた。
「さぁ、次はどいつだ……どいつがオレ倒し、殺してみせる?」
 その圧倒的な存在に、ガジェットたちが後ずさっていく。単純な思考回路し
か持たないはずの彼らが、本能的な恐怖を感じ取ったのだ。
 ゼロはゆっくりと、ガジェットたちの間を通ろうとする。だが、駆動炉を守
るのはガジェットだけじゃない。
「まだ、敵が」
 レリックを巨大化させたような結晶体が、ガジェットのそれよりも強い光線
を放ちながらゼロに激突してきた。結晶体の集団こそ、駆動炉を守る本当の防
衛システムなのだ。
「こんな、もので!」
 ゼットセイバーを叩き付けるが、結晶体はガジェットよりもはるかに硬く、
ゼロの斬撃は弾き飛ばされた。
 結晶体が複数、ゼロの身体に体当たりを死来た。そしてそのまま取り付き、
強烈なエネルギーを持ってゼロを破壊しようとする。
「くっ……!」
 恐らく、ゆりかごの艦砲射撃程度のパワーがあるのだろう。ゼロは身体がバ
ラバラになりそうな痛みを感じながら、それでも前に向かって歩き出した。後
少し、後少しなのだ。更に攻撃を強める結晶体と、歩き出すゼロに道を空ける
ガジェット、それは何とも、奇妙な光景だった。
 少なくとも、全ての戦闘の終結点としては、不思議な姿に思えた。
 そして、ゼロは、目的の場所へとたどり着いた。
「結晶体……これが、ゆりかごの駆動炉」
 自分に取り付く結晶体よりも更に巨大な、聖王のゆりかごのコアブロック。
これを破壊すれば、ゆりかごは終わる。
 ゼロの身体が、光り輝いていく。ヴィヴィオを倒したときと同じ、ジュエル
シードの光りである。
「ダブル――」
 両腕に光が集まり、ゼロに取り付いていた結集体が弾き飛ばされていく。
 ゼロは、この一撃に全てを賭けた。

「ダブルアースクラッシュ!!!」

 両腕に込められた破壊エネルギーが、結晶体へ、聖王のゆりかごへと叩き込
まれた。コアが、悲鳴を上げた。歴代の聖王の動く玉座として、聖王の一族の
誕生と死、その最期を看取ったゆりかご今、

 崩れ去ろうとしていた。
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:16:21 ID:2WjqycGb
バスター使えなくなるから撃っちゃらめぇぇ!
支援
131ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:18:08 ID:UdZlowpf
「聖王のゆりかごが……」
 アースラの艦橋で、はやてが呆然とした声を出した。クラナガンの空を突破
し、衛星軌道へと上昇しつつあったゆりかごの動きが止まった。
「違う、止まったんやない」
 ゆりかごの船体に、外壁に、亀裂が走っていく。推進部が機能を維持できず、
ゆりかごは上昇ではなく降下を始めていた。
「崩れる、聖王のゆりかごが――崩壊する!」
 誰がやったのか、はやてには判っていた。判っていたからこそ、彼女は崩れ
去るゆりかごの中から懸命にその姿を発見した。
 リインが、モニターの一つに向けて指を指した。
「はやてちゃんあそこです、あそこにゼロが!」

 通信を聞き終える前に、フェイトは飛び出していた。
 崩壊し、残骸として落下をするゆりかご、フェイトは必死で飛んだ。ゼロの、
私たちを救ってくれた戦士の元へ。
「お願い――間に合って!」
 フェイトの乗っていたヘリは、ゆりかごからの攻撃を回避するため距離を取
っていた。フェイトは持てる力を最大限に飛び続けたが、どうしたってゼロの
落下速度の方が早かった。

 間に合わない! フェイトが思わず目を瞑った、その時だった。

 ゼロの身体を、光りが包み込んだ。
 ジュエルシードの光りではない、あれは、あの光りは……

「魔力光? でも、あの色って」
 ヘリに乗るティアナが、思わず傍らに立つスバルに目を向けた。スバルは、
ゼロを包んだ光りを、呆然としながら眺めていた。そう、あの色と輝きを持つ
魔力光は、一つしかない。
「ギン姉の、光りだ」
 光りは輝きを増し、ゼロの落下速度を減速させていった。


「オレは、生きているのか?」  
 ゼロは、光りに包まれていた。どこか暖かみのある、優しい紫色の光に。ゼ
ロは、この魔力の光を持つ魔導師を、知っていた。
「ギンガ、か?」
 薄れる意識で、ゼロは何とかその名を紡ぎ出した。


――助けて、欲しかった


 声は、直接ゼロの頭に響き渡った。
 ゼロは目を見開き、可能な限り辺りを見るが、そこにギンガの姿はなかった。

「――オレにそんなことをいって、どうしっていうんだ?」

 呟きに、ゼロは自然と目を閉じた。この時ゼロが果たしてどのような感情を
抱いていたのか、それは誰にも、本人すら判らなかい。

 ゼロは、後悔していたのかも知れなかった。

                                つづく
132ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:19:40 ID:UdZlowpf
「聖王のゆりかごが……」
 アースラの艦橋で、はやてが呆然とした声を出した。クラナガンの空を突破
し、衛星軌道へと上昇しつつあったゆりかごの動きが止まった。
「違う、止まったんやない」
 ゆりかごの船体に、外壁に、亀裂が走っていく。推進部が機能を維持できず、
ゆりかごは上昇ではなく降下を始めていた。
「崩れる、聖王のゆりかごが――崩壊する!」
 誰がやったのか、はやてには判っていた。判っていたからこそ、彼女は崩れ
去るゆりかごの中から懸命にその姿を発見した。
 リインが、モニターの一つに向けて指を指した。
「はやてちゃんあそこです、あそこにゼロが!」

 通信を聞き終える前に、フェイトは飛び出していた。
 崩壊し、残骸として落下をするゆりかご、フェイトは必死で飛んだ。ゼロの、
私たちを救ってくれた戦士の元へ。
「お願い――間に合って!」
 フェイトの乗っていたヘリは、ゆりかごからの攻撃を回避するため距離を取
っていた。フェイトは持てる力を最大限に飛び続けたが、どうしたってゼロの
落下速度の方が早かった。

 間に合わない! フェイトが思わず目を瞑った、その時だった。

 ゼロの身体を、光りが包み込んだ。
 ジュエルシードの光りではない、あれは、あの光りは……

「魔力光? でも、あの色って」
 ヘリに乗るティアナが、思わず傍らに立つスバルに目を向けた。スバルは、
ゼロを包んだ光りを、呆然としながら眺めていた。そう、あの色と輝きを持つ
魔力光は、一つしかない。
「ギン姉の、光りだ」
 光りは輝きを増し、ゼロの落下速度を減速させていった。


「オレは、生きているのか?」  
 ゼロは、光りに包まれていた。どこか暖かみのある、優しい紫色の光に。ゼ
ロは、この魔力の光を持つ魔導師を、知っていた。
「ギンガ、か?」
 薄れる意識で、ゼロは何とかその名を紡ぎ出した。


――助けて、欲しかった


 声は、直接ゼロの頭に響き渡った。
 ゼロは目を見開き、可能な限り辺りを見るが、そこにギンガの姿はなかった。

「――オレにそんなことをいって、どうしようっていうんだ?」

 呟きに、ゼロは自然と目を閉じた。この時ゼロが果たしてどのような感情を
抱いていたのか、それは誰にも、本人すら判らなかい。

 ゼロは、後悔していたのかも知れなかった。

                                つづく
133ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/23(木) 00:20:51 ID:UdZlowpf
第25話です。
最期の一番重要な台詞を書き違えたので、修正連投してしまいました。
本当にごめんなさい。

実はこの作品、初期構想では駆動炉に突入したゼロが、
ガジェットWの大軍に斬り掛かるところで終わるはずでした。
如何にもゼロっぽかったのですが、さすがにそれは不味いだろうと思い、
後1話、26話を持って最終回とさせていただきます。

最終回は今週末、土曜日は21時50分、22時50分、23時50分のいずれかに
投下を開始します。詳しい時刻は当日に。
ちなみに皆さん早い方と遅い方、どちらがいいんでしょうか?

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:21:24 ID:arlrBep+
ギン姉ぇはサイバーエルフ化したのかGJ!!!
しかし死亡フラグが潰れるとはw
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:23:27 ID:pweGvmQ9
GJ

ギン姉、切ないというか美味しい所を持って行ったというか
リインとのユニゾンがなかったのが心残りですが最終話、楽しみに待ってます
しかしゼロは大軍に突撃してendでも違和感ないから困るw
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:28:02 ID:8PPwFZ76
GJでした 相変わらずゼロは無茶しますね ギンガのセリフがが切ないぜ
次話でラストか 終わるのはさびしいけど 
楽しみにしています
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:28:09 ID:2WjqycGb
GJ!
さすが死亡フラグクラッシャー!
投下時間は作者様のお好きな時間でいいんじゃないですか?
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 06:27:32 ID:YgfynMMd
ロックマンゼロ氏GJ!
ついにここまで来てしまいましたか。最後は各キャラでどのような終結が見られるのか、土曜の更新をお待ちしてます!
それにしても、フェイトはゼロにゾッコンですな。そんなんだからエリオが(ry
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 08:21:19 ID:yS5TBFrW

投下時間は作者の都合のいい時で充分ですがな
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 09:13:50 ID:4l7oNuFs
表ヒロイン:フェイト
裏ヒロイン:ギン姉
サブヒロイン:はやて、セイン、ディエチ
攻略不可:リインU

ってな感じですかね?w
ドゥーエは正直予想外だった
でみこれは続編フラグですね、わかります
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 11:07:11 ID:ydeIE0SS
ここにきてドゥーエが二人も殺すとは……
ガジェットWと戦うところはロクゼロのラストか。あれは一番格好良かった。

ギンガも生きてたみたいだし、残すは最終回、どんな結末になるやら。
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 12:41:05 ID:yE6Oj8pR
なんということだ。これでは続きが気になって、おちおち生活もできない
じゃないか!!
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 13:33:56 ID:QVlaGhYM
遅ればせながら支援です。

Dボゥイやガッツに劣らぬ不屈の漢・ゼロの生き様にはただただ燃えて震えるのみでありました。
次話も楽しみにしております。(投下時刻は悩みまくった挙げ句、思い浮かばず申し訳ありませんでした。(ぺこり)
144322 ◆tRpcQgyEvU :2008/10/23(木) 13:41:50 ID:bPmkdqhX
十時半に投下を予告します。
本来なら今回は前中後の三部構成のはずでしたが、中編が予定より長くなったので二回にわけて投下することにしました。
なので今夜投下するのは中編1、後日投下するのが中編2になります。
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 13:58:16 ID:eK3z0/Oi
GJでした!
まさかのギン姉サイバーエルフ化。どこまで予想を裏切ってくれるんだ貴方は!
ドゥーエが活躍したssは数少ないから嬉しいですが、まさかスカ逃走ENDとは。
これは第二部、エリア・ゼロにてリターンマッチへのフラグですか?
実は生きてたバイルと組んで再び闘いが始まるのですね、わかりますw
・・・・・・冗談は置いといて。ついに最終回、全力でお待ちしてます!
146リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 15:34:26 ID:cE7+Lsnq
15:45に予約します
147リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 15:51:35 ID:cE7+Lsnq
前回までのあらすじ

「こ、これがHGS患者、フィアッセ/ルシファーの力。まさか呪文詠唱もなしに極大おっぱい魔法、当ててんのよを撃てるなんて」

「違うな、間違っているぞ、なのはよ。今のは極大おっぱい魔法当ててんのよではない。
下級おっぱい魔法、腕組みだ」

「な、何ぃ! た、ただの下級おっぱい魔法腕組みなのに、これほどの威力とは! か、勝てない!!」

悪魔と魔王の戦いの趨勢はいかに!!
148リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 15:52:33 ID:cE7+Lsnq
「うん、勝手だね。でも、勝手でもいいよ。フィアッセさんと仲直りできるなら、私なんだっていい。私らしい
やり方で、お話聞かせてもらうから」

 足元のユーノが飛び跳ね、フィアッセが表情を失った。部屋の中でなのははただ一人、場に似つかわしくない
可愛らしい笑みを浮かべていた。いっそ清々しいくらいで、どこか不敵にすら見える。
 それが、幼き日のフィアッセのそれと同一のものだったと、誰が知ろう。年を経て過日の輝きを忘れた大人は
過去の自分など忘れ、子供は自身を省みることなく、ただ無邪気に笑う。
 だが、その微笑みは無駄ではなかった。むしろ、万言を費やすよりも雄弁に、価値ある言葉を語っていた。
 二人はこれまで、こうも相手を見据えて視線を交わしたことがない。言葉を交わしたことがない。いつだって
二人は罪悪感から瞳を伏せて、許されることではなく、糾弾を望んで謝罪の言葉を重ねて。

 果たして、それが真実謝ると言えたのだろうか。

 違う。少なくとも、フィアッセ、そしてなのはは違うと考える。心と心で話し合って、触れ合って、そうして
ようやく納得できようができまいが、導き出された結果を受け入れるのだ。
 喧嘩別れだろうと、足踏みしているだけで進まないよりずっとマシだ。

「私は――」

 なのはと同じようにきっ、と前を見据えると、ようやくフィアッセは自分の傷と向き合った。その決意の程を、
誰に言われるまでもなくなのはは悟った。

「私はね、なのは。ずっと、ずっと昔から、恭也のことが好きだったんだ」

 だが、あまりにも思いもよらぬ言葉に、動揺を示すかのように、なのははつい身じろぎをした。
 ――気圧された、というわけではない。過去の罪において、今ようやく向き合った二人は対等だ。だが、だが
しかし、過去ではなく今となると、やはりそこには大きく年齢という壁が立ちふさがっていた。
 なのはにとって、兄とはずっと暮らし続けてきた、過去から続く“今”だった。フィアッセにとって、恭也は
隣に立つことが許されないと思い知らされた“過去”だった。
 “過去”と向き合う“今”において、それは途方もないほど大きな違いだ。
 今まで一言だって言われたことのないフィアッセの恨み言を前に、なのはがたじろぐ。なのはには恋の経験が
ない。憧れに近いような感情を兄の友人、赤星に抱いたことはあるが、子供のものとしても恋とは程遠い。
 好きな人のために料理を作ろうと思ったことも、いつも備えているキャンディーを男の子と分け合おうなんて
思ったことも、一度としてない。
 過去でも今でもなく、ただ“恋”という一点において、なのははフィアッセには遠く及ばなかった。

「なのはに、わかるかな? 好きな人に好きだって言えない気持ち。自分がそんな資格ないって思い知らされる
気持ち。それでも好きな人は自分のことを許してくれてて、諦め切れなくて、遠くからずっと見てて……。
 好きだったはずのその人が、いつの間にか別の人と付き合ってたなんてこと、なのはにわかるかな?」

 答えられるはずもない。なのははそんなもの知らない。そしてフィアッセもそれと分かって問いかけている。
卑怯と分かっていながら、ずっと溜め込んでいた心の澱を吐き出さずにはいられない。

「今更、だよ。本当に……今更」

 それは、初めてなのはへ吐いた泣き言だったのだろう。許しを請う以外を今まで己に許さなかった彼女がよう
やく漏らした弱音だ。
 だから、なのははその全てを余さず受け止めた。零れたものもあるかもしれなかったが、その小さな体が許す
限り、全力で受け止めた。
 一歩足を下げたのは、スタートラインで「よーい、どん」に備えるためだ。
 これでようやく、二人の止まっていた時をもう一度始められる。
149リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 15:53:22 ID:cE7+Lsnq
「私も――」

 手を胸に。服の下に隠したレイジングハートの暖かさを感じながら、なのはは瞳を閉じた。
 瞼の裏には、フィアッセの悲痛な微笑が鮮明に焼きついている。逃げ道なんてどこにもありはしない。それを
誰よりも先に奪ったのはなのは自身なのだ。
 過去の重さを幼いながらも拙く理解して、なのははそっと瞳を開く。
 だからといって、今更自分を責めても始まらない。開き直って、なのはは朗らかに笑った。そもそも、逃げる
つもりなんて最初から塵一つない。

「私も、やっぱり一人で家にいるのはずっと嫌だったよ。フィアッセさんが悪かったんじゃないって分かっても、
やっぱりどうしても本当は責めるのを止められなかった。
 ふとしたことで思い出すんだ。家に帰って誰もいなくて、しんと静まり返ったときとか、友達と喧嘩した後、
その友達とフィアッセさんとだぶらせちゃったり」

 過去には、やはり過去。
 どちらが悪い、どちらが辛い、どちらが重い。この場に限っては、そんなことは関係なかった。ただこれまで
中途半端に隠して続けてきた本音をぶつけて……。そして、その結果がどうなろうと、知ったことではない。
 なのはは仲直りしたい。フィアッセとてその心情はきっと同じだろう。彼女もなのはに負けず劣らず心優しい
女性だ。でなければ、どうして糾弾されようと願うのだろう。
 そう、二人が優しすぎたから、ずっと、ずっと長い間遠回りをしてきた。本当だったら同じ家に住んで、笑い
あって、他にももっとたくさんの家族がいて、なのはは孤独を感じる暇なんかなくて。もしかしたら、兄の隣に
いる女性は、フィアッセになっていたのかもしれない。
 お菓子作りを習ったり、英語を教えてもらったり、本当の家族になる。そんな未来だってあったはずなのだ。

 それを壊したのは、フィアッセを許しきれなかったなのはの弱さだった。
 それを壊したのは、なのはを受け止められなかったフィアッセの弱さだった。

 だから、もう何もかもが遅い。フィアッセは既に一人の自立した大人になっている。ありえたはずの未来は、
既に手の届かない場所にかけ離れ、二人とてもはやそれを望んでいない。
 そうして――
 フィアッセの悲しみを受けてなのはは笑った。
 なのはの怒りを受けてフィアッセは笑った。

 まるで示し合わせたかのように二人して同じように花開く笑みを浮かべて、それは、今まで一度として二人が
示し合わせたことがない、明るい感情の発露だった。それも取り繕ったものではない、本心からの。

「それでも仲直りしたいなんて、勝手だよね」

「うん、すっごいわがまま」

 どちらからともなく互いに歩み寄り、手を差し出す。
 夕日は既に姿を隠し、部屋は仄かに薄暗くなっていた。しかし、この二人の間だけには、夜を忘れたかのように明るい空気が流れていた。
150リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 15:54:09 ID:cE7+Lsnq
 夜のビル風が吹きすさぶオフィス街、その屋上。フェンスの縁(へり)で煽る風にも負けず器用にバランスを
とりながら、フェイトたちは下の街並みを見下ろしていた。
 だが、三人の視線までもが同じかと言うとそうではない。クロノは下界を鋭く見据え、アルフはそのクロノを
ひどく警戒し、フェイトは漂う硬い空気に憂いを見せていた。
 心境までもが違うなどと、もはや語るまでもない。
 クロノはこれから起きるジュエルシードの発動と、現地の魔導師との争奪戦に意識の大半をやり、その違いに
気付いていない。
 今日までは、きっと上手くいっていたはずなのに。
 後悔とも怒りとも取れるどろどろとした感情を持て余し、フェイトとアルフ、二人の主従はデバイスと爪を苛
立たしげに鳴らした。その音とて、風にかすれ消え、クロノの耳に届かない。
 意識さえしていれば、聞こえていたはずなのに。
 二人の不信は、今より四時間ほど前にさかのぼる。太陽も南天をとおに過ぎ、傾き始めた頃になってようやく
目を覚ましたフェイトに、クロノはこう言った。

「ジュエルシードを見つけた。現地の魔導師にもそれを伝えたから、恐らくは戦いになると思う」

 青天の霹靂だった。前回頑ななまでに戦闘を拒否したクロノに、いったいどういう心境の変化が訪れたという
のか。二人が驚き、問い詰めるのも無理はない。
 ただ流れでそうなっただけだと言われて、信じるはずもない。

『フェイト、わかってね』

 念を押すと言うよりも、言い聞かす気配の強いその言葉に、逡巡の気配を漏らしながらも、しかしフェイトは
心の中で頷いた。

『うん、もしかしたら……クロノは裏切ったかもしれないんだね』

 表情は露とも変わっていない。だからこそ、その内面がどれほど荒れ狂っているか。感情をリンクさせている
アルフには、それが痛いほどわかった。本来なら、アルフとてこんなことは伝えたくもなかった。
 だが、どうして、血と消毒液の臭いを漂わせて帰ってきた少年を信用することが出来るのか。治癒魔法で傷跡
こそ治していたが、それで鋭いアルフの鼻を誤魔化せはしない。
 だから、アルフは懇願したのだ。何も話そうとしないクロノに、フェイトだけは裏切ってくれるな、と。だが、
願うだけ、祈るだけでは何も変わらないことをアルフは知っている。
 アルフが願うのは主人の幸せのみ。フェイトがプレシアに愛されることを望んでいるからこそ、いけ好かない
女のためであっても動いているのだ。

 それを、それをクロノは裏切った!

 少なくとも、その恐れがある。それだけでアルフは怒り心頭だ。わずかでもクロノに心を許した自覚もあって、
よりいっそう己とクロノが許せない。
 箱庭に異物はいらない。守るべき巣に外敵はいらない。
 視線だけでこちらを心配そうに見やるフェイトを他所に、アルフは胸の中で怒りの炎を燃やしていた。

「時間だ」

 クロノがその年頃に似つかわしくない硬い声で告げた。その手には、既に漆黒の法杖が握られている。S2U、
その名に込められた意味など誰にもわからぬ、クロノをまるで体現したかのようなあやふやなデバイス。
 壊れていたはずのそれを修理し、与えたのは他ならぬプレシアだ。鍔鳴りともとれる金属質の音が、ビル下のざわめきに混じってやけに強く響く。それも、どこか不吉に。

「ジュエルシードの大まかな反応パターンは解析済みだ。僕が弱い魔力流を打ち込んで微活性の状態に持ち込む
から、フェイトとアルフさん、二人は現地の魔導師よりも先にジュエルシードを確保して欲しい」

「へえ、それで、ジュエルシードを手に入れた後はどうするんだい?」

「あの白い子も、多分来るんだよね?」
151リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 15:55:23 ID:cE7+Lsnq
「……うん」

 ややあって、クロノは頷いた。どうすればいいのか、どうしたいのかは既にわかっている。ただ、それをいざ
口にするとなると、意外なほどに抵抗があった。

「最優先すべきは、ジュエルシードの確保。だから、今後のことも見据え、白い現地の魔導師が来たら、彼女の
迎撃をするのが一番、だと思う。仮に先に取られたとしても、また奪い返せばいいだけのこと。ここまで範囲を
限定していたら、ジュエルシードを持って逃げられるようなこともまずない」

 だから、徹底的に叩き潰す――クロノらしからぬ強い言葉に、やはり二人は違和感を覚えた。クロノの言葉は
本心からのものだ。痛む胸を必死に押さえ、歯を食いしばっている。
 だが、これまでの優しかったクロノを覚えている二人からすれば、それこそが擬態に見えるのだ。強い態度で
後ろ暗い所を隠しているかのように。
 だからこそ、あえて二人は首肯した。策を破るには、成功する直前になって叩くのが一番効率がいい。いいや、
違う。二人は判断を先延ばしにしたのだ。
 まだ、クロノをわずかたりとも信じていたいから。

 ――すれ違いは、徐々に深まりの様相を深めていっていた。
152リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 15:57:59 ID:cE7+Lsnq
以上です
クロノ>なのは>フェイト(クロノ)>クロノ

ぐーるぐるまわーる。
ぐーるぐるまわーる。
ここに桃子さんやフィアッセ、亀に猿がいたら、きっとこんな流れにはなっていないと思う
恭也?
おっぱいが小さいヒロインで彼が活躍できるはずがないじゃないか
153一尉:2008/10/23(木) 15:59:45 ID:NNSY8fXk
よかったねフェイトさん最後は最終回たね。
154リリカル×リリカル ◆.k7TdiLwT2 :2008/10/23(木) 16:11:57 ID:cE7+Lsnq
追記

なのはは不破の血を正しく引いたのか、クロノ(15歳)の主観ではわりとちっぱいです
とらハ3で言うと
ノエル(97)>フィアッセ(93)>忍(91)>>>>超えられない恭也活躍の壁>>>>美由希(84)

フィアッセルートが一番活躍したことを考えると、間違いなく恭也はおっぱい星人
アキラ・ナカジマルートやレンルートを見れば、確実にそれが間違いないとわかるはず

   _ _ ∩                                    _ _ ∩ おっぱい!
  ( ゚∀゚ )ノ )))             ⊂ヽ                  ( ゚∀゚ )/
  ( 二つ    おっぱい!   ((( (_ _ )、   おっぱい!     ⊂   ノ   おっぱい!
  ノ 彡ヽ                γ ⊂ノ, 彡         .     (つ ノ
  (_ノ ⌒゙J            .   し'⌒ヽJ          .    彡(ノ
155反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:35:57 ID:Us0IcSab
GJ!
相変わらずの安定したクオリティには、ただただ感服するばかりです。
だがあらすじとあとがきの混沌は一体何なんだw

50分を過ぎた頃から、シャニウィン最新話を投下します。
156SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:49:55 ID:Us0IcSab
ちょっち早いけど投下行くぜ!


第8話「刃の心、守護者の盾」

 キリヤ・カイトは呆れかえっていた。
 窓から外を覗き込めば、眼下に広がるのは一面の大自然。
 どこまでも続く広葉樹の大森林は、ミッドチルダの超高度な文明レベルを思わせないほどだ。
 聳え立つ山々。午前中の陽光をきらきらと反射する河川。時折山中より飛び立つ鳥達。
 そしてそれを今、キリヤは、より高い視点から見下ろしている。流れていく雄大な自然の風景を。
 壁越しに鼓膜を打つのは、ばたばたと響くプロペラの音だ。
 そう。現在彼は、ヘリコプターの中にいる。
 シーナやクレハ達と共に新人の早朝訓練に付き合う予定の彼だったが、突如現れたシグナムがこれを拉致、
 ヴァイス・グランセニック陸曹の操るヘリへと強引に乗せられ、今に至るというわけだ。
 兵員輸送用であるが故に、それなりにスペースに余裕のある乗員席には、今はキリヤとシグナム2人きり。
 大量に座席の余った機内は、随分とがらんとした印象を受ける。
(本当に何考えてるんだろ、この人は……)
 内心でため息をつきながら、キリヤが横目でシグナムの姿を見た。
 急に自分を連れ出したこともそうだが、何より呆れるのはその動機である。
 なんと彼女、いきなり自分に「心剣を抜け」と言い出したのだ。
 元より心剣というものは、心剣士とパートナーの間に心のつながりが生じることで、初めて抜刀可能となる代物。
 しかし自分とシグナムは、今のところそこまで交流が深いとは思えない。
 志を同じくしたわけでもないし、彼女の心の深い部分を垣間見たわけでもない。
 そもそもそれ以前に、未だに「無口でよく分からない人」という認識なのだ。
 こんな調子で心剣など抜けるわけがない。そしてそれは、説明を受けたシグナムも分かっているはずなのだが。
 だからこそ、なおさら彼女の行動の意味が分からなくなってくる。
 そしてそもそも、心剣を抜くために行く場所とは一体どんな場所なのだろう。
 キリヤは彼女から、これから向かう場所について、一切説明を受けていない。
 行けば分かる。
 それだけを言われて、ほとんど引きずられるようにしてヘリにぶち込まれてしまったようなものなのだ。
 果たしてそこはどんな場所なのか。この人に自分はいかなる仕打ちを受けることになってしまうのか。
 考えても考えても、結論などは出てくるはずもない。無知な人間の行動ほど、予測しがたいことはない。
「……はぁ……」
 またひとつ、深く溜息をついた。
「浮かない顔だな、キリヤ」
 そして、かけられた声にぎくりと身体を震わせる。
 やはりそこはそこ、キリヤをも凌駕する腕を持った実力者だ。
 その溜息を聞き逃すような、浅い注意力は持ち合わせていなかったらしい。
 怪訝そうというべきか、呆れているというべきか、そんな複雑な表情を浮かべたキリヤは、声の主に視線を向ける。
「それでシグナムさん……俺達は一体どこに向かってるんですか?」
 そして、問いかけた。
「そう焦らなくとも、もうすぐ着くところだ」
 そのシグナムの回答を裏付けるように、窓外の景色が徐々に降下していく。
 眼下に広がっていた山林が、みるみるうちにヘリへと近づいていった。
 否、逆だ。このヘリが高度を落とすことで、地上に広がる風景へと近づいているのだ。
 やがて鉄壁越しの羽音も、ゆっくりとその勢いを落としていく。
 音量がゼロになるまでに、そう時間はかからなかった。
 着陸完了。いよいよ、キリヤ達は目的地へと辿り着いたのだ。
157SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:51:38 ID:Us0IcSab
 ヘリのドアを開け、キリヤが降下した平野へと着地する。
 後からシグナムもまたそれに続き、森林一歩手前の草原へと降り立った。
「んじゃ、終わるまでここで待ってますわ」
 ざっくばらんなヴァイスの声が、シグナムに向かってかけられる。
 六課に入る前から彼女の部下をやっていたパイロットは、どうやらこれから何をするかも先刻承知らしい。
 この場で情報の一切を伝えられていないのは自分だけ。どうにもそれが気に食わず、微かに眉間へ皺を寄せた。
 そしてそれから、シグナムに言われるままに森へと入る。
 山中をハイキングするにはどうにも持ち物が少ないのが気になったが、彼女は数時間で済むと言った。
 ならばこそ、なおさら目的が不明瞭になってくる。
 この欝蒼と生い茂る広葉樹林の中で、局の戦力がすることというのは何なのだろう。それも2人きりで。
 そもそもシグナムの発言の謎もある。一体こうしていることと、心剣を抜くことと、どのような関係があるというのか。
「ん?」
 かさり、と。
 そこにきてキリヤは、ようやく自分の足元から響く音が、やたらと乾いていることに気が付いた。
 草を踏んでいる割には、妙にかさかさとした足音。不審に思い、自らが踏みしめる地面へと視線を落とす。
「……汚染が進んでる……?」
 踏んでいたのは、茶色く変色した落葉だった。
 この季節ならば輝くような生命の色に満ちているはずの葉が、すっかり緑を失い、力なく地面に転がっている。
 それが1枚だけなら大したことはない。しかし、足元の死の色は、周囲一体にぽつぽつと点在していたのだ。
 今はまだ秋ではない。紅葉のシーズンにはまだ早いし、そもそもここまで脱色するのは冬のことだ。
 であれば、考えられる可能性は1つ。カオスゲートの放つ瘴気により、周囲の環境の汚染が進行しているということ。
 闇の世界と接続し、負のエネルギーを垂れ流す次元ホール――カオスゲートは、このミッドチルダの各地に点在している。
 元々はリーベリアに発生していた現象なのだが、キリヤ達にその根源が浄化されたことで、
 逃げ場を失ったエネルギーが、こちらの世界へと飛び火したのだそうだ。
「そうだ。この周辺の闇の妖魔は、現在展開されているカオスゲートの中でも極めて強力でな……
 既に何度か、管理局の戦力が退けられている」
 後方で口を開いたシグナムへと、視線を向ける。
 見れば、何故か彼女は騎士甲冑を装備していた。
 桜色を基調としたインナーに、白のコートを合わせたような外観。腰の鞘に収められしは、アームドデバイス・レヴァンティン。
 その炎の魔剣を、抜く。鋭いシグナムの視線が、いつにもまして鋭く引き絞られた。
 一体どうしたというのだろう。何故彼女は、急に戦闘態勢を取ったのだろうか。
 いや、よくよく考え直してみれば、彼女は先ほど、この周辺には妖魔が出ると言った。
 加えてこの汚染である。そこから導き出される結論は、すなわちここにカオスゲートがあるということ。
 つまりこういうことか。
 カオスゲートのある場所で、臨戦態勢を取る意味など1つしかない。
 要するに彼女はこれからここで――
 ――どしん。
「っ?」
 大地が微かに揺れたような気がした。
 キリヤの鼓膜を打つ、低い地鳴りのような物音へと注意を向ける。
 どしん、どしんと近寄ってくる音は、恐らく生物の足音だ。それも、恐ろしく大きな生き物の。
 間違いない。闇の妖魔が近付いてきている。
 自らも首から提げた宝玉を起動させ、バリアジャケットを装備。
 分解される衣服。代わって灰色を基調とした、中世の傭兵を彷彿とさせる戦闘服が、一瞬のうちに展開された。
 腰に差した短刀へと手を添え、油断なく音のする方を睨みつける。
 現在の武器はこれだけだ。心剣は使えない。一切の気の緩みが許されない。
 張り詰めた緊張感の中、大音量の足音と共に、豪快に樹木をなぎ倒して姿を現したものは、
158SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:52:25 ID:Us0IcSab
「……は?」
 赤い鱗が、そこにはあった。
 色の違いを除くのならば、ちょうどあの氷の竜人・ヒョウウンの身体を覆っているような、爬虫類の鱗が。
 しかし、大きい。灼熱のごとき真紅の鎧は、親愛なる戦友に比べると随分巨大な身体を飾っている。
 丸太のごとき四肢と尻尾は、見た目にも強靭さが見て取れる。
 背中にはばたくは1対の翼。
 白銀に輝く角を生やした頭部は、さながらワニのそれにすら匹敵する物々しさ。
 全身から滲み出る危険なオーラと共に、それはこちらを悠然と見下していた。
 そして、不意に首を持ち上げると、巨大な口を一気に開ける。
《――ウオオオォォォォォォォーンッ!》
 さながら津波か、はたまた落雷か。
 天地鳴動。まさしくその言葉こそが相応しい威容。
 爆薬の炸裂にすら匹敵し、聞くもの全てを竦みあがらせる、猛烈な雄たけびが響き渡った。
 そして、その雄々しさを前にしばし呆然としていたキリヤが、ここでようやく一言。
「……ドラゴンだぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!?」
 回れ、右。
 次の瞬間、キリヤは一目散に駆け出していた。
 背後で咆哮する巨大な妖魔には目もくれず、とてつもない速度でダッシュする。
 プロのアスリート。否、吹き抜ける一陣の疾風か。
 ほとんど涙目になりながらも、己が脚力を総動員し、全速力で木々を縫うようにして駆け抜ける。
「何なんですか!? なんでドラゴンなんているんですかぁ!」
 そして、どうせついて来ているであろうシグナムへ向かって叫んだ。
「だから言っただろう。ここの妖魔は強いと」
 そして案の定、キリヤのすぐ横で、あの桜色のポニーテールが風に揺れていた。
 いつも通りの凛とした表情。しかし、自分と同様の全力疾走での退散。正直、あまりかっこいいものではない。
 そうこうしているうちにも、大地を揺らす巨大な赤竜は、唸りと共にこちらを追いかけてきている。
 巨体を形成する鋼のごとき筋肉が、竜鱗の鎧の下で激しく躍動。
 どしん、どしん、と大仰な足音を轟かせながら、小山のごとき体躯を行進させた。
 ファイアドラゴンと呼ばれるこの妖魔は、見ての通り、ドラゴンである。
 ある時は魔物として、ある時は神の化身として。
 元々キリヤ達の暮らしていた地球では、世界各地の歴史に伝えられてきた伝説の生物だ。
 そして、ドラゴンが強い生物だという認識は、どこの世界でもあまり変わらなかったらしい。
 彼らはリーベリアの闇の妖魔の中でも、最強クラスの戦闘力を持った怪物なのだ。
 正直、心剣を持ってパートナーと共に挑んだとしても、それなりに手こずる相手である。
 ましてや、今の丸腰に近い状態では言うまでもない。
「あんなの心剣なしで戦えるわけないじゃないですかっ!」
「だから言っただろう。心剣を抜いてもらいたいと。この場で抜けなければお互い生き残れないぞ?」
「そんな簡単に抜けるもんじゃないんですってー!」
 全力全開でドラゴンから逃げ回りながら、並走するシグナムへ向かってシグナムが喚いた。
 要するに、彼女の目論見はこうだ。
 極限状態へ追い込んで、心剣の発現を誘発させる。それで上手くいくと思っているのだろう。
 確かにヒョウウンから心剣を抜いた時も、こうした戦闘中の咄嗟の出来事だった。
 暗殺者の魔の手からホウメイを守る。
 剣と拳を交え、ライバルとして互いを認め合った両者の志が一致した瞬間、その共感が剣の形を成した。
 恐らくシグナムも、シーナ辺りにその話を聞いていたのだろう。
 だが、今回とその時とは明らかに状況が違う。
 そもそもシグナムといかなる感情を共感すればいいのか、分かったものではないのだから。
159SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:53:46 ID:Us0IcSab
「と、とりあえず、ヴァイスさんの所まで戻りましょう!」
「駄目だ。あの竜がついて来ている。このまま戻っても、ヘリごと一網打尽にされるだけだ」
 キリヤが提案した退路は、しかしシグナムによって一言の元に否定された。
 そしてそれに追い討ちをかけるようにして、視線の先の茂みががさがさと揺れる。
《ウオーッ!》
 唸りと共に現れるのは、小柄な身体に似合わぬ大斧を携えた褐色の小鬼達――ゴブリンの群れだ。
 総勢10匹近い醜悪な妖魔達が、キリヤとシグナムの行く手を阻む。
 前門のゴブリン、後門のファイアドラゴン。退路は完全に断たれた。
 キリヤ達にとって小鬼の軍団など、それこそ心剣がなくとも容易に対処できる。
 しかし、そこでいちいち構って足を止めていては、ドラゴンに追いつかれることになる。
 かといって、そのまま素通りするわけにもいかない。すなわち、両者との戦闘は避けられない。
「あーもうっ!」
 自棄になったように叫ぶと、キリヤは遂に腰の短刀を抜き放った。
 減速はしない。全速力のまま。短い白刃が反射する陽光が、眩い白の軌跡を成す。
 トップスピードを維持したまま、灰色のバリアジャケットが豪快にゴブリンの中へと突っ込んだ。
 戦闘に立つ1匹が斧を振り下ろすよりも遥かに速く、すれ違いざまに一閃。
《ギギャッ!》
 喉元を切り裂かれたゴブリンが、短い悲鳴と共に倒れ伏す。
 そのままキリヤは全体重を両足に乗せ、思いっきり最高速の身体にブレーキをかけた。
 鉄の具足が地面をスライディングし、がりがりと豪快な音を掻き鳴らす。
 急停止。同時に、跳躍。
 刃を逆手に持ったキリヤが、そのまま次なるターゲットへと跳びかかった。
 さながら豹のごとき、しなやかな筋肉の躍動。手にした短刀は、そのまま剣呑なる牙へと変わる。
 狙いを定めたゴブリンが反応する前に、両足で思いっきり両肩を踏みつけホールド。
 醜悪に膨らんだ額へと、冷たい刃の一撃を叩き落とした。
《ギィッ!》
 背後から振り下ろされる斧を、その場から飛び退いて回避。
 着地と同時に懐へと詰め寄ると、短刀の一撃を叩き込む。
 ほとんど一瞬の動作で、3匹のゴブリンを撃破。それでもキリヤの表情は冴えなかった。
 どうにも効率が悪いのだ。心剣さえあれば、最下級のゴブリン3匹など、本来は一振りで蹴散らすこともできる。
 だが、ここにあるのは普通の剣が1つ。
 無論本来なら、それだけでもキリヤにとっては十分な戦力なのだが、この場にあるのはリーチの乏しい短刀。
 あくまで心剣を用いた戦闘のサブウェポンとして装備してあるものであり、剣術家である彼の実力を引き出すことができないのだ。
 結果それは、致命的なペースの遅延となってキリヤに影響する。
 まさかメインウェポンが使えなくなるだけで、こんなにもゴブリンに手間取るとは。これはもはや苦戦と言っていい。
 心剣という存在の重み、そして同時に、その力を貸してくれるパートナーの重みを改めて実感する。
 そして、この状況を作ったシグナムに若干の苛立ちを抱えつつも、今はそれどころではないと割り切り、自身を諌めた。

「ふんっ!」
 きん、と。
 肉を切り裂く音とゴブリン達の悲鳴の中に、鋭い金属音が混じる。
 烈なる意志と共にシグナムが振るうは、炎の魔剣レヴァンティン。ぶつかり合うは凶悪なドラゴンの爪。
 キリヤがゴブリンを相手にしているうちに、シグナムもまた、この真紅の巨獣と戦闘を開始していた。
 きん、きん、きん。
 刃越しに伝わる圧力は、重い。
 一撃一撃が容赦なくレヴァンティンを殴りつける。一時でも気を緩めれば、そのまま腕をへし折られそうなパワー。
「くっ……」
 一筋の汗が頬を伝った。苦々しげに歯が食いしばられた。
160SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:55:04 ID:Us0IcSab
 屈強な腕手から繰り出されるドラゴンの攻撃は、人間のそれを遥かに凌駕した破壊力を誇る。
 そもそもその筋肉の量に差があるのだから、言うまでもない。リミッター付きで易々と相手できるような存在ではない。
 次々と迫りくる凶刃を払いのけるシグナム。全反射神経を総動員し、全運動能力を発揮して、敵の攻撃へと対処。
 それでもドラゴンは、シグナムの苦労など知ったことではないといった様子で、続々と追撃を叩きこむ。
 さながら大山の土砂崩れに、1人立ち向かうようなものか。
 相手の筋力とスケールからくる圧迫感が、シグナムにそんな連想をさせていた。
 成る程確かに、今まで派遣された局員達が苦戦するわけだ。
 と、ここで遂に痺れを切らしたのか、ファイアドラゴンが不意にその腕を退いた。
 振りかぶるはより太き筋肉の塊。すなわち、竜鱗に覆われし強靭なる尻尾。
 回避している余裕はない。反射的にレヴァンティンを突き出す。
 しかし、腕相手で既に手いっぱいだった防御だ。豪快に振りかぶられる肉弾の一撃を、そうそう防げるはずもない。
「つうっ!」
 苦悶の声と共に、シグナムがデバイスごと吹っ飛ばされた。
 桃と白の騎士甲冑が、無様に山林の地面を転がる。
 艶めかしささえ漂わせる女の肢体が、大地を滑って土の色に染まった。
 彼女の身体はそのまま加速し、思いっきり背後の木に背中をぶつけたことでようやく停止する。
「シグナムさんっ!」
 ゴブリンの1匹を屠りながら、キリヤが悲痛な叫びを上げた。
 よろめきながら立ち上がるシグナム。目立った外傷はないが、あの衝撃だ。反撃のためのバランスは大きく崩された。
 対するドラゴンは悠然と構えながら、不意にその大顎を開く。
 吼えるためではない。竜の口には叫ぶためと噛みつくため以外に、更なる用途が存在する。
 ファイアドラゴンの口元で、周辺を取り巻く大気が不自然に揺らいだ。
 これぞ、伝説の竜の竜たる象徴。怪力と鉄壁の鱗に続く、最強の必殺技。
《ガァッ!》
 瞬間、解放。
 解き放たれるは熱の奔流。
 壮絶なる炎のブレスが、一挙にドラゴンの口から吐き出された。
 空気を歪め、大気を焦がす灼熱の吐息が、猛烈な勢いを伴ってシグナムへと襲いかかる。
『Panzerschild.』
 炎熱の轟音の中で響き渡ったのは、レヴァンティンの無機質な機械音声だ。
 男性風の声と共に、桜色の光が顕現。炎とシグナムの間に煌くは、ベルカ式の三角魔法陣。
 展開された防御魔法の障壁が、ドラゴンの炎を真っ向から受け止めた。
 赤き灼熱と、桜の魔力。
 2つのエネルギーが激突し、拮抗し、スパークを輝かせる。
 攻撃と防御。真逆の性質を持つ力同士の、激烈なまでのぶつかり合い。
「くぅ……っ!」
 互角の衝突の中にあって、しかしシグナムの表情は、険しい色に歪んでいた。
 背面をぶつけた痛みも抜け切らぬうちに、この強烈なドラゴンのブレスなのだ。果たして防御もこのままもつかどうか。
「やっぱり1人じゃ無理です! 急いで逃げて、応援を呼ばないと……!」
 このままじゃ勝てない。心剣を持たない自分が戦力としてカウントできない今、ファイアドラゴンを相手取るのは厳しすぎる。
 リミッター付きのシグナムの発揮できる魔力は、心剣を持った自分より一段上程度。
 その自分でさえ、パートナーと協力することで対処してきたのだ。戦力の半減した状態で挑むことのなんと厳しいことか。
 理屈など知らない。シグナムの意図など構っていられない。
 故にキリヤは、今度こそこの場からの脱出を進言する。
161SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:56:21 ID:Us0IcSab
「――お前の剣はっ!」
 されど、烈火の将は咆哮する。
 苦痛に顔をしかめながら、しかし確固たる気迫と共に、炎のうねりにも負けぬ叫びを上げた。
「お前はその剣で……人を殺めるために身に着けさせられた剣で、仲間を守るために戦うのだろう……」
「え……」
 こんな時に何を言っているのだ。キリヤの思考は混乱する。
「同じなんだ……お前と、我らヴォルケンリッターは」
 しかし、次の瞬間にシグナムの放った言葉が、その思考を一挙にクリアーにさせた。
「幾百年の歴史の中、他者を殺す道具という形でしか、存在を証明できなかった日々……
 ……だが、あの方は……主はやては、我らを家族とみなしてくれた。殺し続ける以外の生き方を教えてくれた……」
 機動六課部隊長、八神はやて。
 最後の夜天の主たる彼女がいたからこそ、今の自分達がある。
 彼女が主であってくれたからこそ、今こうしてここで生きている。
「だからこそ、我らはあの方を全力で守る」
 守護騎士ヴォルケンリッターの名にかけて。
 殺人剣を活人剣へ変え。
 殺すために身につけた力を、生かすために振るう。
「それは、お前も同じだろう――キリヤ!」
 ごうごうと燃え盛る炎に、次第に圧されていくパンツァーシルト。
 それでもシグナムはひるむことなく、心剣士の少年に向かって、轟然と吼えた。
「だから、これがお前を見定めるための、最後の関門だ……」
 お前の守るという意志が本物なのならば。
 自分達に御しうるだけの意志がその胸に秘められているのならば。
 その意志が自分との共感に変えうるだけのものならば。
「私から心剣を抜き……私を守ってみせろ! キリヤァァァァ―――ッ!!!」
 全身全霊の力を込め、シグナムが絶叫した。
 キリヤの瞳が見開かれる。
 遂にこの瞬間、ようやく悟ることができたのだ。
 彼女が自分をここに連れてきた意味を。心剣を抜かせることにこだわった意味を。
 共感なら、とっくにできていた。彼女が剣に込める想いと、自分が剣に込める想いは、まるきり同じものだった。
 ただ、キリヤだけがそれを知らなかっただけなのだ。
 故に、シグナムは彼を求める。
 キリヤが剣に込めた決意の力が、シグナムのそれに並びうることを証明させるために。
「……くそっ!」
 次の瞬間、キリヤは駆け出していた。
 本当に馬鹿な人だ。こんな形でなくても、方法なんて他にいくらでもあっただろうに。
 ここまで危険を冒さずとも、じっくりと自分を見極めることだってできたはずなのに。
 否、それを馬鹿というのならば自分も馬鹿だ。
 今、自分はまさに死にに行こうとしている。
 心剣もなしでは勝ち目もないはずのドラゴン相手に、こんな貧弱な短刀一振りで勝負を挑もうとしている。
 常識的に考えて、勝てる見込みもないというのに。それどころか、みすみす共倒れに行くようなものなのに。
 それでも、キリヤは走った。
 立ち止まることはしなかった。叫びを上げながら、全速力で必死に大地を蹴った。
 たとえ勝ち目なんてなかったとしても。
 ただ炎に焼かれて死ぬだけだったとしても。
 それでも、自分は。
 彼女を。
 仲間を。

(守りたいんだ……っ!)

 意志の光が、世界を照らす。

「――やればできるじゃないか」

 シグナムの身体より放たれる、眩い光があった。
162SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:58:03 ID:Us0IcSab
 奇跡はここになされた。
 迸る激烈な光の波動は、狂える竜の炎すら跳ねのけ、山林の中を燦然と照らし上げる。
 竜の巨体が身じろいだ。光そのものではない。その光の先から放たれる気配に。
 シグナムの身に現れたのは、紅蓮に輝く魔法陣だ。
 円形の形状は、一見すればミッドチルダ式と同じ。しかし刻み込まれた術式は、ミッドともベルカともつかぬ未知のもの。
 そしてその中心に現れるのは、彼女の胸元から顔を出す1つの柄。
 すなわち、心剣の証。心剣士とそのパートナーのみが体現しうる、絆が生み出す伝説の刃。
「まさか、本当にできただなんて……」
 シグナムの身体を照らす極光を、キリヤは未だ半信半疑といった様子で見つめていた。
 正直自身も、ほとんど無我夢中で飛び出してきたのだ。策など何もなかったし、心剣を抜けるとも到底思ってはいなかった。
 ただ1つの純粋な意志。愚直なまでの「守りたい」と願う意志のみが、彼の身体を突き動かしていた。
 そしてその心こそが、心剣士にとっては何より強力な武器となる。
 誰かを守るための力になりうる。
「さぁ、呆けている暇はないぞ……心剣が出たのなら、やれることがあるだろう?」
 そこへシグナムの声がかけられたことで、ようやくキリヤははっと我に返る。
 そして、見据えた。この異国の地で見出した新たな剣を。
 ぼやぼやしてはいられない。
 いつまたドラゴンが攻撃を仕掛けてくるか分かったものじゃないし、ゴブリンも半分は残っている。
 戦う力は手に入れた。
 守るために戦う力を、シグナムが自分に貸してくれた。
 ならば、やるべきことは1つ。
「……はい」
 静かに、そして確かに。
 キリヤは宣言する。
 烈火の騎士から伸びる柄へとそっと手を触れ、ゆっくりと刃を引き抜いた。
 それそのものを、シグナムの心と捉えるように。彼女の心をいたわり、慈しむように。
 心剣を通じてキリヤに伝わる想い。人の心が流れ込み、力となって全身に染み渡る感触。

 ――とてつもなく頑強な心だ……大切な人を守るという想いが、鋼のように硬い芯を成している。

 ――その根源となっているのは、守るべきものを守るためなら、いかなる相手にも負けはしないという決意……!

 「護剣 紅蓮一文字」。
 遂に力は名を宿し、キリヤの手の中で燦然と煌いた。
 煌々と輝きを放つ刃は、紅蓮の名に違わぬ真紅。燃え盛る業火のごとく、噴き上がるマグマのごとく。
 さながらシグナムの烈火の意志を体現するかのごとき、光輝に満ちた灼熱の刀身。
 剣の形は蛮刀を成す。
 幅広な片刃の刀身が持つのは、あらゆる敵を切り裂く一撃必殺の切れ味。
 これなら勝てる。
 何よりも素直に、本能で察知する。
 この剣があれば。シグナムがいれば。
 信じ合える仲間同士、2人で戦えば、どんな敵にも負けはしない。
163SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 18:59:15 ID:Us0IcSab
《ウォーッ!》
 背後から叫びが上がる。
 振り返ればそこには、斧を片手に襲いかかる無粋者達。
 徒党を組んだ5匹のゴブリン達が、一斉にキリヤ達に向かって殺到した。
 望むところ。
 心剣士の口元は不敵に笑む。
 刃を握る手を強く握った。その切っ先へと力を込めた。
 想いが生み出す心剣の刀身は、さながら伝承の武具のごとき、侵しがたき神聖な光輝と共に顕現する。
 宿される想いは決意。大切なものを守り抜く意志のベクトルは、烈火。
 紅蓮一文字の刀身が一瞬にして炎を纏い、火花を散らし、陽炎に空気を歪ませた。
「くらえぇっ!」
 びゅん、と。
 雄たけびと共に、振るう。
 灼熱纏いし炎刃を。
 キリヤの振るった剣が業火を成し、その力をゴブリン目掛けて解き放った。
 一挙に解放された炎の刃は、さながら赤き三日月のごとき形を成し、一撃のもとに5匹のゴブリンを薙ぎ払う。
 「炎月斬」。
 猛火の一閃は断末魔すら許さず、異形の小鬼達を一瞬のうちに焼きつくした。
「来るぞ、キリヤッ!」
 シグナムの声がキリヤを突き動かす。
《グオオオォォォォォ―――ッ!》
 振り返った先にあるのは、再び咆哮轟かすファイアドラゴンの姿。
 大地を揺るがし、大気を震わせ、妖魔を統べる王のごとき威容と共に。
 巨大なドラゴンは再びその顎を開き、己が内より必殺の熱量を吐き出させた。
 キリヤの反応は素早い。
 ただちにシグナムと竜の間に割って入ると、自らの左の人差し指を突き出す。
 この時彼が烈火の将より引き抜いた心剣には、ある特異な性質が備わっていた。
 通常他のあらゆる心剣を見比べても、ほとんど差異のない柄の部分に、小さな丸いリングをのような穴が開いていたのである。
 それこそが、この紅蓮一文字の護剣たる所以。
 迷うことなく、その穴へと指を通した。
 信じられる仲間の心が形となった剣だからこそ、その力の意味が伝わってくる。
 ならば、恐れることはない。ただその力を振るうだけのこと。
 仲間のために。守るべきもののために。
 ぎゅん、と。
 紅蓮一文字が回転した。
 指を通したリングを中心に、真紅の刀身がプロペラのごとく猛回転する。
 迸るは炎熱。刃に宿るは烈火の炎。
 そう――護剣 紅蓮一文字は攻防一体。
 全ての心剣の中で唯一、完全なる防御のためのスキルを備えた剣。
 天上の日輪のごとく燃え盛る剣の盾――「灼熱車」の障壁が、ドラゴンの放つ炎と激突した。
 片や守るため。片や攻めるため。
 攻撃と防御の火炎が正面からぶつかり合い、熱量をぶちまけ、世界を炎色の光へと染め上げる。
 火力は互角。すなわち、衝突は拮抗。
 同等のエネルギー同士がぶつかれば、そこに生まれるのは膠着だ。それは一瞬前にシグナムが証明したこと。
 だがこの場において、キリヤには、あの時のシグナムとは決定的な違いが存在していた。
 この竜を相手に戦っているのは、今は自分1人ではない。
「今だ、シグナムさんっ!」
 烈火の騎士目がけて、叫んだ。
164SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 19:00:31 ID:Us0IcSab
「レヴァンティン!」
『Schlangeform.』
 誇り高き将の雄たけびが、膠着した戦況へと激変をもたらす。
 ロードされるカートリッジ。鳴り響く重厚なコッキング音。刀身より立ちこめる排気煙。
 名が成す形は蛇。
 諸刃の形状へと変化したレヴァンティンへと細かい切れ込みが刻み込まれ、刹那、それが瞬時にして分かれた。
 刀身は細かな無数の刃となり、それら全てが頑強な鎖によって、さながら鞭のごとき姿へと変異。
 炎の魔剣の2つ目の姿。連結刃シュランゲフォルム。
 火を吐くドラゴンが相手なら、こちらは炎の衣を纏いし蛇。
 一撃必殺の大蛇の火炎から逃れられる者など、誰1人として存在しない。
「飛竜一閃ッ!」
 騎士の叫びは大蛇の唸りとなる。
 シグナムの号令と共に、キリヤの防御の隙間から、レヴァンティンの刃が撃ち放たれた。
 斬撃を主とする刀剣の攻撃に、砲撃魔法の射程と速度と破壊力を与える必殺技。それが飛竜一閃。
 桜色の魔力の炎を纏いしそれは、火を吐くドラゴンの身体へと獰猛に食らいつく。
 ざくり、ざくりと。全身を襲う斬撃の応酬。
 竜蛇の身を成す刃節が、凶悪なる巨竜の体躯を切り刻む。
 両腕を斬り、両脚を裂き、尻尾を抉り。胴体へ、角へ、顔面へと、余すことなく深き爪痕を刻み込んだ。
《ギエエェェェェッ!》
 さながら断末魔の金切り声か。
 業火のブレスは中断される。
 耳をつんざく鋭い悲鳴が、ファイアドラゴンの大口から上がった。
 大音量の絶叫。生命を竦み上がらせる狂気。たまらず木々から飛び立つ無数の鳥達。
「キリヤ!」
 混沌の最中、烈火の将が叫ぶ。
 キリヤの行動も素早かった。
 柄のリングから指を抜き、両腕で紅蓮一文字を正眼に構える。
 引き絞られる瞳。切っ先に込められる力。躍動する両脚の筋肉。
 遂に跳躍したキリヤのバリアジャケットが、風を受けてはたはたと翻る。
 シュランゲフォルムの刀身がうねる。
 攻撃を終えた炎の魔剣が、シグナムの意のままに操られ、心剣士の足場となった。
 レヴァンティンの白刃を蹴り、天空へと飛翔する勇者の姿は、さながら刃の階段を駆け上がるがごとく。
「おおぉぉぉりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!!」
 裂帛の気合。鳴り響く咆哮。
 重力、火力、加速、切れ味、それら全てを味方につけて。
 全身全霊の力を込めたキリヤの一撃が、ファイアドラゴンの脳天へと叩き込まれた。
 まさしく乾坤一擲。破壊力は抜群。
 落雷のごとき力と速さと共に振り下ろされた心剣は、竜の頭蓋を粉々に打ち砕く。
 ずぅん、と。
 キリヤが着地すると同時に、ドラゴンの巨躯が轟音を上げて崩れ落ちた。
 思わず少年の口元から、安堵の息が漏れる。
 何とか倒せた。もう駄目かとばかり思っていたが、こうして敵を退けることができた。
 シグナムとも土壇場で心を通わせ、心剣をこの手にすることができた。
 つまりキリヤは、まんまと彼女の思惑に従う形になったわけだ。それを思うと、自然と苦笑が漏れてくる。
165SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 19:01:30 ID:Us0IcSab
《ウオオオォォォォォォォーンッ!》
 突如、背後からぶつけられる咆哮。
 聞き直す必要もない。もう今日一日で嫌と言うほど味わった鳴き声。
 振り返ればそこには、新たに2匹のファイアドラゴンの姿があった。
 それでも、もう絶望することはない。シグナムもようやく態勢を立て直している。
 この手に心剣があって、その力を貸してくれるパートナーがいてくれるならば、決して負けるはずもない。
「やれますね、シグナムさん?」
 口元に不敵な笑みさえも浮かべながら、再びキリヤが紅蓮一文字を構え直した。
 背後のシグナムから返ってきた返事は、
「――レヴァンティン、リミッター解除」
『Ja.』
「……へっ?」
 瞬間、眩い光が迸った。
 シグナムの足元に顕現するベルカの魔法陣。桜色の三角陣から溢れる極光が、烈火の将を包み込む。
 光は一瞬にして収束し、そこにはただ1人、自らの愛刀を構えるシグナムの姿。
 そしてその表情は、何やら不気味に笑んでいる。
「よくやった、キリヤ。後は私に任せろ」
「え? それってどういう……」
 返事は、疾走だった。
 目にも止まらぬ速度でシグナムが加速。
 速く、速く。先の戦闘よりも遥かに速く。
 山林の大地を超低空飛行で滑るように飛びながら、騎士の刃は一瞬にして竜を間合いに捉える。
 通常の長刀形態――シュベルトフォルムへと戻された刀身が、躍った。
「紫電一閃っ!」
 赤熱する刃。揺らめく炎。
 紅蓮一文字のごとく、灼熱のコーティングを受けたレヴァンティン。
 炎の魔剣と謳われる所以たる必殺剣が、猛烈な速度で叩き込まれた。
 斬。斬。斬。
 すれ違いざまに、三連撃。もはや目視で追うことすら難しい、百戦錬磨の達人の刃。
 流れるように繰り出された連続攻撃は、ただの一瞬でファイアドラゴンを轟沈させる。
 隊長陣にかけられた魔力制限の解放。烈火の騎士の太刀筋は、騎士としてほぼ最高位のSランクの魔力を孕む。
「でぇりゃああぁぁぁぁーっ!」
 まさに一騎当千。
 ドラゴンを、新たに現れた妖魔達を。
 雄たけびと共に突撃するシグナムが、ばっさばっさと薙ぎ倒していった。
 そしてその様子を、キリヤはただぽかんと見つめるばかり。
 要するに、自分がいなくても勝てたことは勝てたということか。実際のところは心配するだけ無駄だったということか。
「……あ、ははは……はは……」
 後に残るのは、ただただ乾いた苦笑い。
166SHINING WIND CROSS LYRICAL ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 19:02:36 ID:Us0IcSab
 ずん、と。
 宵闇よりもなお黒き、漆黒の闇を宿したカオスゲートへと、真紅の剣先が突き刺される。
 黒ずんだガスを噴出しながら、急速にその身をしぼませる異界の門。
 封印完了。虚空へと消えたカオスゲートから、キリヤは紅蓮一文字を引き抜いた。
「よし、と……」
 これでようやく、本当の本当に終了だ。キリヤの口から、2度目の安堵の声が漏れる。
「それにしてもひどいですよシグナムさん。リミッター解除の申請が通ってたのなら、最初から言ってくれればよかったのに」
「フッ……あれくらいの緊張感がなければ、試験にもならないだろう」
 苦笑いを浮かべるキリヤの言葉を、シグナムが軽くあしらった。
 彼女の無茶な要求により、結果窮地にも追い込まれた両者だったが、そこには一片のわだかまりもない。
 心を重ねあったから。真の意味で共感を覚えた戦友となったから。
 結局生き延びることができたのだから、そこは結果オーライといったところだ。
 得られたものの方が多かった以上、それ以外を責めるのは野暮というもの。
 ともあれゲートの封印もできたことで、2人はそのまま立ち去ろうとする。


 ――その時、それは現れた。


「ッ!?」
 突如姿を成したのは、闇。
 ばりばりと空間をガラスのごとく砕き、カオスゲートを彷彿とさせる穴から這い出たもの。
 炎のごとく揺らめく暗黒が、キリヤ達の眼前へと姿を現す。
 瞬間、黒が変異した。
 人魂のごとき身をよじり、くねらせ、さながら粘土細工のごとく。
 闇がぐちゃぐちゃと変形し、新たな姿を象った。
 1つの暗黒の塊が変化したものは、すなわちヒトガタ。
 軍服のごとき深緑のマントを羽織った、1人の男の姿がそこにあった。
 白きペイントの施された外套の下にあるのは、中世貴族のごとき豪奢な衣服。
 その肌の色は病的なまでに薄く、色白というよりも、もはや蒼白と呼ぶに相応しいものがあった。
 腰の高さまで伸びた銀髪。絹糸のごとく輝くそれは、一目でよく手入れが行き届いていることが分かる。
 青白い顔に貼り付けられた容姿は絶世の美男。服装や毛髪と相まって、吸い込まれるような美貌を演出する貴公子の姿。
 しかし、異様。
 その空虚な笑みから伝わるものは、底の知れぬ不気味な気配。優男の外観らしからぬプレッシャー。
「こいつは……!」
 そしてその姿を認めた瞬間、キリヤは驚愕と共に瞠目した。
「キリヤ、知っているのか!?」
 レヴァンティンを構えながら、シグナムがキリヤへと問いかける。
 知っているなどという生ぬるい言葉で済むものか。
 この男とは、既に何度も顔を合わせている。
 ある時は一軍の将として。ある時は邪悪の傀儡として。最期は世界の守り手として。
 その男の名は、


「……どうして、キルレインが……!?」
167反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/10/23(木) 19:03:15 ID:Us0IcSab
投下終了。
元ネタ知ってる人には分かる、変態シスコンお兄ちゃん(CVグリリバ)登場(ぉ
彼が何故こんなヤバ気な雰囲気で姿を現したのかは、次回のお楽しみということで。

そして今回、ようやくシグナムの心剣を登場させていただきました! やー長かった!
「護剣 紅蓮一文字」。侍らしく漢字表記ということで、結構技とかのネーミングには苦心したもんです。
どこまでいけばまともで、どこまでいけばやりすぎなのか、という意味でね(ぇ
ちなみに紅蓮一文字の外観ですが、「ガン×ソード」のヴァンの蛮刀がモチーフです。ぐるぐる回るアクションもあれがモデル。
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 21:30:23 ID:8ScqM2xj
乙!
で……でやがったあああああ!!
最凶のシスコン兄貴登場させやがった!
これはあれだな。是非ともゼクティに出演してもらわねば…
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 22:30:08 ID:00pIzFd2
GJ!
新しい心剣の活躍も楽しみです!
170時間なので投下します ◆tRpcQgyEvU :2008/10/23(木) 22:32:15 ID:bPmkdqhX
魔法少女リリカルなのはStrikerS――legend of EDF――"mission11『光と嵐と異邦人(中編)』"

――新暦七十五年 五月十三日 十三時十四分 機動六課司令室――

 はやてが到着したとき、司令室は混乱の渦中にあった。
室内にはスタッフの怒声や罵声が響き渡り、六課の活躍を映し出すはずのモニターは、一つ残らず砂嵐となり耳障りな雑音を奏でている。
雑音の中に、時折声のようなものが紛れ込むが、通信状態が酷すぎるせいで内容はさっぱりわからない。
「こ……ライ……し……りみ……を……る……」
「こちら本部、もう一度繰り返してください」
「ほ……い……り……じょ……を……」
「ライトニング1……ですか? よく、聞こえません、もう一度」
「ほん……えて……ふ……ゃ……い……」
「ああもう妨害酷すぎ! もう一度お願いします!」
 雑音混じりの通信に、機動六課通信主任兼メカニック、シャリオ・フィニーノ一等陸士が苛立たしい声を上げている。
アルト・クラエッタ二等陸士も舌打ち混じりに操作盤へ指を走らせ、ルキノ・リリエ二等陸士は半ば涙目になりつつも、諦めることなく現地へ通信を送っていた。
誰もがはやてが来たことに気付いてない。それほどまでに状況が緊迫してるということだろう。

「ずいぶん遅かったですね、八神部隊長」
 その中でただ一人、はやてに気付いた者がいた。
真面目という言葉をそのまま具現化したような、理知的な風貌を持つメガネをかけた青年。
機動六課部隊長補佐、グリフィス・ロウラン准陸尉だ。
「遅なってゴメンな。それでグリフィス君、現在の状況は?」
「最悪です。敵からと思しき電子妨害により通信機能はほぼ壊滅、スターズ、ライトニング両隊とも、現地観測隊とも連絡が取れない状況にあります」
「こっちのECCMはどうなってん?」
「全く効果がありません。恐らく、敵のECMには管理局の知るどの世界のものとも違う未知の技術が使用されていると思われます」
「そんな……だったら、ほんまはしたくないけど他の部隊に応援要請を。念の為に本局とアンノウン対策本部にも通信送って」
「とっくにやってますよ。しかし地上部隊は機動力の問題で、一番近い部隊でも到着に最低三十分はかかるそうです。
 本局も地上の事は地上で解決しろと。対策本部は所属艦隊が謎の大型球体と接触したらしく、そちらの対応に追われて応援は送れないとのことです」
「なんやそれ……」
 あまりの状況に、はやては頭を抱えて自身のデスクに突っ伏した。
はやては最初から全てがうまくいくとは思っていなかった。新人達はこれが初陣だから、少しは苦戦するだろうとは予想していた。
しかし、これはどういうことだ。
敵のECMに全く対応できずにロングアーチは実質的に機能を停止、通信機能は壊滅状態。
なのは達も敵の猛攻を受けている可能性が高く、おまけに周囲の部隊は誰も救援を送ってくれそうにない。
まだ彼女等は初陣だぞ。なのに、初っ端から敗戦を喫してしまうのか? こんなところで、自分は大事な部下を死なせてしまうのか……。
171322 ◆tRpcQgyEvU :2008/10/23(木) 22:33:01 ID:bPmkdqhX
「部隊長、副隊長達に、『ヴォルケンリッター』に大至急連絡を取りましょう」
 はやての様子を見かねたように、グリフィスが意見を具申した。
「念のために交替部隊にも召集をかけておきます。それと、後見人の方々にも連絡を。状況によっては、リミッター解除を申請します。よろしいですね?」
 はやては静かに頷いた。
 管理局の部隊には戦力の均一化を図るために戦力上限が設けられている。
それを守りつつ、六課の戦力を充実させるために隊長陣には『リミッター』と呼ばれる能力制限が施されていた。
『リミッター』を解除することが出来るのは後見人の三人のみ、しかも回数制限もある。
出来るだけ使いたくない手段だが、このまま行くと、機動六課は本来の力を出せずに一方的に蹂躙され、殲滅されることになる。
仲間が助かる可能性が少しでもあるならば、はやてはどんな事でもするつもりだった。

「そやな、そうしよう。あと念のために指揮交代の準備もよろしく。状況次第ではわたしも出る」

――

 列車の中は異様な静けさに包まれていた。
照明のほとんどが砕け散り、唯一の明かりは薄暗い非常灯のみだ。
車内の壁には少なくない数の銃痕、斬痕、レーザー痕、その全てが、ここで激しい戦いがあったことを如実に語っていた。
おそらく、車内に侵入したガジェットがここにいた陸士達に襲いかかったのだろう。
そして、応戦はしたが歯が立たなかった陸士達は、これはいかんと列車を放棄して一人残らず逃げ出したのだろう。
その証拠に、列車に陸士の姿は見当たらず、車内には今直多くのガジェットが存在した。

 しかし、ガジェットの様子がどうもおかしい。
二人が目の前を通りすぎても、機体を叩いてみても何の反応もせず、全く動かない。
まるで彫刻か置き物にでもなったかのように、ぽつんと突っ立っているだけだ。
何かの罠かもしれないと警戒はしているが、今のところは何かが起こる気配は無い。
陸士達が撤退前に何かをしていったのだろうか? それとも、自分達には知らされていない、列車の貨物の影響だろうか?
それとも、何らか妨害電波か魔法が発生しているんだろうか……まあ、なんにせよ動かないならそれにこしたことは無い。

「空の連中もこいつらみたいだったら楽でよかったのに、ねえスバル、あんたもそう思わない?」
 二人のうち、先頭を行くティアナは微かに笑って後ろにいる相棒スバルにそう言った。
しかしスバルは俯いたまま「そだね……」と生返事をしただけだった。
普段の明るく活発な彼女からは考えられないことだ。まあ、その理由は簡単に想像できるが……。
「ねえティア、大丈夫なのかな」
「大丈夫って、何が?」
「わかってるくせに……ヴァイス陸曹のこと」
 やっぱりそのことか。ティアナは顔をしかめて足を止めた。
「あの時脱出してなかったよね、だったらヘリと一緒に落ちて怪我して動けなくなって、ひょっとしたら、陸曹はもう……」
 スバルはそれ以上何も口に出す事は無かった。
ティアナも何を言わず、ただ黙ってスバルの顔を見詰める。
やがて、ティアナはもうその話しはしたくない、とでも言うように顔を背け、一言も喋らずに前に進み始めた。
172322 ◆tRpcQgyEvU :2008/10/23(木) 22:36:08 ID:bPmkdqhX
スバルとティアナは六課配属前は災害担当部でコンビを組んでいた。
だからこそ、二人はヘリ墜落時の搭乗員死亡率がどれだけ高いかをよく知っている。
もう、ヴァイスの命は尽きているのかもしれない。
生きていたとしても、致命的な傷を負って死にかけているのかもしれない。
前者なら諦めるしかないが、後者だったら今すぐ救助し治療をすれば助かる可能性は大いにある。
ヴァイスも機動六課の大切な仲間なのだ。出来れば今すぐ助けに戻りたい。スバルはそう思っているのだろう。
それはティアナとて同じだ。しかし、それは出来ない。
航空優勢が確保出来ていない状況で外に出ることなど出来るはずも無く、それ以前に列車はすでにヘリが墜落した地点を通りすぎている。
なにより、任務を放棄し助けに行ったら、何の為にヴァイスは犠牲になったのだ。
ここで戻ってしまえば、墜落するとわかっていても、己を捨てて六課を守った彼の思いを裏切ることになってしまう。
二人がヴァイスの為に出来ることは、ヘリの事は気にせず任務に全力を尽くすこと。
そう思っているからこそ、ティアナは任務に集中するため極力ヴァイスのことは考えないように努めているのだ。
スバルもそれをわかっているから、心配はしても助けに行くとは言い出さないのだろう。

 ティアナは二丁拳銃型デバイス『クロスミラージュ』を構えて次の扉を開けた。
この車両も、ガジェットが突っ立っている以外はなんの異常は無い。
それでも二人はいたる所に目を配り、ガジェットの影に隠れながら忍び足で前進する。
車両の中ほどまで進んだものの、攻撃の兆候はどこにも見当たらない。

 と、思ったそのとき、車両の端で何かが動いた。
薄暗くてよく見えなかったが、それが人の形をしていることだけはわかっていた。
降下チームは貨物室をはさみ込む形で降下した。
スターズは後方に、ライトニングは前方に、だからここでかち合うことはありえない。大きさからしてリインでもない。
スバルはちゃんと自分の隣にいる。だとしたら!

 それを確信した途端、ティアナはスバルを思いきり突き飛ばして横ざまに飛びのいた。
人影の手の部分がきらりと光る。
直後、激しい銃撃音と共に曳光弾がばら撒かれ、ガジェットが紙細工のように次々と引き裂かれていく。
ティアナの上にガジェットの残骸がぱらぱらと降り注ぐ。
やはり敵だった。床に伏せたまま、ティアナはクロスミラージュの銃口を上げる。
だが、その先にはもう誰もいない。銃撃も止んでいる。
体勢を立て直すなら今のうち。スバルに声をかけようとしたその時、殺気を感知し銃口をそちらに向けようとした。
反応が一瞬遅かった。敵を捕捉する直前、側頭部に大岩をぶつけられたような衝撃を感じた。
ティアナの体が宙を舞う。目の前が真っ白になる。スバルが何かを叫んでいるが、もうなにも聞こえない。
やがて、体の感覚全てが無くなり、ティアナの意識は霞みのように消え去った。
173322 ◆tRpcQgyEvU :2008/10/23(木) 22:40:06 ID:bPmkdqhX
「ティアアアアアアアアアアアッ!」
 突然ティアナに突き飛ばされたスバル。
彼女が起き上がり際に見たものは、敵に頭を蹴り飛ばされて壁に叩きつけられたティアナの姿だった。
スバルはうつ伏せに倒れ込んだティアナに駆け寄った。
頭から血を流して動かない彼女の様子に絶望感が走りかけたが、喉元に手を当ててみると、しっかりと脈を感じ取ることができた。
呼吸も安定している。折れている骨もなさそうだ。脳震盪を起こして気絶してるだけのようだった。
意識の無いティアナを静かに横たえ、スバルは相棒を傷付けられた怒りを込めて背後の敵に向かい合った。

「へぇ、まだそんな目ができんのな。仲間やられたからビビってると思ってんだけど」
 スバルをあざ笑った敵は兵士の姿をしていた。
兵士の体を包んでいるのは真紅のボディアーマー。
顔は黒色のヘルメットと、同色のバイザーのせいでわからない。
中でも特徴的なのは兵士の武装だった。
右手に装着した金属製の大型手甲と両足のローラーブレード型の装備は、スバルのデバイス『リボルバーナックル』と『マッハキャリバー』に酷似している。
これはただの偶然なのだろうか、それとも……
 
「あなたが……あなたがこの事件の犯人なの?」
 敵は手甲のマガジンを取り替えてから、にやりと唇を歪めた。
「それがどうかしたのかよ」
「空であたし達を襲ったのも……ヴァイス陸曹を堕としたのも……」
 敵は一瞬何かを考えるように腕を組んで俯き、
「だったら、お前はアタシをどうすんだ?」と肩を竦めて見せた。
 やっぱりこいつだったのか。ヴァイス陸曹を、皆を傷付けた犯人は。
スバルの怒りがいっそう激しく燃えさかる。
彼女は自分のことでは滅多に怒らない。だが、仲間の事なら話は別だ。
ティアナを傷付けた敵。ヴァイス陸曹を殺したかもしれない忌むべき敵。
絶対に許すことは出来ない。この敵はあたしが倒す。あたしが皆の仇を取るんだ!

「そんなの決まってるよ」
 自身の怒りを総動員して、兵士を睨みつけながら彼女は『シューティングアーツ』の基本姿勢をとる。
「貴女を、倒す」
「アタシを……倒す? ふぅん」
 敵は拳をぎゅっと握り締め、スバルと同じように両腕を正面に構えた。
「面白れぇ、やれるもんならやってみろぉ!」
 何かに弾かれたように兵士は全力で突っ込んできた。
常人では対応出来ぬほどの弾丸の如き突撃。スバルは避けずに真正面から受けてたつ。
凄まじい力のぶつかり合いに震える車内。
二人は同じように弾き飛ばされ、同じように壁に叩きつけられた。
スバルと敵は、同時に跳躍して再び拳と蹴りを繰り出した。
174322 ◆tRpcQgyEvU :2008/10/23(木) 22:41:08 ID:bPmkdqhX
二人の戦い方は全く同じだった。
『マッハキャリバー』で壁を駆ければ敵もローラーブレードで追撃をかけてくる。
光の道を作る魔法『ウイングロード』を使えば、敵も同じように光の道を作って襲ってくる。
体術だって『シューティングアーツ』そのものだ。
装備も同じ、戦い方も同じ、違うのは姿形のみ。
まるで二人は実の姉妹のよう、いや、鏡に映った自分自身のように思える。
しかし、スバルには姉のギンガ・ナカジマ以外に姉妹はいないはず。だったら、こいつは一体何だ。
頭に浮かんだ疑問をスバルは無理矢理振り払った。
今は余計なことは考えるな。こいつが誰であれ、今は自分の敵でしかない。
敵が一体何者なのか。そんなことはこいつを逮捕してからゆっくりと聞き出せばいいことだ。

「チッ……」
 敵は微かに舌打ちすると、後ろに飛んで距離を取る。
「させないッ!」
 スバルは吠えるように叫んで猛然と攻め立てた。
二人に明確な差があるとすれば、それは手甲に付いている重火器の存在だろう。
あれは間違いなく質量兵器、しかもガジェットを軽々と引き裂くほどの威力を持っている。
いくらスバルが『常人よりも頑丈』だと言っても直撃すれば只ではすまない。
勝敗の鍵は接近戦にあり、重要なのは相手に撃たせないことだ。

「リボルバアアアアアアアアアアッッ――」
 ナックルスピナーが高速回転。リボルバーナックルに魔力を纏い、 
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!」
 気迫と共に衝撃波を撃ち出した。
敵はそれをまともに食らい、吹き飛んだ。衝撃波は勢い余り、敵の真後ろにあった扉をも粉々に砕いた。
機を逃さず、スバルはナックルに魔力を圧縮、敵に飛びかかった。
打撃魔法、ナックルダスター。
非殺傷と言えどもこれを食らって平気な者はまずいない。
「これで、終わりだ!」
 振り下ろされた拳の先、敵は真横に転がり打撃を避ける。
そのまま起き上がり際に繰り出した蹴りが、スバルの横顔をとらえた。
今度はスバルが吹き飛ぶ番だった。敵の追撃はない。敵は踵を返して、距離を取っていた。
車両の連結部分で立ち止まり、敵はスバル再び睨み合う。
敵は右手で腹をおさえ、ぜーぜーと肩で息をして。
起き上がりかけのスバルは跪くような姿勢で。

「お前、中々強いな。アタシと似てんのはカッコだけじゃないってか?」
「当たり前でしょ、なのはさんの訓練毎日受けてるんだから」
「なのは、あの高町なのは、か。そりゃ、どうりで強いわけだ」
 敵は静かに笑い出す。痛みのせいか、ほとんど声にはなっていない。
「けどな――」
 そして敵が顔をあげ、苛立ちに満ちた金色の双眸でスバルを睨む。
「こっちだって毎朝毎晩、あいつに鍛えられてるわけじゃねえんだよぉ!」
 それが再開のゴングであった。
拳が唸り、魔法と曳光弾が二人の間を交差する。
矢継ぎ早に繰り出される攻撃はスバルを砕けた扉の向こうに吹き飛ばし、今度は敵も容赦なく追撃をしかけてくる。
激しい戦いの余波は列車の連結部分をも破壊した。
ティアナの乗った車両が徐々に本体から離れていく。
しかしスバルは気付かない。気付いたところでどうにか出来るものでもない。
実力の拮抗した終わりの見えない肉弾戦。
だが、戦いの終わりは、予期せぬ形で、唐突にやってきた。
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 22:41:23 ID:NiSjJb5C
支援
176322 ◆tRpcQgyEvU :2008/10/23(木) 22:42:38 ID:bPmkdqhX
投下終了です。最後に今後ありそうな質問に前もって答えておきます。

Q:なんでノーヴェの名前が全部『敵』とか『兵士』になってるの?
A:今の時点ではまだスバルはノーヴェの名前を知らないからです。


Q:本部の通信はちゃん妨害されてるのになんで現場ではちゃんと聞こえるの?
A:後日明らかになります。


Q:ノーヴェの武器からなんで曳光弾が出るの?本物の歩兵小銃からは曳光弾なんて出ないよ?
A:現実ではそうかもしれませんが、EDF3では新装備の元になったAFシリーズのライフルからは曳光弾らしき弾丸が出ています。
  これはフィクション、しかも異世界のお話なのでこちらの常識で考えたら負けです。

Q:なんでノーヴェはヴァイス撃墜を自分達の仕業だといったの?
A:後編でわかります。

これ以外にツッコミ所があったら遠慮なくやっちゃってください。
続きは来週か再来週の予定です。
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 22:58:19 ID:pweGvmQ9
GJ
援軍拒否や本部が無能化するのはお約束だから仕方ないw
しかしですね、今は人類同士で争ってる場合ではなかとですよ
原作後半で各支部が1つずつ、確実に蹂躙されいく絶望感と言ったら、ねぇ?w
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 23:00:19 ID:NiSjJb5C
GJです
後半でストーム1が救援に来るのかなぁ
179名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 23:01:05 ID:00pIzFd2
GJ!
こんな事しか言えませんが、後編が楽しみです!
180名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/23(木) 23:03:55 ID:UK7eQN3p
GJ!!
最近更新が無く心配してましたが
待ってて善かった。
本編と違い早速ノーベェが出てきて早速スバルとガチンコ勝負
でも、次回はきっと銀の巨人が・・・
だが、彼ならこの絶望を吹き飛ばしてくれると信じて
次回も楽しみに待ってます。
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 23:07:22 ID:NgLo6uWJ
GJ!
なんという孤立無援、本部の罠ですね。分かります。
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 23:27:59 ID:Bg/dOwrY
・・・2と3とやり直してみたけど身内からソラス以上の化物とか言われると傷つくよね?
みんなはどう思った?
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 23:42:56 ID:yfOkkKgw
GJ。後半が楽しみです!

50分頃から久しぶりに投下したいと思います。
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 23:43:37 ID:rMFynBgA
>>182
いや、主人公は2でも3でもどう考えても化け物だろ
単騎で、地球文明壊滅させた皇帝都市すら落とす男だぞ
存在自体がある意味で矛盾しとるわ
185りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/23(木) 23:53:46 ID:yfOkkKgw
「彼とルーテシア達を会わせてはいけない」

無駄な物はおろか物自体が殆どない研究室の中央で、集めたデータを解析していたスカリエッティは白衣から伸びた腕を、指先をせわしなく動かしながら、傍らの美女に言った。
青紫の髪に、金色の瞳。彼の特徴を色濃く受け継いだ最初の作品"ウーノ"は冷めた目で創造主を見つめた。
光太郎を変身させてから更に数日が過ぎていた。

今度こそ光太郎の、クライシス帝国の改造人間と同等以上の性能のデータをスカリエッティは熱心に行っている。
今日も朝から光太郎に変身してもらい、その場でジャンプさせたり走ってもらったり、あるいはこの世界の武器を使わせてみたりと、様々な実験が行われた。

「それは、光太郎が知ったら暴れだすからでしょうか?」
「暴れる? いやいや、」

長年の助手の言葉を鼻で笑い、スカリエッティは両腕を広げ、天井へと手を伸ばした。
スカリエッティの指示で、無機質な光源から太陽光と同じ成分の光を放つ物へと変えられた―光をスカリエッティは仰いだ。

「彼のことだ。我々を皆殺しにするかもしれない」

愉しそうに言うスカリエッティに困惑を表に出したウーノは、手元に表示される画面へと目を落とした。
もうドクターの悪い言い方をすれば変態趣味には慣れていたが、スカリエッティがなぜそんなに嬉しそうに言うのかが理解できない。

「ドクター、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「なんだい?」
「ドクターが、どうしてそんなに喜んでおられるのか私には分かりかねますわ」

取得したデータを解析するスカリエッティの傍らでデータの整理などを行っていたウーノはその殆ど全てのデータを見ることができた。
いや、数値に変えて見る必要もないほど記録された黒曜石を思わせる外皮を纏う怪物は圧倒的だった。
記録された光太郎=RXの姿からは意外なほどスマートだ。
高身長と鎧の様でありながらしなやかな手足は長く、バッタをモチーフにしたらしいその姿は一見細身に見える。
だが光太郎は単純な早さだけを言っても、ウーノの妹の一人であるトーレのISに迫る数値を早さで走り抜け、外皮もディエチの砲撃を受けても意に返さない耐久力を持ち…恐ろしいまでの破壊力を内に秘めていた。

はっきり言って、現状のウーノ達では正面からでは相手にならないほどだと一目で分かる。
辛うじて単純な早さでは姉妹の中では最速のトーレが上回っているが、トーレは遠距離よりも接近戦を得意とする。
接近すれば、光太郎はウーノをカウンターで粉々にしてしまうだろう。
そんな手合いだということをスカリエッティが理解していないはずはないのだが、光太郎の変身した姿を見てからスカリエッティはウーノの目から見ても異常なほど機嫌が良かった。

今も、鼻で笑う直前、スカリエッティはウーノが質問したこと自体変なことだとでも思っているのか、目を丸くしていた。
光へと手を伸ばすのを止めたスカリエッティは喜悦で輝く目を変身した光太郎の姿が映るモニターへと転じた。

「私は自然と科学が融合しているモノにグッと来るのさ。光太郎に施された改造は自然に対する畏敬の念を感じる…」

そう言って、スカリエッティは困惑するウーノを見た。

「私と方向性に違いはあるが…彼の製作者には私と同じ愛を感じずにはいられない…!」
「私は彼のようにされなくて大変感謝していますわ」
「おや? それは残念だ。彼を参考に変身機能を新たに加えようかと思っていたのだが」
「絶対やめてください。流石のあの子達も泣いてしまいますわ」

ふむ…と呟いてスカリエッティは肩を竦めた。
変身途中の、醜悪な姿を見ているにも関わらず、スカリエッティはウーノ達が嫌がるとは露とも考えていなかったらしい。
スカリエッティの様子からそれを感じ取ったウーノは、青白くなって体を硬直させた。

冗談ではない…!
最良の味方となるか、最悪の敵となるか。
それまで、ウーノは光太郎との関係はそのどちらにするか最終的な判断は下していなかった。
だがそのスカリエッティの態度を見て、ウーノは光太郎を敵とすることを心に決める。

「ドクター、やはり…彼を処分することを進言します」
「ほぅ…何故だね」
「危険すぎます。彼は決してドクターと相容れないタイプの人間です」
「それがいいんじゃないか!」そうだからこそ焦がれているのだと言わんばかりに、スカリエッティは芝居がかった口調でいい、熱い視線を映像に映る黒いバッタ男に向けた。
186りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/23(木) 23:55:23 ID:yfOkkKgw
スカリエッティはそれに気付こうともせずに、楽しそうに研究に戻っていた。
光太郎にデバイスを持たせてみたらどうなるか真剣に考えているらしく取得したデータを整理しながら、魔導師の杖『デバイス』の設計図を引いていく。
高価なパーツを惜しげもなく使おうとしているスカリエッティに、ウーノの表情は曇っていく。
対照的な表情で作業を進めていたスカリエッティの手がまた停止した。

「あぁそうだ。ウーノ、スポンサーにお願いしていたプロモが届いたのだが…光太郎は今どこかな?」
「クアットロからの報告によれば、トレーニング中です」
「ほぅ…?」

興味深げにスカリエッティが言うと、間をおかずにウーノが光太郎がいる部屋を幾つか表示させた。
光太郎は動きやすい、スカリエッティがナンバーズ用に開発した服と同じ素材で作った肌着と羞恥心に負けてズボンを履いている。
腕立て伏せをする光太郎の背中には、先日光太郎が戦ったカプセル型の機動兵器が本来は敵を捕縛する為の魔法、バインドで括り付けられていた。
更にその上で…足を組んだクアットロがあくびをしているのを見てスカリエッティは少し噴出した。

その傍では、チンクがルームランナーの上で走っていたり、任務を与えていなかったウェンディも光太郎の様子を口を開けて眺めているようだ。

「ドクターも一緒になさいますか?」
「いやいや、遠慮しておこう」

そこは元々は、スカリエッティがウーノに対して持つ幾つかの不満点の最たるものを具現化した部屋だった。
研究をする為の場所とはいえ、スカリエッティは生身の人間。
使わなければ衰えていく肉体を維持すること、ストレスの解消等運動を行った方が良いというのが彼女の考えで、その為にいつの間にか作られてしまった。
スケジュールにも加えられ、スカリエッティもその部屋には週3回は通わされている。
自分が使っているものと同じ機械を使っているとは思えない速さで動いているルームランナーを極力見ないようにしながら、スカリエッティは光太郎の様子を見た。



ウーノが仮面ライダーになった妹達の姿を想像し拳を握り締めていた頃。
光太郎はチンクと、何故かその日はクアットロにまで付き添われながら体を動かしていた。
ついでに体を動かしていたチンクは、光太郎の上に乗った機動兵器の更に上で足を組むクアットロに片方が眼帯に閉ざされ一つしかない目を向けた。

「…お前がいるなんて珍しいな」
「そうなんだけどぉ、ウーノ姉様にお願いされちゃって…一緒に監視しなさいって」
「監視…?」

クアットロは顎で自分の下。黙々と腕立て伏せをする光太郎を示す。
自分の能力が疑われたような気がして、チンクは不満げな顔を見せた。

「私一人では不十分だと…いや、すまない。これは姉上に直接尋ねることだな」

はぁ、とチンクはため息をつくと走るのを止めた。
姉達の会話を他所に、ウェンディは黙々と姉の下で腕を曲げ伸ばしする光太郎に声をかけた。

「光太郎さん。ちょっと質問があるッス」
「…なん、だい?」

顎から汗を落としながら、光太郎は少し苦しげな顔をウェンディに向けた。
ウェンディはその横に行って屈むと好奇心で光る目をして、光太郎に聞いた。

「光太郎さんって全身改造された改造人間なんッスよね? 体鍛えて意味あるんッスか?」

ウェンディも強化され、機械を埋め込まれた肉体を持っているが、鍛えることは出来る。
だが、光太郎の肉体はスカリエッティの技術とは完全に異なる技術で全身を改造されていると、ウェンディは聞かされていた。
創造主の言葉を無条件に信じてはいたが、先日それを怪物の姿になるという信じられない方法で見せ付けられ、ウェンディは光太郎に興味を持つようになっていた。

「確かに、俺の筋肉は人口的なものだ。だけど、…鍛えれば鍛えるほど、強くしなやかになる」
187りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/23(木) 23:56:14 ID:yfOkkKgw
命を懸けた特訓を行い、改造された肉体に設定された限界を超え戦い続ける先輩達の姿を思い浮かべながら光太郎は答えた。
返事を返した光太郎は自分の上に乗ったクアットロに呼びかける。

「クアットロ! ありがとう、そろそろ降りてくれ!」
「はぁい」

詰まらなさそうに返事をし、クアットロが光太郎の背中から飛び降りる。
バインドも解除され、自由になった機動兵器が退いてから、光太郎は立ち上がった。
光太郎を極力見ないようにしながら、クアットロが提案する。
ウーノの言いつけでかれこれ何時間かつき合わされていたクアットロはうんざりしているようだった。

「じゃあそろそろお風呂にでも…」
「それなら、先に行っててくれないか。俺はもう少し体を動かしておきたい」
「まだやる気なの?」

汚いものでも見るように眼を細めるクアットロに頷き、光太郎は離れていく。

「ああ」

トーレ達が模擬戦闘も行えるよう広く取られた部屋の隅に、申し訳程度に置かれていたスカリエッティ用の運動器具から離れ構えを取る。
うんざりした顔のクアットロを無視して、空手を基にした型を光太郎は黙々となぞっていく。
ウーノからの言いつけで、一時間以上前に同じ事をするのを見ていたクアットロは心底疲れたようにため息をついた。

「ウェンディちゃん、貴方代わってくれないかしら?」
「クアットロ。自分が嫌な仕事を妹に押し付けるなんて、感心しないぞ」
「いいッスよチンク姉。あたしもまだここにいるッスから」
「そうよね! 本当ウェンディちゃんはいい子で助かるわ」

仕事を押し付けて、晴れ晴れとした顔で部屋を出て行くクアットロをチンクは不満げな顔で見送り、ウェンディに謝る。

「すまないな」
「あたしはノーヴェみたいに光太郎さんが苦手って事もないッスから。何ならチンク姉も休憩してきていいッスよ?」

妹からの提案にチンクは困ったように眉を寄せた。

「姉が妹に仕事を押し付けるわけにはいかないさ…ノーヴェは光太郎が苦手なのか?」
「んー? なんか、顔赤くしてどっか行っちゃったッス」
「変だな…二人の間に何かあったか?」

釈然としない返事にチンクは首を傾げた。
チンクはできれば光太郎と姉妹達が仲良くなればいいと思っていた。
漂流者であり、自分の意思とは関係なく改造された人間である光太郎にチンクは同情しているからだ。
世話をする内に情が移ったといわれればそれまでだが、創造主であるスカリエッティも好意的な態度を見せていることだし、このまま自発的にここにのこるようになればよいと思ってた。

「さあ…? あたしにはよくわかんないッス」

これ以上は本人に尋ねるしかないらしい。
チンクはそれ以上深く尋ねはしなかった。

教育を担当したノーヴェのことはある程度は理解しているつもりだった。
だから変身した姿が生理的に受け付けないらしいクアットロとは違うと断言することは出来たが…思い当たる節はなかった。
スカリエッティから世話役と監視役を命じられ、姉妹達の中では光太郎と最も長く一緒にいるが、二人は余り顔を会わせたこともない。

「まさか、私が知らないところで何かあったのか?」

今は少し離れた場所で、拳を突き出している光太郎も彼女達ナンバーズには思うところあるのは知っている。
光太郎とチンクは何度かそのことで口論をしていた。
この朝も、チンクが光太郎を呼びに行った際にチンクははっきりと光太郎に言った程だった。
「私達は戦う為に生み出された戦闘機人だ。同情される謂われはないし、こういう生き方が普通なんだが…改造人間の貴方ならわかるだろう?」
光太郎が彼女にしてみれば妙な考えを持っているのに気付いてそう言った。
188りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/23(木) 23:57:40 ID:yfOkkKgw
だが光太郎はこう反論するのだ。

「それは違う! 改造人間にも戦闘機人も…人間だ! 自由に生きる権利はあるはずだ!」

ただそう生まれついただけの彼女らに、光太郎の眼から見て他の道を選択する余地のある彼女らが、スカリエッティに従っているだけの状況に光太郎は不満を感じていた。
突付けば他にも色々と感情的に返してくるのだが…彼女ら戦闘機人と会ってからこのやり取りはもう片手を超える回数されていたから、チンクの方はそれ以上は言わなかった。

だが代わりに「一つだけ言っておくが。光太郎の方が背が高くても私の方が生まれたのは早いんだからな」とデータ取りに向かう光太郎へと言っておいた。
「……何の話だ?」
「光太郎は改造人間になって二年前後だが、私は十一年になる」

光太郎は前を歩く自分のそれよりかなり下にあるチンクの背中を不思議そうに見た。

確かに光太郎は改造されてから三年もたっていないが、生まれてからはもう二十年以上の時間が経っている。
何故勘違いしているのか内心首を傾げた末、光太郎は気まずそうに頬を引きつらせた。

スカリエッティ達には全身改造を施された改造人間であることやクライシスと戦っていたことは話した。
だがゴルゴムの事や、光太郎が脳改造を施される前に逃げ出したことは言っていない。

詳しい話をして、信彦や叔父達…失った大事な人達のことに話が及ぶのではないかという恐れが光太郎の口を硬くしていた。
協力すると言いながら、相手を信用せず古傷を怖がる自分の情けなさに光太郎の表情に影が差した。

「だから間違ってもチンクちゃんは駄目だ。このままここに長くいる気なら姉と呼び慕うように」

少し歩幅を広げ、あっさり横に並んだ光太郎の微妙な変化に気付かないままチンクは言った。

思い返し、あるとすればその話をして妹と何か揉めたのかではないか…位しかチンクにも思い当たることはなかった。

「チンク姉、どうかしたッスか?」
「な、なんでもない」

今朝の事を思い返してボーっとしてしまっていたチンクは慌てて首を振った。
顔を赤くするほど慌てた姉をウェンディは不思議そうに見ていた。
視線を避け、チンクは呼吸を整えている光太郎に呼びかける。

「光太郎ッもういいか!」
「え? あ、ああ…」
「ではもう行くぞ」

チンクはそう言うと二人に背中を向けて歩き出す。
ウェンディもその後に続いて歩き出し、三人は風呂場へ足を向けた。

「二人は先に行っててくれないか? 俺はそれより先に何か飲みに「洗浄してこい」
「べ、別にいいだろ。風呂は寝る前にでも…「ちょっと臭うッス」

二人から冷たく言われ、光太郎は顔を顰めて黙り込む。
確かに汗はかいているのはわかるが流した水分を補給しい光太郎は、納得の行かない顔で後に続いた。
姉のウーノが放っておいたら研究室に篭りっぱなしのスカリエッティの衛生管理に手を焼く様を見て過ごしてきたせいか二人は存外に綺麗好きで、この手の話で譲ることはないからだった。
特に目印もない殺風景な通路を三人は無言で歩いていく。

『光太郎、少しいいかね』
「なんだ? 悪いが今日はもう実験に付き合うのは勘弁してくれよ」

無言で風呂場に向かうのに、辟易していた光太郎は警戒心から表情を引き締めて足を止めた。
目の前に現れた画面の中でクアットロそっくりの笑みを浮かべたスカリエッティは言う。
先を歩いていた二人も足を止めて、スカリエッティの言葉を待った。

『君に見せたいものがあるんだ。後で私の部屋に来てくれ』
「……わかった。すぐに行く」
189りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/23(木) 23:59:44 ID:yfOkkKgw
頷く光太郎にチンクとウェンディは揃って咎めるような目をした。
誤魔化すような笑顔を作る光太郎に、スカリエッティも一人満足そうに頷き、通信を切る。
だが、切れたと思った瞬間、新たな通信画面が光太郎の目の前に開く。
今度は、スカリエッティではなく、同じ部屋にいたウーノからだった。
ウーノはすぐには何も言わず、光太郎の服装と妹達の顔を見てから口を開いた。

『光太郎。貴方、今まで運動をしていたはずですけど、お風呂は?』

答えをわかっていて尋ねるウーノの口調は冷たいものだった。

「…今からだ」
『わかりました』

ばつが悪そうに言う光太郎に、ウーノはため息をついて言う。

『では一時間後にこちらに来てください。ドクター、それでも構いませんね?』
『ん? あ…う、む。構わないよ?』
『では後ほど。飲み物を用意してお待ちしていますわ』

一方的に話を進めてウーノは通信を切った。
姉の手際に、チンクが感心したように頷いているのを見て光太郎は少し肩を落とした。
それを見たクアットロが鼻で笑い、改めて歩き出す。

程なくして着いた風呂場では、ウーノにより脱衣所には新しい服が用意されていた。
恐らくは入浴後の飲み物も脱衣所の隅に設置された冷蔵庫の中に入っているのだろう。
無頓着なスカリエッティの為に調べられ、普通に発注するわけにも行かずに機械の手で作られた無駄に広い浴場で光太郎はため息混じりに服を脱いでいった。

流石に男湯と女湯を分けてはいなかったが、小さな銭湯程度の広さはある風呂場から上がってくる湯気と聞こえてくる水の流れる音に急かされ、タオル片手に歩き出す。
この後、待たせているナンバーズの二人も入るのだろうと、(物によって洗い方が違うらしい)複数の自動洗濯機に脱いだ服を分けて投げ込んだ光太郎は、風呂場に入っていった。

だが源泉掛け流しの湯船には向かわず、十二、三個ほど並んだシャワーの一つへとその足は向けられた。その後ろで、扉が閉まる音がする。
今後増えていくナンバーズが全員同時に入る事態も考慮された湯船は広く、光太郎は少し落ち着かない。
待たせているのだからと、光太郎はシャワーだけを浴びて、引き返していく。

しかし、勝手に閉じられた扉は開かない。鍵が掛けられたのか?
破壊するわけにも行かず呆然とする光太郎がよく扉を見てみると、そこには『ドクターの早風呂禁止措置施行中』と刻まれたプレートがかかっていた。
…今日まではスカリエッティにつき合わされ、疲れていたために気付かなかったが、そういうことらしい。
諦めた光太郎は、恐らくそのプレートを掲げた女性が苦労して掘り当てた源泉溢れる湯船へと向かった。
パシャパシャと微かに硫黄の臭いがするお湯が跳ねた。
湯に浸かり、頭にタオルを乗せる。思わずまた、ため息が出た。

「スカリエッティも大変だな…」
「わかってくれるかね」

ぼやく声に返事が返され、扉が開く。
全裸のスカリエッティがタオルも持たずに現れた。
何も返す気にならない光太郎が黙っていると、薄ら笑いを浮かべたスカリエッティは同じようにシャワーを浴びて、「ウーノがうるさくてね」と髪と体を丹念に洗ってから光太郎の隣に入ってきた。

「待つよりもこの方が早いと思ってね」

スカリエッティは悪戯っぽく笑って言うと、湯船に体を持たれかけた。
そして、思い出したように光太郎に冷えたペットボトルを一つ渡す。

「飲むといい。外にいたチンクからだ」
「すまん」

素直に礼をいい、受け取った光太郎はペットボトルの中身を一気に飲み干す。
喉を通っていく液体は、レモンの匂いと地球で飲んだスポーツドリンクと似通った味がした。
飲んだ瞬間スカリエッティがニヤリとしたせいで、成分には不安が残るが懐かしい味だった。
190りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/24(金) 00:01:12 ID:ebsuWCLL
「ふぅ…生き返るな」
「ふむ…君は生きるのに水を必要とするのかね?」
「ん? どうかな? 変身している間は太陽の光があればどうにでもなるが…」
「ほぅ…それは素晴らしい機能だね。私も再現してみたいものだが」

スカリエッティは感嘆の声を上げて視線を宙へと彷徨わせる。

「…今日そう言ったらウーノには全否定されてしまったよ」
「当たり前だ!」

声の調子を落として言うスカリエッティに光太郎は苦笑を返し、真剣な目をして己の掌を見つめる。
お湯でふやけた手。空手の練習で皮が厚くなり、ごつごつとした手にBLACKの、RXの指を幻視する。
険しい表情で拳を握り締める光太郎をスカリエッティは頭にタオルを載せながら眺める。

「彼女達を作るのも、俺は感心しない「光太郎、それについてはこれを見てくれたまえ」
「これは…?」

光太郎の言葉を遮るようにスカリエッティがお湯を零しながら合図をする。
すると、どこかでウーノが見ていたのか、壁の一角が突然モニターへと姿を変えて、映像が流れ始めた。

彼の円形の研究室の一角を占める程無駄に大きいモニターよりは少し小さい画面には少女の姿が映った。

「これが私にスポンサーがついた理由だ。実はね。管理局の優秀な魔導師が不手際を起こした例は少なくない…人手不足だからと犯罪者を勧誘し、優秀な才能の持ち主だからまだ幼い少年少女を局員として働かせるのだからね」

スカリエッティの言葉に、光太郎は愕然とした。

「馬鹿な…そんな酷い話が許されるのか!」

まだ学生…つまりは子供をこんな災害現場に送るなんて…「おのれ、管理局…!」
湧き上がる怒りに突き動かされそう呟く光太郎。
その台詞に噴出しそうになるのを堪えながら、スカリエッティは説明を続ける。

「フ、フフフ。人手不足だ。大局的にと言えば許されるのが現状なのさ。実際、見てもらえばわかるが力量はある」

そう言ってスカリエッティが合図を送るとその少女が白いバリアジャケットを着て、桜色のビームを放ち敵を粉砕していく姿が映し出される。
子供を利用することに、怒りに震える光太郎の目の前で強力な魔法が、幾つもの事件を解決していく。
光太郎は直ぐには言葉が出なかった。

「凄まじい力だろう? 私は彼女らの力を借りなければならない現状や、頻繁にこんな状況に陥る現場を嘆くスポンサーからの依頼を受けて戦闘機人計画に協力しているのさ。ウーノ達の力は、慢性的な人員不足に陥っている管理局には必要な力というわけさ」
「そうだったのか…」

嫌な予感はしたものの、光太郎は掠れた声で呟いた。

「もう少しで、もう2、3年も時間をかければ完全に運用できる所までこぎ着けることが出来るだろうねぇ。だが…」

スカリエッティは芝居がかった仕草で嘆いた。
映像には、都合よく事件に巻き込まれ運ばれていく負傷者の姿が映っていた。

「だがこんな彼女らにはもう任せておけないのでね。そろそろ我々も動かなければならないと常々感じているのだよ」
「…何が言いたい?」
「私に協力してはもらえないかね? 私の戦闘機人ではまだまだ心元なくてね。君が協力してくれると非常に助かるんだが…」
191りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/24(金) 00:03:24 ID:yfOkkKgw

またウーノに合図を送り、映像の中から施設の壁をぶち抜いて目的を完遂する幼い魔導師の姿が映し出される。
拳を握り締める光太郎の腕に浮かび上がっていく血管を見て、スカリエッティはそれを一から作り上げ、細かい所まで違和感のない擬態をさせる『クライシススゲー』と内心感嘆した。
実際は地球―made in ゴルゴム製が太陽の光を浴びて自己魔改造したものなのだが。
気を落ち着けようと深く深呼吸した光太郎は、湯に浸かりなおして思い悩み眉間に皺を寄せた顔でスカリエッティを見た。

「俺は…この世界の事には関りたくないと思っている。今の話にしても、元の世界に帰るつもりの俺が、片手間に関わっていい話しじゃないだろう?」

腕を組み、光太郎は自分の考えを再考しようと流れ続ける映像へと再び目をやった。

「私はそうは思わないがね…まぁ気が変わったら協力してくれたまえ」

鼻で笑いながら、肩を竦めてそう言うとスカリエッティは風呂場から出て行く。
シャワーで汗を流し、コーヒー牛乳を腰に片手を当てて飲み干すスカリエッティを深刻な顔をしたまま光太郎は見送った。
風呂上りの一杯もせずに悩み始めた光太郎を見てスカリエッティは笑い、飲み干した瓶を置いて風呂場を出て行く。
残された光太郎は痺れを切らして脱衣所に進入してきたトーレにいい加減にしろと叩き出されるまで悩み続けた。

今光太郎が見せられた映像は、当然ある程度印象操作した映像に差し替えられていた。
勿論スカリエッティもこんな子供だましで光太郎が完全に騙されるとも思えなかったが…戦闘機人を作っている理由などは嘘ではないし、RXキックを顔面に叩き込まれるようなことにはならないだろうと踏んでいた。
光太郎には行く当てもないのだから時間は十分にある。
デバイスを用意して『改造人間も魔導師の適性があるのか?』など試して見たいことは山ほどあり、スカリエッティの方から手放すことなどありはしない。

だが、スカリエッティのその実験は結局行われることはなかった。
デバイスの完成を見る事もなく、一週間後。光太郎はスカリエッティの元から去った…

二人の間に諍いが起こったのではない。
光太郎の待遇はスカリエッティらしからぬ厚遇だったし、光太郎も基本的には協力的だった。
ナンバーズの何人かとも、より仲良くなろうとしていた。

だがちょうど一週間後…日が沈み、太陽の光が完全に消えたのを確認したかのようなタイミングで、事件が起きた。

光太郎は自分の抱えていたトランクから瞬間的に発生した凄まじい熱量に身を焼かれ、叫び声をあげた。

クライシス帝国とゴルゴム。二つの戦いの中で受けた攻撃とは種類の異なる力、魔力が…深いダメージを負おうとしている光太郎の体を強制的に変身させ、一瞬遅れて放たれたキングストーンの輝きが、光太郎を保護した。

変身を遂げた光太郎の体は、魔力衝撃波にも耐え切り、回復を促していく。
変身前に受けたダメージから片膝をついた光太郎は、地面についた己の黒とオレンジ色の手の異変に気付いた。
トランクを抱えていた指が消滅している。体も焼け爛れていた…だがキングストーンに秘められた再生能力によってそれも癒えていく。
破壊的なエネルギーを放つトランクの中身、巨大な宝石のように見えるロストロギア『レリック』が秘められたエネルギーを一瞬で使い切り、消失した。

そのお陰で、光太郎は少しだけ落ち着きを取り戻す。

片膝をついた状態で変身を遂げた光太郎の真っ赤な複眼から、赤い腺が一本涙のように金属の質感を持つ頬を伝っていた。
体を覆っている皮膚はRXのものではない。耐熱・耐衝撃性に優れた金属質の装甲、ロボフォームがロボット然としたラインを作り出していた。
黒とオレンジ色を基調とした、『悲しみの王子』ロボライダーの姿だった。
RXでは体を襲う耐え切れないと感じたのか…この惨状を本能的に感じ取った光太郎の嘆きがこの姿を取らせたのかは光太郎自身にもわからなかった。
キングストーンに秘められた力が必要になる程のエネルギー衝撃波は、周囲の光景を一変させていた。
光太郎の周囲だけが綺麗にえぐり取られ円形の窪みになっていた。
光太郎が受領を頼まれたロストロギアのエネルギーは一定の空間だけに止まり、その中の物を根こそぎ消滅させていた。。
大規模な火災さえ一瞬で引き起こしたその余波で溶け固まった床や壁が、辺りを包む炎に照らされて煌めいていた。
所々、人の影の形に黒ずんだ跡が残り、外周で炎の中に、炭化した人の像が崩れ沈んでいくのが見えた。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 00:04:17 ID:WhNmo5jT
支援
193りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/24(金) 00:04:58 ID:ebsuWCLL
用があるとこの場を離れたクアットロから預かったトランクの中身が暴走する瞬間に自分の周りにいた人々の姿が頭に浮かび、光太郎はもう一度叫んでいた。
その間にも余波が生じさせた火災は燃え広がり、さらに拡大していく…ロボライダーの体には何の影響もない火災に巻き込まれ、苦しむ人々の声が光太郎の叫びを止めた。

「アクロバッター! ライドロンッ!」

クロノに預けた相棒の名を叫び、光太郎は声に向かって走り出した。
炎を吹き飛ばし、ひび割れた床を踏み砕く勢いでまだ生き残っている人々の下へと光太郎は急いだ。

ライドロンとアクロバッターが、自分の下へと向かってくるのを感じる。
アクロバッターは、光太郎の変身に応じてロボイザーへと姿を変えて光太郎の下へと辿り着こうとしていた。

一緒に来たクアットロの安否も心配だったが、死んではいないだろう。
不思議だったが惨状を見る限り、10メートルも離れていれば一瞬で消し炭にされるようなことはないらしい。
炎を吹き飛ばし、ついでに壁も破壊しながら光太郎は人々の救助を行っていった。

何故こんなことが起きた?

救助に専念しようとする光太郎の頭には疑問符が浮かび続けていた。
受け取ったトランクは厳重に封印されているという話だったはずだ。

突然暴走を起こすような代物なのか?

クアットロの存在が空港内に感じられないのは、偶然なのか?

最後の生存者である改造人間の姉妹をライドロンに乗せて送り出し、一人火災の中に残った光太郎の頭には嫌な考えが浮かび上がろうとしていた。

ウーノに頼まれ、ロストロギアを受け取る為に一緒にこの空港にやってきたはずのクアットロの姿が全く見えない…そのことがどうしても引っかかっていた。
光太郎の脳裏に、荷物の受け取りを頼のまれたと言ったクアットロの姿が浮かぶ。

『光太郎。一つお願いがあります』

その日もスカリエッティの研究に協力した光太郎の前にウーノがクアットロだけを連れて現れた。
ウーノから頼まれたらしいクアットロが、渋々と言った様子で言う。

『ウーノ姉さまの頼みよ。私とある空港まで荷物を受け取りに行ってくださらない?』
『…? いいけど、そんな頼みをしてくるなんて珍しいな』

普段なら通信で済ませるような内容を伝えにわざわざやってきた二人に、内心首を傾げたが…光太郎は二つ返事で引き受けた。
笑顔を見せた光太郎と顔を引きつらせたクアットロは二人でこの空港にやってきた。
そして、空港はレリックの暴走により火の海に包まれた。


回想する光太郎は、強制的に自分の体を冷凍しようとする力を感じ、我に返った。
誰かが使った大規模魔法が、考えに耽ろうとしていた光太郎ごと辺り一帯を急速に冷却していく。
自分のいる区画も含め、燃え上がる空港の幾つかの区画が凍り付いていくのを、光太郎は呆然と眺めた。

光太郎の超感覚は、誰がそれを行ったのかを光太郎に正確に感じ取らせていた。

まだ学生の枠を出ない女の子が一人、杖を振るった体勢のまま浮かんでいた。
その周りに数名の大人の魔導師もいたが、彼らでないこと位はわかる…

先日管理局へ怒りを覚えた少年兵に自分の不始末の後処理までさせている。光太郎の胸は痛んだ。

ロボライダーとなった肉体になんら影響のない程度の環境であることは変わらないというのに、見上げていた光太郎は冷凍され…炎が遠ざかったせいか更に冷静さを取り戻していく。

超感覚が捉え続けている空港内の惨状が、よりクリアになって光太郎の心を揺さぶった。
苛立ちに、自己嫌悪と行き場のない怒り。
あるいは悔恨に…複雑な感情に全身を震わせながら、光太郎は表情の変わらない仮面の内で己の間抜けさを呪った。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 00:05:41 ID:3PRHIRxH
魔改造っていうなw支援
195りりかるな黒い太陽_4話:2008/10/24(金) 00:09:41 ID:ebsuWCLL
真相を確かめなければならない。

ウーノ達に嵌められたのか?

彼女らと共に過ごした時間が、彼女らを疑う光太郎自分を咎めたが…まずはそれを確かめなければならない。

その様子を感じ取ったのか、壁をぶち抜いてロボイザーが光太郎の前で停止する…未だ半分以上の区画が勢いよく燃え盛るミッドチルダ臨海第八空港から、ロボイザーが光太郎と乗せて走り出した。
ロボイザーが静かに音速を超え、闇夜を駆け抜けていく。
不思議なことが起こっているのか、巻き起こる衝撃波で周囲に傷跡を残すこともなくその姿は何処へと消えた。


だが、光太郎がスカリエッティの研究所にたどり着いた時既に、身の危険を感じたスカリエッティも事態が掴めないまま姿を消していた。

そうして後には、もぬけの殻となったスカリエッティの研究所の壊滅と膨大な被害者。
救助された者達の記憶に、マスク・ド・ライダーの姿が残った。


以上です。
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 00:12:07 ID:3PRHIRxH
投下乙
エエエエエェェェェなにこの悪役ポジション。
ちなみにマスクド・ライダーな。マスク・ド・じゃぁ、フランス語調になっちまう
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 01:34:24 ID:HW8p1LRn
GJ!ロボライダー登場のくだりが良い
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 06:53:53 ID:N8VZkh+f
GJ
ですな、BLACKは唯一リアルタイムで見たライダーだけにライダークロス系では一番楽しみにしてます
しかし、ウーノとクアが独断で光太郎を消そうとしたように見えるなぁ。そんなに変身は嫌だったか
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 07:20:04 ID:o6AZN+ff
改造人間の子供を助ける話ですか。 RXのシャドームーンが人質の子供を助けた
後死んじゃって泣いた人は俺だけじゃないと信じたい。
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 07:32:09 ID:iLmsV55x
>>199
「sage」は半角じゃないと意味ないぞー
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 10:34:18 ID:/xfwxeel
光太郎の熱さが良いな
202一尉:2008/10/24(金) 13:38:47 ID:C39rfpPD
ざすか光太郎よ支援やる。
203超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/24(金) 16:04:37 ID:j9jM1Ccm
こんにちは、5時ごろにグラヴィオンStrikerSの新作を投下しようと思いますがよろしいでしょうか?
あらかじめ投下前に言っておきます。たびたびあったガンダム00ネタですが、今回から00ネタが濃く出てきます。
その事をご了承くださいますようお願いします。
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 16:29:58 ID:HW8p1LRn
了承!
205超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/24(金) 17:01:23 ID:j9jM1Ccm
時間ですの投下します。

 光の中にいるグラヴィオンを見てカリムはつぶやく。

「ソルグラヴィオン? ソルグラヴィオンですって!?」

 そのグラヴィオンの名を叫び、カリムは驚きを隠せない。
 一方のヴェロッサはソルグラヴィオンを見て叫ぶ。

「闇が集う中、光は必ず射す。輝け、新たなる太陽! 大地に光を、悪には正義を!」


 第17話 太陽の炎皇



 光の中から現れた「ソルグラヴィオン」は回りにいたゼラバイアを全てなぎ倒した。
 ソルグラヴィオンの姿はゴッドグラヴィオンとさほど変わらないが、明らかに違うのは左手にドリルを携えており、二つ肩には砲台がある。
 そして何よりもコア部分には左目が破損しているようで、そこからは涙が流れているようだった。その様子を見てスバル達は驚く。

「すごいパワー」
「あれも地上本部の奴なの?」

 ティアナはドゥーエに聞くがドゥーエは知らないと言った。

「あの機体、地上本部は愚か教会のデータにもなかったわ」

 そのグラヴィオンの姿を見てヴァイスは感激する。

「新型か! ダブル、いやオーグラヴィオンか!?」

 ヴァイスとは違ってヴィータは違う反応をする。

「あの機体どこかで……っつ!」

 ヴィータに突然頭痛が走る!

「な、なんだよ! 一体!?」

 ヴィータは頭を抱え込む。そしてヴィータの頭には走馬燈のように色々な事を思い出す。ヴァイス達と会ったことやなのはと初めて会った事、そしてランビアスにいた時の事も……。

「くそ、思い出したぜ。あれはグランΣ!」

 そうソルグラヴィオンのコアにはグランΣを使っているのだ。

「やっと思い出したぞ。あたしはヴォルケンリッター鉄槌の騎士ヴィータだ!」

 実はヴィータはグランΣがゼラバイアと戦っていた際にシグナム達とはぐれてしまい、戦闘の影響で記憶喪失になり、運よくヴィータもランビアスを脱出したのだ。
 しかしヴィータは今までの事を忘れ、また流れ着いた場所がミッドチルダではなく地球の海鳴市だった。しかしそれをグランΣが思い出させたのだ。

「グランΣ、どうするつもりだ? ヴェロッサ……」

 ソルグラヴィオンは着陸して地面に手を付くゴッドグラヴィオンの前に立つ。ゴッドグラヴィオンの損傷は酷く、戦闘続行が不可能なレベルにまで達していた。
 グランシグマのコックピットハッチが開き、そこから人が出てくる。その人はパイロットスーツに身を纏いヘルメットもしているため誰だかわからないが、意外にも小柄であった。
 そしてその人のパイロットスーツとヘルメットが消滅した。そこから現れたのは薄蒼いドレスのような服を着、青いリボンで金髪ツインテール、そしてフェイトによく似た顔の少女だった。

『フェ……フェイト(さん)(ちゃん)!?』

 皆が驚いた。死んだはずのフェイト(?)が目の前にいるのだ。フェイトによく似た少女は大きく手を振って皆に呼びかける。
206超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/24(金) 17:02:20 ID:j9jM1Ccm
「皆、大丈夫〜〜〜〜〜〜〜?」
「あのあなたは一体?」
「フェイトちゃんによく似てるけど、君は……」

 皆の疑問に少女は答えた。

「私はアリシア・テスタロッサ。フェイトのお姉さんだよ」
『お、お姉さん!?』

 さらに驚き。フェイトの姉と名乗るアリシアは明らかにフェイトよりも小さい。いや幼い。
 フェイトは19歳くらいなのに対し、アリシアはまだ5歳くらいの少女にしか見えないのだ。

「私はお月様からこのソルグラヴィオンに乗ってきたんだよ」
「お月様?」
「でもお姉さんがそんなところに?」
「フェイトと比べてキャラが違うわね」
「まあとりあえず説明するね」

 アリシアが説明をした。

「フェイトが死んじゃった時に、フェイトの記憶がお月様にいた私に転送されて、それでヴェロッサが皆がピンチだから帰ってきてって言われたの」
「てことはフェイトさんの記憶を持ってるって事?」
「うん、そうだよ!」

 アリシアが元気いっぱいに答えた。

「アリシアちゃん!」
「うん?」
「おかえり」

 なのはは涙を流しながら、アリシアにお帰りを言った。

「ただいま、なのは」

 その様子はフェイトが生き返ったかのようになのはとフェイトが再会しているかのようだった。

「でも私はフェイトじゃない。けど、フェイトの分も頑張る」
 ソルグラヴィオンは地面に手を突くゴッドグラヴィオンの手を持ち、ゴッドグラヴィオンを支える。
「プロトグランディーヴァの力を持つ私がいる限り、グラヴィオンは不滅だよ。エルゴ、フォーーーーム!!」

 アリシアが叫ぶと、ソルグラヴィオンは光だし、それは手を繋いでいるゴッドグラヴィオンにも伝わり2機は輝きだし、光の柱が現れる。
 その光の柱を外で見ていたヴェロッサはつぶやく。

「搭乗者の精神を増幅させて、エルゴの力を爆発的に解放させる。それがソルグランディーヴァのシステム。システムは搭乗者の脳と双方構成。
アリシアの思いと共鳴したエルゴの力は、物理空間全てに影響を及ぼす『マインドフィールド』が現れ、アリシアの想いが超重神復活になる」
 その暖かな光に包まれ、Gシャドウに乗っていたリインが完全に目を覚ました。

「リイン、目が覚めたんだね」
「おかえり、リイン」
「皆さん、ただいまです」

 リインの目にも涙が見え、リインは涙を拭う。

「スバル、ソルグラヴィオンの操縦をお願いしたいんだけどいいかな?」

 スバルのところにアリシアから通信が入る。

「やっぱり私だけじゃ少し心細くて……」
「スバル、行って。グランカイザーに乗ったことあるのスバルだけだし、ソルグラヴィオンのコアのグランΣに乗れるのも……」
「なのはさん、アリシア……、わかりました!」
207超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/24(金) 17:04:04 ID:j9jM1Ccm
 スバルは急いでソルグラヴィオンに乗る。

「よーーーーし、いっくぞーーーーーーーー! 超重けーーーーーーーーん!!」

 ソルグラヴィオンの胸部分から超重剣を展開させ、超重剣を上空に掲げる。

「ロッサ! あくまで私と戦うというのね!」

 カリムは怒り、ゲートゼラバイアのゲートがさらに広がり、またしても大量のゼラバイアが出現する。

「それは『ゴーマ』のエネルギーを使って、無尽蔵にジェノサイドロンを生み出している。いわば、あなた達はこのゴーマそのものを相手にしているのよ。
そんなちっぽけな空間切断で相手にならないわ!」

 ゴーマと言うのはカリムが今次元航行空間にいる移動要塞の事である。そして大量のゼラバイアがグラヴィオン達を襲う。

「ソルグラヴィトンアーーーーーーク!!」

 ソルグラヴィオンの額から放たれるエネルギーはゴッドグラヴィオンのものを遥かに凌駕し、簡単に現れたゼラバイアを消滅させた。

「な!?」
「いきますよ、なのはさん!」
「OK!」

 二つのグラヴィオンは上空に舞い上がり、片手を繋ぎ、もう片方は超重剣を握る。

『うおおおおおおおおおお!! 真! 超重光牙剣!!』

 超重剣から伸びるとても長い光の刃が戦闘エリアにいた全てのゼラバイアを倒し、そしてゲートゼラバイアを空間ごと切り裂いた!

「あれが究極のグラヴィオンか?」
「いやあえて言おう、最強のグラヴィオンであると!」
「許さない、許さないわ。ヴェロッサ!!」

 カリムの怒りはさらに高まったのだった。


 それから数日後、ソルグラヴィオンは分離し各ソルグランディーヴァの試運転が行われていた。

「いっヤッホーーーーーーーーーー!!」

 アリシアは自分とティアナの乗る機体を楽しそうに飛ばす。一緒に乗るティアナはアリシアの過激さにどうリアクションを取ればいいのか少しわからない状態だった。

「やっぱり、空を飛ぶっていいよね!?」
「え、ええそうですね……」

 アリシアとフェイトが別人であるのはわかっている。しかしアリシアはフェイトに似ているだけでなくフェイトの記憶もあるのだ。それなのにこの無邪気さはまさに年相応の子供だった。

「そう言えばこれなんでしったけ?」
「この子は『Geoジャベリン』だよ」
「ありがとうございます…」
「もっとティアナも楽しんでよ!」
「は、はあ…」

 Geoジャベリンが思いっきり飛ぶ様子をドゥーエは眺める。

「あの子達、よくはしゃぐわね」
「ドゥーエ、早く『Geoスティンガー』の試運転をマジメにしてくれ」
「はいはい、そう言えば他の三人は?」
「格納庫までは一緒だったけど……」
208超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/24(金) 17:05:03 ID:j9jM1Ccm
 ドゥーエは姿を見せないスバル、なのは、リインの事に気付く。三人はと言うと……。

「うわあ、かっこいい」

 スバルは「Geoキャリバー」を見てかっこよさを感じる。

「Geoキャリバーだよ」
「で、これは誰が乗るんですか?」
「私です」

 リインが手を上げて答えた。

「リインが……」
「そしてなのはには『Geoミラージュ』に乗ってもらいたい」
「なのはさんがGeoミラージュに……」
「搭乗者の意思を力に変える。理論的には次元世界一つを壊す事も作り出すことも出来るソルグラヴィオンはこの世界にとっては諸刃の剣なんだ」
「その力を背負うには私がグランカイザーに乗るのは少しつらいのだから、私はこれに乗ってスバルを支えたいの」
「……、なのはさん。わかりました! だったらなのはさんもサポートお願いします!」
「うん!」

 グランカイザーはGeoミラージュを背に付け、空を飛ぶ。その傍らにはGeoキャリバーもいる。
 そしてヴェロッサはレジアスを呼び、重大な事を教えた。

「馬鹿な……。いやもはや真実なんだろうな。ヴェロッサ・アコース、もはや現存する地上部隊の戦力ではゼラバイアに対して有効な攻撃を与えるのは不可能と言う事なんだな……。
だったら力を貸して欲しい。それは地上本部の為でも、わしのためでもない。このミッドチルダ、いや全ての次元に住むものの命にためにだ」

 レジアスが地上本部に戻った後、ヴェロッサの前には仮面を外したクロノ、いやギンガがいた。

「オリジナルのクロノさんの記憶が教えてくれたわ。ソルグラヴィオンはミッドチルダのための剣じゃない。
あれはあなたが刺し違えてでもお義姉さんを倒すためのもの。それでいいの!?」

 ヴェロッサは思わず後ろを振り向く。後ろを向いたままヴェロッサは答えた。

「ただお互いの影を見ながら生きてきたカリムと僕は、未来に向かって羽ばたこうとする若者から見たら、姿をなくした亡霊だね。
僕は今までこの空を守ってきたあの子達の炎を絶やしたくない。僕はグラヴィゴラスを飛ばす! そのためのグランΣだよ」
「! ヴェロッサさん!」
「僕は今更誰にも許してはもらえない罪人。だけど、せめて僕は僕だけのカリム義姉さんを……」
「……」

 ヴェロッサの覚悟にギンガはただ黙るだけだった。


 それから数分後、ミッドチルダ全域にカリムのホログラムが流れ出す。

「ロッサ、聞いている? 私よ。あなたの義姉のカリム・グラシアよ。遥か故郷の世界を離れて、再び戦う時が来たようね」
「あいつは、カリム!」

 そのカリムの姿をヴィータは思い出している。かつて八神はやてと共にお世話になった人だ。
 その人がこの世界を滅ぼそうとしているのだ。

「2日後、私のゴーマはもてる全てのエネルギーを使って、地上にいる全ての人類の駆除を始めます!
ロッサ、あなたが守ろうとした人類の生命、既に圧倒的な力でこの私が握っているのよ」
「48時間後に全人類の抹殺だと!? ふざけんじゃねえ!」

 ヴィータはカリムに対して怒りを隠さない。

「この世界を憎しみと悲しみ、鮮血と破壊で塗りつぶしてあげるわ。ロッサ。あなたとあなたのグラヴィオンはその生贄になって滅ぶのよ」
「こうなったらいくよ! 皆!」
『了解!』
209超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/24(金) 17:08:05 ID:j9jM1Ccm
 ソルグランディーヴァは合体してGグラディウスになり、グランカイザーはそれに乗ってカリムのホログラムに攻撃しようとするとホログラムからエネルギー波が現れ、グランカイザー達は吹き飛ばされた。
 そして三体のゼラバイアのホログラムが現れた。

「あの三体も立体映像なのか?」

 クロノがシャーリー達に尋ねた。

「はい! ただ先ほどまでのものとは出力が桁違いです!」
「滅ぶがいいわ。太陽の力よ!」
「グラヴィゴラス、発進だ!」

 ヴェロッサの承認により聖王教会全体が揺れる。

「じ、地震?」
「司令室のメインコンピュータが動力炉と直結」
「東館から強力なエルゴフィールド、クロノさんどうなってるんですか?」
「僕が今言えるのは、総員更なる衝撃に備えて体を固定しろ! 聖王教会は次元空間に向かう!」

 聖王教会は激しく揺れ、そして地上から完全に離れ、そして変形しグラヴィゴラスとなった。

「いまあたし達の事太陽って言ってましたよね」
「そうだね。私達が太陽なら私達は沈んでも何度も上る! 皆いくよ!」
「炎皇合神!」
『了解!』
「エルゴ、フォーーーーーーム!!」

 なのはが叫び、なのはの乗るGeoミラージュからエルゴフィールドが発生する。
 そしてグランカイザーを中心にソルグランディーヴァは配置に付く。

「炎皇、合神!!」

 スバルの合神声にあわせ、ソルグランディーヴァはグランカイザーと合神していき、ソルグラヴィオンが姿を現す。

『炎皇合神! ソルグラヴィオン!!』

 ソルグラヴィオンに向かって赤と青の体をしたゼラバイアが突撃をかける。

「いくよ、スバル」
「はい!」

 ソルグラヴィオンの両肩についてる砲台がゼラバイアに向けて発射体制に入り、ソルグラヴィオンの前には透明なレンズみたいなものが現れる。

「「ソルグラヴィトン、ノヴァ!!」」

 肩の砲台と胸から放たれる重力子エネルギーがレンズを通して拡大し、突撃したものだけでなく、後ろにいたゼラバイアやカリムのホログラムも消し飛ばした。

(この光がどうなるかは48時間後にかかっているな)

 ヴェロッサはソルグラヴィオンの放った光を見て心の中で思った。

210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 17:10:13 ID:HW8p1LRn
ゴルゴムの支援だ!
211超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/24(金) 17:11:56 ID:j9jM1Ccm
 その頃地上本部の格納庫では、ヴァイスがスカリエッティとウーノによってある倉庫に連れられる。そこはレジアスも知らない隠し倉庫だった。

「まさかこんなところがあったなんてな…」
「ここはレジアス中将も知らない倉庫です」
「へえ、中将が知らないってことはとんでもないものが眠ってるってことかい?」
「そういうことだね」

 暗い中、スカリエッティとウーノはヴァイスを連れて行き、目的の場所に着くと回りのライトが付く。目の前にあったのは見たこともない機体だった。
 その機体はグラヴィオンには似ておらず、グラントルーパーにも似ていない。全身真っ黒で頭部には表情が無かった。

「これは……」
「この機体は『GNフラッグ』」
「『GNフラッグ』?」
「そう、この機体には『GNドライブ』搭載されているのです」
「『GNドライブ』? 今度は何のことだ?」

 ちんぷんかんぷんなヴァイスにスカリエッティ達は説明をする。

「原理はよくわからないが、どこかの世界で開発されたものでそれを私が拾ってそれを搭載したこの機体を作ったに過ぎないよ」
「ほう、で、何で俺にこれを?」
「あなたのグラントルーパーはもはや修復は間に合いません。ですのでこちらの機体に乗ってもらいたいのですが……」
「この機体は少々扱いづらくてね。搭乗者の体に負担がかかりやすいからね。これのテストパイロットは皆体をボロボロにされて最悪のものは再起不能だったよ」
「ですが、あなたならこれを使いこなせれると私達はそう考えています」
「まさに眠り姫だ!」

 ヴァイスは飛んでもない事を口走った。

「どうします?」
「ふ、決まっているさ」

 ヴァイスはGNフラッグを見たときから決めていた。そしてその答えを言うのであった。




投下完了です。残すところあと2話になりました。
ネタとしてヴァイスの暴走に拍車がかかります。それと本当に微妙にですが原作と違う部分が途切れ途切れ出てくると思いますがそこの部分もご了承お願いします。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 19:26:09 ID:FUARzy+n
読ませていただきましたが、全体として淡白な印象が見受けられます。
小説は文章が全てです。映像作品の発信する視覚・聴覚的な情報を、文字の羅列によって表現しなくてはなりません。
その情報が圧倒的に不足しているのは明らかであり、小説というより単なる報告書を読んでいる気分にならざるを得ません。
残念なことに読者は、作者と頭脳を共有することはできません。
作者さんの頭の中では盛り上がる場面だったのかも知れませんが、細かな描写が皆無と言っていいほど少なく、気分が高揚するどころかはっきり言って萎えました。


接続詞を使って、変化のある文章を心がけていますか?
地の文で行うべき説明が消えてしまってはいませんか?
というよりそもそも、場面状況を説明する気はありますか?


他にも問題点はあるかと思いますが、特に三番目。ご一考をお勧めします。
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 19:40:51 ID:PZnL66WG
>>212
……そ お ゆ う ことは、本音スレでやれ。
あと、長々とイヤミったらしく書き込むな、ダラズ。

すまん、荒らしモドキにお触りしてしまった。
これっきりにして本日はカキコも自重する。
以下、勝手なお願いだが私も含めてスルーよろ。
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 20:08:20 ID:FUARzy+n
>>213
どうして?
嫌味の意図は毛頭ありませんし、汚ならしい言葉は使わないよう気を付けたつもりなのですが。
それともこのような指摘は全く不要、本音スレ以外は禁止なのですか?
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 20:09:49 ID:0Jf1mAtD
>>214
>すまん、荒らしモドキにお触りしてしまった。

荒らしに触れるのも荒らし

>以下、勝手なお願いだが私も含めてスルーよろ。

と言ってるんだから、スルーしよう
意見そのものは真っ当だと俺は思ったよ
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 20:11:33 ID:YrygzCOo
>>213
ダメだね。スル―はしない。
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 21:27:36 ID:NYpyV8j+
つーか>>212は別に荒らしでも何でもないだろ
>>213が潔癖すぎるだけだと思うが
218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 22:01:11 ID:+MM5Ym66
確かに多少イヤミっぽいが十分批評の範囲内だろう
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 22:05:01 ID:+MM5Ym66
スマン、ほんとスマン、sage忘れた
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 22:31:26 ID:ScDx1aDA
むしろ>>213が荒らし
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 22:52:13 ID:FUARzy+n
何だか自分の発言で投下しにくい流れになってしまって申し訳ない。
何だか文章への指摘って本スレではあまり見られないから、作者の糧になればいいなーなんて思って書いたんだけど、書き方が悪かったのかな。もっと簡潔に書いた方が。
こういうコトをする時には細心の注意と作者への敬意が第一念頭になければならないのは分かっていたつもりだけど、それでも配慮がまだ足りなかったのかもしれません。
言い方も出来るだけ丁寧に書いたつもりだったけど、かえってそれが失礼に感じられるかも、と今では反省しています。
不快に思われた方にはすみませんでした。
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 23:06:22 ID:UQMsOnV1
そう気に病むことは無い。
ただ、すぐにムキムキする人が居るから、注意した方がいいよ。
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 23:48:10 ID:qqEPiY4u
誤字以外の指摘があんまり無いのは、本当に本音の方でやってるから
なんかムキムキされたのは、黒い太陽の方の時だけ批評始めたからじゃない?
他の作品も同じように批評してたら、過剰反応されなかったと思われ
224212:2008/10/25(土) 00:05:16 ID:1qAywjpl
ID変わったかも知れないけど渦中の人です。

>>223
把握。本音は斜め読みしかしてないんで気付きませんでした。

今まで感想とか批評とか全く付けてなかったけど、たまには書いてみるかぁ!
と思って最初にあったのがこの作品だったんだ。タイミングが悪かったのかな……。
今後も色んな作品にレスつけることで償うしかないかも分からんね。


何か、ごめんね、本当に。
投下予定入れたい職人さん、空気悪くしてごめんなさい。気にせず投下して換気してください。
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 02:16:54 ID:OIZXaz2z
ここは、ささいな指摘でもマンセー感想以外は荒らしって所だからね

批評は、職人閲覧厳禁の閉じた所でしかできない。
そういう環境だからDQN職人が量産される。



この本スレも、避難所に逝けよと思う。
まあ避難所の管理人からして、何でもかんでも住人に丸投げで
自身ではなにも決めれないって人だから。

あきらめるんだw
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 03:07:45 ID:4OxkHZOo
いちいち荒らしの投下した作品に
反応するなよ
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 03:24:22 ID:OP/nkIh4
軽い皮肉が入ってる程度の真っ当な指摘でも腹が立つんなら
もっと相応しい場所(笑)が他にあるだろうからそっちいけってな話になるわな
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 03:49:46 ID:U3Vkeo5h
>というよりそもそも、場面状況を説明する気はありますか?
の辺りがムキムキ来たんじゃない?
見ようによっては作者挑発してるように見えるし
作者以外が怒るのはまったく筋違いだとは思うんだが
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 04:15:22 ID:I/qaG+fW
このスレ、応援とか展開予想とかメインで批評とかやる雰囲気なかったから>>212に唐突感があったのかもな
ただ、>>212も技術的なアドバイスとしてはあんまり有意義でもない気はするが
誰に向かってのレスかわかんないから
総論としては正しいんだけど、それ故なおのことね
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 05:23:51 ID:Dh/5H5RW
>>225
まともに荒らす勇気がないから
荒れてる時を狙って批判を装った便乗荒らしですかw
どんだけ小物なんだよw
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:08:45 ID:1tONdH77
批評だのなんだのになると荒れるんだよ。

もっと酷かった、とあるSSスレに何度もID変えて何ヵ月もの間粘着してた奴を思い出しちゃったわ。
「荒らしとかじゃなく俺はこのスレ好きだし!感想・指摘だから!」「それすら禁止して厨房作者放置するの?ねえねえ?」
って言いながら、事あるごとに投下された文章の一字一句に突っ込み入れて、最後>>12の文章を少し乱暴にした感じで締め括ってさ。
当然そのスレは、煽り合戦・そいつに対する無駄なマジレスの嵐・作者のやる気消失その他諸々で壊滅的になってそれ以来俺も見てない。

ここはそこまで酷く無いけど、程々にしておけって事よ。このスレまでそんな流れになるのはいただけん
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:09:45 ID:1tONdH77
>>12じゃなくて>>212でした、すまん
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:35:27 ID:4OxkHZOo
指摘されるだけでもありがたいだろ、常識に考えて……
まあ、荒らしには聞く耳持たずだろうがなw
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:41:12 ID:CfXSW0vd
>212は指摘の体裁を取った荒らし
最大限善意にとっても無意識の荒らし
半年ROMしろ
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:47:41 ID:Dh/5H5RW
そもそも所詮は素人の批評だからあまり当てにならん
的外れなのも出てくるし感情的な罵倒をしておいて批評だと言い張る奴もでる
SSは面白かったら褒める つまらなかったらスルーが一番いいんだよ
職人的には駄目だしすらされずにスルーされるのは
かなり堪えるだろうがその辺は仕方がない
>>231みたいに批評の類は荒らしが食らい付く絶好のエサにもなりえるから
やるんだったら隔離された場所でやったほうがいい
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:51:34 ID:4OxkHZOo
もう
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:53:19 ID:Jmyjed4T
批評も個人の感想の一つ、真摯に受け止めるも雑多に流すのも人次第

ん?つまりは『自分次第』って事だ、俺なら一々気にするのもアレだから読み流してオシマイだけどなw
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:54:29 ID:jKXbbFhs
と言うことは過敏に反応しても人次第ってことだね
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 11:03:02 ID:LQ1vnxwZ
一番荒れる原因は、作者でも無い第三者が他人の感想に噛みつく場合
>>213のほうが>>212よりはるかに害悪
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 11:10:30 ID:4OxkHZOo
>>239
駄文垂れ流している作者が一番の害悪だろ
241名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 11:32:11 ID:fKhK9ztQ
>>211からここまで読んで、まともに作品感想つけてるのが>>212しかいない件。
議論だけしたいんならそれこそ本音スレ行けよwww
242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 11:56:31 ID:0La47gqg
本音スレは議論するところじゃねぇぞw
ウロスにでも池
243名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 12:44:11 ID:0ybR0/pq
前回の騒ぎから少しは大人しくなったかと思ったが、変わってねえなここも
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 12:47:42 ID:CfXSW0vd
世代交代が進んでいるからな

悪い意味で
245THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 14:08:24 ID:OZoiKLSZ
<<まぁ、なんだ。もう少し皆落ち着こう。
とりあえずオメガ11は1500に投下したい。
どうか心あらば――あなたがたの持てる道具を持って、支援して欲しい>>
246名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 14:44:41 ID:UxxxWiBn
支援
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 14:57:22 ID:kes6qX9Z
支援
248THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:00:00 ID:OZoiKLSZ
<<支援感謝、投下を開始する>>

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第26話 MEGALITH


"世の中、全てが思い通りにはならないさ。なぁ、そうだろ?"
――とあるジャーナリストの言葉より。


隕石攻撃から一夜明けたクラナガンでは、陸士たちが救難活動を続けていた。
火災は収まったが、崩れた建物などに閉じ込められた人々はまだ多い。同時に、医薬品も不足していた。ヘリ、トラック、ジープ、果ては空戦
魔導師までもが医薬品の運搬作業に当たっているが、まだまだ足りないのは目に見えていた。
「A地区には陸士三〇二部隊を。F地区はもういいでしょう、作業中の陸士に撤収命令を。三時間の休憩の後、D地区の救難活動に」
「は、はいっ」
地上本部跡地に設置された臨時指揮所では、かつての地上本部副官オーリスが、配下の陸士たちにてきぱきと命令を下していた。
昨夜から一睡もしていないのだが、疲れを感じさせないのは、父が――レジアスが命をかけて守ろうとしたこの地を、市民を救おうという意思
が強いからだろうか。
一通りの命令を終えた彼女は指揮所の粗末なパイプ椅子に座り込み、長机の上に置いてあった、各部の報告書に目を通す。どこもかしこも、深
刻な被害を受けているため、救難活動が思うように進まない。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう――?」
いきなり脇から熱いコーヒーの入った紙コップを差し出され、オーリスはてっきり部下の一人が出したものと思って受け取ったが、視線の先に
いたのは管理局の制服の上に、白衣を背負った女性の姿があった。
「あなたは確か……」
記憶の奥から、女性の名を探し当てる。以前機動六課査察の話があがった際に名簿で見た、シャマルとか言う六課の医務官だ。
「――機動六課は、スカリエッティの確保に向かったと聞きましたが?」
「ええ。でも、がら空きにする訳にはいきませんから」
またいつ隕石が降ってくるとも限らないし、とシャマルは付け加える。同時に角砂糖を持ち出して、オーリスにいくつコーヒーに入れるか問う。
「……二つお願いします」
「リンディスペシャルって言うのもありますが?」
「遠慮しておきます」
角砂糖が放り込まれたコーヒーをオーリスは改めて受け取り、一口飲む。たったそれだけなのに、身体中の疲れが消えていくような気がした。
「――考えられませんね、まったく」
「あら、美味しくなかったですか? まぁインスタントだし――」
「そうではなくて」
コーヒーのことかと思ってシャマルはオーリスの言葉に反応したが、当の彼女は苦笑いを浮かべながら首を振って答えた。
「ほんの数ヶ月前なら、本局寄りの機動六課の方とこうしてコーヒーを飲むなんて、あり得ません。何もかも変わってしまった、あの男がここ
に来てから……」
「――この場に"リボン付き"がいたら、こう言うでしょう。俺はきっかけを作っただけだって」
今はこの場にいない一人のエースパイロットの存在を口にしながら、二人はクラナガンの空を眺めた。昨夜は死の流星群が降り注いでいたあの
空は今は曇り。その向こうでは、彼女らの仲間たちが戦っている。
どんよりした曇り空に何か嫌な予感を感じたのは、気のせいだろうか。臨時指揮所に設置されていた通信機と、ほとんど同時に指揮所に入って
きた守護獣ザフィーラの発した言葉は、まったく同じだった。
「指揮所、応答願う! また隕石が降ってきた!」
「シャマル、外を見ろ! 隕石が落ちてきたぞ!」
はっとなって、シャマルとオーリスは指揮所の外に出る。灰色の曇り空に、はっきりと見える赤い凶暴な姿をした隕石が、いくつも姿を見せて
いた。
「……シャマル医務官、負傷者の救護を引き続き、お願いします。必要なら、陸からも応援を出します」
「ええ、よろしくお願いします。こちらも本局に掛け合って、次元航行艦を出してもらうように頼んでみます」
二人はただちに行動に入る。
ここに来て、もはや管理局内の対立はほぼ消え去っていた。目の前の命を助けるために、陸も海もない。今はただ、自分たちにできることを。
249THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:03:01 ID:OZoiKLSZ
時を同じくして、メガリス付近上空。
空中管制機ゴーストアイは、クラナガンより隕石の落着がまた始まったとの報告を受けていた。すなわち、停止していたメガリスがまた動き出
したのだ。
「急がねばなるまいな……まだクラナガンはダメージを負ったままだ。ゴーストアイより各機、状況報告」
ゴーストアイが各機に通信を送ると、即座に威勢のいい返答が返ってきた。皆、最終決戦ということで士気は非常に高いようだ。
「アヴァランチ、スタンバイ」
「ウィンドホバー、スタンバイ」
「スカイキッド、スタンバイ」
まずは地上本部所属の戦闘機隊、F/A-18Fのパイロットであるアヴァランチ、F-16Cのパイロット、ウィンドホバー。最後にMir-2000のパイロットで
あるスカイキッド。いずれも四機編隊の編隊長であり、配下に同じ機体の僚機を連れている。
「ライトニング1、スタンバイ」
「ライトニング2、スタンバイ」
「スターズ2、スタンバイ」
今度は打って変わって美しい女性の声が続く。機動六課所属の空戦魔導師、フェイト、シグナム、ヴィータの三名だ。いずれもバリアジャケット
に騎士甲冑、リミッターも出し惜しみをせず完全解除済み。今なら戦闘機にも遅れは取らないだろう。
「メビウス1と黄色の13は?」
最後にゴーストアイが問うのは、二機の異機種編隊。尾翼にリボンのマークをつけたF-22と、主翼の先端を黄色で彩ったSu-37。
「メビウス1、スタンバイ」
「黄色の13、スタンバイ」
ユージア大陸最強のエース、メビウス1と黄色の13が返答。ただでさえ一人でも手強いと言うのに、二人のエースが手を組んでしまった。もう
何者でも、彼らを撃ち落すことは叶わないはずだ。
あとはなのはが居ればな、とメビウス1は思う。管理局のエースオブエースは、後方の母艦"アースラ"で待機中の身だ。
――いや、今の戦力で充分だ。今の彼女を戦場に出す訳にはいかない。
首を振って思いを振り切り、メビウス1はふと、ゴーストアイとのデータリンクにより表示される、サブディスプレイのレーダー情報に視線を
落とす。敵味方不明の機影が多数、こちらに迫りつつあった。
「来たぞ、敵の歓迎委員会だ。数は――三〇、後方にガジェットU型と思しき反応もある」
ゴーストアイの言葉を聞いて、各員はそれぞれの兵装のセーフティを解除していく。これを突破しないことにはメガリスに辿り着けず、メガリス
本体に設置されている対空火器の排除もできない。そうなればメガリス停止のために突入する部隊を乗せたヘリは、あっという間に撃墜される
だろう。
「これが最後の戦闘になる――各機、今日は俺の誕生日だ。プレゼントには、終戦記念日を頼む」
「了解、ゴーストアイ。帰ったらお前のバースデイパーティだ」
相変わらずのアヴァランチの調子のいい軽口に、ゴーストアイはにやりと笑い、「楽しみにしておく」と返答。そうして表情を引きしめ、改めて
指示を下す。
「――All aircrft,follow"Mobius1"and"Yellow 13"!」
ゴーストアイの命令により、各員は一斉に加速していく。
迎撃機との空戦、開始。
250THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:06:03 ID:OZoiKLSZ
迎撃に上がったのは例によってZ.O.Eシステム搭載の無人機、Su-35とF-15Eだった。彼らは当然のことながら無人機ゆえ、人格はない。
だが、むしろその方がよかったかもしれない。仮に人格があれば、真っ先に突っ込んできた二機を見た瞬間、彼らは逃げ出すだろう。
突っ込んできた二機――メビウス1と黄色の13は、その圧倒的な技量を持って、敵編隊を混乱に陥れようとしていた。
「13、下に逃げた奴をやれ。俺は上に行く奴を叩く」
「編隊長はお前か、リボン付き?」
「いいからホラ、やるぞ。メビウス1、フォックス3!」
指示を出されることに文句を言う黄色の13を無視して、メビウス1は火器管制装置が選んだ目標をロックオン、ミサイルの発射スイッチ
を押す。今回もステルス性を無視する形で装備された主翼下のAIM-120AMRAAMが六発、一斉に切り離され、ロケットモーター点火。各々がロック
オンした目標に突き進んでいく。
哀れにも標的にされた敵機は回避機動を取るが、AIM-120は無情にも彼らに迫り、近接信管を作動させ、爆発。たちまち六機が後部胴体や尾翼
を破片と爆風により食いちぎられていく。
いきなり先頭部隊を潰された敵機はわらわらと編隊を崩し、上、下と分かれてメビウス1と黄色の13に挑む。上下に挟み撃ちする考えのようだ。
仕方ない、と黄色の13は自分に挑んできた二機のF-15Eを睨み、エンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。加速する彼の
愛機Su-37はF-15Eと交差し、旋回して後を追う。
「一機いない……?」
F-15Eを正面に捉えた黄色の13は、片割れのもう一機の姿がそこにないことに気付く。
――なるほど、そういう魂胆か。だが!
歴戦のエースの眼は、無人機の考えなどお見通しだった。即座に操縦桿を左に倒し、ラダーペダルを踏み込む。ぐっと若干強めのGが圧し掛かって
きて、Su-37は左にロールしながら、機首を低空へと向けていく。
下へと沈む機体を制御しながら、黄色の13は首を右に振る。姿の見えなかったもう一機のF-15Eが、高速で行き過ぎていった。彼らは一機を囮に
もう一機で黄色の13を撃墜しようと企んでいたのだ。だが、その目論見は読まれていた。
F-15Eが行き過ぎたのを確認すると、黄色の13はただちに機体を立て直す。Su-37は彼の操縦に機敏に反応し、機首を行き過ぎたF-15Eと囮になって
いたもう一機に向けると、ロックオンを開始。
「――フォックス2!」
ミサイルの弾頭が敵機を捕捉したことを知らせる電子音が鳴り響き、黄色の13は発射スイッチを押す。主翼下から勢いよく加速し、敵機に突き進む
R-73短距離空対空ミサイルは確実にF-15Eのエンジンから放たれる、大量の赤外線を捉えていた。
命中、二発のR-73はそれぞれが定めた目標に直撃し、敵機を木っ端微塵に吹き飛ばす。
「上手いぞ13、その調子だ」
「喋ってないで敵を片付けろ、リボン付き」
「かわいくねぇなぁ――っと」
黄色の13の華麗な空戦に賛辞を送るメビウス1だったが、その後方には一機のSu-35が食らいつこうとしていた。いくらステルス機のF-22といえど、
視認距離の格闘戦なら撃墜される恐れが出てくる。
メビウス1はフレアの放出ボタンを叩き、あらかじめ赤外線誘導のミサイルに撃たれないよう対策を打っておいて、その上で操縦桿を引く。F-22の
機首は跳ね上がって急上昇を開始する。
ちらっとメビウス1はGメーターの数値に視線をやる。通常なら「1」と表示されるそれは、あっという間に「8」に達していた。自身の体重の八倍
の重力が、身体に容赦なく圧し掛かってくる。
低い唸り声を上げながら、それに耐える。もう少し耐えれば、黄色の13か、そうでなくても後から続く味方が後方の敵機を排除してくれるはずだ。
高いGのため、首はほとんど動かない。目玉だけを動かしてコクピットの正面上位に設置したバックミラーに目をやると、案の定後ろにいたSu-35は
次の瞬間、爆発していた。
ほっと一息ついて機体を水平に戻して周囲を見渡すと、ヴィータがグラーフアイゼンを片手にF-22のすぐ傍にやって来ていた。
「よう、メビウス1。後ろの雑魚は片付けといたぞ」
「サンキュー、助かった。後でアイスでもおごろう」
「そいつぁ楽しみだ!」
勢いに乗る彼らと彼女は、次々と敵戦闘機を駆逐していった。
251THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:09:04 ID:OZoiKLSZ
メビウス1と黄色の13、それにヴィータが敵機を蹴散らしている間に、戦闘機隊とフェイト、シグナムはメガリス本体に接近しつつあった。
対空砲火のレーダーが、彼らと彼女らを探知したのだろう。メガリスに設置された対空機関砲は一斉に銃口を天に向け、ありったけの弾丸をぶっ放し、
見る者全てが恐れるほどの分厚い弾幕を張った。
「すげぇ弾幕だな……」
「どうした、アヴァランチ? ビビッたか」
あまりの大量の弾幕にアヴァランチは声を上げ、それにウィンドホバーが反応した。アヴァランチはしかし、コクピットの中で首を振る。ここまで
来ておいて、今更何を恐れようというのか。
「馬鹿言うな、ちょっと感想を言ってみただけだ。さぁ、天使とダンスだ!」
「了解、その意気だ!」
「ライトニング、対空砲火は俺たちが引き付ける。その隙に叩け!」
フェイト、シグナムに向けてスカイキッドが言い放ち、戦闘機隊はそれぞれ分散し、上昇。メガリス上空に躍り出ていく。
たちまち、メガリスの装備する無数の対空機関砲、それに地対空ミサイルが彼らにその矛先を向けてきた。
撃ち上げられる対空砲火は、端から見ると無数のアイスキャンディーのようだ。ときどき飛び交う白煙と爆風はミサイルのものだろう。戦闘機隊は
散らばり、各個に思い切り回避機動をやってそれらを回避し続ける。
「――いくら彼らでも、長くは持ちそうにない。テスタロッサ、素早く終わらせるぞ」
「了解、シグナムも気をつけて」
荒れ狂う対空砲火の嵐の中、フェイトとシグナムはメガリスに向かって急降下、急接近。いくつかの機関砲が彼女たちを撃ち落そうと銃口を向けて
きたが、戦闘機よりもはるかに小さい魔導師である。赤いビームのように見える火線を潜り抜けていき、二人はメガリス本体の外面に到着する。
ここまで来てしまえば、もうこちらのものだ。対空機関砲は自分たちの同胞への誤射を恐れて、積極的に撃ってこない。
「飛竜……」
愛剣レヴァンティンを鞘に収めて、カートリッジロード。魔力を上乗せされた刀身は鞘の中で、シュランゲフォルムに。
「一閃!」
力を込めて、彼女は居合い斬りのようにレヴァンティンを振りぬく。変幻自在な長い蛇咬の刀身が宙に舞い、機関砲の砲身を、砲塔を切り裂いて
いく。一振りするだけで、機関砲の群れの一角はたちまち沈黙していく。
――隙間なく集中配備をやりすぎたな。
戦闘の真っ最中だが、シグナムの思考は冷静だった。対空機関砲はメガリスの外面いっぱいに敷き詰められるように設置されており、結果的に
まとめて潰しやすくなっているのだ。
これならば、と彼女が思った瞬間、不意に後ろから殺気を感じて、シグナムは跳躍する。潰し切れなかった機関砲が、彼女の背中に狙いを定め
ていた。シグナムがその場を離れて一瞬した後、今まで立っていた場所に機関砲の弾丸が叩き込まれる。騎士甲冑を持ってしても、あのまま
気付かなければミンチにされていたかもしれない。
「油断大敵か――!」
背筋に冷たいものを感じながら、シグナムは体勢を立て直す。だが、彼女が手を下すまでもなく、生き残りの対空機関砲を真っ二つにしていく
者の姿があった。メガリス上面を駆け回る金色の閃光は、フェイトだ。
機関砲の火器管制は彼女を照準に捉えようと必死に足掻くが、光の如くの速さで迫るフェイトの前には無力だった。やっと正面に捉えたその
瞬間、砲台丸ごとザンバーモードのバルディッシュから伸びる、光の刀身によって叩き切られていく。
「シグナム、まだ終わってないですよ」
「――無論だ」
フェイトに言われて、シグナムはレヴァンティンを構え直し、まだ手付かずの対空機関砲の群れに立ち向かうことにした。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 15:11:21 ID:UxxxWiBn
支援
253THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:12:06 ID:OZoiKLSZ
「メガリスの対空砲火、約50パーセントが沈黙。ヘリはメガリスに突入せよ」
戦況をモニターしていたゴーストアイからの指示が飛び、ヘリの機内にいたティアナはいよいよか、とクロスミラージュを握り締める。
彼女だけでなく、スバル、エリオ、キャロ、そして同乗していたベルツ率いる陸士B部隊が、戦闘態勢に入った。
「ちょっと乱暴になる、気をつけろよ!」
ヘリの操縦を務めるヴァイスは機内の彼女たちに一声かけた上で、メガリスに向かってヘリを超低空飛行で突っ込ませる。
半分は沈黙したとは言え、メガリスの対空砲火はまだ動いている。何門かがヘリを見つけて、弾丸を叩き込んできた。ヴァイスはそれらを操
縦桿を巧みに操り、機体にランダムな機動をさせて回避していく。もちろん、決して歩みは止めていない。ヘリは弾幕を抜けながら、メガリス
に迫っていた。
「イテッ! ……ヴァイス陸曹、次に俺たちが乗る時は安全運転で頼む」
「合点承知。そら、降下ポイントだ!」
急機動のせいで頭を機内にぶつけたベルツは文句を言いつつ、ヴァイスの言葉で降下準備に入った。ティアナたちと違って魔導師としての技量
は劣る彼らは、降下方法もロープによる高速降下とアナログなものだ。だが、ここでティアナたちを消耗させる訳にはいかない。メガリス内部
には、おそらく大量のガジェットが待ち構えているはずだった。
「ハッチ開けるぜ、幸運を!」
「了解、ありがとう――さぁ野郎ども、行くぞ。彼女らに俺たちの勇姿を見せてやれ!」
「了解!」
「GO!GO!GO!」
ヘリの後部ハッチが開き、冷たい風が機内に流れ込んでくる。地面に向けてロープが吊るされ、ベルツを先頭にB部隊の陸士たちは降下していく。
地面に降り立った彼らは、メガリスの巨大さと外気の予想以上の寒さに顔をしかめつつ、手にしていたアサルトライフルやサブマシンガンを構え
周辺警戒。対空砲火は依然として派手に撃ち上げているが、地面に降りた彼らを狙うものは見当たらなかった。
ベルツは上空のヘリに合図を送って、ティアナたちに降下ポイントの確保に成功したと伝える。
「……さぁ、みんな行くわよ。最終決戦、あたしたちの任務は!?」
「リイン曹長をサブコントロールルームまで連れて行く!」
「はいです!」
ベルツからの合図を確認したティアナは降下直前、後ろを振り返って仲間たちに問う。スバルとリインフォースがそれに答え、エリオとキャロ
が続く。
「それから、メガリスを停止させて!」
「最終的には、内部にいるはずのスカリエッティの確保!」
「上出来。それでは、降下開始!」
ティアナの言葉で、六課の新人たちは先に降下した陸士たちの後を追うべく、ヘリから飛び降りた。
バリアジャケットを装着しているというのに、やはり外気はティアナにも冷たく感じた。耳に入ってくるのは、冷たく生物の存在を許さない、
耳障りな風。
――否、それだけではなかった。風に混じって微かに聞こえる、鋼鉄の翼たちの咆哮、すなわちジェットエンジンの轟音。それがなんだか、
ティアナには頼もしく思えた。あの空の向こうで、メビウス1も戦っているはずだった。
「あたしだって……!」
震える腕は、武者震いか。ティアナはメガリスの巨体を睨みつけながら、戦場へと到着する。
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 15:14:17 ID:uehKVEOP
支援
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 15:14:40 ID:kes6qX9Z
支援
256THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:15:07 ID:OZoiKLSZ
メガリス内部、メインコンピュータがある一室。そこに、全ての元凶はいた。スカリエッティ、その人である。
狂人のような薄ら笑いは相変わらずだが、今日の彼は格好が違った。いつもの科学者の白衣ではなく、黒い特殊な宇宙服のようなもので身を
包んでいた。そして、首筋には何かのコードのようなものがぶら下がっている。
「……おや、侵入者か」
笑みはそのまま、内部に張り巡らされたセンサーが、侵入者がいることを知らせてくれた。コンピュータのキーを叩いて、一番近い監視カメ
ラを操作し、侵入者の正体を探る。
「あぁ、また君たちか」
監視カメラに映ったのは、市街地戦用の迷彩服を着た陸士たち、それに続くバリアジャケット姿の少女三人、少年一人。
最初に見た時はなかなか面白いと思ったものだが――今は、もう興味がなくなっていた。それよりもこのメガリスだ。
素晴らしいなぁ、まったくとスカリエッティは天井を見上げ、メガリス全体に愛しげな視線を向ける。
最初に彼がメガリスを見つけたのは、この永久凍土の地で、極めて小規模な次元震が起こった時だった。
あいにくの猛吹雪の日だったので管理局は調査を断念したが、スカリエッティはこれがどうも気になって仕方がなかった。それゆえ、多数の
ガジェットを悪天候で失いつつも、調査を続けた。
その結果、ガジェットのカメラ越しに彼が見つけたのは、まるで王城のような要塞だった。破壊の跡が見られたが、原型そのものは崩れてお
らず、非常に頑丈に設計されたことが目に見えてわかった。
この要塞を調べていくうちに、スカリエッティは驚愕し、徐々に魅せられていった。
内部にあったコンピュータからこれが異世界のものであることを知り、その世界での歴史を見た。小惑星"ユリシーズ"の墜落からなる一連の
ユージア大陸戦争。そして、"ユリシーズ"が生み出した破壊と混乱を思い知らされたはずの人間が、こうしてその悪夢を再現できる要塞を建造
したことから、彼は一つの結論に至った。人は、戦争をやめられないのだと。どうしようもないくらい、殺戮が大好きなのだと。
だから――スカリエッティは行動に移したのである。いかにそれが愚かな行為であるか、身を持って教えてやろうとした。
それが彼の行動理念だった。それが彼の思う人間に対する"救い"なのだと。
「さぁて……それでは始めよう」
スカリエッティは立ち上がり、警報用のスイッチを押す。今頃、各部で待機していたガジェットが一斉に飛び出してくるだろう。
しかし、それだけで彼らは止められるだろうか。そんな疑問がふと沸いて出てきたが、心配いらない、とスカリエッティは自分に言い聞かせた。
いざとなれば、最強の切り札がまだあるのだから。
257THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:18:08 ID:OZoiKLSZ
「おかしい……」
メガリス内部に侵入したベルツたちは、あまりの静けさにむしろ恐怖感を抱いていた。
アサルトライフルの銃口は絶えず正面に向けているが、敵が出てこないのでは意味がない。
「どう思う、ランスター?」
「――どっかで待ち伏せしているんじゃないかと」
「同感だ」
ティアナとお互い指揮官として意見を交わし、ベルツは自ら先頭に立ち、歩みを進めていく。
内部ではかつて戦闘があったのだろうか、いくつもの銃弾による穴があり、手榴弾でも使ったのか、派手に壁がへこんでいる部分もあった。
鼻腔をくすぐるのは、わずかに残った硝煙の匂い。ベルツはあまりいい雰囲気ではないな、と胸のうちで呟いた。少なくともデートスポット
としてはお断りだろう。
「――こいつか」
前進していると、出撃前のブリーフィングにて通達されたサブコントロールルームへと繋がる扉が見つかった。
「押しても引いてもダメっぽいな」
「電子ロックでしょう。リイン曹長、出来ますか?」
「はーい、ちょっとお待ちを……」
ティアナはリインフォースに頼み、扉のすぐ隣にあった端末と思しきものにアクセス出来ないか試みた。これで開くなら、メガリスの発電用
ジェネレーターを破壊して、停電を待つ間でもない。
「――やっぱりダメです。すごく強力な電子ロックが掛けられています」
ところが、やはりそう簡単には開かないらしい。リインフォースは端末から離れ、首を振った。
「仕方ない、予定通りジェネレーターの破壊を待って……っ」
ベルツが口を開いたその瞬間、メガリス内部に警報が鳴り響いた。どうやら、最初からここまで追い込む魂胆だったらしい。今にガジェットの
群れがわんさか押し寄せて来るだろう。
「ただ待たせるだけじゃ悪い、と思ったんだろうな。客が来たらお茶とお菓子もお出ししないと」
「いやなお茶とお菓子ですね」
愚痴をこぼしながら、しかしベルツとティアナは不敵な笑みを交わす。向かってくるなら、迎撃するまでだ。
「ソープ、ジャクソン、タンゴ分隊とチャーリー分隊を率いてそっちの通路を死守だ。残りは俺と一緒にそこのB扉から来る敵を迎え撃つ」
「エリオ、キャロはタンゴとチャーリー分隊の援護に回って。スバル、あんたはあたしと同じでベルツ二尉の援護」
『了解!』
怖いか?と聞かれれば、この場にいるもの全員が頷くだろう。だが、逃げ出したいか?と聞かれれば、全員が首を振る。
もう、逃げ込む場所などどこにもない。立ち向かっていくしかないのだから。

こいつでラスト――!
右へ左へと旋回して逃げ惑うF-15Eの、上でテニスが出来ると称されたほどの大きさを持つ主翼に向かって、メビウス1は機関砲の引き金を引く。
F-22の主翼の付け根に装備された二〇ミリ機関砲が唸り声を上げ、赤い曳光弾がF-15Eの胴体を貫いていく。
穴だらけにされたF-15Eは次の瞬間には爆発、その身を空中へと四散させた。
「ふぅ……」
酸素マスクの中で一息ついたメビウス1は、視線を落としてレーダー画面を確認。すでにそこに敵機の姿はなく、映っているのは味方機のみだ。
「こちらゴーストアイ、全ての敵機の撃墜を確認。残弾、状況知らせ」
「こちらメビウス1、AMRAAMは使い切った。サイドワインダーが二発、機関砲弾が二一〇発。燃料、機体には問題無し」
ゴーストアイに言われて、メビウス1はウエポン・システムを操作し、残存する兵装をサブディスプレイに表示させる。残っているのは短距離
空対空ミサイルのAIM-9サイドワインダーと機関砲のみだ。
「こちら黄色の13、機関砲弾が残り八〇発。ミサイルは、R-73が一発。燃料はまだ大丈夫だ」
「こちらスターズ2、カートリッジはあと二個だが、まだやれる」
黄色の13とヴィータもゴーストアイに報告。ひとまず敵機の脅威は排除されたので、彼らはメガリス上空に向かい、対空砲火の制圧を行って
いるフェイトとシグナム、戦闘機隊の援護に向かうことになった。
258THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:21:08 ID:OZoiKLSZ
とは言え、その必要はあるんだろうか――?
メビウス1の考えは、当たっていた。メガリス上空に到達したはいいが、対空砲火はすっかり静まり、たまに生き残りが散発的に撃ってくるだけ
だった。フェイトとシグナムが大暴れした結果だろう。戦闘機隊も被弾した機体はあっても、撃墜されたものはいない。
「こちらメビウス1、敵戦闘機を全て排除した。何か手伝えないか?」
「こちらスカイキッド――何、あれを全部落としたのか!?」
スカイキッドが驚愕し、続いて戦闘機隊の面々も驚く。たった二機と一人で三〇機もの敵機を全て撃墜したのだから、その実力は推して知るべし
であろう。
「アヴァランチよりメビウス1、せっかく手伝いに来てもらってなんだが、大概の目標は潰しちまった。あとはジェネレーターだけだ。今、ライ
トニングの二人が破壊に向かってる」
アヴァランチの言葉で、メビウス1はコクピットから身を乗り出すようにして、眼下のメガリスを見る。
ほぼ沈黙した対空砲火、それらを素通りして、フェイトとシグナムがメガリスの排気ダクトに向かうのが見えた。
今回は出番無しか、とメビウス1は思う。トンネル潜りは得意なのだが、わざわざ危険を冒して、戦闘機には非常に狭い排気ダクトに突っ込んで
ジェネレーターを破壊することもあるまい。
しかし――思わぬ障害が、彼らの前に立ちふさがった。
「こちらライトニング1、これより排気ダクトに侵入して……わぁ!?」
いきなり通信機にフェイトの悲鳴が入り込んできて、メビウス1は何事かと眼下を見る。
メガリスの三つの排気ダクト、その周囲に、地下からぬっと何門もの速射砲が姿を現していた。隠し砲台に違いない。
「っく……」
「どうした、何があった。ライトニング、応答せよ!」
通信機にいかにも苦しげな声を送ってきたのはシグナムだろう。ゴーストアイが、何事かと彼女に問う。
「――敵の速射砲弾は、いずれもAMFが内蔵されている! 我々では近付けない……!」
「こちらライトニング1……同じくです。物凄い高濃度のAMFが――」
シグナムとフェイトはそう言って、上空へと退避してきた。ただちにゴーストアイが敵の砲撃を分析する。
「――出たぞ。ライトニング2の言うとおり、敵の砲弾にはAMF発生装置が搭載されている模様だ。炸裂と同時に、周囲にAMFの粒子をバラ撒いて
いる。これでは魔導師では無理だ。AMFの影響を受けにくい者……戦闘機が、排気ダクト内に侵入するしかない」
「なんだって!? 無茶を言うなゴーストアイ!」
ゴーストアイが出したとんでもない提案に、ウィンドホバーは驚愕と抗議の声を上げる。
確かに、戦闘機で排気ダクト内に突入するなど、ほとんど自殺行為に等しい。少しでも操縦を誤れば壁面に激突してしまう上、その狭さから乱気
流も発生する。つまり、機体は常に不安定な状況に晒されるのだ。そんな状況下、瞬きする間に数百メートルかっ飛んでいく機体を操り、ジェネ
レーターに致命弾を与え、脱出するなど――
「……分かった、俺が行こう」
「こちら黄色の13、同じくだ」
否、それが可能な彼らがここにいた。メビウス1と黄色の13は、さも当然のように言ってのけた。
「おい、正気かよメビウス1! 対空砲火だってまだ……」
「ヴィータ、別にこれが初めてじゃない。13の方は知らないが」
「任せろ、トンネル潜りなら得意だ」
「――だ、そうだ」
止めようとしたヴィータに、しかしメビウス1は気楽な返事。黄色の13もまた、余裕たっぷりな口調だった。
ゴーストアイは暫し沈黙する。出来ると言っているが、果たして危険な場所に彼らを送り込んでいいものか、他にもっといい対策はないのか。
思考を巡らせるゴーストアイだったが、メガリス内部からの通信が入り込んできた。突入したベルツのB部隊、それにティアナたち六課のフォワード
部隊だった。
259THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:24:11 ID:OZoiKLSZ
「こちらスターズ4、敵と交戦中! 早いとこお願いします」
「来たぞ、K扉に敵だ! 近付けさせるな!」
どうやら、内部に配置されていたガジェットと交戦を開始したらしい。通信の奥では、すでに銃声が響き渡っている。
「アルトマン、手榴弾を使え!」
「畜生、火炎放射器だ!」
「撃て撃て、階段のところだ!」
銃撃戦はかなり激しいようだ。ガジェットの総数は不明だが、その数は多いと見た方がいい。となれば、素早くジェネレーターを破壊しないと、彼ら
と彼女らは袋のねずみにされてしまう。
ゴーストアイは意を決して、メビウス1と黄色の13に通信を入れる。
「――メビウス1、13、やってくれるか?」
「了解、任せろ」
「こちら黄色の13、了解だ」
二機は主翼を翻し、メガリスへと立ち向かう。目指すは排気ダクト内、三つの発電用ジェネレーターだ。それらを全て破壊すれば、メガリス内部の電力
供給は断たれ、サブコントロールルームへの扉が開く。
「13、自信はあるか?」
「愚問だぞ、リボン付き。この程度――」
二機は二手に分かれ、それぞれ別の排気ダクトに向かう。黄色の13はメガリス本体の側面に設置された、排気ダクトに向かって突き進む。
「どうと言う事はない!」
アフターバーナー、点火。黄色の13は愛機Su-37を突撃させた。メビウス1のF-22も同じく、ただし彼はメガリス本体正面、二つある排気ダクトのうち
一つに突き進んでいた。
隠し砲台として姿を現した速射砲は絶えず砲弾を放ってくるが、Su-37は機首をわずかに逸らすなどランダムな機動を取って、速射砲の火器管制を幻惑する。
ガン・スモークと呼ばれる黒々とした煙の中を突き抜け、黄色の13はついに排気ダクト内部へと侵入する。
「――!」
内部に突入すると、Su-37がガタガタと揺れ始めた。乱気流のせいで、まっすぐ飛べないのだ。黄色の13はそれを絶妙な操縦桿とラダーペダルの操作で
耐え抜き、排気ダクト内を進む。
主翼が壁面を引っかきそうになって冷やりとしたが、どうにか大丈夫そうだ。黄色の13は恐怖と胸のうちで格闘しながら、正面を睨む。
――あれか!
排気ダクトの奥、壁面に明らかに付け加えられた形跡のある、発電用ジェネレーターが、彼の視界に映り込んだ。
ただちにウエポン・システムを操作して機関砲を選択。ぎりぎりにまで引き付ける。機関砲の口径は三〇ミリと大きいが、破壊するなら距離を縮めた方が
いい。
酸素マスクから送られてくる酸素をたっぷり吸い込み、落ち着け、落ち着けと黄色の13は自分に言い聞かせる。
「捉えた……!」
絶妙の距離とタイミング、黄色の13は引き金を引く。Su-37に搭載されたGsh-301三〇ミリ機関砲が、待ってましたとばかりに火を吹いた。
放たれた機関砲弾はジェネレーターにいずれも直撃し、爆発。黄色の13は一瞬怯み、しかしエンジン・スロットルレバーを叩き込む。
Su-37は爆風を突き破り、そのまま排気ダクトを駆け抜けていった。
排気ダクトの向こう、眩い空にSu-37は飛び出す。視界が急に明るくなって黄色の13は眼が霞む感覚を覚えたが、身体は愛機と一体化したかのように操縦桿
を引く。Su-37は上昇するが、対空砲火の赤い弾丸が後ろから追いかけてきて、彼は背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
これだから対空砲と喧嘩するのは嫌なんだ――。
胸のうちで愚痴をこぼしながら、機体を水平に戻す。眼下に視線をやると同じようにもう一つの排気ダクトから、対空砲火に追い出されるような形でF-22が上
昇してきた。メビウス1も、ジェネレーターの破壊に成功したのだ。
「あぁ、怖い怖い。どうだった、13?」
「ばっちり破壊に成功だ。そっちはどうだ」
「同じく破壊成功。残りは――」
F-22のコクピット、メビウス1が視線を下げるのが見えた。黄色の13がその先を辿ると、三つあるうちで唯一まだ突入されていない排気ダクトがあった。
「アレだけだ。さぁ、行くぞ13。全てを終わらせよう」
「了解だ」
二人のエースは操縦桿を翻し、機体を降下させる。目指すは最後のジェネレーター。これを破壊すればメガリス内部は停電を起こし、サブコントロールルーム
への扉が開く。そうして、リインフォースがメインコンピュータに接続して起動を停止させるのだ。
間違いなく、戦闘は終局へと向かっていた。
だが――メガリス上空の冷たい寒気は、この地に雪を降らせようとしていた。
生命の存在を許さないこの永久凍土の地の寒さが、勢いを増す。それはさながら、メガリス――王が、怒りを露にしたようだった。
怒りの矛先が誰に向けられるのか、それに気付く者はこの場にいなかった。
260THE OPERATION LYRICAL:2008/10/25(土) 15:27:17 ID:OZoiKLSZ
投下終了です。支援感謝!
推奨BGMはやっぱり「Megalith - Agnus Dei-」で。
え、死亡フラグ? やだなぁそんなものはどこぞの基地に恋人がいて
帰ったらプロポーズする予定で花束も買ってある奴だけで十分です。
と言う訳でクライマックスまでもう少しですので、しばらくお待ちください。
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 15:33:39 ID:UxxxWiBn
PJのことか!!!
ってことでGJです

ところでPJとGJって似てますね
262リリクラ:2008/10/25(土) 15:54:19 ID:qSWTEUT2
初めまして
16:30頃から「リリカル・クラッカーズ」を投稿します。
クロス元は富士見ミステリー文庫の「Dクラッカーズ」です。
初投稿なのでお願いします
263一尉:2008/10/25(土) 15:54:52 ID:SJZxNEpm
うんとっちにも似ているね。
264名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/25(土) 16:24:22 ID:6jKnAbgo
GJ!!
やはり、エスコンだったら戦闘機でトンネルくぐるのは恒例だろと
にやにやしつつ見てました。
だが、スカはまだ何か隠してるみたいだが、
どんな、隠し玉を持っているか次回も楽しみに待ってます。
265リリクラ:2008/10/25(土) 16:30:37 ID:qSWTEUT2
予告通り投稿開始します



高層建築の立ち並ぶ都市の一角。
夜の闇と、静かに降る雨に包まれながら一つの人影が歩いていた。

整った顔立ちだが、不思議と印象に残らない容貌の男。落ち着いた風格がある一方で
全てに興味が無い無関心さを連想させる。
男は無言で状況を確認するように周囲を見渡す。

突然男の一歩後ろ、一瞬前まで誰もいなかったはずの空間に二つの影が現れた。
否、実際にそこには誰もいない。二つの影は男にしか見えない『悪魔』だ。

「さて、僕らは何故こんなところにいるんだろうね? さっきは『魔法』なんてものも見たし、どう考えても
 僕らの知る世界ではない。」

右の影―――どこか楽しげな笑顔を浮かべた半月眼鏡の青年。そんな皮を被った悪魔に
もう一つの影―――彫りの深い怜悧な顔立ちに長い銀髪、ワインレッドのスーツという
眼鏡の悪魔に比べ随分派手な悪魔が似合わない訛りで応える。

「そんなん俺に分かるわけ無いやろが。そうゆうん考えるんはお前の仕事やろ、ひょうたん眼鏡」
「別に答えを期待したわけじゃない。ただ、お前なりの見解を聞きたかっただけさ。
 ……そういえば『ひょうたん眼鏡』なんてあだ名をつけたのはお前だそうじゃないか、ベリアル。
 別に間違ってはいないと思うが、お前のおかげで海野君にまでそんな名前で呼ばれてしまった。
 どうしてくれるんだおちゃらけ蛇。
 まったく、何で僕はまともなあだ名がつけられないんだ。
 『指導者』はまだ良かった、地味だが的確に僕の役割を表していた。
 それでも自分のライバルになり得ると目していた相手に妙なあだ名で呼ばれてしまう上に
 久美子君には『ベルぱー』なんて呼ばれてしまう始末だ。
 信じられるか? 『ベルぱー』だぞ、『ベルぱー』!
 確かにそれは僕が指定した『ベルゼブブ・パターン』の略称だろう。
 だが、その呼び方はどうなんだ、セルネットの創始者を呼ぶには些かどころではなく
 迫力や風格が削がれてしまうじゃないか!!」

どうやら話が長くなる傾向があるらしい眼鏡の悪魔はひとしきり不平を言うと気を取り直し続けた。

「―――話が逸れたな。実のところ僕は僕たちがどこにいるのかという問題に対し一つの仮説がある」
「なんや? その、仮説いうんは」
「何というか……かなり馬鹿馬鹿しいんだが、『ここ』は『異世界』とか『異次元』とか言うヤツじゃないかと思ってる」
「……はぁ?」

眼鏡の悪魔がいきなり突拍子も無い事を言うのには慣れていた銀髪の悪魔も、それしか反応できなかった。
眼鏡の悪魔もその反応に頷きながら説明する。

266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 16:33:10 ID:qSWTEUT2

「その反応は予想できたさ。自分でも相当に馬鹿な事と思っているぐらいだからね。
  だが、それ以外では僕には説明ができない。
『王国』?それはあり得ない。
我らが陛下は眠りについた筈だし、物部君の心象にこんな大都市があるわけがない。
 ではカプセル以外の何らかの要因による幻覚?
肉体があるバールはともかく、僕やベリアルに影響があるなんて考えられない。
 そして先ほど目にした『魔法』。どう見ても、僕らが知るオカルト的な魔術では無かったし
この通りを歩いていて目に入る看板や標識の文字。少なくとも僕の知識にはあんな文字は無い。
 もっとも『ここ』でそれなりの時間を過ごしていれば、いずれ分かる事だけどね。
 それ以上に気になるのは『それ』だ」

眼鏡の悪魔が指を向けたのは、それまで二人の悪魔の会話に反応すらしなかった前を行く男のポケット。
正確には、その中に有るものだ。

「陛下が眠りについた物以外は一つ残らず消えたはずの『カプセル』が、何故そこにあるんだろうね。
 僕にも説明がつかない。
それで、どうするんだいバール
地獄の底で待っていろなんて言っていたけど、こんな所にいるんじゃね」

それに、初めて男―――バールが反応した。
「是非もない。知らない場所だからと迷う必要は無いだろう。
葛根市では退くことになったが、『ここ』で二度目を行なえばいい」

「……聴いたか、ベリアル。このミスター・ハードボイルドは
こんなわけの分からないところで続けるつもりのようだ。本当にマスターオブオカルトの名は彼に譲るしかないな」
「いやそれはいらんちゃうんかなぁ、少なくとも俺はいらん。
 ま、ええんちゃう? 陛下がおらんで何ができるかわからんけどな」

見知らぬ場所に突然迷い込んだというのに全く意に介さない男の言葉に
二人の悪魔は呆れたように嘆息しながらも反対する様子は無く、むしろ楽しそうにおどけた敬礼を返した。
そして男は、ゆっくりとその姿をかき消していく悪魔たちと声を揃える。

「「「エロイムエッサイム」」」



リリカル・クラッカーズ  『ミッドチルダにカプセルが蔓延し始めたようです』

267名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 16:37:23 ID:qSWTEUT2


「本当にすいませんフェイトさん、わざわざ送らせてしまって。なのはさんは元気でしたか?」
黒いスポーツカーの助手席に座るティアナは運転しているフェイトに頭を下げた。
「うん、相変わらず元気だったよ。……完全に親バカの顔でヴィヴィオの写真
大量に見せられて少し困ったけど。スバルはどうだった?」
多忙な執務官の少ない休暇を利用して二人は、それぞれの親友を訪ねていたのだ。
「スバルも変わらないですよ、ギンガさんも。
ただ、ゲンヤさんが最近かなり忙しくて自分たちも休みを取りづらいって言ってましたけど」
「レジアス中将の穴を埋めるのに苦労してるんだね……」

そう、現在管理局は『陸』と呼ばれる地上本部、『海』と呼ばれる本局の双方が混乱した状態にあった。
JS事件で殺害されたレジアス・ゲイズ中将―――長年地上本部で辣腕を振るった英雄を失ったことが原因である。
JS事件直後こそジェイル・スカリエッティとの繋がりや、違法行為スレスレの手段をとってきた事で批判が集中していたが
調査が進むにつれ中将にそういった手段をとらせてしまった地上本部の窮状が表沙汰になる。
少ない予算、貧弱な装備、本局に引き抜かれていく人材。
そういった状況を作り出す事になった本局に対する批判が湧き上がった。
さらに、強烈なリーダーシップをとる―――悪く言ってしまえばワンマンだった中将の指示が無くなった事で業務が停滞。
それを解決するために『一時的に』本局が『支援』する動きが持ち上がるが、逆にそれまでの本局の地上本部への所業を知る『陸』の局員
特に経験豊かな中堅世代が一斉に辞職。混乱を助長することになってしまう。
『海』でも、かつての『陸』の局員だった者が『陸』に大量に復帰しようとした事から事態は管理局全体に広がった。
そのため管理局は組織を再編、『陸』と『海』の関係の改善を図る。
その一環として『陸』に残った数少ないベテランの一人であるゲンヤ・ナカジマ三佐は、『海』との繋がりを持つことから
現場を指揮する立場から『陸』の上層部へ本人も望まない形での抜擢をされる事となった。

「ギンガさんが言ってたんですけど、最近ミッドでも犯罪が増えてるんですって。
本局の方も色々問題出てきてますし、早く何とかしないといけませんね……」
機動六課の一人としてJS事件には深く関係したティアナは、少し複雑な気分のようだ。
沈んだ様子のティアナを励ます意味を込めてからかい混じりにフェイトは返答するが
「そのためには私たちも頑張らないと。ティアにも早く一人前になってもらわなきゃね。
――――――ッ!?」
自動車の進路上に、身を投げ出すように倒れこむ人影が目に入り慌ててブレーキを踏み込んだ。
周囲にゴムの擦れる独特の音を撒き散らし、スポーツカーは倒れる人影の直前で止まる。
車内の二人は、ドアから飛び出し人影に駆け寄った。
倒れていたのは中性的な顔立ちをした少年だ。華奢で小柄な体を丈の長いブルーのウィンドブレーカーで包んでいる。
「……あ、ず…ちゃ……」
意識の無い少年は、うわ言で何事かを呟いた。
フェイトが少年の体を起こすと、少年の首に下がったクロスのペンダント―――ちょっとした仕掛けで中にちいさな収納スペ−スがある物だ―――から小さな何かが零れ落ちた。
ティアナが拾い上げたそれは、
「カプセル剤?」
赤と白。二色に塗られたどこにでもあるカプセル錠だった。

268名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 16:40:41 ID:qSWTEUT2


「『カプセル』……ねぇ」
複数の陸士部隊から提出された麻薬事件の報告書。それらに添付された新手のドラッグの画像を眺め、ゲンヤ・ナカジマ『一佐』は唸った。
どうにも妙な事件だ。
最近の管理局内部の混乱で捜査の手が足らなくなり犯罪が増える以前から
ドラッグに関係した案件も少なくは無かったが、こんなクスリが流行ったことは無かった。
幾人か売人を締め上げたが、どいつも組織的な背景の無い雑魚ばかりで
どこから仕入れたかという話になると急に要領を得なくなる。
肝心の『カプセル』についても、押収したものを調べさせたが何かの化学物質かもしれない、と何も分からないと同義の結果だ。
『カプセル』のドラッグとしての効用も他のクスリと比べて、目新しいものではない。
そのくせ馬鹿な若い連中がやたらとハマっているそうだ。
そして、『カプセル』には奇妙な噂があるという。曰く「願いが叶う」と。
陸士部隊の指揮統括を行なう立場になった身としては一つの事件にばかり掛かりきりではいけない。
数は多いが事件としての規模も大したものではない。だが、ゲンヤは妙にそのドラッグのことが気になった。
「……やれやれ」
懇意にしている陸士部隊の隊長―――自分と同じ今では数少ないベテランだ―――に連絡する。
『カプセル』に関して優先的に捜査するようにという指示だ。このぐらいの勝手ならば問題は無いだろう。
ゲンヤは『カプセル』の報告書を処理済の書類の山の一番上に載せ、未処理の書類の山脈へ目を向ける。
「今日も泊まりかね。レジアス中将、あんたすげえよ」
今の自分を遥かに超えるであろう仕事を長年こなし続けた、あまり好きにはなれなかったかつての上司への偽らざる賞賛だった。



『廃棄都市区画』の片隅で鋲のついた皮のジャケットを着た精悍な青年が一人ごちる。
「何だって俺はいきなりこんなトコにいるんだ? ま、なかなか面白そうだがな。
 っかし、『魔法』、『魔法』ねぇ」
青年―――葛根市のアンダーグラウンドで最強と謳われた男は、歯を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべる。
「そんなモンが本当に存在するとはな。お前が見たら何て言うのかね?
 なぁ、『ウィザード』」




269リリクラ:2008/10/25(土) 16:42:30 ID:qSWTEUT2

いきなり名前覧ミスってた・・・
一話の投下はこれで終了です。
執行細胞に景、甲斐がミッドチルダにやってきましたとさ。
初投稿なので意見などはあったらお願いします。


270ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 18:35:59 ID:a0yBZeNh
今現在の段階で、21時50分に投下予約を。
もしかしたら、後にずれ込む可能性はあるのですが、一応この時間で。
いよいよ最終話です。
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:38:48 ID:WfE2UeMx
支援するしかない
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 18:43:24 ID:yp4Zn1hi
>>269
おおー、昔嘘予告でDクラッカーズがありましたが、ついに連載がktkr
景、甲斐はともかく、ベルゼブブパターンとかやばすww
パターンがいるってことは事件解決後で、”無慈悲な女王”は眠っているはず。
何故カプセルが? そして、アロマ事件とかの前ということは、影の騎士と鮫の登場か。
黄金の騎士が現われないことを祈るしかないww

カプセル中毒者しか見えない不可視の悪魔をどうするのか。
キメリエスとかディアボロとか大好きなオーナーとかも出るのかな? 楽しみにしてます!
273名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 19:23:00 ID:5t3/JMYi
おー、いよいよ完結か
きちんと終わらせるってマジすごいな
274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 19:26:06 ID:jPj9fnyQ
>>270
ついに最終回か・・・
長いようで短かったなあ・・・・・・
wktkしながら待ってますです。
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 19:47:55 ID:WQia3q/o
ビクビクオドオド
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:54:08 ID:NvZ7Hk1h
あと一時間…ウボァー
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:08:46 ID:+jxRnuoU
野球見ながらwktkしてます
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:09:34 ID:WfE2UeMx
無駄にレスするのは控えるべき
279ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 21:51:29 ID:a0yBZeNh
 首謀者の名前から、ジェイル・スカリエッティ事件と称されることになった
一連の事件は、聖王のゆりかごが崩壊したことで一応の幕を閉じた。しかし、
この事件の始まりは一体いつで、どの時点で終結と言えるのかは、当事者より
も後世の歴史家たちの間で度々話題となっている。
 六課設立時からゆりかご崩壊までの僅かな期間、それを持って終結とするに
はいくつかの反論や相対する意見がある。というのも、この事件には不明確な
点が余りにも多かった。彼らは後世を生きる者として当事者たちよりもある意
味では多くの情報を持っているのだが、それだけに感じる違和感があるのだ。

 そもそも、スカリエッティを倒し、聖王のゆりかごを崩壊させたのは誰なの
か――?

 ミッドチルダ史の謎として残るこの事件だが、別に当事者たちに責任がある
わけでもない。彼らの多くはこの時期、ミッドチルダ首都クラナガンを初めと
した各地の被害状況を調べ、復興の準備を進めている最中だった。事件の概要
や詳細、結末などを気に掛ける者もいないことはなかったが、そんなものは上
層部がまとめることだ。いずれ、公の場で発表があるだろう。

 そうして、各々が自己の責務を全うする中、古代遺物管理部機動六課ライト
ニング分隊所属、フェイト・T・ハラオウンは短い期間ではあるが休暇を申請し、
それが受理されているところであった。名目は戦傷と疲労による療養であった
が、彼女の傷は重いものではなく、休暇を申請した頃にはほとんど癒えていた。
ただ、戦闘要員としての仕事がないとはいえ、各所が人手不足で悲鳴を上げて
いる時期であったため、適当な理由付けが必要だったのだ。
 クラナガンにおける交通規制は徐々に解除され初め、一般市民の移動が目立
った。彼らの多くは職場や家を失い、街から去っていくのだ。街の復興は、管
理局が全力を注いで、最低でも半年はかかるといわれている。意外と短く感じ
るが、これはゆりかごによる攻撃と戦闘の大半がクラナガンだけに行われ、被
害も首都内だけで済んだことにある。
 フェイトは自動運転の地上車を呼ぶと、ベルカ自治領に向かった。人生でも
っとも高い買い物の一つであった愛車は、六課の隊舎壊滅の折に失われている。
義兄に「これを機にもっと趣味のいい車に買い換えてみては」といわれたが、
大きなお世話だと思う。

 聖王教会が運営する聖王病院は、自然が豊かな山中にある。ミッドチルダ北
部のベルカ自治領にあって、首都からもさほど離れていないこの病院には、多
くの傷病兵が入院、または通院しながら治療を受けている。フェイトもその一
人だが、今日は治療を受けに来たわけではない。
病院に到着し、同乗者と別れ院内へと入るフェイト。
 ふと、回りに生い茂る木々を見上げると、葉に赤みがかったものが見え隠れ
している。

 もう、夏も終わりに近づいているのだ。



          最終話「ゼロからはじまる物語」

280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:52:47 ID:Jvt6D2bY

281ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 21:52:53 ID:a0yBZeNh
「身体の具合はどう?」
 フェイトは、親友の病室を訪れていた。
 高町なのは、ゆりかご攻防戦の際にゆりかご内へと突入し、重傷を負った彼
女は、聖王病院で治療を受けていた。
「……悪くはない、かな」
 一時は死の危険すら合ったと言われるなのはであるが、シャマルによる適切
な処置も合ってか、一命は取り留めた。そのまま彼女が主治医として治療を担
当しているが、完治までには長い時間が掛かるという。少なくとも、後遺症は
確実に残り、最終的に最大魔力値が7〜8パーセントは下がるとの診断結果が出
ている。
「数年か、最低でも二ヶ月はゆっくり休むべきだってシャマルが言ってた。本
当は引退を勧めたいけど、なのははそれを聞かないだろうからって」
 苦笑するフェイトに、なのはは無言だった。ベッドから起きあがりもせず、
黙って天井を見つめている。無気力とは、こういうことを言うのだろうか? 
虚ろな目をする親友に、フェイトはため息を付いた。
 無敵にして不屈のエース・オブ・エース、高町なのは。管理局でも五指には
いるとされる実力者である彼女が重傷を負ったのは、今回が初めてというわけ
ではない。8年前にも一度、似たようなことがあった。あの時は、自分ともう
一人、ずっとなのはに付き添っていた。
「そうだ、はやてとエリオは今のところ大丈夫だって。あの二人、怪我が治っ
てないのに無理矢理出撃して、結局病院に逆戻り、シャマルが凄い怒ってたよ」
 特にはやては、大事にこそ至らなかったが、しばらくは絶対安静と言われて
いる。対照的にエリオは、若さ故か驚異の快復力を見せつけており、原隊復帰
も難しくないという。
「現場の方は、私やシグナムが何とかするから。それにティアナとスバルも頑
張ってくれてるし、後――」
「フェイトちゃん」
 話題が途切れないようにと口を開き続けていたフェイトに、なのはが小さく、
だがハッキリと話しかけてきた。
「……なに? なのは」
 やや緊張した面持ちで、フェイトが言葉を返す。自分でも情けないことに、
今のフェイトは親友に対してどんなことを言えばいいのか、それがわからなか
った。ここに来る間も考えていたのだが、結局は現況を伝えるという無難な話
しかできなかった。
 しかし、なのははフェイトが思っていたことと、まるで違う話をし始めた。

「私は、フェイトちゃんを親友だと思ってる」

 何を今更、そんなことは確認するまでもないことだ。出会ってから十年、時
に意見の食い違いや、喧嘩をすることがあっても、私となのはは親友であり、
これからもずっとそうだ。
 フェイトが困惑した表情を向けると、なのははゆっくりとベッドから起きが
ある。止めようと思って、フェイトはそれを止められなかった。
「高町なのはっていう女の子を、私以上に知っているのはフェイトちゃんとも
う一人だけ。だから、私はフェイトちゃんには話そうと思う」
 なのはの表情、そして口調にも暗い影があった。明るさや快活さ、天真爛漫
とはいかないまでも、常に周囲へ笑顔を振りまいていた頃の彼女は、そこには
いない。
「……なのは、ヴィヴィオとのことは、私も判っているつもり。だけど、あな
たがあの子に負けたことは」
 フェイトやはやてでさえ互角に戦うのがやっとという実力に、エースとして
の自負、なのはにだってそれぐらいはあっただろう。それがヴィヴィオに、娘
のように愛したであろう少女に打ち砕かれたのだ。魔導師として、戦士として
のショックは計り知れないだろう。
 そんな、なのはの気持ちを酌んでやったつもりのフェイトだったが、なのは
は親友の言葉に首を横に振った。
「違う、そうじゃないの……そうじゃないんだ」
 ベッドの中から、自分の右手を出して見つめるなのは。美しいと言うほど白
くもないが、汚れのない綺麗な掌だ。
 少なくとも、一滴の血も付いてなどはいない。
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:52:59 ID:jYoFMOBx
sien
283ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 21:55:21 ID:a0yBZeNh
「私はあの時、ゆりかごの玉座に座るヴィヴィオと再会して、戦った」
 そして、完膚無きまでに叩きのめされ、敗北した。
 圧倒的な聖王の力に勝てなかったのか、それともやはり娘のように愛した少
女に攻撃できなかったのか、なのはは今までその辺りの事情、所謂敗因につい
ては話そうとしなかった。
「本当のことを言うとね、私が全力全開、全てを出し切っていれば、多分ヴィ
ヴィオに勝つことは出来たと思う」
 言葉に、フェイトはそれほど驚きはしなかった。なのはを破った直後のヴィ
ヴィオ、フェイトは実際に聖王となった彼女を見たわけではないが、ほぼ無傷
といっていい状態だったという話は聞いた。前述の通り、なのはは自分やはや
てをも上回る無敵のエースだ。それが、敵に傷の一つも負わすことなく、一方
的に負けるなど、あり得るのだろうか?
 状況から、なのははヴィヴィオに対して、攻撃をしたくても出来なかったと
思うのが自然だろう。
「なのは、あなたがヴィヴィオに攻撃を出来なかった……攻撃をしたくなかっ
たという気持ちは当然のことだよ。一時的に敵になってしまったとはいえ、あ
んなにあなたを慕ってくれていた子だもの。そんなヴィヴィオに為す術がなか
ったからと言って、あなたを責める人はいないし、責める人は私が」

「フェイトちゃんっ!」

 許さない、そういおうとしてフェイトは言えなかった。なのはの叫び声が、
フェイトの声をかき消した。
「違う、違うんだよ……そうじゃ、ないの」
 なのはは震えていた、怯えが隠せず、隠そうとせず、何かに恐怖するかのよ
うに震え上がっていた。
「フェイトちゃん、私は、私は」
 なのはが、フェイトに向かって顔を向けた。

「私は、自分が怖い」

 思わず、フェイトは面食らったように言葉を詰まらせた。ヴィヴィオが怖い、
と言うならまだ判る。自分を徹底的に痛めつけた少女に、今後どう付き合って
いけばいいのか、それがわからないというのなら、可哀想だが仕方のないこと
だろう。だが、自分が怖いというのは……
「あの時、私は確かにヴィヴィオと戦った。はじめはあの子を止めるため、助
けるために、私は全力で戦ったの」
 フェイトが驚きの表情を見せるなか、なのはは言葉を続ける。そう、なのは
はヴィヴィオと戦った。聖王となって最強の存在と化した彼女と、激闘を繰り
広げたのだ。
「でも、私は戦いを続ける中で、あることを考える自分に気付いてしまった」
 なのはが、顔を伏せた。
「あること……?」
 言葉を、決定的な告白をするのに、なのはは僅かな躊躇いを見せていた。け
れど、親友であるフェイトに、フェイトだからこそ、彼女は話さなければいけ
ないと思った。

「どうすれば目の前にいる敵を倒し、殺すことが出来るんだろう――?」

 なのはは、ヴィヴィオと戦いを続ける中で、いつしかそのように考えていた
という。
「笑っちゃうよね、娘のように思っていたあの子を、あの子から母親のように
慕われていた私は、殺そうとしたんだよ? ヴィヴィオと戦って、私はいつの
間にか、どうすれば聖王という敵を倒せるのか、それだけを考えてた」
 それに気がついたとき、なのはは戦うことが出来なくなった。
「ヴィヴィオを倒そうと、殺そうとしている自分に気付いたとき、私は何も出
来なくなった。私は怖かった、ヴィヴィオを倒そうとする自分じゃなくて、ヴ
ィヴィオを倒すことに一瞬でも疑問を感じなかった自分が、怖かった!」

――何よりも悲しかったのは、だんだんと何も感じなくなってくる……自分の心
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:56:38 ID:2eibtzsR
支援
285ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 21:56:56 ID:a0yBZeNh
 いつか、ゼロがなのはに言った言葉である。正確には彼の友だった男の言葉
であるが、今のなのはにはその言葉の意味が、悲しさの裏に隠れた怖さが、し
っかりと判るのだ。
 お前もいつかこうなる、ゼロはそのように名言こそしなかったが、なのはが
ヴィヴィオと戦い、彼女を倒すこと、殺すことに何も感じなかったのは事実だ。
寸前でそれに気付き、思いとどまることが出来たのは、心の奥底でこの時の言
葉が引っかかっていたからだろう。
「私は自分が怖かった。魔導師として、戦士として、九歳の頃からずっと戦い
続けてきて……私はこのままだと、自分の大事なもの、自分が大切にしたいと
思っているものまで、壊しちゃう」
 現に、ヴィヴィオと戦っていたときのなのはは、彼女を愛した母親ではなく、
聖王を倒すことだけを考えていた戦士であった。
「もう、無理だよ、私はきっと、戦士としてしか生きられないんだよ……」
 なのはは震え、そして泣いていた。とっくに、彼女の心は壊れていたのだ。
フェイトやはやてのように明確に守るものもなく、常に疑問を抱えながら戦っ
てきた高町なのは、エース・オブ・エースと呼ばれ、比類ない実力者となった
にも関わらず、その心は、以前に比べて弱くなっていた。
「なのは……」
 フェイトは悲痛な表情を浮かべていた。何といえばいいのか、彼女は自分に、
戦士としての高町なのはに強い恐れを抱いている。戦士としての誇りや矜恃で
ごまかしてきた心の荒廃が、ここに来て露わになった。自分自身では、手の付
けられようがなくなった状態で。
「ヴィヴィオは、なのはに会いたがってる」
 敢えて、フェイトはその名を口にした。なのはと共にフェイトが救出した彼
女は、聖王病院とは違う施設で、現在隔離状態にある。元々目立った外傷があ
ったわけでもなく、入院の必要はなかったのだ。
「私に、そんな資格はないよ……母親どころか、あの子に会う資格だって、私
には初めからなかったんだよ」
 完全に気落ちしている親友を、この際フェイトは慰めなかった。何を言って
も効果はなさそうだし、何か言えば解決する問題でもないのだ。
「なのはに資格があるかどうかじゃなくて、ヴィヴィオが会いたいかどうか、
子供が親に会いたいと思うのは、当然のことだよ」
「だけど……私はあの子の本当の親じゃ」
「ヴィヴィオは今、とても微妙な立場にある」
 曖昧な表現に、なのはが顔を顰める。もちろん、フェイトは順序立てて説明
するつもりだった。
「管理局と聖王教会は、ヴィヴィオの扱いに、処分に困ってる」
 つまり、こういうことである。
 聖王のゆりかごを起動する為に作られた器である、鍵の聖王ヴィヴィオ、盗
まれたとはいえ聖王の遺伝子によって生み出された彼女は、紛れもない聖王の
一族として数えられるべき存在だった。聖王とは聖王教会にとって、本来信仰
の対象であり、絶対の忠誠を誓うべき忠義の相手だ。敬い、誇り、崇め奉る。
幼いながらも、ヴィヴィオはそうされるだけの理由と資格があるのだ。
 だがそれに困惑したのは現在聖王教会を取り仕切る宗教権力者たちである。
教皇や枢機卿、大司教といった彼らは地位と権力を盾に教会内を牛耳ってきた
のだが、聖王が復活したとなれば話は別だ。信者たちから彼らに向けられる恩
恵と崇拝の念も、今後は聖王ヴィヴィオに向けられることとなるだろう。そう
なっては困るのだ。
 ならば幼い聖王を傀儡とし、操っていけばいいのではないか? あざとさは
残るが、ヴィヴィオが幼い、幼すぎるのは事実であるし、養育の必要は十分に
ある。けれど教義の上で言えば聖王は絶対的な存在であり、養育すること自体
が恐れ多い発想で、しかも信者から見れば一部高位聖職者が聖王という存在を
独占していると感じるだろう。下手をすれば、信者レベルにおける対立へと発
展しかねない。
 では、いっそのこと処分してはどうか? 教会の立場からは聖王ヴィヴィオ
に手出しすることは出来ないが、管理局であればまた話は違ってくる。スカリ
エッティによって望まぬ生を受けたとはいえ、ミッドチルダ首都クラナガンを
壊滅させた聖王のゆりかごであり、それを起動させ、玉座へと君臨していたの
はヴィヴィオに他ならない。大半はスカリエッティの罪であるが、ヴィヴィオ
だって大罪ではあるはずだ。
286ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 21:58:36 ID:a0yBZeNh
 こんな主張に対し、管理局は対応を鈍らせた。一側面から見れば、確かにヴ
ィヴィオは罪を犯している。しかし、自らの望んで作られたわけでもなく、自
らの意思で考え、行動することすら許されなかった五歳の少女を、果たして罪
に問えるのか? それは、ヴィヴィオの存在その物を否定するのではないか?
 かつてのフェイトや、はやてがそうだったように、管理局はそうした複雑な
事情、特に生命倫理に関する問題には慎重だった。多次元世界を管理する彼ら
であるから、生きるために様々な行いをする種族を数多く知っている。それが
自分たちの倫理観とずれているからと言って、強制する権利などはありはしな
いのだ。少なくとも、それが管理局の掲げる表面上の考えだ。
「管理局は作られて使用されただけの存在であるヴィヴィオを、処分も処断も
出来ないでいる。このままだと、扱いに困った管理局と教会が、秘密裏に謀殺
……暗殺することも考えられる」
「そんな、そんなの酷い!」
 声を上げるなのはだが、可能性とはいえこれは決して低くない話だ。ヴィヴ
ィオなどという存在は初めから居らず、聖王は復活などしていない。管理局も
教会も、事件の根幹に関わる部分は隠したがっている。そんな権力者たちの手
によってヴィヴィオが消されても、現状全く不思議がないのだ。
「だから、なのははヴィヴィオを引き取って、あの子を守ってあげて! 私と
はやて、それに騎士カリムも協力するから!」
 出なければ、ヴィヴィオは遠からずその姿をこの世から消すだろう。
「でも、だけど……私は」
 迷いは、やはりあった。ヴィヴィオのことを好きだという気持ち、愛すると
いう気持ちは確かにある。けれど、なのははそんな自分の気持ちを信じること
が出来ないでいるのだ。ヴィヴィオが自分を倒したことなど、全く気にはして
いない。彼女が倒さなければ、自分がそうしていたのだから。
「ごめん、少しだけ考えさせて」
 なのははポツリと呟くと、布団を被ってベッドに潜り込んだ。


「僕は彼女の弱さを知っていた……彼女の悩みも、辛さも、みんなみんな、僕
は知っていた」
 聖王病院の屋上で、二人の男が話している。一人は、時空管理局無限書庫史
書長、ユーノ・スクライア。もう一人は、異世界の戦士にして聖王ヴィヴィオ
と聖王のゆりかごを倒した、ゼロである。
「フェイトと僕は、恐らくなのはの心の奥深くに触れることが出来る、彼女が
触れることを許した、数少ない存在だ。僕はある意味でフェイト以上になのは
のことを知っていたけど、それだけだった」
 何をするわけでもなければ、何をしてやったわけでもない。
「僕はなのはの弱さを知っていながら、それに触れようとしなかった。全てを
知る身でありながら僕は責任を放棄した……それはきっと、僕がなのはの強い
部分に、戦士としての強さに強く惹かれ、憧れを抱いていたからなんだ」
 身勝手な、身勝手すぎる話だ。ユーノはなのはの弱さを知りながら、それを
意図的に無視してきた。何故ならユーノは、彼女の強さが好きだったから。十
年前、彼を助け、共に戦ってきた彼女の、輝くような笑顔と、凛々しさ溢れる
魔導師としての姿に、惚れ込んでいたのだから。
「こうなんるじゃないかと、思ってはいたんだ。なのはは自分の内面、悩みと
言ったものを弱さとして捉えている。そして、彼女は他者に弱さをさらけ出す
のを良しとしない人だ。恥じているからではなく、心配を掛けたくないという
気持ちから」
 それすらも理解していたのに、ユーノはなのはに手を差し伸べなかった。な
のはは何も言わない、敢えて触れようとしないユーノに感謝はしていたが、そ
れでも心の奥底では、弱い自分をさらけ出したくて、ユーノに受け止めて貰い
たいと、思っていたのではないか?
「どちらにしろ、僕は最低な男だよ」
 ユーノもまたなのはの見舞いに来ていたのだが、病室の前で佇み、中に入る
とが出来なかった。
「判っているなら、変えていけばいい。今までは取り戻せなくても、これから
があるだろう」
 優男の独白を聴きながら、ゼロは呟いた。二人が会うのは初めてではないが、
こうやって会話をしたのは初めてだ。
287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:59:08 ID:+jxRnuoU
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288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:59:47 ID:jYoFMOBx
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289ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 21:59:59 ID:a0yBZeNh
 何故ユーノがゼロにこのような話をしているのか、その理由は当人たちですら
判らなかったが、誰かに聞いて貰いたかったのだろう。
「君は意外と、愉快な人だね。なるほど、これからか」
 遠い目をしながら、病院周辺の景色に目をやるユーノ。
 そうして会話もなく二人が佇んでいると、屋上の扉が開いて、フェイトが現
れた。
「ゼロ! と、それにユーノも」
 次いでのように言われたが、そもそもフェイトはユーノが来ていたことすら
知らなかった。
「やぁ、フェイト。なのはとの話は終わったのかい?」
 職業柄、ユーノの耳にも様々な情報が入ってくる。フェイトが今日ここに来
た理由も、ただの見舞いというわけではないことぐらい判るのだ。
「……ユーノ、折角来たんだから、なのはと会ってあげて」
 フェイトにとっても、ユーノは幼馴染みだ。なのはほどではないが長い付き
合いであり、彼となのはの関係についても、人より熟知しているつもりだ。言
葉に顔を背けるユーノに、フェイトは言葉を繋いでいく。
「今のなのはが必要としているのは、私じゃなくてユーノだよ。口には出さな
いけど、あなたに話を聞いて貰いたいって、なのはは思ってる」
「けど、僕は……」
「二人とも、もう少し自分に素直になるべきじゃない? お互いの気持ちを理
解し合ってるのに、本人たちが気付かないフリして隠し続けてるなんて」
 ユーノが驚いたようにフェイトを見た。
「参ったな、僕たちの心は見透かされていたのか」
「私だけだよ、私も二人の幼馴染みなんだから」
 そうか、とユーノは苦笑すると、片手を上げて屋上を後にした。

 後日の話になるが、結局なのははフェイトの言葉を受けてヴィヴィオを引き
取ることになる。見舞いから二週間後、主治医であるシャマルの猛反対を押し
切って退院したなのはは、幼馴染みであるユーノ・スクライアが住む官舎で二
週間生活し、その間はユーノ以外、誰にも会おうとしなかった。
 やがて、はやてやカリム、クロノなどの手引きによって救い出され、三度の
再会を果たしたヴィヴィオを連れ、なのはは第97管理外世界地球、彼女の故郷
であり、実家のある街へと帰っていったという。
 仮にも聖王を管理外世界に送る件に関しては、色々な問題があったのだが、
「聖王陛下が生きたままミッドチルダに残れば、これを奪取しようとする不逞
の輩が必ず現れます。ならば、そういった連中が手の出せない場所に行ってい
ただくのが、一番良いと思われますが」
 騎士カリムの言は、高位聖職者たちに一応の納得をさせることに成功した。
元々聖王を、五歳の幼女を害することに抵抗を憶えないわけでもなかったし、
要するに彼らの不利益にさえならなければ、それで良いのだ。

 ヴィヴィオを連れ故郷の街へと帰ったなのはは、実家の手伝いをしながらま
ず平凡と呼べるだけの、平和な日々を過ごしている。彼女が今後魔導師を続け
ていくのかどうか、それはフェイトにも判らないことだが、下した決断を、暖
かく受け入れてやろうではないか。
 フェイト・T・ハラオウンは、高町なのはの、親友なのだから。


 病院を後にしたフェイトとゼロは、その足で別の場所へと向かっていた。
「はやてには会えた?」
 車中で、フェイトはゼロが彼女と共に聖王病院へ訪れた理由の成果を尋ねる。
「一応な」
 フェイトはなのはに、そしてゼロははやての見舞いに訪れたのだ。

 はやての病室には、はやて本人はもちろんのこと、リインもいた。
「なんや、珍しい奴が来たな」
 重傷という意味ではなのはとさして変わらぬはやてであるが、少なくとも精
神的に不調なわけでもない。さっさと治して現場に復帰したという気持ちが、
なのはよりも傷の治りが早い要因だろうか。
290ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:01:22 ID:a0yBZeNh
 はやては訪れたゼロに対し、極めて事務的な対応と、型どおりの礼を述べた。
彼女らしい応対にリインは呆れないでもなかったが、一通り言い終えると、は
やては口調と表情を崩して、笑顔を作った。
「まあ、今だから言うけど、私はアンタが最初は大嫌いやった」
 そんなこと誰でも知っている。思わずリインは突っ込みたくなったが、はや
ての醸し出す穏やかな雰囲気が、そうさせることを拒んでいた。
「過去形を使ったけど、今現在も別に好きじゃない」
 笑いながら、はやてはゼロと目を合わせずに言葉を続ける。結局の所、部隊
長などというのは組織にとっての潤滑剤でしかなく、もっと程度を落とせば、
はやての六課における役割は接着剤のようなものであった。ゼロという異世界
の戦士が現れたとき、はやてはどうしても好意的には接することが出来なかっ
た。大人げないと思われていたかも知れないが、今にして思えばそれほど間違
っていた対応だった気もしない。
「八神はやてが仲良くしているから自分も仲良くするのか、それとも八神はや
てが仲良くしているから自分は仲良くしたくないのか、人間心理なんてのはど
う転ぶか判らないもんでな」
 現に、フェイトがゼロに対し好意的に接しているのを知ったエリオ・モンデ
ィアルは、ゼロに対する不快感と、彼という存在に否定的となった。
「だからまあ、私は敢えて憎まれ役を買って出たわけや。八神はやてがあんな
にも大人げなく嫌ってるから可哀想だ、自分は気ぐらいは掛けてやろう、とな」
 結果的に、その計算は六課隊舎が壊滅し、八神はやてが倒れるまでは成功し
た。はやてが倒れてしまったことで「あぁ、やはり総隊長の言うとおりだった
んだ」ということになってしまったのは、はやてのミスであった。
「はやてちゃん……そんなお心深い考えがあったなんて」
 リインが感動して、何と目に涙まで溜めている。
「うん、咄嗟に考えたにしては、良くできた話やろ?」
「はい、そうです――えっ!?」
 愕然とするリインをからかいながら、はやてはベッドとから降りて起ち上が
った。そして初めて、ゼロと視線を合わせる。
 はやては、彼に向かって手を差し出した。
「最後の最後くらいは、握手でもしとくか?」
 差し出された手を、ゼロは数秒ほど眺めていたが、断る理由も既に無いと思
い、握ろうとして、
「やっぱ止めた」
 はやては自らの手を引っ込めてしまった。訝しがるゼロに、はやてはどこか
気恥ずかしそうに呟く。
「最後だけ仲良しさんのフリをするのは、何かおかしいもん。私はアンタがや
っぱり嫌いやし、それはそのままにしておいた方が良いと思う」
 好きじゃないものを、無理して好きになる必要はない。はやてはゼロが嫌い
ではあるが、そこに嫌悪感や邪気は含まれていなかった。
「それも、いいかもしれんな」
 思わず苦笑するゼロに、はやても笑顔を見せた。
「ちょ、ちょっと何で良い雰囲気になってるんですか! おかしいですよ!」
 リインが抗議の声を上げ、はやてとゼロの間に割り込んだ。
「大体、あなたにはリインも沢山言いたいことがあるんです。何ですか、リイ
ンのいないところで、行きずりの女とユニゾンなんてしちゃって! はやてち
ゃんに隠れて虎視眈々と機会を伺っていた私の立場はどうなるんです!?」
「行きずりって、リインお前な……」
 そのババ臭い表現に、はやてが呆れたようにリインを見る。しかし、リイン
は気にせず両手をブンブンと振り回している。
「酷いです、あんまりです。リインに内緒で、あんな野良融合騎とユニゾンす
るなんて、リインが知らないと思ったら大間違いですよ!」
 ユニゾンした相手であるアギトが聞けば、間違いなく燃やし尽くされそうな
言動を吐きながら、リインは抗議を続ける。
「リインともユニゾンしてください! あんな野良よりリインの方が良いに決
まってます」
 やれやれと苦笑しながら、はやてはゼロを見た。そんな機会、もうないであ
ろうことを彼女は知っていたが、無邪気なリインの姿は、はやてにとってもゼ
ロにとっても、微笑ましいものではあった。
 もっとも、ゼロは微笑んだりなどしなかったが。
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:03:13 ID:+jxRnuoU
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292ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:03:39 ID:a0yBZeNh
 一連の事件がジェイル・スカリエッティ事件として称されることとなったの
は前述の通りであり、聖王のゆりかごの崩壊が一応の幕引きであることも事実
には変わりない。
 しかし、根本的な部分では何も解決していないのではないか、という意見も
存在する。何故なら、事件の首謀者であるはずの『偉大なる天才』、ジェイル
・スカリエッティ本人は捕まっていないのだから。

「ドクターは、他者に対して信頼という感情を抱くことはまず無い。それはそ
の種の感情や感覚をあの人が知らないからだが、もっと正確に言えば、あの人
は自分自身に対してさえ、信頼することが出来ないでいたからだ」
 ミッドチルダ首都クラナガン、中央区画にある先端技術医療センター。今や
多くのナンバーズが収容されている病院ともいっていいこの場所において、一
つの朗報があった。長く機能停止の状態にあったナンバーズ5番チンクが、そ
の意識を回復させたのである。
「ドゥーエをドクターが信用するのは、あれがドクターの因子をもっとも色濃
く受け継いだ、謂わば分身だからだ」
 セインやディエチなど、妹たちから事の顛末を聞いたチンクは、スカリエッ
ティが多くのナンバーズを切り捨てた挙げ句に敗北し、ドゥーエと共に逃亡し
た事実を知った。しかし、彼女はスカリエッティを責めようとしなかった。
「自分自身の才覚に対してなら、ドクターはある程度の信用をしていた。けれ
ど、自分の存在に関しては、ドクターは何ら信頼もしていなかったし、それほ
ど評価もしていなかった」
 妹たちが耳を傾ける中、チンクは自身の考えを口にしていた。思えば、今や
自分が姉妹の中では最年長なのだろうか。ドゥーエのことも、セインやディエ
チなどは顔すら見たことがないし、恐らく今後も見る機会はないのだろう。
「ドゥーエは、そんなドクターの気持ちを理解できるんだろうな。理解できて
当然だ、あいつは唯一、ドクターと共存することの出来る存在なのだから」
 他の誰にだって出来ないことを、ドゥーエだけは可能とした。それは彼女が
一番ドクターに似ていたからで、ドクターがそんな彼女にだけは自分の心の深
い部分を隠さなかったからだろう。
「いや、違うな、ドクターは自分の心根を隠したことは一度もない。ただ、私
たちがその小さな入り口に気付かず、気付いても中をのぞき見るだけの勇気が
なかっただけだ。もっと私たちが、肌であの人と触れ合っていれば、私たちは
こうはならなかったのかも知れないな」

 少なくとも、家族ぐらいにはなれたのかも知れない。

「その、チンク姉は……知ってるの? ドクターの、夢を」
 チンクがドクターに対して不快感や嫌悪感を抱いておらず、彼を否定する気
もないことに、セインは気付いていた。稼動歴にして十年以上、セインやノー
ヴェなどとは比べものにならないぐらいドクターと長い時を過ごした彼女には、
彼女なりの考えや、思うところがあるのだろう。
「さあな、それを知っていれば私は――お前はどうなんだ、セイン?」
 敢えて答えをぼかしながら、チンクはセインに問い返した。
「わからない、わからないけど……」
 問いかけに対し、セインは宙を見上げながら少しだけ思案した。
「何となく、判ってきたような気はする」
 それでいい、とチンクは笑った。覇気のない笑顔ではあったが、暖かみはあ
った。姉として、彼女はこれから妹たちの今後に対しても、考えなければい
けない。それは彼女に残された責務と責任であり、義務と言えなくもないが、
彼女はそれを為すことに疑問を感じなかったし、役割を果たすことは当然だと
思っていた。
 チンクは思う、ドクターはもう自分たちの元に姿は見せないかも知れない。
だけど、もしまた会う機会があるのなら、その時までに考えておこう。彼に対
して投げかける、純粋なる気持ちと、言葉を。


 チンクの病室を辞したセインは、廊下でアギトと遭遇した。というより、彼
女はセインが出てくるのを待っていたようだ。
293ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:05:22 ID:a0yBZeNh
「アギトさん……?」
 スカリエッティの部下であった自分たちナンバーズに対し、アギトが元々良
い感情を抱いていないことをセインは知っていた。それだけに彼女が自分に用
があるというのは意外であったが、アギト自身に用があったわけではなかった。
「お客さんだぜ」
 ぶっきらぼうに、それでいて反感や反意のない声でセインに告げるアギト。
彼女にも色々と、心境の変化があるのだろう。
「私に?」
 セインは答えながら、アギトから少し離れた後方に立つ人物に目を向けた。
 この際だから嘘偽りなく言うと、セインはこの人物に会いたがっており、そ
の希望を伝えていた。
「ゼロ――!」
 セインの元へ、ゼロが尋ねてきたのであった。


 ある意味で不本意ながらも、気を利かせたフェイトは、ゼロとセインを二人
きりにした。別にそうしたからと言って不都合はないのだが、アギトから「い
いのか?」などと聞かれては、顔を顰めずにはいられない。
 そんなやり取りがあったことすら知らないゼロとセインであるが、二人の会
話はフェイトやアギトが思っているほど軽いものではなく、むしろ真面目であ
った。
「スカリエッティの基地は、放棄されていたか」
 ゼロの呟きには、意外さというものが含まれていなかった。
「うん、立ち寄ったっていうか、一度戻った形跡はあったんだけど」

 聖王のゆりかごが崩壊して数日、再び六課によって拘束されることとなった
セインは、病床のはやての指示を受け入れて、ついにジェイル・スカリエッテ
ィの秘密基地の所在を明かし、自ら案内役を務めた。彼女がそうした一つに、
拒む理由が亡くなったというのがある。ゆりかご攻防戦と、その前哨戦におい
てほとんどのナンバーズは敗北し、囚われの身となった。基地に誰かいたとし
ても、それこそドクターや顔も知らないドゥーエぐらいだ。
 姉妹に対する危害という危険性が排除された今、セインは管理局に協力姿勢
を示した。そうした方が良いとの、ディエチやディードによる勧めもあった。
 こうしてセインは、シグナム率いる管理局の武装大隊と、聖王教会を代表し
てやってきたシャッハを、スカリエッティの秘密基地へと案内したのだ。しか
し、誰もが予想したとおり、そこにはスカリエッティどころかガジェットの一
機も残ってはいなかった。
 放棄された基地内において、最初セインはスカリエッティがここに戻ること
なく、何処かに逃げたのだろうと考えていた。それが覆されたのは基地内を案
内する最中、人造魔導師の生体ポッドが収容されている部屋に辿り着いたとき
であった。
「テスタロッサを連れてこないで良かった……」
 生体ポッドに保管された人造魔導師の素体を見ながら、シグナムは不快感を
あらわにした。セインにとっては見慣れた光景でも、彼女たちにとっては違う
のだ。
 後に判明したことだが、生体ポッドに保管されていた素体のほとんどが、管
理局において死んだ人間、死んだとされている人間たちであったという。スカ
リエッティは死体を再利用したわけで、これはゼストなどにも言えることであ
った。生きた人間を使うよりも効率が良く、生命倫理にもさほど反しないとい
うのがスカリエッティの持論であるが、彼に道徳心などあったかどうか、セイ
ンを含めたナンバーズの姉妹ですら首を傾げることだった。
「あれ……?」
 室内を見て回る中で、セインは一つの違和感を憶えた。何かが、足りない。
並ぶ生体ポッドはその全てに素体が入っているわけではないが、一箇所だけ、
ポッドその物がない場所があった。別にそれにしたって珍しいことではないの
だが、セインの記憶はここにポッドがあったと事を思い出させていた。
「ない、XIの生体ポッドが、なくなってる!」
 その番号のポッドには、一体何が入っていたのか? シグナムの問いに対し、
セインは記憶の糸をたぐり寄せ、こう答えた。
「ルーお嬢様の……お母さんです」
294ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:06:40 ID:a0yBZeNh
 スカリエッティとは別に、独自に戦場から逃亡したルーテシア。彼女が今ど
こでどうしているのか、それを知る者はいなかった。

「ドクターはミッドチルダだけじゃない、あらゆる世界に自分の隠れ家を持っ
てる。私が知ってるのはその中のほんの僅かで……多分そう簡単に見つからな
いと思う」
 スカリエッティが捕まって欲しいのか、それとも逃げおおせて欲しいのか、
それに関してはセインも複雑な心境であった。ゆりかご攻防戦までは彼に対す
る反感や、切り捨てられたことに対する反発心のみが優先されていたが、終わ
って冷静になってみると、チンクが言うように違った見方も出来るのだ。
「少なくとも、ウー姉があの調子じゃね」
 何気ない言葉であったが、セインはナンバーズ1番ウーノの生存を知ってい
た。ゼロも知っていた、というより、ウーノはフェイトによって助け出された
のだ。なのはとヴィヴィオを連れて逃げる中、まだ息のあったウーノを見捨て
ることが、フェイトには心苦しかったのであろう。魔力が使えない状況下にあ
りながら、フェイトはウーノも連れてゆりかごから脱出したのだ。
「でも、あれは……」
 ウーノは命こそ助かったが、精神的には衰弱死していると言っていい状態だ
った。要するに、廃人と化したのである。セインはその有様にショックを受け
ないではなかったが、皮肉なことにその姿はある意味で納得のいくものだった。
自分などと違い、ウーノにはドクターしかいなかったのである。彼女はスカリ
エッティに拒絶され、捨てられたと感じたとき、考えるのを止めてしまったら
しく、生きながらにして死んでいるかのように、身体だけは活動していた。精
神は、既に死に絶えているが。
「よそう、こんな話、しても面白くないよ」
 面白いとか楽しいとか、そういう問題でもないのであるが、確かにゼロが今
日セインの元を訪れたのは、こんな話題をするためではない。そして、ある意
味では本題の方が、セインにとっては面白くも何ともないものであった。

「――帰るんだって? 元いた世界に」

 セインは言葉の表面に出た寂しさを、隠そうとしなかった。素直さは彼女の
美点であるが、気持ちを隠し通せない自分が気恥ずかしくもある。
「あぁ、戦いは終わって、オレの役目も終わった」
 つまり、ゼロはフェイトと共に挨拶回りをしていたのである。スバルやティ
アナ、キャロと言った面々には、事前に別れを済ませてきた。はやてやリイン
とも先ほど会い、惜しむらくはヴィヴィオに面会が出来なったことぐらいだが、
立場と状況を考えれば仕方のないことだ。
「いいところなの? ゼロのいた世界は」
 尋ねるセインは、必ずしも自分の言いたいことを言っているわけではない。
伝えたいこと、訴えたいこと、言っておかなければいけないこと、それらは無
数に存在し、セインの頭の中を駆けめぐってはいるのだが、言葉として出てこ
ないのだ。
「悪いところではない。いいところにしていければとも、思っている」
 その為にも、ゼロは帰らなくてはいけない。彼女を初めとした仲間たちは、
まだ自分のことを必要としてくれているだろうから。
 ゼロの決意が固いことは、セインが聞くまでもないことだった。誰であろう
と、彼が帰りたいと思う気持ちや、意思を否定することは出来ない。

 だけど……

「ゼロっ!」
 セインは、ゼロに駆け寄った。彼の目の前、それこそ目と鼻の先まで近づい
た彼に対して、かすめるようなキスをしようとした。何故そうしようと思った
のか、それは自分でも判らない。ただ、そうしたいと思っただけだ。
 セインの行動に対し、ゼロは微動だにしなかった。それをいいことにセイン
は目的を果たそうと顔を近づけ、

 見事に失敗した。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:07:56 ID:+jxRnuoU
支援
296ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:08:44 ID:a0yBZeNh
「うえっ!?」

 情けない声を上げながら、セインは体勢を崩した。要するに、つまづいたの
である。彼女はそのままゼロにぶつかり、二人は床に倒れ込んでしまった。
「痛ったぁ〜」
 恥ずかしいというか、格好悪いの一言である。慣れないことをすると失敗す
るものだとはよく言ったものであるが、何もこんな時に言葉通りの結果になる
ことはないではないか。
 セインは余りの恥ずかしさに顔を上げられないでいたが、
「大丈夫か?」
 そんな彼女の髪を、そっとゼロの手が撫でた。
 考えてみれば、セインはゼロの上に倒れ込んでいる状態である。見方を変え
れば、これも抱きついていると言うことにならないだろうか? さすがに、抱
き合っているとは呼べないだろうが。
「あ、ちょっと美味しいかも」
「何がだ?」
「え、あー、こっちの話!」
 慌てたように、頬を紅潮させながらセインは起ち上がろうとして、セインは
それを止めた。
「どうした?」
「ん、もう少しだけ」
 我ながら大胆なことをしていると思ったが、相手の方はそうも感じなかった
らしい。セインはゼロのひきしまった身体に身を預けながら、そのぬくもりを
感じ取った。
 やがて満足したのか、相変わらず赤面しながら、セインは起ち上がった。

「またね、ゼロ。また、会おうね」

 さよならとは、言わない。
 それがセインの、せめてもの想いの表れだった。


 全ての別れを済ませ、ゼロとフェイトは車に乗り込むとクラナガンを後にし
た。車中にて、二人は無言であった。自動運転である以上、フェイトは運転に
意識を集中させる理由もないわけで、それでも会話がないのはフェイトにも思
うところがあるのだろう。
 ゼロの、帰還という事実に。
「そういえば、ギンガのことだけど――」
 触れずにはいられない話題が、いくつかあった。クラナガンへ、残骸となっ
て落下したゆりかごの破片。回収された多くの中に、当然の如くガジェットや
ナンバーズの遺体なども含まれてた。ナンバーズ3番トーレは、フェイトとの
戦いに敗れ機能を停止させ、落下時のショックで完全に基礎フレームが破損し
ており、再起動は絶望的であるという。次にナンバーズ4番クアットロだが、
こちらは不思議なほど綺麗な身体をしていた。
 正確に急所を貫かれて、絶命していたが。
「ギンガだけは、見つからなかった。少なくとも、ゆりかごの周辺には」
 あの時、ゆりかごの残骸と共に落下するゼロを助けたのは、確かにギンガだ
った。しかし、助けられた当人も、それを見守っていた周囲も、遂にギンガの
姿を発見することが出来なかったのだ。
 生きているのか、死んでいるのか、ゼロを助けることが出来たのだから生き
ているのだろうが、その後の足取りは掴めない。余り良い想像ではないが、ど
こかで死んでいたとしても不思議はないのだ。
「あたしは、ギン姉を探します。ギン姉が生きてるって希望がある限り、探し
続けます!」
 スバルの決意に対し、フェイトは微笑を持って返した。ティアナも協力を惜
しまないと言っており、少なくともスバルは悲観に暮れて立ち止まる、などと
いうことはなさそうだった。
 しかし、スバルに対するそれとは別に、フェイトには別の考えもあった。ギ
ンガが生きていることを前提として、彼女が今後表舞台に現れることはあり得
るのだろうか?
297ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:11:28 ID:a0yBZeNh
 あるいはあの時、ゼロを助けたときに姿を見せなかった時点で――
「生きていれば、また会うこともある。そういうことだろう」
 短く、ゼロは呟いた。ギンガに対しての感情を、ゼロはフェイトにも明かす
ことはなかった。秘めたるものを知りたいとは思ったが、それをすることは憚
られた。
 ゼロは、その後車中においてギンガの話題には一切触れることがなかった。


 着いたのは、クラナガン郊外の草原であった。何もない、あるのは草と大小
様々な岩ぐらいである。
 フェイトとゼロは車を降り、周囲に人がいないかを確認しながら、奥へと進
んでいった。この間、二人は無言である。
「よかった、ちゃんと準備されてて」
 草原の中心に、小型艇のようなものが置かれていた。単座式の、本当に小さ
いものであるが、一応次元航行が出来る代物だ。今日のために、フェイトがク
ロノを通じて管理局内から一機調達させたのだ。リスト上では廃棄機体だが、
実は新型である。廃棄リストに新型を紛れ込ませるという方法で、クロノは義
妹の希望を叶えてやった形だ。
「操縦は自動運転、マニュアルでもそんなに難しくはないから」
 機器を操作しながら、フェイトは淡々と説明をしていく。
 セインほどに、彼女は割り切ることが出来ないのかも知れない。セインは元
が敵としてであったことで、そもそもゼロと交流が持てたこと自体が奇跡のよ
うなものだ。しかし、フェイトは違う。違うのだ。
 異世界の住人であるから、いつか帰らねばならないというのは判る。しかも、
ゼロは好き好んでミッドチルダに来たわけでもない、次元漂流者だ。それがジ
ェイル・スカリエッティなどという犯罪者に目を付けられ、戦闘に巻き込まれ
てしまったばかりに、本来ならば全く関係ない苦労まで背負わせることになっ
てしまった。
 そう、ゼロはこの世界に大いなる貢献をした、したはずなのに……
「ごめんね、こんなに慌ただしくて、しかもコソコソと帰らないといけないな
んて」
 ポツリと呟いたその言葉には、複雑かつ様々な事情を絡み合っている。次元
航行艦艇の調達方法からも判るように、ゼロの帰還というのは非公式なのだ。
というのも、今現在におけるゼロの立場もまた、ヴィヴィオと同じぐらい微妙
な位置にあるのだ。
「本当は、管理局もあなたには百回だって千回だって頭を下げて、あなたの戦
果と功績を称えても良いはずなのに」
 ミッドチルダ首都クラナガンが壊滅したという一連の事件に際し、時空管理
局は頭を抱えながらも対応に迫られた。何故こんな事件が起こったのか、どう
して首都は壊滅せねばならなかったのか、前者はともかく、後者に関しては管
理局の防衛意識に対する痛烈な批判が展開された。多次元世界の管理ばかりに
かまけ、次元航行艦隊に予算を使う一方で、地上の平和を軽視した、というの
である。奇しくも、レジアス・ゲイズ中将の訴えは、彼の死後、結果論として
展開されていくとになった。
 ここで問題となってくるのは、事件を解決したのは誰かと言うことである。
クラナガンは壊滅したが、事件は管理局の手によって何とか集束することが出
来た、というのならまだ面子も保てるし、対外的にも「まあ、解決は出来たの
だから」ということになるだろうが、聖王を撃破し、ゆりかごを破壊したのは
管理局ではなくゼロだ。管理局は事件の解決さえも、異世界の戦士に頼らざる
を得なかったのかと言われれば、その権威は地の底まで落ちるだろう。
「管理局はゼロの存在を引き入れようとしている」
 クロノからフェイトへともたらされた情報は、それほど意外なものではなか
った。つまりゼロを協力者、協力員とでもして元々管理局側の人間だったアピ
ールし、彼を正式に身内に加えてしまおうというのだ。かつての自分や、なの
はがそうであったように。
 だが、裏を返せば実質的な監視下に置くのも同義であり、そうなってはゼロ
が元いた世界に帰ることなど不可能となってしまう。故に、フェイトは散々悩
んだ末、先手を打ってゼロを元の世界に返してしまおうと考えたのだ。それが
この戦いに彼を巻き込んでしまった自分の、せめてもの償いのつもりだった。
298ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:14:18 ID:a0yBZeNh
 はやては勿論、クロノにも協力させたのは一人では限界があったからだ。ク
ロノは管理局の規律や規則を百も二百も破るであろう行為への加担を最初は拒
んだが、管理局がゼロの戦果も功績も全て奪おうとしているという事実の後ろ
めたさから、最終的には協力を了承した。

「それと、ヴィヴィオにも感謝しないとね」
 微笑するフェイトだが、今回のことで一番重要な部分を担ったのは、他でも
ないヴィヴィオである。帰るにしても、フェイトはゼロの元いた世界の場所や
位置を知らず、クロノも発見できずにいた。そんな中、事情を知ったヴィヴィ
オが驚愕するような情報を秘密裏に教えてきたのだ。

「ヴィヴィオ、知ってるよ。ゼロの元いた世界の場所」

 聖王となってゼロと激闘を繰り広げていたとき、ヴィヴィオは次元の穴をこ
じ開けて、ゼロが元いた世界へと続く扉を作ったことがある。その時の記憶が
残っていたのか、ヴィヴィオはその座標や正確な位置を憶えていたのだ。
 場所さえ判ってしまえば、話は簡単だった。
「さてと、後はここにこれを取り付けて……」
 フェイトとゼロ以外は誰も居ない草原で、ゼロはひっそりと帰還の時を迎え
ようとしている。不満はないが、どこか物悲しい風景ではあった。
「本当に、それを使ってしまっていいのか?」
 取り付けているものに対して、ゼロが僅かな懸念を発した。
「……いいよ、別に。保管しても盗まれるぐらいなら、ゼロが持って行って」
 それとは、ジュエルシードのことである。ゼロの元いた世界、その座標を調
べたフェイトは驚いた。ミッドチルダから、通常の次元航行技術を使っても簡
単には行けないような、遙か彼方にあったのだ。大型艦船クラスでも数ヶ月は
かかるという結論に対し、フェイトは別の考えを決断した。
 即ち、次元干渉型エネルギー結晶体ジュエルシードを使って、超長距離次元
航行を可能にすると言うのである。理論的には正しく、実現もさほど難しくは
なかった。しかし、ジュルシードはロストロギアであり、それを管理外世界に
送るというのは……
「発覚したとき、その時は私が全責任を負うから」
 というフェイトの懇願に、クロノは遂に折れた。表向きは盗まれたと言うこ
とにして、ジュエルシードを一つ、ゼロが身につけていたものをフェイトが自
由に扱えるようにと、手配してやったのだ。とことん、義妹には甘い提督であ
った。
「ジュエルシードは、私にとっての過去であり、思い出深い宝石なんだ。だか
らかな、私はこれを、あなたにも持っていて欲しい」
 もう一つ、この宝石に想い出が刻み込まれた。僅か数ヶ月の話ではあるが、
人生において忘れられない出来事となったことに、違いはない。
「そうか、なら、ありがたく受け取っておこう」
 ゼロはフェイトの好意を、快く受けた。彼はそうされるだけの立場にあり、
資格も十分にあるのだが、彼自身はフェイトに対し、色々と迷惑を掛けて済ま
ないと思っている。謙虚と言うわけではないが、そんなゼロの姿勢も、フェイ
トにとっては好感を抱く理由の一つだった。
 今では、それを含めた大半の部分で、フェイトはゼロに明確な好意を抱いて
いるのだが、フェイトは口に出そうとしなかった。口にしてはいけないような
気がしたのだ。
 言ってしまえば、もう二度と会えないように思えたから――

「……そろそろ、時間だ」

 ゼロは言って、フェイトに背を向けた。まだまだ話したりない、話すべき事
は山のようにあった。逃げたスカリエッティについてや、これからの六課の行
く末、ギンガの所在や、なのはとヴィヴィオの今後、そしてフェイト自身に関
しても、言いたいことはとめどなく溢れてくる。
 けど、それは帰還者たるゼロに必要な話ではない。彼の役目は、彼の物語は
ゆりかごを崩壊させたとき、幕を閉じたのだ。後は残されたものが引き継ぐべ
き話であり、ゼロに背負わせるべきではないのだ。
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:14:19 ID:WfE2UeMx
支援
300ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:16:59 ID:a0yBZeNh
 だけど――

「ゼロ……あの」
 ここに、残って欲しい。ミッドチルダに、自分の、フェイト・T・ハラオウン
の側に、居て欲しい。
 その言葉が喉まで出掛かったフェイトであるが、言いたくても言えなかった。
「何だ?」
 問いかけるゼロに対し、フェイトは気丈に、自分では気丈だと思った上で、
「何でも、何でもないよ」
 ゼロに向かって、微笑んで見せた。その微笑みに、ゼロも僅かであるが微笑
を返した。
「そうか」
 短く答え、ゼロは周囲に目を向けた。見回したところで、辺りはただの草原
で、目の前にも比較的大きな岩があるぐらいだ。
 ゼロは岩の先、遠くの世界を見つめているようであったが、それは彼なりの
ミッドチルダという世界に対する別れの挨拶だったのかも知れない。ゼロは再
び、フェイトに背を向け歩き出した。
 良いのか、何も言わなくて? これが最後、二度とないかも知れないのに、
何か、最後に何か、彼に、ゼロという戦士に言っておくべき事はないのか。

「――――ゼロッ!!!」

 気付いたときには、ほとんど無意識でフェイトはゼロに駆け寄り、その背に
向かって抱きついた。
 身体は震え、頬は赤みがかっている。フェイトはゼロに振り向いて欲しくは
なかった、振り向かれれば泣いている自分が判ってしまうから。
「フェイト……」
「何も言わないで。言いたいことがあるのは、私だから」
 言いながら、フェイトは自分が何を言いたくて彼に抱きついたのか、それを
考えた。抱きついた瞬間に抜け落ちたのか、それとも考えもなしに抱きついた
のか、いや、違う――
「例え、あなたが自分のことをどう思っていようと」
 自然と、言葉は口から奏でられていく。まるで、何年も前から言うことを決
めていたかのような、明快で明確な流れ。
「私にとって、あなたは……」
 フェイトは、その一言に自分の気持ちの全てを込めた。

「あなたは、私のたった一人の英雄だから―――!!!」

 英雄とは、誰か一人でも認める者がいるなら、その時点で英雄なのだ。
 昔、誰かから聞いたことがある。
 もしそれが真実ならば、私は何度でも、何回でも、ゼロを英雄として、私の
唯一の英雄として認めるだろう。
「あなたは私にとって、英雄だった。この世界のためとか、そんなことはどう
でも良いし、あなたが今後、気に掛ける必要はない。だけど、これだけは忘れ
ないで」
 ゼロを抱きしめる腕に、力が籠もっていく。
「ゼロは私の、フェイト・T・ハラオウンの英雄になったという事実だけは、
忘れないで欲しい」
 その想い出の証が、ジュエルシードなのだ。
 フェイトの想いに、さすがのゼロも鈍感ではあり得なかった。彼は振り返ら
ず、フェイトを抱きしめ返そうとはしなかったが、彼女の思いに対してはただ
一言、
「約束、しよう」
 そのように、答えてやった。
 抱擁を終え、フェイトの腕からゼロが離れた。涙を拭いて、フェイトはゼロ
の後ろ姿を見る。
 ゼロは最後に一度だけ、たった一度だけフェイトに向かって振り返った。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:17:57 ID:CabGo01O
支援
302ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:19:11 ID:a0yBZeNh
「フェイト、ありがとう―――さよならだ」

 その時、フェイトは確かにゼロが笑ったような気がした。自分に向かって、
微笑んでくれたような、そんな気がした。
 決してそれは、錯覚などではなかった。
「元気でね、ゼロ。また、いつの日か」
 ジュエルシードがきっと、いつか二人を引き合わせてくれる。

 フェイトの想いを乗せたジュエルシードの光りが、草原の空に輝き、そして
消えた。赤き戦士にして、フェイトの英雄は、自らの世界へと帰っていった。


「……さて、と」
 ゼロが帰還した空を見上げながら、フェイトは後ろ歩きで後方に下がり、近
くにあった大きな岩へとその背を預けた。ゼロが最後に見つめていた、視線の
先にあったものである。

「良かったんですか? あれだけしか言わないで」

 声はフェイトの後方、岩を挟んだ反対側から聞こえてきた。
「私は、言いたいことは全部言った。あなたの方こそ、出てこないで良かった
の? ゼロはあなたが居たことに気付いていたよ――ギンガ」
 名前を呼ばれた少女が、僅かに苦笑する声が響き渡ってきた。
「今更、私がどんな顔してあの人に会えば良いんですか? 気付いてくれただ
けでも嬉しいし、私は満足ですよ」
 ギンガ・ナカジマ、ある時は機動六課の隊員としてゼロと共に戦い、またあ
る時はスカリエッティの部下としてゼロと敵対し、最後の最後は彼の命を助け
た少女が、そこにいた。
「ゼロは、きっと私を許してくれないから……だから、会う必要はなかったん
ですよ。会えば、彼に対して私は酷いことを言ったと思うし、してたかも知れ
ないから」
 フェイトには言わなかったが、ゼロには言ったギンガの本音。助けて欲しか
った、ゆりかごとともに落ちるゼロを助けたとき、ギンガは確かにそういった。
どうしてそんなことを口に出してしまったのか、今でも判らない。
「でも、そんなのは甘え、所詮甘えです」
 何から助けて欲しかったのか、それすらもギンガには説明が出来ない。聖王
との戦いからか、それともスカリエッティからか?
 いや、違う、もっと根本的な、本質的な部分で、ギンガはゼロに救いを求め
ていたのだろう。
「いずれにせよ、それはゼロにとって関係のない話です。彼が私なんかのこと
をいつまでも憶えていてくれるかはともかく、差し当たってはこれで良いんで
す」
 微笑んでいるであろうギンガに対して、フェイトは声を掛ける。
303ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:22:17 ID:a0yBZeNh
「これから、どうするつもりなの?」
「それは、あなた次第じゃないですか? お尋ね者のギンガ・ナカジマはあな
たのすぐ反対側にいて、その気になれば捕まえることも出来ると思いますよ」
 ギンガが抵抗するかしないかは別として、フェイトにそういった選択肢が存
在するのは事実である。事実であるが……
「止めとく。あなたはさっきゼロが自分を許してくれないと言ってたけど、ゼ
ロはあなたに気付いていながら、最後までそれを私には言わなかった」
 結果的にフェイト本人も気付いてはいたが、少しだけ悔しさが混ざった声だ
ったかも知れない。
「あなたには、ゼロを助けて貰った借りもある」
「その借りは、先ほど本人が返してくれたんじゃないですか?」
 訝しげな口調で、ギンガが尋ねてくる。
「ゼロ本人はそうかも知れないけど、私個人はまだだから……ありがとう、ギ
ンガ、ゼロを助けてくれて」
 突然の礼に、ギンガは思わず言葉を詰まらせた。まさか、フェイトがそのよ
うなことを言い出すとは思わなかったのだろう。
「あなたは、昔からそうですね。あなたみたいになりたいと思って、私は遂に
そうすることが出来なかったなぁ」
 今からでも遅くはない、そう言おうとして、フェイトは止めた。自分がそれ
ほど大した人間ではないと思ったからでもあるが、ギンガが僅かに魔力を解放
させ始めたのに気付いたからだった。
「スバルを、よろしく頼みます。私と違って、良い子なんですよ、あの子は」
「知ってるよ――会ってあげないの?」
「その資格を、私は自分自身の手で失ってしまいましたから」
 次に会ったときは、敵同士です。
 別れの言葉としては陳腐だが、ギンガの発した言葉の意味と重さを、フェイ
トは強く噛みしめていた。

「それじゃあ、お互いもう二度と会わないことを祈りましょう、フェイトさん」

 笑い合い、言葉を交わし合って、それが、フェイト・T・ハラオウンとギン
ガ・ナカジマの、別れの挨拶だった。
 ギンガが今後どうするのか、それはフェイトには判らない。知りたいとは思
うが、今は他にやるべき事が多すぎる。
「帰らないと、私には、帰るべき場所があるんだから」
 そう、フェイトには帰るところがある。
 仲間がいて、友人がいて、親友はいなくなってしまったが、そこはフェイト
の帰るべき家なのだ。
 フェイトは、大空高く、天を見上げた。幾つもの星が、空に浮かび上がって、
瞬いている。あの星の一つに、彼はいるのだろうか。

「ありがとう、ゼロ――私の英雄」

 想いを呟きながら、フェイトは歩き出す。
 彼女の帰るべき家、機動六課へと帰るために、歩き始めた。

                                おわり
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:27:36 ID:WfE2UeMx
支援
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:30:25 ID:Ep+74w4T
支援
306ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/10/25(土) 22:32:06 ID:S8I3EI/9
第26話、最終回です。
二ヶ月半と少し、思えば長いようで短く、短いようで長かった。
毎回多くの感想に、保管庫では58000のヒット数、本当に皆さんに
支えられてきた作品が、ここに完結しました。
本当に、本当に、ありがとうございました!

さて、今回は最終回と言うことで、そんな皆様に対する感謝の気持ち
として、ちょっとしたおまけを用意しました。
ただ、完結直後に投下すると、作者の私が言うのもあれですが、
完結後の余韻的なものが薄れてしまう気がするので、時間をおいて
24時頃に投下させていただきます。なので、ここで投下予約を。

最終回、本当に皆さんに支えられてここまで来ました。

それでは作品の感想と、何か質問でもありましたらよろしくお願いします!
質問がもしあったら、おまけ投下時にでもレスします。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:39:40 ID:WfE2UeMx
GJ!
少し納得のいかない部分もありましたがそれが気にならない面白さでした
ネットには完結させるどころか長期間放置してる作品が多いにも関わらず、
何よりもこの短期間でこの長さの作品を完結させるのは凄いことだと思います
本当にお疲れ様でした



…ところで、あっちの方の一話だけ書いて放置している方の続きは書くんですよね?
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:54:37 ID:FRKfjx0S
完結GJ!
オマケも楽しみです

安易にくっつかない切なさが……
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:54:51 ID:gMlxC/yA
持ち帰ったジュエルシードが、ZXのライブメタルの誕生に繋がるわけですね
わかります。
310名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 22:57:58 ID:Jvt6D2bY
良かった
久しぶりにウルっときた
お疲れ様でした。オマケも楽しみにしてますー。
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:15:42 ID:uYC9GeHf
完結おめでとうございます!そしてお疲れ様でした。
まああくまで完結したのはゼロの物語であって、実際なのは達の世界はまだまだ問題山積みなわけですが。
なのはの復帰は分からなくなったしルーテシアも結局行方知れずになったしなぁ。
そしてもうメインでよくね?なまでにカワユさ抜群となったセインwwwついでに10年経っても未だやり口が変わらん管理局。
結局3脳は原作通り闇でドゥーエにぬっ殺されたのでしょうか?
最後、シエルのお株を奪うほどの衝撃ゼリフを言い放った正ヒロインフェイト。
死亡フラグを叩き折り、どっこい生きてたギンガさんもスカと同じく追われる身。
こちらの戦いは当分終わりそうもありませんね。
最後にゼロが元の世界にてシエルと共に平和に暮らしている事を祈りつつ。
この短期間にこれほどの大作、本当にありがとうございました!!!
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:23:44 ID:NvZ7Hk1h
GJすぐる……!

こんなこと言える立場とタイミングではないと思いますがぜひぜひ続編を!!
313名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:31:47 ID:mmtU4OrK
Thank you for writing!!
第一話から読破してきましたが、無事に完結出来て嬉しく思います!
ゼロの存在という僅かな違いから生まれる信頼や確執、時折入る原作ネタなど、パラレルとして十分な完成度でした!
おまけの方もお待ちしてます!
314名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:33:53 ID:Qvr0RT4Y
遅ればせながら、素晴らしい作品をどうもありがとうございました!支援

>>311様の書き込まれた通り(なのは世界には)問題山積みの結末でありながら
ここまで(ゼロの物語として)大満足の作品を拝めるとは・・・ただただ感服あるのみですよ。
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:48:21 ID:Yqf5UfLW
最高・・最高です・・
二ヵ月半楽しませてもらいました。
キャラの心理描写が際立つ完成度の高い作品でした。
多くは言いません、ありがとう。そしてお疲れ様でした。
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:51:07 ID:WfE2UeMx
>>314-315
何故ageる
初心者か貴様ら
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:57:35 ID:2eibtzsR
GJでした!流石だなぁ英雄!
おまけも楽しみにしてます
318ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/26(日) 00:07:52 ID:MTpn0yGb
>>307
これが終わったんで、その内再開します。

それでは、おまけ投下しても良いですか〜?
319名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:08:22 ID:8mhdp4mJ
オッケーイ
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:09:45 ID:BoFWh5XI
GJ! そしておまけ支援!
321ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/10/26(日) 00:10:12 ID:MTpn0yGb
では、投下します。
322ロックマンゼロ-予告- ◆1gwURfmbQU :2008/10/26(日) 00:13:06 ID:MTpn0yGb
 物語は、終わったはずだった――
「ねぇ、なのはママ? ゼロは今頃、何をしてるのかなぁ?」
 物語は完結し、思い出されるだけの思い出となり、


「ねぇ、ゼロ、あの話しを聞かせて」
 物語は完結し、語られるだけの伝承となった。
「あなたの行った、魔法の国のお話しを」


 そう、思っていた――



「連続魔導師襲撃事件?」
 新たにはじまる物語と、巻き起こる事件。
 世界は再び争乱に包まれ、世界はとめどなく血を欲する。
「ジェイル・スカリエッティ事件から一年も経っていないのに、また厄介な話や」

 凶悪なる事件に巻き込まれていく機動六課、
 彼女らが操作をしていく先に見える、一つの真実。 

「間違いない……あいつは、あの男は」

           ―――ゼロだ!!!―――

 連続魔導師襲撃事件主犯ゼロ、多次元世界に指名手配開始。

「嘘だ、ゼロがそんなことをするわけがない!」
 否定するフェイトに、
「現に、シグナムは奴と戦い、やられている。犯人は、奴しかいない」
 突き刺さるのは厳然たる事実。

 幾つもの事実と現実、そこに策謀と陰謀の影が折り重なり、
「八神はやて及び機動六課全隊員を拘束せよ……尚、抵抗が見られ、拘束不可能と判断し
た場合、これの抹殺も許可する」
 フェイトを初めとした機動六課の仲間たちに、決断を迫る。

「私は、ゼロを信じる。世界中が彼を信じなくても、私だけは信じ続ける!」


 一人事件の真相を追い続けるフェイトが、世界の果てに見たものとは?

「お前は……」
 目の前にいる赤き存在を、フェイトは愕然として見つめてる。

「お前は、誰だ――!?」

 その問いに、赤き存在は答える。唯一絶対の、答えを。


「我は――メシアなり」



            ロックマンゼロ-逆襲の救世主-

             2009年 投下予定

323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:13:23 ID:vE9JOiNU
GJ 今追いついた支援する。
324ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆1gwURfmbQU :2008/10/26(日) 00:13:57 ID:MTpn0yGb
おまけという名の予告でした。

俗に言う続編って奴です。-赤き閃光の英雄-が大反響だったので、
まあ、書いてみようかなと。
赤き閃光の英雄でやり残したこと、付かなかった決着、回収していない
伏線……は一つありますね、要するにそういうのにケリを付けます。
まだ、プロットも立ててないですが、内容は大体決まってます。

ちなみに予告編、もう二つほどありまして、
「-ゼロ-サイド」&「-イレギュラー-サイド」と言うのがあるので、
それもその内投下を。今回のは「-なのは-サイド」です。

救世主と書いてメシアと読め! 

赤き閃光の英雄のラストを汚さない作品にしようと思うので、
皆様、よろしくお願いします!

それでは、また来年〜。
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:19:45 ID:pq/Yb/B+
なんと! 続編を鋭意制作中とは!
しかもオメガの再登場、つーことはバイルの影がちらつきますね。
これは気になる来年が待ち遠しいw
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:23:58 ID:ydBr5k9I
いままでなのは世界にゼロ単体を放り込んでいたところに今度はゼロの原作設定も加えていくのですね!
見てぇ!続編、鬼のように楽しみにしてます!
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:26:09 ID:8mhdp4mJ
…一話だけ書いて放置とかならないように、自分の願いはそれだけです
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:38:15 ID:+d/RsFVS
ちょwww完結したと思ったらオメガだとーーー!!
どゆ事?だって今回の話ゼロ4の終わりからの派生だったんじゃないの!?
大破したはずのオメガ復活ということは間違いなく暗躍してるのは・・・・・・
まさか四天王どころか八神官も出てくるとか言い出しませんよね!?
これは期待するしかないじゃないか!!!
329名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 00:40:11 ID:2Or95Ebe
GJ!! 完結の感動も冷めやらぬ中メシア来たーーーーー!!
続編があるとしたらZXクロスだと思ってたのでこれは意外!
いやもしかしてZXなのか? とすると
モデルF→スバル
モデルH→キャロ
モデルL→エリオ
モデルF→ティアナ
モデルX→なのは
モデルZ→フェイトorギンガ
と電王並みの一斉変身を期待してしまうぜ!
とにかく別パターンの予告編も期待してまってます。
330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 01:08:15 ID:EKX2umeL
続編……だと………?
フハハハハハハ素晴らしい!
楽しみに待ってます
331名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 01:18:10 ID:wJZlkQVm
遂に完結!!フェイトの英雄ってなんて素敵なんでしょ!と思ったら続編とは!?
劇場版1期の30倍楽しみじゃないですか!
332名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 01:22:46 ID:EPDndf04
ワレハメシアナリ!ハーハハハハ!!吹いた
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 01:30:12 ID:RX926UJ7
>一話だけ書いて放置している方
どの作品の事なんでしょうか?
読んでみたいので教えてください。
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 01:49:33 ID:uj+mMpxv
俺はいつまでも覚悟をまってるよ・・・
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 02:50:37 ID:f/GmLier
飯屋降臨は完全に想像外
続編があるってことは念願のリインとのユニゾンも!
……また野良融合騎に美味しい所を持って行かれそうだなぁw
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 08:35:58 ID:7io0Y7iZ
3では弱いけどZXでは強い人ですねッ!
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 08:41:08 ID:jYOLelxs
オメガが登場するとか予想外w
期待して別サイドの予告&続編待ってます
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 08:53:41 ID:akMPwJQK
ゼロとオメガの関係――それを知った時のフェイトとエリオがどんな想いを抱くのかが気になるな。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 11:58:23 ID:rAdV3DvM
ゼロの方、乙です。
完結おめでとうございます。
Dr.スカのジャンピング土下座が
みれなかったのが心残りかな。
続編も期待しています。
340リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 13:16:38 ID:RjfZjhfL
ゼロ氏完結おめでとうございます!
まさか続編がくるとは……もう一度読み直してこねば!!
楽しみに待ってます。
こんな良作を読めて幸せです、ありがとうございました!


それでは、14:00に投下予約をよろしくお願いします。
341名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/26(日) 13:54:19 ID:JcRJPNv8
支援
342リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 13:58:49 ID:RjfZjhfL
それでは、そろそろ投下開始します。
番外編です。
343リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 14:00:22 ID:RjfZjhfL

『これを読んでいる貴方も既にご存じかもしれないが、ミッドチルダでは最近こんな噂が流れていた。
 噂はこう言っていた。
 歩く段ボールを見たら死ぬ、と。
 それを見たと騒いだピザ屋の店員が、その二日後に交通事故で亡くなって(哀悼の意を表する)出来た噂だ。
 それを聞いた私は誰よりも早く段ボールの悪魔をUMA(未確認怪奇生物)だと確信し、ピーナッツバターとカメラを手に実態を捜索した。
 きっと段ボールの中は身の毛もよだつ怪物が潜んでいるに違いない!
 そう信じて行った丸々二日間もの捜索の末、手ぶらの上に泥塗れになって帰ってきた私を記者仲間は「馬鹿じゃないか?」と嘲笑した。
 そんな噂は記事どころか酒のつまみにすら成り得ない、と。
 私は余りの悔しさに、溢れる涙で枕を盛大に濡らす事となった。

 しかしその直後から世間は、ピザ屋の店員が段ボールの悪魔を見たとされる場所付近を初めとして起こった異変に気が付き始めた。
 蛇や鼠や鳥、果てには魚介類まで様々な動物の死骸が発見されたのだ!
 恐るべき事にどれも喰い荒らされたものばかりで、それが何日もの間場所を変えて続いた。
 その哀れな動物達は恐らく、人間のいない時間帯に段ボールの悪魔を目撃してしまった所為で捕食されてしまったのだろう。
 私は段ボールの悪魔の存在を確信した。
 当然噂にも拍車が掛かり、記者仲間の糞野郎も手の平を返してゴシップ集めに乗り出した。
 そしておおよそ二週間、管理局をも巻き込んだ騒動の末!
 ……段ボールの悪魔は捕まえられるどころか確認すらされず、気付けば動物の死骸が発見される事も無くなり、事件はようやく鎮静化した。

 何が言いたいかって?

 私を馬鹿にした記者仲間にこう言いたいのさ。
 「お前も馬鹿だったじゃないか?」とね。
 ちなみに私は今現在もこの悪魔を捜索している。
 何か情報があったらギガ・サプライズのマクゴールド宛によろしくお願いしたいものだ。
 お礼に我が家に有り余っているピーナッツバターを喜んで差し上げたいと思う――』

新暦三十八年八月 雑誌『ギガ・サプライズ』 チャーリー・マクゴールデンの記事より抜粋。


リリカルギア番外編「段ボールの中の戦争 〜哀・純情編〜」

古代遺物管理部機動六課。
そこの部隊長八神はやては部隊長室でのんびりコーヒーを啜っていた。
忙しい時はとことん忙しくなる機動六課では、休める時に休んでおかなければ体が持たないのだ。
只でさえ、事務関係の仕事は山ほどある。
新人達にも思う存分訓練に明け暮れてほしい所だが、それも難しいものがある。
そして、おおよそ十五分しか経っていないはやての休憩時間は涙目のルキノに潰される事になった。

「……どないしたんや、ルキノ?」

内心で溜め息を付くが、大事な部隊員の為。
これを、とルキノが震えた声で机に勢い良く叩きつけた雑誌を目で追う。
随分と年季の入った雑誌だ。

「何々……『悪魔は確かにいた!』か。物騒なタイトルやな」

ずず、ともう一口コーヒーを飲み込む。
はやてはひんやり冷たいアイスコーヒーを味わいながら記事を読んでいく。
曰く、段ボールが勝手に歩いて大騒動。
結局確認は出来なかったらしい。
どこかで聞いた事がある話だ。
344リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 14:02:57 ID:RjfZjhfL

「『それ』を昨日の昼間に隊舎の外で見ちゃったんです! 私、私っ死んじゃうんでしょうか!?」

んなアホな、と内心でぼやくが、目を真っ赤に腫らすルキノの様子は至って真剣だ。
わざわざこんな古い記事まで持ち出してくる行動力には感服させられる。
はやては何度か頭を振ると、卓越した推理力によって犯人をものの数秒で特定した。
――どう考えてもあの男、ソリッド・スネークの仕業だろう。
記事は四十年程前の物なので何ら関係は無いだろうが。
思えば、初めて出会った時からスネークは段ボールを被っていた。
そんな事を部隊員に話すのもどうかと思っていたし、無闇に被らないという約束もスネークとしていたので、知っているのはその日にいたメンバー。
即ち、ヴィータを除く隊長陣とシャマルとリイン、そしてユーノだけだ。
だからスネークが異常な程、段ボールに執着している事を知っている人間は少ない。
話さずにいた事が裏目に出たかもしれん、とはやて一人ごちて立ち上がった。

「安心しぃ、ルキノ。私が解決したる。……約束を破る愚か者は――」

――粛正やっ!!

貴重な休みを阻害させた原因、変質者ソリッド・スネークへの怒りを胸に、はやては駆け出した。



休憩所。
そこにいるのは美味しくタバコを吸うスネークと、エリオの二人だけだ。
エリオの肩に乗っている美味そうな小龍はあえてカウントしない。
どうやら風呂上がりらしく、エリオの体からほかほかと湯気を立ち上っていて、シャンプーの香りが漂っている。
そして机の上には、色とりどりの包装紙に包まれたお菓子の山。
新人達で食べる予定なのだろう。

「皆、なかなか来ないんですよね……」

お菓子に視線をやり、ポツリと呟くエリオ。
スネークは不適な笑みと共にエリオの肩を叩いた。

「……エリオ、女の長風呂には慣れておく事だ。その『先』を楽しみに待ちながらな」
「はい、皆とお話しながらお菓子を食べるの好きなんですけど、やっぱり毎回待ち惚けですから……頑張って慣れます!」

屈託のない笑顔でエリオが言った。
そういう意味で言ったのでは無いのだが、やはり十歳には通じなかったか。
まだまだ若いな、と口からそんな言葉を溢すと、目の前の少年はすかさず目を輝かせた。

「え、と。スネークさんが前に言ってた大人の遊びって奴ですか? タバコはフェイトさんからきつく止められちゃったんですけど、他に何があるんですか?」

興味深々といった様子だ。
さすがに青少年に女性との一時について熱く語るつもりは無いが、大人の特権等思い浮べればいくらでも出てくる。
スネークはニヤリと笑って、休憩所備え付けのトランプを取り出す。
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 14:03:16 ID:/B7GJBVI
支援 
なにやっとるんだwスネークwww
346リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 14:05:53 ID:RjfZjhfL

「例えば、気のしれた仲間とやる賭けポーカーなんて最高だぞ。タバコを吸いながら思考を巡らすのは刺激的だ。何ならルールを――」

ひょい。

みしみし。

ばき。

「フェイトさん!」
「――やぁ、フェイト」

エリオが嬉しそうに声を上げる。
対してスネークは、にこやかに微笑むフェイトに緊張と共に挨拶をする。
何という事だろう。
スネークの手の中にあったトランプはフェイトによって瞬時に奪われてしまった。
ちょっと強く握りすぎちゃった、とフェイトがトランプのひび割れたプラスチック容器を見ながら呟くの聞いて、タバコを取り落としそうになる。

「スネークさん、私言いましたよね? エリオに変な事を吹き込まないで下さいって。ね?」
「すまない、悪かった。反省している」
「……もぅ」

こういう時に言い訳しても無駄だろう。
平謝りするスネークに、フェイトは不機嫌な表情で唸る。
そして、何か思い付いたかのようにスネークへ向き直った。

「スネークさん。貴方、お酒はどれくらい飲みますか?」
「浴びる程飲むな」
「……賭けポーカーは?」
「最近はやっていないが、ユーノにはいくらか貸しがある。俺は結構強――」

スネークが言い切る前に、フェイトは光の速さで動いた。
フェイトはエリオを抱き寄せると、まるで親の仇のようにスネークを睨み付ける。

「酒、タバコ、ギャンブル……典型的な駄目大人じゃないですか!」
「なっ、なんだって? 俺は……!」
「ニコチンの摂取、止められますか!?」

――駄目だ、俺には出来ない。
呆然と呟くと同時に、納得する。
ギャンブルや酒はともかく、タバコを取り上げられたら干からびて死んでしまうだろう。
やはり、出来ない。
スネークが気力を減衰させていると、突如休憩室の扉が開き、甲高い声が響いた。

「そう! 約束も守れないニコチン中毒の変質者には粛正をっ!」
部隊長のはやてだ。
そしてその後方、休憩所入り口には新人達三人と、なのは・ヴィヴィオの親子、涙で目を赤くさせたルキノがいる。
ああ、今日は特に賑やかだ。
もう慣れきってはいたが、やはり溜め息を漏らすスネークだった。

347リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 14:07:48 ID:RjfZjhfL


「俺は知らん!」

休憩所に、スネークの悲痛な叫びが響いた。
他の隊員達はこの部屋の名の通り、休憩を満喫していた。
はやては、眉をひそめる。
この男は、ルキノが段ボールを見たとされる時間にアリバイが無かった。
それでも認めるつもりは無いらしい。

「とぼけないで下さい、昨日段ボールを被って隊舎の外を歩いていたでしょう!」
「知らん! 本当に知らん!」

ええい、強情な。
ルキノは心配そうに様子を伺っているが、他の部隊員は我関せず、といった様子だ。
だが、こんな事は小学生でも簡単に推理出来る。
どう考えても、スネーク以外に有り得ない。

「この部隊に、いやぁっ! この世界に段ボールを好き好んで被るような人間はスネークさん以外におらへ――」

――スネーク!

はやての叫びを遮る声と共に、男が乱入してくる。
そこに現れたのは、余りに意外な人物。
ああ、すっかり忘れていた。
段ボールを被る男はスネーク以外にもいたのだ。
そのハニーブロンドの髪と無限書庫司書長の肩書きを持つ男の名は、ユーノ・スクライア。

「ユーノ君、どうしたの!?」
「ユーノさんっ!」

なのはが頬を染めて嬉しそうに声を上げ、ヴィヴィオが満面の笑みで駆け寄る。
ユーノはヴィヴィオの頭を撫でながら、興奮覚め遣らぬ面持ちでスネーク達へ向き直った。
スネークがそこにいる誰もが思っているであろう疑問を口にする。

「ユーノ、昨日通信で話したのにわざわざどうしたんだ?」
「いや、ちょっと時間が出来たから。それよりスネーク、見てくれっ!」

ユーノは素早く休憩所から立ち去ると、数秒で戻ってくる。
わざわざ六課に来てまで見せたい物は――

「――なんや、段ボールやないか」

大した物でもない。
なのはだけは呆れたように溜め息を付いていた。
そして、スネークの反応は火を見るよりも明らか。

「ほぅ、段ボールか。……! こっこれはっ!?」

ぽとり。
タバコがスネークの口からあっけなく落ちた。
スネークは慌ててそれを拾い携帯灰皿に突っ込むと、驚愕をありありとその顔に表しながら段ボールへと駆け寄った。
はやては、その様を呆然と眺める事しか出来ない。

348リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 14:10:33 ID:RjfZjhfL

「二層か。厚さは……十一ミリ。強化段ボールだな!?」
「その通り!」
「……大きさもちょうど良い」

こんこん、と滑らかな動作で段ボールをノックするスネークに、はやては口元を引きつらせる。

「悪くない。堅さもまるで鋼のようだ。手触りも……良い」

スネークはまるで愛玩動物を扱うかのように段ボール表面を撫でる。
続いてゆっくりと段ボールを持ち上げると、感嘆の息を吐いた。

「さすが、軽い。……むっ、外ライナーと内ライナーに使われているのはやはり――」
「もち、バージンパルプさっ!」
「――素晴らしい。一般段ボールの十倍もの耐圧縮強度を誇るというのは本当のようだな。……ユーノ、これ程の物、良く手に入れたな!」
「全くの偶然だよ。重量物の運搬に使われる所を頑張ってなんとか二つ貰ってきたから、慌ててここに来たのさ」
「ハハ、これをそんな用途で使うのは余りに勿体無いな。……ありがたく貰う事にしよう」

マシンガントーク、という言葉がはやての脳裏によぎる。
よく分からない単語が飛び交っていたがはやては気にしない事にして、スネークを再度睨み付けた。

「やっぱりどう考えてもスネークさんやないですか! ……もうええ」

不毛な言い合いだ。
これ以上話していても時間の無駄。
スネークから強化段ボールとやらを奪い去る。

「没収っ……! 没収やっ……!」
「なっ……」

勘弁してくれ、とスネークの嘆く様子に頭が痛くなるのを感じる。
いい大人がおもちゃを取り上げられた子供のようにヘコむんやない、と聞こえぬように毒付いた。

「はやて、本当に俺は知らないんだ」
「問答無用。これは処分させて貰います」

処分、という言葉にユーノとスネークが猛然と食らい付いた。

「処分? 処分だとっ!? どうするつもりだっ!!?」
「はやて、あんまりだよ!!」
「うっ……」

余りの剣幕に押されて、一歩後ずさる。
この男達、たかが段ボールの為に何故ここまで頑張れるのか。
たじろぐはやて。
憮然とした表情で抗議を続けるスネークとユーノ。
小さな少女の手が、おもむろに上がった。
ヴィヴィオだ。
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 14:11:58 ID:/B7GJBVI
支援w
350リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 14:13:48 ID:RjfZjhfL

「じゃあ、わたしがもらってかぶるっ」

寄り添っていたなのはが苦笑の元、ヴィヴィオの頭を撫でた。

「ヴィヴィオが被る物じゃないよー」
「でもユーノさん、まえに段ボールかぶらせてくれたよ?」
「……」

爆弾発言。
冷や汗と共に見る見る萎縮していくユーノ。
なのはが俯いた。

「……ユーノ君、ヴィヴィオに何を吹き込んでるの?」
「いや、なのはこれはっ!」
「骨董品については理解できるけど、段ボールは周りを巻き込むのやめてって言ってるのに……」
「なのは、ゴメンっ、なのはっ!」

――ちょっと、お話しようか。

そう呟いたなのはに、ユーノはどこかへと連れ去られた。
ユーノに負けず劣らず冷や汗を流すはやては、引きつった笑いを浮かべてヴィヴィオに尋ねる。

「なぁヴィヴィオ。昨日も、段ボール被ってたん?」
「うん、たのしかった!」

太陽のように明るい返事が返ってきた。
スネークが無言ではやてから段ボールを取り戻し、鋭い視線をやる。

「はやて、俺じゃなかったな?」
「ちゃ……ちゃうねん! 私は涙を流す部隊員を想って……!」
「冤罪に対する謝罪の意は無いのか?」

さも大事そうに段ボールを抱えるスネーク。
ごほん。
自分でもわざとらしいと思う咳払いの後、はやては出口へと体を向けた。

「――むむ、時間が! じゃあ、私はそろそろ仕事に戻ります。部隊長はほんま忙しいわぁ」

撤退。
決して敗走では無い。
背後から痛々しい視線を感じるが、気のせいだろう。
ああ、今日も機動六課は平和だ。


「ご機嫌ですね、スネークさん」
「ああ、冤罪と分かった事だし、こんな良質の段ボールは久しぶりだからな。……どうだティアナ、被ってみるか?」
「え、えーと、任務で敵を欺けるのは凄いと思いますが……その、私生活で被るのは……」
「……そうか」
「……あれ? でもそういえば、ルキノが歩く段ボールを見た時間って、ヴィヴィオはなのはさんとお散歩していたような……。……まぁいいか」


段ボールの悪魔は確かにいた。
351リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/26(日) 14:16:04 ID:RjfZjhfL
はい、番外編投下完了です。

完全におまけを長くしたような物ですね。
番外編内のマクゴールデン記者は、MGS2ゲーム内の小説『シャドーモセスで明かされた驚愕の陰謀』の人関連で、地味に好きなキャラの一人です。
ゲーム内の小説は『シャドーモセスの真実』も両方面白いのですが、読んでる友人が一人もいなくて……
面倒臭くて読んでない、という人は多いのでしょうかね?

そして、予告通り第十三話からはシリアスばっかりです。
それでは、次回もよろしくお願いします。
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 14:20:54 ID:/B7GJBVI
GJ!!です。
ダンボールをめぐる大人たちのくだらない争いw
何が、そんなにスネークとユーノを駆り立てるんだろう?www
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 14:27:23 ID:tL9DdR2j
>リリカル・クラッカーズ  『ミッドチルダにカプセルが蔓延し始めたようです』
蝶あざのファンにとって最高のご褒美です、蝶期待してます。
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 14:54:04 ID:jre+m83T
>>351
GJ!!
ダンボールを被っているヴィヴィオに萌えたw
ティアナも脈が有りそうだし、このままダンボールが広がっていくかもしれんw
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 14:58:48 ID:f/GmLier
どんだけダンボールが好きなんだよお前らww

しかしヴィヴィオがダンボーラー化したら聖王のダンボールで聖王教会も……!
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 15:24:22 ID:ns7KLenU
おっぱい戦隊ボインジャー!
赤 紅月カレン
青 マージョリー・ドー
黄 エルスティン・ホー
緑 南春香
桃 キュルケ

たまらん!
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 15:41:26 ID:yKsZtjXn
一体お前は何を言っているんだ・・・・・・
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 16:06:27 ID:+6//5X4o
誤爆じゃないっスかね?
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 16:08:17 ID:i8NIh0cD
>>357
リリカル氏の暴走に反応したんじゃね?

>>356
でもなのは勢が含まれてないから減点、さらにここは雑談板でもないのでさらに減点で不合格
出直してきなさい
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 16:35:12 ID:73LY3PZK
>356
おかしいなぁ…どうしちゃったのかな
ネタを投下したいのはわかるけど、ここは「好きなアニメキャラ5人で戦隊作る」スレじゃないんだよ
ネタスレに投下するふりして、他スレに誤爆するなら
投下の意味、ないじゃない ちゃんと、スレタイ確認しようよ
ねぇ、私の言ってること 私の指摘、そんなに間違ってる?

少し、頭冷やそうか……(AAry


だろ、このスレ的には
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 17:29:11 ID:XPfT+H2t
>>355
つまり聖王ヴィヴィオの騎士甲冑は鎧形ではなく……樹脂強化圧縮ダンボールだな。中国じゃ軍用ヘルメットにもなってるし。
362THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 18:12:42 ID:7ulvk0hb
マクゴールデンってアレか、カジキ被ってシャドーモセス進入した人ですかwww
こんなマイナーキャラ出してくれるとは相当MGSやってますね、GJでした!

<<さて……いや実はな、投下予約に来たんだ。昨日投下したばっかりだが筆の調子が
よくてな。1850に投下したい。誰か支援を頼む!>>
363一尉:2008/10/26(日) 18:13:30 ID:A2fwFF/J
ふむ段ボールたよな。
364名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 18:15:26 ID:nYMgcOyf
支援
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 18:21:26 ID:PhydXhsc
支援
366THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 18:51:01 ID:7ulvk0hb
<<支援感謝。投下を開始する!>>

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第27話 Yellow 13


そして死者は眠る、生者に後を託して――。


少し昔、ユージア大陸のある中立都市上空にて。
その日、黄色の13は愛機Su-37と自身の指揮する黄色中隊を率いて、迎撃に上がってくるISAF空軍機を一掃するため、制空戦闘を行っていた。
地面から見れば、その光景はさぞ魅力的なものだろう。
響き渡るのは遠雷のような轟き、見上げれば青空には、いくつもの飛行機雲が互いに回り込みあい、複雑なループを描く。
それはさながら青空をキャンパスにした芸術のような、美しく遠い空の戦い。
――だが、その実態は死に物狂いの命の奪い合いだ。
目の前のISAF空軍機を追いかけながら、黄色の13は頭の片隅でそんなことを考えていた。
ミサイルはすでに使い切った。残すは機関砲のみなのだが、なかなかこの敵機はしぶとく逃げ回り、照準に入ってくれない。
敵機を注意深く観察していると、左主翼を傾け、垂直尾翼のラダーが動くのが分かった。機体の重さを利用して、急降下で逃げを打つつもりの
ようだ。黄色の13はその動きを先読みし、操縦桿を薙ぎ払い、Su-37を急降下させる。
動きを読まれた敵機は黄色の13の正面に自ら躍り出る形になり、その距離は急速に縮まる。機関砲の必中距離に、持ち込まれたのだ。
ちらりと眼下に視線をやると、湖が見えた。その手前には小高い丘があり、このまま降下を続ければ地面にダイヴする羽目になる。
どうする、と敵機に胸のうちで問いかけると、返答はすぐ、上昇という形で返ってきた。合わせて黄色の13も操縦桿を引き、機体を降下から上
昇へと持っていく。主翼が丘を掠め、一瞬だけだったが自転車に乗った少年の影が見えた。
――もらった。
上昇して必死に逃げる敵機が、機関砲の照準に入る。黄色の13は躊躇うことなく引き金を引いた。
三〇ミリの赤い曳光弾が飛び出していき、敵機に降り注ぐ。次の瞬間には燃料に引火したのか敵機は火を吐き、パイロットを射出して湖に突き出
た岬の方へと落ちていった。
「やったか……」
ふう、と酸素マスクを外し、黄色の13は敵機が落ちたと思しき岬を見下ろす。黒々とした煙が上がっているから、機体は落ちた瞬間大破炎上し
てしまったのだろう。
大して感動は覚えなかった。邪魔な敵機を一機落とした、後はせいぜい、脱出したパイロットの無事を祈るだけだ。
彼に罪があったかどうかと言われると――難しいだろう。まさか撃墜した敵機が、岬にあった民家に突っ込み、あの丘の上にいた少年の家族を炎
と衝撃が奪ってしまったことなど、思いもよらないことだった。
それゆえに、この都市を拠点にするようになってから通うようになった酒場、そこで出会った少年が、自分のせいで孤児になってしまったことを
知った時の衝撃は、彼にとって計り知れないものだった。
謝ることは、ついに出来なかった。そればかりか、少年からは銃を突きつけられ、「僕らの街から出て行け、侵略者め」とまで言われた。
撃たれなかっただけでも幸いなのかもしれないが――それはそれで、果てしなく苦い感覚が、黄色の13の胸のうちを支配していった。
最後に"リボン付き"と戦って死ねたことが、ユージア大陸における最後の幸福だった。

しかし、何の因果か死なずに俺はここにいる――。
眼下に広がる氷の大地、そこにどっしりと構えた王――メガリスを正面に捉えつつ、黄色の13は思いを馳せていた。
こいつが動けば隕石がまたミッドチルダの地に降り注ぐ。そうなればチンクたち更正組の命も危うくなる。それだけは、絶対に阻止する。
「スカリエッティめ、自分の子供すら巻き込むつもりか――」
ぎり、と歯を噛み締める。奴の言う"救い"は、自身の独善による粛清のほかならない。ファシストめ、と罵りたい気分だ。
「13、見えるか? あれが最後の排気ダクトだ」
傍らを飛ぶリボンのマークのF-22、メビウス1の言葉を聞き、黄色の13は視線をメガリス正面の左側にある排気ダクトに向ける。
三つあるジェネレーターのうち、二つはすでに破壊した。残るはこの排気ダクトの向こうにあるジェネレーター、ただ一つ。
「リボン付き、あれは俺にやらせてくれ」
「13?」
「けじめをつけたいんだ」
メビウス1は少しの間黙ったが、彼がやむを得ずスカリエッティに協力していて、今はそれを食い止めるべく動いているのを察し、
「了解、上空で援護する」
と了承。黄色の13は敬礼して礼を言い、機体の高度を下げていく。
367THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 18:54:07 ID:7ulvk0hb
「ターゲットデータ確認、あと一つ。あと一つだぞ」
空中管制を務めるゴーストアイ、口調は相変わらず冷静だが、明らかにその言葉には焦り、期待、不安と様々な感情がこもっている。
ゴーストアイだけではない。地上本部戦闘機隊のアヴァランチ、ウィンドホバー、スカイキッド、機動六課のはやて、フェイト、シグナム、ヴ
ィータ、この場にいる全員が、彼らを見守っていた。圧倒的な対空砲火と超高濃度のAMF下では、それしか出来ない。あとは、エースの二人に任
せるしかないのだ。
黄色の13はSu-37を降下させ、排気ダクトに正面から立ち向かう。並の者なら萎縮し、突っ込むのを躊躇う対空機関砲の嵐。怖くないなんて嘘
だが、黄色の13は震える身体を無理やり押さえつけて、Su-37を直進させる。
IRST(赤外線探査装置)は、すでに排気ダクト奥のジェネレーターを捉えていた。あとはひたすら排気ダクトの中を突っ込み、機関砲を叩き込んで
しまえばいい。
「……!」
だが、そう簡単には行かせてもらえないらしい。彼の眼はしっかりと、排気ダクトの搬入口にシャッターが下りていくのを目撃した。このまま突
っ込めばシャッターに激突する羽目になってしまう。
黄色の13は操縦桿を引き、Su-37を急上昇させようとして、しまった、と表情を歪めた。シャッターの下りた排気ダクトの周囲に、今まで姿を
見せなかったいくつもの隠し砲台がぬっと姿を現していた。
速射砲と対空機関砲の矛先が、黄色の13に向けられる。やむを得ず、黄色の13はアフターバーナーを点火させ、Su-37を急上昇させる。
高度計の数値が跳ね上がり、Su-37は激しさを増した対空砲火の中を突き進み――いくつかの弾丸が、Su-37の胴体を叩いた。
「13!!」
上空で援護していたメビウス1が、悲鳴のような声で彼の名を叫んだ。

メガリス内部に侵入したベルツのB部隊、それにティアナたち新人フォワード部隊は、開く様子のないサブコントロールルームへの扉を背に、必死
の防衛戦を展開していた。襲い来るガジェットは今まで何度も潰してきた相手だが、その数は尋常ではない。
「こちらタンゴ2、通路6に増援お願いします」
ソープと言うニックネームを持つ陸曹は、MP5を模した魔力式サブマシンガンのマガジンを交換しつつ、別の場所で戦闘中のベルツに通信を入れ
た。そろそろ弾薬が心細くなってきたにも関わらず、ガジェットどもはまだ出てくる。
「タンゴ2、エレベーターを封鎖しろ」
ところが、返ってきたのは了承ではなく命令。向こうもどうやら限界ぎりぎりらしい。だが、確かに前方一〇〇メートルの地点にある資材運搬用
のエレベーターを封鎖すれば、地下から来るガジェットを足止めすることが出来る。
やるしかない、か――。
ソープはサブマシンガンを構え、傍らで戦闘態勢を取っている同僚のジャクソン陸曹、そして共にこの地点の防衛に就いたエリオとキャロに声を
かける。
「ジャクソン、それとエリオ、キャロ! あそこのエレベーターを爆破して封鎖する、ついて来てくれ!」
「なっ……おい、ちょっと待て!」
飛び出そうとするソープの肩を掴み、ジャクソンは彼を無理やり通路の奥へと引きずった。直後、ガジェットたちの放ったレーザーがかすめ飛ぶ。
「――見たろ、この弾幕。普通に突っ込んだって穴だらけにされちまうぞ」
「しかし、それじゃあどうしたら」
「ここを使うんだ」
ジャクソンはにやりと笑って、M16A2を模したアサルトライフルで頭を叩く。
エリオとキャロに向き直った彼は、身振り手振りを加えて作戦の概要を手短に話し始めた。
368THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 18:57:10 ID:7ulvk0hb
「まずは向こうのガジェットを一掃する必要がある。キャロ、君は確か補助魔法が使えるんだったな?」
「は、はい。射撃の強化が出来るタイプがあるので、それで――」
ジャクソンの問いに、キャロは緊張した面持ちのまま答えた。ジャクソンは親指を立てて、笑ってみせる。
「察しがいいな。俺とソープの銃にそいつをやってくれ。それとエリオ」
「はい!」
次に、ジャクソンはこの中で一番の高速を誇るエリオに声をかけた。
「この中じゃ君が一番速い。俺たちが銃撃して相手が怯んだら、一気に突っ込め。そして懐に飛び込んでガジェットを撃破するんだ。出来るか?」
「――やってみます!」
「いい返事だ」
ぽん、と二人の少年少女の肩を叩き、ジャクソンはソープに配置に就くよう促す。
「……ジャクソン、お前これが終わったら教師にでもなったらどうだ?」
「あぁ、それも悪くないな――キャロ、頼む」
ソープの冗談に適当に返事しながら、ジャクソンはキャロの方を見た。彼女は頷き、自身のデバイスであるケリュケイオンを掲げ、詠唱を開始。
その間に、傍らでエリオが槍型のデバイス、ストラーダを構えて突撃体勢に入っていた。
――まったく、ガキの癖に一人前の面構えじゃねぇか。
ジャクソンは苦笑いし、アサルトライフルを構える。キャロの詠唱が終了し、ソープと彼の銃にカタログスペック以上の力を与える。
「ブーストアップ・バレットパワー……いけます!」
「よし。まだ待て、スタンバイ」
ジャクソンはソープとアイコンタクト、ガジェットたちのレーザー攻撃が止んだ一瞬に銃撃を始めることにする。
「スタンバイ……スタンバイ……撃て!」
レーザーの雨が止んだその一瞬、ソープとジャクソンは通路に躍り出て、それぞれ威力が強化された文字通り魔法の弾丸を一斉に叩き込む。
サブマシンガンの銃口で閃光が瞬き、アサルトライフルから薬莢が次々と弾き出されていく。きっかりマガジン一個分撃ち切って、ジャクソンは
振り返り、エリオに向かって叫ぶ。
「よし、行って来い槍騎士!」
「了解――!」
ストラーダに装備されているバーニアをフル稼働させ、エリオはロケットの如く通路を急加速し、突っ込む。
先にソープとジャクソンから、ありったけの銃弾を撃ち込まれて狼狽していたガジェットたちは一瞬遅れてエリオを迎撃しようとするが、もう遅
い。気付いた時には懐深くに飛び込まれ、背後に回りこまれていた。
「うおぉおおお……っ!」
咆哮。エリオはガジェットたちのがら空きになった背中に向けて、スピーアシュナイデン、魔力付与されたストラーダで直接攻撃。
AMFが展開されており、多少の威力の減衰はあったが、それで止められるほど、今のエリオは弱々しくはない。ストラーダの刃がガジェットの薄
い背面を切り裂き、貫き、粉砕する。
――そっちからもか!
不意に後方からぞくりとした感覚を覚え、エリオは振り返ると同時に、右手に魔力を送り込む――送り込まれた魔力は電撃に変換され、彼の拳は
雷を纏った。
「紫電、一閃!」
至近距離でレーザーを叩き込んで仕留めようとしたのだろうが、このガジェットは哀れにもそのせいで、エリオの雷を纏った正拳突きをもろに食
らう羽目になった。
背面よりははるかに頑丈なはずの正面装甲が粉砕され、ガジェットは吹き飛ばされていった。
「――すげぇな」
「ああ、まったくもって」
その光景を見ていたソープとジャクソンは顔を見合わせ、ひとまずガジェットが一掃されたので前進、目的のエレベーターにたどり着く。腰の雑
嚢から爆薬を取り出し、もっとも最適と思われる地点にそれらを設置する。
「よし、設置完了だ。各員退避を――っ!」
全ての爆薬設置を終えたジャクソンは立ち上がり、はっとなった。目に見える全てのガジェットを撃破し、一息ついているエリオの後ろに、黒い
影が迫っていた。
369THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 19:00:15 ID:7ulvk0hb
「エリオ、伏せろ!」
「え、え!?」
事態が飲み込めていないエリオに舌打ちし、ジャクソンは駆け出す。そうして彼の小さな身体を突き飛ばし、次の瞬間、エリオが食らうはずだっ
たレーザーをまともに浴びた。
「――!」
「ジャクソン! くそっ」
「ジャクソンさんっ――フリード、ブラストレイ!」
ソープが叫び、サブマシンガンを構える。キャロが悲鳴のような声を上げて、彼女自身が使役する飛竜フリードに炎の砲撃を放つよう命じる。
エリオを狙い、結果的にジャクソンを撃ち倒したガジェットに銃弾と炎が叩き込まれ、あっという間に機能を停止する。どうやらひっそりと隠れ
ていたものが今頃出てきたらしい。だが、おかげでジャクソンは重傷を負ってしまった。レーザーで腹部を撃ち抜かれ、出血が止まらない。
そして、悪いことは続いた。
「――ソープさん、エレベーターが動いてます!」
「何!?」
エリオの言葉で、ソープはエレベーターのほうを見た。資材搬入のため大型の設計になっているエレベーターが、地下へと進んでいく。おそらく
は、地下にいるガジェットたちを迎えに行ったのだ。時間はそう長くない。
「ジャクソン――」
「行け、早く行け」
ソープはジャクソンの身体を起こそうとしたが、彼は負傷しているとは思えないほど、強い力でソープを突き飛ばした。
ジャクソンは苦悶の表情を上げながら、懐から爆薬の起爆スイッチを取り出す。その行動の意味を、ソープは理解してしまった。
「ここは任せておけ」
無理やり彼は笑顔を浮かべて、そう言った。
ソープはしばらく悩む表情を見せたが、やがて意を決したかのように、彼は口を開いた。
「……エレベーターの閉鎖は、ジャクソンに任せる。二人とも、ただちに撤収だ」
「そんな!?」
「出来ません!」
当然、エリオとキャロは猛抗議の声を上げた。ソープの指示を無視し、二人はジャクソンの肩を担ごうとする。
「そいつは死んでる、置いていけ!」
だが、ソープが怒鳴ることで、二人は動きを止めざるを得なかった。迷うようにエリオはジャクソンの方を見ると、彼は言った。
「大人の言うことは聞くもんだぜ二人とも――さぁ、行ってくれ」
「――っ」
わずかな逡巡の後、エリオとキャロは苦虫を噛み潰したような表情を隠しもせず、ソープと共に通路の奥へと後退していった。
後に取り残されたジャクソンは起爆スイッチに指をかけ、呟く。
「大人が始めた戦争だ……子供を巻き添えにしちゃ、夢見が悪い」
ぐらっと意識が遠のき始めた。傷口から溢れ出て地面に広がっていく赤い血だけが、妙に目に付いた――そりゃそうだ、これは俺の血だからな。
意識が途絶える直前、起爆スイッチを押した。直後、爆発と共に轟音がメガリス内部に響き渡り、エレベーターが崩れていく。ジャクソンは任務
を果たしたのだ。
しかし、それが耳に入るころにはすでに彼の意識はなかった。戦士の魂は天に召され、残った彼の遺体だけが、エリオたちの無事を願うように安
らかな笑みを浮かべていた。
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:02:18 ID:PhydXhsc
支援

……ジャクソン
371THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 19:03:16 ID:7ulvk0hb
一方、ベルツたちも押し寄せるガジェットの群れに苦境に立たされていた。
「――っ二尉、背後を突かれました! B扉に敵です!」
同じ場所で防衛に就いていたティアナに言われて、ベルツはアサルトライフルの銃口を後方の扉に向ける。ガジェットが二機、ぬっと姿を現して
いた。躊躇することなく引き金を引き、まとめて撃ち倒す。出てきていきなりの銃撃を浴びたガジェットたちは全身を蜂の巣にされ、一発も放つ
ことなく倒された。
「正面、さらに四……次から次へと、うっとしいわね!」
挟み撃ちにでもするつもりだったのか、ベルツが後方のガジェットを撃破している間に、正面からやって来たガジェットたちをティアナが迎撃。
クロスミラージュからありったけの魔力弾を放ち、いずれも近づかれる前に粉砕する。
「スバル、リイン曹長は無事!?」
「しっかり守ってるよ!」
「健在です!」
正面のガジェットを退治したティアナはスバルに声をかけた。彼女はある意味この作戦の要であるリインフォースの護衛を任されていたが、元気
のいい返事がすぐ、護衛対象のリインフォースと一緒に返ってきた。
とは言え、いつまで持つか――。
表情に焦りを浮かべ、ティアナはクラスミラージュのカートリッジを交換する。潰しても潰しても出てくるガジェットの人海戦術に、いよいよみん
な疲弊の色を見せ始めていた。
ちらっとサブコントロールルームへの扉を見るが、依然として開く様子はない。通信によれば現在ジェネレーターは二つ破壊し、残り一つのはず
なのだが、予想外に強力な対空砲火の前に手間取っているようだ。
「チャーリー1、限界です! 後退します!」
ちょうどその時、ベルツの指揮下にあるB部隊のチャーリー分隊から通信が入った。通信の奥からは激しい銃撃の音が響き、だいぶ押されている様
子が伺えた。
だが、とベルツは苦々しい表情を浮かべる。ここでチャーリー分隊が後退すると、他の分隊への負担が増える。屋内と言う環境上、後退を続けるに
も限界があった。
「――まだだ、諦めるな!」
やむを得ず、ベルツは首元の通信機に繋がったマイクに向かって叫ぶ。非情だとは自分でも思った。
通信の奥で、チャーリー分隊の指揮官が辛そうにため息を吐くのが分かった。その後も激しい銃撃音が続くが、次の瞬間にはチャーリー分隊との
交信は途絶えてしまった。
「チャーリー1、応答しろ! どうした!?」
無駄だと言うことは分かっていた。それでもベルツは何度も通信でチャーリー分隊に応答を呼びかけるが、いずれも返事が返ってくることは無かっ
た。返答すべき者が、息絶えてしまったのだ。
「くそ……」
吐き捨て、ベルツはアサルトライフルを構える。チャーリー分隊が全滅したなら、最短ルートでここにガジェットが押し寄せてくる可能性が高い。
そんなベルツの苦悩する姿を間近で見たティアナは、ゴーストアイに通信回線を開かざるを得なかった。
「ゴーストアイ、ジェネレーター破壊はまだなんですか!?」
「まだだ、もう少し――もう少し、持ちこたえてくれ!」
ああもう、とティアナは通信回線を閉じた。今はゴーストアイの言うとおり、ひたすら持ちこたえるしかない。
372THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 19:06:55 ID:7ulvk0hb
手足が痺れるような感覚。意識は朦朧として、視界はぼやけている。
だが、まだ生きている。何とか命を保っている。黄色の13がそのことを認識したのは、キャノピーに付着した何か赤い液体を目にした時だった。
――これは、血? 俺の血か。と言うことは、出血している?
しっかりしろ、と黄色の13は首を振る。そこまでやって、彼はようやく自分の置かれた状況を認識した。
そうだ、最後の排気ダクトに挑もうとしたら、シャッターが下りていたんだ。慌てて上昇したら対空砲火に引っかかり、この様だ。
自嘲気味な笑顔を酸素マスクの中で浮かべ、黄色の13は機体の状況を確認する。
不思議と、愛機Su-37のエンジンは快調に回っていた。ただし燃料タンクに穴が開き、中身が漏れ出している。それ以外は、特に異常無し。被弾は
コクピット周りに集中したらしく、自分の怪我のほうが酷かった。
「13! おい、13!」
はっと彼は視線を右にやる。メビウス1のF-22が、Su-37に寄り添うように飛んでいた。コクピットで、メビウス1が心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫か、おい」
「あぁ……何とかな。メガリスは、どうなった?」
「まだ健在だ……くそ、あのシャッターと対空砲火じゃ無理だ」
メビウス1の言葉を聞いた黄色の13は眼下に視線を下ろす。無意識のうちに高度を上げてしまったらしく、幸いにも対空砲火はここまで届かなか
った。
「こちらスターズ2――駄目だ、近づけねぇ!」
「こちらアヴァランチ、同じくだ!」
何とかして排気ダクト内に突入を試みたヴィータとアヴァランチが、対空砲火に追い出される形で上空へと戻ってきた。
メガリスは、まるで逆鱗に触れられたかのように怒りを露にしていた。フェイトとシグナムが破壊したはずの対空砲火は隠し砲台が次々と現れて勢い
を取り戻している。超高濃度のAMFが展開され、魔導師でも近付けない。
仮に突破できたとしても、排気ダクトには分厚い対弾対魔力仕様の分厚いシャッターがある。過去に戦艦に使用された蜂の巣装甲と言われる、小さな
穴が大量に開いたものを使うことで排気ダクトの機能を損なうことなく、鉄壁の防御を構えているのだ。
黄色の13は状況を認識し、次に自分の身体を見た。どこから出血しているのだろうと身体を探ってみると、太ももの付け根に被弾していることが
分かった。すでに射出座席は血液でぐっしょりと濡れ、コクピットの床に血が流れている。止血は――間に合わない。
「…………」
ふと、彼は飛行服に縫い付けた千人針の存在を思い出す。チンクたち更正組が、せっかく自分の無事を祈って作ってくれたと言うのに、血で真っ赤
になってしまっていた。
「長くは持たないか……」
外は極寒の大地。ベイルアウトしても、救助が来る前に凍死するのが落ちだ。それならば――。
――理由はどうあれ、俺はあの男に協力してしまった。その結果がこれだと言うならば、その罪を今から償う。
意を決し、黄色の13は酸素マスクを外した。そうして操縦桿を捻り、黄色の13はSu-37を降下させる。
「13、何を……!?」
「俺が、シャッターを壊してやる。その後を頼む、リボン付き」
いきなり急降下した黄色の13に戸惑いを見せるメビウス1を置いてけぼりにし、彼は愛機を急降下させる。
ここまでやって、ようやくメビウス1は黄色の13の意思に気が付いた。ただちに自身も操縦桿を捻り、Su-37の後を追う。
「よせ、13! 早まるな!」
「そう言われてもな――もう、止血も間に合わないんだ」
「だからって……うお!?」
いきなり目の前で地上から撃ち上げられてきた速射砲の砲弾が爆発し、たまらずメビウス1は操縦桿を引く。F-22は上昇し、しかしSu-37は構わずメガ
リスに向かって突進していく。
「こちらゴーストアイ、13、やめろ!」
「やめろよ、おい、13!」
「早まらないで下さい!」
「13!」
ゴーストアイも、ヴィータも、フェイトも、みんなも一斉に叫ぶが、彼は止まらなかった。それが余計に、黄色の13の意思を硬化させていく。
こんなにたくさんの人が、自分を呼び止めてくれている。こんなにたくさんの人が、死ぬなと言ってくれている。少年の家族を奪った自分に、テロリスト
に協力していた自分に。
373THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 19:10:02 ID:7ulvk0hb
――俺の痩せこけた良心に、そんな言葉はもったいない。
対空砲火を潜り抜け、ついに黄色の13は排気ダクトを正面に捉える。エンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。Su-37は急激
に加速し、音速を突破する。
先端を黄色で彩った翼が大気を引き裂く。その姿はまるで、燃え尽きる寸前、一瞬だけ勢いを強める炎のようだった。
「もう少し……もう少しだ」
だが、ついに対空砲火がSu-37を捉えた。弾丸が胴体をズタズタに引き裂き、特徴的なカナード翼が吹き飛ばされた。コクピットにも弾丸は達し、部品が
弾け飛び、傷ついた彼の身体にさらに追い討ちをかける。
「まだだ、まだ――!」
しかし、彼の闘志は砕けなかった。黒煙を上げ、それでもSu-37は突撃をやめない。
スカリエッティ、貴様は"救い"のためにこいつを起動させたんだったよな――?
薄れゆく視界に、排気ダクトのシャッターが映ったその瞬間、黄色の13はメガリス内部にいるであろう、全ての元凶に問う。
「守るべきものも無く命を奪っておいて、何が"救い"だ――それは貴様の独善に過ぎん!」
力の限り、叫ぶ。
ひどくゆっくりと、時間が流れていくような気がした。Su-37の機首の先端が、排気ダクトのシャッターに突き刺さる瞬間すら見えた。
走馬灯と言うのだろうか。キャノピーの外で、酒場の少年と少女、黄色の4、そしてナンバーズの皆の顔が浮かんだ。
ようやく、お迎えが来たようだ。元よりユージア大陸でメビウス1に撃墜されたあの時、失った命である。迎えに来るのがずいぶん遅い。
「死人は死んでおくべき、だな――リボン付き、後を頼む」
呟き、次の瞬間、どっと衝撃が押し寄せてきた。
それっきり、彼の意識が蘇ることは無かった。肉体も大空に消えて、地上に戻る事は無い。魂と意思のみが、仲間たちの記憶の中にのみ、存在し
続ける。

「――くそ」
かろうじて口から出せた言葉は、その一言だけ。メビウス1は、最高のライバルにして最高の僚機を失ってしまった。
「13、応答しろ、13!13!」
ゴーストアイが、必死に通信で呼びかけている。返事が来るはずが無いのに、彼は諦めきれないのだ。
「落ち着け、ゴーストアイ……見ろ、排気ダクトを」
普段の冷静さを失ったゴーストアイをなだめ、しかし沈痛な表情を隠すことなく、シグナムが口を開く。
メビウス1は、排気ダクトに眼をやった。黄色の13と言う果てしなく大きな犠牲の末、シャッターは完全に粉砕されていた。
今なら、とメビウス1はエンジン・スロットルレバーを押し込もうとして、思い止まる。依然として強力な対空砲火は、何者の侵入を許そうとしない。
おそらくは、メビウス1でも無理だろう。突入すれば最後、機体をぼろ雑巾のようにズタズタに引き裂かれ、撃墜される。
「ハラオウン、シグナム、ヴィータ、お前さんたちでもダメか?」
「――ごめんなさい」
「すまん、あのAMFでは難しい」
「ダメだ、すまねぇ」
だろうな、と彼は思う。AMFがどの程度魔導師にとって重荷なのか、パイロットの彼には想像つかない。それゆえ、彼女たちの言葉は正しいと考えた。
身をもって体感している者の言葉を信用せずして、いったいどうしろというのだ。
AMFの範囲外から、ミサイルのように途中で撃ち落される心配の無い、長距離砲撃による援護でもあれば――。
そう考えて、真っ先に思いつく人物が一人いたが、無理だとメビウス1はすぐ否定した。万全ではない彼女を危険に晒すのはよろしくない。
だが――まるで彼の思考を読み取ったかのように、彼女は現れた。
「ディバイン……バスター!!」
「――何!?」
空を引き裂く、桜色の閃光。そいつがメガリス上面に設置されていた対空砲、後から出てきた隠し砲台も、まとめて薙ぎ払っていく。
閃光が走った方向に視線をやると、そこにいたのは、紛れも無く彼女――エースオブエース、高町なのはその人だった。レイジングハートを構え、メガ
リスを睨むその姿には、身体の不備など微塵も感じられない。
「対空砲火を抑えます、メビウスさん!」
今のうちに、と付け加えて、なのはは叫ぶ。
374THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 19:13:03 ID:7ulvk0hb
――考える暇は無いか。
メビウス1は言われるがまま、エンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。F119エンジンから赤いジェットの炎が姿を現し、F-22
は猛然と加速していく。目指すはジェネレーター、黄色の13が文字通り命を懸けて開いた排気ダクトの奥地。
「13……あんたの犠牲を、無駄にはしない!」
しぶとく生き残った対空砲火が撃ちかけてくるが、再びなのはがディバインバスターを叩き込み、逐次制圧していく。
突入。主翼が壁面を掠めそうなほど狭い空間を、メビウス1のF-22は突き進んでいく。
乱気流により機体は絶えず振動している。それをF-22の電子制御が必死に抑えようとするが、結局のところ最後はパイロットの技量が全てだ。
まっすぐ、速く、しかし冷静に。水平飛行に全力を尽くしながら、メビウス1は排気ダクトの中を駆け抜けていく。
――見えた、あれだな!
かつてメガリスと対峙した時と、ジェネレーターの位置は変わっていない。視界に映ったジェネレーターに向けて、メビウス1は機関砲の照準を合わせる。
「ガンアタック――13、見てろ!」
引き金を引く。野獣のうなり声のような音を立てて、F-22の機関砲が火を吹いた。
放たれた赤い曳光弾がジェネレーターに着弾すると、パラパラと金属片が飛び散り、小さな爆発を起こす。その爆風を潜り抜け、彼のF-22は排気ダクトを
駆け抜けていき、空への脱出を果たした。

「開いた!」
スバルの言葉で、ベルツとティアナ、追い詰められて後退してきたソープ、エリオ、キャロが一斉に振り返る。
ジェネレーターの破壊により、停電が起きた。サブコントロールルームへの扉が開いたのだ。
「いいぞ、扉が開いた! 突入! 突入!」
我に返ったベルツがアサルトライフルを構え、サブコントロールルームへと入る。内部に三機ほどガジェットがいたが、セミオート射撃で近場のコンソール
を傷つけないよう、的確に撃ち抜き、撃破する。
「邪魔だ、この……!」
鬱憤晴らしも兼ねて床に転がる邪魔なガジェットを蹴飛ばし、ベルツは後方のティアナたちに親指を立てた。制圧した、と言う意味だ。
「曹長、頼みます!」
「了解です!」
ただちに皆がサブコントロールルームに飛び込んできて、リインフォースが駆け出し、手近にあった端末に飛びつく。
リインフォースは停電で落ちた端末を自分の魔力で叩き起こし、メインコンピュータへの接続を行う。プロテクトを手早く解除し、起動停止命令を送り込む。
二秒、三秒と時間が過ぎていくが、停止命令承諾の返答はまだ来ない。ミッドチルダのそれより劣るユージア大陸の電子技術にイライラしていると、ようや
く返答が返ってきた。"停止命令了解、メガリス停止します"と。
「――やりました、メガリス停止を確認!」
『……ぃやったぁ!!』
新人たちが歓声を上げ、ベルツとソープは安堵のため息をたっぷり吐いた。そうして首元のマイクを引っ張り、ゴーストアイとの通信回線を開く。
「あー、ゴーストアイ。喜べ、お前の誕生日プレゼントは終戦記念日だ。メガリスは停止した、以上!」
375名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:15:32 ID:PhydXhsc
支援
376THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 19:16:04 ID:7ulvk0hb
メガリスの停止。最初は本当かと疑ったが、現にメガリスから発射されていた隕石を落とすための弾道ミサイルは一発も上がらなくなった。クラナガンから
も、隕石の落着が止みつつある、と報告が入った。
「メガリス、完全停止――諸君、よくやった!」
ゴーストアイが言葉を口に出すと、空でも一斉に歓声が上がった。
「ついにやったぞ!」
「メビウス1がやった!」
「終わった……よかった」
「疲れてるな、テスタロッサ? まぁ、帰ってゆっくり休め」
「あたしも疲れたぞ、さすがに……」
はしゃぐ者、安堵する者、表情は様々だが、皆共通することがある。「よかった」と。これで、ミッドチルダに平和が戻る。そうすればまた、日常に戻れる。
だが、ただ一人、メビウス1だけが、酸素マスクを外し、複雑な表情で、眼下を眺めていた。視線の先には、排気ダクトの入り口。黄色の13のSu-37の残骸
が、そこに散らばっている。
「13……」
静かに呟き、ふとメビウス1はなのはの存在を思い出して、振り返る。案の定、彼女がいた。
「――なのは! どうして出てきたんだ!?」
「いてもたってもいられなくて――ダメですか?」
特に悪びれた様子も無く、なのはは笑顔すら浮かべていた。
「ダメですかって……ダメに決まってるだろうが。お前、待機してなきゃダメだろう」
バツが悪そうな表情を浮かべて、メビウス1は言った。だがどういう訳か、怒りのような黒い感情は湧いて来なかった。逆に胸のうちに広がるのは、無理して
彼女が援護に来てくれたと言う嬉しさにも似た感情。
しかし、ここで素直に喜んでいいのか。彼女は待機命令を破った訳だし――矛盾した思考と格闘していると、なのはが口を開く。
「――私だって、メビウスさんと同じ"エース"なんです。後ろでのんびり眺めてるのは、性に合わないんですよ」
「……それは、そうかもしれんが」
「それに」
急に改まって、なのはが言葉を区切る。
「それに?」
「それに、私――」
メビウス1はコクピットの中で、横を飛ぶなのはの次の言葉を待つ。
そう、待っていた。だが、思えばこの時、彼は待つべきではなかった。自分から聞くなりするべきだった。
何故か。時間は待ってくれないし、運命は彼らの事情など知らない。だから、"その時"が来てしまったのだ。
「――待て、なんだこれは……?」
唐突に、ゴーストアイが怪訝な表情を浮かべる。レーダー上に、突如としてIFF(敵味方識別装置)に反応の無い目標、すなわち所属不明機が現れた。
「……ミサイル!? 全機、アンノウンがミサイルを発射! 避けろ!」
ゴーストアイが警告を放つが、あまりにも遅かった。次の瞬間には巨大な閃光がメガリス上空にいくつも巻き起こり、歓喜と安堵の最中にいた戦闘機隊と六課の
魔導師たちを、一斉に吹き飛ばす。
「な……これは!?」
「何がどうなって――」
ただちに戦闘態勢に移行し周囲を警戒するメビウス1となのはだが、状況がさっぱり掴めない。通信回線を開いても、雑音交じりに仲間たちの声がときどき聞こ
えるだけで、それもひどく混乱しているようだった。
ゆえに、メビウス1は気が付かなかった。正面、微かだが赤い閃光が瞬いたことに。
正面に向き直った時には、訳が分からなかった。赤い閃光が自分の方に伸びてきていた。それがこちらに到達する直前、なのはがF-22の前に出て、防御魔法を
発動させたが、閃光をもろに食らった彼女は、はるか遠く、視認距離外に吹き飛ばされてしまった。
「――なのは!?」
我に返り、メビウス1は思わず彼女の名を叫ぶ。すぐさま彼女を助けようとして――レーダーに、ゴーストアイの言っていた所属不明機が映る。間もなく、視認
距離に入ろうとしていた。
所属不明機は前進翼を装備し、機体各部にカナード翼を三枚装着していた。他にも垂直尾翼、エンジンユニット、あらゆる面で、既存の戦闘機とは違うことが
読み取れた。何より目に付いたのは、コクピットにキャノピーが無い。肉眼ではなく、センサーで外部を確認しているのだ。
そして、機体全体を彩るのは血のような赤。
「勝利宣言は、私に勝ってからにしてもらおうか」
通信機に入ってきた声。聞き覚えはあった。こいつは間違いなく――
「なぁ、リボン付き?」
出来ることなら、この声は聞きたくは無かった。だが、こいつは今まさしく、目の前に立ちはだかっている。落とさなければならない。エースとして。メビウス1
として。人として。
「貴様……」
最後に現れたのは、無限の欲望――ジェイル・スカリエッティ。
377THE OPERATION LYRICAL:2008/10/26(日) 19:19:51 ID:7ulvk0hb
投下終了です。
ソープとジャクソンをモブからサブキャラに昇格しました。
そして――戦死者です。
あんまりキャラクターを殺すのは好きじゃないんですが、クロス元のエースコンバット
が「戦争(における航空機)」を題材にしてますし、避けては通れない道かなぁと思い
ました。
最後のスカリエッティ登場シーンのBGMは「MORGAN」でw
あと二話くらいで長かった話も終わりです。最後までお付き合いできると言う方、もう
しばらくお待ちくださいませ。
次回のBGMはもちろん「ZERO」で!(ぉ
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:25:50 ID:f/GmLier
大地で生まれ空に散った勇敢な戦士に敬礼っ
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:27:51 ID:nYMgcOyf
GJ!
新スレ立ててきます
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:31:27 ID:nYMgcOyf
381名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:40:21 ID:BoFWh5XI
片やGJで、片や乙です!
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:51:12 ID:+W15I8KT
GJ
スカがフォルケンに乗ってるのか。使えばわかる反則機体
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 20:16:26 ID:Uwu1NQ2g
>>380
GJ!
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 20:18:37 ID:xwgH/1Sn
いつも思うんですが、
ここ、スレ消費速度、速すぎやしませんか?
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 20:28:11 ID:nYMgcOyf
>>384
ルイズスレほどじゃあない
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 20:50:03 ID:BoFWh5XI
>>385
ここよりちょうど100くらい多いもんな
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 20:53:05 ID:aFlfKMhV
早いなあ、もう新スレの季節か
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 21:28:34 ID:PDOJ1cS9
新スレ乙
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 21:29:44 ID:+j0VqS99
ここは消費速度が速いと言うよりも文字密度が高いというか1レスあたりの文字数が多いというかそんな感じだな
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:55:06 ID:BS8XzHYc
>>361
マジで!? 
てかダンボールに使う素材の軍用ヘルメってどんなだよ強度とか大丈夫なの?
391名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/26(日) 23:16:46 ID:JcRJPNv8
<<GJ,オメガ11>>
やはり、最後の最後で出ますかファルケン
もう本当にあの機体は魔法でも使ってるのではと思うくらい
ふざけた性能してるからなレーザーとかステルスとか、
さらには、散弾ミサイルも一応積めるとなってるし、
まさか、実際に積んで撃つとはスカまじ外道だww
しかも、ZOEで間違いなく強化してあるんだろうな。
だが、彼らならきっとやってくれると信じて次回も楽しみに待ってます。
以上長々と失礼しました。
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 03:01:09 ID:o2P1PQx6
>390
つ 「武者阿礼薬[アレックス]」
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 06:46:08 ID:59fZRG3+
>>390
アサルトライフルの跳弾程度なら大丈夫だそうで。あの国の輸出用だから信頼できないような気もするけど……。
ちなみに元は日本企業の技術だったりする。


次スレも出来てるし埋めとして雑談には目を瞑って下され
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 07:25:36 ID:tc0GDOjN
戦国時代には紙製の鎧もあったって聞いたことがある。
細かいことはよう知らんが。「
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 12:02:42 ID:v56hqTMW
東ドイツのトラバント社で作られていた車の車体は、紙を樹脂で固めていたものだそうだからな。
以外と丈夫なのかもよ。
あ、勿論、トラバントの車でも肝心な部分とかエンジンとかは紙じゃなかったけど。念のため。
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 17:13:10 ID:ibzogZjX
>>395
昔、「探偵ナイトスクープ」って番組で「トラバント探して」って依頼内容あったなぁ。
でもボディの素材が素材なだけに道路使用許可下りなくて日本じゃ公道走れないけど。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 18:21:38 ID:QfJTMUC8
昔、キートンさんがトラバント使ってた話があったなあ。

なんとなく紙つながりでRODとのクロスというのはどうだろうかと思った。
読子さんは無限図書館に引きこもってでてきません。
398名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/27(月) 20:22:14 ID:k0/GdUe6
まあ、紙の原料は木材だから強度は期待できると思うぞ。
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 21:05:29 ID:d7LQSV3/
紙というか、和紙だったと思う。
和紙と防弾チョッキって構造がかなり似ているらしい。
どちらも繊維が複雑に絡み合った構造をしているとか。
だから衝撃を吸収しやすく、銃弾、矢に強い。(刃物には強くない)
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 22:47:16 ID:Yy7oe/sU
ケブラーだな、ラノベとかだとネオクーロンで書類の束で盾作ってたな。
9mmパラ位なら結構防げるもんらしいな。軍オタの作者の言を信じるならだけど。
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:15:55 ID:ttCPH6df
>>397
大英図書館ならロストロギアが眠ってそうだがな。
402名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 00:08:34 ID:eOcIf+KY
初速にもよるし、弾頭の形状にもよる。
それにいくら止めるって言っても相当厚さないとキツいだろ。
403Strikers May Cry:2008/10/28(火) 01:37:55 ID:vH47EhjY
ちょっとした小ネタ投下行きます。

内容はヘルシングとトライガンとをリリなのとクロスさせたバカギャグです。
404Strikers May Cry:2008/10/28(火) 01:39:22 ID:vH47EhjY
リリカルなのはStrikers×HELLSING×TRIGUN 「ヴィヴィオと十字架な先生達」


どうもこんにちは、あたしたかまちヴィヴィオっていいます。
せいおうきょうかいサンクトヒルデまほうがくえんにかよう、ごくごくふつうのしょうがくせいです。
きょうはあたしのかようがっこうのことをしょうかいするね♪


<例えば朝のホームルーム>


聖王教会系列、サンクトヒルデ魔法学園。
様々な少年少女が日々青春と苦悩を謳歌する神に祝された聖なる学び舎である。
そして、その中のとある一年生の教室では朝から生徒同士がケンカをしていた。
なにぶん一年生の子供のケンカである、大したことは無いが当の本人達からすれば実に真剣。
ポカポカと飛び交う小さな拳に、周囲の子供らは心配そうな視線を投げかけていた。
特に少女、高町ヴィヴィオは友達の様子に目を涙ぐませている。
そんな時、朝のホームルームの為にやってきた先生に少女は縋りついた。


「おやおやぁ、どうしたのですか高町さん」
「アンデルセンせんせい〜、ネピスとマークがケンカしてるの、とめてください」
「それは大変ですねぇ、よしよし、では先生が止めてあげますから涙をお拭きなさい」


一年B組担任、アレクサンド・アンデルセンはヴィヴィオに満面の笑みを浮かべると、少女の頭を一度優しく撫でてケンカしている子供達に近づいた。


「コラー、二人ともやめなさ〜い。いったいどうしたというのです」
「マークの奴が先に殴ったんだ」
「ちがわいッネピスが僕の本を……」
「何だとコイツー!」


アンデルセンがケンカの仲裁にきたにも関わらずまたケンカを始めようとする。
その様子にアンデルセンはやれやれといった様子でもう一度声を張り上げた。


「やめなーい! 暴力を友達にふるうなんていけません! そんな事では二人とも天国には行けませんよぉ」
「え〜」
「神父さまゴメンなさい」


アンデルセンのこの言葉に態度を改める子供達、そして彼はもう一つ大事な事を付け加えた。


「いいですか? 暴力を振るって良いのは、化物共と異教徒共だけです」


<例えば 算数>


「人生は絶え間なく連続した問題集と同じだ。揃って複雑、選択肢は極少、加えて時間制限がある。
一番最低なのは夢のような解決を待って何一つ選ばない事だ。最良の選択を瞬時に選べ、私達は神とは違うのだ、万能でないだけ鬼になる必要がある」


男は自分の考える信条を、いや、むしろ世界の真実とでも言うべき真理を述べた。
その言葉に眼前の少女は息を飲む、彼の言葉の全てを理解している訳ではないが、その意味はおおよそ察した。
405ヴィヴィオと十字架な先生達:2008/10/28(火) 01:40:29 ID:vH47EhjY
彼は自分に早く選べと言っているのだと。


「え、えっと……」
「さあ、答えろ高町」
「こ、こたえは6です」
「正解だ」


ヴィヴィオの答えに男、サンクトヒルデ魔法学園教師であるチャペル・ザ・エバーグリーンはにやりと笑った。
黒板に書かれた“リンゴが4こありました、そこにもう2つリンゴをくわえたらいくつでしょう?”という問いに少女が正解したからである。


「では次の問題だ、次は引き算を混ぜた問題だぞ。さてリンゴが6こありました、これにリンゴが……」


<例えば 体育>


「何をやっている!」


各所に髑髏や十字架の形をしたパーツを組み込まれた不気味な車椅子に乗る老人、マスターチャペルは吼えた。
目の前で繰り広げられる戦いの生温さに耐えかねての事だ。
彼からすればたとえそれがどんな場所だろうとも、戦いの場での軽率で愚昧な行為は許し難い、それが己の生徒ならばなおの事である。


「まず何よりも先に急所を抉れ! 死体を盾に動揺を誘え! 最大効率で死を与え続けろ! 全て叩き込んだ筈だ!!」
「チャペルせんせい、ドッジボールでそんなことできません」


年端も行かない子供が体育の授業でやっているドッジボールの時間だというのに、このオッサン普通に殺しの教育のノリになっていた。
これには流石にヴィヴィオも突っ込まずにはいられない。


「ああ、つい癖でな」


以下略。

と、こんな感じでザンクトヒルデ魔法学園ではミカエルの眼やイスカリオテの個性的な先生が教鞭を取っており、子供達に理想的な教育を行っているのである。
ヴィヴィオちゃんも優しくて面白い先生達が大好きだった。


「アンデルセンせんせい、さようなら〜♪」
「ええ、さようなら。道に気をつけてくださいね」


今日も担任のアンデルセン先生に元気に挨拶し、彼の満面の笑みに見送られて学校を後にする。
友達と明日の授業の事を話して、遊ぶ約束をして、少女は息を弾ませて家路に着く。
家では母が甘くて美味しいキャラメルミルクを作って待っている、それが待ち遠しくて知らずの内に歩く足は速さを増していった。

そんな時だった、ヴィヴィオの足元に凄まじい閃光が炸裂したのは。


「きゃあっ!!」


そして突如として少女の身体は地面に引き倒された。
強襲の主は特殊なボディスーツに身を包んだ美少女の集団、戦闘機人ナンバーズである。
406ヴィヴィオと十字架な先生達:2008/10/28(火) 01:41:51 ID:vH47EhjY
ヴィヴィオを取り押さえた少女、ナンバーズ12番ディードは実に機械的に対応した。


「聖王の器、確保しました」
「やぁっ! はなしてぇ〜!!」


無理矢理取り押さえられて暴れるヴィヴィオだが、そんな事など構わずディードは少女の手足を拘束する。
そしてディードは隣にいた姉、六番セインに捉えた少女を渡す。
このまま捕獲した聖王の器ことヴィヴィオを自分達の基地まで連れ去る作戦である。
そしてセインはヴィヴィオを掴むとそのままISを発動し始めた……


「よし、じゃあこのまま私がISで運ぶ……」


だがしかし、それは叶わなかった。


「がはぁっ!?」


セインの喉に、どこからともなく飛んできた一本の“銃剣”が突き刺さった。
しかもそれは一本に終わらず、次々と雨の如く降り注ぎ、セインの身体を串刺しの磔にする。


「いぎぃぃ……ぁはあぁぁっ!」


あまりの激痛に声にならない声で叫ぶセイン、ナンバーズは周囲をこの奇襲に警戒する。
だが奇襲の主は事も無げに悠然と現れた。


「随分とまぁ可愛らしい声を上げて苦しむのだねぇお嬢ちゃん。だがそんな事ではお前達(戦闘機人)は死ねんよ? 心臓には一本たりとも突き刺してはいないのだからぁ」


現れたのはメガネをかけ、顔に傷が刻まれ、両手に銃剣を持った神父服の男。
囚われの少女は男に助けを求め叫んだ。


「アンデルセンせんせい〜、たすけてぇ〜!」


聖王教会ザンクトヒルデ魔法学園教師にして、聖王教会第十三課特務機関イスカリオテのゴミ処理屋、アレクサンド・アンデルセン。
曰く“殺し屋”、曰く“銃剣(バヨネット)”、曰く“首切り判事”、曰く“天使の塵(エンゼルダスト)”。
聖王教会が持つ最強最悪の戦力がそこに立っていた。


「その子が狙われているとは噂に聞いていたがまさか本当に来るとはなぁ……」


悠々と、まるで散歩でもするような軽やかさでアンデルセンは銃剣を十字に構えてナンバーズ達に迫る。
407ヴィヴィオと十字架な先生達:2008/10/28(火) 01:42:38 ID:vH47EhjY
だが彼には殺気刀身に満ち、微塵の隙もない、さながら人の形をした“死”そのものだった。


「貴様ら……俺の生徒に手を出してただで死ねると思うなよ?」


声に込められたあまりの殺意にナンバーズの背筋が凍りつく。男の持つ説大なる戦闘力が空気越しに伝わってきた。


「我等は神の代理人、神罰の地上代行者。我等が使命は我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅する事――」


そして“彼ら”は叫ぶ、神への祝福を。


「「「「「AMEN!!!」」」」」


瞬間、幾つもの声が周囲から響いた。
そう、彼女らは既に狂える猛者共の胃の腑の中だった。
アンデルセンの背後から彼の部下、二丁銃を持った神父服の女と刀を持ったシスターが現れてナンバーズの正面に。
そしてナンバーズの背後には巨大な十字架銃を持った別の集団が現れて挟み撃ちの形を作り上げる。

十字架銃の集団の先頭にいる男、車椅子の聖王教会教師にして教会最高の暗殺集団、死天使(ミカエル)の眼に名高き暗殺者(アサシン)マスターチャペルが静かに口を開く。


「牢記せよ、自分が何者であるかを。聖王教会であると同時に我々こそ……」


言葉と共に、マスターチャペルの後ろに控えた男達は各々の得物、それぞれが十字架を模した巨大な銃火器を展開する。
そして響き渡る金属音と漂う硝煙の臭いと共に、マスターチャペルは言葉を続けた。


「……ミカエルの眼である」


その刹那、圧倒的戦力差の戦い……いや狩りは始まった。
全てが終わるのにそう大した時間はかからなかった。
聖王教会が誇る最強最大最高の戦力、イスカリオテとミカエルの眼に仇なせる者などこの世にありはしない。





「ヴィヴィオ〜!」
「なのはママ〜」


ヴィヴィオは迎えに来た母に抱きついて彼女の抱擁を思い切り受けた。
娘の無事に、彼女の母、高町なのはも眼にいくらか涙を溜めている。
408ヴィヴィオと十字架な先生達:2008/10/28(火) 01:43:03 ID:vH47EhjY
なのははヴィヴィオを抱きしめながら、娘を“保護”してくれた学校の先生に視線を移す。


「ありがとうございました、先生……ヴィヴィオを助けていただいて」
「いえいえ〜、当然の事をしたまでですよぉ、高町さんのお母さん」
「我等は教師、生徒の安全が第一故に」


アンデルセンは満面の笑みで、マスターチャペルはいつもの仏頂面でそう答えた。
そして彼らはなのはと二・三言葉を交わすと、そのままその場を去って行った。
明日も朝から生徒達の面倒を見ねばならぬ彼らには、色々とやる事が多いのだ。
最後に、去り行く彼らの背中にヴィヴィオが手を振りながら言葉を投げかける。


「さようなら〜せんせい〜、またあした〜♪」
「ええ、また明日」
「うむ、気をつけて帰るが良い」


アンデルセンとマスターチャペルはヴィヴィオに振り返って、元気に別れの言葉を言う生徒に手を振った。





というわけで、きょうはがっこうのせんせいがわるものからヴィヴィオをたすけてくれました。
アンデルセンせんせいもチャペルせんせいもすごくカッコよかったです。
ヴィヴィオもおっきくなったらせんせいみたいなカッコよくてやさしいきょうかいのせんせいになりたいな♪



終幕。
409Strikers May Cry:2008/10/28(火) 01:45:44 ID:vH47EhjY
投下終了です。
埋め用に書いたバカギャグでした。

なんつうか、ついつい脳内に溢れ出た妄想を書きなぐったらこんなものが。
トライガンに至ってはアニメ版のエバーグリーンまで出しちゃったし。
ほんとこの人が好きだな俺は。

まあ、楽しんでいただけたら幸いです。
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 01:50:48 ID:YDcyuvAv
ナンバーズ、ムチャシヤガッテ……
411名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 02:35:26 ID:e6X0qBPi
くだらねえな、ここの方が100倍面白いわw

http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1222685576/l50
412名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/28(火) 04:43:42 ID:KXwGAR/z
なんて最凶な学園なんだ。
ヴィヴィオの将来がおそろ……楽しみです灰
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:50:51 ID:MvZ9ZaPJ
そろそろ埋め時か
414名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:51:52 ID:oTEpnX/C
そろそろじゃなくても埋めた方がいいんじゃないか
新スレに追い抜かれないうちに
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 22:06:49 ID:WgQ/q4v4
>>409
GJ!!
なんていう最強な学園でしょう……。
こういうのは大好きです。どうも有難うございます。
416名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 22:17:54 ID:E2vgZ/Tt
ロックマンゼロ、一話からずっととても楽しく読ませていただいておりました。
ロクゼは個人的に一、二位を争うほど好きな作品だけにこのクロスは本当に最高でした。
もうこれ以上本当に書く言葉も見当たらないほど感激しております。
2ヵ月半、本当にお疲れ様でした。そしてありがとう。



・・・なんて書いたところでええええええええええええええええええええええええええええええ
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????????????
メ、飯屋・・・!?まさかの飯屋ですとも!!!???飯屋来ちゃう!!!???
うわぁ、これはやべぇ・・・。15話あたりでちょっと存在に期待したけどまさかマジで来るとは!
鳥肌と震えが止まらん!いや真面目に!!(落ち着け)
だって飯屋だよ!?ゼロ3で驚愕すぎる事実と共に登場してその力を見せ付けて、ほんで終わりかと
思いきやまさかのZXで出て「えええ(ry」ってな鳥肌やら興奮やらがものすごい感じになって、
そして今あの時と同じ興奮だよ今!!(殴)
これ以上書いたら止まらないのでここで止めますけど、すんげえ楽しみに待ってます!!
とりあえず本当にお疲れ様でした!!
417名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 18:45:47 ID:KC3KKkx1
……取りあえず埋めますか。
どなたかAAを。自分は無理orz
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 19:11:42 ID:5/raTlKj
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419名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 19:18:18 ID:5/raTlKj
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420名無しさん@お腹いっぱい。
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