アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ18
参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)
1/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/●八神はやて/○シャマル/●クアットロ
0/6【BACCANO バッカーノ!】
●アイザック・ディアン/●ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/●ラッド・ルッソ/●チェスワフ・メイエル/●クレア・スタンフィールド
1/6【Fate/stay night】
●衛宮士郎/●イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/●ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/●言峰綺礼
1/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/●カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/●ロイド・アスプルンド/●マオ
1/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/●リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/●マース・ヒューズ
3/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
1/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/●ジェット・ブラック/●エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/●ビシャス
2/4【らき☆すた】
●泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
2/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/●アレンビー・ビアズリー
0/4【金田一少年の事件簿】
●金田一一/●剣持勇/●明智健悟/●高遠遙一
2/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/●パルコ・フォルゴレ/●ビクトリーム
1/4【天空の城ラピュタ】
●パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/●ドーラ
2/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/●玖我なつき/●藤乃静留/○結城奈緒
1/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/●読子・リードマン/○菫川ねねね
0/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/●ミー/●マタタビ
0/3【さよなら絶望先生】
●糸色望/●風浦可符香/●木津千里
0/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
●神行太保・戴宗/●衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
1/2【トライガン】
●ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
1/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/●相羽シンヤ
1/2【王ドロボウJING】
○ジン/●キール
【残り21名】
≪生存者名簿≫
【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
○シャマル
【Fate/stay night】
○ギルガメッシュ
【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ
【鋼の錬金術師】
○スカー(傷の男)
【天元突破グレンラガン】
○カミナ/○ニア/○ヴィラル
【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル
【らき☆すた】
○柊かがみ/○小早川ゆたか
【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗
【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿
【天空の城ラピュタ】
○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ
【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/○結城奈緒
【R.O.D(シリーズ)】
○菫川ねねね
【トライガン】
○ニコラス・D・ウルフウッド
【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ
【王ドロボウJING】
○ジン
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【書き手の注意点】
トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、
>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
無理して体を壊さない。
残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)
この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
叩かれても泣かない。
来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
人物背景はできるだけ把握しておく事。
過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
一人称と三人称は区別してください。
ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
『展開のための展開』はNG
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
携帯からPCに変えるだけでも違います。
【読み手の心得】
好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
荒らしは透明あぼーん推奨。
批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】
このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】
一度死亡が確定したキャラの復活
大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
程度によっては議論スレで審議の対象。
時間軸を遡った話の投下
例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
話の丸投げ
後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
【NGについて】
修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)
したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
まとめwikiを参照のこと
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
◇ ◇ ◇
――――時は、しばし遡る。
「……ふむ、成程。
先程来た時には気付かなんだわ、よもやこんな場所にこれだけの代物が隠されていたとはな」
やけに体にフィットした、青をベースに過多な金の装飾を施された服――――、
知る人が見れば『ゼロ』の衣装と分かる服を着た壮年の男、東方不敗はデパートの地下から一つの巨大な物体を持ち出しニヤリと笑う。
かつて絶望の名を持つ男に支給されたのは仮面とマントだけであり、衣装はその場にはなかった。
余った衣装は偶々空港に配置されていたのだが、そんな事は東方不敗は知る由もない。
まあ今はそんな服の事などどうでもいい。
見上げる先に存在を誇示するは白馬。
彼の傍らに寄り添うも白馬。
……だが、両者には決定的に違う点が一つある。
言うまでもない、サイズだ。
要するに。
前者は機械仕掛けの巨馬であり、後者は生きた駿馬であるという話である。
風雲再起――――、至高にして究極の名馬。
その力を最大に生かしうる、同じ名を持つモビルホース。
その二つが今ここに揃ったのだ。
あの、空港のコンテナで得た情報によれば、デパート、刑務所、古墳、ショッピングモールなどに、似たようなシステムが存在するという。
ならば話は単純だ、会場の中央に向かい接敵しながらそれぞれの施設を虱潰しに向かえばいい。
その経路上最も近い位置に存在していたのがこのデパート跡であり、ここの地下には無数の見慣れない機械が鎮座していたという訳である。
その中から心強い愛馬の似姿を見つけ出し、ここまで引っ張り出したという次第だ。
とりあえず目ぼしいものは他になく、他の参加者を警戒して施設ごと破壊してしまおうかと思ったが――――、
「……何らかの利用価値はあるかもしれぬな。しばし捨て置くとしようか」
……東方不敗は、空港のコンテナやここに集められた機材の意味を薄々と理解し始めている。
カミナという男も持っていた板切れ――――、恐らくは何らかの通信装置の向こうにいた存在から聞いた情報がその答えに関与している。
多元世界。
要するに、この殺し合いの参加者のもと来た世界にある数々の物品を隠してあるのだ。
だからこそ、一見使い道が分からないものでももしかしたらあのデビルガンダム以上に人類掃討に適した何かが存在してもおかしくない。
故に、この場は見逃す。
彼は、彼自身の絶大なる実力を根拠として、リスクよりもリターンを得ることを選択したのだ。
……と、そこまで考えたとき。
『――――生き延びた者達よ、聞くといい』
……放送が始まる。
その、螺旋の王の一言一句を聞き逃さず、並べられる名を己が知識と一致させていく。
……特に印象的だったのは、三つの名だった。
藤乃静留。
衝撃のアルベルト。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
――――真中に挙げられた存在は、この戦場にて初めて拳を交えた男。
およそこの東方不敗にも拮抗するとすら思われた実力者の脱落に、格闘の一を極めた男は一抹の物寂しさを感じざるを得ない。
……あれほどの力を持ってすら、この殺戮遊戯を生き残る事は出来はしない。
例えどれだけ鍛え練り高めようと、死はいとも簡単にその価値を空と化す。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードも同じくだ。
尤も、あの性格ならば遠からず死んでいたことだろうが。
……それでも磨き抜かれた技術の持ち主が逝くというのは、実に勿体ないことだ。
藤乃静留は、本人はともかく従えた蛇は恐るべき巨体だった。
誰が斃したのかは分からないが、気を引き締める必要があるだろう。
――――だからこそ、この戦いの初めからを思い返す。
最初に合い見えたのは先に考えたとおり、衝撃のアルベルト。
……最早、決着をつけることも叶わない。
次いで交戦したのはジンと清麿、ラッド、ヨーコという一行だ。
……再戦を経た後ラッドはこの世を去り、ヨーコはその時に自ら仕留めた。
ジンと清麿という二人は、今もまだ脱出の算段でも企てているのだろう。
……あの時ジンという男に感じた危険な臭いは、間違っていなかったのかもしれない。
相当な切れ者だろう、今後は警戒する必要がありそうだ。
その直後に出会った相羽シンヤはとうに誰かに殺されたようだ。
最早どうでもいい存在でしかなく、即座にその記憶を忘れ去る。
――――ソルテッカマンを与えた鴇羽舞衣。
途中までは実に使い勝手のいい傀儡だったが、反旗を翻した以上あの少女はもう邪魔者でしかない。
その少女を庇うDボゥイも多少は厄介だが、所詮は身体能力だけに特化した相手だ。
しぶとく生き延びている根性は認めるが、あの死に体では自分の敵ではないだろう。
そして今この場所、デパート跡で遭遇したヴィラルとシャマルの二人。
あの獣人と拳を交わした時に再度出会ったが、やはり脅威とは成り得ない。
回復能力が使える以上は利用価値があるにはあるが、それも制限の為か大した効果は見られなかった以上、排除しても問題はないはずだ。
……馬鹿弟子にして愛弟子、ドモンと邂逅したのはその時だった。
あのドモンは、本当に自分の知るドモンなのだろうか。多元世界の別人でしかないのか。
それを確かめる為にも、再度拳を交わす必要があるだろう。
それから、色々と懸念事項となりうる、あの馬鹿騒ぎに巻き込まれた。
……発端となった衛宮士郎という向こう見ずな少年は死んだ。
だが、あの時に自分が危険であるという情報は知れ渡っただろう。
あの時あそこにいた人物の大半はもういないとは言え、それが厄介な事には変わりない。
……あの巨大な蛇を従えた静留はいないが、しかし今だ英雄王ギルガメッシュは健在だ。
その従者である結城奈緒とやらは放っておいても構わないだろうが、あの男はこの殺し合いの中でも別格だ。
最優先で警戒し、出会ったらすぐに仕留める必要がある。
静留の蛇を前に一時撤退して出会ったのが、螺旋王配下のあのチミルフという猿男。
叩きのめした後で情報を搾り取るつもりだったが、不意の事態で逃してしまったのは手痛い失敗だ。
……やはりあの男も、捜索する必要があるだろう。
その後に出会ったのが――――、カミナ。
実に優れた気概の持ち主だっただけに、恨みを買った事が惜しい。
ヨーコに加え、あのVの字、ビクトリームだか殺したから、ますますそれを決定付けた事だろう。
螺旋王の娘であるニアや、あの子供と思えぬ力の持ち主ガッシュなど、それ以外にも興味深い者達ばかりだった。
……実力そのものは自分に劣るが、確実に油断ならない存在だ。
ニアは確保し、カミナとガッシュは――――、排除せねばならないだろう。
……ふう、と一息つく。
然るに、警戒すべき生者は次の通り。
ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュ。
一段落ちて、高嶺清麿、鴇羽舞衣、Dボゥイ、ヴィラル、シャマル、結城奈緒。
そして探すべき相手も多い。
ドモン・カッシュを初めとして、チミルフとニアを確保する。
その為にも、やはり必要なのは――――、
「……やはり、我がマスターガンダムを手中に収めるに越した事はないか」
あれさえあれば確実に戦力の増強になる。
自分の消耗や怪我を鑑みて、DG細胞による治療の可能性を得られるのも魅力的だ。
故に、向かうべきはあの時告げられた施設を順繰りに。
風雲再起は既にモビルトレースシステムを起動し、自身の名を関するモビルファイターに乗り込んでいる。
タン、と、軽い音と共に地面を跳べば、そこは即座にMH風雲再起の頭の上。
「……では向かうとしよう、風雲再起ッ!
お前に乗るに相応しい我が愛機を探しになぁッ!!」
◇ ◇ ◇
その、道中に見止めたのが――――、牧師と獣闘士の戦闘だった。
古墳に向かってみたものの、残っているのは崩れ去った廃墟と砕けた妙なオブジェだけ。
そんな期待外れを味わわされて、次なる目的地と見定めたショッピングモールに向かう最中でのことだった。
何かが存在すると目された刑務所は既に禁止エリアに指定されていた為、残ったのはショッピングモールのみ。
そこに向かうにはC-6を通る必要があり、通過の際に何気なく響いてきた爆発音こそが、東方不敗をその戦闘に呼び寄せた原因だ。
その音がロケットランチャーの弾丸が二つ、同時爆発した際に生じたものである事は神のみぞ知る。
そして東方不敗は観測する。
……見れば、実力は伯仲だ。
特に牧師は銃の扱いにおいて、あのヴァッシュ・ザ・スタンピードに並び立つことだろう。
チミルフもチミルフで健闘しており、この戦闘の後に確保は容易だと判断。
故に、決着がつかんとするまさにその瞬間に介入する。
放っておけばチミルフは死に、情報は得られなくなる。
牧師も牧師で殺し合いに乗っているようである為、使い道はあることだろう。
だから、使うは右手の鎖。
神をも縛る天の鎖にて、死を告げる牧師を拘束する――――!
「な……ッ!」
……そんな驚愕の声と共に黒衣の牧師を引き寄せ、とん、と首を手刀で打つ。
どさり、と。
消耗が故にあっさりと、怪我一つする事無く崩れる牧師。
それを暗がりに――――、映画館の暗がりに捨て置いて、東方不敗は進み出る。
そう、此処は映画館だ。
数刻前には戦禍の中心となり、その前には智に長けた者どもの棲家となった因縁深い場所。
あちこちに穴を開けられ、最早映画館としての体裁が整っていなくても。
……そこは確かに、未だに形を残していた。
「……貴様は……ッ!」
驚愕と共に目を見開くチミルフの前に、ゆらりと東方不敗はその姿を全て曝し出す。
「……また会ったな、螺旋王の僕よ。
くく、では、貴様の先程告げた世界の創造とやらを……吐いてもらおうか」
ぎり、と歯の根を鳴らし、投げかけられた言葉を無視してチミルフは怒りをぶち撒けた。
「……何故! 何故、俺達の決着に水を差した……ッ!
貴様、何が目的だ……!」
ニィ、と笑みを浮かべて余裕をアピール。
ヒトの頂点はただただ、自分の絶対性を誇示して止まない。
「これは奇妙なことを言うな。
儂は貴様の命を救ってやったのだぞ? あのままでは貴様のその灯は確実に散らされていたのだ。
感謝こそすれ、憤りを向けられる道理はないではないか」
――――戦えば、殺される。
疲弊した現状と、相手の力量。
加えて牧師を捉えたあの鎖の恐ろしさ。
それらから概算するに、勝率は間違いなく0%を叩き出す。
不利などというレベルではない絶望的なまでの確定した未来。
それが分かっていながらも、しかしチミルフは吼える。
――――何故なら彼は、武人なのだから。
「俺は、武人だ! ……誇りを何よりと信条とするものだッ!
生命を賭けた闘争の果てに散るならば悔いはない!
貴様とてそうではないのか!? 貴様には武人としての誇りはないのかッ!」
眼光は鋭く、何処までも力強く。
武人であるが故に、同じく武人であるはずの相手も分からぬはずが無いとの怒りを込めて。
「……ふむ」
そう。
……東方不敗もまた、武人であるが故にそれが分からぬはずが無い。
だからこそ、その言葉は確かに心を揺るがし現状を変えるのだ。
「……どうやら儂は貴様を見縊っていたようだな。
その誇り高さ、確かに貴様も儂と同じく武に通ずるものらしい。
ここは素直に割り込んだ事を謝っておくとしよう、だが……」
武人として。
東方不敗はチミルフの評価を改め、そして自らの行いを見直すことを躊躇わない。
だがしかし、冷徹な戦闘者としては譲れぬ理も確かにそこにあり、揺るがない。
淡々と、淡々と。
武人としては不条理な、されどこの世の理には実に適う事実を偉大なる格闘家は言葉に載せる。
「……遠目から様子を窺った限り、貴様だけでなくあそこの男も殺し合いに乗っているのだろう?
貴様が真に忠義を重んじる男ならば、この実験を促進させるあの男を葬り去ることはむしろ主への反逆ではないのか?」
「……む、う……」
――――チミルフは言葉もない。
そう、確かに自分は獣人の誇りを示す為に、武人としての己を貫く為にこそこの戦場に馳せ参じた。
だが、それ以上にそれ以前に、自分は螺旋王の配下であり創造物である事を違えはしない。
……ならば。
彼の王の意に反することである以上、殺し合いを促進するものを殺す事は、望ましい事ではないだろう。
「……確かに、その通りだな。
俺も、その男も……、生きて役割を果たさねば、王を満足させることは出来はしまい」
苦渋の表情を浮かべながらも、事実は事実として受け止める。
目を閉じてゆっくりゆっくりと息を吐くチミルフに、深い笑みを向け“交渉”を開始する。
「そうだろう、そうだろうとも!
……そして、儂も同じくだ。ここまで言えば言いたい事は分かるだろう?」
……求めるべきは、螺旋王の情報だ。
出来る限り情報を搾り出すには、相手の言質を取る必要がある。
だからこそ、相手の自尊心に抵触する発言を台詞を言の葉を。
「……自分の口から告げるがいい。
俺は、その上で貴様を見極めるとしよう」
憮然とした表情のチミルフに、東方不敗は悠々と求める情報を突きつける。
「……クク、良いだろう。要するに、だ。
……儂も貴様らの実験に協力してやると言っているのだ。
その為に情報を流してもらいたいのだがな、……螺旋王の目的と、その為の手段をッ!」
こう告げれば。
この言い方ならば。
チミルフが真の忠節を抱く武人である限り――――、
「……致し方あるまい。
貴様の実力を既に俺は知っている。武人としての格もだ。
……故に、俺は武人としての貴様を信じよう。
聞くがいい、我が主の……、本当の目的を……!」
……主の為に、溜め込んだ知識を吐かざるを得まい……!
そしてチミルフは語りだす。
――――王の語った全ての始まりの世界、その歴史を。
それに連なる多元世界の存在を。
全ての元凶、アンチ=スパイラルの強大さを。
ニンゲンの持つ力、螺旋力。それを用いた新世界の創造という偉大なる王の目的を。
「……ふむ、……成程、な」
――――東方不敗はそれきり黙り込み、しばし思考に身を委ねる。
眉間の皺と歪んだ口元の示すものは何なのか。
それを知るは彼本人を除き存在し得ない。
「……他に何か求めるものはあるか?」
――――考える。
聞いた話は一見眉唾物だが、その実語っているのが彼の王の腹心の部下ともなれば信頼性は実に高い。
多元世界の情報をカミナたちから事前に得ていたこともあって、恐らく真実であろうと推察できる。
螺旋王の目的が、実に自分の目的にも合致するのは嬉しい誤算だ。
……方向性を反転させれば、の話だが。
人間のいないその世界は、果たしてどれだけ芳醇になる事だろうか。
……だが、それ以上に。
アンチ=スパイラルとは何と何と、自分と近しい存在なのだろうか!
人間の発展を進化を否定し、宇宙の、世界の崩壊を食い止める。
その存在は、まさしく自分の求めている自然の守護者ではないだろうか。
……笑みが、湧き上がって止まらない。
どうにかして接触できないだろうか。
その力を得られないだろうか。
いや――――、一抹でもいい。
自分が、力を貸す事はできないだろうか。
……聞こえているか、アンチ=スパイラルよ。
もし貴公がこの箱庭に手を加えんとするのなら、是非この儂を使って欲しい……!
……心の中でだけ強く強く叫び、しかし東方不敗はおくびにも出さず一見冷静な返答をチミルフに返す。
「いやいや、充分よ。成程成程、新世界の創造すらし得る真なる螺旋力……か」
これだけの情報を齎してくれた返礼だ。
……自分の知り得る情報を全て吐き出しても、余りある。
「……ならば、返礼として儂もこの会場の人間どもの知識を貴様に授けておくとしよう」
そして、東方不敗の知り得るあらゆる生存者の知識を伝えていく。
――――そして、その後に自分の目的も教えておく。
アンチ=スパイラルの力を求めようとしている事だけは黙秘しながら、人間を絶滅させんとするその意思のみを。
「……何故、貴様はその様な事に思い至った?」
全てを聞き終えて、厳かなほどに低いチミルフの声が渡る。
……その問いへの答えは簡単だ。
あの、絶望に満ち満ちた光景を伝えればそれでいい。
「……そうか、貴様は知らんのだな。人間の醜さを、愚かさを。
傲慢なほどの思い上がりと、自然への敬意を忘れ去ったその救い様の無さを……!」
……あのガンダムファイト第十二回大会で見届けた、星の朽ち逝くその姿を。
「……それが、貴様の見るニンゲンか」
聞くべき事は聞いた。
そして、自らもニンゲンと相対する、相対し続ける男はただ一つの疑問を告げる。
「――――だが、問うぞ。
そこに思い至った貴様自身もまたニンゲンであるのだろう?」
「――――!」
……人は、過ちに気づく事が出来る。
気付き、より正しい方向へ進むことが出来る。
その証拠は他ならない、東方不敗本人だ。
それを分かっていてもなお絶滅への道を進むのか。
ニンゲンに疑問を抱くが故に。
ニンゲンを試さんとする男の、純粋な問いは確かに東方不敗に刻まれる。
――――それでも。
それでも、彼は後戻りは出来ないのだ。
何故なら。
「だが。……だがな。
もはや、儂には時間が無いのだよ……」
……嗚呼、そうだ。
最早戻る所はない。此処に留まる必要もない。
何処までも、何処までも。
我が道を進んでいこう。
例え何かに躓き、心揺さぶられる事があるとしても。
いつかのセイギノミカタに断言された通り、自分が悪の具現だとしても。
……己の故郷の未来を憂えたその心だけは、決して。
――――決して、間違いなんかじゃないんだから……!
チミルフより肩を翻し、今はただ光の先へと向かう。
この穴倉を出て、向かうべきところに行こう。
「待て、何処へ向かうつもりだ……?」
……何処へ向かうか?
それは、己の力の在り処だ。
自分の求める、力の具現だ。
「――――貴様の乗っていたあの白い機体。
あれは、如何にして手に入れた?」
……あの白虎を手に入れたと同様に。
自らにも相応しい蹂躙の象徴があるのだと。
「……貴様も、知ったのか? いや、それ以前にあれが何か貴様は分かっているのか!?」
チミルフの驚きが向けられる先は、『ガンメンを理解する人間』だ。
……獣人のみに許されたカラクリ仕掛けの巨人を操るニンゲンとは、即ち。
「くく、くくく……。さあてな、儂の知るガンダムにあのようなモノは存在せん。
……だが、儂はアレに類するものがまだまだこの会場に隠されていると確信していてな。
恐らくはこの儂の愛機も何処かにあるはずだと推測しているのだよ」
――――例えそれが異なる世界のニンゲンだとしても。
獣人が全てを賭けて戦うに相応しい、倒すべき象徴だ――――!
「……愛機、か……」
チミルフは震え、一つの表情を知らしめる。
それはたった一つの、歓喜だ。
……そう。
それこそ、この戦場において東方不敗が自らを委ねるに足る覇者の象徴。
「その通りよ。我が愛機、マスターガンダム。
その力を以ってすれば、此処の連中など一捻りで終わる。
……貴様があの機体を用いるのなら、最後に決着をつける際には相応の武力を以って対峙せねば失礼というものだろう?」
嗚呼。
戦いたい。闘いたい。
そして勝ち、自らの存在意義を試してみたい――――!
「……そう、か」
ならば止める道理はない。
……いずれの邂逅をこの胸に、今はあの覇者の生き様を見守るとしよう。
「……この映画館の奥にも巧妙に『あのような代物』が隠されていたのは意外だったがな。
……中を見るに、どうやらガンダムを隠せる程のスペースは無いようだ。
儂の探し物が見つからない以上、長居をする必要はないのでな」
それだけ告げて、東方不敗は背を向ける。
……言葉は早不要。
ならば、自分に出来る事はこれ位だ。
「……持って行くといい」
一つの瓶が、放り投げられる。
空中で掴み取り、東方不敗が覗き見れば、そこには。
「これは……?」
ファウードの回復液、と。
それだけの書かれたラベルが張り付いていた。
……ワイルドカードとしての参戦ゆえに、チミルフに支給された最後の逸品は戦い抜くための癒しの薬。
二本に分けられた小瓶のうちの、その一つを投げ渡したという訳だ。
「……白黒をつけるならば万全の状態でだ。貴様が自らのガンメンを見つけ出したその後に、あらためて決着をつけるとしよう。
その時までは……、」
……ニィ、と東方不敗は笑みを深める。
そう、この男と繋がりを持てたのは僥倖だ。
参加者としても、一介の武人としても。
「ああ、その時までは貴様らに力を貸してやるとも。そこの男にも伝えておけ。
……抜かるなよ、チミルフ。
次に出会う時は、全てが終わった時でない限り儂は味方となるだろう。
……死して、この儂をがっかりさせてくれるなよ?」
……この殺戮遊戯の最期まで残る事があるのならば、その時こそ拳を交わそうと。
「……ああ、いずれまた会おう、東方不敗よ。
貴様の道と俺の道が交差するその時に」
――――斯くして。
武人と武人の邂逅の一時は終わりを告げる。
この再訪が、殺戮を望む者たちの手と手の取り合いが、如何なる綻びを導くのか。
今はまだ誰もそれを知る事はない。
【C-5/映画館周辺/二日目/朝〜午前】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージと火傷(処置済み)、右肩に貫通傷、螺旋力覚醒
腹部に無視できぬ大ダメージ(皮膚の傷は塞ってますが、内出血しています。簡単な処置しかされていません)
[装備]:ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ、
風雲再起(健康・モビルトレース中)@機動武闘伝Gガンダム、
MH風雲再起@機動武闘伝Gガンダム、
天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、
ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:ショッピングモールへ向かい、隠された何かを調べる。
2:優勝の邪魔になるものは排除する
3:マスターガンダムを探し、可能ならDG細胞により治療を行なう。
4:シャマルを捜索し根本的な治療を行う
5:ロージェノムと接触し、その力を見極める(その足がかりとしてヴィラル、ニアの捜索) 。
6:チミルフとの協定を最大限に利用する。
7:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
8:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
9:機会があれば、デパート地下のロボット群の詳細を知るものを探したい。
10:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※会場のループを認識しました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※マスターガンダムがどこかに隠されているのではないかと考えています。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※空港で調達したのはゼロの衣装でした。
※デパート地下のロボット群の存在を知りました。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※チミルフと一時休戦、次に出会った時は共闘することを決めました。
実験の最後に全力で決闘することを誓いました。
【MH風雲再起@機動武闘伝Gガンダム】
モビルホース風雲再起。主に違わず、パイロットは馬なのに異常なほどの高スペックを誇る機体。
本来はMFを乗せての飛行どころか大気圏突破も可能な機体だが、会場の結界が存在する限り飛行高度は低く抑えられているようである。
戦闘能力もウォルターガンダムを蹴り沈めるくらいに優秀。
【C-5/映画館隠し部屋/二日目/午前】
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、頭部に軽い裂傷、左頬が腫れあがっている、敗北感の克服による強い使命感
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)、
ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
0:ウルフウッドに同行、ニンゲンとは何か見極める。
1:ヴィラルと接触したい。
2:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
3:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
4:ただし、殺し合いに乗っている者は螺旋王の目的促進の為、決着は後回し。
5:ヴィラルが首を一つも用意できなければ、シャマルの首を差し出させるかもしれない。
6:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。
7:ニンゲンに創られたニンゲン以上の存在として、ヴァッシュに強い興味。彼の知人に話を聞きたい。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっています。(ただし手段は問わない)
※ビャコウ及び愛用のハンマーはウルフウッドの気絶中に回収しました。
※ビャコウは起動には問題ありませんが、コクピット内部が剥き出しになっています。
※東方不敗と一時休戦、次に出会った時は共闘することを決めました。
実験の最後に全力で決闘することを誓いました。
※東方不敗の知る参加者についての情報を入手しました。
◇ ◇ ◇
「……お久しぶりです」
「――――! ……ああ、久しぶりだ」
「もしかしたら……とは思ったんすけどね。来てくれて、嬉しいですよ」
「来るさ。友達の命日だからね」
「――――あれから、もうそんなに経ってるんですね」
「ああ、そうだな。……色々あったけど、ようやく報告に来る事ができたよ」
「……ニュース見ましたよ。彼女達も元気みたいですね」
「はは、元気すぎて――――、ちょっとまあ、休まる事がないくらいかな」
「……髪の毛、全部黒くなっちまいましたね」
「……だね、うん。力を使い切ったからね」
「……あの人みたいですね」
「……そっか。考えてみれば、その通りだな」
「ええ……、その通りです」
「――――あいつの夢を見たんだ」
「夢……、ですか?」
「……ああ。その夢の中だと、僕達の知ってるあいつの最期とはちょっと違う最期を迎えるんだ、あいつは」
「……俺が、手をかけない、とかですか?」
「君は……、出てこなかったよ。あいつを殺したあいつの師匠も、僕たちの知ってるあの男じゃなかった」
「そうっ、すか……、まさしく夢ですね、それは。……はは」
「ああ、夢だ。だけど、あいつは最期まであいつだったよ。そして――――」
「……そして?」
「……その夢の最期に、あいつは生き返ってきてたんだ。そこで夢は終わってしまったんだけどね」
「……終わらない夢は、ないですよ」
「……そう、だな。それでも。……それでも僕は思ったんだよ。
どんな偶然でも生き返れたなら、今度こそ幸せに生きて欲しいって」
「幸せ……、ですか」
「ああ、幸せだ。だってそうだろ、あいつにはその権利がある」
「……はい。たとえ夢でも、いや、夢だからこそ、せめて……」
「……なれるさ。あいつが望めば、きっと、なれる。
今度こそあいつの生きたかった様に生きて……、もう、命を『選ぶ』必要なんて無くなる。
……そんな世界があってもいいと思ったんだ」
「ありますよ。……俺達の世界じゃ無理でも、そんな世界は、きっと何処かに」
「……そうだな。
ずっとずっと思ってたんだ。僕は心の底から――――」
――――あいつに生きていて欲しかったんだって。
「No.50 高嶺清麿。
日本出身の学生。
若干15歳の若さにして工学博士の論文を楽々読みこなすIQ180の天才。
その飛びぬけた知力を周囲から疎まれ、かつては学校にも行かず無為に過ごしていたが
魔物であるガッシュベル(No.16)と出会ったことをきっかけとして立ち直る。
それ以降はガッシュベルのパートナーとして魔物の王を決める戦い(ガッシュベルのページ参照)
に身を投じていくことになる。
彼自身に飛びぬけた身体能力や超常的な能力はないが
卓越した頭脳から生み出される戦術を主な武器とし、これまで数多くの魔物を撃破してきた。
特にリーダーとしての指揮能力は仲間の魔物やパートナー達からも信頼が厚く……
……なるほど。これは便利なものだな。
この殺し合いに参加している人間の能力、性格、弱点を概ね掴むことができる。
やれやれ、こんなものが支給されていたのでは、俺がどれだけ能力の隠蔽に気を使おうがまるで徒労だな」
屋根の一部が崩れ去った薄暗いあばら家。
昇り始めた太陽がその光を投げる一角で、錆びた椅子に身を預け、俺は嘆いた。
目の前の床にはさっき奴らから接収した書類を含めた持ち物全てが雑多に並べてある。
参加者の詳細名簿、支給品リスト、そして奴らの考察メモ。
その全てが俺を驚愕させるに値するものだった。
「まさかこれほどの情報を持っている参加者がこの場にいたとはな。
魔法、錬金術、宇宙船、テッカマン……斜め読みしただけでも魅力的な単語で一杯じゃないか」
このような場において情報は命だ。
戦場とは正しい情報を収集し、それをもとに的確な戦略を実行することができた者だけが生き残ることのできる世界。
どうやら俺は今まで、そこに丸裸で突っ立っている無力な道化だったらしい。
……もっとも、この潤沢な情報を自ら手にした今となっては、無用な心配かもしれないが。
「この考察メモも素晴らしい。
首輪や螺旋王、この殺し合い自体の構造について、極めて的確かつ分かりやすい分析がなされている。
これを書いた君や明智健吾が優秀な人間であることが一目で分かるいいメモだ。
まったく、明智氏の死が残念でならないよ」
「……オレをどうするつもりだ?」
彼我の立場の差を誇示するように、余裕たっぷり嫌味を投げかけてやると、影から低い声が返ってくる。
陽の当たらない部屋の端で、芋虫のように転がる男、高嶺清麿。
奴は相変わらず手足を縛られたまま、埃まみれの汚い床で顔を伏せている。
(こちらと目を合わそうとしない……か。
さすがにギアスを警戒しているようだな。
だが、いつまでもそうしていることは許さんぞ高嶺清麿。
貴様には俺のための有益な駒として働いてもらわねばならんのだからなッ!!)
俺は名簿を横目で睨みながら、もう一度駒として奴の価値を反芻する。
現状において、高嶺清麿を最も有効に活用するには、どういう使い方をすればいい?
戦闘力か――――否。多少、運動神経がいい程度の凡人、ここでは物の数にすら入らない。
特殊能力か―――否。パートナーと合流しなければ全く使用できないという超能力に期待するのはリスクが高すぎる。
頭脳か―――――これも否。交渉で引き入れた仲間にならともかく、ギアスに操られた駒に求めるには厳しい能力。
では何か?
ギアスで高嶺清麿に命じることができ、かつ、俺の生存に最も貢献する要素とは一体?
(それは―――――信頼!)
携帯電話に映し出された光点の群れを睨み、俺は唇の端を吊り上げた。
ジン、小早川ゆたか。二つの点を含む光の群れは、ここから近いC-5に五人から成る集団が存在することを示している。
この二人はかつて高嶺と仲間だった人間だ。
もし、高嶺をギアスで操り、集団内で信頼を得る手助けをさせることができれば、俺がこの集団を掌握できる確率は高い。
小早川ゆたかと高嶺の間にある不和は確かに不安要素ではあるが……
それ以上にジンからの信頼と奴の考察成果が齎すプラスイメージは魅力的だ。
それに、いざとなればその不和を理由に誘い出し、小早川ゆたかにもギアスを使えばいい。
加えて、この集団にはスパイク・スピーゲルもいる。
カレンがどうして死んだのか、今となっては分からないが、もし返り討ちに遭っていたのだとしても
あの忠誠の厚いカレンのことだ、暗殺指令のことは絶対に漏らしてはいまい。
俺が奴を殺そうとしたことは、最悪でも疑念の形でしか伝わっていないと推測できる。
だとすれば、高嶺を使って信頼を回復し、再び奴に俺の護衛をさせるのも難しいことではないだろう。
さらに言うなら、高嶺をこちらの駒として抱えることは、ガッシュベル、菫川ねねね、傷の男など
他の参加者と後々、関係を結ぶことを考えても有用だ。
特に後者の二人に対しては、和解に持ち込むにしろ罠にかけるにしろ強力なカードとなるはず。
(ククク……高嶺、お前は俺の駒を殖やすためのいわば種駒!
今後、俺が有利にことを進めるためにも、貴様にはここで傀儡になってもらうぞ!
そのためにもまず……)
◆
「……オレをどうするつもりだ?」
「フッ、そう警戒しなくてもいいだろう?
このメモを見る限り俺と君の目的はおそらく同じところにある。
共にこの殺し合いからの脱出を目指す者同士、もう少し仲良くしてくれてもいいと思うが」
「両手両脚を縛った上、こんな扱いをするヤローの言うことが信用できるか!
だいたいお前、あのヴィラルとかいう奴と明らかに組んでたじゃねーか!!」
「組んでいた?俺が?あの獣人と?」
指を額にやり、目を閉じている奴にも聞こえるよう、大きく溜め息をつく。
いかにも、困惑しているような調子で。
「……なるほど。確かにそう見えたのも仕方がないことだろう。
実際、あの男とはある種、共通の利害があったことも否定はしない。
だが、だからといって俺もこの殺し合いに乗っていると思われるのは心外だな。
俺はあの男のパートナー救出を手伝わされそうになっていただけに過ぎん。
それも、断れば殺されかねないような状況で半ば無理矢理にな」
「……その割には、随分、楽しそうに指示を出してたように見えたけどな?
人質がどうとか……まさか忘れたとは言わせねぇぞ?」
「それも単に自分の利を優先させただけの話だ。
いかにも嫌々従って、相手に不信感を抱かれるよりも
表向きは協力的に見せかけて、相手の信頼を引き出した方が何かと得だからな」
「……気に入らないな」
「俺もできればこんな手は使いたくはない。
だが、残念ながらここは戦場だ。
死にたくないのならば!生きて達せねばならない目標があるのなら!時には下種な手も使わねばならんときはある。
君もそれが分からんほど愚かではないだろう?」
「…………………」
高嶺が沈黙したのを目の当たりにして、俺は内心、にわかにほくそ笑む。
思ったとおり、奴は理を示されればそれを無視できないタイプの人間。
それを見越してそれなりの演技を選んだのは正解だったようだ。
「……何だ?」
「何?」
「『生きて達しなきゃいけない目標がある』って言ったな。
お前にとってその目標は一体何なんだ?
ゼロとかいう革命家の立場で世の中を変えることか?母親の仇を討つことか?……それとも、妹か?」
「ほう、たいした記憶力だな。八十二分の一でしかない俺のプロフィールを随分よく覚えている。
その通り!俺が達成しなければならない目標、それは妹、ナナリー・ランペルージに他ならない。
あいつが幸せに暮らせる未来を作るため、俺はこんな荒唐無稽な殺し合いで死ぬわけにはいかない!
そのためには何としてでも生き残り、絶対にここから脱出する!!」
「……たとえ、そのために人を殺しても……か?」
「……無論、避けられぬ闘い、避けられぬ殺しはあるだろう。
しかし、できる限り、被害は最小限度にとどめたいと考えている。
……ナナリーは俺が手を汚すことを決して喜びはしないだろうし、な」
できるだけ悲痛な雰囲気を声に滲ませる。
『大切なもののため、望まぬ殺し合いをさせられ心を痛めている人間』を演出する。
同情を買うためにナナリーを利用するのは心が痛むが、これもここから脱出するためには仕方のないこと。
高嶺をこちらのペースに引きずり込み、こちらの望む行動を引き出すために必要な布石。
「だから、俺は君を殺したくはない。
先ほども言ったが俺と君は同じ目的に向かって戦う同志。
ならば!手を携えて螺旋王に立ち向かうこともまた可能なはずだ!!」
椅子から激しく立ち上がり、激して俺は続ける。
「高嶺清麿。
君が俺を信頼し、遺恨を忘れ、脱出を目指すと誓うのなら!
今すぐにその拘束を解き、これ以降は俺の仲間として扱おう!
来い!清麿!共にこの悪辣な実験を破壊する剣となろう!!」
派手に身振りをつけ、声を高め、俺は高嶺に対して手を差し伸べる。
ゼロであるときのように大仰、大胆に。
顔を伏せている奴には俺の姿は見えていないが、雰囲気さえ伝わればそれでいい。
人は流される生き物。
上手く場の流れを操作し、空気を作ってさえやれば、容易くそれに飲み込まれる。
スザクの処刑未遂のときも、ホテルジャックのときも、民衆は俺の意図したとおりに酔い、踊った。
さて、高嶺、お前は……
「……………………悪いが、今すぐに『はい』とは言えない。
さっきまでこっちを殺そうとしてた相手だ。
いくら解放と交換条件だとしても、そんなに簡単には信用できないな」
「……そうか」
やはり。
乗ってこないと思っていたよ、高嶺清麿。
お前は凡百の愚衆どもとは明らかに違う。異常な状況でも冷静な判断力を失わない強力な心の力を持っている。
先程のヴィラルが襲撃した時もそうだ。
お前はこちらの質問に答えながら、抜け目なく観察し、隙を覗っていた。
そんな男がこの程度の揺さぶりに動じるなどとはハナから思ってはいない。
とは言え、乗ってこなかったのは残念だ。
俺はいかにも悲しそうに目を伏せる。
それは演技ではない。
もし、騙されてくれていれば、こんな下品な手を使わなくても済んだのに。
「残念だよ高嶺清麿。
が、実は俺もそう簡単に信じてもらえるとは思っていなかった。
お互いに信頼しあうには、俺達の出会い方はあまりに悪すぎた」
「確かにな。
だが、あれがお前の本性だっていうなら、どんな会いかたをしてたって結果は同じだったさ」
「ハハハ、手厳しいな。
だがな、君が俺のことをどんなに嫌悪していようが、俺は君のことを諦めるつもりは、ない」
対応する高嶺の空気が変わったのが分かる。
明らかな警戒と……僅かな怯えの色。
さすがに勘は悪くないようだ。
「……どういう意味だ?」
「聞いたとおりの意味だよ。
君は俺がこの会場から脱出し、螺旋王を打倒するためには、必要不可欠の人材だ。
話し合いで分かってもらえないというのならば、他の手段を使ってでも……」
「ギアスを使う気か?そう簡単に……」
今まで体を動かさなかった高嶺が体を固くして身構える。
力ずくに備えようというんだろう。
だが、俺はそんなことはしない。
腕力に頼る野蛮なやり方は趣味ではないからな。
その代わり……
「勘違いするな。強制する気はない。
選ばせてやるよ」
「選ぶ……?」
「そう」
嗤いながら宣言する。
命令するのは誰か、従うのは誰かを分からせるように、冷然と。
「俺に従うか、死ぬか、好きな方を選ぶんだ、高嶺清麿」
「てめえ……ついに本性を表しやがったな!!」
「フハハハハハハハハハハハハハハ!!!
何とでも言うがいい。
さあ、どうする?
頭のいいお前なら、考えるまでもない選択だろう?
ここで死ぬのはまさしく無駄死にだぞ?
明智健吾の遺志は継げない。仲間のジンにはもう会えない。
せっかくできた元の世界の友達に未練はないのか?
幼馴染の水野鈴芽はさぞ悲しむことだろうなぁ?
当然、ガッシュベルを魔物の王にしてやることもできん!!
これまでお前が積み重ねてきたもの全てが無だ!無に帰る!
それを考えれば俺に従うことぐらい何てことはないと思わないか?」
「貴ッ様ァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「ハハハ……おいおい、そんな顔で睨まなくってもいいだろう?
俺はこの殺し合いの場で絶望的な状況に陥ったお前にチャンスをやろうとしてるんだ。
感謝されるならともかく、怒られるなんて心外だな。
安心しろ。
お前が明智から受け継いだ脱出の夢はちゃんと叶えさせてやるよ。
俺の忠実な操り人形としてな。
フハ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
◆
(こいつ……)
朝の光を背負い、演技がかった動作で喋るあいつを薄目で見ながら、オレは静かな怒りに燃えていた。
(ルルーシュ・ランペルージ。またの名を革命家ゼロ!
仮面とマントでその正体を隠し、劇場型のテロで民衆の支持を集める天才策略家!
だが、その鮮やかな策略を支える基盤となっているのは……)
刑務所で見た詳細名簿、ルルーシュ・ランペルージについての記述をオレはもう一度反芻する。
(絶対遵守の力、ギアスと巧みな弁舌による人心の支配!!)
ゼロ=ルルーシュがもっとも得意とするのは、人を使い効率的に自らの戦略を実行すること。
だが、それは逆に言えば手足がなければ何もできないということだ。
おそらくはこれまで手足として使っていたのであろうヴィラルが離脱した今
新たな戦力としてオレが狙われる可能性は考えていたが……
(まさかここまでなりふり構わない手段をとってくる奴だったなんて……
クソッ!!目算が甘かった!!)
正直な話、オレはルルーシュをもう少しマシな奴だと考えていた。
確かに、テロリストの首領であり、目的のためには非道なことも辞さない性格だということはある程度分かっていたが
同時に妹や仲間に対する記述から、もう少し情もある、優しい奴だと思っていた。
だからこそ、うまく交渉すれば、仲間になるところまではいかなくても
争いになることなく、この場を切り抜けられる目も十分にあると判断した。
だが、まさか現実のこいつが、ここまでの腐れ外道だったなんて!!
見立てを誤ったとしか言いようがない。
「どうした?迷うことはないだろう?
なぁに、怖がることはない。ギアスはお前の体に悪い影響は与えないからな。
痛くも痒くもなく、一瞬で終わる」
ルルーシュの耳に障る声が狭い小屋に反射して響く。
自分の優位を確信しきった、目の前の人間を踏みつけにする不快な声が。
(とは言え、どうすればいい!?
ここで申し出を断れば、間違いなく殺される。
だが、かといって、申し出を受ければ、オレはギアスであいつの部下にされてしまう)
ここでルルーシュの操り人形になってしまえば、それこそオレは何をさせられるか分からない。
あいつの代わりに人を殺すことになるか?
殺人者を前に盾にされるか?
それとも、あいつが集団に入り込むために利用されるか?
(それはダメだ!
……だったら、実力行使であいつを押さえ込むか?)
それもあながち無理な選択肢じゃない。
あいつが資料を広げて長々と無駄話をしてくれたおかげで、腕と足の拘束はもうすぐにでも解ける状態にある。
もう少し距離が詰まれば、十分、奇襲をかけることは可能だ。
(だが……)
縛られたままの腕と腹筋を使って上半身を起こす。
ザリザリと板間に溜まった砂がこすれて音を立てる。
今まで動かなかったオレが突如体を起こしたのを警戒したのか、ルルーシュも一瞬だけ緊張して、動作を固くする。
その瞬間をオレは逃さず、少しの間だけ目を開いた。
「答える気になったか?」
「いや、難しい判断なんでね。ちゃんと考えようと思って起きただけだ。
寝たままじゃ頭に血が上るからな」
「フン……」
ルルーシュに対し、適当な返事を返しながらオレはさっきの一瞬で見たものの意味を再確認する。
オレが体を起こした瞬間、マントの下に手を入れたあいつの姿の意味を。
(やっぱり銃を持ってるのか。
オレを尋問している時、ことあるごとにマントの下を意識するような動作をしていたからもしかしたらと思っていたが……
くっ、厄介だな。
これじゃ、奇襲をかけても、その前に撃ち殺されてしまう)
オレの命はもう、一人の命じゃない。
明智さんからこの会場からの脱出を、皆を率いての螺旋王打倒を託された命だ。
その目的を果たすまでは、石にかじりついてでも死ぬことは……できない。
ましてや、捨て身の特攻で命を散らすなんてことは絶対に。
(操られても確実に命を繋ぐか?それとも勝ち目は薄いが命懸けの勝負に出るか?
オレは……)
◆
「さあ、早く答えをだしてもらおうか?
俺もいつまでも君に付き合っていられるほど暇ではないんでな」
声に少しいらだちの調子を混ぜ、答えを煽る。
高嶺はさっき体を起こして以来、考え込むかのように下を向いたまま、ぴくりとも動かない。
(随分と考え込んでいるな……何か反攻の策でも練っているのか?
ククク……無駄なことを。
この状況。俺の圧倒的な優位は揺るぎようがない。
……とは言え、いつまでも悩まれても厄介だ。
レーダーを確認する限り、今のところこちらに迫る脅威はないようだが、いつまでも安全というわけにもいくまい。
ここは銃でもちらつかせて少しプレッシャーを……)
「……分かった」
俺がそうして脅しの算段を立てていると、小さな声が耳に届いた。
まるで小さな蟻が搾り出したかのような弱弱しい声。
俺はもはや喜びを隠すこともせず、唇を歪めた。
どうやら敵は完全にこちらの手に落ちたようだ。
「フハ、フハハハハハハハハハハハハ!!
分かってくれたようで嬉しいよ。
流石、俺が見込んだだけのことはある。
君は実に聡明だ。
では……」
うわべだけの口上もそこそこに、俺はゆっくりと高嶺の下へと近づいていく。
陽の光がぼんやりと作り出していた奴と俺との境界線、日向と日陰とのラインを踏み越え
1メートルほどのところまで距離を詰めた。
そうしてから、未だ上体を起こしただけの奴と目線を合わせるため、腰を落とす。
ギアスをかけるためその顔を正面から見据えると、高嶺がいつの間にか目を開き、こちらを睨みつけていた。
「ククク、不満そうだな。
まあ、選択の余地はあったんだ。問答無用で殺されるよりは良かったと思って欲しいものだな。
さて、覚悟はいいか?」
左目に意識を集中させ、ギアスの力を溜める。
頭の中で命令を組み上げ、発話と共に光情報に載せて高嶺の瞳を通して脳髄に―――
「……お前にひとつ言っておきたいことがある」
「何?」
怪訝に思い、顔を歪めたのはほんの一瞬。
おおかた、俺へ恨み言だろうとあたりをつけ、聞いてやろうと意識を傾けた刹那
顔面に重い衝撃が走った。
「ガッ!?!?!?」
何が起こったか分からず、たまらずのけぞる。
鼻の奥にツンとした痛みを感じるのと、高嶺の声が聞こえたのは同時。
「そんな卑怯な計略で人の心を思うようにできると思うな、この“童貞”野郎!!」
◆
頭突き。
オレの初撃はどうやら鼻にヒットしたらしい。
ルルーシュが目を閉じ、仰け反っている。
だが、ボヤボヤしてはいられない。
既に限界まで緩めてあった手枷を外し、次のアクションをとる。
(オレは結局、命懸けで勝負に出るほうを選んだ。
正直言って、迷ったよ。
あいつも言ってたように、オレには『生きて成し遂げなければいけないこと』があったから。
だけど、オレは戦わなくちゃいけなかった!!
……あいつの眼を見てしまったから)
足枷の解除も早々に、自由な手でルルーシュのマントをめくり上げる。
そうしてから、オレは不自由な両脚を揃えてジャンプ。奴に向かって飛び掛った。
マントの下に入り込み、細い身体をガッチリ両腕でホールドすると、汗の臭いが鼻を突いた。
「くっ!!この!!」
オレの体重を支えきれず、ルルーシュの体は後ろへと傾ぐ。
そのままバランスを崩したのだろう。
ドスン、グシャという音と共に、オレ達はもつれ合って倒れた。
マントの隙間から、二人の体が並べられていた支給品に突っ込むのが見える。
(ルルーシュの眼。
オレを、ヴィラルを見据えるあの眼。
初めて見たときから既視感があった。
オレは前にあの眼に会ったことがあるんじゃないか。
ずっと、そう思ってた。けど、思い出せなかった。
でも、ギアスをかけようと近づいてきたルルーシュの眼を見た瞬間、思い出した!
あの眼は……野望と高慢に濁ったあの眼は……あいつの、ゾフィスの目だ!)
「放せ!グッ!?いつの間に拘束を外した!?」
ルルーシュが引き剥がそうとオレの体に手をかける。
だが、マントが邪魔してうまくいっていない。
ここまでは計算どおり。
位置のあたりをつけ、腕を伸ばすと……思ったとおり。
マントの裏には……拳銃。
(石にされた千年前の魔物を恐怖で操り、シェリーの親友、ココを洗脳した魔物ゾフィス。
ルルーシュはあいつと同じ眼をしていた。
他の魔物や人間を道具としか思わず、自分の能力を使って人間の心を都合のいいように改変していたあいつと!)
「や、やめろ!貴様ッ!それは!」
拳銃をもぎ取り、そのまま奴を渾身の力で突き飛ばす。
ルルーシュが背中を打ちつけるのを横目で見ながら、素早く考える。
このまま拳銃を突きつければそれでチェックか?
いいや、まだだ!
ルルーシュ・ランペルージにはもう一つの武器がある!
(ギアス。人の心を操る力。
ゾフィスが持っていたのと似た魔眼の力。
ルルーシュはゾフィスと同じだ。
自分の目的のため、罪の無い人たちを操り、戦わせ、傷つける!!)
「ッッ……いい気になるなよ小僧!」
態勢を立て直したルルーシュの左目が怪しく光る。
鳥のような紋章が浮かび上がり、こちらを不気味に威圧する。
だが……
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!!!」
オレは拳銃を持っていない左手を大きく振りかぶった。
(そんな奴にオレは屈していいのか?
それで繋いだ命に意味はあるのか?
殺すかもしれないんだぞ?ジンを、ゆたかちゃんを、菫川先生を……ガッシュを!
そんなことをして生き延びて、それで明智さんが喜ぶのか!?それであの人の遺志を継いだことになるのか!?)
「ぐあああああああああ!!目がっ!!目があっ!!」
投げつけたのは砂つぶて。
モロに食らい、ルルーシュが悶絶する。
気づかれないよう体の陰に集めておいたのが功を奏したらしい。
でも、これでギアスを封じられるのはほんの一時。
だから、オレは次の手を打つ。
(そんなはず、ないだろ!!!???
それだけは許しちゃいけないはずだろ!?
そんな風に仲間が傷つくことだけは、誰が許しても、オレが絶対許さない!!
あんな悲劇を、二度と繰り返させちゃいけないんだ!!
例え、オレの命が危険に晒されたとしても!!)
周りを見渡し、目的の物を探す。
オレのいるところからすぐ右手にそれはあった。
急いで拳銃をポケットに入れ、両手でそれを確保する。
目を遣ると、ルルーシュが立ち直りかけている。
だが、オレの方が疾い!
(……聞け、ルルーシュ。
人を人とも思わない、心を操る魔物!!お前に教えてやる!!
オレは……)
「オレはお前みたいな眼をした奴には、絶対に従わない!!!!!!!!!」
床に散乱していた支給品の一つ、フルフェイスヘルメット!
オレはそれを振りかぶり、まだ眼をこするルルーシュの頭に無理矢理叩き着ける。
奴の眼を見る心配はなくなった。
これでギアスは使えない!
「おのれえええええええええええええええええ!!!!」
「ウォオオオオオオオオオオオリアヤアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
銃を奪い返そうとルルーシュが両腕を振り上げる。
だが、カウンター気味に出したオレの蹴りが、先に胸板にめり込んだ。
うっと空気を吐き出して、奴は再び板間に倒れこみ、それきり動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
気づけば肩で息をしている。
動悸が速くて、収まらない。
大きく深呼吸をして、呼吸を整える。
室内で暴れたせいか、家具のほとんどない室内のそこかしこに埃が舞い、陽の光を煙らせている。
傍らを見れば、のびている全身黒尽くめの男。
こいつがオレにしたことを考えれば、このまま行ってしまいたい。
だけど、危険な力を持つルルーシュを放っておくわけにもいかない。
「とは言え一人じゃどうしようもないしなぁ……」
どうしたものかと思い、ルルーシュが落とした携帯電話に目を遣ると
運がいいことに、どうやら隣のエリアにジンがいるみたいだ。
「ジンたちと合流してこいつを引き渡して……それから菫川先生を助けに向かうってのがいいか。
まあ、向こうがどうなってるか分からないから、そううまくいくとは限らないけど」
オレはさっきまで自分の手足を拘束していたマフラーを拾い上げる。
とりあえず、何らかの形で拘束しておく必要があるだろう。
「……チェックメイトだ、ルルーシュ。
悪いけど、拘束させてもらう」
ルルーシュに銃口を突きつけながら、オレは奴を拘束するため傍へと近づいた。
だが
「ち……がうな。チェッ……ク……するの……は、俺の方だッ!!」
次の瞬間、オレの視界は真っ赤な光に包まれた。
◆
床に纏めておいた資料をひとつひとつデイパックへと詰める。
屋根の穴から降る陽の光は今やその輝きを増し、俺の体にじりじりとした熱を送り始めている。
先ほど蹴られた胸の痛みも概ねひき、溜まりたまった疲れも多少はましになってきた。
脳に貼りつくような頭痛は未だ残っているが、最早これはここにいる以上、仕方がないことと割り切るしかなかろう。
「紙一重。
そう、まさに紙一重の戦いだったよ。
君が俺のギアスを封じようとしたあのとき
もし、別のもの、例えば布やシーツのようなものを被せていたとしたら
俺は今頃、捕虜の屈辱に甘んじていたことだろう」
デイパックの口を閉じ、立ち上がると、軽い立ちくらみが襲う。
どうやら、体の疲れがとれた代わりに、頭と目を酷使してしまったらしい。
これでは、ただでさえしつこい頭痛が余計に長引いてしまうかもしれない。
「だが、現実は違う。
君は愚かにも、俺の視界を塞ごうとこんなものを被せてしまったんだからな」
俺はわざわざ椅子の上に置いておいたそれを取り上げると、これ見よがしに奴の目の前に晒した。
ゼロの仮面。
奴はこれをただのヘルメットと誤解していたが、これはそんな安っぽい代物ではない。
これは俺がゼロとして活動するためにわざわざその道のプロに作らせた、一級品の業物だ。
一見ただの仮面に見えるが、そこには俺が必要とするであろう機能が凝縮して詰め込まれている。
「俺自身のプロフィールだけでなく、装備の面についてもきちんと情報を覚えておくべきだったな。
支給品リストにもしっかり書かれていたぞ?
『ゼロの仮面にはギアスをかけるための開閉機構が搭載されている』とな。
もっとも、君がそのことを忘れてくれていたおかげで、隙をついてギアスをかけることができたわけだが」
仮面をデイパックに詰め込んだあと
椅子の背に畳んでかけておいたゼロのマントに再び袖を通す。
日の出た今となっては蒸れるのであまり着たくないのだが、まさか半裸で外を歩くわけにはいかない。
「しかし、最終的には一歩及ばなかったとはいえ、君の反撃にはヒヤリとさせられたよ。
さすがは、魔物の王になるための戦いを勝ち抜いてきた歴戦の勇者、といったところか。
……と、褒めたところでもう聞こえないだろうがな」
出発の準備を終えた俺は、傍らの男をつま先でつつく。
「失敗だったのはとっさに出たギアスが『その銃をよこせ』だったことだな。
おかげで優秀な手駒を手に入れ損ねてしまったよ。
『絶対に従わない』だったか?君の予告は永遠に実現したというわけだ。
目星をつけていた集団に入り込むのは少し骨が折れそうだよ。
君とは穏当に仲良くなったことにして……殺しの罪はヴィラル、シャマル、チミルフあたりに擦り付けるとしよう。
俺と君との険悪な関係を知る菫川ねねねもどうにかせねばならんし……余計な仕事が増えるな」
奴を見下ろし、溜め息を一つつく。
やってしまった直後は随分と腹立たしかったものだが、時間が経って幾分、落ち着いた。
手駒にする計画は破綻してしまったものの、ほとんど損失なしでギアスの秘密と俺の本性を知る人間が減ったんだ。
最善ではないが次善。十分に喜ぶべき範疇だろう。
それに、奴から得た情報の価値は高い。
二時間ほどかけて奴らの全資料を検分してみたが
明智のグループは俺が思っていたよりこの実験について、深い分析を進めていたようだ。
特に興味深かったのは、小説に偽装して書かれた菫川ねねねの文書だ。
まだ解読は半ばだが、俺の解釈が間違っていなければ、この方法で実験を管理している機能の大半は麻痺する。
あとは、その状況下で次元間移動が可能な機構さえあれば、ここからの脱出もおそらくは……
「そういえば、君は明智健吾の後を継いで脱出を主導することに拘っていたな。
残念ながらもうそれはままならないことだ。謹んで同情しよう。
だが、安心するがいい。
君と明智健吾の意思はこのルルーシュ・ランペルージが引き継ごう。
君達の得た情報と考察は、この俺が集団を掌握し、生き残るために最大限有効に使わせてもらうぞ!!
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
一瞥したあとはもう振り返らず、俺は壊れたサッシを跨いで外に出た。
外に出ると暖かい陽の光が一際に差し込む。やはりこの格好は少し暑い。
「そうだ、言い忘れていたよ。
さようなら、高嶺清麿」
腹に一つと頭に一つ、赤黒い風穴を開け、床に血の華を咲かせた男はもう永遠に動くことはない。
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!! 死亡】
【C-6/民家/二日目/午前】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(中)、軽度の頭痛 、後頭部にたんこぶ、胸に打撲
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服
予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ
支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:ジンの集団に入り込み、明智組の情報を使ってイニシアチブを握る
2:清麿との険悪な関係を知る菫川ねねねに対処する
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「戦力の拡充」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればショッピングモールかモノレールを調べる。
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※明智組の得た情報について把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※ギアスの制限は主に一度に使用する人数が問題なのではないか、と想像しています。
※名簿は生存者と異世界についての情報把握に的を絞って見たため、スザク他との時間軸の矛盾に気づいていません。
※清麿殺しの罪はヴィラル、シャマル、チミルフのいずれかに擦り付けるつもりです
目の前の少女の凶行を止める――Dボゥイの決意も虚しく、その戦力差は圧倒的だった。
崩壊した病院跡を舞台に、戦闘は始まり、そして継続している。
だが、それは戦闘と呼べたものか――ただ一方的に繰り出される攻撃を、
ただ一方的に喰らい続ける光景は戦闘というより、ただただ暴力的なだけの出来レースだった。
「オイオイオイオイ! なんだよなんだよ何事だよ! お前は俺が今度こそ殺す!
そう言ったじゃねえかよ! 聞き間違いかよ! でなきゃ、どうしてこんな弱いんだよ、タカヤ君よぉ!!」
叫ぶ少女はその可憐な見た目に似合わぬ凄絶な笑みを浮かべ、返り血の跳ねる衣服を翻らせて拳を繰り出す。
その身はこれもまた少女には見合わぬ白い男物のスーツに包まれている。
サイズだけは彼女に合わせて作られているが、男装の麗人と呼ぶには凛々しさより華やかさが目立つ顔立ちだった。
その少女の纏う白服に、拳が一度振るわれるたびに返り血が跳ね、スーツをキャンパスに暴力の宴を描き出していた。
その光景を視界に収めながら、Dボゥイは言うことを聞かない自分の体の状態に歯噛みする。
激しい頭痛が頭蓋を締め付けている。眩暈によって世界はおぼつかない。
外傷も内臓の損傷も、拳が体にめり込むたびに悲鳴を上げる。
口から漏れる血の量は、内臓が破裂したのが原因か。
冷静に被害状況を検分しているのは、痛みと疲労の極致が現実逃避を推奨しているからだ。
限度を超えたダメージを受けると、人間の意識は容易く現実から逃げることを選択する。
Dボゥイの意識もまた、壮絶な衝撃の前に足場を失い、浮遊感に包まれて消えていこうとしていた。
その遠ざかる意識の首根っこを引っ掴まえ、強引に振り向かせて現実に舞い戻る。
と、同時に鼻面に右の拳が叩き付けられ、鼻骨のひしゃげる音と共に顔面が仰け反った。
そこへ――、
「シンヤ君の時はよぉ、こいつで足元グラグラになってたぜ?」
左のアッパーカートが仰け反る顎に突き刺さり、長身を軽々と宙に舞い上がらせた。
為す術もなく翻弄される体は木の葉のように無防備に、しかし確かな重量のある響きを持って大地にその身を墜落させる。
もんどりうって崩壊した地面を転がり、仰向けに倒れるDボゥイは身動きが取れない。
手足が痙攣している。鼻は潰され、呼吸音はまるで死に絶える寸前のようにか細く弱々しい。
頭痛は間断なく脳を打撃し、込み上げる吐気は臓腑全てを搾り出してもまだ足りぬと訴えている。
まさに満身創痍、常人ならばすでに棺桶に全身が入り、蓋まで閉じているだろう状況下。
そんな中にありながらも命があるのは、紛れもなくDボゥイの肉体と精神の強さが理由に他ならない。
だがそれでも。
どんなにダメージを受けても朽ち果てぬ体があっても。
どんなに絶望に直面しても砕かれぬ精神があっても――届かない領域は存在する。
今まさに、Dボゥイの目の前に、その手の届かない領域は依然として存在しているのだ。
「ターカーヤーくーん。頼むぜ、おい。まさかこれで終わりってんじゃねえだろうな?
全然全然全ッ然! すっげーとこ見せてもらってないぜ、俺は!
お前はこんなもんじゃねえだろ! お前の本気を見せてみろよ! 俺は知ってる! 知ってるぜ!
お前がどんなに強い奴か! どんなに辛い状況でも、どんなに痛い思いをしても!
それでも立ち上がる男だって知ってるぜ俺は!
だから立てよ! まだまだまだまだこっからじゃねえか!
立ち上がって、しっかり前を向いて、血を吐いてもそれでも戦うんだって目を光らせて
――それで俺に殺されようぜ! な!?」
けたけたと狂笑を振りまきながら全身を揺する少女――いや、ラッド・ルッソか。
短期間の戦闘で、Dボゥイはすでに相手の少女が、あのラッドとほぼ同一の存在であることを認めざるをえなくなっている。
その喋り方、態度もさながら、戦闘スタイルまでもが完全に一致している。
ともなれば、彼女の中にラッド・ルッソが巣食っていることは疑いようもない。
次に問題となるのは、それがいったいどういうことなのか、だ。
少女の中にラッド・ルッソがいるのは事実――だが、人間は人間の中に潜んだりはできない。
となればラッド・ルッソもまた、ラダムのように他者の体に寄生して、その意識を乗っ取るような存在ということだろうか。
だとすればDボゥイが遭遇したラッド・ルッソという名の白服の男も、その寄生体か何かの犠牲者でしかなかったのかもしれない。
ラダムのように、他者の意識を奪い、その人間の意に沿わぬ行為を平然と行わせる。
自然、舞衣とシンヤのことが脳裏に思い浮かび、Dボゥイの心の炎が激しく揺れる。
「おっとぉ?
そういや、ここはひょっとしてあのシンヤ君が辛くて悲しくて冷たくて素晴らしい最期の瞬間を迎えた場所じゃねえのか?
兄弟が揃いも揃って巡りも巡って、同じ場所で死線をくぐろうとしている……。
うぉ、今、俺のこの胸に去来する気持ちは何なんだ!?
どこか甘く、どこか切なく、どこか――あああああ! 面倒くせぇ! よし、忘れろ!」
許せなかった。憎むべきラダム――そして、そのラダムと同じような存在があるという世界が。
その憎むべき存在が、目の前の少女の体を奪い取り、その心を薄汚い手で汚そうとすることを。
目の前のラッドを内包する、名も知らぬ少女――彼女は救いを求めていた。
意識を失う寸前、彼女は泣いていたのだ。助けを求めていたのだ。
今も拳を振るって、返り血に濡れる表情は笑顔を作っているが――その内面には拭い去れない悲しみがあった。
ゆたかも、舞衣も、そして眼前の少女も――このゲームの中にいる少女達は、泣いてばかりだ。
それこそこの憎たらしい惨状の、本当の意味で残酷で醜悪な罪悪!
燻る炎が、萎えかけた心が、朽ちゆく肉体が――魂が、Dボゥイの戦意を鼓舞した。
「そうそう、そうこなくっちゃぁいけねえよ。流石だ、信じてたぜ。信じてるし愛してるぜ、ターカーヤー君よぉ。
さあ、宇宙人らしいとこを見せろよ! 手足を八本に増やして、巨大化でもなんでもいい!
超絶変身してみせて、俺は絶対に負けないんだ!って最終形態をさらしてくれ!
そうすれば、バシッと素敵に俺のゲージも振り切っちまうからなぁ!」
立ち上がったDボゥイを見て、少女が歓喜の表情で空を仰ぐ。
その勘違いの内容もまた、ラッド・ルッソそのものだ。弟を殺した憎き仇、そのものだ。
だが、その憎悪を一度置き去りに、Dボゥイは少女に掌を向ける。
少女はその掌から何か飛び出すのを期待するように身を縮めたが、その期待には添えない。
「――黙れ」
「アァ?」
「口を閉じろと言ったんだ。それ以上、口汚い言葉でその少女を汚すのはやめろ。
お前の言葉は一から十まで、聞くに耐えないんだよ」
呆気にとられたような表情で少女が固まる。
場違いな発言だとでも思っているのだろう。Dボゥイ自身、何て安い言葉だと自分でも思う。
だが、告げておく必要があったのだ。
この後に自分が取る手段の反動を考えれば、告げる口が残っているかどうかも定かではないのだから。
懐より取り出したのは、すでに二度の使用を経験したブラッディアイだ。
鳴り響く頭痛は失血やダメージだけが理由ではなく、この薬の禁断症状に関係もあるのだろう。
ともすれば頭蓋の割れそうなほどの痛みに対し、しかしDボゥイは躊躇わなかった。
胡乱げに注視する少女の前で、ブラッディアイを双眸に吹きかける。
沁みるような感覚が視神経を侵してゆく――そして、世界が不意に赤く染まった。
大気の流れが、そして時間の流れが、あまりにもゆっくりに流れていく。
朽ち果てる寸前の肉体でも、これならば少しは戦えるだろう――そう、少女を救うぐらいには。
「へっ、なんだってんだよ! ――やれば、できるんじゃねえか」
身に纏う雰囲気の変化を、殺人鬼の嗅覚で如実に感じ取ったのか、少女が凶悪に嗤う。
だらりと下げていた両手がファイティングスタイルを構え、足が小刻みにステップを踏み始めた。
その動きが、あまりにも遅い。
対人戦において使用するのはこれが初めてだった。だが、その効果は絶大だ。
刻むステップは体重移動の瞬間さえ見え、揺れる拳のタイミングを計るのはあまりにも容易。
瞬きの間隔さえはっきりと窺える薬の魔力は、一対一の戦場において圧倒的な効果を発揮していた。
「なるほど……こいつぁ、殺しがいがありそうだ」
そう言って踏み込んでくる瞬間、Dボゥイもまた相手との間合いを詰めていた。
異常な動体視力は反射神経の増大に等しいが、勘違いしてはならないのは自分の体の機能だ。
あくまで相手の動きが鮮明に見えるだけで、自分の体が早く動けるようになったと勘違いしてはならない。
逸る視界に引きずられるように意識は動くことを要求するが、Dボゥイの肉体が相変わらずの満身創痍。
次なる一撃をまともに受ければ、それだけで崩壊するかもしれないことを忘れてはならない。
故に高速を見切る視界の中で優先されるのは、先手を取っての攻撃ではない。
――相手の攻撃を確実に躱し、隙間に攻撃を差し込む、後の先の戦いだ。
繰り出される左のジャブ、連続する拳はその威力こそ低いものの、鋭く視界を潰す槍の穂先だ。
空気を穿つような打撃を首を捻ることで回避、軽く引いた右の大砲が飛んでくるのに備える。が、
「ジャブがきた後はストレートってのはボクシングの基本だが、ここがリングの上に見えるかよ?」
「――くっ!」
小馬鹿にするような声に続いて、刈り上げるような右足が顔面を狙って跳ね上がった。
迫る一撃を頬に掠めながら間一髪で避け、生じた隙を縫ってその懐に飛び込もうと――
するのを空気を薙ぐ音を聴覚が捉えたことで中断、身を捻って打ち下ろされる踵の軌道から何とか逃れた。
「おぉ! よく避けたじゃねえか! 今のは日本の格闘ゲームってやつである技らしいぜ?
できるかもと思ってやったらできたもんだから、逆に俺がワクワクしちまったよ!」
地面を穿った踵の土を払いながら、少女は言葉に違わぬ笑みのままステップを再開する。
一度、その殺人鬼との間合いを空け、荒い息を吐くDボゥイは戦慄を隠せないでいた。
真上に蹴り上げた足を、寸分の停滞もなく真下に振り下ろす。行為を言葉にすればただそれだけのこと。
それを為す相手の身体能力に驚く部分もあるが、何よりも問題なのは自身の体の激しい消耗だ。
痛みを堪え、不調を無視すれば戦えるものと思っていたが、それでも尚、敵は遠い。
それこそ薬の力を借りている現在でも、戦力は拮抗どころか相手の方が上だというのだ。
テッククリスタルがあれば、とまで贅沢なことは言わない。
せめて満身創痍のこの身が万全であれば、奴の口撃に惑わされぬと誓える今なら引けを取らないというのに。
唯一持ち合わせているこの体が、激戦を潜り抜けてきた肉体が、その意思を阻んでいる。
この体たらくで、目の前の少女を救うことなどできるのか。
いや、それこそ問題は眼前の少女に対処することだけではなく、
ゆたかや舞衣を救うことができるのかという根本にも通じる。
その身をラダムに侵された舞衣は、目前の少女より尚手強かろう。
拳に手心が加わるのは避けようがないし、何より彼女自身の能力もまた脅威。
救うために滅ぼされてはならない――本当に救いたい彼女達を救うために、
この場で足踏みをしている余裕など、一片たりとも存在しないのだ。
「いいねいいね、ぶるってきたぜ! 最高だ!
小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて、命乞いする心の準備はOK?」
「女の子がそんなことを口にするべきじゃないし、祈るべき神はいない。
ここは屋外で、震えるための部屋の隅がそもそも存在しないな」
「雰囲気だよ雰囲気! 空気読めってんだ! ……まあ、覚悟決まったみてぇだからいいけどよ」
「ああ、決まったよ」
そこだけ可愛らしく首を傾げる少女に、Dボゥイははっきりと告げる。
勝利するために、意思を貫くために、言霊に己の思いを乗せて。
「覚悟は――決まった」
「いいねぇ、お前の意思って奴がビンビンくるぜ。その状況にありながらも! まだ!
お前は自分が死ぬとは思ってねえ! 死なずにやり通さなきゃいけない目的は持っているのに!
その目的を達成できずに死ぬかもとはちっとも思ってねえ! ああ、その思い上がりを殺して思い知らせてやる!」
「お前は――」
「OK、黙っとけ! もうこれ以上は言葉はいらねえ。俺とお前の間に、もう必要な言葉は何一つねえよ、そうだろ!?
もう分かり合った、互いの目的も意思も。ならもうこれ以上は言葉じゃなくて行動でだけ示されるべきってもんだ。
口先だけなら何とでも言える!
殺す殺されるの状況の前にそう言った奴を俺は何人も知ってるぜ! その全員を俺は殺してやったがね」
口を封じられ、あまりにも理不尽な言葉を叩き付けられ、しかしDボゥイの口元は初めて緩んだ。
何もかもに賛同できない存在であるラッド・ルッソ――その相手と、初めて意見が合ったからだ。
――そう。確かにもう、言葉はいらなかった。
先ほどとは違い、今度はDボゥイの方から先手を切った。
動きの鈍さは歴然だ。先に動いたとしても、相手の攻撃の方が鋭く早いのは目に見えている。
連続する攻撃を前に避けるのに必死になり、反撃を入れる隙間を見つけることなどできずに翻弄される。
さっきまでの展開をなぞるのは火を見るより明らかだ。
だからDボゥイは今は方針を変えている。
――無血での勝利を得ることはできないのだと、そう自身を戒めることで。
Dボゥイの矢のような前進が届く前に、やはり少女の拳の方が早く打ち出される。
先制のジャブは最初の邂逅よりもさらに速い。
――弾丸の速度で撃ち出される拳を交差する腕でブロックし、駆け抜けるままに間合いを詰める。
「ならァ! これで……どぉぉだァァァッ!」
雄叫びに呼応して突き出される右のストレートがガードのど真ん中に直撃し、威力のままにDボゥイの上体を弾いた。
華奢な体格から放たれたとは思えぬ拳の威力は、まるで人体の枷を外しているかのような破壊力。
――ここにもまた、宿主の体を無視した邪悪な寄生体の意思が見え隠れする。
怒りのままに弾かれる体で踏み止まり、再度の吶喊を試みる。
両腕を交差したままに、打ち込まれる拳の打突点を僅かにだけ外しながら、
損傷を軽微にすることにのみ意識を傾け、相手の間合いに踏み込んでいく。
――ここに、一つの真実を語ろう。
己の覚悟を明確に示すDボゥイの、強い意思を込めた前進は本来ならばラッド・ルッソには通用しない。
いかに強靭な肉体であろうとも、ブラッディアイの力を借りていようとも、
満身創痍の今の状態でラッド・ルッソを相手にしていたのならば、最初の接触の段階でDボゥイの命運は尽きていたのだ。
そのDボゥイが何故、敗戦の運命を塗り替えて善戦することができているのか。
それはDボゥイの飽くなき戦意も影響しているが、最大の理由は彼の覚悟にあるのではない。
最大の理由は相手が『ラッド・ルッソ』であって、ラッド・ルッソではないという点にあるのだ。
狂気の笑みを浮かべる『ラッド・ルッソ』――その体の本来の持ち主の名を柊かがみという。
平和な日本で平凡な女子高生として生活をしてきた彼女は、
この殺伐とした殺し合いの中で不死の肉体を手に入れ、幾つもの修羅場を潜り抜けてきた。
参加者は異世界より召喚されし、いずれ劣らぬ猛者ばかり。
その戦いの申し子達と轡を並べながら激闘を生き抜くには、不死の体というだけでは足りなかった。
だが、鍛えるという行為から遠かった肉体での戦闘は、人体のリミッターを外すという不死者ならではの特性によって、無理矢理に条件をクリアしている。
この戦場において、柊かがみの戦闘力は本来のラッド・ルッソに比肩するといっていい。
にも関わらず、今の柊かがみとラッド・ルッソの共生している狂人は、本来のラッド・ルッソよりも、
そしてラッド・ルッソの経験を自らの肥やしとした柊かがみよりも弱い。
何故ならば、ラッド・ルッソの記憶に肉体の全てを明け渡した現状、
柊かがみの肉体を操っているのは『ラッド・ルッソ』であって柊かがみではないからだ。
はっきり言ってしまえば、『ラッド・ルッソ』の経験が真の意味で発揮できるのはラッド・ルッソの体でしかない。
その経験を馴染ませる時間があれば話は別だったが、共生が始まってからまだほんの数時間しか経過していない現状ではおよそ不可能。
『ラッド・ルッソ』がこの少女の体を扱いきるには、まだ時間が足りていない。
腕が短い。足が短い。体が小さい。体重が軽い。
その全てが、『ラッド・ルッソ』本来の実力を発揮しきることに齟齬を生じさせている。
故にジャブもストレートも、威力が完璧に通る距離より僅かに遠い。
振り上げる蹴りもまた、本来ならば顎を削ぐような一撃にも関わらず、鼻先にも届かない。
柊かがみはラッド・ルッソの経験を生かすための努力をした。
だが、この『ラッド・ルッソ』は柊かがみの肉体を生かすための努力を積んでいない。
ラッド・ルッソであり、柊かがみでもあり、
柊かがみではなく、ラッド・ルッソですらない――狂人の戦闘力はそれ止まりであった。
――戦力の拮抗はこうしてDボゥイの覚悟と、狂人の肉体と精神の齟齬によって作り上げられていた。
「上を守れば、腹ががら空きになんだよッ!」
「ぐぶっ」
拳の雨が防御する腕を掻い潜り、剥き出しの胴体を直撃する。
フック気味の一撃が肋骨に直撃し、固い手応えでもって三本持っていったのがわかった。
内臓が折れた骨に傷付けられ、口の端からの血流が再び流れ出す。だが、
「また一歩、近付いたぞ」
「――――ッ! やっべえ! 最高だ! テンションだだ上がりしてきた!
こんだけ殴っても! そんだけ血を吐いても! 俺の拳が折れるぐらい肋骨をへし折ってやってるのに!
まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!!
そんっっっっっっっっな強気に吠えられるのかよ! 最ッッッ高に素敵じゃねえかァ!」
狂笑を上げ、再び振り上げられる狂人の拳の速度が加速する。
繰り出される拳はもはやジャブでもストレートでもなく、ひたすらに打ち込まれる乱打に過ぎない。
その無鉄砲なまでの打撃が確実に前進を阻んでいるのが、逆にDボゥイにはありがたかった。
接近して、何を狙っているのかまで狂人は気付いていないはずだ。
だが、接近して何かを狙っていることにまでは、確実に気付いているはずなのだ。
狂人が履いているスケート靴が飾りでないのなら、その接近した距離を再び一気に開くことも一瞬で可能なはずだ。
いやむしろ、平凡な靴であったとしても、近付いた分だけ下がるのは容易なことなのだ。
なのに、ラッド・ルッソを宿した少女は下がらない。その場から動かず、拳を出し続ける。
接近して、Dボゥイが何を狙っているのかはわからなくとも、一体何をしてくれるのかと楽しみにしているのだ。
それは正しく驕りに他ならないが、今の全精力を一瞬の隙間に懸けるしかないDボゥイにはありがたい。
「最ッ高だ! 殴り終わってボコボコの顔に、キスしてやりたいぐらいだぜ!」
――ああ、同感だ。俺も今、お前にキスしてやりたい気分だとも。
めり込む拳が先ほどと反対側の肋骨に皹を入れる。だが、歯を噛んで苦鳴を殺した。
胴体を狙った一発はダメージを確実に蓄積する代わりに、一歩さらに踏み出すチャンス。
顔面狙いの拳は全て、下ろさぬ覚悟で掲げた両腕が防ぎ切る。
もはやブラッディアイの力を借りても回避運動すらまともにとれない体にとって、
僅かに打点を外すだけでいい上半身への殴打はいっそ気が楽だ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ、何をしたって無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
打ち付けられる拳、振り上げられるたびに血が飛び散っている。
見れば掲げられる狂人の拳は、すでにまともに拳の形をしていない。
当然だ。ただの人間の拳の骨が、これほどの暴力的な連撃の前に耐えられるわけがない。
それでも痛みなどまるでないかのように振る舞いながら、砕けた拳を振るう姿はあまりに異質。
それは、その意識は、その姿は――、
「醜悪、そのものだ!」
「――っとぉ」
痺れを切らしたように繰り出された大振りの一撃、ガードを外して身を屈め、
頭頂部に掠らせながら相手の懐に飛び込む――遂に、目的とした到達点に至った。
見下ろす狂人の視線が、どんな色を浮かべているのか確認している余裕はない。
おそらくは内なるラッド・ルッソが、ずたぼろの体でどんな風に足掻くのかを期待しているに違いないとは思う。
そのことに煮え滾るような怒りを感じながらも、Dボゥイは震える足を叱咤した。
突き刺すように踏み出した足を大地に固定、その場で身を回し、
通り過ぎていったはずの腕を緩やかに流れる視界の中で追い――その白い袖口を両手で掴み取った。
――シンヤ、力を借りるぞ!
Dボゥイ自身には武術の心得はない。
故に、その投げは彼が弟によって叩き込まれた、体に刻み込まれた傷跡の一つだった。
ラッド・ルッソに奪われた弟の技を借りて、ラッド・ルッソに操られし少女を打倒する――。
掴んだ相手の腕を巻き込みながら、想像よりはるかに軽い体を背中に担ぎ上げる。
そのまま勢いのままに回転し、地面に相手を叩き付けようと――、
「甘ェ――ッ!」
浮き上がる小柄な体躯に、地面と水平になった背中を踏まれる感触。
慣性のままに振り回されるはずの狂人の体が、Dボゥイの体を踏み台に飛び上がる。
それこそ、Dボゥイが意図したものよりはるかに勢いの乗った速度で。
その超反射神経による行動は、ただ投げられるだけの体を危機から回避させる。
背中から叩き付けられるはずの投げに対し、さらに前に飛ぶ体は滞空時間にコンマ数秒の猶予を生む。その間に――、
「あら、よっと!」
自分から跳ぶことで踏み足に捻りを加え、狂人の体が空中で身を捻る。
背面から為す術もなく地面に叩き付けられるはずの体が正しく地面を視界の収め、両の足からの着地をその身にやってのけさせた。
「残念無念、また来週ってなぁ!」
掴まれた右腕以外の四肢を地に着いたまま、低い位置から見上げる狂人が邪悪に嗤う。
その表情が、次なるDボゥイの動きで驚愕に歪んだ。
投げが失敗に終わると悟った瞬間――
Dボゥイは四肢を着く狂人よりさらに身を低くして足元に滑り込み、半ば地面に半身をつけたまま超低空の投げに移行したのだ。
さしもの狂人もこの投げには度肝を抜かれた。
何より、体勢が悪すぎる。先ほどと同じ回避を行うには、どちらの足もあまりに中途半端だ。
――故に、二度目の投げは見事に成立した。
もしもこの場が柔道の会場で、床を畳とした武道の戦いならば、軍配はDボゥイに上がっていたといえるだろう。
「けどなァ、ここは遊び場じゃなく殺し合いの場所なんだよッ!」
「ああ……その通りだ」
低い位置からの背負い投げは見事に決まったが、その威力はあまりに微々たるものだ。
投げ付けられるまでに描いた弧の小ささといい、技としての不細工さといい目も当てられない。
当然、戦場において相手を打倒するという意味での威力は無きに等しく、
狂人に与えたダメージなどDボゥイが受けたボディへの一撃一発分にも届くまい。
だから、それを理解していながらDボゥイが笑ったのは、投げ技が布石に過ぎず、その布石が完璧に決まったからに他ならない。
仰向けに転がった狂人に対し、膝立ちのDボゥイの方がほんの僅かに早く立ち上がれた。
後は、頭の中に思い描ける弟の動きと同じように動き、赤い世界を信じるままに巡ればいい。
右腕を掴んだまま、立ち上がったDボゥイは少女の体を跨ぐ。
咄嗟に立ち上がろうとしていた狂人はその行為に牙を剥いたが、その凶悪な表情が一瞬でくるりと引っくり返る。
身を回し、うつ伏せにされ、そのまま逃れようと身を捻るたびに、Dボゥイはそれに先んじた。
「なん……だ、こりゃ。テメェ、いったい……!」
「これは柔術の類だ。貴様の大好きなボクシングの中には存在しないだろう」
もちろん、見よう見まねでしかない。だが、傷跡の経験は確かにDボゥイの中で生きている。
たとえそれが実の弟の手によって、憎しみの果てに受けた経験だとしても。
「この子自身には罪はない。必ず謝るから……今は多少、乱暴なことも我慢してくれ」
贖罪を誓った言葉を告げて、反論も許さずに容赦なく――肩の関節を外した。
骨と骨の接触が強引に外される鈍い音と、狂人の微かな苦鳴が続く。
その痛みに歪む表情に心を軋ませながら、反対側の腕を、足を、同じように外した。
「が……があああああああああああああ!!!」
手の中に残る嫌な感触を実感しながら、Dボゥイは大仕事を終えたように息を吐く。
水が引くように、体内のブラッディアイの効果が失われていくのがわかった。
同時に耳鳴りと頭痛がさらに勢力を増したのをみると、どうやら紙一重のタイミングだったらしい。
四肢を外し、その危険な力を剥ぐ――それが、今のDボゥイにできた狂人の無力化。
この場で即座に、少女をラッド・ルッソの悪夢から解放してやることはできない。
その方法もわからないまま、少女を殺してしまうという選択肢だけは選びたくなかった。
それができたと、今は心から安堵している。
先のことを考えれば頭は重いが、今、この最悪の状況を潜り抜けただけで十分だ。
やり遂げられた、その感慨に比べれば、体の痛みや失われてゆくような心の軋みなど、何ほどのことでもないはず。
まだ何も状況が変えられたわけじゃない。
それでも、その一歩を踏み出せたはずなのだから――、
「今、こう思っただろ? 手足の関節は外したし、これでこいつは身動きとれねえ。
後は煮るなり焼くなり何もかもが思う通りで、やっぱり自分に比べれば人間なんて虫みてえなもんだ。
どんだけでかい口を叩こうが、俺が負けるはずがない! 絶対に、自分は殺されるはずがない! ってなァ!」
関節が外れるのによく似た鈍い音が響き、次の瞬間――拳がDボゥイの顔面を直撃していた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
人形のように吹き飛び、壁に激突して四肢を投げ出すDボゥイを見下ろし、狂人は嗤っている。
「ヒャハハハハ! いやいやいやいや狙いはよかったんだぜ、タカヤ君よぉ。
もしも俺の体がめちゃくちゃ治るのが速い体質じゃなかったら、今ので完全にチェックだったぜ?」
関節が嵌め直った肩を回して調子を確かめつつ、俯く青年を賞賛する。
まさに、狙いは素晴らしかった。
打撃や斬撃が通用しないという部分を見抜いていたわけではないだろうが、
この肉体でも通用する関節技に持ち込まれた時には柄にもなく焦ったのは事実。
柔術の経験値はラッド・ルッソにも柊かがみにもないものだ。
対処法はどこにもなく、もしもDボゥイが選んだのがサブミッションではなく、締め技ならば勝敗は違っただろう。
流石に酸素が欠乏すれば不死者であっても意識は喪失する。
ひょっとすると、制限下にあって不完全な状態の今ならば、窒息死は免れないかもしれない。
――おっと、またまた新しい、自分の死ぬ可能性を見つけちまったかな?
頭部を吹き飛ばされる、首を跳ねられる、後は全身を粉々にされるとか、窒息死も候補の一つ。
いやいやダメだ。よくよく考えれば溺死は一度試した後だ。あれじゃ死ねなかった。
こうして殺される可能性を連ねていないと、やや不安定になる部分を狂人は自覚していた。
――死なねえ奴が、死ぬ人間に殺すとか殺されるとか、言うわけにはいかねえからなぁ。
逆を言えば、死ぬ可能性が残っている自分ならば人を殺す資格を持ち続けているというわけだ。
わお、殺人許可証万歳。許されなくても殺せるけど。
「お、前は……」
「おっとぉ? すっげぇなぁ、本当に尊敬するぜ。
コンクリの壁もぶち砕くような一発だったってのに、生きてるどころか顔面も潰れてねえ。
ハンサム顔が残ってラッキーだったなぁ、土葬の際には故人の顔をみんなで拝むことができますってぇことだ」
折れ砕けた鼻から、口から、血を滴らせながらも息のあるDボゥイの生命力に感嘆。
本当にすごい。殺しても殺しても死なない奴には本当に頭が下がる。
それが人間を侮ってる宇宙人というのだから、まさに彼の存在は――、
「天使か何かかよ、タカヤ君は! この俺の、飽くなき殺人欲を満たすために天が使わしたまさに天使なのか!?
だとしたら、今まで俺は神の存在を軽んじてきたことを本気で神に謝りたい! ごめん、神様!
あんた、意外にいい奴だったんだな! あれ、でもひょっとして神様、
あんたって自分が全知全能だとか気取って死なないとか思ってねえ? うわ、やっぱダメだ、死ねよ神様!」
「お前は……やっぱり、ラダムの……」
「ああ? あー、再生力の話か。ハッ、俺はタカヤ君とかシンヤ君とかと同じもんじゃねえよ。
ま、死に難くなったって点においちゃぁ似たようなもんだがね。
それでも多分、首が飛んだり頭が潰れたりしたら死ぬぜ俺。今回の場合はあれだ!
ちょいとばかし運がなかったんだよ。巡り合わせだな、巡り合わせ。回り回る螺旋の意思、なんつってな」
茶化すように嗤いかけながら、狂人は打ち倒されているDボゥイの全身を改めて見て、その損傷の酷さに唇を曲げる。
刻まれた裂傷、全身特に背中の火傷、肩には刺し傷と傷のない部分の方が少ない有様だ。
素直にあれだけの動き、戦いができたことは賞賛に値する。やっぱり宇宙人だからか?
「さてさてさてさて、そんなタカヤ君ですが、遂に年貢の納め時かねえ。
今度こそ完全に、手も足も舌もビームもレーザーも出ねえ状況だろ?
シンヤ君と同じく、頭ふっ飛ばせば殺せるのはわかってんだよなぁ」
言って、デイパックから取り出したエクスカリバーの切っ先を動かない首に軽く当てる。
銃があれば頭部を吹っ飛ばしてやるのが簡単だが、剣で首を落とすだけで死ぬのだろうか。
ひょっとしたら脳を粉々にとかの殺し方が必要なのかもしれないが、正直なところ首チョンパで終わってほしい。
何せ、脳をぐちゃぐちゃにとか死体を痛め付けるのは頭のおかしい人間のやることだ。
殺す方法、殺し方に手は加えるものの、必要以上に生を冒涜するのは殺人鬼としてのポリシーに反する。
殺害、死――それらはあくまで、生の素晴らしさを実感するさせるための行為なのだから。
生首とか潰すのはあんまし気が乗らないねえ、などと思いながら、首に当てた剣に力を込めようとした時だ。
かすかに、Dボゥイの口から音が漏れ聞こえた。
死ぬ寸前に相手が零す、負け惜しみでも泣き言でも、そういうのを聞くのは好きじゃない。
それでも、宇宙人が最期に何を言うのかはちょっと興味があった。
「なになに? 遺言ってやつか? それなら聞いてやるぜ、冥土の土産にな。って使い方違ぇけど」
「……たか、舞衣……すま、ない……」
「〜〜〜んだよ、ただの泣き言かよ。興味が削げたぜ、つまらねえ。死ね、死んで口を閉じろ」
黄金の剣に力が込められ、その首に切っ先が侵入していく。
冷たい刃に死の予感を感じたのか、Dボゥイの虚ろになりかけた瞳が静かに狂人を見上げた。
そして――、
「助けてやれなくて……すま、ない……」
「――――っ」
瞳は真っ直ぐに、少女の姿を映していた。
その瞳の中に映る自分の姿を見て、狂人の心が確かに一度凍り付く。
そしてその硬直が解けた時、静寂の中に納得を得て、頷いていた。
――ああ、なるほど。だからこの男は、最後までこちらを殺そうとしていなかったわけだ。
救えなくてすまないと、Dボゥイは言った。
彼の行動は全て、この肉体の本来の持ち主である柊かがみの心を救うためのものだった。
そこに込められた意思の何と眩く、何と神々しく、何と気高いことか。
震える胸に微かに、しかし少しずつ強まっていく、湧き上がる衝動は感激によるものだ。
こんなに傷付いてまで、Dボゥイは本気で柊かがみを救おうとしている。
大事な友達の家族、可愛い後輩を殺そうとまでした柊かがみを。
ずっと自分を守り続けてくれた、頼りになる父親のような男を殺した柊かがみを。
「タカヤ君……お前って奴ぁ、そこまで……」
どこまでも、どこまでも、敵対する相手を、救いたいと願ってしまう。
相手は自分を殺そうとしていて、しかも圧倒的に相手の方が有利な状況にあったというのに、
次の瞬間には死んでもおかしくないような負傷をしているのに、ああ、それでも――。
自分の力の限界を知って、肉体の崩壊を予期していながら、それでも尚、誰かを救いたいと。
――そう信じて願い続けられるというほどに温かな想いは、
「人間って存在を……侮ってやがるのかァ!!」
自分が柊かがみであることを、認められなくなった狂人には毒でしかなかった。
柊かがみであれば救われたかもしれないけれど、自分はもう柊かがみではないのだから。
『ラッド・ルッソ』でなければ、耐えられないのだから。
目の前の、こちらを矮小と嘲り続ける存在に対して、怒りと憎悪が噴き上がった。
突き付けていた剣の切っ先を外し、力なく下を向いていた顔を前髪を掴んで持ち上げる。
その虚ろな双眸をしかと睨み付け、歯を剥き出して狂人は猛る。
「救えなくてごめんなさい? 守れなくてすいません?
俺がしくじらなければ、みんなみんな死なないで助かってHAPPYENDで笑顔でバイナラだったのに、
俺がしくじった所為で誰も彼もみんな困ったことになりましたってか?
俺にはそれだけの力があったんですってか? ふざけてんじゃねえぞ!
この状況も、このゲームの参加者も、この俺も! テメェに可哀想がられる理由なんか存在しねぇ!
思い上がるとも大概にしとけ、大ッッッッッッッッ概によぉ!」
「違……」
「いいや! 違わないね!
テメェはこの場で見つけたゆたかちゃんや舞衣ちゃん、果てはこの目の前にいる俺……ってよりは、この女か。
これを保護者面して、守護者的な考えで、手厚く守っておくださりになろうってんだろ?
その弱者は俺が守らなきゃってぇ、自分は強ェんだぞって考えが気に入らねえ。
男と女は好き合うか、さもなきゃ対等な仲間でなきゃいけねえよ。テメェの考えにはそれが抜けてやがんのさ。
全部全て何もかも、テメェでおっ被っちまえば丸く収まる……その考えは傲慢だぜ、傲慢。
仲間でありたいって人間を、そのご自慢の強さってやつでどんだけ傷付けてきたのか、目に浮かぶようだぜ!」
言葉を聞き、愕然と目を見張るDボゥイ。思い当たる節でもあったのか、はたまた図星か。
その仕草に、ゆったりとではあるが回復が行われているのを見取って、狂人は目を細める。
朦朧とした意識が少しずつ復調しているのならば、それはそれで喜ばしいことだ。
このどす黒く体の内側に吹き溜まる怒りの捌け口とできるのだから。
「世の中ってのはな、取捨選択しながら生きてかなきゃなんねェんだよ!
あれも欲しい、これも欲しい、もっと欲しいもっともっと欲しい! そんなわがままは通じねえんだ。
持ち上げる腕は二本しかねえだろ、モノが重けりゃ両手で持ち上げるっきゃねえ!
欲張りなんだよ、タカヤ君はよぉ! ゆたかちゃんを! 舞衣ちゃんを!
助けたいなら目の前の女の子を助けたいなんて余裕はなかったんだよ!
俺を殺せばよかったんだよ。ゆたかちゃんと舞衣ちゃんの、反対の天秤に載るもんは殺しちまえばよかったんだよ。
助けるために殺せばよかったんだ! それが、この様だ!」
虫唾が走る。こいつは何もわかっていない。
これだけ傷付いて、これだけ苦しんで、その果てに絶望を学び足りていない。
『柊かがみ』を救いたいなんて、そんなのは今の彼には過ぎた願いでしかないというのに。
そんなボロボロの体で、届かない願いで、救ってくれるなんて言葉を聞きたくなかった。
できない希望なら見せてほしくなんかない――夢を見させるだけなら、消えてしまえ。
それも深くて冷たくて暗くて寂しい、絶望と失望の奥底に沈んで――。
「なぁ、タカヤ君。今、俺が決めたことを教えてやろうか?」
「…………」
「それはな、俺が、この俺が、タカヤ君の大事で大事な大切で大切なゆたかちゃんと舞衣ちゃんを殺してやろうってことだ!」
「……ッ! バ……カな……」
激しく動揺する姿に、やはりシンヤの兄弟だなと納得する。
舞衣はどうせ、もう一度会えば殺そうと思っていた相手だ。躊躇などあるはずもない。
約束したエミヤはどうやら死んだらしいし……約束っていつしたんだったか。
問題はゆたかの方だ。シンヤと一緒にいた小柄な少女。そして、よく知っている少女でもある。
それを殺そうと考えると、どうにも心の内側が軋む音を立てるのが避けられない。
自分の体が、自分の意思に反旗を翻すというのは全く面倒な話だ。
だが、逆にそれがいい。殺し難い殺したい相手を殺すというのは、とてもいい。
「そんなわけで、だ。弱者の勝手な保護者さんよぉ、残念だったなぁ。
まぁ、人生ってのは運命の無常と人の世の無情と色んなしがらみに囚われつつ、
辛いこと悲しいこと悔しいこと痛いこと泣きたくなるようなことと毎日毎晩毎分毎秒顔を突き合わせて、
その中から自分にとって嬉しいこと楽しいこと満足できること気持ちいいこと笑っちまうようなことを見つけ出していくプラマイゲームだ。
最後の最後でマイナスに傾いちまうテメェのことは同情しつつ不憫に思いつつ、
しかしながら俺の人生にとってはプラスの方向に傾いてくれるという実績を誇りつつ爽やかに星空の一つになってくれや」
「待……て、ゆたかや舞衣には何の罪も、ない。殺す理由なんて……」
「どこにもない、ってか? いいや、あるね! 何故なら俺は殺人鬼だからだ。
殺人鬼の俺にとっちゃ正直なところ何をもってしても殺す理由にはなる。
それこそ殺すって結果が先に出来上がってて殺す理由って過程は死んだ後に、
何となく俺の心の回想シーンの中でさりげなく思い起こすでもいい。
まぁ、そもそも俺が他人に殺しの話をするなんて、
それこそルーアぐらいにしかしねえわけだから尚のこと問題はないくらいに問題なしじゃねえか。
……おいおい、そういえば今思ったけどこの格好で帰ってルーアは俺ってわかるのか?
まぁ、最悪わからなくても俺がわかっときゃOKか。俺がルーアを殺す、ルーアは俺に殺されたい。
その関係がしっかりかっきりちゃっかりと維持されてりゃぁ、とりあえず見た目の問題なんてのはオールOKだ。
つまりは俺が殺す役、お前が殺される役、それもまたここではOKだ、OKだな? OKじゃなくてもOKすぎるがね、ハッ」
テンションが上がってきた、すごくいい。楽しい、心地いい、ゲージの最大だ。
掴んでいたDボゥイの頭を背後の壁に叩き付け、血が零れるのを見届けながら、
軽くステップを踏んで距離を開け、クルクルクルクルと踊るように回る。
「さあさあさあ、どうやって殺してやろうかねえ。
今やまさにそれだけで俺のこの胸は、今や小さなこの胸はそれだけで高鳴ることを堪えきれねえ!
この状況をどうすればいい! どうすればこのトキメキは解消される?
わかってる、そりゃもう大胆に鮮烈に美しく蠱惑的なほどにゆたかちゃんと舞衣ちゃんを愛でて愛でて愛でて愛でて
愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて
愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛で殺せばいいんだろうなぁ!」
自らの体を抱き締め、いずれきたる瞬間を思い描きながら、恍惚の笑みを浮かべる狂人。
眼下のDボゥイはその狂態にして嬌態を見上げ、理解できないものを見る目で愕然としている。
そしてその顔が俯き、堪え切れない感情に耐えるように小刻みに震えていた。
「おやおやおやおや、まさか泣いてるんじゃねえだろうな?
そりゃ参ったぜ、流石に俺も泣き喚く大の男を殺した経験ってのは……あー、意外と結構あったわ。
じゃ、躊躇いもないな。でも人生の最期って瞬間を泣き喚きながら終えるってのは自分としてはどうなのかね。
タカヤ君はどう思う? 夜に布団の中でふと自分はどうやって死ぬんだろうと思ったことはないかい?
そう考えた時に自分が死ぬならってベスト死因とワースト死因を三つずつぐらい並べなかったか?
その中に泣き喚きながら死ぬってのはランクインしてないもんかね。
ベストの方ならいいが、ワーストの方ならそりゃ悲しいことだ。
まさか一度もそんな想像したことないってんなら、それこそ俺にとっちゃ嬉しい誤算だがな、
ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「…………ムだ」
「うん?」
踊るように破壊の跡でステップを踏んでいた狂人の耳に、微かな声が届いた。
その声に期待を募らせながら、狂人はスキップしながら歩み寄り、無防備にDボゥイの口元に顔を寄せる。
そして――、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――意識は朦朧としている。
極限を超えるダメージの蓄積に、それでも戦えと叫ぶ体内の獣の声すら遠く感じる。
現実と夢想の狭間で意識は酷く揺れているのに、取り留めのない思考は延々と続く。
そういえば、いつの間にか体の痛みはどこにもない。
骨の折れ砕けた痛みも、破裂した内臓の痛みも、薬の影響による痛みも――体が崩壊する痛みも。
もう、何も感じない。痛みなんて、それがどういうものだったかも思い出せない。
……むしろ、気持ちいいぐらいだ。
俺は痛みに快楽を覚える体質だったろうか。
それすらももう思い出せないが、それは嫌な話だ……。
これまでにも、死ぬかもしれないと思ったことは何度もあった。
それでも何とか生き残ってきたから、死ぬというのを本気で意識したことはなかったかもしれない。
死ぬというのは、生きることの素晴らしさを実感するための……とか言ってたのは誰だったか。
あまり、好きな奴ではなかったことだけは間違いないと思うんだが。
そうこう言っている間に、体の感覚が少しずつ戻ってきているのがわかった。
目の前に、救いたいと願っていたはずの死神が立ちはだかっているのも。
――結局、彼女の中に巣食っている『奴』は何だったのだろう。
問えば答えが返ってくるとは思えなかったが、それでも問わずにはいられなかった。
それが憎み続けたラダム――ああ、ラダムはまだ覚えている。
そのラダムと同じような存在を、身に宿しているのだろうか。
「俺はタカヤ君とかシンヤ君とかと同じもんじゃねえよ」
そうか、ラダムじゃないのか。ラダムじゃないなら……それでいいか?
ラダムに対する憎しみを忘れられないのは最後まで一緒なのか、俺は。
もっと、もっと他に思い出せないか? 俺は、俺は憎み続けるだけの存在なのか?
辛いことばかりだったけど、悲しいことばかりだったけど、それが全てだったのか?
ゆ……ゆ、たか?
そうだ、ゆたか。ゆたかだ。
守ると誓って、守りきれずに、傷付けて傷付けて傷付け続けたゆたか。
ラダムに侵されて、それでも尚、戦うのを諦めなかった妹――違う、それはミユキだ。
ミユキ……シンヤに殺された、妹。
シンヤ……そうだ、シンヤだ。ゆたかはシンヤに連れ去られて……違う、シンヤは死んだ。
死んで、助けられなくて、大事な弟。憎くて、大切だった弟。死体も残っていない。
シンヤが死んで、でもシンヤを狂わせていたラダムも死んで……死んだ?
違う、死んでいない。ラダムは死ななかった。シンヤを狂わせておいて、弟を奪っておいて。
のうのうと生き長らえた上に、舞衣を新たな宿主に、往生際も悪く生き汚く足掻いている。
そうだ、舞衣を助けなくちゃいけない。
そうだ、ゆたかを救わなくちゃいけない。
ラダムの手から、心に差す絶望から――俺を信じてくれた、俺が信じたい二人を守るために。
ああ、なのに、それだってのに、体がちっとも動かない。
何とかしなきゃいけないのに、こんな時に限って、戦えと叫ぶ獣の本能が聞こえない。
駄目なのか? そんなものなのか? それは俺が望むには、あまりにも遠いものなのか?
求めすぎなのか? 贅沢なのか? ――だとすれば、
――だとすれば、今はただひたすらに、申し訳なかった。
言葉を一つ作るたび、文字を一つ音にするたび、大事なものが抜け落ちていく気がする。
それでも尚、溢れ出る思いを止めることができなかった。
ゆたか、舞衣――本当に、本当に、すまない。
俺の力が足りないばかりに、俺の覚悟が足りないばかりに、俺が弱いばかりに。
目の前の少女を救うこともできやしない。
目の前の、ゆたかと、舞衣と、同じ目をした少女を、救うこともできやしない。
諦めと謝罪の念がそのまま乗った言葉が――その少女を激昂させた。
違うと、否定したかった。
鼓膜に叩き付けられる言葉の暴力は、その肉体を傷付けられるよりもさらにずっと苦しかった。
――そんなつもりじゃなかった。俺が彼女達を、君を助けたいのは、そんな理由じゃない。
本当にそうだろうか? 本当に違うのか? 投げ付けられる言葉の通り、見下してたんじゃないのか?
――違う、違うはずだ。俺が彼女達を、助けたいのは……。
本当に助けたかったのか? よく思い出してみろよ。もう消えてしまいそうな、自分の心を掻き集めて。
邪魔なものを、不要なものを、軽いものを、次々次々と心の断片から消し去っていく。
そうして、最後に残ったものこそが、本当の気持ちだ。
どうして、ゆたかを助けたいんだ?
――ゆたかをさらったシンヤに巣食うラダムが憎いからだ。
――こんなふざけた状況を作り出し、嘲笑っている奴らがラダムと同じくらい憎いからだ。
どうして、舞衣を助けたいんだ?
――舞衣に寄生し、その心を侵すラダムが憎いからだ。
――この殺し合いのゲームを肯定し、殺戮に興じる奴らがラダムと同じぐらい憎いからだ。
この心を焦がす、激情の炎はなんだ?
――ラダムへの憎しみだ。憎しみこそが、ラダムだ。
ならば、目の前で、ゆたかを、舞衣を、殺すと宣言する奴は一体何なんだ?
――ラダムだ。
ラダムは、殺さなくちゃいけない。奴らの存在を、許してはいけない。
怒りが、憎しみが、どす黒い感情が、もう動かないはずの体に悪足掻きする力を取り戻させる。
今ここに、ゆたかがいなくてよかった。
舞衣がいなくて、本当によかった。
こんな――こんな憎悪に引き歪んだ俺の顔を、あの二人に見られなくて本当によかった。
もう憎しみしか残っていないはずなのに、そのことだけが少し嬉しくて、俺は幸せだ。
ラダムが、顔を近付けてくるのがわかる。
もっと、こい。もっと、近付け。腕を伸ばせば届くくらいに。
俺の最後の牙が、お前に届くくらいの場所まで。
「お前が……お前こそが……ラダムだ――ッ」
…………。
――最後の一撃を、放ったはずだ。
放てたはずだ。それすらも錯覚に過ぎないのだろうか。
アツイ、とてもアツイ、どこがアツイのかは全然わからないのだけれど。
サムイ、とてもサムイ、どこがサムイのかは全然わからないのだけれど。
殺せただろうか、ラダムを、目の前にいたラダムを。
ゆたかと、舞衣と、同じ目をしたラダムを――。
――俺が殺したのは、誰だったんだ?
――俺が殺したのはラダムか? ゆたかか? 舞衣か?
「Dボゥイさん」「Dボゥイ」
…………。
誰かの声が聞こえた気がする。大切な、今、俺が殺した二人の声が。
まだ、耳は聞こえるんだろうか?
…………。
聞こえない。
何も、聞こえない。
もう
なにも
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
人体を軽々と貫くだろう手刀には、一片の曇りもない殺意だけが込められていた。
――倒れるDボゥイが、柊かがみを殺すために放った手刀だ。
繰り出された貫手は人体を紙のように突き破り、侵入路と対面に出口を作って貫通する。
文字通り、全精力を込めた一撃だったのだろう。
短時間での回復によって得た全ての力を総動員、その手刀の威力は直撃した頭部を爆砕し、
制限下の不死者を死に導くことさえ容易に可能としたほどの破壊力を秘めていた。
頭部に、直撃さえしていれば――。
「痛ェ……がああ! マッジで痛ェ! うぉわ、流石は宇宙人、すげえ威力だ」
痛みを訴える狂人、その視線は掲げた左腕の掌を貫く手刀に向けられている。
顔面を狙った貫手を咄嗟に左手でガードしたのだが、
手刀は掌を貫通し、さらに伸び上がった先で仰け反り気味の額を浅く切っていた。
ずるりと手刀を引き抜くと、吹き出した血が震えて傷口に戻り、掌の穴もまた即座に塞がる。
それを確認して、
「しかし、まぁ……よかったぜ、本当に。やっぱ、やり難いわけよ。
圧倒的に優位に立った状態で、殺される心配なんてまるでない状況で、
神様気取りで殺そうなんて俺の主義に反するわけだ。だからよ、本当に助かったぜ」
「…………」
「最期の最期で、本気で俺を殺しにきてくれてよ」
突き出された手刀――それと交差するように突き出された黄金の剣の切っ先、
それがDボゥイの喉を真っ直ぐに貫いて、背後の壁にその身を縫い付けている。
その双眸に光はなく、その体に生命の兆しはなく、その命運に未来はない。
「まぁ、あれだ。救いたいとか助けたいとか口にしてても、やっぱ最期の最期にゃぁ自分の憎悪を優先しちまう。
そこに地球人も宇宙人も関係ないってわけだな! 安心したぜ、いやホント。
タカヤ君も所詮は激怒の中では目的なんか見失っちまう普通の奴ってことよ!
ま、ゆたかちゃんや舞衣ちゃんの今後は俺に任せておけってな。
ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
耐え難い憎悪の前に、救いたいと願った少女を殺そうとするほどの憎悪の果てに、倒れた。
「それじゃ、さようなら相羽タカヤ――」
最後の最後、その死を送る存在が彼の本名を呼んだのは、救いになったのだろうか。
血に塗れた黄金の剣を振り抜き、死者には興味を持たない狂人は背を向けた。
「そして、柊かがみ――」
見開かれた瞳が、何も移さない白濁した瞳が、遠ざかっていく少女を為す術もなく見送る。
別れの言葉は物理的な距離だけでなく、それ以外の意味で少女との距離を開いていく。
もう彼では届かない。
もう彼には救えない。
誰も、誰も。
他人の分まで傷付き続け、
その果てに理想を抱き続けた男の――それが最期の姿だった。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード 死亡】
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
昇り始めたばかりだった朝日はいつの間にか頂点までの道筋を半分にまでしている。
熱い日差しが降り注ぐ中を、黒衣の青年は悠然と――ではなく、肩を揺らして歩いていた。
高嶺清麿を殺害し、民家を後にしたルルーシュ・ランペルージは思考している。
まず、具体的に考えなければならないのは今後の方針だ。
最終的な目的は入手した小説を偽装した暗号文の内容に従う、これが最善だと考えられる。
ナイトメアに近い機体などが多く転がっている戦場、尚且つ単身でも恐るべき戦闘力を発揮する参加者達。
ギアスの力を用いても、優勝できる概算は低いと見積もらざるをえない。
ならば、やはり方針は脱出に寄っておくべきだろう。
対主催、などと気取って螺旋王とやらを打倒するまでのつもりはない。
生きて、帰る。自分にとって重要なのはその一点。
それ以上を望むのは達成すべき最終目標への成功率を下げるだけの余計なものに過ぎない。
「もちろん、カレンを失った痛手の分、螺旋王の技術が持ち帰れれば御の字ではあるがな」
黒の騎士団のエースにして、ゼロに向けるカレンの信頼は失い難い大事な駒だった。
失いっ放しで帰るというのは、如何にも敗北者の姿――怒りの気持ちが湧き上がる。
「全ては脱出の算段が整ってからだ。感傷に浸る思い出も思い残しも、今は必要ないのだから」
そのためにも、今は最大の対主催勢力を作りつつあるジンやスパイクとの合流を急ぎたい。
幸い、固まっているグループは情報交換中、あるいは何らかの作業中なのか移動する気配を見せない。
メンバーも、ジンやスパイクといった面識のある面々がいるのは上出来だ。
付け加えれば、ギアスについて知るスカーや菫川ねねねといった人材がいないことも。
懸念されるのは小早川ゆたかという少女か。これは高嶺清麿や菫川ねねねと行動と共にしていたらしき少女。
離反したと聞いていたが、このグループに紛れていることは非常に厄介だ。
もしもギアスのことが知られているようならば、最初に消えてもらわなければならなくなる可能性も高い。
高嶺清麿さえ懐柔できていれば、このような苦労をしなくても済んだものを。
「やれやれ、次々と問題は生じるものだな。俺はただ、ナナリーの下に帰りたいだけだというのに」
他者が聞けばあまりに利己的で自己中心的な愚痴を零しながら、さらに考察は進む。
このゲームの会場において、どうやら自分の顔はそれなりに広い方に入るようだ。
様々なグループに参加、離脱を繰り返してきた経験がここで役に立っている。
何が王の力はお前を孤独にする、だ。それどころか、これほどの実績を得ているではないか。
詳細名簿や考察メモの内容と照らし合わせ、現在も生存しているわかりやすい敵性存在は、
東方不敗、ニコラス・D・ウルフウッド、シータといったところか。
ルルーシュ個人として危険視しなければならないのは、目指すグループ内にいる前述の小早川ゆたかに加え、スカーと菫川ねねねの二人。
特に後者の二人はギアスの特性を知り、尚且つ敵対に近い間柄になってしまっている。
早急に意識の塗り替えをしてもらうか、消さなければならない。
また、ルルーシュ個人として危険視する必要がないのがヴィラルとシャマルの二人だ。
今や紙切れほどの価値しかない同盟の約束だが、あれを結ぶ過程であの二人がどういう人材なのかは知れている。
ギアスを使うまでもなく、丸め込むことは造作もあるまい。
「やはり、優先すべきはジン達のグループ内でどう立ち回るか、だ。
実利のわかるジンやスパイクならば俺の持つ情報を無碍には扱うまい。
小早川ゆたかも、名簿の限りでは平凡な学生。接し方次第で篭絡はできるだろう。しかしやはり問題は――」
ルルーシュの言葉はそこで途切れた。いや、断ち切られたというべきだろうか。
熱い日差しの中、ゼロのコスチュームで歩き回るのは非常に体力を奪われる。
それが不意に影が世界を覆ったことで涼しさが差し込み、救われたように空を仰いだ瞬間だった。
――機械仕掛けの白銀が、猛々しい重低音を上げて、ルルーシュの眼前に着陸したのだ。
――馬鹿な!?
内心を驚愕の一言が埋め尽くす中で、ルルーシュは手の中のレーダーに視線を送る。
このレーダーを入手して以来、自身の安全のために常に周囲の警戒は怠っていなかった。
如何な高機動兵器の速度とはいえ、気付かないなどありえない。
ならばどうして、見上げるほどの巨躯に接近を許してしまったというのか――。
その疑問は、その白銀の巨体の次なるアクションによって解消された。
「俺の名はチミルフ!
螺旋王の忠実なる臣下にして、貴様らニンゲンを殲滅する役目を負った一介の武人だ! 名乗れ、ニンゲンよ!」
そう堂々たる名乗りを上げたのは、機体の中央に設置されたコックピット
――ハッチを失ったその場に立ち上がり、真っ向からルルーシュを見下ろす偉丈夫だ。
その姿形は人型であるものの、肉厚の巨体を覆う体毛など、はっきりとした違いがある。
何よりはっきりと名乗ったではないか――螺旋王の部下、チミルフと。
それは螺旋王が殺し合いのゲームに投下した、新たな獣人の名に他ならない。
そしてそのジョーカーとも言うべき札の首に、従属を強いる首輪はどこにも見当たらなかった。
つまり、唯一、この場においてレーダーに反応しない存在がチミルフ!
この出会いの運のなさを呪う気持ちが胸中に湧き上がる。
その怒りに唇を噛み締めるルルーシュに対し、チミルフは再度高らかに呼びかけた。
「どうした、ニンゲン! このビャコウの威容の前に慄いたのか、己の名も発せぬほどに!」
その言葉に込められた危うさに、ルルーシュは即座の返答を強要された。
武人と己を称したチミルフの態度は、戦うことに享楽を感じる理解し難い類のものだ。
そういう輩は往々にして、慎重な判断よりも、蛮勇に対して敬意を感じるものらしい。
「失礼した、武人チミルフ殿。俺の名はルルーシュ・ランペルージ。返答が遅れた非礼を詫びたい」
偽名は使わなかった。
首輪がされていない時点で、チミルフが他の参加者よりも優遇される立場にあることは確実。
そこには参加者の情報も含まれている可能性がある。
名乗りを求めたのはこの場で真実を語るか偽るかによって、ルルーシュの見極めを行おうとしたからかもしれない。
武人――日本解放戦線の連中が好んで使用しそうな名称だ。ともなれば、相対する態度もまたそれに近いものになる。
偽れば死――その可能性と天秤にかけて、偽名を名乗るメリットはなかった。
そしてその読みが通じたように、威勢を上げていたチミルフは重々しく頷き、
「うむ。怯えと嘲ったこちらの非礼も詫びよう。ルルーシュ・ランペルージよ」
そこに確かな謝罪の念を込めて、そう口にしたのだ。
その態度を前に、ルルーシュはこの出会いを単なる不運と嘆くのは惜しいと考える。
螺旋王直属の部下である男、四天王の一人であるチミルフ。
この男より、引き出すべき情報は湯水のように溢れている。
――ならば、ここが俺の覚悟の決めどころというわけだ。
――スザク、ナナリー、俺に力を貸してくれ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その出会いは連鎖する不幸な出来事の、一つに過ぎない。
コックピットハッチを全損し、外気を身に浴びたままチミルフは愛機を駆っていた。
この哨戒行動と呼べる行動には、特別な目的があったわけではない。
ただ、映画館に隠された施設の中で、未だ人間をやめるか否かの選択肢の間に揺れている男。
その決断を逸らせることも、邪魔をするということもしたくなかったというだけのこと。
ウルフウッドがいずれの決断を下すにしても、チミルフはそれを賞賛を持って迎えるだろう。
だが、その決断に無粋にも自分が介在するという野暮はしたくなかった。
故に短時間傍を離れる決断を下し、こうして映画館の周囲を損傷した愛機の調子を確かめていたところだったのだ。
その過程で別の参加者に巡り合う――これもまた、一つの巡り合せであった。
名前を交換したところで、チミルフは改めて眼下に立つルルーシュの全身を検める。
その体格やその他を検分したところで最初に浮かんだ感想は、僅かな落胆であった。
ひょろりとした細身は実世界で戦ってきたニンゲン達の体格にすら遠く及ばない。
もちろん、このゲームの中で見た目で相手を測るのは愚行の極みだ。
だが、どう贔屓目で見ても、その立ち振る舞いには武芸に通じるものが一切感じ取れないのだ。
名乗り、そして敬意を向けるその所作には誇りに通ずるものがある。
武人に対して敬意を払えるその態度には確かな好感を抱けるが、残念ながらそれだけだ。
東方不敗と、そしてウルフウッドと交わした血沸き肉踊るような戦闘は望めまい。
とあれば、求めるのは情報と、そしてこの男にはニンゲンの、螺旋の強さがあるのかということ。
「問うぞ、ルルーシュ・ランペルージよ。お前はこの戦場において、何を望む?」
「答えよう、武人チミルフ。俺が望むのは、勝ち取ることだ。この戦場において、俺の戦いで」
澱みのない返答が真っ直ぐに戻ってきて、答えを返されたチミルフの方が僅かに驚く。
正直なところ、力のある答えが返ってくることを期待してはいなかった。
見るからに弱者たる男が、この場でチミルフに返す刃のような意思は持たぬものと軽んじていた。
そのチミルフの軽率な思考を殴りつけるようにこの矮躯のニンゲンは、非力で無力であるに違いないニンゲンは、あろうことか言ったのだ。
――ルルーシュ・ランペルージは、戦いによって戦場を勝ち抜くと。
向う見ずな弱者と嘲るような気持ちはすでにない。
どれほど非力な存在でも、誇りを持って戦いに挑めるのならば戦士としての資格はある。
それは正しく、チミルフの胸の内に、快い感慨をもたらした。
「問うぞ、ルルーシュ・ランペルージよ。お前は螺旋の力、その力の本質を知っているか?」
「答えよう、武人チミルフ。俺自身はその力には届いていない。
しかし、仮説は持っている。これもまた、俺が戦いの中で勝ち得てきたものの一つだ」
「問うぞ、ルルーシュ・ランペルージよ。参加者である、ニアという少女については知っているか?」
「答えよう、武人チミルフ。ニアとは友好的な関係にある。
彼女とは図書館へ向かう道筋で別れ別れになったが、あの場で落ち合えることは間違いない」
僥倖。この出会いはまさしく、僥倖だ。
求めてやまない螺旋の力の糸口を、ルルーシュ・ランペルージは持っている。
そして、この戦場で拝謁したいと願っていたニア王女の情報も。
東方不敗の口から、ニア王女の人となりについては聞いていた。
彼女もまた圧倒的に力の差がある東方不敗を前に、一歩も退かぬ誇り高さを抱いた存在であるらしい。
共にいたカミナという男を東方不敗が気に入っていたことも含め、王女は気高き意思と、そして武人と共に戦場を生き抜いている。
その存在の一端に今、手が届こうとしているのだ。
「ルルーシュ・ランペルージ。
今、俺がここでお前の知る螺旋の力の秘密を求めれば、お前はそれを語るつもりはあるか?」
その申し出に対し、しかしルルーシュはチミルフを見下すような笑みを象り、
「馬鹿な。戦いの果てに得た情報を、軽々しく漏らすと思うのか?
もしそう思っているのだとすれば、武人という名は返上すべきだぞ、チミルフ」
「だろうな」
その返答もまた快い。全ては戦いの果てに得るからこそ価値がある。
ここで目に見える武力でもって脅しをかけ、吐き出させることに何の意義があろうか。
「だが、戦えばおそらく俺はお前を圧倒する。それでも尚、挑むというのかルルーシュ・ランペルージ」
「当然だ。生きるということは戦う、そういうことだろう!」
「――然り!」
ここへきて、両者の意向は通じ合ったとチミルフは考える。
故にビャコウの操縦桿を握り、眼下の矮躯を槍の穂先によって粉砕しにかかることに躊躇はない。
戦いとなれば、手を抜くことなどできるはずもない。
結果としてもしもルルーシュが死んでしまい、螺旋の力を聞き出せずとも仕方がない。
戦士たる男に対し、斯様な手心こそ最大の侮辱に他ならないのだから。
――しかし、
「何故、動かぬ――!」
焼け付くようなビーム刃を振りかざすビャコウの前で、ルルーシュはその場を微動だにしない。
それどころか両手を広げ、まるで攻撃を甘んじて受けようとでもいう構えだ。
何らかの攻撃意思のある行動ではない。
伸びきった両手両足で、如何な挙動による回避運動が取れようか。それとも、
「耐えられるとでも思っているのか? このアルカイドグレイブを!
だとすれば、それは思い上がりに他ならんぞ、ルルーシュ・ランペルージ!」
「言ったはずだ、勝つためだと! 俺は生き抜き、勝ち取るために行動する。
その目的の前に、お前と武力によって競うことは無謀に他ならない!」
「馬鹿な! それこそ妄言だ。武で争わねば何をもって争う!」
「――それは誇りだ!」
叩きつけるような雄叫び、そして大仰な身振りで両手をかざし、ルルーシュはチミルフを示しながら叫び続ける。
「力を持たない弱者に対し、武力でもって蹂躙するのが武人のやることか!」
「ふざけるな、それこそが戦いだろう! 互いを戦士として認めれば、それ以外の何がある!」
「ならば、これは、お前のまだ知らぬ戦場だ、チミルフ!」
臨戦態勢にあるビャコウを前に、痩身は一歩前に出た。
そして、牙を剥くチミルフを一片の恐れも抱かぬ眼光で射抜く。
「再度問うぞ、チミルフ。無力な弱者を、武力で蹂躙するのが武人のやることなのか!」
「俺に……この俺に、武人の道を説こうというのか!」
「違うな、間違っているぞ、チミルフ。武人とは何か、俺は問うたのだ。
説くのはチミルフ、お前だ。説かれるのは俺に他ならない! さあ、示せ、武人の道を!」
操縦桿を握る手が、激情のあまりに小刻みに震えている。
口八丁手八丁で丸め込もうとしている、そう断じてルルーシュを貫くことはあまりにも容易い。
そう、容易いからこそ、チミルフは迷う。
相変わらずこちらを睨むルルーシュの目に、怯えや打算の光は一切差し込んでいない。
それは正しく、この状況に、奴の言う、奴の戦場での戦いに命を懸けているということだ。
武力でもって、槍の穂先でもって答えるしか知らない自分は、どうすればいい。
「王の命により、俺には参加者を皆殺しにする必要がある。その俺に、自らのために忠義を穢せというのか?」
「武人たる男に道を曲げさせるんだ。当然、タダでとは言わない。見返りは用意する」
「この俺に戦いの戦果ではなく、物の譲渡で命を拾おうと言うのか!?」
だとすれば、それはあまりにも戦いを安く見すぎている。
ルルーシュの語る未だ知らぬ戦場――。
その戦いが如何なものかはわからないが、そのような汚辱の積み重ねで生き抜く戦いならばあまりに下らない。
そしてその考えは、チミルフが誇りに思う、チミルフの戦いに対する侮辱に他ならない。
憤怒のままに喉を震わせ、その思い上がりを打ち砕いてやろうと口を開き――、
「その考えは俺への侮辱とみなすぞ、武人チミルフ!!」
「何だと!?」
先んじてその言葉を発したのは、誰であろうルルーシュであった。
彼はそのまま、チミルフの言葉が耐え難い屈辱であったとばかりに痩身を激情に揺らし、
「ただ己の武によって争うことのみが戦いではない。俺は俺の持てる武器を使い、命懸けで常に戦っている。
その俺の戦いを単なる命乞いと侮るなら、それこそ俺の戦いへの侮辱だ!」
その覚悟の前に、決意の前に、存在の前に、チミルフは確かに圧倒された。
それはチミルフが知らない戦場、世界にはまた、誇りを武力以外に乗せる戦場もまたあるのだ。
無力で貧弱な体しか持たない存在が、己の全てを懸けて戦う戦場が。
どれほど言われようと、チミルフには決して歩くことができないだろう戦場だ。
元より武力によって戦うことしか知らず、できぬ身だ。
だが、そんな身であっても、その戦いの苛烈さの一端を感じ取ることはできた。
「そうまでして生き抜き、為し得たい目的があるのか」
静かな問いかけに対し、ルルーシュは厳かに頷いた。
「そうだ。俺には俺が守るべき、達成すべき目的がある。
たとえ命懸けの戦場で志半ばにして倒れることがあろうとも、最後の最後まで生き足掻くに足る理由が!」
戦いの果てに散ることへの覚悟を、ルルーシュは持っているのだ。
ならばそれは武人ではなかったとしても、正しく戦士としてのあり方だろう。
それを理解して、痛感してしまえば、チミルフが下せる決断は一つしかありえなかった。
「ここで貴様の命を奪えば、誇りを失うのは俺の方だな」
構えたビャコウの槍を下ろし、ルルーシュの戦いに懸ける覚悟を賞賛する。
その行動にルルーシュは深い礼を見せ、そして懐から一つの機械を取り出して、
「その誇りに感謝する。俺が見返りに出すのは、参加者の居場所を知れるレーダーだ」
手の中で操作し、小さな画面をチミルフに見えるように向ける。
それによれば確かに、小さな画面の中を幾つかの光点が点滅しているのがわかった。
なるほど、それがあればこの戦場での行動はぐっと優位になろう。
求める相手の場所に到達することも造作もあるまい。だが、
「それがあれば、俺はお前の場所を知ることができる。今はお前に敬意を表するが、二度目はないぞ」
「わかっている。当然、いつまでも見逃せとは言わない。一時間、その間だけ俺の存在を忘れてくれ。
二度目の遭遇があれば、その時は俺もまたお前と同じ戦いに赴こう」
「ふむ……わかった」
提案は妥当なものだ。そして、覚悟は揺るぎない。
次なる邂逅で戦いとなれば、今のままなら数秒で決着がついてしまう戦い。
だが、その戦いえさえ心待ちに思えるほど、戦士としての格のある相手だ。
「レーダーだが、使い方はわかるか?」
「不用意に近付くな、ルルーシュ・ランペルージよ。心を許したわけではない」
レーダーを手にしたまま歩み寄るルルーシュを、ビャコウの掌が押し留める。
その行為をチミルフはかすかに恥じた。
戦士としての格を認めておきながら、相手が凶行に出ることを懸念した行為だからだ。
だが、その非礼に対しルルーシュは苦笑して、
「用心深いな。ではこうしたらいい。その機体の掌で、レーダーを持つ右手以外の四肢を封じるように握ればいい。
何かおかしな行動をとれば、遠慮なく握りつぶしてくれ」
その提案はまさしく、チミルフが心変わりしないことを信頼しての言葉だ。
自分の矮小さと比較し、その寛容さには頭が下がる。
提案を跳ね除けることなど考える必要もなく、その体を言葉通りに白銀の掌で掴み上げた。
「操作はこのロボットに比べればずっと簡単なはずだ。まず――」
露出したコックピットの眼前にルルーシュを持ち上げ、宣言通りに右手でレーダーの操作を見せ付けるルルーシュ。
怪しい挙動など見せる素振りもない。丁寧に説明しつつ、最後にはそのレーダーをチミルフの懐に投げ渡した。
レーダーを受け取り、太い指には操作の難しいそれに四苦八苦しつつ、説明の正しさを確認。
頷きをもって、互いの契約が成立したことを示す。
「確かに確認した。それと同時にルルーシュ・ランペルージ、お前の覚悟もだ。
武人ではないが、お前は確かに戦士だった。非礼の数々を詫びよう、すぐに解放する」
「いや、気にする必要はない。それにだ。俺を戦士と呼ぶのは、少々間違っているぞ」
「む?」
「俺は戦士ではない。指導者だよ」
掴んだ腕から解放しようと操縦桿を握ったが、不意に変わった声色に眉を寄せる。
そのチミルフの眼前で、真っ直ぐにこちらを見ているルルーシュの左目が紅く輝き――、
「お前の主君は螺旋王ではない、この私だ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
かしずくチミルフを前に、ルルーシュは高笑いしたい衝動を必死で堪えていた。
何が戦士だ。何が武人だ。笑わせてくれる。
過剰な演技は体のあちこちが痒いくらいだったが、頭が空っぽの戦闘狂には程よいらしい。
まんまとこちらを信用し、不用意な接近を許すほどに。
「――以上が、此度の実験により螺旋王が得たいと思っている内容です」
「ふむ、上出来だ。その情報は私の今後において多大なプラスになるだろう。よくやった」
「ははっ」
己の知るところを語り終えたチミルフは、王の労いに対して畏敬の念を声音に込める。
この男が忠義に溢れ、存在の根元から創造主に忠誠を誓っていたことはルルーシュにとって幸運だった。
ただギアスをかけるだけならば、最初の邂逅の瞬間にもそれはできた。
にも関わらず茶番に付き合い、時間をかけて慎重な対話を選んだのは、高嶺清麿との会談の失敗による学習からに他ならない。
『銃を寄越せ』と勢いに任せて命令を下したことは、ルルーシュにとって痛恨の極みだった。
その二の舞にならないよう、どんなギアスをかけるのが一番効果的かを会話の中で探っていたのだ。
その結論が――忠誠を誓うべき相手を書き換える、というギアス。
先に遭遇していたヴィラルもそうだが、獣人というのはどうやら骨の髄まで螺旋王を崇めてやまないらしい。
チミルフもどうやら例外ではないらしく、その忠誠の矛先が変わった結果が今の状況だ。
――この制限下において、使用するギアスは入念に吟味すべきだ。
一度にかける人数、ギアスの内容がどれほどその対象の行動を縛ってしまうか。
それらを吟味すれば『俺に従え』などの対象の思考を完全に束縛してしまう類のギアスは、
払うべき対価と成立しない場合のリスクが大きすぎるだろうと選択肢から排除していた。
だが、別のかけ方によって、同じ効果を発揮できるのならばどうだ?
結果は眼前の忠実なる僕となったチミルフが証明している。
その効果と引き換えの代償はあまりに軽微。
偏頭痛のように絶え間なく響く頭痛も、この駒の入手と比べれば対価と呼ぶほどでもない。
――意思を縛るギアスではない。チミルフが勝手に、俺を信頼しているだけのこと。
そう、結果的に同じになっただけのことだ。まったく、螺旋王は素晴らしい部下を持ったものだよ。
内心でそう述懐するルルーシュは気付いていないが、ここに二つの偶然があったことを記しておこう。
それはルルーシュ・ランペルージが自分に運が向いていると、そう自覚している以上の幸運に恵まれていたという真実だ。
本来、このゲームの参加者達の能力は会場の周囲に張られた結界によって制限されている。
それは他の参加者に比べあまりにも強大な力であり、万能の魔法であり、絶対遵守の命令をだ。
この制限下におけるルルーシュ・ランペルージに与えられた枷は、彼の考察がかなり正解に近い。
だがそのルールに乗っ取って考えれば、『主君を書き換える』という此度のギアス。
そのギアスは成立する可能性が低く、大きな対価を要求されて然るべき命令であっただろう。
にも関わらずそれが成立したのは、皮肉にも首輪の機能とその認識の齟齬が関係している。
制限、従属、支配――それらの言葉の具現として最もわかりやすい見た目の首輪。
しかし制限に関して限定すれば、能力者の力を制御しているのは結界であり、首輪自体には参加者を縛る能力はない。
ならば首輪と制限の間には一切の関係性はないのか――それは否、である。
確かに首輪自体には装着者の能力を縛る機能はない。
首輪に搭載されているのは、参加者を制限する結界の効果を最大限に発揮するための補助装置である。
その装置により首輪は結界の能力制限の命令を受け取り、装着者に二重の制限を設けるのだ。
二重の制限――それは装着者に対し、内側からの力と外側からの力、両方を制限するというものだ。
例を挙げれば、補助魔法というものがある。
この魔法の効果を対象の身体能力を強化するものと仮定して話を進めよう。
首輪をつけたAという参加者が、同じく首輪をつけたBという参加者に補助魔法を使用する場合、
結界制限の命令を受けた首輪によって、Aの内側からの魔法に対する制限と、Bの外側からの魔法の制限が二重に働くことになる。
無論、内と外では内側からの力に対する制限、つまり装着者自身の能力を縛る制限の方が強力だ。
しかし、比較すれば内側の制限に劣る外側からの力に対する制限もまた、そこに厳然と存在している。
それは首輪の外れたAの補助魔法であっても、首輪の外れていないBに対しては効果を制限させるのだ。
さらに付け加えれば、首輪はあくまで防護結界の補助装置に過ぎない。
本当の意味で制限を解除したければ、やはり結界自体を消滅させる他にないのだ。
首輪の解除はあくまで制限の緩和であり、真に解放されるためには結界の破壊が肝要なのである。
この首輪の内外二重制限は本来、前述の補助魔法や治癒魔法。そしてルルーシュの持つギアスに対する保険の意味を持っていた。
ゲームが首輪の頸木が外れた者達の独壇場になることを防ぐための、安全措置といえよう。
故にルルーシュの首輪が外れたとしても、結界の影響下にある状態ではギアスの本領は発揮されない。
ルルーシュと相手、両者の首輪が外れている場合ならば、その制限はほんの僅かなものになるだろう。
だが対象の首輪が外れていない場合、やはり制限の呪縛から逃れることは叶わないのだ。
しかし、その保険としての首輪の認識が、今回の運命の偶然を引き起こした。
そう――首輪のない状態のチミルフは、首輪による外側からの力への制限を持っていない。
彼に対するギアスのみ、ルルーシュは他の参加者に比べ、弱体化した制限、軽減されたリスクしか負わなくて済むのだ。
もちろんそれでも本来は、内側からの力を制限するギアスによって此度の命令はキャンセルされてもおかしくない。
その制限があって尚、チミルフの思考を書き換えることができたのは、皮肉にもこの戦場に参加することで得た彼の思考の変化が原因に他ならない。
この戦場に降り立つ以前、ひいてはこのゲームの開催に携わる以前のチミルフは、今とは比較にならないほど視野が狭かった。
与えられた任務を達成することに満足し、ただ妄信的に創造主である螺旋王に従い続けるだけの日々。
その卑小だったチミルフはこの戦いを、そして王の目的を知ることで変わった。
戦場に降り立つことでこれまで侮っていた人間の力を知り、己の思い上がりを恥じて武人として一皮剥けたのだ。
だがその一方で彼の心の奥底に微かに巣食ったのは、拭い去れない王への疑念――。
この実験の本来の目的――それが達成された時、王は自分達獣人をその世界でどう扱うのか。
面と向かっての問いかけに、明確な答えはもらうことはできなかった。
それでも、それでもだ。チミルフは武人たる己を、忠誠を誓うべき王に見せつけようとしたのだ。
王の御心が変わることを願って、獣人達の礎にならんと決意を秘めて。
だがその考えは見方を変えれば、道を示した王への造反の感情に他ならない。
王の考えは間違っている――それが真実だとわからせたいがために、チミルフはこの作り物の世界の土を踏んだのだ。
それは何も知らず、己では何も考えず、王の心だけを一心不乱に信じていられた彼を変えていた。
本来ならば制限に抵触するはずの、王への忠誠というアイデンティティを書き換えられるほどに。
チミルフが成長したこと、首輪がなかったこと。
そして首輪に対する考察がいまひとつ真実に辿り着いていないこと。
これら偶然的な積み重ねがあったことで初めて、この状況は作り上げられている。
チミルフの忠道を捻じ曲げ、そのために払った対価もあまりにも軽い。
まさしく、誇りを重んじる武人という存在を嘲弄する、ルルーシュ・ランペルージの認識のままに。
「ふはははははははははは――!」
「失礼ながら、王よ」
自身に降りかかる幸運の前に衝動を堪え切れず笑う。
そのルルーシュに畏まった態度で歩み寄るチミルフは、怪訝な顔をするルルーシュの前にレーダーを差し出した。
そこに描き出された光点の中――こちらに接近してくる光が一つある。それは、
「柊かがみ、か――」
「どうされますか。邪魔な相手であれば……」
言外に消すという意思を乗せるチミルフに、ルルーシュは黙して指示を考える。
柊かがみ――詳細名簿から入手している彼女のデータを頭の中に思い浮かべるが、これといった目につく情報のない少女のはずだ。
平凡な、エリア11となっていない日本からの参加者で学生。
双子の妹が参加していたらしいが、最初の放送で落命しているあたりから特殊な能力は持っていまい。
ここまで生き残っていること自体、奇跡的なタイプの少女のはずだが、気になるのは、
「明智が残している考察メモの内容、だな」
それによれば、柊かがみはこのゲームの序盤からずっと衝撃のアルベルトという男と行動を共にしていたらしい。
このアルベルトという男の経歴がまた異様で、細かいことを省けば戦闘力やその他の面から見ても危険人物であることは間違いない。
――世界征服を狙うテロリストなどと、あまりに美しくない肩書きの持ち主だ。
そんな男が柊かがみと行動を共にしていた。こういった輩が実利を度外視して保護に回るとは考え難い。ならば――、
「柊かがみはこのゲームの中で、保護するに足るような何かを手に入れている、か?」
それが最も妥当な可能性だろう。
アルベルトが彼女を殺してそれを奪っていない以上、殺せない理由がある何か。
――それは体に埋め込まれるものや、あるいは植えつけられる知識などだろうか。
「どちらにせよ、接触するだけの価値はあるな。チミルフ」
「はっ、いかがいたしましょう」
「交渉は私が自らする。お前はビャコウに乗り込み、有事に備えろ。
もしも相手が敵対行動に及び、私が危険だと見れば、即座に殺せ」
「御意に」
差し出されるレーダーを受け取り、ガンメンに乗り込むチミルフを尻目に、周囲のエリアの警戒を怠らない。
どうやら柊かがみは単独行動のようだ。
移動の速度も機動兵器に頼っている様子はなく、人間の移動速度の範疇に過ぎない。
ビャコウの準備が整い、自分の背後に控えるのを震動で感じ取りながら、ルルーシュは悠然と接近する光点を待つ。
と、どうやら相手もこちらに気付いたらしく、その動きが目に見えて遅くなり、停止した。
場所はどうやら正面にある木々の陰。そこから狙撃でもされてはたまらないと、ルルーシュはあちらの行動に先んじて、
「待て、柊かがみ。こちらにはレーダーがあり、お前の動向は見えている。
こちらに敵対する意思はない。大人しく出てきてくれないか?」
「――――」
「事実だ。俺はレーダー以外は無手だし、荷物は足元に置いてある」
「お生憎様。そんなこと言われても、後ろにあるロボットが危なっかしくてとても説得力がないわ」
「なるほど……それは当然だ。だが、背後にいるのは俺の協力者となったチミルフだ。
螺旋王の直属の部下だった男。それが俺を殺そうとしていない。その情報は使えないか?」
露出したコックピットからは、その言葉が真実であることを示すようにチミルフの姿が覗く。
獣人であること、そして首輪が嵌められていないこと、それらは十分にルルーシュの言葉を肯定する材料になるだろう。
相手も同じ結論に達したらしく、僅かな逡巡の後でゆったりと姿を見せた。
詳細名簿に記された平凡な内容、その情報と今の彼女の姿は乖離していない。
身に纏うセーラー服といい、華奢な体つきといい、全てはルルーシュの知る学生と同じものだ。
肩口にある団長と書かれた腕章の意味はわからないが。
「柊かがみ……で間違いないな」
「そうよ。……そのレーダー、私が知ってるとは違うものなのね」
「ああ、君に支給されていたという本物のレーダーの話か」
歩みが止まり、少女の顔が怪訝の感情によって埋め尽くされる。
軽い先制のジャブのつもりだったのだが、掴みはOKだろう。
「どうしてそれを、という顔だな。簡単なことだ。情報だよ。
このゲームにおいて、情報は力だ。俺は少々それに恵まれているというだけのこと」
「人の心でも読めるって言うの?」
「それができれば素晴らしいが、そうではない。支給品リスト、というものがあってね。
これを見ればどんな支給品があり、それが参加者の誰に配られたものなのか一目でわかるというわけだ」
「ふうん。そんなものまであって、レーダーまで持ってて……ずいぶんと恵まれてるんだ」
「幸いにな。ちなみに詳細名簿というものも持っている。
これには参加者のかなりパーソナルなデータが記されている。君のことも、初対面よりはずっと知っているはずだ」
多少ぶっきらぼうな態度なのは、不信感を拭い去れていないからだろう。
その反応から頭の悪い少女ではないことを感じ取り、交渉の場に臨めるだろうことを確信する。
案の定、かがみは細めた目に疑念を込めながら、
「そんなにぺらぺらと手の内を明かして、いったい何を企んでるの?」
「相手の信用を得るために、自分のカードを見せるのは当然のことだ。
たとえ殺伐とした殺し合いの場所だとしても、俺は人として最低限の信念を曲げたくはない」
「信頼を得るため、ね。詳細名簿を見たなら、あなたは私にその価値がないことを知ってるんじゃないの?」
それは言外に自分には戦闘力がなく、特殊な能力もないことを、無価値であることを示唆している。
自分の価値を正しく評価し、その上でこちらの意図を質問してきているのだ。
内心でカレンに似たタイプだと判断し、幾つかの答えの中から相応しそうなものを選んでいく。
「人の価値、なんてものを俺は考えたくない。命は命、それ一つだ。
こんなふざけたゲームに投げ込まれ、そこから脱出するために協力できる人間は一人でも多い方がいいに決まっている」
「……かっこいい考え方するのね」
「理想論かもしれない。だが、俺はその青臭い正義を貫きたい。
後ろにいる獣人のチミルフも、俺のそんな考えに賛同してくれた一人だ」
二人の見上げる視線の前に、チミルフは意を察したように重々しく頷く。
上出来だ。その態度に幾許かの納得を得たように、かがみはわかったと笑みを見せた。
「疑ってばかりでごめんなさい。ちょっと……色々とあったから」
「妹さんを亡くしていることは知っている。その……俺にも妹がいるから、君の心痛は痛いほどわかるよ」
そこだけは心から、嘘偽りない言葉。
もしもナナリーがこのゲームに投げ込まれ、彼女の妹と同じ運命を辿っていれば、もはや自分は生きてはいられないだろうから。
だからこそ、何を犠牲にしてでも必ず生還してみせる。
そのために、この女の握っている何らかの重要な情報も必ず手に入れる――!
「誓って言うが、こちらに敵対する意思はない。それにだ――」
勿体ぶった仕草で前置きし、ルルーシュはそこで一度言葉を区切る。
ここから先の内容を口頭で説明するのは軽率だ。首輪に盗聴の機能があると考えられる以上、重要な内容は筆談でこそ行うべき。
黙り込むルルーシュにかがみは眉を寄せるが、ルルーシュが指で首輪を示すと納得の頷きを見せた。
意図が通じる――つまりは首輪の盗聴機能については既知であり、尚且つこちらの意を察せぬほどに頭は鈍くないらしい。
「俺は今、脱出するための対主催グループを作り上げようとしている。その仲間との合流を急いでいるところだ」
『脱出できるかもしれない方法がある。協力してくれないか?』
唐突に沈黙が落ちれば盗聴の向こう側で邪推も働こう。
それ故に口頭と筆談の同時進行を選んだのだが、よくよく考えれば、平凡な女学生には難易度の高い要求だったか。
「確実に信用できる相手なの? 悪戯に数を増やすのは危険だと思うけど……私が言えた話じゃないけどね」
『脱出法? それとも首輪の解除? どちらにせよ、信憑性のある話と思っても?』
そのルルーシュの懸念は、地面に書いた文面に即座に返答してきた彼女の対応で霧散する。
会話、筆談共に違和感のない返事はまさしく、彼女の対応力が一定の水準を超えていることの証。
頭の悪い相手との会話を嫌うルルーシュにとって、幸いなほどに優れた交渉相手だ。一介の女学生とは思えない。
――あまり、察しが良すぎないことを祈るばかりだが。
場が停滞しないように留意しながら、次に取り出して見せるのはレーダーだ。
幾つかの光点の集中するそちらを提示しながら、同時に地面へと筆の跡を残していく。
「参加者については詳細名簿で、相手を選んでいるつもりだ。
ただ、君の懸念ももっともな話ではある。俺の知り得る情報は参加者の参加前のものでしかないからな。
君はこのゲームの中でどれぐらいの人に会っている? この中にはどうだ?」
『理論的に辻褄は合っている。俺の持つ情報によれば、どちらかといえば首輪の解除、及び脱出の前準備の確立といったところだ』
筆談で情報を開示しつつ、レーダーの光点の示しているエリアは隣のC−5だ。
そこにいるジン達とかがみの間に面識があれば、同行者がいる状況は尚のことうまく事態を転がすだろう。
その打算を肯定するようにかがみは頷いて、
「この、ここに名前がある人だったら全員知ってるわ。特にジンやゆたかちゃんは」
『具体的に必要なものや、人員。その他を聞いてもいいかしら?』
明確な返事、そして示される聡明さと協力意思――まさに、得難い駒が現れたものだ。
ほくそ笑みたい気持ちを堪えつつ、ルルーシュはかがみに頷き返す。
「そうか。ジンは俺も知っている。その彼と知り合いなら、彼らとの合流に問題はないな」
「ええ」
――よし、条件はクリア。
忠実な部下となったチミルフをジン達にどう説明すべきかがネックだったのだが、彼らと友好的な関係にある柊かがみの証言もあれば集団にチミルフを混ぜることも容易だろう。
最悪、彼らとの関係に亀裂を入れかねないチミルフには自害を命じるか、レーダーを持たせて禁止エリアにでも隠しておこうと思っていたところだ。
ここぞという相手以外、ギアスの使用は控えた方が賢明だろう。
あまりに皆が皆、自分に友好的すぎるとそれは不必要な疑念を招くことにもなりかねない。
柊かがみはギアスではなく、弁論によって信用を勝ち得るべきだ。
「光点を見る限り、集まっている面々に危険な印象はない。脱出する意思は、そのために協力する仲間は一人でも多く必要だ」
『必要なのはフォーグラー……あの、遠くに見える黒い球体だ。あれのある機能を利用する必要がある』
「優しいのね。人がいいのかも。私は嫌いじゃないけど、ここでは危うい考えじゃないかしら?」
『あれを押さえるのは結構な難題ね。誰が乗ってるのか、どう動くかも予想できないし。他は?』
「ご忠告、痛み入るよ。だが、それでも俺は人の心の強さを信じていたい。それだけさ」
『ここからは少し説明が面倒になる。長い話だが、順序立てて話そう。まずは――』
そうしてルルーシュは簡易的に、脱出までの必要な道のりについて筆談を始める。
その間も取り留めのない、言ってしまえばむず痒くなるような青臭さを演じながら、だ。
説明に対してかがみは高い理解力を発揮し、ほとんど口(筆)を挟まなかった。
しかし重要な箇所には質問を欠かさないなど、優秀な生徒であると感心させられたほどだ。
「……以上が俺のここまでの道のりだ。合流、離散を繰り返したが、その芽が今になって開花しているのは皮肉な幸いだな」
『アンチ・シズマ管を集め、試作型へ改造。そして人為的にエネルギー中和現象を引き起こす。
それがこの作戦の肝になる、中核を担う重要な部分だ。
シズマ管の改造は俺が挑戦するつもりだ。少しは機械いじりの知識はあるつもりだからな』
脱出方法の説明と、ルルーシュ個人のゲーム内での動向を一通り話し終える。
もちろん、後者に関しては『情に厚いルルーシュ君』らしく脚色させてもらったが。
「やっぱりみんな……大変な目に遭ってるのね。自分ばっかり不幸だって、自惚れてたかも」
『ひょっとしたら私、アンチ・シズマ管を持ってるかもしれないわ』
「なに?」
かがみの最後の筆談で示された情報に驚き、会話と筆談のリズムを崩して思わず言ってしまった。
その失言にかがみは少し白けた顔をした後で「だから、私ばっかり不幸なわけじゃないわよねって話」とフォローを入れる。
「あ、ああ……すまない。疲れているのかもしれない」
「無理もないわね。私もずっと動いてて、ほとんど眠ったりしてないし」
そう言いながらかがみがデイパックから取り出したのは、緑色の液体のようなものが入ったエネルギーアンプルだった。
そしてそれは――支給品リストに載っている、アンチ・シズマ管そのものだ。
「そうだな。眠っていないのはよくない。睡眠は重要だ。睡眠による疲労の回復が行われなければ、頭の回転も鈍くなる!」
『そうだ! これだよ、これだ。素晴らしい!』
差し出されるままにアンチ・シズマ管を受け取り、興奮を隠せないのが筆談にも声にも出た。
その状況を度外視して、ルルーシュはアンチ・シズマ管の検分を始める。
なるほど、設計思想などは完全に自分の世界のものとは違うが、その作りの部分に限っては文化的な差異はほとんどないようだ。
首輪の解放のためのネジ穴といい、多種多様な世界の根本にまで違いが生じることはそうないらしい。
『役に立った?』
『役に立ったどころじゃないぞ、柊。これはまさしく大金星だ!
できる、できるぞ。やはり俺達には運が向いてきている!』
チミルフという手駒といい、脱出するためのアンチ・シズマ管といい、さらには聡明な協力者。
まるで天がルルーシュ・ランペルージに使命を果たせといわんばかりではないか。
歓喜に全身を震わせるルルーシュを見ながら、かがみもまたその口元を緩める。
それが不思議と今までの彼女の印象と乖離する、奇妙な笑みに見えたのは見間違いだろうか。
「それで、仲間との合流は今すぐに?」
『エネルギー中和現象について、詳しく聞いてもいい? そこが肝心なんでしょ?』
「あ、ああ。すまない、少し興奮してしまった。寝不足も罪なことだな」
『つまり、このエネルギー中和現象を引き起こすことによって、会場中の機械の機能が停止することになる――そう、首輪もだ』
かがみの丸い目がさらに大きく見開かれ、そこに納得の輝きが広がっていくのをルルーシュは見ていた。
そう。それによって首輪が機能を失えば、ギアスの制限もまた失われるに違いない。
最悪、ギアスの制限さえ外れれば参加者を皆殺しにすることも、あるいは脱出を妨げるものがなくなれば安全な脱出路を探ることも可能になるはずだ。
参加者達の頸木が外れれば、状況悪しと見た螺旋王が直接やってくることも考えられる。
もしもそんな軽挙妄動を螺旋王が起こし、眼前にその憎き姿を晒そうというのなら――スザクの仇を討ってやる。
静かな決意を固めるルルーシュ。不意にその前で、かがみがごそごそと懐を探っている。
どうした、と視線で問いかけると、彼女はううんと首を横に振って、
「ちょっと、驚いたからか目にゴミが入っちゃったみたい。今、目薬さすから」
「目薬なんてものがあるのか……気付かなかったな」
脱出の明確な方法を聞けたことで、緊張感の糸が切れたのだろう。
筆談もこれ以上は必要がないはずだ。筆代わりの枝と石を互いに放り捨て、一息をつく。
かがみは安堵感の生まれた微笑のまま、懐から取り出した『目薬』を目に吹きかけているところだ。
――吹きかけるタイプの目薬とは珍しい。そういえば、俺もこのゲームに参加して以来、睡眠もまともに取れていないから目が疲れているな。ちょっと貸してほしいくらいだ。
疲れ目を感じてぎゅっと目を瞑り、それから眉間を揉み解して疲労を実感する。
かがみはそんなルルーシュの挙動に気付かないまま、目薬を差した両目をぱちぱちと瞬きさせていた。そして、
「そういえばルルーシュ、ちょっといい? 聞きたいことがあるんだけど」
「うん? なんだ?」
「ううん、全然大したことじゃないんだけど」
妙に人懐っこい笑顔になったかがみは、後ろで手を組みながら、愛らしい顔で問いかけてくる。
「人生って、落差がすごいものだと思わない?
上がったと思ったら下がって、下がったと思ったらそんなに捨てたものでもない。
それはなんていうか、神様なんて存在のことを私は全然信じてたりはしてないんだけどね。
でも、運命ってものにはそういう人の意思みたいなものが混ざってるんじゃないかって思うことが私にはあるの」
「……? わからなくもないが……」
「でしょ? それで、落差が云々って話に戻るんだけど、ルルーシュはさっきこう言ってたわよね。
こんな殺し合いの場所でも人を信じたい。そして行動に結果はついてきている。自分達には運が向いてきてるって。
それは正しいことだわ。だってルルーシュは螺旋王に反逆しようと頑張って、それで敵の幹部まで味方につけちゃったものね。
ノリにノッてる状態で、これが幸運じゃなきゃ何が幸運よって話だもの」
取り留めのないことを急に語り出すかがみに、ルルーシュは頷きながらも得体の知れないものを感じる。
緊張の糸が切れて、友人に接するような態度になっているのか?
奇妙なほど早口になる姿、まるで徐々に徐々にテンションが際限なく上がり続けるような――、
「つまり何が言いたいのかっていうと、今、運が無敵に素敵に完璧のぺきぺきに向いてきてるルルーシュは言葉で言えば上向き状態。
人生の上下の中でも上の位置にいると思うわけ。それはもう何でもかんでもまるで天が自分を生かそうとしてるんじゃない?
ってちょっと思えてくるぐらいにいい状況だと思うの。それはとても楽しいし嬉しいことよ」
「待て、かがみ。少し落ち着こう、急にどうした?」
「急にも何も全然大丈夫。落ち着いてないわけじゃないわよ。
そろそろ落ち着かなきゃいけない年頃だなぁなんて思いつつ毎日を過ごしている私に対して落ち着けなんて言葉はちょっと違うと思うわ。
そうそう、それでルルーシュのことばっかり話してるのもよくないわよね。で、そんな上向き状態のルルーシュもそうだけど、
それに出会えた私もかなりラッキーだと思う。ラッキーが二人揃ってすごい状態。これが本当のラッキースターなんてね」
――なんだ、この女は?
壊滅的に感情表現が過剰で問題のあるだけなのか?
言いたいことはあくまで、この出会いは素晴らしいものだというそれだけなのか?
普段の態度がいっそ扱いやすかっただけに、今の状況は非常に難解だ。
同行者に選ぶには非常に疲れる相手だと思わざるをえないが。
「ごめんなさい、ちょっと自分で話をずらしちゃった。それでまたまた最初の話題に戻るわけなんだけど、人生の落差ってやつね。
これは言葉で話すのは簡単だけど、実際にはかなり意識し辛いことだと思うの。後になって思い返してみて、
そういえばあの時は人生の絶頂期だったけど、今にしてみればその時は調子に乗ってたなぁなんて感じでね。
やっぱり今、自分が高いところにいるのがわかってる人間に足元を見るようにって忠告は届き難いし言い難いものなのよ。
それでもやっぱり人生ってのはいつだってずっと真っ直ぐに同じ高さをいけるわけじゃないから、
今が高いところにいるのなら低いところに落ちるかもしれないことを意識してなきゃいけないと思うのよね」
そこまで聞いて、ようやくルルーシュはかがみの意図するところを理解した。
つまり彼女は、準備が整い始めてきた今だからこそ気を引き締めて、失敗しないようにと発破をかけているのだ。
何とも遠回しで、しかもわかり難い応援だろうか。そのことに苦笑が浮かぶのを堪え切れない。
「ああ、わかったよ、柊。でも大丈夫だ。ここから失敗するようなヘマはしない。
今が絶頂な状態だというなら、この状況を維持してやろうじゃないか。それぐらいの能力はあるつもりだ」
「なるほどなるほど、つまり、完全に完璧に一分の隙もなく全ッッッッッ然問題なしな感じでいけると、そう思ってるってぇわけだ?」
「ああ、そういうことだ。――ここまできて、死んだりなんかするものか」
「もう一声」
「……? とにかく、俺は絶対に死んだりしない」
「ハハァ。つまり、人生の絶頂からまっさかさまに堕落墜落崩落しちまって、
自分がいともあっさりと無残に残酷に酷薄に薄命に死ぬかもなんてことは一切合切考えちゃぁいねェわけだ」
その声が鼓膜を叩いた時、ルルーシュは自分の耳がおかしくなったのかと本気で思った。
何故ならその声は、つい今までずっと話していたかがみと同じものなのに、全くの別のもののように感じられたからだ。
目の前のかがみは相変わらず、愛らしい顔を笑みの形にしている。
だが、何故だろうか。その笑みが急に、ひどく歪んだ狂ったものに見えてきたのは。
「――そうだって、言えよ」
まるで男になったような口調で吐き捨てて、かがみは線にしていた目を剥いてルルーシュを見た。
――その双眸が、まるで悪魔のように赤くて。
「――王っ!!」
怒号と共に、乱暴な衝撃がルルーシュの全身を包み込んでいた。
それがチミルフの駆るビャコウの左手に握られたのが原因だと、全身を濡らす冷や汗が風に扇がれたことで初めて気付く。
「ご無事ですか、王!」
「も、問題ない――。よくやった、チミルフ」
こちらの身を案じるチミルフに震えを隠した声で応じるが、実際に紙一重のタイミングであったことには戦慄を隠せない。
死線をほんの僅かな間隙によって救われたルルーシュ、その震える痩身に、
「んだよ。やっぱそっちが先に動いちまったか。
せっかくか弱くて可愛らしい女の子を演じてみたってのに、油断してくれないなんて悲しいぜぇ?」
はっきりと別人に代わったようなかがみが――その全身をいつの間にか白いスーツに覆いながら、黄金の剣を振り切った体勢で嗤っていた。
その変貌に、あまりの異質な変化に、ルルーシュは二の句を告げないほどに驚愕している。
その姿すら物笑いの種なのか、かがみはケタケタとした嗤いをやめない。
その狂人と化した少女を前に、しかし戦場に身を置く武人は一切の動揺のない声で、
「たとえ相手が少女の形をしていようと、油断などしないのが武人の心得だ。色仕掛けなら相手を間違ったと思うがいい」
「ハッ、いいねえいいねえ。お前は死ぬってのをちゃんと意識してやがる。
武人ってなぁ、つまりはサムライだな? ともなりゃ傭兵とかと同じ覚悟は当然ってわけだ。
自分が死ぬなんてちっとも考えてねえ、主とは全然違うじゃねえの」
「黙れ。それ以上、王を侮辱することは臣下の俺が許さん」
「ハッ、許さねえってのはアレだぜ。
つまりは俺がさらにさらにルルーシュきゅんを小馬鹿にしてやったら怒ってくれちまうわけだ。
あんたみたいな奴が忠誠を誓う価値があるかよ、そいつに。
そいつは安全圏で、殺し合いする奴らを高笑いで見下す醜悪な臭いがするぜ。
他人を動かして命の取り合いはさせるくせに、自分はその戦場を遠巻きに見てるってぇ感じのゲスっぽい――」
「――アルカイドグレイブ!!」
決着は一瞬の間についた。
それは蹂躙とも虐殺とも呼ぶことのできない、暴虐が通り過ぎただけの惨劇だ。
主君の侮辱に並々ならぬ忠義が、宣言通りに無礼者を手討ちにしただけのことに過ぎない。
一瞬の間に振り上げられたビーム刃は、秒の停滞もなくその焼け付く刃で柊かがみの小柄な体格を撫で切っていった。
斬撃の威力はそこで留まらず、突き立った地面を爆砕して、土砂の爆裂によって死に体を追撃する。
ビャコウの手の中のルルーシュも、その流れるような攻撃を最初から最後まで完全に見届けた。
ビーム刃の滑らかな斬撃は傷口を焼き、出血すら生むことはない。
左肩から右腰までをばっさりと切られたかがみの体は、そのビームの高熱によって炙られて燃え上がった。
そこをトドメとばかりに降り注ぐ岩石と土砂の雨――助かるはずもない。
有用なはずの手駒がこの手を離れて敵対し、一瞬の攻防の間にその命を散らせていく。
それは正しく、このゲームの残酷な無常観の体現に他ならなかった。
「チミルフ」
「王の意向に背き、出過ぎた真似をしました。処分は如何様にも受け入れるつもりです」
呼びかけに忠臣は頭を垂れ、沙汰が下るのを待つ構えでいる。
主君のためという大義名分すら、その気高い忠義の前には独断専行の言い訳にならないらしい。
――騎士を持つ、ということはこういうことだろうか。
早くにその資格を失っていたルルーシュにとって、その感慨は物珍しいものだった。
「問題はない。奴は危険人物だった。排除して正解だ。よくやったぞ、チミルフ」
「勿体なき言葉です、王」
そうしてコックピットにて跪き続けるチミルフを見て、ルルーシュは思う。
このビャコウという機体のスペックの高さ、そしてそれを扱うチミルフの技量の高さを。
――無理をして、ジン達と合流する必要はないかもしれない。
安全であると睨んでいたはずの柊かがみとの接触がこの様だ。仲間を増やすということは、危険を増やすことにも繋がる。
それよりもこのチミルフをうまく扱いながら、フォーグラーを起動させても問題はないか?
幸いにも柊かがみからアンチ・シズマ管だけは入手することに成功した。
これを入手せずに今の争乱となっていれば、計画は瓦解するところだったのだが。
「どちらにせよ、入手した情報をまとめる時間は必要だな」
短慮はそのまま失敗を招く。
柊かがみの件は一つの結果にすぎない。別の人間までそうであると断じるのはそれこそ短慮の極み。
「チミルフ、とにかく今はこの場を移動する。
この攻撃の音を聞きつけて誰かが集まってこないとも限らない。考える時間が必要だ」
「了解しました。ならば、映画館はどうでしょうか?」
「そこには確か……お前の協力者であるニコラス・D・ウルフウッドがいるんだったな」
「はい。かの男は目的こそ王と違いますが、その力には個人としての俺を上回るものがあります。協力を持ちかけることも不可能ではないかと」
チミルフの言葉に熟考する素振りを見せながら、その考えの甘さを心中で罵倒する。
戦って分かり合った、などと馬鹿げたことを信じる理由になると思っているのだろうか。
そのウルフウッドの目的はチミルフに聞く限り、会場にいる参加者の皆殺しに他ならない。
危険人物中の危険人物だ。東方不敗という老人と大差あるまい。
チミルフはその両者と共闘、あるいは最後に決着をつける約束をしているらしいが、武人という生き物は馬鹿の集まりなのか。
それこそ力こそ正義だと、正しいと考えているのならそれは――、
――それはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとって、最も唾棄すべき男と同じ考えだ。
「チミルフ、とにかく今はここを離脱しろ。時間が惜しい」
「わかりました。では王、そちらではなくコックピットの方へ」
狭苦しいコックピットに獣人と一緒に入るというのはあまりにも魅力に欠ける提案だが、仕方ないとその誘いに乗ることにする。
掌の上の移動というのは如何にも安定感に欠ける上に、見栄えがよくない。
それにこれだけ目立つ兵器での移動に同乗しているのを他者に見られるのは得策ではない。
チミルフという存在を、友好的な参加者にどう説明すべきか定まっていない今では尚更だ。
「できるだけ他の参加者に見つからないよう、レーダーに注意しながら低空飛行しろ」
「御意に」
素直に従うチミルフの操縦で、ビャコウが静かに、しかし風のような移動を開始する。
それを風の吹き込むコックピット内で、髪を押さえながら悠々と見据えるルルーシュ。
その内心をふと、思い出したように湧き上がった思考があった。
――そういえば結局、柊かがみがどうして特別扱いされていたのかはわからなかったな。
【C-6/西側川付近上空/二日目/午前】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(中)、中度の頭痛、後頭部にたんこぶ、胸に打撲、ビャコウ搭乗中(乗ってるだけ)
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ
支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:チミルフを従えつつ、最善の行動を選ぶ。
1:ジンの集団を目指すか、あるいは単独で優勝を狙うか。
2:清麿との険悪な関係を知る菫川ねねねに対処する
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればショッピングモールかモノレールを調べる。
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※明智組の得た情報について把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※ギアスの制限は主に一度に使用する人数が問題なのではないか、と想像しています。
※名簿は生存者と異世界についての情報把握に的を絞って見たため、スザク他との時間軸の矛盾に気付いていません。
※清麿殺しの罪はヴィラル、シャマルのどちらかに擦り付けるつもりです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、頭部に軽い裂傷、左頬が腫れあがっている、敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)、
ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュと同行し、臣下としての務めを果たす。
1:ウルフウッドと合流し、ニンゲンとは何か見極める。
2:ヴィラルと接触したい。
3:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
4:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
5:ヴィラルが首を一つも用意できなければ、シャマルの首を差し出させるかもしれない。
6:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。
7:ニンゲンに創られたニンゲン以上の存在として、ヴァッシュに強い興味。彼の知人に話を聞きたい。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっています。(ただし手段は問わない)
※ビャコウ及び愛用のハンマーはウルフウッドの気絶中に回収しました。
※ビャコウは起動には問題ありませんが、コクピット内部が剥き出しになっています。
※東方不敗と一時休戦、次に出会った時は共闘することを決めました。
実験の最後に全力で決闘することを誓いました。
※東方不敗の知る参加者についての情報を入手しました。
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人としての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いやいやいやいや、まったく痛いねぇ辛いねぇ。うまくいかねえもんだよ、なぁ」
ルルーシュとチミルフの両名が立ち去ってから数分、
うず高く積まれた土砂を黄金の剣で掘り返して、少女はしばし別れを告げていた空を仰ぐ。
「おおう、やっぱ青空はいいな。普段はいつも頭の上にあるもんだから気にしちゃいねえが、
土の下に埋まって真っ暗闇に周りを囲まれてみると、改めてその蒼さが目に沁みてくるぜ」
――それにしても、タカヤ君の目薬があって本当に助かったぜ。
砂埃をふんだんに浴びた目を擦りながら感嘆し、狂人は裸体を晒したまま述懐する。
殺害したDボゥイはその満身創痍の肉体の悲痛さもさながら、持ち合わせた荷物の貧相さにも涙が出そうになった。
荷物としては支給品を除けばまともな道具は赤い目薬しかなかったのだ。
Dボゥイを殺害した後の戦利品の検めということで、狂人は一度この目薬を使用している。
実際のところ、戦っている最中にこの目薬を打ってDボゥイの動きが変わったことには気付いていたので、回収して使ってみることに躊躇はなかった。
それにより、効果が動体視力の異常な強化だということはわかっていた。
効果時間が短すぎるのが不満だが、パフォーマンスを考えれば文句は言えまい。
ここへきて彼女は気付いていないが、ブラッディアイの本来の効果時間は彼女の自覚よりもう少し長い。そして、その副作用も。
それに彼女が気付かない理由は明白――副作用を感じていないのだ。
ブラッディアイはその使用者の視神経を侵す代わりに、莫大な力を与えることになる薬だ。
そのブラッディアイを使用するものとしての資格のほとんどを、不死者となった彼女は失っている。
不死者として酒を飲んだ状態で肉体が固定されている彼女、その肉体が薬の侵食を受け入れないのだ。
侵される視神経は即座に修復し、ブラッディアイの異常な効果を数十秒で打ち消してしまう。
さらに付け加えれば、不死者の肉体は同じダメージに対して耐性を作るようになる。
つまり、今は六十秒ほど持つブラッディアイの効果は徐々に短くなり、最終的には何の効果も発揮しなくなるということだ。
それでも、副作用なくこの薬を使うことができるという彼女とブラッディアイの相性は、抜群に良いといわざるをえないが。
とにかく、その薬の効果によって彼女が命を拾ったことは間違いないのだ。タカヤ君様々である。
チミルフのビャコウによる一撃の瞬間、狂人の世界は赤く停滞していた。
その攻撃の速度を回避しきることはできずとも、頭部と心臓の致命傷を庇うことができる程度には。
その後に土砂に巻き込まれたのは、脱出に手間がかかりはしたが僥倖だった。
もしもあれがなければ二人の前で再生し、戦いは長引いていたことだろう。
「ま、やり合ってたら負けてたかもわかんねえしな。チミルフ……だったか。
あいつはいい目ぇしてやがった。主君のために命を懸けて、死ぬかもしれない戦場に臨むってなぁ。
ああいう奴は殺したくねえや。代わりにルルーシュ君が俺的に最高に殺したい温さだったがね!」
Dボゥイを殺害し、薬の効果を確かめた後で、狂人が選んだのは周囲の散策だった。
おそらくは付近にいるだろう、先ほどまで戦い合っていた面々。
――スパイク・スピーゲルや奈緒ちゃんといった奴らを殺しに行くのはとても楽しそうなことだ。
ただ、ジンは仲間だから殺せないやな。適当に誰かに殺されてくれれば楽なんだが。
何より――小早川ゆたか。彼女を殺そうと思い切ることができなかった。
この気持ちは非常に厄介なものだ。殺したいんだが、殺したくない。
殺したくない子を殺すのはすごくいいことのようで悪いことのようで結局どうすればいいんだか――、
「わからなくなってわからなくなって、ああ考えるの面倒くせぇってなったから、とりあえず散歩することにしたんだったな」
特別な理由もなく、鼻歌交じりで川に沿って歩いていたら、ちょうどよく獲物を見つけたのだ。
ただ、獲物はおっかないペットと一緒で、しかもこっちの位置をレーダーで確認していた。
位置がばれているとなれば、開き直って飛び出すしかない。それでも、なるたけ利用できるものは利用しておきたい。
だから、せっかく女の子の格好してんだし、女の子のふりとかすればいけるんじゃね?
という狡猾とも悪ふざけともいえるような理由で、柊かがみを演じながら近付いたのだ。
我ながらうまくやれていたものだと、自画自賛してもいいぐらいだったと思う。
聞き出せた情報も有用なものばかりだったし、ジンにでも聞かせたら大喜びしそうだ。
ただし脱出方法や首輪の考察以外は眉唾と思っていいだろう。
こっちの『演技』に向こうが気付いていなかったのは確かだが、向こうが空寒い演技をしていたのは事実。
見覚えのある携帯電話に詳細名簿――それらの入手に明智達の名前が出なかったことも含めて。
「あー、清麿も死んでんのかねぇ。悲しいねぇ辛いねぇ、仲間が死ぬってのはよぉ。殺したのはルルーシュ君だろうしなぁ。
でもせっかく目ぇ合わせてたってのに、必殺催眠術は使ってこなかったけどよぉ」
しかし、目の前に美味しそうな餌がずーーーーーーーーっとぶら下げられているのに、それを我慢するのは苦痛だった。
ルルーシュ・ランペルージ――その態度、物腰、仕草、喋り方、表情、性格からスタンスに至るまで、それは正しく今の彼女にとって生唾ものの極上な温さだった。
命懸けの行動を、命を懸けずにやってのけたいというような、温い甘い青い願望。
我慢しなければならなかったのだ。一応、我慢しようという努力はしてみた。
ルルーシュの背後に立つチミルフはずっと、自分の動向に目を光らせていたのだ。
まともな戦いになれば戦力差からして勝てるはずもない。無謀もいいところだ。
それが分かっていたからこそ、この場で手を出すのは我慢して、タイミングを見計らうつもりだったのだ。だったのに――、
「エネルギー中和現象とか、そんなこと言うんだもんなぁ」
フォーグラーを利用し、エネルギー中和現象を起こす――それがルルーシュの考える、脱出のための方策だったらしい。
それによれば首輪の制限は失われ、そして会場中の機械が停止するという。
なるほど確かに会場の端のバリアがなくなれば、あるいは制限がなくなれば会場を脱出するための力を持っている奴ぐらいいるのかもしれない。
宇宙人が参加しているぐらいだ。宇宙船ぐらいどっかに埋めてある可能性もある。
「でもよぉ、そんなことされっと俺が困るんだよなァ」
そう、困るのだ。脱出できるというのは非常にありがたいことだ。
自分もいい加減、この会場でなくてもいいから適当に温い連中をぶっ殺して回りたい。
だが、制限が外れてしまうというのは困るのだ。だって――、
「制限が外れたら、俺は死なねぇ体になっちまう。
完全な不死者になっちまったらよ、俺のこの大事なアイデンティティが崩壊しちまわぁ」
死ぬなんて考えから縁遠く、今生きていることの素晴らしさを理解していない連中に生きることをレクチャーする。
それが自分の持つ、他者殺害への信念だ。
そんな信念を持つ自分が、死ねる可能性さえ完全に失って、死なない体になってみろ。
――死なない奴が、そんな説教なんてちゃんちゃらおかしくなっちまう。
故に狂人としては、脱出できるに越したことはない。
ただし、その場合は制限は持ち越したままの脱出でなければ意味がないのだ。
会場中の誰もが窮屈で邪魔だと思っているだろう首輪が、彼女には必要だった。
「ま、結果的に死んだふりみたいになったし。
レーダー持ってるルルーシュ君はそう遠くない内に俺に気付くだろうけどな。
目的地はわかってるわけだから、先回りでもしといてやろうかねぇ」
Dボゥイとの約束は後回しだ。ゆたかちゃんと舞衣ちゃんを殺してる間に、首輪の制限を外されでもしたら困ったことになってしまう。
となれば、狂人が次に目指すべき場所は――、
「あのでっかい黒いボールは、フォーグラーだったか? あれを壊すかどうかしないといけねえよなぁ。
清麿は草葉の陰から怒っかもしんねえけど、あれがあったら俺が困るわけだから、俺が困るから壊したって謝っときゃぁいいだろ」
身勝手な方針を打ち立てると、狂人は気合いを入れるように「よしっ」と牙を剥いて嗤う。
手にした黄金の剣をスコップ代わりに地面を掘り進め、埋もれていたデイパックも回収した。
あれだけの被害があったものだから喪失も覚悟していたが、丈夫な素材で何よりだ。
「さて……んじゃま、とりあえず黒い太陽を壊しに行きますかね。
壊すのは俺じゃなく、グラハムの奴の専売特許だってのによ。うぉ、そう思うとあいつならスゲェ嬉しそうに壊しそうだなアレ」
そんな感慨を漏らしてから歩き出そうとして、ふと全身がすーすーすることを思い出した。
そうだ。チミルフの攻撃のせいで、遂に最後の衣服まで失っていたんだった。
これは困ったことになった。いくら女の子でも、素っ裸で近寄ってきたら油断はさせられないんじゃないか?
「となると、やっぱり便利なこいつに頼るっきゃねえか」
呟き、緑の光が全身を包み込んだ。次の瞬間にはその全身を白のスーツが覆っている。
その衣装を満足げに見ていた狂人だったが、不意にその表情が歪む。と、
「うおおい、何だよ! 一回解除すると、もう一回着た時はクリーニング済みになっちまうのか!
せっかくタカヤ君の返り血でいい感じだったってのに、まっさらじゃねえかよぉ」
綺麗になった白服は卸し立ての華やかさだ。そこにはあの楽しかった惨劇の、一片たりとも残っていない。
歪み切った悲しみの声を上げて一頻り騒ぐと、狂人はゆっくり歩き出した。
「ま、なくなったもんはしゃーない。お星様になったタカヤ君のことは忘れるとして、俺は次なる出会いを求めようじゃねえの。
おっと、出会いとか言ってるとルーアに誤解されちまうな。大丈夫、問題なし! 俺はお前一筋だからよ!
愛して愛して最後に殺すのはお前だけだ! とりあえず、ルルーシュ君とかぶち殺して、この白い布地の最初の斑点になってほしいもんだねぇ。
ハハ、ハハハ、ヒャハハハハハハッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
歪んで歪んで歪み切った狂笑を浮かべながら、狂人は弾むようなステップで道を急ぐ。
その道筋の先に、新たな血の臭いを感じさせながら――。
【C-6/川沿いの道/二日目/午前】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、髪留め無し、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス) 、疲労(大) 、ラッドモード
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、 ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
サングラス@カウボーイビバップ、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:フォーグラーを破壊して、エネルギー中和現象計画を頓挫させる。
1:Dボゥイとの約束通り、舞衣とゆたかを殺したい(ゆたか殺害には精神的苦痛を感じます)
2:ルルーシュをとてもとても殺したい。
3:とりあえず服が白いと寂しいので、誰かを殺したい。
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソの力を開放することに恐怖を覚えました。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認。またレーザービーム機能についても目視したようです。
※第五回放送を聞き逃しました。
※『かがみ』の人格を手放すことを選びました。
※かがみの3rdフォームは『列車時のラッドの白服』です。下は裸なので、擦れて痛いかもしれません。
※ルルーシュから『フォーグラーを利用した脱出法』の情報を得ました。成功すると困るので、何とか止めたいと思っています。
※ルルーシュが『チーム戦術交渉部隊』の道具を持っていたことで、明智達を殺害したのはルルーシュだと思っています。
―――道は二つ。今すぐに大事な仲間二人を探しに行くのか。それとも、あの黒くでっかい太陽を奪いにいくか。
カミナが答えを選ぶのにそれほど時間はかからなかった。
「行くぜ、クロミラ。まずはガッシュとニアを探す!」
『わかりました、カミナ。しかしどちらの方向へ?』
「おう、まずはこっちに向かう!」
そう言うとカミナはグレンを南へと向けた。
……カミナが選んだ選択肢、それはまず仲間の二人を探しにいくというものだった。
その選択肢はクロスミラージュにとって十分に予測できるものだ。カミナという男の行動理念の基本は誰かを守ることにこそあるといって良い。
そして選んだ方向は南。
あの黒い物体がある方角でもある。
あの物体にどれほどの能力があるのかまでは予想できないが、この殺し合いに乗った人物、殺し合いを止めようとする人物がその力を手に入れようと考える、それぐらいの威圧感はある。
その集まってくる人物の中にニアとガッシュ、今ははぐれてしまっている大グレン団の仲間たちが探している人物、最低でもその仲間が含まれていれば、カミナが彼ら二人と再会するのもそう遠いことではないのかもしれない。
――――――だが
『カミナ、これからのことについて少し話があるのですが』
「―――ん? 何だ、クロミラ」
グレンが動き始めてからほどなく、クロスミラージュはカミナに声をかけた。
―――そう、これから向かう先には自分達の探し人がいるかどうかは別として、ほぼ確実に他の参加者がいるだろう。
―――しかし、殺し合いに乗っている、乗っていないに関わらずそれが自分達の知り合いである可能性はとてつもなく低い。
現状、殺し合いを否定する参加者の中ではおそらく、カミナはもっとも人脈がない。
現在生き残っている参加者の内、カミナを除いた二十名の中、直接の面識がある参加者はニア、ガッシュ、ドモン、ヴィラル、シャマル、東方不敗の六名。
しかも、そのうちヴィラル、シャマル、東方不敗の三名は殺し合いに乗っている。ニアとガッシュがどこに飛ばされたのかわからない以上、まともな知り合いはドモン・カッシュただ一人きりといっていい。
カミナのもとの世界の仲間であるシモン・ヨーコの両名は早期に死亡していることから、そちらの方面からの他の参加者へのアプローチというのも難しい。
―――また仮にどちらかの仲間が生存していたとしてもだ。
ニアの存在を考えればシモンやヨーコがカミナの死後の時間軸から呼ばれている可能性のほうが高い。
話を聞くに、シモンにとってもヨーコにとってもカミナという男の存在は極めて大きいものだと推測される。殺し合いの舞台に参加しているそんな男と同じ名前の参加者―――それを好意的に語っていた可能性は低い。
『つまり、結論だけ述べますと、ドモンとその知り合いを除く参加者からは、私たちが殺し合いに乗っていると判断されるかもしれないということです』
ぷすー、と理解を放棄しているようなぼけっとしたカミナに、いいかげんクロスミラージュも慣れたのか、早々に結論を告げる。
「あ? この俺が殺し合いに? ざっけんな! ジーハ村に悪名轟くグレン団 男の魂背中に背負い 不撓不屈の鬼リーダーカミナ様がこんなくっだらねえ殺し合いに乗るような人間に見えるってのか!」
『落ち着いてくださいカミナ。あなたが殺し合いに乗るような人間ではないということは私達が一番よくわかっています』
「あ、ああ。わかってるじゃねえか、クロミラ」
『ですが、他の参加者達にとっては私達の知り合いの少なさは、私達を疑うには十分なものです』
……あえてクロスミラージュは声に出さなかったが、その疑いにグレンという起動兵器が拍車をかける可能性は高い。
対主催を志すメンバーの横のつながりがどれほどのものかはわからないが、そのほとんどと面識を持たず、機動兵器に乗っている男、客観的に見れば参加者を殺しまわっている側に判断されるのは仕方がないとさえ思える。
「……じゃあ、どうしろってんだ? クロミラ」
『はい。まず、確認しておきますが第一目標がニアとガッシュを探すこと。それで間違いありませんね?』
「あったりまえだ! あの二人をとっとと見つけてやる! それが大グレン団のリーダーってもんだろ!」
『ではまず脱出を目指す他の参加者、とりわけ高嶺清麿、明智健悟この二人の知り合いを探しましょう』
クロスミラージュの言葉にカミナは不思議そうな顔をする。
「……? どうゆうことだ、クロミラ? なんでニアやガッシュを探さないんだ?」
『はい、どうしてこの二人の知り合いを探すのかといいますと、まず、ガッシュが転移の際に思い浮かべた人物はガッシュのパートナーである高嶺清麿である可能性が非常に高いからです。
そして、説明された彼の人柄から判断すると脱出を目指す参加者の中心的立場にいる可能性は大きいと思われます。つまり、彼を知る対主催の参加者はかなりいることでしょう』
「……なるほど」
『Mr.明智の知り合いを探すのも同様です。私の知る限り彼は抜け目のないひとでした。
おそらく彼はその正義を曇らせることなく仲間を集い、対主催としてのグループを構築していったものと思われます。
さらにMr.明智は私と、高嶺清麿はガッシュと知り合いであることからも両者の知り合いとは比較的簡単に信頼を築くことが期待できます』
「なるほど……ってちょっと待て、クロミラ! ガッシュはそれでいいとしてもニアのほうはどうするってんだ!」
『はい、ニアに関してなのですが……彼女がどこに転移したのか今は判断できません』
高嶺清麿が生きているガッシュと違い、ニアの元々の知り合いは二人ともすでに死亡している。
シモンやヨーコの元に飛んだのか、それとも彼女がこの舞台で最初に出会ったという
ドーラという女性のもとか、はたまた今は亡きシモンの愛機であったというラガンという機体の元か。
予想するのは難しい。
「じゃあ……」
『ですから今は知り合いを増やすことが重要なのです。先ほども説明した通りニアは今後必要となる存在です。
そのことが伝われば、いたずらに彼女を傷つけようとするものはいないでしょう』
「……とりあえず、他の奴らにであわねえ事にはどうしようもねえってことか! よし、急ぐぞクロミラ!」
クロスミラージュにはもう一つカミナに告げることがあった。それはカミナが出会った参加者が殺し合いに乗っていた場合の注意である。
つい先ほどまでなら殺し合いに乗った参加者がカミナに出会えば、あの東方不敗のように襲い掛かってくるだけだろう。
しかし今のカミナにはグレンがある。
ならば、どうにかして奪おうと言葉巧みにカミナに近づく者もいるかもしれないのだ。
そしてカミナの性格からしてその手の搦め手に対する耐性は低い。
注意しておくにこしたことはない。
『カミナそれと……』
「うおおおおお! っとなんだありゃ?」
だが、クロスミラージュがカミナにそのことを注意しようとした時、唐突にカミナはグレンを停止させた。
『カミナ、どうしたのですか?』
カミナの視線は川の向こうに延びている。
さらにその視線を追っていけば、その先には一軒の民家があった。無論、一軒だけぽつん、と民家があるといったわけではない。その周りにも民家はある。
だが、その民家は明らかに他の民家とは様子が違っていた。
何かそこそこの大きさの鉄球でも直撃したかのように屋根が破壊されているのだ。
―――付近の民家などにはさして影響がないところを見ると、その民家に潜んでいた何者かに別の参加者が襲撃を仕掛けた、といったところだろか。
『あの建物が何か? おそらくは何者かの襲撃があった後のようですが』
「おうよ! 確かにあそこはボッロボロだ。だがなクロミラ、だからこそ誰かが隠れるのにはちょうどいいんじゃねえか?」
……それは先ほどの図書館の一件と同じ発想の転換だった。
確かに一度襲撃があったところを隠れ家にするといった発想は、自らの命がかかっているこの場ではなかなか出てこないものである。
もし仮に、あそこに隠れている参加者がいて、信頼関係を結ぶことができたなら後々他の対主催のグループに接触する際にこちらを信じてもらう有用な手札ともなる。
位置的にもそれほど遠回りにはならない以上、調べておくにこしたことはない。
『あちらでした調べるのにもそれほど時間はかからないでしょう、行きますか、カミナ?』
「おうともよ!」
宣言するとともにカミナは進行方向を南東へと変化させる。
それほど大きくないとはいえ橋はグレンの巨体をしっかりと受け止めた。
(……これなら全速力の移動でも橋が落ちるということはなさそうですね)
クロスミラージュはそんなことを考える。
さすがにグレンの機動力は徒歩とは比べ物にならない。
十分とかからず、破壊された民家の前までたどり着く。
「おーい、誰かいねえのか!」
『……カミナそれでは隠れているものが出てこようとは思わないのでは』
クロスミラージュは、いきなり大声で呼びかけるカミナを止める。
もちろん、民家の中から反応はない。
『……誰もいないのかもしれませんね』
「……ち、はずれか。けど、まあ一応調べてみっか!」
『……え? あ、か、カミナ?』
いうが否やカミナはグレンのコックピットから飛び降りると、壊れた屋根から民家へと侵入する。
……果たしてそこに参加者はいた。
いや、参加者だったものがいたというべきだろうか?
屋根からとびおりたカミナが見たものは、部屋に転がっている腹と頭の二箇所に穴をあけ床を真っ赤な血で汚す一人の少年の遺体だった。
「……ち、胸糞わりいもん見つけちまった」
ぽつり、とカミナはつぶやいた。
こんなものが転がったままにしてある以上この民家にはおそらく人はいない。
埋葬してやりたいのはやまやまだったが、今はそれほど時間があるわけでもない。
カミナが死体を背に民家を出ようとした時だった。
『……待ってくださいカミナ』
クロスミラージュがカミナを止める。
「何だ? クロミラ」
カミナにすぐに返答せずに、クロスミラージュは今一度すぐ傍にある死体を観察する。
……部屋は荒れていてデイパックなどはない。
……銃創は腹部と頭部に一発ずつ。
……死因は頭部への一発。
……左手はその頭をかばおうとしたのか顔の横で力なくたれ、右手は胸を抑えている。
……他に目立った外傷は右耳の破損。ただしこれは処置済みであり、かなり前に受けたものと判断。
……そして。
「おい、どうしたっていうんだよ?」
なかなか返事をしないクロスミラージュにカミナはもう一度声をかけた。
『……カミナ』
「おい! 一体なんだっていうんだよ、クロミラ!」
そうしてカミナにクロスミラージュは告げる。
―――機械として、冷酷な事実だけを。
『……カミナ、この少年の名前はおそらく高嶺清麿だと思われます』
「……おい」
『血の固まり具合から判断して彼が撃たれてからそれほど時間はたっていません。また、彼の服装などから彼が日本の学生であることなどもすい……』
「クロミラ!」
カミナの声を無視してクロスミラージュは言葉を続ける。
……これは言っておかなくてはならないことだから。
『そして何より彼の顔立ちです。ガッシュから説明を受けた高嶺清麿の特徴とほぼ一致します』
「クロミラぁ!」
カミナはクロスミラージュを床に叩きつけた。
(……これもなんだか久しぶりですね)
「わかってる、わかったんだよ! こいつがガッシュの探していた奴だって事は! でもよ、俺はガッシュと約束したんだ! 高嶺清麿とガッシュを再会させてやるってな! それなのに、くそっ! 俺はどんな顔をしてガッシュに会えばいいんだよ!」
これでカミナは二度約束を守れなかった。
一度目はほかならぬクロスミラージュとの約束、結局あの時も彼はティアナ・ランスターとクロスミラージュを生きて再会させることはできなかった。
(……情けねえ、俺は自分が情けねえ!)
『……カミナ』
「……行くぞ、クロミラ。他の奴を探さないといけねえ」
力なく、カミナはクロスミラージュを拾い上げる。
「悪いな、後でもっかいここに……」
『……? カミナもう少し待ってください』
「クロミラ? まだなんかあるってのか?」
民家から出て行こうとしたカミナを再びクロスミラージュは止めた。
もう一度高嶺清麿の死体を観察する。
(……なんでしょうか? 何か大きな違和感が)
自分でもカミナを止めたのはとっさのことだった。
カミナが出て行こうとした瞬間、なんだかわからないが大きな違和感に突き動かされカミナを止めていた。
改めて見直しても死体に変なところは見当たらない。
耳の外傷は清麿がそれなりの修羅場を潜り抜けてきた証であろうし、腹部と頭部への銃創は腹部を撃って動きを止めてから、頭部へとどめの一撃を加えたということだろう。
おかしなところは何も……
(……待て! 腹部と頭部への銃創? なら何故?)
はっと、クロスミラージュは気がついた。
そう、清麿は腹部と頭部の二箇所を撃たれているのだ。
ならばどうして彼は 胸 を お さ え て い る ?
『カミナ! 清麿の胸のあたりをよく調べてみてください!』
「ど、どうしたんだよクロミラ?」
『いいから早く、お願いします!』
クロスミラージュの言葉にカミナは慌てて清麿の胸のあたりを調べる。
……ポケットには
―――なにもなし
……彼が押さえていた手の下には
―――血でかかれていた文字があった。
『ダイイングメッセージ……これは、カタカナのニでしょうか。
それともル? あるいはノと続きを書こうとしたところで力尽きた?』
クロスミラージュはつぶやいた。
おそらくは清麿が腹部を撃たれてから頭部を撃たれるまでの短い時間に、必死になって彼が残したメッセージだ。
意味のない言葉を残すはずがない。
ただ、瀕死の状態で書かれたせいか縦書きか横書き、判別しにくく、なおかつ字が震えているために読みにくい。
それでも字のバランスや線の長さから判断すればおそらくは正中線に対して平行に書かれているのであればカタカナのル、もしくはノと何か。
正中線に対して垂直にかかれているのならば、カタカナのニと判別できた。
『おそらくは自分を襲撃したものの名前なのでしょうが……』
「……なあ、クロミラ」
『何でしょう、カミナ』
考え込むクロスミラージュにカミナは声をかけた。
カミナにとっては清麿の残したダイイングメッセージはまるでわけがわからないものだった。
「……なんでこいつはこんな、えーっとダイニング? なんちゃらなんてもんを残したんだ?」
『ダイニングではなくダイイングです、カミナ。それはともかくどうしてとは?』
「だってよ、クロミラがいうとおりこいつを襲ったやつの名前がわかったからって何の意味があるっていうんだ?
こいつがここで突然襲われたってことはだ、襲ってきた奴も問答無用な奴って事だろ?」
カミナの言葉でクロスミラージュは気がついた。
ここは推理小説の舞台ではない。
ダイイングメッセージで犯人の名前がわかったところで警察が犯人を捕まえてくれるということはない。
ならば何故、清麿はそんな意味のないことをしたのだろうか?
『……カミナ。可能性は二つあります』
「お、なんかわかったのか?」
『ええ、おそらく清麿の残したダイイングメッセージは犯人の名前を告発したもので間違いはないでしょう。
ではどうして彼はそんなメッセージを残したのでしょうか? 可能性の一つは奪われるであろう自分の支給品がどのようなものか他者に知らせることが目的であるというものです』
「……どういうことだ?」
頭に?マークでも浮かべていそうなカミナにクロスミラージュは言葉を続ける。
『彼が問答無用に襲われた場合。どうして彼は犯人の名前がわかったのでしょうか? 襲撃犯が親切にも教えてくれた?
そんな可能性よりも清麿が持っていた支給品が私達が持っているものとは比べ物にならないくらい精度の高い顔写真やプロフィールなども記されたアイテムであった、と考えるのが自然です」
「なるほどな」
『そしてもう一つの可能性……それは』
ここで少しだけクロスミラージュは言い淀んだ。
この可能性が正しい場合、彼の発言は大グレン団の仲間を疑っていると受け取られてもおかしくない。
「……それは? ってクロミラ、もったいぶるなよ」
カミナの促しにクロスミラージュは言葉を続ける。
『……はい、もう一つの可能性それは清麿を殺害した犯人が集団に潜み、油断したところで気付かれないように殺害していく、そんな暗殺者じみた参加者である可能性です』
そしてカミナにクロスミラージュは続ける。
『そして、彼の残したダイイングメッセージから判断して高嶺清麿を殺害した犯人として可能性が高いのは
ニコラス・D・ウルフウッド
あるいは
ルルーシュ・ランペルージのどちらかです』
「……クロミラ」
クロスミラージュが言い切った瞬間、カミナはこの男には似つかわしくないくらい冷たく低い声を出した。
「……クロミラ、てめえわかっているのか?」
『わかっています、カミナ。ルルーシュ・ランペルージはニアの話の中に出てきた彼女の仲間だと』
「いいか! ニアは俺達大グレン団の大事な仲間だ! そのニアが仲間だって言ってる以上、ルル―シュってやつも仲間なんだよ! クロミラぁ! てめえは仲間を疑うって言うのか!?」
そんな怒りをあらわにするカミナにクロスミラージュは言葉を続ける。
『……カミナ。かつてあなたは私に言いました。自分の目で確かめたことしか信じない、と』
「……ああ」
『確かにニアはあなたが信じたあなたの仲間だ。しかし、ルル―シュという人物をあなたが確認してはいない。
さらにはルルーシュがニアにとって仲間であるように、ガッシュにとって清麿は仲間だったのです。その仲間が死ぬ間際に、必死になって残した言葉をあなたはそんな決め付けで無意味なものにしようと言うのですか?』
クロスミラージュの言葉にカミナは押し黙った。
先ほどの反発にせよ、カミナの反論は感情的なものだ。自分の大事な仲間が別の仲間を疑う。
仲間の裏切りは人一倍仲間思いであるカミナには許せない。
だが、どうすればいいのだろうか。どちらも間違ったこと言っている様には思えない以上、リーダーたる自分が何とかしなくてはならないのに。
『……カミナ』
「…………ああ」
『今のは少し言い過ぎました。まだ、ニコラス・D・ウルフウッドが犯人である可能性もあります』
「……クロミラ」
『ですが、ルルーシュが犯人である可能性も同じくらいあるのです。この先両者に出会った際、その事を忘れないように行動してください』
「あ、ああ……よし! ルルーシュがどんな奴なのかこのカミナさまがこの目で見極めてやらあ! 行くぞ、クロミラ! ガッシュの奴にはつらい……ってあああああ!」
唐突にカミナがあげた大声にクロスミラージュは反応しなかった。
何せ彼もつい今しがたまで忘れていたのだ。
おそらくは高嶺清麿の元へと転移したであろう彼らの仲間ガッシュのことを。
「お、おいクロミラ! ガッシュの奴はどこ行ったんだ!』
『……お、おそらくは清麿の死体をみつけ、いえ、私達が転移したのが放送直前だったことからも殺害直前、あるいは直後にここへ来て……そのまま犯人を追いかけた?』
「ってそれはやばいんじゃねえのか!」
『犯人がどちらのタイプにせよ躊躇することなくガッシュへと襲い掛かるかと!」
慌てて民家から飛び出すとカミナはグレンへと飛び乗った。
「行くぜ、クロミラ! 急いでガッシュを追いかける!」
『カミナ、行く先に検討はついているのですか?』
「あったりまえだ! 殺し合いに乗ろうなんて心の弱い野郎があんなでっかいもんに向かっていけるわけがねえ! って事はその逆! こっちに向かっていったに違いない!」
そういうや否やカミナはグレンをこれまでの進行方向とは真逆の方向、北へと向ける。
「いくぞ! うおおおおおおおおっ!」
……彼は知らない。1エリア東には彼の想い人、その死体が眠っていることを。
……彼は知らない。探し人も下手人もこれまでどおり南へ向かっていればもうじき出会っていたということを。
……彼は知らない。やはり南のほうに進めば彼とその相棒の思いの結晶、グレンラガンの頭部たるラガンに乗った彼の宿敵がいることを。
……かくして彼は走り出す。
仲間の姿を求めて、彼のことを最後まで思い浮かべたであろう死者の最後の想いを胸に
【C-6/民家前/二日目/午前】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、疲労(中)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:グレン@天元突破グレンラガン、クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ニアとガッシュを探しに行く
1:ニアとガッシュは大グレン団の兄弟だ。俺が必ず守ってみせらぁ!
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? ガッシュを見つけたらよってみっか……。
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
【クロスミラージュの思考】
1:カミナの方針に従い、助言を行う。
2:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
3:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
※他の参加者に出会ったときの交渉はまず自分が行おうかと考えています。
※ルルーシュとニコラスの両方を疑っています。参加者の詳細名簿をどちらかが持っていた場合、そちらが犯人だと思うでしょう。
「ぬええい、これはいったいどうしたことだ!?」
――世に名高し『東方不敗マスターアジア』と呼ばれる老人は、焦りの色を含めた声を上げる。
己を基点として起こった周囲の異変、かの東方不敗を焦らせるほどの変異が、空間規模で発生する。
それは、一言で言い表すならば『景色の一変』だった。
異変が起こる以前、東方不敗は愛機を求め会場各地を周旋し、北東極地であるショッピングモールへと訪れた。
デパート地下で愛馬・風雲再起を発掘したように、映画館で怪しげな実験施設を発見したように、
各施設に隠された財宝を漁らんという意志の下、虱潰しにマスターガンダムを求めた。
漫然と殺し合い――いや、螺旋王の実験で踊り続ける若者たちを座視し、東方不敗は力の探求に従事していたのだ。
そうやって辿り着いたショッピングモールにも、特異点はあった。
愛機の気配をようやく察知した――――矢先、
「この儂を前にして、気配が悟られぬとでも思うたか!? ええい、姿を現せ!」
東方不敗が存在を置く空間が『歪み』、動揺を覚えた次の瞬間にはもう、そこはショッピングモールではなかった。
この感覚には覚えがある。始まりの地で螺旋王の開式を受け給い、実験場へと飛ばされた――『転移』の感覚だ。
ここは既に、実験場ではない……ッ!
困惑混じりの直感を抱えたまま、東方不敗は身を置く暗闇の空間、その全周囲に、喝を飛ばした。
武を極めし者だからこその鋭敏な感覚が告げる気配の数は――六。
「さすがは東方不敗! 東の地にて常勝無敗の武勲を立て、アジア最強と謳われし御仁だ!」
東方不敗の喝に応えたのは、極めて若い、少年の声だった。
長い人生の中でも、実験場で過ごした日々の中でも、聞いた覚えのない声である。
訝しむ東方不敗が、さらに感覚を鋭くする。すると、晴れない暗闇の中で、
「む? くっくっく……そうか、貴様もいるか。なるほどのぉ」
一つ、二つ――知った気配を感じ取った。
途端、東方不敗は僅かに警戒を解き、そののみこみの早さを称賛するように、辺りの暗闇が晴れた。
――ひたすらに高い天井、螺旋を成す三角錐型の大部屋、東方不敗を囲む六つの存在。
後方には、孔雀の羽をマントのように備えた華美なる男。
左方には、蠍の尾を供えた厚化粧の女。
右方には、世にも奇妙な人面のアルマジロ。
前方には、鎧を身に包んだ強面のゴリラ。
ゴリラの立つ奥には、なだらかにのびる低い階段。
階段の途中には、不貞腐れた面相の牧師が一人。
そして、階段の頂には――王が座るに値する玉座が置かれ、その側に立つ影が一つ。
東方不敗が現在纏うスーツに加え、豪奢なマントとフルフェイスの仮面を装備する、痩身の姿。
ブリタニアが忌み嫌い、黒の騎士団が崇めた――『ゼロ』という象徴。
反逆の徒たる男が、東方不敗に語る。
「我々は迎えに来たのですよ、東方不敗マスターアジア。貴方をね」
◇ ◇ ◇
――時間は遡り、螺旋城。
謎の勢力による警告という名の攻撃行動が相次ぎ、各地に派遣されていた四天王が城に舞い戻っていたそのとき。
螺旋四天王の重鎮である『不動のグアーム』を始め、
実験の監視を主に任されていた『神速のシトマンドラ』、
直に警告を受けた『流麗のアディーネ』が、
「馬鹿な……そんな馬鹿な……こんな馬鹿なことが、あってたまるのかああぁぁあぁ!?」
緊急会議の場に集い、現在の芳しくない状況を打開する策を練らんとして、シトマンドラが突如発狂した。
「落ち着きよシトマンドラ。あんたがそんなんでどうするのさ」
「落ち着けだと!? この私に落ち着けと、そう言うのかアディーネ!?
ああしかし不可能だ、これが落ち着いてなどいられるか!? そもそもなんだ、この異常事態は!?
螺旋王は予測していたのか、いいや尊大なかの王とて予測などしきれなかったさ。このようなイレギュラー!!
なればこそ我々が奮起せねばならん、さしあたってはなんだ、殲滅か侵略か支配か皆殺しか――ええい生温い!
奪還――そう、奪還だ! 我らが成すべきは螺旋王の奪還! 命を賭してでも、螺旋王をお救いせねばああああ!!」
いつにもまして舌の回る孔雀姿の男に、アディーネは辟易した。
シトマンドラの慌てぶりも、わからなくはない。
元々、彼は獣人の中でも若輩者のエリート。突発的なイレギュラーには、特に打たれ弱い。
シトマンドラでなくとも、このイレギュラーに対応しきれる者などいないだろう……アディーネとてそうだ。
彼女自身、どうすればいいのか、という空虚な心に促されるまま、指針を失った彷徨い人と化していた。
(これは、例の警告の延長ってことなのかねぇ……どうなんだい、音界の覇者=H)
数刻前、ダイガンカイに潜入し警告を放ち去っていった、多元世界の住人を思い出す。
GUNG-HO-GUNSの11、音界の覇者<~ッドバレイ・ザ・ホーンフリークと名乗ったあの男。
――『お前達の実験……、これ以上続けるのならば、堕ちる事になるぞ。何処までもな』
実験を続行することへの警告。
それを読み取るならば、各地で獣人軍を攻撃していた彼ら――の言う『上』とやらは、よほど実験を危険視していると見て取れる。
加えて、攻撃行動を行っていた軍勢はほとんどが人間、それも多元世界に身を置く手練ばかりだ。
アディーネが実際に相対したのは音界の覇者∴齔lだが、敵と思われる戦力の規模は計り知れない。
そしてなにより、彼らが『獣人がニンゲンを支配下に置く世界』の住人でないとするならば、
その正体は、必然的に螺旋王が懸念していたある存在へと帰結する。
(ああ、間違いないさ)
グアームやシトマンドラもそう考え、アディーネもいま確信した。
あの音界の覇者≠ェ言っていた『上』、攻撃行動を行っていた敵対勢力の黒幕は、
「全てはアンチ=スパイラルっ! 螺旋王に災いを招くかの存在の仕業に違いない!!」
螺旋王が永遠の宿敵と畏怖していた、宇宙そのものと言われる絶対的脅威に違いない。
そしてそのアンチ=スパイラルが、警告に続くアクションとして、獣人軍に大打撃を与えてきたのだ。
それこそが、螺旋王ロージェノムの『神隠し』である。
まず初めに気づいたのは、シトマンドラだ。
各地で相次ぐ敵勢の攻撃行動、それらの報告による応答がないと知るや否や、直接螺旋王に謁見を求めてみれば、その姿はどこにもなく。
シトマンドラつてでそれを知ったグアームが調べてみれば、実験を始めるにあたって要となった設備もごっそりなくなっていた。
大至急アディーネを呼び戻し、他の者には悟られぬよう捜索を続けたが……螺旋王の所在は未だつかめない。
螺旋王ロージェノムはいったいどこに消えたのか?
残された三人の四天王が疑問で胸を埋め、翻弄される。
やがて結論を下したのは、螺旋王に最も心酔していたシトマンドラだった。
「螺旋王の企てを恐れたアンチ=スパイラルは、直接螺旋王を誘拐したに違いない……ッ!
我々が王の意志を継ぐこともないようにと、設備まで奪い去り……絶望だけを残していくとはッ!
なんと陰険にして愚かな集団か……ああ、だがやはり、愚かしいッ!
身の程を弁えさせてやるのだ……この神速のシトマンドラを敵に回したこと、螺旋王の意向を妨げようとしたことを!」
シトマンドラが導き出した答えは、アンチ=スパイラルによる螺旋王の誘拐。
目的としては理に適っているようだが、手元の資料によれば、アンチ=スパイラルが警告を誘拐程度に留めるとは思えない。
彼らの保有する戦力はあまりにも強大であり、実験の存在を既に認知しているのであれば、直接介入とて可能なはずなのだから。
実験場に直接踏み込み、スパイラル=ネメシスの根源となろう参加者たちを根絶やしにするのも可。
中途半端な警告の意を込めた攻撃に納まらず、直接螺旋城を攻め落とすことも可。
誘拐などという陳腐な手に頼らず、直接螺旋王を暗殺することも可。
であるはずなのに、螺旋王の誘拐という一手を打ってくるなど、ありえるのだろうか?
実験の制止を求めているならば、他にもっとやりようはあったはず。警告としてもあまりにも拙い。
実験の主導権は螺旋王にあり、獣人たちなど残したところで、意味などまるでないのだから。
「とりあえず、これからどうするんだい? 螺旋王を捜すにしても、まるで手立てがないじゃないか」
「早急に策を練る必要がある。これは緊急事態だ、もはや実験などには構ってられぬ。
グアーム、チミルフを即刻呼び戻すぞ。実験はしばし凍結だ。この件には、我ら四天王が一致団結して臨む必要がある」
シトマンドラは、実験の凍結とチミルフの召集をグアームに求めた。
四天王の中でも一番の古株であるグアームは、会議中であるにも関わらず、実験の内容を小型モニターで監視している。
アンチ=スパイラルの手が実験場に回らないとも限らないため、シトマンドラもそれを咎めたりはしなかったが、どういうわけかグアームの反応が鈍い。
「……ふうむ」
背を丸めたアルマジロの老獪は、重みのある声で小さく唸った。
訝しむ蠍と孔雀を意にも関さず、視線を小型モニターに固定したまま、口を開く。
「そのチミルフなんじゃがな……少々厄介なことになっておる」
「厄介なこと……だと? まさか、ニンゲン相手に敗れたとでも言うのか?」
「いや、まだ生きとる。しかしそれ以上に……おもしろいことにもなっておってな」
「要領を得ないねぇ。いったいぜんたいなにが言いたいのさ、グアーム?」
疑問符を浮かべる二人の若き獣人に、グアームは小型モニターの視聴を促した。
「……まあ、儂も思うところがあっての。おまえたちも見てみろ。
このやたら細いニンゲンの言うことを。もしかしたら、光明が開けるかもしれんぞ?」
監視映像に映し出されていたのは、今正に話題の中心であった最後の四天王の姿。
そして彼と連れ添う、ニンゲンにしても脆弱そうな痩身の少年の姿。そして、
吐き出される、真相に迫らんとする言霊の数々――。
◇ ◇ ◇
「――捨て駒、ですと?」
映画館――の中枢に隠された秘匿の部屋にて、螺旋四天王が一人、『怒涛のチミルフ』が主に問う。
「ああ、捨て駒だ。短慮は失敗を招く……情報整理のための時間を設けたのは正解だったな」
その主とは、螺旋王ロージェノムではない。
王の力を持つ、捨てられたブリタニア皇族。
今はただの少年、しかし一方では『黒の騎士団』というテロリストグループの首領。
この実験場においては、脱出という誰もが夢見る希望に縋る、本来の意味でのただの少年だ。
名をルルーシュ・ランペルージ……絶対遵守の力、『ギアス』によってチミルフの新たな主君に就いた、ただの少年だ。
「今一度確認するがチミルフ、おまえがロージェノムから聞き出した実験の全貌とやらに、嘘偽りはないな?」
「ハッ、それはもちろん。我ら四天王は獣人の中でも絶対の存在、かの者が虚言を吐いたとも思いがたく。
同様にアディーネやシトマンドラも耳にしていますゆえ、真実と見てよろしいかと……」
「そうか。ところでチミルフ、そのロージェノムとやらには、以前はどう接していたんだ?」
「それがまったくおかしな話でして、臣下のように敬っていたと記憶しています。
このチミルフが従うべき王は、貴方様ただ一人だというのに――」
「……ああ、そのとおりだ。おまえの記憶は正しい。おまえがロージェノムに傅いていたのは、なにかの間違いさ」
ギアスの効果のほどを再確認しながら、ルルーシュは臣下となった獣人を睥睨する。
計画は順調だ。全てがルルーシュの掌の上で回っていると言っても過言ではない。
……が、ルルーシュは気づいてしまった。
一挙に飛び込んできた情報を整理整頓する上で、決して無視することのできない要項に。
閉鎖された空間の中で考察の軸とするのは、これからをどう生き抜くか、誰を利用するか、そういった話ではない。
もっと根本的な、それでいて致命的な問題。この実験に関わる、重要すぎる課題だ。
短慮が失敗を招く……とはここに到達する以前から心がけていたが、今を思えば、柊かがみなどに構っている時間とて惜しかった。
(これからをどうするか……優勝を目指す、ジンたちと合流する、そんな段階ではない。
ああ、本当にどうかしていたな俺は。状況は既に、『実験などに関わっている段階ではない』んだ)
ルルーシュは心中で舌打ち、過去の自分を戒めた。
詳細名簿による他参加者の情報吸収、将来への思案、いかに頭脳明晰な彼といえども、負荷がかかっていたのだと解釈しよう。
それゆえに、すぐには気づけなかった。
チミルフの語る実験の全貌、螺旋王の真の目的、その背後に潜む者の存在を受けて――
「諸々の証言が全て真実とするならば、だ。このような実験など、ロージェノムにとっては捨て石にすぎない」
――ルルーシュは、この実験が参加者たちにとってはまるで無意味なものだと気づいてしまった。
「多くの科学者にとって、実験の成功とは失敗の蓄積を糧として導き出される一つの結果だ。
チミルフ、ロージェノムがこのような実験を企て実行に移したのは、今回が初だったな?」
ルルーシュの問いに対し、チミルフは肯定の意を述べる。
「ならば確定だ。この実験はロージェノムにとってはほんの初手。実験に必要な材料を得るための布石にすぎない。
料理で言えば下ごしらえ、チェスで言えばポーンを一手進めただけ、そして失敗や玉砕も想定しているに違いない。
話を聞く限りでは、実験を行えるのはこの一回が限度というわけではなさそうだからな。
仮に今回の実験でロージェノムの求む成果が現れなくとも、次に持ち越せばいいだけだ。
同じように多元宇宙から候補者を拉致し、同じようにロージェノムの螺旋力で実験場を構築し、前回持ち越した材料を加える。
たったそれだけで、一回目のときなどよりもより成功率の高い実験が望めるだろう。
ロージェノムの観点で言えば、なにも今回に執着する必要はない。むしろあえて失敗し、改良するための糧とするはずだ。
ロージェノムが愚鈍な王ではなく、実験というものを理解した優秀な科学者であるならば……な」
ルルーシュの論弁に、チミルフは汗を垂らしながら小さく唸る。
おそらくは理解が追いついていないのだろう。
所詮は獣、知恵を期待するのはお門違いか……とルルーシュは心中で毒づく。
「つまりだ。俺の言いたいことは、この実験に携わったところで明日などない。
そしてそれは、ロージェノム自身も想定している。この余興は、次の実験を行うための実験といったところか。
ロージェノムが求めているのは真なる螺旋力覚醒者とやらであり、この殺し合いの勝利者が必ずしもそうだとは限らない。
仮に螺旋力覚醒者ではない者が優勝したとしても、それはロージェノムにとってはまるで価値のないものだ。
当然、願いを叶えてやる義理もなければ元の世界に戻してやる義理もない。適当に捨て置かれるのが関の山だ。
真なる螺旋力に覚醒し、見事ロージェノムの眼鏡に適ったとしても、後の未来はさらに過酷なモルモット生活だ。
この場合は儀式のための生け贄、とも称すことができるかな? どちらにせよ、生はない。
そしてロージェノムとしては、この情報が俺たち参加者の手に渡ることも、この結論に辿り着くことも、想定済みなんだろう。
でなければ、わざわざチミルフに真相を話した上で野に放つなど、愚かにもほどがある。
こうして俺が熱弁を振るっていることに対する警告がないことから察するに、今頃は玉座で嘲笑を漏らしてでもいるのか。
俺たちに希望はない。鳥籠の鳥として、どうにかロージェノムの望みどおりに鳴いてやることしかできないのさ。
……いや、もしくは既に諦めているかもしれないな。チミルフを介入させたこと事態、業を煮やした結果とも受け取れる」
故の捨て駒……此度の実験参加者たちは、後のモルモットのためのモルモット以下の存在、という断定である。
冷静に自らの考察を論に移すルルーシュだったが、その内情は焦りと怒りで満ちていた。
(ああ、これはこちらとしては想定外だ。なんせ、この時点で『優勝してナナリーの下に帰る』という選択肢は消えてしまった。
元からロージェノムが約束を反故する可能性も考えていなかったわけではないが……いざ確定となると、少々焦るな。
優勝という選択肢がなくなってしまった以上、残された道は脱出だ。だが、おそらくロージェノムはそれすら想定している)
脱出といっても、この実験場から元の世界……ナナリーの待つ『日本』に帰ることは、不可能に近い。
帰還を果たすには、螺旋王の思惑を全て看破し、彼の持つ駒を蹂躙し尽さなければならないだろう。
それを成し遂げるには、ジンたちの戦力やギアスだけでは心許ない。
なぜなら、螺旋王は既にそれらの情報を抱えており、対策も用意してあるだろうからだ。
(ロージェノムを撃破するなら、奴の想定していないまったく新しいファクターが必要だ。
それこそ、奴が追い求めているという真なる螺旋力のような……だがそんな曖昧模糊な要素に、誰が縋る?
これは元から、キングがチェックされた状態での不条理な盤上に他ならない。
覆すには、それこそ盤面を直接手でひっくり返すほどの力技が必要だ。
現状持ち得る手、そしてこの実験場で手に入る手では、その力技すら行うことはできない。
真なる螺旋力などといった偶像をあてにし、奔走するなどもってのほかだ。
ロージェノムにとってはほんの下積みだろうが、俺たちにとっては遊びでもなんでもない、死活問題なんだからな……!)
螺旋王の用意周到さ、計算高さは、ルルーシュがかつて相対したクロヴィスなどとは格が違う。
相手はルルーシュ最大の仇敵、ブリタニア皇帝にも匹敵する難敵だと心がけねばならない。
(フッ……これがもしブリタニアなら、捨て身覚悟で殺しにかかるんだがな。
安心しろよロージェノム。今のところ貴様には、ブリタニアほどの恨みはない。
だからこそ、手段を選ぶことができる。従属でも反逆でもない、第三の手段を……)
優勝しても帰還は願えず、また脱出も絶望的。なればこそ、ルルーシュは閃く。
螺旋王もまた、決して参加者たちを食いつぶしたいわけではない。
殺してやりたいほどの恨みを抱えているわけでもなく、できれば有用に使いたいと願っているはずだ。
その心理を突き、唯一の例外を作る……ルルーシュの考える第三の手段とは、それだ。
(狙うのは、ロージェノムとの直接交渉……ッ!!)
優勝と脱出の望みが共に潰えた今、お上品な定石には構っていられない。
実験には乗らず、どうにかして舞台裏にいる螺旋王とコンタクトを取る。
(不可能ではないはずだ。こちらから出向くことは無理でも、ロージェノムを玉座から引き摺り下ろすことはできる。
なんせ奴は、実験のために俺たちの行動を逐一監視・分析し、糧とするための洗練を今も続けているんだからな。
交渉材料となるのはやはり、奴が恋焦がれている真なる螺旋力とやらだが……これをどう使うか、だな。
たとえばギアス。この力を用い、『真なる螺旋力に目覚めろ!』と命令したらどうなる?
十中八九効果は得られず、命令は無効となるだろうが……上手く使えば、螺旋力覚醒の助力にはなるはずだ。
ああそうだ、ギアスの力はとても有能だ。ロージェノムをそれをわかっていない、だからこそわからせる。
ギアスを持つこの俺は、こんな実験の一段目で使い潰すには惜しい存在だと――いや、待てよ)
ギアスという他の者にはない力を持つルルーシュの希少価値をわからせ、交渉材料とする作戦を企てる。
が、策謀を廻らせるうち、ルルーシュは大きな欠点に気づき出した。
(奴とて俺並みの、いやもしかしたら俺以上に、ギアスの利便性については熟知しているはずだ。
ならばなぜ、初めからそれを必要としない? 利用してこその力ではないのか?
なにせ奴は数多の並行世界……多元宇宙を知りえ、そこに見い出した可能性を元に選別を……まさか。
いや……そうか、そういうことか……クソッ、なんてことだ。これでは交渉が成り立たん……ッ!!
多元宇宙。異なるもしもの世界。多元宇宙の数だけ、可能性もまた点在する。
だとすれば、『ギアスユーザーであるルルーシュ・ランペルージ』もまた、一人ではない。
俺がこの実験で潰えたとしても、他の多元宇宙から、別のルルーシュを取り寄せることが可能だ。
あるいは、既にロージェノムは配下にもう一人の俺を……ギアスユーザーを抱え込んでいるとも考えられる。
それどころか、C.C.すら懐柔し、奴自身がギアスを手に入れている可能性だってありえるぞ……!?)
ぶち当たった壁はあまりにも大きく、螺旋王との直接交渉という手段にも、障害が見られた。
ルルーシュ、ギアスといった要素は、交渉の材料には使えない。螺旋王にとっての価値が見い出せないからだ。
(どうする……これでは退路が断たれたも同然だ。失敗を想定しているロージェノム相手では、なにもかもが成り立たん。
唯一残された道があるとすれば、どうにかしてロージェノムの手持ちのピースを破壊するという策だ。
奴の保有する戦力、技術、設備、全てを削ぎ落とし、次の実験が行えないようにしてしまう。
そうすればまだ交渉の余地もあるだろうが……馬鹿が! そんなこと、できるはずがないだろう……!
脱出して帰るより、優勝して生き延びるより、直接交渉を試みるより、ずっと難度が高い。不可能だッ!!
クッ……駄目だ、落ち着けルルーシュ。気が急いてばかりでは、何事も進捗しはしない。だがこれでは……これではまるで……)
――絶望じゃないか。
ルルーシュは胸のネオンに灯ったワンフレーズを前に、膝を折りかけた。
素顔にも明らかな狼狽が窺え、傍らで彼の話を聞いていたチミルフが、思わず声をかける。
「王? なにやら酷い汗ですが、お体の調子でも――」
「ええい、うるさい! 少し黙っていろ……ッ!」
チミルフに当り散らし、ルルーシュは頭を抱えた。
戦力とするには有能だが、頭脳の一部とするには劣りすぎている獣に対し、不当な憤慨を募らせる。
「ハッ、だいぶイラついとるみたいやんけ。ニコチン足りとるか?」
――機嫌の芳しくないルルーシュを煽るように、ちゃちゃを入れる暢気な関西弁が一声。
ルルーシュは憤怒の表情を収め、背後を振り向く。
部屋の壁際に、薄汚れたスーツを纏う牧師が凭れかかっていた。
「あいにく俺はまだ未成年でしてね。煙草の味というのがイマイチ理解できない」
「そらあれやな、人生の半分は損しとるわ。未成年でもかまへんから、一度は吸っとけ」
「成人したら考えてみますよ。ところで、あなたは先ほどの話を聞いて思うところはないんですか?」
「あらへんな。しいて言うなら、おまえみたいなもやしっ子がそっちのおっさん従えとるんはどういう手品や、いうくらいやな」
「……それもいずれ、お話しますよ。機会が訪れたらね」
それは貴様がボロ雑巾のようにこき使われ、捨てられたときだがな――と、ルルーシュは心中で毒を吐く。
後ろに立つ牧師風の男は、チミルフの紹介にあったニコラス・D・ウルフウッド……この地での皆殺しを唱える者だ。
ウルフウッドの思惑などはまだ完全に図りきれていないが、今のところルルーシュに対しての敵意は薄い。
それどころか、殺し合いに乗ったマーダー思想の者としてはやけに覇気がない。傷心しているとも見て取れる。
故にウルフウッドに仕掛けるギアスの選別も入念に、実験の真相に対する熱弁を聞かせるなどしているが、反応は薄い。
(そもそも、詳細名簿の記述を辿ればこの男は殺し合いを肯定する側の人間ではないはずだが……
この一日で心変わりを果たした、とも考えられなくはないか。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードのように、人を殺すこと自体に異を覚えている人間ではないようだからな。
その気になればチミルフ同様、臣下とすることも可能ではある。単体での戦闘力も申し分ない。
だが現状は既に、戦力を確保すればそれで安心という段階ではないのだ……こいつを従えたところでまるで意味がない!)
今のルルーシュにとっては、ウルフウッドの動向などに構っていられる暇はない。
彼の抱く心理、これから選び取る道、その先で危険分子となろうとも、ギアスで逐一対応すればそれでいい。
対策などそれだけで事足りる。逆に言えば、それ以上のことに思考を割いていられる余裕がないのだ。
(なにかないのか、残された道は。ロージェノムの盲点をつけるような、穴が見つけられれば……!)
忠誠を違えた獣人と、道を踏み外した牧師のいる人体改造施設で、ルルーシュは思案に暮れた。
幾度となく深呼吸を繰り返し、冷静になれと自身に言い聞かせ、打開策を模索する。
ナナリーの下に帰る。願いとしては単純な目的のために、どんなステップを踏むのが最良か。
考え、考え、考え…………そして、
「…………ッ!?」
突如、ルルーシュの視界が黒に染まった。
◇ ◇ ◇
「なんだ!? いったいなにが起こった!?」
「王! 近くに居られのですか!?」
「喚くなや。停電かなんかと違うんか?」
――室内が、突然暗闇に支配された。
ただそれだけのことに、ルルーシュは酷く動揺する。
ウルフウッドの言うように、常人ならば室内での暗闇イコール停電と考えるのが普通だ。
しかし、常日頃あらゆる不都合を想定している知将は、こういった想定外の事態に酷く打たれ弱い。
(くっ、この期に及んでまたイレギュラーだと!? いいかげんにしろ!)
実態の見えぬ不条理に怒りをぶつけるルルーシュだったが、その対象はすぐに判明することとなる。
暗闇が晴れ、視界にも光が戻る。
傍らにチミルフ、背後にウルフウッドがいることは変わらず、ルルーシュはそのまま辺りを見渡す。
「なっ……!?」
景色が、一変していた。
先ほどまで身を置いていた映画館の隠し部屋などではない。
螺旋に突き上がる高い天井、三角錐型に上へと伸びる壁、空席の玉座。
周りの風景が、見た目の質量ごとごっそり入れ替わってしまっていた。
「まさか……飛ばされたのか?」
ルルーシュはこの摩訶不思議な現象を、すぐさま空間転移によるものだと理解する。
螺旋王の演説を聞き、実験場に飛ばされる際、一度味わった感覚が身を震わせていたからだ。
ルルーシュはそのまま周囲への目配りを続け、考えうる事態に備えた。
この現象は人為的なものである。しかしながら、ルルーシュと境遇を同じくする者の仕業ではありえない。
だとすれば、ルルーシュたちの存在を『飛ばした』のは、
「グフフ……はじめまして、かのう。ルルーシュ・ランペルージよ」
螺旋王の手の者に他ならない。
「おまえたち、は――」
そして、その直感は見事に的中した。
ルルーシュが、チミルフが、ウルフウッドが、自身らを囲む三つの存在に視線をやる。
孔雀の羽を思わせる華美な装飾を纏った男。
蠍の尾を持つ眼帯の女。
二足で立つアルマジロ。
――全員、チミルフと同じく首輪を嵌めていなかった。
「自己紹介いるか? チミルフの情報から、だいたい推察できとるかもしれんがのぉ」
「……流麗のアディーネ、神速のシトマンドラ、それに不動のグアームか」
「グフッ、ご明答。我らが螺旋四天王じゃ」
孔雀――神速のシトマンドラ。
蠍――流麗のアディーネ。
アルマジロ――不動のグアーム。
ゴリラの体躯を持つチミルフと立場を同じくする、螺旋王直属の配下たち。
獣人の中でも最高峰の位置に立つ、螺旋四天王と呼ばれるグループの残り三人が、ルルーシュたちを取り囲んでいた。
「……これはいったい、なんのつもりだ!? 王に対して無礼であろう!」
「ハッ、王とはね。ちゃちな手品で洗脳されちまったくせに、ほざくんじゃないよチミルフ!」
ルルーシュに対する蛮行を嘆き憤るチミルフだったが、すぐさまアディーネに反論をくらう。
彼女の言から窺うに、相手はルルーシュがチミルフにギアスをかけたことを知っているようだった。
だとすれば、おのずと彼らの狙いも見えてくる。
(くっ……ロージェノムを挑発しすぎたか? まさか実験の途中で召集をくらうなど……)
ここは既に、隔離された実験場の中ではない。
おそらくは実験場の外……螺旋王が身を置く、実験運営本部に違いなかった。
ルルーシュら三人は螺旋王の持つ技術により、無理矢理敵地に召喚させられたということになる。
「わきまえてはいるだろうが、下手な考えは起こすなよ。不審な動きを見せれば、貴様らの首が飛ぶと知れ」
「チミルフ、あんたもだよ。あんた自身に首輪は嵌ってないが、王様が殺されるのは本望じゃないだろう?」
実験場の外であるならば、ギアスにかかった制限も――と考えたところで、ルルーシュに忠告が飛ぶ。
ここがどこであったとしても、参加者であるルルーシュ、ウルフウッドの首には、枷が嵌められたままだ。
遠隔爆破の術を持つ螺旋王側の者たちには、逆らうことなどできるはずがない。
同じように、軽挙がルルーシュの死に直結すると脅されるチミルフもまた、身動きが取れない。
不可視の荒縄によって拘束されるまま、ルルーシュが唇を噛み、ウルフウッドが不機嫌そうに睨みを利かせ、チミルフが体毛を汗で濡らした。
「グフッ、殊勝な心がけじゃの。さすがにここまで長生きできただけのことはある」
「グアーム、世辞はいい。さっさと用件を済ませてしまえ」
「そう焦るなシトマンドラ。儂としても、見極めたい部分が多くてな」
グアームらの要領を得ないやり取りに、不信感を覚えるルルーシュ。
今さら実験への途中介入を行うなど、螺旋王の本意が知れない。
ロージェノムの心理をズバズバと突いてしまったことに対する咎めか忠告か、それとも制裁か。
敵が首輪の爆破という武器を持ち、こちらの持つ手も知り尽くしている以上、ギアスで攻勢に出ることは不可能。
完全な受け手に回り、されるがままになるしかないのが現状だった。
「ではここは一つ、サクッと用件を済ませてしまうかのう」
下卑た笑いを付属して、グアームがもったいぶるように言う。
不動のグアーム――話によれば、螺旋王陣営の中でも一番の古株。
螺旋王とは旧知の仲であり、獣人たちの中でも祖に等しき存在、王の重臣といったところか。
それだけに、どのような手を打ってくるかが想像できない。
ルルーシュは額は冷や汗に塗れ、グアームと視線を廻らせる。
ギアスを知りながら恐れない双眸が、酷く脅威に思えた。
「のうルルーシュよ……おぬし、我らの新しい王にならんか?」
それだけに、グアームの提案する意がさっぱりのみこめなかった。
◇ ◇ ◇
「……なん、だと?」
予期せぬ持ちかけに、ルルーシュが唖然とする。
このアルマジロはなにを言い出すのか――というのが、本音であり混乱の証でもある。
「ッ、グアーム! なんだそれは!? そんな言い方では我らが――」
「おおっとおっと、確かにそうじゃな。新たな王、と例えるのは曲解を招きかねん。言い直そうか」
シトマンドラの激昂を受けて、グアームが嘲るように訂正を加える。
「ルルーシュよ。実験の参加者をやめ、こちら側の頭脳として働かんか?」
それは、ルルーシュとしても想定の枠を飛び越えた、思わぬ勧誘だった。
飼い犬の立場を捨て、駄犬を飼う側に回らないか――捲土重来の機会を、わざわざ与える。
螺旋王側にとってはまるでメリットの窺えない、不可解な条件提示にルルーシュは困惑する。
……が、すぐに解を手繰り寄せる。
先ほどグアームが口走った、新たな王というフレーズ。
そして今ルルーシュが置かれているこの状況を鑑みれば、決定的だ。
「……その誘いへの答えを出す前に、一つ問いたい。おまえたちの主、螺旋王ロージェノムはどうした?」
ルルーシュの質問に、チミルフを除く三人の獣人の眉根が釣り上がる。
あからさまな反応に、ルルーシュはやはり――と僅かに口元を緩めた。
ひょっとしたら光明が覗けるかもしれない。そんな淡い期待を抱き始めながら、慎重に物事を進めていく。
「グアームといったな。先ほどのおまえの物言い、俺に新たな王にならないかという持ちかけ……冗談にしても度が過ぎている。
螺旋王が耳にすれば、まずいい思いはしないだろう。王に、ほんの戯言、と受け取ってしまえる寛大さがあったとしてもな。
螺旋王の精神をまるで気にかけていない……おまえがそういう性格なのだと言えばそれまでだが、真相はそうじゃないだろう?
おかしなのはこの部屋だ。玉座が置かれているにも関わらず、螺旋王の姿がないのはいったいどういうわけだ?
答えを聞く以前に、大体の見当はつけられるさ。俺を勧誘する理由。勧誘せざるを得ない理由。
おそらく、螺旋王自身になにか不測の事態が起こったんじゃないか? 例えば、病に伏したとかな」
未だ本心の見えぬ獣人たちに、ルルーシュは大胆にも切り込んでいく。
探りを入れる慎重さは心がけつつも、決して下手には出ない。
相手が少なからずであるが自分を頼りにしている……という材料を元に、ルルーシュは勇気を得る。
そして答えはやがて、グアームの笑い声によって齎される。
「ご明察、と言っておこうかな。まあ、大体当たりじゃ。実は、こちらとしても不測の事態が起こっての」
「いいかげんにしろグアーム! このようにニンゲンにどこまで下手に出れば……!」
「それはこちらのセリフだシトマンドラ! 我が王に対する数々の無礼、もはや容認できる範囲では……」
「チミルフ、おまえは黙っていろ!」
「シトマンドラ、あんたもここは黙ってグアームに任せな!」
ルルーシュとグアームを軸として進む問答に横槍を入れるチミルフとシトマンドラだったが、互いに主君と同胞に諌められ、押し黙る。
ルルーシュはこの間も、グアームを始めとする四天王たちの性格を分析しながら、的確に手順を導き出していく。
ウルフウッドは論争には介入せず、不機嫌そうな顔のまま耳を傾けていた。
「続きを聞こうか、グアーム。いったい螺旋王になにがあった?」
「消えたんじゃよ。前触れもなく、突然、神隠しにでも遭ったかのようにな」
――螺旋王が、消えた?
俄かには信じがたい事実を受け、ルルーシュはさらなる困惑の渦中に置かれる。
しかし表には出さず、螺旋王消失という疑念を抱えたまま、さらに情報を模索する。
「目撃者はいないのか? いつ消えたのか、前兆はなかったのか、残されたものは?」
「全てなし、じゃ。ロージェノムは放送の後この王の間に引き篭もり、謁見を求めてみればもう姿は消えていた」
「……螺旋王が姿を消した理由として、おまえたちに思い当たる節はないのか?」
「ないのぉ。ただ、まあ……些細なことではあるが、ついちょっと前に厄介な事件が起こっての」
「厄介な事件? なんでもいい、教えてくれ」
巧みな話術で、ルルーシュはグアームから交渉の材料となり得る情報を絞り上げる。
チミルフもそんなルルーシュの思惑を知ってか知らずか、嘲りの態度を崩さぬまま語る。
「今回の実験なんじゃがな……ついぞ最近、ロージェノムが懸念していた宿敵に露見してしまったんじゃよ」
「ロージェノムが懸念していた宿敵……アンチ=スパイラルとかいう軍勢か?」
「おお。しかもそいつらは、異なる多元宇宙の猛者たちを手勢に加え、我ら獣人に警告という名の攻撃行為を繰り返しとる」
「異なる多元宇宙の猛者たちを、手勢に……? アンチ=スパイラルが異なる宇宙の勢力を支配下に置いているというのか?」
「支配か共闘かまではわからんが、戦力が入り乱れていたのは確かじゃ。GUNG-HO-GUNSやナイトメアフレームの姿も確認できたかの」
グアームの発言にウルフウッドが僅か反応を見せるが、開口には至らない。
ルルーシュもまた、そこは論点ではないと流し、続ける。
「それで、アンチ=スパイラルの要求はなんなんだ? 警告として攻撃を加えているということは……」
「実験の停止、じゃよ。直接螺旋城や実験場に踏み込んでこんのは、どういう意図か知らんがな」
「螺旋王はその警告に対し、どのような処置を?」
「特になにもせぬまま、消えおった」
――ルルーシュの口元が、緩む。
「シトマンドラ……そこにいる男は、ロージェノムがアンチ=スパイラルに攫われたと推理したがの。
はてさて真相はいかに……儂ら獣人では、些か頭が足りなくてのぉ。一つ、おぬしの考えを聞きたいと思ったわけじゃ」
ルルーシュがシトマンドラに視線をやると、その表情は苦虫を噛み潰すように歪んでいた。
アディーネもまた、シトマンドラほどではないが辛辣な表情を浮かべている。
螺旋王の消失、アンチ=スパイラルの警告、この実験の全貌。
情報として形を成すトライアングルに、知恵者たるルルーシュが導き出す答えは、シトマンドラの意とは異なるものだ。
そして同時に、微かに光明も見えた。つけいる隙、穴……それをさらに広げんと、ルルーシュが敵の内情に踏み込む。
「螺旋王失踪の真相、これ自体に対する解は実に簡単だ。螺旋王は誘拐されたわけではない」
初手として、シトマンドラの推理……もとい、忠臣としての期待を潰す。
次に、彼らも可能性としては考えているのだろうが、易々と肯定するわけにはいかない事実を、突きつける。
「真相は極めて単純。螺旋王は、早々に実験を放棄し一人で行方を暗ました……配下を全て捨て置いて、な」
シトマンドラの麗しい顔が、粉々に粉砕される。
汗に塗れ、愕然の色に侵され、血色を悪くしたまま膝を折り、崩れた。
アディーネは舌打ち、グアームは平静を保ったまま、しかし嘲りの態度を消す。
「ふうむ……やはりの」
どこか儚げな表情でそう漏らし、強気な視線を床に投げた。
相手の弱りを判断するや否や、ルルーシュは休めることなく論述を続ける。
「ここに俺を召喚する以前、俺がチミルフに語っていた論は耳にしていたな?
この実験は、螺旋王にとってはほんの初手でしかない。あっさり放棄したとしても不思議じゃないさ。
外敵に目をつけられたとするならばなおさら、こんな実験に固執する必要はない。
一度撤退し、今一度体勢を立て直し、次なる実験の開始を準備する……逃亡というよりは戦略的撤退だな」
「戦略的撤退、だと……!? ならば、ならばなぜだ!? なぜ、螺旋王は我らを共に連れて行かなかった!?」
ルルーシュが語る途中で、膝を折ったままのシトマンドラが喚き散らした。
これまでの様子から察するに、この孔雀姿の獣人は、四天王の中でも格別螺旋王に心酔していたのだろう。
故の愕然。裏切られ、捨てられた……という事実を受け入れられないでいる。
若くして四天王に上り詰める手腕はあるようだが、精神力は脆弱だ、とルルーシュはシトマンドラを理解した。
「多元宇宙さ。螺旋王にはそれを巡る術があったんだろう? なら、手駒などいくらでも代えが利く。
おまえたちを捨て置いたとて、別の多元宇宙に移り住み、その地の螺旋王と席を挿げ替えれば万事元通りだ。
また一から螺旋王を名乗り、また一から実験をやり直せる。
いや、もしかしたら今度は獣人などには頼らないかもしれないな。
多元宇宙の広さがどれほどかは知らないが、各地から有能な手駒をスカウトするという手もある。
実際、アンチ=スパイラルがやっているのがそれだろう? 螺旋王とて、教訓は身につけるだろうからな」
結果として、ルルーシュのこの怒涛の論弁はシトマンドラへのトドメとなった。
もはや彼には反論の意志もない。絶望に支配されるがまま、螺旋王への忠誠心を泡とするだけだ。
「……で、俺の頭脳を求めたのはどういう了見だ? まさか、こんなわかりきった問題を解かせるためだけじゃないだろう?」
「螺旋王が一人で逃げたかもしれない、という仮説は先にグアームが唱えたさ。シトマンドラは最後まで反論したがね」
「なるほど。では、そのシトマンドラをわからせるために、俺にこんな高尚な論述を期待したというところか?」
「いんや、そうではない。ルルーシュよ、おぬしに考えてもらいたいことは他にある」
交渉はまだ終わらない。わざわざルルーシュを呼びつけた目的、その根本がグアームの手によって語られる。
「おぬしにはだ……どこぞに逃げおったロージェノムを捕まえる手立てを考えてほしいのだ」
グアームの発言を発端に、膝を折っていたシトマンドラが飛び上がるように足腰を正す。
アディーネはまた、苦々しい表情。グアームの提案は事前の話し合いによる結果ではないのか、しかし即時に咎めるまではいかない。
「なぜだ? なぜそうまでして王に縋る? 国の統制を懸念しての策なら、愚にもほどがあるぞ。
おまえたちにしてみれば、螺旋王は敵前逃亡にも等しい行いを働いた罪人、既に王ではない。
地位は底に落ち、威厳も失われ、それは今さら螺旋王を追いかけたところで修復できる綻びでもない。
よもや実験を憂いでいるわけではないだろう? まさかな、そんなはずはない。
螺旋王の唱える悲願は奴自身ものであって、おまえたちのものではないはずだからな。
今後を考えるなら、早々に実験を破棄し、螺旋王のことを忘れ、新たな王を立てるべきだ。違うか?」
チミルフによれば、螺旋四天王でさえ実験の全貌はつい先刻まで語られなかったと聞く。
ならばこの実験に固執しているのはあくまでも螺旋王であり、獣人たちは彼の命に従っていただけのはずだ。
王が去った今、実験を継続する必要はなく、元の世界で人間を圧政する暮らしに戻ればそれでいい。
相手が獣だからこそ、人情的な部分を排除した論をぶつけるルルーシュだったが、
「あいにくと、それでは我らの気が納まらんのだ。ロージェノムには、ケジメをつけてもらわねばな」
獣人というのは、彼が考えるほど単純ではないらしい。
「儂ら獣人はな、これでも螺旋王を心より崇拝し、支持してきたつもりじゃ。そこのシトマンドラを見ればわかるじゃろう?
特に儂なんぞ、ロージェノムとは古いつき合いでな。それなりに信頼というものも築き上げていたつもりじゃった。
それが裏切られたとあって、素直に忘れ去ることができるか? 獣人にだって感情はあり、だからこそ恨みも湧く」
「……つまり、おまえが螺旋王を追うのは国のためではなく私怨……復讐のためということか?」
「グフフ……捨てられた獣というのは怖いぞい? 忠誠心が強ければ強いほど、裏切りの際に生まれる憎悪もひとしおじゃ。
のうシトマンドラ、おぬしはどうかの。あれだけ心酔していたロージェノムに裏切られ、なにか込み上げてくるものはないか?」
「…………ッ」
グアームの言葉を受け、シトマンドラがギッと歯軋りをする。
憤怒の色を顔面に宿し、かつての鋭い眼光を取り戻す。
沸々と沸き上がっているだろう激情は、人間のそれと大差ない。
「……言わずともわかるさ。あたしだって、腸が煮えくり返る思いだよ。チミルフ、あんたはどうなんだい?」
「俺は……俺の仕えるべき主君は、このお方だけだ」
「……そうかい」
主人に見捨てられた家畜が、牙を突きたてようとしている。
矛を向けた先は、王。独裁を越えた先の暴虐に、鉄槌を下さんと奮起する。
――彼らはもはや、ただの獣ではない。不条理に憤りを覚える、立派な反逆の徒だ。
「だから……俺にロージェノムを捕まえる策を練れ、というわけか。クックック……なるほどな」
ブリタニアに、実の父に反逆する抹消された皇子として、ルルーシュは四天王らに僅かな共感を覚える。
しかし……しかしだ。
「だが、やはり思慮が足りん。この俺が貴様らの言いなりなると、本気でそう思っているのか?」
――こいつらは、このルルーシュ・ランペルージの才知を必要としている!
そう確信したからこそ、さらに強く踏み込み、さらに大きく打って出る。
少しでも弱気な態度を見せたら負け、たとえ命を握られていようと変わりない。
死なれて困るのはグアームらとて同じ、だからこその緊急招集だ。
「策は与えてやる。だが代価は高いぞ? まず元の世界への帰還を手始めに――」
「おっと、そういえば大事なことを言い忘れておった」
今度はこちらから条件を突きつける番だ――と息巻くルルーシュの勢いを殺し、グアームが口を挟む。
すっ呆けた老獪のごとく、にやついた目つきで、いつの間にか嘲りの態度を取り戻していた。
「先ほどロージェノムが消えたと言ったがの。実は、消えたのはロージェノムだけではないんじゃよ」
「なに? いったいどういう――」
「ロージェノムはの、実験を行うのに必要な全ての設備も持ち去っていきおった。
そもそも、なぜ儂がニンゲンの知恵なんぞを当てにし、ロージェノムを素直に追いかけんと思う?
グフッ、できないからじゃよ。なんせロージェノムは、多元宇宙を渡る術まで残さず持ち逃げしたんじゃからな」
地鳴りのような衝撃が、ルルーシュの総身を震わせ、顔を引きつらせる。
グアームが――おそらくはわざと――話し忘れていた、重大すぎる事実。
考えてみれば道理。ロージェノムは次の新天地でも実験が進められるよう、全ての設備を持ち去った。
そしてこの城には、追っ手がかかることのないよう一切の痕跡を残さず、謎だけを残して、
「ま、まさか……」
帰還を望む者の希望までも、
「ない、なんて言うんじゃないだろうな……元の世界に、ナナリーの下に帰る、方法が……」
粉々に、
「グフフフッ……おう、そのとおり!」
破砕していったのだ――。
「う……うわあああああああああぁぁぁぁ!?」
「っ!? お、王! お気を確かに!!」
突きつけられた現実、そのあまりに衝撃の強さに、ルルーシュは絶叫を上げて崩れ落ちた。
螺旋王裏切りの件を受けたシトマンドラと同じく、絶望の劫火が少年の身を蹂躙する。
胸に溜めていた、最愛の妹への想いが……無に消え、泡と化し、そしてルルーシュは空っぽとなる。
(……ふざけるな)
はずだったろう、かつての彼ならば。
だが彼もまた――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアをやめたあの日から――反逆の徒なのだ。
幸せを奪っていく世の不条理、間違った世界、それを正そうとする意志の根本は、怒りだ。
ブリタニア皇族に向けていた執念の刃を、今、この瞬間だけは、ナナリーとの絆を断った螺旋王に向ける。
(ふっざけるなよロージェノムゥゥゥ!! なにが戦略的撤退だ、この腰抜けが……ッ!
貴様は科学者としては想像以上に優秀だったが、王としてはまるで駄目……ッ! 吐き気がするッ!
ナナリーの下に帰る術がない? 奴が全て奪っていった? 許せはしない……誰が許してたまるか!
逃げられると思うな。地獄の果てまで追い回し、生まれてきたことを後悔するまで殺し尽してやる!!)
――この瞬間、ルルーシュは新たな反逆の矛を掲げた。
全てはナナリーとの暮らしを奪い返すため。そして略奪により生じた憎悪を晴らすため。
そのためならば、あえて獣人たちと手を組むこともやむなし、と妥協しよう。
「のうルルーシュ。おぬしにとって、妹の下に帰れんというのは死活問題じゃろう?
考え直してはくれんか? 互いの悲願を成就するための協定じゃよ……支配ではない。
なんなら譲歩するぞ? こちらとしても、おぬしを敵に回すのは得策ではないからのう」
さも計画通りと言わんばかりに笑うグアームを、ルルーシュは咄嗟に睨み返す。
この老獪なる策士は、最後の最後までルルーシュへの決定打となる情報を温存し、ここぞという場面で突きつけてきた。
他の獣人とは違う。戦略を理解している。だからこそ評価に値し、警戒の対象としておく必要もある。
「……グアーム。おまえは俺になにを望む?」
「さっきも言ったとおり、ロージェノムをとっ捕まえる策を練って欲しいんじゃよ」
「おまえ自身に、なにか策はないのか?」
「あればニンゲンを頼りになんぞせんわい。候補としては高嶺清麿でもよかったんじゃがな。一足遅く、おぬしが殺してしまいおった」
「一つ確認する。元の世界に帰る術がないというのは嘘じゃないだろうな? 俺をハメるためのブラフじゃないんだろうな?」
「なんなら城中調べてみてもいいぞ。儂はおぬしを飼い慣らすつもりはない。騙したとて、なんら得もないということじゃ」
「…………」
グアームの本意は、全て言葉として吐き出されている。嘘偽りや隠し事はない。
彼の立場になって考えてみれば、それが如実に伝わってくる。だからこそ、進路は限定された。
この場は用意されたルートを突き進むしかない――だが、いつまでも直進し続けるつもりはない。
いずれ、盤面は自らの手でひっくり返す。
確固たる決意を胸に、ルルーシュは立ち上がり、プライドを潜めた交渉に躍り出る。
「いいだろう。不動のグアーム、おまえの申し出を受け入れ、ロージェノム捕獲の策を考案しよう。
譲歩するという言葉を信じ、いくつか条件を課す。これが受け入れられなければ、俺はここで死ぬ道を選ぶ。
一つ、俺とおまえたちは対等だ。いかなることがあろうとも、支配従属の関係にはならない。
二つ、対等ではあるが、作戦を行う上での俺の指示には従ってもらう。俺もおまえたちの案は聞き入れる。
三つ、この首輪は外してもらおう。協定を結ぶにあたって、拘束具がついたままでは綻びが生じるからな。
四つ、俺を信頼しろ。当然、俺の『眼』のことは懸念しているだろうが、おまえたちにかける気はない。
五つ、全てが終わった後、俺を全力で元の世界に送り届けろ。約束を反故することは許さん。
これらの条件がのめるというのであれば、さしあたっては資料だ。
作戦を練るための判断材料として、チミルフの話にあった多元宇宙の映像、各地で起こったという襲撃の内容を確認したい。
さすがに映像資料くらいは残っているだろう? 俺としても、把握が滞っては手の打ちようがないからな」
「よいよい。条件ものむし、参考資料もすぐに用意してやるぞい」
ルルーシュの提示した条件にグアームは即答で返し、機嫌の良さそうな笑みを浮かべる。
ルルーシュはそれを、胸中では気味が悪いと嫌悪しつつ、表では友好的な態度を取る。
さすがに協定の握手までするつもりにはなれなかったが、当面は肩を並べる必要があるだろう。
所詮は獣……と軽んじてはならない。頭の回る好敵手として、認めざるを得なかった。
「……のう。ところで、ワイはどうなるんや?」
事態の激変、そのほんの扉部分が開かれた後、取り残された牧師は一人呟いた。
ニコラス・D・ウルフウッド。ルルーシュと共に召集にあった、参加者の一人だ。
「……そういえば、彼を呼んだ理由は?」
「うーむ、成り行きかのぉ。同じ部屋にいたんで、つい」
「ついってなんじゃボケ! ノリで許される思うてるんかい!」
「まぁ、おぬしもチミルフから事の真相は知らされているようじゃったからの。もののついでじゃよ」
ウルフウッドの憤慨を軽く受け流し、グアームはおどける。
どうやら本当に場の流れで呼びつけたらしい……このアルマジロ、策士なのかボケ老人なのか。
「どうするんだいグアーム?」
「今さら実験場に戻すのも面倒じゃ。とっとと爆死してもらうかの」
「ちょ、おま! んなアホなノリが許されるかっ!!」
……不動のグアーム、やはり計りきれない。
喜劇のようなやり取りをするグアームとウルフウッドを尻目に、ルルーシュは頭を抱えた。
ここでウルフウッドの首輪が『ノリ』で爆破されようと、今さらルルーシュの活動に支障をきたすわけではない。
放っておこうと考えたところで、
(……いや、待てよ)
思案する脳内に妙な引っ掛かりを覚え、座視するという意志を打ち消す。
「グアーム、一つ条件を追加してもいいか?」
「うん、なんじゃ?」
ニコラス・D・ウルフウッド……チミルフが認める戦士であり、実験参加者の皆殺しを志す者。
内情は未だ窺いしれないが、グアームの申し出によって状況が変わった今ならば――彼の利用価値も見い出せるかもしれない。
「ウルフウッドに関しては俺に考えがある。殺すには惜しい。重要な駒になるかもしれんからな」
そっとグアームに耳打ち、ルルーシュはウルフウッドのほうへ向く。
「それから、彼に煙草としばしの一服の時間を。俺はその間、資料を漁らせてもらう」
◇ ◇ ◇
――それから、数時間の時が流れた。
ルルーシュに提供された多元宇宙に関する資料の数は膨大で、ついさっきまで殺し殺されの場にいた者が整理するには、困難の極みと思われた。
それに加え、各地で巻き起こったアンチ=スパイラルと思しき軍勢による警告という名の攻撃行動。
螺旋城に残された設備、実験のメカニズム、現存の兵力、材料となる情報は全て吸収し、その上で策を練る。
本来なら、数時間程度でどうにかなる話ではない。だが、そこはルルーシュだからこそだ。
彼が選ばれたのは偶然でもなんでもなく、現存の参加者の中で一番の知恵者とグアームに判断されたからだ。
いや、仮に高嶺清麿や明智健悟といった賢者が生き残っていたとしても、グアームはルルーシュを選んだだろう。
なにせ、ルルーシュとグアームの利害は一致する。ギアスという力は厄介ではあるが、牙を裏返す心配は無用というわけだ。
「……まだかいな。ワイもなんで待たされとるかようわからんが、もう何本吸ったか数えられへんで」
王の間から場を移し、会議室。
ウルフウッドの吸う煙草の煙が充満するその部屋で、螺旋四天王と鬱憤発散中のヘビースモーカーが集っていた。
現在は、別室で情報整理と作戦考案を進めているルルーシュを待っている段階だ。
時間の経過はウルフウッドの手元に置かれた灰皿……に山のように積まれた煙草の吸殻が物語る。
ルルーシュが保留としたウルフウッドの処置、そのせいで感じている不快感に、同席する者たちは腹を立てた。
いい加減、アディーネがヒステリックを起こしそうになった頃、
「待たせたな」
会議室の扉が開かれ、ルルーシュ・ランペルージがようやくの合流を果たした。
「遅いぞ! 事態は一刻を争うのだ、時間稼ぎのつもりなら……」
「そう怒鳴るなよ、シトマンドラ。時間に見合った仕事はする。おまえの怒りの矛先も、ちゃんと用意してやるさ」
「ぐっ……!」
ルルーシュの堂々たる態度に、興奮気味のシトマンドラは苛立ち増し、しかし寸でのところで感情を制御する。
今は、誰が事を荒立てても得はない。対等な者同士、行儀よく肩を並べて歩く必要があった。
いろいろと不満は残る。しかし皆子供ではないからして、そういった不満さえ噛み潰さなければならなかった。
「さて、作戦を発表する前にいくつか確認したいことがある。みんな心して聞いてくれ」
一同の視線を集めやすい目立つ席に座り、ルルーシュ主導の下、作戦会議が始まる。
「まずシトマンドラ。実験場の『凍結』はまだ有効か?」
「貴様がやけに時間をかけるのでな。貴様らを召喚したときから、時間は動いていない」
――実験を円滑に進める上で、螺旋王は実験場を構築する際、いくつかの仕掛けを施した。
その最もたる要素が結界に課した『制限』であり、他にも二点、参加者たちの知らない仕掛けが施されていた。
それこそが、『時差』と『凍結』の二つのシステムである。
前者の『時差』というのは言葉のとおり、実験場内で経過する時間と、それを監視下に置く螺旋城のある世界での時差を意味する。
いかに完璧な監視体制が整っていたとしても、実験最高責任者である螺旋王がそれを一挙に把握するのは不可能だ。
故に意図的に時差を設け、監視をやりやすくした。実験場で流れる時間は、螺旋城で流れる時間よりもずっと遅い。
この時差は一定であり、調節の効くシステムでもないが、その他の不具合はもう一つのシステムが補ってくれる。
後者の『凍結』というのは、不測の事態が発生したときのために用意された一時的な対応策だ。
実験場に流れている時間を参加者ごと止め、問題が解決するまで実験が進展しないようにという、時間稼ぎのためのシステムだ。
これは、『制限』の基盤となっている会場の結界の力を極大まで強めることで発動する。
螺旋王の話では、制限を看破しうるほどの螺旋力覚醒者ならば覆すことも可能とのことだが、未だその境地まで至った者はいない。
逆に言えば、『制限』と『凍結』を為す結界は、真なる螺旋力覚醒者を判定するための計測器の役割を担っていたのかもしれない。
螺旋力とて、力である以上はバラメータとしていくらか数値化することもできるだろう。
螺旋王の求めた真なる螺旋力というのは、つまるところ『世界を想像し得るほど強大な螺旋力』だ。
そのボーダーラインが、実際に実験場という不完全な世界を創り出した螺旋王の持つ螺旋力である。
結界を破り『制限』と『凍結』の枷から外れる=螺旋王の螺旋力によって創った世界を超える=螺旋王の螺旋力を凌ぐ。
真なる螺旋力覚醒者=螺旋王の螺旋力を凌ぐ者=螺旋王以上に完全なる世界を創りだせる可能性のある螺旋力を持つ者。
つまり螺旋王が求めたのは、『制限』と『凍結』システムを為す結界を破るほどの螺旋力を発揮する者。ということになる。
螺旋王自身、真なる螺旋力とはどういったものか掴みきれておらず、漠然と『自分を越える者』と認識していたのかもしれない。
実験には、それを明確にする意味も込められていたと考えられるが……このあたりは、消えた螺旋王に直接尋ねてみるしか真相を知る術はない。
また、この『凍結』は結界が破られれば即綻びの生じる脆弱なシステムであるため、アンチ=スパイラルの干渉まではカバーすることはできないだろう。
彼らは螺旋力を持ち得ないが、螺旋王の螺旋力など軽く凌駕するほどの彼ら自身の力……いわば宇宙を支配する力を保有しているのだから。
この『凍結』システムはアンチ=スパイラルによる警告が為されたときに実際に使われ、しかし螺旋王がすぐに解いたという。
大方、凍結中に対処を試みようとしたのだろうが、すぐに諦め実験放棄という策を選び取った、といったところだろう。
「グアーム。ロージェノムの言う『真なる螺旋力覚醒者』とやらはまだ現れていないな?」
「現れとったら、今頃てんやわんやじゃろうなぁ」
当然だ。もしそんな事態になれば、スパイラル=ネメシスを最も嫌悪する反螺旋族が黙ってはおらず、『凍結』も効かない。
「アディーネ。以後、敵対勢力らのアクションは?」
「静かなもんだよ。あれ以来襲撃もパッタリやんださ」
アンチ=スパイラルの手勢とやらも、こちらの出方を座視して窺っているというところか。
「チミルフ。結界を傷つけず、この城の設備から実験場に干渉することは可能か?」
「はっ。特に問題はありません」
実験開始の際のワープ装置や、会場に放送を流す装置はまだ残されている。
「では最後に訊こう。螺旋王の擬似声帯を作ることは可能か?」
ルルーシュが最後とした質問に、四天王が揃って首を傾げる。
誰もが意図をのみこめぬまま、グアームが答えと共に問い返す。
「それくらいわけないが……いったいなにをやらかすつもりじゃ?」
「それは後々説明するさ。――では同志諸君! これより『螺旋王捕獲作戦』の全容を発表する!」
諸々の確認事項を終え、ルルーシュがいよいよ、考案した作戦を提唱する。
声高らかな前振りにチミルフとシトマンドラが息をのみ、グアームが笑い、アディーネが釘付けになり、ウルフウッドが欠伸をした。
ごくり、と誰かの喉が鳴り、そして、
「……と、大げさに宣言しようとしたところで大したことじゃない。実験の続行。それだけだ」
穏やかな少年の声調を持ってして告げられたそれが、一同の期待感を酷く打ち砕いた。
「実験の続行……? それだけ、だって? それじゃあ、これまでとやることが変わらないじゃないか」
「変える必要がないのさ、アディーネ。もちろんこのままただ漫然と推移を見守るのではなく、一味加えるがな」
「実験を続け、なにを為して完結とする? そもそもこのまま実験を続けることが、螺旋王捜索に繋がるというのか?」
「ああ、繋がるさシトマンドラ。これが現状考え得る最良の一手であり、唯一の策だ」
「解せんのぉ。もうちょい要領よく説明してくれんか?」
反応の悪い獣人勢に僅か落胆し、ルルーシュは軽い溜め息の後、心中にて嘲笑。
黒の騎士団での活動において、こういった物分りの悪い同志たちを納得させるための説明など日常茶飯事だ。
ルルーシュは常の調子を崩さず、自らの意を他者に伝える。
「では、いっそ呼称を改めるとしよう。現時刻を持って、螺旋王ロージェノムの『実験』は終了!
実験場にて行われている殺し合いは今より名を変え、アンチ=スパイラル降臨のための『儀式』と化すッ!!」
◇ ◇ ◇
……今度こそ、声高らかに作戦の提唱がなされ、しかしながら周囲の反応は薄い。
驚嘆も感嘆もなく、集う者たちはルルーシュへと視線を傾けたまま、しばし無言を貫いた。
誰が口火を切るか、と各々が思い始めたところで、
「……ふざけるのも、大概にしろッ!!」
いの一番に口を開き、しかも肯定ではなく異を唱えたのは、シトマンドラだった。
「アンチ=スパイラルを、降臨だと……? つまりなんだ、奴らを呼ぶということか!?」
「そのとおりだシトマンドラ。実験の進捗を餌とし、アンチ=スパイラルとのコンタクトを図る」
「戯けたことを抜かすな! 螺旋王が長年の宿敵と定めてきた、我らにとっての外敵を、わざわざ呼び寄せるなど……」
「違うな、間違っているぞシトマンドラ。ロージェノムにとってはそうかもしれんが、アンチ=スパイラルは我々にとっては外敵とはなりえない」
「な、なに……っ?」
シトマンドラの反論を、ゼロとしての冷厳な声でもって看破するルルーシュ。
その瞳には、確かな自信が宿っていた。
「いいか、アンチ=スパイラルが恐れているのはスパイラル=ネメシスの発揮であり、螺旋王個人でも獣人でもない。
そもそも奴らが本気になれば、多元宇宙に住まう全ての生物が滅ぼされたとしても不思議ではないのだからな。
螺旋王の失踪をきっかけに、アンチ=スパイラルの手勢と思しき集団による警告がやんだのがその最もたる証拠だ。
奴らは今頃、螺旋王を失った我々が実験をどうするのか窺っている段階なのだろう。
もし続行するようなら目を離さず、もし破棄するようなら捨て置き、消えた螺旋王を捜すだろう。
つまりアンチ=スパイラルは今、凍結中の実験場に釘付けとなっている。こちらが決断を下すまでは動かない、待ちの状態だ。
だからこそ実験を推し進め、さらに奴らの注目を誘う! ここで奴らの興味を削ぐことこそ、詰みに他ならない!」
「やっぱり要領を得ないねぇ。ルルーシュ、結局あんたはどうしたいのさ。アンチ=スパイラルを呼び出して、それからどうする?」
なかなか真意を語ろうとしないルルーシュに、アディーネは苛立ちながら催促する。
「焦るなアディーネ。物事には順序というものがある。
アンチ=スパイラルが危険視しているのはスパイラル=ネメシス――なら、それを起こしてやるのさ。
螺旋王が求めた真なる螺旋力の覚醒。アンチ=スパイラルの畏怖の対象たる力を発現させ、奴らを誘い込む」
「実験場にかの? 確かに警告にもあったように、これ以上実験を進めれば堕ちるとまで言っておったが……」
敵の強大を危ぶみながら、グアームが懸念する。
「アンチ=スパイラルは直接実験場に介入できるだけの力を持ちながら、あえて座視している。
その思惑は知れないが、さすがに実験の成果ともなる要素が現れれば、警告のとおりそれを落としにくるのは間違いない。
真なる螺旋力が覚醒したとき……映像の多元宇宙で人口が百万人に到達したときと同様、奴らは動き出すッ!
人類殲滅システムを発動させ、あるいは多元宇宙で揃えた手勢を送り込み、覚醒者たちを根絶やしにするだろう!」
「なんと、それではまるで意味がないではないか。せっかくの成果が殺されてしまっては、実験が気泡と化してしまうぞい」
グアームの指摘に対し、ルルーシュは不敵に笑って返す。
「構いはしないさ。真なる螺旋力覚醒者など、我々にとっては保護する価値もない、ただの餌に過ぎん。
狙いはあくまでも、真なる螺旋力覚醒者を出しアンチ=スパイラルを誘き寄せること!
覚醒者を含め、現在実験場に残っている連中は、それだけで役目を終える。同時に、我々の目的も達成されるのだ」
「……で、目的が達成されアンチ=スパイラルが降臨なさった。そっからどうするのさ?」
苛立ちを募らせるアディーネが、再度問い直した。
ルルーシュも、満を持して回答を口にする。
「交渉するのさ。アンチ=スパイラルとな」
本作戦の終着点とも言える発言に、しかし周囲の反応は薄かった。
予想される反論を先んじて、ルルーシュが説明を続ける。
「現状、我々にロージェノムのような多元宇宙を渡す術は残されていない。当然、追うのも不可能だ。
唯一奴を追うことができるとすれば、此度の実験を察知することができ、
だからこそロージェノムと同等かそれ以上の技術を持つだろう、アンチ=スパイラルだけだ。
我々は彼らの助力を受け、ロージェノムを捕獲する。同時に、俺が帰る術も手に入るという寸法だ。
実験を進め成果を出すことは、アンチ=スパイラルとの直接交渉に持ち込むための段取りにすぎない。
先ほども言ったとおり、アンチ=スパイラルは我々の外敵というわけではないからな。交渉は可能だ。
互いにロージェノムという共通の標的を持てば、共同戦線を張ることだってできる。
アンチ=スパイラルにとって目下の害意はこの実験だが、ロージェノムが今後も実験を続けるだろうことは予期しているはずだしな。
我々の協定を受け入れるか、という心配についても無用だ。なにせ奴らは、既に異なる宇宙の人間を手勢に加えている。
アンチ=スパイラルが自分たち反螺旋族のみで行動するお堅い種だというならともかく、つけいる隙は既に見えているのさ」
間断を許さない壮絶な論述に、グアームが、アディーネが、チミルフが唸りを上げる。
が、
「だが、それとて机上の空論だ」
ただ一人、神速のシトマンドラだけは――ルルーシュを絶対に認めんと言わんばかりに食い下がる。
「我々も、そして貴様も、資料の中でしかアンチ=スパイラルを知らん。
奴らが貴様の言うとおり動くと、交渉が成り立つと、絶対に上手くいくと言い切れるのか!?」
激情を伴う、獣人のエリートとしての主張。
ニンゲンを認められない、王の裏切りを未だ拒もうとする忠誠心が、孔雀の羽ではなく猛禽の爪となって襲い掛かる。
しかし――ルルーシュとて後退するわけにはいかない。ここは徹底的に抗う場面だ。
「言い切れるわけがないさ。俺だって、全知全能の神を自称するつもりはない。だが、俺が導き出す答えはこれのみだ。
あとは協定を結ぶ条件に含めたとおり、『俺を信じろ』としか言えないな。決めるのはおまえたちだ、螺旋四天王ッ!」
ギアスを用いず、言霊に宿した説得力のみで、シトマンドラを屈服させんと挑みかかる。
両者の視線が交差し、火花を打ち鳴らし、睨み合いが続き――
「……くっ」
――決着は、シトマンドラがルルーシュから視線を背けたことでついた。
「他に反論する者はいないか? ならば決まりだ。実験……いや、儀式の続行を――」
「いや、ちょいと待ってくれるかのぉ」
シトマンドラを言い負かしたことにより決着したかと思われた、矢先。
グアームの短い挙手が、ルルーシュの意向にさらなる待ったをかける。
「まあ、たぶんこれから語るつもりだったんじゃろうが……それを聞くまでは納得はできん。
ルルーシュよ。おぬし、真なる螺旋力覚醒者を出しそれを餌にすると言ったが……いったいどうやってじゃ?
ロージェノムが逃げた直接の原因はアンチ=スパイラルの警告じゃろうが、奴にとっても今回は布石のつもりだったんじゃろう?
餌となりうるほどの覚醒者など、本当に現れるのか? 儂は、見込みすらないと考えるんじゃがの」
グアームのもっともたる問いかけに、ルルーシュは、
「たしかに、現状のまま実験を推し進めたとしても、狙い通りの成果は得られないだろう。だが」
狡猾に口元を緩め、悪の首領を思わせる歪んだ表情でもって、反論を告げる。
「それはこれまでのロージェノムのやり方が悪かっただけにすぎん。
奴は殺し合いという下地だけ作り、後は自然の赴くままに状況の変化を待っていたが、俺から言わせれば生温い。
資料を見てわかったが、螺旋力の覚醒というのは俺たち人間でいうところの火事場の馬鹿力に類似するものがある。
土壇場で見せる人間の力の発揮、度を越えた気合と根性といったところか。まったく馬鹿馬鹿しいが。
しかしもしそうなら、実に簡単だ。人為的に覚醒を促すことも、そのための鍵を用意することも、全て問題ない。
ロージェノムが羨望の対象としていた世界……そこでアンチ=スパイラルを倒しうるほどの螺旋力を得た人類。
彼らが経験したものと同等の逆境、つまりは『試練』を、こちらが事前に用意し、与える。手順はそれだけだ」
グアームから提供された情報を、時間をかけて吸収した結果、ルルーシュは螺旋力に対する認識を大きく改めた。
その結果導き出したのが、自作の試練を与え、作為的に螺旋力の覚醒を狙うという作戦だ。
螺旋王は参加者たちが自ら歩み、進化を遂げる可能性に期待したのだろうが、ルルーシュに言わせれば実に生温い。
クライマックスとは、演出家がいるからこそ映えるもの……螺旋王はそれを怠ったのだ。
「……そのやり方で餌ができあがる確率は?」
「なんとも言えないな。これについても、最終的には『俺を信じろ』としか言えん」
「ふうむ……では、具体的にどのような試練を与えるつもりじゃ?」
「現状生き残っているのは、皆それなりに螺旋力覚醒の可能性を持ち得る者たちだ。
最終的に誰が生き残ってもいいが、決して絶望しない意志の強い者がいいな。
一人ではなく、団体で残ったとしても問題はない。むしろ好都合だ。絆は力となるからな。
タイミングとしては、殺し合いに乗った参加者が全滅し、希望を持つ者だけが残った段階。
その時点でこちらが、実験場に試練と成り得るファクターを投入する。明確に言えば『敵』さ。
その役割はそうだな、残った参加者たちの戦力にもよるが……チミルフとウルフウッドが最適だろう」
「はぁ〜っ!?」
ルルーシュが語る試練の全容に、今までろくに会議に参加していなかったウルフウッドが、声を荒げた。
「なんやもやしっ子、おんどれはこのワイに、企てのための駒なれっちゅーんか?」
「とんでもない。俺たちはあくまでも対等。従属の関係にはない。協力してほしい、と言っているだけですよ」
ウルフウッドにだけは、礼儀を弁えた学生として振舞うルルーシュ。
ウルフウッドとしてはそのカマトトぶった態度が気に入らなかっただろうが、それとて言葉で言い包める自信はある。
それに――いざとなれば、ギアスも有効だ。
「あなたが為そうとしていることは、チミルフから聞いています。
参加者たちを殺す……参加者たちに試練を与えるというのは、目的としても食い違ってはいないでしょう?」
「そやな。けどワイがそんなんで納得すると思うてんのか? ワイは、尾っぽ振るうんが気に食わん言うてるんや」
「尾を振る必要なんてありませんよ。むしろ振っているのはこっちだ。
煙草も、首輪も、この先の身の安全まで――あなたを縛り付けるものはもうなにもない。
それでも気に入らないというのであれば、あなたの望むままになるよう、譲歩もしますよ。
ここでの平和な暮らしを約束しろでも、今すぐ実験場に戻せでも、なんなりと。
あいにく俺と同様に元の世界に帰るという願いだけは、すぐには叶えることができませんがね」
依然、穏やかな様相でウルフウッドと面向かうルルーシュ。
ウルフウッドといえば、激昂とも憤激とも言えぬ、相手を怒らせることを目的にしたような珍妙な表情で、ルルーシュを睨む。
ポーカーでも楽しみたいのか、笑顔という名の鉄面皮を崩さないルルーシュには、さほど効果もないようだったが。
「……ケッ」
やがてウルフウッドの側が折れ、いけ好かないといった調子で不貞腐れた。
一見して、ただのチンピラのようにも思えるこの男。
その内情は未だに窺い知れないが、だんだんと理解が追いついてきた。
使い潰すことも、それほど難しくはないだろう……とルルーシュは分析する。
「んで、結局のところどうするんじゃ? 当面の間は、実験の成り行きを見守るということでよいのか?」
「いや、その前にもう一手、打っておきたい手がある。頭を休めるのは、それからだな」
会議も終わりが見え始めた頃、ルルーシュは新たな策を発案する。
(参加者に試練を与える……これを遂行する上で、ぜひ手に入れておきたい駒だ。
現状入手可能な駒の中で、試練を与える側としては最も適任と判断できる人材の確保。
ないとあるとでは大きく違う。だからこそ欲しいぞ。ああ、絶対に手に入れてやる――ッ!!)
長い長い会議を経て、大きく唸りを上げるルルーシュ・ランペルージの顛末。
舵は既に、ルルーシュの手の中にある。
あとは、これをどちらに切るか。
「ああ、それから」
「うん? まだなにかあるのか」
「いやなに、大したことじゃないさ。ちょっとしたわがままなんだが……『ゼロ』のスーツの予備はないか?
今後こういった活動を続けるにあたって、もやしっ子と言われてしまうような外見では締まりがないからな」
◇ ◇ ◇
「……なるほど。そして白羽の矢が立ったのがこの儂、というわけか」
――そして、現在に至る。
東方不敗の召集を果たした場所は、ルルーシュたち同様、主不在の王の間だ。
ルルーシュを筆頭とした面々はそこで東方不敗にこれまでの経緯を説明し、彼を勧誘した。
東方不敗マスターアジア。人類殲滅を掲げ、実験場においても生き残りを目指し、元の世界への帰還を目指す者。
その武力は詳細名簿やチミルフの情報からも窺い知れ、現生存者の中では間違いなく随一だと、ルルーシュは判定した。
しかし、彼が東方不敗に着目した理由は、単純な戦闘力だけの留まらない。
東方不敗。またの名をマスターアジア。本名は誰も知らない。そんな老人が持つ、もう一つの肩書き。
それこそが、ドモン・カッシュが尊敬を意を込め日々唱えていた――『師匠』という称号だ。
若者に試練を与え、道を解き、進化を促す。
現在の本人の思想とは食い違えど、東方不敗は指導という分野にも秀でた正に好条件を揃える人物、キーパーソンとなり得る。
彼が動かせるか動かせないかでは、実験終盤に想定している山場にも、大きく差が出るだろう。
故の勧誘……ギアスという奥の手も抱えながら、ルルーシュは東方不敗に返答を求める。
「どうです? 悪い条件ではないと思いますが。貴方としても、元の世界に帰れないのは困りものでしょう」
「うむ、確かに。よかろう! ゼロ、いやルルーシュ・ランペルージよ。この東方不敗、貴様の策に一枚噛ませてもらうとしよう」
返ってきたのは、思わぬ即答だった。
期待していた答えではあるが、さすがのルルーシュも怪訝な表情を浮かべる。
フルフェイスのマスクに覆われた顔は悟られることもなく、心中にて東方不敗の心理を探る。
(なんだ、この決断の速さは? いくらなんでも速すぎる……あたかも疑心を植えつけろ言わんばかりの即決だ。
確かに東方不敗と俺たちの利害は一致するが、だからといってこうも容易く他者の提案を呑むなど、ありえるか?
……ない。十中八九、策謀をめぐらせているだろうことは間違いないな。この老人は、ただの筋肉馬鹿というわけでもない。
聡明だからこそ、心してかからねばならんか。ああ、だがこの場はこれでいい。対処はまた後に、もっとこいつの見極めてからだ)
疑問を抱くものの、それに対する即解が出てくるわけでもなく、ルルーシュは東方不敗への警戒心を強めるだけに留めた。
この老人は魅力的な駒ではあるが、チミルフのような単細胞の武人ではない。
それだけに、様々な危険を孕む。危険を孕んででも、次のフェイズへ進まなければならなかった。
「話が早くて助かりますよ。では、ひとまず場所を移しましょう。
実験場の凍結を解除し、儀式としてのリスタートを切るためにやらなければならないこと。
その具体案を、会議の場にて発表します。貴方の出番はまだ先でしょうが……ご尽力、期待していますよ」
「フフフ……任せておけい。東方不敗の名に恥じぬ仕事をしてやるわ」
ルルーシュ、東方不敗、共に不敵な笑みを零し、反逆を為すための企ては次なる一歩を刻む。
◇ ◇ ◇
場所を移し、再び会議室。
東方不敗を加えた一室にて、三人の人間と四人の獣人が集い、今後の計画を確認する作業に入る。
――既に参加者の枠を外れつつあるルルーシュ・ランペルージ、ニコラス・D・ウルフウッド、東方不敗の首に、枷はない。
螺旋王がそう仕込んだように、首輪後部のネジ穴にドライバーを穿ち、回した結果、解除が成功したのだ。
ここが設備の整っている螺旋城である以上、解除方法はいろいろあったが、あえてネジを回すことで解除した。
回したのはウルフウッド、東方不敗の二人の螺旋力覚醒者だ。
首輪のセンサーはネジ穴に伝わるドライバーを経由し、それを握る者の螺旋力に反応し、外れる仕組みになっている。
唯一、螺旋力に覚醒していなかったルルーシュはこれを自力で解除することができなかったが、本人は特に気にしていない。
(今となっては、螺旋力は考察の対象ではあるが、俺自身がどうのこうのするほどの価値はない。
概念としてもやはり曖昧模糊だ。螺旋力を目指した螺旋王も、それを危険視したアンチ=スパイラルも、理解しがたい。
まあいいさ……ここで進めるべきは、研究ではない。実験も既に、儀式と名を変えたことだしな……)
他六名の視線を浴びる中、ゼロのスーツにマント、マスクだけは取った素顔の状態のルルーシュが口を開こうと構える。
ちなみに、どういうわけかゼロのスーツを纏っていた東方不敗には……丁重な説得の後、元の衣装に着替えてもらった。
「まず、次の第六回放送で布石となる一手を打つ。そのために必要なのが、螺旋王の擬似声帯だ。
実験場の奴らには、螺旋王が既に存在しないという事実を悟られてはいけない。殺し合いに集中させるためだ。
加えて、次の放送では参加者たちに実験場に設けられたタイムリミットを告知する。
第六回放送の時点では……ちょうど残り十二時間か。いい按排だ。
危機感を植えつける意味としても大いに効果的であり、また告知のタイミングとしてもベストと言えるだろう。
そして、発表する死亡者の中に俺、チミルフ、ウルフウッド、東方不敗の四名も加える。
参加者たちには俺たちを故人として扱ってもらい、余計な詮索を与えないようにするんだ。
ウルフウッドや東方不敗は、殺し合いに乗った者として危険視していた奴もいるからな。
そういった心配の種がなくなったと知れば、より脱出のために動き出すことだろう。
希望を信じ、脱出策を模索する。その衝動は螺旋力の発揮に繋がり、我々の思惑通りに進む。
実験場には、シータやヴィラルといった障害がまだ残っているだろうが……彼らには尖兵を担ってもらおう。
現時点で意欲的に殺し合いに乗っている者たち、それすら越えられないようであれば、初めからこの策に望みはない。
彼らは現状の危難を全て乗り越えてもらい、己の螺旋力を研磨してもらう。
そうやって生き残った者に対し、我々が最後の試練を与え、螺旋の境地を見い出し、儀式は完成される!
では、要点を纏めよう」
ルルーシュは自身の考案する作戦をまず論に移し、次にそれらを纏めていく。
◇ ◇ ◇
【Phase1 第六回放送】
螺旋王の擬似声帯を用い、螺旋王として放送を行う。螺旋王消失を参加者に悟らせず、実験に集中させるため。
ルルーシュ・ランペルージ、ニコラス・D・ウルフウッド、東方不敗、怒涛のチミルフは死者として告知する。
同時に、実験場に設けられたタイムリミット(螺旋王が創り出した世界の存続限界)も告知する。
参加者たちに危機感を植え付け、横道に逸れることのないよう意識を脱出に固定させるため。
【Phase2 第六回放送以降】
基本的には傍観を貫く。この段階ではまだ、こちらからの干渉は行わない。
ありえないと想定してはいるが、もし試練を与える前に真なる螺旋力覚醒者が出るようなら、逐一対応。
プランとしては、現生存者たちに現存マーダー全員を撃破してもらい、まずは不安要素を除去。
その後自分たちの手で脱出に勤しんでもらい、頃合を見計らったところでチミルフらを投入。
試練……アンチ=スパイラルにも匹敵する最上級の窮地を与え、参加者たちの螺旋力覚醒を促す。
【Phase3 試練投入後】
その段階で残っている参加者たちの状態にもよるが、試練のレベルは強すぎても弱すぎてもいけない。
参加者たちが絶望を覚えてしまうようなら失敗であり、抗い続けたとしてもその先に螺旋力の覚醒がなければ無意味だ。
想定している投入戦力はチミルフ、ウルフウッド、東方不敗だが、試練のレベルは状況により随時再考案。
また、投入した戦力はこちらでいつでも回収できるようにしておく(ウルフウッドや東方不敗との協定のため)。
【Phase4 真なる螺旋力覚醒後】
目論みどおり真なる螺旋力覚醒者が現れ、アンチ=スパイラルが干渉を為してきた場合、その干渉の仕方により対応。
資料の中にあった人類殲滅システムが発動されたとしても、直属の手勢が乗り込んできたとしても、されるがままにはならない。
即時こちらから交渉の意を伝え、アンチ=スパイラルが応じるの待つ。これが為せなければ、計画は失敗に終わる。
餌となった螺旋力覚醒者、それ以外の生存者については、特に処置はしない。
アンチ=スパイラルの矛を受けるようであれば捨て置き、邪魔となるなら全力で排除する。
不測の事態はいくらでも想定できるが、アンチ=スパイラルの資料が少なく、これ以上の行動が予測できない以上、そこは容認する。
【Phase5 アンチ=スパイラルとの接触後】
無事アンチ=スパイラルとの交渉までこじつけられれば、あとはルルーシュの手腕に託される。
螺旋王失踪の旨、その心理、今後も実験を続けるだろう意を伝え、互いに利害を一致させる。
その上で協定を結び、一時的にでもいいので多元宇宙を航行する術を得る。
その後はこの同盟も解散。螺旋王を追い復讐を果たすも、元の世界に帰還するも、各々の判断だ。
◇ ◇ ◇
アメと鞭を心がけ、合理的に実験の進捗を図る。
ルルーシュが立てた道筋は、必ずしも成功を呼ぶとは限らず、不安となる要素もふんだんに含んでいる。
だが、これが現状考え得る最善の手であり、唯一の策でもあることは、この場にいる誰もが認めた。
だからこそ、乗るしかない。数値としての確率も不明瞭な、金箔を塗った泥製かもしれなぬ方舟に。
「他に質問等はあるか?
……ないようだな。では、これより作戦行動に入る。
それぞれの任に戻り、連絡は怠らないよう心がけてくれ」
ルルーシュ・ランペルージ、ニコラス・D・ウルフウッド、東方不敗、
怒涛のチミルフ、流麗のアディーネ、神速のシトマンドラ、不動のグアーム。
七人の同志たちによる試みは、基盤となる七つの意を固め、今ようやく始まる。
◇ ◇ ◇
(なんや、けったいなことに巻き込まれたなぁ……)
会議が終局を向かえ、これから志を同じくすることになる七人の同志たちが、それぞれ席を立っていく。
自分以外の六人は皆、胸中までは知れずとも、血気盛んな色を表情に灯していた。
それに比べれば、己の心のなんと空虚なことか。
つい、などという理由で巻き込まれ、特に考える暇も与えられぬまま、同志に加えられたこの身は、
今後どこに向かい、どこに向かうのが正解なのか。
(……試練、か。やること自体は変わりない。人間を試すっちゅーことやからな)
流されるがままに首輪を外してもらい、後の生も約束された幸福な男――ニコラス・D・ウルフウッド。
彼は自分の存在意義について疑問を抱き、しかし考えてすぐに、嘲笑を漏らす。
――人間を、試す。
――ヴァッシュの理想に、挑む。
そう志した矢先、手段としての人間脱却を視野に入れ、耽っていたら、こんなところまで来てしまった。
ウルフウッドの道を説いてくれたチミルフは、どういうわけか人格を豹変させ、ルルーシュとかいうもやしっ子の駒扱い。
正直失望、いやそれすらも通り越し笑い話とも思えたが、これもまた彼の天命だったのだろう。
逡巡に要した間は長く、結局時間も取れないままルルーシュに邪魔される形となったが、これでよかったのだろうか。
人間をやめるべきか、人間を続けるべきか。
結果としてウルフウッドが歩んだのは後者の道だが、自らの意志で選び取ったわけではない。
人間をやめてまで力を得る必要ももはやなくなったが、本当にこれでよかったのか、気持ちの整理はまだつかない。
(……ま、時間はあるわな。もう一度じっくり考えてみんのも、ありやろ)
だがこの志はきっと、変わりはしない。
あのとき映画館で誓った挑戦は、絶対に放棄しない。
ウルフウッドにとって、箱庭の殺し合いはもはや実験でも儀式でもなんでもない。
これは勝負――ウルフウッドとヴァッシュ、意地を違えた二人の男による、信念のぶつけ合いだ。
そして、実験場に残された哀れな子羊たちとの、生死をかけた本当の意味での勝負でもある。
(生きるか死ぬか。どこまでいっても世の中はそれや。
もやしっ子がなにたくらんどろうが、ワイがやりたいことはやれるっちゅーわけや。
なら、乗っかったるわい。
生きて、生きるために、外道牧師として生与えるために、試練役でもなんでも請け負うたるわ)
状況や形式は大いに変わったが、根本はそんなに変わらなかった、とウルフウッドは苦笑する。
適任とも言える配役を、諸手を振るって歓迎した。
「ウルフウッド。実験の進捗まで時間が余るが、その間おまえはどうする?」
なら、今はこの場にいてもいいだろう――とウルフウッドが思い描いたとき、ルルーシュから声をかけられた。
ウルフウッドはにやついた顔を作り、気だるそうに席を立ち上がる。
「そやな……ま、やることもないし、適当にその辺ぶらついて、腹減ったら飯食って、眠くのうたら寝るわ」
友好的な素振りは見せず、素っ気ない態度で会議室を退室しようとする。
だがその行く手を、同じく席を立ち上がった東方不敗が塞ぐ。
「ふむ。試練を与える側の者としては些か覇気が足らんな? どうだ?
貴様が望むなら、流派東方不敗としてモビルファイターのノウハウを叩き込んでやるが?」
東方不敗の突拍子もない提案に、ウルフウッドは顔を顰める。
わざとらしく作った不快の表情で返答を済ませようとして、しかしルルーシュが、
「それはいいな。儀式が佳境ともなれば、状況の変化に合わせて機動兵器の投入も考えなくてはならない。
操縦の仕方くらい覚えておいても損はないはずだ。どうだろうウルフウッド?
ナイトメアフレームならわりと簡単だぞ。あんなものは人並みの運動能力と反射神経があれば乗りこなせる。
その点、おまえならなんの問題もない。なんだったら、この俺が直接手ほどきをしてやってもいいぞ?」
これまでとは打って変わって、フレンドリーに話題に介入してきた。
ウルフウッドはガンたれるチンピラの様相をそのままに、矛先をルルーシュへと転じると、お次はチミルフが、
「ウルフウッド、ガンメンもいいぞ。あれこそ戦士が駆るに相応しい機体だ」
チミルフ『までもが』ご自慢の愛機を勧めてきたので、
「うっさいわボケ! なんでもかんでもロボ出しゃいいってもんやないど!?
ワイにはこのパニッシャーがあれば十分じゃ! そこんとこよく覚えとけッ!!」
さすがに怒髪天を突き、露骨に喚き散らした。
三人の機動兵器乗りの勧誘から逃げるように、そのまま会議室をあとにする。
唯一の相棒たる十字架型の固有兵装を掲げ、今後突き進むだろう道に想いを馳せる。
牧師の道は、まだ分岐を終えない。
◇ ◇ ◇
「せっかくの機会だ。久々にガンダムファイトに興じるのもよいかと思ったが、嫌われてしまったようだな。
まあよい。待ち時間を棒に振るうのも惜しい。ここは螺旋王の残した手勢を相手に腕試しというのも一興か。
おお、そうだ。怒涛のチミルフよ。なんなら儂の相手をせぬか?
同じ武を極めんとする者同士、一度本気の拳で語り合ってみるのもよかろう」
「む……実に魅力的な申し出だが、俺が王の側を離れてしまっては……」
「遠慮することはないさチミルフ。存分にやるといい。ただし、計画に支障をきたすような真似はするな。
気乗りするあまり体を潰してしまっては、あまりにも滑稽だ。東方不敗、貴方もほどほどにお願いしますよ」
「心得ておこう。では参ろうか、我が新たなる好敵手よ。カーッカッカッカ!」
――偽りの姿としての茶目っ気を見せつけ、東方不敗もまた、チミルフを連れ添い退室する。
ルルーシュによる突如のスカウト、その内容を聞いてみれば、実に心が躍る。
……ああ、実に僥倖だ。
ルルーシュ・ランペルージとの出会いは、東方不敗にとって天恵とも受け取れる。
全ての情報体制が整う舞台裏、目前とする真実の糸口、限りなく近く手が届く範囲に、東方不敗の望むあらゆるが用意された。
元の世界への帰還が果たせないかもしれない――それがなんだというのか。憂う問題でもない。
(ドモン、それにカミナよ……少々こずるい手で戦線を離脱する形になってしまったが、恨むでないぞ。
貴様らが生き残り、真なる螺旋の境地に至るならば――そのときこそ、この儂の手で葬り去ってやろう。
おっと、容易く葬ってしまってはならんのだったな。馬鹿弟子共から限界以上の力を引き出せねばならん)
螺旋城を練り歩く間、東方不敗は踊る心が漏れぬよう、刻む足音が高鳴らないよう注意する。
チミルフとの武人としての誓いも、適当に済ませておけばいい。
具体的になにをされたかはまだ情報不足だが、ルルーシュの駄犬と成り果てたチミルフに、かつて感じた武勇は欠片もない。
失望といえば失望だが、しかしそれ以上に、東方不敗は今後相対することになるであろう夢幻の存在に想いを馳せた。
(最終局面にて、ルルーシュの想定どおり事が運ばれるか否かは……神のみぞ知るといったところか。
それは彼奴の言うとおり、最良の手であり唯一の策には違いない。だからこそ儂も尽力しよう。
そして、掴んだチャンスは決して手放しはせん。ああそうだ。我が新たなる悲願が、早速叶いそうなのだからな)
東方不敗の瞳が見据える対象――それは元の世界にあらず。
消えた螺旋王とて、今となっては単なる逃走兵に他ならない。
東方不敗の心魂に居を置くは、反螺旋族というあまりにも大きすぎる存在だった。
アンチ=スパイラル。
人類の進化を恐れ、複数の宇宙を統べし存在。
過度の発展を遂げようとする者たちを戒め、均衡を維持せんと務めるその所業は、正に調停者と謳うに相応しい。
人類が進化の果てに露呈した浅ましき姿、慈しみを忘れた先に残りし崩壊を知るからこそ、共感の念を抱いてしまう。
東方不敗は地球を浄化してでも、人類を殲滅してでも、調律こそが正義であると謳った。
アンチ=スパイラルは言わば、東方不敗の志を宇宙規模で実行する偉大なる先人だ。
憧れにも似た若い感情が、恋情にも似た焦げるように熱い思いが、東方不敗に新たな野望を齎す。
アンチ=スパイラルと肩を並べんとする、大いなる野望を。
彼らと対等になり、ゆくゆくは彼らをも――と。
(待っておれ、アンチ=スパイラル。儂は必ず、おまえたちの下に辿り着く。
そのためならば、斯様な若造にとて使われることを厭わん。それほどの悲願だ。
フフフ……しかしながら、儂もまだまだ若い。この歳にして己に青さを覚えるとは思わなんだ)
自嘲気味に、しかし心底楽しそうに、東方不敗は夢へと突っ走る老体を笑う。
金魚の糞のように歩きついてくるチミルフが、その心理を悟れず首を傾げた。
利用するのは果たして、ルルーシュ・ランペルージか、それとも東方不敗か。
いや、経緯や方法などどうでもいい。
同じ船に乗る以上、船頭を誰が勤めるとしても、辿り着く場所は決まっている。
東方不敗の望みは、まずそこに辿り着くこと……ならば、今はひとまず野心を収めよう。
アンチ=スパイラルとの橋渡しを担う者たちを弟子とし、己は師匠として、残りの生を生きるのだ。
変わらない。新しいことでもないからこそ簡単だ。
東方不敗は多くの武闘家たちの憧れである東方不敗として、師匠をやり遂げればそれでいい。
「ところでチミルフよ、勝負をするにあたって一つ賭けをせんか? 特典を設けたほうが、余興としては楽しめよう」
「む? 俺は武人として戦えることこそが喜びだが……いったいなにを賭けるのだ?」
「なに、貴様らがルルーシュに見せた資料があるだろう。儂が勝ったら、儂にもそれを見せてくれんか? 貴様が勝ったら、そうだな――」
まるで、物心ついたばかりの子供のように、
東方不敗は大いにはしゃぎ、大いに王道を往く。
◇ ◇ ◇
ウルフウッドに続き東方不敗とチミルフが、程なくしてアディーネとグアームも退室を果たし、会議室には二人の若輩が残された。
ルルーシュ・ランペルージと、神速のシトマンドラ。
かつては支配従属の関係にも等しい間柄であった二人だが、螺旋王消失という未曾有の危機を経て、今ではこんなにも距離を近くにしている。
紆余曲折による指針の転換は、立場を同じくする二人になにを齎すのか。
(ルルーシュ・ランペルージ……いや、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。こやつとて、捨てられた存在か。
……私と、同じ……ではないな。ルルーシュは、自らの意志でブリタニアに反逆することを決意した。
それに比べ、私は……俺の、神速のシトマンドラと呼ばれた男のこの有り様はなんだ?
仕えるべき主に見放され、それを未だに受け入れられずにいる。……無様、そう、無様だ)
利用するにあたって、事前に調べ上げたルルーシュのデータを脳内で掘り起こすシトマンドラ。
ルルーシュの人生観は人間のものとしては非常に稀であり、それでいてとても過酷だ。
王族に生まれた身でありながら、父に裏切られ、母を殺され、残された妹のためだけに自らを逆境に置く。
富や地位、約束された栄光を売り払ってまで、ルルーシュは復讐と妹の未来のために生きることを選択したのだ。
王を敬う側の立場にいるシトマンドラとしては、同情を通り越して気概すら感じてしまう。
自ら逆境を背負い、されど果敢に挑もうとするその根性。
人間らしい美学の裏に持つ、最優先事項以外は苔の価値ほどもないと切り捨てる覚悟。
実験の場においても、彼は妹の下に戻るためにただひたすら奔走し、状況が変わった今でも諦めてはいない。
ただの悪徒にあらず、彼はまるで――そう、彼こそ、
このルルーシュ・ランペルージこそ、『真なる螺旋力の覚醒』に最も近い存在なのではないか――?
シトマンドラはルルーシュの人間性を計り進めていく内に、いつしか本気でそう思うようになっていた。
本人もどこまで自覚しているかはわからない、淡い期待。だがそれは、決して心酔に値するものではない。
だからこそ、シトマンドラがルルーシュに頭を垂れる時は『まだ』訪れない……訪れる時が来るかも、不定だ。
(これが、反逆の正道というものか。牙を突きたてんとする獣としては、我ら獣人などよりもよっぽど……)
エリートにしてナルシストでもあるシトマンドラが、認めつつある。
ルルーシュに備わった魅了の眼力ではない、彼自身の能力が、シトマンドラの視線を誘う。
この会議室をなかなか抜け出せないのも、ルルーシュがまだここに残っているからか。
「シトマンドラ、今後ウルフウッドと東方不敗が多元宇宙や実験の詳細な資料を求めてくるかもしれないが、
まずい部分は上手く暈しておいてくれよ。特に、俺のギアスについては知られてはならない。
あの二人を抱え込む上での危険要素はまだ解消されておらず、だからこそ切り札は取っておきたいからな。
特に東方不敗は知力にも長けた…………シトマンドラ? 聞いているのか、シトマンドラ?」
「……あ、ああ」
ルルーシュの言葉を受けて、シトマンドラは自分がしばしの間呆けていたことに気づく。
体裁を整えるように屹立し、そそくさと退室しようとする傍ら、同様にルルーシュも腰を上げた。
「フッ……疲れているんじゃないか? なんならしばらく養生していてもいいんだぞ。肝心なときに倒れられて困るのはこっちだしな」
「見縊るな。貴様こそ、実験場で負った傷や疲労はちゃんと回復しておけ。ただでさえ普通のニンゲンより体力がないようだしな」
爽やかに気遣いをかけてくるルルーシュに対し、シトマンドラは照れ隠しとも思える反論を返す。
皮肉めいた言い回しはルルーシュの失笑を買うだけで、言葉の暴力にまでは至らない。
心理の安定しないシトマンドラを知ってか知らずか、ルルーシュはさらなる会話を試みる。
「……やはり、決心がつかないか?」
「なにがだ」
「螺旋王さ。かつての主を追うことに、まだ抵抗があるんじゃないか?」
――不意に心を抉られ、シトマンドラの足が止まった。
扉を潜る一歩手前で静止したシトマンドラは、顔を背けたままルルーシュに言い返す。
「……未だ信じられない、受け入れられないという気持ちは、確かにある。私は、それだけ王に心酔していた。
だがな、グアームやアディーネの気持ちがわからないわけでもないさ。失望や憤怒、憎悪とて、この心にはある。
……いや、だからか。自覚しているからこそ、私はこんな調子なのかもしれないな」
力のない声で、シトマンドラは己を理解する。
崇め、称え、憧れ、心奪われていた。
螺旋四天王神速のシトマンドラとしての唯一の生き方をもがれ、前がわからなくなってしまった。
見えなくなった目標を探すことが、正しいかどうかもわからない。
苦しい、と弱音を吐きたくもあった。
四天王の肩書きを捨て、ただの孔雀型の獣人に戻るのも一つの選択か、とまで。
「なんなら、チミルフと同じようにギアスをかけてやってもいいんだぞ? そのほうが、心の安定にはなるだろう」
人間としては不完全であり、獣にもなりきれない存在からこそ、葛藤が心を蝕む。
魔眼の所持者は、そんな脆弱な心に囁きを与える。
「仕えるべき主人が消えて苦しいのなら――俺がそれを書き換え、いくらでも安心させてやる。
無理強いじゃない。俺とおまえは対等だ。厚かましいニンゲンの気配り、と思ってくれて構わない。
答えるのも、答えないのも、おまえの自由だ」
シトマンドラは、目標なしには生きていけない。
心酔は、心の安定を促すための、シトマンドラとしての個を生かすための方法だった。
その安定がまた、不自由なく得られるというのであれば……
「お断りだ」
実に魅力的な提案、と感じた本心を伏せて、
シトマンドラはプライドを保ち、まだしばらくはルルーシュを対等に見たいと願った。
「そうか」
シトマンドラの返答に、ルルーシュはただそれだけを返す。
……本当に、おかしな関係になったものだ。
おそらくは両者共に思っていただろう心の声を、表には吐露しないまま、道を違える。
会議室を出て、ルルーシュとシトマンドラはそれぞれ別の通路を歩み、一人となる。
(螺旋王……私は、貴方を)
自分を捨て去った主への回答は、まだ模索中だ。
だが、ルルーシュという存在があるからこそ、シトマンドラは立ち止まらない。
そういう意味では、ルルーシュはシトマンドラにとっての特効薬なのかもしれない。
服用を繰り返せば死すらも招く、依存度の高い危険なクスリだが。
(追いましょう。追いついた、後は――)
振り返らない背中越しに、ルルーシュの凍てついた視線を感じたような気がしたが、
やはりシトマンドラは立ち止まらなかった。
◇ ◇ ◇
実験は儀式と名を変え、続行される。
殺し合いという基盤は変えず、アンチ=スパイラルを誘き寄せるに適した餌となるよう、熟成を促す。
故に、ただ眺めているだけでは駄目だ。全てが見渡せる頂の座につこうとも、手入れを怠ってはならない。
さしあたっては、理解だ。
螺旋王が企てた実験プログラムの全容、その随所に至るまでを理解し、改良する必要がある。
他六人に提唱した作戦は本筋でこそあるが、まだ不安な部分をふんだんに含んでいる。
それらを取り除き、策として隙のない、完全なものに仕上げるため。
ルルーシュ・ランペルージは、『理解』を試みる。
螺旋王がなにを目指し、どのように歩み、どこへ辿り着こうとしたのかを。
「理解は幸せだ。貴様の残した思想、受け継ぐつもりはないが、探らせてもらうぞロージェノム」
螺旋王が永遠の空席と定めた玉座に居座り、ルルーシュはグアームより与えられた資料を再度洗い直す。
参加者の側に立っていては絶対に暴くことのできなかった『裏側』を、それを用意した螺旋王の心情含め、考察する。
理解は訪れるだろうか。やってみなくてはわからない。
◇ ◇ ◇
まず、螺旋王ロージェノムについて。
実際に面と向かって対話する機会はついぞ訪れなかったが、彼という人柄は十分に推測することができる。
アンチ=スパイラルに敗れ、人類の進化を一時は諦め、妥協してでも存続の道を選び取った、哀れな敗残兵。
そんな彼が、偶然舞い込んで来た技術を発端とし、多元宇宙に羨望を抱くようになってしまった。
羨望の対象たる世界――アンチ=スパイラルが、人間の手によって唯一敗れた、奇跡の宇宙だ。
その世界の螺旋王はアンチ=スパイラルとの決戦で絶えたが、その生き様は実に羨ましいものだったのだろう。
だからこそ彼は、螺旋族の復興を目指した。だが彼には、直接アンチ=スパイラルに反逆するだけの気概がなかったのだ。
戦士としてよりは科学者として優秀であったばかりに、利を追求して動き、導き出した策が実験だ。
欲しかった玩具を買ってもらう親友を羨み駄々を捏ねてみた……が、往来でそれをやるだけの度胸はなかったというところか。
それでも彼は羨望をやめられず、多くの敗北を抱え、何度も何度も悪夢に浸るのだろう……これから先も、ずっと。
「放置しておくのも滑稽だが、終わらせてやるのはせめてもの慈悲かもしれんな」
次に、多元宇宙について。
もう一人の自分、もう一つの可能性、それらが無限大に膨れ上がり、宇宙の体系となる。
正直、ルルーシュにはいまいち理解しがたい論ではあった。だが実在する以上、合理的に解釈するしかない。
実際、残された資料の中には、ルルーシュが今後辿るだろういくつかの可能性が記されていた。
チョウフ基地を舞台とした藤堂奪還作戦。神根島でのユーフェミアとの邂逅。スザクとの共闘による澤崎軍撃破。
学園祭での行政特区日本立ち上げ宣言。同一の者による日本人虐殺宣言。トウキョウ租界での大規模作戦。
全て記憶にはない、これからルルーシュが歩むかもしれない未来の姿が、多元宇宙の証拠として映し出される。
実験にも参加していたマオというルルーシュ以外のギアス能力者。ユーフェミアに対してのギアスの暴走。
オレンジの予想外すぎる復活や、何者かによるナナリーの拉致も懸念だが、いま焦点とするべき部分ではない。
多元宇宙理論の肯定……ルルーシュが刻むのは、それだけだ。
「決められた未来を辿るなど、愚にも等しい。この事実は情報として持ち帰り、後の活動に役立てようじゃないか」
次に、実験について。
螺旋王が新世界の創造を為すにあたって、最も確実な策が、殺し合いによる螺旋力の促進だと思われる。
なぜ、殺し合いだったのか。なぜ、こんな統制されたゲームのようなルールを敷いたのか。
全ては、多元宇宙の実態を知る要因ともなった『前例』……精霊王が企てた、私怨目的の殺し合いによるところが大きい。
螺旋王は精霊王の行った殺し合いに螺旋力覚醒の片鱗を見い出し、だからこそ影響を受け、模倣したのだろう。
しかしながら、精霊王の殺し合いは結果としては失敗だ。その失敗を、螺旋王は有益と見たのか否か。
……解は出したのかもしれないし、保留としたかもしれない。それも踏まえての、『実験』という言葉に違いない。
殺し合いというやり方がベストかどうかを調べるため、この実験はあらゆる意味での第一歩だったのだ。
「精霊王がいなければ、螺旋王もこのような愚策は思いつかなかったかもな。悪い意味で、影響を受けやすい性格だったようだ」
次に、舞台となる実験場について。
この箱庭も、精霊王の例を頼りにいろいろと工夫した結果のようだが、そもそもこの『世界』はなんなのか?
螺旋の王と呼ばれる所以でもある、ロージェノムの強大な螺旋力。それを母体とした世界の創造。
螺旋力はあくまでも素材であり、実際に世界の創造を成したのは、ある日螺旋王の下に飛び込んできた遥か未来の発明品だ。
その発明品が生まれた世界の科学力……まで視野を伸ばすとさすがに思考が追いつかないが、螺旋力が素材に過ぎないというのは絶対である。
四十八時間が限界の狭苦しい世界。存在限界は、結界やループ、アンチ=スパイラルからの隠蔽などの仕掛けによる副産物か。
この実験場もまた、殺し合いというやり方と同じく、この形が最良かどうかを図る実験対象だったのだろう。
「やはり、螺旋王は科学者としては優秀だった。地道を心がけることは大成に繋がる……真っ当な世を生きていればの話だが」
次に、実験場に施されたシステムについて。
ループは参加者たちに逃げられないという自覚を与えるため、凍結はトラブルバスター、結界は測定と隠れ蓑を担う。
では『制限』はいったいなんの目的で組み込まれたのか? 唯一、そこだけが不明瞭だった。
内側からの結界の破壊を持ってして、螺旋王を越える真なる螺旋力の覚醒……と当てはめるのはわかる。
そこに制限という要素を加味し、参加者たちのスペックを抑制、均衡とした理由はなんなのか。
これは多分に推測が含まれるが、螺旋王は螺旋力という力の根本を、完全に知りえていたわけではなかったのかもしれない。
いや、元の世界での螺旋力については、知り尽くしていただろう。
螺旋力とは本来、螺旋族だけが持ちうる力だ。猫や戦闘機人、英霊や守護騎士などでは絶対に持ち得ない。
しかし彼らはどういうわけか、候補者としてノミネートされていることからもわかるように、螺旋力を持ちうると判断されている。
螺旋王がいた世界の螺旋力と、多元宇宙の生物が持つ螺旋力とでは、定義や本質が微妙に食い違っていたのかもしれない。
だからこそ、動物や機械であっても螺旋力覚醒の可能性を持つ。だからこそ、種族を綯い交ぜにして殺し合わせた。
となれば、この実験場において螺旋力覚醒の脈が絶対にないと言い切れるのは……チミルフら純粋な獣人だけなのかもしれない。
話は戻るが、これが制限を設けた直接の理由として成り立つわけではない。目指したのは、やはり均衡だろう。
螺旋力とは、イコール戦闘力や生命力とは言いがたく、プラスアルファとして様々な要素を含んでいる。
故に様々な種が可能性を持ち合わせ、それが制限を課さない強者たちに蹂躙されるというのは、あまりにもったいない。
実際、実験場で初めて螺旋力の片鱗を見せた小早川ゆたかなど、ルルーシュ以上に脆弱な人間だ。
不当な力に左右されない、純然たる結果を求めた答えが、『制限』だったのだろう。
「そしてこの『制限』が最適解かどうかは、やはり螺旋王としても実験段階だったいうわけか」
次に、参加者たちについて。
集められた候補者たちは、あたかも螺旋王が選り好みした面子のようだったが、実際は少し違う。
手元の技術で飼い慣らせると判断した者、可能性を感じた者、拉致自体が無理だった者、事情は様々だろう。
未来の技術を得た螺旋王とて万能というわけではなく、発見できた多元宇宙の数にも限度はあったはずだ。
選んだ、というのは確かに言葉どおりだが、中には組み込まざるを得なかった者や、捨て石同然のものもいたのだろう。
序幕の際に見せしめとなったテッカマンランス、モロトフなどその最もたる例だ。
彼は参加者とするにはあまりに可能性に乏しく、しかし見せしめとしては有用であると、そう判断されたが故の不幸か。
「やれやれ、君のことを覚えている者などもう誰もいないだろうがな。今だけは同情するよ、ランスくん」
次に、実験終盤における螺旋王の目論見について。
実験は今回が初であり、だからこそ試験的な要素を多分に含んでいたが、螺旋王もなにも端から成功を諦めていたわけではないらしい。
実験の推移をある程度は予測し、終盤起こり得るだろう事態を想定して、実験場内にいくつかのギミックを仕込んでおいた。
その最もたる例が、螺旋力覚醒者が続出するにあたって規模拡大していく戦闘、それを見越しての『お宝』だ。
アルティメットガンダム、風雲再起、ブルーアース号、グレン、ラガン、大怪球フォーグラーなどなど……。
実験場には様々な戦力が、それこそパワーバランスを崩壊させかねない量隠されており、参加者たちは終盤になるにつれ、それを発掘していった。
なぜ、終盤になって……もっと初期の頃に、それを手にする者はいなかったのか。疑問点は当たり前のように湧いてくる。
それについては、首輪に仕込まれたある機械が肝となっていたらしい。
実験場では唯一、高嶺清麿が解体に成功し、中身を取り出した首輪……その中にあった、爆弾と思しき三つの黒い球体。
清麿自身、オーバーテクノロジーの産物として検分を放棄した代物は、ただ単純な爆弾であったわけではなく、複数の役割を担っていた。
その一つが、螺旋力の覚醒によって発動される特殊電波発生装置だ。
これは首輪装着者の螺旋力に反応し、ある一定の特殊電波を放出、参加者の脳に信号を送るという仕組みになっている。
その信号とは、『ある一定方向に注意を傾ける』というもの。実験場では、その多くの矛先が各施設の隠し部屋などに向けられた。
数多の機動兵器や、パニッシャー、改造施設、フリードリヒ、ロボット兵……そういったものは、決して偶然発見されたわけではない。
参加者が持ち得る螺旋の片鱗を引き金とする特殊電波によって、意識がそちらに向き発見しやすくなるよう誘導されていたのだ。
この仕込みは実験後半、参加者たちが成長を遂げれば遂げるほど効果が現れる。だからこそ序盤は気づけず、お宝は埋もれたままだった。
そしてそれを見越したのが螺旋王であり、終盤での戦闘の規模拡大は、ある意味彼の狙いどおりだったといえる。
では、なぜ螺旋王は終盤での戦闘の規模拡大を狙ったのかという話になるが……段階、を心がけたのだと推測できる。
それについては、最後の項で考えるとしよう。
「こうやって考えてみると、螺旋王も随分と手探りに物事を進めていたようだな」
次に、六人の同志について。
視点を一時だけ外し、これからを共に生きる六人の同志たちに問題はないか、考えてみよう。
まずチミルフ。彼についてはなんら問題はない。ルルーシュに仕える忠臣として、最後まで役立ってくれるだろう。
ギアスの絶対遵守に綻びはなく、ここが実験場の外である以上、制限の影響も受けはしない。
唯一、多元宇宙の映像にあったギアスを拒む者……ユーフェミアの存在が気がかりだったが、彼女とて最後は命令を守っている。
スパンからしてみてもルルーシュのギアスが暴走する可能性はゼロに等しく、他者に打ち破られる可能性もない。
螺旋力という未知なる概念は懸念すべきだが、チミルフら獣人に至っては、完璧に覚醒の余地がないとあるので心配無用だ。
次にシトマンドラ。彼は実に内情を読みやすい。それだけに、話術によるコントロールも容易だ。
心酔していた王に裏切られ、しかし忠誠心のあまり受け入れられず、現在は葛藤に支配され、軸を失っている。
ルルーシュに対しての心象も悪い方向にはいっていないようなので、チミルフ同様効果的に利用させてもらうとしよう。
次に、アディーネとグアーム。この二人の内情はシトマンドラほど読みやすくなく、だがそれほど危惧する要素は持っていない。
二人の螺旋王が許せないという言は真実だろうし、ルルーシュに対する心象もまた悪くはない。
ただ二人とも警戒心は強いので、駒としては可もなく不可もなく、といった具合だろうか。
次に、ニコラス・D・ウルフウッド。彼の心理は実に複雑であり、簡単には読み切れない。
かつての知り合いであるヴァッシュ・ザ・スタンピードの死が大きく影響しているようだが、内情を知るには時間を要すだろう。
急に反旗を翻す可能性がないとも言い切れないため、彼の動向には注意を配る必要があった。
次に、東方不敗。彼はウルフウッド以上に警戒対象だが……当面の間は、大それた行動は起こさないだろう。
最終目的がルルーシュと同じく元の世界への帰還であるというのもそうだが、どうにもそれだけを見ているとは思いがたい。
人類殲滅による地球の浄化、自然の守護などという物騒な野望を掲げる老人に、ルルーシュの読みはどこまで通用するか。
……また、ルルーシュにはギアスという最後の切り札が残されている。
幸運にもウルフウッドと東方不敗はギアスの情報を知らないため、二人がどんなイレギュラーを起こそうとも、対処が容易だ。
そう、ルルーシュが最も危惧しなければならないのは、このいつ起こるかわからないイレギュラーであるとも言える。
想定外の事態によって番狂わせに遭うのは、もう何度も経験している。対処を怠るのは愚にもほどがある。
よって、ギアスは最後の切り札、予防線として温存。当面はギアスを封印し、知略によって駒を進めていく。
「ギアスは王の力だ。しかし、俺の力はそれだけではない。大衆にもいずれ理解させんとな。さて」
最後に、螺旋力について。
そもそも螺旋力の覚醒というだけなら、現生存者のほとんどが適合している。
が、そのどれもが、実験の成果として合格点を与えるには至っていない。不完全なのだ。
参加者の多くは、螺旋力に覚醒しても、螺旋王の用意したハードルを飛び越えることができない。
壁にぶち当たるのだ。そして現に、生存者たちは今も壁にぶつかっており、それを乗り越える策を模索している。
ここで前々項……螺旋王が戦闘の規模拡大を図った理由を探ってみると、真意が見えてくる。
戦闘の規模が拡大するということは、それだけ参加者たちに課せられる危難も大きくなる。
つまりはルルーシュが唱えた試練と同じく、巨大な逆境を持ってして、参加者にそれを乗り越えさせるといった寸法なのだろう。
螺旋王も考えていなかったわけではない、と感心し直し、同時に疑問も湧く。
終盤での戦闘の規模拡大。螺旋王の目論見自体は、ある程度は成功している。
ギルガメッシュの乖離剣エアの乱用などによって、その多くは悉く無と帰しているが、中には成果もあった。
その最もたる例が、鴇羽舞衣と藤乃静留、二人のHiMEによる戦い。
チャイルドを召喚し、制限を看破したその力は、正しく結界を打ち破らんほどの質量を持っていた。
だが、それはHiMEゆえの特殊性が為せる技なのか……螺旋王の求めた螺旋力とは微妙に食い違い、『想いの力』として、結界を破ることなく内に戻されてしまった。
そういう意味では、やはりHiMEや英霊といった多元宇宙にしかない特殊なカテゴリでは、無理なのかもしれない。
実験場の結界、殻を破らんとする螺旋力、それを為すのは螺旋力の起源たる宇宙に住まう者しかいないのではないだろうか。
おそらく螺旋王が最有力候補として据えていた少年は、ウルフウッドが早々に殺してしまった。
となれば、現時点で最も可能性があるのは……少年が『アニキ』と慕っていたカミナだろうか。
「厄介なものだな、螺旋力。研究するには奥深いテーマかもしれないが、俺にとっては七面倒くさいことこの上ない。
純粋に気合や根性と言い表せるなら楽だろうが、実態はそれらとは微妙に違う。ただ意味が近しいというだけだ。
真なる螺旋力……片鱗は既に、多くの者が見せているのだ……発揮させてやるさ、意地でもな」
ドリルは既に、カミナを初めとして全ての参加者が持っている。
あとは誰が、いの一番に実験場の天井をぶち破るかだ。
こちらが試練を与えたとしても、臆さず立ち向かってくる者……そう、それはまるで。
「ふむ。真なる螺旋力の覚醒……と何度も言い回すのも芸がないな。ここは俺が、もっと相応しい言葉を考え添えてやろう」
ルルーシュは笑み、謳うように宣言を果たす。
「天元……そう、目指すのは『天元突破』だ! 見事こちら側の試練を乗り越え、壁をぶち破ってくれたまえ! フハハハハハハハハ――ッ!!」
◇ ◇ ◇
――かくして、実験の凍結は解かれ、儀式としてのリスタートを切る。
されど当事者たちにその変調を悟る術はなく、漫然とした殺し合いはまだまだ続く。
終わりが見え、果たしてそれが本当に終わりなのかどうかは誰も知らぬまま、ルルーシュは仮初の王の座につく。
「アンチ=スパイラルについての情報が少なすぎるのが心細くはあるな。行動予測がしにくいにも難だ。
しかし現在の状況は実に魅力的と言えるだろう。帰還が成功した暁には、持ち帰れるだけの戦力を持ち帰りたいところだ。
そうすれば、ブリタニアの白兜なぞ――」
王の間。凍結の解かれた実験場の様子をモニター越しに眺めるつつ、ルルーシュは故郷に残してきた野望を思う。
ブリタニアの政治的転覆。ブリタニア皇帝を初めとしたブリタニア皇族への復讐。ナナリーの未来の守護。
新世界の神になろうとした哀れな王などとは違い、ルルーシュの抱く望みは実に人間的だ。
運命という局面で見ても、叶って然るべきささやかな願い……家族を思う人情は、ルルーシュ・ランペルージの動力源に違いない。
その枠組みには、この地でなくした親友、枢木スザクも当然含まれる。
スザクへの友情を思い出したからこそ、ルルーシュはここで、もっと早くに気づくべきだった事柄に気づく。
つい先ほど知り、ある程度までは熟知した多元宇宙理論……それが有効であるならば、この地で死んだスザクはどの宇宙のスザクだったのか。
参加者たちの多くは、同じ世界から連れてこられてはいるものの、時間軸などに微妙な差異がある。
それは別々の多元宇宙から集めた結果であり、だからこそ、この地のスザクもルルーシュの知るスザクとは別人である可能性が高かった。
言ってしまえば、ルルーシュが元の世界に帰ったとして――そこには、実験に参加させられなかった健在のスザクが残っているかもしれないのだ。
希望に駆られるがまま、ルルーシュは現在の実験の映像から視線を外し、別の映像を開く。
掘り出すのは過去の記憶だ。
第一回放送以前、場所はE-3、そこでスザクは始まり――そして潰えた。
「…………なんだと」
事実を知ったルルーシュは、思わず絶句する。
最愛の親友であるスザクが、この殺し合いで辿った道。
それはなんてことはない、単純明快な被害者の図だ。
辿ったなどというのも、言葉が足りすぎている。
スザクはただ、殺されただけだ。
この――鮫のような歯を持つ人間のなり損ないに。
「フッ……フフ…………フハハハハハハハッ! まさか、まさかこんなところに、スザクを殺した犯人がいたとはな。
俺は知らず知らずの内に道化を演じていたというわけだ。しかも当の下手人が、スザクを手にかけてやっていることといえば……」
ルルーシュは盛大に笑い声を漏らし、身をわなわなと震わせる。
込み上げてきたのは、人間味溢れる純然とした怒りだ。
逃亡した螺旋王などとは比較にならない、直接の復讐対象を得て、笑う。
愚かだった自分自身に、そしてなにより、親友を殺したヴィラルに対し――!
「貴様が信じた王は、もう既にこの地にはいないぞ!? 嫁との平穏も訪れることはない……ッ!
俺から親友を奪った代価、きっちり清算してもらうから覚悟をしておくんだなぁ……ヴィラル!!」
――ああ、やはり。
立場がいくら変われど、ルルーシュ・ランペルージはゼロ以上の反逆者には成り得ない。
彼はどこまでいっても人間であり、王でもなければ神を目指すこともなく、人間として歩む。
――天元突破を唱える、反逆のルルーシュとして。
【王都テッペリン/二日目/昼(実験場内時間)】
【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)
[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:螺旋王の残した実験(儀式)を続行。真なる螺旋力覚醒者(天元突破)を誕生させ、アンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るV」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るU」「天のさだめを誰が知るW」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残っています。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:当面は実験場の監視に務め、試練投入のタイミングを見定める。
2:同時に、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:螺旋王の擬似声帯によって第六回放送に取り掛かる。
4:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗を要注意。
5:もし終盤まで生き残り、機会があったとするならば、ヴィラルに対しスザクの仇を取る。
6:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュの臣下として務めを果たす。七人の同志の一人として行動。
1:東方不敗に手合わせ願う。来るべき試練のときに備え、自己鍛錬に励む。
2:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
3:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
4:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。
5:ニンゲンに創られたニンゲン以上の存在として、ヴァッシュに強い興味。彼の知人に話を聞きたい。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっています。(ただし手段は問わない)
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人としての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
【流麗のアディーネ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:任務に戻る。
【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:任務に戻る。
2:ウルフウッドや東方不敗が情報を欲したとしても、ルルーシュのギアスに関しては悟られないよう根回しする。
3:螺旋王に対して――。
4:ルルーシュに対して――。
【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:任務に戻る。
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:首輪解除、軽いイライラ、聖杯の泥、自罰的傾向、螺旋力覚醒
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、
パニッシャー(重機関銃残弾90%/ロケットランチャー70%)@トライガン
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、予備弾セット@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する(@絶対に死なないA外道の道をあえて進む)。
人間を“試し”、ヴァッシュへの感情を整理する。七人の同志の一人として行動。
1:ぶらぶらする。
2:試練役を買って出る意志はある。が、もやしっ子の言いなりになるんは癪や。
3:売られた喧嘩は買うが自分の生存を最優先。チミルフ含め、他者は適当に利用して適当に裏切る。
4:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
6:ヴァッシュに対して深い■■■。
7:ヴァッシュの意思を継ぐ者や、シモンなど自分が殺した人間の関係者に倒されるなら本望(本人は気付いていません)。
8:チミルフに軽く失望。
9:生きる。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しました。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルに関する情報を聞きました。
※螺旋力覚醒
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:首輪解除、螺旋力覚醒
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!、
風雲再起(首輪解除)@機動武闘伝Gガンダム、ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:
基本方針:現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。七人の同志の一人として行動。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:チミルフに手合わせ願う。
2:アンチ=スパイラルとの接触を図るため、ルルーシュに賛同。が、完全には信用しない。
3:アンチ=スパイラルを初め、多元宇宙や他の参加者、実験の全容などの情報を入手したい。
4:ルルーシュがチミルフを手懐けられた理由について考える。
5:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
6:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
7:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※計画に参加する上で、多元宇宙や実験に関する最低限の情報を入手しました。
一部訂正。
>>398のタイトルは「天のさだめを誰が知るX」です。
分割はここからお願いします。
では、投下終了。支援ありがとうございました。
まさかまさかの裏方組結成!
螺旋王に逃げられてもただでは終わらない四天王が予想外!
……おめえら螺旋王よりよっぽど天元突破できそうだぞw
シトマンドラもヘタレ脱却できそうだし、東方不敗も大望を!
しかし何よりもルルーシュがルルーシュだ!
やっぱりこいつは裏から悪っぽい感じで糸を引くのが似合う!
何気にヴィラルもばれたしw
作戦説明とかもだらだらしそうなのに、ぐいぐい引き込まれた。
GJ!!超GJ!!
>>318 > 【Phase1 第六回放送】
>
> 螺旋王の擬似声帯を用い、螺旋王として放送を行う。螺旋王消失を参加者に悟らせず、実験に集中させるため。
> ルルーシュ・ランペルージ、ニコラス・D・ウルフウッド、東方不敗、怒涛のチミルフは死者として告知する。
> 同時に、実験場に設けられたタイムリミット(螺旋王が創り出した世界の存続限界)も告知する。
> 参加者たちに危機感を植え付け、横道に逸れることのないよう意識を脱出に固定させるため。
>
>
> 【Phase2 第六回放送以降】
>
> 基本的には傍観を貫く。この段階ではまだ、こちらからの干渉は行わない。
> ありえないと想定してはいるが、もし試練を与える前に真なる螺旋力覚醒者が出るようなら、逐一対応。
> プランとしては、現生存者たちに現存マーダー全員を撃破してもらい、まずは不安要素を除去。
> その後自分たちの手で脱出に勤しんでもらい、頃合を見計らったところでチミルフらを投入。
> 試練……アンチ=スパイラルにも匹敵する最上級の窮地を与え、参加者たちの螺旋力覚醒を促す。
>
>
> 【Phase3 試練投入後】
>
> その段階で残っている参加者たちの状態
投下スレだけど勢いにまかせてこっちで書いてしまおうと思うGJ!
もやしがまさかの主催化とかwww
四天王+3人の参加者によるまさかの連合www
対主催涙目どころじゃねぇえええwwww
投下GJです!
面白い展開すぎるwww
主催者後任まで出世するとかありえねーwwww
今後どうなるかまじ楽しみです
現在地はE-4。
乖離剣エアの余波で空を舞ったギルガメッシュのゴールは、海だった。
奇しくも自分が一度、苦渋を舐めさせられた場所。
いそいそと陸地に上がり、淡い差し光に照らされながら、ギルガメッシュは目を閉じる。
耳に流れてくる雑音に、あえて耳を貸す。
もう五回目になる主催者の報告会から、丹念に“内”を探り出す。
―――祝福しよう。喜びたまえ――
――構いまへんわ。もう、うちは永遠の命なんぞ別に欲しくもなんともあらへん――
――つまらん――貴様と拳を交えること自体が、つまらんと言っている――
――ヒ・ミ・ツ。暴れるの止めたら教えてあげるよ――
言峰綺麗、藤乃静留、衝撃のアルベルト、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
一度は心をかき乱していったはずの曲者たちが、この箱庭から去ってゆく。
死などという愚かな宿命さえなければ、今頃どれほどの喧騒を見せていたことか。
悲しみこそ沸かねども、心残りはある。ほんの少し。
すでに知っていたとしても、改めて教えられれば、悔やんでしまう。ほんの少し。
何より、彼らの力量を見極め切れなかった自分の選定眼。
ギルガメッシュが最も嘲りたくなったのは、その衰えだった。
「我の目も、俗世に馴染みすぎたか」
『King、お察ししま』
「止めろ」
御靴となったマッハキャリバーの気遣いを、ギルガメッシュは切り捨てる。
彼の心境が、完全に自分に向けられていないことはわかっていたからだ。
イリヤが託した、明智健悟の下に集まった雑種の集団。
軍師、高嶺清麿。無抵抗の博愛者、小早川ゆたか、そして綴る詩人、菫川ねねね。
本来ならば有り得ない、刑務所の崩壊からの意外なる生存者。
イリヤの仲間と聞いていた明智健悟のみが死んだことと、何か関係があるのだろうか。
推測するならば、自分と王ドロボウが刑務所の跡地に来たとき、彼らは既に刑務所を後にしていたこと。
刑務所から南方向で姿を見つけられなかったとすれば、北か西。
ただし、上記の3人は所詮ただの人間なので、自分よりも脆いことに注意しなければならない。
発見したときには意識がなく――では笑えない。
「これだから雑種は困る。もっとも……この我に具足を巡り合わせた機運は買うがな」
ギルガメッシュは足元に蒼き天使の往来を作り出した。
乖離剣エアによる浪漫飛行の最中に、マッハキャリバーから知らされた搭載機能。
名はウイングロード。マッハキャリバーに搭載されし即席高速道路召喚だ。
本来の持ち主であるスバル・ナカジマが発動させていないので、射程距離は10メートル前後が限界。
しかし、彼にはそれで充分な距離だった。
ウイングロードが伸びるエリアに陸海空が問われることはない。
彼は、これを戦闘機が空母から発進するときに使うカタパルトとして利用することにした。
地面に対し約45度の角度をつけて空へと伸ばす。
その後、地上で充分に加速をつけて……道に乗り、そして跳躍。
受肉した英霊の脚力とデバイスのコラボレーションは絶大な飛距離を生む。
『想定されうる飛距離は50メートルです。“このまま”ならですが』
「ハッ、だが我が本気を出せばお前が衝撃に耐え切れなくなる――そんな所か?」
『いえ、着地時にかかる衝撃の危険値、Kingへの安全を考慮して計算しています』
「……跳ぶぞ、全力でな」
ギルガメッシュは脹脛に力を込め、ウイングロードへと走り出す。
飛距離が全世界最長になることに、根拠のない確信を持ちながら。
■ ■ ■
バトルロワイアル二日目に産声をあげた黒い太陽、フォーグラー。
現在は遊休をとっているが、誰もが目を惹くその機体。
その内部、メインルームのコクピット付近に、シャマルはいた。
彼女の目的は第1にフォーグラーの奪取。
第2にフォーグラーによる――同じくメインルームにいる男ー――スカーの暗殺。
スカーがフォーグラーのような精密機械に疎い人物であることは仏頂面な彼の表情からでも読み取れる。
そしてスカーは自分が狸寝入りしていることに気づいていない。チャンスは十二分にあった。
(……あの人は知ってか知らずか無意識に座ったんでしょうけど)
はずだった。
嗚呼、悲しきかな。神は既知のシャマルより無知のスカーを助けたのであった。
フォーグラー奪取に必要なモノ、それはコクピットの奪取。
フォーグラーのコクピット、それはソファーのような椅子。
何も知らない者が見れば、ただのファニチャーにしか見えない椅子。
スカーは、そこに座ったのだ。
まるで歩き詰めだった散歩者が休憩するように、ゆっくりと。
(予想外よ。もっと早く動くべきだったわ。放送も終わって……もうかれこれ1時間近く経過してしまった)
断っておくがスカーはフォーグラーの操作方法など知る由もない(実際は小早川ゆたかですら操縦可能な容易さだが)。
というより、そもそも操作する予定が無い。
刑務所から飛び出した黒い太陽が、死んだ明智健悟にとってどのような意味を齎すのかが、わからないからだ。
大事な移動手段なのか、螺旋王打倒のための巨大機械か、ただの危険物体なのか、意図がわからない。
わからない、故に何もしない。従って仲間がここに集うのを待つしかない。
しかしその偶然が、シャマルがフォーグラーを奪取するチャンスを逆に奪っていく。
彼がコクピットをコクピットと認識するまでもなく、彼はシャマルを追い詰めていた。
刻々と時間が過ぎていくだけで、勝負は平和的に解決していたのだ。
2人だけならば。
――ドゴォッォォン……!
「ゲホッゲホッ、どこ見て操縦してんだよ! 」
「五月蝿いこのメガネザルっ! あれは不慮の事故だ!」
「ん? ……スカー、あんた無事だったのか! 」
「傷の男!? なぜ貴様がここに! どうなっているんだ!? 」
第3者――菫川ねねね、ヴィラル――の横槍。
シャマルが望んでいなかった事態がやってきた。
自分自身によるスカー討伐は敵わぬ夢になった。
最も、ヴィラルに再会したこともあり、嬉しさ半分悲しさ半分だが。
「菫川ねねね、これは明智健悟の“何”だ? お前たちの“何”だ? 」
「あんたの持ってるガジェットドローンと同じさ」
「……そうか」
「後の1人――いや、2人は無事なのか? 」
「貴様ら何をわけのわからない事を話している! このガンメンは俺が手に入れて……」
会話に夢中になる者達を尻目に、シャマルは少しづつ匍匐前進をして、物陰に隠れる。
フォーグラーが使えない今、自分が取れる最大の貢献は何かと、思案する。
メガネザルと呼ばれたあの女は、手足を縛られている。
そのメガネザルはスカーと同盟を組んでいて、他にも仲間がいる。この黒い太陽を何かに使おうとしている。
そして、遂に6時間内に達成できなかったチミルフのノルマ。
「ゆたかの奴、ここにいないのかっ!?」
「ここで会ったのはお前たちが始めてだ。俺はずっとアイツと背負って……む! 」
この状況を好機にいかさずとして何が好機か。
恥や外聞を気にして躊躇していたら、また同じ失敗を繰り返すだけなのだから。
シャマルは普段の彼女らしからぬ冷たい仮面を被って、言いのけた。
自分自身で殺せないのなら、その逆をつけばいい。
「傷の男! 貴様シャマルをどうしたァァァ!! 」
「私ならここです、ヴィラルさん」
「おお!? シャ、シャマル、いつの間に? 」
確実に利益を得るために、ヴィラルの力になるために、シャマルは手段を選ばなかった。
■ ■ ■
エリアC-6西部。
本気のジャンプ、回数にして20数回。
その内、より効率良く飛べるコツをつかむための、お試しが10回ほど。
ギルガメッシュはわずか1時間足らずで、およそ2エリア分の移動に成功した。
「確かに便利だ、雑種が使えば喉から手を出して欲するであろう。我の趣向には少々合わぬがな。飽きがくる」
確かに、とマッハキャリバーが受け答える。
このウイングロードの最大の特徴は物理法則を無視した軌道を自由に作れるというである。
曲がりくねった道、螺旋渦巻く竜巻のような、まるでジェットコースターさながらのアクロバティックなレールも勿論のこと。
地面に対して90度傾いた道路さえも作ることが可能であり、重力無視、特異点無視が思いのままだ。
だが、この機能は――ウイングロードのみに限っては――ギルガメッシュの心を揺さぶるほどのスケールは無い。
彼の心は、もはや別の所に向けられている。
「さて具足よ、“どう考える”?」
『友好関係かどうかさえも。わかりません。
もし同盟を結んでいたとしたら、それは私と前マスター、イリヤが刑務所を出た後に……かと』
「知らぬ存ぜぬ、か。一応聞いておくが、お前の魔力探知、ここまで来ればさすがに雑種の1人や2人引っかけるであろう」
『YES,king、反応はいくつか。しかしそのほとんどは南。半径1キロ以内であるとすればやはり、“あれ”でしょう』
「成程な、実に都合良く縁が廻っていると思ったが……これはいよいよ何かが起こる前兆、か? 」
『早速引き返しましょうking、あなたが良ければ』
ギルガメッシュは後ろを振り返り、かつて自分が崩したアポロンを見据える。
エアに劣るあの黒玉。だが彼はフォーグラーの外面だけしか知らなかった。
「……貴様が求めるモノも、あそこにいるやもしれんな」
ならば内面には、それほど心躍るものがあるというのか、愚民を引き寄せるものがあるのか?
すがりたくなるほどの、まやかしの希望が存在するというのだろうか?
せっかく殻が剥けたのだから、一度くらいは見てやってもいいだろう。
螺旋博物館のように、思わぬ収穫が得られるやもしれぬのだから。
周りに起こりうるこの偶然の連続。
これらが大いなる余興を呼び覚ます余波となることを祈って、王は問う。
「共に来るか? 魔界王子――金色のガッシュ・ベルよ」
ただ立ちすくむ少年に。
汗を噴き出し、口をあんぐりと開け、目を大きく広げる。
驚愕のサインを顔中から送る彼の表情から、ギルガメッシュはその理由を判断する。
突然空から降ってきたから。凡人には受け入れにくい猫の聖衣を纏っていたから。
なぜか名前を知っていたから。そして望んでいたモノを知っていそうだったから。
「どうした。全知全能の資質を持たねば王には足り得んぞ?
もっとも、魔界の王子には知恵の遅れた――それこそ暴君の方が相応しいか」
『king、彼は状況が飲み込めていないようです。もう少しわかり易くお伝えしていただかないと』
「……ハッハッハッ、我としたことが、子供に禅問答か。まあいい、口で説明するより直接見せたほうが良いだろう」
ギルガメッシュは相変わらず呆然とするガッシュを背中におぶさらせる。
そしてその場でウイングロードを召喚し、マッハキャリバーに出発の合図を送った。
■ ■ ■
「どういうつもりだ」
「見てのとおりよ」
フォーグラー内部、メインコンピュータールームに渦巻く緊張感。
不意を突かれた者達に主導権は無い。
この場を取り仕切るのは、幽鬼のようにラガンの背後から飛び出したシャマル。
呆然とするヴィラルとねねねに割って入り、彼女の首を腕で締め上げる。
「逆らえば、あなたの仲間の命は無いわ」
スカーは承知していた。
この女は、自身の弱さを認めている。
自分と真っ向から戦えば勝機は無いゆえに、脅迫という手段を取ったということを。
おそらくは、隣にいる伴侶のために。
(ここで戦えば、被害はこの太陽内に留まる。太陽が破壊されてしまえば、明智の遺志も無駄になるか)
菫川ねねねとヴィラルが突如やって来たことと、黒い太陽について詳しい話を聞いてなかったこと。
偶然の産物だったが、これらが失策につながった。
そしてシャマルを床に放置したこと。意識してはいたが彼女と距離をとっていたこと。
これも言い訳のできない自らの失態だ。
「荷物を全てよこしなさい。ただし、左手で放り投げること。
こちらにちゃんと届くようにね。あと、荷物は全てディバッグに入れてから投げなさい。
荷物を渡す以外のことをしてら、首をへし折るわよ。
一歩でもその場を動いたらダメよ。黙りこけて時間稼ぎしてもへし折るわ。
特にその右腕、あらゆる物に一切触れないでね。それで何かを破壊して、チャンスを作ろうなどと思わないこと」
「駄目だスカっうぐぅー! 」
沈黙するヴィラル、苦しそうに顔をしかめるねねね。
あの時とは違う。単純な徒手で制せる状況ではない。
シャマル達の形振り構わぬ要求を強固にするのは、スカー自身。
「ヴィラルさん、この機体いつでも出発できるかしら? 一か八かで飛び込んでくるかもしれない」
「……」
「ヴィラルさん? 」
「…………ん? あ、ああ勿論だ」
「あの男は、武器が無くても強い。この女は、私達の最強の武器よ。さぁ! 早くよこしなさい! 」
「ふかぁーっ! あんはがほこめへふることないおっ! やへろーっ! 」
選択肢が、ねねねを見捨てる事によって初めて広がるのは、よくわかっていた。
これは彼女がいるからこそ成立する理不尽。
大局を見れば、この要求を無視しようがしまいが最終的に2人を始末することは不可能ではない。
そもそも『2人で』『生き残り』『優勝する』と自分に宣言していたのだから、要求を呑んでねねねが助かるはずもない。
だが――
(今日は……なんと良き日よ……)
持っている限り全ての所持品をまとめ、スカーはシャマル達にディバッグを放り投げた。
所持していたアヴァロンも、何もかも全て。
証拠として上着も脱いで見せたり、ポケットも布地を中から出して確認させた。
右腕を使わないようにして衣類をいじるのは中々難しく、時間がかかったが、なんとかシャマルを納得させることに成功させた。
「助かるわ」
シャマルは、ねねねを首を拘束したまま、取り返したケリュケイオンを不器用に身に付けている。
実に満足げだ。
「ふかぁーっ……」
「菫川ねねねを引き渡してもらいたい」
「いいでしょう。だけど、その前にもう1つだけやってほしいことがあるの。
――その右腕で、自分自身の体を破壊しなさい。念のため、右腕は首を掴んで」
「ふはへんはーっ! 」
「早くしなさい。あなたが時間稼ぎしようとするのなら、その場でこの女の命は無くなるのよ? 」
しかし、これで終わらせてくれるほど、彼女は甘くはなかったのだ。
所持品を全て奪い去った後は、スカー自身の死。
どうせ奪い取れるのなら、骨の髄まで吸い取ろうとするのは当然の流れだ。
向こうにとって最も恐ろしい瞬間は、要求を受け入れて得るものを得た後。
“報復”の芽が相手に生えることは明らかなのだから、その危険性を除去するのは正しい。
圧倒的優位が更に広がってゆくが、傷を癒してくれる鞘(アヴァロン)を隠し持たなかったのは不幸中の幸いか。
「これでどうだ」
「よろしい」
四人の感情が渦巻くこの間に、吹き抜ける風の声が空しく響く。
スカーは右手で首根っこを持ち、ぐっと力を込める。
右腕からは紅い閃光が迸り、主の体を食い破ろうと暴れていた。
「……最期に1つ、言わせてほしい」
「此の期に及んで何かしら? 」
「――許してくれ」
「!? ゆ、許す……? ふざけないで!! 今更命乞いを!? 」
視線は真っ直ぐに。場を共にしている3人をしっかりと見据えている。
彼自身に、奇策を用意している余裕は見当たらない。
さすれば、その言葉の真意は――
「お前の師を殺した己れを許したように、己れに自害させるこの2人を、許してほしい――菫川ねねね」
■ ■ ■
――………………私は、あなたを許しません。
最初に出会った時、その言葉が聞こえた。
あの女とは、別段似ていたわけでもない。似通った姿形をしていたわけでもない。
黒縁の眼鏡は、そっくりの物という話は後に聞いたが、その時は気づかなかった。
しかし、己れには“奴”がその言葉を放つに違いない、と決めつけていた。
次に聞いた言葉は明智健悟の説明だった。
あえて問い直しはしたが、予想通りだった。
“奴”はあの女の関係者で、師弟の絆で結ばれていた。
昨日の昼下がりに温泉で犯した顛末。
この手で刺し貫き殺した2人。どちらも己れに立ちはだかり、訴えて死んだ。
その1人が、あの女だった。この地で最初にした、人の“破壊”だった。
その殺しから生まれた因果が、巡り巡って俺を捕らえた。
避けられぬ因果だと確信した。
だからこそ、走った。
右腕に意を込めて襲い掛かった。
「因果応報」を反故にする「応報返し」が俺の答えだった。
――………………私は、お前を許す!
だが、己れは許された。
そいつは己れより先に因果そのものを反故にした。
己れは暖かく迎えられ共同戦線を結び、今は“剣”として生きている。
“痛みを受けても眠ることはできる、痛みを与えれば眠ることはできない”
古きイシュヴァラの格言だ。
私的に、この言葉にはあまり快く思っていない。
目の前で兄とイシュヴァラの民を失った絶望は、何物にも変えることは出来ぬ。
絶望は、等価交換など有り得ない、決して消え失せぬもの。
奴も同じはずだったのだ。
師を失った絶望は、決して消えず、何物にも変えられない。
だから己れは、許されないと考えていた。
“それでも許す”と覚悟していた奴の気持ちに気づけなかった。
――許すことが……できません!
あれは、自分に向けた言葉だった。
錬金術で錬金術師を葬り続ける自己矛盾を抱えた我が身を、神にも背く覚悟で受け入れていたはずだったのに。
自分の気持ちが、奴を鏡にして、自分に語っていた。
自分自身が最も自分自身を許せていなかった。
復讐に進むのなら、いくらでも別の手段で進むことが出来たはずだったのに。
奴は、己れにはならなかった。
“できる”と言ってのけた。
己れを“剣”として迎えるために、仇を味方として受け入れる自己矛盾を超えて、その先を見ていた。
己れは、何もできなかった。
その結果、そいつは武器も道具も何も持たず、一つ身で得るべき者を掴み取った。
――許すことが………………できるっ!!!!!
だとすれば生き残るべきはどちらであろうか。
それは許せなかった俺ではなく、許すことができた菫川ねねねだろう。
今の己れにその先を見る資格はない。
ゆえに、己れは要求を飲んだ。
許さずして菫川ねねねの域まで達することはない。
許した先に何かが掴めるのなら、それこそが真の螺旋力に通ずる事象なのかもしれない。
“この世界のみに限れば”己れにも、まだ許せる機会が残されている。
菫川ねねねが俺の心を打ったように、己れがあの2人の心を打つという機会が。
仮に死しても、それは当然。
“自分の世界”では既に許されざる行いをずっと続けてきたのだから。
自分はイシュヴァールの惨劇で生まれた憎しみという名の膿。
膿は膿らしく救われず腐りドブの中に消えるのが似合う。
ただ、その願いが届かず潰えるにしろ、菫川ねねねには同様に汲んで欲しかった。
2人にも俺と同じように接してもらいたかった。
そんな事はないと思ったが、万が一、自分の死で彼女の心が揺らいでしまわぬように。
今はただ、一身に。
巡り合わされたこの機運を、受け入れるのみ――
「吼えたな傷の男。その心の様変わり、あざとさ……背神者のなせる業よ。
とはいえ貴様によもやそこまで言わせるとはな――ますます興味が湧いたぞ、綴る者よ」
■ ■ ■
どのようにやったのか? なにが目的だったのか? いつ来たのか?
最初は、シャマルが傷の男に脅迫を始めた時だった。
吹き抜ける風の振動音の変化が気になったのは、偶然ではなかった。
風向きが変わったのではなく、風向きを変えられる事態が起こったのだ。
遮蔽物――何かがどこかに現われた、と考えるのが妥当。
つまり“奴”は一旦近くで息を潜め、様子を伺っていたことになる。
ただひたすら、自分が登場するに値する場になる流れを待ちながら。
「フンっ!! 」
光陰の如く現れた者が、背負っていた者を投げ飛ばした。
反応は間に合っていた。方向はわかっていたのだから。
しかしスピードが想定外だった。
よほど腕力の有ったのか、その勢いは銃弾よりも速く、一瞬だが目にも映らぬほどだった。
それでも、野生の勘でヴィラルは咄嗟にシャマルを庇い、待ち構えたのだが――
「ヌオオオオオオオオォォォ!!! 」
相手はヴィラルの頬に拳を突き刺し、そのまま彼の体ごと吹き飛ばす。
その勢いは止まらず、ヴィラルの隣にいたシャマルをも道連れにする威力だった。
「「かはっ!」」
ラガンから転落し、しこたま頭をぶつけるヴィラルとシャマル。
ズキズキと痛む頭の中で、ヴィラルは“投げたモノ”を1度見ていた事を思い出していた。
それはラガンで黒い太陽へと向かう途中、第五回放送の情報を整理している最中だった。
死者と禁止エリアの確認をして、ふと外を見たとき――そこに人(?)がいた。
珍妙な格好をし翼も無いのに飛んでいた男と、空ですれ違ったのだ。
見間違えというのはあまりにも鮮烈に残ったセンセーショナルな格好に、彼は心を一瞬奪われた。
そして彼はその不注意が原因で……フォーグラーと衝突事故を起こしてしまったのだ。
同乗していた菫川ねねねは、その男については何も言わなかった。
縛られて座り込んでいたためか、手足と放送内容に意識が向いており、その刹那を見逃したのだ。
ヴィラルは思い出していた。
その男が、確実にこちらを睨み、ほくそ笑んでいたことを。
「クックッ、囚われの姫君のつもりか? 綴る者よ、貴様は姫君を囚われさせる側であろう」
「あんた、確か英雄王……ってマッハキャリバー!?」
『ギルガメッシュ氏です、teacher』
「すまぬ! この中から傷の手当に使える道具を探してほしいのだ! 負傷者を助けねばならん! 」
シャマルが拘束していたはずの菫川ねねねは、いつの間にか向こうの手に渡っていた。
あの衝突で、シャマルは彼女をうっかり逃がしてしまったらしい。
その上彼らは菫川ねねねの知り合いのようだ。
つまり、超えなければならない障害。それも、傷の男を超えるレベルの。
しかしどうだ。
奴らはシャマルが手に入れたはずの支給品を、全て奪っていく。
それだけではない。ヴィラルが今まで持っていた支給品も、彼ら盗られてしまったようなものだ。
菫川ねねねも無事、傷の男も無事。形勢も完全に逆転。頼れる上司もいない。
状況は、1回目に傷の男と戦った時以下か?
キター!支援!!
「――まだだッ!!! そうだろうシャマルっ! 」
ヴィラルは目にも止まらぬスピードで体を起こしてラガンに飛び乗った。
そして側で上体を起こしていたシャマルをラガンで掬い上げ、そのまま空へと飛び出した。
――あ、待つのだお主たち! 傷の手当を……
――放っておけ。あの出来損ない共は自ら手当てができる。それにな……
襲来者たちの言葉に振り切り、ヴィラルはフルスロットルでラガンを飛ばす。
黒い太陽から遠く、遠く、離れていくヴィラルたち。
もう二度と手に入らないような悪い予感も、押し殺す。
「ヴィラルさん、ごめんなさい。あたしのせいで……」
「気にするな! お前のお陰で後一歩まで追い詰めたんだ。勝てない相手ではない!
……ルルーシュ・ランペルージの根城に戻るぞ。奴の所にはもう1人、あいつらの仲間が幽閉されている! 」
だが、それを含めても、戦力と戦況は間違いなく悪化していた。
あるのは1人の女と1人の参謀と1人の人質と1機のガンメンとわずかな武器だけ。
(それで大丈夫なのか? 俺たちの勝機は……ん? 馬鹿な!!)
ふと下界に目をやると、そこには悠然と佇む機神の姿。
怒涛のチミルフの愛用ガンメン、ビャコウだった。
しかし、ビャコウは少したつとそっぽを向き、西に進行を始めた。
死んだはずのチミルフ、その愛機のビャコウがなぜいたのかはわからない。
ビャコウは何を思って、このラガンに接触しなかったのか。
このガンメンに乗っているのがヴィラルだとわかっててあえて見逃したのか。
それとも、黒い太陽からこの機体が飛び出したことで、逃亡、事態の終局、といった何らかの見切りをつけたのか。
そもそもただの気まぐれだったのかもしれない。
「ヴィラルさん?」
「そうか、そうかぁ……ビャコウよ、お前は無事だったのか! 」
だが、ビャコウの威厳は相も変わらずそこにあった。
誇りと武人の気概に満ちたその姿。
(搭乗者は誰だ? 同胞か? それともどこかのハダカザルか? 本来の主を探しているのか? ハハハ、気にするな。
お前がこの世にいる限り、それはチミルフ様がこの世に生きていた証なんだ!
あの方の武勲と誇りと魂は、例え誰が乗っていようとお前に残っているんだぞ?
……そうだ、そうだった。例えどんなに戦力差があろうと、どんなに戦況が悪かろうと、最後に勝つのは強者ではない)
そのルーツは誇り、そして不退転。
「忘れていたよ。最後に勝つのは……勇気ある者だけだ! 」
【C-6中央北部/上空/二日目/午前】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、
激しい歓喜(我と痛みを忘れています)、左肩・脇腹・額に傷跡(ほぼ完治)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2 コアドリル@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
[道具]:無し
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0:俺もビャコウのように最後の最後まで諦めんぞ!
1:あの黒い太陽のガンメンはいずれ必ず入手する!
2:ルルーシュから協力を得る(一旦やつのいた家まで戻ろう、高嶺清麿を人質として利用してやる) 。
3:チミルフ様の仇! 全ての獣人達の夢の城の破壊は許されない蛮行だ! ビャコウ生きててよかった! 破壊されるなよ!
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
5:クルクル(スザク)を始め、これまでの奴ら全員に味わわされた屈辱を晴らしたい。
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。
※とりあえず、今はルルーシュを殺すつもりはありません。
※フォーグラーをガンメンだと思い、入手するために操縦者を殺すつもりです。
※ダイガンザン(ダイグレン)を落としたのがフォーグラーだと思っています。相殺したエアについては目に入っていません。
※チミルフが死亡したと思っています。ノルマの件は一応覚えています。
※ビャコウの運転手が誰なのか気にはなってはいますが、今はルルーシュへの帰還優先。
※ビャコウを発見した時間軸はチミルフ&ルルーシュと不死身の柊かがみを始末したと勘違いして退却していた時です。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(中)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
1:気絶中?(ヴィラルはまだ確認していません)
2:ヴィラルと協力して参加者を排除する。
3:邪魔するもの、攻撃するものは フォーグラーを操作し躊躇なく殲滅したいが……。
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
5:優勝した後に螺旋王を殺す?
6:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
※ギルガメッシュがマッハキャリバーを履いていたことに気づいていたのかはわかりません。
■ ■ ■
「――それじゃあたしとヴィラルがラガンに乗っているのを見たのか? 」
『YES、最初はteacherたちがあの方と協力関係を結んだ上での同行、の可能性も考えました。
行き先がこの黒玉……大怪球フォーグラーでしたし、そこにはシャマル女史が既にいましたので』
「わかりっこないよ。アンタ、あの後あたし達がどうなったかまるで知らないからね。
だけど……この高さを跳んできたって、あいつらあたしの常識越えてるよ。もう慣れたけどさ」
ギルガメッシュのフォーグラー上陸作戦。
それはウイングロードの応用を基に行われた、多段ジャンプだった。
先述のカタパルトで飛び上がった彼は、跳躍によるエネルギーが重力によって消費され切る瞬間を待った。
即ち、自分のスピードが地面垂直方向に対し0になる時。
彼はこの瞬間、再びウイングロードをその場で召喚し、しがみ付いたのだ。
そして今度はそこを新たな地面として、再び跳び上がる。
跳んで止まって跳んで止まって……これを繰り返せば、彼はどこまでも跳べる。
彼がフォーグラーの外壁まで届くのに、長い時間はかからなかった。
『teacher、私はあなたに謝らなければなりません』
「“すぐ”に助けにこなかったこと? それとも……“あの人”のことか」
一連の流れから、ねねねは理解していた。
ギルガメッシュが迷うことなくガッシュをシャマル達に投げたこと。
ねねねを拘束していたシャマルだけでなく、ヴィラルにもガッシュが襲撃したこと。
そしてスカーには襲撃せず、その場で救助を試みたこと。
マッハキャリバーがシャマルには触れず、状況説明をしていること。
即ち敵味方の関係、どちらに付くべきか、この2つの把握が可能となる答えはただ一つ。
『……申し訳ありません。私が、Kingに様子を見てほしいと頼んだのです』
「勘繰りたくなる気持ちはわかるさ。“あいつら”が同じ事やってたら……あたしも同じことしてたと思う。
まぁさ、色々話し合いたいことはあるけど、今は逃げたあの2人を追わないとダメだ。清麿が危ない。」
ねねねはため息をつくと、大きく開いた穴の側で向かい合っている2人に近づいた。
さっきはあれほど息のあったコンビネーションを見せていたのに、どうやらそのシンクロは常時ではないようだ。
「……それは一体どういう意味なのだ」
「聞こえなかったのか? あの2人には、もはや破滅の道しか残されていない。
ただの雑種まがいが私利私欲で動こうなど笑止千万。それは王たる格を得たものにこそ、相応しい」
「だからといって見捨てるというのか!? 」
「我の背中に乗っておいて、まさか奴らの言葉を聞き逃してはいまいな。
奴らはお前たちの歯牙にすらかからない、哀れな仔山羊よ。
具足から聞いていた話とはまるで違う――これではどっちがマシなのかわからんな」
「ギルガメッシュ、お主、それは幾らなんでもあんまりではないか!! 」
「やはり童だな。王の何たるかをわかっていないとは拍子抜けだぞガッシュ・ベル」
「ちょっと取り込み中の所悪いんだけどさ、言い争う暇なんてないぞ。
あいつらは、自分の親玉の所に逃げたんだ。しかもそこには、清麿もいるんだ! 」
ねねねはクイ、と眼鏡を直し2人の王に叫ぶ。
喧嘩腰だった彼らの目の色も、本来の目的を一時的に失念していたことに気づいたのか、我に返ったようだ。
「教えてほしいのだ! 清麿は、どこに!? 」
「あそこに見える……あの天井がぶち抜かれた家に、私はいたんだ。
今はもぬけの空かもしれないけれど、奴にとってもヴィラルがここに移動することは予想外だったはず。
おそらく、そいつはヴィラルの帰りを待っているはずだ。まだそう遠くには逃げちゃいない」
「ヌオオオオオオオオオオ清麿ォォオォォ……え? 」
「ちょい待ち。あんたはどうやってここまで来れたんだ? こっから飛び降りたら、多分死ぬぞ――な? ギルガメッシュ」
「……綴り手、貴様はこの我を使い走りをせよと申すか」
「あんたとは、道中で気の済むまで話をしようじゃないか。マッハキャリバーから事情は聞いた。
あんたあたしの『話』に興味があるんだろう? でも。その『話』を知るためには、悪の親玉が持ってるものが必要なんだよ。
お願い、あんたは私たちにとって必要なんだ。この状況を打開するのはあんたしか出来ない」
『King、私からもお願いします。菫川女史はこれまで拘束されていたので、まだ精神状態が安定していません。
本格的な話し合いは、もう少し時間をかける必要があります。
それに、Kingがここまで使った移動手段は、他の方々には無理です。時間と労力に多大な浪費が生じます。
彼女の言葉が真実ならば、我々はみすみす目の前で機運を逃すことになります』
「………………………………………………………………………………」
ねねねはギルガメッシュの沈黙に唾を飲む。
だが、彼もまた、ヴァシュタールの惨劇を再現する上では、欠くことのできない戦力になりえる。
当の本人から自分に白羽の矢を立てられるという絶好のチャンスを、彼女は捨てられなかった。
「………………………………………………………………………………く、
―――ふ、はは、はははははははは……! はぁぁぁぁぁぁぁーっはっはっはっはっはっはっ!
……この箱庭で出会う輩は揃いも揃って……実に、実に…………………………はっはっはっ………………
――――――――――――身の程を弁えていないとみえる」
王の答えは、否。
ねねね達の希望は、打ち砕かれた。
この男を懐柔するのは明智健悟が想定していた以上に、難しかった。
衛宮士郎が英雄王について語っていた談は、思っていた以上に正しかったのかもしれない。
「ギルガメッシュ!? 」
「勘違いするな。我が動くのはあくまで我のため。我が守る義理はあくまで我のための義理。
例え我が見込んだ者の頼みであろうと、我にとって完全なる利でない限り、承るに値せん」
「その完全なる利が、目の前にあるって言ってるんだぞ!? 」
「ほう、ならば今すぐここで出してみよ。出せぬというのなら、話してみよ。
――まさか言葉で表しにくいから、直接見せようとしているのではあるまいな? 」
「そ……それは……」
話したい。しかし話せない。
螺旋王がこちらの情報をいかなる手段で把握しているかわからない以上、“自分の計画”を漏らすわけにはいかなかった。
「“何か”を献上して、この我に一仕事させようという度胸は買っている。
貴様の文筆も、是非我の勅令の下に綴らせてみたいものだ。
この箱庭を破壊しようと目論む算段も、貴様なりに考えているのだろう。
だが此処を滅ぼす手段、そしてその厄介さは、我なりに考察しているつもりだ……。
――雑種ごときに、我の頭脳を超えた草案があるとは度し難いな」
『King、ならばせめて私だけでも彼女たちに同行します! 』
「お前も身を弁えろ具足よ。1度でも我に身を捧げた、その重みをわかっていないようだな」
恐れていた事態が、“ギルガメッシュの気まぐれ”という形で最悪の方向へ進んでいく。
最初から彼の言いなりになってしまえば、全ての主導権を握らせかねない。
その果てに待つものはハッピーエンドではないと、覚悟の上で交渉したというのに。
「その現物の素性がわからぬ限り、“現物そのもの”の為に我は動かん」
ギルガメッシュは颯爽と胸を返し、黒い太陽のコクピットに座る。
道理のようで理不尽なギルガメッシュの理由。
今、この時点で彼の心は完全に否に働いたらしい。
ねねねの手には、拭いきれないほどの汗が染み出していた。
「ならば、その現物とやらを貴様に持ってこよう」
その汗を全て吹き飛ばすような声が、フォーグラーに流れた。
「スカー!?、ぐ、ふっ……」
菫川ねねねの背後から声明を被せたのは、彼女に悟られないためだ。
拳を下に向け、第二間接が天を向くように左の五指を硬く締める。
そして、手加減と全力の間の更に頃合の程度を意識し、腕を素早く突き出す。
並の一般人ならば、気絶とまではいかないが、しばらくはまともに動けなくなる。
スカーは不意打ちで跪いたねねねに同情しつつ、彼女の身体を担ぎ上げた。
「急に静かになったと思っていたら、貴様が黙らせたのか」
ギルガメッシュの嘲笑を無視して、スカーは床に転がっていたガッシュを、口の開いたディバッグの中へ入れる。
ねねねとギルガメッシュの交渉の間に、彼もスカーによって気絶させられていたのだ。
スカーはそのまま荷物を整理し、ガッシュの上半身がはみ出しているディバッグを含めて2つにまとめる。
そして右肩に2つのバッグを掛け、ねねねは左腕のわき腹にしっかりと挟んだ。
「身投げか。無謀だな――そうまでして持ってくるだけの価値は、本当にあるんだろうな?
それに堕ちるのなら1人で堕ちろ。綴り手を犬死にさせることは許さん」
「お前にこいつは任せられない。こいつを貴様の気まぐれで失うわけにはいかない。
例え眠らせても、目を覚ませばこいつは必ずここを出ようとするだろう。
仲間のために、貴様に渡そうとしている“何か”を持ってくるために」
「……笑い種だな。貴様もその“何か”を知らぬと申すか」
「無策ではない……1度はここまで登ってこれたのだ。降りることも不可能ではない!」
スカーは左腕に瘤と血管が浮き出るほど、しっかり力を入れる。
力を込められた腕は輪となり、ねねねの身体の安全をより高める。
空いた右手は、フォーグラーの外壁に預けた。
慎重に慎重に身を運び、彼はフォーグラーの外へ出る。
そしてカッと両目を大きく見開き、臍に力を込め、スカーは右手を離した。
『King、お願いします! どうか彼らの救助を……』
「綴り手だけなら、考えてやってもいい」
『King! 』
「絆された雑種が本当に違う道を選べるのか、突き進めるのか」
ギルガメッシュは椅子から立ち上がり、フォーグラーの深部へと繋がる階段へと進む。
「まぁ見届けてやろう。余興には到底成りえぬと思うがな」
【D-6/墜落したフォーグラー/二日目/午前】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない、
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:綴り手ねねね、そしてその一派ども。我の眼に適う物、もしくはそれに準ずる物(計画)を持ってこれるか?
その如何によっては大いに協力してやってもよい。
1:菫川ねねねに『王の物語』を綴らせる。 フォーグラー内を散歩。
2:デパートでジンと待ち合わせる(最優先のねねねが見つかったので清麿、ゆたか捜索は忘れました)。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。
4:頭脳派の生存者、 異世界の情報、宝具、それらに順ずる道具を集める(エレメント、フォーグラーに興味)。
5:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
6:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
7:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
8:月に何かがあると推測。次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留、ジンたちと情報交換しました。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界(確率変動を発生させる結界)』の三層構造になっていると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※会場のループについて認識済み。 会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※マッハキャリバーによるウイングロード展開を習得。カタパルト代わりに使用可能(ちょっと飽きた)。
※マッハキャリバーから詳細名簿の情報を少し聞いたようです
(少なくともガッシュ、ヴィラル、シャマル、スカー、ねねねについて大まかに知ってます)。
■ ■ ■
「――は!? 」
漫然と漂う気配と圧迫感にあてられて、菫川ねねねが目を覚ます。
目を擦り、頭を急いでかき回す行為は、記憶の回復を促しているのだろうか。
「起きたか」
呼びかけた声に彼女は振り向き、彼女は目を丸くしていた。
第一声は容易に想像できた。
なぜここにいるのか、どうしてここにいるのだろう、ガッシュが隣で気絶しているのはなぜだろう、何がどうなっているんだろう。
おそらくはこの辺りか。
「己れ達はあそこから、これで降りてきた」
「……ガジェットドローンか。ハハ……すっかり忘れてた」
「己れは黒い太陽もお前の鍵の存在も正確には知らされていなかった。
頼ることができたのは、明智健悟にしっかりと使用方法を教えられていた、こいつだけだ」
己れの一言で菫川ねねねは事を完全に飲み込んだらしい。
己れは、2人の人間と荷物を持ってフォーグラーから降りた。
明智の置き土産、ガジェットドローンにぶら下がって。
ガジェットドローンは運搬用兵器ではない。3人分の体重が掛かれば、序々に重みで沈んでゆく。
リモコンによる操作も加えれば、大袈裟に言えば簡易式の滑車代わりになる。
「本当にアイツはいつもいきなり現れるんだよな……また、アイツに助けられちまった」
ねねねの表情が曇る。常に機転を利かせる節のあった明智とは、固い結束があったのだろう。
奴がなぜ死んだのか、それはわからない(おそらくは刑務所の崩壊が起因しているのだろうが)。
ただアイツが仲間のために足を走らせたのは、最期の時でも変わらなかったに違いない。
「なぁスカー……どうしてセンセーを、殺したんだ」
「何を言っても言い訳にしかならない」
……ねねねが、仲間の死から自分の師の死を思い出すのは、わかっていた。
己れがあの紙使いを殺したのは、紛れもない事実なのだから。
“剣”として己れを引き抜いた男は死に、“剣”として引き抜かれた己れは生きている。
その上生き残った男はここにきて、極端に旗色を変え始めている。
彼女にとって本当に生きていて欲しい者が、果てていく。
「じゃ、何でさっきはあんなこと言った」
「己れに何かを言う資格はない」
それ以上の言葉は出なかった。
己れの決意は、足元で気絶している少年とあの不遜な男の救援で有耶無耶になってしまった。
つまりは――己れに「許す」機運を、ねねねのように背負えた、とは言えない。
むしろその機運は、より己れの手から離れていったように思えたからだ。
「…………行くよ、北へ。清麿を助けに行くぞ」
ねねねは立ち上がり、気絶した少年と荷物を抱えて歩き始める。
俯いているせいか、顔は前髪に隠れて見えない。
「明智だったら……センセーだったら、多分迷わずに、こうしてただろうから」
毅然と進む彼女の背中が暗い。
人は超然と動くことはできない。一日二日で整理できるはずがない。
見誤っていたか。
彼女は己れを「許し」ても、その理不尽までは「許し」ていなかった。
その理不尽を「堪えて」、前を進むつもりなのだろう。
憎しみの連鎖を断ち切り、決して怒りに流されず歩いていくのだろう。
――それならば一つ忠告しといてやる……復讐は何も生みはせん。
それどころか貴様のその怒りと悲しみは誰かに利用され、更なる悲劇を引き起こすだろう。
あの赤い鉢巻きの男は、己れにそう説いた。
負の感情は新たなる負を呼び、飲み込み、周りを巻き込んでいく。
負の感情を集め続ければ、最後には世界そのものが負へと傾く、と。
つまり、逆に正の感情を集めれば、世界を正へ流すこともできる。
あれはそういう意味だったのか?
奴が復讐の道を棄てることができたのは、正へと進む自分の姿で世界を接すること得られる物に、光明を見出したからなのか。
「もうあの時みたいに泣いてらんないよ。あたし決めたんだ。
次に泣く時は全部終わった時。で、そん時に思いっきり嬉し泣きしようって」
そして、この女も。
“堪える”ことで、この世界を崩そうと考えているのか。
負に溢れる世界を作り出し、己れたちを巻き込んだ螺旋王に真っ向から対峙する力。
「貴様のような奴がいてくれてよかった」
ふいに、謝辞が口からでた。
この世界で、己れの進むべき道は決まった。
“堪える”ことのできる者のために、この身を使う。
“堪える”ことのできる者が、先へ進められるために、負を食い止める。
本当の意味で、この者達のために剣となる。
罪深き男には、相応の道だろう。
「……ばか。もう……泣かないっ……て、言ってんだろ……! 」
それで彼らの領域を垣間見ることができるのなら、本望だ。
【D-6/墜落したフォーグラーに開いた大穴の付近/二日目/午前】
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:清麿などの対主催陣営と合流。(C-6のルルーシュがいた家へ戻る)
2:ギルガメッシュに自分の計画に必要なもの(小説・イリヤスフィール(ry)を渡し、協力を促す。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
5:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーの罪を許し、堪えることを選びました。理不尽は許していません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中) 、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、
ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル、シアン化ナトリウム
ワルサーWA2000(4/6)@現実、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
鉄の手枷@現実 S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、短剣×4本、水鉄砲、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、
銀玉鉄砲(玉無し)、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿
USBフラッシュメモリ@現実、イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳、清麿のネームシール、COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)
首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、首輪(キャロ)、
各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
0:ねねねと共に清麿の捜索し、合流する。
1:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
2:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
3:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:気絶中
2:ねねね達と共に清麿を捜索(ねねねが言っていたエリアC-6の民家周辺)。なんとしてでも清麿と再会する。
3:ジンとドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:銀髪の男(ビシャス)、東方不敗を警戒。 ギルガメッシュに少し警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※大グレン団の所持していた複数のアイテムは、ガッシュの手元にあります。
※ギルガメッシュとはまだ情報交換をしていません。
453 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/23(土) 01:20:35 ID:qbhGgxtN
期待
454 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 19:57:10 ID:JLLKX8Ep
やはり空を飛んで逃げた相手を走って追いかけるというのは難しいな、とドモンは思った。
飛び去ったシータを追うためにおおよその逃走先と定めた西へと進んでいるが、未だ影を踏むことさえできてはいない。不意打ちを警戒しつつの移動のためさらに速度は遅くなる。
加えてドモンは今ニアを抱えた状態でである。ただでさえ背中に傷を負った状態で楽な移動とは言えなかったが、一刻を争う状況である以上文句を言ってはいられなかった。
ときどき周囲を見渡しながらひたすら地を駆ける。時には壁を蹴って建物の上へ、上へ。高い視点からの捜索を行う。
条件が不利だからといって諦めるつもりは欠片もなかった。
傷を負おうと相手が空を飛ぼうと、そのような無理を蹴飛ばしてやらねばならないことが二人にはあるのだから。
「川か……。西側はこのあたりが限界のようだな」
眼下に臨む水流を、一際高いビルの屋上で眺めながらドモンは呟いた。
「シータさん……どこにいったのでしょうか」
ニアも抱えられるのを止め自らの足で立ちながらキョロキョロと首を降る。
あれほどの勢いで飛ぶ力があるなら飛行機雲の一つでも残っていてもよさそうなものであるが、追跡の手掛かりとなるようなものは何も見えなかった。
川がゆらゆらと流れていく音だけが二人の耳に届く。だらだらと響くそれは、今の二人にはあまり気持ちの良い音とは言えなかった。
「川を渡られたとすると厄介だな。
これ以上闇雲に探し回って見つかるものとも思えん……さてどうするか」
まさか途中で方向を変え仲間たちを襲っているのでは、と悪い想像が頭をよぎる。こうも見つからないとなると、その可能性は低くなさそうだった。
「コアランダーでもあれば楽なんだがな」
「コアランダーって何ですか?」
手をかざし、真剣な表情で四方を探っていたニアにキョトンとした表情で聞かれた。
真剣であることは分かっているのだが、その無邪気な振る舞いにドモンはフッと頬が緩んで仕舞う。
「ガンダムのコックピットブロック、と言っても分からんか……まぁ車のようなものだ」
「クルマって何ですか?」
「何と言われても困るが……速く移動するための乗り物、と言えば分かるか?」
素朴すぎる質問にドモンは少しばかり困惑の表情を浮かべる。
自分も世間知らずな方だとは思うが、螺旋王の娘というのはそれに輪をかけた箱入りらしい。
「速く動ける……ぱっと移動できればいいんですね」
「できるなら、な。だがそんな都合の良いものがあるわけ……」
一笑に付して歩き出そうとする、そのドモンの動きをニアの鋭い声が遮った。
「できます!」
細い声であるにも関わらず、そこには力強い確信の響きがあった。足を止めたドモンは思わずニアの顔を見る。
その視線を正面から見返し、ニアはきっぱりと宣言した。
「私知ってます!すごいもんのあるところ。ドモンさん、ここは一体どこですか?」
ニアの話によると、凄いもんとやらはどうやら図書館にあるらしかった。
直線距離にしてみればさほどの距離ではないが、間に川が横たわっているため引き返し迂回する道を選ぶしかない。地を這う者の悲しさだ。
万全の状態であれば川を泳いで、あるいは走って渡ることもできたかも知れないが現状でそれは難しかった。
図書館には自分が望む場所へ移動するための装置があるという。眉唾物の話だが、本当だとすれば乗らない手はない。ニアが嘘をついてる可能性など考えるのも馬鹿らしい。
ともあれ、多少の時間は食ったが図書館への移動は特に危険もなく完了した。
「巡りめぐってまた図書館、か」
「ドモンさんはここに来たことがあるんですか?」
僅かな感慨をもって吐き出された言葉にニアが反応した。
「最初に気がついたとき俺はここにいたのさ。エドという子供と一緒にな」
随分と昔のことのようだと思う。
一日二日休まず走り回ったことなら修行時代にもあるが、ここにきてからの時間はそれとはまた違った意味で濃密だ。
「エドさん、ですか……。確かシータさんもその名前を……」
「……ああ、言っていたな。どうやら俺とはぐれた後一緒に行動していたらしい」
こちらを気遣ってか口調を落とすニアに、ドモンの返事も自然と言葉少なになった。
勢いに任せてエドを置き去りにしそのまま合流することなく死なせてしまったことは、未熟という言葉では言い表せない程の後悔となってドモンを締め付けている。
「やっぱり……みなさん大切な人を亡くされているのですね……おばさま……」
胸元をぎゅっと握り締めて暗く顔を伏せる。嫌な記憶を思い出させてしまったらしい。
自分ばかりが辛い経験をしてきた訳ではない、この場でまともに生きようとしている者は特にそうだろう。
徒にニアに悲しい思いをさせてしまったことを反省しつつ、できるだけ暗くならないように注意して口を開いた。
「話しぶりからして酷い扱いを受けたようではなかったし、クヨクヨしても始まらんさ。
……ここか」
辿り着いた場所には、聞いた通りの黒く大きな扉が口を開けて待っていた。
気遣いがあまり上手くいったとも思えなかったので話題を変えるきっかけができたのはありがたい。中を窺おうと暗がりに顔を除き込ませる。
ほぼ間をおかず、ドモンの耳に無機質な電子音声が届けられた。
『――――螺旋力、確認』
「っと、どうやら本当にここからワープが可能らしいな」
音声に続いて部屋に明かりが灯る。見慣れない機械の中に二人は並んで足を踏み入れた。
「ワープ、ですか?」
ニアは何度かその言葉を口の中で繰り返している。響きが気に入ったらしい。
「お前は俺の前に一瞬で現れただろう?そのことを言うのさ。さて、どう使えばいい?」
「あ、え〜と。この機械に向かって会いたい人のことを思い浮かべれば、その人のところに連れていってくれるそうです」
「大雑把だが……実際に見せられているからな。念じでもすればいいのか?」
「はい!難しいことは分かりませんが要は気合い、だそうです」
「うむ……」
小難しいことを言われるより返って分かりやすい。さぁ、と促すニアに合わせてドモンも静かに瞳を閉じた。
会いたい人、この場合はシータということになるだろう。
だがドモンはその言葉からはどうしても別の人物のことを連想してしまう。言うまでもなく、未だ人類抹殺の妄執に囚われたままの師匠、東方不敗のことである。
一刻も早く自分の拳で目を覚まさせなければならないのだが。
(今頃どこでどうしていらっしゃるのか。例えこの身が朽ちようとも……と、いかんな。
この装置があれば師匠とはすぐに会える、それよりも今は……)
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
「む……!」
予想よりもはるかに簡単には作動した機械の発する音声に、何故だかドモンはとても嫌な予感を覚えた。
「くっ……何と言うことだ……!」
案の定というか、ドモンが次に意識を結んだ先はまったく見知らぬ場所であり、そこにはシータもニアもいなかった。
自分がどこにいるのかも分からぬまま、ドモンは幾つもの店舗が集合した建物の中を駆ける。
誤って師匠である東方不敗のもとに飛ばされてしまったのだろうが――。
「師匠はおろか人の気配すらしないのはどういう訳だ……?くっとにかく急がねば」
ドモンが目を覚ました場所は不自然なコンテナが置かれるばかりのがらんとした空間で、人の気配はもとより鼠一匹いる様子もなかった。
転移装置の不調を思わせるそれが余計にドモンの焦りを募らせる。不自然なコンテナも気にはなるが今は構っている場合ではなかった。
傷の痛みをまるで感じさせない人間離れした跳躍を幾度も繰り返し、ドモンは一歩でも多く前へと進んでいく。
速く、少しでも速く。
ぐずくずしている間にニアにどんな危険が迫っているか知れない。
こうしている間にもニアは。
ニアは。
そのころ、ニアは――。
【A-7/ショッピングモール/二日目/午前】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
1:一刻も早くニアと合流する
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
※シータの持つヴァルセーレの剣の危険性を認識しました。
※ニアとは詳しく話していませんが、カミナの関係者だとは通じ合っています。
◇
まさかとは思う。まさかとは。
でも幾らなんでも条件が揃い過ぎてる。想像することを止めるのは無理だ。
本当のところは分からない、けど。
あたしの心臓はどんどんと早くなり、肺が縮まっていくのを感じる。
そうすると悪い想像も止めどなく広がっていきそうになり、思考は現実から逃げ出し始める。
大丈夫、きっと大丈夫のはずだ。何だったらそれとなく確かめて見ればいい。
そうすれば全てはっきりする。
でも──。
彼女がほんとうに「そう」だったとしたら、あたし達は?
ゆたかは心の奥底で少女に対し何か引っ掛かるものを感じていた。
どこがとう、という訳ではない。少女を助けたいという気持ちにも嘘はない。
ニアという人はスパイクやジンの話に出てきた子で、そんな酷いことをする人のようには思えなかった。
ただマタタビという喋る猫、というのも良くわからない話だが、に過失とはいえ毒を盛ってしまったとも聞いた。
ニアを直接見知っているわけではないゆたかには、少女の話が妖しいのかどうかの判別がつかない。元々意見を決めるのは苦手だ。
どうやらゆたかの記憶の片隅をじんわりと刺激しているものの正体はニアという少女ではない。
「どちらへ向かっているんですか?」
「えっと……私達の仲間のところよ。ス、スパイクって言うんだけ、ど……」
「スパイクさん、ですか。楽しみです……くすくす」
ゆたかと手を繋いで歩く少女は大分落ち着いたようで、数歩先行する舞衣に笑いかける余裕も出てきたようだ。
舞衣の持っていた大きな槍に少し怯えていたようだが、護身用だと優しく説明したら納得して貰えた。
抱えることのできなくなった小竜は後ろをトコトコと付いてきている。水浴びは中止になってしまったけど仕方ない。
舞衣の背中が妙にそわそわして見える。気のせいだろうか。
記憶を刺激するもの正体はまだ見えなかった。
「ゆたかさん、でしたかしら?」
「あ、うん。ゆたかでいいよ」
ぼんやりと記憶を辿ろうとしていたゆたかは反射的に答えた。そうしてから気付く。まだ名前を聞いていない。
さっきの話でも危険な人は一杯いるようだし、いくら自分が頼りないからと言ってもそのくらいの用心はしないといけないと思う。
正直、この子の背格好はその話に出てきた子に似ているような気がする。自分よりもよっぽどしっかりしている舞衣が気にしていないようなので多分大丈夫だろうとは思うが。
それに、もう人を疑うのはいやだ
背格好?
何かを閃きそうな気がした。
「ではゆたか。よろしくお願いしますね、くすくす」
「う、うん。ねぇところで……」
「ね、ねぇ!」
前方の舞衣が不意に挙げた大声にゆたかの心臓はびくんと跳ね上がった。余りの驚きように思わず握っていた手に力を込めてしまう。
少女も同じだったのか、ぎゅっと力を込めて握り返してきた。
「聞き忘れてたことがあるんだけど……」
背を向けたまま、首だけをこちらに回して舞衣が語りかけてくる。ゆっくりと、何かを恐れるように。
答えを聞くのが怖いとでも言うかのように。
「あなたのお名前って……何?」
振り向いた舞衣の顔は、泣き笑いのように歪んで見えた。
ゆたかにはその表情の意味が理解できない。
どうしてそんな怯えた子供みたいな目をしているの。優しく語りかけてくれた笑顔はどこに行ったの。
それじゃあまるで。
「シータです」
彼女がとても危険な人のよう。
「え……?」
隣の少女がさらりとした声で嬉しそうに告げた名前は確かにゆたかの下腹をきゅうと締め付けた。
シータ、それはスパイクの話しに出てきた恐ろしい理解不能の殺人者の名前だ。
でもそれだけじゃない。シータという名前にはそれ以上の何かがある。笑いながら人を殺す以外の彼女の姿を、自分は知っている。
「シータ、って。やっぱり……!」
「くすくす。スパイクさんから何か聞いていました?もうあんまり生きている人もいませんし、隠れるのって難しいですね」
それを聞いたのはスパイクの話よりもずっと前。その後に起きた色んなことのせいで、頭の中で埋もれてしまうくらいのささいな出来事。
その話をしてくれた子は美人で強そうなお姉さんと一緒だった。とっても元気な子で、でもとても心配そうだった。
「あなた……パズーくんが言ってた……?」
「できるだけ利用するつもりでしたが、仕方ないのでもうころ……え?」
じりじりと不穏な空気を滲ませ舞衣に迫っていたシータがゆたかの呟きにふっと
動きを止めた。
くるりと振り返りゆたかをまっすぐ見据えてくる。一瞬ごとにころころと変わる雰囲気にゆたかは付いていけない。
「あなた……パズーを知っているの?」
「う、うん……知ってるっていうか、ちょっとだけ会っただけだけど……」
「ゆたかちゃん!離れて!」
舞衣が叫ぶ。だが不思議とゆたかは今のシータからは恐怖を感じなかった。
でもそんな彼女の仕種は一瞬前までは見えなかったもので、その豹変ぶりは怖いと言えば怖い。
「教えて!パズーは何を話したの!どんな様子だった!?楽しそうだった?嬉しそうだった?
ああ、それとも私がとっても心配をかけてしまっていたのかしら。ねぇ、どうなの?」
「えと、ちょっと話しただけで……そのときにあなたの話を聞いて、すぐお別れしちゃったんだ、けど……」
シータの剣幕に押される形でゆたかはおずおずと喋る。舞衣の言う通り離れるべきなのだろうが、必死で仲間のことを聞き出そうとする姿はやはり危険なようには見えない。
「それはいつ!?どこで!?その後はとうなったの!?ねぇ、教えて!」
「えと、昨日の、大分前で、ここからはちょっと遠いの……かな。でもその後は……」
その後?
それからのことを考えようとした瞬間、とある記憶がフラッシュバックした。
──たくさんの命を奪ってきた!
あれ?
──名前も知らない男の子!ロイドさん!
舞衣ちゃん。
──パズーって男の子!
ゆたかは心の中でばらばらになっていた断片が一本につながるのを感じた。
「その後は……。舞衣ちゃんが……?」
ゆたかは自分の中でひとつの形を示した情報を持て余すかのように、理解の追い付かない顔で舞衣の方を見る。
その動きに会わせてシータも顔をそちらに向けた。焦点がぶれつつあるゆたかの
瞳とは対照的に、彼女の目はきらきらと輝きを放つかのようだった。
「あなたもパズーと会ったのですか?教えて下さい!パズーはどうしていました?
私、とっても知りたいんです!」
「その子は……その……」
先程までとは全く違った種類の怯えを滲ませながら、舞衣が掠れきった声を絞る。
シータは続きが気になって堪らないという様子で舞衣に歩み寄った。逃げるように舞衣が数歩あとずさる。
壊れる瞬間のガラスみたいに顔を歪ませ大粒の汗をいくつも浮かべる舞衣の姿を見て何か言わなくてはと思うのだが、ゆたかはこんなドラマ見たいな状況でとっさにかけるべき言葉を覚えていない。
そういうのはお姉ちゃんがよく知っていそうだと思い、あぁ私現実逃避しようとしてると妙に冷静な思考でそんなことを考えた。
「パズー、は……」
「パズーは?」
舞衣が口を開き告げる。決定的な言葉を。
決定的で、どこまで行こうと絶対に逃げることのできない言葉を。
「殺し、ちゃった。あたしが」
ぎしりと、何かが壊れる音が聞こえたような気がした。
◇
数奇な運命、というものはある。
特に自分が何をしたと言うわけでもないのに厄介事の方から次から次へとやってくる、そんな気の休まらない人生のことだ。
どうもここにいる人間はそんな星の下に生まれた連中ばかりらしい。自分も含めて。
奈緒という女が不機嫌そうに語った話を聞いたスパイクが思ったのはまず思ったのは、そんなことだった。
「なるほどねぇ。『食った』とは聞かされてたけど、文字通り人を食った話だったって訳だ」
ジンが笑えない冗談を言った。
いかにも跳ねっ返りですというこの女にとってのキーワードらしいギルガメッシュという名前を餌に話を引き出してみたが、得られる情報は盛りだくさんという訳ではなかった。
スパイクが読子と最初に出会ったように奈緒は早々にギルガメッシュとやらと出会い、それ以後長い間行動を共にしていたらしい。
最終的に別行動となったらしいが、ほぼ間をおかず今度はジンがギルガメッシュと出会っている。
ギルガメッシュと暫しの間行動をともにし、意見も交わしたらしいジンがいる以上新しい情報というのはそんなにないという訳だ。だが、全く無意味という訳でもなかった。
ちなみに、ジンと別れて以後のギルガメッシュの行方は杳として知れない。
「不死者、か。ガキには重すぎる荷物だ。歪みもするぜ」
奈緒は、あの柊かがみと何度か会っていた。
結構な痛い目を見せられたようだが、そこはまぁ正直どうでもいい。
重要なのは、かがみが何故ああなったかについての発端の一部を奈緒が目撃していたことだ。
「もういいかしら?あたしは思い出したくもないことべらべら喋らされてもううんざりなんだけど」
ぼろぼろになった体にそれでも必死で怒りを浮かべようとする姿はまぁ気丈と言ってやってもいいだろう。
喋らされたという表現は実に的確である。へそを曲げようとする度にジンにいいようにあしらわれ、結局は口を開かざるを得ないように仕向けられていたからだ。
かがみについての得られた情報をまとめると次のようになる。
ゆたかと同じく極普通の少女であり、恐らくここにきてから「不死の酒」なるアイテムを飲み不死者となった。
不死者とは、曰く何をしても死なない、同じ不死者を食うことができる、食った相手の記憶と経験を引き継ぐことができる。
かくして柊かがみにまつわる様々な謎は、複数のブラックボックスを残しながらも余すところ無く解決される運びとなった。
(まぁ、だからどうすりゃいいってのがさっぱり分からんのが一番の問題なんだが)
いつぞやのように弾丸を一発ぶちこんで仕舞い、とは行かないようだ。
とりあえず本人の意志が健在なら友人であるゆたかに賭けるしかないのだろう。そんな甘甘なストーリーがどこまで通じるかは疑問だが。
どうしようもないことはどこまでいってもどうしようもない。ラブ&ピースを貫くにはのは飛びっきりの馬鹿になる必要がある。
奈緒が少し離れたところで黙り込み、小休止の空気となった中で僅かに空腹を感じたスパイクはデイパックを漁った。
片手では上手く目当てのものを引き出せず、代わりにけったいな紋様が幾重にも刻まれた羅針盤が出てきた。
「へぇ、良いもん持ってんじゃん。ちょっと失礼」
手を伸ばしたジンが中心に設えられた石を手に取った。空中にかざしてまじまじと眺める。
「さすがに目が高いな。そいつは太陽石とかいう結構な値打ちもんらしい。
気を付けろよ、見た目はただの石ころだがエネルギーを浴びせりゃドカンといくヤバイ代物だ」
「俺の知ってる太陽石とは随分違うねぇ……それならあんまり熱い視線を浴びせるのもまずいかな?」
「ああ。王ドロボウの視線にさらされたんじゃ、瞬く間にドカンだ」
スパイクの軽口にジンがニヤッと笑い、太陽石を投げて寄越す。
どうにかチョコレートを取り出したところだったスパイクには受けとる用意がなかったのだが、それを見越していたのか石はスパイクのポケットにすぽりと収まった。
一欠片齧る。意外と旨い。
「……何も聞かなくていいのか?」
「……カレンのことかな」
「そうだ」
交わされた言葉は短かった。
情報交換の際に必然的に触れざるを得なかったカレンの死。それを耳にしてなおジンは平然とした態度を崩さなかった。
事前に放送も行われたし、何も感じないのかと疑うほど察しの悪いつもりもないが、やはり気になる。
「というとあれかな。
実はさっき言ったことは全部嘘で本当は私が殺しましたごめんなさい、ってことなのかな?正当防衛も含めて」
「んなわけあるか!何で俺があんなレジスタンス気取りのガキに出し抜かれなくちゃならない」
思わずムキになって返してしまい、そう言えば久しくこんな声は出していなかったと思った。
どうも好まぬ立場に知らず知らずのうちに無理をしてしまっていたらしい。
「だろ?だったら俺からできるのは生き残ったスパイクにおめでとうを送るだけさ。
……さっきはまぁ、あんまり空気を悪くしても悪いしね」
「そう、か」
淀みのない黒い瞳に見つめられ、スパイクは内心に持っていた様々な感情を見透かされたような気になった。
疑われるのでは、という思いが先のような発言に繋がったことは自分でも否定できない。
「……ったく。ほらよ」
何故だかくやしさのようなものを覚え、スパイクは負け惜しみじみた仕種でジンにチョコレートを投げる。
サンキュ、と上機嫌に呟いた王ドロボウはくるくるとと包みを剥がしてパキリと甘いお菓子を齧った。
「おい、お前も食うか?意外といけるぞ」
「いらない」
わざわざ声をかけてやったというのに奈緒の返答はにべもない。
「無理すんなよ。ぼろぼろなんだろ?」
「いらないってんでしょ!」
「……へいへい」
予想していなくもなかったリアクションにスパイクは苦笑し、残りをデイパックに戻す。
ふん、と顔を背ける様子はジンなどとは比べものに成らないくらい年相応で分かりやすい。
「……それで、いつまでこんなとこいんのよ」
視線は反対方向に向けたままぼそりとした声で奈緒が言った。ぐずぐずしていたくはないが先に進むには恐怖もある、そんな感情が滲んだ声色だ。
「ま、二人が帰ってこないことにはね。そろそろだとは思うけど。何だったら迎えに行ってみる?」
「ばっ!?何であたしが――」
「きゃあああああああ!」
奈緒の台詞を遮るかのように悲鳴が聞こえた。絹を裂くような女の悲鳴、というやつだ。
「どうやら」
「まずいみたいね」
一瞬だけ、スパイクはジンと顔を見合せると次の一瞬には二人してその場を飛び出していた。
声の聞こえ具合からしてそれ程離れてはいないと思ったが、実際その通りだった。
悪い予感を形にする間もなく、スパイクとジンはこちらに向けて全力で走る二人の少女を見つけ合流する。
「スパイクさん!」
「無事か!」
「は、はい……あ、あの……」
「ゆっくりでいい、何があった?」
必死で逃げてきたのだろう、怪我こそしてないようだが二人の疲労の色が明らかに濃い。そしてそれ意外にも何か違和感がある。
「スパイクさ、んの……話してた……うっく……えっと……」
原因はすぐに分かった。二人で逃げてきたらしいが、今はゆたかが舞衣の手を引っ張っている。どうやらゆたかが先導する形だったらしい。
行きとはまるで人間関係が逆転したその構図がスパイクの目に奇妙に映ったのだ。
「俺の?っておい、ほんとに大丈夫か」
とうとう餌付き始めたゆたかにペットボトルを渡してやりながら、スパイクは舞衣の方にも視線をやる。
単純に体力の限界らしいゆたかよりも心配なのはむしろ舞衣の方だ。目が完全に死んでいる。
表情も虚ろであり、スパイク達に気付いているかどうかも分からない。シーツ一枚というあられもない姿でそんな目をされては、洒落にならない。
一体何があったのかは、まぁ想像できなくもなかった。
「どうやら、二人をこんなにした悪いオオカミのご登場みたいだぜ」
「なに?……やっぱりかよ、ちくしょう……!」
ジンの声につられその視線の指す方向を見てみれば、やはりというか想通りの結果が待ち受けていた。
状態は大分酷くなっているがそれでもまだ健在のロボットの兵隊とそれに守られるように抱えられた狂喜の少女は、余裕のつもりか空中を静かに旋回すると馬鹿馬鹿しい程にゆっくりスパイク達の前に舞い降りる。
自称王族だという少女は、その名に似合った優雅な振る舞いで、その名に似合わぬ爛れた面相を下げた。
「皆さん、こんばんは。始めまして、シータといいます。そのまま、シータと呼んでください」
「知ってるよ……」
「あらスパイクさん、お久しぶりです。素敵なお姿ですね、くすくす」
そこで初めているスパイクの存在に気付いたとでも言うように、シータは視線をやって笑う。
子供だましの挑発に付き合うつもりはないが、彼女の健在ぶりにスパイクはあることを連想せざるを得ない。
「お陰さまでな。ドモンはどうしたっ!」
「私が殺しました」
「あぁっ!?」
「って言ったらどうします?ふふ、うふふ」
「ち、ガキがあんま調子乗ってんじゃねぇぞ!」
年に似合わぬ振る舞いを見せるガキばかり見た反動か、思った以上に面倒くさい片腕生活の恨みか、シータの言動が以前よりやたらと勘に障る。
だが、頭の芯は務めて冷静に。できるカウボーイの鉄則だ。
「珍しいね、スパイクがそんな熱くなるなんて」
「俺のどこが熱くなってるよっ!?」
「……それともそっちが素なのかな。よぉ、お姫さん!俺はジン、アンタの猛牛並の暴れっぷりは聞いてるぜ。よけりゃもう一つ武勇伝を聞かせてもらいたいんだけどな」
ジト目で睨むスパイクに苦笑いしつつ、ジンが声を張ってシータに問いかけた。
「ジンさん、ですね。覚えておきます。すぐに死にますけど。
その人、舞衣さんは私に酷いことしたんです、くすくす」
「私に?私がじゃなくて?」
「ええ、違います。全然違う。大間違いです。
舞衣さんはなんと、こともあろうに、私の大事な、大切なパズーを殺したって言うんです。
ううんと酷い目に会って死んでもらうのが当然でしょう?」
「なるほどねぇ……」
舞衣が何をしてきたかは聞いている。大方の事情は飲み込めた。
過去はいつだってついて回るものだ。決して逃げることはできない。こんな狭っ苦しい
場所にいるなら尚更だ。
「不思議ですね、最後には生き返るって分かってるのに……どうしてこんなにその女が憎いんでしょうねぇ!」
シータの声にジンに支えられている舞衣がびくんと震える。側のゆたかも疲労困憊を絵に描いたような様子であり、すぐに休ませないとまずいだろう。
「どうするスパイク?彼女、自分の怒りだけでどんどん火傷を広げていっちまう
ぜ。俺達までまきこまれかねない」
逃げるにせよ、戦うにせよ非常に困難な状況であるのは間違いない。
そしてラブ&ピースを持って接するにはスパイクは余裕とか、情愛とかとにかく色々なものが足りなかった。
「決まってんだろ……いけ好かねえガキをぶん殴るのは大人の仕事だ」
「こっちも沸騰寸前だったか、こりゃ」
呆れ顔で口笛を一吹きするジンにそれ以上答えず、スパイクは一歩足を踏み出す。
ロボットが警戒するようにカガ、と音を立てた。近くで見ると破損状況の酷さが良く分かる。キングオブハートの名は伊達ではなかったらしい。
「何のつもりです?くすくす、どいてくれません?私はもうその女を殺したくて殺したくて仕方がないんですけど!!」
笑ったかと思えばいきなり怒鳴りちらす。いかれちまった奴が見せる典型的な症状だ。
「……生き返んねぇからだよ」
「はい!?」
どうせなら一服付けたいところだった。無いので仕方なしにそのまま続ける。
いい加減にタバコが恋しい。
「お前の言ってた、なんでこんなに憎いのか、てのの答えだよ。死んだ奴は生き返
らん。
それが分かってるから悲しくて、どうしようもなく憎くも思えるんだよ」
即座に雨のようにビームが飛んでくるかと思ったが、シータは顔を真っ赤にするばかりで何もしてこなかった。
肺をぱんぱんにしているところを見ると怒りが限界を越えたのかも知れない。
「そんなことはありません!!螺旋王のおじ様は何でもしてくれると仰いました。
神父様だって……!し、死んだ人がそれを望まないと言うならそう望むようにしてから生き返らせます!!
それのどこに問題があるっていうんですか!?」
似たようなことを言われたことがあるのか回答はこちらの返事を先回りしたものだった。
そりゃそうか、子供にだって分かる当然の理屈だ。まともなら。
「仮に生き返ったとしたってそいつは偽もんだ。お前の知ってる奴らとは全然別の、な」
「あなたもあいつと同じことを……!!」
「分かんねぇか。分かりたくねぇんだろうな」
シータが金切り声で指示をだし、それを受けたロボットが動き出す。
それを見越していたスパイクはとりあえずジン達から引き離そうと少しずつ横へとステップを踏み始め――。
「スパイクさんの言う通りですっ!!」
予期せぬ方向から聞こえてきた予想外の声に、シータ共々その動きを止められた。
ジン達がいるのとは反対方向から聞こえてきた、その声には聞き覚えがあるもので――。
「……ニア?」
「はい!!」
怒り心頭といった様子で腕を組み、小さな体から精一杯の覇気を出すニアがいつの間にかそこに立っていた。
「ニ……ア?っておい……なんでそこに?いつから?」
「ワープです!!」
「ワープってお前な……」
きっぱりとした口調で無茶くちゃを告げられ、スパイクは僅かにと肩を落とした。
本人が真面目なのは分かるがどうにも毒気を抜かれてしまう。
見るとジンもニアがいつ現れたのか気付かなかったようで、やるじゃんなどと呟きながら笑っている。直接の面識のない二人はあまり余裕はないにせよぽかんとした表情だ。
当のニアはと言えば、そんなスパイク達を無視するようにつかつかと眼前を通りすぎそのまま真っ直ぐシータの目の前へと――。
「っておい!危ねぇぞ、離れろ、ニア!」
「大丈夫です!!」
根拠不明の迫力を感じスパイクは僅かに気圧される。山小屋での時とは随分と印象が違う。
どう考えても大丈夫な筈はないのだが、不思議とシータが攻撃を行う様子はなかった。
その代わりか、彼女は顔を伏せ何やらをぶつぶつと呟いている。
「ニア……ニア……よくも……」
「私は、あなたを助けにきました」
「よくも……そうやって私の前に顔を出せますねっ!ニア・テッペリィン!!」
「私はあなたを助けます!!」
シータの口から漏れた怨嗟の声からすると、どうやら二人には因縁があるようだ。出会ったとすれば山小屋での別れの後か。
変化した状況に囚われながら、シータが直接的な手段に出ようとしたらいつでも飛び出せるようスパイクは慎重に目を細める。
「あなたは!!本当は良い人です!!酷いことができる人じゃありません!!」
「あなたに何が分かるって言うの!!ぬくぬくと!!幸せで!!暖かいところで私のことを笑っているくせに!!」
「ドーラおばさまから聞きました!!とても楽しそうに!!あなたがどれだけ素敵な方か、話してくださいました!!」
「おばさまの名前を出すのは止めなさい!!それは私のものなの!!おば様に優しくされるのも、暖かい仲間に囲まれるのも、全部私のものなのぉっ!!」
「優しさも!!仲間も!!誰のものでもありません!!」
やばいな、とスパイクは思いジンと視線を交わす。
これがただの喧嘩で、取っ組み合いでもして終わりとなるならそれでいい。
だがこの場合単純な戦闘力に差がありすぎる。今は憎しみで頭が一杯のようだがシータがその気になれば次の瞬間にでもニアを殺せるだろう。
ただでさえ切れていたところにもう一つ特大の火種がやってきて、シータの苛立ちはかつてないレベルだ。そういう状態を何と呼び表せばいいのか、スパイクにも分からない。
そして予想通り、シータは攻撃の手段をより直接的な方法に切り替えた。
「本当に口の減らない嫌な女……!!良いです、どうせ焼いてしまえばおしまいだもの。兵隊さん!こいつを……」
「言わんこっちゃねぇ……!」
間に合うか、と瞬時にニアの距離を計算したスパイクは飛び出そうとする。ロボットの挙動を考えるとタイミング的にはかなり際どい。
が、そんなスパイク達の挙動をまとめて押し止めたのはまたしてもニアの甲高い一声だった。
「やれるものなら、やってごらんなさい!!!」
「な……!」
息を飲んだの音は誰のものか。あるいはその場にいた全員かも知れない。
ニアはビームの照準を定めたロボット前に一歩も退かず、それどころか組んでいた腕を大きく広げいつでも撃てと言わんばかりの構えを見せていた。
「そん、な……強がったて無駄ですよ!」
強がりでもはったりでもない。間違いなくニアは本気だ。
音が聞こえるくらいに噛み締められた口許が、ぴんと張り詰められた指先が、彼女の小さな体のあらゆる部分がそれを物語っている。
シータにもそれは分かっているのだろう。口ではもごもごと言い訳めいたことを呟いているが、明らかに気圧されている。
「あ、あなたは……どこまで……」
「あなたには、私は撃てません!!」
「何を……」
「私には、みんながくれたドリルがあるから!!」
ニアは親指でドン、と自分の胸を一突きする。
彼女のその仕草には重苦しいまでの力強さと天元へと気高く伸びる揺るぎなさが確かに示されていた。
「もうジモンだけじゃありません!!ドーラおばさまが!!ビクトリームさんが!!アニキさんが!!ドモンさんが!!ガッシュさんが!!クロスミラージュさんが!!
みんながくれたドリルです!!
無理を通して道理を蹴っ飛ばす、力を持つものです!!」
分かる奴には分かるだろう。彼女の持つ意思の力の、宝石の如き貴重さと得難さを。それを失わずにいるものがどれ程の輝かんばかりの力を持つのかを。
空を跳び跳ねるのがせいぜいの子供が勝てる道理など、ない。
「あなただって!!!間違いなく持っているものです!!!」
決まったか、とスパイクは思った。
ニアの言葉は正確にシータ心のねじくれた壁を叩き壊し、その核心を貫いた。
あらゆる感情が抜け落ちた空虚な表情となった少女は呆けたままに黙りこくる。
沈黙が降りた。だが状況は動き続ける。シータの心の中で何かが劇的に書き変わって行く。
ニアが真っ向から叩きつけた心底の言葉がシータを力ずくで奈落から引き戻した、と言ったところか。
シータの眼差しに涙が宿る。恐らくは、あと数秒。それでこの場は決する。
しかし。
「ごめん……なさい……」
溢れる直前の水瓶に落とされるのもまた、真心からの言葉。
「私が……パズーって子を殺し……ちゃった、から……シモンも守れなかったから……」
憐れな王女を再び奈落の底に舞い戻らせるのもまた、少女が心からの謝罪を込めた言葉だった。
「こ」
涙が弾き飛ぶ程の勢いシータの瞳孔が収縮し、顔面が変形したと思える程の憎しみに表情が歪む。
まずいと感じスパイクが駆け出す。だが間に合わない。
「殺せぇ!!殺して、殺してしまってえぇぇつ!!パズウウウウ!!!」
ロボット兵から放たれた光がニアの胸を貫くきっかけになったのもまた、想い人
へのどうしようもない純粋な感情だった。
「ニアッ!!」
背中から倒れ込むニアを、地面に激突する寸前で抱き止める。
「あははは!やった!やりました!やっぱりあなたの言うことなんて全部嘘っぱ
ち!あははははっ!!」
「おい、ニア!大丈夫か。くそっ」
傷は明らかに急所を貫いている。手の施しようがあるのかどうかも分からない。まずい。
「スパ……イクさん……」
「喋れるならいい。黙ってろ」
「うふふふ!!ほんとに、もっと早くこうすれば良かった!!良い気持ち、ああなんて良い気持ち!!」
「おね……がいです……」
「なに……?」
白い肌をより一層蒼白に染めてニアが言葉を告げる。ほんの小さな呟きは、それでも耳障りな哄笑にかき消されることなくスパイクの耳を打った。
言われることは分かっている。誰よりも強いこの少女が死に際に思うことなど、一つしかない。
「シータさんを……助けてください」
「……」
あらかじめ決められていたかのように、ニアの言葉はスパイクの予想と同じだった。
それでもスパイクはすぐに返事をしない。静かに首を降り、追撃も忘れて笑いこけるもう一人の少女を見る。
「死んで当然!そんな女は死んで当然よ!!みんな死んでしまって!!待っていてね、パズー!!」
ぴくりと一瞬だけ瞼を振るわせ、そのまま何も言わずに視線を戻す。
そして口を開いた。静かに、口調だけはとても静かに告げる。
「……悪いが、そのお願いは聞けない」
「スパ、イクさん……?」
ニアが声を振るわせスパイク服を掴んだ。力は殆ど感じられない。
「俺はあの女を殺す。生かしておけない」
一瞬だけ浮かんだヴァッシュの姿に手を上げて別れを告げた。
お前の理想を貫けるのは、やっぱりお前だけだったよ。
「そん、な……」
「文句は後でいくらでも聞いてやる。今は傷を治せ……おいジン!」
抱え上げ、何も言わずすぐ後ろに立っていたジンにニアを慎重に渡した。
それだけで何も言わず、スパイクはくるりと背を向ける。
ジンは了承してくれたようだ。
「ああ……分かった。その子もこの子達もまとめてきっちりエスコートさせてもらうよ。
もちろん、出迎えの準備も含めてね」
「……悪ぃな、面倒を押し付ける」
背中越しに、ジンが肩を竦める気配がした。
「あの二人を守るのに気を取られて何もできなかったつけさ。
それに、文句は後で聞いてくれるんだろ?言っとくけど俺の文句は長いぜ?」
「そいつは楽しみだ……なっと!」
会話を切り裂くように打ち込まれたビームを合図にスパイクとジン達は正反対の
方向へ走り出した。
「じゃあな、ジン!さっきのところで落ち合おうぜ!」
「了解!さぁお嬢さん方もう一踏ん張りだ、気合いのいれどころだぜっ!」
「くすくすくす!!逃がしませんよ!もう絶対、一人も逃がしませんから!!」
再び攻撃体勢に入ったシータとロボット兵にスパイクはステップを流し突っ込ん
で行く。
片腕でのバランスの崩れなど無理やり勘で補正した。
「パズーのために死になさいっ!うふふ!」
ロボットは動かないままビームを放ち、その隙にシータを引き寄せる。
ビームは正確にスパイクを狙うが貫く場所は一瞬前までスパイクがいた場所でしかない。
三発目をかわすと同時にスパイクが地を蹴った。全身の回転力を加え鞭のようにしなった回し蹴りがロボットの顔面を蹴り飛ばす。
「ビームに頼りすぎなんだよっ!こちとら馬鹿じゃねぇんだ!」
発射方向を定めるための首の動き。照準を絞るための僅かな機械の挙動。射出寸
前の一瞬のシークエンス。
相棒に「良すぎる」と評されたスパイクの目はその全てを余すところなく捉えていた。
着地した瞬間の力の方向を流しもう一発胴体部分を蹴り込む。
体がT字型になった瞬間を狙い連続して二発のビームが放たれた。軸足はずらさ
ず捻りだけで両方の射線から体を外す。
「てめぇみたいなやつを救おうとしてニアは撃たれた!ヴァッシュも死んだっ!」
発生した力をそのまま更に連続した数発の蹴りに変える。刃物でも振っているか
のような鋭い風切り音が胴体の同じ箇所を打ち、頑強なロボットの体をぐらりと
揺るがした。
「救われねぇ!全く救われねぇよっ!」
だめ押しの一撃として放たれたスパイクの全霊の跳び蹴りが倒れ様に放たれた光
線と交差する。
光線は大きくのけ反ったスパイクの前髪を焦がし、蹴りはロボットの巨体を轟音とともに地面叩き伏せた。背中が地面に着くよりも早く、スパイクはジェリコ941改を抜き放ち瞬時に身を起こしてシータへと狙いを定める。
ロボットの肩口で何が起きたかも分からぬように驚いた顔を見せるシータに即座に照準を合わせ、同時にほぼ無意識に指先に力を込めて――。
「ぐぅっ!?」
発射されればシータの眉間を穿っていただろう一撃はぐるりと体勢を変えジェット噴射で突っ込んできたロボットによって妨害された。
「くそっ、しまった!」
シータを肩に乗せたままがっちりと体を締め付けるロボットの両腕に成す術もなく、スパイクは苦痛に顔を歪ませる。
初めは地面と平行だった飛行はやがて上空へとその進路を変えた。
勢いを増したロボット兵はジェット噴射の軌跡も美しくそのままひたすら空へ、
空へと――。
◇
空へと伸びる一条の光は虫の息の少女を抱え走るジンの目にも鮮やかに映った。
「あ、あのあれってもしかして……」
ゆたかも気付いたのか袖を引く。とうに気付いていたがだからと言って止まれない。止まる訳にはいかない。
「大丈夫。スパイクなら特大の花火に詰められたってひょっこり帰ってくるよ」
どんなときでも人の心を掴み輝かせる王ドロボウの笑みも今回ばかりはいつもの
切れがなかった。
状況は非常に切迫している。抱えながらでもニアから生気がどんどん抜けて行くのが分かる。
あの場から動いてないようだった奈緒と合流したとして、果してどれほどの処置ができる
か。
「…………」
汗を浮かべながらもジンは、ニアの唇が微かに動いたことに気付いた。
腕の中の少女が呟こうとした言葉は掠れて聞こえなかったが、唇の動きから言おうとしたことは分かる。
虚ろな光で空を見上げる少女が言ったのは次のような言葉だった。
「スパイクさん」
◇
ほんの一区切りとはいえ意識を失ったのは蓄積された疲労が故か。
「ふふ、お目覚めですか?スパイクさん」
短時間の気絶から舞い戻ったスパイクを覗き込んで、亡国の少女が愉快そうに笑っていた。
体は未だロボットにがっちりと固定されている。空中では逃げることもできない。
「くすくす、とってもいい眺めですね。どうしますスパイクさん?まだ抵抗しますか?」
「……いや。打つ手なしだ」
いつでも発射できるようにぴたりと照準を合わせているロボットのビーム砲を見ながらスパイクは言う。
何と言うことのない口調だったのだが、シータはその返事がえらくお気に召したようだ。
「くすくすくす!ですよね、えぇそうですよね。あれだけ偉そうなことを言っても結局は何もできませんよね!私がどうしてあなたをすぐ殺さなかった分かりますか!ねぇ分かりますか!?」
けたけたと笑いながらスパイクに捻りのない問いかけを投げ掛けてくる。
それを言うためだけに生かしておいたと言うのだろうか。
だとしたら滑稽だとスパイクは思う。本当に、滑稽だ。
「それはあなたにうんと怖がってもらうため!あなたにはここから墜落死してもらいます!怖いですか?でもだめ。パズーはもっと怖かったに違いないんですから!」
どうだ、とばかりにスパイクにぐいと顔を近づけてくる。
怯えて命乞いでもしたら満足なのだろうか、この少女は。
「……っとにどうしようもねぇガキだな。まったく」
「負け惜しみですか?ふふふ、もっと泣いて謝ってみたらどうです?止めませんけど」
「それで。俺を殺して、他のやつも皆殺して、晴れて好きな男とご対面、か?」
顔を上げ、やけに低くなった空を見る。
雲が近い。ロボットが照準を合わせ直す音が聞こえた。
「ええそうですその通り!もう何を言っても無駄ですよ!あの女は死んだんですから!うふふ!」
「いや、もう何も言わねぇよ。好きにするといい」
「え?」
シータのがたがたとした動きがぴたっと止まった。
何も言われなくなったのが逆に不安とでも言うのだろうか。そういうところがガキだと言うのだ。
「夢は一人で見るもんだ。せいぜい良い夢見ろよ。……覚めない夢を、な」
「お、脅しだと思ってるんですね!私は本気ですよ!本当にやりますよ!!」
「……やれよ」
命乞いどころか怯えの色さえ全く見せないスパイクに逆にうながされシータは。
シータは。
「う……」
シータは何が何だか分からなくなった。
何故スパイクが少しも怖がらないのかが分からない。何故急に怒らなくなったの
かが分からない。かけられる言葉の意味が分からない。
結局、彼女にできるのは泣いて喚いて従順な従者に命令することだけ。
「やって!!もうこいつを殺して!!兵隊さん!!」
ロボットの手から解き放たれ、スパイクの体が静かに落下を始める。
シータにはそれが愉快な程にゆっくりに見え、ぐにぐにに歪んだ顔をさらに歪ま
せた。
少しずつ、スパイクの体が落ちていく。速度も僅かずつだが確実に上がって行く。
落下中のスパイクが銃をむけ、こちらに狙いを定めるのが見える この瞬間、シータの表情は正に泣き笑いそのものになった。
やっぱり死ぬのはいやだったんだ。さっきのは全部負け惜しみだったんだ。
スパイクが引き金を引く。
一発目。さっとふられた兵隊の腕が銃弾を弾く。
二発目。良いことを思い付いた。最早命令せずともシータの意を汲んだ兵隊が、彼女の思惑通りビームで銃弾を丁寧に溶かす。
三発目。今度は銃弾ではなく小汚ない石ころを投げつけてきた。
完全にやけになったと見たシータは愉悦の極みとなり、兵隊に命令を下す。
放たれたビームは狙いたがわず黒く汚い石くれに命中し、瞬間許容量以上のエネルギーを受けた太陽石は眩い輝きを放ち――。
そして、彼女の世界は終了した。
◇
みんながみんな、疲れきっていました。
私達の不注意のせいでシータさんが危険だってことに気付かなかった、その結果です。
「う、あぅ……うっく」
舞衣ちゃんはずっと泣いています。顔を両手に埋めて、ずっと。
やっぱり私には何て言えば良いのか分かりません。舞衣ちゃんの気持ちは分かる
はずなのに、どうしてか体が冷えてたまりません。
「ちょっと鴇羽、いい加減にしてくんない?あんまりめそめそされるとこっちまで気が滅入るんだけど!」
「だって……だって……うああああ!」
「ったく……!」
とっても怖い声で怒っているのが奈緒さんです。
年下のはずなのに私よりとてもしっかりしてそうで、体中傷だらけなのに私よりずっと頼りになりそうです。
でも、怒ったその声はとても怖くて……臆病な私はその度に体が震え助けを求めるように小さな友達を抱きしめます。
「よしなよ」
この場で一人だけ立っていたジンさんが言いました。
誰よりも疲れているはずのジンさんは全然そんな様子もなくまるで運動の得意な子がマラソンをした後みたいに元気です。
私は、視界がぐるぐる回るような変な感じが治りません。とても疲れました。
すぐに暗くなっちゃう私と違って、ジンさんは凄いと思います。
でも分かりません。何故そんなに平気そうにしていられるんですか?
だってあの女の人。ニアさん。ニアさんが――
「ニアに笑われちまうぜ」
ニアさんはもう、どこにもいません。
◇
歌は、聞こえなかった。
「……さん……!……イク、さん……」
代わりに聞こえるのはか細い、それでいて必死の呼び声だ。
スパイクは目を開け、色の違う一対の瞳に遠くなった空を映す。
いつかと同じようなぽっかりとした歪みが広がっているのが見えた。
「スパイクさん……良かった……!」
「ニア……?」
そこでスパイクは誰に、何を言われていたのかようやく気付いた。
どうじにおぼろ気だった記憶を覚醒させたスパイクはやわらかな植え込みに横たえられていた体を起こす。
「ニア……!お前どうして……」
「良かった……。軟らかい場所を選んだつもりだったけれど……やっぱり心配で……」
「そんなことを聞いてるんじゃない!お前怪我は……」
そこまで言ってスパイクは気付く。ニアの両の瞳に爛々と光渦巻く緑色の輝きに。
その光はこれまで見せた彼女の笑顔と同じく、とても輝いて見えた。
同時に、それが彼女の命の最後に煌めきであることも自然と分かった。
「スパイクさんまで死ぬのは嫌ですから……ストラーダさんに必死でお願いしました……ジンさん達にも一杯無理を言って……ふふ」
「ああ……お陰で助かった」
槍のようなものを構えて弱々しく微笑むニアにスパイクは言う。
良くみるとニアの片腕は完全に肩から外れていた。
スパイクには、傷一つない。
「良かった……」
「ニア……おい、ニア!」
ニアの目から緑色の輝きがふっと消え、スパイクの横手に倒れ込む。
抱き抱える。最後の一瞬までしてやれることは多くない。
「山、小屋……ありがとう、ござい、ました……私、とっても、不安で……」
「礼を言われる程のことじゃない。飯も食ってやれなかった」
「ルルーシュ、さんにも……お礼を……」
「……そうだな。必ず伝えてやる」
「あり、がとう……」
「……」
それきり、人のことばかり気にかける純粋の少女は喋らなくなった。
スパイクは抱き抱えたままだった小さな体をそっと横たえる。
そうして、スパイクもまた横になりぼぅっと空を見上げた。
空に浮かんだ歪みは大分小さくなっている。
しばらくそのまま何もせず、やがてかつかつとした足音が聞こえてくるまでそうしていた。
視線をやる。一見するとただの無表情に、しかし無言の気遣いを浮かべて、変わらぬコート姿のジンが立っていた。
「よぉ、スパイク。無事かい」
「ああ……無事だ」
空は完全に元通りとなり、穴が空いていた場所は何事もなかったかのような青さを取り戻している。
横で眠る少女は、もう目を覚ますことはない。
体はぼろぼろになる一方で、やることばかりが増える。
それでも。
「生きてるよ」
SEE YOU SPACE COWBOY
【C-5/住宅街/二日目/午前】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾1/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ(半分消費)@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:……
2:柊かがみのところへ行く。
3:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
4:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
5:ルルーシュにニアの伝言を伝える。
6:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
7:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、偽・螺旋剣@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:柊かがみを助け出す
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:マタタビ殺害事件の真相について考える。
5:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※舞衣、ゆたかと情報交換を行いました。
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:疲労(大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、
左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ (少し乗り越えた)、螺旋力覚醒
[装備]:無し
[道具]:黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
1:とりあえずはジン達と行動。
2:かがみを乗り越える。そして自分の手で倒す。
3:静留の動きには警戒しておく。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
※かがみへのトラウマをわずかに乗り越えました
※第5回放送を聞き逃しました。
シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』) 、
黄金の鎧の欠片@Fate/stay nightが【C-5】のどこかに撒き散らされています。
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(極大)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
1:Dボゥイのところへ戻る
2:かがみをラッドから助け出す
3:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
深い罪悪感と絶望
[装備]:薄手のシーツ、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]: 皆でここから脱出
1:Dボゥイに会いたい。
2:ゆたかがDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジン、スパイク、ゆたかと情報交換を行いました
※ 会場の上空で太陽石エネルギーが解放されました。会場への影響があるのか、あるとすればどのようなものなのかは不明です。
【ニア・テッペリン@天元突破グレンラガン 死亡】
◇
――ここはどこかしら?私は?
――ふむ。またしても「ここ」に現われることになろうとはな。
――あなたは?
――見覚えはないかね?
――神父さま……言峰神父さまですか?
――なるほど。君がそう認識する限りに置いて私は「言峰綺礼」の形を取るのだろうな。シータよ。
――シータ……そう、私はシータ。
――思い出してきたかね?君という存在ガが一体何者であり、これまで何をなしてきたのか。
――ええ……思い出しました。くすくす。ねぇ神父さま、私とっても頑張ったんですよ。
――そのようだな。見る手段はおろか道理すらない筈の私もそれを知っている。
――これも些事という訳か。
――些事?
――いや、気にせずともよかろう。
――くすくす。神父さま、私あなたとお話がしたいとずっと思っていました。
――そうか。私も気味の結果を見届けられなかったのは心残りではあった。
――くすくす。神父様は何があったかはご存知なのではないのですか?
――君の口から聞きたいのだよ。私というほんの僅かな因が君にどのような果をもた
らしたのか。
――それらは君の口から聞いてこそ意味のあるモノだ。
――君の言葉で。君の感情でね。リュシータ・トエル・ウル・ラピュタよ。
――分かりました。それじゃあお話をしましょう、神父さま。
――この計らいが、一体いつまで許されたものか。それは分からないがな。
――我々という存在がここにある間は、ゆるりと楽しむとしよう。
――くすくす。
――ふむ。
――くすくすくす。
――存外に、面白い話が聞けるかも知れんな。
【リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ@天空の城ラピュタ 死亡】
破壊された街の上に、青い空が広がっていた。
藍色の屋根が真ん中から崩れ落ち、叩き潰されたようになっている一軒屋。
足元の柱が倒壊し、膝をつく巨人のように傾いた貸しビル。
コンクリートで舗装された道路はところどころ捲れ、生の地面が晒されている。
帯状に焼け焦げて炭の塊と化した商店街は、そこで大きな火事があったことを示している。
今を遡ること約二十四時間、一対のソル・テッカマンが演出した崩落のステージは
現在も何ら変わることなく、静かにその破壊の跡を留めていた。
役者達が去り、役目を終えていたその舞台に、異形を成す影が二つ。
巨大な顔を模したかのような小さな何かと大きな何かが佇んでいる。
ところどころに罅が入り、穴だらけになった道路のど真ん中。
小さな赤と大きな赤が向かい合うように立っている。
それぞれの後ろには西から伸びた小さな足跡と東から伸びた大きな足跡。
棄てられたステージの中心で、彼らの道は今、交わった。
――これは、運命に裏切られながらも、自分の道を探し続ける男と女の物語。
◆
金属でできた強面の顔に手足をつけ、頭部一面に奇妙な紋様を戴いた小型のロボット。
ラガン。
見慣れたそれがこの場所にあることは、あのクソジジイに教えられて知っていた。
だが、まさかこんなタイミングで出会うことになるとは。
“ショウボウショの北にラガンがある”というジジイの言葉を思い出す。
ガッシュを追って北に行くため、戻ったここは多分、C−6。
なるほど、確かに位置としてはそんなにずれているわけじゃない。
驚きと困惑、そして何より期待。
カミナが正面から歩を進めてくるそれを見たときに抱いた感情は一口に言い尽くせない複雑なものだった。
教えられた事実と違い、今のラガンは明らかに稼動している。
つまりそれは何者かが乗り込んで、ラガンを動かしているということである。
ラガンはカミナが乗っているグレンのような普通のガンメンとは少し違う。
気合さえあれば起動する通常のガンメンとは違い、ラガンを動かすためにはある起動キーが必要だ。
コアドリル。
カミナ自慢の弟分が肌身離さず身につけていた宝物。
だとすれば……
(お前なのか?シモン?)
静かな興奮はいやがおうにも高まる。
放送で呼ばれた人間が生きていたことはカミナの知る限り一度もない。
放送で螺旋王が嘘を流す理由も見つからない。
仮に螺旋王の目を出し抜いて生き残っていたのだとしてもその方法は分からない。
シモンを殺した誰かがコアドリルを奪っていれば、あるいは、シモンが誰かにコアドリルを託していれば
ラガンは動く。何の問題もなく。
だが、だが、それでも……
「……あれがカミナの言っていたラガンですか。特徴は一致しますが。
どうします?接触を図りますか?もしかしたらガッシュのことを何か……」
「………………」
クロミラが何か言っているが、今は耳に入らない。
操縦桿をぎゅっと握り締めながら、通信回線を開く決意を固める。
腕がわずかに震え、汗がシートにぽたりと垂れた。
「……シモンか?」
半ば祈るような気持ちで呼びかける。
短い電子音が鳴り、側面の壁にウインドウが開いた気配を感じる。
そこに映っているであろう、懐かしい男の顔を見ようとしてカミナはちらと視線を向ける。
しかし……
「なるほど。貴様だったか、ハダカザル」
そこにあったのは弟分の笑顔などではなく、憎き宿敵の姿。
瞳が無意識に拡大する。
◆
「ヴィラル……」
忌々しげに歯を食いしばり、こちらを睨みつけるカミナを前にして、ヴィラルは自らの心が躍るのを感じていた。
雄雄しいビャコウの姿に勇気をもらい、決意を新たにした矢先に出会った次なるガンメン。
そいつはまるで待ち構えていたかのように、自分達の進もうとしている道の上をやってきた。
やりすごし、ルルーシュとの合流を優先することを考えぬわけではなかった。
しかし、決めかねていた矢先に入ってきた通信で相手の正体が明らかになった瞬間
ヴィラルの中から逃げるという選択肢は消え去った。
彼の戦士としての部分がその選択を殺したのだ。
考えてみて欲しい。
道の向こうから惹かれあうようにやってきたガンメン。
それに乗り込むは、かつて再戦を約束した人間の兵、カミナ。
空は晴れ渡り、崩れた街は静寂を保っている。
この戦場に二体の戦士を邪魔する輩は一人とていない。
まるで天がヴィラルの不退転を試すために作り上げたかのような状況ではないか。
ここで背を向けることを選んで、何の決意、何の勇気か。
(おもしろい……)
不意に獰猛な笑みが浮かぶ。
思えば、ここに来てから随分不本意な戦いを重ねてきた。
クルクルという名の白服の男に負け、伸びる槍を持った蛇女に負け。
シャマルと一緒になってからもそうだ。
裏切り者の女を逃がし、東方不敗を名乗る老人には体よく手玉に取られた。
傷の男との戦いはルルーシュが出てこなければ、地震の前に負けていただろう。
先ほどの珍妙な仮装男に受けた屈辱など、わざわざ思い出すまでもない。
(ここまでくれば、最早認めざるを得まい。
俺は、弱い)
力が足りない。技が足りない。知恵も、経験さえも足りない。
運さえもどうやら味方ではないようだ。
先ほどシャマルが作った有利は第三者の介入によりいとも簡単に吹き飛んだ。
撤退し、頼れる策士と合流しようとすれば、その途上には敵がいた。
しかもその敵は油断のならない強敵で、こちらより巨大なガンメンに乗っているというおまけつきだ。
泣きたくなるような不運としか言いようがない。
(だが、それがどうしたッ!?)
しかし、ヴィラルは諦めない。
それしきのことで自らの心を折ったりしない。
今は亡き上司、チミルフの魂に誓ったから。
胸の誇りに懸けて、最後まで戦い抜くことを。
(運命が試練を課すなら、俺は笑って戦うだけだ!
たとえ何度敗れようとも、食らいつき、生き残り、最後には勝利の栄光をこの手にしてやる!)
ゆえに彼は叫ぶ。
満面に牙をむき出し、宿命を威嚇するように。
「久しぶりだな。よくぞここまで生き残った。さすがは俺の認めた男だ」
不敵な文句が癇に障ったか。
モニター越しのカミナはより一層、不機嫌な顔になり歯と歯をギリリと鳴らす。
「何でテメエが……テメエみたいな奴がそれに乗ってやがる!?」
「ククク。変なことを訊くヤツだ。
もともとガンメンは我ら獣人の乗り物。俺が使っていたからといって不思議なことはあるまい?
むしろ、そのセリフは俺が貴様につき返してやりたいくらいだよ、ニンゲン」
「うるせぇ!!
グレンは元のところにいたころから、俺のダチで魂だ!
いちいち文句をつけられる筋合いはこっちこそねえ!!
そしてぇっ!テメエが乗ってるそのラガン!
……そいつは俺の相棒の、かけがえのねぇダチで魂だ。
テメエみたいなくされ獣人野郎が気軽に乗り回していい代物じゃねんだよ!!
今すぐこっちに返しゃあがれ!!」
「やれやれ、ニンゲンとはやはり愚劣で野蛮な生き物だな。
こちらのモノを指差していきなり寄こせとは……」
「……あんだとぉ!?」
「落ち着いてくださいカミナ。熱くなりすぎです」
「おめぇは黙ってろ!!こいつは俺とヴィラルの問題だ!!」
激昂するカミナをみて、より一層血が滾るのが分かる。
操縦桿を握る手が震えるのが分かる。
どうやら、相手も闘志は申し分ないようだ。
カミナのほかにも誰か乗っているようだが、ガンメン同士の戦闘ならば、さして問題にはなるまい。
「シャマル、ここは……」
「……分かってるわ。ここで見つかってしまった以上、やりすごすのは無理でしょうからね」
小さな声で了解をとると、シャマルの緊張した声が返ってきた。
どうやら異論はないらしい。
「とにかく!ラガンはここに置いてってもらうぜ!
嫌だってんなら、力ずくで引きずり出してやる!」
同乗者との言い合いにケリがついたのか、カミナが再び吠え掛かる。
ならば、こちらの答えはただ一つ。
「おもしろい!できるものならやってもらおうか!
生身の戦闘ならともかく、ガンメン同士の戦いで俺に勝てると思うなよ!?」
「ヘッ、そんなこと言って、この前もやられて逃げ出したのはどこのどいつだ?アァン?」
「抜かせ!昨日の決着をつけてやる!」
「きやがれ!獣人野郎!」
静寂は破られ、機械の軋みとエンジンの唸りが舞台を塗り替える。
戦いのゴングは今、鳴らされた。
◆
「おおおおりゃああああああああああああ!!!!!!!!」
最初に仕掛けたのはカミナ。
気合一閃、グレンの巨大な足が振り下ろされる。
フットスタンプ。
斧のように重く、鞭のようにしなやかな右足がラガンを襲う。
「甘い!!」
対するヴィラルは動じない。
冷静に軸をずらして直撃を避けると、着地の衝撃を利用してわずかに跳躍。
一瞬遅れた蹴撃は目標を見失い、虚しくコンクリートを砕く。
響く轟音に怯む間もなく、ラガンはグレンの足に取り付くと、そのまま上に昇る、昇る。
「食らえ!」
装甲を掴む腕に力を込め、上向きのベクトルを生成。
勢いをつけるとそのまま体を縮め、グレンの胸に向かってその身をぶつける!
体当たり。この小さなラガンが最も大きな打撃力を発揮できる技。
金属と金属がぶつかる鈍い音が起こり、グレンの足がわずかにふらつく。
衝撃と揺れにカミナの口からは無意識の呻き。
「てめえ!やりゃあがったな!!」
しかし、カミナの復帰も早い。
すぐさま態勢を立て直すと、未だタックルの余勢で宙に浮いているラガンを両腕でガッチリキャッチ。
すかさず右手に持ち替えると、まるで野球選手がそうするように振りかぶり、思い切り投げつけた!
きりもみ回転しながら飛んでいくラガンは電柱をへし折り、無事だった民家を半壊させてやっと停止した。
「きゃあっ!!」
「ぐうううううううう……おのれぇ!!」
今度呻きをあげるのはヴィラルたちの方だ。
余りの機動に頭の中がグラグラ揺れる。
だが、のんびりしてはいられない。
「おとなしく観念してラガンから降りやがれ斬りぃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
いつの間にか胸のサングラス型ブレードを装備したグレンがすぐ傍に立っている。
右腕でブレードを振り上げ、次の瞬間斬りかかるために。
「ッ!!」
ほとんど反射的に操縦桿を引く。
続けて地面が割れる重い音。
ヴィラルの直感が勝ったのだろう、ラガンは間一髪で身を捩り、かわしていた。
機体から数十センチ。カミナの一閃は代わりに民家の客間を引き裂いた。
だが、追撃はまだまだ終わらない。
すぐにブレードを引き抜くと、グレンは二撃目のモーションへと移る。
繰り出される斬撃、斬撃、斬撃の雨。
態勢が崩れたままのラガンは転がって避け続けることしかできない。
「カ、カミナ。よろしいのですか?あのラガンは大切なものなのでしょう?
それをこんなに乱暴な……」
「うるせぇ!!シモンのラガンはなあ!そんな簡単に壊れたりしねえんだ!!
ヴィラルと勝負して、ぶちのめして、取り返すのはそれからでもできらぁ!!
それに、男が一度すると決めた喧嘩だ!手加減なんぞできるかよ!!」
「そんな無茶苦茶な!!」
グレンの一歩、グレンの一撃が繰り出されるたび、土埃が舞い、街はさらなる破壊に沈む。
ブロック塀が崩れ、屋根が割れ、道路は大きく陥没する。
飛び散る瓦礫が視界を奪う中、ラガンは転がり、耐えることしかできない。
頼りは長年の経験に基づいた着弾予想と、研ぎ澄まされた直感のみ!!
「どうしたぁ!?逃げてばかりじゃ勝負にならないぜヴィラル!!」
「クッ、調子に乗るなよニンゲン!!」
カミナの挑発に、ヴィラルの獣の血が叫ぶ。
「うあああああああああああああああああ!!!!」
「何ィ!?」
次の刹那、咆哮とともにヴィラルはカミナの裏を衝く。
刃を振り、ヴィラルを逃がすまいと動いていたカミナの思惑を裏切り
ラガンを突如、地を蹴って、グレンの懐に飛び込んだのだ!
「これは……まずいです!」
「くっ、野郎!」
一転し、焦るはカミナ。
武器にはそれが十分に威力を発揮できるリーチというものがある。
剣であろうが槍であろうが、敵がそのリーチを外れてしまえば、武器はその要を成さない。
グレンが振るっているサングラス型のブレードは足元の敵を払うようにはデザインされていない。
そして、さらに悪いことにはカミナはラガンの逃走ルートを絶つため、気持ち遠目を狙って剣を降っている。
つまり、グレンの足元は今のカミナにとって、完全な、死角。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
攻め手を殺したヴィラルは刹那、前方に向けてさらなるダッシュ。
グレンの股座を潜り抜け、カミナの背後に回り込む。
慌てるグレンは剣を置き、即座に急速旋回を……
「遅いッ!!」
しかし、先んじたのは、やはりヴィラル。
バーニアを一気にトップまで噴かすと一気に加速。グレンの背に強烈な一撃を加えた。
先ほどの体当たりのときとは比べものにならぬほどの強い衝撃がカミナを打つ。
金属が悲鳴をあげる。弾丸と化したラガンが装甲をひしゃげ、凹ませていく。
これだけの打撃を食らっては、流石のグレンも堪らない。
急速旋回の機動に入っていたことも悪しきに働き、バランスを大きく崩すと、そのまま前へ倒れこんだ。
腹に響く重低音と舞い上がった埃が場を満たし、一瞬だけ他の音が消える。
「もらったぞ!」
百戦錬磨の獣人はこの隙を見逃さない。
倒れた電柱を足場に助走をとり、エンジンを一気呵成に回して天高く舞い上がる。
機体の影と太陽が重なった刹那、緑の閃光がわずかに瞬いたかと思うと、ラガンのボディが姿を変える。
脚部が消え、代わりに顕れたのは天をも穿つ巨大なドリル。
「死ぃねええええええええええええええええ!!!!!!」
ヴィラルが気勢を発すると同時、唸りをあげてドリルが回る。
火花を散らし、空気を抉り、降下の運動エネルギーを乗せて、ラガンはグレンに落ちていく。
触れる全てを貫き壊すドリルの先が目指すのは、カミナの乗り込むコクピット!
未だ動かぬグレンを眼下に収め、ヴィラルの口に微笑が浮かぶ。
「なぁめんじゃねえええええええええええええ!!!!!」
だが、ヴィラルは知らない。
人類で二番目にガンメンを繰った男が愛機と命懸けで綴ってきた戦いの歴史を知らない。
だから、彼にはグレンの次の機動が予測できなかった。
「何ッ!?」
勝利を確信した次の瞬間、ラガンに被さる大きな影。
驚愕とともに目を見開いた時には時既に遅し。
グレンの右足が間近にまで迫っていた。
カミナは強襲を悟るやいなや、グレンを素早く逆立ちさせて体を捻り
その勢いを利用してのオーバーヘッドキックで思い切り蹴りつけたのだ。
完全に隙を突かれた形となったラガンは、さながらサッカーボールのように吹っ飛び、回転しながら瓦礫の山へと突き刺さる。
「今のは少し危なかった……とりあえずナイスシュートです、カミナ。」
「おう!よく分からねえが、あたぼうよ!!」
回避即攻撃の妙手。
だが、それは何もカミナがあの状況で頭をめぐらせ、最善手を模索した結果生まれた一撃ではなかった。
この攻撃を生んだのは言うなれば反射。
地上に出てきてから向こう、照る日も曇る日もグレンを駆り続けてきたカミナの戦いの歴史があれを可能にしたのだ。
移動するときも、休息をとるときも、もちろん戦いに赴くときも、彼はグレンと多くの時間を過ごしてきた。
その時間は機体の機動やクセ、限界を本人も知らぬうち、体に叩き込んでいる。
そして、人機一体とまではいかずとも、そのことはより正確で大胆な操縦を可能にする。
カミナにとってグレンは手に馴染んだ武器であり、一番近くで戦ってきた戦友なのである。
ゆえに、その愛機で戦えるアドバンテージは大きい。
ましてや、相手であるヴィラルが乗り慣れない小型ガンメンでの戦いを強いられている以上、余計に。
だが。
「さぁて、いっちょ決まったところでラガンを返して……ん?」
カミナが思わず怪訝な声をあげる。
それもそのはず。
不意をついた一撃に気をよくするのも早々に、ラガンを取り返そうと目を向けた先。
ついさっき激突の粉塵を上げたばかりの瓦礫から、ラガンの姿が忽然と消えていたのだ。
「クソッ、まさか逃げやがったのかあのヤロ……」
「カミナッ!後ろに跳んでください!」
「なにっ?」
悪態も吐きおわらぬ刹那、コクピットにクロスミラージュの電子音声が鋭く響く。
突然の緊迫にカミナの意識が一瞬だけ遅れる。
しかし、真剣勝負の場ではその一瞬が命取り。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!??」
次の瞬間、グレンのボディに突き上げるような激しい振動が襲う。
何かが装甲を無惨に削る音がする。
グレンの片目が巻き込まれ、顔に大きな傷が刻まれる。
揺れるコクピットの中、突如足元から何かが放たれたのだと理解したのと、襲来した物体を看取したのとはほぼ同時。
「とっさに体を捻り、直撃を避けたか。
つくづく小賢しいハダカザルだ」
奇襲の失敗を悟り、ヴィラルが空中で毒づく。
ふと視線を眼下に落とせば、地上にはちょうどラガンの体が通る大きさのトンネル。
グレンに蹴られ、住居の残骸に叩きつけられたヴィラルは強烈なGに意識を刈られそうになりながらも
溢れる闘争心で正気を保ち、すぐに次なる攻め手へと行動していたのだ。
衝突の際の土煙でカミナの視界が不十分であることを見るやいなや、変形させたままになっていたドリルを再稼動。
土に潜って姿を隠すと、そのまま地下を移動し、グレンの足元から奇襲へと持っていった。
ヴィラルは人間掃討軍の極東方面部隊長である。
ガンメンの操縦に卓越し、戦士として数多の経験を積んだ歴戦の勇者だからこそ、彼はその地位についた。
そして、地道に積み上げられてきたその時間は、わけのわからぬ異世界に飛ばされ
苦しい戦いを強いられている今でさえ、決して消えることはない。
ドリルを使っての土中移動と小回りのきく体躯を生かしたトリッキーな戦い。
ラガン特有の持ち味を、ごく僅かの戦闘である程度、理解することができるのも
そうやって培ったセンスがあったればこその所業。
確かにカミナのように長年連れ添った愛機で戦っているわけではないが
戦いそのものの歴史だけで考えればヴィラルには一日の長があるのである。
「この野郎!シモンの技を!」
「さっきからシモン、シモンとうるさい奴だ。そんなことより戦いに集中するんだな」
カミナが不安定な態勢のまま放った拳をひらりとかわし、ヴィラルはグレンと距離をとる。
再び向かい合う赤と赤。
戦場は緊張を保ったまま、静寂へと帰ってきた。
◆
(ほぼ互角……ですか)
声に出さず、クロスミラージュは状況を分析する。
これまでの攻防は一進一退。
どちらかが攻め込めばもう片方がそれをうまくいなし、反撃に繋げていく。
お互い、隙あらばと決定打を狙うものの、クリーンヒットは奪えない。
ゆえに、戦いの天秤がどちらかに大きく傾くことはない。
そんな流れで戦闘は推移している。
機体の扱いという意味では、カミナが一歩リードしているものの
相手は天性のカンと経験でその差を十分にカバーしている。
パワーとリーチでは機体の大きさもあって、おそらくグレンの方が一枚上手。
しかし、代わりにスピードと一瞬の爆発力はラガンのほうに分があるだろう。
カミナもヴィラルも相手に対して因縁めいた感情を抱いているようだが
戦闘に別段大きな精神的影響が出るような類のものでもなさそうだ。
そして、これまでの戦いを見る限り、お互い、戦況を大きく左右できるような支給品は持っていないか
もしくは使う気のないものと予想できる。
ゆえに結論は、互角。
(戦闘能力がほぼ対等で、コンディションにも別段の差異がないとするならば
勝負を決めるのは一瞬の油断、あるいは常のパフォーマンスを維持し続ける体力と見るのが妥当でしょうか。
しかし、もしも私の予想が当たっていたとしたら……)
ささいなミスが生死を分ける持久戦を予測する一方
クロスミラージュのコンピュータはもう一つの可能性、カミナにとってはより悪い未来予測を捨てきれずにいた。
その大元になっているのは、この戦いが始まって以降、彼がずっと抱いているある疑惑。
ラガンのコクピット内にずっと観測され続けている、ヴィラルではない誰かの魔力反応。
クロスミラージュは考える。
カミナの話によれば、ヴィラルは螺旋王の部下でこの殺し合いの完全なる賛同者。
だとすれば、そんな男に殺されることなく同行している可能性がある人種は二種類に限定される。
まずは人質。
人命を重視する人間、もしくは人質と近しい人間との戦いにおいて、このカードは非常に高い効力を発揮する。
相手の攻撃の手を鈍らせることはまず確実だし、うまくすればこちらは損害を被ることなく相手を無効化できる。
また、仮に相手が開き直って人質を見捨てることに決めた場合でも、相応の精神的ダメージを与えられる公算が高い。
(ですが、今回の場合、その確率はあまり高くないでしょうね。
もし一緒に乗っているのが人質だったとするならば
ヴィラルは私たちにその存在を既に仄めかしていなければおかしい。
いることが明らかにされない人質などただの荷物でしかありませんからね。
特定の誰かに向けた人質というのも考えられなくはないですが、それでも、とりあえず存在は告げてみるでしょう。
知り合いでなくとも、カミナのようなタイプなら有効な揺さぶりになるのは明白ですし。
……とすると、やはり確率が高いのはもう一方のパターンですか)
考えられるもう一つの人種として挙げられるのは、仲間。
これが最後の一人しか生き残ることのできない殺し合いで、ヴィラルがその積極的な支持者だからといって
彼が一人でいるとは限らない。
強力な参加者を倒すため手を組んだ、彼の他にも紛れていた螺旋王の部下と合流した、善良な参加者を騙している等
ヴィラルが仲間を作るに至るケースはいくらでも想定することができる。
(しかし、仲間がいたからといって、それが直接、今の戦況に影響する可能性は少ないはず。
これは人型機動兵器同士の戦闘です。
生半可な人間が割り込んだところで、戦局に影響を与えるどころか無駄に命を散らすのがオチでしょう。
……もっとも、あの東方不敗クラスの人間なら分かりませんが。
ですが、これだけ戦力が拮抗しているにもかかわらず一向に出てくる様子がないところを見ると
そういう人間が乗っているというわけでもないのでしょう。
と、すれば、謎のもう一人をこの場の不安要素として勘案する必要は大きくなく
やはり現状は互角の状態と見るのが妥当のはず!
……そう、ただ一つの例外ケースを除いては)
クロスミラージュの想定する例外ケース、それは相手が魔術師、もしくはそれに準ずる能力の持ち主であるという可能性。
もし、ヴィラルの同乗者が魔術師であるならば、ロボットから降りずとも戦況に影響を与え得る。
索敵、補助、そして攻撃。視界さえ通れば魔術師にできることは多い。
そして、不幸なことにクロスミラージュは今、ヴィラルの横に存在しうる魔術師を一人知っていた。
ちょうど、彼が観測した程度の魔力反応を持ち
ヴィラルと同じく殺し合いに賛同し
このような戦いの際にはまず様子を見、相手の戦力を見極めてから戦いを挑むような性向を持つ。
そんな魔術師を。
(まさか。
しかし、カミナの言葉を信じるならば……
いや、ですが、それではあまりにタイミングが悪すぎる。
でも、どうして?)
混乱する。
不安定な人間を、機械的、論理的な演算でサポートするため作られた、インテリジェントデバイスが混乱する。
戦闘の合間、ヴィラルのものに混じって聞こえる女の声。
相手の通信窓からほの見える金髪、白衣、茶色い制服。
本当は分かっていたのかもしれない。
本当は分かっていたけれど、人間に近づいてしまったデバイスは認めたくなかっただけなのかもしれない。
しかし、いくら目を瞑っても現実はいつだって一方的に押し寄せてくる。
人間だろうが機械だろうが、その事実は平等だ。
「……なるほど。おおよその動きはわかったわカミナさん……だったかしら?」
僅かな間続いたカミナとヴィラルの睨み合い。
その沈黙を破るように響いた声は、クロスミラージュにとってそういった類の現実だった。
「……テメエは」
「ヴィラルさんと対等に戦えるくらいの腕はあるみたいね。
一対一なら勝負は分からないけど……一対二ならどうかしら!」
ギリとカミナが歯をかみ締めて身構える。
彼にはもう敵の正体が分かっている。
相対するラガンはピクリとも動かない。
ならば攻撃は一体どこから……
「カミナッ!下ですッ!!」
「ちっ!」
緊張に身を張っていたカミナが即座にレバーを引く。
グレンが飛び退いた刹那、グレンが立っていたそこを、大地から生えた無数の刃が貫いた。
民家の庭だった草むらを引き裂いて出でし、輝く白刃の名は、鋼の軛(くびき)。
古代ベルカ式の範囲魔法。
「……やはりあなたでしたか。ミスシャマル」
いつのまにかラガンを中心に浮かんだ正三角形の魔方陣を視覚素子で確認しながら
クロスミラージュは問いかける。
「久しぶり、クロスミラージュ。
ティアナは死んだのに、貴方はまだ壊れてなかったのね」
返ってきた声はなおも冷たい。
◆
轟音のあとに激しい水柱が続く。
土手の上から吹き飛ばされてきた赤い巨体は受身を取ることも許されず、一直線に川面へと突っ込んだ。
跳ね上げた水が一瞬の雨となり、川沿いの砂利へと降り注ぐ。
「ち、っくしょう……」
水煙が収まるのを待つこともせず、カミナは機体の態勢を立て直す。
立ち上がり、次なる攻撃へ備えるべく構えをとる。
しかし、その姿勢は戦いが始まった当初に比べればどこか弱弱しく、焦りの色が濃い。
立ち振る舞いからはカミナらしい大胆さや気楽さが消えうせ、代わりに重苦しい緊張感ばかりが宿っている。
目からは闘争心こそ消えてはいないものの、呼気は荒く、額には脂汗が光っている。
疲弊しているのは操縦者のカミナばかりではない。
右肩と右目、頭頂部にドリルでつけられた削岩痕。脚部パーツには何かで切り裂かれたような無数の切り傷。
凹みや磨耗跡などは多すぎて数える気にもならない。
グレンもまた見る影がないほど傷つき、消耗していた。
「どうした?もう終わりか?」
頭上から不敵な声が飛ぶ。
見上げれば、橋の欄干に立ち、腕組みしているラガンの姿。
ところどころ傷つき、汚れているものの、その装甲に大きな損傷はない。
小さいながらも自信に溢れたその威容はグレンとは対照的な強靭さを思わせる。
「バカ言ってんじゃ……ねえーーーーーーーーッ!!」
重い空気を打ち払うように、カミナが吼える。
胸部のサングラスブレードを取り外し、気合と共にぶん投げる。
「当たるかッ!」
回転しながら飛んだブレードは橋の中心部に突き刺さり、いとも簡単に足場を瓦礫に変えた。
だが、そのとき、既にラガンはそこにはなく、宙にその身を躍らせている。
攻撃の隙を突こうと、ヴィラルは眼下のグレンに照準を合わせる。
しかし、カミナの意識は既にその一歩先を行く。
「食らいやがれ!
男の魂完全燃焼、ライジングドラゴンアッパーカァーーーーーーーットォッ!!」
投げたブレードはあくまでおとり。その目的はラガンを跳躍させること。
カミナは今までの行動パターンから、ヴィラルの着地地点にあたりをつけ、あらかじめそこに先回り。
重力に任せて落下してくるラガンに渾身のカウンターアッパーを食らわせようと待ち構えていた。
ヴィラルも一瞬遅れて狙いに気づき、バーニアを吹かすも残念ながら一手遅い。
しかし。
「!! ダメですカミナッ!」
「ッ!!」
クロスミラージュの上ずった電子音がカミナの耳を打つ。
次の瞬間、拳を握り、腰を捻ってアッパーカットのモーションに入っていたグレンの足元から
数本の輝く刃が躍り出た。
ほとんど勘で足を捌き、直撃だけは避けるカミナ。
しかし、完全な回避にはほど遠く、かすった装甲が火花をあげ、上体がバランスを崩して機体がグラグラ揺れる。
「ハハハ、何だそれは?新手の踊りか?」
そしてそれは上空のヴィラルにとって、決定的な隙になる。
カミナもとっさに防御姿勢をとるが、不安定な今の体勢ではとても満足な対応は望めない。
ラガンのドリルが唸りをあげ、グレンの左肩に突き刺さる。
甲高い音が木霊して、肩の装甲がひしゃげ、割れ、吹き飛んだ。
「このまま左腕を破壊させてもらうぞ!」
「野郎ォ!やらせてたまるか!」
「おっと」
たまらず右の腕を振り上げ、肩のラガンを振り払いにかかるグレン。
だが、ラガンは迫る拳に合わせるように小さく前転すると、右腕の上を転がって右肩へと抜け、難なくこれを回避する。
逆に無理な姿勢になったグレンはついに足を縺れさせ、その場に尻餅をついてしまう。
「……カミナッ!」
「またかよッ!!」
敵はカミナに休む間を与えない。
グレンがへたりこんだそこに再び打ち込まれるのは鋼の軛。
どこから出るか分からない床槍に対し、カミナができるのは無様に転がって回避を試みることだけだった。
鋭く尖った白い刃はかすってさえグレンの皮膚を削り、金属を抉る。
直撃をもらうことは許されない。
「畜生、ヴィラルてめえ、卑怯だぞ!
男なら勝負はタイマン!拳一つで勝負しねえか!」
「残念だけど、ヴィラルさんは男でも、私は女の子なの。だからそんなの関係ないわね」
「うっせえ!誰もテメエにゃ聞いてねえんだよ!」
「無駄口を叩いている暇があるのか、ハダカザル?」
「ウオッ!グウッ……」
「カミナ!
やめてくださいミスシャマル!今の貴方に私達と戦う理由なんてない筈です」
「……それを決めるのはあなたじゃないわ」
◆
必死で攻撃を凌ぐ劣勢のグレンに対し、優勢なラガンが猛攻を見舞う。
つい先刻まで互角の戦いをしていた両者の関係は今やこのような一方的なものへと変化していた。
天秤が傾いた大きな原因は序盤で様子見をしていたシャマルの参戦。
彼女はラガンとグレンがほぼ互角であることを見て取ると、いきなりは加勢せずに
まずはお互いの戦い方を理解することに専念した。
ラガンとグレンのスペック、ヴィラルとカミナの戦い方、フィールドのコンディションなど
この戦いにおけるあらゆる要素をあらかじめ観察し、その上で最善の補助手段を勘案してから行動に出たのだ。
(今度こそ、うまくやってみせる。
傷の男のときの二の舞はもう、ごめんだわ)
一見、慎重すぎるかのようにも見えるシャマルの行動。
その裏には傷の男との戦いの反省があった。
あのとき、ルルーシュが看破してみせた傷の男側の情報。
それを推察するための種はあのとき、確かにシャマルにも与えられていた。
しかし、あのとき彼女はそれらの情報から何の機知も得ることができず、ただ流されるまま戦うことを選んでしまった。
あのとき戦況が改善したのはルルーシュが持っている“何らかの力”に起因していたことはもちろんだが
だからといって、状況を読んでも無駄だということは決してなかったはずだ。
相手にこちらの命を奪う意思がないこと、こちらの情報を事前に察知されていること、向こう側の目的など
知っていれば戦闘を有利に進めることができたかもしれない要素はいくらでもある。
(東方不敗、傷の男……
ここには私達が正面から戦ったんじゃ勝てない敵がたくさんいる。
そういう敵を確実に倒していくには、あの子、ルルーシュみたいにちゃんと頭を使わなきゃダメなんだわ。
そうじゃなきゃ、二人で一緒に生き残ることなんてできやしない……!)
実はシャマルもルルーシュほどではないにしろ、戦略的な目は持っている。
部隊で常に司令塔に相当するポジションに就き、任務を果たしてきた実績は伊達ではない。
戦況の分析、戦力の分析、それを踏まえた上での支援などはむしろ得意分野だと言えよう。
彼女が今までその能力を十分に発揮できなかったのは、慣れぬ前衛で戦っていたからに他ならない。
敵と直接肉薄しながら戦うという常とは異なるシチュエーションがシャマルの判断能力を著しく阻害していたのだ。
そういう意味で言えば、ヴィラルがラガンを手に入れたことはまさに僥倖であった。
固い装甲に守られ、近接戦闘については気を配らなくてよいこの環境は
揺れさえ気にしなければシャマルの得意とする後衛のフィールドに近い条件を与えてくれる。
そして、条件さえ整えば、彼女は補助魔法のプロフェッショナル。
その強力さは今までの肉弾戦闘における彼女の比ではない。
事実、今回彼女がとった支援策は戦況に対し、確実に有利な影響を与えている。
鋼の軛を用いて、飛ぶことのできないグレンの足場を揺るがす策は見事に当たり
素早く飛び回るラガンへの対応を非常に困難にさせた。
結果、カミナは前のような有効な一打を入れることができずに、望まぬ防戦を強いられている。
(ここでなら、私は十分に力を発揮することができる。
ここでなら、もっとヴィラルさんの力になれる!!……こんな風に)
「カミナ、ここは一度距離をとるべきです!」
「なぁにぃ〜!?俺に逃げろってのか!?」
「そうではありません!
ここはヴィラルとやり合うには狭すぎます。
両岸が土手に挟まれていて移動の選択肢があまりにも少ない。
こんなところで戦っていたら、ミスシャマルの魔法のいい的です!」
「……くそっ、しゃあねえなッ!」
劣勢の状況を仕切りなおすため、カミナはグレンを駆って大きくジャンプ。一気に対岸の土手まで飛び上がる。
だが。
「やっぱりそうきたわね。予想通りよッ!」
非情なことにその行動は完全にシャマルの想定どおり。
それもそのはず。
彼女はカミナがそう行動するよう、軛の出る位置を調整して、追い詰めていたのだから。
「何ィッ!?」
「……誘い込まれた?」
着地点に待ち構える白い拘束条を目の当たりにして、カミナが驚愕の声をあげる。
とっさに空中で体を捻り、避けようとするが今更間に合うはずもない。
大地に降り立ったグレンの脚部を、すかさず刃が縫いつける。
足掻けど抜けぬ拘束魔法をその身に受けて、グレンの動きが完全に止まる。
「ヴィラルさん!今よ!」
「オウッ!」
シャマルの号令を受け、ヴィラルがラガンを空へと飛ばす。
グレンの直上まで弧を描いて到達すると、そこから一気にバーニアを逆噴射。
緑の閃光を撒き散らしながら、一条のドリルと化したラガンが加速していく。
回転するドリルは風を纏い、絡まる二人の螺旋力を纏い、さながら荒ぶる竜巻のよう。
狙うはグレンの脳天から股間を通す、彗星のような一閃。
拘束された今のカミナに避けるすべはなく、あとに待ち受けるのは逃れえぬ死のみ。
わざわざ誘導などという回りくどい手段をとってまで鋼の軛を決めたのは
このトドメの一撃を確実に決めるため!
「食らえッ!必殺!ラガンッッッ、インパクトォォォォォォォォッッッッッッ!!!!」
地を裂くヴィラルの怒号が響き、続いて緑の稲妻がグレンの頭上へと降り注ぐ。
ドリルが装甲を砕き、ラガンの影がグレンに重なり、埋もれる。
瞬間、耳を劈く爆音が轟いた。