アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ14

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1名無しさん@お腹いっぱい。
このスレはアニメキャラ・バトルロワイアル2ndの作品投下スレです。
基本的に、SSの投下のみをここで行ってください。
前スレ
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ13
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1204017211
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ12
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1202475356
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ11
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1199094345
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ10
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1197690706
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ9
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1195822039
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ8
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1194537782
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ7
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1193746998/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ5(実質6)
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1193324421/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ4
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1192195953/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ3
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1191637331/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ2
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1190647837/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ1
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1190383751/
避難所
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd part0-1
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1187538018/l50


投下作品についての感想、雑談、議論その他モロモロは以下のしたらばにて行ってください。

アニメキャラ・バトルロワイアル・セカンド 専用掲示板(したらば)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9783/
感想雑談スレ(上記したらば内)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9783/1190297542/l50
予約専用スレ(同上)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9783/1190297091/l50

アニロワ2ndまとめwiki
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
ツチダマ掲示板 (ID表示の議論スレ有り)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/6346/
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd毒吐きスレ・別館4 (ID非表示の毒吐きスレ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1201093544/
※毒吐きスレ内での意見は、基本的に無視・スルーが鉄則。毒吐きでの話を他所へ持ち出さないように!


テンプレは>>2-8辺りに
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 21:18:28 ID:G+ACb/N4
参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)
1/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/●八神はやて/○シャマル/●クアットロ
1/6【BACCANO バッカーノ!】
●アイザック・ディアン/●ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/○ラッド・ルッソ/●チェスワフ・メイエル/●クレア・スタンフィールド
4/6【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/●ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/○言峰綺礼
1/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/●カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/●ロイド・アスプルンド/●マオ
1/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/●リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/●マース・ヒューズ
3/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
2/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/●ジェット・ブラック/●エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/○ヴィシャス
2/4【らき☆すた】
●泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
2/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/●アレンビー・ビアズリー
1/4【金田一少年の事件簿】
●金田一一/●剣持勇/○明智健悟/●高遠遙一
3/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/●パルコ・フォルゴレ/○ビクトリーム
1/4【天空の城ラピュタ】
●パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/●ドーラ
3/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/●玖我なつき/○藤乃静留/○結城奈緒
1/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/●読子・リードマン/○菫川ねねね
0/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/●ミー/●マタタビ
0/3【さよなら絶望先生】
●糸色望/●風浦可符香/●木津千里
1/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
●神行太保・戴宗/○衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
2/2【トライガン】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
1/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/●相羽シンヤ
1/2【王ドロボウJING】
○ジン/●キール
【残り31名】

3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 21:19:20 ID:G+ACb/N4
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
 優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
 「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg
【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 21:19:58 ID:G+ACb/N4
【書き手の注意点】

トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
無理して体を壊さない。
残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。

完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)

この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。

みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
   その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。

巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
叩かれても泣かない。
来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 21:20:22 ID:G+ACb/N4
書き手の心得その2(実際に書いてみる)

…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。

適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。

かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
人物背景はできるだけ把握しておく事。
過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。

一人称と三人称は区別してください。
ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。

フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)

経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。

キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。

キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。

『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。

書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
 携帯からPCに変えるだけでも違います。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 21:21:06 ID:G+ACb/N4
【読み手の心得】

好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
荒らしは透明あぼーん推奨。
批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。

擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。

嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。

感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。

ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】

このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。

『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』

これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】

一度死亡が確定したキャラの復活
大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては議論スレで審議の対象。

時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。

話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 21:21:32 ID:G+ACb/N4
【NGについて】

修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。



上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×



批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。

書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)

したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
まとめwikiを参照のこと
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 21:22:00 ID:G+ACb/N4
現在、この企画には二名の粘着荒らしが確認されています。(通称・CとG)
その内の一人、Cの詳しい来歴などは以下を参照の事。
2chパロロワ事典@Wiki‐キャプテン
http://www11.atwiki.jp/row/pages/203.html



また、単発IDで「ふーん」「あっそう」「つまらない」「どうでもいい」などの1行煽りレスや、
他スレや外部の毒吐き掲示板からのコピペを延々と繰り返す粘着荒らしがGと呼ばれています。
これらの人物には構うだけ無駄ですので、レスなどはせずにスルーしておきましょう。



荒らしが出たら?                 → スルーしましょう
C・G本人や、C・Gっぽい人、を見かけたら?     → スルーしましょう
どうしてもそいつらにレスしたくなったら?     → 毒吐き若しくはC・G観測所に書き込みましょう
吊られるやつは荒らしと同レベル。スルーしましょう
吊られる奴を叩くのも吊られた奴と同レベル、スルーしましょう。
荒らしレス〜吊られレス、その一連のレス塊をまとめてスルーしましょう。


※専ブラの御利用を強く強くお奨めします。



関連リンク
アニロワ毒吐き所(ツチダマ掲示板)http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/6346/1188116040/l50
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd毒吐きスレ・別館4 (ID非表示の毒吐きスレ) ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1201093544/
C観測所 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/4651/1170582458/l50
G観測所 http://tmp6.2ch.net/test/read.cgi/tubo/1184658777/l50
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 22:24:06 ID:UQQHrqqP
※※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※※※※

このバトルロワイアルという形で行われている企画みたいなもの(>>2-8)は
実際に2chで行われているバトルロワイアルとはまったく別のものです。
彼等の企画(以下したらばでの企画)に関してはアニメサロンに移転が決まっております。

彼等は2ch上で議論ができなかったために外部掲示板に逃げた逃亡組であり(※1)
いうなれば荒らしに相当します。
アニキャラ総合板で行われる正式なバトルロワイアルは現在このスレッド上で
討議中ですので奮ってご参加ください(※2)

ーーーーーーーーーーー(Q&A)ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここに投下された偽SSはどうしますか?

全て削除依頼を出してください。また、出していいという話し合いもついております
(4スレ目参照)

ここはSS企画を行うスレなのですか?

そういう話はありません。ただ、『何故か』バトルロワイアルはSS形式でなければならないという
固定概念にとらわれた妙な人たちはいますが、このスレの住人ではありません。

10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 22:25:01 ID:UQQHrqqP
・GとかCというのは実在するのですか?

わかりません。
ただ、特にGに関しては、彼等がGの本拠地と言っているLeaf・Key板ですら、
Gといわれている人間のほとんどはしたらばの交流所から出た憶測でしかないという話です

したらばの行いがあまりにむごいために、反感を持つ人間が多いのは事実です。
したらばは、彼等にはむかった人間全てをGやCという一人の人間の単独犯にしたいようですが
結局はただの憶測であり、証拠が挙がっておりません。

はむかえば全てGとかCとかアンチと呼ばれます。気にしないようにしましょう
また、通称dionと呼ばれる、反・したらばバトルロワイアル陣営を全て敵視する変な人が
削除議論板などで暴れています。

彼等は2chの企画なのに2ch上で企画内容を話し合うのは荒らしという奇妙な論理で
削除依頼を出してきます。
ただ企画を行うのは2chであるので、2ch上で企画を話すのは当然のことです。
それを彼は許さないといきまいているのです。

彼等は2chでは必ず荒らしがでるから(Gが出るから)2chでは話せないといってますが
しかし、荒らされたというログは存在しません。
あるのはただの議論ログであり、彼等が荒らされたという間のログを見ても
話し合いが平穏に行われています。(彼等に対して「荒らされたときのログを出せ」と
何人かが要求してますが、なしのつぶてです。実在しないのだから出せないのでしょう)

つまり、したらばが言う「荒らされた」というのは、ただの被害妄想、いいがかりに過ぎないのです。
彼等の言う「荒らし」はいうなれば「Dionやその一派に歯向かった人間」の総称です。
まず気にしない事が一番です。が、たまに削除議論板で彼が暴れるのでたまに運営板などの
監視を行ってください。

現在、テンプレ議論が進行中です
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 22:25:33 ID:UQQHrqqP
ちなみに※1、※2はしたらばの管理人が付け加えたものですが、

>※1 これは議論スレがギャグの人に乗っ取られたためしたらばで話さざるをえなかったため。

とほざいてますが、そんなことはまず物理的にありえません。
彼等らギャグの人は一人だと仰っています。つまりこの話をそのまま通すと
書き手も住人もたくさんいる(彼等の言い分曰く)がいるのに
たった一人に乗っ取られたとそういうことになるわけです。

ありえるかどうかは、少し考えてみればわかることです。
(逆視点から見ると、『たった一人の住人?にボロボロにあらされるような企画』だと
 自分達が言ってるようなものですが・・・)


>※2 乱立しているキャプテンのお気に入りの作品ばかりを入れたロワの事。もちろん嘘なので
善良なロワ住人は騙されないようにして欲しい。

と叫んでいますが、そもそも自分から「善良な」と言い出す時点で

結論だけで言ってしまえば、ほんのわずかな、しかもあらされたというログすら出せないような
矮小な事実だけを針小棒大に騒ぎ立てて自分達の勝手気ままに動かしたいという意図だけしか
みえませんです。



以上警告テンプレ終了
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 01:11:20 ID:rQ0DkDI5
現在
http://jbbs.livedoor.jp/anime/6260/
で3rdロワの準備が行われています。
また最後の一枠を争うウテナキャラの決選投票が
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6260/1205305770/l50
にて木曜0時より行われています。
よろしければ参加してください。 (現在はマップとwiki管理人を募集中)

そして3rdロワの現時点でのメンバーは
6/6【バンブーブレード】
○川添珠姫/○石田虎侍/○千葉紀梨乃/○/宮崎都/○栄花段十朗/○桑原鞘子
7/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
○高町なのは/○フェイト・T・ハラウオン/○スバル・ナカジマ/○ティアナ・ランスター/
○エリオ・モンディアル/○キャロ・ル・ルシエ/○ヴィータ
5/5【solty rei】
○ソルティ・レヴァント/○ロイ・レヴァント/○ローズ・アンダーソン/○ラリー・アンダーソン/
○ユート・K・スティール
6/6【ゼロの使い魔シリーズ】
○ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/○平賀才人/○タバサ/
○アンリエッタ/○ジュリオ・チェザーレ/○アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン
5/5【無限のリヴァイアス】
○相葉昴治/○相葉祐希/○尾瀬イクミ/○ファイナ・S・篠崎/○ユイリィ・バハナ
5/5【スクライド】
○カズマ/○劉鳳/○由託かなみ/○ストレイト・クーガー/○橘あすか
5/5【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○セイバー/○遠坂凛/○アーチャー/○藤村大河
6/6【ハヤテのごとく!】
○綾崎ハヤテ/○三千院ナギ/○マリア/○桂ヒナギク/○鷺ノ宮伊澄/○冴木ヒムロ
5/5【ひぐらしのなく頃に】
○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/○古手梨花/○北条沙都子
5/5【スケッチブック】
○梶原空/○麻生夏海/○鳥飼葉月/○ケイト/○空閑木陰
5/5【CLANNAD】
○岡崎朋也/○古河渚/○伊吹風子/○坂上智代/○春原陽平
4/4【School days】
○伊藤誠/○西園寺世界/○桂言葉/○清浦刹那
4/4【ARIAシリーズ】
○水無灯里/○アリシア・フローレンス/○藍華・S・グランチェスタ/○アリス・キャロル
4/4【瀬戸の花嫁】
○満潮永澄/○瀬戸燦/○江戸前留奈/○銭形巡
3/3【破天荒遊戯】
○ラゼル・アナディス/○アルゼイド/○バロックヒート
3/3【フルメタルパニックシリーズ】
○相良宗介/○千鳥かなめ/○テレサ・テスタロッサ
3/3【ヘルシング】
○アーカード/○セラス・ヴィクトリア/○インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング
3/3【灼眼のシャナ】
○シャナ/○坂井悠二/○ヴィルヘルミナ・カルメル
3/3【今日からマ王!】
○渋谷有利/○ウェラー卿コンラート/○フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム
3/3【新世紀エヴァンゲリオン】
○碇シンジ/○綾波レイ/○惣流・アスカ・ラングレー
2/2【おおきく振りかぶって】
○三橋廉/○阿部隆也
2/2【狼と香辛料】
○クラフト・ロレンス/○ホロ
1/1【少女革命ウテナ】
○天上ウテナ

となっています。
13どうでもよくなった理由 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:33:51 ID:O1UB8gzT
気温が段々と下がってきた夜の町に、1人の男が走っている。
赤いマントをひっさげて、両腕を懸命に振っている。
行き先は炎という名の赤い花びらで埋め尽くされた畑だ。
轟々と辺りを燃やし尽くす千本桜は"下から見上げても"よくわかる。

「おい、クロミラ! てめー、の勘は、こっちだ、っていってんだな!? 」
『ええ、魔力の反応をいくつか感じます』

男が呼吸を切らしながら、サングラスをポケットにしまい、手元の板っきれに確認をとる。
肺に息が詰まるような喋りは、彼がそれだけ走りづめだからだ。
が、男は立ち止まることをしない。
喧嘩別れした仲間、ドモンが待っているのかもしれないのだから。
目の前でみすみす逃がしてしまった少女、ティアナが待っているのかもしれないのだから。
この眼で善悪の真偽を確かめたい婦人、シャマルが待っているのかもしれないのだから。

『カ、カミナ! 止まってください! 一部の反応が高速道路に移動しました』
「高速道路……ちょっと前にいた上の道か! そいつがドモンなのか!? 」
『わかりません。しかし船にも反応が』
「高速道路は別に火事になってねぇんだろ? だったら構うことはねぇ、後だ後! 」
『……そうですね』
「とりあえずそいつは無事なんだ。船に残っているやつがてめぇのご主人だったらまずいだろ? 」

板っ切れクロスミラージュの意見にも男はクールな思考で対応する。
天下無敵のホットな大将――カミナは豪華客船に向かって再び足を走らせる。
その無謀さはまさしく飛んで火に入る夏の虫のようだった。
14どうでもよくなった理由 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:34:42 ID:O1UB8gzT


「……なぁ、クロミラ、そうなら、そうって、早く言えよ」
『予想はできていましたが、見てみないことには』

風通しの強い波止場を、へとへとになりながらカミナは歩く。
サングラスから垂れる汗が、彼の疲労を物語っている。
なぜカミナは船に乗船しないのか。答えは簡単である。彼は船にたどり着けなかったからだ。
船は船着場に止まっておらず、海の真ん中で停泊していたのだ。つまり船に乗るためには海を泳がなければならない。
いくら泳ぎ方を少しレクチャーしたからといって、夜の海を泳ぐのは玄人でも自殺行為である。
そして船が火災による二次災害――すなわち舟艇自体の破損による事故の影響を素人のカミナが受けたら元も子もない。
その危険性ゆえに、クロスミラージュは船に行きたいという自身の逸る気持ちをおさえ、カミナに苦言を呈したのだった。

『申し訳ありません』
「あん? おいおいどうしたクロミラ。俺はもう気にしちゃいねーぜ」
『あなたにご足労をかけて』
「……てめぇのこったから、どうせ俺に気ぃ使ってんだろ。"自分の仲間を助けるために俺に死ねとは言えない"ってよ。
 お前は板っきれだから、自分で助けにいけないしな。
 だがよ、これで諦めるのは早ぇ。下が駄目なら"上"がある! あの穴からパーっと飛び出してよぉ……」
『……カミナ、まさかあなたは!? それはいくらなんでも危険です!
 やはり先ほど船から水上スキーで避難した人物と接触を計ったほうが安全な形で乗船できるのではないでしょうか』

クロスミラージュは思い出す。
カミナが波止場に到着した矢先に、燃え盛る船から逃げるように飛び出し、闇に消えた一筋の矢を。
辺りが夜であること、そして姿が確認できたのが一瞬だったので詳しくはわからないが、それは人に違いなかった。
クロスミラージュは、豪華客船の大火災からの生存者ならば、中の詳しい事情を知っていると分だ。
例えその状況が予測できる内で最悪の結果だとしても、自分たちが危険に晒される可能性は低い、と。

「おいおい忘れたのかよクロミラ。あそこにも反応があるんだろ。 
 だったらそこにだって火事の生き残りはいるんじゃねぇか? 」

だが彼が相手にしている男は、それで止まる漢ではない。

「てめぇが俺と同じ体だったら、このまま見過ごしたか?
 それに、あそこにシモン達も一緒にいたとしたらって考えるとよぉ……ここで退くのは男じゃねぇだろう! 」
15どうでもよくなった理由 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:35:21 ID:O1UB8gzT


エリアD-3の高速道路の壁には、穴がある。
ドリルでも掘っても丸一日はかかる、大きな穴が1つある。
その穴は時に戦闘の横槍になり、奇術の要になり、見物の入り口になってきた。
エリアD-3の高速道路の車線には、置物がある。
普段は有田焼きで造られるところを、特注の瀬戸焼きで造られた大きな置物が4つある。
その置物は時に追悼の添え物になり、戦闘の場になり、進行の妨げになってきた。
エリアD-3の高速道路上に、人がいる。
身の丈を埋めつくす量の荷物を抱え、大の字に寝ている少年が1人いる。
そして少年を見下ろす男が、1人いる。

『……マスターではありません。気絶しているようですが、協力してくれるでしょうか』
「こいつ、あの“豪華客船”ってのからここまで飛んできたのかよ? 」
『物理的に不可能ですが、彼からは魔力の反応があります。何らかの手段を使ったのでは……』

カミナは自分の足元で倒れている少年の上体を起こす。
そして眠りこけている幼く赤い両頬を、容赦なく往復で平手打ちして目覚めを促した。

「おい! おい起きろ! いつまで寝てやがる」
「……う、ん? あ、あれん……」
「オラオラオラオラオラ起きるまで何度でも引っぱたいてやるぜ!! 」
「いたた痛い痛い痛い痛い! やめるのだアレンビー! 私はもう起きているのだ! 」

甲高い子供の産声が風通しの良い高速道路に響く。
少年はカミナの側から逃げるように離れて、赤く腫れた顔を摩った。
ぽろぽろとこぼしている涙が何とも子供らしい。

「アレンビー? 何だよソレ」
「……アレンビー、じゃ、ない」

だが少年は首をかしげるカミナの姿を見つめていく内に、黙り込んでしまった。
目に映る靡く青い前髪の持ち主が、自分の知っている仲間の髪ではなかったからだ。
少年はまだ泣いている。
だがその意味が痛みから悲しみに変化していることは、日を見るより明らかだろう。



高速道路の壁にぽっかり開いた穴からカミナが豪華客船を見下ろしている。
駅ビルから見下ろした時と比べれば、炎の勢いは大分衰えている。
船も丁度ここから真下にあるので、ここから飛び降りれば、容易く船の甲板に着地できるだろう。
だが、ただの救出作業だったはずの事態は一変している。
ガッシュ・ベルから聞いた息もつかせぬ戦慄劇。
銀髪の妖狐のような恐ろしく冷たい目つきをした男の襲撃。
船に乗員していたガッシュは、次々と殺されていく仲間たちの犠牲の上に生かされたこと。
そして、まだ他の仲間達があの船に残っているかもしれないという事実。
乗るか反るか。
クロスミラージュからの様々なアドバイスがカミナの耳に飛び込む。
しかし――
16どうでもよくなった理由 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:36:17 ID:O1UB8gzT
『ですから高遠遙一、ジェット・ブラック、チェスワフ・メイエルと我々は波止場で接触していません』
「……」
『海に水上スキーで避難した者が何名いたのかはわかりません。しかし全員脱出したのかもしれません』
「おいクロミラ」
『カミナ、私は今すぐ彼……ガッシュ・ベルとモノレールのF-5駅まで戻りMr.ドモンの捜索をすべきだと思います』
「違うだろ」
『ガッシュ・ベルがMr.ドモンと接触していないのなら、彼はデパート方面への移動を余儀なくさせられたはずです』
「そうじゃねぇだろ」
『ガッシュ・ベルの友人、ミリア・ハーヴェントが名も無き殺戮者の手にかかった以上、このエリア一帯は危険――』
「そうじゃねぇって」
『……どうしたのですか。あなたの仲間であるシモンとヨーコが豪華客船にいる可能性はゼロですよ? 』
「クロミラッ!! 」

カミナはクロスミラージュを思いっきり地面に叩きつける。
今度はモノレールの駅でやったようなただの鬱憤晴らしではない。
相棒への純粋な怒りだ。

「てめぇそろそろ本音で語れ」

カミナは豪華客船から魔力の反応が高速道路に移動したとき以来、ずっと心に違和感を感じていた。
高速道路を後回しにしようと提案したとき、何故クロスミラージュは反論しなかったのかと。
高速道路に飛んだのは、彼がいの一番に会いたい人物だったのかもしれないのに。
クロスミラージュの性格を考えれば軍用機械らしく"それよりも人命救助を優先"を道理として実行、といったところか。
しかし一時は互いの同意の上での行動だったとしても、それこそがカミナの最も重要な琴線なのである。

『本音、とは? 』
「行こうぜ、豪華客船によ」
『無理です。ここから飛び降りるのは危険すぎま』
「本音で語れって言ってんだ! 会いてぇんじゃねぇのかよ! てめぇの相棒、ティアナによぉ!
 あいつはあの船にいるんだ。海に沈んでるわけでもねぇ! 野垂れてるわけでもねぇ! 二度と会えねぇわけでもねぇ! 」
『…………ですが』
「おぅなんだ。あいつはもう、お前の目の前で待ってるんだぜ」
『彼女は……いや、彼女"も"既にこの世を去っています。今更会ったところで、私には冥福を祈ることしか。
 それに、機動六課はまだ終わっていません。まだシャマル女史が残っています。
 それにリボルバー・ナックルの存在が確認できた以上、私以外のインテリジェンスデバイスとの接触も』
「だから本音で語れって言ってんだろうがよぉぉ! 」

カミナはクロスミラージュを取り、大きく振りかぶって再び地面に叩きつける。

「会えよ! 生きてても死んでても構いやしねぇ! てめぇはここまでずっと探してきたんだ!
 目の前で逃がしちまった失敗をてめぇはずっと悔しがってたじゃねぇか! それを"今更会ったところで"だぁ!? 」
『その通りです。ガッシュ・ベルのようにここには魔力を持っている者がいるはずです。
 シャマル女史以外の魔力保持者とデバイスの確保は、螺旋王打倒の上では外せません! 私自身の私情で期を失ってしまっ』
「また"キャッカンテキジジツ"かよ! てめぇいい加減にしろ! 
 いいか……会いたい奴に会いたくても会えない野郎がここには一杯いるんだ。この俺のようになぁ!
 俺は、シモンとヨーコがここで、無事に、はしゃいでいる所を見てもいねぇんだぞ! 」
『…………』
「何でだよ……あいつらが今どこで何をしているのか、知りたくて知りたくてしょうがない、この俺が会えないのによぉ。
 何でてめぇ見たいな冷血な板っきれはこんなに良い事尽くしなんだよ! 」
『…………』
「てめぇは逃げてんだよ。キャッカンテキジジツを盾にして、あいつの死を目の前で受け入れたくねぇんだ」
『……カミナ、やめてください』
「またキャッカンテキジジツか、キャッカンテキジジツ、キャッカンテキジジツ……。
 所詮てめぇとティアナの仲はその程度なんだよ。キャッカンテキジジツに霞んじまうような」
『そんなわけがないでしょう!! 』
17どうでもよくなった理由 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:36:54 ID:O1UB8gzT
クロスミラージュの電子音が夜霧を裂く。

『あなたに……あなたに、私とティアナの関係をとやかく言われたくはない!
 私は、いいですか!? 私はね、雨の日も風の日も台風の日も! どんな時だって彼女と一緒だった!
機動六課で出会ってから、毎日毎日彼女は私と特訓していた!
 ティアナは! 小さな時から! 追い込まれて! 追い込んで! 自分自身を信じきれなくて!
 とても、とても、心の弱い女性だった!
私は、そんな彼女が、全てを忘れてひたむきになれる拠り所に少しでもなれるようにと、彼女の思いに答えてきた!
 どんなにつらい苦境でも! どんなにやり切れない時でも! 彼女が私を必要とした時はいつでも!
 そして、これからも……彼女が……彼女が……死んだ後も……私は彼女の支えになります』
「クロミラ……」
『もし彼女がここにいたとしたら! 彼女は全体の為に動いたでしょう! みんなの為に、最終的な勝利の為に!
 彼女の行動が私の行動。クロスミラージュもまたティアナ・ランスター二尉なんです! 』
「言うじゃねぇか」
『だからお願いしますカミナ。駅に戻りましょう。いや、戻らせてください』

カミナとクロスミラージュ。
何の縁か引き寄せられた互いが思いの丈をぶちまける。
そこに偽りは無い。ただ、思った通りの事を口にして相手に話しただけ。
思いやりというダムはとうに決壊し、信頼という感情を流す。
だから彼らは止まらない。

「クロミラ……おめぇの言いたい事は良くわかった」
『ありがとうございます、カミナ! 』
「だからこそ、俺は豪華客船に行くぜ」



高速道路で捲くし立てているカミナとクロスミラージュを眺める少年が1人いる。
規則正しく体操座りして2人(?)を見ている姿は、紙芝居を鑑賞している町の子供のようだ。
片方が喚くと、もう片方も負け時と張り合う。
その様子を、少年――ガッシュ・ベルは自分の仲間達に重ねていた。
自分自身と高嶺清麿……まだこの地で会えぬパートナーに。
それだけではない。
死んでしまったフォルゴレとそのパートナー、キャンチョメに。
この地にはいない者たちにも、それを重ねる。
恵とティオに。
ウマゴンとサンビームに。
ここで出会った者たちにも、それを重ねる。
アレンビーとキールに。
勇と高遠に。
ジェットとティアナに。
ミリアとチェスに。
重ねて重ねて重ねて重ねて……出会ってきた全ての人達にイメージを重ねる。

「こんなはずではなかった」

かすれるような声でガッシュは1人ごちる。
全てを助け、悪をくじくはずだった。仲間も沢山集まった。みんなが力を合わせてくれた。
だが、彼は1人になってしまった。
姿を消され、首を刎ねられ、胸を斬られ、体を吹き飛ばされ。
あれだけいたはずの仲間たちが消えてゆく。思いを託して消えていく。
18どうでもよくなった理由 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:38:30 ID:O1UB8gzT
「高遠、チェス、ジェット……お主たちは本当に無事に脱出したのか? 」

みんなのための王様が、みんなに助けられて生きている。
互いが互いの為に支えあっていくのが世の理の1つであることを、ガッシュは知っている。
時にそれが残酷に裏切られることも、ガッシュは知っている。

「……変なのだバルカン。このまま前へと突き進む覚悟はある。皆の前でそう誓ったのだ。
 でも、今度ばかりはどうしても体が動かぬのだ。頭ではわかっていても、この体が動いてくれぬ……! 」

バルカンをぎゅっと抱きしめ、ガッシュは体を震わせる。
わかっていても、彼は自分自身を追い詰められずにはいられなかった。
最後に自分が生き残れば全てを元通りにできるかもしれない魔物との戦いとは違う。
本を燃やすという間接的な手段ではなく、明確に生死で優劣を決めるこのサバイバル。
螺旋王に超常的な力があったとしても、この戦いの勝利の先には何も残らないかもしれない。
知っているのと味わうのとでは違う。これまでの試練はガッシュには厳しすぎた。

「それをこれから確かめにいくんだよ。俺とお前とクロミラでな」
『……ガッシュ・ベル。存じているかはわかりませんが、あなたには魔力があります。
 差支えがなければ、あなたの持ち物を見せていただけませんか? 我々は有効活用出来そうなものを探しているのです』

呼びかけられた声に、ガッシュはハッと我に返る。
さっきまで口論をしていた青年と板が、いつのまにガッシュの目の前に立っていたのだ。
板からは感情は読み取れないが、青年の顔はそれなりに腹をくくった面もちだった。



『こんなところでしょうか』
「それほど劇的に何かが変わったとは思えないのだ。それにしてもこの服は……」
「なぁに。後は慣れよ慣れ」
「本当に大丈夫なのか!? 」
「あん? おめぇまだそんな事言ってんのか」
『極めて危険な行為ですが、あなたが大怪我をすることはありませんよ。ガッシュ・ベル』

高速道路からの豪華客船上陸作戦。
その要とは、ガッシュが装備したクロスミラージュとリボルバー・ナックルである。
まずバリアジャケットを展開し、船を目指してそのまま高速道路から飛び込む。
次に船に着地する瞬間にリボルバー・ナックルによる一撃を床に叩き込み、着地の際の衝撃を和らげるのだ。
ただし、いくらバリアジャケットを装着しているからとはいえ、余りにも無茶な手段である。

「ウヌゥ……」
「ったく。おい、おめぇガッシュっつったな。これから俺の言うことをよぉ〜く耳をかっぽじって聞いとけ。」

そこで、カミナ達の出番である。
カミナがガッシュにおんぶしてもらい、着地地点を見極める。
クロスミラージュのアドバイスや、ガッシュから借りた道具で落下ポイントを修正するのだ。
なるべく船の頂上、つまり高速道路との距離が短い場所でまず1度衝突しておく。
後は船の上を滑るように段々と船の側面に衝突していき、最終的には甲板に着地する。
その都度ガッシュが船にリボルバー・ナックルで衝撃を加え続ければ無傷で乗船できるという寸法だ。

「どうよ! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが俺のやり方だからな! そろそろてめぇも腹くくれ」
「でもお主は大丈夫なのか? 私には皆が無傷で済ませられる自信が無い……」
19どうでもよくなった理由 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:39:04 ID:O1UB8gzT
「自分を信じるな」
「ウ、ヌゥ!? 」
「いいかガッシュ、よく聞け。自分を信じるな。俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!! 」
『……カミナ、あなたは本当にその言葉が好きなんですね』
「おうよ、いくぜオラぁぁぁぁ!! 」
「え、え、え、あああああああああああああああああぁぁぁ……」
20この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:40:08 ID:O1UB8gzT


「………………う、うん? ハッ! 」

体を大きく跳ね上げてガッシュ・ベルは目覚めた。
高速道路の上? 船の甲板? 彼がいるのはそのどちらでもない。
そことなく漂う上品な雰囲気、綺麗に整えられたシーツ、床に敷き詰められた絨毯、洋物の家具、そして……。

「起きたか」
『おはようございます』

聞いた事のある声がスイッチを入れるようにガッシュの思考を蘇らせてゆく。
ここは豪華客船の客室で、部屋にあるベッドから目覚めた。
最初からずっとここにいたのか。
豪華客船の大惨事、高速道路への脱出、邂逅は全て夢だったのか。
否。
手に握られている友達を見て気づく。

(夢ではない。このバルカンは……私が、高遠から返してもらったものなのだ)

ガッシュ・ベルは奇術師もあっけに取らせそうな帰還劇を、確かにやってのけた。
高速道路から飛び降りて、船の頂上付近で渾身のパンチを与え、カミナに体を地面に預けたのまでは覚えている。
カミナが何度も呼んでいたような気はするが、ガッシュにはそこから先がよく思い出せない。

「お前はよくやったぜガッシュ」
『多少の道具の損失はあったものの、あなたのおかげで我々は無事に着地することができました。』

彼を介抱した者達は口を揃えてこう言うが、ガッシュの話を聞こうとしない。

「そんな事はよ、もういいじゃねぇか」
『それより、お知らせがあります。隣の客室に――"います"。無理強いはしません。が、気が向いたのならどうぞ』

それだけ述べると、彼らはそれ以上何も言わず黙ってガッシュのいる客室を後にした。
一人残されたガッシュは、そのまま考え込む。
一瞬聞き逃したその言葉について、彼は考える。
そこで待っているモノは、希望なのか、絶望なのか。
わざわざ合わせたい、とカミナ達が配慮してくれるほどの相手なのだ。
ならば待っているのは、再会を誓った彼らなのではなかろうか。
だとしたら、自分は今すぐにでも隣の客室に向かうべきではなかろうか、と。
そこまで考えた時、ガッシュは恐怖にとらわえた。
自分が既に絶望、という発想を出していることに。

(でも……それでも! 私は皆と約束したのだ。必ず生きて再び会うと! )

震える口を一文字に食いしばり、ガッシュはベッドから降りる。
一歩一歩大げさに踏みしめて、部屋の扉に手をかけた。
21この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:40:54 ID:O1UB8gzT


『カミナ、お疲れ様でした』
「おうよ」

洋式のソファーとベッドが2つ。一般的なホテルの部屋を模した客室にクロスミラージュとカミナはいた。
もちろん、ガッシュに"来い"と言った部屋であり、カミナはその部屋の地べたに直接足を組んで座っている。
この世界に存在するほとんどの物は元々カミナの知らないものだった。
海も知らなかったし、船の概念だってあいまいだ。
この船のあらゆる設備も、クロスミラージュから説明があって初めて知った物ばかり。
当然、ガッシュの持ち物も。

「おめぇが事前に俺に助言してくれなかったら、流石の俺でもおっ死んじまってたな」
『ガッシュ・ベルの精神状態は非常に疲弊していましたし、最初の船との衝突でよもや……と考えていました』

どんなに完璧に作戦を立てても、綻びはある。カミナの豪華客船降下作戦も例外ではなかった。
ガッシュがリボルバー・ナックルで最初に船の頭頂部を破壊したとき、彼のバリアジャケットは崩壊してしまった。
落下による勢いで生じた衝撃と、リボルバー・ナックルによる衝撃と、ガッシュ自身にかかっていた精神的疲労。
疲弊しきっていた体にかかるこれらが、ガッシュ自身の心の疲れを臨界点突破にまで引き上げたのだ。
その場はリアクティブパージで難を逃れたものの、バリアジャケットは無い。
加えてガッシュ自身も意識を失ってしまった、後はカミナが孤軍奮闘するしかなった。
地面に目掛けて大砲を放ち、銃を撃ったり、扇や余りの衣服を広げて空気抵抗を作ったり。
少しでも落下でついた勢いを殺す、という算段だった。

「ま、俺にかかりゃこんなの御茶の子さいさいってことよ」
『……しかし、決定的だったのはあなたの抵抗よりもガッシュ・ベルの』
「クロミラ、それは言わねぇ約束だ」
『なぜですか』
「俺は何も覚えちゃいねぇよ」
『嘘はやめてください。そんなに怖いのですか。"文字が読めた"ことが』
「俺がびびっているだとぉ! 」
『それだけではありません。"あの時"あの赤い髪の女性と接触しなかったのはなぜです』kkkkkkkkkkk髪の色がヨー粉とかぶる
「体が貧相だったからな」
『ミス・ヨーコはさぞかしナイスバディだったんでしょうね』
「てめぇ! 」

カミナは怒声と共に立ち上がる。
しかし、今度はクロスミラージュに床に叩きつけようとはしない。

「……外の空気吸ってくるわ」

カミナは、クロスミラージュを部屋の机に置いて、そのまま部屋を後にした。
入り違いで部屋にやってきたガッシュには目もくれずに。
22この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:41:29 ID:O1UB8gzT


『ようこそ、ガッシュ・ベル』

部屋に勢いよくやってきた少年に、クロスミラージュは丁重よく挨拶をした。
つられてガッシュもぺこりとお辞儀をする。

「会いにきたのだ」

ガッシュを見てクロスミラージュは本心では驚いていた。
思いのほかより、この部屋に来るのが早かったからだ。
話を聞いた限りでは、彼はこれまでに年不相応の修羅場を味わっている。
彼の心境はの事を考えると、できればもう少し遠まわしに伝えたかったと心づもりがあった。
しかし、クロスミラージュはその必要はないと判断した。
ガッシュの目は、濁っていない。清んだ瞳でこれから自分に降りかかるであろう事実を受け入れようとしていたからだ。

『……簡潔に申し上げます。カミナは、船に不時着したあとあなたをおぶさり、私を口に加咥えて船内を回りました。
 そして"彼ら"を回収し、この部屋に集結させました。あなたと私のために』
「そうか」
『"彼ら"はそこのベッドにいます。被せてある上布団をあげますか? 』
「ウヌ」

ガッシュはそっと上布団を持ち上げる。
広めのダブルベッドゆえか、その作業はぎこちない。
ごくり、唾を飲む音がクロスミラージュにも聞こえた。

「あ……」

そこには確かに"彼ら"がいた。

『この部屋はスイートルームで、他の部屋よりもちょっと広めなんです。
 ここにダブルベッドが2つありますが、奥にもう1つ、純和室の部屋があります』
「ウヌ……」

ガッシュはもう1つのベッドの上布団をまくりながらクロスミラージュに相槌を打つ。

『そこにも布団をしかせていただきました』

ガッシュはとたとた、と小走りしながら奥の部屋に進む。
そして畳がしかれた部屋にあがると、しかれていた布団を同様にまくりあげた。
しかしすかさず踵を返し、ガッシュはクロスミラージュの元まで戻る。
そして彼を手にとると、椅子にちょこんと座り、天井を仰いだ。
23この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:41:53 ID:O1UB8gzT
『……すみません。完全な形で彼らを回収することができなくて』
「馬鹿なのだ」
『……お察しします』
「みんな嘘つきなのだ」
『ええ』
「一体どうしてしまったのだ? 嘘つきは泥棒の始まりであろう」
『その通りです』
「脱出すると約束したではないか。私たちは約束したのだぞ」
『その通りです』
「これでは……遊べぬではないか」
『はい』
「バル"ガン"ど遊べぬ"でばな"い"か……! 」
『……』
「高遠ぉ"! ヂェズゥ"! ジェッドォ"! 」

カミナが船を全域捜索して"彼ら"回収したモノ。
それは志半ばで散ったガッシュの仲間達の亡骸だった。
高遠とティアナ、ミリアとチェス、ジェットとアレンビー、それぞれ分けて部屋のベッドと布団にしまったのだ。
火事のせいで所々酷く爛れていて、骨や内臓もグロテスクに飛び出したり変形している。
とても見られたものではない。
だが、それは間違いなく彼らだった。

(『カミナは死体を引きずってここまで運んできました。その夥しい血の跡に彼が気づかないはずがない。
  ここに来るまで……直接見るまで……彼は必死にこらえて……気づかないフリをしていた』)

クロスミラージュはガッシュの精神力に改めて感服する。
高速道路の時に見せた弱さを、多少睡眠をとっただけで、ここまで持ち直させた回復力に。心の強さに。

(『マスター……あなたは本当に、死ぬのが早過ぎた!
  あなたがガッシュ・ベルと共に立ち上がる姿を……自身を奮い立たせる姿を……私は……私は……! 』)

ガッシュのかすれた声が部屋に響く。
彼の表情はまだ天井を仰いでいるが、彼の大粒の涙は、まだクロスミラージュにぽたぽたと落ちている。
その涙の雫は水溜りとなって、今度はクロスミラージュから一筋の水となってこぼれ落ちていた。
まるで彼も涙を流して、喪に服しているかのように。

24この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:42:27 ID:O1UB8gzT
焼け焦げた甲板の上を、カミナは歩く。
クロスミラージュと約束した手前、ティアナを始めとしたガッシュの仲間達の死体を探すために船を駆け回った。
ゆえに彼はこの船のことは大体把握していた。
それだけに、今は船以外のことに思考がよる。

1つ、自分たちが船に落下した時のことだ。
あの時、本当のことを言えばガッシュが気絶した以降はとてもじゃないが事態は大変だった。
落下の勢いは自分の抵抗だけでは土台無理な話で、一歩間違えば、船の壁に衝突して死んでいた。
あの時カミナは、結局ガッシュにもう一度バリアジャケットを展開するよう頼みこんでいた。
ほとんど意識が朦朧としていたガッシュに、そんな気力はもう無いことを知っていても。

(あれは……俺の声があいつの届いたってことなのか? )

そして奇跡は起きた。
カミナの叫びに呼応するように、ガッシュの持ち物の1つだった赤い本が輝きだしたのだ。
カミナは無意識にその本を取り出し、ページを開き、輝くフレーズを放った。『ラシルド』と。
するとどうだろうか。
船の外壁から巨大な壁が水平に突出し、カミナ達を拾い上げたのだ。
最も、カミナが本を読めたのは一度きりだったのだが。

(そして俺には"これ"が前にも起きた。思い出したくもねぇ。あのガンメンモドキの野郎の……)

飛び出した壁にしがみ付き、船に乗り込んだ後、カミナはクロスミラージュから質問攻めを受けた。
なぜ、文字を読めないはずのカミナが本を読めたのか。
なぜ、再び読めなくなってしまったのか。
なぜ、過去にもこのような事がおきていたのか。
カミナは全てを"俺にはさっぱりわからねぇ"で切り替えしたが、カミナは薄々感ずいていた。
無意識だったはずのガッシュの両眼が輝き、口を広げていたことを。
本を読んだのは自分だが、あの壁を呼んだのはガッシュであることを。
有り得ない事が次々と起こるこの世界。
周りにも自身にもそれが降りかかる事態で、カミナの心は限界にきていた。

(……情けねぇ。情けねぇよ)

カミナは目を瞑って反省する。
この船で探索を始めたとき、彼は初めて死体を見た。
この世界で初めての死体を見た。
白骨死体ではなく、血が噴出し、骨が剥き出し、内蔵が駄々漏れ、汚く醜く歪んだ塊。
明確な死。
カミナは、この時言いようの無い吐き気に襲われ背筋に悪寒を走らせた。
死体を見たことによる恐怖ではない。
シモンとヨーコが、この世界のどこかで同じく肉塊になっているのではないかという恐怖。
この目で見るまで信じないとあれほど決心したはずの心が、2人の生存を疑ってしまった。
そんな自分自身に対し、カミナは更に腹を立てていた。
結局自分は、何もできないままこうしてノウノウと生きているだけではないか、と。
25この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:42:57 ID:O1UB8gzT


船の内部を最前部から最後尾まで貫く長廊下をガッシュは歩く。
部屋に眠る仲間達に別れを告げ、カミナが向かったとする船の甲板へ進む。

『……"本"、ですか』
「ウヌ。ラシルドは私の術なのだ」

クロスミラージュは気休めも考慮したうえで、ガッシュが一頻り泣いたあと、彼に質問した。
質問内容はカミナとそう変わらないものだったが、成果はあった。
ガッシュが魔界の住人であり、魔界の王を決める戦いの途中でここに招かれたこと。
ガッシュと心を通わせた人間がパートナーとして彼の赤い本を読み、ガッシュと一緒に戦うシステム。
本来のパートナーである高嶺清麿以外にも、ガッシュの本を読んだ者がいた事実。

『驚きました。同じ魔力とはいえ、我々とはまた別の形で戦法が確立されているとは』
「カミナはこれが初めてのことではないのであろう? 」
『ええ。しかしそれは彼が私と出会うより前のことで、彼もあまり話そうとしません』
「お主とカミナは仲良しなのに、どうしてカミナは話そうとしないのだ」
『これはあくまで私の推測なんですが、カミナは"彼"と喧嘩別れしたのではないでしょうか』
「ビクトリームは良い奴……ウヌゥ。でも悪い奴ではないぞ」
『実はここに来るまでにカミナはMr.ドモンと喧嘩別れをしているのです。
 似ているのですよ。質問を拒否した時のカミナの表情が、その時のそれと』

そしてクロスミラージュはもう1つ、ガッシュの知らない事実を彼に話した。
カミナが船の甲板で死体を回収しようとしたとき、突如船に舞い降りた1人の女性のことを。
彼女がどうやって船に降り立ったのかはわからない。彼女が何者かはわからない。
しかしカミナはその女性のことを『ヨーコ』と呼んだことを。
結局彼女がこちらに気がつかなかったことと、カミナ自身がすぐに身を隠してしまった為に会えず終いだったのだが。

『あなたは存じ上げているとは思いますが、放送で既にミス・ヨーコの名は呼ばれています』
「ウヌ、つまり幽霊なのだ……」
『いえ、問題はそこではありません。それが本物であれ偽者であれカミナは接触しようとしませんでした』
「何か会えぬ事情でもあったのだろうか」
『穿った見方をすれば、カミナは死体回収のせいで両手は血塗れでしたから、相手との誤解を避けたと考えられます。
 ですが、彼の性格を考えれば本質はそこではなく……』

ガッシュはクロスミラージュからひとしきり話を聞くと、歩くスピードを速め始めた。
廊下を抜けて、外への入り口を通り、甲板へ飛び出し、船の正面まで走り抜け――

「カミナ! 」

少年は、漢に出会う。
26この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:43:35 ID:O1UB8gzT


夜の海に浮かぶ希望の光を灯した乗船客が、2人。
あれだけあった紅蓮の花はもうほとんどが枯れて散っていた。

「聞いてほしいのだカミナ! 」

少年はのべつまくなしに喋る。
自分のこと、赤い本のこと、高嶺清麿と苦境を乗り越えたこと、この世界に来てからのこと。
包み隠さず全てを話す。

「……だから、だから、気にするでない! お主のことはクロスミラージュから聞いた!
シモンとヨーコが、お主と会わずして死んでしまったこともだ! 」

漢の表情が鬼気迫る物に変わったが、少年は止まらない。

「お主、ビクトリームと会ったのだろう!? 何があったかはわからぬが、あやつは悪い奴ではないぞ!
 この世界では、どういうわけか清麿以外の者でも私の本が読めるらしいのだ!
 今は出来なくともお主は私の本を読んだ! 高遠が言っておった"条件"をお主は満たしたのだ!
 だから頼む。ビクトリームと仲直りしてほしいのだ! ひょっとしたらビクトリームの本もお主なら……ウヌゥ!? 」

漢が少年の頭を掴む。万力のように手に力を込めて。
更に掴んだ手を捻り、少年の髪をぐしゃぐしゃを掻き毟る。

「誰が……誰があんな薄情ガンメンモドキと仲直りするか!
 あいつはな、俺のシモンを笑いやがったんだ。"死んでくれてよかった"ってな!
 挙句の果てにぁ俺の相棒が死んだことをいいことに自分をパートナーにしてくれと抜かしやがったんだ!
 そんな野郎と、仲直りできるわけがねぇだろうがキッーク!! 」

そして片足を大きく振り上げて少年の腹を蹴った。
しかし少年は動かない。巨木のようにその場に立ちはだかる。
少年はじっと顔をあげて漢を睨む。

「そんなはずが無い」
「てめぇ! 」

少年の一言に漢はまた怒りを込めて蹴る。
だが少年は微動だにしない。
たまらずカミナは掴んでいた手を離し、今度は少年を殴ろうと振りかぶる。
が、漢は後に一瞬でも少年から目を離していたことを後悔することになる。
27この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:45:49 ID:O1UB8gzT
「あ奴がそんな事を言うはずが無いのだぁぁぁぁぁ!! 」

振り向きざまのカウンター。少年の頭突きが漢のどてっ腹にめり込む。
その痛みに漢は血反吐を吐いたが、漢の勢いは止まらない。
漢は拳を握り締め殴りかかる。少年も負けじと殴り返す。

「てめぇに! 何が! わかるんだ! 人の! 名前を! 変えといて! あいつを! シモンを! 笑いやがって! 」
「では! お主は! あ奴の 苦しみを! 知っておるのかぁ! 千年も! 石の中に! 無理やり! ずっと1人で! 閉じ込められて!
 やっと出会えた! パートナーと! 離れ離れに! させられて! また! 独りぼっちになって! お主に会えたのだぁ! 」

小柄な分少年の方が拳1発への時間が短く多段に打ち込まれる。
大柄な分漢の方がより拳1発への威力が大きく深く打ち込まれる。

「じゃあ! あいつは! 何で! "死んでよかった"なんて! 言ったんだコラァ! 」
「ビクト! リームは! きっと! 悪気は! なかったのだ! あ奴にだって! 大切な! モノはある! 言い方が! 悪かったのだ! 」
「そんな! 言い訳! 聞いてられっかぁ!! 」
「じゃぁ! お主は! 一体何で! 会いにいかなかったのだぁ! お主は、シモンとヨーコが生きていると信じておる!
 だがお主は! ヨーコに似た女に声をかけなかったそうだな。なぜだ。探していた女が生きていたのかもしれないのだぞ!
 なぜ行かなかったのだ!! 人違いだとしても、会いにいかないわけがない! 」
「やろぉ! 」
「今のお主はビクトリームと一緒だ! 言ってる事とやってる事が違う!
 お主が何を考えておるのか、奴が何を考えておるのかは知らん! 
 だが私の知っておるビクトリームも、クロスミラージュから聞いたお主も、素晴らしき漢だ! 」
「……! 」

漢は少年の言葉に、漢は拳を一瞬止める。
だが、すかさず少年の胸倉を掴む。
28この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:46:39 ID:O1UB8gzT
「……しょうがねぇだろ! しょうがねぇだろうがよぉ! あの時俺ァな!
 てめぇの仲間の死体を引きずってるうちになぁ! 柄にもなくビビッちまった!
 自分の仲間の死を少しでも信じられなくなって、どの面で会いに行けばいいんだよ!
 こんな事で揺らいじまうようじゃ……あいつらに合わせる顔がねぇじゃねぇか。
 しかもな、俺は……俺はあの女がヨーコじゃなかったって事にほっとしやがった! 
 俺はいつも間にか自分を疑ったあげく、体裁を守ることに必死な下種野郎になっちまったんだよ!」
「ようは怖くなったのであろう!? 良いではないか! 誰も弱くなったお前を見捨てたりはせぬ!
 お主の仲間はお主が弱音を吐いただけで見捨てるような薄情者か! そうではなかろう! 」

少年も負けじと胸に伸びた漢の手をしっかり掴む。

「クロスミラージュから聞いたぞ。お主はあ奴の願いを頑なに無視したそうだな。
 だがそれは自分自身のためでもなく、クロスミラージュのためだ。
 ティアナの遺志を受け継ぎ、ティアナとして前を進もうとしたクロスミラージュを、お主は止めた。
 あ奴の心の中にいたティアナへの思いに、決着をつけさせるために、お主は止めた。
 直接ティアナの亡骸に会わせる事によって、お主は止めた。
 "クロスミラージュがクロスミラージュとして生きて前に進んでもらう"ために、お主は止めたのだ!
 そうやってお主は奴を一度説得し、豪華客船に飛び降りたのであろう!? 」
「……うるせぇ」
「そして、お主はそれで自分を省みることができるのか迷っていたクロスミラージュに啖呵を切った!
「何でだよ……」
「『自分を信じるな。俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!!』と! 」
「じゃあよ……」
「そこまで仲間の事を考えられるお主が良い奴でないはずがない!! 」
「そうでなければ……」
「てめぇは……」
「お主は……」

2人の世界は止まらない。
気がつけば漢の腹は痣が出ており、少年の顔も青く腫れていた。

「「どうして泣いてい(やが)る!! 」」

しかし漢も少年も、殴りあうのを止めていた。

「悔しいからではないのか! 肝心の自分が! 何かをしたくても! 自分のために何もできぬ自分が!」
「やせ我慢してんじゃねぇのか! おめおめと生き延びた自分が! てめぇで助けようとして! 助けられなかった自分が!」
「動くのだ! 動け! 動いて動いて動き続けるのだ! 無理を通して、道理を蹴っ飛ばすのがお主だろう!」
「吐けよ! だめだったんだろ! 頑張って頑張って頑張って、でも助けられなかったんだろ! 認めろよ!
 悔しがってる自分をよぉ! 本当に言いたい時に吐かねぇと! てめぇの心がてめぇにそっぽ向いちまうぞ!
 今こそてめぇは本音を吐かなきゃだめなんだよ!!」

どちらも一歩も引かぬ、粋試し。

「……ぬがぁぁぁぁ! 」
「うらぁぁぁぁぁ! 」
「寂しいぃぃぃぃぃ!! 」
「もっと言えぇぇぇぇ!! 」
「悔しいぃぃぃぃぃ!!! 」
「もっとだぁぁぁぁ……!!! 」
29この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:47:27 ID:O1UB8gzT
その一部始終を、ひたすら黙って聞いているモノがいた。
ガッシュの懐にいるクロスミラージュである。

(『あなた方という人は……』)

カミナが高速道路で説得されたとき、クロスミラージュは彼の思いやりに半信半疑だった。
今まで1インテリジェンスデバイスに過ぎない自分が、本当の意味で自分自身のことを考える。
デバイスとしての自分ではなく、クロスミラージュとしての自分。
その立ち位置への思いは、まだ不明瞭だ。
ティアナへの思いも、決着という形で、まだ上手く表すことができない。
だがこれまでにない『何か』が自分の中から生まれつつあるのを、彼は感じていた。

「はぁはぁ……なぁガッシュ」
「ふぅふぅ……どうしたのだ、カミナ」
「この船で死んじまった奴らは最高だったか? 」
「ウヌ。お主には本当に感謝しておる。みんなを一同に集めてくれて本当にありがとうなのだ」
「そうか」
「カミナ、もう一度聞くぞ。お主の仲間は、最高か? 」
「ああ……どいつもこいつもヒネクレ揃いだが骨があった。特に、シモンとヨーコはな」
「……カミナ!? 」
「俺はこの目で見たこと以外は信じねぇ」

漢はゆっくりと少年を降ろすと、船の外柵まで歩く。

「だがよ」

そして腰ぐらいの高さにある柵の手すり両腕を乗せて、頬杖をついた。
少年からは彼の表情は見えない。

「腹はくくったぜ」

少年の心の底からの訴えは、漢の心の底から覚悟を引き出した。
30この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 07:48:03 ID:O1UB8gzT


所変わって食堂室。
ガッシュとクロスミラージュとカミナは、今後の指針の確認のために作戦会議をしていた。

『それでは、これから私たちは改めてF-5の駅に戻り、Mr.ドモンとの合流、および捜索をしたいと思います』
「ムシャムシャわかったのだムシャムシャ」
「ムシャムシャわかったムシャムシャ」
『お2人とも、ちゃんと聞いてますか? 』

しかし実際は作戦会議とは名ばかりの休憩。
さっきまで叫び通しだった2人は、エネルギーを使い果たしたので、補給のために食事をとっている。
ガッシュはカミナの持っていた刀で綺麗にぶつ切にされたメロンとキノコをほおばり、
カミナはガッシュの持っていた駅弁セットを始めとした食料を口に詰め込んでいる。

「ところでカミナムシャムシャ私はそろそろブリをムシャムシャ食べたいのだがムシャムシャ」
「馬鹿野郎ムシャムシャそれは駄目ってムシャムシャクロミラが言ってんだろがムシャ」

カミナはもう何度目になるかわからないガッシュの催促を却下する。
ガッシュの身の丈はある巨大な鮮魚、鰤は今日のメニューには入っていない。
それはクロスミラージュの提案だった。
現在、豪華客船は陸地に接しずして海上を漂っている。
つまり脱出には再び海に飛び込まなくてはならない。
一度経験しているとはいえ、心身共に疲労しているカミナとガッシュが海を泳ぎきれるのかが、クロスミラージュは心配だった。
そこで、鰤の出番である。
魚にロープを結わえつけて、そのロープをカミナ達が持ったまま海に飛び込む。
そして陸地まで彼に運んでもらう。
魚は本能的に大海を目指して進もうとするが、この世界の海には"果て"がある。
カミナが一度体験したことがある"ループ現象"によって、森の陸地を目指すことが可能だ。
そして改めて、F-5のモノレール駅に向かい、ドモンと合流する。
距離はあるが、決して無謀な作戦ではない。

「とりあえず、森に到着するまでは我慢しろ」
「ウヌ〜〜、わかったのだ」

だが彼らはこの時、自分達がミスを犯していることに気づいていなかった。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 07:52:53 ID:0St4hkIP
 
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 08:02:21 ID:aiPRhGxT
 
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 08:30:16 ID:NjZmVR5h
34この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 09:35:27 ID:O1UB8gzT


「どうだ、これぞ俺式"グラサン・ジャック"モデル!! イカスだろう?」
「おぉ! 言葉の意味はわからぬがとにかくスゴくイイのだ!! 」

お腹も満たされ、いよいよ彼らが海へと旅立とうとした時、カミナとガッシュは友情の証として服を新装した。
2人の服装はカントリースタイル。
カウボーイを思わせる特徴的なベスト。カミナは更に白い上下のカウボーイスーツで決めている。
アクセサリーも忘れない。
ガッシュは皮製の手袋と横一文字に妖しく光る紫のバイザー。
カミナはお馴染みの赤いサングラス、皮製の靴、上物の白いテンガロンハットだ。

『中々様になっていますよ……これから海に飛び込むのが勿体無いくらいです』
「いーんだよ。こういうのはノリだノリ」

ぼやきながらも、カミナは荷物を整理する。
武器、道具、自分には理解不能なもの、残りの食料、そして……。

「カミナ、そのメロンは何なのだ? 」
「非常食だ非常食」

袂を分かった友のために残した、仲直りの印。

「さぁ、とっととオサラバするぜ! ひくっ」
「ウヌ! 出発進行なのだ! ひくっ」
『?……どうかしたんですか2人とも』

一部に疑問を残したまま、彼らは海に飛び出した。
35この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 09:36:25 ID:O1UB8gzT
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



ランラランララ〜ン ランラランララ〜ン
ランラランララ〜ン ランラランララ〜ン
ランラランララ〜ン ランラランララ〜ン

『ねぇ、起きて2人とも……』『そろそろ起きないとダメだよ』
『おい、いつまで寝ているんだ』『ガッシュ、もう起きる時間なんだよ』
『アニキ、起きてくれよ』『いつまで寝てんのよ……』
(ここは……どこなのだ……)
(こりゃなんだ……?)

2人は目を覚まして周りを見渡す。どうやらここは小船の上のようだ。
そして自分の周りで軽やかな笑い声を出しながら、とても楽しそうに手をつないで踊っている集団がいた。
2人にとっては良く知った顔ぶれのはずなのに、彼らはなぜかその名前が思い出せずにいた。

『ガッシュ、ボーっとしてる場合じゃないよ』『せっかくご飯ができたっていうのに』
『今日は滅多に食えないごちそうにありつけれるんだがな』『おいでよガッシュ、ガッシュの好きな物もいっぱいあるよ』
『アニキ、ここには初めて食べるような物が一杯だよ』『あんたも1つ、どう?』
(そうか……そんなに美味しいのか……)
(悪くねぇな……)

2人に向かって代わる代わるに大人子供たちが話しかける。
全員が首から足元まで続く真っ白な布をかけていて、目がキラキラと輝いている。
すると、白装束の新たな仲間たちが台車つきテーブルを走らせて現れた。

『今日は××××君が腕をふるってくれましたからね』『××さんのイジワル』
『君が真心を込めて作った事には変わりはありません』『私はドジばっかりで、結局×××さんが作ったようなものです』
(ウヌ……今日のご飯は何なのだ? )

少年の質問に合わせて白装束たちはせーのでテーブルに乗せられた食器の蓋を開ける。
そこには豪勢とかたずけるには勿体ないくらいの様々な料理が並べられていた。

『山盛りのスパゲティに山盛りのサラダ!』『年代物のブドウジュースはどう?』
『チンジャオロースー。もちろん肉入りだ』『日本料理もあるよ。SUSHIっておいしいよね!』
『すっごく美味しい肉の丸焼きがあるんだ』『そして忘れてはいけない食後のデザートも……』
『ガッシュ君が大好きな“あれ”です』『まぁ……フルーツなんて興味はないかしら』

(そ……それはまさか……)
(あの丸くて甘いやつか……? )

2人がごくりと唾を飲むと、8人の白装束は一斉に『それ』を彼の目の前につきだした。
緑色で丸いそれ。ふうわりとフローラルな香りが漂ってくる。
いつの間にか白装束と同じように少年の目もきらきらと輝きだし、口もみっともなく開いていた。

『食べたい?』『食べる?』『どうだ?』『どうだい兄貴!』
『甘いよ?』『食べごろですよ』『悪くないわよ?』『いかがですか?』
(ウヌ! 欲しいのだ! )
(せっかくだから俺も全部いただくぜ! )
36この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 09:36:54 ID:O1UB8gzT
2人はぴょんと飛び上がると白装束の1人に近づく。
このとき2人の口から垂れる涎が、白装束の服を汚していたのだが、そんな事は誰もつっこまない。
すでに小船の底には少年が飛びつく前に垂れた涎の水たまりが広がっていたからだ。
つまり、もう白装束集団の服は足元がびちゃびちゃになっているのだ。
しかし彼らは笑顔のまま、優しい眼差しで手に持っていたそれを2人の前に差し出した。













『『『『『『『『やるわけねーだろバーカ!! 』』』』』』』』












そしてそのまま手を高くあげた。完全なひっかけ。いわゆる“おあずけ”であった。
高々とあげられた自分の好物を見て、少年が状況を把握するのには時間がかかった。

((!?))

だがと時すでに遅し。
少年が我に返った時は、状況はさらに悪化していた。

『HAHAHAガッシュにはムシャムシャ100年早いよムシャっ!』『これはムシャムシャ拷問なんだムシャムシャっ!』
『一生そこでムシャムシャ踊ってろムシャムシャっ!』『ごめんなさいってムシャムシャ言ってもあげないムシャっ!』
『俺のムシャムシャドリルでもしゃぶってなよムシャっ!』『あたしのムシャムシャ胸でも眺めてなさいムシャっ!』
『少し頭冷やしてムシャムシャ上司にイビられろムシャムシャっ!』
37この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 09:38:27 ID:O1UB8gzT
白装束たちは突然2人の目の前で手に持っていたそれをほお張り始めたのだ。
しかもそのまま。バリバリかじり、あふれ出す汁をグビグビ飲み干す。
口に残った種は機関銃のように吐き出し、辺りところ構わず撒き散らしている。

『一発芸やりま〜す』

呆然とする2人を尻目に1人の白装束が手に持っていた物にナイフを次々と刺す。
そして持っていた全てナイフを刺し終えると、彼は右手でカウントダウンを取る。
するとナイフの柄が次々と飛び出し、刺さった本体は不規則な動きをして跳ね回る。
よく見ればすぽーん、とナイフが抜ける間抜けな効果音に合わせて、全員が口から種を2人に吐き出し始めていた。

『ぷぷぷぷっ種マシンガンを食らえぷぷぷっ! 』『ぷぷぷっ色々な意味でこれから大変になるぞぷぷぷっ!』
『ぷぷぷっどうだ肌につくと痒くなってきただろぷぷぷっ!』『ぷぷぷとんだ間抜け面ねぷぷぷっ!』
『ぶしゅんぶしゅん口の中で作ったジュースをくらえぶしゅーっ!』『ぶしゅんぶしゅんとっても汚いぞぶしゅーっ!』
『お前は今後の人生で“これ”を食べる度に今日の事を思い出しなさいぶしゅーっ!』

2人が心を躍らせていた匂いは髪から足の先までまとわりつき、所々が糖分でべたつき始めている。
自分たちが何故こんな目にあっているのかと反論する気力も、降りかかるシャワーに奪われていた。

『おや、このままでは汁がかかったままですねぇ』『そうだ! 2人の体にかかった分が勿体ない!』
『いけないなぁ、食べ物を粗末にしては!』『おいしくいただいちゃおう!』
『兄貴、痛くしないから安心してね!』『か、勘違いしないでよ? あんたには興味無いんだからね! 』
『それ舐めろ! ベロベロ舐めろぉーっ!』『み〜んなで舐めろ、ど〜んどん舐めろ』
『『『『『『『ずびべろばろべろずばんちょべろべろ』』』』』』』
((〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!))

まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
老若男女問わず行われたメルヘンチックな儀式は、どこまでも続いた。
2人は身も心も何度も何度もなめ尽くされた。
なめてもなめても止まらない。

なめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめても
なめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめかもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめても
なめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてゆなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめても
なめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもうめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめても
なめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめてもなまてもなめてもなめてもなめてもなめてもなめても
なめてもなめてもなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめなめ



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
38この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 09:39:59 ID:O1UB8gzT
882 :この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA:2008/03/13(木) 07:56:19 ID:3jhl9Vpo0





……余談ではあるが、彼らが先ほどまで食べていた食料を1つ紹介しよう。
"キノコ"
菌類の仲間で、全世界に数千種もあり様々な食感に富む。
今回カミナ達が食べたのはその中でも最も一般的な椎茸である。
ただし製造はキノコブローカー、ドミノ。
極稀に一部のキノコを食べると、一時的にトリップを起こし、普段では考えられないような行動をし始める。
そんな危険なキノコを作り出し、多額の財を築いた彼は500万の賞金首のお尋ね者だ。
ガッシュ達は彼の作ったキノコを薄くスライスしてサラダとして食した。
そしてその切れ端の1つはふとした切欠で"彼"の口にも入った。
それは誰か? 



『カミナ、ガッシュ、しっかりしてください! 何かが変です! ただの魚が……こんなスピードで泳ぐなんて! あぁ〜……』
39この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 09:40:43 ID:O1UB8gzT
【E-3 海の上/1日目-夜中(もうすぐ10時)】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ肉体疲労(中)、精神疲労(中)、一時的なトリップ
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
    リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
     アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。
1:〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!
2:ブリに連れられて海を脱出する。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智とビクトリームを捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※螺旋力覚醒
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
 いわゆる王様っぽい衣装です。

[持ち物]:支給品一式×8(ランダムアイテム0〜1つ ジェット・高遠確認済み)
-[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、賢者の石@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:ガッシュ達をロープで引っ張っている。現在ドミノのキノコを食べてトリップ状態)
※ブリは暴走状態なので、泳いでどこに向かうのかはわかりません。
※ドーラの大砲@天空の城ラピュタは、船に上陸した際に弾を使いきり壊れてしまったので破棄しました。
※東風のステッキ@カウボーイビバップも船に上陸する直前の際に使用しました。
40この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA :2008/03/13(木) 09:41:14 ID:O1UB8gzT
884 :この涙は知っている ◆hNG3vL8qjA:2008/03/13(木) 08:03:05 ID:3jhl9Vpo0
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、体力消耗(大)、全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、一時的なトリップ
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】   
    アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!、
    クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
    ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。
1:〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!
2:ブリに連れられて海を脱出する。
3:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ガンメンモドキ(ビクトリーム)よぉ……そうならそうって早く言えってんだ。
[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。2人の死を受け入れられる状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ましたが、なぜか今は読めません。
41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 10:59:36 ID:u30geHKF
つ【削除依頼】

ヨロ








あと、誰か過去ログ張っとけよ


42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 14:14:17 ID:0Q7dhVKL
43名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 14:14:44 ID:0Q7dhVKL
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(開催用に開発された白地図)
44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 14:15:44 ID:0Q7dhVKL
207 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2007/12/17(月) 23:13:41 ID:si8yiggO
死んでも生き返ってはいけないというルールはないから
死んだら別フィールドににぶっ飛ばせばいいんじゃね

>>192 の世界で死んだら、>>203の世界に転生とか


208 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2007/12/17(月) 23:29:12 ID:YXM1jlhX
糸色望はA世界のバトルロワイアルに参加決定しますた
僕達は殺し合いをすると、3回書かされました
「へたれセイバー」に食われて死亡しました
A世界で糸色望が死亡しました
糸色望は他界しました
  ・
  ・
  ・
糸色望はB世界のバトルロワイアルに参加決定しますた
僕達は殺し合いをすると、3回書かされました
突如、「ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ」に鈍器で殴られて死亡しました
糸色望は他界しました
 ・
 ・
 ・
糸色望はC世界の…
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 14:16:43 ID:0Q7dhVKL


232 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2007/12/20(木) 00:20:37 ID:FAwql9YC
たとえばね
                                                   
キャラが増えれば増えるほどいいというんだったら
キャラ数の上限は無いほうがいい
                                                  
ということで、>>208のような形で死んでも復活できるようにして軍団制で戦う
あと、同じキャラを何人も作っておけばいいのではないかなと

たとえば、糸色望だったら
A軍団にもB軍団にもC軍団にも等しく糸色望がいるとか




46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 14:17:22 ID:0Q7dhVKL
165 名前:過去ログ議論4 投稿日:2008/02/21(木) 23:17:34 ID:UigDJ+Sa
84 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2007/12/16(日) 19:13:24 ID:BgC9eCX7
あ、言い換えると

「パロロワ」というのをしたらばの団体で規格かなんか勝手に作ったのかもしれないけど
うち等2ch側にはなんの関係が無いという事です。

したらばの推奨する「パロロワ」だけが「バトロワ」じゃないの


85 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2007/12/16(日) 19:17:47 ID:mVqbNKNE
バトロワに復活してはいけないなんてルールは無い

たとえば>>45http://keiyasuda.ddo.jp/~br2ch/br/brlist.cgi
人が復活したり何だりで何度も殺しあってるけどこれもバトロワ




とりあえず過去ログ議論からの手持ちはこんだけ。
あとは他の連中に任せた
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 18:59:05 ID:TCIAxw6X
 
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 22:27:01 ID:eulqsuKS
開催場所なんだけど実際の島にしない?
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/14(金) 18:56:16 ID:e1RKpTHR
例えば?
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/14(金) 19:11:08 ID:wJTib6pf
小笠原諸島とか
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/14(金) 19:16:07 ID:0uz/m24/
しこしこ
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/15(土) 01:03:58 ID:DiykrQ66
参加者運ぶのに金も時間もかかるから却下
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/15(土) 01:06:27 ID:r36nXbkA
竹島で
54名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/15(土) 01:34:01 ID:3VPoLrA4
竹島の地図ってないの?
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/15(土) 14:13:48 ID:3IbszAwp
地図もあるし沖木島で。
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/19(水) 19:39:07 ID:hWuFhpxy
アニメロワイアル3rdの開幕に辺りマップを当ロワと同一の物を使用しようと考えています。
もし意見があれば
http://jbbs.livedoor.jp/anime/6260/
の議論スレにて一報お願いします。
出来れば3月21日金曜いっぱいまでにご連絡お願いします。
57ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:29:32 ID:8iu8t0Yb
上空、夜の闇に小さな光を発見したルルーシュは、やや慌てて消防署の内部に戻り、潜む。
浮かれていたことを自戒せねばならないところだった。
ニア、ビクトリームと離れて一人となって後、保険として隠れ場所を確保しておく意味で
消防署の様子を覗きに来たのであったが、まさかここで、あんなものを発見するとは。
エレベーターの扉をこじ開けて自ら下へ降りなければ行くことのできない地下二階。
何かが隠されていることを前提に探さなければ、そんなものの存在には気づかなかったことだろう。
消防署であるだけに扉をこじ開ける機器の調達には不自由しなかったが、
元から疲労していたせいもあって体力的に非常にきつく、上に戻るのにも一苦労どころの話ではなかった。
だが、あれがあれば、清麿なる少年との情報交換も、より有意義なものとなるであろうし、
なにより、あれを知っていること自体が他の参加者を対主催として糾合するにあたり、強力なアドバンテージとなりうる。
降って湧いたような幸運に舞い上がることのないように充分な注意を払っていたつもりだったが、それでもなお調子に乗っていたものらしい。
後から悔いるから後悔と呼ぶ。今となっては消防署内の安全を確認できていたことが不幸中の幸いだ。
空にいたあれは、先ほど交戦したシータである可能性がきわめて高いと予測した。
ニアを始末して、こちらにとって返してきたのだと考えた。
なにしろ自分は無力だ。このまま襲われたら、ギアスを使う以外にはどうにもならない。
いや、あの槍のことを考えれば、そんな暇もあるかどうか、かなり怪しい。
ルルーシュにできることは最早、気づかれていないことを祈って、通り過ぎていくのを待つだけであったが。

(なんという…)

すぐそばに着陸してきたことが、はっきりとわかった。
足音がしっかり聞こえたのだから間違いない。
一刻の猶予もなし、ただちに逃げる決断を下す。
もとから隠れ場所とするべく調べていたのだ。逃走経路は確保している。
今いる車庫…残念ながら消防車両の類はなかった…から内部を外周に沿って大回りし、裏口から再び森へ逃げる。
木の枝程度では妨害にもならないことは先ほど知ったばかりだが、かといって住宅街へ逃げれば見通しが良すぎてたちまち餌食だ。
あのシータを相手にしては、生き延びられる可能性を最大限得られる場所は森にしかない。
『あれ』が動かせるなら話は変わってくるかもしれないが、今の自分には無いものねだりであった。

「誰かいる? いるんでしょ?」

だが、そこで聞こえてきた声が、ルルーシュの思考を一時停止させる。

(シータではないな…)

そういう可能性も、無くはなかった。
すると、あちらの保有戦力はまったくの未知数ということになるが、
今まで生きのこり続けた上に、ああも堂々と空を飛んできた以上、
決して無力な存在などではないことは明らかだ。
しかも呑気に声などをかけてきている。
よほど自分の能力に自信を持っている証左に他ならない。
あの声の主が殺し合いに乗っているのならば、
応えてのこのこと顔を出した瞬間に殺されてしまうことだろう。
そんな思惑に乗ってやる理由の持ち合わせなど、あるものか。
ともあれ、逃げることを決断した以上、行動は素早いに限る。
用意した逃走経路は、何もシータだけを想定していたわけではないのだから。
例えば、ジンから聞いていた、東方不敗のような化物など。
そんな連中と自分一人が鉢合わせてしまったケースでは、屋内で捲いた方がまだ生き延びるチャンスがあるということ。
…の、はずだったが。

ゴウッ

突如、背後から吹き付けた熱風と光、そして音に思わず振り返る。
振り返って、目を剥かざるを得なかった。
正直、まったく想定にない。
というよりも、想定したところでどうにもならない類の代物を使ってきたケースに、これは当たる。

(火炎放射器だと?)
58ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:30:54 ID:8iu8t0Yb
ルルーシュが今の今まで潜んでいた場所は、たちまちにして業火に包まれた。
なんということだ。森に逃げるなど、とんでもない。あっという間に火に巻かれておしまいではないか!
ではどうする。シータでなければ住宅街に逃げても安全か。
そうではあるまい。あの、女か子供の声の主だって、空を飛んできたのだ。
空から火を吹き付けられるのだって、似たような末路だろう。
エレベーターをこじ開ける際に着込んだ消防服をそのまま着ているとはいっても、耐えきるには無理がある。
この瞬間、逃げるという選択肢の元に生存できる確率は、限りなくゼロに近づいた。
で、あればどうするか? 逃げて駄目なら、どうするか?
答えはひとつだ。対峙して撃退するしかない。
非力な自分が、あの炎を使う何者かを撃退するには…方法は、ただひとつ。

(ギアスを使える状況に持っていくしかないな)

こんな窮地にこそ陥ったが、会話にさえ持ち込めればなんとかなる。
目を覗き込み一言命じれば、こちらはそれで勝利だ。
ギアスを使うごとに受ける苦痛を考えるに、もう一人何者かが潜んでいたりすれば最後だが、
理想的な状況など、最初から望むべくもない。
むしろ、建物ごと消し飛ばして全て終わらせるような相手でなかった幸運に感謝すべきだった。

「誰だ、お前は?」

炎の向こうに、聞こえるだろう程度の大声で聞く。
同時にその場を飛び退くことも忘れない。
案の定、さらなる炎が襲いかかってきた。
悪くはない。まだ自分は五体満足だ。
ここで目論見通りにさえ行けば、かなり有利な状況を手にすることさえ不可能ではない。

「話を聞け、少しでいい!」

会話に持ち込んで、目さえ合わせればそれでいい。
顔を出した瞬間に焼き払われない程度に話に引きつけ、
面と向かえばそれで全て終わるのだ。
さて、殺し合いに乗っているのは確実として、何を話して聞かせるべきか。
取引材料になりそうなのは…
思考を数瞬のうちに展開するところに、思った以上に早い返事が返ってきた。
確実にシータのものではない声で。

「…ってる?」
「は?」
「ラッド・ルッソっていう男、知ってる?」

こちらの話を聞く意志があるのかどうか、かなり疑わしい返事ではある。
だが、聞き覚えのある名詞が飛び出したことが、ルルーシュの判断を若干変えた。

「人づてにだが知っている」

ジンからすでに聞かされていた名前のひとつ。
あの飄々とした少年の協力者であるはずの名前。
あちらがそれについての情報を欲しているのなら、
取りも直さず、欲する背景を知ることができるということだ。

「知ってるなら教えて」
「今、そちらに出て行く。
 話をする気があるのなら、物騒なものはしまっておけ」
59ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:31:46 ID:8iu8t0Yb
もっと色々とハッタリをかましておくべきかとも考えはするが、
警戒感を強めさせては元も子もない。
今の時点で出て行くのがベストだと腹をくくった。
まだ見ぬ女に刻み込む命令は、もう決まっている。
正面玄関から用心しつつ表に出ると、そいつは振り向いてきた。
…血の涙もあらわに。目をかっと見開いて。




************************************



舞衣は決断した。
まず、ラッド・ルッソの所在を明らかにすることを。
ラダムの支配下に置かれる前に…いや、置かれるのを遅らせるためにも、
できる限り抗い続けるのだ。
すでに、今自分が考えていることですら、自分のものであるかどうか疑わしい。
なので、Dボゥイと小早川ゆたかのことについて、必死で考えまいとした。
ラッド・ルッソへの憎悪を自らかき立てることで、頭の中から想いを消した。
あれを放っておけば、戦う力のない人間がどんどん殺される。
もう、奪うのも、奪われるのも見たくないのに。
だから、許さない。あの男だけは許さない。
ひたすらに憎んで、憎んで、憎み続ける舞衣だったが、
それでも、殺す、という単語だけは脳内で避け続けた。
わかっているのだ。殺意を認めた瞬間、決定的に自分は終わると。
とにかく、憎むべきラッド・ルッソはどこにいるか。全てはそれからだ。
そのように巡らせる思考を、ラダム虫は別に邪魔しなかった。
…いや。
そんなあたしは、すでにラダム虫…

「違う」

自らの頭に突き立てられる爪。

「違う…違う。違う…
 違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う」

かきむしる。
ばりばり、かきむしる。

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
 ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう
 ちがうぅぅぅうぁあああああああアアアアアアァァァ〜〜〜〜――――ッ」

月夜の空に絶叫響く。

「あたしはっ…あたしのものよ…
 恨みも、怒りも、全部っ、あたしのもの。
 あんたなんかに、あんたなんかにやるもんかぁぁぁっ!」

爪がえぐる。
皮膚が破れる。
血がにじむ。垂れる。溢れる。

「ラッド・ルッソ……
 ラッド・ルッソぉぉぉッ…」
60ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:32:32 ID:8iu8t0Yb
頬を彩るは紅い涙。
それは憤怒の色なのだろうか。
だが舞衣は気づいていない。
紅く塗り潰された透明が、そこにはあったということを。
それに気づくよりも先に、下に見つけたものがあったのだ。
人影が今、ちらりと、確かに見えた。
あの大きな建物…おそらくは消防署の敷地内に。

「ラッド・ル…」

ずいぶんとひょろ長いラッド・ルッソだ。
そう思ったら、少しだけ頭が冷えた。
慌てて隠れるところまでよく見えたのだから、こちらには気づいているのだろう。
これがあのラッド・ルッソであれば、大喜びで何か攻撃を加えてくるのではないか。
すると、あれは、多分、違う。
関係ないなら、先を急ごう。
そう思って、加速を再開しようとしたが。

(関係ないとは限らない)

そうだ。
誰が誰と出会っているかなど、わかりもしない。
あれから、ずいぶん時間も経ってしまったことだ。
エレメントで空を飛べるとはいえ、何の手がかりもなしに探し出すのはつらい。
それこそ、時間がかかりすぎて、ラダムに心を喰われ尽くしてしまう。
自分には、一刻の猶予もないのだ。
素早く降下、地上から2メートル前後のあたりでエレメントを消し、着地。

「誰かいる? いるんでしょ?」

そしてすぐに呼びかける。
自分が友好的でいられる間に情報交換を済ませなければならないのだ。焦る。
二、三度、繰り返し声をかけてみるも、反応なし。
当然といえば当然か。こんな場所で、空を飛んでいる人間が急接近してくれば。
もしかしたら、一人で空に叫んでいたところから見られていたかもしれない。不審人物扱いは当然だ。
だが、なんとしても、すぐに話をしてくれなければ困る。
このままだと、多分、逃げられるか…それとも、こちらに攻撃をしかけてくるか。
あたしに人を殺す気なんかない。あたしは、まだラダムじゃない。
それをわかってもらえれば、質問くらいには答えてくれるはず。
話をしなければ。早く、話をしなければ。
…そして鴇羽舞衣は、ごくごく自然に思考を進めた。

そっか、いぶり出せばいいんだ。

舞衣は再びエレメントを発現。
花火に火をつける気楽さで火炎を前方に吐き出した。
そこは消防署の車庫。燃えやすいものなどそうそうないが、吹きつけ続けると思いの外よく燃える。
炎が壁に癒着して、ドアのひとつが完全に炎上したところで、舞衣は気がついた。
自分がたった今やったことの、支離滅裂さに。
なにが、人を殺す気なんかない、だ!
自分は今、明らかに死をけしかけているではないか。
今の一瞬、向こう側にいるまだ見ぬ誰かの生命と尊厳を、紙よりも軽く見た自分がいた。
おぞましい、おぞましすぎる。

「う、うぁ…う…ぁ…」
61ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:32:57 ID:8iu8t0Yb
炎の照り返しに、喉が痙攣する。
自分でない自分が、その中でにやりと笑った気がして。
燃え盛るドアが崩れ落ち、炎がその先になだれ込む。
その音に浮き足立った舞衣は耐えきれなくなり、背を向けて逃走しようとした。
が、直後に。

「話を聞け、少しでいい!」

それを呼び止めるような声が聞こえた。
切迫した声だったが、話をしてくれるつもりはあるらしい。
話ができる。奪わなくてすむ。
折れかかった勇気がほんの少しだけ戻った。
それでも、こんな調子では、いつ相手を殺してしまうか。

「ラッド・ルッソっていう男、知ってる?」

話を長引かせるのは危険だ。
だから、一方的に聞きたい事だけを聞かせてもらうことにする。
よく聞こえていなかったらしく、聞き返してはきたが、
もう一度聞き直したところ、

「人づてにだが知っている」

との返事に、舞衣の目つきは一瞬で変わった。
すくみかけていた足が、逆に炎の中に踏み込まんばかりに。

「知ってるなら教えて」
「今、そちらに出て行く。
 話をする気があるのなら、物騒なものはしまっておけ」

言われた通りに、エレメントを消して待つ。
顔を合わせて話すつもりはなかったが、それを止めるつもりも失せていた。
消防署の正面玄関から現れたのは、消防服姿の少年。
年頃は自分と同じくらいだろうか。
もしかしたら、自分のような炎を武器にする相手に対処するものを
確保しにきたのかもしれないな、と思いながらも、そんなことはどうでもいい。
聞きたいのは、ラッド・ルッソについてのことだけだ。

「教えて、ラッド・ルッソはどこよ」
「その前にひとつ聞く。君はラッド・ルッソという男に会っているのか」
「…会ったわよ。襲われたのよ」

質問を質問で返された不愉快を、さらなる憎悪で塗り潰す。
語れと言われるならば、いくらでも語ってやろう。
ラッド・ルッソへの、恨みの丈を。

「あいつは…殺しを楽しんでる!
 大切な人の生命を奪って、怒らせて、哀しませて…それを、喜んでる!
 へらへら笑いながら、何もかも奪い取っていく。
 あんなのを、放っとくわけには…いかないじゃない」
「それで、探しているというわけか」
「そうよ。で、あんた、知ってるんでしょ、教えて」

人づてだろうが何だろうが、今はただ手がかりが欲しい。
いらいらしながら、眼前の男の返答を急かす。
62ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:33:31 ID:8iu8t0Yb
「…俺の知っている限り、朝の時点では何者かと徒党を組んでいたようだ」
「仲間が、いるっていうの…あいつの?」
「それ以上はわからない。大して気に留めていなかったからな。
 だが、そいつが好戦的だというのなら、ひとつ、いい手がある」
「いい手って、何よ」
「君の持っている火炎放射器を使えば簡単なことだ」
「火炎放射器って…」

ふいに少年が、舞衣の目を覗き込んできた。

『エリア中心部付近に陣取り、目に止まる全てを燃やせ』




************************************




空を飛んで去っていった女を見上げたルルーシュは、
すさまじい頭痛に意識を半分持っていかれながらも、近隣の民家に向かって這いずっていた。
自分はこのまま気絶しなければならないが、満足すべき成果が得られたと言うべきだった。
エリアの中心部で派手な火災が連続して起これば、殺し合いに乗った人間の中でも力ある存在は
そちらに引き寄せられていくことだろう。
参加者の人数もすでに半分を切ったのだ。ここから先は弱者ばかり狙い続けるよりも、
強敵の機先を制することを意識しなければならないはずだ。
遠目からでもわかる騒ぎがあれば、そこには間違いなく誰かがいるということ。
この期に及んで、罠かもしれないからと避けて通るのは考えにくい。
逆に、力のない存在と、殺し合いに反発する人々にとって、災害の最中に突っ込んでいく理由は無い。
付近に居合わせれば、すぐさま離れようとするだろう。
これで、自分も含めた対主催勢力が殺人者に出くわす可能性は、大きく下がる。
気絶をしている間に殺される可能性も、低く抑えられたのだ。
あの女が何者かは知らないが、何から何までうまく使えたことはありがたい限りである。
ラッド・ルッソというのがほぼ完璧に危険人物であるという情報まで得られるとは。
そして、ギアスが弱体化している影響から、ふとしたことでギアスが切れて、
…最悪、今のことを思い出されたとしても、降りかかってくる疑惑は、たかが知れている。
自分は、殺せとは一言も言っていないのだから。
むしろ前後の文脈から、目印になるものを全て燃やせ、という意味だと読み取るのが正常な人間の感性だ。

(とは、いえ…くっ)

民家のドアにすがりつきながら、かすれた思考をめぐらせ続ける。
エリア中心部付近には、映画館などの施設もあった。
あるいはそこで、何かを発見した人間もいるかもしれない。
消防署に立ち寄るなり、中にあったパソコンから流れてきたエドという少年の声。
あれに従って探索に移り、不格好なナイトメア・フレームを発見したのは、自分だけではないのかもしれない。
だが、そこまでの面倒は見きれなかった。
自分にしたところで、あれの起動キーは発見できずじまいだったのだから。
どうやら円錐…螺旋状のキーを差し込めばいいらしいが、それは一体、どこにあるのか…

(全ては、目覚めてからだな)

ルルーシュは、ダイニングのソファーに倒れ伏した。


63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/20(木) 20:35:19 ID:NokTFD7p
支援
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/20(木) 20:36:10 ID:rsfTaLHM
支援!
65ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:36:11 ID:8iu8t0Yb
【C-7/消防署付近の民家/一日目/真夜中】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(大)、重度の頭痛 、気絶中
[装備]:ベレッタM92(残弾13/15)@カウボーイビバップ、消防服
[道具]:デイパック、支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、ゼロの仮面とマント@コードギアス反逆のルルーシュ 、
     予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:ショッピングモールへ行くか、モノレールを調べに行くか決断する。
2:清麿との接触を含む、脱出に向けた行動を取る。
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
  「情報を収集し、掌握」「戦力の拡充」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればモノレールを調べる。
6:消防署で発見したナイトメア・フレーム(ラガン)のキーを探す

[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※ギアスの使用によって気絶しました。目覚めてからも頭痛はかなりきついでしょう。
※清麿メモの内容を把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※消防署にてラガンを発見しました。
66ファイアスターター ◆ZJTBOvEGT. :2008/03/20(木) 20:36:36 ID:8iu8t0Yb
※消防署の地下一階にあるエレベーターの扉がこじ開けられています。
そこを降りた先に地下二階が隠されており、ラガンが保管されています。
※消防署で小さな火災が発生しています。放っておけば全体に火が回るでしょう。



************************************



ラダム虫は焦っていた。
この個体の意識を制圧しきるには、今少しの時間がかかる。
だというのに、この個体は全速力でエリアの中央部に向かっているのだ。
先ほど遭遇した、肉体的には貧弱なあの個体は、
強力なマインドコントロールを駆使してきたのだ。
個体、鴇羽舞衣が人間の意識を保持し続けている限り、
出された命令に延々従い続けることになるだろう。
あれほど強力なものともなれば、ラダムの侵攻作戦においても大いに有用なものとなる。
そんな能力を持った個体の存在を知ることができたのはいいが、
このままでは今の個体が破壊されてしまう。
破壊行動に呼び寄せられる、好戦的な別個体の手によって。
少しでも早く、この個体を掌握しなければ…待つのは、死だ。
侵略者は、新たな肉体を手にした矢先、新たな窮地に陥っていた。


【C-7/消防署上空/1日目/真夜中】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、ラダム虫寄生
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、鋏
[思考]:ラッド・ルッソへの憎しみを自らかき立てることで鴇羽舞衣としての自我を辛うじて繋ぎ止めています。
※鴇羽舞衣としての思考
1:『エリア中心部付近に陣取り、目に止まる全てを燃やせ』(ギアス)
2:ラッド・ルッソラッド・ルッソラッド・ルッソラッド・ルッソラッド・ルッソ…
3:もう誰からも奪いたくない
4:なつきに託されたとおり、藤乃静留を助ける
※ラダムとしての思考
基本:最終的にDボゥイを殺害する
1:“ゆたか”を探し出し、殺害する
2:結城奈緒、藤乃静留の両名を殺害し、“Dボゥイ”に近づく。
3:ラダム樹を探し出し、この身体のフォーマットを行う。
4:Dボゥイを守る為、力を手に入れ、ラッドを殺す
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※螺旋力半覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。

※ラダム虫がルルーシュに興味を示したようです。
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/21(金) 20:49:58 ID:XblFGKzM












>>56
沖木島ってのもあきたな
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/22(土) 08:24:30 ID:L/x+WVb7
じゃあどこでやるんじゃい
69破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:35:49 ID:qtuAJRH8
愛は祈りだ。そして誰もが祈る。
誰もが好きな人たちに幸せになってほしいし、それぞれの願いが叶って欲しいと思っている。
暖かい場所で、あるいは涼しい場所でとにかく心地良い場所で、好きな人たちに囲まれて幸せに暮らして欲しいと思っている。

だけど、それは無理なのだ。
この殺し合いというシステムは非常に残酷なものだ。
こんな殺戮の舞台に駒として組み込まれてしまった時点で、自らに容易く安息が訪れる訳がないことなど誰もが悟っている。

空から降り注ぐのは最大の幸福などではなく、最強最悪の厄災。
どれだけ足掻こうとも、抗うことの出来ない宿命の下、誰もが命を振り絞る。
そして、クルクルと回りヒラヒラと堕ちていく。
そう、まるで円舞曲――ワルツ――を踊っているかのように。


少女がいる。
彼女達はそれぞれに強い想いを胸に秘め、今それぞれが武器を取った。

――想い人のために修羅となった少女は薙刀を、
――いつの間にか馬鹿騒ぎに飲み込まれていた少女は爪を、
――自らの恐怖を虚勢で塗り潰した不死身の少女は聖剣を、
――誰よりも少年の無事を心から祈る真白なる少女は魔法の力を、

それでも、その眼前に広がる苦難と悪意と騒乱の道を一歩一歩、着実な歩みで進んでいく。


少女が纏うは清らなる聖衣。
それが見据えた果てへの鍵となるのか、血で汚れるのかは分からない。
だが、たとえ何度身体が軋もうとも少女達は闘うことを止めないだろう。
最後の鐘に召される、その一瞬まで。

そうだ。だからこそ、他のどんな存在よりも――闘う少女は美しい。


 □

《Section-1:ドモン・カッシュ――格闘王 @》
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:36:28 ID:uu54/qkq
 
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:36:36 ID:eDWr60cv
 
72破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:36:38 ID:qtuAJRH8
「う……」

まどろみが、サーッと消えていく。
夢、夢は見なかった。手足と指先に残るのは不快な疲労。
車という乗り物は休むのには適していない。
やはり動いている物体に揺られながらでは完全な休息は望めないのだ。

ガタゴトと揺れる車内。隣では消防車を運転するジンが口笛を吹いていた。
一眠り、したのだろうか。今は何時になるのだろう?
闇から覚めた先はまた闇で。
気だるさと頭に残る鈍い痛みが俺を襲った。

「あれ、ドモン。随分と早いお目覚めだね」
「……ああ」

ジンが俺を小さく一瞥し、再度前方へと向き直る。
そうだ……余所見は良くない。いつどんな人間が飛び出してくるのか分からないのだから。

「現在地は、E-3の高速道路上かな」
「E-3? おいジン、豪華客船は通り過ぎたのか……?」
「いいや。何て言うのか……『あるべき場所にはなかった』って感じ?」

ジンが眼を瞑り、小さく肩を竦めた。
俺が不思議に思っていると、おもむろにジンはこちらを……いや、助手席側の窓を指差した。
言われるがままに消防車の外を覗き込む。

「船が……っ!?」
「移動してたんだろうね。それより問題はもう"豪華客船"と言うよりも"難破船"とでも言ったほうが適当って所かな」

視界に広がっていたのは思わず自分の眼を疑いたくなるような光景だった。
全長数百メートルはあるかと思えるような巨大な船舶から黙々と立ち上る黒煙。
炎の勢いは若干落ちつつあるが、客船で何が行われたかを推理するのは難くない。
さすがに、この場所からは周囲の暗さも相まって甲板がどうなっているかは見ることは出来ない。
それでも直感的に俺は悟った――これは、惨劇の跡だ、と。

「誰か、生存者は!?」
「いーや、少なくとも俺は見てないね。でも、火の勢いから察するに生きてた人間がいたとしてもとっくに逃げ出してるでしょ」
「そう……か」
「いやいや、でも凄いね。実行犯は悪魔か死神か。神の造った箱舟をアソコまでズタボロに破壊するなんて並大抵の神経じゃ出来っこない。
 それに引き換え、こっちは――」
「こっちは?」

ジンの相変わらずの口調にも慣れて来た。
コイツは物事を馬鹿にしている訳でも茶化している訳でもなく、これが自然状態なのだ。
誰にも気取られず、常に流れる柳の如く。
それは流派東方不敗の境地である『明鏡止水』の極意と共通する部分がある。
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:37:25 ID:4tNEzFaP

74破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:37:38 ID:qtuAJRH8
「『平和』さ」
「……確かにな。この状況には似つかわしくない言葉だが」
「まぁね。そもそも千時が万事、順調過ぎるって事。星と月が綺麗な夜だけど、明るいだけじゃ大切な何かを落っことしちまう。
 闇があるから光があるってもんさ。それにさ、ドモン。永遠の平和なんてあると思うかい?」

永遠の平和、か。
ジンの問い掛けは常に詩的な要素を多分に含むが、その核は非常に分かり易い。
『永遠』なんてものが存在しないことは俺にだって十分に分かっている。
心の底から通じ合えた筈の師匠ですら……再び、心を暗黒へと堕としその手を赤い血で染めているのだから。

「永遠は、ないな。少なくとも、ここにはない」
「オーケイ、正常な頭だ。ヒトの歴史ってのは、終わらないワルツのようなものだからね。
 戦争・平和・革命の三拍子がいつまでも続く…………つまりは、さ」

ジンはハリネズミのように尖った髪の毛を数回掻くと天を見上げた。
俺もつられて空を見る。
星、月。
公害に汚染された地の下では決して見ることの出来ない銀河の海がそこにはあった。

「今この瞬間だって、同じ空を見詰めながら戦っている人間がいるかもしれない。
 それは静粛な決闘かもしれない。意地と意地のぶつかり合いかもしれない。愛や友情を巡る死闘かもしれない。
 眼を覆いたくなるような虐殺ショーかもしれない。もしくは――」

一拍の間。全開にされた窓に片肘を乗せながら、ジンはクックッと笑った。


「腹の底から大笑い出来るような、馬鹿騒ぎ(バッカーノ)かもしれない」


 □

《Section-2:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――聖杯 @》
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:38:06 ID:uu54/qkq
 
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:38:11 ID:eDWr60cv
 
77破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:38:22 ID:qtuAJRH8
私は、走っていた。
いや正確には『滑っている』と表現するのが一番適切なのだろう。
他世界の魔法技術・デバイス――その一つであるマッハキャリバーの持つ高速移動能力だ。

まるで空を飛んでいるようなスピードで、流星が流れ弾丸が飛び交うような速度で、私は一直線に目的地へと向かう。
簡単に纏めよう。私に与えられた任務は『ギルガメッシュに私達への協力を要請すること』だった。
その責任は重大だ。確かに気に食わないが奴の力が参加者の中でも屈指のものであることは間違いない。
つまり奴が螺旋王の意思のまま殺戮を行うか、それともアケチ達の側に付いてくれるかで大幅に戦況が変わってくる。

「シロウッ……、待っててね。すぐ私がそっちに行くからね……ッ!」

だけど、頭に浮かぶのは誰よりも愛おしい存在であるシロウのことばかりだった。
死んだはずの彼が生きていた……それだけで私の胸は高鳴り、頬が緩みそうになる。
でも、駄目だ。今は気持ちを引き締めなければならない。油断は絶対にしてはならない。
状況は一刻を争い、寸分の妥協さえ許されない。

『マスター? 大丈夫ですか?』
「……うん分かってるよ、マッハキャリバー。私達の役目は大切だもの、出来るだけ早くギルガメッシュに……」
『その通りです。あと数分で目的の場所に到着します』
「ん、分かった」

魔力を持つ者にその力を貸す道具であった筈のデバイスの力も若干ながら使えるようになって来た。
特に防御系統の魔法は自分でも中々筋が良かったと自負している。
ただ、攻撃系統の魔法は難しい。
全く違う術式の魔法へと自身の魔力を変換する作業――それは一朝一夕で成せるほど容易い作業ではなかった。
習得出来たのは一つだけ。単純で、無骨で、渾身の魔力を放出する――それだけだ。が、故に強力な魔法でもある。

だけど、私は……いや、私"が"やらなければならないのだ。
アケチのレーダーの情報から考えるに、シロウがいる映画館周辺の状況は筆舌し難い状況だ。
なにしろ周囲にいる人間はほとんどの連中が危険すぎる。
病院や卸売市場などの建物から他の参加者が集まって来る可能性だってある。
一分一秒が大切だ。私の行動がシロウの生死を分けると言っても過言ではないのだから。

夜の闇にようやく眼が慣れて来た頃。
耳を澄ませば進行方向から戦いの音が聞こえてきそうな気さえする。
丁度残りの距離が半分程度の所までやって来た。
あと……もう少し!


 □
 

《Section-3:結城奈緒――蜘蛛 @》
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:38:44 ID:4tNEzFaP

79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:38:46 ID:eDWr60cv
 
80破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:38:57 ID:qtuAJRH8
そりゃあ、しっちゃかめっちゃかだ。
ムチャクチャだ。やること、為すこと、非常識にも程がある。意味が分からない。
どいつもコイツもアイツもソイツも、誰も彼もどこかが変だ。おかしい。っていうかぶっちゃけ狂ってる。

この場所に集まったのは七人の男女。
割合は男五人に女二人。まぁその辺は割とどうでもいいことなんだけど。
大切なのは、この中にあたしを除いて一人もまともな人間がいない、ということだ。
そりゃあ気苦労も湧くってものである。

順を追って説明したい所だが、もちろんそんな暇はない。
七人もの人間が入り乱れての多人数戦だ。各人の関係は時間と共に変化し、対立構造もバリバリと変わる。


「ヒャハハハハハッハッハハ!!!! お望みどおぉり、ぶっ殺してやるよぉっ変態野郎っ!!」


ラッド、と呼ばれていた白い服を紅く染めた金髪の男が右手をワキワキさせながらギルガメッシュの方へと高く跳躍した。
妙に暑苦しい笑顔が非常にうざい、おっさん……とお兄さんの境目にいるような見た目をしている。
ちなみにあたしはおっさんに一票。

ラッドが拳を振りかぶる。クッと弦を引き絞った和弓を撃つ時の右手の動きに似ている。
だけどそのフォームは完全にボクシング。拳の先端を見つめていたら、そのまま吸い込まれてしまいそう。
いやボクサーはジャンプしないけど。
全身がバネのようにしなり、打ち込まれる一撃。
軽く数メートルの距離を一瞬で詰めながら開幕の拳をギルガメッシュへと見舞う。

「――フン」

あたしの右隣数メートルの地点に立っていたギルガメッシュが小さく笑った。
前のような鎧だったら様になったかもしれない。が、今はただの変態だ。
ぶっちゃけ、冷酷な笑みを浮かべる筋肉質な黒猫、という光景はシュール過ぎる。

全身を黒いボディスーツで覆い、ご丁寧に頭を覆うマスク(ネコミミ付き)まで装備したその姿は正直ギャグである。
最後に会った時の豪華絢爛金ぴかっぷりとは程遠い。

「ギャアギャアと五月蝿い犬には――」

ギルガメッシュは手にした螺旋状の剣、ではなく己の身体で勝負に出た。
小さく左足を一歩踏み込む、砂埃が舞う。
高速で突っ込んで来るラッドを鷹のような鋭い眼光、紅の瞳で見据え、

「――躾が必要なようだな」

腰を据えた強烈な右回し蹴りを放った。
ラッドは完全にギルガメッシュをぶん殴る体勢に入っており、どう考えても回避出来る訳がない――あたしは瞬間、そう思った。
が、空中でラッドは左足を持ち上げガッチリとギルガメッシュの蹴りを防御する。
私は思わず目を見開いた。あの無茶苦茶な体勢、しかも空中でこの動き。どこのスーパーマンだよ、コイツは。

「甘い甘い甘過ぎるぜ、ギルちゃんよぉおおおおおお!!」
「貴様……我を『ちゃん』付けで呼ぶか!!」

ラッドはそのまま勢いを活かし、再度右ストレートを見舞う。
それをギルガメッシュは律儀に左腕でガード。コイツの怒るポイントがあたしには良く分からない。「変態野郎」はいいのか?
流石に業を煮やしたのか右手に握った螺旋状の剣を突撃槍のように構える。

「ラッド、危ないっ!」
「次は貴様か――衛宮士郎」
81名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:39:20 ID:eDWr60cv
 
82破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:39:36 ID:qtuAJRH8
ギルガメッシュの剣がラッドに突き刺さりそうになった寸前、疾風のごとく割り込んで来たのが衛宮士郎だ。
そう、己の危険も全く顧みずに。
話自体はギルガメッシュから聞いていたが、全くその通りである。
見た目は普通の十代後半程度の少年だ。が、コイツは自分の命を何だと思っているのだろう。
剣の間に突っ込んでくるなんて正気の沙汰ではない。

コイツは正常に狂っている。己の命に対する絶望的なまでの執着心の無さ。
生きとし生きる者全てが持ち合わす生への渇望が、衛宮士郎にはこれっぽちも感じられない。

両手に突如出現した双剣(エレメントのようなものだろうか)でギルガメッシュとラッドの間に滑り込み、攻撃を防御。
そしてラッドの身体を突き飛ばし、自らとギルガメッシュとの一対一に持ち込む。

「ギルガメッシュ!! お前はこんな所でも……!!」
「何を吼えているのだ、雑種よ。我は降り掛かった火の粉を払っただけだぞ?」
「それがエゴだと言っている!! どうしてその力を他の人を守るために使わないんだ!?」
「痴れた事……奴のような汚らわしい駄犬に生きる価値などなかろう?」
「――ッ!!!」

熱血君と化した衛宮士郎は顔面を凄まじい怒気で塗りつぶし、ギルガメッシュに迫る。
一方でギルガメッシュの表情は余裕に満ちていた。
そもそも衛宮士郎など視界に入っていないような――いや、奴の主張に関心がないのか。

「ちょっと、金ぴ――」

そのとき、あたしは気付いた。
そういえば『ギルガメッシュは今はもう金ぴかではない』ということに。
考えてみるとアイツは既に黄金色の鎧を着ていないわけだし、髪の毛も出ていないので色で言うならば【クロンボ】辺りが妥当である。
……なんかソレだと別の人種の人っぽいけど。

「――蜘蛛女、後ろを守っておけ」
「……は?」
「奴だ」

ギルガメッシュが後ろを振り向きもせず、そう呟いた。
あたしは気配を張り巡らせる――確かに、いる。
夜の闇に溶けるように、ゆっくりと地を這う蟲のように、衛宮士郎に殺し合いへ割り込まれてご立腹のアイツだ。
とはいえ後ろを守っておけ、か。悪い気はしない。

「分かった。でも、先にその頭の奴、外しておいて」
「頭? ……まさか貴様までこの衣装に込められた匠の技術と機能美が分からない訳ではあるまいな?」
「そういう意味で言ってるんじゃないっつーの! 単純に呼びにくいだけ!」
「…………よく分からんが、これで満足か?」

微妙なリアクションを残しつつ、ギルガメッシュが不満げに頭を覆っていたネコミミ付きのマスクを外した。
そして再び露になる鮮やかな金髪。
とりあえず、これで変わらず「金ぴか」と呼んでも文句はないだろう。

そのとき、"奴"が背後からスーッと近寄ってきた。
あたしはギルガメッシュの背中を、背後を守るように数歩前へ。
そしてエレメントを発生させ、大きく息を吸い込んだ。

「残念だけど……今、あっちは取り込み中。用ならあたしが聞くけど?」
「ああぁ? 何、お前もしかしてギルちゃんの仲間なの? それなら殺すぜ? さっくり殺すぜ?
 なにしろ俺は今アイツを殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて堪らなくてよぉおおおお!!」

蠢く影――ラッドは瞳をギラギラと輝かせながら吼えた。
ビリビリと揺れる空気。そして奴が纏うのは紛れもない本物の……殺人鬼の臭い。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:39:43 ID:RzjA4R4T
 
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:40:04 ID:eDWr60cv
 
85破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:40:19 ID:qtuAJRH8
正直、単純な力で言えばコイツが全身から血を流して左腕をプラプラさせている現状から考えるにあたしの方が若干、上……だろう。多分。
幸いなことにあたしは未だほとんど無傷に近いことだし。
支給品は『不死身の柊かがみ』に奪われたもののエレメントがある以上、戦力に問題はない。
だが、

「う…………」

気付けば、後退りしていた。
身体は、男の空気に呑み込まれて行く。
つまり血を好み、殺人を生業とするものの狂気。
単純な戦闘力の差ではなく渡って来た修羅場の数が……圧倒的に違う。

「あれあれあれぇ? 何だっけ、お前。ナオちゃんだったか? 何々もしかしてビビッてんのか? 逃げ出したいかぁ? 命乞いでもするかぁ?
 おいおい、手間取らせんじゃねーよ。俺はギルちゃんをぶち殺したい訳? 分かる? アンダースタン? 
 だけどよぉおおお、奈緒ちゃんが今にそんな泣き出しそうな顔してたらよぉおおおお!!」

ラッドは不機嫌そうだった表情を一気に喜色の色に染めた。
あたしは自分の胸が凄まじい速度で鼓動を打っているのを意識する。

……ヤバ、過ぎる。
ラッドの言葉がガンガン心臓に直撃する。
ねちっこくて妙に迫力があって、なんて嫌な声をしているんだろう。
柊かがみにしても、アイツは見た目は普通の女子高生だった。
アルベルトも実力こそはトップクラスだが、ある種紳士的な態度を最後まで取り続けた。
でもこいつは、

「ナオちゃんを今すぐ殺したくなるじゃねぇか!! 駄目だっつーの!! 俺にはギルちゃんがいるんだからよぉっ!!
 アイツは俺にズタズタに切り裂かれて内蔵ぶちまけて顔ボコボコにされて悲鳴上げて血ぃ吹き出して殺されなきゃなんねーの!!
 こんな所でグズグズしてらんねーのよ。珍しく殺る気満々のエミヤもいる事だしよぉおおお!!!
 だから――」

紛れもない、純粋で、全くの乱れもない、根っからの狂人だ。
死臭が、する。
プンプンと漆黒の闇を抜け、あたしの鼻腔へと吸い込まれる。

ラッドが一歩前へと足を踏み出した。
あたしとの距離は約三メートルと言った所だ。奴ならば……一足で埋められる空白の如き間合い。


「後でゆーっくりじーっくり殺してやっからよ!! 今はそこ、どいてくんね?」


コキリ、と首を左右に軽く動かしながら、奴は事も無げにそう言い放つ。
あたしは後ろを小さく、一瞥した。
そこにあったのはアイツの背中だった。
もう黄金でも金ぴかでもないけれど、大きくて頼りがいのある筋肉質な身体。

金ぴかは今も衛宮士郎と互いに罵り合いながら鍔迫り合いに講じている。
アイツの背中を守る鎧はもう、ない。
粉々にバラバラに砕け散ったのだから。あの時に。

86名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:40:32 ID:eDWr60cv
 
87破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:41:00 ID:qtuAJRH8
それは甘美な誘いだ。
さっきまでの争いを見るに金ぴかがこの男に負けることはまずありえないだろう。
今のアイツはアルベルト達と戦った時とは少しだけ違う。
油断など、ほとんどない。全力で戦うことが出来る。

逆にあたしの状況は芳しくない。
ラッドと戦ったら確実に負ける――全身の細胞でヒシヒシとその予想を受け止めている。
そして、無残に殺されてしまうかもしれない。

じゃあ、コイツの言う通り道を譲ってやればいいのだろうか。
そうすれば、今は殺さないと言っていることだし。
どうも骨の髄まで狂っている男ながら、コイツはある種の自分流の哲学に沿って行動しているような気がする。
完全なる妄言……とまでは言い切れない。

時間はない。さて、どうする?


「あたしは――――」


 □


《Section-4:ヴァッシュ・ザ・スタンピード――射撃王 @》

「ほな、そろそろうちらも参りましょか」
「シズルさん……君は……どうするつもりなんだい?」

彼女が動いた。
視界の先では既に四人の人間がそれぞれ戦いを繰り広げている。
残ったカードは三枚。
つまり、僕ヴァッシュ・ザ・スタンピードと藤乃静留。あともう一人。

「聞かんくても分かっとるんやろ? 残っとるのはうちとヴァッシュはん。そして――」
「……わしだけ、という事だな」

前方から余裕と威厳に満ち溢れた微笑を携え、彼が歩いてくる。
東方不敗マスターアジア――間違いなく、この乱戦における最重要人物の一人だ。
彼の思考は極めて危険なものと言えるだろう。
シズルさんは……色々事情はあるんだろうけど、一応積極的に殺しを行うつもりはないらしい。あくまで、消極的な立場と言うべきか。
だけど、東方不敗に関しては無理だ。
彼は圧倒的な実力と卓越した精神力を持ち、なおかつ「優勝」を目的として殺し合いに乗っている。
しかも手段は一切問わず、だ。

「いくで、ヴァッシュはん」
「どうしても……やるって言うのかい?」
「……残念ながらなぁ。もっとも、うちらが戦おうとせんでもあちらさんが許してくれるとは思えんけどなぁ」
「その女の言う通りだ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードよ。理想を掲げるならばそれに見合った力とそして行動で示す。
 貴様はそのようにして生きて来たのだろう?」

東方不敗が僕をまっすぐ睨みつけて来た。
まるで僕の前に立つシズルさんなど眼中に入っていないかのように。
だが、確かに彼の言う通りだ。
守れなかった人間だって何人もいる。僕自身もレガートの命をこの手で奪ってしまった。
だけど、僕は決めたんだ。もう絶対に誰も殺させやしない。一人残らず僕が救ってみせるって。
88名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:41:03 ID:eDWr60cv
 
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:41:29 ID:eDWr60cv
 
90破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:41:41 ID:qtuAJRH8
「ああ、その通りさ。二言はない。僕の眼が黒い内は誰一人として死ぬ事はない。東方不敗……あなたも含めてね」
「ククククク……なるほど、それだけの実力があればその台詞にも多少は説得力が生まれるか。だが――」

東方不敗が腰布を取り出し、体勢を低く落とした。

「そのような気概でこの東方不敗マスターアジアが止められるかどうか、試してみるがいいっ!!」

一陣の風が舞い降りた。
最初に動いたのは東方不敗だった。
彼はまっすぐ僕に向かって突進、構えから判断するに一気に距離を詰めての肉弾戦に持ち込むつもりらしい。
ガンマンを相手にする場合、間合いを離すのは命取り。妥当な選択だ。
とはいえ、僕もそう易々と近づくのを許す訳にはいかない。
相手は『拳法』という技能を極限まで鍛え上げた超人だ。一瞬の判断ミスが死を招くことになる。

「――っ!」

僕は小さくステップを踏みながら、東方不敗との距離を調整する。
一方的な突撃の了承は彼のような達人を相手取る場合、完全な悪手だ。砂埃を巻き上げながら、荒野を駆ける。

本来なら威嚇射撃を挟みながら、斜線軸を出来るだけこちらの有利な方向に持って行きたい状況だ。
しかしそれは不可能な対応と言えるだろう。もちろん、これには非常に単純明快な解答が用意されている。

困ったことに、持ち合わせの弾薬がほとんどないのだ。
現在、ナイブスの銃に入ってる弾丸がたったの五発。他の銃器、弾薬共に皆無。これが全てである。
ガンマンにとって、弾薬とは命そのものであり、ソレが枯渇することは即ち死に繋がる。
故に東方不敗レベルの相手と戦っているにも関わらず、迂闊に発砲することが出来ない。
確実に命中させられる状況でなければ……。

「せいぃぃいいやぁあああああっ!!!」
「……やらせまへんで」

僕達の均衡を崩したのは、シズルさんだった。
足に履いたガンホーガンズの一人、雷泥・ザ・ブレードのローラースケートを用いて高速移動をしながら薙刀を振るう。
旋風のような刃がシズルさんを中心に展開。攻防一体の一撃だ。
彼女の武器は蛇腹状に伸び、そして広範囲を一度に攻撃出来る特別な代物だ。
極端に間合いの長い相手でなければ、どのような場合であっても相当有利に戦闘を進めることが出来る――だが、

「甘いわぁあっ!!」
「――ッ、そらぁ一筋縄でいかんかぁ……っ!」

彼は手にした布をまるで鞭、いやシズルさんの薙刀と同じように振るい、彼女の攻撃を全て叩き落した。
そしてすぐさま跳躍、ちょうど数メートル程度の距離の地点にいた僕達と肉薄。
軽い踏み込みで軸足を決定し、中国拳法のような動きでシズルさんに打撃を見舞う。

「くっ……!」

彼女は薙刀の柄の部分で東方不敗の攻撃を弾く。続けざまに放たれる連撃も何とか捌き切れているようだ。
なるほど。そもそも長柄武器である薙刀は本来、攻撃よりも防御性能が高い武器だ。
極端に接近された場合、剣や刀よりも不利になる点が多いが、彼女にはそれを補って余りある機動力と可変の刃がある。
しかし、東方不敗はある種別格とも言える存在なのだ。
武道家の天敵とも言える刃物、オールレンジ攻撃、点ではなく線で打ち出される嵐のような斬撃。
ソレら全てが彼には明確な効果を持たない。

「シズルさんっ!!」
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:42:07 ID:uu54/qkq
 
92破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:42:16 ID:qtuAJRH8
故に、撃たない訳にはいかなかった。
さすがに争う二人に突貫し、肉弾戦を仕掛ける訳にはいかない。
狙いは東方不敗の左脇腹。相当にハイレベルな能力を誇っている彼とは言え、攻撃の軸は身体の右側にある。
彼が僕の銃撃に警戒をしていない訳がないだろう。シズルさんを完全に攻め切れていないのも恐らくそれが理由だろう。
僕は未だ銃を抜いてはいない。そしてその行為こそが彼に対する牽制となる訳だ。
回避される可能性は非常に高い。が、どちらにしろ最も回避運動に負担の掛かる場所――そこを狙い撃つ。

ホルスターから銃を抜く。構える。そして発射。
耳慣れた火薬の爆発する音も、手を伝う振動もいつも通りだ。

「――――ッ!!」

残り、四発。
狙いは寸分違わず東方不敗の死角へ。
だが彼が持っていた腰布によってその銃撃は見事なまでに弾かれた。
しかし、結果として背後を取っていた僕の攻撃に対処するため彼の『姿勢』が微妙にズレた。

姿勢は武術や射撃、ありとあらゆる戦闘術において最も大切な要素の一つだ。
東方不敗の卓越した格闘術や身のこなしにしても、根底にあるのは数々の修練によって培われた何千何万という基礎の反復だ。
理想的な歩法や連撃を行うにあたって、自らの状態を最善に保つことは欠かせない。
が、その一瞬の隙がこの領域では結末を分ける。

薙刀の丁度真ん中辺りを軸にシズルさんが円を描くように手にした武器を回転させた。
そして柄の部分による打突撃を東方不敗に見舞った。
槍術と薙刀術における最大の違いはここにある。
あくまで槍を使った戦闘の基本は『突き』だ。
槍の英霊ランサーが得意としていた戦術、つまり高速機動と一撃離脱。リーチを生かした戦い方である。
柄の部分を使る技術も勿論存在するが、それはあくまで従。主は刃先の部分にある。
が、一方で薙刀は槍術とは違い、石突きによる攻撃や払い、薙ぎと言った刀や鈍器としての要素が多分に含まれている。
振るう者の周囲にいくつもの円が描かれる――これこそが薙刀術の真骨頂。

「ぐぅぅうううううっ!!」

が、浅い。東方不敗は抜群の身体能力を発揮して、シズルさんの打突を回避。
僕達の追撃を回避するためか、雑技団のように数回バク転を繰り返し一気に距離を取った。
この時点での構図は僕、東方不敗、シズルさんの三人がそれぞれ数メートル程度の距離を取り、正三角形を描くような構図となっていた。

一度仕切り直しかな、僕がそう思った時、

「……そろそろ頃合やねぇ」

ニッ、とシズルさんが口元を歪ませた。
彼女は懐から『とある物』を取り出した。しかも、三つ。
え? ちょ、それって……もしかして……!?

「……ヴァッシュはん」
「へ? はい、なんでしょうシズルさ……」
「――コレはお任せしましたえ」

シズルさんは流れるような動作でそれらを全力でぶん投げた。
『棒付手榴弾』を東方不敗目掛けて投下する。
瞬間、僕は悟った。「ああ、そういうことか」って具合にね。

そもそも生半可な投擲武装など彼には通用しない。
特に爆弾のような使用と爆発の間にラグが生じる武装などもっての他だ。
彼ならば手榴弾を手にした腰布で撃ち落すこと、退避すること、逆に彼女に向けて弾き返すことなど造作もないだろう。

でも――だからこそ、僕がやるんだ。
93名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:42:40 ID:eDWr60cv
 
94破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:43:08 ID:qtuAJRH8
対象は投げられた三つの爆弾の中央に位置するソレ。
余分な動作も躊躇いも無駄な弾も一切必要ない。一発で仕留める。
『対処される前に退却しつつ、銃弾によって誘爆させる』
トリガーに指を掛ける。そして、発射。

これで、残り三発。

「ぐぬぁああああっっっ!!!!」

鼓膜を突き破るかのような凄まじい爆音が響いた。
舞い散る破片、莫大な量の光、そして爆風……。
が、さすがに歴戦練磨の武勇を誇るだけのことがある。東方不敗も瞬時に身を捩じらせ直撃は、回避している。
紫色の胴着が若干焦げ付き、露出した肌は火傷を負っている。だが、致命傷というようには到底見えない。体力の方も底無しという訳か。
棒付手榴弾の爆発有効範囲は少なく見積もっても数メートル。
あのタイミングであそこまで距離を取るとは、やはり簡単ではない。

「ククク、二人ゆえの強みということか」
「そうだね。僕達一人ひとりの実力じゃアナタを止めることは出来ないかもしれない。
 でも……力を合わせれば不可能なんてない。僕達の育まれた絆はあなたの闘志にも迫る勢いなのさ」
「ほう。が、それにしては少々人間の数が足りんようだが」

何を、言っているのだろう。
今のシズルさんと僕とのコンビネーションアタックを見ていなかったという訳もないのに。

「……あなたらしくもない妄言だね、東方不敗。シズルさんの姿が見えないとでも言うのかい。彼女ならしっかりとそこに――」

彼の台詞を笑い飛ばしながら、僕はくるり、と隣を向いた。
そこにはシズルさんが『はんなり』と言った感じで佇んでいる筈なのだ。




……はず、なのだ。


「し、シズルさんっ!? えっ、何でいないんですか!? シズルさーーーーーーん!?」


待ち受けていたのは実際、ありえない展開だった。
シズルさんがいなかった。忽然と姿を消していた。凄まじいミステリーだった。
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:43:28 ID:eDWr60cv
 
96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:44:02 ID:eDWr60cv
 
97名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:44:09 ID:uu54/qkq
 
98破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:44:11 ID:qtuAJRH8
頭を左右に振って周囲を確認しても、全く見当たらない。
ギルガメッシュ達の戦いに加わっている訳でもない。
もしや手榴弾の爆発に巻き込まれて木っ端微塵に……って狙い撃ったのは僕なんだから、その可能性がゼロだってことは重々承知している。
じゃあ何故だ? 彼女はほんの数分前までは確実にこの場所で一緒に戦っていた筈なのに……。

「ふむ――もしや、」

東方不敗が顎鬚をさすりながらニヤリ、と笑った。

「ヴァッシュ・ザ・スタンピードよ。貴様、見捨てられたな?」

ザクッ、と胸に突き刺さる。

「えええええええええええええ!? い、いやだなぁ、まさかそんな訳が……」
「ククク、中々傑作だな。守って見せると宣言した相手から三行半を突き付けられるとは」

東方不敗の言葉はそれだけで僕に多大なダメージを与えたと言っても過言ではなかった。
そりゃあ、シズルさんが僕のことを完全に信頼していた訳じゃないことは理解している。
でも、まさか何も言わずにいなくなってしまうなんて夢にも思わなかった。
しかもこんな危機的状況で。


……シズルさん、帰って来てくれますよね? 
僕がピンチになったらどこかから颯爽と……ってこれじゃあ立場が逆か。

でも、本当に……僕を捨てて一人で逃げ出したりなんてしてませんよね?


 □


《Section-5:ビシャス――死神 @》

ゆれる。
身体が、頭が、意識が朦朧とした闇と靄に惑わされているような感覚だった。

淡々と、それでも踏み締めるように真っ直ぐ俺は歩き続ける。
右手には最強の個人兵装であるパニッシャー。腰には愛用の日本刀。
武装は完全であり、一片の抜かりもない。
弾薬類の心配もほとんどなく、殺戮の準備としてこれ以上に適当な条件も滅多にない。
だがそれとはあまりにも不釣合いなくらいに、俺の身体は一歩足を進める度に死んでいく。

細胞が、
神経が、
骨が、
内蔵が、
皮膚が、

混濁した意識と共に、紅く弾けそしてその役割を終えていく。

終幕の時は近い。
だが――俺はまだ倒れる訳にはいかない。
元の世界へと帰り、レッドドラゴンの頂点を目指すという野望は既に半ば叶わぬものとなっているのかもしれない。
ならば俺はこの身を悪魔へと、いや死神へと堕とし、そして全てを屠る――これでどうだろう。
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:44:35 ID:eDWr60cv
  
100破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:44:56 ID:qtuAJRH8
スパイクとの決着は付き、もはや私情を挟む余地もない。
ならば、だからこそ殺す。銃の射撃音、刀で肉を裂き骨を断つ感触。
それだけが俺が俺であることを証明してくれる。

「――――ッ」

視界の端に妙な建物が映った。
病院だった。真白なる壁と独特の形状。地図で言うD-6。
足を引き摺りながらもここまでやって来たということか。

少しだけ、考えた。
つまりこの施設で何か薬品などを調達し、自らの怪我を少しでも軽減させようと言う案だ。
加えて既に北部へと逃亡したスパイクがこの中に居る可能性も少なからずある。

「…………俺も、弱くなった」

が、即座にそのような考えを一蹴する。

甘えは、必要ない。「薬がまだ残っているかもしれない」などと一瞬でも思ったのは恥ずべきことだろう。
既にゲームが開始してから二十四時間が経過しようとしている。
そしてあの建物は既にそこら中に争いの跡が見えるのだ。つまり何人もの人間があそこを訪れている。
理性的な人間ならば、薬品類や治療器具を残していくとは考え難い。
つまりもはやあの病院は鳥のいない鳥篭に過ぎない。……無用の産物だ。

スパイクにしてもまさか間抜けにも病院に逃げ込むような愚行を犯す訳もないだろう。
人を引き付ける魔性の建物、万魔殿などには…………、


今は、ただ前に進むのみ。そして全てを排除する。
それだけで、俺は満たされる。

まずはスパイク。貴様の屍をその序章として捧げるとしよう。
狂った堕天使のお前に生きる資格などないのだから。
俺達の終焉は――すぐそこまで来ている。


 □


《Section-6:ラッド・ルッソ――狂人 @》

101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:44:58 ID:eDWr60cv
 
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:45:04 ID:9fKRzHzK
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:45:25 ID:eDWr60cv
 
104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:46:04 ID:eDWr60cv
 
105破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:46:08 ID:qtuAJRH8
「あたしは――――」


俺はワクワクしていた。もう今にも踊り出してしまいそうだった。
いや正直な話、少しぐらいなら踊ってやっても一向に構わない。
こう見えてもダンスは結構得意なんだぜ?
サンバか? タンゴか? ワルツか? タップか? ジャズか? 何だってやってやるさ。

胸が高鳴り、血液が全身を駆け回る。
脳細胞も最高の働きで俺に応じる。

――殺せ殺せ殺せ殺せ!! 殺して殺して殺しまくれ!

俺はもう最っっっっ高!!にハイな気分だった訳だ。
目の前には俯き、唇を噛むナオちゃん。今は俺の問い掛けに対して思案中。

『とりあえず殺さないでやるから、そこをどいてギルガメッシュの所に行かせてくれ』

これが俺の要求内容。端的に纏めるとな。
実際、ナオちゃんは十分過ぎるほど分かっている訳よ。
俺と戦っても勝てない、ってな。そりゃあ場数の差か経験の差か。まぁ諸々の要素が絡む訳で、単純な武器とか能力の差じゃねぇのさ。
だから無理。どう足掻いても不可能。
自分だけじゃどうしようもねぇ。
カミサマに頭擦り付けて懇願しても出来ないことは出来ないってこった。

そんなもんで考える。
少しだけ考えて、そしてこう結論付ける筈だ。

『ギルガメッシュって強いし、こんな奴ぐらい任せちゃっても問題ないかな』ってな!!!
ギルちゃんが俺を殺せば自分は生き残れる訳だし無理する必要もないかな、とか思うわけ!!



バァァァアアアアアアアアアアアアカ!!!!



は?
生きる?
殺さない?
んな訳ねーだろうがよぉおっ!!!

ギルちゃんの仲間って、もうそれだけで十分殺すのに値すんだろうが!
それによ、あの傲岸不遜なギルちゃんが背中を任せる……ってそれだけで凄くねぇか?
なぁおい! 在り得ねぇことだろうがよっ、コイツは!!
信頼だぜ、信頼。信じてんだよ、ナオちゃんがいれば自分の背中は大丈夫!って『安心』してんだぜ!?

ヒャハハハハハハハハハッハハハハ!!!
いいねぇ、いいねぇ!! マジ最高だよ!! ゲージマックスなんてレベルじゃねぇ、とっくに突き抜けたっつーの!!
ナオちゃんぶち殺してギルちゃんに見せ付けてやったらどんな顔すんだろうなぁ!?
死ぬ前のシンヤくんぐらい俺を昂ぶらせてくれんのか!? おいおいおい、どうなんだろうなぁ!?
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:46:19 ID:uu54/qkq
 
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:47:01 ID:eDWr60cv
 
108破天荒遊戯(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:47:29 ID:qtuAJRH8
しかも、しかもだぜ!? これってマジ痺れるシチュエーションなんだぜ?


自分を守るために仲間を差し出した。でも、これで安心だ。私の命は助かる。
後はつよーいつよーいギルガメッシュが何とかしてくれる……このやけに口煩い"お兄さん"を倒してくれる。
わーギルガメッシュ超カッコいー…………


ねーよ!! ねーよ!! ねーよ!! ねーよ!!!
ギャハハハハハハハハハハハハハッ!!
殺すに決まってんじゃねーかっ!! んな約束守るわけねぇーだろ!? 速攻でぶち殺してやるよ!!!
そうだ、俺は『自分は絶対に死なない!自分は安全だ!』なーんて思っている奴をぶっ殺すのが、だぁぁぁぁぁぁぁい好きなんだからよぉ!!!

ギルちゃん? ああ、もちろん殺すぜ!! 全力で殺すぜ?
俺が、ラッド・ルッソがラッド・ルッソであるためにはよぉ、アイツは絶対殺しとかなくちゃなんねぇからな。
いや、っていうかあの猫野郎マジ殺す。殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し抜いてやるっつーの!!

でもよぉ、俺って欲張りな訳! 
ほら、こっちだって十分魅力的な素材だぜ? ギルちゃんを相手にする前菜としてなら十分過ぎるってもんだ!
ああ、要するに俺ってこう見えて案外計算高いのよ。馬鹿にゃ殺しはつとまんねぇからな。


「じれってぇなぁ。さっさと決めてくれや」


口調だけはイライラを装ってみるけどよぉ、顔面の筋肉がピクピク動いているのが自分でも分かる。
隠せねぇ。
楽しくて楽しくて爆発しちまいそうだぜ、おい!!
もうテンション上がりまくりで切れた皮膚からピューピュー血が噴出しても気になんねぇ。
さあさあさあさあさあさあさあ!!

ナオちゃん、命は大切だぜ?


 □
109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:47:33 ID:eDWr60cv
 
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:47:57 ID:uu54/qkq
 
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:48:07 ID:9fKRzHzK
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:48:14 ID:eDWr60cv
 
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:48:30 ID:RzjA4R4T
 
114破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:48:37 ID:qtuAJRH8
《Section-7:柊かがみ――不死者 @》

戦いが始まってから相当な時間が経過した。
相手はチンピラ牧師、ニコラス・D・ウルフウッド。
戦闘開始当初は聖剣を持った戦う番長――って感じだったんだけど。

「うぉおらあああああっ、舐め腐りおってからに!! 小娘がぁっ!!」
「ッ――――!!」

ドン、というかボゴォッ、という感じの鈍い音と共に私の身体が瓦礫に叩き付けられた。
コレでいったい何回目だろうか。
自問自答してみても、答えてくれる誰かが私の中にいる訳でもない。
身体に負わされた傷は時間と共に消えていく。
損傷した器官はすぐさま再生し、私を健康な状態である『柊かがみ』……いや『不死身の柊かがみ』へと戻してくれる。

いや、それはきっと言葉の問題だ。
正確には――私を"死なせてくれない"とでも言った方がいい。


「っとに……タフなやっちゃ。これだけ痛めつけても何度だって立ち上がる。おどれはゾンビかい」
「伊達に、……グッ……『不死身の柊かがみ』は名乗ってないもの」


ゆらり、と私は立ち上がった。胃袋の中身が飛び出してしまいそうな感覚を抑えながら。
目の前で両手をポケットに突っ込み、大阪出身のチンピラのような言動で私を恫喝する男――ニコラス・ウルフウッド。

戦うのが二回目だけあって彼は私に対して相当に効果的な戦法を取って来た。

まず、彼は私に対して一切銃器を使おうとしなかった。
死んでも生き返る人間に対して銃を使うのは弾丸が勿体ないと考えたのだろう。
当初は二本の刀を用いていたのだが、二度ほど私の腕を切り落として以降、一度もソレを抜く気配はない。
おそらく血、だろう。刀は消耗品である。
血を吸えば吸うほど切れ味が悪くなる。当然の選択だ。

腕がなくなる感覚は本当になんとも言えないほど、辛かった。
痛かった。苦しかった。死んでしまいたくなった。
だが不思議なことに腕が落ちてから数秒でその苦痛は収まり、一瞬で元通りになったのだ――そして、慣れていく。

例えば現在の私だったならば、腕にナイフを突き刺したとしても少し眉を顰めるだけで事も無げにソレを引き抜くだろう。
でも今までの私にはそんな対応は不可能だ。痛みに涙を流し、激しく咽び泣いた筈だ。
耐性が出来ている、ということだろう。
結城奈緒に散々切り刻まれたおかげで、特に斬撃に対する耐久は飛躍的に上昇している。

戦闘――と言えば体裁はいいが、こちらの攻撃など命中する訳もなかった。
いかに不死者になろうとも、筋力などは今までとまるで変わらない。
『シルバーケープ』も明らかに状況が悪い。
一対一で既に相手の姿をこちらに確認させた後で使う道具ではないのだ。
そもそも私は自分の気配を消すことなど出来ないので、身体を消した所で一瞬でどこにいるかバレてしまう。

『エクスカリバー』というライトノベルに引っ張りダコな聖剣も満足に振るうことなど出来る筈もなくて、とっくの昔に取り落としてしまった。
しかし、あの武器がウルフウッドに奪われてたいた場合、私は更に微塵切りにされていたことだろうし、逆に幸いだったのかもしれない。

「ったく敵わんわ。何発鉛弾食らわせても起き上がるから撃つに撃てん。刀で輪切りにしてもあっという間にくっ付きよる。
 散々甚振ってやったのに、まだそんな口利けるんかい」
「痛みには……慣れて……来たわ。それに、そりゃあ『不死身』ですもの。そう、いう……身体なのよ」
「わーっとる! 嬢ちゃんの『身体』を殺すのがしんどいっちゅーのは理解した。やから、さっきからやっとるんやないけ」
「…………う」
115破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:49:22 ID:qtuAJRH8
ウルフウッドがザッ、という足音を立てながらフラフラの私に肉薄する。
――来る。また、"アレ"が。

「わいは嬢ちゃんの『心』を壊すんや」
「あごっ……!!」

また、始まる。

鼻。
ウルフウッドは私の顔面に思いっきり正拳を見舞った。
バキッ、という鼻骨の砕ける音。そしてそこを中心に広がる痛み。
何かが切れた。ああ、これは鼻血だ。ダラダラと滝のように紅の道が出来る。

一発目。

「しかし、嬢ちゃんも厄介な身体やのぉ」
「ぐぼおぉぉっ!!」

鳩尾。
砕け落ちそうになった私の身体を跳ね上げるようなに右膝が抉り込む。
内臓を貫かれるような痛み。胃袋の中身が全て逆流しそうになる感覚。
口の中が唾で一杯になる。涙が一杯になる。
何かが、私の身体の中で液体を撒き散らしながら破裂した。何かが、溢れ出て来たような気がした。

再生――鼻骨がその周囲との結合を始める。

二発目。

「死なないのか、それとも死ねないのか……」
「う…………」
「どっちや!?」
「ぶぐぁっ!!」

左頬。
膝蹴りによって完全に倒れ込み掛けた私の身体をウルフウッドがポニーテールを犬のリードのように掴んで持ち上げた。
そして顔が上がった瞬間、右のフック。
歯が何本か口から飛び出した。何本かは砕けた。口の中がズタズタになる。
鉄の味がする。

再生――破けた筈の内蔵が元の"袋"へと戻り始める。

三発目。

「知っとるか? 腕っちゅーのはなぁ、輪切りにされたら普通はショック死や。嬢ちゃんは別みたいやけど――な!!」
「げごああああぁっ!! ……ぐ……ぅ……ぁ…………!!」

肝臓。
ポニーテールを掴まれているため、私は沈み込むことさえ出来ない。
人体の急所の中でも特に内側への痛みが大きな器官だ。思わず漏れたのは蛙が踏み潰された時のような声だった。
内側から身体を引き裂かれるような、網目状に広がっている毛細血管に電撃が走っているような痛み。
全身の力が一気に抜けていく。
そして"何か"が胃の奥から込み上げて来る。

再生――口内の血が引き、欠けたはずの歯が『生えて』来る。

四発目。
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:49:44 ID:eDWr60cv
 
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:49:47 ID:4tNEzFaP

118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:50:02 ID:RzjA4R4T
 
119破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:50:00 ID:qtuAJRH8
「うぷっ…………ご…………ぐげええぇぇっっっっ!!!」
「うおっ!? なんやまた吐いたんかい、嬢ちゃん。そう、ゲロっちゅーのも案外難儀なんやで? なにしろ、」
「ぉっ……ぐぉ……っ……」
「ゲロで溺死、っちゅー死に方もあって……なぁ!!」
「ぐ、が、ごぼぉっっ!!!」

顔面。続けて腹部。
何もかも吐き出したと思ってた。
だから込み上げて来るのは胃液と、食べ物が少し。それらは酸っぱくて、苦くて、凄く辛かった。
着替えたばかりの服はとっくに吐瀉物で汚れきってしまっている。
砕け、そしてある程度まで治っていた鼻骨が再度へし折れた。
口の中で胃液と汚物がグチャグチャに混ぜ込まれる。
それと、血。
図書館で飲んだ紅茶の味が少しだけしたかもしれない。

ポニーテールを握っていた左手が離されたため、私の身体は布キレのように地面へと落下しそうになった。
が、そこに再度ウルフウッドの右拳が打ち込まれる。
今までで一番強い衝撃が私の身体を貫いた。
意識が、飛ぶ。
私は不死身ではあるが、身体の強度は普通の人間と変わらない。

再生――完全に機能を停止した筈の肝臓に火が灯る。

五発目、六発目。

「あ゛ごぉ……ぁ…………」
「まだ十二時前や。寝るにはまだまだ早いんやないか? もうちょい付き合ってくれや」
「ご、がっ……ぎ…………!!」

延髄。
倒れ込む身体をそのまま吹き飛ばしてしまうような強烈な右の回し蹴り。
大の男が全力で放つ蹴り技に私の身体が耐えられる訳もなかった。
コキリ、という小気味良い音が響いたような気がした。
どこの骨が折れたのかは分からない。ただ、どうしようもなく、痛くて、涙が止まらなくて、頭が真っ白で……。

再生――鼻の骨の修復がまたも開始される。拳を打ち込まれた胃の辺りがドクン、と息づいた。

七発目。


もう、何も見えなかった。
皮膚からの出血で瞳は赤く染まり、視界は定かでない。
暗闇が紅色に滲み、痛覚だけが私の全てを埋め尽くす。
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:50:09 ID:eDWr60cv
 
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:50:44 ID:RzjA4R4T
 
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:50:49 ID:eDWr60cv
 
123破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:51:03 ID:qtuAJRH8
でも、

眼球を潰されても、
鼻の骨を折られても、
歯を抜き取られ砕かれても、
血管を引き千切られても、
内蔵が破裂しても、
爪を剥がれても、

痛みで、ショック死することはないのだ。
だって私は不死者なのだから。


内側から込み上がってくるような身体の内部への攻撃。つまり、打撃。
私はこの島で不死者になってから、何度も切られたし、死ぬような傷は何度も受けた。
だがそれは全てが刃物による刺突や斬撃だった。
内側を攻撃されたことは……いや、それどころか他の人間にここまで全力で殴られた経験など皆無だった。

刃物による痛みと鈍器による痛みは全く別の領域にある。
切り傷ならば肉が裂かれ、血が飛び出し、細胞が悲鳴を上げる。
だが、打撃による傷は波紋のように痛みが鈍い衝撃に包まれながら沈んでいく。

肉が肉とぶつかり合い、骨が骨を砕く。
健康な細胞が死に、そしてまた再生し、強烈な痛みと共にまたそれは繰り返される――
まるで終わらないワルツを踊っている、そんな気分だった。

ああ、永久輪廻の円環に取り込まれた私の苦しみが終わる時は来るのだろうか。
慣れれば、いいのだろうか。
誰かが教えてくれればいいのに。私は、あと何回死ねばいいのだ?

また、殴られる。
また、蹴られる。
また、潰される。
また、砕かれる。

意識が闇に落ちていく。
目が覚めた時もまた、この輪舞に取り込まれているのか。
私はその『未知の痛み』に抱かれながら、心が沈んでいくのを意識した。


再生――折れた首周りの骨が繋がっていく。


 □

《Section-8:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――聖杯 A》

「――ッ!? マッハキャリバー、今のは……!?」
『はい、マスター。おそらく何らかの爆発物が爆発した音かと思われます』

進行方向にある映画館が一瞬、ピカッと光った。そしてその後に響いた物凄い音。
いや、今も少しだけ明かりが見える……ような気がする。
爆発物ということは爆弾か何かだろうか。

「ば、爆弾!? それってどれくらいの広さまで……!!」
『そうですね。使用したもののタイプにもよりますが、あの規模ですと数メートルから数十メートルは』
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:51:21 ID:eDWr60cv
 
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:51:56 ID:eDWr60cv
 
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:51:58 ID:uu54/qkq
 
127破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:52:13 ID:qtuAJRH8
数メートル!? 
私に心臓がひっくり返ってしまうような衝撃が走った。
アケチに見せて貰ったレーダーの光景を頭に思い描く。
刑務所を出発した時点で、七つの光点がほぼ重なるように位置していた筈だ。
つまりあそこにいた人間は誰もが相当近くにいたことになる。
そんな場所で爆弾が使用されたのである。その事実が不安でない訳がない。

「そんなに……! それじゃあもっと急がなくちゃ!! 飛ばすよ、マッハキャリバー!!」
『All right』

全身を駆け回る魔術回路に更なる魔力を送り込む。
現時点でもほとんど最大出力に近かったのだが、もっと、もっとだ。
マッハキャリバーを使った移動はそもそも大して魔力を使用したりはしない。
バリアジャケットの起動も同様だ。
まだまだ私の魔力は大幅に残っている。少しぐらい贅沢に使っても問題はないはずだ。


風を掻き分けながら私は進む。私は左腕につけた時計を一瞥した。
二十四時まであと少しだ
辺りは非常に暗く、さすがにそろそろ眼も慣れて来たがゾクッとするような嫌な感覚は消えない。
こんな遅い時間に外出する時は、ほとんど必ずと言っていいほどバーサーカーが一緒にいた。
そう、初めて士郎を襲った夜のように。

でも今は私、一人だ。
正確にはマッハキャリバーがいる。
でも彼(彼女?)はあくまで機械であり、使用者をサポートする存在である。
自主的に戦ったりはしないし、戦闘能力がある訳でもない。
だから私が全部何もかもやらなければならない。
ギルガメッシュの所に行って、士郎を救い出して、アケチ達への協力を要請する……たとえこの身に変えても、だ。


「――お嬢ちゃん。可愛らしいべべ着てはるなぁ」
「えッ……!?」


声が、聞こえた。
ありえない。この辺りは士郎達以外にも多くの参加者がいたはずだ。
人間がいることはそれほど妙なことではない。
だが今の私の状態を考えれば自ずと答えは出る。

――今、私達はどれくらいのスピードで移動している?

『マスター!! 緊急停止します!!』
「ぐっ――お願いっ!!」

マッハキャリバーが危険を感じ取り、マスターである私に急速減速を申し出た。当然、私はそれを了承。
ガリガリ、という岩を削り取るような不気味な音と共に加速中からの突然の停止を試みる。

「う…………」
『大丈夫ですか!? マスター!?』
「だ、大丈夫……」

全身を襲った強い衝撃を堪えながら私はゆっくりと顔を上げた。
足の裏がまだビリビリする。

「でもなぁ、感心出来んわ。こない遅くに一人で出歩くなんていけない娘やなぁ」
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:52:53 ID:eDWr60cv
 
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:53:09 ID:uu54/qkq
 
130破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:53:11 ID:qtuAJRH8
私は目の前で悠然とした笑みを浮かべる女を見つめた。
茶色くて長い髪、抜群のプロポーション、雅な佇まいを演出する和服――
そして肩に担いだ巨大な薙刀。そして独特な口調。
アケチの持っていた名簿の情報を頭の中から引き出す。

「そんな悪い子には少し……キツいオシオキが必要みたいやねぇ」
「フジノ……シズルッ!」

両足に装備したローラーブレードが独特の駆動音を奏でた。
つまり、アレを用いてマッハキャリバーの高速移動へ接触して来たということか。
手に持った薙刀が瞬間、蛇の身体のように凄まじい速度で伸び、鎌首を擡げて私に向けられる。
私は確信した。彼女は殺し合いに乗っている、と。


「はい、おおきに。お嬢ちゃんに恨みはあらへんけど――堪忍な」


 □

《Section-9:藤乃静留――蛇 @》

「マッハキャリバー、回避!」
「それじゃあ少し、遊ぶとしましょか」

乱撃。蛇腹状に伸ばしたエレメントを用い、目の前の白の少女をバラバラに切り刻む――とまではいかない。
どうも、彼女が足に付けているブーツは相当な機動力を持っているようだ。
こちらのローラースケートよりも明らかに上、だろう。
が、それ以上に気になるのはその格好だ。

ブルマ、である。そして体操服だ。
十歳程度の少女が身に纏うブルマと体操服……その道の人間ならば泣いて喜ぶかもしれない。
案外人の性癖という奴は特色があって、真面目そうな者ほど背徳的な趣味を持っていたりする。
自分自身もそうだし、例えば普段は真面目な委員長タイプの子が幼児プレイが大好きだったりするかもしれない。

「……いくで」

が、そんなことは気にしていても仕方がない。
ローラースケートの能力を行使し、こちらも彼女の高速移動に付き合うこととする。
彼女はこちらを見据えながら、ローラーを逆回転させて後退中。当然、追撃する。

ヴァッシュ・ザ・スタンピードがこちらの意図をしっかりと見抜いてくれたのは幸いだった。
もっとも、彼は間抜けではあるが決して馬鹿ではないのでそれほど心配もしていなかったのだが。

おかげで見事に一人だけ火事場から逃げ出すことも出来たし、ここでこんな獲物も見つけられた。
あんな血の気に溢れた連中が犇めく場所なんて、命がいくつあっても足りない、というものだ。
自分より明らかに実力が上の人間が三人。自分はあの中では中程度の戦闘力しか持っていなかった。
おそらく一番割を食うであろう――故にひとまず、退却した。

最終目的をこの催しにおける優勝としている以上、度を越して危険な戦いからは極力離脱するべきだ。
そして、自分以外の人間が星を稼ぐのを止める道理もない。これはスコアレースなどでは決してないのだから。

とはいえ、
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:53:29 ID:eDWr60cv
 
132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:53:37 ID:RzjA4R4T
 
133破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:53:51 ID:qtuAJRH8
「なんやろうなぁ。お嬢ちゃんの動き、どこかぎこちないわぁ……!」
「ッ――――!!」

目の前にぶら下げられた餌を見過ごすほど、愚かでもないつもりだ。

微妙な機動力の差は武器で埋める。
こちらには遠近両用のエレメント、彼女は何と手ぶらだ。
逃げ回るだけの相手に負けるとは考え難い。

螺旋を描く蛇のようにエレメントを走らせ、左右に旋回。移動する少女を追う。
何度か攻撃が命中しているはずなのだが、どうも防御能力は相当高いらしい。
掠った程度では動きを止めるには至らない。
つまり直撃させろ、完膚なきまで切り刻め、ということか。

問題は、ない。
自分はただ《蝕の祭》の時と同じように舞うだけなのだから。
ただ一人、心の底から愛しているなつきのために。
修羅に感情はいらない。


 □
 
《Section-10:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――聖杯 B》
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:54:02 ID:uu54/qkq
 
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:54:25 ID:eDWr60cv
 
136破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:54:40 ID:qtuAJRH8
まさか、こんな場所で敵に出会ってしまうなんて。
シロウがいる筈の映画館に眼と鼻の先の距離まで迫っておきながら、撤退しなければならない……悔しくて堪らない。
何しろフジノシズル自身もあの場所での戦いに加わっていた筈なのだ。
その彼女が逆方向である刑務所側へ逃げ出して来たということは、そこで何かが起こった可能性がある。
シロウの身に危険が起こっていることも十分に考えられる。求められるのは一刻も早い到着、それなのに……っ!!

「どないしはったん、お嬢ちゃん? 殺り合う気配がまるで感じられまへんで?」
「う、うるさいっ!! あんたなんか……!!」
「おお、怖い怖い。まったく、最近の娘は言葉遣いがなっとらんなぁ」

クスクス、と笑いながら薙刀を蔓のように伸ばしてフジノシズルは私を攻撃してくる。
どちらも似たような機動性の装備を持った高速戦闘。
生身のままでは凍死してしまったかもしれない空気の波もバリアジャケットが防いでくれる。
右肩を狙って打ち込まれた一撃を弾く。次は右太股、左脇腹、胴体への袈裟切り、何とか……食らい付いて行く。
嵐のように打ち込まれる薙刀は明らかにこちらと相性が悪い。
長い射程と多段攻撃。そして足元をカバーする速さ。
マッハキャリバーの機動性能で撹乱する戦法が使用出来ないのでは……。
身体能力は大分向上している。だけど、攻撃に関してはまだまだだ。こちらには切り札"しか"ない。

「逃げ回るだけかいな? それじゃあいつまでたっても勝つのは無理でっせ?」
「う…………勝手に言っていればいいのよ!」
『マスター落ち着いてください。相手の挑発に乗ってはいけません』
「……分かってる!」

ほとんど圧縮されていない"生"の魔法弾を撃ち込む、という攻撃手段があるにはある。
これならば一応の牽制にはなるだろう。
しかし、この能力は明らかに無骨で錬度が低い。
スピードに自信がない相手ならばともかく、無駄に魔力を消費する結果しか見えてこない。

ならば瞳術か? 確かにアレならば敵の動きを止めるのには最適だろう。
だが。この高速機動戦闘において、相手と眼を合わせる必要のある邪眼は条件が悪すぎる。
逆にこの能力を過信し過ぎては防御や回避がおろそかになり、痛手を負う可能性も高い。
決まれば一瞬で勝敗が付くとはいえ……失うものが多過ぎる。

故に、考えるのは一撃必殺。
私が唯一取得出来たマッハキャリバーの世界、ミッドチルダの攻撃魔法――『ディバインバスター』を叩き込む。

さぁ、勝負だ。私は絶対にシロウの元に辿り着かなければいけないのだから。
今、この瞬間にもシロウの身に危険が迫っている。そう考えるだけで、胸は軋み、頭が痛くなる。


「……行くよ!!」


マッハキャリバーの機動能力を最大まで引き出し――そして、フジノシズルに向けて疾走する。
当然の如く、襲い掛かって来る数多の刃。それを私は習得した魔法『プロテクション』によって打ち消す。
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:54:45 ID:eDWr60cv
 
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:54:50 ID:9fKRzHzK
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:55:23 ID:uu54/qkq
 
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:55:26 ID:eDWr60cv
 
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:55:43 ID:RzjA4R4T
 
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:55:47 ID:eDWr60cv
 
143破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:55:53 ID:qtuAJRH8
「……面白い手品使うんやねぇ」
「うッ――――プロテクション!!」

私の前方に透明な盾が生まれ、フジノシズルの斬撃を打ち消した。
逆にこちらが接近する形となったため、彼女は不信に思ったのか後退しながら薙刀の乱撃で私を牽制する。
私達の距離は……約十メートルといった所か。
マッハキャリバーの方が、彼女の具足よりも遥かに性能が良いため、次第にその距離は縮まっていく。
『プロテクション』は汎用性に優れる呪文で、消費も少なく、安心して使っていける。
だが、

「マッハキャリバー! ここから先はシェルバリアとプロテクション、両方で行くよ!」
『ですがマスターの魔力は……』
「大丈夫、魔力の貯蔵量なら自信があるから!」

プロテクションだけでは、明らかに力が足りないのだ。
フジノシズルに接近すればするほど、攻撃はその密度を増すだろう。そうなれば、確実に力不足だ。
防御魔法を全掛けして相手が突っ込んで来るのだ。何か奥の手があると必ず彼女は考える筈だ。

しかし、自分とフジノシズルにおける最大の違いは攻撃力だ。
防御能力では圧倒的にこちらが勝っているとはいえ、攻撃しなければ勝利することは出来ない。最終的にはジリ貧になってしまう。
とはいえ、移動性では私が勝っている。
つまり余りある魔力量を武器に突貫し、フジノシズルを迎撃も退避も出来ない状況へと追い込む――これが最良なのだ。

「シェルバリア! プロテクション!」
「……格闘戦がお望みかいな」

私の身体を更に多くの刃が襲う。
元は一本だけしかない筈なのに、まるで五本も十本も武器がくっ付いているみたいだ。
ただ二つの防御魔法を同時使用しているせいか、本体へのダメージは思った以上に少ない。
ブルマと体操服とはいえ、バリアジャケットの性能は驚くほど優秀だ。

「……もう少し!!」
「逃げ出したり、急に向かって来たり……お嬢ちゃんの考えがよう分からんわぁ」
「決まってるわ!! 私はシロウの所に行きたいだけっ!!」
「シロウ……ああ、衛宮はんどすか。……ああ、そういうこと……フフ」

残り約七メートル……と言った所か。
ここからではディバインバスターの射程範囲ギリギリだ。
しかし、私が習得したディバインバスターは当然、錬度がきわめて低い。
マッハキャリバーの正当なマスターであった「スバル・ナカジマ」の使用するソレよりも遙かに、だ。
せいぜい五メートル。確実に当てるためには三メートル前後まで接近したい。

が、今それ以上に気になったのはフジノシズルの不可解な笑みについてだった。
シロウの名前を出した途端、彼女はニヤニヤと顔面を不愉快な喜色で飾っているのだから。

「なんなのよっ! その思わせぶりな笑い方は!」
「フフフ、健気やなぁ、思いまして。それに比べて現実は……ほんに難儀やさかい」
「現実……って何!? シロウに何かあったの?」
『マスター! 有効射程範囲です! 今すぐにでもいけます!』
「え……!!」

五メートル。いけない、もうここまで接近したのか。
すぐさま私は魔法の言葉を――

「ディバイン――」
「衛宮はんなら、殺されましたえ」
「ッ――――!?」
『マスター!!!』
144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:56:06 ID:RzjA4R4T
 
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:56:17 ID:eDWr60cv
 
146破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:56:26 ID:qtuAJRH8
三メートル。フジノシズルが急速にターン。手に持った薙刀が蛇のように舞った。
シロウが――死んだ!?

「ま、嘘なんやけどな」
「ッ!!!! よくも――」
『マスター!! 撃ってください!!』
「あっ……!? ディバ――」
「さよならどす」

一、メートル!?
眼と鼻の距離で、フジノシズルがニッコリと微笑んだ。
カマイタチのような速度で薙刀が私の全身へと迫る。
が、こちらは完全にディバインバスターの発射体勢に入っているため、その攻撃を塞ぐ手立てがない。

「きゃあああああああああっ!!!」

刺さる。裂かれる。切られる。突かれる。
突然加速し、私を追い抜いたフジノシズルの刃が私の身体を切り刻んだ。
まるでバケツ一杯の血液をぶちまけたような沢山の液体が潮となって私の身体から溢れ出た。

『ま、マスター……』
「あ…………が……っ……」

ドスン、と膝を突き、前屈みに倒れる。
マッハキャリバーが何かを言っていたような気もするが何も聞こえなかった。何も、何も。

深く、ゆっくりと、セピア色の景色の中へと私は沈んでいく。
頬を擦るザラついた砂の感触。一気に体温を失っていく手と足。
頭は酸素を求め、身体は震え、瞼は私の命令を聞かずに閉ざされようとしている。


「甘いでぇお嬢ちゃん。好きな相手の名前出されたぐらいで動揺してたらあきまへんで」
「や…………だ…………シ……ロウ……」
「冥土の土産にそうでんな……衛宮はんはまだ生きとるなぁ。今は死んどるかもしれんけど」
「シ……ロ……ウ…………」


シロウの顔が頭に浮かぶ。
生きている。シロウは生きているのに。
なんで私は死んじゃうんだろう。このままじゃシロウを悲しませてしまうのに。

ダメ。お姉ちゃんは弟を守らなくちゃいけないのに。
私がシロウを救ってあげなくちゃならないのに。
ヤダよ……こんな、こんな所で…………。

シロウ!!!!!

147名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:56:47 ID:uu54/qkq
 
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:56:58 ID:eDWr60cv
 
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:57:09 ID:RzjA4R4T
 
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:57:31 ID:eDWr60cv
 
151破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:57:47 ID:qtuAJRH8
 □

《Section-11:東方不敗――拳王 @》


それは血湧き肉踊る至高の愉悦にも似た戦いだった。

「どうした撃たないのか、ヴァッシュ・ザ・スタンピードよ!?」
「くッ――――」

幾人もの人間が入り乱れての乱戦。加えて、ここまでの実力者が揃った戦いも滅多なことでは起こらない。
それなりの年月を生きて来たと思っていたが、なるほどやはり世界は広い。
自分と十分に比肩し得るだけの実力を持った戦士に一度に二人も出会えるとは!

ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
卓越した身体能力に目を見張るような圧倒的な銃の腕前。
一つの技能を延々と高めた故の超人的能力――それはわし自身が日々体現している事象ではあるが、奴の「射撃」も同様にこの区分けが可能だ。

人の形を持った存在が成し得る究極至上のガンマン。それがヴァッシュ・ザ・スタンピードだ。
銃など所詮、鉛弾を吐き出すだけの玩具。そのように思っていた自分自身を恥ずかしく思う。

「射撃手が銃を撃たずしてどうやって戦うというのだ!?」
「撃たずに解決出来るんなら、それに越したことはないよ」
「減らず口をっ!!」

突進。右足を軸に左の上段蹴り。旋風のような一撃をヴァッシュは体勢を低く落とし、回避する。
だが、その程度の反応は当然予想の内だ。
腰骨を軸に身体を回転――同じく重心を下げての下段右回し蹴りを放つ。狙いは人体の急所の一つ、左のアキレス腱。
受けた場合、相当な体重がなければ確実に転倒する。が、

「――っと、危ない!」

ヴァッシュはその追撃すら予測していたのか、小さく地面を蹴ってこちらとの間合いを一気に空けた。
そして、腰のホルスターに手を当て銃を――

「ちっ!!」

撃たない、と分かっていながらも反応しない訳にはいかなかった。
すぐさま体勢を立て直し、同じくバックステップと跳躍を交えながら奴の斜線軸をずらす。
奴の早撃ちは、まさに目にも止まらぬ速さという呼び名が相応しい。銃に触ってから発射するまでのタイムロスがほぼゼロに等しい。
そしてどの距離であっても、寸分の狂いもない精密射撃が可能だ。
この東方不敗マスターアジアに『銃』という玩具でここまで迫った相手は過去に一人としていなかった。

しばらく戦っていれば次第に分かって来る。
奴が銃を撃ったのは戦闘が開始してから未だに二発だけだ。
一発が"シズル"という女を助けるため。
一発が爆弾を打ち抜いて誘爆させるため。

そう、牽制にすら一発の弾薬も使っていないのだ。それはつまり――弾が残り少ないことを意味する。
いや既に銃弾を撃ち尽くしてしまっているのかもしれない。
奴の持つ射撃技術を考えるに『弾など弾けばいい』『発射されてからでも十分に回避出来る』などと考えるのはまさに愚作。
つまり、争点を分けるのは『奴の銃にあと何発の弾丸が残っているのか』ということだろう。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:57:54 ID:uu54/qkq
 
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:58:01 ID:eDWr60cv
 
154破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:58:13 ID:qtuAJRH8
だがその時、

「ぐわぁぁぁああああ――ッ!!!」

明後日の方向から、絶叫と共に『人』が飛んで来た。
すぐさま、その正体を確認する。やはりと言うかなんと言うか、矢のように吹っ飛ばされたのは――衛宮士郎だった。
どうもギルガメッシュとの打ち合いに力負けし、衝撃に耐え切れず身体が弾き飛んだのだろう。

奴を打ち据え、絶命させることは枯花を折るよりも簡単な動作だ。が、あえてそれは行わない。
なぜならばこの瀕死の小僧がギルガメッシュの相手をしているため、自分はヴァッシュと一対一で勝負が出来ているのだ。
頭数が一人減ればその分、自分の負担も大きくなる。大局的なことを考えた選択という訳だ。
ならば、

「ふんっっっっっ!!!!」

その身体を利用させて貰うまでのこと。
人間弾頭と化した衛宮士郎の身体を両手で受け止め、

「ぐぁ……な…………ッ」
「悪いな小僧。貴様にはもう一度、空を舞って貰うぞ」
「それってどういう――」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!!」

そしてまるで砲丸を投げるように『衛宮士郎の身体』をヴァッシュ・ザ・スタンピードに向けて投擲する。

「ヴァッシュ、受け止めねばその小僧は死ぬぞ!?」
「なっ――!?」

『衝撃に耐え切れず飛ばされる』と『力を込めて投げられる』では明らかに領域が違う。
後者であるならばそれはまさしく人間凶器に等しい。
しかも人を弾頭として使用するのは二回目である。経験があるとないとで、その差は大きい。

「くそっ!」

ヴァッシュは衛宮士郎を受け止めるべく、両手を大きく広げた。
そうだ。そして、その体勢からでは――銃は抜けまい。

両脚に力を込め、一気に奴に向けて体勢を低く落し、矢のように疾走する。
当然、身体は飛翔する衛宮士郎の影に隠して、だ。
これならばヴァッシュの射撃の標的になることもない。
加えて障害物のほとんど存在しない屋外での戦闘である。張弾を気にする必要もない。

「ヴァッシュ・ザ・スタンピード、覚悟!!」

間合いを一瞬で詰める。
狙うは小僧とヴァッシュが激突する時だ。
最も防御が甘くなり、顔を苦痛で歪ませたと同時にその首を掻っ切――


「――我の獲物を武器として使う、か。気に入らんな」

155名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:58:20 ID:4tNEzFaP

156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:58:28 ID:eDWr60cv
 
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:58:56 ID:eDWr60cv
 
158破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:59:01 ID:qtuAJRH8
瞬間、飛び込んでくる黒い影。

「なんだとっ!?」
「老いぼれ――図に乗るでないぞ? 雑種の未熟が原因とはいえ、我を利用したのは見過ごせんわ」

螺旋状の刀身の剣が突き出される。
咄嗟に両腕を交差させ、その攻撃を防御する。が、さすがに肉体だけの防御では限界があったのか。
左腕の肉が裂け、受け切れなかった一撃が胴体をも切り裂く。

「ぐぅぅぅううううう!!!」
「ギルガメッシュ!!」

現れたのは、この場において自らと同クラスの実力の力を持つ三人目の男。
万物に名を残すありとあらゆる英雄の頂点に立つ誇り高き王――英雄王ギルガメッシュ。

そして奴は誰よりも威厳に満ちた声で、態度で、風格で、ゆっくりと辺りを見回しながら呟いた。


「……足りんわ。贋作者(フェイカー)程度では我の相手には露ぞ値せん。さぁ立て、三人纏めて相手になってやる」
「クククククク――黒猫の格好で何を言うか。良かろう、お望み通り我が流派東方不敗の真髄、その身で味わうがいい!!」
「ギル……ガメッシュ!! クソッ!!!」
「あのーギルガメッシュさん? いや、僕はあなたと戦う気なんてこれっぽちも……」


が、まだまだ傷は浅い。今は燃え上がるようなこの闘いに身を落とすのみ。


 □

《Section-12:ラッド・ルッソ――狂人 A》
 
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 20:59:18 ID:uu54/qkq
 
160破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 20:59:50 ID:qtuAJRH8
「……っとに馬鹿だ、あたし。ソレ無理。断る」
「………………はぁっ!?」

――おい、今なんつった?

「あぁっ? なんだ俺の耳がおかしくなったのかぁあ!? わりぃな、ナオちゃん。もう一回言ってくんねぇかな?」
「だから言ってんでしょ! アンタを通すつもりはない。あたしはここでアンタと戦うって!」

闇を切り裂くようなでかい声。コイツ、言い切りやがった。
ナオちゃんは指を覆っていた爪からシュルシュルと糸のような物を出して俺との戦いに備える。

キッと目尻を引き締め、俺を見据える視線は戦士のソレ――っておいおいおいおい!?
それって完全に"俺"と殺り合うっつーこと? 
はぁ? 意味分かんねーよ!? なんで、そういう答えになる訳よ!? ありえねぇだろ!!

「お前よ、死ぬぜ」
「……承知の上だっての」

妙に強い瞳で俺を睨みつける。赤い髪、碧色の瞳。なんだか妙にヒラヒラした服。
俺の中でフワフワと風船みてーに浮ついてた気持ちがパチン、と弾けた。
声が明らかに冷たくて低いモノへと変わったのが自分でも分かる。
……ああ、俺ムカついてんだ。

いや、それ以上に解せねぇ。
コイツの行動に意味がまるで感じられねぇっつーの。
おいおい、ギルちゃんは強いんだぜ? 俺だってこっちが逆にぶち殺されるの重々覚悟しての行動な訳。
ここは俺をアイツの所に行かせんのが筋ってもんだろーがよぉおお!!
戦力的なことを見ても、自分のことを考えてもそれが最上の選択だっつーの!!
ここで道を譲らねーってのは、ツマンねぇ個人のプライドか?
それともアレか? こいつらそういう関係だってぇのか?

「あーーーーめんどくせぇけど、一応聞いてやる。理由は?」
「あたしは……アイツに、金ぴかに依存したくない」
「意味が分かんねぇ。もっと分かりやすく喋れ」
「……あたしはアイツの従者でもないし部下でも家臣でもない。友、って言うには全然力も足りないし、ましてや恋愛関係でもない」

ふぅん、違うのかい。
まぁギルちゃんが好きになる女のタイプってのも想像つかねーけどな。
案外ゴリラみたいに無骨で、馬鹿みたいに飯を食う恥じらいの欠片も無いようなのが好きだったりしてなぁ。

「じゃあ何な訳よ。"仲間"、みてーな陳腐な答えだったら笑ってやる。こーんな風になぁ!! ヒャッハハハハハッハハハハ!!」

大笑い。が、ナオちゃんは俺の態度がお気に召さなかったのか、それとも何か別なことを思ったのか。
すげー微妙な目で気の毒そうな雰囲気を全身に滲ませながら俺を見た。
あん? 何か俺の顔にゴミでも付いてるってーのか? 生憎、血ならたっぷり付いてるんだけどよぉ。

「別に贅沢なんて言わない。ただ平等で対等でさえあればそれでいい。……質問は終わった?」
「対等、ね」

平等で対等。なんだ……相棒? パートナー? ま、どっちでもいいが。
要するに、アレか。俺にとってのルーニからラブな要素を抜いた感じか?
まぁ小さいなりに色々考えているらしい。
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:00:13 ID:uu54/qkq
 
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:00:19 ID:eDWr60cv
 
163名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:00:34 ID:RzjA4R4T
 
164名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:00:40 ID:eDWr60cv
 
165破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:00:55 ID:qtuAJRH8
さて、これでお話は終了。いざ戦闘へ、ってか?
さっきまで仔犬みてーにブルブル震えてた肩も、今にも崩れ落ちそうだった膝もシャンとなって芯が通ってる。
両脚でしっかりと地面を踏み締めて、真っ直ぐに俺を見据えるその眼。
あぁ、悪くねぇな。
無抵抗な相手を甚振るのも悪くねーが、最後まで抵抗してくれる奴を屠るってのも同じくらい味わい深ぇーよ。
でもよ、

「萎えた」
「は……はぁっ!?」

ギルちゃんっつー最上の馳走を眼の前にして、食べる飯じゃねぇ。
ちらり、とナオちゃんの背後、未だ口煩く罵り合いながら戦っている二人……アレ、何かジジイとホウキ頭も混じってら。
……あーちと遠いが十分届くな。

「おい、エミヤ聞こえてんだろ!? チェンジだ、チェンジ!! お前がナオちゃんの相手しろ!!」
「……っ……な、馬鹿かラッド!! こっちはそれどころじゃ――」
「どうした、あの時のように我を塵に還すのではなかったか?」
「ぐ――!!」
「止めるんだギルガメッシュ! 僕は君を撃ちたくない!」
「貴様に我を止める気があるならば好きにするがよい。それこそが貴様の決意なのだろう、ヴァッシュ・ザ・スタンピード?」
「ククク……四者入り混じっての乱戦か。悪くない、悪くないぞぉぉおおおお!!!」

面子だけ見ても、明らかにエミヤは押されていた。違う、浮いてた。つーか、悲惨過ぎだろあの状況。
そもそもあの中で奴を助けてくれるのはホウキ頭だけだし、残りの二人もメチャ強ぇからなぁ。
ジジイも歳を感じさせねぇ動き出し、ギルちゃんも猫の格好してる癖につえーのなんのって!
いや、マジでもう少し放っておけばエミヤ死ぬなこりゃ。

「ちょ……!! アンタ何考えてんのよ!?」
「だってよぉ、俺にナオちゃん殺す気がなくなっちまったんだから仕方ねーだろうが。でもよぉ、人間の数は限られてんだわ。
 でも俺は殺したい。でもそっちは二人もギルちゃんの所に行かせる訳にはいかない。
 じゃあ、相手を交換すんのが一番じゃねぇか。平和的解決方法っつーの? 俺には似合わねぇ言葉だけどよ!! ヒャハハハッ!!」
 ん……そうだ、待てよ?」

考えてみれば、まだまだ殺したい奴はタップリいる訳で……。
っと、この絶好のタイミングで俺の頭にピコーンと最高に素晴らしいアイディアが浮かんだ。
あれ、俺やっぱ天才じゃね?
これならナオちゃんの希望も通るし、俺も満足出来るし、何よりスリリングだし。良いこと尽くめじゃん?

「おい、他の二人!! 聞いてんのか、お前らだよ!! ジジィ、ホウキ頭!!!
 っつ――あぁ、もうめんどくせぇ!! テメェら全員、耳かっぽじって聞きやがれ!!」

その場にいた人間――イチ、ニィ、サン、シー、ゴー……あん? なんか一人少なくねぇ?
そう言えば、あの重そうな服を着てた長髪の女がいねぇ。逃げたか?
まぁ、いねぇ奴のことはどうだっていいか。

とにかく五人の人間の視線が一気に俺へと集まる。
見つめる十の瞳。その顔色は様々でどいつもコイツも大概、不信そうな顔付きだ。っつても、いいねぇ、痺れるねぇ!! 
俺は俺のために俺が俺であるために殺しをやるけどよぉ、自己顕示欲のために殺しをやる奴の気持ちも少しは分かるってもんだぜ。
ま、俺はあくまで殺したいから殺すんだけどよ。今回だってそうだ。


「おいおい、テメェらちんたらサシで殺し合いなんてしてんじゃねぇよ!!
 コレは祭なんだぜ!? パーティさ、カーニバルだっつーの!?
 こんなんじゃこの面子が勢揃いした意味がねぇぇぇぇえええだろうがよぉおっ!! っつーわけで俺は提案する。
 今からこの六人で最後の一人になるまで潰し合うっつーのはどうだ!!?? 少なくとも俺は潰し合うぜ!? 
 エミヤだってひじょーーーーーに心苦しいが、俺はぶち殺す!!
 お仲間同士が残ったら好きにしな!! だってそんときゃ、俺は既に死んでんだからよぉおっ!! ヒャッハハハハハハッハハ!!
 でも俺にとっちゃあ、敵も味方も関係ねぇ!! つまり、これは!!」
 
166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:01:08 ID:eDWr60cv
 
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:01:32 ID:eDWr60cv
 
168破天荒遊戯(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:01:39 ID:qtuAJRH8
大きく息を吸い込んで一言。
お、エミヤすげぇ眼で俺を見てやがる。
いやいや悪いね。
でもお前ってあれじゃん。他人の命を救うことに関しての狂人だろ? 
他人の命を奪うことに関しての狂人である俺の気持ちだって結構分かるんじゃね? 
だってよ……、
 
「えーと、あれだ。何だっけ――ああああああ、言葉が出てこねぇ!! ナオちゃん、何だか分かる?」
「へ…………あ、あたしに聞くわけ? あ……もしかして、アレ、かな。本のタイトル――」

とりあえず一番近い所にいたナオちゃんに聞いてみた。
しどろもどろになりながら、ボソッと小さな声でナオちゃんは答えた。
…………ほう、言葉としての意味は通じるな。アリじゃねぇの?

エミヤさぁ、俺が人間殺そうとしたら止めんだろ?
でも、逆によ……、

「ほうほう。…………ああ、よく分かんねぇけど多分ソレだ!! オッケーそれでいこう!!」

お前が人間救ったら、その分だけ俺は殺したくなんだよ。
だから――な。


「っつーわけで、宣言するぜぇえええ!! さあさあさあさあさあ!! やろうぜ、"バトルロワイアル"!!!」


こっからが本番、って訳。分かる?

169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:02:30 ID:eDWr60cv
 
170名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:02:35 ID:uu54/qkq
 
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:03:02 ID:eDWr60cv
 
172PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:03:24 ID:qtuAJRH8
 □
 
《Section-13:ギルガメッシュ――英雄王 @》

眼の前のむさ苦しい男、ラッド・ルッソが持ち出した提案は『馬鹿げている』という領域を遙かに超越した荒唐無稽なものだった。
最後の一人になるまで潰し合う……そもそも、我がそんな遊戯へと講じる利点が皆無ではないか。
加えて何故この雑種の意見に従わなければならんのだ。我は英雄王ギルガメッシュ、誰からの指図も受けん。
そもそもこの駄犬がこんなことを言い出した理由も、おそらく自らの狂気もとい趣味故だろう。

下劣な笑い声を上げながら身を捩っている駄犬に贋作者と蜘蛛が凄まじい剣幕で文句をつけている。
ある種達観した存在が勢揃いしたこの場において、かの二人だけが"人間"であるからなのだろうか。
蜘蛛はともかくとして、衛宮士郎に未だそのような感覚が残っていたことには驚きを隠せないが。

駄犬の言う『バトルロワイアル』――それはこの八十二名よりスタートした殺戮舞踏を更に縮小する、という試みだ。
我は未だ螺旋王の真意へと到達することは出来ずにいる。
何故奴がこのような催しを開催し、何を目的として我達を戦わせているのか――答えは出ない。

さて、ひとまずどうするべきか。
この目障りな雑種三匹を殲滅する――これはいい。
しかし、問題はその後だ。ナオを発見することが出来たのは僥倖であったが、方針が未だハッキリしない。
そろそろ戦うだけではなく、ある程度頭を使える家臣が欲しい所なのだが……。


「ラッド!! お前は馬鹿か、ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけてなんていねぇーよぉおおお、エミヤ!!! こんなに人間がいるんだぜ!?
 やっぱイベントって奴が必要じゃねーのかなぁ、おい! 俺も入れてよぉ六人もいんだぜ!!
 ほれ。イチ、ニィ、サン、シー、ゴー、ロク…………あ? ナナ?」
「七? お前、何を言って――」


『七』だと?
女――藤乃静留が離脱した以上、ここには六人しか参加者はいないはず。
その場にいた全員の瞳がラッド・ルッソの見詰めていた方角へと向けられる。
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:04:10 ID:uu54/qkq
 
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:04:12 ID:eDWr60cv
 
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:04:25 ID:RzjA4R4T
 
176PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:04:33 ID:qtuAJRH8
「イ、イリヤ!? イリヤなのか!?」
「――ほう」

思わず、笑った。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――またの名を聖杯。
第五次聖杯戦争における聖杯兼マスターとしてバーサーカーを従えて参戦したアインツベルンの姫君だった。
今までの放送で名前を呼ばれていなかったため、生きているとは思っていたが……これは思わぬ拾い物だ。

「シ……ロウ、よか…………た。早く……逃げて……」
「ど、どうしたんだその傷はっ!? 何で全身ズタズタに……!?」
「い、い……から。早く……アイ……ツが…………アイツが……来る……ッ!」

誰かに襲われることなどまるで考えずに衛宮士郎が聖杯の元へと走り寄った。
聖杯は紫色の衣装を真っ赤な血で染め、息も絶え絶えという様子であった。
手足には何かしらの刃物によって付けられた切り傷――これは蛇……藤乃静留のエレメントか。

聖杯は全身をガタガタ震わせながら、衛宮士郎に必死で呼び掛ける。
だが奴は状況が把握できていないのか、聖杯の身体を気遣う台詞を吐くばかり。
……まるで、埒が明かない。

「汚い口を塞げ――衛宮士郎」
「ギルガメッシュ!? イリヤに何をするつもりだ!?」
「喋るなと言っている。耳が穢れるわ。状況を知りたければ少し黙っていろ」

こうしてようやく、小さな嗚咽を衛宮士郎は飲み込み、押し黙った。
我はゆっくりと聖杯に問い掛ける。

177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:04:52 ID:eDWr60cv
 
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:05:24 ID:uu54/qkq
 
179名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:05:32 ID:wjbS2SCR
支援
180名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:05:41 ID:eDWr60cv
 
181PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:05:43 ID:qtuAJRH8
「ギル……ガメッシュ」
「聖杯よ――単刀直入に聞く。誰が来るのかは分かった。
 だが、奴の力は人の身としては十分過ぎるものとはいえ、我は愚かそこの老いぼれや射撃手にも明らかに劣る。
 一体何をそれほどまでに心配しているというのだ?」
「やく……そく、して…………アケチ達……に協力……して……」
「何?」
「刑務所……いる……から、ち……からを……!!」
「チッ――仕方ない、誓ってやろう。答えよ、聖杯戦争を経験した貴様をそこまで脅えさせるモノは一体何なのだ?」
「へ…………ぃ……」
「聞こえんぞ。何が来ると言うのだ?」
「…………六つ……の……頭の…………」


「――――もしかして、それはうちのことどすか?」


瞬間、『闇に影が』差した。
時刻は既に二十四時になろうかという頃合。
まともな灯りなど周囲にはほとんどなく、月と星を頼りに我達は戦っていたと思っても過言ではない。
そして、その光が遮られた。つまり――それは、

「――散開するッ!!! ナオ付いて来い!!」
「ちょ……っ!! 金ぴか、あれは……!!」
「説明は後だ!!」




天から、巨大な"何か"が降って来たということ。


182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:06:31 ID:eDWr60cv
 
183PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:06:46 ID:qtuAJRH8
 □
 

《Section-14:ニコラス・D・ウルフウッド――牧師 @》


「……なんなんや」

わいは、思わず言葉を失った。
数百メートル先に位置する映画館。その周辺で数十分前に凄まじい爆音が響いたことはよう覚えとる。
多分何人かの参加者がドンパチやってるんやろうなぁ……とは思っていた。
でもとりあえず、このわいを舐めくさった柊かがみを何とかせんとどうしようもない、そんな風に思っていた訳だ。

今現在、柊かがみは気絶中だ。
叩き起こして再度拷問に掛けることは容易……ただし、


「あの紫色の山はなんじゃい」


今し方出現した妙な山、というか、もしやアレは生き物なのだろうか。とにかく、そちらの方に意識が向いている。
凄まじい音が響いた、ということは多分上から落ちて来たのだ。
どこから? …………わいに聞くんやない。

そうなると、逆にコイツには眠っていて貰った方が得策だ。
一端起きてしまうと、不死故にその行動を制限するのが厄介である。
そろそろ禁止エリアに運ぼうかと思っていたのだが、思っていたよりもこの場所からは遠い。

恐らく、今わいがいるのがB-5エリアとC-5エリアの境目辺りか。
一番近い禁止エリアに行くためには映画館を通過しなければならない。
つまり、あのウネウネ動いとる不気味な紫の山を見物に行くには柊かがみを棄てていかなければならない。

「しかし……本当にゾンビなんか、この嬢ちゃんは」

アレだけ渾身の力を込めて殴り倒したのに、もはや完全に彼女の傷は治ってしまっている。
流石に胃の中から吐き出した汚物は戻らないようであるが。
むしろ、こっちの拳が痛いくらいだった。
まぁ、そもそも不死身であることが分かっているのに、刀や銃など勿体無くて使える筈もない。懸命な選択だったと思う。
あの撲殺拷問もこちらのイライラをぶつけるための――要は八つ当たりだった。

184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:07:04 ID:uu54/qkq
 
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:07:03 ID:eDWr60cv
 
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:07:06 ID:RzjA4R4T
 
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:07:19 ID:xGtQZGOQ
支援
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:07:24 ID:eDWr60cv
 
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:07:41 ID:KGtCHcD7
.
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:07:45 ID:eDWr60cv
 
191PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:07:47 ID:qtuAJRH8
が、気分が晴れたかと言われればそんな訳がない。
例えば――ジムに置いてあるサンドバックが数回殴っただけで破れてしまったら、どう思うだろう。
普通は、キレる。
「おいコラなんやこのヤワなボロ屑は!?いい加減にせぇよ!?」という気分になる。
では逆に壊すつもりで切り掛かった案山子がいつまでたっても壊れなかった場合は?
言うまでもない。同様に普通は、キレる。
まぁ単純に言えば、柊かがみをボコボコにしてもまるでこのイライラは収まらなかった、ということだ。

「しゃぁないな……不死身の嬢ちゃん、命拾いしたなぁ。次はちゃんと殺してくれる相手に拾われるんやで?」

物言わぬ気絶中の女に一声掛けて、わいは歩き出す。
目的地は当然の如く、映画館。
あの場所はプンプン匂う。ああ、俗に言う――死臭って奴だ。
このイライラを晴らすには丁度いい。

「あん?」

数百メートル進んだ所にやけに豪壮な剣が落ちているのを見つけた。
確か不死身の嬢ちゃんが使っていた武器だ。名前は確か『エクスカリバー』だったか。
今持っている二本の刀よりは大分使えそうに見える。

「ツイとるやないけ」

軽く左右に振ってみる。ふむ、中々手に馴染む良い剣だ。
まぁしばらくはこの武器を使うとするか。
もしかしたら――そろそろ自分にも運が回ってきたのかもしれない。
滑り出しは上々、そんな所だろうか。

 □

《Section-X1:藤乃静留――蛇 A》


――ああ、それはほんの少しだけ前の話だ。

192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:08:18 ID:RzjA4R4T
 
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:08:21 ID:eDWr60cv
 
194PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:08:22 ID:qtuAJRH8
乱戦から離脱し、その周囲で発見した外国人と思われる少女を殺害し、道具を回収。
脚に装備していたローラースケートを少女の履いていた『マッハキャリバー』というものへと履き替える。
どうも『デバイス』という種類の意志を持った道具らしい。

しかしとある妙なことにも気付いた。
つまり、いつの間に、こんな場所まで来ていたのだろう、と。
映画館の近くで戦っていたはずなのに、気が付けばうちと少女は見慣れぬ場所までやって来ていたらしい。
あの妙な形の河、いくつかも河川が枝分かれする分岐点……ということはここはA-6だろうか。

さて、これからどうするべきだろうか。
少女は重傷だ。とはいえ、今すぐ死ぬほどの怪我ではない。今は気絶しているが……処理をすれば十分助かる。
もっとも、明らかに血が足りないので放っておけば出血死するだろうが。

彼女を軽く拷問して何かしらの情報を搾り取る、という展開が第一に挙げられる。
戦闘をしてみて分かったこととして、彼女は攻撃力はそれほど高くない。
最後に使用した『ディバインバスター』という技だけは注意が必要だが、念入りに拘束すれば問題もない筈だ。

「ん……なんやろ、アレ」

『妙なもの』が川縁に立っている。
夜の暗闇を吸い取るように、キラキラと輝く大きなオブジェ、だろうか。
何なのだろう、アレは。
遠目加えて夜目であるため、しっかりとは見えない。
灯りも頭上に煌く黄金の月だけだ。光源としてはさすがに心もとないと言わざるを得ない。
高くて、透明で、何かで濡れていて、大きくて……、

「こおり……?」

そう、まるで映画に出てくるような豪壮な氷柱が河に堂々とした風貌で佇んでいたのだ。
数十メートルはあるであろう、この位置からも明らかにその存在が異様であることは見て取れる。
常識で考えれば、このような街中に巨大な氷がある筈もない。
つまり人為的にあの物体は出現したことになる。何かしらの能力が行使された証――

「あ…………」

氷。
巨大な冷気を操る力。
吹き荒ぶ吹雪。
全てを覆いつくす凍気。
そして、誰かの能力によって生み出された氷の柱。
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:08:45 ID:eDWr60cv
 
196PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:08:49 ID:qtuAJRH8
「まさか…………」

自分は、知っている。思い出す必要なんてなかった。
いついかなる時であろうと、この心は彼女への想いで溢れている。
だから、余計なことを考える必要など、そこにはなかった。
ある筈もなかった。

「な、つ……き」

氷を操る能力。それは玖我なつきのチャイルド――デュランの持つ力なのだから。
確信、した。
いや他に氷を扱う能力者が参加している可能性は十分に高い。
加えてHiMEはチャイルドの使用を制限されている。デュランもおそらく同様に。
アレが、なつきによって生み出された氷である筈がない。

それでも、両脚はスルスルと、光へ惹き付けられる羽虫のように勝手に前へ前へと進んでいく。
自分で自分の身体が制御出来ない。
周りのことなど、どうでもよくなってしまった。
流れる河も、濡れていく身体も、肌寒い風もまるで気にならない。


心は完全に気付いてしまったのだ。

いる。
あの場所に、なつきが。


 □

《Section-X2:藤乃静留――蛇 B》
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:09:00 ID:uu54/qkq
 
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:09:27 ID:eDWr60cv
 
199PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:09:29 ID:qtuAJRH8
闇が謳う。
深々とした黒と蛍の光のように照らす月が彼女を飾り立てていた。

ゆっくりと、その傍らに寄り添うように腰を降ろした。
彼女は空を見ていた。
彼女は月を見ていた。

「……なつき」

まるで何かを成し遂げた後のような、満足げな笑みを浮かべる最愛の人――玖我なつき。
そして人形のようにその隣で肩を震わせる女――藤乃静留。

そっと、その頬に触れてみる。
人間らしい温かみなどある筈もなくて、陶磁器のように滑らかな感触と冷たい体温だけが皮膚へと広がって行く。
何かを追い求めるように指先は首へ、そして彼女の身体へと至り、ゆっくりとその存在を確かめる。
それは、まるで時計の針が止まってしまったかのような時間だった。

自分と、そしてなつきだけがその空間に居て、でも息をしているのは一人だけで……。
川のせせらぎと風の音、そして自分の心臓の音だけが二人の空白を埋めてくれる。

赤を通り越して、既に黒色へと変化していた心臓の傷。
いつもなつきが着ていたライダースーツの革の感触が指先を軽く撫でた。

なつきと再会出来たら話したいことが沢山あった筈だった。
だけど、言葉が出てこない。
意味もなく、非力な少女のように名前を呼び、その身体に縋りつくことさえ出来ない。
自分は中途半端だ。何もかもが適当で、フラフラと遊びまわって――

どうして、一番初めにゲームへと乗ってしまわなかったのだろう。
あの時、出会った人間を全て殺していれば、もしかしたら今もなつきは自分に微笑みかけてくれたかもしれないのに。

「な、つき……」

その唇は今も尚、瑞々しい果実のような膨らみを保っていた。
気が付けば顔と顔が近付き、うちは折り重なるようになつきの胸の中へと吸い込まれていった。
ああ、これで二回目だ――なつきの寝込みを襲うのは。




回る。
回る。
グルグルと螺旋を描き。
踊るように。舞うように。遊ぶように。

200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:10:08 ID:8/Fm+IRq
 
201PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:10:09 ID:qtuAJRH8
自分はHiMEだ。
その存在を証明するものが共通する特別な痣とエレメント、そしてもう一つだけある。
今思えば不思議な話だった。
そもそも"あの子"が欠けていたのに、本当に自分はHiMEだっただろうか。

HiMEの力とは想いだ。
大切な人を守りたいと願う心。一緒にいたいと思う心。
愛情、友情、親愛、尊敬、敬愛――
自分の大切なものを賭けてまで戦う、それがHiMEの宿命。
「鍵」となる相手と手を取り、戦姫を目指す舞踏だ。

なつきは死んだのに、自分の身体が消えてなくなることはなかった。
あの、瞬間、巨大化したデュランの砲撃が"あの子"の身体を貫いた時二人の心は通じ合った筈なのに。

少しだけ、悔しかった。
どうしてこの身体が消えて無くならないのか不思議で堪らなかった。
"あの子"達を呼び出すことに何かしらの制限が掛かっているのは確実だ。
そして、それは同時に「大切な人」に対しても同じことが言える……のかもしれない。
少なくとも、自分はそうやって嵐のように荒れ狂う心を納得させた。

それでも、心の闇は晴れない。

『なつきは自分のことなんて、どうでもよくなってしまったのではないか』

そんな風に考え出すと、次から次へと黒い思考が膿のように湧いて来て、狂ってしまいそうになった。
喉を掻き毟って、両肩を思いっ切り抱き締めてもその衝動は収まらない。
だから、自分はゲームに乗ったのだ。

なつきと永遠の時を生きるため? いや、違う。
それは所詮、言い訳だ。つまらないプライドを覆いつくすための見栄に過ぎない。
自分の望みはただ一つだけ。ささやかで、慎ましく、ちっぽけな夢だ。

なつきに、一つだけ聞きたいことがあった。
それさえ確認出来ればその瞬間喉を掻っ切って自殺してしまっても構わなかった。
永遠の時ですら、その一瞬を飾る至上の幸福には叶わないのだから。


――――なぁ、なつき。まだうちのこと好きなままでいてくれてるん?

202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:10:09 ID:RzjA4R4T
 
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:10:16 ID:uu54/qkq
 
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:10:29 ID:eDWr60cv
 
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:10:43 ID:8/Fm+IRq
  
206PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:10:52 ID:qtuAJRH8
自分がいて、なつきがいて――
もしも、なつきが自分を好きでいてくれるのなら、永遠なんていらない。
灯篭のようにすぐ消えてしまう炎で十分だ。
だから、戦うのだ。なつきをもう一度抱き締めるために。一瞬の微笑みを勝ち取るために。


身体がボウッ、とした光に包まれる。
緑色の粒子が空を舞う。
空へと螺旋を描きながら伸びていく一陣の風のように、何かが細胞の一つ一つを変えていく。

それはHiMEが戦いに敗れ、「大切な人」が消えていく時の光と似ていた。
心と心が、"螺旋"の力で結ばれる。


背後から何かが競り上がるような凄まじい轟音が響く。
まるで河の中から巨大な塔が出現したかのような衝撃が周囲を襲った。
ゆっくりと、天を見上げる。その、自分を見下ろす影を。

そう、気が付けば、"あの子"はそこにいた。
山のように高く、大きくな身体。
六つの頭に研ぎ澄まされた刃のような牙。闇夜で光る眼。
紫色の体躯を月明かりで照らして、十二の瞳でこちらをじっ、と見つめている。

「悪かったなぁ……ほんまに待たせてすまんかったわぁ」

ああ、勘違いなんかじゃなかった。
そして、自分もこれでなつきとお揃いだ。自分はもう一度、HiMEになったのだから。

大切な人との絆の証――うちの想いの力、ようやっと届いたんや。


「行ってくるで、なつき」

207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:10:55 ID:eDWr60cv
 
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:11:04 ID:8/Fm+IRq
    
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:11:25 ID:XT7jSjbJ
 
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:11:36 ID:eDWr60cv
 
211PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:11:46 ID:qtuAJRH8
 □


《Section-15:東方不敗――拳王 A》

「なんという……ことだ」

間一髪、と言った所だろうか。
まさか頭上からあのような大きさの巨大生物が登場するとは考えている訳がなかった。

あのサイズの相手ならば、通常はガンダムを用いて戦闘するべきだ。
とはいえ生身でも戦うことが出来ない、という訳ではない。
だが、さすがにアレは大した意志を持たないゾンビ兵の操るデスアーミーとは比べ物にならないだろう。
多少の被害は覚悟の内、ということか。

「くっ…………ダメージを受け過ぎたか」

特に最後に英雄王にやられた傷が効いている。
ドモンにやられた腹部の傷も今更ながら厄介だろう。一度、どこかで身体を休めた方がいいかもしれない。

「……む?」

その時、自らのポケットにしまって置いた指輪が消えていることに気付いた。
衛宮士郎から奪い取った特殊な力を持つ指輪だ。離脱した際にどこかで落したのだろうか。
とはいえ、いかに優秀であろうと、自分には無用の長物である。なぜなら、

「……構わんか。そもそも、わしではあの輪っかは小さすぎて指が入らんからなぁ!」

あのような、女物の指輪が嵌められるほど軟弱な鍛え方はしていないからだ。
実際、メリケンサックなどでなく純粋に指輪を付ける武道家が存在するかどうかも微妙ではあるのだが。


【C-6/道端/一日目/真夜中(放送直前)】

【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身にダメージ(大)、特に腹部に無視できぬ大ダメージ、肩から腰にかけて切り傷、左腕に中度の切り傷、腹部に中度の切り傷、全身に中度の火傷、わき腹に小さな穴 疲労(大) 螺旋力覚醒
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム、
[道具]:支給品一式(一食分消費)、レガートの金属糸@トライガン 、ルールブレイカー@Fate/stay night、卓上コンロ用ガスボンベx2
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。
1:ひとまずは傷を癒す。
2:優勝の邪魔になるものは排除する。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:そしてドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。

※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。
 本人も半信半疑です。
※Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 ですが、『なんらかの要因』については未だ知りません。
  ついでに、自分自身が覚醒していることも知りません。


 □

《Section-16:結城奈緒――蜘蛛 A》
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:11:47 ID:RzjA4R4T
 
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:11:50 ID:uu54/qkq
 
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:11:54 ID:8/Fm+IRq
 
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:12:11 ID:eDWr60cv
 
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:12:27 ID:8/Fm+IRq
  
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:12:42 ID:eDWr60cv
 
218PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:12:43 ID:qtuAJRH8
「う……そ……でしょ」

あまりの突然な事態に頭がどうにかなってしまうのではないかと思った。

いや、だって在り得ないだろう、常識的に考えて。
ラッドのおっさんが「バトルロワイアルやろうぜ!」とかアホなことを言い出したと思ったら、
なんかやけに肌の白い女の子が瀕死の重傷を負った状態で現れて「逃げて……」とか言って。
「はぁ?何言ってんの意味分かんない」みたいな感じでボンヤリと衛宮士郎があたふたしてるのを見てたら、

空から――凄まじく巨大な"蛇"が落ちて来た。

「ごきげんでっか、皆さん」

現れたのは藤乃静留のチャイルド、清姫だった。
当然の如く藤乃は六つある頭のうちの一つに悠然とした佇まいで立っている。
…………ああ、なんかやけに見慣れた光景なんですけど、コレ。


「し、シズルさーーーん!! 僕達のピンチに駆け付けてくれたんですね!!! 
 バトルロワイアルなんてくだらない、そういう事なんですね!! ああ、感激だなぁ……僕はずっと信じてましたよ!!」


色眼鏡と赤い外套、そして鮮やかな金髪をホウキみたいに逆立てた男が情けない声を出した。
こいつの顔は一応、見覚えがある。
人間台風――ヴァッシュ・ザ・スタンピード。あたしに支給された手配書に載っていた人物。
なんか凄まじい額の賞金が掛けられた指名手配犯だ。
それなのに「殺し合いは駄目!絶対!」みたいな論理で、誰一人この場から死者を出すまいと頑張っている。
まぁ、要するに変な奴だ。

「ん……」

その時、大騒ぎするヴァッシュ・ザ・スタンピードを尻目にあたしがふと足元に眼をやると妙な指輪が落ちているのを見つけた。
ひょいっ、と拾ってとりあえず指に嵌めて見る。

――×××××××

ん? なんだ……この単語。どこから振って来たんだろう。
一度外してみる。そして再度装着。また、頭に良く分からない単語が響いた。
HiMEとそれなりに関連性のあるワード……ではあるが、だから何だというのだろうか?
指から取ることは出来るので、少なくとも呪われてはいないようだが。
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:13:02 ID:RzjA4R4T
 
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:13:09 ID:XT7jSjbJ
  
221PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:13:19 ID:qtuAJRH8
「ヴァッシュはん。あんさんに言っとかなあかんことがあるんよ」
「何ですか? 僕は別に逃げた事を怒ったりは――」
「すんまへんなぁ。その女の子を襲ったのはうちなんどす」
「は――!?」
「その前に……」

あたし達を見下ろす藤乃がぐるっ、と首を擡げその場に居た人間を確認した。
ん、アレ。なんで藤乃の奴、デイパック背負ってないんだろう。
というか、ラッドのおっさんだけじゃなくてあの東方不敗とかいう爺さんもいなくなってる?

「結城はん。うちのかいらしい清姫を見た感想を聞かせて貰えると嬉しいんやけど」
「…………なんで、アンタはチャイルド使えんのよ」
「『恋する乙女』は強いんでっせ?」
「ハッ、意味分かんない」

理不尽だった。
正直、この状況であたしの側にジュリアがいたとして、何が出来るという訳でもない気はするが。
そもそも《蝕の祭》の時、あたし達は藤乃のチャイルドではなくてエレメントだけでも十分にやられていたのだ。
ジュリアを噛み殺したのも、コイツの清姫な訳だし。

「それとなぁ、面白いモンも手に入れてな。『デバイス』いう道具らしいでっせ」
「デ……バイス?」
「そうや、しかもコレには驚きの機能が付いとって――」

そこまで言い掛けて、藤乃は「おやっ」という感じの眼で私を見た。
視線の先は――私の指先。つまり、先程拾った謎の指輪だ。

「なんや結城はんも持っとるやないか」
「コレ……がデバイス?」
「そうや。うちのとは違ってあまりお喋りやないようやけど。それに――例の単語、もな。浮かんで来とるさかいに」
「単語って……藤乃も……!?」

そしてニタリ、と笑った。
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:13:40 ID:8/Fm+IRq
 
223PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:13:48 ID:qtuAJRH8
「ほな、一緒に言ってみましょか」
「藤乃、アンタ……」
「はい、さんはい――」
「ああもう!! 分かったわよ、言えばいいんでしょ!?」

背筋がゾッとするような笑顔を携えたまま、藤乃は小さく両の掌を叩き合わせる仕草を取った。
動作だけを説明すれば、それは小さな子供をあやす時のような慈愛に満ちた動きだ。
だけど眼は笑っていない。鬼のような雰囲気を全身から発しながら、藤乃は私にも一緒に『この台詞』を言わせようとしているのだ。

聞きやしない。こちらの腹の中はお見通しって訳だろうか。
まぁいい。どちらにしろ、私もこの胸の中で疼くよく分からない衝動を解放したいと思っていた所だ。
HiMEだけにしか分からない、特別な単語なのだろうか。
この場において、私、結城奈緒と藤乃静留だけが持ち合わせた感情を発露する。そのことに特別な問題があるとは思えない。

――つまり、それは誓約の言葉なのか。


「「マテリアライズ!!」」


そう叫んだ瞬間、眩い光が私達の身体を包み込んだ。
閃光に包まれ、私の身体が変わっていく感じを覚える。

この『デバイス』という奴を手にした瞬間から、燻っていた言葉――マテリアライズ。
どうやら些細な気のせいではなかったらしい。

なんだろう……これは?
懐かしい、とか気持ち悪いとか、そういう感覚じゃない。
ただ初めての気持ちじゃないのは確かだ。
まるで遠い未来か過去の、平行する世界の自分と一体化するような……何を言っているんだ、あたしは。
……とりあえず、変な気分。
224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:14:05 ID:eDWr60cv
 
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:14:10 ID:8/Fm+IRq
 
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:14:21 ID:RzjA4R4T
 
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:14:24 ID:uu54/qkq
 
228PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:14:40 ID:qtuAJRH8
「う――――な、こ、これは……!!」
「ほう。クククク……蜘蛛女、中々面白い格好だな。さすがに我には遠く及ばんが。
 緑と黄色、そして格子模様か。奇抜なセンスをしている」


隣であたしと藤乃のやり取りを見ていたギルガメッシュがニヤニヤしながら、そう呟いた。
光が消え、私がなんか変化したっぽい自分の身体を見た時に覚えた感想を一言で述べるとする。
それは、もう、全ての感情をその短い言葉に込められるくらい単純なものだった。

「だ、ださ……」

とりあえず、超ださかった。
最初のルール説明の際に広間でぶっ飛ばされた変身ヒーロー……とも違う。
あちらは何と言うかメカメカしていたが、こちらはどちらかと言えば戦隊物路線だ。
タイツのような緑色の衣服が全身を覆い、上半身は眼を覆いたくなるような黄色。
もしかして蜘蛛をイメージしているのだろうか、微妙に網目が入っている辺りがヤバイくらいださい。

「アハハハハハハッ、結城はんのは凄まじいセンスやなぁ!! うちのは案外カッコいいですえ?」

高らかに大笑いする藤乃の方はなるほど、確かにそれなりの外見だった。
イメージカラーは紫。あっちは特撮ヒーロー全身タイツ、と言うよりは鎧っぽい感じだ。
くっ付いてるヒラヒラもスカートのようで、ある意味ドレスのように見えなくもない。
……いや、待て。
それ以上に気にしなければならないことが一つだけある。人として。

「……なんで、アンタ飛んでんの?」
「……変な事聞きますなぁ結城はん。あんさんも飛んではるやないですか」
「え、は…………うわ」

あまりの衣装のダサさに気付かなかったが、なんとあたし自身も飛んでいた。
高度は…鴇羽のエレメントと同じくらいだろうか。さすがに制限が掛かっているとは思うが。
慣れない感覚だが、それなりに思うがままに飛行が可能なようだ。
それに何と言うか、全身の力も上がっているような気がする。
どうもこの不思議衣装は見た目の最悪具合と反比例して、高い性能を誇っているらしい。
しかし、よりによって黒猫の格好をしていたギルガメッシュに馬鹿にされるのは納得がいかない。
あたしが文句を付けようと、ギルガメッシュの方を見た――その瞬間、

「――藤乃静留っ!!!」

一人の男が大声で藤乃の名前を呼んだ。


 □

《Section-17:衛宮士郎――魔術師 @》
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:14:57 ID:eDWr60cv
 
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:15:07 ID:8/Fm+IRq
  
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:15:29 ID:uu54/qkq
 
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:15:33 ID:8/Fm+IRq
 
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:15:49 ID:RzjA4R4T
 
234PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:15:51 ID:qtuAJRH8
「なんでっか……衛宮はん?」

自分は何も問題のあるような行為はしていない。
そうとでも言いたげな瞳で藤乃静留は俺の呼び掛けに応えた。

「教えろ!! イリヤを……イリヤをこんな眼に合わせたのはお前なのか!?」
「そう、うちやで? なんかあきまへんか?」
「良いわけがないだろうがっ!! どうしてこんな事をした!?
「どうしてって、そらぁ……」

俺は憤っていた。全身の細胞が燃えるように熱い。
ギルガメッシュや東方不敗との戦いで受けたダメージも勿論ある。
だが、それ以上に俺の中を貫いていたのは藤乃静留に対する明確な怒りの感情だった。

「やっぱなぁ、少しでも参加者が減った方が嬉しいやろ?」
「――――ッ!?」
「地道な所からコツコツと減らしていかんとなぁ。絶え間ない努力はいずれ報われるんやで?」

俺の身体を緑色の炎が駆け回る。
事も無げに、まるで他人の命などゴミ同然であるかのようにコイツは言い捨てた。
それは、つまり、奴は平然と他人を殺せる人間であるということ。
いや、既に人間ですらないのかもしれない。
そして――それになにより、俺が許せないのは……ッ!!!


「アンタは……アンタは人殺しなんてやって玖我に申し訳ないとは思わないのかッ!?」


玖我――玖我なつきのことだった。
俺はあの時、彼女がいなければ確実に死んでいた。
死の淵で玖我が呼び出した銀色の狼に命を救われたのだ。
そして、今の藤乃静留と結城奈緒の会話から察するに彼女が乗っている紫色の蛇もあの狼と同じ存在なのだろう。

確かに、俺達が一緒に居た時間は短かった。
だけどそれでもアイツが何気なく口にした『藤乃静留』という名前に込められた想いの深さを読み取れないほど鈍感でもなかった。
二人は、多分、深い絆で結ばれた――そう、俺とイリヤの関係に似た暖かい環で結ばれていたのだろう。


「俺はアンタ達の関係はよく知らない……だが、玖我は藤乃静留、アンタの事をずっと心配していたんだぞ!?
 大切な友人を殺したこのふざけた殺し合いに、そのアンタが乗るって言うのかよ!!!」
「………………あんさん、なつきの事知ってますん?」
「ああ、知ってるさ。知ってるとも!! 俺は玖我を守れなかった。俺が情けないばっかりに、玖我は、玖我はあの牧師に殺されたんだ!」

235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:15:51 ID:eDWr60cv
 
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:16:01 ID:8/Fm+IRq
 
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:16:21 ID:8/Fm+IRq
  
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:16:36 ID:eDWr60cv
 
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:16:44 ID:XT7jSjbJ
 
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:16:45 ID:KGtCHcD7
YKキタコレ支援
241PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:16:49 ID:qtuAJRH8
それは心からの叫びだった。いや、もはやソレは懺悔に近かったのかもしれない。
すぐ近くに言峰が居るのならば、いっそアイツでもいい。
俺は、俺の胸に燻っていたこの篝火のような衝動をずっと、吐き出したいと思っていたのだから。

「――ああ、そんなら話が早いわぁ」

クスリ、と。
藤乃静留は紫色の鎧のような服に覆われた指先で、自らの唇を撫でた。

「なつきは、な。《蝕の祭》の時も、うちを受け止めてくれたんやで」
「蝕の……祭?」
「うちが何人なつきのためにHiMEを舞台から蹴落とした事か――そこに居る結城はんだってそうや。
 この清姫が……結城はんのチャイルドを食い殺したんやで。一切の容赦も躊躇もなく、なぁ」

藤乃静留はずっと淡々と同じペースで話し続ける。
俺の遥か後方。ギルガメッシュの隣に立っている結城奈緒がクッ、と唇を噛んだ。

「そやし、その辺りは何とかなると思っとるんよ。
 実際、あっちの方が『相手が全部友人や知り合い』だった分、残酷だったとも考えられるしなぁ」
「だから、イリヤを――」
「そや。大体、あんな時間に一人でほっつき歩いとるのがいけへんのやで? 大体、うち以外にも『怖ーいお兄さん』が居たかもしぃひん」

俺は、グッと右の拳を握り締めた。左は骨が折れていて使い物にならない。
それでも、心の中の俺は両の拳を固く結んでいる。


「藤乃静留。君は――俺が、倒す。玖我のためにも、いや――君自身のためにも俺が、君を倒す!!」
「なつきの、ため? フフフフフいかんなぁ衛宮はん。その冗談、これっぽちも笑えまへんで。
 それに、な。そもそもなつきが死んだのに衛宮はんが、おめおめと生き延びているのはどういうことなん?
 死んでなつきに侘びた方がええとちゃうん?」
「冗談なんかじゃないっ!!! アンタは自分が囚われているのに気付かないのかっ!?」


そう、これは玖我なつきという少女のための戦いだ。
そして同時に藤乃静留という少女のための戦いでもある。

衛宮士郎は『正義の味方』に憧れる存在だ。
その血の一滴、肉の一粒、骨の一片に至るまで貫かれた意志によって行動する。
彼女は憑り付かれているのだ――妄執と狂気という名の愛に。

玖我が、最後に彼女を受け入れるとしても、だ。
大好きな人に人殺しなんてやって貰いたくないに決まっている。
彼女を縛っているのは愛だ。性別という垣根を越えた比類なき、純粋で、そして悪意のない無垢な愛だ。
俺は彼女を解放してやりたいと思う。
それに、今も微笑を浮かべている藤乃静留の顔は、笑いながら泣いている――少なくとも俺にはそう見える。

242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:17:00 ID:eDWr60cv
 
243名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:17:09 ID:uu54/qkq
 
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:17:21 ID:1Td2DMLs
 
245名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:17:21 ID:XT7jSjbJ
shen
246名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:17:44 ID:xGtQZGOQ
はい士郎君地雷ふんだ〜
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:17:48 ID:8/Fm+IRq
  
248名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:17:56 ID:eDWr60cv
 
249PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:18:07 ID:qtuAJRH8
「――シロウ君。残念だけど、僕はその意見に賛成出来ない」
「な……アンタは……!!」
「ヴァッシュ・ザ・スタンピード。ヴァッシュでいいよ」
「クククク――その男は中々に頑固だぞ? 貴様にも少しは見習わせたいくらいに、な」


豊かな金髪を重力に反抗するように逆立てた男が小さく微笑んだ。
神如き腕前を持つガンマン、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
死人を出さない、その一点に極限まで拘ったある種の境地に立つ男だ。
そして、俺の背後でギルガメッシュがニタリ、と笑った。どうやらこの問題に関しては傍観を決め込むらしい――それは、好都合だ。

「どんな理由があろうと、これは僕達が介入してはならない問題だよ。
 君が翳した論理は君にとっての論理であって、シズルさん達にそれを当て嵌めるのはちょっと違うと思う」
「じゃあ、じゃあヴァッシュさんはこのまま――」
「ううん。僕も人が死ぬ光景は……見たくないからね。彼女は、イリヤさんに関しては完全に僕の責任だ。
 シズルさんをあの時僕が見失いさえしなければ……」

ヴァッシュさんは俺の腕の中で、今にも息絶えようとしているイリヤを一瞬だけ見詰め、視線を落した。

「だから、僕がシズルさんを止めるよ。禁じられた力を……使ってもね」

右手に握り締めた銃をヴァッシュさんが小さく撫でた。
力――あの巨大な蛇を眼の前にして、それだけの台詞が叩けるだけの奥の手があるというのか。

「シ……ロウ…………」
「イリヤ!? 眼が覚めたのか!? 傷は、大丈夫なのか!?」
「大丈夫…………じゃ……ない……」

その時、イリヤが、眼を覚ました。
億劫げに瞳を半分ほど開くと、唇を僅かながらに持ち上げ、些細な笑顔を浮かべる。


「て、にぎって……て…………」
「手? おい、イリヤ!!! イリヤ!!!」
「い、い…………? わ、たし…………が、いい……って……いうまで、はな……しちゃ、ダメ……だからね」
「イリヤ!! しっかりしろ、イリヤ!!!」


動かない筈の左手と、そして右手。
二つでガッシリとイリヤの華奢で白い手を握り締めた。
背後からイリヤの身体を抱き締めるようなそんな、不恰好な体勢になる。
強烈な痛みが二の腕の辺りを襲うが、こんなモノ――イリヤの痛みに比べれば塵にも等しい。

「ね…………シ……ロウ……わ……たし……」

空白。沈黙が星と月と闇のステージを支配する。


「シ、ロウの…………やくに……た……てた……よね……?」
「ああ立った!! イリヤは頑張った!!」
「……ユメ……は……かな……うよ……」
「え?」
「ずっ……と……シ……ロウ……は、シ、ロウ……にとっての……セイ……ギ……ノ……ミカタ……で……いてね」
「イリ――」

250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:18:10 ID:8/Fm+IRq
士郎www
流石だ、期待を裏切らないw
251名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:18:14 ID:uu54/qkq
 
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:18:24 ID:eDWr60cv
 
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:18:37 ID:4tNEzFaP

254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:18:44 ID:2+IoX9Ux
支援ですよ
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:18:53 ID:eDWr60cv
 
256PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:18:55 ID:qtuAJRH8
別れの言葉も言えなかった。
瞬間、彼女の首が俺の胸にトン、と軽い音を立てて倒れこんだ。
白銀の髪がフワッ、と舞った。
イリヤの甘い香りが俺の脳味噌をくすぐる。
俺の頭も、意識も、真っ更な白に侵蝕される。
頭がおかしくなる。気が狂ってしまいそうになる。

感情が、爆発する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


イリヤ、俺は、俺は――


「藤乃……静留」
「どないしはりましたか? 衛宮はん」
「俺は…………『正義の味方』にはなれない」


だって、俺は――


「……薄情な人でんな。イリヤはんの最期の言葉、まさか聞き逃したんどすか?」
「違う。俺は、単なる正義の味方じゃなくて――」


右手に、力が集まる。


「今だけは、今だけはイリヤの――『イリヤの味方』になってやりたいんだ」

257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:18:57 ID:8/Fm+IRq
 
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:19:12 ID:uu54/qkq
 
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:19:20 ID:8/Fm+IRq
  
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:19:40 ID:eDWr60cv
 
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:20:00 ID:XT7jSjbJ
………
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:20:10 ID:8/Fm+IRq
  
263名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:20:12 ID:xGtQZGOQ
天使腕ktkr!
264PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:20:16 ID:qtuAJRH8
回る。
回る。

細胞が、
頭が、
感覚が、
血液が、
神経が、
螺旋を描き、そして全身に張り巡らされた魔力回路を駆け巡る。


「――――投影(トレース)」


「――――開始(オン)」


そうだ。今なら――何でも出来るような気がした。


右手に思い描くは『勝利すべき黄金の剣』などではなくて、俺自身の願い。希望。全てを込めた星の瞬きにも似た一振り。


――――約束された勝利の剣。


投影は一瞬で完了した。
自らの存在がブレてしまうようなこともない。
俺の右手には剣のサーヴァント・セイバーの持つ最強の聖剣『エクスカリバー』が握られていた。

「ダメだッ!! 止めるんだシロウ君!!!」

ヴァッシュさんが大声で俺を制止しながら銃を構えたが、俺にはこの捉え所のない感情を吐き出すことしか出来なかった。


「藤乃静留ッ!!!!!! 俺は……俺は!! イリヤのために――お前を討つ!!!」
「そうやで衛宮はん! さっきの無茶苦茶な論理よか、よっぽど分かりやすいわぁ! 
 なんや、さっきよりずっと男らしい目付きになっとるやないか!」


藤乃静留が手に持った薙刀を翳し、こちらに向けて蛇のように打ち出した。
そして、それと全く同じタイミングで足元に控えていた六頭の蛇が俺を食い殺そうとその首を同時に伸ばす。
だが、それが――なんだと言うのだ。


「俺は――負けられない」

265名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:20:47 ID:uu54/qkq
 
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:20:57 ID:eDWr60cv
 
267名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:21:00 ID:8/Fm+IRq
 
268PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:21:03 ID:qtuAJRH8
イリヤのために。イリヤの敵を討つために。

    
「――約束された」


剣を高く、上段へと構える。
そして何も考えず振り下ろす。ただ――無心に。
心の底からの感情と共に。


「勝利の――――」


全てを、消し去る。










その時。


タンッ、タンッ、と短く、そして小さな音が二つ、響いた。

269名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:21:34 ID:uu54/qkq
 
270名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:21:38 ID:8/Fm+IRq
  
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:21:42 ID:eDWr60cv
 
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:21:43 ID:XT7jSjbJ
まさか
まさかなのか
273PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:21:47 ID:qtuAJRH8
空気がまるで何か背後から迫ってくる悪鬼に引寄せられているような感覚を覚えた。
そうだ、闇だ。闇が一瞬で世界を覆い尽したのだ。

それにしても、どういうことだ? 声が……出せない?

どれだけ腹の底から声を絞り出そうとしても、唇から漏れるのは間抜けな風の吹くような音だけ。
背中が熱い。まるで火傷でも負ってしまったみたいだ。

どうなってしまったんだろう。
俺はただ、ずっと、イリヤの味方でいてやりたいって思っただけなのに。


一秒の間を置いてカラン、という乾いた金属と金属がぶつかり合う音が漆黒の空に木霊する。
何かが俺の右手から滑り落ちたようだった。

身体が地面へと吸い込まれていく。
擦れていく視界の片隅に、黒いコートを羽織った銀髪の男が右手に拳銃を構えている姿が映った。
男はまるで氷のような冷たい視線で俺を見下ろしている。
殺意が、侵蝕する。

274PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:22:15 ID:qtuAJRH8
ドン、という物騒な音と共に冷え切ったアスファルトの大地が俺を手荒く迎えてくれた。
衝撃に意識を朦朧とさせながら、俺はゆっくりと顔を上げる。
そこに見えたのは――巨大な蛇。大口を開けて俺を飲み込もうとしている紫色の大蛇だった。
対処する方法は……ない。そもそも投影した武器を扱う手が足りない。右手は弾丸で撃ちぬかれているし左手はずっと、さっきから使用中だ。

ああ、そうさ。
俺は今――少しだけ冷たくなった『大切な人』の身体を抱き締めるので精一杯だ。
もう、絶対に離したりなんかしない。


「イ…………リ、ヤ……」


黒と紫。二匹の『蛇』に俺は噛み殺される。





【衛宮士郎@Fate/stay night 死亡】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night 死亡】

275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:22:25 ID:RzjA4R4T
ビシャスか、ビシャスなのか!?
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:22:49 ID:8/Fm+IRq
ロワ最凶の死神降臨!
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:22:59 ID:eDWr60cv
 
278PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(前編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:23:10 ID:qtuAJRH8
 □
 
《Section-18:ビシャス――死神 A》 

男と女が、巨大な蛇に飲み込まれて行った。
後には衣服の切れ端すら残らない。
蛇は獲物を丸呑みする習性を持つ動物だが、それはあのようなサイズになっても変わらないということか。

だが、アレは何なのだろうか。
西暦2071年の太陽系においてですら、あのような巨大な生物が確認されたことは一度も無かった筈だ。
該当するとすれば、太古の昔『地球』を支配した爬虫類の祖先とも言うべき恐竜まで遡るのではないか。

そう少なくとも俺の常識や理解の範疇を大幅に侵略する存在であることだけは確かだ。
とはいえ、問題はない。
いかに人の身を越える魔物を操る女が相手だとして、その女は血の通った人間ではないか。
なれば一切の矛盾も、感慨も、躊躇もなく、ただいつもやっていたように命を奪うことが出来る筈なのだから。


「シロウ君ッ!!! イリヤちゃんッ!!!」


赤外套を着込んだ金髪の男が、俺と――そして、紫色の女を凄まじい目で睨みつけた。
一目で只者ではないと分かるその卓越した能力。少なくとも、俺がこの島で出会って来た人間の中では最強に近い。
しかも俺が他の人間を攻撃出来ないよう常にこちらを牽制している。
加えて黒猫の仮装をした男の存在も気掛かりだ。
さすがに両者を相手にするのは、傷付いたこの身体では不可能、か。

しかし、疑問だ。
今、俺が撃った男が全身から放っていた緑色の螺旋の輝きは一体何なのだろう。
アレンビーと呼ばれていた水色の髪の女も似たような煌きを放っていた。
両者に共通する事項とはいったい何なのだ?

――もっとも。おそらく俺にはまるで縁のない事柄であろうことだけは容易く推測出来る。

279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:23:11 ID:8/Fm+IRq
  
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:23:17 ID:uu54/qkq
 
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:23:24 ID:xGtQZGOQ
ヴァッシュ見殺しw支援
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:23:45 ID:8/Fm+IRq
   
283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:23:58 ID:eDWr60cv
 
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:24:01 ID:uu54/qkq
 
285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:24:11 ID:2+IoX9Ux
また人間台風(役立たず)かよヴァッシュwww
支援です
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:24:29 ID:eDWr60cv
 
287PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:24:31 ID:qtuAJRH8
 □
 
《Section-19:ヴァッシュ・ザ・スタンピード――射撃王 A》 

「チッ――興醒めだな」
「金ぴか?」
「螺旋と螺旋の闘い――中々愉快な宴だったが、ここまでだ。行くぞ、蜘蛛女」

ギルガメッシュと結城奈緒の声が聞こえる。
僕は茫然自失状態に陥ってた。

守れなかった。また、守れなかったんだ。
シズルさん達の会話に意識が集中していたせいで、シロウ君の背後にあの黒衣の男が接近していたことに気付かなかった。
そして、エンジェルアームを使うことを躊躇した。使用すれば周りにいる皆を巻き込んでしまう禁忌の力を……。

「行くって、どこに行くのよ」
「…………刑務所だ」
「……は!? 刑務所……え、マジで? 冗談とかじゃなくて? 金ぴかにそんな人間らしい感情があるなんてっ!?」
「何を言っている。緊急の事態だったとはいえ、王が一度口にした誓約を破れる訳がなかろう」
「……進化を期待したあたしが馬鹿だった」

どうも、ギルガメッシュ達はこの場から撤退するようだ。
突然現れた黒衣の男に六つの頭の蛇を従えたシズルさん。
こんな相手が武器を構えて立っているのに、彼の性格は相変わらず横暴そのものだった。


「そう、蛇よ――貴様、飲んだか?」
「……残念ながら。どうも荷物ごとどっかに落として来たみたいなんよ」
「フッ――『こちらの蛇』は不死になり損ねたという訳か」
「構いまへんわ。もう、うちは永遠の命なんぞ別に欲しくもなんともあらへん。なつきさえいれば、他にはなーんも必要あらへんもん」

288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:24:54 ID:8/Fm+IRq
いやいや、不意は突かれたがそのあとは牽制してるようだぜ
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:25:24 ID:8/Fm+IRq
  
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:25:25 ID:RzjA4R4T
士郎……お疲れ様
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:25:29 ID:eDWr60cv
 
292PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:25:32 ID:qtuAJRH8
不死の酒。確かシズルさんが持ていった不完全ながら、自らの身体を不死身にする道具のことだ。
そう、だね……『永遠』は人が持つには重過ぎる称号だ。

「それも、螺旋の境地か?」
「いいえ。これは……そう、単なる『愛』の境地どすえ」
「愛、か……ククク」

愛か。愛はいい。
愛は皆を幸せにするし、平和へと繋がる第一歩になる。

「蜘蛛女。貴様は空路で先に向かえ。我は少し考えることがある故、足を調達してから向かう」
「ん、分かった」

その時、ギルガメッシュが爛々と輝く紅色の瞳で僕を見た。


「赤外套。後は貴様の好きにするがいい。二匹の蛇をどう扱うかは任せる」
「ギルガメッシュ、僕は……」
「そろそろ我も追い詰められた貴様の『本気』とやらが見てみたいものだ」


凛とした空気が水の波紋のように広がって行く。
ギルガメッシュは小さな含み笑いを浮かべながら僕達の前から去っていった。
饗宴の跡、残るはあと三人――――






「おうおうおう! なんやトンガリやないけ! こないな所でなにボサッと突っ立ってんねん!?」

293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:25:37 ID:uu54/qkq
 
294名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:26:10 ID:RzjA4R4T
 
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:26:23 ID:eDWr60cv
 
296PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:26:31 ID:qtuAJRH8
違う。もう一人、新しい人間の声が彼方から響いた。
ギルガメッシュが向かった方向とは真逆、北の方角から。
え……でも、この声は!?

「ウルフ……ウッド……」
「なんや、辛気臭い顔しとるのぉ。なんと死んだ筈のわいが生きとるんやで? 少しは喜ばんかい」
「……気のせいじゃなかったんだね」

現れたのはニコラス・D・ウルフウッド。死んだ筈の僕の大切な仲間だった。
彼は右手にシロウ君がついさっき出現させた剣と同じ剣を握り、ニヤニヤと笑いながら近付いて来る。

「あん? なんや、なんでこの剣がもう一本あるんや?」

シロウ君の手からこぼれ落ちていた騎士剣をウルフウッドが拾う。
レプリカなど存在するとは考え難い明らかな威厳と尊厳に満ちた聖剣が、二振り。


「すんまへん――あんさん、一つばっかよろしいでっか?」
「おう、なんや? やけどお嬢ちゃん、似たような喋り方やのぉ。なんや、このでっかい蛇は! 近くで見ると更にでっかいのぉ!!」
「手間は取らせまへん。おたくが――『牧師』はんでっか?」
「そやけど。そもそも、それ以外の何に見えるんや?」


シズルさんが、ニッと笑った。
同じタイミングで僕も気付いた。そうだ、シロウ君が言っていたじゃないか!
『玖我は、あの牧師に殺された』と。
つまり、シズルさんの大切な人を殺害したのは――ウルフウッド!?

297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:26:33 ID:uu54/qkq
 
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:26:43 ID:8/Fm+IRq
ここでニコ兄か!
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:26:47 ID:eDWr60cv
 
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:27:02 ID:xGtQZGOQ
ちょwニコ兄フレンドリーw支援
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:27:07 ID:8/Fm+IRq
  
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:27:13 ID:eDWr60cv
 
303PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:27:17 ID:qtuAJRH8
「――なつきの敵、取らせて貰いますえ」
「止めるんだ、シズルさん!!」
「なんやなんや。喧嘩なら乗るでぇ!? 嬢ちゃんを殺せなかった鬱憤が溜まりに溜まっとるんやからの!
 お、しかもなんや兄ちゃん。わいのパニッシャー持っとるやないけ!!」 
「……………………」


ウルフウッドの登場によって、均衡が崩れた。
僕以外の三人は明らかに殺し合う意志に溢れている。
先程までより、露骨に状態は悪くなったのではないだろうか。

拳銃に残された弾はあと三。
僕以外の人間の数も、三。

それがどういう意味なのか。僕にはよく分からない。
だけど、決着の時はすぐそこまで来ているのかもしれない。
僕が、何かを決断しなければならない。その一瞬が。

馬鹿騒ぎは幕を閉じた。
ここから先、待ち受けるのは凄惨な意地と殺意と怨嗟の渦巻く闇だけだ。



【C-5/路上(マップ下)/一日目/真夜中(放送直前)】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:疲労(中)、全身打撲、強い決意。
[装備]:ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:絶対に殺し合いを止めさせるし、誰も殺させない。
1:僕は……!!

[備考]
※第二放送を聞き逃しました。
※隠し銃に弾丸は入っていません。どこかで補充しない限り使用不能です。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※ナイヴズの銃、そしていざと言う時にエンジェルアームを使う事を決意しました。
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:27:29 ID:2+IoX9Ux
バッカーノ支援!
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:27:54 ID:eDWr60cv
 
306PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:27:58 ID:qtuAJRH8
【藤乃静留@舞-HiME】
[状態]:疲労(中)、左足に打撲、左眼損傷(ほぼ失明状態、高度な治療を受ければあるいは…)、首筋に切傷、精神高揚
    螺旋力覚醒、バリアジャケット
[装備]:エレメント(薙刀)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]:
基本方針:螺旋王の力を手中に収め、なつきと再会する
1:ウルフウッドを殺してなつきの敵を討つ
2:邪魔な相手に容赦はしない。
3:ヴァッシュは利用する
4:邪魔になる人間は殺す
5:足手まといは間引く
6:邪魔にならない人間を傘下に置く

【備考】
※「堪忍な〜」の直後辺りから参戦。
※ビクトリームとおおまかに話し合った模様。少なくともお互いの世界についての情報は交換したようです。
※ヴァッシュが利用されている事に気付いてるのを知りません。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※静留のバリアジャケットは《嬌嫣の紫水晶》シズル・ヴィオーラ@舞-乙HiME。飛行可能。
※清姫の体内に士郎とイリヤの死体、及び首輪が取り込まれました。聖杯がどうなったのかは不明です。
※チャイルドは本来ならば高次物質化能力以外の攻撃を受け付けませんが、制限により通常の攻撃でもダメージを与えることが出来ます。


【ビシャス@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ大、左肩と右脇に銃創(応急処置済み)、右肺損傷、
    右肋骨粉砕骨折、内蔵損傷、右脛部に銃創×3(長時間の疾走は不可能)
[装備]:パニッシャー(重機関銃残弾65%/ロケットランチャー残弾50%)@トライガン、
    ビシャスの日本刀@カウボーイビバップ 、防弾チョッキ(耐久力減少)@現実
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×1欠損)、日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、アゾット剣@Fate/stay night、    ジェリコ941改(残弾7/16)@カウボーイビバップ、コルトガバメント(残弾:3/7発)、
    UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、ワルサーP99(残弾11/16)@カウボーイビバップ、
    レーダー(破損)@アニロワオリジナル、 ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、
    高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本方針:参加者全員の皆殺し。元の世界に戻ってレッドドラゴンの頂点を目指す。
1:皆殺し。スパイクであっても手段を選ばず抹殺。
2:回復手段の模索。ただし期待はしない。

[備考]
※地図の外に出ればワープするかもしれないと考えています。
※スパイクとの決着には納得しています。故に、スパイクを特別視はしなくなりました。
※螺旋力覚醒を目の当たりにしたため、同様の現象を確認した場合、最優先抹殺対象となります。
※戦闘などの瞬間的なものを除き、走る事はできません。移動速度が低下しています。
※長くとも朝まで自身の体は保たないと見積もっています。あくまで自己診断です。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:28:37 ID:8/Fm+IRq
あれ?ラッドどこいった?
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:28:45 ID:eDWr60cv
 
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:29:10 ID:8/Fm+IRq
 
310PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:29:25 ID:qtuAJRH8
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:認識力判断力の欠如、常時ブチ切れ寸前、情緒不安定、かつてない程のイライラ、全身に浅い裂傷 (治療済み)、肋骨骨折、そろそろツキが回ってきたかもしれないと思っている
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、エクスカリバー(投影)@Fate/stay night
[道具]:デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
[思考]
基本思考:ゲームに乗る。
1:売られた喧嘩は買う。
2:パニッシャーを持つ男を殺して、パニッシャーを手に入れる。
3:ヴァッシュに関した鬱屈した感情
4:自分の手でゲームを終わらせる。 女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:とにかく武器(銃器)が欲しい。誰かが持ってたら殺してでも奪う。
6:施設で武器調達も検討。
7:タバコが欲しい。
8:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動の使い手と認識しました。
※第三回放送を聞き逃しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※エクスカリバー(投影)は約三十分後に消えます。


 □

《Section-20:結城奈緒――蜘蛛 B》
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:29:36 ID:eDWr60cv
 
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:29:55 ID:8/Fm+IRq
  
313PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:30:10 ID:qtuAJRH8
まったく、相変わらず人遣いの荒い奴だ。
自分は足を捜してから行くから先にその明智って人達の所へ向かっていろ、だなんて。
しかし、この驚くほどダサい服は驚くほど優秀だった。
今まで身一つで空を飛んだことなど一度もなかった筈のあたしですらそれなりに飛べている。
まるで前世か何かのあたしが、この服を着ていたような気にさえなって来る。

紫色の体躯に六つの頭を持った蛇――いや、もはや八岐大蛇とでも言った方が適当か。
藤乃のチャイルドの力は圧倒的だ。HiMEの中でもアイツに対抗出来るのは鴇羽のカグツチぐらいのものだろう。
あたしのジュリアでは悔しいが手も足も出ない。

しかし、何故チャイルドを使うことが出来るのだろう。
乱戦部から離れてからもう一度、ジュリアを呼び出そうとしてみたがやはり何の反応もなかった。
もっとも、ジュリアを出した所で役に立つのかは結構怪しいんだけどさ。

さて結局、何人死んだんだ?
藤乃のチャイルドに丸呑みにされたのが二人。片方は既に息絶えていたが。
それと、奴が突っ込んで来た時の衝撃で何人かいなくなってたっけ。
あの中国武術の達人っぽいお下げの爺さんと金髪の殺人狂はどうなったんだろう。
ま、少なくとも後者。ラッド・ルッソは死んでいると思う。
だってあたしは金ぴかに抱き抱えられて脱出できたけど、アイツは生身だし。
いくらなんでも普通の人間にアソコからの脱出は不可能――


「おおぉぉぉいっ!! "ナオちゃん"じゃねぇか!!」
「へ……」


何かすぐ後ろから妙に癇に障る口煩い"おっさん"の声が聞こえたような気がした。
私は恐る恐る、という感じで後方を一瞥する。
この予感が気のせいであってくれればいいんだけどって…………ああ、やっぱり……、

「な、なんでアンタ生きてんの……?」
「ん? ツレネェなぁ。第一声がよりによってそれかよ。
 フラップターっつーんだけどよぉ、上から何か降ってくる寸前でコイツに乗って離脱したって訳」

空を高速で飛んでいる筈の私に後ろから声を掛けて来たのは、やはりというか何と言うかラッド・ルッソだった。
しかし、相変わらず何という馬鹿デカイ声だろう。
疾風のような速度で飛行していた私を見つけて自分の居場所を主張する。
それだけでも普通の人間には不可能な行為の筈だ。
314名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:30:11 ID:eDWr60cv
 
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:30:17 ID:8/Fm+IRq
   
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:30:20 ID:uu54/qkq
 
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:30:52 ID:eDWr60cv
 
318名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:30:52 ID:8/Fm+IRq
  
319PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:31:05 ID:qtuAJRH8
「……マジでアンタ、タフね」
「ヒャハハッハハハハ!! そりゃあまだまだ殺したんねぇからよぉ!! 死ぬ訳にはいかねーからなぁ!!」

ラッドが大口を開けて笑った。
左腕に止め木が噛ませてあり、手当てがされている。どうやら早めに退却していたというのは本当らしい。
赤く染まった白服も、暑苦しい顔も変わらず。唇の両端を吊り上げる独特の笑いも顕在だった。

「もしかして、やる気? 言っとくけど、今のあたしをさっきまでの――」
「あ? いやいや、せっかくのバトロワもパァになっちまったし、そんな気はねぇよ。勿論、ギルちゃんは会ったら殺すけどな。
 てか、ド派手な格好だなぁおい!! 緑に黄色ってカボチャかよ、ギャハハハハハハハ!!
 なんつーの、どっかの変身ヒーローみてぇな格好じゃんか。
 あ、ナオちゃんもアレか?『テックセッタァァァァァァァァッ!!』みてぇな決め台詞とかあんの?」
「……ないわ」
「あっそう」

あります、と言う勇気はさすがに私にはなかった。いやぶっちゃけ恥ずかしいだけだし、あの掛け声。
それに別になくたって問題ないと思うし。マテリアライズって意味は分かるような気はするけど、何なのさ一体。

というかラッドはどうも今は、ほとんどあたしに興味はないらしい。
何かしゃがみ込んで地面にある何かをジロジロ見てるし。

「んで、アンタこんな所でなにしてんの」
「起きるのを待ってる」
「はぁ? 誰が――って、げ…………なんでコイツが!?」

紫の髪がパラパラと散り、流れる。
そこに倒れていたのはまるで一世代前の番長のような格好をした少女だった。
とはいえ衣服は全身嘔吐物に塗れ、ボロボロ。どうも誰かに暴行された後らしい。
しかもなんかラッドが手に持った瓶の中身をダバダバ掛けながら、頬をペチペチしてるし。
何だ、アレ……酒瓶?

しかし服装や髪型こそ変わっているが、それは間違いなくアイツだった。
柊かがみ、そしてまたの名を――


「『不死身の柊かがみ』…………」
「おーやぁ……知ってんだ。このお嬢ちゃんのこと。は、っていうか何? 不死身なの、コイツ」
「……まぁね。どれだけ切っても裂いても死なないらしいわ。しかも訳の分からない呪文まで……」


ふと、柊かがみに結ばれたリボンを確認しようと右の手首を見ると、そこには何もなかった。
何も…………ない?
緑色のタイツを捲って確認してみても、やっぱりそこにリボンはなかった。
無いということは切れたということ。
なるほど、アレだけの戦いだ。途中でこうなってしまっても不思議ではないだろう。



は?

320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:31:13 ID:8/Fm+IRq
 
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:31:21 ID:XT7jSjbJ
 
322PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:31:50 ID:qtuAJRH8
顔から、火が出るかと思った。
もはや使い古された表現だが、実際にそうなのだから仕方がない。
つまり、柊かがみの『呪い』は、

ま っ た く の 大 嘘 だ っ た

ってこと!?

凄まじい勢いで体温が上昇していく。心底ビビッていた自分が情けなくて情けなくて。
あのインチキ臭い呪文も、切れると身体がバラバラになるっていうのも全部――――嘘?
そう考えると湧き上がるのは人も殺せそうなほどの凄まじい怒気。
対象は――もちろん、今地上でぶっ倒れている『不死身の柊かがみ』に決まっている。

「こ、こいつ…………ぶ、ぶっ殺してや――」
「おーっとナオちゃん、まだはえぇぜ!! っていうか俺の台詞取るんじゃねぇよ!! ぶっ殺してやる!は俺の決め台詞!! オーケー?
 あーでも不死身ってんなら今殺しても関係ねぇかぁ」

相変わらずラッドは凄まじい早口で訳の分からない台詞を並べる。
ブツブツと呟きながら、自分でも疑問を呈したり納得したりしているのだ。

「ま、いいや。この嬢ちゃんが起きたらよぉ、最初に俺の顔見て何をすると思う?」
「は?」
「大体考えられるのは二つじゃねーかな。ビビって脅えるか、感激して泣きつくか」
「まぁ……ね」

あたしが曖昧な返事を返すとラッドの奴は首をぐるり、とこちらに向け最高の笑顔で応える。

「『悪い人に襲われていた私を助けてくれたこの人はヒーローなんじゃないかしら。私って安全だわ!』とかよぉ。
 『な、何かしら。この素敵な"お兄さん"は!? この人も私に乱暴するのかしら』とか思うわけ!!」
「まぁ、うん。納得は出来る……かな」
「だろ!? んで――よ」

一息置いてラッドは立ち上がり、両手を大きく広げた。
そして胸一杯に息を吸い込み、爛々と眼を輝かせながら堂々と宣言した。


「前の方の態度を取ったらとりあえずぶっ殺す!! 後ろだったら様子見するつもりだったが、不死身だっつーんなら話は別だ!!
 それでもやっぱりぶっ殺す!! ついでに俺のことを『おっさん』と呼んでもぶっ殺す!!」
 つ、ま、りは、起きてからぶっ殺すってこった!! 分っかり易いなぁおい!!
「……でも、不死身よ? 私だって何度も刻んだけど、その度再生したし……」
「おいおい、頭使おうぜぇええ!! ヒャハハハハハハハハ!! 簡単な話だっつーの!!
 生き返るってんなら百回ぐらいぶっ殺して飽きたら禁止エリアに放りこみゃあいいんだよ!!
 螺旋王サマはその辺抜かりねー筈だからよぉおお!! それでも死なないっつーことだけはありえねぇって訳!」


ラッドは言いたい事を言い終えたのか、もう一度倒れ伏す柊かがみを覗き込む体勢へと戻った。
なるほど。いかに不死者といえどゲームのルールには逆らえない……そう奴は判断した訳か。
確かに本当にどんなことをしても死なないのだったら、螺旋王が彼女の参戦を許すのは考え難い。
323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:31:51 ID:uu54/qkq
 
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:31:55 ID:8/Fm+IRq
  
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:32:11 ID:eDWr60cv
 
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:32:40 ID:8/Fm+IRq
   
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:32:47 ID:eDWr60cv
 
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:32:48 ID:uu54/qkq
 
329PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:33:06 ID:qtuAJRH8
が、あたしの心境は……正直何とも言えない感じだった。
このラッド・ルッソという男は不死身の柊かがみを殺すだろう。
何度も何度も何度も何度も何度も、彼が満足するまで。
そりゃあ口には出せないような残虐な手段だって使うかもしれない。ラッド・ルッソの狂気は底が知れないのだ。

しかし彼女はギルガメッシュ嬲り殺しにした機械の混じった女とは少しだけ印象が違った。
自分と同年代の少女、『不死身』という能力を持つ以外はあくまで普通の女子高生なのだ。

さて、実際に彼女がラッドに殺されまくったとして、あたしは何を思うだろう。
正直な話よく分からない。柊かがみに相当ムカついているのも事実な訳だし。
それにあたしはサッサと刑務所に向かわなければならないのだ。
「じゃあ頑張ってねー」とだけ残し、ラッドに手を振ってこの場所を後にするのも十分考えられる選択だ。


「……そういえば、アンタさっきから何飲んでんの」
「は? これ? 拾った酒。あんま美味くねぇーけどな」


ラッドは再度瓶の中の液体を呷った。
そして「本っ当にマズイ酒だな」と愚痴を溢し、空になった瓶を放り投げる。
ラベルの文字が擦り切れた酒瓶が空を舞い、地面にぶつかり粉々に砕け散った。
茶色い粉末がパラパラと夜の闇の中へ消えていく。
少しだけ残った液体が地面へと吸い込まれていく。


あたしは微妙な感情で柊かがみの寝顔を見つめながら思った。


――っていうか"おっさん"って禁句だったんだ、と。



【B-5/道端/1日目/真夜中(放送直前)】

【ラッド・ルッソ@BACCAN0 バッカーノ!】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、左腕骨折(添え木有り)、
    左肋骨2本骨折、右手にヒビ(戦闘には問題なし)、不死者(不完全)、螺旋力覚醒
[装備]:雷泥のローラースケート@トライガン
[道具]:支給品一式×6(四食分消費)、フラップター@天空の城ラピュタ、
    超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
    テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、首輪(シンヤ)、首輪(パズー) 、
    マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、 巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
    サングラス@カウボーイビバップ 、包丁、大量の貴金属アクセサリ、ヴァッシュの手配書@トライガン、
    防水性の紙×10、暗視双眼鏡@現実、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
1:柊かがみが起きた後のリアクションを楽しんだ後、殺し尽くす(飽きたら禁止エリアへ放り込む)
2:映画館で殺し損ねた奴は必ず殺す。ギルガメッシュは特に殺す。
3:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
4:足手まといがあまり増えるようなら適度に殺す。
5:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
6:覚悟のある人間ばかりなので面白くないから螺旋王もぶっ殺す。
7:舞衣とDボゥイが生きてたらまたぶっ殺す。
330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:33:06 ID:RzjA4R4T
 
331名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:33:08 ID:2+IoX9Ux
 
332名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:33:33 ID:eDWr60cv
 
333PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:34:05 ID:qtuAJRH8
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※明智たちと友好関係を築きました。その際、ゲーム内で出会った人間の詳細をチェックしています。
※詳細名簿の情報をもとに、危険な能力を持つ人間の顔と名前をおおむね記憶しています。
※静留のデイパックを回収しました。ラッドの飲んだ酒は不死の酒(不完全版)@BACCAN0 バッカーノ!です。
※自分が不死者になったことは気付いていません。
※再生時の状態は【全身にダメージ(中)、左腕骨折、左肋骨2本骨折、右手にヒビ(戦闘には問題なし)】で固定されます。
※映画館で殺し損ねた奴とは主にギルガメッシュ、ヴァッシュ、東方不敗の三人です。

【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、番長ルック(不死の酒&吐瀉物まみれ)、髪留め無し、精神状態不明
[装備]:つかさのスカーフ@らき☆すた、ローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、シルバーケープ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:デイバッグ×5(支給品一式×5、[水入りペットボトル×1消費])、
    柊つかさの首輪、柊かがみの靴、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ) 、
    奈緒が適当に集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
    オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、がらくた×3、予備の服×1、破れたチャイナ服
[思考]
基本:???
1:???

[備考]:
※会場端のワープを認識
※第二回放送を聞き逃しました
※ギルガメッシュは死亡したと思っています
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました
※ウルフウッドの拷問によって、意識覚醒後精神状態がどうなっているかは不明。

【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:疲労(中)、かがみにトラウマ、バリアジャケット
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(ただし食料は無い)
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
1:ギルガメッシュに言われた通り、刑務所へ向かうかラッド達の行動を見守るか考え中。
2:柊かがみに微妙な感情。
3:静留の動きには警戒しておく
4:何故、自分はチャイルドが使えないのか疑問
5:ラッドに"おっさん"は禁句

※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
※博物館に隠されているものが『使い方次第で強者を倒せるもの』と推測しました。
※第2回放送を聞き逃しました。
※柊かがみの『呪い』が ま っ た く の 大 嘘 であったことに気付きました。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
 

 □

《Section-21:ジン――王ドロボウ @》 
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:34:36 ID:RzjA4R4T
あ、ジンとドモン忘れてたw
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:34:47 ID:eDWr60cv
 
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:34:58 ID:f+NqJ9py
 
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:35:05 ID:8/Fm+IRq
そういえば予約されてたな、こいつらw
338PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:35:28 ID:qtuAJRH8
「――――止まれ」
「ジン、ブレーキだッ!!!!」
「わ、ちょ!!! ドモン、ハンドル握らないでってば!?」

そりゃあ、ビックリしたのなんのって。
だってさ、いきなり暗がりから『人』が飛び出してきたりしたら驚くなって言う方が酷なんじゃないかな。
しかも黒いんだぜ。黒。
全身真っ黒のボディスーツなんて着てるくせに、車の前に飛び出してくるなんてねぇ。
百戦錬磨の自殺志願者だってもう少し気の利いた方法を取るってもんさ。

凄まじい爆音を夜の闇に響かせながら、なんとか俺達の消防車は黒猫男の眼の前一メートルを割った辺りで停止。
俺もドモンもダッシュボードとハンドルに頭を埋めて、衝撃を和らげるのに精一杯だった。

「雑種ども、面を上げよ。我は急いでいる。む――」
「ね、猫……だと!?」
「……お兄さん、仮装パーティの帰りか何か?」

現れたのは――猫だった。
もとい、猫の格好をした男だった。
角張った質の良さそうな筋肉の形にピッタリとフィットした猫型スーツを装着しているのである。
しかもご丁寧なことに尻尾や両手両足の肉球まで完備。
いや、それ以上に俺が驚いたのは、


「ねぇドモン。君達の声――」
「…………この男」
「貴様……学び舎で見かけた熱苦しい雑種か」


――ドモンとこの黒猫男の声が全く同じだってこと。

まったく見た目もタイプも違う人間にしか見えないのに、どうしてここまで似ているんだろう?
もしかしてこの金髪の男はドモンのドッペルゲンガーか何かなのか。

「……まぁ、いい。単刀直入に聞こう。貴様らは『螺旋の力』について、どれくらい理解している?」
「ら……せん?」
「そう、渦巻く緑色の光――心当たりがあるならば、さっさと喋るがいい」
「おい、ジン。コイツは一体何を言っているんだ?」

車の前で腕を組む男の台詞が胸に圧し掛かる。
螺旋の力――それは清麿の考察の中で最も重視されていた言葉だ。
俺自身は未だそんな不可思議な力にお目に掛かったことは一度もない。

「ついでにこの乗り物は我の財に加えてやろう。出せ、運転手。目的地は刑務所だ」

こちらの言い分など聞く由もなく、黒猫男は消防車の後部座席に乗り込み踏ん反り返る。
俺とドモンの間に流れる微妙な空気。まぁ、つまりは、


「とりあえず『平和』は終わった……ってことかな?」


どうも、事態は次の状況に移行したようで。


【D-4/博物館周辺道路/真夜中(放送直前)】
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:36:26 ID:8/Fm+IRq
  
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:36:29 ID:eDWr60cv
 
341PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:36:58 ID:qtuAJRH8
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:消防車の運転席。全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
    予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、カリバーン@Fate/stay night、乖離剣エア@Fate/stay night、ゲイボルク@Fate/stay night、短剣
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:ギルガメッシュに興味
2:カミナを探し、仲間を集めつつ左回りで映画館、あるいは卸売り市場に向かう。スパイク達と合流した後に図書館を目指す。
3:ラッド、ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
4:ニアに疑心暗鬼。
5:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
6:マタタビ殺害事件の真相について考える。
7:時間に余裕が出来たらデパートの地下空間を調べる。 
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。

【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(中)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:こいつは…………
1:カミナたちを探しながら、映画館または卸売り市場に向かう。
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
7:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュのこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送があった事に気が付いていません。
※清麿メモについて把握しました。
※自分が螺旋力に覚醒している事に気付いていません
342PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』(後編) ◆tu4bghlMIw :2008/03/23(日) 21:37:35 ID:qtuAJRH8
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心・油断はない
[装備]:偽・螺旋剣@Fate/stay night、クロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【乖離剣エア】【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
1:螺旋力について考察しながら、刑務所へ向かう
2:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
3:北部へ向かい、頭脳派の生存者を配下に加える。
4:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
5:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
6:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
7:慢心を捨てる? 誰が捨てるか、たわけ

※地図の端と上空に何か細工があると考えています。
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。

343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:39:33 ID:RzjA4R4T
 
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/23(日) 21:46:43 ID:1Td2DMLs
 
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 00:02:32 ID:qguOKFcH
また間違いかよってことで
削除依頼だしといて


346幻想のアヴァタール(前編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:32:09 ID:WMDegKj9
どれだけ空中にいたのだろうか。
眼下を通り過ぎた景色は、海。そして、陸。
今居るのはまたしても海の上だ。
気付きながらも、やり取りは同じことを繰り返すだけだったが。


「は、離して下さい! 離しなさい! 離して!」
「嫌で……、あら?」

――――空中で揉み合っていたシータとニア。
彼女達の内、その事実に先に気付いたのはニアだった。

ピ、ピ、ピ。
そんな音が耳に届く。
その音の発信源は――――、首輪だった。
妙な音が首輪から鳴り響いている。それも、両方のから。

「は、はやく離してって言ってるんです……!」
「待ってください! 少しだけ、静かに……!!」

ニアは勢い良くシータに顔を寄せる。
それに呑まれたのか、一瞬だけシータも口を閉じ、頷く。

――――同時、耳をすませば。
首輪からは音声が放たれていた。
この混乱した状況に更なる困惑を招く言葉の群が。

『禁止エリアへの侵入を確認しました。
 警告を無視して一分後までに退避しない場合、首輪の爆破機能が起動します』

「「――――!!」」

そう、ここはD-2南西部。
すぐ近くには灯台が見える。
滅茶苦茶な軌道でストラーダ任せに進んでいた為、禁止エリアに指定された区画に彼女達は突っ込んでしまったのだ。

「し、シータさん!! 早く、早く方向転換を!!」

途端にパニックになるニア。
挙動が一気に落ち着かなくなる。
――――それが好機だった。

殺人をする覚悟を決めたシータ。
彼女はこれまでに様々な事態に直面し、結果、その選択をした。
良くも悪くも、つまり彼女は場慣れしていた。してしまったのだ。
347幻想のアヴァタール(前編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:33:05 ID:WMDegKj9
だからこそ、その分冷静に対応できた。
ぐるん。
自身はストラーダを強く握り、その場で勢いよく一回転する。

「……くす、さよならです、ニアさん」


「……え?」

結果。
安定感を失っていたニアは、手を滑らせて一気に墜落する。
禁止エリアの海の中に。

暗い闇の中に次第に小さくなっていくニアの色。
呆然とするその顔を見下ろしながら、シータはにこりと笑いかけた。

ぽちゃん。
そんな音がして、ニアの姿は見えなくなった。
ようやく身軽になったことに、シータは声をあげて笑う。

「くす。くすくすくすくす。くすくすくすくすくすくすくすくす……!」

禁止エリアの真っ只中。
そこに突き落とされた上に移動手段はない。
まず、首輪が爆発する事だろう。
この付近は港湾内でも狭い場所である為、潮流の速さはそれほどでもないのだ。
助かる手段はない。

これでひとり。……いや、ふたり。
容易いものだ、とシータは思う。
だが、その感慨に浸っている時間はない。

「……くす、頼みましたよストラーダ。
 突っ切ります……!」
進行方向は東南東。
もうエリアの半ばまで来てしまった為、いちいち方向転換するよりも加速に任せて直進した方がこのエリアを離脱するのに手っ取り早い。
令呪の力を槍に流し込み、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタは夜闇の上を流星の様に進み行く。


◇ ◇ ◇


なんでだろう、とボクは思う。
気がついたらそこにいた。
しかも何故か、呼吸が出来ない。
どんどん、どんどん命の灯が消えていくのが理解できた。
348幻想のアヴァタール(前編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:34:10 ID:WMDegKj9
ボクが何故こんな理不尽な目にあうのか。
理解できず、怒りを感じた時もある。
――――だけど、それもとうに消えた。
そんな事がどうでもよくなるくらい、いろんなことがあったのだ。

けど、そろそろ限界。
そう思ってた。
――――そんな時だった。
とうとう、故郷に帰れるときがきたのは。

冷たい空間の中にボクは身を躍らせる。
――――ああ、気持ちいい。
息もたっぷりできる。
それに何より――――、凄い気持ちいい夢を見たと思う。
それがどんなものだったかは、思い出せないけど。

けど、やっぱり夢は夢だった。
息がまともに出来ず、弱りきったボクの体であんな動きをすれば無理がくるのは当然だったんだ。
ボクの体に、何かやけに重いものが2つもくっついて、引きずられている。
少しの間ならともかく、あんなものをずっと引きずってなんか動けない。
――――ボクは、とうとう死にかけていた。

暗い夜の中。
ワケの分からないまま、ワケの分からない状況でボクは死ぬ。
このままでいいんだろうか。

いいワケない。

それは確かだ。
だけど――――、

だけど、何も出来はしない。
ボクには文字通り手も足も出ない。
ボクの体にぶら下がる錘に引きずられて、死んでしまうだけだ。

――――ほんとうに?
ほんとうに、何も出来ないの?

……分からない。
分からないよ。

――――じゃあ、だからと言って諦めてしまってもいいの?
最後まで何もしないままで?
349幻想のアヴァタール(前編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:35:10 ID:WMDegKj9
嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

死にたくない!
死んで、たまるか!!
絶対に――――生き延びてやる!
何も出来ないかもしれないけど、最後まで足掻いてやる!
それがボクの生き様だ!

そう思った瞬間。

不意に、ボクの体に力が戻ってきた。
何故かは分からない。
でも。

――――でも、ボクは動けた。

見れば、ボクの体に緑色の光が輝いている。
いける、と思った。

この満ち溢れる力なら、どこまでもいけそうな気だってしてくる。
ボクの泳ぎは天を突き破る泳ぎだ。
だから一気に加速した。
体が軽い。
今までにないくらい、早く泳げた。

と、不意に、何かが目の前に現れた。
何かフシギな色の塊だったけど、気にせず下を潜り抜ける。
だけど、後ろの荷物があるのを忘れてた。
どうやらロープに引っかかってしまったみたいだ。
でも、今のボクには大した重さじゃない。
軽い軽い、どこまでだって行ってみせる!

そういえば、後ろの方で何かピッピッと鳴ってるけど気にしない。
キンシエリアって何だろう。
まあいいや。
このまま突き進んで、どこまでボクが速く動けるか試してみるのもいいかもしれないなあ。



【ブリ@金色のガッシュベル!! 螺旋力覚醒】


◇ ◇ ◇

350幻想のアヴァタール(前編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:36:26 ID:WMDegKj9
「……ふう、ようやく一息つけました」

人気のない海辺のゴミ処分場。
ストラーダで直進していた彼女は、どうにかこうにか地面に足をつけることが出来てほっとしていた。

とりあえず地図で現在位置を確認した所、おそらくE-4にいるらしい。
いきなり海の上にいたことから推測するに、どうやら会場を一周してきてしまったようだ。
ループしている事実を奇妙に思うも、今更そんな事は驚きに値しない。
そうなのかと思うだけだ。
だからこそ、と言えばいいのか。
シータの脳裏に一つのアイデアが閃きつつあった。

「……ここから市場までは遠い訳ではないですね」

ならば。
だとするならば。

「くすくす、言峰神父がまだ近くにいらっしゃる可能性は高いですね」

――――実に都合がいい。
彼ならば、信頼できる。自分を守ってもくれるだろう。
ついでに言うならば、手にある令呪の感覚もそろそろ心もとなくなってきた所だ。
追加の令呪を譲り受けたいところである。
ストラーダをもう少しの間、長く使えるようにするために。

市場の方角は北北東。
ストラーダの加速を利用するなら、かなり早く会える可能性もある。
とりあえずそちらを目指すに越したことはない。
探すまでもなく途中で会えるかもしれないのだから。

「……もしかしたら、あの牧師さまとも会えるかもしれませんね、くすくす」

今度会ったら、エドと同じ目にあわせてあげる事にしましょう。
それと、自分の殺した女の子もこちらの方向で倒れているはず。
一緒にいた男の人を殺してあげられなかったから、まだお近くにいるなら同じ場所につれてってあげますね。
そう思いながら、シータはゆっくりと立ち上がる。

とりあえず、この辺りも一応調べてみよう。
誰かが隠れているかもしれないし、何かがあるかもしれない。
それが利用できるならよし。
利用できなくても、人がいるなら殺しておけば後々楽だろう。
既に手にかけたのは二人。
案外、自分には人殺しの才能があるのかもしれない。
そうだとするならあの二人には感謝すべきだ。
自分の自信の源になってくれるのだから。

「くすくす、あの子も、ニアさんも。
 待っていてくださいね、すぐに私と同じ価値観で生き返らせてあげますから。
 そして言峰神父。
 今、そちらに行きます。
 どうか見てくださいね、あなたの言葉を受け入れて立派に成長した、このリュシータを」


【E-4/ゴミ処分場/1日目/夜中〜真夜中】
351幻想のアヴァタール(前編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:37:49 ID:WMDegKj9
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)、令呪(使用中・残り持続時間約1〜2時間) 、
     おさげ喪失、右頬にモミジ
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式 (食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml 2本)、びしょ濡れのかがみの制服
     ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガン、暗視スコープ、音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)
     士郎となつきと千里の支給品一式
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる。
0:ゴミ処分場を探索。誰かがいれば利用、もしくは皆殺し。
1:北に向かい、卸売り市場付近で言峰を捜索。保護してもらうと同時に新たに令呪を貰う。
2:自分の手でアシがつかずに殺せる人間は殺す。
3:自分の手に負えないものは他人に殺させる。
4:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
5:恩人の言峰は一番最後に殺してあげる。
6:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※令呪は、膨大な魔力の塊です。単体で行使できる術はパスを繋いだサーヴァントに対する命令のみですが、
  本人が術を編むか礼装を用いることで、魔術を扱うにおいて強力な補助となります。 ただし使えるのは一度限り。
  扱い切れなければ反動でダメージを負う可能性があります。人体移植された魔力量が桁違いのカートリッジと認識してください。
  効果の高さは命令実行に要する時間に反比例します。
※令呪への命令は『ストラーダを運用するための魔力を供給せよ』です。
  ストラーダ以外の魔力を要求するアイテムには魔力は供給されません。
  持続時間は今後の魔法の使用頻度次第で減少する可能性があります。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
  夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※第三回放送を聞き逃しました。
※価値観が崩壊しましたが、判断力は失っていません。
※かがみを殺したと思っていますが、当人の顔は確認していません。
※言峰との麻婆豆腐の約束はすっかり忘れ去っています。
※会場のループを認識しました。
※ニアは死亡したと思っています。

352幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:39:51 ID:WMDegKj9
◇ ◇ ◇



――――お前達は、何故そこまでして前へ進もうとするんだ?



(……ウヌ、誰なのだ? カミナ、分かるか?)
(知らねぇな……、おい、誰だよテメェはよ。名前くらい名乗れってんだ)

……名前を聞くより先に気にするべき事があると思うんだがな。
例えば、お前達は何故ここにいるのか、とか、自分の体はどうしたのか、とか、な。
まあいい。

(な……ッ!)
(私の体が、ない……!? それに、どこを見ても暗闇しかないぞ!?
 どういうことなのだ?)

どうやら本当に気付いていなかったらしいな。
さて、……どうする?

(どうするってどういう事だよ。いちいち回りくでえ言い回ししてんじゃねえ!)

この状況がおかしなことに気づいたのだろう?
だったら、『どうやって』自分達がおかしな状況に連れて来られたのかも疑問に思わないか?
……それこそ、お前達は同じ様な事をつい一日前に経験したはずだ。

(な、……まさか、テメエ……ッ!!)
(お主が螺旋王なのか!? 
 も、もしかして、他の皆……清麿やビクトリームも含め、皆、逝ってしまったとでも言うのか!?)

そうだというならどうする? それをさっきから聞いているんだがな、まあいい。
――――そう。
ここにいるのはお前達だけだ。
あの会場はたった二人だけで遊ぶには広すぎるからな、こうして舞台を移した。
……いや、三人か。
俺と、お前達の三人だけ。
さて、お前達はどう動くんだ?
全ての元凶と相対した、まさにその時に。


(…………ッ!! 決まっておる。私は、私は……!)
(決まってんじゃねえか……! 俺は!)

(お主を、)
(テメエを、)

((ぶっ倒す!!))

353幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:42:05 ID:WMDegKj9
……威勢だけはいいな。
だが、それをして何の意味があるというんだ?
既にお前達しかいないんだ。
願いが叶うならば、それこそお互いを殺し合い、生き延びた方がもう一方の蘇生を願うだけでいい。
……いや、お前達の大切な人間を全て蘇らせることだって出来るんだぞ。
逆に戦いを選んだとしても、得られる物は――――、

(意味なら、あるってんだよ……!)

――――ほう。
ならば言ってみるといい。

(それは……それは。クソッタレ、言葉が出てこねえ……!
 だがな、こいつだけは言えるぜ。
 少なくとも、蘇らせるなんてことだけはしちゃあいけねえんだよ……!)

随分利己的だな。
自分だけがのうのうと生き延びたいというわけか。

(んなワケないだろうが!
 リコテキだがなんだか知らねえ! だがよ、……納得できねえんだよ。
 ああ、何もかもにだ!)
(……そうなのだ。 
 勇も、高遠も、ティアナも。ジェットも。チェスも。ミリアも。アレンビーも)
(もし、シモンやヨーコが死んじまっていたとしてもだ!
 生き返らせちまったら、そいつ等の生き様はなんだったんだって事になるじゃねえか……!!)
(確かに理不尽なのだ。それをなかったことにしたい気持ちは確かにあるのだ。
 ……だが、理不尽を許せないというのなら、それを上回る理不尽は更に許す事はできん!!)
(そうだよ、その通りだ。
 ……何よりも許せねえのは、こんな事をさせやがる野郎だろうがよ。
 それを間違える訳にはいかねえんだ!)

(だから、俺は、)
(……いや、私たちは!!) 


――――元凶に立ち向かう、か。
だが、いいのか?
結局は何も得られないばかりか、元の世界に帰れなくなるかもしれないぞ。
お前達を呼び寄せた人間がいなくなるんだからな。

それに、そもそもどうやって倒すつもりなんだ?
お前達は無力だ。
現に、今は文字通り手も足も出ていない。
それどころか意識しかない状態だ。
倒す倒さない以前に、戦う事すら出来はしない。
あの会場にいたときと同じくだ。
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 18:43:47 ID:QrPN7C9q
 
355幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:44:05 ID:WMDegKj9
(うるせえ! 関係ねえんだよ!
 俺はテメエをぶっ倒すと決めた! それだけだ!)

(螺旋王! 私は、優しい王様として!
 皆を弄んだそなたを許す事はできん!!
 ……たとえその先に何があろうとも。
 私は決めた道を行く! それが、正しい在り方だからだ!!
 私が私であるために! 皆から得た物を糧にした私であるために!
 そう、皆がいたからこそ私は成長できた! それを否定はさせん!)

(ああ、その通りだぜガッシュ。
 力が無いからなんだよ、戦えないからなんだよ!
 無理を通して道理を蹴っ飛ばせ!! 無力だからなんて道理はな!
 ……ッざけてんじゃねえ! ああ、何があろうともテメエをぶっ倒してやるぜ!
 テメエを倒した先に何があるかどうかなんて分からねえがよ、
 それでも俺たちは、前に進み続けてやる!
 それが、……それこそが俺達だからだ……!)


…………。


「……いくぜ。覚悟はいいかよ、オッサン」
「カミナ。必ず、勝とう。お主となら無理を通して道理を蹴っ飛ばせる!」
「おうよ、……ガッシュ、お前のカミナリは天を突き破るカミナリなんだ。
 ――――勝てるさ」



――――成程、な。
……一つ、訂正しよう。 

お前達は、無力ではない。


「なーに言ってやがんだ。無力かどうかなんて、関係ねえんだよ……!」

――――ああ。それこそが、力だ。



「……カミナ、お主」
「……なんだよガッシュ、……って、お前……!!」

……気付いたか。
それこそがお前達の力。
そして、あの男の目的――――、

356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 18:45:35 ID:QrPN7C9q
  
357幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:47:06 ID:WMDegKj9
「ぬぁああああああああ! カミナの体が緑色に光っておる!!
 ま、まさか病気か!? 何か変なものでも食べたのか?」
「そう言うテメエだって光ってんじゃねえか!!
 というか、いつの間に体が元に戻ってたんだよ!?」


……変なものと言えばキノコを食っていたがな、お前達は。
――――ふ、まあいい。

あの新たな不死者の少女といい、人間とは興味深いな。
……アドウェナ・アウィス号の連中も、業が深いのはセラードとラブロくらいのものだったのかもしれんな。
まあいい。

「……って、そんな場合じゃねえ! おいガッシュ、体も戻ったんだ、今度こそ戦いだぜ!」
「そ、そうなのだ! 本! カミナ、本を――――」

……さて、今更ではあるが自己紹介をしておこうか。
残念な事に、俺は螺旋王じゃなくてな。
ついでに言えばここは夢の中みたいなものだ。
お前達の仲間にはまだ生きている連中もいる、安心しろ。


「……はあ?」
「……ウヌ?」

「おいおい、ここが夢だって言うのかよ。それにしちゃ嫌に感覚がはっきりしてるぜ。
 こんなことは、それこそあのオッサンがやったのと同じじゃねえか。
 命惜しさに嘘ついてんじゃねえだろうな」

くく、命惜しさ、か。
二千年近く生きてきてそんな事を言われたのは初めてだな。
まあいい。
信用できないのは当然だ。

「……螺旋王ではないとしたら、誰なのだ?」

正体不明の存在と話しあうつもりか?
実は俺が螺旋王だとしたら墓穴を掘る事になるぞ。

「……考えてみれば、おかしいのだ。
 お主の口調は初めから問いかけしかしておらんのだ。まるで、こちらに答えを望むかのように……。
 螺旋王なら、最初に実験と言っておった以上そんな無駄な事はしないと思うのだ」

実験を円滑にする為に介入している可能性もあるぞ?
その場合はむしろ口車に乗せられているだけだ。

「そうかもしれん。だが、そういうのを考えるのは清麿の仕事だ。
 ……私に出来るのは、判断をするだけだ。
 私たちが反抗をしようとしたのにお主は全く敵意を見せなかった。
 お主を信じてみたい、そう思ったのだ」
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 18:49:55 ID:QrPN7C9q
 
359幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:50:07 ID:WMDegKj9
…………。

「おい、何か言ったらどうだよ?
 黙ってたんじゃ何も分かんねえぜ」

……いや、驚いただけだ。
成程な。
この状況にあって、信じる、か。

まあいい。
俺が誰か、だったな。
――――しがないカモッラ……、まあ、一種のギャングの一員だよ。
少しばかり特殊な力は持っているがね。

「ギャング? ……グレン団みてえなもんか? 特殊な力ってのは何だ?」

構成はだいぶ異なるが、似たようなものだろう。
力は――――、まあ、限りなく全能に近い万能といった所だ。
未来を見るつもりはないからな。

まあいい。
他に何か聞きたい事は――――、

「……では聞こう。
 お主の目的はなんなのだ? 何故私たちに呼びかけた?」
 
……ふむ。何から話したものかな。
まあ、アイザックとミリア、それにチェスの知り合いといえば分かるかもしれんな。

「……ウヌ」
「……オイ。ミリアとチェスは船の仲間で、アイザックはミリアって女の恋人なんだろ!?
 だったらよ! ……何で、テメエは助けに来なかったんだよ!?
 何で助けに来てやらなかったんだ!
 テメエは凄え力を持っていやがるんだろ!?」
「……落ち着くのだ、カミナ。まずは話を聞こう」

……まず、第一に言えるのは俺自身が自分で決めたルールがあるからだな。
今の俺はできる限り組の為だけに力を使うようにしている。
――――理由は、先ほどあんな事を言ったお前達なら分かるだろう?

「…………」
「……死んだヤツラを生き返らせちゃいけねえ、みたいな理由って事かよ」

その通りだ。
無闇に力を振るう事の意味は分かるだろう。
一度チェスワフ・メイエルが俺に呼びかけた事もあったが――――、『ここ』のあいつはまだ組の関係者にはなっていなかったからな。
あえて自制させてもらった。
今こう呼びかけているのは、組の関係者であるアイザックとミリアが二人とも死んだからだ。
俺としてもあいつらの事を気に入っていた訳だし、遠慮をする必要は無くなった。
……あいつらが残した希望であるガッシュ、お前と話してみたいというのもあったがな。
360幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:53:07 ID:WMDegKj9
「……その言い分だと、まだ他の理由もあるのであろう?
 聞かせてもらいたいのだ」

察しがいいな。
第二の理由は、俺自身がその世界に存在できないからだ。

「? どういうことだよ」

――――その空間は特殊でな。
その中にいるだけで、特殊な力や強すぎる力に制限がかかるように作られている。
それも、力の強さに応じてな。
俺は力の塊のような存在だ。
もしその世界に入り込んだ場合、おそらく一瞬で消滅するだろう。
……そもそも、俺が螺旋遺伝子なんてものを持ち合わせていないからかもしれんがな。
まあいい。
悪いが、俺が直接お前達に協力する事は不可能だ。
……その空間から脱出する事でもない限りはな。

「……そうか。それでも、こうして呼びかける事は出来るのであろう?
 他の皆……、清麿達にも呼びかけてもらう事は出来るのか!?」

無理だ。

「おい、なに言ってやがんだ! 現にテメエはこうして話しかけてきたじゃねえかよ……!」

第三の理由を言おう。
その空間に、強力なプロテクトがかけられているからだ。
――――そろそろ、分かるはずだ。
見るといい。

「何を見ろって、…………ッ!?」
「……暗闇に、……空間に、亀裂が!? どういうことなのだ!?」

時間が無いから手短に言うぞ。
俺がお前達に呼びかけられたのは、お前達がその条件を満たしていたからだ。
赤い宝石に見覚えがあるだろう?
支給品の一つとしてあったはずだ。

「……! ああ、知っておる!
 あれが何だというのだ!?」

あれは賢者の石という錬金術の産物でな。
体系こそ違うが、俺の力と良く似た技術で生み出されたものだ。
それを経由させて話しかけていたんだが……俺の力をエミュレートする負荷がだいぶ大きかったらしい。
あの少女の様に不死の酒を飲んだりして、俺の力と同系統の力を手に入れたならもう少し長く会話できたかもしれんがな。
まあいい。
何にせよ、今のお前達のように意識を失っている事も条件になっている。
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 18:55:49 ID:b/kmC2Yx
 
362幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:56:00 ID:WMDegKj9
『錬金術の力』
『意識を失っている』
この二つが揃ってようやく話しかけられるんだ。
それ程にそちらの空間は隔離されている。
更に言うなら、おそらく同じ相手への会話は二度と行えん。
その『回線』のような経路を螺旋王が遮断してしまうだろう。
……現に、俺が以前呼びかけた不死者の少女とはもう接触は不可能だ。
お前達との会話もこれ一回きり。
俺がそちらと対話できる機会も後1回あるかどうかすら怪しいな。


「……つまり、打つ手無しって事かよ」
「……カミナ?」

……何故、笑える?
俺も殆ど力を貸せない状況だというのにだ。

「俺を誰だと思ってやがる! このカミナ様に任せとけってんだ!
 ……テメエは俺たちの事を見てるんだろ?
 俺達を信じてそこで待っとけ!」

「……カミナ」

「俺たちは絶対にあのオッサンをぶちのめしてやる。
 テメエの出る幕はねえ! ……そうだろ、ガッシュ!」

「……ああ、その通りなのだ、カミナ!」

――――そうか。
ならば、俺もお前達に期待するとしよう。
まあ、一応俺も俺で動きはするつもりだ。
これだけの規模の実験、もしかしたら俺以外の何かも動くかもしれんしな。

「……頼んだのだ」

さて、時間だ。
もうすぐこの夢も終わる。

――――そうだ、最後に一つ教えておいてやろう。

「……なんだよ」

目が覚めたらすぐ、お前達は一人の少女と出会うことになるだろう。
カミナ、その少女はお前の相方が大切にしていた人間だ。
大事にしてやる事だな。

「……な、シモン、が……?」
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 18:57:00 ID:b/kmC2Yx
 
364幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 18:58:06 ID:WMDegKj9
――――色々話を聞くといい。
そして、色々話をしてやるといい。
お前には信じられないことも聞かされるだろうが、それを受け入れるも受け入れないも自由だ。

「…………」


まあいい、俺はもう行くぞ。
もし力を貸せる時が来たなら、また会えるかもしれんな。
お前達が死んでいないことに期待するとしよう。
じゃあな――――、

「ま、待つのだ!!」

……ん?

「名前! 名前を教えてほしいのだ!!
 仲間の名前くらいは、知っておきたいのだ……!!」

……仲間、か。
組の連中ならともかく、夢か現かも定かでない場所で見ただけの悪魔にそんな事を言うなんてな。
くく、実に酔狂だが、悪くはない。

……まあいい。俺の名前は――――、


◇ ◇ ◇


『――――ミナ! お……くだ……! カミ……! カミナ!』


「あ……?」


どこか遠くから呼ぶ声が聞こえたような気がして、カミナはゆっくりと目を開いた。
体がやけに肌寒い。
何故かと思い、気付く。
全身がずぶ濡れだったのだ。
辺りはすっかり闇に染まり、海からの風はただでさえ冷たい。
そんな中でびしょ濡れなら、体が冷えるのは当然だろう。

「ぶぇくしッ!」
『あ、目覚めましたかカミナ。一時はどうなるかと思いましたが、どうにか助かったようです』
「……クロミラ」

ぼやけた頭のまま起き上がろうとして、手を地面につく。
その瞬間、

「……ッ!!」
365幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 19:00:28 ID:WMDegKj9
肩に激痛が走る。
そう言えば怪我をしていたのだ。
自分の迂闊さを呪うも、しかし完全に意識は覚醒した。

「ガッシュは?」
『あなたの後ろです、カミナ』

言葉通りに振り向く。
そこにいたのは、文字通りガッシュ。
――――そして。

「……! おい、あいつは……?」

気を失ったままのガッシュとブリ。
その更に向こう側に見える人影は、カミナに全く覚えのないものだった。
体の小ささから少女らしい事は分かるが、夜闇の暗さにそれ以上詳しい情報は得られない。

『分かりません。我々がここに流れ着く前に、漂流中の彼女を偶然巻き込んだようです』
「……そうかよ」
『それにしても危ない所でした。一時、禁止エリアに入り込んでしまったようです。
 カミナ、あなたの首輪からは何故か警告音が鳴りませんでしたが――――』
「あー、分かった分かった」

ぞんざいに言いながら、まずはガッシュの元へ歩み始めるカミナ。
だが、その心中には何か奇妙に引っかかるものがあった。

「……気のせいか? 誰か、俺達が女と会うってこと言ってなかったか、クロミラ」
『……いえ、そんなことはなかったと思います』

何かを忘れている気がする。
だが、思い出そうとしても全く思い出せない。
首をかしげながらとりあえずガッシュを揺する事にする。

「おい、起きやがれガッシュ! 起きないと俺がさっさとブリ食っちまうぞ!」

「それは困るのだ!」

言うなり、いきなりがばりと勢い良くガッシュは起き上がる。
起き上がった拍子にカミナと思い切り頭をぶつけて、悶絶すると言うおまけつきだったが。
幸いな事にガッシュの身長が小さかった為、唇の接触は免れたようである、今回は。

しばし二人で頭を抑えるも、それが収まった辺りでとりあえず話を振る事にする。


366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 19:01:49 ID:b/kmC2Yx
 
367幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 19:02:56 ID:WMDegKj9
「……で、だ。そこの嬢ちゃん含めてどうするかって話なんだが」
「……ウヌ。とりあえず話を聞いたほうがいいと思うのだ」
「ま、そりゃそうなんだがな……」

思いっきり溜息を吐いて、あらためてガッシュの方をカミナは向き直す。

「……誰か俺達が女と会うとか言ってなかったっけ?」

とりあえず、クロスミラージュへの質問と同じ事を聞いてみる。
これで違うと言ったら自分の気のせいという事でそれまでだったのだが。

「ウヌ……。なんか聞いたことあるような気がするのだ。
 だけど、良く分からないのだ」

ガッシュの返答は、実に曖昧なものだった。
良く分からない。
実の所、カミナの感覚もその程度のものでしかない。
一定しない、ふわふわとした物を捕まえようとするような。
そういう状況を普段は嫌うカミナだが、今回に限っては何故か苛立ちすら湧かなかった。
……奇妙。それに尽きるだろう。

「……そうなのだ!」

悩んでいたその時、唐突にガッシュが自分のデイパックを開いて中を覗き込む。

『……? どうかしましたか?』

先刻から全く会話についていけないクロスミラージュが、どうにかそれに参加しようと口を挟む。
しかし、

「……やっぱりなのだ。何故か、思った通りなのだ」

ガッシュの示したものは、クロスミラージュにはやはり理解できなかった。
ガッシュの手の中にあるもの。それは、

「……なんかキレえな石だけどよ、割れちまってるな」

赤い石が、いくつかの破片となって砕けたものだった。
ガッシュもカミナも黙り込む。
どうしてかこの石がこうなっているのは当然だと思えたのだ。

「…………」
「…………」


――――そして、何度目の何故かだろうか。
ガッシュも、カミナも。
信じられないほどに強い決意が心の内に存在しているのにようやく気付く。
理由はやはり、分からない。
だが。
368幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 19:05:26 ID:WMDegKj9
――――必ず、螺旋王を倒す。
その決意は紛う事なき本物だ。
この想いをどうやって得たかも分からない。
しかし、絶対に信じるに足るだけの力強さを、その決意が自分達に供給しているかのように思えるのだった。


沈黙は続く。
聞こえるのは細波の音だけ。
だが、それを破った声が、一つ。
自分達の誰でもないところから上がった。


「ん……」

そちらの方を向く。
見れば、不思議な髪の色の少女があられもない姿で上半身だけを起こしてこちらを見ていた。
その視線に力はなく、未だ半覚醒といったところのようだ。
何にせよ、彼女をどうにかしなければいけないだろう。

『……カミナ。彼女を保護しますか? 万一ゲームに乗っていたら……』
「……ああ。ま、そん時はそん時だ」

言いながらも、カミナはまたも『何故か』この少女を大切に扱うつもりになっていた。
ゆっくりとそちらの方に歩み寄るカミナに、ガッシュもクロスミラージュも何も言わない。
有無を言わせぬ何かが、その背中にはあった。

『――――彼女を保護したら、近隣にあるモノレールの駅に向かいましょう。
 そこからドモン氏の待つF-5駅に向かい、彼がいなければデパート跡に向かったものと考えてそちらへ』

クロスミラージュへの返答を背中越しにするカミナに、ふと、ガッシュが問いかける。
唐突に何かを思い出したかのように。

「……カミナ」
「何だ?」

「……ロニー・スキアートという名に、お主は心当たりはあるか?」

結局その表情に浮かぶのは、やはり曖昧な何かへの疑問のみ。
質問に対し、しかしカミナは適当そうに答えるだけだ。

「……さあな」

少女の前に座り込み、ガッシュたちの方を見もせずに、ただ告げる。

「だけど、まあ……」

一息。

「悪いヤツじゃあないんじゃねえか?」



【カミナ@天元突破グレンラガン 螺旋力覚醒】
369幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 19:08:41 ID:WMDegKj9
【D-1東部/海岸/1日目/真夜中】

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ肉体疲労(中)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
    リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
     アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:……私は、どんな夢を見ていたのだ?
1:少女(ニア)に話を聞く。
2:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智とビクトリームを捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:船から脱出した以上、ブリが食べたい。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※螺旋力覚醒
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
 いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。

[持ち物]:支給品一式×8(ランダムアイテム0〜1つ ジェット・高遠確認済み)
-[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)

※ドーラの大砲@天空の城ラピュタは、船に上陸した際に弾を使いきり壊れてしまったので破棄しました。
※東風のステッキ@カウボーイビバップも船に上陸する直前の際に使用しました。
※賢者の石が砕けました。破片が4つ残っています。何らかの用途に使用できる可能性があります。

370幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 19:10:58 ID:WMDegKj9
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、体力消耗(大)、全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意、螺旋力覚醒・増大中
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】   
    アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!、
    クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
    ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:……なんか忘れてねえか? 俺。
1:少女(ニア)から話を聞く。何故か大切にしてやりたい。
2:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ガンメンモドキ(ビクトリーム)よぉ……そうならそうって早く言えってんだ。
[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。2人の死を受け入れられる状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
 禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
 ただし、クロスミラージュがその事実を把握しています。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ましたが、なぜか今は読めません。
※少女(ニア)の保護に義務感のようなものを感じています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。

※螺旋力覚醒

371幻想のアヴァタール(後編) ◆wYjszMXgAo :2008/03/24(月) 19:12:01 ID:WMDegKj9
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(小)、ギアス?、右頬にモミジ、下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ、寝起き
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]:
0:ん……、シモ、ン……?
1:出来ればシータを止めたい。
2:ルルーシュとビクトリームと一緒に脱出に向けて動く。
3:ビクトリームに頼んでグラサン・ジャックさんに会わせてもらう。
4:ルルーシュ達を探す。
5:お父様(ロージェノム)を止める。
6:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。

※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
 今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
372名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/24(月) 21:35:48 ID:PEjv5IcG
削除依頼だしとけよと


で、議論再開


まず会場だな。地図から作りなおそ
373 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/28(金) 13:14:30 ID:+wbcCOid
スカーは迷っていた。
地図に記入されている表だった施設に入り、螺旋に関するアイテムや人物を保護する。
ショッピングモールで聞いた謎のアナウンスから得た情報を元に、彼はそう行動するはずだったのだ。
だが、いざ施設に入ろうとしたときに彼は重大な事に気がついた。
それは"もし施設内にいる参加者との接触したら、果たして穏便に済むのか?"という問題である。
スカーはこれまで、この世界で仲間と呼べるような知り合いを作らず、ただひたすら暴虐をもって他人に襲い掛かっていった。
痛み分けした相手は数知れず、現に2人を屠っている。
彼から逃げ遂せた者が、スカーの知らぬところで仲間を作っていたとしたら。
"額に特徴的な傷を持つ人物にご注意"というレッテルが広まっていてもおかしくはない。
勿論、スカーは自身が殺されない自信を持っている。
だが、万が一鉢合わせた相手が、あの聖職者たちのような手だれだったとしたら?
手元に彼が持っている武器をもってしても通用しない相手がいたとしたら?
そして、その人物が既に螺旋に関する事象を先取りしていたとしたら?

("有り得ない"は、有り得ない……この世界では特にそうだろう)

スカーは今エリアCー8から刑務所内を展望している。
当然中に人がいる事にも気がついている。
実際問題、中にいるのはスカーよりも劣る参加者と有益な道具なのだが、彼が気がつくはずもない。



ビクトリームは焦っていた。
急な運動で足をツらせてしまった胴体が完全に海に沈んでしまったからだ。
頭部と胴体が着脱可能なビクトリームにとって命の危険はないのだが、彼にはトラウマがあった。
彼はこの世界で数時間、胴体と離れ離れにさせられた経験がある。
もしかして、また――という不安がよぎったのだ。

「……ええィ! 今回は特別にもやしっ子ルルーシュに任せる!! 」

しかしビクトリームは踏みとどまった。
前回とは状況が違うからだ。
先刻まで彼がいた森にはルルーシュ・ランルページがいる。
会場をループして森へとボディは移動するのだから、自ずとルルーシュがそれを発見する可能性は高い。
そして今は海上を先へ先へ進んでいる2人の少女を追うという奇妙な使命感がある。
ビクトリームは自分の頭部を東に進めた。


374 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/28(金) 13:14:51 ID:+wbcCOid


スカーは迷っていた。
彼の背後には、いつの間にやらもぞもぞと動く奇妙な物体が現れたからだ。
スカーは初めてそれを見たとき、敵襲だと考えすぐさま戦闘体制に入った。
この世界が地図の端と端を繋いでいることは身をもって体験していたからだ。
特に(スカーはこの世界で初めてその存在を視認したのだが)彼の背後の世界は海という巨大な湖に繋がっている。
音も立てずに近づくことは容易に違いなかった、とスカーは考えていた。
しかし、相手は何もしてこなかった。
ただその場に寝そべり両足の踵をピーンと伸ばしているばかり。
スカーは試しに、彼に接触を試みた。
話しかけてみたり、息を吹きかけたり、ツンツンつっついたり、脇腹こしょぐったり、鎖で縛ったり、蹴ってみたりした。
されど、相手はスカーに抵抗しつつも、へこへこと逃げるだけで、スカーと接触を図ろうともしない。
散々弄んだ結果、スカーはこの物体を"合成獣の成れの果て"と考えた。
首輪をつけていないので同じ立場の者ではないし、生体活動というにはあまりにも無様。
つまり"誰かのサポート役としてに与えられた物"か"国家錬金術師に遊ばれた生命"には違いない、と結論をくだしたのだ。

(神の教えに背きし者たちの、哀しき置き土産よ……今楽にしてやるぞ)

スカーは両手を合わせて軽く祈ると、右腕に力を込める。
そして彼の右腕から発せられる業の一撃を、足元で蠢く物体に見舞った。



「ビィィィィィィクトリィィィィィィィィム!!! 」

スカーの掌が謎の物体に突き刺さろうとしたとき、それは突然現れた。
スカーは耳を劈いた絶叫の方へと視線を変えるが、それは勢いを止めようとしない。
スカーの顔面は突如現れた謎の飛行物体に、ものの見事に衝突して体ごと吹っ飛ばされた。

「ベェェェェリィィィィィィィシィィィィィィィットォォォォォォォォォォォ!!
 誰が同じネタを2回やれといったァァァァァァ!! おいこら小娘Mrk……えーと1か2か! この際どっちでもかまわん!
貴様やっぱりわかってやってるなぁ!? いや貴様等2人最初からグルだったんだなぁコラァァァ!!
私の胴体はオモチャじゃねぇって言ってんだろうがぁぁぁくんずほずれつの好き放題にぃぃしやがってェェェェ!!
 またイきかけ……じゃない。お前のせいで私は縛りプレイに興味……じゃない。
 危うくマゾヒストに目覚める所だったんだぞォォォォォォ!? 
 これじゃ"ビクトリーム"改め"びくドエーム"か"びくびくトリーム"にせにゃならんだろうがァァァァ!!! 」

現れたのはスカーが今しがた始末しようとしていた物体の持ち主――華麗なるビクトリームだった。
合成獣の成れの果て、というのはスカーのとんだ勘違いである。
それにしても、一度は海を渡る決心をしたビクトリームが、なぜ森へ舞い戻ってきたのか。
それは彼のもう1つのトラウマのせいだった。
ビクトリームは胴体部と感動の再会をする直前に、螺旋族の王女ニアに縛られていた体を、色々と×××されてしまったのだ。
想像してほしい。自分の体が全く動かせない状況で、誰かに何をされるのかわからないという危険な状況を。
その時のビクトリームの言いようのない悶えは筆舌に語りがたい。
彼はニアがまた何かしたのではないかと勘違いしたのだ。
"東へ飛んだ彼女がなぜ森に戻ったのか?"なんて彼は考えない。なぜなら彼の思考はシンプルだから。
アクシデントといえば、ビクトリームが吹き飛ばしたのがニアやシータではなく、初対面の別人だということ。

「あれ? 誰だ貴様」
「……成る程、その浮遊体が本体なのか」
「ひ、額に]だとうゥ!? (華麗なるXの字を頭に2つもくっつけるとは……こいつ只者ではない!)」
「今度こそ安らかに眠れ、異形の者よ」
「だがそこは同じ向きでいくべきだったなァァァァァ! 」

しかしそのアクシデントは、スカーにも言える事だった。

375 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/28(金) 13:15:27 ID:+wbcCOid


スカーは焦っていた。
なぜなら彼は今、身をもって"有り得ないは、有り得ない"を体感しているのだから。
順を追って説明しよう。
まずスカーは捕縛の為に、天の鎖をビクトリームの頭部に巻きつけた。
だが、その時ビクトリームはその場で回転し始めたのだ。

――私が本当のVを見せてやろう。1秒間で11ビクトリーにも及ぶ超絶なるVの舞をなァァァァ!

そしてビクトリームは……遥か上空まで飛んだ。
それは己の雄姿を見せ付けるためか、はたまた唯の思いつきか。
いずれにせよ、ビクトリームは空を飛んだ。
そして彼に天の鎖を巻きつけていたスカーも空を飛んだ。いや、飛ばされた。
スカーは振り落とされないようにしっかりと鎖を握っていたが、それで精一杯だった。
この時スカーはかつて体験したことない遊覧飛行で町全体を見下ろし、未だ戦火が止んでいない事を偲ぶのだがそれは割愛しよう。
彼が本当に"有り得ない"と感じたのはこの後なのだ。
切欠は上昇していたはずのビクトリームからの一言だった。

――ブルァ!? これ以上先に進めん! 我が頭部のダメージが重力に逆らえないほど響いてきたのか!?
――いや違うか? まるで……これはまるで"何らかの巨大な力"で『上』から押さえつけられているかのようだァァァ!!

スカーはビクトリームのこの発言が気になり、何気なく上空を見上げたのだ。
そこにあったのは夜空。
だが、何かが違った。
空から異様なほどの存在感を感じたのだ。
"空という物は見れば見るほどその果てが遠くに感じられるものだ"とスカーは常日頃思っていた。
当てのない旅を続けている時でも、その思いは変わらなかった。
山脈の頂近くに登ろうとも、空との距離は変わらないと思っていた。
しかしどうだろうか。
人生初めての空中浮遊とはいえ、この程度(スカーの個人的印象)の高さに来ただけで、こうも変わってしまうのか。
それとも、"この世界の空は普通の空ではないのか"。
そしてもう1つ、スカーには疑問に思うところがあった。
月。
スカーは破戒僧の身ではあるが、生きていく上での処世術を知らぬほど俗世離れをしているわけではない。
真夜中――まもなく午前零時となろう現在時刻の見分け方ぐらいは知っている。
しかし、それにしては月の位置がおかしいのだ。
建物の影の方角は間違っていない。しかしいつもより"長い"。
つまりこの月はスカーの知っている世界の月よりも地上から低い位置にあるということだ。
これは一体どういう事なのか。月が近づいてきているということなのか。

(……そう言われてみれば気にはなっていた。
 "な ぜ 太 陽 と 月 が 一 緒 に 現 れ な い の か"。
 ループしない俺の世界ならば、太陽と月は入れ替わり立ち代りの関係だ。
 だが、この世界はこの世界は地図の端と端が繋がっている。太陽と月は24時間顔を出さなければおかしい。
 この世界の太陽と月は、俺の世界の太陽と月と全く同じなのだ。
 なぜだ!? 螺旋王が神の存在だからか!? ……いや、これはむしろ、太陽と月、そして見渡す限りの星全てが――)
376 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/28(金) 13:16:14 ID:+wbcCOid
スカーは考える。
螺旋王の実験という発言。
なぜかループする町。禁止エリアという存在。
予測不能の未知のアイテム。自分がここに招かれた時の経緯。
螺旋力。月と太陽。威圧感のある空――

「異形の者よ! 」
「なんじゃいィィィィィ私のスーパービクトリーに小便ちびったかァァァ!?」
「貴様は生きてきた中で、まるで……まるで太陽のような質量を持つ石を見たことが――」
「ああ!?」
「もしくは星のように大きな宝珠の話をどこかで――」
「高度何メートルだと思っとんじゃい!! 風が強くて聞こえんわァ!! 」

太い声をあげながら、スカーは何かを確信したかのようにビクトリームに訴える。
陽だまりに溢れる朝方なら、彼の言葉は届いたかもしれない。だが哀しいかな。
せっかくの言葉も完全には伝わらない。
きまぐれな風はスカーの希望を飲み込もうとする。

「ならばこれだけは言わせろ! 」
「しつこい!! 聞こえんと言って……」
「……!! 」
「……ぐぬぬ」

がなり立てるビクトリームをスカーの鋭い視線が射殺す。
ここまで真面目に見つめられる事は、きっと彼の人生で一度もなかったわけではないのだろうが……。
ただ、ビクトリームもスカーが冗談でやっているのではない事はわかっていた。
エルキドゥ――巻かれた天の鎖から感じる力が段々弱くなってきたからだ。
大分スカーの握力も疲れてきている証拠。つまり彼はそろそろ地面へと転落する。もう時間がなかったのだ。

「月と太陽をよく調べてみろ。この世界に"天"はあった。天は天でも陳腐で小賢しい天がな」

そして、スカーはあっけなく手を放した。
彼が自分の大切な武器にそれほど執着が見えなかったのは、何かを掴み機会を与えてくれた者への報酬か?
それとも、完全に手玉に取られてしまった自分への戒めか?
いずれにせよ、スカーは天の鎖をビクトリームに譲ったのだ。

(なんだったんだ? あいつ。それにこの鎖は何だ? これを渡す代わりに見逃してくれという事か?
 フッフッフッ……やはり私のXは完全体ってことだな。今、私のXはVictoryのXに進化したァァァァァ!)

この後、地上に帰還したビクトリームが自分の胴体と頭部を一緒に鎖で縛ることを思いつき、
晴れて上下合体状態で海を渡る手段を得て、海に向かったのだが、それはまた別のお話。
377 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/28(金) 13:16:35 ID:+wbcCOid


最後の猶予は費え、破戒僧は墜落した。
ただし着地する場所はエリアC−8の森ではなくエリアC−1の海。
スカーは落下の途中で体をC−8とC−1の境目にあずけた。
水の中に飛び込むのと、木々に突っ込むとでは、受けるダメージの差は大きい。
例え大怪我をしても支給品があるので、問題はない。
……落下による急な体への負担はあるので、どのみち体を休めざるえない状況になるのだが。
現在、スカーは海に溺れる前にもう一度ループして森に移動し、木陰で膝をついている。
もはやビクトリームを眼中に入れる余裕などなかった。
彼が地上に降り立った後も遭遇をあえて回避した。最初にあった悲哀の念もどこへやらだ。

(苦し紛れになんとか着地できたが……風景が吹き込んできそうなくらい、強い風勢を浴びてしまった)

スカーの感情は昂ぶる。
せっかく気づいたのだから、標的はもう見逃せない
手元の地図が当てにならないことはわかった。焼いて処分したい衝動はぐっと抑える。
埋もれた真実がこの世界にはある。この掌で掴み取るべきだろう。
早く夢中に駆け抜けたいと、五月蝿く張り裂けそうなくらい胸の鼓動が高鳴る。
これは教示だ。真実を暴けと誰かが呼んだのだ。
ここで立ち止まっているような時間は無い。

(だがもうすぐ放送だ……もう少しだけ、ここで息を潜めておくか)

スカーは知らない。
彼の住む世界とは別の世界に、大宇宙のエネルギーを封じ込めた宝石があることを。
その宝石は巨大な惑星から消えてしまいそうな小惑星まで、様々な種類があることを。
その星珠は星のように輝くのに、全く熱を感じさせないことを。
そしてその要となる物、通称システマ・ソラールを所有せんと企んでいた王泥棒がいたことを。

スカーは知らない。
彼の住む世界とは別の世界に、空を飛ぶことを諦めた文明があることを。
その都市は一面砂漠で覆われた土地に戦艦に乗って生活していたことを。
その都市の先人達が、子孫のためにあえて空を飛ぶことを諦めていたことを。
しかしその世界の空を突き破るが如く大暴れし、天元突破に尽力を出した黒猫とその仲間達がいたことを。
378 ◆hNG3vL8qjA :2008/03/28(金) 13:17:46 ID:+wbcCOid
【B-8/一日目/真夜中(放送直前)】
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:上空からの転落で多少の疲労と怪我、覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)
[道具]:デイバック、支給品一式@読子(メモは無い)、
[思考]
基本:螺旋力保有者の保護、自身及び螺旋力保有者の敵の抹殺、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
1:螺旋力保有者に接触し、保護する(ただし邪魔をしたり、危険と判断したりした場合は抹殺)。
2:螺旋に関係するアイテム(ショッピングモールのコンテナなど)を捜索、回収。
3:螺旋力保有者の敵がいなくなったら螺旋王を見極める。螺旋王の螺旋力の大きさ次第でそれまでの保護対象を抹殺し、優勝する。
4:腹が減ったが、ひとまず放送まで待機。 刑務所を調査するかどうかは人が中にいるようなので保留。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れた分、かえって覚悟が強まっています。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。

【C-1/海上/一日目/真夜中(放送直前)】
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!!】
[状態]:肉体的にも精神的にも色んな意味で大ダメージ、鼻を骨折、歯二本欠損、股間の紳士がボロボロ
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay nightで、頭と体を縛り付けている。
[道具]:支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、魔本
[思考・状況] 
1:こんどこそ小娘達を追うぞ! 小娘どもを追うのはメロンが欲しいからで、別に心配なぞしておらん!?
2:パートナーの気持ち? 相手を思いやる?
4:吠え面書いてるであろう藤乃くぅんを笑いにデパートに行くのもまぁアリか…心配な訳じゃ無いぞ!?
5:カミナに対し、無意識の罪悪感。
6:シータに対し、意味の分からないイライラ
7:F-1海岸線のメロン6個に未練。

[備考]
※参戦時期は、少なくとも石版から復活し、モヒカン・エースと出会った後。ガッシュ&清麿を知ってるようです。
※会場内での魔本の仕組み(耐火加工も)に気づいていません。
※モヒカン・エースは諦めかけており、カミナに希望を見出し始めています。ニアが魔本を読めた理由はかけらも気にしていません。
※静留と話し合ったせいか、さすがに名簿確認、支給品確認、地図確認は済ませた模様。お互いの世界の情報は少なくとも交換したようです。
※分離中の『頭』は、禁止エリアに入っても大丈夫のようです。 ただし、身体の扱い(禁止エリアでどうなるのか?など)は、次回以降の書き手さんにお任せします。
※変態トリオ(クレア、はやて、マタタビ)、六課の制服を着た人間を危険人物と認識しています。
※ニアとジンにはマタタビの危険性について話していません。
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:26:23 ID:HOel26/g
 
あー、やっちゃったなぁ……と、それが結城奈緒の第一の感想であった。

真夜中の、古びた街燈の光だけが頼りの薄暗い道端。
そんなところで自分が吐き出したゲロに塗れ寝っころがっている、まるで馬鹿な酔っ払いの様な有様の女。
彼女――柊かがみが起きて、そして目の前にいる自分達を見たらどう思うか?
助けにきた正義の使者か? それとも、さらに自分を痛めつける悪漢か?
どっちだろうか……と、今彼女の顔を覗きこんでいる白服――といっても真っ赤に染まったソレを着ているラッドは言った。
どっちにしろ殺すとは彼の発言だが、奈緒としては彼の姿を見るにどう考えても前者はないだろうと思う。

で、柊かがみは起きた。
ラッドが繰り返し刺激を与えていたせいか、それとも元々眠りが浅かったのかは不明だが、とにかく起きた。
そして――……、

「……ふあぁ。……………………誰あんた? さっきのチンピラは……?」

……――朝のベッドの上でならよく似合ったであろう大あくび。そして、至極暢気な言葉。
例えそれを見ていたのが奈緒でなかったとしても、ラッドを知っている者ならば最悪の選択だと思っただろう。
喜ぶでもなく。恐れるでもなく。ましてや驚くでもなく。ただの暢気。殺人鬼を前にしての、ただの暢気である。

ご愁傷様でした――と、奈緒は心の中で、柊かがみの冥福を一足先に祈った。
なんとなくむかつきもするが、あるところで同調というか同情もする相手であったが、さすがにフォローはできなかった……。


 ◆ ◆ ◆


眠り姫に迫った、賞品が死。罰ゲームも死。な、必死の二択。
その結果がどうなるかわくわくと殺意ゲージを溜めていたラッドであったが、予想もしない第三の選択に驚いた。
でもって、その第三の選択は彼の殺意ゲージを満杯にするのに充分以上だった。
勿論、その賞品は――『完全にぶっ殺す!』だ。元々そのつもりだが、いくらかのおまけもつくだろう。

目をぱちくりとさせ、半分寝ぼけ、半分混乱しているかがみに、ラッドは賞品贈呈の辞を読み上げ始める。

「いやいやいやいや――、それはないだろうよ、かがみちゃんよぉ!
 ここでボケを取りにくるんなんざ、どこのコメディアンだよ。
 普通はありえねぇ! いや、絶対にありえねぇ! そんな場面じゃねぇと言い切れる!
 殺し合いの舞台でよ、目の前には殺人鬼な訳よ、起きたらさぁっ!
 悪夢じゃねぇ? だって、俺でもベッドの枕元に暗殺者が立ってたら驚くぜ! いや、喜びもするが!
 つか、俺を殺すことにチャレンジしたその精神を称えながら殺すと同時に、
 絶対的な優位の上で殺そうとしたことを後悔させながら殺すけどよ!
 やっぱ暗殺者って不意を討つからには、絶対的な状況を作るからにはユルいんじゃねぇかなと思うし?
 いや待てよ。それともそれぐらい慎重だってことは、常に相手からの反撃を恐れているからってことになるのか?
 ヤバイヤバイ! そうだよ、ユルいはずがないよな。プロだもん。ユルかったのは俺か? プロを侮辱したらだめだよな?
 いやまぁ殺すことにはかわらないけどよ。これからは敬意を持って殺すことにする!
 でさぁ! 話はそれたけど、俺もいっぱしな殺人鬼なわけなのよ? わかるかがみちゃん?
 だから! そんな! よくわかりません! ってな、顔されるとさぁ! そりゃあもう、殺意ゲージが……」

マシンガントークが目覚まし代わりになったのだろうか、かがみの頭に思考能力が戻ってくる。
目の前の、恐らくは返り血で染めたのであろう白服っぽかった赤服を着ている男は、自称殺人鬼らしい。
なんだ、そうだったのなら――……。

「殺すんだったら、そうしてみれば? かまいはしないわよ。別に死なな――……」

ドカン――と、とても肉と肉をぶつけあったとは思えない様な音が、その薄暗い路地に響き渡った。
381名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:27:15 ID:mwCGu/V2
  
 ◆ ◆ ◆


古いアニメや、カートゥーンならよく見る光景だが、実際にされるとこんな感じなのか……。
そう、場違いなことを思いながら顔面を陥没させたかがみはアスファルトの上を転がってゆく。
その脳を揺さぶる衝撃に、彼女は最初後頭部を打たれたかと思ったのだが、
転がる内に、上顎ごと前歯が舌の付け根あたりまでヘコんでいることに気付いたのだ。

ゴロゴロとボールの様に10メートルほど転がりきったあたりで、飛んでいったパーツが戻ってきて再生が始まった。
頬骨の辺りから割れてヘコんでいた上顎が持ち上がり、まるで風船に息を吹き込むかの様に顔が元に戻る。
目の前に迫る男も同じ印象を抱いたのか、『笑わせるな』『コメディアン』『殺す』『殺す』『殺す』などのワードを彼女にぶつける。
脳が揺れたせいで聞き取りづらく、また聞くつもりなども彼女にはなかったのだが、彼は喚き散らす。

目の前の男がトークを楽しみながら人を殺す狂人だと彼女が気付いたのは、それから4,5発殴られた後であった。

再生する様が面白いのか、それとも彼がジャック・デンプシーを尊敬するからなのか、拳は顔面に集中した。

ジャブ。ジャブ。ジャブ。小刻みな左拳の連打。折れている腕でラッドは拳を刻む。
鼻が潰れる瞬間の、ワサビを食べた時にも似たツンとする感覚。そして、直後に溢れる血の感覚。
痛みもそうだが、それよりも思いっきり鼻をかみたくなるようなその感触がいやだなぁ……と、かがみは思う。

ショートストレート。モーションを最小限にした射る様な拳。ジャブからのコンビネーションでそれを打つ。
バシッという小気味よい音と共に頬骨が砕け、頭の中にパキリという音がはっきりと響き渡る。
耳を脳も頭蓋骨の中にあるからか、顔面への打撃は思いのほかよく響く……と、かがみは思う。

左フック。反射的にあがったガードを迂回するように拳を叩き込み、逆の頬を打つ。
柔らかい頬に拳がめり込んで口の中が圧迫され、拳と口内の歯に挟まれた内頬が鋭い痛みとともに切れる。
しかし、それより勘弁して欲しいのは歯医者から出てきた直後の様な奥歯の鈍い痛みだ……と、かがみは思う。

ボディアッパー。続けて、がら空きのボディへと右のストマックブローをめり込ませる。
ポンプの様に潰された胃から、食道を通じて酸味の強い液体が逆流し舌と鼻の粘膜に嫌な刺激を与える。
気持ち悪さには慣れた。それよりも、胴を持ち上げられて足をピンと伸ばしている格好が恥ずかしい……と、かがみは思う。

ショートアッパー。落ちてきた無防備な顎を拾うように半径の狭いアッパーカット。
ガチンという音と共に半開きだった口が無理やりに噛みあわされ、上下それぞれの歯の付け根にじんわりとした痛みが発生する。
それに加えて、突き抜けた力が額に得もいえぬ感触を残す。それを、カキ氷を急いで食べた時みたいだ……と、かがみは思う。

右フック。頭の真横。耳の上を叩き、そしてそのまま振りぬいて顔の向きを90度以上変える。
耳の中で圧縮された空気が反響を起こし、頭蓋の中を駆け巡り脳を――思考を揺らす。
ブレブレに見える視界に一瞬思考を奪われ、ああ、こういうのはいけないな……と、かがみは思う。

ボディブロー。頭を揺らされふらつき無防備なところへ再度のボディ。今度の狙いはレバーだった。
突然、身体の中に鉄の錘が出現したんじゃないかと思うような感触。決して外に逃げ出してゆくようなものではない痛み。
あまりの違和感に四肢が痺れ身体が砕けそうになる。やっぱり、これが一番クる……と、かがみは思う。

ストレート。一時的な不明の状態へと落し込んだところで、渾身の右ストレート!
ついさっきの様に、再び鉄拳――いや狂拳が、音を立て骨という面を破って頭の中へとめり込む。
目が眼窩の奥へと沈んでゆく感覚に、背筋が凍る。不死と解っていても目や指は怖い……と、かがみは思う。

またしても、かがみはラッドの狂拳によって宙を舞う――……。
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:28:02 ID:HOel26/g
 
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:28:33 ID:mwCGu/V2
 
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:28:34 ID:xFkw83go
 
 ◆ ◆ ◆


ただ嬲られるだけのかがみに、それを見ていた奈緒は居た堪れなさを感じていた。
不運ではあっても自業自得であるし、何よりこれが殺し合いの舞台となればそういった道徳観に意味は無い。
なによりも、自分は一度彼女を八つ裂き以上の目にあわせているのである……が。
それでも女の子が男から一方的に暴力を……、それもとびきりの暴力を受けているというのは目に毒だった。

だが、続けて見て行く内に何か違和感を感じる様になってくる……。
何かがおかしい。どこかがおかしい。その凄惨さに紛れて、何か見落としがあるように思えてくる。
その違和感の根源は何だろうか――?

「(……そういえば、なんでアイツは切られたり殴られるままなんだろう?)」

いや、彼女は不死身と言う点を除けば一切普通の少女でしかない。
しかし、だとしたらなお不思議であった。何で切られたり殴られたりする必要があるのか?
抵抗もできない。相手に対し倒すことはおろか反撃することさえままならないというのに。

「(おかしい……どうして? どうして、あの時も……)」

前回、かがみと相対した時、奈緒は完全に騙され、気圧され、屈服してしまった。
それは不死身という現象に驚いたせいもあるが、彼女には自分達の様に何らかの力があると思い込んでいたせいでもある。
が、結果としてそれはただのハッタリであった。やはり、彼女はただの女の子なのである。

「(……意味が無い。なのに、なんでこんな事を繰り返す?)」

先刻、彼女を発見した時の様子を見るに、またしても誰かに痛めつけられたらしい。
そして、目覚めてからもラッドに対し挑発的な態度を取って、自分を殴らせて……いる?
自棄になっている? 気が狂った? いや、そうでないことは謀られた自分が一番知っている。

「(意味が無い……んではなく、意味があるとしたら……?)」

バキリ――と、乾いた音を立てて暗い宙へと、かがみの口から折れた歯や血が吹き上がる。
何度も繰り返し見た光景。これは、この後地面に落ちると再び彼女の元へと――――!

「――あぁっ!」

驚きのあまり、思わず口から声が漏れる。
目の前で宙にばら撒かれた歯や血は、地面に――落ちず、放物線の孤を描ききることなく彼女の元へと、戻った。
さっきは地面に落ちた。だが、今は落ちなかった。つまり、それは――……。

「(再生する力が強まってる?)」

そうだとするならば、彼女は、柊かがみはそのために――、それは――?
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:28:44 ID:HOel26/g
 
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:29:03 ID:mwCGu/V2
 
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:29:05 ID:z30f9vx4
 
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:29:10 ID:s5KxzG/s
 ◆ ◆ ◆


実際には、柊かがみの身体に起こっていることは不死の身体特有の『慣れ』というものなのだが、
端から見れば再生力が強まっているとしか見えないだろう。
だが、それがどちらだったにせよあまり大差はない。

唐突だが、不死者となった錬金術士の一人に、セラードという老人がいる。錬金術の頂点。全知を目指した男だ。
彼は、他の錬金術士がなし得なかった、いや考えもしなかったある一つの境地へと到達していた。
完全な痛みの克服――である。元々が老体であっただけに、彼は己の道を邁進するのに手段は選ばなかった。
他者だけでなく、己の不死の身体すらも実験の材料として研究と実験を繰り返し、
遂にはマシンガンで蜂の巣にされても全く動じない……そんな身体を手に入れたのである。
彼はこの体質とその狡猾な頭脳で、18人の錬金術士とその何倍もの不死者を『喰う』ことに成功している。

セラードが克服した『痛み』とは何か?
痛みとは――感情である。痛覚の反応を受け取った脳がそれをどう解釈するのか、ということである。
通常、痛覚はネガティブな情報として脳内で処理される。そして、それに伴い脳はストレス回避のために動き出す。
本人が痛覚を避けるために、脳は不安や恐怖という感情を生み出し痛覚を忌諱するよう働きかける。
それが『痛み』という感情だ。

ならば、それを……『痛み』をただの痛覚のままでおかせる為にはどうしたらよいのか?

例えば自分で自分の頬をつねってみるとする。そこに『痛み』はあるだろうか?
いや、無いか、もしくは著しく弱い『痛み』であるはずだ。他人からつねられたのとは格段に低いただの痛覚。
これは痛覚が完全なコントロール下に置かれていることが原因である。
忌諱すべき状況に至ってない故に、脳はその痛覚に対して恐怖や不安という処理を取らない。

同じ程度の痛覚であっても、それがコントロール下に置かれていれば平静を保ったままでいられるのだ。
そして、他からの痛覚も制御できれば……一度経験し、それを正確に測っていれば、それはもう『痛み』ではない。

そして現在、柊かがみもそれと等しい状態へと近づきつつある。
これをいつから彼女が意識していたのか。それは、確かには分からない。
少なくとも、最初にニコラスという男から斬りつけられていた時は考えてもいなかっただろう。
だが、その次の結城奈緒から切り刻まれていた時にはそう考えていたかもしれない。
そして、再びニコラスの前に立った時はどうだったろうか……。
今、ラッドという殺人鬼に殴られているのは……。

皮膚を切り裂かれる痛み――既知。
筋肉を断絶される痛み――既知。
四肢を切断される痛み――既知。
骨を折られる痛み――既知。
内出血を起こす痛み――既知。
肉を潰される痛み――既知。
内蔵を破壊される痛み――既知。

――既知。――既知。――既知。――既知。――既知。――既知。――既知。――…………――既知。

人間は慣れる生き物だと言われる。
瞬間的な負荷には脆いが、絶え間ない負荷に対しては――至極、強いのである。
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:29:55 ID:xFkw83go
 
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:30:11 ID:mwCGu/V2
  
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:30:13 ID:s5KxzG/s
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:30:25 ID:xFkw83go
 
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:30:54 ID:s5KxzG/s
 ◆ ◆ ◆


端から見ていた奈緒がソレと気付くと同時に、ラッドの最後のストレートがかがみを吹っ飛ばした。

今までだったら派手に転がっていただろう。普通なら転がり終えても意識が戻ってくるか怪しい威力の拳だ。
……だが、彼女は堪えた。空中にいる間に回復を済ませ、アスファルトの上に着地して見せた。

「……どういうことだ?」

ラッドがそう呟く。
奈緒は、彼もかがみが狙っていることに気付いたのかと思った。――が、違った。
ラッドの目には不死身の少女は映っていない。彼が見ているのは渾身のストレートを放った己の拳だった。

「……なんだよ。こりゃあ、一体なんの冗談なんだよ?」

誰も見ず、一人ぶつぶつと呟きながらラッドは壁際により、そこに――鉄拳を叩きこんだ。
まるで火薬を破裂させたかの様な音と共に、打ちつけたところから真っ赤な華が広がり、コンクリートの壁に亀裂が走る。
尋常ではない、人間離れしたパフォーマンスではあったが、見ていた奈緒にはそれが何を意味するのか全く解らなかった。

「オイオイオイ……マジかよ。マジなのかよ……」

真っ赤な華は彼の血で、半ばまで埋まった様に見える腕が実はそうでなく、文字通りに破裂していたのだと奈緒は遅れて気付く。
ただの人間であっても身体を犠牲に、全くの手加減。無意識化でかかる様なセーブさえもしなければこんな威力が出せるのかと。
しかし、やはり意味は解らない。何故こんなことを、しかもただの壁に向かって――いや……。


「なんで、俺が不死身になってんだよぉおおおおぉぉぉおおおおおお!!!」


真っ赤な華は萎み、ラッドの右腕がそこに還ってきていた。


 ◆ ◆ ◆


ラッドがそれに気付いたのは、ゆるみきったガキを殴っている最中のことだった。
普通なら、素手で相手の骨を砕く様なパンチを打っていれば、拳も痛めるものなのだ。時には骨が折れ血も流れる。
元々腕はどちらもボロボロだったので最初は気付かなかったが、途中で拳がこれ以上壊れないことに気付いた。

そして、試しに腕をぶっ壊してみた結果。自分自身が何時の間にかに不死者になっていたことを彼は知る。

ついさっきまでは、普通に傷を負いそして今もその傷は残ったままである。
という事は、こうなったのはつい最近のことだろう。ならば、それは――……。

「……あの酒が? 俺を、不死身の………………」

ラッドはつい先刻に地面へと叩きつけた酒瓶の残骸を見る。
ただ地面に転がっていただけの、お世辞にも美味いとはいえないあの酒が……?
そんなわけがない。そんなご都合が、落ちてた酒が不死の酒だったなんて偶然があるわけがない。
そう否定しようにも、不死者となった事実は覆せない。
本当は、あの酒は関係無いかも知れないし確かめようもないが――……、

……――ラッド・ルッソがもう不死者であるということに変わりはない。
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:31:08 ID:HOel26/g
 
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:31:18 ID:xFkw83go
 
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:31:35 ID:Ncg9ohOU
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:31:59 ID:xFkw83go
 
402名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:31:59 ID:HOel26/g
 
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:32:00 ID:mwCGu/V2
  
 ◆ ◆ ◆


更に唐突ではあるが、ラッド・ルッソが現在の様な狂人になった経緯を説明しよう。

彼は幼少の頃より、『人を殺せる』人間だった。
ただの単純な好奇心。人を殺せるのか? それが、彼を人を殺せる人間に変えた。
何ら特別なことがあったわけではない。些か特殊な環境にはいたが、切欠は誰でも一度は思うような単純な事だった。

彼は、自分が人を殺せる人間であることを知ると同時に、それに気付かない大人達に強い怒りを覚えるようになった。
自分だけではない。事故、病気、その他なんでも、世の中にはありとあらゆる死の切欠が溢れている。
だが誰もそれに目を向けようとはしない。目の前の安息が急に途切れることなど考えてもいなかった。

死ぬということはとても恐ろしいことだ。だから、それに対しては真摯に立ち向かわなくてはならない。
なのに世の中の人間の大半はそれを誤魔化して、見てみぬ振りをしている。――それが許せなかった。

ある種の義憤であったとも言える。強い憤りが彼を突き動かす原動力だったのだ。

彼は死を軽んじる者。死に立ち向かわない者。死を誤魔化し見ない振りをする者に自分の怒りをぶつけた。
無理矢理に死を突きつけ、死を実感さえ、死を認めさせ――まぁ、ほとんどはそのまま殺してしまった。

逆に死に向かい合う者を賞賛した。それがどういう形であれ、死を知るものには彼なりの敬意を払った。
そして彼は、死に立ち向かいながらもなお死を望む。そんな儚げで真摯な一人の女性を婚約者とする。

一言で言えば、彼とは人間の限界をよく知る者なのだ。
死という絶対に外せない枷があるからこそ、彼はその中で輝き、その限界へと、天元へと上り詰めてゆこうとする。


そんな彼が、己の中から『死』を奪われたら――?
405名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:32:26 ID:oNY8qE/V
406名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:32:43 ID:mwCGu/V2
 
407名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:32:59 ID:s5KxzG/s
408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:33:05 ID:xFkw83go
 
 ◆ ◆ ◆


おっさん――その禁句を、奈緒は思わず零しそうになった。
そう思ってしまうぐらい、振り返ったラッドの顔から生気が失われていたのだ。

「ありえねぇ……、ありえねぇよ……。おいおい、どーすんだよ、コレは。
 俺が死なない人間になってどうするんだよ。
 これから俺は死ぬことができる人間に対しどう振舞えばいんだよ。
 死なないっつー、人間でもない俺が、死ぬことなんて考えてないユルい人間にどう接すればいいんだよ?」

ラッドの心に宿った、緑色の螺旋が静かにゆっくりと消えてゆく。
彼が立ち向かう者であった故に、その行き先を奪われた心は萎み輝いていたものが色褪せてゆく。

「てめーが死なないのに、お前は死ぬことを考えてないって怒るのは筋違いじゃねぇのか?
 つか、俺が最も嫌悪すべき死ぬことなんか考えてないヤツになっちまったんなら、
 まず俺は俺を殺さなきゃならねーんじゃないのか?
 でもでも、俺死なねーじゃん。自分で自分を殺せねーじゃんかよ。
 どこまで、どこまで、どこまで、どこまでいっても自分を殺し続けるのか?
 いや、これもねーよ。俺には俺を殺す資格が……ねぇ」

輝く意思に支えられていた身体が本来の重さを取り戻す。
骨は軋み身体を揺らし、垂れた血が身体を地へと引っ張る。

「……だったらよ。割り切って死神でもなってみるか?
 自分は絶対死なねーんだけど、人間に死を齎す神様によ――って、冗談じゃねぇ!
 俺は……、俺は……、俺は……、俺は――……」


――だったら、神様になればいい。
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:33:36 ID:z30f9vx4
 
411名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:33:37 ID:HOel26/g
 
412名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:33:37 ID:s5KxzG/s
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:33:52 ID:oNY8qE/V
414名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:33:55 ID:mwCGu/V2
  
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:34:16 ID:EwAZ8scP

 ◆ ◆ ◆


「――だったら、神様でもなんでも、なってやればいいじゃない」

そう言い放ったのは柊かがみだった。
ラッド・ルッソの前に仁王立ちし、強い眼差しで彼を睨み付ける。

「ぐだぐだ、ぐだぐだ……言ってても、こうなっちゃったもんはもう仕方がないのよ!」

瞳の中でグラリと……何かが回り始める。

「わたしは――! わたしは、つかさとこなたが死んだことを絶対に認めない!
 こんな殺し合いも何もかも、絶対に――認めない!」

あの時。妹を下に眠らせる巨大な墓標――水に映った螺旋の観覧車が、再びその瞳の中にあった。

「でも……、立ち止まりもしない。もう、戻ろうとは考えない。そんな無意味なことはもう……しない。
 振り返っても意味はないから……だから、前に進んで、進んで、進んで、進むだけよ。
 どんだけ痛くたって、どんだけ辛くたって――道は前にしかないんだから!」

螺旋は緑の光を増し――あの観覧車の様に、車輪の様に、力そのものの様に、――回る。

「こんなわたしだけど……わたしは辿り着いてみせるわ。わたしの願いが叶うところまで。
 なれるもんなら神様にだってなってやる。神様になってぜんぶ! ぜんぶ! ぜんぶ――取り戻す!
 螺旋王を喰って! わたしは――……」


……――新しい世界の神様になってやる!


「よくぞ言うたな。不死身の柊かがみよ! ワシはその言葉を待っておった!」

宣言を成し遂げ、螺旋力を覚醒させたかがみの後方。電柱の頂に衝撃のアルベルトが立っていた。
かがみは振り返らない。まるで始めからそこに彼が居る事が分かっていたと言うかの様に。

「ならば! まずはその男を手始めに喰らってみせよ!」

応!――と、かがみが……いや、『不死身の柊かがみ』がその命に答えた。
417名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:34:35 ID:HOel26/g
 
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:34:40 ID:xFkw83go
 
419名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:35:14 ID:xFkw83go
 
420名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:35:15 ID:oNY8qE/V
421名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:35:23 ID:EwAZ8scP


 ◆ ◆ ◆


外野の位置で、これまでの一部始終を見ていた奈緒は、未だ自分がここに残っていることを後悔していた。
柊かがみがいるのなら、その相棒である衝撃のアルベルトも近くにいるはずだと、思いつかなかった自分を叱責する。
マテリアライズしたとはいえ、ギルガメッシュを退けた男と互角以上に戦えるとは思えない。
かといって、今から逃げ出せば助かるというとそれも怪しい……。
ただ今は機を待ち、事の推移を見守ろうと――ラッド・ルッソと柊かがみの戦いの終着を見届けようと、そう判断した。
勿論。彼女はそれを後に大きく後悔することになる。あの時、無理にでも逃げ出しておけば、と……。


真っ黒な学ラン姿のかがみが長い髪をたなびかせ、雄叫びと共にラッドへと突進する。
半ば呆けた状態にあったラッドではあったが、所詮は一女子高生にしかすぎない彼女の突進に気圧される訳もなく、
重く垂れ下がっていた右腕を持ち上げ、それを強く握って迎撃の態勢を取った。

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああああああ!」
「――っクソがあああああああああああああああああああああああああああああ!」

バンッ!――という激しい破裂音と共に赤い血がフラッシュの様に広がり、かがみの顔の右半分が夜空に散った。
だが、それでも彼女の勢いは止まらない。
素人である彼女にできたのは、辛うじて直撃を避けることぐらいだったが、もうそれだけで充分だった。
右ストレートを振り切ったラッドにしがみつき――……、

ドンッ!――と、二度目の爆発音。折れたままの左腕からの渾身のボディアッパーが、かがみの身体そのものを浮かせる。


奈緒はその次の瞬間にありえないものを見て、我が目を疑う。
アッパーブロウで浮かされ、空中で『へ』の形になっているかがみと一緒にラッドの身体が持ち上がったからだ。
世の中には作用反作用というものがあり、どんな力で打とうとも、打った者がそれに引きずり上げられることなんてありえない。
しかし、実際に目の前で……と、次の瞬間に彼女はそれに気付いた。

柊かがみが――彼女の右手が、ラッド・ルッソを『吸い上げている』んだと。

打ち上げられた勢いのままにかがみは放物線を描き、それに引き摺られてラッドも宙を追う。
空中でクシャクシャになりながら、ラッドの――ラッド自身のみが血染めの服だけを残し、かがみの手に吸われてゆく。
奈緒がスローモーションで見ている中、かがみはそのままアスファルトに落ち、続けて真っ赤な服がひらひらと振ってきて、
最後に銀色の首輪が地面でキーンという音を立て――その勝負は決着した。
423名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:35:40 ID:Uc/M0PMe
.
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:35:44 ID:s5KxzG/s
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:36:13 ID:oNY8qE/V
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:36:22 ID:EwAZ8scP


427名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:36:26 ID:mwCGu/V2
 
 ◆ ◆ ◆

そして、奈緒は絶賛大後悔中となる。

「な、な、な……、なんなの? ――なんなのよっ!」
「なんだ? ……は、ねーんじゃないの『なおちゃん』よ。『俺』も『わたし』もよーっく、知ってるだろうが。うん?」

あの時と、あの時を合わせて再現。そんな状況に彼女は追い込まれていた。
柊かがみ相手にビビっていた時。ラッド・ルッソ相手にビビっていた時。合わせて、それ以上にビビっていた。
人を吸い込み、そして取り込む。そんな本物の能力を見せられて、さらにこいつがあいつの顔で、ときている。
しかも、目の前の相手だけではなく、その後ろには金ピカを倒した衝撃のアルベルト。

蛇に睨まれた蛙どころか、蛇と狼と虎に睨まれた蛙――それぐらいまでに、彼女はビビっていた。

「まぁ、あの呪いは全然嘘だったわけだけどさ。リボンを解いたら倍返しって約束は守ってもらうわよ?」

拳を振りあげるかがみに、奈緒の身体がビクリと揺れる。
今すぐ飛んで逃げれば助かったのかもしれなかったが、飛べるようになって間もない彼女は緊急時の選択肢にそれを入れ忘れていた。
あの男そっくりのスタイルで拳を構え、かがみはそれを奈緒の顔面へと――……、

――ぽかり☆



「……あれ? あっ、そうかわたしの身体じゃあ、あんな風にはいかないのか……」

殺人鬼とは比べくもない細い腕をまじまじと見ているかがみを前に、奈緒の中の緊張感がユルみ同時に怒りが込み上げてくる。
またしてもこの女は私を謀った。というか馬鹿にしたと。……ついでに、バリアジャケットが覆ってない場所も保護してくれることを。
ともかく、身体の性能が普通の人間のままなら……と思ったところで、かがみの顔が、また……。

「おーおー、今こう思ったろ? 私はこんなヒョロいただの女子高生なんかに負けるわけがない。ってな!」

殺人鬼の笑みをニカっと明るく浮かべると、もう一度かがみは奈緒にパンチを打ち込んだ――ドカン! と。
無防備な胸の真ん中に、拳の先から肘のあたりまでをぶっ飛ばさせる殺人鬼の全力全壊パンチを受けて、
先刻のかがみの様に奈緒はぶっ飛び――壁に叩きつけられ――そのまま気を失い、地面に落ちた。

「…………ツタタタタ。こ、これは、使える……けど、ちょっと痛い、な。ハハ……」

元に戻った腕をさすりながら、不死身の柊かがみは新しく手に入れた力に、笑みを浮かべた。
429名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:37:40 ID:oNY8qE/V
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:37:47 ID:mwCGu/V2
 
 ◆ ◆ ◆


「中々に見事な一撃であったぞ、不死身の」

別れてより数時間ほど、しかしその間に大きく成長した同志をアルベルトは称える。
そして、戦果――『喰った』ものをどの様に得られたのか。計画の根幹を成す、その部分についての説明を要求した。

「うん、ばっちり。こいつはトンデモないやつだけど……記憶も、体に染み付いた癖まで、全部私の中に納まったわ」

それは重畳と頷くアルベルトに、今度はかがみの方が質問をぶつける。
私を散々ぶん殴っていったあのチンピラと、アルベルトと一緒にいたはずの神父の行方について。

「坊主は坊主同士が気が合うのであろう。あの言峰という男は、貴様の言うチンピラを追っていきよったわ」

ふーん。と、かがみは納得する。
今ならあのチンピラに復讐できそうだが、アルベルトが捨て置いたということは計画には無関係ということなので、
それは取りあえずのところ保留にしておく。今はそれよりも遥かに重要な報告があるからだ。

「ラッドの記憶からなんだけど、映画館を選択したのは大正解だったみたい。
 今はそいつらは刑務所にいるらしいんだけど、明智ってヤツが私が持ってたのよりすごいレーダーを持ってる。
 それに他にも色々あるみたいだし、清麿ってやつが首輪の外し方を考えてるみたいなのよ」

ほぅとアルベルトは唸る。かがみの覚醒を機に、計画が具体的に動き出したと、そう感触を得る。
だが、今は事を急く時ではない――。

「もう放送まで間もない、事を起こすのはそれからでもよかろう。
 それよりも……だ。そろそろ虚勢を張るのを止めい。息継ぎをせねば、どこかで溺れ命取りになるやもしれんぞ」

放送が終わるまではワシが守ってやる――その言葉を聞いた途端、かがみはストンと地面に落ち……、


「こ、こ、怖かった〜〜〜〜っ! すんごく痛かった〜〜〜〜っ! う、うぇ……う、うぅ…………ひーん」


……と、久しぶりに彼女自身の声で、泣いた。
そんな彼女を――同士であり、道連れでもある少女を見て、アルベルトはただ――そうか、とだけ答えた。




――後、何にも悪くない(?)のに巻き込まれた結城奈緒は、まだ道の端っこで気絶したままだった。




【B-5/道端/1日目/真夜中(放送直前)】
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:38:09 ID:s5KxzG/s
433名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:38:33 ID:xFkw83go
 
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:38:33 ID:Ncg9ohOU
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:38:44 ID:HOel26/g
 
436名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:38:55 ID:EwAZ8scP


【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、番長ルック(不死の酒&吐瀉物まみれ)、髪留め無し
[装備]:つかさのスカーフ@らき☆すた、ローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     シルバーケープ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:デイバッグ×11(支給品一式×11、[食料×4消費/水入りペットボトル×1消費])、
     フラップター@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル
     超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
     雷泥のローラースケート@トライガン、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、包丁
     テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
     緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、サングラス@カウボーイビバップ
     アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ
     大量の貴金属アクセサリ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
     防水性の紙×10、暗視双眼鏡、首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)
     奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
     がらくた×3、柊かがみの靴、予備の服×1、破れたチャイナ服
[思考]
 基本:螺旋王を『喰って』願いを叶える。BF団員として振舞う
 0:すごく怖かった!すごく痛かった!うわーん!
 1:服……着替えたいな
 2:放送を聞く
 3:その後、アルベルトと共に刑務所に向かい明智達と接触
 4:奈緒はどうしようか……?
 5:今度、ウルフウッドに会ったら全力全壊パンチをお見舞いして恨みを晴らし、千里の仇もとる

[備考]:
 ※会場端のワープを認識。
 ※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
 ※繰り返しのフルブッコで心身ともに、大分慣れました。
 ※ラッド・ルッソを喰って、彼の知識、経験、その他全てを吸収しました。


【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:満腹、右足に刺し傷(処置済み)、スーツがズダボロ
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
[道具]:ディパック×2、支給品一式×2、シガレットケースと葉巻(葉巻-3本)、ボイスレコーダー、
     シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、赤絵の具@王ドロボウJING、
     ガンメンの設計図まとめ、王の財宝@Fate/stay night、ミロク@舞-HiME
     シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、首輪(クアットロ)、黄金の鎧@Fate/stay night(半壊)
[思考]:
 基本-1:不死者(柊かがみ)に螺旋王を『喰わせ』、その力や知識、およびアンチシズマ管をBF団へと持ち帰る。
 基本-2:またその力を使い、戴宗を復活させ、再戦する。
 基本-3:基本-1が達成できないと判断すれば、優勝を目指す。
 0:……………………
 1:放送を聞く
 2:その後、不死身の柊かがみと共に刑務所に向かい明智達と接触
 3:首輪の解除、会場からの脱出、螺旋王への接触……これらの為の情報を集める
 4:マスターアジアと再開すれば決着をつける

[備考]:
 ※上海電磁ネットワイヤー作戦失敗後からの参加です。
 ※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
 ※ですが、アルベルトはドモンについて名前しか聞いていません。
 ※会場のワープを認識。
 ※図書館(超螺旋図書城)のカウンターに戴宗へのメッセージを残しました。
 ※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:39:07 ID:xFkw83go
 
439名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:39:27 ID:oNY8qE/V
440名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:39:39 ID:xFkw83go
 
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:気絶、疲労(中)、胸に打撲、更にかがみにトラウマ
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(ただし食料は無い)
[思考]
 基本方針:とりあえず死なないように行動。
 0:???
 1:ギルガメッシュに刑務所へ向かえと言われたが……
 2:柊かがみ(inラッド)に恐怖
 3:静留の動きには警戒しておく
 4:何故、自分はチャイルドが使えないのか疑問

[備考]:
 ※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
 ※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
 ※博物館に隠されているものが『使い方次第で強者を倒せるもの』と推測しました。
 ※第2回放送を聞き逃しました。
 ※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
442名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:40:13 ID:oNY8qE/V
443名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:40:15 ID:xFkw83go
 
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:40:31 ID:EwAZ8scP


445名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:40:35 ID:Ncg9ohOU
446名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:40:47 ID:s5KxzG/s
447名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:40:54 ID:oNY8qE/V
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:41:14 ID:HOel26/g
 
 ◆ ◆ ◆


「ヘラクレスがいる訳でもないのに、ヒドラの登場か……ふむ」

大怪獣が暴れている様を遠目に、天上に浮かぶ白い月の下で言峰綺礼は放送までの一時を回想に使っていた。
透明な夜風が麻婆で火照った身体を冷まし、同時に思考をクリアな状態へと醒ます。


始まってよりすぐに出会ったパズーという少年。全てを救うと言っていた、もう死んでしまった少年。
誰かの命を奪って叶える願いなどは間違っている――そう答えたのは、これももう死んでしまった八神はやてという少女。
全くもって愚者としかいい様のない少年――間桐慎二。彼もまた程なくして死んでしまった。
ファイト――拳闘により心を通じ合うと言っていたドモン・カッシュ。彼はまだどこかで戦いを申し込んでいるのだろうか。
一度は拒み、結局は槍を持って飛び出したシータいう名の少女。彼女は今どの空を跳んでいるのか。
復讐者。額に傷を持つ男。彼もまた相当の手練であったが、未だにその牙を無差別に振りまいているのか。
虚しさを怒りに転化させ、そして持て余している男。同じ神職につく彼は、今ヒドラの目の前にいるはずだ。

そして――衝撃のアルベルト。

簡単に言えば、強く真っ直ぐな人物だ。先を見据え、ただそれだけに邁進できる芯の強さがある。
だがその強さ故に、危うい。正しさを求める故に、自己矛盾が猛毒となる……そんなタイプの人間だ。
そして彼の道行き。この螺旋王の舞台上での生き様はと言うと――。

例えるなら、今の彼は長い梯子をひたすらに上っている――そんなイメージだ。
落ちれば致死は間違いのない高さだが、梯子は頑丈で、迷いのない彼がそれを登ることに危うさはない。

多くを語らぬ男ではあったが、分かったのはすでに取り返しのつかない何かを失っているということ。
迷いがなく上だけを向いているのは、下を向けばそれが恐れに繋がると知っているからだ。

そして、彼にとって梯子となるのはあの柊かがみという少女。彼女が彼を目的地まで導くレールとなっている。
故に彼は彼女の強さを確かめた。決して最後まで折れないであろう強さを。
確かに強い。それは目の前で証明されたが……彼女もアルベルト同様だ。向うから見れば彼が彼女の梯子となる。
互いに強さを信頼し合っている。そう言えば、綺麗だが……結局は共依存だ。
どちらかが欠ければ、もう片方の墜落も免れない……もっとも、それはあまり面白みのない結末かもしれないが。

逆に面白みを感じるとしたならば、次の項目――梯子の行く先。ここに不安を混ぜることだろう。
やはり具体的には語りはしなかったが、大よその検討はついている。狙っているのは螺旋王の力なのだろう。
なので、一本目の楔をそこに打ち込んだ。

――梯子は足りているのか? と……。

彼らが切望しながらも一番目を背けている所。彼らの計画がそもそも螺旋王に届くのか……という指摘だ。
通常においては到底手を組むはずの無かった者同士が互いの手を取ったのは、いわば緊急避難措置の様なもの。
幻想を真実と見なして、互いに励ましあう――でなく、傷を舐めあっているだけ……。

追い求めていたものが幻想だったと知った時、あの二人は長い梯子の頂上で何を思うのか?
そこから二人でまた降りてゆくのか、動けなくなるのか、はたまた奇跡を信じて宙へと飛び出すのか……?


たった一日でもう8人。そして、それぞれが個性的でありまた上質な存在だった。
自分がここでどこまで生き残れるのかは分からない――が、最後まで退屈しないだろう。そう、言峰綺礼は月下で笑った。




【C-5/映画館近く/1日目/真夜中(放送直前)】
450名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:41:33 ID:Ncg9ohOU
451名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:42:02 ID:cpLa/3jQ
452名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:42:44 ID:EwAZ8scP


453名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:42:51 ID:HOel26/g
 
454名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:42:52 ID:Ncg9ohOU
455名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:43:09 ID:s5KxzG/s
456名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:43:12 ID:oNY8qE/V
457名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:43:15 ID:xFkw83go
 
【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:満腹、左肋骨骨折(一本)、令呪(六画)
[装備]:飛行石@天空の城ラピュタ
[道具]:デイパック、支給品一式(コンパスが故障、食糧一食分消費)、麻婆豆腐の材料(10人分)
     エドのコンピュータとゴーグル@カウボーイビバップ
[思考]:
 基本-1:観察者として苦しみを観察し、検分し、愉悦としながら、脱出を目指す
 基本-2:麻婆豆腐の美味さを広める
 0:放送を聞く
 1:ウルフウッドを追い、映画館へと向かう
 2:シータやスカーなど、一度切開した相手の行く末を見てみたい
 3:ギルガメッシュを探す

 [備考]
 ※制限に気付いています。
 ※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
 ※会場がループしていることに気付きました。
 ※シズマドライブに関する考察は以下
   1.酸素欠乏はブラフ、または起きるとしても遠い先のこと。
   2.シズマドライブ正常化により、螺旋力、また会場に関わる何かが起きる。
 ※令呪は、膨大な魔力の塊です。
 単体で行使できる術は、パスを繋いだサーヴァントに対する命令のみですが、
 本人が術を編むか礼装を用いることで、魔術を扱うにおいて強力な補助となります。
 ただし使えるのは一度限りで、扱い切れなければ反動でダメージを負う可能性があります。
 人体に移植される、魔力量が桁違いのカートリッジとでも認識してください。
 効果の高さは命令実行に要する時間に反比例します。
459名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:44:12 ID:HOel26/g
 
460名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:44:21 ID:xFkw83go
 
461名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:44:22 ID:s5KxzG/s
462名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:45:19 ID:Ncg9ohOU
463名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/29(土) 12:36:12 ID:ieb9YqK5
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ! 死亡】

が抜けているような気がしますが、いいのかな?
464名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/29(土) 16:54:47 ID:JU1VyTNB
それに加えて、柊かがみの状態に「螺旋力覚醒」を入れるべきでは?
465名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/29(土) 21:22:38 ID:6yO1Jcvd
またらせんりょくか
466名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/29(土) 21:24:40 ID:9uOKUFLC

















kuradane
467名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/01(火) 00:20:08 ID:3O4VQ2tJ
ねーねーママ、くらだねってなぁに?
468名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/01(火) 01:25:49 ID:iV/3vpob
とゴキブリ
469天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:18:10 ID:K6RQ9q0p
「チッ…………なんなんだよ、ここは」

足を踏み入れた白き建物。
ひっそりとしたその佇まいは本来ならば不眠不休の施設である「病院」としては明らかに異様だった。
静か、過ぎるのだ。
咽るような薬品や消毒液の匂いなど、まるでスパイクには感じられなかった。
鼻腔を擽るのはうっすらとした血の、臭い。
そして明らかに先に訪れた人間達が争い合ったと思われる跡がそこら中に散見出来る。
それは、白亜なる冥府だった。混沌を携えた闇の居城だった。

カツカツ、とリノニウムの床を硬質な音を立てながらゆっくりと歩く。
両手はズボンのポケットの中へ。背筋は若干猫背気味で、瞳は気だるさを携えた半開き。
見る人が見れば――例えばカレン・シュタットフェルトのような――こんな状況で相応しくない、気が緩んでいる、無用心だ!などと激昂するだろう。

もっとも、今やその少女は物言わぬ亡骸と化した。
男、スパイク・スピーゲルの目の前で彼女は宿敵であるビシャスにその命を奪われたのだ。
カレン・シュタットフェルト――いや、紅月カレンはもう、この世にいない。
彼女は、最後まで自身の意思と信念を貫くために生き続けた。そして必死に足掻いた。
スパイクから見れば彼女ぐらいの年頃の女などはあくまでじゃじゃ馬、最も扱いにくい部類に属する相手である。
しかし彼女は幼いながらに、理想のために戦う一人の戦士でもあったと言えよう。
最期の一瞬まで自らの指導者であるルルーシュのために戦い抜いたその覚悟に、自分は敬意と尊厳の意を持って応じなければならない。
スパイクはそう、強く思っていた。

人が死んでいく光景には慣れている。そしてソレは常にやり切れないことだ。歓迎など出来る筈もない。
だから人一倍スパイクは理解している。死者に対する、最大の礼儀というものを。

「……どなたか、いらっしゃいませんか、と」

虚しい響きは闇の中に溶けていく。
ひとまず、このフロアに他の人間の気配はないようだ。しかし安心は出来ない。
いかに病院という特別音が反響しやすい建物だとはいえこれだけの規模の建物だ。全ての場所に気が回る訳でもない。

面倒だ、とスパイクは思った。
ビシャスの日本刀が切り裂いたのは左の肩と太股。
致命傷には程遠く、応急手当さえしっかりすれば支障なく動ける傷だ。
傷の深さで言えば明らかに、ビシャスの方が完全に上。完璧にこちらの弾丸は奴に命中した――命を奪う、ためには十分過ぎるほど完璧に。

自分が医者だったなら奴の傷を見てこう判断しているだろう。
「どこでこんな怪我を!?もう数時間も持たないような重傷だ!!」と。
立っているだけ、寝ているだけでも十分に一つの生命を食い尽くすには十分過ぎる筈なのだ。
こんな状態から快復したら、世の中に医者なんて必要ない。普通、ならば。


残念なことに、自分は常識的な理性と医学の知識に基づき、患者へと死を宣告するドクターではない。
あくまで、一介のカウボーイ。しがない賞金稼ぎの「スパイク・スピーゲル」に過ぎないのだから。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから、医療の学術的な蓄積も人体の限界なんかも知ったこっちゃない。

470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:18:42 ID:M73de/l2

471天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:18:57 ID:K6RQ9q0p
つまり、俺だけが自信を持って断言出来る。ビシャスは――生きている、と。
決してつまらない理由で奴はくたばったりはしない。
俺の背後を闇を蠢く蛇のように付き纏い、息の根を必ず止めに来る。

確固たる証拠がある訳でもなく、自分に未来を予知する力がある訳でもない。
この判断を生み出す要因、それは結局は勘や予感といった曖昧な感覚なのだから。
だが俺は確信している。
ビシャスは、俺との決着をつけるため――いや『この命を奪う』ために。

――必ず、もう一度俺の前に姿を現す。


スパイクの手は自然と煙草を探す。
喫煙者というのはそういう生き物だ。知らず知らずのうちに、煙草を求めてしまう。

とはいえ、一日が経過しようとしている今現在であっても、彼の手元には未だ一本のシケモクすらなかった。
ヘビースモーカーであるスパイクにとって、一日近くあの煙を吸い込んでいないのは耐え切れないことだ。
そもそも、この空間には煙草という物体が存在しないのではないか。
ソレならば自分は誰に殺されるのでなく、独りで死ぬことさえ出来るかもしれない。


「……なんて、な。笑っちまうぜ、おい」


その時、だった。


――ぉ……ぉ……ぉ……


「……あ?」


訳の分からない『声』が聞こえて来たのは。

雑音?
幻聴か何かか? 水の音? 風で壁が軋む音? なんだ、コイツは。
誰かがディスクの再生ボタンを掛けっ放しで外出でもしてるのか?


472天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:19:28 ID:K6RQ9q0p
――ぉ……ぉ……お……お!!


「違う……な」

これは、人の……若い男の声だ。っつても何でこんな声出してんだ?
まるで怨霊の呼び声だぜ、こりゃ。病院、っつー場所を考えても、明らかに只事じゃねぇ。
そもそも、だな。
大の男がここまで取り乱すような事態って何だ?
あくまで、聞こえて来るのは単純な咆哮だ。とはいえ生半可な心持じゃあここまで悲しみに満ちた叫びにはならない。

声は院内の奥、どうやら病室の一つから響いて来ているようだった。

何があった?
こいつはまるで、呪詛の言葉だ。怨嗟と憎しみ渦巻く心からの叫びだ。
全くもって理解不能と言わざるを得ないだろう。こんな危険な場所で、何を考えてやがる?

「……ったく。BGMとしちゃあ、最低だな」

スパイクはズボンのポケットに突っ込んでいた両手を引き抜き、懐に忍ばせたデザートイーグルを握り締める。
更に声は大きくなる。
ボリュームの調整を間違えたラジオのように、その叫びは消えることなく空気をたゆたう。
この奥に居るのが誰であろうと、放って置く訳にはいかない。
なにしろ、自分自身が追われてる身だ。
こんなに大っぴらに泣き叫ばれては「早く見つけてください」と宣伝しているようなものだ。

殺し合いに乗った人間ならば、ソレ相応の処置を。
ただ泣いてるだけの馬鹿なら一発ぶん殴ってでも、黙って貰わないとこっちが困る。

……おいおい、声から察するにアンタも結構歳の行った大人の男だろ? 
ビービー喚いてんじゃねぇよ……みっともねぇ。


 □

473名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:20:03 ID:LCckRfbK
474天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:20:37 ID:K6RQ9q0p
病院の一室にその男はいた。
中は暗いままなので、よくは見えないが床に膝を付き、すすり泣くような吼えるような、何とも言い難い声を上げている。
院内へと入った時にどうして自分がコイツの存在に気付かなかったのか不思議なくらいだ。
病室に備え付けられたベッドや机などに当たり散らしたのだろうか。それとも、この部屋の中で戦闘が行われたのか。
ガラスの破片や打ち倒された家具などが散乱している。

まぁ、それ以上に眼に入るのは……死体だ。
見なくても分かる。この胸がムカムカするような噎せ返る臭い。
気密性の高い室内から肺に吸い込まれる血液の強烈な臭気。
死んだのだろう。おそらく、この男の仲間か友人が。

「おい、アンタ。いい加減、泣き喚くのは止めにしようぜ」
「な……に……?」

俯いていた男が振り返る。
全身に残る鋭利な刃物で切り裂かれたような傷跡。

……何歳だ? 少なくとも二十歳は超えているように見えるが。案外、もう少し上なのかもしれない。
精巧な身体つきに明らかに多くの場数を踏んでいることが散見される強い眼差しが印象的だ。
とはいえ、今、彼から感じられるのは身を焦がすほどの激しい――憤怒。

スパイクは瞬時に感じ取る。
ああ、これは演技でもなんでもない。生のままのヒトの感情だ、と。


「……っと、邪魔しちまったみたいだな、謝るよ。でもな、ちょっとばかし静かにしてくれると嬉しいんだがな。
 ここに長居するつもりはないがこっちも一応、追われている身でね」


右手の指を一本だけ立てて、唇とくっ付ける。そういう意味のジェスチャーだ。
声を掛けた時点で十中八九、男が殺し合いに乗った人間ではないとの当たりは付いていた。

地球に伝わる伝承に『ローレライ』という怪物についての話がある。
なんでもその怪物は身体の半身は天にも勝るような美しい女、そして半身は尾びれの付いた魚なんだと。
頭からつま先まで見ちまえばそりゃあ、ゲテモノさ。ただ、この女の怪物はとんでもなく歌が上手い。
その歌声で引き寄せられて来た船乗りを襲う、という寸法だ。

が、その言い伝え同様、この赤い服を自身の血で黒く染めた男が自分を『誘き寄せた』とは到底思えない。
こいつはおそらくただ吼えていただけだ。
おそらくお仲間の死体と遭遇して頭に血が昇った、って所か。それにしては少しばかり、様子が異常な気もするが。
……まぁ、悲しむ理由なんて他人が理解してどうこう、ってもんでもない訳で。
475天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:21:11 ID:K6RQ9q0p
「お前……いつから、ここに……?」
「ここ? 俺が入って来たのはついさっきさ。……というか、本当に全然気付いてなかったんだなアンタ。
 そんなに無防備でよく今まで生き残って来れたな。誰かに守って貰っていたのか?」
「さっき……? じゃあ、見た……のか!?」
「……あ? 見たって誰を――」
「答えろ!! 舞衣を、舞衣を見てないかっ!? 彼女は何処へ行った!?」

男がガバッ、と突如身体を起こし、スパイクの両肩を掴んだ。
スパイクは思わず眉間に皺を寄せて、男の双眸を覗き込む。

理由は二つ。一つは予想以上に男の身のこなしが俊敏で、そして力が強かったということ。
彼がビシャスのような殺し合いに乗った部類の人間ではないことは半ば確信していた。
とはいえ、怪しい動きをすればいつでも銃を発射出来るように警戒は怠っていなかった、筈だ。
しかし、結果はどうだ。俺は見事にコイツに肩を掴まれちまった。
撃とうと思えばギリギリ間に合うタイミングだったとはいえ、どうも頭の悪い素人って訳でもなさそうだ。

二つ目は単純な疑問。つまり『舞衣って誰だっけ』という自身への問い掛けの現われである。
こちらは名簿にはあった……筈だ。確か生存もしている。
が、少なくとも面識はない。


「分かった分かった! 応えてやるから、アンタは落ち着けって。あともう少し声を小さく、な」
「落ち着け……だと!? これが落ち着いてなどいられるか!! ラダムが……ラダムが舞衣を……!!」
「ラダム?」


男は今にもスパイクを置いて飛び出していってしまいそうな剣幕でがなり立てる。
今まで土葬された屍人のような叫び声をあげることしか出来なかった

ラダム、ね。少なくとも名簿の中にそんな名前は無かったと思うが。
いや……もしかしてコイツはアレか?
また厄介な広い物でもしちまったのか、俺は?


 □

476名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:21:25 ID:LCckRfbK
477名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:22:00 ID:M73de/l2

478名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:22:56 ID:ZR9D+STw
 
479名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:23:15 ID:M73de/l2

480天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:23:26 ID:K6RQ9q0p
「そいつは……災難だったな」

呟いたスパイクは数秒後には自責の念に囚われることとなった。
「いや、ここでその台詞はいくらなんでもタブーだろ」という思考が湧き上がって来たのだ。

自分はこのDボゥイという青年(なんとてっきり誤解していたがまだ十八歳らしい。つまりルルーシュやカレンと一つしか違わないのだ)と出会ったばかりだ。
故に彼の口から吐き出される嘆きや彼を覆う過酷な境遇、全てを客観的に受け止めることが出来る。


彼の運命はまさに《悲惨》の一言で集約することが可能だった。

守ってみせると心に決めた相手を実の弟に攫われる。
すぐさまロボットと戦い、苦戦の末にパイロットの少女(これが舞衣、らしい)と何とか和解出来たと思ったら、そこを恐ろしい腕前の武道家に強襲される。
全力をとした攻撃も容易く回避され、ボロボロの身体を引き摺ってその少女と共に逃げ出す。
が、次に遭遇した殺人鬼の男が別れた弟を殺害していたことを告白される。しかも、笑いながら。
憎しみに我を忘れて、そいつを殺そうとするも呆気なく返り討ち。
極めつけが、自分を看護してくれていたその少女が《ラダム》とか言うミュータントに洗脳されて殺され掛かる。
そして、この病室で弟の首なし死体を発見した……と。

「………………」
「……悪かった。気安く理解者面出来るような問題じゃないな」
「いや……構わない。単純に俺の、力不足だ。……クソッ!!」

Dボゥイが頭を垂れて自身の膝を力強く殴り付ける。
その形相は何かに追われているように切迫し、瞳は憎しみで濡れている。
言葉だけでも取り繕えるようになっただけマシ、と言った所だろうか。

さすがに死体が寝転ぶ病室で話をするのは躊躇われたため、スパイク達は一階にあるロビーに移動した。
暗い院内に他の人間はいないらしく、どうやら高嶺清麿もとっくに移動した後らしかった。


「力、か。Dボゥイ、言っておくがそんなもんを求めても碌な事にはならんぞ」
「……分かっている。いや、力を求める代償について、俺は……他の誰よりも深く理解しているつもりだ。……だが、」
「退く気はねぇって事かい。…………しょうがねぇな。おい、持ってけ」


スパイクは小さく舌打ちをすると、懐から小さな香水のような物を取り出しDボゥイに向けて放り投げた。
放っておいてもコイツは必ず無茶をする。かといって叱り付けても絶対に聞かないだろう。

「……これは?」
「言っておくぞ。このクスリ――ブラッディアイは、本当にアンタが覚悟を決めた時にだけ使え」

不思議そうな顔でDボゥイは掌の中の赤い小瓶を眺めている。
それは、回収したデイパックの中に入っていた支給品の一つである違法麻薬レッドアイの最上級品"ブラッディアイ"だった。
スパイクもこんなものを人に使わせたくはなかった。
だが、これが殊殺し合いという舞台においては非常に強力な武器と成り得ることも事実だった。
481名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:24:16 ID:ZR9D+STw
  
482名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:24:20 ID:M73de/l2

483名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:24:26 ID:LCckRfbK
484名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:24:43 ID:YCC398cZ
支援
485天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:24:55 ID:K6RQ9q0p
ブラッディアイは特別な器具を用い、眼球に直接吹き付ける形で使用する麻薬だ。
麻薬特有のトリップ感や神経の鋭敏化、意識の高揚、幻覚症状なども勿論ある。
が、ブラッディアイが持つ特別な効果といえば、やはり爆発的なまでの『動体視力の強化』にあるだろう。

これはビデオカメラのスロー再生機能を考えて貰えれば分かりやすい。
高名なスポーツ選手が「ボールが止まって見える」と自らの調子の良さを語ったことはあまりにも有名だ。
そう、この薬品は使用することで相手の動きが極端にゆっくり見える訳だ。
特に格闘戦におけるメリットは数え切れない程で、銃撃戦やどんな戦いであっても有利に事を進められる筈だ。

「使う時は眼に吹き付けるだけでいい。ああ、ちゃんと両目に使えよ。……こんなもん、使わずに済むのが一番なんだがな。
 効果は分かり易く言えば『何もかもが止まって見える』って所か。効果の程は保証してやる。ただな――」

当たり前のことだが、ブラッディアイには多くのデメリットも存在する。
まず極めて純度の高い麻薬であるため、服用した人間に対して多大な依存症を引き起こすこと。
つまり、過度の使用によっていとも容易く麻薬中毒を発生させる可能性があるのだ。

加えて挙げられるのが効果時間の減少だ。
初使用時は一時間程度だが、使えば使う度効果時間は短くなり、最終的には数分しか持たなくなる。
希少性の高い麻薬であるブラッディアイにおいて、これはまさに悪魔の如き特性と言える。

「ああ、分かってる。使いどころは俺が責任を持って決めろ、そう言いたいんだろう、スパイク?
 言われるまでもない。俺には、やらなければならない事がいくつもある。そのためには……手段を選べない」
「あ、いや……そういう事、じゃなくてな」

Dボゥイはグッと拳を握り締めた。
その顔付きは先ほどまでの夜の闇に吼えていた男とは比べ物にならない。
だが、彼を突き動かす衝動はあくまでラッド・ルッソ、そしてラダムに対する強い憎しみなのだ。
ソレは決して綺麗な動機などではない。
凄惨で陰湿で、暗澹とした悪意に満ちた感情なのだから。


「色々と、迷惑を掛けてしまって済まなかった。大分……落ち着けたと思う」


言葉とは裏腹に、Dボゥイの眼は今にもここを飛び出したくてウズウズしているようにスパイクには見えた。
想像を絶するような憎しみ。まるで、少し前の自分を見ているような気分だ。

……渡すべきじゃなかったか? ブラッディアイ。
普通の人間なら、一度使えばこの薬のヤバさにはすぐに気付く。
それだけ強力なのだ、コレは。下手に使えば最悪、廃人にだってなり兼ねない。アシモフみたいに完全に正気を失う可能性だってある。
が、目の前の男はこれが明確なドラッグである事実を突き付けても、必要ならば何度でも使い続けるだろう。
刹那的、というか何と言うか。ここまで来たら『ヒーロー体質』なんて笑い飛ばすのも無理だな。
自らを真の意味で犠牲にして戦うことに慣れているような、そんな印象だ。

486天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:25:29 ID:K6RQ9q0p
――何のために戦い、そしてどれだけ自分を犠牲に出来るか。


それは人それぞれが違った尺度を持っている。
自分もビシャスを殺すためならば、何だってやる――そんな覚悟を持っている。いや、持っていた。

「……行けよ」
「何?」
「その舞衣、って娘を助けたいんだろ? だったら、ここで俺なんかとお喋りしている暇なんてない筈だ。違うか?」
「あ、ああ……それは、そうだが……」
「アンタの探し物は……他に小早川ゆたか、テッククリスタルだったか? そっちも探しておく。安心しろ」
「いや、だが……そんな」
「だったらさ、」

こちらの探し物はビシャス。だが、奴を自分で殺すことに拘っている訳ではない。
死神は誰であろうと平等に死を運ぶ存在だ――誰によって断罪されようと、自分にはそれを咎める権利はないのだ。

Dボゥイは一方的にこちらへと世話になることを躊躇っている印象を受ける。根が真面目なのだろう。
そんなこいつをここまで復讐へと駆り立てる原因に是非ともお眼に掛かってみたい所だ。
自分とは明らかに目的が違う。別々に行動した方がどちらのためにもいいだろう。


「Dボゥイ。アンタはついでに煙草でも探してくれればいいや」
「……煙草、だと」
「ああ。出来れば銘柄も指定したい所だが、贅沢は言わんさ。俺は図書館を目指す。
 さっき言った連中と会ったらよろしく言っといてくれ。お前も、気が向いたら来てくれて構わん」
「……ああ」


この時、ようやく張り詰めていたDボゥイの表情が若干和らいだ。
……ったく、会うガキ会うガキどいつもこうだ。
どいつもこいつも一人前の面しやがって。何でもかんでも自分だけで抱え込むって年頃かよ。お前らは。


 □
 
487名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:25:33 ID:M73de/l2

488天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:26:04 ID:K6RQ9q0p
「……行ったか」 

スパイクは裏口から走り去っていくDボゥイの背中を病室の窓から見詰め、小さくぼやいた。
予め、ビシャスがやってくる可能性があるため、表通りは使わないように忠告しておいたのだ。
Dボゥイはほぼ丸腰に近い状態だ。
さすがに強力な重火器で武装したビシャスを相手にするのは難しいだろう。


スパイクは小さくため息をついた。心配事はいくつもあるが、今回の原因は拾った支給品についてのものだった。
そろそろ自分も動き出さなければならない。
幸先の良いスタートのために、それなりの祝儀が欲しかったのだが結局どちらも不発だったのである。

ジンが回収して来たデイパックに入っていた支給品は二つあった。
一つはブラッディアイの小瓶。これが二個。
常習性のある麻薬だけに、予備も必要ということか? 
もし本当にそうならば螺旋王とやらは最高にイカれた性格をしている。

そしてもう一つが、

「懐かしいねぇ。太陽石、だったか」

ジェットがやけに肩入れしていた宇宙風水師の娘・メイファが探していた『太陽石』と羅盤のセットだった。

ビバップ号の時と同様に、中心に太陽石をはめ込んだ風水羅盤は妙な回転を見せている。
残念ながら風水に関する深い知識がある訳でもないスパイクには、まるで意味が分からない。
そもそも、コイツはいったい何処を指し示していると言うのか。
『太陽石は他の太陽石と惹かれ合う』と言っていたが……こんな役立たずが二つもあるというのだろうか。
そうだ、丁度図書館に行くのだから何か参考になる本があるかもしれない。

「ん……?」

ふと、スパイクが部屋の中を見回すと中に小汚い紙切れが落ちているのを見かけた。
明らかに清潔感溢れる院内とは不釣合いな黄ばんだボロ紙だ。
窓が開けっ放しだったことから察するに風に吹かれて飛び込んで来たのだろうか。何気なく拾い上げる。

「…………いるのか、ここにも」

スパイクはクックッと小さく笑うと、その紙切れの中で馬鹿笑いを浮かべる男の顔を指先でパチンと弾いた。

そう、自分はカウボーイなのだ。
カウボーイとは、それつまり『賞金稼ぎ』のこと。
多額の賞金が掛けられた悪人を取っ捕まえて、ソレに見合った報酬を得る。何とも阿漕な仕事だ。

生還するため、脱出するため、自らの過去を清算するため――

必死になるのは当たり前である。何一つおかしな所はない。
だがビシャスとの因縁は奇妙な形で終わりを告げた。
そして、それは今となっては単純な命の取り合いへと発展を遂げたのだ。

もはや自身はレッドドラゴンとは無縁の存在。単なる、ちっぽけなカウボーイだ。
ならば、少しだけ。
今現在のスパイク・スピーゲルと向かい合ってもいいのではないか。
……そんな、気分になってくる。


月は爛々と輝き、未だ夜は明けない。
天国は粉々に砕け散り、楽園を追われた男は堕天使へと身を落とした。
扉はどこにも見当たらず、冷たい風が頬を擽る。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード――在り得ない額の賞金が掛けられた男の顔をもう一度眺め、スパイクは口元を歪ませた。
489天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:26:24 ID:K6RQ9q0p
【D-6/病院/一日目/真夜中(放送直前)】

【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(小)、心労(小)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(全て治療済)、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:デザートイーグル(残弾4/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式×2(-メモ×1) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター、軍用ナイフ@現実、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン
[思考]
1:カミナを探しながら映画館もしくは卸売り市場に向かい、ジン達と合流後図書館を目指す。
2:準備が出来たら、今度こそビシャスを完全に葬る。
3:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
4:小早川ゆたか・鴇羽舞衣を探す。テッククリスタルの入手。対処法は状況次第。
5:ジェットの肉抜きチンジャオロースが恋しい。
6:賞金首……ね

[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
 (周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※Dボゥイと出会った参加者の情報、Dボゥイのこれまでの顛末、ラダムについての情報を入手しました。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガンは最初に飛ばされた紙切れのうちの一枚です。



【ブラッディアイ@カウボーイビバップ】
違法目薬レッドアイの最上級品。
元はゲート工事で発生する病気用の医薬品であったが、現実空間で使用すると異なる感覚が持てるため、それに目を付けたマフィアがドラックとして流通させている。
使用方法はアンプルの詰まっている薬品を特殊な器具で目に吹き付ける(霧吹きをイメージしてもらえると分かり易い)
効果がある時は瞳が紅く染まる。
使用した人間の動体視力を劇的なまでに強化し、周りの様子が赤く染まる代わりに何もかもがスロー再生のように見える。
よって常人からは在り得ないほどに精密な動作が可能となる。使用者の動き自体が早くなる訳ではないので注意。
しかし、使う度に効果時間は短くなり(本来の効果時間は最初は一時間、最後には数分になる)、ドラックの禁断症状に近い状態にもなる。

【太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ】
時空の歪みを吸収することで、凄まじいエネルギーを秘めた石。50年前のゲート事故の際の月の欠片。
太陽石は同じ太陽石同士、惹かれ合う。
高いエネルギーを掛けることで中に込められた力を引き出すことが出来る。
原作ではゲート内にてスパイクのプラズマカノンを命中させることによって、隠されたゲートの扉を見つけることが出来たが……?


 □

490天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:26:54 ID:K6RQ9q0p
「ブラッディアイ……か。正規の薬品ではない、ということか?」

掌に握り締めた小瓶を見詰めながらDボゥイは呟いた。
男、スパイク・スピーゲルが何かを言い掛けていたことは自身も承知していた。
おそらく彼が話そうとしたのは使用時の副作用について、だろう。
が、あえてその言葉を聞こうとせず、無理やりに話を遮ったのだ。

単純な論理だ。言葉ではなく、身体で、ソレが本当に危険かどうか自分で判断しなければならない。
今の自分にはまともな武器もなく、テッククリスタルもない。
唯一、このブラッディアイだけが特別な道具と言えるのだから。

ならば、突然の事態が訪れた時に躊躇や迷いを引き起こす要素はなるべく切り捨てて行くべきだ。


やらなければならないことは幾つもある。

舞衣を止める。
何処かへ行ってしまったゆたかを保護する。
ラッド・ルッソを殺し、シンヤの敵を討つ。
ラダムをこの手で抹殺する。
テッククリスタルを手に入れる。


自分には立ち止まっている時間など一切存在しない。
ただひたすら戦い続けなければならないのだ。
そして、そのためには……、

「――俺はなんだってやってやる。どんな業を背負ったとしても、何を犠牲にしても」

情報を、手に入れなければならない。

Dボゥイは赤い小瓶を自らの瞳に向けた。
このクスリがどれだけの効果を持つのか、自分はまるで把握していない。
が、それではダメだ。不確かな効用の道具を切迫した舞台で使用することなど出来ない。
スパイクは言った。『本当にアンタが覚悟を決めた時にだけ使え』と。


残念ながら――もうとっくに、俺の心は決まっている。


シュッ、という小さな音。赤い霧。
視界が紅に染まる。
広がる全てが血の色に見える。

漆黒の闇も、黄金の月も、白銀の星も――何もかもが。



【D-6/病院裏通り/一日目/真夜中(放送直前)】
491名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:26:54 ID:ZR9D+STw
 
492天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- ◆tu4bghlMIw :2008/04/02(水) 20:27:14 ID:K6RQ9q0p
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済)、激しい怒り
    左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
    ブラッディアイ(両目)、ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量90%)@カウボーイビバップ
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1-A:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
1-B:ゆたかと合流し、守る。
2:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
3:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
4:ラッドをこの手で殺す。
5:煙草を探す
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。初回は約一時間。


493名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 20:27:22 ID:LCckRfbK
494W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:28:48 ID:f07YI/G1
「さて」

全員が席に着いたのを見て、明智がバカに神妙な声を出す。
広すぎる会議室の端っこ、そこに寄せ集めた机の小島。
私達はその小さな島を囲んで四人、お行儀よく席についていた。

上座には明智。ホワイトボードを背負って全員を見据え、議長役をヤル気満々。
滲み出るを通り越して溢れ出してる自信が相変わらず鼻につくが、それでも嵌って見えるあたり、流石は天下のエリート様だ。
明智の右には高嶺清麿。目で資料を追いながら、耳ではしっかり明智の話を待ちわびている。
見た目はがきんちょなのに、その振る舞いには何というか、不思議な風格があった。
隙のなさがあった、と言い換えてもいいかもしれない。
やっぱ、プロフィールに天才少年とか書かれちゃう奴はどっか違うってことなんだろーか。
まあ、んなこと言ったら私だって、昔は散々天才天才と持て囃されたモンだけど。
そのさらに右、明智から一番遠いところには小早川ゆたか。こっちは正真正銘、フツーのがきんちょだ。
こういう場にはあんまり慣れてないのか、あからさまに緊張している。
「まじめにお話しなくっちゃ!」って気負いが姿勢からも目線から伝わってきて、何だか微笑ましい。
アニタにもこんぐらいの可愛げがありゃあいいのにと思いかけて、やめた。
そんなこと、今更言ってもしょうがないことだから。
私は明智の左側にいる。

「時間も惜しい、早速始めましょう。
 螺旋王という悪魔が仕組んだこの殺し合い……そこに潜む謎の解明をね」

資料を手に立ち上がり、明智がいよいよ語りだす。
その様は何だかミステリードラマのラストで事件の真相について話す探偵のよう。
ああ、そういえばコイツ本職だったな。
私は一瞬遅れで思い出す。

「高嶺君が得た情報と私達がこれまでに得た情報……それらを総合し、推理した結果、私は一つの結論に辿り着きました」

ごくり、と誰かが唾を飲む音が聞こえた。

「私の出した結論はこうです。
 螺旋王は私達が一人でも多く、この殺し合いからを脱出することを期待している」





私は明智が何を言ってるのか分からなかった。
出てきた結論があまりにも突飛過ぎて「何言ってんだよ」の一言も言えなかった。
だってそうだろ?
あのいけすかないハゲ親父は始めに私達に何て言った?
『お前たちは今から全員で、最後の一人になるまで殺し合うこと』
そう言ったんじゃなかったか?
それがどうしてそういう結論になる?
確かに、螺旋王の本当の目的が殺し合いそのものではなく、その途中にあるってのは分かった。
だけど、いくら何でも『脱出を期待している』ってのは……

横を見ると、ゆたかが私と同じような困惑した顔で私を見ている。
そりゃそーだ。
誰だってこんなことを聞かされればそんな顔になる。
495W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:29:42 ID:f07YI/G1
「……もちろん、説明してくれるんだろうな」

烈火のごとく明智を問い詰めたい衝動をどーにかこーにか理性で押さえ込み、私は声を抑えて訊く。
普段なら喚き散らしていたであろうところを抑えられたのは、今までの明智を見ているからか。

「ええ、もちろんですよ。高嶺君」
「はい」

明智が促すと、清麿はバッグをごそごそやり、中から一つのビニール袋を取り出した。
縛ってあった袋の口を開け、中身を机の上にぶちまける。
出てきたのは、鈍く光を反射するいくつかの金属片と、三つの黒いビー玉。

「えっと、何ですか?これ?」
「分解した首輪のパーツさ」
「!!」
「これが!?」

イメージと違うなというのが第一印象だった。
清麿が病院で死んだ奴の首輪を外し、分解に挑戦したっていうのは私も聞いてた。
てっきり、もっと原型を残した形で外れるもんだと思ってただけに、このバラバラっぷりは予想外だ。

「この首輪はオレが病院に安置してあった死体の首から抜き取ったものだ。
 分解の方法はいたってシンプル」

清麿はそう言うとバッグから首輪をもう一つ取り出して机に置き、空いた手にプラスドライバーを構えた。

「シールを剥がしたところにあるネジにプラスドライバーをあて」

プラスドライバーと首輪を同じ手に持ち、もう一方の手でネームシールを剥がすと、下からプラスの頭を晒したネジが顔を出した。
なるほど、そりゃ確かに盲点だ。シールなんて気づきゃ簡単なことなのに。
映画館の近くで首輪を拾ったときに気づけなかった自分を何だか馬鹿みたいに思いながら、私は手を首の後ろに廻した。
爪をちょっと立てて自分のをひっかくと、そこにも確かな段差。
あー確かにあるわ。
ふと目を上げると、自分と同じことをしているゆたかと目が合う。
何か知らんが恥ずかしい。

「一気に回す」

清麿がドライバーをネジにあてがって左に回すと、首輪はあっけなくバラバラになった。
それが今まで一つのモノだったのが嘘みたいだ。
部品が机に当たる渇いた音が響く。

「なるほど。で、これと螺旋王が私達に脱出して欲しがってるってこととがどう結びつく?」
「せっかちなのはよくないですよ菫川先生。更年期ですか?」
「うっさい!まだ私はそんな齢じゃない」
「それは失礼。では、続きをお願いしますよ高嶺君」
「ああ」

お得意の嫌味で私の追及を逸らした明智が続きを促すと、清麿は右手にドライバーを持ったまま、腕を首の後ろに回す。

「見ての通り、所有者のいなくなった首輪はドライバーを使えば簡単に外れる。
 そのことを知ったオレは次にこう考えた。
 『じゃあ、まだ生きている人間の首に嵌ってる首輪のネジを回したら、一体どうなるんだろう』ってね」

ゆたかの顔色が変わったのが分かる。
私の背中にもゾクっときたものがある。
明智だけがいつもの微笑を崩さずに清麿を見守っていた。
496W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:31:22 ID:f07YI/G1
「それを知るためにはどうすればいいか?簡単だ。回してみればいい。
 こんな風になッッッッ!!!!!」

気合一閃。
清麿はドライバーを力強く掴むと、自分の首輪へ差しこみさっきよりも勢いよく、捻った。
だが、さっきと違ってネジは回らない。首輪もバラバラになったりしない。
歯を食いしばってふんばっている清麿の腕だけが生まれたての子鹿みたいにプルプル震えている。
おい、もうよせよ、私がそう言おうとした刹那

『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』

あの男の声が聞こえた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

同時に清麿が悲鳴をあげる。
体中をびくびく痙攣させて、ドライバーを取り落とし、スッ転ぶ。

「高嶺くんっ!?」
「おい、アンタ、大丈夫か!!?」
「……心配ない」

床に蹲った清麿が腕をあげ、駆け寄ろうとしたゆたかを制する。
清麿は上げた腕をそのまま机の端にかけると、そこを支えに一気に立ち上がった。
多少、まだ足は震えてるみたいだが、その動きはおおむねしっかりしている。
どうやら命に別状はないみたいだ。
私はほっと息をついて、乗り出していた体を元に戻した。

「……知ってたのか」
「ええ。あなた方がイリヤ君を見送りに行っている間に聞きました」
「………………『螺旋力なき者よ』か」
「ええ……私の言ったことの意味、もうお分かりでしょう。
 首輪についたネジを見つけ、回した者に向けて言い放たれる言葉が『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』。
 言い換えればこれは『螺旋力を持たない者が首輪を外そうとするな』ということです。
 つまり裏を返せば――」
「『螺旋力さえあれば首輪は外れる』。そう言いたいってことか」
「フッ、さすがは菫川先生、ご名答です」

明智は目を細め、もったいぶったような含み笑いを漏らす。

「螺旋王は私達をこの区画に閉じ込め、最後の一人になるまで殺し合いをすることを命じました。
 首輪はその殺し合いの間、私達が主催者に歯向かうことを禁じ、また同時に脱走を封じるための枷だったはずです。
 ところが、その枷には何と囚人自らが外すことができるように、わざわざ鍵がつけてあった。
 一方の手で人を閉じ込め、もう一方の手で解放の手助けをする。
 これはとても不合理なことと言わざるを得ません。
 螺旋王はどうしてわざわざそんなことをしたんでしょう?」
「……螺旋王の本当の目的が閉鎖空間での殺し合いじゃないから、か」
「そのとおりです。
 彼の目的は私達を閉じ込めることでも、また、殺し合いをさせることでもない。
 螺旋王の真の目的は殺し合いの過程で生まれる私達の変化を観察することにあります。
 そして、その変化とは螺旋力の覚醒のことを指していると見てまず間違いない。
 ここまではいいですね?」
「ああ。途中こそ違うけど、ここまでの結論はあんたが今までに言ってたのと同じだしな」

そうだ。ここまでじゃ今までと同じ。
『螺旋王が参加者に脱出して欲しがっている』とまではとても言えない。
私が欲しいのはその先だ。
497W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:32:42 ID:f07YI/G1
だけど、明智はすぐには話し出さず、マグカップを取ってコーヒーをひと啜りした。
ずずずという音が静かな会議室にやけにうるさく響く。
いつの間にかゆたかも清麿も元の席に戻り、次の言葉を目線で促す。

「――さて、そうなると問題になってくるのが『一体、螺旋王はどうやって私達の螺旋力を測定しているのか』ということです。
 もし、参加者の一人が螺旋力に覚醒したとしても、それを螺旋王が分からなければ実験の意味がないですからね」
「いや、螺旋王は常に私たちのことを監視してるんだろ?だったら見てれば分かるんじゃ……」
「なるほど。それも一つの考え方ではあります。
 しかし、せっかくの実験です。どうせならばもっと詳細なデータが欲しいとは思いませんか?
 目覚めたか、目覚めていないかという1、0のデータではなく
 どんな人間が、どんなときに、どれくらいの螺旋力を発揮したかが分かるような、詳細なデータがね」
「そういうのがあれば便利だと思いますけど、そんなことできるんですか?」
「いや、まあ、カメラも通さず会場を監視できるかもしれないような奴なんだから、何ができてもおかしくないと思うけど……」
「いいえ、監視に用いられているような超技術や魔法を使わなくても、詳細なデータを知ることはできますよ。
 首輪に計測装置を仕込めばいいんです」

なるほど。確かにそれはあり得る。
いや、螺旋力が目覚めることが首輪を外す条件なら、むしろ、そう考えたほうが自然ですらある。
首輪自身に螺旋力を測る機能がなけりゃ、目覚めた奴を見分けるなんて無理だ。

私は再びすべすべした首輪に手を遣った。
ここから私のデータが逐一螺旋王に送られてるのかと思うと、かなり気分が悪い。
そのとき、金属の表面をなぞっていた私の指がちょっとしたはずみでさっきのシールに触れた。
あれ、ちょっと待て。

「……でも、よく考えたらそれっておかしくないか?螺旋力が目覚めたらこの首輪外せるんだろ?
 せっかく測定するべき螺旋力が目覚めたのに、そのときには取り外し自由ってんじゃ意味ねーよな?」
「『螺旋力が目覚めれば首輪が外せる』というのは単なる比喩でしかありません。
 おそらく、実際にはある人間の螺旋力の数値が一定を超えたときにはじめて首輪が外れる仕組みになってるんでしょう」
「外した奴の螺旋力は測らなくていいのか?首輪外せるってことは螺旋力強いんだろ?」
「確かに一見するとおかしく見えます。
 でも、逆にこう考えることはできませんか。『首輪を外せる人間の螺旋力はもう測定する必要はない』」
「何でそうなる?」
「首輪が外せるほどの螺旋力があればこの実験の対象者としてはもう『合格』だからですよ」
「『合格』ぅ?」

思わず表情が歪む。
んーどうにも明智の話が……分かりそうで分からない。

「菫川先生、こう考えてみてくれませんか」

腕を組んで渋い顔をしていると、これまで黙っていた清麿が口を開いた。

「鼠を迷路に何匹か放り込んで、ゴールまで辿り着けるかを見る実験がありますよね?
 今、オレ達参加者を鼠、迷路をこの殺し合いだと考えてみてください。
 オレ達鼠は生き残るため、必死でこの迷路、つまり殺し合いの中を走り回ります。
 この状況で、オレ達が迷路から出る、つまり、殺し合いから解放されるにはどうしたらいいですか?」
「そりゃあ……ゴールに着けばいいんじゃないの?」
「そのとおり!じゃあ、この殺し合いにおけるゴールって何ですか?」
「えーっと、それは……最後の一人になること……かな?」
「残念だけど不正解。実験者である螺旋王は実験の目的に合うようにゴールを設定するはずです。
 菫川先生、この殺し合いの目的は何でした?」
「……明智の理屈が正しいとするなら、参加者の螺旋力を目覚めさせること……あ、ってことはそれがゴールになるのか」
「正解!じゃあ、最後の問題。螺旋力が目覚めるとオレ達には何ができるようになりますか?」
「何が……って首輪が、あ、ああ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!」

私は思わずのけぞって大声を上げてしまった。
498W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:33:30 ID:f07YI/G1
「ご理解いただけたようですね、菫川先生。
 そうです。首輪を外した参加者はその時点でゲームクリア。
 その人間にとっての実験、即ち殺し合いはそこで終了します。

 この殺し合いは最後の一人を決めるバトルロワイヤルなどではありません。
 螺旋力が覚醒した者から抜けていく勝ち抜けゲームです。
 首輪は言わばその勝ち負けを判定するためのテスター。試金石。
 そうでなければ、螺旋王が首輪を解除できる仕組みをわざわざ組み込んだことの説明がつかない。
 首輪を外した参加者をも交えて殺し合いを継続しようというのはあまりに不合理。
 もし、そのようなことを行おうものなら
 首輪が外れた参加者はたちまちのうちに禁止エリアに逃げ込み、首輪をつけた参加者の手は及ばなくなるでしょう。
 そもそも、首輪なしでも何ら今までと変わりなく殺し合いが進行するなら、始めから首輪などつけないはずです。

 これでもうお分かりでしょう。
 螺旋王は私達参加者が一人でも多く螺旋力に覚醒し、殺し合いから脱出することを期待しています」

立ち上がり、腕を振るって明智が熱弁する。
その姿は数々の難事件を解決してきたエリート刑事のそれにふさわしく、何だかバカに迫力があった。

「……大筋は理解した。けど、一つ質問がある。
 首輪を外せば殺し合いは終わるって言うが、具体的にはどうなるんだ?」
「パターンとしては二つ考えられると思います。
 まず一つは首輪を外した瞬間にこの会場から即座に除外されるパターン」
「即座に除外?できるのか、そんなこと?」
「先生、よーく思い出してください。
 私達はどうやってこの会場まで連れてこられましたか?」
「……そうか!テレポート!」
「ええ。おそらく、あの空間転移を行うための装置がこの首輪には組み込まれているんでしょう。
 首輪が外れる瞬間、もし参加者が生きていればある場所に向けて飛ぶようあらかじめセットされていたとしたら……」
「首輪が外れて大喜びした一秒後には螺旋王の檻の中に逆戻りってわけか。悪趣味だな」
「檻に引き戻された次の行き先が第二の実験場か、解剖台か、それとも別の何かかは分かりませんが
 そのまま元の世界に還してもらえる可能性は限りなくゼロでしょうね」

私はもう一度、首輪に手を触れた。
その感触は前よりも冷たく、不気味。
首輪を嵌められた直後にも感じた、抜き身の刃を突きつけられるような怖気が、今、再び私を貫く。

「……分かった。で、もう一つは?」
「もう一つは、首輪を外し、第一の実験である殺し合いが終了した瞬間、その場で第二の実験が開始されるパターンです。
 この会場から抜け出すには首輪を外すことにプラスして、何か別の条件が必要だと言い換えることもできるでしょう」
「……首輪の解除は第一関門。本当のゴールは別にあるってことか」
「ご明察です。
 それが何なのか、今の時点ではっきりした事は言えません。
 ですが、螺旋王の目的から考えれば、螺旋力に関する何かしらであることはまず間違いない。
 あるいは『エド』君の言っていた『お宝』とやらが、その正体なのかもしれませんね」

私は今までの発言を要約し、逐一手元のメモに書き留める。
まとめていくうち、頭の中で情報が整理されていく。
なるほど。この殺し合いは螺旋王が螺旋力を収穫するための人間牧場ってわけかい。
出来のいいヤツだけさっさと収穫して、出来損ないは競争の末、死ぬに任せる。
ハッ、何とも人をコケにした話じゃないか。
紙の上を走るシャーペンが圧されてギッと鳴った。

499W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:34:35 ID:f07YI/G1



「しっかし、女子トイレが建物に一つしかないってどうよ?
 男女差別も甚だしいっつーか。なあ、ゆたかもそう思わない?」

辛気臭い刑務所の廊下を私とゆたかはとぼとぼと歩いていた。
向かう先は女性用トイレ。
おそらく男囚用だったと思われるこの監獄に一つしかない、女達の、ある意味パラダイス。

「しょうがないですよ。うちの学校の旧校舎とかもそうでしたし」
「はーっ、これだから古い建物は困るんだ!
 しかもあるのが三階ってどういうことよ!?
 普通は来客用に一階に作るだろうが!?」

長いミーティングを終えた私達は一旦解散し、休憩をとっていた。
ほどよい緊張から解放された後っていうのは、どういう理屈か知らないが何かもよおしてくる。
それは老いも若きも変わりはなく……そんなわけで、私とゆたかは女同士『ツレション』と洒落こんでるってわけ。

「……でも、凄いですよね」

私が相も変わらずブツブツ文句を言っていると、ゆたかが急に真面目な声で切り出した。

「ふぇ?何が?」

唐突な話題の変化に思わず変な声が出る。

「菫川先生、凄いですよ。
 あんな風にいろいろ考えて、いろいろ言えるなんて、凄いです!
 私なんて、途中からはついていくのが精一杯で……」
「……別にすごかないよ」
「そんなことないです!
 菫川先生だけじゃなくて、明智さんも!高嶺君も!
 首輪がどうとか、螺旋王さんの目的がどうとか、わたし、考えたこともありませんでした。
 イリヤちゃんだって、一人で怖い人のところに説得に行ったりして、すごく立派……
 ……それに比べたら、私なんて何もできなくて……」

ゆたかの声が曇る。
足取りが鈍くなり、目線は下を向いてしまう。
心なしか、腕も震えているのが分かる。
さっきまでの気楽な空気はどこへやら、だ。

ああ、そうか、と思う。
ゆたかが何を考えてるのか。
ゆたかがさっきの会議に出ていて何を思ったか。
私には痛いほどに分かった。
500W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:35:17 ID:f07YI/G1
「ゆたか」
「……なんですか」
「何もできないのは私も一緒だよ」
「……そんなことっ!」
「本当だよ。
 私は明智や清麿みたいに頭がいいわけじゃないし、イリヤみたいに魔法が使えるわけでもない。
 それに、ゆたかが一緒にいたDボゥイって人みたいに腕っ節が強いわけでもない」

そう、何もできない、何もできてないのは私も同じだから。
だけど……

「でも、菫川先生はちゃんと明智さんのお話についていってました!
 おかしいと思ったところはちゃんと質問したりして。
 それができるだけでも……」
「そんなのは慣れの問題さ。
 私の方が事前に知ってた情報の量が多かったからそれだけ多くのことが言えた。そんだけのことだ」
「でも……」
「でもな、ゆたか」

しゃがみこみ、小さなゆたかの肩に手を乗せて、真っ直ぐ目を見る。
これだけは言わなきゃいけないと思ったから。

「いつまでもできないままでいちゃいけないんだ。
 あんたも、私もね。
 こんな私たちにだって、できることはある。
 今までの自分を振り返ってみな。自分のできること、必ずあるはずだ。
 そいつを見つけて、できるようにしなくちゃ。
 例えば……あんたはイリヤの無事を祈ってやったじゃないか。
 あれだって十分、あいつの助けになってるはずだ。
 だから、もう、そんな顔すんな。…………ほら」

袖口で、零れかけた涙を拭ってやる。
すると、ゆたかも自分が泣きそうなことに気づいたのか、慌てて目頭に手を遣り、涙を拭き取った。

「ごめんなさい、菫川先生。
 何か情けないこと言っちゃって」
「いいって、いいって。
 誰にでも愚痴りたくなることはあるさ」
「それじゃあ」
「ああ、出すもん出して、スッキリしよ」

やっと見えてきたトイレの入り口をくぐり、私たちはそれぞれの個室に入る。
バタンと、ドアの閉まる音が狭い室内に響いた。





(あ〜しかし、私も頑張らなきゃダメだよなあ、マジで)

穿いてたモンをおろし、便器に腰掛けてから、私は大きな溜め息をついた。
ゆたか相手に随分と偉そうなことを言ったが、実際は人のことを言えた義理じゃない。
501W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:36:15 ID:f07YI/G1
(ゆたかの言うとおり、明智も清麿も、イリヤもすごいよ。
 あれだけのことをサラっとやってのけるんだから)

イリヤは危険人物が密集している映画館に自分で志願して行った。
大切な人を救い出し、元の世界での敵を説得するために。

明智と清麿は首輪や各種の資料を研究し、あれだけの推理を展開してみせた。
この後は『エド』とやらが施設に情報を送った方法を調べるつもりらしい。
もし分かれば、同じ方法を使ってさっきの仮説を流し、生き残りの参加者に戦いを止めるよう促すつもりだそうだ。
また、首輪解除の効果をはっきりさせるため、螺旋力による解除を実際に試してみることも検討中。
確かに、首輪を外したら実際どうなるのかがはっきり分かれば、明智の言う『螺旋力を材料にした実験中止』の余地も出てくる。
できることはまだまだあるって感じだ。

それに比べて私はどうか?
多分、私が今やらなきゃいけないことは、螺旋王の筋書きを覆すシナリオを作ることだ。
私の本で奴の計画をひっくり返し、物語をハッピーエンドに導くことだ。
それを実現する小説を書くため、私はもうずっと頭を捻り続けている。
殺人者から逃げながら、明智の話を聞きながら。

でも、ネタが浮かばない。
こういうときに限って、一行たりとも書くべき文章が出てこない。
書きたいものはある。
何かこう、漠然としたものが胸に溜まってウゾウゾしてるのは分かるんだ。
でも、それが言葉にならない。形にならない。

(あーっ、クソッ!!
 これじゃ自分の部屋でパソコンの前に座ってるのと変わらないじゃないか!
 しっかりしろ!菫川ねねね!!)

せっかく一人になれたんだ。
この機会に集中して考えてみよう。

そう思って目を閉じ、意識を集中し、頭をわさわさと掻く。
脳みそのギアを入れ、中身を撹拌し、物語を抽出しようと試みる。
心臓あたりに溜まった情念を、小説という鋳型に嵌めて、吐き出そうと試みる。
試みる。
試みる。
試みる。

――結局私は出すものを出し終わった後も、文章の一切れたりとひねり出すことはできなかった。





錆びかけの蛇口を捻り、水を出す。
手を晒すと、凍るような冷たさだった。

「ゆたか〜」

手を洗いながら呼びかけるが、返事は返ってこない。
どうやら、私がうんうん唸っている間に早々と出てしまったらしい。
そういえば、ついつい長篭りしてしまった気がしなくもない。
502W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:36:50 ID:f07YI/G1
(あ〜〜まずったなー。便秘と勘違いされたかね、こりゃ)

そんな馬鹿なことを考えながら、廊下に出る。
けど、そこにもゆたかの姿はない。
暗く、陰鬱な白い廊下だけが延々と続いている。

「ゆたか?」

待ちかねて先に帰っちゃったんだろうか。
そう思い、明智たちのいる部屋へ帰ろうと、踵を返した矢先。

「きゃっ!?」

というゆたかの短い悲鳴と
金属で殴りつけるような鈍い音が響いた。

「ゆたかっ!!」

私はその音に何か危険なものを感じ、音がした方へとダッシュする。
廊下を行きに来た方向へ少し走り、角を曲がったそこはエレベーターホール。
やはり薄暗いそこには、飾りっ気ゼロのエレベーターが二基あった。
見ると、手前側のエレベーターの扉が開いている。

「ゆたか!?」

閉まりかける扉を手で押さえ、私はエレベーターの中に飛び込んだ。
奥の壁にもたれかかるようにしてゆたかはいた。
誰かに殴られたんだろうか。頭を押さえて体を震わせている。
円錐型のアクセサリが床に落ちてはいたが、おかしなことに犯人の姿は影も形もなかった。

「ちくしょう!どこのどいつだ!?」

激昂し犯人をとっ捕まえてやろうと走り出す。
しかし。

「……待……って、センセ……」

ゆたかの小さな手が裾を掴み、私の動きは止められた。

「大丈夫かゆたか!?誰にやられた!?」
「ちが……うの……私……ころんで、階のボタンが、変に」
「階のボタン?」

その言葉に反応し、ふとそちらを見る。
そこにはあからさまに不自然な大きく、赤いボタンがあった。





頭の痛みが収まるのを待って、私はゆたかにことの次第を尋ねた。

「おい、一体、これはどうなってんだ?」
「先生、心配かけてごめんなさい」

ゆたかが語ったところによると、真相はこうらしい。
503W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:37:22 ID:f07YI/G1
ゆたかは自分の用事を済ませた後、トイレの外でしばらく私を待っていた。
しかし、私が一向に出てくる様子がないので、先に帰ろうと廊下を歩き始めたところ、行きには見逃していたエレベーターを発見した。
薄暗い階段を一人で降りていくことに若干の心細さを感じていた彼女はこれ幸いとエレベーターを呼び、これに乗る。
ところが、一階のボタンを押し、明智たちのところへ帰ろうとしたところで、疲れが出たのか急にめまいに襲われてしまった。
ぐらついた拍子にボタン下の金属板に強く体をぶつけたところ、突然、金属板が手前に勢いよく開く。
板に押されて吹き飛ばされた彼女は壁に頭をぶつけ、悲鳴をあげたところで私が気がついた……というわけらしい。

確かに見れば、行き先指定ボタンの下部にある金属部がごっそりこちらにせり出している。
しかも、せり出した部分の上には、これ見よがしな赤いボタン。
怪しい。
怪しすぎる。
もう、ここまで来るとボタンの横に“Danger”とか入ってないのが逆に不自然だ。

「ゆたか、階段で帰って明智にこのことを伝えてくれ」
「え……菫川先生はどうするんですか?」
「私はこのボタンを押してみる」
「ええ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「しーっ!声が大きい!!」
「で、でも、それって危ないんじゃ……」
「大丈夫。螺旋王の目的から考えて、事故死するような危ないボタンは置いたりしないはずっ!多分」
「多分って!」
「いいから言うこと聞く!」
「あう〜」

何と言うか、我ながら無茶な説得でゆたかを帰らせると、私はボタンに向き直った。
何でこんなことを言ってしまったのかは分からない。
普通に考えれば、明智や清麿に報せ、全員で確認してから動くのが筋だろう。
けど、それをしなかったのは何故か。
あるいは、何もできない自分に焦っていたのかもしれない。
あるいは、好奇心が勝ったのかもしれない。
――あるいは、それは作家としての直感だったのかもしれない。


何にせよ、私は息を吸い込むと迷うことなく手を伸ばし、ボタンを押した。


途端、扉が機械音を響かせながら閉じ、エレベーターは動き出した。

「エレベーターの隠しボタン、ねぇ」

私には奇妙な確信があった。
そう、私にとって、エレベーターの秘密は馴染みのあるものだったから。
神保町の秘密の本屋。
センセーに教えてもらったあの本屋。
センセーがいなくなったあとも、本を買うためしばしば立ち寄ったあの本屋。
エレベーターの秘密、隠された秘密の階といえば、私にとってはあそこしかない。
もしかしたら、あそこのことを知っていたからこそ、私はボタンを押すことを躊躇わなかったのかもしれない。

案の定、エレベーターは地下を突き破る。
本来、あるはずのないより下の階層へと降りていく。

チーンという音が鳴り、扉が開く。
しかし、そこにあったのはあの懐かしい本屋じゃなかった。
そこにあったのは――――闇だ。




504W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:38:12 ID:f07YI/G1
闇。
そこにあったのは一面の闇だった。
手を触れることのできそうな、掬えそうなほど濃い闇。
エレベータは地下を突き破り、地獄に落ちた。
そう言われたら信じてしまいそうなほど、目の前は絶望的な闇だった。

半ば予想していた未来を裏切られ、私の額には冷たい汗が浮かぶ。
ごくりと、唾を飲み込む喉の音さえ響くほど、ここは静かだ。

(な、何なんだよここはっ!?)

今更ながら、懐中電灯を持ってこなかったことを心底後悔する。
取りに帰ろうか、という考えが一瞬、頭を掠めたが、すぐに首を振って否定する。

(あんな無理言って出てきたんだ、ここで引いちゃあ、女が廃る)

我ながら無駄な男気、いや、女気か?と自分で自分に突っ込みを入れつつ、私は足を一歩前に踏み出した。

ふわりと、体が浮く錯覚を感じる。
エレベーターの光が届く範囲を出て、一歩一歩。
踏み込む闇は奈落のそれと多分変わらない。
足を踏み出すごとに、脳が落ちると誤解する。
闇から出ずる危険を恐れて、本能が神経を過敏にさせる。
上下左右どこもが奈落。
動いてないのに落ちている感覚。
歩いているのか、浮いているのか分からない。
手を突っ張って、自分の位置を確かめようと思っても、壁がどこにも見当たらない。

(ぐっ、思ったよりヤバイ!?やっぱ、ここは一遍、引き返して……っ?)

私らしからぬ弱気が体を蝕んだそのとき、闇に塞がれた目が何かを捉えた。

(あれは……何?)

遥か前方。
黒一色に塗りつぶされた視界の中に一箇所だけ、緑の点がある。
その点はまるで闇に潜む怪物の目のように動かず、じっとこっちを見つめている。

怖い、という感情よりも、見たい、という感情が勝った。
私はまるで誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように、ふらりふらりと光に向かう。
幸い、足元は人工的に均されているようで、引っかかるようなものはない。
近づくにつれ、緑の点が徐々に大きく、多くなっていく。
一つだった点が二つに。二つだった点が四つに。
夜光虫みたいだな、と私は思う。
水を掻くと、その軌跡にあわせて光る夜光虫。
その光が増えていく様をスローで再生してるみたいだ。

さらに近づく。
既に緑の光は点じゃない。
何か、明らかに人工の何かが緑色の光を発している。

(これは……何だ?)

私が記憶の底からその答えを引き上げる前に、視界が急に開けた。



505W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:38:45 ID:f07YI/G1
(メロン、ジュース?)

私が始めに抱いた感想はそれだった。
視界一面に、光るグラス入りのメロンジュースが並んでいる。ご丁寧にチェリーまで浮かべて。
美味そうなメロンジュースたちはしかし、重力の法則に従う気がないらしく、巨大な球形の壁にびっしりと貼り付いている。
その中身を一滴もこぼすことなく。
もし、この世にメロンジュースが採れる畑があるなら、丁度、こんなようなものに違いない。
多分、私がはじめに歩いていた闇は廊下だったんだろう。
エレベータとこの球状のデカイ部屋を繋いでたってわけだ。
そしてその廊下は部屋の中でも途切れることなく続いていて、この空間のど真ん中、球の中心に向かって延びていた。
私はその上を導かれるように歩く。

(メロンジュースの海に降り立った美人女流作家……止めた。シュールにもほどがある)

部屋の中に完全に入ってしまい、球の半径を歩く段になってくると、段々目が慣れてきて、周りがクリアに見えてくる。
そうなってはじめて、私は今までメロンジュースだと思っていたものの正体を知った。

(これって確か!!)

私はそのメロンジュースたちを支給品リストで見たことがあった。
忘れるはずもない。
支給品の枠を三枠もとっていて、記述も多かったから印象に残っている。

「シズマ管……」

確か、そういう名前だったと思う。
シズマ博士って人が発明した完全無公害、完全リサイクル可能のエネルギー源、シズマドライブ。
でも、それには重大な欠陥があって、使い続けると、ある一定の時点で地球上の酸素を全て破壊しつくしてしまう。
この殺し合いに支給されてる三本はその欠陥を取り除くための、言わば修理装置。
で、修理の効果を発揮するためにはそのために作られた特別の機械に設置する必要が……っ!

「まさか!」

目を宙に泳がせ、支給品リストの記述を必死で再生した私は、気づいた。
だとするとここは!!

今までのぼんやりとした歩みを止め、私は全力で走り出した。
球の中心、廊下の終点を目指して。
中空に浮かんでいる廊下が衝撃に耐え切れずに揺れるが、そんなこと構やしない。
私の予想が正しければ、多分、ここには……

「あった……」

球の中心には私の思っていたものと同じものがあった。
多分、予備知識がなければ何に使うんだかさっぱり分からない機械。
そしてその上に空いた三つの穴!

「やっぱり……ここがアレを起動させるための場所なんだ」

凄いものを見つけてやった!という興奮が体を包んだのは一瞬だった。
すぐに冷たい疑問が背中を這い上がる。
506名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 21:39:03 ID:K6RQ9q0p
 
507W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:39:53 ID:f07YI/G1
これがここにあるってことは、螺旋王はアンチ・シズマ管をここで使うことを想定してるってこと。
アンチ・シズマ管の使用を想定してるってことはもしかして……

「この会場でも酸素の破壊が起こる……ってこと?」

私も明智もこれまでアンチ・シズマ管のことを「思わせぶりなだけのハズレ支給品」と判断してきた。
何せ、この殺し合いに支給されているもののなかにはハズレが多い。
ライトノベルだの、絵の具だの、ヘッドホンだの、ブリだの……一番酷いのはお菓子箱に割り箸をつけただけの玩具という体たらく。
これだけ見てると、螺旋王は本当は殺し合いをさせる気なんかないんじゃないかと思えてくる。
……って、でも、今回の明智の推理で本当にそうだったことが分かったことになるのか。
何だか……まあいい!!
とにかくそういうことだったから、アンチ・シズマ管もその中の一種だろうと考えて思考の脇に追いやってきた。

だが、ここにそれを起動させる装置があるとなれば話は別。
アンチ・シズマ管は実用品として支給された可能性がグンと高くなり、それに伴って

「アンチ・シズマ管を必要とする危機が実際に起こる可能性も高くなる……か」

くそっ!
それって実はかなりやばいんじゃないのか?
酸素が破壊されるなんてことになったら、起こる結果は一つ。
螺旋力もへったくれもなく、皆まとめてあの世行きだ。

この殺し合いが始まってから、もうすぐ二十四時間が経つ。
酸素破壊のタイムリミットがいつまでかは知らないが、現実に起こりうる範囲なんだとしたら、かなり差し迫っている恐れがある。

「いや、でも待てよ」

パニックに陥りそうな頭をもう一つの思考が押しとどめた。

(明智の推理が正しければ、螺旋王の目的は一人でも多くの参加者が螺旋力に目覚めること。
 だったら、酸素破壊で全滅なんて、螺旋王からすりゃ最悪の結末なんじゃないのか?
 ということはアンチ・シズマ管はやっぱりブラフ……ああっ、いや、でも)

理屈から考えれば酸素破壊はありえない。
けど、そう断定することもできない。
何せ、間違えば参加者全滅だ。
あまりに重い。重すぎる。

「あーちくしょー!!分からん!!どっちなんだ一体!?」

溜まったイライラを解消するように、廊下の手すりに拳を叩きつけた……その瞬間だった。


私の脳みそに、緑の稲妻が閃いた。

508名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 21:40:02 ID:K6RQ9q0p
 
509名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 21:40:22 ID:K6RQ9q0p
 
510W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:40:41 ID:f07YI/G1
(――マッハキャリバーの力を借りて“変身”したの。バリアジャケットって言うんだって)

(――超科学や魔法が存在すると確認できた今)

「……アンチ・シズマ管」

(――イメージしてって言うから、動きやすそうのを思い浮かべてみたの。そしたら、こんなん出ました〜!)

(――首輪に計測装置を仕込めばいいんです)

「……フォーグラー博士」

(――そうです。首輪を外した参加者はその時点でゲームクリア)



(――そうだ。アケチからの伝言。 ネネネに物語を書いてほしい――って)



出たくて、出たくて、うずうずしていたものが。
出たくても、出たくても、出て来れなかったものが。
それを切欠に。堰を切ったように。
溢れ出した。





胸が。
胸が痛みます。
ちくちく、ちくちくした針みたいなものがおっぱいの裏にあって、それがグルグル回って
私の胸をちくちく、ちくちく刺してくるんです。
どうしてこんなに痛いんだろう?
私は考えます。

高嶺君が菫川先生の見つけた秘密の地下を調べに行ったのに、私は何にもできないから?――そうだと思います。
明智さんがガジェットドローンって機械を使って仲間を集めようとしてるのに、私は何にもできないから?――そうだと思います。
それとも、菫川先生に嘘をついたから?――そうだと思います。

エレベーターであのボタンを見つけたのは偶然。
私はそう菫川先生に話したけど、それは嘘です。
本当は分かってたんです。
あそこには何かあるって。

私は首にかけた紐を手繰り寄せて、あの不思議なドリルを手元に引き寄せます。
あのとき、廊下で菫川先生を待っていると、このドリルが突然光り始めました。
ピカッピカッて、本当にいきなり。
その光はどうしてかわかりませんけど、私をどこかに案内してるように思えました。
ちょっと怖かったけど、あのときはこれで皆さんの役に立てるかもってそう思ったんです。
今までの自分を振り返れって、きっと役に立てるって先生に言われて、それで……
あれ?そう思ったらドリルが光りだしたんだったかな?
ん〜〜どっちが先は忘れちゃいました。
511名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 21:41:53 ID:K6RQ9q0p
 
512W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:42:52 ID:f07YI/G1
「あの……明智さん、わたし、わたし……」
「?
 どうかしましたか?もしかして体調が優れないとか?」

謝らなくっちゃ。
謝らなくっちゃ。
謝らなくっちゃ!!

「……あの、菫川先生は……どこ、ですか?」
「……ああ。菫川先生ならお一人で部屋に篭られてます」

……でも、ダメでした。
謝ろうとすると、螺旋王さんの声が、螺旋王さんの顔が浮かんできて、どうしても声が出ないんです。
あと一歩なのに、謝らなきゃいけないのに、一人で螺旋王さんのところへ行く自分が浮かんで、ダメなんです!

明智さん達が無理矢理首輪を外させるような人たちだなんて思ってるわけじゃないです。
きっと、事情を話せば、優しく分かってくれる人たちだって知ってます。
でも、何でか言えないんです。
私がそうだってことを話したら、首輪を外さなきゃいけないような、そんな気がして怖いんです!

「……生憎、ご気分が優れないようなので、直接会いにいくのはよしたほうがいいでしょう。
 私でよければ代わりに聞きますが、何か用事でしたか?」
「いえ……ただ、いないなぁって思って」

返事をする明智さんの表情は何故かちょっと怖い気がして、私はビクってしてしまいます。
もしかしたら、明智さんは頭がいいから、もう私の嘘に気づいてるのかもしれません。
そう思うと、何だか嫌で、また胸がチクチクします。

チクチクが本当に痛くて耐えられなくなったとき、私の頭には何故かDボゥイさんの顔が浮かびます。
どうしてかは分からないけど、何でかいきなり浮かんでくるんです。
でも、あの人の顔が浮かんでるときは、何だか少しだけ、気分が楽です……





私は書いていた。
書いて書いて書きまくっていた。
流れるように、いや、飛ぶように書いていた。
513名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 21:43:41 ID:K6RQ9q0p
 
514W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:44:23 ID:f07YI/G1
機関銃を撃ちまくるかのようにキーボードを叩き、自分の中の物語をディスプレイに吐き出す。
この刑務所にパソコンの使える部屋があって本当によかった。
私は断然、手書きよりもワープロ派なのでこっちの方が助かる。
まあ、手書きでもできんことはないけど、スピードが圧倒的に落ちるし、何よりいつもと感覚が違うのが気に食わない。

私が今書いているものについて、今更、いちいち何だかんだと言う必要はないと思うが、一応、言っておく。
私が今書いているのは『螺旋王の思惑をひっくり返すシナリオ』だ。
明智に頼まれた、そして何より私が書くと誓った、菫川ねねね渾身の一作だ。
押しても引いても捻っても、どうやっても書けなかったモヤモヤが今、怒涛のように溢れ出している。

例えるならその様は文字の洪水。いや、文字の土石流だ。
その流れの圧倒的な速度と勢いは自分で書いているにもかかわらず、未だ自分で信じられない。
どんなに好調だった時だって、今と比べりゃスランプと大差ない。
そう思えるほどにスラスラ筆が進む。
書きたい言葉に指の動きが追いつかない。
こんなことは今までの作家人生で初めてだった。

神が降りる、という言葉がある。
ふとしたきっかけが今までの停滞を吹き飛ばし、思いもつかない好調が実現した時、人はその様を神に例え、自らを神の拠り代に準える。
そういう意味で言えば、あのメロンジュース畑の真ん中で私に降りたのは間違いなく神だったことだろう。

私があのとき思いついたこと。
それは一言で言うなら脱出策だった。
しかも、それは螺旋王の裏をかき、奴の思いに反して皆を救える奇襲策。
螺旋王の用意した方法に頼らずに首輪を無効化し、しかも、脱出の可能性を繋げる。
そんな策が私みたいな奴の頭から出たことをまずもって神に感謝するべきだと思う。

ん?どんな計画かって?耳かっぽじってよく聞いとけよ!!
私が思いついた策。
それはアンチ・シズマ管と刑務所地下の装置とを使った脱出計画だ。
まずアンチ・シズマ管を三本集める。
次にこれを地下の装置にはめ込んで起動させる。
基本的にはこれで終わりだ。
え?それじゃあ、よしんば酸素の破壊が防げるだけで、脱出には繋がらないって?
確かに。普通のやり方でやったらそうだろうな。
でも、少し考えてみてよ。
もし、そうやって嵌めこんだのがアンチ・シズマ管じゃなく、よく似たアレだったらどうなるか?

バシュタールの惨劇。
アレがあった世界から来た人間はその現象のことをそう呼んでるらしい。
試作型のシズマ管三本をアホタレな博士が炉心に嵌めこんだせいで起こった大惨事。
たったそれだけのことで国が一つ吹っ飛び、地球のエネルギーが残らず停止。
地球上の人類の三分の二が死んだって話だ。
まったくもって恐ろしい。チェルノブイリが裸足で逃げ出すスケールだ。
でも、私はこの事件に関する支給品名簿の記述を思い出したとき、正直、心臓が飛び出るくらい嬉しかった。
何でかって?おいおいいい加減察すれ。
515W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:46:01 ID:f07YI/G1
もし、バシュタールの惨劇と同じことがこの会場で起きたらどうなると思う?
資料にあった爆発の規模からして多分こうだろうな。
爆発が起き、周囲3キロ四方が蒸発し、『会場内の全てのエネルギーが中和される』。
大切なのはここ。『全てのエネルギーが中和される』ってところ。

この会場内にはモノレールや各種施設をはじめ、螺旋王が設置したモノが数多くある。
もしこのエネルギー中和現象が起これば、それらのモノは当然に活動をやめる。
モノレールや豪華客船は動かなくなり、観覧車は回らなくなり、発電所は電気を送らず――首輪は機能を停止するはずだ。
爆破機能はもとより、螺旋力感知機能もテレポート機能も、みんなまとめてパーだ。
そうなりゃ、こんなモンはただのダサいアクセサリ。外す方法はいくらでもある。

加えて言うなら、停止するのは何も私達の目に見えるモノだけじゃない。
例えば監視。明智は私たちには分からない何らかの方法で行われてるといってたが
それがもし、高度な技術によって作られた機械によるものだったら?当然止まる。
例えばバリア。この会場の端と端が繋がっていることはレーダーに映った参加者の動きを見てれば一目瞭然。
その機能だって、もしエネルギー機関を使って維持させてるなら?当然死ぬ。
そして、例えば隠蔽。マッハキャリバーの仲間は次元と次元を行き来して平和を守る治安機関の出身らしい。
……ってことは当然、その治安機関、時空管理局は仲間の居場所を探してるはずだ。
そんな奴らから、螺旋王はどうやって身を隠してる?
答えは決まってる。何らかの手段でこの会場を時空管理局の目から隠蔽してるんだ。
ゲリラが敵機の偵察から逃れるために、屋根に工夫するのと同じ理屈だな。
でも、その隠蔽だって、エネルギー中和の条件に引っかかれば、当然外れる。
そうすれば、外からの助けだって、十分に期待できるんじゃないのか?

さて、実現すればいいことずくめっぽいバシュタールの惨劇だが、実は大きな問題がある。
この会場にあるのはあくまで『アンチ・シズマ管』であって『試作型シズマ管』じゃない。
肝心のものがなきゃ、コトを起そうったって、夢のまた夢だ。
でも、実はこの『ここには試作型シズマ管がない』ってことが今回の計画のミソ。
螺旋王を出し抜くためのポイントってわけだ。

ここで一つ知っといてもらいたいことがある。
実はこの会場で支給されている『アンチ・シズマ管』は
フォーグラー博士がバシュタールの惨劇のときに使われた『試作型シズマ管』を改造したモンだってこと。
つまりこの二つ、元は同じものなんだよ。
そこで私は考えた。
『試作型シズマ管』を『アンチ・シズマ管』に改造できるってことは
『アンチ・シズマ管』を『試作型シズマ管』に改造することもできるんじゃないかってな。
あー、一つ言っとくが、もちろん私にゃそんなことはできん。根っからの文型人間だしな。
だが、ここには警察庁キャリア官僚様の明智がいる。IQ190の天才少年、清麿がいる。
時空管理局の魔法使いがいる!サーヴァントがいる!テッカマンがいる!錬金術師がいる!
私ができなくても――必ずできる奴がいる!
そういう奴にやってもらえばいいんだよ。
三人寄れば文殊の知恵……ってのは明智のセリフだったか。

となれば、乗り越えるべきハードルはあと一つ。
いかにしてこの計画を他の奴等に伝えるかだけだ。
螺旋王は常にこのフィールドを監視している。
私達の一挙手一投足は奴に録画され、発言は一言一句漏らさず録音されているだろう。
だから、普通に口に出したり、筆談を使ったりしてこの計画を伝えても、一瞬で螺旋王にバレる。
これでは、せっかく計画を練っても成功は望めない。
だけど、この問題は問題にならない。
何故なら、もう解決する、今、解決に向かってる問題だからなッ!
516W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:46:43 ID:f07YI/G1
私は書いている。
物語を書いている。
螺旋王の鼻っ柱をへし折るために書いている。
ぱっと見それとは分からないように。小説の形をとって。脱出計画を書いている。
指が攣ろうと、肩が張ろうと、ただひたすらにディスプレイに向かって。
読んだ人間にだけ分かるように、細心の注意を払って書いている。

私は物語の力を信じている。
センセーが愛し、センセーが信じた物語の力を。
本はその読者だけに本当の姿を見せてくれる。
本を手に取り、自分の手でページをめくり、自分の目で字を追った者にだけ、物語は心を開く。
あらすじを聞いたり、概要を読んだり、映画を見たりしただけじゃ分からない深さが読書にはある。
センセーは誰よりもそのことを知っていた。
私はセンセーからそのことを教わった。
そんな私が今、全力で書いている。
私の全てを賭けて書いている。
だから、この物語は本当に読んだ人間にしか伝わらない。
監視なんて名目で、斜め読みした連中には絶対に伝わらない!!

書いていること自体が怪しくならないよう、注意も払った。
現に私が書いている物語のタイトルは『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』だ。
レーダーを見ていた明智からイリヤと士郎の反応が動かなくなったことを聞いた。
もしかしたら、イリヤが死んだかもしれないことを教えてもらった。
表向き、私が書いているのはイリヤの追悼小説だ。
仲間の死を嘆き悲しんだ小説家が自分の心を静めるために小説を書いている。
今の私はそういうことになっている。
実際、明智にも清麿にもそう伝えてある。
そして、それは嘘で、でも本当だ。

今日の朝を思い出す。
フォルゴレ、イリヤ、私。三人の散歩を思い出す。
もしかしたら、本当は、という思いはもちろんある。
放送であいつの名前が呼ばれないことを今も全力で祈っている。
でも、状況から見てそれは……いや、今は祈ろう。
ああ、ここにパソコンがあって本当によかった。
もし放送でイリヤの名前が呼ばれたら、私はせっかくの原稿を水に濡らしてしまうだろうから。

悲しみを振り払って、いや、それすら原稿に刻まれる文字として叩きつけ、私は書く。
アンチ・シズマ管は本当に無事なのか?本当にシズマ管を改造できる人間はまだ生きているのか?
バシュタールの惨劇から起こる爆発の規模が大きすぎて結局全滅って結末はないのか?
エネルギーを中和したとして私たちが助かる道は本当にあるのか?
不安は募る。
しかし、その不安さえも原稿に織り交ぜ、私は書いて書いて書きまくる。

見ろ螺旋王。
これが菫川ねねねの戦いだ。
機知もなく、魔法も使えず、力も無い、小説書きの戦いだ。
私は書く。
私の物語がお前のシナリオを塗り替えるまで。
だから……だから……




「書くまで死ねるかッッ!!!」



517W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:47:31 ID:f07YI/G1
【B-7/刑務所内/1日目/真夜中(放送直前)】

【チーム:戦術交渉部隊】(明智、ねねね、清麿、ゆたか)
 [共通思考]
 1:各種リスト、便利アイテムを利用した豊富な情報量による仲間の選別及び勧誘。
 2:基本的には交渉で慎重に。しかし、実力行使も場合によっては行う。
 3:螺旋力による首輪の解除が可能な者を探す。
 4:エドが情報を送信した手段を探り、可能ならそのチャンネルで停戦を呼びかける。
 5:最終目的は主催者の打倒、ゲームからの脱出。
 6:携帯電話の現在位置探査を利用して危険を避ける。
 7:映画館内部にジンやラッド、その他協力できそうな人物が到達したら携帯電話で各施設に連絡を入れる。
 8:人員が揃い次第、各所施設に調査班を派遣する。
 9:万一刑務所が安全でないと判断できた場合、警察署へ向かう。

 [考察内容]
 《螺旋王の目的》
  1:殺し合いを通じた参加者の螺旋力覚醒
 《首輪》
  1:螺旋力の覚醒により解除可能
  2:ただし、解除時に螺旋王の元へ転移する可能性アリ
[備考]
 ※明智とねねねの考察メモの内容は同じです。
 ※ガジェットドローンを誰かの元に派遣した可能性があります。



【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康、悲しみ、決意 螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、 詳細名簿+@アニロワオリジナル、手書きの警戒者リスト
     『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)、考察メモ
[思考]:
 基本:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
 1:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
 2:1の計画を皆に伝え、螺旋王のシナリオを覆すために本を書く。
 3:1を達成するためアンチ・シズマ管、改造スキル持ちを探し、脱出手段を検討する。
 4:ラッド・ルッソの動向には警戒する。
 5:柊かがみに出会ったら、「ポン太くんのぬいぐるみ」と「フルメタル・パニック全巻セット」を返却する。
 6:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
 7:東方不敗を最優先で警戒。
[備考]
 ※詳細名簿+はアニタと読子のページだけ破り取られています。
 ※詳細名簿+の情報から、参加者それぞれに先入観を抱いている可能性があります。
 ※殺人鬼であるラッドに軽度の不信感を抱いています。
 ※思考7、パラレルワールド説について。
 富士見書房という自分が知り得ない日本の出版社の存在から、単純な異世界だけではなく、パラレルワールドの概念を考慮しています。
 例えば、柊かがみは同じ日本人だとしても、ねねねの世界には存在しない富士見書房の存在する日本に住んでいるようなので、
 ねねねの住む日本とは別の日本、即ちパラレルワールドの住人である可能性が高い、と考えています。
 この理論の延長で、会場内にいる読子やアニタも、ひょっとしたらねねねとは面識のないパラレルワールドの住人ではないかと考えています。
 ※イリヤと士郎の再会により、自分の知る人物がやはり同じ世界の住人ではないかと疑い始めました。
518名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 21:47:56 ID:K6RQ9q0p
 
519W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:48:02 ID:f07YI/G1
【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:右肩に裂傷(応急手当済み)、上着喪失、強い決意
[装備]:レミントンM700(弾数3)、フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、携帯電話、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、閃光弾×1
     予備カートリッジ8、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、参加者詳細名簿、
     ダイヤグラムのコピー、首輪(キャロ)、考察メモ 支給品リスト@アニロワオリジナル
[思考]:
 基本:螺旋王より早く『螺旋力』を手に入れ、それを材料に実験を終わらせる
 1:エドが情報を送信した手段を探り、可能ならそのチャンネルで停戦を呼びかける。
 2:菫川ねねねに情報を提供し、螺旋王を出し抜く『本』(方策)を書いてもらう。
 3:螺旋力が具体的に何を指すのか? それを考察する。
 4:螺旋力による首輪解除を試してみたい。
 5:ラッド・ルッソの動向には注意する。
 6:2日目の正午以降。博物館の閉じられた扉の先を検証する。
 7:東方不敗を最優先で警戒。
[備考]
 ※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
 ※ガジェットドローンを誰かの元に派遣した可能性があります。
 ※ラッドがシンヤを殺害したと推測しています。
 ※豪華客船にいた人々はガッシュ以外全滅したと推測しています。
 ※ルルーシュ一行、またはジン一行の誰かがマタタビを殺害したと推測しています。


【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、疲労(小)、精神疲労(小)、強い決意
[装備]:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)
[道具]:支給品一式(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
    イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
    無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
    首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、清麿のネームシール、
    各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
[思考]
基本方針:螺旋王を打倒して、ゲームから脱出する
1:地下の空洞(大怪球のコクピット)を調査する
2:脱出方法の研究をする(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
3:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない(有用な情報が得られそうな場合は例外)
4:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
5:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。

[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
520名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 21:48:31 ID:K6RQ9q0p
 
521W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:48:55 ID:f07YI/G1
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:疲労(小)、心労(大)、やや茫然、後悔、螺旋力覚醒
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
    鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
    M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる。
1:皆に嘘のことを謝りたい。でも螺旋力覚醒者だと知られるのが怖い。
2:明智たちの力になりたい。
3:イリヤの無事を祈る
4:Dボゥイと会いたい
5:シンヤを弔う為に、どうにかして病院に戻りたい。
6:ちゃんと弔ったら清麿たちに同行する。
7:シンヤを殺したラッドにどう対応すればいいのか分からない。
8:Dボゥイの為にクリスタルを回収する。
[備考]
※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました。
※清麿に対して負の感情は持っていません。
※イリヤに親近感を抱いています。
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
522W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg :2008/04/02(水) 21:50:40 ID:f07YI/G1
※保有するアイテムの詳細は、以下の通り。
 【参加者詳細名簿】
  全参加者の簡単なプロフィールと、その人物に関するあだ名や悪評、悪口などが書かれた名簿です。



 【参加者詳細名簿+】
  全参加者の個人情報と、その人物に関する客観的な経歴が記されています。情状など主観になる事は書かれていません。
  ※読子・リードマンとアニタ・キングのページはねねねが破いて捨ててしまいました。



 【警戒者リスト】
  ねねねがメモに書いた、要注意人物のリスト。自分、または仲間が遭遇した危険人物の名前が書き連ねてあります。
  「高遠遙一」「ロイ・マスタング」「ビシャス」「相羽シンヤ」「東方不敗」「鴇羽舞衣」「ニコラス・D・ウルフウッド」
  また、仲間がゲーム参加以前で敵対していた人物や、詳細名簿のプロフィールから要警戒と判断した人物を要注意人物として記載しています。
  「ギルガメッシュ」「言峰綺礼」 「ラッド・ルッソ」他。



 【全支給品リスト】
  螺旋王が支給した全アイテムが記されたカタログ。正式名称と写真。使い方、本来の持ち主の名が記載されています。



 【携帯電話】
  通常の携帯電話としての機能の他に、参加者の画像閲覧と、参加者の位置検索ができる機能があります。
  また、いくつかの電話番号がメモリに入っています。(※判明しているのは映画館の電話番号、他は不明)
  [位置検索]
  参加者を選び、パスを入力することで現在位置を特定できる。(※パスは支給された支給品名。全て解除済み)
  現在位置は首輪からの信号を元に検出される。



 【ダイヤグラムのコピー】
  明智健吾がD-4にある駅でコピーしてきた、モノレールのダイヤグラム。



 【首輪】
  明智健吾が死体から回収した、キャロ・ル・ルシエの首輪。



 【考察メモ】
  雑多に書き留められた大量のメモ。明智、ねねねの考察や、特定時間の参加者の位置などが書き残されている。
523名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/02(水) 23:52:35 ID:9eEY7wFZ
























削除依頼だしとけよ屑
524名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/04(金) 11:12:18 ID:72gJK09d
KY↑
525名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/04(金) 14:25:49 ID:WKIx+O2T
↓LA
526第四回放送 ◆LXe12sNRSs :2008/04/05(土) 00:25:35 ID:bGqkjLeo
また、廻ったな。
貴様らがその地に足を踏み入れてから、24時間が経過した。
一日をこうも長く感じた者はおるまい?
時を重ねるごとに増す怨嗟の声は、私の下にもしかと届いている。
もっとも、その怨嗟を愉悦としている者は私ではなく――何人かの当事者たちだろうがな。
特に、この六時間は壮絶であった。
仲間の窮地に駆ける者、愛を唱える者、死を前に立ち向かう者……
散っていった者たちも含め、実に様々な成長を見せてくれる。

そう――人間は進化を止められぬ生き物だ。

この言葉、心に刻みつけておくがいい。
自らが、螺旋の構造に捉われた人間であると信じるならばな。

さて、死者の発表に移る。


相羽シンヤ
アレンビー・ビアズリー
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
衛宮士郎
カレン・シュタットフェルト
ジェット・ブラック
高遠遙一
チェスワフ・メイエル
ティアナ・ランスター
マタタビ
ミリア・ハーヴェント
ラッド・ルッソ


以上、12名。
次に、禁止エリアだ。


A-8
D-7
F-2


以上だ。
……さて、これから二日目に突入するにあたり、一つ重大な知らせをしておこう。
現時刻を持って、貴様らの中に我が配下の者を一人、新たに参入させることが決定した。
名を、怒涛のチミルフ。
なに、貴様らの健闘振りを考慮したうえでの試練だと考えてもらえればいい。
怒涛の名に恥じぬ豪快な武人だ。
どう対応するかは、各々次第と言えよう。
だがせいぜい、その実力をあまく見ないことだ……。


 ◇ ◇ ◇

527第四回放送 ◆LXe12sNRSs :2008/04/05(土) 00:26:35 ID:bGqkjLeo
出撃の命は下った。
放たれる戦場は、螺旋王が作り上げた寿命一日の正に死地。
ニンゲン共が蔓延る戦場で、獣人にして武人、螺旋王四天王が一人、怒涛のチミルフはどう立ち回るか。
決まっている。

「……見せつけてやるのだ。獣人とニンゲンの、力の差をなッ!」

そうでなければ意味がない。
戦士は戦いに殉じる。なればこそ。
チミルフは、最前線に立つことを望んだ。
528名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/05(土) 23:07:08 ID:sbIHTRJu
あれ?第三回とか前やったばかりだよなwwwwww
529名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/06(日) 17:05:44 ID:p/2I6hx8
どうでもいいからとっとと企画きめようぜ
530名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:35:12 ID:6LU4rhpJ
――――――――――KILL! KILL! KILL! KILL! KILL!
KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL!
KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL!
KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL!
KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL! KILL!
KILL! KILL! KILL! KILL―――――――――――――!


「う、くぅ……っ!」

――――頭の中に響き続ける殺意のオーケストラ。
柊かがみがそれに耐えかねて呻きを洩らしたのは放送の直後だった。
もちろん原因はたったの一つ。

……ラッド・ルッソの記憶が、殺意の上昇を抑えきれなくなったからだ。

もちろんかがみに殺人嗜好などないし、理解はできない。
……だが、『食った』となれば話は別だ。
不死者を『食う』とは、相手の全てを身の内に取り込むということなのである。
記憶も、経験も、知識も、知恵も、趣味も、思考も、――――人格の情報でさえも。
それが理解できるか理解できないかはまた別の問題なのだ。

ある不死者の男は、
『自身に催眠術をかけておけば、たとえ誰かに食われたとしても、
 何らかのきっかけで食った人間と食われた人間の人格を交代できるかもしれない』
という可能性に思い当たった。
ある日突然、食ったはずの人間に体を乗っ取られると言うわけである。

『食う』事のリスクはそれだけに留まらない。
エニスは『食った』事により人間らしい感情を得て、同時に善悪を判ずる意識に悩まされることになった。
フィーロ・プロシェンツォは『食った』事により自我の境界に疑問を持ち、自身の存在に不安を抱いた。
チェスワフ・メイエルは『食った』事により、人からの感情を信じられなくなった為にあらゆる人間を道具とみなし。
――――そして、この度再度『食う』事により、自身の罪深さに苦しむようになった。
セラード・クェーツでさえも、感情のベクトルは真逆とはいえ、その行為に心動かされたのは事実なのである。

『食う』事は、確実に食った人間に影響をもたらすのだ。

尤も、その記憶に踏み込まなければそこまで悩まされるわけではないのだが――――、
しかし、かがみは放送とラッドの記憶を照合して情報を得るために、敢えて彼の記憶を遡っていたのだ。

彼の記憶の殺意のゲージを一瞬で極限まで引き上げた要因は、二つの名前がそこに存在しないことにあった。
Dボゥイ。
鴇羽舞衣。

彼らの生存が確定したことで――――ラッド・ルッソの殺意はかがみに押さえきれない所まで上昇したのである。

――――それを食い止めたのは、一つの声。

「……どうした? 不死身の」

衝撃のアルベルトの、こちらを気遣うような声。
それがかがみを殺意の大波から引き戻す。

「……ん、なんでもないわ。それよりこれからの方針についてなんだけど」

彼の顔に似合わない声色に苦笑しながら、かがみはとりあえず話を進めることにする。
――――ギルガメッシュの生存などについて、アルベルトがそれを洩らさなかったことにかがみは不満を感じてはいた。
が、いざ文句を言おうとするとどんな言葉を選べばいいのか分からないので、それに関しては黙っておくことにする。
今は文句を言うより先にアルベルトに有益な情報を渡しておかねばならない。

「……ラッドの仲間については言ったわよね?
 そいつ等が調べたところによると、“螺旋力”とかいうものがこの“実験”の鍵になってるみたい」

――――螺旋力。
幾度となく聞き覚えのある言葉だ、とアルベルトは記憶のダイブに取り掛かる。
文字通り螺旋王が幾度となく告げた言葉だ。
成程、と納得する。
実験と称していたかの王の言葉は真実だったのだろう。
心当たりはある。
先刻のかがみの発した緑色の光。
あの輝きは間違いなく、個人の能力を引き上げるものだ。
それ以外にも何か秘密があるかもしれない。
……つまりは。

「……その力。持ち帰るに値する力ではあるやもしれんな」

顎に手を当て思考に沈むアルベルトに、かがみも頷き返して続きを述べる。

「……まだ、詳しいところは分かっていないみたい。
 だけど……」

一息。

「……刑務所の面子は、相当頭の切れる人間ばかりみたい。
 ラッドの記憶もあることだし、協力関係を築いて損はないと思う」

怯えも躊躇いもなくまっすぐにアルベルトを見据えるかがみ。
その心根に満足しながら、アルベルトはそれを肯定することにする。

「……うむ。手駒も欲しい所ではあるし、螺旋の王に立ち向かうには数が必要だ。
 いくらワシが十傑集とはいえ、体は一つしかないのだからな。
 そ奴らとの利害の一致もありえるだろうし……、と、どうした? 不死身の」
533名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:42:22 ID:uRqfMWKD
534名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:42:23 ID:HJTMSJhD
 
535名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:42:35 ID:9bC9Dwt6
536名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:42:47 ID:LgaC3kdH
 
見れば、かがみは自身の体を抱くように両腕を互いに掴み、ぎゅうっと縮こまっている。
まるで自身の体が動き出すのを怖れ、どうにか押さえ込んでいるかのように。
アルベルトの言葉で生じた、猛烈な衝動をかろうじて制しているかのように。

アルベルトの脳裏に一つの言葉が蘇る。


『――――梯子は足りているのか?』


言峰と名乗った神父。
その真意は測りかねたものの、敵対するどころかむしろ友好関係にあると言っていいだろう。
ならばその言葉が意味するものは、忠告なのか。
不安が心中の何処とも知れない場所から染み出て止まらない。
まるで、楔を穿たれたかのように……どこかに穴があるような気がしてやまないのだ。

らしくない、とアルベルトは思う。
不安に思うことなどない。
自分は十傑集であり、目の前にいるのは信頼できる協力者なのだから。
天をも貫く梯子。互いの背を預けながら、そこをひたすら進めばよい。
否、進む先にあるものは梯子などではなく、雄とした泰山なのだ。
それを強く強く信じ込み、――――霧靄を払うかのように不敵な笑みを浮かべてみせる。

「食らった事により何か体調に異常でも感じたのではあるまいな?
 いずれ螺旋の王を食らう時の為にも、貴様に不調があっては困るのだぞ?」
 
――――だが、彼は気付いている。
このような台詞を向けることこそ、言峰の言葉に強く囚われているのだという事を。
気付きながらも、それを払いのけようと気遣いの言葉を重ねれば重ねるほど強く強く、更に強く纏わりついてくるその言葉。
完全なる底無しの沼に浸かっていることを知りながら――――、
今のアルベルトには、柄にも合わない言葉を吐く事しかできなかった。

「う、うん……。大丈夫、アルベルトが心配する程の事じゃないわ。
 ……私の、内面の問題だから。……うん」

気丈な言葉を気弱な表情で告げるかがみ。
が、それではいけないと思ったのか。
不意にプルプルと首を振り、話題を変えようと周囲を見渡すことにする。
と、都合のいい物を見つけたので、とりあえずそちらに向かって駆けていくことにした。

「……さて、あっさり気絶しちゃったけど。
 こいつをどうにかしないとね」

目線の先にある物は結城奈緒。
恐怖に引きつった顔で気絶したその姿を見て、自分に持たれているイメージに複雑な想いを抱くも、
とりあえず気にしないことにして意識を切り替える。
まあ、まずやる事は一つだ。
……目覚める前に、身包みを剥いでおくことにする。

以前遭遇した時にあらかた持ち物は没収していたはずなのだが、いつの間にか新たな装備を手に入れていたのだ。
その衣装はラッド式本気の全力全壊パンチを繰り出した時に砕け散ったとはいえ、まだ何か持っているかもしれない。
デイパックを取り上げ、奈緒の体を調べるとその手に指輪が嵌っているのに気がついた。
見覚えがなかったのでこれも新しく手に入れたアイテムなのだろう。
538名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:42:59 ID:yoIqRUrM
 
539名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:43:24 ID:9bC9Dwt6
540名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:43:45 ID:HJTMSJhD
  
541名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:43:54 ID:uRqfMWKD
「はい、ボッシュート」

クイズ番組の口調を真似て指輪を外し、自分の指に嵌めたまさにその時。

「う、んん……」

――――声とも言えない声を漏らしながら、結城奈緒が眼を覚ました。
指輪を外した時に体を動かしたせいか、自分が起こしたのと同じかもしれない。
そう言えば、よくよく放送を聞き逃す子だと苦笑する。
自分のせいばかりとはいえ気絶ばかりしている印象を奈緒に抱いてしまっていた。

「――――金……ぴか……」

自分でもなにを言っているのか分からないのだろう、呆けたままの奈緒を尻目にアルベルトの方を向けば、彼は無言で腕を組むだけだ。

……何を彼が望んでいるのか。
察し、かがみも無言であらためて奈緒に向き直る。
座り込んだままの彼女が次第に覚醒していくのと同時。

――――かがみも、自身のスイッチを入れていく。
頭蓋の横に指を当て、それを確認するかのようにあえて行動しながら口ずさむ。

「……パチリ」

指を弾きながら、呟く。
何度も。
何度も何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

「パチリ。パチリ。パチリパチリパチリパチリパチパチパチパチリパチリパチパチパチ
 パチパチパチリパチパチパチリパチパチパチパチパチパチリパチパチパチパチリパチ
 パチパチパチパチパチチパチパチパチパパチパパパパパパパパパパパパパパパパパパ」

ラッド・ルッソの記憶にある通り。
殺意のスイッチを入れていく。
一個の。五個の。十個の。百個の。千個の。一万個の。十万個の。
――――何百万個の! 何千万個の! それ以上の数のスイッチを!

「ヒャ、ハ……ヒャハハハハハハ、ヒャァハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
 ハァハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ヒャハハハハハハハハハハハッ!!」

――――ラッド・ルッソの戦闘スタイル……いや、殺人スタイルは独特だ。
トークで昂り、テンションを極限まで上げ、殺戮の悦楽に浸れば浸るほどその動きは切れ味を増し、力は増加してゆく。
『柊かがみ』なら、そんな事は理解しえないし、いざ戦いに臨んでも彼の記憶を活かしきる事はできはしない。
『不死身の柊かがみ』でも、殺人嗜好はないし、ラッド・ルッソほどテンションを高める事もできはしない。
今までのかがみのままでは、ラッドの力を完全に運用するのは無理なのである。

だが、ラッド・ルッソを食らった今なら可能だ。
不死者を『食う』とは、相手の全てを身の内に取り込むということなのである。
記憶も、経験も、知識も、知恵も、趣味も、思考も、――――人格の情報でさえも。
543名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:44:10 ID:9bC9Dwt6
544名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:44:22 ID:HJTMSJhD
   
545名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:44:55 ID:9bC9Dwt6
546名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:44:57 ID:HJTMSJhD
     
一つスイッチを入れるたびに、『柊かがみ』と『ラッド・ルッソ』を切り替えていく。
記憶を、経験を、知識を、知恵を、趣味を、思考を、――――人格を。
単なる物真似ではない。自らのうちにあるデータを表に引っ張ってくるだけだ。
それ故に――――、それはもはや再現などというレベルにすら留まらない。

柊かがみの『意思』で、ラッド・ルッソという『人格』を行使する。
まるでデスクトップの壁紙を変えるかのように、表に見える人格を切り替える。
中に納まった『意思』というデータに変更はないままだ。

とある男は言った。
信じる心があればテンションはどこまでも上げられる。
そして、自らが出来ると信じたことに限り、あらゆる出来事は実現すると。
不死身の柊かがみはラッド・ルッソという人格を行使できることを信じた。

それだけの話だ。

「……え、あ……? ちょ、なんなの? ……なんなのよぉっ!!」

――――目が覚めるなり、怯えに満ち満ちた表情を見せる結城奈緒。
いきなりただでさえトラウマを持っている相手が、恐ろしい恐ろしい殺人鬼の笑みを浮かべているのだ、当然だろう。
……この子には実に悪いけど、と上り続けるテンションの裏で冷静さの残るかがみは思う。
――――ラッド・ルッソの力を使いこなす、叩き台になってもらう。

問題は、ラッド・ルッソが奈緒に殺意を抱いていないこと『だった』。
……だが。

「……よう、お目覚めかいナオちゃんよぉ! 気分はどうだい?
 最高かい? 最低かい? 生きたいかい? 死にたいかい? 安心したかい? 不安かい?
 そこんとこどうなのよ、ギルちゃんが生きていることを知ってよぉ!!」

――――ラッドは、知らなかった。
衝撃のアルベルトによりギルガメッシュと奈緒が引き離されたその過程も、彼らの絆も。
戦場の中で、ただただ何となく感づいた程度のものでしかなかった。
だから勇敢にも自分に立ち向かってきた奈緒への殺意は薄まり、関心がなくなったのだ。

――――だが、かがみは知っている。
彼らの間柄を、ギルガメッシュがいなくなった後の奈緒の表情を。
そして、ギルガメッシュの奈緒への関心を。

――――殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
殺す!!

もちろん奈緒自身にそこまでの殺意を抱いているわけではない。
……だが。

「ク、ククク、ヒャァハハハハハハハハハハハッ!!
 ……どう思う? どう思うよナオちゃんよぉ! 
 私がテメエをじっくりじっくり嬲り殺して! ギルちゃんに伝えてやったその時!
 あのクソ王様ぶった金ピカ野郎がどんな顔をするのかってなあ!!」

それを想像するだけで今のかがみは歓喜に包まれる。
ラッド・ルッソの嗜好が、確かにかがみの中に存在している。
それを空恐ろしく思いながらも、しかしかがみは敢えてそれを否定しない。
……たとえ異常者のものとはいえ、力は、たしかにここにあるのだから。
548名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:45:54 ID:HJTMSJhD
    
549名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:46:02 ID:LgaC3kdH
 
目の前にいるのはあのギルガメッシュが入れ込んでいる人間だ。
そこから引き出されるギルガメッシュへの殺意。
そしてDボゥイと鴇羽舞衣の生存の際に滾り溢れ抑えきれない程に膨れ上がった行き場のない殺意をミックスし、束ねあげる。
膨れ上がった殺意のとりあえずのぶつけ所として、結城奈緒に貧乏籤を引いてもらうのだ。
ついでに約束を破ったという事もあるし、全くもって都合がいい。

どこまでも、どこまでも。どんな状況でも。
理不尽な災禍は。殺意という名の暴力の塊は。
――――たとえ食らわれようとも一切合切混じりけなく、ラッド・ルッソがここにいた証として。
その誰にも止められない力の渦は遥かな高みまで到達し、天元を突破する。

ラッドでもあるかがみの体に緑色の光が渦巻き始める。
――――螺旋の力に覚醒した、ラッドの力。
たとえ相手が線路の影をなぞるものであろうと英雄王であろうと、変わらず自身であらんとするその力。
殺意とテンションが上がれば上がるほど、それは強く強く煌めきを増していく。

そして、それだけではない。
あまりにも純粋で巨大な暴力を制し、やはり自身であらんとする少女の意思もそこにいる。
その力を自らのうちに納めながらなお、螺旋王を食らい前に進まんとする少女の力。
殺意が膨れ上がるたびにそれに呑まれまいと抗う、少女自身の輝きもまた存在するのだ。

二つの螺旋の力が鬩ぎ合い、癒合しあい……、やがてそれは莫大なる二重螺旋となる。
あまりにも眩いその力は、アルベルトを以ってさえ感嘆の息を洩らさせた。

「おいおいおいおいおいおいおいおいマジかよおいおいおいおい!!
 すげえ、すげえなオイ!! これが私かよ、なんなんだよこれはよ! これが螺旋力ってやつか!?
 テンションあがってきたぜ! ようし殺す! ぶち殺す!
 この力の実験台になってもらうぜナオちゃんよぉ、グチャグチャになるまでなあ!
 んでそいつをギルちゃんに真心込めてプレゼント! かぁっ、最高だよオイ!
 ヒャハ、ヒャハハハハハハハハハハハハ、ヒャァハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

高まり、高まり、高まる。
螺旋の力はとどまる事を知らない。
やがて、その力は少女の指に嵌った指輪にも注ぎ込まれていく。

――――Dボゥイが勝利すべき黄金の剣に己が螺旋力を注ぎ込んだように。
クラールヴィントに注ぎ込まれた螺旋の力は――――かがみを核として、一つの姿を形作っていく。

青く、薄い服。
何の特徴も面白みもない簡素すぎる服はしかし、それ故に異常なほどの威圧感を醸し出していた。
それも当然である。
何故ならその服は――――囚人服だったのだから。

凶悪犯罪者の中でも選りすぐり、イカれた人間の中でも特にキレた連中が集う史上最大の刑務所、アルカトラズ。
脱獄不可能と呼ばれた刑務所の囚人服を、かがみはその身に纏っていた。
――――幾つも存在する多元世界。
その中の、ラッド・ルッソという存在そのものに刻まれた属性。
『ここ』のラッドに記憶がなくても、確かにそれはこうして顕現した。
彼を食らった柊かがみの――――バリアジャケットとして。
551名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:46:34 ID:HJTMSJhD
 
552名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:47:25 ID:uRqfMWKD
553名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:47:36 ID:HJTMSJhD
 
変化はそれにとどまらない。
かがみの左手に、更なる螺旋の力が纏わりつく。
極限まで圧縮された緑色は、やがて物質化するほどの密度を蓄え実体化していく。
鋼鉄の義手。
――――正確には篭手ではあるのだが、義手といったほうがずっとしっくりくるだろう。
指もまともに動かないそれはしかし、フック船長の鉤爪を幾分マシにしただけの代物なのだ。

緑の螺旋に包まれる中、フック船長の鉤爪をした時計ワニが夜空に笑う。
遠くまで、遠くまで、声を響かせて。
肉食獣のそれより更に凶悪で理性的な、殺人鬼の歓喜の表情を浮かばせながら。


「ん? おうおうナオちゃんよぉ、どうしたよ、私と殺りあうつもりかよ」

――――笑いを収め、かがみは奈緒に向き直る。
気がつけば奈緒は冷静さを取り戻し、既に両腕を構えていた。
記憶にあるエレメントの行使。それに間違いないと判断し、かがみは笑みながら悠然と歩み寄る。
最早それが虚勢なのか、ラッドの人格に呑まれているのかすら判然としない。
ただ言えるのは、今の彼女は確かに殺人に悦楽を感じているということだけだ。

「……あんた、いったいどうしたっての? まるで……」

ごくりと唾を飲み込み、震える体を奮い立たせるもかがみの接近に後ずさるを得ない奈緒。
その両手には既にエレメントが顕現していた。
いつでも襲い掛かられてもいいように即座に糸を発生させられる態勢の彼女に、かがみは両手を体の横に突き出し、笑みを濃くする。
尤も、鋼鉄の義手のついた左手はだらりと垂れ下がったままだったが。

「知りたいかい? 知りたいのかい? そうだよなあ、私が!
 体はともかく精神的には平凡だったはずの、この私が!
 突然『俺』みたいに豹変したんだからよお! ハハハハハハハハッ!!」

ずい、と身を乗り出すかがみ。
エレメントを出しても全く怯えないその様は、単に不死者だからというだけではない。
……明らかに、あのラッドの立ち振る舞いと同じだった。
おそらく、という言葉がつくが、奈緒には大体のところが既に予測がついている。
……だが、

「じゃあ教えてやるよ! 耳の穴かっぽじってようく聞け!
 まずは不死者についての説明だ、不死者ってのは文字通り死なな」

――――奈緒の顔面に右ストレートが突き刺さった。
鼻がひしゃげ、木っ端のようにいとも簡単に民家、コンクリートの壁に叩き付けられる。

「――――!?」

「ヒャァハハハハハハハッ!! 説明の間は手を出さないと思ったか?
 おいおいおいおい油断しすぎだぜナオちゃんよぉ!
 んじゃまあ、説明続けてやるよ、ぶん殴りながらだがなあッ!!」
555名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:48:01 ID:LgaC3kdH
  
556名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:48:17 ID:HJTMSJhD
  
557名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:48:35 ID:9bC9Dwt6
558名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:48:43 ID:uRqfMWKD
一気に10メートル弱離された間合いを、かがみはボクシングのフットワークを用いながら砲弾のように突っ込んでくる。
右手にはいつの間にか剣が握られており、凶器が狂気を加速させていた。
本来ならば女子高生のかがみではありえない動き。
――――それを可能とするのは、ラッド・ルッソ同様、テンションを上げながらの彼の記憶の行使。
そして、異常なほどの密度を誇る螺旋力の産物によるものだ。

「くぅ……っ!!」

鼻血を噴き出しながらも奈緒は即座に位置取りを変更し、両掌のエレメントから糸を周囲に展開。
対象を捉える為の弾幕を張る。触れるだけでかがみは捕らわれ、動けなくなることだろう。
奈緒とて何も考えなかったわけではないのだ。

――――これが二度目の対峙なのだから。

相手が不死身なのは分かっている。
もしかしたら、倒しきる事はできないかもしれない。
……だが。
殺せはしなくとも、相手を捕らえる事はできる。
以前の戦闘では糸による切断を攻撃の軸に据えていたからこそ遅れを取った。
冷静に考えてみれば、瞬間的に再生する相手に切断攻撃なんて相性が悪すぎるのだ。
だから、今度は捕縛に徹する。
切断は牽制、フェイントに。最初に一発当てて、次の攻撃も切断だと誤認させる。
不死身の体を持っているのだから、二段構えなら同じ攻撃の連発だと錯覚して受け止めるだろう。
それからどうするかは未定だが、捕らえさえすればどうにかなる。
アルベルトと交渉してとりあえずこの場を離れさえできればいいのだから。

無意味。

その全てが、無意味。


「……当たらな――――!?」

何故なら、不死身の柊かがみの動きがあまりに以前と違いすぎるからだ。
不死身の体に頼りきって攻撃回避を全く考えていなかったあの時とはまさしく別人。

最小の反応で糸を見極め。
最小の時間で行動を決定し。
最小の動きで弾幕を回避し。
最小の隙で次の糸に意識を移す。

明らかに不死の体などには全く頼っておらず、自身の思考と反応のみを信じているかがみ。
更に言うならバリアジャケットを展開しているのに、それすらも全く楯にしていない。
それはどう考えても、『死を意識し、向こう見ずな行動を取らない人間』の動きだった。
不死者でありながら、奈緒の一挙手一投足全てから匂う死の可能性を意識し油断しない。

奈緒の放つ糸の全てを掻い潜りながら――――。
名前に矛盾しているはずの行動を取りながら――――。
不死身の柊かがみは、笑う。
ただ、笑う。
560名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:49:21 ID:HJTMSJhD
561名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:49:33 ID:9bC9Dwt6
562名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:49:44 ID:LgaC3kdH
 
奈緒の左側面に深く沈みこんだかがみの振るう剣の峰が、両手に叩き込まれていた。
一瞬でエレメントが破砕し、只の一撃にしては異常なほどの体力の喪失が訪れる。
――――剣の名前は、ヴァルセーレの剣。
力を吸い取りその刀身に蓄える、魔物アースの剣だ。
エレメントの力を吸収されて、奈緒は完全に力が抜ける。
当たったのは峰とはいえ、ダメージは大きい。
右手はまだ動きそうだが、左手はしばらく使い物にならないだろう。
おそらく骨が折れているのは間違いない。

「……不死者と言ってもよぉ、会場内なら死ぬかもしれねえんだわこれが」

片手で振るわれたその剣はすっぽ抜けてあらぬ方向へ落ちていったが、
しかしラッド……いや、かがみのの戦闘スタイルに大して影響はない。
即座に右手を振り上げ、片腕だけの歪なボクシングスタイルを取る。
左手の鋼鉄の腕はやはりだらりとぶら下がったままだ。

「これは嬉しいことだよな、そうだよなあ!?
 螺旋王サマはよ、不死身の人間でもぶっ殺せる機会を与えてくれた訳だ!!」

――――つい先刻のラッドの動きを、かがみはほぼ完全にトレースする。

ジャブ。ジャブ。ジャブ。小刻みな右拳の連打。女の細腕でかがみは拳を刻む。
鼻血が流れる瞬間の、ワサビを食べた時にも似たツンとする感覚。そして、直後に溢れる血の感覚。
痛みもそうだが、それよりも思いっきり鼻をかみたくなるようなその感触がいやだなぁ……と、奈緒は思う。

「そしてそいつには私も該当する! 少なくとも、だ! この会場にいる限りは私は死ぬかも知れねえワケだ!」

ショートストレート。モーションを最小限にした射る様な拳。ジャブからのコンビネーションでそれを打つ。
バシッという小気味よい音と共に頬肉が腫れ上がり、頭の中にミシリという音がはっきりと響き渡る。
耳を脳も頭蓋骨の中にあるからか、顔面への打撃は思いのほかよく響く……と、奈緒は思う。

「だからよぉ! とりあえずしばらくはテメエ自身については考えないことにした!」

右フック。反射的にあがったガードを迂回するように拳を叩き込み、逆の頬を打つ。
柔らかい頬に拳がぶち当たって口の中が圧迫され、拳と口内の歯に挟まれた内頬が鋭い痛みとともに切れる。
しかし、それより勘弁して欲しいのは歯医者から出てきた直後の様な奥歯の鈍い痛みだ……と、奈緒は思う。

「ギルちゃんやらタカヤ君やらを殺しやすくなったのは不幸中の幸いってトコか!」

ボディアッパー。続けて、がら空きのボディへと右のストマックブローをめり込ませる。
ポンプの様に潰された胃から、食道を通じて酸味の強い液体が逆流し舌と鼻の粘膜に嫌な刺激を与える。
気持ち悪さにすら全く慣れない。それ以上に、胴を持ち上げられて足をピンと伸ばしている格好が恥ずかしい……と、奈緒は思う。

「そうそう不死者の説明だったなあ! んで、不死者には死なねえって事以外にもう1つ能力がある!」

ショートアッパー。落ちてきた無防備な顎を拾うように半径の狭いアッパーカット。
ガチンという音と共に半開きだった口が無理やりに噛みあわされ、上下それぞれの歯の付け根にじんわりとした痛みが発生する。
それに加えて、突き抜けた力が額に得もいえぬ感触を残す。それを、カキ氷を急いで食べた時みたいだ……と、奈緒は思う。

「他の不死者を……食えるんだよ! そいつの記憶も趣味も思考も人格も何もかもなあぁッ!!」
564名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:50:20 ID:HJTMSJhD
565名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:50:52 ID:HJTMSJhD
566名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:51:11 ID:uRqfMWKD
右フック。頭の真横。耳の上を叩き、そしてそのまま振りぬいて顔の向きを90度以上変える。
耳の中で圧縮された空気が反響を起こし、頭蓋の中を駆け巡り脳を――思考を揺らす。
ブレブレに見える視界に一瞬思考を奪われ、ああ、こういうのはいけないな……と、奈緒は思う。

「おいおい聞いてんのか? テメエが聞きてぇっつったんだろナオちゃんよぉええオイ!?」

ボディブロー。頭を揺らされふらつき無防備なところへ再度のボディ。今度の狙いはレバーだった。
突然、身体の中に鉄の錘が出現したんじゃないかと思うような感触。決して外に逃げ出してゆくようなものではない痛み。
あまりの違和感に四肢が痺れ身体が砕けそうになる。今のところ、これが一番クる……と、奈緒は思う。

「つーわけで、説明終わり! よし、理解したら死ね!」

ストレート。一時的な不明の状態へと落し込んだところで、渾身の右ストレート!
ついさっきの様に、再び鉄拳――いや狂拳が、音を立て骨という面をきしませ頭の表面を吹き飛ばしてく。
目が眼窩の奥へと押し込まれそうな感覚に、背筋が凍る。一応は女の力と解っていても目や指は怖い……と、奈緒は思う。


殴られながら、奈緒は次第に壁際へと追い詰められていく。
最早恐怖の感情すら麻痺してまともに頭が動かない。
ただ、死になくても死ねないなあ、という事だけを思っていた。
目の前の少女はこんなのよりも凄い攻撃に耐えていたのかと感心すら湧き上がってくる。
……不意にこつり、と背中が壁にぶち当たる。

その瞬間、不死身の柊かがみはニィ、といっそう笑みを深くした。
ゆっくり、ゆっくりとかがみの全身が動いていく。
それを見てすぐに奈緒はこれから起こることを悟った。
……ああ、止めをさすつもりなんだな、と。
色々なものが脳裏に浮かんでいく。

舞衣やなつき、静留といったHiMEの面々。
自身のチャイルドであるジュリア。
強盗に殺された家族。
唯一そこから生き延びた母。
……そして。

「――――金、ぴか」

いつの間にかその名詞が漏れていた。
名前で呼ぶような親しさはなく、部下と上司なんてのもお断り。
ただ、不思議な信頼関係を築いた男を指す自分だけの呼び方を、口にする。

すでにかがみはソレを振りかぶり終えていた。
これまで一度も使わなかった左手。
無慈悲な無慈悲なフック船長の鉤爪を、時計ワニが暴力に変えていく。

普段ならただだらりと垂れ下がるだけの重たいそれは、全身のあらゆる筋肉を行使して砲弾よりもなお力強く撃ち出されていく。
あたかも普通のパンチのように。
しかし、断じて普通などではない。
かがみは、全身のあらゆる箇所の筋と血管を断裂させ、血飛沫を撒き散らしているのだから。

ゆっくりとゆっくりと迫り来る柊かがみの鋼鉄の拳という光景を最後に――――、
結城奈緒の意識は閉じられた。
568名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:51:17 ID:LgaC3kdH
  
569名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:51:55 ID:9bC9Dwt6
570名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:52:29 ID:uRqfMWKD
571名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:52:51 ID:HJTMSJhD
572名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:53:07 ID:9bC9Dwt6
――――轟音が鳴り響く。
かがみとラッド、二人分の螺旋力を乗せた上に、不死者の再生能力頼みに人間の筋力の限界すら天元突破させた上での狂拳だ。
もたらした結果は、破壊の一言。
コンクリートの壁は完全に陥没し、ひび割れた。
小さな地震とも思える程の振動が辺りに轟き、止んだ。

全身から血を噴き出しながら繰り出された一撃は鉄塊よりなお物騒なバリアジャケットを粉々に砕き、
中にあったかがみ本人の腕すらも原形を留めさせないほどにひしゃげさせていた。
が、即座にどちらも修復される。

「……へ、運が良かったなあナオちゃんよぉ」

……そして、結城奈緒は倒れ伏していた。
胸をわずかに上下させているのは生き延びている証。
……単純な話だ。
かがみの左腕が到達する前に気絶した奈緒は、くたりと体を曲げ地面に倒れこんだ。
全身を利用するパンチを放つかがみにそこから軌道修正することは叶わず、壁に拳をプレゼントすることになったという訳だ。

しかしそれだけではラッドの殺意は納得してくれるはずもない。
ゆっくりと、ゆらりと歩き始めるかがみの先にあるのは先刻すっぽ抜けたヴァルセーレの剣。
地面に突き刺さったそれを引っこ抜き、軽く振り回す。

「クク、ハハハハハ……! どうなのよおいこの状況はよ。
 気絶している人間ってのは自分が死なねえと思ってんのかね、どうなのかねえ」

無表情で立ち止まり、考えるように俯いて――――、しかし0,5秒で笑みを取り戻す。

「まあどっちでもいいよな、殺すんだからよぉ、ヒャァハハハハハハハハハハハッ!!」

ケタケタという声を漏らしながら、倒れたままの奈緒の前に立つ。。
一瞬だけ金ぴかな男の顔を思い浮かべ、そいつを殺した時の喜びに期待しながら剣を振りかぶった。

―――――刀身に月が映り込む。
一息にかがみはそれを振り下ろし――――、



……奈緒に刃を届かせる前に、ガクリ、と膝をついた。
かたかた、かたかたと、かがみの震えは止まらない。

「うぁ、あ、あ……ああぁあぁあああああぁああああ……!」

――――まるで、自分が自分でなくなってしまうかのような感覚。
確かに自分が柊かがみであるという自覚さえ失っていく。
かがみ自身には殺戮の嗜好など全くないのに。理解することさえできないのに。
……自分自身のどこかが、信じられないほどの歓喜を催しているのだ。
己が信用できず、相容れないはずの狂気に取り込まれそうな浮遊感にも似た実感のなさ。
――――かがみの感じる全てが、視界に映るあらゆるものが、ボロボロになって崩れ落ちていくようだった。
574名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:53:31 ID:HJTMSJhD
575名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:53:36 ID:9bC9Dwt6
576名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:53:41 ID:uRqfMWKD
577名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:54:19 ID:9bC9Dwt6
それは、フィーロ・プロシェンツォがセラード・クェーツを食らった後に湧き上がった恐怖と全く同一のもの。
奪う事を。『食う』事を何よりも楽しむセラードを理解できず、彼は一人でそれを抱え込み続けた。
自身がセラードのようになることを恐れるがあまり、セラードの記憶を使おうとさえしなかった。
だが、記憶は徐々に混ざり合っていく。
かがみにも確からしい足場はなく、記憶に踏み込みそれを行使すれば、自我がラッド・ルッソに侵食されそうになっていく。
殺人の悦楽は、確かに自分のうちから生じているのだから。
フィーロはある時、こう言った。

『自分がどうにかなって、組の人間やエニスたちに手を出しさえしなければ別に自分が誰であろうとも構わない』と。

……逆に言えば。
たとえ自我がかがみのままであろうとも。
――――ラッドの嗜好が完全に自身に定着してしまう可能性は確実に存在するのだ。
それも、この先永遠に。
自分は不死者なのだから。
果たして――――、いつの日か、自分がラッド・ルッソに成り代わられてしまう可能性すらもあるのではないか。

分からない。分からない。
何よりの恐怖……未知。
自分が自分でなくなるのかどうかは、それこそその時が来ないと分からない。
それがただ純粋に、怖い。
確かなのは、ラッド・ルッソのあらゆる構成物が自分のうちにあるという、それだけだ。

怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
自分は一体、誰なのだろう。
柊かがみ? そうかもしれない。
――――この場に残った唯一の知人、小早川ゆたかの姿を思い浮かべる。
彼女と知り合いなのは柊かがみ。だから、自分は柊かがみだ。
彼女はこれから向かう予定の刑務所にいるはずである。
だが、しかし。
……彼女は、今の自分を柊かがみと認めてくれるのだろうか?
不死者などという存在になり、殺人鬼を己の内に食らったこの自分を。

肯定の可能性は最悪の予想があっさりと覆い被せてしまう。
もし彼女が自分を柊かがみと認めなかったら、自分は一体誰なのだろう。
……それこそ。それこそ、自分は殺人鬼であるあの男なのでは――――、

地面に手をつき、赤ん坊よりも無防備にかがみはただただ震え続ける。
手に握ったままのヴァルセーレの剣が怖ろしくて、今すぐにでも手放したくなる。
だが指の一本すらまともに動いてくれない。
引き剥がしたくても、反対の手も全く動かないのだ。

「あああ、ぁあ、あ……私、私は、……一体、私は、ぁぁぁぁああぁぁぁあああぁああ……、」

――――うずくまり、泣きじゃくり、えずき続ける。
その背に、ぽん、と、暖かな手が当てられた。

「……ふん。今の貴様は『不死身の柊かがみ』だ。
 それ以外の何かではあるかもしれん、それ以外に何もないかもしれん。
 ――――だが、それだけは確かであり、お前を証明するものだ。
 そうだろう? 不死身のよ」

「……アル、ベルト」
579名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:54:28 ID:HJTMSJhD
580名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:54:33 ID:uRqfMWKD
581名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:54:54 ID:LgaC3kdH
 
アルベルトを見つめる。
彼は、何も言わない。
ただ自分が立ち上がるのを待っているだけだ。

「……あ、」

――――そうだ。
誓ったではないか、神にでもなってみせると。
『不死身の柊かがみ』は、そこまでたどり着いてみせると。
ならば、それこそ確かな自身の縁だ。

彼女のアイデンティティは、確かにここにある。
BF団の、不死身の柊かがみ。
今の彼女がそうである事に疑いはないのだから。
たとえラッドの記憶に翻弄されようとも。
小早川ゆたかに柊かがみであることを否定されたとしても。
――――アルベルトは、確かに自分が不死身の柊かがみであると認めてくれたのだから。

ぐしぐしと涙を擦り、無理にでも笑顔を作る。
自分たちの道程は、まだまだ遠くまで続いている。
その果てを見定めるためには立ち止まるのは早すぎるのだ。

「……うん。ごめん、心配かけた。
 私は不死身の柊かがみ。……それは確かなことよね。
 ありがとうアルベルト。……もう平気だから」

涙が止まったかどうかは分からない。
だがかがみは頷き、ふらふらとしながらも立ち上がる。
いまだに手はまともに動かないし、足下もおぼつかないがどうにか頭ははっきりしてきていた。
……無駄な時間を過ごす意義は少ない。
さっさと話題を切り替えて、少しでも有益な会話をするべきだろう。
ラッドの力を試すという目的も達成できた以上、奈緒などに構っている暇はないのだから。

と、一つ話しておくべき事に思い当たる。
自分たちの最終目的である螺旋王を『食う』ということに関する重大な弱点についてだ。
わざとらしくこほん、と咳をつき、かがみはゆっくりと話しはじめる。

「あ、そうだ。さっきテンション上がってた時にも言ってたと思うけどさ。
 ……あの男の記憶から得たことについて、ちょっと言っておきたいことがね」

落ち着きを取り戻したかがみのその声に、心中で安堵をしながらもアルベルトは頷いてみせる。
……先ほどの奈緒に向けたかがみの言葉の中でも引っかかっていた部位だ。

「……ふむ。……不死者の能力の制限か」
「……うん」

鹿威しのようにこくりとかがみは頷き、ラッドの記憶にある『不死者を殺せる可能性』を言葉にして連ねていく。
583名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:55:40 ID:LgaC3kdH
 
584名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:55:57 ID:uRqfMWKD
585名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:56:26 ID:HJTMSJhD
586名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:56:29 ID:9bC9Dwt6
「考えてみればおかしいしね、螺旋王が死なない人間をここに放り込むなんて。
 ラッド・ルッソはこう考えてたわ。
 『禁止エリアに不死者を放り込めば、殺せるだろう』って。
 多分それは間違ってないわ。
 もしそうでないなら、私みたいな不死者は禁止エリアに突っ込んで首輪を爆破させればいい。
 後はそこに待機していれば優勝するのは簡単よ。全エリアが禁止エリアになるのを待つだけなんだから」
「成程。ワシの力も十全ではない。……むしろ当然の措置か」

アルベルトからしてみれば、むしろ思いつかなかった方がおかしいくらい当然の推理だ。
いくら不死とはいえ、これからはかがみの生死について警戒のレベルを引き上げるに越したことはないだろう。

「……ええ。きっと首が胴体から離れたら、再生できない。
 もしかしたら頭に致命傷を受けたりしても同じかも」

告げるかがみの顔色は、先刻とは別の意味で浮かない。
考えるまでもなくアルベルトは一つの可能性に思い当たる。

「……不死身のよ。死に恐怖したのか? その可能性に」

「……うん」

当たり前だろう。不死だからとこれまでそれに頼ってきたものにとって、それが十全でないという可能性を突きつけられたのだから。
これまで多少は安心していた分、襲い掛かる不安は倍加してもおかしくはない。
だから、アルベルトは言い放つ。
それこそが当然なのだと言わんばかりに。

「いい心掛けよ。死を覚悟するに越したことはないのだ」

――――そう。
生命とは、そもそも死するもの。
それを意識することこそ自然であり、しないのはそれこそ慢心なのだ。
あの、ギルガメッシュのように。

されど、これは言っておく必要があるだろう。

『梯子は足りているのか?』

――――ずっと脳内に響き続ける神父の声。
それに対する返答でもある。
口に出し、伝えることで言霊を現実化させる。
これこそが、我々の道であると。

「……だが、案ずることはない。
 不死身の柊かがみよ、貴様は安心してよいのだ。
 ――――ワシが貴様を守って見せるからな」

……柄にもない。分かっている。
目の前のかがみすら顔を紅くし、慌てているくらいなのだから。
588名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:56:37 ID:uRqfMWKD
589名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:57:17 ID:HJTMSJhD
590名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:57:25 ID:9bC9Dwt6
「……え? ちょ、ちょっと、あの……」

だが必要な行為だ。
今はいない神父に対し、告げる。
我々の道に翳りなどないと。
たとえ翳りが見えようとも、そのことごとくを打破してみせると。
その想いを込め、言い放つ。

「ん? くく、生意気にもワシが信頼できぬとでも言いたいのか?」
「そ、そうじゃなくて、さっきからどうしてそんな事ばかり……」

――――そう、それを。
その覚悟を、目の前の少女にも伝えなくてはなるまい。
彼女が螺旋の王を食らうなら、それを導き、また護るのが自分の仕事だ。
再度、それをお互いの中に留め置く。その為の儀式なのだ。

「なに、あらためての確認だ。ワシらの進む先はか細い梯子ではなく、泰山の頂であるという、な」

にやりと笑い、断言する。

「……え?」

かがみの表情を見て、不安を口に出してしまったことに少しだけ焦燥感を覚えるも、大した問題ではない。
……そう、梯子などではない。
踏みしめるに値する、高く高く聳える峻峰なのだと、己に言い聞かせる。
……やけに饒舌なのは分かっている。
それもこれも全て神父の言葉のせい……いや、おかげなのだということも。

これは良い契機だ。
自身の不安を吐き出し、互いに支えあう為の。
言葉は戒めの楔となり、自身の果たすべき仕事を浮き彫りにするのだ。
なれば各々の領分を弁え、出来る事出来ない事を助け合い、いかなる困難にも立ち向かえるだろう。
――――そして。
それを乗り越え、成し遂げるための信頼を築いていこう。

「……いや、何でもない。そして、だ。もっとワシに背中を預けてみせるがいい。
 何故なら――――」

ひと息を置き、告げる。かがみと自身の不安を振り払うかのように笑いながら。


「ワシは貴様より遥かに強い。こんな殺し合いで死にはせん程度にはな」


サク。


「……む?」

――――軽い音が、鳴り響いた。
592名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:57:42 ID:LgaC3kdH
 
593名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:57:48 ID:uRqfMWKD
594名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:58:02 ID:HJTMSJhD
595名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:58:21 ID:uRqfMWKD
「……言った、よなあ」

見れば、かがみは俯きながら、笑っている。

「言っちまったよなあ……」

どこまでも歪み、捻じ曲がりきった笑みを。

「テメエは……、よりによって……!」

――――殺人鬼の笑みを。

「その言葉を! この『俺』の前で!」

ゆっくりと、かがみの顔の更に下のほうを見る。そこには。

「……自分は死なねぇって、」

かがみがずっと握ったままの、ヴァルセーレの剣が自分の左胸を貫いていて。

「ほざいちまったよなぁぁぁああああああぁぁぁあああぁぁああああッ!!」

言葉と同時。
いや、その直前からかがみが振りかぶっていた鋼の左拳が、一直線に剣の柄尻を自分の左胸の、
奥の、奥の、奥の、奥の、奥の、奥の、奥の、奥まで押し込んでいく。


「……不死身の?」

――――呆然と。
ただ、呆然と。

滴る血雫は既に池を造っている。

それを確認してから、アルベルトはのろのろと面を上げ、かがみの顔を見る。

その表情には確かに殺人鬼の笑みが浮かんでいて――――、
しかし、それは口元だけだった。

眉も目も。それが語るのはかがみ本人すら状況を理解できていないという驚愕の二文字。
口だけをどこまでも歪ませながら、いつしかかがみの瞳からはぼろぼろと涙が零れ落ちてきていた。

「…………アル、ベルト?」

狂った喜色を表現する口元から、呆けた調子の少女の声が発されると同時。
――――十傑集が一人、衝撃のアルベルトは、あっさりと。
あまりにもあっさりと、膝をついた。


「あああああああああああぁぁぁぁあああぁぁあああああぁぁぁああぁぁあああああ
 ぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁああああぁぁぁああああぁああああああああぁあ
 あああああぁああぁぁあぁぁあああぁああぁぁあああああああぁあああぁぁあぁっ!!」
597名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:58:42 ID:HJTMSJhD
598名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:58:49 ID:9bC9Dwt6
599名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:59:15 ID:uRqfMWKD
600名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 21:59:41 ID:HJTMSJhD
少女の慟哭が、夜の闇に響き渡る。
――――思えば予兆はあったのだ。
アルベルトの自信に満ち溢れた言葉を聞いた時の、かがみの態度。
それは、アルベルトに向かって込み上げる殺意を押し込める為に必死だったというだけのことだ。


何が原因だったかは、追究しても仕方がない。

例えば、かがみがラッド・ルッソの記憶に踏み込みすぎたのが原因かもしれない。
あまりにその殺意に馴染みすぎて――――ある程度なら殺意を抑えられると油断していたのだろう。

あるいは、ラッド・ルッソがあまりに歪み、あまりに真摯に死なないと思っている人間を嫌悪していたからかもしれない。
どこまでもどこまでも捻じ切れきった彼のその信念は、たとえ食われようとも薄まることなくかがみの中にどす黒い輝きを放っていたのだ。

何より、言峰綺礼の埋め込んだ楔が強く強くアルベルトの心を抉ったからかもしれない。
――――彼は、どこまでを見通していたのか。
確実に言えるのは、彼の言葉がなければ、決してアルベルトが『自分は死なない』などと言わなかったに違いないという事である。
かがみと、自分自身を安心させる為に。


◇ ◇ ◇

――――今から少しだけ、殺し合いとは全く関係のない話をしよう。
話というよりもただのエピソード。
ただの余談。ただの蛇足。
興味がないなら立ち去っても構わない。

――――ふむ、それでも知っておきたいのか?
まあいい。

◇ ◇ ◇

……天を突くような摩天楼。
いくつものいくつものビルの中、その街は今日も相変わらずの様相を見せていた。
止まらない雑踏。
とめどない話し言葉。
ずうずう繋ぎの車の群。
アニメキャラのプリントされた痛車。
人の海を吐き出す電車。
いくつもの店の客を呼び止める声。
町の所々に姿を見せる黄色い布。
巨漢の黒人の目立つ寿司屋。
公園のベンチを引っこ抜くバーテン服。
夜の道路を駆け抜ける漆黒のライダー。

――――そんなものが織り成す日常の中、一人の少女が歩いていた。
地味な近場の学校の制服に、眼鏡。
文学少女というイメージが極めて近いだろう。

あたりをきょろきょろと見回しながら同級生の男子二人を探す彼女は、ふと違和感を覚えて振り返った。
そこにいたのは、目の鋭い外国人の男性だ。
彼はこちらを見ながらなにやら流暢な日本語で独り言を繰り返している。
……少女にとっては聞き捨てならない言葉を。
602名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:00:49 ID:LgaC3kdH
 
603名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:01:12 ID:HJTMSJhD
「……意識を持った妖刀、か。
 それに乗っ取られない為に、己すらも客観視し世界全てを絵の中の様に認識する。
 成程、それも一つの手段ではあるな。まあいい」

――――愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる
愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる
愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる――――

――――男性の言っている事は、あまりに的確に少女の存在を浮き彫りにしていた。
彼女がその身に宿すはまさしく妖刀。
所有者本人の意識を『怨嗟にも近い愛の言葉』を振りまきながら奪い取り、斬りつけた人間を更に己の支配下に置くという曰くつきの刀である。
一応、刀の意思に抵抗すれば逆に乗っ取り返すこともできるのだが、それができる人間は殆どいないのが現状だ。

しかし、少女は刀に意識を乗っ取られていない。
男性の言うとおりに自分自身すらも客観視し、この世のありとあらゆる事象と意思を隔離することで、自我を保っているのである。
――――意志の強さによるものではない、数少ない例外だ。

何となく不穏に思い、近づきながら少女は男性に話しかける。

「あの……」

と、不意に男性がこちらを見据え、訳の分からないことを言い出した。

「ん? ああ、気にしないことだ。
 良く似ている事例を思い出していたんでな。まあいい。
 ……ホムンクルスの『水』に良く似ている特性だと思っただけだ」

「……水?」

言っていることは良く分からないが、とりあえず相槌を打つことにする。
すると男はにやりと笑い、こう続けた。

「……意思を持った水だ。単体では意味を成さないが、それを人間が飲むことでその水に意識を乗っ取られる。
 ……正確にはお前の刀の様に意識の奪い合いをするわけだが、やはり大体乗っ取られるな。
 そして水を飲み、支配された人間は別個の肉体を持ちながらもあらゆる情報を同時に共有する。
 ……ひとつの、『水』そのものの意思の下にな。
 だが、水の支配を受けず、奪い合いもせず、意識を共存させる方法が一つある」

一息。

「それは、水と人間双方が身体の支配権を放棄した場合だ。
 逆に言えば、どちらか一方が支配権を放棄しただけなら、もう一方が相手の知識を得るだけになる」

「……ええと」

返答に窮する少女。だが、男はそれに全く関心を向けずにただ淡々と知識を紡いでいく。

「面白いだろう? お前の刀であれ、水の場合であれ――――、
 身体の支配権というのは、常に強い意識を持ったものだけが表に出てくる。
 お前みたいなのは本当に例外としか言いようがない。
 ――――そうだな。
 あの少女の場合も、もし少女自身が意思を放棄したならば――――、」

そこまで口にしながらも男は言葉を区切り、言い直す。
605名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:02:30 ID:HJTMSJhD
606名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:02:31 ID:LgaC3kdH
  
607名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:03:17 ID:uRqfMWKD
「……まあいい」


強い風が吹いた。
少女は目を閉じ、風が収まった頃合にゆっくりと見開いていく。
……そこには、もう誰もいなかった。

「……何だったんだろう」

疑問に思い口に出すも、答えるものは誰もいない。
しばし考え、……出てきた答えは『考えるだけ無駄』というものだった。
何せ、異常な存在は彼女の内にもいるのだから。

と、どこからか彼女の名を呼ぶ声が聞こえてくる。
前を向いてみれば、朴訥そうな少年と垢抜けた少年の二人が手を上げて走り寄ってくる所だった。
少女はさっさと今の記憶を脳のどこかに仕舞い込み、二人の下まで歩いていくことにした。

少女自身の日常が、殺し合いとは縁のないところで行われていく。


◇ ◇ ◇


――――慟哭は、已まない。

「あああああぁぁあぁぁぁあああああああぁあああぁああああぁあああああぁあああああ
 ぁぁぁぁあああああああぁぁぁああぁぁああああああああぁぁああぁあぁぁぁぁああぁ
 ぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁああああああああぁぁああああぁぁっ!!」

そして、それは次第に別物へと歪められていく。
狂々、狂々、狂々、狂々と。
狂った螺旋が紡がれ、少女の形相を変えていく。

――――柊かがみは考える。
こんなのは何かの間違いだと。
『柊かがみ』なら殺人などしないと。
『不死身の柊かがみ』なら、アルベルトを手にかけたりしないと。

それは当然なのだ。
柊かがみはごく一般的な女子高生。
そして、不死身の柊かがみはアルベルトを信頼する彼の協力者なのだから。

だが、現に彼は膝をついてこちらを見上げ、呆然としたまま動かない。
……いや、認めよう。既に死んでいる可能性すらある。
それは、事実だ。

では、何なのだろう。誰なのだろう。
――――自分は、何者なのだろう。
609名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:04:25 ID:uRqfMWKD
610名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:04:31 ID:LgaC3kdH
 
分からない。分からない。考えれば考えるほど――――何か大切なものを忘れていく気がする。
アルベルトを殺したという歓喜に胸のどこかが満たされていくことを自覚する。
それがとても気持ち悪い。
受け入れてしまえばいいのに、受け入れられない。
――――『柊かがみ』も、『不死身の柊かがみ』も、受け入れることを拒否しているからだ。

むかむかする。
むかむかする。
むかむかする。
――――とにかく、気持ち悪かった。

どうしても気持ち悪くなくなりたくて、
素直に喜んでしまいたくて。
だけど『柊かがみ』と『不死身の柊かがみ』がいる限り、それは叶わない。

……だったら、簡単な話だ。
ようやくそれに思い至る。
――――要するに。
要するに。


「ああぁああぁあああああああぁああああぁぁあぁああああぁああ……あぁ……あ……。
 あ、あぁ……は、あ……ひゃ、は、」


『柊かがみ』も『不死身の柊かがみ』も、考える事をやめてしまえばいい。
考える事をやめて、殺戮の快楽に身を任せてしまえばいい。

「ひゃ、……ヒャハ、ヒャァハハハハハハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハ!
 ハァハハハハハハハハハッ! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

すぐに実行する。
すると、とても気分が良くなった。
口からどんどんどんどん、楽しげな言葉が紡ぎだされていく。

楽しいな。楽しいな。

自分が死なないと思っている人間を殺すのは、楽しいなあ。

「ヒャハッ! ヒャァハハハハハハハハハハ!! ヒャハハハハハハハッ!
 おいおいおいおいマジかよありえねえ、ありえねぇってオイ!
 なんつーか、どうよ!? アルベルトちゃんよぉオイオイオイオイ!
 自分が信頼しきって! 油断しきって! 守ろうとしていたまさにその相手に!
 殺られるなんて100%、絶対に、全く、究極に思わなかった相手にぶっ殺されるのはよぉ!!」

――――どこか他人事を見る目で、柊かがみの意思は自分の体がまるでラッドのように動くのを諦観していた。
目の前にはアルベルトの死体。
胸に剣が突き刺さったままのそれを見ても、ああ、そうかという程度の言葉しか浮かんでこない。
612名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:04:46 ID:HJTMSJhD
613名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:05:39 ID:uRqfMWKD
「楽しくて楽しくて楽しくて! 楽しくて仕方がねえなあオイオイオイオイ!
 その表情、その眼、その台詞! いいねえ……。実にいい! 感動的にいい!
 よく死なねぇって言ってくれた! すんげぇウマいディナーだったぜアルベルトちゃんよぉ!
 ヒャハ! ヒャハハハハハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハッ、ハハハ!!」

――――感情が麻痺したからなのかどうなのか。
傍観し、諦観する自分でさえもそこに存在することが煩わしくなってきた。
じゃあ、さっさと考えるのをやめてしまおう。
後はこの身体が勝手に動くのに任せてしまえば、それでいい。

そうして、かがみは意識の中の自分の瞼を静かに閉じた。
もう、何が起ころうとも起きたくないなあ、と、最後にそれだけを考えて。

「ようしテンションも上がってきたしこの小せぇ体にも慣れたことだし!
 とりあえず会場内じゃ不死者でも死んでもおかしくねぇんだし!
 宇宙人に改造されて思い上がったタカヤ君と舞衣ちゃんをぶっ殺しに行ってあげますかねえ!
 クククハハハハ、ヒャァハハハハハハハハハハハハハハハッ!
 まさかこんなガキに殺られるとは思わねえだろうなああいつらは!
 ボコボコに殴り壊して! グチャグチャにすり潰して! 最ッ高のデザートに仕立ててやるからよぉ!
 ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


遥かな遠くまで届かんとする、殺人鬼の哄笑。
――――静かな夜は、それをただ一つのBGMとして更に闇を深めている。
まんまるく青白い空のカガミは遠く、遠く。
月の光が深々と、虚ろな顔をした男を照らし出していた。

誰に知られるでもなく、彼の首に嵌まった円環は役目を終える。
剣に貫かれた心臓の、最後の鼓動とともに一つの伝令を飛ばしたことで。
――――メッセージはシンプルなたったの一文。



【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日- 死亡】


【B-5南部/道端/1日目/深夜】

【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、囚人ルック(下に吐瀉物まみれの番長服)、髪留め無し、空腹、ラッドモード(暴走)
[装備]:つかさのスカーフ@らき☆すた、ローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     シルバーケープ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、
    バリアジャケット
[道具]:デイバッグ×12(支給品一式×12[うち一つ食料なし]、[食料×4消費/水入りペットボトル×1消費])、
     フラップター@天空の城ラピュタ、 超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
     雷泥のローラースケート@トライガン、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、包丁
     テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
     緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、サングラス@カウボーイビバップ
     アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ
     大量の貴金属アクセサリ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
     防水性の紙×10、暗視双眼鏡、首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)
     奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
     がらくた×3、柊かがみの靴、予備の服×1、破れたチャイナ服
615名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:06:26 ID:HJTMSJhD
616名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:06:34 ID:LgaC3kdH
  
[思考]
 基本−A: ――――――――。(思考放棄)
 基本−B:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)。
 0−A:――――――――。(思考放棄)
 0−B:さぁて、さてさてさてさて! タカヤ君と舞衣ちゃんを殺しましょうかね、しに行きましょうかねぇ!
 1:舞衣とDボゥイをぶっ殺しに行く。その後刑務所の面子と合流。
 2:映画館でラッドが殺し損ねた奴は必ず殺す。ギルガメッシュは特に殺す。
 3:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
 4:足手まといがあまり増えるようなら適度に殺す。
 5:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
 6:覚悟のある人間ばかりなので面白くないから螺旋王もぶっ殺す。
 7:とりあえず、死ぬ可能性のある会場内では自身の不死について懸念することはやめる。その後については考えない。

[備考]:
 ※会場端のワープを認識。
 ※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
 ※繰り返しのフルボッコで心身ともに、大分慣れました。
 ※ラッド・ルッソを喰って、彼の知識、経験、その他全てを吸収しました。
  フラップターの操縦も可能です。
 ※ラッドが螺旋力に覚醒していた為、螺旋力が増大しています。
 ※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
 ※ギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
 ※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。
 ※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
  
 ※螺旋力覚醒


【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:気絶、疲労(特大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、
    全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]
 基本方針:とりあえず死なないように行動。
 0:…………。
 1:ギルガメッシュに言われたとおり、刑務所へ向かう。
 2:柊かがみ(inラッド)に非常に恐怖。
 3:静留の動きには警戒しておく。
 4:何故、自分はチャイルドが使えないのか疑問。

[備考]:
 ※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
 ※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
 ※博物館に隠されているものが『使い方次第で強者を倒せるもの』と推測しました。
 ※第2、4回放送を聞き逃しました。
 ※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
 ※不死者についての知識を得ています。
 ※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。


※ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベルが、アルベルトの死体の左胸に突き刺さったままになっています。

618ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo :2008/04/08(火) 22:08:31 ID:9YvvkSuF
◇ ◇ ◇


――――このまま終わるのか? と彼は自問する。
――――否、断じて否! と彼は自答する。

一人の男の顔が脳裏に浮かぶ。
たった一人の少年の為に。
そして、己が使命を遂行するために。

腹に穴を開けられようとも、不本意な決着という未練を残しながらも。
――――自らの意に準じた男が、確かにいた。

自分はどうだ?

……まだだ。
この程度で終わりはしない。
心臓を貫かれた程度で、終わる事などあってはならない!

自分の為に。
自分たちの為に。

自分たちの登ってきたものが、届かぬ梯子などでなかったことを証明するために!!

その為の力を得てきたはずだ。
ここで潰える力ではないはずだ。

――――吼える。
強く強く、殺人狂の哄笑を掻き消す威を込め、堂々と。
どこまでも力強く。


「……笑うなぁぁ――――ッ!!」

――――衝撃のアルベルトは立ち上がる。
心臓に剣を突き刺したまま、十傑集として。
力に呑まれた同胞を助け出す為に。

嗤い続ける殺人狂の顔は驚愕に染まり、

「ヒャァハハハ……ハ……、オイ、まさか」

殺しきれなかった不快感に染まり、……次いで、アルベルトを再度殺せることへの歓喜に染まる。

「その、まさかよ」

アルベルトは髪を乱しながらも威風堂々とその姿を見せつけ、両掌に衝撃波を発生させる。
その目も、その立ち振る舞いも、その声色も。
……ありとあらゆる要素が、彼の燃え盛る命の火の強さを表していた。
619名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/08(火) 22:08:50 ID:vW/svsei
 
620ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo
本来なら在りえぬその光景に、しかし殺人狂はニィ、と笑みを深くする。
……楽しそうに、楽しそうに。

「マジかよ……オイオイオイオイ、ありえねぇだろオイ!
 最高だ! 最高だよアルベルトちゃん! 死ぬのは一回でいいってのに!
 テメエは、今ここで! 俺に殺されるためだけに! もう一回身体を差し出してくれるって訳だ!
 いいねぇ、信じらんねぇサービス精神! 痺れちまうよ!
 ヒャァハハハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハハッ!!」


暗闇に轟く狂った哄笑。
あまりにも禍々しく、災厄の前触れを告げるかのような詩歌をしかし。

「五月蝿いッ!! 十傑集を……、」

――――しかし、アルベルトは一喝する。

「舐めるなぁぁぁぁぁぁあああああぁあああぁぁあああああッ!!」


――――同時、戦端は開かれた。

左手に溜めた直線状の衝撃波が、コンクリートを断ち割りつつ殺人狂に向かい飛ぶ。

対する殺人狂はステップを踏みながら、右手だけの歪な拳闘の姿勢を取り、突っ込んできた。

「遅ぇよ温ぃよ当たらねぇんだよんなインチキパワーはよぉ!」

――――回避。
わずか二歩の動作で体を衝撃波と平行になるよう姿勢を変えた殺人狂の側を衝撃波が突き抜ける。
後方に突き進み続ける衝撃波は、その過程で道中にある全ての建造物を粉微塵にして止まらない。
それを見届けもせず悠々と、しかして怖ろしい速度でアルベルトに近寄ろうとする殺人狂へ、

「……オイ」

ちょうど回避先に重ねるように、アルベルトが波動を叩き込む。
殺人狂は僅かに驚きを顔に出すも、即座に残忍で獰猛な笑みを顔に浮かべ、ゆらりと左腕を持ち上げた。

「……面白ぇ、面白ぇなあおい衝撃のアルベルトちゃんよぉ!!」

殺人狂は鋼鉄の左腕を突き出し、チェーンソーのような歪な半円を、あまりにも暴力的に描く。
義手と衝撃波が鬩ぎ合い、双方が砕け散った。
衝撃波の威力は殺人狂の左腕ごとミンチにしてなお余りある。
だが、囚人服状のバリアジャケットに阻まれ余波はまったく殺人狂の胴体部まで届かない。
――――そして、即座に腕が回復。
加えて殺人狂の莫大な螺旋の力は、バリアジャケットの再構築も一瞬で完成させた。

「……ヒャハ、ヒャァハハハハハハハ、ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」