アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ15

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1名無しさん@お腹いっぱい。
このスレはアニメキャラ・バトルロワイアル2ndの作品投下スレです。
基本的に、SSの投下のみをここで行ってください。
前スレ
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ14
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1205323883
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ13
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1204017211
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ12
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1202475356
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ11
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1199094345
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ10
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1197690706
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ9
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1195822039
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ8
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1194537782
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ7
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1193746998/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ5(実質6)
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1193324421/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ4
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1192195953/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ3
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1191637331/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ2
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1190647837/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ1
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1190383751/
避難所
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd part0-1
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1187538018/l50


投下作品についての感想、雑談、議論その他モロモロは以下のしたらばにて行ってください。

アニメキャラ・バトルロワイアル・セカンド 専用掲示板(したらば)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9783/
感想雑談スレ(上記したらば内)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9783/1190297542/l50
予約専用スレ(同上)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9783/1190297091/l50

アニロワ2ndまとめwiki
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
ツチダマ掲示板 (ID表示の議論スレ有り)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/6346/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd毒吐きスレ・別館4 (ID非表示の毒吐きスレ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1201093544/
※毒吐きスレ内での意見は、基本的に無視・スルーが鉄則。毒吐きでの話を他所へ持ち出さないように!


テンプレは>>2-8辺りに
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:15:12 ID:yoIqRUrM
参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)
1/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/●八神はやて/○シャマル/●クアットロ
0/6【BACCANO バッカーノ!】
●アイザック・ディアン/●ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/●ラッド・ルッソ/●チェスワフ・メイエル/●クレア・スタンフィールド
2/6【Fate/stay night】
●衛宮士郎/●イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/●ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/○言峰綺礼
1/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/●カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/●ロイド・アスプルンド/●マオ
1/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/●リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/●マース・ヒューズ
3/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
2/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/●ジェット・ブラック/●エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/○ヴィシャス
2/4【らき☆すた】
●泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
2/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/●アレンビー・ビアズリー
1/4【金田一少年の事件簿】
●金田一一/●剣持勇/○明智健悟/●高遠遙一
3/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/●パルコ・フォルゴレ/○ビクトリーム
1/4【天空の城ラピュタ】
●パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/●ドーラ
3/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/●玖我なつき/○藤乃静留/○結城奈緒
1/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/●読子・リードマン/○菫川ねねね
0/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/●ミー/●マタタビ
0/3【さよなら絶望先生】
●糸色望/●風浦可符香/●木津千里
1/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
●神行太保・戴宗/○衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
2/2【トライガン】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
1/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/●相羽シンヤ
1/2【王ドロボウJING】
○ジン/●キール
【残り28名】

3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:15:33 ID:yoIqRUrM
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
 優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
 「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg
【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:15:53 ID:yoIqRUrM
【書き手の注意点】

トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
無理して体を壊さない。
残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。

完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)

この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。

みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
   その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。

巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
叩かれても泣かない。
来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:16:29 ID:uUUC9TuP
※※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※※※※

このバトルロワイアルという形で行われている企画みたいなもの(>>2-8)は
実際に2chで行われているバトルロワイアルとはまったく別のものです。
彼等の企画(以下したらばでの企画)に関してはアニメサロンに移転が決まっております。

彼等は2ch上で議論ができなかったために外部掲示板に逃げた逃亡組であり(※1)
いうなれば荒らしに相当します。
アニキャラ総合板で行われる正式なバトルロワイアルは現在このスレッド上で
討議中ですので奮ってご参加ください(※2)

ーーーーーーーーーーー(Q&A)ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここに投下された偽SSはどうしますか?

全て削除依頼を出してください。また、出していいという話し合いもついております
(4スレ目参照)

ここはSS企画を行うスレなのですか?

そういう話はありません。ただ、『何故か』バトルロワイアルはSS形式でなければならないという
固定概念にとらわれた妙な人たちはいますが、このスレの住人ではありません。

6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:17:02 ID:uUUC9TuP
・GとかCというのは実在するのですか?

わかりません。
ただ、特にGに関しては、彼等がGの本拠地と言っているLeaf・Key板ですら、
Gといわれている人間のほとんどはしたらばの交流所から出た憶測でしかないという話です

したらばの行いがあまりにむごいために、反感を持つ人間が多いのは事実です。
したらばは、彼等にはむかった人間全てをGやCという一人の人間の単独犯にしたいようですが
結局はただの憶測であり、証拠が挙がっておりません。

はむかえば全てGとかCとかアンチと呼ばれます。気にしないようにしましょう
また、通称dionと呼ばれる、反・したらばバトルロワイアル陣営を全て敵視する変な人が
削除議論板などで暴れています。

彼等は2chの企画なのに2ch上で企画内容を話し合うのは荒らしという奇妙な論理で
削除依頼を出してきます。
ただ企画を行うのは2chであるので、2ch上で企画を話すのは当然のことです。
それを彼は許さないといきまいているのです。

彼等は2chでは必ず荒らしがでるから(Gが出るから)2chでは話せないといってますが
しかし、荒らされたというログは存在しません。
あるのはただの議論ログであり、彼等が荒らされたという間のログを見ても
話し合いが平穏に行われています。(彼等に対して「荒らされたときのログを出せ」と
何人かが要求してますが、なしのつぶてです。実在しないのだから出せないのでしょう)

つまり、したらばが言う「荒らされた」というのは、ただの被害妄想、いいがかりに過ぎないのです。
彼等の言う「荒らし」はいうなれば「Dionやその一派に歯向かった人間」の総称です。
まず気にしない事が一番です。が、たまに削除議論板で彼が暴れるのでたまに運営板などの
監視を行ってください。

現在、テンプレ議論が進行中です
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:17:52 ID:uUUC9TuP
ちなみに※1、※2はしたらばの管理人が付け加えたものですが、

>※1 これは議論スレがギャグの人に乗っ取られたためしたらばで話さざるをえなかったため。

とほざいてますが、そんなことはまず物理的にありえません。
彼等らギャグの人は一人だと仰っています。つまりこの話をそのまま通すと
書き手も住人もたくさんいる(彼等の言い分曰く)がいるのに
たった一人に乗っ取られたとそういうことになるわけです。

ありえるかどうかは、少し考えてみればわかることです。
(逆視点から見ると、『たった一人の住人?にボロボロにあらされるような企画』だと
 自分達が言ってるようなものですが・・・)


>※2 乱立しているキャプテンのお気に入りの作品ばかりを入れたロワの事。もちろん嘘なので
善良なロワ住人は騙されないようにして欲しい。

と叫んでいますが、そもそも自分から「善良な」と言い出す時点で

結論だけで言ってしまえば、ほんのわずかな、しかもあらされたというログすら出せないような
矮小な事実だけを針小棒大に騒ぎ立てて自分達の勝手気ままに動かしたいという意図だけしか
みえませんです。



以上警告テンプレ終了
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:19:11 ID:uUUC9TuP
また、したらばの一部住人の暴走を無視して3rdが2ch側で開始されておりますので
奮って参加くださいとのこと。


以上です
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:22:50 ID:yoIqRUrM
書き手の心得その2(実際に書いてみる)

…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。

適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。

かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
人物背景はできるだけ把握しておく事。
過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。

一人称と三人称は区別してください。
ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。

フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)

経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。

キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。

キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。

『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。

書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
 携帯からPCに変えるだけでも違います。
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:23:11 ID:yoIqRUrM
【読み手の心得】

好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
荒らしは透明あぼーん推奨。
批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。

擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。

嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。

感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。

ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】

このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。

『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』

これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】

一度死亡が確定したキャラの復活
大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては議論スレで審議の対象。

時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。

話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:23:33 ID:yoIqRUrM
【NGについて】

修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。



上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×



批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。

書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)

したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
まとめwikiを参照のこと
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:23:55 ID:yoIqRUrM
現在、この企画には二名の粘着荒らしが確認されています。(通称・CとG)
その内の一人、Cの詳しい来歴などは以下を参照の事。
2chパロロワ事典@Wiki‐キャプテン
http://www11.atwiki.jp/row/pages/203.html



また、単発IDで「ふーん」「あっそう」「つまらない」「どうでもいい」などの1行煽りレスや、
他スレや外部の毒吐き掲示板からのコピペを延々と繰り返す粘着荒らしがGと呼ばれています。
これらの人物には構うだけ無駄ですので、レスなどはせずにスルーしておきましょう。



荒らしが出たら?                 → スルーしましょう
C・G本人や、C・Gっぽい人、を見かけたら?     → スルーしましょう
どうしてもそいつらにレスしたくなったら?     → 毒吐き若しくはC・G観測所に書き込みましょう
吊られるやつは荒らしと同レベル。スルーしましょう
吊られる奴を叩くのも吊られた奴と同レベル、スルーしましょう。
荒らしレス〜吊られレス、その一連のレス塊をまとめてスルーしましょう。


※専ブラの御利用を強く強くお奨めします。



関連リンク
アニロワ毒吐き所(ツチダマ掲示板)http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/6346/1188116040/l50
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd毒吐きスレ・別館4 (ID非表示の毒吐きスレ) ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1201093544/
C観測所 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/4651/1170582458/l50
G観測所 http://tmp6.2ch.net/test/read.cgi/tubo/1184658777/l50
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:25:26 ID:yoIqRUrM
>>5-8は荒らし。無視推奨。
以上テンプレ投下終了。
14ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:30:01 ID:9YvvkSuF
一瞬の静止。
間を置かず身を沈め、殺人狂は攻城の投石兵器ばりの突進力で即座に身を詰めてくる。

アルベルトは再度掌に衝撃波を発生させ、同時、もう一つの衝撃波を推進力に変換。
自身を砲弾と変えて殺人狂に相対する。

「かあぁぁあああぁぁぁぁぁあああああああああぁあああああっ!!」
「おいおいマジかよどうやってるんだよオイオイオイオイオイオイ!!」

激音。

擦れ違いざま、殺人狂の左腕とアルベルトの右掌が交差。
殺人狂の左腕が砕け散り、アルベルトは無傷。
……否。右掌こそ無事だが、ボディに一撃食らっていた。
軽いものとはいえ、殺人狂は左右のワンツーを繰り出していたのだ。
直後、殺人狂の腕が修復を完了する。
結果だけ見ればダメージが残るのはアルベルトだけだ。

「く……ッ」

実感する。
元々の制限に加えて、今の自身は更に能力が低下している。
胸に突き刺さったヴァルセーレの剣が、今も自身の力を吸い取り続けているのだ。

そして相対する殺人狂は、異常なほどの螺旋の力を放出し続けている。
元の体が一般人であろうとも、それを補い余りあるほどの。
不死者の回復能力頼りに、筋力を限界まで酷使しているのも大きな要素だ。

それ以上に、そもそもの回復能力。
――――キリがない。


拳を交わし、収束した衝撃波を放ち、生身の右腕で殴られ、鋼鉄の左腕を吹き飛ばし、
建物ごと殺人狂に衝撃波を叩き込み、フック船長の鉤爪に肋骨を折られ、
足場を破壊して動きを制限し、空を駆け、特大の衝撃波を放ちながら。
――――それでも、殺人狂はその全てを無と化していく。

……しかし、諦めるという文字はアルベルトの脳裏にその一画すら存在しない。
そう、彼女を護り、導くと誓ったばかりではないか。
彼女の自我が危機に陥ればそれを救い出し、力に呑まれ道を踏み外したなら正しい方向を示すこと彼の信じた道。

――――草間大作に、戴宗がそうしたように。
柊かがみに見せねばならない。
自分たちの道は、揺らぐ事無く確かに此処にあるのだと。

呼ぶ。呼ぶ。呼びかける。
柊かがみである事を放棄した殺人狂。
それでも彼女を取り戻せる事を信じて、声を張り上げ彼女の名前を咆える。

届け。届け。突き破れ。

15ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:31:25 ID:9YvvkSuF
「いいか、……柊かがみ!」

背後に回りこむ殺人狂の足下に衝撃波を打ち込む。

「ワシは決して貴様に恨みを抱いた訳でもなければ、落胆した訳でもないッ!!」

態勢を崩した殺人狂に拡散する衝撃波を叩き込む。威力そのものよりも、吹き飛ばす事を重視して。

「だがな、この梯子の先にどんな光景があろうとも、これだけは分かっているぞ!」

既に原形を留めていないコンクリートの壁に叩きつけられるも、殺人狂は即座に立ち上がる。

「……そう、我らの運命は、こんな狂人などに好きにさせるものではないッ!」

狂った哄笑を続ける殺人狂と正面から向かい合い、アルベルトは己の胸に刺さった剣の柄を握り締める。

「全ては我々BF団と、かの螺旋の王の勢力どもとで、決着をつけるものだ!!」

肉が、組織が潰される音とともに剣がゆっくりと引き抜かれた。
同時、殺人狂は躊躇わずにこちらに突っ込んでくる。

「違うか!」

――――彼女に届かせねばならない。
殺人狂という殻を突き破り、彼女の意思そのものまで届けねばならない。
自分の意志を。自分たちの道を。

その為には、普通のカタチでは駄目なのだ。

「……違うかッ!」

衝撃波に力を加え、手に持つ剣に纏わせる。
ただ纏わせるのではない。……カタチを操作し、練り上げる。
――――螺旋のカタチに。
彼女の意思まで届き、梯子の先の天元すらも突破しうるドリルの形に。

殺人狂の螺旋の輝きすら霞むほどの緑色の眩さが、周囲を燦然と照らし出す。


「…………違うかぁぁぁああぁぁあぁぁあああぁッ!」


一歩を踏み出し、剣を、『柊かがみ』に突き刺して行く。
剣はその体躯にゆっくりと呑みこまれ――――、


16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:32:50 ID:yoIqRUrM
 
17ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:32:51 ID:9YvvkSuF
緑と赤黒の衝撃が、辺りの全てを染めていく。



――――気がつけば、かがみはそこにいた。

廃墟。
いや、爆心地か。
周囲を見渡せば、あちこちが瓦礫に覆われ崩れている。
特に酷いのは自分の真後ろだ。
石ころ一つ残っていないとすら言っていいだろう。
ちょうど、自分の真後ろだけまるでドリルか何かで抉られたかのように、
数百メートル、あるいはそれ以上にも渡って全ての建造物が消え去っていたのだ。

何となく胴体に脱力感と違和感を感じてそちらを見てみれば、自分の腹を剣が貫通していた。
慣れてはいるけど、痛いなあ、とだけ考え、そして気付く。
ちょうど剣の切っ先の方向が、背後の建造物の消失した方と同じ向きだ。
まるで、刀身の先端からビームでも出たみたいだと思い、苦笑する。
とりあえずそれを引っこ抜いて、そばの適当な瓦礫に立てかける。
すぐに回復する体を見て、そういえばそんな体だったなあ、と思い出した。

よくよく観察すると、服も申し訳程度にボロ布が纏わりついているだけで裸同然だ。
まともに回らない頭で、とりあえず着替えないとね、と思う。

――――何か忘れている気がする。
だけど、それが何なのか。
とても大切なことのはずなのに、思い出したくないような気もする。

考えて、考えて、考えて――――、
諦めようと思ったけど、もう少しだけ考えてみようと顎に手を当てた瞬間、その声が耳に届いた。

「……ようやく目覚めたか、不死身の」

――――それだけで全てを思い出した。

アルベルトの体に沈み込んでいく剣の感触を。
自分の名を呼び、意思の奮起を促し続ける彼の声を。
自身の体に突き刺さった剣と、そこから発された緑と赤黒の閃光を。

全て、全て。

「あ、あ、……アル、ベルト? 生きて……」

回らない口でただ呆然と言葉を紡ぐ。
気がつけば、傍らにはアルベルトがいつの間にか立っていた。
乱れた髪で、スーツをあちこち破らせながら相変わらずの態度の彼は、ゆっくりと手を上にあげる。

殴られるかもしれないと、びくりと体を震わせるかがみの頭に、ぽんと暖かいものがのる。
……怒りも恨みもなく、そのままアルベルトはかがみを撫でていた。

「……ふん。まあ、及第点といった所か」

ぶっきらぼうな口調ながら、声色は優しい。
見れば、表情も未だ見たことのないような穏やかな笑みだった。
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:33:17 ID:uRqfMWKD
19ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:33:51 ID:9YvvkSuF
「……アルベルト?」

理解が追いつかず、今まで以上に呆気に取られた表情でかがみはそのまま撫でられるに身を任せる事しかできない。

「……力に呑まれた結果とはいえ、このワシに一太刀を入れたのだぞ?
 もっと誇りに思うがいい」

――――その言葉を聞いた途端、かがみの瞳からぼろぼろぼろぼろ涙が零れ落ちる。
えずき続け、肩を震わせてごめんなさいごめんなさいと繰り返すかがみ。

アルベルトは何も言わず、ただ頭を撫で続けていた。
散々髪の毛をかき乱した後、アルベルトは自身の顔に手を当て、眼帯を取り外す。
そしてあらためてかがみに向き直り、言葉を続けた。

「……戦場に出る時でない限り、これを常に身につけておけ。
 ワシが貴様を認める証であり、また、貴様が二度と力に呑まれぬ為の戒めだ。
 自らの意思で、あの狂人の力を行使するべきときこそ――――、その眼帯を外すがいい」

涙を湛えたままの自分を見上げるかがみの目に眼帯を括りつけながら、アルベルトは目を弓にして、笑みを更に強くする。
かがみを安心させるかのように。

「しばしあの力を忌み嫌うかもしれんが、考え様によっては悪いことではないのだぞ?
 このワシを相手取る事ができるほどの力を、貴様は得たのだからな」

泣き続けて息苦しくなったので、ゆっくりと息を吸う。
何か言わなくてはいけないと思うも、かがみはしかし何も言葉が思いつかずに口をパクパクさせるだけだ。
立てかけられた剣を手に取り、かがみに手渡しながらアルベルトは言葉を連ねる。

「――――この剣も、ワシの力を大分蓄えたようだ。
 いずれ貴様の力になることだろう」

そうして、アルベルトは表情を真面目なものに戻し、かがみの目を見つめながら一語一句力を込めて伝えていく。
彼女への、戒めの言葉を。

「……かがみよ。
 二度と己が力に飲み込まれるな。みごとあの力を制した姿をワシに見せつけてみせろ。
 ……そして、己が道を違えるな。見失う事無く、常に進み続けるのだ。
 それこそが天元を越え、その先にあるものを掴み取る為の術なのだから」

ケースから葉巻を取り出し、火をつける。
それを咥えて一服しながら、アルベルトは遥か空を見上げ、呟いた。

「さて、共に行こうか。……不死身の柊かがみよ。
 我らの目指す果てはまだ遠く、しかし確たる未来は必ずや待ち受けているのだから」


夜の闇に紫煙が立ち昇ってゆく。
――――まるで、細い細い梯子のように。
しかし、確かに天上へとそれは届いていた。


20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:34:19 ID:yoIqRUrM
 
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:34:21 ID:uRqfMWKD
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:34:37 ID:RsF5RIOx
 
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:34:39 ID:vW/svsei
 
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:34:47 ID:Ddw78kg+
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:34:51 ID:uRqfMWKD
26ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:34:52 ID:9YvvkSuF
◇ ◇ ◇


……ふと、葉巻が大部短くなっている事に気づき、アルベルトはシガレットケースを探して体をまさぐる。
だが、それをするまでもなかった。
……目の前には誰かの手。
突き出されているのは自身のシガレットケースだ。

「――――よう、衝撃の。
 こいつを落とすとはお前さんらしくないな」

アルベルトはその姿を見て目を見開く。
それもそのはずだ。
――――彼は、上海で、そしてここで。
二回とも不本意に死に別れたはずの宿敵だったのだから。

「な、戴、宗……?」

馬鹿な、と続けようとして、しかし戴宗は豪快にそれを笑い飛ばす。

「何を驚いてんだよ衝撃の旦那。
 ここは死人が生き返ることすらありえるってお前さんが言い出したんじゃねえか。
 ……あっちには俺の討ち取った、セルバンテスだって来てんだぜ?」

ニヤリと言う笑いと共に背後を親指で指差す戴宗。
見れば、廃墟にかすんでオイル・ダラーと呼ばれた男の懐かしい姿が浮かび上がっている。
二人の顔を見比べて、アルベルトは納得とばかりに破顔した。
大きな声で。
大きな声で。
思い切り笑う。

「ク、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
 ……なんと! 螺旋の王も実に粋な計らいをしてくれる!
 実に、実に整った舞台ではないか!」

戴宗からケースを受け取りながら二本目の葉巻を抜き出し、咥える。
そのまま腕を組み、アルベルトは戴宗に向かって問いかける。

「……未練は今この時にもあるか? 戴宗」

「ありゃ、実にやる気だねぇ、衝撃の。
 お前さんの盟友はあそこでお前さんを待っているんだぜ?
 今更決着をつけ直す意味なんてあるのかよ」

闘う気のなさそうな台詞に反し、戴宗は躊躇いなく拳を構える。
嬉しそうに笑いながら、これこそ未練を消し去る最高の機会だと言わんばかりに。
対するアルベルトの顔に浮かぶのも全く同じ表情だった。

「フン、……それで貴様とワシの因縁が消える訳ではなかろう。
 ワシはワシの道を進む。
 それ故に、あ奴の所に行く前に貴様との決着をつけねばならんのだ。
 貴様が使命に準じたように――――、そうだろう、戴宗」


27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:35:27 ID:Ddw78kg+

28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:35:38 ID:SncV5n77
 
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:35:42 ID:RsF5RIOx
30ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:35:43 ID:9YvvkSuF
――――そして、それだけではない。
自分の生き様というものを見せてやらねばいけない人間がいるからだ。
目を閉じ、すぐ近くでこのやり取りを見ているはずの彼女を意識する。

「……あの嬢ちゃんか」

耳に届く戴宗の声を肯定し、アルベルトは静かに問いかける。

「――――貴様にとっての草間大作は、ワシにとってのあ奴のような存在だったのか?」

聞こえる声は、しかしそれを肯定しない。
ただ、自分たちのとっての真実を告げるだけだ。

「……さぁなあ。ただ言える事はあるぜ。
 ……俺達はあいつらを間違った大人にしちゃぁいけない。
 それを貫いてんのは真実だろ? これからも、これからもな」

――――それを聞き、アルベルトは僅かに息を吐く。
腕を解き、両腕に衝撃波を溜める。
おそらく向かいでは戴宗が噴射拳を同じ様に使おうとしているだろう。
目を開けなくても分かる。

暗闇の中で、アルベルトは一人の少女に対して告げる。

「……さあ、見るがいい柊かがみよ。
 これこそが、衝撃のアルベルトの進む道だ」

満面の笑みを見せながら、アルベルトは走り出す。
その両手に二つ名の通りの衝撃波を携えて、戴宗との一騎討ちにいざ臨む。


――――さあ、決着をつけようか。
貴様とワシの生き様を、後から来る者に見せ付けてやろう。


「なぁ……、戴宗」



◇ ◇ ◇


誰かの名前を呼んだその直後。


――――ぽとり、とアルベルトの手から葉巻が落ちた。


31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:35:50 ID:uRqfMWKD
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:36:20 ID:vW/svsei
 
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:36:23 ID:SncV5n77
 
34ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:36:28 ID:9YvvkSuF
シガレットケースの中に残る葉巻は二本。
アルベルトは結局一本だけを吸った後、もう二度とそれを取り出すことはなかった。


「……アルベルト?」

少女の声が夜の闇に溶け消える。

風は静かに冷気を運び。
月は静かに万事を照らし。
星は静かに空に瞬き。
人は静かに、現実に身を浸していく。

たった一人の少女を除き、何一つ動くもののない廃墟の中で。

衝撃のアルベルトは威風堂々と、空を見据えて立っていた。



――――他の何をすることもなく、ただ立っていた。




【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日- 螺旋力覚醒】
【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日- 全生命活動停止確認】



【B-5南部/道端/1日目/深夜】

35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:36:33 ID:uRqfMWKD
36名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:37:08 ID:vW/svsei
 
37ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:37:24 ID:9YvvkSuF
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、髪留め無し、空腹、脱力、茫然自失
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
    クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル
    ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
    穴の開いたシルバーケープ(使用できるか不明)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[思考]
 基本−1:アルベルトの言葉通りに二度と力に呑まれず、己の道を違えない。
 基本−2:螺旋王を『喰って』願いを叶えた後、BF団員となるためにアルベルトの世界に向かう。
 0:……アルベルト?

[備考]:
 ※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
 ※会場端のワープを認識。
 ※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
 ※繰り返しのフルボッコで心身ともに、大分慣れました。
 ※ラッド・ルッソを喰って、彼の知識、経験、その他全てを吸収しました。
  フラップターの操縦も可能です。
 ※ラッドが螺旋力に覚醒していた為、今のところ螺旋力が増大しています。
 ※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
 ※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
 ※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
 ※小早川ゆたかとの再会に不安を抱いています。
 ※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力に加え、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力が蓄えられています。
 ※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
  現在喪失中ですが、再構築は可能です。
 ※ラッドの力を使用することにトラウマを感じています。
  
 ※螺旋力覚醒

38名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:37:27 ID:RsF5RIOx
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:37:29 ID:uRqfMWKD
40名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:37:47 ID:vW/svsei
 
41ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:38:12 ID:9YvvkSuF
[持ち物]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×4消費/水入りペットボトル×1消費])、

【武器】
 超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING
 包丁、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、王の財宝@Fate/stay night、ミロク@舞-HiME
【特殊な道具】
 フラップター@天空の城ラピュタ、雷泥のローラースケート@トライガン、
 テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
 緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、サングラス@カウボーイビバップ
 アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ
 ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、赤絵の具@王ドロボウJING、
 黄金の鎧@Fate/stay night(半壊)、シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
 首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
 シガレットケースと葉巻(葉巻-2本)、ボイスレコーダー、大量の貴金属アクセサリ、
 防水性の紙×10、暗視双眼鏡、  
【その他】
 奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
 がらくた×3、柊かがみの靴、予備の服×1、破れたチャイナ服、ガンメンの設計図まとめ


※アルベルトの衝撃波によりB-5中部〜南部が壊滅しました。B-5周辺にいるキャラクターが認知した可能性があります。
※結城奈緒@舞-HiMEはアルベルトの衝撃波に巻き込まれたため、B-5近辺のどこかに吹き飛ばされました。


42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:41:18 ID:uUUC9TuP
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43名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:41:39 ID:uUUC9TuP
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というわけでしたらばが未だに暴れてるわけですが
44リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:02:43 ID:l4ggRbMr
螺旋王による四回目の放送を聞き終えて、ヴィラルが最初にしたことは、気配りだった。
現在地と禁止エリアの関係性を考え、行き先を想定すること。
放送内容から読み取れる自身の状況を考え、指針を修正すること。
地べたに座り込んでしまったシャマルの安全を確保するために、彼女をしっかりと抱き寄せる事も忘れない。

(もはやシャマルを慕う仲間はこの地にいない)

現在、ヴィラル達はエリアC-7にいる。
身の毛を弥立たせた嫌な予感を信じ、エリアD-6の病院を後にした彼らが次に選んだ場所……消防署の前に。
その理由は単純だ。
移動にかかる距離も少なく、医療関係の備品が手に入る可能性が高いから。
病院でちゃんとした医療器具を手に入れられなかったシャマルの提案だった。

(だが、これは……やはりハダカザル共の言っていたことは真実なのか! )

ヴィラルは病院で邂逅した、人間を思い出す。
姿こそ見せなかったが、自分とシャマルを説得し和解しようと試みた者を。
そして彼が話した"この殺し合いにおける螺旋王の真意"と"首輪につけられた機能"を。
ヴィラルが恐れているのは、首輪の機能の1つ、"盗聴"に関する事実だった。
螺旋王がこれまでの自分たちの会話を逐一把握していたとしたら?
幾度も人間から手玉を取られていることを、螺旋王は知っている。
表立った成果を挙げていないことも、螺旋王は知っている。
女に騙されながらも乳繰り合い、おまけに共闘して生き残ると宣言したことも知っている。

(この不甲斐なさ、どこに弁解の余地があろう)

ヴィラルはゆっくりと深呼吸し、両手に持っている短剣を握り締める。
今、己に降りかかっている窮地は、決して偶然ではない。
後悔は無い。捨て駒である自覚は最初からあった。
……本心では、生存者が2人だけになった時まで待って欲しかったであろうに。
だが見限られて当然のことをしてきたのだから、それに見合った罰を受けるのは極めて妥当だ。

「チミルフ様! 此度の任務にあなた様の手を煩わすことになり、真に申し訳ありませんッ!! 」

背中を隠すほどの巨大ハンマーを担ぎ、同胞を見据える巨漢、"怒涛のチミルフ"のお成り。
かつて実験の触媒として任したヴィラルの目の前に、螺旋王は更なる触媒を投下したのだ。
ゴリラをモチーフにした獣人だが、その巨大な体躯はヴィラルの比ではない。
顔も、毛も、胴体も、手足も、『人』の言葉は相応しくない。
螺旋王直属の四天王の位は伊達や酔狂ではなく、地上の白兵戦で右にでる獣人はいない、と言わしめた豪傑。
中間管理職のヴィラルよりも全てが上なので、彼の出陣はヴィラルの所業への処罰以前の問題なのだ。
"お前もうリストラ。後は俺がやる"という意図が見え隠れしている。

(せめて万に1つの情けで……シャマルだけでも保護してもらえないだろうか)

だからこそ、ヴィラルはその僅かな希望にかけた。
最悪の結末は、シャマルも自分も処分されてしまうこと。
仲間に先立たれ、行く当ての無い彼女がこのまま何も掴み取れずに終わるのは惜しい。
一度"掴ませる"と言った手前もあるのだが、シャマルが獣人軍で己の立ち場を得られる可能性はあるのだ。
彼女の治癒能力、そして機動六課との提携は人間掃討への百人力になるのだから。
45リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:03:24 ID:l4ggRbMr
「チミルフ様! このヴィラル、あなた様に紹介したき人材がございます。その名も湖の騎士、シャマルという者。
 既知の事実やもしれませんが、我ら獣人にはない力……魔法という治癒能力のスペシャリストであります!
 しかも、彼女は我々の同志になりたいと所望している身!! ……不躾ではありますがどうかチミルフ様のお口添えで――」

だが、早々上手くいかないのが世の中というものだ。
だからこそ、ヴィラルも"僅かな"希望と覚悟していた。
チミルフが有無も言わず、巨大ハンマーを自分達に振り下ろしてきたからだ。

(万事窮すか……)

ヴィラルはシャマルを横に突き飛ばし、自身も後方へ大きく跳躍する。
そしてチミルフのハンマーが地面に減り込むのを確認すると、森の方へ駆け出した。

(狩るなら……処罰という名目で先に俺を狩るはずだ。 シャマル、今の内に逃げてくれ!)


■  ■  ■  ■  ■  ■


螺旋王による四回目の放送を聞き終えて、シャマルが最初にしたことは、諦めだった。
死んだ部下と主人を偲び、それなりに哀悼の念を込めること。
元の世界に残された同胞への思いを割り切り、昔の思い出に切り替えること。
古ぼけた写真をアルバムにしまう様に、彼女は"過去は過去"と割り切ったのだった。
身を案じ抱き寄せてくれるヴィラルに、それとなく体を預けるのも忘れなかった。

(私……ティアナに会えなくなったことに、ホッとしてる)

機動六課最後の生き残り、ティアナ・ランスターの訃報を耳にしたとき、シャマルの心は枯れた。
愛と母性を溶かした湖は、一滴残らず干上がってしまったのだ。
そして干潟に残っているものは"飢え"のみ。
彼女は求めていた。
自分を欲する獣の愛。獣が垂らす涎で作られた、希望への道。獣の汁で伝い濡れる、己を。

(ごめんなさい……みんな)

シャマルは思い出す。
消防署に向かう途中で、上空をすれ違った影を。
宵闇に隠れていたので、ちゃんと視認出来なかったのだが、それは間違いなく魔力反応だった。
魔力を持った何かが、頭上を通ったのだ。
ティアナ・ランスターが飛行魔法に不得手ゆえに、その飛行物体がティアナである可能性は低い。
とはいえ、その魔力反応を自分は無視したのだ。
ひょっとしたら死んだフリをしていた八神はやて、あるいは機動六課の仲間だったかもしれないのに。
どうして自分はヴィラルに飛行物体のことを伝えなかったのか。

(現況の自分を見られたくなかったから? ……いえ、困るからでしょうね)

ヴィラルがチミルフと、ひと騒動起こしてからも、シャマルはずっと上の空だった。
早ければ第四回放送で、そうなることはわかっていたのに。
今度こそ、名実共に"自分自身のために明日を掴み取る"立場に立てたのに。
46リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:04:07 ID:l4ggRbMr
「……いけない。 囮になってくれたヴィラルのためにも、私は動かなければならな――」
「――ならば早速働いてもらおうか」
「……!? 」
「貴様の力を見抜けんとはワシも耄碌したものだ。まぁ、人類抹殺の力で無い事には、変わりはないのだがな」

シャマルは、まだ自分にスタートの合図は出されていないのだ、と思い知らされる。
かつて爆心地で出会った老人、東方不敗の襲来である。


■  ■  ■  ■  ■  ■

月明かりの映える夜の森。
ヴィラルはその中でも極力光の当たらない茂みの群れを走り、枝々を飛び移る。
獣人は、夜行性の者はほとんどおらず、チミルフもその例外ではない。
土中の魔人も、夕方になれば、大人しく部下と食事を楽しむお茶目さんなのだが――

(なんというパワーだ……これではいずれ追いつかれる)

今宵の彼は夜にも関わらず、所狭しと森を開拓する。
巨大ハンマーを後背に振り上げるまでに木々を数本なぎ倒し。
前に体を前屈し、ハンマーを振り下ろすまでに木々を数本ぶち砕く。
宙を舞い、他の木々に突き刺さる木っ端の収穫は豊年満作だ。

(やはりチミルフ様も、オレと同様に特殊な改造を受けてらっしゃれるのか!? もしくは……影武者か)

ヴィラルは考える。
獣人である自身が、夜でも差し障り無く活動できるように螺旋王に改造された理由を。
人間の参加者との差異を埋めるための処置と、螺旋王は語ったが、それは本当なのか。
ただの1兵卒の我が身がこのような処遇を受けるのはまだしも、チミルフは違う。
獣人の中でもトップクラスのカリスマと自身への誇りを持つ、陸戦の勇士。
そんな武人がこんな対応に納得しているのか。人間に近づくことを受容しているのか。
知らされていないはずがない。知らねば夜の間は大人しくしているからだ。

(……本物なら良し。紛いものなら下克上、になるのか? )

とすれば、可能性は搾られる。
螺旋四天王の実力を本当に知っているのはヴィラル自身だけ。
ヴィラルが螺旋王との内通者という触書は螺旋王から直接発表があったわけではない。
そもそもチミルフの参戦は真の意味で他者の諌めにはなるとは限らない。
ヴィラルは飛び石にする予定だった木から降り、ディバッグからS&W M38を取り出す。
この世界で初めて出会った、人間の現代社会に潜む拳銃。おそらくチミルフも知らない存在。
ヴィラルは接近してくるチミルフに怯まず、正確に撃った。
突然の急停止と反撃に、怯むチミルフ。
ヴィラルは更にディバッグに入っていたありったけの銀玉をチミルフの浮き足立った所にぶちまけた。
当然チミルフは足元を滑らせ転倒してしまうほかない。
その隙を彼は見逃さなかった。

(『何でも物を捨ててはいけません』、か。シャマル……お前の言うとおりだったな。全く何が役に立つかわからん)

うつ伏せになったチミルフの脳天に突き付けられるバルカン砲。
勿論本当に発射させるつもりは毛頭無いが、口を割らせるのには充分だろう。
そして、もしもの時の事も承知の上で、ヴィラルは吼える。

「返答次第では非礼は詫びさせていただく! 貴殿は本当に私が尊敬する獣人、怒涛のチミルフ様なのか!? 」
47リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:04:51 ID:l4ggRbMr
■  ■  ■  ■  ■  ■


螺旋王による四回目の放送を聞き終えて、チミルフが最初にすべきと考えていたことは、戦闘だった。
とにかく倒す。誰であろうが倒す。人間ならば即、血祭り。
螺旋王によって召還された場所から、最初に目に入った者はとにかく始末するはずだった。
だが、事態は予想外の展開に陥った。最初に目に入った者が、要注意人物だったからだ。
断っておくがチミルフは参加者の顔を知らない。
第四回放送前に、彼が事前に知らされていた事実はただ1つ。
"シモン、カミナ、ヨーコ、ニア、ヴィラル"の5名が(チミルフとは面識も無いのに)こちらを知っていること。
特にヴィラルは人間のように改造された特殊な獣人で、チミルフの部下も経験している。
その男の目の前に、チミルフは招かれたのだ。

(螺旋王も人が悪い。早速この目で確かめてみろ、ということか)

チミルフがヴィラルとシャマルを襲撃したのは、ヴィラルに罰を与えるためではない。
人間に成り下がったヴィラルが、どういった獣人なのかを量るとるためだった。
縁があれば、部下に取り上げていたはずの男。戦力になりえる要素がゼロなはずがない。
また、部下として成りえる実力を持っていたのかという小手調べの意味もあった。

(信じがたいことだが……このヴィラルという者は、本当に俺を上司だと思っているようだ)

チミルフにしてみれば、ヴィラルとシャマルの存在価値はお世辞にも高くはない。
今回の実験だけの限定的な付き合いに過ぎない戦力に、彼は惜しみの無い愛を全力で注ぐつもりはなかった。
人間掃討の過程で、障害になるのであれば、あくまで除去するまでのことだったのだ。

(だが、こいつは使えるな。この会場にいる人間どもの情報収集役に悪くない)

それが今しがた森で転んだチミルフが下した結論だった。
この後、チミルフは素直に両手を挙げ、ヴィラルと和解した。
全ては腕試しであり武人としての肩慣らしだったと、まるで最初から知り合いであるかのように振舞った。


■  ■  ■  ■  ■  ■

「貴様は……! 」
「また会ったな、小僧」

螺旋王による四回目の放送を聞き終えて、東方不敗が最初にすべきと考えていたことは、治療だった。
馬鹿騒ぎの余波を受けて負った傷のダメージは大きく、軽い治療で賄えるものではなかったのだ。
そんな中、得た僥倖。
螺旋王の関係者と馬鹿正直に叫ぶ者に、治療を司る魔法使い。
これまであらゆる人物と接触してきた彼が、このチャンスを見逃すはずがなかった。

「ヴィラルさん……ごめんなさい」
「この女の治癒能力とやらを使わせてもらいたい」
「ふざけた真似を! 」

1人になったシャマルを東方不敗はあの手この手で黙らせた。
治療はしないと反論されれば、お前を殺すと恐喝。
別に構わないと反論されれば、ヴィラルを殺すと恐喝。
その傷ではヴィラルを殺せないと反論されれば、石破天驚拳で目の前の壁を破壊して恐喝。
気が変わるまで誘拐してやると恐喝。ヴィラルの目の前でお前を殺してやると恐喝。
この場で気絶させて、あられもない姿にして、あること無いことをヴィラルに吹き込んでやると恐喝。
……東方不敗にしてみれば、それは決して本気の言葉ではなく、相手を意のままに操る催眠術の序の口に過ぎない暗示。
だが効果は覿面だった。一度、爆心地で出会い、軽いプロファイリングをした"かい"はあったのだ。
このシャマルという女性にとって、ヴィラルという男は多大な存在。彼の発言が即ち彼女の意思になる。
ゆえに、東方不敗は最後に叩きつけた。
"ヴィラル本人の口から東方不敗を治療させるという許可を出させれば、2人とも無事に帰してやる"と。
48リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:05:40 ID:l4ggRbMr
「ヴィラルさん、あなたの許可が欲しいの! お願い、治療させてください! 」
「シャマル……何故だァァァァァァァ!! 」

東方不敗は愉悦に浸る。
彼らが折れるのも、時間の問題であり、何より今回は更なる収穫もありそうとふんだのだ。
ヴィラルの横で佇む巨漢の化け物――ヴィラルの発言が正しければ、おそらくは――螺旋王の手駒。

「ヴィラル、あの人間を治療させろ」
「……なっ!? チミルフ様!? 」

見るからに自身の力に溺れていそうな単細胞。
この負傷が治れば、楽に相手ができるであろう相手。

「俺は是非とも、あの人間と戦いたい」


■  ■  ■  ■  ■  ■

「小娘! もっと早く治せんのか! 」
「も、申し訳ありません……致命傷になりそうな傷から治していかないと」

東方不敗を見据えるチミルフの顔つきは完全に武人だった。
種族は違えど、同じ雰囲気を持つものは直感でわかる。
人間ごときと自分を重ねることに、多少の不満はあるものの、期待はあった。

「ふん……そこの化け物、貴様ごときがこのワシと戦おうなどとぬかすか!」
「お止めくださいチミルフ様! あなたがこの爺に適わぬとは思えませんが……こやつは只者ではありません! 」
「お前はシャマルを守ろうとして、戦闘どころではなかったのであろう? 」

消防署に、先ほどまでなかったはずの大穴。
穴を開けたのは、おそらくはあの男。
人間のくせに武器を持たずして、あの破壊力。拳法家という言葉で片付けるには早計だ。

「どうしてもと言うのなら、相手をしてやっても良い。ただし! そう簡単に死ねると思うなよ。
 貴様と螺旋王の関係、及び螺旋王の企みを洗いざらい吐いてもらうか」
「馬鹿を言うな! 誰がそんな横暴を……」
「ヴィラルよ、この2人は俺に任せて、お前はこのまま先へ行け」
「な、なんですってェェェェェ!? 」
「これが螺旋王の実験であることを忘れるな。我らは円滑に事を進めるためにいるのではなかったのか」
「……かしこまりました」
「そしてヴィラル、お前に1つノルマを課してやろう。次の放送までに最低1人殺し、その首を俺の所まで持って来い」
「首……ですか」
「森の中で聞いた限りでは、随分と惚気た行動を」
「わかりましたチミルフ様。このヴィラル、必ずや! その代わりと言っては何ですが……シャマルのこと、よろしくお願い致します」
「良いか、首を持ってこなかった時はどうなるかわかっているだろうな。急げ」
「ハッ!一刻も早くに!……シャマル、怒涛のチミルフ様は我らの味方だ。しばらくお膝元にいろ! すぐに戻る!!」

ヴィラルが一触即発の場から離れていく姿を見届けると、チミルフは胸を撫で下ろした。
チミルフは、疑っていた。
東方不敗とシャマルが裏で手を組んでいるのではないか、ということを。
チミルフは森から消防署に移動する際に、ヴィラルからシャマルについての情報を聞いていた。
シャマルは、ダイガンザンに乗った自分を封殺した機動六課の一員でありながら、こちらに協力してくるかもしれない、という事を。
機動六課の技術、機動六課との提携、魔法の技術……もしそれが本当ならば、ありがたい話である。
だが――それは"袋返し"の可能性もある。
1度裏切ったと見せかけて、最終的には味方のために尽力をつくす……兵法のなかでも捨て身と同義の戦法だ。
仲間が全て死んでしまったのならば、失うものは何もない。なおの事リスクは低くなる。
49リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:06:11 ID:l4ggRbMr
「ヴィラルよ。お前とシャマルの間に何があるのかは敢えて聞くまい」

シャマルにも聞こえるように、さりげなく建前を言うのも忘れない。
真実がどうであれ、今のヴィラルに、シャマルを見極める目はない。
なぜならヴィラルは"ヴィラルの世界の螺旋王から人間の体へ改造された"からだ。
つまり今の状態では、獣人らしい思考展開など到底不可能であり、むしろ人間らしい思考展開を持っているのやもしれぬのだから。

(貴様がシャマルと添い遂げたいという気持ちもよくわかる……しかしだ)

チミルフは獣人と人間の根本的な生殖活動の違い、そして同僚のアディーネと自分の関係を振り返っていた。
だが、恋愛のトラブルで全てが終わった時、部下へのアフターケアは、戦局を左右することもある。
湖の騎士の正体が、淫蕩の湯の魔女で、戦士を溺れさせている……そんな悲劇的な結末に、ヴィラルは絶えられるのか。
チミルフは、獣人だった同胞――ヴィラルのために、シャマルを見定めようとしていた。
間者であれば、即始末。厳密には人間でないにしろ、彼女は獣人ではない。
余程のことが無ければ、チミルフはシャマルを見捨てるつもりでいた。

(このチミルフ、獣人以外の存在は好かんのだよ)

ヴィラルにノルマを与えた真意も、1つはそこにある。
ああやって大袈裟に去っていったが、ほとぼりが冷めれば、彼は必ずシャマルの所に帰ってくるだろう。
そして、もしもそのまま彼が誰も殺さず生き延びるという醜態をさらすのならば、チミルフは問答無用で命令する予定なのだ。
自分の首か彼女の首のどちらかを天秤にかけろ、と。


■  ■  ■  ■  ■  ■

「さて、待たせたな。螺旋王の犬め」
「見る分には、回復したとは思えんがな」
「フン、何が治療のスペシャリストだ! 確かに嘘ではなかったが、これ以上は待てぬ。欠伸が出るわ! 」

東方不敗の悪態に怯えながらも、シャマルは安堵していた。
それは彼が約束を守り、ヴィラルを見逃してくれたから……ではない。
東方不敗がシャマルの企みに気付いていないと確信したからだ。
シャマルは……東方不敗の体を完全に治癒できなかったのではない。
しなかったのだ。治療のスピードをわざと緩め、細胞の再生や傷の修復に手間をかけたのだ。
見るからに目立つ表面的な傷はさっさと直し、肝心である腹部には応急手当にも満たない処置しかしなかった。
あくまで痛覚依りな治療しかしておらず、放っておけば間違いなく危険な状態になるだろう。

「不完全な状態でも、俺に勝てるという自信の表れか? 」
「逆よ、これ位の手加減をしてやらなければ、話にもならんだろうからな! ワシなりの慈悲の心よ! 」
「……ならば神の御心を抱いたまま昇天してもらおうかッ!! フンフンフンフンフンフンフンフンッ! 」
「ゴリラめ、力任せに動いてもワシから魂は取れんぞォォ! 」

その手抜きに東方不敗本人は本当に気付いてないとは限らない。
しかし彼は治療を中断させ、チミルフに戦いを申し込んだ。
もし完全に治療させていたとしたら……と、考えるだけでも恐ろしい大暴れをしていたに違いない。
戦闘の舞台と化している消防署を見れば、想像するのには容易い。
東方不敗の容赦の無い闘舞と布槍術、チミルフの2つ名顔負けの迫力と圧撃。
衝突が1回づつ巻き起こる度、その余波を受けて壁や天井が破壊されていく。

(崩壊は始まっているわ。完全に倒壊するのも時間の問題。だけど、私はどうすればいいのかしら……)
50リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:06:45 ID:l4ggRbMr
1人置いてけぼりをくらったシャマルは、悩む。
このままここに残ったとして、それは正しい選択なのか。
東方不敗が勝ったなら、また治療の催促をされるかもしれない。
チミルフが勝ったとしても、自分とはまるで面識のない獣に身を預けるには心もとない。
とはいえ勝手にこの場を去れば、それはヴィラルの面子を潰すことになり、チミルフの機嫌を損ねかねない。
放送直前の対応から考えれば、ヴィラルにとってチミルフは頼れる上司。
それこそヴィラルからの失望も、引被るやもしれないのだ。

(ヴィラルさん、どうして置いていってしまったの? 私は……あなたと一緒に)
「「――女! 邪魔だッ! そこをどけェェェェェ!! 」」

この時、シャマルは気がついていなかったが、消防署の周りは、非常に危険な状態になっていた。
消防署地下では、鴇羽舞衣が起こした小火が大規模な火災に変貌を遂げ、地下中の酸素を消費尽くしていた。
エレベーターでしか移動手段の無い地下はいわば密閉された空間だ。
そんな空間に穴を開けてしまったら――地下と地上の境の床の底が抜けてしまったら。
崩落した消防署の瓦礫が床に乗しかかり、ほんのわずかな隙間でも、そのまま突き破ってしまったとしたら。

「え? 」

シャマルは咄嗟にバリアジャケットを組んだが、それ以上のことは出来なかった。
東方不敗とチミルフの戦闘の煽りを受けて生じたバックドラフトに、彼女は遥か先へ吹き飛ばされた。


■  ■  

「……ううむ、ぬかったわ」

積もりに積もった瓦礫の山から這い出て、チミルフは舌打ちをする。
楽勝になるはずが、とんだ痛み分けになってしまったからだ。
純粋に格闘の技量も互角とは言いがたい。
あの曲者は、力でねじ伏せる自分の戦術と、最も相性が良いはずの技巧派――早い話が手数勝負の使い手ではなかった。
負傷していない状態で、手合わせしていたら、あの機動六課の面々よりも……と言っても過言ではない。

「だが、俺と違い奴は、爆発で起きた大穴に飲み込まれた。生き埋めは避けられまい」

チミルフは、同じく瓦礫に埋まっていたハンマーを引っ張り上げ、肩に担ぐ。
もはや彼に油断は無い。人間如き、などと言う決め付けは、消防署と共に崩れ去った。
チミルフはあの老人と同等の使い手があと20人も残っている、と勘違いしていた。
ヴィラルが今まで手古摺っていたのもあながち冗談では無いのでは、とさえ考えていた。

「……だとすれば、悪い事をしてしまったか? 」

チミルフは苦笑しながらも、次の獲物を求めて闇に消えた。

51リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:07:32 ID:l4ggRbMr
【C-7/消防署跡地の付近/二日目/深夜】
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に肉体的疲労とダメージ(小)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)
[道具]:デイパック、支給品一式、(未確認の支給品が0〜2個ありますが、まだ調べてません)
[思考]
基本:獣人以外は全員皆殺し。
1:とりあえず移動。
2:次の放送後にもう一度ヴィラルと接触する。
3:ヴィラルが1人も人間の討ち首を持ってこれなかったら、シャマルの首を差し出させるかもしれない。
4:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。

[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。


■  ■  

「どぅああああああああああああああ〜〜〜ッッ!!! 」

チミルフが廃墟を去ってしばらく後、東方不敗もまた、瓦礫の山から脱出していた。
一度は完全に生き埋めになってしまったが、偶然持っていた2本の卓上コンロ用ガスボンベが功を相した。
手探りでディバッグから取り出し、マスタークロスを巻き付け、両手で布を一気に引っ張る。
東方不敗の握力をもってすれば、ボンベは瞬時に捻じ切られ、金属と布の摩擦による火花を生む。
火傷は免れないが、爆発で周囲の瓦礫は一時的に浮き上がる。つまり、身動きできるだけの隙間が空くのだ。
後は自慢の石破天驚拳で上方向の瓦礫を吹き飛ばし活路を開けばいい。東方不敗ならではの、非現実的な常套手段だ。

「フン! 仕留め損ねたか。結局、怪我の具合は余り変わらなくなってしまったな……ん? 」

東方不敗は、ふと目の前に転がっている巨大な塊に気がつく。
瓦礫の残骸というには、妙に完成されたフォルム。まるで、人間の顔を象ったかのような造型。
東方不敗は知る由もないが、これは最初から地上にあったわけではない。
バックドラフトとガスと石破天驚拳による3度の爆発で、地下2階から打ち上げられたのだ。

「……そんな顔でワシを見るなァァァァァァ!! 」

それは古代螺旋族が残した特殊なガンメン、"ラガン"だったのだが……何という不運。
ラガンは東方不敗の気まぐれによって、遥か北方へ投げ飛ばされてしまった。
だが、東方不敗には苛立つだけの理由があった。
少しづつ少しづつ、自分の命が終焉に向かっていることを、自覚せざる得なかったからだ。


(まだだ……人類殲滅の悲願を成就させるためにも、ワシはこんな所で死ねんのだ!! )
52リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:08:02 ID:l4ggRbMr
【C-7/消防署跡地/二日目/深夜】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身にダメージと疲労と火傷(大)、螺旋力覚醒
    腹部に無視できぬ大ダメージ(皮膚の傷は塞ってますが、内出血しています。放置すると危険です)
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム、
[道具]:支給品一式(一食分消費)、レガートの金属糸@トライガン 、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。
1:ひとまずは傷を癒す (シャマルの捜索も含む)。
2:優勝の邪魔になるものは排除する。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める(その足がかりとしてチミルフ、ヴィラルの捜索) 。
4:いずれ衝撃のアルベルト、チミルフと決着をつける。
5:そしてドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。

※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 ですが、『なんらかの要因』については未だ知りません。
 Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けましたが、自分自身が覚醒していることも知りません。
※消防署は地下も含めて完全に崩壊しました。
※ラガン@天元突破グレンラガンは東方不敗によって北の方角へ投げ飛ばされました。

■  ■  ■  ■  ■  ■


(――――何かしら……とっても……暖かい……)

体の前から感じるほのかな火照りに、シャマルは意識を取り戻した。
薄っすらと目を空けると、そこは外ではなく、屋内であった。
シャマルがゆっくりと首を右に倒した先には、壁。反対側に首を倒すと、部屋。上を見ると、階段。
ここは、ごく一般的な住宅なのだと彼女は理解した。

(でも……どうして? 私は、あの爆発に巻き込まれて吹き飛ばされたはず……? )

記憶を辿る内に、シャマルの頭脳はもっと鮮明に状況の把握をし始める。
倒れている場所は、この住宅の玄関。
目を覚ました原因は、暖かさというよりも、何かが体に圧し掛かったことによる重み。
その重みとは、自分の下を去ったはずのヴィラルの肉体。

「きゃあ! ヴィラルさん、ダメ! な、な、何もこんな場所で…………あれ?」

そしてそのヴィラルが、青ざめた顔で吐血している。

「大変! 」

完全に眠気が覚めたシャマルの、それからのお行動は早かった。
安静にヴィラルの体を持ち上げ、一旦寝かせると、家中を走り回った。
次に、介護の役に立ちそうな物をかき集め、襖から出した布団を敷く。
準備が整うと、再び玄関先に戻りヴィラルを運んで布団に寝かせてから、治癒を始めた。

「……どうして」

診断結果は、腹部と胸部の打撲による内臓損傷であった。
ヴィラルは何か重い物体と正面衝突して大怪我を負ったのだ。
53リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:08:28 ID:l4ggRbMr
「あなたっていう人は! 」

シャマルは目に涙を浮かべた。
ヴィラルを傷つけたのは、他ならぬ自分だと気づいたからだ。
ヴィラルは、爆風に飛ばされた彼女が地上に落下して激突する直前に、体をはって受け止めたのだ。
だが成人女性とはいえ、重力加速のついたの人間の体は、凶器に等しい。
転落した人間よりも、転落した人間を地上で受け止めた人間のほうが、ダメージも大きいのだ。
また、ヴィラルの行動からもう1つわかることがある。
ヴィラルは飛ばされたシャマルを助けに行ける余裕があるほどの、近場にいたということ。
つまりヴィラルはチミルフにシャマルを任せて、消防署から離れてなどいなかったのだ。
運れてきたの家の風景から考えても、消防署とこの家との間ははさほど離れていない。
負傷した人間が人を担いで移動できる距離はたかが知れている。

「……すまないシャマル。チミルフ様には任せると言ったが、俺は最初からお前を遠くから見守るつもりだった」
「動かないでヴィラルさん。まだ治療は終わってないわ」
「チミルフ様は頼りになるし、螺旋王からも部下からも信頼も厚い。それは本当だ。だから一度はこれを機に別れようと思った。
 だがいざお前と離れようと思っても、オレは離れられなかった。どうしてもお前を置いていくという決断ができなかったんだ」
「次の放送までずっと私たちを尾行しようとしていたんですか!? 」
「ああ。人間の首は、チミルフ様のおこぼれを頂戴すれば何とか誤魔化せると思ったからな」
「螺旋王やチミルフさんにバレてしまったら、あなたの立場が危うくなるかもしれないのに! 」
「そうなったらそれまでのことだ。それになシャマル、言っただろう? 」

ヴィラルはゆっくりと上体を起こし、シャマルを見つめた。

「オレの明日がお前の明日だ」

相手を刺し殺しそうな鋭い視線を細め、今にも噛み付かれそうなギザギザの歯が見えるくらい口端を吊り上げる。
笑顔というには程遠い、獣の表情に顔を歪ませるヴィラル。
しかし、シャマルにはそれが世界中の誰よりも純粋な赤ん坊の笑顔に見えた。

「……ありがとう、ヴィラルさん」

シャマルはゆっくりとヴィラルの背中に両手を這わせ、抱きつく。
そしてそのままヴィラルを押し倒し、彼の唇に自分の唇を重ねた。
シャマルにとってそれは、同衾をしたい、という思いの表れ。
恥も外聞も体裁も捨てて、ヴィラルと互いに貪りあうつもりだった。

「ヴィラルさん? 」
54リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:08:58 ID:l4ggRbMr
しかし意外にも、ヴィラルはシャマルを放したのだ。
麻薬を求めるように、弄ろうともしない。
勢いとはいえ、さすがに嫌悪な気分にさせてしまったのでは、とシャマルは思った。
しかし、ヴィラルのサインは拒否のサインではなかった。

「目合うのなら……慰めあうよりも、愛しあう方がずっと良い」

それは、ずっと溜め込んでいたモノを引き出そうとする、確認のサイン。
シャマルが何度も何度も押し潰そうとして、隠していたモノ。
途切れ途切れに漏らしてはいたが、諦めとしてとらえていたモノ。

「お前の仲間は全員死んでしまったが、オレだけは最後までお前のそばにいる」


過去。
そして、悲しみ。


「だから頑張れシャマル、頑張れ」

真っ直ぐなヴィラルの視線が、シャマルの心を貫く。
両肩を掴んだヴィラルの両手が、シャマルの心を揺らす。
歯に衣を着せぬヴィラルの言葉が、シャマルの心を突き崩す。
三重に編まれたヴィラルのサインが、シャマルの心を磨り潰す。


「……あ……あ……あ、うぅ……! 」


シャマルは泣いた。
思いっきり大袈裟に泣いた。
喉が焼けてしまいそうなくらい泣いた
周囲の住宅にまで響き渡るように泣いた。
一人ぼっちになってしまっていた自分に泣いた。



そして今の自分には、胸を貸してくれる相手がいることに、泣いた。




55リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:09:21 ID:l4ggRbMr
【C-7/消防署付近の民家の居間(1階)/二日目/深夜】
【チーム:Joker&New Joker】
 [共通思考]
 1:自分達の道を行く。
 2:二人で優勝する。
 3:お互いを助け、支えあう。

【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、左肩・脇腹・額に傷跡(ほぼ完治)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2
[道具]:支給品一式、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、鉄の手枷@現実
    S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、短剣×9本、水鉄砲、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0:シャマルと共に進む。できる限りシャマルの望みを助ける。
1:次回の放送までに、参加者を最低1人討ち取り、チミルフに献上する。
2:道がぶつからない限りシャマルを守り抜く。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
3:蛇女(静留)、クルクル(スザク)、ケンモチ(剣持)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
※二アが参加している事に気づきました。
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。

[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
 人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。


【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、強い決意、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×3(地図一枚損失)、ワルサーWA2000用箱型弾倉x3、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
    ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
    暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル、シアン化ナトリウム
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
1:ヴィラルと共に進む。 ヴィラルがヴィラルらしく行動できるよう支える。
2:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
3:優勝した後に螺旋王を殺す?
4:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
 どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。


■  ■  ■  ■  ■  ■
56リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:09:44 ID:l4ggRbMr
■  ■  ■  ■  ■  ■



(……やれやれ、何事かと思えば唯の痴話喧嘩か。のん気なものだ)

愛を育む2人の獣と扉を挟んで、聞き耳を立てている者がいた。
夜中に放火魔を1人嗾けて、消防署から離れていたルルーシュ・ランペルージである。
彼は鴇羽舞衣にギアスを使った時、自分が気絶して寝過ごしてしまう可能性を読んでいた。
ゆえに、彼は苦肉の策として2階立ての家の2階で仮眠をとることにしたのだ。放送を聞き逃すのを承知の上で。
2階は1階よりも町中の音が響きやすく、見晴らしも良い。
誰かが家に侵入しても、多くの人間は先に1階を捜索するので、時間稼ぎにもなる。
そして、これまでの3回の放送で呼ばれた死者の割合から、彼は次の生き残りは多くて30台と予測した。
たかだか30人前後の人間が、これだけ広い町の中で、自分の家に入ってくる確立は極めて低いと割り切ったのだ。
結果から言えば、彼のいた家のすぐ傍で4人の戦士が大暴れして消防署を潰し、その内の2人の侵入を招いてしまったのだが……。

(話は全て聞かせてもらったぞ、螺旋王の奴隷ども)

ルルーシュは不適な笑みを浮かべる。
放送を聞き逃しても、お釣りがくる位の情報を得たからだ。
螺旋王の手駒として潜んでいた男。そして治癒能力を持つその愛人。
どちらもこのまま野放しにするには、惜しい飛車角。

(だが落ち着けルルーシュ。まだ早い。考えるんだ、奴らを出し抜く作戦を)

ルルーシュはディバッグに入っている仮面を見据え、考える。
あの2人を手玉に取るのに有効な手段は何か。
絶対的な手段だが、内容によっては再び頭痛に襲われ、最悪気絶してしまうかもしれない『ギアス』。
素性を隠し、身分を偽って接触することが可能だが、スパイクとカレンの生死に関わる『ゼロ』。
無力な人間を装って説き伏せる事に自信はあるのだが、単純に身の危険を感じる『話術と交渉』。
手はまだある。尾行、威嚇、同士討ち、逃亡……だがどれもが決定打に欠ける。

(機が熟したら、必ず暴いてやる。螺旋王……貴様の秘密をな! )

ルルーシュは再び、不適な笑みを浮かべる。
彼に宿った悪魔の瞳が、闇に怪しく輝いていた。


57リ フ レ イ ン ◆hNG3vL8qjA :2008/04/11(金) 11:10:08 ID:l4ggRbMr
【C-7/消防署付近の民家の廊下(1階)/二日目/深夜】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(大)、中度の頭痛
[装備]:ベレッタM92(残弾13/15)@カウボーイビバップ、ゼロの仮面とマント@コードギアス反逆のルルーシュ 、
[道具]:デイパック、支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服
     予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:目の前にいる螺旋王の奴隷(ヴィラル&シャマル)を上手く出し抜き、螺旋王の情報を得る手段を考える。
2:清麿との接触を含む、脱出に向けた行動を取る。
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
  「情報を収集し、掌握」「戦力の拡充」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればショッピングモールかモノレールを調べる。
6:消防署で発見したナイトメア・フレーム(ラガン)のキーを探す

[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※清麿メモの内容を把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※第四回放送は聞き逃しました。
※ヴィラルが螺旋王の部下であることとシャマルが治癒能力者であることを知りました。
 その他の素性についてどこまで把握しているのかはわかりません。
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/11(金) 13:48:46 ID:b/3kOWpC
.




















とりあえず流してと

とっととログ晴れよ
「ブルゥゥゥゥウウウァァアアアアアアアアア!!!」

雄たけびと共に海面から謎の物体が飛び出した。

それを一言で言えば“V”
見るからに“V”
明らかに“V”
美しいまでに“V”
海水を飛沫に変えて全身から飛ばす“V”
月明かりに照らされてるよ“V”
意味もなく飛んじゃってるよ“V”
何でポーズ決めてんだよ“V”
そりゃVだからだろ“V”
ま、Vじゃしょうがねぇな“V”
“V”だしな。
うん、“V”だから。
て名感じで、まさに全身で“V”の字を表現している謎の生命体である。

「ビクトリーーーーーーム!!!!」

人の認識する常識を一足飛びで飛び越えた想像外の容姿を持つそれは、一旦中空で華麗にポーズを決める。
そして、恍惚とした表情を浮かべた後、その表情のまま確かな地面へと着地する。当然、“V”の体勢を維持したままで。



さて、ではわかりやすいように現状の説明を挟もう。

謎の生命体こと、ビクトリームは空に消えた少女二人を追うために会場のループに従って再び海へと飛び出した。
改めて言う事でもないが、これでもビクトリームとて魔物の子である。
身体能力は常人を軽く凌駕している存在であり、そもそも、さほど高くもない波で溺れる事自体ありえないのだ。
先ほど溺れた理由はただ一つ、頭部と胴体が離れていたため、泳ぐために必要なバランスを失ってしまったから、という他ない。
バランスを失えば、当然泳ぎ方は醜く崩れる。加えて準備運動もせずに泳ぐなど愚の骨頂。
結果として、心身ともに不安定なままバランスを保てず不自然な体制になり、足を攣り、そのまま溺れるのは必然といえよう。
つまり、頭部と胴体がしっかりと繋がってさえ居れば、ビクトリームが溺れる事などありえないのである。

その反省点を踏まえ、今回は事前対策も万全だ。
先ほど出会った額に“X”の傷跡を持つ男から手に入れた鎖で体と頭部を強引につなぎ合わせ、頭部と胴体が分離しないようにしている。
これでバランスも万全。もう波に流される事もない。
ビクトリームは意気揚々と対岸に向かって泳ぎ始めた。


そして結果として辿り着いたのが今の状況である。
想定どおり、波を物ともしない泳ぎで視界に捉えていた対岸まで泳ぎきったどころか、勢いに任せたまま飛び上がり、Vの姿勢で着地。
自身の泳ぎっぷりと、『一度溺れた』という事実を跳ね除ける事ができたという達成感。
その事実に酔いしれるあまり、恍惚とした表情でついお決まりのポーズを作ってしまったのである。

「いいぞぉ!我が体よ!素晴らしいまでに美しいVの体制だ!」

両足を綺麗に揃え、両手を自身の頭部のVの字と寸分狂わぬ角度で頭上へと上げたその姿は、本人曰く、華麗なるVの体勢との事。
この体勢こそが彼にとっての至高の体勢なのであろう。
この瞬間だけは、自身の目的すらも一瞬とはいえ忘れさせるのかもしれない……。

「と、それどころではない!
 早く小娘どもを探さねば!」

数秒間の後、自身の目的をようやく思い出したようにVの体勢を解き、空へと視線を滑らせる。
だが、残念ながら目に映る範囲に目的の存在を見つけられない。
まぁ、考えてみれば当然ある。
二人の少女、シータとニアを見失ってから既に30分以上が経過している。
高速で飛び去ってしまった最後の姿を思い出す限り、こんな近くに二人の姿を確認できるはずはない。
それこそ、ループを利用して、会場を一周して再びここに戻ってくるでもない限り見つかる事はないだろう。

「クッソォォ〜、私とした事がぁぁ……」

全身に鎖を巻きつけたVの字を模った奇妙なオブジェに、人の四肢とは明らかに掛け離れた手足を生やしているそれが、見るからに肩を落として落ち込み始める。
いはやは、なんとも奇妙な光景だ。
まぁ、そもそも、人ならざるものが落ち込んでいる時点で、それは人の認識の範囲外の出来事。
いうなれば、ビクトリームの一挙手一投足全てが奇妙な行動という括りで片付ける事ができるのである。
もしこの光景を誰かが見ていたら、奇妙すぎるあまり近づこうとさえ思わない事だろう。ま、関係ない話だ。

「こうなったら、何が何でもあやつらを見つけてくれるわ!
 必ず私が貴様らを、いや、ベリィ〜なメロンを取り戻してやる!
 まってろ小娘どもォォォ!!!」

僅か5秒で気を取り直したのは流石は“V”といった所か。この際、何が流石なのかは考えたくもない。
ビクトリームは確かな進路をも定めぬまま走り出した。
ただ闇雲に、ただ全力で、たった一つの目的のために走り出したのだ。
当然、頭上で響いている放送など聞き流して。


そして数分後、その闇雲に動かし続けた足が不意に止まった。



◆ ◆ ◆


ピクリと小指が動き、固い感触に触れた。
濡れた指がザラリとした物を撫でる。
これは……、石?砂?
あれ?私は、死んだはずでは……。

理解できない状況のまま閉じていた瞼を持ち上げる。
すると、そこには先ほど落ちていく時に見たと同じような星空が広がっていた。

――助かった……のでしょうか……。

濡れた髪を重たく感じながら、私は視界を左右に走らせる。
すると、少し離れた場所に立っている金色の髪をした子供と、青い髪をした男の人が見えた。

――あの方達が助けてくれた?

疑問に思いながらも、これまでの教育のせいか、お礼を言わなければという衝動に駆られる。
体を起こそうとする。
どうやら体に異常はないらしい。
少し力を入れただけで起き上がる事ができた。

――お礼を、お礼を言わなければ……。

そう考えて声を発しようとした瞬間、離れた場所に立っている青い髪の男の方から声が聞こえてきた。
それに自然と耳を傾けてしまう。

『……カミナ。彼女を保護しますか? 万一ゲームに乗っていたら……』

「……ああ。ま、そん時はそん時だ」

一人しかいないというのに二人分の声が聞こえてきた。
一瞬疑問に思ったが、今はその会話を耳に入れることだけで精神的にも精一杯だ。
仕方ないので、会話の中から最優先で考えるべき単語のみを拾い上げる。

――か、みな……。
  何でしょう、どこかできいた事があるよう……。

それは何度も聞いた気がする単語。
いや、単語じゃない。
それは名前だ。
誰か、大切な、大切な人の名前……。

そう思った瞬間、私はある事に気がついた。
目の前の男の人、よく見れば、その姿形にはどこか見覚えがある。
そう、それは、シモンが部屋で一人で作っていた、あの……。

――か、み、な……、カミナ……、もしかして!?

気が着けば目の前に左右が鋭くとがったサングラスが浮かんでいた。
数秒間思考の渦の中に居たため、目の前まで探し人の接近に気付けなかったのだ。

「よう、目が覚めたか? 気分はどうだ?」

シモンのアニキさんが、そこに居た……。



◆ ◆ ◆


少女が目を覚ました時、もう一つの生命も意識を取り戻していた。

『あれぇ?何だ…、ボク、いったい……』

それは魚。
ブリと呼ばれる全長1.5メートルほどある回遊魚である。

『あ、まただ、また呼吸ができない』

目覚めたばかりだが、ブリは早速死に掛けていた。
理由は単純。
本来深海100メートルほどで生息しているはずの存在が、なぜか現在は陸に上がっているからである。

『く、苦しいよ! 早く、早く戻らなきゃ……、ボクの居場所に……』

本能が囁くのだろうか、ブリは漠然とだが海がある方向と距離を理解していた。
ゆえに、必死にその方向へ体を向けようとする。
だが、残念なことにどうしても体が動かない。
本来帰るべき場所である海までは僅か1メートルもないというのに……。

『なんで……、どうして……』

必死になって理由を探し始める。
すると、理由はすぐに見つかった。
自身の体に巻きつけられていたロープが近くに居た人間に掴まれていたからだ。

『そんな!離して!離してよ! このままじゃボク、死んじゃうよ!』

ブリの訴え。
勿論届かない。
ブリの言葉が人に通じるはずはないのだ。

『嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……、こんなとこで死ねないよ!
 さっき決意したばかりじゃないか!』

理不尽な事態にブリは必死に抵抗を始める。
それこそ、先ほど抱いた決意のままに自身の体に湧き上がる『生存』という単純な本能に身を任せる。

『ボクは死にたくない!
 死んでたまるか!
 絶対に生き延びてやる!』

それはもう必然の事態になっているのかもしれない。
ブリがそう思った瞬間、再び自身の体に力が沸いた。
見ればあの緑色の光がまたも彼を包んでいる。

『いける!』

ブリの決意は再び体を動かす事に成功した。
絶対的な『生きたい』という願いと共に体に巻きつけられたロープを振りほどき、ブリは海へと自身の体を躍らせたのだった。



◆ ◆ ◆


「ンヌ?」

「あっ!」

背後で聞こえたるは響く様な水を叩く音。
その音に反応し、二人の男は目の前の少女の事を一時的に忘れ、慌てて音の聞こえた方に視線を向ける。
すると案の定、そこにはあるべき物が既に無い光景が映し出されていた。

「ブ、ブリがぁぁーーーー!!!!」

状況を受け止め、真っ先に飛び出したのは金色の髪を海水で濡らした少年の方。
改めて言うことでもないが、少年、ガッシュにとっての“彼”は、単なる栄養源等という言葉では収まりきれない。
言ってしまえば、これは既に愛だ。
好きで好きで好きで好きで、まっしぐらという言葉を猫如きに独占されるのが我慢なら無いほど、『ブリ』という名の彼を愛しているのである。
ガッシュにとってブリとは幸福だ。それさえあれば自身の欲求の内の『食欲』という欲求は肉体的にも精神的にも確実に満たされる。
それを理解しているからこそ、目の前の光景、さっきまでそこにあったはずの“彼”=『ブリ』が逃げ出したという事実は、今のガッシュには耐えられないのだ。
欲求の内の大半を食欲で占めてる彼だからこそ、現状さえも視界から消し、何を置いても欲望に順ずるまま行動に移すのも当然といえよう。

少年は何も考えない。ただ、自身の衝動が示すままに行動しただけだ。
その先に何が待っているのか、また、自身の行動が世界にどう影響を齎すかなど、一ミリたりとも考えはしない。
確保していた獲物が逃げた焦りと僅かな怒りに翻弄されるまま、獲物を奪われた狼のように瞳をギラつかせつつ、追いかけるようにその身を再び海面へと羽ばたかせる。
それだけだ、本当にただそれだけ。
そんな容易い感情一つで、少年は明かりも何も無い漆黒の海へと消えていく。
数瞬後、先ほど聞こえてきたと同種の水音が虚しく響き渡った。


「ま、待て!ガッシュ!」

ブリが逃げ出したことに気づいたのは隣に居た青い髪の青年、カミナも同じ。
だが、カミナはガッシュほどブリに執着は無かった。
船での食事で幾分かは腹は満たされている上に目の前の少女の存在の方が遥かに気にかかる。
ゆえに、ガッシュの様に勢いに任せたまま飛び出すということはない。
カミナはただ見ていただけだ。ガッシュが海へと飛び込む瞬間を。

響き渡る水音に水飛沫。
ガッシュが海へとダイブした証拠である。

「クッソ!……チッ!クロミラ!!」

言葉尻は慌てながらも、即座に最善の判断を下す。
この状況でガッシュの追う最善の一手は唯一つ、クロスミラージュにガッシュの魔力を探知してもらい、決して見失ってはいけないということだ。

『マズイですよカミナ!
 魔力の反応は海岸沿いを北に向かって高速で移動しています。
 このままでは直ぐにでも禁止エリアに飛び込む事に……』

クロスミラージュの言葉にカミナの顔に焦りの色が浮かぶ。

「マジかよ!?何でそうなんだ!
 しょうがねぇ、俺達も追うぞ」

少女の事が気になりながらもカミナは決断する。
大切な仲間が生命の危機に瀕しているとわかった以上、少女の事ばかりに気を取られるわけにはいかないからだ。

だが、だからといってガッシュと同じように海へ飛び込むという無謀な事はしない。
いまだ泳ぎが覚束ないカミナに常人を遥かに超える体力を持つ魔物の子、ガッシュを追うのは不可能というものだからだ。
それはクロスミラージュの反応からも十分に理解できる。
ゆえに、飛び込んで追いかけるという選択肢はない。
カミナが下した判断は、ガッシュを見失わないように陸路を使って追うという一般的なものとなった。

『当然です。ですが、彼女をこのままというわけにもいきません、どうするつもりですか?』

クロスミラージュの言葉に走り出したい衝動を抑えカミナが一瞬の思考をめぐらす。
目の前の少女をどうするか、それは重要な問題だ
そもそも、少女の名前さえも聞いていない上に、安全か危険かの漠然とした判断もまだなのである。
こんな状況で、もし何も考えずにガッシュを追うという選択肢を選んでしまったせいで背後から襲われでもしたら、それこそ笑い話ではすまない。
ここは冷静な判断をすべき場面である。だが……。

「んな事は、走りながら考える!
 おい、いきなりで悪ィが一緒に来てもらうぜ、立てるか?」

カミナの下した決断、それは、この状況ではもっとも愚かで、もっとも軽率なものだった。

いまだキョトンと状況を理解できていない少女に向かって右手を伸ばし、立ち上がらせようとするカミナ。
それをクロスミラージュが慌ててとめる。

『ま、待ってくださいカミナ、まだ殺し合いに乗った人間かどうかの判別もまだです。そんな軽率な行動は……』

「うるせぇ!黙ってろ!
 理由ははっきりわかんねぇし、説明もできねぇが、コイツは大丈夫なんだよ!
 こいつを信じろ、こいつを守ってやれ、そんな風に、なんかこう、心の奥底で色んなもんがざわめくんだよ」

『で、ですが……』

「いいから!テメェは俺を信じればいい!こいつを信じる俺を信じやがれ!」

相も変わらず、独自の理論で切迫した状況の中で自身を貫こうとする。
それに振り回される方は正直たまったものじゃないだろう。
だが、カミナという男、それを平然と貫き通してなお、人を惹きつける魅力を持つ男なのだ。
短い時間とはいえ、それを何度も目の当たりにしてきたクロスミラージュは続く言葉を失ってしまったのは必然といえよう。
こうなってしまえば、何を言っても無駄というものである。

ちなみに、カミナ自身なぜ自分がこんな事を言い出すのか分かってはいない。
ただ、漠然と記憶、いや、心に刻んでいるのだ。
目の前の少女は守らなければならない、と……。

「おい、どうした?なにボケッとした目で見てんだよ。やっぱどっか調子悪いのか?」

ガッシュを追うために移動しながら少女から事情を聞こうとしたカミナは、少女を立ち上がらせるために右手を伸ばしていた。
しかし、いつまでたっても少女はその手を取らない。
恐れているのだろうか?一瞬そう考えたが、そういうわけでもない。
手を伸ばすカミナに呆気に取られた様な二つの瞳を無遠慮に突き刺したまま固まっているからだ。

「なんだぁ?俺の顔になんかついてんのか?」

その眼差しをむず痒く感じたカミナは強引に少女の手を取って立たせようとする。
すると、その瞬間、まるで意識を取り戻したように少女の表情が光ったように綻んだ。



「貴方が、シモンの……、シモンの言っていたアニキさん、なのですね!?」



そして突然、そんな言葉が少女から発せられた。



目を見開くカミナ。
そのカミナを太陽のような笑顔で見つめる少女。



タイミングを合わせるかのように、いや、あざ笑うように、螺旋王の放送が始まった。



◆ ◆ ◆


『禁止エリアへの侵入を確認しました。
 警告を無視して一分後までに退避しない場合、首輪の爆破機能が起動します』

ブリを追いかけるガッシュには当然そんな声は聞こえない。
警告音が聞こえていないという事は、当然放送の事など知る由もない。
ガッシュが見ているもの、それは猛スピードで泳いでいる一匹の魚のみだ。

「ウヌゥ〜!待つのだぁ〜!」

水中でその言葉が正常に発せられたかは定かではない。
だが、目前に居るブリにはそれで十分なのだ。
ガッシュにとっては何が何でも捕まえるという決意の現われ。
対するブリにしてみれば、それは確かな開戦の狼煙。
弱肉強食の理に従い、捕まったら自分の人生はそこで終わるという生存をかけた戦いなのである。
ゆえにこれは、確かに命を掛けた一対一の戦いと言っていいだろう。

泳ぐ、泳ぐ、螺旋力に目覚めたブリの速さは尋常ではない。
既に常識的な回遊魚の泳ぐ速度を遥かに凌駕している。

対するはガッシュ。
本来は、ただの子供が水泳の王者とも言うべき1メートルを越す巨体を誇るブリの泳ぎに適うはずはない。
だが、ガッシュは普通の子供ではないのだ。
ガッシュは魔物の子。
それも、幾多の戦いを潜り抜けたお陰で、魔物の中の常識をも超えた身体能力を獲得した子供なのである。
その泳ぐ速度は普通の回遊魚に勝るとも劣らない。
加えて、螺旋力に目覚めているのはガッシュも同じ。
自力の差が同じであり、螺旋力にも目覚めているとあらば、この戦いの勝敗を決めるのは、双方の決意。
つまり、螺旋力をどれだけひねり出せるかという事である。


逃げるブリ。
追いかけるガッシュ。
数分後、戦いはあっけなく結末を迎えた……。



◆ ◆ ◆


ビクトリームは一つの事実の前に時を止めていた。

彼の見つけたもの、それは、一人の男の死体。
大きく広がった血溜まりの上にうつ伏せで倒れている肉の塊。
頭が割られ、頭蓋が完全に砕かれ、脳みそどころか顔のパーツ一つ一つですら原形をとどめていない、男の死体。
大量に広がった血を掃除するように吸い上げたのだろう、白いシャツが赤く染まっている。
加えて、割られた頭部に張り付いている髪も、それが元は金髪だったという事実も、おそらく科学捜査でもしないと判別しない事だろう。
つまり、男の死体を一言で表すとしたら、『赤一色』、それ以外ない。そんな死体だ。

男の死体を目の当たりにした瞬間、ビクトリームは固まった。
勿論、死体に恐怖したというわけじゃない。
ビクトリームとて魔物同士の戦いで相手の命を奪いかねないような術を幾重にも見てきた。
戦いに敗れた場合、そのような結末を予期していないはずもなく、心を乱さない程度の覚悟は常に持っている。
まぁ、流石にここまで凄惨な死体を想定していたわけではないので一瞬は息を呑んだが、
それ以上に、その死体が放つ何ともいえぬ存在感がビクトリームの足を止めさせたのだ。

ビクトリームは何かを感じ取っていた。
それまで行使してきた我道を貫くような振る舞いが一旦鳴りを潜めてしまうほど、冷静な思考が求められる事態に直面したと感じ取ってしまったのである。
なぜなら、男はビクトリームを動揺させるものを持っていたからだ、抱えるように、守るように……。

「これは……、魔物のパートナーか?」

そう呟いた理由はただ一つ。
うつ伏せに倒れた男の死体から、僅かに自分の良く知る魔力の反応を感じ取ったからだ。
それは――言うなれば『心の力』。
人間が魔本と呼ばれる本に『心の力』と呼ばれる力を込め、魔物の力を人間界で発現させる為に必要なエネルギー。
人間界で魔物が戦うために、なくてはならない代わりのきかない力だ。
それを微かに感じ取ってしまったのだ。

恐る恐る死体に手を伸ばし、うつ伏せの体を起こして懐に手を入れる。
両手に大量の血が付着するのも構わず、魔力の発信源を追い求めるように“それ”をとりだした。
それはやはり、一冊の本だった……。

「や、やはり魔本か……。
 という事は、この男は死ぬ寸前まで魔物と共に戦っていたという事か?
 だとしたら、この男のパートナーは今どこに……」

そう言葉にした瞬間、ビクトリームは背後に人の気配を感じ取る。

「おぬし……」

声が掛けられた。
あわてて振り返ると、そこにはある意味捜し求めていた見知った顔が立っていた。

「な、何をやっておるのだ……」

呆然とした表情の中に明らかに動揺の色が浮かんでいるのが見える。
目を凝らさなくてもわかった。そこに居たのはブリを小脇に抱えたガッシュだった……。


【C-1東部/道路上/2日目/深夜】

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ肉体疲労(中)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
    リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
    アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ビクトリームと……死体?
1:カミナたちのところに戻る。
2:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:今すぐにでもブリは食べたいが、一応カミナたちのところに戻ってから。

[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※螺旋力覚醒
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
 いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。



[持ち物]:支給品一式×8(ランダムアイテム0〜1つ ジェット・高遠確認済み)
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)



※ドーラの大砲@天空の城ラピュタは、船に上陸した際に弾を使いきり壊れてしまったので破棄しました。
※東風のステッキ@カウボーイビバップも船に上陸する直前の際に使用しました。
※賢者の石が砕けました。破片が4つ残っています。何らかの用途に使用できる可能性があります。


【ビクトリーム@金色のガッシュベル!!】
[状態]:肉体的にも精神的にも色んな意味で大ダメージ、鼻を骨折、歯二本欠損、股間の紳士がボロボロ、ずぶ濡れ
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay nightで、頭と体を縛り付けている。
[道具]:支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、
    ビクトリームの魔本@金色のガッシュベル!! 、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考・状況] 
0:ガッシュ!?
1:こんどこそ小娘達を追うぞ! 小娘どもを追うのはメロンが欲しいからで、別に心配なぞしておらん!?
2:パートナーの気持ち? 相手を思いやる?
4:吠え面書いてるであろう藤乃くぅんを笑いにデパートに行くのもまぁアリか…心配な訳じゃ無いぞ!?
5:カミナに対し、無意識の罪悪感。
6:シータに対し、意味の分からないイライラ
7:F-1海岸線のメロン6個に未練。

[備考]
※参戦時期は、少なくとも石版から復活し、モヒカン・エースと出会った後。ガッシュ&清麿を知ってるようです。
※会場内での魔本の仕組み(耐火加工も)に気づいていません。
※モヒカン・エースは諦めかけており、カミナに希望を見出し始めています。ニアが魔本を読めた理由はかけらも気にしていません。
※静留と話し合ったせいか、さすがに名簿確認、支給品確認、地図確認は済ませた模様。お互いの世界の情報は少なくとも交換したようです。
※分離中の『頭』は、禁止エリアに入っても大丈夫のようです。 ただし、身体の扱い(禁止エリアでどうなるのか?など)は、次回以降の書き手さんにお任せします。
※変態トリオ(クレア、はやて、マタタビ)、六課の制服を着た人間を危険人物と認識しています。
※ニアとジンにはマタタビの危険性について話していません。
※第四回放送は聞いていましたが、無我夢中で走っていたので断片的にしか頭に入ってません。
「あー、ちょっと待て、
 ワリィが、さっぱりわからねえ!」

そう言ったのはカミナだった。
ニアから齎された話、そして放送、それらを吟味した結果、出てきた言葉がそれである。


まずは現在の状況を説明しよう。

ブリを追って海へと飛び込んだガッシュが禁止エリアに突入すると言うクロスミラージュの言葉に驚かされ、即座に追いかけようとしたのだが、
その直後、目覚めたニアが放った『シモンのアニキさん』発言と放送(チミルフの参加)という二つの衝撃により、
一瞬とはいえガッシュの事をカミナは頭の中から霧散させてしまったのだ。
だが当然、そのまま動乱に流されるまま混乱しているわけには行かない。
カミナはとりあえず、混乱する思考に靄を掛け見ないようにし、ガッシュを追う事を決める。
ニアを立ち上がらせようと伸ばしっぱなしになっていた右手を、今度は相手が掴むのを待たずに拾い上げるように掴み、そのまま強引に立たせる。
そして、「とりあえず話は後だ!」の一言で二人そろって走り始めたのだ。

勿論、走っている間に難しい話を抜きにした自己紹介程度の情報交換はできる。
ニアは走りながら必死に自分の事を話した。
自分の事、シモンの事、シモンが語ってくれたカミナのこと、そして、大グレン団の事。
それら全ては確かにカミナの知ってる大グレン団であり、シモンそのものの話だった。
ただ一点、自分が既に死んでいるということを聞かされるまでは……。



「なぜです?私は私の知っている事を……」

不意に立ち止まったカミナに合わせてニアも立ち止まり、考えるように俯いているカミナに向かってニアは言った。

「テメェが嘘を付いてねぇってのは何となくだがわかる。
 お前が語ったシモンはまさしく俺の知ってるシモンだし、大グレン団についてもおかしな点はねぇ。
 ヨーコ、リーロン、ロシウ、キタン、ダヤッカ……、確かにそいつ等は俺の知ってる奴等と一緒だよ。
 だがな、そこに俺がいねぇってのはどういうことなんだ?
 テメェの話で言えば、俺様が既に死ん出る事になる、チミルフを倒してな。
 コイツは一体なんだ?わけがわからねぇ」

「ですから、私がシモンに助けられたとき、アニキさんは既にお亡くなりになって……」



「それがわからねぇって言ってんだよ!」



カミナの声は咆哮のように響き渡り、辺りを震えさせた。
それは、目の前に居るニア、そして黙って話を聞いていたクロスミラージュも、一瞬とはいえ思考を停止させるほど大きな声だった。
ちなみに、既にこの時点でカミナの頭の中から完全にガッシュの事は消えている。
つまり、それだけカミナにとってショックな話なのである。

まぁ、それも当然の事だろう。
目の前の少女の話では既に自分が死んでいる事になるのだ。
それを、「はい、そうですか」と受け止められる人間など居やしない。
カミナは怒りを覚えているのだ、この理解不能なことを言う少女に対して……。



◆ ◆ ◆


一度ニアの話とカミナの記憶について整理をしよう。

カミナの前に居る少女、名前はニア。
大グレン団の調理主任という立場にして、螺旋王の娘。

自我が芽生えたからという理由のみで螺旋王から捨てられたニアは、偶然にもシモンに発見され、命を救われる。
外の世界を知らなかったニアは、そこで始めて人間を知り、人間を弾圧しようとする自分の父、螺旋王の行いを知った。
螺旋王のやる事に賛同できなかったニアは、螺旋王にその真意を問う為に、大グレン団に参加する。

とまぁ、ここまでは、あくまでニアが語るこれまでの経緯である。
それは確かにニアの記憶であり、この記憶に間違いなんて一つもない。
『ニアを知る』大グレン団の面々に確認をとっても、全員が全員、ニアの話を真実だと言うだろう。

そこにカミナという人間が居なければだが……。

そう、問題はやはり、ニアの前に居る男、カミナがその記憶の欠片すらも共有しては居ないという事なのだ。
 
カミナは知らない。
シモンが助けたというニアという少女の事を。
カミナは知らない。
チミルフ以外の四天王の事を。
カミナは知らない。
ダイグレンと呼ばれる巨大地上戦艦型ガンメンを大グレン団の母艦にしている事を。
それがチミルフの操ったダイガンザンであるという事を。
カミナは知らない。
そのダイガンザンを手に入れるために自分が死んだという事を……。

そう、つまりは、ニアの語る全てはカミナという男が死んだ後の話なのだ。
ゆえに、二人の間に埋めようのない決定的な矛盾が生じているのである。



◆ ◆ ◆


「俺が死んでるように見えるってのか!?
 ふざけんなよ!テメェ!
 俺はまだ死んでもいねぇし、これから先も死ぬ気はねぇ!
 ついでに言えば、チミルフを倒すのはこれからだ!
 俺もアイツもまだ死んじゃいねぇんだよ!!!」

体がわなわなと震え、ニアを鋭い眼差し睨むカミナ。
一気に言い放ったせいか、多少息が荒くなっている。

カミナの記憶では、シモンのラガンを使い、チミルフのダイガンザンを乗っ取る計画、それを、ほんの数十時間前に立てたばかりなのである。
それがどういうわけか、この馬鹿げた殺し合いに無理やり呼ばれたお陰で全て狂ってしまった。
本当なら今頃、そのチミルフと決着をつけ、大グレン団の旗をダイガンザンに突き刺していてもおかしくはないというのに……。
つまり、カミナにとってチミルフとの決戦はあくまで『これから』の事なのである。

カミナは認めない。
認められるはずもない。
自分が死んだなどというふざけた話など信じられるはずがないのだ。

「螺旋王の言葉を信じるなんざ本当は胸糞ワリィ事だが、現にヤツが言ったじゃねぇか! チミルフをこの殺し合いに参加させるってな!
 テメェは言ったよな、俺はチミルフを倒して死んだって、シモンからそう聞いたって、そう言ったよな?
 ならこれはどういう事だ!俺は生きてるし、アイツも死んでねぇ! この食い違いをどう説明してくれんだよ」

最初は笑顔でカミナの顔を見ていたニアだったが、流石に途中から、言い返せないままに悲しい表情を浮かべてカミナの眼差しを受け入れている。
だが、間違っても視線を逸らすような事はしない。
それがニアの強さだからだ。

「それは私にもわかりません。
 ですが、私の言っていることは全て本当の話です。どうか信じてください」

「わかってる!わかってるよ!
 テメェが嘘を付いているなんて思ってねぇ!!
 だがな、納得できなきゃ同じじゃねぇか……。
 テメェの話を信じるとしたら、俺は既に死んでいて、螺旋王がこの馬鹿な実験の為に俺もチミルフも生き返らせたって事になる。
 だとしたらよ、俺は本当に唯の螺旋王の操り人形じゃねぇか……」

青い髪に左右が鋭く尖った赤いサングラス、そして体に彫られた刺青。
ジーハ村どころか地上隅々にその名をとどろかす悪名高きグレン団の不撓不屈の鬼リーダー。
それがカミナだ。カミナの誇りだ。
そいつを、その男の魂を、螺旋王は人形を作るようにこの世界に蘇らせたと言うのだ。
そんな事を認められるはずはない。認めていいはずがない。
ゆえに、カミナはやり場のない怒りのままに我を失うほど感情を顕にしてしまうのである。

「そんなんよ……、どうやっても納得できるわけねぇだろうがよぉぉ!!!」

カミナの怒りが爆発する。
だが、カミナの怒りはぶつけ様のない怒り。

一瞬何もかも忘れ、カミナは吼えるままに右手に握り締めていた板切れを地面へと叩きつけてしまう。
それは、これまで自分と共にここまできた一時の相棒とも言うべき存在だった……。



◆ ◆ ◆


73俺にはさっぱりわからねえ!(後編):2008/04/12(土) 22:37:51 ID:z92OtFQW
『落ち着いてください、カミナ』

叩き付けられたショックで、というわけではない。
いや、勿論、理不尽な扱いに苦言を呈したくはなるが、今はそれどころではない事をその存在は知っていた。
クロスミラージュがこれまで一言も発せず黙っていたのは、全ての情報を整理するためである。

『貴方の考えは確かに理に適っています。
 彼女の話を全面的に信じるとしたら、今この場に居る貴方が螺旋王が作り出した命である可能性は十分にあるでしょう。
 ですが、私はその考えとは別の可能性を提示します。
 勿論、正しい正しくないではなく、もう一つの可能性として……』

硬いコンクリートに叩きつけられた待機状態のクロスミラージュが無造作に道路の真ん中に転がっている。
そんな状況だというのに文句一つ言わず、二人にハッキリと伝わるようにゆっくりと言葉を発した。
ちなみに、走ってる時に済ませた自己紹介にクロスミラージュの事も当然含まれているため、ニアの驚きはない。

「あん?どういうことだクロミラ」

クロスミラージュの言葉にカミナは血が上った頭を強制的に冷やされた。
怒りに任せたまま叩き付けてしまった存在が仲間だった事を思い出し、自分の行動を恥じた為だ。
だが、それで完全に苛立ちが収まるわけではない。
落ちたクロスミラージュを拾い上げ、自分の眼前へと持って行き、鋭い眼差しをぶつける。

『螺旋王の持つ力は確かに強大です。
 私が知る常識を遥かに超える技術も数多く持っていることでしょう。
 もしかしたらカミナの考えるように、本当に命を操れるのかもしれません。事実このゲームの優勝者の願いを叶えると言っているわけですから。
 ですが、私はその可能性より、もっと確実な方法があると考えます』

「確実な方法だと?」



『つまり、カミナと彼女、貴方方二人が、まったく別の世界から連れてこられたという可能性です』



カミナとニア、二人の頭の上に疑問符が浮かんだ。

『順を追って説明しましょう。
 カミナは言いましたね。
 自分とチミルフが戦うのはこれからだ、と。
 つまり、彼女が知ってるような、チミルフという螺旋王の部下との決戦に赴く記憶から勝利する記憶、その過程、そして、死ぬ記憶がない、そういう事になりますよね』

「あたりめぇだろ!
 何度も言うが、俺は一度だって死んじゃいねぇんだよ!」

『ですが、それはおかしいんですよ。
 彼女の話を信用した場合、カミナが自分が死んだ事を知らないはずはない。
 もし、本当に知らないんだとしたら、螺旋王によって蘇生させられた際、記憶の一部を消去されたという事になります。
 ですが、実際問題、一体それが螺旋王にとってどれだけの意味を持つというのでしょう?
 螺旋王にしてみれば、カミナが自分が死んだ事を知っていようと知っていまいと、どうでもいいはずです。
 勿論、此度新たな参加者として名を連ねたチミルフとの戦いをもう一度演出させる為という理由付けもできますが、
 それならば、わざわざ一日経った今になってチミルフを参加させる意味が分かりません。
 カミナとチミルフを戦わせるのが目的だというなら最初からチミルフを参加させればいいのにそれをしなかった、
 つまり、螺旋王はカミナの記憶を操作する事でおきるチミルフとの邂逅を重要視していないと考えられます。
 そうなると必然的に、手間を掛けてカミナの記憶を消したという可能性そのものが疑わしくなり、
 引いては螺旋王によって蘇生させられたという考え自体を否定すべきだと、私は考えます』

一気にまくし立てたクロスミラージュ。
当然、今の話を理解できる思考をカミナもニアも有してはいない。見事なまでに魂が抜けたように間抜けな顔を晒していた。
それを察し、即座に言葉を続ける。

『つまり、貴方は死んだわけじゃない、そういうことです』

クロスミラージュが何を言っているのか、それを理解できたわけではないが、カミナはその一言で一応納得したように表情を元に戻す。
そして、大きく溜息を付きながら答えた。

「フゥ〜、あー、なんだかわかんねぇが、
 つまり、俺は死んでねぇってお前は言いてぇんだよな?
 ならよ、何でコイツは『俺が死んだ』、なんて記憶をもってやがんだよ」 

『そこです。
 彼女が、“カミナは死んだ人間”、という記憶を持っていること自体、螺旋王の力を知る突破口だと私は考えます』

そう前置きした上で、クロスミラージュはニアへと質問の矛先を変えた。

『ニアさん、貴方はカミナを死んだ人間だと聞かされた、といいましたね?
 では、こういう話を聞いた事はありませんか?
 “カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と……』

その問いが出た瞬間、二人の人間の頭に先ほどより大きな疑問符が浮かんだ。
質問の意味が理解できないのである。

「……いえ、そのような話は……」

『そうですか。なるほど……。
 だとしたら、螺旋王の力は既に私の理解する次元を遥かに越えたところにあると考えられます……』

なぜかそこでクロスミラージュの言葉がとまった。
まるで、次に続く言葉を言いたくないかのように、人間のように言葉を詰まらせたのである。



『……螺旋王の持つ力、それは、多元宇宙を自由に行き来する事ができる力、というのが考えられます』



「た、たげん、う、うちゅう? な、なんだそりゃ?」

クロスミラージュの発した言葉を聴き、カミナ、ニア共に、何一つ理解できないというのがアリアリと分かるほど呆けた顔に変わる。
それを確認したクロスミラージュは、次に続ける言葉を躊躇った。
クロスミラージュは冷静に考えたのだ。
これ以降の話は、おそらく今の二人では到底理解できないという事を……。



『……カミナ、ガッシュを追いましょう。
 魔力の反応は無事禁止エリアを抜け、この先にいるようです』

「あ、ああ……
 だが、話は……」

『魔力の反応が二つあります。
 一つはガッシュですが、もう一つについては分かりません。おそらく他の参加者かと……』

「なに!?敵か!?」

『はい、ですから早く向かいましょう』

「お、おう!」



クロスミラージュは話を逸らした。
それが現時点でもっとも正しい選択だと信じて……。



◆ ◆ ◆


76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/12(土) 22:42:34 ID:VPNy5IuI

カミナとニア。
この二人の記憶の矛盾を帰謬法を用いて説明しよう。

それは螺旋王が時間跳躍の手段を持っていると仮定することから始まる。

まず、ニアが大グレン団という一団に参加している時代の螺旋王がニアを誘拐、このゲームに参加させる。
つづいて、時間跳躍つまりタイムトラベルで過去へと行き、カミナをチミルフとの決戦前夜からさらってくる。
これで、一応二人の記憶の矛盾はなくなると考えられる。
だが、これは実際問題ありえない。
なぜなら、ニアがカミナのこと『死んだ人間』と記憶しているからだ。
もし時間跳躍を利用して二人を集めたのだとしたら、カミナを誘拐した時点でタイムパラドックスがおきる。
つまり、ニアは存在自体消滅するか、もしくは記憶が書き換わらなければおかしいのである。

存在が消滅する理由は単純だ。
もしカミナが決戦前夜に誘拐されていたとしたら、リーダーを失った一団はどうなっていただろう。
事実と同じように螺旋王の部下に勝てたかだろうか、いや、最悪の場合、そのまま敗北したのではないだろうか。
敗北していた場合、ニアはシモンに助けられてはいない事になり、ニアの命がそこで終わる。それは記憶どころの騒ぎではないだろう。
だが、現にニアはここに存在している。
ゆえにもう一つの仮説、記憶が書き換わったという可能性を考えるべきだ。
それを確認するために、クロスミラージュは先ほどニアに質問したのだ。

“カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と聞かされてはいないか?と……。

ニアが持つ記憶、これが最大の焦点。
『戦いの果てに死んだ人間』から『カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました』というふうに記憶が書き換わっていたとしたら、
螺旋王が時間跳躍を駆使して彼等を集めたと一応は考察がまとまる。
だが、ニアはそんな話は聞いた事がないと言った。
これはつまり、タイムパラドックスがおきなかった事を指しており、時間跳躍そのものに矛盾が生じてしまうのだ。
つまり、ニアの記憶という一点のみに絞った考察ではあるが、時間跳躍の可能性は限りなく薄くなると考えられるのである。

では、二人を集めた方法とは、螺旋王の力とは何のか?
時間跳躍が否定される以上、現在ここにいるニアという存在とカミナという存在が等しく存在している事を考えるに、新たな仮説を立てることができる。
それこそがクロスミラージュが辿り着いた二人の状況を説明できる仮説だ。

ニアはカミナが誘拐された事を知らない。
それは、言い換えれば、カミナとニアは同じ時間軸上に存在していなかった事を指し示している。

つまり、平行世界の移動、いや、時間跳躍を含めた全ての次元に干渉するという力だ。

螺旋王の力とは、無限に生まれ続ける多元宇宙に自由に干渉する力。
それが、現在カミナとニアの記憶を整理して導き出された結論である。


78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/12(土) 22:43:29 ID:VPNy5IuI

クロスミラージュは自身が立てた仮説を二人に聞かせる事を躊躇った。
そもそも、文字すら読めないというカミナと、その彼とほぼ同一の世界から来ており、自分の事を語っている時に度々物を知らないような発言を繰り返していたニア。
この二人に、今自分が考えた話を聞かせたとして、それを理解できるとは到底思えないからだ。
なぜなら、クロスミラージュが立てた仮説は、ある一定の基本概念を知ってる事が大前提の講釈なのである。

おそらくだが、この二人、カミナとニアは人が想像し作ってきた基本的な空想話ですら頭に入っていないだろう。
過去と未来という概念を理解しているか怪しい。
知ってたとして、時間跳躍の可能性を想像した事があるか怪しい。
想像した事があるとして、タイムトラベルの持つ矛盾点まで想像している可能性は?
上げれば切がない。
加えて、『自分がもしあの時こうやっていたら』という考えから派生した世界を綿密に想像した事があるかどうか怪しい。
それがどういう世界で、何がどう違ってくるのか、また、本当にそんな世界はないのだろうか、そういう単純な思考をした事があるか怪しい。
自分がもう一人いるかもしれない、という可能性は?
つまりは平行世界の概念。
“この世界と似て非なるもの”の存在をたとえ信じていなくても頭には入っているかどうかという事が、これから話す事に大きくかかわってくるのである。

流石のクロスミラージュでも、全てを一から説明するのはいくらなんでも時間がなさ過ぎる。
説明したとして、彼等がそれを理解できるのは何時間後か、何十時間後か……。
それでは意味はない。
説明している間に殺し合いに乗った人間の襲撃を受け、下手をした二人が死んでしまう可能性もあるからだ。
そんな無茶はできない。
ではどうするか、時間を掛けてでも二人に説明するのか、それとも、仮説中からもっとも事実に近い事だけを話し、理解できるかどうかを二人に任せるのか。



クロスミラージュは悩む。
些細とはいえ、後々重要になってくるであろう判断を迫られているのだ。
勿論、この仮説が正しいかどうかはわからない。
だが考えて置いて損はないだろう。
なにせ、目の前の二人に限ってのみ言えば、自身のこれからの運命を左右しかねない話になるからだ。



二人は考えてはいない。
螺旋王を倒すという事がどういう事なのかを。
そして、この世界で死んだ者が、本当に自分の知ってる者だったのか、という事を……。



二人は気づいていない。
この世界の螺旋王を倒せても、自分達の世界にも螺旋王がいる可能性があるという事を。
生きて元の世界に帰ったとき、目の前に死んだはずの大切な人が現れる、そんな可能性がある事を……。



勿論、覚悟しなくてはならないのはクロスミラージュも同じだ。
多元宇宙に干渉する力を螺旋王が持っているのだとしたら、
この世界で無残にも命を落としたクロスミラージュが良く知る彼女たちは本当にクロスミラージュの知っている彼女等なのだろうか。



もし違うのだとしたら……。


80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/12(土) 22:44:15 ID:gdWQdqjK
 
【C-1南東/道路上/2日目/深夜】

【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、体力消耗(大)、全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意、螺旋力覚醒・増大中
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】   
    アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!、
    クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
    ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:と、とりあえずガッシュのところに。
1:何がなんだかさっぱりわからねぇ!
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ!コイツは俺が守る!
3:チミルフだと?丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
5:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ガンメンモドキ(ビクトリーム)よぉ……そうならそうって早く言えってんだ。

[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。2人の死を受け入れられる状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
 禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
 ただし、クロスミラージュがその事実を把握しています。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ましたが、なぜか今は読めません。
※少女(ニア)の保護に義務感のようなものを感じています。
 ニアと簡単な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※螺旋力覚醒

※クロスミラージュが『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
 ですが、それをカミナ達に話すのを迷っています。


【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(小)、ギアス?、右頬にモミジ、下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:一体どういうことでしょう。
1:出来ればシータを止めたい。
2:ルルーシュとビクトリームと一緒に脱出に向けて動く。
3:ルルーシュ達を探す。
4:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。

[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
 今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※カミナとクロスミラージュと簡単な情報を交換しました。
83月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:07:07 ID:+KyBpXs7
時計の中の短い針が丁度ぐるりと一周を終え、同じ様に天をグルリと廻った月が昨晩見上げたそこに戻ってきていた。
月は、まるで何事も無かったかのように、白く、ただそのままに輝いている。
しかし……その月が見下ろす遊戯盤の上は、全くその様相を変化させていた。

駒は縦横無尽に――複雑奇怪に動き回り、ある駒は姿を変え、ある駒は陣営を移り、ある駒は盤から落ちた。

盤の中に棋士が一人。名前は、明智健吾。唯一、孤高に――銀色に輝く者。


 ◆ ◆ ◆


明智健吾は丁度0時に流された螺旋王の放送の後、一人で監視塔の頂上へと来ていた。

刑務所の中でも一際高い監視塔。
勿論、その使用目的から考えれば当たり前のことだが、そこからは刑務所内の全景及び、その外までが広く見渡すことができた。
監視塔の根元には、明智とその仲間が先ほどまでいた中央棟。
ここには、刑務所内で仕事をする人間が利用するための事務室。役員のための執務室。そして、彼らさっきまでいた会議室などがある。
視線を移せば、その隣りには灰色の真四角の箱。そこは囚人達のための寝床だ。
さらにその隣りには、半円の屋根を持った一際大きな建物が並んでいる。ここは囚人達を働かせるための工場である。
反対側には医療棟。職員も囚人も両方が使用するための施設……だが、無人故に今はほとんど機能していない。
基本的に無愛想にできてはいるのだが、運動場の一部などにはリラクゼーションを狙ってか花壇などがあるのも見れた。
そして、これこそが刑務所の象徴だろうと思える高く分厚い灰色の壁。全周をきっちりと覆い、この中と外とを完璧に隔絶している。

その壁の向こう……これは意外と思われるかもしれないが、そこはすぐに市街地となっている。
螺旋王が何故日本の都市部をモデルにした舞台を用意したかは全く持って不明。
だが、日本の刑務所は地理上の理由から市街の真ん中にあることも珍しくないのだ。

刑務所――自身が敵と定める犯罪者の行き着く先。その天元に位置し、明智健吾は何を思うのか……?

明智はあえて閉じていた窓を開き、夜の風を室内へと招き入れる。銀色の思考の中に篭った熱を逃すために……。
どれだけ鋭利で冷たい金属であろうと、摩擦があれば熱を持たざるを得ない。
切り裂けても、切先に熱が残ってしまい、それが篭れば容易く切れ味は鈍り、刃は脆くなってしまう。
的確であるはずの推理は的を外れ、取り逃がすはずのない犯人を逃がし、生まれなかったはずの犠牲者を生じさせる――。

「(…………衛宮士郎。……イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。……ラッド・ルッソ」

盤から取り除かれた駒の名前を明智は胸中で呟く……。
螺旋王が張った陣を崩すための一手は空振りに終わり、彼は『手』と『足』と『剣』を失ってしまった。

あの時、あの目まぐるしく廻る事態の中で、交錯し摩擦し合う状況の中で、熱を持ち判断を誤ったと明智は自省する。
これが本当にただのゲームだったのならば、彼は苦笑を浮かべるだけだっただろう。
だが、ゲームであってもこれは冗談ごとではない。

衛宮士郎が、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、ラッド・ルッソが死亡したのは事実。
そしてまた、彼らを死地に向かわせたのも自身であると認識しているからこそ――明智はより冷徹に心を静める。
月の光を乗せた風に銀髪を揺らし、彼は銀の思考。銀の表情。銀の心を取り戻す。
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:07:32 ID:+C36wfir
 
85月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:08:21 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


さてと――と呟くと、明智は窓を閉じ懐から一枚の折りたたまれた紙を取り出す。
開いてみれば、それは彼が螺旋王より与えられた1枚の地図だった。
丁度一日前。初めて開いた時は綺麗だった地図も、この一日でそれだけの分の軌跡をその上に残している。

用意されていた筆記用具の中でも最も細いものを使って書かれた神経質そうな文字が、彼の足跡として。
そして更には、途中で得られたレーダーから写し取った他の者達の足跡もそこに残されている。
軌跡だけでなく動きが見えるたび書き足された情報に、地図はもう黒蟻が溢れているかの様な状態だ。

明智はその情報が闊歩する平らな舞台を俯瞰する。
放送で得られた情報――死者――それは、一部の答え――それを使い、6時間前より現在までを、立体的に浮かび上がらせる。


 ◆ ◆ ◆


前回の、第3回放送が流れ終わって後、一番最初に動き出した……いや、動き続けていたのは映画館より出立していたラッド・ルッソだった。
フラップラーに乗った彼はほどなくして高嶺清麿、そして彼を追い詰めていた相羽シンヤとと接触。
ここで何があったかは高嶺少年より聴取しているため解っている。
ラッド・ルッソが相羽シンヤを殺害。元より法の及ばぬここでそれを口にするのはナンセンスだが、聞いた限りは過剰防衛であった。
ともかくとして、ここで相羽シンヤは死亡し、彼と同伴していた小早川ゆたかを高嶺少年が保護することとなった。

丁度そのころ、食材の調達へと出立した衛宮少年が市街の中で動きを止める。
この時点では食材の確保は順調だと思っていたのだが…………。

その近くにある卸売り市場。その中に3回目の放送で名前を呼ばれたエドワードという名の少女の反応が残っていた。
そして、彼女の反応と接触していた二つの反応――リュシータとニコラスがほどなくして動き始める。
放送直前までエドという少女が動いていたことから、このどちらかがその下手人である可能性は高いだろう。
プロフィールを推測の材料に使えば、まず間違いなくニコラスという男の仕業である。

これと同じ頃、遠く離れた豪華客船内にいる人間の動きが慌ただしくなってくる。
地獄の傀儡師――高遠遙一の奇術ショウが始まったのか、と想像できたが生憎この時点で我々が取りえる手段はなかった。
彼の人形となったのは、恐らく自暴自棄になっていたティナア・ランスター。
そして彼らの犠牲となったのは、ミリア・ハーヴェント、チェスワフ・メイエル、ジェット・ブラック、ガッシュ・ベル。
一癖も二癖もあるショウの参加者。高遠の奇術も、彼らには通じきりはしないと願っていたのだが……。

リュシータとニコラスが移動している中、卸売り市場に言峰綺礼が到着。
プロフィールによると魔術を嗜む神父。そして衛宮少年の言によると、最悪の一言で表せるという人間。
場所が近かっただけに、彼と衛宮少年の接触が危ぶまれたが、幸いなことにそれは起きなかった。

放送よりやや後。同じ場所(D-3)で停止していた、アルベルト、柊かがみ、結城奈緒の反応が二手に別れて移動し始める。
アルベルトと柊かがみは橋を渡り東へ、単独の結城奈緒は高速道路を伝ってゆっくりと南へと向かう。
その位置、それからの進行方向、そしてタイミングからして彼らが、
停止していた位置よりすぐ北に反応を残している金田一少年他2名の殺害に関与していた可能性は十分に考えられる。
BF団という秘密結社の高級幹部の一員である衝撃のアルベルト……彼がこの場において殺人を厭う理由はないだろう。
しかし、柊かがみという極一般的な少女が何故彼に同行しているのか、または同行させられているのかは不明。
第1回の放送で名前の呼ばれた柊つかさ――つまりは妹の首輪を彼女が所持していることにその理由があるのだろうか?
86名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:09:43 ID:+C36wfir
  
87名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:09:44 ID:h6vlb7Af

88月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:10:06 ID:+KyBpXs7
舞台の南東。山中にあるキャンプ場から、スパイク・スピーゲル、ルルーシュ・ランペルージ、カレン・シュタットフェルトの反応が移動を開始。
整備された道を無視し、山中の真っ只中を北へと向かってゆっくりと移動してゆく。
この山中を辿ってゆく行動パターンから逆算して、彼らがこの前に温泉に立ち寄っていたのではないかとも考えられる。
つまりは、読子・リードマン及び糸色望の殺害に関与していた可能性もあるということだ。
賞金稼ぎと若輩のテロリスト。その性質から見て、彼らが手を組んでこの殺害ゲームに乗っている可能性は否定できない。

彼らが南から北上を始めた頃、同じ山中にいた、ジン、ニア、ビクトリーム、マタタビの動きが停止。
しばらくして、ジンのみがそこから離れその近辺を徘徊し始める。
この後の放送によりマタタビの死亡は確認できたが、この時点で死んでいたのかは不明。ただ、これ以降目立った動きはなかった。

移動し続けていたリュシータとニコラスが言峰綺礼に接触して停止。
その後にリュシータが高速でその場を離脱。
付近にまで移動してきていたアルベルトと柊かがみに一瞬接触したものの、再び速度を上げて東へと高速で離脱した。
結局は河を越えて消防署の付近で停止。その速度と移動ルートから空中を飛んだと思われるが、その詳しい手段は不明。
彼女を追って移動していた言峰綺礼とニコラスは、アルベルト、柊かがみと接触。
彼らはアルベルトと言峰綺麗、柊かがみとニコラスという二手に別れ、離れた場所でそれぞれに停止。
4人の関係は不明。慌ただしい動きがなかったことから敵対している様には見えないが……。

G-1にある駅に滞在していたカミナが線路沿いにF-5の駅へと移動。
恐らくは、18:20発-18:30着のモノレールに乗ったものと推測される。
F-5の駅で降車した彼は、しばらくその駅構内で停滞していたが、その後西へと進路を取って移動を開始した。

放送後より動きのなかったヴィラルとシャマルが個別に移動を開始。
後に高嶺少年より得た証言によると、シャマルという女性は一度は自殺を考えていたらしい。
この時、彼と彼女がどうして別行動を取ったのか。そして、この別行動が彼女に何らかの影響を与えていたのか。それは不明である。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:10:26 ID:OO6SB/kE
90名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:10:34 ID:+C36wfir
 
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:11:07 ID:h6vlb7Af

92月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:11:12 ID:+KyBpXs7
3回目の放送で、一度に6人もの死亡が確認されたデパート。
そこへと、西からドモン・カッシュ。北より東方不敗が高速で接近――そして接触した。
プロフィールから彼らが師弟関係であることが解るが……待ち合わせでもしていたのだろうか?
その後、激しく動いた後に東方不敗が再び北の方へと高速で離脱してゆく。
恐らくは戦闘行為があったのだろうが、だとすれば危険人物と目されている東方不敗と敵対するドモン・カッシュは味方となりえるだろうか?

そのデパートの近辺で停止していた藤乃静留とヴァッシュ・ザ・スタンピートに、これも危険だと指定されているギルガメッシュが接触。
先の2人は、放送後よりその場にいたが、彼らがデパートで起きた『何か』に関与していたかは不明。
また、その後の動きからみるにギルガメッシュは彼らと共に行動することを選んだようだ。

しばらく後、豪華客船より西にあるホテルに滞在していたビシャスがそちらに向けて移動を開始。
同じく、高速道路を渡って北より接近してきていたアレンビー・ビアズリーが豪華客船に接近。
2者はほぼ同時に到着。そして、何故か一箇所に固まっていた船内の人間らと接触。再び、船内の動きが活発になる。
ビシャスはプロフィールと菫川先生の証言から危険人物と断定できている。つまり……ショウはその演目を変えたのだろう……。

北側の学校に滞在していた、Dボウイと鴇羽舞衣にはこの時点でも目立った動きはない。
小早川ゆたかと縁のあるDボウイだが、反応に動きが見えなかったのと、同行する鴇羽舞衣が危険人物だと認定されていたため
この時点では最悪のパターンも想定できた。だが、放送で名前が呼ばれなかったことから未だ死には至ってないらしい。
無差別殺人者となっていた鴇羽舞衣が何故、彼と同行しているかはこの時点では不明であった。

地図上の北端を東に移動していたスカーが、ショッピングモールへと到着。
しばらくは動いたり止まったりを繰り返していたが、ある機を境にぴたりと動きを止める。
この直前に、『エド少女の放送』が流れたことが関係しているのだとすれば……それは…………。

山中を移動していたスパイクら一行がジンと接触。しばらくした後、揃って移動を再開し、止まっていたニアと達と合流した。
7人の実験参加者がここで揃った訳だが、しばらくは彼らに動く気配はなく、そこでなんらかの交渉があったのではと推測できる。
93名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:11:27 ID:OO6SB/kE
94名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:11:51 ID:+C36wfir
 
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:12:04 ID:h6vlb7Af

96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:12:16 ID:OO6SB/kE
97月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:12:19 ID:+KyBpXs7
食材の調達に出ていたはずの衛宮少年が、目を放していた隙に繁華街を離れて大分東へと移動していた。
気にかけていた鴇羽舞衣を一人で探しに行ったのかとも思えるが、この行動が後の…………。

病院で長らく停止していたラッド・ルッソが単独で移動を開始。
それと入れ替わるようにシャマルが病院へと到着。間をおいてヴィラルも到着し、彼らは合流した。
残留して、彼らと居合わせた高嶺少年の言によると、彼らは自分達のために他の人間を殺害することを決意しているという。
シャマルという女性の方につけいる隙はありそうだが……、危険人物として接触は避けるべきだろう。

真っ直ぐ北上していたラッド・ルッソが、学校を出て南下していたDボウイ、鴇羽舞衣と接触。
彼らは東の方へと移動してゆき、河に重なったところでDボウイと鴇羽舞衣がそれに沿って南下していった。
恐らくは彼らはラッド・ルッソと戦闘に及び、河に叩き落されたか逃げ込んだものと想像できる。

豪華客船上の反応がまとめて東へと移動を開始する。恐らくは誰かが船そのものを発進させたのだろう。
船内の動きも慌ただしさを増し、それぞれが大きな動きと停止を繰り返している。完全に停止した者は、つまりは……そういうことなのだろう。

しばらくの間停止していたアルベルトと言峰が移動を再開し、柊かがみとニコラスのすぐ傍でまた停止する。
接触していたと断定できる距離ではなかったが、やはりこの4人にはなんらかの協力、または同調する関係があるのかも知れない。

動き出した豪華客船が間もなくして高速道路と重なる位置で停止。
意図したものでないとしたら、橋脚にでも衝突したと考えるのが妥当だろう。
また状況からして、誰かが操縦に専念していたとは考えづらいのも、そう推測する一因だ。
一旦離れていたジェット・ブラックの反応が戻ってくるも、ほどなくしてビシャス以外の反応が停止……。
事を終えた現場に興味はないのだろうか、ビシャスは海上を渡って東へと移動していった。
この時点でガッシュを除く全員が死亡していたのは間違いではないだろう。
そして、我々が駆けつけていたとしても死体の数が増えるだけだったというのも……また、間違いがなかったはずだ。
我々はベターな選択を取った。しかし……、それはやはりベストではなかった。

惨劇の直後、高速道路上を南下してきた結城奈緒が豪華客船のある位置に到着。
彼女は船内の惨劇を確認するように動くと、元いた方へと戻っていった。
この後に、アルベルト、柊かがみと再度合流していることから、彼女は豪華客船への偵察を任じられていたのかもしれない。

そして、彼女が去った直後に今度は高速道路の南側からカミナがそこへと到着する。
彼は生存していたガッシュに気付いた様で、この後しばらくの間一緒に豪華客船の中に留まっていた。

長らく動きの見えなかった山中のスパイクらが、活動を再開する。
ルルーシュ、ニア、ビクトリームら3人が集団から離れやはり山中を北へと向かって移動し始める。
交渉が決裂したとも考えられるが、元のメンバーがそれぞれの組に分かれていることから、ただ別行動を取ったとも考えられる。
また同郷であり、同組織に所属していたはずのルルーシュとカレンが分かれているのも、そう考えられる一因だ。

3人が離れて後、残ったスパイク、カレン、ジンも移動を開始。彼らは山を降りる方向へと進み始める。
マタタビの反応は停止していた場所に残ったまま。
もし、元々が首輪のみだったのなら置いてゆく可能性は低いため、マタタビはここに辿り着いてから死亡したと考えるのが妥当だろう。
それを考慮すれば、やはりなんらかの事件が発生して彼らが仲違いをしたという可能性も捨てきれない。

何をしていたのか、停止していた衛宮少年が東方不敗に捕捉される。そして、激しい動きの後彼と重なり停止。
この時点では、我々は彼が殺害されたものと考えていたが、後に判明した事実によればただ捕縛されていただけだった。
ともかくとして、我々はこの動きを見て映画館の放棄を決断。速やかに高嶺少年と合流するため出発する。

幸か不幸か、同じタイミングで高嶺少年も病院より出立。我々はほどなくして合流を果たし、進路を刑務所へと向けた。
なお、まだこの時点ではヴィラルとシャマルは病院内に滞在したままで、またこの後も少しの間はそうだった。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:12:34 ID:+VcTu9ik
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:12:50 ID:h6vlb7Af

100月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:13:24 ID:+KyBpXs7
移動中だったためにこの辺りのチェックは雑になってしまったが、山を降りたスパイクらの動きが加速したのを確認。
予め用意してあったのか、その場で調達したのかは不明だが恐らくは車に乗り込んだのだろう。
彼らはそのまま市街中央へと進路を向けた。

その行き先。デパートの近くに留まっていたギルガメッシュら3人が北上を始める。
この時点で対応策を講じていれば……と思うが、この時の我々にその余裕がなかったのも事実だ。

我々が刑務所に到着するのと同じくして、遠回りしていたラッド・ルッソが映画館へと到着。
すぐに退去勧告を送るものの、それは逆に彼の殺人鬼としての願望を刺激してしまったらしく、彼はそこで東方不敗を待ち構えることとなった。
ほどなくして東方不敗と衛宮少年はラッド・ルッソに接触。彼らの戦闘が始まり、そして我々は衛宮少年がまだ生存してたと気付く。

この頃、ヴィラルとシャマルも病院を飛び出すように出て、そこから離れてゆく。
そして入れ代わるかのように、河よりあがってきたDボウイと鴇羽舞衣が病院へと到着した。
やはり、到着後もDボウイに大きな動きはなし。病院へと一直線にきたことから、彼の治療がその目的かと察せられるが……、
もしそうなのだとすれば、鴇羽舞衣は無差別な殺害をしなくなったのかも知れない。
Dボウイは小早川ゆたかの証言から信用のおける相手であるし、彼女も彼と協力関係にあるというのなら是非合流を狙いたいと思える。

市街地に入ったスパイクらはデパートに到着し、そこに残っていたドモン・カッシュと接触。
彼らはその後、その周囲をバラバラに動き回ったり、集まって長い時間を過ごしたりしていた。
何かを探していた様にも見える動きだが……一体、デパートで起きた『何か』とは何なのだろうか……?
エド少女の残した放送を鑑みるに、デパートにもあの博物館にあったような……つまりは『お宝』が存在するのかも知れない。
それを彼らが持ち去ってしまったかどうかは不明だが、何が起きたかの調査も含めて一度足を運ぶことも検討すべきだろう。

映画館へと一直線に向かってきていた結城奈緒が、衛宮少年らと接触。彼らの戦闘に巻き込まれた模様。

長らく滞在していたデパートから、スパイク達が二手に分かれて移動を開始。
スパイク、カレンの2人は北へ、ドモン、ジンの2人は西へと向かった。移動速度から見て、車を使用しているのは後者だと思われる。
そしてこのタイミングで西より移動してきたビシャスがドモンらとすれ違い、スパイクらを追ってデパートから北へと向かう。

ギルガメッシュら3人が病院の前を通過し、映画館まで進むと確信できた段階で我々はイリヤをそこへと派遣する。
その目的は、かの英雄王をこちらの陣営につけ衛宮少年とラッド・ルッソを窮地から救い出すため。だったのだが…………。
ギルガメッシュら3人はこちらの予想通りに北進。ほどなくして、衛宮少年らと接触を果たした。

その頃。しばらくの間動きを止めていたリュシータが移動を再開し、近くまで来ていたルルーシュらと接触した。
目まぐるしく動いた後、リュシータとニアが舞台の端に消え……そして逆の端――西端へと移ったのを確認。
また残ったビクトリームは彼女らを追って端を渡り、結局その場にはルルーシュのみが残されることとなった。
この時点で、我々はこの舞台の端と端が繋がっていること、また首輪がなくともここからは安易に逃げられないことを知った。
そして、これまでに推測してきた、各人のレーダーを持つ前の進路。その予想についても、修正の必要があると……。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:13:27 ID:+C36wfir
 
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:13:29 ID:OO6SB/kE
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:14:04 ID:+VcTu9ik
104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:14:18 ID:h6vlb7Af

105月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:14:36 ID:+KyBpXs7
ビシャスがスパイクとカレンに追いつき――接触。
しばらくの後、カレンをそこに置いて2人は別々に北へと移動を開始する。
カレンの死亡は放送で確認できたため、恐らくは因縁のあった彼らの決闘に巻き込まれて死亡したものと思われる。
北上したスパイクは病院へと到着。逆にビシャスは病院を素通りして映画館の方へと向かった。

豪華客船内に留まっていたカミナとガッシュが、高速で海上を西へと進み始める。
ビシャスもそうであったが、どうやら客船にはモーターボートの様なものが積まれていたらしい。

西端に出ていたリュシータとニアがそのまま禁止エリアに指定されていたD-2へと突入。
途中、ニアを置き去りにしてリュシータは猛スピードでそこを突っ切った。
禁止エリアを首輪が爆発する前に通過しきるスピードもそうだが、目を見張ったのは死亡するかと思われたニアが、
同じく猛スピードで禁止エリアに侵入してきたカミナとガッシュに拾われて窮地を脱したということだ。
彼らはそれぞれに禁止エリアを越えた近くで動きを止めたが、この交錯が偶然なのかそれとも意図したものなのかは解らない。
リュシータがルルーシュの元からニアを奪い、同郷の出身であるカミナの元へ送り届けたとも解釈できるが、
それにしては些かアクロバットがすぎると言わざるを得ないだろう。

単独となったルルーシュだが、これまでの方針を変更したのか山を降りて消防署へと移動。
しばらくはその中を探るように動いていたが……彼もまたどこかで『エド少女の放送』を聞いたのか?

接触後しばらくして、一人そこから抜けた藤乃静留が近くまで来ていたイリヤと接触。
逃げたのか、はたまた追ったのか彼女たちは揃って北へと進行。最終的にはB-6の北端、河川の三叉路の位置まで移動した。
そこでようやく振り切れたのか、イリヤは単独で映画館へ向けて移動を再開。
残された藤乃静留は何故解ったのか、河を越えて知人である玖我なつきの反応が残る位置へと移動。
しばらくそこで停止した後、イリヤを追うかのように映画館へと戻り始めた。

その間、島へと渡ったドモン、ジンは更に高速道路へと乗り北上を開始。豪華客船がある場所で一旦停止して、今度は中央へと進路を向けた。
躊躇いのなさからどこか目的地がある様にも見え、それが舞台の中央より北、または北東の方角にあるのではないかと推測できるが、
ならばスパイク達と別れ遠回りをする理由はなんだろうか……? 彼らも豪華客船に何らかの興味があった……?

鴇羽舞衣がDボウイを残して一人病院から移動を始め、真っ直ぐに東へと進んでゆく。
彼女もまた飛行していると推測できるが方法は不明。また、どうしてDボウイと別れたのかもやはり、不明。

ピタリと動きを止めていたスカーが移動を再開。迷うことなく一直線に刑務所へと向かってくる。
緊張が走ったが、彼は目の前で一旦停止。もしかしたらこちらを窺っているのかも知れないが……とすると……。

病院内に侵入したスパイクが、動き出したDボウイと接触。
この後、しばらく離れずにいたことから何らかの交渉があったと推測できる。
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:15:04 ID:h6vlb7Af

107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:15:26 ID:+C36wfir
  
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:15:34 ID:OO6SB/kE
109月下の棋士 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:15:40 ID:+KyBpXs7
映画館上での交錯が発生してより後、ようやくイリヤがそこに到着する。
しかし、追ってきていた藤乃静留もほぼ同時に辿り着いたため、彼女にギルガメッシュと交渉する猶予があったかは不明。
また、この段階で東方不敗とラッド・ルッソがそれぞれ別にこの場を離脱。
東方不敗は東に、ラッド・ルッソは北東の方角へと移動した。
それと入れ代わるように、南よりゆっくり北上してきたビシャスがこのタイミングで映画館に到着。

同じタイミングで、ニコラスが柊かがみと別れ映画館に向けて移動を開始。
また、それを追うように言峰綺礼も映画館の方へ向けて移動を開始した。
この動きを見るに、この時映画館で爆発か何か――つまりは人目を引く何かがあったのだろうと想像できる。
そして、これ以降動きを見せなくなった衛宮少年とイリヤがその何かの犠牲になったのではないかも……と。

この頃、席を外していた菫川先生と小早川ゆたかが偶然にも、刑務所内の地下に大規模な施設を発見する。
それは――アンチシズマドライブシステムの炉心であり、『フォーグラー』のコックピット。
これが我々にとってどのような意味を持つギミックなのか、それはこれから次第だが、現在、高嶺少年がその調査に当たっている。

映画館より、ギルガメッシュと結城奈緒もそれぞれ別に離脱。
ギルガメッシュは南西方角に、結城奈緒は柊かがみとアルベルトが待つ北西へと進路を向け移動し始めた。

一人で東へと進んでいた鴇羽舞衣が消防署に到達し、ルルーシュと接触。
ルルーシュとの接触は僅かなもので、彼女は取って返すように西へと戻り始めた。
元々出会う予定だったのか、それとも偶然か。戦闘があったのか、交渉があったのか……どちらも不明。
単独で行動を開始し、真っ直ぐに接触。すぐに進路を反転し戻る――という動きだけを見れば非常に意味深ではあるが……。
残されたルルーシュはその後僅かに移動して、停止した。
ともすれば死亡したかと思えたが、放送で名前を呼ばれなかったためにその可能性は否定された。

映画館から北東へと離脱した結城奈緒にラッド・ルッソが接触。そのまま一緒に柊かがみにへと接触した。
逆に、映画館の方にはそこより離れたニコラスが到着。しかし、追っていた言峰綺礼は付近で動きを止めて合流はしない。

フォーグラーより戻ってきた菫川先生が事務所の一室に篭り執筆を開始。おそらくは――なのだろう。
一足先に戻ってきた小早川ゆたかの情緒は非常に不安定に見える。長年の経験から言えば彼女は――……。

ギルガメッシュが、南西より映画館の方向へと向かっていたドモン、ジンと接触。

しばらくはこちらを窺っている様子だったスカーに、端を渡って戻ってきたビクトリームが接触。
二人は連れ立って端の方へと高速移動を開始し……丁度端を越えた辺りで境界を挟んで別れた。
更に互いに再び端を越え、今度はすれ違う様に移動。最終的には、始めにいた位置へと戻った。

Dボウイがスパイクより離れ、病院より移動を開始。
スパイクは残留しているが、その原因が負傷の治療のためなのか、それとも最初の目的がここにあったからなのかは判別できない。

やや離れた位置にいたアルベルトが、柊かがみ、結城奈緒、ラッド・ルッソに接触。
放送で名前を呼ばれたラッド・ルッソはこの段階で死亡したと……つまりは、アルベルトに殺害された公算が高い。
接触後も、また前回の放送前後にそうであった様に彼らは同じ位置にいる。
彼ら3人がなんらかの協力関係にあるのは確かだろう。それが穏便なものであるか、それとも不穏なものであるかは別として……。


――そして、時計の針は頂上へと戻り、螺旋王による第4回目の放送が舞台の上に流れた。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:16:11 ID:OO6SB/kE
111月下の棋士 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:16:46 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


明智は口先から吐息を一つ漏らすと、視線を地図から窓の外に移し、月の光で眼を洗い内に篭った熱を冷ます。

万能に近くはあっても全能でも完全でもない故に、思い浮かべた光景は正しくないかも知れない。
複雑なシミュレーションは、蝶の羽ばたき一つでその結果を大きく変えてしまうことを明智は知っている。
だから、まずは大まかに……確定している情報を基礎に……ジグソウを端から進めていくように、彼は推理を進める。

必要なのは絶対真理を見通す眼ではなく、世界を写し取り、状況を――流れを知らせる銀の鏡。

明智は月光だけで照らされた監視塔の頂上。その中で再び思考を巡らせて行く――……。


 ◆ ◆ ◆


第4回目の放送により確定した死者は――、

 「相羽シンヤ」「アレンビー・ビアズリー」「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」「衛宮士郎」「カレン・シュタットフェルト」
 「ジェット・ブラック」「高遠遙一」「チェスワフ・メイエル」「ティアナ・ランスター」「マタタビ」「ミリア・ハーヴェント」「ラッド・ルッソ」

――の、計12名。

彼らがどこで、誰によって、どう殺害されたのか……、そのほとんどを知り得ている。

相羽シンヤは、病院内にてラッド・ルッソに急襲され死亡。
マタタビは山中において、スパイクやルルーシュと言った6人の人間に見守れる中死亡した。
アレンビー、ジェット、チェスワフ、ティアナ……そして、高遠遙一。彼らはビシャスという名の死神により舞台から蹴落とされた。
カレン……。彼女はスパイクとビシャスの邂逅――その狭間に巻き込まれて死んだのだと、推測できる。
衛宮少年と、無謀な挑戦を強いてしまったイリヤ。映画館を舞台に始まり、未だ続く騒乱の中で彼と彼女は命を落とした。
奔放な殺人鬼――ラッド・ルッソ。彼がどの様な生の終着を見せたのかを知るのは、アルベルト達3人のみ……。

殺害現場は6箇所。被害者は12名。
これをどうとるかは個々の認識により大きく変わるだろうが、ここはあえて少なかったという印象を取る。
俯瞰して見ていた者だけに解ることだが、舞台上では常に実験参加者同士の邂逅があった。
そして、かなりの数の接触があったにも関わらず、結局は6箇所でしか殺人は起こっていない……。
勿論、あくまでそれは死者が出たケースのみの話であって、それに至らなかった衝突も数は不明ながらにあっただろう。

だが、それを考慮しても死者は少なかった。
そして参加者同士が複雑に分裂と合流を繰り返していることから見て、それらが生き残るために行動していると推測できる。
その最終手段が自分達以外の存在の抹殺なのか、それとも多くの協力者を募っての実験の破壊なのかは不明だが、
存外に交渉の余地のある相手は多いのだな、と認識を改める必要があるだろう。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:16:51 ID:OO6SB/kE
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:17:31 ID:h6vlb7Af

114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:17:38 ID:OO6SB/kE
115月下の棋士 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:17:55 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


その候補を、それぞれに考察してみる――……。

ルルーシュ・ランペルージ。
黒の騎士団の長――ゼロにして、ギアスという名のテレパシーが使えるらしい少年。
この舞台の上では、繰り返し他者と接触し集合と離散を繰り返している。
その性質から想像できる行動方針は我々と近いものだ。
動きに差があるのは、我々には情報が、彼の元には実戦で使える手駒が揃った。そういう違いの現れであろう。
彼から離れた人間はまた他の人間と接触し、時にはそこにそれを加えている。
人員を欲している事が確かなのならば、我々とは友好な協力関係を築けるはずだ。
現在は消防署付近にて反応は停止中。最後に接触した相手が鴇羽舞衣だけにその安否が気がかりだが……。


スパイク・スピーゲル。
カウボーイと呼ばれる賞金稼ぎ。バウンティハンター。
ルルーシュ、カレンと同行していて、現在は紆余曲折を経て病院内で一人停止している。
プロフィールからはクレバーな人物像が浮かび上がるが、それならば材料さえあれば交渉及び取り引きも可能だろう。


ジン。ドモン・カッシュ。……そして、ギルガメッシュ。
稀代の少年大泥棒。世界の頂点に立つ格闘家。……そして、創世期の英雄王。
一癖も二癖も、いやそれ以上の曲者達が現在は仲良く(?)同行している。

泥棒という名の犯罪者が、この場所で他人から命までを盗むかと言うと……その可能性は低いだろう。
ニアというか弱き少女と同行していたこと、そしてその後も常にだれかと一緒にいたことから、殺し合いに積極的でないと推測できる。

一度、自身の師と合間みえた格闘家は、どうだろうか……?
推測される実力はこの舞台の中でもトップクラス。彼が師と反目し、我々の力になってくれるのならばこれ以上に心強いことはないだろう。

我道のみを邁進する黄金の英雄王に、イリヤに託したメッセージは届いたのだろうか?
最悪の場合、こちらの位置だけを知られて彼から付け狙われる可能性もある。
ただ、その動きから見るに彼は殺し合いには興を感じないらしい。
御することができないといっても……、その邁進する方向を我々と同じ向きに変えることぐらいは可能かも知れない。
何にせよ、死んだ二人から強い警戒を促された相手だけに、接触には細心の注意が必要だろう。

ルルーシュ、スパイク、ジン……3人は別れそれぞれに道を進んでいる。
それが何を意味しているのかと推測すれば、丁度三方に別れていることから舞台のどこかで再合流するのではないかと思われる。
恐らくは舞台の北から北東にある施設のどれかだろう。
そして、合流したのならば彼らには明確な目的と、協力体制があるという証拠にもなる。動向にはより一層注目する必要があるだろう。
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:17:57 ID:mICoLIp4
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:18:07 ID:+C36wfir
 
118月下の棋士 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:19:00 ID:+KyBpXs7
藤乃静留とヴァッシュ・ザ・スタンピート。
直前までは英雄王ギルガメッシュと同行していた2人。そして、何かがあったと思われるデパートの近くにいた2人。
状況、性質……どちらから見ても灰色な2人だ。合わせれば灰色――しかし、分けて考えれば黒と白の2人。
イリヤの言う魔術。それに近い性質の能力を備えた藤乃静留と彼女は遭遇し、恐らくは戦闘になった。
この時、不殺主義者のガンマンだというヴァッシュはその場におらず、映画館の前に留まったまま……つまりは、彼女に枷はなかった。
そして2人の少女が映画館に戻ってきてより程無くしてイリヤはその動きを停止させる。その意味を想像するのは容易い。
今もまだ黒の彼女と、白の彼は映画館の前に留まったままだが……一度手を放した2人は今どうしているのだろうか……?


上の2人と一緒にいるもう2人の内の1人――ビシャス。
マフィアの幹部という経歴だけでも想像できるが、菫川先生よりの証言でその危険性を遺憾なく発揮しているのは判明している。
地図の上で追えただけでも、豪華客船上に5人。ホテルの北に1人と合わせて6人。
この四半日間で命を落とした者の内の半分が彼の手に掛かっているということになる。
完全な黒……いや、それよりも赤というのが相応しいか……。最も警戒しなければならない人物だ。


映画館の前に残った4人の内、最後の一人となるのはニコラス・D・ウルフウッド。
そして、彼と行動を共にしていた言峰綺礼、衝撃のアルベルト、柊かがみ、結城奈緒。
プロフィールから柊かがみを除くそれぞれが十分な実力の持ち主で、またこの様な事態にも馴れているだろうということが解る。
集合と離散を繰り返し各施設をそれぞれが効率的に回っているところから見ても、彼らがある種の協力体制にあることは確かだ。
問題とするならば、その方向性だろう……。
BF団幹部のアルベルト、衛宮少年より証言の得られたニコラスと言峰綺礼。どの人物も警戒を必要とする危険な人物である。
何のために結託したかと想像するならば、……それは、自分達以外の人間を効率的に排除するためという線が濃い。
結城奈緒にしても、そこに同調する可能性は彼女のプロフィールからはありえる事だ。
しかし……、やはり気になるのは極一般人に過ぎない柊かがみの存在。
彼女だけは未だ単独で行動している場面は見られなかったが……脅されているのか。はたまた、何かに必要とされているのか。
アルベルト達に対し、彼女の方から庇護を求めたとは考えづらいが……今ある材料ではそれを断定するには至らない。

菫川先生は交渉の余地があると言ったが、我々に『手』や『剣』のない現在ではその場に立つ前に全てを奪われてしまう可能性もある。
接触することに価値はあるだろうが、それにはまだ機を窺う必要がありそうだ。
ただ、彼らはラッド・ルッソを殺害している。氏から情報が漏れていた場合……最悪、すぐにでもこちらに向かってくるはずだ。
その場合は……やはり、こちらも『剣』を持っている必要があるが……。


螺旋王の遣わした戦士であるヴィラルと、そうであると偽っていた魔術師シャマル。
彼らと病院で遭遇した高嶺少年の証言によると、そういうことらしい。そして、彼らは強い絆で結ばれているとも聞いている。
元々の所属と、一度は自殺を考えたことからシャマルという女性の方からならば、何らかの搦め手を使って懐柔できそうだが、
一緒にいるヴィラルはあくまで螺旋王の戦士としての道から外れるつもりはないという……。
あくまで己の道を行くというのなら、どの様な条件をつけて説得しようともこちら側に引きずり込むことは難しいだろう。
現状では、両者共に危険人物として保留する他はない。
119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:19:01 ID:OO6SB/kE
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:19:39 ID:OO6SB/kE
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:20:00 ID:h6vlb7Af

122月下の棋士 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:20:43 ID:+KyBpXs7
ヴィラル、シャマルと入れ違いに病院へと辿り着いたDボウイと鴇羽舞衣。
この実験が始まってより早々に小早川ゆたかを保護し、彼女のために戦っていたDボウイ。
その彼と一緒にいたのは、衛宮少年とラッド・ルッソを襲い無差別な殺人者となっていた……はずの、鴇羽舞衣。
当初、Dボウイの反応に動きがなかったことから死亡したかとも思えたが、実際はそうではなかった。
その後の動きを見るに、動きの取れなくなった……恐らくは負傷した彼を鴇羽舞衣が保護していたのではないかと思える。
心変わりの理由は不明だが、衛宮少年が願っていたとおりの事がどこかで起こったのだろう。

ただ、一つ気がかりなのは唐突な単独行動と、ルルーシュとの接触だ。
なんらかの手段で空を飛び消防署まで移動。彼と接触した後、すぐに元の方向へと戻り始めた。
これだけならば、事前にルルーシュと待ち合わせをしていたか、もしくは消防署と病院の間で電話などを使い連絡を取り合ったとも思えるが、
待機していたDボウイはその後に病院へと到着したスパイクと接触した後に、病院から離れてしまった。
眠っていた間に鴇羽舞衣がいなくなったので、探しに出た……とも考えられなくもないが……それでも、やや不可解である。

ともかくとして、Dボウイが現在単独で行動しているのは我々にとって幸運なことだろう。
安全な人間だという確証がある彼ならば、接触のリスクは少なくメリットは大きい。この付近に向かってくるならば是非、接触したい。
逆に鴇羽舞衣に関しては未だ保留だ。
危険でなくなったという可能性はあるが、その理由は一切の不明。
それがDボウイに限定してのものならば、我々は彼女の前で死体になるだけ……そのリスクは、踏み込むには大きすぎる。


東方不敗。この舞台上、最高の実力者の一人にして、最も危険だと思われる人物。
衛宮少年とラッド・ルッソからの言によると、彼は自らが他の参加者を襲うだけではなく、接触した者に他者を襲うよう扇動しているという。
以前に、この舞台上に配置された参加者を4つの分類に分けたが、彼はその内の1つ目。殺し合いを推進するための物質に間違いない。
いや、同様の参加者は他にもいるが、彼ほどその役割を忠実に果たしているものはいないだろう。
ともかくとして、接触は厳禁である。映画館を躊躇なく放棄したように、彼が接近してくればここも放棄しなくてはならないだろう。


螺旋王と同じ世界から送り込まれた参加者――カミナ。そして、王の娘、ニア。
彼らと一緒にいるのは高嶺少年のパートナーである魔物の少年ガッシュ・ベル。
その興味深い特殊な立ち位置と、危険な人物ではないという確証があることから優先して接触したい人物達ではあるが、
現在彼らは我々とは全くの逆方向――舞台の西端へと離れてしまっている。
彼らが海上を移動する手段を持っていることから、徒歩でしか移動できない我々では追いつくのは困難だろう。
舞台の端の繋がりを使えばその距離は飛躍的に縮まるが、それも海上を移動できる手段があっての話である。
付近に危険な人物がいないことから暫くは静観で問題ないと思えるが、彼らがどこかの施設に入れば電話を使って接触を試みるのもよいだろう。
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:20:43 ID:+C36wfir
  
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:20:53 ID:OO6SB/kE
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:21:43 ID:OO6SB/kE
126月下の棋士 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:21:48 ID:+KyBpXs7
ガッシュ・ベルと同じ魔物であるビクトリーム。高峰少年によると攻撃性は高いが、危険性は低いとのことらしい。
第3放送直後はジン、ニアと、その後はルルーシュと行動を共にしていたことから、この舞台上では大人しくしている様だ。
現在は紆余曲折を経て舞台の西端の位置を移動している。
距離が離れていることもあるが、仲間に誘ったところで有益かも不明なので現在は保留の対象だろう。


リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ。まるで貴族の様な名前であるが、実際にラピュタという名の王国の末裔であるという。
だが血統を別にすると、彼女は極一般的な少女とそうは変わりないようだ。
しかしそんな彼女が、この舞台の上では不可解な動きを見せている。
度々、高速で盤上を移動し、最後には禁止エリアを突っ切るというアクロバットを実演してみせた。
おそらくは空中を飛行しているのだろうが、どういった手段でもってそれを成しているのかは不明であるし、意図も不明。
プロフィールから得られるパーソナリティからすれば危険は少なそうだが……不気味な存在でもある。


そして、生き残っている内で最後の一人。そして、もっとも我々に近い位置にいる――スカー。
第3回放送より後、ショッピングモールで長い時間を過ごしており、その後はこの刑務所の近くまで一直線に向かってきていた。
ビクトリームの唐突な接触によりいくらか離れたが、現在もここに向かって進行中である。
プロフィールを見る限りでは、極めて危険な相手だと認識せざるを得ないだろう。
第4回目の放送を経て……彼との接触が我々にとっての最初の問題――つまりは、螺旋王よりの一手となる訳だが…………。
127名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:21:57 ID:h6vlb7Af

128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:22:32 ID:OO6SB/kE
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:22:41 ID:+C36wfir
 
130月下の棋士 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:23:01 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


明智は地図を片手に持ったまま、もう片方の手で懐から携帯電話を取り出し開く。
バックライトによって薄闇の中に浮かび上がる四角の中には、先ほどまで見ていた地図の縮小版だ。
そしてその上には82の光点がざわめいている。
キーを操作して図を拡大し、それらの光点に寄れば表示される名前によってその1つ1つが実験の参加者だということが解る。

明智は更にキーを操作して、スカーと名前のついた光点を画面の中に収める。
放送前にビクトリームと接触した後、そして放送前後は動きを停止していたが、またゆっくりと動き始めていた。
その動きは前回同様、この刑務所に向かって一直線である。

携帯を懐に仕舞いなおすと、明智は扉を潜り灰色の冷たい階段を降りながら最後の思索に入った。


 ◆ ◆ ◆


放送によって得られる情報は死者の報告だけではない。もう一つは、禁止エリアの指定である。
刻一刻と数を減らしてゆく参加者同士の接近遭遇を促すために、舞台そのものを狭くしていくという一つのルール。
今回その禁止エリアに指定されたのは――「01:00_A-8」「03:00_D-7」「05:00_F-2」の三箇所。

最初のA-8。もう数十分後には禁止エリアとなるそこ。
角の特に何もないところだけに、意味もまたないように思えるが……舞台端の繋がりを知った今では、その意味合いは大きい。
舞台の端と端が繋がっている場合、その角は同時に残りの3つの角に通じているという事である。
その角を螺旋王により封じられてしまった。

現在滞在しているB-7。その東隣のB-8は、元より指定されていたC-8。今回指定されたA-8。
そして、端を通じて先にあるB-1も禁止エリアとなっているため、袋小路となった。
つまりは螺旋王が置いたA-8という一手により、移動に対する選択肢を実質的に半分以上封じられた形となるのだ。

順当に考えるのならば、スカーという危険人物も接近してきている現在、次の拠点候補であった警察署に移動するのが定石。
だが……今回の放送では考慮しなくてはいけないイレギュラーな発表がもう一つあった。


――貴様らの中に我が配下の者を一人、新たに参入させることが決定した。名を、怒涛のチミルフ。


ここに来ての、追加の参加者。しかも完全に螺旋王の配下であると公言してのものだ。
これが何を意味するのか、単純に考えれば実験を促進――殺し合いを促進する人物の補充だと捉えることができる。
それはまた、最初にいた参加者の中ではもう足りなくなっているということの現われとも捉えられる。
だとすれば……、ルルーシュ達やギルガメッシュなどが殺し合いを放棄しているという推測を後押ししてくれる材料になるだろう。

また、別の考え方をすれば。
チミフルという明らかな敵対存在を投入、参加者全員に意識させる事で、参加者間の繋がりを強める狙いがあるのかも知れない。
敵の敵は味方――その言に則り、敵対していた参加者同士がチミフルを前に、そして引いては螺旋王を前に結託する。
螺旋王はそれを狙い、そして事態はその段階にまで達している……希望的な推測だが、そういう線も考えられる。
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:23:16 ID:h6vlb7Af

132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:23:50 ID:OO6SB/kE
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:24:05 ID:h6vlb7Af

134月下の棋士 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:24:07 ID:+KyBpXs7
だが目の前の問題として考えなければならないのは、その目的がどうであれチミフルという者は相当な実力者であるだろうという事。
足りない分に対する補充にしても、一致団結した参加者達に立ち塞がる敵にしても、必要なのはそれをこなし得る強さだ。
そして、一番問題としなければいけないのが――チミフルはレーダーには映らないということだ。

携帯電話に搭載されていた参加者の位置を知らせるレーダーの機能は、その参加者の支給品がロック解除の鍵となっている。
それは支給品カタログにより、従来の参加者に関しては問題なくクリアできたが、追加されたチミフルに関しては不明のままだ。
そもそもが、このレーダーは厳密には首輪の位置を知らせる物である。
完全に螺旋王の側に立っているチミフルが、その首輪というルールを課せられているかと考えれば、ほぼないと考えられるだろう。

つまりは、どうしても――チミフルはレーダーに映らない。

となると、迂闊に外を歩き回るわけにもいかなくなってしまう。
多種多様な参加者の中ではただの一般人として一纏めにしてもおかしくない一行が彼に出会えば……即ゲームオーバーである。
『頭』は揃っているが、『手』と『足』と『剣』は前回の失策により失われてしまった。

何をするにせよ、今は『剣』が欲しい……。
取った駒を自陣に加えられるのが将棋の醍醐味――それは、あの時言った台詞だ。

もう失敗は許されない。

角を塗りつぶされ、スカーという駒が隣りに置かれ、そしてチミフルという駒をちらつかされているこの現状は、螺旋王からの『王手』である。

この窮地をどうやって切り抜けるのか。
現在の手持ちの駒。それをどの方向に打ては相手の王手を回避できるのか。

螺旋王とのゲームに待ち時間などというものは存在しない。


最善の一手はどこに――?
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:24:18 ID:+C36wfir
 
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:24:34 ID:OO6SB/kE
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:24:35 ID:xCzPCncN
 
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:24:56 ID:h6vlb7Af

139【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:25:40 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


一つの密室。
その中を一種類の、しかし無量大数で、音色は変わらずとも一つ一つに別の意味の篭った音が満ちていた。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

ただひたすらの打鍵の音が、あまり広くない部屋の中に充満している。
奏者の名前は菫川ねねね。
勿論、彼女は音楽家などではなく――作家だ。
そして、作家がこの音を紡ぐという事には一種類の意味しかない。そう……、『本』を執筆しているのである。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

壁際に並んだ事務机の一つに陣取り、その上に乗ったPCに向かって一心不乱に、物語を打ち込んでいる。
脳内とキーボードを繋ぐ両腕以外は一切の身動ぎさえさせず、まるでPCと一体化しているかの様に……。
まるで、彼女自身が物語りを紡ぐ機械となってしまったかの様に……。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

ディスプレイからの光を反射する眼鏡のレンズには、滝の様に流れ落ちてゆく文字の爆流が映っている。
この滅茶苦茶な執筆速度。彼女を知らない者が見たら、出鱈目にキーを叩きまくっている様にしか見えないだろう。
だが、彼女の脳内にある物語は正確にPCのハードディスクの中に蓄えられていっている。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

彼女は作家としてそれなりの時間を過ごしてきており、またそれなりの数を本を出版している。
だが、未だ歴史に残るような本を生み出せてはいない。世間の評価は若い時はそこそこの……程度のものだ。
しかし……、少しでも『本』の世界に踏み込んだ者ならば、彼女の才能を知らない者はいない。
彼女がどれだけ『本』を生み出す力に長けた作家なのかを知らない者はいないのだ。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

キーボードが足りない。私はもっと早く書けると、溢れ出すイメージの奔流にねねねの脳が怒声を上げる。
2枚あれば2倍の本が、4枚あれば4倍の本が書けると、彼女の中で出番待ちをしている物語が猛る。
読子を見失ってより幾年。その間、一切吐き出されずにいた彼女の中の本が出口に向けて殺到していた。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:25:41 ID:h6vlb7Af

141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:26:28 ID:OO6SB/kE
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:26:34 ID:+C36wfir
 
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:26:37 ID:h6vlb7Af

144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:27:22 ID:h6vlb7Af

145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:27:59 ID:OO6SB/kE
146名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:28:08 ID:h6vlb7Af

147【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:28:51 ID:+KyBpXs7
.
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

彼女は『本』を書く。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

世界が待望している、彼女だけが生み出すことのできる『本』を。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

人類史において初。そして以後一切ない『本』を書く。
広大な宇宙において唯一。一点かぎりの『本』を書く。
全平行世界においてここにしかその可能性のなかった一冊の『本』を――……。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ――――――、ダッ!


……――彼女は書いた。


 ◆ ◆ ◆


土砂降りの様に鳴り響いていた打鍵の音は止み、変わって機械が規則正しく紙を送り出す音が鳴り続いている。

書き上げられた『本』は、PCの中にあってはまだ『本』であって『本』でない。
『本』とは――紙の上にのってこその『本』なのであり、これだけはどの時代、宇宙、世界においても不変だ。
故に、『本』が完成するためにはもう一手間が必要だった。

部屋の片隅に鎮座する巨大なコピー機兼プリンター。
旧い物ゆえにモノクロ印刷のみであったが、とりあえずのところ『本』を産むには足りた。
予めラインは繋がっていたので、電源を入れさえすれば後はPC側からの操作で勝手に働き始める。

その前では、『本』の産みの親であるねねねが両腕を震わして、わが子供が出てくるのを待っている。
腕の振るえは疲れからくるものではない。次の物語が書きたいという欲求からくる、一種の禁断症状だ。
久しく書くことを忘れていた身体が、思い出した快楽に早く次のものをと強請っているのである。

ねねねは拳を握り締めて振るいを払うと、顔を上げて視線を移し、どれだけの時間が執筆中に飛んだのかを確認する。
目に捉えた壁掛け時計が示す時間は放送より半時足らず……。
放送前より書き進めていた分と合わせれば、執筆に使った時間は大体一時間半ほど。
一応、短編ではあるが、それでも常識では考えられないぐらいの驚異的な速度だった。
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:29:09 ID:+C36wfir
 
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:29:22 ID:h6vlb7Af

150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:29:35 ID:OO6SB/kE
151【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:29:56 ID:+KyBpXs7
息を吐き、身体から緊張を逃しながらねねねは再び機械から吐き出されてくる紙達を見やる。
やはり型が旧いためか、一瞬でという訳にはいかず一枚ずつ一枚ずつと、焦らすようにゆっくりとしかそれは進まない。
尤も、機械の働きがのろいというだけではなく、ねねねがそれを書きすぎたという事の方が要因として大きいが……。

この『本』を書く本来の目的はねねねが閃いた案を物語の中に隠し、それを読ませることで明知達に伝えること。
つまりは物語自体には特に意味はないという訳だった……のだが!
そもそもが、作家に意味の無い物語を書けというのが無理な話。箍の外れたねねねから零れた物語は相当な量になった。
結果として、彼女の目の前の機械はガーコガーコという家鴨の鳴き声の様な音を延々と繰り返すのだ。

それを無言で見守るねねねの顔に表情は無い。
書いている最中に聞こえてきた放送により、彼女はイリヤと士郎の死が現実となった事とラッドの死を知った。
しかし、そこで生じた感情――怒り、悲しみ、思い出の中の楽しみ、喜び――は、全てそのまま『本』に注ぎ込んだ。
故に、彼女の頬には涙が通った跡もないし、唇に噛み切った様な傷もない。それは――、


――全ては『本』の中にある。


 ◆ ◆ ◆


放送前までは、明智、ねねね、清麿、ゆたかの4人が揃っていた会議室。
机の上に広げられた大量の地図とメモ用紙、積み上げられた各種ファイル。ホワイトボードに溢れる文字と縦横に走る線。
それらはそのままにされていたが、残っていた人は小早川ゆたか、たった一人のみだった。

広い広い会議室の中、彼女はその端の方――遠慮がちな位置にポツンと座ったまま動かない。
その目の前には食堂から拝借してきたコンソメのスープ。隣りの椅子の上には仮眠室から拝借してきた毛布がある。
どちらも彼女のために気をきかして明智が用意したものだ。
しかしそのどちらにも手をつけられた様子はなく、テーブルの上のスープも彼女の食欲を誘う湯気をもう発してはいない。
広い会議室に充満する空気の様に冷たく、そして一人ぼっちの彼女の身体も、その心もまた同じように冷たくなっていた。

優しい気遣い――それがとても辛いものだと感じる瞬間が小早川ゆたかにはある。

彼女の体躯は非常に小さくてか細く、高校に上がってもなお中学……いや、小学生に間違われるほどだった。
そして、その短躯に比例するように身体もか弱く、些細なことで熱を出し、軽い風邪などで寝込むこともザラである。
なので彼女の周囲にいる人間は彼女を見守り、救いの手を何度も差し伸べてくれるのだが――……。

その手が、自分から可能性を奪ってゆく意地悪な手に見えることが多々あった。
『優しい手』は、しなくてはならない事、超えなくてはならない壁を彼女の前から易々と取り除いてくれる。
挑戦する場面を、立ち向かわなくてはならない時を彼女の前から持ち去ってゆく。

そんな時、彼女は『ありがとう』の言葉の裏でひとりぼっちの悲しい涙を流していた。
自分が優しい人たちと比べて劣っていること、弱いことを知ってはいる。
彼や彼女の行為が善意のみであることも知っている……が、それがとても居た堪れないことが多々あった。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:30:13 ID:+C36wfir
 
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:30:53 ID:h6vlb7Af

154【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:31:02 ID:+KyBpXs7
そして今も、彼女は優しさの中で一人ぼっち。

休息をとっていてくださいという明智の言葉は、彼女からすれば役立たずの烙印以外の何物でもなかった。
そして人からの善意をそういう風に思ってしまう自分を嫌悪し、彼女の心はまた深いところに沈んでしまうのである。

ならば自分が螺旋力の保持者であることを彼らに告げればどうか――と、そんな考えが首をもたげる。
しかしやはりそれは一瞬で霧散してしまった。
告げたところで、彼らが注目するのは『小早川ゆたか』ではなく『螺旋力』の方だけ……と、思ってしまう。
螺旋力の由来を知らない彼女にとっては、それは傍迷惑で分不相応な当たりくじとしか思えない。

テーブルの上に残っている分解された首輪。
アレと同じ様に、ただ興味深いものとして観察されるだけだろうという予感に、彼女の心はまた冷える。
そして、ないとは解っていても実験台にされてしまう可能性に、彼女の身体は竦む。

結局は往くも戻るも叶わず、ただ己が無力を痛感するだけの時間を彼女は過ごしていた。


 ◆ ◆ ◆


イリヤ――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
先刻の放送で名前を呼ばれた彼女を思い出す度に、ゆたかの心はズキリと激しい痛みを覚える。

――ね、あなたの名前はなんていうの?

目を開いた時、その前にいた真っ白な少女。
あまりに綺麗で儚げな存在に気後れを覚えるが、彼女はそんなゆたかの心にするりと入ってきた。

――ユタカね。うん、わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。 イリヤでいいよ、ユタカ。

彼女も歳に見合わない幼い外見の持ち主で、しかしゆたかとは違って快活な少女であった。
明るく気丈に振舞い、羽があるかの様に飛び跳ね、魔法を使い、何より勇気を持っている。
そんな彼女にゆたかは共感を覚え、憧れを持ち、そして彼女を応援した。

――絶対、絶対イリヤさんがシロウさんに会えるようにって、お祈りしてます。だから……お気を付けて。

しかし、彼女は帰ってこなかった。
ただ死んだという事実だけが、あの螺旋王の声によって運ばれてきたのみだ。
送る時に握った手に、あの時のぬくもりを感じさせることも永遠に叶わなくなってしまった。

いつかああありたいと願う自分の姿を彼女に投影していたのかも知れないと、ゆたかは思い至る。
そして、そうだとするならば、その背中を押して死地に追いやった自分の無責任さに――呆れ果ててしまう。
イリヤを殺したのは……帰ってくると信じて送り出した自分の責任だと、……そう思わざるを得ない。

……柊つかさ先輩。……パズー君。……こなたお姉ちゃん。……シンヤさん。
それだけでく、一杯の人が死んでいる。殺されかけたこともあるし、死んだ人間も確かに目にしている。
なのに――……、

……――どうして信じてしまったのだろう? 彼女が無事に帰ってくるなんて!

ゆたかの小さな頬が振るえ、真新しい涙がまだ残っていたすじの跡を辿る。
ぽたりぽたりと顎の先から粒が零れ落ち、固く結んだ手を叩いた。


ぽつり、ぽつり……と、彼女自身の様な……みにまむてんぽ、で――……。
155名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:31:40 ID:+C36wfir
  
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:32:00 ID:h6vlb7Af

157【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:32:07 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


種は無く、未だ子を孕まず、故に静かな緑色の胎内に一人の少年がいた。

刑務所の地下深く隠された、地球を静止させるモノ。
そのコックピットにして、心臓部分。緑色の液体を湛えたシズマ管が並ぶその中に、少年――高嶺清麿はいた。

明智と話し合い、そして決定し、彼が引き受けた役割はこのアンチ・シズマドライブシステムの完全解明。
未知の世界の、それも彼が知るよりも遥かに高度な技術で生み出されたシステム。
常識的に考えれば、それを成し遂げようと考えるのは無謀な事かも知れない。
しかし、これが螺旋王の用意したハードルの一つなのだとしたら……、飛び越えて見せなければならない。

清麿は明智の考察を思い返す――螺旋王にはシナリオがあると、そして参加者にはそれぞれのロール(役割)があると。
ならば、自分の居場所はここだと清麿は判断した。
明智が盤を読み、駒の動かし方を決めるのだとすれば、自身は首輪を始めとする技術の解明こそがその役割だろう、と。

解明――それに当たってまず彼が手につけたのは、コンソールパネルの調査だ。
エレベータの前から続く細い廊下の突き当たり、球体の中央に位置する床の上には、無機質な室内には不釣合いな革張りの椅子。
その前に鎮座する台の上には、アンチシズマ管を差し込むための3つの孔。
そして、椅子と台の脇から草の芽の様にコードを伸ばし、宙で固定されている4つのコンソールパネル。

説明書がある訳でもない上に、未だ稼動してないので一つ一つ作動させて確かめる訳にもいかない。
とは言え、仮に作動したとしても想像される危険性からは迂闊なことはできないのだが……。
だがまぁ、人が操作するのならば人の道理から外れることもないだろうと、清麿はそれを覗き込み使い道を想像する。

4つのパネルには、ガラスで覆われた小さなモニターと、無数のつまみとボタン。ジョグダイヤル。円形のゲージなどがある。
状態を表すであろうモニターが真っ黒なままなので、手がかりはパネル上に刻まれたいくつかの文字のみ。
清麿はそれと睨めっこをし、またボタンの配列などを確認しながら、それを使う様を頭の中に思い浮かべる。

頭の中で組み立てたの4つのパネルを動かし、その役割を推測し、想像し――シミュレートする。
一際サイズの大きいボタンを押し、システムを起動。各種フェイルセーフを確認し、同時にエネルギーの供給状態も確認。
起動の初期動作が完了したところで、一部のスイッチをONからOFFへ。動力経路を変化させ――……。

「………………え?」

自分の想像した結果に、清麿の口から思わず声が漏れた。
推測を始める前は全く想像もしていなかったイメージが今、彼の脳裏に浮かんでいる。それは――……。

「……コレ……は、動くのか?」

そう。この炉心は、ただの炉心ではなく――動く。清麿の脳内では、今まさに浮上し、更には武装すらも見せている。
世界制覇を目指すBF団が暗躍し、エマニエル・F・Fが10年の歳月と、無数の人員、大量の予算ををかけて製造したコレは。
BF団の最終悲願を達成するための露払いとして製造されたこの超巨大兵器の名前は――……、


――大怪球 フランケン・フォン・フォーグラー。


形状は完全な球体で、直径は丁度300メートル。重量は500万トン超。超巨大――ロボット、である。
158名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:32:48 ID:h6vlb7Af

159【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:33:12 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


……ガーコ。 ……ガーコ。 ……ガーコ。 ……ガーコ。 ……ガーコ。 ……ガーコ。 ……ガーコ。 ……ガーコ。

五月蝿く鳴り止まぬ家鴨の声を立てる機械の横で、ねねねは『本』を完成させるための仕上げ――校正を行なっていた。
それは作家としてのこだわり……ではなく、いや勿論それも含んではいるが、単純に手持ち無沙汰だったからだ。
普段ならば、書き終われば取り合えず編集部へとデータを転送して、溜まった疲れを癒すために爆睡するのだが、
今回はフルマラソンではなく、手慣らしのショートトラック。故に、気持ちは昂ったまま。
更には、この機械の仕事はのろいために、いつそれを明智達読者の元へ届けられるかも解らない。
なので、普段は編集に任せてしまうゲラのチェックを、自ら赤ペンを手に取って始めているのである。

とりあえずは刷り上った分を床に広げ、ねねねも床に腰を下ろしてそれを始める。
繰り返し読み返しながら、誤字脱字や文法の誤りがないか一文ずつ確認してゆく。
また、そういった単純ミスだけではなく、物語上の矛盾や違和感を覚える言い回しなどの上にも赤ペンを走らせる。
場面の前後や、台詞の後先なども、よりよい方法が見つかればチェックを入れ、書き足す内容を書き込む。

一時間と半分。全力疾走の勢いのみで書き綴っただけに、読み返せば荒も多かった。
これが元の世界での出来事ならば、編集者が苦い顔をするだろうということが容易に想像できる。
印刷されたコピー用紙のほとんど……いや、全てに赤い色があった。これから新しく吐き出されてくるものにも、そうであろう。

産み出した『本』。
それを本物の子供の様に、作家はあやし、なだめ、栄養を与え、教育し、時には叱責し……育てる。
そうして、我が子を立派な一人前の『本』にするのだ。

ダダダダ……ダダ、……ダダダダダダダダダ、ダ……ダダダダ……、ダダ。 ダダダ……ダダ。ダ。

刷られた分をチェックし終わると、早速PCの前へと戻ってねねねは修正と加筆を始める。
いつもどおりの自分。作家としての自分が、気付いた時には全て戻ってきていた。
ここが殺し合いの舞台だということも、最早意識の中にはない。

『作家』として活動している時のねねねの前には『本』だけ――……。


 ◆ ◆ ◆


ダダダダダダダ……ダ、ダダダダ……ダダッ、ダダダダダ………………ダダ……ダ、ダダダ……。

「――先生」

ダダダダ………………、……ダダ。ダダダダ、…………ダダダ。……ダ、ダダダダダ…………ダ。

「――川先生」

……ダダダダダダダ。………………ダダ。………………ダダダダダダダダダ、ダダ。……ダ、ダ。

「――菫川先生っ!」
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:33:21 ID:+C36wfir
  
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:33:53 ID:OO6SB/kE
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:34:10 ID:h6vlb7Af

163【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:34:19 ID:+KyBpXs7
明智が眼鏡を通して見下ろす先には、振り向き……そして、冬眠から叩き起こされた熊の様な表情のねねね。

「……大声を上げて失礼しました。ですが、何分熱中されていた様で……」
「なんだよ……」

ドスの聞いた低音をボソっと洩らすねねねに、明智は緊張の表情を浮かべ、同時に心中で苦笑する。
自分が容赦のない殺人鬼だったら間違いなく彼女は命を落としていただろう、と。
また、そこまで集中するのが作家か、とも明智は思い、ある種の羨望と尊敬の念さえ感じていた。
……しかし、正直に言って今はそんな時ではない。

「スカーが再びやって来ています」
「……アイツか」

再び……と、明智が言うようにスカーという人物がこの刑務所に接近してくるのは二度目である。
一度目は数時間前。まさに間際まで来ていたが、何のためか……恐らくは中を窺っていたのだろうが、
そうしている内にビクトリームが接近して来て、共々に離れていったのである。

「……で、今度はどーすんだ? 逃げるか?」

前回の来訪の際は、士郎とイリヤ。それとラッドの帰りを待っていたために彼らはここから動かなかった。
しかし今ならそういった理由はない。シズマドライブシステムに関しては、シズマ管を集めてから戻ってきてもいいのだ。
だが、明智はねねねの質問に対し、首を横に振って答えた。

「いえ、我々は彼を――迎え撃ちます」

聞いたねねねの顔に怪訝の表情が浮かぶ。
相手はたったの一人。そしてこっちには人数分の銃器がある――とはいえ、戦うなどという選択肢は元よりなかったはずだ。
戦うことに関しては警察官の明智を除けば素人ばかりであるし、何より化物揃いのここではその明智の実力も誤差程度なのだから。


 ◆ ◆ ◆


「今まで黙っていましたが……、菫川先生。――読子・リードマンを殺害したのはスカー。彼です」

ガタリ――と、ねねねの座っていた椅子が彼女の驚きと動揺を汲み取って音を鳴らす。
そしてねねねは顔に何とも言えない驚愕の表情を浮かばせ、黒いフレームの中の眼を見開いていた。
同じ様に大きく開きわなないている口で、どうしてわかった? ……とだけ、彼女は言葉を発する。

「私は最初、読子・リードマン殺害の犯人は
 ルルーシュ・ランペルージ、カレン・シュタットフェルト、スパイク・スピーゲルの3人ではないかと疑っていました。
 その移動先から逆算できる移動ルートを考えれば、彼らが読子・リードマンと接触していた可能性は高い。
 そして、リストから得られる彼らの経歴を見れば、積極的でないにしても殺人を厭いはしないと考えたからです」

ねねねは明智の言葉を聞き、慎重に頷く。明智ほど明確にではないにしろ彼女もあの3人を疑っていたのだ。
推理は得意ではないが、一番近くにいたのである。ともかく疑いやすい。
164名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:34:42 ID:OO6SB/kE
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:34:55 ID:h6vlb7Af

166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:35:13 ID:+C36wfir
  
167【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:35:24 ID:+KyBpXs7
「……しかし、彼らの後の行動を見るに、どうやらその線は薄いだろうと思いました。
 彼らは他者と接触し、組を別け……そして、また接触すれば組を別けて……と繰り返しています。
 一度ならば、トラブルによる仲違いとも取れるのですが、繰り返している所を見るに計画的らしい。
 そして何よりも重要なのは、別れる組に元のメンバーをそれぞれに配しているところです」

つまりは、組の中に常に最初の組に繋がるメッセンジャーを残している。それが重要だと明智は言う。
また最初にジン達4人と接触した際のマタタビの死を除けば、それ以降彼らはどのチームも殺人を行なっていない。
マタタビの死に関しては、山中で停止した際より動いていなかったこと。そして仲間を2人残しジンが離れたことから、
そこに辿り着いた時にはすでに瀕死であり、その後負った傷が原因で死んだのではないかと推測できる。
スパイクと同行中に死亡したカレンについては、相手がビシャスだけに想像は容易だ。
ねねねを襲い、豪華客船で殺戮劇を演じた彼が殺人鬼と呼んで差し支えない存在なのは解っている。
そしてそんな彼と因縁のあったスパイク。
仮にそうでなかったとしても戦いになっただろうが、そこでカレンは不運にも命を落とした……そう考えるのが妥当だ。

「それじゃあ、何で……スカーが、犯人に……、センセーを…………?」

震える足を床に押し付けねねねは明智に尋ねる。
明智の推理劇が、今までに聞いたどんな怪談よりも恐ろしく……怖い。
この話のオチを聞いた時、自分がどうなっているのか、どうなってしまうのか――それが解らないから。

「他に候補を挙げるとすれば、これも近くにいたカミナという人物があげられますが……、彼でも『無理』だったでしょうね」

無理? それが何を意味しているのか、何が『無理』なのか。
一瞬、強張っていたねねねの顔がきょとんとする。

「菫川先生に窺った読子・リードマンの実力……これに打ち勝つには、彼もスパイク達も実力不足でしょう」

勿論、何が起きるかは解りませんが……と、明智は付け加える。
しかしそれはねねねの耳には届かなかったようだ。彼女はぽかんと口を『あ』の形に空けて固まっていた。
そう。ねねねは何よりも読子の強さを信じていた。不安はあったが、それ以上の信頼もまたあったのだ。

「そして……しばらくしてですが、我々はこの舞台の端と端が繋がっていることを知りました。
 恐らくは、誰でもそれを利用できるのでしょう。と、そうなれば容疑がかかる範囲は大きく広がる」

ねねねはまたコクリと頷いた。
端と端を、螺旋王の実験につきあっている人間が渡るのは彼女も一緒に確認している。
それも一度だけではなく繰り返し。話に挙がっているスカーがそうするのを見たのも、先刻のことだ。

「その範囲の中にいて、唯一読子・リードマンに匹敵し、また殺害の動機にも不足しないのが――」


――スカーです。と、明智はそう言い切った。
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:35:48 ID:h6vlb7Af

169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:36:04 ID:OO6SB/kE
170【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:36:29 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


私のセンセーの仇。
それを明確にされて、ねねねの心がグラグラと揺れる。


自分の大事なセンセーを奪った仇に対する激しい――怒り。
そんな有り得ない事を成し遂げてしまった存在に対する――恐怖。
またそんな敵とする者にどう対処すればよいのか解らないという――困惑。
そして、ソイツが自分自身の元へやって来ているという現実に対する――緊張。
取り逃がした過去を想い、そして別の可能性があったのかも知れないという――無念。
センセーを失ったと知ったあの時を思い返すことで再び心と身体を強く苛み始める――苦しみ。
喪失の事実を理解し、そして全てを飲み込んだが故に、涙という形をもって溢れ出した――悲しみ。
それら全ての感情を今の今まで強固に押し込めていた為に、心の中で黒く固く育まれていた――憎悪。


目が血走り、奥歯を割れんばかりに強く噛み締め、そして全身の筋肉が未だかつて無い緊張に引き絞られる。
心臓は強く大きく鼓動を打ち鳴らし、全身に熱く滾る血が激しく行き渡り、それを受け取った脳が燃える様な感情を産み出す。
打って出ろ、と言われたならば……いや言われなくても弾丸の様に飛び出すだろう。――しかし、彼女には一つの疑問があった。

「……どうして、教えた。私に……センセーの仇が、アイツだって」

そう。これだけはどうしてもおかしい。
教えてしまえば、自制が聞かなくなるのは目に見えている。無謀な仇討ちに出る可能性は大だったはずだ。
なのに明智はあえてそれを明かした。自分の推理を自慢げに披露するだけの男ではない。ならば、そこに意味があるはずだ。

「菫川先生。あなたには彼が仇であると知っていてもらわなければなかった」

赤く、そして黒い表情で睨み付けるねねねに対する明智の表情は涼しい銀色のままだ。
理知の光を一切損なうことなく、触れれば切れるような冷たく正確な知性の光を眼に宿している。
そんな眼で、明智はねねねへと一人の棋士としてそれを命じる。


菫川先生。読子・リードマンを殺害した犯人であるスカーを、あなた自身が――――――…………
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:36:32 ID:h6vlb7Af

172名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:36:43 ID:OO6SB/kE
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:37:17 ID:h6vlb7Af

174【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:37:35 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


灰色の薄暗く無愛想な廊下に、コツリコツリとこれもまた寂しそうな足音が響いている。

先ほどまで一人ぼっちでいたゆたかは、やはり今も一人ぼっちだ。
デイパックを胸に抱え、ゆっくりと……というよりも、フラフラと頼りなさげな足取りで前にも歩いた所を進んでいる。
大事そうに両腕で抱えている鞄の中には、あの会議室のテーブルの上にあった全てが収められていた。

椅子の上でただ時間が過ぎるのだけを待っていた所に明知が帰ってきて、清麿の元へと行くよう命じられたのだ。
どうしてそうしなければならないのかを、ゆたかは詳しく聞いていない。
もう、彼女は、そういったことにあまり興味を持てなくなっていた。
彼女には解らないことがある――、

――どうして、みんなはあんなにも頑張れるのだろうか?

それが、今の彼女には疑問で仕方なかった。
どうせ近いうちに死んでしまうのに……、どうしてそれをおくびにも出さずに前を向いていられるのか。
知っている人達もそうでない人達もどんどん死んでゆき、絶対に死なないだろうと思った相羽シンヤでさえも死んでしまった。
更にはその彼を殺したラッド・ルッソもその後にすぐ死んでしまった。
あんなに強くても死んでしまうのである。だったら、結局はみんな死んでしまうんじゃあないかと思ってしまう。

「(……Dボウイ……さん)」

胸がズキリと痛んだ。前までは想うたびに力をもらえた名前が、今は心を苛む名前に変わっていた。
放送で名前は呼ばれなかったが、彼の状態があまりよくはないであろうという明智達の言葉は聞いていた。
その時はきっと大丈夫だと、あの人ならば大丈夫に違いないと思って……信じて、そうすることができた。

「…………ぅ。……ぅく。………………」

しかし今はもう信じることはできない。信じたり、頼ることがものすごく罪深いことだと知ってしまったから。
彼は今も自分を探しているかも知れない。それは約束で、そして自分が彼を信じていたから。
そのせいで彼が怪我を負ったとしたら……やはり、その責任は自分のせいなのだろうと、ゆたかは思う。

「……っく。……ごめん、なさ…………。うぅ…………」

弱くて弱くて仕方の無い自分がまだ生きているのは、『優しい手』を持つ人達が代わりになっているからだ。
自分が危機に陥る場面。自分が死んでしまう時を優しい人達が肩代わりしてくれているからに違いない。
優しく、強く、勇気のある人達が自分の代わりに命を落とす。――どうして? と、自問する。

「…………わ、……わたしの、……わたし、の……せぃ。…………っ」

皆が優しくせざるを得ない、弱く惨めな自分のせいでしかない。
自分が周りの人間に優しさを強要している他に理由はない。
弱いから。皆の強さがちっとも理解できないほどに弱ったらしいから。だから、皆を苦しめる。余計な手間をかけさせる。

消えてしまえれば楽なのに、と思う。自分がいなくなれば、少なくともその代わりになる人は出てこないはずだ。
しかし、死ぬのは怖い。痛いのや、辛いのは、怖い。できれば空気に溶けるようにいなくなりたい。
そしてそんな自分の臆病さがまた恨めしい。結局、震えてばかりでは、ただ迷惑をかけるだけでしかないのに。
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:37:42 ID:xCzPCncN
 
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:37:56 ID:OO6SB/kE
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:38:06 ID:h6vlb7Af

178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:38:11 ID:+C36wfir
 
179名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:38:12 ID:W/9Lc3xh
 
180名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:38:19 ID:OO6SB/kE
181【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:38:41 ID:+KyBpXs7
せめて逃げることなら……と、ゆたかはポケットの中の携帯電話を意識する。
明智が肌身離さず持っていた携帯電話は、今は彼女が預かっている。
それで動きをチェックして、もし万が一のことがあるようであれば、それを使って逃げろとそう言われている。

これを持っていれば、誰も私を追いかけて来れない。
大事な物を取るのだからすごく悪いことだけど、彼らが死んでしまうよりかはきっと何倍もいい。
そうだ、そう――……。

「――っぁぐ!」

カラカラといって床の上を携帯電話が転がった。その行く先を見つめるゆたかは床に突っ伏している。
ただ、つまづいただけだ。ちょっと転んだだけ。膝がじんじんと痛むけど、我慢できないほどの痛みではない。
なのに……、それなのに……、どうして……。

「あ……あぅ、……っあ、あぁ、うあぁぁぁ…………、っ!」

誰かからできっこないと言われた気がした。
ぬけていると、のろまだと言われた気がした。
グズだと、邪魔だと言われた気がした。
大人しくしていればいいのにと、言われた気がした。

「……ごめんなさぁぃ………………ごめんなさい……、ごめんなさぃ……」

冷たい床の上で、ゆたかはどこかの誰かに向かってあやまる。少しでも、ゆるされたいと、繰り返しあやまる。
誰も彼もが自分を責めていると感じ、小さな身体を丸めて、震える頬から大粒の涙を零す。


結局。よわっちい彼女は、逃げることすらもできない。


 ◆ ◆ ◆


大怪球のコックピット。空の孔が3つある台の前に、3つのシズマ管が転がっている。
シズマ管――といっても、空いた孔に差し込むべきアンチシズマ管ではなく、それは通常のシズマ管だ。
それにしてもどこから? ――その答えは簡単。
ただのシズマ管ならば、この室内にいやというほどある。球状の内壁に突き刺さった無数の緑色が全てそれなのだから。

コンソールを調査した結果として、この炉心そのものが動きうることを知ったが、それはいつのことになるのか解らない。
まだ解析は完了してはいないが、脳内でのシミュレートには限界もあるし、どこまでいっても仮定の域はでない。
ここから先は動力を入れて、試運転の中で探らなければ確定した情報にはできないだろう……。
という訳で、コンソールの解析を一応の形で終えた清麿は次に解析する対象をシズマのシステムそのものに切り替えていた。

とりあえずのサンプルとして取り出された3本のシズマ管の内、1本はバラバラに分解されていた。
両端の電極を取り外され丸裸になったガラス管と、その電極を分解した無数の金属パーツが床の上に広がっている。
未知のハイテクノロジー……どこまで手が出させるかと思われたが、その仕組み自体はそう難しくなかった。
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:38:48 ID:W/9Lc3xh
  
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:39:05 ID:OO6SB/kE
184【ZOC】 絶望の器 (前)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:39:46 ID:+KyBpXs7
シズマドライブシステム。そして、シズマ管。
その仕組みを簡単に言えば――『物凄い電池』 たったそれだけである。
故に、エネルギーの流通を制御する電極自体は、清麿がよく知る技術とほとんど変わりはしなかった。
シズマドライブを画期的な発明たらしめているのはそこではなく、ガラス管。正確に言えばその中の電解質だった。

電解質とは簡単に言えば、電圧を加えることで電気に変わり、電流を発生させる物質のことだ。
乾電池の中に入っている物のことでもある。それがシズマの場合、どう優れているのかというと2つの点が挙げられる。

1つに、完全リサイクル。
シズマ管に入っているのは溶液に溶かした電解質だが、反応させた後でも充填しなおせば繰り返し使えるのだ。
勿論それだけならばただの充電池であるが、シズマの場合はそこにロスは全くない。
つまり無限に再利用できるということ。どれだけ回数を上げようとも有限では絶対無限に届かない。故に革新なのである。

もう1つは、異常なまでの蓄電量。
検証装置を用意していない清麿に、ここで直接ガラス管の中身を確かめることはできないが、その性質は推測できる。
シズマが革新的技術として持て囃され、世界の動力を一新したのはそれまででは有り得なかった蓄電量故であろうと。
大型車両や電車、船舶から飛行機の動力になるほどの電池である。とてもではないが、考えれるものではない。

しかし……、優れているという分に見合う恐ろしさもシズマは持ち合わせていた。

1つに、本当は完全でなかったリサイクル。
シズマそのものが繰り返し無限に使えるというのは事実だ。ロスがないということには変わりはない。
だが、それを解き明かしたフォーグラー博士は、そこに余分なプラスがあることに気がついた。
使用している間、電流と一緒に極々微量の特殊な性質を持った物質を排出しているのである。
一定量が集まると、酸素との強い結合性質を発揮する物質。それが博士から見た、地球が静止する日であった。

もう1つは、その特殊な蓄電特性によるエネルギー静止現象。
シズマを暴走させてしまうと、その強い蓄電特性が特殊なフィールドを形成し、その中のエネルギーを吸い取ってしまうのである。
暴走させるシズマが大きければ大きいほどそのフィールドは拡大し、より多くのエネルギーをそこから奪い静止させる。
バシュタールの惨劇と呼ばれ、その世界の公式記録から抹消された事件。
その時に暴走したのは発電に使うための炉心。フィールドは地球全域を覆い、文字通りに地球を静止させてしまう。
そのフィールドが集束するのにかかった時間は1週間。被害は把握しきれず、世界の人口は1/3へと減じてしまった。

……と、サンプルのシズマ管と、支給品リストにあったスペックから清麿はシズマの概要を把握する。
ここまでは別段難しくないし、知っているだけでは役に立たない。
清麿の役割は、そこから何を生み出すのか、何に役立てるのかを考えることだ。


さてどうするかと、清麿があらためてシズマ管を持ち上げた先。
緑色の歪んだレンズの向こう側に、幽鬼の様な――小早川ゆたかの姿があった。
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:39:49 ID:OO6SB/kE
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:40:05 ID:h6vlb7Af

187【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:40:52 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


窓から差し込む月光で蒼く染まった廊下に、カツカツと力強くテンポのよい二重の足音が響いている。
足音の一つは菫川ねねね。もう一つは明智健吾。二人はここへと迫る殺戮者を迎えるべく正門への道を急いでいた。

「あたしがアイツと相対して、生きて戻ってこられる確率は?」
「五分五分といったところでしょうか」
「本当は――?」
「……残念ながら、一割にも満ちません」

ちっ、とねねねは舌打ちをする。
『作家』対『殺戮者』――そんな無謀を提案する男と、そこから引かない馬鹿な自分に対してだ。

「……で、なんであんたはそんな手を選ぶ? いつからそんな無鉄砲な男になった?」

ねねねからの当然に質問に、明智はこの策こそが最上であると返答した。
しかしながら、ただそれだけでねねねは納得などしない。歩みを遅くはしないが、到着までの間にと説明を要求した。

「実際、この一番(ターン)を確実に乗り切るための手でしたら、いくつかないこともありません。
 ですが、そのどれもが次順かまたその次で王手を決まられてしまう悪手なのですよ」

明智の説明は簡潔であった。がしかし、そんな抽象的な言い方をされてもねねねには全く理解できない。

「具体的に言いますと、危険人物がこの周辺に集まりつつあります。その中にはあの東方不敗も……。
 それが螺旋王の想定の内というのならば、我々はこのまま外に出ればあえなく掴まってしまうでしょう。
 彼らが南にいる以上、退路は北ですが……そこは今や行き止まりです。次で王手をかけられるのは間違いない」

なので、ジリ貧に陥らぬ内に駒を取りにいく――と、明智はねねねに説明した。
前回の手で、士郎、イリヤ、ラッドの3人が脱落した以上、残った4人でもこの様な手を打たなければならないと。

「本当に勝算はちょっとでもあるんだろうな?」
「ええ、私は自殺志願者ではありませんので」
「そうか、わかった。じゃあ――……」


――奇跡を起こしてやる。


そう言って、ねねねは月夜の中、悠然と現れた傷の男の前に仁王立ちで相対した。
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:41:09 ID:OO6SB/kE
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:41:09 ID:h6vlb7Af

190【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:41:57 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


唐突だったVの字との邂逅の後。海から上がったスカーは、濡れた身体もそのままに刑務所へと向かった。
海面に叩きつけられ、またその衝撃に身体が痺れる中の水泳は大いに体力を消耗させられたが、それに構わず彼は山を降りる。

普通に考えれば大事を取らなければならない所だが、彼には懐に抱える神秘の鞘――アヴァロンがある。
それさえ持っていれば、傷も体力もゆっくりにだが回復してゆくのだ。
現在の消耗は刑務所に着くまでには充分に回復する――そう判断を下して彼は先を急いだ。

夜の森を差し込む月光を頼りに進む途中で4度目になる螺旋王の声を聞き、更に足の動きは速まった。
聞かされた名前に驚きはしなかったが、12名という数には驚かされた。更には、配下の者を場に加えるという知らせ。
目的を殲滅から、螺旋力を持つ者の確保へと変えたスカーにとっては、それは最早猶予はないという通告に他ならない。

高い石の壁に遮られた刑務所という場所。
そこに見えた人影も、与り知らぬ所で掻き消えてしまうかも知れないと考えると、歩みは何時の間にか疾走へと変わっていた。


間近まで来れば見上げることしかできない高い壁。それに沿い、スカーは今度は逆に慎重に歩を進める。
破壊の右腕を使えば壁に穴を穿って中に潜入するのも容易い。
だが、今は出会った人間を見定める必要がある。何時ぞやの様に、無闇やたらと襲いかかることはできないのだ。

それに、この中に潜む者達がドモン・カッシュの様な強者という可能性も少なくない。
この前も、黒服の男より手痛い一撃を貰ったばかりであるし、ここまで残っている者ならば、やはり油断はできない。

逸る気持ちを理性という鎖で縛り、スカーは精神を鋭敏に澄まして壁沿いに刑務所を周回する。
そして、程なくして彼は刑務所の正門に辿り着き――出会った。


――己を仇とする一人の『作家』と。
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:42:05 ID:h6vlb7Af

192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:42:05 ID:+C36wfir
  
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:42:19 ID:OO6SB/kE
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:42:49 ID:OO6SB/kE
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:42:54 ID:h6vlb7Af

196【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:43:05 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


「お待ちしていました。ミスター、スカー。」

歓待の言葉は目の前に立ちふさがる女より後ろ、傍観者の位置で立つ男から発せられたものだった。
女の方は無言でこちらを睨み付けてくるだけで、何をしようともしてこないが……、
その強い憤りが篭った眼差しに、スカーは既視感を覚える。それは、そんなに遠い記憶ではなかったはずで……。

「待っていたと言ったな。それに、俺の呼び名も…………」

記憶にかかった靄を掻く作業を中断し、スカーは銀髪の男に発言の意味を問いかける。
危惧していた様に、自分の悪名が彼らに届いているかもしれない、いや女の眼を見ればそれはもう確実だと思えた。

「確認しますが……、――読子・リードマンを殺害したのはあなたですね?」

スカーの眉間に困惑を意味する皺がよった。
誰かを殺害したか、と問われれば彼は2人の人間を殺していたが、どちらも名前は記憶に留めていない。
それを覚ったのか、男は更に紙を使う女性に心当たりは? と付け加え、それを聞いてスカーの疑問は氷解した。

「お前達は、あの女の何だ?」

この返答がそのまま解答になっていると覚ったのであろう、男と女の緊張が高まるのが目に見えて解る。
それを受けて、スカーは静かに身体の隅々へと闘争に必要な緊張を充填していった。

「私は何でもありません。ただ……、彼女は読子・リードマンを師と仰ぐ人間です」

喋るのは後ろの男だけだ。そして、それでスカーは全てを覚った。
邂逅してより変わらぬ強さで睨み付けている女は敵討ちを、そしてその後ろに控える男は見届け人なのだと。

「そうか…………」

それだけを呟き、スカーは戦いのための姿勢を取る。
元より此処は無法の地。
そして何よりスカー自身が闇討ち、騙まし討ちを厭わない者であったが、ここだけは彼らが用意した舞台の作法に則ることにする。
趣旨変えをした今考えれば、あの紙を使う女を殺したことは無駄以外の何者でもなかった。
ならば、黙って仇として討ち取られることはできぬまでも、彼らの意を汲むぐらいならば誠意を見せようと。

目の前の女は無手。
しかし、あの紙使いの生徒と言うのならば何が飛び出してきてもおかしくはない。
決して油断はせず、あの時の戦慄を思い出して全身に必要な分の緊張を行き渡らせる。

一対一。互いに無言。やや間を置き、そして――……


……――スカーが突進した。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:43:47 ID:+C36wfir
 
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:43:48 ID:h6vlb7Af

199【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:44:12 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


極限にまで研ぎ澄まされた集中力の中で進む、静寂で緩慢な世界の中、スカーは目の前の女に向かって駆ける。

「…………」

そしてその中で正対して初めてスカーは既視感の正体を思い出した。

「………………」

黒い縁で囲む眼鏡が――、そしてその中の射抜くような力強い瞳が――あの女と同じなのだ。

「………………私は」

あの時、あの女は……何と言ったか。あの――いや、この瞳でこちらを見据え……。

「お前を――――……」

引き絞った右腕に彫りこまれた陣の上に、パシリ――と、紫の電光が走る。

「……――――――――許す!」

間合いは残り三歩。無防備に棒立ちの女に破壊の力が乗った右手を――何?

「許すことが――――――…………」

右足を一歩。そして、最後の一歩を地に張る根として踏み込む。

「――――――――――――――――――」

砲の様に突き出された手が、黒縁の同じ眼鏡へ――その中の眼差しへと吸い込まれて――……。


「……――――――――――できるっ!!!!!」
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:44:33 ID:h6vlb7Af

201【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:45:17 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


目を見開いていたねねねの眼前に大きく分厚い掌があった。
破壊の力を持ち、触れるものを壊し、生きている者を殺す掌が、目の前に、しかし紙一重の位置にあった。

「…………お、お前は」

その掌がゆっくりと降りると、その向かう側から呆然とするスカーの顔が見える。
まるで有り得ないものを見ているかの様な表情で、正対するねねねの瞳を――緑色の螺旋を描く瞳を見ていた。

「だから……、あんたは私の味方になれっ!」

黒縁の中の緑の瞳からは、止め処なく涙が零れ落ち始めていた。
彼女の無念は本物で……しかし、それでも彼女は未来の為にその道理を破ったのだと、スカーは理解する。
目の前のただの何者でもない女が、真実ではそうでなく、そして螺旋力の持ち主だと認めた。

「わかった……。しかし、一つだけ聞かせてくれ」

怒り。恐怖。困惑。緊張。無念。苦しみ。悲しみ。憎悪。
――全てを己が内に閉じ込め、肩を振るわせるねねねから視線を外し、スカーはその背後の者に問いかける。
今回の話の何もかもの仕掛け人。銀色の棋士――明智健吾に問う。


「この茶番劇の意味はなんだ?」


その問いに、今まで無表情を貫いてきた明智は悪戯を成功させた子供の様な、しかし微かな笑みを浮かべた。
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:45:17 ID:h6vlb7Af

203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:46:03 ID:h6vlb7Af

204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:46:20 ID:OO6SB/kE
205【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:46:22 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


「俺が……、もし躊躇なく殺す人間のままだったとしたらどうするつもりだったんだ?」

それがまず第一の、スカーからの疑問だった。
明智は、読子を殺害したのがスカーであると推理しておきながら、何故彼がねねねの前で拳を止めると考えたのか?

明智はまず、どうしてスカーを読子殺害の犯人と特定したかを、ねねねに聞かせた通りに繰り返した。
てっきり、自分の悪評が伝わって……と、考えていたスカーは明智達の持つ情報に驚き、そして納得する。

「……では、スカー氏が何故、もう無差別な殺人を行わなくなっていたということを私が知ったか」

それをお聞かせしましょう。と、言って明智は推理劇を披露し始めた。
彼が注目したスカーの行動は3つ。
1つ目は、ショッピングモール内における唐突かつ、長時間の停止。
2つ目は、ショッピングモールを出てより一直線に刑務所まで向かってきて、そして時間をかけて様子を窺っていたこと。
3つめは、一度離れた後もまたまっすぐ刑務所まで向かってきたということ。

「スカー氏はエドという少女の放送を聞きましたね?」

その質問にスカーは頷き、肯定する。あれこそが、彼の行く先を変えた転機であった。
それに満足すると、明智は何故それを知ったかを語る。
まず一つに、エドの放送は地図上の施設にならば、大方届いているだろうという予想があった。
彼女がどうしてあの放送を流したのか。目的とそれを成し遂げる技量を考えればそれは当然の帰結である。
それをスカーが聞いたと解ったのは流れた時間に彼がショッピングモール内にいたこともあるが、
彼がその直後より、モール内を虱潰しにするように動き出したのを見て確信に変わった。
そして、その行動が唐突に停止する。
ただ、停止という状態を見れば休息中かとも取れるが、この時は虱潰しの途中でまだ残りがあった。
つまりは、止まったそこで当たりに出会ったのだと、明智は推測する。
そして自身が博物館で発見した事を鑑みて、スカーもまた螺旋力に興味を持っただろうと考えた。

そしてスカーはショッピングモールを出ると一直線に刑務所へと向かう。
この行動から何を推測できるか? 実はこの時点で彼が殺し合いから降りた事はほぼ確定している。
何故ならば、エド少女の言う『お宝』という言葉に期待を抱く殺人鬼だったのならば、見つけた物に失望しているはずだからだ。
明智が見つけた『お宝』は博物館の扉と、刑務所の地下空間。どちらも安易な武器などではない。
また螺旋力という高いハードルがある以上、所謂第一の物質――殺し合いを促進する人物にとっては無用の長物だ。

故に、見つけた『お宝』の前で長時間留まり、そしてなお新しい『お宝』へと接触しようとするスカーは殺人鬼を止めたと判断した。

加えて、刑務所付近で中を窺っていたこともそれを後押しする材料となる。
リストのあったプロフィールから見るに、スカーは――国家錬金術師を問答無用かつ無差別に襲う殺人鬼。
国家錬金術師相手でもなく、問答無用でもなく、無差別でもない。故に殺人鬼でもなくなっているという理屈だ。

明智が最終的に推測したスカーの状態は――螺旋力に興味を持ち、それを持った(知っている)者を探している男。

そして、それは見事に的を得ていた。勿論、細部は異なるものの大筋で間違いはないし、結論にも問題はない。
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:46:51 ID:+C36wfir
  
207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:47:02 ID:h6vlb7Af

208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:47:10 ID:OO6SB/kE
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:47:18 ID:xCzPCncN
 
210【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:47:31 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


「まぁ……そこまではいいけどさ。じゃあ、なんで私達にあんなことをやらせたのさ?」

第2の質問はねねねからだった。命を賭けはしたが終わってみればただの茶番劇。
リスクを負ってまで、なぜそれを実行したのか?
スカーが殺し合いを降りているならば通常の交渉で事足りただろうという疑問である。

「それは簡単な話です。菫側先生にも、スカー氏にも螺旋力を実際に目の当たりにして貰おうとの考えです」

明智の言葉に、スカーはなるほどと頷き、逆にねねねはキョトンとした表情を浮かべる。

「菫側先生。あなたはすでに螺旋力覚醒者なのですよ?」
「…………え? 嘘!」

明智の表情は変わらないが、スカーは驚き、そしてまたねねねも驚いていた。
スカーは、ねねねが螺旋力覚醒を自覚していなかった事に、そしてまたねねねも同じことに驚いていた。

「ちょっと……、いつから知ってたのよ。あんたは、ねぇ!」

狐につままれた様な顔をして問い詰めるねねねに苦笑すると、明智はあの時の発言を繰り返した。
先ほどの放送よりも、更に一つ前の第3回目の放送。その直前に彼がねねねに向かって言いかけた言葉。

まだ望みは――いや、ここにしか望みはない。 なぜならば――……、

「……――そう。あなたこそ、私が考える螺旋力を持つに相応しい人間だからです」

そして彼は付け加えて言う。螺旋力は覚醒したとしても、常に働いている力ではない。
それは一時的にだが、覚醒していた清麿少年が証明している。
ならば、訪れてくるスカーに対し、こちら側が持つ螺旋力を披露するにはどうすればよいか?

覚醒の素質がある者を、彼の前で追い詰めればよい。
この場合は、ねねねがスカーの前で死を目前にしても彼を許すことである。だから、彼は彼女にこう言ったのだ。

『菫川先生。読子・リードマンを殺害した犯人であるスカーを、あなた自身が許してやって下さい』

……と。
かくして、スカーはこちら側が螺旋力覚醒者を保有していることを知り、その矛を収め協力を受け入れてくれる。
また、ねねねも彼の罪を知り許すことで、それが後に露見して疑心の種になることも未然に防げた。
それが今回の明智が画策した作戦の真相であった。
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:48:03 ID:h6vlb7Af

212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:48:18 ID:OO6SB/kE
213【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:48:36 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


行きは2人だった廊下を、彼らは3人で戻ってきている。明智とねねねに加え、スカーの3人だ。

スカーにとっては、彼らと手を組むことを否定する材料は全く無い。
聞けば、螺旋力に関することだけに限らず、相当量の情報を集めている様だ。
そこに自身が持っていた情報も加えれることができれば、一人で全てをこなすより遥かに道程は楽になるであろう。

菫川ねねねは、未だブツブツと明智に文句を零しながら歩を進めている。
とても重要なことを、しかも一度言いかけた事を今の今まで言わないとはどういうことかと。
とは言え、口先はともかく頭の中は事務室に残してきている原稿の事で一杯だった。
いくらのろまな機械だといえ、もうそろそろ全部刷り上ってきていてもおかしくは無い。
勿論、校正をかけてまた最初から刷りなおすため、まだまだ時間は欲しいが、当初の目的を達するだけなら初校でも事足りる。

明智健吾は、彼らからの質問や文句に丁寧に対応しながら、心中で事が無事に終えたことに胸を撫で下ろしていた。
この廊下を来る際にねねねに対して言った、成功確率は一割以下というのは誇張でもなんでもなかったのだ。
有り得ないこと、全く未知のことが跳梁跋扈するこの舞台上では、明智の持つ理知自体が通用しない可能性も大だった。
それにどれだけ丁寧に理を積み上げようとも、少しの切欠でそれは瓦解する。
そして、そんな切欠を見落としているという可能性は常に付きまとっている。
1つのミスから来るペナルティがどれだけ恐ろしいかはすでに身をもって知っていた。
だからこそ、明智は胸中に抱く強い恐怖を銀の光で目眩まし、それを皆の前では隠していたのである。

しかし、そんな明智ではあるが、今回については予感めいた勝算があったのも事実だ。それは――……、


……――『 ペン は 剣 よりも強し 』


彼はその予感を信じ、ペン(作家)の力で剣(強者)を手に入れた。
この行動が螺旋王の予測をどれだけ上回れたのか、それともやはり想定内なのかは解らない。
しかし、それでも彼はリスクを背負う恐怖を乗り越え、第4回目の放送後、最初の番(ターン)を無事乗り越えた。
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:48:43 ID:srfGK943
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:48:45 ID:+C36wfir
 
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:48:45 ID:OO6SB/kE
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:48:48 ID:h6vlb7Af

218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:49:32 ID:h6vlb7Af

219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:49:35 ID:OO6SB/kE
220【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:49:41 ID:+KyBpXs7
 【B-7/刑務所内/1日目/深夜】

 【チーム:戦術交渉部隊】(明智、ねねね、清麿、ゆたか、スカー)
 [共通思考]
 1:一意団結して螺旋王の実験を破壊。そして自分達の脱出。
 2:レーダー(携帯電話)を利用しても、他の参加者の行動の推測。危険人物の回避。
 3:有益で安全だと判断できる参加者との接触。交渉。勧誘。
 4:各種リスト等、収集した情報を組み合わせての考察。
 5:首輪の解除方法の模索。及び、それが可能な参加者の捜索。
 6:エド(少女)が情報を送信した手段を探り、それを利用しての全参加者に対する交渉。
 7:各施設に立ち寄った参加者と、携帯電話で接触。交渉。勧誘。
 8:『お宝』が隠されていそうな施設へと、人員を派遣。また、それに必要な螺旋力と螺旋に関するアイテムの確保。
 9:刑務所を放棄する場合、とりあえずは警察署を次の候補とする。 

 [考察内容]
 《螺旋王の目的》
  1:殺し合いを通じた参加者の螺旋力覚醒
 《首輪》
  1:螺旋力の覚醒により解除可能
  2:ただし、解除時に螺旋王の元へ転移する可能性アリ
 《その他》
  1:舞台の端と端が繋がっていることを認識しました。


 【明智健吾@金田一少年の事件簿】
 [状態]:右肩に裂傷(手当済み)、上着喪失、強い決意
 [装備]:レミントンM700(弾数3)、フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
 [道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師
      閃光弾×1、予備カートリッジ8、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
 [思考]:
  基本-1:螺旋王より早く『螺旋力』を手に入れ、それを材料に実験を終わらせる。
  基本-2:戦術交渉部隊の棋士として、チームの行動方針を決める。
  1:スカーと情報交換し、現状をまとめ分析する。
  2:ねねねや清麿に情報や考察を伝え、彼らの閃きを促進する。
  3:エド(少女)が情報を送信した方法を探り、それが利用できるようにする。
  4:螺旋力、首輪、等々……、考察を進める。
  5:2日目の正午以降に、博物館の特殊な扉を調査しにいく。
 [備考]
  ※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。

 [明智のレーダー考察まとめ/2日目/深夜]
 【接触しても安全な参加者】
  スパイク、ジン、ドモン、ヴァッシュ、Dボウイ、カミナ、ニア、ガッシュ、
 【接触には慎重さが要求され参加者】
  ルルーシュ、ギルガメッシュ、ニコラス、言峰、アルベルト、かがみ、舞衣
 【接触を避けるべき参加者】
  静留、ビシャス、ヴィラル、シャマル、東方不敗、チミフル
 【判断のつかない参加者】
  ビクトリーム、シータ
 【『お宝』があるかも知れない施設】
    確定: 博物館、刑務所、ショッピングモール、
  未確定: ホテル
  調査済: 映画館、水族館、ドーム球場、病院、
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:50:00 ID:W/9Lc3xh
 
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:50:05 ID:OO6SB/kE
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:50:32 ID:h6vlb7Af

224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:50:46 ID:+C36wfir
 
225【ZOC】 絶望の器 (後)  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:50:47 ID:+KyBpXs7
 【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
 [状態]:健康、本を書きたいという欲求、螺旋力覚醒
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
      『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
 [思考]:
  基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
  基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
  0:事務室に残した原稿が気になる。
  2:刷り上った本を明智達に読ませる。
  3:一応、校正して原稿を完璧な本にしておきたい。
  4:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
  5:柊かがみに出会ったら、「ポン太くんのぬいぐるみ」と「フルメタル・パニック全巻セット」を返却する。
  6:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
  7:本が書きたい!
 [備考]:
  ※読子を殺害したスカーの罪を許しました。が、わだかまりが全く無い訳でもありません。


 【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
 [状態]:空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
 [装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)
 [道具]:支給品一式@読子(メモ無)
 [思考]
  基本-1:明智達と協力して実験から脱出し、元の世界でまた国家錬金術師と戦う。
  基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
  0:明智と情報交換。
  1:螺旋力保有者を守護する。
  2:各施設にある『お宝』の調査と回収。
  3:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を優勝狙いに変える場合も……。
 [備考]:
  ※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
  ※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
  ※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:51:37 ID:OO6SB/kE
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:51:39 ID:h6vlb7Af

228まきしまむはーと  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:51:55 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


ゆたかは金属の冷たい感触に上で、まるで道端の石ころの様に小さく丸くまっていた。

また熱が出てきたのだろうか、視界は微妙にたゆたって現実感が少し乏しい。
彼女はその半ば夢の中にいるような感覚で、携帯電話を必死に見詰めている清麿を見ていた。

深すぎて不安になるエレベータと、長くて暗くて怖くてやっぱり長い廊下を、フラフラと彼女はここまでやってきた。
辿り着いた時には擦り剥いた膝や顔色を心配してくれた清麿であったが、
携帯電話と明智からの簡単な伝言を預けると、ほとんどそちらの方へと掛かりきりになってしまった。
どうやら彼は事前に打ち合わせをしていたらしいと解ると、仲間外れにされた気がしてゆたかの心がまた痛む。
それでも清麿は何度かゆたかに声をかけたが、彼女が『眠たい』と言うとそれっきりになってしまった。

片方の頬に触れる床の冷たさが熱を冷まし、彼女の中の嫌いな自分を維持させる。
眠たいと口にしてかまうなと態度を示したのに、かまって貰えない事を恨むというそんな気持ち。
強く一人前でありたいと願う表の自分とは逆の、甘やかされる事に慣れてそれを無意識に期待している自分。
表の自分は熱でドロドロになってしまうのに、裏の自分ばかりが冷たい床を基点にどんどん立ち上がってくる。

目の前でこの殺し合いに立ち向かっている少年を、道化の様に見てしまう斜めに歪んだ自分。
熱のせいで機能を十全に発揮しない脳ではとても多くのことは考えられない。
表の自分が持っているものを維持するスペースはなく、ますます裏の自分に場所を取られてしまう。

――どうせ、みんな死んでしまうのに……。

なんで頑張るんだろう。何か今まで一つでもいいことがこの場所であったのだろうか。
思いつき、そしてそれを自身に向けて、ゆたかはそんなことは一つもなかったと結論を出す。
殺されかけ、知り合いはどんどん死んで、さらわれて、殺し合いを見て、また人が死んで……やっぱり、いいことはない。

――なんで、がんばるんだろう? そんなことしてもどうにもならないのに……。

あけちさん、すみれがわせんせい、たかみねくん……みんな頭がよくて、勇気があって、努力を惜しまない。
でも、それでもいいことはなにもなかったよね。と、ゆたかは思う。イリヤが死んだことをまた思い出す。
寂しさよりも、悲しさよりも、今はもう疲れたという気持ちばっかりだった。

――はやくおわらないかなぁ……これ。

ゆめだったらいいのになぁ……と、ゆたかは思う。そう、これは夢で、起きたらこなたお姉ちゃんがそこにいるんだ、と。
こんな夢を見てしまったのはお姉ちゃんに見せられた映画のせいで、だから起きたらお姉ちゃんに文句を言うんだ、と。
そしたらお姉ちゃんは、ごめんね、ゆーちゃん。って言うんだけど、今度は怖いゲームをプレイさせて………………。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:52:15 ID:OO6SB/kE
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:52:46 ID:OO6SB/kE
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:52:47 ID:h6vlb7Af

232まきしまむはーと  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:53:00 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


コロコロと音を立てて、清麿の爪先に蹴られた一本のシズマ管がゆたかの目の前まで転がってくる。

朦朧とした意識の中でゆたかはおかしいな、と疑問を持った。
これってさっきみんなで探そうねって言ってたんじゃなかったけ? いつの間に集まったんだろう?
少しだけ口を動かしてそれを目の前の少年に聞いてみる。


どうやら、探しているものとは少し違うとだけ、ゆたかの理解に届いた。
少し違うぐらいなら、これでいいんじゃ……と思い。それを率直に伝えてみる。


正のちから。負のちから。他にもいろいろと学校の授業で聞いたことのあるような単語が耳を素通りする。
ゆたかが辛うじて理解できたのは、『何が起きるか解らない』……と、それだけだった。
ニュアンスとしては、危ないものだとそう伝わってきた。


もしかしたら爆発でもしてしまうのだろうか、とゆたかはぼんやり考える。
清麿はまた携帯電話に夢中で、こっちを見てはいない。目の前には綺麗な緑色が一本。
やっぱり夢の中だからだろうか、身体の感覚はほとんどないのに勝手に動き始める……。
ゆたかの中の冷たいゆたかが冷たい目でそれを見守っていた。


――全部全部終わっちゃえばいいよ。


持ち上げた緑色を抱えて、孔の一つに差し込むとカチンって音がして……ゆたかの目の前が真っ赤に染まった。
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:53:19 ID:xCzPCncN
 
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:53:35 ID:h6vlb7Af

235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:53:41 ID:+C36wfir
 
236まきしまむはーと  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:54:07 ID:+KyBpXs7
 ◆ ◆ ◆


携帯電話の小さい液晶の中にある3つの光点。
それが、一緒に動き出したのを見て清麿は安堵の溜息を漏らした。
賛同はしたが、明智の考えた案には危ういところも多かった。しかし、二人はリスクと――――、

――清麿の視界が真っ赤に染まる。

更には激しい警告音が球状の室内に反響し始め、何事かと顔を上げて清麿は凍りついた。

アンチシズマドライブの孔に、一本のシズマ管が刺さっていた。
それが真っ赤に光って……いや、それが切欠なのか、部屋中のシズマ管が真っ赤に光っている。

――一体どうして? 誰が? ゆたかちゃんが?

さっきまで眠たそうにしていたゆたかは、まるで事切れたかのようにドライブの前に倒れている。
どうしてかは解らないが彼女がシズマ管を刺した――それだけは理解できたが、それは今どうでもいい。

――問題なのは、アンチシズマドライブにノーマルシズマを繋げた場合、何が起こるかだ!

支給品リストのアンチシズマ管の項目によると、アレは通常のドライブに差し込むと瞬間的な暴走を起こすらしい。
ならば、逆のこのパターンはどうなのか? これは一時的なの暴走なのか? それとも決定的な破滅なのか?


――俺はどうすればいいんだ!?


まるで部屋全体が心臓の様にドクンと脈打つ――そんな幻想を清麿はそこに見た。



 ※大怪球がどんなことになってしまうかは、次の書き手さんに一任します。
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:54:33 ID:h6vlb7Af

238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:54:44 ID:OO6SB/kE
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:55:07 ID:+C36wfir
  
240まきしまむはーと  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:55:12 ID:+KyBpXs7
 【B-7/刑務所地下・大怪球/1日目/深夜】

 【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
 [状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、強い決意
 [装備]:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)
 [道具]:支給品一式(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
      イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
      無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
      首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、清麿のネームシール、携帯電話
      各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
 [思考]
  基本-1::螺旋王を打倒して、ゲームから脱出する
  基本-2:戦術交渉部隊の技師として、工学/化学的な問題に取り組む。
  0:――どうすればいいんだ!?
  1:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
  2:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
  3:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
  4:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
  5:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
 [備考]
  ※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
  ※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。

 [清麿の考察]
  ※監視について
  監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
  参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
  ※螺旋王の真の目的について
  螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
  ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
  【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
  ※首輪について
  螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
  また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
  ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
  上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
  螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
  ※螺旋力について
  ………………………アルェー?
241名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:55:19 ID:h6vlb7Af

242まきしまむはーと  ◆AZWNjKqIBQ :2008/04/13(日) 02:56:18 ID:+KyBpXs7
 【小早川ゆたか@らき☆すた】
 [状態]:気絶、発熱、疲労(中)、心労(極大)、絶望、螺旋力覚醒
 [装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
 [道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
      鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
      M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
      参加者詳細名簿、詳細名簿+、 支給品リスト、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、首輪(キャロ)
 [思考]
  基本:なんだかどうでもよくなってしまった。
  0:???
  1:苦しいのは嫌だけど、楽になりたい。
  2:誰のことを思っても心が苦しい。
 [備考]
  ※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました。
  ※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。


 ※保有するアイテムの詳細は、以下の通り。

 【参加者詳細名簿】
  全参加者の簡単なプロフィールと、その人物に関するあだ名や悪評、悪口などが書かれた名簿です。

 【参加者詳細名簿+】
  全参加者の個人情報と、その人物に関する客観的な経歴が記されています。情状など主観になる事は書かれていません。
  ※読子・リードマンとアニタ・キングのページはねねねが破いて捨ててしまいました。

 【警戒者リスト】
  ねねねがメモに書いた、要注意人物のリスト。自分、または仲間が遭遇した危険人物の名前が書き連ねてあります。
  「高遠遙一」「ロイ・マスタング」「ビシャス」「相羽シンヤ」「東方不敗」「鴇羽舞衣」「ニコラス・D・ウルフウッド」
  また、仲間がゲーム参加以前で敵対していた人物や、詳細名簿のプロフィールから要警戒と判断した人物を要注意人物として記載しています。
  「ギルガメッシュ」「言峰綺礼」 「ラッド・ルッソ」他。

 【全支給品リスト】
  螺旋王が支給した全アイテムが記されたカタログ。正式名称と写真。使い方、本来の持ち主の名が記載されています。

 【携帯電話】
  通常の携帯電話としての機能の他に、参加者の画像閲覧と、参加者の位置検索ができる機能があります。
  また、いくつかの電話番号がメモリに入っています。(※判明しているのは映画館の電話番号、他は不明)
  [位置検索]
  参加者を選び、パスを入力することで現在位置を特定できる。(※パスは支給された支給品名。全て解除済み)
  現在位置は首輪からの信号を元に検出される。

 【ダイヤグラムのコピー】
  明智健吾がD-4にある駅でコピーしてきた、モノレールのダイヤグラム。

 【首輪】
  明智健吾が死体から回収した、キャロ・ル・ルシエの首輪。

 【考察メモ】
  雑多に書き留められた大量のメモ。明智、ねねねの考察や、特定時間の参加者の位置などが書き残されている。
243名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:56:29 ID:h6vlb7Af

244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 02:57:20 ID:xCzPCncN
 
245名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/13(日) 03:05:57 ID:srfGK943
246白地図張っとく:2008/04/13(日) 20:33:45 ID:DkAvygX0
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 ――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、月光の下を歩いていた。
 ――身に極限の無力感を宿しながら、落とした肩に陰鬱な印象を纏いながら、街中を彷徨う。

 どうして彼らは、どうして彼女らは、僕の主張を聞いてくれないのだろう。不思議でならない。
 ひょっとして彼らは、彼女らは、話を聞く耳を持ち合わせていないのではないだろうか。
 うん、きっとそうに違いない。だから殺し合うばかりしか頭にないのだ。

 ああ、なんて愚かなんだろう。そして馬鹿なんだろう。
 全員そこに並べ。正座しろ。説教してやる。
 議題は――『愛と平和』について。

 人間、誰しもハッピーを目指すじゃん?
 みんながみんな他人のハッピーを心がければ、世界中がハッピーになるのは必然なわけよ。
 じゃあハッピーになるために欠かせないものとはなにか。それが愛と平和。ラブアンドピース。

 いがみ合って、憎しみ合って、殺し合ってちゃ絶対に獲得できないものなんだよ。
 わかんないかなそれ。なんでわかんないかな。わかっておくれよ。え、無理? そこをなんとか。
 ああもうこのわからず屋どもめ。もういい。もうし〜らない。勝手にすれば?

 さよならばいばい。僕は去ります。後はみんなで勝手に殺し合っててください。んじゃ。
 …………………………………………ごめんなさい。嘘つきました。
 僕はやっぱり、愛が好きです。平和が好きです。みんなにこの素晴らしさを知ってほしいのです。

 諦めきれるものじゃない。むしろ諦めちゃいけない。僕が僕である限り、貫かなくちゃいけない。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードの魂が告げる。僕に、そうしなさいと。

 うん。やっぱり戻ろう。それがいい。
 あの蛇は怖いし、あの黒い人も怖いし、ウルフウッドはなんかチンピラになってたけど、逃げちゃ駄目だ。
 なぜって、僕は僕だからさ。あそこで逃げるような男は僕じゃない。偽者だ。けど。

 ……戻って、どうしよう。僕に、なにができる――?
 喋る黒猫も、眼鏡の女性も、槍の人も、男の子と女の子も、みんなみんな、僕の側で死んでしまったというのに。
 助けられなかった僕。救えなかった僕。愛と平和を維持できなかった僕に、今さらなにが?

 なにも、できないかもしれない。いや、きっとなにもできない。
 だけど、僕は戻らなくちゃいけない。たとえ無力だとしても。意味がないとしても。
 あ、でも、戻ってどうするんだ僕……? いや、なにもできないけどさ。ああもう、早く戻らなくちゃ。
 でも……けど……う〜ん……僕は……ぐぬぬ……くあー…………星、綺麗だなぁ。
 戻ってから、考えよ。うん。

 ――道を引き返すべく、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは振り返る。
 ――逃げ出してきた鉄火場へ、再び。愛と平和の素晴らしさを説くために。
 ――そのときだった。
 ――振り返ったヴァッシュ・ザ・スタンピードの後頭部に、冷たい威圧感が突き刺さる。
 ――それが銃口から発せられる凶気であることを、ガンマンであるヴァッシュ・ザ・スタンピードは知っていた。

「君も、人を殺すのかい?」

 ――振り向かぬまま、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは後ろの銃士に問いかける。
 ――解答は、すぐに。銃を構える男のものにしては、冷厳な声で。

「殺しはしない。賞金がパーになる」

 ――『カウボーイ』、スパイク・スピーゲルは金に飢えた目で笑った。


 ◇ ◇ ◇

248名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:50:32 ID:vxlGyYkL
 
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードは去り、鉄火場には三人の男女が残された。
 愛と平和の使者たる男がどんな心境でこの場を離脱したのか、三人にはわからないし、気にも留めない。
 胸中に宿すのは皆等しく――『殺意』の二文字のみ。

 大蛇を駆りし紫の戦姫、藤野静留。
 道を外れた牧師、ニコラス・D・ウルフウッド。
 死神に見入られようともなお他者に死を与え続ける男、ビシャス。

 憎しみ、ストレス、野心と、殺意の根源となる要素はどれも別物だが、成すべき行動は誰もが同一。
 一人が二者の命を狙い、一人が二者の命を狙い、一人が二者の命を狙い、三竦み。
 数刻前に、ある殺人狂が唱えた催し――バトルロワイアルを体現する戦いが、今も繰り広げられていた。

 ただし、この三者入り乱れての戦いは、決して均衡状態にあるわけではない。
 物語られるのは、絶対的な力の差。ある一人の闘争者による、ワンサイドゲームが実態だ。
 その、優劣の順位において頂点に君臨する少女が、唱える。

「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば、忍ぶることの弱りもぞする=c…意味、わかりおすか?」

 紫色の山――とでも形容すればいいだろうか。
 自然の山脈に置き換えるのが適切と思えるほど、それは巨大だった。

 ビル立ち並ぶ市街地に、どの建造物よりも秀でた巨躯を持つ、蛇が一匹。
 胴体の部分から頭が六つに枝分かれしており、その全容はイカのようにも見える。
 イメージされるのは、日本神話における怪物、八岐大蛇(やまたのおろち)か。

「結ばれても、祝福どころか迫害しかない恋愛。針の筵としても、禁忌の恋はだからこそ燃え上がる」

 左から数えて三つ目の首に、大蛇の主人――いや、母たる少女は立っていた。
 鎧を思わせる武骨なドレスを纏い、手には薙刀の一振り。包み込む色彩は、鮮やかな半色(はしたいろ)。
 それら外見の印象に、少女本人が持つ艶麗さを掛け合わせれば――《嬌嫣の紫水晶》の名が頭に浮かぶ。

「……うちの好きな言葉どす。なつきを愛した、うちの想いを……象ったような言葉」

 藤乃静留。
 自身も薙刀の熟練者にして、チャイルドと呼ばれる強大な戦力を備える、最強のHiME。
 彼女が愛した女性――玖我なつきの仇敵に向けて、純然たる殺意を放つ。
 目的はあだ討ち。突き動かす感情は、憎しみ。

「わかりおすか? ……いえ、わかりやしまへんやろなぁ。あんさんには」
「じゃかあしいわ! 変な方言喋りおって、言いたいことがあんならそっから降りてもっと近くで喋らんかい!」
「お断りします。あんさんと話すことは、もうなにもあらへん」

 大蛇の頭の上から、地上を見下ろした先。そこになつきの仇たる牧師はいた。
 ニコラス・D・ウルフウッド。両手に西洋の剣を二振り握り、凶悪な目つきで静留を威嚇してくる、チンピラのような男。
 そしてその隣には、全身から黒の気配を漂わせる、亡霊のような男が一人。名はビシャス。こちらは満身創痍の死に掛けだ。

 残ったのは殺意を持った男が二人だけ。愛と平和の主張者、ヴァッシュはどこぞへ消えた。
 戦いを止めたがっていたあの男が、なんの考えあって逃げ出したのかはわからない。それもどうでもいいことだ。
 残った二人が殺戮に身を投じるというのであれば、敵として討ち滅ぼすのみ。
 チャイルド――清姫の圧倒的戦力を持って。
250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:52:30 ID:vxlGyYkL
  
「喰らいや」

 静留の意志に同調するかのように、清姫の首が一斉に蠢いた。
 母を乗せた一つだけは待機し、残り五つの首が、牙を剥き出しにして襲い掛かる。
 標的は地上の二人、ウルフウッドとビシャス。

 ――『蛇』の最大の武器とはなにか?
 それは、長躯を駆使しての絡みつくような締め。次いで毒や牙が挙がるだろう。
 しかし、この蛇の亜種たる清姫にとっての最大の武器は違う。
 締めでもなく、毒でもなく、牙でもなく、体重。
 爬虫類の規格を超越した巨体が、対人間においては、そのまま強大な矛となる。

 ゆえに清姫は、ただ首を突貫させるだけだ。
 軽い衝突の一つでもあれば、人間など風に吹かれた木の葉のように弾き飛ぶ。

「おいおい、アカンやろそれは!」

 防御がままなるものでもない。ウルフウッドは全力で回避行動に移った。
 襲い掛かってくるのは、身の丈を優に越す大質量の砲弾だ。
 フットワークを駆使したところで、回避し切れるものではない。
 だからこそ、ウルフウッドは全速力で走る。前方から迫り来る首を、左横に避ける。
 ビシャスも同様のアクションを取るが、危機は一回の回避では納まらない。
 ウルフウッドとビシャスが逃げた先を追うように、第二、第三の首が突撃を仕掛ける。

 清姫の首の数は六。つまり、単純に考えて一度の最大攻撃回数も六回なのだ。

「うおっ! どあっ!?」

 奇声を上げながら、清姫の攻撃範囲を東奔西走するウルフウッド。
 ビシャスもまた、声には出さぬものの苦い顔で攻撃を避け続けている。
 それら地上の滑稽な光景を、高所から見下ろす様のなんと気持ちのいいものか。
 静留は艶やかに、そして楽しそうに笑い、呪詛を唱える。

「……下手糞な舞踏や。ほれほれ、もっとうちを笑わせておくれやす」

 小さな声をサディスティックな笑みに隠し、静留は強者の愉悦に浸る。
 相手は清姫の足元にも及ばぬ雑魚。それでいてなつきの命を刈り取った憎き男。
 ただ殺すだけでは飽き足りない。じわじわと嬲り殺しにしなくては、この憎しみも癒えはしない。

 手を抜いた攻撃で、わざと弱者たちを翻弄する。強者だけに許された特権。
 チャイルドの存在は、この実験場においてそれだけ規格外の戦力であった。
 敵う者など存在しない。清姫を従える静留こそ、全参加者中最強の人間である言えた。

「ッ!」

 悦に入っていると、不意に地上から反撃の矛が向けられて来た。
 仕掛けられたのは、無数の弾丸。攻撃の起点は、今まで睥睨していた眼下から。
 ビシャスが清姫の猛攻の隙を縫い、掲げる十字架型の兵器――パニッシャーより放った銃撃だった。

 静留は愉悦の表情を潜め、しかし慌てず、自身が乗る清姫の首を僅かに動かすことで、これを回避。
 弾丸が虚空に消えた後、清姫に再度ビシャスを襲わせる。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:54:29 ID:vxlGyYkL
 
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:54:35 ID:WzKSaAHu
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:56:12 ID:WzKSaAHu
「ヘタクソが! パニッシャー使うんやったらもっとどっしり構えんかい! そんなへっぴり腰じゃ、あたるもんもあたらんわ!」

 パニッシャー本来の持ち主であるウルフウッドが、ビシャスに罵声を浴びせる。
 ビシャスは当然、これを無視。パニッシャーを掲げ、再び遁走する。

「つか、パニッシャー返せやこのムッツリが! ワイがホンマモンの使い方っちゅうもんを教えたる!」
「…………」

 ウルフウッドの注文にも、まったく耳を貸さない。
 ビシャスの負っているダメージの深刻さを考えれば、そもそも喋っている余裕などないのだ。
 それはウルフウッドにも言えたこと。テンションのままに張り上げた声は、内臓に疲労という名の負荷を与える。

「よう逃げはるわ……清姫」

 横への回避をやめ、直線的後退を選択するウルフウッドとビシャス。
 静留は逃がすものかと笑みを固め、清姫に進撃を指示する。

 舗装された道路、真新しい民家、廃れたビルなどが、這い進む清姫の重圧に押し潰されていく。
 ロードローラーが更地を形成するのとはわけが違う。進行が齎すのは破壊の惨状のみ。
 清姫の通った跡には灰色の残骸だけが残され、市街は廃墟と化していった。
 清姫の進撃から懸命に逃れる二人は、振り返る余裕すらない。

「おい聞けやムッツリが! おまえもあの蛇どうにかしたいやろ!? だったらワイに手ぇ貸せや!」
「…………」
「聞けっちゅうねん!」

 徹底的に無視。互いに追われる身ではあるが、二人の間に協定という選択は存在しない。
 この場にいる者、全て敵。それは誰もが掲げる殺害方針であり、誰もが虎視眈々と隙を狙う現状。
 ウルフウッドがビシャスを、ビシャスがウルフウッドを狙わないのは、静留と清姫の存在を考慮した上での戦略だ。
 仮にどちらかが倒れ、静留と一対一の状況に陥ろうものならば、その後の未来は絶望的。
 理想としては、片方が静留と凌ぎ合っている隙に、二人まとめて倒す。
 狙うのは漁夫の利。なればこそ、手を取り合うのも一つの選択ではないか――しかし、

「…………やはり、邪魔だな」
「は?」

 この一日で極大のストレスを背負い込んできたウルフウッドと、懊悩もなく殺戮に殉じてきたビシャスには、決定的に足りない。
 合理性を考慮した上でも、他人に足並みを揃えるという意志……つまり、協調性が。致命的なまでに欠如している。
 ビシャスが取った行動は、その現れ。
 彼は、ウルフウッドが要求していたパニッシャーを、あろうことか背後の清姫に向かって投げ捨てた。

 反射的に振り返り、キョトンとした表情で愛器の行く末を見守るウルフウッド。
 元々の重量のせいかそれほど飛びもしなかった十字架は、清姫の舌先に絡め取られる。
 そして、そのままバクン。
 人間が扱うには巨大なそれも、清姫にとっては一飲みだった。

「わ……ワイのパニッシャーがあああぁぁぁ!?」

 ウルフウッドが愛用した最強の個人兵装≠ェ、清姫の喉を通過していく。
 逃走という観点におけば、その行動は必然。
 負傷中のビシャスにとって、パニッシャーの重量は足枷にしかならなかったのだ。
 ついにこの手に戻ることのなかった愛銃、その最後が蛇による丸飲みとは、悔やんでも悔やみ切れない。
 というよりむしろ、怒りが込み上げてくる。なんでそうなんねん、とツッコミを入れたくなる。
 イライラが増す。眉間に皺が寄る。肺がニコチンを要求する。叫びたくなる。
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:57:01 ID:SpTzTfsF
 
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:57:10 ID:vxlGyYkL
 
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:57:33 ID:WzKSaAHu
「ええ悲鳴やわぁ……大切なものを奪われる苦しみ、ちょっとはわかりおしたか?
 ……わかった、なんて口が裂けても言っちゃあきまへんで。うちの復讐は、まだまだこんなもんやない」

 静留の胸糞悪い言動で、ウルフウッドの怒りはついに沸点を越えた。

「……ッ、知るかボケがあああああああ!!」

 声帯が張り裂けんほどの咆哮を散らし、ウルフウッドはビシャスに向かって襲い掛かった。
 デタラメな手つきで二刀のエクスカリバーを振り回し、斬りかかる。
 パニッシャーの重量から解放されたビシャスは、不意の襲撃に戸惑うことなく、腰元の愛刀を引き抜く。
 剣と刀が交差し、透き通るような金属音が鳴った。
 自身の身の丈ほどあるビシャスの刀が、ウルフウッドのエクスカリバーを弾き飛ばした音だった。

 ウルフウッドの専門は射撃だ。剣術という分野においては、ビシャスの足元にも及ばない。
 加えて、今のウルフウッドはストレスせいか、認識力や判断能力が大幅に欠如している。
 ビシャスの刀の間合い、ビシャスの振りの速度など、接近戦における重大な要因が見極められない。
 エクスカリバーを弾かれた反動で、自分の胴ががら空きになったとしても、咄嗟の防御には移れない。
 残ったもう一振りで、眼前のビシャスを殺そうと体が動く。
 この瞬間、ウルフウッドの死は確定した。しかし、

「うらあぁッ、……!?」

 ビシャスはこの格好の的を、あえて見逃す。
 二刀目を振りかぶるウルフウッドには目もくれず、刀を地に対し水平に構えたまま、駆けるは背後。
 標的を失った大振りのエクスカリバーが、アスファルトを叩く。我武者羅に込めた力が、ウルフウッドの手を痺れさせた。

「ってコラ! どこ逃げんねん!?」

 ウルフウッドからしてみれば、ビシャスの行動はエクスカリバーからの逃走に他ならない。
 しかし実際は違う。ビシャスが目指さす先は退路ではなく――もっと強大な敵。
 ビシャスはウルフウッドとの交戦を拒否し、刀一本で、清姫に向かっていったのだ。

「ほぉ」

 ビシャスの勇猛果敢な行動に、静留は嘆息する。同時に、愚か者を見る目つきで嘲笑う。
 パニッシャーという強力な兵器を捨て、一振りの刀で清姫を討とうなど、愚かにもほどがある。
 ならばお望みどおり死を与えてやろう、と静留は清姫に指示を促した。

 六つ首の内の一つが、ビシャスの正面から迫る。
 くの字に開いた顎が、ビシャスの小さすぎる体躯を飲み込もうとして、しかし。

「ッ!」

 ドンッ、と地を強く踏み跳躍。ビシャスが清姫の額に飛び移る。
 清姫が顎を閉じるタイミングに合わせた、軽やかな体捌き。それを可能にする動体視力と、冷静な思考。
 異能を持たず、身体の作りを『殺し』に特化させた、純粋な殺し屋だからこそできる芸当。
 得物は刃の一振りで事足りる。ビシャスの瞳が狙うのは、自分と同じ、斬れば死ぬ人間なのだから。
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:59:01 ID:vxlGyYkL
 
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 01:59:52 ID:jxsRcgOb
  
「なるほど。ええ判断どすな」

 清姫の額に降り立ったビシャスは、そのまま蛇特有の長い首を通路とし、駆け上っていく。
 目指す先は、六つの首が集う胴体部。そしてそこから分岐する先……蛇の飼い主が君臨する座。

 ――ビシャスの最大の武器は、『人間を殺す技術』である。
 怪獣退治は専門外。彼が生業とするのは、駆除ではなくあくまでも殺人。人を対象とするのが大前提。
 この戦いも、清姫が相手というのであれば逡巡するまでもなく即離脱していただろう。
 だが、そうではない。ビシャスが刈り取るべき命は清姫ではなく、清姫を使役する人間、藤乃静留。
 彼女を殺しさえすれば、それでビシャスの勝利は確定する。
 主がいなくなった後、飼い蛇である清姫がどうなるかはわからぬが、それも知ったことではない。
 参加者以外の命など、野望の礎にもならない。静留さえ殺せれば、後はもう放置するだけだ。

「清姫の上でよう動くわ。けど、あきまへんなぁ……」

 静留のしたり顔をスイッチに、清姫の首が不気味に蠢く。
 ビシャスが駆ける細道が波のように律動し、進行を阻害する。
 そもそも踏ん張りが利く足場でもないため、ビシャスはあっさりと振り落とされた――かと思われたが。

「……ほんま、よう動きよる」

 足が蛇の首から離されるよりも前に、ビシャスは自らの意志で、それを強く蹴った。
 振り落とされる前に、自ら跳んだのである。
 着地先は、別の首。
 飛び移ってすぐ、それすらも踏み台にし、また高く跳ぶ。
 標的、藤乃静留が立つ終着点目指して。

「――ッ!」

 言葉はない。一度跳び、二度跳び、静留の位置を跳躍の距離範囲に納めると、ビシャスは寡黙なままに刃を振り抜いた。
 蛇による妨害はありえない。その巨躯ゆえに、繊細な動きを困難にさせている。
 懐に飛び込んだら防御が難しいのと同じ。清姫は、自身の頭部で起こる主の窮地を救えない。
 だが、清姫は動じず――

「……やっぱり、あきまへんなぁ」

 ――静留もまた、動じない。

「うちの持っとるこれ、飾りに見えますか? 残念……大間違いどす」

 跳躍の勢いに乗せた、ビシャスの一閃。しかしその一撃は、静留の持つ薙刀によって容易く防がれてしまう。
 ただでさえ、静留が持つ薙刀はエレメント――達人の一振りでも、破壊に至るのは難しい強度を誇る。
 加えて、静留本人の技量もある。殺しに精通したビシャスには遠く及ばないものの、彼女もまた、素人というわけではない。

「たくましおすなぁ。あんさんの力……ひしひしと伝わってきよりますわ」

 刀の刃と薙刀の刃が、互いに押し合い引き合い、競り合いを続ける。
 その間も、清姫の蠢動はやまない。不安定な足場を頼りに、ビシャスは刀身にさらなる力を込めた。
263名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:00:39 ID:nL2ZJgFj

264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:00:50 ID:vxlGyYkL
 
265名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:01:06 ID:WzKSaAHu
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:01:46 ID:jxsRcgOb
 
「ただあれやな。殿方にしては、些か軟弱やわ」

 ビシャスの太刀に対し、静留が酷評を飛ばす。
 快楽に淫したその表情に、尊貴の風はなく。十代女子のものとは思えぬ威圧が、ビシャスの身を押しやる。
 薙刀が刀を打ち払う音。
 特に力を込めたわけでもなく、ほんの一押しで、ビシャスの身は弾かれるように飛んだ。

 静留に有利な揺れる足場、静留の薙刀の技術、そしてなにより、ビシャスの体に蓄積されていたダメージ。
 三重の悪条件が、ビシャスを奈落の底へと突き落とす。

「…………ぐっ!」

 翼を持たぬビシャスに、蛇の首を這い上がる力はなく。
 その手はなにも掴めぬまま、しかし愛刀だけは手放さず、地上へと落下した。

「高いところから見下ろすんは楽しいどすなぁ。落ちていくのが憎たらしいかたきともなれば、また格別やわ」

 清姫の眼下、拉げた路上に、ビシャスの身が叩きつけられた。骨が砕ける音が、静留の耳を刺激する。
 静留は恍惚とした、それでいて狂気の宿る目で、横這いに蹲るビシャスを睥睨する。
 なかなか起き上がってこない。隙だらけ。このまま清姫の餌としてしまおうか。
 嗜虐心と理性の狭間で、静留はビシャスへの処断をどうするか考えた。
 その、慢心に満ちた隙。

「なに笑っとんねん――」

 注意を促すような声が、静留の後方から木霊する。
 静留の双眸は地上の滑稽な映像に捉われ、抜け出せない。

「――嬢ちゃんの命(タマ)狙っとるんは、ムッツリだけやないでッ!」

 背後――ビシャス同様清姫の体を登ってきた――ウルフウッドが迫っている事実には、気づいていない。
 視線を地上に預けたまま、背後ではウルフウッドが剣を振り上げている。
 まだ気づかない。気づく気配すらない。

 ウルフウッドは爆ぜるように笑い、必殺を確信し、剣を振り下ろした。
 が、

「んな!?」

 鳴り響いたのは、凶刃が肉を絶つ音ではなく、清姫の分厚い皮膚を叩く音。
 ウルフウッドがエクスカリバーを振り下ろした場所には、もう静留の姿はなかった。
 消失先は――空。

「残念。大はずれどす」

 静留の余裕は崩れない。中空に漂いつつ、ウルフウッドの失策を嘲笑う。

「……空まで飛べんのかい!」
「愛の力は偉大なんですえ?」
268名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:02:11 ID:nL2ZJgFj

269名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:02:45 ID:WzKSaAHu
270名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:02:50 ID:vxlGyYkL
 
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:03:02 ID:nL2ZJgFj

272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:03:56 ID:WzKSaAHu
 翼を持っているわけではない。しかし静留は、その身を宙に浮遊させている。

 マテリアライズ――唱えた呪文は、マッハキャリバーの作り出すバリアジャケットに特殊な効果を付加した。
 それは、藤乃静留がHiMEであるからなのか。HiMEの持つ高次元物質化能力が、魔法の概念と化学反応を起こしたのか。
 もしくは、数多の多元宇宙に存在する『シズル』――もう一人の自分が、愛を証明しようとする静留に恩恵を齎したのか。 

 真相は知れない。だがこの戦いにおいて重要なのは、藤乃静留が飛行能力を有しているという一点のみ。
 清姫の頭上に辿り着くだけでも四苦八苦だったウルフウッドに、空への対処法はない。

「振り落としいや、清姫」

 静留の冷酷なる命令が、ウルフウッドを無慈悲の底に突き落とす。
 主が上に乗っていないこともあり、先ほどよりもダイナミックに蠢動する清姫。
 ウルフウッドは抗うこともできず、ビシャスと同じ末路を辿る。

「愉しいわぁ……」

 胸を蹂躙する復讐心。それがだんだんと満たされていく感覚。
 静留は、陶然と満足の域に至る。だが、まだ足りない。

「……クソが。バケモン従えて空まで飛びよる。どんな反則技やっちゅうねん」

 清姫の喉下、ゆっくりと身を起こすウルフウッドは、まだ生きている。
 その隣で燻るビシャスも、眼光だけは鋭く、静留への殺意を捨てていない。

 まだ終わらない。終わらせてはならない。
 この殺意は、この憎悪は、早々に満たしてはならない。
 生きる苦しみを存分に味わわせてから、死ぬ苦しみを教えてやるのだ。
 それがたまらなく、楽しい。

「とはいえ……あんまり時間食うわけにもいかんなぁ。飛び入りはんのことも気にかかりますし……終いにしよか」

 静留が掲げる悲願。なつきとの再会は、まだ遠い道のり。
 清姫とバリアジャケットという力だけでは、到達の材料としては不足している。
 螺旋王の座に至るためには、力だけでは足りないのだ。必要な要素はなんなのか、模索する時間がほしい。

 静留が挙手。
 清姫が反応。
 ウルフウッドとビシャスがただ見上げる。

 静留の腕が下ろされれば、
 清姫は襲い掛かり、
 ウルフウッドとビシャスは死ぬ。

 誰もが未来を幻視し、それはもう間もなく現実のものとなる。
 予感はすれど、抵抗はできない未来。言うなれば運命が、三人の戦いに終焉という形で訪れる。

 しかし、そのとき。

 一陣の風が吹いた。


 ◇ ◇ ◇

274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:04:35 ID:vxlGyYkL
  
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:04:54 ID:jxsRcgOb
  
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:05:23 ID:WzKSaAHu
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:05:53 ID:jxsRcgOb
  
 巨大なる蛇の眼前に、男はやって来た。
 砂埃舞う破壊都市を舞台に、悠然と歩を進める。

 纏うのは、弓兵――正義の味方≠ノも似た赤い外套。
 目元を小型のサングラスで覆い、物思いに耽るような難しい顔で、歩を進める。

 三者の目が、その象徴的な姿を捉え、停止した。
 左手はポケットへ、右手は一丁の銃を握り、ゆったりと歩を進める。

 その者の訪れを待つように、音が掻き消えた。
 男は地上の二人には目もくれず、大蛇と戦姫に向き合うため、歩を進める。

「なにしに戻ってきはりましたん?」

 大蛇を従える戦姫が問う。
 歩を進めても辿り着くことはない、空という地点に身を置いたまま。

「……君を」

 来訪者――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは答える。
 右手にナイヴズの銃を、銃には三つの弾丸を。
 姿勢は正しく、瞳は天を捉え、胸には確固たる意志を宿し。

(そうだ……僕は、早々に決断するべきだったんだ)

 もう逃げ出すわけにはいかない――ウルフウッドが登場し、三人の殺し合いが幕を開けたとき、そう心に誓ったはずだった。
 なのに、ヴァッシュはその直後この場を去った。志しとは裏腹な恐れが、胸に蟠っていたからだ。

 エンジェル・アーム――ヴァッシュが保有する最大の力にして、抑止力。
 発動すれば大災害は必至。人間台風が起こす傍迷惑なものではなく、確実に死を招く力。
 ナイヴズの銃という起動キーを与えられながら、ヴァッシュはずっとこれを使えずにいた。
 エンジェル・アームの起動と、誰かの命を消し去ること、みんなの愛と平和を守ることは、等しく同じだから。

 傷つける、殺すという決意ができなかったら……みんな死んだ。
 クロも、クアットロも、ドーラも、ランサーも、イリヤも、士郎も。

(僕に、あとほんの少しの勇気があれば)

 引き金がもう少し軽ければ。銃が容易く撃てたなら。殺す者を即座に鎮圧できたなら。
 誰も、死にはしなかった。
 ヴァッシュにはそれを可能にする力があった。なのに、ずっとそれができないでいた。
 違う。できなかったのではなく、しなかったのだ。

(だけど……うん)

 彼の掲げる愛と平和は、決して人を傷つけない。
 弱者であろうと、悪党であろうと、例外なく保護の対象となる。
 その狂った正義感は――――なんの役にも立たなかった。邪魔なだけだった。
 信念を貫くには、信条を捨てねばならない。

 だからこそ、ヴァッシュはここに戻ってきた。

「……僕は、君を助けに来た!」

 声高らかに宣言し、ヴァッシュは静留に銃口を向ける――
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:06:36 ID:vxlGyYkL
 
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:07:05 ID:jxsRcgOb
    
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:07:10 ID:WzKSaAHu
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:07:50 ID:WzKSaAHu
283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:07:52 ID:nL2ZJgFj

「……なーんて言うとでも思ったかこのワカランチンがああぁぁぁあぁああぁあぁ!!」

 ――しかしその引き金は絞らず、あらん限りの力で、静留に向かって銃を投げつける。
 弧を描きながら空へ伸びていく銃は、なんの脅威も持たない。
 静留はこれを薙刀で弾き、ナイヴズの銃はどこぞへと消えていった。

「……なんのつもりどすか?」

 ヴァッシュの予想外の行動に対し、静留は茶目っ気を含まない冷厳な声で問う。
 ヴァッシュはサングラスを外し、静かに、しかし情熱的に声を発する。

「……偉大なるブルース・リー、という人は言った」

 第四回の放送後、離脱したヴァッシュの前に現れた、とあるカウボーイの言葉。
 ブルース・リーという拳法家の名言を拝借し、自身の胸の内を語る。

「いつも『これ』の方が『あれ』より良いということはない。
 両者は重なり合い、いくばくかの正しさ、そして誤りを合わせ持つ」

 カウボーイが与えてくれた助言を、静留糾弾の矛とする。

「シズルさん……僕にはやっぱり、あなたの言う愛とやらはわからない」

 これは僕たちが介入してはならない問題だよ――違う。
 僕がシズルさんを止めるよ。禁じられた力を……使ってもね――違う。

 言葉は全てまやかし。
 ヴァッシュが欲したのは、たった一つの理想。
 銃を、エンジェル・アームを持ってしては、築けぬ理想。

「……だけど、ブルース・リーさんはこうも言った――『考えるな、感じるんだ!』とね!」

 それは、人間ならば誰もが求める理想であるはずだった。
 この藤乃静留も例外ではない。彼女はただ、ヴァッシュとやり方が正反対なだけ。
 正さなければならない。その理想は、個人だけを想って貫けるものでないのだと。
 一を重視するのではなく、他を重視して、初めて全が成り立つ。その法則を、ヴァッシュ・ザ・スタンピードとして説く。
 銃は、いらない。

「だから僕のやることは変わりない。そうさ、いつだってこの世は……ラァァァブアンドピィィィスだッ!!」

 銃を投げ捨てた右手で、高らかにVサイン。
 愛と平和の意味を持つ合言葉で、この場にいる全員に同調を求める。

「ラブアンドピース! ラーブアンドピース! ラァァブアンドピィィス!」

 スタンピードの意は、『突っ走って止まらない』。
 彼は、選ばなければいけなかった――苦汁の――決断を蹴り、銃を捨てた。
 考えての行動ではない。感じて起こした行動。
 やれるかどうかではなく、貫くか貫かざるか。

 ヴァッシュ・ザ・スタンピードは唱える。
 ラブ&ピースの信念を、三人のわからず屋どもに。
285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:08:53 ID:vxlGyYkL
 
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:09:26 ID:nL2ZJgFj

「ラァァァァァァァブアンドォォォォォ――」
「もうええわ。潰しおし、清姫」

 しかし、現実はかくも厳しく。
 ヴァッシュの主張は、無情にも清姫の重圧によって押し潰されてしまった。


 ◇ ◇ ◇


「……あほらし」

 薄々感づいてはいた。だがこれほどとは思っていなかった、というのが素直な感想だ。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピード……あの男は、馬鹿を通り越した気狂いだ。
 殺し合いの場においても武器を持たず、言葉だけで説得を試みるなど、気狂い以外のなんだというのか。

 ヴァッシュの価値観は、静留には到底理解できぬもの。
 彼女が見据えるのは、なつきという一人の女性。
 彼女が世界の中心に据えるのは、なつきへの情愛。
 一を見ず、他を見ず、全を見ず、なつきだけを見た愛と平和。
 相容れることは決してなく、正すこともできはしない。
 ヴァッシュの行いは、なにもかもが無駄だったのだ。

「ほんま……笑えんで、ヴァッシュはん」

 空中から、ヴァッシュがいた地を見下ろす。
 手加減なし、殺すつもりで命じた清姫の突撃。
 それはヴァッシュだけではなく、側にいたウルフウッドとビシャスすらも飲み込み、さらには彼らが立つ舞台も破壊した。
 静留の眼下、清姫の眼前には、粉々に砕け散った大地だけが広がっている。
 ヴァッシュたちは潰れて肉片と成り果てたか、それとも瓦礫に埋もれたか。
 どちらにせよ、勝負の判定は下ったのだ。

「……うちが貫くんは、なつきへの想いだけや。ヴァッシュはんがいくら言ったって、枉げやしまへん」

 物憂げな表情をしてはいたが、それは復讐が終わってしまった後の虚無感からくるものにすぎない。
 ヴァッシュ個人に対する感慨はまったくなく、思考の枠を占めるのはなつきの存在だけだ。
 なつきを取り戻すため、さてこれからどうしよう――と。

 二日目の夜空を見上げた、直後だった。

「……え?」

 藤乃静留は、我が子とともに、ありえないものを見た。


 ◇ ◇ ◇

288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:09:57 ID:vxlGyYkL
  
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:10:03 ID:jxsRcgOb
   
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:10:04 ID:WzKSaAHu
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:10:48 ID:WzKSaAHu
292名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:10:54 ID:nL2ZJgFj

293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:11:43 ID:2se1MkF6
294天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:12:10 ID:RCpNE3iG
 藤乃静留とヴァッシュ・ザ・スタンピードの対立から、遡ること半刻。
 螺旋王による四回目の放送が終了したその頃、少女は一人、空中で悶え苦しんでいた。

「ぐっ……うう……づぅぅぅ……」

 頭と胸を押さえながら、嗚咽を漏らす。
 手首と足首に装着された輪――エレメントから湧き上がる炎は、今にも消えそうなほどに儚い。
 炎は少女が飛行するための動力源のようなものであり、少女を守る盾であり、少女に与えられた使命を果たすための火器だ。

「『エリア中心部付近に陣取り、目に止まる全てを燃やす』……く、っ」

 痛みで忘れぬようにと、無意識に命令の内容を口にする。
 燃やす――肝心なのはそこだ。炎のエレメントを有する彼女だからこそ与えられた、崇高なる使命。
 それがなにを齎すのか、そもそもなんの意味があるのか、少女自身は知らないが別に問題でない。

「ラッドルッソ、ラッドルッソ、ラッドルッソ……」

 命令とは別に、少女の中で蹲って退こうとしない男の名が、口に出る。
 殺人狂。大切なものを奪う側の住人。忌むべき敵――少女は、ラッド・ルッソという男を憎んでいた。
 憎しみという名の想いがエレメントの火力を強め、しかしその火勢は一向に安定しない。

「あた、あたし、は……ぐぅぅぅ!?」

 ふらふらと宙を漂っていた少女は、激痛に襲われるがまま、地上へと落下した。
 長く墜落気味であったため、既にかなり高度が落ちていたのが幸いとなる。
 少女は滑るように地に落ち、すぐに起き上がることはできず、その場に倒れ伏した。

「ラッドルッソ……死……あが……燃やす……全て……ぐッ……燃やすぅ……がぁ……ら、だ……D、ボゥイ……!」

 消え入りそうな声で呟くのは、少女の脳内に羅列された様々な記号。
 忌むべき敵、ラッド・ルッソ。
 果たすべき命令、絶対遵守。
 従うべき意志、ラダム。
 帰りたい場所。
 全てが等しく同価値であり、均衡していた。
 だがその均衡が今、先ほどの放送によって崩れようとしている。

「ぐっ……が、ハァ……はぁ、はぁ……ふ、ふ、ふぅ……」

 呼吸を強引に整え、言葉を発そうと痰を飲み込む。
 彼女に異変を与えた衝撃を、否定するような大声で。

「っ……ラッド……ラッド・ルッソが、死んだ!?」

 第四回放送で少女が耳に留めたのは、ラッド・ルッソ死亡の通告だけだった。

「なんで……どうして……違う、いい気味、いい気味……けど、じゃああたしは……あたしは、どうなるの?」

 肩が異様に重い。手先と足先が震えて、力が上手く入らない。
 立ち上がることができないので、少女は道路の上を這う。
 ざらついたアスファルトの感触が、少女の皮膚を擦り、傷をつけた。

「ラッド・ルッソ……ラッドルッソぉぉ……」
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:12:47 ID:OIaSKc1U
支援
296名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:13:10 ID:vxlGyYkL
 
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:13:10 ID:nL2ZJgFj

298天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:13:11 ID:RCpNE3iG
 心霊現象に遭遇したときのような、弱々しい叫び。
 エリア中心部へ向かおうとする前向きな体とは逆に、脳は後ろ向きな憎悪に支配されていた。

 ラッド・ルッソ。
 少女が行動を共にしていた男――Dボゥイの弟を殺し、さらにはDボゥイ自身も殺そうとした、殺人狂。
 初めて相対したのは、ソルテッカマンという強大な力を手にしたとき。
 あのときのラッドの殺害対象は、他でもない自分であるはずだった――それが過去形だということに、少女は気づく。
 事態は、彼女を置いてどんどん先に進んでしまう。

「憎い、憎い……憎まなくちゃ、憎まなくちゃいけないのにぃ……」

 少女の大切なものを奪おうとした、ラッド・ルッソ。
 彼の存在は、少女が少女でいるための支え、ラダムに抗うための杭の役目を担っていた。
 人間としての憎しみで、少女はラダムの支配から逃れようとしていたのだ。
 懸命に、それがとても破滅的な方法であるということにも気づかずに。

「あたしは、なにを憎めば……」

 ラッド・ルッソが死んでしまったら、憎むべき対象を失ってしまったら、どうすればいいのだろうか。
 あるいは、どうしようもないのか。この身を、体内のラダム虫に差し出すしかないのだろうか。
 嫌だ。それだけは嫌だ。自分が自分でなくなる、大切なものを失う、Dボゥイへの想いを失うことが――怖い。

「やだぁ……やだよ……助けて……誰か、助けてぇ……」

 少女――鴇羽舞衣は望む。
 大切なものを奪われないという保障、絶対的な安心感が得られる救い、自分が自分でいられる術を。

 地べたを這って、虚空に懇願する。
 体内の寄生虫から逃れようと、身が捩れる。
 苦しさと妬ましさと憎らしさが、鴇羽舞衣の存在を焼く。
 手を伸ばした。誰もいない路上で、空手が虚しさを掴む。

(誰か……誰でもいい! この手を、この手をギュッと握り締めて……!!)

 鴇羽舞衣の少女の部分が、弱音を吐く。
 等身大の乙女心は、この苦難に堪えられなかった。

「助け、て…………」

 か細い慟哭。
 その悲しみは、決して報われることなく。
 鴇羽舞衣の差し伸べた手は、パタリ、と折れた。

「――救いが必要かね?」

 鴇羽舞衣の手を掴む者は現れなかった。しかし、

「よかろう。ならば少女よ、私が君を救済しよう」

 救世主は現れた。
 彼の肩書きが自称か、それとも本物かは――鴇羽舞衣にはわからない。


 ◇ ◇ ◇

299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:13:50 ID:vxlGyYkL
  
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:13:54 ID:WzKSaAHu
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:14:02 ID:nL2ZJgFj

302天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:14:51 ID:RCpNE3iG
 破壊による粉塵がヒドラを包む様は、まるで霧けぶる泰山のようであった。
 あの場で巻き起こっているのが争乱であることは、想像に難くない。

 その争乱の場に集うのは、いかなる役者たちか。
 神父、言峰綺礼にとって重要なのはそこだ。

 ギルガメッシュ、ドモン・カッシュ、シータ、衝撃のアルベルト、不死身の柊かがみ、傷の男、牧師の男……生き残っている顔見知りの数は、もう多くない。
 衛宮士郎が殉じ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが潰え、聖杯戦争の名残も薄れてきた現況。
 管理者ではなく、参加者として舞台に立つ言峰は、なにを目指すのか。

 指針はいらない。彼は気の赴くまま、愉悦の探求に没頭するだけだ。
 牧師とヒドラを歩行の目印とし、しかしその道中に興味をそそるものが落ちていれば、このように足を止める。
 もちろん、声をかけることも忘れない。

「――救いが必要かね?」

 言峰が見つけたのは、深夜の冷たいアスファルトを這う少女だった。
 彼女は悲しみに悶えながら、震える手を虚空に投げ出している。
 温もりを欲しているのだろうが、言峰は手を差し伸べない。

「よかろう。ならば少女よ、私が君を救済しよう」

 与えるのは言霊だけ。その言に込められているのは慈しみか、哀れみか、もしくは呪いか。
 少女は理解などできない。物事を考えるよりも、苦痛を堪えるほうが先決のようだ。

「う……あ……?」
「……とりあえず、名を聞かせてほしいのだが」

 体面を気にする余裕もなく、少女は嗚咽に近い声で鴇羽舞衣と名乗った。
 正確に自己を紹介することはできるようだ。だが、舞衣はいつまで待っても起き上がろうとしない。
 観察を続けるが、別段脚部を負傷しているというわけでもなく、苦しみの原因は外面にはなさそうだった。
 おそらくは内面。彼女の精神に巣食うなにかが、鴇羽舞衣の存在に苦痛を与えている。
 それがなんなのかは……考えるだけでも愉しく、実に興味深い。

「鴇羽舞衣に問おう。君のその苦しみの理由はなんだね?」
「あた、し……の、なかに……ラダムが……」
「苦しみの渦中に身を置きながら、体を這い進めどこに向かおうとしているのか?」
「ラッド……ラッド・ルッソをころす……違う……エリア、中心部、へ……」

 たどたどしく解答を述べていく舞衣に、言峰はふむ、と声を漏らした。

「燃やす……エリア中心部に、陣取って……全部、燃やすぅぅぅ……」

 察するに、鴇羽舞衣の脳内では複数の意志が錯綜している。
 ラッド・ルッソを殺す、エリア中心部に陣取る、燃やす。
 否定形の言が混じることから推察しても、物事の優先順位をつけられていないのが現状か。
 そしてこの悶えよう。目的を果たそうという複数の意志が、彼女の中で鬩ぎ合っているようにも思える。

(何者かに強烈な暗示をかけられたか……もしくは、体内になにかしらの仕掛けを施されたか?
 魔術ではないにしても、この地には数多くの異能者が存在しているようだが……)

 彼女に苦しみを植えつけたその方法、興味深い。
 催眠術の類か、未知の道具を使った洗脳か、何者かの特殊能力か。答えは無数に考えられる。
 少なくとも、鴇羽舞衣という存在が自然にこうなってしまったとは考えにくい。
 誰かしら、彼女がこういう風になるよう仕向けた人物がいるはずだ。

(候補として挙がるのは、彼女が口にしていたラッド・ルッソ……先の放送で呼ばれた名か。
 あるいは、ラッド・ルッソの死が彼女の苦しみを増長させたか?
 彼女の殺すという言……殺意の根源となる感情は、ラッド・ルッソへの憎悪か)
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:15:27 ID:vxlGyYkL
  
304天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:16:30 ID:RCpNE3iG
 鴇羽舞衣はラッド・ルッソという男に深い憎しみを抱いている。
 それは殺意に至るほど濃厚で、だからこそその憎しみの捌け口がなくなったとき、精神は磨耗する。
 恨みの対象をなくした彼女が崩壊に至る姿は……想像するまでもなく、今目の前で転がっているのが、そうなのだろう。

(だが、気になるのは『エリア中心部に陣取り全部燃やす』という言だ。
 彼女の抱える苦しみは、見たところ心の葛藤に近い。
 ラッド・ルッソを殺すという意志とは、反対に位置する行動なのか。
 他者が操作したとするならば……この、やけに具体的な行動内容のほうと見て取るか?
 となると憎しみは、彼女自身が抱える闇か)

 言峰は鴇羽舞衣という存在に対し、仮説を立てる。
 彼女を埋め尽くす感情は、憎しみ――ラッド・ルッソを殺したい、という願い――それが不可能になった現実。
 彼女の精神を擦り削るのは、命令――エリア中心部に陣取り全部燃やす――誰かがそう命じたのか。
 双方が凌ぎを削りあっているからこそ、舞衣は苦しみを覚えているのだ。

(人質を取られている……いや、違うな。その程度の条件づけでは、この苦痛には至らない。
 逆らってはいけないなにか。それが彼女の感情に対し、抑止力として働いている。
 ――ますますもって、興味深い。彼女に暗示をかけた人物はいったいどのような術者か)

 壊れた人形には興味がない。だが壊れかけの人形はある意味、言峰にとって最上の状態だ。
 このように、辛うじて自我を保てている少女など……見つめるだけで心が躍る。
 神父の言葉を聞き入れて、少女がどのような顛末を辿るか……想像するだけで、背筋に快感が走る。

「再度問おう」

 這い進む舞衣の進路を遮るように、言峰が立つ。

「鴇羽舞衣、君がいま最も成し遂げたいことはなんだね?」

 舞衣も前進をやめ、言峰の言葉に耳を貸した。

「あた、しの……成し遂げたい、こと……」

 蹂躙されかけた精神で、己の望む結果を考え出す。
 それが言葉という形で発散できるのならば、人間としてはまだ正常だ。
 たとえるなら、罅割れたガラス。槌の一振りで砕け散る、脆弱な人間観は――はたして。

「そうだ、あたしは……!」

 舞衣の身が、ゆっくりと持ち上がる。
 両の手足に装着された輪が、炎を纏って舞衣の全身を浮遊させる。
 糸で繰られたマリオネットのように、気だるい全姿を言峰の眼前に晒した。

「あたしは、あたしのしたいことは……ッ!」

 鴇羽舞衣という存在の覚醒。
 彼女のHiMEとしての象徴たる力――『炎』が、轟々と燃え盛る。


 ◇ ◇ ◇

305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:16:52 ID:WzKSaAHu
306名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:17:02 ID:vxlGyYkL
  
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:17:54 ID:zs1mQhFy
 
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:17:56 ID:WzKSaAHu
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:17:57 ID:nL2ZJgFj

310天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:18:24 ID:RCpNE3iG
 Dボゥイへの想い。
 ラッドへの憎しみ。
 ラダム虫による侵食。
 ギアスによる偽りの意志。

 どれもが等しく、舞衣の身を焼いていた。
 優先順位をつけることすら適わず、だからこそ混沌とし、舞衣の行動に悪影響が及んだ。

「あたしは――」

 神父が問う。
 舞衣の中で燻る複数の想い。
 その、『最も』はなんなのか。

「あたしは、Dボゥイのことが――」

 言峰の詰問が、舞衣の本能に揺さぶりを与える。
 彼女の本質である『愛』が、その『最も』を導き出す。
 身中に蔓延ろうとするラダムを抑えつけ、鴇羽舞衣としての感情を表に出そうとする。
 ただ、このときばかりは。

「――――エリア中心部に陣取って、全部、燃やす」

 舞衣の双眸が、紅く滲む。
 涙を枯らし、虚ろに歪んだ残光。
 抗えはしない、絶対遵守の意志が出張る。

「燃やし尽くす……! なにも、かもぉぉぉぉぉ!!」

 ラダムを看破し、ラッドへの憎悪すらも蹴っ飛ばし、鴇羽舞衣としての感情を表に出した。
 この、鴇羽舞衣の本質を取り戻した一瞬――そこに、ギアスの力は食い込んできた。
 脳細胞に訴えかけ、与えられた命令を遵守するだけの機械へと変質させる力――ギアス。
 ラダムの侵食を抑えつけた今だからこそ、ギアスの力は歯止めなく発動する。

「ふむ。これは予想以上に……」

 割合で表すなら、ギアスが九、ラダムが一、Dボゥイへの想いとラッドへの憎しみが零となる。
 鴇羽舞衣という存在は与えられた命令を行動の基盤とし、肉体活動によって反芻する。
 ここで先行したのは、エリア中心部に陣取るという前段階ではなく、目に留まる全てを燃やすという部分。
 そして今、舞衣の眼前には言峰綺礼の姿がある。

「うあああああああああ!!」

 両の手の平から、炎の弾丸を灯す。
 ルルーシュ・ランペルージが火炎放射器と称したそれは、舞衣のHiMEとしての力の行使だ。

 言峰は降りかかる炎を片腕で払い、踏み込む。
 浮遊する舞衣の体目掛け、槍の如き長腕を突き刺す。
 捉えたは首根っこ。蛙の悲鳴が一声、舞衣の身は言峰の腕力によって支配された。

「静まりたまえ。君の言動は支離滅裂だ。燃やすことが本質だとしても、Dボゥイという名はなにを意味するのか?」
「う……あ……」

 喉を掌握され、舞衣は吼えることも適わなくなる。
 圧迫による痛みが両腕をだらんと垂れさせ、エレメントの炎も火勢を弱めていった。
 このまま絞め殺せもする状態で、言峰は鴇羽舞衣の切開を進める。
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:18:50 ID:zs1mQhFy
 
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:19:14 ID:vxlGyYkL
  
313天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:19:29 ID:RCpNE3iG
「三度問おう。君の願いはなにか――?」

 ――Dボゥイを……

「四度問おう。願いを果たすための力を、君は所持しているか――?」

 ――持ってる。けど……

「五度問おう。願いを妨げる存在に対し、君はどう力を行使する――?」

 ――燃やす。あたしには、それしかできないから……

「六度問おう。君は、君の願いを果たすことを良しとするか――?」

 ――それは……

 三度の問いに、舞衣がこくんと頷く。言峰が手の力を緩める。
 四度の問いに、舞衣がこくんと頷く。言峰が手の力を緩める。
 五度の問いに、舞衣が力強く頷く。言峰が手の力を緩める。
 六度の問いに、舞衣の口が堅く閉ざされる。言峰が口元を緩める。

「委ねたまえ――その意志は、鴇羽舞衣個人のものだ。
 何者にも侵されず、何者にも挫くことはできない、確固たる意志だ。
 君が鴇羽舞衣でありたいと願うならば……」

 言峰の表情が愉悦に染まり、舞衣の表情が一層辛辣なものに変わっていく。
 怒り、憎しみ、恨み、妬み、苦しみ――あらゆる負の感情を、顔に表していく。
 悩むことはない。彼女の意志は今、言峰綺礼の言によって許された。

 神父の呪言が、ラダムを、ギアスすらも凌駕し、鴇羽舞衣に自覚を与える。

「求め、貫けばいい。君は、君だ」

 鴇羽舞衣は、鴇羽舞衣であると――――。


 ◇ ◇ ◇

314名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:19:32 ID:WzKSaAHu
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:19:56 ID:Ylj2rdTd
 
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:19:59 ID:zs1mQhFy
 
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:20:05 ID:nL2ZJgFj

318名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:20:23 ID:WzKSaAHu
319名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:20:51 ID:Ylj2rdTd
 
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:20:56 ID:zs1mQhFy
 
321天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:21:16 ID:RCpNE3iG
「あ……う、あ……ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ――開錠が進捗する。

 鴇羽舞衣に打ちつけられた複数の楔を取り払い、彼女の本質を暴き出そうとする。
 彼女を歪めた複数の意志、その出所は知らない。もしかしたら、触れてはならぬ禁忌という可能性も捨てきれない。
 だが、言峰綺礼は彼女を見過ごさなかった。見過ごすには、あまりにも惜しい素材だったからだ。

 他者の精神を弄ぶのは、言峰にとっての愉悦であり、専売特許だ。
 既に何者かに歪められた少女、それを改めてこの手で壊すというのも、愉しい。
 言峰は舞衣の首を握る手を強め、彼女の本能の発揮を誘発する。

 言峰の手中で、獣のように猛り狂う舞衣。
 だが、その咆哮はやがて。

(……む?)

 なんの前触れもなく、ピタリとやんだ。
 怪訝に思う言峰だったが、変化はすぐに訪れる。

(――――!)

 瞬間だった。
 言峰の全姿が、竦み上がるような熱気を訴える。
 その最もたる部位が、舞衣の首を掴む手。
 指先から、掌から、悲鳴が木霊する。

(これは…………!)

 言峰が手を離そうとして――遅かった。
 舞衣の首を通して伝わる、異様なほどの熱意。
 肌を焼き、空気を焼き、その場を焼き包むほどの炎熱。
 傍目から見た変化はなく、しかし押し寄せる灼熱。

 言峰自身、なにが起こったか理解できない。
 だが、言峰綺礼の本能が告げる。
 熱い――と。

「――――――――――――――――――――――――――――――――」

 舞衣が静かに口を開き、言葉はなかった。
 上下する口はなにかを喋っていたようにも見えたが、言峰の耳では聞き取れない。

 そして、その瞬間が訪れる。

 鴇羽舞衣の本能の発現――彼女の本質である『愛』を象った力。
 たおやかで、母性に満ちていて、そして情熱的な――アツクタギル『炎』。

 鴇羽舞衣を中心として、紅蓮の火柱が上がる。
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:21:37 ID:zs1mQhFy
 
323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:22:04 ID:zs1mQhFy
 
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:22:30 ID:WzKSaAHu
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:22:42 ID:zs1mQhFy
 
326天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:22:44 ID:RCpNE3iG
「な……に――――?」

 静寂を突き破る炎が天高く昇っていき、そこでようやく、言峰は気づいた。
 舞衣の首を掴んでいた右腕が、ごっそりと消失している。
 時間の経った蝋燭のように歪む先端を見て、状況を理解した。

(私の腕が……溶かされた、だと?)

 半ば液状にもなっている右手の跡を見て、言峰は動揺に襲われた。
 舞衣の全身から迸った炎――いや、熱気が。言峰の腕を焼いた――いや、溶解した。

(馬鹿な……これは炎などという生温い力ではない。たとえるならマグマ……それほどの、熱が)

 腕があまりの高熱に溶け出すという、体感したのことのない痛み。
 言峰は顔を苦痛に染めはするものの、精神だけは整然と自己を保つ。

 現在最も必要な事項――鴇羽舞衣の観察に身を投じる。
 鴇羽舞衣は浮いていた。なにも言わず、手足のリングから発せられる炎に身を委ね、浮遊を続けている。
 彼女の身を包むのは、透き通るほどに鮮やかな赤――紅の色。
 中華料理に用いる炎とは質が違う、ただ高温なだけではない神秘的な光が、舞衣を庇護するように渦を巻いている。

(渦巻き……螺旋、だと? よもやこれも……一つの形、だというのか!?)

 此度の実験の趣旨……王が口々に唱えていた、螺旋の力。
 舞衣の姿はその発動ではないか、と言峰は考え至る。が、すぐに打ち消す。

 螺旋力の発動ではない。
 答えはもっと単純に。
 鴇羽舞衣の存在が――


 ◇ ◇ ◇

327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:23:15 ID:vxlGyYkL
  
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:23:38 ID:zs1mQhFy
 
329名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:23:39 ID:nL2ZJgFj

330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:23:44 ID:WzKSaAHu
331名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:24:21 ID:WzKSaAHu
332天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:24:25 ID:RCpNE3iG
(体が、煮え滾って、る……蒸発、しそう)

 心に宿っていたのは、いくつもの大切なもの。

(酸素……足り、ない、苦しい)

 移り変わる愛しい人。愛を据える彼女の中心が。

(目も、耳も、聞こえ……ない)

 愛の結晶が、彼女の苦しみを全て焼き払おうと精を出す。

(駄目だ、焼ける、熱い、熱い、熱い)

 喪失は恐れではない。奪われることだけが、心を重く潰した。

(くっ、う――――うああああ!)

 その重圧を払い除ける力がある。それを示さんと絶叫を放つ。

(嫌だ! あたしはもう……間違えない!!)

 音吐朗々と唱えるは、愛情の祝詞。

(あたしは、あたしを示したい……!!)

 鴇羽舞衣が背負ってきた、ありとあらゆる想い――その顕現。

(だから……お願い、あたしを助けて――――!)


「カグツチィィィィッ!!」


 ◇ ◇ ◇


 ――我が子の愛が、全てを焼く。

 ――母を束縛する戒めを、母にの身に巣食う害虫を、母の悲しみすらも。


 ◇ ◇ ◇

333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:24:40 ID:zs1mQhFy
 
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:25:04 ID:nL2ZJgFj

335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:25:09 ID:WzKSaAHu
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:25:11 ID:zs1mQhFy
 
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:25:12 ID:vxlGyYkL
  
338天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:25:40 ID:RCpNE3iG
 天壌に現れた、巨大な炎の柱。
 日常にある炎とはかけ離れた紅の輝きが、藤乃静留と清姫の目を奪う。

 それは炎ではなく、言うなれば紅蓮の膨張。
 凄絶な光景が、静留の全身に衝撃を与え、激震を齎す。

「あれは……」

 呟けたのは、まだ随分と距離が開いていたからだろうか。
 もう少し近ければ、竦み上がっていたか、もしくは呑まれたか。
 清姫という強大な力を抱えながらも、静留は息を飲む。

 しばらくして、紅蓮が晴れる。
 そこには、ある女性の想いが顕現した姿があった。

「…………まさか」

 同じHiMEだからこそ、わかる。
 アレがなんなのか、恐怖という形で理解できる。
 忌避しがたい現実を、苦笑が込み上げるほどに、痛感してしまう。

「ははっ……」

 その全形は、巨大な竜のようであった。
 轟々と渦巻き荒れる紅蓮の中、漆黒の闇に溶け込むような大きな翼を纏い、夜風を裂く力強い爪を生やして、
 見るものを圧する鎧にも似た胴体の上には、獰猛な牙が見え隠れする顎と、それを塞ぐように突き刺さった剣の存在がある。
 全天に掲げ撒き散らすのは、大粒すぎる火の粉。
 紅い。
 纏う印象、放つ威圧感、単純な姿形に至るまで、全てが紅く染まっていた。

「そうやなぁ……生き残っとるHiMEは、うちや結城はんだけやない。失念してたわ」

 苦笑を力で抑え込み、静留は遠方の竜をキッと睨み据える。
 その竜――記紀神話における火の神の名を冠さすカグツチ≠ヘ、静留と同じHiMEの一人、鴇羽舞衣が使役するチャイルドだ。
 本人すら制御できぬその強大な力は、全チャイルドの中でも圧倒的。
 出てくれば間違いなく殺し合いは破綻する、それほどの力を秘めし巨獣なのである。

 ただ、些細な疑問が一点。
 静留が『蝕の祭』で見たカグツチは、纏う炎こそ紅蓮ではあったものの、全姿を覆う色は白であったはずだ。
 しかしこのカグツチは、炎も含め、全てが紅く染まっている。
 まるで自身も炎を象った魔神であるかの如く、視覚による印象からして熱気が迸っていた。

『――GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!』
「!?」

 カグツチの咆哮。その轟きにより、都市という名の山並みが鈍く震える。
 距離が離れているとはいえ、その雄叫びは耳を劈くほどの音量だった。
 静留は反射的に耳を塞ぎ、清姫も巨体を震わせる。
 そのときだった。
 顔らしい顔を持たぬカグツチの頭部が、静留と清姫の姿を捉え、向き直ったのは。

「なっ……」
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:25:41 ID:zs1mQhFy
 
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:26:23 ID:zs1mQhFy
 
341名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:26:39 ID:vxlGyYkL
  
342名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:26:44 ID:nL2ZJgFj

343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:26:53 ID:WzKSaAHu
344天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:27:14 ID:RCpNE3iG
 声に出す間も惜しく、静留は飛翔した。
 可能な限り高く、可能な限り遠く、それでいて状況が判別でき、的確な対応ができる位置へ。
 取り残された地上の清姫は、震えを強引に抑え込み、どっしりと構える。

 直後、カグツチが紅蓮を纏いながら、清姫に向かった突進してきた。
 この世界における螺旋の制約付けか、清姫とカグツチのサイズはほぼ同等。
 しかし空から押し寄せてくる重圧に対し、清姫は凌ぎきることができず。
 衝突の轟音が鳴るとともに、蛇の巨体は竜の怪力に押しやられる。

「清姫……ッ!」

 清姫を押し進めながら、市街地を飲み込んでいくカグツチ。
 二頭が過ぎ去った跡には、削り取られたような窪みしか残らない。
 誰かが人知れず巻き込まれたとしてもおかしくないほどの驀進に、静留は我が子を思いながら追跡する。

(そんな――清姫が負ける? うちのなつきに対する想いが、うちの愛が、負けるやなんて……っ)

 考えたくもない。が、心に押し寄せてくる不安の波は、静留の呼気を容赦なく荒げた。
 カグツチの力は『蝕の祭』で嫌というほど見せつけられている。
 しかしこの場において言えば、なつきへの愛情を経て覚醒させた清姫こそが、頂点に君臨する力であるべきだ。
 静留のなつきに対する想いは、どんな執念よりも上であると、固く信じてやまない。

「ないわぁ……」

 阿修羅の形相で、静留はきつく唇を噛み締める。
 なつきへの想いは絶対だ。その上をいく想いなど、ありはしない。
 HiMEの力は想いの力。カグツチの母である鴇羽舞衣がこの地でどんな想いを馳せたかは知らないが――

「あっ……!?」

 苦々しく空を飛ぶ最中、静留は目にした。
 清姫を押すカグツチの頭部、紅蓮の上に屹立するその姿を。

「鴇羽、はん……? いったい、なにが」

 なぜ――という疑問を抱きながら、さらなる接近を試みた、次の瞬間。

『ビィ――――――――――――――――――――』
「ッ!?」

 静留の首に嵌められた戒めの輪から、大音量のブザーが鳴り響いた。

『この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し、当該エリア外へと退避せよ』

 次いで響いてきたのは、遠雷のような低い声。
 それが禁止エリアに侵入した際に発せられる警告なのだと知り、静留は舌打ちの後、進行ルートを変える。
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:27:32 ID:zs1mQhFy
 
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:28:09 ID:nL2ZJgFj

347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:28:38 ID:vxlGyYkL
 
348天壌の劫火 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:28:41 ID:RCpNE3iG
 ほどなくして、首輪のブザーは鳴り止んだ。
 清姫でウルフウッドらを追い回し、カグツチとの衝突で今もなお移動中の身。
 だからこそ気づけなかったが、どうやら現地点はD-5の禁止エリア付近であるようだ。

「これは、困りおしたなぁ……」

 冷や汗を流しながら、静留は中空に停止。遠方の清姫とカグツチの状況を見やる。
 カグツチによる驀進は止まり、その巨躯は再度空へ飛翔。
 ぐったりしてはいるものの、清姫はまだまだ戦闘続行可能。

「蛙を睨んでた蛇が、一転して蛇に睨まれた蛙やなんて……笑い話にもなりまへんなぁ」

 チャイルドがチャイルドを襲う……まるで『蝕の祭』の再来にも思える。
 十二人のHiMEたちによる愚かしい戦いは、「堪忍なぁ」の一言で清算したはずだった。
 それがまた、チャイルド同士で、HiME同士で、互いの大切なものを守り合い、奪い合うことになるとは。

「皮肉な運命どすなぁ……せやけど、今回は謝る気はありまへん。もちろん、退く気も」

 禁止エリアという、静留本人は介入できない領域の中に、言葉を投げかける。
 宿命の敵に向けての、宣戦布告。挑戦状を受け取っての、己の意志主張を放つ。

「討たせてもらいますえ――カグツチッ!」

 戦姫の怒り狂った形相は、カグツチの頭部に立つ一人のHiMEに。
 認知などしていないであろうその身で、HiMEは舞踏に興じる。
 我が子とともに。この想いとともに。ただ、己の存在を保つために。

「――――――――――――――――――――――――――――――――」

 鴇羽舞衣に、言葉はなかった。


 ◇ ◇ ◇

349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:28:42 ID:zs1mQhFy
 
350名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:28:50 ID:WzKSaAHu
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:29:29 ID:nL2ZJgFj

352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:29:33 ID:WzKSaAHu
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:29:39 ID:zs1mQhFy
 
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:30:07 ID:zs1mQhFy
 
 深い深い、洞穴の底。
 地下深く落ちていった男は、身を軋ませるほどの重圧に苦しみ、絶えようとしていた。
 脳裏に突き刺さる、かつての死のイメージ。
 教会で果てた自分の姿が、思い浮かぶ。
 死が廻るだけ、と軽く考えることもできた。
 だが、まだだ。
 まだ、煙草を吸っていない。
 まだまだ、憂さ晴らしは済んでいない。
 まだまだまだ、この鬱憤を発散しきってはいない。

「クッ…………ソがああああああっ!!」

 血管がはち切れんほどの怒りを身に宿し、ウルフウッドは自分の上に乗っていた瓦礫を押しのける。
 ズドォン、という低い音が響き渡り、次いで辺りの光景を見渡してみる。

「なんやここは? 洞窟……あー、お天とさんがポッカリ穴開けとるわ。地下かここは」

 そこは、怒声がよく反響する空洞。両脇に聳える壁が、窮屈感を与える。
 足元を見れば、汚水が川のように流れている。天井を見上げれば、夜空を覗かせる大穴が一つ。

 清姫の重圧に押し潰され、砕け散った大地。
 その場に立っていたウルフウッドは、アスファルトの陥没に巻き込まれ、地下を流れる下水道へと転落した。
 清姫の攻勢に直接押し潰されなかったことを幸運と考えるべきか、こんな汚いところに迷い込んでしまったことにイラつくべきか。

「チッ……ただで死ねると思うんやないで嬢ちゃん。この借りはきっちり返……って、なんじゃこりゃああああ!?」

 静留と清姫の存在に怒りを浸透させる中、ウルフウッドは不意に頭を拭い、気づく。
 手にはベッタリとした鮮血。頬にはだくだくと流れる熱い感触。こめかみのあたりには痛み。
 頭部から、えらい量の血が零れ落ちていた。

「いっでぇぇっ〜…………クソッ、殺す! ホンマ殺したる!!」

 朦朧とする頭を怒りで奮い立たせ、喚き散らす。
 傍から見ればウルフウッドの頭部は血だらけ、重傷もいいところだが、本人は倒れない。
 精神が肉体を凌駕している……のではない。納まりのつかない怒気が、失神を拒否しているだけなのだ。
 現世とあの世の境目を見つめながら、ウルフウッドは未だ生にしがみついている。

 なにを望み、なにを果たそうとしていたのかは、本人も忘却の彼方だ。
 とりあえず求めたのは、この痛みの捌け口。
 そして眼前に飛び込んできたのは、水に濡れてもまだ形状を保つ、ほうき頭。

「わああ〜、いたいいたいイタイイタイ痛い痛いいい〜!?
 骨折れた、骨折した、ヘルプミー、ヘルプミィィィィィ!!」

 ウルフウッドとは対照的な、情けない悲鳴。聞き慣れた声質が、狭い空洞内に反響する。
 白けた目でその姿を捉えると、ほうき頭の男は足を押さえながら泣いていた。
 汚水の上をごろごろと転がっていると、数秒経って起き上がる。
 足取りは覚束ないが、無事体を支えられているところを鑑みるに、折れてはいないようだ。
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:30:44 ID:vxlGyYkL
 
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:31:19 ID:WzKSaAHu
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:31:23 ID:nL2ZJgFj

359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:31:26 ID:zs1mQhFy
 
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:31:51 ID:WzKSaAHu
「あーもうなんなのさ! 僕があれだけラブアンドピースラブアンドピースって言ってんのにさあ!
 シズルさんもどうしてあんなわからず屋なのかなぁ! 僕間違ってる? 間違ってないよね、ねぇ!?
 あれ、無視!? どうして答えてくれないの妖精さん? 妖精さーん、さっき僕を手招いてくれた妖精さーん!
 なんかお花畑に立ってた僕をこっちにおいで〜って誘ってくれた川の向こう岸の妖精さんどこ〜!?
 なんだよなんだよみんな! そーですか、いいですよーもう! 僕一人で寂しくお花摘んでますよーだ!
 後で混ぜてーって寄って来ても無視しますからねー。つーんってそっぽ向いちゃいますからねー。
 もしそれでも混ぜてほしいっていうんなら、僕と一緒にラブアンドピースと一億回復唱だー!
 ひゃあっ! っていうかここどこぉ!? シズルさん、どこですかシズルさーん!?
 ああもうもうもう、なんだって僕ばっかりこんな酷い目に遭うのさ! 信じられない!
 これというのも全部……君が事態をややこしくしたせいだかんね、ウルフウッド!」

「な、ん、で、や、ね、ん!」

 ウルフウッドは、ツッコミを入れざるをえなかった。
 再起するや否や、アホなことをのた打ち回るほうき頭――ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 汚水に塗れた赤外套を重そうに引きずり、ぷんすかぷんすかと音を立てながらウルフウッドに近寄ってくる。

「よぉー、トンガリぃ……人がイラついてんとこに胸糞悪いツラ晒してくれるやんけぇ……」
「君も随分とワルそうな顔してるじゃないか、ウルフウッド……ちょっとちみ、カルシウム不足なんじゃない?」

 ウルフウッドはヴァッシュを迎え撃つように、陰険な表情を纏いながら前へ歩む。
 互いが歩み合い、ごちん、と額と額がぶつかった。

「ほぉぉ……よう言いよるやんけこの口が。なんやおまえ、喧嘩売っとんのか? あ?」
「ああそうさ。もうさっきからムッカムカしてムッカムカして胃が痛いんだ。変なものでも食べたのかなぁ〜!?」

 ウルフウッドの威嚇に、相手を小馬鹿にしたような発言で返すヴァッシュ。
 合わさった額が互いに押し合い、均衡が生まれる。

「ほぉほぉほぉ。そりゃアレやな。ムカついとるんや。あの超絶平和主義者様が、他人に腹立てとるとはな」
「HAHAHA。おいおいウルフウッド、僕だって人間だぜ? そりゃ怒りもするさ……君みたいなわからず屋には特にね」

 語気は穏やかに、しかし語り合うその口は爆発しそうなほどに歪曲している。
 煙が発生しそうなほど額を擦り合わせ、両者共にぐぬぬ……と唸り出す。

「ああそうやろなおまえからしてみればワイはとんだクサレ外道牧師なにがラブアンドピースじゃアホンダラやろなぁ」
「なんだそりゃそこまでは言ってないだろやっぱカルシウム足りてないんじゃないのミルク飲むかいちゅっちゅっちゅー」
「ぬかせダアホがミルクより煙草よこさんかいアホンダラつかいいかげん離れろや気色悪いんじゃボケナスアホトンガリ」
「アホアホ言うほうがアホなんです知りませんでしたかアホアホウルフウッド煙草ばっか吸ってるからそうアホになるんでい」
「……………………………………………………………………………………………………………………フゥー」
「……………………………………………………………………………………………………………………ハァー」

 言いたいことを言い合った二人は、唐突に言葉を潜め、寡黙に距離を取る。
 一歩分身を引いた直後、深く深呼吸。顔を俯かせ、呼吸を整える。
 まったく同じタイミングで、まったく同じ仕草で、まったく同じ感情を宿して、

「ッ!!」
「っ!!」

 まったく同じ行動を――互いの額を狙い合い、頭突きを喰らわせた。
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:33:35 ID:WzKSaAHu
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:33:52 ID:nL2ZJgFj

364名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:34:16 ID:WzKSaAHu
 ――ゴッチ〜ン☆

「いぃぃっ……」
「……だぁ〜い!?」

 金物を打ちつけ合ったような鈍い衝撃音が鳴り響き、ウルフウッドとヴァッシュはまったく同じ所作でしゃがみ込む。
 第三者の視線があれば、馬鹿二人、と呆れるほかない。
 地上で今も続いている戦争。その隅っこで、馬鹿二人は程度の低い喧嘩をおっぱじめた。

「アッー! アッー! アッー! もう堪忍袋の尾が切れた〜! いくら僕でも我慢の限界ってやつだよああもう!」
「じゃかあしいわ! そりゃこっちのセリフじゃボケ! 勝手に逃げて勝手に戻ってきたと思ったら、ややこしくしよってからに!」

 かつての友人にして、かつてのライバルにして、かつての相容れぬ間柄であった二人は、修羅場での再会を果たした。
 だというのに、ろくに話し合いもせず、没頭するのは愚かな罵り合いだけ。
 そうなるだけの理由、つまりはストレスが蓄積された結果なのだが、本人たちに自覚はなく。
 暗く狭い、誰にも邪魔されることのない穴倉の中で、不毛な争いに身を投じる。

「偉い人は言いました。わからず屋に銃はいらない。そんな奴は、拳でぶん殴ってわからせろ……ってね」
「それも、ブルース・リーとか言う奴の言葉かいな?」
「いや、これは彼――スパイク・スピーゲルに教えてもらった言葉さ!」

 ウルフウッドもヴァッシュも、武器を手に取るつもりは欠片もなかった。
 欲するのは感触。この手で眼前の気に入らない輩を屈服させるという、暴力の実感だ。
 言葉は悪いが、それも心の癇癪玉を静めようとしての術。
 男は馬鹿であり、馬鹿だからこそ男である。

「さぁ、やろうかウルフウッド。泣いて謝っても許してやらないからね」
「上等じゃ。そのへらへらしたツラ、ワイがボッコボコしたるから覚悟しとけ」

 ――ステゴロでぶっ飛ばす!
366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:35:00 ID:vxlGyYkL
 
367名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:35:07 ID:Ylj2rdTd
 
368名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:35:16 ID:nL2ZJgFj

369名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:35:29 ID:WzKSaAHu
【C-5/下水道内/二日目/深夜】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:疲労(大)、全身打撲、ブチ切れ状態、かつてないほどのイライラ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:考えるな、感じるんだ。わからず屋は殴ってわからせる。
1:ボッコボコにしてやんよ!
[備考]
※第二放送を聞き逃しました。
※隠し銃に弾丸は入っていません。どこかで補充しない限り使用不能です。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※スパイクと情報交換を行いました。ブルース・リーの魂が胸に刻まれています。

【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:認識力判断力の欠如、ブチ切れ状態、情緒不安定、かつてない程のイライラ、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本思考:ゲームに乗る。
1:ボッコボコにしてやんよ!
2:売られた喧嘩は買う。
3:ヴァッシュに関した鬱屈した感情
4:自分の手でゲームを終わらせる。 女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:とにかく武器(銃器)が欲しい。誰かが持ってたら殺してでも奪う。
6:施設で武器調達も検討。
7:タバコが欲しい。
8:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動の使い手と認識しました。
※第三回放送を聞き逃しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。


 ◇ ◇ ◇

371名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:36:52 ID:nL2ZJgFj

372名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:37:40 ID:WzKSaAHu
 破壊の余波を受け、地下へとなだれ込んでいった二人。
 その頃地上では、大蛇と竜の壮絶なぶつかり合いが起こり……そして大穴の付近には、誰もいなくなった。
 そして、ここに一つの疑問が残る。

 黒衣の死神――ビシャスはどこに消えたのか?

 破壊の跡を漁る者は誰もいない。南の空で怪獣たちが暴れていれば、おいそれと近づけるはずもなかった。
 だからこそ、立ち上がり、この場から離脱するには絶好の機会。
 崩れた建築物の残骸と、拉げた路面の欠片が作る隆起。その下から、影が蠢く。

「……くっ」

 這い上がった影の正体は、清姫の衝突を直に受けながらも生き永らえた、まさに死神のような男。
 全身に切創と銃創を無数、打ち身も酷く、内臓器官も損傷している上に、先の痛手で失血のほども致死量に至った。
 なのに不思議と、生きている。やはり己は死神なのではないかと、苦笑したくなってくるほどに。

「ふふ、ふ……が、っ」

 力ない苦笑の後、口から盛大に吐血する。
 滝のように流れる血が、生命の終わりを予感させていた。
 それでもまだ、生きている。

「く、く、く……」

 不気味に笑い、衝突の際も手放すことのなかった刀を強く握る。
 握力はまだ残っている。つまり、刀が握れ、刃が振るえる。つまり、殺せる。
 ならば殺そう。死神としての存在意義を示すため、徘徊を続けようではないか。

 そのときだ。
 背後に冷たい気配を感じ、ビシャスは動きを止めた。

「人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)って知ってるか?」

 ビシャスの後頭部にデザートイーグルの銃口を突きつけながら、男は言った。
 気だるそうに立つ体躯をこのときばかりは引き締まらせ、言葉を続ける。

「ある賞金首の話さ。そいつは各地に大災害を齎し、街を壊滅させては去っていく。まさに台風みたいな男だそうだ。
 んで、そいつに懸けられた賞金の額がなんと600億。スゲー額だろ? レッドドラゴンの頂点だって、これほどは懸けられない」

 聞いている最中も、レンズのピントがぼやけるように視界が歪む。
 ビシャスは返答する気力もなく、銃を突きつけられた状態で立ち尽くした。

「でだ、さっきそいつに会ったんだが……見逃した」

 あっけらかんとした口調で、背後の男は言葉を紡ぐ。

「馬鹿だよなぁ。600億だぜ600億。とっ捕まえりゃ、貧乏生活とも即オサラバさ。
 毎日のメニューが肉なしチンジャオロースから肉だけチンジャオロースに変わる。
 想像しただけでよだれが垂れてくるね。だけど、俺は奴を見逃した。わかるか?」
374名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:38:17 ID:Ylj2rdTd
 
375名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:38:43 ID:vxlGyYkL
 
376名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:39:09 ID:Ylj2rdTd
 
 男が捲くし立てる間も、ビシャスの口からは多量の失血が見られている。
 噴出しているのは口だけではなく、頭部、腹部、脚部、とにかくいたるところからだ。
 背後の男はそれに気づいているのかいないのか、泰然と銃を構え、悠然と喋り続ける。

「俺はあいつの話を聞いて、こう思ったのさ。
 ああ、この肥溜めみてぇな場所も、馬鹿ばっかじゃねぇんだ……ってな。
 いや、あいつの考えは馬鹿だ。頭に花が咲いてる。けどな、俺はそれを否定しない」

 ビシャスは身じろぎ一つしない。
 聞いているのかいないのか、苦痛でそれどころではないのか。

「ラブアンドピース、って腹の底から叫んだことあるか? ねぇよな、おまえには。
 愛と平和なんざ、ガキの頃に捨てた誇りだ。俺もおまえもな。
 それを大の大人が、怪獣の目の前で豪語するってんだから、馬鹿には違いない」

 デザートイーグルを握る手にぶれはない。照準は狂いなくビシャスの後頭部。
 銃口から覗く漆黒の穴倉が、黄泉への誘いのように思えた。

「ま、それでもいろいろ悩んでたみたいでな。賞金首とカウボーイが語り合うのもなにかの縁。
 ってことで、敬愛する我が心の師匠、ブルース・リーの名言を教えてやった。
 そしたらそいつ、吹っ切れた顔してありがとう、って何度もな。
 んで、ここに戻っていった。本当に、台風みたいな奴だったよ」

 次第に、男の口が加速していく。
 狂えるほど饒舌に、しかし平静を保った口ぶりで、言霊を浴びせ続ける。
 ビシャスはなにも返そうとはせず、その本心では、返すべき言葉を見つけていた。

「………………………………」

 だが、声に発することができない。
 彼の生命は篝火のように火勢を弱め、もう間もなく尽きる。
 数時間前に予期していたタイムリミットが、今、訪れようとしている。
 この、因縁の相手との邂逅で。

「……く、くく、く」

 まったくもって、おかしな状況になったものだ――とビシャスは笑う。
 けたけたと、テンポを外して音を漏らす。
 声は発せず、言葉も伝えられず、口からは血液だけが零れた。
 しかし、
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:39:39 ID:WzKSaAHu
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:40:03 ID:nL2ZJgFj

380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:40:21 ID:WzKSaAHu
「…………スゥ、パッ、イクゥ――!」

 敵の名だけは、不思議と表に出た。

 振り返り様に白刃の一閃を振るう。

 捻れる体はぎちぎちと音を立て、裂け目から血が噴き出した。

 激痛が身を蹂躙し、握力を削ぎ、カラン、と刀が地に落ちる。

 視線だけを刀に投げ、拾うことは叶わない。

 顔だけが、背後に立っていた男、そして銃口の正面に向く。

 男がどんな表情でビシャスを見つめ、どんな心境で引き金に指をかけていたかは知れない。

 ぼやけた視界は、もうなにも映してはくれなかった。

 ドン、と銃声が一つ。

 硝煙が上がり、放たれた銃弾は、ビシャスの顔を貫通した。

 死神の黒に染まった形相が、木っ端微塵に壊れてしまう。

 そのまま仰向けに倒れ込み、もはや起き上がることは適わない。

 ビシャスは死神などではく、ただの馬鹿だったからだ。

「……じゃあな、ビシャス」

 哀れみの表情を纏いながら、カウボーイは宿敵の終焉を見届けた。


【ビシャス@カウボーイビバップ 死亡】

382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:40:49 ID:zs1mQhFy
 
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:41:02 ID:nL2ZJgFj

384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:41:10 ID:WzKSaAHu
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:42:03 ID:zs1mQhFy
 
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:42:11 ID:WzKSaAHu
【C-5/地下に通じる大穴の側/二日目/深夜】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(小)、心労(小)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(全て治療済)、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:デザートイーグル(残弾3/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式×2(-メモ×1) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター、
    軍用ナイフ@現実、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン
[思考]
1:さーて、あの賞金首は生きてるかね……
2:カミナを探しつつ、映画館及び卸売り市場付近でジン達と合流。その後、図書館を目指す。
3:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
4:小早川ゆたか・鴇羽舞衣を探す。テッククリスタルの入手。対処法は状況次第。
5:怪獣……は、まあ近づかないほうがいいだろ……
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
 (周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※Dボゥイと出会った参加者の情報、Dボゥイのこれまでの顛末、ラダムについての情報を入手しました。
※ヴァッシュと情報交換を行いました。


 ◇ ◇ ◇

388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:42:44 ID:zs1mQhFy
 
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:42:55 ID:vxlGyYkL
 
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:43:20 ID:WzKSaAHu
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:43:31 ID:nL2ZJgFj

「――――――――――――――――――――――――――――――――」

 カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、言葉はない。

「――――――――――――――――――――――――――――――――」

 カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、思考はない。

「――――――――――――――――――――――――――――――――」

 カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、意志はない。

「―――――――――――――――――――――――――――――――ぁ」

 カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、意識はある。

「――――――――――――――――――――――――――――――――」

 カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、気力はない。

「――――――――――――――――――――――――――――――――」

 カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、願望はある。

「――――――――――――――――――――――――――――――――」
『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNN!!』

 無言の舞衣を乗せ、真紅に染まったカグツチが吼える。
 眼前の敵、大蛇のチャイルドに向け、怒涛の熱波を与える。

「蛙を睨んでた蛇が、一転して蛇に睨まれた蛙やなんて……笑い話にもなりまへんなぁ」

 領域の外で口惜しく観戦を続けるHiME、藤乃静留。
 彼女の姿を見ても、舞衣の心に変化はない。
 あたりまえだ。今の彼女は、心を失っているのだから。

(――――――――――――――――――――――――――――――――)

 いや、失っているのではない。
 焦げているだけだ。
 彼女の想いの力たる炎によって、精神を熱く焦がしすぎただけなのだ。

 それは鴇羽舞衣本人の意思によるものか、我が子の母を想う発揮か、神父の誘いの結果か。
 これも一つの愛の形、であることに違いない――しかし。

 彼女は代償として、心を焦がした。
 黒こげになり、いつ灰として散ってもおかしくない状態で、想うのは。

(――――――――――――――――――――――――――――Dボゥイ)
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:44:32 ID:WzKSaAHu
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:44:59 ID:nL2ZJgFj

395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:45:27 ID:WzKSaAHu
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:45:27 ID:zs1mQhFy
 
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:45:30 ID:vxlGyYkL
 
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:45:31 ID:Ylj2rdTd
 
 ただ一つだけ確かな、愛。

 ラッド・ルッソへの憎悪は、カグツチの炎で燃やし尽くした。

 ギアスによる絶対遵守の命令は、心を焦がすことで事実的に無効化した。
 廃人同然の考えぬ、どころか生きることすらせぬ者に、命令を果たす力――いや、命令に従う力はない。

 体内に巣食っていたラダム虫は……カグツチの劫火で焼き殺した。
 舞衣が抱えていた負の感情諸共、中も外も、清めの炎で全て燃やし洗った。

 カグツチの頭上に聳えるその姿は、清らかなる裸身。
 着衣も、荷物も、そして彼女を縛っていた拘束具――首輪すらも、灼熱で溶かしていた。

(―――――――――――――――――――――――ごめんね、なつき)

 竜の母は、自我を守る代償としてその身を焼き、一切の活動を我が子に託した。
 竜の子は、母の代わりに表舞台に立つことを選び、ただ母を守るためだけに羽ばたく。
 蛇の母は、自身が愛した女性への想いを証明するために、竜の子を討つ。
 蛇の子は、母の掲げる愛情を誇示するための力として、竜の子を討つ。

 これが、HiMEの戦い。

 恋情から始まった闘争と、揺れ動く友情非情。
 運命の刻を経た先に待っているのは、真なる愛情。
 光り輝く日々を目指して、戦う少女たち。

 それは、乙女の一大事。

400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:46:10 ID:WzKSaAHu
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:46:32 ID:vxlGyYkL
 
402名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:47:01 ID:WzKSaAHu
【D-4とD-5の境界線辺り/上空/二日目/深夜】
【藤乃静留@舞-HiME】
[状態]:疲労(中)、左足に打撲、左眼損傷(ほぼ失明状態、高度な治療を受ければあるいは…)、首筋に切傷、精神高揚
    螺旋力覚醒、バリアジャケット
[装備]:エレメント(薙刀)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]:
基本方針:螺旋王の力を手中に収め、なつきと再会する
1:鴇羽舞衣とカグツチを討つ。
2:邪魔な相手は容赦なく殺す。
3:邪魔にならない人間を傘下に置く。
【備考】
※「堪忍な〜」の直後辺りから参戦。
※ビクトリームとおおまかに話し合った模様。少なくともお互いの世界についての情報は交換したようです。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※静留のバリアジャケットは《嬌嫣の紫水晶》シズル・ヴィオーラ@舞-乙HiME。飛行可能。
※清姫の体内に士郎とイリヤの死体、及び首輪が取り込まれました。聖杯がどうなったのかは不明です。
※チャイルドは本来ならば高次物質化能力以外の攻撃を受け付けませんが、制限により通常の攻撃でもダメージを与えることが出来ます。


【D-5西部の市街地/上空、カグツチ頭部/二日目/深夜】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、着衣及び首輪なし、虚無状態、紅蓮の皮膜によって庇護されている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
1:(――――――――――――――――――――――――――――Dボゥイ)
※カグツチの思考
1:舞衣を守る。清姫を倒す。
[備考]
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※螺旋力半覚醒。カグツチの顕現は、螺旋力の覚醒とは別種のもの。
※体内に巣食っていたラダム虫はカグツチの炎で死滅。首輪や着衣、所持していた荷物も全て燃え尽きました。この炎は、本人には影響がありません。
※意識はありますが、自分の力で考えたり行動したりすることはできない状態です。『想う』ことだけは可能です。

※舞衣、カグツチ、清姫はD-5禁止エリア内に。静留は境界線の辺りで清姫に指示。

※ヴァッシュが所持していたナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、
 ウルフウッドが所持していたエクスカリバー@Fate/stay night、
 デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、
 ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!、はC-3の大穴付近に放置(潰された可能性アリ)。
※ウルフウッドが所持していたエクスカリバー(投影)@Fate/stay nightは、時間経過に伴い消滅。
※ビシャスが所持していたパニッシャー@トライガンは、清姫の腹の中。


 ◇ ◇ ◇

404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:47:05 ID:zs1mQhFy
 
405名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:47:43 ID:WzKSaAHu
406名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:47:46 ID:zs1mQhFy
 
407名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:47:57 ID:nL2ZJgFj

408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:48:18 ID:vxlGyYkL
 
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:48:25 ID:WzKSaAHu
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:48:44 ID:zs1mQhFy
 
411回葬――言峰綺礼 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:48:54 ID:RCpNE3iG
 地上から空に至るまでの空間を、円柱状の炎が埋め尽くす。
 色は紅蓮。円は微かに螺旋の形態を保ち、熱気は乙女の情念を具現化したような熱さ。

 鴇羽舞衣を包むのは、天壌の劫火。
 そして、彼女を包む劫火の中で、言峰綺礼は、

「 神々しくもあり、また危うくもある。この世のものとは思えぬ、幻想的な炎ではないか 」

 自身を包み込む火柱を見て、苦笑と感嘆。
 言峰が鴇羽舞衣に施した切開は、まったく予想外の結果を齎したのだ。
 予想外……ではある。が、この結果は言峰にとって無為なものではなかった。

「 素晴らしい。実に、素晴らしい 」

 右手が失われていなければ、拍手でも送りたいほどの感動。
 言峰の導きにより、鴇羽舞衣は新たなる扉を開いた。
 その証明と達成感が、愉悦となって心を打つ。

「 祝福しよう、鴇羽舞衣。君の願いは、今ようやく叶った 」

 鴇羽舞衣が抱えていた闇――ラッド・ルッソへの憎悪、体内のラダム、ギアス。
 そして――奪われる立場にいた者としての、懊悩と迷走。
 それらを吹っ切り、鴇羽舞衣の表裏に現れた――炎のように燃える乙女の本能。

「 螺旋の力ではない。それは鴇羽舞衣という存在が持つ――言うなれば、想いの力か 」

 HiME――Highly-advanced Materializing Equipmentとは、『ここではないどこか』から力を引き出し、想念を物質化させる能力者のことを言う。
 エレメントやチャイルドは、HiMEの物質化能力によって顕現した一つの形。
 では、この鴇羽舞衣を包む炎はなにか?
 答えは至ってシンプル。鴇羽舞衣が抱く想念――想いは、とても熱い。
 この情熱的な想いを体現したモノが、炎なのだ。

「 ああ、まるで陽炎のようではないか 」

 舞衣の全身が紅蓮に焼かれ、清められていく。
 煙を出さず、焦げ臭さも抑え、彼女が纏う布を全て燃やす。
 誰もが解除を夢見た魔の拘束具さえも、炎熱でドロドロに溶解する。
 束縛する物質は全て消え、そこには鴇羽舞衣という個体だけが残された。

「 人としての自然体を取り戻し、さらに中身まで焼き尽くすか 」

 紅蓮の抱擁を受ける鴇羽舞衣の奥、言峰はその存在を見据えた。
 進化と生存を望む、異星の生命体。鴇羽舞衣の中に巣食う寄生虫。
 人類滅殺を掲げる野蛮の体現者が、炎の熱気に晒され、苦しんでいる。

「 まさに、浄化の炎と言ったところか。だがそれは、大きな代償を伴う 」

 ラダム虫の断末魔が響き渡り、その怨念とともに焼却される。
 これでまた一つ、鴇羽舞衣は解放された。
 ラダムの駆除、しかしまだ終わらない。
412名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:49:47 ID:vxlGyYkL
 
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:50:09 ID:WzKSaAHu
414回葬――言峰綺礼 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:50:13 ID:RCpNE3iG
「 なるほど。ギアス……絶対遵守の王の力か。興味深い事実だ 」

 紅蓮が次に焼いたのは、鴇羽舞衣の脳細胞。
 考える力、行動する力を代償にし、想う力だけは残す。
 思慮を持たぬ、考えぬ人になれば、ギアスは適用されない。

「 鴇羽舞衣として存在は、確かに君のものだ。しかし、代価を払い切った者に、希望はない 」

 鴇羽舞衣の全姿が、神秘的な炎によって庇護されていく。
 混じり気の一切を排除し、純然たる存在として再起した彼女は、なにもせず。
 淡い紅蓮の皮膜に纏われた少女は、まるで火刑に処せられた聖女ジャンヌ・ダルクのようであった。

「 ――発つか。希望を失い、悲運と絶望に塗れた自己を、我が子の愛に委ねるか 」

 天壌の劫火から、鴇羽舞衣に唯一残されたもの、想いの力が顕現する。
 全姿すらも紅蓮に染めた竜は、鴇羽舞衣の愛の形。
 カグツチ――火の神と謳われた、伝説上の存在。

「 対するは、六つ首のヒドラか。やれやれ……神話の神がこうも集うとは。これも一種の聖杯戦争か? 」

 紫色の大蛇に襲い掛かるカグツチを見て、言峰は愉しそうに哂う。
 存在の確立を経た鴇羽舞衣の行く末と、かつてない規模の闘争。
 観察するには極上の催しだ…………しかし、

「 この先を見届けることは……私には許されまい 」

 心底残念そうな顔で、言峰は呟いた。
 彼の体は既に、カグツチの炎によって焼失してしまっている。
 対策を施す間もなく、自らが導き出した結果によって、生を終えた。

「 だが、言峰綺礼という存在はまだここに在る 」

 大きな矛盾。
 今、こうして思慮に暮れているのは、如何なるからくりなのか。
 心霊現象か、鴇羽舞衣の炎の加護か、螺旋王の計らいか、事実は知れない。
 ただ体を失っている以上、言峰綺礼の名が次の報で告げられることだけは確かだ。

「 この状態が、多くの人々が抱える死の概念に該当するかどうかは……わからぬがな 」

 言峰綺礼としての意志が、どこに向いているのかもわからない。
 天国と地獄を隔てるつもりは毛頭なく、しかし現世に留まっているとも思わない。
 ただ。
 多くの者の嘆きや悲しみが、自然と目に入る――これはひょっとしたら、神の視点なのかもしれない。
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:50:29 ID:nL2ZJgFj

416名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:50:30 ID:zs1mQhFy
 
417名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:51:04 ID:vxlGyYkL
  
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:51:20 ID:nL2ZJgFj

419名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:51:37 ID:WzKSaAHu
420名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:51:47 ID:zs1mQhFy
 
421名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:52:06 ID:WzKSaAHu
422回葬――言峰綺礼 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:52:39 ID:RCpNE3iG
そして君は、唐突に理解する。この世界の構造を

 言峰は見る。仮組みの実験場に入る、微々たる亀裂と綻びを。
 言峰は知る。この実験場が、螺旋王によって創られた、新世界の試作品だということを。
 言峰は、唐突に理解した。

そして貴様は、多元宇宙の存在に触れる。知識としての吸収を果たせ

 言峰は聞く。いつかのとき、螺旋王が他者に語っていた真相の一部を。
 言峰は逢う。もしもやifの具象化、異なる位置に在る並行世界とは別種の宇宙に。
 言峰は、多元宇宙の存在に触れた。

そしてあなたは、観察するの。愉悦の一時を味わうために、心を満たすための視点を得るの

 言峰は眺める――数多の存在たちがその身に抱き、堕ちていった絶望の形を。

 ――弟への想いを胸に宿しながら、抗いきれぬ力に突然の屈服を強いられたエドワード・エルリックの念。
 ――やさしさを求め、しかしそれが偽りだとは気づかず、不条理な暴力に沈められた柊つかさの念。
 ――刹那の再会に喜色を浮かべ、訪れた破壊の急さ加減に、それでも仲間への想いを馳せたキャロ・ル・ルシエの念。
 ――身勝手な信条と、無節操な発言の愚かしさに気づかず、終わりを強制させられたジェレミア・ゴッドバルトの念。
 ――崩壊など考えない、事実としても揺るがない、絶対の信念を不運に曲げられた枢木スザクの念。
 ――自意識の果てに終焉を見い出し、しかし退くことを覚えなかった素晴らしきヒィッツカラルドの念。
 ――生後から宿し続けた不幸の芽を、幼さゆえの浅はかさで開花させてしまったアニタ・キングの念。
 ――拳と力に訴え、拳と力に屈し、それでも最後は拳と力で貫いたシュバルツ・ブルーダーの念。
 ――天井を見据え、天元を見据えることはできず、ただアニキの幻影を追い続けたシモンの念。

 ――ひたすらに怯え続け、怯えを通り越した先から勇気を持ち出し、怯え終えたジャグジー・スプロットの念。
 ――闇に駆られ、呪言を鵜呑みにし、自身を見失った末に幸を奪われた間桐慎二の念。
 ――他者の死を恐れ、そのせいで自身の死を見据えることができなかったヨーコの念。
 ――将来を按じ、強さに憧れた心を、少年だからこその純真さに喰われたエリオ・モンディアルの念。
 ――破壊を目指し、破壊を望み、破壊だけを貫こうとした矢先、自身の脆弱さを思い知らされたクロの念。
 ――廻ってきた天啓を跳ね除け、最後まで抗うものの、逃れることのできなかったロムスカ・パロ・ウル・ラピュタの念。
 ――利己的な想いを掲げ、暴力に抗う途中で覚醒の境地に至った玖我なつきの念。
 ――不意の到来に理解を捨て、ありえなかったはずの終わりを疑問で埋めたアルフォンス・エルリックの念。
 ――二次元と三次元の狭間を知り、多元宇宙の存在に最も近かったであろう泉こなたの念。
 ――友の豹変に悲しみを覚え、ついには決断することのできなかったマース・ヒューズの念。
 ――純心すぎたからこそ、恐れや苦しみを理解しようとしない、ただただ若すぎたパズーの念。
 ――重ねた正義は未熟と危うさを孕むもの、先駆者として道を説いたロイド・アスプルンドの念。
 ――無敵という己の尊厳を誇示し、たった二つのかけがえのないもののために身を謙譲したパルコ・フォルゴレの念。
 ――ただ性格が訴える言葉を口に出し、マイペースに一人の少女を諭した木津千里の念。
 ――破綻した思考回路の端で仄かに現実を見て、それでも夢を見ることはやめなかった風浦可符香の念。
 ――喜と楽だけを飲み込み、少年の怒と哀を自然体で否定したがゆえに喰われたアイザック・ディアンの念。
423名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:52:48 ID:WzKSaAHu
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:52:53 ID:vxlGyYkL
  
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:53:57 ID:zs1mQhFy
 
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:54:22 ID:WzKSaAHu
427名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:54:58 ID:WzKSaAHu
428回葬――言峰綺礼 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:55:04 ID:RCpNE3iG
 ――欺瞞が渦巻く中、知りたいと願ってしまった心のせいで朽ち、恋しい我が家を思い出したミーの念。
 ――先生と生徒、その関係が持つ責任の重さに苦悩した末、本当の死を見た糸色望の念。
 ――本を読みたい、その基盤が数々の激情を促し、最後はある本の一説を思い絶えた読子・リードマンの念。
 ――職務に殉じる決意を持ちながら、まだ職務を終えていないからと、僅かな支えを残した剣持勇の念。
 ――変質的な求愛が砂嵐のような混乱を招き、解読不能すぎる思考の海に溺れたマオの念。
 ――女のために、男が女の前でそうするのは当然だと知っていたから、空を舞ったキールの念。
 ――慙愧の念を植えつけられ、正そうと思った頃にはもう遅く、自業自得を迎えたクアットロの念。
 ――若さとの衝突にかつての自分を重ね、ただ一人の女傑として若娘を正そうとしたドーラの念。
 ――子供に与えられた宿命について真剣に考え、ただ一人の豪傑として守護を貫いた神行太保・戴宗の念。
 ――神父の言動を発端とした迷走の末、看破できぬはずの力を看破し、愛に抱かれた八神はやての念。
 ――愛に飢え、人生を転機を迎えたところでついに愛を獲得し、愛に殉じたクレア・スタンフィールドの念。
 ――自責の念を背負い、懊悩と葛藤を繰り返し、せめて祖父の名に恥じぬようにと誓った金田一一の念。
 ――掛け替えのない人に巡り会えた喜びは悲しみに消え、悲しみを受け入れることができなかったリザ・ホークアイの念。
 ――歪められ、歪みを受け入れ、ただそれでも感情は歪まなかったロイ・マスタングの念。
 ――猛り、後悔を打ち払うようにひたすら猛り、その瞬間だけを生きたスバル・ナカジマの念。
 ――闘争に殉じ、些事に操られる馬鹿たちを嘲笑い、やはり最後も闘争に殉じたランサーの念。
 ――自分の世界に浸り、玉砕とともに一つの可能性を見たエドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世の念。

 ――兄への屈折した感情を寄生虫に委ね、だが終焉は弟として迎えた相羽シンヤの念。
 ――悲しみを否定し、幸せな未来だけを肯定したところに、不幸せの鉄槌を受けたミリア・ハーヴェントの念。
 ――宿敵を失い、代わりの復讐相手を得て、せっかくの決意は泡と消えたマタタビの念。
 ――間違いを認め、正しく行きようと誓いを込めた弾丸を、凶刃に断たれたティアナ・ランスターの念。
 ――生き方を変え、新たな一歩を踏み出した先が奈落だと察し、だが踏み込んだチェスワフ・メイエルの念。
 ――後悔や苦悩を投げ捨て、本能が告げる闘欲に没頭した、したかったアレンビー・ビアズリーの念。
 ――数々の無念を見届ける内に、理性を捻じ伏せ、また自分も無念かも知れぬ結末に走ったジェット・ブラックの念。
 ――希望も絶望もこの手には残らなかった、ならばせめてと異星の夢を願うことに暮れた高遠遙一の念。
 ――刻んだ目標の導き手と、その正当さを頑なに信じて、だからこそ想いを託したカレン・シュタットフェルトの念。
 ――走らずにはいられなかったから、正義を愛した彼を愛したイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの念。
 ――狂える正義が奪っていった数多の代償を受け止めつつも、正義を捨てることはなかった衛宮士郎の念。
 ――生と死を自分なりの思想で捉え、その考えを他者にまで押し付けたラッド・ルッソの念。
429名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:55:46 ID:zs1mQhFy
 
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:56:10 ID:vxlGyYkL
 
431名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:56:21 ID:WzKSaAHu
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:57:23 ID:zs1mQhFy
 
433回葬――言峰綺礼 ◆LXe12sNRSs :2008/04/14(月) 02:57:29 ID:RCpNE3iG
 ――――螺旋王の実験。そこで生まれた数々の絶望に触れ、言峰綺礼は己の愉悦とする。
 悩み悶える姿、死の直前で自己の存在証明を果たす者、叶わず潰える願い――ああ、愉しい……と。


「 やはり、 私は監督役のほうが 向いているよう だな…… 」


そうかも知れないね。けれど君は参加者として、この地の催しから脱落したのさ


「 ああ。 だが、無念では ない。 実に、愉しかったの だから 」


それは良かったの。言峰綺礼という存在は、それでこそ言峰綺麗礼だから


「 そうだな…… しかし、私は願いたい。 次があるなら、 私の就く座はやはり―― 」


ほう。次があるとでも思っているのかね?


「 ある……さ。 現に、この催しに 参加していること自体が、 第五次聖杯戦争の『次』 なのだから 」


そうだな……確かにそうかも知れぬ。まったく馬鹿らしいが

言峰綺礼という存在は、場所を変えても決まって偏屈者だからね

多元宇宙とはそういうもの。あなという存在は、別の宇宙で違うことをやっているかもなの


「 終焉を迎え ようという私に、 愉悦を齎してくれた のは どんな計らい だね? 」


些事さ


「 ふむ… …深く考える 必要も、ない と言うこと か 」

だってそうだろう? 異なる宇宙はどうあれ、今ここにいる言峰綺礼には――結末が訪れたんだから


「 そう だ な 」


この場に提示する必要があるのは、ただ一つの純然たる結果だけなの


【言峰綺礼@Fate/stay night 死亡】


 ※言峰が所持していた荷物は焼失。
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 02:58:16 ID:WzKSaAHu
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 03:23:07 ID:OIaSKc1U
sien
436名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 21:21:58 ID:2A/01aQW
まだいたのこいつら
437名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/15(火) 10:48:57 ID:4fghk3O/
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話し合いの続きをどうぞ
438螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:26:12 ID:eSEosnWn
全て遠き理想郷、その名を冠すべきが場所が現実に存在するとしたらその世界こそがそうなのかも知れない。
無生物を生物へと変え、自然の猛威の象徴たる台風ですら意のままに消し去る驚天の技術。
因果率さえも気ままに操り、平行世界はおろか鏡面世界やワームホール内すら自由に行き来する時空間支配。

それらをたやすく可能とする道具が実に気軽に市販されているにも関わらず、社会のバランスを崩すことなく平均以上の治安を保つ成熟した住民達。
衣料品などの販売店はほぼ完全に無人化され、街を駆け巡る道路はどれ程の高さから飛び降りようと無傷の着地を可能にする。
完全な球状に整えられた家屋の中で人々は現実と変わらぬ景色を楽しみ、無重力の中で眠る。
気象庁とは気象を予報する庁ではない、気象を決定する庁である。

時に22世紀のトーキョー。人類には最早不可能など残されてはいないかに思われた。
が、解決すべき課題がなくなった訳ではない。
例えば環境問題。許容量を超えたモノ達の氾濫は今なお大きな問題として社会に居座り続けている。
例えば科学への依存。科学は人間の生活を豊かにしたが同時に心を貧しくしたのではあるまいか、等の言説はいつの世でも同じように叫ばれている。
そして例えば……時間犯罪者。


439螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:27:42 ID:eSEosnWn



22世紀のトーキョーシティはその日も変わらず平和そのものだった。
無機質でありながら丸みのある柔らかさを失わない建物達が林立し、クルマは地はもとより空にも飛び交う。
雑然とした印象を与えかねないそれらを補うかのように、公園では余暇を楽しむ人々が暖かな時を過ごしていた。
この世界の都市の典型とも言うべき街。トーキョーシティネリマブロックススキガハラストリート。

高水準の治安が約束された街の平穏はそう簡単に破られることはない。
並大抵の犯罪者ではタイムパトロールの手を逃れて事件を起こすことなどできないと皆知っているのだ。
だから、自分達の上空に突如として円形の空間が開き、そこから翼竜を模したデザインの大型の機動船が脱兎のような勢いで飛び出したとしても……この街の平穏が乱れることはなかった。
当事者達がどうであるかはともかくとして。





「ワープ終わったぞっ!どうだ!?」
「まただ!外壁に取り付いていやがった!」
「畜生っ!化け物かよあいつは!?」
船の中、それほど広くない複座式の操縦席には真っ青になって悲鳴を挙げる二人の男がいた。

富豪然とした肥えた体格の赤ら顔の男、ドルマンスタインと目出し帽のように顔の僅かな部分のみを露出させた黒服の男。
恐竜ハンターとして数多くの恐竜を追い立ててきた彼等が、今は逆の立場へと追いやられている。
計器類はさすがにまだ危険域を示してこそいないが、外壁は姿の見えない襲撃者から執拗に加えられてる攻撃で既にぼろぼろだ。
もう一撃くらえば、航行不能になることは確実だろう。

いたぶるのを楽しんでいるとしか思えない“そいつ”は外壁からは何とか振り落としたものの、さらに追いすがってくることは間違いない。
仮にこの船が落とされたしたら、自分達は一体どうなるのか。具体的な想像はできないがろくでもない目に合わされるだろうことは不思議と自然に想像できた。

船全体が大きく揺れる。単純な操縦ミスだ。敵の姿はまだ見えない。
恐慌が深まりつつある操縦席の中、このような事態に陥るハメになった原因が大きな後悔を伴って二人の脳裏に思い返されて行った。



440螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:28:17 ID:eSEosnWn
今になって思えばそもそもの発端はあのときの映像ディスクだったのだろう。
立体映像での再生が当たり前となった現代で、再生装置を別に必要とする旧世代型のディスクだったのが印象に残っている。
奇妙に古ぼけた汚れのついたそのディスクとは、仕事の後立ち寄ったうらびれた雰囲気の酒場で出会った。

「姿が見えんぞ。撒いたのか!?」
「良く見ろ!真下から上がってきてやがる!」

恐竜ハンターとは過去で捕獲した恐竜を物好きな好事家達に高値で売りさばく密輸業の一種であり、歴史に重大な影響を与えるとして捕まれば厳罰に処される時間犯罪でもある。
世間で広く知られているように、れっきとした犯罪行為だ。
そんな仕事を二人はもう何年も続けている。手痛い目を見たこともあるが、その筋ではかなり知られたいわゆるベテランだという自負もある。
その日の仕事もそれを裏付けるかのように順調に進み、二人は見事望外の大金をせしめることに成功した。
祝杯としゃれこむべく、そのまま適当に選んだ時代と場所で見つけた酒場へと足を運び。
それが、転落の始まりとなった。

「おい、また撃ってきたぞ!」
「くそ、見たこともない道具を使いやがってぇ!」

どことも知れない薄暗い酒場には、やはりと言うか客は少なかった。
気にすることもなくカウンターに座り、普段より数ランク上の酒を注文する。
二人の他に目立った客といえば、偉そうにするのが当たり前と言わんばかりにどっかりと葉巻を加えた中年の客と、皮肉がそのまま素の表情になってしまったように口を歪ませる優男風の客の二人くらいだ。
他にもブルドックのような姿の客や全身金色のロボットの客など色々いたようにも思うが、暗い店内のさらに暗い一角に陣取っていたため確かなことは分からなかった。

しばらくは仕事の武勇伝を肴に気持ちよく酒を進めていた。
高揚した気分での酒は面白いように進み、すぐにほろ酔いとなる。そのままいけば記憶が残らないような状態になっていただろう。
そんなときに声を掛けてきたのが、にやにやとした笑みを浮かべた中年の男の客だった
馴れ馴れしい態度の男は意外と甲高い声でこう切り出した。
――おめぇさんたち、大分羽振りがよさそうじゃあねぇか。

「ぐぅ!掠めたぞ、揺らすな!」
「じゃあお前がやれってんだ!」

441螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:29:14 ID:eSEosnWn
おだてに乗って嬉々として自慢話を始める、などという無様な真似は酔っていてもさすがにしなかった。
適当にあしらおうと手を振ってあっちへ行けと示した。だがその仕草があからさま過ぎたのか、中年は構わずひっと笑うとカウンターの隣の席にどかっと腰を下ろしてしまった。
──まぁ、そう邪険にするなぁ。今はこんななりでも昔は社長って呼ばれたこともあったんだぜぇ。
続いて告げられた企業名はガルタイト、とか言ったか。
興味が無かったので良く覚えていない。トカイがどうのと言っていた気もする。
ともかく、二人に件のディスクの買い取りを持ちかけたのがその自称元社長の男だった。

「狙い撃ちだ!もう一度ワープは!?」
「まだ時間がかかる!!」

――モノが古いせいでまだ中を見れちゃあいないんだが、こいつはとびっきりだ。何せ……。
とある時間犯罪者が起こした数十人もの人間の殺人ショーを収録したディスク。
噂だけは聞いたことがあった。数年程前からちらほらと耳にするようになった噂だ。
作成者は捕まり既に死んでいるだのいないのと、いかにもな尾ひれがついた賞味期限の短い噂でしかなかったが、思えば意外と長い間囁かれていた気もする。
それもある時期を境にぱったりと聞かなくなったのだが。
――これがその最後の一つってやつだ
全く取り合わず一笑に付した。
そんな二人を嘲笑う新たな声が、背後から聞こえた。

「このままじゃ埒があかん!街に入れ!」
「ビルを盾にか!さっすが悪党ぉ!」

ドラコルルと、どこか人の神経に障る口調でその男は名乗った。そしてこれでもある惑星で結構な立場にいたこともある、と自称元社長と似たようなことを言った。
試しにじゃあなぜ今はこんなところにいるのだと聞いてみたが、ドラコルルは悔しげにガキどもが、と呟くだけで多くを語らなかった。
子供という言葉には二人にも苦い思い出がある。それ以上は触れなかった。
隣を見ると、自称元社長も何故か顔を伏せていた。
ドラコルルが顔を上げるまでには多少の時間を必要としたが、開かれたその唇には元通りの皮肉げな歪みが取り戻されていた。
──そいつは本物だよ。俺の昔の上司も持ってた。
かなりの高額で仕入れたにも関わらず、それを見る直前に消息不明になったという。

「いなくなったぞ!今度こそ引き離したか!」
「このままワープだ!!」

442螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:30:06 ID:eSEosnWn
ドラコルルがそれ以上を語らず席に戻ってしまったので真偽の程は分からなかった。人を騙しなれている口調からしてかなり誇張が含まれているように感じたのを覚えている。
が、ディスクの中身はともかく高額でという部分には惹かれるものがあった。
すぐに転売してしまえばいい。そう思い、ディスクを引き取ることにした。
自称元社長は売りたいと言うより厄介を押し付けたいとい気持ちが強かったのか、かなり足元を見た金額にも関わらず金を受け取ると安心したように元いた席へと消えて行った。
二人の手元には虚実不明の因縁が付けられたディスクだけが残った。

「あ……」
「あ……」

気が付くとそれなりに賑わっていた店内にはほとんど客がいなくなっていた。
まるで、ここでの出会いは一夜限りの幻だったとでも言うように。
気温まで低くなったように感じられた。
明け方が近くなっていたのかも知れない。
二人の恐竜ハンターは顔を見合せ、一つ身震いをすると河岸を変えるべく立ち上がった。
言葉少なに勘定を済ませ、店を後にしようとして。
──ああ、ところで……
──ああ、そうそう……
どこか早足になっていたその背中に、最後の客となった二人の男達の声が投げ掛けられた。
二人の足が吸い付けられたようにぴたりと止まった。震えてはいなかったように思う。
──言い忘れてことなんだが。
──これは聞いた話なんだが。
言われたことの意味が良く分からなかった。その時はまだ。
二人が告げてきたのは同一の内容の、ディスクに纏わるもう一つの噂だった。

「はぁ〜い。チンピラの小悪党さん達、そろそろ観念してもらえるかしら?」

曰く、そのディスクを持つもののところにはあかいあくまがやってくる、と。





443螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:31:12 ID:eSEosnWn
右手に魔術杖。身に纏う衣装は見る者の目を引く真っ赤な色。
ツインテールにしてもなお余る質感たっぷりの髪を風になびかせる妙齢の女性、遠坂凛は穏やかに笑みで脅しをかけながら内心物凄く焦っていた。

今やっていることは凛の本来の仕事とは全く関係がない。
第2魔法についての研究や、着々と押し付けられる科目数が増えてきている時計塔の講師としての仕事が本職顔負けの追走劇に関係あるはずがない。
確かに、複数の次元世界に影響を与える事態全般を取り締まる時空管理局の魔導士としての自分なら多少は関係があると言っても良いかも知れない。
だがそれも凛が手を出すことを許される範囲でならのことである。
今いる世界はまずい。というか、少々面倒くさい。

第一特例管理外世界。
忘れようにも忘れられない、そして同時に忘れたくないあの事件をきっかけに初めて時空管理局がその存在を知ることとなった次元世界。
大抵の次元世界よりは優れた技術を持ち、それ故に自らそれらを管理するという職務を負った時空管理局が、唯一その責務を放棄し存在すら秘匿としたいわくつきの世界である。
理由は、ひとえに圧倒的な技術力の差という語につきた。
管理局の数段、もしかしたら数十段先を行く次元管理能力に加え、時間すら掌握するその超技術。
魔法と見紛うばかりの、凛の世界では逆に技術が進むほど魔法は減っていくのだが、奇跡の数々に触れついに管理局はこの次元世界への一切の干渉を行わないとする決定を下した。
管理局の力が無くても十分に自衛は可能、というのが表向きの理由だ。
それはまあその通りなのだろうけど、喧嘩になったらどう頑張っても勝てない相手のご機嫌を損ないたくないというのが本当のところだろう。
少々ひねた解釈だが、凛はそう思っている。
それだけに、先方にご迷惑をお掛けした組織の下っ端にどのようなくだらないお咎めがなされるかと思うと実に面倒くさい。

(時間移動される前にちゃちゃっと済ませるつもりだったのに……はぁ、戻ったらまたリインの説教ね、これじゃ)
もはや自分に厳しくするのが意地なってきた感さえある相棒の眉がつり上がる様を想像し、心中で溜め息をつく。
どうあれ、余りことを大きくしすぎるのはまずいのだ。
時計塔とも管理局とも関係ない。凛がここにいる理由は彼女とその周囲のほんの数人しか関わらない、非常に個人的なものなのだから。

『何なんだよてめぇは!?タイムパトロールでもねぇ癖になんで俺達を狙う!』
外部スピーカーから流れる無個性な叫びを耳に素通りさせる。
別にお前達が持っているディスクがどんなえげつない経緯で作られた物で、存在を知ってからこっちそれを消滅させるためにただでさえ希少なオフの時間をどれだけ犠牲にしてきたかくどくどと説明するつもりはない。
ついでに言えばお前達の持っているそれが確認されている最後の一枚であるため、万感の思いを込めていっちょ派手にぶっ飛ばしてやろうなどとは思っていても言わない。
444螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:31:59 ID:eSEosnWn
凛は内心の感情などおくびにも出さず、肝の小さい男なら心の底から震え上がると経験上知っている笑みをにっこりと浮かべて言った。
「運が悪かったわね。一応死なないくらいに加減してあげるけど、もしものときはごめんなさい」
『な・っ・と・くできるか〜〜っ!!』
切れたのかやけくそになったのか、プテラノドンのような外観の機体で突撃を敢行してくる。分かりやすい連中だ。

バリアジャケットを風に踊らせ軽く回避し背後に回った。
乗ってる奴等は雑魚でも機体の性能は十分驚異だ。何よりどんな能力を持つか知れない道具を持ち出されるのは避けたい。
一撃で落とし、戦意を喪失させる。凛は綺麗に整えられた指をすっと構えた。
「ガンド!」
声とともに、指先から光球を撃ち出す。高速で発射されたそれは桃色を基調にしながらも、どこか灰色がかったくすみを持ち合わせていた。
北欧に伝わる呪いを魔力スフィアと融合させた、凛オリジナルの魔術。
本来の呪いの効果に加え魔力ダメージを与えることができ、さらに物理破壊も行えるとあって実戦でもそれ以外の場面でも非常に重宝している技だ。
光球はそのまま確実に翼竜の急所を撃ち抜くと思われたが、そこまで狙い通りにはいかずすんでのところで旋回されかわされてしまった。

全速で逃げようとする敵に慌てることなく、凛はその場から次々と次弾を浴びせかける。大きく弧を描く機械の竜はその殆どを生意気な高機動で回避したが、命中した分には確実にダメージを与えているという手応えがあった。
(よし、ちょろい!)
煙を上げゆっくりと高度を下げる機体に凛が心中で快哉を叫ぶ。視界の中で小さくなる翼竜の顔が焦っているようにさえ見えた。
なので、さらにだめ押しの一撃を加えることにする。

「スターライトブレイカー!一応死なない程度に行くわよ!」
『All right, my second master』
髪をかき揚げ威勢良く声を上げる凛に呼応して、右手のデバイスが形を変える。
馴染み過ぎるくらいに馴染んだ魔術杖の長距離砲撃形態。周囲に展開される円環状の魔方陣が心地よい集中をもたらしてくれる。
「カウントお願い。……これで最後なんだもの、派手にいこうじゃない」
『Yes.10……9……8……』
本来この程度の戦闘には必要のない手順を敢えて踏み、凛は何かを噛み締めるような仕草で静かに照準を定める。
おあつらえ向きに下は大きな池を湛えた公園だ。多少盛大にやっても、まぁ何とかなる。
既に親指ほどの大きさになっている小悪党どもの船を見据えながら、しかし凛は瞳の奥で別の物を見ていた。

それは思いだしたくないもない最悪の記憶だったり、今も心の奥で淡い光を放つ記憶だったりした。正負に突き出た極上の思い出は人によっては忘れてしまいたいと思うかもしれない。
だがどんな種類の記憶でも、凛にとっては等しく価値のあるもの。現在を形作る大切な自分の一部だ。決して無くしたいなんて思わない。
いくつもの出会いと別れの末に託された無限の思いの先に、今の凛はあるのだから。

『5……4……3……』
思考をクリアにする。
遮るものは、何もない。
呼吸が、清清しいほど静かに通った。

『2……1……』
錐もみに落ちていく悪夢の残り香を完全に消し去るために、凛は真っ直ぐな意思を込めて言葉を放った。

『0』
445螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:33:07 ID:eSEosnWn
「スターライト!!ブレってえええ!?」
放ちはしたが直後に目標の機体に起きた爆発はそれとは何の関わりもなかった。
プテラノドンは形を失い残骸をまき散らしながら一気に落っこちていく。どうやらさっきの魔力弾が思った以上に良いところに入っていたらしい。
しかも間の悪いことに敵は最後のあがきにワープを試みたのか、連鎖的に爆発する機体は無理やりこじ開けられた空間の中に落ち込みあっという間に消えてしまった。

「……」
後には、無駄に蓄積された魔力と行き場の失った凛の決意だけが残された。
「ねぇ……あれ帰ってこれると思う?もしくは追えると思う……?」
青筋を立てるのも何か違う気がして、実に中途半端な表情のまま馴染みのデバイスの意見を聞く。
帰ってきたのはもちろん絶望的だという内容の言葉。よしんばパイロットが助かっても機体の破損状況からして帰還は不可能。手段がない以上当然追跡もまた不可能とのことだった。
複雑、消化不良、憮然。大体そのような感情の真ん中くらいを表情に浮かべる。
いつの間にか、凛の周囲を数台のタイムマリンが取り囲んでいた。

「貴方は完全に包囲されている!速やかに武器を捨てて投降しなさい!」
いつの時代も変わらない赤色のサイレンと呼び掛けの声を聞きながら。
とりあえず凛は終わったのだと思うことにし、何故だかがっくりと肩を落とした。


その後、遠坂凛が元いた次元世界に戻るためどれ程の苦労を必要としたかは定かではない。
たとえ、あわや犯罪者の烙印を押される寸前の事態になったとしても。
たとえ、その過程で22世紀の技術に間近に触れる機会を得た彼女が結果として自身の第2魔法に関する研究を飛躍的に進めることになったとしても。
それらはみんな、全く別の話である。





446螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:34:04 ID:eSEosnWn
その日、王都テッペリンの北方1600キロの地点に突如として虚空から奇妙な物体が出現した。
最初に発見したのはその地方で人間狩りの任についていた名もなき獣人。報告が速やかに行われたこともあり、それに対する調査は迅速かつ的確に行われた。
どこか異質さを感じさせるガンメン似の機体の破損状況は酷いもので、当初は屑鉄ぐらいしか出ないのではと思われたものの、どうにか形を残していた物とその機体自身を回収し調査は終了。
その結果、それは彼等が用いるガンメンに見ためこそ似ている部分もあったが様々な部分が決定的に異なることが判明した。

他に具体的な収穫としてもたらされたのは、用途不明の道具数点と奇妙な格好をした二人のニンゲン。
地下に潜っているはずのニンゲンがそのようなところから現われた事実は驚愕をもって迎えられたと思われるが、詳細については不明。
記録にはただ、二人が訳のわからないことを叫び続け、やがて尋問に耐えられず死亡したという事実が残されているのみである。
死体は一切省みられることなくどことも知れぬ場所に放棄されたようだ。

一方、尋問で得られた言葉と回収された用途不明の道具達は打ち捨てられることもなく彼等の組織の仕組みに従い上へまた上へと回されて行った。
様々な土地で少しずつ位の高いものへと渡されていき、渡されたものもやはりそれが何なのか分からず次の者へと引き渡す。そうしたことが幾度か繰り返された。
くるくるとした連鎖の先で、やがてそれらは全ての獣人の始祖たる存在へと辿り着く。
そしてついに、未来世界の技術が螺旋の頂点に立つ王の下へと引き渡された。

「ロージェノムよ、面白い報告が上がってきておるぞ?」
「ほう……」

献上された品は数点の道具と無限の容量を持つ袋、それに古ぼけた一枚のディスク。
もしもボックス
シズメバチの巣
タイムマシン
グッスリ枕
四次元ポケット
そして精霊王ギガゾンビによって起こされたバトルロワイヤル、そのほぼ全てを記録した映像ディスク。

それらが全て螺旋王の手の中へと収められそして――。
全ての悲劇が、ここから始まる。
447螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko :2008/04/16(水) 20:34:50 ID:eSEosnWn
【多元世界の発見について】
ギガゾンビが発信していた映像を収めたディスクからバトルロワイヤル(アニ1st)及び多元世界の存在を知り、改修したもしもボックスの多元世界に関する機能を解析することで移動・干渉する技術を手に入れました。
バトルロワイヤルのルールについても前回のバトルロワイヤルを参考にしています。

【多元世界を行き来する方法について】
回収した恐竜ハンターのタイムマシンを修理し、多元世界を移動する機能を組み込んで移動手段としています。一台きりか、量産に成功しているかは不明です。

恐竜ハンターのタイムマシンのビジュアルについては
http://jp.youtube.com/watch?v=3XfmivNLRzU
の1:38あたりから。

【移動可能な多元世界の範囲について】
参加者達がいた次元・時間にはどこも問題なく移動可能と思われます。新しい世界を発見するために必要な時間は不明です。

【参加者を集めた方法について】
シズメバチの巣とぐっすり枕の機能を参考にした捕獲装置を使用。捕獲された者は強力な催眠装置で眠り、無抵抗になります。
また、デイパックには四次元ポケットの機能が使われています。

【シズメバチの巣】
風船を割るように人の怒りをしぼませるシズメバチという機械の蜂の巣。これの巣をぽんと一度叩くと解き放ち、もう一度ぽんと叩くと中に吸い込むことができる。原作では普通の蜂も吸い込んでいた。
原作コミックスでは第8巻に登場。
【グッスリまくら】
催眠装置を搭載し手にしたものを容赦なく眠らせる枕。眠らせる強さは調節が可能。
原作コミックスでは第22巻に登場。

※上記以外のドラえもん世界の道具・技術については完全に破壊されたため存在していません。
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/17(木) 01:02:24 ID:nTRPRXTH
あれ?まだいたのこいつ
449Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:13:13 ID:7/o/Vulh
轟音と共に、根本から折られたビルが倒壊した。
吹き付けられた炎の吐息によるものである。
鉄筋コンクリートが一瞬で煮立ち蒸発する超高温から、
静留の清姫はぎりぎり逃れて、カグツチの側面をとっていた。
だが、それがなんだというのか。
あの灼熱の塊を相手に、この清姫でどう戦えというのか。
最初の体当たりをしのぎきった直後はまだよかった。
だが、それから数分と経たないうちに気づかされることになる。

(炎の温度が、上がっている…?)

カグツチに噛みつきかかった清姫の頭のひとつが、わずか数秒にして原型を留めぬまでに燃え尽きた。
視界を埋め尽くし続ける紅蓮の眩さに、すでにほぼ失明状態に陥っていた静留は
おそらく全身を覆いつつあるであろう火傷すら気に留めていない。そんな余裕がないのである。
ある一定の距離に入った瞬間、人体そのものの温度が発火点に達してしまう今のカグツチを相手にしては、
いつものように清姫に騎乗するわけにもいかず、安全なところから清姫を操って戦うより他にない。
熱源から離れるように飛行を続け、逃げ回る自分自身がなんとも口惜しかった。
とはいえ、ここまでで得られた収穫もある。
あれほどの高熱でも、物体を溶かしきるまでにはさすがにタイムラグがあることを確認できていた。
そして、あのカグツチの頭上に乗った、鴇羽舞衣。
彼女自身は決して無敵ではあるまい。
現に、カグツチ自体がそこに気をつけた挙動を行っている感があるのだ。
あそこへ何かしらの物体を直撃させられれば、あるいは…

(HiMEの力は、想いの力や)

鴇羽舞衣、お前は何を賭けている。
楯か、黎人か、それとも、巧海か?
二股、三股にまたがる想いに敗北する道理などない。
自分、藤乃静留にあるのは、ただひとつ。
なつきへの想い…それ、あるのみ。
周り全てを溶かして回るようなはしたない力とは、違う。
…カグツチが、突っ込んできた。

「清姫っ」

これを待っていた。右前方に向かって清姫の前転回避。
丁字路に陣取ったのはこのためだ。
背後にあったビルへの衝突を防ぐべくカグツチはあっさり勢いを殺したが、
これをまた、静留は待っていた。

「清姫、巻き付き!」

巻き付いてどうする気か。
清姫では、カグツチに接触して数秒もすれば灰になってしまうというのに。
もちろん、そのようなことは百も承知であり。

「…ただし、そこのビルに、や」

清姫が巻き付いたのは、カグツチから見て斜め後ろに位置していた、六階建てのビル。
一階部分を締め付けられヒビを大きくしたビルが斜めに傾き、崩れ出す。
立ち止まったカグツチの頭上に向かって、だ。

「これで潰れて、くたばりよし」
450Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:14:16 ID:7/o/Vulh
カグツチは急減速の直後で方向転換もままならず、
飛翔してかわそうにも、真上はすべて当のビルで覆われる。
炎の息で溶かしてしのぐ…やれるものならやってみるがいい。
そのときは自ら作ったマグマの中で焼け死ぬことになるだけだ。
まさに回避不能、脱出不能の必殺撃。
これにて完全な詰み。チェック・メイト。
響き渡る轟音。静留に向かって照りつける熱が、大きく弱まった。
目にはほとんど見えないが充分だ。
カグツチはその猛烈な熱もろとも、瓦礫の下へと埋もれたのだ。
仮にカグツチが無傷であろうと、頭上の舞衣は潰れアンパンに相違なし。
HiMEを失ったチャイルドがどうなるのかは知らないが、普通に考えれば消滅するだろう。
消滅をせずオーファンのように人を襲って回るようになるというのならば、この際好都合だ。
どちらになろうが、これ以上ここに留まっている理由はない。

「堪忍なぁ、ふふふ…」

笑いが漏れてくる。不思議な高揚感が、さらに高まっていた。
あれほどの力を発したカグツチを、自分は今、下したのだ。
やはり、勝利するのは愛である。
殺し合いの舞台上に、すでに敵する者などいない。
愛イコール無敵、愛イコール最強。
たった今証明された、この絶対的な公式から導き出される必然だった。
さあ、征こう。
螺旋王よ、首を洗って待っているがいい。
自分はこれよりこの愛で、お前の力を手に入れる…否、上回る。
なつき以外は何もいらない自分の想いで、宇宙さえも制してみせよう。
…そのようににやけていたから、気づくのが遅れたのかもしれない。

「…?」

この場から撤収すべく清姫を手前に呼び寄せている最中、奇妙な音に気がついた。
がらがらと何かが崩れ落ちる音がしているのは、今の状況ではまったく自然なことで、気にする必要もない。
だが、そこに、シチューが少しずつ煮えてくるような、泡立つ音が聞こえてきたらどうだろう。

ぽこ、ぽこ…ぐつ、ぐつ、ぐつ…ぐらぐらぐら…

しかも、やがてそこに、先ほど失われたばかりの熱と光が次第に復活してきているとしたら。
目がほとんど見えない以上無意味とは知りつつも、思わず振り向く。
いっそ、振り向かない方がはるかにマシであっただろう。
直後、大地が爆発した。そこで素早く飛び退くことができたから直撃は免れた。
が、飛沫が顔面を直撃した。
何の飛沫か…言うまでもない、溶岩である。溶けた鉄だとかセメントの混合体である。
さしもの静留も、断末魔並の悲鳴を上げた。
彼女とて、れっきとした人間だ…何の用意もないところにこれほどの仕打ちは、いくらなんでも耐えられない。
同時に燃え上がる全身を地面に突撃させ、転がり回って消火するが消えず、
『マテリアライズ』を解除して服と髪とを消し飛ばし、再度『マテリアライズ』。
今度こそ消し止めてまた空中に飛び上がった。
焼けた岩の塊やかけらがまだ飛び交っているようだ。先ほどの爆発のいかに大規模であったことか。
生命がまだあること自体、不思議なことなのかもしれない。
この様子から見て、カグツチが消滅せずにまた暴れ始めたようだが、
鴇羽舞衣が死んだとも言い切れなくなってしまった。
溶岩に焼かれたせいで、もう完全に目が見えない。これでは確認のしようがないのだ。
今後は清姫を目として生きていくこととしておいて、今この場はカグツチから逃げるべきか。

(…違うわ)
451Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:14:54 ID:7/o/Vulh
静留は、カグツチの方角に対峙し直した。
これしきを倒せずして、螺旋王に対せようものか。
なにより、チャイルドを前に敗走することは、
自らの愛がその程度のものであったことを証明することになってしまう。
先ほどまで味わっていた高揚感の真逆だ。
清姫も立ち止まり、振り返った様子。
全身に吹き付ける熱が次第に強烈になってくる。
カグツチが全身を表わし、こちらへ向かってきたか。
よろしい、ならば何度でもぶつかってくれよう。
その炎でこの身を焼くがいい。その巨体で清姫にのしかかるがいい。
こちらは、そのさらに上を行くまでだ。

(うちの想いは…なつきへの想いは、そないなものに潰せません)

ものすごい熱が押し寄せる。
すでに炎の息を吐かれていたらしい。

「清姫、避け…」

奮い立たせた闘志はむなしいものだったのか。
次に押し寄せた暴風が、静留の意識を速やかに奪った。




************************************



牢の中、一人くの字に倒れ伏したままぼんやりと壁を見上げるのは鴇羽舞衣。
なんで、あたし、捕まったんだっけ。なんで閉じこめられてるんだっけ。
今の状況を確認しようとしてみて、少ししてやめた。
よくわからないが、そんな理由は山ほどあった気がするから。

(別に、不思議じゃないか…)

手枷と足枷とを引きずりながら、身を起こす。
陰気な小部屋だった。まさに牢だとしか言いようがない。
セメントの露出した床と壁は服越しにも容赦なく冷気を伝え、
手触りはざらついて皮膚を傷つけた。
みじめな気分にすらもならない。
ここでこんな風になっていることを、くやしいともかなしいとも感じない自分がいた。
ただ、それが当然のことだと受け止めるだけの自分が…
仰向けに寝転がる。手枷と足枷のせいで、大の字にはなれない。
よく見れば、自分は制服姿だ。風華学園一年の制服。
思えば、すべての始まりはあそこだった。
奨学金を当てにして、四国くんだりまで引っ越して。
向かう途中の船上でよくわからない乱闘に遭遇して。
その当事者二人と後で仲良くなるなんて、そのときは思ってもいなかった。
あのとき巧海も一緒にいたんだっけ…
そうだ、巧海だ。
奨学金が必要だったのは、巧海がいたからで。
巧海の面倒を自分だけで見てきたのは…
452Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:16:09 ID:7/o/Vulh
(そっか)

気がついた。
始まりは風華ではない。あの日のあの時だ。
川で遊んでいた巧海が、少し目を離した間に溺れたあの時。
あたしがちゃんと見ていれば、助けに行ったお母さんが死ぬことはなかったのだ。
父もまた、その後を追うことはなかっただろう。
なぁんだ。結局は全部、自分が引いた引き金の先に起こったことじゃないか。
あたしは自分から、不運を引き寄せ続けてきたのか。

(――ごめんなさい)

縮こまり、涙を流す。
気づかないふりをしていても、
必死であることでごまかしていても、
常に自分の背後にあり続けた…いうなれば、原罪。
鴇羽舞衣は何故、守りたかったのか?
その真相が、これだ。

(ごめんなさい、ごめんなさい…お母さん、お父さぁん……
 ごめんね…巧海ぃ…っ)

昔から、知人の励ましが辛かった。
がんばれ、えらいね、の声が重かった。
弟のためにやっていることを賞賛されるのが、嫌で嫌で仕方なかった。
なぜならそれは、単なる罪の裏返し。
ソノ手枷ト足枷ハ立派デスネ。
こんなことを言われて己の罪を誇る人間がどこにいるのか。
無意識下で舞衣は、言いしれぬ疎外感をその度に味わい続けてきたのだ。
だがもう一方で、舞衣にはその手枷と足枷しかない。
弟、巧海のために、自らの存在全てを捧げ続けてきたのだから。
それを奪われた後に残されたのは、ただ、ただ絶望。
償う途(みち)さえ奪われた嘆きの叫びが命(みこと)を焼いた。
殺し合いの舞台においては、ロイド・アスプルンドを。
シモンも、Dボゥイも、自慢の手枷の代わりでしかなかったのかもしれない。
舞衣は悟った風に、自分自身を他人事として眺めるように、そんなことを思う。

(あたしは守りたい。Dボゥイを守りたい)

…笑わせる話だ。
あたしの守りたい気持ちとやらは、結局自分の都合でしかないのに。
罪の意識から逃れたいだけの、浅はかな愛情もどき。
いつか命(みこと)は自分に聞いた。『好き』って何か、と。
少なくとも、こんな自分本位な醜さが透けて見える心のことではないはずだが。

(でも…嬉しかった)

舞衣のことを肯定も否定もせず、
ただ、支えてくれた人達を冒涜することだけは許さず。
やり直したいならやり直せばいい…そう言ってくれたDボゥイの声が、
じんわりと胸に沁みていた。

(嬉しかったから、守りたい。
 こんな気持ちは…間違い?)
453Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:16:52 ID:7/o/Vulh
誰かに教えて欲しかった。
自分がたった今すがっているこの気持ち。
これが嘘なのか、本当なのかを…



************************************




衝撃と共に、静留の意識は戻った。
三途の川を半ばまで渡りかけていたかもしれない。
むしろ、身体の半分ほどは、すでにあの世へ行ってしまったように感じられる。
動かず、痛みもほとんどない。
残された感覚は、聴覚と触覚だけ。他は何も感じない。

「き、よ…ひめ」

呼びかけた声は果たして声になっていたものだろうか。
だが、応えるように起こったうねりが、静留にその存在を気づかせた。
静留の寝そべっている地面、それこそが清姫だった。
わずかに安堵する。この子がいれば、まだ戦える。
カグツチ相手にも、決して無力ではないのだ、と。
あの熱気は去っていない。この近くにいると考えるべき。
まず、ここがどこかを調べたいところだが、目が見えないでは気にするだけ無駄だろう。
あとあと禁止エリアの警告に引っかかることができれば場所もわかる。
今は奴を、カグツチをなんとしても下してみせる。

「きよ、ひめ、いき、ますえ」

倒れたままでは様になるまいが、心だけは勇ましく指示を出す。
想いの力、消えてはいない。ここにありということを見せてやろう。
…ふと、頭に受けた鈍い痛みを思い出した。
いつか、珠洲城遥にかまされた頭突きの痛みだったか。
あのときは馬鹿らしいことを、と思ったものだったが、
今はなんとなく、あの虚勢に敬意を払ってやってもいい気がしてきた。
だが自分は、負け惜しみだけ吐いて消えゆく女ではない。

「き…よひめ、立ちよし。何してるん」

檄を飛ばすと同時に口の中から何か出てきた。
多分、血だろう。即座に吐き出し、さらなる叱咤を繰返す。
そうしてやがて、気がついた。なにやら様子がおかしいことに。

「きよ、ひめ…」

清姫から、暖かい光が立ちのぼっている。
それは衣服のほころびからこぼれていく温もりのように。

「きよひめ、きよひめっ」

清姫は動かない。
温もりが失われていく。
手の平から感じられる質感も、消滅していく。
454Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:17:40 ID:7/o/Vulh
「きよひめ、あんたが消えるわけない…
 だって、あんたはうちの、なつきの…
 なつきへの想いが消えるわけなんて、ないやろ?
 あんたはうちの想いなのに。
 おかしいわ、んなん、道理が通らんわ。
 きよひめ…きよひめぇぇぇええぇっ!!」

静留自身の身体も動かず、清姫に何もしてやれない。
してやったところでどうなるというのだろう。
チャイルドは、限界が訪れた時点で最期だ。
何をしようが、消えていくのを止めることなどできはしない。
そして、その想いが浮かばれることはなく。
倉内和也を失った日暮あかねしかり。
鴇羽巧海を失った尾久崎晶しかり。
…待て。
では何故、清姫はここにあるのか。
なつきは死んだ。だのに、何故、清姫はここにあるのか。
なつきの想いが、変わらずここにあるからではないのか。
では、何故、消える。
この程度叩きつけられただけで、何故、なつきへの想いが消えなければならない。
清姫が消えるというのなら、想いの量が足りていないということ。
だが、あるではないか。
この胸は、なつきへの愛しさ切なさで溢れかえっている!
静留は、最後の力で転がった。
転がって、地面に落っこちた。
おそらくは、清姫の眼前に。

「きよひめ…うちを、お食べ」

もう、指一本動かせはしない。
だが、なつきへの想いはここにある。

「ただし、お行儀ような」

静留は、己がチャイルドとひとつになった。




************************************




「ほほう…」

モニターから一連の戦闘を見ていた螺旋王が、にやりと笑った。
まさか、このようなことになろうとは。
まるで、藤乃静留に関する何から何まで、この光景のためにお膳立てされたかのようだった。
今、モニターに映っているのは、黒い液状の液体とも気体ともつかないものを吐き出しながら
すさまじい勢いで巨大化していく清姫の姿。
頭頂高、50m、70m、90m…止まる気配がない。黒い壁でエリア全体を塗り潰していくようだ。
螺旋王は知っている。吐き出されているそれが、聖杯の泥と呼ばれるものであることを。
『この世全ての悪』を内包した、あの空間とも物体とも言える塊は、
螺旋王にとってはアンチスパイラルが用いたデススパイラルフィールドを彷彿とさせるもの。
あれは螺旋力そのものを空間に取り込み超高密度で物質化するものであったが、
今、目にしている聖杯の泥は、螺旋力ではなく悪意そのものの物質化と言うべき。
そして悪意は決して、螺旋力と無縁のものではない。
455Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:18:27 ID:7/o/Vulh
清姫に喰われたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが秘めていた聖杯は、
ランサーのみを贄として発動できるものではなかったが、
そこへ螺旋力覚醒者…加えて、いつか英霊となる可能性を持っていた男、衛宮士郎も呑み込まれ、
さらに、自らを人身御供にただ一筋の強き想い、高純度高密度の螺旋力を捧げた藤乃静留によって、
目覚めがついに始まった、という筋書きのようだ。
そして聖杯とは、他を破壊することによって使用者の願いを叶える呪いの器。
あの藤乃静留の想い、すなわち清姫の想いが『なつきさえいれば、後は何もいらない』であるならば、
今や清姫そのものとなった聖杯は、なつきだけの世界を創り出すために他のあらゆるものを滅ぼし尽くすであろう。

「新世界創造…果たして、貴様に届くかな」

場合によっては、ラゼンガンで戦闘の渦中に降り立つも一興か。
螺旋王は肘をつき、引き続き観戦の構えに入る。
あの清姫のすぐそばに、カグツチが接近してきていた。
すなわち、鴇羽舞衣が突っ込むのは、泥の中…




************************************



「あ、あ、あ」

牢の中から引っ張り上げられた鴇羽舞衣は、気がつけば呪いの中にいた。
真っ黒い泥のような空間に、無数の顔が浮かび上がる。
恨みの形相で睨む詩帆。
不愉快そうに眉を寄せる祐一。
冷笑する黎人さん。
嘲笑する会長さん。
よそよそしい目で見てくる千絵とあおい。
泣きわめく命(みこと)。
無関心な、他人を見る目のなつき。

「…いや、嫌ぁ」

のけぞっても、見える景色は変わらない。
全てがこちらに回り込んでくるようだ。
こちらを見ながら震える雪乃が。
その隣で軽蔑と憤怒を瞳に込める執行部部長が。
冷たく見放す父と母が。

「やめて、見ないで、そんな目で…見ないでよ」

上から見下す碧先生。
小馬鹿にするようににやける奈緒。
アリッサを抱きしめ、無感情の目に敵意を込める深優。
我慢など、できない。
一瞬たりとも、できるものか。

「やだ、助けてよ…誰か、助けて。
 助けてよ、巧海、巧海ぃぃぃっ」

走り出そうとしたところで、足元に妙な感触。
下を見下ろす。そこにあったのは。
456Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:19:02 ID:7/o/Vulh
「助けて、助けてよ、お姉ちゃぁぁぁん」
「い、いやぁぁぁぁ――――っ、巧海ぃぃぃっ?」
「重いよぉ、お姉ちゃんが重いよぉぉ。
 なのに、お姉ちゃんが、いつまでたっても重いんだよぉぉ」
「ご、ごめんね、ごめんね、巧海…ゆるして、巧海」

踏みつけていた巧海の顔から、あわくって足を放す。
だが、その先でも、その先でも、そのさらに先でも。

「重いよぉぉー」
「重いよぉぉー」
「お姉ちゃんが重いよぉぉぉお」
「重いよぉぉぉぉぉぉぉ」

「嫌ぁぁぁ―――っ! 嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ」

踏みつけているのは全て、巧海の顔だった。
いつまでもいつまでも聞こえ続ける悲鳴。
自分が重たいばっかりに。
つまづいて、転げる。もちろん、巧海の顔につまづいて。
倒れた先も、巧海の顔。
すがりつくように、抱きしめた。

「ごめんね、巧海、あたし、あなたを守るから」
「近寄るなぁ!」
「ひぃぃっ?」

斬りつけてきたのは苦無(くない)。
舞衣の右手をすぱりと飛ばしたのは、巧海の男友達。
…いや、違う。HiMEの一人だった子だ。

「お前がいるから、お前がいるから巧海は苦しんだんだろ!」
「そんな、あたしは、ただ」
「黙れ! 少しでも悪いと思っているのなら、巧海の目の前から永遠に消えろ!」
「た、たくみ…そうなの…違うでしょう?
 違うって言ってよぉぉ、助けてよぉぉ」
「重いよぉぉ、お姉ちゃんが、重いぃぃ」
「…あ…たく、み…う…」

足から、一気に力が抜けた。
もう走らなくてもいいという安心感を得てしまった。
そこへのしかかってくる、顔、顔、顔。

「へぇぇー、嫌がられてたんだねー」
「なのに気づかないで、あたしエライエライ、だってー」
「あなたが巧海をちゃんと見てれば、あなたなんかに任せなかったのに」
「情けないな、こんな風に育つとは…」
「舞衣なんかに聞いたのがバカだった。
 お前なんかに兄上への気持ちがわかるわけなかったぞ」
「結局、私を見逃したのも、可哀想な自分を汚したくなかったからなんですね」
「ふん、自分可愛さか。よくも被害者面ができたものだ」
「…わっかんねぇよ、お前」
「あなたの身勝手さで、お兄ちゃんを汚さないで」
「ばぁーっかみたぁい、偽善者、いい気味」
「底が割れましたね、舞衣さん。あなたはチンケすぎる」
「ほんま、呆れたわあ」
「風華学園から、不穏分子は排除、排除よ」
457名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/21(月) 01:19:50 ID:uM5IMbLp
 
458Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:20:07 ID:7/o/Vulh

「あ、う、やめ、やめてよぉ…みんな、やめてぇ」

頭を抱える。ぶんぶん振る。
もう逃げられない。走れない。
そこへさらに顔、顔、顔。

「何が信じてもいい、だ! アニキじゃないくせに。
 俺は死んだ、もういない!」
「キミは調子に乗りすぎたねぇ〜、もうダメだと思うよ」
「カワイソーなあたしは死なない、いつか誰か助けてくれる。
 そぅお〜思ってたろぉ? 甘いぜぇ、甘いよなぁ〜?」
「だからお前はアホなのだぁ」

殺し合いの中でも、罪は重なり続けていた。
あたしなんかに、この男が責められるものだったのか。

「…Dボゥイ」

その後ろにいた気難しい顔に、声をかける。
助けを求める。

「Dボゥイ、助けてよ。
 やり直したいよ、こんなの嫌だよ」
「っはぁーい、そこまでー!」

突如として舞衣の目の前に、陽気な声と顔が立ち塞がった。
全員の罵声が止まる。見上げた先の、その顔は。

「み、碧先生!」
「みんな、よってたかってカッコ悪いよぉ?
 この子にはさぁ、たった一言だけ言ってあげればいいじゃない」
「…先生ぇ」
「辛かったよね、舞衣ちゃん。もう、いいんだよ」
「うん…うんっ」

思わず涙がにじむ。
ぽろぽろとこぼれ落ちた雫が、心を洗う。
とにかくめげるということのない、
一時は同僚、今は先生、そして仲間の一言は。


「 死 ね 」


舞衣の涙を、干からびさせた。

「あのさぁ舞衣ちゃん、じゅうななさい的にスッゴイ不思議なんだけどさぁー。
 どうしてそんなになってまで生きてられるのかなぁーって」
「碧先生、そんなことをこの子にわからせるのは酷ですよー。
 酷なだけに、こうー、頭がコックリコックリ…なんつってー」
「笑えないなぁ迫水センセ…ま、この子の勘違いっぷりほどじゃないけどさ。
 恥っずっかっしいよねぇー、死ねば助かるのにぃ」

アッハハハハハハハハ…
杉浦碧が大爆笑を始めると、波を打つように哄笑の渦が広がっていく。
誰もが、舞衣を指さして笑っている。
その中には罵声も混じった。怒声も、泣き声も混じっていた。
だが、一様に聞こえてくる声はひとつ。
459名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/21(月) 01:20:51 ID:uM5IMbLp
  
460Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:21:04 ID:7/o/Vulh

死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね



舞衣は、倒れ伏した。
その眼は光を失い、何一つ見ることはない。
もう、何も聞きたくない。感じたくない。
願うことは、もはや、ひとつ。

「殺して…
 お願い、殺して…
 誰か、殺してぇ」
「ふん、それでいいのか、お前は」

嘲笑の中、傍らに立った誰かが聞く。
もう、誰でもいい。

「いいから、殺して」
「言いたいことのひとつくらいあるだろう。
 お前らしくもない」
「もういいのよ、殺してよ。
 みんなの言う通り、あたしは、自分可愛さで誰かを踏み台にして、不幸にして…
 死んだ方がいい奴なんだから」

ぱんっ

…何も感じたくなかった頬に、しびれる痛みが走った。
胸ぐらをつかみ上げられて気づく。
その誰かが、誰なのか。

「ふざけるな!」
「…なつ、き?」
「ふざけるな…ふざけるなよ?
 お前は今、泣いているだろうがっ…
 心にもないことを、ほざくな!」

さらなる平手で吹っ飛ばされる。
尻餅をついた舞衣は顔に手をやり、気づく。
手をべったりと濡らす、透明な雫。
涙が再び、瞳の奥から湧き出し始めたことに。
周りからは相変わらずの嘲笑と、死ね、死ねの連呼。
涙が、さらに溢れ出す。

「悔しいだろう?…わかるか?
 お前は今、悔しいんだ!
 こんなくだらんことを言われて、ハイそうですかと納得する奴なのか、お前は!」
「あたしは、巧海を…」
「違う! 私の知っているお前は、違う!
 お前が心の奥底でどう思っていたかなど、知ったことじゃない。
 だがお前の自分可愛さからだったとしても、お前は弟を守っていたじゃないか!
 母さんを守れなかった私より、ずっとすごいことをお前はやってきたじゃないか!
 それをバカにされて、お前が悔しくないわけが、ないっ!」
「でも、あたし、守れなくて…」
461名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/21(月) 01:21:38 ID:uM5IMbLp
    
462Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:21:50 ID:7/o/Vulh
「何よりっ!」

なつきが、舞衣の周囲を示す。
降り注ぐ下品な笑い声と罵声とを。

「よく見ろ!
 お前が守りたかった奴等は、こいつらなのか?
 こんなつまらん奴等を守るために、お前は戦ってきたのか?
 お前の目には、私が、命(みこと)が、みんながこんな風に映っていたとでもいうのか?
 応えろっ、舞衣っ!」
「…っ、う…」

喉が、引っ張られる。
罪悪感に引っ張られる。
舌がつりそうで、動かない。
なつきが声を荒げた。

「応えろ!」
「……違うっ」

舞衣は、手をつく。膝をつく。
重たい。重たくてたまらない。
だが、立ち上がる。
立ち上がる力を、見つけた!

「違うっ!
 あたしが、あたしが守りたかったのは…あの、まぶしかった毎日!
 こんな奴等じゃ、ない!」
「だったら呼べ、お前の想いの力を、ここに!」

胸の前に腕を組む。
そうだ、守りたいものは、最初からここにあったじゃないか。
こんなにも熱く燃え盛っていたのに、気づいていなかっただけだった。
ここで見させられたまやかしとは似ても似つかない、尊いものに。
今まで忘れていた想いを、呼ぼう。


「カグツチィィィィ―――――ッッッ!!」


偽物の大群が焼け死んでいく光の中、
なつきが、やさしく微笑んで、消えた。
その後ろにあった、数え切れないほどの笑顔と共に。




************************************




暗雲を吹き飛ばした舞衣は、カグツチの頭上で清姫と相対していた。
数秒か、数分か…経過した時間はわからないが、途方もない巨大化を短時間に遂げたのは確かだった。
頭の位置はすでに頭上はるかに達し、尻尾はすでに川を埋め立て、なおも膨張はとどまらない。
もはや蛇の暗黒神である。その気になれば、この殺し合いの会場どころか、地球の表面全てを舐め尽くすだろう。

(あれが、会長さんの想い…なつきへの、想い)
463Shining days after ◆ZJTBOvEGT. :2008/04/21(月) 01:22:50 ID:7/o/Vulh
なつきは、すでに死んでいる。
失った想いの辛さは、痛いほどに知っている。
『好き』の気持ちに、嘘も本当もないからだ。
だけれど、だからこそ、許してはならないものがある。

(会長さんの想いを、あんなどす黒い塊に汚させてたまるか…)

藤乃静留が好きだったなつきを汚さないために。
なつきが好きだった藤乃静留を汚さないために。
父母のときや巧海のとき、シモンのときのように、何もできなかった自分を悔やまないために。
そして…Dボゥイの未来を、断たせないために。

「あたしは、ぶつける! 想いを、全部!」

カグツチが、ジェット形態に変形していた。
シアーズの衛星を叩き落とすために得た進化形で、藤乃静留を、みんなを守る。

「生きて、Dボゥイ! 生きて、みんな!
 …カァグツチィィィィィ――――――ッッッ!!」

火炎噴出、推進。
今の清姫から見たらあまりにも小さなカグツチが、矢じりのように胴体へめり込んだ。
貫くのではない。連れて行く。
成層圏外まで…月軌道まで…火星軌道まで…太陽系外まで…
イメージを拡大させ、パワーを増大させ…とどのつまりが、宇宙の果てまで連れて行くつもりで加速する。
もう、どこにいるかなど、わかりはしない。
どこまでも行くまでだ。
やがて、舞衣の身も心も白い光に包まれ始める―――





人間の尺度で考えるのも馬鹿らしい時間経過の後。
因果地平の彼方に達した、その純エネルギーの塊は…やがて、魁(さきがけ)の炎となる。
そう、この世の始まりは、炎で包まれていた。




【鴇羽舞衣@舞‐HiME 観測不能…死亡扱い】
【藤乃静留@舞‐HiME 死亡】


※カグツチと清姫が、会場ド真ん中の位置から結界を破壊して脱出しました。
 会場の機能に何らかの影響が発生する可能性があります。
※E−4、E−5にかけて、清姫が巨大化した影響で川沿いが水浸しになりました。
※D−4南部の建造物はほぼ全滅しています。
464名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/21(月) 01:24:33 ID:uM5IMbLp
  
465名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/21(月) 06:49:18 ID:GPynjQ1u
.














議論再開
466名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/23(水) 23:58:15 ID:Fe7BLY6j
 
467てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:16:33 ID:vUTZqIsb
「…………と、この辺りか」
「螺旋力とは――全ての根源たる始祖の力。スカー氏はそう判断された訳ですか」
「俺達の力は幾つもの多元的な流れを汲んだ全くの別物……唯一共通する項目は"ヒト"であるということ。
 アルフォンス・エルリックのように魂だけの存在も参加はしていたがな」

そこまで一息で言い切ると、スカーは小さくため息を付いた。
明智は目の前に居る褐色の肌の男の予想以上に聡明な話し振りに思わず舌を巻く。

「ショッピングモールのコンテナ、というのも有力な情報ですね」
「目星は、付いているのか」

低い声。刑務所へと帰還し、会議室に帰って来た明智とスカーは互いの情報を交換していた。
ねねねは先程まで書いていた原稿の刷り上りを確認するために席を外している。
しかし、これは中々。名簿によって彼の人柄はそれなりには把握していたつもりだったが、予想以上だ。

彼は単純に強大な力を振り回すだけの狂戦士とは明らかに一線を画す存在だ。
つまり、全てを破壊するその右腕による圧倒的な破壊力を根幹に置いた戦闘スタイルはまやかしに過ぎない。
彼は、賢い。そして自分達のグループの中に欠けていた要素をいくつも持ち合わせている。
それは純粋な武力であり、自然や天候などに関するアニミズム的な視点であり、冷酷さでもあった。

「一応は。螺旋力に関係する道具――おそらく、小早川さんの持つ『コアドリル』というアクセサリーが最もその条件に適しているかと」
「……出自は?」
「出自、ですか? おそらく、螺旋王の世界の物だと我々は認識しています」
「上等だな。その娘は今何処にいる?」
「彼女には高嶺君の下に行って貰えるようお願いしました。つまり地下にある巨大施設、そこに彼女はいます」

明智はグルリと人を詰め込めば三桁に及ぶ人員を収容可能であろう室内を見渡した。
すると部屋の隅に一箇所だけ椅子が引かれたままになっている長机があるのを発見した。
机の上にはカップに注がれたスープがほとんど手付かずのまま冷たくなっており、地味な柄の毛布が乱雑に放り出されていた。

「そして、もう一つ。"紛い物の空"ですか。大変興味深い仮説ですね」
「ああ……それが実際に上空へと至った俺が持った疑問だ。明智よ、貴様はどう考える?」

その言葉に明智が小さく反応する。
表情には一切の変化はなく、僅かながら身を捩らせた程度のリアクションだ。
当然、ある程度の考察には行き着いている。

「ループする大地。そして同時に現れる事のない月と太陽――これは、完全に盲点でしたね。
 我々のような機械に囲まれた生活を送っている人間は、自然の機微を読み取る力が退化してしまっている」
「超小規模な天球であると考えるのも難しい。厳密には昼でも月は空に浮かんでいる。ただ明るくて見え難いだけなのだからな」
「首輪を外す、以外のゲームクリアの可能性がある、と」
「空が落ちればこの空間がどうなってしまうのか、保証はない……がな」

スカーのもたらしたもう一つの情報。それはこの会場の在り方に疑問を呈するものだった。
確かに、明智達もこの地が螺旋王に創造された箱庭であるとは想定していた。

ではその空間はどのような形をしているのか? そしてどのような力を持っているのか?
破壊は可能なのか? 中の事物はどのように用意されたのか?
そこに至る確証は未だ、ない。

「つまり、この空はプラネタリウムのようなもの。仮初の星の海であるとスカー氏は考える訳ですね。ですが、」
「ああ、真っ当な方法で"天"を突き破る、と言うのは不可能だろう。
 紛い物とはいえ、空には確実に在るのだから――太陽に順ずるエネルギー体が」
「無闇に空へと飛び出しても蝋の翼を焼かれたイカロスが如く大地に堕ちていくのが関の山、と?」
468てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:17:16 ID:vUTZqIsb
確かに、この大地は偽者なのかもしれない。
しかし天から八十二名の参加者を見守り続けるその光球が、明らかに莫大な熱量を持っている事は明らかなのだ。
ここがある種の温室である、と仮定すれば自由に温度を設定する事は可能なのかもしれない。
だが空調設備はどうなっている? 冷却は? 加熱は?
そして、頬に感じたあの光の暖かさをどうやって説明するのだ?
そう。空に浮かぶ星の輝きが紛い物であるとしても、膨大な力を持った光の塊が日周を擬態した運動を行っているのは明確すぎる事実。

「ねねね先生、そしてスカー氏。螺旋力に目覚めた人間は確かに存在するのですが……現時点で首輪を外すのは多大なリスクが伴います」
「別のルートを模索するべきか。天を突き破り――太陽を堕とす手段を」
「ですね。名簿から得られる情報では……考えられる要素は約五つ、と言った所ですか」
「……言ってみろ」

明智は二つの詳細名簿に記されていた情報を自らの脳内から引っ張り出す。
時間が会った時に参加者の情報は整理し、それらを幾つかの項目に基づいて分類しておいたのだ。
しっかりと頭の中にその分析は記憶されている。

「一つ。英雄王ギルガメッシュの持つ切り札である乖離剣エアの真なる力の発露――天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)。
 一つ。史上最強のガンマン、ヴァッシュ・ザ・スタンピードがマイクロ・プラントとの融合により発射する――エンジェルアーム。
 一つ。現魔王の息子、ガッシュ・ベルとそのパートナーである高嶺君が唱える金色龍の呪文――バオウ・ザケルガ。
 一つ。鴇羽舞衣が使役する古から行われた戦姫を決定する舞踏における衛星をも打ち抜く最強のチャイルド――カグツチ。
 一つ。Dボゥイこと相羽タカヤがテッククリスタルによって変身したテッカマンブレードの放つ――ハイコートボルテッカ。
 この五つが現段階において太陽を砕くに値する――この殺し合いの参加者が持ち得る最大戦力です」

これらはあくまで『可能性』である。
Dボゥイには更にブラスター化という奥の手が残されているし、東方不敗とドモン・カッシュの放つ石破天驚拳もこれらに匹敵する力を持っているかもしれない。
騎士王アルトリアが持つ聖剣エクスカリバーやそれ以外に会場に放置された道具にも期待が掛かる。
だが、ある程度現実的な視点で考えればこれら五つが後々の鍵を握る事は明白だった。

「……なるほど。だが、螺旋王も確実に何らかの対処はしている筈だ。結界にしても一度、貼ったならば貼り直させない道理はない。
 無闇矢鱈に天を穿てば穴が空く、というのでは彼らのうちの誰かが己の全力を出せば途端に遊戯は崩壊する。
 それでは螺旋能力者の選定の場としては不十分だろう」
「ですね。何かしらのイグニッションキーとなるものが存在する事は確かでしょう」
「……難しいな。ところで、小早川ゆたかという少女はいつ戻ってくる?」
「……そういえば遅い、ですね。こちらの動きから私達が同盟を結んだ事には気付いているでしょうに」

今現在、探知機能付きの携帯電話は明智の手元にはない。
これは今頃ゆたかの手から清麿へと渡り、彼が他の参加者の動向を探るのに使用している筈だ。

そもそもスカーを戦力として確保する事は相当に分の悪い賭けだったのだ。
当然ゆたかには自分達がこれから何を行い、どのような覚悟で説得に赴くのかを話してある。
スカーに自分達が襲われるケースを想定して荷物を持たせて、清麿の所へ向かわせたのだ。


「何か問題があれば高嶺君から連絡があるとは思いますが……どうします?」
「……そうだな。ひとまず、顔合わせだけはしておくべきだろう」
「そうですね。私も一度地下の施設を見ておきたいと思っていましたし、丁度良い機会かもしれませ――なっ!?」
「これは……!」


その時、だった。突然、会議室の床に凄まじい振動が走ったのは。
469てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:18:05 ID:vUTZqIsb
ソレは丁度いい言葉で言い表すのならば、地震という自然現象と酷似していた。
だが、明らかな相違点が同時にいくつも挙げられる。
例えば揺れの幅が極めて限定的な縦揺れであるという事。そしてまるで『下方から何かが競り上がって来る』感覚である事。

「なんだ……この揺れは……!?」
「分かりません……螺旋王の造り上げたフィールドにおいて、まさか地震など……?」

そしてその揺れが非常に長い点。地面が振動を始めてから既に十秒近く経過している。
しかし、揺れの大きさは未だに全く変わらないのである。
地震が初期微動と主要動の二つの波によって構成される現象である事は非常に有名だが、大規模な地震であればあるほど初期微動は短くなる。
故にこの規模の地震が何十秒も続くなどと言う事は在り得ないのだ。考えられるケースがあるとすれば、

「下に……何かが?」
「地下の施設に異変があった……と判断するべきか」
「しかし……クッ……あそこには高嶺君と小早川さんが!」

揺れは、止まない。
前に足を踏み出そうとしても、どうしても身体がふら付いてしまう。
一体この刑務所の地下に存在するのはどのような物体なのか、明智は未だ解答を得る事が出来ずにいた。


            ▽
            
            
どうすれば、いいんだ。
清麿はそのあまりにも"アレ"な事態に頭を抱えるしかなかった。

アンチシズマドライブにノーマルシズマドライブを差し込む事、これは全くの想定外の事態だ。
この大怪球フォーグラーは通常、アンチシズマドライブを嵌め込むことによって起動する巨大ロボットである。
では逆に、ノーマルシズマをフォーグラーに組み込んだ場合はどうなるのだろう。解答は――導き出せない。

「クソッ! どうしてゆたかちゃんが……っ!」

清麿は真紅に染まった視界の中で必死に思案を巡らせる。
フォーグラーのメインルームとも言うべき、コックピットは「警告」のニュアンスを多分に含んだ赤い光に覆われている。
彩度の高い緑色だった筈のシズマ管を満たしていた液体はその色合を変え、清麿はまるでピンク色のカクテルの中に沈んでいるような錯覚を覚えた。
加えて在り得ないほどの振動。まるで大地が呼吸するかのように、フォーグラーが揺れる。

「ゆたかちゃん! ゆたかちゃん! しっかりするんだ!」

清麿はすぐさま床に倒れ伏したゆたかの下へと駆け寄る。
全参加者の名簿には一通り眼を通してある。
……年上だとは到底思えないほど、小さな身体だ。
抱き締めれば本当に折れてしまうのではないかと思うくらい、か細く心もとない存在。

完全に身体の力が抜けてしまっている彼女を抱き上げ、数度揺すってみるもまるで反応は無い。
指先から神経を通じて、彼女の柔らかい身体の感触が清麿の脳内を擽る。
どことなく良い匂いがするような気もするが、そんな余計な事を考えている場合ではない事も十分過ぎる程承知している。
今は――最善の対処法を導き出されなければならない。


「動く…………のか? アンチシズマドライブではなく、普通のシズマドライブが一本だけ。そんな状態で起動なん…………て?」


と、清麿が思った時だった。
470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:18:09 ID:xVPinQLm
 
471名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:18:36 ID:xVPinQLm
 
472名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:18:36 ID:awmmorwD
 
473てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:18:43 ID:vUTZqIsb
凄まじい音を立てて、振動していたフォーグラーの揺れが突然、ピタリと収まったのだ。
警告音も鳴り止み、シズマ管の色も黄緑色に戻る。
そう、まるで『何もなかった』かのように。
唯一の異変と言えば、メインルームの中心に位置する孔には未だ通常のシズマ管が突き刺さっているという一点のみ。


「……へ?」


思わず漏れる間抜けな声。
ぐるり、と辺りを見回してみても事実は変わらない。
先ほどまでの異変は何だったのかというぐらい、フォーグラー内部の状態は元に戻ってしまったのだ。

        
「ハハハハハ……そうだよな。まさか夢や幻じゃないんだから、そんな都合の良い事がある訳ないか!
 普通のシズマドライブで起動するんだったら、アンチシズマ管なんて必要ないしな。
 考え過ぎって事か…………だな。アハハハハハ、まるで悪い夢でも見ていたような――――ッ!!?」        

        
事件とは立て続けに起こるものなのか。よく分からない出来事は連鎖するのか。
丁度、清麿が「フォーグラーが起動する?そんな事ある訳ないじゃないですか。ゲームじゃあるまいし」的な結論を出した時だった。
『下』からではなく『上』から凄まじい音が響いたのは。       
その衝撃は断続的なフォーグラーの振動とは明らかに違う種類のものだった。

例えるならば砲弾、であろうか。
外部から飛来し一瞬の破壊をもたらした後に、炸裂する――そんなイメージだ。
明らかに異物が何処からか飛んで来たのは確実だ。地下に潜っているために正確な方向は分からないとはいえ……、
        
「上……!? どうなっている、遠距離からの射撃か……っ!?」        
                
ちらり、と何気なく握り締めていた携帯電話を一瞥する。
刑務所に存在する光点は五つ。
中心点、つまり自分とゆたか。そして少し離れた地点にスカーと明智。そして所内で単独行動をしているらしいねねね。
誰かが突撃して来た訳ではないようだが……実際に眼で見て確認してみないと詳しい事情は分からないだろう。
しかし、

「何……!? これは……!」

新たに三つ。
この刑務所に接近して来る存在を感知したとなると、話は全く変わって来るのだ。

正確には四。
だがこのレーダーは首輪の存在を読み取る物なので、道具として首輪を所持している場合は画面にもソレが反映されてしまう。
今回の場合で言えば『クロ』という参加者がその例に挙がる。彼は第二回放送でとっくに死亡しているのだから。


「ヴィラル……シャマル……そしてルルーシュ・ランペルージ……!! 畜生、こんな時に!!」

474名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:19:27 ID:awmmorwD
  
475てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:19:30 ID:vUTZqIsb
更に懸念事項は増加する。
ヴィラルとシャマルは明らかに殺し合いに乗った人間だ。
とはいえ、自分は彼らに一度遭遇しているし言葉も交わしている。
二人は悪い人間ではない……と思う。だが、それ故に何かを守るために戦っている、という事も清麿は十分に理解していた。
話せば分かってくれる、分別を持った相手ではあると思う。

だが、事態は一変した。
第四回放送の後に、主催側からの駒として会場に降り立った――怒涛のチミルフ。
詳細名簿の項目を見るに、彼はおそらくヴィラルの直属の上司と見て間違いないだろう。
ヴィラルをこちら側の戦力としてスカウトする……と言うのはほぼ難しくなったと見て間違いない。
なぜなら、チミルフとヴィラルの間で何らかのコンタクトを取る手段が設けられている筈だからだ。
先発隊と後発隊の合流、とでも考えれば都合がいいかもしれない。
レーダーに映らないチミルフが今現在彼らに同行している可能性もあるのではないか。

「……ダメだッ! これを見過ごす訳にはいかない!!」
 
清麿は携帯をポケットにしまうと、再度腕の中のゆたかの顔を眺めた。
彼女は両目を瞑り、苦しそうにその端正な顔を歪めている。 
白雪のような頬は紅色に紅潮し、明らかに体調が悪い事が見て取れる。
額に手を当ててみるが、やはり予想通りだ。相当に熱っぽい。精神的な問題ではなく、体力的な事情だろうか? 
とはいえ、イリヤや士郎の死が彼女に多大な影響を与えた事は想像に難くない。出来れば彼女の側に付いていてやりたいのだが……。
 
「ゴメン、ゆたかちゃん! すぐ戻るから!」 

ここで清麿はゆたかを一旦、フォーグラー内部に置いて行く、という選択を下す決意を固めた。
確かに今のゆたかは情緒不安定と判断してしまってもいいだろう。
が、同時に病人でもある。つまり無理に動かす事で体調を悪化させる可能性もあるのだ。
これがもし、フォーグラーに何かしらの異変が尚も健在だった場合、無理をしてでも背負っていくのだが……それ以上に今はヴィラル達の接近が重要事項であると判断したのだ。

携帯電話の首輪レーダーを使った周囲の監視は集団にとっての一大事だ。
それを、疎かにする訳にはいかない。スカーが加わったとはいえ、自分達のグループは非戦闘員ばかりなのだから。
強者に襲撃されれば一溜まりもない。
内に燻った種火よりも、外から投げ込まれる災禍の方がずっと、恐ろしい。


            ▽
            
            
476名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:20:05 ID:xVPinQLm
 
477名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:20:26 ID:awmmorwD
 
478てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:20:38 ID:vUTZqIsb
高嶺君の台詞を頭の中でゆっくりと、ゆっくりと、反芻する。

『すぐに、戻ってくる』

でも私の中にその言葉は入っては来なかった。
新しい疑問へと形を変えて心の中へと浮上……それで終わりだ。
感慨も、安堵もない。

だから、何気なく私は思った。
一体『すぐ』っていつの事なんだろうって。


一分? 五分? 十分? 一時間? もっと、それ以上? 
いつまで、私は一人っきりで居ればいいのだろう。答えてくれる相手は……誰も居なかった。


言葉は曖昧で嘘吐きだ。
好き勝手な理屈で相手を傷付けるし、気が付いたら自分を守るために事実とまるで違う話をしてしまう。

そう、嘘吐き。
それは臆病な私にとって、今一番痛い言葉なのかもしれない。
状況は十分過ぎるくらい分かっている筈なのに、私は我が身可愛さでその口を塞いでしまった。

「螺旋力、というのに心当たりがあります」って一言言うだけで良かった。
だけど、結局私は臆病なままだったのだ。両目を瞑って、何も知らない振りをした。
無知なコバヤカワユタカで在り続けた……。


殺し合いとはまるで無縁な環境で私は今まで生きて来た。
私が一番最初に出会った相手、Dボゥイさん。
彼との出会いは、確かに私を変えたと思う。
ヒィッツカラルドさんとの戦いを通して、私は少しだけ勇敢になれた気がした。
Dボゥイさんが危なくなった時、自然と動いていた私の身体……その感覚だけは本物だったと思うから。

今もほのかに残っている気がする。
掌の中にお日様を握り締めているような、暖かい気持ちが。


「き……れい」


緑色の水槽に囲まれ、私は天井を見上げる。
空は漆黒の、闇。屋内だから当たり前だけど、月も星も見えない。
私の中で強烈な熱が暴れ回っている。それはある種、諦めにも似た感情を私に抱かせる感覚だった。
元の世界で、私は嫌と言う程この熱と付き合って来たのだから。

小さくて、小さくて、くだらない私はやっぱりいつも通りだった。

479名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:20:57 ID:awmmorwD
  
480てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:21:17 ID:vUTZqIsb
「あつい……な」


炎が私の中でパチパチと音を立てて燃えているような気分。
やっぱり慣れっこだ。でも、どんなに経っても苦しみは軽くなるどころか益々大きくなるだけ。
だって、私が気分を悪くする度に皆を悲しい表情にさせるからだ。

そして、思い出す。あの夏の日、みなみちゃん達と花火を見に行った日の事を。
一人だけ具合を悪くして、倒れそうになった日の事を。


「……みなみ、ちゃん」


大好きな親友の名前が勝手に唇からこぼれ落ち、そして消えて行く。
会いたいなぁ、みなみちゃん。
みなみちゃんは今一体何処で、何をしているんだろう?

それに、どうして――

「あ……!! ……ダメ、だ……」

その時、私の頭を『絶対に考えてはならない疑問』が過ぎった。
それはある種の禁忌だった。タブーだった。
私が私であるためには、想像する事さえ許されない可能性。

何気なくみなみちゃんの顔を思い浮かべた瞬間、私の中に芽生えた問い掛け。


――――どうして、みなみちゃんはここに呼ばれなかったんだろう?


本当に……最悪だ。
みなみちゃんがこの場に居ない事を私は心の底から喜ばないといけないのに。
だって、お友達の幸せを祈るのは当たり前のことなんだから。
良かった、本当に良かった!って考えていないと――私の中の悪魔がもっともっと大きくなってしまう。
汚らしい泥のような嫌な小早川ゆたかが出て来てしまう。


「高嶺君……どうしたん……だろう」


慌てた顔をして走り去っていた高嶺君が何を悩んでいたのか、私には良く分からなかった。
何か、大変な事があった……せいぜい、想像出来てそれぐらいだ。
でも、ソレって私を置いて行かなければならないくらい、重要な事だったのかな。 
どうせなら私も連れて行ってくれれば良かったのに。そうすれば、一人きりにならずに済んだのに。

……ダメだ。

やっぱり、気付けば他の人に依存してしまっている。
だから……嫌なんだ。
本当によわっちくて、情けない――


私の大嫌いな、私。           
     

            ▽
            
             
481名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:21:46 ID:awmmorwD
  
482名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:21:47 ID:xVPinQLm
 
483てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:22:09 ID:vUTZqIsb
「明智さん!」
「高嶺君、丁度良かった。今から私達も地下へ――」
「違います! そんな場合じゃないんです!」

スカーは息を切らしながら、こちらへと走ってくる少年を冷酷な眼で見定める。
歳は十代半ば、エルリック兄弟と同じくらいだろうか。
一見、何処にでもいる普通の少年に見える――が、スカーを誤魔化す事は出来ない。

腕や首筋などに刻まれた傷痕……明らかに数多くの修羅場を潜って来た証拠だ。
筋肉の付き具合などから見て、自らの肉体を鍛えて戦う種類の戦士ではないようだが、戦場の前線に身を置く者であることは確実。

「高嶺君一度落ち着きましょう。そんなに慌てて、君らしくもない」
「あ、す……すいません。ですが、今は!」
「……そうも言っていられませんか? 話を――おっと、高嶺君。こちらがこの度我々の戦列に加わって下さったスカー氏です」
「いや、俺の事は後回しで構わない。少年、どうした。何があった?」

スカー達と清麿が出会ったのは地下へ向かうエレベーターから少し先、刑務所の正面口に近い食堂であった。
多数の受刑者達が一斉に食事を行うためか非常に広く、また同時に密閉間を感じる妙な構造となっている。
下方からの不可解な揺れもすぐさま収まり、二人はフォーグラーへと急いでいたのだが、実際、清麿の行動の方が早かった形になる。

「……要点を纏めれば、ヴィラルとシャマルがこちらに向かっています。
 彼らを追跡しているように近付いて来ているルルーシュ・ランペルージの動きも見逃せません」
「ふむ……厄介、ですね」
「それに先ほどの衝撃はいったい……?」
「南方、消防署の方角から何かが飛んで来たようですね。着弾した時点では爆発を覚悟しましたが……どうも、ソレとは違うようです」

清麿の報告に、明智は一瞬表情を曇らせたがすぐさま冷静に事態の分析を始める。
飛来した物体――順当に考えれば不発弾だろうか。おいそれと調査に出向く事も出来ない。


「映画館と同じくここを破棄するにしても、位置が近過ぎます。スカー氏との対応に追われ、準備を怠った我々のミスでしょう。
 当然、ここは引き払います。しかし、すぐさま行動に移すには後手に回り過ぎている」
「……ですね。俺達だけならまだしも、ゆたかちゃんや菫川先生が……女性の方々がいます。
 それにゆたかちゃんの状態は深刻だ。熱もあります。置いていく訳にもいかないですし……」
「ええ。彼らがここを素通りしてくれるのが最高なんですが……何らかの対処は必要でしょう」


やはり彼らの問題点は力という訳か、そうスカーは認識する。
明智、高嶺、菫川――明らかに頭脳労働を主とする人間がこのグループには集結している。
自分の力を求めたのも分かる。逆にあの時説得に失敗していた場合、確実にこの集団は全滅していたであろう事も、だ。

が、ここは退く事の出来ない場面だったのだろう。
逃げ回ってばかりでは決定的な武力を手に入れる事は出来ないと判断したか。
彼らは単純な力で言うならばあまりに脆弱だ。
銃、という武器を持っているとはいえ、相手はおそらく何かしらの修練を積んだ戦士に違いない。
覚悟も信念も、そして経験も何もかもが足りない。

――死合。
命を賭して戦う事は言葉では表せない程に重いものなのだから。
484名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:22:12 ID:v2Zhfine
485名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:22:32 ID:YXFnD6NS
 
486てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:22:32 ID:vUTZqIsb

「俺が行こう」
「スカー氏!? …………分かりました。相手は二人です。私もお供を――」
「いや……俺だけで十分だ」
「しかし!」

デイパックから銃を取り出し、自分も戦闘へと赴く事を主張した明智をスカーは戒める。
彼は元の世界で犯罪者を取り締まる仕事に就いていたらしい。
ある程度格闘術を学んでおり、銃器の取り扱いにも精通している。だが、


「――貴様は俺に何を期待している?」
「何を、ですか?」
「そうだ。俺達にはそれぞれ役割がある。螺旋王の真意へと迫る者、状況を察し適切な作戦を練る者、世界の仕組みを解析する者。
 明智健悟。貴様は俺に……何を望む?」


その程度の練度では、闘いの場に身を窶す者としてはあまりにも足りないのだ。

スカーにはこの会場の誰よりも"螺旋"を我が物にしようとする意思があった。
遠いイシュバールの惨劇で死んでいった同胞達。
その恨みを晴らす……それこそが自身の願い。何よりも優先して叶えなければならない条項。
明智達の情報力は、スカーにとってここで失うには痛過ぎる飛車角だ。

「螺旋王の実験に終止符を打ち、闇を払い天を突く剣――ソレがスカー氏に私が何よりも期待している役割です」
「では尋ねよう、明智健悟。頭脳であるお前が、剣に気遣いをする必要があるのか?」
「…………参りましたね」

明智は眼鏡の位置を直しながら、少しだけ俯き僅かながらの逡巡を行う。
清麿もグッと両の拳を握り締め、スカーを見つめている。
シン、と静まり返った夜の刑務所。印刷機が何かを刷り上げる音が残響する中、彼らの心は一つになる。


「スカー氏。任せてしまってもよろしいのでしょうか?」
「問題はない。この程度の修羅場ならば幾つも潜って来たのだから」


            ▽
            
             
487名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:22:55 ID:awmmorwD
 
488てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:23:02 ID:vUTZqIsb
気がつくと、私は地上へと向かうエレベーターの中にいた。
当たり前だけど、物凄く息が苦しい。熱があるんだ。本当なら黙って寝ていないといけない。

――――でも置いていかれるのは嫌なんでしょ?

……そうだ。あそこでジッと何もせずに居るくらいなら、息を荒くしながら散歩でもした方がマシだ。
無力なまま、誰かの帰りを待っているのは……とても辛い事だから。


Dボゥイさんと、シンヤさん。
ずっとDボゥイさんと一緒にいた私は、シンヤさんに攫われて一時期彼と行動を共にしていたことがあった。

シンヤさんは乱暴で、少しだけ怖い人だった。
他の人を傷付ける事になんの躊躇もしない人だった。んな風に感じてい
でも、私を傷付ける事だけは絶対にしなくて……少しだけ、優しい人だった。

彼は、高嶺君の知り合いに殺されたらしかった。
その事実を聞かされた時、私が何を思ったのか……実はよく覚えていない。
頭の中が真っ白になってしまって、まともに涙を流す事も出来なかったのだ。

私には理解できなかった。
シンヤさんが最期に何を思ったのか。何故、倒れた私は病院で寝ていたのか。
そして――何故、同じ場所でシンヤさんが死んでいたのか。

「また、言い訳」

ああ、やっぱり私は嘘吐きだ。
それだけの情報を与えられて、知らない振りなんて出来る訳がないのに。
ずっとずっと、答えを先送りにしていた。自分を傷付けないようにしていた。
どうでもいい。疲れた。私じゃない……何度自分に語りかけた事だろう。

何故、シンヤさんが死んだのかなんて考えるまでもない事だ。
自分を馬鹿だと、愚かだと偽って見ても自然と答えが出てしまう問題。
高嶺君も明智さんも、私を気遣ってほとんどシンヤさんの話題を出さなかった。
ほら、なんて分かりやすいんだ。


――――シンヤさんは、私を守って死んだんだ。



私は灰色の道をまるで夢遊病者のようにフラフラと蛇行しながら進んでいた。
足を小さく踏み出すだけで次の瞬間には身体が地面に吸い込まれそうになる。
一歩先は永久の闇だ。窓から見える景色は白と黒と黄金。星と空と月だけが私の身勝手な行進を見ている。


「あ……れ……?」


そんな時、目の前に奇妙な鉄の塊が転がっているのを見つけた。
489名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:23:08 ID:v2Zhfine
490名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:23:45 ID:awmmorwD
  
491名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:23:54 ID:xVPinQLm
 
492てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:23:56 ID:vUTZqIsb

それはいわば『顔』だった。
正確には顔で身体の大部分が構成されている人形、とでも言うべきか。
よく見ると近くの壁に大きな穴が空いている。
吹き込んで来る冷たい風が少しだけ気持ち良かった。火照った身体には絶好の薬だ。
もしかして、何処からか飛んで来たってことなのだろうか。

私は鉄の人形を更に凝視した。赤くて、手が付いていて、足もある。明らかに人を模した物だ。
中には人が二、三人は乗れるであろうスペース。意外と大きい。
もしかしてこれは、ゲームに出て来るような……ロボットなのかもしれない、そんな事を思った。

「……ん?」

ロボットと視線が合った瞬間、私はまるで相手が生きている人であるかのような錯覚を覚えた。
そう、まるで機械で出来た身体を持つこのロボットに意志があって、私に応えてくれたような――そんな感覚だった。
まるで夢物語だ。生きている機械なんて居る訳がないのに。

小さく頭を振って湧き上がって来た妄想を一蹴。視線はロボットの外面から内部のパネルへ向かう。
ぼんやりと、それでも何故か引っ張られるように私はその操縦席らしき部分を覗き込んだ。

「穴、かな」

外見に負けず劣らず、中も良く分からない構造をしていた。
コックピットの前面、メインパネルの中央には丸い穴のようなものが空いている。もしかして、ここに鍵を差すのだろうか?
穴の中にはグルグルと渦巻きのような溝が走っている。
そして、穴の周りには青いメーターのような物があってソレもまた渦巻き――いや、螺旋を描いていた。

「あ……」

ピンと来た。そう――コアドリルだ。
ずっと、私を守ってくれていたあのアクセサリーと丁度大きさがピッタリのような気がしたのだ。
首に紐で掛けてあったコアドリルを取り出し両者を見比べる。
……うん、悪くない。サイズも形状も上手く嵌まりそうだ。



「ここで、いいの……かな」



ポットみたいになっているロボットの外枠を掴みながら、オズオズと、それでも少しだけワクワクしながら――
私は、コアドリルをそのロボットに差し込んだ。
493名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:24:39 ID:awmmorwD
 
494てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:24:45 ID:vUTZqIsb

もしかしたら、奇跡が起こって動き出すかもしれない。
そうしたら、私はパイロットになれるのだろうか。
鍵を持っている女の子が戦闘メカの搭乗者になるのは小さい頃に見た戦隊アニメでも御馴染みの光景だ。
見るからに非現実な物体を前にして、私は子供の頃と似たような気分になっていた。

そして、思った。
――――そうすれば、皆のお荷物じゃなくなるのだろうか、と。



カチン、と音がした。








「あ……れ……?」


でも、何も起こらなかった。
多分、コアドリルはこのロボットに使うための鍵だった――これは確実だ。
でも、それだけ。パネルが光る訳でも、ロボットが動き出す訳でもなかった。
どうやら、条件が足りないらしい。さしずめ……エネルギー、といった所だろうか?

淡い期待は脆くも崩れ去った。
このロボットがあれば、皆が私を褒めてくれると思ったのに。
「すごいね!」って、暖かい笑顔で迎えてくれると思ったのに……ううん。どうせ私には初めから無理だったに決まってる。

「やっぱり、ダメなんだ」

私は名残惜しい気持ちを抑えながら、操縦席を後にした。
もうこの場所に用はないと判断したのだ。
動かない鉄屑と戯れていても虚しいだけ。コアドリルを差しっぱなしにして来た事が少しだけ気になった。
でも、私の身体は勝手にまた、夜の散歩を始めてしまう。


でも、あの道具は多分ここに刺す物なんです。
だったら私なんかが持っているよりも、ずっとずっと相応しいようにも思えます。
それに、多分私にはもう必要のない物だから。


最初から一緒にあったお守りですら、私の手にはもう馴染まなくなっていました。
私は、変わってしまったんでしょうか。



……よく、分かりません。


            ▽
 
            
495名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:25:08 ID:k4s0OnOB
 
496名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:25:28 ID:awmmorwD
 
497てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:25:50 ID:vUTZqIsb
『ヴィラルさん。本当にこっちでいいの?』
『お前らしくもないな、シャマル。よく地面を見てみろ』
『え……これは……何かが通った跡……かしら』
『だろうな。しかもコレは大分新しい……地面の乾き具合で分かる』         
『誰かが刑務所から南下した、って事?』         
『ああ。車輪の大きさから判断して、大きな乗り物という事はないだろう』         
『!! もしかして……マッハキャリバー!?』         
『シャマル? 分かるのか?』         
『サイズもピッタリ。多分魔術の素養のある人間がマッハキャリバーを使ってここを通ったんだと思います』         
『なるほど。これは……とんだ拾い物かもしれんな』         
『ええ。でもさすがヴィラルさんね。こんな地面の跡なんて私、全く気付かなかったわ』
『いや、違うぞシャマル。俺一人ではそこまで正確な分析は不可能だった。お前がいたからこそ、そこまでの真実に到達する事が出来たんだ』
『そんな……私がいたから、なんて……』


男と、女の声。

         
「クソッ……アイツら、何を考えている……ッ!!」


そして一人、彼らを背後から追跡する少年。

ルルーシュ・ランペルージは湧き上がる苛立ちを抑え切れず、思わず足元の石を蹴っ飛ばす。
カッ、という小さな音を残し、灰色の石は明後日の方向に向けて数回転がると、そのまま見えなくなった。
道は薄暗く、灯りも着いたり消えたりを繰り返す街灯ぐらいのものだ。

当然のように、その程度で彼の怒りが収まる訳もなかった。
ルルーシュの怒りは前方をイチャ付きながら移動する二人組の背中へと向けられる。


夜の闇が未だ退かぬ空の下で、ルルーシュはシャマルとヴィラルを尾行していた。
この殺し合いが始まってから、枝葉の影に身を潜め幾度となく他の人間の様子を監視する機会に出くわしたルルーシュだ。
見つかるようなヘマをやらかす訳もない。
今回の追跡行為も、現状における最上の手段と認識したまでの事である。彼の中に油断はない。

(チッ……コイツらは今がどういう状況なのか理解しているのか!? 互いに顔を赤らめている場合なのかッ!?
 ……こんな馬鹿共が生き延びて何故、スザクが死ななければならなかったのだッ!? クソッ!!)

ヴィラル達と遭遇した民家において散々二人の愛の営みを見せ付けられたルルーシュは憤慨していた。
何度、イチャつき合う馬鹿共の前に踏み込んでやろうと思ったことか。
だがルルーシュは既に数時間前、温泉において全く同じような心境へと至り、その場のテンションでギアスを使用し手痛いしっぺ返しを受けている。

(クッ……我慢しろ、ルルーシュ。今は時期ではない……強力な制限下にあるギアスは出来るならば使わない方がいい。
 これが最良、もっとも効率的なやり方だッ……)

ヴィラル達とすぐさま接触する事を逡巡の末、ルルーシュは放棄した。
当然ソレは、あの時点での接触は好機ではないと判断したゆえの選択だ。
いまいち、二人の行為に割って入る踏ん切りが付かなかった訳では決してない。
498名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:26:15 ID:xVPinQLm
 
499名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:26:28 ID:5PJi3AUn
 
500てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:26:46 ID:vUTZqIsb

ポイントは二つ。
まず、あの周辺で戦闘が行われたばかりであるという点。
あれだけ派手に周囲の建物を破壊しながら戦えば、周囲から人が集まって来る可能性は非常に高い。
『複数人に対してギアスを使用する』というテストは、ギアスの試し掛けを初めてから未だ一度も行っていない。

最初の使用時にはそれほど複雑な命令でなかったにも関わらず、ルルーシュは昏倒してしまった。
が、三回目の使用時に同程度の難易度の命令を行う事によって、新たな仮説を導き出した。
つまり――問題点はおそらく『一度に使用する人数』なのだろう。
殺し合いの特性を鑑みるに即座に生命に影響する命令にも何らかのストッパーが掛かっている可能性はあるが、この考察は大部分で的中している筈である。

加えて話術による交渉も利点が薄い。
確かにその場のテンションで行動しているのが明確な二人組を誘導する事など、自分にとっては造作もない事だ。
だが、困った事に奴らは殺し合いに乗っている。
しかもヴィラル、という男の方は加えて先ほどの放送から参戦した「怒涛のチミルフ」の部下であるというのだ。

奴の目的は――次回の放送までに、参加者を最低1人討ち取り、チミルフにその首を献上する事。
あまりにも野蛮な到達点だが、こんな会話を聞いてノコノコと奴らの前に姿を現すなど出来る筈もない。
故にある程度、事態が変わるまでルルーシュは彼らを尾行することに決めたのだ。

(誰も見ていないと安心しているのか……? いや、ただ単純にイチャつきたいのか……理解に苦しむな)

が、これは中々上等な自己防衛手段でもある。
なぜならば、突然の襲撃者に出くわした場合も、ヴィラル達が先に敵と接触する可能性の方が高いのだ。
加えてルルーシュが攻撃された場合も、初撃だけ回避すれば立ち回り次第で二人に敵を擦り付けることが出来る。
まさに一石二鳥の策略と言えるだろう。

(問題は奴らが有力な参加者を一方的に攻撃してしまう場合か……。奇襲を掛けるにしても誰と接触するのかは非常に重要だろう。
 が、シャマルとヴィラル。螺旋王の情報を多く知る二人は是非とも抑えて置きたい人材。
 隙を見てギアスを使えれば……やはりタイミングが難しい、な――――む?)

そこまで考えた所で、前方を行くヴィラルとシャマルが突然立ち止まったのだ。
ルルーシュも見つからないように、すぐさま身体を物陰へと隠し、様子を伺う。

501名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:26:57 ID:awmmorwD
 
502名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:27:09 ID:udElzyE6
503てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:27:20 ID:vUTZqIsb
「――お前達がヴィラルと、シャマルか」
「な……貴様は!?」
「……螺旋の力に覚醒して、それでも人を襲う決意を固めるか」
「ヴィラルさんっ!」
「螺旋王が配下、ヴィラル。湖の騎士シャマル……だな」


現れたのは全身を隆々とした筋肉に覆った褐色の肌の男だった。
目付きは鋭く、顔に刻まれた痛々しい傷跡が彼の歴戦の勇を証明する。
右腕に刻まれた多数の紋章は何かしらの異能の印なのか。

(奴は……カレン達の言っていた偽ゼロを襲撃した男か!? まさかこんな場所で出くわす事になるとは!!)

話だけは聞いていた。
キャンプ場を襲撃した男が糸色望と読子・リードマンを殺害した、という事実を。
しかも読子という女はスパイクを軽く凌駕する実力を持っていたらしい。
その事実だけで、彼が相当な実力者である事が伺える。

「もう一人は……いないのか? 隠れているのか?」
「ニンゲン!! 何を訳の分からない事を言っているっ!?」
「……明智を連れてこなくて正解だったな。俺としても覚醒者は保護したい――のだが、」
「ふん……話を聞くつもりはないのか。保護、だと!? ふざけるなッッ!!!」
「……すいません。私達は……二人で優勝しなければならないんです」
「やはり、そうか」

顔面に深い傷を持つ男――スカーが闘いの構えを取った。
当然のようにヴィラルとシャマルもそれぞれの獲物を持ち、戦闘に備える。
漆黒が世界を埋め尽くす中、二対一という傷の男に極めて不利な状態で戦いの幕は開こうとしている。

(何……ッ!? 俺の存在がバレている……だと!? どうなっている!?)

ルルーシュは驚愕した。なんと、男はどうやらルルーシュが近くに潜んでいる事を半ば確信しているようなのだ。
だが、不思議な事は『ルルーシュが近くにいる事』しか知らない点だ。
感知しているのは存在だけで、場所までは分からないという事だろうか。
ならば、ひとまず姿を見せずに事の次第を見守るのが最良だろう。


「行くぞ、シャマル!」
「はい、ヴィラルさん!」
「――――掛かって来い」


(スザクのようなイレギュラーな戦士……なのか? ……どちらにしろ、今出て行く訳にはいかない。
 そして考えるんだ。何故、奴はあの事を……?)


            ▽
 
            
504名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:27:24 ID:k4s0OnOB
 
505名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:27:39 ID:xVPinQLm
 
506名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:27:59 ID:k4s0OnOB
 
507名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:28:11 ID:awmmorwD
  
508てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:28:13 ID:vUTZqIsb
「ようやくか」

ガコガコと妙な音を発しながら、原稿を吐き出すこのプリンタは本当にオンボロだった。
最新のレーザー式のものであれば百枚近い印刷作業だって、数分でこなす事が出来る。
だが、このプリンタはどうだ?
スカーを説得して戻って来た時点から何度も校正作業は行っている。が、イマイチ速度が上がらない。
その理由は旧式にも程があるこのオンボロにある……と少なくともねねねは見ていた。

彼女だけがここで一人、単独行動を取っている。
考察? バトル?
そんなもんは明智と清麿とスカーに任せておけ。
自分は本を書く。文章を書く。物語を書く。それでいい。というか、それしか出来ない。

……この結論を出すまでにどれだけの時間が掛かったのかは置いておいて。

菫川ねねねは眼鏡の位置を直しながら、ある程度の確信を持てる段階まで練り上げた原稿――いわゆる最終原稿――の具合をチェックしていた。
明智達も自分がこの部屋に居る事は知っているはずだ。
緊急事態、って奴が発生する可能性もあるのでそこまでノンビリはしていられないが、その辺は抜かりは無い。
イザとなれば原稿だけ引っ掴んで逃げ出す準備は万端だ。レーダーがあるんだ。用事があればやって来るだろう、多分。


「……菫川先生。お話があります」            


こんな、具合にな。

「本当にお前はいつもいきなり現れるんだな。で、私は今度は誰を説得すりゃあいいんだ?」            

まるでコチラの作業が終わるのを待っていたかのように、絶妙なタイミングでねねねの背後からイヤミったらしい声が響いた。

「残念ながら、今回はそう易々と説得出来そうな相手ではありません」 
「……マジで新しい客かよ」            
「ええ、残念ながら」      
      
明智はポケットの中から煙草を一本取り出すと、おもむろにソレへと火を付ける。
別に重度の喫煙者という訳でもないだろうが、やけにその仕草が様になっているのは何故だろう。      
      
「菫川先生も吸われますか?」
「私は煙草なんて吸わない。……いいから話せって」
「失礼。接近しているのはヴィラル、シャマル、ルルーシュ・ランペルージの三名。
 とはいえ、首輪レーダーに引っ掛からないチミルフが彼らと行動を共にしている可能性も十分に考えられます」

一息。ケースごと明智は煙草とライターをテーブルの上にトン、と音を立てて置いた。
後で勝手に吸え、という意味だろうか。
それとも出した手前、引っ込みが付かなくなったのか。

が、どちらにしろ自分達の状況が相当に危うい事だけは理解出来た。
明智の手元には既にコイツの代名詞にすらなった気がする携帯電話が握られている。
情報があるだけに、心労も増えるって寸法だろう。

「で、明智。あんたの取った選択は?」
「……スカー氏に彼らの撃退を頼みました」
「いきなり、だな。大丈夫なのかよ?」
「彼は闘い慣れている。そして引き際も十分に弁えています。
 ガジェットドローンを渡してありますので緊急時にはソレで連絡を貰う手筈になっています」

ガジェットドローン……あのブサイクな機械の事か。ねねねは自身の脳内から、同名の物体を検索する。
なるほど、アレなら離れていてもスカーの側からこちらにコンタクトを取れる。
流石に首輪レーダーを持たせる訳にはいかなかったのだろう。苦肉の策としては上等だ。            
            
509てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:28:50 ID:vUTZqIsb
「ギアス、っていう催眠術については?」            
「当然、スカー氏には細心の注意を払うようお願いしました。幸いにもルルーシュ・ランペルージは身体能力に関しては下の下。
 事実、気絶して仲間に庇われる彼をスカー氏は見掛けているそうです。サングラスか何かがあれば良かったのですが……流石にそこまでは」 「……ま、いいんじゃないの。私はアンタ達の決定に従うし。で、これから私は何を?」
「バラバラに行動するのは好ましくありません。今、フォーグラーにいるゆたかさんを高嶺君が呼びに行っています。
 例の……会議室は分かりますか? あそこが集合地点です」
「了解。明智も一緒に?」
「ええ、合流の手筈は既に――む?」

説明している最中でも明智は携帯電話の液晶画面による監視の手を休めなかった。
普通、人と話している時に携帯を弄ってたら文句の一つも言ってやるが、今回は少々事情が違う。
首輪のついてる参加者の動きを完全に把握する事が可能なトンデモアイテムだ。
そしてマトモな戦闘力を持たない自分たちの生命線……ソレぐらいは大目に見てやる。

「どうした?」
「いえ……いくつか、不可解な反応が。鴇羽舞衣、言峰綺礼両名の首輪の反応が消滅――はともかくとして。
 どうも、小早川さんが所内を移動しているようなのです」
「はぁ? フォーグラーの中に居るんじゃなかったのか?」
「そう聞いていたので私が携帯電話を受け取ったのですが……いけませんね。入れ違いです」

額に指先を当て、明智が一瞬だけ考え込むような仕草を取った。
どうも、ゆたかが動かない事を前提に明智が携帯を持ち周囲の監視を担当した事が仇になったようだった。
今現在清麿の反応はフォーグラーの入り口近辺。
ゆたかは所内をまるで『目的地などないかのように』うろついている。
            
「菫川先生。先に会議室の方へ行っていて頂けますか」
「了解。さっさと来いよ」
「……すみません」
     
それだけ明智は言い残すと足早に部屋を出て行った。
残されたのはねねねと一応の校正を終えた原稿、そして未だギッシリと中身が詰まっている煙草のケース。
ひとまず、ねねねは明智が置いていった煙草を回収し自らのポケットの中にしまう。
流石にこれ以上の修正作業は難しいだろう。一刻も早く、襲撃者に備えなければならない。
原稿にパンチで穴を空け、綴り紐を通す。出来れば大き目の封筒などあれば最高だったが、そこまでは期待出来ないようだ。
         
さて、出発。
      
         
            ▽
            
         
510名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:29:04 ID:awmmorwD
  
511名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:29:33 ID:xVPinQLm
 
512名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:29:37 ID:k4s0OnOB
 
513てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:29:39 ID:vUTZqIsb
部屋を出て、フォーグラーとは逆方向にある会議室へと向かう道。
流石に刑務所という建物だけあって、デジタルな要素とは程遠い。
パソコンのある部屋を見つけられた時点で相当に幸福だったのだ。
そこら中から紙を掻き集めて、直筆で原稿を作る羽目にならなかったのは地獄で掴んだ蜘蛛の糸のようなものか。

刑務所の廊下は薄暗く、かび臭い。
何故か、スースーと吹き込んで来る夜風にねねねは眉を顰めた。
普通は外部への脱出を防ぐために、強固に造られている筈である。
当然、窓なども少なく開閉式ではなく大抵がはめ込み式……なのだが。

「あん?」

廊下の一部分。ぽっかりと大きな穴が空いている。
月光に照らされたその一角にごろり、と横たわる変な物体をねねねは発見した。
何かが、ある。
怪しさと違和感に満ち溢れた妙な物体が。


「……ロボ? いや、にしてもブッサイクだな……」


赤い身体、そして『顔』を象ったその形は、まるで何か他の機械とドッキングする事を前提に作られたようにしか見えない。
そう、それはどう見てもロボットだ。
金属独特のツルリとした光沢や角張った全体的なフォルム。そして見る者を圧倒するような独特の雰囲気。そして操縦シートやレバー。
明らかに人が乗り込む事を前提とした造りになっている。
とはいえ、全長はせいぜい大人一人分程。ロボットというかSF小説などに出てくる作業用ポット、とでも言った方が適切な気がする。
戦力としては到底期待出来そうにもない。        
        
        
「穴……? つか、こんなのどこから……?」        
        
        
ねねねが腕を組み、首を傾げた。
ぶっちゃけた話、彼女は校正作業に夢中になっていたあまり、ロボットが南の空から飛んで来た事に気付いていなかったのだ。
地下エレベーターの先、フォーグラー内部にいた清麿ですら察知した衝撃に、だ。

しかし彼女が知らないのは、ロボットの出自――消防署に突っ込んだ東方不敗にぶん投げられた――だけではない。
名前も、そしてこの機体が秘めいている可能性に関してもまるで無知だ。


彼女は知らない――この機体が持つ無限の可能性を。

このロボットの名前は、ラガン。
今は亡き参加者の一人、穴掘りシモンがジーハ村での作業中に発見したガンメンである。
しかし、その実態は螺旋族の開発した対アンチ=スパイラル用の機動兵器が一つ。
合体したメカを支配し、なおかつその構造をも作り変えてしまう最強のコアマシン。      
荒唐無稽、痛快無比、天上天下。
天を突くドリルを持ち、気合と根性でありとあらゆる無茶を突き通す。
そんな、銀河をも揺るがす最強のスーパーロボット――天元突破グレンラガンの中枢であった。        
            
                       
            ▽
 
 
514名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:29:46 ID:v2Zhfine
515名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:30:25 ID:awmmorwD
  
516名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:30:26 ID:k4s0OnOB
 
517名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:30:53 ID:k4s0OnOB
 
518てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:31:04 ID:vUTZqIsb
視界はもう一度、緑色に戻った。
長いエレベーターを越え、薄暗い廊下を抜けた先はシズマドライブが取り囲む特別な部屋。

適当に歩き回った挙句、結局私は元居た場所に帰って来ていた。
つまり例の巨大ロボットの中だ。緑色の試験管、そして赤い石。
フワフワと漂うような感覚はどんどん身体を埋め尽くす。
三百六十度どこを見渡しても似たような景色。頭が……変になる。

でも最後にあの変なロボットに出会ってからの記憶が、曖昧だった。
それ以降、誰にも会っていない事だけは確かとはいえ……。
だって、今のこんな私を見たら、高嶺君も菫川先生も明智さんも、絶対に怒る筈だから。

「どうして一人で出歩いたりしたんだ!?心配したんだぞ!!」って。            
私にはその問い掛けに答える事は出来ない。
理由を知りたいのは私の方だ。本当に、身勝手な話だけど。
            

黒と黄緑とそして光るパネル。床は冷たい銀色の金属。
踏み締めた床板を確かめるように、一歩一歩私はキラキラと瞬く電子機械の近くへと引寄せられていった。
ここだけが球形の部屋の中で、明らかに異色な場所だった。だって何かを操作をするような装置がある。

大怪球、フォーグラー。        
           
「高嶺君。まだ、帰ってないのかな」            
                        
冷たい部屋の中には、やっぱり高嶺君はいなかった。
多分それなりの時間が経っている筈だから、もしかして入れ違いになってしまったのかもしれない。
でも、今は誰とも会いたくない気分だった。
メインルームに入った時……本当は、少しだけ安心している自分がいた。

身体が熱くて、頭が朦朧として、どこかに休める場所はないかと辺りを見回して見る。
さっきみたいに床で横になるのは、やっぱりさすがに少しだけ気が引けた。
向かって正面に凄く立派な革張りの椅子がある。あそこなら休んでも大丈夫だろうか。
少し、私には大き過ぎる気もしたけれど。

私はゆっくりとパネルの正面に位置する椅子へと腰を降ろし、深々とその身を預けた。

こうして自分の身体の小ささを意識するともう一人思い出す人がいる。
イリヤちゃん。確か本名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
お姫様みたいに可愛らしい名前だなぁって、最初に聞いた時思ったのを覚えている。
しかも驚いた事に、本当にお城に住んでいる……本物のお姫様らしかった。

真っ白い髪に赤い瞳。
私が持っていた作り物の人形だって、ここまで完璧な美しさを持っている筈もなくて。
サラサラの髪の毛に陶磁器のように透き通った肌。歌うような声。
何もかもが完璧だった。そして彼女は、決してツクリモノのロボットでは不可能なくらい感情豊かに笑っていた。
シンヤさんが死んだ事を知らされて、茫然自失になっていた私を……励ましてくれた。

519名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:31:19 ID:xVPinQLm
 
520名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:31:34 ID:v2Zhfine
521名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:31:38 ID:awmmorwD
  
522てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:31:46 ID:vUTZqIsb
でも、イリヤちゃんはもうこの世にはいない。
大切な人を救うため――たった一人で勇敢に戦いの嵐の中へと飛び込んで行った。
そして、その背中を私も見送ったのだ。

ゾクッと、背筋を嫌な感覚が駆け上るのを感じる。
いけない、また……熱が上がって来たような気がする。

イリヤちゃんは本当に、凄い。
だって他の人の為に、自分の身を犠牲にしてまで頑張る事が出来るなんて……。


――――もしも、自分が同じ状況に置かれたら、いったい私はどんな行動を取るんだろう?


例えば、Dボゥイさんが、かがみお姉ちゃんが、高嶺君が、明智さんが、菫川先生がピンチだって事が判明して。
救い出すために、私に白羽の矢が立ったとして。


――――私は、どうするのでしょうか?


泣き出してしまうかもしれない。
情けない言い訳をしたりして逃げ出してしまうかもしれない。

少し前の私には、もう少し強い気持ちがあった筈なのに。
なんだろう。……ダメだ、心を強く持つ事が出来ない。
自分がどうしようもなくダメで、他の人に依存してばかりの情けない人間だって事実を自覚してしまったせいなのかな。

『どうして、こんなに私はダメなんだろう』

一度でもそう思い出したら歯止めが利かなくて。


そう、まるで螺旋だ。
良くない思いがグルグルと私の中で無限回廊のように廻り続ける。
DNAが螺旋構造になっている事ぐらい私だって知っている。
でも、私の中を掻き回すのはそんな……生き物としての強さなんかじゃない。絶望の、螺旋だ。

だから結局私は自暴自棄になるしかない。
今、目の前にある世界が、人間が、嫌で嫌でたまらない。
なにがどうなろうと関係ない。どうでもいい。


「ん……」


そういえば、いつの間に世界は元の色に戻ったのだろう。
確か、ぜんぶぜんぶ真っ赤になっていたような気がしたのに。
普通の電気色の照明がピカピカと部屋の中を照らす。緑色の試験管はとても綺麗だ。

でもどうしてだろう。カラーライトなんて、この部屋の中にはない。では何が赤く……?
523名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:31:56 ID:k4s0OnOB
 
524名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:32:20 ID:k4s0OnOB
 
525てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:32:21 ID:vUTZqIsb
「あ……」

ふと周囲に視線を散らすと、すぐさまその疑問は氷解した。
そう、部屋中のメロンジュースがストロベリージュースになったんだった。

そして切っ掛けは私の何気ない行動。
四つのパネルの中央に、まるで台座のように並ぶ三つの孔だ。
あそこの一つ……私がシズマドライブを差し込んだんだっけ。
その一本は未だに健在で、液体の中に浮いている赤いさくらんぼみたいな石は少しだけ美味しそうだった。

だけど、その光景はイマイチ実感が湧かないものだった。
だって孔が三つあるのに一つだけしか埋まってないなんて、何かがおかしいような気がしてならない。
何か、間違っているだろうか。
実際の所、一本差した所で何も起こらなかった。じゃあ二本は? 三本だとどうなる?

「そう……だ」

私はもう一度身体を起こすと、壁の周りに並んでいる管を二本引き抜いた。
もちろん空白を埋めるため、だ。

一つだけじゃ、可哀想だ。とても……寂しい。   
せっかくこんなに沢山周りに予備があるのに、一番大事そうに見える中央に余白があるなんてダメだ。

高嶺君が……何か言っていたような気もする。
だけど、実際何も起こらなかったのだから、大丈夫な筈だ。
それにちゃんと嵌まったって事は、そこに差し込むように造られたって考えるのが自然なような気もする。

あの、ドリルのように。


「えいっ!」
   
   
そして、私は埋まっていない二つの孔に向けて――――シズマ管を突き刺した。
カチン、と小さな音が二つ。ハッキリと私の鼓膜を揺らした。
何かがしっかりと嵌まる音。いったいどうなるのだろう、思わず私は息を呑んだ。

私は、ついさっきあの赤いロボットに拒絶されたばかりだ。
鍵を嵌め込んでも何も起こらない、そんな経験をしてすぐ……また、似たような事をしている。
自分は命を持たない機械にすら必要とされないのだろうか。
心の中が嫌な想いで一杯になる。それでも……私は誰かに認めて貰える事を求めてしまう。
だから高嶺君の言い付けも守らないで、勝手に動いている。

そして、



「あ……」



私は、勝負に勝った。


526名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:32:50 ID:awmmorwD
  
527てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:33:11 ID:vUTZqIsb
瞬間、世界がもう一度赤く染まる。
再度のレッドアウト。部屋中の緑色が一斉にその彩を変化させて行く。


そう。

右を見ても、
左を見ても、
上を見ても、
そして、前を見ても、


全部全部全部全部……血のような、炎のような、黄昏のような――――紅。




「ゆれ、てる」

床がグラグラと揺れ始める。
まるで何かが動き出すような、そんな生命の息吹にも似た少しだけ――心地良い振動だった。

しかも、今回は明らかにさっきの時と違う。

ブラックホールのように、先が見えないくらい続いていた黒い廊下のある方向からプシュッという短い音が響いた。
続けて幾つものシャッターが降りて、私が座っていたメインルームを遮蔽する。
そして、部屋は完全な半球へと変わった。


まるで何かが始まるんじゃないか、そんな事を頭の隅っこで考えます。
でも、私は少しだけ嬉しかったんです。

だって、




「……よかった」




さっきと違って……こっちのロボットはちゃーんと動いてくれたんですから。






528名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:33:13 ID:k4s0OnOB
 
529名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:33:38 ID:awmmorwD
  
530てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:33:42 ID:vUTZqIsb
「ゆたかちゃんっ!!!!」



その時、聞こえて来たのはそこにいる訳がない人の声だった。
私はビックリしてキョロキョロと辺りを見回す。
メインルームには誰もいなかった筈。誰も……帰ってこなかった筈だ。


「誰も……? え、あ……も、モニター?」


やっぱり、部屋の中には誰もいなかった。そう、声が聞こえて来たのは後ろでも横でもなくて、前。
つまり操縦席の前に展開されている4つのパネルのうちの一つ。
そこにはモニターとオーディオに付いているようなダイヤルがいくつか。
声自体は左右に置かれた外部スピーカーから流れてくるようだった。


「高嶺……くん?」


モニターに映っていたのは、学生服のシャツ姿の男の子――高嶺清麿君だった。
彼は両方の拳を固く握り締め、両目を吊り上げてこちらを睨み付けている。
凄く、怖い顔をしていた。


私は高嶺君がそんな表情をした所を見た事がありませんでした。


どうして、でしょう。
私は何かいけない事でもしてしまったのでしょうか。
でも、多分、きっと――――高嶺君はもの凄く怒っていた、それだけは確かな気持ちだった。

お腹の奥が突然、キリキリと痛み出した。

嫌だ、
怖い、

どうして高嶺君はそんな眼で私を見るのだろう。
ああ、やっぱり――――
   
   
   
私なんかが、このロボットに乗るのは相応しくないって事なのでしょうか。   
    
    
    

            ▽
        
  
531名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:33:54 ID:k4s0OnOB
 
532名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:34:12 ID:v2Zhfine
533名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:34:22 ID:xVPinQLm
 
534名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:34:26 ID:awmmorwD
  
535名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:34:27 ID:k4s0OnOB
 
536てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:34:33 ID:vUTZqIsb
「……馬鹿な」 

ヴィラルの口から漏れたのは『驚愕』の色を多分に含んだ一言だった。
傷の男、スカーとヴィラル&シャマルが戦闘を開始してから数分。
当然、油断や慢心などもなく、眼の前の的を確実に殺害するつもりで攻撃している。しかし、

「ヴィラルさんっ!」
「……分かっている。あのニンゲンは一筋縄ではいかない……」

通じない、のだ。

ヴィラルの獲物は元の世界で使用していた剣と似た具合に使用出来る大鉈。
シャマルはブーストデバイス・ケリュケイオンに援護射撃用のワルサーWA2000。
当然、戦闘開始と同時にヴィラルにはシャマルによってケリュケイオンの本来の持ち主であるキャロ・ル・ルシエのように、幾重にも補助魔法が施されている。

つまり、
『ブーストアップ・ストライクパワー』
『エンチャント・ディフェンスゲイン』
『ブーストアップ・アクセラレイション』の重ね掛けである。
       
これによって齎される加護は「攻撃」「防御」「速度」の上昇。
シャマル自身が得意とする魔法が古代ベルカ式の物であるため、ミッドチルダ式の魔法は実際不得手である。
しかし、補助専門のデバイスが存在するのはそれらの魔法に十分過ぎる効果があるためだ。
現にヴィラルの能力は相当に強化されている――筈なのだが。       
                       
「……ふむ」

褐色の大男が一歩、前へ出る。男の身体には未だ傷一つない。
それは悉くヴィラルの斬撃がスカーによって止められているため……いや『自身を破壊されないようにする』だけで精一杯だからだ。

「――ッ!!」
「クソッ!!!」

その体格に見合わないほどの俊敏さでスカーが一気に間合いを詰める。
スカーの右腕の異名は"破壊"である。
通常、錬金術とは『理解』『分解』『再構築』の三要素によって成り立っている。
スカーその右腕によって人体であろうと、無機物であろうと一瞬で"破壊"する事が出来るのだ。
            
ヴィラルは既に持っていた短剣を四本破壊されている。
防御力を強化する魔法をシャマルによって掛けられてはいるが、恐らくほとんど効果を成さないだろう。
「触れられれば必殺である」というのは、戦うものにとって恐怖の何者でもない。            

「グッ、貴様……なんだ、その力は!?」
「俺は自身について他人に語る舌など持たん」
537てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:35:30 ID:vUTZqIsb
そして、更にもう一本。
上段から振り下ろされるヴィラルの右腕を左手で掌握。そしてがら空きになった短剣を右手でもって――破壊する。
バチッ、という電撃に似た音と共に鉄製の真新しい剣は一瞬にてその形を失う。塵となって霧散。
そして、続けざまに腰の入った右回し蹴りを放つ。

「ガッ――!?」

ヴィラルは何とか左腕を動かし、スカーの蹴りから自身の身体を守る。
強烈な衝撃がガードした左腕を襲う。
痛みに顔を顰めながらも腰に差していた大鉈へとすぐさま武器を持ち替え、スカーへと振るうもやはり不発。
危険を察知したスカーは既にヴィラルの右腕の拘束を外し、一歩下がった位置にいる。

「……ならばっ!!」

武器を拳銃――S&W M38に持ち替え、距離を取ろうとしても早々上手くはいかない。
当然の如く、イシュヴァールの僧兵が修める格闘術を根幹に置いたスカーの戦闘スタイルにとって遠距離からの攻撃は天敵である。
が、破壊の右腕は何も直接触れた相手にだけ左右する訳ではないのだ。

破壊の錬金術だけを地面に雷光のように走らせ、遠隔攻撃する事も出来る。
近くの建物を破壊して攻撃する事も可能。
そして右腕だけではなく、長い脚や腕を生かした近接格闘のプロフェッショナルでもある。

例えば彼らが今戦闘している場所は道中をコンクリートによって舗装された市街地である。
周囲には幾つも大小様々な建造物が立ち並び、どちらかと言えば自然物の方が少ないほどだ。
つまり、スカーにとっては絶好の狩場、なのだ。

「なっ――!?」

故にむざむざ、離脱を許す訳もない。
スカーの錬金術は破壊する対象を単純に分ければ『無機物』と『有機物』に分類して破壊する。
銃を撃つために間合いを取ろうとしたヴィラルの足元のコンクリートを錬金術によって破壊。
そして、一足の元に――接近。

「このっ!」

ヴィラルの側にいたシャマルがワルサーWA2000のトリガーを引く。
迫る弾丸は二発。当然、完全な視認など出来る速度ではない……のだが、

「無駄だ」
 
スカーは銃を持った相手と戦う事に熟練しているのだ。
彼は国家錬金術師を殺害するために、何十人もの憲兵を殺害している。
主に、銃を武器として使用する兵士達をだ。 
銃の専門家などではなく、しかも用いる銃は数kgにも及ぶ狙撃銃……弾丸を躱す事など造作もない。

が、僅かながら体勢が崩れた。
その隙を突いてヴィラルが大鉈を振りかぶり突進してくるが――やはり、足りない。            
そもそもスカーの格闘術は単身でアメストリス軍の兵士十人分の戦力に匹敵する、とまで称されるレベルのものである。
確かにヴィラルは白兵戦においても優れた技術を有している。
しかし本来ガンメンに乗って戦闘する事が彼の本分だ。肉弾戦ではスカーには到底敵わない。


「ガアァァァッッッ!!!」


右の前蹴りがヴィラルの腹部に突き刺さる。完全に決まった。
一瞬でヴィラルは吹き飛ばされ、後方の壁に背中をしたたかに打ち付けた。
538名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:36:06 ID:v2Zhfine
539名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:36:19 ID:xVPinQLm
 
540てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:36:41 ID:vUTZqIsb
「ヴィラルさんっ! 大丈夫ですかっ!?」
「グッ……あ、ああ……」

飛ばされたヴィラルを心配してから、シャマルが顔を真っ青にしながら彼へと駆け寄る。
その背中は非常に無防備で、彼女が殺し合いに乗っている事を疑いたくなる程だった。
だが、スカーは――追わない。
止むを得ない場合は殺す。しかし、彼らの持つ情報は非常に有用だ。出来る限り生かして捉えたい所だ。
それに螺旋の力に目覚めた者を殺害するのは忍びない。
そして、


「……さて。そろそろ出て来てはどうだ、"ルルーシュ・ランペルージ"よ。
 見ているのだろう、お前が何を考えているのか分からんが……この二人はそう長くは持たんぞ」


スカーは辺りを見回しながら、未だ姿を見せない人物へと呼びかける。

――ルルーシュ・ランペルージ。黒の騎士団というレジスタンス組織を率いる若き革命者。
彼がヴィラルとシャマルの二人を尾行している事実は明智から前もって知らされている。
確実に、まだこの辺りにいる筈なのだ。


「ふむ。どうやら、かくれんぼはお気に召さないようだな」


石塀を背に尻餅を付くヴィラル、寄り添うシャマル。二人を威圧するスカー。そして、四人目――
カッ、とコンクリートの地面を硬い靴底で蹴る音。
漆黒の闇、黄金色の月。
カチカチと点滅する古めかしい街灯の光に照らされ、一人の少年が姿を現した。

「こ、子供……?」
「とはいえ、この二人はよくやってくれた方だな。予想外なまでに役目は果たしてくれた。状況を分析するには十分だったな」
「……ほう」
「しかし……どういう事だ? 俺の位置だけでなく、名前まで把握しているとは?
 いかに卓越した戦士であろうと、そこまでの情報を間接的に収集する事が出来るとは思えない。
 気配を探る、程度ではまるで不全だ。では特別な索敵能力でも持っているのか?
 そうだ……俺だけでなく、この二人の名前も"初めから"知っていたのだったな? 確かにこの二人は何度も互いに名前を呼び合っている。
 しかし、俺が最後に名前を呼ばれたのは少なくとも"奴ら"と別れる前後だ。つまり約六時間ほど前……。
 それではその段階から既に俺達を尾行していた? 違うな。それではこのタイミングで接触して来た理由が説明出来ない。
 やはり貴様のその台詞には、何らかの確固たる自信が感じられる。酷く、確証めいた何かが……」


彼ら三人の戦士を尻目に、少年――ルルーシュは悠然とした足取りで闇夜を闊歩する。
まるで詩でも詠んでいるかのようだ、とスカーは思った。
その場にいる人間に向けて自らの推理を披露するかのように、彼は言葉を重ねる。


「加えて貴様の戦い方も不可解だ。既に二人の人間を躊躇なく殺害しているようには到底見えない。
 まるでわざわざ『殺さないように』手を抜いている。そう、俺には感じられてならない。
 心変わりでもしたか? ククク……それこそ、馬鹿げた問答だな。
 そして明智という名前。ふむ、こちらは参加者の一人である明智健悟と見て間違いないか。
 まるでこちらの戦力を見極めた結果、単独で俺達を出迎えに来たような口振りだったな。
 またヴィラルが螺旋王の配下である事、そしてシャマルの異名。どちらもそう簡単には入手出来ない情報だ。つまり、」

541名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:37:20 ID:awmmorwD
  
542名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:37:22 ID:YXFnD6NS
  
543名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:37:34 ID:k4s0OnOB
544てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:37:39 ID:vUTZqIsb
ルルーシュはゼロのマントだけを学生服の上に羽織り、自らの仮説を展開する。
仮面は――付けていない。
当然、その選択一つにも意味がある。ゼロの仮面にはギアスを使用するための独立開閉機能が組み込まれている。
しかし、その事実を把握しているのはこの場ではルルーシュ本人のみ。
重要なのはあくまで『ルルーシュの顔をこの場で晒す』ただその一点。
彼が今から行う誘導において、素顔を偽る事は利をもたらさない。


「仮説は二つ。少なくとも貴様の仲間には広範囲の索敵能力、もしくはソレに順ずる能力者がいる。
 加えてこちらの内情を理解する手段……ふむ、考え難いが精神感応能力(テレパス)……か?
 紙を自由自在に操る者、妙な光線を発射する者、槍で空を飛翔する者。……ああ、全てを破壊する者。貴様もそうだったな。
 他にも常識から外れた異能者が存在することは想像に難くないだろう。
 ああ、そうだ。そして、何よりもこの説を補強する事実がある――――」


ルルーシュが口元をニタリ、と歪ませた。
明確な論理の核へと彼が到達した事を匂わせる特徴的な動作だ。
大きくルルーシュは両手を広げると、片手で自らの左目を抑えながら呟いた。


「傷の男よ。貴様、何故――俺の"眼"を見ようとしない?」


彼の持つギアス――絶対遵守の力。
発動条件は「互いの眼を合わせる事」だ。

そう、スカーはルルーシュが現れてから一度も彼の顔を見ようとはしなかった。

明智達が『詳細名簿から入手した情報』はスカーにも知らされていた。
眼と眼、つまり視覚情報を通して相手を催眠状態へと陥らせる魔眼……それこそが、ルルーシュの力である。
ならば、敵対する筈のスカーがおいそれとルルーシュを見る事など出来る筈がなかった。
そしてその事実こそがルルーシュに分析材料を与えてしまったのである。

(……ミス、か?)

スカーは厳しい目付きのまま、自らの失敗を呪った。
未だ、誰にもその正体には到達していないとルルーシュが判断しているらしいその力を、自分が知っている。
つまりそれによって――

ルルーシュは確信する――己の詳細な情報が外部に漏れている、という事実に。


            ▽
            
545名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:38:09 ID:xVPinQLm
 
546名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:38:32 ID:awmmorwD
 
547てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:38:33 ID:vUTZqIsb
「…………妙、ですね」

明智はレーダー機能を搭載した携帯電話を操作しながら、清麿との合流を目指していた。
が、同時に周囲の状況を分析することも欠かせない。
このグループを統率する明智が持つ最大手とは圧倒的な情報量に裏付けされた周囲の参加者の掌握にある。

力のある相手との戦いを避け、確実に戦力となる人間を自らのグループに組み込む。
単純なようで、非常に骨の要る作業だ。
まず現在の明智達の集団は全部で五名の人間によって構成される。
メンバーは明智健悟、高嶺清麿、菫川ねねね、小早川ゆたか、スカーの五名だ。

それぞれの能力もバランスが取れてはいるが、比率的に言えば確実に戦闘要員が足りない。
実質、スカー一人だけが他の参加者と渡り合うだけの実力を持っている。
明智も銃の扱いは人並み以上ではあるが、純粋な戦闘となれば分が悪い。
清麿はガッシュ、もしくはビクトリームという"魔物"の知り合いと合流出来れば強力な力を発揮する事が出来るがやはり足りない。
ねねねは男勝りで勝気な性格ではあるが、戦いには向かない。
ゆたかに関しては、戦わせるなど持っての他である。

(外で交戦中のスカー氏の方は……どうやら、様子を伺っていたルルーシュが戦闘に介入したようですね。
 寄り添うシャマルとヴィラルの横を通り過ぎて……やはり三人は手を組んでいる、という可能性が強いようですね。
 となると、一人だけヴィラル達から離れて行動してたルルーシュの支配下に既に彼らは置かれている……というパターンが妥当でしょうか。
 傀儡、という訳ですか。ソレはつまり、集団を率いた戦闘に熟練した彼にとっては絶好の駒。……いけませんね)

明智はその時点での状況を確認しつつ、ソレらを携帯電話の『テキスト帳機能』を用いて記録していく。
当然、彼の頭脳ならば一度把握した状況であれば、大概思い出せるとはいえ、他人に説明する時に関して言えば不便と言わざるを得ない。
大勢の人間にレーダーの動きを説明するには、観測者である自分がソレを文字として記しておくのが最良だ。
今は刑務所内を移動しているため、紙に書き記すのは困難。故の緊急策である。

(そして問題の所内……小早川さんと高嶺君が地下のフォーグラー内。
 菫川先生は汎用口近くの廊下で立ち止まって……妙ですね、確かに会議室へ向かうよう伝えた筈なのですが。
 ……まあ、いいでしょう。それ以上におかしいのは小早川さんだ。
 私が印刷室で菫川先生と接触していた際の配置は『小早川さん=エレベーター近くの廊下』『高嶺君=フォーグラー内部』でした。
 その後入れ違うように彼女は再度、フォーグラー内へと移動……そして、おそらく中核。ここで立ち止まりました。
 ここからが問題です。その後、どうやら地下へと降りた筈の高嶺君が『小早川さんと接触しようとしない』のは何故なのでしょうか。
 彼の立ち位置は以前の推測から察するに、エレベーターとフォーグラーを結ぶ通路の途中。何故、このような半端な場所で?
 しかし依然、両者は立ち止まったまま……彼女を呼びに行った高嶺君がアクションに移らないのはあまりに異様…………いや?)

そこまで推察して、明智の足が止まった。
彼も現在は地下に集まった二人の少年少女を迎えに行くため、そして一度フォーグラーを確認するため地下エレベーターへと向かっていた。

「まさか……!!」

頭を過ぎる一つの可能性――――最悪のパターンである。
そして、明智はすぐさま走り出した。先ほどまでの早歩きではない。完全なる全力疾走の形で、だ。

(これは……もしや……!! 『両者の間に何かしらの遮蔽物がある』というケースではッ!?
 つまり、フォーグラーが発進態勢に入った……という仮説。
 両者がフォーグラーの装甲を隔てて会話していると推察すれば、全ての辻褄が合う。いけないっ……!!)

フォーグラーの内部でゆたかが何らかの操作を行い、誤ってこの機神を起動させた――絶対にありえない話では、ない。

(急がなければ……!! このままでは取り返しのつかない事に……!!)


            ▽

548名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:38:40 ID:v2Zhfine
549名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:38:56 ID:k4s0OnOB
550名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:39:11 ID:YXFnD6NS
 
551名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:39:36 ID:ZeBny/oK
 
552名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:39:50 ID:awmmorwD
  
553てのひらのたいよう(中編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:39:53 ID:vUTZqIsb
――怒っているとかいないとか、もはやこの段階まで来てしまえばそんな事を論じている場合じゃない。

自分の眉は釣り上がり、厳しい顔付きをしてこそいるものの、ソレは切迫した事態を重んじているだけだ。
何もゆたかを叱り飛ばそうとか、そんな事を考えている訳ではなかった。

(うご……くのか……!?)

清麿は大怪球フォーグラーと地下エレベーターを結ぶ通路で一人呆然としていた。
視界の先にはもはや単なる無機物ではなく、シズマという命の入った巨大ロボット。
黒い点ではなく、血のように赤い眼が清麿を見下ろしている。

中にゆたかが入っている事をフォーグラーの音声装置から漏れた声によって、清麿は既に理解している。
つい数分前、彼が明智への連絡を終えゆたかを迎えに来た時、そこにあったのはゆたかのデイパックだけだったのである。
そう、明らかな入れ違いである。
が、こうして分厚い鉄の塊を通してではあるが、再会出来た事は本当に幸運と言えるだろう。

(分かる……外から見てるだけの俺にだって分かるぞ……!! コイツはどう見ても"起動済み"だ!!
 中で一体何があったんだ? 一本のシズマでは何も起こらなかった……遅れて起動した……という事か?)
  
完全にフォーグラーへと至る通路は閉鎖され、もはや中に入ってゆたかを連れ出す事など不可能。
ならば、彼女に"起動"を停止させるか? つまり車ならばギアを戻し、再度イグニッションキーを回させる行為だ。
しかし、そもそも自分は『何故フォーグラーが起動したのか』という命題について明確な答えを導き出せていない。        
仮説自体は当然いくつも存在する。
 
(アンチ・シズマ管がなければアンチ・シズマフィールドは発生しない。それではエネルギーが……いや待てよ!
 『初めから起動に応えるだけのエネルギーが供給されていた』と考えるのはどうだ?
 内部のゆたかちゃんが何らかのアクションをフォーグラーに試みたとすれば…………動く、十分に動くぞ!?
 とはいえ"行動"はまだ開始していない。例えるなら鍵を回してアイドリング状態にある車のような物だ。
 つまり、中からの操作で何だって出来る状態。しかも乗り込んでいるのは意識が朦朧としているゆたかちゃんだ。
 こいつは……厄介なんてもんじゃない……!)

何よりも優先すべきはフォーグラーを『浮かび上がらせない事』だ。
フォーグラーの操る力は重力。
そう、この機体はジェット噴射やサイキックなどの力ではなく、重力場をコントロールする事によって移動する。

先程計測したその際の衝撃が及ぶ範囲は――――約500m。
眼と鼻の先にいる自分達など、フォーグラーの力が相手では一溜まりもない。

「ゆたかちゃん!! 俺の事が分かるかい!?」            
『……た……高嶺くん?』
「そうだ、高嶺清麿だ!! ゆたかちゃん、今から俺の言う事を落ち着いてよく聞いてくれ!! まだ間に合うんだ!!
 君が起動させてしまったソレ、大怪球フォーグラーが『本当に動き出した場合』とんでもない事になる!!」

……良かった。
フォーグラー内のゆたかに意識がある事を知り、清麿はホッと安堵のため息を付いた。
想定される最悪のケースとはつまり『ゆたかが昏倒していた場合』である。
先刻フォーグラーの起動パターンをシュミレートした際、いくつかの事実が明らかになった。
まず、このロボットは非常にオートメーションが進んでいる、という点だ。

そもそも全長300mを越す巨大ロボットに精密な動作を要求する事など現実的に考えて不可能。
故に操作マニュアルが簡略化され設計されるのは当然の運びだ。
主なコントロールは操縦席に備えられた四つのコンソールパネルで行うとして、非常に単純なコマンドで動作を起こす事も出来る。
加えて、このサイズのロボットを会場に放置するという事は、すなわち螺旋王はこの機体を『誰かに使って欲しい』のだ。
554名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:40:01 ID:k4s0OnOB
555名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:40:04 ID:xVPinQLm
 
556てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:40:25 ID:vUTZqIsb
では――誰が使う事を彼は想像してこんな玩具を放逐したのだろうか。

人類最古の英雄王たるギルガメッシュか? 
キングオブハートの称号を持つ稀代の武道家、ドモン・カッシュか?
流派東方不敗を完成させた絶対王者たる東方不敗か? 
単身で宇宙間戦闘を可能とし、惑星をも落とすテッカマンか?

違う。彼らのような強者は、決してこんな機械人形に乗り込んだりはしない。
なるほど。力を求める者が更なる破壊を求めて、狂気に身を落とし、この機動兵器を駆る、という場面ならばまだ想像しやすい。
しかしここは螺旋王が、参加者に螺旋力の覚醒を促すために造り上げた闘技場である。
そう、おそらく彼が何よりも望んだ結末とは、

――戦う力など持たないか弱き者が、フィールドにおいて騒乱の種となり、他の者の覚醒における起爆剤となる事。

(こう考えればゆたかちゃんにコアドリルが支給された理由も分かる……! 
 螺旋と密接な関係性を持つ道具を自然と庇護される対象になるである彼女に支給し、周りの奮起を促す。
 殺し合いに乗った者に奪われても問題なし。なぜなら彼らは自ずと戦いの中で螺旋力に目覚めるッ……!!)

こうなっていると、こちらの声は一切届かず起動状態が続行してしまう。
長時間の放置がフォーグラーにどのような効果を齎すか……想像することさえ恐ろしい。
『エネルギーが切れて、起動停止』とはさすがにならない可能性が高い。
が、ここで手をこまねいていてもまるで前進はない。そうだ、自分がしっかりしなければ……。


「大丈夫だから落ち着いてくれ!! いいかい、俺が何とかしてみせる!! 
 だからまずは教えてくれ。ゆたかちゃんがフォーグラーに何を――」
『……や、やめて……やめてくださいっ!!』
「え?」


清麿の決意と責任を込めた言葉は――ゆたかの絶叫に遮られた。
当然の如く、清麿は彼女のその予想外のリアクションに呆然となる。


『た、高嶺君は……怒ってるん、ですよね。私が……私が……"コレ"を動かした事に……』
「怒ってなんかいない! いや、それにそんなことはどうでもいいんだ!! まずは俺の話を――」
『どうでもいいなんて言わないでくださいっ!!!!』
「ッ――!?」

557名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:40:35 ID:ZeBny/oK
  
558名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:40:54 ID:5PJi3AUn
 
559てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:40:58 ID:vUTZqIsb
それは、今まで清麿が持っていたゆたかのイメージからはまるで想像出来ないような語調の厳しい一言だった。
スピーカー越しに伝わって来るしゃくり上げるような泣き声と、そして何らかの意志。
脅えているような、戸惑っているような、酷く……複雑な感情が込められていた。


『わたしの…………話を、聞いて……聞いてください……』
「ゆたか……ちゃん」


清麿は酷く混乱していた。
今自分と相対しているのは本当に小早川ゆたか本人なのであろうか、と。

その声はまるで今にも千切れ飛んでしまいそうな、糸のような印象を受けた。
こちら側からゆたかの顔は見えない。
他人とのコミュニケーションにおいて、視界が左右する要素は非常に重要な部分を占めている。
彼女がどんな表情で、どんな動作で、自分に言葉を掛けているのか分からない。
これは、ゆたかを説得しなければならない清麿にとってはあまりにも不利な材料だった。

つまり、先ほどの一言は清麿からはゆたかが視認出来ないという状況から発生した清麿のミスだ。
相手の気持ちを慮る事が出来なかった致命的な悪手。
そしてそもそも、理詰めの考察ならばともかく、話術は彼の専門ではない。


『言われなくても……分かってるんです……。私……邪魔、ですよね。重い、ですよね。うざったい……ですよね』
「そんなこ……ッ」


そこまで出掛かった言葉を清麿は無理やり飲み込んだ。
淡々とナイフで自らの皮膚を削り取るかのように、ゆたかは言葉を重ねる。
明らかな、自傷行為。
そんな彼女の台詞を何度も遮る事は、確実に彼女の精神を磨り減らす事と見て間違いない。

(駄目だ……ここは、ゆたかちゃんに好きなだけ喋らせるべき状況だ……!
 俺には、情報が足りない。ゆたかちゃんが何故、ここまで追い詰められ、何を思っているのか。
 説得の基本は相手の意思を読み取り、思考を自らと同調させ"共感"を生む事……。
 迂闊な動きは……逆効果にしかならない……ッ!)

こんな時、明智が居てくれれば良かったのに、そう思いながら清麿は唇を噛んだ。
彼は確かロスで交渉術を学んでいたと言っていた。
声だけのやり取りで犯人を説得するそのスキルはまさに、この場で最も活用される技能だろう。


『高嶺君は…………本当に、凄いと思います。私の方が年上なんて、全然思えないくらいに。
 明智さんも菫川先生も大人の方だけあって……いいえ、やっぱり何かが違います。
 だって私がこのまま大きくなって、同じくらいの年齢になっても……私はお二人みたいになれる気はしません』

560名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:41:29 ID:awmmorwD
  
561名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:41:35 ID:v2Zhfine
562名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:41:39 ID:k4s0OnOB
563てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:41:55 ID:vUTZqIsb
ゆたかの言葉はズブズブと心臓に突き刺さる。
まるで黒塗りの巨大な鉄釘がゆっくり、ゆっくりと血と肉と血管の海に沈んでいくようだ。

――誰の、心に対してだ?

もちろん、


『皆さん、自分の役割を自覚して、それぞれが頑張っているんです。
 私には明智さんみたいに他の人を引っ張って行く事も、
 高嶺君みたいにロボットの働きを分析する事も、
 菫川先生みたいにお話を書く事も……何一つ出来ません。私は、無力です。守られているだけの役立たず……。
 それどころか、足を引っ張っているだけ。私がいたからシンヤさんは死んだんです。Dボゥイさんもきっと……』


(ゆたか……ちゃんッ!!!!)


清麿とゆたか――――二人の、だ。



『だから……私は、思ったんです』
「……何を……だい?」


ゆっくりと、清麿は口を開いた。
彼女が、そう尋ねる事を望んでいるような気がしたから。

握り締めた拳は今にも皮膚が破れ、血が流れ出すのではないかと思うぐらい硬く閉じられている。
このやり場のない衝動をぶちまける場所は、何処にも存在しなかった。
つまり一人の少女をここまで追い詰めた自分に対する強い怒りの感情。

564名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:41:55 ID:ZeBny/oK
 
565てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:42:29 ID:vUTZqIsb
『私には、私がいらない。もう何もかもがどうなろうと……関係ない。全部…………全部…………』


空気が、震えた。



『終わっちゃえばいいのに、って』



清麿は垣間見た。
決して幻や妄想などの類ではない事も感覚的に分かる。
赤い瞳でこちらを見つめるフォーグラーの向こうに、壊れた笑顔を浮かべる少女が居る光景を。


光のない笑みと共に、頬を紅潮させた少女があどけない表情で嗤う。
世界なんていらない。
励ましも、感情も、思いやりも全部、全部だ。


二人の隙間を埋めるのは無機質な鉄と冷たい空気だけ。
終わりを求める少女の心は、いつの間にか空っぽになっていた。
残ったのは泥のように汚い醜悪な感情だけ。


自己の崩壊。他者への強烈な依存。そして羨望。
その結果生じる、状況認識力の低下。
自ずと湧き上がる破滅的思考。
非力な自己に対する憎悪。
徹底的な自身への蔑み。
思考力の著しい低下。
倫理観の歪み。
常識の欠落。
死にたがり。
進化の終焉。
自己完結。
段階滅破。
終末願望。
無気力。
疲労。
発熱。
紅。
死。

何もかもが幻のようだった。
それは世界が終焉を迎える



そして――――"黒き太陽"が動き出す。


           ▽

 
566名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:42:31 ID:v2Zhfine
567名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:42:32 ID:ZeBny/oK
  
568名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:42:58 ID:xVPinQLm
 
569名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:42:59 ID:awmmorwD
 
570名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:43:19 ID:ZeBny/oK
  
571てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:43:39 ID:vUTZqIsb
(このニンゲンは……ッ!?)

ヴィラルは驚愕していた。
突然背後から黒尽くめの怪しい格好の少年が現れた事もそうだが、何よりもヴィラルを驚かせたのは彼の弁である。
おそらく、自分達を尾行していたであろうルルーシュという少年が持っていた情報は、ほとんどがヴィラル達にも与えられていた。
確かに聞き覚えはある。が、それをルルーシュは一瞬で組み立て、幾つかの仮説としてスカーへと叩き付けているのだ。
恐ろしく頭の切れる人間。まるで、悪魔のように……。


「クククク……神の手かそれとも、特別な能力者か? コレは是非とも詳しい話を聞いてみたい所だな……!」


残忍な笑みを浮かべる少年は、そこまで話すとピタリ、と歩みを止めた。
そして傍らのヴィラルとシャマルを一瞥する。

「さて、ヴィラル、そしてシャマルよ。これから貴様達には俺の傘下へと入って貰う」
「なん……だと……」
「聞こえなかったか? この場を制圧するためにこの俺、ルルーシュ・ランペルージが力を貸そうと持ちかけているのだぞ」
「笑止!! 貧弱なニンゲン風情が獣人である俺を部下にしようと言うのか!? 俺が仕えるのは螺旋王ロージェノム様、お一人だけだッ!!」
「……ほう。ならば、このまま成す術なく奴に命を差し出すか? それとも捕らえられ、その女と共に拷問にでも掛けられる事が望みか?」
「ッ――!!」

ルルーシュは小さくため息を付いた。そして、未だ地面に身体を付けたままの彼を冷徹な眼で見下ろす。
その視線に含まれるのは明らかに立場が下な者に対する蔑みだった。
言葉など介せずして彼は語る。そんな事も分からないのか、と。

個人としての戦闘力は皆無に等しい彼が見せるこの自信は何なのか。
それが王としての風格なのだろうか。
しかし、確実に突然現れた少年にヴィラル達が掌握されつつあるのもまた事実。

「俺一人ならば、この場から離脱するのは造作もないのだぞ? わざわざ、恩赦を掛けてやっている事を忘れられては困るな」
「クッ……しかし一時的とはいえ、俺に螺旋王様以外の者の下へ就くなど……」
「ヴィラルさん!!」
572名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:43:56 ID:awmmorwD
 
573名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:44:23 ID:k4s0OnOB
574てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:44:25 ID:vUTZqIsb
シャマルが突如怒声交じりにヴィラルを叱り付ける。
ヴィラルは予想外の事態に大きく眼を見開いた。

「ルルーシュさん。分かりました、今だけ……私達はあなたに従います」
「シャマル!? お前何を言って……ッ!?」
「私達は…………!!」

グッ、とシャマルがバリアジャケットの胸元を握り締める。
その仕草から感じられるのは明らかな逡巡。
ヴィラルと共に歩む決意を固めた彼女だ。ルルーシュの提案に心を悩ませない訳がなかった。しかし、


「生きて……そして、二人で……優勝するんです」
「……シャマル」


それ以上、ヴィラルは何も言わなかった。
彼は一瞬で理解したのだ。彼女の、自らが大切に思う女性が何を考え、この決断を下したのかを。

『生きる』『二人で』『優勝する』

短く、そして曖昧な言葉だ。今傷の男一人に圧倒されている彼らにとっては圧倒的に現実味に欠ける言葉だ。
だがヴィラルとシャマル。二人にとっては何よりも重く、全てを賭けるに値する命題でもある。
このまま二人だけで戦い続けても戦況を覆すことは非常に難しいだろう。
こちらには未だ使用していない重機関銃とロケット砲があるが、褐色の男も何かしらの奥の手を隠しているように見える。

参加者の首をチミルフに献上するなど夢のまた夢だ。そして、

(最も避けねばならないのは生きたまま捕らえられる事。俺は螺旋王様の部下だ。おそらく利用価値があると判断される。
 だがシャマルは……!!)

殺し合いに乗った、それも情報を持たない人間がどのような扱いをされるか――想像するまでもない。
ならば一時的にこの男と手を組んだ方が遥かにマシだ。自分にとって何よりも耐え難いのはシャマルを失う事なのだから。
撃墜マークよりも優先すべきは二人の生存……!

「……ニンゲンよ。勝機はあるのだろうな」

スッとヴィラルは立ち上がった。
右手には大鉈。そして全身から放たれる緑色の闘気――螺旋力。
金色の髪が黒色の空を突き刺すかのように闇の中で輝く。
傍らには同じ髪色の女性――シャマルがもはや言葉など要らないとばかりに控える。


「誰に向かって物を尋ねている。戦術は戦略を凌駕する……当たり前の事だ」

575名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:44:30 ID:ZeBny/oK
 
576名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:44:49 ID:k4s0OnOB
577名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:45:06 ID:xVPinQLm
 
578てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:45:38 ID:vUTZqIsb
ルルーシュが両手を大きく広げ、残忍な笑顔を更に色濃くする。
それこそが彼の矜持。そして確固たる自己の確立による意志の強さ。絶対的な自信だ。            


「傷の男。貴様に恨みは無い……いや、むしろ偽ゼロに関して言えば感謝したいくらいだ。だがこの場は圧し通る。王たる俺の覇道のために」
「――やはり、容易くは行かないか」
「ああ、少なくとも俺がこの場に参戦した事実、これだけでもこの二人には大きなアドバンテージになる。
 白兵戦に関して言えば俺の知識は文献で参照した程度に過ぎん。
 とはいえ戦闘における"視界"の重要さは十分に理解しているつもりだ」


確かにルルーシュの戦闘能力は皆無であり、運動神経との兼ね合いで言えばニア=テッペリンにすら劣ると言わざるを得ない。
だが彼が持つ特殊能力――ギアスはその効果を知る者にとっては、恐ろしい程の脅威となる。
古来より邪眼、魔眼の類に位置する魔導は非常に強力な力を秘めている。
例を挙げるとすれば、第五次聖杯戦争に「ライダー」のクラスでもって参加したギリシア神話におけるゴルゴーン三姉妹が末妹メデューサ。
彼女の石化の魔眼・キュベレイなどがその代表であろうか。

視力による状況の把握。それは戦闘において何よりも重視されるファクターだ。
まだルルーシュとの一対一であれば、スカーにも十分過ぎる程の勝利の要素は残されていた。
実際、ルルーシュが一人で彼を倒すのは、不可能に近い。

(この口振り……軍師、か。なるほど、戦いにおいて他者を動かす事に長けた『智』を持つ存在は何よりも尊い……)

だが、状況は三対一の明らかなパワーゲームへと転じた。
雌雄の双剣にその武器を振るう頭が加わったのである。
ルルーシュが己の邪眼によって、スカーの行動を牽制しつつ、ヴィラルとシャマルに指示を出す……一切の隙間も無い作戦だ。


黒の皇子、ルルーシュ・ランペルージ。彼の本領は肉体労働でも戦闘でもない。
単純な理詰めの考察においても比類なき力を発揮するが、それは彼の頭脳が優秀過ぎる故の副産物に過ぎない。              
ルルーシュが最も得意とするのは深謀遠慮に基づく、権謀術数。
そして部隊指揮と戦術立案である。特に彼は他の人間を動かすという点ではまさに天才的な才能を持っている。
大規模なソレに関して言えば参加者の中でも恐らく最上。

(まさかこの俺がニンゲン如きの下で剣を振るう羽目になるとは……! だが……シャマルを守るためだ、致し方ないか)

明智健悟、高嶺清麿、ギルガメッシュ、そしてルルーシュ・ランペルージ。
特に知略に秀でた彼ら四人の中でも、ルルーシュは現代的な戦術と独創性を取り入れた人員展開に関しては一日の長がある。

「クククククッ……過ぎたるは及ばざるが如し、と言った所か?」
579名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:45:39 ID:ZeBny/oK
  
580名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:45:41 ID:k4s0OnOB
581名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:46:11 ID:k4s0OnOB
582名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:46:15 ID:awmmorwD
 
583てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:46:22 ID:vUTZqIsb
ルルーシュとスカーの間で交わされる言葉にヴィラルとシャマルは互いの顔を見合わせた。
どうも、彼には「奥の手」のような能力が存在するらしい。
とはいえ核心を明らかにせずルルーシュが喋り続けているため、いまいち要領を得ない。
分かるのは彼の存在が天秤を一気に自分たちの側へと傾けた事だけ――


「宣告しよう、傷の男よ。貴様は俺達に打ち倒される――その、豊かな情報が貴様を殺すのだ」


それは、いわば智の魔人であった。
人を生かすためではなく、自らをより優位な状況へと導くためにルルーシュはその頭脳を駆使する。
悪魔は嗤い、禁忌の力をその身に宿した復讐鬼へと迫る。

「では始めようか。まず力押しなど初めから考えるな。ヴィラル、これは山狩りではなく対人戦である事を頭に叩き込め。
 俺と傷の男、このラインを死守。距離もだ。そして、絶対に俺へと奴を近づけるな。
 ヴィラルは左、シャマルは右。奴の戦闘スタイルの基点は右腕にある。決して万能なモノではない。十分過ぎる程、勝機は――」

ルルーシュがそこまで言い欠けた時だった。


「む……何だ? この揺れは…………ッ!?」


瞬間、世界に亀裂が走った。

刑務所のある北の方角から、火山の噴火にも似た凄まじい轟音が響き渡たる。
ルルーシュ達は戦闘の事も忘れ、一斉に音のした方向を見た。
そして眼に飛び込んできたのは信じられないような光景だった。

「刑務所が……っ!?」

誰ともなしに呟く声。
そう、全長数百メートルはある刑務所がまるで、沈没船のように地面へと沈み込んでいくのだ。
唖然。驚愕。それ以外の言葉が見当たらない。
ここは陸の上である。寄る辺なき母なる海の上などではなく、大地によって足場を支えられた地上なのだ。

しかし、彼らはここで大きなミスをした。
予想外の事態に弱い事に関して定評のあるルルーシュだが、今回のケースに関しても同様の事が言える。

完全に不意を突かれたのだ。
冷静な時の彼であれば、一瞬でこう判断した筈なのだ。
大地の急激な沈下――それは大地震の前兆、もしくは地下にて何らかの緊急事態が発生した、と。

つまり、気にしなければならなかったのは音などではなく、自らの足元――



「……地面が、割れっ――――?」



まるで断末魔の嘆きのようなルルーシュの情けない叫び声が響いた。

グラリ、と彼の体勢が崩れる。
バキッという何かが砕け散る音と共に、あたり一面のコンクリートにヒビが入ったのだ。
そして隆起。
ザラザラとした茶色い地肌がまるで空へと持ち上がるように顔を出した。
足腰が弱いルルーシュはあっという間に、その流れに飲み込まれる。

584名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:46:25 ID:xVPinQLm
 
585名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:46:33 ID:ZeBny/oK
 
586名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:47:24 ID:YXFnD6NS
  
587名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:47:30 ID:ZeBny/oK
 
588名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:47:55 ID:v2Zhfine
589てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:47:58 ID:vUTZqIsb
「何だとっ――!?」


ヴィラルもショーアップしていくかのように競り上がり弾ける地面に気を取られ、周りの事が疎かになってしまった。
つまり"彼女"への配慮が欠けてしまったのだ。
故に――気が付かなかった。


「シャマルッ!!」
「……………………!」
「あっ……!」

駆け出そうとした時には既に遅かった。
この異常に唯一心を乱されず、状況に適応して行動した者――スカー。

スカーは右腕で隆起するコンクリート片を強引に破壊。
そして、動くことさえ間々ならないシャマルへと凄まじいスピードで接近する。
シャマルも近付いてくるスカーに気付き、必死に応戦しようとするが重量のあるワルサーWA2000では射撃体勢に入る事さえ出来ない。


「きゃああああああああああああああ!!」


ヴィラルは必死に身体を動かそうとした。しかし、届かない。届く筈もなかった。
必死に何メートルも離れた場所にいる彼女へ向けて手を伸ばす。
しかし、伸ばした手は無常にも虚空を切る。


時間がゆっくりと進んでいるような気がした。


繋いだ手の感触がふと蘇る。

――暖かく、
――柔らかく、
――優しく、
――そして何かが満たされていく。

本来、夜になればカプセルに入り眠りに着かなければならないヴィラルにとって、太陽の光とは何よりも尊いものであった。
そしてシャマルは、一緒に居るだけで自分の心を照らしてくれる太陽のような女性だった。


何よりも大切な気持ちがあった。
自分の全てを賭けて守ってみせると決めた相手だった。
他の誰よりも、今の自身にとって掛け替えのない存在だった。


初めて――――愛した女性だった。


590名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:48:07 ID:awmmorwD
  
591名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:48:12 ID:xVPinQLm
 
592名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:48:27 ID:k4s0OnOB
593名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:48:44 ID:xVPinQLm
  
594名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:48:50 ID:k4s0OnOB
595名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:49:04 ID:v2Zhfine
596てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:49:07 ID:vUTZqIsb
「シャマルッッッッッッ!!!!!」



スカーの右腕がシャマルの腹部へと吸い込まれる。


そして――ドンッ、という何かの爆ぜる音が聞こえた。
漆黒の空に流れる一丈の光。

何もかもが崩れていく。
漆黒の夜空を彩っていた真白なる星が掻き消える。
現れたのは黒点。"巨大"という言葉で言い表すことさえおこがましく感じられるような人造の星。


黒い、太陽。


「う……あ…………」


身体が揺れる。

落ちていく。
沈んでいく。
割れた瓦礫がまるで天へと昇っていくような、そんな独特な光景だった。


「……キ、キサマァァァァアアアアアアアアアア!!!! シャマルを!! シャマルを――ッ!!!」
「無力である事は、戦士にとって最大の罪科だ」


スカーはヴィラルを一瞥すると、若干名残惜しい表情のまま瓦礫を避けながら身を翻した。
向かう先は刑務所のあった場所だろうか。
そうだ、奴はその方向から現れたのだから、そう考えるのが自然だ。


「待て、キサマァァッッ!! グッ――!?」


すぐさま、追い掛けたかった。
シャマルのためにも、そうするのが最も勇敢なやり方だという事も分かっている。
だが、あまりにもヴィラルは無力だった。
ある程度刑務所から離れたこの場所は完全に地面が二つに乖離する現象、いわゆる地割れは起こらず地表の隆起だけに留まっている。
            
しかし未だ揺れは酷く、舞い散るコンクリート片が邪魔をしてスカーに追いつく事など出来る筈もない。
加えてスカーは去り際に地表を破壊する事でヴィラルの進路を遮ったのだ。
降り注ぐアスファルトと硬い石盤。
獣人とはいえ、筋力に関してはそれほど高い恩恵を得ている訳ではないヴィラルにとって、追跡は不可能だった。

597てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:49:45 ID:vUTZqIsb
「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」


咆哮。
ヴィラルは自らが気高き獣人である事に心の底から誇りを持っている。
獣人とは人を超え、獣を超えた尊き存在であり、そのどちらにも劣る訳がない、と。


愛する人を失った悲しみを、シャマルを守り切れなかった愚かな自身への怨嗟を。
そして彼女を奪っていった傷の男への言葉に出来ない憎しみを込めて――

この一瞬だけ、ヴィラルは獣へと戻った。
            



空に瞬くのは一面の星と黄金色の輝きを放つ真ん丸の月。
真ん中から圧し折れた街灯の硝子の破片がパラパラと舞う。
荒廃した大地のように、地面を覆っていたアスファルトは無残な様相を示していた。

未だ日の昇る気配などは微塵もなく、おぼろげな光だけが男の視界を照らす。



――――黒き太陽が昇り、掌の太陽は空へと還る。



            ▽
 

 
598名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:50:05 ID:awmmorwD
 
599名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:50:20 ID:xVPinQLm
 
600名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:50:39 ID:ZeBny/oK
601名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:50:45 ID:v2Zhfine
602名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:50:45 ID:xVPinQLm
 
603てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:50:50 ID:vUTZqIsb
「ゆたかちゃんっ!!! ゆたかちゃんっ!!! 俺の話を聞いてくれっ!!!!」 
 
清麿は声の限りに叫ぶ。フォーグラーがその装甲から放つ圧倒的威圧感。
決して、それは気のせいではなかった。つまり、重力だ。
全神経が明確過ぎるほど、その生命の危機を察知していた。

「高嶺君」

そして、その時彼の背後から響く成人した男性の声。

「明智さんっ!?」
「…………コレは、中々由々しき事態のようですね」
「どうして……ここに!?」
「高嶺君、君はもう少し賢い人間だと思っていたのですが。そう、よく考えれば分かる事ですよ。
 私は行き違いを繰り返していた君と小早川さんを呼びに来た……それだけです。ああ……しかし、」

明智が眼鏡をクッと持ち上げ、そして僅かに肩を竦めた。
清麿は、当然彼のそんな動作に違和感を覚える。
確かに明智はねねねに言わせれば「嫌味ったらしい奴」である……らしい。
だが、彼はリーダーシップに優れ、自分やゆたかなどの幼い相手に対してもその優雅な態度を崩さない優れた人間だ。
まるで自分を小馬鹿にするような、そんな口調で話し掛ける場面など初めてだ。


「どういう、事なのでしょうか。コレは」
「…………俺が、俺が……ゆたかちゃんの説得に失敗しました!」
「ほう?」
「結果、ゆたかちゃんが自暴自棄になって、フォーグラーを浮遊させようとしているんです!」
「……続けて下さい」
「大怪球フォーグラーは重力をコントロールして数tの巨体を浮遊させ行動するロボットです。
 全長300m、推定重量500万t……。
 これだけの質量の物体を制御する事が可能な重力場と言うと……少なく見積もっても半径数百メートルは塵に還ります」 
「……この刑務所など一溜まりもないでしょうね」


明智は小さく、そして何度も頷いた。
そもそも刑務所の地下に大怪球フォーグラーを安置していた以上、起動時には建造物が崩れるのは想定済みの筈である。
故に螺旋王がこの建物を建造する際に考える事は、いかに周囲に被害を及ぼす形で施設を崩壊させるか、だ。
フォーグラーが完全浮遊するためには今しばらく時間が掛かるようだが、どう考えても脱出出来る間合いではない。

(打つ手は無し……か!? いや、諦めるにはまだ早い! ゆたかちゃんが俺の話を聞いてくれる可能性も残っている筈だ!)

「ゆたかちゃん! 明智さんも来てくれたぞ! 一度俺達の話を聞いてくれっ!」

604てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:51:24 ID:vUTZqIsb
すぐさま清麿はゆたかへの呼び掛けを再開する。
大怪球フォーグラーが鼓動を始めてから、ゆたかからの反応は一切なくなっていた。
聞こえていないのか?
いや、そんな事はない。外部スピーカーもマイクも、どちらも確実に機能しているはずだ。

「ゆたかちゃん! ゆたかちゃ――」
「……高嶺君。一つだけ、尋ねましょう」
「明智さんっ! こんな時に何を悠長な事を言っているんですか!?」

この状態においても明智の物腰はまるで変わらなかった。
メタルフレームの眼鏡の下に微笑を携え、額には汗一つ掻いていない。
言葉尻も丁寧な普段の彼のままで、うろたえる様子すら微塵も見せない。


「……高嶺君。君には『覚悟』がおありですか?」
「覚悟……ッ!? ゆたかちゃんを救ってみせるという意味なら勿論――」
「違います」


明智は清麿の返答を一蹴した。
そして、懐から『とある物体』を取り出し、それを清麿へと握らせる。
首輪の位置を解析し、最も効果的な判断によって状況を掌握するための道具――携帯電話。
別々に行動している際も、ずっと明智が周囲の状況を確認していたのだろう。
僅かながら暖かい体温が感じられた。


「――生き残った人間を導き、螺旋王の実験を阻止する覚悟があるのかと聞いているんです」

605名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:51:33 ID:k4s0OnOB
606名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:51:53 ID:awmmorwD
  
607名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:51:57 ID:ZeBny/oK
608てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:51:59 ID:vUTZqIsb
清麿は一瞬で明智の言葉を、行動を理解した。
そして、これから彼が何をしようとしているのかも何もかもをだ。


「あ……けち、さん……!!」
「高嶺君。君は若く、そして聡明だ。生き残らなければならない義務がある」
「でも……っ!! そんな……!!」
「衛宮君の時は見せ場をイリヤさんに取られてしまいましたからね。それに、菫川先生も命を賭してスカー氏を説得されたんです。
 私にだって活躍の場があるべきだとは思いませんか?」


自分の言葉が意志とは無関係に擦れて行く感覚を清麿は意識した。
明智は全くこの一刻を争う状況にそぐわない仕草で小さく笑った。
その動作はあまりにも自然で、己にこれから訪れるであろう運命を幻視しているとは到底思えない。
だが、彼は状況も、自らの役割(ロール)も全てを把握した上でこの言葉を告げている。

明智健悟は導く者。集団を統率し、その場で最良と思われる答えを導き出す。

『集団の全滅を防ぐために高嶺清麿を一人フォーグラーの眼前から退避させ、自身が小早川ゆたかを説得する』

この選択が個々人の能力に見合った最も適切な処置だ。彼はそれを確信している。
銀色の髪がさらり、と揺れた。


「私には交渉術を学んだ経験がありますからね。小早川さんを連れてすぐに追い付きます。高嶺君、菫川先生の元へ、早く」
「……俺は……俺は……」
「高嶺君ッ!」


銀色の男が更に一歩前へ、出る。
苦悶する清麿の瞳に移ったのは銀色の髪、銀色の表情、銀色の思考――そして、大きな背中。
男の足取りには一片の迷いもなく、一片の後悔もない。
彼は胸を張って自らの役割へと講じる事が出来る。
そして後を託すに十分の力を持つ仲間もいる。では、何を戸惑う事があるというのか。

そんな物、存在する訳がない。

609名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:52:13 ID:xVPinQLm
 
610名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:52:32 ID:k4s0OnOB
 
611てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:52:40 ID:vUTZqIsb
「小早川さんの事を恨んではいけませんよ」
「明智さん……それって……」
「私は今までに数多くの殺人事件と遭遇して来ました。ですが、本当に心の底から喜んで殺人を犯す人間などほぼ皆無と言っていい。
 彼らの多くは心の中で泣いていました。救いを――――求めていました。
 ……話は終わりました。さぁ……高嶺君、早く」


彼の言葉を断れるほど、清麿は無粋でも愚かでもなかった。
我侭を言う気持ちなど毛頭なかった。彼が、そう決めた事だ。リーダーである彼の選択だ。
それでも、


「ウォオオオオオオオオオオオッ!!!」




胸の中で燻るこのやり切れない感情を誤魔化す事は出来なかった。

清麿は表情を伏せたまま、エレベーターに向けて全力で走り出す。
唇から漏れる嘆きの叫びを抑えようともせずに。
手には明智から渡された携帯電話を強く握り締め、男が作ってくれた希望に最後の望みを託す。
ただ真っ直ぐと。男の意志を無駄にする訳にはいかないのだから。

(明智さん……あなたは……っ!! 俺に、何を……何をやれって言うんだ!!
 皆を引っ張っていく……!? 確かにやってやれない事はないさ! だけど、違う! それは……それは、あなたの役割なんだ!!)

清麿の心を切り裂いてくのは単純な無力感だった。

――もし今自分の隣にガッシュがいたならば、
――右手に魔本があったならば、

あんな鉄屑に怯んだりする事はなかった。
真っ向から彼女の狂気を見据え、受け止め、救い出してやる事が出来た筈なのに。

(一人じゃ何も出来ないのかっ……俺は!? クソッ……!! 畜生!! 明智さん……!!)

そして清麿がもう一度明智の姿をその眼に収めようと振り返ろうとした直後だった。
その、凄まじい削岩音が地下空洞に響いたのは。

612名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:52:58 ID:k4s0OnOB
 
613名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:53:08 ID:xVPinQLm
 
614てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:53:20 ID:vUTZqIsb
「……なっ!?」


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ、という鼓膜を突き破るかのようなその音に清麿は聞き覚えがあった。
現代の日本で暮らす普通の中学生としての側面も持ち合わせる彼にとって、半ば耳馴染みのモノ。
辺り一面をアスファルトに囲まれ、年末ともなれば修繕作業に日本中の街が腐心する。
つまり――――鉄を、土を穿つドリル。

音の方向は右でも左でもなく――――上。
黒に染まり、どこまで続いているのかも分からない天井だ。
そして音の暴力の氾濫に巻き込まれた世界に突如乱入して来たのは、


「明智、清麿!! 無事か!?」


紅にカラリーングされたロボット――ラガン、に乗り込んだ菫川ねねねの姿だった。
額、右腕、左腕の合計三箇所から飛び出した巨大なドリルが豪快な音を立てながら回転する。
全身から緑色の光を放ちながら、岩盤を突き破り降り立ったラガンはエレベーターの近くで呆然とする清麿の元へ一気に移動する。


「な、す……菫川先生!? な、なんですかこのロボットは……?」
「んな事気にしてる場合か! いいから早く乗れって!」
「は、はい……」


清麿は鬼気迫るねねねの表情に押され、急いでラガンのコックピットに乗り込んだ。
内部は精々二、三人程度の人間しか収納出来ないかと思える程狭い。
ゴツゴツした金属の感触。明らかに本来は一人乗りの機動ロボットなのだろう。

「菫川先生! 明智さん達はこの先です! ゆたかちゃんがフォーグラーを起動させました! 急いでください!!」
「……あのデカブツを……ゆたかが?」
「はい! もうすぐここは重力波で崩壊します。急いで明智さんを助けに行かないと……!」

清麿は必死に訴える。
どういう原理で動いているかは分からないが、あの厚いコンクリートと岩盤をぶち抜いて地下まで降り立ったロボットだ。
コンソールの中央に見える螺旋形のメーターのど真ん中に何故かゆたかが持っていた筈のコアドリルが刺さっている。
もしや……このロボットの原動力は?


「おい、待て。明智はもしかして『ここは私に任せて先に行ってください』とか言ったんじゃないよな?」
「え……は、はい。何故それを……」
「………………やっぱりか。じゃあ、私達は逃げるぞ」

615名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:53:26 ID:k4s0OnOB
 
616名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:53:45 ID:xVPinQLm
 
617名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:53:50 ID:awmmorwD
  
618名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:53:51 ID:k4s0OnOB
 
619名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:53:53 ID:v2Zhfine
620てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/04/24(木) 01:54:14 ID:vUTZqIsb
清麿は自分の耳を疑った。
彼の言葉を聞き、ねねねが一瞬その眼鏡の表情を曇らせた……ここまではいい。
しかし彼女はすぐさま凄まじい言葉を残し、ラガンのドリルを再度回転させ始める。

『逃げるぞ』と。

「な……ど、どうしてですっ!? 今から行けば間に合うかも――」
「馬鹿かお前は! 頭いいんだから少しは考えろ! 明智が勝算もないのに、んな事言う訳無いだろ!?」
「違います! 状況は切迫している……明智さんは死ぬ気で俺を……」
「だったら尚更だ! もうここは長くは持たない。今から明智の所まで行ったら、お前を逃がした明智の意志はどうなる!?」
「あ……」


ねねねはソレっきり唇を真一文字に結んで黙ってしまった。
清麿も彼女にどんな台詞を掛ければいいのか分からない。
二人とも理解しているから辛いのだ。明智の行動の理由は明らかに自分達を生かすためなのだから。


「……いいか、清麿。自分を信じるな。明智を信じろ。お前を信じる、明智を信じろ。……分かったか」
「クソッ……クソッ……クソォオオオオオオオオオオ!!」


清麿の叫び声が空気を伝わり、世界を揺らす。
握り締めた拳が何度も何度も、ラガンを殴りつけた。赤い血が噴出し、皮膚が裂ける。
清麿はそれでも拳を打ち付けるのを止めない。止められる訳がない。


「……行くぞ。掴まってろ。アイツは……絶対に帰って来る。ゆたかを連れて帰って来る」
「……はい」


ラガンが再度全身から緑色の光を放ち、空へと昇って行く。
崩れかかった黒の天球を突き破りながら。


            ▽
 
 
621名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:54:30 ID:xVPinQLm
 
622名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:54:44 ID:YXFnD6NS
   
623名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:54:46 ID:k4s0OnOB
 
624名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:54:48 ID:ZeBny/oK
625名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:54:50 ID:awmmorwD
  
626名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:55:14 ID:k4s0OnOB
 
627名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:55:36 ID:v2Zhfine
628名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/24(木) 01:56:59 ID:k4s0OnOB
 
崩壊が、始まる。 


「小早川さん……ありがとうございました」


明智は凄まじい圧力を放つ黒き太陽――大怪球フォーグラーへと語り掛ける。
当然、言葉は返って来ない。
携帯電話の反応から察するに、確実に中にゆたかは居る筈なのに言葉を紡ぐのは明智ただ一人。
漆黒の海に抱かれ、巨大な赤い瞳に見つめられながら独りごちる銀色の男。崩れゆく半球形の廊下。

「私達が会話をしている間に、全てを吹き飛ばしてしまう事があなたには出来たのでしょう?
 確かに浮遊には若干の時間が掛かるかもしれない。フォーグラーの本来の機能も使えていない。
 だが、その機体には何らかの武装が備わっている事は確実。
 起動させる事が出来たのならば、武器の使用方法にも若干の当たり自体もついている筈だ。
 ……しかし、あなたはそれをやらなかった」

淡々と、それでも確実な語調でゆたかの乗るフォーグラーへと語り掛ける明智。

「高嶺君はあなたが自暴自棄になったと言っていた。
 破滅願望、思考放棄……フォーグラーを起動させるに至るに確かに一理ある理由だ。
 何もかもが無くなってしまえばいい――そう、考えたのでしょう。なるほど、分かります」

仰々しい仕草で、一歩一歩とフォーグラーへと明智は歩み寄る。
それは巨大なロボットを眼の前にしている生身の人間の仕草としてはあまりにも異様だった。
彼は一切の脅えも、怯みも、躊躇いもなく、ゆたかへと向かい合う。

「人が何かの事件を起こすには必ず『動機』が必要です。
 探偵達は総じて密室や消えた死体などのトリックを暴くことに執念を燃やしますが、ソレはあくまで彼らの論理だ。
 "探偵"とは推理する生き物なのです。……しかし"刑事"である私の論理は少々違います。
 また同様に生粋の"犯罪者"も自己の信念でもって動いている……」

この殺し合いに参加させられた明智健悟の知り合いは三人。

名探偵・金田一耕助の孫である天才少年探偵――金田一一。
ノンキャリアの叩き上げでありながら、日々犯人逮捕に満身する刑事――剣持勇。
地獄の傀儡子の異名を持ち、様々な芸術的殺人トリックにて殺人示唆を行う犯罪者――高遠遙一。

「刑事にとって何よりも大切なのは、現場の状況から最も条件に合致する犯人を導き出す事です。
 普通の人間は思考し、悩み、心に起伏が生まれるからこそ、犯罪を犯します。
 動機なんて探偵小説においてはオマケのようなもの……そうは思っていませんか?
 とんでもない! それは犯人逮捕において最も大切な要素なのですよ?
 『何故そんな事をしたのか』この事実を解き明かす事が事実を裏付け、真実を明らかにするです」