アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ19
参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)
1/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/●八神はやて/○シャマル/●クアットロ
0/6【BACCANO バッカーノ!】
●アイザック・ディアン/●ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/●ラッド・ルッソ/●チェスワフ・メイエル/●クレア・スタンフィールド
1/6【Fate/stay night】
●衛宮士郎/●イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/●ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/●言峰綺礼
1/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/●カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/●ロイド・アスプルンド/●マオ
1/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/●リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/●マース・ヒューズ
2/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/●ニア/○ヴィラル
1/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/●ジェット・ブラック/●エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/●ビシャス
2/4【らき☆すた】
●泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
2/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/●アレンビー・ビアズリー
0/4【金田一少年の事件簿】
●金田一一/●剣持勇/●明智健悟/●高遠遙一
1/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/●高嶺清麿/●パルコ・フォルゴレ/●ビクトリーム
0/4【天空の城ラピュタ】
●パズー/●リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/●ドーラ
2/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/●玖我なつき/●藤乃静留/○結城奈緒
1/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/●読子・リードマン/○菫川ねねね
0/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/●ミー/●マタタビ
0/3【さよなら絶望先生】
●糸色望/●風浦可符香/●木津千里
0/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
●神行太保・戴宗/●衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
1/2【トライガン】
●ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
0/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
●Dボゥイ/●相羽シンヤ
1/2【王ドロボウJING】
○ジン/●キール
【残り17名】
≪生存者名簿≫
【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
○シャマル
【Fate/stay night】
○ギルガメッシュ
【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ
【鋼の錬金術師】
○スカー(傷の男)
【天元突破グレンラガン】
○カミナ/○ヴィラル
【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル
【らき☆すた】
○柊かがみ/○小早川ゆたか
【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗
【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル
【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/○結城奈緒
【R.O.D(シリーズ)】
○菫川ねねね
【トライガン】
○ニコラス・D・ウルフウッド
【王ドロボウJING】
○ジン
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【書き手の注意点】
トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、
>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
無理して体を壊さない。
残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)
この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
叩かれても泣かない。
来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
人物背景はできるだけ把握しておく事。
過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
一人称と三人称は区別してください。
ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
『展開のための展開』はNG
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
携帯からPCに変えるだけでも違います。
【読み手の心得】
好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
荒らしは透明あぼーん推奨。
批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】
このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】
一度死亡が確定したキャラの復活
大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
程度によっては議論スレで審議の対象。
時間軸を遡った話の投下
例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
話の丸投げ
後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
【NGについて】
修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)
したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
まとめwikiを参照のこと
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
土煙が辺り一面を覆っている。
ヴィラルの放った渾身の一撃は凄まじいまでの爆風を生み、それがこの塵を舞い上げたのだ。
空気に占める砂の濃度は高い。
入り込んだ人間がいれば、ここを砂嵐の中だと錯覚するだろう。
風はなく、塵はただゆらゆらとたゆたっている。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
だが、視界を塞ぐそんな砂霧も時間が経てば少しづつ晴れてくる。
いかに風がなかろうと、空に舞った塵は重力に従って順々に落ちてくる。
カーキ色一色に沈んでいた風景が徐々に精彩を取り戻す。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
色を取り戻してみれば、そこは川辺の住宅街。
低いマンションや一戸建ての住宅がごちゃごちゃと立ち並ぶごく普通の街。
戦う二人はいつの間にか崩落のステージを抜け出し、今では随分遠くまで来てしまったのだろう。
その街は破壊のあとが薄く、建物は比較的原型を留めていた。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
しかし、そんな一見平和に見える場所もこの凄惨な殺し合いの舞台である以上、その影を拭い去ることはできない。
空を覆っていた砂がほとんど晴れ、見通しがきくようになってみると、それがよく分かる。
この住宅街の東。グレンが降り立った場所からほんの200mほどの地点にその異常はあった。
街が唐突に途切れ、底の見えない断崖が左右に果てしなく続いている。
その端を目で追えば、この断崖がただの崖ではなく、ぽっかりと空いた巨大な穴だと気づく。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
そう、ここはB−6。B−7とのエリア境界線付近。
かつて黒い太陽による災禍が巻き起こった刑務所、その隣のエリア。
大地に空いた巨大な穴は大怪球が齎した破壊の爪痕だ。
この街はそのおぞましき大崩壊からかろうじて難を逃れた幸運の地なのである。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
そしてその幸運の地が、男達の戦い、その第二ラウンドの舞台となる!
「おい、キュンキュンキュンキュンうるせえぞ!
それとも何かぁ?テメエのドリルは犬コロみてえにきゃんきゃん唸るしか能がねえのかぁ?」
カミナの悪態が聞こえる。
刑務所瓦解の難を避け、わずかに残った民家、その一つを足の下に敷きながらグレンに乗った男が喋る。
「グッ、貴ッ様ァァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜」
グレンを貫き、真っ二つにするはずだったラガンは道半ばで止められたのだ。
確かにラガンのドリルはグレンの頭頂部を破壊し、グレンの機体にめり込んではいる。
さらにその破壊を進め、予定通り機体を引き裂こうとキュゥン、キュゥンとドリルを回し続けてもいる。
しかし、グレンの赤い腕と黒い掌にガッチリと押さえられ、そこから先にはどうしても進むことができない。
「どぉでぇ!カミナ流、真ドリル白刃取りだぜ!
恐れ入ったか!」
「カミナ……流石にそのネーミングは無理矢理すぎませんか……」
「おぉのれええええええええええええ!!!!」
確信した勝利に傷をつけられ、ヴィラルの手に怒りが篭る。
バーニアを再び吹かし、押し通ろうと力を篭める。
しかしカミナも負けてはいない、暴れるラガンを押さえつけ、通られまいと押し戻す。
操縦桿に気合を篭めて、腕に力を送り込む。
「シャマル!もう一度あの魔法を……」
力ずくでダメならと、ヴィラルはパートナーの絡め手に頼る。
「……ダメよヴィラルさん。ここで鋼の軛を使えば、私たちも巻き込まれるわ」
しかし、その返事は期待には到底、そぐわないものだった。
鋼の軛、それは十メートル弱にも及ぶ光の刃を地上から発生させ
それによって相手を撃破したり、動きを封じたりする魔法だ。
この密着した状態で無理に使えば、敵ごとこちらのラガンも貫きかねない。
「クッ……そうか……」
あてがはずれ、ヴィラルの表情が歪む。
あの魔法が使えないとすると、ここからは単純な力比べだ。
ヴィラルが押し、カミナが押し返す。
事態は膠着し、戦いは五分の状態に戻される。
(五分だと?いや、違うな。
今までこちらが押していたのを、受け止めて膠着に持ち込んだんだ。
戦いの流れは今、確実に向こうにある。
それに……)
ガリッ。
ヴィラルがその懸念を抱くのとほぼ同時、天井からひっかくような不穏な音が響いた。
「……さぁてヴィラル、そろそろお遊びはおしまいだ。
シモンのラガンを返してもらうぜぇ?
テメエらが大人しく出てきて負けを認めんならそれでよし。
人を殺そうとしたおしおきはきっちり受けてもらうが、命まで取るたぁ言わねぇ。
だが、もし、テメエらがあくまでまだやるってんなら……腕ずくで行かせてもらうぜッ!」
ガリッガリッ。
その宣言と同調するように、天井からはまたも不気味なひっかき音。
ここに至ってヴィラルは自らの懸念が現実のものとなったことを知る。
(……やはり俺達をガンメンから下ろしにかかったか。
まずいな。瞬間的な爆発力ならこのガンメンは奴のガンメンに勝る。
しかし、持続的なパワーならあちらの方が明らかに上だ。
せめて離脱できれば戦局を仕切りなおすこともできるが、奴とてそれを許すほど馬鹿ではあるまい。
……クソッ!どうすればいい!?)
足掻くように機体をばたつかせ、暴れるようにバーニアを吹かす。
「おおっと!逃げようったってそうはいかねぇぜ!」
しかし、グレンの五指はラガンをしっかと掴み、揺るぐ様子はまるでない。
形勢逆転。
そんな言葉が頭の中にちらついた。
ガリッガリッガリッ。
先ほどよりも強い衝撃がラガンの機体を大きく揺する。
巨大な指の一本がコクピットの風防を激しく擦る。
シャマルがこっちを見ている。
口を真一文字に結び、しかし瞳には不安を湛えて。
その儚げな顔がヴィラルの焦りを加速する。
(……どうする?ここは一旦、大人しく降参するか?
そうすれば少なくともシャマルの命は……
いや、ダメだ!奴が約束を守る保障などどこにある!?
……だが、それ以外にどんな選択が……
クソッ、考えろ、考えればきっと何か……
………………うっ、クソッ、こんなときにルルーシュがいてくれれば……)
頭を絞る。
手持ちの支給品を再検討する。
今まで聞いたシャマルの魔法に使えそうなものはないか思い出す。
しかし、そのどれもが徒労に終わる。
現状を打開できそうなものはその中にはない。
希望の光を見出すことはできない。
ゆっくりと、ゆっくりと絶望の影がヴィラルの心に忍び寄る。
ガリッガリッガリッガツッ。
そうこうしている間にも、コクピットへのアタックは続く。
風防パーツのうち一つが、グレンの指によってわずかにこじ開けられ、隙間から太陽の光が覗く。
装甲を完全に剥がされるのも時間の問題だ。
(……ちくしょう!
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!
俺は!俺達はこんなところで終わるわけにはいかない!
……俺は誓ったんだ!俺があいつの道標になると!
俺があいつを守ってやると!
二人でこの殺し合いを生き抜くと!
それが、それがこんなところで終わってたまるかッ!)
ガリッガリッガリッガツッガツッ。
次々に風防が破られる。
もうすぐ、グレンの指がここまで入り込んでくる。
しかし、決定的な状況が迫る中、ヴィラルの体に入り込んできたのは絶望ではなく、他の、もっと熱い何か。
(……そうだ。俺は忘れないぞ。
ビャコウが俺に見せてくれた姿の意味をッ!
胸の誇りに懸けて、立てた心の剣をッ!
そうだッ!俺は忘れないッ!
最後に勝つのは……勇気ある者だけだッッッッッ!)
デイパックに手をいれ、しまってあった大鉈を引っ掴む。
尖った歯をもう一度かみ締め、迫り来るグレンの腕を睨みつける。
空いている方の手でシャマルを自分の後ろに抱き寄せると、心の中で戦う覚悟が燃え上がるのを感じた。
そうだとも。ガンメンを失おうとも、自分にはこの鍛え上げられた戦士としての体がある。
「来るなら来いッ!!返り討ちだッッ!!」
奇跡が起きたのはヴィラルがそう吼えた、まさにその瞬間だった。
◆
「くっ!何だこりゃ!?どうなってんだ!!?」
突然の出来事にカミナは動揺を隠せない。
それもそのはず。
今までは何の変哲もなかった手の中のラガンが、突如、全身から目も眩まんばかりの激しい緑光を放ち始めたのだから。
緑の光はラガンから空へ、螺旋を描くように伸びている。
その様はさながら、ドリルが天に突き刺さり、穴を穿とうとしているかのよう。
「ま、まさか、こいつぁ!?」
カミナはその光に見覚えがあった。
いや、見覚えがあるどころの話ではない。
その光は彼にとって忘れたくても忘れられないものだった。
それは屈することなく敵と戦ってきたグレン団の勇気の輝き。
それは彼と仲間の危機を幾度も救ってきた希望の輝き。
そしてそれは、カミナとシモンの間に交わされた絆の輝き。
それが、どうして。
カミナの顔色から血の気が引いていく。
「カミナ!これはどういう……?この光は一体何なのですか!?」
「………………グレン、ラガンだ」
「は?」
「分かんねぇのか!?合体だよ!合体ッ!!
奴のラガンがこっちのグレンを乗っ取って、合体しようとしてやがるんだッ!!」
「の、乗っ取るですって!?そんな!どうしてそんなことが!」
「分かんねぇ!分かんねぇが!
とにかくラガンってのはそういう力を持ってやがるんだよッッ!!」
接触した機体に接続し、そのコントロールを奪う。
これは悠久の昔、螺旋族が怨敵と戦いを繰り広げていたころからラガンに搭載されていた特徴的な機能である。
搭乗者の螺旋力を相手の機体に流し込み、そのボディを自らの血肉にしてしまう。
流し込む螺旋力が大きければ大きいほど、巨大な機体を乗っ取ることが可能になる。
乗っ取られた機体は完全にラガンの支配下に置かれ、その形状は螺旋力の作用により思うがまま。
大グレン団の旗印的ガンメン、グレンラガンの成立メカニズムであり
カミナがこちらの世界に来る直前、決行しようとしていたダイガンザン奪取計画のキーとなる機能。
「これは……何だ?何が起こった!?」
無論、発動させたヴィラルとて、こんな能力については知る由もない。
決死、いや、決生の戦いを心に決めた直後の突然のできごとは、搭乗者である彼をもまた混乱させていた。
「ヴィラルさん!これ見て」
「何?」
傍らのシャマルが前方のモニターを指差す。
そこにはグレンとラガンを模した人型と、ラガンから血管のように伸びる緑の曲線が映し出されていた。
「まさか、これって」
「………………!」
シャマルと目を見合わせたヴィラルにある種の直感が走る。
シートの外から内へと体を向けなおし、再び操縦桿を握る。
その瞬間、全ての事実が彼の中に流れ込んだ。
「これはッ……」
「ヴィラル……さん?」
「そんな心配そうな顔をするなシャマル!
勝てる!この戦い、勝てるぞッ!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!」
渾身の気合を篭め、ヴィラルは叫ぶ。
すると、それと呼応するように緑の螺旋が巻き起こる。
操縦桿を通り、ドリルを通り、ヴィラルの螺旋力がグレンに流れ込む。
モニターの血管がググッと、押し込むように伸びた。
「こ、これは……」
「…………………………」
グレンのコクピットでは早くもその影響が現れ始めていた。
側面のモニター一面に映し出された緑のカミナマーク。
グレンの主を示すそれが徐々に上からやってきた赤のマークに侵食されていく。
赤のマークの中心には片目を隠し、牙をむき出した男――ヴィラルの顔。
「コントロールシステムを奪われているというのですか……こんなことが……」
ヴィラルのマークはあっという間にカミナのマークを食いつぶし
早くも全体の半分を占めるまでに広がっていた。
その影響を受けたのだろうか、これまでラガンのコクピットを引っ掻いていたグレンの指が、止まった。
「…………………………なめんじゃねえ」
そのとき、カミナが不意に口を開く。
グレンに起こる異常を静観し、沈黙を守っていた男がぽつりと呟く。
「……テメエが俺のラガンを奪う?
……シモンの魂だけじゃ飽き足らず、俺の魂までも?
なめんじゃねえッッッ!!
俺の、大グレン団の魂は、そんなに安いモンじゃねえんだよおおおおおおおおおおおッッッッ!!」
静かに燻っていた怒りが臨界を超えて破裂する。
叫びの声に導かれ、カミナの体にも緑の螺旋が立ち昇る。
光の奔流が溢れ出し、そのままカミナの体を包む。
荒ぶる螺旋に沈むコクピットで、赤の氾濫がピタリと止んだ。
「おッれッをッ!だぁれだと!思ってェ……やがるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!」
全身に思い切り力を込め、まるで魂を吐き出すかのように、カミナは腕に気合を篭める。
螺旋の渦をその肉体から捻り出す。
そうして生まれたパワーは、グレンの体を通し、敵の元へと逆流する。
寄せた波が引くように、赤いマークが消えていく。
「グ……何だと……」
一転して、焦るはヴィラル。
一度は奪いかけたはずのコントロールが再びその手を離れていく。
グレンの全身に伸びかけた緑の血管は、エネルギーの逆流に耐え切れず、元の短さに戻ってしまった。
「おのれ……まだ足りないというのかッ!
俺の力が奴に劣っていると……」
操縦桿を握る手がわなわなと震える。
牙を剥き出し、目を血走らせ、ラガンに螺旋のエネルギーを注ぎ込む。
しかし、彼の奮闘も虚しく、彼の侵略はカミナの圧倒的パワーによってすぐに押し戻される。
決してヴィラルの螺旋力が弱いわけではない。
だが、今回は相手が悪い。
カミナはシモンと共にその螺旋の力でガンメンを駆り、ずっと戦ってきた男。
ヴィラルよりもこの力の扱いにはずっと慣れている。
経験の差が結果に現れてしまうのはある意味で仕方のないことだ。
だが、仕方ないで済ませてしまえるほど、ヴィラルが背負っているものは軽くない。
今の彼に必要なのは、埋めがたい経験の差を埋める力をひねり出すこと。
無理を通して道理を蹴っ飛ばす男に対し、無理を通して道理を蹴っ飛ばすこと。
そう、無理でもやらねばならないのだ。
ここを生き残り、勝利の栄光を掴むためには、何としても、何としても……
握りすぎた手から血が垂れる、全身に脂汗が浮かぶ。
ヴィラルが気合の咆哮をあげ、再び無謀な戦いへと身を投じようとしたそのとき
「ヴィラルさん」
反射的に顔をあげると、そこには決意の眼差しを宿した女の顔があった。
シャマルの手がヴィラルのそれに、重なる。
◆
「俺の……気合が……負ける?」
信じられない。
カミナの表情にはそんな感情がアリアリと浮かんでいた。
操縦桿を掴んだまま、ただ呆然と見開いた目には有り得ない光景ばかりが映されている。
赤いマークの侵略。
カミナが渾身の気合で打ち払ったはずのその脅威はほとんど間をおかず、再度グレンを冒していた。
「クソッ……何でだ!何でだよ!」
しかも、今度の侵攻はさっきのものとは一味違う。
いくら気力を振り絞り、螺旋の力を注ぎ込んでも、今度は赤マークの侵攻を止めることができない。
力を篭めるたび、相手のスピードは確実に遅くなるものの、どうしてもそこから先へ進めない。
押し戻すことができないのだ。
「……ちくしょう……いきなり圧力が強くなりやがった!
どうしてだ?ヴィラルは何をやりやがった……?」
「!!……カミナ、マークを見てください」
「あぁ!?マークが一体、どうしたって……!!」
必死で打開策を考えるカミナへ横槍を入れるようにクロスミラージュの声が飛ぶ。
苛立ち紛れに振り向いた彼はそれを見た。
侵攻してくる赤のマーク。
そのデザインが先ほどとは微妙に異なっている。
さっきは赤い枠に簡単なヴィラルの顔が模られていただけだった。
しかし、今は赤い枠の中にもう一つ、ハートを模したような図形があり
その左右に、ヴィラルと……シャマルの顔があった。
「……そういうことかよッ!!」
螺旋力の圧力が強くなった理由。
考えてみればその答えは実に簡単。
「野郎……二人で押してやがるなッ!」
ラガンのコクピットの中では二人の男女が折り重なるようにして座していた。
ヴィラルの背中にシャマルが優しく覆いかぶさるような姿勢。
まるで二人羽織りのような密着した姿勢で二人はグレンと戦っていた。
それぞれの手は同じ操縦桿へと伸び、強く、しっかりとそれを握っている。
二人の体からは輝く燐光を放つ緑の奔流が立ち上り、ゆらゆらと狭い空間を照らしている。
一人でダメなら二人でやってみる。
このときヴィラルとシャマルがとった戦法は実に単純明快なものだった。
だが、単純ゆえに穴がなく、カミナにとっては脅威以外の何者でもない。
「こんぉんのぉおおおおおおおおおおお!!!!!!
負けてェたまるかぁああああああああああああああ!!!!!」
カミナも気勢をあげて押し返すが、如何せんパワーが足りない。
一人で二人分の螺旋力に対抗するのは、いかなカミナといえども難しい。
じりじりと緑のマークが喰われていくのを、ただ指をくわえて見ているしかない。
数の差。
それは戦場においてはあまりに決定的なものだった。
特に、このような単純な力比べにおいてはなおさら。
「ハアッ……ハアッ……ハアッ……」
有効な手を打つことができぬまま、ただ、時間だけが過ぎていく。
はじめは声を絞って叫びをあげていたカミナももう随分と大人しくなってしまった。
もう、だめか。
そんならしからぬ弱気がカミナの心を濡らし始める。
「……カミナ、作戦があります」
クロスミラージュが唐突に声をあげたのはそんなときだった。
「……作戦ん?」
疲労に塗れた声でカミナが問い返す。
そのあと、彼は一瞬だけ虚空を見つめ、考えるそぶりを見せると、訊いた。
「勝てんのか?」
「……ええ、多分」
その答えにカミナは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「多分もありゃあ十分。
……どうせこのままじゃジリ貧だ。
よぉ〜し、この喧嘩、テメエに任せるぜ、クロミラァ」
そう言って目を輝かせるカミナの心から弱気の影は早くも消えていた。
◆
「いけるわ……確実にこっちが押してる……このまま行けば……」
「油断するなシャマル。奴は腕のいい戦士だ。何を仕掛けてくるか分からん」
ラガンのコクピット。
ヴィラルはこの戦い二度目となる勝利の予感に身を震わせながらも
最後まで油断せぬよう、己の気を引き締めていた。
(ラガンインパクトのときはまんまと受け止められ、逆にピンチを招いてしまった。
もしかしたら、あのときの俺には僅かな慢心が遭ったのかもしれん。
それが技に隙を生み、つけ込まれる元になってしまったということも十分にあり得る。
……だが、二度はないぞカミナ!
今度こそこのガンメン乗っ取りを成功させ、完成した合体ガンメンで仲間もろともあの世へおくってやる!)
螺旋力の注入に集中しながらも、ヴィラルはカミナの不穏な動きを警戒していた。
だから、それが始まったときもすぐ、異変に気がつくことができた。
「何?」
きっかけはラガンに伝わってきた振動だった。
上下に何かを揺さぶるようなごくごく軽い振動。
不審に思ったヴィラルがその原因を探る。
出所を見つけるのは実に簡単だった。
ラガンを頭の上に戴いたグレンが少しずつ少しずつ、移動を始めていたのである。
「何のマネだ?」
「………………」
問いかけるが答えは返ってこない。
何かおかしい。
雰囲気に不気味なものを感じ、ヴィラルはグレンの歩みを止めようとする。
しかし、まだ支配率からすれば相手のほうが上なのか、思うように機動を操れない。
フラフラと歩くコースを乱れさせることはできたものの、歩みを止めるまでには至らない。
「くっ、こいつ、一体、何を狙って……」
「ヴィラルさん、見て!」
カミナの目的が分からず、苛立ちを募らせていると、シャマルからほとんど悲鳴のような叫びが聞こえる。
そちらを見ると、思わず目を見開いた。
グレンの進行方向、これから歩いていこうとしている道路の先に、信じられないほど幅の広い断崖が広がっていたのだ。
地図にはなかった地形に頭を混乱させながらしかし、ヴィラルはある事実に思い当たる。
この場所にかつてあったものを想像してみれば簡単なことだ。
「刑務所跡だと!?こんなことになっていたのか!?
……まさか、貴様ッ!?」
広がる崖の雄大さに心を震わせるのも早々、ヴィラルの頭にある悪い予感が閃く。
カミナは答えず、グレンは歩みを止めない。
「やはりそうかッ!貴様、俺達ごと、あの谷に身を投げるつもりだなッ!」
「何ですって!?」
提示された恐怖の未来予想に、シャマルが思わず焦りの声を上げる。
確かに、冷静に考えてみればカミナにとって、身投げというのは十分にあり得る選択肢だ。
このまま、第三者の介入がなければ、カミナがグレンを乗っ取られるのはほぼ必然。
そうなれば、お互いの戦力比は合体ロボット対生身。
決闘はたちまち虐殺へと早変わりし、カミナが生き延びられる道は万に一つもない。
しかし、まだグレンを動かせるうちにその足を動かし、あの巨大な奈落に身を投げれば、おそらくは相打ち。
運がよければ、自分だけが生き延びるという未来もあり得る。
ここで身投げを選ぶというのは確かに合理的。利のある選択。
だが。
「バカ野郎!何でこのカミナ様がそんな自殺みたいなことしなくちゃなんねえんだ!!
見損なうんじゃあねえ!」
「嘘をつけッ!では何故崖の方に向かうッ!他に考えられる理由などあるものかッ!」
「……ヘヘッ!そいつぁ、どうかな?」
人を食ったようなカミナの答えにヴィラルは激昂する。
いきり立ち、更なる叫びをぶつけようとした、そのとき
『この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し、当該エリア外へと退避せよ』
突如警告音が鳴り響き、螺旋王の声が耳朶を打った。
「何イッ!?」
そう、この奈落がある刑務所跡、即ちエリアB−7は現在、禁止エリアに指定されている。
当然、そこに入ったものには螺旋王から警告が与えられ、一分以内に従わぬ場合には……首輪が爆発する。
もちろん、それは現在、乗っ取り作業を続けている二人にとっても例外ではない。
「……随分、見通しの甘い作戦を立てたものね。
もうすぐ、あなた達の機体の機能のうち、50%がこちらのものになるわ。
そうすれば、主導権はこっち。
その後で、ゆっくり禁止エリアから外に出れば何の問題も……」
「本当にそうでしょうか。ミスシャマル」
今度はクロスミラージュが口を開く。
「分からないならば、現在、私達のいる場所をよく確認してみることをお勧めします」
「場所……?
ッッ!!」
言葉の意味を量りかね、何の気なしに外を見たシャマルは思わず息を呑んだ。
気がつけば、そこは断崖の端も端。あと一歩でも踏み出せば一挙に落下してしまいそうな、ギリギリの場所だった。
「先ほどあなた方が私達の操作を妨害し、歩く軌道を変えたように
主導権がなくとも機動に介入することはできます。
こんな危なっかしい場所でさっきのような千鳥足をしたら……どうなるかはお分かりでしょう?」
「一分経てば貴様も死ぬんだぞ!?これも自殺のようなものじゃないのか!?」
「本当にそうかどうか、テメェのその汚い耳でよく聞いてみるんだなッ!」
言われてヴィラルは耳をそばだてる。
次の瞬間、彼の顔は驚愕に塗りつぶされた。
「……警告音がしないだとッッ!! どういうことだッ!?」
「テメエの上司が作った首輪はとんだポンコツだったってことさッ!」
カミナの首輪はもはや作動していない。
クロスミラージュの作戦の肝はここにあった。
彼はカミナがトリップしながらブリに引かれていたとき
禁止エリアを通っても首輪が反応していなかったことを目ざとく確認していた。
もちろん、聴覚素子の不調である可能性もあったし、作動していないのは警告機能だけである可能性もあった。
しかし、その程度のリスクを恐れるカミナではない。
「さぁて、もう一度言うぜぇ?
テメエらが大人しく出てくるんならそれでよし。
だが、もし、テメエらがあくまでまだやるってんなら……」
先ほど述べた降伏勧告を、カミナはもう一度繰り返す。
彼の目的はあくまでもラガンを取り返すこと。
ヴィラルたちの命を奪うことは本意ではない。
「ふざけるな!ここまできて降伏だと!?
そんなものが受け入れられるわけがないッ!
主導権がなくとも機動に介入できると言ったな?
そのセリフ、機能の70%、80%を獲られても、まだ吐いていられるかな?」
だが、ヴィラルにとて意地がある。
新たなガンメンを手に入れ、参加者の一人を殺害する絶好のチャンス。
しかも、これは自らの運命に立ちふさがった戦いだ。
最後の最後まで、退くわけにはいかない。
「テメェならそう来ると思ったぜヴィラルッ!
ならどうする!?降伏しないテメェはどうするんだッ!!」
「知れたことだッ!戦い、勝つッッッ!!!」
「来いッ!テメエの気合とクロミラの作戦とォッ!どっちが上か勝負だッ!!!」
「行くぞッ!!」
「「最後の決戦だッッッッッ!!!」」
二人の咆哮が空に響き渡ると同時、その決戦は幕を開けた。
グレンとラガンを中心に、今まで最大級の螺旋力が爆発する。
ラガンからグレンに向かう下向きの力、緑のドリルが猛回転する。
カミナから命とグレンを奪うべく、爆音を上げる。
対するはグレンからラガンに向かう上向きの力、こちらも掲げるは緑のドリル。
獣人の刃を砕き、友の魂を取り戻すため、火花を散らす。
その威力はほぼ互角。
押しては戻し、戻しては押す、魂と魂の鍔迫り合いが昼の世界をさらに明るく眩ます。
ドリルがぶつかり合う激しい閃光に街が沈みゆく。
しかし、時の神は無情にも、命に期限を課している。
『残り10秒だ』
決着まであと十秒。
長かった対決の結末を前にして、舞台の全てはついに緑の光へと消えた。
疲労。
それが決戦を終えた彼が最初に抱いた感覚だった。
思えばこの殺し合いが始まってからもう丸一日。
その間にどれだけの戦いを越えてきたことだろう。
特にこの数時間は慌しかった。
色々なもの、色々なできごとが目の前を通っては過ぎ去っていった。
彼はそのひとつひとつに一々目の色を変え、常に全力で事態に対処した。
だが、それももう限界だ。
今回は何とか勝つことができた。
しかし、今すぐ次があれば、なすすべもなく敗北するだろう。
それほどまでに、彼は疲れていた。
彼には休息が必要だ。
しばし体を休め、英気を養い、この後に備えることが必要だ。
だから、彼はこの地にやってきた。
おそらくはもう人の寄りつかぬ、この辺境の地に。
「そうだ……俺には休息が必要だ。
この後も参加者を『殺し』、『二人』で『生き延びる』ためには」
じっとりと湿った空気が空間を満たしている。
広葉樹に囲まれた森の中、石が埋め込まれた道が続く。
その雑草に覆われたか細い道を辿っていけば、間もなく、派手な電光掲示板を見つけることができるだろう。
ろくに整備もされていない剥き出し木造の建物の上に大きく
『新装開店(仮)記念! 熱烈歓迎!! ようこそ、エイチロク温泉へ!!!』 の文字。
全くこの場の雰囲気にそぐわない、ずれた宣伝文句だ。
「『会場の端と端が繋がっている』……か。
ルルーシュが聞き出した情報は本当だったようだな」
ヴィラルはB−7での決戦に勝利した後、北へと抜けてこの温泉に来た。
前述の通り、一刻も早く休息が欲しかったからだ。
ルルーシュと合流する、という目的を忘れたわけではない。
……いや、訂正しよう。
記憶としては残っているが、今のヴィラルにその気はない。
確かにルルーシュは優れた策士だ。
シャマルを取り戻すため、協力を約束してくれたというのも事実。
しかしながら残念なことに、奴はどこまでいっても人間だ。
獣人でも、シャマルのような人でなき何かでもない。
ならば、いくら協力関係を築こうと、いつかは殺さなければならない人間。
そんな男をあまり信頼し、下手に気を許すのも問題だと考えたのだ。
(それに、奴はまだ傷の男を恫喝した能力のことを俺達に明かしていない。
それが何なのか分からん以上、寝首をかかれる可能性はゼロじゃないからな。
……奴の頭脳は惜しいが、まあ、よしとするしかあるまい。
それと釣り合うくらいのモノはさっき手に入ったしな)
ヴィラルはふっと庭の方を向き、先ほどの戦いでの戦利品を改めて確かめる。
そこには、ラガンと並んで、汚れ、傷ついてボロボロになったグレンが安置されていた。
グレンのほうは、遠くから見つからないよう、寝かして停めてある。
(やれやれ、さっき合体していたときはすっかり傷が直っていたのに
分離したらすっかりもとの木阿弥だな。
もう一度合体すれば直るかもしれんが……いや、やめておこう。
今の俺にそんな体力はない)
気力を振り絞って何とか移動してきたが、ここに着いて以降
ラガンはヴィラルがどれだけ唸っても動かなくなってしまった。
緊張の糸が切れたことと、極度の体力消耗により、ヴィラルは現在、螺旋力を発揮できない状態になっているのだ。
とにかく休息をとりたいというネガティブな思考もまた、関係しているのかもしれない。
しかし、今回の戦いは有益だった、とヴィラルは考える。
この会場においては貴重なガンメンをもう一機鹵獲できたことはもちろんだが
その他にも、喜ぶべきことが二つある。
一つはラガンのガンメン奪取能力が判明したこと。
この機能は今までヴィラルが持っていたガンメンの常識を打ち破る画期的なものだった。
接触したガンメンのコントロールを奪取する。
それは言い換えれば、ラガンの一撃さえ決めることができれば、それだけで敵の戦力を大きく殺げるということだ。
自分達の常の戦闘を思い出してみれば、その恐ろしさは一目瞭然。
何せ、接触さえできれば、ダイガンザンだろうがダイガンカイだろうが、たちまちのうちに鹵獲してしまえるのだ。
敵に回ればこれほど恐ろしいものはない。
だが、幸運なことに今、その鬼子はヴィラルの手の中にある。
(今に見ていろ、ニンゲンめ。
体力が回復し次第、あのラガンを使って黒い大型ガンメンを我が物とし、貴様らに地獄を見せてやる!)
二つ目はシャマルのことだ。
まさか、シャマルの魔法がガンメン同士の戦闘であれほどの威力を発揮するものだとは思わなかった。
前半の一方的な有利などはまさにあれがあったからこそ成し得たことだし
最後の決戦も、あの魔法がなかったら、正直勝てていたか自信がない。
あの戦力は今後の戦いを勝ち抜いていく際にも、有用なものとなるだろう。
(だが、俺が嬉しいのは戦力のことよりも、あいつの目に戦士としての光が戻ったことだ。
はやてとかいう仲間が死んでからこっちのあいつは、少し弱弱しいところがあったからな。
あの黒いガンメンの中でのことといい、前の強いシャマルに戻ってくれて、俺は本当に嬉しい。
……この後のことをどう考えているかは判らないが……
……いや、厭なことを考えるのはよそう。
今は目の前のことを……
それに、どうするかはあいつが決めることだ。
……………………………………だが、もしも、あいつがいなくなったら俺は…………zzz...ZZZ...)
戦い疲れた獣人が意識を手放す間際に考えたことが一体、何だったのか。
それは誰にも分からない。
【H-6/温泉/二日目/昼】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(極大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、睡眠中
螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2 コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:グレン@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
1:しばしの休息をとり、体力を回復する
2:体力が回復したら、ラガンで黒い太陽のガンメンを奪い、人間どもに目にもの見せる
3:チミルフ様の仇! 全ての獣人達の夢の城の破壊は許されない蛮行だ! ビャコウ生きててよかった! 破壊されるなよ!
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
5:クルクル(スザク)を始め、これまでの奴ら全員に味わわされた屈辱を晴らしたい。
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。
※ダイガンザン(ダイグレン)を落としたのがフォーグラーだと思っています。相殺したエアについては目に入っていません。
※チミルフが死亡したと思っています。ノルマの件は一応覚えています。
※ビャコウの運転手が誰なのか気にはなってはいます。
※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。
※螺旋力枯渇中。今はラガンを動かせません。
※会場のループを認識しました。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
◆
瓦屋根の天井に腰掛け、シャマルは一人溜め息をついた。
その横顔はどこか物憂げで、儚い。
戦いに勝利し、愛しい相手と無事に生き延びたというのに、彼女は何をそんなに憂いているのか。
少し前から悩んでいた『自分はあまりヴィラルの力になれていないのではないか』という件だろうか。
いや、そんな筈はない。
実際、先ほどの戦闘で、シャマルは彼の勝利に大きな貢献をしたではないか。
彼女が序盤の戦闘で使った鋼の軛(くびき)はカミナを大いに苦しめ、ろくな反撃を許さなかった。
ラガンでグレンを乗っ取ることに成功したこととて、シャマルの螺旋力抜きでは不可能だったことだ。
それに、極めつけは最後の魔法だ。
カミナとヴィラルの最後の決戦。
お互いの能力がまたも拮抗し、このままでは首輪の爆発で二人ともが死んでしまうというあのシチュエーション。
あのときヴィラルの命を救い、勝利を齎したのはシャマルの強制転移魔法だったではないか。
強制転移魔法。
対象を今いる場所から、その意志とは関係なしに別の場所へと飛ばしてしまう、転移魔法の一種。
クロノやユーノとの協力があったとはいえ、かつて巨大な闇の書の闇を地上から軌道上まで
転移させたこともある強力な魔法。
この魔法は次元を超える可能性があるということで、螺旋王に強く警戒され
それゆえに強力な制限がかけられていた。
次元間跳躍が禁止されていることは言うに及ばず、転移可能距離の大幅な短縮、転移可能サイズの縮小
魔力消費の増大、さらには転移精度の大幅ダウンなどがその主な内容である。
このような制限がこの魔法に課せられていることを、シャマルは殺し合いの開始直後に確かめていた。
ジェレミアと出会う前、彼女が次元間通信や次元間転移を試みようとしていたときの話である。
と、このように、本来のスペックが見る影もないほどに殺ぎ落とされていたため
シャマルもよもやこの魔法を使えるタイミングがやってくるとは思っていなかった。
しかし、人生とはわからないものである。
極めて重要なタイミングで彼女にはこの魔法を使う機会が訪れた。
クロスミラージュの策を悟った瞬間、シャマルの頭にこの魔法の存在が突如よぎったのだ。
『グレンの中からカミナを転移させてしまえば、ヴィラルと自分の勝利が決まるのではないか』と。
制限後の転移可能上限は人間一人。
やってやれないことはなかった。
このアイデアを思いついた瞬間、シャマルはすぐさま詠唱に入った。
クラールヴィントを持っていない今、困難な魔法の詠唱には時間がかかる。
その間にヴィラルが押し切られないかどうかが心配だったが、彼は予想以上に善戦した。
タイムリミットの一分、ほぼすべてを費やしても、転移場所のところまで細かい気を回す時間は
なかったから、カミナがどこに飛んだかは分からないが、目の前の勝ちを拾えたことは間違いない。
とにかく、これは、ヴィラルと出会ってから一番の大金星であり、彼女の大手柄なのだ。
しかし、それでもシャマルはやはり沈んでいた。
見張りを自らかってでておきながら、その目は虚ろで、集中力に欠けている。
一体、何が彼女の心をそんなに悩ませているのか。
彼女を悩ませている事柄、それは、彼女のこの戦い唯一の誤算……クロスミラージュのことだった。
六課の仲間が全滅したとき、彼女は身が引き裂かれそうな大きな悲しみとともに、小さな安堵を感じた。
何故なら、仲間がいなくなってしまったということは
今の彼女のことを誰かに話す必要がなくなったということなのだから。
主催者の部下である獣人と共に行くことを決め、この忌まわしい殺戮の宴に参加することにした自分を
仲間に知られる危険がなくなったということなのだから。
だが、かつての仲間は現れた。
シャマルの思いもしなかったような形で。
存在が明らかになったときは、戦闘に没頭し、冷徹を振舞うことで何とかその場を凌ぐことができた。
しかしその実、彼女の内心の動揺は大きかったのだ。
(うかつだったわ。
ケリュケイオンがここにあるってことは、クロスミラージュがあったって全然おかしくはないのに……
もしかしたら、リインが来ている可能性だって……)
リインに今の自分を話す。
考えただけで身震いがしてしまう。
(でも、いつまでも逃げているわけにはいかない。
まだ元の世界にはヴィータやシグナム、ザフィーラ、なのはちゃんやフェイトちゃんがいる。
もし、ここから生きて出られたって、みんなに会ったら私は……
今回のことはそれが早まっただけ。
……だから、私も覚悟を決めよう!!
ちゃんと話して、聞いてもらって……それから……決別するんだ。みんなと。
そうじゃなきゃ、私にヴィラルさんと一緒にいる資格なんてない!!
だから……)
気合を入れるようにシャマルはパチンと自分の頬を打った。
少し強く打ちすぎたのか、森から吹く風が、少しピリピリ凍みる。
緩んだ気持ちを引き締めるにはちょうどいい、とシャマルは思った。
ごくりと唾を飲んだ後、意を決して膝の上のデイバックを空ける。
恐る恐る手を入れて、目的のものを取り出す。
黄色い意匠のついたカード状のデバイス。
ティアナの形見、クロスミラージュ。
「……私に何か御用でも?ミスシャマル?」
「……ちょっと話がしたいと思って」
「話?今更ですか?こちらがあれだけ言っても聞いてもらえなかったのに?
医務局のミスシャマルは優しくて美人で、みんなの憧れだと聞いていましたが
実物はとんだ嫌な女みたいですね」
「……貴方、随分、変わったわね」
「それはこちらのセリフです」
あまりの反応に、シャマルの気勢が殺がれる。
何だか前に見たときよりも、圧倒的に人間らしくなっているように感じる。
そもそも、これはそんなに喋るデバイスだっただろうか?
(で、でも、ここで負けちゃいけない!
どんなに嫌われても、罵られようとも
私は、私は……)
【H-6/温泉/二日目/昼】
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
1:クロスミラージュに自分の心変わりを話す
2:ヴィラルと協力して参加者を排除する。
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
4:優勝した後に螺旋王を殺す?
5:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
※ギルガメッシュがマッハキャリバーを履いていたことには気づいていませんでした。
【クロスミラージュの思考】
1:シャマルと話をする。
2:カミナの方針に従い、助言を行う。
3:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
4:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
※他の参加者に出会ったときの交渉はまず自分が行おうかと考えています。
※ルルーシュとニコラスの両方を疑っています。参加者の詳細名簿をどちらかが持っていた場合、そちらが犯人だと思うでしょう。
【???】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ヴィラル、覚悟しやがれ!……ってあれ?
1:ニアとガッシュは大グレン団の兄弟だ。俺が必ず守ってみせらぁ!
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ヴィラルの野郎、ラガン返しやがれ!
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
※カミナがどこへ転移したかは後の書き手さんにお任せします。
《わたし≠ヘ、だれ?――柊かがみ》
彼女の物語は酷く捩れ曲がっている。
出会い別れは一種の流行り病のようなモノだ。サァッと吹き荒ぶ一迅の風のように現れ、また気が付けば消えてしまう。
だが、それらの取り留めのない話にも確かに芯≠フようなものは存在する。
寵愛すべき奇形は世界の澱。湖の中の泥のように掴んでも掴んでも掌から零れ落ちてしまう。
――わたし≠ヘ、だれ?
だが、全ての話の軸を戻し、彼らの行動に指針を持たせるとする。
ならば「柊かがみ」という一人の少女の行く末にそれらは集約される。
少女の戦いは歪にして醜悪だ。
いや、もはや少女≠ニ呼ぶことさえおこがましいのかもしれない。
柊かがみの存在は、そんなちっぽっけな枠組みを越えて更におぞましい何かへと昇華されてしまった。
――わたし≠ェ、消えてしまう……。
彼女は彼女であって彼女でない。
彼女は彼で彼は彼女だ。
不死者≠ナあり狂人≠ナある柊かがみに救いは訪れるのか。
訪れるべき福音の刻は、少女の祝福は、誰によってなされるのか。
つるりとした触感の少しだけ黄ばんだ殻が少女の身体を覆っている。
少しだけ手を伸ばせば、遥かなる大空へと飛び立つ事は出来るだろう。
だが、薄くて脆い硝子のような殻を打ち破る力さえ、今の少女には残されていない。
――たす……けて……。
儚い願いは、叶えられる筈もない。
▽
《好意≠ノ値するよ――つまりは、そうだね……好き≠チて事さ――ジン》
燦々と降り注ぐ太陽。
雲はゆらりと空を舞い、無風に近い世界は光で染め上げられている。
日光を浴びて加熱されたアスファルトはじりじりと焼くような熱を放射し、遠くを見渡せば陽炎だって見えて来そうだ。
ジン達五人は現在、移動の真っ最中だった。
一箇所に留まっていても目標の人間を探し出す事は難しい。
そもそも、ジン達が接触したい人間は相当な数だ。
五人の人間関係を辿っていけばこの空間に残っている参加者の大半が何らかの糸で繋がっている事になる。
故に、ひとまずのターゲットを柊かがみに絞る事に決めた。
彼女は「喰った」ラッド・ルッソ――同時にラッドとも違うモノ――の精神に身体を支配されている。
一番最初に合流しなければならない人物は彼女である、というのは五人全員の総意だった。
「さて、彼女はフォーグラーの近くにいるのかなぁ」
「……ジン。お前は、空からいきなりあんな馬鹿でかい鉄球が落ちてきたらどうすると思う」
簡易的な道具の回収と交換を済ませ、先頭を行くのはスパイクとジン。
山小屋へと至る道で初めて遭遇してから――その時点では彼らの傍にはルルーシュとカレンがいた訳だが――それなりの時間が経った。
彼らの間にはそれなりの意志の疎通が取られている。
加えて理性的な思考や物怖じしない佇まいなど、年齢の差こそ存在するが二人には共通点が多かった。
「そりゃあちょっとばっかし驚いて見せてから見物に行くね。もちろん野次馬根性全開でさ」
「だろ。あんなモノ、気にならない奴は稀だ。
おそらく大半の人間はあの鉄球の近くに集まって来ているはずだ。少なくとも無駄足にはならん」
他の人間を引っ張っていく素質を十分に備えた二人の男は肩を並べてゆっくりと歩を進める。
ジンは両手を頭部の裏側に回しながらも周囲の警戒を怠らない。
トレードマークの黄色いコートを靡かせ、烏羽根色の黒髪は剣山のように天を突き刺している。
どこか不思議な印象を受ける独特なメロディーの口笛を吹きながらも、一切の油断や慢心は存在しない。
背筋を丸め、長身の身体をけだるそうに動かすスパイクの右手はズボンのポケットの中。
寂しげに揺れる「左腕のあった箇所」が強調されるようなその行為だが、彼の表情は腕を失う前と特に変わらない。
「ふむ、なるほどね。でもその代わり、」
「ああ。同じく『顔を合わせたくない人間』もアレには惹かれて来るだろうな」
「握れば掌が切れる諸刃の剣って事だね。さっきまでロボットバトルしてた連中とかかな?」
「……ああ」
つい先刻まで彼らが今移動しているC-6エリアでは赤と青、二色のロボットが大格闘戦を演じていた。
遠目だったのではっきりとしたフォルムまでは不明だが、それなりの規模の戦いであったのは確実だ。
二機とも北の方角へと消えてしまったが……。
「喉に突っかかって取れない小さな骨。だけど、そいつは同時に放って置く事なんて出来ない大きな星だ。
背に腹は変えられない。俺達は柊かがみを追わなくちゃならない訳だ。それは周知の事実だろう? ね、ゆたか」
「えと……はい。すいません、でもかがみ先輩をこのままにしておく事なんて……」
突然話を振られた小早川ゆたかが少し言葉を濁しながら答えた。
桃色のツーテールが風に揺れる。可愛らしい口元に見える若干の歪み。
やっぱり、どこかに憂き目があるのかもしれない、とジンは思った。
彼女の表情は優れない。それは人を、明智健吾を殺してしまった自責の念だろうか。
ゆたかが、かがみに向けて言った台詞があった。
『罪を背負いながら、胸を張って生きようって』
『私の罪は絶対許されないけれど、それでも前に進もうって』
自分自身と向き合う決意を固めたゆたかは強い娘だと思う。
確かに自身の手を直接血で汚した訳ではない。
ナイフで肉をザクリと裂き、神経をブチッと断ち、骨をゴッと切断する。
こんな、一連の人体の解体動作を経験した訳ではない。
掌に残る拳銃の反動も、苦悶の表情を浮かべ絶命する死体を見た事だってない筈だ。
彼女が覚えていたの圧倒的な暴力だけ。全てを無に、塵へと還す重力の波。
圧壊するグラビトンウェーブと最後まで自分を信じてくれた人が潰れていく光景を虚ろな瞳で眺めていた。
逃避の末、大切なものを自らの手で粉々にしてしまったのだ。
何の変哲もない――それは魔法や高次物質化能力のような特別な力、という意味だ――少女が容易く全てを振り切る事の出来る問題ではない。
「だね。ゆたかの願い、みんなで帰る=c…だろ? シンプルだけどでっかい夢だよ。でもさ、意外とゆたかって欲張りなんだね」
「え、そ、そんなっ。わ、私は……別に……」
思いもよらない言葉が返って来たのか、ゆたかが少しだけたじろいだ。
小さな身体からは想像も出来ないような、いざという時の行動力。脆くも強いダイヤモンドのような意志。
ソレは十分なほど賞賛に値する彼女の長所だ、ジンはそんな事を思う。
この子はちょっとばかり、自分を過小評価し過ぎる帰来があるのだ。
なんて勿体ないのだろう。ダイヤの原石ほど磨けば光る輝石もないというのに!
「ゴメンゴメン、ちょっと意地悪だった。
赤衣装のサンタクロースじゃないけれど、それなら俺達がプレゼントしてあげられるかもしれない。
勿論、俺達≠フ中にはゆたか、君自身も入っている訳だけどね。スパイクも同じ事を言いたそうにしてるよ」
「……言ってねぇ」
「またまた、照れちゃって。何気に俺はスパイクの事をかなり信用しているんだけどなぁ」
「ハッ――本当に、よく回る口だ」
まるでいじけた子供のようにスパイクが視線を散らした。
後ろから少しだけ距離を空けて歩いてくる鴇羽舞衣と結城奈緒が小さく笑った。
擬音で表すのなら舞衣はクスクス、奈緒はニヤニヤという具合だろうか。笑い方一つ取っても、性格というものはそれなりに反映されるものだ。
「……アンタ達って妙に仲良いわよね」
「――俺とジンがか? おいおい、奈緒。どこをどう見ればそんな感想が出てくるってんだ?」
振り返ったスパイクが奈緒へ「信じられない」という顔付きで不満を漏らす。
それもポケットに突っ込んでいた手も引き出して、かなりのオーバーリアクションで、だ。
「んなもん見てりゃ分かるっつーの。ねぇ鴇羽?」
「ん……まぁ、確かに。言われてみればそんな気もするかも」
「でしょ。ほら、何ていうのかな……阿吽の呼吸、みたいな。意思の疎通がバッチリ、とでも言えばいいのかな」
流されるままに舞衣は相槌を打った。
彼女の服装は先程までのシーツ一枚という絵画の裸婦のような服装から大分マシ?なモノに変わっている。
舞衣の右手には巨大な騎士槍――ストラーダ。
赤いスカーフとオレンジ色の甲冑鎧のような服が特徴的な服に身を包んでいる。
それを見た感想として、結城奈緒が『これ……なんか、あたしと藤乃の奴と似てる』と漏らしていた。
とにかく、舞衣はバリアジャケットを発動させる事で、自分にピッタリの服を手に入れる事が出来たという訳だ。
「だから、そりゃあな……ったく、お前が何を言いたいのか、まるで意味が分からん」
「普通ソレを乙女の口から言わせるかなぁ」
が、ここで調子に乗り出すのが奈緒である。彼女は生来、たまにそんなしょーもない悪戯をして見たくなる部類の人間なのだ。
奈緒は先程スパイクに容赦のない詰問を食らった事を根に持っていたようだ。
これ幸いとばかりに、スパイクを攻撃し始める。
「……奈緒。お前、性格悪いってよく言われるだろ」
「えー別にぃー? っていうかあのね、スパイク。これでもあたしはかなりの清純派で売ってるたりする訳」
あっけらかんと応える奈緒にスパイクは明らかに不審げな眼差しを奈緒に向けた。
何かを確認するようにスパイクは隣の舞衣の顔を見たが、一瞬ばつの悪そうな表情を浮かべた舞衣は彼と視線を合わせようとしない。
心根の優しいゆたかでさえ、何とも微妙な笑顔(苦笑とも言う)を滲ませている。「あ、あはははは……」という感じだろうか。
明らかに、この空間に存在する全ての人間が「いや、それはない」と奈緒の言葉を否定しまくっていた。
「そんな見え透いた嘘を信じる馬鹿がいるか」
「嘘じゃないってば。それにこう見えてもあたしは何気にシスター修行中の身でね……」
「あの、奈緒ちゃん、いくらなんでもそれは、」
得意げに言った奈緒に対して、舞衣が控えめながら釘を差した。
太陽の光を反射するような明るいオレンジ色の髪を指先でクルクルと弄る。
彼女のぎこちない表情は全てを雄弁に語っていた。曰く、流石にそこまで『有り得ない事』を言っちゃったら庇い切れないよ、と。
「…………鴇羽? あれ、アンタ知らなかったっけ――」
「ったく、くだらない話は無しだ無し。おい、ジン。お前も黙ってないで上手く纏めてくれ」
ここで話が妙な方向に脱線し始めた事を悟ったスパイクがジンに話を振る。
口の上手いジンにこの如何ともし難い話題を適当な所へ不時着させて貰うという腹だった。
しかし、ジンの答えは彼のそんな意図とはまるで異なっていた。
そう――少しだけ、彼も悪ふざけ≠ノ参加しようと思ったのだ。
「へぇ。奈緒ちゃんも中々、見てるね」
「……は?」
虚を突かれたスパイクの間の抜けた声が響く。
「なるほど、スパイクは頭も切れるし、腕っ節も相当なものさ。
それに何より冗談を理解出来る柔軟な頭。これは求めても手に入らない尊い存在だね」
「……おい」
彼の想像を絶する台詞にスパイクの顔面が引き攣り始める。
眉間に強烈な皺を寄せ、半開きになった唇の端がヒクヒクと戦慄いた。ジンは目を閉じ、含み笑いをする。
「歳は二十七、これは男としては一番油が乗っている時期だね。
俺の歳は……まぁ今はここは伏せておこう。実際、あまり関係のない話だ。
なにしろ、亀の甲より年の功とも言うしね。修羅場を乗り越えた『渋み』って奴がスパイクにはある」
移動中、だった筈なのに。完全に足が止まってしまう。
思わず、スパイクはジンの瞳を見つめた。二人の視線が交差する。
(ちなみにこの辺りで女性陣の間で妙などよめきが起こったのだが、柄にもなく動揺しまくったスパイクはまるで気付かなかった)
「何気に、付き合いも長いしね。『二人で共有している秘密』もある……つまりは、」
「……待て」
スラスラと美辞麗句を並べていたジンがスパイクの静止する言葉も聞かずに一笑。
見る者を須らく恋に落とすような美少年のソレだ。
誰かの息を呑む音が真昼間の路上に響いた。そして、
「好意≠ノ値するよ――つまりは、そうだね……好き≠チて事さ」
▽
《恋だとか、好きだとか、愛しているとか……馬鹿みたいだ――結城奈緒》
「な――――ッ!!」
錯覚だと思い込む事も不可能なくらい、はっきりとした発音でジンは言った。
スパイクは説明の出来ない衝動――少なくとも妙な叫び声を上げるのは我慢したようだ――を覚えた。
それは電撃か、それとも冷気だったのか。
彼の背筋が凍り付いたのは確かだったし、この太陽の下、ブツブツと全身に鳥肌が現れたのも事実。
単純なインパクトで言えばソレはまるで落雷の直撃を受けたようなモノだった。
とにかく、それは――相当に衝撃的な一言だった。
「……嘘」
息を止めたような世界の中で、一番最初に覚醒したのは意外にもツーテールの少女、ゆたかだった。
噛み潰すような呻き声が彼女の可憐な唇からこぼれ落ちる。
ゆたかの態度には勿論、理由がある。
唐突だが、彼女の従姉である泉こなたは自他共に認める結構なオタク≠ナある。
こなたの守備範囲はかなり広く、ライトノベルを除く大半の現代視覚文化に精通していた。
加えてゆたかのクラスメイトである田村ひよりやパトリシア=マーティンもこなたに似た感じの人間だ。
そして、そんな何とも濃い知り合いを持つゆたかは彼女達からちょっとだけ影響を受けていた。
というか、その辺りの概念について曖昧模糊でありながらも何となく知っていた。
勿論、詳しい知識を持っている訳ではない。
ただ『概念』としてそういう恋愛の趣向も存在するのだと理解していただけ。
ゆたかは覚えていた。自身が以前、ひよりに投げ掛けた質問と焦った彼女のあたふたとした反応を……。
ジンが詩人めいた軽口を好む人間だとはゆたかも十分に知っている。
だが、彼がスパイクに捧げた台詞を彼女の脳はガチ≠ナはないか、と判断したのだ。
それは言葉の意味だけではなく、雰囲気やらその辺の問題。
全てを一言で表せば、つまり「すごく……それっぽいです」という感じになる。
「ジ、ジンさん……」
「何、ゆたか?」
「あの、ジンさんって――――そ、そういう、趣味の人なんですか?」
こういう時に、ど真ん中のストレートを放る事が出来る勇気。
そんなモノを持ち合わせるのはジンを除いたこの四人の中では小早川ゆたか、ただ一人だった。
良く言えば素直。実直。
場合によっては、ちょっとだけ空気が読めないと揶揄される危険性も孕んではいるが。
「……ゆたか。君は将来大物になるよ」
「え、そ、それってどういう……?」
「ちょ、ゆたかっ! まずいって、それは!」
「へ……な、奈緒さん?」
「そうだなぁ。その質問に応えるとすれば……」
口元をニヤつかせながらジンが頬を掻いた。
スパイクは何故か何も言おうとしない。
奈緒は思う。恋だとか、好きだとか、愛しているとか……馬鹿みたいだ、と。
とはいえ、まさかあの他愛もない悪戯がこんな事態を生む事になろうとは。
奈緒は背中に冷や汗をびっしょりとかいて完全に生きた心地がしなくなっていた。
仮にも今は殺し合いの最中である。このジンからスパイクへの爆弾発言は最悪、パーティ離散の危機すらあり得るのだ。
こんなタイミングでまさか告白を始める馬鹿が(しかも男×男である)存在するなんて夢にも思う訳がない。
と、こんな事を頭の中で巡らせているとジンが、
「――分かったかい、奈緒ちゃん。スパイクをからかう時はコレぐらいやらないとダメだ。スパイクは堅物だからね。
いや、多分これでもまだまだ足りないかもね。ところが、俺じゃあこれくらいが精一杯って所だね」
「…………へ?」
これまた気になる台詞と共にクックッと笑った。
「……弁士の次は役者か。転職先には困らんな、お前は」
「あ、覚えてたんだ。いやいや、中々名演技だったでしょ? スパイクも最初は騙されていたみたいだし」
「馬鹿か。自分で『俺は母ちゃん一筋だから』って言ってたのは誰だ」
「うん、まぁ俺だね。だけどスパイクって何気に記憶力良いよね」
「知らん」
あはは、とジンは針金のような髪を掻きながら喜色に満ちた表情を浮かべる。
一方で、スパイクはしかめっ面。いったい何時から気付いていたのかはいまいち計り知れない。
少なくとも最初から見破っていたようには見えないが……。
「じょ、冗談……だったって事?」
「そりゃあそうだよ。俺にそんな趣味、ないてってば」
「そ、そうなんだ……」
両の掌を空に向け、ジンは小さく肩を竦めた。
尋ねた奈緒の心境は非常に複雑だった。妙なしこり≠フような感覚が彼女の胸の辺りを漂っていた。
結局、奈緒はぎこちない笑顔を浮かべる事しか出来ない。
「まぁ、スパイクの事を好きだってのは確かだけど」
「はぁっ!?」
またも、爆弾発言。
が、素っ頓狂な声を上げたスパイクを尻目にジンは、
「で――もちろん、奈緒もゆたかも舞衣も好きだよ、俺は」
ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべ、そして周りの人間へと微笑みかけた。
辺りに漂っていた妙な雰囲気がこの瞬間、立ち消えたような感じを奈緒は覚えた。
「楽園パレードに参加する殉教者か、それとも列を先導する笛吹きか。
たった三十時間しか経っていない筈なのに、この世界がまるで俺の全てだったんじゃないかと錯覚するくらいさ。
舞台に上げられた駒? それとも物語のための狂言回し? もしくは中から何もかもをひっくり返す革命家?
違うね、俺はドロボウだよ。『悪夢のようなパーティー』の主催役を頂戴しに参上したしがない盗人……」
普通、会話では絶対に使わない表現や単語のオンパレードだった。
が、そんな非日常的な言葉もジンが口にすれば生命を帯び、大気に躍動感をもたらすような輝きを持つ。
大げさな身の振りと共に、ジンは言葉を続ける。
.
「ところが困った事に、パーティーが一番盛り上がるのは一次会が終わった後って訳さ!
参加者の俺達としてはさっさと螺旋王サマを玉座から引き摺り下ろさせて貰わないとね。
そう、大分出席者は減っちまったけれど、その後も宴会は終わらない。
ここにいる皆は、二次会も三次会も強制参加だぜ? もちろん幹事は不肖この王ドロボウめが務めさせて頂きたく。
盗む事が仕事な筈の俺が自腹を切って涙が出るくらい最高に笑える『馬鹿騒ぎ』をプレゼントするよ」
それはつまり、大ドロボウからの第二の予告状だった。
主催に成り代わり、楽しいパーティとすりかえた後の話を彼はしているのだ。
『全てが終わった後にどうするか』なんて、まともに考えた事もなかった。
起こった出来事を処理するのが精一杯で、先の未来にまで目を向ける余裕なんてある訳がなくて。
全てがこの場所で終わってしまうような、小さな不安を拭い去る事はどうしても出来なかったのだ。
だから、ジンの言葉は奈緒の心に深く浸透していった。
本当に魔法使いみたいな人だな、何となくそんな事を思った。
それも決して口先だけの妄言ではないと思う。
ジンは実際、どんな困難だって蹴り飛ばすような妙な頼りがいがある奴だ。
奈緒の中では彼の評価は意外と高かった。ソレは彼女が最近出会った男にまともな奴が少ない事も影響している。
「二次会、ね……美味い料理は出るのかね。あとは酒とタバコだ」
「料理なら私がやるわ。あ、ゆたかも一緒にどう?」
「え、は、はい。お家でも交替で家事はやってましたし、少しくらいなら」
「いいね。中身も少しずつ具体的になってきた。だけど、こんな場所で突っ立って話し込んでる暇はないぜ。
気が付いたら靴底と地面がくっ付いて根が張っていたなんてのは上等じゃない。
もうフォーグラーはすぐそこだし……――ッ!!」
その時、仰々しい仕草で進路を指し示そうとしたジンが、突然表情を強張らせた。
すばやく振り向くと懐から取り出した夜刀神を展開させる。
スパイクも同様に何かに気付いたらしく、ホルダーからジェリコ941を抜き取り銃口を向ける。
残りの三人は事態の急変に付いていけなかった。
初めから戦闘能力のないゆたか、HiMEの能力を消失している舞衣はともかくとして、エレメントの展開が可能な奈緒さえ一瞬、動作が遅れたのだ。
そう、その気配≠感じ取る事が出来たのはジンとスパイクの二人だけだった。
つまり身の毛の弥立つような殺意と日頃から付き合っている者達。
何度となく死線を潜り抜けた男だけが、台風の如き彼女≠フ襲来を感知したのだ。
「――――砲撃、開始」
風に乗り、響いたのは凛とした少女のそんな呟き。
▽
《お前らも分かってるんだろ? もうかがみは『身体』だけしか残ってないってよぉ!――柊かがみ=t
スパイク達がが気付いた時には空間に波紋のような歪みが発生し、幾つもの射出物が顔を出していた。
それは奇妙な光景だった。
通常重力下において、質量を持った物体が『空中で地面と平行に静止する』事なんてあり得ない筈だ。
奇術やトリックの類――つまり強力な磁石を使ったり、ピアノ線で固定したり――を用いた場合だけ、科学的に立証出来る景色なのだ。
しかし、ソレを可能にする『技術』が存在するのもまた確かなのだ。
螺旋の遺伝子を持った螺旋生命体には全ての道理を蹴り飛ばす力がある。
全身を流れる二重螺旋が魔力回路の代わりを成すのだ。とある世界のとある力――魔術が発動する。
「逃げろっ!!」
誰がそう叫んだのか、それを確かめる術などはなく。
前方、フォーグラー方向から凄まじい量の小石や鉄屑などが発射された。
瞬間、豪雨のように圧倒的な質量の物体が五人の立っていた位置に殺到する。
アスファルトにぶつかり、砕ける様々な鉱物と鉄塊。
爆砕し、破砕する。世界は音に満ち、人の鼓膜を突き破るかのような爆音が開幕の鐘となる。
魔術――と一言に言っても、その形態は様々だ。
だが、大半の世界においての魔術は機械や他の技術でも十分代用出来る事を可能にする力。
本当に『ちょっとした技術』に過ぎない場合がほとんどだ。
もちろん、一部の例外を除いた仮定ではあるが。
単純にして明快。しかして、強力にして無比。
複数の物体を保存する空間の制御。別々の次元を連結し、隙間なく射出と回収を行う能力。
これだけの行為を可能にする一品、それすなわち宝具。
今、ジン達を襲ったのは宝具ランクEXの英雄王ギルガメッシュが所持する三つの宝具が一つ。
王の宝物庫と、現実の空間を繋げ、対象を穿つ王の財宝――ゲート・オブ・バビロンに他ならない。
「チッ――おいゆたか、どこかぶつけてないか」
「だ、大丈夫です……ありがとうございます、スパイクさん」
「ジン! そっちは!?」
「ギリギリセーフって所だね。舞衣ちゃんは何とか無事だよ」
スパイクはゆたかを、ジンは舞衣を抱え一瞬で攻撃を回避していた。
あと少しタイミングが遅かったら、蜂の巣にされていた可能性は高い。
それほどまでに彼女≠フ一撃は抜群の精度を誇っていた。
「……何であんたら、あたしだけ無視するわけ」
「いやまぁ、うん。そりゃあね」
「……成り行きだ。とはいえ、そんな口が利ける内なら心配はいらんな」
一人だけ放置された奈緒が不満をぶち上げるが、男性陣は曖昧な解答でお茶を濁す。
幸いにも生来の猫のような敏捷性で彼女も砲撃から難を逃れていた。
何故かこのバトルロワイアルでは貧乏籤を引く事も多かったが、そもそもこういった要領の良さは彼女の特徴の一つである。
その時、
「ふぅん、まさか誰も死なないなんて……簡単に死ぬ『人間』だからかしら。
一つしかない命に固執する理由も分かる気がするわね」
太陽を背に浴びて、一人の少女が姿を現した。
淡いバイオレットのロングヘアーを背中に垂らし、身に纏う衣服は平和≠象徴する白。
ピシリと手入れのされたそのスーツには一つのシミもない。
だが、彼女の意志はその純白のタキシードを紅に染める事だ。
胸元を彩る赤い蝶ネクタイが寂しげに揺れる――殺した相手の血液で自身が汚れる事を願って。
「かがみ先輩っ!」
堪らずゆたかが腹の底から彼女≠フ名前を呼んだ。
それは真摯な感情に満ち溢れた慈愛の叫びだ。
本当に相手の事を思っている場合だけ、言葉は生命を持つのだ。
「あら……」
一方で現れた少女は穏やかな表情でその言葉を受け止める。
眉を僅かに顰め、まるでショーケースの中の貴金属を眺めるような視線でかがみ≠ヘゆたかを眺めた。
「ゆたかちゃん、元気そうね」
「……ががみ、セン、パイ。元に戻って――」
かがみ≠フ口調は以前遭遇した時のようなラッド・ルッソのモノではなくなっていた。
だから、ゆたかは一瞬彼女が本当の「柊かがみ」に戻ったのだと思ったのだ。しかし、
「ゆたかっ! そいつは……!」
「元に戻る? ゆたかちゃん、私にはあなたが何を言っているのか分からないわ」
「……え?」
「かがみ、はもういない」
小さくかがみ≠ェ呻くように呟いた。彼女とゆたか達の距離は七、八メートルという所だろうか。
空気を伝わる振動が倒壊した世界にゆっくりと染み込んで行く。
とある殺人鬼のようにかがみ≠ェ唇を醜く歪ませる。
「ここにいるのは私でもあり、俺でもある。【柊かがみ】だったモノ。
あいつは……かがみは消えて、俺だけが残った。そうだな、もうかがみなんて名前で呼ばれるのも癪だねぇ」
「お前は……!」
風が、吹いた。流れていく時間の中で、全ての人間は動きを止める。
「お前らも分かってるんだろ? もうかがみは『身体』だけしか残ってないってよぉ!」
「……君は本当に、相変わらず俺を驚かせてくれるね。
『黄泉返り』って奴かい? 神父や牧師が見たら、涎を垂らして君を成仏させに掛かるだろうね」
「おぅ、ジン! 案外元気そうじゃねぇか。この間はろくに絡んでやれなくて悪かったな!」
首筋に汗を滲ませながら、ジンが言った。対照的にかがみ≠ヘ破顔一笑。
彼≠轤オさに満ちた陽気で快活でどこか不気味な言葉で応じる。
「いや……いいパンチだったよ。流石にもうお腹いっぱいだけどね」
「あぁ? つれねぇじゃねーかよぉ、おいっ! とはいえ、生憎と絶賛大安売り中だ。食いたきゃ食わせてやるよ」
「ラッド、君は……」
「とと、気ぃ悪くすんなよ、ジン。今はお前とやり合うつもりはねーよ。俺達は仲間だもんなぁ」
かがみ≠ェ瞳を大きく見開き大声で吼えた。野生の獣のような激しい殺意が辺りを震わせる。
この期に及んでまだジンを仲間、と呼ぶ彼に奈緒達は不快感を覚えた。
なにしろほんの数刻前、かがみ≠ヘジンを思いっきり殴り飛ばし硝子窓に叩き付けている。
だからその口から発せられた「仲間」は、あまりにも薄っぺらい響きに満ちていた。
「……ふぅん。そういえば、俺達は君の事をなんて呼べばいいのかな。
実際のところ、君を【柊かがみ】と呼びたいような呼びたくないような、微妙な心境なんだ。ねぇ――ラッド?」
瞬間、ザクロの実ようにパックリとかがみ≠フ唇が不気味に開かれた。
それは歓喜だ。自分が自分である証明。アイデンティティの獲得。レゾンデートルの認識。
そう、所詮身体とは器に過ぎない。
人の個性を明確に決定付けるのはその心≠セ。
そして、名前はヒトの個≠ノ大して最も影響を与える。
今のかがみ≠かがみと足らしめる要素はその少女としての肉体だけ。
「そうだねぇ、つっても俺としてはどっちでも構わねぇぜ? 『お前』でも『君』でも別に気分悪くしねーよ!
いくら俺が《分裂病》っぽいとはいえ、代名詞で呼ばれたからって急にキレたりしねぇ。フィーリングで呼んでくれ。大体な……」
かがみ≠ヘ小さく咳払いをすると、
「そういうのってぶっちゃけ、どうでもいいと思わない? 表だとか裏だとか、白だとか黒だとか。
それこそ、かがみだろうがラッドだろうが。
ホント【分裂】という言い方は言い得て妙ね。だって混ざっちゃったら絵の具はもう元の色に戻らないじゃない。
ああ、でもよくよく考えてみれば――かがみの色はもうほとんど残ってないのかな? フフフフ……。
もしも柊かがみが表に出てくるような事があっても、あの子は耐えられないかもねぇ。
だって、私がタカヤ君を殺してしまった訳だし。ま、どっちかといえば……やっぱり私は『ラッド・ルッソ』なのかな」
そして告げられる柊かがみの分裂。極めて消失に近いその分裂。
自身を固有名詞で【ラッド・ルッソ】と呼んだ少女は満足げに笑う。
彼女の微笑は見るものを全て隷愛の世界へと引き摺り込むような蠱惑に溢れていた。
背筋が痺れる。喉がカラカラになる。
奈緒は頭をフル回転させて考えた。コイツはいったい――だれだ、と。
しかし、そんな疑問を抱いたのはこの場にいる人間では『奈緒だけ』だった。
そしてもう一人、過剰なまでにかがみ≠フ言葉に反応した人間がいた。
「Dボゥイが――死んだ?」
太陽の色のバリアジャケットに身を包んだ明るいオレンジの髪色の少女がぼそり、と呻いた。
亡き竜の巫女。水晶のHiME。至高の舞姫。
鴇羽舞衣が唇を戦慄かせながら、濁った瞳でかがみ≠見た。
▽
。
《……絶対に、絶対に許さない――鴇羽舞衣》
一部ボロボロになったコンクリートの海。
市街地の一角、綺麗に舗装された道路の上でかがみと舞衣達は数メートルの距離を開けて対峙していた。
「殺、した?」
舞衣の唇がまるでソレ自体が命を持っているかのようにぎこちない動作で歪む。
顔面の筋肉が硬直しているようだった。何も考えられない。全てが憎い。辛い……悲しい。
(嘘だッ……嘘だッ……嘘だッ……!!)
鬼のような、般若のような。憎しみと絶望と憤怒が混ざり合った凄まじい怒りの表出だった。
マーブル模様を描きながらに様々な感情が一つの結論を目指す。
舞衣の心はいまだかがみ≠ェ言い放った台詞の意味を理解出来ないでいる。
「んーあぁ、殺したぜ? おっと、もしかして俺の口からじゃなくて次の放送で聞きたかったか。そいつぁ悪い事をしたなぁ」
「な、んで……」
「何で? あらあら、おかしな事聞くのね……」
白と紫の女が嘲るように言う。柊かがみの口調の次はラッド・ルッソ。
自身で否定したスイッチを切り替えるような言葉の変化を難なくかがみ≠ヘやってのける。
まるで様々な人格が一つの身体の中に同居している乖離性人格障害患者のようだ。
彼女(あるいは彼)は遊んでいるのだろうか。それとも…………?
「そりゃあ、タァカヤ君が考えちまったからに決まってんじゃねぇかよぉ!?
すっかりおびえきった顔の普通の女の子につよーいつよーい宇宙人の自分が殺される訳ねぇってよ!!」
「――ッ! そ、そんな……」
瞳を見開き、唇を震わせ、拳を握り締める舞衣とは対照的にゆたかが小さな悲鳴を漏らす。
だが絶望の淵にいる所をDボゥイに救われた舞衣と違い、ゆたかがDボゥイに抱いている気持ちは別の色合いを持っている。
それは、春の空のような爽やかな憧れにも似た一途な想い。
自分に自信が持てない少女が覚えた「好き」や「愛してる」には届かない憧れのようなもの。
「……る……さない」
だが、一方で舞衣がこの世界へとやって来た状況は極めて限定的なモノだった。
彼女はほんの数刻前に何よりも大切な自分の弟を失った状態で殺し合いに参加させられていた。
加えて、それに付随する環境も最低最悪のモノだ。
尾久崎晶のチャイルド、ゲンナイが美袋命に倒された事によって鴇羽巧海は命を落とした。
そして、怒りに支配された舞衣は命を自身のチャイルドであるカグツチによって殺した――と思っている。
舞衣には救いもなく、同時に心の底から大切だと思える相手もいなかった。
いや、想う事を許された相手がいなかった、と表現するべきだろうか。
彼女が想いを寄せた相手――楯祐一は幼馴染である宗像詩帆を選んだ。
だから、舞衣は自身が楯を大切な人であると思う事に抵抗を感じていたのだ。
結果として――その想いの矛先は、相羽タカヤという一人の寡黙で不器用な男へと向けられた。
しかし、
「……何? よく、聞こえなかったんだけど。質問する時は大きな声でハッキリと発音よく。
学校で教わらなかったのかしら? そう、それでね。タカヤ君との約束があるのよ。
聞きたい? そりゃあ聞きたいわよねぇ? でも残念だけど遺言とかじゃないのよね。
そう、私とタカヤ君との約束ってはね……舞衣ちゃんとゆたかちゃんをぶっ殺してあげるって事! どう、素敵でしょ?」
目の前の少女の姿をした怪物が、彼を殺したと笑いながらに言うのだ。
ニコニコとかがみ≠ェ口元を綻ばる。
まるで学校の友人達と他愛のない話で盛り上がっている時のような和やかな表情だ。
ダンサーがステップを踏むように、コンダクターが楽隊のリズムを合わせるように。
かがみ≠ヘボコボコになったアスファルトの道路をコンコンと爪先で叩く。
放っておけば鼻唄でも歌い出してしまいそうなご機嫌具合だった。
そうかがみ≠ヘまるで辛い事など何一つ存在しないとでも言いたげに、殺戮の武勇伝を語るのだ。
(Dボゥイが死んだ? Dボゥイが殺された? なんで? こいつに? こんな奴に?)
舞衣は心の中で自問自答を繰り返していた。
こころの迷宮に足を踏み入れては、右も左も分からないような永久の闇の中で頭を抱える。
全てを、忘れてしまった訳ではない。
力がなかったから自分は守れなかった。足手纏いになる事しか出来なかった。
無力な自分が大嫌いだった。巧海を守れる力が欲しかった。
相手を倒す力ではなくて「大切な人」を守れる力。もう誰にも悲しい思いをさせたくなかったから……。
だけど、あの時舞衣はラッド・ルッソを「殺すための力」が欲しいと願ってしまった。
チャイルドを呼び出す事の出来ない舞衣は極めて無力だ。
彼女のエレメントはただひたすら「守る事」に特化している。攻撃としての力の行使はほとんど行った事がない。
だから、舞衣は心の底からカグツチが現れてくれる事を願った。
カグツチは最強無比の力を持った強力なチャイルドだ。
大空を翔ける炎の翼、口から吐き出す天壌の劫火は森を焼き、山を消滅させる神如き破壊力を秘めている。
(でも、もうカグツチはいない。カグツチはやられてしまった……エレメントも出せない……。
憎い……この柊かがみの姿をしたラッド・ルッソが憎くて堪らない……)
カグツチは、藤乃静留との戦いによって消滅してしまった。
姫舞闘におけるルールの一つとして、チャイルドがやられた場合、HiMEはHiMEとしての力を失ってしまう。
そして「大切な人」も緑色の光になって消えてしまうのだ。
勝ち続けるしかない。誰かを守るための力は崩壊した瞬間にその持ち主を喰らい尽くすのだから。
「……絶対に、絶対に許さない」
「ああ? 別に許して欲しくなんてねーよ。懺悔してる訳じゃねぇんだから――」
ラッドはヘラヘラと、そしてニヤニヤと。
言葉が変われば表情も変わる。
だがどちらのかがみ≠燻囲に強烈な不快と絶望を撒き散らす存在である事だけは同義だ。
(憎い……っ、憎いっ……!!)
どんな言葉を重ねようとも舞衣には目の前の少女がラッド・ルッソにしか見えなかった。
口調もクルクルと変わるし、姿は彼女の仲間である小早川ゆたかの先輩である柊かがみのモノだ。
だが、根本的に舞衣は『本来の柊かがみ』という人間を知らない。
ラッド・ルッソと混ざり合った不純物としての柊かがみ≠ニしか顔を合わせた経験がない。
舞衣は決して聖母のような心を持った全ての罪を赦せるような人間ではなかった。
彼女は極めて普通の、どこにでもいるような女の子だ。
人間がどれだけ可能性に満ちた生き物であったとしても、十やそこらしか生きていない若者に賢者のような理性が備わっているだろうか。
柊かがみに対する思い入れが正直な話、舞衣はそれほど濃い訳ではない。
ゆたかの生き残った唯一の知り合いだ。出来るなら助けてあげたいと思う。しかし、
(私には、あの柊かがみ≠ェ――ラッド・ルッソに憑り付かれた、ただの抜け殻にしか見えない。
なんて……私は…………最低、なんだろう……)
彼女がラッド・ルッソの口調を、仕草を示すたびに、舞衣の胸はキリキリと締め付けられるのだ。
死んだはずのラッドが何故か生き返って、そしてDボゥイを殺したと――そんな穿った視点でしか、柊かがみについて考える事が出来なくて。
吹き付ける生温い風と燃えるような太陽にまでとばっちりが行きそうなくらい、舞衣の心は荒れ狂っていた。
「とりあえず、舞衣ちゃん達がまだ殺し合う気がないなら……少しだけお話でもしましょうか。
どれくらいタカヤ君がボロボロになって、無様に惨めに血だらけになって死んで行ったとか――興味深いでしょ?」
「こ、いつ……っ!!!」
「おい、馬鹿! 待て不用意に飛び出すんじゃねぇ!」
「放してよスパイクっ!! こいつは、Dボゥイを……!」
限界だった。
しかし、武器も持たずにかがみ≠ノ向かって行こうとした舞衣がスパイクに後ろから羽交い絞めにされた。
必死にその手を振り払おうとしても、隻腕のはずの彼の拘束から抜け出せない。
腕一本なのにしっかりと身体をロックされてしまっている。
カグツチの名前を呼ぼうとも、エレメントを出してみようとも思わなかった。
どうせ何も起こらない事は分かっている。だけど、ジッとして見ている事なんて出来る訳がなくて……。
「おうおう、スパイクさんよぉ。舞衣ちゃんは俺と戦いたがってるんだから好きにさせた方がいいんじゃねぇか。
俺達大人だって、時にはガキの自主性を尊重するべきだしなぁ!」
「その口で大人を語るってかい。俺には好き勝手生きてるアンタが一番子供っぽく見えるがねぇ」
「……ふぅん。私≠フ番だけに反論出来ないのが残念だけど……ま、どっちにしてもあなた達は戦って殺し合うしかないの。
だって、ね。あなた達……この前私に負けたばかりでしょ。しかも懲りずにまるで同じ面子。
流石に二度目はないわよ? 今回はそっちの白い龍もしっかり相手してあげるから……」
「……痛い所突くもんだ」
顔面を苦渋の色に染めながら、スパイクが苦し紛れに言った。
スパイク、ジン、舞衣、奈緒、そしてゆたか。
メンバーはかがみがかがみ≠ヨと変貌した時と変わっていない。
今回は「柊かがみを救う」という意志が強く存在するものの、奥の手が存在している訳ではない。
「さぁさぁ、いったい誰から俺の相手をしてくれるのかねぇ!? ああ、何なら全員一気に掛かって来てくれてもいいんだぜ。
殲滅戦、電撃戦、打撃戦、防御戦、包囲戦、突破戦、退却戦、掃討戦、撤退戦、どれだって構わねぇしよ!」
かがみ≠ェ腹の底から己の戦いに対する思いをぶちまけた。
舞衣達は彼女の放つ強烈な威圧感に気圧される。絶対的な一手などそう簡単に見つかる訳がない。
本当にかがみ≠殺すつもりで戦わなければ逆にこちらがやられてしまうだろう。
しかし、それでは意味がない。柊かがみを救い、皆で帰らなくては意味がない――舞衣がそう思った時だった。
天に金色の光を放つ『影』が現れたのは。
▽
《痴れ者が……その程度の力で我に適うと思ったのか?――ギルガメッシュ》
78 :
sage:2008/09/13(土) 01:54:40 ID:agtGxwmY
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「ふむ。そこまで戦いに執着するとは呆れた戦闘狂、いや殺人狂だな」
どこかの国の国家金庫から盗み出してきた金塊から抽出したような見事なまでの黄金色の髪。
金色のフルアーマータイプの頑強な鎧。溜息が出るほど端正な容姿と、全てを射抜くような紅の瞳。
突如大空から弾丸のような速度で飛来したのは――英雄王ギルガメッシュ、その人だった。
装備したインテリジェントデバイスマッハキャリバーを用い移動用魔法、ウイングロードを行使。
帯状魔法陣を展開し、そこをカタパルトのようにして移動する戦術は音もなく敵に接近する事に何よりも優れている。
完全にギルガメッシュはかがみの虚を突き、背後から攻撃範囲へと近づく事に成功した。
「ギ、ギルガメッシュ!?」
「なっ――」
いち早くギルガメッシュの接近に気付いた奈緒が大声で彼を呼んだ。
ほぼ同時にかがみ≠ェ振り向くも時既に遅し。
それどころか、タイミングよく『顔だけを後ろに向けた』事はかがみ≠ノ更なる災禍を呼び込む事になる。
ギルガメッシュはかがみ≠ヨと突っ込みながら、無遠慮に右腕を伸ばした。
そして、ガッチリと彼女の顔面を鷲掴みにする。
五指が頬骨から米神、額と彼女の皮膚に食い込む。その拘束は完璧。ソレこそ指を切断でもしない限り外れる事はない。
マッハキャリバーの高い機動性でもってかがみ≠ヨと突撃して来た彼はそのままゴツゴツとしたアスファルトに着地。
機動性をフルドライブさせて自身に更にスピードを加算する。
そして、
「テメェ、何しやが――」
「――笑いたくば、心ゆくまで笑え。その減らず口がどこまで利けるか、我が試してくれよう。
貴様の言葉に合わせてやるとすれば……そう『持久戦』という奴だ」
「や、やめなさいっ! なにするつも――ガ、ガァアアアアアアアアアアッ!!!」
かがみ≠フ顔面を思い切り地面へと叩き付けた。
そしてマッハキャリバーを加速させる――当然、かがみの顔は道路へと押し付けたままだ。
「ガ、ガ、ア、ガガ、ガガア、ガガ、ガガ、ガア、アッガ――」
ズタズタに引き裂かれたかがみ≠フ口から言葉にならない呻き声が漏れる。
ギルガメッシュは更にスピードを上げる。彼とかがみ≠ェ通った後に残るのは真っ赤な道。
そして擦り潰されミンチにされた肉。
皮膚が裂け、歯が砕かれ、肉に食い込み、神経は断裂し、小石が口腔に吸い込まれ嚥下、そして食道までも犯される。
濃いねずみ色の車道に紅が混じり、屠殺された家畜のように両手足も引き摺られるままに擦り切れる。
ズルズルに擦り剥けた皮膚が簾のように垂れ下がる。
白く真新しかったタキシードは待ち望んだ返り血ではなく、顔面から吐き出すように零れる血液で汚される。
ビクンビクンと彼女の身体が痙攣する。実験で電気を流される蛙のように筋肉だけが意味の無い動作を繰り返す。
(あ、あ、あ……)
そんな光景を、ゆたかは顔を真っ青にしながらも脳へと強制的に流し込まれた。
眼を瞑る事など考えもしなかった。いや、恐怖のあまり身体が硬直して瞳を閉じるよう思考する事さえ出来なかったのだ。
英雄王のその蛮行自体が数秒の間に行われた行為だった。
しかし、スローモーションのように全てが再生される。見たくない筈の現実まで、全てを水晶の瞳は映してしまう。
だから、ゆたかは呆然としながら見つめる事しか出来なかった。
叫び声を上げる事も、悲惨な光景に卒倒して倒れる事も出来ない。
大切な大切な先輩が血液を噴出しながら、削られ、潰され、摩り下ろされ、壊されるのを黙ってみているだけ。
かがみ≠フ頭部がどんどん減って行く。
舗装された道路といえど、鏡のように磨かれた完全な平面という訳ではないのだ。
当然、そこには微細な起伏があり突起がある。
そんな場所を人間が身体を、しかも顔から引き摺られたとしたら――?
生きて、いられる訳がない。
それが例え人形のように整った容姿の持ち主であったとしても、その美は完全に凌辱され破壊されるだろう。
残骸として残るのは、化物のような血と肉と骨が無様に飛び出した物言わぬ死体だけ。
そう――普通ならば。
「痴れ者が……その程度の力で我に適うと思ったのか?」
かがみ≠フ顔を紅葉卸にする事に飽きたのか、ギルガメッシュが彼女の身体を勢いよく空高く放り投げた。
五、六メートルほど、天高く打ち上げられたかがみ≠ヘ辺りに黒く濁った血液を撒き散らしながら落下。
重力に抗う翼を持たぬ者の宿命に逆らう事は出来ず、出来の悪い球体間接人形――ジャンク――のように両脚膝脹脛をへし折りながら大地へ叩き付けられた。
(かがみ……センパイ……。私が……何も出来ないから、こんな事に……?)
▽
《ねぇ、ひとつ質問なんだけど…………どうして今すぐにでも死なないの?――結城奈緒》
「しかし、妙だな。あの低俗で熱苦しい喋り方は例の狂犬であろう。だが奴は死んだはずだ。
加えて身体は衝撃≠ニ一緒にいた小娘か? こちらはまだ放送で名前を呼ばれていないな。
が、この右手に残る妙な感触は何だ……? 押し殺した細胞がすぐさま産声をあげているようだ。
殺しても殺しても再生する、という事か。ふむ、なるほど。つまりは小娘、貴様――」
金色の手甲に付着した血液を払いながら、ギルガメシュが口元を歪める。
「――不死者、という生の地獄に縛られた畜生か?」
英雄王が確信に到った瞬間、倒れ伏していたかがみ≠ェ突然、頭を上げた。
そして蒼の瞳だけを爬虫類のようにギョロつかせながら、
「……アハ、ハハハハハハッ!! き、効いたわよ……今のは……!! 本当に……本当に! 死ぬかと……思ったわ」
「ふん、どうも削り足りなかったようだな。イマイチ加減が分からんな。我には不向きの無粋な戯れだったようだ」
冷徹な瞳でギルガメッシュは全身の骨を軋ませながら起き上がろうとするかがみ≠見下ろす。
彼女の修復速度は異常だった。特に斬撃系統のダメージを多く受けていたため、顔面の傷はみるみる内に治っていく。
とはいえ、額から顎までほぼ全ての皮膚をこそぎ落されていたに近い状態だ。
特に完璧なまでに破壊された口周りなどは未だ赤い肉が腐り堕ちた果実のように充血し、屍人のような様相を見せていた。
「……いやいや、まさか君が来てくれるなんてね」
「王ドロボウ≠諱Bこれは、失態だな。あのような屍人一匹すら撃滅出来んとは」
「君が怒るのも分かるんだけどね……ま、こっちにも色々事情があって」
問い詰めるような視線に射抜かれたジンだが、ギルガメッシュに威圧される気配は微塵もない。
肩を竦め、飄々と応じるその様は同じ『王』の呼び名を持つ者として、英雄王に決して見劣りはしない。
親しげな雰囲気を保ちつつ破顔一笑。とはいえ、柊かがみの動きへの警戒は解かない。
「……ギルガメッシュ」
ギルガメッシュの名を親しげに呼ぶ少女の声――結城奈緒だ。
最後に出会った時に比べ、彼女の身体がズタボロになっている事を見咎めギルガメッシュは僅かに眉を顰めた。
だが、すぐに表情を戻すと奈緒を一瞥しながら、
「ナオよ、一つ聞いておこう。あの狗はどうした?」
「狗……ああ、ドモンの事? あいつなら一度会って、それからすぐに別れちゃったけど」
「……伝令もまともにこなせんとは。やはり、奴に王を名乗る資格はないな」
頭を押さえ、ギルガメッシュは落胆の声を漏らした。
元々低かった期待値が更に下がった格好になる。このままでは最安値も間近だ。
奈緒はそんな彼を見て小さく笑った。
そう、こういう傲岸不遜で自己中心的で他人を虫けら程度にしか思ってないのがギルガメッシュなのだ。
久しぶりに出会えた安堵か――いやいやいや、何だソレは。
何故あたしがそんなモノを金ぴかに感じなければならないのだ。
まぁ確かに、かなり頼りになる事だけは事実だけど(というか、そこを除いたら何も残らない)
しかし、金ぴかの登場はあたし達にとってかなりの好機と言えるだろう。これなら……
「とにかく! そんな事はどうでもいいからさ、手を貸してよ金ぴか。
いい? 不死の酒ってのを飲んだ柊かがみがラッドをね……なんか食べ……いや、違うな。
何ていうか、あまりにファンタジー過ぎて説明しにくいんだけど吸収しちゃったみたいなの。それで――」
「我と出会えた感動のあまり口数が増えるのは分かるが、そこまででよい。事情は察しているつもりだ」
。
うんうん、と頷きながらギルガメッシュが言った。が、言われた方は納得しかねる。
会っただけで感動なんてする訳がない。
それこそ動物園にパンダでも見に行った方がよっぽど胸が躍るだろう。
「いや、全然ないからソレ。まぁでも……分かってるなら話は早い、かな」
「照れずともよい。何、久しぶりに会った臣下の頼みだ。加えて我はそこそこ機嫌が良いのだ。
容易い事よ――――柊かがみを我に殺せ、と言いたいのであろう?」
自身に満ちた表情で、ギルガメッシュは奈緒に堂々と宣言した。
――うん、訂正しよう。やっぱりこいつは全然分かっていなかった。
いや、一瞬でも「さすが金ぴか、無駄に頭の回転が速い」とか思ってしまったあたしが悪いのだ。
そもそもよくよく考えてみれば、あたし達が柊かがみを助けたいと願っている事をこのゴールデンバカが知り得る訳がない。
コイツにそういう、人間らしい慈愛の心とか他人を救いたいと思う心が存在する訳がないのは重々承知していた筈なのに。
ゆたかの大切な人を守りたい、暗黒の世界から救い出したい!なんて純粋な気持ちを理解出来るよう、頭が出来ていないのだろう。
「…………違うって。アイツの身体からラッド・ルッソを追い出して、本物の柊かがみを取り戻したいの。
小憎たらしい相手だけど、ゆたかの……大事な先輩だから」
ちょっと投げやりな感じで奈緒は自分達の目的をギルガメッシュに告げた。しかし、
「意味が分からんな。何故、そんな回りくどい道を歩まねばならんのだ?
我が進む道は全てが王道。至高へと到る覇道よ。あのような小汚い畜生は今すぐにでも塵に還した方がよいとは思わんか?」
帰ってきた解答はあまりにもギルガメッシュらしいの一言に尽きた。
奈緒は気が気でなかった。何しろ、この会話を奈緒達にかがみを救って欲しいと頼んだゆたかも聞いているのだ。
妙な方向に話が進んだら、ギルガメッシュがゆたかを恫喝し始める可能性だって捨て切れない。
「おい奈緒、ジン」
その時、傍らのスパイクが咎めるような口調で二人の名前を呼んだ。
「……何」
「あまり……聞きたくない話題かもね」
「コレ≠ェお前らの言っていた偉そうで傲慢だけどその代わり何だって出来る英雄王サマか?」
「……残念ながら、そう」
「まぁ、一応……そうだね」
「ったく、マジかよ……」
ちょっとシュンとしながら、奈緒とジンがスパイクの問い掛けにしぶしぶと答えた。
二人とも、まさかギルガメッシュが出会って早々こんな大ボケをかましてくれるとは夢にも思っていなかったのだ。
仲間達に彼の事を美化して伝え過ぎた事を微妙に悔いる。
「待て、聞き捨てならんな。そこの雑種よ――我を愚弄する気か? 余程命が惜しくないと見える」
「いや、今の戦闘見ただけでもあんたの実力はそれなりに理解したよ。
とはいえ人間誰にでも欠点はある。俺はそういうのは大して気にしない性質でね。安心してくれ」
「――欠点、だと?」
「……っと、失言だったか」
スパイクの言葉にギルガメッシュが更に苛立ちを募らせる。
欠点、などという単語は天上天下唯我独尊完全無欠を自負する彼にとっては存在する筈のない言葉だ。
「おいおいおいっ! 俺の事を忘れてお喋りしてもらっちゃ困るねぇ、ギルちゃんよぉ!!
アンタは俺の最高の餌だっつーの! あん時は殺し損ねたけどよぉ、見ろよ今はまだ俺はピンピンしてるぜぇ!
俺の中からラッド・ルッソ≠セけを取り出して柊かがみを救い出す!? おぅ、やれるモンならやってみろっつー話だぜ!
絶対死なねぇと慢心しきったお前を俺はぶち殺す!!」
立ち上がったかがみ≠フ視線は真っ直ぐギルガメッシュへと注がれる。
既に全身の再生は終了。
砕けた両足の骨も、引き摺られ擦り切れた皮膚も身体ベースである柊かがみの健康状態へと至った。
顔面の傷口もほぼ完治に近い状態と言えるだろう。
唯一、飛び散った血液が真白なタキシードを紅に染め上げている以外は、殺し合いの爪痕は一切残っていない。
……なるほど。
実際、金ぴかが現れた以上かがみ≠フ関心がアイツに向けられるのは分かる気がする。
映画館での無茶苦茶なバトルの際、ラッド・ルッソはギルガメッシュを第一のターゲットに定めていた。
柊かがみの意志が沈み、ラッドっぽい人格がメインとなっている今かがみ≠ェ金ぴかを狙うのはある意味道理に適っている。
ラッド・ルッソの殺人の定義は『絶対に自分が死なないと思っているような生温い奴を殺して殺して殺しまくる』だ。
金ぴかは見れば分かるが、自分が死ぬとか負けるとかやられるとか微塵も思っていない。
まさに絶好の獲物という奴だろう。かがみ≠フ中のラッドっぽい部分がそう考えるのも不思議では……。
――ん?
その時、奈緒の頭の中にとある不思議な疑問が浮かび上がった。
そうだ。当たり前に考えていけば、これはどう考えても変だ。
あれ……何だ、コレ。どうなってんの……?
「貴様、何か勘違いをしているようだな」
「はぁ? まさかこの期に及んで、まだ私とは戦う気になれないとでも言うつもり?」
「だから貴様は愚図だというのだ……。そろそろ、その悪趣味なごっこ遊びは止めにしたらどうだ」
尊大に、ギルガメッシュが言い放った。
「ごっこ……遊び、だと?」
「そうだ――ナオ、お前も核心に至っているはずだ。
いや、我を除けばこの場にいる人間で、その真理にたどり着ける人間は貴様しかおるまい」
ギルガメッシュが突然、奈緒に話を振った。
スパイクやゆたかなどはギルガメッシュの言葉の意図を掴めず首を傾げている。
やっぱり、金ぴかは全てを見抜いていたようだった。
理知的な推理力や理詰めの論理構成。そういう分野はギルガメッシュの専門外かもしれない。
だけど、彼の最大の武器はその『化け物じみた全てを見抜く超眼力』だ。
過程を全てすっ飛ばして結論へと至る魔法のような能力。だから、分かっている筈なのだ。
「アンタさ、誰?」
――何が正しくて、何が歪なのかも全て。
「……つれないわね。結城奈緒ちゃん? 私とあなたが何回戦ったと思ってるのよ。
それにラッドとだってあなた、会ってるじゃない。かがみがラッドを喰う瞬間にも立ち会っていたし……」
一瞬、面食らった表情を浮かべたかがみ≠ェ笑いながら応える。
確かにあたしはかがみとラッドには会った事がある。
ぶっちゃけ、不死身の柊かがみに関して言うなら誰よりも険悪でムカつく因縁がある自負もある。
ラッドだってあの馬鹿騒ぎを何とか生き延びて再会した時は、それなりに話もした。
だけど、
「違うよ。だって――アンタはラッドでもかがみでも無いでしょ?」
かがみ≠ヘそのどちらとも違う。まったく、別の……存在だ。
「……ああ、そういう事か! 確かに、混ざっちまったからなぁ!
いくらメインは俺だとしても、かがみからの影響も少なからずあるのは当然――」
「だから、違うって」
かがみ≠見ていると一つだけ、気になる事がある。
それは、コイツが自分自身をどういう感じで認識しているのか、って事。
かがみ≠ヘ気付かない、いや、気付けないのかもしれない。
でも、コイツがラッドでもかがみでもないと、あたしは胸を張って断言出来る。
ところが、このかがみ≠ヘ自身を『ラッド・ルッソ』と呼んだ。
つまり、意識していないのだろう。
忘れてしまったのだろう。ラッドにとって、一番大切だったモノを。
きっと、自分が――ラッドのおっさんであるのだと思い込もうとしているのだ。
自分が自分でなくなる感覚なんて、あたしは一度も味わった事はない。
催眠術も変な洗脳もトンと縁がないのだ。
ずっとあたしはあたし、結城奈緒として今まで生きて来た。
そりゃあ周りの人間が誰一人として信じられない時期もあった。
というか、つい最近までずっとそうだったんだけど。
だけど、もし――その自分を失ってしまったとしたら?
それは人なのだろうか。不死者という死なない化物になったとしても、心は裸の人間のままだ。
少なくとも、あたしが出会った不死身の柊かがみ≠ヘそうだった。
人だからこそ夢を持つ。人だからこそ過去を捨て切れない。人だからこそ――神を目指した。
「本当に、気付いてないの?」
「だから……何をよ。私はラッドだって言ってるでしょ? あ、もしかして柊かがみの口調を使うのが可笑しいって事?」
「違う。ここまで言って分からないなら……アンタは、すごく可哀想な人だよ」
「可哀想? おいおい同情してくれんのかぁ? まったく奈緒ちゃんは優しいねぇ、ヒャハハハハハハハハッ!!
ついでにその辺で顔ボコボコにしてくたばってるタカヤ君に十字でも切りに行くかぁ!?」
笑い声は空虚。荒れ果てた廃墟に木霊する夕焼けのノイズみたいだ。
全然不愉快じゃない。ただただ、哀れに思うだけ。
アイツが意図してるのとはまるで違う意味で胸の奥が痛くなるだけ。
でも、本物の【ラッド・ルッソ】と【柊かがみ】を知らない人間にとって……これはきっと全く違う光景に見えている筈だ。
「ラッドッ!!」
「とと、馬鹿ジッとしてろ! お前の気持ちも分からなくはねぇがよ……」
「だったら放してよ! あいつは、あいつのせいでっ……!」
Dボゥイという名が出ただけで突如、舞衣が大声で喚き始めた。
スパイクが必死に止めるが、彼もかがみ≠ノ対して、大分業を煮やしているように奈緒には感じられた。
……確か尾久崎晶が敗退して、アイツの弟君が死んだ時もあれくらい取り乱してたって聞いたっけ。
元々、ヒステリーっぽい気質なのだろうか。それにしても、あの錯乱っぷりは相当なモノだと思うが。
そもそも、鴇羽って楯祐一と付き合ってるんじゃなかったのか。
いつのまにか別れていた? まぁ、あの男なら分からない話でもない。
ただ……それ以外にも、幾つか気になる事はあるのだ。
アイツの態度はまるで、『まだ蝕の祭が終わっていない』ような具合なのである。
そして、それ以上に不思議なのは――アイツ、いつまでチャイルドやエレメントが出せないんだろうか、という事。
「ま、舞衣さん……」
「ゆたか……? ごめん、ごめんね……! でも、あたし……」
柊かがみの中に入ったかがみ≠フ意志は、辺りに不興と厄災を撒き散らす。
個人の認識と主観の食い違い、掛け違えた歯車がぎこちない音を立てて油の切れたロボットのように躍る。
ラッドを知らない者は、かがみ≠見て彼という人間をただの気違いの殺人狂だと判断するだろう。
かがみを知らない者は、かがみ≠見てもイマイチこの現状に実感が持てない筈だ。
目の前のよく喋る殺人鬼のイメージが大き過ぎて、かがみは消えてしまったのではないかと疑い出す。
そしてラッドのイメージも変わっていく。
彼が何のポリシーも流儀も哲学も持たない低俗な快楽主義者に思えてくる――リライトされる。
奈緒は思う。あたし達は人間だ。神様なんかじゃない、と。
だから、そんな全てを見通すような視点で物事を考えている訳がない。
閉じられた小さな世界の中で必死にもがいている。きっと……どんな人間だってそうだ。
あたし以外の奴にはきっとこのかがみ≠ヘ本当に異様な存在に見えている筈なのだ。
だけど、
「メインだとか、サブだとか、そういう問題じゃなくてさ。
アンタはそのどっちとも違うって言うか。身体は確かに柊かがみだけど、本当にそれだけ。
頭の中は所詮、劣悪なコピーよ。かがみでもない。ラッドにもなれない。ぶっちゃけ、贋作以下ね」
あたしだけは【柊かがみ】も【ラッド・ルッソ】も知っている。
だからあたしは、二人を……かがみだけではなく、ついでにラッドも救うために頑張らないといけない。
別にあのおっさんを助けたいと心から願っている訳ではない。
というか、これこそ自分の大嫌いな偽善者的行為そのものだとも思う。
だけど――あたしはアイツに借りを返さないといけないのだ。
ラッドは初めて出会った時、あたしを殺さずに見逃した。
気が変わったとか、元々気まぐれな性格だった、とか。
そういう言い訳は山のように思いつくけど、いまいち釈然としない。
あの時のあたしは完全にビビッてた。
背中を向ける事だけはしなかったけど、戦ったら確実に殺されていただろう。
――もしかして、情けを掛けられたのかもしれない。
だから、この場で逆にあたしがラッドに同情し返してやるのだ。
柊かがみに喰われてしまったラッドを……死人のような眼をして……絶望に顔を染め上げて死んでいった彼へのせめてもの手向けとして。
「な、何ですって……!? コピー? 贋作? 笑わせてくれるわね。私は、私はラッドよ!」
「ハッ――あんたはラッドとかがみの名前に泥を塗る存在でしかないわ。
それだけじゃないわ。あたしは……倒れてて詳しい場面は見てないけど、アルベルトの眼帯、アンタしてたじゃない。
それってつまり、あのおっさんの意志を継いだって事じゃないの。
BF団とか神になるとか……その辺、全部忘れちゃったみたいだけどさ。ねぇ――――違う?」
かがみ≠ェここに来て初めて、狼狽の色を覗かせた。
奈緒はあの時、彼女が柊かがみからかがみ≠ヨと変化した時の光景を脳裏に浮かべる。
戦いに敗北した奈緒は暴走し始めた時には気を失っていたが、事の顛末はゆたかやスパイクから聞いていた。
――柊かがみは眼帯が取れた瞬間、切り替わるように凶暴な人格を露にした。
おそらく、彼女の中には二つのキャラクターが存在するのだろう。
本物のラッド・ルッソがそっくりそのまま、残っている可能性もあるが、ここは考えないでおく。
そしてアレは少なくとも、ラッドではない。
奈緒もそこまでラッド・ルッソと深い交流があった訳ではないが、それでも分かるのだ。
彼は快楽に溺れたシリアルキラーなどではなかったし、己の定義に該当する相手だけを殺す――そういう人間だった。
だが、そもそも今のかがみ≠ヘ非常に矛盾に満ちた存在だ。だって……、
「そう、ラッドのおっさんのポリシー……『自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる』だっけ?」
「ああ、そうだっ! 俺はそういう腑抜けた人間を見てると無性に殺したく――」
「アンタ馬鹿? だって、今のアンタって『不死者』じゃん。誰よりも自分が一番死に遠い人間だよ?」
ピシリと割れる。世界が、ぐにゃりと歪む。
.
「あ――ははっ! そ、それが違うのよ奈緒ちゃん。確かに私は不死の酒を飲んだけど、ちゃんと死ぬの!
この空間には制限ってものがあってね。ほら見て! この首輪が私に制限を……! だから今の私は、私は……不死なんかじゃ……!」
「あのさぁ、制限って――首輪の力じゃないんだけど」
「…………え?」
信じていた全てのものがガラガラと音を立てて壊れていくような。
「でしょ、ジン」
「……まぁ正確にはギルガメッシュの考察なんだけどね。俺達にけったいな枷を嵌めてるのは――天だよ。
遥か大空を覆うドーム状の防護結界……これが能力制限の正体だね。首輪にはね……そんな力はないんだ。
現に舞衣は首輪が取れてるれど、今でも若干身体能力が抑えられているそうだ」
「う、そ…………だろ?」
殺さなければラッドではない。
だが、自分が安全で死なない不死者になった時点でラッドはその存在理由を失う。
殺しを正当化するための方便は消えかがみ≠ノは『少しだけ死に難い身体』だけが残った。
「殺して人が少なくなればなるほど、アンタは不死者に近づいて行く。じゃあ人を殺せる訳がないよね。
あたしはね、絶対に絶対に絶対に……死なないよ。ほら、殺したくなって来ない?
アンタの大好きな自分が死ぬなんて夢にも思ってない人間だもの! でもね、アンタはあたしを殺せない。
優勝する……なんてのも無駄っぽいよ。
あの髭面のおっさんが約束を守ってくれるって考えられるめでたい頭してんのなら止めないけど。
で、アンタが攻撃して来たら、あたしはこう判断するもの――アンタは結界を破って不死になりたいからあたしを殺そうとしてる、って」
「殺せば殺すほど……私は……死ななくなる? でも、私は……あれ? 殺さないとラッドじゃ……」
「っていうかさ――」
それは終わりのない禅問答。千日手。スリーフォールド・レピティション。
ラッド・ルッソとは己の定めたルールに乗っ取り、欲望のまま殺人を犯す存在だ。
彼ほど死に対して真摯に向かい合った人間はおらず、彼ほど死に対して敬意を払った者も早々いない。
敬虔なる教徒ですらない彼にとって、死とは何よりも身近なモノだった。
常に死と隣り合わせで生きるため、そのためだけにラッドはひたすら殺人を犯していたのだ。
だから、殺せば殺すほど自身が死から遠ざかっていく――そう認識してしまった瞬間に何もかもが破綻を来たす。
かがみ≠フ中のラッドを模倣していた全てが終幕を迎える。
コンピュータシステムに進入したクラッキングプログラムがネットワークに多大な損傷を与えるように。
軋み歪み、彼女の中に決定的な矛盾を発生させる。
その揺らぎこそがかがみ≠ェ作り出していた偽りの人格に終焉をもたらすのだ。
そして――
「ねぇ、ひとつ質問なんだけど…………どうして今すぐにでも死なないの?」
奈緒のこの言葉こそが、全てを崩壊へと誘う最後のトリガー。
何かが壊れたような、そんな静寂が辺りを包み込んだ。
音抜きされた空気はまるで世界の終わりを想起させる。焼き尽くすような光が大地に降り注ぐ。
全ての人間が息を呑んで、事の成り行きを見守っていた。
ギルガメッシュもスパイクも舞衣もゆたかもジンも、まるで一切の言葉を発しようとしない。
奈緒が踏み込んだのは禁じられた領域だ。
そう、それはきっとかがみ≠ェ忘れたくて忘れたくて堪らなかった事実。
「わた、私っは……俺? お、俺が、私……? お、俺は……どうなったんだ?
ラッドは……ラッド・ルッソは……? かがみ……俺が……不死者?」
それが終わりの始まりだ。
かがみ≠ヘ再生した――不死者である――自身の掌を絶望に染まった眼で見つめる。
ガクガクと彼女の両膝が砕けたように震え始める。
額や首筋には大粒の汗を浮かべ、かがみとラッドの言葉がついに混ざり始める。
幾つもの精神が融合した彼女の身体は非常に不安定だ。
確かに、柊かがみの心は儚く脆弱な年頃の少女のソレだった。
だが、彼女が喰った男の精神はどうだったと言うのだろう。
彼は強いのか。どのような状況にあっても自分自身の流儀を貫き通せる人間なのか。
そしてもしも彼が、その『流儀』を手放したとしたら、それは彼であると言えるのだろうか――?
▽
《俺には俺を殺す資格が……ねぇ――ラッド・ルッソ》
――ノイズが走る。それは再生と不死を巡る一つの挿話。
『ありえねぇ……、ありえねぇよ……。おいおい、どーすんだよ、コレは。
俺が死なない人間になってどうするんだよ。
これから俺は死ぬことができる人間に対しどう振舞えばいんだよ。
死なないっつー、人間でもない俺が、死ぬことなんて考えてないユルい人間にどう接すればいいんだよ?』
ラッドの瞳から緑色の螺旋が消えて行く。
まるで眠るように、朽ちゆく花のように、沈んでいく月のように。
全ては冥府の世界へと吸い込まれて行く。
『てめーが死なないのに、お前は死ぬことを考えてないって怒るのは筋違いじゃねぇのか?
つか、俺が最も嫌悪すべき死ぬことなんか考えてないヤツになっちまったんなら、
まず俺は俺を殺さなきゃならねーんじゃないのか?
でもでも、俺死なねーじゃん。自分で自分を殺せねーじゃんかよ。
どこまで、どこまで、どこまで、どこまでいっても自分を殺し続けるのか?
いや、これもねーよ。俺には俺を殺す資格が……ねぇ』
己が己である意味を失った男はこの瞬間――
『……だったらよ。割り切って死神でもなってみるか?
自分は絶対死なねーんだけど、人間に死を齎す神様によ――って、冗談じゃねぇ!
俺は……、俺は……、俺は……、俺は――……』
心を、失った。
▽
《だから、聞いてんじゃん。鴇羽、あんたは誰のために戦って、誰を守りたいの? 誰が……大切なの?――結城奈緒》
「ガ、ガァァァァアアアアアアアアア!!! 私は、私は……!」
「ッ――!? な……!」
かがみ≠ェまるで獣のような咆哮と共に身体を大きく捩った。
誰もが身構えるが、そのまま攻撃へと移る者はいない。
かがみ≠ニ他の人間の距離は数メートル。
唯一奈緒だけが突出した形になっているが、それでも近接攻撃が届く間合いではない。
(な……ど、どういう事……!?)
舞衣はその事態の急変にまるで付いていけなくなっていた。
何となく、ではあるが舞衣には奈緒の説得が切っ掛けで柊かがみが帰って来るのではないか、という淡い期待があった。
今すぐにでも歪んで表現されたラッド・ルッソの幻影を振り切って、かがみが顔を出すのではないかと思っていたのだ。
それはかがみ≠フ中のラッドを強く憎む、舞衣であっても同じ事だ。
(暴走……ラッドが……いや、奈緒ちゃんの言葉通りだとしたら、ラッドの偽者……!?)
舞衣は身動ぎ一つ出来ずに思わず後ずさった。
不死者の再生力と覚醒した螺旋力、そして圧倒的な物量に支えられた王の財宝による攻撃。
エレメントもチャイルドも出せず、バリアジャケットの飛行能力さえ引き出せない彼女は非常に弱気になっていた。
自分も戦って他の人を守りたい。守れるだけの力を手に入れた筈なのに……!
「いやぁあああああああああああああああああっ!!」
雄たけびを上げながらかがみ≠ェ懐から黄金の都へと至る鍵剣を取り出し大きく息を吸い込んだ。
それは力の氾濫。心が処理できる限界を迎えたゆえの暴走行為。
溢れ出した殺意は【柊かがみ】という器に収めておくには無理がある。
もはやかがみ≠ニいう第三人格ですらない。今、柊かがみの肉体を動かしているモノは――
「殺す……殺す……殺す……殺す……殺す……」
純粋な――殺意の塊だけ。
かがみ≠ヘ眼を血走らせながら肩で息をする。
呼吸は荒く、まるで餌を抜かれた野獣のようだった。漂う血液の匂いが彼女の狂気を際立たせる。
もはや、ラッドやかがみの意志と言った領域を完全に越えてしまっている。
虚ろな殺人人形が一体、抗えない殺人衝動に身を焦がすだけ。
「……はぁっ! はぁっ……!」
「愚図めが――仮初の精神が耐え切れずに破綻を来たしたか」
「……ギルガメッシュ、お前は初めから見抜いていたのか」
眉を顰めながらスパイクがギルガメッシュに訊いた。
涎を垂らし、服の上から苦しげに心臓を抑えるかがみ≠冷たい視線で見下ろしながらギルガメッシュが応える。
。
「当たり前だ。一つの身体に複数の心? 馬鹿な、あの酒にそんな力は存在せんのだよ。
アレの効果は一片の容赦もない完全な咀嚼、噛み砕き相手の全てを喰い尽くす餓鬼の如き衝動だ。
確かに知識や記憶と一緒に、人格も主人格に引き摺られては行くかもしれん。
だが、せいぜい影響を及ぼす程度よ。喰われた不死者が喰った不死者に成り代わるなど有り得る訳がない。
が――なんの因果だろうな。結果として生まれしまったたのが、あの畜生だ。
『喰われたラッド・ルッソを騙る』人格とでも言うべきか。
そしてこれは、表層的な部分でしか模倣出来ていなかった故の崩壊だ。故に、この結末は道理であろうな」
自身の持つ超眼力によってギルガメッシュは既にかがみ≠フ中の歪な構造を看破していた。
加えて彼は出来損ないではあるが、不死の酒の実物を一度じっくりと鑑定している。
この経験によって今回の考察は更に強固なモノとして実証性を保持しているのだ。
「殺す……ひら、け――――王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」
少女の背後で何か扉≠フようなものが開いた。
空間と空間が、四次元と三次元――異なる境界を有する次元が連結する。
――王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の発動。
よって、周囲に一斉に彼女が所持する蔵に貯蔵された武器が展開。
今回は先程の第一射のように瓦礫や鉄塊といったガラクタだけではない。
かがみ≠フ頭上、そこに燦然と煌く一振りの剣――円卓の騎士を統べる騎士王の愛剣・エクスカリバー。
「かがみ先輩ッ! 頑張ってください! 悪い心なんかに負けちゃダメです!」
ゆたかがかがみ≠ノ向けて言葉を投げ掛ける。
既にかがみ≠ヘデイパックの中身を射出する準備を整えている。
これはとても勇気のいる行為だ、舞衣は心の中で思う。
今にも折れてしまいそうな心の闇を必死で振り払って、こうしてゆたかは言葉を紡いでいるのだ。
生き残った唯一の先輩であるかがみを救いたいという純粋な心。
両目に涙を溜めたゆたかは腹の底から、大好きな先輩の名前を叫んだ。
「うるさい……だ、黙れぇええっ!」
「きゃっ――」
だが――その思いは儚くも踏みにじられる。
かがみ≠フ背後の空間に発動したゲート・オブ・バビロンから、拳大のコンクリート片がゆたかに向けて射出されたのだ。
風を切り、直進したその塊は見事なまでにゆたかへと直撃する。
「あ…………っ!」
「ゆたかっ!」
ゴッ、という鈍い音が昼時の市街地に響いた。
瞬時にゆたかは腕を顔の前で重ね合わせ、直撃だけは避けた。
とはいえ、ほぼ顔面を目掛けて飛んで来たコンクリート片の破壊力は強大だ。
重さ数キロは有りそうな硬材と宝具による爆発的な加速。
それはちっぽけな少女を吹き飛ばすには十分過ぎるものだった。
「死ねっ、死ね死ねっ――!」
そして更なる追い討ち――エクスカリバーの直接射出がゆたかを襲う。
一直線、地面に倒れたゆたかに向けて容赦のない一撃が彼女の命の灯を奪わんと打ち出される。
「おいで、ジュリアッ!!」
「く――!」
が、ここで奈緒がエクスカリバーの突撃を遮るようにゆたかの前面に女郎蜘蛛のチャイルド・ジュリアを呼び出す。
そう、ゆたかを庇うための盾、としてだ。
ジュリアの本体――蜘蛛の身体の部分をエクスカリバーが貫通。
深々とジュリアのエメラルドグリーンの皮膚を突き破り、紫色の体液が零れ落ちる。
若干照準がずれたためか、エクスカリバーの一撃はゆたかへとは至らない。
ソレは再度かがみ≠フ蔵の中へと回収される。
そして――
「くっ――が…………ッ!」
再度、発射されたエクスカリバーが奈緒のわき腹を貫いた。
奈緒の口から紅色の液体が洪水のように溢れる。
内臓が貫通されたのだ。口からの出血は勿論、激しい。
心臓や頭部など、明らかな急所を避けたのは僥倖と言えるだろうか。
だがポッカリとまるで風穴のように数センチ大の『空白』が彼女の身体に穿たれる。
ポタポタと零れる血液は、白と灰色の世界に新たな彩を加える。
音はかがみ≠ェうわ言のように繰り返す「殺す」という言葉だけ。
「っ…………やば」
ぐらり、と傾き地面へと倒れ掛けた所を奈緒はギリギリで立て直す。
両の脚でアスファルトの大地を強く踏みしめるも出血はやまない。
腹に空いた大穴はまるで大蛇に食い千切られたように欠損してしまった。
「ああああああああああああああっ!」
「……無限の武器庫が相手か。残弾のねぇこっちにとっちゃあ……これ以上の敵はねぇな」
「あの弾幕を潜って彼女を仕留めるのは骨が折れるね。接近戦には持ち込めない」
咆哮と共に、黄金の都へと至る全砲門をフルバレル。ガトリングガンのような礫弾の嵐が打ち出される。
苦し紛れにスパイクがジェリコ941による威嚇射撃を試みるも不発。
外部からのヘッドショットを防ぐためにかがみ≠ヘ王の財宝を彼女の前面にも展開し、攻撃を防ぐ盾として利用しているのだ。
加えてスパイクの銃にほとんど弾が残っていない事も問題だ。
彼の手に残っているのは接近しなければ殆ど効果の無いデリンジャーと虎の子のナイブスの銃のみ。
ジンも手にした夜刀神でかがみ≠フ礫弾を防ぐが、攻撃へと移る事は出来ないでいた。
「殺す……殺す……!」
「チッ――ちょこまかと……ッ!! ――ッ、ナオ!」
唯一、この礫の嵐に影響を受けずに攻撃出来るギルガメッシュも効果的な攻めへと転じる事が出来ずにいた。
なぜなら――今回、彼の周囲には人間が多過ぎるのである。
かがみ≠ヘギルガメッシュが最も危険な戦力である事を悟っているのか、見事に移動を繰り返し一箇所に留まらないよう心掛けている。
彼が持つ絶対無比の宝具である乖離剣エアの最大の弱点は、その化け物じみた攻撃範囲にある。
対城宝具の域を超え、対界宝具として位置づけられるエアを対人戦に、しかも集団戦闘で用いるのは非常に制約が多い。
殲滅戦ではないこの一対他という特徴的な構図が彼を縛り付けていたのだ。
ギルガメッシュにとってはかがみの安否や目の前の小娘程度巻き込んでも問題はないとはいえ、近くに奈緒とジンがいる以上、思うように動く事が出来ない。
「ゆたかっ、大丈夫!?」
「ま、舞衣さん……わ、私は……大丈夫です。そ、それよりかがみ先輩を……」
「何言ってんのよ、酷い怪我……」
「鴇羽! あんたはゆたか見ててっ!」
「でも、奈緒ちゃんの怪我の方が……! 血だってこんな……!」
「うっさいっつーの! ゆたかは頭打ってんだから動かせないでしょうが。少しは考えろ、ボケ!」
奈緒がエレメントの鋼線を張り巡らせながら、ゆたか達の前に陣取る。
倒れそうな身体を鉄の意志で叱責しながら、真っ赤な血液を垂れ流しながら。
倒れたゆたかに思わず駆け寄った舞衣だが、彼女の怪我が思った以上に軽微でホッと胸を撫で下ろす。
舞衣は不安そうな瞳で、地面に倒れたゆたかを見た。一番重症なのが左腕。下手をしたら骨が折れているかもしれない。
それに軽い鼻血と地面に倒れた際の若干の脳震盪。……大丈夫、致命傷ではない。
だが、それ以上に問題なのは奈緒の傷だ。
(緑色の光……これは……チャイルドが……!)
舞衣は思わず息を呑んだ。キラキラとした粒のような緑黄の光子がジュリアの体躯から立ち昇る。
それは、チャイルドが消え去る時の輝きだ。
放たれた二撃のエクスカリバーはジュリアと奈緒、二人に誤魔化しようのない傷を負わせていた。
(奈緒ちゃんの大切な人が……消えてしまう?)
雨……そして、涙。
思い出す――自分の大切な人が消えていったあの光景を。
慟哭。憤怒。絶望。
どんな言葉でも言い表す事の出来ない悲しみの螺旋が舞衣の胸で顔を覗かせる。
(じゃあ――私の大切な人は誰?)
また、そんなどうでもいい事を考えてしまう。
舞衣のチャイルドは、カグツチは藤乃静留の清姫とほぼ相打ちに近い形で最期を遂げた。
(……Dボゥイ)
空っぽのまま、この場所へと放り込まれた舞衣は最初HiMEとしての力を使う事が出来なかった。
だから、半ば意識がない状態でも――自分がカグツチを呼び出せた事はとても嬉しい事だった。
自分にも大切な人が、人間らしい心があるのだと実感出来た。だけど、今は――
「鴇羽ぁっ!!!」
「な、奈緒ちゃん……!?」
舞衣の心が沈みかけたその瞬間、奈緒が大声で彼女の名前を呼んだ。
俯きかけていた視線が目の前で荒い息を吐く奈緒へと向けられる。
「いつまでウジウジしてんのよ、アンタは! っていうか……仮にもHiMEなら、アンタも……戦えっつーの」
「で、でも……もう私にHiMEの力は……。カグツチは会長さんにやられて……」
肩で息をしながら、奈緒が思い切り舞衣を叱りつけた。
年下の子にここまで言われれば普通は反骨心や不快感などが湧き上がりそうなものだが、意気消沈した舞衣にはそんな感情は芽生えなかった。
そう、チャイルドの消滅――それはすなわちHiMEの《蝕の祭》における敗退を意味する。
「やっぱり……知らないんだ。……鴇羽、アンタはまだHiMEだよ。カグツチが出せないのはアンタのせいなんだよ」
「えっ――!?」
それは、衝撃的な一言だった。
チャイルドが消滅すれば、その本人はHiMEとしての力を失う。その事実に偽りは……、
「鴇羽……あんたの、大切な人って誰?」
「私の、大切な人?」
「玖我が死んでも、藤乃は死ななかった。これがどういう事だか分かる?」
「……なつき?」
確かに、玖我なつきと藤乃静留の死亡が知らされたタイミングにはかなりの間があった。
なつきの大切な人が静留である事を舞衣は知らなかったが、確かにソレは妙な話だ。
「大切な人とチャイルド……この二つは表と裏だよ。どっちかが欠けていたんじゃ、破綻を来たすって事。
チャイルドが消滅したからあたし達はHiMEでなくなるんじゃないの。
大切な人が消えて……その想いが『柱』として取り込まれるからあたし達はHiMEとしての資格を失うの。
あんたはまだHiMEだよ。痣がどうなっているかは分からないけど、ソレはあんたの『心』が死んでるって事」
「そ、それじゃあ――」
まだ、自分はHiMEだった?
私の胸元にHiMEの痣がまだ残っていた? ……ダメだ、覚えていない。
だけど、《蝕の祭》の範囲から外れたこの世界では様々な事に制限が掛かっている。
奈緒の言葉に間違いがあるようには思えない。
「だから、聞いてんじゃん。鴇羽、あんたは誰のために戦って、誰を守りたいの? 誰が……大切なの?」
――私は、まだ戦える?
▽
《私には、まだ守らなければならない人達がいる――鴇羽舞衣》
辛い事がたくさん、たくさんあった。
光と共に消えていった大切な弟。
この手で殺してしまった儚い命。
死んでしまった大切な友達。
心を蝕むような憎しみの連鎖。
そして――再会する事も出来ずに、この世を去った大切な人。
舞衣は自分が何をすればいいのか、ずっとずっと分からなかった。
求めた時に、力は彼女に応えてはくれなかった。
そして求めざる時に、その衝動は幾つもの殺意となって関係ない人達に災いをもたらした。
どれだけ後悔しても、どれだけ涙を流しても、失ってしまったものは戻らない。
だから舞衣は全てを背負う覚悟を固めた。
どんな辛い運命だって絶対に乗り越えて見せると胸を張って啖呵を切った。
そんな決意を揺るがしたのは一人の男の人――Dボゥイ、相羽タカヤ。
大好きな人、絶望に染まった自分を支えてくれた本当に、大切な人だ。
でも、もう彼はいない。彼は舞衣の前から姿を消してしまった。
彼の横顔も笑顔も声も、何一つだって舞衣はもう感じる事は出来ない。
これで、何もかもが終わってしまった? ……違う!
私には、まだ守らなければならない人達がいる。
私はHiMEだ。HiMEには力がある。
か弱い人達を守るための掛け替えのない力が……!
悪魔の運命を切り裂くための力が、求めて止まなかった強い力が――今の鴇羽舞衣にはあるんだ。
「お願い……ッ!! カグツチィィイイイイイイイイイ!!!」
それは天にまで届くような猛き叫び。
舞衣の身体からエメラルドの螺旋が放たれる。
血染めの赤ではなく、天壌の白。
世界を創生へと導き、終焉を打ち砕く最強のチャイルド――カグツチ。
叩け――天上の神が眠る天の岩戸を。
願え――星詠みの舞を。
謳え――水晶の祝詞を。
乗り越えよ――涙の運命を。
そして、目覚めよ――灼熱の舞姫。
舞うがいい、竜の巫女よ。
全てを包み込む劫火の翼で――神如き、炎の舞を。
▽
《私≠ヘ、だれ?――柊かがみ》
重い波の音。
荒原を渡る風の音。
朽ちた建物の崩落音。
それら生み出すイメージは寂寥だ。
雲は削った白金。
遠くに見えるのは珪素(シリコン)の都市。
夕映えは熱した鉄の色。
重たくたゆたうは水銀の海だ。
磨いた銅で出来た太陽がぴかぴか輝いていて、鈍く光る銀で出来た月と交互に水銀の海を出入りする。
重い雫に濡れたそれらは、死と再生を繰り返す。
空を埋めた時計は規則正しく、けれど寂しく、一定のリズムを刻み続ける。
時折閃く明かりは、情報の飛沫。
整然と、そして凄然と。
空虚で、しかし満ちて。
生きて、死んだ世界だ。
その世界に自分以外の誰かがいる。そう彼は――
「よぅ、まだ意識はあるかよ」
声を掛けられてようやく意識が覚醒した。
空は赤く、砂浜でまどろむ私は歯車の空を一瞥する。
そして話しかけて来た男に視線を向ける。しかし、
「愚図だねぇホント。つーか馬鹿だなマジ。あまりに愚か過ぎて笑えもしねぇ」
そこには、誰もいなかった。だけど声だけは聞こえる。声だけは私の中に伝わって来る。
『世界』が、私の中に形作られた歯車の世界が語り掛けているみたい。
「まぁいいか。おい、お前自分の名前……思い出せるか? っていうか俺が誰だか分かる?」
変な事を聞くものだと思った。私が私を忘れる訳が――――?
……出て、こない?
私は私を知っている。だけど名前が思い出せない。
私は彼を知っている。だけど名前が思い出せない。
.
支援
「おいおい重症だな、こりゃ。一応俺達はどっちも不死者だから偽名は名乗れないんだぜ?
だからよぉ、お前が俺に名乗れたらソイツがお前の本当の名前だって訳だ。分かりやすいねぇ」
不死者……?
「しかし、何だ。さてはゆたかちゃんの大好きなタカヤ君をぶっ殺しちまったせいで、更に引き篭もっちまったか?
まぁ衝撃のおっさんが死んで、おめーはずっと一人ぼっちだったからなぁ。
外じゃあ、奈緒ちゃん達が俺達のために戦ってるっつーのにホント愚図だな、テメェは」
ゆたか……?
タカヤ……?
衝撃……?
奈緒……?
何だろう、胸が……痛い。
だけど、それは大切な名前だ。
絶対に、絶対に私が忘れてはならない名前。
「ああ、忘れちゃならねぇなぁ。つっても殺した相手の名前を全部暗誦しろなんていわねぇ。
っていうか、それじゃあ名前を知らない奴が殺せねぇだろ? それじゃあ、ちっとばかし生温いってもんだ」
自分の名前も分からないのに、他の人の名前なんて……どうでもいい。
「ヒャハハハハハ、ネガってんなぁ! まあいいや。俺がここに出て来れたのだって俗に言う『奇跡』って奴でよ。
表で暴れてるおめーの身体と俺の精神の模造品――そのジャンクだな。
『世界』はソイツがどうも気に食わねーらしいんだわ」
世界……?
「おう。っつても世界は世界だ。他に言いようがねぇ。
まぁ……それでも納得出来ねぇんなら、不死者の魂とでも思ってくれや。とにかく歪な存在なんだとさ、俺達は。
因果律が乱れるとかなんとか。だから責任とって捩れを正して来いだとよ。ったく、人遣いが荒いねぇ」
。
下品な口調で勝手に喋り、勝手に大笑いする男。
彼はいったい誰なのだろう。こんな所に出て来るという事は、きっと私と深い関係があるのだろうけど。
私は彼が好きだったのか?
私は彼が嫌いだったのか?
私は彼を憎んでいたのか?
私は彼を…………………?
――いや、それ以前に今、こうしている私≠ヘ何者なのだろう。
私≠ェ分からなければそもそも他人との関わりについて考えるのなんて無理だ。
『自己』とは『他者』という存在を理解して初めて生まれる概念だ。
それはつまり、主観と客観の違い。
自分は他の人間とは違う。
別の意志を持った異なる存在であると理解する事で初めて『自意識』は誕生する。
一人の人間に対して、個々人が持っているイメージというのは意外なほどに異なっている。
もちろん、その認識はその本人ですら違っているのだから。
皆の中に私がいて、私の中にも皆がいる。
でも、それでは――『私の中の私』とはいったいどのような存在なのだろう。
――私≠ヘ、だれ?
「お、ようやく理解したみたいだねぇ。そうさ、俺はもうとっくに退場済みの亡霊な訳よ。
つーか綺麗に死んだんだから、墓場から掘り起こしてくんなっつーの。
今舞台に立ってんのはおめーなんだよ。俺はお前の代わりに『見て』やる事なんて出来ねぇ。っていうか頼まれてもやんねーよ。
誰にも頼るんじゃねぇ。お前が′ゥるんだよ。お前がその二つの眼でしっかりとなぁ!」
私が……?
自分の目で……?
支援
「――っと。そろそろ時間だな。んじゃあな、今度こそ俺は逝かせて貰うわ。
ああ、あんな流儀もへったくれもねぇ間抜けに負けんじゃねーぞ、おい!
無様な真似晒したら今度こそ俺が殺してやるよ。死にたくねぇなら必死にやるんだな!
……ん、待てよ。死にたくない……?
ああ、いけねぇなぁ! こうなっちまっても俺がおめぇを殺さなくちゃならねーじゃねぇか! ヒャハハハハハハハハハハッ!」
ねぇアンタは、誰なの?
どうして私にここまでしてくれるの?
「おいおいおい、馬鹿かテメェは! 本当に学習しねぇ奴だな。
人に名前尋ねる時にはよぉ、最低限の礼儀っつーもんがあんだろうが。
だからよぉ、まずテメェが先に名乗るのが筋ってもんだろ? お前が思い出したら、俺も教えてやっからよ」
彼の声が、消えていく。
黄昏の世界が終わっていく。
「ほれ、いい加減言ってみろや――で、お前の名前は?」
私の、名前は……。
▽
.
《一緒に……帰りましょう、かがみ先輩。そんな怖い顔、かがみ先輩には似合いません――小早川ゆたか》
「り、竜……?」
白い、炎の竜がボロボロになった市街地に降臨する。
ゆたかの口から漏れるのは感嘆の呻きだけだった。
この殺し合いに参加させられてから約一日と半分の時間が経過した。
だから、少しぐらい不思議な事に出くわしても決して驚愕する事はない……そう思っていたのだ。
(大きい……でも、綺麗……)
煙のように長い尾。灼熱の翼に頭部に刺さった巨大な剣。
鋭い爪はビルの壁さえ易々と切り裂き、全身から噴出す炎は空気さえ燃やし尽くしてしまいそうだ。
「おいおい、なんだ……こりゃあ……!」
「フリードリヒの何倍あるんだろうね。同じ白龍だけど、もう何ていうか規模が違うね」
「ほう――これはまた、愉快な魔獣だな」
「それを……さっさとやれっつーの」
各々が舞衣の背後に出現した巨大な竜――カグツチ――を見て、驚嘆する。
戦況を一変させるには十分過ぎるほどの圧倒的戦力。
呼び出した舞衣も両手脚にエレメントである天輪を展開し、ゆっくりと空へと上昇する。
「ッ――――!?」
半ば移動砲台としてゆたか達に攻撃を加えていたかがみ≠焉Aカグツチの異常なまでのスケールに圧倒され足を止める。
赤く、まるで化け物のように濁った彼女の瞳にすら焦燥が浮かぶ。
単体としての力はまさにこの会場内でも随一。
また、舞衣が持つエレメントの鉄壁の防御性能は持久戦にもってこいだ。
(だけどかがみ先輩を止めるには……!)
ゆたかは考える。
この状況であのような大竜が現れたとして――ここからが問題だ、と。
確かにこれで、かがみ≠『消滅させる』ための準備は整ったと言っていいだろう。
しかし、救うために必要なのはあのかがみ≠フ身体を偽りの支配から解き放たなければならない。
では、それはいったい――何なのだろう?
愛か、信頼か、友情か。
誰もがボロボロになりながら戦っている。
奈緒の腹部の傷はゆたかの眼から見てもかなりの重傷だ。
だけど、彼女は決して膝を折ろうとはしない。
ブツブツと文句を言っていたギルガメッシュもかがみ≠吹き飛ばしてはしまわない。
それどころか、ダメージを負って動けない奈緒とゆたかを気遣ってくれているようにさえ見える。
(じゃあ、今、私はいったい何をしているの? これじゃあ……かがみ先輩を救えないッ……!)
支援
皆に柊かがみを救って欲しい、と懇願したのは何を隠そうゆたかなのだ。
しかしゆたかは真っ先に攻撃を食らい、あっという間に足手纏いになってしまった。
戦う力がない、なんて言葉は言い訳にしかならない。
これは自分のミスなのだ。いや、戦おうとしなかった自分への罰……!
「私は……償わなくちゃならないんだ」
両脚に力を入れる。
両指、頭……全部大丈夫だ。問題なく動く。
「最期まで私を信じてくれた明智さんに……迷惑を掛けた皆さんに……!」
掌を地面に押し当て、グッと力を入れる。
さっき打ち付けた頭がグラグラと揺れて倒れてしまいそうになる。
だけど負けない。絶対に負けない。
「ゆ……たか?」
お腹の辺りを抑えて辛そうな表情をしている奈緒さんが私を心配そうな眼で見た。
平気です、心配しないでください――そう言いたかったけど、口が動かなかった。
大分無理をしているんだ。もう、余分な力は残っていない。
「かがみ先輩……聞いてください。私は、弱虫でした。
かがみ先輩を誰よりも助けたい筈なのに、なにも出来ずに……。
……逃げていた。はい、そうです。情けない自分自身から眼を逸らしてた……」
両手を視点にゆっくりと、立ち上がる。
ガクガクと膝が揺れる。世界が回っている。だけど、倒れる訳にはいかない。
もう、悲しい思いはしたくない。そして、させたくもない。
かがみ先輩を助けるんだ。絶対に絶対に絶対に――――!
「ゆ…………た、か?」
虚ろな表情を浮かべたかがみ≠ェゆっくりと、口を開いた。
『ゆたか』
小さな、本当に小さな声で少女の名前を呟いた。
「一緒に……帰りましょう、かがみ先輩。そんな怖い顔、かがみ先輩には似合いません」
ゆたかは、笑った。
千切れそうな手足に力を込め、一歩、また一歩とかがみ≠ヨと近づいて行く。
王の財宝が発動すれば、一瞬で死を迎えるであろうまさにデスウォーク。
だけど、ゆたかは決してソレを躊躇わなかった。絶望に堕ちていてたさっきまでの自分とは違う……!
「あぁああああああああああああっ!」
一際大きな叫び声。かがみ≠ェ頭を抑えながら激しく身体を震わせる。
荒れ果てた市街地を照らす太陽は変わらず。
戦いの爪痕を残した大地だけが、その輝きを跳ね返す。
「――わ、たし………………名前は……」
「頑張って! かがみ先輩ッ!!!!」
絶叫の幕が降り、偽りの人格はその輪郭を放棄する。
不死の身体となり、幾つもの厄禍を経験した少女がいた。
自分で自分を捨て、狂った人格に身体を乗っ取られた少女がいた。
「ラッド……じゃない。私は、ラッドじゃない。不死身の=c…でもない。私は……」
この瞬間――――全ての歪みは是正され、原型を取り戻す。
「私の名前は……柊かがみ。ただの、柊……かがみ」
▽
《……さようなら――柊かがみ》
私は――償わなければならない。
「かがみ……せ、先輩……」
「ん。ごめんね、ゆたかちゃん。その……色々、心配かけちゃったみたいで」
「うわぁああああああああああ!」
「あ、ちょ、ちょっと! 抱きついちゃダメだって。ほら、私の服血だらけだし……。
それに、また演技してるかもしれないでしょ?」
「や、やめません! それに、かがみ先輩はかがみ先輩です……私には分かります!」
顔を涙で濡らしたゆたかちゃんが私に抱き付いてくる。
相当な傷を負っている筈なのに、小さな身体のどこにこんな力が隠れていたのだろう。
私は小さなゆたかちゃんの頭を撫でながら苦笑するしかなかった。
色々な事があった。辛い事、悲しい事……たくさん、たくさんだ。
「ゆたかちゃん、ちょっといい?」
「す、すみません。私少し取り乱しちゃって……」
ゆたかちゃんが頬を少しだけピンク色に染めながら、私の身体から離れる。
でもその顔はさっきまでの辛そうな顔じゃない。
太陽のように輝いた心の底から楽しくなるような笑みに満ちている。
「……奈緒ちゃん、ごめんね」
「今更……謝って遅いっつーの……。ま、良かった……んじゃない」
膝を付き、肩で息をしていた結城奈緒がそれでも憎まれ口を叩く。
眉間に寄った皺、辛そうにつり上がった眉。それでも、口元は精一杯の笑顔。
彼女の心遣いに思わず涙が出てしまいそうだった。でも……泣いてる場合じゃない。
..
「鴇羽……舞衣ちゃん、でいいのかしら」
「う、うん……」
「一つ、お願いがあるの」
突如話し掛けられた舞衣が言葉を濁らせながら応じる。
かがみ≠ナはない状態で話すのは初めてだ。彼女の戸惑いも分かる。
私は、大きく息を吸い込んだ。そして、
「その竜に……私を殺させて、欲しいの」
決して、後戻りの出来ない一言を口にする。
支援
「えっ――!?」
「な、何でですかっ、かがみ先輩! せっかく元に戻れたのに……! かがみ先輩が死ぬなんて、そんな……」
「我侭言わないの、ゆたかちゃん。これはね……もう、決めた事だから」
「どうしてですか!? 理由を……理由を教えてください」
こうなるとは思っていたけど、ゆたかちゃんは眼を白黒させて私に追い縋った。
分かっていたのに……心が、痛い。
「……限界なの」
「え?」
「今はこうして私が表に出て来ているけど、もう一人のかがみ≠フ力は強いわ。
アイツが次に目覚めたら、きっと皆に迷惑を掛けてしまう」
「そんな……! あっ、眼帯! 眼帯をすれば……!」
「それもだめ。アイツが言ってたでしょ? 『もうかがみは身体しか残っていない』って。
あれはね、結構当たってるの。柊かがみがね、ラッド・ルッソを喰った筈が喰われてしまったのは確かな事実なの。
アイツの人格の極端な部分に汚染されて、元いたかがみはもう、消えてしまった。
こうして今ここに出ているのはバックアップみたいなモノ……そして、それもすぐに消えてしまう……」
「うそ……」
歪んだ世界を正すには、少しだけ力が足りなかったのだ。
私が私を手に入れても、それは全てを元に戻すには足らない。
ラッド・ルッソが表に出ている時間が長過ぎたのだ。
もしくは、私が表に出ている時の行動が何か間違っていたのかもしれない……。
「本当に、いいの」
舞衣が訊いた。
「うん……お願い」
「ったく、残念……あたし達の勝負はお預けか」
傷口を抑えながら奈緒が言った。
紅が――広がる。
「そう? 多分またすぐにあたし達、会えると思うよ」
「うわっ……! 何よ、その言い分は。ホント、アンタって性格最悪だね」
「いや――奈緒ちゃんには負けるよ」
「……言ってろ、バカ」
これも、私の罪だ。
だから全部背負って私は消える。
責任とか、そういう問題はとっくに超越しているとしても……それが柊かがみのケジメの付け方だ。
1
「カグツチ……お願い」
彼女には辛い選択を託してしまったかもしれない。
いっそ、殺人など何の抵抗もなく犯すであろうあの黄金鎧の男に頼めば良かったかもしれない。
だけど、私には分かっていた。今、決して彼には触れてはならないという事を。
英雄王ギルガメッシュは誰よりも鋭い感覚と、魔術じみた勘を持つ男だ。
だから彼が――私ですら気付いている事を見落としている筈がない。
アイツと結城奈緒の関係は、私とアルベルトのようなものだ。
羨望さえ感じる相方に追いつきたい……!
肩を並べるような力が欲しい……! 認められたい……!
そういう気持ちが奈緒にもきっとあった筈で。
私には、今、ギルガメッシュに言葉を掛ける資格はない。
アルベルトの気持ちをぶつけられた私には……!
炎がカグツチの喉をゆっくりと昇っていく。
最期の瞬間はまるでレイトショーを見ているような、コマ送りの世界だった。
いかに極めて不死に近づいた身体とはいえ、あれだけの大きさの竜の攻撃を食らったら一溜まりもないだろう。確実に――死ぬ、筈だ。
「……さようなら」
炎の竜が口腔を開き、そして――――世界に光が満ちた。
【柊かがみ@らき☆すた 死亡】
▽
《でも、最期に一つだけ……聞きたいな。あたしさ……金ぴかの役に立ってた?――結城奈緒》
――バカじゃなかろうか、あたし。
頭、痛い。
お腹に空いた風穴からはドバドバと滝のように血が吹き出すし、何か喉を昇って口からも出て来るし。
もう……ぶっちゃけ、立っているのは無理だ。
だから地面に寝そべってしまう。
血が足りないから、まるで身体がふわふわと浮いているみたいになる。
そう、天にも昇る浮遊感という奴だ…………訂正、やっぱ気持ち悪い。
だけど……うん。何だろう、この最期は。
結局、柊かがみとのバトルは一つ残らずこっちの負け。
今回のなんて、一対多っていうかなり一方的な構図だったのにあたしもジュリアも見事にやられてしまった。
しかも何か気付いたら……みたいな感じで。
ジュリアは……消えたみたいだ。もう、チャイルドを呼び出す力なんて残っている訳がない。
でも、一つだけ嬉しい事はこの空間では『大切な人』を失わなくてもいいって事だ。
ママは……死なずに済む。
一番勝機があったのは最初に戦った時だけど、あの時はあたしも若かった。
蝕の祭が終わって、金ぴかじゃないけど慢心していたのだろう。
というか、調子に乗っていたんだ。あたしと金ぴかのコンビが負ける筈なんてない――ってね。
「ねぇ、金ぴか」
「……何だ、ナオ」
。
支援
今、あたしは固いアスファルトの上で枕もなくぶっ倒れてて、金ぴかがソレを見下ろしている。
久しぶりのこのやり取り。
いったい何回この問答を繰り返したんだろう。
あ、そういえば一番最初はアイツはあたしの事を『蜘蛛女』って呼んでたっけ。
そういえば…………しばらく聞いてないような。
……へぇ、これでもあたし……意外と、認められてたのかな。
「不思議、だよね」
「――不思議?」
「そう。あたしがこうして死にそうな時に、あたしの傍には金ぴかがいる。
最初はともかく、アルベルト達と会ってからはほとんど別々に行動していたのにさ。
『二人がここにいる不思議』……なんちゃって」
「つまらんな――これっぽちも笑えん」
「うわっ、酷。…………ま、アンタも相変わらずって事かな」
あたしの眼は霞んでしまって、金ぴかがどんな顔をしているのか全然分からない。
っていうか、こういうシーンなんだから、突っ立ってないでもう少し暖かみのある対応をしてくれてもいいのに。
「あたしさ……金ぴかが来た時、実は凄くホッとしたんだ」
「……何?」
「ほら――映画館でアンタが着てた黒猫のスーツ、あったじゃない。あれじゃなくて……ほら、その、鎧」
「フッ……お前も変わらんな。あの衣装に込められた匠の技術を理解出来んとは」
「猫は……ね。あんま好きじゃない。いっつも一人だから。
まぁいいじゃない……今の格好なら、金ぴかって呼んでもおかしくないもの」
頭部以外の全てを覆うフルアーマータイプの黄金の鎧。
アルベルトに砕かれた筈のその鎧をギルガメッシュは身に付けていた。
多分、その、あれだ。バリアジャケットって奴。
見慣れた光景。自分の中のイメージと実物とがピッタリとくっ付く。
「そう、初めと貴様は何も変わらんよ。まず何よりも恥じらいが足りん。
言葉遣いもまだまだ乳臭さが抜けんし、加えて礼節も気品も、女としての魅力が何もかも欠けている」
「……下品って事ね。いいよ、その辺は。アンタに好かれたいとは思ってないし」
――恋だとか、好きだとか、愛しているとか……馬鹿みたいだ。
そんなのは恋多き乙女である鴇羽に任せておけばいい。
ギルガメッシュに女として見られる? うわ、寒気がするっての。
「でも、最期に一つだけ……聞きたいな。あたしさ……金ぴかの役に立ってた?」
この一言だけを聞きたかった。
そのためだけに一体どれだけの寄り道をしたんだろう、そんな風にさえ思える。
ギルガメッシュと対等になりたい。肩を並べて歩きたかった。
全然あたしっぽくないセンチメンタルな願いだけど、思ってしまったものは仕方がない。
「それが辞世の句か――馬鹿な事を聞くものだな」
「いいから、応えろっつーの……」
ギルガメッシュは、太陽のような輝きを持った奴だった。
いわばあたしはその煌きを目指して飛び立ったイカロスだ。
あたしは……ギルガメッシュのような人間になりたかったのかもしれない。
常に自信に溢れていて、何もかも自分の実力で解決してしまうような大きな人間に……。
そして、今蝋燭で出来た羽根は燃え尽きて地面に叩きつけられようとしている――
「まだまだ、だな。だが――――悪くはなかった」
「……そ、ありがと」
あたしには、その時アイツがどんな顔をしていたかなんて分からない。
薄れていく光。広がっていく闇。
指の先から力が、体温が、命が抜けていくような感覚。
ゆっくりと何もかもが終わって行く。凍り付いたまま、硝子の彫像になっていくみたいに。
だけど心は温かだった。
ギルガメッシュの回答は、あたしが考えていた中では一番上等なものだった。
だって……完全に認められちゃったら、そこで『終わり』って感じになってしまうから。
それに、少なくとも――この最期は少し前のあたしが恐れていた一人ぼっちでの最期じゃない。
支援
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支援
あたしにとって、大切な人はママただ一人だった。
そりゃあ今も一番大事なのはママだ。それだけは何があっても変わらない。
……ギルガメッシュ? まさか、そんなのは有り得る訳がない。
あたし達はそういうのとは違うんだ。
主君と臣下……最初は面倒だったけどさ、まぁ今となっては悪くないと思うし。
でも、その次くらいに大切なモノなら今のあたしは一杯持ってる。
元の世界にも、この世界にもたくさん、たくさんだ。
だから――怖くなんて、ない。いや、そりゃあ……ちょっとは、怖いけどさ。
ゆっくりと、眠るように、落ちるように眼を閉じる。
世界に広がるのは一滴の曇りもない漆黒。
バカだった。
もうちょっと上手く立ち回っていれば良かったのだろうか。
分からない。分からない。だから必死に眼を閉じる。
……怖い、けど。
涙がこぼれてしまいそうだけど。
最後まで笑っていた、あのバカ女にも負けたくないし。
もっと生きたい。
もっと笑って、泣いて、楽しい事を一杯して……!
けど、それは全部……無理なんだ。
あたしは……死ぬんだから。
だけど、あたしは絶対に泣いたりなんてしない。
弱音だって口には絶対出さない!
あたしは、精一杯胸を張ったまま生きるんだ――最後の、終わりが訪れるまで。
ギルガメッシュ……あんたと一緒にいるの、意外と楽しかったよ。
【結城奈緒@舞-HiME 死亡】
【C-6/市街地/二日目/昼】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、黄金鎧型バリアジャケット
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん 、黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:???
1:菫川ねねねに『王の物語』を綴らせる。
2:“螺旋王へ至る道”を模索。
3:頭脳派の生存者、 異世界の情報、宝具、それらに順ずる道具を集める(エレメント、フォーグラーに興味)。
4:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
5:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
6:月に何かがあると推測。次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留、ジンたちと情報交換しました。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)、3rdが黄金の鎧です。
2ndを展開する意志はなくなりました。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界(確率変動を発生させる結界)』の三層構造になっていると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※会場のループについて認識済み。 会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※マッハキャリバーによるウイングロード展開を習得。カタパルト代わりに使用可能(ちょっと飽きた)。
※マッハキャリバーから詳細名簿の情報を少し聞いたようです
(少なくともガッシュ、ヴィラル、シャマル、スカー、ねねねについて大まかに知ってます)。
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾0/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ(半分消費)@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード 、ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7
[思考]
1:……
2:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
3:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
4:ルルーシュにニアの伝言を伝える。
5:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
6:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
支援
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
疲労(大)、バリアジャケット
[装備]:薄手のシーツ、ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式、釘バット、X装置、ゲイボルク@Fate/stay night
[思考]: 皆でここから脱出
1:何としてでも皆を守る
[備考]
※螺旋力覚醒
※失った高次物質化能力を取り戻しました。
※舞衣のバリアジャケットは《炎綬の紅玉》鴇羽舞衣@舞-乙HiME。飛行可能。
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(極大)、心労(中)、軽い脳震盪、左腕骨折、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式 、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本-みんなで帰る
1:……かがみ、先輩
2:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
▽
《つまり、だね……ここで君が死ぬのが何もかも一番丸く収まるって事――???》
支援
「はぁっ……はぁっ……!!」
全てが終わり、全ての終幕が訪れた――訳ではなかった。
「アイツラ……よくも……殺す……殺す!」
一人、逃げ出すように市街地を進むのは――柊かがみ≠セった存在。
もはや彼女(彼)をかがみと呼ぶ人間はいない。
確かに身体だけは柊かがみのモノだ。そして既に本物の【柊かがみ】は命を落としている。
精神的な死、という奴だ。
最大まで高まった不死の力は、舞衣のカグツチの劫火を持ってしてもかがみ≠フ身体を滅する事は出来なかったのである。
いや、上手く頭部を破壊する事が出来なかった、というべきか。
少なからず躊躇いがあった舞衣では、全力で柊かがみの身体を焼き払う事は不可能だったのだ。
「危ねぇ……ま、これこそ普段の行いの良さだろうな。しかし、マズイな。もう少しで放送だ。
あそこの平屋でルルーシュ君に殺されてた清麿も放送で呼ばれるだろうし……。」
柊かがみ≠セった存在――ここはあえて『狂人』という言葉を使おう。
狂人は奈緒達と接触する前に、十分にデイパックに道具を積め、そして辺りを探索していた。
そしてそこで見つけたのが銃弾を受けて死んでいる高嶺清麿だった。
それはルルーシュと出会った場所とかなり近い民家だった。
つまり、ルルーシュと遭遇した時点で到達していた結論――清麿はルルーシュに殺されている――を彼女(彼)自身の手で証明したのだ。
狂人の格好は完全に衣服を全て吹き飛ばされた素っ裸。
当然、彼女(彼)には羞恥の感情など存在しない訳だが。
カグツチの炎を喰らう寸前にデイパックや持っている道具を投げ捨てたため、彼は手ぶらだった。
唯一指に嵌めたままだったクラールヴィントは消滅してしまった。
「俺が死んでねぇ事がバレちまう……どうすりゃいい?」
「――簡単だよ」
「なっ――!?」
狂人が振り向こうとした瞬間――――刀のようなものが、彼女(彼)の頭部と胴体とを切り離した。
瞬間の斬撃。まさに瞬く間に行われた神業である。
「つまり、だね……ここで君が死ぬのが何もかも一番丸く収まるって事」
「お、お前は……!」
ドサッ、という生々しい鈍い音を立てて狂人の首が地面に落ちる。
この空間における、不死者の死の定義は『頭部の完全な破壊』だ。
それを防ぐべく、首の切断部から血がまるで触手のように伸びる――しかし、
「ダメダメ。もう昼だぜ? ゾンビは墓場に還る時間だと思わないかい?
あとは……そうだな。君さ、『自分は絶対に死なない』とか思ったでしょ?
君みたいにラッドを馬鹿にした行動を取られるのはね……俺もちょっと頭に来るかな」
「ジ、ジン……ッ!! な、何故ここに……!?」
ジンの手にした夜刀神が血のラインと頭部が接触する前に、ソレを切り離す。
あの場にいた全ての人間の目を誤魔化して、逃げて来た筈の狂人は、驚愕に瞳を見開いた。
「そりゃあ俺ってばドロボウだし。墓場ドロボウ……いや、死体漁りとでも言った方がいいかな?
ギルガメッシュ達は奈緒ちゃんのところ。俺ってば、薄情モノな訳。だから一人だけ気付いたの。
加えて低俗な盗人ですから。……まぁ、宝を追ってたら他にもとんだご馳走にありつけたみたいだけどね」
ジンが、夜刀神の刃を掴んだ狂人の頭部に向ける。
支援
「や、やめろ! これは柊かがみの身体――」
「彼女は死んだよ。人の個を司るのは肉体なんかじゃない。高潔で気高い精神さ。
今、ここにいるのはかがみとラッドを侮辱するだけの存在だもの」
「や、やめろぉおお! やめてくれぇ!!」
「――じゃあね」
最後はまるで果実を叩き割るように。
幾多もの死と再生を繰り返した柊かがみの肉体は――この瞬間、完全にその機能を停止した。
「ゴメンね……君の身体をこんなにしてしまって。
と……女の子を素っ裸のままにさせておくのも忍びないし、一仕事始めますか。
清麿も……か。しかもルルーシュが……? ……どういう事だろう」
狂人の口からもたらされた高嶺清麿の死。
そしてその殺害者がルルーシュだという情報。
寝耳に水、という奴だ。少なくとも放送を聴けば清麿の安否を確かめる事は出来るが……、
「まあいいや、とりあえずその平屋ってのを探してみようか。
ギルガメッシュの相手は……スパイク達だけで大丈夫か心配だけれど」
生憎と、彼は全てを自分の眼で確かめてみないと気が済まない性質だった。
ジンは頂点に近い位置まで上り詰めた太陽を見つめながら頭を働かせる。
大切なモノを奪われてばかりのこのパーティを何とか破壊する最強の一手を探して。
【C-6/市街地/二日目/昼】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷 、疲労(中)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式x16(食料、水半日分消費、うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
偽・螺旋剣@Fate/stay night 、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、
全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
サングラス@カウボーイビバップ、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 、ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:柊かがみの埋葬を済ませた後、民家へと向かう。ギルガメッシュ達との合流はその後。
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:マタタビ殺害事件の真相について考える。
5:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※舞衣、ゆたかと情報交換を行いました。
※クラールヴィント@リリカルなのはStrikerSはカグツチの炎に巻き込まれ消滅。
※清麿を殺したのはルルーシュだと聞きました。
支援
以上、投下終了です。
発見したのは悲劇であり希望ではなかったと、菫川ねねねは痛感した。
最悪のパターンとして想定していた傷の男も、悲劇の結果を受容した。
眠れる魔界の王子はただ一人、常世から離れ幻想の世界を旅していた。
◇ ◇ ◇
鼻腔をくすぐる刺激的な香りの数々が、童の気だるい意識を震わせ、完全覚醒へと導いていく。
チューリップ、アネモネ、リコリス、カーネーション、アヤメ、デンドロビウム、ラフレシア。
色鮮やか、種類様々な植物たちが花園を形成、魔界の王子を庇護するように包み、囲んでいる。
空を覗けば天蓋はなく、白雲と青空のコントラストが視界を満たし、太陽光の眩さに照られる。
「ウヌ……」
右向き、所在確認。
左向き、存在確認。
上向き、時節確認。
本人困惑した顔つきで、唸る。
「う、ウヌ……?」
覚醒以前の記憶が飛んでいた。ここがどこだかわからなかった。他には誰もいないのか。
腕を組み、首を傾げ、汗を垂らしながら考え込んでみても、答えをくれる他者はいない。
黒いマント羽織った金髪の童子、ガッシュ・ベルはひとりぼっちでそこにいた。
見覚えのない花畑は、ガッシュの住むモチノキ町の植物園に似た匂いがした。
集う植物たちはイギリス遠征の際に見かけたような珍種も多く、統一感に欠けている。
はたしてここはどこなのか。ガッシュは考え、悩み、答えが出せずに悶えた。
「ウヌウ……清麿! どこなのだ、清麿ォォー!」
魔界の王を決める戦いが始まって以降、片時も離れることのなかったパートナーの名を叫び、走り回った。
「ヌゥウウウウウ! キヨマロォオオオオオオ! どーこーなーのーだあああああああ!!」
心細さから来る涙が、ガッシュの大きな瞳に洪水を齎す。
不安に押し潰されそうになって、足はなおも加速する。
雑多な草花を踏み締め蹴散らし、ガッシュは奔走を続ける。
途中、正方形のカードからものを教わるもまるで理解できず頭から煙を出す男がいたが、止まらない。
途中、鮫のような歯を持つ男と緑色の法衣を纏う女が情熱的に抱き合っていたが、止まらない。
途中、首を傾げつつなんですかと連呼する珊瑚礁のような髪の少女がいたが、止まらない。
途中、カセットラジオから流れる陽気な音楽をテーマにVが踊っていたが、止まらない。
途中、煙草を吹かした中年刑事が電柱を背に張り込みしていたが、止まらない。
途中、スターがバンビーナたちをはべらせ乳を揉んでいたが、止まらない。
「どこなのだ〜! ピヨバロォオオオオオオオオ!!」
途中、ハゲ男が肉なしチンジャオロースを作っていたが、止まらない。
途中、碧色の輝きに包まれた巨大ブリが空飛ぶ様を見かけたが、止まらない。
途中、ネコミミをつけた老人の拳法家が腕組みをしながら立っていたが、止まらない。
途中、風呂敷を担いだ二人のカップルが大声を上げながらコソコソしていたが、止まらない。
途中、垂れ目の奇術師がマジックショーを繰り広げ観客の子供が舌打ちしていたが、止まらない。
途中、やたらと饒舌でムーディーな鳥がストレッチする少女ファイターを口説いていたが、止まらない。
「ウォオオオオ! 返事をしてくれ清麿おおおおおお!!」
見知らぬ土地で迷子になってしまった童子は、拠り所を探し求める。
手段は疾走と、泣き叫び。それ以外は、不安に圧迫された頭には入ってこない。
世の中とはかくも厳しく、泣きじゃくる子供に声をかける大人は誰もいなかった。
ただ、一人を除いては。
「おやおやガッシュ・ベル。そんなに喚き散らして、いったいどうしたというんだ?」
「う、ウヌ!?」
突如としてガッシュの道を塞ぎ、親切心を利かせた穏やかな声を投げかける、一人の壮年。
貫禄溢れる顎鬚と禿頭が、ガッシュの知る『王』の風格を漂わせ、圧倒する。
ガッシュはやや物怖じしたものの、訥々とした口調で言葉を返した。
「お、おぬしは、誰なのだ?」
「私かい? 私は螺旋王。王様だ。みんなからはマダ王なんて呼ばれているがね」
歳に見合わぬ軽い調子で、禿頭の王は自己紹介を告げる。
「ウヌ……? 螺旋王なのかマダ王なのかハッキリしてほしいのだ」
「いやいや、マダ王というのは単なるあだ名さ。ところでガッシュ、マダ王とはいったいなんの略かわかるかね?」
人差し指を立てて可愛らしげに問いかける螺旋王。
純真無垢なガッシュは問われるがままに考え込み、頭を抱え出す。
首を傾げたり回したりして、導き出した解答を元気に発した。
「ウヌウ、わかったのだ! まるで、ダメな、王様。略してマダ王なのだ!」
「ハッハッハ! ひどいなぁガッシュ。いくらなんでも、ハッハッハ、そりゃないよハッハッハ」
罵倒にもなりかねないガッシュの言を、子供の戯言と寛大に受け取る螺旋王。
取っ付きやすい螺旋王の人柄に、ガッシュは親近感を覚えつつ尋ねた。
「ウヌウ、それでは正解はなんなのだ?」
「正解はだね…………」
螺旋王は数秒の間を置き、ガッシュの視線を集める。
ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえ、さらに時は流れた。
出題者は解答者を焦らし、大いにもったいぶって、ようやく答えを口にする。
「マジ、ダメすぎる、王様」
……一拍の間を置く。
「略して、マダ王さ。マジ、ダメすぎる、王様、の、略……ハハ。は、は、は……。
くくく……いぃーひっひっひ……くふふふ……にぃぃひっひっひ……ぷぇーぷうぇっえっえっ……。
はぁーっはっはっはっはっはぁ……はぁ……ふぅぁぁああはっはっはははあっはあっはあっはあっはあ!!」
自虐的な、ガッシュの解答とあまり差異のない答えを告げて、螺旋王は笑った。
呵呵大笑の裏には一筋の涙の跡が垣間見えたが、子供であるガッシュは螺旋王の胸中までは察せない。
ほのかに、痛々しい、という感覚だけを得て、ガッシュは緘口した。
「おいおい、そんな痛い人を見るような目をしないでおくれよガッシュ!
くぅ〜くっくっく……くぅぁーはっはっはっは、っはぁ〜――げほぅ!?」
どう反応するべきかと悩みこむガッシュの眼前、高笑いする螺旋王の身が、横に飛んだ。
勢いづいたまま草花の絨毯を滑り、断末魔の悲鳴を帯びながら遠ざかっていく。
突然飛び込んできたドロップキックが、螺旋王をぶっ飛ばしたのだとガッシュは理解して、
「なにをしてる、ガァーッシュ!」
キックの主が、己に怒声を浴びせる主が、探し求めたパートナー……高嶺清麿であったと知る。
◇ ◇ ◇
「――ウヌウ!? こ、ここはいったいどこなのだ!?」
清麿の姿を確認した瞬間、ガッシュを包む世界は一変した。
神秘的な花園、消失。オーディエンス、消失。マダ王、消失。
隣には、『赤い本』を構えた清麿が険しい顔つきで屹立している。
「ここは王の間。俺たちに殺し合いを強いていた黒幕……螺旋王ロージェノムとの、戦いの場だ!」
理解の追いつかぬガッシュに、清麿が説明を成す。
瞬間、ガッシュは知った。
遥か頭上に位置する螺旋状の天蓋。
薄暗くも碧色の採光鮮やかな室内。
階段伸び行く先にある空席の玉座。
そして、
「よくぞ、ここまで……螺旋の戦士よ、最後の関門は私自らが請け負おう」
玉座の前に立つ――螺旋王ロージェノム。
そう、ここは最終決戦の舞台だ。
首に嵌められた枷を外し、天元を突破し、雑兵の群集をくぐり抜け、到達した。
魔物の子供であるガッシュ・ベルと、そのパートナーの高嶺清麿、二人で。
「戦うぞ、ガッシュ」
「ウヌ」
高低の合わぬ肩を、横に並べて。
赤い本を最強の武具として、心の力を託し。
「戦うぞ、ガッシュ!」
「オオ!」
魔界の王を目指す寄り道として、ガッシュと清麿はこの戦いに身を興じた。
この、戦い。
愚劣なる王を玉座から引き摺り下ろし、やさしい王様として皆を導くための、戦い。
その、最後が今、物語れる。
「戦うぞぉおおおおお! ガァアアアアッシュ!!」
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
清麿の痰を込めた一声、それに乗じたガッシュの咆哮が、開戦の合図となった。
赤い本は眩く、金色に光輝き、心の力で満たされてゆく。
人間と魔界の子供の二人組が戦うための力として、機能し、発動する。
「ザケル!」
口火を切ったのは、初めに覚えた電光の呪文だ。
清麿の口から術の名が解き放たれ、発動の瞬間ガッシュは僅か意識を失い、口内から電撃が迸る。
時にはコンクリートを破砕し、時にはスターを丸焦げにする、ガッシュお得意の先制の一撃だった。
螺旋王はこれを避けず、防御の体勢も取らず、不敵な笑みで受け止める。
見た目にも屈強な螺旋王の肉体を電撃が駆け巡り、しかし微動だにしない。
「こんなものではなかろう。ここまで到達した猛者二人だ……見せてみよ、螺旋の力を!」
「螺旋の力なんぞ知ったことかぁあああああああ! 俺たちが発揮するのは――」
「――ウヌウ! 散っていった者たちの願いを受け継いでの、心の力なのだ!!」
清麿の右手が鉄砲を形作り、指先を螺旋王へと向ける。
これはガッシュの術の矛先を指定する、照準だ。
ガッシュは清麿の指定した方向を向き、術発動のタイミングを計る。
「テオザケル!」
ガッシュの口内から、先ほどのザケルの数倍はあろうかという規模の電撃が放たれる。
破壊の電撃は螺旋王の体躯を包み、飲み込んでいく。粉塵が舞った。
反撃は、すぐに。
視界を塞ぐ粉塵の中から、螺旋王は身を弾丸とし、突撃してきた。
「ふぅうううううん!!」
「ヌ!? グゥウウウウ!」
肉弾戦を仕掛けてきた螺旋王に驚きつつも、ガッシュは遅れることなく防御の構えを取る。
巨体から打たれる拳が、足元のガッシュへと伸び、鉄槌のように振りかかった。
威力の程を打撃音が知らせ、しかしガッシュは押し潰されていない。
螺旋王の拳を、その小さな身ひとつで受け止めていた。
「ラウザルク!」
呆ける間を得ず、清麿は次なる呪文を唱えた。
ガッシュの頭上に突如として現れた暗雲。そこから雷が落ち、直下のガッシュを貫いた。
されどこの落雷に、殺傷能力はない。ラウザルクは、ガッシュの肉体を強化する術だからだ。
雷の輝きを得て、ガッシュの腕力は倍化した。螺旋王の拳を押さえ込んだまま、掴み、投げ飛ばす。
「ヌゥォオオオオオオオ!!」
翼を持たぬ螺旋王に、空中での体勢変更は不可能。投げ飛ばされたままの無防備な姿で、部屋の壁に激突した。
衝撃で床に落下し、すぐに立ち上がるが、ガッシュと清麿はその隙を見逃さない。
「畳み掛けろぉおおお! ガーッシュ!!」
「オォオオオオオウ!」
ラウザルク発動中の間は、他の術が使えない。ゆえにガッシュは、自ら螺旋王に近づき、格闘戦を持ちかけた。
螺旋王は、笑みと共にガッシュの接近を受け入れ、拳で応える。
大人と子供の体が勢いよく衝突し、しかし力は均衡する。
体格差をものともしない力の発揮が、ガッシュの意地にも思えた。
「よくぞ……ここまで!」
両者、互いに掌を組み合わせながらの押し合いが繰り広げられる。
力みながらの苦悶を表情に宿すガッシュとは対照的に、螺旋王は微か、表情に喜色浮かべていた。
均衡は、ラウザルクの効果が切れると同時に崩れる。
ガッシュを包んでいた雷光が消え、腕力は元に戻り、螺旋王を下回る。
ガッシュの小さな身が揺れ、螺旋王によって押し潰されそうになったところを、清麿が、
「エクセレス・ザケルガーッ!!」
間髪入れず、次なる術を叩き込む。
発動したエクセレス・ザケルガは、電撃によって形作られたエックス状の極大光線だ。
それがガッシュの口内ではなく、横合いから放たれ、螺旋王を飲み込んでいく。
再び壁へと衝突を果たし、また粉塵による暗幕が張られた
その隙を縫い、ガッシュは清麿の下まで後退。螺旋王の次なる出方を待つ。
「やったか、清麿!?」
「いや、これしきで終わるとは考えられん。気を抜くな、ガッシュ!」
「ウヌ! 心してかかるぞ、清麿!!」
互いに鼓舞し合い、ガッシュと清麿は奮闘を続ける。
緊張を持続させたまま、心の力は途切れず、本に灯った金色の輝きは消えず、そして、
「――やるな! だが、この一撃が受けきれるかな!?」
粉塵の中から、空へ。一つの影が舞い上がった。
翼を持たぬはずの螺旋王が宙へと浮遊し、高みからガッシュたちを見下ろす。
否、その正体は螺旋王ではなかった。
人間の形を取りながら、人間ではない姿を持つ者。
歴史上には存在しない、架空のデザインによって成された甲冑を着込む、多元宇宙の戦士。
ガッシュと清麿の記憶にも刻み付けられている――彼の者の名は、テッカマンランスである。
「あ、あいつは!?」
「最初にやられた奴なのだ!?」
螺旋王の脅威を知らしめるための見せしめとして、早々に死んだはずの男が今、敵となって再臨した。
驚きを隠せぬ二人に対し、ランスは嘲笑を浴びせる。フルフェイスに覆われた表情は、素顔を覗かせぬも嘲りの色が滲み出ていた。
「フッ、敵が螺旋王ただ一人だと思い油断したな!? 私はこの機会をずっと待っていたのだ!
さぁ、見よ! 史上最強のテッカマンたるこのランスが放つ、全身全霊のボルテッカを――」
敵意を飛ばし、ランスは攻撃行動に移る。
「ボルテッカァアアアアアアアアア!!」
ランスの胸元から放たれる、極光。
光線の形を成す一撃は直線状に、ガッシュと清麿の二人を悠々飲み込む巨大さで、迫る。
「くっ……ラシルドー!」
不意の敵、不意の攻撃に対し、清麿は咄嗟に防御の呪文を唱える。
ラシルド――床から生えた雷紋つきの障壁は、ガッシュと清麿の身を覆い隠すように聳え、ボルテッカを受け止める。
衝撃を吸収し、本来なら跳ね返すことが可能だが、ボルテッカの威力が強すぎるためか反射には至らない。
どころか、障壁はところどころに罅割れ、破壊されようとしている。
ラシルドが打ち破られ、ボルテッカが貫通まで至れば、待っているのはもちろん、直撃だ。
「はっはっは! 無駄だ無駄だぁ! 如何な魔界の子供とはいえ、ボルテッカの前ではひとたまりも――なにぃ!?」
罅割れていく障壁の様を見て勝ち誇るランスだったが、すぐに絶句する。
あわや砕け散るかと思われた障壁が、より厚く、より高く、より巨大に、膨れ上がっていく。
罅割れも見る見るうちに修復されていき、障壁の大きさはやがて、ボルテッカの質量を越えた。
「ザグルゼム! ザグルゼム! ザグルゼム!」
真相は、障壁の裏側にあった。
防御の術であるラシルドを発動し、しかし清麿はそれだけでは終わらなかった。
障壁の裏側から次なる術、ザグルゼムを唱え続け、ガッシュの口から放たれる雷球を障壁に当て続けていたのだ。
「きょ、強化して……」
ザグルゼムは、電撃の力を溜める術だ。
敵に当て続ければ電撃のパワーが蓄積され、次なる攻撃術の威力を当てた回数だけ倍化させることが可能。
ラシルドに当てれば、障壁に込められた電撃のパワー自体が強化され、結果より堅牢で強固な壁が出来上がる。
清麿は初めから、ラシルド発動後も障壁を強化し続け、ボルテッカを打ち破る算段だったのだ。
「うっ、ウ……グァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
限界まで強度を増したラシルドが、ボルテッカを反射する。
ガッシュと清麿を飲み込むはずだった極光は、術者本人であるランスへと返り、塵と化す。
部屋の壁に大穴が開き、テッカマンランスの撃滅を告げた。
「清麿、心の力はまだ大丈夫か?」
「当たり前だぜガッシュ。俺たちが真に倒すべき相手は、まだ倒れちゃいない」
「ウヌ、それを聞いて安心したぞ。さあ……決着をつけるとしようではないか!」
勇ましく吼え、ガッシュと清麿が構えなおす。
眼光鋭く前方を見据え、晴れていく粉塵を注視。
退かず、逃げず、潰えず、泰然と戦闘続行を意思表示する敵。
螺旋王は健在のまま、再度ガッシュと清麿の敵として、君臨する。
そして、ガッシュの勇猛果敢なる宣誓に一喝を返す。
「望むところよ! いくぞガッシュ、清麿ぉおおおおおおお!!」
最後の敵に相応しい態度でもって、大地を蹴った。
螺旋王の周囲にあった碧の輝きが渦巻き、捻れる。
それはまるで螺旋のように、ドリルの形を成した。
冠さす称号の通り、螺旋王は己を螺旋に仕上げ、突撃する。
「迎え撃てガッシュ! 俺の心の力をすべて注ぎ込んでやる!!」
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
迫るは螺旋の怒涛。これまでに戦ってきた魔物たちの最大術にも匹敵する圧力を、ひしひしと感じていた。
しかし、ガッシュも清麿も撤退は考えない。防御も回避も選択にない。ここまで来ればあとは攻撃あるのみだ。
力には力を。螺旋力に二人の心の力を。全身全霊を持って、相殺、いや押し破らんと、意志を強くする。
赤から金色へと変じた本は、極限まで輝きを増し――
「バオウ・ザケルガ――!!」
清麿がガッシュの最大術を唱えたことで、極光に至った。
ガッシュの口元から、電撃が迸る。
微弱な電撃はすぐに膨れ上がり、巨大な龍を形作る。
『バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』
ガッシュ最大の攻撃術――バオウ・ザケルガ。
バオウの名を冠さす金色の巨大龍が、長躯を震わせ螺旋に激突する。
衝撃に光は散り、金色と碧色が混ざり合い、再度発光した。
実力は拮抗。バオウと螺旋の衝突が押し合い引き合い、決着を目指す。
「負けるな、ガァアアアアッシュ!!」
さらなる心の力を練り込まんと、清麿が気合を入れた。
絶対に勝つ、螺旋王を倒す、そういった確固たる意志をエネルギーとして、バオウの輝きを強めていく。
「約束しただろう!? 俺は、おまえを――」
やがて、室内は金色に満たされる。
螺旋力の碧を蹂躙し、雷光の輝きで埋める。
即ちバオウの、ガッシュと清麿の勝利を告げるために。
「王にするぞ、ガッシュ――!!」
清麿の意志に同調するように、バオウがまた、気高く吼えた。
万物を喰らう大口が、螺旋の怒涛を飲み込んでいく。
力の衝突による余波が、ガッシュと清麿の身を震わせた。
懸命に足場を整え、吹き飛ばされまいと堪える。
『バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』
そして、バオウは消えた――螺旋の怒涛と共に。
「…………」
バオウと螺旋の衝突に巻き込まれた床や壁が、崩れ落ちる音が響く。
人の笑い声はなかった。疲れを知らせる息遣いのみが、微かに残る。
闘争を終了した場は、静寂を取り戻し、無音へと帰していく。
その流れに、ガッシュと清麿は乗った。
全ての音が掻き消えたとき――最後に立っていたのは、ガッシュと清麿の二人だけだった。
「……ウヌ」
声を発すると共に、ガッシュは勝利を自覚する。
怨敵たる螺旋王の姿はなく、隣の清麿は笑みを浮かべていた。
「清麿……」
「ああ」
パートナー同士、再度確認し合う。
間違いではない、事実としての勝利が証明されて、
「勝った……勝った、私は……螺旋王を倒したぞぉおおおおおおおおお!!」
ガッシュは雄叫びを上げた。
やさしい王様を目指す上での壁を一つ乗り越え、死んでいった仲間たちの無念を晴らし、平和を得た。
満ち足りた達成感が、歓喜の涙を呼ぶ。ガッシュは嬉しさのあまりわんわん泣き叫び、清麿にも喜びを求めた。
「清麿! 私たちは勝ったのだな!? 螺旋王を倒し、これで全て元通りに……」
ガッシュの視線が、清麿の顔と向かい合う。
見詰め合って、嬉し涙は止まった。
「清、麿……?」
清麿は笑っていた。
穏やかな微笑みをガッシュに投げかけ、言葉なく。
中学生とは思えぬ大人びた風格で、五歳のガッシュを諭すように。
「……ずっと、考えていたことがある」
清麿はすずろに語り出し、ガッシュは黙って耳を傾けた。
「魔物の本の持ち主が、不慮の事故かなにかで死んでしまったら、残った本は……魔物はどうなるのか?」
なんということはない、仮定だった。
病気や事故、はては寿命……魔物のパートナーである人間には、様々な運命がつきまとう。
翻弄される身は絶対ではなく、いついかなるタイミングで不幸が訪れたとしても、不思議ではない。
「魔物が自分の本を自分で燃やせないように、自分のパートナーを魔物が殺すなんてできないだろう」
魔界の王を決める戦いに、リタイアは許されない。
本を燃やせば魔界に送還される。魔物は自分で自分の本を燃やし、魔界に帰ることはできない。
本、が無理だとするならば……本を扱うパートナーが絶命した場合、その魔物はどうなってしまうのか。
「だが、人の運命なんていつなにが起こるかわからん。絶対なんてものはないだろう」
本も同時に焼失し、魔物の子も敗北が決定してしまうのかもしれない。
本だけが残り、戦うための牙をもがれ、ただ他の魔物に本を燃やされる瞬間を待ち続けなければならないのかもしれない。
だが、それで最後まで生き残ったとしても、王の資格にはならないだろう。
「だとしたら……ガッシュにはきっと、新たなパートナーが現れる。きっと……」
故に清麿は、この結論に達した。
パートナーの死は、リタイアには繋がらない。
希望はまだ、残される。新たに作られるのだと。
「だから、おまえは王になれ。俺が――――でも……」
せめて、ガッシュにそれを伝えたかったのだろう。
清麿は穏やかな笑みを保ったまま、ガッシュの頭に掌を乗せた。
やさしく撫で、激励する。
「夢を諦めるな、ガッシュ――」
荒んでいた中学生児童の人生に、刺激と充実感を齎してくれた、非常識な子供。
生き方を変えさせてくれた、感謝したくともし切れない、生涯最高の相棒。
かけがえのない友、ガッシュ・ベルの幸せを願う。
◇ ◇ ◇
――そして、ガッシュ・ベルは夢から覚めた。
自身が横たわっていた畳と、なによりも全身が、水気を帯びていた。
マントはびしょびしょ、前髪からは水が滴り落ち、少し寒い。
所在を確認するため周囲を見渡せば、木造の天井や障子、襖が目に入る。
見慣れぬ平屋の一室で、ガッシュは水をぶっかけられ、眠りから覚めた。
「やーっと起きたかこの寝ぼすけ」
起き上がったガッシュの後ろには、一人の女性が立っていた。
陰険そうな顔つきに男ものの眼鏡をつけた面相は、第一印象で怖い、と感じてしまう。
気絶する寸前の記憶を呼び起こせば、
「……あっ」
あの、黒い太陽の上で見た……囚われていた女の人だ、と思い出す。
ガッシュがずっと探し求めていた高嶺清麿を知る者、ギルガメッシュが綴る者と称していた、菫川ねねねである。
その彼女がどういうわけか手にポリバケツを携え、不機嫌そうに眉根を寄せている。
水を被る自分と、バケツを持つねねねの意味も導き出せぬまま、幼いガッシュは思案に暮れた。
「ウヌウ……?」
と短く唸って、表情は凍った。
ガッシュの新円の瞳が、ねねねの奥側にあったものを捉える。
焦点はそちらに移動し、思考も止まった。
邪魔にならぬようにと、ねねねはガッシュの視界から外れた。
ガッシュはねねねの姿を追おうとはせず、視界の奥に横たわるそれに、釘付けになった。
真っ白い布団に寝かされた、少年の姿。
シンプルなワイシャツとスラックスを血で汚した、中学生の姿。
顔面を白い布で覆い隠され、捲らずともその意味を知らせる、探し人の姿。
「……あ、あぁ…………」
ガッシュの脳髄が、抉られる。
子供ながらに抱いていた死のイメージが、現実と直結する。
瞳が潤いを増し、涙腺が決壊、頬を伝わる。
「な、ぜ……どうして、なのだ……」
うわ言のように呟く言葉は、受け入れがたい現実を受け入れられないでいる、童心の表れだった。
なんで、こうなってしまったのだろう。どうして、回避することができなかったんだろう。
悲しみと同時に後悔が押し寄せ、ガッシュの心は崩れ落ちた。
「あ、ああぁああああぁ、あああぁあっ……」
作り上げた砂の城が、津波で一気に攫われてしまうかのように。
高嶺清麿の死を知ると同時に、ガッシュ・ベルの夢は潰えた。
◇ ◇ ◇
「うぉおおおお……なぜなのだ、なぜ、どうして死んでしまったのだ……清麿ぉおおお……っ」
一日と約半日。
袂を別たれ、それぞれ殺し合いに奮戦してきたガッシュ・ベルと高嶺清麿は今、最悪の形で再会を果たした。
健康的な肌色は失われ、人形の如き冷たい青を纏うようになってしまった清麿の体。
顔に被せられた布を取り除けば、銃殺を教える小さな穴がぽっかり開いていた。
ティアナ・ランスターが剣持勇を殺したように。
黒尽くめの男がミリア・ハーヴェントたちを殺したように。
東方不敗マスターアジアが華麗なるビクトリームを殺したように。
高嶺清麿もまた、等しく何者かに殺害されたのだ。
例外はない。唯一無二のパートナーである清麿とて、安逸の領域に住むわけではない。
だがどこか、心の端では――共に幾度となく死線を潜り抜けてきた清麿が、死ぬはずがないとも思っていた。
それが浅はかな願望だったのだと、今さらながらに突きつけられ、ガッシュは悲痛の呻きを漏らす。
「私を、私をやさしい王様にしてくれるのでは、なかったのか」
嗚咽のような声を漏らし、死者に語りかけるガッシュ。返事は、もちろん返ってこない。
魔界の王子でありながら里親に出され、愛を受けることなく育ち、その記憶すら失った。
波乱万丈な五年間を辿っても、これ以上ない悲しみだった。
「約束、してくれたでは、ないかぁ〜……」
ダニーは――親思いで仕事熱心な少年は、魔界に帰った。
コルルは――戦いを避けていたやさしい少女は、魔界に帰った。
ヨポポは――苦しむ少女に明るさを振り撒いた少年は、魔界に帰った。
パティは――全てが終わったら友達になると約束した少女は、魔界に帰った。
別れは、幾度となく。
しかしこれらは、永久の別れではない。
魔界の王を決める戦いが終われば、また会える。
そんな安心感を内包した、言いようによっては温い、一時の別れだった。
対して、死は――永遠の離別、今生の別れを意味する。
ガッシュとて、それは理解していた。だからこそ重ねたのは、この地で共に歩んだ仲間の死だ。
フォルゴレが、剣持が、キールが、アレンビーが、ティアナが、高遠が、チェスが、ジェットが、ビクトリームが無念の下に散っていった。
今さら彼らがポロロッカの星の下に召されたなどとは、幼いガッシュでも思わない。
今となっては、ポロロッカは単なる偶像に過ぎなかった。螺旋王がチェスやミリアをたぶらかすために与えた、偽の情報だったのだ。
ついぞ交わることなかった清麿の道程は、はたしてどのようなものだったのか。
それすらも、もはや確認する手立てがない。
魔界の王を決める戦いが終われば、いつか――と予感していた別れが、唐突に訪れ、ガッシュを蝕んだ。
238 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 00:31:17 ID:Zq/yihfo
「あ、かぁ……あっ、あぁあああああ…………ぎよ、まろぉぉぉぉ……っ」
父上や母上になんと言えばいいのか、スズメになんと言えばいいのか、恵には、サンビーム殿には……と、子供ながらに思いを廻らせる。
全部なかったことにはできないのか、死者を甦らせることは不可能なのか、と子供ながらに諦めをつけられないでもいる。
なにもかもが酷だった。別れの辛さ、壊された思い、加害者への恨み、そして、
――『なぁガッシュ。おまえ、将来の夢ってなんだ?』
――『ウヌ? 夢……それならあるぞ! 私の夢は、優しい王様になることなのだ!』
夢。
剣持勇にも語った、『やさしい王様になる』という誓いが、永久の夢となって消えてしまった。
魔界の王を決める戦いは、魔物の子とパートナーが二人一組で戦い、百組の中の頂点に上り詰めることで終息する。
パートナーとは、魔本の導きによって選ばれた唯一無二の人間であり、代えの効くものではない。
ガッシュが最後まで二人で戦い抜くと誓ったのは、清麿ただ一人だ。
その清麿が死んでしまっては、本が残っていようと……魔界の王を決める戦いからは、脱落してしまったも同じだ。
ガッシュはもう、戦えない。魔界の王を決める戦いへの参加権を失い、魔界の王候補からも外された。
やさしい王様になるという夢は、もう、絶対に叶わない。
「ガッシュ」
失意に沈むガッシュへ、冷徹な声が落とされた。
清麿の遺体に縋りつくように泣くガッシュを、眼鏡越しに見つめる菫川ねねね。
そこに笑みはなく、欠片のやさしも混在しない。厳格な大人の態度を保っていた。
ねねねの声は、ガッシュには届かない。悲しみに暮れるまま、ガッシュはねねねを見上げようともしなかった。
子供ながらに、いや歳相応に、友達の死を嘆き悲しんで……抜け出せないでいる。
そんなガッシュの頭上で――チッ、と舌打つ音が聞こえた。
その音にすら反応せず、清麿に縋るガッシュだったが、ねねねの手によって襟首を引っ張り上げられる。
小柄で軽いガッシュの身は、ねねねの目線と同じ位置まで持ち上げられ、強制的に向き合わされた。
ガッシュの潤んだ瞳と、ねねねの血走った瞳が、ぶつかり合って、
ゴツンッ、と。
ねねねの額が、ガッシュの額にぶつけられた。
鈍い打撃音が鳴って、ねねねはガッシュの体から手を離す。
空いた手はすぐさま額に持っていき、ねねねはしゃがみ込んで悶絶した。
「いぃぃっつ〜…………おま、なんつー石頭してるんだ!」
ねねねの唐突にして不当な言動に、ガッシュはわけもわからず閉口した。
頭突きをしてきたのはねねねのほうだというのに、本人が痛がっている。
ガッシュの額は、ヒリヒリこそすれど痛みはなかった。
「……あによ。なに腑抜けた顔してんのさ。あたしの知ってるガッシュってのは、もっと勇ましい顔つきだったって聞いたぞ」
怒りを治めた、どこか気疲れした表情で、ねねねはガッシュの泣き顔と睨み合った。
感情を潜める大人と、感情の赴くままに泣きじゃくる子供。単純明快な図式が組み上がる。
「あんたはあたしのことよく知らないかもしんないけどさ、あたしはあんたのことよく知ってるよ。清麿から聞いた」
その言葉で、ガッシュの意識はねねねに傾いた。
この地では交わることのなかった、清麿が死の間際まで歩んでいた道程。
それを、この黒い太陽で知り合った女性は知っている。
ガッシュは微かに嬉しくなり、しかしだからといって、喜びを得るには至らない。
出会いは遅すぎたのだ。清麿は既に死に、夢は散った。残されたものなど、なにもない。
「あんたが、ただ大切な人を亡くしたから泣いてる……ってんじゃないのも、よくわかる。
この菫川ねねね先生は、聡明なことに高嶺清麿とガッシュ・ベルの関係を、二人が目指したものを知ってるんだ。
それを踏まえて、あたしの質問に答えろ。清麿は死んだ。ガッシュはどうする? どうしたい? 言ってみれ」
ねねねの問いに、ガッシュは答えることができない。
それどころか、ねねねがなにを言いたいのかすらも、理解はできなかった。
「わた、じはぁ……も、う…………もぉ……っ」
搾り出す声は嗚咽にしかならず、心中で渦巻く激情を表現するのは、困難を極めた。
清麿が死に、ガッシュが生き残り、残っているものはなにか。
ガッシュにはわからない。知ることもできない。得ようとも思えない。
くしゃくしゃに捻じ伏せられて、囚われる。悲しみの連鎖から抜け出すことが、できない。
「諦めんのか? 違うだろ……っ」
ねねね自身、感情を表に出し切れずにいた。
相手が泣きじゃくる子供であったからか、はたまたねねね自身も痛みを堪えているからか。
今にも泣き出しそうな、それでいて力強い声でもって、ガッシュを諭そうと、大人の職務を全うする。
そう……この地で巡り会った者たちは、ガッシュにとっての『大人』ばかりだった。
長く生きたという意味でも、より多くの経験を蓄積していたという意味でも、誰もが先人と成り得た。
ねねねも、ガッシュが味わう痛みを知っているからこそ、こんな顔をしているのだと思う。
唇をキュッと噛み締め、辛そうに眉根を寄せ、拳も強く固めた……堪える顔を。
「あたしは……! 実のところあんたたちの関係がどれだけ深かったのかなんて知らない……!
けどさ、そりゃあんたたち二人の夢だったんだろ? 清麿のものでも、ガッシュのものでもない。
清麿とガッシュのもんだ。清麿は死んでも、ガッシュは生きてる。なら、清麿の分もあんたが受け継げばいいだろ!」
夢――軽々しいものではない。ねねねの口にする夢という言葉には、しっかりとした重みがあった。
人は誰しも夢を持つ。剣持勇が警察でありえたように、誰もが船からの脱出を願ったように、ポロロッカという偶像に縋ったことすら。
夢は、実現可能な壁として人の前に直立している。願望を遮る障壁を崩さんとするのは、やってやる、という意志の力だ。
「あたしは死に物狂いで夢掴んだ。言ってみりゃあんたの先輩だ。夢なんてな、根性で掴み取るんだよ。
書くまで死ねるか、読んでもらうまで死ねるか――あんたはそう、『やさし王様になるまで死ねるか!』って叫べばいい。
清麿のことを思い出しそうになったら、挫折しそうになったら、繰り返せ。なんだったら日課にしたっていい」
ガッシュの、やさしい王様になりたいという夢を、ねねねは知っている。
唱えたのはガッシュだが、それが清麿にとっての目標でもあることを、ねねねは知りながらに訴えているのだ。
清麿の死を乗り越えて、立ち上がれと――辛辣極まりない決断を、子供に強いている。
あるいは、もう子供ではいられないのかもしれない。
魔界の王となるためには、生き残るためには、歯を食いしばってでも成長しなければならないのだ。
「わがって……わがって、おる! だ、がぁ……」
嗚咽の声はまだ消えない。ねねねの励ましを受けてなお、ガッシュは戦いの過酷さを思い出していた。
意志の力だけではどうにもならない、そんな不条理が、夢への過程には待ち構えているのだ。
「わだ、しのっ、パートナー、はっ、清麿、だけなのっ、だ……ぎよま、ろがっ、いだく、では……っ」
パートナーは唯一無二の存在。代役は認められないし、一人では戦えもしない。
魔界の王を目指す上でのチャンスは一回限り。そしてガッシュは、そのチャンスを失ったのだ。
「あが、いっ、本にも、書かれで、おる。わだじは、もぉ、もう……っ!」
抗えない絶対のルールに、ガッシュは屈服を強いられ――しかし、
「相方が必要ってんなら、あたしがつき合ってやる。全部終わらせたら、あんた王様にして清麿の墓参りにでも行ってやるよ」
ガッシュの嘆きを、ねねねはきっぱり切って捨てた。
強く断言するねねねに、ガッシュは依然泣き顔のまま、首を振る。
無理だ。不可能だ。できっこない。といった情けない訴えを込めて。
「ねね、ね……ッ!」
初めてその名を呼ぶガッシュの額に、ねねねはコツンと、今度は優しく額を合わす。
互いの顔面が零距離になるまで詰め寄り、逃げられないように固定して、語りかける。
「安心すれ。あたしは作家だぞ? 本を書く人だぞ? そんな本に書かれてるルール、菫川ねねねが書き換えてやる――!」
ねねねは、ガッシュの甘えを一蹴してみせた。
女性でありながら、清麿並に男らしい表情を見せ、ガッシュに元気を分け与えようとしている。
ガッシュと清麿を知るこの女傑は、挫折を選び取ろうとしている童子に、諦めるなと言ってくれている。
酷な話と受け取りつつも、ガッシュはそれがたまらなく嬉しかった。
誰だって、夢を手放したくなどないのだから。
掴み取ることができるなら、追い続けることができるなら、
ルールを捻じ曲げたって、それができるなら――
「……外にいるから、落ち着いたら顔見せな。清麿にもちゃんとお別れ言ってね。まだ、物語は終わっちゃいないんだから」
ねねねはガッシュから身を離し、部屋を立ち去った。
黒い太陽で不意に気を失って以来、殺し合いの情勢がどう変化したのかは知らない。
カミナは、ニアは、クロスミラージュは、ギルガメッシュは、いったいどうなったのか。
今は、そんなことよりも。
「清麿……」
涙を強引に手で拭い――それでも止まらなかったが――物言わぬ抜け殻と化した清麿へ、向き直る。
肌に触れてみれば、普段の体温よりだいぶ冷たくなっていることがわかった。
首筋の辺りを擽ってみても、反応がない。脇も、背中も。鼻をつまんでも怒られなかった。
「本当に、死んでしまったのだな、清麿……」
死というものを再確認して、また涙は溢れた。されど、先ほどよりは勢いも衰えている。
ねねねの言葉を思い出し、堪えねば、という勇気が働いたのかもしれない。
「教えてほしいのだ、清麿。わたしは……私はいったい、どうすればいいのだ?」
魔物のパートナーについて、一つ思い出したことがある。
本を読めるのは、その魔物のパートナーただ一人。唯一無二、例外はない。
しかし事実として、この地では清麿の他にも、剣持やミリア、カミナがガッシュの赤い本を読んだことがある。
これがねねねの言うように、ルールの書き換えであるならば……螺旋王がそれを施したならば、まだ希望はあるのかもしれない。
「そうだ、ビクトリームとて……」
ビクトリームを始めとした、ゾフィス率いる千年前の魔物たちとの戦いもそうだ。
千年前の魔物たち、彼らのパートナーであった人間たちは当に寿命で死んでいた。
ガッシュたちとの戦いの際に借り出されたのは、ゾフィスによって人心を掌握された、元々のパートナーの子孫たちであったはずだ。
「ある……例外は、あるのかもしれぬ。そうだ、ねねねの言うとおり、私はまだ、王を目指せる……っ」
ガッシュが、きつく唇を噛む。希望を確認するように、何度も頷いて、清麿の手を握り締める。
握り返してくれる力は、包み込んでくれる温かさは、もう戻らない。
されど、不思議と伝わってくる。
清麿の思いが、死に体でありながらも常に発揮し続けてきた心の力が――ガッシュの胸に響いてくる。
「私は、王を目指す」
強引に目頭を擦り、涙を拭った。涙腺に押し寄せる怒涛がやむまで、腕を動かし続けた。
「私は、王を目指すッ! 王になるまで、死ねん!!」
自ら元気を取り戻そうと、力強い決意の言葉を吐く。悲しみを吹っ飛ばして、涙を捨て去った。
「私は、夢を諦めぬ! 清麿との約束を破るわけにはいかん! 私は絶対、やさしい王様になるのだ――ッ!!」
勇敢で、気高い咆哮が、玄関先まで轟いた。
誰に見られても恥ずかしくない、胸を張れる大人になろう――清麿の分まで。
悲しむ者がいなくなるように、皆が笑顔で暮らせる世界を築こう――清麿が願ったとおりに。
別れは悲しみだけではない……次に大きく成長するための――旅立ちだ。
「だから、どうか見守っていてほしいのだ……ぐすっ、清麿ぉ……」
意志ある瞳に、また大粒の雫を溜めて。
いざ、さらば。
◇ ◇ ◇
ヴィラルとシャマル、それにギルガメッシュを交えたフォーグラーでの一騒動の後、ねねねとスカーはガッシュを担いで移動を開始した。
ルルーシュの下に走ったヴィラルとシャマルを追うために、ひいては高嶺清麿との合流を果たすために。
だが、合流は容易ではなかった。
北上した先でヴィラルの駆るラガンと、何者かが駆るグラサンロボの激突があったのも一因だが、それがなくとも……おそらく、ヴィラルたちとの一騒動の頃には既に、
高嶺清麿は、ルルーシュ・ランペルージに殺されていたのだ。
清麿が残したダイイングメッセージと思しき血の記述、別離前の状況、殺害方法などを鑑みても、犯人はルルーシュとしか考えられない。
二つの詳細名簿と支給品カタログの中身を頭に詰め込み、明智健悟と共に策をめぐらせてきた菫川ねねねだからこそ、わかる。
中学生にして人一倍の度胸と知恵を持ち合わせた少年は、ギアスという魔性の力に敗れたのだろう、と。
平屋で清麿の死体を発見し、悩んだのはガッシュへの対応だ。
実験参加者の中でも最年少であるガッシュが、親友の死に耐えられるものだろうか。
耐えられはしないだろう、とそのときは考え至った。
だが、黙っていたところで計画が進捗するわけではない。
ガッシュの強力を得て、螺旋王への打開策とするためにも、現実を受け入れてもらう必要があった。
だからこそ、ねねねは清麿の遺体をわざわざ枕元に置き、水をぶっ掛けてでもガッシュを叩き起こした。
成長を促すために。信頼できる仲間であった清麿が語る、『心強い相棒』を味方につけるために。
(……やっぱ、あの人みたいに上手くはできないか。いや、あいつのやり方が上手かったなんて思いやしないけどさ)
死別を嘆き、悲しむ子供に、喝を入れる。
言葉で言えば簡単な大人の務めだが、これが案外難しい。
死という概念を理解しているにせよいないにせよ、別れとは心を空虚にするものだ。
ねねねはそれを知っている。既に何度も覚えた味だった。だからガッシュの痛みも、よくわかった。
「みんな、強いよな。あたしが本読み漁ってた時分にさ、戦いの連続で……」
己の幼少時代と、アニタやイリヤ、ガッシュや清麿たち――戦いと隣り合わせの人生を送る子供たちを照らし合わせる。
子供の頃の菫川ねねねは、あんなに強くはなかっただろう。
作家を目指し、読子・リードマンに出会う以前のねねねは、単なる子供に過ぎなかった。
時は巡り、今は二十歳を越えた立派な大人として、子供を導くくらいの強さは手に入れたつもりだ。
それでもやはり、自分は上手くない。まだ子供っぽさが残るせいか。『彼』には、遠く及ばない。
「……あー、クソ。本……書きたいなぁ」
指をうねうねと動かしてみる。キーボードの感触が恋しかった。
この指はまた、キーボードを打つことがあるのだろうか。ペンを握ることがあるのだろうか。
……ない、などと考えたくもない。本を書けなくなってしまう、そんな運命は想像すらしたくなかった。
「夢、か」
小説家になろうと志したのは、書きたい、という強い欲求があったからだ。
書きたい、という意志さえあれば、ねねねの夢は叶えられるものだった。
やさしい王様になりたい、というガッシュの夢は、ルールに縛られているため達成は厳しい。
倍率にして百分の一。作家への道に比べれば生易しいが、チャンスが一度きりともなれば話は違ってくる。
「叶えたいよな、夢。っていうか、子供は夢叶えてなんぼでしょうが。諦めたら損だよ」
平屋の玄関先、ガッシュの決意の雄叫びが、背後から聞こえてきた。
今さらこの言葉を送る必要はない。ガッシュはきっと、夢を叶える。
助力が必要というなら、ねねねが手を貸す。それが、ねねねに芽生えた新たな欲求だ。
「アニタも、イリヤも、清麿も、センセーだって……いや、やめとこ。湿っぽいのおしまい。うん、こっから連載再開だ」
大人の――明智健悟のようであろうとした――菫川ねねねは、ここで終了だ。
自身の頬をピシャン、と引っ叩き、ねねねは平屋の門前まで歩む。
そこには、褐色の肌を纏った武骨な男が一人、見張り番として立っていた。
「大丈夫なのか?」
「ん、ああ……だいじょぶ」
額の傷を象徴して、民衆からはスカー(傷の男)と呼ばれるその男は、ねねねがガッシュを奮起させる間、ずっと外で待機していた。
読子・リードマンの殺害者でありながら、ねねねの許しを受け、用心棒のような立ち位置に落ち着いたスカー。
彼に明智健悟のような役割を求めようとは思わない。第一、ねねねは彼の性格を知り尽くしているわけでもない。
ただ、一緒に戦ってくれればそれでいい。今は。
「そういやさっき、外から馬鹿でかい鳴き声みたいなのが聞こえたけど……あれなに?」
「巨大合成獣の産声だ」
「……あんた、真顔で変なこと言うな」
「事実だ。己れたちが去った後、フォーグラーに合成獣の使い手が訪れたのだろう」
ガッシュの覚醒を待つ間、遠方では獣の鳴き声と思しき音が響いていたが、ねねねはその正体を目撃していない。
外にいたスカーに尋ねれば、キメラが生まれ消えていった、という。まるで要領を得なかった。
「ねぇ、あんたの夢ってなに?」
「夢か……己れの悲願は、国家錬金術師の殲滅だ」
「なんだそりゃ」
変な奴、親睦を深められそうもない、なんでこんな奴が、とねねねはあからさまな嫌悪ではなく、どこか冷めた感情を示した。
人間としては好きになれそうもないが、そういうのが案外、有益な仕事関係を築けたりする。社会に出て覚えた教訓だ。
気疲れしたあまり溜め息をつくねねねに、スカーは喋りかける。
「それで、これからどうする」
「どうするって……どうすっか」
清麿の死により、事態は急変。暗雲までもが立ち込めてくるようになってしまった。
ねねねが書いた『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』は、おそらくルルーシュが持ち去った。
ギルガメッシュとの交渉材料はなくなり、バシュタールの惨劇を起こそうにも手元のアンチ・シズマ管は一つのみ。
このままルルーシュとアンチ・シズマ管を探し会場を周旋するか、フォーグラーにいる誰かと接触を果たすか。
もしくは、北に進軍していったヴィラルたちを追うか。彼らとルルーシュが合流を果たしたとも考えられる。
先導役不在の場で、懊悩の時間だけが流れた。
このまま無為に期限を消費するのが愚とは思いつつも、決断に踏み切れないでいるねねねの下に、
「……どうやら、来客のようだ」
救世主たりえる存在が、現れた――のかもしれない。
逸早くその者の到来に気づいたスカーが、ねねねの前に立つ。
土や煤で汚れたオンボロの黄色いコート。ざっくばらんに尖った髪型。悠々自適に歩を進める穏やかな物腰。
精悍な顔つきの少年が、二人の下に歩み寄ってくる。
ねねねにとってもスカーにとっても初見、接触には危険が含まれいた――かに思われた。
「顔見知りか?」
「いーや、初対面だ。けど、知ってる顔ではある」
にたり、とねねねが微かに笑う。外敵かもしれぬ少年に対し、警戒心を解いた状態でスカーの前に出た。
彼の詳細は、揃えられた二つの名簿から。信頼の是非は、今は亡き高嶺清麿の口から。
ツキが回ってきたのかもしれない、とねねねは歓喜に身を振るわせた。
「やあやあはじめまして。俺はしがない王ドロボウ……じゃなくて、小ズルイ埋葬屋でございます。
ここに我が同胞にして盟友たる高嶺清麿が眠っていると聞きまして、ぜひ供養願えないかと」
見た目の年齢にそぐわず、場慣れした営業員のように接してくる少年。
その人を食ったような嘲りの様が、こちらの出方を窺うためのポーズであることも察せられる。
故にねねねは、少年の来訪を歓迎した。
「清麿なら中にいるよ。仏さんだけどね。んで、一応言っておくとあたしらは清麿の仲間ね。あんたもそうでしょ、ジン?」
「あらら、ここでの俺の名前も知らず知らず板についてきたもんだ。いわくありげな顔もあるけど、そちらさんも?」
「あー……ま、そんなとこ。説明面倒だから、手っ取り早く信じてくれると助かる。スカー、あんた頭下げとけ」
「む……」
スカーの改心前の悪名が、物事を不利な方向に運ばなければと、ねねねは願いを込めてスカーの頭を下げさせた。力ずくで。
必要以上に抗おうとせず、なされるがまま首肯するスカーを見て、ジンと呼ばれた少年は面食らった顔をした。
しかし驚きは数瞬、勘ぐりも早々に、本題に入る。
「気狂い道化師(ピエロ)は消えて、チェス仲間は疑惑を残して、人の心は変わる……か。
哀れな毒呑みネコの一件を思い出してみても、踊らされていたのは俺のほうかもしれないしね。
人の個を司るのが高潔で気高い精神だっていうんなら、俺はルルーシュよりおねーさんを評価するよ」
一考したような仕草を見せ、ジンはさらに歩み寄った。
「ってなわけで、仕事くれない? 内容は遺体の埋葬と、清麿殺しの真相暴き、英雄王のパーティーとの橋渡しでどう?
報酬は友愛の握手でいーよ。おっと、できればおにーさんのほうは左手でお願いしたいかな?」
差し出された左掌を見て、ねねねは確かな進捗の感触を掴み取っていた。
【C-6/民家・室内/二日目/昼】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(大)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9、([全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】:巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】:テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】:剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】:アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:螺旋王を倒す。清麿亡き後も夢を捨てない。私は、やさしい王様になるッ!!
1:清麿との別れを済まし、ねねね
2:ジン(キールの仲間)とドモン(アレンビーの仲間)を探しつつデパート跡を調べに行く。
3:銀髪の男(ビシャス)、東方不敗を警戒。 ギルガメッシュに少し警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※ギルガメッシュとはまだ情報交換をしていません。
【C-6/民家・門前/二日目/昼】
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:ジンと交渉。今後の方針を練る。
2:ギルガメッシュに自分の計画に必要なもの(小説・イリヤスフィール(ry)を渡し、協力を促す。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
5:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
6:全てが終わったら、清麿の代わりにガッシュを王にしてやる。
[備考]:
※読子を殺害したスカーを許し堪えることを選びました。スカーの罪、その理不尽は許していません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
※清麿殺害の犯人、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』を持ち去ったのは、ルルーシュだと考えています。
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)
【武器】:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実、イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、
ワルサーWA2000(4/6)@現実、ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、水鉄砲、短剣×4本
【特殊な道具】:ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡の欠片x2(3つで揃う)@金色のガッシュベル!!
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん
【通常の道具】:USBフラッシュメモリ@現実、タロットカード@金田一少年の事件簿、暗視スコープ、単眼鏡、鉄の手枷@現実、
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
シアン化ナトリウム、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
【その他】:マース・ヒューズの肉片サンプル、清麿の右耳、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
首輪×3(クロ、アニタ、キャロ)、解体済みの首輪×2(エド、エリオ)、首輪のネームシール(清麿)
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
1:ジンと交渉。今後の方針を練る。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
3:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
4:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷 、疲労(中)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式x16(食料、水半日分消費、うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
偽・螺旋剣@Fate/stay night 、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、
全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
サングラス@カウボーイビバップ、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 、ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:ねねねたちと交渉、清麿の確認。問題ないようであれば、ギルガメッシュたちとの橋渡しをする。
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:マタタビ殺害事件の真相について考える。
5:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモン、舞衣、ゆたかと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※清麿を殺したのはルルーシュだと聞きました。
※柊かがみの遺体は埋葬されました。
以上、投下終了です。支援ありがとうございました。
Gはもう死んだの?
やっぱり根性なしだったな。
漫画ロワ勉強男のように再出没されるよりマシだろ。
「ええい、まぎらわしい!」
図書館にあった装置を使って転移してからしばらく、ドモンはようやく自らが飛ばされたのが最北のエリアの一つ、ショッピングモールであったことを理解した。
「はじめからコンテナ置き場とでも書いておけ!」
ショッピングモールという名前に惑わされ、コンテナだらけの空間を走り回り川の流れから自らの位置を確かめるまでに要した時間がたまらなく惜しい。
「……こうしている間にもニアに危険が迫っているかもしれんというのに!」
現在位置を確認し、ドモンは駆ける。
今の彼が目指すべきはただ一つ。―――いうまでもなく図書館だ。
一度は不調を疑った転移装置の再利用。
その方針に迷いはない。
もちろん、他にニアを、そしてシータを探す手段がないというのはある。
だが、それ以上にドモンが転移を失敗した原因と考えるのは―――自分自身だ。
装置に関しては転移した当初こそ、装置の不調を疑いもしたが螺旋王の目的―――殺し合いという舞台においての転移が可能な装置という利便性を考えれば、装置の不調という事態は可能性が低い。
ならば、問題となるのは―――
(……そう、問題は己の未熟ッ!)
ドモンが考える転移失敗の―――いや、ショッピングモールへと自分が飛ばされた原因。それは、師匠東方不敗とシータの二人のことを考えていたからではないかということであった。
……東方不敗とシータの二人がいた地点が違えば当然転移先は二つ。
だが、ドモンの体は一つしかない以上、その双方の地点への転移はかなわない。
ドモンが双方へと転移する―――ドモンの体が真っ二つなどという展開は殺し合いを目的とする螺旋王からすれば馬鹿馬鹿しいことこの上ないだろう。
では、どうなるのか?
おそらく、最期に二人が立ち寄った地点、もしくは二人の現在地点の中間そのいずれかへの転移という結果があのショッピングモールへの転移となった。ドモンはそう考えた。
……無論、実際はそうではない。
ドモンが転移したショッピングモールには転移のまさに直前まで東方不敗は存在していたし、転移装置にもドモンの考えるような融通性は存在してはいない。
閑話休題。
図書館を目指し、走りつづけるドモン。
だが、一路目的地を目指すはずだったその足が図書館まで後西に1エリアというところ、少し前はニアと二人で渡った橋にたどり着こうかというところまで来て止まる。
「……む、あれは?」
ドモンが“それ”を見つけたのは二つの要因によるものだった。
一つ、ドモンが流派東方不敗の格闘家として、ガンダムファイターとして、常人をはるかに超えた視力を有していたこと。
そうしてもう一つ、先のシータとの戦いからロボットの光線兵器と無数の刀を射出する技。この二つの長距離攻撃を警戒するためにより遠方に注意を向けていたこと。
その二つが合わさった結果、ドモンはやや南よりの東の方角に、一つの影を見つけていた。
だいたい距離にして2エリアといったところだろうか。
人を軽く上回るその大きさにして、人間と似たフォルム。
それを見てドモンの脳裏によぎるものはただひとつ。
(ひょっとしてあれは、ガンダム!?)
デビル、いやアルティメットガンダムさえこの会場内に隠されていたのだ。
ゴッドガンダムやマスターガンダム、あるいは他のシャッフル同盟の仲間達の愛機がこの会場内のどこかに隠されていたとしても、そして、それを他の参加者が見つけ出していたとしてもおかしくはない。
「……よし!」
少しの間迷った後、ドモンは進路を変更した。
目指すは東。
謎の機体がある方向だ。
確かに今のドモンにガンダムがあれば東方不敗や傷面の男などの殺し合いに乗った参加者達を無力化できるだろう。東方不敗を除けば生き残りの参加者の中でガンダムファイトの経験があるのは自分ただ一人。
唯一の例外東方不敗を相手取っても、決して劣りはしないという自負もある。
ただし、今のドモンにはそうした考えはあくまでも二の次、三の次だ。
殺し合いを止める事が楽になるからといっても、元々己の肉体のみでそれを成し遂げるつもりであったのだ。
決して、ニアより優先させるべき事柄ではない。
ではなぜ、ドモンは進路を変更したのか。
それは機体の動きの不自然さを見咎めたからに他ならない。
それが指し示すのはおそらくは戦闘行為。
では、その相手はいったいどこに?
(そう、あの機体は明らかに己よりはるかに小さな相手と戦っている!)
傷面の男や言峰綺礼 、そしてギルガメッシュ。
この殺し合いの舞台においてドモンは幾人もの優れた達人と出会っている。
だが、ガンダムを相手取り生身で渡り合えるほどの猛者ともなればドモンの脳内に残る名前はたった二つに絞られる。
一人は言うまでもなく東方不敗。
そしてもう一人がシータである。
厳密に言えばシータのほうは生身でガンダムと戦えるというわけではない。しかし、彼女の命に従うロボットならば十分に可能だろう。
(そして、仮に戦っているのが師匠ならばすでに決着がついていてもおかしくはない!)
東方不敗の技量はドモンが一番よく知っている。
ガンダムファイトに不慣れなほかの参加者が操るガンダムなど、ドモンが知る東方不敗であればたちどころに撃破する。
ならば今戦っているのは―――。
ニアの転移した先など決まっている。
あの争いに巻き込まれて何時まで無事でいてくれるかもわからない。
(無事でいてくれ、ニア!)
ドモンは再び駆け出した。
◇
「さて、じゃあまずは……」
「じゃあ、まずは……」
ねねねとスカー、そして王ドロボウ、ジン。未だに小屋の中にいるガッシュ・ベルを除いた三者の会談はねねねとジン二人同時に放たれたほとんど同じ言葉からその幕を開けた。
「……」
「ははは……」
お約束というにはあまりにべた過ぎる展開にねねねはやや不機嫌そうな表情を浮かべ、ジン
?
はそれを見て苦笑する。
とはいえ、お互いに無駄にしている時間はないことはわかっている。
ジンは苦笑を収めるとねねねに向かって一応尋ねておかなければならないことを聞いておくことにした。
「お互い聞きたいことは山ほどあるみたいだけど、こちらはいやしい王ドロボウ。残念ながら僅かな量でも貰える物を貰わないとうまく舌さえ回りません」
「あー、なるほど。で、何を聞きたいわけ?」
「話が早くて助かるよ。おねーさん」
では、とジンは笑顔で言葉を続ける。
「ドロボウと仲がいい不真面目賞金稼ぎ(ハンター)が言うことには、そちらのおにーさんも昔はかなりのやんちゃをしていたみたいだけれども、おねーさんはどのくらい知っているのかな?」
ジンもねねねを、そしてねねねが信頼している傷の男のことをそれほど疑っているわけではない。
スパイクから警戒対象と聞かされていた相手ではあるが、おそらく今は殺し合いに乗ってはいないとは判断しているし、殺し合いから彼が降りた細かい経過まで根掘り葉掘り聞き出す気はない。
だから確認しておかなくてはならないのはただ一つ。
スカーがねねねに対してどれほど己の罪を話しているかだ。
スパイクの話によればスカーはすでに二人以上の人間を殺してきている。
ねねねがその事を知らずに、スパイクの口からその事を聞かされた時にはそれが火種になりかねない。
もっともそれは杞憂だろうともジンは考えていた。
だから、
「―――知っている」
ねねねがそう告げること自体は驚かなかった。
だが
「こいつ、スカーが一度は殺し合いに乗ったことも、温泉で糸色望と、…………読子・リードマン。センセを殺したことは聞いている」
ねねねがこの舞台に上げられる前からの知り合いを、スカーに殺されていたことはさすがに
ジンにも想定外ではあった。
そしてねねねは言葉を続ける。
「言っとくけど、あたしはスカーが犯した罪を許すわけじゃない。けど、私はこいつを許す!」
それはこの舞台における二回目の菫川ねねねの宣言だった。
「ジン、言った通りだ。あんたのお仲間スパイク・スピーゲルがこいつのことをなんと言おうが、この私がこいつを許した。文句は言わせない」
敵わないね、というのがジンの率直な感想だった。
ニアといい、ねねねといいこのパーティの女性客は心の強さが折り紙付きだ。
そしてジンにはすでにスカーを疑う気持ちはない。
少なくともねねねが生きている限り、この男が自らの手を徒に血で染めるようなことはないだろう。
「オーケー。ま、こっちの仲間にも少しだけこの血なまぐさいパーティーを楽しんじゃった奴もいる。女の子なら許しても、男だったら許さない。オレはそういうことを言う気はないよ」
「……一度は殺し合いに乗った奴? ひょっとして鴇羽舞衣か小早川ゆたかがあんたらの仲間にいるのか?」
ジンの軽口を聞いた途端表情を変えたねねねが口にした二つの名前。
それはどちらもジンの仲間の名前であり、同時に一度は他者の命を奪ってしまったものの名前でもあった。
「……さっきのスパイクのことといい、おねーさんは魔法の杖でも待っているのかい? ぜひともこの王ドロボウめにその魔法を見せて欲しいんだけど」
「生憎とどこぞの悪ガキに魔法の杖は盗られてね。一緒に気難しい王様の宝物までもってかれたんで腕の立つどっかの泥棒に取り返してきてもらいたいんだ」
「なるほどね、詳しい話を聞かせてもらえるかい?」
ギルガメッシュと会う前にまずは情報交換を。
そう了解しあった両者にこれまで沈黙を守っていたスカーが声をかける。
「いつゲームに乗った参加者がここを通りかかるかわからん。話が長くなるようなら見張りを己れがしておくから小屋の中にでも入っておけ。それに―――」
「それに? なんだい……ええと、スカーでいいのかな? おにーさん」
ジンの質問、呼び名がスカーであるということを軽く首肯し、彼は言葉を続ける。
「それにいいかげん小屋の中の死者を弔ってやれ。仲間が弔ってやったほうが死者も喜ぶ」
ボソリ、とつぶやくスカーの言葉。
イシュヴァールの虐殺において、数多くの同胞達をまともに埋葬することさえできなかった彼の言葉にはその事情をよく知らないジン達をも動かすだけの重みがあった。
「……そうだね、王ドロボウ改め、埋葬屋一仕事させてもらいに行きますか。ところで、清麿はどこだい? おねーさん」
◇
「うぬう……何を話しておるのだ?」
ねねねとジンが小屋の外で話し始めてから少し後、清麿との別れを済ませてねねねとスカーが待つ外へ出ようとしたガッシュはねねねが誰かと話しているのを聞いて少し外へ出るのをためらっていた。
多少大きな声を出してはいるもののねねねの声は落ち着いており、おそらくは危険はない。
にもかかわらずガッシュが表へ出ようとしない理由はただ一つ。
「清麿……ねねねが怖いのだ……」
いかにガッシュが強い心を待ち、魔物との戦いを恐れない強さがあるとしてもまだまだ彼は子供である。どうしようもなく苦手なものは存在する。
そしてガッシュにとってもっとも苦手なもの、それは天敵であるナオミちゃんやうっかりと怒らせてしまった時のティオのような怖い女の子である。
ドア越しとはいえ、伝わってくるねねねの気迫はそれらの女の子を髣髴とさせる。
(ガッシュ、頑張れ! 負けるんじゃない)
だが、ねねねの気迫に怯えドアから離れようとしたガッシュの足が止まる。
そう、今の自分は清麿の思いも背負っている。例えドアの前にいるのがねねねではなくナオミちゃんであったとしても負けるわけにはいかないのだ。
「見ていてくれ清麿! 私は負けぬ!」
自分でもわからないがなぜかひどく大事なものを無駄遣いしている気がしながらも、ガッシュは勇気を出すとドアへと進み、
ゴンッッ!!
一瞬目の前が真っ暗になるほどの一撃を頭に受けたのであった。
「ありゃ、失敬。先客がいるとはおもわなかったよ」
「ガッシュ、その……大丈夫か?」
ガッシュの頭に一撃を与えた加害者と思しき少年と連れだって入ってきたねねねは頭を押さえてうずくまるガッシュにやや気まずげに声をかけた。
大丈夫か、その言葉がガッシュの頭のことを言っているのか、心のことを言っているのかはねねねのみが知っている。
「だ……大丈夫なのだ」
「ガッシュ? そうか君が清麿が言っていた頼りになるパートナー」
頭を押さえるガッシュにねねねに続いてジンも声をかける。
目の前でうずくまる少年の風貌は1日前に別れたきり再会できなかった清麿から聞かされていたものと同じであった。
(悪いね、清麿。少しだけ間に合わなかったみたいだ)
心の中で清麿に謝罪する。
他にも清麿からの依頼で果たせなかったものは数多い。
できる限り他の参加者を助けるといったところで、つい先ほどだけでもニアや柊かがみ、結城奈緒。三人もの参加者の命は彼の手をすり抜けていった。
彼にとっても仲間だったラッド・ルッソはとうの昔に柊かがみの手によってその命を落とした。
首輪に関してもどうにかできそうな技術者は見つからない。
(せめて主催者のイスぐらい盗んで見せなきゃ、あの世の清麿やラッドやヨーコ達に笑われちまう。王ドロボウの名にかけてってね)
「うぬう……おぬしは」
目の前の少年、とはいっても明らかにガッシュよりは年上ではあるのだが、彼の風貌をガッシュはすでに聞いていた。
今となってははるか以前のことのようにも思えるこの舞台での一日目、ガッシュの前に最初に現れた仲間の一人、キールが言っていた頼れる仲間。
「ああ、自己紹介が遅れたね。オレはしがない……」
「おぬしがジンなのか!?」
ジンの自己紹介は途中でさえぎられ、あまりにも的確なそのタイミングにジンは苦笑を浮かべた。
「あらら、オレの名前もホント人に知られてきたもんだ。ドロボウには暮らしにくい世の中です」
「って言うか、ガッシュ。あんたもジンを知っていたのか?」
「うむ! キールの相棒なのだ!」
「あれ? ねねねとガッシュってばお仲間じゃなかったの?」
疑問の声を上げるねねねにガッシュが答え、その問答を聞いたジンがさらに疑問を浮かべる。
ねねねとガッシュが仲間らしいことは短いやり取りでも想像がつくが、そうなるとガッシュのもつ情報をねねねが把握していないことが信じられない。
先のスカーの一件からもわかるようにこの殺し合いにおいて、情報力の大小は生命を左右する要素の一つだ。
その収集をねねねが怠るとは考えられない。
「あー、仲間は仲間だがついさっき知り合ったばかりでね。お互いの事はまだほとんど知らない」
そんな疑問を浮かべたジンにねねねは正直に告げる。
「それに、だ」
そしてさらにねねねは視線を小屋の奥へと向ける。
つられたジンがそちらを見ると、そこに横たわっていたのは高嶺清麿の遺体だ。
「……なるほど」
さすがにジンも理解する。
この状況で情け容赦なくガッシュから情報を搾り取る、そういう外道な真似はジンの趣味ではなかった。
(……まあ、ギルガメッシュやラッドなら平気でそういうこともしそうだけれど)
そんな事を考えつつ、ジンはガッシュを見る。
おそらくつい先ほどまで泣き腫らしていたのか、目は真っ赤に充血している。
目の端に未だに残っている涙は、おそらくはまあ、自分のせいか。
しかし、今その赤い両目に宿っているのは強い意思を示す光。
今のガッシュならばいろいろなことを落ち着いて話してくれる。
そう、ジンは判断した。
「さてと、それじゃあ自分の知っている情報の整理をしようか」
この島で一日と約半日あまり、対主催を志して動いてきたが、お互いに出会う事はなかった三人。
残りの参加者が限られてきた今、お互いの知識をあわせればおそらく、必要な情報のほとんどが手に入るだろう。
―――果たして、一番手持ちの情報が少ないであろうガッシュからでさえ、いくつかの興味深い情報を得る事ができた。
図書館に隠されているというガッシュが言うところの「急に別の場所へと移動させる」装置。
その内容をガッシュはほとんど理解していないとはいえ、
東方不敗が語ったという螺旋力に関する仮説。もっともガッシュが理解できていないとはいえ、ガッシュの仲間のカミナという参加者が持っているクロスミラージュというデバイスならば、その内容を完全に理解しているらしい。
またそのクロスミラージュというアイテムは他にもいろいろな考察を持っている「清麿と同じくらい頭のいいデバイスなのだ!」とのことらしい。
「……なるほどね」
ジンはガッシュの精神力に感心していた。
キール達との出会いに始まったガッシュの一日。
出会った仲間達との死別に、新しく出会った仲間達とも離れ離れになり、さらには彼が一番出会いたかったであろうパートナーとの死別。
そこまでの苦難に出会ってなお、ガッシュの瞳は力を失っていない。
いかに幼いとはいえ、さすがにあの高嶺清麿が心強いパートナーといっていただけのことはある。
「さて、お次は俺が話す番かな?」
「ん、じゃあ頼む」
ガッシュからの情報開示が終わり、そう切り出したジンにねねねが頷いた瞬間だった。
「……」
やおら表情を真剣なものに切り替えたジンが人差し指を一本、自分の口の前に持ってくる。
それが指し示すのは「静かに」のサイン。
それを見たガッシュはとっさに自分の口を手で覆い、ねねねはジンにいぶかしげな視線を向ける。
(……どうしたんだ)
小声で尋ねてくるねねねにジンは静かに言葉を返す。
(今、ドアの外で見張りをしているスカーの気配がドアの前から急に立ち去った。……ひょっとして別のお客が訪ねて来たのかもしれないね)
スカーが裏切ったかもしれない、という考えはジンにはなかった。
スカーが一言も中にいるこちらに声をかけずに動いたのは、おそらく来訪者に中に人がいることを気取らせぬためだろう。
(……どうするんだ?)
ねねねの質問にジンは小さく笑みを浮かべると、ガッシュとねねねの二人には待っていろとのジェスチャーを見せ、自分はドアへと近づいていく。
確かに今の自分達4人の中で一番戦闘能力に秀でているのはスカーだ。
そして彼はねねねたちを守る気でいる。
故に、来訪者の気配を察した彼が一人迎撃に出るのは一見、正しいようにも見える。
しかし、同時に今の自分達4人の中で唯一悪名を持っているのもまたスカーなのだ。
多少腕が立つ程度の相手ならばスカーも相手も傷つかずに相手を無力化することもできるだろうが、来た相手がスパイクや舞衣、ギルガメッシュだったりしたらまず、間違いなく殺し合いに発展する。
(……さてさて、鬼が来るのか蛇が来たかっと)
ジンを見守るねねねとガッシュの視線を背に受け、王ドロボウは慎重にドアの外の様子をうかがった。
◇
平屋の前でねねねとジン、ガッシュの話が終わるのを見張りを続けながら待っていたスカーは、西から東へ、こちらの方向へ向かって橋を素早く移動してくる人影を見つけていた。
(……どうするか)
胸中で一人、スカーはつぶやく。
スカーとて自分の悪名を理解していないわけでもない。
ただでさえ自分の容貌は特徴的なものだ。
下手に他の参加者の前に顔を出せば即座に攻撃される恐れもある。
……だが。
(問題はアレが殺し合いを肯定する者であったときだ)
己れやつい先ほどこちらへ来たジンという少年であれば少々の相手には遅れはとるまい。最悪逃げに徹すれば何とかなる。
だが、菫川ねねねにガッシュ・ベル。
この二人が中にはいる。
この二人をかばいながらでは戦闘はおろか逃亡さえもままならない。
では、迎撃に出ればいいのかというとそう単純な問題ではない。
そもそも相手がこちらを目指しているという保証すらない。
橋を渡りきった途端に北か南へ方向転換する可能性だってある。
下手にこちらから動けば無駄な争いをこちらから仕掛けることになりかねない。
ならば、待つか。
だが、だが、だが、だが、……
しかし、そうして悩む間にも相手は一本目の橋を渡り終え二本目の橋まで来ていた。
しばしの思考のループの後にスカーは迎撃に出ることを決意していた。
ジンの考えた通り、多少の相手ならば何とかなると思考した結果である。
―――だが。
(……早まったか)
橋の半ばまで来た相手の容姿をはっきりと認識したところでスカーは己れの判断が間違っていたことを理解していた。
移動してきた相手は見知った顔だ。
昨日の朝、この舞台にて出会った二人目の強敵。
一度、己れを敗北にまで追い込んだイシュヴァ―ルの僧兵をも上回る体術の持ち主。
そして、
『それならば一つ忠告しといてやる……復讐は何も生みはせん。
それどころか貴様のその怒りと悲しみは誰かに利用され、更なる悲劇を引き起こすだろう』
己れの復讐を愚かと言ったかっては同じ復讐者だったという男。
「……ドモン・カッシュ」
スカーはボソリと男の名前を口にした。
ドモンがスカーに気がついたのはスカーよりも少し前、スカーが平屋の門から橋へと移動してくる間のことであった。
(……ええい、こんな時に!)
不本意ではあったが足を止め、構える。
確かに今は時間が惜しいが、だからといって目の前の男は軽くあしらえるようなレベルではない。
一度は確かに倒したものの、それは相手が負傷していたが故の事。
こちらも負傷している今、勝てるかどうかわからない。
(いや! 勝たねばならない!)
弱気になりそうな己を鼓舞してドモンは一歩前に出た。
「……む?」
そして、ドモンは異変に気がつく。
昨日最初に出会った時のようなあからさまな殺気が男からは消えうせ、かわりに男が発するのは焦りにも似た気配だ。
一度手合わせをしたドモンにはわかる。
目の前の男はたかだか一度の敗北で勝利をあきらめるような生易しい相手ではない。
この男は幾度敗れようとも自分の目的を果たすためならば何度だって立ち上がる。
(ならば、何故……もしや!)
疑問とともにドモンは相手をよく眺め―――
間合いを一気につめるべく大きく動き出した。
ドモンが大きく動いたのを見て、スカーは動揺した。
当初、お互いの距離が近付きドモンが背中に大きなやけどを負っているのを見たときにはスカーは少し安心していた。
スカーが考えるドモン・カッシュは争いを止めるために動いている男だ。
ならば当然、自分と同じように仲間もいるであろうし、この状況で無理に己れに向かってくることまではしないだろう。
その予想はドモンが構えを取った瞬間にもろくも崩れ去る。
(……あくまでも殺し合いを続けるものを見逃しはせんと言う事か)
確かに今のスカーは殺し合いを降りているが口でそういったところで信じてもらえるかどうか。
昨日と違いコンディションでは自分が上回っているが、だからといってドモンを無力化することができるのかといえば答えは否、だ。
無論今のドモン・カッシュならば殺すことならば可能であろう。
しかし、コンディションの差を考慮してなお、彼を殺さずに無力化できるほどの力の差はないとスカーは断言できる。
ならばどうするか。
そうしてスカーが迷いを見せた瞬間、大きくドモンが動く。
達人同士の戦いにおいては両者の間合いこそが重要になってくる。
そんなことは当然、ドモンも承知しているはずだが、そんなことは関係ないといわんばかりに両者の間合いは一気に縮まり―――。
「……クッ!」
もはや、迷っている暇はない。
覚悟を決めたスカーは大地を踏みしめドモンが自分の間合いに踏み込む、その瞬間を迎撃する。
放つは正券。
振るうは破壊の右腕ではなく、左腕を。
ガッ!!
狙い済まして放たれたその一撃。
左腕から放たれたスカー渾身の正券突きはそう来ると見越していたかのようにドモンのガード、十字にそえられた両手によって防がれていた。
左腕をひく勢いを利用してスカーはそのまま大きく間合いを取る。
本来ならば右腕を使って橋を崩してそのまま逃走するのがもっとも手っ取り早いのだが、それをやると後々、自分達の移動の妨げとなりかねない。
(……さてどうするべきか)
ジン達を呼ぶ、という手段も考えなくはなかったが、最悪の場合かれら達まで殺し合いに乗っている仲間だとみなされるそんな恐れがその案を没にする。
……やはり逃走。
スカーが逃げるための段取りを頭に浮かべ始めたそのとき、ドモンがスカーに声をかける。
「……その瞳、そして今の一撃。どうやら間違いはないらしいな」
「……? 何を言っている」
「迷いは晴れたようだな、傷面の男よ」
ドモンはそう言うと構えを解きスカーに受かって笑みをうかべた。
「……おまえは」
「ありゃ、どうやらちょっと遅れたみたいだ。見せ場が回ってきません王ドロボウ、なーんてね。それはともかく久しぶりドモン。また会えたのは嬉しいよ」
「……ジン!」
スカーが戸惑いの表情を浮かべたところにかけられる声。
両者の知り合い、王ドロボウジンの声がこの両者の争いを完全に終わらせる合図となった。
「怖い顔していてもこのおにーさんもオレの友達でね。今は他の仲間と茶飲み話の真っ最中。ドモンも参加していかない?」
「他の仲間だと! ニアは、ニアという少女はその中にいないか!? つい先ほどはぐれた仲間なんだ!」
ドモンもジンという少年に関しては全幅の信頼を置いている。
この近くにいたはずの無力な少女。
ドモンの知るジンならば、間違いなく保護してくれているはずだ。
そんな期待とともに放たれた言葉にジンは少し表情をゆがめる。
彼の頭の中でさっき突然現れたニアの姿とガッシュの言っていた図書館にあるという移動装置、そして今のドモンの説明の3つが結びつく。
(……そういうことか。便利なように見せかけてしっかり殺し合いの役に立っているみたいだね)
「……ドモン、悪いけど無理を言ってもお茶会に参加してもらうよ。そのニアって子のことで言っておくことはあるけど、それに関して聞くべきもう一人をお茶会にうっかり残してきちゃったんでね」
「……わかった」
ジンの表情から何かを察したのかドモンは静かに頷いた。
◇
ドモンという新たな仲間を加えて小屋に戻ってきたジンとスカー。
スカーは今度は黙って出て行くな、とねねねから釘をしっかりと刺された上で再び見張りに戻る。
そしてドモンの自己紹介を済ませた後に、まずはドモンからの情報を。
とはいえ、ジンとドモンは一度情報交換を済ませているし、情報を語るのもジンのほうが口が上手い。
その結果、ドモンが語れることなどジンやギルガメッシュと別れてからの事しかなく、たいした事実は得られない。
先のガッシュからの情報がなければありがたかった転移装置もすでに周知の事実であった。
「うぬう、ドモンはニアやカミナと知り合いだったのか」
「ああ」
アレンビーから聞いていたドモンという男がニアやカミナといった仲間達とも知り合いだったという事実に一人ガッシュは喜ぶ。
しかし、それを見るジンの表情は硬い。
この中ではただ一人ジンはニアの死を知っている。
先ほど清麿との別れを済ましたばかりのガッシュに追い討ちのようにニアの死を知らせることはジンにとっても心苦しいことだ。
だけど同時のそれはいずれは告げねばならないことだ。
そしてジンは語りだす。
この舞台にて彼が見聞きしてきた全てのことを。
かつて脳(清麿)に手足(自分)が語るといった情報を。
「さてと、お次はオレの番だね」
「ウ、ウソだ! ウソなのだ! ジンは何でそんなにひどいウソをつくのだ!」
「……」
ドモンとガッシュ二人に共通する知り合いであったニアの死は、ドモンとガッシュの二人に大きな動揺をもたらした。
叫ぶガッシュ。
己の未熟がニアを死に追いやったと落ち込むドモン。
そんな二人を横目にねねねはねねねでまた別の形でショックを受けていた。
ジンの口から語られた情報によると第5回放送からの死者は清麿を含めて少なくとも6人以上。
シータと柊かがみ。
二人のゲームに乗っていたといえる少女を除いても
高嶺清麿
Dボゥイ
ニア
結城奈緒
4人もの対主催の参加者がその命を散らせている。
いまや対主催の参加者の残りはわずかに十人。
それに対してゲームに乗った参加者は5人。
数の上では対主催が有利ではあるものの
殺人鬼集団の一員、屈強の武術家、獣人、魔術師、ギアスという異能の持ち主と質に関しては対主催とレベルが違う。
こちら側で何とか戦えそうなのは英雄王ギルガメッシュとドモン、それとスカーぐらいのものだろう。
数少ない自分達のアドバンテージの一つであった情報にしたところで、清麿の死とともにルルーシュに奪われている。
―――状況は極めて悪い。
八方塞がり。
そんな言葉が頭をよぎる。
(……だから、どうした!)
諦めてなんかやるもんか。
一人一人の質で劣るなら団結力でカバーしろ。
一人の敵とは複数で戦え。
イメージすべきは敗北よりも勝利を。
そして、何より―――
「あたしを誰だと思っていやがる!」
そうだ、作家菫川ねねねの物語はHappyEndがよく似合う。
驚いたような視線を向けてくるガッシュとドモン。
笑みを浮かべてこちらを見返すジン。
そして扉の外にいるスカー。
こいつらにも天才作家菫川ねねねが書くHappyEndを魅せてやる。
まずは至急にギルガメッシュ達と合流を。
それからドモンやスカーといった腕利き数人でのカミナとクロスミラージュの探索。
HappyEndに出てくる人物は多けりゃ多いほどいい。
「みんな!そろそろ出発すれ!」
「ちょっと、ねねねおねーさん。魔法の杖に関してのお話はどうしたのさ」
苦笑を浮かべるジンにねねねは笑顔で言う。
「忘れてた!」
そして始まる最後の情報開示。
とはいえ、ほとんど動かなかったなかったねねねたちが見聞きしてきたことなどはほとんどない。
ただし、清麿の殺害の前後の状況などだけでもジンにとってもルルーシュを疑うには十分に過ぎた。
そしてさらには清麿の残したダイイングメッセージ。
「ところでねねねおねーさん。いや、これはスカーかな? どちらにせよ遺体をちょっと荒らしすぎ。墓掘り人には手間だよね、こりゃ」
清麿の遺体を、胸のダイイングメッセージを眺めながらジンは言う。
彼のいうとおり、清麿の遺体はというより彼の衣服は乱雑に扱ったのか大きく乱れていた。
少なくともルルーシュが黒だとしても彼は少々うっかりなところがあるにせよ、基本冷静な少年だ。こんなあからさまな衣服の乱れを見逃すとまでは考えられない、筈だった。
「いや、あたし達が見つけた時はすでにこうだった」
「……ん?となると……」
「ど、どうしたのだ? 二人とも」
ジンとねねね二人から視線を向けられてガッシュは慌てる。
ただ、二人が思い浮かべているのは別の人物だ。
ガッシュの仲間で清麿を知る対主催。
現状、ただ一人単独行動をとっていると思しき男カミナのことを。
「……となると」
おそらくねねねやスカー、そしてドモンが見たという機械はカミナが乗っていたのだろう。
そして清麿の遺体とそのダイイングメッセージを見つけ、ルルーシュを追おうとしたであろうカミナをねねねたちから奪ったラガンに乗ったヴィラルが襲撃。
このことからもルルーシュとヴィラル達は手を組んでいるのだろう。
―――あるいは。
「なるほど、ギアスね」
ねねねからもたらされたもう一つの情報。
それは生き残りの参加者達の大まかなプロフィールと特殊能力に関してだった。
時間が惜しいということで、仲間10人分、ねねねたちやスパイクたちとカミナのものは省略したが残り5人のマーダーの情報。
その中でもルルーシュに関してのプロフィールと特殊能力はジンのこれまでの疑問を埋めるには十分すぎるものだった。
一度限りの強制命令権。
おそらく、ニアがマタタビを殺害するに至ったのもそのせいだろう。
「それにしても……推理だけでギアスの能力にあたりをつけるなんてスパイクもなかなか……あいつがまじめな賞金稼ぎならオレの手首も手錠と仲良しになっちゃうね」
そうジンは苦笑いを浮かべる。
「―――あたしが知っているのはこんなところ。さて、じゃあそろそろ出発すっか!」
「オーケー。早くカミナを見つけないとね。さもなきゃ、この血塗れパ―ティのほうがいいなんて言う偏屈者は放っておいてもせっかく盗んだパーティの参加者が10人にも届かなくなっちまう。やっぱりパーティーは大きいほうが面白いしね!」
「清麿……見ていてくれ。私は必ず立派な王様になって見せるのだ!」
「……もうだれも死なせん! このキングオブハートの名にかけて!」
「……」
清麿の埋葬を済ませ、彼が眠る小屋を五人は後にする。
まずはギルガメッシュ達との合流を。
カミナとの合流を。
マーダーたちの撃破。
螺旋王をぶっ飛ばす。
そして目指すはHappyEndを。
作家 菫川ねねね
王ドロボウ ジン
キングオブハート ドモン・カッシュ
負を追い払う剣 スカー
魔物の子供 ガッシュ・ベル
英雄王 ギルガメッシュ
賞金稼ぎ スパイク・スピーゲル
螺旋の力に目覚めた少女 小早川ゆたか
Hime 鴇羽舞衣
グレン団リーダー カミナ
(センセ、清麿、フォルゴレ、明智、イリヤ。見ていてね。この十人であたしが、菫川ねねねが描く最高のHappyEndを!)
ねねねは最高の物語を書き上げることを誓ったのだった。
【C-6/民家・門前/二日目/昼】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷 、疲労(中)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式x16(食料、水半日分消費、うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])
【武器】:偽・螺旋剣@Fate/stay night 、王の財宝@Fate/stay night、短剣
ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム
【特殊な道具】:オドラデクエンジン@王ドロボウJING、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、
ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4、ヴァッシュの手配書@トライガン
【通常の道具】:鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、サングラス@カウボーイビバップ
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)
衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、赤絵の具@王ドロボウJING
【その他】:予告状のメモ、清麿メモ 、ガンメンの設計図まとめ、がらくた×3、
柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)
首輪×4(つかさ、シンヤ、パズー、クアットロ)
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:ギルガメッシュたちとの合流。
2:その後何人かのメンバーでカミナの探索。
3:ヨーコや清麿達の死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※ねねねからルルーシュの能力に関する詳細を聞きました。
※ねねねからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。
※ドモン、舞衣、ゆたか、ねねね、ガッシュと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※清麿を殺したのはルルーシュだと判断しました。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※高嶺清麿の遺体は埋葬されました。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(大)、頭にタンコブ、強い決意 深い悲しみ、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9、([全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】:巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】:テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】:剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】:アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:螺旋王を倒す。清麿亡き後も夢を捨てない。私は、やさしい王様になるッ!!
1:ねねね達と一緒にジンの仲間と合流。
2:カミナの探索に加わりたい。
3:東方不敗を警戒。 ギルガメッシュに少し警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナ、ねねね、ジン、ドモンと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※ギルガメッシュとはまだ情報交換をしていません。
※清麿を殺したのはルルーシュだと判断しました。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、強い意志、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:ギルガメッシュと合流する
2:ギルガメッシュに自分の計画に必要なもの(小説・イリヤスフィール(ry)を奪われたことを正直にはなす。できれば協力を促す。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
5:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
6:全てが終わったら、清麿の代わりにガッシュを王にしてやる。
[備考]:
※読子を殺害したスカーを許し堪えることを選びました。スカーの罪、その理不尽は許していません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
※清麿殺害の犯人、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』を持ち去ったのは、ルルーシュだと考えています。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)
【武器】:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実、イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、
ワルサーWA2000(4/6)@現実、ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、水鉄砲、短剣×4本
【特殊な道具】:ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡の欠片x2(3つで揃う)@金色のガッシュベル!!
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん
【通常の道具】:USBフラッシュメモリ@現実、タロットカード@金田一少年の事件簿、暗視スコープ、単眼鏡、鉄の手枷@現実、
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
シアン化ナトリウム、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
【その他】:マース・ヒューズの肉片サンプル、清麿の右耳、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
首輪×3(クロ、アニタ、キャロ)、解体済みの首輪×2(エド、エリオ)、首輪のネームシール(清麿)
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
1:ジンの仲間と合流。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
3:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
4:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、やや強めの罪悪感、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
1:ジンの仲間たちと合流する
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:カミナを探し、ニアを守れなかったことを謝罪したい。
5:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
※シータの持つヴァルセーレの剣の危険性を認識しました。
※ニアをカミナの関係者だとは確認しました。
[lonely soul]
「……何だよ、いったいここは」
苛立ちを抑えきれず、カミナは苦々しい表情で呟く。
気がついた時、カミナは自分の手足が認識出来ない程の暗闇の中に放り込まれていた。
声の反響と土の湿りもなく、おおよその見当もつかない。
壁伝いに歩いてかろうじて四方形の密室の中にいることが分かったが、肝心の出口はどこにも見当たらなかった。
「いったい、どうなってやがる!?」
ハッキリとしない状況に、苛立ちが積もる。
記憶が確かなら、カミナはグレンのコクピット内でヴィラルたちに度胸試しを挑んでいたはずだ。
しかし、いつの間にかカミナは独りぼっちになっていた。
「俺は、負けたのか?」
ふと、思いついたことをそのまま呟く。
今の状況が、ヴィラルたちに敗北した結果だと仮定すし――カミナは即座にその可能性を打ち消した。
あの状況で何が起こったのかは分からなが、ヴィラルがカミナを殺さずに監禁するのは不自然だ。
「それじゃあ、何だってんだよ」
答えの分からないもどかしさに、カミナは折れた剣で壁を斬りつけた。
キィッっと、金属を引っかく音が響く。
構わず、カミナは壁を斬り続ける。
「クラミラ! いねぇのかよ! 居たら返事くらいしやがれ!
ヴィラル! 俺はここにいるぞ! 出てきてさっさと勝負しろ!」
怒声を上げ、不安を切り払うかのようにカミナは折れた剣を振るう。
埒が明かないことは分かっていたが、それ以上にどうしようもなかった。
しばらくして息が切れ、カミナは肩で息を整える。
同時に、頭が勝手に色々と憶測を並び立てる。
――糞っ! 体を動かしてないと余計な事まで頭に浮かんできやがる。
ひょっとして、自分は死んだのか?
それとも、ここで野たれ死ぬのか?
ニアや、ガッシュや、クロミラは――もう、死んじまったのか?
「ふざけんな!」
頭に浮かぶ空想を一喝して、カミナは改めて折れた剣を正眼に構える。
暗闇で見えない正面の壁を見つめ、怒声を張り上げた。
「地下生まれの、地下育ちの、地下暮らしを、舐めるんじゃねぇぞ!」
考えをシンプルに纏める。
要はさっさとこの得体の知れない空間から出る。
それだけのことだ。
「こんな壁、大穴空けてやらぁ」
「力が欲しいか?」
ピタリと、カミナが身動きを止めた。
三重の驚きを顔に貼り付け、ガバッと後ろを振り向く。
驚きの一つは、この暗闇の中に自分以外の人間がいたこと。
もう一つは、何故このタイミングまで黙っていたのかということ。
そして最後の一つ、この声は――
「東方不敗の、ジジィ!」
「力が欲しいなら、くれてやろう!」
「うおっ眩し!」
どこからともなく聞える東方不敗の言葉と共に、暗闇が一転して目が眩むような光に覆われた。
カミナは咄嗟に東方不敗が襲い掛かってくることを予想して、目を閉じ身構える。
だが、予想に反して攻撃が訪れる気配はない。
戸惑いながら、カミナは目が光に慣れた頃にゆっくりと目を開いた。
「……これは、ガンメンか?」
目を開いたカミナの眼前には、鋼鉄の巨人が片膝立ちの姿勢で鎮座していた。
特徴として、見るものが見れば仏像を思わせるような流麗なラインと、額から伸びる黄色いアンテナ。
ネオジャパンが誇る、ガンダム・ザ・ガンダム。
「ドモン・カッシュが愛機よ、名をゴッドガンダムという」
ゴッドガンダムの肩アーマーの上に、東方不敗は威風堂々と立っていた。
相変わらずの紫を基調とした衣服に変幻自在の武器となる腰布、前回とは違いボロボロのマントを首元に巻いている。
迷わず睨み付けるカミナに、東方不敗はニヤリと笑みを返す。
「もう一度言おう。力が欲しいなら、くれてやる!」
■
時は少し遡る。
手合わせをした東方不敗とチミルフの戦績は二勝一分け、二勝が東方不敗だ。
もっとも余興の言葉通りに互いに本気を出すことはなく、むしろ回復した体の調子を確かめる演舞のようなもの。
儀式が終了した時にこそ今度は全力で戦うことを誓い合い、互いに満足行く結果となった。
「そしてお主は特典として資料と、己が愛機を要求したと」
「そう嫌味たらしく言うな。無知のままで足を引っ張ることになるよりはマシだろう」
薄暗い、計器類の並ぶ一室。
そこには東方不敗と、不動のグアームの姿があった。
「それはそうだがのう。まあ資料の方は少々待て、同じものを作るにしても時間はかかる」
「分かっておる、だからこそ先にマスターガンダムの引き上げを頼んだのだ」
「まあそれはいいんじゃが……ところで、こいつはどうするかの?」
「……さて、な」
こいつ、の所でグアームは自身の正面に浮かぶモニターを指差す。
モニターの中では、カミナが壁に折れた剣を振るい続けていた。
グアームはため息をつき、どこからともなくキセルを取り出して口にする。
「しかし、ショッピングモールのコンテナ内に転送されるとは……運がいいのか悪いのか」
ショッピングモールにある、機動兵器の収められた無数のコンテナ。
その一つ、ゴッドガンダムが収められたコンテナの中にカミナは閉じ込められていたのである。
暗がりでゴッドガンダムに気がついていないのは、馬鹿というか間抜けというか運が悪いのか、判断に困った。
「しかし、またどうしてこんなピンポイントに……」
制限の掛けられているはずの魔法が螺旋力で増大され、普通は中に入ることの出来ない場所に送り込まれたのか。
転送対象が螺旋力に覚醒していたことも問題かもしれなし、ひょっとしたら相互作用の可能性もあるだろう。
元々、内への転送が制限されていなかったというのも考えられる。
「まあ理由は後々考えるとして、問題はこのニンゲンをどうするかだ」
見殺しにするという選択肢は、ない。
これから会場にいる参加者たちは、アンチスパイラルを召喚するための供物になってもらわねばならないのだ。
既に会場にいる人間に限りがある以上、無駄死にをさせる訳にはいかない。
「と、するとだ」
キセルをスパスパさせながら、グアームは思案する。
ショッピングモールのコンテナ群は、空港のコンテナ群とまったく同じシステムだ。
つまりコンテナを開けるのだとしたら、外部からの操作という手段がある。
「しかし、会場に我らの内の誰かがコンテナを開けんとならんだが……」
つまりは、第三者の痕跡を残すということになるのだ。
過度の心配かもしれないが、出来る限りリスクは減らしておきたいというのがある。
こちらに一度転送して、また会場に送り返すという手段も同じ意味で保留だ。
どうしたものかと思案するグアームに、ポツリと東方不敗は囁いた。
「自力でコンテナを破らせるというのはどうだ?」
その言葉に、グアームは眉根を寄せる。
コンテナは、螺旋王の手順通りにせねば開かない仕掛けになっている。
そして、その仕掛けに業を煮やした参加者が力技に出ても対応できるようにと頑丈に作られている。
カミナの居るコンテナ内にある、ゴッドガンダムを使用したとしても無理だと言わざる終えない。
――そもそも、あの馬鹿がゴッドガンダムの存在を気づくとは思えんのだがな。
グアームの呆れた顔を察して、東方不敗は含み笑う。
その顔は、どこか新しい玩具を見つけた子供に似ていた。
「そうだな、まずは光源が必要か……首輪が無いことも悟られぬようにせんといかん」
「安心しろ、儂は儂に求められた役目を果たそうとしているだけよ」
■
「体さばきが出来ておらん! もっと早く反応するのだ!」
「一々うるせぇんだよジジイ!」
東方不敗の言葉に、カミナは怒声と剣で応えた。
しかし東方不敗はその一刀を余裕を持って避け、隙の出来たカミナに一撃を入れる。
既に、幾度となく繰り返されている光景だ。
「心、技、体。心は精神を表し、技は技術、体はその身体を言う。
体は合格点をくれてやろう。そこらの軟弱者よりもしっかりとした体つきだ。
次に技術、これは及第点だ。もっと盗め、もっとだ!」
「うるせぇってんだろ!」
力が欲しいなら、くれてやる。
その言葉の意味を、カミナは無理やりに理解させられていた。
目の前の老人は、カミナに稽古をつけているのだ。
「なんでこんな真似しやがる! お前にいったい何の得があるってんだ!」
「それは貴様の修行が完成したら教えてやると言ったぞ!」
この問答も、既に幾度となく繰り返されている光景だった。
――ふざけるなよ、糞ジジイ!
カミナにとって、この状況は苦痛の一言だ。
元々押さえつけられることが大嫌いな性分だということもあるが、目の前にいるのはヨーコとビクトリームの敵。
今すぐブン殴って土下座させても溜飲の下がらない相手、だが――
――当らねぇ! 掠りもしねぇ!
剣をメインに、時に拳や蹴り、頭突きなども織り交ぜた。
だがそのことごとくを東方不敗はいなし、至らぬ点を矯正する。
まるで、子供と大人だった。
「ド畜生ぉ!」
かつてない程の悔しさに、カミナは形振り構わず攻勢を強める。
以前戦った時は、これ程に戦力に差はなかった。
だが東方不敗が以前より回復していることと――カミナが一人ぼっちでいることが、致命的な差を作り出していた。
「ハッキリと言ってやろう、貴様に足りんのは心だ。青く、未熟な安定しない精神、故にこうなる!」
「ぬおっ!」
剣の突きを、東方不敗は腕ごと絡め取って投げ飛ばす。
投げ飛ばされたカミナは器用に空中で体勢を整え、受身を取って着地した。
そのままゴロゴロと転がって距離を稼ぎ、東方不敗と対峙する。
「貴様は、まだヨーコという小娘が死んだことを真実として受け止めておらんようだな」
「俺は、この目で見たことしか信じねぇだけだ!」
「それが青いと言っている! 貴様はただ駄々を捏ねている子供と同じだ!」
「てめぇが! 俺に言うことかぁ!」
怒りにまかせて、カミナは再び東方不敗に飛び掛る。
結果はなんとなく見えていたが、それを認める訳にはいかなかった。
「一つ、貴様に教えてやろう」
――うるせぇ!
「明鏡止水。わだかまりや、やましさのない、澄んだ心、それは人に己を超えた力を与える」
――うるせぇ!うるせぇ!
「曇りのない鏡、静かに湛えた水のごとき心。それが儂に勝つための唯一の方法だ」
――うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!
「もっとも、儂の言葉に耳を貸さぬようでは絶対に叶わぬだろうがな!」
数十回にも及ぶラッシュを東方不敗は講釈しながら避け、それが終わると一回の攻撃でカミナを遠くに吹き飛ばした。
床を転がり、うつ伏せの状態で止まる。
惨めだと、カミナ自身が深く感じていた。
――まったく、一人になった途端この様だ。
――相手は圧倒的で、俺のことを敵とすら見ていない。
――俺は訳も分からず、ジジイに翻弄されてるだけだ。
「……それでもよ、折れる訳にはいかねぇんだ」
呟き、ゆっくりとだが立ち上がる。
先ほどの一撃で頭部に傷を負ったのか、額から血が一筋伝う。
ちょうどいい、頭が冷える。
「折れる訳にはいかねぇんだよ! 俺の、この意志だけは!
ここで逃げちまったら、折れちまったら、俺が俺でなくなる!
シモンの背中に、ヨーコや、ビクトリームに笑われる俺になっちまうんだよ」
それは、カミナの強がりの根幹だ。
泥を被っても、地べた這いずり回っても、守るべき――
「ならばその意志、試してやろう」
その言葉と同時に、カミナは悶絶した。
いつの間にか東方不敗がカミナの懐に飛び込み、腹部に拳をめり込ませていたのだ。
常人以上の力で押し込まれた即効性のボディブローに、カミナの意識が止まる。
「青さもここまでくれば一級品よ。だが、それでも儂の目的に届かぬ以上はズパルタに行かせてもらうぞ」
■
「……待て待て待て待て待て待て!」
次にカミナが目を覚ました時、最初に目に入ったのは迫り来る黒い天井だった。
慌てて起き上がり、間近に迫っていた天井を押し上げようとして――それがゴム状の膜だと気がついた時は手遅れだった。
まず支えようとした両手がゴム状の膜にめり込み、続いて頭から体全体を覆うように幕が降りてくる。
上からの圧力が凄まじく、危うく膝を着きそうになるが――
『ふん、所詮その程度か』
聞こえてきた声に、迷わず意地を張る。
しばらく耐えていると黒い幕は床まで到着し、その後には黒い全身タイツのようなものを来たカミナが残っていた。
『それはファイティングスーツ。モビルファイターを動かすために必要なものだ』
「っ! どこだジジイ!」
声の出所を探してカミナを左右を見回し――自身がどこにいるのか、なんとなく理解した。
ゴッドガンダムのコクピット。所々の特徴が、ドモンの話と一致していた。
だが、何故俺が?
『これも、修行……いや、儂の目的のためと言った方がいいか』
再び、東方不敗の声が聞こえた。
カミナは耳をすませるが、声は一定の方向から聞えず混乱する。
『モビルトレースシステム。このシステムには、パイロットの感情を機体にフィードバックさせる機能がついている』
『さて、ここで問題だ』
『常人以上の力を引き出す、螺旋の力。それがこのシステムと交われば、どうなると思う?』
『欲を言えば、明鏡止水の境地も加えたいところだが――』
「流石にそれは、欲張りというものか」
後ろからの、ハッキリとして言葉に振り返る。
同時に東方不敗がゴッドガンダムの横をすり抜け、カミナの持っていた剣でアンテナを切り落とす。
「痛ぇ!」
「ガンダムへのダメージは、そのまま貴様へのダメージとなる! 覚えておけ!」
「この野郎!」
咄嗟に手を伸ばすが、東方不敗を捕まえようとしたその手を空を泳ぐ。
つい先ほどと、まったく同じだ。
「どうした、拳は使わんのか?」
「何度も言わせんな!」
この期に及んでも、カミナは意地を押し通していた。
東方不敗は、その愚直な信念に感嘆する。
いくら東方不敗とて、生身でガンダムの攻撃を食らえば即死しかねない。
故にガンダムで東方不敗を殺さずに敗北させるには、捕らえることしか選択肢はないのだ。
「だが、モビルファイターは搭乗者の技量をそのままフィードバックする。
生身で儂に触れることすら出来なかった男に、それが出来ると思っておるのか!」
「やってみなきゃ、分かんねぇだろうが!」
それからの戦闘は、双方にとって予想通りのものになった。
カミナが東方不敗に手を伸ばし、東方不敗はその手をすり抜け、回避する。
東方不敗は体術と話術を巧みに使いこなし、カミナは東方不敗が何人もいるかのような錯覚に陥っていた。
「怖かろう。悔しかろう。例え鎧を纏うと、心の弱さは守れないのだ!」
「何が、心だ!」
空中に浮かぶ、無数の東方不敗に向けて手を伸ばす。
だが伸ばしたその手は東方不敗をすり抜け、カミナはゴッドガンダムごと壁に衝突した。
閉じかけていた額の傷がまた開き、出血が強まる。
「惨めよのう……何故貴様がここまで弱いか、教えてやろう」
「黙れ!」
「貴様はな、仲間がいてこそ力を発揮するタイプよ」
しえーん
仮投下スレにきてるぞ。
356 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 10:31:07 ID:m2S5pQ0T
不死の少女を消し去り、世界を一色に染め上げた光が消える。
同時に、紅蓮を放った白銀の竜はその役目を終え静かにその姿を隠した。
そして、残ったのは戦場の名残。
目に映るのは、削り穿たれた大地。
鼻をつくのは、焼け焦げた風の匂い。
耳を打つのは、先の乱戦が嘘のような静寂。
そして、その中心には力なく横たわる赤毛の少女一人。
残された者たちが見守る中、少女が今静かにその息を引き取ろうとしていた。
その光景に、取り残された者たちは語るべき言葉を持たず。
ただ心中で失われしモノたちに想いを馳せる。
鴇羽舞衣は自らの手で奪ったモノ、失われたモノの重みを噛み締め。
スパイク・スピーゲルは何もできなかった、自身の不甲斐なさに歯噛みし。
小早川ゆたかは度重なる喪失に心揺れながらも、強い決意でそれを堪えた。
誰も動かず、時が止まってしまったように沈黙する世界。
それを打ち破り動き始めたのは、横たわる赤毛の少女と最後に言葉を交わした金色の王だった。
ギルガメッシュは横たわる結城奈緒が完全にこと切れた事のを見届けると、それまで向けていた視線を少女から外し周囲に向けた。
そして辺りをぐるりと一瞥し何かに気づいたのか、紅蓮の相貌を僅かに細める。
「ん? 王ドロボウの姿が見えんな。それに、あの小娘が持っていた我の財も見当たらん。
ヤツめ……まったく、手間をかける。
王ドロボウはともかく我の財はこの手に納めておかなければならん。いたし方あるまい、迎えに出るか」
言って、心から面倒だと言わんばかりの態度で溜息を一つ。
そのままギルガメッシュは何の未練もない足取りで、歩を前へと進めた。
■鴇羽舞衣―――――――――想い
「――――ま、待って」
だが、ギルガメッシュが踏み出した直後、その背後に静止の声がかけられる。
少女の呼びかけに動きを止めた王は振り返りもせず、声の方向に視線だけで応えた。
王の双眸に捕らえられたのは、巨竜を召喚せしめ、不死者を殺した少女、鴇羽舞衣の姿だった。
茜色の髪をした少女を射抜くのは驚くほど冷たい真紅の瞳。
その瞳に捉えられただけで、全身が凍てついてしまいそう。
「奈緒ちゃんを……このままにしておくつもり?」
極寒の視線にも負けず舞衣はハッキリとそう告げた。
その舞衣が見つめる先には、先の戦いにおいて力尽き物言わず力なく横たわる少女。
舞衣にとっては同じHiMEという運命を背負わされた戦友でもある。
野晒しのまま、自身の生み出した血だまりに沈む姿はあまりにも哀れだ。
「そうだが、それがどうした?」
事も無げに放たれたその答え。
舞衣を見つめる瞳と同じくにべもない。
あまりに冷たいその答えを聞き、舞衣は信じられないようなモノを見る目で男をつめた。
舞衣は奈緒とギルガメッシュがどんな関係だったのかは知らない。
けれど、ギルガメッシュについて語っていた奈緒からは温かみのようなものが確かに感じられた。
だというのに、この男の態度からはそういった感情が一切見て取れない。
そう思えば、自然と奥底から怒りのような感情が奥底から湧きあがってきた。
「それがどうしたって……あなたねえッ!
あなたこそ、どういうつもりよ!
こんな状態のまま奈緒ちゃんを放っておくだなんて。
あなたは……奈緒ちゃんの事、大事に思ってたんじゃないの?」
怒りとともに、そうであってくれという願いをこめた問いかけ。
だが、それを受けたギルガメッシュの反応は冷ややかだ。
「奈緒は我の家臣として悪くない働きをした。その功績も価値もこの我がしかと認めよう。
だが、それがどうしたというのだ? いかな価値があろうとも、死んでしまえばそれまでだろう?」
怒りにも似た舞衣の感情は届かない。
ギルガメッシュは傍らに横たわる奈緒を見向きもしない。
金色の王は少女の死に対してあまりにも淡泊だ。
「……ちがうわ、それまでなんかじゃない」
「何が違う。
死には等しく価値はない。無価値なものに送る手向けもあるまい?
女。貴様が喚いたところで何が変わるわけもあるまい?」
「確かに何も変わらないかもしれない。
でも何も変わらなくても、いなくなってしまった人たちのために、できることがあるはずよ」
何もできないなんて悲しいことがあるはずがない。
散っていった彼らのために、何かできることがあるはずだ。
舞衣はそう信じている。
「は。ならばどうする? 泣くか? 嘆くか? いっそ死ぬか?
それに何の意味がある。たとえ七日七晩涙に暮れようとも死者は蘇りなどせん。
死者への弔いなど時間の無駄だ、捨て置け」
ギルガメッシュは破顔しながら、舞衣の言葉否定する。
「ちがう! 無駄なんかじゃない!」
そんな英雄王の言葉を打ち消すように舞衣は叫んだ。
死んでしまったら無価値だなんてそんな価値観はどうあっても受け入れられない。
その人がいなくなってしまえば、想いも消え去ってしまうというのか?
死んでしまえば想いも死んでしまうのか?
それはちがう。
「―――そうだ。無意味なんかじゃない。
例えあなたの言うとおり、死が無意味なものだったとしても、残されたものは無意味じゃない。
その人がいなくなっても、その人と過ごした想いは残る。
だから、その想いのために、できることはあるはずよ」
万感の思いを籠めて舞衣は告げる。
例え何があったとしても。
その人と過ごし、抱いた想いは決して消えない。
悲しみはどうしようもなく胸に残る。
けれど、同時にその人への想いも強く胸に残る。
例え、死に意味はなくとも、その人が残したものには意味がある。
なつきや会長、奈緒ちゃん達と共にと風華で過ごした思い出は消えない。
一時ではあったがシモンたちと出会い感じた想いも消えない。
そして彼を想ったこの心は、今だってこんなにも熱くこの胸に燃えているのだから。
この想いを無駄になんかできるはずがない。
互いの視線が交わる。
舞衣は死者を尊ぶべきものと訴え。
ギルガメッシュは死者を無価値と弾じた。
絶望的なまでの認識の違い。
互いの主張は交わらない。
「――――いや、そいつの言うとおりさ、舞衣」
平行線をたどる主張の応酬に、斜め横から声が割り込んだ。
向けた視線の先に立っていたのは宇宙を駆ける賞金稼ぎ、スパイク・スピーゲル。
色違いの瞳で向けられた四つの瞳を見返しながら、まるで夢でも見るような声でスパイクは言った。
「死んじまった女のために、出来る事なんてないさ――――」
■スパイク・スピーゲル――――醒めない夢
言い争う二人の間に割って入ったスパイクから告げられた言葉は、以外にも舞衣を否定し、ギルガメッシュを肯定する言葉だった。
「どれだけ弔ったって、死んじまった奴のためになんかなりゃしねえさ。
あるのは生き残ったやつの自己満足だけだ」
スパイクはレッドドラゴンに所属していたころから、死んでいく人間なんて腐るほど見てきた。
組織を抜け賞金稼ぎになってからも、ここに来てからもそれは同じだ。
欲望のまま死ぬ人間がいた。
理想のために死ぬ人間もいた。
愛のために死んだ人間もいた。
夢を見たまま死んでいった人間もいた。
どいつもこいつもみな、自分勝手な理由で死んでった。
死んじまった以上、そいつらが報われることはない。
「けどな、だからこそ必要なんだ。
生きてるやつが死んじまったやつに踏ん切りをつけるためにな。
弔いってのはそういうもんだ、あんたは違うのか、ギルガメッシュ?」
死んだ人間を忘れないために。
あるいは、死んだ人間を忘れるために。
弔いとは、そのために必要な儀式だ。
過去と死者のためではなく、未来と生者のために。
「愚問だな。死者への弔い? 過去との決別? 笑わせる。
たとえ何があろうとも、それはすべて己が行動の果ての結果にすぎん。
まったく、貴様らのような雑種どもは、そのようなものに縋らねば前にも進めぬとは、愚かしいな」
スパイクを見下すようにギルガメッシュは告げる。
平等なる王は、死者も生者も等しく嘲笑っていた。
「……じゃあなにか? お前にとって、これまでのことも、今奈緒が死んだのも、ただの結果だってのか?」
「当然だ。どのような結末であれ受け入れられずして何が王か」
堂々とギルガメッシュは断言する。
余りにも迷いのないその態度に、スパイクは苛立ちを隠せず、奥歯をギリと噛み締める。
「……浮かばれねえな。
確かに奈緒は、生意気で、跳ねっ返りのクソガキだったさ。
けどな、テメェみたいなやつに追いつこうとしてあいつは逝っちまった。
俺には、それが気に喰わねえ」
そう言って、スパイクは怒りと苛立ちの混じった目でギルガメッシュを睨み付ける。
対するギルガメッシュは告げられた言葉を噛み締めた後、氷を張り付いけたような無表情を崩して、初めて人間らしい感情を露わにした。
「ク――――ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
高らかに轟く嘲笑の声。
それは愉悦。
心の底から愉しげに、ギルガメッシュは一人愉悦に浸っていた。
「この我と並ぶ!? なるほどそうか!
アレもずいぶんと身の程をわきまえぬ願いを持ったものだ!
ならば、この結末も当然の末路であったということか!」
周囲の状況も一切意に介さず、礼節も尊厳も弁えぬ態度でギルガメッシュは笑いを上げる。
そのあまりに突然な態度の変化に、スパイクは訝しむというより理解できないといった表情でギルガメッシュを見据えた。
「……何がおかしいってんだ?」
ただ己のためだけに笑い続けるギルガメッシュは、割り込んだ疑問の声に、初めてそこにいることに気づいたような態度で視線を向けた。
「よいか、人にはそれぞれ身の程というものが存在する。
この我に並び立とうなど身の程知らずも甚だしい、愚者の所業だ。
それを弁えず、己が領分を越える願いを持てば滅びは必然であろう?」
まるで、死んで当然だったと言わんばかりの傲慢な言に
思わずスパイクはギルガメッシュに迫り、その肩に掴み掛かる。
だが、眼前に迫ったところで、掴み掛かるべき片腕がないことを思い出した。
それで激昂した頭が冷えたのか、スパイクは大きく舌を打ちながらも、後方に引き下がった。
「お前は大事なもんがなにも見えてねえ、夢の中で踊ってる裸の王様さ。
夢なら一人で見な、ギルガメッシュ」
そして離れ際、スパイクはギルガメッシュを睨み付けながら吐き捨てるようにそう告げた。
それに対し、ギルガメッシュが返すのは同じく吐き捨てるような笑み。
「は。何を言うか。
夢を見ているのは貴様のほうではないのか?」
全てを見透かすような真紅の瞳が互い違いの色をした瞳を見据える。
自分の心中を指されたような言葉にスパイクは息を呑む。
だが、それも一瞬。
すぐさま落ち着きを取り戻し、どこか達観したような声でギルガメッシュに告げる。
「――――そうさ、俺はずっと醒めない夢でも観ているつもりだったんだ」
いや、その声は目の前のギルガメッシュに語られたものではなかった。
遠くどこかに思いを馳せるように、夢でも見るようにスパイクは言葉を紡ぐ。
「事故で片目を失ったあの日から俺は、失った目で過去を見て、もう一方で現在を見てた。
目に見えてるものだけが現実じゃない、そう思ってた」
ふと夢から覚めても、また夢の中。
玉葱を剥き続けるようにどこまでも夢。
いつまでも現実に辿り着かない。
事故で片目を失ったあの日からずっと、そんな醒めない夢を見続けていた。
だから、殺し合いなんて馬鹿げた事態も。
紙使いなんていう訳のわからん能力を使う女も。
この世の終わり見たいに暴れまわる巨大ロボットだってそうさ。
不思議なことなんて何もない。
夢を見てるんだ、醒めない夢を。
そう思って、怠慢に目の前の事態を受け入れながら他人事のように生きてきた。
本当の俺は死んじまって、今の自分は死んじまった自分が見てる長い夢みたいなもんだと。
ずっと、そう思ってたんだ。
「けど――――夢は、いつの間にか醒めちまってた」
あるドラ猫がいた。
その猫は好きでもない飼い主達に飼われながら、100万回死に100万回生き返って100万回生きた。
猫は死ぬのが怖くなかった。
あるとき、猫は自由な野良猫だった。
そいつは一匹の美しい白猫に出会った。
白猫と一緒に幸せに暮らし、ねこは初めて生きたいと思った。
やがて月日が経ち、白猫は年をとって死んじまった。
ドラ猫は100万回泣いて、そして死んだ。
猫はもう、生き返らなかった。
意味のない夢は終わりだ。
醒めない夢の終わりに、残ったのは現実だけだ。
みな死んだ。
リードマンも。
カレンも。。
ヴァッシュも。
Dボゥイも。
シータも。
ニアも。
かがみも。
奈緒も。
ジェットも。
エドも。
ビシャスも。
「もう夢なんてみちゃいねえさ。
俺が今、見てるのは現実だ」
死んじまった猫はもう生き返らない。
片腕がもげちまったこの傷も。
みんな死んじまったのも。
どれもこれも現実だ。
戻ることはない、一度きりの現実だ。
一度きりだから明日を願う。
過去と現在を見つめていた瞳は未来を見たいと願っいた。
言いたいことを言い切ったのかスパイクは大きく息を吐く。
そしてギルガメッシュに背を向け、そのまま横たわる結城奈緒の下まで近づいていった。
「――――さて。とりあえず穴でも掘るか、手伝えよ舞衣」
■小早川ゆたか―――――――悲しみを越えて
スパイクと舞衣は黙々と穴を掘っていた。
そんな二人の姿を興味なさ気にギルガメッシュは見送る。
そして、体力的な面を考慮してか、スパイクは彼女に声をかけられることのなかった少女、小早川ゆたか。
結果二人取り残される形になった。
「あなたは――――」
それまで沈黙を保っていた少女が声を上げた。
墓穴を掘る二人を見つめ立ち尽くすギルガメッシュの様を見て、思わず疑問が口をついていた。
「――――あなたはそれで、悲しくないんですか?」
そのままでは辛いのではないかと、少女は王に問うた。
「なにを言うかと思えば。馬鹿らしい。
そんな下らん感情は我の中にあるはずもなかろう」
王は涙を流すどころか、悲しむ素振りすら見せない。
それはおそらく強がりや虚勢の類ではないのだろう。
ギルガメッシュはあらゆる負の感情とは一切無縁だった。
だが、目の前で親しい人間が死んでしまって。
それが、悲しくないはずがない。
「わたしは、とても悲しいです」
少なくともゆたかは悲しい。
思い出すだけで、また胸にポッカリ空洞が空いたような虚しさが到来する。
先輩と後輩の間柄とはいえ、ともに日常を過ごしたかがみが目の前で消失したのは酷く堪えた。
小早川ゆたかが過ごしてきた世界は、平和な世界だった。
変わらぬ日常で、昨日と明日のわずかな変化を楽しみながら生きる平和な世界。
もちろん世界に争いがなかった訳じゃない。
小さな争いは絶えなかったし、遠い異国の地では人々は戦争に明け暮れていた殺し合い。
救いの手が行き届かないまま、病気で死に絶える人も多くいる。
それはゆたかだって知っている。
いや、彼女だけじゃない、誰だって知っていることだ。
だがそれも、彼女達にとっては遠く彼岸の出来事だ。
紙面や映像で知ったことを実感することもないまま、理解したつもりになっていた。
人は死ぬ。
誰だって誰かが死ねば悲しい。
それが親しい人間ならば尚更だ。
そんな、当り前のことすら知らなかったんだ。
言葉だけでわかってるつもりになっていただけだ。
ここに来るまで、そんなことすら知らなかったんだ。
たくさんの人が死んでしまった。
姉のように慕っている人がいた。
頼れる力を持っている人がいた。
強く憧れを抱いている人がいた。
全てが喪われ、弱い自分は今にも泣いてしまいそうで。
だけど、どれだけ悲しくとも、泣くことは許されなかった。
立ち止まることなど許されるはずもなかった。
なぜなら彼女の手もまた、悲しみを生み出してしまった。
彼女はそれに報わなければならない。
失ってしまったものは戻らない。
彼らの代わりは誰も成せない。
彼女にはそんな力もない。
だけどせめて、最大限自分できることはやらなくてはならなかった。
立ち止まるわけにはいかない。
歯を食いしばり、涙を堪えて、ただひたすらに前に進む。
それが彼女にできる精一杯の誠意だった。
「ふん。人を降ろしつまらぬ罪罰に迷うか。
よいか小娘。そんなものは捨ててしまえ、その手の苦しみは見ていて楽しくもない。
幼童ならばそれらしく、我の威光に目を輝かしていればよい」
その様子をつまらなさげに見ていたギルガメッシュは、ゆたかの強がりを一言に切り捨てる。
彼の言うとおり強がりをやめて、背負っていたものを彼に任せれば楽になれる。
それは本当なのかも知れない。
ギルガメッシュはひたすらに強く、その強さは一切の歪みを見せない。
おそらく、彼は彼女のみならず、この世全ての悪すらたやすく背負ってしまうだろう。
それでも、
「いいえ、捨てません。
私も、私にできることをしたいと思います」
この会場において最弱である少女は、最強である王に告げた。
それでも譲れぬ咎がある。
楽じゃなくても、やらなくてはならないことだ。
これまでどおり、おっかなびっくりやっていくしかないのだろう。
ゆたかはギルガメッシュに一礼して、スパイクたちの下に駆け寄っていった。
そして、最後に少し振り返る。
少女の目に映るのは独り立ち尽くす黄金の王。
何事にも動じないその強さは、憧れるといえば憧れるし。
大切な人の死を悲しむことすらできない強さは、悲しいといえば悲しかった。
■ギルガメッシュ―――――――朋友(とも)へ
三名との問答を終え、取り残されたギルガメッシュは呆れたように大きくため息をついた。
たいした道具もなく人一人埋めるとなれば、それ相応に時間もかかろう。
結論として、これ以上は時間の無駄と悟ったのか。
ギルガメッシュはスパイク達を置き去りにして、一人王の財宝を持つジンの下に向かおうと早々に踵を返した。
度重なる問答にも、一切その価値観を動かすことなかったギルガメッシュ。
その心中は常人には理解しがたい。
だが、もとよりギルガメッシュは彼らの理解など必要としていないし、全てに秀でた王は他者など必要としなかった。
この舞台で多くのモノが失われた。
それは英雄王とて例外ではないだろう。
言峰綺礼。
聖杯戦争における契約者。
愉悦を知らぬ哀れな迷い子であったが、戯れに愉悦を説いてみればなかなかに面白い男となった。
十年の付き合いになるがそれなりに退屈はしない男だった。
だが、散り際などこんなものだろう思うところもない。
衝撃のアルベルト。
戯れとはいえ彼の英雄王に地を舐めさせた男も逝った。
もう借りを返すことが叶わないというのは些かながら口惜しい。
真なる英雄王の力を見せるに相応しい男であると思ったが、死んでしまったのなら所詮それまでの男か。
藤野静留。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
この場にて家臣の契りを交わした二人も散った。
散り行く者達。
彼を残して去り行く人々。
些細なことだ。
どれもこれも一瞥するにも値しない。
別段珍しいことでもないのだ、たいした感傷もない。
王道とは孤高の道だ。
王とはすなわち超越者である。
超越者であるが故に、誰も王に並び歩むことは叶わない。
超越者であるが故に、誰も王を理解することは叶わない。
そして、神の子として生まれ、覇道を約束された彼は生まれながらにして孤高であった。
孤高とは孤独であるということ。
王は常に独り、誰にも理解されぬままその王道を歩み続けていた。
――――だが、ただ一人例外がいた。
彼を理解し、彼と並び、彼と歩んだ朋友は後にも先にもただ一人。
泥より作られて人と成った身でありながら、神の子の隣に並び立とうと背を伸ばした愚かなる道化者。
だが身の程を弁えぬその傲岸は、当然ながら天上の神々の怒りに触れ、男は神罰によって命を落とす。
泣き濡れながら息絶える彼の末期を、英雄王は今も忘れない。
なぜ泣くのか、とあのとき問うた。我の傍らに身を置いた愚かさを、今になって悔いるのか、と。
そうではない――と、彼は答えた。
『この僕の亡き後に、誰が君を理解するのだ? 誰が君と共に歩むのだ?
朋友(とも)よ……これより始まる君の孤独を偲べば、僕は泣かずにはいられない……』
そうして男が息を引き取るのを看取ったとき、唯我独尊の王は理解した。
――人の身にあって人を超えようとしたこの男の生き様は、王が蔵に蓄える財の全てと比してもなお、貴く眩いものだった、と。
そしてまた、彼に並び立とうとして死に行った者が一人。
ヒトの領分を超えた悲願に手を伸ばす儚くも眩しき愚か者。
その破滅を愛してやれるのは天上天下にただ一人、このギルガメッシュをおいて他にない。
そんな人間が再び現れたことが、ギルガメッシュにとってたまらなく愉快だった。
王はまたしても貴きモノを喪った。
だからといって、それを悔やむつもりは毛頭ない。
なぜなら、王が己が道を疑ったのならば嘘になる。
悔やんでしまったのならば、王を信じその道をたどった従者は何のために散っていったというのか?
ならば、王の成すべきことは代わらず、己が王道を突き進みその果てに螺旋王を誅す。これに尽きる。
結果、何が失われようと、何が救われようともそれは英雄王の興味の外だ。
見上げれば太陽は時期頂点に達しようとしていた。
大地を恨めしげに照らす太陽の傍らには朧気に霞む月。
僅かに肥大したその姿を認め、英雄王が舌を打ち踏み出そうとした足を止める。
いささか無駄話に時間をとられすぎたようだ。
定期放送の時間がすぐそこまで迫っていた。
終わりは近い。
まだ為すべき事は多い。
弔いなどに無駄な時間を割いている暇はない。
一刻も早く目的を果たし勝利せねばならない。
王は悔やまず。
王は退かず。
王は媚びず。
王は省みない。
それが英雄王の王道だ。
英雄王の顔に皮肉気な笑みが浮かぶ。
そして、天から流れてくる声。
ギルガメッシュはすべてを聞き逃さぬようその声に耳を傾けた。
【C-6/市街地/二日目/昼(放送直前)】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、黄金鎧型バリアジャケット
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん 、黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:ひとまず足を止め放送を聴く。
1:王の財宝回収のためにジンと合流する。
2:菫川ねねねに『王の物語』を綴らせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。
4:頭脳派の生存者、 異世界の情報、宝具、それらに順ずる道具を集める(エレメント、フォーグラーに興味)。
5:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
6:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
7:月に何かがあると推測。次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留、ジンたちと情報交換しました。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)、3rdが黄金の鎧です。
2ndを展開する意志はなくなりました。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界(確率変動を発生させる結界)』の三層構造になっていると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※会場のループについて認識済み。 会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※マッハキャリバーによるウイングロード展開を習得。カタパルト代わりに使用可能(ちょっと飽きた)。
※マッハキャリバーから詳細名簿の情報を少し聞いたようです
(少なくともガッシュ、ヴィラル、シャマル、スカー、ねねねについて大まかに知ってます)。
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾0/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ(半分消費)@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード 、ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7
[思考]
1:奈緒を弔う
2:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
3:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
4:ルルーシュにニアの伝言を伝える。
5:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
6:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
疲労(大)、バリアジャケット
[装備]:薄手のシーツ、ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式、釘バット、X装置、ゲイボルク@Fate/stay night
[思考]: 皆でここから脱出
0:奈緒のために墓を作る
1:何としてでも皆を守る
[備考]
※螺旋力覚醒
※失った高次物質化能力を取り戻しました。
※舞衣のバリアジャケットは《炎綬の紅玉》鴇羽舞衣@舞-乙HiME。飛行可能。
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(極大)、心労(中)、軽い脳震盪、左腕骨折、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式 、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本-みんなで帰る
1:スパイクと舞衣を手伝う
2:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
投下乙です!
このギルは英雄王って言葉がよく似合うな。
それぞれの想いをとてもよく表してる名作だと思います。
規制されてたのでこちらに
――王の玉座。
ほんの一時ほどの間に、新しい主を迎えたその場所で。
新たな主―――盤上の駒から指し手へと成り上がった少年、ルルーシュ・ランペルージ。
いや、その衣装に身を包み「ゼロ」の名前で呼ばれる彼は、少し前までは自らが同じ駒であった者達へとロージェノムの声を借りて語り、騙る。
……これより先は名実ともに殺し合いの舞台は彼ら七人の同志が成果を見守る実験場へと成り代わる。
◇ ◇ ◇
―――これで六度目。
未だに生き延びつづけている貴様達には、ひとまずおめでとうと伝えよう。
力を持って殺し合いを進めるもの、知略を以って強者に取り入り牙を磨くもの。
己が我を張り通し殺し合いを否定するもの、仲間を集め殺し合いに抗おうとするもの。
それぞれの道を歩みつづける貴様達に一つ知らせておかねばならんことがある。
前回の放送より六時間。
残念なことに新たな螺旋力の覚醒が認められなくなった。
貴様達はあるいはこう考えているのかもしれんな。
この仲間と共にあればこのような殺し合いから脱出できる、こいつだけは殺したくない、と。
思うのは勝手だ。貴様達がどう思おうが殺し合いは続けられるのだからな。
だが、そのような停滞は私としても望むところではない。
貴様たちとて少しでも早く元の世界に戻りたいであろう?
そこでだ、現状の禁止エリアに加えてこの放送より12時間の後、この舞台を廃棄することにした。
ああ、貴様達が想像した通りだ。
貴様達の命は自分以外の参加者を殺し尽くさない限りは残り12時間しかないというわけだ。
殺し合いに乗っていたものはこれまで以上に急ぎ、怯え身を隠していたものは穴倉より這い出て、そして仲間と共にあるものは下らぬ思いに惑わされずに殺し合いを続けて欲しい。
さて死者の発表に移る。
とはいえ、あるものにとってはすでに知らせる必要すらないかも知れんがな。
高嶺清麿
Dボゥイ
ニア
シータ
柊かがみ
結城奈緒
怒涛のチミルフ
ニコラス・D・ウルフウッド
ルルーシュ・ランペルージ
東方不敗
以上10名だ。
次に禁止エリアだ。
H-6
A-6
F-4
以上だ。
さてと残りの12時間、貴様達が私にとって満足いく結果を出してくれることを期待しよう。
生き残りが一人もいない、というのは私としてもあまり面白い結果ではないのでな。
生き残った一人と対面するそのときを楽しみに待たせてもらうとしよう。
◇ ◇ ◇
「……で?」
ルルーシュが語り終えるのと同時に不満げな顔をしたウルフウッドは声をかけた。
「どうかしましたか」
その彼にルルーシュはあくまでも慇懃な態度で応じる。
「どうかしましたか、じゃないわボケ。何でわざわざワイがおどれの下らん演説を聞かされんとあかんねん、それもこんな時間に」
―――こんな時間。
現在の時間は放送予定時間の十分前。すなわち今のルルーシュの演説は会場へと届くことなく、ただウルフウッド一人のみに伝えられるためのものであったのだ。
宛がわれた一室にて休んでいたウルフウッド、その彼が急に呼び出されたかと思えば、ルルーシュの用件はただ、いまの演説を聞かせることであった。
彼が不機嫌になる理由は言うまでもない。
「何、万に一つの不具合があってはいけないのでね。会場で放送を聞いたことがある者の意見を聞いておきたかっただけですよ」
「そんならあのじいさんでもいいやろ」
「彼、東方不敗はつい先ほどまで別の用事を片付けてくれていたのですよ」
「……けッ!」
舌打ちを一つするとウルフウッドはきびすを返す。
その彼の背中にルルーシュは声をかけた。
「ウルフウッドさん、今の放送案を聞いて何かおかしなところはありませんでしたか?」
「むかつき具合はあのおっさんとかわらへんわ」
ウルフウッドの返答は簡潔にして合格点を与えるもの。
「お時間を取らせてすみませんね」
「次からはこんな下らんことにワイを呼ぶな、ボケ!」
それだけ言うとウルフウッドの姿は完全に玉座の間から消える。
「……さて」
ウルフウッドの姿が消えるとルルーシュは今しがた語った放送案について考える。
ジンやスパイクといった参加者はこの放送を聞いても脱出に動こうとするはずだ。
その仲間達もそれと同様と判断していい。
そしてヴィラルとシャマル。
現状ただ一組限りの殺人者達、彼らはこの放送を聞きどう動くか……。
(……醜くお互いに殺しあってくれでもすれば愉快ではあるがな……)
まあ、スザクを殺した報いは必ずくれてやる。
今は実験を円滑に進めることだけ考えればいい。
―――そして放送時間が来る。
―――これで六度目。
ロージェノムの声を借りたルルーシュの言葉が会場内に響いていった。
熱い湯船に身を沈める。
じんわりとした感触が全身に絡み付き張りのある皮膚と皮膚の隙間に熱が注ぎ込まれる。苦痛にも似た僅かな違和感が身体中を襲い、すぐに消えた。そうしてようやく湯と体の境界は消滅し緩やかな快感に満たされる。
シャマルはふぅと吐息を漏らした。この二日間の戦いで体中にできた細かい傷がひりひりと痛むが我慢できない程ではない。
体の痛みなど、これから行うことを考えたときの心の痛みに比べれば何でもなかった。僅かでも開放感を得ようと湯船に沈みしなやかな体を伸ばす。
シャマルは今、温泉に入っている。
「優雅なものですね」
浴場にシャマルとは別の声がした。湯船の側に置かれた桶に立てかけられた板から発せられたものだ。
赤と黄の意匠を施されたデバイス、クロスミラージュの声は機械によって合成されたものだがそこに込められた生々しい感情は人間のものと言っても遜色はなかった。
「そんなにつんけんしなくても良いじゃない。久しぶりの再開なのよ」
なるべく平静を装った。温泉はあちこちに破壊後が見られ、大木まで飛び込んできているというありさまだ。優雅とは皮肉以外のなにものでもない。
分かってはいたが、相当嫌われている。
「どの口がそれを言うのですか」
それに久しぶりという程時間は経っていません。続けられた険のある言葉にシャマルの心臓がどきりと音を鳴らした。
実際それほど長い時間別れ別れになっていた訳ではない。そもそもティアナの専用デバイスであるクロスミラージュとシャマルとの間に元々大した交流などなかった。
直接の付き合いが無いにも関わらず仲間意識を持っていたのは、管理局と機動六課という空間を共有し同じ任務についていたせいだ。何となく、以上の意味は持たない。
それでもシャマルはクロスミラージュに、まるで一年以上会っていないかのような隔たりを感じた。
それほどまでに大きく開いてしまったのだろうか。この異常と称しても良いくらい雄弁に、感情的になったデバイスと自分との間にできた溝は。
「……そうだったわね。何だか色々ありすぎてシャマル先生変なこと言っちゃった」
余裕を見せようと笑って見せたのが上手くいったかは分からない。
文字通りの四角四面が相手では感触を測ることもできないが、桶に立て掛けられたまま押し黙る様子は苛立っているようにも見えた。
あるいはそれはシャマルの心象を反射しているに過ぎないのかも知れないのだが。
デバイスを、それも元は味方だったそれを相手にプレッシャーを感じる日がくるとは思ってもみなかった。
「それよりもこんなところに私を連れ込んで何をしようというのです、ミス・シャ
マル。
彼を放って置いてもいいのですか?まぁあなたが暢気に入浴している間に彼が誰かに襲われたところで私は一向に構いませんが」
さすがに探索魔法は怠っていなかった。周囲に人がいないことは定期的に確認している。
ヴィラルはもう暫く眠っているだろう。冷やさないよう布団だけかけて半ば放置するような形だが、今はできるだけ休んでいて欲しい。
「言ったでしょう、話をしたいって。あの人に聞かれないところでね」
シャマルの白い肢体に朱が刺さる。立ち上る湯気のせいばかりではない。
首筋をつうとつたう汗を手触りの良いタオルでぬぐった。
「……私も今更だと言ったはずです。あなたに何があったかは知りませんが」
流石にいつまでもいやみばかりでは大人げないと思ったのかクロスミラージュの口調が幾分か落ち着いたものに変わった。
意を決し、改めて口を開く。これまで自分について、そしてこれからの自分について語るために。
シャマルが、シャマル個人として歩きだすために。
「私はもう管理局には戻れない。戻るつもりもないわ」
無表情な機械を前にシャマルは語る。自らの覚悟を。犯してきた罪を。もはやか
つての自分の居場所には戻れないという、過去と決別するための言葉を。
クロスミラージュは終始無言だった。気持ちは固めてあったはずのシャマルの心が圧迫される。せめて表情だけでもあってくれればいいのに、そんな思考さえ頭をよぎる。
ひどく、辛い。けれど止めることは許されない。
熱にうなされたような心持ちで口調が若干早まった。のぼせるのを恐れるようにそそくさと湯から体を出し縁に座る。
火照った体を包むように身にまとっていたバスタオルの胸元をきゅっと縋るように握った。
唐突に海鳴市にあったスパリゾートのことを思い出す。家族みんなで何度も通った、楽しい思い出の詰まった施設だ。機動六課に入ってからも、任務の途中で一度行った。
いやだ、いやだという言葉に頭が埋め尽くされそうになる。折れそうになる心を必死で支えながらシャマルは言葉を続けた。
語らなければならない。挫けることなど許されない。シャマルの両手は既にいくら洗っても落ちない罪に塗れている。
もう引き返せなかった。やり直すことなんてできはしないのだ。
やり直すことなんて──。
◇
「──やり直すことなんて、ほんとにできるのかな。あたし」
放送の後、ずっと黙りこくっていたままだった舞衣が唐突にそんなことを言い出した
「あん?」
返した声が妙に裏返ってしまったのは、ルルーシュの死に思った以上に気をとられていたからかも知れない。
ニアの伝言は本人が直接伝えることになりそうだ。瓦礫の道を歩きながらスパイクそう思った。
「あ、ご、ごめんね!変なこと言っちゃって。せっかく大見得切ったばっかだってのに……はは」
「いや……変に溜め込まれるよりは助かる。楽でいい」
舞衣の弱気が騒ぎ出したのはやはり唐突に設けられた12時間というタイムリミットが原因だろうか。奈緒の埋葬から休むまもなくジン達との合流を急ぐはめになっているのもそのせいだ。
焦るなと言う方が難しいのかもしれない
「何て言うかこのあたり、ぐちゃぐちゃでしょ?ここってちょうどあたしが……その、暴れちゃった、場所、なんだよね」
「お前って思った以上に凶暴だよな」
「は、はいぃ!?落ち込んでる女の子に向かってそういうこというかな、普通!?」
スパイクの軽口に目を白黒させて驚きの表情を作る様は年相応の女の子のものだった。そのことに少し安堵する。
舞台は悪い方へ転がる一方だが、余裕まで失っては本当にお終いだ。スパイク一人の問題なら口笛でも吹きたいところだが、子供連れではそうもいかない。
それくらい元気があれば大丈夫だ、スパイクがそんな内容の言葉を口にしようとしたとき先んじるように別の声が上がった。
「だ、大丈夫です舞衣さん。あ、いや大丈夫っていうか……その、私も一緒に頑張ります!だから、負けないでください!」
必死で声を張り上げたのは最後尾をちょこちょこと着いてきていたゆたかだった。
言っていることは多少まとまりに欠けるが、下手に理屈をこねるより余程効果的だろう。同じ傷を抱える者だけが相手の痛みを分かってやることができる。時には傷の舐めあいと揶揄されることもあるが、必要なときだってある。
果たしてゆたかの言葉は舞衣を元気付けることに成功したようだ。
「あ、あはは……そうだね。ゆたかちゃんの言う通りだ。ごめんね、あたしばっかり弱気になって。その……放送もあったばかりなのに」
一度は生存を知った高嶺清麿という少年がやはり死んだと聞かされたことは、確実にゆたかの小さな心を削り取っているはずだ。
「はい……それでも、私は皆を……皆と……」
「うん……もういいわ。分かった、ありがとう。一緒に頑張ろう、ね?」
消え入りそうになるゆたかを舞衣がぎゅうと抱きしめる。
力強く、それでいてとても柔らかに抱き締めあう二人はまるで実の姉妹のようにも見えた。
「──過去ってのはな、やり直すとかやり直さないとかそういうもんじゃねぇんだ」
落ち着きを取り戻し再び歩き始めた舞衣にスパイクは語る。
「え?」
「自分で仕切り直しだ、新しいスタートだなんて思ってみたところで、過去ってもんはそんなもんお構いなしに向こうからやってくる。こっちの都合なんてまるで気にもせずにな」
「うん……そうね」
「結局丸抱えで生きていくしかないのさ。とんでもねぇ失敗をして、それでも生きていくつもりならな。……俺に言えた義理じゃないがな」
醒めない夢も、いずれは醒める。夢を見続けることはできない。教訓だ。
「抱える……」
どちらともなく二人が呟いた。
「引きずるんじゃない、持っていくのさ。……俺が昔やったとびっきりの馬鹿な話を聞かせてやろうか?」
「い、いいわよ!何か……重たそうだし」
「わ、私も何も言えなくなりそうです……」
半分以上冗談のつもりだったのだが全力で拒否されてしまった。一体どんな想像をしたのか。
そんなにワルに見えるかねぇ、とスパイクは口許を歪ませる。
「だろ?そういうもんは誰も聞いちゃくれねぇし、聞きたくもない。好んで首を突っ込みたがるお人好しは……まぁほんのたまにしかいないな。けどそれでいいんだよ。その方が──」
「その方が……?」
意味ありげに間を置いたスパイクに二人がつられて聞き返す。
スパイクは言った。本気なのかふざけているのか分からない、舞落ちる葉っぱのような捉えどころのなさで。
それは、普段通りの自由に宇宙を駆け回るカウボーイの口調だった。
「良い女になれる。なんてな――」
◇
――私は駄目な女だ。シャマルはそう思った。
放送を間に挟みつつ思いの丈は全て語った。告げられたタイムリミットのこともある。もうこんなところでぐずぐずしてはいられない。
それなのに、シャマルは未だ動けずにいる。機械の言葉に足を止められている。
「残念ですが、私にはあなたのしていることは『逃避』であるとしか思えません」
クロスミラージュからの賛同は得られなかった。元より同意を得ようとは思っていなかったが、正面からの否定はやはり胸を突く。
「仲間を、主人を失い再起するために誰でもない自分のための道を選ぶ。それは良いでしょう。僭越ながら私も同様の経験をしました。多少なりともお気持ちは理解できるつもりです」
力強い言葉だった。良く喋るようになったのはそれだけこのデバイスが成長したからだと、そう思わせるだけの強さがあった。
それを嬉しいと思う気持ちが純粋な喜びなのか、それともクロスミラージュの言う逃避の一貫なのかまでは判別できなかったが。
「先ほどの放送――本来ならこうしている時間も惜しいほどですが――によればあなたがたの直属の上官であるチミルフという獣人も、協力者であるルルーシュという人間もともに死亡したようです。
恐らく残っている人の中で正面から他人を害しようと動いている者はもうあなた方だけなのではないでしょうか?
それでも彼と共に行くのが貴女の選んだ道なのですか、ミス・シャマル」
死者の情報はそのまま生者の情報にもなる。もたらされた情報は両者にとって悲喜入り交じったものだった。
「分かって欲しいとは思わないわ。けど知って欲しかったの。私がもうあなた達と一緒にはいけないってことを……」
言いたいことは全て伝えられた。拒否されてもきちんと決別することもできた。
やるべきことは済んだはずだ。なのに。
「色々と納得いかない部分もありますが……貴女が本当に覚悟を決めた上で決断したと言うなら、私から言えることなど何もないでしょう。
ですが、本当にそうなのですか?」
「何を……言っているの?」
何故自分はこんなか細い声しか出せないのだろう。クロスミラージュの言う覚悟なら持っていたはずなのに。
「あなたは失意の底にあって、そこで自分に対し盲目的な愛情を注いでくれるヴィラルという存在にただ逃げ込んだだけなのではないですか?
失礼ですが、私には彼とともに歩むという口当たりの良い言葉を隠れ蓑に思考停止をなさっているようにしか見えません。
私の知るシャマル女史は聡明な方です。その貴女が自ら選んだにしては……その
選択は余りにも誤りに満ちていると言わざるを得ません」
「そんな、そんなことはないわ!私は本心から彼と一緒に行くって決めたのよ!彼は私を愛してくれたし私も彼を……愛、したから」
「愛……ですか。私はもっと幸せに満ちた感情だと記憶していましたが……」
一瞬目がちかっと光って、シャマルは反射的にクロスミラージュを水浸しの床に叩きつけていた。飛沫が飛び散り、何の意思表示かデバイスの表面が僅かに明滅する。
激しい感情の波は一瞬で去り、入れ替わりに襲ってきたのは強い後悔だった。
「あ……ご、ごめんなさい」
「いえ、慣れています。私も言葉に配慮が足りませんでした。申し訳ありません」
自分より数段冷静な謝罪の言葉により一層惨めな気持ちが強まる。
いやな沈黙が訪れた。湯の流れるざあざあとした音が大きくなった。
「ミス・シャマル」
先に声を発したのはクロスミラージュの方だった。自分から沈黙を崩すことさえ、シャマルにはできなかった。
「……なに?」
「私がこちらにきて多大な影響を受けた人物がいます。先ほどあなたがたが戦った、カミナという男です」
「……何が言いたいの?」
「また既に亡くなられてしまいましたが明智健吾という方もまた、機械である私に道を示して下さいました。両者はこの苦境にあって、決して折れず、曲がらず進むべき道を誤りませんでした」
「……」
「あなたにもできるはずです。ミスシャマル。せめて、あなたが本当に為すべきことを……」
クロスミラージュはそれきり黙ってしまった。
言いたい放題言われた格好のまま、シャマルはそれでも返す言葉が見つからない。
頭が何かを訴えるようにジン、と痺れささくれた心がざらざらと痛む。混乱の理由は分からない。
シャマルは固い決意で今の道を選んだ、はずだ。
(本当に為すべきこと……ですって?)
既に為しているはずだ。理解は求められないとはいえ、シャマルはシャマル個人としての意志に基づいて行動している。
だからきっと、もう迷う理由は、ない。
シャマルは、愛しい獣人と共に行く。それ以外は考えたくない。それだけで良い。
今更言われるまでもなく、シャマルはシャマルの為すべきことを――
◇
「――で、為すべきことは見つかったか?雑種どもよ」
新たな決意を秘めた五人の人間に英雄王ギルガメッシュが対峙する。
当初の目標であるギルガメッシュとの合流は早々に叶った。向こうもこちらを探していたらしく、それだけ見れば運が向いてきているともとれる。
だが、とねねねは歯噛みした。
先頃行われた放送で事態は急激に変化してしまった。
危険人物と目していた者達がほぼ一掃される形となったのは良い。敵とは言え師である東方不敗を亡くしたことにドモンはかなり堪えているようだが、どうにかこらえてくれている。
「苦しいのは俺だけではない。今はこの辛さを拳に込め敵へとぶつけるのみだ」
痛いほど拳を握りしめながらも、そう言ってくれたドモンにねねねは素直に感謝したいと思う。
だが、それ以外はおよそ最悪と言って良かった。
「螺旋王はとうとう痺れを切らしおったぞ。実に器の小さきことよな。だがこうなってはいかに寛大な我とて、そういつまでも貴様らの座興を待ってはやれんぞ?」
12時間のタイムリミットは痛恨の極みと言う他なかった。焦っては螺旋王の思う壺と知りつつ、思考が滑るのをねねねは自覚せざるを得ない。
様々な疑惑と、脱出に必要な道具を持ったルルーシュがいずことも知れぬ場所で死亡したこともまた大きな痛手だった。
「お生憎さま……ちょっと手違いがあってね。もうちょっとかかりそうだよ」
「疑惑のど真ん中にいた奴が死んじゃって、真相は丸ごと藪の中ってね。スパイク達もこっちに来てるのかい、ギルガメッシュ?」
ギルガメッシュとまともに会話する気があるのは、ジンとねねねだけのようだった。
ドモンは不快を隠そうともせずそっぽを向いているし、ガッシュは頑張って表にださないようにしているようだが明らかに怖がっている。
スカーは、そもそもこいつは誰かと会話しようという気があるのだろうか。
「知らんな。いずれ我の威光に縋るしか脳のない連中よ。放っておいても勝手について来るであろう」
「なるほど。合流には困らなさそうだ。この辺は見張らしも良いしね」
ねねねは考える。今打つべき最善の一手を。
明智や清麿のような天才どもの真似をする必要はない。必要なのは作家であるねねねだけが発想できる最良の一手だ。
「そんなことはどうでも良い。聖杯との約束もある故、貴様等がそれに足るだけのものを持ってくれば我も考えてやろう。
だが王ドロボウよ、我が財を持つことは許さん。其れは貴様のような下賎の者が触れて良いものではない」
「あれ、何のことだろ。俺にはさっぱり」
「ってなんだよジン。お前ほんとに泥棒してたのか……」
あからさまに惚けて見せるジンにねねねは肩を落とした。泥棒は肩書きだけではなかったらしい。
これ以上変にこじれるのも嫌でねねねは返してやんな、と投げやりに告げる。
実のところギルガメッシュの突き刺すような深紅の瞳はねねねだって恐ろしい。
我慢していられるのは出所不明の意地と、気恥ずかしいから言葉にしてやらないなんやかやがあってのことだ。
同じ視線に射抜かながらも変わらず空っ惚けられるこいつは真実大物なのだろう。
頼もしい限りだが、それはそれとして泥棒は犯罪だ。一応こればっかりはギルガメッシュに理がある。
「お姉さんまでそんなこと言う?信用ないね、俺って」
「んなこと知るか。持ってないならいいがそうでないならとっとと返せ。世間の常識だ」
「ドロボウに盗ったもの返せ何てお姉さん結構酷いこと言うね」
「持ってるのかよ」
「あら」
こんなところでふざけている余裕はなかった筈なのだが。
いつの間にかペースを乱されてしまう。王ドロボウの名前は伊達ではないということか。
同時にねねねは肩に力が入りすぎていたことを自覚した。焦ってはいけないと自戒したばかりなのに、まったく情けない。
「さてどうする。大人しく我の財を返すか、我によって誅されるか。貴様の異端の王道に免じて選ぶことを許そうぞ」
ギルガメッシュの尊大な、寒風のように冷たい言葉に一気に緊張が戻った。腹の底がきゅうっと締まる感触に耐える。
事を急いではいけない。だが同時に決断の時期を見誤ってもいけない。
重要なのは。
「ドロボウらしくとんずらするっていうのはどうだい?」
「相も変わらぬ減らず口よ。……一つ言葉をくれてやろう、雑種ども。我の言葉、一言一句聞き漏らさぬよう心せよ」
五組の視線がギルガメッシュへと注がれる。
このカリスマ性、そしてそれを裏打ちする能力がねねねはどうしても欲しい。
あらゆるものを蹂躙する王の力がねねねの脚本にはどうしても必要だ。
だが、今はまだそれが叶うときではない。
「――王は決断を誤らぬ。そして全ての結果を平等に受け入れる。王足り得ぬ身でどこまで足掻けるか、我にとくと見せてみよ」
そう、重要なのは決断する力だ。
いつどのような決断を下すのか、その選択を違えてはならない。
ねねね達は既に水際へと追い込まれている。ここからは一手足りともミスは許されない。
ねねねは固く拳を握る。
必要なのは選択と決断。
過たない、選択――。
◇
――私は選択を誤ったのでしょうかと、クロスミラージュは誰に言うでもなく一人思った。
既にシャマルは入浴を終えクロスミラージュは彼女の道具として身に付けられている。デバイスとして使用された場合拒否権はない。
結局、シャマルの心はより一層強固に閉ざされてしまった。
クロスミラージュは間違ったことを言ったつもりはない。
だが他に言い様があったのではないか、彼女の心に届くような言い方があったのではないかと、その点に関しては忸怩たる思いを抱えている。
多元宇宙云々の話をするつもりはあまりなかった。
今の彼女にあたかも「代わりがいるから大丈夫」とも取れる言説を吹き込むのは危険なように思える。影響が予想出来なさすぎてクロスミラージュは口を閉ざした。
シャマルはヴィラルと出立の準備をしている。ヴィラルも一応放送は聞いていたようで禁止エリアがどうのという話をしていた。
「やはりチミルフ様は戦死されたか……行こうシャマル。ここが禁止エリアになったのも螺旋王から俺達への叱咤だろう。ぐずぐずしていられん」
「はい」
二人はまだ戦い続けるようだ。彼ら以外の全員を相手にした戦いを。
グレンとラガンという巨大兵器を持ちながら、クロスミラージュは二人に勝機があるとはどうしても思えなかった。
仲間もなく上官を失い、それでも互いのみを支えとし愚直に主人の命令に従う二人がクロスミラージュにはひどく悲しく見えた。
放送によるとニアが死んだという。螺旋王の居城へ転移する作戦もこれで実現は難しくなった。だが、クロスミラージュの電子の心を占めているのはそのことではない。
螺旋王の娘でありながら、誰彼なく屈託のない笑顔を振りまいていた彼女なら、ヴィラルと同じ陣営に属する彼女ならあるいは架け橋となることができたのだろうか。
今となっては想像することしかできない。
本来自分にはシャマルに対し偉そうなことを言う権利などないのだ。仲間と主人を亡くすと言う同様の境遇に陥った二人の間で違っていたのは、運でしかない。
たまたま誰と出会ったかと言うそれだけの違いだ。
もし自分がヴィラルに拾われていたら、仮にそう考えるとシャマルに対しさっきまでのような悪感情は持てなくなった。
だからといって今のシャマルを肯定することはもちろんできないのだが。
シャマルとクロスミラージュの間を阻む壁は大きくなり過ぎてしまった。最早、言葉も届かないだろう。
その壁がどうすれば壊れるのか、クロスミラージュには分からない。それだけの力がない。
そうして思い浮かべるのはやはり一人の男の顔。
(カミナ。あなたならこんな場面もどうにかしてしまうのでしょうか)
やはりというべきかどことも知れぬ場所に飛ばされてしまった男は生きていた。
無理を通して道理を蹴っ飛ばす。自分にはまだ荷が重いようだ。
打つ手なしと、グレンとラガンの起動に向かうシャマルの懐で揺られながらクロスミラージュは沈黙する。今は、推移を見守るしかない。
カミナはどこにいるのだろうか。
ありとあらゆる壁を、困難をぶち抜く可能性を秘めたあの男は――。
◇
――男は一人歩き始める。
放送を聞き、タイムリミットの存在を知ってもカミナの魂が揺らぐことはない。
「ニアは死んだ。ジジィもやっぱり死んでた。チミルフの野郎もどっかでおっ死んじまいやがった。ヴィラルとグレン団の連中はどこにいるか分からねぇ」
カミナは自分の目で見たことしか信じないが、不思議と夢の中で会った仲間のことは信じることができた。
奴らは、やはり死んだのだろう。リーダーであるこのカミナ様を置いてきぼりにして。
元より困難などカミナの周りをいつも取り囲んでいる。一枚増えたところで変わらない。突き破るべき壁が増えるだけだ。
カミナはカミナ自身の道理に従い、存在する全ての壁にドリルを突き立て続ける。
地上への天井もそうしてぶち抜いた。グレンラガンもそうやって手に入れた。
カミナの生き方は、単純な故にぶれる余地がない。
もしカミナに破れない壁が現れたとしたら、そのときはそれまでのことだ。先はない。
先のないことなど考える必要はない。
だからカミナは突き進む。彼と、彼の仲間が一丸となっても破れぬ壁が現れるその瞬間まで。
「さぁて、どっちに行こうかねぇ」
男の未来に待つのは果てなき螺旋の輝きか、それとも――。
【H-6/温泉/二日目/日中】
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
1:ヴィラルと協力して参加者を排除する。
2:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
3:優勝した後に螺旋王を殺す?
4:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
※ギルガメッシュがマッハキャリバーを履いていたことには気づいていませんでした。
【クロスミラージュの思考】
1:やむを得ず、シャマル達について行く。
2:カミナの方針に従い、助言を行う。
3:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
[備考]
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
※他の参加者に出会ったときの交渉はまず自分が行おうかと考えています。
※ルルーシュとニコラスの両方を疑っています。参加者の詳細名簿をどちらかが持っていた場合、そちらが犯人だと思うでしょう。
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(中)、肋骨一本骨折、背中に打撲、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2 コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:グレン@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
1:シャマルと協力して参加者を排除する。
2:体力が回復したら、ラガンで黒い太陽のガンメンを奪い、人間どもに目にもの見せる
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
5:クルクル(スザク)を始め、これまでの奴ら全員に味わわされた屈辱を晴らしたい。
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※ダイガンザン(ダイグレン)を落としたのがフォーグラーだと思っています。相殺したエアについては目に入っていません。
※ビャコウの運転手が誰なのか気にはなってはいます。
※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。
※会場のループを認識しました。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【C-6/市街地(中心付近)/二日目/日中】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾0/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ(半分消費)@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード 、ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7
[思考]
1:ジン、ギルガメッシュと合流しカミナを探す
2:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
疲労(大)、バリアジャケット
[装備]:薄手のシーツ、ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式、釘バット、X装置、ゲイボルク@Fate/stay night
[思考]: 皆でここから脱出
1:何としてでも皆を守る
[備考]
※螺旋力覚醒
※失った高次物質化能力を取り戻しました。
※舞衣のバリアジャケットは《炎綬の紅玉》鴇羽舞衣@舞-乙HiME。飛行可能。
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(極大)、心労(中)、軽い脳震盪、左腕骨折、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式 、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]
1:みんなで帰る
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
【C-6/市街地(MAP右の橋周辺)/二日目/日中】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、黄金鎧型バリアジャケット
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん 、黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
1:ジンから王の財宝を回収する。
2:菫川ねねねに『王の物語』を綴らせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。
4:頭脳派の生存者、 異世界の情報、宝具、それらに順ずる道具を集める(エレメント、フォーグラーに興味)。
5:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
6:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
7:月に何かがあると推測。次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留、ジンたちと情報交換しました。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)、3rdが黄金の鎧です。
2ndを展開する意志はなくなりました。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界(確率変動を発生させる結界)』の三層構造になっていると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※会場のループについて認識済み。 会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※マッハキャリバーによるウイングロード展開を習得。カタパルト代わりに使用可能(ちょっと飽きた)。
※マッハキャリバーから詳細名簿の情報を少し聞いたようです
(少なくともガッシュ、ヴィラル、シャマル、スカー、ねねねについて大まかに知ってます)。
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷 、疲労(中)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式x16(食料、水半日分消費、うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])
【武器】:偽・螺旋剣@Fate/stay night 、王の財宝@Fate/stay night、短剣
ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム
【特殊な道具】:オドラデクエンジン@王ドロボウJING、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、
ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4、ヴァッシュの手配書@トライガン
【通常の道具】:鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、サングラス@カウボーイビバップ
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)
衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、赤絵の具@王ドロボウJING
【その他】:予告状のメモ、清麿メモ 、ガンメンの設計図まとめ、がらくた×3、
柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)
首輪×4(つかさ、シンヤ、パズー、クアットロ)
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:ギルガメッシュたちとの合流。
2:その後何人かのメンバーでカミナの探索。
3:ヨーコや清麿達の死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※ねねねからルルーシュの能力に関する詳細を聞きました。
※ねねねからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。
※ドモン、舞衣、ゆたか、ねねね、ガッシュと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※清麿を殺したのはルルーシュだと判断しました。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(大)、頭にタンコブ、強い決意 深い悲しみ、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9、([全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】:巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】:テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】:剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】:アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:螺旋王を倒す。清麿亡き後も夢を捨てない。私は、やさしい王様になるッ!!
1:ねねね達と一緒にジンの仲間と合流。
2:カミナの探索に加わりたい。
3: ギルガメッシュに少し警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナ、ねねね、ジン、ドモンと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※ギルガメッシュとはまだ情報交換をしていません。
※清麿を殺したのはルルーシュだと判断しました。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、強い意志、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:ギルガメッシュに自分の計画に必要なもの(小説・イリヤスフィール(ry)を奪われたことを正直にはなす。できれば協力を促す。
2:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
3:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
4:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
5:全てが終わったら、清麿の代わりにガッシュを王にしてやる。
[備考]:
※読子を殺害したスカーを許し堪えることを選びました。スカーの罪、その理不尽は許していません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
※清麿殺害の犯人、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』を持ち去ったのは、ルルーシュだと考えています。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)
【武器】:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実、イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、
ワルサーWA2000(4/6)@現実、ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、水鉄砲、短剣×4本
【特殊な道具】:ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡の欠片x2(3つで揃う)@金色のガッシュベル!!
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん
【通常の道具】:USBフラッシュメモリ@現実、タロットカード@金田一少年の事件簿、暗視スコープ、単眼鏡、鉄の手枷@現実、
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
シアン化ナトリウム、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
【その他】:マース・ヒューズの肉片サンプル、清麿の右耳、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
首輪×3(クロ、アニタ、キャロ)、解体済みの首輪×2(エド、エリオ)、首輪のネームシール(清麿)
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
1:ジンの仲間と合流。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
3:ギアスを使用したヴィラルへの尋問について考える
4:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、やや強めの罪悪感、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
1:ジンの仲間たちと合流する
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:カミナを探し、ニアを守れなかったことを謝罪したい。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※ニアをカミナの関係者だとは確認しました。
【A-7/道路/二日目/日中】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(極大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中、明鏡止水
[装備]:ファイティングスーツ
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:ガッシュとクロミラと合流しねぇとなぁ。
2:ヴィラルの野郎、グレンラガンとクロミラを返しやがれ!
3:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
4:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
※東方不敗が死んだと思っています。
※東方不敗に修行をつけられました。格闘家としての基礎的なものを習得しました。
※明鏡止水に覚醒しました。
※シモン、ニアヨーコの死を受け止めました。
※ゴッドガンダムはショッピングモール跡地に座り込んでいます。
書き手の方々へ、応援してます。
頑張ってください。
その男は、傲岸不遜で命知らず。
プライド高くて自己チューでしかも服装のセンスも悪い。
けど、不思議と頼りになるっていうか……まあ、一緒にいる分には頼もしい奴かもね。
■語り――結城奈緒
◇ ◇ ◇
積もり積もって巨を成すは、粉塵舞いし瓦礫の山。
対ラダム用人型兵器や魔の大怪球が築き、王の一挙手によって仮初の牙城と化した。
積み木のように脆くみすぼらしいが、これも一時高みに臨むための代替物にすぎない。
英雄王ギルガメッシュは一人、瓦礫の山の頂点から空を眺める。
日は昇り、これもあと幾時間で沈む。沈み、この地の日がまた昇ることはない。
宣告されたタイムリミットを胸に抱きながら、崩れゆく世界の予兆を感じ取っていた。
「……王ドロボウ≠ネどと名乗りを上げておきながら、こうも容易く尾を返すとはな」
山頂で佇むギルガメッシュの手には、盗難にあっていた鍵剣が戻っていた。
悪夢のパーティーの主催役すら盗み取ってやると豪語してみせた少年も、やはり縋るしかない身の上なのか。
翻弄する凡百共の私情を窺えば、どうにもこうにも、道しるべがないと進めないらしい。
「綴り手≠ノ壊す者=A魔界の王子=c…いずれも英雄王≠フ威光を欲さんとする輩にすぎないのか」
ギルガメッシュの周囲には、誰の存在もない。
つい先ほどまで群れを成していた臣下見習いたちは、王のご機嫌取りのために周旋を続けている。
提示した条件をどうのみ、攻略するか。興味深く、しかし期待するだけ無駄な気配も漂っている。
残りわずかとなった限界時間。彼らは王の助力を受けずして、どこまで戦えるだろうか……?
――『こっちには王子様がいることだしね。英雄王の助力を願うのは、万策尽きてからにするよ』
そう大言壮語してみせたのが王ドロボウなら、その意に付和雷同してみせたのが魔界の王子とキングオブハートだ。
王の名を冠さす三人の凡人と、綴り手に壊す者、彼らは彼らで拙い奔走を試みる。
ギルガメッシュ抜きで。
それが、彼らの選択だ。
ギルガメッシュは王座に君臨する者として、座して待った。
己が奮起するに値する機会、即ち本当の意味でのクライマックスを。
その瞬間に至るまでは、不動。
慢心ではない、誇りを起因とした余裕が、ギルガメッシュに安らぎの時を齎した。
それだけ、彼らに期待している――とは、露とも考えず。
「……む?」
そのとき、一陣の風が吹いた。
逆巻く風に乗せられた砂埃が、ギルガメッシュの視界を歪め、その先。
「ほほう。まだ見ぬ顔があったとは」
訪れた影は、ギルガメッシュの記憶にも存在しない、見るからにみすぼらしい様相の男だった。
西部のカウボーイを気取ったような格好は、センスの欠片も窺えない。
そういえばガッシュ・ベルも似たような衣装を纏っていたか、と記憶の端を手繰る。
男はなにを見据えなにを目指しているのか、歩に宿った意志はどうにも弱々しい。
一目見ただけで、ギルガメッシュは失笑を誘われた。
「……あん?」
その失笑で、瓦礫の道を行く男もギルガメッシュの存在に気づいたのだろう。
高々と聳える瓦礫の楼閣を、剣呑とした目つきで見上げる。まるで田舎の野良犬が如き視線だった。
つまりは、礼儀に乏しい。これで視点が頭上だったならば、衝撃≠ニ不死身≠フ不快な一件を思い出しそうだった。
「これ、無礼ではないか雑種。我の貴風は、下々の者に眼福を齎すためのものではないのだぞ」
「……んだぁ? いきなりおかしなこと言いやがって。テメェ、いったいなにもんだ?」
チンピラのような目で、その男――生存者の内から消去法で辿るならば――カミナは敵意を飛ばしてくる。
その仕草は、怒りを覚えるほどではない。田舎者の戯れと、笑って許せる程度のものだった。
とはいえ……状況が状況だ。
この期に及んで齎された新たな出会い、そこに意味を探ってみるのも一興だろう。とギルガメッシュは考える。
死と隣り合わせの王道を、各々が各々のやり方で駆け抜けてきた。
ギルガメッシュにとっての初対面、カミナははたして……どんな誇りを胸にかかげているのだろうか。
「ふっ……これだから、人の世もなかなかどうして、おもしろい」
ギルガメッシュは瓦礫の山から降り、雄大な歩調でカミナに寄る。
カミナも退かず、歩み寄ってくるギルガメッシュを正面から見据えていた。
「余興につき合え、雑種。もう間もなく終焉が訪れるのでな。品定めは早々に済ませておきたい」
「ザッシュだぁ? わけわかんねーことぺちゃくちゃ喋りやがって……俺はザッシュじゃねぇ! よぉく聞きやがれ!」
天に人差し指を突き上げ、目には見えぬ天蓋を穿つように、
「でっけぇ天井ドリルは届かねぇ! 掘るもんなけりゃあ一生穴ぐら暮らし! んなもん俺ぁ認めねぇ!
掘って掘って掘りまくって天を突く! 最後にゃでっけぇ穴も開くってもんさ……それが!」
英雄王たるギルガメッシュの眼前においても、
「この俺、大グレン団の……カミナ様だっ!!」
カミナは吼えた。
◇ ◇ ◇
そいつは金のことしか考えちゃいない。貧乏だからだ。
コミックの主人公だからって、全部が全部ヒーローとは限らねぇだろ?
今日の晩飯のために銃握るカウボーイがいたって、別におかしな話じゃねえやな。
■語り――ジェット・ブラック
◇ ◇ ◇
瓦礫の街々は、必要以上に見晴らしがいい。
視界を遮る建造物は軒並み倒壊し、カーペットと化した。
車道も崩れ、自動車を走らせるには難渋するが、人探しをするには逆に好都合だろう。
スパイク・スピーゲル、鴇羽舞衣、小早川ゆたかの三人も、放送が終わってすぐ、目的の人物との合流に至った。
視界に入ってきたオンボロコートの少年――ジンは信頼の置ける仲間であり、今後の苦難を乗り越えるには外せない人材でもある。
彼が見定めた人物ならば、初対面といえどもある程度は信用できるだろう。
ジンに随伴する幼児と思しき男の子、やたら男前な表情の眼鏡美人を目にしても、さほど警戒はしなかった。
(どこ行ってたんだジン……と言える状況でもねぇな)
しかし――額に傷を負った、褐色肌の男は別だ。
素人とは思えぬ立派な体格、近寄りがたい厳格な顔つきに、舞衣とゆたかは少女として怖気づく。
一方、スパイクは警戒を通り越した敵意を、その瞳に宿していた。
(久しぶりだな……と挨拶を交わすような間柄でもねぇ)
傷の男……スカーフェイスとでも呼べばいいだろうか。
彼とスパイクは、初対面ではない。この地で一度顔を合わせ、それどころか拳すら交じ合わせた関係にある。
思い出すのは、温泉地での一件だ。
まだカレン・シュタットフェルトやルルーシュ・ランペルージが存命していた頃。
黒の騎士団という荷物を背負わされるきっかけともなった騒動が、その憩いの場で巻き起こった。
殺人鬼の襲来。
その一件の犠牲者、糸色望と読子・リードマンの死の起因となっただろう男が、目の前のスカーフェイスだった。
奈緒を埋葬している間にジンが新しい仲間を見繕ってきたというのなら、なかなか褒められた仕事ぶりだ。
誰彼構わず、ともなれば手放しに称賛することはできないが、彼に限ってそれはないと信じたい。
ともあれスパイクの注意はスカーに集中し、体は自然に、いつでも動ける体勢を保っていた。
「……さぁて、しばらくぶりの再会なわけだけど、つもる話もあるみたいだ。
とはいえ主催役の人に急かされちまったからね。地道に友達から、ってわけにはいかない。
話は短めに、因縁のつけどころは簡略に、友愛は即興でもいいからでっち上げるべきだと、オレは思うね」
邂逅一番に睨み合うスパイクとスカーの間に入り、ジンが仲裁役を買って出る。
残り十二時間――設けられたリミットは残酷にも止まってはくれず、だからこそ気持ちの整理は迅速につけなければならない。
人の感情は、それほど簡単でないが。
雁字搦めの人間関係も、長く尾を引くものだが。
◇ ◇ ◇
茨の城……巨人兵……宇宙戦争……こっから連想するキーワードはなんだ、ミリア!?
囚われのお姫様だね、アイザック!
そうさ〜! 囚われのお姫様は、いつだって王子様の助けを待ってるのさ!
でもでも、肝心の王子様は悪い魔女に足止めされてるみたいだよ?
そりゃ、あれだな……ええと、アレだよ、アレ!
絶体絶命ってやつだね!
■語り――アイザック・ディアン、ミリア・ハーヴェント
◇ ◇ ◇
頭部を持たず、胴体全てが『顔』とでも言い表せるような赤い機体が一機、発進を遂げようとしていた。
狭いコクピットに寄り添うようにして座るのは、ヴィラルとシャマルの二人だ。
上司の戦死、王の間接的な叱責、諸々を受け取り、今すぐにでも残りの参加者たちを血祭りにせんと戦意を高揚させる。
「これが最後の決戦になるかもしれん。シャマル、覚悟はいいか?」
「ええ。あなたとなら……どこへでも」
戦士の形相で問うヴィラルに、シャマルも同じく戦士の顔つきで応える。
密着した体はさらに寄り、戦地へ赴く意志を互いに高め合う。
目指すは大怪球フォーグラー――彼らが黒いガンメンと称す、暗黒の太陽だった。
そこにはおそらく、他の生存者たちも複数集っていることだろう。
明智健悟のグループから端を発したあのマシンの胎動は、多くの者に影響を与えたはずだ。
ある者ははぐれた際の集合地点として、ある者はその大いなる力を得ようとして、群がる理由は多々ある。
道しるべをなくしたカミナも、とりあえずの目的地としてフォーグラーを目指すかもしれない。
「ではゆくぞシャマル。オレたちの勝利のために――!!」
ヴィラルが猛々しく吼え、搭乗機たるガンメン――グレンを起動させる。
他の参加者たちを根絶やしにするという決意に曇りはなく、シャマルも愛する者の意志に同調した。
シャマルの懐、暴走する男女を観察するしかないクロスミラージュは……ただただ嘆いた。
デバイスたる自身は、手足を持たない。カードの形態を取ったまま、所有者の意に反することは許されない。
どれだけ高性能なAIを積もうとも、どれだけ立派な自我を育もうとも、機械の身分に自立行動は認められがたいのだ。
変わってしまったシャマル、死んでしまったティアナやはやて、別たれたカミナ。
触れ合ってきた人々に想いを馳せ、クロスミラージュは自分になにができるかを今一度考えた。
……その間も、グレンは鳴動をやめない。
重量感溢れる一歩を大地に叩き込み、攻撃対象を探して南へ進む。
シャマルへの忠言は意味を持たず、光の明滅で感情を示しても彼女らは歯牙にもかけない。
まるで囚われのお姫様だ、とクロスミラージュは人間のように自嘲した。
◇ ◇ ◇
作家に求められるのは、なによりもまず創作意欲です。
ううん……なにをやるにしたって、意欲がなければ成功しません。
やってやる、って心の底から叫べば――きっと上手くいきますよ。
■語り――読子・リードマン
◇ ◇ ◇
太陽が照りつける日中の空の下、一同は大怪球を背景に会議を始めた。
出席者は、全部で八名。
菫川ねねね、スカー、ガッシュ・ベル、ジン、ドモン・カッシュ、スパイク・スピーゲル、小早川ゆたか、鴇羽舞衣。
各人、ここまで生き延びてきたこともあってそれなりに広い面識を持っていたが、中にはまったくの初対面であったり、因縁の再会を果たした者もいた。
(だからって、なにもこんな美味しい因縁残しておくなよな……)
その最もな例が、スカーとスパイクである。
ねねねの記憶にも新しい、温泉を舞台とした読子・リードマン殺害事件――スパイクは、その現場にいたのだ。
厳密に言えば、読子殺害の瞬間に既に退避していたらしいのだが、スカーが温泉を襲撃した際、スパイクは彼と一戦交えたという。
言いようによっては、読子を見捨てて今の今まで生き延びてきた男……それが、ねねねがスパイクに抱いた印象だった。
(……今さらねちねちと。性格わるいっつーの)
などと、一瞬でも思ってしまった自分に嫌悪感を抱く。
読子との死別は、ねねねの記憶から一生消えることはない痛い思い出だ。
だからといって、いつまでもその件を引き摺ってはいられない。
スカーに大見得切って許すと断言したのも、全てはこの闘争を乗り越えるためだ。
スカーを許しておいてスパイクを言及するなどもってのほか。
彼の物臭な態度は好印象とは言えなかったが、そこに読子の件は一切関わっていない。
(そんでもって……)
スパイクのことを言えない物臭な瞳が、小動物のように小さな女の子へと向く。
鴇羽舞衣と名乗った少女に寄り添うようにして座る、小早川ゆたかの身がそこにあった。
ねねねとしては数時間ぶりの再会であり、昔を懐かしめばフォーグラーでの騒動を思い出さざるを得ない。
あの一件で明智が死に、連鎖的に清麿も逝き、その引き金を作った少女は、自己責任に打ちのめされようとしている。
ねねねと視線を合わせようとしないのは、申し訳なさの現われだろう。
笑って許してやれれば話は早いのだろうが、ねねねとしては正直、げんこつの一つでもくれてやりたい気分だった。
罪を言及しようとは思わない。だがみんなに迷惑をかけたことは事実であり、子供はそれを知る必要がある。
ならば大人の務めとして――とも思ったが、ゆたかもゆたかで、既に誰かからの叱咤を受けたようだ。
そうでなければ、そもそも生き延びてはいないだろう。自己嫌悪の泥沼から脱しているならば、ひとまずは合格点か。
「――と、これで大体の自己紹介は終わったかな。んじゃ、終幕の予鈴も鳴ったことだし、さっそく仕事の話を」
ジン司会のもと、集った八人はそれぞれ名前や各人との関係を告げ、一通りの把握が完了する。
詳細名簿等で事前に認識を深めていたねねねはともかく、スパイクや舞衣は明らかに認知が足りていないのだろう。
しきりにねねねやガッシュの顔を窺い、品定めするような視線を送っていた。
ジンの仲介があるとはいえ、殺し合いの舞台で初めて遭遇した相手になどそう気を許せるものではない。
苦難を乗り越えるためには相応の信頼関係を築き上げる必要があり、期限があるからといって、それは即興で済ませられるものではなかった。
ジンとて、頭では理解しているのだろう。ただ、悠長に事を構えている場合ではない、という考えのほうが強いのか。
八方塞とも言える逆境の最中、ねねねがジンの進行に疑問を持ち始め、
「……といきたいところだけど、もうちょっと下地作りが必要かな。
勇敢な挙手も上がっているようだし、お次は清算の時間といこうか」
異議を訴えようとした寸前で、ゆたかの小さな手が、控えめな意思表示をしていることに気づいた。
◇ ◇ ◇
人間は弱い。肉体的にも、精神的にも。あの女は特に脆弱だった。
兄さんに守られることで生き永らえ、自分ひとりでは明日に対する度胸もない。
そんな女の子が、兄さんの加護を失ってどう生きるか……フフフ、興味深くはあるがね。
■語り――相羽シンヤ
◇ ◇ ◇
――ここで黙っていたら、きっと後悔することになる。
小早川ゆたかはそんな衝動に駆られ、気がつけば手を挙げていた。
みんなが、ゆたかの挙げる小さな手に注目している。
スカーやドモンの視線は鋭く、ジンはどこかにやついていて、スパイクは物臭で、ねねねの眼鏡の奥は……怖くて直視できない。
それでも、正面を向いて言葉をぶつけなければならない。
この手で命を奪ってしまったあの人へ謝罪するため。
間接的にとはいえ運命を捻じ曲げてしまったあの人へ謝罪するため、
自分の矮小な自尊心のせいで迷惑をかけてしまったこの人へ謝罪するため、
そしてなにより、自分自身を戒めるために。
(舞衣ちゃんたちと話して、ちょっと楽になった。けど、それじゃ全然、解決になんてならないから……!)
明智健悟や高嶺清麿たち……『戦術交渉部隊』の同じ生き残りとして、また破局の引き金を引いてしまった者として。
ねねねとは、正面から向かい合わなければならない。
確固たる意志のもと、ゆたかは晴天を仰ぐ。
一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから、よし、と小さく自分を鼓舞する。
力を持たない自分は、せめて勇気だけでも一人前でいようと……口を開いた。
「私、菫川先生にお話しなきゃいけないことがあるんです」
陳謝でも、懺悔でもいい。
純粋な本能の赴くままに、思いつく限りの言霊を吐露できればそれで満足だ。
その結果ねねねの叱責を受けようとも、蔑みの眼差しを返されようとも、全部受け止めてみせる。
覚悟は速やかに、許容範囲は広く、決意は不動のものとして。
ゆたかの表情は、さらに険しく強張った。
皆の視線がゆたかに集中する中、ねねねは一人立ち上がり、黙して歩み寄ってきた。
近づいてくる脅威にわずか竦み、それでも恐れたりはせず、ゆたかも立ち上がる。
ちゃんとお互いの表情が窺える距離で、眼鏡の奥に秘められた瞳を見据えるために。
同性にしても開きのある身長差が、密着しそうなほどに近づき合う。
ゆたかは上目遣いでねねねの顔を見上げ、ねねねは眼下のゆたかを見下ろす。
間近にすると、異様な緊迫感に首を絞め上げられるような心持ちがした。
「あ、あの! 菫川せん――ふぇ」
勇気を振り絞り、ゆたかが声をあげた――途端、
むにゅ、と頬をつねられた。
(ふぇ、ふぇ?)
右の頬と左の頬を同時に、ねねねが人差し指と親指で摘んで離さない。
向かい合うねねねの顔は無表情で、じーっ、とゆたかを見つめていた。
弾力のある頬が、伸ばされ、上下され、こねられ、ぐにぐにされ、むにゅむにゅされる。
ねねねの奇異な行動にゆたかの決意は一蹴され、一瞬で混乱に至った。
「あ、あにするんへふかぁ〜?」
「うっさい。あんたがアニタみたいなクソ生意気な子供だったら、ストレートに一発かましてやるところだけどね」
呂律の回らない口ぶりでゆたかは抗議を訴え、しかしねねねは却下し頬を弄くり倒す。
女の子らしい柔らかな肌がぐにゅぐにゅと歪曲し、赤みを増していく。
ゆたかは力ずくで拒もうとはせず、あうあう、とされるがままでいた。
しばらくして、ねねねはゆたかの頬から手を離した。
解放されたゆたかは、頬を摩りながら瞳を潤ませる。
「……今のあんたにはそんくらいで十分でしょ」
そう言って、ねねねはゆたかに満面の笑みを見せた。
曇りのない破顔一笑の仕草は、語るべき言葉の代用品とも思えた。
結局、ゆたかはねねねに話したかったことを話せていない。頬をつねられたせいで、機を逃してしまった。
なのにねねねは、もうこの話は終わった、と言わんばかりにゆたかの頭をなで回す。
……気持ちの整理をつけるのが、そんなに容易いはずはないのに。
申し訳なさを感じつつも、大人の懐の深さに嬉しくなってしまう自分がいた。
「清算の時間とやらもおしまいにしよう、ジン。時間は切迫してる。
みんなも気にしてるみたいだけど、私はゆたかを許す。今日の菫川先生はすこぶる寛大なんだ」
ゆたかの頭部をくしゃくしゃにしながら、ねねねはジンに会議の再開を進言する。
議長役の少年は肩を竦め、嘲るようにこれを返した。
「まったく、ねねねおねーさんのプロフェッショナルぶりにはこっちが萎縮させられちゃうよ。
でも、清算しなきゃいけないのはプリンセスが犯した若さゆえの過ちだけじゃない。
こういうのは大人でも踏ん切りのつけにくいものだからね。小僧のオレとしては、そのへんが心配でもあるのさ」
そうしてジンは、スカーの横顔を一瞥する。
深紅の凶眼は見る者をたじろがせ、知らず知らずの内に警戒心を与えてしまう。
その明かされざる経歴を知る者もいる以上、彼の言葉もまた、この場には必須と言えた。
「……次は己れが、言辞を弄する番か」
褐色の肌に紅の瞳を併せ持つ異人――名を失った『傷の男』は、おもむろに立ち上がった。
◇ ◇ ◇
お国によって顔の作りってもんは違うけどさ、僕はあんなに怖い顔の女の子を見たことがない!
まあ、それだけ感情豊かな人間だと捉えることもできるんだけれど……んふふ。
彼女の笑った顔は、さぞかし魅力的なんだろうねぇ〜……ああ、勘違いしないでよ。趣味じゃないです。
■語り――ロイド・アスプルンド
◇ ◇ ◇
傷(スカー)と呼ばれる大男が、ゆるやかに立ち上がる。
自身がソルテッカマンの火力で壊したかもしれない瓦礫を椅子代わりにして、鴇羽舞衣はスカーの姿を見上げた。
彼の風貌は、集った生存者たちの中でも特に際立っている。
浅黒い、異人の証明たる肌。射抜かれるような赤の瞳。怖い顔。
最後は人のこと言えないか……などと自嘲して、舞衣はスカーの言葉に耳を傾ける。
「己れは、この地で二人の命を奪った」
スカーの不意の告白に、しかし驚きは薄かった。
スパイクからも事前に聞いていたことだ。
罰点傷の大男が、温泉でゼロの名を持つ男を殺した。
スパイクの仲間も、おそらくは彼に殺害された。
スパイク自身、殺されそうになった。
傷の男には注意して然るべきだ――と。
(殺人者だから気をつけて、とか……まあ、そうなんだろうけどさ)
顔がわずかに俯き、どこか己を戒めるような、虚ろな溜め息を零す。
考えてしまう事柄は多々ある。
だが今は、スカーの告白を親身に聞くべきだ、とまた顔を上げた。
「――死んだらどうする。死んだら、責任を取れるのか……己れが殺した男が残した言葉だ。
この闘争の根幹に気づかず、ただ国家錬金術師への復讐心を糧として動いてきた己れだが……今ならわかる。
己れは、責任を果たすべきなのだろう。菫川ねねねの師の命を奪った者として、許しを得た者として」
淡々と告げるスカーの瞳には、力強い意志が灯っていた。
血のように染め上げられた赤の瞳は直視に耐えがたいが、不思議と吸い込まれるように視線を向けてしまう。
又聞きした程度では、ねねねとの間に起こった事情も、彼の心情も、共感するには至らない。
ただ舞衣は、同じような境遇に身を置く者として、スカーの背負う重荷の影を垣間見た。
「……あたしは、六人殺した」
スカーの告白を遮り、舞衣が呟く。
か細いが芯のある言霊は、皆の注意を掻っ攫うには十分な、意志の強さを秘めていた。
「ロイドさんと、パズーくんと、名前もわからない男の子と、神父さんと、会長さんと、ゆたかちゃんの先輩。
激情に駆られて、辺り構わず喚き散らして、このへん一帯壊して回ったのもあたし。
過去が咎められるっていうんなら、スカーさんよりあたしのほうがよっぽどだって……」
スカーに習い、親交の浅いねねねやガッシュを対象として、舞衣の清算が始まる。
過去を戒め、悔い、未来の自分と向き合うために、今一度。
シモンが死に、奪われる辛さを思い知らされ、男の子を絞め殺した。
ソルテッカマンという強大な力を得て、調子に乗り、ロイドを蒸発させた。
力の振り翳し所は一人の研究者に留まらず、声をかけられただけの純心な少年を撃ち殺しもした。
精神が極度に堕ち切ってしまっていた頃、爆発した炎の感情が、救いを齎そうとした神父を焼却したことも覚えている。
そしてもちろん、頼まれたからとはいえ、柊かがみを焼いたのも鴇羽舞衣の咎には違いない。
静留や奈緒の散り際も鮮明に覚えているし、シータから突きつけられた憎悪も忘れることはないだろう。
それらを全部抱え込み、清算する。
罪を許してもらおうとは思わず、されど生きることがそれに繋がるのなら。
味方になりうる者同志でいがみ合う気もなく、舞衣はスカーに向けて手を差し伸べた。
「なんか、調子いい上に青臭いかもしれないけどさ。これでチャラにしときましょうよ」
自嘲気味に苦笑いを浮かべ、舞衣は自ら進んで、破壊の象徴と言われるスカーの右腕を掴み取った。
だからといって、どうということはない。
スカーに破壊の意志などはなく、表面上は舞衣の行動に動揺している風だったが、そこが可愛くもある。
奪う者、奪われる者、どちらの側に立つか――もう、そんなカテゴライズはたくさんだ。
舞衣の想いに賛同するかのように、繋がれた手の上にそっと、小さな手が重なる。
「私だって、明智さんを……明智さんを殺したのは、私です。高嶺くんだって、私があんなことをしなければ……」
ゆたかも、自身を戒め明日を見据えるために、舞衣とスカーに手を重ねた。
ギルガメッシュなどが見れば、傷の舐め合いと小馬鹿にしたかもしれない。
ただそれでも、鴇羽舞衣や小早川ゆたかは乳臭さの残る乙女≠ネのだと――自嘲せず、受け入れる。
「おいおい、あんたらまで辛気臭くなってどうすんだよ」
「ウヌウ、舞衣もゆたかも元気を出すのだ」
「スカーも困惑しているようだぞ」
などと、深刻に受け取っていたのは咎を背負う者たちだけだったのだろうか。
ねねねは失笑まじりに、ガッシュは困った顔で、ドモンは穏やかな表情で、手を重ねあう三者を見ていた。
周りとの空気の温度差に、舞衣が気恥ずかしさを覚え、ジンが追い討ちをかけるように言う。
「前科持ちの人間であったとしても、運命を打開する輪に加わる理由は十分にあるって話。
そもそも前科ってんなら、オレなんて現役のドロボウだし。かといって通報される気は微塵もない」
集った一同、咎を負う者ともそうでない者とも、等しく視線を交わしながらジンが足を運ぶ。
舌を滑らせながら足が向いた先は、唯一押し黙ったままでいるスパイクの下だった。
スパイクは顎に手をやり、周囲に呆けた顔を晒していた。
舞衣はその物臭な態度に脱力し、肩を竦める。
この話は、紐を解いてみれば実に単純明快だ。
明智健悟の下、菫川ねねねがスカーに対してそうしたように。
スパイクがスカーを許せば、それで円満解決となる。
もちろんそれだけで後の光明が切り開けるわけではないが、必須要項ではあるだろう。
ラブアンドピース――夢想人が唱えた愛と平和。
くだらない負のスパイラルを脱するためには、友愛を築きあげることこそが悲願への一歩なのだ。
「で、みんなの眼差しはいつの間にかスパイクに集中しているわけだけど。そこんとこ、どーだい?」
「あー……とりあえずな。おまえらに言いたいことは山ほどあるんだが……まあ、とりあえずだ」
手団扇をあおぎ、スパイクは皆の視線を鬱陶しそうに払い除ける。
所作だけではどうにも伝わらないようなので、ややあって言葉を添えた。
「……命狙われた相手に背中を預けろってんなら、そりゃ御免こうむる。
だけどな、別に顔を合わせただけでどうこうしようとは思わねぇさ。なんでかわかるか?」
スパイクの問いかけに、ゆたかと舞衣が逸早く反応してみせる。
「どうしてですか?」
「メンドーだから?」
「おまえらなぁ……」
正鵠を射ているかと思われた返答が、しかし不満なのか、スパイクはぼりぼりと頭を掻いた。
依然、眼差しの集中砲火がやまぬ最中、スパイクは面倒くさそうに言葉を吐き捨てた。
「一文の得にもならねぇからだよ」
カウボーイが懸賞金ゼロの賞金首追ってどうするよ、と添えて、そっぽを向く。
スパイクの生き方や普段の暮らしをよく知らぬ者からしてみても、その言葉には不思議な説得力が詰まっていて、舞衣も妙に納得してしまうのだった。
スパイクとスカーの関係については、周囲の取り越し苦労だったのかもしれない。
それでも、罪を知らない者が罪を知り、秘匿としなかっただけでも、ある程度の友愛を築く役には立った。
舞衣も、随分と気持ちが楽になったのを自覚していた。おそらくはゆたかもそうだろう。スカーはわからない。
「さあ、これで清算の時間は終了かな。とりあえずの下地も整ったってわけだ」
各々が、スパイクの態度に含み笑いを見せる中で、ジンが声高らかに注目を集める。
狂言回しを得意とする俳優のようにして、司会役を買って出た王ドロボウはなにを唱えるのか。
「これからを生きるにあたって、オレから一つ提案がある。さっきも言った仕事≠フ件だね。
ねねねおねーさんあたりはタイムリミットを気にしてるようだけど、十二時間ってのは案外長い。
やるべきことは膨大で、されどやれることも膨大ってわけさ。
そこで、まずオレたちが一丸となってやらなきゃならないことは……転職、かな」
難解な言説を弄ぶジンに、誰もが疑問符を浮かべた。
迂遠な言い回しの裏に潜む意図は、はたして――と考えて、ジンが続ける。
「しがない王ドロボウが、ちょいと軍師を気取ってみたくなりまして。みんなには、駒役を買って出てほしいのさ」
◇ ◇ ◇
結局、彼はなんだったんでしょうか。
魔法使いの杖のようで、蛮勇の矛でもあって、けれど友達にはなってくれなかった。
言葉を交わせる友人に出会えていたとしたら、私の進む道も、ある程度は明るかったのかしら。
■語り――リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ
◇ ◇ ◇
舞衣が身に纏う戦装束、《炎綬の紅玉》の象徴は、本来ならばこの次元の彼女が手にすることはなかったはずの力だ。
無数に存在する多元宇宙の中で、舞衣はHiMEとは別種の異能を得るのだが――この場では語るべくもない。
舞衣の装束、通称バリアジャケットは彼女のイメージの顕現であり、HiMEの高次元物質化能力が魔力の循環を司るデバイスと化学反応を起こし生まれた、偶然の産物にすぎない。
寡黙なる槍、ストラーダは此度の闘争に対して冷静で実直だった。
マッハキャリバーやクロスミラージュ等、同時開発されたデバイスの中では『一番の饒舌』とまで言われた彼が、この地では沈黙に徹したのだ。
所有者であるエリオ・モンディアルの手元を離れていたというのもあるが、これはしばらく冷静に事を見極めた結果だろう。
己はアームドデバイス――魔導師の武器にすぎないと厳しく律し、シータの凶行にも逆らうことをしなかった。
望む者にはバリアジャケットを与え、槍としての存在価値を提示する。
そうやって過ごしてきたこの闘争も、ついに最終局面を迎えるようだ。
一撃離脱を信条とした突撃槍の使い手とは巡り合えず、しかし自身は鴇羽舞衣の手元で任を果たしている。
――必要とあらば、『現在の』所有者と意思疎通を図ることもありうるか。
ですぎた真似は自重し、英雄王に使役されるマッハキャリバーにも対して感応は見せなかった彼が、状況を再度見極める。
大いなる壁に挑もうとする者たち。主を失った槍は、彼らや彼女らの助力となりうるのだろうか――考える。
「ここに集った人間は、全部で八人。いま生き残ってるのは、十二人。ここにいないあとの四人ってのは、さて誰だろうね」
ジンという名の少年が、そんな謎かけを放る。
見た目にも飄々としていて、リーダーというにはどこか頼りない。というのがストラーダの分析だ。
組織としての役割を任ずるなら、参謀か首魁の懐刀か……腹の底では大番狂わせを企てているタイプの人間にも思える。
「ウヌウ、カミナがどこかに行ったまま行方知らずなのだ」
「そういや、ギルガメッシュはどこ行ったんだ? てっきりジンたちを探しに行ったんだと思ってたんだが」
「あの尊大な王様になら会ったよ。つっても、協力を求められる段階じゃないんでね。しばらく待ってもらってる」
「ギルガメッシュの出番はまだ≠チてことさ。オレたちはオレたちで、先につけなきゃならない始末がある」
「残りの二人というと、ルルーシュ・ランペルージの指揮で動いていたヴィラルとシャマルか」
「ルルーシュ……スパイクたちとは親しくしてたみたいだけど、やっぱあいつも本性隠してたのかな」
「そのルルーシュ・ランペルージとやらも死んだ。いま考えるべきは、ヴィラルとシャマルについてだろう」
「その二人は……まだ、殺し合いを続けているんですよね」
ガッシュ、スパイク、ねねね、ジン、スカー、舞衣、ドモン、ゆたかが順に言葉を交わす。
共有した情報に穴はなく、これまでの矛盾もある程度は解消されたはずだ。
知恵者も多く存在するこのグループが、今さら虚偽の情報に撹乱されることはないだろう。
「そう。ゆたかの言うとおり、ヴィラルとシャマルはまだ螺旋王のパーティーをノリノリで楽しんでる。
逆に言えば、楽しんでいるのはもう≠サの二人だけってこと。できれば即刻退場を願いたい」
その発言で、ストラーダはジンの評価を見直した。
軍師を気取る、との前言どおり、作戦を提唱する彼は利の追求に走っているようだ。
限られた時間であるからこそ効率的に、そして合理的に。
脱出という大きすぎる理想に目を奪われていては、見落としてしまいそうな穴……それを、ジンはちゃんと見ていた。
「言うなれば、目下の敵はその二人だけ。カミナとギルガメッシュを迎えに行くのは、それからでも遅くはないと思うけどね」
――ジンの作戦はこうだ。
未だに殺し合いを肯定する側に居り、この先の脱出計画を進めるにあたって障害となる壁を、早々に除去する。
ヴィラルとシャマルの討伐。殺害、と言ってしまってもいい。
敵を敵と割り切り、邪魔が入らない環境を確保してから未来を案じるべきだと、ジンは考えたのである。
しかしこの作戦に、ガッシュやゆたかは難色を示した。
敵とはいえ、命を奪うということに抵抗を感じているのだろう。
こればかりは、徹底しなければ崩壊を招きかねないほどの穴となる。
無力化や捕縛などに留めては究極の安逸には至らず、後の後悔と直結するだろうことは明白だ。
ヴィラルやシャマルとて、ここまで生き残ってきた猛者である。
今さら考えを改めることもなければ、襲撃にも手を抜いたりはしないだろう。
余計な犠牲が出る前に、脱出のための計画に支障が出る前に、害意は討つ――。
戦略を考案する者としては必須な、リアリストとしての性を、ジンは発揮していた。
「……私は、螺旋王が許せぬ」
懊悩の時が流れ、しばらくしてガッシュが言葉を発した。
「あの者は王としての権力を悪用しているにすぎん。多くの悲しむ者たちを見て、嘲笑っておる。
既に死んでしまった者たちの悲しみに応えるためにも、私たちは必ず、奴を王座から引き摺り下ろさなければならないのだ」
ガッシュ・ベル――魔界の王を目指す最年少の子供は、この中でも随一の高潔な瞳を持っていた。
ギルガメッシュほど尊大ではないが、かわりに傲慢でもない。真に民を思う、若き王の風格を感じる。
死を憎むだけの、ただの平和主義者ではないようだ――とストラーダが分析したところで、ガッシュが賛成の意を述べた。
「戦わなければならん。それが必要な戦いだというのなら、私はジンの作戦を信じるのだ――!」
「わ、私も! そのヴィラルさんとシャマルさんという人が、どんな思いで戦っているのかは知らないです……。
けど、私たちだってここで負けるわけにはいかない! Dボゥイさんやかがみ先輩の分まで……なにより、私たちのために!」
ガッシュに続いて、ゆたかも賛成の挙手をあげる。
特に言葉は見繕わないが、他の者たちもジンの作戦に乗る様子だった。
……傍らで、ストラーダは思案する。
残る敵対者二名、その内の一角であるシャマル。
時空管理局機動六課に所属する彼女は、どんな思惑を抱き、闘争に参加しているのか。
主たる八神はやてを失い、後輩たる六課前線メンバーを失い、なんのために……。
対話の機会を得たいとは思うが、しかしストラーダは寡黙を貫く。
この地では、それが彼の生き方であったからだ。
エリオの戦闘スタイルに合わせ製作されたデバイスが、余生をどう送るのか。
考えても事なきことだ、と結局一言の発言もなさずに、舞衣の手元でひっそりと明滅を繰り返した。
◇ ◇ ◇
我がタイガー道場では、体操服とブルマとローラースケートこそが正装であ〜る!
ローラースケートはお喋りができればなお良し! べるか式を教えてくれればさらに良し!
持つべき友は、熱いハートを持った熱血デバイスと心せよ!
■語り――タイガー道場のロリブルマ
◇ ◇ ◇
具足。
その個体を表す上で、なんとも単純明快な記号を与えられたマッハキャリバーは、傍観者としてこの闘争を見届ける。
闘争……いや、こんなものは路上の喧嘩と大差ないだろう。
真っ向から向かってくるカミナは正にチンピラ、それに付き合うギルガメッシュもチンピラ同然と言えた。
「こっ、のっ……人のこと見下してんじゃねえ蹴りぃいいい!」
「ふん。馬鹿の一つ覚えだな」
瓦礫の町で出会った二人は、顔を合わせて早々にいがみ合い、極自然な流れで火花を散らすに至った。
喧嘩っ早いのはどちらも同じ、ギルガメッシュにはなにか考えがあるようだが、マッハキャリバーとしてはこのような戦いに意義があるとは思いがたい。
対するカミナも、なんらかの目的意識を持ってこの辺りを徘徊していたに違いないはずだ。
残り十二名、残り十二時間の終盤で、無駄にしていい機会など存在しないというのに。
(Teacher……あなた方はこの傲慢なKingを抜きにして、この先を歩むつもりなのですか?)
マッハキャリバーの主観では、ねねねはギルガメッシュの力を必要としているように思えた。
協定を結ぶにしては扱いに困る傲岸不遜な輩だが、彼の保有する戦力、知力は所持品含め有益だ。
彼が手の平を返し、ねねねたちと親愛の握手を交わしてくれるのならば願ってもない……が、それは所詮、願いだ。
ギルガメッシュは弱者など歯牙にもかけず、他者を対等に置くこともしない。
あの、忠義の限り尽くし逝った結城奈緒ですら、彼は対等などおこがましいと断言している。
仲間という言葉の意味からして、ギルガメッシュと他者では捉え方に開きがあるのだ。
彼の助力を願うなど、絶望的とも言える。
それでも、なくてはならない力であることには間違いない。
ねねねの才力がそのあたりをどうにかするものと思っていたが、どうやらここにきてアクシデントが生じてしまったらしい。
ジンはギルガメッシュの要求どおり王の財宝を返し、猶予を欲した。
与えられた時間で彼らがなにを成すのか、興味はあったが具足を務める今のマッハキャリバーに、関与のチャンスはない。
「気にいらねぇ……テメェの目、見てるだけでむかむかしてくんだよ!」
「はっは。吠えるな雑種。駄犬と称すに相応しい吠えっぷりだ」
ギルガメッシュの脚部から、マッハキャリバーは未来を案じ続けた。
残り十時間で、いったい誰が光明を切り開くというのか。
いざ臨界点を前にしたとき……この英雄王はいったいどんな行動に出るのか。
考えても考えても不安しか湧かず、マッハキャリバーは機械の身でありながら心労に苛まれた。
「……こちとら、テメェなんぞに構ってやれる暇はねぇんだよ!」
人間の肉体を持つならば溜め息の一つでもつきたいところ――ふと、カミナの動きが変わりつつあることに気づいた。
今までのがむしゃらな動きから一変し、泰然とした流水のように構えを得る。
様になっているなどとは言えなかったが、その体位からは力が漲るようにも見えた。
(手を抜いていた……というわけではない。Kingに遊ばれる内に、感覚が冴えてきたということだろうか?)
カミナ――明智健悟たちと行動を共にしていた時点で把握済みの男の目には、野心のようなものが垣間見えた。
手放すことのできない野望を目指し、ただひたすらに奔走を続け、しかしいつまでも馬鹿ではいられない。
静かに湛えた水のごとき心……とでも形容すべき風格が、カミナの全身から漂っていた。
「ほう、纏う空気を一変させるか。さすがにここまで生き永らえただけあって、無為の周遊を続けていたわけではないようだ」
『King! いつまでこのような茶番を続けるのですか!? 意地を張らず、ここは皆と協力して……』
好機と捉え、マッハキャリバーはギルガメッシュへの進言を試みる。
だが、
「我に意見するのは何度目だ、具足よ。それに意地を張るというのも、なかなか愉快な冗談だな。
我は機会を与えてやっているのだ。曲がりなりにも王≠フ名を揃える者たちにな。
あそこまで豪語してみせたのだ。我は遥か高みから、奴らの業績を待つのみよ」
ギルガメッシュからの返答に変わりはなく、しかしマッハキャリバーは折れない。
『異なる王が協力し合うことで、拓ける道もある――道を違えた結果、訪れた破滅を受け入れるというのですか、あなたは!』
「……破滅か。螺旋王の言が真実というのなら、あるいはそれもやむなしか。綴り手たちにも言ったがな、具足よ」
ギルガメッシュは声を潜め、天を仰ぎながら告げる。
「――王は決断を誤らぬ。そして全ての結果を平等に受け入れる。王足り得ぬ身でどこまで足掻けるか、我にとくと見せてみよ」
『……ッ!』
先刻ねねねたちに宛てた言葉を、ギルガメッシュは一字一句違えることなくマッハキャリバーに向けた。
このまま調和を図らずとも、どうにかしてみせるという絶対の自信があるのか。
それとも、自身の死とも言える破滅を受け入れる覚悟が既にあるというのか。
スバル・ナカジマを軸として、一種の信頼関係しか見てこなかったAIには……ギルガメッシュの心理が読み切れない。
「さあ雑種よ、我に貴様の意地を見せてみろ。衝撃≠ノも劣る武芸の才が、この我を満足させられるとは思えんがな」
「ほざいてんじゃ……ねぇええええええ!!」
咆哮と同時、カミナがギルガメッシュに殴りかかろうとして――地鳴りが木霊した。
「むっ……?」
ギルガメッシュの意識が、わずか後方に向く。
カミナも同様の方向に視線を転じ、地鳴りの正体を掴み取る。
「んなっ……あの野郎、まだ……!」
崩壊著しい市街の先、遠目からでも視認容易い位置を、レッドカラーの巨大兵器が歩んでいた。
二足歩行の巨体は、ねねねの所持していた支給品リストにもなかった代物だ。
フォーグラーのように、どこかに隠されていた兵器か……だとすればその操縦者は何者か、とマッハキャリバーは思案をめぐらせる。
「フハハハハハ! この期に及んでまだあのようなものを借り出す輩がいるとは……笑い話にしても大概だな」
『King、あの機動兵器に搭乗しているのは、もしや……』
「答えなど一つであろう。生き恥を晒す愚者二人……よほど破滅が恋しいと思える」
『ですが、容認できる戦力ではありません! 菫川女史たちが成果を得る前に、障害と成りうることも――』
「再三申したぞ、具足。それまでのことだ、とな。愚者の対応など、壊す者たちに任せておけばよい」
ギルガメッシュは背後の機動兵器など歯牙にもかけず、改めてカミナの前に向きなおった。
「さて、興醒めにはまだ程遠い。余興を続けようではないか、雑種」
道を阻まれ、カミナは苦い顔を浮かべる。
マッハキャリバーには、ギルガメッシュの人柄がまるで理解できない。
傲慢を通り越して、彼の行動は狂気の沙汰とも思えてならなかった。
◇ ◇ ◇
所詮この世は等価交換。なにかを得るには、それ相応の代価を支払わなければならない。
けど、この世ってやつは不条理だ。代価を払ったって、なにも得られない場合だってある。
そういうときどうするかは人それぞれだけど……あいつみたいに、とりあえずぶっ壊す!ってのもアリかな。
■語り――エドワード・エルリック
◇ ◇ ◇
赤い巨体が、迫る。
頭部を持たぬ人型兵器は、胴体部に人の顔を模し、サングラスのような兵装まで備えている。
一軒屋ほどの背を持ち、備えた手足は城砦の支柱に匹敵するほど太く、たくましかった。
その名、通称をガンメン、愛称をグレンと呼ぶ。
比較対象となるビルが軒並み倒壊し、荒涼とした戦場を闊歩するには、嫌がおうにも目を引く巨体だ。
発見は容易く、またグレンの搭乗者自身も、標的を探して彷徨い歩いていたことだろう。
なればこそ、隠れてやりすごすことも容易だが……迎え撃つのはさらに容易である。
まずは障害の駆除に徹することを決めた者たちが、たった二人の外敵に相対す。
八人の戦力の内、尖兵として躍り出たのはわずかに一人……それも無手で。
否、彼に武器など不要だった。無手で多くの憲兵を抹殺し、異能を持って異能を制してきた彼には――。
『……ほう。こんなところで立ち往生とは、いったいどういうつもりだ?』
眼前まで迫った赤い機体の中から、拡声器のようなものを通して搭乗者の声が響く。
生身でも一度相対したことのある敵、名はヴィラルといっただろうか。
あの頃よりも強大な力を得た獣人は、どのような戦法で打ってくるか。
……考えても仕方がない。己はただ、この右腕に殉ずるのみ。
そう――グレンの眼前に立つ傷の男は、自らに言い聞かせる。
「言葉など不要」
上着を脱ぎ捨て、風に流す。
肌着一枚の軽装となって、右腕を露出する。
仰々しい刺青の彫られたそれは、未完成の賢者の石とも言われている。
ただ、行うべきは『創造』ではない。
理解、分解、再構築を経て成す錬金術を、彼は忌む。
この場においては、錬金術師でもなく、復讐者でもなく、ただの破壊者として。
「我らに仇なす俗物二人――その鎧ごと、この右腕が破壊するッ!」
宣言を成し、傷の男(スカー)が右拳を固めた。
瞬間、その身が飛ぶように、グレンへと疾走を開始する。
『身の程知らずが……あの頃とは違うのだ、あの頃とはなァアアア!!』
ヴィラルが操縦席から蛮声を上げ、小さすぎる標的へと攻撃の意を示した。
巨体の誇る質量を頼りとしての、豪腕。
殺傷兵器とするにも十分すぎる圧力が、スカーの頭上から振りかかる。
(歩数にして二、三、いや四……回避は可能だ)
人の身と比すれば巨大、しかし決して避けきれない攻撃ではない。
スカーは足を加速させ、さらに前へと踏み込む――。
巨腕が振り落とされるよりも速く、相手の懐へと踏み込む――。
絶対にして唯一の武器を敵にぶつけんと、さらに力強く踏み込む――。
「なっ――チィィィ!!」
小さすぎる的は、逆に当てづらい。動く的は、さらに当てづらい。
巨体というアドバンテージを逆手に取り、スカーは機動力を持ってグレンを制す。
一跳び、二跳び、三跳び――破壊された街路を幾度となく跳躍し、スカーの後方でグレンの巨腕が落ちた。
全力疾走によって近接戦に持ち込む。危険を孕んだ戦法は単純だからこそ効果があり、なによりスカーの性に合っている。
ヴィラルが次なる攻めに転じる間際、スカーの右腕がグレンの左脚に触れた。
一刹那、雷光にも似た輝きがスカーの右掌から迸る。
錬成反応を意味するその光は、しかしスカーの目論見とは食い違う色を見せた。
触れた右掌が、弾かれる。
(やはり……か。初手は失敗だな)
グレンの足元からわずかに飛び退き、スカーが敵を分析する。
スカーの破壊の右腕は、触れた物質を内部から滅ぼす、必殺の一撃だ。
錬金術における三大要素――『理解』『分解』『再構築』を『分解』の過程で止め、結果としての破壊を残す。
人体であろうと機械であろうと、無機物であろうと有機物であろうと、彼の右腕に抗えはしない。
しかし、『分解』に至るには『理解』を経なければならない。
対象とする物質を破壊するためには、そのものの根源を見極めなければならないのだ。
人体を壊そうとしては機械は壊せず、機械を壊そうとしては人体は壊せない。
グレンを破壊するに不足しているもの……それはスカーの『理解力』だ。
彼の住む世界とは別の宇宙で生まれた兵器。
石や鉄ではなく、銅や鋼でもない、異種たる素材。
ロージェノムが反螺旋族に対抗するため造り出したガンメンは、スカーの知る物質ではできていない。
(鎧や大砲を壊すのとはわけが違うということか……だが!)
敵兵器の直接破壊は不可能。だからといって、攻め手を封殺されたとは判断せず、退きもしない。
一瞬で分析を済ませたスカーの頭上、グレンの左脚が高々と上げられる。
振り下ろし、踏み潰すつもりか――スカーは回避に努め、疾走を再開した。
『どうしたァ!? このグレンを破壊するんじゃなかったのか、傷の男ォオオオ!!』
士気を高めんとする咆哮に受け答えはせず、スカーは回避に徹し続ける。
グレンの巨体は動くだけでも矛となり、距離を取るにも一苦労だ。
とはいえ、距離を取ったところで新たな攻め手が生まれるわけでもない。
スカーが得意とするのはあくまでも近接戦――右腕による直接破壊を封じられたとて、それは変わらない。
何度目かになるグレンのフットスタンプが、スカーの身を掠め大地に叩きつけられる。
叩きつけた足は再び持ち上げられ、再度スカーを狙うだろう。
スカーはその間隙を縫い、右腕を崩壊著しい大地へと向けた。
錬成の光が、音をたてて迸る。
『――ッ!?』
瞬間、グレンの巨体がグラついた。
振り上げた右脚、巨体を支えらるのは左脚一本。その一瞬を狙い、スカーは周囲一帯の地面を破壊した。
炭化水素、鉄筋、煉瓦、砂、水……成分的にもアメストリスと大差もない路面は、十分破壊の対象として理解が追いついている。
加えて、幾多の闘争の余波を受けたせいか非常に脆くもなっている。
そんな状況下で足場を崩されれば、巨体の制御も覚束なくなるのが自明の理。
『う……おぉおおおおおお!?』
ヴィラルの絶叫と共に、グレンの巨体が横に倒れ込む。
スカーは逸早く、足場の崩落とグレンの転倒から逃れ、距離を取った。
耳を劈くほどの轟音が鳴り響き、グレンは完全にひっくり返った。
――そのとき、グレンの背部に小さな光が宿る。
『……だから、どうだと言うのだァアアアアア!!』
転倒して隙を生むグレンだったが、転倒させただけでは大したダメージには至らず、スカーでは隙を活かすこともできない。
せいぜいが距離を取る時間を得られたくらいで、戦況はまったくと言っていいほど好転していなかった。
グレンが矢庭に立ち上がり、スカーは改めて、自身の手には余る巨躯を正面に据えた。
怨敵と定めた国家錬金術師、己を害意と見なし襲ってきたホムンクルス、いずれとも異なる脅威だ。
されど屈する気は毛頭なく、むき出しにした右腕は矛としてグレンに翳し、不意に、
『アー、アー、マイクの点検中、マイクの点検中』
戦場の一端に、機械的な音声が轟いた。
グレンを通したヴィラルのものではない、飄々とした少年の声が、どこからともなく発せられている。
左方を見やると、そこには倒壊を免れた小高いビルの群集があった。
その内の一軒、グレンの高さとほぼ同位置の屋上から、拡声器を手に叫ぶ少年の姿がある。
(己れの役目はひとまず終了ということか。ならば、この場は同志に任せ退こう)
戦場吹き荒ぶ風にオンボロコートを揺らすその少年――ジンを旗印と捉え、スカーはグレンの視界から消えた。
グレンに搭乗するヴィラル自身、既にスカーを見失い、注意は遥か右方のジンへと向けられていた。
◇ ◇ ◇
あの子はとても勇敢、それ以上にやさしい子。
幼い頃から私の傍にいてくれて、辛いときは励ましもしてくれて。
人懐っこくもあるから、気に入った人の言葉なら、きっと聞き入れてくれると思います。
■語り――キャロ・ル・ルシエ
◇ ◇ ◇
「ジンが動いたみてぇだな」
グレン駆るヴィラルと、それに対するスカー、横槍を入れるジンという戦況の端で、傍観に努める者たちがいた。
健在なビルの屋上から、被害の及ばぬようにと十分な距離を保ち、双眼鏡でもって戦局を見るのは、スパイク・スピーゲルだ。
「本当に上手くいくのかしら……やっぱり、あたしがカグツチ出したほうがいいんじゃ」
「そりゃ最後の手段だ。例のブツを奴さんが持ってたとしても、舞衣のカグツチじゃまるっと燃やしかねねぇからな」
「それに、敵は一人ではない。アレを操縦しているのはヴィラル一人で、シャマルという女が別行動を取っているとも限らん」
「私たちは、不測の事態に対応するための奥の手……なんですよね」
スパイクの他にも、鴇羽舞衣、ドモン・カッシュ、小早川ゆたかの三名がここに集っている。
そしてもう一頭――いや一匹、無垢なる瞳で戦況を見つめる者がいた。
その竜の名を、フリードリヒ――元の世界では『白銀の飛竜』とも称された、若齢竜だ。
キャロ・ル・ルシエの使役竜として、誕生から今日に至るまでを人と歩んできたフリードは、知能も高い。
一時はキャロを殺された憎しみに捉われながらも、ゆたかに付き従いながら様々な戦局を見極めてきた。
この戦いがおそらくは最後の争いになるやもしれない、ということを自覚し、一員としてこの場に会す。
魔法の恩恵を得られないこの身は、本来の姿すら晒せず。ほのかな歯がゆさすら覚えて。
「キュクルー」
「……君も心配なんだね。大丈夫。きっと、上手くいくから」
ゆたかの腕の中に抱かれ、フリードは彼女らと視線を同じくする。
我が身を包む腕は微かに震えていて、しかし包容力は確かなもの。
震えながらも、不安を押し殺してこの場に立っているのだと、理解する。
フリードは勇ましい鳴き声で仮初の主を鼓舞し、励まそうと努めた。
ゆたかはそんなフリードを見て、儚げな微笑みを見せてくれた。
その傍ら、観戦を続けるスパイクが言う。
「……で、キングオブハートはこっちの側でいいのか? おまえ、ああいうのとやり合うのが専門なんだろ」
「ガンダムファイターの領分はガンダムあってこそだ。荒くれ者のカウボーイこそ、あっちの方が性に合うんじゃないか?」
「言ったろ。一回殺されそうになった相手に背中預けるほど、俺は人がよくない」
「……その左手か」
フリードを抱くゆたかの身が、また軽く震える。
ドモンが指摘したスパイクの左手、彼が双眼鏡を片手で持たなければならない理由は、誰もが理解していた。
片手の喪失。命にも関わる重傷を、スパイクはほんの応急処置で留め、あとは放ったままにしている。
手を失うという喪失感がどれほどのものか、苛まれる激痛がいかほどのものか、ゆたかは想像し身震いしているようだった。
「……否定はしねぇさ。これじゃジークンドーも形無しだし、銃撃つにもいろいろ不便だ。
家に帰ったら腕のいい技師を探さなきゃな。でなけりゃ、賞金稼ぎも廃業だ」
さほど深刻でもない風にスパイクは言うが、彼が前線を辞退したのには、間違いなく手の怪我が一因となっているはずだ。
事態はまともな治療を許さないほどに切迫している。フリードも、輪の中に組み込まれた一匹として自覚する。
「ま、いざとなりゃ頼らせてもらうさ。とりあえず、俺たちゃバックアップだ。いつでも動けるようにしとけ」
そう言って、スパイクは右手に持った双眼鏡を目元にあてがう。
ドモンもそれ以上なにも言わず、ゆたかの震えも止まった。
舞衣と並んで屋上の際に立ち、遥か先の激闘に意識を注ぐ……。
◇ ◇ ◇
はぁ? 俺に男について語れって? イヤだよ気色悪い。
旅先で出会った麗しき淑女たちとの思い出なら、夜通し語りつくしてやってもいいぜ。
ま、俺が語らなくたってアイツは行動で示すさ。ジンってのはそういう奴なの。
■語り――キール
◇ ◇ ◇
漆黒のサングラスが睨むビルの屋上。
拡声器を構えたジンは、ストライキを訴える労働者のように、高らかな宣告を開始する。
『パーティーもそろそろ終焉だ! 係員が料理を片付け始めてるってのに、いつまでも駄々こねてちゃマナー違反だぜ!
主催の席は未だに盗めてないが、目先のものを片っ端から盗んでいくってのも王ドロボウとしてはアリかな?
とりあえずは、マナーの悪い客を締め出すための専用口から――盗ませていただきます! HO! HO! HO!』
若輩の身に百戦錬磨の風格を漂わせ――ジンは王ドロボウ≠ニして屹立する。
拡声器から流される挑発は相対したこともないような怪物に浴びせ、しかし微塵も怖気づかない。
揺るがぬ泰山が如く、ジンは自由奔放に己の役割を果たす。
『吠えたなニンゲンが……! ならば、まずは貴様から殺してやるッ!!』
ヴィラルの狂気が、ジンに向けられる。
グレンの歩の向きがジンの立つビルへと転じ、走り出した。
すかさず、ジンは拡声器をデイパックに収め、代わりに迎え撃つための武器を取り出す。
「装備の分配は計画的に……ってね」
デイパックの狭い口から飛び出すようにして出てきたのは、一丁のライフルだった。
モデルガンとも思えるような異型はスペシャル・オーダーの証であり、唯一ガンメンに対抗し得る武器でもある。
「相棒が健在なら、もうちょっと派手にいきたいんだがね。今回はヨーコ≠竍ラッド≠フ置き土産に縋るとするよ」
得意技のキールロワイアルを封じられた王ドロボウは、この一時のみスナイパーへと転職を果たす。
リットナーの名狙撃手のように、武器を選ばぬ殺人狂のように、引き金の絞り手となる。
その武器、ガンメン殺しの特注品――超電導ライフルでもって。
「まずは一発――BANG!」
ジンの手元から轟音が木霊し、放たれた弾丸がグレンに命中、進行を止める。
――そのとき、グレンの左脚部に小さな光が宿る。
「続いてもう一発――BANG!!」
間断なく放たれた二射目が、グレンの装甲を穿ち、軽く仰け反らせる。
――そのとき、グレンの右脚部に小さな光が宿る。
「ケチらずもう一発いこうか――BANG!!!」
勢いに乗せた三射目、正確無比な狙撃はグレンの眉間を撃ち、さらなる隙を作るが、
『こっ……の! 調子に乗るなぁあああ!!』
ヴィラルもされるがままではおらず、グレンのバランスを強引に修正、強く大地を踏み締める。
続けて四射目を許さぬようにと、腕部のコントロールを胴体のサングラスへと持っていった。
「おっと、こりゃやばい」
グレンの挙措からなにがくるかを察したジンは、超電導ライフルを掲げ退散の用意をする。
間に合うものか――と言わんばかりにグレンは激しく動き、胸部に備えられたサングラス型のブーメランを取り去った。
『これで真っ二つだぁあああ!!』
間髪入れず、それをジンのいるビルへと放る。
その武器、グレンブーメランは弧を描いて宙を滑り、通過地点のビルを縦に両断した。
威力は衰えることなく、空中で軌道を変更し、ブーメランはグレンの手元へと帰還する。
ブーメランがサングラスとして胸部に戻る頃、両断されたビルは音をたてて崩れていった。
ジンもその倒壊に巻き込まれたかと思いきや、
「ヒュー! センスは悪いが大した切れ味だ。買い手はつきそうにないけどね!」
『なにィ――ッ!?』
両断されたビルの付近、健在の様相を見せるジンが、空に浮いていた。
もちろん、翼や浮遊能力を得たわけではない。
介した道具は、カプセル型の自立行動型ロボット。
それがさながらバルーンの役目を果たし、ジンはケーブル越しに中空を漂っているのだった。
宙を舞うジンを見て、ヴィラルは驚きのあまり操縦を中断する。
しかしより強い驚きを得ているのは同乗者のほうのようで、その証として女声が響き渡ってきた。
『あれは……ガジェットドローン!? あんなものまで支給されていたなんて……』
「おや、さっきとは似ても似つかぬ麗しいお声。相方のシャマルってお嬢さんも、一緒に操縦席にいるのかな?」
『余裕を……! このまま握り潰してやるッ!』
未だのんきに中空を漂うジン目掛け、グレンの手が掌握を為さんと伸びる。
ジンは即座にガジェットドローンのケーブルをパージし、ひらりと大地に降り立った。
直後、ガジェットドローンがグレンの掌に衝突し、墜落する。
即席の飛行道具としていた精密機械も、ガンメンの衝撃には耐えられなかったか。
もったいねー、とジンは小声で零し、着地した地点から移動を開始する。
肩から提げた超電導ライフルの残弾は二発。しかしデイパックの中には、まだありったけの予備弾丸が入っていた。
使う機会に恵まれず、今の今まで死蔵品となっていたガッシュの支給品……それが、予備弾丸のセットだったのだ。
今さら9ミリパラベラム弾など得ても戦局に大きな変化はないが、ご丁寧なことに超電導ライフル用の特注品まで入っていたから僥倖だ。
必殺には至らないが、この対ガンメン用兵器なら時間稼ぎには十分である。
(おや……?)
と、ジンは己の役割を再確認したところで、気づく。
巨体揺るがすグレンの両脚部と、背中。それらの部位が淡い光に包まれている。
箇所にして三つ、それらの意味するところを把握して、ジンはほくそ笑んだ。
「……手際がいいことで。んじゃ、俺もぼちぼち詰めに入るとするかな」
言って、ジンは疾走の方角を変更する。
進路は北、ヴィラルが会場端のループを利用してやって来たであろうルートを逆走し、グレンの股を潜る。
その先はソルテッカマン等の被害から免れた地区でもあり、南のフォーグラー付近に比べれば崩壊も極一部だった。
ヴィラルたちも小さな標的に躍起になっているのか、フォーグラーとは逆方向の北へとちゃんと追撃してくる。
ジンは、鬼さんこちら、手の鳴るほうへ、と口ずさみながら、市街地に潜り込んでいった。
『ふん……! 建物の群集ならば、オレたちの行く手が阻めるとでも思ったか!?』
ジンの算段を読み違えたヴィラルが、見当違いな雑言を吐く。
返す言葉はなく、今はただ遁走に徹し、超電導ライフルも構えはしない。
打ち合わせではもう一撃――ジンはその瞬間を駆けながら待った。
そして、
『いつまでも逃げ切れると思うな小僧! ほうら、そろそろ疲れが出てきて――』
グレンの中からヴィラルの余裕じみた声が漏れ――
――そのとき、グレンの左腕部に小さな光が宿る――
――操縦者の二人は滑稽にも、積み重ねられた予兆に気づけないでいる。
大きすぎるのも考え物だな、とジンは嘆息し、足を止めた。
わざとらしく膝に手をつき、肩で息をしているようなフリ≠見せる。
それに気を良くしたお調子者は、すぐには襲わず一緒になって足を止める――そういう狙いだが、これは目論見どおり。
『そ〜れ見ろ。ニンゲンの体力などでガンメンを振り払えるものか。観念するんだなぁ』
勝利を確信しきった声。いや、あるいは相方のほうが警戒に務めているのか。
どちらにせよ、ジンの仕事はこれでほぼ完了した。
あとは次のフェイズに移行するために、きっかけ≠用意してやるくらいだ。
「そうだね……手法としては、なぞなぞ≠ネんていいかもしれない」
ジンは一人そう呟いて、グレンに向きなおる。
「まいった。降参だ。ところでこのまま死ぬのは悔やまれるんだけど、せめて末期の言葉くらいほざかせてもらってもいいかな?」
『……なに?』
ジンの突飛な発言に、ヴィラルが怪訝な声を落とした。
「あの世へ旅立つ餞別っていうわけじゃないけど、ちょいとした謎かけを一つ。
それは誰をも輝かせることができる奇跡の照明持ち。だけど自分の体はライトアップできない。
しかし照明担当は満足で、周りにはそれを愚かと罵る人もいる。飾り気がないって、自分が見えてないってことだから
さ〜て、これなんだ? ここまで生き残ってきた聡明な戦士様なら、そろそろ気づくと思うんだけど?」
ジンの思わせぶりな態度に、ヴィラルは黙して苛立つ。
熟考とも思える時間が経過して、やがてグレンの内部から笑い声が木霊した。
『フ……フハハハハハ! なにを言い出すかと思えば……そんなものは簡単だ、灯台≠セろう!?』
「当たり。けど、ヴィラルだっけ? お仲間が博識で優しいからって、こっそり答えを聞くのはルール違反だぜ?」
『なっ……なんだと!?』
「ルールを犯したペナルティは、もう課せられている。そのでかい図体をよく見てみな!」
ジンに煽られ、ヴィラルはコクピットからグレンの全形をモニターで確認する。
その姿、未だ健在だ。随所の装甲はへこみこそすれど、破壊に至ってはいない。
所詮は死に際の戯言か――とヴィラルが叫ぼうとしたところで、シャマルが声を荒げる。
『こ、これは……!?』
「おっと、やっぱり相方のほうが聡明なようだ。女性は男性を高尚にするって言うしね」
『な……なんだ、グレンに取り付いているこの無数の光≠ヘ!?』
搭乗者二人がようやく気づくが、もう既に手遅れだ。
背中と左腕、両足の計四箇所に見られる発光は、これまで地道に築き上げてきた布石。
最後の一撃を決めるための下準備であり、ヴィラルとシャマルは操縦席にいたからこそ気づけなかった。
灯台下暗し≠フことわざのとおり――グレンの中からでは、巨体の各部位に灯った小さな光が見えなかったのだ。
そしてその四つの光は、近くから見ればこうとも取れるかもしれない。
バチバチと音をたてる火花、まるで放電しているようでもあると。
『まさか――傷の男も貴様も、全てはこれが狙いで……ッ!?』
「ビンゴ!!! LAST SHOTはあいにくとオレの役じゃあない。あんたはそのへんも見えてなかったのさ!!!」
指で作った銃でグレンの眉間を撃ち抜き、ジンは最後の嘲りを見せ付ける。
ヴィラルが激昂しようが、もうなにもかも遅い。
ジンはすぐさまトンズラを図り、風のような速さでグレンの視野から消えた。
ヴィラルはグレンのメインカメラをぐるりと回し、小さな影を探し回って――すぐ発見する。
横合いのビルの上に立つ、新たな敵の影、計二つを。
両者共に腕を組み、並び合い、仁王立ちしている。
その表情からは勝利を見据えるような強さが滲み出ていて、
目を合わせたヴィラルとシャマルは……本能的に、恐怖した。
◇ ◇ ◇
王に必要な素質って、なんだと思う?
肉体的な強さ、精神的な強さ、知恵や優しさ、時には厳しく徹する強さも必要かもな。
全部兼ね揃えてる王は稀だが……王を目指す者にとってなにより必要なのは、決して諦めないっていう志さ。
■語り――高嶺清麿
◇ ◇ ◇
初めから、想定していたことだった。
放送前、ねねねとスカーが目撃したグレンとラガンの激突。
それは消去法でいって、ヴィラルとシャマル、カミナたちによって引き起こされた闘争であったはずだ。
結末までは見届けられなかったが、放送後も両者共に健在だというのならば、最悪のケースを想定する。
ヴィラルとシャマルが、グレンという巨大兵器でもって襲撃してくる可能性。
いかに人員を揃えようとも、火力で劣れば対処は困難になるだろう。
スカーやドモンなどは生身でも渡り合えるだろうが、不利は拭えない。
二人がルルーシュと行動を共にしていたというのなら、
紛失したアンチ・シズマ管や『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』を持っているとも限らない。
ともなれば、カグツチの劫火で滅却するというのも失策になりかねない。
いくつかの手を潰し、選択肢は限られる。
一つ、スカーの破壊の右腕による必殺――しかしこれは、本人曰く『おそらくは不可能』と却下された。
そこで持ち上がった案が、
「ねねね。いよいよ最後の一撃なのだ。心の力は残っておるな?」
「ザグルゼム四回とラウザルク四回……一緒に走らされてこっちもへとへとだけどね。まあ安心すれ」
ビルの屋上で、白銀のマント靡かせる少年――ガッシュ・ベルと、
ガッシュの隣で、赤い本を手に携える作家――菫川ねねねによる、
「シメの一発分は、ちゃんと取っておいてるさ。心の力とか気合とか、そういうのなら負ける気しないしね」
呪文での一発撃破――ガッシュ最強の術を用いてのトドメだった。
『貴様らは、あの黒いガンメンにいたニンゲン――!?』
ヴィラルがねねねとガッシュの存在に気づき、声を荒げているがもう遅い。
この瞬間に至るまでに、下ごしらえは済ませておいた。
スカーとジンは単なる陽動役にすぎず、本命はずっと影から機会を窺っていたのである。
全容としてはこうだ。
スカーとジン、身体能力に卓越した二人が交代制でガンメンの対処にあたり、計四回の隙を作る。
与えられた四度の機会に、ガッシュとねねねはヴィラルたちに気づかれぬよう、ザグルゼムを四発叩き込む。
これがわりと重労働でもあった。なにしろ、巨体の周囲をバレないように徘徊し続けるのだ。
運動神経に秀でたわけでもないねねねは根性で食い下がり、ほとんどはラウザルクで強化したガッシュに背負われての特殊工作だった。
最強術を叩き込むのに、どうして四発のザグルゼムをあてる必要があったのか。
それは、より確実を帰すため。
これまでにもガッシュの最強術に耐えうる力を持った者たちは多々居り、一撃必殺とはいかないこともしばしばあった。
グレンの耐久力も未知数な現状、確実に相手を玉砕できるようにと推定した回数が、四回なのだ。
もっとも、敵方であるヴィラルはグレンに纏わりついた光――否、電撃の意味などわかりはしないだろう。
ザグルゼムが雷を蓄積させ、雷系の呪文の威力を倍化させる効果を秘めているなど……あるいは、もう間もなく知るやもしれない。
「約束覚えてるな、ガッシュ。あんたを王にする。清麿いなくてもあんたは夢を目指せるってこと、証明してやるよ」
「ウヌウ!」
静かに、二人が腕組みを解く。
かつてのパートナー、高峰清麿がそうしてきたように……菫川ねねねが呪文詠唱の構えを取る。
右手にページの開いた赤い本を持ち、左手は指で銃口を形作り、ターゲットに向ける。
ガッシュは視線をターゲットに固定し、ねねねの言霊を座して待った。
「ありったけ味付けしてやったんだ! 残さず喰いつくせ――!!」
ねねねが歯をむき出しにし、勇ましくその名を口にする。
運命を打開する一手、カーテン・コールのベル代わりとして。
「バオウ・ザゲルガァアアアアアアアアアア!!」
赤い本の輝きが一瞬、金色へと至り、ガッシュの口元から雷撃の竜が誕生した。
グレンの身の丈ほどもあるその竜、金色のバオウは、ザグルゼムの雷に反応して体積を増していく。
『お……おぉおおおおおおお!?』
その体躯は蛇のように長く、その顎は樺のように大口で、グレンなど一呑みにしてしまえるほどに膨れ上がった。
霞を吹き飛ばし、灼熱の電流を帯び、食い尽くすものすべて掻き消さんと、バオウは猛る。
グレンの抵抗むなしく、ヴィラルの奮戦かなわず、シャマルが対策を練る間もなく、
金色のバオウは、紅蓮冠さす顔面兵器を喰い滅ぼした。
◇ ◇ ◇
ディープラブという言葉をご存知ですか? 島耕作のような、ねっちゃりしたアレです。
ラブの度合いが強すぎるあまりその人を監視しちゃったり、拘束しちゃったり、果てには飼っちゃったり、ってやりすぎだ!
絶望したッ! 愚直すぎるディープラブをヤンデレとかで一括りしてしまうオタク社会に絶望したッ!!
■語り――糸色望
◇ ◇ ◇
――闘争の唸りが、やむ。
獣の咆哮にも似た雷鳴の轟きは市街を劈き、一瞬で静寂へと至る。
騒音の原因でもあった巨大兵器は沈黙し、赤身の全形を爛れた黒へと変えていた。
煤塵舞う街路の端、黒こげになったグレンを足元から見上げる姿が二つ。
「木っ端微塵かとも思ったけれど、まるこげとはね。料理にも使える器用な技みたいだ」
「……炭になっては食えんがな」
役割を果たしたジンとスカーが、勝利者の余裕でもってグレンに対した。
横合いのビルから降りてきたねねねとガッシュも、二人に合流する。
「……ぶっ放した私が言うのもなんだけどさ。大丈夫なのか、これ?」
「ウヌ、心配するでない。バオウの雷は命までは奪わないのだ……たぶん」
破壊の雷光は戦局を閉ざす決定打となったが、グレンの内部がどれほどの被害に至っているかは不明瞭だ。
搭乗者の二人、ヴィラルとシャマルにまだ息はあるのか。彼らの所持品は燃え尽きていないかと、ねねねは心配していた。
「作戦会議の場ではああ言ったけど、オレとしても命を盗むような真似はしたくない。
パーティーの幕が閉じるまで永遠におねんねしてくれてるってのが、一番好ましいんだけどね。
これだけ痛めつけてまだ懲りないってんだったら……イシュヴァラの神も黙っちゃいないってとこかな?」
ジンの覚悟を促すような言葉に、スカーが拳を握り締める。
「万が一のときは……己れが手を汚そう」
中の二人がどんな行動に躍り出るか。それは箱を開けてみるまでわからない。
ただ不必要な死を招きたくないのは誰にとっても同じであり、等しい願いだ。
博愛主義では世の中は回らない、されど理想として胸に抱くことはやめない。
そう、愛は他者に向けてこそ。
グレンの操縦席に鎮座する彼女が、外の敵に目もくれないのは――ひとえに愛しいがゆえだ。
ジンたちがグレンの足元に駆けつける少し前から、シャマルの意識は覚醒していた――
――バオウ・ザケルガの直撃による衝撃と振動、内部にまで届く電流が、一度は搭乗者たちの意識を閉ざした。
しかしシャマルだけは、ほんの一、二分で意識を回復させ、激痛の残る体に鞭を打つ。
「う……っ」
ぐらりぐらりと揺れる脳を、どうにか正常に保つ。
狭いコクピットに身を置きながら、先の衝撃だ。壁に頭でもぶつけたのだろう。
見ると、コクピット内部は散々な有り様だった。
両側面部のモニターはブラックアウトし、周囲の情景がまったく視認できない。
操縦桿や天井部からは火花が散り、どうやらショートしているようでもあった。
全身にも、微かな痺れが残っている。
あの金色の竜は、フェイト・T・ハラオウンが得意とする雷撃系の魔法にも似た攻撃だったのだろう。
体中が気だるく、節々が痛みもするが、それでも命に関わるほどの怪我ではない。
シートにも座っていなかったのによくも軽傷で済ませられたものだ、とシャマルは自らの幸運を鑑み、気づいた。
「あっ……!?」
軽傷の自分に反するように……操縦席に座っていた愛しい男の身からは、死の香りが漂っている。
「ヴィラルさん!」
シャマルは叫び、すぐさま回復魔法を行使した。
メインシートに席を置くヴィラルは操縦桿を握ったまま、深く目を閉ざしている。
頭部からは夥しい量の血が流れており、顔色も青く変色していた。
握られたままの操縦桿は、死しても戦い抜くという戦意の表れだとでもいうのだろうか。
「どうして……どうしてッ、こんな!」
ヴィラルの重傷と己の軽傷を照らし合わせて、その差はなにが原因であったのかと考え込む。
翳した手はヴィラルの患部に集中し、魔力を放出したまま、シャマルは子供のように泣きじゃくった。
『……ヴィラルは、あなたを庇ったんですよ』
ふとして齎された声に、シャマルが視線を落とす。
懐にあったカード型デバイス、クロスミラージュの機械的な音声が語りかけていた。
「あなたは無事だったのね、クロスミラージュ……」
『ええ。本来ならこの機動兵器の計器ごと大破していてもおかしくはなかったのですが、幸運でした。
先ほどの竜――ガッシュ・ベルのバオウ・ザケルガは我々の知る魔法とも別系統の力であるようでして。
術者の意志に呼応して、破壊力の調整を図れるようです。彼らが本気なら、今頃はあなた諸共木っ端微塵でした」
「けど、ヴィラルさんは――! そうだ、私を庇ったって、いったい……」
シャマルは涙声のまま、体裁も気にせずクロスミラージュに問う。
クロスミラージュは、表情を持たぬ機械として、厳格に事実を告げた。
『バオウ・ザケルガの直撃を受ける寸前、ヴィラルは操縦席から身を離し、傍らのあなたに覆い被さったのです。
衝撃を和らげる緩衝材になろうと、本能で動いたのでしょうね。私としても、彼の行動は予想外でした。
その後はあなたと共に意識を失い、しかしあなたよりも先に目覚め、再び操縦席に着きましたよ。
操縦桿を握り、戦闘本能の赴くがままに過ちを繰り返そうとして――またすぐ意識を閉ざしましたがね』
クロスミラージュの恬淡とした報告を受けて、シャマルは愕然とする。
後悔遡るのは、ガッシュらとの戦闘に至るずっと前。出撃のときにはもう、道を間違えていたのかもしれない。
チミルフが死に、残る参加者がわずかとなり、禁止エリアの追い討ちとリミットの告知が、戦士の自尊心に焦りを与えた。
シャマルは、そんなヴィラルの焦燥感に気づき、諌めるべきだったのだ。
それを、クロスミラージュへの反骨精神もあったせいか、跳ね除けてしまった。
ヴィラルを信じての結果的な盲従は、軽佻浮薄だったと認めざるをえない。
だが、今さらの後悔に酔いしれている場合ではないのも事実。
シャマルは余計なことを考えず、敵の存在すら忘却して、ヴィラルの回復に当たった。
そんなシャマルの盲目的な様を見て、クロスミラージュが口を挟む。
『まだこんなことを続けるというのですか? これ以上過ちを重ねて、なにがあなたを幸せにするというんです』
「……」
シャマルは言葉を返さず、黙して治癒を続行する。
『ヴィラルが、あなたにとっての大切な拠り所であることはわかります。彼を救いたいと願うなら、なおさら虚勢を張るべきではないでしょう』
「……」
クロスミラージュの言葉は、騒音にしかならない。
集中力を欠いては、ヴィラルの命に関わってしまう。
『今すぐガッシュ・ベルたちの下に振り、投降してください! 皆で協力すれば、あなたの望む幸せとて――』
「……勝手なこと、言わないでッ!」
――つい、感情が抑えきれず、シャマルは声を荒げてしまう。
しかし、回復魔法の行使には手を抜かない。
声だけで、シャマルはクロスミラージュを恫喝する。
「クロスミラージュ……あなたは言ったわね。愛はもっと、幸せに満ちた感情だって。
なら訊くけど、あなたは誰かを愛したことがあるの? 愛しいという想いを、片時でも胸にしたことがあるの!?」
涙は止まらず、感情に支配された悲痛な主張を、シャマルは喚き続けた。
クロスミラージュは言い返せず、聞き手に回ってしまう。
「誰にも、私たち二人の世界を侵す権限なんてない。私たちの愛を、愛じゃないなんて言う資格はっ、ないッ!!」
雄叫びのようにシャマルが吼え――それに呼応するかのように、暗転していたモニターが復帰を果たす。
外界の映像によって明るくなったコクピット内で、シャマルはそれでも愛を叫び続ける。
グレンのすぐ足元に、ヴィラルをこんな風にした元凶がいようとも。
グレンに搭載された拡声器がオンのまま、言葉は全て、外に筒抜けになろうとも。
構わず、シャマルは訴え続けた。
「私は……ヴィラルさんが好き! 大好き! 愛してる! この世の誰よりも! 世界で一番愛してる!!」
守護騎士としての永久に近い人生、ここまで感情を表に出したことはなかったかもしれない。
かけがえのない家族にも、守るべき主にも、ぶつけたことはない未知の激情。
たった一人の女の子として、抱いて当然の感情を吐露する。
「初めて会ったときから、ううん、それからだんだんと、どんどん、言い表せないほど好きになった!
この人を好きと思う気持ちは、ヴィータやシグナムやザフィーラやリィン、はやてちゃんに向けてきたものよりよっぽど強い!
馬鹿げてる、って言われるのはわかってる! プログラムにすぎない私がって……けど、けどけどけど、けど!」
張り上げる声は、徐々に強く。出会いと過程を思い出しながら。
――『き、きゃあああ!?』
――『怯える必要はない、少々確かめていただけだ』
出会いがしらに裸を見られ、羞恥心を押し殺し、利用し合う関係を築き上げた。
思えばそれが転落の始まりか、しかし落ちた先が奈落だとは思えない。
――『あの……箸は使わないの? フォークが無かったから箸にしたのだけれど……』
――『“ハシ”……この棒のことか? すまんが……俺はこの道具を使ったことがない』
殺し合いという環境に身を置きながら、随分とゆとりの持てた生活を送っていたとも思う。
彼と過ごす時間には確かな安らぎがあり、それは比しても八神家での団欒には劣るはずだった。
――『私は獣人ではありません。もし仮に私達が運良く生き残れたとしても……』
――『安心しろ。お前のことは三日三晩喰らいついてでも螺旋王に認めさせてやる』
なのに、彼への想いは膨れ上がり――八神はやてが死亡してからも、その波が止まることはなかった。
絶望した自分を叱咤し、生きる意味を与えてくれた、縋るべき拠り所。
――『オレの明日がお前の明日だ』
――『目合うのなら……慰めあうよりも、愛しあう方がずっと良い』
――『お前の仲間は全員死んでしまったが、オレだけは最後までお前のそばにいる』
――『だから頑張れシャマル、頑張れ』
縋るべき、拠り所。
クロスミラージュに難色を示されても仕方がない関係は、しかし肥大化して、愛に至ったのだ。
今さらこの感情に異を覚えるなど、自身を否定していることに相成らない。
この衝動は正しく愛であり、八神家を恋しいと思う気持ちよりも強く、そして――無敵だ。
「わたしは――ヴィラルさんがっ、だいすきだぁああああああああああああ!!」
人目憚らない愛の告白が、殺戮の舞台に木霊する。
オーディエンスが唖然とするのも構わず、シャマルは思いの丈を主張し続けた。
眠れる男の覚醒を願って。
◇ ◇ ◇
好きなものは好きって、隠さず公言しなきゃ。やっぱ人生損だよね〜。
趣味や性癖なんて人それぞれなんだからさっ、やまないやまない。
大切なのは愛だよ! あいあいあいあいあいあいあいあいあいあア〜イ、愛!
■語り――泉こなた
◇ ◇ ◇
――螺旋力とは、遺伝子の力だ。遠い宇宙に住む螺旋族から端を発し、この惑星の移り住んだ人間に伝来したものでもある
宵闇のような意識の狭間で、懐かしい声が胸を打つ。
彼の人物の言葉は、いったいどれだけ昔に授かったものか。
思い出すにも億劫なのは、この身を蝕む激痛のせいだろうか。
――螺旋力は、人間の生理的な欲望に強く呼応する。テンションと言ってしまってもいいがな
獣人をやめた、否、やめさせられた、あの屈辱の日。
睡眠時間の枷を外す儀式の間際、王が零した言か。
それを、なぜ今さら。
――そういう理屈では、本能に従順な獣こそ、より純度の高い螺旋力を得ることが可能なのかもしれん
獣。
気高き獣。
武と智を兼ね揃えた獣人。
――仮説にすぎんが……もし、獣人が人間と同様に螺旋遺伝子を持つことができるのならば
そんな肩書きが、今さらなんだというのか。
今の自身は、獣でも獣人でも、ましてや人間でもない。
都合のいいように改造を施された、できそこないだ。
――赤子のように無垢で、獣のように従順で、遺伝子が欲する感情に心を委ね……凄まじい螺旋力を発揮するのであろうな
それを今さら卑下するつもりもない。
この身は戦える。
この身は、たった一人の女を愛しいと思える。
――……そんな前例は、羨望の対象たる世界でもなかったことだ。だが、もしおまえが人間として新生するのならば
多元宇宙のどこかで、己が戦士として殉じようとも。
螺旋力を巡る闘争に加わり、人間たちと列を並べようとも。
この地では……己が欲望に従う。
――あるいは、そんな奇跡も起こるやもしれん。私は、それに賭けたりしないがな
それがオレの生き方だ。
他の宇宙の誰でもない。
シャマルを愛した、ヴィラルの生き方だ。
獣、獣人、人間、螺旋力……知ったことか!
オレは、オレは――
――ゆっくりと、閉じていた瞼を開ける。
頬を雫が伝い落ちていき、視界には泣きじゃくる女の顔があった。
酷い形相だった。目頭を赤くし、鼻水を垂らし、女の誇りを捨てている。
だが、そんな一面がまた、どうしようもなく可愛い。
せめて涙を拭ってやるのが、男の務めだと思った。
「ヒクッ……ヴィラ、ル、さん……っ?」
指で目元を拭ってやると、シャマルが鼻を啜りながら反応してみせた。
赤子のように弱々しい仕草は、保護欲をそそられる。
悲しみの表情は可愛くもあるが、笑って欲しいとも思う。
彼女にはやはり、笑顔のほうが似合っているだろうから。
「シャマル……おまえの想い、確かに受け取ったぞ」
頭がズキズキと痛む。酷い傷を負っているようだ。
シャマルは泣きながら、治癒を施していてくれたのだろうか。
そう考えると、痛みなぞどこかへ吹き飛んでしまう。
なんて献身的な女だろう。また愛しくなった。
「ヴィラルさん……ヴィラルさん、ヴィラルさん、ヴィラルさん……ッ!」
シャマルは咽び泣き、ヴィラルの身に覆い被さるようにして、また泣く。
ああ、このままギュッと抱きしめてやりたい。
肌の温もりを、鼓動の高鳴りを、彼女に伝えてやりたい。
だが今は、もっと単純な愛を送ってやりたい。
「シャマル」
一言、愛する女の名を呼び、ヴィラルはシャマルに口づけをする。
涙のせいか、唇から感じ取れる味はほのかにしょっぱかった。
一秒か二秒の間、唇を合わせ、そっと離す。
貪りたい欲求はあるが、それは後の楽しみに取っておこう。
「今度は、オレがおまえの愛に応える番だ。ついてきてくれるな、シャマル?」
ヴィラルが問うと、
「はいっ……はい、はい! はい!」
シャマルはまた泣いて、何度も何度も、深く頷いて見せた。
泣くな、笑え、とぶっきら棒にシャマルの頭を撫で、ヴィラルは操縦席から立ち上がる。
ふらつく足取りを気合で持ちなおし、そのままグレンの外へ出た。
寒風吹き荒ぶ中、ヴィラルは額の辺りから流れる血を鬱陶しく思い、しかし止まらない。
眼下には忌々しい人間たちが複数存在していたが、今は交わす言葉もない。
グレンの装甲をよじ登り、頭上へ。
最も高く、最も声の届きやすい場に躍り出て、宣誓を果たすために。
(……ああ)
グレンの頂に立ち、初めて下方の敵に目を向ける。
黄色いコートの少年、傷の男、童子、女――相対した面々は、戦意迸る視線の矛先を、ヴィラルへと傾けている。
それでこそ――と、ヴィラルは鮫のような牙をむき出しにして笑った。
「ウヌウ……ヴィラル! そんな体で、まだ戦うというのか!?」
ガッシュはヴィラルの見るからに重傷な様を見て、そんな戯言を向けてくる。
失笑ものだ。もとより、この戦いには殉死する覚悟で臨んできたというのに。
「ヴィラル……? 違うな。今のオレはただのヴィラルじゃあない……。
戦士としてのプライドも、もういらん。立場も存在意義も、全てかなぐり捨てる。
今のオレは、おまえら知っているヴィラルではない。そう、今のオレは……オレは……」
都の戦士としての誇りも、螺旋王への忠誠心も、捨てるに安い。
今、この身はたった一つの感情さえあれば戦える。
戦って、生きることを目指せる。
だから、男は愛を唱えるのだ――!
「オレは……シャマルの! 旦那だァァァァァ――ッッ!!」
拡声器もなしに、ヴィラルは声帯を潰しかねん声量で雄叫びを上げた。
その迫力に気圧され、ガッシュが、ねねねが、ジンが、スカーでさえもが一歩退いた。
畳み掛けるように、ヴィラルはシャマルへの想いを放歌高吟する。
「ああ、オレはシャマルが好きだ。好きなどという言葉では生温い。愛している! ゾッコンだ!!
顔も性格も容姿も声も全て素晴らしいがなにより匂いがたまらん! オレの嗅覚を抉るあの匂いはなんだ!
あれが女の持つ神秘だというのなら、いいやあの匂いはシャマルだからこそ、唯一無二のオレだけのものだ!
誰にも渡しはしない。あのすべすべとした肌のぬくもりも、時折見せる愛嬌ある微笑みも、儚げな瞳も全て!
作る料理は正直食うに耐えられたものではないが、そこもまた可愛げの一つとして受け入れよう!
オレはシャマルのためならなんだってやる! 戦士としての看板すらドブに捨ててやる! それだけの愛!
全部ひっくるめて愛なんだ! この感情は愛以外に例えることができん! 愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛あ〜いッ!!
いいか、何度だって言ってやる! 貴様ら耳の穴かっぽじってよぉぉぉく聞きやがれぇええええええええ!!!」
既にねねねやガッシュは耳を塞いでいる中、ヴィラルはさらに声を張り上げ、叫ぶ。
「オレは――シャマルがっ、だいすきだぁああああああああああああ!!」
――耳を塞いだとて、無意味だった。
羽虫のざわめき、狼の遠吠え、猛禽の威嚇、獅子の咆哮、どれとも形容しがたい愛の叫びが、大気を奮わせる。
人間に近しく改造された獣人は声域をも強化されているのか、はたまたこれも愛の成せる業か。
「……なんっ、な!? 馬鹿じゃないのかアイツ……つーか馬鹿だろ!? 恥ずかしい馬鹿だろアイツ!?」
「落ち着きなっておねーさん。オレも動揺しまくりだけどさ……キールといい勝負ってとこかな。はは……」
「……若さ、か」
「ウ、ウヌウ……」
ねねねやジンはたじろぎ、仰天しながらもヴィラルを注視し続ける。
スカーとガッシュも驚きこそすれど、完全に警戒を解くには至っていない。
バオウ・ザケルガで撃破したと思われた敵は健在であり、戦いはまだ終わっていないという現実を、各々胸に受け止める。
戦意絶やさぬ戦士たちの様――ヴィラルはそんな眼下の連中を、一笑してまた叫んだ。
「オレはァアアア! シャマルと添い遂げるッッ!!」
空気を劈く大声が、直下に浴びせられる。
この愛の咆哮に耐えられぬ者など、もはや敵ではない。
荒ぶる激情を糧とすれば、困難などなにもないと――ヴィラルは心に刻み、動いた。
肩に提げたデイパックに手を突っ込み、無造作に掴み取った物体を引き上げる。
それはデイパックに収まるにしては無理な質量で、尚且つ武骨だった。
男らしい顔つきは彫刻か否か、洗濯機ほどの大きさを持つ丸い物体は、ねねねたちにとっても縁ある品だ。
殺戮のクライマックスを想定し、会場に配備されていたスペシャル・ガンメン――羅顔(らがん)。
他のガンメンとは異なる性能を秘めるそれに、ヴィラルは己が信じる愛を託すと決めた。
操縦席となっているラガンの頭部へと乗り込み、懐から起動キーを取り出す。
掌にすっぽりと収まる程度の、小さなドリル。
ヴィラルはそれを、操縦席中央部の鍵穴へと差し込んだ。
コアドリル――ラガン起動の核となるアイテムに、力を注ぎ込む。
螺旋力という名の、進化の力を。
「あのときの輝きを……もう一度、オレに見せてみろぉおおおおおお!!」
ぎゅるり、と差し込んだコアドリルを捻る。
途端、鍵穴を起点として照明が弧を描き、螺旋を成した。
ラガンの小さな全形が揺れる。口が開き、声なく猛る。
ヴィラルの螺旋力を動力源とし、火が灯る。
瞬間、むき出しになっていたラガンのコクピットが隔壁に閉ざされた。
ヴィラルの姿を覆い隠し、バーニアが点火、鞠のように空へと跳ね上がる。
一同の視線を買う中、ラガンの脚部が突起物へと変じ、全形がドリルを模した。
そして、突起物が回る。ぎゅいいいん、というけたたましい音を奏でて、それこそ本物のドリルのように。
いや、違う。
それはもう、紛れもなくドリルなのだ。
ラガンである以前に、一つのドリルであったのだ!
「――オレのドリルがァアアアアア!!」
ドリルと化したラガンの内部より、ヴィラルの叫び声が響く。
それは外にも漏れ、ドリルの回転音にも負けず、皆の耳に届いた。
空中で停止していたラガンが、回転を強めながら降下する。
「――シャマルを貫きィイイイイイ!!」
まっすぐ、直下のグレンへと突き刺さる。
グレンの頭頂部を穿ち、貫通して、一心同体となる。
「――合体するッ!!」
異なるガンメンにドリルで接続し、その機体のコントロールシステムを掌握する。
ラガンにのみ搭載された特殊機能によって、今、グレンとラガンが一つになった。
ドリルはグレンの頭頂部を通して、シャマルが席を置くコクピットまで届く。
両機体の操縦席がドリルで繋がり、またそのドリルを管として、ヴィラルは螺旋力を流し込んだ。
グレンの全機械系等に、そしてシャマル自身に。
黒こげだったグレンの全姿は、注がれた螺旋力を洗浄剤として、一瞬の内に赤を取り戻した。
装甲の損傷すら掻き消し、まった新しい姿へと生まれ変わる。
力と力が合わさる様。
機械と機械が見せる芸術。
愛と愛の結晶。
広大なる多元宇宙の果て、男と女はロマンに乗せて、こう叫ぶ。
「「 愛 情 合 体 ッ ! 天元突破グレンラガン!! 」」
……ヴィラルとシャマルの掛け声が重なり、会場全域に轟いた。
ラガンは頭部として、グレンの首に収まっている。
グレン背部に収納されていた飾兜が、ラガンに被さった。
顔面兵器などではない、真っ当な人型を成す合体メカは、巨人として聳え立つ。
ガッシュが、ねねねが、ジンが、スカーがそれを見上げていた。
ヴィラルは彼らを視界の端に収め、しかし意識は股下の愛しき女へ向ける。
シャマルもまた、頭上の愛しい男を想い、グレンの操縦桿を握り締めていた。
「感じる……ヴィラルさんを。ヴィラルさんの愛が、体中に伝わってくる!」
「これがオレの答えだ、シャマル。そして求める。おまえもオレに答えてくれ!」
「はい!」
モニターで互いの火照った顔を見つめ合いながら、ヴィラルとシャマルは激しく、愛をぶつけ合った。
壮絶すぎる愛情の顕現に、クロスミラージュはかける言葉を失った。沈黙に浸り、シャマルの手元で明滅する。
「螺旋王……あなたには感謝しています。オレは人間に改造されたからこそ、愛を知ることができた」
此度の実験が開始する直前、あるいはその頃から始まっていた変革を、ヴィラルは運命だと思う。
王が下した采配は天恵ともいえ、獣人のままではシャマルに恋情を抱くことなどなかったとも思う。
己は戦士としては不運だった。しかし一人の男としては幸運だったと――シャマルを想いながら、また強く思う。
そして――合体を果たしたヴィラルとシャマル、二人の愛の結晶たるグレンラガン≠ェ、始動する。
「勇気だの誇りだの、そんなものはちっぽけだ。愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!」
全身から碧色の――いや、碧混じりの桃色≠フ輝きが、天に向かって迸る。
天壌を埋め尽くす螺旋の奔流。大気を巻き込み捻れを成すほどの、逆流。
螺旋力の渦巻き、それ自体が巨大なドリルとなって、空間を穿つ。
空を、天を、大気圏を、月まで届く勢いで、宇宙を制す。
――ある者が座して待っていた瞬間が、訪れた。
【ヴィラル@天元突破グレンラガン 螺旋力覚醒――天元突破=z
◇ ◇ ◇
愛の形が一つだけとでも思ったか!?
あまい、あまいぞぉおおおおお――!!
愛は人の数だけ存在する! それこそ――無限大だ!
■語り――シュバルツ・ブルーダー
◇ ◇ ◇
単眼鏡を目に当て、グレンラガンの顕現を目の当たりにする。
体が求めたリアクションは――絶句。
呟くべき言葉すら見失い、ドモン・カッシュは石像のように固まった。
「……アニメだな、こりゃ」
隣のスパイク・スピーゲルは、双眼鏡を携えながらそうぼやいた。
肉眼でその巨体を捉える鴇羽舞衣と小早川ゆたかも、唖然として言葉が出ない。
ゆたかの傍で翼を羽ばたかせる白竜、フリードリヒがキュイ、と鳴いた。
その拍子に、舞衣とゆたかが我を取り戻す。
「……は、はい〜っ!? な、なななんなのよアレ!? あ、あ、あああんなのアリなの!?」
「合体……しちゃった。合体……しちゃうんだ。男の人と、女の人が、愛し合って、合体……」
「おおおお落ち着いて! 落ち着くのよゆたか! なんか目が虚ろでしかも危ないこと口走ってるって!?」
「まずおまえが落ち着け、舞衣」
混乱のあまり騒ぐ舞衣と、我を取り戻しても言葉が出ないゆたか、唯一平静を保っているスパイクがやり取りを交わす。
ジンの陽動により、戦場はドモンたちのいるビルとも近しくなっていた。
グレンラガンの合体シーンをじかに拝んだのはもちろん、ヴィラルとシャマルの愛の語らいも余すことなく耳にしている。
その上でなお、皆が皆、取るべき反応を見失っていた。
前線にいるジンたちは、この予期せぬ事態にどう対応しているのだろうか。
スカーやねねねが冷静に指揮を取ってくれていることを祈りつつ、ドモンはギリッ、と歯を軋らせる。
「あの力……危険だ」
冷や汗を垂らしながら、合体を遂げたグレンラガンと、かつての自分を重ねてしまう。
戦場での愛の告白、愛を糧とした超エネルギーの発揮、共通する過去。
思い出すのは、そう――デビルガンダム事件の最終決着の場において、レインに誓った愛の告白だ。
ドモンもヴィラルと同じように、戦場で愛しい女に愛を叫び、強大な力を得た。
キングオブハートの紋章に呼応し編み出した石破ラブラブ天驚拳は、デビルガンダムという巨悪を滅ぼし、戦乱終結の一手となった。
あのときの力の覚醒が、レインと研磨し合った愛情の賜物であるというのなら、ヴィラルとシャマルも計り知れない力を秘めているかもしれない。
なぜならば、ドモンは共感してしまったのだ。
羞恥の枠を越えた男女の叫びに、親身に耳を傾けた。
全て聞き終え、彼らの語る愛は本物だと――共感を通り越し、感動すら覚えてしまったのである。
「くっ……だが! 奴らは俺たちの行く手を阻む好敵手だ! 全力でぶつからなければ、二人の愛を侮辱することにもなってしまう!」
その結果、倒されるのがどちらであろうとも――目の前の戦いから目を背けるわけにはいかないのだ。
グレンラガンとの距離は、そう離れてはいない。機体全身から天に昇っていく、碧と桃色の輝きが直視できた。
同じく愛を知る者として、純粋に拳を合わせてみたいという欲求も湧き、ドモンは生唾を飲み込んだ。
「舞衣、いつでもカグツチを出せるようにしておけ。俺は、一足先にジンたちの救援に向かう」
「え? ちょ、ドモン――」
「いくぞ! ハイィィィイ――ッ!!」
簡潔に言い残し、ドモンはビルの屋上から、外壁を伝い滑り落ちる。
瞬く間に地面へと着地、呼吸を整える間もなく、螺旋力の光源へと全力で駆けた。
武道家としての脚力が成せる荒業を目の当たりにし、屋上の際、舞衣は口をあんぐりと開けっ放しにする。
「……ど、どうすんの?」
「ど、どうしましょう……?」
「どうしたもんかねぇ……」
取り残された舞衣とゆたかは困惑の色を顔に浮かべ、スパイクはまた双眼鏡を構えた。
◇ ◇ ◇
天に広がる星の壁、ドリル突き刺しねじ込んで、拓け銀河の漢道!
人と獣の二つの道が、捻って交わる螺旋道!
昨日の敵で定めを砕く、明日の道をこの手で掴む!
こんなところじゃ終われねぇ、終わってたまるか!
おまえが信じる、おまえのドリルを信じて……天を穿てッ!!
■語り――シモン
◇ ◇ ◇
愛の語らいが音響として、螺旋力の限界突破が後光として、戦場の傍らに身を置く彼らにも届く。
地に這いつくばり、数百メートル先の愛機――シモンとの絆の結晶、グレンラガンを睨み据える。
ヴィラルとシャマルの手元に渡ったそれは、今では二人の愛の結晶として、手の届かぬ場所で合体を果たした。
それが――カミナにとっては、たまらなく悔しい。
シモンが掘り起こしたラガン、カミナが奪ったグレン、二人のドリルが回って合わさったグレンラガン。
大グレン団の旗印とも言うべき大切な機体が、よりにもよって宿敵に奪われ、ああも神々しく輝いている。
なのに、自分自身は地面への屈服を強いられ、殴打の激痛で満足に体も起こせない状況にあった。
この差はなんなのか。考えても、望む答えは得られない。
用意された回答は一つ。己が弱いから。忌避したい現実が高く聳える。
東方不敗に教授された明鏡止水の心得など、蛮勇にすぎず。
英雄王の猛威の前では、なんら意味を成さない。
「――ハッ、フハハハハハハハッ! よもや……よもやあのような愚者二人が、資格を得るとはなぁ!」
光の奔流激しいグレンラガンから視線を転じ、自身にここまでの痛手を与えた張本人へと睨みの矛を向く。
ギルガメッシュ。黄金の鎧を着込む金髪のこの男に、カミナは手も足も出なかった。
純粋に体術で劣っていたのか、気に迷いがあったのか、もしくは焦りが生じたのか。
考えても答えは出ず、こうして下から覗き上げることしかできないのが現実である。
歯痒く、苦く、悲しい。
団員を持たぬ長など、この程度だというのか。
男泣きをするには至らず、ギッと歯を食いしばって堪えた。
(シモン、ヨーコ、ニア、ガッシュ、クロスミラージュ……! みんな……ちくしょう、畜生、チクショウ!)
ギリギリギリ、と歯を擦り合わせ、カミナはまたゆっくりと立ち上がる。
全身各所が痛みを訴えていた。だが、死ぬほどの激痛ではない。
そうだ、まだカミナは――大グレン団のカミナは、まだ終わってはいない。
シモンの魂も、シモンとの絆も、大グレン団の旗印も、必ず取り戻す。
行かなければならない。グレンラガンの下へ。愛機の操者として。
「ふむ。我に土の味を覚えさせられ、なおも前に進むというか。見上げた根性だぞ、雑種。呵呵大笑もののな」
ギルガメッシュが愉快そうに笑っていたが、構うものか。
カミナは英雄王への怒りを一時、鞘に収め、歩を進める。
「あの地へ向かうというのか。ふん、おもしろい。ならば我も参ろうぞ。終焉の地へな」
『……King! もしや、菫川女史たちと共にあの巨大兵器の討伐に臨むのですか!?』
ギルガメッシュの脚部から、期待感に満ちた声が届く。
マッハキャリバーの問いに、ギルガメッシュは鼻で笑って返した。
「おまえはつくづくおめでたい奴だなぁ、具足。我の一挙手が幕引きを果たす可能性もまあ、なくはないが――」
一拍の間を置いた後、ギルガメッシュが含み笑いを添えて言う。
「あの碧と桃色が混じったような輝き……あれこそが、幕の下りてくる合図やもしれぬぞ?
それも、単なる幕引きではない。もしかしたら、世界が崩壊する瞬間が拝めるやもしれんな」
狼狽激しい身を押して、歩を前へ前へと進めて行くカミナ。
その背後で、ギルガメッシュは王者の貫禄を漂わせながら――小気味よく、愉しそうに、笑っていた。
◇ ◇ ◇
タイムリミットは、残り十時間を切った。
この世界が崩壊するそのとき、立っている者は誰なのか。
王が退席した今となっては、それを知る者もいない。
幕引きの合図、もしくは殲滅の矛と化した、ヴィラルとシャマルのグレンラガン。
天元突破――螺旋王が設定した外郭を突き破り、見事『真なる螺旋力』に目覚めた人でも獣でもない者が、吼える。
「ギィイイイイイガァアアアアアアアア!!」
「ラァアアアアアブラブゥウウウウウ!!」
グレンラガンの右腕が天井高く突き上がり、先端が巨大なドリルと化す。
ドリルは瞬く間に高速回転を始め、唸りを上げた。
天に向けていた矛先を正面、下方、未だ佇む四人の敵に向けて。
「ドリル――ブレイクゥウウウウウ!!」
膨大なる力の奔流に乗せ、放つ――。
螺旋王の想定する枠を外れた、赤子にも等しき生命。
愛を覚え、愛に殉じることを至高とした、気高き遺伝子。
禁忌とも思えるその存在に神がどう興味を示すのか。
答えは、もう間もなく訪れるだろう。しかし、
今はただ、愛に時間を。
【B-6中央部/市街地/二日目/午後】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:重傷、頭部から出血、疲労(大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、螺旋力天元突破
[装備]:コアドリル@天元突破グレンラガン、グレンラガン@天元突破グレンラガン、大鉈@現実、短剣×2
[道具]:支給品一式(食料なし)
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
1:シャマルと添い遂げるッ!!
[備考]
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※会場のループを認識しました。
※螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
※グレンラガン操縦中(ラガン側コクピット)。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]
基本:ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
1:ヴィラルさんと添い遂げるッ!!
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※グレンラガン操縦中(グレン側コクピット)
【クロスミラージュの思考】
1:……(唖然)。
2:カミナの方針に従い、助言を行う。
3:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
[備考]
※ルールブレイカーの効果、各放送内容、カミナの首輪が禁止エリアに反応していない事実等を記録しています。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』、『螺旋力は生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷 、疲労(中)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)、超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾2/5)
[道具]:支給品一式x15(食料、水半日分消費、うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])
【武器】:偽・螺旋剣@Fate/stay night、短剣、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム
【特殊な道具】:オドラデクエンジン@王ドロボウJING、魔鏡の欠片x3@金色のガッシュベル!!
全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、
ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4、ヴァッシュの手配書@トライガン
【通常の道具】:鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、サングラス@カウボーイビバップ
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)
衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
ボイスレコーダー、防水性の紙×10、赤絵の具@王ドロボウJING
【その他】:予告状のメモ、清麿メモ 、ガンメンの設計図まとめ、がらくた×3、
柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)
首輪×4(つかさ、シンヤ、パズー、クアットロ)、超電導ライフル専用弾×?、拡声器
[思考]
基本:主催役の座を盗み、バトルロワイアルを楽しいパーティに差し替える。
1:グレンラガンに対処。
2:まずは未だに殺し合いに乗っている者たち(ヴィラルとシャマル)を排除する。
3:後の憂いを排除した後、ギルガメッシュへの協力要請とカミナの捜索を行う。
4:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※ねねねからルルーシュの能力や正体に関する詳細を聞きました。
※会場のループについて認識しています。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※ガッシュ、ねねね、スカー、スパイク、舞衣、ゆたか、ドモンと情報を共有しています。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(大)、
頭にタンコブ、強い決意 深い悲しみ、螺旋力覚醒
[装備]:ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!
[持ち物]:支給品一式×9([全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット]をカミナと2人で半分消費)
【武器】:リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】:テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
【通常の道具】:剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】:アイザックの首輪、アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、
血塗れの制服(可符香) アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、バルカン300@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:螺旋王を倒す。清麿亡き後も夢を捨てない。私は、やさしい王様になるッ!!
1:グレンラガンに対処。
2:カミナと合流したい。
3:ギルガメッシュに少し警戒。
[備考]
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。いわゆる王様っぽい衣装です。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※清麿を殺したのはルルーシュだと判断しました。
※ジン、ねねね、スカー、スパイク、舞衣、ゆたか、ドモンと情報を共有しています。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、強い意志、螺旋力覚醒
[装備]:ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[道具]:支給品一式
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:グレンラガンに対処。
2:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す(ヴィラルたちが所持しているようなら回収)。
4:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
5:全てが終わったら、清麿の代わりにガッシュを王にしてやる。
[備考]:
※読子を殺害したスカーを許し堪えることを選びました。スカーの罪、その理不尽は許していません。
※清麿殺害の犯人、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』を持ち去ったのは、ルルーシュだと考えています。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※ジン、ガッシュ、スカー、スパイク、舞衣、ゆたか、ドモンと情報を共有しています。
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)
【武器】:イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)@現実、イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、
ワルサーWA2000(6/6)@現実、ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(1/1)、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
エンフィールドNO.2(弾数6/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、水鉄砲、短剣×4本
【特殊な道具】:アンチ・シズマ管×2@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師
【通常の道具】:USBフラッシュメモリ@現実、タロットカード@金田一少年の事件簿、暗視スコープ、鉄の手枷@現実、
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
シアン化ナトリウム、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
【その他】:マース・ヒューズの肉片サンプル、清麿の右耳、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
首輪×3(クロ、アニタ、キャロ)、解体済みの首輪×2(エド、エリオ)、首輪のネームシール(清麿)
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
1:グレンラガンに対処。
2:ヴィラルとシャマルが抵抗を続けるならば、自らの手で二人を殺す。
[備考]:
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※ジン、ガッシュ、ねねね、スパイク、舞衣、ゆたか、ドモンと情報を共有しています。
【B-6南西部/市街地/二日目/午後】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾16/16)@カウボーイビバップ、暗視双眼鏡
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)
【武器】:UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾6/6)
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、日出処の戦士の剣@王ドロボウJING
【特殊な道具】:ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、風水羅盤@カウボーイビバップ、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード 、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン
【通常の道具】:スコップ、ライター、水上オートバイ、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
ウォンのチョコ詰め合わせ(半分消費)@機動武闘伝Gガンダム、ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
【その他】:薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)、予備弾丸セット
[思考]
0:どうしたもんかねぇ……。
1:ジンたち前線メンバーのバックアップに努める。
2:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ジン、ガッシュ、ねねね、スカー、舞衣、ゆたか、ドモンと情報を共有しています。
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、引っ張られた頬、首輪なし、
全身に軽い切り傷、疲労(大)、バリアジャケット
[装備]:薄手のシーツ、ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式、釘バット、無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、X装置、ゲイボルク@Fate/stay night
[思考]:皆でここから脱出
0:……ど、どうすんの?
1:ジンたち前線メンバーのバックアップに努める。いざというときはカグツチで対処。
[備考]
※螺旋力覚醒
※失った高次物質化能力を取り戻しました。
※舞衣のバリアジャケットは《炎綬の紅玉》鴇羽舞衣@舞-乙HiME。飛行可能。
※ジン、ガッシュ、ねねね、スカー、スパイク、ゆたか、ドモンと情報を共有しています。
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(極大)、心労(中)、左腕骨折、螺旋力覚醒
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式
[思考] みんなで帰る
0:……ど、どうしましょう?
1:ジンたち前線メンバーのバックアップに努める。
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。再び螺旋力が表に出てきました。
※ジン、ガッシュ、ねねね、スカー、スパイク、舞衣、ドモンと情報を共有しています。
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、明鏡止水の境地、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、単眼鏡
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド
1:ジンたちの救援に向かう。
2:ヴィラルとシャマルの二人と拳で語り合いたい。
4:カミナを探し、ニアを守れなかったことを謝罪したい。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※ジン、ガッシュ、ねねね、スカー、スパイク、舞衣、ゆたかと情報を共有しています。
【B-6北西部/市街地/二日目/午後】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、黄金鎧型バリアジャケット
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、王の財宝@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん 、黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。
0:???
1:グレンラガンから溢れ出ている輝きに興味――。現場に向かう。
2:ジンたちの業績と、己が出張るに値する時機を待つ。
3:菫川ねねねに『王の物語』を綴らせる。
4:“螺旋王へ至る道”を模索。
5:頭脳派の生存者、 異世界の情報、宝具、それらに順ずる道具を集める(エレメント、フォーグラーに興味)。
6:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)。
7:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
8:月に何かがあると推測。次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)、3rdが黄金の鎧です。
2ndを展開する意志はなくなりました。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界(確率変動を発生させる結界)』の三層構造になっていると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※会場のループについて認識済み。 会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※マッハキャリバーによるウイングロード展開を習得。カタパルト代わりに使用可能(ちょっと飽きた)。
※マッハキャリバーから詳細名簿の情報を少し聞いたようです(少なくともガッシュ、ヴィラル、シャマル、スカー、ねねねについて大まかに知ってます)。
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(極大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力覚醒、明鏡止水
[装備]:ファイティングスーツ
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:グレンラガンを取り戻すッ!!
2:ガッシュとクロミラと合流しねぇとなぁ。
3:金ぴかに構ってる暇はねぇッ!
4:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗が死んだと思っています。
※東方不敗に修行をつけられました。格闘家としての基礎的なものを習得しました。
※シモン、ニアヨーコの死を受け止めました。