アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ17
・参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)
1/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/●八神はやて/○シャマル/●クアットロ
0/6【BACCANO バッカーノ!】
●アイザック・ディアン/●ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/●ラッド・ルッソ/●チェスワフ・メイエル/●クレア・スタンフィールド
1/6【Fate/stay night】
●衛宮士郎/●イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/●ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/●言峰綺礼
1/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/●カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/●ロイド・アスプルンド/●マオ
1/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/●リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/●マース・ヒューズ
3/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
1/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/●ジェット・ブラック/●エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/●ビシャス
2/4【らき☆すた】
●泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
2/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/●アレンビー・ビアズリー
0/4【金田一少年の事件簿】
●金田一一/●剣持勇/●明智健悟/●高遠遙一
2/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/●パルコ・フォルゴレ/●ビクトリーム
1/4【天空の城ラピュタ】
●パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/●ドーラ
2/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/●玖我なつき/●藤乃静留/○結城奈緒
1/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/●読子・リードマン/○菫川ねねね
0/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/●ミー/●マタタビ
0/3【さよなら絶望先生】
●糸色望/●風浦可符香/●木津千里
0/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
●神行太保・戴宗/●衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
1/2【トライガン】
●ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
1/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/●相羽シンヤ
1/2【王ドロボウJING】
○ジン/●キール
【残り22名】
≪生存者名簿≫
【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
○シャマル
【Fate/stay night】
○ギルガメッシュ
【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ
【鋼の錬金術師】
○スカー(傷の男)
【天元突破グレンラガン】
○カミナ/○ニア/○ヴィラル
【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル
【らき☆すた】
○柊かがみ/○小早川ゆたか
【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗
【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿
【天空の城ラピュタ】
○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ
【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/○結城奈緒
【R.O.D(シリーズ)】
○菫川ねねね
【トライガン】
○ニコラス・D・ウルフウッド
【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ
【王ドロボウJING】
○ジン
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【書き手の注意点】
・トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、
>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
携帯からPCに変えるだけでも違います。
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】
・このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
程度によっては議論スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)
・したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
・初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
・予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
・予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
・申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
まとめwikiを参照のこと
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
人工の光によってのみ照らされた薄暗い建物の中でピッ、と小さな電子音が流れた。
確認を告げる女性の声に続くように静かに扉の封印は解かれ、それに呼応するかのように差し込まれた天然の光が二人の少年の姿を露にする。
方や喜悦の笑みに大きく顔を歪ませ。
方や強い憤りを隠そうともせず顔を伏せる。
対照的な反応を示すも、二人の目に映っているのは同じ硬質の機械群。
「素晴らしい……素晴らしいぞ!ククククク……ハッハハハハハハハハ!!」
最後の役目を果たしたショッピングモールの一角にルルーシュ・ランペルージの哄笑が歪んだ歓喜の感情を乗せて響き渡った。
◇
支援スタート
静脈が浮き出る程に白く震えながらフォーグラーの操縦桿へと差しのべられたシャマルの手は一瞬遅れてそれを察知したスカーによってはねのけられた。
「きゃっ!」
僅かに浮かび上がった大怪球が再び地面に衝突し大地を揺るがせる。バランスを欠いていたシャマルにとってその衝撃は耐えられるものではなく二、三歩滑稽なリズムでたたらを踏むと操縦席の端から足を踏み外し数十メートルの上空にその身を踊らせた。
「あ……」
体がふわりと浮く感覚に襲われる。真下が地面、というわけではなくここに至るまでに足場にしたと思われる機械やら配管やらが冷たく突き出ている。
待ち構えるように光るそれらに貫かれて死ぬのか、実感もなくそう思った。
「ちぃ……!」
それを防いだのは自分をさらった男が伸ばした武骨な腕だった。間一髪つかまれた肘に痛いほどの感覚が広がる。
だが、男も無理のある姿勢だったためかシャマルを支えきることができずそのままもつれあうように二人して転がり落ちた。
幸いにしてと言うか、男が器用に空中でシャマルを抱き抱えさらに驚異的な身体能力で衝撃を殺しつつ落下したため最終的に地面に降り立ったときも怪我一つなかった。ヴィラルの助けとするはずの大怪球の操縦席はもう手の届かないところに行ってしまったけれど。
音声が聞こえ、放送が行われているのを何となく認識する。内容は馬鹿になってしまった耳からは伝わってこない。
次にシャマルが知覚したのは放送を聞き終えた男の向ける射殺すような冷たい視線だった。
「おとなしくしているならばと思ったが……」
言いながら、男がその巨碗をゆっくりと振り上げる。
「腕の一本でも奪っておくべきだったか?」
「ひ……」
冷静に考えればそれは脅しなのかも知れない。歴戦の経験が頭の奥底で可能性を告げてくるが、疲弊し切った今のシャマルにはどうすることもできない。
男の威圧にただ呑まれ思考を停止させるだけだ。
諦めも、悔恨も、何一つ具体的な感情を結べぬまま男が腕を降り下ろすのを見つめる。
最後に目を閉じるだけの余裕は、何とか残されていた。
「シャマルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
突如割り込んだ叫びにシャマルははっと目を見開き男はピタリとその手を止める。
職務放棄に近い状態のシャマルの脳にもはっきり飛び込んできた声の主は、忘れもしないあの男。
シャマルに唯一残された愛しい愛しいあの男。
誇り高き獣人の戦士ヴィラルは以前交わした約束を違えることなくシャマルを守るべく轟音とともに空から降ってきた。
「シャマル!無事か!?」
「ヴィラルさぁん!」
正確には降ってきたのはヴィラルが乗った人形の機動兵器だった。着地の勢いを殺しきれなかったのか舗装された道路を削りながら転がる。
がば、と人間そっくりの挙動で起き上がった機動兵器の顔に苦しげな表情が見えたのは喜びの見せた幻覚か。
シエーン
いくぞ支援!
「いったいだろーが!やるならもう少しうまく操縦すれ!」
「うるさい!生かしてやっているだけありがたいと思え……怪我はないか、シャマル?」
操縦席で抗議の声を挙げる見たことのない女性を怒鳴り付けながら、一転して甘い声でシャマルに労いの声をかける。
機動兵器を降り自らの足でシャマルの前に立つヴィラルの笑顔は朝日を浴びてとても眩しく見えた。
きらりと輝く鋭い歯がたまらなく頼もしく見える。
「さぁ、最後の仕上げだ。シャマル、俺は獣人の名誉にかけて今度こそあの男を討ち取ってみせる。あの男の強さは承知の上だ」
切り裂かんばかりに鋭角的に歪められた視線が射抜くのは、距離を取って出方を伺う顔面に傷を負った男。
「そしてあの男の首をチミルフ様の墓前に捧げよう。戦死されたからこそ約束は果たさねばならん。シャマル、お前はあの女を見張っていてくれるか?」
背後の機動兵器を指し示す。静かな口調からは逆にヴィラルの曲げようのない覚悟と傷の男に対する押さえようのない怒りが感じられた。
「……はい」
故にシャマルはその言葉を飲み込むしかない。
サポートを、と共闘を申し出ることさえも憚られた。仮にも騎士と呼ばれる者達と長い時を過ごしてきた。見送るべきときかそうでないかの見極めくらいはできる。
ヴィラルの乗ってきた機動兵器の側に立ち、操縦席で拘束されている女性と攻撃的な視線を交わした。
「あんたたちさ……何やってんの?」
嘆息とともに投げ掛けられた言葉は無視した。
見守る視線の先では、今まさに愛しい男が自分をさらった男に対し戦端を開かんとしている。
「語る舌は持たん……だったか?」
「……」
「今なら分かる。俺も……同じ気持ちだ!」
先制攻撃をしかけたのはヴィラルの方だ。鉈を構え男へと躍りかかる。
激情に任せたがむしゃらな突進ではない。男の戦闘スタイル、リーチと言った前回の戦いで得た経験を計算して動いていることがはっきりと見てとれる。
体運びにも焦りは見られず、繰り出された一撃は寸分狂わず男の肩口へと吸い込まれる。
流石にこの一撃で決着がつくことはないだろう。だが、かなりの激戦になるだろうことは容易に想像できた。
対する男が取った行動は、ヴィラルの覚悟を全く斟酌しないものだった。
男は大袈裟なくらい大きく飛び退いて一撃をかわすとその右腕を道路に突き立て電流のような光を走らせた。
散弾の如く飛び散った無数のコンクリート片がヴィラルを襲う。
「目眩ましのつもりか!く、こんなもの……!」
立ち止まり防御に専念するヴィラル。男は力を使った勢いそのままに駆け出すとヴィラルの脇を素通りしその向こうに立つシャマルの下へと──。
「え?」
がっという衝撃とともにシャマルの視界が黒く覆われた。
男の右腕に顔面を掴まれたのだと認識すると同時に、死という単語が頭をよぎる。
皮膚が粟立つのよりも男の右腕に力が込められる方が早かった。
しかし、自分の頭が弾け飛ぶ感覚というのをシャマルが味わうことはなかった。
代わりに感じたのは浮遊感と、それに続く衝撃。
気付いたら愛しい男の顔が目の前にあった。
「シャマル!くそ、ニンゲンめ……どこまでも卑怯な真似を」
自分がただ投げ捨てられただけだということに思い当たると同時に背後を振り替える。男が今まさにヴィラルの乗ってきた機動兵器に乗り込もうとしていた。
「遅い!」
「動かせるか?」
「こいつをほどいてくれればね」
「容易い」
言葉の通りに苦もなく男が戒めを解き、解放された女性が操縦桿らしきものを握る。
機動兵器は緑色の光を吹き出したかと思うと、あっという間にシャマル達の視界の外へと飛び去っていった。
風を切る音さえも聞こえなくなり、二人にもたらされたのはこれまでのことが嘘のような静寂。
しばらくその状態が続いてから、シャマルは今自分が抱き締められていることに気付いた。
「ヴィラル、さん」
「シャマル……無事で、何よりだ」
離されるどころかさらに強く抱き締められる。痛い程力を込められるのはむしろ快びだった。
シャマルにはもうヴィラルしかいないのだから。
「あの乗り物も奪われてしまいました。荷物だって」
「構わんさ。この鉈があれば俺は戦える。それに、お前を取り返すことができた……代償としては安すぎる」
「ヴィラルさん……」
視線が絡まり合い、鼓動が早まる。
互いの心臓の音が聞こえることさえ、快感だった。
元より二人の周囲に人の姿はなく、それは今人混みの中に放り込まれたとしても二人の世界にとっては何ら変わることはない。
どちらともなく顔を近づけ、とろりとした瞳を閉じる。
そのまま二人の唇はゆっくりと距離を無くしていき──。
「失敗したようだな、ヴィラル」
ゼロになる寸前で邪魔者が現れたために体ごと引き離される結果となった。
「チ、チミルフ様!ご無事でしたか」
ぬっとばかりにフォーグラーの影から現れたチミルフにヴィラルが裏返った声を挙げる。
不自然を二段階ほど行きすぎた状況にシャマルも顔を真っ赤にして胸を押さえることしかできない。このゴリラ。
「約束の期限がきたが……首は持っていないようだな。それとも……邪魔をしたか?」
「め、滅相もございません!仰るとおり首については言い訳のしようもなくそれについてはこのヴィラルいかような処罰も……」
「まぁよい」
「ただ重ねて申し上げますがこちらのシャマル、シャマルだけは何とぞ……は?」
激しい叱責、あるいは命さえも覚悟していたのだろう。思いがけず温情に溢れた言葉にヴィラルがさっきとは違った意味で声を裏返す。
さらに、ヴィラルが予想だにしていなかったであろう言葉が彼の上司の口から続けられた。
「首の件については一旦棚上げだ。……こい、少し離れたところに俺のビャコウがある」
武勇を誇ったとされる獣人の大幹部は、意外なほどしおらしい声でそう言った。
小山ほどもある巨体が幾分小さく見えた。
しおらしい、と思ったのは錯覚ではなくヴィラルの上司であるチミルフは本当に萎れていた。
曰く、劣っていると思っていた人間に愛機ごとこてんぱんにされて自信がぐらついた。
フォーグラーから離れ彼の愛機という巨大ロボット、ビャコウの下に辿り着く道すがら聞かされた話を総合するとそういうことになる。シャマルの同行については黙認するかのように触れられることはなかった。
「なぁ、ヴィラルよ。人間とは何だと思う?」
情けないともとられかねない心情を吐露した獣人は続けてそんなことを言った。
「は……?ニンゲン、でございますか……?」
ヴィラルにとっては尊敬する上官の見たことない姿ばかり見せられているのだろう。態度の一つ一つに困惑がにじみ出ている。
「お前は俺よりも長くこの場におっただろう。そのお前の目から見てこの場におる人間どもをどう思った?」
どこまで正直に話したものか迷うように二、三度首を降る。シャマルはヴィラルの服の端をそっと掴んだ。
意を決したようにヴィラルが姿勢を正す。いくら考えたところで思ったことをそのまま話すことしかできないだろう、この人は。
「ニンゲンとは……侮りがたい存在であると申し上げるよりありません。恥ずかしながら私も武功の数より飲まされた煮え湯の数の方が多く……到底太刀打ちできない者も何人かおりました」
「侮りがたい……か。そうか、そうだな」
「お叱りになられない……のですか?」
「ダイガンザンを見ただろう?奴らを舐めていたのは俺も同じだ。認めねばならんのかも知れん、流石は広大な多元世界の隅々より集められた者達也、とな」
ぴくり、と。上司と部下の会話に微妙に気まずいものを感じながらも黙って聞いていたシャマルの耳が聞き慣れない単語に反応した。
「多元、世界……?初めて聞く言葉ですが……」
ヴィラルの言葉にチミルフはしまったとでも言うような表情を浮かべた。僅かに口ごもるような気配を漂わせる。
「失言だったか……?まぁ良いだろう。今さら隠しだてするのも、な。俺もここにくる直前に聞かされたばかりだ。何でも此度の実験の参加者、我らとは違う世界は愚か時間さえもばらばらの……何と言えばいいのか分からんが、とにかくそのようにして集められたのだという」
「え……?」
「に、俄には信じられません!何故螺旋王は、それにどうやってそのような途方もないことを為したというのです!」
無意識にもらされたシャマルの声は噛みつかんばかりの勢いを持ったヴィラルの声に掻き消された。
自分達の言う次元世界のようなものかと考えていた心に、何かが引っ掛かった。
「方法までは知らんよ。だが、螺旋王はあたかも人間のことを慮っているようにも見えた」
「何と……!しかし、そう言われればあのハダカザルが俺を知っているようなことを言ったのにも納得がいく……」
「知らぬのも当然であろうよ……っと」
さすがにこれはな、と呟くチミルフの声も必死で理解しようと努めるヴィラルの顔もどこか遠くのことのように思える。
次元世界の概念をもう一つ飛び越え、管理局にあっても未だSFでしかないもの。
創作の中にしか存在しないにも関わらず、一定以下の世代では確かな知名度を持つその概念。
「ともかくそれもそう言うことだったのだろうよ。お前の会ったそいつはお前とは違う世界、違う時間でお前と会っていたのだろうよ」
平行世界。もしもの世界。
少しずつ違いがあり、だけど殆んどの部分が同じ物と人で構成されている世界。
同じ世界と、同じ人。
──同じ人?
シャマルはようやく自分が何に引っ掛かっていたのか理解した。
「だがだからと言って俺たちのするべきことは変わらん。人間がいかに強大であろうとも我らは獣人としてその意地を示さねばならん。分かるな、ヴィラルよ」
「は、はい!勿論でございます!正直理解が追い付かぬところもございますが、その点については確かに!」
最早二人の茶番はシャマルにとって完全に別次元のできごとだった。
別世界への移動、のみならず人間をさらうことすら可能にする超技術。
そんな、そんなものが実在すると言うなら。
それを手に入れることが叶うと言うなら。
――はやてちゃんにまた会える?
――また皆の所に戻ることができる?
いつの間にかヴィラルから離されていた手は、皮膚を食い破る程の力で強く握り締められていた。
【D-6東部/市街地、ビャコウ前/二日目/午前】
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に肉体的疲労とダメージ(小)、激しい驚愕、自身の存在価値への疑問、人間を認めつつある気持ち
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)、ビャコウ@天元突破グレンラガン
機体状況:良好
[道具]:デイパック、支給品一式、(未確認の支給品が0〜2個ありますが、まだ調べてません)
[思考]
基本:人間に勝利し獣人の存在意義を示す
0:人間とは……?
1:ヴィラルとともにニンゲンの力について考え直す。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、 、左肩・脇腹・額に傷跡(ほぼ完治)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑) 、人間を認めつつある気持ち
[装備]:大鉈@現実、短剣×2
[道具]:なし
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
1:チミルフの言うとおり人間に獣人の存在価値を見せつける。
2:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
3:蛇女(静留)、クルクル(スザク)、ケンモチ(剣持)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
4:スカーへの怒り
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。
※とりあえず、今はルルーシュを殺すつもりはありません。
※フォーグラーをガンメンだと思い、入手するために操縦者を殺すつもりです。
※多元世界の存在を知りました。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(中)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:はやてちゃんにまた会える――?
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
◇
たった一人の男をいつまでたっても仕留めきれないことにシータの焦りは頂点に達しようとしていた。
圧倒的な機動力に光線まで備えている彼女の兵隊の力を持ってすれば人間一人を消し炭にすることなど容易いことのはずだった。
だがこれが通じない。
小規模の光線は小石でも避けるかのような最小の動作でかわされる。かと言って強力な光線を放っても瓦礫を吹き飛ばすばかりで肝心の相手にはかすりもしない。
そうしてこちら攻撃の隙間を縫いながら、とんでもない威力の打撃を放ってくるのだ。
シータにはまだ傷こそないが、正面から戦っている彼女の兵隊は外装のあちこちにへこみを作り、ぼろぼろと言って良い状態だった。限界が近いにも関わらず、突き刺さった剣を抜く余裕さえない。
「俺のこの手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
そうして、決着の時は訪れるべくして訪れた。
「爆熱!ゴッドフィンガァァァ!!」
「きゃああああああ!」
言葉通りの男の真っ赤な拳が一際ダメージを受けていた兵隊の胸部に突き刺さり爆発する。
熱波に悲鳴を挙げ吹き飛ばされそうになりながら、僅かに残った理性が彼女に一つの決断を告げていた。
「兵隊さん、大丈夫ですか?無理はしないでください!」
シータの気遣いに応えるように、兵隊が優しくシータを抱き抱える。
胸や頭からガガピーと嫌な音が聞こえるがまだ何とか行動は可能なようだ。
「飛んで!」
最後の力を振り絞るかのように吹き出されたジェットがシータと彼女の兵隊を朝焼けの空へと運び去って行った。
39 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/22(日) 22:58:09 ID:ETouzezL
「……逃がしたか」
破壊の爪痕の中心に立ち、飛び去る兵隊を目で追いながらドモン・カッシュは小さく呟いた。
かなりの打撃を与えた手応えはあるが止めを刺すことができなかった。
無差別に人を襲っているように見えたため、早急に追わねばならないのだが。
「ひとまずはスパイク達と合流するのが現実的か。あのガンダムの存在も気になる……」
幾つもの懸念を抱えながら、ドモンは眉根をよせる。
僅かな思案の後、次の目的地に向かうためにキング・オブ・ハートは再び土砂を巻き上げ走り出した。
◇
「さて、お宝に結び付きそうな情報は大体出尽くしたかな?」
身体のあちこちに傷を負いそれでも宙に浮くかのような飄然とした態度を崩さない少年、ジンは議論の場をそのような言葉で締め括った。
先ほど戦闘の舞台となった地点からそれほど離れていない安ホテルのロビーを借りての情報交換である。依然気絶から覚めない奈緒は傷の手当だけしてひとまずソファーの一つに寝かしてある。
隠れるのに適した場所とは言えないが、それでも屋外に立ちっぱなしよりはましだろうと言う判断を下した結果だ。
「んなとこだろうな。ロボット引き連れたガキの話がかすんじまったぜ」
最初に同意を示したのはスパイクだ。疲労にまみれた体をソファーに横たえながら首だけを起こしている。
右腕の切断面はジンがどこかからくすねてきた清潔な布で覆われ、気休めの応急処置となっていた。
「じゃあそういうことで。となると重要そうなのは博物館とあの場違いな黒い太陽、それにラッドの亡霊に取り憑かれた女の子、か。首輪の外し方は分かったけど試してみよって気にはならないしね」
舞衣から聞いた限りでは彼女の首輪が外れたのは限りなくイレギュラーに近い状況だったようだ。解除が不可能でないことが分かったのはよいがそれ以上の参考にはならない。ジンは言葉を続ける。
「ああ、そういえば良かったじゃん。清麿が生きてるって分かってさ」
ロボットを連れた少女の存在、ルルーシュとの約束、ギルガメッシュという王について、刑務所でのできごと。
そのように様々な情報が交わされる中、彼ら以外の人物からもたらされた情報が新たな死者の発表。絶望を告げるはずの放送は今回ばかりは仲間の生存を知らせる福音として響いた。
「は、はい!でも明智さんはやっぱり……」
水を向けられたゆたかの顔が一瞬だけ喜びの表情を作り、すぐにまた暗く曇る。
ただでさえ大きめのソファーに飲み込まれるようにして座っている体が一層小さくなり、抱き抱えている小竜と一緒にそのまま沈みこんでしまいそうだ。
「弱気になっちゃ駄目よ。許されないことをしたのなら、尚更今は前だけを見なきゃ。ね?」
隣で舞衣が元気付けるように明るく声をかけた。シーツ一枚の格好では既になく、スパイクの荷物にあった奇術師が使うような道具セットの中から適当に見繕った衣装を着ている。
Dボゥイなる男の名前が出てから二人の間にレモン水でも流れているかのような甘酸っぱい溝が生まれていたのをジンはありありと感じていたが、それでも仲間を気遣う声に偽りは感じられなかった。
支援
「舞衣ちゃん……うん、ありがとうございます。」
「舞衣の言う通り。後ろを向きながら歩いてちゃ首が疲れちまうぜ?それよりも、だ。あの大怪球について知ってることはもうないかい?」
「はい……あんまり覚えてないとこもあるけど、それでも覚えてることは全部話し、ました」
ゆたかがフォーグラーについて語ったことは三つ。清麿が中心になって熱心に調査されていたこと、見たことのない形の変わった管を挿したら起動したこと、そして機械の知識など皆無の彼女でも動かせる程に自動化されていたことである。
「清麿が調べてたことっていうのが気になるなぁ。気まぐれな王サマのせいでぱぁになってなきゃいいけど」
組んでいた膝に顎を乗せる。そのまましばし考えを纏めるように視線をどこともない一点に定める。
「スパイクはどっか行きたいとこはある?」
「方針はお前に任せるさ。ルルーシュとの合流は伸ばし伸ばしになっちまうが、強いていや近くにいるっていうDボゥイととっとと合流しちまいたいな」
「あ……Dボゥイさん。私も、あってもう一度謝りたい」
「私も……心配かけてるだろうなぁ」
三者三様に心配の意を示し、一角では気まずいような相手を計りかねているような何とも微妙な雰囲気を漂わせる。
それには特に構うこともなく、ジンは手だけを動かしてすっと玄関口の窓ガラス越しに外の景色を指差した。
「話しに出てたのと似たような格好した男ならさっきそこを通り過ぎてったぜ?悪霊憑きの女の子背負って」
「えええ!?」
ジンが何の気なしに言った言葉はえらく衝撃を持って迎えられたようだった。
◇
──おいおい、俺のことを忘れちまうなんてそりゃ連れないんじゃねぇの?
──ゆたか、ちゃん
気を失う直前に確かにかがみはそのようなことを言ったという。
体の奥から絞り出すような虚ろな声だったと再開を果たしたDボゥイは語った。
二人の無事を喜ぶ気持ちと、異質な存在をその身に飼うこととなったかがみへの恐怖とも困惑ともつかない感情がない交ぜになりゆたかは胸の前で手を握る。
「俺のことを知っている様子だったが全く覚えがない……。それに、あのしゃべり方はまるで……」
「その子は柊かがみ。あんたの良く知ってるゆたかの友達で本当なら単なる女の子のはずがどうやら悪いもんに行きあたっちまったらしい。ラッド・ルッソって化けもんにね」
互いに紹介を済ませた後にジンがそう言った。
「ラッド……どういうことだ?それがゆたかの……友達?」
「オレ達も詳しいいきさつは良く知らない。ただ言えるのは、その子が目を覚ましたら手のつけようがないくらいに暴れまわるだろうってことだけ」
「むしろ後ろから絞め殺されなかっただけ幸運だぜ」
口々に冷ややかな言葉を浴びせられるのを無理のないことと知りながらも胸を痛めずにはいられない。
ついさっき競うように、正に競うようにDボゥイとの再会を喜びあった舞衣ですら攻撃的でこそないが険しい表情を浮かべている。確かな殺意をもって首を絞められた感触が蘇る。我知らず力が籠ったのか胸の小竜がクエ、と抗議の声を挙げた。
「さてと、どうしたもんかな。これが赤の他人てんなら話しは早いんだけど」
ちらり、とジンが横目でゆたかに視線を投げ掛けてきた。
唯一の知り合いである自分の意見を尊重してくれると言うのだろう。Dボゥイも案ずるような目でこちらを見てくる。
かがみのしたことを思えばその心遣いは痛いほどにありがたい。寛大な対応には感謝する他はない。だが、だが──。
「私は……」
「ぶっ殺しちゃえばいいんだよ、そんな奴」
言うべきことを決められぬままに紡がれかけた言葉は、背後から乱暴に飛び込んできた別の言葉によって掻き消された。
「結城さん!」
声の主はソファーから苦しげに身を起こした舞衣の友人だという女性だった。結城奈緒という名前を情報交換の際に聞かされている。
痛むのか頭を片手で押さえその表情は苦痛と怒りに激しく歪められていた。その形相に臆病の虫が騒いだゆたかは続けられる言葉を止めることができなかった。
「気絶してるってんなら都合いいじゃん。そんな化け物、今の内にさ……」
化け物。はっきり直接かがみを差して言われた言葉がさくりとゆたかの胸を刺した。
「ちょっと結城さん、いきなりそんな言い方って……」
「はん、知らないわよ。何よ鴇羽?あんただってぼこぼこにされたくせに、ここまできてもまだ良い子ちゃんぶろうって訳?」
「そんな……」
嘲るような目でねめあげられ舞衣が言葉を失う気配がする。話を聞いたときから思っていたけどやっぱりこの人は怖い。学校でも全然一緒になったことのないタイプの人だ。
このままだと本当にかがみ先輩は殺されてしまう。何か、何か言わないと。
でも何を言えばいいのだろう。考える程に言葉は失われていき、体は最初から言うべき事など持っていなかったようだ。
私は本当はどうしたいのだろう。このままだとあの人の言う通りかがみ先輩に死んでほしいと思っているみたいだ。
そんなことはない、絶対に。でも、だったらどうして言葉が──。
「起きたばっかでそんなかっかしてたら頭が茹であがっちまうぜ。水でも浴びて冷静になったら?」
暗く深い淵に落ち込みそうになっていたゆたかの思考は彼女を庇うかのように立ち塞がったジンの言葉に掬い上げられた。
「はぁ?何いってんのアンタ、ばっかみたい。アンタだって暴れられたら嫌だって言ってたでしょ?だったら今の内にどうにかしちゃった方が良いって言ってやってんの」
「そうかい?俺にはこの女の人が怖い怖い〜って言ってるように聞こえたけどな」
「なっ……!」
「それにさ」
一言で奈緒を黙らせたジンはそこでくるりとゆたかの正面に向き直った。
「君も言いたいことがあるならちゃんと言葉にしてあげなきゃ。腹ん中に溜め込むのは胃もたれの元だ」
真っ直ぐに飛び込んできた言葉にゆたかははっとなり顔を上げる。
黒い、吸い込まれそうになるくらい綺麗なジンの瞳がゆたかを見下ろしていた。
ばらばらになっていた気持ちが不思議なくらいにまとまって行くのを感じる。
「私は……」
深く呼吸をする。自分がどうしたいのかやっと分かった。
「私に……」
どこをさがしても見つからなかった言葉は今度は簡単に掴むことができた。
「私に……私に、かがみ先輩と話をさせてください!」
◇
「ついててやらなくて良かったのか?」
ゆたか達をホテルの一室に残し再びロビーへと戻ってきたスパイクはそう声をかけた。
ゆたかの申し出を受けホテルの一室にかがみを運んだ後ジン、スパイク、Dボゥイの三人は再びロビーへと戻ってきていた。
「ゆたかが自分で決めたことだ。俺がどうこうするようなことじゃない。あの奈緒とか言う女が護衛の役目を果たしてくれそうだしな」
部屋に残してきたのはかがみ、ゆたか、奈緒、それに舞衣の四人である。
かがみが目を覚ますまで待ち、ゆたかが説得を試みるという。
「しかしジン、さっきのありゃどういう手品だ?ギルガメッシュってのはどんな奴なんだよ」
ゆたかが精一杯の力で行った宣言に対しさらにもごねようとした奈緒を黙らせたのがジンの「うわ、ギルガメッシュそっくり」という一言だった。
明らかに意地と強がりで虚勢を張っていただけの子供がその一言で驚くほど聞き分けが良くなったのだ。
「ん〜ああはなりたくはないって言う見本見たいな人間かな。スパイクも会ってみりゃ分かるよ」
「お前にそこまで言われるってどんな人間だよ……」
「でも間違ったことは言ってないぜ?ゆたかはかがみを説得する。成功すれば問題はないし仮に襲いかかられたときは奈緒が守る。奈緒はかがみのことなんかちっとも怖くないし負けるとも思ってないからからこっちも問題ない」
「あの空気の中に残された舞衣には同情するぜ」
共通の知り合いとして緩衝材の役目を期待されたのだろうか。一触即発という言葉そのままに緊張感が漂よっていた部屋の様子にスパイクは嘆息する。
ゆたかが抱き抱えていた奇妙な動物も心なしか震えていたように思う。
「俺達がここで言っても始まらん。後はゆたかを信じるしかないだろう。それよりも今後のことを考えるべきだ」
「ごもっとも。にしてもデパートの地下に眠る宝の山、かぁ。俺の鼻も馬鹿になってた訳じゃないみたいだ」
Dボゥイからもたらされた新たな情報にジンがほくそ笑み緑色の液体が詰まった管を手の平でくるくると回す。
バイクを始めとした様々な道具の他、宇宙に飛び出すための設備までもが整えられていたというデパートの地下部分。素直に考えれば重要拠点と言えるだろう。
「……思いっきり怪しくはあるがな。わざわそんなもん用意する理由が分からん」
「オレ達は宝の山より焼き肉を選んじまってた訳だ」
美しい輝きを放つ緑色の鉱石をかざしながらジンが言う。
「行くあてがないならそこに行ってみるのも手だろう。ああ……それとスパイク、感謝する。こうも早くテッククリスタルを見つけてくれるとは」
「ほとんど偶然みたいなもんさ。礼なんかより、俺が頼んでたタバコの方はどうなったんだ?」
からかいを含んだ口調でスパイクは言ったのだがDボゥイは真っ正直に受け取ったらしい。申し訳なさそうに口ごもる。
「む、すまん。それは……」
「タバコならオレが持ってるよ。ほら」
やたらこったデザインの鏡のようなものを弄んでいたジンがスパイクに何かを投げて寄越す。
両手で受けとると言葉通りそれはシガレットケースに収まった上等の葉巻だった。
「こいつは上もんだな」
「だろ?」
「お前がタバコを持ってたとはな。吸うようには見えなかったが」
「オレは吸わないよ」
「……そういやさっきから見慣れねぇもんを色々引っ張りだしてたみたいだな」
「全部あのかがみの荷物ん中からいただいた」
「おい!?」
あっさりと盗みを暴露したジンに、スパイクとDボゥイが思わず声を荒げた。がそもそも目の前の少年は堂々と泥棒を名乗っていたことを思い出し浮かした腰を戻す。
手癖の悪さは余り人のことを言えた義理ではなかった。
「すげぇもんが色々入ってたぜ。特にこの管、どっかで聞いた話にそっくりだって思わない?」
「そいつがあのデカブツの起動に使われたのと同じだって言いたいのか?だがありゃもう壊れちまったんだろう」
直せるような状況ではないらしいし今更持っていても仕方ないだろう
「……どうにも鼻がうずくんだよなぁ。まだ俺にはおいしいところが残ってるぞ、って言われてるみたいにさ」
「どういう意味だ?」
「そりゃ……」
ガラスの割れるけたたましい音がジンの台詞を遮った。
「何だ……って馬ぁ!?」
音の元である玄関口に飛び出すとそこには真正面飛び込んできたのだろう、ガラス片を撒き散らしながら威風堂々とした体躯の馬の上に、こちらも威厳に満ちた風貌の老人の姿があった。
「貴様は……!」
Dボゥイが憎々しげに歯を軋ませ。
「また会うとはね」
ジンが飄々とした態度の中に緊張感を漂わせた。
「ふん、何やら人影が見えたと思えば若造どもがそろい踏みと言う訳か」
いや何でわざわざ馬の上に立ってるんだ、とスパイクは思った。
「二人とも気を付けろ。こいつは一筋縄で行く相手じゃない」
「オレも良く知ってるさ。スパイク、自己紹介は早めにすましといた方がいいぜ」
「……言われなくても分かる。こいつは相当にやばそうだ」
「ほぉ、相対しただけでワシの実力を見抜くか」
「……このご時世に馬なんか乗る奴は、大抵どっかがおかしいって相場が決まってんだよ」
「含蓄のあるお言葉で」
ジンに茶化すような声でそう言われ、スパイクはがっくりと肩を落とした。
「今の音なに!?」
音を聞き付けてきたのかあるいは緊張に耐えられなくなったのか、部屋から飛び出してきたらしい舞衣がロビーに着くなりそう叫んだ。
そして新たに現れた乱入者の存在を認めるなり言葉を失う。
「あんた……!」
「揃いもそろって死に損ないばかりが集まっておるようだな」
「舞衣、部屋に戻っていろ!こいつは俺が何とかする!他の奴らにも部屋から出るなと伝えておけ!」
「はいぃ!?何とかするってDボゥイ……そいつの無茶くちゃさは知ってるでしょ!?」
「もう心配はいらん」
とにかく知らせてくる、と慌てて引き返す舞衣には構わず、Dボゥイが一歩前に進み出る。
「ほう、何か秘策でもあるようだな」
これだけの人数に囲まれながら老人は余裕の態度を崩そうともしない。大真面目な態度を裏付けるかのようにその体にはスパイクの目から見ても一分の隙もなく、放たれ続ける威圧感がびりびりと肌を焦がした。
「ほれ、どうした?とっととかかってこんか。それとも怖じ気づいて手も足も出んか?」
「ほざけ!テックセ……」
「待て!」
新たな乱入者の静止声が、片手を掲げようとしたDボゥイの行動を押し止めた。
「そのファイト、このキング・オブ・ハート、ドモン・カッシュが預かる」
赤いハチマキに同色のマント、先ほど別れたばかりの男の姿を認め老人が顔を歪ませる。
その表情は嬉しくてたまらないと言っているようにスパイクには見えた。
◇
このタイミングで師匠に会えたのは僥倖だとドモンは思った。
「ほう、ドモンよ。暫く見ぬ間にまた大きな口を叩くようになったものよ。手負いとはいえこの東方不敗を相手にファイトと抜かしおったか」
スパイク、ジン、それにもう一人は見たことのない頬傷の男。愛馬風雲再起を得た東方不敗の手にかかれば三人がかりと言えどその命は風前の灯火だっただろう。
止めねばなるまい。たとえ過ごした世界は違っても、一度拳を交えた仲間と仲間。ドモンにとつて今目の前にいる男はかつて朝焼けに果てた我が師といささかの違いもなかった。
「そうだ。東方不敗マスターアジア、あんたにガンダムファイトを申し込む」
だからこそ今度も救って見せる。師匠の怒りを、悲しみを誰よりも知っているこの自分が。
「ほざき、おるわあ!」
真っ向から突き合わされた拳と拳が大気を激しく震わせた。
「ドモン!そのじいさんまかせちまっていいかな?」
「無論だ!お前達はそこにいろ!」
ジンに力強くそう切り返すと、場所を移すべくドモンは空高く宙を舞った。
「はあああああああ!!」
「とおりゃああああ!!」
ビルを、民家を、瓦礫の山を縦横無尽に駆け回りながら打ち合わされた拳が火花を散らす。
寸分の狂いもなく正面から重なりあう拳は人知を越えた修練によってのみ生み出しうるもの。
言葉など用いずとも、技を交えれば互いの心は手の届くほどにすぐ近くで感じられた。
(やはり、やはりそうだ。この拳から伝わってくる感情はあの時ランタオ島で感じたものと同じ……!)
現実に目を背けガンダムファイトに現をぬかす人類が憎い。それに気付かず戦いに興じていた自分の愚かしさが許しがたい。日々刻々と失われていく自然が愛しい。
東方不敗の拳は悲しみに濡れていた。
「この期に及んでまだ人類抹殺を企むか!東方不敗マスターアジアッ!」
「ほう、ワシの目的に勘付くとはどこぞで入れ知恵でもされおったか!その通り、地球を食い潰す人類など滅びてしまえッ!」
かわされた突きが街路樹を砕き、頭上を掠めた蹴りが家屋を両断する。放たれた大量の小型の東方不敗を捌きながら、師弟の会話は止むことはない。
「共にあるべき人類を抹殺して、自然の再生など為せる訳がない!それが分からないアンタじゃないはずだ!」
「知った風なことをぬかしおるわ!ならばその良く動く口でワシを止めて見せぃ!」
「元より言葉で語るつもりなどない……!」
己の拳は己自身を表現するためのもの。
師匠の教えてくれた言葉の通りドモンは燃えたぎる万感の想いを拳にこめ、必殺の構えを取った。
繰り出す技は奇しくも今東方不敗が放たんとするものと同じ。だがそれに込められた心は叫ばれる名前と同じく大きく異なっていた。
「ダァァァァァァクネス!」
「ゴッドォ!」
「フィンガァァァァァァァァァァァァ!!」
ぶつかり合った掌と掌は互いに一歩も譲らず、混ざりあった赤色と漆黒の光は爆風とともに周囲に衝撃を撒き散らす。
完全な拮抗を以て対峙する二人の男の姿はもはや美しくすらあった。
「どうやら口ばかり達者になった訳ではないようだな!ならばそのまま悪党のこのワシを見事倒してみせぃ!」
「おぉ!言われずともやってみせる!アンタから貰った、キング・オブ・ハートの名にかけて!」
ついに爆発した光が二人を空へと吹き飛ばした。
「惜しい、惜しいぞドモン……!」
「師匠……!」
重力に逆うことになどまるで頓着せず、蹴りと言わず打突と言わず繰り出される千変万化の技の応酬が二人をより高みへと導く。
極限にまで研ぎ澄まされた二人の格闘家の心理はもはや余人には入り込む隙間も無いほどに渾然一体と混ざりあっていた。
「これ程の拳を得るに至りながら、何故ワシに逆らう!何故ワシの言うことを分かろうとせん!」
「師匠!」
「もうよい……ここで勝負を着けてくれる!これほどのファイトの決着がガンダムファイトでないことが心……残りよぉ!」
東方不敗がその叫びとともに放った一際激しい拳がドモンを瓦礫の山に叩き込んだ瞬間、人類の極限に達した男の魂の呼び声に答えるかのようにその背後に漆黒の機体が舞い降りた。
「何と!?」
現れたのは紛れもなく禍々しい漆黒の色に塗られたネオ香港を代表するモビルファイター、マスターガンダム。
訝しげな表情も一瞬に、東方不敗は愛馬風雲再起と別れ最高最大の舞台装置への搭乗を完了する。
「ぬわはははははは!さぁ、どうしたドモン。やはりこの決着、ガンダムファイトで着けてくれようぞぉ!」
「マスターガンダム……!」
瓦礫から身を起こしたドモンは全天を覆うかのように頭上に聳える兵器に唸るような声を漏らした。
だがモビルホースへの騎乗を完了したマスターガンダムを前にしてもその目には些かの恐れもない。
その目が、拳の紋章が語ることはただ一つ。己が師を何としても魔境から救いだしてみせるという烈火の如き誓いのみ。
だからこそ、前に進み出高らかに指を鳴らすことに何のためらいも持たない。
「ならばこちらも……出ろおおぉぉぉ!ゴッドガンダァァァァァァム!!」
打ちならされた二本の指が清んだ音を響かせ、一瞬後に噴水を割って現れ出でるは全てのコロニー連合の頂点に立つネオジャパン代表ゴッドガンダム。
慣れ親しんだファイティングスーツが体を引きちぎらんばかりに締め付け、慣らし運転の如き型の披露を以て搭乗は完了する。
何故今になって、などという疑問は思いつく価値すらない。
「ガンダムファイトォォォォォォ!!」
「レディィィィィィィィィィィィ!!」
「ゴオォォォォォォォォォォォォ!!」
師弟が決着をつけるのにこれ以上の舞台があろうか。
◇
「やはりな。この機体だけは設計思想がぼぼナイトメアフレームと同一だ。用いられている技術が最先端の世代のものを上回っているのが気になるが、今はむしろ幸運といったところか」
紫と黄色でカラーリングされたナイトメアフレームののコックピットで、各部のチェックを終えたルルーシュはそう結論付けるようにそう言った。
作業に一段落を付け、上下に複座式になっているコックピットのもう片方で同じようにあちこちいじっている清麿に声をかける。
「操縦方法は理解したか?どうやら基本的な操作はそちら側が行うらしい」
「手順だけだ。かなりオートメーション化されているが、だからって実戦での活躍を期待されても困る」
「ふ、まぁいいさ。ひとまずは足が確保できただけでも良しとしよう。その優秀な頭脳に感謝するよ」
愉悦の表情でコックピットに肩肘を付く。好転していく事態に再び高笑いをしてしまいそうだ。
「本当にこの力を脱出のため役立ててくれるんだろうな!?」
その態度が気にでも障ったのだろうか、先ほどから何かをこらえる様子だった清麿が激しい声で疑念をぶつけてきた。答えるルルーシュの顔に浮かぶのは、やはり歪んだ喜悦の笑
みだ。
「勿論だ。パートナーだろう?俺達は?」
どうした、そのまま俺を殺してしまわないのか。
力ずくで拘束を解かれ為すすべも無く床に押し倒され、切り札のギアスを宿した左目を手で塞がれるに及んでもルルーシュの口から発せられたのはそのような余裕に満ちた言葉だった。
その言葉を受けくっ、と動きを止めた清麿の表情を見て取ってルルーシュは自分の勝利を確信する。
この人物が正義感が強く殺人に躊躇いを持っていると知ることができただけで情報としては十分だ。それでなくても随分と分かりやすいタイプの人間のようだった。
ギアスをかける必要すらない。ルルーシュはそれまでの考えを改める。
――この携帯に記されているデータを見る限りお前達は脱出のために動いているのだろう?ならば俺と目的は一緒だ。
畳み掛けるように続ける。
そして脱出を目指すとは言ってもそのための具体的な情報を持っていなかったこと、そのために手荒な手段を取るしかなかったこと、情報を得た以上もう必要以上に敵を作るような行動はしないこと誓うことなどを滔々と述べた。
パフォーマンスとして話しの間ずっと左目は自分の手で覆い隠すことも忘れない。
清麿という男はルルーシュの言葉を一つ一つ噛み砕き、真偽を必死で判断しようとしているように見えた。その様子を見るだけでこの男は相当に頭が回るのが分かる。
ならば向こうも今の語りだけで理解しただろう、ルルーシュの持つ頭脳の優秀さを。
ルルーシュが語った言葉に一切の嘘はない。そしてこの日本人はそれを見抜き、あるいはその先にある感情までを見抜くだろう。
仲間になる代わりに、保身のためにこれまでのことを水に流してくれという、ルルーシュの利己に満ちた感情を。
だがそれすらも構わない。これだけの情報を集めた行動力と頭脳を一挙に手にできるのだ。加えて、そのような正義感を持った人物がこの場で仲間集めに苦労するだろうことは想像に難くない。
協力してくれる、それも優秀な人物は喉から手が出るほどに欲しいはずだ。たとえそいつが腹に何を抱えていたのだとしても。それを制御する労を抱えても確保したいと思う筈だ。
故に、予想される回答は最初から一つでしかない。
――本当に、俺達に協力してくれるんだな。
ルルーシュは笑い出したくて仕方が無かった。
(携帯に記されていた通りの場所にこのコンテナはあった。さらに解放の音声に拠れば螺旋力なる力の存在もどうやら確かなようだ。となると、ここに記されている情報の信憑性は格段に高くなる)
ヴィラル達の捜索を第一に主張する清麿を説き伏せてまでやってきた甲斐があったというものだ。
首輪の探知というそれだけで十分過ぎる機能に加え、危険人物、首輪、舞台、螺旋王の目的に迫るための考察など、携帯とまだ全てに目を通し終えた訳ではないが清麿の持っていた道具から得た情報はルルーシュが必要と考えていたもので満ち溢れていた。
優秀な仲間が居るのと居ないのとでここまで差がでるものかと清麿から話を聞いたときには思ったものだ。
表立って表明こそしないものの、ヴィラルがどこかへ行ってしまったことに今になって感謝の念すら浮かんでくる。持ち出された道具のことがなければ、頭の中から完全に消し去っていたかもしれない。
「フォーグラーの他にこんなものまで用意されてるとは……。悪用されていたらと思うとぞっとする」
コンテナの中には4体の巨大な機動兵器が格納されていた。
内一体はルルーシュの良く知るKMF。他の3体はそれとは全く別の設計思想に基づいていると思われ、解析するには時間が必要そうだった。
その中の二体は顔がとても良く似ており、残りの一体は真っ赤なボディに胴体に顔が描かれるという奇妙なデザインをしていた。
「やはり螺旋力とやらに関する実験と見るのが正解に近いのだろうな。このナイトメアなど、ある程度の水準に達したモルモットに与えられる新たな刺激といったところか」
「ああ、逆にここから螺旋王の目的を推測することもできる。それでルルーシュ、今度こそヴィラルを……」
「分かっている、菫川先生とやらの捜索だろう?予想以上の収穫もあった。あとは残りの機体をどうするかだが……」
持ち運びが難しいならいっそ破壊してしまうか、などと考えていたルルーシュをコックピットの激しい振動が襲った。
「くっ!どうした!?」
「分からん!今モニターを付ける!」
俄かに喧騒に包まれたコックピットの中で清麿がたどたどしい手つきで機体に指示を送った。
やがて表示された外部の映像が映し出される。それを見てルルーシュは愕然とした声を漏らした。
「何だと……何が起きた……?」
残りの3体の機体の内、二体までもが忽然と姿を消していた。
【A-7/ショッピングモール/二日目/午前】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(大)、心労(中)、軽度の頭痛 、後頭部にたんこぶ
[装備]:ベレッタM92(残弾13/15)@カウボーイビバップ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ 、ガウェイン(搭乗中)
機体状況:良好
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服
予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ
支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿、詳細名簿+、 支給品リスト、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
0:何が起きた?
1:ヴィラル達を捜索する
2:ひとまずは清麿とともに脱出に向けた方策を練る。 優秀な駒である限り裏切るつもりはない。
3:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「戦力の拡充」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※清麿メモの内容を把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※第四回放送は聞き逃しました。
※ヴィラルが螺旋王の部下であることとシャマルが治癒能力者であることを知りました。
その他の素性についてどこまで把握しているのかはわかりません。
※ギアスの制限は主に一度に使用する人数が問題なのではないか、と想像しています。
※ルルーシュが民家で何を見たのかは次の書き手の方、または皆さんの想像力にお任せします。
※清麿から主催者の目的、参加者が異世界から集められた、螺旋力の存在などの重要事項を聞き出しました。ほぼ、考察が清麿と同程度に到達しています。
※回収した参加者詳細名簿、詳細名簿+、支給品リスト、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピーなど、自身にとって不利益な情報が記されたものは内容を把握次第、焼き捨てるつもりでいます。
※携帯電話のテキストメモ内に、二日目・黎明時点で明智が行った全考察がメモされています。
※ガウェインの操縦方法を把握しました。
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、手足を拘束中(猿轡は嵌まっていません、おまけにやや緩いです、気合いで抜けられる?)強い決意、ルルーシュへの疑心と制御する覚悟
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:なにが起きた?
1:連れ去られたねねね達との合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※ガウェインの操縦方法を何とか把握したようです。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
※コンテナの中身は、ガウェイン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ゴッドガンダム@機動武闘伝Gガンダム、マスターガンダム@機動武闘伝Gガンダム、グレン@天元突破グレンラガンでした。
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、手足を拘束中(猿轡は嵌まっていません、おまけにやや緩いです、気合いで抜けられる?)強い決意、ルルーシュへの疑心と制御する覚悟
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:なにが起きた?
1:連れ去られたねねね達との合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※ガウェインの操縦方法を何とか把握したようです。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
※コンテナの中身は、ガウェイン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ゴッドガンダム@機動武闘伝Gガンダム、マスターガンダム@機動武闘伝Gガンダム、グレン@天元突破グレンラガンでした。
◇
突如として現れた巨大ロボットに一同が茫然と空を見上げるなかジンが真っ先に目ざとくその人物を発見したのは何者にも目を奪われない王ドロボウの面目躍如と言うことができるだろう。
「お〜い、ギルガメッシュ。そんなとこで何してんだ?王サマは高いところがお好きなのかな?」
「ジンか。何、たまたまこの近くで狗どもが争っていたのでな、戯れに眺めておっただけよ。芸として見るならまぁ悪くない見せ物であった」
ジン達のいたホテルから僅かばかり離れたビルの屋上からこともなげに着地を決めながらギルガメッシュは言った。
相変わらずの珍妙な衣装が妙に煤けて見える他は特に問題はないようだ。傲岸不遜を地で行く態度も変わらない。
「ジン、そいつは……」
彼方の上空で格闘戦を繰り広げるロボットの存在をまだ処理仕切れていないのかそう言ったDボゥイの口調にはまだ混乱が見られた。
そちらへと向き直り、努めて明るい口調で言う。
「こちらはかの有名な英雄王ギルガメッシュ。おっと無礼はなしだぜ、何てったって王サマだからな。怒るとすんげぇ怖いカミナリが落とされちまう」
まぁ早急にギルガメッシュを理解しろと言っても無理があるだろうとジンは思う。何せポルヴォーラなみの爆弾生物だ。
なるほどねぇと呟くスパイクの声に苦笑いする。
「その無駄口から叩き潰してやろうか?まぁ良い。貴様がここにいるということは、あの騒がしい玩具を盗む算段でもしておったか?」
「冗談。あんなのに近づいたらあっという間にすり身にされちまう。それに……」
邪魔をするのはヤボってもんだろう、と続ける。英雄王はくだらん、と切り捨てた。
「ナオはどうした?」
「その子ならこの中で別口の用事。ああ、そうだ。舞衣、さっきのプランは一時保留ってことで。ゆたか達にもう少し眠り姫の相手に専念してもらうよう伝えてくれるかな?」
「わ、分かったわ……けどなんなのそいつ……」
不審そうに――主に衣装に関してと見た――ギルガメッシュに視線を送っていた舞衣に 告げる。
ドモンが東方不敗を押さえてくれている間にひとまずデパートの地下へ退避しようという行動方針をジン達は立てていた。
しかしそれは巨大ロボットの出現というイレギュラー極まりない事態を前にしてはご破算とするしかない。あんなものに追いかけられては多少の移動など何の意味もないだろう。
ドモンの何とかするという言葉に嘘がないことを祈るより他にない。
「してジンよ。貴様はあの木偶人形をどう見る?」
混迷の色を強めつつある状況になど全く頓着せずにギルガメッシュが試すように聞いてきた。
答えるジンの声にもまた焦りの色は欠片も含まれていない。
「ん〜あんなサービスを用意してくれてるなんて螺旋王はよっぽどお祭好きなのかな?」
黒い太陽と言い、螺旋王がやたら仕掛けを施すのに熱心なのは間違いないだろう。
「ふん、それもまた一面では当たっていような。
理由は知らぬがああしたものが必要だと螺旋王が判断せざるを得ない事情があるのだろう。
だが我が聞いたのはそういう意味ではない。博物館で見たものを忘れたか?」
「ガンダム、だっけ?そういや顔がそっくりだ。兄弟か何かかな?」
「同一の設計思想に基づいていることは間違いないだろうな。そしてな、奴らを見ていて判ったがアレはああして使うものらしいぞ?」
「……指示語が多すぎて良くわかんないな。マニュアルに載ってたこと以外の何かが分かったてのか?」
敢えて自分の意図を悟らせまいとするようなギルガメッシュの話し方にジンは嫌な予感を覚える。
何かは知らないが何か企んでいるらしいギルガメッシュの行動が悪い結果しかもたらなさいのではないかという、言葉にできない直感だ。
「見ておれ」
などと言いながら距離を取るかのように歩き始める。意図は分からないが、自信に満ちたその歩みに一切の懸念はない。
やがて、こちらから視認できるギリギリのところでギルガメッシュが歩みを止めた。
一片の迷いもないと語るかのようなその背中が、何故かジンにはとても悪いもののように思えた。
振り返って、言う。
「離れてた方がいいかも知れないよ?」
「――出でよ、アルティメットガンダム」
ジンの言葉と背後でそんなことを言ったギルガメッシュの指が高らかに打ちならされたのは、ほぼ同時だった。
そして、大地が鳴動を始めた。
◇
「何か、揺れてませんか?」
「知らない。そもそもさっきから揺れまくってんじゃん。馬鹿がドンパチやってるせいで」
「は、はい。すいません……」
「ま、今度のはちょっと大きいけどね」
馬鹿がまた馬鹿なこと始めたかな、そんなことを思いながら奈緒は退屈そうに窓の外を眺めた。
◇
さもそれが当然のことであるように召喚に応じて大地を割って現れたのは小山程もある巨大なシルエット。
究極の名を冠して生み出され、悪魔と呼ばれるまでになった至高の機体は崩れ落ちる瓦礫の山をものともせずにその身を大きく屹立させる。
あらゆる道理を脇に追いやり、その場に現れたのは博物館に厳重に安置されているはずのアルティメットガンダムそのものであった。
「フハハハハハハハ!!そうだ、それで良い。それでこそ我が財に加える資格があるというもの!」
容赦なく吹き付ける砂煙が四人を襲い思い思いの呻き声を挙げる。辛うじて何が起きたかに理解が及んだジンのみが、手で顔を庇いながらも何とか声を挙げることができた。
「なるほどね……!博物館の空間がおかしくなってたってのはこういう意図もあったって訳だ。あのときにはギルガメッシュをパイロットとして認識してたのかな」
マニュアルにあったモビルトレースシステムという言葉をジンは思い出す。
「ハ!理屈が無ければ安心できぬか?我が召した!こやつはそれに応じた!そこに何の不思議があろう!」
芋虫を思わせるアルティメットガンダムの脚部を前に高笑いするギルガメッシュが嘲りの視線を寄越してくる。
全身を露にしたアルティメットガンダムは解放された喜びにひたるかのように各部を蠢動させ、様々な箇所に設けられた大小の突起物を奮わせる。
重低音を響かせながら眼球に相当する部分に光が点り、砲門と思わしき部分は具合を試すかのように光を溜め始めた。
まだパイロットの搭乗する以前の起動段階でこれ程までの自立行動を行うその様子はまるで、まるで――
「まるで、あんまり言うことを聞く気が無いって言ってるように見えるけど?」
「何だと?うおお!?」
一瞬キョトンとした表情を浮かべたギルガメッシュがアルティメットガンダムより放たれた触手に襲われ驚愕の声を挙げた。
主を絡め取ろうとでも言うのか何本も伸ばされるそれを背後へと飛びのきながら手に持った剣で切り裂く。
ジン達の目の前まで戻るに至って、ギルガメッシュはようやくターゲットからは外されたようだった。
「お帰り。置き土産にしちゃでかすぎるぜ」
「ふん。道具の分際で暴走しあまつさえ我を取り込もうとするとは、玩具といえど万死に値する」
「無茶な使い方した持ち主の責任は問われないのかな?」
口が人間と同じ機能を持っていたとしたら今頃は復活の雄たけびを挙げているのだろう。
やはり手頃なサイズの相手の方が認識しやすいのか、決着の時を迎えんとする二体のロボットをアルティメットガンダムはターゲットとして定めたようだ。
博物館の設備は悪魔を封印するためのものだったのか、あるいはギルガメッシュの常軌を逸した運用がかの機体に何らかの異常をもたらしたのか、王といえど神ならぬ身でそれを知ることはできない。
だがまぁ、何にせよ。
「かくしてパーティはますますド派手になるって訳だ。責任を取ってくれる幹事はどこにいるのかな?」
◇
超級覇王電影弾までもが相打ちに終わりドモンはいよいよ決着のときが近づいているのを感じた。
嵐の如く荒れ狂っていた心は不思議なほどに静まり返っている。
あれほど救ってみせると粋がっていたのに、いつの間にか二度と適わぬ筈だった師匠とのファイトを純粋に楽しんでいる自分がいた。
ファイターとはつくづくどうしようもない生き物だと、ゴッドガンダムのコックピットの中ドモンは一人苦笑を漏らす。
「ドモンよ……」
マスターガンダムから通信が入り、静かにこちらを見据える東方不敗の映像が展開された。
向こうも同じ気持ちなのだろうか。東方不敗の拳からは未だ深い悲しみが消えることはないが、それを砕くべく放たれるドモンの魂は何重にも折り重ねられて伝わっているはずだ。
語るべき言葉は既に無く。
交わすべき技は最早最終奥義を残すのみ。
「師匠……」
それだけを答えにドモンは正中線沿って真っ直ぐに正された姿勢のまま、手を正面にかざす。
たったそれだけの動作ですら、内に練りこまれた気迫が大気を震わせゴッドガンダムを、ドモンの体を金色に染め上げるほどの力を発した。
「流派東方不敗が最終奥義……」
同じように金色に輝くマスターガンダムと、東方不敗と重ねられた言葉は互いにこの技が最後であると予期していることを感じさせた。
右手を折り脇を締めて体に密着させる。
かざされた手の角度を僅かに深くする。
互いに交わされる極小の動作は極限まで練り上げられた人体のみが発しうる優美さを伴っていた。
呼吸は愚か心拍までが一致したのではないかと思う至高の瞬間が訪れ。
それはそのまま決着の合図となった。
「石!」
「破!」
「天驚けぇぇぇぇぇぇぇええええん!!」
中間地点でぶつかり合った二つの光はそのまま一歩も譲らず、轟音と衝撃を幾重にも撒き散らす。
拳をそのまま形どって放たれた技は正にこれまで両者が格闘家として歩んできた人生そのものと言うことができた。
足を踏ん張り腰に力を入れながら、いつまでもこうして互いの技を競い合っていたい。そんな思いが頭をよぎる。実際に示し合わせれば、永遠にこの状態を保つことは本当に可能ではないかという気さえした。
だがそれは決して許されない願い。そう告げるかのようにドモンの右手の紋章が光り輝いた。
「デビルガンダム……。あの博物館の機体……やはりそうだったか……」
目を開けるとそこ映し出されたのは醜悪極まりない巨体を引きずりこちらに突進してくる巨大なガンダムの姿があった。
師匠と同じく自然の再生を悲願としながら、いつしか歪み狂っていった悲劇のガンダム。
「この地でもやはり俺の前に現れるか……だがもう良い、もう良いんだ。終わりにしよう……全て」
位置関係から言えばデビルガンダムが最初に襲い掛かるのはマスターガンダムの方だ。にも関わらず東方不敗に引く様子は見られず、放たれる拳には一片の迷いも混ざることはない。
ドモンもそれを不思議とは思わなかった。
何故なら、デビルガンダムが今正に埋めようとしている僅かな距離ですら決着を付けるには十分過ぎるものであることを誰よりも二人が良く知っていたからだ。
「どうしたドモンよ……遠慮はいらんぞ、石破天驚拳……今こそこのワシに撃って見せい!」
「師匠……。はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
拮抗状態に陥ってから初めて見せた激情に呼応してゴッドガンダムの背部に展開された6枚のフィンが真っ赤な真円を結ぶ。右手の紋章は熱いほどに強い輝きを放ち繰り出される光はその太さを何倍にも増大させて行った。
徐々にゴッドガンダムの放つ光がマスターガンダムのそれを飲み込み始めて行く。始めは遅く、そして次第にその速度を増し強く輝く。
マスターガンダムを眼前に捉えるまでにデビルガンダムが迫ったとき、ドモンの心に一滴の水滴が落ちた。
「ゴッドフィンガァァァァァァァ!!石破、天驚けぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
デビルガンダム諸共に光に飲まれ崩壊していくマスターガンダムの姿は、永い眠りにつくかのように穏やかなものに見えた。
「見事……。それでこそ真のキング・オブ・ハートよ……」
こうして、ドモンはこの地でもまた師匠東方不敗との戦いに勝利を収めた。
◇
夢とも現実とも付かないまどろみの中で東方不敗の心中はひどく穏やかだった。
「ふ…ふふ……。まさかドモンがあれ程の技を見せるまでに成長していようとは」
そこにあるのは全力を賭した上での敗北に対する満足感。
そして、ただひたすらに弟子の成長に喜び震える師としての気持ち。
「人も自然、か……。ワシはまた過ちを犯すところだったのかも知れんなぁ」
意識を覚醒させ、何度か咳き込みながらゆっくりと身を起こす。
痛む体を労わりながら辺りを見回すと、見えたのはむき出しになった機械や折れた配管で形作られた鉄の壁だった。
どうやら、あの破壊され打ち捨てられた眼球を模したロボットの中に叩き込まれたらしい。
立ち上がり何歩か前に進み出ると眼下には所々に手痛い傷痕を刻みながら、それでも尚光輝く町並みが広がっていた。
「お……おお……」
作り物の箱庭の中と言えど、朝日に照らされる街の姿はやはりどうしようもなく美しく見えた。
視線を落とす。怪球の懐に抱かれるように転がる愛機マスターガンダムとデビルガンダムの残骸が見えた。
風雲再起の姿は無く、離脱させることに成功したようだ。あるいは東方不敗があの一瞬でそう判断することさえも、ドモンは予想して力を加減したのかも知れない。
「いずれにせよ、お主達は最早働かずとも良い。ワシにはもうデビルガンダム細胞など必要ではない」
過去の過ちに別れを告げ、静かに東方不敗は再び歩き出した。
大罪人に行くべき道などないことは先刻承知している。それでも僅かに残されたこの命は贖罪のために使われねばなるまい。
しかし、覚悟とともに踏み出された足は数歩とまたず感じられた違和感に再びその歩みを止める。
「大地が……いやこの怪球全体が震えておるだと……?」
瞬間電撃のように閃いた考えに東方不敗は弾かれたように背後を振り返った。
そこで繰り広げられていたのは、ある意味では予想してしかるべきだった光景。
僅かに形を残し鉄屑と成り果てたマスターガンダムが徐々にその身を消滅させ、それとは対照的にデビルガンダムの傷が少しずつ塞がっていく。
これまで幾度も目にしてきた、デビルガンダムの誇る三大理論「自己再生」が今また行われようとしていた。
「これは……マスターガンダムのDG細胞を取り込んで再生速度を速めようというのか……!それどころかこの怪球まで我が物にせんと、ぬお!?」
反応する間もなく伸ばされた無数の触手が、瞬く間に東方不敗の全身を包み込んだ。
◇
「終わったか……」
「みたいだな」
縁石に座り葉巻を吹かしていたスパイクと側に立ち黙って事態の推移を見守っていたDボゥイがそれぞれそう呟いた。
常識を二度も三度も塗り替えられるような戦いの結果はどうやらドモンの勝利ということで幕を下ろしたようだ。
視線を上げればちょうどガンダムなる巨大ロボットから降り立ったドモンが帰還を果たしたところだった。
「よう、お疲れさん」
「礼などいらん。俺は俺の為すべき事を果たしたにすぎん」
激闘の疲れなどまるで見せずドモンは静かにそう言った。
「ひゅう、かっこいいね。ギルガメッシュの尻拭いまでばっちりだ」
「あのデビルガンダム……解き放ったのはやはりギルガメッシュか。まぁ良い今の俺にはもう過ぎたことだ……言っても聞かんだろうしな」
ちらりとドモンは少し離れたところに立つギルガメッシュに視線を投げる。
「少しはマシな面構えになったか。我に歯向かう愚物を排除したことは誉めてやろう」
「……これだ」
「あれだけやっといて謝ろうともしないのはある意味凄いかも……」
舞衣の言葉通りあれ程までに偉そうにされると呆れを通り越してある種の尊敬の念すら抱きかねない。今ならスパイクはジンの言葉に諸手を上げて賛成できそうだった。
「あの老人はかなりの距離を吹き飛ばされたようだが……死んだのか?」
言葉を選ぼうとしたが結局ストレートな表現しかできなかった、そんな気遣いの感じられる口調でDボゥイが言った。
答えるドモンの口調に不快そうな様子はない。
「いや、あの程度で亡くなる師匠ではない。俺の拳が届いていれば考えを改めてくれる筈だ」
「男の世界だねぇ。で、ジン。問題が解決したとこでこれからどうすんるだ?」
ちょいとばかし殴り合いをかじった程度の自分には一生理解できそうにない境地に感心しながら煙を吐く。
ジンの口調は相変わらず軽く、いつものように迷いがなかった。
「んじゃま、デパートの地下でも行ってみますか。そういや、姫様の説得は上手く行ってるかな?」
「あ、結城さん達……どうしよ私ほったらかしにしちゃってた」
今思い出したとばかりに舞衣が口に手を当てて言う。分かりやすい仕草に苦笑しながらスパイクは腰を上げた。
「消防車を取ってこないとね」
ジンの言葉を聞きながらまだ吸いかけの葉巻を足で揉み消す。高級すぎるタバコはどうにも体に合わない。では誰が取りにいくか、そんなどうでもいいと言えばどうでも言いことに話題が移りかけたとき、急にドモンが苦しげな呻きを上げた。
「ぐぅ……!も、紋章が……!」
戦いで受けた傷でも痛むのかと思ったが違うようだ。どういう仕組みか右手が光とともに紋章を浮かび上がらせ、それが痛むのか押さえてっている。
「どうした、ドモン?」
「分からん……だがシャッフルの紋章がこれ程強く輝くとは……まさか!?」
「ちょ、ちょっと何あれ!?」
ドモンが何かを察したような表情で顔を上げるのと、舞衣が驚愕に満ちた声で空を指差したのはほぼ同時だった。
つられるようにスパイクや他の面々もそちらに顔を向け、次々に同様の表情を浮かべる。
「おいおい、悪い冗談だぜ……」
視線の先にあるのは空を覆うかのように浮かぶ真っ黒な眼球だった。
漆黒の球体はまるで補修でもうけたかのように上半球のかなりの部分を銀色の鱗のようなもので覆い、静かにこちらを見下ろしている。
何より奇妙だったのは球体の頂点部分から先程吹き飛ばされた筈の巨大ロボットの一部が突き出すように生えていることだった。
それが一度は堕ち、デビルガンダムに取り込まれることで復活を果たした大怪球フォーグラーのなれの果てであることをスパイクは知らない。
「……何とも醜いことよ」
ギルガメッシュがそう吐き捨てる声が聞こえた。
◇
神速のシトマンドラは激怒した。
「ニンゲンどもめ!もうこれ以上好きにはさせぬ」
螺旋王の用意した大怪球がおぞましい怪物として復活を遂げるに至りについにシトマンドラの精神が限界を迎えたのである。
恐怖に怯え苦しみ悶える心の弱い人間は徐々に数を減らし、生き残っている人間はどれをとっても癖の強い者ばかり。
抗うことなど不可能と知りながらも徐々に反螺旋王の機運が高まりつつあるのをシトマンドラは自覚せぬまでも心の奥底で確かに感じていた。
その恐れが徐々に彼の心を蝕み、先刻の単騎によるダイガンザン粉砕と今回の会場の存続を危うくさせる程の化物の誕生によりついに爆発しただ。
「螺旋王!私は今こそあれを使うときだと考えます!処分を下されるというなら後ほどなんなりと!」
言い捨てたシトマンドラは謁見の間を抜け一路ある場所を目指す。実験の円滑な遂行を建前としながらもその目は自身に迫りつつある脅威への怯えが強く打ち出されていた。
「……好きにするが良い」
背中に投げかけられた言葉に何の感情も込められていないことにさえ、シトマンドラは気付くことができなかった。
今はまだ参加者の誰も気付いていない事実だが、会場の灯台の地下部分には仕掛けが施されている。そしてその場所を二回目の放送という早期に禁止エリアにすることを進言したのはシトマンドラだった。
施設に置くもの全てを人間に渡すのではなく、万が一のときのための制裁装置を会場内にも一つは用意しておくべきというのがそのとき行った主張だ。
実験の運営を第一に考えた結果とシトマンドラ自身は思っているが、このときから既に彼が臆病風に吹かれていたことの証左ともなっている。
自身の判断の的確さを妄信しながら直接その場に降り立ったシトマンドラは狂的な笑みを浮かべ起動のスイッチを押す。
会場での変化は既に訪れるもののない灯台付近での地鳴りという形で現れた。
続いてごごごごごごごごと無駄に重たい音を立てながら、英雄王の攻撃により倒壊した灯台を押し出して地下から一体の美しくも巨大な彫像せり上がる。
現れたのは王冠を身につけた麗しき女性の姿。左手に抱えられる銘板には7月4日の刻印。
右手が掲げる松明は純金で作られた炎が赤々と燃え上がっている。踏み潰された鎖は全ての抑圧を憎むという限りなく気高い宣言の表れである。
そう、これこそがネオアメリカの自由と独立の象徴にして最強兵器、自由の女神砲である。
「エネルギーフルパワー!発射ぁぁぁっ!」
サングラスに咥えパイプを身につけたシトマンドラが絶対の勝利を確信して発射ボタンの前で嬌声を上げた。
掲げられた松明に光が集まり、やがて極光がそこから強力無比な砲撃として撃ちだされる。
美しい直線を描いて真っ直ぐに伸びるそれはぐんぐんとデビルガンダムと一体となったフォーグラーへと迫り――。
打ち返された重力レンズ砲にあっさりと押し返され自由の女神砲を跡形も無く消し飛ばした。
「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン 死亡】
◇
何という破壊力だ……」
脇を通り過ぎた攻撃の威力に再びガンダムに乗り込んだドモンは茫然と呟いた。
放たれる威圧感はさっきまでのデビルガンダムの比ではない。
そして何より許しがたいのは──。
「やはり師匠を生体コアに……!」
ゴッドガンダムのモニターが映し出したのは球体から生やされたデビルガンダムのコックピット部分で無数の触手に絡めとられた東方不敗の姿だった。
「許さん……絶対に許さんぞデビルガンダム!師匠……しぃしょおおおおおおおお!!」
ドモンが怒りに空を震わせているとき、地上でもまた別の争いが起ころうとしていた。
「ふむ、良く聞こえなかったぞ。ジン、もう一度だけ発言を許す」
「耄碌したかい、ギルガメッシュ?あれを落とすのは遠慮してくれって言ってるんだよ」
ほう、とギルガメッシュの眼尻が圧倒的な殺意に歪められた。
化物と化したフォーグラーをギルガメッシュが再度エアで消し飛ばそうとするのをジンが押し止めているという構図である。
それだけならちょっとした口論で済むはずがギルガメッシュから放たれる殺意は仲間に向けるものとは思えないほどに暗く冷たい。スパイクやDボゥイですら息を思わず息を呑みそうになる。
だが、人類最古の英雄王の怒りを前にしてもジンの態度はせいぜい語調が少しきつくなる程度の変化しか見せなかった。
「今じゃあんな化け物になってるけど、あれは清麿が熱を上げてたんだ。別れ別れにさせるのは可哀想だろう?」
今はまだゴッドガンダムと空中で対峙するだけの大怪球を指さして言う。
清麿が気にしていたからには間違いなく脱出のための重要な手掛かりであるはずだとジンは説明した。
「消し飛ばすなど絶対に許さん!あそこには師匠が……師匠がいるんだぞ!」
話を聞いていたのかゴッドガンダムからドモンがそう叫んだ。
それすらもギルガメッシュの心に響くものはない。
「我はあのようなものに存在を許可するつもりはない。ならば貴様らは黙ってそれに従うのが礼儀であろう?」
殺される、とギルガメッシュに相対していたほぼ全員が思った。死に際の映像が思わず浮かんでくる程の絶対的な意志を感じた。
そうでなかったのは、やはり王ドロボウただ一人。
「そんなこと知らないよ、オレはドロボウだからね。でもドロボウにだって退屈な王サマに楽しいショーを披露することくらいはできるぜ?」
場の空気と全くそぐわない発言がついに僅かながらギルガメッシュの興味を引くことに成功する。
「何を企んでいる、王ドロボウ?」
「何も。だから言ってんじゃん」
言いながらジンは親指でクイ、と背後の空を示した。
飄々とした軽い動作ながらそこに込められている意思はギルガメッシュものと同じ。自分以外の誰にも曲げることを許さないという絶対の信念。
背中に大怪球を背負いながらその重さなど微塵も感じさせずにジンが言った。
「オレが盗んでやるって言ってるのさ。あのドデカイ、真っ黒な太陽をね」
輝くものは星さえも、ジンに与えられた評価に嘘偽りはない。
故に、それは決して動かない筈のギルガメッシュの心すら動かした。
「ククク……クハッーハッハッハ!抜かしたな王ドロボウよ!よかろう、3時間だけ待ってやる。せいぜい我を退屈させるでないぞ?」
「寛大な処置に感謝を。ああそうだオレ達はちょっと出掛けるんだけど中にはナオ達がいる。臣下の護衛くらい朝飯前だよね?」
「無論だ」
ギルガメッシュは余裕の体で請け負うとホテルの屋上へとその身を翻らせた。
そのまま彫像のように固まり、完全に見物の構えで動きを止める。
空では大怪球が正に活動を始めようとしていた。
「さて、じゃあここの安全も確保されたし始めようか。舞衣はとりあえず中に事情を説明してきて。ゆたかから聞いた話だとあの化け物のハートに突き刺さってる管を抜けば動きは止まる。俺はちょっとそいつをいただいてくる」
「分かったわ。気を付けてね……」
「いや、それだけでは駄目だ。デビルガンダムは師匠をコアにエネルギーを奪っている。そちらも何とかしなくてはならん」
ドモンの言葉にジンはひゅうと口笛を吹く。
「そりゃやっかいだ。オレの手はとっくに塞がっちまってるしそっちはドモンに任せていいかな?」
「ああ、勿論だ」
「OK。じゃあ向かうとしますか。足の方は……」
「テックセッタァァァァァァァァァ!!」
放たれた叫びはDボゥイのものだった。
掲げたクリスタルがまばゆい光を放ったかと思うと数秒後にそこにいたのは異星の生命体によって改造された鋼鉄の戦士が顕現していた。
「俺が連れて行く。あの外壁をぶち抜くことぐらいはできるだろう」
「頼むぜ、Dボゥイ。そのイカした格好なら宇宙にだって行けそうだ。スパイクはどうする?」
「俺か?俺は……そうだな。デパートの地下に行って見る。お宝を引っさげて登場ってな」
「消防車を使うか?今ならあのつぶらな瞳が大歓迎の雨を腹いっぱい降らせてくれるぜ」
「嫌いじゃないさ、そういうのは」
行動方針は決まり、各々が目的のために動き出す。
ジンは大怪球の巨大な瞳をその黒曜の瞳に写しこみ、にやりと唇を歪ませた。
「盗んでやるぜ」
◇
――ちょっと、何がどうなってんのよ。
――ええと、ちょっとややこしいことになってるんだけど。
――危険なんですか?
――ま、まぁね。今から説明するけど、はぁ、どこからしゃべったらいいんだろ……。
目覚めたくもない眠りからぼんやりと意識を覚醒させたときかがみの耳に入ってきたのはそんな会話だった。
もっとも耳に入ったというだけで言葉の内容事態は認識できていなかったし、どれが誰の声なのかも判然としない。
知ってる声のような気がする。それが自分の記憶かはたまた自分の中に巣食うラッドの記憶かまでは分からないが。
どの記憶がどちらのものなのか。どこからが自分でどこからがラッドなのか。考えたくもない。
このままずっと眠っていたい。
アルベルトのことも、こなたのことも、つかさのこともルーアのことも忘れてひたすらに。
――かがみ先輩、気が付いたんですか!
どこか遠くから聞こえてきた声が、かがみを現実逃避から引き戻した。
一瞬遅れてゆたか、と靄のかかった意識で声の主である見知った後輩の名前を思い出す。同時にその子の首を絞めている映像が思いだされ、あれ、これって誰の記憶だったかなと思う。
両の手にそのときの感触が蘇り、ああそういえば私がやったんだっけと実感の伴わない感想を漏らした。
まだどこか寝ぼけているのだろうなと冷静な判断を下している自分がいるのが可笑しかった。
背後でどんどん、という音が聞こえたのでゆっくりと頭をそちらに向ける。
見ると窓いっぱいを覆うようにして浮かんでいる愛嬌のあるデザインの変な人型の何かと、それに大事そうに抱えられた女の子が浮かんでいた。
「こんにちは。お話を聞いてもらえませんか?」
ひ、と背後でゆたかが息を呑む声が聞こえ、何故だがとても心配な気持ちになった。
◇
どうしてこうも次から次へと訳の分からないことばかり起きるのか、ねねねはどこぞにいるかも知れない神様をぶん殴ってやりたくなった。
「清麿と合流するのではなかったのか?」
「うっさい!それどころじゃないでしょーが!」
脱出のための重要アイテムと見ていたフォーグラーが見るからに壊れた状態で放置されているのを見るだけでも不安だったのが、何も化け物になってまで復活して欲しいとは思っていない。
無事ヴィラルの元から逃げおおせたと思った矢先にこれだ。ふざけているにも程がある。
「無策で突っ込んでとうなるものとも思えんがな」
腕を組みながらスカーがむかつくぐらい冷静に指摘してくる。言われなくてもねねねにだってそれくらいのことは分かっていた。
だが、ヴィラルの放置していた荷物からやっと一本目のアンチ・シズマ管を手に入れたばかりなのだ。幸先が良くなってきたと思ったところにこの仕打ちはあんまりなのではないだろうか。
「ちくしょう!あたしのハッピーエンドにはあれが絶対必要なんだよ!こんなくらいで諦めてたまるか!」
ブサイクなロボットを走らせながらねねねは天に向かって叫ぶ。
光線やら気持ちの悪い触手やら攻撃を撒き散らし始めた大怪球にありったけの怒りを籠めて何度も何度も。
破壊の権化と化した大怪球がその言葉が耳を貸すことは無い。
どれだけ声を張り上げようとそれを上回る爆音に掻き消されてしまう。
ねねねの心に絶望が影を落とす。
全くの無力であるかと思われた言葉は、しかし宙をかける少年の耳には確かに届いていた。
力なく顔を伏せるねねねにに再び前を向くための力を与えるために、王ドロボウは飄々とした態度で彼女の目前へと舞い降りる。
「気になる言葉が聞こえてきたんだけど。話をする時間はあるかな、勝ち気なおねーさん?」
【C-6/市街地/二日目/午前】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
【武器】
エクスカリバー@Fate/stay nightm、超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、短剣、ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)
(残弾3/6)、デリンジャー(残弾2/2、予備弾7)@トライガン、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!、偽・螺旋剣@Fate/stay night
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、
サングラス@カウボーイビバップ、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
【その他】
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:デビルフォーグラーを盗む。とりあえずねねねから話を聞き出す。
1:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
2:ニアに疑心暗鬼。
3:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:マタタビ殺害事件の真相について考える。
5:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※ゆたか達と情報交換を行いました
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:テッカマンブレード変身中、一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済、火傷とバイクの破片は抜いた。)
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体崩壊(進行率17%)
[装備]:
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量60%)@カウボーイビバップ 、 テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:ジンとともにデビルフォーグラーを止めるために協力する。
2:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
3:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人も少しだけ違和感を感じました
※フリードリヒに対して同属意識。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、螺旋力覚醒
[装備]:コアドリル@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
機体状況:良好
[道具]:支給品一式、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
鉄の手枷@現実 S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、短剣×4本、水鉄砲、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実
イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実 支給品一式x2(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、 無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、首輪(キャロ)、清麿のネームシール、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
0:なんだこいつは?
1:清麿などの対主催陣営と合流。
2:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
3:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
4:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーの罪を許しました。が、わだかまりが全く無い訳でもありません。
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)
[道具]:支給品一式x4(メモ一式使用、地図一枚損失)、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 、ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!! 、暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル、シアン化ナトリウム 、
ワルサーWA2000(4/6)@現実 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本-1:明智達と協力して実験から脱出し、元の世界でまた国家錬金術師と戦う。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
0:何者だ?
1:螺旋力保有者を守護する。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。
3:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
4:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を優勝狙いに変える場合も……。
【C-5南東/安ホテルの一室/二日目/午前】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(小)、疲労(中)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒、かがみを説得するという強い覚悟
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
0:誰この人……!?
1:かがみをラッドから助け出す
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷 、いろいろあって混乱、高遠の奇術道具一式から引っ張り出した衣装
[装備]:、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]:
0:またロボットって……はいぃ!?
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジンと情報交換を行いました
229 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/22(日) 23:28:58 ID:If4LhQ1z
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:疲労(大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、
左頬骨骨折、鼻骨骨折(以上ある程度の応急処置済)、かがみにトラウマ (少し乗り越えた)、螺旋力覚醒
[装備]:無し
[道具]:黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
0:また何かでてきた。
1:かがみが暴れるようならぶっ飛ばす
2:かがみを乗り越える
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
※かがみへのトラウマをわずかに乗り越えました
シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』) 、
黄金の鎧の欠片@Fate/stay nightが【C-5】のどこかに撒き散らされています。
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、髪留め無し、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス) 、疲労(大)、目覚めはしたが状況を把握しきれていない
[装備]:、コスプレ衣装(涼宮ハルヒ)@らき☆すた
衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日 、クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、 雷泥のローラースケート@トライガン
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
[思考]
0:混乱中 。ゆたかちゃん――?
[備考]:
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソの力を開放することに恐怖を覚えました。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認。またレーザービーム機能についても目視したようです。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失わず)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し) 、頬に切り傷、おさげ喪失
[装備]:ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首
機体状況:中破、光線の威力等が減少、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
[道具]:支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(待機状態)、びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる。
0:目の前の人間達が言うことを聞いてくれないようなら始末する。
1:見かけた人間はロボット兵に殺させる。
2:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
3:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※大量の貴金属アクセサリ、コルトガバメント(残弾:0/7発)、真っ二つのシルバーケープが近くに放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
【C-5南東/安ホテルの屋上/二日目/午前】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない、ジンが見せてくれるものへの期待
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
1:約束の時間になったら容赦なくエアでデビルフォーグラーを消滅させる。
2:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
【C-5/上空/二日目/午前】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(大)、明鏡止水の境地、師匠を助け出すという強い覚悟
[装備]:ゴッドガンダム
機体状況:小破
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
1:デビルフォーグラーの注意を引き付けつつ、東方不敗を助け出す。
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
【D-6北西/消防車で移動中/二日目/午前】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、左腕から手の先が欠損(応急処置済) 、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:ジェリコ941改(残弾3/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式(-服一着)@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)、シガレットケースと葉巻(葉巻-2本)
[思考]
1:デパートの地下へ行き、中を捜索する
2:カミナ、ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
3:落ち着いたら図書館を目指す。
4:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
6:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※カグツチと清姫は見ていますが、静留が近くにいるかどうかについては半信半疑です。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
【F-3/道路/二日目/早朝】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:デビルフォーグラーにコアとして取り込まれている。
[装備]: 天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン
[思考]:
0:意識不明
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められている異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※会場のループを認識しました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
【デビルフォーグラー】
マスターガンダムのDG細胞を取り込んでデビルガンダムと化したアルティメットガンダムが、更にフォーグラーを取り込んで再生を果たした姿。破損したフォーグラーの外壁部分をDG細胞で覆い、頭頂部からデビルガンダム上半身が突き出している。
フォーグラからのエネルギーと生体コアからのエネルギーを動力としており、両方が無くなれば活動を停止する。
真紅の螺旋を発電所から確認したカミナ組一行が選んだ道筋はシンプルなものだった。
――宣言通り、凄ぇもんを頂きに一路南東を目指しているのだ。
「あの、海ってでかい水たまりを越えられりゃぁ、一気に行けたんだがな」
『全員の消耗具合から、泳いで渡ることは推奨できません。何よりカミナは泳げませんから』
「んなことわかってらぁ! 気が逸る、そういう話じゃねえか」
口角泡を飛ばすカミナの気持ちは大いにわかる。
懐のクロスミラージュはその思いを口に出さないまま、普段通りの冷静な返答を心掛けていた。
先の膨大な魔力を伴う螺旋の暴悪――その恐るべき威力をこの四人の中で最も理解しているのは、魔力に関して一日の長があるクロスミラージュだろう。
あの紅の暴威はまさしく破壊の象徴だ。
はっきり言ってしまえば、あの攻撃を前に防御など紙の盾ほどの意味でしかたなく、ましてやあの規模では回避すら望むべくもない。
(あれだけの力を持つ参加者がいる。あるいはあれだけの力を持つ支給品が巡りめぐって、ようやく力を揮うに相応しい存在の下で力を発揮したということでしょうか)
どちらかと言えば後者だろうか。
この殺戮ゲームが始まってからの経過時間は、すでに二十四時間に達している。
この短期間に失われた命の数を思えば、繰り広げられた死闘の数は人間の両手の指の数では足りないだろう。
――その激闘の中で、ティアナ・ランスターはその儚き命を散らしたはずなのだから。
その争いが絶えなかっただろう一日の間、あの暴虐の持ち主が一度もその力を揮う機会に恵まれなかったとは思えない。
あるいは丸一日ならば隠れ潜みながら、参加者が間引きされていくのを待つことも可能だったかもしれないが。
そんなまだるっこしい方法を好む輩が持つには、少々不相応なほどの力と考えざるをえない。
となれば、力の持ち主はこの戦場を戦いながら潜り抜けてきたものであると考えられる。
そしてそんな人物がゲーム開始からこれだけの時間が経ってようやく本領を発揮したのだとすれば――自らの手に、自らの力の全てを発揮できる武器を取り戻した時。
クロスミラージュは戦慄の境地でこの想像に至った。
何故ならば、あの力を持つ存在が無尽蔵に紅の螺旋を放出し続ければ、ただそれだけでこのゲームは終焉を迎えるはずだからだ。
簡単な話、地図上を縦に移動しながら、手当たり次第に横薙ぎすれば事足りる。
それだけの力が、魔力が、あの攻撃には込められていたのだ。
その絶望的な想定を、クロスミラージュは誰にも打ち明けていない。
そもそもこの想像が当たっていたとすれば、話したところでどうにもならないのだ。
暴力的な最期の審判の時、前もって心の準備をする猶予が残される――その程度でしか。
だからクロスミラージュはこのことを敢えて話そうとは思わなかった。
仲間達の不安を煽るだけで解決策も見つからない悲観など、この前だけを見つめ続ける一団の足枷にしかならないのだから。
逆を言えばそれは祈り――機械の身でこの境地に到達する存在が果たして過去にいたものか。
仲間達の笑顔が、志が、悔恨と悲哀に彩られることよりも、自身の最悪の想定が外れているようにとの祈りの気持ちが勝っていたなどと。
結果として、それらの想定はクロスミラージュの杞憂に過ぎなかった。
紅の暴波は一度の進軍の後、連続して会場を蹂躙するような悲劇を起こさなかった。
単純な話、あれだけの魔力量を必要とする攻撃である。
ひょっとすれば自分の考えの前提が間違っており、武器は一度限りの使用が想定されたものだったのかもしれない。
あるいは使用者に参加者殲滅の意思はなく、必要に迫られての苦汁の決断だった可能性もある。
不必要なまでの悪路の想定は、悲観的な思考と何も変わらない。
もしもこの想像を口にしていれば、仲間達にこぞって叱り飛ばされたことは容易に知れる。
――なんでぇなんでぇなんでぇ! てめぇ、クロミラ! そんなつまんねぇこと考えていやがったのか! どうにもなんねぇなんてつまんねぇこと考えてる暇があったら、腹抱えて笑っちまうようなことでも考えてやがれ!
――考えすぎて悪い方向にいくのはよくない癖なのだ。頭のいい清麿もそういう風に考えることはよくあった。頭のいいものはもう少し、頭の悪いものを見習うといいのだ!
――心配ばかりでは前に進めなくなってしまいます。クロスミラージュさんが私達を心配してくれるのはとても良いことですけど……アニキさんもガッシュさんも私も、クロスミラージュさんが暗い顔をしているのを見たいとは思いません。
そう言われたわけではないのに、そう言われるような気がした。
それは不確定な要素ばかりにも関わらず、先ほどの想定を容易に上回る確信。
内蔵された回路の最深部に、微かな電気信号――不快でも不穏でもない反応。
どれもこれも、機械の身には過ぎた信頼の証だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「それでカミナ、これからどうするつもりなのだ?」
「決まってんだろ! あのさっきの凄ぇ必殺技をぶっ放した野郎のとこを目指す!
ぐるーっと会場を移動しなきゃなんねぇのが面倒くせぇが、その代わりに途中にある家とかも全部見て回れるってことになる! 一石二鳥じゃねぇか!」
「おぉ! なるほど! すごいではないか!」
「本当です! そうしたらもっと凄いモンも見つかるかもしれません」
カミナの口上に手を叩いて喜ぶガッシュとニア。
結局のところ方針は何も変わらず、それどころかやや遠回りの兆しを見せているのだが、その点を考慮させない辺りは流石だった。
仲間からの賛同を得て、意気揚々と先導するカミナに続く大グレン団一行。
その面々が南東を目指す過程で辿り着いたのは、捻れた城と称するに相応しいB−4図書館。
――かつて十傑衆が一人、衝撃のアルベルトと、不死の体を得たとはいえ心根は未だ平和な女子高生であった柊かがみ。
二人が打算含みの同盟を――最終的に掛け替えのない絆を結んだ、始まりの地であった。
「誰かがいる気配もないし、すごく気持ち悪い見た目の場所ではないか……」
「たくさん本がありますけど……どれもガッシュさんの本とは違うもののようですね」
相変わらず凄ぇもんが見つかる、と根拠のない自信を打ち立てて飛び込んだカミナ。
そのカミナに続き、ぐるりと螺旋状を描く階段の途中、書架から次々と本を確認する二人がそう零す。
ニアの手は代わる代わる抜き出す本のページを捲り、その度に読めないと残念そうに首を傾げては元の場所に戻していた。
「ちぅ。こんだけありゃぁ、ガッシュに凄ぇ力がぶわーっと出るんじゃねぇかと思ったが、そういうわけにもいかねぇみたいだな」
『元々期待薄でした。あの魔本が特殊な構造をしているのは解析済みですが、この建物の中にある本はほとんどが市販の製品です』
「小難しいこと言われてもわかんねぇ。そして本の中身も、俺にはさっぱりわからねぇ!」
一方でカミナは本を乱暴に投げ出し、階下へとぽんぽん放り出してしまう。
物を扱う態度として甚だ不適切だが、辺りを見回せば立ち並ぶ書架にぎっしり埋まる本の海。
それは知識という名の防壁に等しい理論武装。
さるビブリオマニアなら涎を垂らしただろう至れり尽くせりな空間も、識字できないカミナにしてみれば無用の長物でしかない。
初めこそ勢いよく本を検分していたガッシュとニアの二人も、度重なる期待の裏切りでその表情は明るくない。
ましてやこれだけの量の本があるのだ。
何かしら重要な内容の記された本はあるかもしれないが、見つけ出すのにかかる時間と労力はあまりにも惜しい。
一刻も早く、他の対主催と合流すべき状況ではあまり望ましくない寄り道といわざるをえない。
とクロスミラージュが考え、再出発を提案しようとした瞬間だった。
「――そうか! 間違いねぇ! そういうことに違いねぇぞ!」
不貞腐れたように座り込んでいたカミナの急な絶叫に、クロスミラージュは存在しない全身が震えるほどに驚く。
当然、体が存在するニアとガッシュの驚きは歴然だ。
持っていた本を互いに取りこぼし、拾おうと慌てて屈めた二人の額が激突、火花が散る。
「ウ、ウヌゥ、痛いのだ……」
「い、痛いです……」
「馬鹿野郎! 痛ぇとか辛ぇとか言ってる場合じゃねぇぞ! いいかおめぇら……この本の山が入ってるこの壁!」
『本棚と呼ばれるものです』
「そのホンダナだ! こいつの中に入ってる本を、全部みんな取っ払っちまえ!」
ぶつかって赤くなる額を擦る二人の肩を、カミナがこれ以上ないほど景気のいい顔で引っ叩く。
クロスミラージュの冷静な突っ込みもどこ吹く風だ。
発言の意味がわからないと首を傾げる三者を置き去りに、手近な書架に歩み寄るカミナ。
彼は早速本棚にぎっしり詰まった本を掴むと、十冊近くまとめて引き抜き――中身を検めもせずに、躊躇なく階下へ投げ捨てた。
分厚い本が地面に叩き付けられる空気の破裂音が静かな館内に響き渡る。
経年劣化を迎えていた古書が高高度からの衝撃に耐え兼ね、色落ちしたページが周囲に散らばっていた。
司書のいない貸し出しカウンターから咎める声はないが、心なしかどこからか黒縁眼鏡の女性の悲鳴が聞こえたような気がした。
その暴挙を声もなく見守っている大グレン団のリーダー以外。
カミナはその眼前で本を抜き出した書架の空っぽになった棚――、
ではなく、空いたスペースを睨み付けて「違ぇな」と呟き、そのまま手当たり次第に目に映る本を投げ捨ててしまう。
『ちょ、ちょっと待ってください、カミナ』
「あぁ? なんでぇ、クロミラ。
おめぇは手がねぇから仕方ねぇが、ガッシュとニアは何してやがる。とっととこっちきて手伝いやがれ」
『それ以前の問題です。カミナ、あなたは一体、何をしているのですか?』
「あぁ!? おめぇ、俺の話を聞いてなかったのか!?」
「カミナ! 私もニアも何も聞かされていないのだ! クロスミラージュは悪くないぞ!」
柳眉を逆立てるカミナにガッシュの弁護が割って入る。
カミナは自身の青い頭髪に指を入れて頭を掻きながら、「そうだったか?」と首を捻り、
ニアの首肯をもって悪戯を詫びる子どものような表情で頭を下げた。それから、
「悪ぃ悪ぃ。ちょっと閃いたもんだから思わず先走っちまった」
『それはもう構いません。それで、何を閃いたというのですか?』
「そうです、アニキさん。それにホンダナってなんですか?」
『本の山が入っている棚です』
「話がちっとも進まないのだ」
話をちっとも聞いていなかったらしきニアが嬉しそうに手を叩き、
「まぁ、これがホンダナだったのですね」と華やかに微笑んでいる。
「そうだ! これがホンダナ!
そしてこのホンダナが凄ぇたくさんあるここは、ホンダナの家に違いねぇ! いや、ホンダナの家どころか城かもしれねぇぞ!」
ここは地図上の図書館であり、入り口には私立図書館『超螺旋図書城』と記されていたという事実。
それらは場を停滞させるだけだとクロスミラージュは言葉を飲み込んだ。
「見やがれ! 右見ても本! 左見ても本! 上にまでびっしりありやがって、おまけに下にも本ばっかりじゃねぇか!」
『下の本はカミナが投げ捨てた結果ですが……』
「聞こえねぇ! どうでぇ、ガッシュ、この本だらけがどういうことかわかるか!?」
「ここがホンダナの城であり、本の城でもあるということではないか!?」
「そういうことだ! いや、そういうことか!?」
「違うのか?」
「……いや! 違わねぇ! 今日からここは本とホンダナの城だ!」
「まあ、すごい。本とホンダナにもお城があったのですね」
意気投合する三人に、クロスミラージュは自分が口を挟まなくても話が進まないことを悟る。
そうして一頻り騒いだ後、全員の前で空っぽになった書棚をばしばしとカミナが叩き、
「そしてこっから本題だ!
この城が本とホンダナの城ってこたぁ、この城の中には本がはちゃめちゃたくさんあるってことだ。そうだな!」
「そうなのだ! 私はもう目が回りそうなのだ」
「そうだな。俺も読めねぇ食えねぇ枕にもならねぇ。
そんなもんをずっと見てるのも願い下げだ。
だが、こんだけ本があるってことは逆に怪しいと思わねぇか?」
「……何がですか?」
「決まってんだろ!
こんだけ本がバァーッとありゃぁ、誰でもここには本しかねぇんだなって思うだろうぜ!
だからこそ、実はここには本じゃねぇ何かがあるんじゃねぇのか!?」
そう言ってカミナはさらに一列、横並びの本を乱暴な腕振りで払い落とす。
そうして出現する空洞の奥に目ぼしい痕跡は見当たらず、カミナの想像が裏づけられるようなものは出てこなかった。
しかし、クロスミラージュは驚愕の中でその考えが否定できないことを認識していた。
木を隠すならば森の中――という諺がある。
一本の木を隠すために、木の群れの中にその存在を紛れ込ませてしまうという諺だ。
同じような考えで、この図書館の館内に本という存在を紛れ込ませることは容易だろう。
その本を求める来訪者からすれば、まさしく本の海の中から一冊の本を選び出すのはどれほどの苦難になるだろうか。
そして来訪者に、この大海の中から一冊の本を探し出す意図がなければどうなるか。
当然、来訪者は幾つかの本を確認して、すぐにこの場を立ち去るだろう。
図書館という名称と、その施設の持つ意味合いを知っている人間ならば尚更だ。
図書館を知っているからこそ、本の重要性を問えても、図書館の本以外のものに重要性を求めることはできないのだ。
これは即ち、本という文明を知らないが故に行われた蛮行。
カミナという存在は識字していない。それが故に本に重要性を見出さない。
情報を完全に埒外としているからこその、思考の裏を突いた考えであった。
「ウヌヌゥ、高いところにある本には私では手が届かないぞ!」
「ガッシュさん、下から一つずつやっていきましょう。アニキさんも」
「わかったのだ!」
「おうよ!」
クロスミラージュの驚愕を余所に、三人は最下層へと駆け下りて、順番に書架を空にする作業に従事している。
カミナは言うまでもなく、ガッシュとニアは単純にカミナの考えに賛同してのことのようだ。
思えばカミナは、あの紅の暴虐を見た時から恐れの感情の一切を抱いていなかった。
それは魔力という概念に触れたことがなく、それ故の無知からくる勇猛さだと定義づけていた。しかし、そうではないのだ。
あの暴力の威力を最も理解していたのがクロスミラージュならば、本質を最も理解していたのはカミナだったのかもしれない。
だからこそカミナはあの恐るべき力を前に怖じることなく、この場においても立ち遅れることのない思考に至れるのではないか。
これがカミナの力――いや、人間が持つ力なのだろうか。
これこそが、この飽くなき精神こそが、螺旋王の求める螺旋の力の本質なのか。
――躊躇わず前に進み続ける意思、『進化』の力の一端なのか。
「カミナ、カミナ! ふと思ったのだが、この奥には何があるのだろうか?」
「なにぃ……ってぇ、こんなとこに道がありやがったのかよ」
考察を進めるクロスミラージュを置き去りに、カミナとガッシュが声を上げる。
それは入り口を入ってすぐのところにある貸し出しカウンター。その奥にある従業員用の関係者通路の入り口だった。
「この奥にもホンダナがあるのですか?」
「いや、わからねぇ。わからねぇが、俺はわかったぜ!」
「何がなのだ? 何がわかったのだ?」
期待の視線を二人から向けられ、カミナは「へっ」と笑って親指で己の顎をひと撫ですると、
「何か凄ぇもんを隠すなら、でけぇ建物の一番上か! 一番奥って相場が決まってんだよ!
この建物の一番上は右と左のでっけぇ捩れた塔が二つだが、一番奥は一つっきゃねぇ!
つまり! 何か凄ぇもんを隠すなら当然、一つしかねぇとこに決まってらぁ!」
「そういうものなのですか?」
「それが男の心理ってもんよ! なぁ、ガッシュ」
「その通りなのだ。私もきっと、二つと一つなら一つにお宝を隠してしまうに違いない」
『男』の理論が炸裂し、カミナは貸し出しカウンターを乗り越え暗い通路へ身を躍らせる。
そのまま通路を進む三人は、通路の途中途中にあった『更衣室』や『会議室』といったプレートの下がった部屋を素通り。
目指すは一番奥にあり、それ以外は箸にもかけねぇという一本気ぶりだ。
その最奥にあったのは『書庫』というプレートの下がる一室。
鉄扉の向こうには窓のない閉め切った空間が広がっており、埃臭さと古書特有の臭いが立ち込めている。
鼻のいいカミナとガッシュは顔を顰めながら足を踏み入れ、中を見渡すニアが、
「ここにも本がありますね。小さい部屋ですけれど、ここもホンダナの城なのですか?」
「こじんまりとしていやがるから、多分、本とホンダナの子どもの部屋だな!
だが、一番奥にあるからには怪しいのはここだ。っつーわけで、とりあえずここのホンダナを空にしちまうぞ!」
「「おーーーっ!」」
『大丈夫……なのでしょうか』
クロスミラージュの心配を余所に、三人は黙々と本を取り出す作業を開始する。
この作業が徒労に終わるとすれば、彼らの行動は単純に本を陰干ししたというだけになる。
だが、燃える意思を瞳に宿す三人を止める言葉をクロスミラージュは持たなかった。
ただ気になるのは、この書庫にのみ明確に誰かが足を踏み入れた痕跡があったことだ。
書棚の一つ、真ん中がぽっかり開いているのは、そこにあった本を誰かが持ち出した証拠だろう。
塔の中に山と積まれた書架の全てに本が並べられていたのだ。ここだけずぼらな状況であったとは考え難い。
――あるいはその一冊こそが、何かしらの重要な文献であったとも考えられるが。
「ムムッ? ニア、この奥にある変なものが見えるか?」
「えっと、これですか? これ、なんなんでしょう。――あ、倒れました」
丁度その真ん中の書棚の下の段を空白にしていた二人が、小さく驚きの声を上げた。
カミナとクロスミラージュがそちらに意識を向けるのと同時、書庫内の空気に変化が訪れる。
――かすかな機械音が生じ、件の書棚が小刻みに揺れる。
さりげなくカミナがニアとガッシュを背後に庇いながら距離を開けると、
それを待っていたように書棚は内開きの扉のように位置を変え、
――最奥の本棚の奥、隠されていた漆黒の扉が四人の前に姿を現していた。
本棚の面積をいっぱいに使った黒の大扉は、その素材がようと知れずひっそり静寂を保っている。
鉄のように見えるが、それ以外の鉱物といわれれば納得してしまいそうな異様さ。
そのドアを前にカミナは腕を組み、堂々と胸を張ると盛大に身を反らせて、
「ほれ見ろい! いかにもってぇ感じのドアのご登場とくらぁ!」
「すごいのだ、カミナ! 本当に、本当に見つけてしまったのだ!」
はしゃぐガッシュとニアがハイタッチ。
それを見届けたカミナが意気揚々と、大扉の中央に設置されたバルブに手を伸ばす。
どうやら気密室のような厳重さを誇る部屋らしく、黒のハンドルは見るものに頑強さを誇示するような造りになっていた。
「こいつを……どうすんだ?」
『時計回りに回せば開くものかと思われます』
「時計回りってなぁ、どっちに回るんだ?」
『そうでした。上の部分を握り、右に回せば開くものかと思われます』
「了解了解っと」
口笛混じりの気軽さでハンドルを握り、カミナが右回りに力を込める。
が、ハンドルはどういうわけかピクリとも動かない。
手軽に回るものと予想していたカミナは深く息を吐き、それから全体重をかけてハンドルを回しにかかるが、
「〜〜〜〜〜〜〜ッ! だぁーっ! 固ぇ! 固すぎるぞ、どうなってやがる!」
顔が真っ赤になるほどの力を込めた結果、ハンドルは回る気配すら見せなかった。
カミナに続いてガッシュ、ニアと同じように続いたが、この中で最も膂力のあるカミナの手で回らないのだ。
二人に動かせるはずもなく、全員で赤くなった手を振りながら首を傾げる。
「せっかくドアを見つけたのに、開けられないのでしょうか」
「ひょっとしたら鍵が必要なのかもしれないが……私達は鍵は持っていないのだ」
『いえ、鍵穴らしきものは見つかりません。
あるいは何かに反応する扉なのかもしれませんが……その場合はハンドルは何のために』
代わる代わるの攻撃にびくともしない大扉。
秘匿性の高さに中に収められているものの重要性が期待されるが、開かないのでは意味がない。
破壊を提案しようにも、扉から漂う得体の知れない雰囲気がそれを躊躇わせた。
――単純な威力では、決して開かないギミックが用いられている扉?
「おぉーーっし! わかった! 今度こそわかった!」
今度の叫びにもまた全員が驚く。
当然、高らかに声を上げたのはカミナ。だが、今度の驚きには三人の期待が続いた。
先ほどのように正解を導き出したカミナならば、また妙案を出してくれるのではと。
ガッシュとニアは信頼から。クロスミラージュは独創的な発想力に期待して。
期待の視線に対し、カミナは堂々と頷いて、鼻の穴を広げると大声で言う。
「いいか、てめぇら! こういう考え方がある!
一つの凄ぇでかい岩がある。とても一人じゃ持ち上げられねぇ。さぁどうする」
「どうするんですか?」
「簡単な話だ。一人で持ち上がらねぇなら、二人で持ち上げんだよ。
二人で足りなきゃ三人だ。三人もいりゃぁ、見上げるほどでっけぇ岩でも持ち上がらぁ!」
「おお、その通りなのだ!」
『そ、そんな単純な話でしょうか!?』
予想以上にシンプルな答え――動揺するクロスミラージュに、カミナは己の懐を叩くと、
「馬鹿野郎! 何でもかんでも難しいばっかが正解じゃねぇぞ。男は度胸! 何でも試してみるもんなんだよ!」
『しかし……』
「ぐだぐだうるせぇ! 全員、男ならちゃちゃっと覚悟を決めやがれ!」
「すみません、アニキさん。私は女なのですけれど……」
「女もそうだ! 見てるだけじゃ始まらねぇ!」
強引な理屈で全員の意思を纏め上げるカミナ。
クロスミラージュからすれば、成功の見込みが低いだけで特別反対する理由はない。
ガッシュは再び感銘を受けているようだが、クロスミラージュが気になったのはニアの反応だった。
彼女は花模様の浮かぶ双眸を瞬かせ、それから何度か確かめるように頷く。
「女も……そう」
『ニア? どうかされましたか?』
クロスミラージュの問いに、ニアは首を横に振ると、晴れやかな表情で笑った。
「いえ、何となく……自分のやるべきことがわかったような気がしただけです」
『そう、ですか?』
「はい」
「おう、ニア! とっととこっちこい! おめぇは左、ガッシュは右。俺が上だ」
「はい! 任せてください!」
「おぉ、いい返事じゃねぇか。負けんじゃねぇぞ、ガッシュ!」
「わかっているのだ!」
カミナがハンドルの上部を、ガッシュが右を。ニアが左を握り、三人が深く息を吸う。
そして幾度かの深呼吸の後、合図もないのに全員の声が揃った。
『「「「せーーーーーーーーーーーーーーーのぉっ!!!!」」」』
掛け声と共に三人の腕に力がこもり、それに比例して力む表情に赤みが増していく。
この時ばかりは体を持たないクロスミラージュは、三人を応援することしかできない。
「ウヌヌゥ……全然動かぬ!」
「動いて……動いてください……!」
「諦めんな! 一人より二人! 二人より三人だ!
そんでもってこっちにゃ四人もいるんだぜ! これで動かねぇもんがあるわけねぇ!」
『私は一人分には計算できないと思われますが』
「気合いだ気合い! おめぇの気合いが俺達を伝って、このクソ輪っかを回す力になるんだろうが! そら、うおりゃぁぁぁ!」
論理性に欠ける根性論でしかない言葉――それがどうして、これほど回路に響いたのか。
クロスミラージュにはそれがわからない。
だが、カミナの声に触発されるようにガッシュとニアもまた雄叫びを上げ、
――気づけばクロスミラージュ自身もその『気合い』の一陣に身を置いていた。
それはこの場の四人の気合いという名の信頼が呼び起こした当然の結末。
『――複数の螺旋力を確認しました』
電子音声――クロスミラージュに似た、しかしそれよりはるかに無感情な音声に全員が肩を震わせた。そして、
「お、お、お……動いたぞ! 回るのだ!」
「きたきたきたぜぇ! ほれ見ろ! やっぱり四人もいりゃぁ回るんだ」
「はい! 四人揃っていて、できました!」
喜ぶ三人の手元、あれほど強固な頑なさを見せたハンドルがくるくると回っている。
難敵を打倒した喜びか、カミナとガッシュはそのハンドルを勢いよく回し続け、
軽々回るハンドルの回転が限界に達して急に止まり、止め損ねた腕を金具にぶつけて盛大に痛がる。
その微笑ましいとさえいえる状況の中、三人が聞き逃したらしい扉からの電子音声をクロスミラージュは反芻していた。
『――複数の螺旋力を認識しました』
その言葉は単純なようで重い。言葉の示す意味は、この扉を開くために必要な『鍵』が螺旋力であったということだ。
そしてカミナ、ガッシュ、ニアの三人がその螺旋力に目覚めていることはすでに周知の事実。
一人では足りず、複数名の螺旋力を利用することで初めて開く扉。
――つまり、クロスミラージュの存在は、この扉を開くために何の役にも立たなかった。
その自分の無力さを痛感する一方で、先ほどの電子音声の無感情さに驚いた自分がいた。
そしてそのことに驚いたという事実が再び、クロスミラージュ自身を驚かせる。
同系統の存在であるはずの機械。その機械的な音声に対し、自分はあまりに無感情であると感想を抱いた。
つい十数時間前まで、その機械音声と何ら変わらない存在であったと自覚できる自分が、だ。
これは正直なところ、とても恐ろしいと思えることだった。
本来機械に要求されるのは、人間が持つ感情による誤差などの補助だ。
機械的にプログラミングされた行動に従事するのは、不満や疲労、感情を持たない機械の最高の美点である。
今の自分には明らかにそれが欠けているのだ。
思えば、先ほどの紅の螺旋の危険性について、仲間達に打ち明けなかったのはどういう合理的な思考からだったといえるのか。
あそこは仲間達に危険を冷静に告げ、話し合った上で今後の方針を左右する重大な情報だ。
その開示を拒み、あまつさえ回路の奥に仕舞い込んだ自分の本音はどこにあったのか。
クロスミラージュは、その自分に訪れている『変化』がたまらなく恐ろしい。
自分が自分でなくなっていく――そんなことに恐れを抱くことなど、考えたこともなかった。考える必要もなかったのだ。
何故ならば自分は、持ち主の命に忠実に答えるだけの機械であったから。
今の自分はあまりにも恐ろしい。いずれ今の決断を悔いることがあるかもしれない。
あるいは未来に同じような決断を下し、機械の領分を外れたことで、仲間達を、カミナを危険に晒すのではないか。
これもカミナという存在、そしてその仲間達。
これまでこのゲームを通じて次々と出会ってきた参加者達――その一つ一つの出会い。
螺旋のような繰り返し巡り合わされる運命に翻弄されたことの結果なのだろうか。
「なんでぇ、クロミラ。おめぇもちっとは嬉しそうな声を出してみたりだなぁ……」
『カミナ。この扉は螺旋力を認識して開く扉だったようです』
声を止められ、カミナが息を詰める。
ガッシュとニアがその様子を心配そうに見つめる姿が、三者の姿が回路に焼き付く。
だがそれを無視し、クロスミラージュは静かな声で続けた。
――自分自身が、機械であり続けるために。
『つまり、あなた達三人の気合いがあれば開く扉だった。私の力は必要なかったものと……』
「おめぇ……そういう話じゃ」
「そんなことはないのだ!」
口の端を歪めたカミナに先んじて、ガッシュが叫んでいた。
もしもクロスミラージュに体があったなら、その横っ面を殴りつけていただろう勢い。
その勢いのままに駆け寄り、カード型の本体に目掛けてガッシュは続ける。
「カミナは言ったのだ。一人より二人、二人より三人。そして三人より四人だと!
私もそう思うのだ。協力するということは! 四人よりもっと……五人も六人も七人も十人もいればきっともっといいものだと思う。
ドアが何人いれば開いたかなんてそんなことはどうでもいいことではないのか!
全員が協力して、ウオーッと叫んだから開いたのではないのか!
誰が欠けても開かなかったと私は思う。だから、そんな悲しいこと……言わないでほしいのだ」
勢いは後半に行くにつれて下火になり、ガッシュは唇を噛み締めてクロスミラージュを見る。
その表情は決して悲しんでいない。泣いていない。怒ってもいない。
ただ、決して曲がることのない何かを、熱い何かと温かい何かを秘めた表情だった。
「あの、クロスミラージュさんって何ですか?」
唐突に場に割り込む声はニアのものだった。
彼女はいつも質問する時と変わらぬ態度で小さく手を上げ、軽く小首を傾げながら愛らしい瞳を光らせる。
カミナとガッシュは無言。だから応じるのはクロスミラージュだけだ。
『私は……デバイスです』
「デバイス……ですね。わかりました」
唇に指を当て、うんと頷くとニアはガッシュの隣に並んだ。そして、
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす。アニキさんはそう仰いました。それが男、ですよね?」
「あぁ、そうだぜ」
「それでは女は? 女は無理を通して道理を蹴っ飛ばしてはいけませんか?」
「へっ、そんなわけがねぇ。男だろうが女だろうが、大グレン団は全員が無理を通して道理を蹴っ飛ばす!
そうやって、前へ前へかっ飛ばしていくんだよ!」
拳を握り締め、グレン団の在り方を語ったカミナにニアは満足げに頷いた。
それから彼女は口元の笑みを消し、真っ直ぐに真剣な眼差しでクロスミラージュを見つめ、
「男も、女も……です。それなら、きっとデバイスも同じですよ」
『……ニア』
「螺旋の力……難しいことは私にもわかりません。
ですけれど、気合いは今はちょっとだけわかりました。その気合いでこの扉が開いたのも、
全員で気合いをしていた時に、クロスミラージュさんが一緒に声を出して気合いしてくれていたことも」
確かに声が出ていた。
何かに背中を押されるように、導かれるように、内側から膨れ上がる衝動に突き動かされるままに。
「全員で気合いしたんです。男も女もデバイスも全員で。
だから扉が開きました。ガッシュさんと同じで、私が言いたいのはそれだけです」
ぺこりと頭を下げて、ニアはカミナに顔を向ける。
ガッシュ、自分とクロスミラージュに声をかけたからだろう。最後の順番を譲って微笑む。
そしてバトンを渡されたカミナは頭を掻き、あーともうーともつかない呻きを漏らすと、
「俺の言いてぇことは全部、二人に先に言われちまった。だから、あー、くそ。何てぇんだかわかんねぇけどよ」
とん、とクロスミラージュを入れている懐をカミナが軽く叩く。
「つまんねぇこと気にしてんじゃねぇ。ここじゃ、俺達が揃って大グレン団なんだからよ」
ガッシュとニアが互いに嬉しそうに頷き合い、カミナが照れたように鼻を擦って顔を背ける。
その三人からの思いやりに触れ、クロスミラージュは、
『……はい。ありがとうございます、カミナ。ガッシュ。ニア』
悟られまいと無感情に告げようとして、その声が失敗していたのは全員がわかっていた。
クロスミラージュは自分に訪れた変化が恐ろしくてたまらなかった。
だが何より、その変化を恐ろしいと思うより、悪くないと思う気持ちが勝っている。
それもまた、変えようのない事実となっていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
四人が自分達の団結を新たにしたところで、放置されていた扉の部屋はようやく日の目を見ることができた。
光の差し込まない暗い部屋の中に足を踏み入れ、カミナは僅かに息を呑む。
真夜中さながらの暗室ぶりは、故郷の夜を思い出させる。
ジーハ村では電力の消費を抑えろと、躍起になって怒鳴りつけた村長の存在も今では少し懐かしい。
(へっ。過ぎた昨日に気を向けるなんて、らしくねぇことしちまった。
一度故郷を飛び出したからには、退かねぇ媚びねぇ顧みねぇ――ちょっと違うか?)
首を傾げるカミナの左右、挟むように立つ二人が不安にしているのを肌で感じる。
暗闇を恐れるのは人の本能で、そのことで怒鳴りつけるなんて狭量さは持ち合わせていない。
故にここでカミナが取るべき行動は、誰よりも先に暗闇の中で前に進むことだった。
何故なら、リーダーが動かなければ後ろはついてこれないのだから。
「しみったれた場所じゃねぇか。薄暗くって何も見えやしねぇ!」
大声を上げて堂々と踏み出すカミナに、ガッシュとニアの足音が続く。
そのことに小さな感謝をした眼前――暗闇は唐突にもたらされた輝きに消し飛ばされる。
「――何であるか!?」
「ニア、ガッシュ! 下がってろ!」
咄嗟の事態に悲鳴を上げる二人を背後に庇い、白光に覆われた瞳を無理にこじ開ける。
その目の前に何が出現していようと、最初の壁となるのは自分でなければならないのだから。
もっとも、その心意気も杞憂に終わった。
光の灯った室内、三人の目が光度の変化に対応し始めると、そこに危険がないことが知れる。
そう、その一室には敵対者は一人もおらず、あるのは広大な空間だけ。
カミナにとっては見たこともないような機械だらけの一室。
ど真ん中にででんと縦長の筒が伸びているのと、壁際に配置されているのが椅子によく似ている程度しか認識できない。
駆け回ってなお手に余る空間の出現に、カミナ達三人は声も出ない。
機械だらけの空間というのは、この三人にとってあまりにも馴染みのない空間なのだ。
だからこそ、この場の重要性について理解の呟きが漏れたことを誰も聞き逃さなかった。
『この場所は……』
「わかんのか、クロミラ」
『はっきりとはわかりません。ただ……この高度な文明は飛躍的に私のいた世界のものに似通っています。
細部に至っては違いますが、文明レベルにおいて』
「俺にはさっぱりわからねぇ。噛み砕いてくれ」
『……つまり、この場所がどういう目的に使われる場所なのか、私にはわかるかもしれないということです』
「すごいです! クロスミラージュさん!」
賛辞の言葉もそこそこに辞したクロスミラージュに従い、カミナは空間の中央にある腰ほどの高さのパネルを見る。
これだけならばグレンのコックピット内にも似たようなものがあったような気もするが、如何せん規模が違う。
握れば動かせるだろうという操縦桿を見つからず、カミナは手をこまねく他にない。
『やはり、この機械の文明の設計思想はかなり私の文明のレベルに近いものです。
次元間移動に即した私達の世界のものに比べ、こちらの場合はあくまで単一世界の理に従ったもののようですが……』
淡々と自身の考察を述べるクロスミラージュの背後、聞いている三人が煙を上げている。
カミナは真っ赤になった顔、耳や鼻から蒸気が漏れる。
ガッシュは理解しようと頭を抱え、その場で唸りながらぐるぐる回っている状態だ。
ニアに至っては指折り数えていることから、いつもの調子で質問する数をストックしている様子が窺えた。
これ以上の説明は無駄になる、とクロスミラージュが諦めたかは定かではない。
だが事実として彼は説明の口を止めると、
『とにかく、起動させることは可能だということです。カミナ、そちらにある赤いボタンを押していただけますか?』
「ぷすー。――っと、おぉ? わかった。この情熱的に赤ぇイカしたボタンだな?」
煙の噴出を止めたカミナが、促されるままに席上のボタンをゆっくり押す。
それだけで、光がかすかに灯るだけだった室内に機械の駆動音が満ち溢れた。
四方八方から鳴り響く音にガッシュとニアが驚くが、カミナはこの鼓膜を撫ぜる無数の音に聞き覚えがあるのに気づいていた。
この音は、そう――ガンメンが、グレンが起動する時に鳴り響く目覚めの音。
手足に活力が漲り、大きな顔で前を見据えるために、エネルギーが満ち満ちていく音だ。
「なんてこった……つまりこいつぁ、ガンメンだったのか!?」
『いえ、違うようです。機動兵器というわけではないようですが……』
「違うのかよ!」
意気込みを塞き止められて唾を飛ばすカミナ。
その懐でクロスミラージュが起動し始めた周囲の機械の検分を進める――その時だ。
『――螺旋界認識転移システム起動』
その電子音声を聞くのは二度目だが、その言葉の意味する内容は理解不能だった。
螺旋の冠がつく名前にカミナは振り向くが、ニアもガッシュもわからないと首を振る。
改めて何を言われたのか思い出そうにも、難しい名前すぎて螺旋何ちゃらとしか思い出せない。
「一体、どういう意味なのだ」
「待ってください。まだ、さっきの方のお話は途中のようです」
『――螺旋力保持者の存在を確認。システム起動。システムはこれより、対象者を望むものの場所へと転送します』
それきり静まり返る室内、相変わらず周囲の機械は騒がしいが、聞こえた声以上の変化は訪れる気配がない。
三人は互いに顔を見合わせると、同時に肩を竦めて無理解をアピール。
「クロミラ」
『はい。どうやらこの装置の名称は螺旋界認識転移システム。
おそらくはその名称の通り、認識した物体の場所へ転移させるという装置のようです。
認識したものを呼び出すのではなく、こちらから移動するという形式のもののようですが』
クロスミラージュは説明を述べながら、自身の考察が正しかったことを悟る。
機動六課などの存在のある本来の彼の次元に対し、こちらの装置は単一世界の移動を目的としたものだ。
流石に多次元間を移動するまでの技術はないらしいが、目的意識の違いがあるだけでその差異はかなり小規模なものだろう。
多数の世界から参加者を集った手口や、このような施設を用意するだけの技術力。
圧倒的な螺旋王の持つ力に、クロスミラージュは分の悪さを意識する他ない。
もっとも、そのクロスミラージュの抱く懸念の領域に、今の説明でカミナ達三人が至ることができるわけもなく――、
「ぷすー」
「ほわーん」
「きらきらー」
三人の意識が現実からかなり距離が開いている。
クロスミラージュが必死に呼びかけて三人を呼び戻し、その機能の全てを説明し終えたのは五分後のことだった。
「まったく、凄いものがあるものなのだな」
「あ、これがアニキさんの仰っていた凄いモンなのですか?」
「違ぇ違ぇ! 俺の言う凄ぇもんはもっともぉっと凄ぇもんだ。こんな意味もわからねぇ役立たずな代物のことじゃねぇよ」
『まだ意味がわかっていないのですか!?』
クロスミラージュの絶叫にカミナは「仕方ねぇだろ」とパネルを思い切り叩く。その固さに思わず叩いた手を抑えながら、
「小難しい理屈はわからねぇんだよ。というか、俺の生き様には必要ねぇんだ」
『ええっと、つまり、こういう言い方はあまり得意ではないのですが……』
「想った場所、想った相手、そこに飛ぶことができる――ですよね?」
クロスミラージュの言葉を引き取り、微笑むニアがそう繋ぐ。
クロスミラージュが『感謝します』と返答すると、ようやくカミナも理解に行き届いた。
「なるほど、そりゃ便利じゃねぇか。つまり、欲しいもんとか」
『あるいは捜し人の下へ移動することが――』
そう、二人が納得の言葉を交換した瞬間だった。
先ほどのカミナの一撃が理由か、または別の要因が作用したのかはわからない。
かなりの確率で前者を起因とするだろう中、再び電子音声が告げる。
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
『しまった、これは――!?』
同時に重なる二つの機械音声、その片方が紛れもなく焦燥感に彩られていたのを三人は聞いていた。
その瞬間に三人が何を思っていたのか、クロスミラージュにはわからない。ただ、その結果だけはすぐにわかった。
――誰もいなくなった一室で、機械の作動音だけが虚しく響き続けている。
大地は揺れている。すでに度重なる破壊に蹂躙された後だ。
激戦の余波は一撃ごとに確実に地表の寿命を縮め、遂には崩壊を免れない領域にまでその身を追い込んだ。
不確かな足場の感覚にその悲鳴を感じ取り、ドモンは一瞬だけ瞑目する。
次の瞬間にはその身が、相対していたロボット兵の眼前にまで飛び込んできていた。
「兵隊さん!」
ドモンの圧倒的な白兵戦能力に戦慄を隠せぬシータの叫び。
主の命令に呼応して、鈍色の巨体が近接するドモンに対して豪腕を振るう。
鋼の腕はその強度に見合わぬ柔軟さでもって、接近する影を殴殺しにかかった。
大木をも一振りで粉砕する一撃――その暴威を前に静止した男の姿に、シータは白い手を握って必殺を確信。
その確信が裏切られたと知ったのは、横殴りの腕がまるで男をすり抜けるように通り抜けたのを視認。
――光景が脳に伝達され、驚愕を咀嚼してからのことだった。
一方で悪夢のような回避をしてのけたドモンだが、その彼にとって今の攻防は驚きに値するものではない。
ドモンは繰り出される攻撃に対し、屈むでも飛び退くでもない選択肢を選んだ。
即ち、鼻先を掠めるほどの近距離、その僅かな空間だけ身を引くことでシータを錯覚させたのだ。
達人だけが到達することのできる見切りの境地――それがシータには理解できない。
「そんな……兵隊さん、どうして!?」
驚愕を孕んだままの悲鳴に、背中を押されるようにロボット兵は動く。
鞭のような変則的な軌道を描く腕が空気を殴り裂き、接近戦に挑むドモンの翻る体に追い縋る。
前髪を薙いでいく打撃の強力さに、ドモンはその脅威を推し量りながら迎撃体勢。
鈍重そうな見た目に反し、ロボット兵の動きは機敏な部類に入る。
もちろん巨体の行動力は小回りの利く人間とは比べるべくもないが、それを補うに足る破壊力も持ち合わせていた。
加えて恐るべきは機械故の無尽蔵の体力。
生身同士の打ち合いであれば、長期戦は疲労を招き、疲労は動きに停滞を生み、停滞は敗北を呼び寄せる。
その生物特有のハンディキャップを、ロボット兵は持ち合わせていないのだ。
その動力源を外側から窺うことはできず、持久戦に持ち込むのは愚の骨頂と結論づける。
また、ドモンは近接戦を挑んだ自身の判断の正しさを確信。
ロボット兵は先ほどから腕力に任せた隙の大きな攻撃を繰り返すばかり。
スパイクの腕を奪い、そして卸売り場をここまで大火で覆ったはずの熱線を一発も放っていない。
――レーザーの威力が強すぎるのだ。
その威力が至近距離になれば自分を、ひいては主人をも巻き込むために使用することができない。
その脅威の一端を担う兵器を使用することができない理由。
従者が両腕で健気な格闘戦を強いられるのを、当の主人は気づきもせずに勝手な命令を口にし続けている。
「早く殺して! 何をしてるの、兵隊さん! 役立たず!」
「勝ちたいではなく、倒そう殺そう。その意思が拳を鈍らせる。このロボットの動きは貴様の憎悪で曇っている!」
「何を……何を言っているの? くすくす……おかしい人!」
一喝に対し、少女が返したのは見下すような嘲笑。だが、引き攣る口元がその内心の焦燥感を如実に示している。
一方でこの状況下で笑うことのできる少女、その存在がドモンにはあまりにも哀れだった。
主人の命に逆らわず、ロボット兵の攻撃は続いている。
暴風じみた連撃を前に身を捌きながら、生じた隙の合間にドモンの拳が打ち込まれていく。
ロボット兵の防御力は、あのスパイクをして愚痴を零させた代物だ。
貴重な銃弾を消費した攻撃を装甲が凹む程度で済まし、その後の行動に支障すら生じさせない超金属。
その鋼を越える超鋼に、銃弾と遜色のない凹みが幾つも穿たれる。
しかもそのサイズは銃弾と比較してはるかに大きく、何より数に限りがない。
――キング・オブ・ハートの情熱の拳に、打ち止めの言葉は存在しないのだから。
「うおおおおおおお――!」
機関銃じみた衝突音が連発し、衝撃に打ちのめされる巨体が大地を抉りながら後ずさる。
その間も無痛の利に勝るロボット兵の己を顧みない攻撃は続いていた。
が、懐に飛び込んだドモンはロボット兵の打撃をいなし躱し、攻撃の手を緩めない。
まさしく攻防一体の猛襲が、そのロボット兵をして窮地に追いやらせていた。
「しぃ――っ!」
一際強力な拳――右の正拳がロボット兵の胴体の中心を打ち抜き、ドモンは一度身を離す。
とはいえレーザーを懸念し、超近距離から近距離程度の移動でしかないが。
連撃を叩き込んだ拳を握る。その拳に残るのは微かな痺れだ。
装甲の分厚さはドモンの想像をもう一つ上回っていた。
連撃によって生じた凹みの数は三桁に近いが、いずれも行動不能に追い込むにはあまりにも致命打に遠い。
拳によって致命打を引き寄せようと思えば、必要になるのは拳が千単位になるか。
なれば、ただの打撃をもってこれを打破せんとするのは、己の自惚れに他ならない。
拳を固め、意志を新たにするドモン。
その頭上を豪腕が裏拳気味に通り過ぎ、次いでロボット兵の両腕がドモンを挟み込むように左右から接近。
地を這うような低姿勢でこれを回避。打ち合わされる腕の間の大気が爆発し、銃声を上回る爆音が鼓膜を振動させる。
纏う衣の裾を翻らせる長身の胸中、ドモンがさらに思うのは眼前の哀れなロボット兵に対する同情であった。
歴史も文明も大きく違えば、そのロボットの設計思想さえドモンの知る全てと異なる。
だが、それをして彼の存在がその真価を発揮できていないことは手を合わせればはっきり伝わる。
武門に身を置くものとして、その実力を出し切ることのできない戦いが如何ほど無念なものかは胸が痛いほどにわかる。
ガンダムファイターとして各国の代表と武勇を争い、覇を競った経験。
キング・オブ・ハートを真の称号へと昇華したドモンにとっては、敵であったとしても、
ましてそこに生物か無生物かの隔たりなどなく、その事実は等しく苦痛の一言であった。
単なる実力差であるというならば構わない。
ドモンはたとえ相手が圧倒的な弱者であったとしても、その全力で挑んでくるのであればファイトに価値はあると考える。
だからこそ、相手がその真価を発揮することのできないファイトは辛い。
その理由が戦いに身を置く本人ではなく、扱う側にあるとすれば尚更のことだ。
「兵隊さん、何してるの! 私の声が聞こえないんですか! 早く、殺して――!」
身勝手な主の紛糾にロボット兵の機動が上がる。
その長い両腕が高々と空に向かって伸ばされ、その直後に正面にある全てを粉砕せんと振り下ろされた。
刹那の破壊はまさしく爆斧の炸裂だ。
もともと脆くなっていた地面に縦横無尽の罅割れが走り、抉られた大地の土塊を散らせる。
鳴動は大地が上げた断末魔の悲鳴だったろうか。
脅威でいえばレーザーに勝るとも劣らぬ破壊の威力は、そこに生物の存在を許さない理不尽な鉄槌。
「未熟――!」
だがその暴威の前にドモンは無傷を保っていた。
打ち下ろしがくる一瞬の隙間を体捌きのみで潜り抜け、ロボット兵の脇をすり抜ける。
そして背面を合わせる形になった両雄――ドモンの体が捻られた。
流派東方不敗――背転脚!
繰り出された蹴撃がロボット兵の背中の中心を穿ち貫き、数百キロにも及ぶ重量を軽々と中空へと吹き飛ばす。
十メートル以上に渡って滑空した巨躯はそのまま勢いを殺せずに地面を転がり、土煙に翻弄されながら瓦礫の山へと激突――。
衝撃に続いて崩落する土砂に巻き込まれ、粉塵を巻き上げる砂塵の中にその身を埋もれさせる――。
蹴りは拳の三倍以上の威力を持つ。ましてやその蹴撃は流派東方不敗の一技。
直撃を受けたものは如何に超鋼の装甲を持つとはいえ、無事に済むはずもない。
「え……嘘……兵隊、さん?」
呟きは信じられないものを目にし、呆気に取られた響きを伴う。
少女はロボット兵を下敷きにした土砂の山を眺め、唇を震わせて、
「嘘……そんなはずありません。 だって、兵隊さんは固くて強くて……。
神様は私に優しくしてくれるはずで……くす、くすくす。だって、そうじゃなきゃ、くす」
「貴様を守ろうとしたロボットが負けたのが何故だかわかるか?
それはな、それを扱う人間があまりにもその存在を蔑ろにしたからだ!」
「――ひっ!」
呆然と棒立ちになるシータの前に立ち、ドモンが見下ろす矮躯に怒声を投げ掛ける。
ロボット兵を失えば、先ほどまでの濃霧のような殺意はどこへやら。
消え去らぬ敵意と悪意を双眸に宿しながらも、少女は宿り木を失ったように足元をふらつかせる。
「あのロボットの力がどれほどのものだろうと、それを扱う貴様自身が見合った力を持たなければ勝てないのは道理。
弱いことが悪いことなんじゃない。弱さを盾に、与えられただけの力に寄りかかることが悪いんだ!」
それはドモンの自論でもある。
強くなろうとする意思。それが人の強さを生む。
流派東方不敗は肉体の強さだけではなく、精神の強さによって肉体に作用するもの。
己を高めるという気高き意思なきものに、真の武が宿ることなどない。
「借り物の力でファイトに挑むなど、自分と相手に対する侮辱だ!」
「あなたなんかに、何が……!」
シータに残っている感情は悪意の奔流。それは戦意とは似て異なるものだ。
戦意を宿すものとはファイトできる。だが、悪意しかないものと何を競えるというのか。
形勢不利の状況において身構えの一つも取れないシータは、完全に武芸の心得がないらしい。
その華奢な身はこのゲームの中で巡り合ったいずれの参加者にも劣るだろう。
侮るつもりは毛頭ないが、体つきと纏う雰囲気がそれを示している。
ならばドモンの一撃を防ぐ術も、耐え得る術も持ち合わせてはいまい。
(当身か何かで気絶させるか……)
この期に及んでドモンは、この危険な少女の命を奪うつもりはなかった。
彼女の歪みがゲーム以前のものか、あるいはゲームの中で歪まされてしまったものか。
それはドモンには知る由もないことであったが、元よりドモンは女子供に甘い男だ。
彼女の実力が圧倒的にドモンに及ばないことも含め、動きを封じることは容易いと考えた。
そのドモンの心算を察したように、シータの表情が歪む。
微笑めば可憐な花のような愛らしさは、血と泥と恐怖に塗れ醜い食虫花の様相。
いやいやと首を振って後ずさるシータは、
「こ、こないでください……! わ、私はここで死んでしまうわけにはいかないんです。
だって、私が死んでしまったら……誰が、誰が……」
「殺しはしない。俺はそんなことのためには戦わない」
「嘘です! だってそれだけ強かったら、そんなに力があるなら、あなただって優勝したいに決まっているじゃないですか!」
「そんなことはない! 俺は! ガンダムファイターは!
キング・オブ・ハートは! 流派東方不敗は! 相手を殺すために戦うことは絶対にない!」
戦いの果てに死という結果があることをドモンは身に沁みて知っている。
その一方で、ドモンは殺すための戦いをしたことはない。いや、かつてはあった。
だがその憎悪に満ちていた弱い己の心は兄との、そして師との戦いの果てに乗り越えたのだ。
キング・オブ・ハート――ドモン・カッシュは殺すための戦いになど断固参加しない。
「くす……くすくす。それじゃ、どうするつもりなんですか?
戦わなきゃ、殺さなきゃこのゲームは終わらないんです。殺さなきゃいつか終わってしまう。そうでしょう?」
「そのゲームを殺し合わずに終わらせようとしている。そのための仲間もいる。
気に食わない奴もいることはいるが、それでも全員がこのゲームの無意味さに辟易とした連中だ。
頭のいい奴も腕の立つ奴も、鋼の意思を持つ奴も。だから、こんなゲームは俺達が壊してみせる!」
握る拳に闘気が満ち、炎のような灼熱が掌に宿った。
非道を躊躇なく実行し、数多の命を死に追いやった螺旋王。
その野望を、悪道を、確実にこの手で打ち砕くための義憤からなる情熱。
力強い猛りを前に、しかしシータはさらに怯えるように首を横に振り、
「い、や……」
「なに?」
「いやです。だってそんなことしたら……誰も、誰も生き返れない。エドも、ドーラおばさまも……パズーも!」
なくなってしまったおさげ髪の余韻を掻き乱し、シータは正気の失われた瞳で叫ぶ。
「褒めてもらいたい! よくやったね。生き返らせてくれてありがとうって! パズーに!
また一緒にゴハンを食べたい! パズーと! 悲しい時は傍にいてほしい! パズーに!
一人で寒くて寂しい時は、肩を寄せて一つの毛布に包まって温かさを感じていたいんです!
イヤ……嫌ァ……パズー……パズゥ……」
その場で蹲り、両の目から零れ落ちる涙を手の甲で拭い続けるシータ。
流れる涙は止まる勢いを知らず、血塗れた彼女の着衣に涙の足跡をつけていく。
それを見下ろすドモンの胸中を、やり切れぬ想いだけが吹き荒れていた。
少女が狂気に走った理由の一端が、今の絶叫から読み取れたからだ。
幾度も呼ばれたパズーという名は、何度目かの放送で呼ばれた名前だ。
シータにとって、きっと大切だったに違いない名前。
大切な人を失った悲しみは簡単には癒えない。かくいうドモンも、未だに胸が痛む。
大切な人を生き返らせたいという気持ちもわからなくはない。
ドモンすらこの殺し合いが始まった当初、師であるマスター・アジアの生存に希望を見出した。
また師匠に会えると、失ってしまった絆に出会えると、そう思ったのだ。
時間と強さが必要だ。
殺し合いとは何の縁もない平和な世界から呼び出されたとして、大事な人を失った。
そしてそれからまだ半日程度しか経っていない。
立ち止まり、声嗄れるまで泣き喚き、自暴自棄になるのを誰が責められるだろうか。
やはり、殺すわけにはいかない。それがドモンの結論だった。
気絶した彼女を連れて行けば、おそらくは危険性から始末するべきだと主張するものは少なくないはずだ。
ギルガメッシュなど、その最たる候補といえるだろう。
ジンも人情味に溢れるようで、その実は合理的な思考をする男だ。感情ではなく理性によって、無情な判断を下しかねない。
その全員を説き伏せ、助命を請うのはあまりにも苦難の道だ。
だが、険しい山を歩くことを怖じる気持ちはドモンにはない。
シータを救い、師匠の心を再び改心させ、螺旋王の企みをも打倒する。
全部やらなければならないのが、キング・オブ・ハートの辛いところだ。
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす……だったな。覚悟はあるか? 俺は、できている」
泣きじゃくる気力があるのなら、涙を流しきってしまう方がいい。
涙は悲しみを押し流し、その衝動を軽減する効果がある。
一頻り泣き終わるのを待ち、できるだけ優しい当身で意識を奪おう。
悲しみに沈む少女に対する、少し間違った思いやりを覗かせるドモン。
戦闘は静かな膠着状態を迎え、沈静化の方向に向かう――そのはずだった。
――その気配の出現はあまりにも唐突で、ドモンですら予期することのできないものだった。
腕を組み、シータを見下ろしていたドモンは、突如として背後に出現した他者の気配に戦慄。
風を切る速度で振り返り、その拳を構えたのは流石は歴戦の勇者。
そうして戦闘態勢を取ったドモンの眼前、そこに立っていたのは――、
「あの、ここはどこでしょうか?」
水色の髪に花模様の瞳、今のシータとあまりにも対照的な一人の少女だった。
それは突然のことだった。
機械だらけの一室は、懐かしいテッペリンをどこか思い出させるものだった。
もちろんあの空に浮かぶ宮殿よりもずっと機械的な場所であったのだけれど、
彼女はそこにどこか懐かしい父親の面影を感じ取っていた。
カミナ達三人が目の前の機械について話し合っている間、ニアは自分の直感が間違っていないと確信していた。
ここはおそらく、お父様との関係が決して薄くない場所であると。
その間にクロスミラージュが機械の解析を終え、その結論を三人に説明した。
難しい話の途中は理解できなかったが、思った相手のところへ移動できるというのは便利な上、素敵なもののように感じる。
(これがアニキさんの仰っていたような、凄いモンなのですね)
そう納得したのも束の間のことだった。
部屋全体が細かく振動し、何度か繰り返された電子音声の再生。
クロスミラージュに比べて温かみのまるでないそれを聞きながら、ニアは思っていたのだ。
――もしも願う誰かの下へ飛べるなら、私はシータさんを止めたい。
願いは叶った。
螺旋界認識転移システムはその力を遺憾なく発揮し、ニアの細身を空間を捻じ曲げて対象の下へ転移させる。
時間はかからない。ほんの一瞬、瞬きの間の出来事だった。
ぱちくりと大きな瞳が開閉された一瞬の間、そして彼女は大グレン団の仲間と逸れていた。
目を開けて見回す周囲、そこには見覚えのない荒地が広がっている。
四方八方のどこもかしこにも破壊の痕跡が刻まれ、踏み締める大地さえ確かではない。
咄嗟の事態に対し動揺しないのは彼女の美徳だ。
穏和な性格、あるいは世間知らずが故の心の強さ。
それが仲間を見失い、見覚えのない破壊だらけの場所に置き去りにされるという状況ですら、取り乱すことを未然に防いだ。
だから彼女はいつものように小首を傾げ、一番身近に見えた男に声をかける。
「あの、ここはどこでしょうか?」
無防備な彼女の問い掛けに、身構えていた男は危険はないと思ったのか拳を引く。
それから周囲の惨状を見渡すと十字傷のある頬に触れて、
「ここは……その、卸売り場だった……はずだ。確かに少し面影はなくなってしまったが」
「はぁ……それで私、どうしてここにいるんでしょうか?」
「それは俺が聞きたいぐらいだ。君は気配もなく、急にそこに現れたんだぞ」
毒気を抜かれたような返答に微笑みながら、ニアはふと目の前の人物の容姿に引っかかりを覚える。
黒髪に巻いたハチマキ。ほっぺたにある十字の傷――聞いていた誰かの容姿に、とても似ている気がする。
「あの、あなたはひょっとして……」
一歩踏み出し、その男性にニアは駆け寄ろうとする。
そうして最初の位置から動いたから、ニアはようやくその存在に気づいた。
長身の男の影になる位置で、蹲って泣きじゃくるシータの姿に。
「――シータさん?」
花模様の双眸が初めて驚きに揺れ、しくしくと断続していた涙声が停止する。
そして涙の雫を湛えた双眸で上目に睨み、幽鬼めいた仕草で少女が顔を上げた。
その姿は紛れもなく、捜し求めていたシータだ。
しかし数時間前に別れた時よりも、その服装は血と泥によって際限なく汚れ、双眸に宿る感情の迷走は色濃くなっていた。
その変わり様に思わず息を呑むニアに、その姿を視認したシータが告げる。
「なぁんだ……本当に、生きてたんですか」
殺意というものには色も熱もある。
東方不敗に襲われた時、かの達人がニアに向けた殺意は熱く、炎のように赤かった。
かつて遭遇した時、シータの抱く殺意は青白く、身を凍らせる永久凍土であった。
しかし今の彼女は違う。
今の彼女が抱く殺意は、これまでのどの殺意ともあまりにも違う。
黒かった。どす黒かった。
どこまでも色は暗黒で、その性質は粘着質な汚泥じみている。
熱い冷たいでそれを図ることはできない。黒く、深い、澱みだ。
「すみません。わぁわぁ子どもみたいに泣いてしまって。
くすくす、シータちょっぴり反省です。でも、そのおかげでとってもすっきりしました」
涙の跡の残る顔を袖で乱暴に拭い、シータは晴れやかな表情で笑顔を作った。
そうして見れば愛らしい笑顔だ。
その内心を狂気が渦巻いていることを知らなければ、きっと見るものも笑顔を返す気になることだろう。
だが彼女の狂気を知るこの場の二人にとって、その笑顔はあまりにも歪んだものだった。
「お前は……いや、シータだったな。シータ、お前は一体……」
「あ、お待たせしてしまってすみませんでした。
でも、泣き止むのを待ってくれるなんて優しいんですね。それにとってもお強いし……くすくす、理想的です」
すぐ傍に立つシータの変貌が理解できず、ドモンは眉根を寄せる。
その少女の白い手が真っ直ぐにドモンに伸びてくる。ただの華奢な細い手だ。
何が握られているわけでもなく、全くの敵意も感じられない。
だからその手が胸に伸びてくるのを放置し、ドモンは彼女の発言を待つ。
そして人差し指でいじらしく、妖しげにドモンの胸をなぞり、彼女は言った。
「今度はあなたが、私を守ってくれる兵隊さんなんですね」
「……貴様、何を言っている?」
「ロボットの兵隊さんは負けてしまいました。でも、代わりに現れたのがあなたです。
私の新しい兵隊さん。神様が古い役立たずの代わりにくださった新しい私の武器。
前のよりずっとずっと強くて、ああ――コレならきっと優勝できます、神様!」
歓喜の表情で両手を天に伸ばすシータの声に、一心の疑念も存在していなかった。
だからこそその根底に根付いた狂気の深さに、ドモンは本能的な嫌悪感を感じる。
たった一人の少女をたった一日の間に、これだけ破壊しきるゲームの腐り加減に。
「――断る」
「何が欲しいんですか? あげられるものはあまりなくて……私の体でよければ使ってください。
くすくす、意外と恥ずかしがらずに言えました。
あ、でも、明るいところは少し嫌です。汚くてもいいので建物の中が……」
「――何を代価にされようと、俺は頷かない」
自身の解れた衣服に触れ、白い足を見せつけるように覗かせる姿を見ていられなかった。
瞑目し、唇を噛み締めて無常さに身を震わせるドモン。そんな彼の様子を不思議そうに眺め、シータは唇に指を当てて、
「くすくす、おかしな兵隊さん。新しい兵隊さんは少しわがままなんですね。
でも大丈夫です。私は王族ですから、臣下を従える資質はあります。
ちょっとくらい不忠者でも、甘い飴をあげれば大人しくついてきてくれますよね?」
湧き上がる自信はどこから出てくるものなのか。
シータの言動と行動は、眼前のドモンを篭絡することができると信じて疑っていない。
「さあ、従ってください、兵隊さん。私を好きにしてくれていいですから。
王族に触れることができるんですよ? とてもとても名誉なことじゃありませんか?
本当はパズーだけなのに、とてもとても凄いことですよ? 早く皆さんを皆殺しにして、生き返らせてあげましょう」
論理は破綻している。言動は支離滅裂だ。
なのにドモンには、その少女を真っ向から破壊する言葉をうまく選ぶことができない。
拳を培ってきた日々が、ガンダムファイターとしてキング・オブ・ハートの称号を得て尚、
この手が届かない領域があることを思い知らされていた。
だから聞くに堪えない妄念を口にするシータの、その頬を張ったのはドモンではない。
それはこれまでずっと黙って静観していた少女――ニアの掌だった。
ドモンは知らないが、ニアの掌がシータの頬を叩くのはこれが初めてではない。
そのためか、結構な勢いの平手にも関わらず、シータは痛がる素振りを見せなかった。
ただ叩かれて横を向いた顔を正面に戻し、異様に冷たい眼差しでニアをちらと見て、
「まだ、いたんですか。そうだ、兵隊さん。手始めに、このニアさんを殺してください。
殺したはずなのに死なないんです、ニアさん。卑怯ですよね、ズルイですよね。
死なない人なんてこの場所にいちゃいけないのに。とりあえず手足を折るか千切ってください。
そうすれば動けないニアさんを禁止エリアに放り込めます。泣いて喚いて血塗れです。
あとは何回でも首が爆発するのを見ましょう。わあ、ちょっと楽しいかもしれませんね」
「――あなたは、とても悲しい方です」
手を叩き、自分の考えがさも名案だと言いたげなシータに対し、ニアは悲しみに満ちた瞳でそう投げ掛けた。
「なん、ですか?」
「あれからずっと、今までずっとその考えに囚われてきたのですね。それはとても、残念なことです」
ニアは自分が悲しみを覚えた時、自分の傍にいてくれた人々を思い出す。
――ドーラおばさまは優しかった。
彼女がいなければ、シモンを亡くした悲しみに自分が耐え切れたかどうかわからない。
――ビクトリームは勇気のある人だった。
最初の出会いは突然で、逸れた時もあったけど、最後の最後に彼は自分達を信じてくれた。
――マタタビさんをもっと知りたかった。
傷だらけの出会い。言葉を交わす余裕もなく、失ってしまったありえたかもしれない絆。
――ルルーシュさんは味方になってくれた。
皆に行動を疑われ、心細く反論もできない自分を庇ってくれた。
――ガッシュさんは大事な大事な大グレン団の仲間。
小さいのに、勇気がある、王様を目指す勇敢なお友達。
――クロスミラージュさんは頭のいいデバイスさん。
こんがらがってしまった思考の糸を解いて、道を示してくれる立派な方。
――そして、シモンが信じたアニキさん。
でっかいシモンが信じた通り、でっかい背中の凄い人。無理を通して道理を蹴っ飛ばす。大グレン団、不撓不屈の鬼リーダー。
もう死んでしまった人もいるけれど、全ては掛け替えのない出会いだった。
ニアはこの時間の中でたくさんの人に巡り合い、話し合い、時には戦い合いながら、心の芽に水を与えてきた。
蕾がどんな花をつけるかはまだわからない。咲けるかどうかも確信はない。
それでも綺麗な花をつけるのではと、花模様の双眸は信じて疑っていない。
「誰も、シータさんを救ってはくださらなかったのですか?」
「そんなこと、ありませんよ。マオさんがいました。エドがいました。
言峰神父も優しい言葉をかけてくれましたから。だから私、幸せです」
語るシータはにこにこと微笑み、その黒い眼は相変わらずの漆黒を描いていた。
出会い全てが悪かったわけではない。
シータにだって、このゲームの中で大切だと思える出会いがあった。
大切だと思える人々もいた。
だから――シータはもう一人のニアなのだ。
ニアがこれまでの出会いで救われてこなければ、シータと同じ道を歩いたかもしれない。
彼女はIFの自分。このゲームの中で大切な人を得て、失った、もう一人の私。
「失ってしまった大切な人は、もう戻ってきません」
「戻ってきますよ。私が優勝して、全員を生き返らせますから。ニアさんも安心してください」
「いいえ、安心しません。私は生き返りたいと思わないし、生き返らせたいとも思わないです」
「生き返った人に責められるからですか? 大丈夫です。私と同じ価値観になって生き返ってきてもらいます。
そうすれば生き返ったことを誰も不思議にもおかしいとも思いません。あぁ、なんて素敵な世界でしょう」
「そんな風に生き返ってしまった人は、たとえ大切だった人でも、もう違う人になってしまいます」
ぴた、とシータの動きが止まった。
口元からは笑みが消失し、見開かれた目がニアを睨む。怖じず、彼女は続けた。
「私が大好きだった人達。私が大好きになった人達。
もう会えない人もたくさんいて、そのことは悲しいです。辛いです。ずっと、心に傷を残すかもしれません」
「だから……!」
「でも、生き返らせて怒られないために考えを変えてしまうなら、それはもう同じ形をした別の存在。
――大好きだったその人じゃ、きっとないんです」
「うるさい! 黙って! 兵隊さん、この人を殺して! 早く!」
「大好きだった人達も、出会うまでは知らない人達でした。
私もお城を出るまで、シモンのことは全然知らない人だったんですよ」
あの天空の宮殿の中で、たった一人だけニンゲンとして育てられていた自分。
何も知らずに捨てられて、シモンやヨーコ。大グレン団のみんなに助けられた自分。
彼らを好きになっていった。話せば話すほど、助け合えば助け合うほど。
そうして好きになった彼らは、その瞬間に作られた彼らだったろうか。
違う、とニアは思う。
彼女が愛した人々は、赤子として生まれ、名前を貰って成長し、自分を作り上げた。
一から積み上げられた全てと付き合って、ニアは彼らを愛したのだ。
「仮初めのシモンに、私は会いたいと思いません。
私の知っているシモンは、この場所で懸命に生きるために戦いました。――それが、私の大好きなシモンの全て」
「泣き喚いて……無様に足掻いて、命乞いをしながら死んだかもしれませんよ……?」
「いいえ、シモンは最期まで戦いました。
だってシモンのドリルは、天を突くドリル! シモンは、『男』なんですからっ!」
ニアの信じる心、強い眼差しに気圧されるように、シータの上体が背後に揺らぐ。
シータにとって、ニアの発言は一から十まで聞く価値のない戯言だ。
そうに決まっている。そんなもの、心に留めておく価値などどこにあるものか。
――パズーの形をしただけの、違うモノ。
目覚めた朝、鳥達とトランペットを吹いていた彼。
追われているとわかった自分を、懸命に助けてくれた彼。
魔法の鞄からたくさんの宝物を取り出し、笑わせてくれた彼。
ドーラおばさまの力を借りて、軍の駐留する場へ助けにきてくれた彼。
一緒にラピュタへ向かう道筋、慣れぬ飛行船作業で顔を黒く汚していた彼。
ラピュタを捜す見張り場で、一緒の毛布に包まって、互いに笑い合っていた彼。
――蘇るのは、その愛しいパズーとは違うモノ?
そんなはずはない。そんなことがあっていいはずがない。
だって生き返るパズーはシータと同じ価値観なのだ。
シータと同じものを見て笑い、シータと同じものに対し怒り、シータと同じ場面で悲しみ、
シータと同じことに愛おしさを感じ、シータと同じことに同じことに同じことに同じことに同じことにオナジコトニ……。
「全てが自分と同じになることを、愛と呼ぶのとは違うと思うんです」
「うるさいです。静かにして……これ以上、困らせないでください」
「シモンと私は違う人間ですから、一緒になることはできません。
でも、違うから、違っているから、違っていてもいいと思えるから――それを、嬉しいと思います」
「聞こえない聞こえません。あーあーあーあーあー!
うるさいんです! 兵隊さんは何をしてるの! 早く、早く殺してください!」
耳を塞ぎ、声を出し、ニアの言葉から遠ざかる。
あの声は、言葉は、仕草は、存在は、全てがシータにとって猛毒だ。
「私はラピュタの王族、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタなのに!」
「私だって螺旋王の娘、第一王女ニアです!」
絶叫に応じた大声の内容に、傍らで二人のやり取りを見守るドモンすら驚愕する。
そのドモンの動揺が可愛くなるほどの衝撃に、シータの思考は激しく揺さぶられた。
螺旋『王』の娘――つまり、彼女もまた、王族。それも……第一王女。
シータがこの場で唯一無二であると信じる優秀な血に、匹敵する存在。
足場が瓦解する。もはやまともに立っていることすら困難だ。
シータは足がなくなったように腰から崩れ落ち、すぐ近くのデイパックに手を入れる。
その中身を乱暴に漁りながら、必死の形相で取り出したのはストラーダ。
自暴自棄で何を取り出すと警戒していたドモンの前で、彼女は腕時計になってしまっているストラーダに懸命に呼びかける。
「動いて! 動いてください、ストラーダ! この人を、ニアさんを殺して!
お願いします、お願いします! あなたは私の道具でしょう!?」
魔力を失った仮初めの主に、ストラーダは応じる気配もない。
腕時計の針は静かに時を刻み、虚しい絶叫に淡々と時間の経過を伝えるのみだ。
何も告げないストラーダを、癇癪を起こした子どものように放り捨てる。
それから何も応じないデイパックをごそごそと漁り、何も状況を打開する術が出てこない。
「どうして……どうして、私は神様に……神様……そう、神父様! 言峰神父! どこですか!
出てきてください、言峰神父! 私、神父様のお言葉がやっと理解できたんです!
もう馬鹿で神父様を困らせる私はいません! だから助けて!」
支給品のデイパックを投げ出し、シータはここにいない長身の神父の名前を叫ぶ。
呼べばその存在が正義の味方の如く現れるというように。
シータは狂笑を浮かべながら、ニアとドモンの二人を指差して、
「ニアさんも! 命令を聞かない兵隊さんも! みんなみんな神父様がやっつけてくださいます!
わぁ、やっぱり私は神様に愛されている!」
的外れな愛を高らかに叫ぶシータ。その姿を痛ましげに見ていたドモンの表情が変わる。
ふと空を見上げるその動作にニアが続くと、その声は聞こえてきた。
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
朝焼けの空に木霊するのは、重々しさと威厳を備えた王たる器を秘めた声。
「螺旋、王……!」
「……お父様」
ドモンが義憤を、ニアが複雑な悲哀を呟きに込める。
シータは天から届く放送など完全に無視した様子で、けたけたと子どものように笑う。
螺旋王の前置き、そして死者発表を始める報。
ドモンも、そしてニアも、今は離れた仲間達の安否に心で身構える。
――言峰綺礼
故に最初にその名前が呼ばれた時、何の心構えもしていなかったのはシータだけだった。
口元を押さえて上品に笑うことも忘れ、そこだけ見れば空族の風習に染まった野蛮な笑い。
それが告げられた名前を耳が捉え、鼓膜を叩き、脳に伝達した瞬間にぴたりと止む。
よく、意味がわからない。
今、言峰の名前が呼ばれたのはどういう意味があったのだろう。
ひょっとして、高いところに突如として現れた言峰神父が、
自分の名前を高らかに叫んで救いのヒーローの如く飛び出してきてくれるのだろうか。
そんな期待感があって、思わずシータは辺りの高台の上に長身の影がないか探してしまう。
どこにも神父様は見当たらない。そもそも言峰神父はそういう目立つことをしたがるような人ではなかったような気がする。
言峰はどんな人だっただろうか。あまりよく思い出せない。
自分を助けてくれる、とっても強くていい人だったことだけは覚えている。
それだけ覚えていれば、まあいいか。どうせ同じ価値観で蘇るのだし。
シータがそんな結論に辿り着いた頃、すでに放送は終わりを迎えていた。
小首を傾げているシータに再び目を向ける、ニアと役立たずの二人。
その目つきが気に入らない。なんて目をしているのだろう。それが王族に向ける目か。
「あなた達は今、ラピュタの女王の前にいるんですよ?」
ひれ伏せ、頭を垂れろ。這い蹲って慈悲を乞い、ブタの真似をして楽しませればいい。
そうすれば遠慮なく、ブタを殺すことができるから。
「言峰神父、まだでしょうか。早くきてくださらないでしょうか。もう目の前のブタが目障りで目障りで……」
「言峰は、死んだ」
「は?」
声を発したのは役立たずの方だ。臣下に加えてやると言ったのに、何度言っても素直に頷かなかった無礼者。
それが今、何を言った?
「言峰神父が、どうしましたって?」
「言峰が死んだ。これは俺にとっても、残念でならない。
あれほどの使い手が命を落としたのは無念の一言だ。――だが、事実だ」
冷酷に告げること、それがドモンの選んだ答えだった。
彼女の心の負った傷の深さは、果たしてどれほどの時間をかけて癒せるものだろう。
少なくともこの場ですぐにどうにかしてやることはできない。
なればこそその歪んだ信念の拠り所を砕ききれば、再生への第一歩になるのではあるまいか。
そう思ってのドモンの言葉――それに対して少女は口元に手を当て、哄笑する。
「くす、くすくすくす……そんな、おかしいわ。だって、くすくす。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす! くす! くすくす!!」
心の砕ける音を、その場にいた二人は確かに聞いた。
それは軽やかで、儚く、場違いにもどこか美しい、ガラス細工の砕け散る音に似ていた。
少女が膝から崩れ落ちる。蹲り、焦点の合わない瞳で、地面に着いた両手を眺めながら、
「言峰、神父も。ストラーダも。兵隊さんも。エドも。ドーラおばさまも。パズーも……」
もう、何もこの手には残されていない。
どうして――私は、神様に愛されていたはずだったのに!
「シータさん……」
哀切に震えた声がシータの顔を上げさせた。
その眼前に立っている少女を黒瞳が捉え、瞳孔が集中によって開く。
――螺旋王の娘か。第一王女ニアか。
――色白の肌。空色の髪。柔らかそうな体。美しい顔立ち。愛される人柄。王族の血。
――神はリュシータ・トエル・ウル・ラピュタを見捨て、幸せな姫を選ぶのか。
「殺してしまえぇぇぇぇぇ! 兵隊ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
血の噴き出すような憎悪の絶叫――その声に、神すら見限る主君を見捨てぬ忠義が応えた。
遠距離、主から全力の命令――およそ、全力を発揮するにこれ以上の場面はない。
うず高く積まれた瓦礫の山を融解させ、一閃のレーザーが真っ直ぐに少女の背を狙った。
レーザーの威力、速度、全ては宇宙の賞金稼ぎのお墨付きだ。
彼の男の片腕を奪い去った一撃は、華奢な少女を一瞬でこの世から蒸発させるだろう。
その死の熱線からニアを守ったのは、傍らに寄り添うように立っていた王者の勲功だった。
シータの血を吐く命令が発された瞬間。
ドモンの研ぎ澄まされた聴覚ははるか離れた土砂の山の中、ロボット兵の埋まる場所にエネルギーの収束音を聞いた。
次いで、熱線がロボット兵の額から放射され、瓦礫の悉くを焼き、溶かし、消し去る音。
全ては一瞬の判断。
音の正体は何か。狙いは誰なのか。そして、この場にいるのがキング・オブ・ハートか。
この全ての条件がクリアされなければ、熱線はニアの体をこの世から消失させたはずだ。
故に見事、ドモンはニアの御身を熱線の魔の手から救い出した。
単なる熱線の猛威からだけではなく、その後に地面に着火しての誘爆からさえも。
「きゃあ――!」
「歯を噛んでいろ! 舌を噛むぞ!」
大地に斜めに入った朱色の線が、次の瞬間に高熱を発して爆発する。
さしものドモンもこれを立ちはだかり止める術はない。
吹き荒れる熱風に全身を翻弄され、衝撃の余波にその身を宙に投げ出される。
だが、最初の爆風さえしのげば、その後の行動は流石は誉れも高きガンダムファイター。
振り回される中空でいち早く上下左右を見極め、地面と壁の位置を割り出して着地点を探る。
庇ったニアは胸の内だ。高速移動に三半規管が揺れる程度の弊害は出るだろうが、ダメージからは完全に守っている。
そのことさえ確認できれば、今のドモンに他の気にかける要素はない。
背面のほとんど全体に及んだ重度の火傷の激痛も、失う痛みに比べればどれほどのものか。
地面との激突の瞬間にドモンは身を回し、抱え込んでいるニアを痛みから遠ざける。
火傷を負っていた背中側から落下することに、一切の躊躇いはない。
瓦礫の破片が大量に散らばる地面を転がり、慣性を殺し切ってからドモンは身を止めた。
熱波によって焼き払われた卸売り場を見回し、ドモンは抱いていたニアを開放する。
「目が……回りました……」
「無理に立とうとしなくていい。それにおそらく、ここはもう駄目だ」
地表を薙ぎ払うレーザーの一閃が崩落の引き金を引いたのだろう。あるいは最期の背中を押してしまったというべきか。
煮え滾るような鳴動を奏でる足元は、崩れ落ちる寸前に等しい。
あと一押し、それだけで歯止めを失ったようにフロアごと地下に沈むだろう。
熱線の余波は狙いであったニアを外れ、着火地点となった地面を中心に火の手を上げている。
瓦礫の山も元々は建造物だったものの成れの果てだ。度を越えた高熱に炙られ、燃え上がるのを妨げるものは存在しない。
一面が火の海と化した、赤色の死の世界だった。
――その死が満ちる世界の中心で、少女は泣いていた。
「痛い……痛い……痛いぃぃぃぃ」
火の手の上がる中央で、シータはその小柄な体をロボット兵に預けていた。
灼熱の焔の中で、ロボット兵の体は赤銅色に薄ら鈍く輝いている。
立ち上がる動作だけで軋みを上げる巨躯、その胴体には確かに流派東方不敗の技の真価が刻まれている。
蹴り足を中心に抉られた装甲、その内に駆動する機械が覗く空洞が穿たれていた。
一目で半壊、まともに動くことなどありえない致命的な損傷のはずだ。
「そんな傷を負っていても、お前は主を守るというのか……!」
ドモンの声の震えは、その滅ぶことのない忠義への敬意を表すものだった。
ロボット兵は鈍い動作で首を動かし、ドモンに視線と思しきものを向けると、目を模した機関の光点を明滅させる。
それは無言の内に交わされた、機械と人間の一瞬の心の交流だったのかもしれない。
そのやり取りを無粋に切り裂いたのは、甲高い少女の絶叫だ。
「痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い! どうして、どうして私がこんな目に――!」
叫ぶシータはロボット兵の肩の上に座り、天を仰いで滂沱と涙を流している。
その上向きの顔、はっきりと確認したドモンがその目を痛ましさに細めた。
熱波の余波がその身を襲ったのだろう。
血と泥と狂気に塗れていたとはいえ、愛らしかったはずの顔立ちは、顔の左側を火傷によって醜く爛れさせていたのだ。
顔の左半面は火傷で全滅。右側も焼けた掌を押しつけられたように火傷の線が伸び、無事であるとは言い難い。
むしろ残されたパーツが整っていることが窺えるだけに、その爛れた顔の凄惨さが際立ってしまう。
衣服もあちこちが炎によって炙られ、露出した肌には水膨れが幾つも生じている。
半身を炎によって焼かれる――それが暴君に対し、天が下した審判なのか。
「どうして、私を助けてくれないくせに、ニアさんは助けるんですか!?」
痛みを紛らわせるために無関係の思考に走る。それは人間の防衛本能として当然の機能だ。
痛みを忘れるために彼女は恨み言を吐き、理不尽を糾弾し、己を助けろと喚き散らす。
「確かに俺にこの少女とは初対面だ。そして、螺旋王の娘とも聞かされた」
「だったら! どうしてぇ!」
「その志を見たからだ」
一息を置いて、ドモンは告げる。
「その志に戦士の光を見たからだ。自分で立ち上がる。己を高める。
守るべき信念のために立ち、決して悪道に屈せぬ覚悟――それを持つ人間を、無条件で俺は認められる!」
その叫びに、ようやく揺れる意識から舞い戻るニアが隣に並んだ。
僅かな時間、横目で互いの視線が交差する。そこにあったのは、確かな信頼だ。
「もう、いいです……」
焼けてさらに短くなった頭髪に触れ、それから左手で爛れた顔の半面を覆い隠す。
口が引き攣り、うまく笑うことができない。
「くひっ。くふひっ。くひひ……」
全てを失ったのだ。もはやまともに機能すらしない顔。
だからこんなものは必要ない。
引き攣る右の頬を伝った一滴は、シータが持ち合わせていた最後の最後の人らしさだった。
「飛んで! 兵隊さん――ッ!!」
主人の命令を待ち望んでいたかのように、鈍重な動きに甘んじていたロボット兵が動く。
両腕が左右に真っ直ぐ伸ばされ、直後に炎を噴射して上昇――その場を離脱する。
「――しまった!」
一心不乱に遠ざかる影に手を伸ばし、ドモンは己の不徳を恥じる。
あのロボット兵が飛行するということはスパイクから忠告されていたのだ。
にも関わらずすでに戦力を失っていると油断し、結果が逃亡を許すことになるという醜態。
唯一、運がいいと思えるのは彼女の向かう先がスパイク達の向かった南ではなく、西側の方に飛び去っていくことだ。
――どうする。
ドモンは僅かに足を止め、これからどうするかを考える。
シータの動向は最優先に掴まなければならないことだが、傍らのニアの存在も気がかりだ。
唐突に彼女が出現した理由すらわかっていないし、何より彼女は自分を螺旋王の娘だと名乗った。
裂帛の気合い、そして迷わぬ信念を感じたことによって悪意を持つ輩ではないと確信している。
その一方で、彼女が悪意ある輩に対する危機対処能力に欠けているのもまた事実。
ニアを置き去りにするわけにはいかない。
かといって、仲間に合流するのを優先しようにも、あの状態に陥ったシータはあまりにも行動が予想できない。
ドモンであればさほどの脅威でなくとも、彼女の力が脅威になるものは少なくない。
その中の命がシータによって奪われることがあれば、それはここで逃がしたドモンの責任だ。
「君は……」
「――追いましょう!」
どうする? という問い掛けを出す暇さえ与えられなかった。
気持ちがいいほどに我が身を省みず、逃げ去るシータを追おうという態度に迷いはない。
「追って、どうする?」
「追って、もう一度話して、何度でも話して、説得します!」
「彼女はもう戻れないかもしれないんだぞ」
「それでも――無理を通して、道理を蹴っ飛ばすんです!」
その一言が聞けただけで、もはやドモンに彼女を疑う余地は欠片も存在しない。
そしてその言葉を発する人間が、掛け値なしの頑固者であるということもわかっている。
「俺の名はドモン・カッシュ。ネオジャパンのガンダムファイターだ」
「私の名前はニア。大グレン団の料理長を務めています」
互いの自己紹介はそれだけでよかった。
西の空、すでに見えなくなったシータを追わなくてはならない。
先ほどまで奈緒を背負っていたのと同じように、ニアに背中に乗れと提案しようとする。
その一瞬の間に彼女は少し離れた場所に移動し、そこで地面に膝を折っていた。
「どうした? どこか怪我でも……」
「いえ、違います。ここに落ちていたこれが、少し気になったのです」
屈んだニアが拾ったのは、シータが役立たずと放り出した腕時計だった。
どれほどの強度かあの猛威に巻き込まれながらも、煤に汚れるだけで機能を損なっていない。
「ストラーダ……と呼んでいたな」
「はい。ひょっとしたらこれは、ストラーダさんなのかもしれません」
「ストラーダさん?」
無機物を敬称付けで呼ぶニアにおかしなものを感じながら、屈託ない笑みを向けられてドモンも思わず口の端を綻ばせる。
殺し合いを強要されるゲームの中、かすかに笑い合う時間も二人には与えられていた。
――それを遠い西の空の上から、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタは見ていた。
正確には彼女には見えていない。
かなりの距離が開いた上に、彼女は半眼を失った身だ。
故にその場所に二人の気配が残っているのを確信できるのは、飛行する忠実な僕がそう忠言したからに他ならない。
二人の間に交わされる言葉はない。
シータはこの痛みの原因たるロボット兵を許すつもりはないし、兵には言語を発する機能が持たされていない。
ただ忠実に機械の光点を明滅させ、敵性存在の位置を主に報せるだけだった。
どうやら虎の子のレーザーは照射することができないらしい。
あのドモンによってもたらされたダメージの深さか、卸売り場を焼き払った出力が最後の一撃。
再度の発射に時間がかかるのか、もう不可能なのかもわからない。
ただこの瞬間に遠い二人をレーザーで攻撃することはできない。
――シータにとって重要なのはそれだけで、決断に至るのに必要な時間はそうなかった。
「――ヴァルセーレの剣に吸い込みしよろず魔物の魔力を放ち、万物を砂塵へと変える千手剛剣とならん」
必要とされるだろう前口上は、何故か使う段階になってすらすらと頭に思い浮かんだ。
それ故に彼女は慣れた口調で呪文を呟き、振り上げた剣を敵陣目掛けて振り下ろす。
「――ヴァルセレ・オズ・マール・ソルドン」
カタカタと手に握る剣が震え、次の瞬間にその刀身がぼやけるようにダブる。
否、刀身がダブったのではなく、刀身と重なるように半透明の刃が出現したのだ。
そしてそれは留まる勢いを知らず、彼女の命令通りに千の刃となって放出――蒼穹を殺意を帯びた鉄の意思が染め上げる。
幾千幾万の魔物の妄念、戦場で命を壮絶に散らした無数の戦意が今、現世に剣の姿をまとって回帰した。
――仮初めの実体を得た数多の刀剣。
――各々がただ一振りのために、鈍い輝きの勝ち鬨を上げる。
「さあ、行ってらっしゃい。――千人の兵隊さん」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ドモンがその異常を察した時、すでに千の刃は彼らの逃げ場を塞ぐように空を覆っていた。
さしものドモンも無数の刃の群れに言葉を失い、またその剣の一つ一つの抱く力が看過できないものであると一瞬の内に見抜く。
が、ドモンであってもできたのはそれまでだ。
圧倒的な戦力差の前に、図らずも最後の瞬間を意識してしまう。
これはかの英雄王ギルガメッシュが、その宝物庫の固き戸を開いた時。
その際に展開される無数の宝具を雨あられと撃ち出す前段階、それに触れた瞬間の絶望感にも似ていた。
一撃の威力は英雄王が上とはいえ、その数は流石にこちらが圧倒する。
無論、英雄王が千の財宝を一人の敵に振舞うという機会自体が存在しないのだが。
――くる!
刃がぴくりと動いた瞬間、ドモンはニアを抱き込むように守っていた。
振り下ろされる千の刃の、幾つまでにこの肉体が耐えられるかはわからない。
だが、たとえこの身が細切れにされ、肉片一つになろうとも、この少女を守るのだ。
それが一瞬の間に固まったドモンの覚悟――その自らを厭わぬ精神が、奇跡を起こした。
ドモンに庇われたことで身を丸めたニアが、状況を認識できなくとも危険を察知。
ぎゅっと目を瞑り、薄汚れた腕時計を大事なもののように抱き締める。
――そのほんの僅かばかりの思い遣りが、沈黙を尊ぶものをして奮起を促した。
幼い騎士を主としていた忠実な武装に、回り回る魔力と別系統の力が満ちる。
雷光のような輝きを伴い、その姿を本来の機能を発揮する形状へと変化――危険域より離脱する。
暴風に近い初速をもって、射出されるように二人の体が移動する。
その二人の命を担って低空を飛行するのは、腕時計から本来の槍の形状を取り戻したストラーダだ。
秒に満たぬ刹那の後、ドモン達のいた空間が振り下ろされた刃によって蹂躙される。
だが、後続の剣は逃走を図る二人をみすみす逃すつもりはない。
背後に迫る刃の連続は着実に二人の逃げ場を奪い、単純な直線移動だけのストラーダの移動速度に追い縋ってくる。
「――ならば、それを俺が補う! しっかり掴まっていろ、ニア!」
「――はい!」
背後のドモンにニアは全幅の信頼と共に、その命運の全てを預けた。
真っ直ぐに飛行するストラーダの柄に手を掛けて、ドモンはその身を傾ける。
噴射による移動速度は変わらぬまま、左に曲がることができた。――問題ない。
「あとは俺のこの目が、戦いの日々が、襲ってくる刃を教えてくれる!」
――追い縋る千の刃との、気の遠くなるほど長いデッドレース。
――説明するまでもなく、勝利したのは天下無敵のキング・オブ・ハートだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「凄まじい……攻撃だったな」
「はい。無事だったのは全部、ドモンさんのおかげです」
瓦礫の一つに座り込み、流石に両肩を荒く上下させるドモン。
その全身には躱し切れなかった刃の裂傷が無数にあり、背中は大きく破れ火傷が覗く。
誰がどう見ても、誤診のしようがない満身創痍。
ドモンほど鍛えられた人間でなければ、ベッドの上で丸半年は安静にすることを言い渡されるような重傷だった。
そのドモンの対面に座る形でいるニア。
彼女の手元には槍の形のままのストラーダが握られ、勲章ものの働きを見せた機体の汚れを丁寧に拭われている。
穏やかな微笑みでストラーダを綺麗にする彼女、その格好は――、
「しかし、どうしてウエディングドレスになっているんだ?」
「ウエディングドレスってなんですか?」
「そこから説明するのか……いや、その格好の話だ」
彼女が纏うのは華やかな印象を目に焼き付ける純白のウエディングドレスだ。
美しい容姿の彼女にはよく似合っているが、まだそれを着るのは年代的に少々尚早であると思わざるをえない。
その割にサイズはぴったりのようだが。
服装を指摘されたニアは初めてそれに気づいたように目を瞬かせた。
着替えた覚えはない。だが己の身を覆う真白の生地の感触は、これまでに着たいずれのドレスよりも彼女の肌に馴染む。
まるで自分のために誂えたもののように――眦に、熱い雫が一時だけ溜まった。
その涙を理解できない彼女を慰めるように、手の内のストラーダが優しい点滅で応じた。
ドモンが触れるが無粋とニアから視線を外せば、目に映るのは卸売り場の惨状。
――いや、もはや旧卸売り場跡というべきほどの損壊状態だ。
破壊の連続に遂に限界を迎え、刃の蹂躙によってその大地は深々と抉られた空洞が覗く。
薄暗い地面の下は断じて整備された地下空間ではなく、土砂と瓦礫の大群に支配された暴虐の名残だ。
単純な移動も危険視されるため、今後はこのエリアは迂回せざるをえまい。
一頻りの感想、思考を終えると、荒れていた呼吸も通常のものに戻っている。
全身の傷は深いものも浅いものも限りなく、特に背中の火傷はかなり行動に支障をきたす。
未だ出血の止まらぬ傷口の存在すらあるが、それを黙殺してドモンは立ち上がった。
「すまない。俺の所為で時間をとらせた。もう行こう」
「大丈夫、なんですか?」
「当然だ。キング・オブ・ハートはこのぐらいでは止まらない。それに俺は男の子だからな」
「はぁ……ここでも男なんですね」
この様子を見ると、ずいぶんと長くカミナと一緒に行動していたのかもしれない。
『男』という単語一つを根拠として信じられる。
これは男同士にしかわからない感情だと思っていたのだが、どうやら偏見だったようだ。
益体もない思考を捨て、ドモンは改めて西の空を見る。
彼方、消え去ったはずの少女の存在を追わなければならない。
ロボット兵士だけが彼女の武装と思えば、放置の選択肢も僅かにあった。
だが、あれほどの隠し玉が用意されていたのだ。
シータの武装解除は、対主催にとって最優先すべき事項となっていた。
「ニア、俺はシータを追いかける。南に向かえば俺の仲間と合流できるはずだが……」
「いえ、私もシータさんを追いかけます」
「そうか……危険だぞ」
「ドモンさんは男だから行くのでしょう? 女もそうです。見てるだけじゃ、始まらないですから!」
威勢よく言い放つニアに対し、ドモンは思わず痛みを忘れて笑みを浮かべる。
そしてはっきりと頷き、
「――行こう。無理を通して、道理を蹴っ飛ばしてやりにな」
【B-5/卸売り市場(崩壊)/二日目/朝】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:西へ逃走したシータを追う。(武装解除が目的だが、最悪の場合は……)
1:カミナたちを探しながら、刑務所に向かう……だが何だあの物体は!
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
※シータの持つヴァルセーレの剣の危険性を認識しました。
※ニアとは詳しく話していませんが、カミナの関係者だとは通じ合っています。
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(中)、全身打撲(中)、両手に痺れ、ギアス?、 下着姿にルルーシュの学生服の上着、螺旋力覚醒 、自己嫌悪(マタタビに関して)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、釘バット、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
バリアジャケット【ニア式モデル:ハッピーウエディング】
[道具]:支給品一式、X装置
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:ドモンと共に、シータを追いかける。
1:逸れたカミナやガッシュを探す。
2:ルルーシュを探す。
3:ルルーシュと一緒に脱出に向けて動く。
4:東方不敗を警戒。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※ガッシュの魔本に反応しました。
※カミナ、クロスミラージュと詳細な情報を交換しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※ニアのバリアジャケットはグレンラガン最終話、シモンとの結婚式で着ていたウエディングドレス(十四歳仕様)です。
※螺旋力覚醒
※B−5の卸売り場は完全に崩落しました。地下には危険物やその他が放置され、とても普通に通行できる状況ではありません。飛行か迂回を推奨。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ニア……ニア……にぃぃあぁあぁあああぁ……ッッ!!」
憎悪に満ちた声を吐き出しながら、シータはロボット兵の上で悔しさを噛み締める。
火傷の傷跡が引き攣って痛むが、そんなことを気にかけている心の余裕さえない。
ヴァルセーレの剣の力の解放により、放出された千の刃の攻撃は圧倒的だった。
卸売り場が完全に崩壊するのを遠目に確認し、全ての憎しみから解き放たれたような歓喜の感情が湧き上がった。
――直後にロボット兵が、相変わらず二人の生体反応を示さなければだ。
あれほどの威力を前に大人しく死なないとは、何と生き汚い奴らなのだろう。
細切れの細切れの細切れになって、ブタの餌になってしまえばいいのだ。ブーブー。
だが、何より腹立たしいのはその後のことだ。
一撃で足りぬならばと、シータはヴァルセーレの剣をもう一度振り上げた。
しかし、今度は同じ呪文を口にしても、何度振り下ろそうとも、先ほどの力を発現しなかったのだ。
剣の力を出し切ってしまったのか。
違う、未だこの刀身の中に恐るべき力が取り込まれているのを掌から感じる。
あのヴァッシュ・ザ・スタンピードの全てを飲み込んだ剣の力に衰えはない。
あれだけの威力を放出し、それでもってほんの力の一端に過ぎないというわけだ。
ならば、どうしてこの剣は自分に従おうとしないのか。
「誰も彼も、私のことを馬鹿にして! 言峰神父も! ストラーダも! 役立たずのブタ兵隊も! 私を見捨てた神様も――!」
何度も何度も、手にしたヴァルセーレの剣の柄を手近な場所に叩き付ける。
もっとも今の彼女の体は空の上にある。
殴りつけるものは辺りになく、当然のようにただ一人だけ未だ彼女に従う忠臣の頭に、繰り返し何度も剣を打ち付けていた。
「みんな全て、全部滅んでしまえ。バルス!
バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス! 壊れてよ! 崩壊してよ! バルスバルス! バルスゥッ!」
ラピュタ王家に伝わる滅びの呪文。
優しかった祖母から教わった多くの呪文の一つ。
その祖母の優しさを裏切りながら、裏切りに気づかないままシータは叫び続ける。
「役立たず! 役立たず! どうして弱いの! こんなんじゃ……こんなんじゃ……」
優勝することなんてできるはずもない。
その言葉が喉から出てこなくて、シータ自身が一番驚いてしまった。
だって、それは今の彼女にとって唯一の寄る辺。
それをなくしてシータは生きる理由を失い、これまで戦い続けた意義さえ喪失してしまうのだから。
「そう、優勝しなきゃ。優勝して、パズーを……パズーを……」
――パズーに似たモノですよ?
嘲笑交じりのニアの声が聞こえて、咄嗟にシータは振り向いた。
誰もいるはずがない。でも確かに耳元で声が聞こえた。間違いない。確かに。
――あらあら、ラピュタの王族ってくだらない。シータさんって本当に哀れ。
また聞こえた。今度こそ間違いない。シータにはわかる。
この場所にいなかったとしても、この言葉は今この瞬間にあの女が言ったに違いない。
「殺して……やる……」
――やれるものならやってみてください。独りぼっちの、弱虫女王様?
「必ず……必ず、あなたを……貴様を……殺してやります……!」
「――螺旋の娘……王女ニアァァアァァァ!!!」
【C-4/上空/二日目/朝】
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失われていません)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)、全身に火傷による負傷(体は軽度)、顔の左半面が火傷で爛れています(右側にも火傷が及び、もはや面影なし)、おさげ喪失
[装備]:ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首
機体状況:無傷、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
[道具]:なし
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる?
0:何を差し置いてもニアの殺害。
1:ニアにたぶらかされたドモンの殺害。
2:途中見かけた人間はロボット兵に殺させる。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣には奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※大量の貴金属アクセサリ、コルトガバメント(残弾:0/7発)、真っ二つのシルバーケープが近くに放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
※ヴァルセーレの剣から本編までに溜め込まれた『魔物』の力が失われました。奈緒のエレメント、アルベルトの衝撃、ヴァッシュのAAの力は健在です。ただし、通常の呪文では開放することができないようです。
※ニアという存在に対する激しい憎悪が刻まれました。自分にないものも持っていたものも全て持っている存在で、許し難いという認識です。
※ニアを憎悪するあまり、聞こえるはずのないニアの声が聞こえます(全てシータを嘲る内容)
※ロボット兵はドモンの一撃によって半壊、胴体に穴が開いています。レーザー機能に支障をきたしています(故障か、チャージに時間がかかるのかは未定)
※デイパックを投げ捨てたため、下記の支給品はB-5の卸売り場に放置されています。
支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
「こいつぁちっとばかし、やべぇことになったんじゃねぇか?」
『――はい、迂闊でした。まさかこれほど転移を簡単に行えるものだとまでは……』
薄暗い空間に突如として投げ出されたカミナとクロスミラージュの二人は、
互いに(片方はないが意識としては)深い息を吐いてから歯噛みする。
螺旋界認識転移システムによって転移が行われ、カミナが運ばれたのはこの場所だった。
最初は唐突に灯りが消えただけかと思ったカミナも、周囲から機械の作動音が消えたこと。
加えて、先ほどまでと部屋の気温があまりに違うことから違和感に気づいた。
そして自分より早く状況を察していたクロスミラージュの助言によって真相に辿り着いている。
しかし現状を正しく認識できたところで、置かれた苦難が軽減されるわけもない。
カミナ、ガッシュ、ニアとこれまで行動を共にしてきた大グレン団の面々。
その固い団結も、全員が全員願うものやら思い人やらが違う所為でこの様だ。
クロスミラージュはカミナの持ち物扱いだったのだろう、一緒に飛ぶことができた。
だが、あの二人が揃って独りぼっちな状況に投げ出されたとすればあまりに心許ない。
「しかし、暗ぇとこだな」
『カミナ、私を照明代わりに使用してください。多少は光を放てますので、手元を見るぐらいの役には立てるかと』
「それで十分だ。なに、俺は実は穴倉育ちでな。地元じゃこんぐれぇ暗いのは当たり前なのよ」
嘯くとカミナはクロスミラージュを取り出し、前に差し出して灯り代わりとする。
と、踏み出そうとした正面はいきなり壁だ。助言がなければ一歩、二歩目で大激突だったろう。
「この感じからして、場所はそれなりに広いな。結構、地面の下にあるみてぇだが……」
『何故、そうわかるのですか?』
「穴倉育ちだって言ったろうが。声がどれぐらい響くかでどんだけでかい穴なのか。
空気がどんだけ湿ってて冷たいかで、床下か地上かぐらいの判断はつくぜ」
しばらくそのままカミナの独壇場が続く。
時折口元に手を当てて声を出しては、前の壁との距離を測っているのだろう。
歩き方にさえ整備されていない地面を進む慎重さが見え、
なるほど本当にカミナが地下育ちなのだろうとクロスミラージュの納得を誘う。
「早く、見つけてやらねぇといけねぇよな」
『はい』
「時間的にあのクソ放送が入るのがもうすぐのはずだ。
こんな凡ミスで全員ばらばらになって、その後すぐの放送で二人の名前が出てみやがれ……目も当てられねぇぜ」
しばらくの間、彼が決して覗かせることのなかった弱音のようなものが僅かに滲み出た。
それはクロスミラージュがカミナと遭遇したばかりの頃のことだ。
ドモンによってその性根を拳で矯正されるまでの期間、その時の語り口にどこか似ている。
『私のミスです。どのような装置なのかはっきりとわかっていないにも関わらず、安易な起動を求めました』
「違ぇよ。大グレン団が固まってて、そんでリーダーの俺が動いたんだ。
全部まとめてひっくるめた上で、その責任は全部俺のモンなんだよ」
『しかし……』
「しかしもカカシもギャラクシーもねぇ! リーダーってのぁそういうもんだ。
そういう奴がリーダーやるから、後ろの奴はこいつについてかなきゃなんねぇ!
そうやって気持ちを、生き方を預けられるんだろうが」
そう言ってからまた黙々と、カミナの暗闇探索が始まる。
――今の彼はらしくもなく慎重だ。
そしてそれは、今、ここで彼が何らかのアクシデントに見舞われることを恐れてのこと。
もし身動きが取れなくなれば、ガッシュやニアを探しに行けなくなると理解しているからなのだろう。
カミナという男はどこまでも、どこまでも不器用な男だった。
普段は己の道を行く無頼のようなものを気取っている癖に、その実で彼の本質は守ることを自分に任じている。
それがどのような人生経験によって培われたものなのか、守るものを失って一人になった時、彼は一度弱くなった。
そして再び守るものを得て立ち上がった今だからこそ、守るために立ち止まらない。
――不撓不屈の精神が、彼の胸の内でメラメラと燃え上がっているのだ。
『カミナ――今、少し考えていたのですが』
「おぉ、なんだ」
『あの螺旋界認識転移システムという装置のことです』
「あんなくだらねぇクソ機械、二度と使ってたまるかよ」
『そういうわけにもいきません。あれはこのゲームを終わらせる鍵なのかもしれません』
「何ぃ……?」
表情は驚き、しかし足は探索を緩めないカミナに対し、ゆっくりとクロスミラージュは語る。
『あの装置は願ったもの、願った人の場所へそのものを転移させるという装置です。
その効果は……裏目に出ましたが私達が実証した通りのものです。
あの力があればおそらく会場のどこへでも、理論上は移動できることになります』
「リロンって言われると俺の仲間のオカマしか出てこねぇんだが……続けてくれ」
『続けます。あの装置による会場の中の移動は試すことができました。
ですが次に疑問となるのは別の部分――あの装置によって、外の世界へ移動することは可能なのか、です』
「外……っつーと」
『このゲームの外の世界。それぞれの生きてきた世界ということになります。
ただ、これは想像にすぎませんがおそらくこの試みは成功しません。理由の一つとして会場のループがあります。
会場の端と端を繋ぐ、空間操作の一種ですが、あれが外と内を完全に隔離しているものと考えられます。
また、あの装置を設置した螺旋王が参加者の無条件脱出を許すとはとても考えられません。
おそらくは参加者の脱出については相応の制限を用意しているものと考えられます』
会場の端と端が繋がるループは、本来の外と内の空間を分断するための措置の副産物に過ぎない。
あのバリアーによって螺旋王は己の居城とこの殺し合いの空間を隔絶している、クロスミラージュはそう考察している。
そのバリアーの存在が残っている以上、状況は好転しないだろう。
螺旋界認識転移システムはあくまで、会場内を便利に移動するだけの装置の域を超えることはない。
『ですがもし、このループを引き起こすバリアーが解除された後ならばどうでしょう?』
「外と中を塞ぐ壁がなくなんだから、丸見えになった敵の根城は……」
『螺旋界認識転移システムの移動範囲内なのではないかと』
それがクロスミラージュが考察の末に導き出した一つの希望。
希望的観測による部分があまりにも多い不確定な情報だが、頼りにする価値はある。
クロスミラージュの再三の説明により理解力の高まっていたカミナは、今回は奇跡的に一度の説明で内容を理解したらしい。
暗闇の中で大きく手を叩き、「そいつぁ凄ぇことじゃねぇか!」と喝采を上げる。
『そしてこの作戦において欠かせない存在がいます』
「……持ち上げて急に静かな声になんなよ。で?」
『我々が螺旋王の居城を白日の下に引き出せたとしても、その居城に確実に転移できる算段がありません。
今回のように、一瞬の間に抱いた思いが別々であれば転移する先は違う場所になってしまう』
「途中が長ぇんだよ、おめぇは! それで、誰だ!」
逸るカミナの言葉に一拍遅れて、クロスミラージュが答える。
『螺旋王の居城、その内部や螺旋王その人自身をよく知る人物――』
「――ニア、ってわけか」
『はい。彼女の協力なくして、この作戦はおそらく成功しません。
彼女から螺旋王に関する全ての情報を語ってもらい、転移する全員がそれを刻み込む必要があります。
また、螺旋王に反目することを目的としている対主催、このメンバーの意思の統合もまた必要でしょう』
その役目の一端を担えるのは、この大グレン団のリーダーを除いて他にはいない。そうクロスミラージュは確信している。
互いに一つの結論を共有したところで、「よっしゃ!」とカミナが唐突に叫び、自身の両の頬を平手で打って顔を振る。
『な、なんですか?』
「気合いだ、気合い! やんなきゃなんねぇことはめちゃくちゃある。
そんな時に気合いがなけりゃ何もうまくいかねぇ。な、そうだろ?」
『そうかも、しれません』
「それからな、クロミラ。おめぇ、やっぱ大グレン団にゃ大事なメンバーだぜ」
『……は?』
またもや唐突な発言に思考が止まる。
カミナは照れ臭そうに鼻の頭を掻き、それから噛み砕くようにゆっくりと、
「俺は体には自信がある。生まれてこのかた病気の一つもしたことねぇし、怪我も痛みも何のそのだ。
けどよ、正直なところ頭がいいぜ! と自信を持ったことはねぇ!」
『…………』
「しかもグレン団って奴ぁ、俺と同じで頭の悪い馬鹿野郎ばかり集まりやがる。いや、馬鹿野郎は嫌いじゃねぇんだぜ?
むしろ大好きだけどよ、頭の悪い連中だけでうじゃうじゃとやってるとやっぱ困ったことになることも多かったわけよ。
そぉこぉで、頭のいい奴の登場だ」
カミナはすでに合図になってしまったように、この数時間の間に何度も何度もしたように、
クロスミラージュに思いを伝えるようにその本体を軽く叩く。
「クロミラ、おめぇは体はねぇが頭はいい。俺は頭は悪いが体は丈夫だ。
ならよ、俺とおめぇで弱点を塞ぎ合っちまえば、もう最強なんじゃねぇか?」
言った後でカミナは顔を背け、青色の髪を掻き毟りながら、
「なんか妙なこと言っちまったなぁ。悪ぃ、やっぱ忘れてくれ」
『――いえ、記憶回路に保存されました。おそらく、半永久的に忘れません』
「……そうかよ。んじゃま、大事に大事に取っといてくんな」
互いに穏やかな何かを交換し合い、どこかむず痒い空気が蔓延する。
こんな雰囲気はご免だ、と勢いも新たにカミナは歩き出した。が、
「――痛ぇっ!」
『大丈夫ですか?』
「当然だ! 穴倉暮らしにゃ天井と頭突きなんざ朝飯前だ。って、天井じゃねぇが」
そう言って手を伸ばすカミナの正面、そこにあるのはどうやら真っ直ぐに伸びた柱のようだ。
注意不足が仇になり、目の前の障害を避けきれなかったらしい。
その冷たい金属質の柱にぺたぺたと触れながら、
「お、よく見りゃこいつぁイカした情熱の赤色じゃねぇか。
しかもこの太さ……この感じからしてこの掘っ立て小屋の大黒柱に違いねぇ!」
『大黒柱……ですか』
「おうよ! 大黒柱ってのはな、一家に一人のでけぇ親父!
あとは家を支える一番どでかく太ぇ柱! それのことを意味すんのさ。ま、これは黒じゃなく赤いけどよ」
上機嫌に赤い柱を殴り付け、しかしその後で辿ってきた道筋を振り返ると、
「しっかしよ……もうこの暗がりの中、多分ほとんど見ちまったぞ」
『確かにまずい状況です。まさか出口のない場所に閉じ込められたとは思いたくありませんが……』
あるいは螺旋王の罠だったのだろうか。
螺旋界認識転移システムといういかにもな罠で獲物を誘い、まんまと引っかかったものを鳥篭の中に閉じ込める。
――しかし、あの部屋に通じる扉は隠されていたし、開くのに複数名の螺旋力を必要とするような場所だ。
そこまでの手の込んだ罠を作って、かからなければどうするのだろう。
「くそ、おちおち足止めも食ってらんねぇってのによ。いっそ、この柱をよじ登って天井をぶち破ってやろうか」
『崩落の可能性もあり危険です』
「へっ、ジーハ村の連中を思い出させること言うんじゃねぇよ。その時は俺はこう答えたぜ。
ここで一生穴倉生活なんてくだらねぇ、地上にゃ天井はねぇんだぞってな」
己を誇るように言い、それから止める暇もなくカミナは赤い柱をよじ登り始める。
その動きはまるで小動物のように俊敏で、この手の行動に彼が慣れ親しんでいるのを感じさせた。
『するすると登れるものなのですね、流石はカミナです』
「……いや、違ぇ。おいおい、こりゃ俺はとんでもねぇ思い違いをしてたのかもしれねぇぞ」
『――?』
疑問の声に応じることもなく、カミナはさらに手を伸ばす速度を速めながら上を目指す。
そして十メートルほどの高さにまできただろうか。
やや起伏の増えた場所にまで到達したカミナの動きが止まり、それから深い息を吐いた。
「本当に、ほんっっっのたまにだが! 俺は俺の馬鹿さ加減にうんざりすることがあるぜ」
『カミナ?』
「そもそも俺達はどうしてここに飛ばされてきたんだ?
でかい落とし穴にはまったからか? 殴り飛ばされてお星様になっちまったからか?
違ぇ、みょうちくりんな機械の力で、欲しいもんのところに吹っ飛ばされたからよ!
――なら、おめぇがここにいるのは当然の話ってわけだ」
「――なぁ、そうだろ、グレン!!」
カミナがその名を高らかに叫んだ瞬間、その巨体の前面が光り輝く。
それが取り付けられたサングラスの輝きであると、初見のクロスミラージュは遅れて認識。
その常識違いの設計思想――巨大な顔に手足をつけた、ガンメンという名の機体の威容を!
口を模している部分のシャッターが開き、到着した男を歓迎するように薄暗い空間が顔を覗かせる。
まるで化け物の口に飛び込めといわれるような威圧感があったが、その口内に向かって躊躇うことなくカミナは突入した。
身を回してシートに背中を預ければ、その感触は慣れたものなのにどこか懐かしい。
「たったの一日程度しか離れ離れになってねぇってのに、ずいぶんとおめぇにべた惚れだったみてぇだな、俺は」
――シモンでも、ヨーコでも、ヴィラルでも、ジジイですらない。
――俺があの瞬間に欲しかったのは、どうやらこの座り慣れた愛機の感触だったらしい。
「許せよ、てめぇら。代わりと言っちゃなんだが、今すぐにこいつで探しに出るからよ!」
口上と共に両側に設置されたトリガーを握る。
力と気合を込めて思い切り押し込めば、ただそれだけでグレンは主に答えた。
コックピット内のモニターに搭乗者の生体データが認識される。
螺旋王がこの地に呼び出すにあたって一度はリセットされたはず機体認証。
しかしそれは、見慣れた男のマークを再びその無数のモニターに描き出した。
『カミナ、この機体の燃料などは?』
「気合いだ」
『……カミナ、この機体の操縦法などは?』
「気合いだ」
『――カミナ、この空間からの脱出方法は?』
「気ぃぃぃぃぃぃ合ぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃだーーーーーーーーっ!!!!」
パイロットの気性を受け継いだようにグレンの四足が起動。
立ち上がるのと同時に強大な両腕が振り上げられ、それが天井だったらしき岩盤を打ち砕く。
崩落に瓦礫の粉塵が舞い落ちてくる中を、グレンの巨体がものともせずにその場で跳ねる。
何度も何度も飛び上がりながら、その都度、砕かれる天井の位置が高くなっていく。
そして――、
「見ろ。お久しぶりのおてんと様だぜ」
『望外の結果です。――お見事、というべきでしょうか』
カミナの自慢げな、そしてクロスミラージュの賛辞が結果を示している。
何度もの跳躍と万歳アタック(意味は違うが)によって打ち砕かれた結果、この封印していた空間の天井を完全に破壊。
崩落によって地下全体が埋もれる結果も運よく避け、割れた天井に空いた丸い穴から青い空を見上げることができた。
『ですが、あそこまでは跳躍では無理なのでは?』
「ジャンプして淵掴んで、わたわたしながら上りゃぁいいだろ」
『そこまで人間的な稼動を実現しているのですか、このガンメンは』
「ああ、そうだ」
当然のように首肯するカミナだが、その驚くべき性能を理解しきれていないのだろう。
人間が乗り込んで操作する巨大ロボット。
この鈍重そうな見た目を誇る機体が、おおよそ五指に至るまで人間の体の仕組みを模造し、
その細部に至るまで同じよう動作するようにできている技術力の高さは目を見張る。
何故、設計者はこれほどの技術を持ちながら、人型ではなくガンメン型にしたのかさっぱりわからないほどに。
(人型ではこの四肢を支えるには強度的に不足。
ガンメンという丸く分厚い形態に手足をつけることで初めて可能となる機動――ということにしておきましょう)
なんだかもう気合いで動くというならそれでいいんじゃないかと思い始めている。
最近のクロスミラージュのカミナ感化率は危険度に達していた。
このままでは遠からず、大グレン団はカミナコピーの集まりになってしまう。
「んじゃま、とりあえず飛び上がっとすっか……」
『待ってください、カミナ。静かに……放送が聞こえます』
その重要性を悟り、カミナもまた勢いに乗っていた瞳の色を落とす。
もしかしたらこの放送の内容如何では、このタイムラグが致命的になるかもしれないのだ。
そう祈るような境地にあった二人の期待を、この放送は裏切ることはなかった。
呼ばれた名前の中にガッシュもニアも含まれておらず、カミナは一安心だ。
ただ、クロスミラージュには思うところがある。
(Mr.明智……あなたがここで消えてしまったのですか)
思い浮かぶのは銀髪の聡明な男。
この惨状で最初にクロスミラージュを手にした人物であり、警察官という立場と有能な頭脳から強く信頼してきた人物だ。
直接戦闘力に自信がないと言っていた彼のこと。
これまで期間、その明晰な頭脳と他者を理路整然と協力に導く弁術でもって、ずっと行動していたのだろう。
彼が起こしてきた静かなる戦い――その芽は完全に潰えてしまったのだろうか。
――否、だろう。
クロスミラージュの知る明智という男は抜け目のない男だ。
彼はその正義を曇らせることなく仲間を集い、対主催としてのグループを構築していったはずだ。
あるいは自分などに先駆けて、とっくに脱出の糸口を掴み取っている可能性もある。
ならば彼の意思を継ぐ仲間達に、自分達の持つ情報を与えるために合流しなくては。
「――行くぜ、クロミラ。よくよく考えりゃ、まだここがどこの地面の下だったのかもわからねぇんだからよ」
『はい、カミナ。必ず、やり遂げましょう』
「――おうよ」
深く聞き入ってはこないが、クロスミラージュの返答に何かを感じ取ったのだろう。
静かな肯定であったからこそ、カミナという男の誠意がそこには隠されていた。
何度かの腕振りの後で、グレンが高々と跳躍する。
本当に人体と同じ動きで跳躍する機体は頭の先を地表に出し、その両手を穴の淵に引っ掛けることに成功した。
「あとは気合い、気合いだぁぁぁぁぁ!」
哮りながらトリガーを押し引きするカミナ。
ロボットの操縦としてはそれでは問題なのではとクロスミラージュは感じるが、ガンメンに関しては彼に一日の長がある。
唸るカミナに呼応するようにグレンが上体を持ち上げ、コックピットから上までを地表に出すと後は勢いのままに転がり出た。
大地の上に前回りして脱出したグレンは、その日の光を全身に浴びながら大の字だ。
「よっしゃ、脱出完了――さて、ここは」
『すぐ近くに見える施設……あれは学校でしょうか。
だとすればここはおそらく校庭になります。学校の校庭の地下に、このグレンは封印されていたようですね』
「けっ、面倒な真似してくれやがるぜ、螺旋王。ラガンはショウボウショ。
そんでもってグレンはガッコーかよ。何の意味があるってんだ」
地図を参照すれば、現在位置は転移システムのあった図書館から二つ隣なだけのエリアだ。
それを僥倖に思う一方で、ニアとガッシュの二人の移動先が遠ければ意味がないと考え直す。
「とにかくグレンがありゃぁ、走るスピードが百倍違うぜ。ニアとガッシュを探して、この辺りを走り回ってみるか?」
『効率的ではありません。できるだけ……そう、騒ぎになっている場所を探しましょう。
そこには人がいる可能性があり、人がいるということは二人が転移する際に思い浮かべた人物がいる可能性が高いということですから』
「ほーほー、なるほどな。了解……って、なんじゃこりゃああああっ!?」
操縦桿を握り、方針を決定した矢先の叫び。
ちらと振り向いた眼前にあったのは、見上げるほどに巨大な黒い球体だった。
単なる前衛的な芸術品であると言い切れないのは、その球体の放つ異様なまでの暴力的な意思。
――そして何より、地図の位置を反芻すればわかるのだが。
『カミナ……あの巨大な球体が、先の凄まじい魔力量の正体かもしれません』
「ずばっと会場を切り裂いてったやつか?」
『はい――どうしましょうか』
漆黒の球体はその身を大地に置き、今は静謐の中に佇んでいる。
だが再びそれが起動した時、もたらされる破壊はどれほどのものになるのか。
また紅の螺旋が発射された時、蹂躙されるエリアにニアが、ガッシュが、明智がバトンを繋いだ者達がいないとも限らない。
「あれがさっきの凄ぇもんだってんなら、奪っちまうってのも一つの手だよな」
『はい。幸い、今は活動を休止しています。
グレンのある状況なら、攻めるにせよ守るにせよ、一瞬で敗北に追い込まれることはないと思われます』
「けど、ニアとガッシュを先に探しに行きてぇって気持ちもあるわけだ」
『はい。――どちらにするかは、カミナにお任せします』
「ちっ、リーダーってのは辛いぜ」
舌打ち、それからグレンの中から空を仰いで、カミナは述懐する。
――せっかくグレンを取り戻したってのに、やることなすこと増えていきやがる。
――あぁ、負けられねぇぜ、クソッタレ!
【B-6/学校校庭/二日目/朝】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、疲労(大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:グレン@天元突破グレンラガン、クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ニアとガッシュを探しに行くか、目の前の黒い太陽を奪っちまうか。
1:ニアとガッシュは大グレン団の兄弟だ。俺が必ず守ってみせらぁ!
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? シャクだが、行かねぇワケにはな……。
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。
【クロスミラージュの思考】
1:カミナの方針に従い、助言を行う。
2:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
3:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ウヌゥ……見当たらぬ。カミナもニアもクロスミラージュも、三人ともどこへ行ってしまったのだ」
一人きりになったと気づいてからの時間、ガッシュは仲間の三人の姿を求めて方々を走り回っていた。
何故か部屋の中にいたはずなのに、いつの間にやら山の中に立っていたのだ。
螺旋界認識転移システムというものの効果はわかっている。
求めたものの場所に飛ぶことができる――そういう便利なものであると。しかし、
「私は山登りがしたいとは思っていなかったはず……。
いや、山登りが嫌いなわけではないのだが、少なくともあまり今はしたいと思っていなかったのだ」
飛ばされる理由はわかっても、ここに飛ばされてきた理由に見当がつかない。
とりあえずカミナ達も同じ場所に飛ばされていないものかと周囲を駆け回ったのだが、収穫はまるで見つからなかった。
あったのは大地が罅割れ、崩落した大きな建物の跡地などのみ。
さしたる収穫も得られず、消沈しながら僅かな望みをかけて最初の場所に戻れば、
「ヌ、放送……もうそんな時間なのか……」
会場全域に届く声で、厳かに螺旋王が前口上を始める。
その余裕の態度に義憤を感じながら、ガッシュはそこで初めて恐い想像に至った。
「ひょっとしたら、カミナやニアの名前が呼ばれることもある……?」
それはあまりにも恐ろしすぎる想像だった。
二人と逸れたのはついさっきのことだ。
それまではずっとクロスミラージュを交えた四人で頑張ろうと、自分達は大グレン団だと認め合ってやってきていた。
船で一人生き残ったことがあってから、それはガッシュの心の底にずっと根付いていたかすかな不安の種だった。
もしもまた一人になってしまうようなことがあれば、どうしようという。
フォルゴレの死も、ヴィクトリームの死も悲しかった。
悲しかったけれど、カミナ達が一緒にいてくれたから、乗り越えることができた。
もしもそのカミナ達の名前が呼ばれてしまえば――自分はどうしてしまうだろう。
不安がるガッシュを余所に、螺旋王は淡々と死者の名前を連ねていく。
そして、その人数が七名――ガッシュの知らぬところで大グレン団の二人や清麿が命を落としたという不安は排除された。
「そうだ、当然なのだ。何を恐がる必要がある。
私も、カミナも、ニアも、クロスミラージュも、清麿も、全員で死なないで再び会う。それは決まっているのだ!」
自らを奮い立たせるように声を上げ、ガッシュは怖気づいた心を鼓舞する。
不安は一掃されている。一人になってしまったことも、足を止める理由にはならない。
「ならば、私のやることは決まっているではないか」
仲間との合流――逸れたのならば、また再会するために歩き出せばいい。
「さしあたって目指すのは……アレにするのだ」
ガッシュの指示語の示す先、そこにあるのは山の上にあってなお見上げるほどに巨大な黒い球体。
まるで、真っ黒い太陽のようなものだ。
「カミナとニアなら、きっと目立つあそこに向かうであろう。うむ、間違いないのだ!」
流石に付き合いももう短くない。
的を射ている結論を出すと、ガッシュは勢いよく短い足で走り出した。
目指す先、走り抜けた先に、捜し求めている仲間がいると信じて――ただ、
「清麿の臭いがしたような気がするけど、見つからなかったのだ」
――転移した場所の背後にある、民家の存在には。
――脳裏に咄嗟に思い浮かんでいたはずの、相棒の存在に気づかずに。
【C-6/民家前/二日目/朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:黒い太陽を目指し、目立ちたがりのカミナ達と合流する。
2:清麿の臭いがしような気がするけど、見つからない。
3:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
5:ジンとドモンを捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
6:東方不敗を警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※大グレン団の所持していた複数のアイテムは、ガッシュの手元にあります。
卸売り場での戦闘から離脱したウルフウッドが求めたのは、まず何よりも休養である。
そのために彼は身近なところにあった図書館を選んだのだ。
荒らされた様子もないそこを根城に、しばしの仮眠を取ろうとした判断は正しいはず。
正直なところ、選んだ避難所は外見も中身も設計者の頭の中身を疑いたくなる代物だったのだが、その無駄な設計思想が幸いして隠れる場所は結構に多い。
頭の中では相変わらず「死ねコール」が絶え間なく続いており、いい加減に慣れてくると意識しなくても無視することができるようになる。人間の体は偉大だ。
カウンターを乗り越えて奥の通路を通り抜け、階段を上がって『更衣室』というプレートのかけられた部屋に乱暴に押し入る。
血止めなどの簡易的な応急処置を済ませ、置いてあった長椅子に陣取ると遠慮なくその場に横たわった。
最初に入った時、館内に誰もいない様子なのは確認済みだ。本に支配された図書城は戦いの喧騒もどこか遠く、静寂に満ちた空間が今の軋む体と心にありがたかった。
「タバコ……タバコ吸いたいわ。あかん、ほんまに頭ボーっとしてきた」
眠るつもりでやってきて、昏睡したら洒落にならんなぁと思いながら、意識が暗闇の中に飲み込まれていく。
まぁ、眠っただけなら危険を察知すれば勝手に体が起きるはずだ。
もしも昏睡したなら、その時に危険人物を送り込むような酷薄な神の御許に殴り込み、偉そうな髭面を粉砕してやる。
(なんや、案外まだまだワイも余裕あるやんか……)
死ねコールは鳴り止まないし、節々は痛むで碌なことがない。
それでも眠りにつくその内心は、どこか穏やかなものを保っていられた。
――のも束の間、ほんの十分程度のことではあるまいか。
「――そうか! 間違いねぇ! そういうことに違いねぇぞ!」
唐突に張り上げられた書架の塔からの大声に、寝入っていた体がびくりと震える。
ぼさぼさに乱れた頭を掻き、寝惚け眼を擦り、懐にいつもの癖で手を入れて、望みのものがそこにないのを確認して、怒りが頂点に達した。
(なんやなんや、どこのイカレポンチやねん。ワイの聖域に断りもなく入り込んで、じたばたじたばた騒ぎ立ておってからに。ドコノクミノモンジャワレスマキニシテシズメタルカコラ)
凄まじい怒気が吹き上がり、無粋な連中に対する殺意へと昇華されていく。
さらには侵入者達は怒るウルフウッドをおちょくるかのように、次々と重いものを地面に叩き落している。
音とこの場所にあったものからして本だろう。しかも一冊とかではなく数十冊単位で次々と。
(その行為にワイをムカつかせる他の何の意味があるんや)
もはや収まりがつかない。急襲し、螺旋塔の馬鹿どもを殲滅する。
サーチ・アンド・デストロイ。サーチ・アンド・デストロイ。
YES、ワイのマスターワイ。ハリー、ハリー、もひとつおまけにハリーやで。
残弾八発に予備マガジン。
件の馬鹿が油断して阿呆面を並べたボケナス共なら、十分にやれるはずの武装であるはずだ。
移動した先に感じる気配は三人。聞こえる声の様子からして、男が三人と女が一人。
あかんやん、計算がいきなり合っとらんやんけ。
この距離で声は聞こえるのに気配は断ってるって、どんな達人君がおるねん。
はい、終了。突撃急襲作戦は未然に防がれました万歳。
声の感じからして三人はガキ。子ども殺すのは胸糞悪いが、正直なところこの場に足を踏み入れてから子どもばっかり殺してて感覚が麻痺してきよる。
まぁ、賢そうな声の奴の気配がどこにも感じられんから、そんな手練れと一戦交えるつもりなんて毛ほども出てこうへんのやけど。
ドッスン、バッタン、ドッスン、バッタン。
皆さんどうぞお好きにどうぞ。効率が悪いので、二組に分かれて左右同時攻略推奨。
頭おかしくなった四人組とかだったらどうしようか。そもそもこの場に安穏と留まるべきかどうかも問題だ。奴らの目的がこの図書館中の本に地べたを舐めさせるという部分にあるのであれば、いずれはこの場所にも「本はどぉこだぁ〜」と現れる可能性がある。
となるとここでイヤンバカン好きにして状態で転がる自分との遭遇は必至なわけで。
>>357から『俺達が愛したタフな日々』です……またやってしまったorz
(なんや一秒たりともこんな場所に長居する必要ないやんか)
結論に至れば動きは早い。枕にしていたデイパックを回収し、ほんの数分だが寝転がるのに利用させてもらった長椅子に触れて別れを惜しむ。
悲しいけれどこれでお別れや。ワイは西から東へ、あてもなくさ迷う流浪のコメディアン。
ああ、行かないで。ここに残って。もっと私の固さを味わって。
そうは言ってくれるんやないで。別れが泣き顔になるんは、趣味やないんや。
手紙書くわ、だから手紙……きっときっと書いてね。
おおきに、任せとき。われも風邪ひかんよう、元気に伸び伸びとやれや。
さようなら、初めて私に寝そべった人。
脳内会話終了。
自分で自分がかなりヤバイ状態になっていることが理解できる。しかし本気で頭駄目な人は自分が駄目なことに気づかないらしい。となればヤバイことになってると理解しているワイはヤバイことにはなっとらんのとちゃうんか?
ガシガシと頭を掻き、結局、自分は何をしなければならなかったのかを思い出す。
えーっと、そもそもここには何をしにきたんだったか。
脳内ウルフウッドさん、お答えをどうぞ。
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
そやったそやった。もうこんだけ言われてるんやから大人しく死のう。
わー、死のう。さようなら人生、ありがとう毎日。ビバ・涅槃。
「んなわけあるかい。と、遂に一人突っ込みの領域やでこれ」
疲労の極致が認識と判断力の齟齬を生み、中途半端な仮眠が眠気を増大させて耳鳴りがする。
右からは耳鳴り、左からは死ねコール。真ん中にいるのはウルフウッド君でーす、いえー。
何しにここへきたんだったか。
そうだ思い出した。
「ワイ、一眠りしにきたんやないか」
ならばまだるっこしいことは忘れて、とっとと寝よう。
目の前にはおあつらえ向きに寝転がれる長椅子があるし、枕代わりのデイパック。
なんや寝る準備万端やないけ、知らんふりして、ネンネのふりしおってなぁ。
あかん、ほんまにもう限界や、寝るで。たとえ一秒後に世界が滅んでも。
あら、いらっしゃい。またきたのね。
阿呆か、初対面やろが。ええからちゃっちゃと体貸せ。
悪態をついて長椅子に横たわり、頭の下にデイパックを置いて準備完了。
ではさようなら現実。目が覚めたらタバコ屋が目の前にありますように。
――ドッスン、バッタン。
はい現実逃避終了。今度こそきりきり戻ってきて、きっちり動かんかい。
あまりの間抜けさにほんま頭が下がるで。呆れました。ぶっちゃけ愛想も尽きました。
愛想も尽きたし正直ネタも尽きました。これ以上は間が持たへん。
さっきまでドタバタ騒がしかったはずの館内が急に静まり返っている。
かといって侵入者が出て行ったようにも感じられず、ウルフウッドは首を傾げて階段を下る。
(ほんま嫌やでこれ。実はワイを誘き出すための陽動作戦とかやったらどないやねん。
ガキが騒いでその間に気配のない奴が上階に潜入。
一人ボケ一人突っ込みに夢中のウルフウッド君、スッパリやられて地獄行き――阿呆か)
ちらと確認した書架の塔の一階はひどい有様だ。
階段上の本棚から次々と投げ出された本がうず高く積まれ、識者達の嘆きを誘う。関係ないけど。
見上げた本棚の一割程度に過ぎないが、綺麗な仕事ぶりにウルフウッドは感嘆。完全に侵入者が病気であることを確信。
もしくは猟奇的なフェチや。本が床の上でだらしなく寝そべっている光景に性的興奮を覚える輩の犯行や。
ギラリと冴え渡る名推理。灰色の脳細胞が唸りを上げて、とっとと眠れと直訴している。
いやワイもそうしたいのは山々やねんけど、おちおち居眠りもできひんのやここ。
脳内助手に適当に応じて、関係者通路の最奥を目指す。
侵入者達の気配はどうやらその部屋の中らしい。
不思議なことに四人もいて話し声の一つも聞こえないのだが、まさかあられもない本の姿にうっとりしているのだろうか。想像しただけでげんなりやでほんま。
「あー、こういうことかこういうことか。なんや、変なフェチ入ってるんやないか疑って悪かったわ。
むしろものごっつい賢いやんか。ワイ、なんやかなりの阿呆やん」
部屋の様子を入り口から窺い、室内に誰も見当たらないのと、最奥に漆黒の扉が存在感を主張しているのを見て納得する。
扉は位置からして、一つだけ存在感を主張する移動したと思しき書棚の裏。
つまり侵入者は性癖ではなく、本棚の裏の扉を求めて次々と書架を陵辱していったわけである。丸。
「ほんならわざわざ隠してあるぐらいや。中にあるんは何なんやろなぁ」
まさか貸し出し禁止の貴重な本、なんてオチは待っていないだろう。
鉄の扉の厳重さからいって、中に封印されているのはそれなりの代物。
「ひょっとして武器庫かなにか? いやいや、タバコ屋という線も捨てきれんで」
小声で益体もない戯言を漏らしながら、ウルフウッドは装弾された銃を握る。
姿勢は低く、扉の陰に身を潜め、中の連中に見つからないように内側を覗き、
――期待がどっちも完璧に裏切られたことを知る。
(なんやプラントの工場みたいなもんやんけ。似ても焼いても食えるもんちゃうで)
落胆も露に額に手を当てるウルフウッドの気持ちも知らず、中にいる少年達はがやがやと嬉しげに手を叩きあっている。
というかなんやねんそのアットホームな感じは。
ここが今、何をする場所でどんだけ人が死んでるのかわかってるっちゅーんか。
人死にがわんさか出て、それでも笑える心が残っとるなんてトンガリみたいな連中やんけ。
うわぁ、そう考えれば考えるほどに腹立ってきた。
殺したろかな。隙だらけやんか、あいつら。
あの水色の髪の嬢ちゃんなんか、多分、自分が死んだかどうかわからんぐらいアッサリいけるで。
三人合わせてものの数秒――あかんて、だから声が四人分聞こえるねんて。
というかこの場においてもまだ四人目の声が聞こえて姿が見えないってどないなことやねん。
透明か。透明人間なんか。あかん、透明人間を倒すのはワイには無理や。
だって透明人間は血も透明やから死んだかどうかが確認できんもん。透明人間はごっついキツイわ〜。
あ、でもアレやな。透明人間もずっと裸でおるんは寒くて無理やろうから、夜になって寒なってきたら服を置いといたらどうやろ。
そんでもって透明人間がまんまと服に袖を通して、服だけが浮いてるのを確認すればばっちり殺せるやんけ。
あ、ダメや。透明人間が子どもやったら、ちょっと子供服は用意できへんからな。
参った。これさえなけりゃ完璧な作戦やったのに。
ウルフウッドが脳内で対透明人間戦のシミュレーションを余念なく行っていた時だ。
室内で騒いでいた面々に、新たな変化の兆しが訪れたのは。
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
妙に無機質な声が聞こえたと思った瞬間、部屋の中から白光が溢れ出しウルフウッドの目を焼いた。
一瞬、視界が奪われる不徳に全身が臨戦態勢を取って身構えるが、攻撃はない。
何度かの瞬きで視界を取り戻したウルフウッドは、先ほどまで目の前にいたはずのガキ連中が見当たらないことに気づき、
「なんや最近のガキは逃げ足速いんやな。こんだけ速けりゃ世界が狙えるで世界が。何の世界かは知らんけど」
呟きながら室内に入り込み、目新しいものはないかと物色する。
プラントよりさらに小難しそうな機械が群れているだけで収穫なし。
「螺旋界認識転移システム……やったか?」
先ほどのガキ共の交わしていた内容が正しければ、求めるもののある場所へ一瞬で飛ばしてくれる装置らしい。
それを利用してガキ共は会場の中をメルヘンヤッホー感動のご対面スペシャルしているわけだ。
あるいは背後のウルフウッドに気づき、慌てて逃げ出したのかもしれない。
まあどちらにせよ何たる便利機能、完璧にゴチになります。
確か青髪の刺青青年がごちゃごちゃ押したのがこの赤いスイッチやったはず。
ほな、ポチッといきまーす。
「あー、そやな。とりあえずあれや、パニッシャーんとこに飛ばしてくれんかな」
『――螺旋力が確認できません』
いやそんな一見さんはお断りですーみたいな感じでこられても困る話やから。
なんや客を選ぶんかい。お客様は神様ですー言うやん、ちゃうんかい。
「そんなつれんこと言わんと、ワイのパニッシャー返したってくれや」
『――螺旋力が確認できません』
「なんちゅー頑固さ。こうなりゃワイもそっちがYESと首を縦に振るまで、断固として同じ要求を繰り返す。我々は暴力には屈さへんで」
――パニッシャー。
――螺旋力が確認できません。
――パニッシャー。
――螺旋力が確認できません。
――あかん、もう飽きた。
「そもそも螺旋力ってなんやねん。なんや、グルグル回ります的な力のことかい。
ほんならこれでどないやねん。ワイは死ぬ前は血塗れの人生を撃ったり撃たれたりしながらぐるぐる回ってきました。
でもって最終的にそこで死んで、死んだと思いきやこのゲームや。生きてても死んでても殺し殺し殺しの螺旋。どや、これは螺旋力にならんか?」
『――螺旋力が確認できません』
「なんやシビアやねんな。ほんならこれはどないや? 実は結構前から頭の中でずーっと誰かが『死ね死ね死ね死ね』繰り返しとんねん。
ちょっと気の弱い奴やったら自殺に追い込まれそうな負の連鎖。
右から左へ流れるように、ぐるぐる終わらないこの死ねコール。これは螺旋力にならんのか?」
『――螺旋力が確認できません』
あまりの頑なさに完全にお手上げ、白旗状態。
意地の張りすぎはよくない。負けるが勝ち、引くのが大人。
「あれか? アレなんか? なんや思いの力が足りませんよー的な?
本当にあなたが欲しいと思っているものはそんなものではありませんよー的な?」
誰にともなく虚空に呼びかけ、それからウルフウッドは仕方ないと舌打ちして、
「そやねん。ほんまはな、ワイは今はパニッシャーなんて欲しないねん。
ほんまのほんま、ここだけの話、ワイが欲しいんわな……タバコやねん。どないやこの本音」
『――螺旋力が確認できません』
「どーいうこっちゃねん!」
けたけた笑う。自分の道化ぶりが自分でおかしく、しかも板についてきた気がする。
今後はコメディアンやのーて、ピエロで売っていったろか。
いやそもそも、ワイってコメディアンやったことあったっけ?
「こりゃ傑作やないか! わっは、わっはっはっはっは! わっは……げほっ、がほっ、わはっはっは!」
肩を大いに震わせ、口を大いに開けて、顔を大いにくしゃくしゃにし、咳き込みながら大声を上げて大いに笑う。
そうして一頻り笑いの衝動が収まったところで、ウルフウッドは黙り込んだ。
沈黙し、赤いスイッチの手前の椅子に腰掛ける。
それからボーっと装置を眺め、何気なくその赤いボタンにもう一度触れた。
「――ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。
ワイが、もう一度会いたいんわ。ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。これでどないや」
応答までの無言はこれまでで最も長かったような気がする。
だからひょっとしたらと、期待させられてしまった。
運命を定める神はウルフウッドを嫌っていて、そんなこと承知だったというのに。
『――螺旋力が確認できません』
無機質な声に「は」と最初に乾いた音が漏れ、後に投げ遣りな笑声が続いた。
まぁ、無理だろうと思っていた。トンガリが死んだのは知っているわけだし。
そもそも実際のところ、これで飛ばされていたとして自分は何がしたかったのか。
――千切れた首か、残った胴体。どっちかのところに飛び出すわけや。
そんなもん目の前にしても正味、ワイが出来んのは十字切る程度のもんやで。
ああ、でも、それも良かったかもしれない。
胴体はともかく首のところに出れば、あの小憎たらしい嬢ちゃんに会えたかもしれない。
そうしたらよっぽど苦しめ抜いて殺してやって、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの弔い合戦もできたかもしれないのに。
「弔いとか、阿呆やんなぁ、ワイ。そんなこと別に考えてへんねんで」
『――螺旋力が確認できません』
「なんやねん、その返答。それじゃまるでワイが、まだトンガリに会いたがってるみたいやんけ」
『――螺旋力が確認できません』
「ちょっとぉ、勘弁したってぇな。死ぬ前は散々突き放してたくせに、いざ死んでもうたら実はもっと一緒にいたかったんですぅなんてやっすい芝居でも流行らんぞ」
『――螺旋力が確認できません』
「困ったわ。これもう人格攻撃の域やで、ほんま。
われがその言葉を言うたんびに、ワイの中の高潔なウルフウッド像的なもんが削り取られていくんや。訴訟問題起こしたら、これちょっと完全にワイが勝訴やで」
『――螺旋力が確認できません』
「やめえ、ゆうとるやないかぁ――ッ!」
機械の計器を怒りのままに思い切り蹴りつけ、ウルフウッドは吠える。
頑強な造りの機器には何の影響もなく、ウルフウッドの爪先が痛くなっただけの結果だ。
おまけに一向に、声は鳴り止まない――。
『――螺旋力が確認できません』
「そうか。そんなにまで、ワイが間違ってるいうんか」
『――螺旋力が確認できません』
「違うで、トンガリ。これはな、ちゃうんや。ワイはな、あくまでタバコが欲しいだけやねん。
だからこうして、プライドも捨てて何度も何度も頼み込めるわけや。タバコはワイの命の糧。
流石に何事も命とは引き換えにできんからなぁ」
『――螺旋力が確認できません』
「われが死んで悲しいなんて、これっぽっちも思っとらんのや。だって、そやろ?
ワシらの関係ってのはいつ死ぬかもわからんような戦場で、互いに憎まれ口叩いて、
ヘマしてるの見たら腹抱えて笑って、そんな関係やったやんな?
せやからわれが死んだら笑うのが筋で、これで寂しがるなんてのはワシらと違うんや」
『――螺旋力が確認できません』
「だからな、違てるんや。違てるんやで。トンガリ、ワイはお前が死んだことなんかちっとも悲しないで。
なんや死んだワイと会ってわれはずいぶん喜んどったけど、ワイは正直サブイモもんや。
二十歳越えた大人が……っていうかわれの場合はそういう規模やないやんけ」
『――螺旋力が確認できません』
「確かにな、なんやかんやで楽しい日々やったのは事実やで。われと背中合わせで戦った日々は悪ぅなかった。
けどな、戻る言うたわれの手をワイは振り払ったやんか。友達やー言うて出てきたわれを見捨てたやんか。な?
ワイのどこに、われの死を悲しむ理由がある?」
『――螺旋力が確認できません』
「せやから、タバコや。ほんまに早う、タバコのとこに飛ばしたってくれ」
『――螺旋力が確認できません』
「ワイがこれでタバコのとこに飛んでいけるなら――」
『――螺旋力が確認できません』
――ワイはトンガリが死んだことなんか悲しないって、開き直れるんや。
繰り返し繰り返し、その問答は続けられる。
笑い混じりの涙声と、無機質な言葉の繰り返しのやり取りが。
会場の全域に響き渡る放送も、完全に意識の外側に置いたままウルフウッドは呟く。
機械によって構築された室内で――自分に何もしてくれない部屋の片隅で。
『――螺旋力が確認できません』
【B-4/螺旋界認識転移装置室/2日目/朝】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味 寝不足による思考の混乱
軽いイライラ、聖杯の泥
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。(@絶対に死なないA外道の道をあえて進む)
0:ワイはトンガリのことなんてどうでもいい。タバコが欲しいだけなんや。
1:とにかく休憩したい。図書館は誰もいないから、丁度いいはず。
2:売られた喧嘩は買うが、自分の生存を最優先。他者は適当に利用して適当に裏切る。
3:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
4:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
5:ヴァッシュに対して深い■■■
6:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しましたが、未覚醒のため使用できません。
※五回目の放送を聞き逃しました。
破壊されし夢の跡で、どれほどの時間を無為に費やしたものか――。
螺旋王四天王が一人、怒涛のチミルフは血を吐くような激情に区切りをつけ、立ち上がった。
もはやどれほど嘆き叫ぼうとも、失われた『夢』は戻ってこない。
それを理解していながら立ち上がる意思を幾度も挫かれたのは、ただただ未練が誇り高き獣人の背を掴んで放さなかったためだ。
それもそのはず――。
螺旋王に賜って以来、数々の武勇を打ち立ててきた紅蓮の威容。
――その最期が斯様な残骸と化して終えるなどと、誰に想像できたというのか。
胸中に込み上げる感情は無念と悔恨の二重螺旋。
かの雄雄しき巨神の喪失は、ただ戦力を削られたという意味合いだけに留まらない。
ダイガンザンは螺旋王の手で、四天王一人一人に与えられた信頼の証。
身を粉にして獣人の世のためにと戦い、勝利してきた日々。
それを王の手ずから認められた血塗れの結晶――。
――流麗のアディーネに与えられしダイガンカイ。
大海原を優雅に進み、何より彼の女傑の気性を受け継いだように獰猛な青き世界の覇者。
――不動のグアームに与えられしダイガンド。
大地にその巨躯を置き、如何な障害を前にも一歩も引かぬ王都防衛の堅牢な要塞。
――神速のシトマンドラに与えられしダイガンテン。
見上げることのみが許された天空を統べ、螺旋王の手が陸海空の全てに及ぶことを体現した蒼穹の審判者。
――そして怒涛にチミルフに与えられしダイガンザン。
人類掃討の御旗として、最前線に立ち続けるチミルフと常に共にあった旗艦。
数多の獣人がその強大な力を前に羨望と憧憬を抱き、勝利の象徴として邁進し続ける姿に誉れ高さを心に刻んだ。
言わばダイガンザンは獣人がニンゲンの上位存在であることの証明。
チミルフ自らもまた信じてやまない獣人達のアイデンティティ――存在の証明だったのだ。
それが眼前で、見るも無残に打ち砕かれ、大敗の汚辱に甘んじる光景はどうだ。
「あまりにも……そう、あまりにも滑稽ではないか」
それは朽ち果てたダイガンザンに対する言葉でもあり、大手を振るって戦乱に参戦した自身を顧みての言葉でもあった。
王の御心に反旗を翻し、ニンゲンの抹殺を誓って箱庭への参戦の許しを得た。
使い慣れた大槌の威力でもって殲滅――自分達の存在価値を揺るがす下等種族を根絶やしに。
その意思を持って降り立った戦場、そこで最初に出会ったのが別世界で自身の部下であったという曰くつきの獣人。
そして彼の獣人に寄り添う、その心中の見定めのつかぬ人とも獣とも違う女。
直後に現れた老人との死闘。凄まじい技量を持つ武人との戦闘に心は躍ったが、何もかもが中途の結果で最初の交戦は幕を下ろした。
建物の崩壊に巻き込まれ、女と老体は死んだだろうか。
――否。少なくともあの老人に限っては満身創痍に近い身体で尚、永らえただろう確信がある。
それは実際に牙を交えたことによる獣の嗅覚、野生の直感からくる確信。
彼の老体は安息の中での穏やかな死より、血湧き肉踊る戦いの中で朽ち果てるのを望む同類。
なれば小競り合い程度の死合に果てる道理はなく、また別の戦場で己と敵の血を流すはず。
一方で、ヴィラルと共にいた女の生死は不明。
一見したところ、外傷はほとんど見当たらなかった。
それが常ならず傍らにいたヴィラルの功績か、女自身の持つ回復能力の力かは別としてだ。
支援
問題は消防署を崩壊に導いた爆風の衝撃に細身が耐えたかられたかどうか。
あるいは崩落によって華奢な矮躯は瓦礫に押し潰されたやもしれぬ。
いずれにせよ、僅かばかりでも後味の悪さがあったのは事実だ。
シャマルの生死はチミルフの価値観からすれば些事にあたる。
憎むべきニンゲンでないにせよ、獣人でないという時点で向けるべき感情は欠片も湧かない。
だがしかし、その存在は獣人――いや、獣人の身体から改造されたヴィラルの心を占有していたほどのものだ。
時と場所が違えば愛すべき部下であったかもしれぬ男。
事実上は何の縁もないとはいえ、仮にも上司を騙った身で部下を裏切ったことになる。
さらにはニンゲンと獣人の狭間にあったヴィラルの心根、その見極めの機会をも失ったに近しい状況。
血風の吹き荒ぶ遊戯に興じれば、次に箱庭を埋め尽くしたるは漆黒の球体。
黒陽の出現に意気を上げ、与えられし力の全てを揮わんと盲目的にダイガンザンを起動。
直後の破滅はニンゲンを敵と認めるなどと口にしていながら、全力を払うに値せぬと心のどこかで思っていたが故の慢心。
この戦場に舞い降りた怒涛のチミルフの功績は、部下であったかもしれぬ男を謀り、
人質とした女を見殺しにし、満身創痍の老体をも仕留め損ない、
王より賜りし至高の力を惜し気もなく展開し、その力の上に胡坐を掻いた結果として全てを失う失態の積み重ね。
――それがこの戦場でチミルフの起こした行動の全て。
「……獣人達の夢の城を無残にも破壊され」
「……王より与えられた臣下としての名誉も、献身を捧げた日々も無為になり」
「……己と部下に課した約束もまた、泡沫の彼方へと消え去った」
握る大槌の柄が震え、噛み締めた口の端から一筋の血が伝う。
巨体は屈辱とそれを上回る自身への不甲斐なさに力を失い、天を仰ぐ双眸に輝きはない。
「ニンゲンとは……なんだ……ッ! 獣人とは……なんだ……っ!! 俺がこの場で掴み取ったことなど……何があるというのだ……っ!?」
得たものは何もなく、元より手にしていた多くのものを取り落とし、欲しがる答えに辿り着く糸口さえも見つかっていない。
ヴィラルとの約束の時は近い――ニンゲンの首を持ってこいと命じたのと同じ口で、恨み言と負け惜しみばかりを紡いでいる我が身。
誇り高き獣人としての矜持を穢す。造物主たる螺旋王の勅命を果たすことができぬ。
――それを理由にヴィラルを処罰せんとするならば、断罪されるべきはむしろ自分だ。
汚辱を死によってしか雪げぬというのなら、今の自分にこそそれは相応しい。
そう、死ぬことでしか償えぬというならば。
「ならばこの『怒涛のチミルフ』は死によって、この屈辱と決別する……ッ!」
武功を積み上げた日々、螺旋王四天王として『怒涛』の二つ名を授かった日々。
部下から向けられた羨望と信頼、その部下に注いだ惜しみない親愛。
肩を並べた戦友達――導かねばならぬものも、一目を置いたものも、性別を超えた絆に結ばれたものもいた。
そして造物主たる螺旋王に従い、忠誠を誓った誇り高き日々――。
――螺旋王四天王が一人、『怒涛のチミルフ』
――その強すぎるほどの同胞と造物主、自らの種族への愛。
――全ての想いを自らの行動で裏切った男は、自らの手で愚かな生に幕を下ろす。
「さらばだ……過ぎ去りし我が栄光の輝きよ……ッ!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――アルカイドグレイヴ!!!」
雄叫びに呼応し、白銀の巨体がその手に握る神槍を鋼に突き立てる。
穿たれた槍の穂先より放出されるのは、如何な装甲も薄紙のように切り裂く灼熱のビーム刃。
それが紅の船体を貫通、溶解、上半身を模した機体を袈裟切りにして崩壊させ、
すでに大地に横たわっていた紅蓮の巨神を粉砕し、さらなる瓦解の道筋へ誘う。
風の精霊の名を冠したパイロット、そして白銀の機体の全機能の発現。
宙を舞う巨体が連撃によって、残骸と化した要塞にさらなる破壊を刻んでいく。
もはやそれが獣人の羨望を一身に集めた『夢』の具現であった事実を消滅させるように。
宛がわれただけの力に溺れ、全ての獣人の誇りに泥を塗った己の醜態と決別するように。
最後の一撃は奇跡的に原形を留めていた艦橋、その中心を真上から一直線に貫いた。
粒子の炸裂によって艦橋内の全てが発火――遂には爆炎でもって、踏み躙られし紅蓮の栄光に終止符を穿つ。
その大気を焼く暁の世界に雄雄しく立ち尽くす――二つの顔を持つ白き力の象徴。
手には無双の神槍を――。
内には一騎当千の武人を――。
そしてその身は無類の強化に与った強靭な超鋼――!
哮り狂う西の守護者、風の猛虎の名を冠したカスタムガンメン――ビャコウ。
その操縦席にて腕を組むチミルフは、ただ無言。
その目は破片一つもまともに残さず消滅していくかつての城を前に、決して背けることなく光景を心に焼き付けていた。
屈辱を、敗北を、油断と慢心――そして臓腑に煮え滾るこの歓喜を忘れ得ぬために。
「これで何もかもが終わりだ……ダイガンザンも、そしてそれを賜った『怒涛』のチミルフも!」
震える両の腕を胸の前で交差し、肩当てに触れて我が身を抱き締めるように、不甲斐ない己の身を憎悪のままに押し潰してしまうように叫ぶ。
「今より俺はただのチミルフだ……!
四天王などともてはやされ、己が器を忘れて愉悦に浸る心など必要ない……!」
かつてのチミルフは何も持たぬ一介の獣人であった。
怒涛のチミルフの名の下に集った戦士達、その一人一人の立場と何一つ変わらぬ一兵卒。
獣人と呼ばれる種族に生を受け、地下暮らしのニンゲン共を支配する使命感と王への忠誠心。
生まれ持った強靭な肉体以外、彼の持っていたものはそれだけだった。
「それが武功を立て、慕ってくれる部下を持ち、
名誉を積み重ねる内に虚栄心を肥え太らせた……何たる未熟! 何たる情けなさよ!」
今のチミルフの自戒の言葉を聞けば、彼をよく知る女傑は真っ先にそれを否定したろう。
元よりこの獣人は己を顧みない男だ。立場に執着したことなどなく、権力を笠に理不尽な命を部下に強いたこともない。
戦いとあらば自ら最前線へ赴き、戦列に轡を並べた同胞達に率先して敵を打ち倒す。
積み重ねられた武功と信頼に見合うだけの人柄、部下や戦友、王までも彼を認めたのはその弛まぬ意志があってのこと。
だが周囲の評価など、それこそ彼の男には何の意味も持たない。
彼にとって重要なのは己が信念と覚悟、何より王の意思に従って結果を出し続けること。
結果は自らの虚栄心を満たすためではなく、全ては我が種族全体の繁栄のために。
輩のために捧げ続ける一死一生。唯一、それを果たすためだけの全身全霊の祈り。
「そのためには四天王の座も、『怒涛』の二つ名も、縋り付く過去の栄光も惜しくはない!」
支援
――それが只のチミルフが生涯かけて、己に課した歪まぬ信念。
「見るがいい、王よ! これが獣人の正道だ! 俺の生きる道筋だ! ただ一介の獣人の、血と泥と屈辱に塗れた戦いの覚悟だ!」
滑稽な道化の戯言と、すでに王は見放しているかもしれぬ。
哀れな敗残者の遠吠えよと、立場を同じくした男達の嘲笑の的かもしれぬ。
確かな友情を誓った戦友の成れの果てと、唯一無二の彼女は嘆いているかもしれぬ。
だがもはや立ち止まれぬ。
後戻りする道はなく、確かにあった絆は自ら断ち切った。
絆が、愛が、進む足取りを重くするというのならば、今の自分には必要ない。
「――ただ、誇りだけがあればいい。それだけがあれば、俺は俺の生を誇れる」
ならば、征くとしよう。
この箱庭の戦争において、ただ一介の獣人の背にかかる責任はあまりにも重い。
それは獣人という種族全ての存在価値。獣人はニンゲンに勝るのか、劣るのか。
下等と侮ってきた劣等種族が、獣人の上に立つという世界を否定するための戦い――。
「だがこの身体の、この心の、何と軽きことよ――」
取り繕うべき上辺を脱ぎ捨てたその矮小な価値の、何たる軽さか。
名誉も信望もかなぐり捨て、今、チミルフは一介の武人の心を取り戻した。
――それがこの上なく、心地良い解放感を伴う。
「そうだ……元より俺は戦うことしか能がない。戦うことでしか己の存在価値を証明できない。
戦うことでしか生を実感できない。戦わなければ生きてはいけない――そういう生き物だった」
そう理解したというならば、己の生き甲斐を、全生命を賭してできることを果たすがいい。
見せつけられた脅威に怯え、ただただ被った衝撃に慄くだけなどまさしく獣人に相対したニンゲンの姿。
獣人は違う。チミルフの信じる獣人に、斯様な弱さは許されない。
脳は全て戦いのために巡り、勝利することのみを貪欲に求める器官であればいい。
剛力は全て敵を叩き潰すためにあり、巨躯は弱者を震え上がらせるためのものであればいい。
心の虚栄心は掻き消し、ただひたすらに目的を貫き通す覚悟だけが据えられればいい。
胆が据われば胸を張り、憤怒の余熱は血の沸騰に変遷する。
瞑目する巨体の獣人の脳裏では、すでに次なる戦いのための綿密な戦議が始まっていた。
「先の紅の螺旋……まさしく破壊の象徴よ。ダイガンザンを一撃の下に葬る威力。恐るべきはそれがあの黒陽から発射されたものではないということか」
ビャコウの跳躍によって咄嗟に暴波から逃れたチミルフだが、
その威力の前に戦慄し、崩壊していく移動要塞に目を奪われていたわけではない。
砕け散るダイガンザンを目の端に捉えながら、
暴悪の衝撃に激しく心を揺さぶられながら、それでも戦いの本能は敵の姿を捜していた。
最初に光を放った病院よりさらに西――破壊の始まりはそこからだった。
モノレールの線路を掻き消し、病院を塵芥に変え、
ダイガンザンを葬った螺旋は世界の境界線に触れ、箱庭の反対側から再び顔を覗かせる。
海を、大気を消滅させる暴虐の前に石造りの灯台など障害の名目すら果たせず木っ端微塵。
――そして出発点に破壊が舞い戻った時、再び鮮やかに世界が紅で染まったのだ。
支援
その爆発の確認を最後に、チミルフの意識は崩壊せしダイガンザンへと向く。
その後の醜態は語るまでもなく、女々しい未練がましさと決別するのに要した時間はどれほどのものだったか。
気づけば東の空からは黒陽と対極の真の極光が昇っている。
朝焼けに瞼を焼かれながら、その輝きも、眼球に沁みるような痛みも妙に心地いい。
――暁は目覚めを、戦いの始まりを告げる鐘だ。
深遠の闇の中で戦うことを許されない身体が、血の渇望を光の中に求めるが故の。
瞬き一つで戦意を新たに思考を切り替える。
忘我の間に起きた出来事もまた、見過ごすわけにはいかないものばかり。
墜ちた黒陽を映した目を細め、球体を三日月に削った一撃にチミルフは思いを馳せる。
あるいはその一撃も、紅の暴威の結果ではあるまいか。
世界を塗り替える破光が箱庭を一周した際に起きた一際強い爆発を、チミルフは相殺と捉えている。
かの一撃を放ったものの下に破滅が回帰し、それを打ち払うために同じだけの破滅を必要とした。
故の煌き――あの滅亡の渦中にいたものが、相殺したとはいえ無事にいるとは考え難いが。
「死んだとすれば、次は黒陽を落とせしものの推測と矛盾するか」
そもダイガンザンを起動せしめたのは、あの漆黒の太陽と対抗するためのこと。
出現した瞬間の敵機体が万全だったことは、この双眸に懸けて疑いようのない事実。
つまりダイガンザンも、強大な黒き太陽も、運命を同じく紅の螺旋に引き裂かれたことになる。
さらにこの二つの目が恐怖のあまり夢を見ていたのでないとすれば、
先の赤き制裁はガンメンやそれに類する兵器の力によるものではない。
ただ一握の存在――チミルフの巨体に比すれば矮躯と表現する他にない、そのニンゲンが揮った力だというのだ。
――これが笑い話でなければ、何になるというのだろうか。
「俺はここにくる以前に、ガンメンと対等に渡り合う”ニンゲン”に出会っていた。
にも関わらずありえないなどと、その発言こそがありえん」
少なくとも数多ある世界の中で、ガンメンに対抗し得る単体があることを自分は知っていた。
そしてこの会場内にいる参加者が、その単体と同等かそれ以上のものと螺旋王に目されて召集されたことも。
だとすれば黒の太陽もダイガンザンも、その力量をもって落とせる存在がいて不思議はない。
これまでの自分の考えはニンゲンを下等と侮ることで、その力に目をつけた螺旋王の眼力すら嘲っていたことになる。
ニンゲンは断じて下等種族ではない。
ただ獣人が、そのニンゲンと比較して尚、上等な種族なだけである。
チミルフが証明しなければならないのはその一点、そのために必要なのは意識の改革だ。
与えられた敗北感と、この六時間の間に経験した全ての情報から先入観を修正する。
ヴィラルとシャマルを抜きにしても、この会場の中にはまだおよそ三十人近い参加者が残っているのだ。
その中の一人、武人としての格を備えた老体との戦いを思い出す。
満身創痍の身ながら一切の遅れを取らぬ鋼の精神力――流石は螺旋王が選んだ適応者なだけのことはある。
最低限、あの老人クラスが二十人以上いることを想定すべきだ。
そしてその頂点には先の紅の螺旋の持ち主がいる。
あの破壊に再び相対することを思えば、知らずチミルフは身体が震えるのを隠せない。
恐怖――ではなく、より鮮烈な戦いに挑める歓喜の武者震いを。
強者に挑めるのは武人としての本懐、相手が強大であることを喜びこそすれ、嘆き慄くなど軟弱者のすることだ。
満を持して放たれた螺旋の暴威――なればあれこそが彼の参加者の渾身の一撃。
その破壊力は直撃されたものの身体を滅するだけに留まらず、その破滅を目撃していたものの心を折るほどの圧倒的さを誇る。
「だからこそ……あれを破れば、俺の勝利だ」
地金はすでに晒されている。
威力、範囲ともに驚異的な一撃ではあるが、それ故に生じる躊躇いがあろう。
相殺の経緯を見れば、あの転移現象が使用者の想定の埒外であったことは容易に想像できる。
またあれほどの攻撃が、このゲームの中で繰り返し使用されたはずもない。
今でこそ半壊状態にまで陥ったこの戦場だが、あの螺旋は揮われるまで曲りなりにも健在であった。
そこから導き出される結論は――、
「回数制限。あるいは威力を制御できていない。
もしくは……他の参加者を巻き込みたくない……とでもいう気か?」
前者はともかく、後者は想定する必要があるだろうか。
ヴィラルとシャマルの関係のように、この会場内で巡り合い、互いの利害によって同盟を結ぶ輩がいるのはわかる。
ニンゲンとは群れる生き物だ。種族として大多数のものが貧弱な肉体を持つ以上、小さきものが群れるのは当然のこと。
シャマルのように弱い存在もいる中では、そういったものが徒党を組む可能性も十分にある。
「だがあの破壊の具現者が、そういったものを庇護するような存在か……?」
力の性質だけで他者を推し量ることなどできはしないが、この想像に限れば正解な気がする。
何より問答無用でダイガンザンを打ち砕いたその手並み。
――まさか起動したのがチミルフであったと見抜いてのことではあるまい。
断言する。彼の存在は騎乗者が誰であろうと、同じ暴威で紅蓮の要塞を落としたと。
そこから想像できる相手の輪郭は――、
「唯我独尊。己が力量に絶対の自信を持ち、己が信念の覇道に一切の疑念を持たぬ。慈悲も情愛も我欲に比すれば無為そのもの。
他者と共に行動することがあるとすれば、自身の目的に利用するため……まるで独裁者の有様だな」
力のみを追い求めるか。決して譲れぬ信念を律するか。
いずれにせよ、強者は個が強すぎるのが必定。
非凡な強さを持つものは、非凡な精神構造でなければ耐えられない。
まだ見ぬ孤高の覇道を唱える存在に苦笑しつつ、しかしチミルフの戦意は熱を上げ続ける。
過ぎた力は、強さは、自信は、戦いの中で全て鎖となりえる。
数刻前のチミルフが己に与えられた強力な力に溺れたように、強さに自負のあるものほど戦いには隙が生じ易い。
それは本来、弱者からは隙とすら見破れないような僅かな綻びでしかない。
その綻びを突くことこそが、今のチミルフが持てる最大にして一縷の勝機。
――ダイガンザンの死は無駄ではない。
愚かな『怒涛のチミルフ』が死に、一介の武人たる獣人チミルフを戦場に呼び戻した。
さらには敵対する参加者が持つ、最大級の攻撃の実態を肌で感じ取ることができた。
もしも彼の存在に『怒涛のチミルフ』が一見の前に遭遇していたとすれば、為す術もなくあの滅びの前に大敗を喫したことだろう。
だがそのIFはない。規模も威力も知れた技など、恐るるに足らぬ。
技があると知れたならば、出させないか出せない状況を作り出せばいいだけのこと。
こちらがダイガンザンを失ったことと、敵の最大戦力が割れたことの痛手は拮抗している。
「……五分と五分だぞ、ニンゲン」
吠声は決して虚勢ではない。
戦いの中で最大級の力を最初に見せつけること、それの持つ意味をチミルフは知っている。
圧倒的な力でもって敵を殲滅、士気をへし折るというのは自身も人類掃討の折に幾度となく実行した手だ。
それを意趣返しの如くニンゲンにやられたわけだが、だからこそその狙いと弱点がわかっている。
「会場内の多くのニンゲンの心は折れたかもしれん……だがな! だがな、ニンゲン……ッ!
俺はまだだ! 俺の心は……獣人の牙は、容易く折れぬものと知れ!!」
仰ぎ見た天にまだ見ぬ夢の仇を幻視し、チミルフは正義でもなく悪でもなく、ただ高らかに己の存在を咆哮した。
――ここに螺旋王が率いし獣人達の、その栄光の歴史の話をしよう。
かの王はかつて螺旋族の末席にその身を置き、宇宙をスパイラルネメシスの脅威より救済せんと目論むアンチ=スパイラルと戦う戦士であった。
しかし王の連なる螺旋族は他の螺旋の民が同じであったように、宇宙救済の大義名分を掲げる敵に対し敗れ去ることになる。
意思を挫かれるということは即ち、螺旋力の源を失うことに等しい。
生き残った王は螺旋力の大半を、目的のない永きに亘る怠惰の中で喪失した。
友を、家族を、愛する人を、争いの中で喪った王には再び剣を手に取る意思などない。
それでも大地を、空を、宇宙を求めるのが人の性。
人は暗闇の中では生きられない。光を、大気を、自然を彩る色を――人は求め続けた。
アンチ=スパイラルとの決戦でその数を減少させた人間は、それでも再び繁栄を目指す。
その意思はアンチ=スパイラルにとって忌まわしきものであり、敗北者からすれば歴史を掘り起こす蛮行に他ならない。
人類の進化に、歯止めをかける必要があった。
かくして王は獣人という人の亜種を創造することを決意する。
――彼らを率いて地上を征圧し、人類に地下生活を強いることで一定数以上に数を増やさせぬように努めた。
その生命すら誕生させる膨大な螺旋力を理性で覆い隠すために、感情のほとんどを抑圧することを自身に任じてだ。
その統治が数百年にも上れば、地上の存在すら知らない無知な人間ばかりが増えた。
中には地上の覇権を求めて反旗を翻した輩もいたが、対するのはかつて世界どころか宇宙の命運を懸けて戦った男の部下たる獣人。
技術力、戦力その他の差は計り知れず、獣人側が人間に遅れを取る機会などあるはずもない。
惜し気もなく与えられる起動兵器ガンメンの力の前に、人間はひれ伏す他になかった。
――獣人の歴史はまさしく、ただ勝利だけを与えられ続けてきた歴史なのだ。
だからこそ、その数百年はひたすらに停滞だけが支配した世界だったといわざるをえない。
獣人達の目的は種の繁栄ではなく、王の命に従って地上を支配し続けること。
そのために必要なものは全て揃っている。
それ以上を望むことなど、下等なニンゲン相手に過ぎた警戒、臆病な心の表れと揶揄された。
――前進は種族の力を高めるのと同時に、獣人のプライドを傷付けかねない諸刃の刃であったのだ。
これまで必要なかったのだから、これからも必要とはなり得ない。
もしも今以上を戦いに要するのであれば、それは下等種族の力が増したことを、もしくは獣人の種族の力が衰えたことを意味する。
故に彼らは種族の本能からして停滞を望んだ。
ただその場に留まり続けることを。前進も、後退も、その長き生の中で価値を見出さず。
定められた必然的な勝利の上にのみ、自分達の存在価値を信じることで。
――その数百年に及んだ本能の約定が今、根底から覆されている。
ニンゲン相手に敗北するなど、許されないという次元の話ではないのだ。
許されないのではなく、あり得ない。あってはならない。負ける方がむしろ難しい。
獣人達の間では話題に上ることすらない、妄言乱心の類の夢想――その屈辱にあろうことか、四天王が甘んじたのだ。
立場に未練を抱いていたかつてのチミルフは、その敗北の上辺の意味しか捉えなかった。
たとえ相手が何者であろうと、叩き潰すそれのみだ――口当たりのいい言葉で敗北感を紛らし、武勇に相応しい外面を取り繕った愚かな自分。
その慢心が機動六課との戦いに次いで、ここでの二度目の敗北に繋がったのだ。
「だがな……この二度の敗北が俺に、教えてくれたことがある……ッ!」
「それは敗北から学べたことで、俺は強くなれるということだ――ッ!!」
勝利を前提とし、変わらぬ戦いの日々では何一つ得ることなど叶わない。
真に勝利を欲さんとすれば、勝つか負けるかの殺し合いの果てに、魂を燃やし尽くすことが要求される。
これまでチミルフが踏んできた血に染まる大地は、全て『戦い』の名を借りた殺戮遊戯。
武人であると自らを誇り、他者からも形容された自身は虚像に過ぎなかった。
何故ならばチミルフは二度の敗戦を乗り越え――今ようやく、本当の戦場に立ったのだから。
負けることが恥だったのではない。戦わぬことこそが本当の恥辱だったのだ。
敗北から学べることの何と多いことか。
己の身で体感して初めて、この臓腑を焼き焦がす屈辱にも種類があることを知った。
怒りとは胸を焼き尽くす憎しみではない、両足を支える礎なのだ。
『怒涛』の二つ名を冠していながら、その真の意味を知らなかったなど笑止千万。
今の状況になったからこそわかる、ニンゲン共の強さの価値を。
獣人の歴史が勝利の刻印だとすれば、ニンゲンの歴史は敗北の烙印だ。
――宇宙全土!
――多元世界全土!
――無限の此処から無限の彼方まで全てを見渡したとしても、ニンゲンほど負け続けた存在など他にあるまい!
だからこそ奴らは強い。強くなる理由がある。
なればこそ獣人はさらなる強さを求めなければならない。
敗北の味を知り、本当の意味で貪欲に勝利を求める心で、戦いの螺旋の中で高みへ駆け上がるのだ。
「笑え……今の滑稽な俺を笑うがいい、アディーネ。
お前と轡を並べた戦いの日々……それも全て遠き、ハリボテの上に栄光よ」
獰猛に歯を剥き出して、獣面を豪気な喝采で満たしてチミルフは笑った。
全てを失い、敗北に打ちひしがれ、愛も絆も何もかもを投げ捨てた男が満足そうに笑う。
――今、チミルフは初めて、数百年の獣人生の中で初めて、生きていた。
激しい歓喜に身を打ち震わせた刹那のことだ。
――唯一無二の王の声が箱庭に満ちたのは。
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
支援
遠き空か、はたまた近き大気を震わせてなのか、幾年月も揺らぐことのなかった声に微かな感情が宿るのに忠臣は気づいた。
だが言及するまい。この時ばかりは頭を垂れ、膝を着き、伏して言葉を拝聴するのみ。
チミルフが箱庭に投じられてからの六時間、その戦場で起きた全ての出来事を透徹した眼差しで王は見届けていただろう。
ならば不徳によってダイガンザンを失いしことも、御身の眼前で果たした失態。
死者と禁止エリアを告げる王の言葉の中に、とうとう腹心に賜わされた言葉はなかった。
そのことに何ら落胆もしていない己を顧みて、チミルフは口の端を歪ませて獣面に皺を寄せる。
紡がれた死者の連名の中に、チミルフに纏わる存在は一つも含まれていなかった。
それでも尚、瞑目してしばしの黙祷を捧げたのは、人と獣人とを度外視した上で戦士達の死を悼んだからに他ならない。
相対する運命を与えられず、箱庭の無常に散った戦士達。
だがその死は決して無駄にはならない。その生は僅かばかりでも螺旋王の御心の礎となる。
ただ漠然と過ごしたものには与れぬ報奨――戦場を舞う存在にこれ以上の褒美があろうか。
「生きることは、戦うということなのだから――ッ!」
吠声に呼応し、ビャコウが高々と宙を舞う。
刃の肩装甲が静まり返った朝焼けの空を切り裂き、巨大な顔面の鮫ような牙が主人の覇気に打ち震えて歓喜を表す。
灰と煤に塗れたはずの白い機体が暴風の中で輝きを取り戻し、顔面の額に位置するもう一つの顔面の双眸が戦意の炎を滾らせた。
これまで幾度となく共に戦場を駆け抜けたカスタムガンメンが、真の意味で手足のように扱える感覚。
研ぎ澄まされた集中力、緩むことを忘れた戦意の鼓動、それらが脳を活性化させる。
口内を湿る血の味を味覚が鮮明に捉え、嗅覚が朝の気配を如実に嗅ぎ取る。聴覚は高き空を吹き荒ぶ風の声を聞いた。
大気の振動を細胞の一つ一つが肌で感じ取り、広がる視界は地平線の彼方まで遠く見渡せる。
これが敗北を知ったことの変化――心の殻を一つ破った男の前進。
何もかも失ったはずの、ただ一つ残ったこの身がやけに熱い――!
その飽くなき前進の炎こそ、螺旋王が人間に求めた進化の灯火だと今のチミルフは気づかない。
未だ獣人の域を超えるまでに至らぬその身では、螺旋力に覚醒することもまた夢のまた夢。
だがしかしと、己の内側から溢れ出す止め処ない活力を手にしてチミルフは思うのだ。
たった二度の敗北から学べたことで、チミルフは自身が強くなれた実感がある。
頭が悪く、戦うことにしか価値を見出せなかった自分が、だ。
ならば賢き獣人は。まだ若き未来ある獣人は。この可能性を前に、さらなる飛躍を望めるのではないか。
(見たい……見たいぞ俺は! その世界を!
獣人がさらなる繁栄を遂げ、真に世界を支配するに相応しい種族となる未来を!)
――そのためにも、俺はまだニンゲンを知る必要がある。
ただ戦い、勝利するだけを追い求めるのならば今までと何も変わらない。
螺旋王が希望を見出した戦場にて、ニンゲンではなく獣人の方が彼の王の統治する世に相応しいことを証明し続けなければならぬ。
見定め、知る必要がある――そのためにも。
ニンゲンとの遭遇を求める。肉体は弱くとも、精神に強き芯を抱くものがいい。
肉体精神共に強いものに出会い、戦いたい気持ちは確かにある。
だが勝利するだけでは、この込み上げる衝動を口下手な自分では説明できないのだ。
賢く、心強きものとの遭遇が望ましい。
捕えてその心根を暴き、強さの根源を何としても持ち帰る――!
支援
「それがこの場に存在する唯一の純粋な獣人、チミルフに課せられた一念だ――!」
優先すべきはヴィラルとの接触。
チミルフより早くこの戦場に馳せ参じ、ここまで生き残った古強者。
その経験に大いに学ぶところあり。仮初め偽りの上司と部下の建前など、より大きなものの前には無価値と化すのだ。
幸いなことにシャマルの名は放送に含まれていなかった。
つまり消防署の崩落から難を逃れ、今も生を繋いでいることとなる。
ヴィラルが約束を守ると信じて行動しているならば心は痛むが、全ては大儀のための小事と冷血に徹して切り捨てた。
そして今一つ、ヴィラルの他にチミルフの心を占めている人物がいる。
――その名はニア。
――螺旋王の第一王女、その冠を被ったニアという名の少女。
チミルフが忠誠を誓う螺旋王とは別の世界。
異世界の螺旋王の娘として生まれ、おそらくはその世界の獣人の上に立つ高貴な存在。
多元世界の理論を忠実に理解できてはいないものの、ヴィラルとの遭遇という経験を得て本質は理解しているつもりだ。
仮初めの部下との対話の中で違和感を持たれなかったということは、違う世界であっても自分は自分という存在であり続けるらしい。
ならばそんな自分が螺旋王の娘とやらにどのように接しているか、想像にも関わらず実体験の如く鮮明に思い浮かんだ。
造物主たる王と同様に忠誠を誓い、その御身のために献身、命を投げ出すことも厭うまい。
チミルフはその程度には今も自分を評価している。
その程度できなくて、獣人軍団の兵達に名を並べられるものか。
主のために命を投げ出す覚悟など、生まれ出でた時より本能に刻み込まれている。
獣人の頂点に君臨する螺旋王――だがその身は獣人のものではない。
今まではそのことに疑問を抱いたことはなかった。
チミルフにとって螺旋王は、ニンゲンの身体を持つ存在という以前に神に等しいからだ。
姿形が人型でも、その存在の本質は神――神を信じるものにとって、神である事実以外など些事に過ぎない。
その盲目的な妄信を螺旋王に向けるのは本能――ならば、その娘に対してはどうだ?
『こちら』のチミルフが生を受けた世界と同じく、獣人の支配する『あちら』の世界で生を受けた第一王女ニア。
獣人がニンゲンを下等と嘲り、掃討する世界の中で、王都テッペリンにて日々を送った彼女はどのような扱いを受け、その果てにどんな信念を持つのか。
それは正しく、チミルフの胸中を期待の感情で埋め尽くした。
螺旋王の『娘』――造物主と似た立場にありながら、決定的に違う場所に立つニンゲン。
獣人を従えるに相応しい志を持つのか、あるいは人に寄った思考を持つ裏切り者か。
大多数のニンゲンが絶望と失望、血と混沌の中に沈んだ戦場で永らえている王女。
その心情を拝聴したい。志を示してほしい。
そして生まれて初めて生を実感するチミルフを、王の系譜に連なるものとして裁いてほしい。
如何なる審判が紡がれようと、納得し、己を肯定できるような不可思議な確信で満たされている。
ビャコウを駆り、目指す進路の先には墜ちた黒き太陽がある――。
あれだけの巨躯が浮上し、一撃の下に地へと打ち落とされたのだ。
箱庭の中のありとあらゆる参加者がその一連を目撃し、あの場で集うことが予想される。
それならばチミルフが果たすべきは、誘蛾灯にまんまと誘い出される愚かな獲物を根絶やしにすること――ではない。
支援
油断は禁物。我武者羅に獣爪を振り上げるだけならば、それこそ獣と変わらない。
獣の敏捷性と戦闘力に、知能を併せ持つからこそ誉れ高き獣人と呼べるのだ。
紅の暴威の一件が、猪突猛進を申告する青い自分に歯止めをかける。
己を知った自分に次に必要なのは相手を知ること――さすれば勝利はぐっと近付こう。
「まずはニンゲンの見極めよ……。
そのためにも、激戦の渦中に飛び込むのは向う見ずな愚かさの体現。
俺が追い求めるに足る獲物は黒い太陽、それに向かう道筋にある――!」
参加者の集結地点足り得る旗印――それを目指す参加者こそが今の目的に相応しい。
高高度飛行を控え、伏した虎の如く静寂の移動を開始する。
牙にかかる獲物を獰猛に捜し求めるその姿は、血に飢えた獣と何ら変わらない。
だが戦意の炎に滾る双眸に、等しく光るのは理知の輝き――獣と一線を画す理性の証明だ。
ならば獣の本能と人の知に至った今のチミルフの姿は、まさしく獣人という存在の体現者であろう。
土壇場で生まれ変わった一握の武人が、白銀の猛虎の力を用いて逆襲を始める。
全てを失いし敗残者。見るも無残、惨めで愚かな敗軍の将――。
そんな我が身であるからこそ、できることがあるのだと己の存在を高く高く謳って。
胸に抱くのは求めて止まない螺旋の意思の本質。王への変わらぬ忠誠。
真の武人として戦場に挑める昂ぶり。そして未だ拝謁の叶わぬ異世界の王女への期待。
ない交ぜとなる感情の奔流を猛る自身の咆哮に乗せ、一介の獣人が戦場を駆け抜ける。
一介の獣人が戦場を――駆ける。
【C-8/禁止エリア山中/二日目/朝】
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に肉体的疲労とダメージ(小)、敗北感の克服による強い使命感、ビャコウ搭乗中
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)、ビャコウ@天元突破グレンラガン
[道具]:デイパック、支給品一式、(未確認の支給品が0〜2個ありますが、まだ調べてません)
[思考]
基本:獣人以外を皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
0:黒い太陽方面にて参加者を捜索、相手を見て交戦如何を決める。
1:ヴィラルと接触したい。
2:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
3:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
4:ヴィラルが首を一つも用意できなければ、シャマルの首を差し出させるかもしれない。
5:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※大破したダイグレンはチミルフの手で木っ端微塵、もはや墓標すら残っていません。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっています。(ただし手段は問わない)
【ビャコウ@天元突破グレンラガン】
チミルフ専用カスタムガンメンで、本編ではカミナの死因となる一撃を放ったという曰くつきの機体。
名前の由来は白虎。
主な武装はビーム刃を放つ槍で、
ビーム刃による貫通突撃アルカイドグレイヴと、ビームを刃から直接打ち出すコンデムブレイズという
近距離遠距離それぞれに対応した必殺技を併せ持つ。
必殺技を披露する機会すら与えられなかったシトマンドラwithシュザックに比べて随分優遇されている気がする。
。
さて、話し合い開始しますか
――――ここに2人の知略に秀でた者がいる。
一方は 手段を選ばず自分だけ生き残る事を考えゲームに挑む者
一方は 他者と協力し全員で脱出する方法を考えゲームに挑む者
似て非違なる2人は今ここで衝突する。
清麿は考えていた目の前の男にどう対処するか。
選択肢は2つ。
A 縄を解き目の前の男と戦うかこの場から脱出する
B 目の前の男と交渉し協力を得る
(どうする…………どちらを選んでもリスクはついてくる)
Aを選び縄解きに成功した場合、さらに選択肢が分かれる。
戦う事を選べば清麿に分があるだろう、それくらいの修羅場を清麿はくぐり抜けて来ている。
だが相手にはあの目がある。いくら清麿の方が強いといえどかけられた瞬間に勝敗は決する。
逃げる方を選ぶ場合はそれほど難しくはない。身体能力が上回ってる自分が逃げ切るだけならそう難しくはないだろう。
だがこれを選べばこの危険人物をこのまま放置する事になる。
(駄目だ…………リスクが大きすぎる)
清麿は逃走の選択肢を切り捨てる。
Bを選び交渉し目の前の男に協力を得られた場合、しばらくは安全になる。
しかしこの男を連れていき仲間にすれば他の仲間に危険が及ぶ可能性も高くなる。
これは下手をすると逃走より危険を伴う。
自分の安全の為に仲間を危険な目にあわせる?
――――――――――――――――否だ
(そうだな…………選択肢なんて最初から1つだった…………)
そう決意した瞬間だった。民家のすぐ近くで轟音が響く。
「なんだ!今の音は!」
足が止まる、ルルーシュがほんの少しだけ視線を逸らす。
この隙を使い清麿は縄をギリギリまで解いた、だが飛び掛らなかった。
いや飛び掛れなかった清麿自身もさきほどの音のせいで警戒せざるをえない状況になってしまっからだ。
(さっきのでかい音はなんだ!早く状況を確認したいところだが…………だが今はこちらを片付ける)
視線を戻しルルーシュは再び歩き出す。さきほどの音の確認よりも先にこちらを優先すべきと判断したからだ。
清麿は身構える。ルルーシュが音の確認に行く事を願っていたのだがどうやらこちらを先に片付けるつもりらしい。
清麿は突然口を開いた。少しでも隙を作るために、できるとは思わないがやらないよりはマシだ。
「おい……ルルーシュとか言ったな俺をどうするつもりだ……」
またもや足を止めルルーシュの口が斜めに薄笑いを作る。
「貴様の頭ならそれくらい分かっているはずだろう?」
清麿は心の中でああと心の中で呟く。
「悪いが無駄な話をしてる暇はないんでな、さっさと済ませてもらう」
再びルルーシュは足を進める、清麿が覚悟を決め飛びかかろうとしたその時だった。
清麿は気づかなかったルルーシュのギアスを警戒しすぎるあまりに。
ルルーシュは見ていなかった清麿にギアスをかけようとしている自分の背後を。
「雑種共が何をこそこそとやっている」
―――少し時は遡る
空を1人の男が飛んでいる。
いや落ちているという表現の方が正しいであろう。
落ちている主の名は英雄王ギルガメッシュ。
禁止エリアから脱出するためにエアを使ったはいいものの、ギルガメッシュ自身どこに向かっているかは定かではなかった。
しかし、そんな空の旅も終わりを告げようとしていた。ギルガメッシュは地面を視認し着地の姿勢を取る。
地面が迫ってくる。
――――――15メートル
――――――10メートル
――――――5メートル
…………4
…………3
…………2
…………1
…………0
ギルガメッシュは地面に着地した。いや衝突という方が近いかもしれない。
その落下の衝撃により辺りに轟音を撒き散らしていた。
「…………ふむ」
ギルガメッシュは辺りを見回す。状況判断が最優先だと考えたからだ。
空から見た時点でここが山なのは把握している。
飛んだ距離から考えて先程の禁止エリアから2つ3つ離れた場所であろうか。
山を降りてあの黒い球体を調べるのが妥当か。
そう考え動き出そうと立ち上がる。だがそこでギルガメッシュの視点は一点の民家に注目する。
「雑種が潜んでいるようだな…………」
少し思考した後すぐに歩き出す。
どのような輩が潜んでいようと己が道を阻む者などいないという絶対の自信を秘めて。
ルルーシュは清麿を手駒にしてすぐにでも行動するつもりだった。
清麿はルルーシュの隙を狙い戦うつもりだった。
だがしかし事態は思わぬ乱入者によって一転する。
ルルーシュは振り向いた、自分の背後に一体誰がいるのか確認するために。
振り向いた先にいる人物は一言でいえば異様だった、服装もたしかに異様ではあった。だが異様だと思ったのはそんな事ではない。
どのようにしてそう思ったかはルルーシュ本人も定かではない。だが本能が告げている"こいつ"は危険だと。
そう感じている視線のその先に英雄王ギルガメッシュが立っていた。
「なんだ、貴様は!」
少し大きな声でルルーシュが叫ぶ。この状況での乱入者など想定すらしてなかったからだ。
この男の出方によってこの後の行動は大きく違ってくる。
「口を慎めよ雑種、我は英雄王なるぞ」
その一言を聴いただけでルルーシュは理解してしまった。
こいつがどんな奴かは詳しくは知らない、殺し合いに乗っているのかも分からない。
だが1つだけ理解した事がある、こいつは同じだあの男と俺の母を殺したあの男と同じ人種。
自分とは絶対に相容れない存在。
人を見下す事しか知らず、他者の事など考えもしない自分勝手な生き物だと。
ならばどうする?決まっているこのような奴を放置などしない、するつもりもない。
ならばやる事はもう決まっている。
「そうか…………もういい黙れ」
英雄王を睨みつけ片目の赤い鳥が羽ばたく――。 そしてルルーシュは告げる。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!俺に従え!」
ルルーシュは冷静だった、このような輩をルルーシュは一秒たりとも生かしておく気はなかった。
本来ならば死ぬように命じる、だが今この状況でそれは最悪の一手に繋がる事を理解していた。
目の前の男は命じれば死ぬだろう、いつもなら男が死んだ後に行動すればいい。
だがこの世界でギアスには制限がかかっている。
下手をすれば自分は倒れこの場で身動きがとれなくなり、清麿も逃がしてしまうだろう。
それは余りにも危険すぎる、ゆえに目の前の男を支配し自分を護衛させ清麿を見張らせる。
今はこれが最善の一手、目の前の男は用がすめば死ぬように命じればいい。
頭痛が襲ってきた、清麿の方にふらつきながら向き直る。
(今は………………これが最善だ!)
そんな時だった
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
「放送……もうそんな時間かよし貴様メモを………………は?」
それはルルーシュの胸にあった、だがルルーシュはそれがなにか理解できなかった。
当然である、それは一瞬の間に自分の胸に出現した。
いや出現したという表現は正しくはない正しくは一瞬にして貫いた。
それは…………尖った木材、崩れた民家の物だ。
「ばか…………な…………な……………………に………が」
ルルーシュは考える間もなく絶命した、それを冷たい眼で見下ろす男が1人。
英雄王ギルガメッシュである。ルルーシュの胸を貫いた張本人。
ギアスによって支配されたはずの男がなぜ?
「この俺に従えだと?この英雄王に?その程度の魔眼で?」
その答えは単純明解だった、神秘はより強い神秘によって無効化される。
ギアスという神秘が英雄王という神秘に届かなかったそれだけの事である。
ギルガメッシュは殺し合いに乗るつもりはない。
だが、自分に暴言を吐きあまつさえ操ろうとするような輩を生かしておくほど彼は甘くはない。
このような輩にエアを使用する気はさらさらなかった。
だからその辺に落ちていた木材で突き刺した、本来ならば木材など武器にすらならないだろう。
だが使い手はギルガメッシュ、受けた相手はルルーシュである。2人の強さの間は存在する次元が違うほど開いている。
ゆえにそれだけで十分だった。
「俺を従える?俺を染めたければその3倍………………いや、我を従える者などこの世にありはしない。
我は唯一無二の王だからな」
もはや聞こえない肉の塊に語る。
ギルガメッシュにおいて雑種だった"者"は最早まったく興味の無い"物"になっていた。
「なあ………あんた」
視線を向ける、黄金の王はその存在自体を声をかけられるまで忘れていた。
この状況において清麿が選んだ選択肢は静観だった。
――――――――――2人には選択肢があった。数限りなくあった選択肢の中から1つを選びお互いこれまで行動し生き延びてきた。この状況でもそれは変わらなかった。
ルルーシュの間違った選択肢はただ1つ音を確認しに行かなかった事。
清麿の正しかった選択肢はただ1つ静観し状況判断を優先した事。
ルルーシュが清麿を後回しにしてギルガメッシュの存在を確認していればこんな事にはならなかっただろう。
清麿が静観せずギルガメッシュが入って来た時になんらかのアクションを起こせば清麿はどうなっていたか分からない。
もしそうなっていたら、そこに転がっているのは逆だったかもしれない。
――――ここに2人の知略に秀でた者がいた。
一方は ここにて幕を閉じる
一方は 演劇を演じ続ける
似て非違なる2人の対決はこれにて終わる。選択肢という運命の名の下に。
既に放送も終わっている。
「そういえばもう1匹雑種がいたのであったな」
ギルガメッシュが清麿を睨み付け、問う。
「貴様は………」
「おヌシなにをしておるのだ」
ギルガメッシュが言葉を言い終わる前に更なる乱入者が現れた。
―――また少し時は遡る
「ウヌなんなのだ……この穴は……」
黒い球体を目指して走るつもりだったガッシュは少し走った所で足を止めた。
そこに不自然な穴が空いていた。周りが崩壊してるのは分かる、だがこの穴は不自然だった。
「誰かの匂いが残っておる……………………あの家に続いているのだ」
ガッシュは考える、そして走り出す。
一人ぼっちになってしまったガッシュは一緒に行動できる仲間が欲しかったからだ。
そこに待っているのは再会、そして新しい出会い
【C-6/民家/二日目/朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(中)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:目の前の男に着いて来てもらうように頼む
1:黒い太陽を目指し、目立ちたがりのカミナ達と合流する。
2:清麿の臭いがしような気がするけど、見つからない。
3:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
5:ジンとドモンを捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
6:東方不敗を警戒。
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:まさか……………この声は……………
1:連れ去られたねねね、スカーとの合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※携帯電話のテキストメモ内に、二日目・黎明時点で明智が行った全考察がメモされています。
※縄は解けています。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:なんだ…………この雑種は
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※ギルガメッシュの落下音は周囲200メートルほどまで響きました。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
空を1人の男が飛んでいる。
いや落ちているという表現の方が正しいであろう。
落ちている主の名は英雄王ギルガメッシュ。
禁止エリアから脱出するためにエアを使ったはいいものの、ギルガメッシュ自身どこに向かっているかは定かではなかった。
現在は速度も落ち、ほぼ垂直落下に近くなってきている。
「ふむ、そろそろか」
ギルガメッシュが着地の目測を立てる。だが、ここでギルガメッシュは予想外の声を聞く。
―――――この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し…………。
「なんだと!」
またも告げられる警告及び撤去命令。
脱出にエアまでも使用した状況で再度の自分に対する命令、ギルガメッシュは憤慨する。
だがこの怒りをぶつける事もできない、さらに事態はまた一刻を争う。
「おのれ!我に二度もこのような事でエアを使わせるとは螺旋王この屈辱忘れはせんぞ!」
その怒りをここにいない相手にぶつける。完璧な八つ当たりではあるのだが。
素早い動作で再び乖離剣に赤い魔力を込める。さきほどよりも強く怒りの分も込めて全力で突き出す。
そして巻き起こる暴風は再び爆発的な推進力を生み出した。
その推進力で英雄王は再び空を飛ぶ、その勢いはさきほどよりも強く速い。
だが、それは単純な怒りからではない、ギルガメッシュは理解している。
もうエアは撃てない、もはや魔力が足りない。
ここで中途半端なエアを撃てば飛ぶ方向によっては海に落ちる可能性がある。
さらに例え加減して撃ったとしても三発目を撃つほどの魔力は残らない。
中途半端な魔力を残して海に落ちるより、マシだと考えたからだ。
当然だがバリアジャケットと行動の為の最低限の魔力は残している。
だがもし――――――またもや禁止エリアに落ちたら?
「ふん、考えるまでもない。我は英雄王、そのような天命ありはしない。」
根拠もなく自信だけで確信する慢心王であった。
――――ここに2人の知略に秀でた者がいる。
一方は 手段を選ばず自分だけ生き残る事を考えゲームに挑む者
一方は 他者と協力し全員で脱出する方法を考えゲームに挑む者
似て非違なる2人は今ここで衝突する。
清麿は自分の頭脳をフルに回転させ思考する。着々と迫る足音。
焦りそんな感情が清麿の顔に冷たい汗を流す。
選択肢は2つ。
・縄を解き、目の前の男と戦うもしくは場から脱出する
・目の前の男と交渉し協力を得る
(どうする…………どちらを選んでもリスクはついてくる)
前者を選んだ場合、さらに選択肢が分かれる。
戦う事を選べば清麿に分があるだろう。それくらいの修羅場を清麿はくぐり抜けて来ている。
だが相手にはあの目がある。いくら清麿の方が強いといえどかけられた瞬間に勝敗は決する。
逃げる方を選ぶ場合はそれほど難しくはない。身体能力が上回っている自分が逃げ切るだけならそう難しくはないだろう。
だがこれを選べばこの危険人物をこのまま放置する事になる。
(駄目だ…………リスクが大きすぎる)
清麿は逃走の選択肢を切り捨てる。
後者を選び交渉し目の前の男に協力を得られた場合、しばらくは安全になる。
しかしこの男を連れていき仲間にすれば他の仲間に危険が及ぶ可能性も高くなる。
これは下手をすると逃走より危険を伴う。
自分の安全の為に仲間を危険な目にあわせる?
――――――――――――――――否だ
(そうだな…………選択肢なんて最初から1つだった…………)
もはや迷わないそう決意した瞬間だった。民家のすぐ近くで轟音が響く。
「なんだ!今の音は!」
足が止まる、ルルーシュがほんの少しだけ視線を逸らす。
この隙を衝き清麿は縄をギリギリまで解いた。
飛び掛らなかった、いや飛び掛れなかった清麿自身もさきほどの音のせいで警戒せざるをえない状況になってしまっからだ。
(さっきの音はなんだ!早く状況を確認したいところだが…………だが今はこちらを片付ける)
視線を戻しルルーシュは再び歩き出す。さきほどの音の確認よりも先にこちらを優先すべきと判断したからだ。
清麿は身構える。ルルーシュが音の確認に行く事を願っていたのだがどうやらこちらを先に片付けるつもりらしい。
清麿は突然口を開いた。少しでも隙を作るために、できるとは思わないがやらないよりはマシだ。
「おい……ルルーシュとか言ったな俺をどうするつもりだ……」
またもや足を止めルルーシュの口が斜めに薄笑いを作る。
それは悪魔にも似た笑み。
「貴様の頭ならそれくらい分かっているはずだろう?」
清麿は心の中でああと心の中で呟く。
「悪いが無駄な話をしてる暇はないんでな、さっさと済ませてもらう」
再びルルーシュは足を進める。それは清麿にとってのカウントダウン。
もう考える時間も余裕もないだろう。覚悟を決め飛びかかろうとしたその時だった。
清麿は気づかなかった、ルルーシュのギアスを警戒しすぎるあまりに。
ルルーシュは見ていなかった、清麿にギアスをかけようとしている自分の背後を。
「雑種共が何をこそこそとやっている」
―――少し時は遡る
空を飛び続けてきた英雄王。
しかし、そんな空の旅も終わりを告げようとしていた。ギルガメッシュは地面を視認し着地の姿勢を取る。
地面が迫ってくる。
――――――15メートル
――――――10メートル
――――――5メートル
…………4
…………3
…………2
…………1
…………0
ギルガメッシュは地面に着地した。いや衝突という方が近いかもしれない。
その落下の衝撃により辺りに轟音を撒き散らしていた。
「…………ふむ」
ギルガメッシュは辺りを見回す。状況判断が最優先だと考えたからだ。
空から見た時点でここが山なのは把握している。
飛んだ距離から考えて先程の禁止エリアから2つ3つ離れた場所であろうか。
山を降りてあの黒い球体を調べるのが妥当か。
そう考え動き出そうと立ち上がる。だがそこでギルガメッシュの視点は一点の民家に注目する。
「雑種が潜んでいるようだな…………」
少し思考した後、すぐに歩き出す。黒い球体に向かう前に情報収集と雑種の値踏みも悪くはないだろう。
どのような輩が潜んでいようと、己が道を阻む者などいないという絶対の自信を秘めて。
ルルーシュは手駒を作りすぐにでも行動するつもりだった。
清麿は隙を狙い戦うつもりだった。
しかし事態は思わぬ乱入者によって一転する。
ルルーシュは振り向いた。自分の背後に一体誰がいるのか確認するために。
振り向いた先にいる人物は一言でいえば異様だった。
どのようにしてそう思ったかはルルーシュ本人も定かではない。だが本能が告げている"こいつ"は危険だと。
そう感じている視線の先に英雄王ギルガメッシュが立っていた。
「なんだ、貴様は!」
焦りから少し大きな声でルルーシュが問う。この状況での乱入者など想定していない。
この男の出方によってこの後の行動は大きく違ってくる。
「口を慎めよ雑種、我は英雄王なるぞ」
その一言を聴いただけでルルーシュは理解してしまった。
こいつがどんな奴かは詳しくは知らない。殺し合いに乗っているのかも分からない。
しかし1つだけ理解した事がある、こいつは同じだあの男と俺の母を殺したあの男と同じ人種。
自分とは絶対に相容れない存在。
人を見下す事しか知らず、他者の事など考えもしない自分勝手な生き物だと。
ならばどうする?決まっているこのような奴を放置などしない、するつもりもない。
ならばやる事はもう決まっている。
「そうか…………もういい黙れ」
英雄王を睨みつけ片目の赤い鳥が羽ばたく――。 そしてルルーシュは告げる。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!俺に従え!」
ルルーシュは冷静だった、このような輩をルルーシュは一秒たりとも生かしておく気はなかった。
本来ならば死ぬように命じる。だが今この状況で、それは最悪の一手に繋がる事を理解していた。
目の前の男は命じれば死ぬだろう、いつもなら男が死んだ後に行動すればいい。
だがこの世界ではギアスに制限がかかっている。
下手をすれば自分はこの場で倒れ身動きがとれなくなり、清麿も逃がしてしまうだろう。
それは余りにも危険すぎる、ゆえに目の前の男を支配し自分を護衛させ清麿を見張らせる。
この行動はルルーシュらしくないだろう。感情に任せた行動など愚か者がする事だ。
だが目の前の男だけは放ってはおけない。それは賢いとか愚かなどという問題ではない。
ルルーシュの生き方としての問題だった。
頭痛が襲ってきた、清麿の方にふらつきながら向き直る。
夢を見ていた。
それはとても、幸せな夢で。
柊かがみが、友と明るく笑い合う夢。
ラッド・ルッソが、弟分と殺人と解体にいそしむ夢。
柊かがみが、家族と幸せな日々を過ごす夢。
ラッド・ルッソが、婚約者と未来を語る夢。
混ざり合うことのない二つの幸せが、混ざり合う。
どちらが現実で、どちらが『鏡』の中の世界なのか、分からない。
『かがみん、それは、愛だよ』
『楽しい、楽しい話をしよう!』
『お姉ちゃん!』
『ラッド!』
『かがみ先輩』
『ラッド、ルッソ……!』
―――あれ、私は、いったい『どっち』だったっけ?
ぐるぐると。くるくると。ぐるぐるぐるぐるくるくると。
思考が回転し、そこで、少女の姿をした『化け物』は―――
*
「……どういうことだ」
総合病院がかつてあった場所。そこで、Dボゥイはただ呆然としていた。
かつてはゆたかと訪れ、そして舞衣に救われ、救えなかった場所。そして何より、シンヤが息を引き取った場所。離れてそう時間はたっていないというのに、また戻ってくるとは何の因果だろうか。そして何より、何故ここが野ざらしになっているのか。
彼が目を覚ました時には既にゆたかはそこにいなかった。それでも何とか探さなければ、と思い彼女がいるかもしれないと考えられる方へと向かっていた矢先、彼はこの少女に出会ったのである。
少女は、Dボゥイと出くわしてすぐ、ふっと何かが切れたように意識を失った。人形のように唐突に崩れ落ちたため、はじめは最悪の事態を想定したのだが、どうやら脈はあるようだった。
せめて手当はしてやらねばなるまい。気絶した少女を置き去りになどできない。
Dボゥイははじめから病院に戻ろうと思ったわけではない。ゆたかがいるのがどこか分からなかったので、それならとりあえず映画館に向かってみようと考えたのだ。
そして舞衣が自分の手当をしてくれたことを思い出し、まだ何か薬が残っているかもしれない、そう考えて立ち寄ってみたら―――これである。見事に草一本残っていないのだ。
破壊主がどのような意図でこんな行為に及んだのか見当もつかないが、崩壊しているものはどうしようもない。……運が悪かった、そう思うしかないのだろうか。
だが、それでもそう簡単に割り切れるはずがない。
なぜならあそこには、シンヤがいた。……建物がこの状態ならば、おそらく人の死体などひとたまりもないだろう。
「……くそ……!」
唇を血が出るほど噛み締める。少女を背負ってさえいなければ、地面に拳を叩きつけていたかもしれない。
「……すまない、シンヤ……」
兄である自分が埋葬してやればよかった。弟には自分も複雑な思いを抱いてはいたし、善人とは到底言えないが、―――死んでからも尚木端微塵にされなければならないほどのものなのか?そんな馬鹿なこと、ありえない。
「……後でいくらでも償う……すまない」
何の気配もない虚空に向かってDボゥイはぽつりと呟き、そして背中の少女に視線を向ける。
もうそろそろ疲弊した肉体の限界が近い。ひとまず少女を背中からおろす。そして柔らかい草地に寝かせた。
瞬間突き刺すような激痛が走る。……満身創痍の状態で人間を一人おぶったのだから無理もない。一般人なら到底耐えられないはずだが、そこは彼のこと、絶対にまだ死ねないという思いで何とか持ち直す。
「……っ、く……」
彼女の容態を見る。服はぼろぼろだが、不自然なくらい体に外傷が見当たらない。突然襲われて逃げてきたのだろうか―――それにしても違和感がある。
「……この女……」
少女は何かにうなされているらしく、寝汗をびっしょりとかいている。とりあえず自分にできる範囲で拭ってやりはしたが、さすがに女性の服を脱がせるわけにもいかない。
恐怖で暴れ出さないかが不安だったが、そしてそれ以上に、引っかかることが一つある。
*
「……!」
かがみが目覚めたあと、すぐに目に飛び込んできたのは、ほのかな明かりと、赤ジャンパーの男の姿だった。
心臓を貫くような衝撃が走る。
「おい、大丈夫か?」
男の言葉も耳にはいるが、すぐに抜けていく。
自分は今河原ではない別の場所にいる。この男と。理由はおそらく一つだろう。この男が―――自分をここまで運んでくれたのだ。
「……あ、あ……」
それを残った理性で把握した後、―――一分と経たないうちに、かがみはがたがたと震えだした。
殺した。
殺した殺した。殺した。殺した殺した。殺した。私が。
ラッドが私がラッドが私が、彼の弟を殺した。
初対面の人間について、どうしてこうまで自分は知っているのか―――それが自分がラッドだからだと理解して、かがみは再び混乱する。
「……い、いや……」
「落ち着いてくれ。俺はお前を殺すつもりはない、ただ―――」
男の声も、柊かがみの肉体をもつ『それ』には聞こえない。
「わ、わ、私は……お、れは……」
「……お前が、何故俺の名前を知っているのか、知りたいんだ」
どうしてこの人は、自分をここまで運んでくれたりしたんだろう。
―――おうおうタカヤ君久し振りだねえ、で、お前は今でも自分は死なねえと思ってやがるのか?
この人は、『ラッド』によればゆたかちゃんの知り合いで……。
―――そういやタカヤ君と一緒に行動してた嬢ちゃん、死なないって思ってたみてえだから殺そうとしちまったぜ。まあ邪魔が入って寸止めになっちまったがなあ!ちっ、邪魔しやがって。
私がこの人を殺せば、ゆたかちゃんが悲しむ……!
―――まあいいぜ。次会った時もまだ同じ考えだったら、そん時は何回も何回もぶっ殺せばいいんだからな!ひゃははははははははははは!
だから、絶対に殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して―――
噛み合わない。
『柊かがみ』は、心の奥で後輩を思っているはずなのに。
『ラッド』が殺しを主張し、表に出てくる。
「い、いや……やめて……私は……」
柊かがみは―――ゆたかを傷つけたくないのに!
「……ゆた、かちゃん」
だから、その名前が思わず口からこぼれたのは、『柊かがみ』のわずかな抵抗。
「ゆたか、ちゃ……、ごめ、私……が……」
しかしその言葉は、目の前の男に火をつけるには十分だった。
「……お前……、ゆたかを知っているのか!?」
すごい勢いでかがみに問うてくる。ああ、愛されているんだな―――そう実感すると同時に、胸の奥の殺意が湧き起こる。
こんなにいい人に出会えるなんて、ゆたかちゃんは幸せ者殺せ殺せ殺せ殺せ今すぐ殺せすぐに殺せずっとずっとずっと何度も何度も何度も殺せ殺せ殺せ!
「……あ、」
膨れ上がる。この男の前では、ラッドの殺意が抑えきれない。
騒ぐ。叫ぶ。喚く。この『自分は死なないと思っている男』を、殺せと。
駄目だ、もう、これ以上、は。
「教えてくれ! ゆたかに会わなかったか!? 俺はあいつを探してるんだ! このままじゃ……」
大丈夫だ、とかがみは思う。
ゆたかは私よりもずっと強い。現実と向き合う覚悟を持っていたよ、そう目の前の青年に伝えてやりたいが、もう限界。
自分の中のラッドが喚く。
早く殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい―――
「ゆたかが」
ゆたかへの思いの丈を語る青年のジャケットの肩に手をかける。
青年の顔が、明らかに驚愕へと変化した。
「……!?」
「……タカヤ君よお。今お前はこう思ったはずだ」
ゆらり、ラッドの感情に天秤が傾く。止まらない。
ラッドは求めている。この男を、殺すことを!
「……っな……!」
「俺の前にいるのは、すっかりおびえきった顔の普通の女の子。だから自分よりきっと弱いはず。そんな子に、自分が殺されるはずがないってな!」
そしてにやり、と唇を歪ませる。
「そして今! お前はこうも思っているはずだ! 俺の弟の敵であるラッド・ルッソは死んだはずだ! だからこんな小娘がラッドである訳がない、ってな! いいねいいねえ、宇宙人様には敵なしって奴ですかあ? ……殺したくて殺したくてたまらないねえ!」
狂った笑い声を上げた『不死身の柊かがみ』は―――ラッドは、未だ理解が追いついていない青年の腹部に、一撃の拳を叩き込んだ。
*
少女がゆたかの名前を出した瞬間、Dボゥイは恥も体面も捨てて少女に詰め寄っていた。
彼が目覚めたときには、すでにゆたかの姿はなかった。
結果的に、もしかしたら彼女は自分のことを理解してくれなかったのかもしれない、それでも、ただゆたかを救いたい。
あの『黒い太陽』から落下するとき、彼の手を取ってくれたゆたかの想いは、決して嘘ではないと信じている。
彼女は生きている。そして、自分には彼女を信じる義務がある。
Dボゥイは何があってもゆたかを守り抜かなければならない。
薬物に体が侵されつつある、今であっても。
「教えてくれ! ゆたかに会わなかったか!? 俺はあいつを探してるんだ! このままじゃ……ゆたかが」
だから、彼は考えもしなかった。
目の前の無力で、弱弱しくて、今にも壊れてしまいそうな少女が突然自分の肩を強い力で掴むなんて。
「……!?」
「……タカヤ君よお。今お前はこう思ったはずだ」
そして少女の紡いだ言葉は、彼に更なる衝撃を与えた。
―――ラッド―――!!
違う。どう見ても違う。彼女はラッド・ルッソではない。目を凝らす。違う。
だというのに、彼女はどこから見ても、ラッド・ルッソなのだ。
感覚が覚えている。別人など、ありえない。
「な……!」
「俺の前にいるのは、すっかりおびえきった顔の普通の女の子。そんな子に、自分が殺されるはずがないってな!」
その文句は聞いたことがある。憎しみの対象。
弟を殺し、舞衣を襲撃した、あの男以外の何者でもなかった。
―――どういうことだ!あいつは、あいつは死んだはずだ!放送で、名前を……!
しかし状況を呑みこめていないDボゥイを嘲笑うように、少女は―――ラッドは言葉を続ける。
「そして今! お前はこうも思っているはずだ! 俺の弟の敵であるラッド・ルッソは死んだはずだ! だからこんな小娘がラッドである訳がない、ってな! いいねいいねえ、殺したくて殺したくてたまらなくなりましたねえ!」
図星だった。理解できるはずが、ない。
「……!」
どうして彼女がラッドでラッドが彼女なのか?Dボゥイの頭は混乱を極めていく。
「……本当にお前は……ラッド・ルッソなのか」
答えが返ってくる前に、男の右ストレートが直撃した。
「ぐあああっ!」
そのまま不可抗力で吹き飛び、地面に頭を強い力で打ち付ける。
意識が朦朧とする。が、それでも立ち上がる。
「……おいおいおいおい! どれだけタフなんだよ君ら兄弟はさあ! すっげえ傷じゃん? 今にも死にそうじゃん? さすが宇宙人は体の作りが違うねえ!」
―――どういう、ことだ。
痛みが激しい。炎で無理やり治療した傷が開いたのかもしれない。
―――どうして、この少女は『ラッド』なんだ。
視界がぶれ、目的が定まらない。眩暈がする。ラッドに言われずとも、自分が死にかけであることは理解している。
「……まあ……それでも殺すけどな」
ラッドはDボゥイの前に立っている。
その顔に浮かぶのは、享楽的な笑い。殺人に喜びを見出す狂気。
―――何、だ?
しかし、その中に、Dボゥイは見出してしまった。
少しの間だけ行動をともにし、別れた、少女の姿を。
だから、その名前が浮かんできたのは、ある意味必然で。
「舞、衣?」
*
柊かがみは、基本的にしっかりした少女である。
妹や親友の天然極まりない言葉にはすぐさま突っ込みを入れ、彼女たちの暴挙に呆れながらも大人な対応を取りついていく。
他人の目からみて、かがみはどのような少女に映っていただろう。
真面目な努力家?苦労人?それは間違った評価ではない。
しかし、かがみの本質は、プライドの高い寂しがり屋だ。
本当は、一人は嫌で。本当は、一人は辛くて。本当は、一人は苦しかった。しかし、それを口にすることができなかったのだ。
それが爆発しなかったのは、彼女の住んでいる世界が平和そのものだったから。
クラスが離れても、もう二度と会えない訳じゃない。かがみのことをからかいながら、それでもこなたは、つかさは、みゆきは、迎え入れてくれる。
それを知っていたから、怖くなかった。
だが―――今は違う。
かがみは独りだった。いや、本当は、独りではなかったはずだ。
衝撃のアルベルト。小早川ゆたか。
まだ、自分を支えてくれた人がいた。顔見知りの少女がいた。それは、『柊かがみ』の心を安心させた。
しかしあろうことか、自分は、アルベルトを殺し、あまつさえその少女さえ殺そうとした。
分かっていたのに。ここで彼女が死んでしまえば、自分が本当の意味で一人になってしまうことは、分かっていたはずなのに。
『ラッド』は、『かがみ』の意志とは正反対に蠢き出す。
独りになりたくない『かがみ』を、さらに独りにしようと―――意思を呑みこんでいく。
怖かった。
認めるのが怖かった。
傷つくのが怖かった。
自分が元は誰だったのか、理解するのが怖かった。
自分が孤独だと、理解するのが怖かった。
螺旋王を食う。BF団に入る。それらはすべて、独りでなかったから思えたことで。
全てを無くした自分は、いったい何なのか。
自分はどうせ、『ラッド』でもなく『柊かがみ』でもない存在。
それなのに自分にはまだ『柊かがみ』が確実に残っていて。
かがみではラッドは止められない。
止めようとした。挑戦した。制御しようと決意した。……アルベルトと、そう誓った。
なのに、結果は―――後輩を殺そうとしてしまった。
そして『ラッド』は……今度はこの青年まで殺そうとしている。ゆたかの知り合いである彼を。―――また、ゆたかを傷つけてしまうと分かっていながら。
ゆたかの比ではない数の殺意が、かがみの意識を相殺していく。
少し前までは、ラッドはかがみの『鏡』にすぎなかった。
使い方さえ間違えなければ、彼はもう一人の自分になっていただろう。
しかし、今の『ラッド・ルッソ』は、違う。
ゆたかを殺しかけて絶望する『かがみ』のほんのわずかな理性にも侵入し、殺せと怒鳴り続ける。殺意のスイッチを、パチリパチリと押し続ける。
彼はもはや『鏡』ではない。ラッドは『かがみ』から出てきて、さらに『かがみ』を閉じ込める。
兄貴。ラッド。兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴ラッドラッドラッドラッドラッド―――
見知らぬ男が『不死身の柊かがみ』を呼ぶ。
ああ、これが私か。
これが、私なんだ。
私は柊―――ラッド。ラッド・ルッソ。
そう、だから殺そう。この青年を今すぐ殺そう。何度も何度も何度も殺そう。
そう、だって俺は―――ラッドだから。
だから殺さないと。自分は死なないなんて思っている奴を、殺して殺して殺して殺すんだ。
「……舞、衣……?」
何を言ってるんだ?タカヤ君よお。
俺はラッド・ルッソだ。それ以外の何者でもないぜ。舞衣ちゃんと一緒にしないでくれよ。
『かがみ』は―――面倒になった。
忘れたかった。逃避したかった。
自分が後輩を殺そうとしたという事実。
自分には既に戻る場所はないという絶望。
全て―――ラッドのせいにしてしまえば楽になる。
そう、そうだ。もう抵抗などやめてしまえばいい。
だって自分のはじめの目的は、優勝だったではないか。
つかさのために皆を殺す。そのためには、余計な感情などいらないはずだ。
完全にラッドに身をゆだねたら、もう自分は『かがみ』に戻らなくていい。人を傷つけることに抵抗を覚える高校生でなくて済む。
『かがみ』でいようとするから、自分はこんなに辛くて、悲しくて、泣きたい気持ちになるのだ。
『ラッド』なら、こんな風に苦しむ必要も、ないのだから。
「……な、どうして泣いているんだ……?」
「い、や……は、はは、……ひゃ、はは……」
忘れてしまえばいい。
自分が柊かがみであることを、忘れてしまえばいい。
何があっても、決して戻ることなく、制御しようなどと考えず、―――ただ、マフィア抗争の時代に生きる一人の殺人鬼になってしまえば。
「あは、はははは……ひゃは……ひゃ、はははは……」
そうすれば、こんなにも、痛くない。
さよなら、柊かがみ。
私は―――もう楽になりたいよ。
「ひゃははははははははははははははははははははははあ!」
―――アルベルト、……ごめんね。
そう決意した瞬間、ようやくかがみは思い出した。
自分は不死身である前に、化け物である前に、本当は人間だったということを。
*
『もう一度会った時、私が私じゃなくなってたら……殺して。
もう私は……誰からも奪いたくなんて……ない……』
舞衣はそう言って、自分の前から姿を消した。
ラダムに寄生され、我を失いかけながらも、そうやって自分を労わり傷つけまいとしてくれた、彼女。
あの時は―――止められなかった。
Dボゥイが手を伸ばしたときには、舞衣はすでにその場から逃げ出していて。
怒り狂った。憎らしかった。悲しかった。そして何より、悔やんだ。
俺があの時満身創痍でなければ!もっと早く舞衣の異常に気づいていれば!そして!
反省しようと思えばいくらでもできる。しかしそれだけでは、進めない。だからDボゥイは、スパイクからブラッディアイを受け取ったのだ。
どうして少女がラッドそのものと化しているのかは理解できない。ラダムに人の精神を『他人とすり返る』ことはできないはずだから別物だろうが、それでも、よく似ている。
目の前の少女の瞳の色は、舞衣と同じだった。
淀んでいながら歪な緑色をたたえており、それでいて―――本当は泣き叫んでいる。
殺したくない。まだ死にたくない。何より、怖い、と。
その証拠に、少女は泣いていた。
涙は流していない。表情も口調もラッドそのものだ。しかし、確かに泣いていた。
「……どうしたよ? 何で反撃しねえの? なんで何も言わねえのよお? ……まさかあれか?タカヤ君さぁ、この場に及んでまだ俺の方がこのラッドさんよりつよーいとか……ふざけたこと思ってるんじゃねえだろうなあ!?」
「……ラッド……!」
欠けた内臓のあたりが再び痛み出す。背中の傷もどこか疼くし、何より視界が朧げで、あとどれくらい歩けるのかも危うい。クリスタルもない。何より、自分の体のどこかが壊れていくのがはっきりと分かる。着実に、確実に。
確かに自分は、紛れもないデンジャラスだ。
それでもDボゥイは、この男と決着をつけねばならない。
シンヤの仇であるこの男を、自分が止める。
例え外見が見知らぬ少女のものであろうとも、ラッドとしての意識がある限りは。
もう二度と、舞衣のような悲しい女の子を見たくない。
「……お前は……俺が今度こそ殺す!」
だから、もう二度と逃がさない。
少女の中の『ラッド』を、殺す。殺す。殺す。殺して、やる。
今の彼に、ゆたかと舞衣、救いたいのはどちらだと尋ねれば、Dボゥイはおそらく言葉に迷ってしまうだろう。
もしかしていずれ、二人のどちらかを選ばねばならない、そんな窮地に陥ったら?
そんなことは、今考えるには値しない。
彼に今できることは―――仇を倒すことだけなのだから。
「……はっ? …………ひゃはははははははははは!! 最高じゃねえの! さすがタカヤ君! 本当に俺の想いを裏切らないねえ! …………ぶち殺す!」
この少女は、やり直せる。
暗黒色の世界に堕ちていたゆたかが、彼の手を取ってくれたように。
彼女も、舞衣もきっと、戻れるはずだと。
そう、信じて。
だからDボゥイは知らない。
この少女が、小早川ゆたかの、元の世界の知り合いだということを。
柊かがみの外見をしたラッド・ルッソは知らない。
小早川ゆたかが、かがみをラッドから解放しようと動き出していることを。
まだ、知らない。
【D-6/総合病院跡地/二日目/朝】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、髪留め無し、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス) 、疲労(大) 、ラッドモード
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、コスプレ衣装(涼宮ハルヒ)@らき☆すた
衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、
雷泥のローラースケート@トライガン、バリアジャケット
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、
サングラス@カウボーイビバップ、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
0:ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
1:Dボゥイを殺す。舞衣も殺す。ゆたかも殺す。自分は死なないと思っている人間を全員殺す。
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソの力を開放することに恐怖を覚えました。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認。またレーザービーム機能についても目視したようです。
※第五回放送を聞き逃しました。
※『かがみ』の人格を手放すことを選びました。少なくとも自分では完全に『ラッド』になったと思っています。本当にそうなったかは次の書き手にお任せします。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済、火傷とバイクの破片は抜いた。)
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体崩壊(進行率16%)
激しい頭痛と眩暈
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量60%)@カウボーイビバップ
[思考]
0:『ラッド』を殺し、この少女(かがみ)を救いだす。
1: ゆたかを探す。
2:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:煙草を探す
6:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人も少しだけ違和感を感じました
※フリードリヒに対して同属意識。
※かがみがラダムに寄生された時の舞衣と同じような状態にあると考えています。しかし具体的な原因はよく分かっていません。
439 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/09(水) 01:01:12 ID:V6KH+Iyb
◆3XMYeTbSoM sd3e
440 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/12(土) 23:07:30 ID:CgwFBzl4
3056 :やってられない名無しさん:2008/07/12(土) 22:54:07 ID:???0
さすがに予約はネタがあるかどうかだろうw
3057 :やってられない名無しさん:2008/07/12(土) 22:57:28 ID:???C
あの人は他と違って短期間に複数投下してしばらく充電、を繰り返すタイプみたいだからな
またネタが出来たら登場してくれるだろう
3058 :やってられない名無しさん:2008/07/12(土) 22:58:04 ID:???0
本スレで喚いている奴wなんかあそこまで逝くと(笑)にしか見えない
――何なんや、このドグサレマシーンは?
牧師・ウルフウッドは、苛立ちに沸騰する頭で考える。
目の前には延々と同じ言葉を輪唱する、訳の分からない機械。
『――螺旋力が確認できません』
また聞こえた。
何や、銃弾でもくれてやろうか?綺麗な螺旋描いてくれるで?
最早言い返す気力も湧かなかった。
休憩を求めて立ち寄った筈なのに逆効果、苛立ちと精神的疲労が募っていくだけだ。
例の死ね死ねコールも変わらず聞こえる。
一時期の苛立ちに比べたらまだマシだが、それでもヤバい。
今にも堪忍袋が弾け飛びそうだ。
「なぁ、いい加減にせぇへんか? ワイ、マジでキツいんやけど?そろそろ止めて
くれへんか?」
『――螺旋力が確認できません』
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
「なぁ頼むわ。なんぼでも懺悔するから、な」
『――螺旋力が確認できません』
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
「フフッ……OK、OKや。おんどれらは余程ワイの事が嫌いみたいやな」
『――螺旋力が確認できません』
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
――頭の中で何かが切れる音がした。
これが俗に言う堪忍袋の尾が切れる、というものなのだろう。
「――黙れぇ、言うとるやろ! このボケがッ!」
銃声は二つ。
懐から抜き出した拳銃から、二発の弾丸が放たれた。
それら弾丸は、空中に不可視の螺旋を刻み込み、狙い通りにワープ装置へと命中。
配線やら部品を貫きつつ、弾丸が機械に支配された内部へと侵入する。
ワープ装置が変な音と共に火花を散らした。
「どうや、クソったれ……!」
『――螺旋力、確認』
「まだ言うか、このボケ! ええで全身全霊でブッ壊した…………チョイ待ち、何て言うた?」
『――螺旋力、確認』
また、聞こえた。
空耳じゃあらへん。
確かに言った、『螺旋力、確認』と。
「てことは、何か? 求めるものに飛ばしてくれんのか?」
『――螺旋力、確認』
先程までは糞ウザかったリピート機能も、今では可愛く思えてくる。
今なら久し振りに、心の底から笑える気がした。
「よし、タバコや! タバコのある所に飛ばしてくれ!」
『――螺旋力、確認』
長い長い戦いだった。
これだけ辛い戦いには後にも先にも出会う事はないだろう。
ありがとう、神様。
後でブチのめすけど、今だけは感謝してやるわ。
あぁ立っているだけで、タバコの味を思い出してくる。
早く飛ばしてくれ。
焦らす、なんて演出必要無いから、早く――。
「…………おい、聞いとるんか?」
『――螺旋力、確認』
「タバコやで。タ・バ・コ。こないな暑っ苦しい部屋やない、タバコがある場所に飛ばせぇ言うとるんや」
『――螺旋力、確認』
「だから、飛ばせっちゅーねん! アレか、悪の心が無い純粋な人間しか飛ばせないとかか!?」
『――螺旋力、確認』
分かった、分かった。
やっぱ心の底から会いたいものじゃなきゃ、駄目なんだろ?
耳かっぽじって良く聞け。
「――ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。ヴァッシュ・ザ・スタンピードに会わせてくれ」
『――――螺旋力、確認』
瞬間、世界が暗転。
何処かに引っ張られていく感覚の後、浮遊感が体を包んだ。
□
「……何処やねん、ココ」
牧師・ウルフウッドは断続的に痛みを訴える頭を抑え、立ち上がった。
右に左に首を回すと、先程の機械だらけの部屋とは打って変わり、鬱蒼と茂る木々が目に映る。
「何や、マジで飛んだんか……」
僅かな警戒と共に、ウルフウッドが歩き出す。
自分は確かに口にした。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの元に飛ばしてくれ、と。
そして気が付けば森の中。
まさか、本当に?
「いやいや、有り得へんやろ。だってワイ見たやん、トンガリの生首」
自嘲気味な笑みを浮かべ、首を振るウルフウッド。
まぁ、あのムサい部屋から抜け出せただけでも良しとするか。
「さて、どないするかな。不思議と頭ん中スッキリしとるし、お仕事でも始めるか?」
二発ほど無駄弾を撃ってしまったが、まだ十発以上の弾丸はある。
当分は何とかなるだろう。
懐にある銃を確認し、ウルフウッドの顔に獰猛な野獣の笑みが浮かぶ。
殺る気に満ちている。
気分も爽快。
仕事をするには充分なコンディションだ。
「さて行きますか――」
「おい、ウルフウッド」
そして、歩き始めたと同時に後ろから声が掛かる。
その声はどこかで聞いた事のあるような気がした。
「…………いやナイ。ナイな、これはナイ」
軽く首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが呟く。
「……何言ってんだ、ウルフウッド?」
「ないないないない。だってアレやん。アイツ首ポォーンなってたやん。有り得へんって」
大きく首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが呟く。
決して声のした方見ようとはしない。
「もしも〜し、聞こえてる?」
「ナイナイナイナイナイ!! だって有り得へんもん! ワイだってなんだかんだ言って生き返ったけど、流石にナイ! これはナイって!!」
千切れんばかりに首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが叫ぶ。
三度声を掛けられたにも関わらず、絶対に声を掛けられた方を見ようとはしない。
「オイ、テロ牧師!」
「だぁから……!」
――そして、ウルフウッドは遂に振り向いた。
そこには此処に居る筈の無い男――死んだ筈の男の姿。
「よう、ウルフウッド」
「トンガリ……!」
生首ではなく、ちゃんと胴体のある金髪のトンガリ頭、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿がそこには居た。
□
山の中にポツリと建っていた家の中。
二人の男達が机を挟み、向かい会わせに座っていた。
机の上には一本のお酒、安物だろうがこの殺し合いの中、酒が見つかっただけでも幸運だろう。
「――って、なんで呑気に酒飲みになっとんねん!」
「まあまあ落ち着いて。たまには良いだろ、こーゆーのも」
彼等がこの場所を訪れたのには理由がある。
有り得ない再開に驚愕していたウルフウッドに、ヴァッシュが酒を飲みたいと言い始めたのだ。
そして、まるで計ったかのように建っていた民家の中にお邪魔し、計ったかのように置いてあった酒を頂戴し、今に至る。
「今は殺し合いの真っ最中やで? 生き返ったか何やか知らんけど、平和を愛するガンマン様がそんな呑気でええんか?」
「大丈夫、大丈夫。ここでぐらいゆっくりした方が良いよ」
憮然とした顔で文句を言うウルフウッドに、ヴァッシュが微笑みながら答える。
「はぁ、まぁええわ。そんで、や。なんでオンドレはピンピンしとんねん。ワイは確かに見たで生首状態のお前を」
「……いやー僕も訳分かんないんだけど、気付いたら森の中歩いててさ。確か向こうで遊んでた気がしたんだけどな……」
「なんや、向こうって? 天国か?」
「みたいな所かもね……」
そう言いながら、ヴァッシュは二つのコップに並々と酒を注いでいく。
――なんやねん、コイツ?
そんなヴァッシュに、ウルフウッドは違和感を感じずには居られなかった。
此処は殺し合いの場だ。
普段のトンガリだったら、自分が生き返った事すら歯牙に掛けず、戦闘を止める為、人を救う為に駆けずり回っている筈だ。
なのに目の前の男は、間抜けそうな笑みを浮かべ酒を注いでいる。
「おい、ウルフウッド。乾杯だ」
「……おう」
中身の酒を揺らしつつ二つのコップが触れ合い、甲高い音を鳴らした。
互いに無言のまま、酒に口をつける。
アルコールの苦味が口内を占領し喉に抜けていく。
ウルフウッドにとって久し振りの酒は、この世の物とは思えない程、美味く感じた。
「……なぁ、ウルフウッド」
場を支配する沈黙を打ち破ったのは、ヴァッシュの小さな呟きであった。
「……何や?」
酒を喉へと流し込み、無愛想にウルフウッドが答えた。
「……お前は考えを変える気は無いのか?」
「なんや説教かいな。生き返ってまでご苦労さんなこって」
やれやれと首を振り、ヴァッシュに顔を寄せるウルフウッド。
その表情には、この一日半で溜まりに溜まった鬱憤が苛立ちとして映っていた。
「……お前が何と言おうと、ワイはこの道を突き進む。殺して、殺して、殺しまくってやる。オンドレを殺したシータっちゅうクソガキも、あの不死身の化け物も、あのスパイクっちゅうモッサリヘアーも、や」
「ウルフウッド……」
悲しげな顔で見詰めてくるヴァッシュへと、ウルフウッドは人差し指を突き付け、言い切った。
対するヴァッシュは何も言わない。
ただ無言で、そしてやっぱり悲しげな表情でウルフウッドを見詰めていた。
睨み合う二人。
再び沈黙が場を支配する。
「そや、どうしてもワイを止めたいんやったら一つだけ方法があるで?」
二度目の沈黙を破ったのは、ヴァッシュでは無くウルフウッドであった。
挑発的な笑みを浮かべヴァッシュを睨む。
「方法……?」
「コレや」
そう言いウルフウッドが取り出した物は、拳銃。
それは、引き金を引く握力さえあれば、誰でも殺人鬼になれる悪魔の道具。
ウルフウッドはそれを机へと置き、持ち手をヴァッシュが座っている方へと向け
た。
「ワイを止めたいんやったら、この場で殺せ。
その銃でワイの脳天に風穴開けてみろや」
「…………」
「出来へんよな。……だからお前はヘタレなんや。そんなんだからあんなクソガ
キに殺されるんや、どアホ」
口は三日月を描き、だがその瞳は虚無感に包まれていた。
泣いているような、笑っているような、複雑な表情を見せ、ウルフウッドは語り続ける。
「ワイは行く……オンドレと呑気に酒飲んどる暇なんてあらへん。
クソったれの神様に抗って、抗って、抗いまくってやらなアカンのや」
そう言いウルフウッドは、ヴァッシュへと背中を向け、右手をヒラヒラと振った。
立ち止まる暇なんて無い。
トンガリが生き返ろうと、するべき事は変わらない。
血塗られた地獄で抗い続けて、あの世とやらで高笑いしてるであろう神様に吠え面かかせてやる。
牧師の胸に宿った真っ黒な誓いは誰にも、盟友ですら揺るがす事は叶わない。
牧師は断罪者として歩き始め――
「……死ぬなよ、ウルフウッド」
――その時、小さな呟きが牧師の鼓膜を叩いた。
「……なに、言うとんのや? ワイが生き延びれば生き延びるほど、人は死ぬで?」
「うん、そうだろうね。俺が何を言っても君は止まらない。多分、沢山の人を殺す。でもさ、ウルフウッド――」
暖かい、本当に暖かい微笑みが、振り向いたウルフウッドの眼に映った。
それは自分を、自分の罪を許してくれるかの様な微笑み。
「――お前には死んで欲しくないんだよ」
「…………アホか」
その微笑みを見ていられなかった。
俯き、心とは裏腹の皮肉を言う事しか出来なかった。
ああ、何でコイツは笑っていられるのだろう?
百年以上の因縁に決着をつけ、平穏な生活が始まろうとした矢先に、こんな地獄に巻き込まれたというのに。
再び出会った仲間が殺し合いに乗っている事を知ったのに。
――最後まで信じた人間に裏切られ、願いが通じる事なく殺されたくせに。
自分には理解できない。
「……ウルフウッド、そろそろお別れだ」
俯き、思考の渦に呑まれていたウルフウッドに、不意に声が掛かる。
その言葉の意味をウルフウッドには理解できなかった。
「は? なに言うとんねん? 生き返ったんじゃないんか?」
「いや〜、どっかの誰かさんと違って、そこまでラッキーな男じゃないよ、僕は」
陽気に男は笑っていた。
「おい、洒落ならへんぞ! ワイはタバコ諦めてまでオンドレん所に来たんや! それが、説教されるだけされてほなサイナラか!? そんなん許せるか、ボケ!」
「死ぬなよ、ウルフウッド……そして、出来たら誰も殺さないでくれ」
「シカトか!? こないなタイミングでそんな高等技術を使うか、この糞ガキ!」
「生きてくれ。そして俺の代わりに平和な生活を満喫してくれ、ミリィやメリルとさ」
「ちょい待て、トンガ――」
「じゃあな、ウルフウッド」
二度目の暗転。
闇が世界を支配し、意識がブツリと途切れた。
□
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
覚醒の手助けは、聞き飽きた呪怨の大合唱であった。
瞼を開けば、訳の分からない機材やコードが見える。
どうやら仰向けに倒れているらしい。
上半身を起こし周りに首を回し、状況を確認。
そこは、何とも見飽きた部屋。
目の前には熾烈な押し問答を繰り広げた好敵手――ワープ装置。
「……なんや戻ってきたんか?」
首を捻りながらいつもの癖でポケットを漁る。
残念ながらタバコのタの字も無かった。
「訳わからんわ。まったく、どーなっとんねん……」
『――螺旋力、確認できません』
好敵手が律儀に返答してくれる。
うん、素直なもんだ。
ここまでやってくれると愛着すら湧いてくる。
――ん?
「おい、お前何て言うた?」
『――螺旋力、確認できません』
あれ?なんかおかしくないか?
さっきは確か――。
「ちょい、もう一回言ってみ」
『――螺旋力、確認できません』
螺旋力、確認できません?
あれ? さっきと言ってる事違ってないか?
さっきまでは螺旋力、確認しました、とか言ってた筈だろ?
「……おいおい、まさか――」
何かに気が付いたのか、ウルフウッドは懐の銃から弾倉を取り出し、調べ始める。
――あの時、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの元へ飛ばされる直前、自分は目の
前の機械に向けて二回引き金を引いた。
つまり、最初に詰められていた八発の弾丸から、二発の弾丸が消費された訳だ。
ならば、今現在、弾倉には六発の弾丸が存在しなくてはいけない筈だ。
なのに――
「……マジか」
――どうして八発もの弾丸が入っているのだ。
疑問の呟きとは裏腹に、ウルフウッドは一つの可能性に気付いていた。
「…………ハッ、ハハッ、夢っちゅー訳か……この機械が動いたのも、トンガリに会ったのも、全て……」
言うなれば白昼夢。
大方、疲労とストレスに意識を飛ばし、あの夢を見たのだろう。
「プッ……ダッハッハッハ!」
大爆笑。
吹き出すと共に、ウルフウッドが腹を抱えて笑い始めた。
「ハッハッハッ! 何や夢かいな! 何時の間に寝取ったんや! ヤバい、面白すぎるでマジ!」
腹を抱えるだけでは飽きたらず、遂には床で暴れながら笑い声を上げ続けるウル
フウッド。
あれだけ頑なに返答をし続けていた螺旋界認識転移装置でさえ、その姿に閉口する。
「ハハハハハハ! ホンマにやってられへん! あの滅茶苦茶美味かった酒も、ウザったい説教かましてくれたトンガリも、死なないでくれって言葉も、全部ワイの脳内で作った幻想かいな!ワイの脳みそはドンだけ想像力豊かなんや!」
ドンドンと床を叩き、狂ったかの様に男は笑い転げる。
止めない者は誰も居ない、孤独で滑稽なバカ騒ぎ。
あまりに滑稽な自分が、愉快で仕方がない。
機械との押し問答の次は、盟友と酒を酌み交わす夢。
その女々しさが、その情けなさが、面白すぎて。そして――
「ホンマ――ふざけんなぁッ!!」
――そんな夢を見た自分が、そんな夢を見せた神様が、許せなかった。
ドンッと、男の拳が床に突き刺さる。
悲哀と憤怒が入り混じった、不思議で複雑な表情が男の顔には張り付いていた。
「おちょくるのもいい加減にしてくれ……何でこないな夢見せるんや、神様よ?」
『ウルフウッド、お前には死んでほしくない』
あの言葉を言われた時、ただ単純に嬉しかった。
生き返ってから、初めて自分の存在を受け入れられた気がしたから。
心の底から喜びが湧き出た。
――だが、その言葉の正体は、ただの夢。
自分の脳内で再生された虚像。
「そこまでして追い詰めてどないするつもりやねん……」
虚空に呟かれた疑問。
答えは分かっていた。
神様――主は無かったことにしたいのだ。
自分の過ちを――ウルフウッドという存在を生き返らせてしまった、その過ちを。
だから、追い詰める。
頭の中に『死ね』という言葉を流し続け、死んだ男の夢を見せ、ほんの少しの希望を与え、そして絶望させる。
「……ワイは死なへんぞ。オンドレがどんな嫌がらせをしようと、死なへん。生き抜いてやる」
主に反抗する為に、ウルフウッドは立ち上がる。
休憩はすんだ。
多少の睡眠を取ったおかげか、頭はスッキリしている。
先程に比べ体も軽い。
殺し合いに臨むには充分すぎる状態だ。
「さぁいくで、皆殺しや」
懐にある銃を確認。
今の自分が持つ唯一の武器にして命綱。
ウルフウッドは好敵手に背を向け、自らが入室してきた扉の方へと歩き出し――
「…………なんや、コレ?」
――そして彼は気が付いた。
ある一点を見つめたまま、ウルフウッドの足が止まる。
『ソレ』は最初から――カミナ達が扉を開いた時からそこに存在していた。
勿論、後にウルフウッドが侵入してきた時も変わらずに、だ。
だが、『ソレ』の存在に気付く者は誰も居ない。
何故なら、扉を開くと同時に、不可思議な機械が彼等を待ち受けていたからだ。
当然侵入者達の注意はその機械へと向けられ、死角に置かれた『ソレ』に気付く事は無い。
そして、この部屋への侵入を許されし者――螺旋力覚醒者は、部屋に設置された螺旋界認識転移装置により別の場所に飛ばされた。
だから、気付かない。
扉の上に設置された『ソレ』に。
「……何で、ココにコレがあるんや」
455 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/13(日) 20:38:35 ID:XmkvqVaz
だが、螺旋力未覚醒者――ニコラス・D・ウルフウッドは、『ソレ』に気が付く
事が出来た。
『ソレ』――扉の上部に、まるで見下ろすかの様に鎮座した巨大な十字架に。
長年、ウルフウッドの相棒とも言える最強の個人兵装に。
「最後の慈悲って訳か……」
大蛇に呑み込まれた筈のパニッシャーが、何故この部屋にあるのか、ウルフウッドには分からない。
ほんの数秒、困惑の表情で考え込むウルフウッドであったが、直ぐにその疑問を思考の隅に切り捨てた。
そんな事どうでも良い。
先程のような夢では無い。
この手の中に、愛銃にして最強の個人兵装が握られている。
その事実こそが大事であった。
ウルフウッドの顔が猛獣のソレの様に歪み、その手がバックルの一つを外した。
現れるは、見慣れた十字架――相棒パニッシャー。
様々な機械が織り成す部屋に於いて、十字架は何時も通りの白銀を見せ付け、自らの存在を誇示していた。
「またよろしく頼むで、相棒……」
優しい語り掛けと共に、ウルフウッドはデイバックと十字架を背負った。
そして何も存在しない虚空を睨み、口を開く。
「神様よ……指くわえて見とれ。ワイが、オンドレが生き返らせた愚者が、全てを殺すところを……絶対にワイは負けへんぞ……!」
その背中に断罪を意味する兵器を背負い、罪人は歩き出す。
反逆の牙は手に入れた。
あとは、いつも通りに殺していくだけ。
そこに祈りは必要ない。
背信者に祈るべき神など存在しないのだから。
生き抜く為だけに、全てを殺す為だけに、主に復讐を果たす為だけに、血塗られ
た地獄を進む。
「じゃあな、トンガリ」
居るはずの無い盟友へと言葉を残し、復讐者は地獄へと舞い戻った。
□
男が背負う十字架が持って来られた世界。
それは、男の住む世界とほとんど同様の、だが何処か違う世界――言うなれば多元宇宙に浮かぶもう一つの砂の惑星。
男は知らない。
その十字架が砂の惑星に住む数千万の命を、盟友――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの命を、救った事を。
何も知らない男は全ての命を奪う為、目の前の道を歩き続ける。
世界を救った十字架が――血に、染まる。
【B-4/螺旋界認識転移装置室/2日目/朝】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如(睡眠により軽減)、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
軽いイライラ、聖杯の泥
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、パニッシャー(重機関銃残弾100%/ロケットランチャー100%)@トライガン
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。(@絶対に死なないA外道の道をあえて進む)
1:売られた喧嘩は買うが、自分の生存を最優先。他者は適当に利用して適当に裏切る。
2:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
3:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
4:ヴァッシュに対して深い■■■
5:言峰に対して――――?
[備考]
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しましたが、未覚醒のため使用できません。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※『疲れによる認識判断力の欠如』は睡眠により軽減、『寝不足による思考の混乱』は解消されました。
穏やかな風が流れる。
5人―――正確には4人―――は体を休めながら、話をした。
ゆたかは全てを皆に打ち明ける。Dボゥイに助けられたこと。途中でシンヤに捕まって、しかし彼もラッドに殺されてしまったこと。そしてそのあと明智やねねね達に救われたにも関わらず、自分が三人を殺してしまったことを。
スパイクが一言そうか、と呟いただけで、誰も口を開かずゆたかの話を黙って聞いている。
しかしその静寂から、ゆたかを責める響きはなかった。
そしてゆたかが話し終わると、次に舞衣が、ジンが、スパイクが、これまで経験してきたことを話し出した。
三人の人間を殺し、そしてつい数時間前に知り合いにも手を下した舞衣。
同行者をことごとく失いながらも因縁に決着をつけたスパイク。
最後まで生き延び、この場を楽しいゲームに差し替えようと奮闘しているジン。
皆形は違うが、苦労を重ねてきている。
それに、ゆたかは改めて恥ずかしくなった。
誰もが、辛い思いをしてきた。時に人を殺め、時に仲間を失い、時に自らの無力に絶望してきた。
そんなのは―――当たり前なのに。
建物を崩壊させたり吹きとばしたりできる強い力の持ち主でもない限り、誰だって一度は挫折しかけてもおかしくないのだ。
なのに自分ときたら―――そこまで考えて、ゆたかは首を小さく横に振った。
「……ゆたか? どうしたの?」
「ううん、何でもない」
やめた。
そうやってまた負の連鎖に陥っても、何も始まらない。
今のゆたかは、さっきまでの小早川ゆたかではない。
自分のやりたいことを見つけたから。そして、自分にできることが分かったから。
「……大丈夫、だよ」
「うん」舞衣の言葉が、すごく力強い。
「……六時だ」
微笑みかわすゆたかと舞衣の動きを止めたのは、スパイクの短い声だった。
瞬間、静寂が落ちる。時計の秒針が動いていくのを見る。
そしてかちり、と長針が12に移動し―――
放送が、始まった。
*
『さあ、己が生命を賭けて血潮を滾らせ、闘争に身を躍らせろ。
生きることこそ、生き延びることこそ即ち戦いなのだから。 』
その言葉を最後に、放送はぷつりと途絶えた。
ゆたかを除いた3人に特に動揺は見られなかった。知り合いで死んだ人間のことはほぼ把握していたからだ。
スパイクがビシャスとヴァッシュの名前が呼ばれた時にわずかに眉を上げ、舞衣が静流が呼ばれる瞬間黙祷を捧げるように瞳を閉じたくらいで、誰も声を発しない。
しかし、ゆたかは違っていた。
―――あれ?
「え?」
ぽかんと首を傾げる。どういうことなのだろう。
「え、私は……ねねね先生と清麿君は……」
自分が『殺した』二人が呼ばれていない。
明智の名前はあったのに……ゆたかの聞き間違いだろうか?
なぜなら自分が―――
「まあ……俺にはその時の状況が分からんから何とも言えないが……そういうことだろ」
スパイクのはっきりしない発言に、ゆたかは更に疑問を深める。
いや、本当は分かっているのだ。ただ予想もしなかったため、理解が追い付かない。
「あれ、だって、私が……」
―――皆を殺したんじゃなかったの?
自問するゆたかの頭に、優しく手が置かれる。
「大丈夫、呼ばれなかったんだから、二人はまだ生きてるわ」
舞衣が、姉のようにゆたかに微笑みかける。
「……ほんとう、に?」
「何回も放送を聞いたけど、残念ながら今までは本当みたいだよ?」
ジンもひょうひょうとした口調ではあるが、優しいまなざしをゆたかに向けている。
ゆたかは、そこでようやく理解した。
まだ二人が、生きているのだということを。
―――ゆたかの背中から、すっと力が抜けた。
良かった。
二人はまだ、生きてる。
私は、二人を殺してなかった!
もちろん、それで許されるなんて思っていない。明智を殺したのは間違いなく自分だ。
それは背負わなければならない、それでも。
「良かっ、た……」
それでも。
生きていてくれたこと、それだけで嬉しい。
小早川ゆたかを救ってくれた人が、一人でも多く無事でいてくれるだけで、救われる気がした。
―――明智さん、私は悪い子ですが……
せめて、せめて私に、二人の生存を喜ばせてください。
罪深い私にできることなら、何だってやってみせますから。
「良かった……本当に良かった……」
だから、
「……皆さん、本当に、ここから脱出しましょう」
「あはは、ゆたかちゃんそれ二回目」
舞衣が茶化すように笑う。
分かってる。ちゃんと小早川ゆたかは分かっている、それでも。
「……うん」
もう逃げない。もう絶望しない。
そして、かがみを救い出すと、決めたから。
「……やっぱり女の子は強いよね。そう思わない? スパイクも」
「ああ……こいつら見てると、そうとしか思えないな」
暖かな感情に見守られながら、
こうして小早川ゆたかは―――完全に現実を受け止めたのだった。
*
放送後、四人はこれからどこに向かうかを考え始めていた。
途中でスパイクに『ロボット兵に乗った少女』について教わった。何でも、彼の腕を切り落としたのは彼女らしい。……絶対に会いたくない。
「かがみさんは、どっちに向かったんだっけ?」
「えっと……」
首を絞められた痛みとショックで、かがみがどちらに逃げ出したのかは見ていない。スパイクとジンが南ではないか、と言ったが、やはり確証はない。
「それでも、まだ遠くには行っていないと思う」
「私もそう思う。相当パニックを起こしていたみたいだったし―――誰かに保護されてる可能性もあると思う」
それが一番最良な結果だった。
人助けをするような人間なら、このゲームに乗ってはいないだろう。その人物と協力することができる上に、かがみに会うこともできる。
「だが、無闇に探し回るとニアミスするぞ?」
スパイクの至極まともな指摘に、ゆたかはそうですよね、と小さく呟く。
間違った方向に進んでうろうろし、殺し合いに乗った人間に出会ってしまったら、自分たちには勝ち目がない。
(今は)ごく普通の少女であるゆたかと舞衣、ある程度は戦えるが全身ぼろぼろのスパイクとジンである。
「……分かります。けど……ここで待っていてもかがみ先輩は戻ってきません」
それならば、少しでも動いた方がいい。
すぐにでも救いださないと。ラッドから、かがみを。
「……分かった、じゃあとりあえず南の方に向かってみよう。それでいいな?」
「はい、舞衣ちゃんとジンさんは?」
「私は皆がいいのならどこでも」
「オレも特に反対はしないよ」
こうして方針は決定した。しかし、まだ四人はこの場から動けない。
「決まりね。……あとは、結城さんが目を覚ましてくれるといいんだけど」
舞衣が、うなされているらしい元の世界からの知り合いを不安そうに見つめる。
「さすがにこのままの状態で運ぶ訳にもいかないし……結城さんが目覚めるまでは保留ね。それまで傷を癒すってことで」
「あ、あの舞衣ちゃん、それなら、ちょっと出てきていいかな?」
そこで、先ほどからあることを考えていたゆたかが手を上げる。
「え? 一人で?」
「あ、うん。ちょっと……色々あって」
―――水、浴びたいな。
そんな場合ではないと分かってはいるのだが、汗で体がぐちょぐちょで正直気持ち悪い。
つい数時間前まではこんなことすら考える余裕がなかったのだから、精神が落ち着いた証拠とも言える。
それに、冷たい水に触れれば心もすっきりするだろう。
「すぐ、戻りますから」
「おい、危ないぞ、一人は。俺かジンがついていった方が―――」
「分かってないのね、女の子の行くとこくらい察しなさいよ」
呆れ顔の舞衣。
「……しかしだな、」
「まあまあいいじゃんスパイク。二人ともただじゃ引かないよ?」
スパイクは複雑な顔をしながらも、仕方ねえな、とそれ以上言うのをやめた。何か舞衣に誤解されている気がするが。
舞衣は、ゆたかににこりと微笑みかけ、言葉を続ける。
「私がついていくわ。それでいいでしょ?」
「ま、舞衣ちゃんいいよ! そんな大したことじゃないし!」
それはジンやスパイクよりも困るかもしれない。……あらゆる意味で。
「今の私には何もできないけど、たぶんゆたかちゃん一人よりはいいと思うな……私も少し行きたかったしね」
最後の言葉は耳打ちで。舞衣は分かっている、と言わんばかりにゆたかに笑顔を見せた。
「ね、どう?」
―――敵わないな、舞衣ちゃんには。
決して彼女に引け目を感じている訳ではないつもりなのだが、先ほど諭されたためか、意見を言われると彼女の方が正しく思えてくる。
「……うん、分かった、ありがとう」
だから最終的に、ゆたかは舞衣の言葉に素直に頷いたのだった。
*
C-5、商店街。
二人の雰囲気の異なる少女が、共に連れだって歩いている。
ゆたかは舞衣に水浴びをしたいと言ったところ、彼女も喜んで同意してくれた。
やはりどんなところにいようと女の子は女の子、せめて体くらいは流したいのは共通だ。
「こ、ここに来てから、お風呂にも入ってないし……まあ、仕方ないんだけどね」
「私も少し体を拭いたくらいかな。……だ、だから水に入れるなら是非入りたい! 結城さんもまだ眠ってるみたいだし、早めに戻れば大丈夫だよね」
ゆたかと舞衣は、和やかに談笑しながら歩く。
一見、仲の良い友人二人の会話に見える。その評価は間違っていないし、そこにとってつけたような違和感はない。しかし。
「うん、三人には悪いけど、少しだけ、ね」
―――気になる。
二人揃って、心の奥に不安と好奇心を抱えていた。
―――どうしよう。
ゆたかは考える。気まずい。
舞衣と二人きりだなんて、何を言えばいい?
今は何気ない世間話でごまかしているが、もし話題が尽きたら?沈黙に耐えられるだろうか。
聞いて、みようかな。
何を?決まっている。『彼』のことだ。
―――ななな、何て聞くの? ま、舞衣ちゃんはDボゥイさんのことす、好きなのって?
名前を聞いた時の舞衣の反応。そして『あの人』と言った時の幸せそうな、恋する瞳。
あれは、もしかしなくても、『彼』のことではないのか?
はじめ聞いた時に似ているとは思ったが、その張本人だったとしたら?
……無理だ。聞けない。
もし、聞いて頷かれたらどうする?そして本当に、Dボゥイのことだったら?
自分は何の力もないし弱虫で胸もない。同性のゆたかから見ても、美人で大人っぽい舞衣の方が魅力的だ。
―――勝ち目、ないよね。
せっかく友達になったのに、余計なことを聞いて空気を悪くするのは嫌だ。でも、気になる。気になって仕方ない。
―――どうしよう。
舞衣は考える。気まずい。
ゆたかと二人きりだなんて、何を言えばいい?
今は何気ない世間話でごまかしているが、もし話題が尽きたら?沈黙に耐えられるだろうか。
聞いて、みる?
何を?決まっている。『彼』のことだ。
―――な、何て聞けばいいのよ? ゆたかちゃんはDボゥイのこと好きなの、って?
名前を聞いた時のゆたかの反応。そして『そういう人がいる』と言った時の幸せそうな、恋する笑顔。
あれは、もしかしなくても、『彼』のことではないのか?
どことなく彼女と似たものは感じていたが、まさか恋する相手まで同じだったとしたら?
……無理だ。聞けない。
もし、聞いて頷かれたらどうする?そして本当に、Dボゥイのことだったら?
自分は素直になれない可愛げのない女だ。同性の舞衣から見ても、女らしく清楚な雰囲気のゆたかの方が魅力的だ。
―――勝ち目、ないよね。
せっかく友達になったのに、余計なことを聞いて空気を悪くするのは嫌だ。でも、気になる。気になって仕方ない。
「……」
「……」
悶々と悩む二人からは、やはり次第に会話が失われていく。
時折どちらかが思い出したように話を振るが、二三度の会話のキャッチボールですぐに終わってしまう。
嫌いな相手や苦手な相手ではない分、余計に沈黙が辛い。
―――何か、言わないと。
「「あの……」」
そして二人は、ほぼ同じ思考を巡らせた後口を開いた。……これまた同時に。
「あ……」
「……えっと」
「ま、舞衣ちゃん先話していいよ」
「え、い、いいよ、ゆたかちゃんからどうぞ」
沈黙。
……さわさわと風が流れる音が聞こえる。
隣には川が流れており、自然に囲まれている、という訳でもないのにやけに静かだ。
この状況をもしゆたかの従姉が見ていたら、『タイプの違う女の子二人に愛される一人の少年! さあ恋の天秤はどちらに傾くのか!? ……ってそれ何てギャルゲ?』と突っ込みをいれそうだが、残念ながらその手のことに疎いゆたかにはそんな冗談も思いつかない。
―――えっと、あの、どどどどどうしよう!? こういう時は何を言えばいいの!? 教えてみなみちゃん!
―――な、何を言えばいいの? 自然な形でそう言えばDボゥイって〜とか振る? そんなの無理! ああああもう助けてよ! 命でもいいから!
心の中で顔を真っ赤にして転げまわる二人。
「……あ、あの、ね」
そして動いたのは、ゆたか。
―――少し怖い。でも、やっぱり聞いておきたい。
恋する乙女として、そして何より友達として。
「ま、舞衣ちゃん、一つ聞いてもいいかな?」
「あ……う、うん」
舞衣が何故少し焦った顔をしているのかゆたかには分からないが、ここまで来たら聞くしかない。
「えっと……えっとね……舞衣ちゃんって……」
心臓が激しく脈打つ。緊張が走る。
―――頑張れ、ゆたか。頑張れ!
「あの、舞衣ちゃんは、あの、D―――」
そこまで言いかけたゆたかの耳に飛び込んで来たのは、少女の泣き声だった。
*
「……大丈夫か?あいつら」
「女の子はタフだから平気でしょ。それよりまずはこの子をどうにかしないとね」
女性二人が遠ざかり、不安そうなスパイクに、ジンがいつもの調子で答え、隣に寝かされている少女に視線を滑らせた。
放送が終わった今も尚、目覚める様子はない。
「さすがにこの子抱えたまま、『ラッド』のとこ向かうわけには行かないよね。早く目覚めてくれるといいけど」
「まあな……ったく、でかい荷物を持たされたもんだな」
溜め息を吐くスパイク。
「どうして、ここで俺が知り合う女は皆こう姦しいんだ」
読子といいカレンといいシータといい。タイプこそ違うが、誰も大人しくしてくれない点だけは共通している。
舞衣もかなり気が強いようだし、ゆたかは大人しそうに見えたが実際は強情だった。
「……だから女とガキは苦手なんだっての」
「まあまあ、そう言って結構慣れてきたんじゃないの?」
ジンの言葉に、まあな、と小さく答える。
そして無意識にポケットに手を伸ばし、タバコはなかったことを思い出し腕を引っ込めた。
―――はあ……Dボゥイが持ってきてくれればいいが。……さすがにこの中に来たら気まずくなるだろうな。
二人の微妙な雰囲気で、スパイクは彼ら三人の関係性が何となく読めていたが、
大人が口を挟むべきでないだろうと触れていない。
「それにしても、そのDボゥイ?だっけ、彼は随分と女性にもてるんだねえ」
……やはり、ジンも気付いていたようだ。
おそらく当人たちは知られているなど夢にも思っていないだろうが、自分がDボゥイの名前を出した瞬間顔を赤くしたりうろたえ出したりと、端から見ているともろ分かりもいいところだ。
「多分あれだろうな。男は命知らずな奴ほどもてるんだろう。きっと戦場に向かう男なんてモテモテに違いない」
「……なんだかそのDボゥイって奴に会ってみたい気もするけど、会わない方がいい気もするね」
複雑そうな顔をするジン。
「まあ、恋愛ってのもいいかもね。こんな時だからこそ、何か心休まるものがあるってのも」
「必ず休まるとは限らんぞ……」
女性二人がいない間に、男同士恋愛の話で盛り上がる―――とはさすがにいかない。第一年齢が違い過ぎる。
―――それにしても、ジュリア、ねえ。
絶賛気絶中の少女が召喚していた蜘蛛の名前を思い出し、何とも言えない気持ちになる。
無論無関係なのは分かっているのだが、ジンが余計なことを言ったせいで頭に残ってしまった。
「……ん」
「お、お目覚めかな?」
その時、少女が小さく声を漏らす。
ジンが手を叩き、少女の脇に腰かけ明るく笑った。
「……な……ここは……」
「お疲れ様。君は戦って負けて気絶。オレはジン、こっちはスパイク。分かった?思い出したかい?」
ジンの軽い口調にも奈緒は何ら反応を示さず―――1つの名前を口にした。
「……かがみ」
「ん?」
「スパイク……柊かがみは……? あいつは、どこに行ったの……?」
そう叫ぶ奈緒の顔にあったのは、困惑。そして何よりも、怒り。
「あいつは……あいつはどうなったの?」
「柊かがみは逃走したよ」
スパイクの言葉に、ぴくりと奈緒の肩が揺れる。
「逃げたあ? あいつが? 死なないのにどうして?」
奈緒の口調から滲み出ている苛立ちから理解する。彼女は、おそらく自分でかがみを倒したかったのだと。
「……さあ? お前に恐れをなしたんじゃないか?」
理由はアイパッチで正気に戻ったからだと分かっていたが、あえてはぐらかす。
「ふざけないで! 私はあいつを克服して―――」
「分かったよ、ちゃんと話すから。だから落ち着いて、話でもしないかい?」
怒りで立ち上がったジンが奈緒をなだめ、座らせる。
そして、奈緒を無条件で黙らせる一言を、紡いだ。
「いろいろと君には聞きたいことがあってさ。柊かがみとのこととか、―――ギルガメッシュのこととかね、『ナオ』さん?」
【C-5/住宅街/二日目/早朝〜朝】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、偽・螺旋剣@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:とりあえず奈緒から話を聞く
1:柊かがみを助け出す
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ニアに疑心暗鬼。
4:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
5:マタタビ殺害事件の真相について考える。
6:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※舞衣、ゆたかと情報交換を行いました。
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に未だ激しい痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾3/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:とりあえず、奈緒と話す。
2:十分に休息を取ったあと、柊かがみのところへ行く。
3:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
4:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
5:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
6:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
7:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:疲労(特大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、
左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ (少し乗り越えた)、螺旋力覚醒
[装備]:無し
[道具]:黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
0:金ぴか……!?
1:刑務所へ向かう予定だが、黒い球体の正体がわからないので、いつ行こうかちょっと迷ってる。
2:かがみを乗り越える。そして自分の手で倒す。
3:静留の動きには警戒しておく。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
※かがみへのトラウマをわずかに乗り越えました
※第5回放送を聞き逃しました。
シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』) 、
黄金の鎧の欠片@Fate/stay nightが【C-5】のどこかに撒き散らされています。
*
ニア。
ニア。ニア。ニア。ニア。ニア。ニア。ニア―――!
「許しません」
シータの頭で、その名前が何度も何度も繰り返される。
「絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に許しません……!」
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。早く早く早く早く、あの自らを侮辱した女・ニアを。
―――あらあら、負け犬のシータさんはまだ抵抗なさっているのですか?
聞こえてくるニアの声。自分を蔑み、見下している。
―――そんなので私に勝てるとでも? 貴方の兵隊さんとやらはとんだポンコツ。それに比べて私には、ドモンさんという素晴らしい武器があります。
「うるさい……うるさい……うるさい……!」
―――分かりますか? シータさん。これが私と貴方の格の違いというものです。螺旋王の娘である私に、ラピュタなんかの王族が勝てるはずありませんよ。
「……うるさいうるさいうるさい!」
―――それに……貴方はドモンさんを味方につけることができませんでしたから。……王族としてだけでなく、女としても私が勝っているようですね。
「黙れ、黙れこの雌豚がっ!」
―――……ではシータさん、またいずれ会いましょう。今以上に醜い姿にならないでくださいね? ……くすくすくす
それを最後に、ニアの声は聞こえなくなった。
シータが想像力を失ったからなのか、それとも特に理由などないのか。
一つだけ確かなのは、シータはニアの言葉に憎しみを募らせているということだけだ。
もはや焼けるような痛みはない。怒りと殺意の前には、全てが吹き飛んだ。
「……許せない……あんなことを言って私を侮辱して……許さない、許さない……!」
彼女は倫理感こそ失ったが、思考はまだ失ってはいない。
だからこれでも理解はしていた。……このままニアのところに向かっても、あのドモンというニアが籠絡した男―――とシータは信じ込んでいる―――に勝てないだろうと。
―――やはり、誰かに私の家来になって貰いましょう。
シータは考える。その家来があの男を倒してくれたら、自分はニアを思う存分殺すことができる。
―――いいえ、ただ殺すだけでは足りません。あの女は王族たる私・リュシータ・トエル・ウル・ラピュタを馬鹿にしたのです。拷問して、あの美しい髪を引き裂いてやりましょう。
肌を釘で引っ掻いて爪を剥いで内臓を引きずり出して瞳を抉りだして耳を切り落として、自分がいかに愚かで無礼で下品で醜い雌豚なのか分からせてあげましょう。
そして命乞いするニアを、私の呪文で粉微塵にしてあげます。ニアだけは、私と同じ価値観にもしてあげたくありません。……くす、くすくすくすくすくすくす……
まだまともな精神―――だと自分では思っている―――を保ちながら、シータはロボット兵に乗り空を舞う。
もっともその姿は、華麗とは到底言えようもなく、すさまじい憎悪に満ち溢れていたのだが。
「兵隊さん、降りて」
ロボット兵は、主人の命令に従って下降し始める。王女様の新たなる『兵隊』を見つけるために。
そして地面に降り立つと、シータはロボット兵を巨大な木の裏に動かし、そこに大人しく座らせた。
「貴方はここにいてください。私がピンチになったらちゃんと助けに来てくださいね?」
役に立つ兵隊を見つけるためには、このロボットを連れて歩いていると疑われる。完全に無力なふりをするには、手ぶらが一番だろう。
そして絶好のタイミングでロボット兵を呼び出し―――油断している背中にレーザーを浴びせるだけだ。簡単簡単。
自らの容姿が強者とは思われないというのは既にヴァッシュやスパイクで実践済み。更に今は火傷を負っている。まさか、大怪我をした少女がゲームに乗っているなどと考える奴はいないだろう。
「……では……」
少女は―――くすくすと歪に唇を歪ませた。
*
「うっ…………あ……うくっ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
その泣き声の主に、ゆたかは駆け寄る。
それは小柄なゆたかと変わらないくらい小さな少女で、地面に座り込んでしゃくり上げている。
「……どうしたの? 何かあったの?」
どう考えても尋常ではなさそうな少女の態度に、ゆたかも舞衣も困惑の色を隠せない。
「……二……アが……」
そして、少女は荒く息を吐きながら顔を上げ、
「ニアが……ニアって子が、私の顔をこんな風に……!」
その、もはや面影のかけらもない顔を二人にさらした。
「……っう、……ひ、酷い……」
ゆたかが口元を押さえて蹲る。少女の顔には生々しいいやけどの跡が今も癒えずに残っている。少々火に巻き込まれたくらいではこうはならない。
思春期の女の子にとっては―――致命的なまでの大火傷。
「ニア? その子が貴方をこんなことに? ……ゆたか、服緩めて!」
舞衣のてきぱきとした対応に、ゆたかはあ、うん、と慌てながらも頷いて少女のぼろぼろの衣服をただれた皮膚から剥がしていく。
ニア、という名前は聞いた覚えがある。確かスパイクとジンが道中で会い、わずかな間行動を共にしたという少女だ。二人の話からは危険人物だという情報はなかったが―――。
「い、いや、いやあああああ……に、ニアは……いい子だと思ってたのに……お友達になれると思ったのに……なのに、あんなに酷いことを……!」
錯乱した彼女の言葉から事実をつなぎ合わせると、そのニアは善良な人間を装い、彼女に攻撃してきたらしい。
「大丈夫だからね、だから落ち着いて?」
「……こ、怖かった……すごく怖かったんです……」
ずきり、とゆたかの心が痛む。
―――助けてあげないといけない。
この子は、私より弱い。こんな酷い目に遭わされて、もしかしたら死んだ方がましだと思っているかもしれない。
私だったら、どうだろう。
もしこんな大火傷を負ったら?泣くどころではすまないかもしれない。
だから、私が。
「大丈夫だよ」
「……う、……ぐす……でも……」
ゆたかは笑いかける。
そして、そっと手を差しのべた。
舞衣が、ジンが、スパイクがそうしてくれたように。
明智が、ねねねが、イリヤが、清麿がそうしてくれたように。
そして何より―――『好きな人』が、そうしてくれたように。
「私は、小早川ゆたかって言います」
Dボゥイ、さん。
その名前を呟く。すると自然に勇気が湧いてきた。
傷ついた少女を救うための力。
自分のような、力無い存在を守りたいと願う力が。
―――ありがとう。
「私が……貴方を助けてあげるから」
皆の力によって救われた少女は、願う。
自分も―――誰かを助けたい、と。
「だから―――泣かないで」
*
くすくす。くすくすくすくすくす。
この子、すごく弱そうですけれど―――とても役に立ちそうですね。
二人の姿が見えたから咄嗟に泣き真似をしたら、すぐに信じてしまうんですもの。
ニアのように私に生意気な口を聞いたりしませんし……。もし敵が襲ってきたら、このリュシータ王女の盾として使ってあげてもよろしいですよ?
さあ、ゆたかさん、でしたかしら?
貴方も私の命を守る兵隊さんになってくれますよね?私のために死んでくれますよね?
そして、この私を侮辱した最低の屑・ニアとすべての人間を殺してやりましょう!
くす。くすくすくす。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす―――
一人の少女の優しさと。
一人の少女の強さと。
一人の少女の憎しみを乗せて―――彼らの行方はどこへ向かうのだろうか。
【C-4/川辺/二日目/早朝〜朝】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(大)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
0:目の前の女の子を助ける
1:Dボゥイのところへ戻る
2:かがみをラッドから助け出す
3:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
※シータがスパイクの話していた『ロボット兵に乗った少女』とは気づいていません。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失われていません)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)、全身に火傷による負傷(体は軽度)、顔の左半面が火傷で爛れています(右側にも火傷が及び、もはや面影なし)、おさげ喪失
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる?
0:何を差し置いてもニアの殺害。
1:目の前の少女(ゆたか)に助けてもらい、油断したところをロボット兵で殺す。使えそうなら盾になってもらう。
2:ニアにたぶらかされたドモンの殺害。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣には奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
※ヴァルセーレの剣から本編までに溜め込まれた『魔物』の力が失われました。奈緒のエレメント、アルベルトの衝撃、ヴァッシュのAAの力は健在です。ただし、通常の呪文では開放することができないようです。
※ニアという存在に対する激しい憎悪が刻まれました。自分にないものも持っていたものも全て持っている存在で、許し難いという認識です。
※ニアを憎悪するあまり、聞こえるはずのないニアの声が聞こえます(全てシータを嘲る内容)
※ロボット兵はドモンの一撃によって半壊、胴体に穴が開いています。レーザー機能に支障をきたしています(故障か、チャージに時間がかかるのかは未定)
※デイパックを投げ捨てたため、下記の支給品はB-5の卸売り場に放置されています。
支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
※ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首はC-4のエリアのどこかに置かれています。
機体状況:中破(レーザー機能に不備発生)、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
*
―――この子、どうやってこんな火傷を負ったのかしら?
舞衣は少女の服を脱がせながらも、そう考える。
他人を意図的に燃やそうとしてここまでできるだろうか。
案外、火をつけるというのは難しい。自分が放火を行っていたからこそ分かるのだが、一つのものを狙っての点火、ことに動くものにはそう簡単にできるものではない。
少女からはガソリン類の匂いもしないことだし。
……まるで、自ら炎を被りにいったかのような惨状なのだ。
それに、少女は『ニア』という名前を出した。
彼女の言葉を信じるなら、そのニアは実は殺し合いに乗っているということだ。
しかし、何か引っかかる。
自分が守れなかった少年―――シモン。彼はそのニアの知り合いだった。
彼は力こそなかったし、常識もなかったけれど―――それでも、まっすぐで強い少年だった。
シモンが顔色を変えて探そうとしていた少女・ニア。そんな人物が、……殺し合いに乗ったりするだろうか?
元々シモンすらも騙し本性を隠していた、そう考えることはできる。だが、舞衣はそう考えたくなかった。
ただの感情論、同情と言われればそれまで。何の根拠もない。それでも、舞衣は会ったこともないニアを疑うことがどうしてもできなかった。
そして、思いだす。
スパイクが言っていた。ロボットに乗った、小さな少女。『無害な一般人を装って』、彼の腕を切り落とし、一人を殺めた殺人者。
小さな、女の子―――
―――まさか、ね?
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
[装備]:薄手のシーツ、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]: 皆でここから脱出
0:目の前の少女の保護(しかし、少しひっかかる)
1:Dボゥイに会いたい。
2:ゆたかがDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジン、スパイク、ゆたかと情報交換を行いました
※目の前の少女(シータ)がスパイクの言っていた人物かもしれない、と少しだけ疑っています。
テスト
――――風、強うなってきとんな。
鈍色の空、朧に霞む日の下に帰還すれば、そこに打ち付けるは冬の前に吹く風にも似たそれ。
建造物に当たる度にびょう、と旋風を掻き鳴らし、窓のガラスはがたがた揺れる。
箱庭世界の均衡は崩れ、既に崩壊は差し迫りつつある。
最早気候などに構う余裕はないのか否か。
そんな事を知る由もなく、黒に身を包む牧師が至るのは一つの感情のみ。
……ああ、鬱陶しいわ。
周りを見据える。
対岸には瓦礫の如き卸売り市場が夢の跡。
……そう、夢の跡だ。
あそこで夢は朽ち果てて、友は蜻蛉と散り爆ぜ消えた。
何故そうならねばならなかったのか。
何故そこに辿り着いたのか。
想い。
重い。
思いを――――馳せる。
刻々と近づく滅びの時。
亡びに放浪尾、彷徨いの終わりと宛てたのは誰だったか。
果ての果てに至るまで、誰彼の辿った軌跡を描き出そう。
人の夢は儚い。
……その、着きの尽きる場所へと足を運ぶ道中に。
まどろみの中で見た光景の残滓に付き合おうじゃないか。
血に濡れ地に伏せ恥に塗れ、それでもただただ世界を神を見放さんとする一人の旅路を今此処に。
――――何処からか、ガサガサと。
歩みを進めるたびに幾つもの塵屑が目の前を通り過ぎ、時として牧師のその体にぶつかっては在らぬ所へ飛んでゆく。飛んでゆく。
進むは埠頭、海と陸との狭間の脇を。
潮の臭いは生臭く生温く、潮騒は絶え間なく。
黒々とした水面の上、ぷかぷか浮かぶ白い泡が不快感を催させる。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
ハジマリは年端も行かぬ物言わぬ少女。
肉の楯と散じた彼女は、どこか彼の知る孤児院の誰かを思い出させた。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
次いでこの地にて彼は初めて手を汚す事になる。
シモンという黒い髪の少年も、今は既に屍と。
……彼にも友や慕うべき先導者がいたのだろう。
牧師に懐いていた少年少女が親しげに『ニコ兄』と呼ぶように、きっときっとアニキと呼んだであろう存在が。
ニアとかヨーコとかいう名前の相手はませた子供に相応な女友達だろうか。
放送によれば後者の方は死んでいる筈ではあるが。
……何にせよ、シモンの知り合いの誰と出会おうと自分は外道を貫くだけだ。
支援
そう言えば、あの時殺し損ねたのはマイ、だったか。
名前が呼ばれていない以上は、きっと生き足掻いているのだろう。
あの時は生返事したが、そう言えばスパイクの探している人間がナントカ舞衣だったような気もする。
……怪獣に乗っているとヴァッシュが言っていた女ときっと同一人物だろう。
ああ、本当に面倒臭い。
恨みを買うのは当然で、あの時の目線も自分に向けられたものだというのに。
……いつも通りのその風景が、実に胸糞悪かった。
怪獣に奇襲される危険を考えると余計にそれは増加してしまう。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
まあ、その後に出会った女は殺せたのでよしとする。
奇妙な銃を使う上に訳の分からない犬コロがけったいとしか言いようがなかったが、あんなお人好しなら死んで当然だ。
……相方の正義の味方気取りの糞餓鬼も、どうせどこかで野垂れ死んでいるに違いない。
巡り巡って後々デカブツを操る蛇使いを相手取る事になったのは面倒極まりなかったが、シズルとかいうあの方言女も結局死んだらしい、いい気味だ。
これ以上は連中の関係者に目を付けられたくはない、流石にあんなの相手は疲れてしまう。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
……で、問題なのがその直後。
くたばったとは言えアルベルトとかいうおっさんと、因縁というにもいささか気の乗らない不死身の柊かがみに出会ってしまったのは本当に不幸だった。
不死身な以上また出会う可能性は低くはなく、どうしたものかと素直に思う。
いやまあ、死ななくても殺すに違いはないのだが。
あの時――――、柊かがみの友達とやらを殺しておいたのは失敗だったのかもしれない。
七面倒臭い事を背負い込むきっかけになったのも、あのやけにきっちりした少女を殺して目をつけられたからだろう。
やれやれ、と、牧師は眉間に皺を寄せるも即座に表情を切り替える。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
そして思い出したくもないのは神父の一団だ。
恐らく全ての原因はあの男に違いない。
『……成程、君がそう思うのも仕方ないようだ。
――――君は、自身の行動で自分が“彼”ではない事を証明し続けているのだから』
『君は二度目の生を下らないと考えているようで、その実死にたくないと思っている。
その歪さは、間違いなく劣等感から来るものだ。
自身が憧れた在り方がありながら、しかし君はその人物と同じ事を為すことが叶わない。
それを認めたくないからこそ、自身の命の価値を――――』
じゃかましいわ。
……そう思えど、いまだその言葉は碇のように心の奥底に沈み込んで捨て去る事も出来はしない。
だからその上に蓋をして、しかし今もなお碇は心に食い込み続けている。
しかも、残りの餓鬼二匹がこれまた食わせ物だった。
片方はさっさと片付けたが、スパイクとか言う賞金稼ぎへの恨みを買ってしまった。
奴は前のパニッシャーの仇でもあるビシャスを殺してくれたのはいいとしても、どう考えても割に合わない実力の持ち主だ。
そして、もう片方のシータとか言う自称お姫様。
……考えるのを、止める。
浮かび上がるのは――――、自分を友と言い切った、金の髪の誰かの表情だけだ。
確かに殴り合った。どつきあった。
イライラの原因で、どうしようもなく疎ましく感じたのも確かだ。
だけど。
それでも。
それでも――――。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
不意に、風に吹き飛ばされてきた一枚の紙切れが牧師の顔に纏わりついた。
チッ、と舌打ちをしながらそれを引き剥がしてみれば、そこには満面の笑顔が映し出されている。
……よくよく見知ったその顔は、写真の下半分に記載された膨大な賞金などとは全く縁がなさそうに見えるくらい――――、嬉しそうだった。
牧師の顔が歪む。
眉を下げ、目尻を細め、口をぽかんと開けて、今にも震え出しそうなその顔で、手に持つそれを、人間台風の手配書をクシャクシャに丸める。
そのまま海に向かって投げ飛ばそうとして――――、
……だが、体はそれ以上動いてくれなかった。
何も言わずに振りかぶった手をゆっくりゆっくり下ろし、丁寧に皺を伸ばしながらその紙を広げていく。
奇跡的に、一日以上の間も水に入り込む事なく飛ばされ続けてきた手配書。
そこに映し出された顔と睨みあい、少しだけ泣き笑いを、そして怒ったような表情を順次に浮かべる牧師。
あらためて四つ折りにした後胸ポケットに紙を納め、何事もなかったかのように牧師は歩みを再開した。
『メリルとミリィたちがさ、地下水掘ってるんだ』
『……何やっとんねん、ホンマに』
『ひょっとしたら、もう掘り当ててるかもね』
――――そんな馬鹿馬鹿しい会話を、まさしく服の中の紙と同じ表情であの男は紡ぎだしていたのだ。
あの砂漠の土地で。あの不毛の世界で。
No Man's Landと呼ばれた星で。
愛しい人たちが、未来を生きるために精一杯頑張っているという幻想を。
その、綺麗な未来に自分は手は届かない。届かせられない。
それを悟っているからこそ見据えられず、そしてまた手放せない。
かつて傍らにいた女性の虚像を振り返らず、ただただ心の中にしっかりと留め置く。
過去に縛られても何の意味もない。
思考を向けるはただ一つ、未来の為だけだ。
その為にも――――、彼は今までの道すがらの全てを振り返っていく。
とは言え、これから警戒すべき連中、思い返すべきその情報ももう残り少ない。
直接面識がある中で恨みを買っているのは舞衣、不死身の柊かがみ、スパイク、シータ。
……目視しただけとはいえ危険人物らしいのは、あの傷の男もそうか。
そして、自分の殺したシモン、なつき、きっちり女、エドの関係者。
……シズルとかスパイク以外にそんな連中がいない事を祈る。
伝聞情報で伝わっている限りで危険なのは、ギルガメッシュと東方不敗。
図書館で見かけてすぐ消えたあの能天気な3人組は放っておいてもいいだろう。
いずれにせよ、こんな所だろうか。
皆殺しが最終目的とはいえ、危険な人物は潰し合わせた方が後々楽な事を考えると、情報を得ることが無意味という訳ではないのだ。
先に考えた連中と接触するのは後々でいいだろう。
出会ってしまった場合は別としても。
……当然と言えば当然だが、どうせ自分に仲間はいない。後はない。頼れるものは己が体一つのみ。
そう、故に狙うのは自分を警戒している顔の知れた人間ではなく――――、
「On your mark……」
例えば、市場の近くを悠々と闊歩しているあの巨人のような、実に都合のいい的なんかが相応しい。
大きさはシズルとやらの乗っていた蛇に比べれば可愛い物だ。
パニッシャーもようやく戻ってきた以上、もはや臆する必要はない。
あのグレイ・ザ・ナインライブズも仕留めた相棒にかかれば、大きさなど些細な要素だ。
「――――Get set」
手に馴染む心強い感触。
嗚呼、なんて頼もしいのだろうか。
こいつとならば、いける。どんな敵でも斃してみせる。
此処であのロボットを仕留める。
……何があろうとも、問答無用だ。
殺し尽くすと決意した。ならば、相手がどれだけ強大だろうとただ道を進むだけ。
……そう。
これは、単にニコラス・ザ・パニッシャーの帰還を知らしめる儀式だ。
これは敵討ちなどではない、断じてそのような事はない。
……忌々しい金髪のトンガリ男。
あの男を殺したであろうロボットへの復讐心とは違うのだ。
ほら見ろ、あそこにいるのは姿も形も色も全然違う。
共通するのは機械仕掛けで動く人形だというだけだ。
だから、ロボットを目の仇にしている訳では、決してない。
きっと。
きっときっと、そんな事は欠片も思ってはいないはずだ。
「……Fire!」
髑髏型の引き鉄を、強く強く押し込みゆく。
ロケットランチャーは一心不乱に死地へと向かい、開幕の鐘を響かせる。
白金の躯持つ、地を駆ける虎の化身。
その胸板の真中に艶やかなる華を咲かせる為に。
頭に二発、心臓に二発。
まずはその血流を断ち切るために、臓腑に一発くれてやる――――!
◇ ◇ ◇
黒い星、闇色の輝きの真球。
彼の太陽が堕ちたのは何処だったか。
見届けるは西南西。
その似姿に違う事無く日とはそちらへ沈むもの。
故に向かうは陸の果て、海の際。
白虎は震え駆け抜ける。
己が命の輝きは、まさに今此処に在ると知らしめるかのように、歓喜と共に。
――――王より賜った知識によれば、既に南には殆どニンゲンは存在しない。
集うは北の地、映画館。
馬鹿騒ぎは収まれど、その周囲には今だ多々なるヒトの影。
黒の太陽に向かうニンゲンを仕留めると決めた以上、その周辺を捜索するのが理に適う。
だからそうしたまでだ。
怒涛の二つ名を捨て去った一人の戦士は、初めての生の感触に滾る気力を解き放つ。
敗残者故の油断無きその双眸の、見据える先は砕けしヒトの『日常』の。
かつて市場だった場所は、無残にも跡形もあるはずもなく。
……戦の痕は彼の地を廃墟と成り果たさせた。
ニンゲンは、まだ其処に居るだろうか?
否。
誰一人として生きとし生けるものの臭いはしない。
……だが、調べる価値はある。
ニンゲンがあの破壊をもたらしたならば、それを知る事は即ち封じ込めるのと同じ事。
自分は獣ではなく、知性持つ獣人なのだ。
だからそうするに躊躇いはない。戸惑いもない。
……崩壊のその流れを推し量りながら、かつての四天王は過ぎし時代を思い起こす。
虚飾に彩られた誇りに支えられた日々は、最早今の彼にはセピア色にすら映らない。
唯一色の残るは流麗のと呼ばれた同僚と過ごした時間だが、今見据えるべきは闘争の刻のみだ。
……地を這う他愛ないモノを叩き潰すだけの、起伏の無い数百年。
思えば。
……ただの掃除に誇りを見出す事の、何と空虚な事か。
己が全生命を賭け身を曝すに相応の価値を持つ戦いとは、今まさにこの場にある。
主の望みを果たす為、同胞の意義を証明する為。
之が、此処が、此の時こそが。
この――――、自分の初陣なのだ。
猛る気概と逸る歓びに咽び震える。
嗚呼、そうだ。
あの老人を思い出せ。
真の敵とは、自分が打ち倒すべき“敵”に相応しいニンゲンとは、彼の古強者のようなものどもだ。
そして砕くがいい、あの紅き光の担い手を。
偽りの矜持を砕いたが故に、感謝を向けるべき誰彼。
彼の存在をば蹂躙してこそまことの矜持を得られるのだから。
自らの武を持って信念を示すがいい。
そして同胞に見せ付けてやるのだ。
例え異なる世界の出自であろうと、自らの部下に向ける背中は常に正しく在らねばならない。
……酷な返答を迫る事になろうと、誑かされているのか否か見極める必要もある。
できればその様な事を行ないたくないとどこかで思いながらも、しかし自分を曲げる事は許されないのだから。
だからこそ誓いを果たそう。
彼の部下が尊するに足った、何処かの自分よりなお示すべき姿を見せ付けて。
そして、崩落した屋根天蓋を前にして、屈み込もうとしたその時に。
「……ご……ッ!!」
振動が。
衝撃が。
爆炎が。
轟音が。
硝煙が。
ありとあらゆる戦火が、彼を包み込んだ。
――――この時。
彼の、本当の戦いはようやく重い重い幕を開けた。
強かに打ち付けた頭は何かで切った様で、赤い汁が流れ出している。
たらりたらりと、額を、頬を何がが伝う。
鉄錆の匂いが生臭い。
だが、それだけだ。
機体の破損状況――――、コクピットハッチの強度低下のみ、出力に問題一切合財なし。
自分の肉体――――、頭部に僅かに裂傷、表皮が切れたのみ。
自分の精神――――、問題なし。否、闘争心が昂りに昂っている。
戦闘続行に何ら問題なし。
それどころか、今は。
「……負ける気は毛頭ない。勝つぞ、ニンゲン……ッ」
ニィ、と。
凄絶且つ、心の底からの歓喜の表現を両立させた笑みが、ゆっくりと浮かべられた。
◇ ◇ ◇
銃声が鳴る。
剣戟が届く。
爆発が轟く。
震脚が響く。
攻守の切り替わりは一瞬に。
偉大なる猛虎は躊躇いもなく距離を取り、一息。
踏み込みは強く強く、大地を疾駆。
「――――アルカイドグレイヴ!」
貫けよ風を地面をニンゲンを!
中てるべき影は小さくこちらは大きく。
引きちぎるは言葉にするよりなお容易。
相手が、ニンゲンならばだが。
「……見えとるわ」
一騎当千の魔人にしてみれば掻い潜るは呼吸に等しく。
背を縮め、片足のみで前へ前へ右へ跳躍。
距離にして僅かの2歩分。
それだけの間隔のみを挟んで光槍の突撃を避けきりなお進む。
大きな十字架を指運のみで反転。
狙うは脚部関節、装甲に覆われていない一点。
先のロケットランチャーの一撃を受けても小破程度に留まった堅牢さは折り紙つきだ。
ならば防ぎようのない稼動部を精密に確実に一寸のズレもなく狙えばいいだけの話。
それを叶える技術が自分にはある。
足を止めればただの的、中に引き篭もる誰彼を引きずり出すのも朝飯前――――!
しかし今だ足は止まっていない。
「……ちぃッ!」
パニッシャーを握らぬ方の手を始点に側転。
重心が頂点に達する直前に、凝縮した運動エネルギーを開放。
……片手の屈伸運動のみで滞空する。その高さは実に数米。
そのまま、薙ぎ払われた刃を跳び越える。
単純な話で、突きで伸ばしきられた腕を横に払えば、そのまま薙ぎになる。
白虎はそれを忠実に実行しただけだ。
だが、行なうには相手が避けて直ぐの刹那に動きを切り替えねば間に合わない。
避ける方も、それ以上の精密性且つ即座の判断を要求される。
いずれもがニンゲンの限界を超えているからこそ可能な攻防だ。
牧師は地面を頭上とする体勢のまま、銃機関銃での射撃を行なう。
だが、流石に不安定な姿勢はほんの少しだけ狙いを定めるのを遅れさせた。
……白虎に、何処を狙っているのか悟らせるには充分だ。
それでも動き始めるよりはこちらの方が早い。
撃った。
穿つ、貫く、破砕する――――!
しかし、『壊しきる』より相手の動きが早いとは限らないのだ。
踏み込む! 踏み込む! 踏み込む!
ほんの少しだけ煙を上げる脚部を即座に前へ前へ。
白虎は、牧師の狙いを定めさせない。
そのまま、
「……通すッ!」
右を踏み込み、
「……ふ、」
左で“蹴り飛ばす”!
牧師の眼前に迫るは動く壁だ。
「ざけんな、ボケぇッ!!」
咄嗟の判断で、十字架の上部を天へ宙へ。
ロケットランチャーを虚空へ撃ち放ち、その反動で強制的に方向転換、姿勢を制御する。
足を、壁と垂直に。
接触。
足の裏の圧力は確かに暴力の存在を教えてくれている。
だから、それにあわせて膝を足首を曲げていく。
身体の全てのバネを用いて、あらゆる衝撃を凝縮させる。
溜める。
溜める。
溜める――――!
……解放。
そのまま、キック真っ最中の巨大な爪先を足場として。
相手の攻撃すら運動エネルギーと変えて、牧師は自ら跳躍した――――。
だが息は止まる。
体が圧迫される。
飛んだ。飛んだ。吹き飛んだ。
「――――!」
……空を仰ぎ見ながら、ダメージを判断。
大した事はない。
歴戦の経験から、体の僅かな挙動だけで受けた衝撃を逃がしきる。
相手の蹴りなど所詮はあまりに大雑把すぎるその場凌ぎの一撃でしかない。
骨一本たりとて折れては――――いない!
ニコラス・D・ウルフウッドの真価とは。
パニッシャーの火力でも。
パニッシャーを扱い得る身体能力でも。
パニッシャーとまさしく一体となる連携でもない。
類稀なる戦闘センス――――、比肩し得るもののない闘争の才能こそが、彼を彼足らしめるのだ!
そして――――、
「……失策やな、距離、稼がせてもろうたで……!」
遠距離において、パニッシャーに勝る個人武装などこの世には存在しない。
――――そう。
この構図は即ち、確定された勝利の具現である。
空を翔びながら、ロケットランチャーの戦端を白虎に向け直す。
……今の相手の体制は、横に薙ぎ払いきった光槍を背後に、蹴りを終えた左脚を前に。
今にも地面に脚を着かんとしながら、完全に無防備な腹をそこに曝け出している。
つまり。
つまりは。
「……いくらロボットでも、胴体に2発ぶちこまれりゃ耐えられへんやろ?」
コクピットのハッチに再度の爆炎をプレゼント。
それだけで駆逐は完了する。
指先を回し、十字架を肩に担ぐ。
狙うは当然、胸の悪趣味な顔面模様のど真ん中だ。
「……供養はワイがしといたるわ。安心して神様の所へ行って、ワイの悪行でも報告しとき。
そっちに行くことになったら天国でもう一度ぶちのめしたるけどな」
……ついでに、あの阿呆に出くわしたんならな……。
そう口にしようとして、しかし牧師は言葉を飲み込み、言い直す。
「……それじゃサヨナラ、グッバイやどっかの誰かさん」
引き鉄を押し込もうとして――――、
急激に白虎が沈み込み、視界の中心からから消え失せた。
「……ッ!!」
刹那の間だけ目を見開き、動揺を瞬くよりなお短い間に押さえ込む。
よくよく見れば、相手の体勢は殆ど変わっていない。
……ただ、やけに前傾姿勢になっている為に、胸の中心をこちらに見せていないのだ。
これではロケットランチャーを繰り出しても有効打にすらなりはすまい。
だが何故だ。
蹴りを終えた直後という体勢上、あれ以上の起動は不可能なはずなのに。
舌打ちとともに視線をゆっくりとその巨体の下方へと移していく。
そこにある光景は何が起こったのかを雄弁に語っていた。
地面に孔が穿たれ、そこに片脚をわざと踏み込ませていたのだ。
自らの姿勢を変えられないならば、足場をわざと崩せばいい。
必然、そこに踏み込むだけで前かがみの姿勢を取ることになる。
ウルフウッドには知る由もない。
その孔がビャコウの飛び道具――――コンデムブレイズによるものであることを。
薙ぎ払いが終わった直後、手首をビャコウは回転させて石突を体の外側に、刃を内側に。
そのまま足先目掛けてコンデモブレイズを発射、踏み込むべき場所に孔を作り出していた。
完全にタイミングを外されたウルフウッドには、着地するその時まで出来る事は何もない。
そして、チミルフにも体勢を立て直す時間は必要だ。
僅か数秒にも満たないインターミッション。
それぞれがそれぞれの思考で以って、次に取るべき行動を決定する――――!
先に動いたのはチミルフだ。
「コンデム……ブレイズッ!」
貫き飛ばし突き通す。
眼前に在るもの全て、全て全てを穿って穿って穿って砕く!
奥の奥の手の飛び道具。
それを、行き着く暇なく撃ち眼前を埋め尽くす。
今ここでこの場で使わぬ道理はない。
飛び道具がないと認識していたであろう相手の最大の虚を突き、勝利を掴み取る。
先程使ったのを見られたか見られなかったかは関係ない。
その判断を下す前に、全力で以って完全に抹消すればいいだけだ。
先手は取った。
後は容赦も慈悲も躊躇もなく、ただひたすらに攻めて攻めて攻めてごり押しでも勝利を掴み取れよ獣闘士……!
「コンデムブレイズ、コンデムブレイズ、コンデムブレイズ、コンデムブレイズ……ッ!」
連射。連射。連射。連射。
連射。連射。連射。連射。
連射。連射。連射。連射。
連射。連射。連射。連射。
連射。連射。連射。連射。
連射。連射。連射。連射。
連射。連射。連射。連射。
連射。連射。連射。連射。
弾幕は止む事無く、雨と化してヒトに降る。
一滴一滴が触れた全てを砕いて潰すなら、その天候が齎すのは潰した塵芥すら残らぬ絶対の無。
だが、それがどうした?
当たらなければいいだけだ。避けきればいいだけだ。
降りしきる雨のその一滴の間隙を見極め身を躍らせなお前へ進め人の子よ。
さすれば道は開かれん。
……甘い、とウルフウッドは考える。
弾幕の密集のさせ方が甘い。
タイミングが甘い。
動きの先読みが甘い。
狙いそのものが甘い。
ありとあらゆる経験と知識と判断を以って、十戒の主の如く牧師は道を切り開く――――!
そう。
こと射撃において。
攻防いずれに際しても、武人は練り上げられた真の達人に及びはしないのだ。
一撃を避けるのは非常に容易。
全てを掻い潜り、足運びは常に最適解を。
飛来する全てを紙二重三重の余裕を持って往なし続け、狙う先は変わらず一点。
コクピットハッチに向かって、逃げ様のない一撃を叩き込む……!
だがそれでも。
それでも今は届かない。
狙いを定めて撃ち込むには。
この無数の光の壁は邪魔というにも程がある。
そして、着実に確実に、いつかはきっと訪れるだろう。
どれ程の技量を得ようと。
どれ程の判断力を駆使しようと。
どれ程の火力を許されようと。
個人という壁には、物量差というどうしようもない壁が存在する。
「流石にこれだけの連射は……、いつまでも対応しきれんか、くそったれがぁッ……!」
例え稚拙な射撃であろうとも、一撃なら赤子の手を捻ることより簡単に避けられようとも。
これだけの連撃、どれだけの間避け続けられることだろうか。
ジリ貧だ。
接近戦を挑もうにも、機械の巨人の挙動はあまりに強く、速過ぎる。
所詮、人の身で近づくには能わない。
さらばと遠距離からぶち込もうとしても、相手の射撃はそれを妨害するに余りある。
……ならば。
ならば、打開せねばなるまい。
人として、人の作り上げた錬鉄の兵装と、人の高め極めた技術で以って。
獣が如き炎の雨を縫い仕留めきる。
精密にして正確無比なる照準とタイミングで。
この弾雨の中を越えてあの白虎に届く一撃を。
リスクもコストも振り払い、ただ己を信じて吠える、咆える、吼える――――!
「破、ァアアァァァアアアァァァアアアアアアァァアアアアッ!」
集中せよ。
集中せよ。
集中せよ。
光の雨より更に白く、視界の全ては染まっていく。
そう、ロケットランチャーを撃ち込むべき一点は、今も目の前に近づきつつある。
それ以外に合わせるべき照準など、他にない。
単純で、シンプルで、愚直な弾道が、一直線に突き進む――――。
支援
だから。
だからチミルフにはそれが読める。
武人故に、彼は弾幕を張ってからの流れに対して無意識のうちにシミュレートを全て終えている。
その磨き抜かれた直感という名の行動予測は、いとも容易く――――、
「……アルカイドグレイヴッ!!」
ロケットランチャーを弾き飛ばすことを可能とする……!
これで詰み。
これで終局。
これで最期だ。
後は頼みのロケットランチャーを撃ち放った無防備な体躯を串刺しにすればそれでいい。
チミルフの顔が一色に染まる。
……歓喜ではなく、驚愕に。
「な……ッ!」
……シミュレートの全てを、覆されたことで。
弾き飛ばされたのは、弾丸でなく自分の光槍。
何故か?
答えは実に分かりやすい。
ロケットランチャーの弾が、今まさに槍にて撃墜されんとする直前に爆発したからだ。
ガンメン本体にダメージを通すことすら可能な一撃、取り落とさなかっただけでも僥倖だろう。
――――着弾もしていないのに、何故爆発を?
いやいや、しっかりと着弾は起こっている。
思い返してみよう。
『ウルフウッドは、蹴り飛ばされたときの姿勢制御をどのように行なった?』
……そう。
先刻虚空に撃ち放ったロケットランチャーの残り火が、ようやく地上に帰還したのだ。
その落下の全てを読みきり、精密にして正確無比なる照準とタイミングで成すべきことを成したというだけ。
落下してくるロケットランチャーの弾を、新たにロケットランチャーで狙い撃つ。
そんな、ただの神業を事も無げに実行し成し遂げたに過ぎない。
引き起こされる結果は二重の衝撃と二倍の爆炎。
ガンメンの視界すら防ぎきる紅色の壁が、ビャコウの前面を埋め尽くす。
姿勢が、崩れた。
圧の一字に押し押され、ぐらりと巨体は尻餅をつきかける。
倒れながらそれでも、ぎり、とチミルフは歯を食いしばり、明瞭なる光景を得ようと光槍を一閃。
熱と焔の幕を斬り飛ばす。
……と。
とん、と、槍の先から静かな衝撃が伝わった。
「……!?」
炎は斬り裂いた。
だが、煙は今だ立ち込め、数秒の間とはいえ何が起こったのか知る事は叶わない。
ととととと……、と、槍の先から何かの音がこちらに近づいてくる。
いぶかしむ本当に僅かな一瞬。
……それが、あまりに大きな過失と成り果てた。
炎を煙を抜け、現れる影が一つ。
霞の中より次第に姿を露にしていく。
槍の上を腕の上を駆け抜けて肘の辺りで一息に跳ぶ。
勢いに任せ大きな大きな十字架を胸の口へと突き立てたのは――――、
死神よりなお怖ろしい恐ろしい黒衣の牧師。
「――――!」
何という身体能力。
あの威風吹き荒れる猛炎の中を抜けて、あまつさえ姿勢すら微動だにする事無く細い槍の柄を足場にするとは。
何という判断力。
このタイミングより早ければ業火は確実にその身を焼き尽くしていただろう。
このタイミングより遅れればチミルフは確実に立ち直っていただろう。
そして、何という豪胆さ。
蛮勇ではない。無謀ではない。勇気ですらない。
冷静な判断の下に、為せることを為しただけ。
だが、それを行ない得るのは歴戦の覇者のみ。
かちゃり、と十字架をならし、その砲口を破砕した装甲の隙間へと捻じ込んでいく。
「……銃機関銃の零距離射撃。これなら逃げられへんし、威力も十二分や。
遠目から狙ったならともかく、密着状態ならこの程度の装甲容易くブチ破るで。
……覚悟は出来たか?」
頭に二発、心臓に二発。
鉄の壁越しに撃ち散らす。
……死を告げるは処刑人の名を冠する十字の担い手。
ここに、白虎と牧師の決着は刻み込まれた。
然るに残るは後始末。
中に潜む誰彼の息の根を止めてハイ終わり。
それだけだ。
◇ ◇ ◇
……いいのか?
何をだ。
この結末に納得していいのか?
……武人として、戦いの中で逝くのならば本望だ。
……だが、俺は何を残した?
俺は……、獣人の誇りを、生き様を王に示した。
欺瞞だ。結局敗残兵という事実は覆らん。
……そうだな。
ニンゲンに獣人が勝る事を証明するのではなかったか?
その通りだ。……ああ、口惜しい。口惜しいとも……!
誇りは今だ取り戻せていない。それでも俺はこのまま逝くというのか?
……認めん。ニンゲンの強さを物とした、真の獣人の繁栄を今だ俺は見届けていない。
だが負けた。俺はたった今、ニンゲンに確かに負けたのだ。
それが……、どうしたッ! 一度や二度の敗北など! 己が糧として先に進む事こそ生きるということだッ!
そう、負けたのはビャコウに乗る俺だ。ガンメンに頼り、力に甘んじた俺だ!
俺本人は生きている! その身一つがここにあるッ!!
俺は……、まだ戦えるのだから! 生きているのだからッ!!
◇ ◇ ◇
「オ、……雄ォォォォォオオオオオォォオオオォオォオオオオォォオオオオオォ……ッ!!」
遠く、遠く。
生誕の雄叫びが、世界に存在を刻み込む。
何処までも伝わる咆哮と同時。
牧師が引鉄を絞り込むその直前。
――――白虎の胸、顔型の装飾が散り爆ぜた。
「な……ッ!」
白い装甲板を砕きながら現れ出でたのは銀の鉄塊。
突如の事態に驚愕を浮かべながら、しかし牧師の肉体は既に背後へと飛び降りている。
そのまま地面に降り立ち、脚のバネで姿勢を整え巨人に向かい合った直後。
轟、と眼前に銀の柱が突き立った。
間一髪、条件反射頼りに回避には成功。
だがしかし。
地面が割り砕かれ、蜘蛛の巣のようにヒビが同心円状に走っていく。
無数の岩くれが大地より剥離し、僅かに宙に浮かび跳ぶ。
その中央に屹立するは、灼熱の意思と山河の肉体を併せ持つ剛毅なる勇士の姿。
他の何でも、誰でもない。
ただのチミルフが、其処に居た。
――――手に馴染んだ鉄槌で、愛機の破壊も厭わず内側から装甲ごと牧師を吹き飛ばす。
螺旋王から最初に賜った何よりの至宝、自らの体を以って直にニンゲンに勝ってみせる。
それが、己が生命の煌きの証明だと信じて。
チミルフは――――、
「オ……、オォォオォッ!」
穿つ。
叩く。
潰す。
砕く。
轢く。
挽く。
「オォオオオオオォオオオォオオオオオッ!」
人を遥かに凌駕した体躯。
無尽にも近いその活力を用いて、ただひたすらに。
ひたすらに。
ヒト一人程もある鉄槌を、絶えることなく振り下ろし続ける――――!
「……く、そがぁッ!」
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
――――死の臭いが近い。
ウルフウッドは実感する。
一振りの度に大地は爆ぜて、ガラスの様に砕け続け。
切る風は刃より鋭く、鎌鼬が服の端を裂いてゆく。
「……なんつースタミナや、この……ゴリラがッ!」
息つくよりもなお短い間隙にて振り下ろされる鉄塊の雨霰。
ヒトには不可能な無酸素運動の連続。
その体躯故に軌道は大振り。
避けるのは難くなく、しかし鋭いが故に広いが故に易くもない。
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
終わらぬ三動作の繋がりは常にテンポよく連続的。
何かを差し挟む隙はない。
それ故に、ウルフウッドは動けない。
銃撃による介入を行なおうとしても、それを狙えば回避のテンポを崩して破滅が確定。
何より、超々近接戦闘による打撃連撃玉簾こそが、パニッシャーの最大の弱点であるからだ。
最強にして最高の個人兵装と謳われる超重武器。
だが、完全無欠というわけではない。
遠距離においては無類の強さを誇るが、近距離ではその火力を発揮する術はないのだ。
ニコラス・ザ・パニッシャー。
その名の通りそれを自らの一部とするほどに使い込んだ彼はそれをよくよく承知している。
成程、成人男性4人がかりでやっと持ち上げられるこの武器は、鈍器として扱うことも可能だろう。
だが、目の前の相手の連続攻撃の狭間にわざわざそんな重たいものを振り回し叩きつける余裕があるはずもない。
相手とこちら。
どちらが先に隙を見せるか。
……その一点を互いに注視したまさにその瞬間、来るべき時は訪れる。
「……お、ぐぅ」
――――僅かに顔をしかめる獣人。
高速連撃による身体への負担は、東方不敗との戦闘による負傷にも等しく圧し掛かる。
傷が、開いた。
ほんの僅かの痛みはしかし、天秤を均衡状態に戻すには充分だ。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
――――何を?
決まっている。
死を運ぶ十字架の砲口だ。
だが遅い。
まだ足りない。
獣闘士の進撃を進軍を進攻を食い止めるには、決定的に速さが足りない――――!
「俺の名は……チミルフ! ただのチミルフだ! 螺旋王より生命を賜りし、……一介の武人だッ!!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
十字架の撃鉄の挙動よりなお早く、轟音と共に地が割れる。
間髪入れず、牧師は身を躍らせる。
「そりゃぁよかったな、だからどうしたぁッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
鉄槌の破砕を見極められ、しかし獣闘士は揺るがない。
ただひたすらに、喪った矜持を取り戻す為にニンゲンに問いを投げ続ける。
「……貴様は、貴様という存在は……何物だッ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
「あぁ? それがおんどれに何の関係があるっちゅうんや……ッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
「……我ら獣人は、貴様らニンゲンを支配する為に螺旋王によって作られた存在だ……ッ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
「……螺旋王!? ……ハ、どういうつもりかは知らんがな、丁度ええわ……ッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
「……だが王は、ニンゲンの真なる力を用いて一つの事を成し遂げると告げた! 獣人を頼らずにだ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
「どんな理由があったかなんてどうでもええわ、……何故ワイだったんや、何故このワイを生き返らせて、そしてまた殺そうとするッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
「ならば我らの取るべき道は一つしかない! 我々獣人がニンゲンより優れた種であることを、示すのだッ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
「そしてな……何故、あの阿呆を巻き込んだぁッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
「……どうして貴様は戦う! どうしてニンゲンは抗う! どうしてニンゲンは、壁を貫こうとする……!」
「どうして、どうして外道が外道なりに見出した救いまでも、あのトンガリまでもおちょくってくれたんや……!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
鉄槌と十字が、交錯する。
戦いは、時として舞踊に例えられる。
……だが、今この時に在る戦火をその様な児戯で喩えられようか……!
掲げ構え、踏み込み、振り下ろす。
身を沈め、脚を抜き、突き付ける。
それぞれの挙動に要する時間は完全に一致している訳ではなく。
だからこそ、今この時に互いの獲物はようやく噛み合った。
金属の重奏音が、鳴り渡る。
――――鉄槌と、十字架とが、交錯する――――!
「雄ォォォオオオォォオォォォオォォオォオオォオオオオオオッ……!」
「破ァアァアアァアアァァァアアアアァァアアアアァァァァアッ……!」
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
「「……答えろッ!」」
闘争の根源が、原初の死合いこそが此処に在る。
ヒトとヒトでないものの狩り合い。
生命の交換。意思と意地のぶつけ合い。
本当の意味での『生き抜く』為の戦いとはこういうものだ。
視界の全てが風に染まる。
白銀の世界、自分と敵の二者しか存在しない世界。
音の領域を駆け抜ける。
「ワイみたいな外道が生きて、……底抜けのお人よしが死ななあかんかった理由は、何処に在る……ッ!」
「貴様は、そうして得た力を……、何の為に使うのだッ!」
「……あの阿呆は、こんな最果ての地獄でも、それでも愛と平和をほざいとった……!」
「我ら獣人は、これまで漫然と矜持という椅子に座っていただけだったッ! だが――――、」
「……そんなヤツだからこそ、あんなどぐされた糞餓鬼に舐められた挙句首を?がれたッ!
敵にも満たない、あんなけったいな嬢ちゃんに!」
「……螺旋王の求める力は、世界を創る力は我々にはないという! ニンゲンにこそその力があるという!」
「生き延びたワイは何や? 神様に弄ばれて、自暴自棄になって頑固すぎるあの阿呆に劣等感を抱いて!
ガキばかり殺し尽くして!」
「ならば我々の存在意義は何だ!? ……貴様らの力を試し、その力を得て創造主に誇りを示すことだ!」
「……ふざけんなッ! 世界を創るやと!? だったらアイツを生かさんかい! ワイなんかよりよっぽどいい世界を創ってくれるわッ!」
「貴様の拘るアイツとは誰だ? それが、貴様のニンゲンの力の源か……!?」
「……アイツはなぁ、あの阿呆はな、お前たちと同じく創られた生命や! プラントや!」
「…………! ならば俺はその同胞を超えようッ!
同じく創られた存在にもかかわらず、ニンゲンに認められた存在を!」
「無理やな、おんどれはアイツと違う! 決定的に違う!
……あの阿呆はどんなことがあっても人間を守り続けた!」
「……何だと!? ニンゲンを超えた存在が、ニンゲンと共に……だと」
「……ああ、そうや。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、空っぽの貴様らと違って、人間が進み続ければいつか共に歩けると、信じていたんやぞ……!」
僅かな一瞬。
言葉と剣戟の応酬にてもたらされた事実は、重い手ごたえとして獣闘士の胸に刻み込まれる。
牧師の慟哭は、確かにそれが真実であると雄弁に語っていた。
「……こんな、どうしようもなく救えない外道でもな! 生きてて嬉しいと! 友達だと! 共に戦いたいと!
ほざきやがる位の……、大馬鹿野郎や……ッ!」
ゼロコンマに満たない静止。
……それだけで、牧師が引鉄を引くには十分だ。
獣闘士が既に振りかぶった鉄槌で叩き潰すより早く、牧師は十字架にて脳漿と心臓をぶちまけさせる事だろう。
ならば、それよりなお早く。なお速く。
蹂躙せよ。
蹂躙せよ。
蹂躙せよ。
……蹂躙せよ――――!
まだ、自分はニンゲンを見極めてなどいないのだから!!
「お、おお、おおおぉぉぉおおおぉぉおおおぉおぉおおおッ!」
――――チミルフは、振りかぶったまま鉄槌を背後に放り捨て。
「が……はぁっ……!」
そのまま、肩から牧師に体当たる――――!
突撃、突撃、突撃!
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃――――!!
「おぉ、おおおおおぉおおおぉおおぉぉおおおおおぉおぉお……!」
「……ざけんじゃ、ないわ……ボケぇっ!」
愚直すぎる、何処までも何処までも真っ直ぐなタックル。
獣人の超重量と筋力を以ってすれば、それは自動車など悠に勝る破竹の衝撃と化して進撃する。
……故に。
パニッシャーを楯にしたウルフウッドの体はあっさりと、『弾き飛ばされない』。
……どうして?
回答はオンリーワン。
ウルフウッドが吹き飛ばされるその速度より、チミルフが突進する速度が勝っているからに他ならない。
道を抜ける。
森を抜ける。
街を抜ける。
ウルフウッドを貼り付けたまま、チミルフはかつての二つ名、怒涛と化して止まらない。
舌打ちと共にウルフウッドは考える。
楯を挟んだ分威力を損じている為有効打には至っていないが、それでも全身を圧迫する衝撃は苦しいものがある。
ならば止めろ。留めてみせろ。
――――掌打。
ごきり、とチミルフの首が鳴った。
だが止まらない。
だから、更なる一撃を叩き込む。一撃で足りなければ二撃。二撃で足りなければ三撃を。
掌打掌打掌打掌打掌打掌打掌打掌打――――!
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃――――!
……不意に、視界が暗くなる。
何処かの建物に、壁に開いた孔から入り込んだようだ。
まずい、とウルフウッドは考える。
このまま壁に叩きつけられでもしたら、内臓破裂では済まされないだろう。
……だから、その前に。
全身全霊を込めて拳を握る。
「破あぁぁぁあああぁぁぁあぁぁああああッ!」
「雄ぉぉおおおぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉッ!」
……何も考えず、拳骨を叩きつける。
……白い壁に、黒衣の牧師を叩きつける。
静かすぎる音が、響き渡った。
時間は同時。
双方が、ぐらりと揺れてくずおれる。
――――ウルフウッドの視界には、ゆっくりと立ち上がろうとして膝をつく獣人が入っている。
……何故かは分からない。だが、非常に幸運なことに背中に当たった壁はやけに柔らかい素材で出来ていたようだ。
また肋骨がイカれた気もするが、大したものでもない。内臓も苦しいだけで破損はない、と判断。
追突の直後、ぶち、という音がして背後の壁が破れたような気もする。
あれだけの衝撃を吸収したのだから当然だろう。
……だが、ダメージそのものはともかく一時的に身体機能を麻痺させるには充分すぎる衝撃だ。
――――あと、一撃。
たったそれだけで生死は決するというのに、動きがままならない自分が口惜しい。
懐に忍ばせたデザートイーグル。
それで鉛弾を脳天にぶち抜けば終わりというのにだ。
見れば、チミルフは立ち上がれないながらも既に丸太のような豪腕を握り締めている。
意趣返しのつもりだろうか。
だが、自分とは拳の大きさが全く違う。
あんなもので殴られれば、トマトよりもなおあっさりと自分の顔は砕け散ることだろう。
……どちらが先に立ち上がれるか。
それだけで天秤は傾くのだ。
このままでは五分と五分。
おそらくほぼ同時に立ち上がる、とウルフウッドは経験から推測した。
立て。
立て。
立て。
立て。
立て。
――――立ち上がれ。
だが。
何故、自分は立ち上がろうとするのだ?
そんな自問が何処からか浮かび上がってくる。
生と死の狭間。
再度この境地に立たせられて、ウルフウッドはようやく。
ようやくのこと、燻っていた素直な心情を認めることが出来た。
……ああ。
なんて情けないんやろな。
あれだけ外道の限りを尽くして、恨みを買って。
神様の救いも、友達の想いも見放して。
それでも。
それでもワイは。
――――生きたいと、思ってしもうた。
「……そやな。……ああ、生き抜いて見せるで。
たとえ修羅の道を歩もうと、絶対に……ッ!」
だから立つ。立ち上がる。
例え何が修羅の道の先にあろうと、それを穿ち壊す為に。
生き抜くために――――!
「……これで仕舞いや、くたばれオッサン……!」
――――緑の螺旋を纏わせて。
ニコラス・D・ウルフウッドは此処に再起した。
此処に――――、ようやくの事で『蘇った』。
誰よりも強い後悔と、誰よりも強い生きる意思を両立させて。
外道を進む処刑人は、今こそ戦場に舞い戻る――――!
向けるは銃口、獣闘士が頭部。
……だが、そこには狙うべき頭蓋は存在しない。
すでにチミルフは立ち上がり、太く強い豪腕を振りかぶっている。
「砕け……散るがいい……ッ!」
勿論こちらが脳天を撃ち抜く方が速い。
だが、たかがその程度で、命を止めたくらいで相手の一撃が止まるとは到底思えない。
……その事実にウルフウッドは苦笑する。
穏やかな、笑みだった。
……同時に立ち上がっても、こっちが先に立ち上がっても結局あっちにぶん殴られるんかい。
――――不公平やな、まったく、この世っちゅうんは。
ようやく蘇って、その直後に脳漿を散らす。
……それが分かってなお、ウルフウッドは静かに真剣に脳天を狙う。
これで全部、お仕舞いや。
それだけを思って撃鉄を動かし――――、
全身が動かないことに気が付いた。
「な……ッ!」
見れば、体中に鎖が、ぎゅう……っ、と絡み付いて動かない。
それを認識した直後。
強烈なGと共に体がいきなり引きずられた事だけを理解して、ウルフウッドの意識は闇に堕ちた。
◇ ◇ ◇
「……ん、……何処や、ここ……」
――――眩しいな。何でワイ、こんなとこで寝とるんや。
呆けたことを思ってゆっくり体を動かしてみれば、そこは目の前に砂漠の広がるよく知る光景だった。
「……ワイ、何しとったんやっけ」
茹だった頭は記憶の再生を拒み、しばし地平の彼方を見つめ続ける事に専念する。
……いや、しようと思ったが。
「……何って久しぶりに帰郷したんだろう、お前は」
不意に聞こえてきた声と共に、急に背中が冷え込んだ。
精神的ではなく物理的にだ。
「のわっち! い、いきなり何するんじゃこのボケッ!」
振り向いてみれば、そこには。
「……ほら、さっさと教会に戻ろう。
下の連中や新入りも、お前に興味深々なんだぞ」
でかい大砲を背負った犬を引き連れて、長髪の少女がそこにいる。
「……?」
――――見覚えはある。
だが、誰だったか思い出せない。
……そもそも、彼女はこの孤児院にいるべき存在なのだろうか?
いぶかしみ、疑問を顔に出すも相手は呆れた顔を露にしてさっさと振り向き行ってしまう。
「お、オイ、ちょい待ち……」
すたすたと、すたすたと。
……それでも少女は足を止めず、何処かに消え去り見えなくなる。
姿を、消していく。
「……ち、しゃーないか……」
はあ、と思いっきり溜息を吐いて立ち上がる。
ごきりと背骨を鳴らしてみれば、眠気もすっきりさっぱりと。
汗を拭き拭き扉をくぐればそこは過去の象徴だ。
「おー、お帰りなのですニコにーちゃん。
何ですか〜、何ですか〜、その手にあるおーっきい十字架は何ですか〜?」
……男の子と見間違うような姿の少女が呑気に笑って出迎える。
ウルフウッドがいつの間にか持っていたそれを眺めてみれば、数多の血に塗れた罪科の象徴はこの場においてもしっかり自らの存在を誇示していた。
――――そう言えば、そうやったな。……ワイは、数え切れんほどの命を奪ってきた。
興味深げにじっと覗き込む少女の逆立ち気味な髪の上にポンと手を置いて、そのまま脇を通り過ぎる。
……と、廊下の曲がり角から現れたのはゴーグルをつけた少年だ。
自分が帰ってきたのが本当に嬉しいというかのように笑みを作り、彼はこちらに駆け寄ってくる。
「アニキ! 帰ってきたんだ! 無事で……、無事で、よかった……!」
その、純粋で何より強い視線に。
何かがびくりと震えている。怯えている。
ウルフウッドを構築するブラックボックスが脅かされる。
……何なんや。
何なんや、これは。
久しぶりに家に帰ってきて、ガキ連中と会っただけで。
何で、こんなに心臓が苦しいんや……?
……こいつらにも大切な人間がいて、それが偶々ワイだったってだけの話やないか……!
「……アニキ?」
何処までも真っ直ぐで、何処までも力強い瞳を持つ少年に背を向け、黙って元居た場所へと足を運ぶ。
背を向けないではいられない。
……畜生が。
ここはワイがずっと夢見てた場所やけど……、ワイが居られる場所やない。
針の筵とか、炎の床とか……、そんな程度の責め苦やあらへん。
こんな場所に、いつまでも居られるかい……!
「あ……、アニキ!? 待ってよ、置いてかないで、アニキ……ッ!」
――――背後の悲痛な声が、無限の剣となって体に突き刺さる。
勇み足で向かうは入ってきたばかりの入り口だ。
一心不乱に走ろうとするも、しかし何故か脚は鉛のように動かない。
……ここに居たい。
……ここに居たくない。
……ここに居たい。
……ここに居たくない。
……ここに居たい。
……ここに居たくない。
自分が本当に望むものが、自分がどう在るべきなのかが渾然として見定まらない。
何とも奇妙な気持ち悪さの中でどうにかこうにか前を見定めてみれば、扉の前には人影一つ。
……水兵の服を着た、やけに整った様相の長髪を抱く少女が境界の前に立ち塞がる。
彼女の役割はただ一つ。
何もかもを見限るか。
何もかもを得んとするか。
牧師がどちらの側に身を投げ出すのか、ただそれを『きっちり』と決めておくというそれだけのことだ。
「……ここが、勝負の分かれ目よん」
◇ ◇ ◇
――――酷い夢を見た。
「気分……、本気で悪いわ」
……今まで、この会場で自分の殺してきた者達が、『自分を慕ってくる』夢。
しかも、あの孤児院でだ。
……責めてくれればまだ気が楽だというのに。
「……くそったれ」
そう、きっとあの子供たちにも慕うべき人間がいたことだろう。
自分があの孤児院にどんな感情を注いでいたかを考えるまでもない。
大切に思い、大切に思われるそんな存在が、きっといた。
自分が真っ先に殺したシモンという少年。
彼にアニキと呼ばれるだけで怖気が走った。
「……ワイは、そんな言葉欲しくはないんやぞ……!」
ダン、と地面に拳を叩きつけ、その痛みでようやく我に帰る。
……果たして、ここは何処なのかと。
あのゴリラ顔の男の脳天を射抜こうとしたところまでは覚えている。
だが、それ以降の記憶がぷっつりと途切れ消えていた。
あらためて周りを見渡してみれば、見慣れない景色が並んでいる。
――――何かの研究施設。そんな印象を受けた。
人間も入れそうなカプセルやよく分からない計器、雑多な機械などが所狭しと並ぶ光景。
「……一体何処や、ここは……」
……呟き立ち上がって、光の来る方を覗いてみる。
と、そこには確かに見覚えのある景色が存在していた。
「……映画、館? 何でそないなとこにこんな物が?」
――――映画館の『スクリーンの奥』。
チミルフの突撃により破れたその中に隠された奇妙な空間。
ウルフウッドは、其処に寝かされていたのだ。
何の為の施設なのか。
とりあえず、手近な容器を取り上げてみる。
尤も、戦闘の余波かその容器は割れ砕けており、中身はすっかり流れ出してしまっていたのだが。
空っぽの容器のラベルはこう記されていた。
「……『“水”(シャム)』。何やコレ?」
全く意味が分からないので、とりあえずそこらへんに放り投げる。
隣に置かれた容器もやはりラベルに(ヒルトン)と書かれている以外は同じ様相で、中身は一滴たりとも残っていない。
「……ワケ分からんわ」
はあ、と溜息全開で手をつけば、何とまあ偶然にも。
カチ、と。
何かのスイッチが入る音がした。
「……ん?」
パチ。パチ、パチパチパチパチ。
――――照明が一斉に入り、暗い室内の一箇所が輝き照らし出される。
そこに在るのはオレンジジュースのような液体の入った大きなカプセルと、その脇に設置された何かのモニターだ。
「……コンソール? 面倒やな……」
愚痴を言いつつも近寄って、調べて見なければ始まらないわけで。
とりあえずは何気なしに画面に触れる。
……と。
『おはようございました』
そんな文字が画面に浮かび、同時にやけに格好つけた男の声が何処からともなく流れ出す。
「……ございました?」
『おや、貴方様は、ゼロ! 何たる僥倖! 宿命! 数奇!』
「ゼロって誰やねん、ワイはニコラスや! 間違えんなドアホ!』
意味もなく浮かぶ言語中枢の狂った文字列に苛立ちを覚えながら、ウルフウッドは画面上のパネルを秒間16連射。
次々と文字が浮かんでは消えていき、読み上げる声も止まらない。
『お、おおぉお願い、です! 聞いていただけますか!?』
『ここは螺旋王の施設でした。人体改造に特化しているでしょう』
『目の前を貴方様がお使いでした。さればこそ、活動電位とニューロフィラメントが異常数値でした』
『コードR、実験適合生体の改造装置でしょう、理解は幸せ』
『残念無念後悔、調整は未然。ギアスキャンセラーは得られず。空港にてジークフリートも消滅せよ!』
『然らば、他の機械を用いるべし。ラダム樹などをお勧め頂きますでしょう』
『万象多様! されど、その他の機構も優れたるものでした』
『必要は二時間でしょう、改造には。螺旋王は改良しましたですね』
『見えた見えた見えた見えた見えた。いずれかを使うは一度きりでしょう』
『お望みの一つが使用後は、この施設の機構が全停止なさいました』
『ゼロ! 貴方様は全力で敵を排除せよ! なればこそ、オォーゥルハイィルゥ・ブリタァァニアァァー!』
ぴき、とウルフウッドの額に青筋が走ると同時、
「……おちょくんのもええかげんにせんか、この……腐れ機械がッ!」
イライラで震える拳の渾身の一撃をパネルの中に叩き込む。
表面のガラスが砕け割れ、ようやく喧しいオレンジ語を沈黙させる事に成功した。
……はあ、はあと息を荒げながら、ふざけた機械の告げていたことをあらためて纏めなおす。
要するにこの隠し部屋は螺旋王が用意した、人体改造の為の施設なのだ。
多種類の改造方法が用意されており、所要時間は2時間必要。
だが、どれか一つを選んだ時点で他の改造方法は使えなくなる、と。
つまりそれは、こういう事だ。
「――――あの阿呆と同じになる。
人間やめる事ができるっちゅう事、か……」
……人間をやめれば、あそこまで馬鹿を貫き通す事が出来るのだろうか。
地には平和を、そして慈しみを。
その境地に辿り着くことが、出来るのだろうか。
「――――ああ、ここを使えば貴様はニンゲンをやめる事が出来るだろう。
故に貴様がニンゲンである内に問おう。
……貴様は、何故戦うのだ?」
……それとも、あくまで人間に立ち向かい続ける誇り高きこの男と同じ道を歩むのだろうか。
「――――戦う理由、か」
振り向きはしない。その必要はない。
既に拳は交わした。互いに問いも投げかけた。
ならば、必要なのは言葉の応酬だ。己が核の具現化だ。
「……それはワイも知りたいわ」
自嘲しながら牧師は虚空を見つめ、誰かを思い浮かべる。
「……そんな筈はないだろう。貴様はこの俺も超えて戦い抜いた。
理由無き戦いでそんな真似が出来るはずないではないか……!」
ニンゲンの力の根源とはなんなのか。
あの緑の光こそ螺旋の力なら、この男もまた答えと成り得る筈だ。
故にそんな答えには満足しない。
自分をも超えるほどのこの男の持つ答えは一体何なのか、問いに問う。
「だから、別に理由がないとは言ってないやろ。
ワイにも分からへん、認められへん。……それだけや」
……されど。
思いは在る、応えは在る、確かに在る。
だが、それを形にする事の何と難しい事か。
「……逆に問うで。おんどれは何の為に戦っとるんや?
世界の創造とかフザけたことを言っとるっちゅう、王様の為か?」
考えても分からず、だからこそ牧師は愚直なまでの信念を頼る背後の男に何かを見出そうとする。
「……その通りだ。そしてまた、我々がなぜ生きているか――――、それを示す為だッ!」
――――螺旋王の目的、新世界の創造。
多元世界の存在。
アンチ=スパイラルという絶対的な脅威。
その打倒を果たした一つの世界。
……それらを聞いても、特に思うところはない。
せいぜいが、螺旋王すら運命に流され、神に弄ばれる悲しい道化である事を知ってしまったくらいだ。
虚しさが心を満たす。
……ただ。
己の目的を目指し一心不乱に駆ける事の出来る誇り高い闘士に、僅かな羨ましさを抱いた。
そんな程度のことだ。
「……そうか」
「何か……、他に言う事はないのか?」
「ワイが何かを言ってどうなる? 別におんどれは考えを変えやしないやろが」
聞くべきものも特にない。
相手から戦意は窺えず、こちらも既にそのつもりは一切無い以上、話の種はここで打ち止めだろう。
「……そうだな」
……相手も、それは分かっているようだ。
それだけを告げてしばしの静寂が暗い昏い部屋に満ちる。
……どれだけ経った頃だろうか。
数秒のようでもあり、数刻のようでもあり。
不意に、チミルフが言葉を投げかける。
「……これからどうするつもりだ?」
……分からない。
ただ一つ、目の前のものを使うか否か。
……それを考えるくらいしか予定にはない。
「さぁて、な。とりあえず……、人間やめるかどうかを考えてみるわ。
そうしたら、少しは答えが見えるかもしれへんやろ」
「……それは貴様の友、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの為か?」
「……友、か」
……ああ、友達だ。
恐らく掛け替えのない存在だ。
だからこそ。
だからこそ、今もあの笑顔が焼きついて離れない。
だからこそ、今も自分を揺るがし続ける。
「それすら分からへん。アイツの阿呆な理想主義に付き合うのも疲れたっちゅうのにな。
本当にそれが夢でしかないのか、手の届く光景なのかも区別がつかん。
人間に、本当にあの阿呆が命を賭けてまで守る価値があるのかどうかすらも。
……情けないわな、ワイは」
言い終えると同時。
「――――ならば、試すといい。
友の為に、友の生きていた意味を示す為に。
戦い抜くがいい!
ニンゲンにその価値があると、己の手で証明してみせろニンゲンよ……ッ!」
――――怒鳴り声にも近い、威声がウルフウッドを打ち付ける。
「――――試す?」
その、たった一語に、心が揺るがされた。
そう、人間が本当に価値の無い存在なら。
――――彼の守りきった者たちの生きた意味はすべて喪われる。
――――彼の盟友、ヴァッシュの生きた意味は全て喪われる。
それは、とても耐え難い事だ。
……だからこそ、ウルフウッドはヴァッシュのようになりたかった。
けれど、彼の理想を継ぐにはウルフウッドは手を汚し過ぎた。
最早引き返す事はできなかった。
だが。
「……そうか。試すか。成程、な……」
……自分には守る事で証明が出来ないのなら。
「……人間を、試す。ワイがこの手で、この血塗れの手でも出来ることで、試す」
自分には殺す事しかできないのなら。
「ワイがその途中で殺されたなら……、おんどれの大好きな人間は、ワイよりも立派やったって事になるよなあ」
例えそれが、外道の中の外道でしかない方法であるのだとしても。
「……ワイが人間を殺しつくしたなら……、ワイは外道がのさばるこの世に万々歳で帰ってしぶとく生き延びたるで」
例えそれが、あの男が決して喜ばない方法であるとしても。
「勝負や、ヴァッシュ。
他の人間がワイを殺せば貴様の勝ち。ワイが他の人間を殺し尽くせばワイの勝ちや」
あの男の生き抜いた意味を、ウルフウッド自身が証明することにはならないだろうか。
言葉にはしない。
他人の命をチップにするという軽蔑に値する言動の裏で、どれ程の想いが渦巻いているのか。
それを悟ることなど、最早誰にも出来はしない。
「……どっちに転んでも恨みっこなし。
名案やろ?
なあ……、ヴァッシュ。ヴァッシュ……」
――――生きたいと、本心から思う傍らで。
ヴァッシュの理想に準じて外道の自分を倒す誰かを望む心が何処かにある。
倒されることを望む自分が、何処かにいる。
……ヴァッシュの様に愛と平和を唱える、スパイク・スピーゲル。
幾度と無く相見えた不死身の柊かがみ。
今だ知らぬ、シモンの大切な者たち。
……そんな連中が、ヴァッシュを継いでくれる事を信じて。
泣き笑いの表情で。
ウルフウッドは、強く強くパニッシャーを握り締めなおす。
何一つ言わず、ただただ肩を震わせて。
――――救いなき道に、それでも救いを見出さんとする。
見出そうとし続ける。
「……その為にも、貴様はこれからどうするつもりだ?」
しばしの間隙の後、あらためてチミルフは牧師に言葉を投げかける。
……とは言え。
「……さぁてな。
とりあえず、当面は人間やめるかどうか考えるわ」
返答は、変わらない。
――――ただ、その言葉には自棄ではない、何処か達観した力が篭っているのは確かだった。
「……オッサンは、どないする?」
「……ふむ」
考え。
考え。
……考え。
ニンゲンと相容れないはずだった一人の獣人は、しかしかつては在りえなかった決断を下す。
「貴様の生きる道を見届ける……、というのはどうだ?」
……この牧師の生き様への純粋な興味。
そして、ヴァッシュ・ザ・スタンピードという、獣人に近い立ち位置ながらも異なる道を歩んだ男へのある種の憧憬。
……それらが、確かにチミルフの中に何かの変化を齎した。
「この施設を使うならば無防備になるだろう。その間の守護くらいは約定しようか。
ニンゲンを試すのは俺も望むところなのでな、目的が同じならば……、」
……ようやく、ここにきてウルフウッドは動きを見せる。
少しずつ、少しずつ。
首を曲げ、腰を曲げ、脚を、向け直す。
――――チミルフに対して、向かい合う。
「……は、つまりはしばらく手を組もうっちゅう事か。
おんどれがワイの後ろを守る、と」
告げる返事は自嘲するように。
しかし確かに、何処か満足げに。
「……お断りや。
ワイの背中を任せられるのはたった一人しかおらへん。
そしておんどれは……、あのトンガリやないんやからな」
「……そうか」
……それも一つの道だろう。
納得し、チミルフは目を閉じ頷いた。
残念だ、という気持ちはある。
それでもこの場合は仕方ないだろう。
言葉の意味を噛み締め、この場を立ち去ろうとしたその時。
「ただ……」
――――ぽつりと一言、牧師の呟きは確かにチミルフの耳へと届いた。
「……背中を任せはせんでも、肩を並べるくらいは許したるで」
「……そうか」
ただただ、それが当然だとでもいうかのように。
言葉の応酬と、一つの信頼がここに生まれ出でた。
それだけだ。
言い終えると、チミルフは己の荷物から一つの塊を持ち出し、放り投げる。
「使うか? どうせ俺には縁のないものだ」
どさり、と鈍い音をして地面に落ちたそれに目を向けると、僅かに目を見開いてウルフウッドは苦笑する。
「ま、貰っといたるわ。いつおんどれがくたばるかも分からんしな」
――――予備弾セット。
銃使いにとっては、これ以上ない後ろ盾だ。
パニッシャーであってもそれは例外ではない。
そのまま懐に手を入れ、煙草を探すも持っていない事を思い出して更なる苦笑。
釣られて歪みそうになる口元を押さえ、そう言えば、とチミルフは一つ必要な事を思い出す。
「……そう言えば、貴殿の名を聞いていなかったな。
あらためて問おう。……何者だ?」
仕方ない、というように僅かに肩を落とし、穏やかな顔で黒衣の男は一言。
自分は今此処で生きていることを、形と為す。
「……ニコラス・D・ウルフウッド。何処にでもいる、ただの……、救えない牧師や」
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン 螺旋力覚醒】
【C-5/映画館隠し部屋/2日目/午前】
【チーム:Testament & Judgement】
(ウルフウッド、チミルフ)
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲労(小)、やや情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨3本骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
軽いイライラ、聖杯の泥、自罰的傾向、螺旋力覚醒
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、
パニッシャー(重機関銃残弾90%/ロケットランチャー70%)@トライガン
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、予備弾セット@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。
(@絶対に死なないA外道の道をあえて進む)
人間を“試し”、ヴァッシュへの感情を整理する。
0:人間をやめるかどうか考える。
1:売られた喧嘩は買うが自分の生存を最優先。チミルフ含め、他者は適当に利用して適当に裏切る。
2:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
3:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
4:ヴァッシュに対して深い■■■。
5:言峰に対して――――?
6:ヴァッシュの意思を継ぐ者や、シモンなど自分が殺した人間の関係者に倒されるなら本望。
(本人は気付いていません)
7:生きる。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しました。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルに関する情報を聞きました。
※螺旋力覚醒
【予備弾セット@アニロワ2ndオリジナル】
今回のバトルロワイアルに出てきたあらゆる弾丸の予備セット。
パニッシャーやデバイスのカートリッジといったような特殊な武器もしっかりカバー。
どの武器の弾がどれだけ用意されているのかは詳細不明。
【人体改造工房】
映画館のスクリーンを破壊する事で初めて発見できる、螺旋王が用意した人体改造の為の施設。
ラダム樹や実験適合生体への改造器具などが存在する他、詳細不明の道具が多数設置されている。
螺旋王による改良が施されている為、本来は数ヶ月かかる改造でも2時間程度で全工程を完了する事が出来る。
どれか一つを選んだ時点で他の改造方法は使えなくなる為、選択は慎重に。
人間のままで戦い抜くという選択肢も勿論存在する。
※会場に吹く風が、だいぶ強まってきているようです。