あの作品のキャラがルイズに召喚されました part118
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part117
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1204344199/l50 まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ --------------------------------------------------------------------------------
_ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
--------------------------------------------------------------------------------
_ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
〃 ^ヽ ・クロス元が18禁作品であっても、SSの内容が非18禁である場合は
J{ ハ从{_, 本スレへの投下で問題ないわ。
ノルノー゚ノjし ・SSの内容が18禁な展開をする場合はクロス元に関わらず、
/く{ {丈} }つ 本スレではなく避難所への投下をお願いね?
l く/_jlム! | ・クロス元が型月作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
レ-ヘじフ〜l ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
--------------------------------------------------------------------------------
,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
もうこのテンプレ展開にいい加減飽きた
新作やるなら工夫してくれよ
爆発
平民プゲラ
コルベール問答無用さっさと汁
キス契約
フライに唖然とする
説明はぁどこの田舎者?
何者であろうと今日からあんたは奴隷
二つの月にびっくり
洗濯シエスタと接触
キュロケフレイム顔見見せ
みすぼらしい食事厨房でマルトー
教室で爆発片付け
昼食シエスタの手伝い香水イベント
オスマンコルベール覗き見
ギーシュフルボッコ場合によって使い魔に弟子入り
休日街でデルフ入手 キュルケタバサがついてくる
ルイズが爆破訓練宝物庫破壊フーケ侵入お宝げっと
この段階でフーケは絶対つかまらない
翌朝捜索隊保身に走る教師一同
教育者オスマン犯罪捜索を未熟な子供にマル投げ
小屋で破壊の杖ゲットフーケフルボッコしかし絶対死なない
オスマンから褒章 舞踏会 終わり
● 「こっ、こっ、こっ、こっ、こっ、この…バカ犬っ!!!」
┠〜〜〜┐ちゃんとここにいてぇ、わたしのちかくでぇ
┃ ● ∫ ずっとわたしをい〜んつもい〜んつもみ〜んつめてなぁさぁ〜い
┠〜〜〜┘ よそみしてたでしょ、ほかのおんなのこぉ〜
┃ おしおきするのふぅ〜らりふぅ〜らりふぅ〜らちなやつうは
┃ (ん、ちゃちゃちゃちゃちゃちゃ)
┃ どんたーちきかないからねいーいーわ〜けは
┃ たちみーつ〜んかれたかぁ〜ら
┃ ね・え・かたをっかしてよっ
┃ す〜き〜よ〜ンなんてうそ〜よっ
┃ き〜ら〜い〜ンこれもうそだわん
┃ ないないないぃだめよかんちがいぃ〜〜〜〜〜っ
┃ だからすぅきぃよっなんていわない
┃ のんのんのんどっこかへいったら
┃ ぜえったいにっゆるさないからねぇ〜〜〜〜ん ・・・だぁって
┃ ほんと〜はだれ〜よ〜りそンばンにンいンたあ〜いの
┃ あ〜い〜の〜く〜さ〜り〜でっさんっぽっしましょ
敬礼 (`・ω・´)ゞ
>>1 ○________
なぎはらえー |:|\\:::::||.:.||::::://| /イ
|:l\\\||.:.|l///| .///
__ ィ ,. -――- 、 |:|:二二二二二二二 !// /
/ / \. |:l///||.:.|l\\\|/ /
/ ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./ / / l l l lハ |:|//:::::||.:.||:::::\\l /
ト、 ,.  ̄ ̄Τ 弋tァ― `ー / l从 |メ|_l l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄ | イ
ヽ \__∠ -――く __ .Z¨¨\ N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\| / / | / !
ヽ ∠____vvV____ヽ < ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐ . \ / / \ / l
. \\_____ivvvvvvvv| V. ( ( /Tえハフ{ V ‐一 '´ / __. -―=-` / / l l
\! | / 入_.V/| >-ヘ \:::∨::∧ ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ / / / l. l
__ |\ l/V _{_____/x| (_|::::__ノ }ィ介ーヘ / ,.-‐ ' ´ / ____  ̄ ̄フ ∧ l
)-ヘ j ̄} /| /___/xx| _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___ { / `< / \|
{ V /`7. /___./xXハ ( |:::::::::::::::::ハ >' ____ 二二二二二二> / __ 〈
. \_ |/ /___l XX∧ __≧__::::::::/:∧/ `丶、 / { {____ハ }
| ヽ /____|]]∧ __|__L.∠ ム' <`丶 、 `丶、 / \_____/ /
| ', { |]]]>' __ ∧ l\ \ 丶、 ` 、 ∠ -――- ..____ノ /
ノ } l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/ V' \ ヽ `丶\/ /
/ ∧ { \ | .|>' / // :/ :/ : ', l \ ヽ ,.-――┬ \ /
入ノ. ヽ く ヽ______7 ー―∠__ 〃 l :/ :l l \V ヽ \ ,. '´
`ー′ \ `< | { / | /〃 :|/ __V/ ̄| ̄ ̄{_ \_ ` <
\ `' ┴ヘ { .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' | / ノ`y‐一' >、_/ / ̄ 7丶、_ 丶
\ ヽ /`ー「と_し^´ | | } ム-‐' / / \_/ / / ヘ \
ヽ _>-ヶ--∧_} ノ j /` 7 ̄ ̄ ̄{ (  ̄ ̄`ー‐^ーく_〉 .ト、_>
', / 人__/ .ィ {__ノ`ー' ヽ 人 \__ { } |
V 人__/ / | /  ̄{ ̄ >‐ ァ-、 \ 〉ー} j
{ / ./ ∨ __  ̄ ̄ >-</ / ̄ ̄ 廴ノ '
<ヽ__ /し / < )__ \ _r‐く___/ / < ) \ {__ノ /
Y__>一' / ___r―、_\ >' `ー' ,. ´ >.、 \__ノ {
∠二)―、 `ー‐┐ ∠ ∠_r‐--― <__ ∠ )__ \_
∠)__ノ ̄`‐⌒ヽ__|> ∠)__r―――-― ..__{> ∠_廴,. ⌒ー'  ̄ \__{>
1乙カレー
天婦羅通りでない怪作ってどんなのがあるかな?
スピノザ召喚とか引きこもり人形遣い少年召喚とか?
ナイト2000もラスボスがモッド伯ってのが微妙
>>2 なにもこれまで載せンでも・・・
>>6 ご立派様はテンプレ通りなのに、絶対テンプレ通りじゃない!
気さくな王女を忘れてはいかんぞ
8 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/06(木) 08:42:10 ID:rPPcJQ+0
つーかいつの間になのは関連がスレで禁止になったんだ?
もっと規制するべきものは他にあるだろうに
なのは関連が禁止なんじゃなくて外部の作品の話題出すのが禁止
テンプレではなく原作
まずはそこからやり直しだ
>>6 モット伯だ! 二度と間違えるな!
彼の名はモット伯というんだ! モッドでもモットモットーでもない!
>>2-4の捏造テンプレ貼りは荒らしぎりぎりだろ。
三匹が斬る!の三人を召喚
しかし
>>2は弟子入りとかそういうの除けばほぼ原作のあらすじなんだわな
それをテンプレとか言われてもなあ…
2は全体の意見じゃないから止めるべき
おまえらただのテンプレ荒らしに反応しすぎだ
_人人人人人人人人人人人人人人人_
> ゆっくりしていってね!!! <
^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
__ ヽ _
/ ´ `ヽ
〃 \
/ { \ ヽ
/イ l 从 }l l レ | l
|ハ l| :l`トム l仏匕l | r┴-、`、
∧ lV}(ヒ_] ヽ リ ヒ_ン ) / {こノ_j_ ヽ
/ `l "" ,___, ""〈`ー'´| \
, -=彳 j{ ゝ、 ヽ _ン / ∧. | \
{ /⌒)_ヽ 丁丈千/ /_ ,ィ┘ ヽ
ゝ-、_ヽ _(ノ )_ノ ノヒ乂ツ/ `ヽ ::::::l ノ
f:::::::::∨ />'⌒ヽ‐介‐-ゝ=ァ /::::::::l /
ヽ::::::::::ヽ'´:::::::::::::::∨/ /  ̄≧::ヽ {
_ -‐::==ヘ::::::::::} /ハ::::::::人えI>、 `T¬ー'´:::::::::\ ヽ _
\::::::::::::::::::::: ゝ=∠:::_}ィヘ ̄/⌒ヾi>┘〈_:::::::::::::::::::::::\ _≦_
.  ̄ ̄ ̄ ̄`7¨ヽ ヾ/:::::::::::::::>、_Zフ′ ̄ \:::::::::::::::::::::::::::>
{:::::::\/:::::::::::, '´  ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ:::::::::ヽ:::::::/
}:::::: ::/
ゝ _/
乙。
踏まれに来たぜ。
もう既にネタと化した
>>2 に本気で怒っても意味ないと思うぜ。
生暖かい目で見守るか鼻で笑い飛ばそう。
20 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/06(木) 12:06:07 ID:qvDhqV+D
>>13 その三人ならラスボスはやっぱりモット伯だろうな。エンディングは
ズンチャチャ ズンチャチャパッパーパー
シエスタ「本当に有難うございました皆さん」
殿様「なに、シエスタには学院が一番よく似合っているからな」
千石「美味い飯喰わしてもらったしな」
たこ「厨房にも華がないとね、いいって事よ」
三人「じゃあシエスタ、達者でな」「あばよ」「元気でね〜」
ルイズ「もぉー、まってよ殿様〜」
チャーララーチャッチャチャラララーパッパー
ナレ「優しい娘の笑顔を守り三匹の、明日はいずこか旅の空」
パッパラーパッパーン
必殺の奴と被ってるね(´・ω・`)
23 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 12:44:10 ID:+IfbRZTi
突然ですが昼日中から失礼します
予約無いようですので、5分後くらいから投下しようかと思います
支援っ!
25 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 12:47:26 ID:+IfbRZTi
「ねぇ〜、お願いよ〜。ちょっとだけでいいの!見せてよぉ〜」
「ダーメッ!あれはヤンのモノなの。つまり!ヴァリエール家のモノでもあるってことな
のよ」
魔法学院の夕方。乗馬の練習から戻ったルイズ達の部屋の前で、珍しくキュルケが頭を
下げていた。頭を下げられるルイズはまんざらでも無いようで、誇らしげに胸を張りつつ
キュルケのお願いを突っぱねている。
「そこをなんとか、ね!お願いっ!」
キュルケはもう、手を合わせてルイズに頭をヘコヘコ下げている。
「もうっ。いい加減にしてよね!あれの価値がどんなものか知ってれば、簡単に見せれな
いモノだってわかるでしょ!?第一あれは、ここにはないわ。危ないから宝物庫の中よ。
分かったら諦めて、さぁ部屋に帰りなさいな!」
扉前でルイズにお願いしていたキュルケは、ネコみたいに追っ払われた。随分と色気過
剰な大ネコだが。
バタンと扉を閉めて、床にあぐらをかいて本を読んでるヤンに不機嫌に怒鳴る。
「あんたも本ばっか読んでないで、アレの削り方くらい考えなさいよ!」
ヤンは一言、ノンビリと答える。
「無理だよ」
飄々としたヤンの、さも当然というような返答に、ルイズはイライラしてくる。
「無理だよ、じゃないわよ!あんなでっかいダイヤ、高すぎてだーれも買えないわ!てい
うか、本体からも外せないじゃないの!」
「といっても、ハルケギニアの技術レベルでは、傷一つつけられないよ。『錬金』でもかけ
たらどうかな」
「それじゃ、価値が無くなるじゃない!あの斧本体もダイヤも、どっちも凄い値段が付く
事間違いなしなんだから!」
第4話 土くれのフーケ
ローゼンリッターのトマホーク、その刃である巨大ダイヤモンド。そしてロングビルに
正座させられ説教された学院長とコルベール。
研究室が崩れんばかりの大音響と共に、当然これらの事実も学院中に響き渡った。そし
て学院長はじめ教員が束になっても傷一つつけられないという、斧それ自体が驚異的な硬
度を誇る未知の物質で作られている事も。
ロングビルから「高値で売れる」と言われた事を、ルイズは自分の事のように喜んだ。
実際、ヤンは自分の治療費をちゃんと返すつもりだったので、それは自分の事として喜ん
で間違いはない。
だがヤンもルイズも、すぐに気がついた。その斧を売る事が出来ないという事実に。
価値が高すぎるのだ。
神話級の巨大さを誇るダイヤモンドを刃とした、何者をもってしても破壊出来ない斧。
これはつまり、「加工出来ない」という意味でもある。その斧は丸々一つでしか売買できな
い。なので、それは途方もない金が動くという事。
有力貴族ではあるが一介の学生でしかないルイズ。異邦人のヤン。もはや彼等が扱える
金額では、なかった。
26 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 12:49:40 ID:+IfbRZTi
おまけに斧という形状も問題だ。
ハルケギニアは魔法世界。支配階級の貴族はメイジであり、杖がその象徴。剣や斧は平
民の武器だ。至高の価値を持つ宝石が斧の形をしていては、購入する貴族や王族にしてみ
ると、よろしくない。女性の装飾品としては最悪のデザインとしかいいようがない。
でも加工できないほど硬い物質な上に、刃だけを本体から取り外す事も出来ない。形状
も変えられない。
だからといって、本来の使い方である「トマホーク」として、新たに柄を取り付けて使
用するなど、少なくともハルケギニアの人間であるルイズからしてみたら、あり得ない話
だ。杖として使用するには大きくて重すぎる。
かくして、ヤンもルイズも斧の取り扱いに困り果ててしまった。でも、あまりに価値が
高すぎて部屋に置いておくのも危ない。なので、とりあえず学院の宝物庫に保管する事と
なった。
保管するのはいいのだが、ルイズは気が気ではない。顎に手をあてながら室内をウロウ
ロと歩き回ってしまう。
「大丈夫かしらねぇ、またあのハゲやエロジーサンが勝手に持ち出したりしていないかし
ら?」
有力貴族出身のルイズは、もちろん仕送りの量もハンパではない。だからこそ屋敷が買
えるほどのヤンの治療費を支払えた。そのルイズをもってしても、斧の価値は動揺させら
れるに十分なものだった。
「うーん、大丈夫じゃないかな?斧をおさめたケースの鍵はロングビルさんが管理してる
から」
ヤンの言葉にルイズはキョトンとしてしまう。
「ロングビルって、あの秘書の人?ちょっと、大丈夫なの?あの斧盗られちゃうんじゃ」
「盗むつもりなら、この前学院長の机の上で見つけた時に盗んでるさ。少なくとも、あの
斧の存在を僕に教えても、彼女に利益はないよ。それに、宝物庫に入るには学院長の許可
がいるし」
「ああ、それもそうね…少なくとも、どこかのハゲみたいにぶっ壊そうとはしないでしょ
うね」
納得して頷くルイズ。
ヤンは相変わらず焦燥とか不安とかとは無縁かのように、床に置いたお茶を飲む。とた
んに不快と縁が出来た。
「うう、やっぱり不味い。明日はシエスタさんにお茶の入れ方を習うとするよ」
「そうしなさい。ともかくこっちは、あの斧について父さまに手紙を書いてみるわ。出入
りの宝石商を紹介してもらうから」
「あ、それなんだけど」
ヤンは何か思いついたようで、慌ててお茶を床に置く。
「宝石として売れないなら、それ以外として売れないかな?」
「宝石以外?
…まさか、あれを斧として使えっていうの!?冗談言わないで!あんたの国ではただの
斧なのかも知れないけど、このハルケギニアじゃ、あんなでっかいダイヤ!もったいなく
て平民になんか渡せないわ!」
肩を震わせて抗議するルイズにヤンは、まぁまぁ話を聞いて、となだめる。
「つまり、武器以外の実用品として使えば良いんだよ。例えば、カッターとか、研磨用の
研ぎ石としてとか。僕の世界ではダイヤモンドカッターと呼ばれているんだけど、ハルケ
ギニアにもそういうのはあるかな?」
ヤンのアイデアを聞いて、ルイズは首を傾げる。そして、ポンッと手を打とうしとした
が、すぐまた考え始める。
しばし顎に指をあてウ〜ンと考えて、諦めたように溜息とともに肩を落とした。
「しょうがない・・・気はすすまないけど、アカデミーの姉さまにも連絡するわ」
27 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 12:52:42 ID:+IfbRZTi
「へぇ〜。それじゃあ、アカデミーに売るつもりなんですか?」
次の日の午前、厨房でシエスタがテーブルにティーカップやお茶の葉を持ってくる。
「う〜ん、まだ分からないよ。でも、宝石として使えないなら工具としてどうか、と思っ
てね」
ヤンはかまどでお湯を沸かしている。
慣れない手つきでかまどに薪をくべ、お湯の沸き具合とにらめっこしていた。
「えっと、ねぇシエスタさん。お湯はこれくらいでいいのかな?」
お湯は沸騰し始め、泡が沸きだしている。
「いえ、もう少し沸かさないと。お茶は湯の温度が命だから、気をつけてね。それじゃ、
こちらのポットに茶葉を入れてみて」
ヤンは茶壺からお茶の葉を無造作に取り出し、ポットに入れようとする。
シエスタの手が彼の手をペチッとはたいた。
「ああ、ダメダメ!二人分だけのお茶なんですから。ちゃんと二人分だけの分量を取らな
いと、濃すぎたり薄すぎたりしますよ。
で、次は茶葉を入れたポットに完全に沸騰して泡がごぼごぼ立っている状態の湯を素早
く注ぎます。カップは一般的に、予め暖めておくように、と言われてるわ。でも猫舌な人
も居ますので、それは人それぞれかもしれないわね」
「そうなのかぁ。それじゃミス・ヴァリエールの好みも聞いておかないとな」
そんな感じで、ヤンは慣れない手つきでお茶の入れ方をシエスタから教わっていた。
朝食の片付けも終わり、昼食準備までの休憩時間。厨房に若い女性と二人っきりでお茶
の入れ方など、色々と教えてもらう。ヤンは内心、こんな姿をポプランやシェーンコップ
に見られたら、なんてからかわれるだろうかと苦笑いをしてしまう。
いつ来るかも、本当に来るかどうかも分からない自分の捜索隊。そのメンバーにアッテ
ンボローなどイゼルローンの高級士官達が混じっていないことを、贅沢と知りつつも祈っ
てしまうのだった。
そんな邪な願いを抱きつつ、シエスタ直伝のお茶がティーカップ二つにいれられた。二
人で口にしたそのお茶は、ヤンの贅沢な願いに影響されたかどうかしらないが、少しはま
しになったと言う程度。やっぱり不味かった。
「う〜ん、僕には才能がないみたいだね」
「そんな事はありませんよ!最初よりはずっとマシになってます。練習すれば、必ず美味
しいお茶が入れれますよ」
不味いお茶を飲まされたはずのシエスタが朗らかに励ましてくれるので、ヤンも嬉しい
やら恥ずかしいやら。照れ隠しに頭をかいてしまう。
「そうだね、頑張るとするよ。洗濯とか掃除とかも、色々と勉強しないとね」
「ええ!私で良ければ色々教えますので、一緒に頑張りましょうね」
黒髪とソバカスが魅力的な少女の、小さくても元気なガッツポーズ。
軍で海千山千な敵味方と、騙し合い裏の読み合い殺しあいをしていたヤン。彼にとり、
まるで青春時代に戻ったかのような錯覚に陥らせるに十分なものだ。いや、彼の青春時代
に女っ気は無かったので、30代にして初めての青春時代か。
「助けが来るかどうか分からないけど、しばらくここでやっていくかな」
ハルケギニアの良さに気付きつつあるヤンだった。
紅茶を飲みながら支援
支援にブランデーをたっぷり
30 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 12:54:41 ID:+IfbRZTi
その日のお昼休み、学院の宝物庫。
トリステイン魔法学院の宝物庫は本塔学院長室のすぐ下にある。学院秘蔵の秘宝からガ
ラクタまで保管された巨大鉄扉の鍵は、オールド・オスマンが管理している。
その扉は今は開けられ、ロングビルと何人もの教師が中で一つのケースを囲んでいた。
長い黒髪に漆黒のローブをまとった、陰鬱な空気を漂わす若い男が、うわごとのように
囁いた。
「これが、例の…斧か」
紫のローブをまとった中年女性、先日ルイズの失敗魔法で吹き飛ばされたミセス・シュ
ブルーズが斧の刃に杖を向ける。
「本当に、間違いなく、これはダイヤモンドですわ。…いえ、待って下さい。これは…凄
いですわよ!ダイヤよりもずっと衝撃に強くて、確かにこれなら武器としても使用出来ま
すわ!」
周囲から、ダイヤよりも硬いと言うのか!?信じられない、といった嘆息が漏れる。
他の教師達も魅入られたように斧を魔法で調べ、強度を確かめ、ダイヤ部分を外せない
か格闘してみる。だが、得られるものは無かった。オスマン達と同じく、恐ろしく硬いと
いう以外は何も分からない。
ロングビルがパンパンと手を打って皆の注意を引く。
「さぁさ皆様、お昼休みはもうすぐ終わりますわ。そろそろ宝物庫を閉めますので、皆さ
ん出て下さいな」
教員達は渋々といった感じで宝物庫を出て行く。だが斧のケースに鍵をかけたロングビ
ルが出てこないのにシュブルーズが気がついた。
「ミス・ロングビルはでませんの?」
「ええ、私は宝物庫の目録を作ろうと思いますの。せっかく宝物庫に来ましたので、つい
でにやっておきますわ」
秘書は教師達が皆立ち去るのを見送ると、宝物庫の扉を閉める。
窓もない、暗い宝物庫の中を魔法の光で照らす。誰もいない室内に、なんだかよく分か
らない秘宝だかガラクタだかがずらりと並んでいる。
それらを横目に、彼女は一つの大きなケースの前に来た。パカッと開けると、そこには
金属製の筒のような壷のようなものが収められている。高さは1メイルくらい。ケースに
は筒の名称が貼られている。
名札を読むロングビルは、明らかに邪気を含む笑みを浮かべた。
「くふふ…これが学院秘蔵の、『破壊の壷』てわけかい」
口の端を釣り上げながら魔法の光を近づけ、表面に描かれた文様を見つめる。
「ふぅ〜む、読めないわ。どこの国のモノかしらねぇ?」
ふと視線を横に向けると、ローゼンリッターの斧を収めたケースがある。
彼女の脳裏に、遙か異国から来た冴えない男性の姿が浮かぶ。そして彼の服や持ち物に
記されていた文字らしきものも。
記憶の中の文字と目の前の『破壊の壷』に記された文字を照らし合わせてみる。
「・・・もしかしたら、あいつなら読めるんじゃ・・・」
次は宝物庫を守る壁を調べてまわる。
試しに壁に『錬金』をかけてみるが、何の変化もない。
軽く杖で叩いてみると、硬質な音が返ってくる。そして手で直接壁を触れ、壁の厚みや
材質を読み取っていく。
「こりゃ、ダメだわ。『固定化』以外はかかってないけど、あたしのゴーレムでぶん殴って
も破れないほどの強度だわね。どっかに傷とかヒビとかあれば、なんとかなりそうなんだ
けど・・・もちろん、ないわね」
ロングビルはぐるりと宝物庫を見渡し、肩を落とした。
そして紙とペンを取り出し、今度は本当に宝物庫の目録を作り始めた。
だがその口からは、書き連ねている宝物の目録とは別の言葉が漏れてくる。
提督キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!支援
32 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 12:57:39 ID:+IfbRZTi
「学院秘蔵の秘宝『破壊の壷』、欲しいねぇ…。でも、あたしのゴーレムで力ずくっていう
のは無理か。今すぐってのもありだけど、それじゃ『あたしが犯人です』て言ってるよう
なもんだし。まぁ、中に入る口実も手に入れたし、夜には当直の教師も寝ちまうんだし、
焦る事はないわ。じっくり盗み方を考えましょうかね。
それにしても惜しいわ。マジックアイテムじゃないけど、ヤンの斧の方が値打ちがあり
そうなんだから。はぁ〜もったいない。あいつが貴族だったら、遠慮無く頂いたんだけど
ねぇ〜・・・」
ふと彼女の頭にヤンの顔が浮かぶ。高級軍人にもかかわらず、何の裏も持ち合わせてい
ないかのような、のんきで穏やかな…というか、寝起きのように気が抜けた顔が。
ふと、自分の顔も同じように気が抜けてしまっている事に気がついた。
慌てて頭を左右に振りまくる。
その時、背後から扉が開く音がした。
彼女は更に慌てて、目録作成を真面目にしていた風を繕う。
「ミス・ロングビルかの?」
扉を開けたのはオスマンだった。
「あら、オールド・オスマン。どうされましたか?」
「いや、昼休みが終わったのに戻ってこんから、どうしたのかと思っての」
言いながらオスマンはロングビルに歩み寄る。
「心配させて申し訳ありません。実は宝物庫の目録を作っておりました」
「おお、そうかのそうかの。相変わらず仕事熱心じゃな!」
「そして、学院長は、相変わらずスケベですわね!!」
秘書の尻をなでたオスマンは、ヒールで思いっきり蹴り飛ばされた。
その日の夜、ルイズの部屋に一通の手紙が届けられた。
ヤンが受け取った手紙の差出人を見ると、ルイズは驚いて大声を上げてしまった。
「うわっ!?父さまから、もう返事が来たわよ!今朝出したばっかりなのに早いわね」
「へぇ〜。公爵ともなれば仕事が忙しいはずなのになぁ。よほど君から手紙が来たのが嬉
しかったんだろうね」
急いで封を開けて中を読むルイズは、さらに驚いて目を丸くしてしまった。
「えー!どうしてこうなるのぉ?明日の夕方、王宮に例の物を持って来なさいって!」
二人は顔を見合わせた
ダエグの曜日、放課後。
学院の正門に立つルイズとヤンの前に、王宮からの迎えの馬車が一台やって来ていた。
そして二人の後ろには、斧を収めたケースを持つロングビルもいる。
「ありがとうございました、ミス・ロングビル。それじゃ持って行きますね」
ヤンがロングビルの持つケースに手を伸ばすが、彼女は彼の手を拒んだ。
「いえいえ、これは成り行きとはいえ、私が鍵を預かり守っている物ですから。ちゃんと
王宮までお守りしますわ」
それを聞いたルイズが怪訝な顔をする。
「あの、ミス・ロングビル。あなたには秘書の仕事もありますし…」
やんわりと断ろうとするルイズを、毅然とした秘書はビシッと右手で制した。
「申し訳ありませんが、この斧の価値は宝石としても研究素材としても極めて高い物なの
です。あのエロオ…こほん!もとい、オスマン氏とミスタ・コルベールの例もあります。
最近は『土くれのフーケ』が出没していることですし、ちゃんと王宮までお守りします
わ」
ルイズとヤンは何となく納得いかないようではあるが、斧の価値に比べて確かに馬車一
台だけでは不安を感じる。なのでロングビルの同行を認める事にした。
33 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 12:59:42 ID:+IfbRZTi
馬車は夕暮れの草原を通り、トリスタニアへと向かう。
初めて街に行くヤンは、見るからにワクワクしているのがわかる。ずっと窓から馬車の
進行方向を見つめ続けている。横に座るルイズは、そんなヤンを「みっともないわよ、落
ち着きなさい」とたしなめるが、あんまり効果がない。
彼等の前に座るロングビルは、ケースを膝に載せて静かに座っている。
「ねぇ、ミス・ヴァリエール。日没までに街に着くのかい?…おっと、こほん」
浮かれすぎて目の前にロングビルが居るのに敬語を使うのを忘れた事に気がついた。慌
てて咳払いして言い直そうとするヤンに、ロングビルは少し微笑んだ。
「お二人の事情は大体知っていますわ。私の前では気を使わずともよろしいですよ」
言われたヤンは少し恐縮してしまう。ルイズは伏し目がちになってしまう。
誤魔化すようにヤンがロングビルに尋ねた。
「ところで、さっき言っていた『土くれのフーケ』とは何なんですか?」
「そうですわね。城まで時間がありますし、お話しましょうか」
ロングビル、そしてルイズは、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れる怪盗について説明
した。
『土くれのフーケ』
近年トリステインを騒がす神出鬼没の大怪盗。
土系トライアングルクラスのメイジらしく、『固定化』された壁や金庫を『錬金』で土に
変えてしまう。また、30メイルの土ゴーレムも操り白昼堂々王立銀行を襲う。かと思え
ば夜陰に乗じて鮮やかにお宝を盗みさることもある。
性別すら分からず、行動パターンも読めず、魔法衛士隊も振り回されている。
そして犯行現場には必ず『秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と
ふざけたサインを残す。
狙うのは貴族が所有する、強力な魔法が付与されたマジックアイテムがメイン。
「マジックアイテムを狙うと言う事は、その斧は狙わないのでは?それに私は貴族ではあ
りませんよ」
と疑問を口にしたヤンに、ルイズが呆れた顔を向けた。
「バッカねぇ、魔力は込められて無くても、桁外れの価値が込められてるわ。これだけの
品なら十分狙うでしょ。それにあんたはあたしの使い魔、つまり貴族同然と見なされるか
もね」
ルイズの意見にロングビルも頷く。
「念には念を入れるべきですわ。私では少々役者不足ではありますが、必ずやお二人と斧
を王宮に届けますわね」
自身を持って胸を張るロングビルに、ヤンは頼もしさを感じてしまう。
そんな話をしていると、薄暗くなった草原の向こうにトリスタニアの街灯りが見えてき
た。
ヤンは、人生の多くを宇宙で過ごした。
少年時代は16歳直前まで父と共に恒星間商船に乗って星々を巡った。
士官学校時代や、軍での地上勤務もあった。だが、同盟と帝国の戦争は大方が宇宙空間
での艦隊戦なので、艦に乗って宇宙を渡る時期が長い。そして「イゼルローン要塞司令官
・兼・イゼルローン駐留艦隊司令官・同盟軍最高幕僚会議議員」という地位でイゼルロー
ン要塞へ赴任、何度か同要塞を奪取もした。
つまり、彼は惑星上で生活した期間が長くない。ましてや、ペット以外の生物が人間と
共に暮らす中世の街なんて、本でくらいしかお目にかからない。彼は宇宙で科学に包まれ
て生きてきたのだから。
なので、彼がこんな姿を見せても、やむを得ない事なのだろう。
しえん
ジャムでもマーマレードでもなくハチミツで支援
>>27なにかシエスタのしゃべり方に違和感が…でも支援
援護射撃
38 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 13:02:37 ID:+IfbRZTi
「うわぁ〜!すごいなぁ、松明だよ!本当に火を燃やして灯りにしてるんだね!全部魔法
で照らしてるのかと思ったよぉ。おや、あそこに見えるのは。ロバだ!すごい、こんな街
中にロバがいるなんて!おお、あれは!荷車を、人が引っ張ってる!荷物は…見た事のな
い野菜だ、しかも、土がついたままだ!それにしても、なんて細い街路なんだ、ああそう
か、城へ敵が直進出来ないよう、細く曲がりくねらせ迷宮化させてるんだねぇ。あらら、
道ばたに落ちてるのは、馬のフンかい?ははは、そうだね、動物がいれば当然だよね。そ
れにしても臭いがきついな。衛生状態はお世辞にも良いとはいえないようだね」
白い石造りの城下町トリスタニアに入ったとたん、ヤンは子供のように馬車の窓にかじ
りついて興奮しっぱなしだ。なにしろ彼にとっては多くの歴史書に記された古代地球の風
景が、テーマパークとは違う本物の中世の町並みが目の前に広がっているのだから。歴史
家志望だったヤンにとっては、もう天国のような世界なことだろう。
翻って見るに同乗者の女性2名は、どちらかというと地獄だろう。いい年をした大の男
が子供のようにはしゃいでいる。しかも、自分たちには見慣れた、というか、どこが面白
いのか全く分からない物を見て大喜びしているのだから。
馬車の前からも押し殺したような笑い声が耳に届く。御者が必死に笑いをこらえている
らしい。
ルイズが肘でヤンをつつく。
「ちょっと、あんた…恥ずかしいのよ!落ち着きなさいっ!」
突かれたヤンは、ようやく我に返った。
「あ、ああ、ゴメン。興奮しすぎたね、気をつけ・・・うわっ!信じられない!あれは毛
皮屋さんかい!?初めて見たよ、動物の皮を、えと、なめすっていうのかな?へぇ〜!あ
んな風にやるんだねぇ」
我に返ったとたんに、すぐに道沿いの商店に目が移る。今しがたルイズに言われた事も
忘れて馬車の窓から身を乗り出そうとする。
ごすっ
ルイズの足が、ヤンの足を力一杯踏んづけた。
声もなく踏まれた足を押さえて悶えるヤンに、ロングビルもクスクスと笑ってしまう。
大通りのブルドンネ街を通り、橋を渡り、大邸宅の間を抜け、大きな城門をくぐって馬
車はトリステイン城に到着。
ルイズとヤンとケースを手にしたロングビルは城内の一室へ案内された。
王宮の名に恥じない豪華な部屋の中には二人の人物、初老の男性と20代の女性が椅子
に座っていた。
「おお、ルイズや。久しぶりだね」
「父さま!お元気そうで安心しましたわ!」
そういってルイズは父に駆け寄り頬にキスをした。
「それにしても、どうして王宮ですの?別邸がありますのに」
「実は王宮で用があってね。そのついでなのだよ」
ルイズにキスをされているのはヴァリエール公爵。50過ぎで白髪交じりのブロンドと
口ひげ、左目にはグラスをはめた、眼光鋭い初老の男性だ。王族もかくやとうならせる豪
華な衣装を身につけている、ルイズの父。
支援します
俺は17の時に最初のレスと最初の支援をした支援
ルイズの父ちゃんは何を考えてるのだろうか。支援。
42 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 13:04:49 ID:+IfbRZTi
「それと…その、お久しぶりです、姉さま」
そしてもう一人は、ルイズと同じピンクの髪をもった長身の女性。ルイズの気の強い部
分を煮詰めて濃縮させて熟成したら、こんな風だろうかという感じだ。メガネの向こうか
ら睨み付ける視線が、ルイズを萎縮させている。
「お久しぶりね、おちび。それでは、例の物を見せてくれるかしら?」
いきなり本題に入られたルイズは、既に怯えて縮こまっている。
「あ、あの姉さま…再会のキスくらい…」
「不要よ。私はアカデミーの主席研究員として忙しいの。その私をわざわざ呼びつけてま
で売りつけたい物ですって?どんな物か楽しみだわ、さっそく見せなさい」
「こらこら、エレオノール。そう慌てなくても・・・」
諫める公爵をエレオノールはキッと睨みつける。
ギスギスとした雰囲気にルイズもタジタジ。扉で控えるヤンとロングビルは視線を合わ
せて肩をすくめてしまう。
「そこの平民!」
いきなり平民と呼ばれ、一瞬ヤンは自分の事だとは分からなかった。
「随分と変わった格好をしているようですけど、あなたがルイズが召喚したとか言う異国
の平民かしらね?」
ちなみにヤンの格好は、同盟の軍服。白い五稜星マークが入った黒のベレー帽。襟元に
アイボリー・ホワイトのスカーフを押し込んだ黒のジャンパー。そしてスカーフと同色の
スラックスに黒い短靴。
同盟では当たり前の軍服だが、もちろんハルケギニアでは全く見ない服装だ。
「はい、ヤン・ウェンリーと申します。ヴァリエール家長女、エレオノール様ですね。お
初にお目にかかります」
恭しく頭を下げるヤンだったがエレオノールはフンッと、下らぬ物を見るかのようにヤ
ンを見下ろしただけだ。
いくら平民相手とはいえ礼を失する態度に、横で見ていたロングビルも眉をひそめる。
だがヤンの視線に促され、特に何も言わず淡々とケースをデスクの上に置き、斧を取り
出した。
とたんに、公爵もエレオノールも溜め息がもれる。視線は刃のダイヤモンドに注がれた
まま動かない。
「それでは、確かに斧はお渡ししました。これで失礼します」
と言ってロングビルは背を向けた。
扉に手をかける秘書にヤンが声をかける。
「ミス・ロングビル、もう帰るんですか?こんな夜中に駅馬車はありませんよ」
「ご心配なく。街の馴染みの宿で一泊して、朝一番の馬車で学院に戻りますわ」
そう言って彼女は部屋をあとにした。
部屋にはルイズとヤンと、手に取った斧を凝視する二人が残された。
二人は学院で教員達が行ったように、斧の材質を確かめ、強度を調べ、ダイヤの刃を外
せないかと考えつく方法と魔法をあれこれ試す。
もちろん「どうしようもないほど頑丈」という結論に至った。
エレオノールは公爵が手に持つ斧の刃に魅入られている
「素晴らしいわ…アカデミーに持ち帰り、必ずや刃を本体から外してみせますわ!」
斧を光にかざしながら公爵も満足げに頷いた。
「うむ!頼んだぞ、エレオノール。これほどのダイヤがあれば、姫殿下の婚儀には目もく
らむばかりの宝飾品がウェディングドレスを飾り、ヴァリエールの名を世へ知らしめられ
よう!」
姫殿下の婚儀と聞いてルイズは驚いて、えっ!?と声を上げてしまう。
仰天して目を丸くするルイズを見た公爵が、咳払いをして話し出す。
「そうか、まだルイズは知らなかったか。実は姫殿下はゲルマニアのアルブレヒト三世の
下へ嫁がれる事になったのだよ」
「ゲルマニアですって!?」
さらに驚き口も目も丸くしてしまう。
「何故ですか!?何故にあのような成り上がり共の国にっ!」
なし崩しに領民(?)の財産没収か!?支援
44 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 13:06:46 ID:+IfbRZTi
「ゲルマニアとの同盟を結ぶためですよ」
いきなり扉から声がした。
そこには豪奢なドレスをまとい宝冠を頭にのせた、ふくよかな女性が立っていた。
「失礼。何度もノックをしたのですが、返事が無かったので、勝手ながら入らせてもらい
ましたわ」
「これはこれはマリアンヌ様。陛下の来室に気付かず、失礼致しました」
そういって公爵はマリアンヌの前に跪いた。エレオノールもルイズも恭しく跪く。なの
でヤンも彼等の後ろに下がり跪いた。
マリアンヌは頷き、皆を起立させる。
共を連れたマリアンヌは室内に入ると、やはり斧へ目が向いた。
「ほほぅ…これが噂の…なるほど。これなら、未だかつて類を見ないほどのティアラや首
飾りやらが作れましょう」
公爵も自慢げに斧をマリアンヌへ手渡す。
「はは、さすがは陛下。お耳が早うございますな。いやはや、婚儀の日まで秘密にし、陛
下と姫殿下を驚嘆させかったのですが」
「ほほほ、それは嬉しい謀でしたこと。ですが、これ程の巨大なダイヤを持つ平民が、使
い魔として召喚されたとなれば、噂が疾風の如く駆けめぐるのも仕方ない事。いやでも話
は聞き及びますわ」
女王も満足げにダイヤの刃を光にかざし見る。
そして公爵の後ろ、ヤンの方へ目が向く。
「そして、件の異国から召喚された平民使い魔か。これ、名をなんという?いずこから参
られた?」
慌ててエレオノールが間に入ろうとした。
「へ、陛下!卑しき平民に自ら声をかけるなど」
だがマリアンヌはエレオノールの言葉を手で制した。
「かのアルビオンにおける内戦、反乱軍レコン・キスタの勝利が揺るがぬものとなりまし
た。今、ゲルマニアとの軍事同盟はトリステイン防衛のために避けられぬのです。そのた
め娘も、アンリエッタもゲルマニアへ嫁ぐのですよ。成り上がりの国でも、力はあるので
す。かの国では平民でも貴族になれます。そのため今、姫はマザリーニと共にゲルマニア
へ赴いています。
ならば私も、魔法の使えぬ平民だからと人を蔑むわけにはいきません」
その言葉にエレオノールも公爵も、苦虫を噛み潰したような顔をしつつも異議を唱える
事は出来なかった。ルイズも、多少は眉をひそめていたが、同時にヤンを認められて嬉し
そうにもしている。
ヤンも女王の言葉に満足して名乗った。
「お初にお目にかかります。私はヤン・ウェンリーと申します。自由惑星同盟(フリー・
プラネッツ)という国から召喚されました」
「フリー・プラネッツ?聞かぬ名ですね」
王女は首を傾げてしまう。
「ハルケギニアとは交流の全くない、遠い遠い国です。恐らく過去に両世界の人が出会っ
た事すら無いかと思われます」
「そうですか、それは遠い国から参られたものです。ヤン・ウェンリーとやら、そなたの
もたらした斧、トリステインが買い取りましょう。代金は十分な額を公爵へ届けさせるが、
良いですか?」
「はい、よろしくお願い致します」
ヤンは、少年時代の父を思い出しながら、商人らしい礼を深々とした。
女王も頷き、公爵へ一礼して部屋を後にした。
「私は早速アカデミーに戻って、この斧から刃を外しにかかりますわ!」
そう言ってエレオノールも部屋を飛び出していった。
買い取ってもらえて良かったね。でも加工できないのでは?支援
46 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 13:09:14 ID:+IfbRZTi
後に残った公爵はソファーに深く腰をおろし、まだルイズとヤンが残っているのも構わ
ず大きな溜め息をついた。
「ふぅ〜、どうにかエレオノールの機嫌が直ってよかった。わざわざ王宮に呼び出して気
分を変えさせた甲斐があったよ」
その言葉にルイズがキョトンとする。ヤンは最初のカリカリした姉の姿が思い浮かぶ。
公爵は、苦しげに溜め息をつきながら口を開いた。
「実はなぁ、エレオノールとバーガンディ伯爵との婚約が破棄されてなぁ…」
聞かされたルイズは、本日一番驚いた。目が文字通り白黒している。
「こっ!婚約!?婚約したんですか!?しかも、破棄って…」
「なんでもバーガンディ伯爵が言うには『もう限界』だそうだ…。いや、聞かんでくれ。
ルイズ、もうこれ以上は聞かんでくれ・・・」
呻くように呟いた伯爵は、ヤンには一気に10歳老け込んだように見えた。
ひとしきり大きな溜め息をついた後、ようやく伯爵はヤンに目を向けた。
「ともかく、ヤン・ウェンリーとやら、大義であった。
聞いての通りトリステインから代金が支払われる。だが、額が額なので安易には動かせ
ぬであろう。もし金貨で支払われでもすれば、もはや馬車一台では運べぬ重さになるだろ
うからな。
支払いは小分けにして、月々渡そうかと思うが、よいか?」
「お言葉ながら、今、まとまった額が必要なのです」
ヤンが深々と公爵へ礼をしながら、現金払いを要求する。
「私が瀕死の状態で召喚されたため、ルイズ様は私の治療費を支払って下さいました。礼
を込めて、その倍額を、急ぎルイズ様へ支払いたく思うのです」
その言葉に公爵は納得して大きく頷いた。
「良い心がけだ、ウェンリーとやら。城下の別邸に二人とも来るがよい。十分な金をおい
てあるので、3倍の額をすぐにお主へ渡すとしよう」
ルイズもヤンも嬉しさを隠しきれない顔を見合わせた。
二人の嬉しい顔は、すぐに驚愕と不安に変わった。
公爵は、さらに老け込んでしまったかのようだ。
3人は城門を馬車で出てほどなく、闇の中にエレオノールの馬車を見つけたのだ。
数台の馬車が粉々に砕かれ、跡形もなく破壊されていた。
周囲には散乱した破片の中に、御者と使用人のメイドと、エレオノールが倒れていた。
そして遙か遠くには、月明かりに照らされた巨大な人型が地響きと共に去っていくのが見える。巨大なゴーレムだ。
無論、馬車の破片の中に斧が収められたケースは無かった。
第4話 土くれのフーケ END
あとで同盟軍の元元帥と知ったらどう思うんだろう支援
48 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 13:11:43 ID:+IfbRZTi
以上、第四話終了です
トリステインの歴史が、また1ページ・・・
それでは、また後日
乙でしたー
エリオノールの敗因はロングビルの前で平民を罵倒したことか!?
GJでした。
乙。とりあえずエレオノールの髪の色はピンクじゃなくてブロンドだと言っておく。
平民のものは奪わないけど貴族のものになってしまえば
奪ってもポリシーに反さずにすみますもんね。
GJです。
>女性の装飾品としては最悪のデザイン
銀製のハルバートを装飾品にした魔術師ならいるけどなw
スリープクラウドが遺失呪文の彼かw
提督の方、乙です!
ふむふむ。
こんなに早くヴァリエール公爵とエレオノール、王妃が出てくる展開は珍しいですね〜
トマホーク、アカデミーに持っていったとしても分離・加工は無理だろうな、きっと
もっとも、それ以前の問題でアカデミーに届かなかったみたいですがw
マチルダ姉さん、何気にヤンの魅力に引かれ始めてるのかな?
トマホークをすぐに盗まない理由のひとつにヤンが平民だから、とか言ってる事は
彼女の盗賊としての矜持か、はたまたヤンの持ち物ということで無意識に理由を
作ろうとしてるのか… どっちかな?
エレオノールの無事を祈りつつ、次回も楽しみにしております!
GJ
でもロングビルさんの台詞は、役不足じゃなくて力不足が正解だと思います
>55
いやいや、間違ってませんぞ。
ロングビルさんは「役不足」じゃなくて「役者不足」と言ってるんです。
似てますけど正反対の言葉ですよこれは。
57 :
ゼロな提督4:2008/03/06(木) 13:42:44 ID:eYT4zXZ2
>>51 うわあああ凡ミスを
後でまとめを書き直しておきますorz
>56に追記。
役不足・・・・すばらしい役者につまらない役をやらせること
役者不足・・・役柄に対して荷が重いこと。=力不足。
提督の方、GJです!
他の方も仰ってたけど、ロングビルさんはヤンが気に入り始めているようですねー。
貴族のものになれば、遠慮はいらない、と。
でもあれだけの物を売りさばくのは、
それこそ闇マーケットでも多額の資産がある人間しか手が出せないよなぁ……。
その辺の伝手はあるんだろうか、フーケさん。
武器に使われるような人工の工業用ダイヤモンドって装飾品になるの?
まっとうな取引をしようとしたら作中の通り価値が有りすぎて買い手は見つからないだろうけど、
珍しい品物である以上、「加工が出来なくてもいいからただ持っていたい、独占したい」等という愚者は必ずいるでしょうから、
裏ルートで捨て値で捌いても、孤児院を何十年でもやっていけるだけの額は稼げるんじゃないですかねぇ。
そしたらフーケも盗賊を辞めてのんびりとヤンと一緒にお茶が・・・あれ?
人工ダイヤもやろうと思えば精度が上げられるんだけど、
デビアスとかの圧力で出来ない。
天然ダイヤの価値が無くなるからな。
昨日続けて二話投下しようと思ったけどすっかり寝てしまったorz
他に投下が無ければ十四時に投下します。
人工と天然の見分けは非常に困難。
ソ連崩壊で大量に出回ったらしい。
chapter2 異世界
――今度こそ、成功させないと。
これで幾度、学園の地面を抉り周囲の物を吹き飛ばしただろうか。
ルイズは深呼吸をしてから、再び杖を握る。キッとした表情をコルベールに向けると、教師である彼はルイズの召喚の儀式を不安そうに見守っていた。
「もう一度、やらせてください!」
力強い瞳で懇願するルイズに、コルベールは酷く感銘を受けた。
彼女が入学してから現在に至るまで、座学は優秀であるが魔法は何一つまともに出来た例がなかった。それでも彼女は、この春の使い魔召喚の儀式に全力で臨んでいる。
コルベールが頷くのを確認してから、ルイズは集中した。
(これを成功させれなかったら……きっと私は)
周囲からは、これまでより更に罵られるだろう。使い魔を持たないメイジがどれ程滑稽で、愚かなのかは用意に想像が付く。
いや、想像していることよりも、もっと酷いことなのかもしれない。
だから成功させなくてはいけない。何度失敗しようとも、欲を言えばこれまでの汚名を返上出来るほどの使い魔が欲しい。
心の片隅で願いながら、ルイズは杖を振り上げた。
そのルイズの様子を遠巻きに見ている他の生徒たちは、どうせ失敗するだろうと高をくくって彼女を囃し立てていたが、次の瞬間目を剥いた。
「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!」
とんでもない詠唱の出だしだった。すでに彼女も自分の言っている言葉を認識していないのではないだろうか、そう思えるほどの言葉が次々と響いてきた。
「強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい!」
しかし、その詠唱の後にこれまでとは遥かに桁違いの爆発が起こった。
遠巻きにいる生徒たちも爆風に巻き込まれ、ある者は尻餅を付き、吹き飛ばされる者もいる。
その中でルイズは呆然と立ち尽くしていた。
しーえん
「ミス・ヴァリエール?」
コルベールが訝しそうに彼女の視線の先を見た。成功したのか、感動して立ち尽くしているだけだと思っていた。
しかし同じく、コルベールも呆然となってしまった。
煙が晴れて、ぽっかりと穴の開いたクレーターの中央に、目を疑う使い魔がいた。――まだ、ルイズの使い魔と決まったわけではないが。
人間がそこに倒れていた。その他にも周囲に色々な道具が散乱している。
流れるような濃い青髪が、流麗な線を描き腰まで伸びていて、瞼を閉じて気を失っている。
袖の無いローブのような服はピッタリと身体に張り付いていて、身体の細さを表していた。
驚くことに、人間には別の生物の耳が生えていた。それと、仰向けになっているので確認しにくいが、同じく別の生き物の尻尾も見える。
それでも一言で表すならば美少女。女性にしては背丈があり、年齢は分からないが、まだ幼さの残っている表情から自然と少女の言葉が浮かんだ。
「コ、コルベール先生!」
だが、それと使い魔の儀式とは別の話だ。ルイズはハッとしてコルベールに向き直り、再び懇願した。
「もう一度、もう一度だけ召喚させてください!!」
すでに儀式に成功したという感動は消え失せていた。まず人間を召喚するなど聞いたこともない。
周りの生徒も、召喚された人間に気付いて声を上げて笑っている。
ゼロのルイズ、平民を召喚しやがった、様々な言葉が聞こえてくるが、そんなものに構っている場合ではない。
「これは伝統ある神聖な儀式だ。例外は認められない。ミス・ヴァリエール、コントラクトサーヴァントに移りなさい」
「で、ですけど……!」
コルベールも、ルイズの気持ちは痛いほど分かっていた。もし自分が人間を召喚したら、同じことを思うだろう。失敗したと。
だが召喚してしまったのだ。れっきとした成功の証が、召喚された使い魔がそこにいるのだ。
例え何があろうとも、その事実は否定しようがない。
と、そのとき召喚された人間から、呻き声が聞こえてきた。
「う……ん、着いたのかな? ……あれ?」
優美な声が響く。驚いてルイズは使い魔のほうを見てみると、片や使い魔は取り乱していた。
「あ、あれ、洞窟じゃない? それよりなんで外にいるの!?」
訳の分からないことを言う使い魔に、ルイズは煩わしさを覚えた。
これがどうしてか声が聞こえた途端、使い魔の美しさが更に増しでいるのだ。
何故かそれに劣等感を抱いてしまい、苛立ちを覚えながら使い魔のほうへと向かった。
「ちょっとアンタ!」
その声に気付いた使い魔がきょとんとした表情でルイズを見上げた。
「あんた、誰?」
「え? あの……ドラコ、です」
「そう、ドラコっていうのね」
名前を聞いたところで、改めて思考を巡らせる。果たして何から言えばいいのか。
「なんで人間が召喚されたのよ!」とでも言えばいいのか。
しかし目の前にいるドラコにとって、聞きたいのはこっちだと思うだろう。
そうして考えているうちに、ドラコはゆっくりと立ち上がって辺りを見渡した。
立ち上がったドラコを見ると、身長は百七十サント近くもある。女性にしてはかなり背が高いほうだろう。
「ミス・ヴァリエール、他にもまだ召喚していない生徒はいるのです。早く契約を」
急かすように言うコルベールに、ルイズはついに諦めてしまった。
それに、もしかしたら美しい使い魔、という願いは叶ったのかもしれない。平民という部分を除いて。
「五つの力を司るペンタゴンよ」
ドラコに顔を近づけて、彼女の首に腕を回す。
「この者に祝福を与え、我の使い魔と――」
その言葉が、最後まで続くことはなかった。
乾いた音が響く。いつの間にかドラコは数歩先に離れていて、ルイズはその場に立ち尽くしていた。
驚いた表情を浮かべるドラコの胸元に、両手が添えられてある。そして自分の頬が、じんじんと痛みを覚えてきた。
――叩かれたのだ、平民に。
漠然と、その事実だけが頭の中を埋め尽くした。
自ら召喚した使い魔に拒絶され、叩かれる。これほどバカなことはあるのだろうか。
魔法もまともに使えない。
使い魔の儀式にあろうことか、人間を召喚してしまった。
コントラクトサーヴァントも行えない。
貴族として、完全に堕ちている自分に耐え切れず、ルイズはその場で泣き崩れてしまった。
慌ててドラコはルイズに近寄るが、コルベールがそれを制して、近くにいた生徒に指示した。
「ミス・ツェルプストー、彼女を自室に」
言われたキュルケは、ルイズを連れて学園へと向かう。
その最中でも、ただルイズは涙を流しているだけだった。
「……とりあえず、残りの召喚の儀を終わらせましょう」
コルベールの声と共に、いつの間にか静まり返っていた生徒たちが、急に騒ぎ出す。
どうしていいか分からずに、その様子を見ているドラコにコルベールは耳打ちをする。
「しばらくの間待っていてください。終わり次第、私と一緒に来てください」
状況も理解できず、だからこそとドラコは頷いた。
それでも、困惑した中でも常に想うことは、エンキクラドュスとネペトリの姿だった。
ドラコは目の前に起こっている出来事に驚愕していた。
人間が呪文を唱えたと思うと、数歩先から様々な生き物が現れてくる。
が、どれも大した力はなさそうに見える。時折ドラゴンやサラマンダーなども召喚されるが、ドラコにとってはどれも馴染みのあるものばかりであった。
そして、その光景を見ている中で、気になることがあった。黒いローブを纏った人たちのほとんどが、こちらを見て、なにやら話を交えてるのだ。
「あのー?」
見せ物にされているようで、正直良い気分はしない。試しに声を掛けてみると、一斉に視線を逸らされる。
そんなやり取りの間に、横に立っている禿頭のコルベールが一通りのことを話してくれた。
ここはハルゲニアのトリステイン学院という場所で、目の前にいる同い年ほどの人たちはその生徒であり、春の使い魔召喚の儀式に臨んでいるのだと。
「キミはどこから来たんだい?」
使い魔の儀式が終わり、生徒たちが飛んで帰っていく様子を見届けた後に、ふとコルベールから訊ねられた。
それまでは色々と教えてもらったのだから、答えるのが当然である。並んで学院へと向かいながら、思うこともあるがドラコは答える。
「カバリア島から少し離れた、蜃気楼の島という場所です」
「カバリア……? 聞いたことがないな」
首を傾げているコルベールに、ドラコも難しい表情を浮かべた。
こちらもハルゲニアやトリステインなどという言葉は聞いたことがない。それ以前に、先ほどから違和感を感じている。
別の大陸なのだろうか? そう考えながら、ふとドラコはコルベールに聞いた。
「授業が終わると、みなさんああやって飛んで帰るんですか?」
「フライの魔法かね? ああ、ドラコさんは平民ですから魔法を見たのは初めてですか」
「……へ?」
初めて? いや、確かに地域や環境によっては、魔法を使う人間が少ないところもあるかもしれないが、それにしてはコルベールの言葉は的外れなものだった。
「魔法は貴族しか使えませんから、驚くのも無理はないでしょう」
このコルベールの言葉で、ドラコは確信した。
いま自分がいる世界は、まったく別の、カバリア島から遠く離れた、異次元にある世界なのだ。
「そう、ですね。いきなりふわふわって飛んでいきましたし、ビックリしました」
疑問に思い、とりあえず話を合わせる。まさか魔法型である自分が貴族だということもないだろうし、魔法を使えると教えるのも不用心だろう。
と、学院の門を潜った。コルベールに案内されたのは学院長室。そこには一人の老人が机に向かって座っていた。
「おお、どうしたのじゃミスタ・コルベール? むぉっ!? べっぴんさんなぞ連れよってけしからん!!」
「オールド・オスマン、少しお話がありまして」
開口一番に意味の分からないことを発する老人に対して、コルベールは冷静に対応した。
そんなコルベールに何かを感じ取ったのか、オスマンも表情を締めて、席を正す。
「ミス・ヴァリエールが彼女、ドラコさんを召喚の儀に呼び出してしまいまして。どう対処すればよろしいのですか?」
「なんじゃ、ヴァリエールの三女がやらかしたのか。お嬢さんも気の毒じゃろうて。人間が使い魔として呼び出されるとは聞いたことも……」
眉を顰めてオスマンはドラコを見た。
確かに平民を召喚したという事例は聞いたことがない。
「あの、オスマン学院長、その召喚のお話の前にいいですか?」
荷物を床に置いて、ドラコは話に入った。
ほう、とオスマンが向き直ると、それに合わせてドラコは前に出て向き合った。
「その使い魔、とかのお話は……ルイズさん、でしたよね? 彼女もいないといけないのではないでしょうか?」
改めて言われると納得してしまう。オスマンは長く伸びた白髭を撫でながら頷く。
優しそうな目をしているが、しかしそれが困っているようにも見える。ドラコも置かれた状況を理解しきれていないのだろう、とオスマンは考えた。
「ふむ、そうじゃな。あい分かった。後日詳しく話をするとしよう。ミスタ・コルベール、彼女に部屋を」
「そうですね、分かりました」
コルベールが頷くと、手でドラコを促そうと部屋のドアへと向かわせる。
が、それを遮ってドラコは口を開いた。
「……何か、勘違いしていませんか?」
「何がじゃ?」
聞かれたオスマンは、ドラコに問い返した。
だがドラコは怪訝そうな表情を浮かべただけで、踵を返してコルベールの後に付いていった。
使い魔、主人の僕となり生きていく存在。
ドラコの脳裏に、ネペトリの姿が過ぎる。そして、その隣には海神ポセイドンの影が見え隠れする。
苦い想いが胸を締め付けてくる。この世界に早々に疑問を持ちながら、ドラコはただ現状を把握するために行動する。
第二話おしまいです。支援ありがとうございました
72 :
生臭い話:2008/03/06(木) 14:39:29 ID:2nvhh5PE
人工ダイヤモンドの大型化&大量生産は、理論的&技術的には十分に可能。
ただし、
>>62 にもあるように、デビアスはじめ「ユ」印による市場独占を維持する勢力による
「圧力」で、事実上表立ってはできない(石油が実は、まだまだ相当埋蔵量がある
のに、あたかもすぐ枯渇するかのごとく喧伝されて、高価格が維持されているのと
同様の構図)。
73 :
南光太郎:2008/03/06(木) 15:24:41 ID:pxJGd2fd
>>72 要約すると、
「すべてゴルゴムの仕業」
ということだな。
遅くなったけど、GJ
お疲れでした〜
test
アイゼナッハ呼ぼうぜ
タバサが指を二回鳴らしたらコーヒー二杯運ばれてくるわけだな。
三回鳴らしたら「よくやった! ウチの母国に来て従姉妹をFuckしてもいいぞ!」という意味
>>78 イザベラ様逃げてー
シーロンを召喚してルイズ達がターボレンジャーに…という構想を練っているおじいさんが通りますよ。
ティファニアとジュリオが敵になりそうだが。
ちょっとまとめ読んでたら書きたくなって書いちゃった者ですが
投下してもいいですか?
じゃあジョゼフとファックしていいということで
これが復讐か
とりあえず支援
空サン、さっさと全員ぶっ殺してハルケギニア征服して下さい
嘘予告か
すみません、ちょっと用があり遅くなりました
出来はイマイチかもしれませんがお願いします
元ネタは聖闘士聖矢の黄金聖闘士のアイオロスです
「その中から、成長した真の聖闘士にこれを与えてやってください。この射手座のゴールドクロスを・・・」
それを言い終えたところで、彼の意識は途絶えた
彼こそが、ただ一人だけ教皇の真意に気付きその身をもってアテナを守った黄金聖闘士の一人、射手座の黄金聖闘士アイオロスである。
そして、赤子のアテナを受け取った城戸光政の前で彼は光に包まれ消え去ってしまった
この後、彼が第二の人生を歩むこととなる彼の地へと召喚された瞬間であった
〜サジタリアスの使い魔〜
ここは、ハルゲニアのトリステイン王国にあるトリステイン魔法学院
今ここで、メイジにとって一生を左右するであろう儀式サモン・サーヴァントなる儀式が行われていた
各自色々な種類の使い魔を召喚し、歓喜の声を上げる者、期待と違ったのか落胆の声を上げる者など反応はさまざまだ
そして、一番最後に我らがルイズへと順番が回ってきたのである
(絶対にこれだけは成功させるんだから・・・)
ルイズは一度深呼吸をして、息を整えると高らかに叫んだ
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ」
その言葉に、生徒たちは顔をしかめた。あまりにおかしな呪文だったからである。しかし
彼女は続ける
「神聖で美しく、そして強力な使い魔よ。私は心より求め、訴えるわ。我が導きに答えなさい」
言い終えると同時に杖を振るルイズ。そして、起こる爆発。その爆発に周りの生徒たちも巻き込まれヤジが飛ぶ
「やっぱり爆発するのかよー」
「やっぱりゼロはゼロだな」
そして、黒煙がはれた中にあらわれた者にルイズは絶句した
そこには、上半身裸の男が横たわっていたからである
あぁ、終わったなとルイズは思った
よりにもよって、出てきたのが人間で、格好からしてただの平民だと思ったからだ
しかし、彼女も、そして周りの生徒たちも、ここで横たわっている男がどれだけ強大な力を秘めているか後に知ることとなるのだが・・・
ルイズは気を取り直し、男に目を向けて思った
(あれ、こいつよく見てみると・・・)
男は頭から血を流していて、体にも深い傷を負っていた
この状態から察するに寝ているのではなく、意識がないのだろう
いわゆる、瀕死の状態である。ルイズは思った
(これなら、もう一度召還し直せるかも!!)
「ミスタ・コルベール」
「何だね」
「もう一度召還させてください」
「それはできない」
「しかし、これは今にも死にそうなんです。今契約しても、いずれ命を落とします。それならば、もう一度召還を・・・」
「何ですと!!それを早く言いなさいミス・ヴァリエール。早く彼を医務室へ運びなさい!!救える命は、救うのですぞ!!」
「え?え?」
「あーじれったい、もういい私が運びます!!そこの君、早く行って医務室に伝えてきてください。そら、いきますよミス・ヴァリエール!!」
(ちょっと・・・ちょっと・・・何でこうなるのよぉ〜〜〜!!!!)
ルイズはそう叫びたい気持ちを押し殺してコルベールの後に付いていった
とりあえず、最初なので短いですがここで区切りました
続きもでき次第のせようと思います
みなさんが飽きないよう色々考えながらやっていこうと思うので
よろしくお願いします
乙
できれば5倍くらいの量ためてから(以下略
>>2 最初の2行だけオブラートに包めば
それはそれでアリなんじゃないかと思ったり思わなかったり。
>>92 タイトルだけ見て、「宇宙船サジタリウス」が元ネタかと思った
俺の胸のときめきをどうしてくれるw
くそ、聖闘士星矢も懐かしすぎるぜ。
95 :
規格外品0号:2008/03/06(木) 19:31:09 ID:Mrwz3Orm
ここはあえて宇宙船レッドドワーフ号で一つ
じゃあ宇宙船サジタリウス号でひとつ
>>94 スターダストル〜イズ、ゼロじゃない〜♪
と申したか。
キャット「何だよ!こんなガキじゃ腰も動かねーよ」
ルイズ「な、ななななんですってーーっ!!」
>>94 >>96 すると、学者の卵であるジラフがルイズと契約したら、ガンダールブではなく、
知恵を司る「ミョズニトニルン」のルーンが刻まれたりして。
そういやギャラドスがミョズニトニルンになったSSじゃ
シェルフィードのポジションが才人になってたな
シビップが“神の琵琶”ヴィンダールヴになるのは鉄板。
しかし、たまに思うけどこのスレって結構おっさん多いのな。
カラオケの持ち歌が「スターダスト・ボーイズ」な俺が来ましたよ。
皆様こんばんは
日があいてしまいましたが、予約なさげなので5分後くらいから8話投下させていただきたいと思います
いや、ギャラドス召喚もののシェフィールドポジの
アレはあくまでサイトの姿をしてるだけで多分別物
神速発動支援!
それでは投下開始いたします
イザベラ管理人第8話:何故信じるのか・中篇
耕介はシルフィードの上で、吸血鬼についての講義を受けていた。
「そりゃぁ…厄介だなぁ…」
(そういえば、前に会った吸血種と人狼のクォーターって娘も牙を隠しておけるって言ってた気がするなぁ。)
そんな益体もないことを考えていると、シルフィードが口を挟んだ。
「吸血鬼は精霊の力も使えるのね。もっとも、シルフィみたいに姿を変えるような高度な魔法は使えないけど!」
「え、シルフィードも魔法が使えるのか?」
耕介はシルフィードが喋れるのは単にそういうものなのだろうとしか考えていなかったが…冷静に考えてみればありえないことではない。
翼人たちの魔法を見る限り、先住魔法とは口語で発動するもののようだ。ならば、喋れるということが先住魔法を操る第一条件である可能性が高い。
「もちろんなのね!シルフィは由緒正しき古代竜種である風韻竜!とっても気高くて高貴なのね!」
耕介はあえてツッコミを入れることはしなかった。
スルーされたことに不満げなシルフィードを放置して、耕介は如何にして吸血鬼を断定するかを考えるが…どれも一手足りない。
しばらく悩んでいた耕介だったが、何事か思いついたのか御架月へ視線を向ける。
「御架月、霊力を感じるみたいに吸血鬼も感じられるかわかるか?」
御架月は霊剣である故か、霊的な力を感じることができるのだ。その力で索敵にも活躍していた。
しかし、御架月の答えは芳しくないものだった。
「多分、魂がない状態でしょうから屍食鬼ならわかります。でも、僕らのいた世界とこの世界は力の使い方が違うので、多分吸血鬼自身を見つけることはできないと思います」
「どういうことだ?」
「僕らのいた世界…耕介様のような退魔師の方々などの力を使える人は、己に宿る霊力を用いて術を使うので、霊力の距離や大小を感じ取ることができます。
でも、メイジやこの前会った翼人の方々が使う魔法は、この世界に充満してる霊力とは違う力を使って発動してます。だから僕が感じられるのは、誰かが魔法を使った時にどこの力が減ったかだけなんです」
つまり、ハルケギニアでは誰かがどこでどのくらいの規模の魔法を使ったか、しか感じ取れないということになる。
やはり一手欠けるといわざるを得なかった。
「タバサは何か見分ける策をもう考えてあるのか?」
次に、当然ながら自分よりも吸血鬼の生態や魔法に詳しいタバサの意見を聞いてみる。
すると、タバサは自分を指し
「囮」
次に耕介を指し
「ただの剣士」
と言った。
耕介はその2語を繋ぎ合わせて意味を推測する。
タバサはあまり経緯を説明せずに結果だけ言うことが多いので、こっちで補完しなければならない。
「えっと、タバサが囮になって、俺がただの剣士のフリをして、吸血鬼がタバサに襲い掛かったところを狙うってことか?」
耕介の言葉にタバサが首肯する。
なるほど、それは合理的だが…
「ちょっと危険すぎやしないか?タバサが囮になるってことは杖を手放すんだろ?俺が囮になった方がいいと思うんだが」
メイジは杖がないと魔法が使えない。だから吸血鬼は杖を持っている間は手出ししてこないだろう。
故に囮になるのなら杖を手放す必要がある。しかし、そうなるとタバサは小さな女の子でしかないのだ。
それならば、男としてもかなり鍛えている耕介の方がまだしも襲われた時に危険が少ないのではないか。
「コースケは誰が見ても平民。なら、吸血鬼は必ずメイジである私から狙う」
そう、ここはハルケギニア。剣を持っていようが、所詮平民など束になってもかなわないメイジという存在がいるのだ。
ましてや相手は吸血鬼、ただの剣士になど後れを取るはずがない。
ならば自分を打倒しうるメイジを先手を取って殺そうとするのは自明の理だ。
「まぁそうなんだけど…やっぱりタバサを囮にってのはなぁ…」
だが、耕介にはやはり納得しきることはできない。
タバサのような少女を餌に使うなど、人間としても男としても気が引けるのだ。
「貴方の強みは誰にも知られていないこと。これが一番効率的」
だが、タバサの決意は固い。耕介が代案を思いつかなかったのもあり、囮作戦は決行されることとなった。
事前に何か不測の事態があった時用の連絡手段を決めていると、山間に小さな村が見えた。
目的地であるサビエラ村だ。
支援
支援
>>95 ネタ投下以外の雑談時は名無しになった方がいいと思いますよ?
サビエラ村は山間の寒村で、人口も350人程度。
そんな村に吸血鬼の被害が出たのは、2ヶ月前。それから1週間おきに一人ずつ犠牲が出、現在までの被害者は9人にもなる。
しかもその中には王宮から派遣されたガリアの正騎士もいる、かなり深刻な事態だ。
既に村から引っ越す者たちも現れ、村は情報よりも寂れた印象を受ける。
当然、村人たちは不安に支配されており…そこに現れた騎士がタバサのような少女とただの平民の剣士であれば、その不安がさらに掻き立てられるのも致し方ない。
「今度の騎士様はあんな小さい女の子だなんて…」
「しかも平民の剣士を連れてるなんて、実力に自信がないってことじゃないか?」
だが、そんな悪評もやはりタバサの鉄面皮をわずかも動かすことなどできない。
耕介も自分たちがどう見えるかなどわかっているので、気にすることもないと思っている。
耕介たちはまず事件の詳細を聞くために村長の屋敷へと向かい…そんな二人を見つめる一団がいた。
村一番の切れ者と言われる薬師レオンをはじめとする若者たちだ。
「あんな頼りねぇ騎士と平民の剣士なんか当てになるかよ。この前の騎士みたく殺されちまうのが関の山だ!」
レオンの言葉に若者たちは次々と賛同し、瞳に凶暴な色を宿す。
一同を見回し、レオンはゆっくりと自分の考えを述べた。
「やっぱり、3ヶ月前に引っ越してきた占い師の婆さんが怪しいと俺は思う」
狂騒に囚われた彼らは、状況証拠だけで確証など全くないその言葉を疑おうとすらしない。
「ああ、体に悪いとか言って日中も外にでやがらねぇ。吸血鬼は日光に弱いっていうからきっとそのせいだ!」
「あのデカブツの息子が屍食鬼なんだよ!吸血鬼なんて正体さえわかればこっちのもんだ、焼き殺しちまおう!」
口々に物騒なことを言い合う彼らを諌める者は誰もいなかった。
この村は誰も彼もが、不安と不安に思うこと自体に疲れているのだ。
村でも最も高い場所にある村長の村についた二人は居間に通された。
「ようこそおいでくださいました、騎士様方。どうか、この村をよろしくお願いいたします」
人の良い…だが、疲れを感じさせる笑顔を浮かべた年老いた村長が深々と頭を下げた。
「ガリア花壇騎士タバサ」
「従者のコースケといいます」
互いに挨拶を交わし、まずは事件の詳細を話してもらうが…やはり報告書と変わるところのない内容であった。
「吸血鬼は日中は森の中に潜み、夜になると屍食鬼とした村人を使って手引きをさせて村に侵入しているんではないかと思うのです…。
以前いらっしゃった騎士様は村に侵入しようとしたところを狙うとおっしゃっておりましたが、結局失敗なされて…」
村長の話は参考意見にはなるが、やはり決定的なものはない。
情報の質も量も足りない現状では吸血鬼の居所を断定するのは不可能、と早々に二人は見切りをつけ、まずは村を回ることにした。
村長に礼を述べ、家を出ようとした時…耕介は視線を感じて振り返った。
「おぉ、エルザ。お前も騎士様方にご挨拶なさい」
扉の隙間から少しだけ顔を出してこちらを窺っていたのは、美しい金の瞳。
5歳程度であろう、金の長髪と人形のように整った顔立ちをもつ愛らしい少女だ。
エルザと呼ばれた少女は村長の声に従って恐々と二人の前までくると、硬い仕草でお辞儀をした。
「こんにちは、エルザ。ちゃんと挨拶できて偉いな」
子どもの扱いも慣れたもの、耕介はエルザの視線の高さに合わせてしゃがみ、笑顔で話しかける。
硬い表情だったエルザもわずかに笑顔になったが…タバサの杖を見ると顔をゆがめ走り出した。
「あ、エルザ…?」
耕介の声にエルザは一瞬だけ振り返ったが…結局走り去ってしまった。
耕介とタバサは顔を見合わせ、同時にタバサの持つ長大な杖に目を向ける。
二人の無言の疑問に答えたのは村長だった。
「失礼をお詫びします、騎士様。どうか許してやってください。エルザは1年ほど前、村の寺院で拾った孤児なのです。なんでも両親をメイジに殺され、ここまで逃げてきたそうで…。
きっと、行商人が貴族の方に無礼討ちにされたか、メイジの盗賊に襲われたんでしょうなぁ…。
わしは連れ合いも早くに亡くしてしまい、子どももおらんかったので、引き取って育てることにしたのです。
ですが、わしは未だにあの子の笑顔すら見たことはありません。体も弱く、外で満足に遊ぶこともできない。
その上、この吸血鬼騒ぎです。騎士様、どうかあの子のためにも、吸血鬼を討伐してください」
沈痛な面持ちでエルザの過去を語った村長は、耕介とタバサに頭を下げた。
「はい、必ずこの事件を解決します」
耕介は力強く頷き…タバサはそんな耕介を見つめていた。
二人は村長の村を出た後、被害に会った家々を回って聞き込みをしていた。
「わかったことは、吸血鬼は若い女の血を好む。戸締りを徹底しているのにどこからか進入してくる…か。不寝番をしていても眠ってしまうってのは何かあるのかな?」
村の広場で、わかったことを整理しながら吸血鬼の手口について二人は話し合っていた。
「多分、”眠り”の先住魔法。耐えるのは至難」
”眠り”の先住魔法は空気さえあれば使える、隠密行動には最高の魔法と言える。
しかし、いくら話し合っても結局進入経路の断定はできなかった。
扉も窓も釘で打ちつけて家全体を密室にしていても、吸血鬼はまるで霧のようにその密室内に現れ、犠牲者を増やしてはまた霧のように去っていくらしいのだ。
「タバサ、俺の世界の吸血鬼伝説には、霧やこうもりに変身するとか、魔眼で人を魅了して操るとかあるんだけど、こっちの吸血鬼にそんな能力はあるのか?」
耕介の言ったような能力を吸血鬼が持っているのなら密室に侵入することなど造作もないことだが…タバサは首を横に振った。
「吸血鬼は姿を変える魔法は使えない。魔眼もない」
「そうかぁ…となるとやっぱり煙突から入ったとしか考えられないけど、大人が入れるサイズじゃないし…」
耕介が再び考え込んだ時、鍬や斧を持った一団が村はずれへと向かうのが見えた。
白昼だというのに松明を持った者たちもおり、どう見てもただ事ではない。
「なんだ、今の…気になるな、タバサいこう」
耕介とタバサは不穏なものを感じ、一団の後を追った。
一団は村はずれのあばら家の前でとまると、その家を取り囲みだす。そして、リーダーと思しき男が一歩前に出た。
「でてこい!吸血鬼!」
その声を皮切りに、他の男たちがわめきだす。
男たちは興奮状態で、今にもあばら家を叩き壊しそうなほどだ。
「どういうことだ…吸血鬼があそこにいるのか?」
彼らはあのあばら家の中に吸血鬼がいると確信しているようだが…どうにも耕介には腑に落ちない。
3ヶ月間、討伐にやってきた騎士さえも含めて誰にも姿さえも見せずに食事をし続けた吸血鬼を見つけられる材料がどう考えても存在しない。
村人たちにだけわかるような『何か』があるのだとしても、それなら村長が耕介たちに話すはずだ。
「まさか疑心暗鬼になって、それらしい人をつるし上げる気か?」
慌てて耕介が止めに入ろうとした時、タバサが耕介の服の裾を掴んで引き止めた。
耕介はタバサに真意を問おうとしたが…その前に状況に動きがあった。
村人たちが囲んだあばら家から耕介と同じくらい長身の屈強な男が出てきたのだ。
「誰が吸血鬼だ!ここには吸血鬼なんていねぇ!」
大男が声を荒げて村人たちに抗弁するが…火のついた村人たちには逆効果にしかならない。
「うるせぇ!ここの婆さんが吸血鬼だってのはもうわかってんだよ!お前らがこの村にきてから事件が始まった!婆さんは日中は絶対に外にでねぇ!吸血鬼以外にありえないんだよ!」
村人側のリーダーが動かぬ証拠だとばかりにわめきたてるが…それは村人たちが冷静さを欠いているとしか思えない言葉だ。
単なる状況証拠だけで確証に足りるものなどなにもない。
それでも不安に疲れきった村人たちの暴走は止まらない。むしろさらに加速し続ける。
「お前の首には吸血鬼に噛まれた跡だってある!お前が屍食鬼なんだろ!?」
「これは山ビルに食われた跡だって説明しただろ!他にも首に食われた跡のある奴だっている、よそ者だからって俺たちばかり疑うなんて酷すぎるだろ!」
村人があばら家に押し入ろうとし、大男が立ちはだかって睨みあう。まさに一触即発だ。
だが、その間に割って入った者がいた。
「な、誰だ!?」
それはタバサと耕介だった。
「俺たちは吸血鬼討伐に派遣された者だ。ここは俺たちが調べるから、いったん解散してくれ!」
「邪魔するな!騎士なんて信用できるか!」
だが、怒り狂った村人たちに矛を収める気はないようだ。
メイジに楯突くことも辞さないほどに彼らは追い詰められている。
これでは理を説いての説得も難しい…かといって力で制するわけにもいかない。
進退窮まった耕介とタバサを救ったのは、騒ぎを聞きつけた村長だった。
「お前たち、何をしとる!疑心暗鬼になるのはわかるが、証拠もないのに決め付けるなど許されんことじゃぞ!」
激昂していた村人たちも、さすがに村のリーダーの言葉には怒りを静めるしかなかったようだ。
だが、彼らがこのあばら家の住人を疑っていることに変わりはなく、何かあれば同じことが起こるのは明白。
支援
「ここは俺たちが調査します、なんなら皆さんも同席してください」
村人たちを一時的にでも納得させるため、耕介は調査に彼らを同行させることにした。
村人たちが大人しくしていてくれるかは微妙だが…なんとか抑えるしかないだろう。
大男―このあばら家に住む老婆の息子でアレキサンドルという名らしい―は乱暴は絶対にしないと耕介たちが誓ったことで、渋々と中に入れることを了承してくれた。
あまり大勢で乗り込むのは良くないということで、耕介とタバサの他に薬師のレオンと村長があばら家に入る。
中は日も高いというのに窓が締め切られて薄暗い。粗末な家の奥のベッドにぼろぼろの毛布をかぶった人物だけが見えた、あれが件の老婆だろう。
「お…おぉ…」
老婆が突然現れた男たちに怯えたのか、胸元までかかっていた毛布を引っ張りあげて隠れてしまう。
「チッ、これじゃわからないだろ!」
レオンが無理やりにその毛布を引き剥がそうとするが…
「な、なんだよ、従者さん…!」
耕介がレオンの腕を捕まえて止めたのだ。上背のある耕介の無言の威圧にレオンは勢いをなくし、ベッドから離れた。
「お婆さん、騒がしくしてごめん。でも、貴方の疑いを晴らすためにも少しだけ調査に協力してくれませんか?口を開いてみせてほしいんです」
老婆は、耕介の言葉に恐々と毛布を下げ、口を開いてみせてくれた。
その口には牙はおろか歯の一本すらない。この世界には入れ歯の技術がないか、一般に普及していないのだろう。
「ありがとう、お婆さん。もういいですよ、大丈夫です。貴方の疑いは晴れました」
耕介は終始笑顔を崩さず、老婆を安心させることを最優先にしていた。
それはそうだろう、耕介もタバサもこれが全くの無意味だと理解している。
吸血鬼は牙を直前まで収めておけるし、老婆は肌が弱いらしく日光を当てるわけにもいかない。
元々、この老婆が吸血鬼であると断ずることも否定することも無理な話なのだ。
「おい、それで終わりかよ!?」
レオンが不満げに言い募るが…村長がレオンを諌めた。
「騎士様方がこれでいいとおっしゃっておるんじゃ。それに、お前には確実に吸血鬼だと判断する方法があるのか?」
その言葉にはレオンも押し黙るしかない。彼らとてわかっているのだ、吸血鬼だと断ずることなどできないと。
それでも誰かに怒りをぶつけずにはいられない。それほどにこの村自体が追い詰められている。
若者たちの一団を解散させた後、一通り村を回った二人は村長の家に部屋を準備してもらい、腰を落ち着けた。
「御架月、もう出てきていいぞ」
耕介は最近剣に篭らせてばかりの相棒を呼び出す。
剣から燐光が溢れ、御架月が姿を現した。
「ふぅ、なんだか最近出番が少ないです…」
「ごめんな、御架月。それで早速で悪いんだけど、今日会った人の中にいたか?」
愚痴をもらす御架月に悪いと思いながらも、今は一刻も早く吸血鬼の居所を突き止めねばならない。
御架月もそれは理解しており、すぐに意識を切り替えて答える。
「はい、いました。あのアレキサンドルっていう男の人が屍食鬼です」
それは、村人たちの決め付けが正しかったことを証明する情報だった。
「そう…か。吸血鬼がいたかはやはりわからないか?」
複雑な気持ちで耕介は頷き、さらに質問を重ねるが…やはりこちらは感じられなかったようで、御架月が首を横に振る。
耕介は今日わかったことを考え合わせて推論を立てた。
「仮に吸血鬼は煙突から進入しているとしたら、彼は俺と同じくらいの身長だし横幅もあるから動かす意味がない…吸血鬼は屍食鬼をあまり動かしていないのかな」
「おそらくそう。でも、見張る価値はある」
そういうとタバサは目を瞑り、しばらく押し黙っていた。
タバサが無口なのはいつものことだが、今回はどうやら違うようだ。
「シルフィードに夜、アレキサンドルを見張るように頼んだ」
使い魔の能力である主人とのテレパシー(ただし主から使い魔への一方通行)を使ったらしい。
しかし、夜間ずっと見張れとはタバサもご無体な主である。今頃シルフィードは不満たらたらであろう。
「後は…吸血鬼がいつ動くかわからないから、村の被害にあいそうな若い女性にこの家に集まってもらって俺たちで警護するってのが妥当か」
耕介の言葉にタバサも賛同し、吸血鬼対策のことも打ち合わせる。
警護のことを村長に報告してから二人は夜に備えて眠っておくことにした。
113 :
小ねた:2008/03/06(木) 20:11:53 ID:Ibuvqzr+
禁断のハリィポゥタァからドラコ・マルフォイを召還
「なんだおまえは」
「私はルイズ、あなたは」
「ドラコ」
「そう、じゃあ早速で悪いけど下着洗っといてね」
「お、おい!この僕に下着を洗わせるとはどういう事だが判っているのか?」
「ぐー」
「くそっ・・・」
しぶしぶ寝床に横になると静かに考え初めた
「窓からルイズを放り出せばベットが空くじゃないか!」
そして魔法でルイズを窓から放り出し、すやすやと眠りについたのだった。
次の朝
「どういう事なのよ!朝起きたら馬が横に居て髪の毛が涎でべとべとになっちゃったじゃないの!キー!!!!」
「うるさいな、黙れよ・・・君は魔法が使えないんだろう?ル イ ズ?ええ?」
「くぅ!このぉ!フライ」
「っく、なんて威力だ!」
爆破に巻き込まれシエスタが半死の状態になるが、ここでは本筋とは関係ないので省く
「あの女、このまま生かして置いては帰る方法を見つけるのに邪魔になる・・・やはりあの方の力を借りるしか・・・いやいやここは違う世界だからあの方が居る筈はない」
宝物庫には”あの方”の杖が怪しく光っていたのだが
まだこの時は誰もあんな事件が起こるとは想像もしていなかったのである
つづかない
投稿中に小ネタを入れるなんて無粋な人ね!支援
その夜、村長の家には15人もの女性が(人口の割に若い女性が少ないことが村の現状を表している)耕介たちの寝室の隣二部屋に押し込まれていた。
彼女たちは当然不満げであったが、命には代えられないと耕介が説得したのだ。
当然、家中の窓には厳重に板が打ち付けられ、出入りできるのは正面の玄関のみだ。
そして二人は何をしているかというと…酒盛りをしていた。
「タバサ様…もうおやめになった方が…」
耕介の言葉を無視し、タバサは杯を突き出して酌を催促する。
言うまでもないが、演技である。タバサが酔い潰れて眠ったフリをし、吸血鬼をおびき出そうというのだ。うまくいけば今夜で決着がつく。
だが…耕介は不安になっていた。
(こんなに飲んで大丈夫なのか?)
タバサは既にワインを2本あけている。ワインは水…とはイザベラの談であるが、本当に大丈夫なのか。
しかし、タバサが眠る演技を始める様子がないので、仕方なく耕介も酌をする。
それを飲み干し…最後に一杯に決めていたようで、タバサはやっと眠る演技をし始めた…耕介には本当に眠っているようにしか見えないが。
「だ、大丈夫なのかな…」
耕介は苦笑を隠せない。とりあえず言われた通りにタバサをその場に残してワインと杯を片付けるために村長の家へ去る…フリをする。
耕介が物陰で息を潜めようとした…その時
「キャァアアアア!」
絹を裂くような…にはまだ幼い声音の悲鳴が聞こえてきた。
「まさか、エルザか!?」
耕介の言葉を裏付けるように、耕介たちが休んでいる部屋の壁から御架月が顔を出して叫ぶ。
「こちらへは何も来てません!」
耕介たちは吸血鬼をおびき出す作戦の間、女性たちが無防備になることを避けるために部屋に御架月を待機させていたのだが…吸血鬼はさらにその裏をかいてきた。
「く、あんな小さい子まで狙うのか!?」
悪態をつきながら耕介と眠るフリをやめて飛び起きたタバサが1階のエルザの部屋へと急ぐ。
果たしてエルザは部屋の中にいた、幸いにも無事だったようだ。
「大丈夫か、エルザ!」
窓が割られており、どうやらそこから吸血鬼は進入しようとしたようだ。
耕介は毛布をかぶってガタガタと震えているエルザの体を検めるが、どうやら怪我もないらしい。
タバサは部屋の様子を検め、吸血鬼の痕跡を探すが…特に見るべきものはない。外には窓の残骸が散らばっているだけで足跡もなかった。
極度の恐怖に体が緊張しているエルザを居間に連れて行き、村長に出してもらった何枚かの毛布で包んで体を温めて耕介が手早く作ったスープを飲むとエルザは次第に落ち着いていった。
「エルザ、怖い思いをしたのに悪いけど、何があったのか話してくれないか?吸血鬼の手がかりを掴めるかもしれないんだ」
耕介の言葉に、エルザは少しの間沈黙していたが、つっかえつっかえに話してくれた。
「男の人が…入ってきて、エルザを連れて行こうとしたの…顔は暗くてよくわかんなかった…」
エルザも混乱していたのだろう、有力な情報はないが…襲われた時のことを仔細に思い出せというのも酷な話である。
その時、エルザがヒッと短く息を呑んだ。どうやらタバサの杖に気づいたらしい。それに気づくと、タバサは静かに居間を出るために歩き出した。
「ご、ごめんなさいお姉ちゃん…」
エルザもタバサに非はないと理解しているらしく、か細い謝罪を口にした。タバサは一瞬だけ振り返ってエルザに頷くと居間から出て行く。その際に「家を調べてくる」とだけ言い残していった。
耕介はエルザが落ち着くまでしばらく背中を撫でたりと世話を焼いていたが、エルザが船を漕ぎ出したあたりで、ベッドに寝かしつけるために自室に戻ることにした。
怯えているエルザを安心して寝かせてやるためだ。
耕介はエルザを自分が使っていたベッドに寝かしつけ、念のために窓を確認しようとした…その時、なにやら引っ張られる感触を感じた。
耕介が振り返ると、エルザが眠たげに目をこすりながらもしっかりと耕介の服の裾を握っていた。
「あー…エルザ、一緒に来るか?」
コクリと頷いたエルザを抱き上げ、窓から周囲をざっと確認する。
特に異常はない…どうやら今夜は吸血鬼も諦めたと見てもいいだろう。
一応警戒は緩めずに、耕介はエルザをベッドへと連れて行った…が、エルザは耕介にしがみついて離れようとしない。
「エルザ、まだ怖いか?」
耕介の言葉にエルザは頷くが…もう眠気が限界なのだろう、瞼が今にも落ちそうだ。
「お兄ちゃん…あったかい…」
案の定、エルザはその言葉を最後に瞼を閉じ、穏やかな寝息を立て始めた。
エルザが安心して眠ったことに安堵する耕介だったが…はたと気づいた。
116 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/06(木) 20:14:47 ID:aHgy8wro
さざなみさん支援^^
おまけにageまでかましてやがる
完全に荒らしだな
ひとまず支援
「……俺、どうすりゃいいんだ…?」
耕介のシャツをエルザはガッシリと握っており、無理やり引き剥がすのも気が引ける。
結局耕介は朝まで同じ姿勢を強いられるのだった。ちなみに隣の部屋にいる女性たちへの説明と家の検分を終えて帰ってきたタバサが耕介を若干冷たい目で見ていた気がするが、気のせいだろう。
二人は朝まで不寝番をしてから眠り、夕方に目を覚ました。エルザは寝る前に村長に預けている。
今夜の不寝番の準備をしていると、扉が叩かれた。この家に泊まる女性が夕食を運んできてくれたのだ。
二人がありがたく食事を受け取り、女性が出て行くと、入れ違いにエルザが入ってきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、エルザも一緒に食べていい?」
どうやら昨日の一件ですっかり懐かれてしまったらしく、エルザは二人の了承も待たずに耕介の膝の上に飛び乗った。
特に断る理由もないので、そのまま3人で他愛ない会話をしながら食事をしていると、エルザが突然奇妙なことを聞いてきた。
「ねぇお兄ちゃん、野菜も鳥も皆生きてたんだよね?」
エルザの質問の意図を図りかねるが、とりあえず耕介はそれを肯定する。すると、エルザはさらに質問を重ねる。
「野菜や鳥を殺して私たちが食べるのって、生きるためだよね。でも、それって吸血鬼も同じじゃないの?」
エルザはの声には何の打算も皮肉も言葉には込められてはいない。おそらく純粋に疑問に思っているのだ。
だから耕介はその疑問に真摯に答えた。
「そうだな。俺たちの食事と、吸血鬼の食事は同じ意味だ」
それは耕介の偽らざる本心だ。彼は吸血鬼のことを悪だなどとは一度も思っていない。
人間が生きるために他の動植物を殺すように、彼らも生きるために人間を狩る。ただ、それだけのことだ。
「じゃぁ…」
エルザがさらに言葉を重ねようとした時…
「耕介様!きます!」
御架月の声が響いた。
エルザが突然響いた第三者の声に驚くがかまってはいられない。
すぐさま耕介はエルザを降ろし、霊剣・御架月をもってタバサとともに隣の二部屋へ二手に分かれて突入する。
「じゅ、従者様?」
「全員扉側へ寄ってくれ!」
中では皆が食事を摂っていたが…次の瞬間、窓を破って何者かが部屋へと躍りこんできた!
構えていた耕介は、すぐさま扉側へ移動しようとしていた女性たちをすり抜け、御架月で抜き打ちの一撃を浴びせる。
さすがに相手も突入直後に攻撃が来ることは予測していなかったらしく、足元を襲う斬撃を避けることはできず…しかし、深手を負わせることもできなかった。
「何!?」
完璧なタイミングで入ったと確信していたが、相手は驚異的な反射神経で飛びのき、足を浅く斬るに止まってしまったのだ。
だが、相手にとっても無理な運動だったのだろう、壁に激突する。しかし、驚くべきことに相手は何のダメージもないかのように立ち上がってきた。
それは、やはりアレキサンドルであった。
アレキサンドルを見張っていたシルフィードからの合図で、二人は彼がここに来ることを察知していたから驚くことはなかった。
だが、女性たちは口々に悲鳴を上げ、部屋から逃げ出していく。
獲物がいなくなったと見たアレキサンドルは窓から飛び降り、走り去ろうとする。
耕介もすぐさま窓から飛び降り、背中から落ちて回転しながら衝撃を逃がす…だが、やはりダメージは免れない。
そんな耕介の上を人影が過ぎった。隣の部屋の窓から<<フライ>>でタバサが飛び立ったのだ。
屍食鬼となったアレキサンドルは獣並みの速度で走るが、空を飛べるタバサが先回りに成功し、挟み撃ちの状況となる。
アレキサンドルはすぐさま反転し、ただの剣士である耕介へと飛び掛った。
「ガァァァァ!!!」
昨日の母思いの青年の影など掻き消え、まさに猛獣のように吼えながらアレキサンドルが狼のような敏捷さで耕介を引き裂かんと迫る。
タバサは<<フライ>>で降りてきたばかりで魔法が間に合わない。
一瞬、タバサの鉄面皮が崩れ、焦りが顔をのぞかせ…だが、タバサには見えた。
耕介はアレキサンドルの跳躍の下を潜る形で駆け抜け…御架月を上段から振り切っていた。
ドシャァ!という重いものが地面とこすれる音がし、耕介の後ろに体を中ほどまで斬り裂かれたアレキサンドルが落下する。
タバサは我知らず息を呑み…耕介の評価を新たにしなければならないと考えていた。
<<アイスバレット>>を斬った時にその力量と刀の強度を理解したつもりになっていたが…ああも簡単に人間を両断するなど、異常だ。
さらに、ただの人間を優に超える屍食鬼の速度を前にしても動じず、見事に斬り捨てたその胆力も人並みはずれている。
シエン
タバサは思う。これほどに強力な使い魔である耕介を、イザベラはどうして認めようとしないのだろう?
だが、その自問にはすぐに答えが出た。能力など関係なく、耕介が耕介であるからこそ、イザベラは簡単に認められないのだろう…と。
「タバサ!頼む!」
数秒呆然としていたタバサは耕介の声に我を取り戻し、再び鉄面皮をはりつけるとアレキサンドルへと駆け寄った。
二人で未だに腕だけで動こうとするアレキサンドルに土をかけ、タバサが<<錬金>>によりそれを油へと変える。
次いで<<発火>>をかけ…哀れな青年は今度こそ完全に停止し、燃え尽きて灰へと還った。
「安らかに眠ってくれ…」
耕介とタバサはアレキサンドルの魂の安らぎを願い、黙祷を捧げるのだった。
二人が瞑目していると、突然の突風とともにシルフィードが降りてきた。
「お姉さま、コースケ、大変なのね!」
サビエラ村激動の夜はいまだ終わりを告げない。
アレキサンドルと老婆が暮らしていたあばら家は今まさに燃え上がっていた。
「吸血鬼め!殺された者たちの恨みを思い知ったか!」
薬師のレオンをはじめとした村人たちがあばら家を取り囲んで、松明を投げ入れている。
「証拠もあがった、あの役に立たない騎士の代わりに俺たちが天誅を下してやる!」
女性たちがアレキサンドルが屍食鬼だったと喧伝したのだ。加えて、彼らは女性たちが煙突の中から落ちてきたという”証拠品”を見て確信を得た。
若者たちの怒りに再び火がつき、彼らは憎き吸血鬼を灰に還すためにこの場に集結したのだった。
そんな彼らのわずか上空を凄まじいスピードで影が過ぎった。次いで、炎上するあばら家に何かが落下する。
「な、なんだ!?」
村人たちは何が起きたのかもわからず突風に体勢を崩された。
再び影が落ち…今度は少女が空から降りてきた。それはタバサであった。
「き、騎士様…?」
村人たちが呆然とする中、厳しい表情で今にも燃え落ちんとするあばら家を睨んでいたタバサだったが…突然詠唱を開始した。
次の瞬間、あばら家から何かが飛び出してくる。タバサはそれに向かって威力を極限までセーブした<<カーレント>>を放つ。
空中から集められた水の洗礼を浴び、それの正体がやっと判明した。
それは耕介と…そして、老婆であった。
「ゲホ!ゲホ…!タ、タバサ、頼む…!」
タバサは憔悴した老婆に治癒をかける。
助け出すのが早かったためか、老婆は火に巻かれず、煙も吸い込まずに済んだようだ。だが、やはり無理を強いたために呼吸が激しく乱れている。
村人たちはしばらく呆然としていたが…あばら家が燃え落ちる音に我を取り戻した。
「あ、あんたたち何のつもりだ!!吸血鬼を助けるなんて!!」
レオンが激しく耕介とタバサを詰る。だが、耕介とタバサの反応は無言だった。
業を煮やしたレオンが耕介へと近づくが…耕介がレオンに振り向いただけで彼は足を止めざるを得なかった。
常に温厚で滅多に怒らない耕介だが…今回ばかりは本気で怒っていたのだ。
昨日の老婆の調査時に見せた威圧感など比にならぬ、死線を知る戦士の威圧にただの村人であるレオンが耐えられるはずもない。
やがて、老婆の呼吸が落ち着いてきた頃…押し殺した耕介の声が響いた。
「本当にこの人が吸血鬼ならアレキサンドルの襲撃が失敗した時点で逃げ出してる…真っ先に疑われるのはこの人なんだからな…!」
だが、村人たちも引き下がることはない。何故なら彼らには証拠品があるのだ。
「これを見ろ!こんな派手な染めの着物はその婆さんしかこの村じゃ着てねぇ!これが村長の家の煙突にあったんだ!」
そう、証拠品とは着物の切れ端だった。やせこけた老婆だからこその進入経路だと言える。だが、それでも。
「それはいったいいつ見つかったものだ!昨夜のエルザの一件の時に俺たちは煙突を調べたけど、そんなものはなかった!」
「な…!」
吸血鬼の進入経路は煙突だろうと考えていたタバサは昨夜の襲撃の後に痕跡がないか調べていたのだ。
しかし、その時点でそんなものはなかった。ならばこの切れ端はいったいいつ煙突に入ったというのか…。
「もう少し、冷静になって考えてくれ」
底冷えがするような耕介の声にレオンたちは何も言い返せず…二人が老婆を連れて去った後も動けずにいた。
村長に一つ質問をしてから老婆を預けた耕介とタバサは、女性たちに屍食鬼を倒したことを報告し、安心させてやる。
そして、緊張の糸が切れたのだろう、早々に女性たちが寝静まった後も不寝番を続けていた耕介とタバサの元にエルザがやってきた。
「どうした、エルザ。もう日も暮れたのに」
「あのね、皆を守ってくれたお礼がしたいの!」
エルザは昨夜のことが嘘のように明るく振舞っていた。
「今夜じゃないとダメなのか?」
「うん、夜が一番綺麗なの!」
どうやらエルザはどうしても今がいいようだ。
万一に備えて耕介とタバサのどちらかはこの場に残らなくてはならないため、メイジ恐怖症のエルザのことも考えてタバサが残ることになった。
「ごめんね、お姉ちゃん…お姉ちゃんには別のお礼を考えてあるから…」
エルザの申し訳なさそうな声にタバサは首肯だけで答える。
部屋を出る一瞬、耕介とタバサが目配せをしたことに、エルザは気づかなかった。
「あれ、お兄ちゃん、剣持ってきたの?」
耕介はエルザに連れられて村はずれの森の付近にやってきていた。
「ああ、もしここに吸血鬼が現れたら、武器がないとエルザを守ってやれない」
他愛のない会話をしながら、エルザはどんどんと森の奥へと進んでいく。
エルザはずっとご機嫌な様子で耕介に話しかけていたが、耕介はそれに対して最低限の言葉を返すだけだった。
やがて、開けた場所に出た時…耕介は瞠目した。
木々が避けてできたそこは一面の花畑であった。カラスウリに似た白い花が咲き乱れ、月光を浴びる様は幻想的だ。
「すっごく綺麗でしょ?」
その中をエルザは跳ね回る。たなびく金の髪と、風に舞う花吹雪、降り注ぐ白銀の月光が絶妙に絡み合い、まるで花の精が舞い踊っているようだ。
「ああ。こんなに綺麗な光景は初めてだな」
耕介も花畑の中ほどに進み出て、踊るエルザを見つめる。
「でもね、お兄ちゃん。お礼は別のものなんだよ?」
エルザがどこまでも無垢な微笑みを耕介に向ける。
「じゃぁ、何をくれるんだ?」
耕介も笑顔でそれに答え…さりげない動作で御架月の鯉口をきった。
「それはね…」
踊っていたエルザが立ち止まり、耕介へ体ごと振り向く。
突風に巻き上げられた花弁が二人を包み…まるでここは花の楽園。
「永遠の命だよ!」
白銀と純白に彩られた楽園で…耕介は金色の吸血鬼と出会った。
以上で投下終了になります。
支援ありがとうございました!
お次はもう少し早めにお届けできる…と思います、多分きっとおそらく
GJでした。はたして耕介はどうするのか…。
ロリコンジャイアントktkr!
乙
幼女とお花畑と永遠の命のコンボで
卵王子を思い出す俺オッサン。
あれから呼び出して何とかなりそうなのは「何でも出来るオッサン」ぐらいかな?
乙!
よかったのかい、ほいほいつれてきちゃって
俺は人外ロリだってかまわねぇでくっちまう人間なんだぜ。
乙
>>124 俺のトラウマを掘り起こさないでくれ
というかあの人の作品は鬱エンドが多すぎる
コースケってカタカナ表記だとアニメには出演させてもらえんかったうる星の某脇役を連想してまう俺はいくつだ?
でも変だなあ、何故耕介とホル・ホースとかぶるんだろう?
サモンジ中尉の話はまだかな〜〜〜
おばあちゃんが言っていた。
そろそろ俺が呼ばれてもいいんじゃないかと…。
>>127 貴様! 見ているな!!(姉妹スレ避難所を)
二話ができたので投下します
今回は前よりか頑張って永くしました
話は全然進んでいないですが・・・
もっと進められるよう頑張ります
ふと気がつくと、ベッドの上にいた
体には包帯が巻いてあり、傷の手当てがされている
アイオロスは最初ここが冥界かと思ったが、どうも違うようだった
冥界なら生前受けた傷など残ってはいないだろうし、冥界ならばそもそもこんな部屋があることや傷の手当てなど行うことがおかしい
では、ここはどこなのだろうか?
アテナを預けたあの老人がわざわざ自分を担いでここまで運び、手当でもしてくれたのだろうかと最初は思った
しかし、ここでわき上がる疑問が一つある
たとえあの老人が医者か何かで、あそこで手当をしてくれたとしても自分が助かるとは到底思えない
シュラのエクスカリバーは黄金聖闘士のなかでも随一の威力を持っている
そして、自分がシュラから受けた傷は明らかに致命傷だった
それが分かっていたから、自分はアテナとクロスをあの老人に託したのだ
しかし現に自分は生きていて、手当をされた状態でここにいる。いくら考えても理由が分からない
もしかしたら、アテナが命を救った自分を助けてくれたのだろうか?
「そんな馬鹿な・・・」
自嘲気味に笑いながらつぶやく
今のアテナにはそんな力があるはずもないだろうに
色々考えていると、コンコンとドアがノックされその後ドアを開け二人の人物が部屋の中に入ってきた
一人は中年の男性のようだ。はげた頭を隠そうとしないところが実に男らしい。もう一人は、ピンク色で軽いウェーブがかかっている髪の毛の女の子だ。
背丈はあまり高くない。弟のアイオリアくらいの年齢だろうか?なにやらすごい形相でこちらを睨み付けている。一体自分は何かしただろうか?
「おぉ、やっと目が覚めたようだね。早めに手当が出来てよかったよ。もう少し遅ければ、君は死んでいただろう」
中年の男性が話しかけてくるが何を言っているのか分からない。全く聞いたことがない言葉だった
アイオロス自身、次期教皇に指名されていたほどの男である。
地球上のあらゆる言語とまではいかないが、主要国で使われている程度の言語はだいたい喋れるし、喋れないまでも学習してきた言語は数多くある。しかし、今目の前で喋っている男の言葉はそれらに全く該当しない言葉だった
「ふむ、こちらが喋っている言葉が伝わっていないみたいだね。一体、どうしたものか」
前の男も、何か考え出している。どうやら伝わっていないということを理解してくれていたようだった。
しかし、互いに言葉が通じないというのも困ったものだなとアイオロスは思う。聖闘士同士だったら言葉でなく小宇宙で話せるのだが・・・
こちらも何か打開案がないかと思っていると、男が何かを思いついたように手のひらをグーでポンッと叩いた
「そうだミス・ヴァリエール、早く彼と契約を行ってください。そうすれば、少なくとも彼とあなたは意思の疎通ができるはずだ」
「ですから、ミスタ・コルベール。私は、もう一度新たに召喚のやり直しを行いたいと言ってるじゃないですか!!」
「それはダメだと何度も言ったはずですが?新たに召喚をやり直すと言うことは、儀式に対する冒涜ですぞ」
「しかし!!・・・・」
目の前で男と少女が言い争っている。一体何を言い争っているのだろう?なんだか分からないが、小宇宙が危険だと告げているような気がするが気のせいなのか?
しばらくすると少女が肩をがっくりとおとした。おおよそ、男との言い合いに負けたのだろう。こっちを恨めしそうな目で見つめてくる。私が何かしただろうか?
少女がこっちに近づいて・・・は来なかった。こっちに来ると思いきや、男の脇を通り過ぎドアを開けて逃げていった
「あっ!!こら、ミス・ヴァリエール待ちなさい。キミ、少々すまないが今しばらく待ってくれたまえ。」
男は私に何かを告げていくと、少女を追いかけにドアの外へと出て行った。またこの部屋に静寂が戻る
そういえば、あの二人が着ている服は見たこともないような服だったな。言葉も通じない、見慣れない服装。一体ここはどこなのだろうか?
そうして考えているうちに、また睡魔が襲ってきた。まだ体は完全に回復はしていないようだ
とりあえず、生きているということだけは分かった。後は、体が回復した後ここがどこなのか突き止め、聖域に戻る方法を考えよう
そして、どうにかして教皇を・・・あの男を止めなければ・・・
ならば体の回復が優先だと思い、アイオロスはそこで考えるのを辞め。襲い来る睡魔に身をゆだねるのだった。最後にアテナの無事を祈りながら・・・
「もう冗談じゃないわよ〜。本当に」
ルイズはコルベールをまいた後、こっそりと自室に戻りベッドに寝転がっていた
「なんで出てきたのが平民で、しかも死にかけなのよぉ」
自分が望んだのは、強くて美しい使い魔だったのに
「あのあとキュルケには散々からかわれるし・・・ほかのみんなにも馬鹿にされて」
枕に顔を埋める。今にも涙が溢れてきそうだったから。枕でそれを押さえようとした。ルイズは考える、なぜ自分だけがいつもこうなのだろうと
魔法の苦手な自分は人並み以上に努力した。勉強もたくさんした。知識だけなら、この学年でもトップクラスにはなれるだろう
しかし、いつも魔法がうまくいかなかった。どれだけ魔法の練習をしてもどれだけ知識を蓄えても。魔法が上達することは無かった
そのせいでいつも馬鹿にされてきた。それで付いたあだ名がゼロのルイズ・・・
今回はみんなを見返せるチャンスだった。誰も見たこと無いような、すっごく強くて美しい使い魔
それを見てみんなが羨むように私を見る。そして私は鼻高々にみんなを勝ち誇った目で見下しながら部屋に帰る
そんなサクセスストーリーを考えながら毎日頑張ってきたのに・・・
ルイズは考えるのを辞めて、もう寝ることにした。たぶんこれは悪夢なんだ。起きたらまたいつもの朝が来て、その時の召喚の儀式が行われるんだ
「うん、そうに決まってる!!」
ルイズはそう考えて眠りにつくことにした。忍び寄る影に気づかず、起きたら自分がどうなっているのか考えもせずに・・・
とりあえず二話はこれで終わりです
何とか今日中に三話までは投下したいと思います
必殺技はアトミックサンダーボルトですか?あれかっこ悪いんだよなぁ
名前も・・・
>>136 それしかないからしょうがない。
黄金で技一つしかないのアイオロスとアルデバランとデス様だけ!
冥王?G?なにそれ?
弟(アイオリア)の技が使えても問題ないんじゃないか?
ライトニングボルト・プラズマはアイオロスから教わったとか
とりあえず光速で動けるっつうのはゼロ魔的にはどうなんだろ?
光速拳を放つとこぶしだけ年をとらなくなるとか?
あ、そういやこの時点でアイオロスって14歳だっけ…
いや、どうでもいい突込みなんだが。
ハルケギニアは基本的にフランス語圏内だけど?
服もちょっとクラシックなだけでヨーロッパの常識範囲内だ。
61 :イラストに騙された名無しさん:2008/03/06(木) 02:39:17 ID:hiZ93w66
結局、言葉が通じるようになるのはハルケギニアの仕様なのかな?
シエスタの曾爺ちゃんもジュリオ達が過去に出会った地球の人達も
使い魔でもないしサモン・サーヴァントで召還された訳でもないだろうし
104 :イラストに騙された名無しさん:2008/03/06(木) 18:44:09 ID:KX2osL/9
>>61 日本軍の仕官を舐めないほうがよいかと。
最低2ヶ国語話せるエリートですよ、仕官は。
仕官学校に入るには英語が必須だったんです。
つまり、アルビオンなら士官は全員言葉が通じるわけです、はい。
人によっては、外国軍と戦って得た捕虜と話す、占領地で現地人と話すため、
3ヶ国語以上話せる人がたくさんいました。
太平洋で戦争するに当たって、フランス統治領=フランス語が公用語
な地域がどれだけあったか、ということを考えれば、
フランス語話せる士官がいても当然なわけです。
充分な統治が出来るほど沢山いたわけじゃないですけどね。
トリスティンはフランス語圏らしいので言葉が通じても当然なのです。
ジェットマン呼ぼうぜ
108 :イラストに騙された名無しさん:2008/03/06(木) 19:13:29 ID:pXNr3zzR
あれ?トリステインはベルギーってかベネルクスでしょ?
118 :イラストに騙された名無しさん:2008/03/06(木) 20:05:58 ID:z3MmJIin
>>107-108 マジレスすると自動翻訳に固有名詞は通用しない。そのマンマの発音。
で、地名や個人名、ファミリーネームがそのマンマフランス語。
さらにアルファベット(字の読み方)を習った時の発音が
フランクフルトでハイジが字を習った時そのマンマ。
作者は雰囲気を出すためにそうしたのか、手抜きなのか判断の分かれるところ。
>>139 出鱈目
無茶苦茶
こんな所じゃね?
と言うか、ハルケギニアに光速と言う概念そのものがあるかどうか疑問
1秒間に1億発の攻撃だったか。
さておき、強力なコスモを持っていればディティクトマジックでわかりそうだし。
服を着ていない負傷した状態なら、貴族かどうかの区別はつかない。
だから、貴族かどうか確かめるまでは倣岸不遜な態度は取れない。
アイオロスは「教皇」に対するほどの人だから、一般人に対しては
「神に仕える身=聖職者」だと答えるだろうから、
この点でもルイズが強硬な態度に出ることは出来ない。
コルベールや学院側も同様。
さすがに、矛盾した傲慢ルイズは勘弁して欲しい。
教皇云々とは言うものの異教の神に使える……ゼロ魔世界は中世ヨーロッパに近い倫理観があるから、その意味ではかなり危険なのでは?
追記:世界最大の人口を誇るガリア。さらに、文化的にほぼ同じトリスティン。
ゆえに、ガリア語が世界の公用語となっているそうだ。
つまり、ちょっと学のある人ならみんなガリア語≒フランス語ができる。
大人の都合だろ
原作の設定についての細かいことは避難所の
考察スレに行った方が良いのでは。
なんかその手の話が出るたびに
「やめてノボルのライフはもうゼロよ!」
になっちゃうし。
じゃあ聖職者や知識階級にはラテン語(ロマリア語)が必須なのも変わらないのか
大人は嘘つきではないのです。
間違いをするだけなのです。
言語学的のは原作でもはっきり書いてないからなあ、言語学者召喚ならイデのシェリルさん?
ヤンやキートンあたりにも少し考察して欲すいが…
>ゼロの提督
エレ姉さんフラグすかね?
シトレ、ビュコック、メルカッツと妙に堅物の初老のおっさんに妙にもてるヤンすから
ヴァリエール公に気にいられそうすな。
ちなみに私的にアニメ版で銀英伝最高のヒロインはビュコック夫人ですた。
最後の出撃にだまって軍服差し出す姿がたまりまへん。
この世界の知識階級に必要なのはルーン語です。
深く考えてないノボルに、さらに尺や見栄え優先で独自の設定を加えたアニメだしなあ
16世紀から19世紀(所詮大航海時代以降)のちゃんぽん世界だしね。
>>140 城戸光政が出会った時はどうみても二十歳越えなのにな
>>142 ギーシュに負けて
フーケに負けて
ワルドに負けて
その後
「俺を侮辱した罪は万死に値するぞギーシュ!」
「フーケ!俺の名を言ってみろ!!」
「ワルド!所詮貴様は流れ星!!
どんなに輝こうともいずれは堕ちる運命にあったのだ!!!」
となるのが確定なラディゲと申したか
ってルイズに下克上かましてルイズが廃人になるのが先かもしれん
>>146 使い魔としてなら問題ない。
また、使い魔として召喚した→異教徒だった としても、
「神聖で全てに優先される儀式で遠くから偶然異教徒拉致りました」
という、完全な被害者を殺すってどこまで傲慢?
さすがにそんなダークな世界じゃないよ。
その場合は避難所に投稿したほうがいいかも。
13巻はうんこについてもっとえぐって欲しかったね
うんこの処理が分かればその世界の文化水準や民度が明確に判明する。
そういえばルイズのパンツにうんこや聖水のシミがついてなかったな
>>152 いやだから。文法はともかく、
「固有名詞」が意訳されず発音そのままなのは原作で出ている。
そして、固有名詞がフランス語圏なんだって。
>>158 細かいなおい
・・・その手の生活描写って2次創作だと案外資料が無いと手が出しづらいよな。
風呂とかさ。
現実の資料を元に出来るやつとか、近未来物だとかは簡単なんだが・・・
ID:OKwaOcwRが口を噤むだけでスレの空気が浄化されると思うんだ。
性産業についてもな
売春宿は絶対あるはずだが避妊とか性病の予防が気になる
サイトまたは他の召喚者がヤリチンで撒き散らすってのいいなw
>>158 その辺18世紀以前のヨーロッパはえぐかったからな。
日本だと古くから糞便を肥料として活用していたから、
汲み取り便所にせよ道路に落ちてる馬糞にせよあらそって回収された。
ゆえに、道はとてもきれいだった。
ヨーロッパはおまるで用をたし、道路に捨てていた。
それを放し飼いのブタが食って歩いた。
ちなみに豚の糞便は家畜の中でもとりわけ臭い。
>>163 いや、それ神話だから。
>>ヨーロッパはおまるで用をたし、道路に捨てていた
はむしろ18世紀「以後」の話。
中世では通常道路にゴミを捨てるのは禁止されていた。
>>162 梅毒が持ち込まれれば童貞や処女が重宝されるかもね
水の魔法薬で避妊できると俺は勝手に解釈してる
だってそうでもないとキュルケが…
ルイズやタバサに比べいまいち人気ないが俺はキュルケ好きだ
隠の王から黒岡野しじまを呼び出してみようかと思ったけど
興味深い話が続いてるんで出直してくる
>>166 キュルケはきっと体内の温度も調節できるんだよ。
ナカの温度をあげることもできるんだよ。
>>162 空気感染するインフルエンザの方がたちが悪いぜ
ピルのような避妊薬が格安で流通してるか
堕胎が魔法で母体に害なくできるなら楽しまなきゃ損だな
モット伯はパイプカットしてそw
確かうんこの処理について詳細に解説すてるのが理想狂にあったな…
>>161 だな、ファンタジーに何現実との文化整合性求めてるんだか
完全に未知の言語や命名則とかじゃ創る方も大変で
せっかく創っても誰もついていけなくなるが
英語じゃ日本人には近過ぎるし舞台の立地は中世ヨーロッパ近似世界
=フランスやドイツ辺りから適当に混用しとけ
と言う話で落ち着いたぐらいの話でしかないだろう
厳密に考えたら産業革命前なのになんでメイド服みたいな制服が存在するんだとかキリがなくなっちゃう。
メイドさんが活躍したのは産業革命後で、それ以前はおそろいの制服という概念自体なかったんだそうな。
遅レスですが、ダイヤを砕くなら、あの人に頼めば。
デューク東郷に。
>170
江蘇省南京市のH5N1持ちの瀕死のガキがルイズに召喚されますた
うんこの話になるとスレが伸びるのはどこも一緒だなwww
>>174 >>メイドさんが活躍したのは産業革命後
男性が産業革命による新規産業に従事するようになったもんで、男の召使を確保することが困難になり、
代用品としてメイドたちが…って話もあったり
>>164 まあぶっちゃけた話一般の人の中世のイメージは殆どが嘘と言っていい位だから。
「中世の人間は一度も風呂に入らず、歯を磨かず、ゴミや汚物を道路に投げ捨てており不衛生極まりなかった」なんてデタラメを信じてる人間がどれ程多い事か。
181 :
ゼロの魔獣:2008/03/06(木) 23:19:56 ID:W7CMAPjW
流れぶったぎりですが、5分後に投下してよろしいでしょうか?
おk
183 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/06(木) 23:22:15 ID:6tcTrNkB
ダメ
支援
ルイズは虚空にいた。
天地の区別のない世界。 眼前に広がる星の海。
一切の音のない本物の静寂。 体を抜けるひんやりとした空気・・・。
― 自分はどうなってしまったのか?
― 慎一は、元の世界へ戻れたのか?
― トリステインは、ハルケギニアは滅んでしまったのか?
すべての思考が虚ろで、どこか、ひどく虚しいものに感じられる。
無限の空間を一人漂う。 ただ、そこに在るがように、ルイズは宇宙の一部となっていた・・・。
―と、
不意に、ざわり、と、星達のざわめく音を聞く。
静謐な空気に満ちた世界に、徐々に喧騒があふれ出す。
光の粒が大きくうねり、巨大な大河となって、遥か彼方へと流れ出していく。
ただならぬ予感に目を凝らす。
星と思えた光の粒は、一つの生命。
肉体をも超越した強固な意志達が、大群を成し、光を放って突き進んでいた。
(これは・・・ これは 戦争! 神々の戦い・・・)
おそらくは、それぞれが星一つに匹敵するであろう魂を宿らせた戦士たちが、
彗星の如く瞬きながら、彼方の闇へと飛び込み、消えていく・・・。
暗黒の果てから、『敵』の鳴き声が響き渡る。
母の胎内を追放された赤子のような、絶望、恐怖、悲鳴。
『敵』の周囲の星星が砕け、塵へと還り、闇の彼方へ吸い込まれていく。
(あれは 悪魔! 星をも喰らう漆黒のバケモノ・・・!)
宇宙の営みが、命の輪廻が、そこに宿る生命の想いが、
組み上げた積み木を崩すがごとく、無意味にかき消されていく・・・。
後に残るは、一切の虚無―。
(イヤ! やめて! もうやめて)
ルイズが泣く。絶望が全身を突きぬけ、幼子のように身をよじらせる。
(助けて だれか たすけて・・・)
『ウ オ オ ォ ォ ォ オ オオ ァア アォ ォア ア ア アァ ァ ! ! ! !』
ルイズの悲鳴に応じるかのように、遥か後方から、原初の雄たけびが轟く。
振り向いたルイズが目にしたのは、ひときわ巨大な光。
― 光の中にいたのは、一匹の魔獣。
星一つを飲み込まんばかりの獅子の大顎。
全身を覆う黄金の体毛。
禍々しさすら帯びた六枚の翼。
時空すらも断ち切れそうな巨大な爪。
そして・・・瞳に宿る真紅の炎。
(慎一!)
ルイズにははっきりと分かった。
馬鹿馬鹿しいほどに強大で、滑稽なほどに圧倒的な野性の塊。
一切の生命が通じぬ相手に、あくまでも生身の肉体で立ち向かおうというのか―。
『グ オ オ オ ォ ォ ア ア ア ァ ァ オ オ オ オ ォ オ ア ァ ア ァ ア ア ッ ! ! ! !」
魔獣が吼える。
銀河が震えた。
・
・
・
ルイズが再び気が付いた時、虚空は元の静謐さを取り戻していた。
眼前の光の粒が、徐々に膨らみ、一つの形をなしていく・・・。
(今見たものは 遥か未来の光景)
光が語る。
(真理阿・・・!)
目の前に現れたのは、大人へと成長した真理阿。
背はルイズよりも高く、体つきは女性のそれへと変わっていたが、
そこには確かに、ルイズの知る少女の面影があった・・・。
(答えて! 真理阿!
慎一は あいつと戦うために生まれてきたの!?
彼は 戦うための進化する兵器だとでもいうの!?)
(あの戦いも 又 通過点のひとつに過ぎない・・・)
真理阿の答えは、ルイズの期待するものよりも、ずっと残酷なものだった。
(宇宙に満ちる運命は ひとつの結末を目指し 収束を始めている・・・
彼だけではない 全ての生命が 終末へと向けて戦い続ける宿命を負っているの・・・)
いつしか真理阿は、ルイズのよく知る少女に戻っていた。
(そんな顔をしないで あなたは慎一を 私を救ってくれたのよ ルイズ・・・)
(私が・・・ 慎一を?)
(未来永劫 戦い続ける宿命を背負った彼にとって
あなたと暮らした安らぎの日々は かけがえのない財産になった
あなたは 私達の命を救い 彼が望んで止まなかったものを 惜しみなく与えてくれたのよ)
真理阿の背後から、一粒の光がゆっくりと近づいてくる。
それは、青く美しい星だった・・・。
支援
(これで・・・ お別れなの? 真理阿)
(あの世界には あの人が待っているから
私と再び出会う日を待ち 永い眠りへとついている・・・
だから 私は行かなきゃ ・・・もう一度 彼と会うために)
(・・・・・・・・)
(そんな顔をしないで・・・
言ったでしょう? 運命は収束している
遥かな未来の先で もう一度 私たちが出会える日が来るわ・・・)
(うん・・・ ありがとう 真理阿・・・)
(また会いましょう ルイズ
最後にひとつだけ予言をするわ
あなたが次に出会う男の子は きっと あなたの運命の人になる
私にとっての慎一が そうであったように・・・)
(真理阿!)
(ありがとう・・・ ありがとう ルイズ・・・)
真理阿の体は、徐々に小さくなっていき・・・
―やがて、青い惑星へと吸い込まれ、完全に見えなくなった・・・。
支援
192 :
ゼロの魔獣 :2008/03/06(木) 23:32:50 ID:W7CMAPjW
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。
ルイズと慎一の戦いはこれで終わり、次回は後日談となります。
石川宇宙にエピローグは無粋ですが、ハルケギニアには必要なものと思いますので
もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。
なるほど、これは原作の前のお話という訳ですか。
しかしゲッターエンペラーですら勝てないっていう時天空って想像すらできないんですけど……?
お疲れ様です。
乙です。
ゲッターも知らないし、魔獣戦線でしたか?も知らないけど
毎回楽しませてもらっとります。
乙です。
>>166 成り上がりのゲルマニアとは言われてるけど、
キュルケは生粋の貴族だしそんな安い…もとい軽い子じゃないと解釈してる。
た、確かに二次の中でも『男と女の匂い』とか描写してる人もいるけれど、
キスまでだと思う、願う、考える。
乙です
もしも賢ちゃんが本腰を入れて時天空を描いてたら…いや止めとこう
>>193 ビッグバンが気休めにしかならない奴だからにんともかんとも
>>193 一応、時間軸としては魔獣戦線と真説・魔獣戦線の中間
神に喧嘩を売った慎一が、富三郎に回収されるまでの空白の期間を舞台にしてます。
氷川、須藤、三原、睦月、ザンキさん、風間の最強ライダー軍団をだな…
作者ですがみなさん、批評や感想ありがとうございます
おかしなところがあればどんどん言ってもらってかまいません
そちらのほうが、これからの参考になりますので
あと、言葉のほうなんですがあえて全く通じなくしたのは
あの時点で言葉が通じるとアイオロスが起きたとたん、自分の使命を説明できて
わざわざアイオロスと契約する必要が無くなるからです
それだと、アイオロスがいらない子になるので・・・
光速云々は、そのまま出すと話にならないので少し工夫して出そうと思います
では、のこりを頑張りますのでみなさんよろしくお願いします
>>196 んなわけないだろ、キュルケはヤリマンだよ
>>200 ルイズが契約をあそこまで拒否するのは変じゃね?
原作でも最初は渋ってたけど、神聖な儀式だって言われて嫌々ながらもすぐに契約したんだし
忘れた頃にやってくるさあう"ぁんといろいろです。予約が無ければ3分後に投下。
今回80kb越えてますので、途中で止まったらおさるさんになったものと思って下さい。
その場合「しょうがねぇなぁ、代理してやるから感謝しやがれ」とか言ってもらえると凄く喜びます。
……なんでこんなに長くなるかなぁ、我ながら。
支援
>>146 異国の人なら問題ないだろうし
ゲルマニアやガリアの人はあまり信仰に拘ってない人が多そう…
そういえば
聖闘士も信仰には寛容だよね…
乙女座の人は代々仏教徒だし
蟹座の人は神道だか道教だか…
>>166 繁殖力が低いから人口爆発を防げているんじゃね?
漢たるもの、色々長くなくてはイカン支援
「当然じゃあないか。僕はモンモランシーを心の底から愛しているのだからね」
「ああ、嬉しいわギーシュ。私幸せすぎてもう死んでしまいそう!」
「僕という薔薇は君ただ一人のために咲いているのさ、モンモランシー」
歯の浮くようなとはこの事か、とショウは思った。ホウライの武家では男女ともに慎みが求められる。人前でこのようなセリフを吐いたりいちゃついたりするのは、ショウの道徳観からすればかなり恥ずかしい事だ。
ヤンとキュルケの事は敢えて考えないでおく。郷に入っては何とやら、とも言うし。
そんな内心を表情には出さずギーシュの横を通り抜けようとした時、彼のポケットから何かが落ちた。ガラスでできた小壜で、中に紫色の液体が揺れている。ショウは足を止めてギーシュに教えてやった。
「おい、ポケットから壜が落ちたぞ」
が、例によって臭い(そして頭の悪い)セリフを連発しているギーシュはショウの言葉に気づかない。仕方なくショウはしゃがみこんで小壜を拾う。
「落としたぞ」
そしてそれをテーブルの上に置いた。
ワインを一口啜ったギーシュがそれに気づき、振り向く。次の瞬間、その瞳が大きく見開かれた。
「君は……ショウとかいったな、ルイズの使い魔の」
「ああ」
その瞳が熱を帯びた、射抜くようなものに変わる。知らず、ショウの体に緊張が走った。この少年はショウとは特に関係が無いはずだが、知らないところで恨みを買っている可能性もありうる。あるいはルイズの関係かもしれない。
相手は魔法使いだ。この間合では侍である自分が負ける要素はないが、油断していいわけでもない。それ以上に相手が貴族であれば下手な対応がトラブルに繋がる可能性もある。
そのショウの緊張を知ってか知らずか、ギーシュが立ち上がり、ずいっと一歩踏み出した。
「瓶を拾ってくれた事については感謝しよう。それから、だ……」
ショウは無言のまま、次の言葉を待つ。
間合いは半間(0.9メイル)、何かあれば一歩踏み込んで当身を食らわせる事の出来る距離だ。
空中でショウとギーシュの視線が交錯し、火花を散らす。
いつの間にか周囲から音が消えていた。二人の間にある異様な緊張に周囲も気づいたのだ。
その沈黙の中。
「ショウ、好きだ! 愛している! 君が欲しいっ!」
ギーシュは食堂中に響く大声で叫び、情熱的にショウを抱擁した。
ショウが、いや、周囲の人間全てが石になった。
生徒や教師、給仕をしているメイド達に至るまで、指の一本といえど動かせる人間は、今この場にいない。
第三話 『石化』
支援、と言いたい所だけど今回に限っては最初から避難所オンリーにした方が安全だと思う
つーか、流石に80kオーバーは途中で止まると思う
>>199 いやここはズバット、V3、アオレンジャー、三浦参謀長の色々と超越した人達を呼び出そう
>>199 ヘタレと死亡フラグの塊が二人
女たらしがひとり
警官が一人
だな
話は数時間ほど前、朝食が終った少し後に遡る。
ショウとルイズが本当の主従の契りを交わしてから一週間余りが経っていた。
ショウとヤンが学園の外の草原を連れ立って歩いている。
二人ともこの前の休日に王都トリスタニアで買ってきた動き易い服の上から、鎧下に着る皮の胴着を防具代わりに身につけ、目の詰まった木材を削って作った粗末な木剣と、ヤンは盾も持ってきていた。ショウも背中に自分の剣を背負っている。
曰く、常住坐臥剣を手放さないのは侍の心得なのだとか。
実際にショウは寝る時も剣を抱いて寝ている。戦乱の時代に生きた人間ならではの心得だろう。
「それにしても何でもない一言で泣かれるとは。あの時はさすがに参りましたよ。あれに比べたら買い物にえんえん付き合わされるほうがどれだけましだったことか」
「あれはまぁ間が悪かったのもあるけど、ショウ君が悪いよ。そうでなくても男と女だったら泣かせた方が負けだ」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ。特にルイズちゃんみたいな子は下手に男のほうが意地を張ると引っ込みが付かなくなるから、ちょっとした事が原因で最悪の結果になっちゃう可能性もある。
だから、そういう時は適当な所でショウ君の方から引いてあげないと駄目だよ」
むむむ、と眉を寄せてショウが唸る。まあ、男所帯で育った13才の少年には少々難しい話ではあろう。
周りで女性といえば母親か鬼のような継母だけ、同年代の友達も男ばかり、という環境ではむべなるかな。
ヤンも女性経験豊富という訳ではないが、それでも故郷では女の子達と遊ぶ事もあった(オモチャにされていたとも言う)し、トレボー城塞では年上の恋人とよろしくやっていた(若いツバメとも言う)し、こちらに来てからはキュルケに可愛がられているし……
ショウが考え込む傍ら、これまでのことを思い出したのかヤンはちょっと遠い目になっていた。
「……なんだか分からないけど、大変だったんですね」
「いやまぁ、それほどでも……あるかな」
会話が途切れた。いつもの場所に到着し、二人が向き直って互いに一礼し、構える。
しばらく機を窺っていたが、やがて二人が同時に踏み込み、草原に重い木剣同士のぶつかる鈍い音が響いた。
あの後、授業に出ても頬杖を突くか寝てるだけならいなくても同じだろうと言う事になり、それぞれの主の許可を貰って授業時間中は二人で鍛練をすることになったのである。
ちなみにリリスのほうは相変らず熱心に授業を聞いている。ここ二三日はタバサに字を教えてもらって、図書館にも入り浸っているらしい。
それは置いておいて、二人の鍛練は主に木剣での立会いと素振りであった。
二人ともレベルに差はあれ実戦を経験したベテランである。軽く走り込みなどもするが、基本的に基礎体力作りの段階はすでに終っているのだ。
むしろ剣を振り、立会いを繰り返す事で、より実戦向けの肉体を作り鍛えこむと言うのが彼らの世界における鍛練の常道である。
走りこみや腕立て伏せではなく、あくまで実戦の動きで実戦に即した肉体と技を作り上げる、という思想であった。
支援
何十回目かの立会い、四合ほど打ち合った末に、一際重く鈍い音が響く。フェイントで体勢を崩され盾のガードが空いた瞬間、ショウの上段からの鋭い振り下ろしが決まり、打ち込みに耐えかねたヤンの剣が叩き落された。
「っち〜」
「はい、一本」
衝撃で痺れたか、右手をブラブラさせながらヤンが顔をしかめる。その額には大粒の汗が光っていた。一方ショウはうっすらと汗をにじませる程度である。
二人の立会いはこれでもう数百回、今日だけでも三十回目ほどになるが、今のところ全てショウの勝ちであった。
いささか情けない結果ではあるが、あちらはマスター侍、こちらはせいぜいが中堅レベルの平戦士、と力量に圧倒的な差があるのだから仕方がない。仕方がないのだが……せめて意地にかけて一本位は取りたいヤンである。
立会いは午前の授業終了の鐘が鳴るまで、あるいはヤンが気絶して続行不能になるまで続く。昼食の前にリリスと合流、回復呪文を掛けてもらって午後は座学。座学といってもショウによる『気』の扱い方のレクチャーがメインなので、実践形式である事も多い。
それから更に十回ほどヤンを叩き伏せた後、彼が肩で息をしているのを見てショウは小休止を取ることにした。
ヤンが草原に座り込んで水筒の水を貪るように飲み、むせる。ショウは珍しい穏やかな表情でそれを見ている。視線に気づき、ヤンが照れ笑いを漏らした。
「にしても、ショウ君は強いなぁ。俺もそこそこ経験は積んだつもりだったけど、その年でマスターレベルってのは凄いよね」
「生まれたときからずっと戦争でしたからね。経験を積む機会には事欠きませんでした。運良く生き延びる内にいつの間にか、と言う感じですね」
「そっかぁ。俺やリリスさんの場合、戦争なんて生まれる前の話だからなぁ。村の大人に話は聞いてたけど、いまいちピンと来ないんだ。トレボー城塞に行くまで剣なんて見たことも無かったよ」
「いい事だと思いますよ。戦争をやっているよりずっといい」
「……そうだね」
一瞬だけ、まだあどけなさが抜けきっていないショウの横顔が風雪を経た老人のそれのように見えた。恐らく、自分では想像もつかないようなことをこの年で見てきたのだろうとヤンは思う。
「そう言えば俺はお二人と1000年も離れてましたけど、ヤンさんとリリスさんも10年くらい離れてたりしないんですか?」
「それなんだけど、新人冒険者を紹介する催し――ここでベテランパーティの人たちが見込みありそうな新人を探して、パーティに迎え入れるんだ――で、リョウという人と一緒になったことがあってね。これがリリスさんの仲間らしいんだよ。
リョウさんと俺がほぼ同時で、リリスさんとリョウさんも同時にトレボー城塞に来たみたいだから、リリスさんと俺の年齢差、6年が大体俺達のずれに当るんじゃないかってリリスさんは言ってたな」
「へぇ、同窓だったんですか。そう言えばワードナの迷宮とやらについては詳しく聞いたことがありませんでしたね。休憩の間に教えてもらえますか?」
「いいよ。そうだね、まずはトレボー様のことから話そうか」
ヤンの語る千年後の世界で起きた大事件の話に、ショウはしばし我を忘れて聞き入った。
リルガミン王家の由緒正しき血筋に生まれながらもその飽くなき征服欲で「狂王(Mad Overlord)」と呼ばれた男、トレボー。
主力が遠征中の隙を突き、その居城に攻め入った五ヶ国連合軍の前に風前の灯だったその生命を救ったのは、謎の大魔道師ワードナであった。
ワードナの召喚した謎の軍勢の前に五ヶ国連合軍は一夜にして壊滅し、ワードナはトレボーより褒賞として町外れの土地を下賜される。しかし、ワードナの本当の目的はトレボーの家に先祖代々伝わる伝説の『魔除け』だったのだ――
「『魔除け』! あの伝説の、"古きもの"を封じ込めたと言う!」
「そうそう。やっぱりショウ君の時代でも有名な話なんだ」
「それは勿論。聖典にも書かれてるくらいですからね」
支援
『魔除け』を取り戻したくば我が迷宮へ来たれ、と言い残し、ワードナは『魔除け』を奪い去った。
怒り狂ったトレボーは軍勢を差し向けるが、ワードナが褒賞として得た土地にはその言葉どおりいつの間にか広大な地下迷宮が建設されており、しかもその中には無数の怪物たちがひしめいていた。
巨人族(ジャイアント)、不死族(アンデッド)、竜(ドラゴン)、獣人(ライカンスロープ)らを初めとする禍禍しい闇の生物達。そして魔界の奥底より召喚された悪魔族(デーモン)。
それら、かつて"『魔除け』の勇者"に封印され、既に伝説の中にしか存在しなかったはずの"古きものども"こそが、ワードナの命に従い五ヶ国連合軍を壊滅させた謎の軍勢の正体であったのだ。
派遣された軍隊は精鋭であったが、あくまでも人間同士で戦うために訓練された軍であり、人知を超えた怪物たちには歯が立たなかった。
数度の失敗の後、兵の消耗を恐れたトレボーは布令を出し、ワードナを倒し『魔除け』を取り戻したものに莫大な褒賞と比類無き名誉を与えると約束する。
そして各地から腕に覚えのあるもの、実戦で腕を磨きたいものが集まり、ワードナの迷宮の名は一躍世界中に広まったのである。
「今でも一攫千金や出世を夢見る人たちが集まって来ていてね。ピンからキリまでの冒険者達が六人パーティを組んで毎日迷宮で戦い続けている。俺やリリスさんもそういう冒険者の中のひとりだったってわけ。
何せ迷宮の中では怪物どもが金貨を落す上に今じゃ中々作れない魔法の武器や防具、その他貴重なアイテムがざっくざく出てくる。腕を磨くのと一攫千金が同時に出来て、しかも王の近衛隊に入れるとなればこりゃ人が集まらないほうがおかしいよ。
今じゃむしろそう言った冒険者たちのおかげで町が大いに潤ってるくらいでさ」
「なるほど……それであんな貴重な装備に身を固めていたんですね。その守りの盾もそうですが、俺の時代だったらあの装備のうちどれかひとつだけとっても城か屋敷が建ちますよ」
「あはは、俺の装備は俺自身が稼いだ物じゃなくて、パーティの先輩方に融通してもらったものなんだけどね」
それからしばらくは装備の話に花が咲いた。剣や甲冑は前衛職の彼らにとって命を預ける相棒であり、自然見栄えや価値よりは切れ味だの使い勝手だのの方に話が行くことになる。
とりわけ西方出身であるヤンにとってショウの剣は非常に興味深い物であった。
「ショウ君の持ってるのは"カタナ"だよね。俺はカタナと言えばパーティの先輩が持っていた『村正』しか見たことが無いけど」
「村正! それは俺の時代のホウライでも、もう伝説の中の存在ですよ。ヤンさんの時代にはリルガミンに流出しているのか……ああ、俺の持ってるのは当然そんな国宝級の代物じゃなくて、真改という、まぁそこそこの刀ですが」
「国宝級か。確かにとんでもない破壊力だったなぁ。妖刀なんて言われてるのも納得できるよ。同じ位強いはずのロードの先輩のカシナートでさえ全然及ばないんだから。そこそこって言うけどショウ君のもカシナートより強いのかな?」
「まぁ、ある意味カシナートより上と言えば上なんですが……」
どう説明した物かと考え込むショウ。二人の間にはかなり大きな認識の違いがあった。
それも当然でショウの出身地であるホウライは侍と忍者の発祥の地であり、当然その装備についても質量ともにヤンの出身地であるリルガミンとは比較にならない。
ヤンの時代には何者かの手によって数本の国宝級の名刀がワードナの迷宮に持ち込まれており、そのうちの一振りがヤンのパーティの先輩(トレボー城塞では最強クラスの侍)が持つ『村正』である。
したがってヤンの認識では「刀=村正=最強武器」なのだが、ホウライ出身者のショウにとっては一口に刀と言ってもそれこそ村正や伝説のクサナギといった国宝級の代物から、殆ど世に知られない無名の刀工の打ったものまでピンキリである。
>>209 ルイズ「誰が誰だか判らないわ」
タバサ「彼が早川で 彼が風見 彼が新命」
キュルケ「よく判るわね?」
ショウの真改は鳳龍家に代々伝わる銘刀であるが、格としては当主であるショウの父が持つ『国綱』に大きく劣る。後年のショウも手柄を立てたときに下賜された『一文字』を佩刀にし、真改は家に置いていた。
とは言え真改もそれなり以上の格をもつ銘刀であることには違いなく、下級の侍には中々手に入るものではない。あくまでも一流の国綱や超一流の一文字に比べると、という話である(ちなみに村正は評価不可能レベル)。
付け加えるならば彼らの世界の刀にはいわゆる数打ち(大量生産品)というカテゴリーが存在しない。
侍発祥の地ホウライであっても前衛職が全員侍と言う事はさすがに無く、侍の数がそれほど多くないのがひとつと、形が刀であっても戦士でも使えるような大量生産品は一緒くたに長剣(ロングソード)に分類されてしまうためである。
ホウライではそうした数打ちも「刀」と言うことはあるが、通常は「刀」といえば侍にしか扱えない、つまり侍の剣技を発揮できる一定以上の質を持つ銘入りの剣のみを指す。つまり、同じ「刀」でも戦士が使うのは長剣、侍が使うのが本物の刀と言うわけだ。
話を戻すと村正が最強の武器である事はショウとしても異論が無いのだが、それは村正に他の魔法の剣を凌駕するような強大な魔力が付与されているからでは決してなく、村正が侍の能力を最大限に引き出している結果に過ぎない。
侍だから強力な武器が持てるのではなく、侍が使うから強力なのだ。
剣技の話に限定するならば、肉体的な強さを追求した戦士やロード、スピードを身上とする忍者と言った他の前衛職に対して、侍は"気"を使った攻撃に特化したクラスである。
そもそも"気"を操ることを主眼とする侍の剣技を最大限に生かす武器として生み出され進化してきたのが"刀"であり、それ以外の武器では侍の発揮できる剣技は戦士やロードと大差ない。
例えば同じカシナートの剣を使う場合でも戦士やロードは純粋に鋭く強く振る事でダメージを与えるが、侍の剣技は斬撃そのものよりも剣から放つ"気"を用いてダメージを与える事を主眼としている。
だがいかに名剣カシナートとはいえ本来はあくまでも戦士やロードの為の武器。
戦士の剣技に最適化された重量、分厚い刃、頑丈な刀身は鋭く重い斬撃を繰り出す事ができるが、"気"の精密なコントロールに向いていないその刀身では、侍といえども放出できる"気"の精度と密度は戦士やロードとさほど差は無い。
結果、最終的な威力を比べた場合、侍の得意とする"気"の威力も他のクラスが持ち味とする膂力やスピードによって相殺されてしまうのだ。
カシナートの持ち味である硬度や頑丈さといった特質も、侍にとっては無用の長物とは言わないまでもメリットよりデメリットのほうが大きいのである。
対してショウの真改のような"刀"は形状、材質、鍛造方法に至るまで"気"を制御するために工夫された武器である。
腕力に任せて振るうのであれば頼りないとしか思えぬその細身の刀身や薄い刃も、ひとたび練達の侍が"気"を通せば巨人族の大剣をも凌ぐ破壊力を発揮する。
村正ともなれば、本人が意識せずともただ握るだけでその"気"を収束・放出し、ひとたび振るえば1レベルの侍がただの一太刀で巨人族を絶命させたと伝えられるほどだ。
結果として、戦士にとっては最高クラスの剣カシナートに剣としての質そのものでは劣るものの、真改は使い手次第で"気"を操ってそれに匹敵する破壊力を生み出すことができる。
一撃の威力は同等でも高レベルの侍にとってはそちらのほうが戦術に応用の利く分戦いやすい。ショウの言った「カシナートよりは上」というのはそういう意味だ。
「我が家に伝わる金言では侍の剣術の要諦は気の制御(コントロール)にあり、と言いますが、侍にとって刀は剣であると同時に"気"の制御に用いる導体の役目を果たしているんです」
「ああ、侍の剣術は"気"の制御ってのは訓練所で聞いた覚えがあるよ。戦士やロードの剣術は気の爆発的放出、忍者の剣術は気の集中、だったっけ?」
単純に言ってしまうと"気"をそのまま相手に叩き付ける戦士やロード、放出するのではなく武器に集中させ、体術と組み合わせて斬り裂くのが忍者、と言うことである。
(ちなみにこの"気"の集中という特性は忍者の代名詞であるクリティカルヒット=即死攻撃を繰り出すのにも一役買っている)
支援
投下中は自重しろ特撮ども
投下中は雑談を控えましょう
支援!
番場壮吉を忘れてはならない
申し訳ありません
ちょっと死んできます
支援
規制かな?
とりあえず支援!
「俗にロードの達人は剣圧で山を吹き飛ばす、などと言いますね」
「凄い人は本当に凄いからねー」
「そうか、ヤンさんは高位のロードが実際に戦うところを見たことがあるんでしたっけ」
ちなみに、ショウは直接にロードが戦うところを見たことがない。只でさえ希少なクラスである上に、彼の故郷ホウライではロードはホウライ王家の人間のみがなれるクラスであった為だ。
それでも彼の父や兄であれば敵にしろ味方にしろ戦場で見たことがあるのだが、ショウはたまさか召喚される時までそうした機会がなかったのである。
一方、ヤンの修行していたワードナの迷宮ではロードもさほど珍しくはない上に(勿論数は少ないが)、彼の所属していたパーティの事実上のリーダーは戦術の天才と謳われた高位の女ロードである。
同じパーティの侍にはさすがに劣るものの、ヤンから見ればその剣撃の威力は驚異の一言であった。
それはともかくこれらのクラスが(ロードや忍者と言ったエリートクラスでも)相当の高レベルでなければ意識して"気"を扱う事は出来ないのと対照的に、侍は素質のあるものであればそれこそ1レベルであっても気を用いた剣術を使いこなす。
刀身から圧縮した気の刃を噴出させて間合いの離れた敵を斬る事もできれば、極限まで集中して鋼を豆腐の如く斬ることも容易い。高レベルの侍が名刀を持てばその力はまさしく隔絶。これこそ侍が破壊力において他のクラスの追随を許さぬ理由なのだ。
勿論これは侍が無敵であると言うことではない。一般論で言えばともかく実際には力量、素質、装備や経験の差、あるいは時の運によっていくらでも勝敗の天秤は傾く。
ただ「村正を持った侍」が最強の剣士の代名詞であることには殆どの人間が異論を唱えないだろう。
うん、とショウが伸びをして立ち上がった。話に熱中していたせいか、少々休み時間を長めにとってしまったらしい。
「さて、そろそろ再開しましょうか」
「よし、今日こそは一本取らせてもらうぞ!」
「その意気や良し。ですが易々と取らせるつもりはありませんよ」
ヤンが木剣と盾を構え、気合を入れなおす。青眼に構えたショウが不敵な笑みを浮かべた。
支援
結局ヤンが一本も取れず叩きのめされ続けている内に学院の鐘が鳴り、午前中の授業の終了を告げた。二人は立会いを切り上げると、肩を並べて学院に向かって歩き出す。
ショウが薄く汗ばんでいる以外平常どおりであるのに引き換え、ヤンの頭にはいくつもこぶが出来、体も打ち身だらけだ。歩く足取りもやや頼りない。この二人の対比はここ数日もうおなじみになりつつあった。
今日はまだましなほうで、二日目などはショウの一太刀をまともに貰ったヤンが額を割って気絶してしまい、血だらけのままショウに学院まで引きずられる羽目になった。
おまけに学院に戻ったときには血を見たメイドや女生徒達が卒倒してちょっとした騒ぎになりもした(なので、次の日からは学院の門の外でリリスと待ちあわせし、そこで回復呪文を掛けてもらうことにしている)。
ちなみにショウたちの中には血を見た位でどうにかなる人間はいない。ショウたち三人やタバサは戦場なり迷宮なりで戦ってきたベテランであるし、ルイズやキュルケも初日の斬殺シーンを見てしまったからには今更気絶したりはしない。
さすがにキュルケは大怪我をさせたショウに食って掛かっていたが、これも鍛錬にはつき物だとヤン本人に言われてはしょうがない。
やり場の無い怒りにむくれるキュルケとそれをなだめるのに一生懸命なヤンを見て、リリスなどはくすくす笑っていたものである。
もっともヤンを治療したのもそのリリスであるから怒るに怒れず、その日一日キュルケのストレスはたまりっぱなしであった。
ヤンによると「あの日は昼よりも夜の方が酷い目に会った」そうだが、その夜何が起きたのかは当の本人たちのみぞ知るところである。
ただ翌朝部屋から出てきたキュルケが実にスッキリした顔をしており、対してヤンはリリスに快癒を掛けてもらうまで死人のような顔をしていた事は記しておこう。
そして今日もまた、校門前でリリスが待っていた。水の入った桶と濡れ手ぬぐいを用意して来ているあたり、もう慣れた物である。二人に絞った手ぬぐいを渡しながら、ヤンを頭から爪先までざっと眺める。
「今日もまた、随分やられたわね。やっぱりショウ君には勝てない?」
「ですねぇ。打ち込みの早さや正確さもそうですけど、動きに無駄が多すぎるって何度も言われましたよ」
「右の脇が結構喰らってるわね。まだ癖が治ってないの?」
さすがマスターレベルの司教、いや元マスター僧侶と言うべきか、リリスの観察眼は鋭い。
迷宮での戦闘では負傷したり麻痺や石化などの状態に陥った仲間を素早く回復させる事が求められる。当然、仲間の状態を素早く、かつ正確に把握する事は回復呪文の使い手にとって必須のスキルである。
もっとも今はその鍛えた眼力も大して意味がない。緊急性が無い上にどのみちヤンには快癒(マディ)をかけて全快させてしまうからだ。
一方怪我もなければさほど消耗もしていないショウであるが、こちらにも一応大治(ディアルマ)をかけて疲労を取り除いておく。
快癒は勿論、ただの疲労回復に大治など、かつてのパーティメンバーが見れば目をひん剥く事だろう。快癒が切り札的呪文である以上、大治は最も使用頻度の高い回復呪文である。平和だからこそできる贅沢であった。
その後再びショウたちはリリスと別れ、井戸で水を浴びてから食堂で昼食を取る。
初日に汗をかいたまま食事をとろうとして女性陣からブーイングを浴び、食堂に来る前の水浴びを義務付けられてしまったのだ。リリスやタバサはそう言った臭いにも免疫があるのだが、やはり好んで嗅ぎたい臭いではないらしい。
まぁ、汗の臭いを好んで嗅ぎたがる人間が友人であったらそれはそれで嫌だろうが。
そして昼食。体を動かしているせいか、ここ数日は明らかに二人の食べる量が増えている。そして食事が終った後は食休みがてら六人で雑談にふけるのが習慣となりつつあった。
今日はその途中でショウが手洗いに立ち、ここで冒頭の事件に繋がるのである。
支援
一方その少し前。ギーシュは、数分後に自分が食堂全体を石化させるなどとも知らず、脳天気に歯の浮くセリフを吐いていた。
「当然じゃあないか。僕はモンモランシーを心の底から愛しているのだからね」
「ああ、嬉しいわギーシュ。私幸せすぎてもう死んでしまいそう!」
「僕という薔薇は君ただ一人のために咲いているのさ、モンモランシー」
なーにーがー、君ただ一人のために咲いているー、よ。
モンモランシーは思う。
二人でいてもかわいい下級生が脇を通ればそちらに目が行くし、私に言ったのとそっくり同じ褒め言葉で他の子を褒めちぎるし、酒場ではちょっと席を立った隙に給仕娘を口説くし、あまつさえデートの約束をすっぽかしてよその女の子のために花を摘みにいってしまうし。
授業中、斜め前の女生徒のスカートがめくれ上がって太ももが露出していたのをマリコルヌと一緒に熱心に観察しているのに気づいた時は、二人まとめて息の根を止めてやろうかさえと思った。
おまけに睨みつけた視線に気づいたマリコルヌが、恍惚の表情でくねくねする不気味な光景まで見てしまい、不機嫌のボルテージは上がりっぱなしである。
ケティには完璧な勝利を収めたものの、やはり大本を断たねば問題は再発しつづけるらしい。
とりあえずあのデブには女に嫌われる香水でも送ってやろうかと思いつつ、モンモランシーは問題の最終的な解決を図るべく、これまで香水の調合でこつこつ溜めてきたお金を全部つぎ込んで最終兵器――惚れ薬を完成させたのだった。
そして今日、たまたまギーシュの友人達は側におらず、食堂の片隅でモンモランシーはギーシュと二人きりで食後のひと時を過ごしていた。あらかじめ内側に惚れ薬を塗っておいたグラスにワインを注ぎ、にっこりと微笑みながらギーシュに差し出す。
惚れ薬の効果を考えればどちらかの部屋で二人っきりになれる機会を見計らうべきであったろうが、もはやモンモランシーは一分一秒一刹那たりともギーシュの浮気を我慢できなかったのである。思えばこれがモンモランシーの第一の致命的ミスであった。
グラスを打ち合わせ、モンモランシーはギーシュと見詰め合いながらワインを飲む。このままギーシュがワインを飲み、目を合わせれば……飲んだっ!
しかし、モンモランシーはここで第二の致命的なミスを犯していた。ギーシュの口元に集中する余り、声を掛けてきた少年に気づかなかったのである。
ショウがテーブルに瓶を置いたのと、ギーシュがワインを口に含んだのがほぼ同時。この時点でモンモランシーは初めてショウに気づいた。あっと思う間もなくギーシュはワインを嚥下してショウに振り向く。
そしてギーシュはショウと熱烈な恋に落ちてしまったのであった。ただし一方的に。
支援
周囲全てが石化している中、ギーシュはショウを抱きしめたまま、またもや延々と「愛している」を連発しようとして、
「うわぁぁぁぁぁぁ!??!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ショウとモンモランシーの悲鳴にそれを中断された。
同時にショウが思い切りギーシュを突き飛ばし、完全に戦闘時の動きで3メイルほど飛び退る。右手は無意識に背中の剣の柄に掛かっていた。
荒く息をするショウ。心臓は早鐘のように打ち鳴らされている。生まれて13年、戦場でもこれほどの恐怖を味わった事は無かった。それ以前に状況が未だに理解できていない。
そして左手の甲に刻まれたルーンが強い光を発していることに、彼も、周囲の人間もまだ気づいていなかった。
ショウが飛び退ったのと同時に、悲鳴によって周囲も硬直から解き放たれた。
ざわめき、むしろどよめきと言うべきそれが食堂を揺るがす。
「ギーシュが男に告白したぞっ!?」
「ついにそっちにまで……」
「いや、ひょっとしたら女生徒に手を出しまくっていたのはその性癖を隠すためだったのか!?」
「おお、始祖ブリミルよ、なんと言う……ぽっ」
「なんて破廉恥な!」
ハルケギニアにおいて同性愛は宗教的タブーであるわけではないが、さりとて一般的なものでは決して無いし、変態的かつ倒錯的な嗜好であるのは無論である。
自然周囲からギーシュに注がれる視線も、絶対零度とはいわないが概ねはかなり冷たい。
「ちょっと! ちょっと通して!」
ショウの悲鳴を聞きつけたか、ルイズが駆けつけてきた。少し離れたところにキュルケ達の姿も見える。今まで見たことの無いような、恐怖に強張るショウの顔を見てその目が丸くなった。
「一体何があったのよ、ショウ?」
ショウとようやく起き上がったギーシュを見比べて気遣わしげにルイズが尋ねる。この頼りになる使い魔が恐怖を表情に出すからには余程の事であろう。こう言う時こそ主としてしっかりせねばなるまい、と決意する。
しかしその問いに答えたのはショウではなく、気障に前髪をかきあげたギーシュであった。
「お答えしよう、ルイズ。僕は真の愛を知ったのさ。そう、我が永遠の伴侶ショウへの愛に目覚めたのだ!」
かくん、とルイズの顎が落ちた。
支援
さて、くどいようだがショウは成長半ばの13才の少年である。
この数年後には逞しい長身の青年になるが、今は女の子並みの身長しかない(ちなみにそれぞれの身長はヤン180サント、キュルケ171サント、ショウ162サント、リリス158サント、ルイズ153サント、タバサ142サント)。
体つきも力ではなく"気"を重視する侍ゆえに、鍛えてはいても筋骨隆々ではなく、むしろ無駄な肉がついていないために同年代の少年と比べてもスマートで細身の印象を受ける。
しかも女顔ではないが割と可愛い系でつぶらな瞳の美少年だ。
そのショウに、こちらも細面の美形であるギーシュが熱烈に迫る様子はかなりあれである――つまり、色々と洒落にならない。
女生徒の中には頬を赤らめてキャーキャー言っているものもいたが、ショウとしては心底おぞましいばかりであった。
「結婚してくれ、ショウ! 僕は末子だが、必ず功を上げて取り立てられ、君を幸せにしてみせる!」
「だから俺は男だっ!」
「誰にでも欠点はあるっ!」
「欠点があろうとなかろうと男同士で結婚できるかっ!」
「そうか、わかった!」
叫んで、くるりと身を翻すギーシュ。その目の前にはいまだショックで固まったままのモンモランシーがおり、口元に両手を当てた、悲鳴をあげた時の姿勢のまま呆然としている。
ショウが助かったと思ったのも束の間、次のギーシュの言葉は彼の想像の遥かに上を行くものであった。
「モンモランシー、水系統の魔法で姿を変える術があると聞く。僕をそれで女にしてくれないか!? それならショウも僕との結婚を承諾してくれると思うんだ! あ、いや待てよ。むしろショウを女の子にしたほうが色々と……」
熱烈な懇願をしていたギーシュが、途中から自分の妄想の中にはまり込んでだらしなく鼻の下を伸ばす。
それに対するモンモランシーの返答は、渾身の力で振り下ろされたワインの瓶であった。
ワインとそれ以外の赤い液体をぶちまけ、ギーシュがあえなく昏倒する。
たった今傷害の前科一犯が付いたモンモランシーは瓶を振り下ろした姿勢のまま肩で息をしていた。
そのままがっくりと膝をつき、床に座り込んでうなだれる。今彼女は色々な物に完全に打ちのめされていた。
ころん、とモンモランシーの手を離れてワインの瓶の残骸が床を転がる。
そんなモンモランシーの内面など知る由も無く、女友達たちが動かなくなったモンモランシーをレビテーションで部屋まで運んでいく。裏の事情を知らぬこともあって、その顔は一様に同情的であった……ひょっとしたら、知っていても同情したかもしれない。
ちなみに系統魔法には顔を変える魔法はあっても体全体を変身させる魔法、ましてや男を女にするような魔法などは無い。
意外とどこかの変態貴族が開発していたりするかもしれないが、仮に存在していたとしてもドットの水魔法使いであるモンモランシーの手に負えるものではあるまい。
閑話休題。
>>202 ちょっと原作と変えてみるのも良いかなと
普通にやると最初の展開が被りまくってしまうので
>>232 他の人が投稿中なので横入り禁止。マナーを守れ。支援。
モンモン、下手すりゃそれは障害致死だw
支援!
支援
でも、今度こそ規制食らったっぽいな
一応作者さんに一言
流石に今回のは一度に投下するには量が多すぎるから、キリのいい所で一旦切って、続きは
少し時間を置いてからにした方がいいと思う
236 :
代理:2008/03/07(金) 00:47:31 ID:D7zQr8Sa
そんなモンモランシーを横目で心底気の毒そうに見やりながらルイズが一歩前に出る。丁度、ギーシュからショウを庇うような立ち位置だ。
それとほぼ同時にむくり、とワインまみれのギーシュが起き上がった。全力で殴られたにもかかわらず意外にダメージは小さいらしい。
そんなギーシュに、ルイズは楽しみにしていたクックベリーパイにたかっていたワモンゴキブリを見るような目を向ける。
「何か言いたいことはあるかしら、ギーシュ?」
「ああ、ルイズ! 申し訳ないが僕は君の使い魔に恋してしまった! 真実の愛なんだ! 必ず幸せにするから彼を僕に譲って……」
「死ね」
爆発がギーシュを吹き飛ばす。今回に限ってはブーイングも野次も無く、恐らく生まれて初めて、ルイズの失敗魔法は満場の喝采と拍手をもって迎えられた。
動かなくなった――いや、痙攣はしているから生きてはいるのだろうが――ギーシュを見て、ようやくショウが緊張を解いた。剣から手を放し、手近の席にへたり込む。
そんなショウの顔をルイズが心配そうに覗き込む。
「大丈夫?」
「あ、ああ」
俯いたまま返事をして、しばらくそのままでいたショウが顔を上げた。
目の前には相変らず心配そうな顔をしているルイズがいる。
ヤン、キュルケ、リリスも少し離れた場所から心配そうな視線を送って来ていた。
「その……ルイズ」
「何?」
「ありがとう、助かった」
ルイズの頬にうっすらと赤みが差す。
ぷい、と顔を背け、腰に手を当てる。
「ふ、ふん。当然でしょ、私はあんたのご主人様なんだからね! 使い魔がピンチの時は助けてあげるのが当然よ!」
「ああ、今回ばかりは恩に着る」
「むむむむむ……」
素直に答えるショウに調子が狂ったか、横目でちろちろとショウを見ながら、しばらく無言で口を尖らせるルイズ。やがて、なにやら思いついたのかぱっと向き直って勝ち誇った表情で指を突きつける。
「ああ、そうね。感謝してるなら形で示すのが筋よね」
「形でというと……なんだ?」
「敬語よ、け・い・ご!」
ずい、と突きつけてくる指に半目になってショウがぼやいた。
「しつこいな、お前も。それは話が別だ」
「この頑固者!」
「お前がそれを言うか?」
さっきのしおらしさはどこへやら、一転してぎゃあぎゃあとがなりはじめたルイズをショウが疲れたようにあしらう。どちらが年上だかわかったものじゃないなぁ、などとヤンは思ったが、例によって口には出さなかった。
人の精神を破壊する麻薬を使ったら傷害罪より罪が重そう的支援
しかも見た目だけ変えるのは風系統だ
「本当、どっちが年上か分かったもんじゃないわねぇ」
「キュルケ、それは私も思ったけど余り口に出さない方がいいんじゃない?」
「実際あの通りなんだもの、しょうがないでしょ」
「なんですって!」
出さなかったが、この二人に挟まれてはそういう気配りも意味がないのであった。
「あらルイズ? 召喚した時だって、いつぞやの朝の口ゲンカだって、3つも年上の割にはまるっきり同レベルで言い争ってたじゃないの」
「あ、あれはショウが言いがかりを付けて来るから悪いのよ!」
「年上なら余裕を見せてほどほどのところであしらってあげればいいじゃない」
耳ざとくキュルケの発言を聞きとがめたルイズが矛先を変えた。つっかかるルイズをキュルケが闘牛士よろしくひらりひらり翻弄するという、まあお馴染みの光景だ。
それを楽しそうに見ながら、ふと先ほどからタバサの姿が見えないのに気づいてリリスはあたりを見回す。周囲のテーブルに座っていた人間に尋ねてみると、なにやら色々と聞いてきた後に厨房の方へ行ったらしい。
「あ、戻ってきましたよ、リリスさん」
リリスが厨房のほうを向くのと、ヤンが声を上げたのがほぼ同時。
未だにざわめく人ごみの中、青い頭とごつい杖がひょこひょこ歩いて来ていた。
支援
「謎は全て解けた」
ぴっ、と指を立て、開口一番タバサがのたまった。
くいっ、と眼鏡の位置を直した拍子に、食堂を照らすロウソクの炎を反射してレンズがキラリと光る。
タバサのかもす訳の判らない迫力に、ルイズでさえも一瞬黙り込んだ。
「これからモンモランシーに会いに行く。多分、今回の件ではギーシュも被害者」
「さっすがタバサ、体は子供でも頭脳は大人ね!」
「……余計なお世話」
一瞬自分の胸元を見下ろし、珍しく怒ったようにタバサがキュルケを睨む。
「あはは、ごめんごめん。でも褒めてるのよ?」
そのままキュルケがタバサを抱きしめて頭を撫でる。
褐色の豊かなバストに顔を埋め、タバサの眉がさらに1ミリほど、不機嫌そうに寄せられた。だがそれも一瞬のこと、またいつもの無表情に戻って今は為すがままにされている。
この時の表情をキュルケが観察していたら、わずかにその目元が柔かくなっていたのに気がついたかもしれない。
やがてタバサを愛でるのにも飽きたか、キュルケが抱擁を解いた。
乱れた青い髪をリリスが撫で付けて直してやる。
「それじゃ、ついて来て」
「あ、ちょっと待ってタバサ。一応"これ"も連れて行く?」
と、リリスが指差したのはまだ痙攣し続けているギーシュ。
少し考えた後、タバサは首を縦に振った。
「確かに連れて行ったほうがいいかもしれない」
「え? でも、ショウが」
「俺は別に構わないぞ」
ルイズが難色を示しかけたが、先ほどのショックからは完全に立ち直ったのか、ショウの目に恐怖や混乱はもう無い。
代わりに思い切り胡乱なものを見る眼差しになっていたが、その程度で済むのはギーシュにとってまだましといえよう。
「構わないんだが。なぁ、ルイズ。また迫ってくるようだったら斬っていいか?」
「……斬るのはダメよ。変態でも一応私の同級生なんだから。死なない程度に殴るなら許可するわ」
「わかった」
思わず頷きそうになったが、ギリギリで自制心を発揮してルイズは踏みとどまった。
互いに顔を見合わせて頷いた後、主従揃って屠殺場の豚を見るような眼差しをギーシュに注ぐ。期せずして、今二人の心はひとつであった。
そう言った意味でルイズはギーシュに感謝しても良かったかもしれないが、実際にそうするかといえば、西から太陽が昇ってもそんな事は有り得まい。
支援
「キュルケ、ヤンに運ばせて」
「何で? レビテーション使えばいいでしょ」
「お願い。あなたがレビテーション使ってもいいけど」
「?……わかったわ」
ワインと煤のこびりついたギーシュをヤンに抱えさせるのは嫌だったのか、キュルケがレビテーションを唱えて気絶したギーシュを宙に浮かべ、一行はそのまま女子寮に向かう。目的地は勿論モンモランシーの部屋だ。
先導していたタバサがモンモランシーの部屋の扉をノックする。
しばらく待っても返事はなかった。
「部屋の奥……横になっている……のか? 動いていないようだ」
「あんたそんな事も出来るの?」
ショウが一歩前に出、壁に手を当てて中の気配を読み取った。戦闘専門と思っていた使い魔の意外な芸にルイズやキュルケは酷く感心した様子である。
しかし、ショウの気配察知をもってしてもそれ以上のことはわからない。
ショウはマスターレベルの侍としてもかなり正確に気を読む事ができるが、気配だけでは敵意や殺気と言ったものは読めても、大雑把な位置以上の事を読み取るのは至難の業なのである。
プロの盗賊(シーフ)か、或いはそれこそ忍者でもいれば中の音を聞き取り、呼吸音から起きているのかどうか判別する事もできるのだが、あいにくこの中にはそうした技術を持つ人間はいなかった。
「へっくしっ!」
ここはトリステイン魔法学院学院長オールド・オスマンの執務室。貴族としてはいささかはしたない大きなくしゃみが、絵に描いたような有能な美人秘書であるミス・ロングビルの口から飛び出した。
いつもの彼女らしからぬ所作に、窓際で外の景色を眺めながらなにやら物思いにふけっていたオールド・オスマンが意外そうな顔で振り向く。
「おや、ミス・ロングビル。風邪かね? いかんのう、そういう時は体を暖めねば。ささ、こっちに来なさい。わしが抱きしめて暖めてあげよう」
「あらオールド・オスマン。お気遣いありがとうございます」
表面だけは好々爺の笑みで、恋人を迎え入れるように両手を広げるオールドオスマン。ミス・ロングビルも微笑んで立ち上がり、接吻でもするかのようにその首に両手を回すと、そのまま抱きしめようとするオスマンのみぞおちに無言のまま鋭い膝蹴りを突き刺した。
「えぐっ、ぐほっ、むぐぉっ!?」
なまめかしい脚線美を誇る太ももを惜しげもなくスカートから覗かせ、ミス・ロングビルの膝が二度、三度と的確に急所をえぐった。そのたびに首をロックされたままのオールド・オスマンがびくんびくんと痙攣する。
やがて十分だと思ったのか、飽きたのか、それとも単に疲れたのか、ミス・ロングビルはその芸術的なピストン運動を停止して、力を抜いた。首をロックした両腕を外そうとして、オスマンのつぶやきに僅かに眉をひそめる。
「し、白……」
次の瞬間、ミス・ロングビルの腰の辺りにまで押し下げられたオスマンのこめかみを、極めてコンパクトかつ鋭い横回転から繰り出された膝蹴りが撃ち抜いた。
数十回の膝蹴りにも意識を保ったオールド・オスマンであったがさすがにこれには耐えきれず、学院長室の床に轟沈する。
乱れた呼吸を整えながらその様子を冷やかに眺めていたミス・ロングビルが、ややあって深い深い溜息をついた。
言い知れぬ空しさと疲労感に襲われたのである。
秘宝「破壊の剣」を盗み出すために、この学院に潜入してはや3ヶ月。いくら可愛い妹の生活費を稼ぐためとは言え、毎日セクハラにさらされていては気も萎えようと言う物だった。
(けっこー蓄えあるしー、あれとあれとあれ売り払えばわりかし持つしー。いっそ盗賊辞めちゃおうかなー)
宙に目をさまよわせて人生設計を考え直してみたりするミス・ロングビルである。
部屋のドアがノックされたのはそんなときだった。
「オールド・オスマン!」
「なんじゃね?」
返事を聞く間ももどかしく、飛び込んできたのはコルベールだった。
ミス・ロングビルは何事もなかったように机に座り、事務仕事を続けている。オスマンは腕を後ろに組んで、重々しく闖入者を迎え入れた。
こう言うときだけ息がぴったりと言うのもどうかとは思うが、ともかくコルベールは何も気づいていない。
顔は殴らなかったので外見から先ほどまでの暴行が露見する心配もない。ミス・ロングビル、さすがであった。
「たた、大変です!」
「大変なことなど、あるものか。すべては小事じゃ」
「ここ、これを見てください!」
そう言ってコルベールが差し出した本を見て、オスマンがごく僅かに真面目な表情になった。
「ふむ、ミス・ロングビル。すまんが席をはずしてくれんか」
一礼してミス・ロングビルが退室する。
ドアが閉まるのを待ってオスマンが再び口を開いた。
「それでは詳しく説明してくれんかの、ミスタ・コルベール」
支援
ありゃ? 誤爆したけどかきこめた? とりあえず代理の人ありがとう。
とりあえずこっちでかきこんでみます。
「鍵は……かかってる」
モンモランシーの部屋のドアのノブに手をかけ、タバサが呟いた。
「鍵が掛かってるなら開ければいいじゃない」
あっさり言い放つとキュルケが「アンロック」を唱える。
学院内でアンロックの呪文を使うのは理由の如何を問わず重大な校則違反であるが、キュルケは今更そんな事を気にする玉でもないし、ルイズはギーシュと真犯人へのムカツキでそれどころではなく、またタバサは黙っていれば大丈夫だと思っている。
勿論使い魔の三人はそんな校則など知らないから、キュルケの呪文詠唱を止めるものは誰もいなかった。
ただ他の呪文を発動させた当然の結果として「レビテーション」の呪文への集中が解け、ギーシュが1.5mほど落下したが、殆ど誰も気にしない。ヤンだけは顔面から落ちたギーシュを見てちょっと同情していた。
タバサが扉を開くと、果たしてモンモランシーはベッドに突っ伏して泣いていた。
キュルケやルイズなどは同情を覚えずにはおれない姿であったが、タバサは一向に斟酌する様子もなく、肩に手を掛け意外に強い力でモンモランシーを引きずり起こす。
「た、タバサ? 一体何よ!?」
手首をつかまれながらも真っ赤になった目でタバサを睨み、文句を言おうとするモンモランシーであったが、キュルケやルイズの後ろ、部屋の入口から中を覗き込むショウの顔を見た途端、その言葉も尻すぼみになって消える。
その様子をいぶかしんでキュルケやルイズが振り返るが、彼女らにはその理由が分からない。ショウやヤン、リリスも同様である。
しかしただ一人タバサにとっては、その不審な挙動こそ容疑を固めるものに他ならない。
ずい、と顔をモンモランシーの顔に近づける。
「解毒剤を作りなさい」
「なっ、な、な、何の、ことよ!?」
囁くようなタバサの言葉は覿面だった。モンモランシーは息を詰まらせ、しゃっくりでもするかのように途切れ途切れにしか言葉をつむぐことができない。
そんなモンモランシーを冷やかに眺めつつ、タバサは容赦なく追い討ちをかける。
支援
「ひとつ。ディテクト・マジックで強い水の力がグラスから検知されている。生半可な魔法の薬ではあれだけ強い反応は出ない。恐らくは水の精霊の涙を使っているはず」
とある理由から、タバサや薬物や毒物には非常に詳しい。トリスタニアの多くの薬屋には足を踏み入れた事があるし、闇屋にも何度か足を運んで馴染みになっていた。
その知識に照らし合わせて、あれだけ強力な水の反応を出す薬物は精霊の涙以外にはほぼありえない。その推測が正解である事はモンモランシーの強張った顔が教えてくれていた。
「ふたつ。あなたは食後にわざわざ新しいグラスとワインを給仕の娘に頼んでいる。それまで飲んでいたワインとグラスがあるにもかかわらず」
呼吸を整える隙も反論する隙も与えず、タバサはモンモランシーを次々と追い詰めていく。
「みっつ。ギーシュが同性愛者であることを示す兆候はこれまで全くなかった。潜在的にそのような嗜好を持っていたとしても、召喚されてから一週間以上経った今になってショウに恋愛感情を持つのはタイミングとして不自然」
タバサが調べ上げた事実と筋道立った推論を披露するのにつれ、どんどんとモンモランシーの顔色が悪くなっていく。
「そして最後のひとつ。トリスタニアの闇の魔法商店であなたが非常に高価な秘薬を購入したと店の主人から聞いた」
勿論これははったりである。
事件が起こったのはついさっきなのに、トリスタニアまで行って証言を取って来れる筈もないし、世間話でそんなことを漏らすほどタバサが店の主人と仲がいいわけでもない。
だが、先ほどからタバサの言葉によって追い詰められていたモンモランシーには十分すぎるとどめであった。
ベッドに腰掛け、がくりと崩れるように俯いたその丸い背中が、タバサの言葉が紛れもない真実である事を自ら証明している。
「真実はいつもひとつ!」
「……あれ、楽しんでるのかしら?」
「多分ね」
ルイズとキュルケが囁き交す声など聞こえないかのように、ぴっ、と指を突きつけるタバサであった。
その指の先で、唐突にモンモランシーが立ち上がった。
その顔には捨て鉢と言うか、開き直りめいた表情が浮かんでいる。
「証拠よ! 証拠を出しなさい! 今までの話は全てあなたの想像でしょ!? 裏の商売をしている人間が何か言ったからと言って、それは証拠にはならないわ!」
それ以前に裏の商売をしている人間がわざわざ証言をしたり、ましてや客の情報を漏らすわけがない、などと言う所に頭が働かないのがモンモランシーの世間知らずなところである。もっとも海千山千のタバサと比べるのは、言うまでもなく些か酷であろう。
それはともかくちゃぽん、と中の液体を揺らしてタバサが香水を入れるようなガラスの小瓶をつまみ出した。
「さっきのワインの残り。薬学に詳しい水のメイジに調べてもらえば一発で分かる」
ものも言わずモンモランシーはその瓶をひったくった。
窓を開け、中身を外にぶちまける。
支援
「ほーほほほ! これで証拠は消えたわね!」
勝ち誇るモンモランシー。表情を変えず、タバサが同じような瓶をマントの中から取り出した。中には先ほどと同じ色の液体が揺れている。
「実はここにもう一本」
今度もモンモランシーはひったくり、窓の外にぶちまけた。
全く表情を変えず、タバサが新しい瓶を取り出す。
またモンモランシーがそれをぶちまける。
そうして外の芝生が10本近くの小瓶の中身を吸ったあたりでタバサがまた瓶を取り出したのを見て、ようやくモンモランシーの動きが止まった。
「もう外に撒かないの?」
「あと、どれだけあるのよ……」
特に運動をしているわけでもないモンモランシーである。あっさり息切れを起していた。
「実はまだこれだけ」
そう言って広げたタバサのマントの内側には無数の隠しが付いており、その一つ一つに大きさは違えどもガラスや陶器の小瓶がずらりと並んでいた。
これだけあればマントが重みで垂れ下がってばれそうな物だが、タバサはこっそりレビテーションを使ってマントが自然に動くように見せていたのである。先ほどわざわざキュルケにレビテーションで運んでもらうように頼んだのもこのためだった。
「うわー」
マントの内側にじゃらじゃらと並ぶ無数の瓶、その絵面のシュールさにルイズが呆れたような声を上げる。
モンモランシーはもはや言葉もない。
(ねぇ、あれのどれが本物なの?)
(全部残り物のワインを入れただけの偽物だって。本物は私が預かってるのよ、これが)
キュルケとリリスのひそひそ話を聞き取る余裕もなく、今度こそモンモランシーはがっくりと床に崩れ落ちたのであった。
タバサさん、出てる作品を間違えてますよw
支援!
「解毒剤」
その後、一部始終を白状させられて最早抵抗する気も失せたか、床に座り込んだモンモランシーがタバサが放ったセリフにうつろな目で彼女を見上げる。
その首が力無く横に振られた。
「ちょっと! ここまでやらかしておいてほっぽりっぱなしにする気!?」
真っ先に噛み付いたのはルイズだった。
同情すべき所もないではなかったが、それでも彼女の大切な――本人はそう言われたら全力で否定するであろうが――使い魔を脅かす原因を作ったモンモランシーに対しては、只でさえ外れやすい自制心のタガが、それはもう凄い勢いで緩みまくっている。
「はい、どうどう、ルイズ。けどねモンモランシー? 脅すつもりはないんだけどね、彼、あのままにしてたら命の保証は出来ないわよ?」
そういってキュルケが指差したのは廊下に放置されたままのギーシュであった。
さすがに痙攣はもうしていないが(呼吸はしている、念のため)、体中煤だらけ、服はボロボロ、金髪はちぢれて全身からカリカリに焼いたトーストのような香ばしい香りを放っている。
「ギーシュ!?」
「ルイズはショウの事がとても大事大事〜だからね。またギーシュがショウに迫るようだと、同じ事がないとも限らないわよぉ?」
「ちょちょちょ、ちょっと、キュルケ!?」
顔を真っ赤にしたルイズをキュルケが例によって軽くいなす。その後ろでぽりぽりと頬を掻いているショウをリリスが微笑ましげに横目で見ていた。
一方、ギーシュの惨状に愕然として立ち上がったモンモランシーであったが、すぐに力無く椅子に座り込み、再び首を横に振った。
「ちょっと、どう言うことよ? あなただってギーシュをあのままにしておきたいわけじゃないでしょ? 作れるんでしょ、解毒剤」
さすがにいぶかしげな表情になったキュルケに、モンモランシーは三度力無く首を横に振る。
「違うのよ、作りたくても作れないの……」
「何でよ!」
「落ち着け、ルイズ」
がぁっ、と威嚇するルイズをショウが宥める。彼も最初は少なからず腹を立てていたが、いきさつの余りの馬鹿馬鹿しさに今は怒る気も失せていた。
「お……」
「お!?」
「お金がないから。秘薬を買うお金がないから……」
タバサを除く一同が互いに顔を見合わせた。さらにタバサが質問する。
支援
「なら惚れ薬に使った秘薬はどうやって手に入れたの?」
「香水を作って、この数年間こつこつ溜めたお金を全部つぎ込んで……同じ物を買うだけのお金なんてもうない、実家から送ってもらうにしても、うち余り裕福じゃないし……」
「あー」
額に手を当ててルイズが唸った。キュルケが顔を近づけて小声で尋ねる。
(そうなの?)
(何年か前に事業に失敗して借金こさえたとか聞いたことがあったわ、そう言えば)
(どうせその事業とやらも今回みたいにいらん事して失敗したんじゃないの?)
(さぁ)
(推測に過ぎないけれども蓋然性はけして低くない)
実際キュルケの想像は大当りだったりするのだが、それはそれとして。
「惚れ薬は残ってるんだし、これから解毒剤を作る訳には行かないの?」
「無理。一度魔法的に結合した素材を元に戻すことはスクエアクラスの錬金使いでも不可能」
リリスが預かっていた瓶を取り出してちゃぷちゃぷと揺らすが、タバサににべもなく否定される。
「効果が自然に切れるのを待つって言うのは?」
「効力は何ヶ月か、それとも一年かわからないけど、相当長い間続く」
「勘弁してくれ」
ヤンの消極的なアイデアにもタバサの答えはやはり否定的なものであった。ショウがげんなりした顔になる。
次に口を開いたのはルイズだった。
「その水の精霊の涙だっけ、それっていくらくらいするの?」
「たぶん、必要な最低量でエキュー金貨400か500枚くらい……」
げっ、と言う顔になったのはルイズとキュルケ。彼女たちの家はそれぞれの国でもかなり、というか指折りの大金持ちであるが、それでも学生に過ぎない彼女達にとっては結構な大金だ。
特にラ・ヴァリエール公爵家は掛け値なしにトリステイン一の大富豪であるが、ルイズの母親は子供の小遣いには(大貴族の割には)厳しい人だったのである。
キュルケも出そうと思えば1000エキュー位はポンと出せるお金持ちのご令嬢だが、男へのプレゼントならともかく、たかがポーションの材料で500と言うのはとんでもない額らしい。よく分からない金銭感覚だが、ツェルプストーの血筋はそんなものなのだろう。
支援
逆にいまいち納得しきれない顔をしているのはリリスとヤン。冒険者暮らしが長い彼らにとって、金貨500枚など正直はした金だ。平民にとってはともかく、貴族にとってそれくらいがなんなのか、という感じである。
何せ毒消しのポーション一瓶でも金貨300枚。ちゃんとした板金の甲冑(プレートメイル)を買おうと思えば魔法のかかっていない物でも金貨750枚と言うのがボッタクリ……もといボルタック商店の相場だ。
特にヤンにとっては金貨500枚など一週間分の宿代に過ぎない(まぁもっとも、恋人に見栄を張って一番高い部屋に泊まっていただけだが)。
ついでに言うとヤンの装備一式をボルタックで整えようと思ったら金貨で55万5000枚という天文学的な額が必要になる。最高レベルの冒険者ともなれば、そういう額でも必要とあればポンと出せるのだ。
とは言うものの、それは彼らが田舎の自給自足の生活から、一足飛びに冒険者としての金銭感覚に慣れてしまったせいであって、彼らの世界でも金貨500枚と言えば普通の都市住民や下級貴族にとっては目のくらむ大金である。
そしてそもそも金銭感覚というものを実感として持たないショウは、難しい顔をしてタバサの背中をつついていた。
「なぁタバサ。金貨500枚と言うとどのくらいなんだ、こっちでは?」
「貧乏貴族かそこそこ裕福な平民の年収がそのくらい」
うーむ、とショウが唸った。説明しては貰ったが正直あまり良くわかっていない。
先日街に出たときに買い物をする所を間近で見ているから、金貨500枚が大金だということはわかるのだが、実を言うとショウは自分で買い物をした経験が全くない。よって感覚としてどの程度のものなのかさっぱり理解できないのである。
ハルケギニアで言えば貴族階級のボンボンと言ってもいいそこそこの家の生まれなのもそうだが、彼の場合それだけが理由ではない。
何せショウの生まれたのは約一千年前。この時期はホウライにおける貨幣経済への過渡期に当っており、商取引は物々交換と金銭がどうにか半々と言う時代である(日本でいうと平安から鎌倉あたり)。
貨幣と言う概念は知っていたし実物を見たこともあるのだが、それが色々な「物」になるということがどうもぴんと来ないのだ。
彼にとって食料とは領地で取れる米や豆、海の幸山の幸によってまかなうものであるし、服や鍋釜、布団に行灯と言った生活用品は領地に住まわせて養っている職人に作らせるものだ。
武具は名工の刀や甲冑などを絹の反物や金の粒などであがなう事もあるが、鳳龍家の手勢が身につける槍や胴丸などは、やはり領地で養っている職人が作るものである。
要するにショウは何かが欲しければ作るか作らせる(または作れる人間を雇う)かしかなく、「買う」と言う概念がまだまだ乏しかった時代の生まれなのである。
(ちなみにショウが生まれたころから貨幣経済は急速に浸透し、百年も後には都市部の住民なら平民でも普通に貨幣を使うようになっていた。
本来の歴史ではショウがイヅモの国に仕官したときに初めて金の使い方を仲間の忍者と司教に習い、しばらくの間四苦八苦することになるのだが、ここでは関係ない話である)
ついでに言うとショウの時代は生まれる前からリルガミンとの戦争が続いており、物心ついてからと言うもの修行に明け暮れ、剣術と軍略その他最低限の学問を叩き込まれるばかりの人生を過ごしてきたのも理由の一つだ。
そう考えるとかなり不憫な人生を送ってきているのだが、それを微塵も感じさせないあたりは持って生まれた人徳であろう。
閑話休題。
支援
「まぁつまるところ、お金がないから解毒剤は作れないと」
「うん……」
うーん、と頭を付きあわせて悩む一同。モンモランシーにしてみても解毒剤を作りたいのは山々であるが、無い袖は振れない。ましてや彼女の家はルイズやキュルケの実家とは比べ物にならないくらい台所事情が厳しい。
「キュルケ、タバサ。今手元にどれくらい残ってる?」
「新金貨で150枚と少し」
「私は新金貨が20枚くらいかなー。ルイズは?」
「エキュー金貨で250…いえ、260枚くらいだったと思うわ」
「合わせてもエキューで400いかないかぁ。一応聞いておくけどモンモランシー、あなたは?」
「15エキューくらい……」
トリステインの新金貨は3枚で2エキューに相当する。つまり4人の手持ちを合わせても400エキューに少し足りないくらいだ。
こんな事になるならこの前の虚無の曜日の買い物で見栄を張らずにもう少し節約しておけば、ともルイズは思ったが後の祭りである。
「ところで、何であんたそんなにお金ないのよ? ツェルプストーって結構お金持ちだって聞いてたけど、意外に貧乏なの? それとも男漁りに使って残ってないのかしら?」
ルイズの挑発にも動じず、ふっ、と余裕たっぷりにキュルケが笑みを浮かべる。ただしちょっと苦笑気味に。
「あー、ちょっとね。ダーリンの鎧の修繕するのに、錬金を頼んだのよ。いいものらしくてこれが結構かかってねぇ」
「……すいません」
居たたまれない顔でショウが頭を下げた。ヤンの甲冑を中身ごと両断したのは紛れも無く彼である。
その頭を笑いながらキュルケが撫でる。
「いいのよ、事情があったんだし。ショウ君だから許しちゃう」
「ううっ」
ショウにとっては結構屈辱的な情景であるが、状況が状況だけにいつぞやのように振り払うこともできない。
結局ショウはキュルケが彼の頭の感触を存分に楽しむ間、耐え忍ばなければならなかった。
そしてキュルケが手を引っ込めた次の瞬間、ルイズが思いっきりその頭をはたく。
「いてっ!」
「こここここ、この馬鹿使い魔っ! よりによってツェルプストーの前で恥をかかせるなんてっ!」
「ちょっと待て、今のはどう見てもお前の自爆だろう!」
「原因を作ったのはアンタでしょ!」
「そりゃ責任転嫁だ!」
支援
今回ばかりはショウにも負い目があるため今一つ強く出れないが、この状況が彼のせいばかりでないのもまた事実であろう。
例によって始まる子供同士の口ゲンカをキュルケが割って入って止める。
「はいはい、こんなときに下らないことで言い争わないの。それはともかく、足りなかったらヴァリエールの名前で信用買いするのはどうかしら?」
「冗談言わないでよ、そんな闇商売の店でヴァリエールの名前なんて出せるもんですか!」
「じゃあ小切手切るしかないかしらね」
「裏の店が信用買いにしろ小切手にしろ、現金以外の取引をしてくれるとは思えない」
タバサの言葉にうんうん、と頷くモンモランシー。実際、闇屋を紹介して貰った時にも紹介者には現金払いが鉄則であると念押しされていた。
それではとにかく足りないかもしれないけど買いに行こう、とルイズが言いかけたとき、何かに気づいたような顔でショウが口を開いた。
「今まで思いつかなかったが、学院の先生方に事情を話して解毒剤を調合してもらうのは?」
「ちょっと、やめてよ!」
ショウの提案にモンモランシーが悲鳴をあげた。
「何故だ?」
「それは、その……」
うっ、とモンモランシーが詰まる。今更隠してもしょうがないことなのだがやはり抵抗があるらしい。
その逡巡をズバッと断ち切ったのはやはりタバサであった。
「惚れ薬は違法」
「……よね」
「自業自得だな」
ショウが冷たい視線をモンモランシーに向けた。
さらにタバサが追い討ちをかける。
支援
「学院に知れたらまず退学。その上で罰金か禁錮刑。場合によってはモンモランシ家にも何らかの処分が下る可能性がある」
「そんなぁ…」
モンモランシーの顔からさっと血の気が引くが、タバサは容赦しない。
「事情を隠して教師に相談するにしても調べられれば惚れ薬というのはすぐにバレる。相談しなくてもその内おかしいと思う人間は出てくるはず。
そうなるとギーシュと何らかの関わりがあって、ポーションを作る技能と動機を持っているとなればまず上がるのがモンモランシーだから、どのみち発覚と処分は免れない」
「あ、あああ……」
「私は別にそれでも構わない。というか事態が解決するのであればすぐにでもそうするべき」
「タバサ〜!」
もはや半泣きでモンモランシーがタバサにすがりつく。もう恥も外聞もない。
「わ、私が悪かったから、お願い、それだけはやめてぇぇぇぇ!」
「じゃあしょうがない。リリス、ギーシュに解毒(ラツモフィス)をかけてあげて」
「りょうか〜い」
何でもない事のようにタバサが言ったのを、リリス以外の全員が一瞬理解できなかった。
男二人はあんぐりと口を開けている。惚れ『薬』と名前がつくだけに、その効果を『毒』を取り除く呪文で解除できる、その可能性を完全に失念していたらしい。まぁ、治療呪文の専門家ではないからしょうがないことではあるが。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「何?」
「だったら今までの会話は一体……」
「単なる事実の列挙」
端的なタバサの答えに、ルイズとモンモランシーががっくりとこうべを垂れる。舌を出している所を見ると、リリスも最初から共犯だったのだろう。
一人キュルケだけは面白そうな顔で眉を寄せていた。タバサの耳にそっと囁く。
「ひょっとして、モンモランシーに意地悪したかった?」
「……秘密」
真実は闇の中である。
すみません、予想以上に長くなってしまい今日中には投下ができなくなってしまいました
明日中には何とか仕上げたいと思います
「そうね、解毒(ラツモフィス)と言わず快癒(マディ)のほうがいいかしら。解毒したはいいけど怪我で死んじゃった、じゃ困るし」
黒焦げのギーシュを見下ろしてリリスが苦笑する。
「別に私は構わないわよ、それでも。というか私の手でとどめを刺したい位だけど」
「ルイズぅ〜、私が悪かったから〜」
半泣きのモンモランシーが今度はルイズにすがりつく。
それを苦笑交じりに宥めたのはショウであった。
「それくらいにしておいてやれ、ルイズ」
「何よ、誰のために怒ってると思ってるの!」
「悪いのはこっちの黄巻き髪だろ。こいつも今回は被害者だ」
「原因作ったのはこいつじゃないのよ……」
口の中でごにょごにょと呟いて大人しくなるルイズだったが、今度はモンモランシーがショウの言葉尻に噛み付く。
「ちょっと、今のは聞き逃せないわ。人の自慢の髪を黄巻き髪ですって!?」
「と、何かまずかったか?」
「黙りなさいよ黄巻髪。誰のせいでこんな状況になったか分かってる?」
冷やか、かつ怒りを湛えた器用な表情でモンモランシーを睨むルイズ。正直腰が引けるほどに怖い。今にも「誰のせいやと思うてけつかるんや、ああ〜ん?」とか言い出しそうな凄みがある。
結局モンモランシーに出来たのはただ平謝りすることだけであった。
そんな感じで三人漫才をやっている間に、リリスの詠唱は終っていた。
快癒独特の柔らかな光がギーシュの全身を包み込み、全身のダメージを癒し、体内および皮膚表面の異物を除去し、精神的異常をも修復していく。最後にギーシュの意識を覚醒させて呪文は終了した。
服がボロボロで煤だらけなのは変わっていないが、ちぢれた髪も鼻血を出していた顔も元通りである。
この世界には存在しない強力無比な治療呪文の実演に、キュルケやタバサは感心したようにその効果の程を見守っていた。
一方そんな事を考える余裕もなく、すがりついたモンモランシーがギーシュの体をゆする。
「ねえ、わかる? ギーシュ、私よ、あなたのモンモランシーよ!」
ギーシュは優しい笑顔でモンモランシーに微笑む。そしてショウに向かって手を上げた。
「おおっ、ショウよ、我が永遠の恋人よ……ぶぎゃっ」
覚醒して3秒後、ギーシュの意識はショウの拳によって再び闇の中に叩き落とされた。
目の周りに見事な青痣を作って昏倒するギーシュとすがりついて泣きわめくモンモランシーは放って置いて、一同は額を寄せる。
支援
「どうしたの? 治ってないじゃないのよ?」
「快癒で直らないって事は、やっぱり薬の類には効果がないんじゃ?」
「うーん、手応えが変だったのよね。不純物は完全に除去したんだけど、変な魔力が体に残っているというか」
「リリスは快癒は毒や怪我は治せても呪いは除去できないと言っていたから、それかもしれない」
五人の視線がタバサに集中した。
「何か思い当たることでも?」
「惚れ薬の原料となる『水の精霊の涙』はラグドリアン湖に住む水の精霊の肉体の一部。そして水の精霊は水の力の凝り固まったもの、生きた水の魔力そのものだといわれている。
水の力は身体の組成を司るから、肉体と心を操るポーションには必須の材料……」
タバサははっとして口を閉じた。今、何か重要なひらめきを得た気がする。通常の毒消しで除去できない毒。体内に残留する魔力。
通常のポーションは魔力を媒介として薬効を得ているに過ぎない。しかし、魔力の塊のような物質を用い、その魔力そのものが人体に影響を与えるポーションと言うのもあるのではないか?
そうしたポーションが存在するとするなら、それはいずれ体外に排出される薬効成分ではなく魔力を媒介に効果を発揮するがゆえに長く体内に留まりつづける。
だとすればそうしたポーションを中和するには薬ではなく、むしろ……。
そこまで考えたところでタバサの思考は中断された。
「どうしたの、タバサ?」
僅かに心配そうな色を滲ませ、キュルケがタバサの顔を覗き込んでいる。
首を振ってタバサは思考を切り替えた。
「何でもない。それよりも話の続きだけど、水の精霊の涙は魔力の塊。薬や毒では無く、魔力という形でギーシュの体内に残留しているのだとしたら、快癒でも除去するのは難しいかもしれない」
「なるほど、それで『呪い』なのね……ボルタックのスケベ親父はどうやって解呪してたのかしら。サコンさんたちに聞いておけばよかったなぁ」
結局頭を突きあわせて出た結論は「お金をかき集めて水の精霊の涙を買いに行く」と言うものであった。確かにそれ以外手段が思いつかない。
「お金を渡すから今すぐ行って来なさい、モンモランシー」
「今すぐ?! 午後の授業はどうするのよ!」
「違法なポーションの作成」
「……行くわよ、行けばいいんでしょ!」
今度こそ本当に泣きながら、モンモランシーは馬を借りてトリスタニアへ出かけていった。勿論タバサは、金が足りないようなら装飾品か何かを売って足しにするよう脅しておくのも忘れない。
ギーシュは簀巻きにふんじばって猿轡をかました上で杖を取り上げ、仮睡(カティノ)と彫像(マニフォ)の呪文をかけてモンモランシーの部屋に閉じ込めておく。強制的に睡眠させられた上全身硬直を起したギーシュは、まさしく彫像の如く動かなかった。
それを見届け、ルイズたちは午後の授業に、ショウとヤンも修練に向かう。
これで夜にはこの問題も片付いているだろうと思えば、ルイズの顔にも気分爽快と言った表情が浮かぶのも当然であったろう。
タバサも一瞬そんな顔をしていたようにキュルケは思ったが、本当にそうかどうかは彼女も自信が無かった。
支援
「『水の精霊の涙』が買えなかった?」
「モンモランシー、納得のいく説明をしてくれるんでしょうね?」
夕食の後。戻ってきたモンモランシーに、にこにこにこと満面の笑みを浮かべて迫るのはルイズ。
人間、怒りが臨界に近づくと笑顔になるというのは本当のようだ。はっきり言わなくても非常に怖い。
「お、落ち着いてね。話せばわかるから」
「ええ、私は冷静よ。だから早くいいわけを聞かせてもらえるかしら?」
笑顔を崩さず杖を弄ぶルイズに恐怖しながら、モンモランシーは水の精霊の涙が品切れだったこと、最近ラグドリアン湖のトリステイン側は怪物が出現するために危険であり、再入荷もほぼ絶望的である事をどうにか伝える。
「なら、直接ラグドリアン湖に赴くしかないな」
「あなた私の話聞いてなかったの? 怪物が出て危険だって話なのよ?」
簡単に言い切るショウを呆れたようにモンモランシーが見るが、ヤンとリリスは大きく頷いた。
「怪物退治なら俺たちの得意分野だよ。な、リリスさん」
「ええ、そうね。ショウ君たちもいるし、大概の敵ならどうにかなるでしょ」
「……しょうがないわね。でも余り期待しないでよ? 状況がどうなってるかわからないんだから」
「何でモンモランシーに期待するのよ?」
キュルケのもっともな疑問に、目を怒らせてモンモランシーが反論する。
「失礼ね! モンモランシ家はトリステイン王家と水の精霊との仲立ちを何代も務めてきたのよ! だから交渉役は私がやるに決まっているでしょう!」
「はいはい、せいぜい頑張ってね」
「キーッ!?」
極めて投げやりなルイズの激励に、モンモランシーはハンカチを噛んで本気で悔しがった。
実家が貧乏で自分が稼いだならちょっとは実家へ送ってやれよとか思ってしまった支援
271 :
代理:2008/03/07(金) 01:42:09 ID:cwXH9cVA
次の日の早朝。
一行は馬を借りて早速出立する事にした。
ショウとヤンは甲冑に身を固め、この世界に来たとき以来の完全装備である。リリスは動きやすい厚手の服であったが、これが済んだらトリスタニアで皮鎧とは行かないまでも、丈夫な皮の胴着か何かを買ってもらおうと思っていた。
ちなみにギーシュは簀巻きを解き、再び仮睡(カティノ)と彫像(マニフォ)をかけた上で自室に放り込んである。朝食が終ったあたりで動けるようになるだろうが、追いかけてくることはできまい。
モンモランシーを含め、積極的に彼を連れて行こうと提案する者は誰もいなかった。いてもショウとルイズの猛反対にあっていただろう。
道中は何事も無く、一行は無事にラグドリアン湖に到着した。余りの呆気なさにショウやキュルケは却っていぶかしんだくらいである。
一方モンモランシーは水位の上昇に怪訝な表情をしていた。よく見れば沈んだ木々や寺院の塔が湖面から突き出しているのも見える。
「モンモランシーが交渉している間、ショウとヤンは念のためにそれぞれ別の方向の警戒を。私とタバサは二人の後ろで待機してるのがいいかしら」
「その辺だと思う。ルイズとキュルケは万一に備えてモンモランシーを見ていてほしい」
「わかったわ」
「頑張ってね、ダーリン♪」
リリスとタバサが指示を下し、ショウとタバサ、ヤンとリリスがそれぞれ一行の後ろを警戒する。
後ろのキュルケとルイズからプレッシャーを感じつつ、モンモランシーは祈るような気持ちで使い魔のロビンを湖に放した。
程なく水面がキラキラと光り始める。水の精霊が現れたのだ。
透明な粘体は虹色に輝き、モンモランシーの呼びかけに応じて彼女の裸身を模した姿を取る。
「光るスライムみたい」
リリスの呟きにヤンが嫌な顔をした。彼はバブリースライムに噛まれて死んだことがある。
幸いその呟きは水の精霊には届かなかったようで、彼女(?)がヘソを曲げることは無かった。
精霊は毒を撒き散らして湖を汚す魔獣がいることを語り、その退治と引き換えに体の一部を分けてもらうことでどうにか話はまとまった。
最後にモンモランシーは水位が上昇した理由を尋ねた。
「盗まれた秘宝を取り戻すために全世界を水で覆うのだ」と言う答えに、全員が呆れたのは言うまでもない。
「そこまでして取り戻したい秘宝ってなんなんだ?」
「蛙の置物。我と共に時を過ごした愛しき彫像だ」
一瞬、何故か全員が赤と青のケープを羽織って二本足で立ち、「YEAH! YEAH! SHAKE IT UP A BABY!」と激しくツイスト&シャウトするアマガエル(緑一色の、つるんとした種類)を思い浮かべた。
「今おまえたちが思い浮かべたヴィジョン。それで間違ってはおらぬぞ」
「「「「間違ってないの!?」」」」
リリスとキュルケとモンモランシーとルイズが、思わず同時に突っ込んだ。
しばらく沈黙が続いた後、ヤンが口を開いた。
「あー、じゃあ精霊さん。その秘宝だかなんだか、俺達が取り戻して来るから水を元に戻してくれないかな? こんなになっちゃって、皆困ってると思うんだ」
「あ、ちょっと!」
このお人よし丸出しな発言に顔色を変えたのはモンモランシーだった。
折角「水の精霊の涙」を譲り受ける交渉が上手くいったのにぶち壊しになってはたまらない。
水の精霊は返事を返さずに点滅するだけで、人間で言えば沈思黙考という体だが、実際にどうなのかは分かるはずもない。
「余計な口を挟まないでよ!」
「え、でも」
「キュルケからもなんとか言ってよ! ここで余計なこと言われたら全部おじゃんよ!」
ヤンを説得するのは望み薄と見たか、今度は相手をキュルケに変えるモンモランシー。実際に被害を受けているのが恋人だけあって、結構必死である。
「ん〜、ダーリンがそうしたいなら私には止める理由はないわねぇ」
が、その努力もキュルケの微笑みの前にあっさり瓦解する。
「ダーリンは優しいんだもの。困ってる人たちがいると思うと放って置けないんでしょ?」
「ま、まあね」
肩口にもたれかかったキュルケの上目遣いの艶やかな視線から、僅かに頬を染めてヤンが目をそらす。
「ふふ、そういうとこ、可愛いんだから」
「からかわないで下さいよ……」
完全に二人だけの世界を作っているヤンとキュルケを忌々しげに睨み付けるモンモランシーだが、自分がギーシュと二人で同様の空間を作り出していた事は気づいていない。
それはともかく振り向いた彼女は自分が孤立無援である事を知った。
リリスは笑みを浮かべて賛成の意思を示しているし、程度の差はあれ他の面子も反対はしていない。
ヤンとリリスは農村育ちであり、冒険者になる前は額に汗して働いていた。洪水や干ばつと言った自然現象に翻弄される辛さはよく理解できるのである。
273 :
代理:2008/03/07(金) 01:46:09 ID:cwXH9cVA
「ああ、その。それはともかくそういう事でどうにかお願いできないかな。いついつまでにとか約束は出来ないけどさ」
「精霊よ、俺からも頼む。秘宝とやらは俺達が取り戻してくるから水を戻してくれないか」
「ショウ君……」
「ちょっと、ショウ! あんた勝手に!」
感極まったようにヤンがショウを見つめ、ショウは苦笑して視線を逸らそうとするが、その前に今度はルイズが割り込んだ。
不満そうにショウを睨んでいる。
「あなたは私の使い魔でしょ! 勝手に動いていいと思っているの!」
「それは分かっている。だけど俺も放っておけないんだ。可能だったらと言う事でいい。頼む、ルイズ」
ショウが頭を下げる。しょうがないわねとか平民を助けるのも貴族の務めだとかごにょごにょ言いつつ、結局ルイズはショウの頼みをあっさり聞き入れた。
後ろでキュルケがにやにやしているのに気づかなかったのは、キュルケ以外の全員にとって幸いであったろう。
一方、面白くない顔をしているのはモンモランシーである。
「ふん、言ってればいいわ。いきなり現れた、しかもメイジでない人間の言うことを精霊が……」
「よかろう、水を元に戻してやろう」
「聞きいれたっ!?」
「秘宝を取り戻してくれるのであれば、あえてこの世を水で覆う必要もない」
点滅を繰り返し、精霊がはっきりと言葉を返す。
代々交渉役を務めてきた矜持だか何かにひびが入ったらしく、モンモランシーは額に手を当ててよろめいた。
「ガンダールヴは遠き過去に我との誓いを守った。ガンダールヴならば信じるに値する」
「ガンダールヴ?」
「何の事だルイズ?」
「知らないわ」
リリスもタバサに視線を向けるが、タバサも首を横に振る。
首をかしげたショウが何のことだと聞き返そうとした時、湖畔に野太い牛の鳴き声、いや咆哮が轟いた。
一方ショウ達が出発して数日経ったトリステイン魔法学院では、恋の炎に胸を焦がす一人の少年が愛しい人に会えぬ辛さを嘆いていた。
「なんと言う辛く苦しいことだろう。こうしてまぶたを閉じればいつでも君の面影、君の笑顔が蘇ると言うのに、本物の君を見られない、ただそれだけの事にこんなに悲しく胸張り裂けるような切なさを感じるとは」
舞台の上でもないのに胸元に手を当て、薔薇をかざして己の身の不幸を嘆く彼こそ、誰あろうこの数日で女の子どころか男友達にさえ敬遠されるようになって、今も周囲5メイルに人っ子一人近づかない空白地帯を形成しているギーシュその人である。
「ああ、翼が欲しい。僕のこの身を恋焦がれるあの人の元へ運んでくれる翼が欲しい」
誰も見ていない独演会を延々と続けていたギーシュは、ふと自分に向けられた視線に気づいた。
ケティ・ド・ラ・ロッタとその隣に立っている平民の黒髪のメイド。
名前は知らないが、服の上からでも女性のスリーサイズを見抜くという隠れた特技を持つギーシュはかねてからそのスタイルのよさをひそかにチェックしていた。綺麗な緑色の瞳もかなり気に入っている。
ここらへん、ショウに恋愛感情を抱いているとは言え、女性に対する興味がなくなったわけではない節操の無さがギーシュらしい。
それはともかく、ギーシュと視線があったケティはあたふたしながら隣のメイドと何事か囁きかわし、ギーシュの側に歩み寄った。後ろにはメイドが水の入ったグラスとデキャンタを盆に載せて付き従っている。
ケティがギーシュの前に座った。シエスタはケティの前に水をおき、一礼して下がる。
その際交わした目配せがまるで友人同士のそれのようにギーシュには思えた。
「彼女は? 随分親しいみたいだけれども」
「シエスタです。私のお友達ですわ」
あれ以来ケティはシエスタにすっかりなついていた。奔放に育てられた一人っ子の彼女にはシエスタのような姉的な存在が新鮮だったのだろう。
一方シエスタのほうも、わがままな妹に対するような感覚を彼女に覚えている。大家族の長女というのはどうしても年下に優しくなるものだ。
「そうだ、忘れていたよ。君にも謝らないといけないんだった、ケティ」
「謝るだなんてそんな……」
「いや、そうしなければ僕の気がすまない。あの時は済まなかった。許してくれ」
深々とギーシュが頭を下げる。
無言のままギーシュを見つめていたケティが、秒針がたっぷり一回りするほどの時間を置いて口を開いた。
「それは、もういいです。済んだ事ですから。でもギーシュ様。私は、ギーシュ様はモンモランシー先輩の事がお好きなのだと思っていました」
今度はギーシュが黙り込む番だった。
先ほどのケティよりも長い時間を掛けてその口が開く。
275 :
代理:2008/03/07(金) 01:50:05 ID:cwXH9cVA
「モンモランシーには本当にすまなく思っている。彼女に向けた愛が偽りのものだったとは思わない。けれども僕は本当の愛を見つけてしまったんだ。この気持ちを偽ることはできないんだ」
「ギーシュ様……」
「おかしいと思うだろう? 男が男に恋するなんて。グラモン家のとんだ恥さらしさ。でも、後悔はしてないんだ。本当に好きだから」
いっそ潔くと言っていい程にギーシュが言い切る。
目を輝かせて、その手をケティがとった。
「分かりました、ギーシュ様」
「ケティ……?」
熱く真剣な眼差しがギーシュを見つめる。
「たとえギーシュ様がモンモランシー先輩にも、ご家族にも理解を得られなくても、私はギーシュ様を応援いたします」
「ケティ……」
「シエスタ、あなたもそう思うわよね?」
「ええ。たとえ男同士でもそこまで人を愛する事ができると言うのは素敵な事だと思います」
「シエスタも……ありがとう、二人ともありがとう……っ!」
そんなギーシュは、美少年同士の禁断の愛を扱った小説が今トリステインの女性たちの間でひそかに大ヒットしている事を知らない。勿論、この二人がその愛読者である事も。
よって、彼は素直に二人の言葉に感動していた。まぁ、彼女らにしてもギーシュを応援しようと言う気持ちが全く無いわけではないのだが。
感極まったか、ギーシュは立ち上がって両手を広げ、あらん限りの大声で叫んだ。
「好きだぁ! ショウ! 愛しているんだぁ! ショウーッ! 好きなんてもんじゃない! ショウの事はもっと知りたいんだ! ショウの事はみんな、ぜんぶ知っておきたい! ショウを抱き締めたいんだ! 僕のこの心の内の叫びをきいてくれ! ショーウ!」
276 :
代理:2008/03/07(金) 01:52:13 ID:cwXH9cVA
ラグドリアンの湖畔に水牛のそれを遥かに猛々しくしたような咆哮が響いたのと同時、唐突にショウががくがくとその身を震わせた。甲冑の装甲板が触れ合い、耳障りな音を立てる。
「ショウ君!」
「ど、どうしたの、ショウ?!」
「な、何だか凄い寒気が……」
「ショウがそこまで言うってことは、それだけあいつが強敵って事かしら」
「いや、それとは違うと思う……何となくだが」
気を取り直して、ショウは咆哮の発生源を見つめた。
80メイルほど先、森から出てきたそれは形としては水牛に似ているが牛ではありえない。
並みの水牛に比べても二周り以上は大きいし、大体体が緑のかった金属色で目が赤、しかも全身が甲冑のような鋼鉄の装甲板に覆われていると来ては、そもそも真っ当な生物であるかどうかすら疑わしい。
精霊の体がゆらゆらと揺れ、右手が"牛"を指差した。
「丁度いい。あれが湖を汚す獣だ。約束どおり倒してみせよ」
「ゴーゴン」
短く、しかし鋭くタバサが呟いた。その顔には珍しく緊張が現れている。ヤンも緊張した面持ちで素早く剣を抜き、前に出る。リリスが酢を飲んだような顔になり、水の精霊に食って掛かった。
「ちょっと、何よあれゴーゴンじゃない! 毒を撒くんじゃなかったの?!」
「あ奴が垂らす涎が湖に入ると魚も藻も石になってしまうのだ。言わなかったか」
「聞いてないわよっ!」
「そうか。だが聞かれなかったのだからしょうがあるまい」
(こいついつか蒸発させてやる)
密かな決心をしつつ、憤りを抑えてリリスは振り向いた。ゴーゴンともなれば、いかにマスターレベルの冒険者であるリリスといえど、気を抜いていい相手ではない。
板金鎧の数倍の厚みを持つ重装甲やその突進力、低レベルの冒険者なら即死する威力の毒のブレスも恐ろしいが、最悪なのはそのブレスに石化の毒があるということだ。下手をすればブレスを一発食らっただけでパーティ全員が石になりかねないのである。
しかも相手は一体ではなかった。森の奥から、咆哮に誘われるように現れた異形の影がさらに四体。
そう、まさしく異形であった。体は獅子に似るが後ろ足は山羊、背中には竜の翼を持ち、しかもその三つの首を併せもつ生物など、確かに異形と呼ぶしかあるまい。
「キメラまで!」
キメラは見てのとおりの恐るべき合成魔獣である。三つの頭による連続攻撃は強烈であり、加えて竜の頭は火のブレスを吐く。連続してブレスを吐かれたら、ショウはまだしもリリスでは耐え切れまい。鍛えてないルイズやモンモランシー達では言わずもがなである。
「精霊! 水の壁を作って私たちを守れない!?」
「我の力は水の中に限られる。陸の上にいるおまえ達を守る事は出来ぬ」
使えないわね!と口には出さず毒づき、リリスは腹を決めて振り返った。
支援
ゲイナーww
支援
規制…
引継宜しく
281 :
代理代理:2008/03/07(金) 02:01:58 ID:1nF3xWn1
「いよぉーっし! それじゃやるわよみんなっ!」
応!と威勢のいい声が返ってくる。タバサも無言で頷いたが、一人モンモランシーはおろおろしている。それには構わずリリスは言葉を続けた。
「キメラは私が呪文で薙ぎ払うから、ショウ君は残りを! ヤンはキュルケと一緒に牛! タバサは風の呪文でゴーゴンの毒の息を防いで! ルイズは当てなくてもいいから爆発でキメラを撹乱! モンモンは私たちのほうを水で守って!」
「誰がモンモンよっ!?」
最強の冒険者グループに鍛えられ、彼らと別れてからも姉とともに迷宮で積んで来た、計七年に及ぶリリスの戦闘経験は伊達ではない。ことモンスターに対するそれであれば、タバサや同じマスターレベルのショウをも大きく凌ぐ。
それを理解できればこそショウやタバサ、ヤンは素直にリリスの指示に従ったし、それを見たルイズやモンモランシーも渋々ながら呪文を唱え始める。
リリス達が戦闘態勢を整えたのに気づいたか、ゴーゴンとキメラは猛然とこちらに向かって駆け始めた。ゴーゴンにはヤンと少し遅れてキュルケとタバサ。そしてキメラたちにはショウが、それぞれ走り向かう。
リリス、ルイズ、モンモランシーもショウに遅れないよう走りながら詠唱を始めた。
第一撃はやはり詠唱の早いルイズの爆発であった。先頭のキメラの鼻先で爆発が起こり、一瞬足が止まる。後続も動きを鈍らせ、僅かながらも移動速度を落とした。
ゴーゴンとキメラたちの距離が開き、一頭だけ突出したゴーゴンをヤン達が食い止める形になる。その脇をすり抜けてショウがキメラ達に向かおうとした所で、リリスの攻撃呪文が放たれた。
戦闘開始直後、詠唱を始めようとしてリリスは一瞬迷った。
彼女の世界では結界の施されていない場所で攻撃呪文を唱える事は禁中の禁であり、破った場合は死罪の上で蘇生できないように死体を無期限に封印という重罪である。
つまり彼女でさえ結界がない状態で攻撃呪文を使うのは初めてなのだ。俗に結界の外なら威力は十倍以上というが、それ以上に範囲がつかめない。
彼女の修得している僧侶系の最強攻撃呪文、死言(マリクト)など唱えようものなら、ショウたちを巻き込んでしまうこと必定である。
やむを得ず、彼女は修得している集団攻撃呪文の中では一番威力の低い魔術師系3レベル呪文、大炎(マハリト)の使用を選択した。
詠唱が完成し「力ある言葉」を解き放った瞬間、キメラ四体を全て巻き込んで、ショウの目の前すれすれに優に直径20メイルを越す範囲を、渦を巻いた紅蓮の炎が焼き焦がす。
スクウェアにも勝ろうかという火の呪文にキュルケが思わず感嘆の声を上げた。
これでは一体たりとも生き残ってはいまいと、リリスを除く全員がそう確信する。
だが呪文を唱えた瞬間、リリスは己の失策に気がついていた。
獅子と山羊に火竜を合成した魔獣であるキメラには火のブレスを吐く能力を持つとともに強い火への耐性がある。全くダメージを受けないわけではないが、その身に備わる竜の血がその効果を半減させてしまうのである。
炎の呪文で確実にキメラを倒そうと思えば、最強の攻撃呪文である爆炎(ティルトウェイト)くらいしかない。
通常はより高位の魔術師呪文「大凍(マダルト)」などを用いるので問題にはならないのだが、この場合いかに結界の外とはいえ、大炎程度の呪文では範囲はともかく威力は爆炎に及ばない。
結界の外ゆえ効果範囲という要素ばかりに気を取られていて、肝心の威力に対する考慮が足りなかったゆえのミスであった。
それでもかなりのダメージを与えたことには違いなく、幸いにも四体のキメラのうち一体は高熱によってショック死していたが、それでもまだ三体が生き残っている。
残る三体はいずれも大きく息を吸い込んでいる。ブレスの準備動作だ。
その時ショウの振り上げた刃から不可視の"気"が薄い刃となって迸った。胴体の半ばまでを両断され、さらに一体が地に伏せる。だがまだ間合いは10メイル余り。ショウと言えども一足飛びに越えられる距離ではない。
(間に合わない!)
282 :
代理代理:2008/03/07(金) 02:02:27 ID:1nF3xWn1
モンモランシーの呪文が完成し、水の壁がリリス達を覆ったのと、残り二体のキメラの口から炎の吐息が迸ったのがほぼ同時であった。
「きゃあっ!」
「熱い!?」
戦場が分断されていたがゆえにヤンたちへのとばっちりはなかったが、モンモランシーの作り出した水の壁を蒸発させ、炎はリリス達へも届く。
水の壁に相殺されて威力は大幅に減少していたが、それでも体力の少ないルイズやモンモランシーにとってはかなりのダメージであった。
もうもうたる水蒸気の中、魔力の消費と火傷のショックで、モンモランシーが力尽きたようにへたり込む。ルイズも倒れかかったが、ショウのことを思い出して耐えた。
ショウは自分たちと違って、遮る壁が無いままにあのブレスの直撃を受けたのだ。考えたくはないがひょっとして……そこまで考えたところで水の壁が蒸発してできた水蒸気が風に吹き散らされる。
ルイズが、そしてリリスも目を見張った。顔の前に刀をかざし、ショウが立っている。周囲の大地は炎に焦がされて黒く焦げ、薄く煙をたなびかせているのに、ショウの顔には火ぶくれ一つ無い。
ショウが走り出す。
キメラたちは慌てたように再び息を深く吸い込むが、ショウが二度目の剣撃を放つほうが早い。
五歩ほど離れた間合いから放たれた"気"の炸裂が残り二匹のうち一匹のキメラを肉片に変える。
だがその時、最後の一匹は既に息を吸い終わる直前だった。一撃は耐えてそのまま倒すしかないと覚悟を決めてショウが走り出した矢先、キメラの顔面で小規模な爆発が起こり一呼吸だけブレスが遅れる。だが、ショウにとってはその一呼吸で十分だった。
素早く間合いを詰めたショウの横薙ぎの一振りが空を裂き、三つの頭とついでに翼をまとめて胴から切り離す。後ろ足で立ち上がってもがくように前足をばたつかせた後、重い音を立てて最後のキメラは地面に崩れ落ちた。
後ろを振り向くと、ルイズが杖を振り下ろした姿勢のまま立っていた。ショウの視線に気づくと胸を張り、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。僅かに笑みと頷きを返し、ショウはヤンたちのほうに向かって走り出した。
283 :
代理代理:2008/03/07(金) 02:02:50 ID:1nF3xWn1
ヤンが咄嗟にキュルケを突き飛ばした。
ヤンとキュルケの間にタバサの張った風の壁が立った次の瞬間、ゴーゴンが毒の息を吐き出す。
咄嗟に息を止めるが、それでも毒が皮膚を焼き粘膜を刺激する。幸い石になることは無かったものの、ヤンは苦痛の喘ぎを漏らした。歯を食いしばり、間合いを詰めるべく雄叫びを上げて走り出す。
ゴーゴンは既にキュルケのファイアーボールによって痛撃を受けていた。だが分厚い表皮とキメラより一回り以上大きい頑丈な肉体が、強靭な生命力をこの魔獣に与えている。
キュルケの呪文に耐え切ったゴーゴンはそのまま石化のブレスを吐き、間一髪でタバサは自分と親友を風の壁で守ることに成功したのである。
中レベルとはいえ、戦士であるヤンだから耐えられる猛毒のブレスである。ヤンに突き飛ばされずキュルケがまともに受けていれば一撃で絶命していた可能性も高い。
先ほどの火炎のブレスと水の壁の関係とは異なり、毒ガスのブレスは風の壁さえあればほぼ確実に吹き散らす事が出来る。だが風の壁程度では体重数トンにもなろうかという鋼鉄の牛の突進を止める事は出来ない。
タバサはウィンディ・アイシクルの呪文を唱えながら、自分とキュルケの呪文が完成する前に最低一度は突撃ないしブレスをヤンに耐えてもらわなくてはならないだろうと冷静に判断していた。そして恐らくヤンはそれに耐えられないだろう、とも。
確かに普通ならタバサの見立ては正しかった。ただし、このときに限っては別だったのである。
雄叫びを上げ、剣を肩に担いで突撃しながら、ヤンはこの数日間受けてきた気の扱い方のレクチャーを思い出していた。
「戦士の剣術は気の爆発的放出、と言っても放出するためにはまず手元に溜めねばなりません。侍がやるような座禅や精神統一の訓練は気の細かい制御以外では余り必要ありませんから、溜めと放出を体で覚えましょう」
そう言ってショウは見本を見せてくれた。
地面に立てた人の丈ほどの木材を敵に見立て、木剣を右脇に構える。
ヤンが分かりやすいようにゆっくりと息を吸い、吐く。
長い吸気と連動させて手元の木剣に"気"を集中させ、鋭い呼気とともに素早く横に薙ぐ。
ばんっ、と乾いた音がして木剣を打ち付けた部位が爆発したかのように弾け飛んだ。
思わずヤンの口から感嘆の溜息が漏れる。
「剣に"気"を集め、一気に放出する。見てのとおりの技です。初歩の初歩ですが、高位のロードの剣技も理屈は変わりません。まずはこれを修得して、後は威力と精度を磨いていけば問題ないと思います」
284 :
代理代理:2008/03/07(金) 02:03:17 ID:1nF3xWn1
だがそれから一週間、ヤンは未だに木剣に気を集める事さえできないでいた。
体内の"気"を木剣に流し込むまではできるのだが、その"気"を剣にとどめておけず、剣から垂れ流すだけになってしまう。収束したそれをインパクトの瞬間に解放しなくては意味がない。
しかし今は違う。実戦の緊張感のせいか、体に力がみなぎっている上に、体内の"気"の流れが手に取るように分かる。今ならできるかもしれない。
今まさに石化のブレスを吐こうとして大きく息を吸うゴーゴンの目の前に飛び込みながら、不思議とヤンは恐怖を抱いていなかった。
何度経験してもやっぱり死ぬのは怖い。石になるのも怖い。だが、背中に守るべき人がいると思えば、それを乗り越える事ができる。金銭のためでなく、名誉のためでなく、己が生き延びるためですらなく。今、ヤンは生まれて初めて戦うことの意味を真に見出していた。
最後の踏み込み。自然に肺が吸気を行い、振り上げた剣に"気"を収束させる。気を帯び、カシナートの剣が淡く発光し始める。
目の前には限界まで大きく息を吸ったゴーゴン。石化の吐息が解き放たれる寸前、無心のままにヤンはカシナートの剣をその肩口に振り下ろした。
ゴーゴンの装甲にカシナートの刃が触れる。一瞬、剣と装甲の間に僅かな光が瞬いた。
次の瞬間、その鋼鉄の装甲板が紙くずのようにひしゃげ、ヤンが剣を叩き付けた肩口の一点を中心に、ゴーゴンの肉体はざくろを割るような音を立てて引きちぎられ、四散した。
冗談のように無傷だった牛の頭が、胴体を失ってくるくると宙を舞う。
ゴーゴンの体を流れていた血その他のしぶきがヤンの全身をまだらに染めた。
「凄いわダーリン! あなたって……本当に……最高!」
一瞬、放心していたらしい。振り向けば、両手を組んだキュルケがぴょんぴょんと飛び跳ね、一方タバサはこの娘にしては珍しく、呆けたような顔をしていた。
その後ろでは駆けつけて来ていたショウが、年齢に似合わぬ男臭い笑みを浮かべている。
ヤンは晴れやかな笑顔と、誇らしげに立てた親指でその笑顔に応えた。
さて、ここで思い出していただきたいのは先ほど血とともにヤンに降りかかった液体である。いくら魔獣とはいえ、一応生物には違いない。その体を斬って吹きだす、血以外の液体とは何か?
そう、それはヤンが技を成功させなければ直後に吐いていたであろう石化のブレスの原液だった。肺から吸い込むのではなく、皮膚へ付着したために即座に石にはならなかったが、原液をたっぷりと浴びたのである。マスタークラスでもこれに耐えるのは難しかったろう。
くるくると宙を回転していたゴーゴンの首がどさりと地面に墜ちて二、三回転がって止まる。
その時既に、親指を立てた、実に晴れやかないい笑顔のまま、ヤンは石になっていた。
285 :
代理代理:2008/03/07(金) 02:03:44 ID:1nF3xWn1
「ちょっと治療するのが勿体無いくらい良い顔で石になってるわねー。型を取って石膏像か何かに残せないかしら?」
「ヤンさんらしいといえばらしいけど。でも本当にいい顔してるなぁ」
「ルイズ? ショウ? 私今あまり冗談を聞きたい気分じゃないんだけど?」
「「スイマセンデシタ」」
二人が揃って殆ど条件反射のように平身低頭する。それくらい今のキュルケは怖かった。
「大丈夫。石化なら確実に快癒(マディ)で治療できる」
「モンモンとタバサの治療が終わったらヤンにかけてあげるから、ちょっと待っててね、キュルケ」
「だから、誰がモンモンよ!」
「そう」
モンモランシーの抗議を思い切りスルー。安堵の溜息をつき、キュルケがヤンの石像に向き直った。
冷たい石になってしまった頬を指でなぞる。自分のためにゴーゴンに挑んでくれたのは嬉しい。だがその結果がこれでは、嬉しさも中くらいと言ったところである。
そんなキュルケの複雑な気持ちも知らず、石になったヤンは(当たり前だが)相変らず晴れやかな笑みを浮かべていた。
「まったくもう、いつも心配掛けてくれるんだから、この使い魔は……でも、今回はお礼を言わないといけないかしらね」
つん、と石になってしまったヤンの頬をつつく。
そしてタバサたちの治療を急かそうと身を翻したところで、ルイズが慌てたようにその背中を指差した。
「ちょ、ちょっとキュルケ後ろ!?」
「え?」
振り向いたキュルケが見たのは、ヤンの石像が実にいい顔をしたままゆっくりと傾いていく所であった。
つついた指が絶妙のバランスを崩したのかはわからないが、ともかくヤンの石化した肉体は重々しい音を立てて地面に倒れこみ、運悪く下にあった尖った石とぶつかって首がもげた。
満面の笑みを浮かべたままの頭部が坂をころころと転がり落ち、ぼちゃん、と湖に落ちる。
普通は石化したとは言えそうそう壊れる事はないのだが、運が悪かったとしか言いようがない。
「きゃーっ! ヤンーっ!」
「あーあ、これで還魂(カドルト)が必要になったわね」
「どうせ甦るんだからどっちでも同じ」
「うーん、確率的にはそうじゃないはずなんだけど」
「ヤンだからねぇ」
「ヤンさんですからねぇ」
キュルケとモンモランシーを除く四人が揃って溜息をついた。
「とりあえず頭を拾ってきましょうよ」
「モンモン行って来て。濡れるから」
「私だって濡れるのは嫌よ! それとモンモンって言わないで!」
ややあってラグドリアンの岸辺に還魂の詠唱が響いた。もちろん、ヤンがまたしても蘇生したのは言うまでも無い。
"アンデッド"の二つ名がハルケギニアに鳴り響くのもそう遠い未来の話ではないだろう。
286 :
代理代理:2008/03/07(金) 02:04:08 ID:1nF3xWn1
「止めないでくれモンモランシー! ぼかぁ、ぼかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「お願いよギーシュ! 思いとどまって! 死んでは駄目ぇ!」
学院に戻り、解毒剤を調合してギーシュに飲ませた日の夜。塔の屋上から身を投げようとするギーシュと、それを止めようとするモンモランシーが必死にもみ合っていた。
まぁ、死にたくなる気持ちもわからないではない。
そしてショウたちは、呆れたり冷やかな眼差しを投げたり無関心だったり面白がったりしていた。
「おい、止めなくていいのか」
「どうしようかしらねー。さすがに死なれたら寝覚め悪いけど、でもギーシュだし」
「死ぬ死ぬと言って死んだ奴はいない。こうして見ているだけ時間の無駄」
そう言って、タバサはリリスを連れて本当に帰ってしまった。それを横目に見つつ、ルイズも帰るべきかどうか悩み始める。一方、キュルケは結構楽しそうであった。本質的にトラブルが好きなのである。
「まぁ、気持ちはわからないでもないけど、恋に破れたくらいで死んでたら命がいくつあっても足りないわよ、ギーシュ?」
「そういう話じゃないと思いますけどねぇ……」
「呑気に話をしてないで助けなさいよぉぉぉぉぉぉぉっ!」
モンモランシーの、ゴーゴン並みの怒りの咆哮が夜の学院に空しくこだまして消えた。
さあう"ぁんといろいろ 第三話『石化』 了
287 :
代理代理:2008/03/07(金) 02:12:09 ID:1nF3xWn1
やっチッたァァァァ――――――!
いや、惚れ薬が同性間で効かないとは一言も言ってませんよね? 実際12巻では女同士で効いてた訳ですし。
だから、原作でちょっとタイミングがずれていたら、飛び込んできたサイトにギーシュが惚れる展開だってありえたはずです(ぉ
ちょっと不思議なのは、モンモンは元々ギーシュに飲ませる予定だったにもかかわらず、ギーシュが惚れ薬を飲んでしまう展開が余り無いこと。
と、言う訳でかどうか分かりませんが、最初の予定ではギーシュがモンモランシーと間違えてショウに愛の告白をするだけだったはずがこんなんになってしまいました。こーゆーのが嫌いな人はごめんなさい。
刀と気の話はちょっとベニー松山版が入ってますね。とは言え、よく考えてみたら無印では「協力」にベニ松の名前があるので入れても余り問題ないか?
ショウの剣が井上真改なのは深い意味があるわけではなく、単に鬼平犯科帳が好きだからです(『粟田口国綱』も鬼平から)。
原作では最初一文字(いわゆる菊一文字)を使っていて、その後第二部で兼光(備前長船兼光)、第三部で
兼光(核撃斬で消失)
→景光(備前長船景光、虚空斬を撃った後ケイヒとの戦いで折れる)
→村正
とまるで出世魚の如く折っては取り替えていたわけですが、この話のショウは13歳時点での召喚であり、家督相続も決定してません。なのでそこまでいい刀を持ってたら変だろうな、ということで古刀ではなく新刀から選んで装備させました。
トレボーがリルガミンの血筋と言うのはまるっきり独自解釈です。
しかし外伝終了後ショウとルーシディティの血筋に伝わるはずの"魔除け"は正伝開始時で西方の諸侯である彼の先祖伝来の持ち物でした。
だとすれば石垣世界ではショウの子孫=世界を統一したリルガミン王家であり、トレボーこそがリルガミンの正統な血筋であるか、少なくともその傍流である可能性が高いと思われるのでこうしました。
貨幣経済の話は適当ですが、1000年前といえば日本では平安時代。そういう事があってもおかしくはないでしょう。
ゴーゴンのブレスについて。ファミコン版では何故か再現されてないのですが、奴のブレスには石化の効果があります。
単体で現れることもありファミコン版だとブレスを吐くだけの雑魚だったのですが、テーブルトークメイニヤでもある私としてはそれでは寂しいのでこうなりました。
なお、ゴーゴンの後ろにキメラが出てくるのは本家狂王の試練場を踏襲しております。
ついでに細かい事ではありますが、現代日本では例え人をワインの瓶で殴り倒しても裁判で有罪が確定しない限り前科はつきません。>モンモランシー
ハルケギニアではどうだか知りませんが。後、よい子は真似はしないように。
それでは支援と代理に感謝しつつ、また忘れた頃に。今度は容量次第で最初から避難所のほうに持ってきますです、はい。
以上です
作者と代理さん達に乙を。
投下するだけで重労働だわな、こりゃ。
大作乙
なんだかまたコミックが読みたくなってきたッス
狂王の試練場またやりたくなってきた
第二話「Out Of Control」
――ジュール・ド・モット伯に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは最初から好感を持っていなかった。
彼女にとって、モット伯は決して関わりの無い人物ではなかった。
少なくとも同じ王国の貴族である以上、舞踏会などではそれなりの面識もあるものだし、
王宮の勅使を任され、たびたび学園を訪れる彼の顔は幾度と無く目にした事がある。
そしてその際に挨拶を交わしたことも、世間話をした事もある。
だが、重ねて言おう。
決して彼に対して好感を抱いていたわけではない、と。
モット伯は、貴族の多くに洩れず、酷く傲慢な人物だった。
平民を見下し、貴族である自分は、平民を意のままに従えることができるのだと心の底から信じている男。
無論、それだけならルイズも拒みはしなかっただろう。彼女自身にも、その性質はあるのだから。
だが。
魔法の使えない自分を、そして病弱だった次姉を、見下したのは許せなかった。
ルイズは忘れない。
モット伯が彼女に視線を向ける時、その瞳に明らかに軽蔑の色があったことを。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは決して忘れない。
モット伯が姉カトレアに対して、何か困ったことがあれば等と枕詞をつけ、遠まわしな口調で妾に誘ったことを。
――だが、と三度言おう。
モット伯は“波濤”の二つ名を持つほどの優秀なメイジであり、
そして王宮の勅使としての地位、名誉、財産を持っていた。
如何に彼が平民の娘を買い入れ、己の玩具として弄ぶような輩だとしても、
そしてルイズや、姉であるカトレアを軽んじていたとしても、
決して敵わぬほどの、圧倒的な『力』の差が存在していたのだ。
だからシエスタという名のメイドが、彼の慰み者となる運命にあったとしても、
ルイズは怒り、憤慨し、その鬱憤を使い魔にぶつける事はできても、
それ以上のことは何一つできない。
「そ、そりゃ……別に、わ、私はあの――シエスタとかいうメイドのこと、なんとも思ってないわよ?
でも、でもでもでも! だからって放っておけるわけがないじゃない!」
ルイズがそう言って大声を張り上げたのは、彼女がモット伯邸のメイドとなった、その夜である。
今頃、きっとシエスタは、あの中年貴族の手によって想像するだに冒涜的な行為をされているに違いない。
いや、まだされていないだろうか。或いは、もうされてしまった後だろうか。
何にせよ、その事実を想像するだけで苛々し、ジッとしている事ができないでいた。
今は豪華なベッドに腰を埋め、ばしばしとクッションを叩くことによって、その鬱憤を晴らしている。
対照的に、0号と名乗った青年は静かなものだった。
与えられた藁の寝床ではなく、備え付けの椅子に腰を下ろし、深く考え込んでいるらしく、
今まで散々ルイズが騒ぎ立てても、まったくといって意に介さなかった。
まあ、それが彼女の激情を暴走させる要因の一つでもあったのだが、彼には関係の無い話だ。
ちりちりと背中が――否、背中の強殖細胞が疼く。
次元の壁を超えて、あの規格外品、生体強化装甲を呼び出すための細胞なのだが、
彼は直感的に、それが何らかの状況の変化を伝えるような機能も備えていることを把握していた。
そもそも、彼にとっても、あの生体強化装甲“ユニット”の事は何一つ知らない。
元より“降臨者”と呼ばれる存在により、ある新兵器の“素体”として作られたのが彼だった。
まともな自我、知性、名称は与えられず、ただ目的を果すためだけの道具でしかない。
そんな彼が、何故0号と呼ばれるようになったのか。
――“ユニット”を装着したからだ。
「………ねえ、0号。 大体あんた、どうしてあの鎧のことを黙っていたのよ」
不意に主人であるルイズに話しかけられ、0号は思考の海から呼び戻される。
答えは簡潔だ。忘れさせられていた。
「……誰に?」
以前の主人に。苦々しげに呟くと、不意にルイズの顔が曇った。
彼女は、先日起きたギーシュとの決闘騒動で、0号が何故――何に怒ったのかを理解している。
否、理解せざるを得なかった。
0号との間に不完全ながらも“パス”の繋がっていたルイズの脳裏に、彼の感情が流れ込んできていたのだ。
其処には怒りしかなかった。
踏みにじられることへの怒り。
虐げられることへの怒り。
それを当然と暴力を行使する者への怒り。
それは、純粋な闘争本能と呼べる代物だったかもしれない。
或いは“人間の尊厳”を守る為の怒りと表現することも出来たかもしれない。
彼女――ルイズには若干ながら、常日頃は全く役立っていないものの、自己を客観視する能力を持っていた。
それ故に、冷や水を浴びせられたような想いがしたのである。
例えば、自分が0号を召還した時、彼に対してどんな感情を持っていたのか。
――彼の過去は知らない。だが、0号にだって故郷や、家族がいたに違いない。
契約をする際にあたって、それらの事をこれっぽっちでも考えただろうか、自分は?
考えていない。
ましてや此方が勝手に呼び出したのに、平民が現れたことに怒り、理不尽な感情を0号にぶつけたではないか。
それではまるで、0号が怒りを抱いている『暴虐』そのものだ。
「……ねえ。あんたならモット伯から、シエスタを助けに――」
助けに行けないかしら。
其処まで言おうとして、ハッと彼女は口を閉じた。
言うまでも無い事だ。
彼は『力』を持っている。
メイジを――学生であるといえ――倒すだけの『力』を。
アレだけの『力』があれば、モット伯にだとて勝てるやもしれない。
だが。
今、彼は『力』を行使していない。
それはつまり――その意思が無いという事ではないか。
「…………忘れて。変なこと言っちゃったわ」
……だが、0号は何も答えない。
不審に思った彼女が視線を向けると、彼は驚いたように目を見開いていた。
助けに行く。
助けに、行く……だって?
その発想は無かった。
まるで瞬間、身体に電流が走ったような思いだった。
彼には『何かを考える』という能力が欠如している。
兵器に、そんな性能は不用だ。
怒りに駆られながらも、今の今まで黙っていたのも、何の事は無い。
この怒りをぶつける術を、対象を、0号は知らなかっただけだったのだ。
拳を握り締める。
感触を確かめるように開き、握り、開き、そして握り締める。
「………0号?」
不審に思ったルイズが彼の顔を覗き込む。
だが、そうしなくとも彼女には理解できた。
0号の感情が伝わってくる。
彼の内にあった怒りが、指向性を得、一気に荒れ狂うのが、手に取るように。
「そっか。 あんた――……」
何と無くだけど、わかった。
――使い魔にだって、自由意志はある。
主人に絶対服従という法則はあれど、個体の自我は保たれている。
だが、彼にはそれすらも与えられていない環境にいたのだ。
考え、悩み、そして頷く。
「……良いわ。行きましょう」
その言葉に答えるように、0号は席を蹴った。
貴族と、メイジと対決するのだ。
それも魔法の使えない貴族と、平民の――やや特殊な――使い魔とで。
およそ無事には済まない。
ルイズはそう思っていたし、そしてそれは間違いではなかった。
ただ――モット伯邸宅で起きていた事態が、彼女の想像を遥かに上回っていたという、それだけで。
「……な、なによ、これ……」
警備の目を掻い潜り、そしてたどり着いたモット伯の自室。
其処に存在していたのは、彼女が見たことも無いほど大きく、そして大量の水槽だった。
硝子によって作られた巨大な円筒が、幾つも並んでいる。
中には薄い緑色の、やはり得体の知れない液体に満たされ、そして――
「何なのよ、これはぁ……ッ!」
――人間が、浮かんでいた。
悲鳴にも似たルイズの絶叫。
だが、0号は動じない。
彼は知っていた。彼は見たことがあった。
否、そうではない。
手を伸ばし、硝子を撫でる。ごぼりと泡が生まれて消えた。
――彼は、この水槽の中にいたのだ。
「……まったく、学院の門弟もレベルが落ちたものだな」
笑いを押し殺した声が響き渡る。
ハッと振り返ったルイズの視界に、部屋の戸口に立っている貴族の姿が入った。
そして、その腕に抱かれた……一糸纏わぬ、黒髪の少女。
「シエスタ……ッ! あ、あんた、シエスタに何をする気……ッ!?」
「この水槽を見ても、まだわからないかね? ――実験だよ」
その言葉にルイズは息を呑んだ。
実験。――人間の身体を魔術の実験台にしようと言うのか。
如何に貴族が権力を持ち、平民がそれに虐げられるしかない存在であるとしても、
このように、その命を弄ぶような魔法は王と始祖ブリミルの名の下に硬く禁じられている。
これは別に、魔法が使えるとか使えないとかではない。
メイジだから、貴族だから、平民だからといったものでもない。
人として――人間として、言葉持つ者として。
生命を尊ぶという、当たり前の――当たり前のことだ。
それを、この男は――モット伯は、軽々しく、踏みにじった。
「さて実験の内容を……折角だから話してやろう。
始祖ブリミルが出会ったネブカドネザル王の呪縛。リュカオーン王の逸話。或いは狼男。
古来より世界には数多くの獣人の伝承が存在している。
私はね、書物が好きだ。 そういった怪物へと転じた人々の話が大好きだ。
そして……君も知っているだろう、アルビオンの出来事は?」
「あんた……まさかッ!」
知っている。そして、見えてきた。危険なほどに見えてきた。
アルビオンでは現在、王党派に対して、一部貴族が反旗を翻し、そして勝利しようとしているのだが――……。
奇妙な噂がある。
曰く、戦場を駆け抜ける化け物を見た。
曰く、如何なる獣の牙や武具、魔法とも異なる刃で切り裂かれた死体がある。
曰く、貴族派は奇妙な実験を行っている。
即ち、反乱貴族は何らかの奇妙な獣を作り出したのではないか。
勿論、戦場の噂である。信憑性などまるでない物だ。
魔法学院でも話の種として語られることはあっても、生徒達にしてみれば与太話の域をで出ない。
だが、それが事実だとしたら?
「その通り。その通りだとも。
そう、私は彼ら反乱貴族派から――その獣を生み出す術を教えて貰ったのだ。
これが中々難しく、滅多に成功しないので、こうして実験をしているわけだが……」
「――……随分と、高い買い物だったんでしょうね」
震えた声でルイズが問う。
聞いてはいけないと思いながらも、言い返さなければ。
言い返さないと、そこで終わってしまうような気さえした。
「ん? なかなかどうして、直観力は優れているようだね。
無論、代価は支払ったとも。実験成功、大量生産の暁には、このトリステインを、とね。
ああ、そうそう。そういえば――……メイジの実験台は、まだいなかったなぁ……」
――次の瞬間、モット伯の身体が膨れ上がった。
べきべきと肉が盛り上がり、骨格が変形し、体毛が生え、牙が尖り、爪が伸びる。
それは余りにも冒涜的な光景。
まるで幼い頃に見た悪夢が掘り起こされ、蘇った様。
ルイズは悲鳴を上げることもできない。
化け物。
化け物。
化け物だ。
思考が恐怖に塗りつぶされていく中、しかし――ある明確な意思が、彼女を貫いた。
……ゾアノイド。
ゾアノイド?
そう、ゾアノイドだ。
今まで聴いたことも無い単語。
だが――それは0号の意思だった。
怒り。敵意。
目前の化け物――ゾアノイド――に対しての、殺意。
次の瞬間、ルイズは見た。
彼の口元が醜く歪むのを。
「ガイバァアァァアァァァァァ………ッ!!」
空間が捻れ、弾け、『それ』が現れる。
――ガイバー。
ルイズが召還した使い魔が纏う、規格外の生きた鎧。
まるで0号を捕食するかのように、その内側へと取り込んだ生体強化装甲は、
鏡のような瞳を光らせ、口元から勢い良く蒸気を吐き出した。
「ッ! 貴様、まさか――貴族派の脱走兵かッ!?
いや、だが……与えられた資料には、このような種族は……ッ!」
一瞬困惑したモット伯――いや、ゾアノイドと呼称すべきか。
しかし、躊躇することなくその豪腕を0号めがけて振り下ろす。
扱く単純な理屈だが、ゾアノイドの場合、その筋力は肉体の大きさに比例する。
目前の奇妙な使い魔よりも、モット伯の身体は一回り……いや二回りは大きいのだ。
そのパワーの差は明白だった。
だが、拳が受け止められる。
「な……、なぁにぃっ!」
否、それだけではない。
モット伯の一撃を掌で受け止めた0号は、彼に拳を引き戻す暇を与えず、その手を握り締めたのだ。
鈍い音と共に、その獣染みた手が潰された。
聞くに堪えない絶叫が響き渡る。
この隙を逃す手は無い。戦闘本能、怒りに支配された0号にも、その程度の判断は出来たらしい。
間髪を入れずに、その胸部装甲へと両手をかける。
――不味い、とルイズにはわかった。
今まで――というよりギーシュ戦では見せたことの無い動作だ。
つまりギーシュとの戦いでは使う必要すら無く、
そして……明らかにワルキューレより強大な敵に、使おうとする“何か”。
ダメだ。それを使わせては、ダメだ!
「ま、待って……待ちなさい! 忘れたの!? シエスタが、まだ――……ッ!」
電流が走ったかのように、0号の動きが止まる。
そう、未だモット伯の腕には、シエスタの身体が抱えられていた。
あまりにも強力な一撃を放てば、間違いなく彼女の肉体も巻き込まれてしまうだろう。
ならば、どうすれば良いのか――……。
そんな事を考えている間に、0号の身体が吹き飛ばされた。
硝子の水槽に激突し、破片をぶちまけながら、得体の知れない液中へと没する。
「ガァアアァアァァアァァッ!! き、貴様ァ……ッ!!」
――そうだった、忘れていた。
ルイズは思い出す。0号は、言われなければ動けないのだ。
つまり、自分が指示を出すしかない。
魔法が使えない、出来損ないのメイジであっても、
今この場で彼に指示をだせるのは、自分しかいないのだ。
だとすれば、それが彼女の戦う理由。
この場から逃げ出さない理由。
あえて言うのならば――そう、あえて言うのならば。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは貴族なのだから。
自分の使い魔を見捨てて逃げるだなんて、情けない真似はしない。
「立ちなさい……いえ、立って、0号ッ!!」
命令ではない。彼は、命令では従ってくれない。
0号が憎むものは、支配――圧倒的な力によって、踏みにじること。踏みにじられること。
だが、哀しいかな、彼は……その怒りを、憎悪を、力を、自らの意思で振るうことができない。
なら。
自分が代弁者になる。自分が彼の手を取って、導いて、共に戦うのだ。
――その声に答え、水面が揺れ、弾けた。
飛び出すのは異形の装甲。ルイズの召還した、規格外の使い魔。
「ぜ、0号ッ! いい? 良く、聞いて……わたし達の、目的を――忘れちゃ、ダメ! 絶対にダメ!
まずはシエスタを助ける。 助けて……えっと、それから――そう、それから、モット伯を、やっつけるの!」
自分の声は彼に届いているだろうか、という不安は杞憂に終わった。
表情の読み取れない鎧姿ではあったけれど、使い魔が確かに頷くのが見えたからだ。
「なぁにを、グダグダと喋ってるかぁぁ……っ!!」
モット伯が吼え、そして0号とルイズ目掛けて走り出した。
焦ってはいけない。
焦ったらダメだ。慌てず、正確に、正確に――……。
0号に何ができる? あの時、ギーシュと戦った時のことを思い出せ。
シエスタを傷つけずに助け出せるような、何かは――あった!
「0号! ええっと、ほら、アレ! 腕の角で、シエスタを抱えてる腕をズパッとやっちゃいなさい!」
その意思は的確に0号に伝達された。
素早く右腕を振るうと、その肘の突起が鋭く伸び、羽音のような音が響きだす。
刃を油断無く構えながら、モット伯の突進を迎え撃ち――そして、一閃。
暖めたナイフでバターを切り裂くように、太い丸太のような腕が切り飛ばされた。
「ギ、ギャァアァァウァウアウァアアアァァァッ!?
腕、腕が、わた、わたわた私の、私の腕がぁあぁぁっ!」
そんな悲鳴にまるで頓着することなくルイズは駆け出し、ゾアノイドの腕から解放されたシエスタの身体を受け止める。
傍らに切断された腕が落ちてきたのには少々驚いたが……ともかく、シエスタに怪我は無かった。気絶しているだけらしい。
すぐにその身体を、学院のマントで包んでやる。
さあ、後は――あの化け物を吹き飛ばすだけだ!
「0号! やっちゃいなさいッ!」
0号が応じ、吼えた。
両手で胸の装甲を掴み、引き剥がす。
露になったのは奇妙な光沢を放つ、透明の球体だった。
状況が状況でなければ美しいとも思えたかもしれない。
だが――それはあまりにも剣呑な光を帯びていた。
違う。光が集まっていくのだ。
淡い輝きが、徐々に強さを増し、そして収束し――…………解放された。
恐らく、ルイズは生涯、その光景を忘れることがないだろう。
伝説に曰く、始祖ブリミルが操ることができた属性の一つに『虚無』があったという。
全てを滅ぼす、恐るべき破滅の光。
0号の胸部から放たれたのは、まさにソレだった。
物理的な圧力すら伴った強大な光は、瞬く間にモット伯の肉体を飲み込み、そして、消し飛ばしたのだ。
彼は悲鳴すら上げることもできず、そして塵一つ、肉片一つ残すことなく、この世界から消滅した。
なんという圧倒的な力だろう。
ルイズは自らの使い魔を頼もしく思うと共に、恐怖した。
彼を支配した、なんて思考は浮かばない。
だが――少なくとも彼が自らの意思で行動できるようになるまでは、
その手綱を握っているのは、ルイズなのだから。
『規格外品』或いは『殖装体0号』と呼ばれる彼の真実。
それを彼女が知るのは、もう少し先の事である。
支援
:あとがきっぽい何か:
鬼神の骸に滾る魂で第二話も一気に書き上げてみたり。
……良いよね、モット伯こんな目にあわせても。
あ、それと第一話のタイトルを付け忘れたので。
第一話「DARK HERO」
です。
大阪弁に翻訳した奴は正座しなさい正座。
乙です。
次からは投下予告して下さいね。
304 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 06:15:43 ID:lj+8YKm2
こんな時間ですがもう少ししたら投下しまーす。
305 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 06:37:31 ID:lj+8YKm2
ゼロの軌跡
第五話 お茶会への招待
「ミス・レン、朝食をお持ち致しました」
「ありがとうシエスタ。
でも私、昨日お願いしたはずだけど。私のことはただのレンでいいわ」
「で、ですが…レン様のことは賓客としておもてなしすよるうにと言われておりまして…」
「レンって呼んで」
シエスタが真っ青な顔をしたメイド長から呼ばれたのは昨日、ルイズの付き添いを終えて遅い夕食を取り終えた時だった。
何事だろうか、もしや気づかぬうちに貴族に粗相をしてしまったのではないかと内心不安を抱えながら用件を聞けば、それは今日学院にやってきた少女の世話を、というものだった。
安堵したのもつかの間、学院の塀を破壊しルイズを殺そうとしたのがその少女だと知ってシエスタは危うく昏倒するところだった。
無論のこと、あまり豊富とはいえない彼女の持ちうる語彙全てを駆使して控えめに辞退したのだが、ただの雇われメイドの身に選択権などあるはずもなく。否応無しにベッドメイキングと御用聞きのためにレンの部屋に向かったのがその日の夜。
一体どんな凶悪な亜人が出てくるかと思えば、シエスタを出迎えたのは彼女の予想とは似ても似つかない、あまりにも可愛らしく稚い少女だった。
如何なる無理難題を吹っかけてくるかと恐れていたがそのようなこともなく、どうにか責務を終えて退出するその間際、お願いがあるのだけど、と鈴の鳴るような声にシエスタは扉に向かうその足を止めた。
遂にきたか、と動揺を抑えて耳を済ませる。次いでレンの口から出てきた言葉にシエスタは耳を疑った。
敬称はいらないからレンと呼んでほしい。
想像していた要求とその言葉との落差に彼女の思考は一瞬凍りついた。
レンの年齢と容姿を考えればそう呼ぶのも至極最もであるとシエスタも思わないでもなかったが、興奮と自失のために数秒ごとに明滅を繰り返しながらシエスタに命を下したメイド長の語気を思い返すと、軽々しくレンの名を呼ぶのも勇気を要することだった。
即答も出来ず、かといって拒絶することは尚更出来ず、その晩はどうにか誤魔化して辞去した。一晩たてばそのような戯れもあるまいと高をくくり朝食を運びに来たシエスタだったが。
「ではその…せめてレンさんと」
「レン」
「レ…レン…ちゃん」
「うふふ、仕方ないからそれでいいわ。
シエスタ、早くスプーンを取って。レン、とってもおなかがすいちゃったの」
しかし、レンの発言、立ち居振る舞いを見るにつけてシエスタの中の違和感は次第に大きくなってゆくのだった。
曰く塀を一瞬にして消し去っただの、あのオールド・オスマンを外で裸に剥いただのという噂は既に使用人の間でも広まっていたし、実際にルイズの首に生々しく残る手形と窓の外に聳え立つゴーレムを見ては疑うべくもないのだが、
それでも、上品にスープを飲み干す目の前の少女に、冷酷で恐ろしい姿を重ね合わせることがシエスタには出来ないのだった。
306 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 06:38:35 ID:lj+8YKm2
「ごちそうさま」
「レンちゃんはこの後どこかに出かけますか?もしよければその間に部屋の掃除など済ませてしまうので」
「そうね、お昼ご飯まで出掛けることにするわ」
「でしたら昼食は外で召し上がりませんか?いいお天気ですし、紅茶とデザートも振舞われますよ」
「あら、それはとっても素敵ね。レン、楽しみにしてるから。
行きましょう、<パテル=マテル>。今日は北の方を探検するわよ!」
その朝、ルイズが重大な決意をその平坦な胸に秘めてレンの部屋に向かおうとした時、秘書のロングビルに呼び止められた。
疲れた顔のロングビルから今日の授業は休んでも構わない、絶対にレンを怒らせないように関係の修復を図るようにと学院長からの連絡を聞く。途中から愚痴と化していたそれはオスマンとロングビルの困憊を如実に表していた。
去り際に、塀の修繕費の工面とか王宮にどう報告したらとか呪詛めいた口ぶりでロングビルが何かを罵っていたが聞こえなかったことにする。
今のルイズがそれらに対して出来ることは何もなかったし、何より今すべきことはそんなことではない。
ともかくもレンの部屋に向かって再び足を踏み出したルイズが見たものは、白煙と炎を噴出して飛び立つ<パテル=マテル>の姿だった。
「逃げられた…」
無論レンがルイズから逃げ出した訳ではないのだが、この行き場のない決意をどうしてくれようか。
煩悶としながらルイズは自分の部屋に戻って朝食をとることにした。
307 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 06:40:43 ID:lj+8YKm2
レンが昼食のテーブルに着いたのはちょうどシエスタとの約束の時間。そのそばにいつもあるはずの<パテル=マテル>の姿はなかった。
探索に出てしばし、さしたる成果が上がらずにじれったくなってくるレンだったが、そろそろ戻らないと昼食に遅れてしまう。
時間を過ぎたらご飯抜きということはないだろうが、自分から約束した刻限を自分の都合で破ることには少々忸怩たるものがあった。
仕方ない、昼食を食べている間は<パテル=マテル>一人でがんばってもらおう。理由はよくわからないがこちらの世界に来てから出力が上がっている。自律行動させても然程の問題はあるまい。
そう思って学院に戻ると、庭には多くの生徒と使い魔の姿があった。
おそらく大半がルイズと同級生なのだろう。まだ使い魔が物珍しいのか、既に溺愛しているのか、そこかしこで戯れているのが散見される。
しかし、給仕をするシエスタと二人、レンに近寄ってくるものは一人と一匹たりともいなかった。
昨日の有様を目の当たりにしてはそれも至極当然のこと、遠巻きにして時折こちらを見ては「ゼロのルイズ」という言葉が風に乗って届くばかり。
おそらくはルイズの二つ名だろうが、「ゼロ」とは奇妙だ。シエスタはその謂れを知っているのだろうか。
「それは…私が申し上げていいのかは分からないのですが。
ミス・ヴァリエールは大貴族でいらっしゃいますが未だに魔法を成功させたことがなく、それで…「ゼロ」と」
成る程、一つ疑問が氷解した。レンはずっと不思議だった。ルイズが死の間際まで見せた使い魔への執着が。
普通、使い魔に自分の命を秤にかけてまでこだわるものなのだろうか。ずっと一緒にいて愛着が湧いたというのならば納得も出来ようが、召喚してたかが数分であの入れ込みよう。
こちらの世界ならではのものかと思っていたが、オスマンの話を聞いたところではそういうものでもないらしかった。
つまりルイズはその存在を、メイジとしての自分を<パテル=マテル>に託していたのだろう。だからあんなにも頑強で偏執的な抵抗を見せたのだとレンは思い至る。
貴族しか魔法を使えないこの世界で「ゼロ」であることがどのように彼女の身にのしかかるか。それが想像できないほどレンは愚かではなかった。
きっと世界に見放された気分になるのだろう。この私のように。
「愚かにも、哀れな話ね」
「は、はあ…そうかもしれないですね」
そう思うと、ルイズに抱いていた憎しみと警戒心もいくらか和らいだが、だからといって<パテル=マテル>を渡すことは出来ない。それとこれとは話が別だ。
おそらくまだルイズは諦めてはいないだろう。次に会ったらどう思い知らせてやるべきか。
考えているところに、生徒の一人がシエスタを呼ぶ声が聞こえた。
「あのレンちゃん…」
「レンのことは気にしないで行ってくるといいわ。戻ってくるときにデザートと紅茶をお願いね」
308 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 06:41:10 ID:lj+8YKm2
レンの姿を求めて庭にやってきたルイズが目にしたものは、シエスタを気障ったらしくなじっているギーシュの姿だった。
一体何があったのかと近くにいたタバサとキュルケに声をかければ、二股がばれたギーシュが腹いせにシエスタをいびっているというあまりにもお粗末な事態。
上手くやらないからあんな道化を晒すのよ、などとのたまうキュルケはとりあえず放置する。貞操観念が希薄な彼女を責めるのは後にするとして、ともかくもシエスタを放っては置けなかった。
昨日ずっと介抱してくれた彼女を見捨てるわけにはいかなかったし、それを置いても貴族としての責任感と覚悟がそれを許さなかった。
「ギーシュ、二股がばれた責任をメイドに転嫁するなんて。あなた、それでも貴族なの?」
「おや、ゼロのルイズじゃないか。召喚した使い魔とは仲良くやってるようでなにより。
なにせ君を殺しかけた上、離れて食事中とはね」
あの少女とルイズはまだ和解してないと踏んで、ギーシュはその嘲笑の矛先をルイズに向けた。
「僕も君の使い魔くらい立派なものを召喚したかったね。ほら、まだ首に手形が残ってるじゃないか」
その発言に周囲の生徒からも笑い声が上がった。聞くに堪えないそれは折り重なって不愉快な協和音をなした。
思わずルイズはその白い肌を羞恥と怒りで赤く染めたが、それでもその傷は隠れようもなくその存在を主張していた。
私は既に使い魔を手放す決心をしたのだ。
ルイズは再び自分が独りになったことを知った。
309 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 06:45:58 ID:lj+8YKm2
第5話投下終了です。
決闘は次の次になるかと。あまりに構成力のない遅筆で本当に申し訳ない。
今日引越しなのに全く準備せずに今6話書いてる俺。
みなさん乙でした。
311 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 07:50:05 ID:lj+8YKm2
第6話投下します。
最初に謝ります。啖呵切るの好きです。あと小野不由美大好きです。
お、支援
313 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 07:58:10 ID:lj+8YKm2
ゼロの軌跡
第六話 貴族の道 ルイズの道 レンの道
レンはその一部始終を離れて見ていた。耐えようもなく不快だった。あの醜態は吐き気すら催しそうだった。
貴族とはなんなのか。その権に酔い力に奢り弱者をいたぶる存在なのか。
それは絶対に違う、レンはそう思わざるを得なかった。
こちらの世界に来る以前、リベールにおいてレンは貴族に面識があった。
面識だけではない、共に旅をして、言葉を交わした。
クローゼとオリビエ。
正確に言うならば貴族の中の貴族。二人は王家に連なる人間。
クローゼは王太女、オリビエは庶子という違いこそあれ、二人が国と民を思う気持ちに微塵も違いはなかった。
クローゼは常に悩んでいた。
玉座とは座るものでなく背負うものだと理解していたし、だからこそ彼女はそれの重さと自分の力の差に苦しんでいたのだ。
それでも彼女は前を向いた。己を至らなさを認識し、そしてそれを埋めようと努力している。
彼女だけが成しえる事、守りうるものの存在から目を背けることをやめて、逃れようのない女王という十字架を背負うことにしたのだ。
<輝く環>事件の際に、レンは執行者として王宮で彼女を拉致した。
今思えば、その時の毅然たる振る舞いに、その瞳の輝きに、王としてのあるべき姿、その一片を垣間見た気がする。
国のために民があるのではなく、民のために国がある。
それを認識しているものが、ルイズを笑い蔑む輩の中に一人でもいるのか。
オリビエはずっと苦しんでいた。
大陸一の大国、エレボニア帝国。数多い皇帝の庶子の一人に過ぎないオリビエにさしたる権力はなく、帝国の実権は一人の宰相オズボーンの手に握られていた。
それでもオリビエは決意した。一人の友人と共に敵に立ち向かうことを。
国の重鎮でありながら、犯罪結社である<身喰らう蛇>とさえ手を結んだその宰相に。
軍部の七割を掌握しているオズボーンに勝てる算段などないに等しい。それでも、彼が望む世界の行く末、それは火を見るよりも明らかで。
だからオリビエは己の身命を賭して勝負に出たのだ。
オリビエの飄々とした振る舞いの中に一体どれほどの苦悩が隠されているのか。
それを見て取れるものはあの群衆の中にはいるまい。ただ、ルイズ一人を除いて。
レンは立ち上がった。
314 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 07:59:22 ID:lj+8YKm2
「やめなさい」
辺りは静まり返った。その一声に含まれた気迫、それを無視しうるものはそこにはいなかった。
レンが一歩進むごとに波が退いて海が割れた。
「あなたは貴族なのでしょう。貴族ならそれに相応しい振る舞いがあるのではないかしら」
ギーシュは激しくたじろいだ。まさかレンがルイズに肩入れするとは思ってもみなかったのだ。
ここでレンに立ち向かえばどうなるか。目の前に立つルイズ、その彼女の傷跡が雄弁にその末路を語っていた。
興奮していた頭は瞬時に氷点下まで冷え、冷静な思考がそれに取って代わる。
確かに今の自分の振る舞いはどうみても立派なものとはいえない。
誤ればそれを正すのも貴族としての在り方だ。
そう結論付けてギーシュはおとなしくルイズに頭を下げた。
「すまない、ミス・ヴァリエール。僕としたことが、君にひどい仕打ちをしてしまった。
この通りだ、許してほしい」
事態の急変に戸惑うルイズ。ええ、とか、うん、と曖昧に言葉を返す。
それをおいて再び盛り上がったのは周囲の野次馬達だった。
まったくその通り、二股のギーシュ、いい気味だ。
一度失った標的をまた見つけて、聞くに堪えない雑音がレンの耳を覆った。
なんと愚かな連中か。
まるで、腐臭さえ漂ってくるようではないか。
生者の肉を啄ばんで彼らは生きているのではないか。
嘲笑と罵倒を歌い、享楽に浸る亡者の群れだ。
レンは叫ぶ。
「あなた達も同罪よ!ここにいる、ルイズ以外の全ての貴族!」
クローゼの、あの澄み切った水のような美しさが懐かしかった。
オリビエの、あの捉えどころのない風のような芯の強さが思い出された。
「この世界では盗賊のことを貴族というのね。知らなかったわ。
そうやって、自分の口から出た嘲笑がその身に還ってくるその時まで、愚かに踊り続けるといいわ」
自分達よりもずっと年下の少女から浴びせられる、叱責というにはあまりにも苛烈なそれ。
満場、身じろぎ一つなかった。
「自分の責務も知らず、他人の痛みをせせら笑う。
憂うべき国も、思うべき民も見捨てて、己の愉悦に溺れて肥え太る寄生虫!」
支援
316 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 07:59:49 ID:lj+8YKm2
狂わんばかりの怒声が上がった。
それを見やれば一部の生徒が青筋を立てて怒りに震えていた。
既に大半の生徒はレンの剣幕を恐れて事態を遠巻きに見守っている。
この自分を見ても怖気づかないところからすると、上級生か下級生か。噂が広まってないはずもないだろうに、それでも立ち向かってくるのは<パテル=マテル>の姿がないからだろう。
それでも周りの様子を見ればその噂が事実が否やかは見て取れぬはずがない。
つまりは己も他人も見ることの出来ない盲いた連中。
ならば多少痛い目に会わせてやるのも一興か。
「生意気な平民の小娘!今の言葉を撤回しろ!這いつくばって貴族の慈悲を請え!」
レンの冷静な思考にぶつけられる、力を後ろ盾にした激情に身を任せた思慮なき怒り。
「お断りよ。そんなに謝罪が欲しいなら力でもぎ取ったらどうかしら?
あなた達がいつもそうしているようにね」
「いいだろう、決闘だ!もう泣いても謝っても許さん!」
ヴェストリの広場で待つ。そう言い残して彼らはその場を去った。
あまりの事態の急変にしばし呆然としていたルイズだったが、去っていった貴族を、軽蔑を隠そうともせずに睨みつけるレンを見て、自分が今何をすべきかを思い出した。
まず謝らなければいけない。レンから大切な父と母を奪いかけた自分の行いを。
そして感謝しなければならない。自らが信じる貴族の道を歩もうとしたルイズを助けてくれたことを。
それが出来なければ、私はもはや貴族ではいられない。
317 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 08:01:23 ID:lj+8YKm2
「レン」
「何かしら、ルイズ。レンにはあなたと話している時間なんてないの」
「ごめんなさい。
そして、ありがとう」
全く予期していなかったその言葉にレンは思わずルイズを見つめた。
やっと私を見てくれた。
私とレンは、ここが始まりなのだ。
「私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、ここにレンの父と母<パテル=マテル>を私の使い魔にしないことを誓うわ」
レンは目を見開いて石の様に固まっていた。
ああ、こんな顔もするのだ。
ルイズはそこに、年相応の少女の姿を見た気がした。
「そして、私を助けてくれてありがとう。
レンがいなかったら私は挫けていたかも知れない。貴族でなくなっていたかも知れない」
「…」
「レンは私を助ける気なんてなかったかも知れない。それでも構わない。
レンは私に貴族としてあるべき道を指し示してくれた」
ルイズはレンに右手を差し出す。
318 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 08:01:58 ID:lj+8YKm2
「私はメイジでなくても構わない。でも貴族である自分は絶対に捨てられない。
いえ、捨ててはいけないと思う」
ルイズは一人言葉を紡ぐ。
この時からルイズはメイジではなくなった。
だが、この世界の誰よりも貴族らしくあった。
それを、だれが非難し得ようか。
「この言葉を、この手を受け取ってもらえなくても構わない。
それでも、言わせて欲しいの。
ごめんなさい。
そして、ありがとう」
レンは思い切り微笑んでルイズの手をとった。紛うことなき、天使の微笑がそこにあった。
支援
感動的なシーンに支援
321 :
ゼロの軌跡:2008/03/07(金) 08:07:39 ID:lj+8YKm2
第6話 投下終了です。支援ありがとうございます。
やっと欝展開にさよならしました。
青臭いのも空の軌跡ならではですのでご寛恕のほどを。
引越しやら友人の来訪やら旅行やらで、次の投稿は15日過ぎになるかと思います。
いいところで切って申し訳ない気持ちでいっぱいです。
やっと一緒に歩み始めたレンとルイズをこれからもよろしくお願いします。
乙、再開待ってる
323 :
壷マニア:2008/03/07(金) 08:12:44 ID:rcLvQ9ze
これは良い話だァーッ!
投下乙
しばらく空くのか、期待しながら待ってることにするぜ
あ、これ言うの忘れてた。面白かったぜ
初SSなんだけど投下していいかな?
>>規格外品0号
おおお、これは意外だった
そういえば最初のガイバーはただの実験体だったんだ。知性は愚か自我すら与えられてなかったんだー
これは面白い発想でした。
>>ゼロの軌跡
そしてこちらもナカナカの展開。
使い魔にしない、という選択もありか
お二人ともGJでした
貴族の子女が通う名門トリステイン魔法学院にその恐るべき“妖怪”が住み着いたのは、春の使い魔召喚の儀式以来のことだった。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール侯爵令嬢によって異世界から召喚された彼は、見た目は人間の青年であり、付け加えるならそれなりの美貌の持ち主だった。
しかしてその性は極めて奇天烈にして、言動は予測不可能。人心掌握の術に長けるのか、妙なカリスマがあるのか、はた迷惑な悪戯や猥褻な言動などを執拗に繰り返しながらも、たちまち学院の人気者となっていった。
「あ、あの。これ私が厨房を借りて作ったんですっ! 食べてくれますか?」
今日も今日とて、彼の気を引こうと手作りのお菓子を差し出すのは、学院で働くメイドの娘、シエスタだ。シエスタは初対面から彼を慕い、何かと世話を焼いてくれる。
昨夜も女子生徒から告白まがいの言葉と共に食べ物を貰い、ご主人様の嫉妬(?)を買って飯抜きの罰を言い渡された彼は、謝礼もそこそこに眼の前のカロリーに食らいついた。
「モグモグ……」
「あの、おいしかったですか?」
味わう余裕もないとばかりに一心不乱に食事を続ける彼に問い掛けるシエスタ。期待と不安の入り混じった視線は恋する乙女のそれだった。
だが、
「もっとくれ」
「へ」
メイドの笑顔が硬直する。瞬く間に小さなバスケットを空にした彼の言葉は、全く予想だにしないものだった。
「女の子が頬を染めながら渡した手作り料理に対して、あの反応……っ!?」
「何というか、そう! 男としてのスケールが違う!」
通りすがりの男子生徒の声も彼には聞こえていない。
――モットクレエエエエエエエエエエエエエエ!!!
エコーの掛かった奇声を響かせながら、何故か使い魔は突然学舎の壁面に飛びつき、達人めいた登攀術を披露する。見る見るうちに二階に到達する彼の雄姿を、シエスタは呆然と見上げるしかない。
もう、わけがわからない。だが、最近は彼がどのような行為に及ぼうとも、「まあ、ルイズの使い魔だし」「ルイズの使い魔なら仕方ないな」と学院の日常風景として皆に受け入れられつつもあるのだった。
「ルイズの使い魔がまたなんか騒いでいる!?」
「そんでもって壁をよじ登っとる!?」
「妖怪モットクレだ!」
――モットクレエエエエエエエエエエエエエエ!!!
生徒達が騒ぐ中、ダメ押しのように妖怪モットクレの咆哮が木霊する。
召喚! 妖怪モットクレ!
今更ではあるが、妖怪モットクレは、特に化生の物というわけではない。
彼は名を新沢靖臣(にいざわ やすおみ)という至って普通の人間であり、妖怪モットクレと化すのは、テンションに任せた奇行の一環に過ぎない。
この世界には、魔法を行使する貴族・メイジと、それに統治される平民に分かれた階級制度がある。新沢靖臣は異世界人であっても、能力的にその平民と何ら変わることはなかった。
つまりは何の異能も持たない、普通の人間なのだ。
彼のご主人様となったルイズ侯爵令嬢の落胆たるや相当のものだった。魔法成功率に由来する“ゼロ”という二つ名が表す通り、学院最低の落ちこぼれである彼女は、使い魔召喚にメイジ生命を賭けていたといっても過言ではない。
「メイジの実力を見るには使い魔を見ろ」との格言もある。ドラゴンやグリフォンなど強力な幻獣でなくても良かった。それなりの使い魔をでも、召喚出来ればそれを期に己の才能が花開くのではないかと、そう思っていたのに……
「靖臣っ! 部屋にいないと思ったら、なんでご主人様の椅子で朝ご飯なんて食べてるの!?」
「だって、テーブルに座ったら行儀が悪いだろう?」
「そういう問題じゃないわよっ!!」
「ご主人様のご飯を食べるなんて、やっぱり馬鹿犬にはしっかりした躾が必要ね……!!」
「……毒入り危険。食べたら死ぬで」
「食うなっ!」
「なあルイズ。やっぱり、使い魔なんて俺には無理だよ」
「だから、あんたに出来そうなことやらせてあげる。掃除、洗濯、その他雑用」
「言わせておけば、何だとこんちくしょう!」
「取り敢えずこの下着、明日になったら洗濯しといてね」
「頑張ろう」
「あのね、あんたは私の使い魔で、私はあんたのご主人様なの! ここまでは分かる?」
「……使い魔?」
「なんで首傾げるのよ!? と思ったら頭じゃなくて体の方を斜めにしてる!?」
「ままならんなぁ」
「あんたがよっ!」
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
「ゼロのルイズ! 召喚出来ないからって、その辺歩いていた平民を連れてくるなよ!」
「違うわ! ちゃんと召喚したもの!」
「あの日。ボクはいつものように牛乳配達をしていました。そうしたらルイズ様が、ボクを無理矢理拉致してっ! その後ボクは檻の中に監禁され、くっ……これ以上は思い出したくありません」
「可哀相に……」
「使い魔くん、えっと、私の胸で泣いてもいいよ?」
「ルイズ、鬼畜……」
「嘘吐け!!!」
「あなたの落としたのは、銀の香水ですか? それとも金の香水ですか?」
「神秘的なエコーかけんな」
「靖臣……私は確かに昨夜、私の部屋にハンモック吊るさないで、とは言ったわ」
「うむ。ちゃんと聞いてたぞ」
「だからって学院長室に吊るすんじゃないわよっ!」
「なあルイズ。ここの文字で“発毛魔法試験中”と“ここからワカメ畑”ってどう書くんだ?」
「……何するつもり?」
「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね」
「キュルケ、む、むちゃくちゃ胸当たってる、むちゃくちゃ胸当たってもが、うぐっ、息が……ぐるじ……ガクッ。ぶらーん」
「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出して……って靖臣ー!?」
「おっ、タバサ!」
「何」
「使い魔品評会で、物まねをやろうと思うんだ。ちょっと見てくれよ」
「興味ない」
「まあまあそう言うなって。行くぞ! 馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬ううう! ……どうだ?」
「中途半端に似ていて気持ち悪い」
「靖臣、昨日タバサと何話してたの? べ、別にあんたが誰と仲良くしようがどうでもいいんだけど、そう、あれよ、ちょっと気になっただけ」
「俺……タバサと付き合ってるんだ」
「嘘っ!?」
「嘘です」
「馬鹿犬うううううううううううう!! あんたでしょっ!! 私の杖をひのきの棒とすり替えたのはっ!!」
「実はそれ……樫の木なんだ……」
「どっちでもいいわよっ!」
……現実はこんなものである。召喚以来、ルイズは使い魔靖臣の奇行に次ぐ奇行に振り回される日々を送っていた。
そもそもは第一印象から最悪だった。寝ぼけ眼の見知らぬ平民に「んんー? すずねえ随分ツルペタになったなあ」と発展途上の胸をまさぐられたあの屈辱を、ルイズは生涯忘れることはないだろう。
靖臣をだだ甘やかしていた年上の幼馴染と間違えたのだと説明されようが、傷ついたプライドと乙女心が癒されるわけでもない。
しかし何だかんだで、ルイズはこの青年を気に入っていた。
「ごめんなさいご主人様ぁ……! ボク、寂しくて、ご主人様に構って欲しくてっ! それでついあんなことを言っちゃったんだ!」と母性本能をくすぐる仕草付きで許しを請われた日には、演技と分かっていてもついつい甘やかしてしまう。
もっとも、そればかりというわけではない。
靖臣に対するルイズの認識が決定的に変わったのは、「お姉ちゃんパンチっっっっっっっっっ」なる先住魔法を使う謎の美少女を召喚して平民の身でありながらメイジを撃破してみせた時からでもない。
といって、学院食堂のコック長マルトーと結託して売り出した化学兵器まがいのハシバミ草青汁で城下町を大混乱に叩き落とした時からでもない。
あれは、ルイズが授業中に魔法を“ちょっと”失敗させてしまい、大爆発を起こしてしまった日――たった一人で、黙々と命じられた掃除と後片付けをしていたルイズの前に現れて、靖臣は言ったのだ。
「掃除道具箱妖怪、チリ・トリオです」
「変な名前」
「うっさい!」
「……何か、言いたいことがあるんじゃない?」
「チリという国で生まれた三人組妖怪だ」
「一人しかいないじゃない。ってそういうことじゃないわ」
思えば、新沢靖臣はいつだって道化師のようにおどけていた。だが時折、彼がひどく寂しそうな表情をすることに、ルイズは気づいていた。
使い魔として召喚を受ける前にも、彼には彼の生活があったのだ。元いた世界の仲間達との愉快で素敵なエピソードを聞く度に、ルイズの胸はちくちくと痛んだ。
「無理やり召喚して! 偉そうにこき使って! こんな失態を見せて!」
「言いたいこと、か」
いつになく真剣味を帯びた靖臣の表情に、ルイズはびくりと身構える。罵倒も嘲弄も覚悟の上だった。
彼から世界を根こそぎ奪い去り、あまつさえ使い魔の身分にまで貶めたのは、他でもないルイズ自身。メイジとして振る舞いながら魔法の一つも使えない、傲慢で無能なルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
だが、
――その性は極めて奇天烈にして、言動は予測不可能
「お前はメイジとして最高の素質を持っている!」
「へ」
新沢靖臣は言い放つ。いつものように自信に溢れた不遜な笑みで、ルイズの期待も不安も吹き飛ばす。
「俺がお前の才能を伸ばしてやろう!」
畳み掛けるように、靖臣がルイズに手を差し伸ばす。
根拠がなくても気にしない。見通しなんてつまらない。手段なんて後から考えれば良い。彼は天下無敵の風雲児。こんな使い魔となら、どんなことだって出来るに決まっていた。
靖臣と一緒に、覚えたての魔法で、退屈している仲間をスリルに巻き込んでやったらどんなに痛快だろう。
「よし! 真田流水泳術その一っ!」
「水泳なんかしないわよっ!」
殊更に大声を張り上げて、ルイズは靖臣の手を握り返した。
以上で終わりです。お目汚し失礼しました。
「秋桜の空に」より「新沢靖臣」召喚。
いかん、素で元ネタ読みたくなってきた
お疲れー
ありがとうございます。
いつか誰かがやってくれるであろうと期待してたネタ吹いた
ていうか姉は世界の壁すら飛び越えるのか、恐るべしだだ甘やかしお姉ちゃん…!
脳内で緑川ボイスが再生されるから困るw
このキャラ緑川なのかwww
確かに元ネタを確認せざるをえないw
おはよう、ブリッグス君。とある人物が「DADDYFACE」主人公草刈鷲士をハルケギニアに召喚するSSを投下しようとしている、という情報が入った。
さて、ブリッグス君。君に与えられた使命はその作品が投下されるにあたって予約が入っていないかを確認することだ。例によって方法とメンバーの人選はすべて君に任せる。
無事が確認された場合すみやかに、一二時十分頃より投下がなされるだろう。
ただ、もちろん君もしくはメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。いつもの通りレコードの封を切って一分後にこの録音部分は変質する
では、ブリッグス君。成功と生還を祈る。
本当は人類としては超強いのに周りが異次元過ぎてあんまり強く見えない人ですね、わかります
というわけで支援
クズ流ではなくて九頭竜の人なんですね。支援します。
では、ご武運を
みすぼら支援
九頭・右龍徹陣支援!
原作の新作は出るのかと心配しながら支援
ルイズは、呆然としていた。
幾度の、幾十度もの使い魔召喚の儀式の末に現れたものが・・・・・・・アレだったからだ。
一言で言うと 人間
二言で言うと 眼鏡をかけた人間
三言でいうと 眼鏡をかけて黒いコートを羽織った人間
何やら妙にゴツゴツした、鉄の筒らしきものを大量に詰め込んだ鞄を両手に持って、周囲を
オロオロと見回している。
しかしあの服はいったい何なのだろう。
襟元から覗くシャツは、どうやら最高級の絹で出来ているようだ。
ヴァリエール家の娘である自分すら、いや当主である父ですら恐らくは着た事が無さそうな質の絹だ。
ひょっとしたらどこかの王家の人間だろうか?
しかし杖を持っていない。
今気づいたが鞄に詰め込まれている筒はどうやら銃のようだ。
見た事の無い形をしているがまず間違い有るまい。
銃などという無意味で不細工な物を持っている以上貴族とか王族とかではありえない、
多分はぶりの良い傭兵団のボス・・・・・・の息子あたりだろう。
しかし、それにしてもビンボくさい。
あんなに良い生地のシャツを着てるのにビンボくさい。
武器を大量に抱えてるというのにビンボくさい。
よく見ると結構ハンサムな顔立ちなのにビンボくさい。
なぜにこれほどまでにビンボくさいのだろうか。
「はぁ・・・・・・」
やっぱコントラクト・サーヴァントをしなきゃいけないんだろうな。
嫌がっても「神聖な儀式だから」とかいって再召喚許してくれなさそうだし、このハゲは。
一方、彼は困惑していた。
娘に「新しい装備のデータ収集だから」とか言われて新しいコートを着させられた。
他にも山のようなてっぽうと弾丸の詰まった鞄を持たせられた所で、気が付いたらここにいた。
だが、しかしある程度は現状を理解していたといえる。
「空気が違う」
彼が直前までいた場所とは空気が根本から違う。
まるで車とかが全く走っていない地のように空気がきれいだし、地磁気も妙だ。
結論としては
「いわゆる異世界ってヤツかな」
来訪者の残した遺産か、それとも他の何かか。
憤怒の形相でこちらに近づいてくる、桃色の髪の少女が、現状を説明してくれる事を期待するしかあるまい。
やれやれ、また面倒くさい騒ぎに巻き込まれるのだろうな。
その表情に逆ギレを起こした愛娘を思い出しながら彼は、草刈鷲士は盛大なため息をついた。
「出席がそろそろヤバいんだけど」
はい一回目はここまでです。
短いですが請うご容赦。
続きをなるたけ急いで投下すべく気張りますので
パンチ一発岩どころか敵陣を砕くヒーロー参上……続きを楽しみにしています。
最強のヤンパパ、遂に登場ですか(汗
原作の最新刊はいつになったら出るのかな〜
いくらなんでもいくらなんでもなので、追加を投下するのです。
しかし予告のネタについて全く反応が無いのがさびしい
麗しきヒロインであるはずなのに出番はともかく人気という点で今ひとつふたつみっつよっつ
盛大な疑問符がつく、などといわれるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール はご立腹であった。
「あら、どうしたのかしら?ゼロのルイズ」
「アレよ」クックベリーパイをつつきながら、宿敵たるツェルプストーに指し示したのは彼女の使い魔。
今彼は、全く持って違和感無くウェイターとして給仕の仕事をしていた。
「アンタ使い魔働かせてるの?そんなにお金に困ってるなら一言言ってくれればいいのに」
「ンなわけあるかぁ!アイツが『何もしないって性に合わない』とかいって勝手にやってるのよ。
いつの間にやらコックだのメイドだのと仲良くなってるし」
「こんにちわ、キュルケさん」
「こんにちわ、シュー
キュルケは、自分に挨拶をしてきたヴァリエールの使い魔に視線をやって、凍りついた。
両手によっつずつ、頭にひとつ、両の肩にひとつずつケーキの皿をのせたまま、危なげ無く歩き
しかも器用に自分に向かって頭を下げたりしてるのだから。
そのまま、ひょいひょいと皿を放り投げ、そのまま皿は絶妙に生徒の眼前に着地する様は、見るものが見れば彼の力量が尋常ではない事が分かるだろう。
だがしかしこの場ではただの宴会芸程度にしか認識されていなかった。
「す・・・凄いわね」
「向こうでもこういったウェイターのバイトとかよくやってたんで、慣れてるんですよ」
論点が完全にずれている。
そんなほのぼのとした情景の食堂に、ガシャーンと皿が割れる音が響き渡る。
何事かと視線を向ければ、土のドットメイジたるギーシュ・ド・グラモンが二人の少女に詰め寄られていた。
「やっぱりそうだったんですね・・・ギーシュ先輩」
「どういうことなのよ!はっきりきっぱり言ってみなさい!」
やがて少女たちは不実な男を殴り飛ばすと、足音も荒く食堂を出て行った。
両の頬に真っ赤なもみじをつけたギーシュは、一人のメイドの胸倉をつかむ。
「君がもっと機転を利かせていれば彼女たちは傷つかずにすんだんだ!」
そのあまりにも頭の悪い理論を放っても置けず、止めようとしたルイズ。
しかしその前にギーシュの腕を掴んだ者がいた。
彼女の使い魔、シュージだ。
「何をやっているんだ君は!」
「平民風情が無れ「そんなことどうでも良い!君は急いで謝るんだ!」
「こ、このグラモン家の子息たる僕に謝れだと!」
「家も貴族も関係無い!君は急いで謝らなきゃいけないんだ!」
「ふざけるな!たかが平民風情が!
どうしてもこの僕を謝らせたいというなら決闘だ!
君が僕に勝てたら潔く謝るとしよう。
実力で謝らせてみたまえ」
「い、いけません」とかはわはわやってるメイドを捨て置いて盛り上がる二人の男。
「・・・・・・いいだろう」
「よし、裏庭に来たまえ」
スタスタと立ち去るギーシュ。
その後についていこうとするシュージの胸倉を、ルイズは掴みあげる。
「何考えてるのよアンタは!平民が貴族に勝てる訳無いじゃない!
今すぐギーシュに謝ってきなさいよ!」
「 それは出来ない。
彼は、謝らなければならないんだ。
プライドが邪魔をするというなら僕が謝らせてあげなきゃいけない。
他の誰でもない、彼自身のために」
はい、ここまでで第一話とします
ご迷惑おかけしましたのです
お疲れ様ー
うーむ、最近このスレから元ネタに興味を持つパターンが増えてきたな
乙
ちょっと展開が急ぎすぎのような気が…
しかし原作が好きなので期待してますよ
ところで、原作の続編って今後出るのだろうか
シュージって人間辞めちゃってるスプレイからバケモン呼ばわりされてたよな
水の上歩いた時に
356 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:02:07 ID:7UWPWW7T
さて、またも真っ昼間から投下しようかと思います
予約無いようですので、行きますね
>>356 キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
358 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:03:03 ID:7UWPWW7T
虚無の曜日、未明。
城下、ヴァリエール公爵トリスタニア別邸。
ようやくヤンは衛士達の取り調べから解放された。
とはいえ、メイジでないヤンはフーケでない事は歴然としているので、単に事情聴取さ
れただけだが。ルイズも公爵も目撃した事実と被害内容を尋ねられただけで、すぐ衛士達
は別邸から立ち去った。
その後、王宮はハチの巣をつついた騒ぎだったし、まだ夜も明けきらぬというのに、『土
くれのフーケ、ヴァリエール家の秘宝を強奪』の知らせはトリスタニアを駆けめぐってい
た。だが、ヴァリエール家の別邸にいたルイズとヤンには、その辺の話は届かなかった。
幸いエレオノールや御者達に大きな怪我は無かった。地面に倒れていた長女に駆け寄っ
た公爵とルイズは、単に気絶しているだけなのを確認して安堵した。フーケのゴーレムは
追うには既に遠すぎた。
近くの木の幹には『ダイヤの斧、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』とのサイ
ンが残されていた。
二人の呼びかけに目を覚ましたエレオノールは、フーケに斧が奪われたのを知って、再
び卒倒してしまった。今は別邸でベッドに休んでいる。
そしてお昼前。
昨晩の騒ぎで夜更かしをさせられたルイズとヤンが、ようやく起き出してきた。ダイニ
ングルームで顔を合わせた二人は、挨拶代わりに大きなアクビを交換してしまう。
「ふわぁ〜うぅ。おはようございます、ミス・ヴァリエール。公爵様はどちらへ?」
「ふふぁあ〜うぅぅ。おあよー、もう城へ行ったわよ。フーケの捜索隊がどうとか言って
たわ。眠かったのであんまり覚えていないんだけど」
「エレオノール様は?」
「まだ寝てるわ。…さすがに、今はそっとしておいてあげましょう」
ルイズの言葉をききつつも、ヤンはガックリと肩を落としてしまう。
「はぁ、やっと金に縁のない生活から抜け出せたと思ったのになぁ。これじゃ治療費を返
すのは当分無理そうだ」
対するルイズはエッヘンと胸を張った。
「その点は大丈夫よ!父さま、例の3倍分はちゃんとくれたの!」
そう言ってルイズが手を打つと、別邸のメイド達がワゴンに乗せた大きな箱を持ってき
た。
ヤンが蓋を開けると、中にはエキュー金貨が入っていた。
「んじゃ、約束通り1/3があんたの取り分よ。有難く思いなさいよ!」
「う、うん。感謝するよ。さすがはヴァリエール公爵、気前が良いねぇ」
内心ヤンは、雇い主をルイズから公爵へ乗り換えようか、と考えてしまった。
もちろん口にはしなかったが。
第5話 破壊の壷
昼過ぎのトリスタニア。
休日だけあって露店も並び、酒場は昼間から乾杯の声が響き、様々な看板が軒を連ねて
いる。同時にフーケ捜索に当たる衛士や兵士の隊があちこちを走り回っている。
誰も給料の前では真摯にならざるを得ませんから支援
360 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:05:13 ID:7UWPWW7T
別邸から馬車で買い物に来た二人。ヤンは相変わらずキョロキョロと、興味深そうに町
並みを見回している。
「ほら、そんなに物珍しげにしてると、スリに狙われるわよ!」
そうルイズに注意されたものの、立体TVや歴史の資料でしか見れないものが目の前に
現実として広がっているのだ。歴史学者志望だったヤンに珍しげにするなというのは無理
と言うものだろう。
「うーん、分かったよ…へぇ〜、あれって薬屋さんかい?うわー、瓶の中に動物がそのま
ま入れられているよ!あれを飲むのかい!?病気にはならないようにしなきゃね」
どすっ!
昨夜に続き、今度は脇腹に肘がめり込んだ。
悶絶しそうになるヤンは、どうにか倒れるのをこらえた。
「ぐっ、ごふぅ…ふぅ、し、失礼したね。それじゃ、僕の服とかも色々買わなきゃね」
「そうしなさい。いっとくけど、あたしに恥をかかせないでよね!」
「承知しました。ミス・ヴァリエール」
そんなわけで休日の午後、二人は仕立屋でヤンの執事に相応しい服を注文したり、靴屋
に行ったり、新しいお茶の葉を選んだりと、ショッピングを楽しんだ。…まぁ買い物の常
で、レディであるルイズの大量に買い込んだ服やらバッグやらを、ヤンが持たされるのは
お約束。
ヴァリエール家の馬車で来ているので、荷物をどんどん馬車に詰め込めるのが幸いでは
あった。が、それでも大荷物を抱えて商店と馬車を往復させられるヤンは、もう息が絶え
絶えになってしまう。
夕方になる頃、荷物で一杯になった馬車の中をみて、ヤンは呆れてしまった。
「いやぁ〜、沢山買ったねぇ。まぁ、これだけ買えば十分だね。それじゃ、学院に戻ろう
か」
「まだよ」
ルイズの無慈悲な一言に、ヤンはうんざりして頭を垂れてしまう。
「ねぇ、ルイズ様…もうこれ以上、何を買うというんだい?もう必要なものは全部買った
と思うよ?」
「何言ってるの?一番大事なモノを買ってないじゃない」
当然のように言うルイズに、馬車の中の山と積まれた荷物を見直す。
だが、いくら考えても買い忘れたものは思いつかない。
ルイズは、ヤンを見上げてハッキリと足りないものを告げた。
「武器よ」
ルイズの言葉は、ヤンの発想からは外れたものだった。
「武器って…君のかい?」
ドコッ!
ヤンはルイズに思いっきり蹴られた。
「何で私が持つのよ。あ・ん・た・の、武器!またフーケと会ったら、次こそとっ捕まえ
るわよ!」
言われたヤンは、口があんぐりと開いてしまう。
どう答えたものかと思考を巡らし、なんとか目の前の若いアルジに理解してもらえそう
な言葉を選んだ。
「僕は武器なんか使えないよ」
支援
362 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:07:17 ID:7UWPWW7T
本人は理解してもらえる言葉を選んだつもりらしい。だが、ルイズには全く理解出来な
かった。ジロリと自分の使い魔を睨み付ける。
「あんた、軍人でしょ?」
「うん。自分でも信じられないけど、軍人だった」
「士官学校にいたんでしょ?」
「もちろん。もっとも、落第すれすれだったね」
「でも、当然ながら、武器の扱いだって習ったわよね?」
「でも、当然ながら、ハルケギニアの武器の扱いなんて習ってないよ」
「あんた、銃を持ってるじゃないのっ!」
ビシィッと、ルイズはヤンのジャンパーの胸ポケットを指さした。
ヤンは胸を張り、ふんぞり返って答えた。
「自慢じゃないけど、僕が撃っても当たらないのさ!」
どすぼごべきずか
ヤンは往来の真ん中でルイズにどつき回された。
「バカ言ってないで、武器屋に行くわよ!またどこでフーケが出てくるか分からないんだ
から。次会ったら、必ずお縄にしてやるんだからね!
あんたも!そんな一発撃ってお終いなオモチャじゃなくて、ちゃんとした剣とか買いな
さい!」
「うう、本当にいらないのに…」
ヤンとしては、本当に武器なんか持つ気は無かった。今ジャンパーに納めている銃にし
たって、ハルケギニアの人が使ったりしないように自分が持っているだけなのだから。ル
イズはヤンの持つ銃をハルケギニアのフリント・ロック銃と似たようなモノと思いこんで
いるようだが。
「とはいえ、確かに銃はいつかエネルギー切れになる、か。日用品としてのナイフがあっ
ても便利かな」
なんとか自分を納得させて、肩で風を切ってノシノシ歩くルイズの後を追いかけた。
悪臭が鼻をつく路地裏に入り、ゴミや汚物が転がる道ばたを抜け、四つ辻に出た所で、
銅の看板をルイズが指さした。
「ふーん、剣の形の看板か。あれが武器屋かい?」
「ええ、さぁ入るわよ」
二人は石段を上がり、羽扉を開けた。
薄暗い店内はランプで照らされ、壁や棚に所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲
冑が飾られていた。店の奥でパイプをくわえていた50がらみの親父がルイズをうさんくさ
げに見つめた。紐タイ留めに描かれたと五芒星に気付く。
ルイズはツカツカと店主の前へ行く。
「旦那、貴族の旦那、ウチはまっとうな商売して・・・」
「客よ。この平民に合う剣を・・・」
そんなやりとりをしながら、店主はチラッとヤンを見た。
店内の武具を珍しげに眺めてまわる、30代くらいの学者風な男。筋肉質とは言えない
身体。と言う以前に、どうみても剣を振りそうにない半開きの寝ぼけまなこ。
「え〜っと、旦那…さっきから言ってるのは、そこの御仁で?」
「そうよ。なんか文句あんの!?」
「いっいえ!滅相もない!そうですねぇ、最近はフーケなんて盗賊が出没する物騒なご時
世ですからねぇ。宮廷の貴族の方々の間でも下僕に剣を持たすのが流行ってまして」
「分かってるじゃない。それじゃ、適当に選んでちょうだい」
キルヒアイスも来たら嬉しいなぁ
よしっ!今だ!
ポイント360に全火力をもって支援せよ!
364 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:09:02 ID:7UWPWW7T
店主は、カモがネギ背負ってやって来た、と言う感じの雰囲気を漂わせつつ店の奥から
細身の剣を持ってきた。煌びやかな模様がついた、貴族に似合いの綺麗な剣だ。
「さっきの話で、下僕に持たせているのが、こういうレイピアでさあ」
ルイズはジロジロと剣を眺める。
「フーケのゴーレムを相手にするなら、もっと大きいのが」
「いや、ナイフが良いよ」
いつのまにやら、ヤンがルイズの背後に立っていた。じっと華奢な剣を見つめている。
そして、普段のとぼけた台詞からは考えられないような言葉を連ねた。
「さっきも言ったけど、僕は剣を使った事はない。でも戦場はともかく、その剣が普段持
ち歩くのに向かない事は分かるよ。
まず強度がない。細すぎて、斬りつけたら折れる。突くには良いけど、うっかり深く突
いたら抜けなくなるから、複数に囲まれた状況では使えないよ。それに刃物は刃こぼれと
かで切れ味がすぐ落ちる。
ああ、フーケのゴーレムを前提にするなら、そもそも剣で立ち向かうという発想自体が
間違いだよ。どうみても、あんな大きなゴーレムには剣が通らないし、使役するメイジを
倒さなきゃ意味がないんだから。
それに、長さも中途半端だ。鞘から抜くために一拍動きが遅れる。だから敵に先手を打
たれる。と言って敵より早く抜いたとしても、長さが無いから結局間合いを詰めなきゃな
らないので意味がない。戦場で敵に先手を打てないとか、間合いで負けるのは、死と同義
だよ。
それと、路地みたいに狭い場所や大通りのような大人数が入り乱れるような場所では剣
は向かない。周りにぶつかって剣を振れなくなる。足場の悪い場所では小回りの効く方が
有利だし。
なにより、さして役に立たないにも関わらず、腰に剣をこれみよがしに下げなきゃいけ
ない。だから周囲に僕を警戒させてしまう。敵は油断をさせた方が奇襲もしやすい。
あと、警戒心を与えないという事は、交渉もしやすいということさ。この利点は武器の
威力以上の価値があるよね」
どう見ても冴えない中年男の口から飛び出す、全く似合わない戦術論
店主のオヤジもルイズも、呆気にとられて何も言えない。
「…以上の点から、そうだねぇ、小さなナイフが良いんだ。それも、服の袖に収まって、
一瞬で手に収めれるようなヤツ。隠しナイフみたいなものなんだけど」
ようやくヤンが語り終えた時、ルイズは小さな手でパチパチと拍手してしまった
店主も感嘆の溜め息をついてしまう。
「いやぁ〜、おみそれいりやした。どうやら、いっぱしの知識はお持ちのようで」
「まったくだぜ!そんな貧相な体してっから、どんな青ビョータンかと思ったら!いやー
おでれーたわ!」
いきなりどこからか妙な声がした。低い男の声が、乱雑に積み上げられた剣の中からし
ている。
ヤンが声の方へ歩み寄ると、そこにはツバをカチカチ言わせてしゃべる、サビの浮いた
ボロボロの剣があった。
「うわぁ、なんだいこれ?しゃべる剣とは驚いたねぇ」
「へっへー、おでれーたか!デルフリンガーってんだ、よろしくなオッサン!」
オッサンと言われたヤンは、軽くよろけた。
お兄さんと呼んで欲しい、なんて厚かましい希望は持っていない。もう若いとは言えな
い事はヤンも自覚している。それでも、『オッサン』の一言は彼の胸をえぐった。
「やいデル公!お客様に失礼な事を言うんじゃねぇ!」
「あに言ってやがんでぇ!オッサンはオッサンじゃねーか!もっとも、俺にしてみりゃ、
どいつもこいつもヒヨッコだけどよ!」
何度もオッサンと言われた心理的ダメージに打ちひしがれつつ、彼は剣を手に取った。
表面にサビが浮き、お世辞にも見栄えが良いとは言えない薄手の片刃剣だ。
「それってインテリジェンスソード?」
ヤンの後ろからルイズが珍しげに覗き込む。
「そうでさ、若奥様。意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさあ。ったく、いった
いどこの酔狂な魔術師が始めたんでしょうかねぇ?剣を喋らせるたぁ…」
ほんとは部下から指摘されるほどの首から下はいらない人なのに支援
366 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:11:55 ID:7UWPWW7T
店主のデルフリンガーに対する愚痴はまだまだ続いたが、ヤンの耳には届いていないよ
うだ。珍しげに剣をあちこち調べている。
「ふぅ〜ん、面白いねぇ…どうして剣をしゃべらせるんだろう?何か意味があるのかな」
そんなヤンのつぶやきを、剣の方も聞き流しているかのようだ。
ジッとヤンを観察するかのように黙りこくっている。
しばらくして、剣は小声でしゃべり始めた。
「おでれーた。見損なってた。まさか、こんなひょろいオッサンが『使い手』とは」
「『使い手』?」
いきなり聞き慣れない言葉を投げかけられ、ヤンはキョトンとする。
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい、オッサン、俺を買え」
買え、と言われたヤン。
天井を見上げ、どう答えたものかと思案してしまう。
しばしの後、ヤンは気の毒そうな顔をした。
「ゴメン、要らないよ」
「ぬぁにっ!?」
この錆びた剣に顔があったなら、剣の目が点になっていたろう。
「なっなんでだ!?なんでいらねーんだっ!??」
「いや、なんでと言われても…さっき言った通りだね」
「ぐっ」
「アイテムとしては面白いんだけど、武器としては…僕には使えないなぁ。戦場に行く予
定もないし」
剣は、言葉に詰まってしまった。
今度は店主がニヤニヤ笑い出す。
「聞いたかよ、デル公。やっぱこの御仁は見る眼があるってこったなぁ」
「うっうるせえ!てめえこっちこい!鼻をそぎ落としてやる!」
「はっ!出来るモンならやってみな!
つーわけで、旦那様方。こちらのナイフ10本セットではいかがでしょう?長さは15
サントで細い両刃、手に持っても投げても良しの優れもの。この二本は飛び出し型・折り
たたみ型でして…」
店主とルイズは奥でナイフの品定めに入ってしまった。
ヤンの興味もナイフの方に向いてしまい、デルフリンガーは乱雑に積み上げられた剣の
山に戻されそうになる。
「わー待て待て!オレッちはホントに役に立つんだ!『使い手』には最適の剣なんだ!い
やマジで!!」
インテリジェンスソードの必死な懇願に、ヤンもついつい哀れになってくる。
なので、もう一度さびた剣を見直してみる。
よーく、じっくりと見直してみる。
だが、溜め息を一つついただけ。
「…せめて、何の役に立つか、自分で教えてくれるかなぁ」
「お、おう、聞いて驚け!俺を買えばだなぁ…」
剣は叫んだ。自分の売りを。
「話し相手になるっ!」
店内の人々は、笑うべきか呆れるべきかツッコミを入れるべきか、迷った。
なので、とりあえず店主が大笑いしてルイズが呆れてヤンが「なんだそれは」とツッコ
ミを入れた。
支援
368 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:13:40 ID:7UWPWW7T
結局、剣としてのアイデンティティーを放棄してまでの懇願に根負けしたヤンは、長剣
を背負いナイフセットの束等を手にして店を後にしたのであった。
既に日も暮れた夜道。
沢山の荷物を積んだヴァリエール家の馬車が、学院への街道をノンビリと進んでいた。
ヤンはぼんやりと窓から二つの月を見上げている。
「月明かりも衛星が二つあると明るいねぇ。とはいえ、こんな薄暗い夜道を馬車で走って
大丈夫かい?」
ルイズはアクビをしながら眠たげに答えた。
「だいじょーぶよぉ…ふわぁあ〜…この道はちゃんと整備されてるし、危ない場所もない
から。ゆっくり行けば、ちゃんと無事に学院に着くわよ」
床に置いた長剣が、鞘からひょこっと少し飛び出した。
「ところでよぉ、ヤンとやら。珍しい服装してっけど、そいつぁどこの服だ?」
「ああ、これは僕の国の軍服なんだよ。僕の国はそれはそれは遠くてねぇ・・・」
そんな話をしながら、御者はゆっくりと夜道を走る。
学院に到着したのは結局夜更けになってしまった。
学院の門をくぐったルイズは大きく伸びをする。
「うーんっ、やっと着いたわ。全く色々あったけど、とにかく私はお風呂入ってくるわ。
あんた達は荷物を部屋に運び入れておいてね」
と言ってルイズはさっさと寮塔へ入っていった。
運び入れておいてね、と命じられたヤンと御者は、馬車に詰め込まれた荷物の山を眺め
る。そして顔を見合わせて、諦めのため息をついてしまった。
御者とヤンは、どうにかこうにか荷物を全部ルイズの部屋に運び入れた。
ヤンはもう、息も絶え絶えで寮塔入り口の石段に腰掛けてへばってる。
「お疲れ様ぁ〜、ありがとう〜」
へろへろの手を振って、御者に礼をいうヤン。
「こっちこそありがとうだぜ、お互い主にゃ苦労させられるなぁ」
御者も礼を返して去っていった。
ルイズの部屋の扉を開けたヤンは、乱雑に積み上げられた荷物の山を視界に入れる。
これを更に片付けて整理させられる苦労に思考が向こうとした時、ついつい現実逃避を
したくなった。
「ハァ〜イ、使い魔さぁ〜ん」
荷物の山から目を背けたいヤンの願いを神か悪魔が聞き入れたらしい。彼を背後から呼
ぶ女性の声があった。が、その声を聞いた彼は、願いを聞き入れたのは悪魔に違いないと
推理した。
「ねぇ〜え?使い魔さんってばぁ〜」
聞こえないふりをしたかったが、さすがにそれは無理がある。なにしろその声の主は、
ヤンの背筋に指を、つつつぅ〜と上下に這わせていたから。
敵現る。ヤンがピンチに。支援。
370 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:15:53 ID:7UWPWW7T
覚悟を決めて振り向くと、案の定そこにはキュルケとタバサが立っていた。
「今晩は、ミス・ツェルプストー。そしてミス・タバサ」
とりあえずヤンは他人行儀に礼儀正しく頭を垂れた。
「やぁねぇ〜、相変わらず他人行儀なんだから。それはそうと、ちょっと良いかしら?」
「あ、いえ、既に夜も更けていますから。また明日でいいでしょうか?」
当たり障りの無い台詞でやんわりと断りつつ、ヤンの足はジリジリとルイズの部屋へ後
退していく。だが、キュルケもじわじわと間合いを狭めていく。
「あらあら、いいじゃないのぉ〜。夜は長いんだし、色々お話を聞かせて欲しいのよぉ」
いつのまにやら、ヤンはルイズの部屋の中まで後ずさっていた。そしてキュルケも部屋
の中に入ってきてしまっていた。ついでにタバサも。
「あの、ですから、明日も学院の授業が…」
「うふふふ…あなたのお話、学院の退屈な授業より面白そうなんですもの」
荷物の山に阻まれて後退出来なくなったヤンに、キュルケがゆっくりと体を、特に胸を
すり寄せてくる。
「だからぁ…お話、して下さる?」
「わ、私に何の、話、でしょう、か?」
ヤンは、もてない。
ハッキリ言って、もてない。
想いを寄せ合う女性はいたし、まだ中尉の頃から片想いをしてくれた年下の女性と結婚
もした。でも、それは彼という人物を良く知っていたからであり、非常に物好きな年下女
性が一目惚れしてくれたからだ。
見る人によってはハンサムに見えなくも無い、と言う程度の顔。いつももダラダラして
いるとしか見えない態度。半分寝ている目。ちょっと猫背。ヘタなジョーク。運動音痴。
どうひっくりかえっても、控えめに言っても、女性に熱烈なアプローチを受けるタイプの
人間ではない。
ヤン自身は、英雄と呼ばれ高級士官になった頃なら女性を自由に選ぶ事ができるように
なっていたのかもしれない。しかし、そんな事は想像すら出来ない朴念仁だった。
なので、キュルケの色気に無様な撤退を余儀なくされる事、非難できるはずもない。
今やヤンは、汗をダラダラと滝の様に流していた。
「ねぇ…フーケに斧を奪われたって、ホント?」
「・・・ああ、その話ですか・・・」
ヤンはホッとすると同時に、僅かにガッカリもしてしまった。だがそれは男として当然
で、決して誹謗中傷を受ける理由にはならないはずである。
「ちょっと、人の部屋でなにしてるのよ」
ちょうどルイズもお風呂から帰ってきて、扉を開けたまま額に血管を浮かべていた。
同時刻、学院中庭の植え込みの中に、一人の人物が立っていた。
頭から黒いローブをすっぽり被った人物は、手に斧を、正しくは斧のヘッド部分を持っ
ている。
「くっくっく…全く、こんなに上手く行くとはねぇ!」
長い呪文を詠唱した後、杖を地面に向けて振る。音を立てて地面が盛り上がる。
ローブの人物は、盛り上がっていく小山に乗ったまま立っている。小山は人型へと変化
し、黒ローブのメイジはそのまま人型の左肩に乗った。
本塔と並ぶほどの大きさがある、30メイルの土ゴーレムが学院に突如現れた。
「さて、この『土くれのフーケ』様のゴーレムでも、学院宝物庫の壁をぶち破るのは無理
だわ。…でもね」
ゴーレムは右手を左肩のフーケへ伸ばす。
フーケは手にしていた斧をゴーレムの拳表面に突き立てる。
そして更に杖を振り、拳を鋼鉄へ練成した。
鬼に金棒。ゴーレムにダイヤの斧。支援。
372 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:18:58 ID:7UWPWW7T
「あらゆる魔法に傷一つ付かない、ダイヤより硬い異国の斧。
こいつに、あたしのゴーレムのパワーを乗せたら、どうかしらあっ!?」
ゴーレムは、鋼鉄の拳に炭素クリスタルの斧を付けたまま、宝物庫の壁に向け大きく振
りかぶった。
深夜の学院に轟音が鳴り響いた。
同時に地響きが全塔を振動させる。
「なっ!?なに?」「これは!地震なの!?」「う、うわ!荷物がぁ!」
ルイズとキュルケとヤンが、突然の揺れに床へ倒れそうになる。
乱雑に積み上げられていた荷物がルイズ達の方へ崩れていく。
3人とも、荷物の山の中に埋もれ、潰されてしまった。
「『レビテーション』」
揺れにも動じず荷物の崩落にも巻き込まれなかったタバサが杖を振り、荷物の小山を取
り除く。3人とも痛む体をさすって起きあがる。
「あっつつつ…一体何なのよぉ」「みんな、無事だね。えっと…今のは、地震というやつか
い?この辺は地震がよく起きるのかな?」「さっきの轟音、何だったのかしら。タバサ、シ
ルフィードを呼んでよ」
タバサは窓に寄って口笛を吹く。ほどなくして風竜が飛んできた。
全員急いで風竜の背に全員乗り移り、学院を上空から見渡す。
「おおーこれが竜かぁ、すごいなー、どうやってこんな小さな翼で飛んでるのかなぁ」
そんなヤンの驚きの声は風と共に後方へ去っていく。
学院の中央、本塔には大穴が開いていた。
中庭には、地面が不自然に抉られたような跡がある。
そして学院の近くの森には、立ち去っていく巨大ゴーレムの姿があった。
ルイズが驚きの叫びを上げた。
「あーっ!あれは、フーケのゴーレムぅっ!!」
「タバサ!急いでフーケを」
追って、と言おうとしたキュルケだったが、既に遅かった。
彼方に立つゴーレムは、突然ぐしゃっと崩れ落ちた。
風竜が土ゴーレムの残骸である土の小山の上に降り立つ。
4人は周囲を探すが、もちろんフーケの姿は既に無かった。
魔法学院は深夜にもかかわらず、ハチの巣をつついた様な騒ぎとなった。
被害は宝物庫のカベと学院の秘宝『破壊の壷』。
宝物庫の壁には『破壊の壷、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』との犯行声明
文が残されていた。
宝物庫には学院中の教師達が集まり、壁の大穴を見て口をあんぐりさせていた。次に教
師達は当直の貴族は誰だとか、平民の衛兵なんか役に立たないとか、口々に勝手な事を喚
き、責任の押し付け合いを始める。外には中を不安げに覗き込むメイド達もいる。
当直だったのはミセス・シュヴルーズ。当直のはずの彼女は自室からやってきた。寝間
着のまま。宝物庫の大穴を見て、蒼白になってしまう。
逃走するフーケのゴーレムを目撃したルイズ・ヤン・キュルケ・タバサも宝物庫へ駆け
つけた。ヤン以外の女性陣は教師達から犯行現場や状況について激しく問いただされてい
た。ヤンは平民で使い魔ということで、相手にはされていなかった。
373 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:21:40 ID:7UWPWW7T
まだ夜明け前の宝物庫。ヤンは数のうちに入れられていないのを幸いに、周囲の状況を
見回り、駆けつけたオスマンやコルベール達教師の話に、そして同じく駆けつけたメイド
達の言葉にも聞き耳を立てる。
――当直をサボっていたという…まともに当直をした事のある教師はおらん…
――ここはメイジで一杯…まさか賊に襲われるとは夢にも…
――目撃者はこの3…犯行後、逃走するゴーレムを追跡したがフーケは見つからず…
――壁はスクウェアメイジ達が固定化を…フーケのゴーレムでも無理…
――『破壊の壷』は学院の秘宝…弁償は誰が…
ヤンは『破壊の壷』が収められていた大きなケースの前に立つ。そこには王宮からの帰
りに見たものと同じ筆跡で犯行声明文が書かれている。
ヤンは、ようやく教師達の質問から一時解放されたルイズに駆け寄った。
「ねぇ、ミス・ヴァリエール。その盗まれたっていう『破壊の壷』なんだけど、一体どう
いうものなんだい?」
聞かれたルイズは顎に指をあて、上を向いてうぅ〜んと考え込む。
「うーんと、あたしもよく知らないの。見た事はあるんだけどね、使い道とか効果とかは
分からないわ」
「そうか…ちなみに、どんな形をしてるのかな?」
「え?形は…壷って名前は付いているんだけど、ものすごく変な形よ。だって、蓋がない
から開けられないんだもん」
「蓋が、無い?」
「そう、つまり…こんな形」
ルイズは指で壁に『破壊の壷』のシルエットを描く。
そのシルエットを見たヤンは、首を傾げてしまった。首が垂直に曲がるんじゃないかと
いうくらい。
「壷…じゃ、ないね」
ヤンの素直な感想にルイズも頷く。
「うん。宝物庫の見学の時、みんな同じ事を言ってたわ。でも壷という以外、当てはまる
言葉が無かったのよね」
「うーん…もうちょっと詳しい形を教えて欲しいんだけど」
ルイズは宝物庫の外に集まっていたメイドの一人に紙とペンを持ってこさせて、簡単な
形を描く。
その絵をヤンは瞬きもせずに凝視していた。
「本当に、これだったのかい!?」
いつにないヤンの真剣な顔に、ルイズは少し気圧されてしまう。
「え、ええ、そうよ。まぁうろ覚えだったんで、ちょっと違うトコもあるかも」
ヤンはルイズからペンと紙をひったくるように受け取り、コルベールの横に行く。
「すいません、伺いたいのですが…『破壊の壷』というのは、こういう形の物で間違いあ
りませんか?」
「え?」
横からいきなり話しかけられたコルベールは、驚きつつも紙に描かれた『破壊の壷』の
形を見つめる。
そしてすぐにコクコクと頭を上下させた。
「そうそう!これですぞ。ただ、上の所がもうちょっとこう…それで、表面にはおかしな
模様が描いてありまして…こう、ですな」
コルベールがルイズの絵に更に書き足していく。
書き上がった物を見たヤンは、黙って絵を見つめていた。
そして、ヒョイと顔を上げた。
「ちなみに、これって何に使うんですか?」
「え?いや、さぁ…ただ昔から秘宝とされているんですが、使い方は知りませんぞ」
「誰も?オールド・オスマンも?」
コルベールは教員達の話を聞いてまわっていたオスマンに尋ねた。
だが、学院長はバツが悪そうにしつつもハッキリと首を横に振った。
支援
支援。
376 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:31:42 ID:LqkBc5Ye
書き込めない・・・
避難所へ移ります
「そうですか。マジックアイテムはよく分からないですが、変な壷ですねぇ。それじゃ、
私はお役に立てる事はないようなので、失礼しますね」
宝物庫をスタスタ立ち去るヤンの背を、怪訝な表情をするコルベールが見送った。
宝物庫を出て本塔を出たヤンは、すぐにスズリの広場へ向かった。スズリの広場には煉
瓦造りの女子使用人宿舎がある。こぢんまりした建物は深夜にも関わらず灯りがつけられ
ていた。フーケの騒ぎで全員起き出してきたらしく、中からザワザワと女性達の声が漏れ
てくる。
ヤンは入り口の扉をコココンと、慌てたような速いテンポでノックした。
すぐに扉が開かれた。出てきたのは金髪が眩しい女性だ。
「あら、ヤンさん。帰ってきてたのですか。悪いけど今はちょっと」
「すいません!ローラさん、いえ皆に急ぎ尋ねたい事があるんです!誰かミス・ロングビ
ルを見かけませんでしたか!?」
ヤンは、普段のぼんやりした姿からは想像も出来ない程慌てた姿だ。その姿に他のメイ
ド達も寄ってくる。
だが、全員が首を横に振った。ヤンは悔しそうな顔で肩を落としたが、すぐにポケット
から紙片を取り出し、ペンでさらさらと何かを書く。
書き上がったものをローラの手に押しつけるよう渡した。
「もし、もしも、なんですが…ミス・ロングビルが戻ってきたら、すぐにこれを見せて下
さい。そして、『あなたが拍手してくれた所で待つ』と伝えて下さい!」
ヤンの必死な姿に、ワケも分からずローラと後ろのメイド達はコクコクと頷いた。
そしてヤンは、学院の外へと駆けていった。
そして朝になり、どこからかロングビルが学院へ戻ってきた。
学院の門をくぐり、本塔を見上げ、宝物庫の大穴を確認する。そして本塔へ入ろうとし
た所で、メイドの一人が秘書の姿を視界に収めた。
メイドはロングビルを呼び止め、すぐにローラが駆けつけてきた。
学院横の森の前では、木陰でヤンがイビキをかきながら寝ていた。
「あの、起きてくださいな」
ロングビルの声が頭の上から降ってくる。でも彼に起きる様子はない。
「ちょっと!あなたが呼んだんでしょうが!」
今度は体を揺らされた。それでもヤンはうぅ〜んと抗議の呻きを上げただけで、やっぱ
り起きない。
彼女は杖を取り出し、ヤンに向けた。
そして杖をヒョイと上に上げると、同時にヤンの体もヒョイと浮かぶ。
そして、杖を下ろした。ドスンッと音を立ててヤンの体は地面に叩き付けられてしまっ
た。
「アタタタタ・・・な、何だ一体!?」
「何だ、じゃないわよ!この忙しい時に人を呼びつけておいて、自分は熟睡しているなん
て、どういう了見ですか!」
ロングビルはヤンの横に腰へ手を当て仁王立ちしていた。
見上げたヤンがようやく眠りの世界から帰還して、腰をさすりながら慌てて立ち上がっ
た。
「いや〜、すいません。実は昨日の今日のと、騒ぎと重労働が重なってたもので。ほんの
一休みのつもりが熟睡してしまったようです」
頭を下げるヤンの言い訳にロングビルも呆れた顔だ。
378 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:39:15 ID:LqkBc5Ye
書き込み終了
代理投下スレに入れておきました
どなたか代理投下お願いします
ふぅと一息吐いた彼女は胸元に杖を戻し、手に紙片を取り出した。
「それより、これについてお話があるようですね」
「ええ、そうです。やはりそのマークを知っていましたか」
「そりゃ、そうですよ。宝物庫の目録を作る時に見ました。これは、『破壊の壷』の表面に
描かれていた幾つかの絵の一つですわ」
「ええ、そうでしょうね。何しろあれは恐らく、僕の国の物ですから」
ロングビルの目が、一瞬細くなる。
「それは、面白い話ですわね。『破壊の壷』が、あなたの国の物なのですか?」
「うーん正確には、僕の世界の物、ですか。作られた国が違うし、もうその国は滅んだの
で。でも、他の『破壊の壷』を見た人が描いた絵から分かります。それに近いマークも描
かれていましたから。
それ、国旗です。ゴールデンバウム王朝の」
ロングビルが持つ紙片に描かれた絵。それは、あんまり上手とは言えないヤンの絵。
そこには翼を広げた双頭の鷲…らしきモノが描かれていた。
銀河帝国軍章、ゴールデンバウム王朝を象徴する紋章のつもりらしい。
とりあえず、ロングビルにはそれが何なのか分かったので、良しとすべきだろう。
「なるほど、そうでしたか…ですが、それは急いで伝えなければいけない事ですか?知っ
ての通りフーケで学院は大騒ぎです」
学院を振り返るロングビル。彼女にヤンはのんびりと答えた。
「ええ、多分、今すぐにでも知らねばならない事です」
ノンビリとしたセリフを聞いたロングビルに、ノンビリとした雰囲気はなかった。
ゆっくりと、鋭い視線をヤンに返した。
「ちなみに何故、学院長を差し置いて私が一番に、学院の外でコッソリと知らねばならな
いことなのか、教えて頂けますか?」
彼はノンビリとベレーを直す。
刺すような視線を向けられたヤンだが、あくまで飄々とした態度を崩さない。
「それは、他の人に聞かれるとまずいからですよ。あなたも、私もね」
「・・・何故かしら?」
彼女の歩幅が音もなく僅かに開き、斜めに構える。視線はヤンの目を真っ直ぐ睨み付け
ている。
「何故なら、あれはとんでもない危険物かもしれないのですよ。使用方法を知らず迂闊に
触れれば、周囲数リーグが消えるからです」
「数リーグが消える!?」
ロングビルは、下らないことを、と笑おうとした。だが、出来なかった。
真顔のヤンが彼女の目を直視していたからだ。
そして、彼のもたらした斧。並の魔法では破壊出来ない超技術。その技が他の方向に向
いたとすればどれほどのものか、彼女には想像もつかなかった。
「ええ、消えるんです。全てが吹き飛び、塵になります。
そして、その使用方法を知っている僕も狙われます。使い方の分からないアイテムなん
て、宝物庫の置物ですからね」
「狙われる…フーケに、ですか?」
「フーケにも、ですね。王宮もアカデミーも興味を持つでしょうから」
彼女の口の端が不自然に釣り上がる。微笑もうとしたが失敗したようだ。
「それで、その事実を私が知らなければいけない理由って、なんなのかしら?もしかして
他のメイジは信用出来ないから、私に守って欲しい…ということかしらね?」
ヤンは残念そうに、本当に心から残念そうに首を振った。
「違います。危ないから返して欲しいんですよ、フーケさん」
ヤンは、当たり前の事かのように言った。
第5話 破壊の壷 END
380 :
ゼロな提督5:2008/03/07(金) 13:45:31 ID:LqkBc5Ye
代理投下、ありがとうございました
さるさん規制を逃れる方法は無いものでしょうかねぇ・・・
次の話は既に書き上げてありますので、近日中に投下しますね
ありがとうございます。次も期待してます。
お疲れ様です
ふむ、どうやって見抜いたのかわくわくしちゃいます
近日中といわず今すぐにでもっ
提督の方お疲れ様です。
名探偵ヤン登場か…w
提督氏、投下乙です。
しかし、何というミステリー小説w
そう言えば、ゼロな提督には未だギーシュは登場してないよね?
元帥つながりで、これはやはり何かの伏線かな。
ジュウレンジャーとかはどう?
やばい、このデルフリンガーは萌えるw
そして壷の正体はなんだろう?ただの爆弾とかじゃなさそうだし・・・
ここはやはり銀英伝らしくゼッフル粒子発生装置とかかな?
熱核兵器じゃね?
ヴェスターラントを忘れたか!ってことで
>>385 ド〜ドラド〜ラドドドラド〜ラと申したか
ただのハッタリというのもありうるから困る
毎度のことながらGJ。
ヤンとデルフの掛け合いが間抜けすぎて萌え。
デルフってヤン艦隊にいても違和感無さそうだなと思ってしまった。
ユリアンのぬこをライバル視するんだな。
ポケモンが召還された話を呼んでる時だけ
登場人物全員がアニメポケモンの顔に脳内変換される…
>>387 熱核兵器を『壷』と称するのは無茶じゃね?
漫画版でも形状はよく分からんし。
ということを考えると、ゼッフル粒子発生装置の方が妥当のうような。
こんにちは?それともこんばんは?
予約もないようですので、投下させていただいてよろしいでしょうか
投下させていただきます
使い魔はじめましたー第四話ー
差し込む日差しに、サララは目を開く
一度ベッドに入ると六時間程ぐっすり眠りきっちり目を覚ますという
自身の性と照らし合わせれば、ちょうどいい頃合だろう
自身の『ご主人様』はまだ夢の中のようである
「ふわあ……おはよ、サララ。どうする?店を開け……って、ああ」
少し遅れて目を覚ましたチョコが、辺りを見渡してため息をつく
「そういや、サララは使い魔になったんだっけ。で、どうするの?」
その問いに、サララは床に転がったルイズの洗濯物を差し出して答える
「ああ、洗濯するんだ。マメだねえ、サララも。けどさあ」
チョコはサララの頭部を見ながら、呆れたように呟いた
「ひどい寝癖だよ。せめて、直してからにしなね」
サララは慌てたように、ひどいことになっているであろう髪を押さえる
普段使っているブラシはここにないので、ルイズのものを使わせてもらうことにした
髪の毛の色は同じピンク色だから、バレないだろう……多分
バレたとしても、そんなことで目くじらを立てないで欲しいなあ、と
考えながら、手早く髪の毛を梳いて整えていく
目立った寝癖が無くなった所で、エプロンを着け、洗濯物を両手に持つと
もうしばらくしたらルイズを起こすようにチョコに念を押しながら部屋を出ていく
さて、とりあえず外に出てきたサララはここで困ったことに気がついた
昨日は忙しかったため、洗濯をする場所を聞くのを忘れていたのだ
見える位置に水場を探そうとして辺りを見回すが
敷地は広大であり、一筋縄には見つかりそうになかった
「あの……どうかなさったんですか?」
後ろから声をかけられてサララはそちらを振り向き、見上げた
「お嬢さん、迷子ですか?ここは貴族様の来られるところですよ?」
黒い髪に黒い瞳をした召使らしい少女にそう声をかけられて
サララは物凄くヘコみそうになった
昨日、ルイズや他の生徒達を見て気がついたことだが、
どうやらこの世界において、自分はいわゆる『発育不良』の部類に当たるらしい
きょとん、とした彼女のソバカス顔とすらっと伸びた背とついでに胸元に目をやりつつ
盛大にため息をついたサララに、彼女は首を傾げる
「あ!あなたもしかして、昨日ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
その言葉にサララは大きく頷いた
「まあ、やっぱりそうだったんですのね。召喚の魔法で
平民と猫と鍋を呼んでしまったって、噂になってますわ」
にっこりと笑う彼女に釣られて、サララも微笑む
「私はシエスタ。この学院で、ご奉公させていただいてるんです。
あなたは、名前は……そう、サララさん、とおっしゃるんですね」
互いに自己紹介をした辺りで、シエスタはサララが手に持った洗濯物に気づく
「ミス・ヴァリエールの洗濯物ですか?では、私が洗って……」
そのお誘いは丁重にお断りして、水場までの案内を頼むサララ
これはあくまでも自分の仕事だから、と言うサララにシエスタは関心したようだった
「こんなに小さいのに、大変ですわね、サララさんは」
自分を子ども扱いするシエスタに思わず苦笑いを返す
水場に辿り着くまでの間に、自分の年齢についての誤解を解いておかねばなるまい
きっと、自分はルイズやシエスタと、そんなに変わらない年頃だろうから
洗濯を終え、ついでにルイズが顔を洗うための水を汲んできたサララは、
まだ眠っている一人と一匹に嘆息した
戻ってくる途中で、既に何人かの生徒の姿を見かけており、
このままでは遅刻してしまうだろう
全く、何のために念を押したのか、と思いながら、
サララはバケツを床に置き、ルイズを揺り起こす
「ふにゃ?……わ、わあ!あんた、誰?」
「んー……うるさいなあ。自分が呼び出した使い魔くらい覚えておいてよ」
小さく欠伸をした己のパートナーを睨みつけるサララ
「使い魔……ああ、そうね。私が召喚したんだっけ」
ルイズは起き上がると欠伸をし、サララに命じる
「服」
椅子にかかっていた制服を渡す
「下着。そこのクローゼットの一番下の引き出しー」
豪奢なクローゼットの引き出しから下着を取り出す
何となく、一番子供っぽいやつを選んで渡した
ルイズが着替える間は、一応マナーとして後ろを向いておく
同性とはいえ、他人の着替えなどジロジロ見るものではあるまい
その内、自分の着替えも用意してもらえるだろうか、
その場合の経費は、ルイズ持ちにしてもらえればありがたいが、
やはりここは自分も幾らか出すべきだろうか
あいにくと、全財産のうちほとんどは店に置いてきてしまった
大体、持ってきたところで使えるかどうか定かではない
となると収入を得るためには商品を売りさばく必要がある
その場合、やはり市場の確保が早急な命題として……
「何ぼーっとしてんのよ」
頭の中で算盤を弾いていたサララが正気に戻って振り向けば、
彼女は既に着替えを終えていた
「顔を洗うのも着替えるのも自分でやったわ。
全く、ご主人様を放っておいて考え事をしてるなんて、駄目な使い魔ね」
あちゃあ、とサララは自身の額に手をあてる
他人にマイナスイメージを与えてしまうとは、商売人失格である
ましてや、その相手の世話にならざるを得ない状況で、とは
町一番の商売人も、異世界では本領発揮できないようだ
支援
語尾は「きゅ」支援!
ルイズと部屋を出た直後、隣の部屋の扉が開き、
中から燃えるような赤い髪をした女性が現れた
ルイズより、サララよりずっと背が高く胸部の方の発達も目を見張るものがある
お得意様である女盗賊のルビィと、彼女の部下ガーネットを
足して二で割ったらこんな感じだろうか、とサララは考える
「おはよう。ルイズ」
ルイズを見て、にやっと笑い挨拶をした彼女に、嫌そうに挨拶を返す
「おはよう、キュルケ」
「あなたの使い魔って、その子?」
サララを指差すとからかうような口調で言った
「そうよ」
「あっはっは。本当に人間なのね!凄いじゃない!
『サモン・サーヴァント』で平民喚んじゃうなんて、あんたらしいわ!
さすがは『ゼロ』のルイズ!」
ルイズの白い頬に、さっと朱がさした
「うるさいわね」
「ごめんあそばせ。そういえば、猫と鍋も一緒だったわね!」
おかしくてたまらない、といった様子でキュルケと呼ばれた少女は笑っていた
「どうせ使い魔にするんなら、こういうのがいいわよねぇ〜。フレイムー」
キュルケの勝ち誇った声に答えるかのように
のっそりと、真赤なウロコを持ったトカゲが部屋から現れる
その身から放たれる熱気にサララは覚えがあった
「あら、サラマンダー?」
だが、出てきたものがサラマンダーと見るや否やルイズがニヤリ、と笑う
昨日のチョコの台詞が正しければ、サラマンダー程度サララの前では敵ではない
ちょっぴり胸を張りたくなったルイズは、チョコの言葉をスルーしていた
「へえ、変わったサラマンダーだねえ。
ぼくたちが知ってるサラマンダーとは全然違うや。
あ、でも傍にいて熱いのは変わんない、かな?」
とことことサラマンダーに近づいたチョコは、
フレイムと呼ばれたサラマンダーをまじまじと見つめる
サララもまた、近づき、その頭をそっと撫でる
自分の知っているサラマンダーは、基本的に二足歩行であり
ウロコは鎧のように分厚く、体に火が灯っていることはなかった
きっと、場所も違えば種類も違うのだろうとそんなことを考える
フレイムは撫でられてチロチロと気持ちよさそうに舌を出す
「あら珍しい。サラマンダーが主以外に懐くなんて」
キュルケがその様子を見て関心して呟く
「あなた、お名前は……サララ?変わった響きね。
あたしはキュルケ。二つ名は『微熱』よ」
少し身をかがめてサララと言葉を交わした後、くるり、と背を向ける
「じゃあ、お先に失礼。あなたも早く来ないと朝食食べ損ねるわよー」
おほほほほ、と高笑いをしながら去っていくキュルケの後を
体躯に似合わない愛らしい動きでフレイムが追っていく
「ね、サララ。あんた、あのサラマンダーくらいなら倒せるんでしょ?」
そう呼びかけられて、サララはしばし考え込む
まさか、自分が知っているものとは全然違う見た目なので、
倒せるかどうか分かりません、と馬鹿正直に言うわけにもいかなかった
先程の出来事で、ルイズからの心象はちょっぴり悪くなっている
この上嫌われてしまっては、ロクなことになるまい
まあ、同じサラマンダーだし、あっちよりも柔らかそうだし、
きっと倒せるだろうと思い、サララは満面の笑みで主に向けて頷いた
「そ。うふふ。今に見てなさいよツェルプストー!」
天井に両手を向けて雄たけびをあげるルイズをサララは見つめながら考える
キュルケの二つ名は『微熱』 では、ルイズの二つ名は?
答えは、先程のキュルケとの会話の中にあった『ゼロ』であろう
一体、何をもってしての『ゼロ』なのだろうか
……胸だったら、一緒になって怒っても文句は言われないだろうな、と
ルイズの胸に目をやり、ついで自身の胸に手を当てながら思い、
無い胸を張って歩き出したルイズの後ろをチョコと共に慌てて追いかけるのだった
支援!
以上で今回の投下は終了です
短くてすいません
シルフィードはだんじょんに出てくるドラゴンみたいな姿だと
思ってて、アニメの公式サイトで姿見た時に
「腕長ッ!」と思ってしまったのはいい思い出です
乙であります
未だに中古で5000以上もすんのな
ゲームアーカイブスまだかよ
乙ー。
サララって主人公だけあって万能だもんなぁ。
アイテム使えばMP使って魔法モドキ使えるし、重武装して白兵戦もできるわ………。
とはいえ、上手くアイテムを他人に渡して自力で物事を解決する手助けをする、という展開を期待したいわけで。
Dボゥイも相羽タカヤも今ここで死んだ!!
俺は…テッカマンブレードだ!!
なんぞ?
書いて欲しいってところなのでしょう
sq2クリア記念にカースメーカーの女の子を召喚!で書いてみようかな
408 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 18:53:41 ID:LdE2OZNt
すいません、予約ありますか?
近日中、と言いましたが、もう今日のウチに投下しちゃおうかと思います。
なければ19:00くらいから投下しますね
支援三連、フォイアー!
>>407 キャラクターの性格とかはどうするの?
無個性PCだから台詞ないし、はっきり言うけどオリキャラ化するのがオチだぞ
413 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:03:11 ID:LdE2OZNt
第6話 ロングビルの都合
フーケ、と呼ばれてもロングビルは驚きも怒りもしなかった。
ただヤンの前に立っている。半身を引き、鋭い視線を投げつけながら。
ゆっくりと、彼女は口を開いた。
「・・・なぜ、私がフーケなのか、教えて頂けませんか?」
ヤンもゆっくりと、言葉を選ぶかのように答える。
「まぁ、まずは…ここに来た事ですね。僕に余程の用が無い限り、この非常時に呼ばれて
来るわけ無いでしょう」
「あらあら。宝物庫のケースの中にある『破壊の壷』を見た事の無いはずのあなたが、な
ぜあの模様を知っていたか…気になって来たんですよ」
「なるほど、そうも言えますね」
ロングビルはニッコリと笑って反論した。だが眼が笑ってない。
そしてヤンも、既に普段の寝ぼけた雰囲気は消えている。
「ちょっと長い話なんですが、よろしいですか?それと、もしおかしいところがあったら
遠慮無く言って下さい。何しろ僕は魔法やこの国については無知ですので」
「分かりましたわ。どうぞ」
ロングビルに促され、ヤンは語り出した。
「そもそも気になったのは、どうしてフーケは斧を奪う事が出来たのか、と言う事ですよ。
斧を乗せる馬車が、ヴァリエール家の長女が乗る馬車がなぜ分かったんでしょうね?」
「さぁ?何しろフーケは神出鬼没ですから」
とぼけたように肩をすくめるロングビル。
構わずヤンは語り続ける。
「それは、フーケが王宮にいたからですよ。王宮で、エレオノールさんが斧を受け取った
のを知ったからです」
「あらあら、それじゃあフーケは王宮に以前から忍び込んでいたんですわね」
「ええ、その通り。そして王宮を出るエレオノールさんの馬車をコッソリ追っていったの
ですよ」
頷くヤンに、女は不敵な笑みを浮かべて反論する。
「でも、もしかしたら王宮に忍び込んでいたのは使い魔だけかもしれませんわね?そして
使い魔から共有した感覚で、斧の所有者を見た。もしくは、『遠見』の魔法を使ったかも」 その反論に、ヤンは首を左右に振った。
「でも、私達が斧をいつ、どこに持ってくるかは予めには分からないのです。ミス・ヴァ
リエールと僕は前日の夕方、いきなり王宮に呼ばれたのですから。
斧の受け渡しをした部屋に使い魔らしき生物はいませんでした。斧をケースから取り出
したのは、あの部屋の中だけでしたし」
「でもまぁ、王宮の深くまで潜入していれば、分からないと言うほどではないですわね」
女は腕組みして、ヤンの推理を鼻で笑った。
「ええ、全くです。その場合、フーケは王宮の中で働く誰か、もしくは王宮に自由に出入
り出来る誰か、と考えるのが自然です。
でも、それではおかしいのですよ」
「何が、かしら?」
ロングビルは本当に分からない風で首を傾げる。
「フーケは、斧を奪って次の日に、学院を襲撃し『破壊の壷』を奪いました。なぜでしょ
うね?」
「なぜ…かしらね?」
傾げていた首をゆっくりと元に戻すロングビル。油断無くヤンの姿を見据える。
支援
415 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:05:16 ID:LdE2OZNt
「学院から王宮へ行く途中で、あなたが自分で話してくれたでしょう?『狙うのは貴族が
所有する、強力な魔法が付与されたマジックアイテム』だと。
魔力を全く含まない斧の持ち主は、平民である私です。つまり、フーケのターゲットで
は本来なかったのですよ、あの斧は。本来の目的は『破壊の壷』なのです。だから斧を奪
わなかったのです」
「あら、事実奪ったじゃありませんか?」
「ええ、奪われました。あの斧の所有者が僕からヴァリエール家、いえトリステイン王家
に移ったとたんに、まるで待っていたかのように。そして次の日、即座に学院を襲いまし
た。
つまり、待っていたのですよ、フーケは。僕が斧をヴァリエール本家か王宮に売りつけ
るのを。学院からずっと、僕らと一緒に城へ向かいながら、ね。
恐らくは、あの斧をゴーレムに振らせて宝物庫の壁を破ったのでしょう。宝物庫を破る
ために斧が必要だったのですよ」
「あらあら、それはおかしいわよ。さっきあなたは『フーケは王宮にいる』と言ったじゃ
ないですか」
クスクスと、相変わらず笑わぬ眼で笑うロングビル。
冷たい目で射られながらも、ヤンは全くの平静を保っている。
「そう、そこですよ。問題は『フーケは王宮と学院、どちらにいたのか』ということです。
どう考えても、学院と王宮の両方にいなければ、斧を奪えない。そして学院の当直が油断
しきっていて、夜には番をせず寝てしまう事も分からない。宝物庫の場所も壁の強度も、
です。
でも知っていたから斧を奪えた。堂々と学院の壁を壊して『破壊の壷』を奪えた。
つまり、フーケは学院にも王宮にもいた人物です」
ロングビルは、口元だけで笑うのを止めた。
変わりに、手を胸元へ伸ばした。自分の杖へと。
それでもヤンは平静を保ったまま、動こうとしない。動かすのは口ばかり。
「学院にいた人物で斧の行方を、王宮の部屋の中で所有者の移転を正確に知る事が出来た
人物は3人だけ。僕と、ルイズと、頼んでもいないのに城までついてきた君だよ…ミス・
ロングビルこと、『土くれのフーケ』さん」
フーケの杖が、真っ直ぐにヤンへ向いている。
ヤンを見据える眼に、一点の迷いも容赦もない。
それでもヤンは、全く動じる様子がなかった。杖が眼に映っていないかのように、淡々
と口を開く。
「もう、反論はしないのかい?他に『複数犯』とか、『以前学院で働いてたけど、今は王
宮で働いてる』可能性とか…まぁ、低い可能性なんだけどね」
「やかましい!ああ、そうさ・・・あたしが『土くれのフーケ』さ!さぁ、さっさと本題
にはいろうじゃないかっ!」
秘書は知的な顔を醜く歪ませ、忌々しげに毒づいた。
「んじゃ、そんなワケで、あなたがフーケだと判明した所で…素直に壷と、ついでに斧を
返して欲しいんだ」
「イヤだ…と言ったら?」
殺意を含んだ微笑みが、端正な女の顔を歪める。
「その時は、しょうがないので」
ヤンは、フーケの眼を見据えながら、堂々と宣言した。
「追わないから逃げていいよ」
「はあっ!?」
フーケは、大きく口が開いたまま、閉じる事が出来ない。
もう一度、よーくヤンの眼を真っ直ぐ見た。
だが、どうみても冗談を言っているように見えない。
飄々としながら支援
417 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:07:25 ID:LdE2OZNt
「お、追わないから、逃げろって…あんた、真面目に言ってるのかい!?」
「もちろん。だって、よく考えてごらん。僕が君を死闘の末に捕まえて、壷と斧を取り戻
して、何の得があるのか」
「は、はぁ!?いや、何の得って・・・」
フーケは真剣に考えた。ヤンが自分を掴まえて、どんな利益が得られるか。
何か自分が見落としている事があるのかと、必死で考えた。
「そりゃ、王宮から報奨金が出て、名誉と名声を得て、それから…壷はどうすんだよ!?
危険なモノだからって、わざわざこうして返してもらいにきたんだろう!?それと斧だっ
て、あの値打ちモノを、まだあたしが持ってるんだよ?」
そんなフーケの困惑とは裏腹に、ヤンは落ち着いてゆっくりと答えた。
「報奨金も名誉も、僕には届かないのさ。何しろ僕はルイズのツカイマだからね。どっち
もルイズのものになるんだよ。
そして僕は、あの子が嫌いじゃないんだけど、あの子の金と名誉なんかのために君と命
がけで戦う事はないよ。命を助けてくれた恩はあるんだけど、治療費は君の言ったとおり
倍返ししたし、ヴァリエール家の三女様に今以上のお金は必要ない。
何より僕は平民なので、貴族の名誉なんか興味ない。というか、僕自身が名誉ってやつ
に意義を感じないんだ」
ハルケギニアの常識を丸めてゴミ箱に捨てるかのようなヤンの言葉。
フーケは二の句が継げない。杖を持つ手の力まで抜けて、下を向いてしまう。
継げたのはヤンの方。
「斧なんだけど、あれは君も知っての通り、王宮に売ったんだ。もう僕の物じゃない、だ
から知らない。王宮が代金を支払わないかも知れないけど、支払うにしても受け取るのは
公爵家。僕には小分けにして、月々に給金の如く支払われる事になっていたんだ。つまり
本当に払うかどうか、公爵の気分次第ってわけだ。残念だけど平民の立場では、これに文
句を言う事はできない。
確かに給料は魅力だね。でも、命をかけてまで、とは思わないよ。むしろ、給金欲しさ
にヴァリエール家へ縛られる方が、僕にとっては問題さ。それに、既に伯爵からまとまっ
た金を受け取ったしね。
それにあれは、壷と違って危険物じゃないんだ。せいぜい売るなりなんなり好きにする
と良いよ。
あ、言っとくけど。あれの加工方法は僕に聞いても無駄だよ。あれは『絶対壊れない』
ことが必須の条件で作られた武器なんだ。戦場で敵と切り結んでいる時に、手持ちの武器
が壊れました、なんて笑えないからね。
『錬金』で別の物質にすれば別だけど、多分よっぽど気をつけてやらないと、斧がダイ
ヤごとパーになっちゃうから、気をつけてね」
もはやニコニコと楽しそうに語っているヤン。
フーケは、力がヘナヘナと抜けていく。
「そして、肝心の壷なんだけどね。あれ、さっきも言ったとおり、とっても危険な物なん
だ…使ったら、ね。
でも、当然ながら、そんな危険な物がうっかり間違って使用されたりしたら、誰だって
困る。だから絶対間違って使われないよう、厳重な安全装置がかけられているんだ。だか
ら、普通の人には使えない。事実、あれは誰も使用方法が分からず飾られていただけだっ
たろ。
では、もし誰かが何かの拍子に偶然使ってしまったら?その時は使用者、つまり君が、
周囲の物全てを巻き込んで消し飛ぶ。
つまり、君はあの壷を売る事は出来ない。危なくて触る事も出来ない。持ってるだけ無
駄な物になったね」
フーケはヤンに向けていた腕をダランと下げてしまう。
「じゃ、じゃあ…あんたは、何しにここへあたしを呼んだんだい!?」
「君のためだよ。危ないから壷を不用意に触るなって忠告に来たんだ」
顎までダランと下がってしまう。
しえん
419 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:10:59 ID:LdE2OZNt
「と、言うわけで。伝える事は伝えたから、君は逃げて良いよ。僕は追わないし他言もし
ない。斧があれば収穫は十分だろ?」
ヤンはベレー帽を被り直し、フーケの横を通り過ぎて学院の門へ向けて歩き出した。
だが、ヤンの背から地面を踏みしめる音がする。
「…待ちなよ」
フーケの声に、ヤンは歩みを止めた。肩越しに彼女を見る。
そこには気合いを入れ直し、杖をヤンに向けるフーケがいる。
「まだ、何か納得出来ないかな?」
「出来ないね」
「ふむ、何かな?」
「二つ、納得出来ない。
一つは、壷の使い方をあんたから聞き出せば、壷を売れるって事。
そしてもう一つは、あたしの正体を知った人間を、生かしてはおけないってことさ!」
立ち直ったフーケは、殺意を込めてヤンに杖を向けている。
だがそれでも、ヤンはフーケに背を向けたままだ。
「口は固いつもりだけど、信用してはもらえないかい?」
「人間ってのは、気が変わる事もあるからねぇ」
ヤンは聞き分けの悪い子供を躾けているかのように、腕組みして困った顔を向けた。
「ちなみに…壷の使い方を聞いた、その後は?」
聞かれたフーケは、うぐっと小さく呻いた。
ヤンは溜め息混じりに、フーケの代わりに答えた。
「やっぱり、殺すしかないよね?じゃ、しゃべっても僕に得はないなぁ」
「…だったら、あんた、今あたしに殺されるって分かってるって事だよね?」
今度こそフーケは笑った。殺意を込めて、優越感と共に。
ヤンは半身だけフーケに向き直る。
そして、今度は冷然と、たしなめるように言い放った。
「そして、僕の死体が発見される。もしくは失踪。メイド達の証言から、いなくなる僕と
直前まで会っていたはずのミス・ロングビルも失踪。
立て続けに発生したフーケによるヴァリエール家周辺での犯行。
さて、僕と同じ推理をした人が、君の人相書きをハルケギニア中に張り出すのに、どれ
くらいの時間が必要かな?」
フーケの腕が、またも力なく垂れ下がってしまう。
「それでも殺したいのなら相手をするけど…あの斧を生み出す程の技術で作られた銃。そ
の目で威力を確かめてみるかい?」
ヤンの右手がジャンパーの左胸へ、ビーム銃へと伸びる。
フーケは、腰が抜けた。無様にへたり込んでしまった。
ヤンは、悠然と彼女を見下ろしている。
そして、彼女に歩み寄り
笑顔で手を差し伸べた。
「壷と斧、返してくれるかな?」
フーケは、力なくコクコクと頭を上下させた。
ヤンは彼女の手を取り、優しく立ち上がらせる。
ファイエル!
やるな、提督。支援
422 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:15:07 ID:LdE2OZNt
ヤンが鼻歌交じりに学院へ歩くのを、フーケことロングビルはトボトボついてくる。
「ねぇ、あんたさぁ」
「うん、なんだい?」
俯いて上目遣いにヤンを見つめるロングビル。
「こんな手間のかかる危険な事しなくったって、あんたなら楽にあたしを捕まえられたん
じゃないのかい?」
「うーん、楽に捕まえるのは、さすがに無理だと思うんだけど。でもね」
ヤンは振り返り、軽くウインクした。
「あの斧の存在を教えてくれたお礼に、助けてあげるよ」
はあぁ〜…と大きな溜め息をつき、肩を落としてしまった。
学院に戻る間、ヤンはロングビルに何をする気だったか尋ねた。そして彼女の
――『近所の農民に聞き込んで、フーケの居所が分かった。徒歩で半日、馬で4時間の場
所にある森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たとの事。彼はフーケで、廃
屋はフーケの隠れ家だ』と嘘の報告をしてヤンを連れ出し、ゴーレムで襲わせたりして壷
の使い方を知るつもりだった――
という話を聞いた。
即座にヤンは、なんで黒ずくめのローブの男が正体不明のフーケだと断定出来るのか、
馬で4時間の距離からの情報を朝一番に手に入れてくるのは無理がありすぎる、等のダメ
だしをしてしまう。
ロングビルは、ますますションボリしてしまうのだった。
そんなこんなで、森の奥にやって来たのはフーケ捜索隊ご一行の荷馬車。
御者のロングビル。荷台にはルイズ・ヤン・キュルケ・タバサ。
ノンビリ無駄話をしながら廃屋へと向かっている。
宝物庫に戻った二人は、ロングビルの作り話を少々手直しして教師達に告げた。それは
『以前から正体不明のメイジが出入りしている廃屋がある、と農民達が話しているのを耳
にした事がある。その周辺で巨大なゴーレムの目撃されたという噂もあった。試しに調べ
に行ってみないか?』
という、非常に曖昧なものだ。
そんないい加減な情報では動けない、と言う内心怖いからフーケに出会いたくない教師
達。代わりに、フーケを必ず捕まえると勇ましく杖を掲げるルイズ、ヴァリエールには負
けられないというキュルケ、心配の一言で付いてくるタバサ、そしてヤンとロングビルが
行く事になったのだった。
教師達も、まさかフーケと鉢合わせするとか『破壊の壷』と斧が見つかるなんて上手い
話はないだろう、と判断して許可した。
何のトラブルもなく森の廃屋に到着。
あっけなく廃屋の中で見つかる『破壊の壷』とローゼンリッターの斧。
事情を知らない生徒3人は、こんなんでいいのかー!と納得出来ない様子だ。
ヤンはすぐに『破壊の壷』へと駆け寄り、状態を確認した。
金属の壷の表面には、銀河帝国軍章である翼を広げた双頭の鷲が描かれている。
他にも帝国の公用語で、様々な警告文や注意書き等が記されていた。
そして、壷の上にあるバルブや安全装置の電子ロック、メーターを調べる。
支援
しょんぼりロングビルを支援。
425 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:18:09 ID:LdE2OZNt
そんなヤンの姿に、他の女性4人は興味を隠せない。
ロングビルが、こわごわと後ろから声をかけた。
「ね、ねぇ…大丈夫なの?それ、一体何なのですか?」
ヤンは答えず、すっくと立ち上がった。そして
ゴンッ!
と金属の壷を叩いた。
とたんに首をすくめて身をかがめるロングビル。他の3人は何をしてるのだか、さっぱ
り分からない。
「ぷ…くくくっく…あは、あははっはははっ!」
突然ヤンが、腹を抱えて爆笑し始めた。
女性達は、一体何なのか全く分からず、顔を見合わせてしまう。
ロングビルが、今度は少し怒って声を上げた。
「ちょっと、いい加減教えて下さいな!それは、一体何なのですか!?」
ようやく笑いが収まったヤンは、壷をペチペチ叩きながら説明を始めた。
「いやぁ、ゴメンゴメン。
これはね、僕の国ではタンクって呼ばれていてね。中に気体を詰める物なんだ。例えば、
今僕らが吸ってる空気とか、戦場で使う毒ガスとか、ね」
毒ガス、と聞いて4人の表情がこわばる。
だがヤンの顔は、いまだに大笑いの余韻をひいた笑顔のままだ。
「ああ、でもこのタンクに入っていたのは、どちらでもないよ。この表面に書かれている
のは、入っていた気体の名前と取り扱いの際の注意書きさ。
入っていた気体の名前は、予想通りゼッフル粒子。早い話が、気体状の火の秘薬…爆薬
だよ。これはゼッフル粒子発生装置なんだ」
爆薬、と聞かされても4人には何のことだか分からない。彼等には火の秘薬とは、硫黄
や火薬のような物しか思いつかないのだから。
イマイチ話が見えないルイズが、胡散臭そうにヤンに尋ねた。
「空気が…爆発するって言うの?」
「あーと、空気が爆発するって言うより、そうだなぁ、火薬を目に見えないほどの粉に磨
り潰して風に乗せる、と言ったらわかるかな?」
顎に手を当ててヤンの言葉を理解しようとしているキュルケも尋ねる。
「まぁ、あなたの国にそう言う物があるとして、それってどれくらいの威力があるの?」
聞かれたヤンは大げさに両手を広げる。
「この中のゼッフル粒子を一気に撒いたら、この森を一瞬で灰に出来るよ」
ヤンの言葉に、全員目が丸くなる。
今度は、今までずっと黙っていたタバサが口を開いた。
「どうして、笑ってた?」
「簡単な事さ!これはねぇ」
ヤンは笑いをこらえながら、再びタンクをゴンッと叩いた。
「空っぽなんだよっ!」
女性達は、今度は眼だけでなく口まで丸く開きっぱなしだ。
「このタンクの内圧メーター、ゼロを指してるよ!ついでに言うと安全装置は解除されて
て、バルブ…ああ、栓のことだけどね、これが開きっぱなしになってた。
つまり、とっくの昔にこのタンクの中のゼッフル粒子は全部漏れてしまっていたんだ。
今やこのタンクは、いやずっと前から、ただの鉄の壷なんだ!」
ロングビルが、ガックリ肩を落とした。
彼女の魔法学院に潜入するためのあらゆる努力は、学院長のセクハラに耐えた毎日は、
全てが無駄だったのだ。
支援します
がっかり支援
428 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:20:09 ID:LdE2OZNt
「トリステイン魔法学院は、この鉄くずを秘宝と言って崇め奉っていたわけさ!」
うららかな午後の森に、ヤンの大爆笑が響き渡るのであった。
夕暮れの学院に5人を乗せた荷馬車は学院へ帰還した。
学院長室で、オスマンとコルベールは報告を聞き、『破壊の壷』改め空のゼッフル粒子
発生装置を受け取った。オスマンは一応全員の無事とタンクの奪還を喜びはした。だが、
とうの昔に空っぽだったという事実は、相当にショックだったようだ。
「まあ、フーケは取り逃がしたが、盗まれた物は戻ってきたんじゃ。良しとするしかない
のぉ…。
さて、ともかく今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ!予定通り行うぞい」
舞踏会と聞いて顔を輝かせた生徒達は、オスマンに礼をして出て行こうとした。だが、
退室しようとしないヤンの姿に気が付いた。
「ああ、私は学院長と少し話があるんです」
少し心配そうな顔をしたルイズだが、頷いて部屋を出て行った。
ワクワクといった顔でヤンの話を聞こうとしていたコルベールと、意気消沈したロング
ビルは、学院長に退室を促されて出て行った。コルベールはかなり渋々だったが。
「さて、何か私に聞きたいことがおありのようじゃな」
ヤンは頷いた。
「前置きは止めましょう。あれをどこで手に入れましたか?」
オスマンは、溜め息と共に語り出した。
「あれは、私の命の恩人の遺品なんじゃ。
30年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、
あの壷の持ち主じゃ。その人は壷の口らしきモノをワイバーンに向けたんじゃ。すると大
爆発が起こり、ワイバーンは粉々になってしもうた!だからあれは『破壊の壷』と命名し
たんじゃ。
だが彼は、怪我をしておってのぉ。その場でパッタリたおれてしまった。学院で手厚く
看護したんじゃが、その甲斐無く死んでしもうた。以後、あの壷は恩人の形見として宝物
庫に置いていたんじゃ」
「そうですか…恩人の形見だったんですか」
ヤンは大爆笑した非礼を心の中で詫びた。
同時に、なぜバルブが開きっぱなしでタンクが空になっていたのかも理解した。オスマ
ンを救うためにゼッフル粒子をワイバーンに吹きかけたものの、怪我をして倒れたために
バルブをキチンと閉め直す事ができなかったのだ。
ゼッフル粒子は可燃性だが、少々の火花では引火しない。 レーザーやビーム砲くらい
の温度でないと発火しないのだ。オスマンを助けた時はワイバーンがブレスを放ったか、
負傷した帝国軍兵士が銃を撃ったかしたのだろう。
あとは火種が無いので、粒子は虚しく垂れ流され続け、大気の中に飛散していったわけ
だ。
遠い目でオスマンは語り続けた。
「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。『ここはどこだ。ど
この星なんだ。オーディンへ帰りたい』とな。オーディンというのは、君の国の地名なの
かね?」
「いえ、隣の国の首都ですよ。それで、その人はどうやってこの国へ来たんですか?」
「それは分からん。彼がどんな方法でやって来たのか、最後までわからんかったよ」
「そう、ですか」
429 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:22:23 ID:LdE2OZNt
ヤンは、少しがっかりした表情ではあった。だがそれほどのショックを受けていない事
に、オスマンは僅かな疑念を感じた。
「その、君は、元の国に帰りたいんじゃないのかね?」
「ええ、それはもちろん。ですが、自力では不可能ですよ。助けが来れば良いんですが」
ヤンの言葉を聞き、オスマンは躊躇しながらも尋ねた。
「それで、その…救助が来る見込みは、あるのかね?」
「ええ、もちろんあります。何しろ、私以外にもこの世界へやって来た人物がいる事が分
かったんですから。
どうやらハルケギニアと私の国は、意外と近い位置にあるかもしれない、ということで
す。見込みは十分ですよ」
「そ、そうかね…」
ヤンの言葉を聞いたオスマンの頬に、汗が一筋流れてしまう。さして暑くもないのに。
誤魔化すようにオスマンはヤンの左手を見た。
「ところで、お主の左手のルーンなんじゃが」
「ああ、これですか。これが、何か?」
ヤンも自分の左手に刻まれたルーンを見つめる。
「それはガンダールヴと言って、伝説の使い魔の印なんじゃ」
「伝説の使い魔?」
「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ。何か
思い当たる節はないかの?」
「いえ、別に」
ヤンは肩をすくめてとぼけてみせる。
正直、ルーンの情報は欲しい。だが、自分の切り札になりうるものを気軽に晒すほど、
彼は不用意な人間ではなかった。
オスマンはオッホンと咳をする。
「まぁともかくお主が、人間が召喚された理由とか、帰る手段とか、私なりに調べるつも
りじゃ」
「ええ、よろしくお願いします」
ヤンは一礼して学院長室を後にした。
ヤンが閉じた扉を見つめる学院長は、頭を抱えてしまった。
「はぁ…何が『いえ、別に』じゃ。コルベール君から銃に触れたらルーンが光る事は聞い
ておるわい。とはいえ彼に、我々を信頼してくれ、など言えた義理ではないからのぉ」
オスマンは、どちらかというと悪人ではない。
セクハラが酷いエロじじいだが、教育者としての自覚と誇りもある。
だからこそ、己の未熟と偏見による失敗にも気付き、反省出来る。
学院長は必死に、彼が抱いているであろう貴族やメイジへの不信と嫌悪を溶かす方法を
考えていた。だが、ヤンのルーンを消さなければヤンは納得しないだろう。それはミス・
ヴァリエールのメイジとしての地位と相反する選択だ。他に次善の策を考えてみるが、そ
れらは即ちハルケギニアの貴族制度を、ゲルマニアのごとく突き崩すようなものになって
しまう。
「新しい時代が来るという事か…」
自分が旧時代の遺物であることを思い知らされ、天を仰いでしまうのだった。
その日の夜。舞踏会は予定通り開かれた。
アルヴィーズの食堂の上の階がホールになっていて、『フリッグの舞踏会』はそこで開
かれている。楽団のバロック音楽に似た演奏に合わせて、きらびやかに着飾った若い貴族
達が、優雅に手を取り合って踊っていることだろう。
だが、そこにヤンの姿は無かった。
空じゃなければ後々使い道があったろうに支援
431 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:24:44 ID:LdE2OZNt
「おーい、ヤン。これも洗っといてくれ」
「はーい。そこ置いといてください」
厨房で、ヤンは運ばれてきたグラスや皿を洗っていた。
遠くから舞踏会の音楽が届いてくるが、彼は全然意に介していなかった。
「おーい、ヤンよ」
傍らから声がする。
彼の横に立てかけられていたのはデルフリンガーだ。
「おめー、舞踏会に行かなくていいのか?」
「ダンスは下手なんだ。第一、僕は貴族でもないよ」
「ま、そりゃそーだわな・・・はあ、せっかく出会えた『使い手』が、こーんな冴えない
ヤツだとはねぇ」
「残念だったね。まぁ、仕事のあとで『使い手』って何の事か教えてもらうさ」
そんな無駄口を叩きつつ、ヤンはノンビリとナイフやフォークを洗っていく。
その周囲では、平民のメイドやコック達がトレイを運んだりケーキを盛りつけたりして
いる。
「あ、シエスタさーん!グラス洗い終わりましたよー」
「はーい。あ、ヤンさん。入り口で呼ばれてましたよ」
「ん?」
厨房の入り口を見ると、黒のドレスを着て長い緑の髪を髪飾りで頭上にまとめたロング
ビルが立っていた。
本塔下の広場。
見上げれば舞踏会場の光がテラスから漏れてくる。
ロングビルはヤンを広場の真ん中へ連れてきた。舞踏会場を見上げながら、ヤンに背を
向けている。
先に口を開いたのは、ヤンの方だ。
「どうして未だに学院にいるんです?もうここに用はないでしょ。ここにいると、学院長
のセクハラに耐える毎日ですよ」
それほど派手ではないが上品な髪飾りをつけた髪が僅かに揺れる。
「…あんたのことだ、分かってて言ってンだろ?今、あたしが学院から消えれば、フーケ
との関連性を疑うヤツが現れるって」
「まぁ、ね」
誤魔化すように頭をかくヤン。
ロングビルは肩越しに振り返り、チラリとヤンへ視線を送る。
「そんなわけで、ほとぼりが冷めるまでジジイのセクハラにも耐えなきゃならない。だか
らしばらくは、あんたとも仲良くしておかなきゃあ…て思ったわけさ」
「…舞踏会へのお誘いなら断るよ。僕は、ルイズや君たちメイジに敵意や悪意は持ってい
ない。でも、貴族制度に甘んじる気はない。
ま、必要な時や使える時は利用させてもらうけどね」
ヤンの言葉を聞いて、ロングビルはクスクスと笑い出した。
今までの事務的な物とは違う、朝方のような悪意剥き出しのものでもなく、心からの素
直な、ゆえに影を含む笑顔で。
「あたしも同じさ。あたしゃ、貴族や王族ってヤツが大嫌いなのさ。詳しくは言いたくな
いけどね。
だから狙いは貴族だけ、メイジの魔力の象徴であるマジックアイテムだけなのさ」
ひとしきり心の底から笑ったロングビル。
笑いが収まると、ヤンに向けて腕を伸ばした。
細くしなやかな白い腕を差し出されたヤンだが、恥ずかしげにモジモジしてしまう。
「どうしたんだい?将軍様ともあろうお方が、ダンスの一つも出来ないってか?」
「いや、その、実は…うん。凄く下手なんだ。多分、君の足を踏みまくってしまうよ」
赤くなって俯くヤンをみて、今度は腹を抱えて爆笑してしまう。
「きったはったでタマの取り合いしてるあたしらが、足くらい気にしてどうするよ!ほら
さっさと来な!」
そういうやロングビルはヤンの腕を強引に掴む。
頭上から流れてくる音楽に合わせて、無理矢理ヤンを振り回すようにダンスを始めた。
支援
ルイズ以外と踊る作品は初めてじゃね?支援
434 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:27:07 ID:LdE2OZNt
広場の中、ロングビルはヤンに足を何度も踏まれながらも、楽しげに踊っていた。
ヤンは大汗をかいて必死だったが。
そんな彼等を、厨房の入り口から眺める人たちがいる。
シエスタやローラといったメイド達だ。シエスタに抱えられたデルフリンガーもいる。
「あーら、あの二人、仲良くやってるじゃないか。シエスタぁ〜、あんたもうかうかして
られないねー」
「な!何よローラったら!あたしは別に何とも無いわよ!あんな冴えないオジサン、全然
眼中に無いんだから」
シエスタは真赤になって否定するが、周囲のメイドがキャイキャイとからかい続ける。
そのシエスタに抱かれたデルフリンガーは、ぼやきが止まらない。
「はぁ…なんて情けねぇ使い魔なんだ。こりゃ、武器屋でくすぶってた方がマシだったか
もしんねぇや」
テラスからも、ルイズとキュルケが広場で踊る二人を見下ろしていた。
「むぅ〜、何よヤンったら!舞踏会に来ないと思ったら、主ほったらかしてロングビルと
遊んでるだなんて!」
ルイズは長い桃色掛かった髪をバレッタでまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を
包んでいる。肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さをいやになるぐらい演出し、胸元の開
いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせている。
が…口にしているセリフもプリプリ顔を赤くして怒る姿も、演出では隠せなかった。
キュルケがルイズをニヤニヤとからかう。
「ふっふーん♪いいのかしらぁルイズぅ〜。このままほっといたら、あんたの大事な使い
魔、あの秘書さんに取られちゃうかもよぉ〜」
「なっ!何よそれは!そんなの、あたしの知った事じゃないわよ!」
そう叫んでキュルケに背を向けるルイズ。腕組みしながら広場から視線をそらすが、だ
んだん肩が震えてくる。
「…で、でも、メイジとして、自分の使い魔が、他のメイジにギャクタイされてるのは、
見過ごせないわよね」
小声で呟くと、ドスドスと足音を響かせてテラスを後にする。
「ホントにそれだけなんだかんね!」
最後に一言強がりを残して。
ほどなくして、楽団のゆったりとした音楽が流れる広場では、ロングビルとルイズがヤ
ンの腕を引っ張り合いし始め、それをシエスタが割って入って止めようとする姿がみられ
た。
第6話 ロングビルの都合 END
支援
魅力的なロングビルを支援。
投下乙でした
ロングビルフラグ?w
438 :
ゼロな提督6:2008/03/07(金) 19:32:10 ID:LdE2OZNt
以上、今回書き上げ分の投下終了です
本当は、もう少し間を開けたかったんですが・・・
「なぜヤンがこんなに早くフーケを見抜いたか」を本編投下より早く書き込まれては…
その、なんというか、あれだ
困る
推理物の作者の恐怖が少し分かってしまったorz
GJ&乙でした。おマチさんかわええw
>>438 GJでした。
読み手はネタバレ推理自重しろということですな。
少佐乙w
まぁ考えたらある程度わかるしな。
ところでこのスレによく書かれる理想郷ってどこのこと?
>>俯いて上目遣いにヤンを見つめるロングビル
かわえぇwGJ!
今まで読んだ銀英伝二次創作の中でも最高クラスに「ヤン・ウェンリー」しているヤンを
まさかゼロ魔クロスで読む日がこようとはw
GJ!!ww
446 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/07(金) 20:19:05 ID:SOzZUWCw
使い魔のルーンの影響で俺の体はボロボロだあ!
ダデャーナザァン…
GJだが、これが嫁にでもばれようものならヤンの命が((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル
ヤンはおじさんだから気にしない
>>450 歳同じくらいじゃないっけ?>ヤン・フーケ
>>450 生理がきてないくらいじゃなかったか?
シュヴルーズと共に更年期障害に悩むそんなSSを読んだ記憶からだけど
ヤンは33歳(享年)
フーケは23歳(自称)
ヤンの嫁さんフレデリカは26歳
皆要らないようなのでおマチ姉さんは私がいただいて行きますね
提督GJ
丁寧なあなたの作品がすきなんだぜ
>>442 真面目に聞くが、お前・・・分かったか?
他の人はどうよ。第6話見る前に、謎解けたか?
それこそジッチャンの名に賭けて、真実はいつも一つと言えたか?
まぁ、普通の人は、謎解きを自分でする前に第6話を読んでしまうだろうけど
ヤンて俺の親父よりおっさんなのなw
>>454 俺からするとばばあだな
ゆとり世代乙
そんな年齢から2chとは将来有望な…
ゆとりってレベルじゃねーぞ('A`)
27ぐらいまでだったら全然オーケーだ。
フーケ顔はかわいいじゃん。
ID:w7wFLb77
>>464 駄目じゃないか、皆初心者を生温かい目で見守っていてあげたのにそういうことしちゃ
毒ガスと聞いてルイズ達がびびっていたが、毒ガスの概念あるんだろうか?
理論上、空気中の窒素や酸素を有害な気体に錬金する魔法が考えられるが…
土のメイジが空気を錬金、風のメイジが風向きを調整すれば…
美人なら何歳でも良いよ。
土×風でぽいずんくらうどとか
熟女スキーな私はキャゼルヌ婦人萌え、娘のシャルロットも俺の嫁。
眠りの雲という魔法が使われた事がなかった?
確か空賊がワルドのグリフォン眠らせたとき。
アレみたいに、「空気中を漂う毒」という意味でなら
いくらでもありそう。
というか、他にもいろいろ・・・
むしろ俺の好きな二次キャラって実年齢がひどいことになってるのが大杉。
50年たってもロリな某枯れない桜の島の魔女とか
1000年ループしまくってる某女王感染者とか
万年雪の村に推定数百年住んでる龍神の巫女とか……
>>467 何そのされ竜。あれは変換じゃなくて生成してるけど。
サリンガスが主武器の主人公……
ともあれ、そろそろ銀英伝世界の情勢の幕間が見たい。
ヤン死亡確定でない世界。一体どこの誰が拉致ったのかでみな疑心暗鬼で手が出せない?
竜が毒の息吐くとか瘴気が吹き出す沼とか伝承にはこと欠かないと思う。
ガスはフレキシブルに。
>>467 眠りの雲の魔法があるし、吸うと有害な気体があることぐらいは知ってるんじゃね?
それはそれとして、提督の人GJでした。ゼロ魔世界にいるアニメ版のヤンが違和感無く想像できました。
火山や鉱山とかも有毒ガスの宝庫だしな
SS書きたくなったけど、未経験者は投下すんな、とか無い?
>>478 誰でも最初は初心者だ
ゼロな提督の作者だって、初めての時はあったろう
問題は、壁を乗り越える勇気の有無だ
どこぞの火山で天然の毒ガスとか出るんじゃない?
>未経験者は投下すんな、とか無い?
こういうことを聞かなくても理解できるようになってから、が正しく思える。
>>478 するなと言う権利はスレ住人には無いし、投下する権利が君にはある。
もっとも書いてから何度も読み直し推敲して納得してから投下すべきだと思う。
あと召喚キャラは事前に宣言した方がいいね。
>>479 んな事はないけど、少なくともいきなり長編を書いたりとかはしない方がいい
絶対に途中で投げ出す
最初は短めの小ネタくらいにしとくと吉
つーか、いきなり2ちゃんのスレに投下するより、外部のSS投稿サイトでも自分で探して
そこで多少腕を磨いてからの方がいいかもしんない
仕事から帰って、「ゼロの提督」5・6を一気読みした。筆者の方へ感謝!
やはり秘宝を盗む手段としてダイヤの斧を利用しましたか。確かに彼女にとって、
あの斧の出現は「渡りに船」だったかもしれませんね。
それにしても、学院長を救って異郷の土と化した帝国軍人や哀れ・・・ヤンにと
っても、異世界に飛ばされた今の境遇からすれば、敵国人である以前に、同じ世界
から来た「同胞」としての意識の方を強く彼に抱くでしょうね(せめて彼の墓前に
花の一輪でも手向けるヤンの姿があの世界であった、と想像してみたいです)。
なあ。いぬかみっとのクロスをしこしこ書いてるものなんだが。
投下に当たって問題が一つ。
しばらくゼロの世界すら出ねえくらいいぬかみ世界のほうが長く。
どうしたもんだろう。
>>487 うお!
それいいシーンだ!
学院長が見取ったのなら墓も近くにあるだろうし、作者の方、
ぜひともそのシーン入れてください、無理を承知でお願いしますm(_ _)m
とりあえず、投下するかはおいといて文章におこしてみることにします
>>488 まずは避難所に投下してみてはいかがだろうか?
>>488 とりあえずここでやると荒れる原因になると思う。
やるなら避難所、加えて投下して良いかどうか聞いてからって感じでやるほうが無難だと思う
>>488 つ【避難所】
内容次第だけど、取りあえず向こうの方が無難な気がする
削れるシーンは削ってみるってのも手だ。
文章の簡略化は小ネタじゃ必須。長編書くにもあって邪魔な技能じゃないし。
>>488 あんまり揚げ足を取るようで申し訳ないが……。
>しばらくゼロの世界すら出ねえくらいいぬかみ世界のほうが長く。
これはいぬかみの世界がやたら長く続くと言う意味でよいのだろうか?
脳内補完出来るような誤字・脱字はまあいいが、本文では気をつけた方がいいと思うよ。
う〜〜ん、ここにあげるために書いたのだから本末転倒、
になってましたか。わかりました、まずは先のほう削ってみます。
それで、第1話でまずは啓太のぞうさんを出せるようがんばります!
銀英伝が気になりビデオを全部中古で買って見てるが止まらねぇw
ってかなげぇなこれ
>>497 ははは原作の異様な巻数に絶望するがいい。俺みたいに。
創元SFで集めてるが最終巻はいつ出るのやら。
銀英ならCSで見たほうが安くないか
それかネット配信か
>>401 回想モードじゃなくて
ゲームのセーブデータを取っておいてその日に備えているから問題ない
と思いきや、
またふら〜っと最初のほうからプレイしてしまったりして全然意味無しだったり\(^o^)/
オートは全く使わないので分からんが、
俺もカットインが邪魔だと思う時がある。
凌辱カットよりカットインカット機能が欲しい。
これで満足か?
俺のブラウザは死んだ方がいいな・・・
.hack//G.U.の八相を召喚しないかい?
>>496 楽しみにしてる
>>502 それなんてギガンティッ(ターン
……暫くあの作者さんも見ないなぁ。続き待ってるのに。
>>502 かつてぴろし3を召喚したが、
あれはぶっ飛んだ人だったから書きやすかった。
八相みたいな人は難しい気がする。
でもハセヲを召喚しようかと思ったことがある。
デルを装備して武器が5種になってしまうというねw
すいません、第2話出来たので予約が無いなら
35分くらいから投下してもいいでしょうか?
支援
投下か?よろしいならば支援だ
支援。その次が空いているならば投下予約させていただきたい。
第2話です、1話は没になったので第2話からです(涙)
参考資料
ttp://www.youtube.com/watch?v=2YsEEp853Gg 川平啓太。歳は18歳、身長178センチに茶色の髪、
光の加減によっては緑にも見える日本人には珍しい色合いの目を持ち、
雰囲気はどこかいたずら小僧を思わせる。犬神使い川平家直系の少年である。
犬神使いとは犬神という人妖を使役する者を指す。方術を身に着け、
夜の闇に巣食う悪霊妖怪を調服するのを生業としている。
こう見えても独立してすでに5年目。基礎霊力は1年以上前ですら890、
今はどれくらいになっているのやら、というエリート中のエリートである。
そんな彼の朝はいつも修羅場である。
複数の女の子達が啓太の気を引こうと争い、暴力沙汰になることも珍しくない。
今日も今日とて、彼の住む洋館では、修羅場が始まっていた。
「ふっふふふ! お退きなさい、偽高校生! 啓太君は私の車で学校に行くのよ!」
驚くほど見事な真っ白い長髪。金と銀で細工された大きな蝶の髪飾りをつけた
十六、十七才ほどの鮮やかな印象の美少女が、啓太の通う高校の
セーラー服姿で大見得を切った。
「あのな、時子。勝手に決め付けるなよ!」
赤道時子に、啓太が突っ込んだ。
「ほーっほっほっっほっほ!! 川平君はあなたと一緒に行きたくないそうよ、変態!」
新堂ケイが、あくまでも優雅に赤道時子に喧嘩を売り返す。
ゆったりと波打った腰まである黒髪、はつらつとした笑顔と整った美貌。
着ているセーラー服はやはり啓太と同じ学校のものだが、裾やスカートを
長く延長する改造をし、レースのリボンや付け襟、付け袖を追加。
どことなくアンティークドールを髣髴とさせる印象の少女だ。
「ほっほう、言うわね、年増! なんなら今すぐ塵も残さず消してあげましょうか!?」
「ああら、いかにも邪悪な魔道師の子孫ね! そんな事したらあなた
邪術師認定されて政府から退治される事になるわよ?」
「なによ、今の法律では不可能犯として罪にならないわ!」
「裏ではそんな事関係無いのくらい知ってるでしょう?
呪殺は昔っから大罪よ。一族にまで累が及ぶような、ね。」
「お〜〜っほっほっほっほっほ! 特命霊的捜査官達なんて怖くありませんことよ!」
恐ろしいほど強い言霊使いの赤道時子の霊圧をこめた凄みに、
新堂ケイはまったく臆せず対抗する。死神に狙われ続け、
3神の試練でも修羅場を潜り抜けたが故の経験が物を言っているのだろうか。
二人の放つ恐ろしいまでの気迫は、あたりの空気を振動させそうなほど怖い。
「ほっほおおおぉぉぉぉう!? 退治に来るのが川平君でも?」
その指摘に、一瞬赤道時子の余裕が崩れる。
「殺された私のために川平君が邪悪な変態魔道師を退治してくれるのね。
あなたは永遠に嫌われ、私を守れなかったと川平君は一生私のことを思ってくれる。
それはそれで素敵だわ。」
「何勝手に私の啓太君をドリーム入れてんのよこの年増! エセ女子高生!」
「お、おい、だから毎朝毎朝こういうのやめろって!」
止める啓太に横から割烹着姿で黒髪の少女が抱きついてしなだれかかる。
「啓太、あんな二人ほっとこ。私が縮地で送ってあげる!」
お尻からは金色の太い尻尾がドロンと生え、ばさばさ振られている。
啓太のいぬかみ筆頭、ようこだ。
いきなりスキンシップを見せ付けられて時子が激昂した。
「離れろいぬっころ! 勝手なまねしたら殺すわよ! 離れなさいったら!」
「そうですわ、ようこさん! それは協定違反ですわ!」
「ああこわいこわい(ぎゅ)」
「む! ああん、わたしもこわい!(ぎゅ)」
そういって新堂ケイが啓太の反対の腕に取りすがる。
「離れなさい新堂ケイ! それ以上私の婚約者に手を出すならぶっ殺しますわよ!」
「誰があんたの婚約者よ!」
「誰がお前の婚約者だ!」
「ていうかケイ、離れなさいよ!」
「呪殺すればいいでしょ、川平君に永遠に嫌われてもいいならね!」
「くっ! 言うわね! でもそれは術を使わなければただの喧嘩ということ!
二人まとめて生皮はいでやりますわ!」
「やるの!?」
「やらいでか!」
「やったろうじゃん!」
怖い。ひたすら怖い毎朝の風景である。
場所は川平光(このSSでの薫の本名。本編14巻ですら仮名のままなのがかわいそう
なので適当につけてみました。すでに公式で出ているなら変更します。情報求む)
の館のリビング。
玄関脇には黒塗りのでかいベンツとリムジンが乗り付けている。
赤道時子と新堂ケイの二人が乗ってきた車だ。
なんとか抜け出した啓太は、リビングの片隅にいた光の隣に退避して愚痴をこぼした。
「うう、光、俺もうやだ、こんな生活。」
「大変だね、啓太さん。」
「なんで毎朝毎朝あいつらは!」
「いつものようにジャンケンで決めるように言ったら?」
「なんかずるをしている奴がいるとかで禁止になったんだそうな。」
いよいよ平和的解決手段のネタがなくなってきた。
どうしたものか。二人は深刻な顔で相談していた。その一方。
川平カオルとせんだん、ごきょうやは、我関せずと朝の紅茶タイムである。
「カオル様、もう一杯いかがですか?」
「ありがとう、せんだん。もらうわ。」
「ごきょうやはいいの?」
「ごめん、ここを読んでから。」
ごきょうやの広げているのは難しい医学書である。電子版も買ってあるのだが、
やはり本の形で読んだほうがいい派なのである。
その後ろにある窓の外をたゆねが走っていく。ロードワークしているようだ。
なぜか背負子にボーっと空を見上げているてんそうを乗せている。
ウェイト代わりだろうか。古城の精霊達も「う〜」「や〜」「た〜」と併走している。
なでしこは河童と一緒に洗い物の最中だ。
いぐさは日経新聞片手にフラノから役に立ちそうな予言を引き出せないか奮闘中。
そこに、収穫してきたばかりの果物を剥いて皿に盛り、いまりとさよかが入ってくる。
が、皿をテーブルの上に置くとそそくさと出て行く。とばっちりを恐れたのだろう。
いまだにようこ、時子、ケイの3人は嫉妬と怒りのオーラを発散しながら口げんか中だ。
と、開きっぱなしになっていたドアから、ツインテールの十二才か十三才くらいの、
溌剌としたかわいい少女が顔と手だけを出し、おいでおいでをする。ともはねだ。
手に持っているのは赤道斎がプレゼントしてくれた白銀のマントである。
啓太は、そ〜〜〜っとリビングを出ようとした。
「「「逃げるな!!」」」
期せずして張り合っていた3人の声がそろった。
「に、逃げるんじゃなくてマント着るだけだ! いいか、20秒以内に
誰なのか平和的に決めろ! さもないと俺はお前ら全員置いて行っちまうぞ!」
そういって部屋を出る啓太。3人はさすがに黙った。
以前この3人で啓太争奪戦(妖力・魔術抜きの肉弾戦)をやって
啓太に大怪我をさせてしまった前科があるのだ。
このマントはその折赤道斎が侘びにといって持ってきたものである。
「これを着ていれば大抵の事はなんとかなる、だから時子を許してやってくれ」と。
故にようこ達は止められない。啓太がこのマントを着るとき。
それはすなわち自分達が暴走して啓太に怪我を負わせかねない。
そう言う状況だと啓太が宣言する事なのだから。
ちなみにこのマントを持って来た時、赤道斎は啓太に“相談”を持ちかけた。
大妖孤が「うちの娘婿は」と、川平啓太をすでに身内であるかのように
自慢していくので大変ストレスを感じている、と。
そして、最初から我が子孫である時子のことを拒絶してくれるな、
と頼んでいったのである。
要するに、ようこ(=大妖孤側)だけひいきしてると暴れたくなるぞという脅しだ。
身を守るアイテムをもらったのはいいものの、吉日市の平和のため、
ひいては日本の平和の為に赤道時子の暴走を甘んじて受け止めねばならなくなったのだ。
かなり割の悪い「プレゼント」であると啓太は思っている。
実はこれを着ていると変態に縁が深くなったり裸にされたりしやすくなる、
という呪いが密かについており、割が悪いどころの騒ぎではないのだが、
啓太はそれを知らない。
さて、廊下に出た啓太ではあるが、ともはねの姿を見てぴくりと眉を上げた。
ともはねの反対側の手には啓太の通学用カバンがあったのである。
しかもともはねは体をマントのように覆う大きな布1枚。その下はすっぽんポンである。
足元にはともはね用の靴や服の入ったとおぼしきリュックがおいてある。
ムジナのマロンがいないが、このリュックの中にいるのだろうか?
なるほどな、と啓太は納得した。啓太は白銀のマントを学生服の上にばさりとはおった。
戦前に使われていた、肘まで位の長さのマントの下に、膝下までの長さのマントが
重ねられているタイプだ。内側の長いマントの両脇部分にはスリットが開いており、
着物を着たまま袖をそこから出せるようになっている形状だ。
啓太は、自分のカバンとともはねのリュックを持つと、10メートルほど
離れたところにある開け放たれた窓に歩み寄った。
どよどよどよ、砂漠の精霊達が廊下をふらふらと並んで飛んでいく。
遅れて部屋を出てきた光が腕時計を見ている。20秒が過ぎるまで、あとわずかだ。
ともはねの姿が、劇的に変化した。小学生程度の背の低い、
胸もお尻も発達していないスルペタな体が、見る見るうちに大きくなり、
白い毛が生えて、体長2メートル以上の巨大な犬の姿になる。犬神の本性だ。
特筆すべきはその尻尾。普通なら1本の尻尾が、二股に裂けかけている。
わずか12歳にて基礎霊力550TI、「紅」「紫刻柱」「影縛り」「縮地」「石化」
と様々な力を身につけた天才振りを証明しているかのようだ。
(ほとんどはまともに使えないが)
しえん
21秒目。リビングの入り口にいた光が小さくバッテンを作ると歩み寄ってくる。
リビングの中からはなにやら物騒な音がし始めている。平和解決は失敗したようだ。
啓太は犬形態になったともはねの背に乗って、窓からから空に飛び立った。
光は、少しでも時間を稼ぐために“啓太のような気配”でその場に残った。
しかし、その程度のごまかしではいかほどの効果も無い。
「啓太!?」
「川平君!?」
「啓太君!?」
「「「にげられた〜〜〜!!!」」」
はるか後ろから、待ちやがれとか待ってちょうだいとか
ともはねが横から掻っ攫った、とかいっている少女達の声が聞こえたが、
そんなのは無視である。ともはねはひたすら速度を上げた。
すぐに時速200キロを突破する。
「ありがとうな、ともはね。お前は本当に役立ってくれるよ。」
「そんな。私は啓太様の犬神ですから当然です!」
うれしそうに答えるともはね。
ともはねの耳にはカエルの形をしたヒスイをはめ込まれたイヤリングが。
啓太の耳には熊さんイヤリングが光っている。
ともはねは、光との契約を解消し、啓太と契約を結び直したのだ。
ようこも反対しなかった。それに力を得たのか、たゆねやごきょうや、
ふらのまで啓太との再契約を持ちかけてきたのだが、ようこの大反対で
今のところ保留となっている。時間の問題、という気もしているが。
光とカオルを含めた3人に、新たに契約してくれと押しかけてきている犬神たちも多い。
「それに、啓太様を送った帰りに薬草採取に行くつもりなんです。
そのついでなんですよ。道具もリュックに入ってるんですよ?」
「PSPや移植シャベルかい?」
「ええ!」
二人は楽しく会話しながら、順調に高校目指して飛行していた。
が、それもすぐに終わりを遂げる。
「右っ!」
啓太が突然短く指示を出す。ともはねが進路を急激に右へと変える。
二人の進路のわずかに左の空気が消滅して竜巻が生まれる。
「左っ」「降下!」「増速!」
啓太の指示に、ともはねが的確に飛行軌道を変える。
その度に空気が消えたり赤い光が瞬いたり紫色の結界やらようこやらがあらわれたり、
と、まるで3Dシューティングゲームの様相を呈し初める。
慣れたもので、啓太もともはねもまったく動じず、むしろ楽しそうにすっ飛んでいく。
突如としてなじみの無い気配がすると同時に、二人の目の前に
銀色の鏡のようなものが現れたそのときまでは。
止まることも避けることも出来ないタイミングで現れた銀色の鏡は、
二人(もしくは一人と2匹)を飲み込むと、すぐに、消えた。
銀色の鏡に飲み込まれた次の瞬間、啓太の魂を衝撃が襲った。
自らの心を強制的に広げられ、何かを付け足されるかのような感触。
己の心を縛ろうとし、あるいは操ろうとする赤道時子の言霊にも似た圧力。
それは白山名君と2度にわたって行った契約のそれにも似た、
しかし押し付けがましく異質なものであった。
普通の人間なら容赦なく意識を奪われるだろうほどの衝撃。
何の攻撃だ、と考える暇も無く、景色が一変する。
空を飛んでいたゆえに空と見下ろすビルであった景色が緑の草原に変わる。
ともはねの足が草に触れて急減速され、いきおいまってもんどりうち、
背中に乗っていた啓太を弾き飛ばす。啓太はとっさにカバンとリュックを
抱えて前転の要領で受身を取った。ごろごろと転がって速度を殺す。
赤道斎のマントをまとっていなかったら、それは成功していただろう。
マントが何かに引っかかって態勢を崩す。半回転してベクトルが変わる。
啓太はとっさにお尻から落ちようとし、それに成功はしたものの
勢いでズボンが半脱げになって脚の動きを妨げられた。
後方でんぐり返りの要領でごろごろ転がり、なんとか止まったときには、
さすがの啓太も三半規管が限界を迎えていた。
そう。フルチンでまんぐりがえし状態になっていることにも気づかないほどに。
ずるりとリュックとカバンが啓太の手から地面に落ちる。
フリチンまんぐりがえしな啓太の目の前には。
マントを身にまとい、タクトのような棒を持ったピンクブロンドの美少女が一人、いた。
「いっいっいっいっいっいっいっいっいいいいいい!!!!!」
「うぎゅ〜〜〜???」
「いっや〜〜〜〜!!!!!!」
ぼ ご っ
その少女が、絶叫と共に全力キックを啓太の股間にむけて放ったのは、
ある意味ひじょ〜〜に当然の事なのであると思われた。
支援
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。
質問:ウィキ のほうはいまいち投稿の仕方・作法とかわからないのですが、
どうしたらいいのでしょうか?
分からなければ他の方に任せるのが無難かと
ところでこのスレによく書かれる理想郷ってどこのこと?
では、まことに恐れ入りますが、もしお頼みできますようであれば
有志の方お願いいたしますm(_ _)m
>>517 詳しいという訳ではありませんが……、
・SSのwikiへのまとめ方
の欄に説明がありますよ。
その他の問題ならもう少し詳しく問題点をご説明願えますでしょうか?
522 :
521 :2008/03/07(金) 23:02:45 ID:8Y9Kb0Ws
失礼。
リロードしてませんでした。
>>517 適当なページを編集しようとするとソースが見えるのでそれとヘルプを参考に憶えるか
有志が転載してくれるのを待つ。
個人的にはファイル名の変更は管理人様のみなのでその部分だけはnaviとかが使えるものに
してもらえると助かる
例:
いぬかみっな使い魔-01
遅すぎるが。
提督の人GJでした。
銀河英雄伝説がかなり気になったので、レンタルしてみますわ。
あとおマチさんが可愛かったw
提督グッジョブ!!
マチルダさんフラグ期待しちまうぜ
壷磨け
>>519 何度か話題にも上がってるみたいだしヒントぐらいはいいかな。
Arcadiaでググってみるといい。
|ω・`).。oO(ピンキリだけど、いろんなSS書きさんが頑張ってるところだから礼儀正しくな)
>>504 俺としては……
ルイズ「来なさい、『再誕』……っ!コルベニクっっっ!!!!はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ギーシュ「おおおおおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!!スケェェェェェェェェェィスっっっっっっ!!!!!」
と碑文とルイズたちが融合みたいなものを考えてた
結局俺Tueeeeeになるからやめたけど…
ちょっと考えたんだが
水メイジなら皇帝病治せない? カトレアさんの手術とバーター取引とかで
>>509 時間のかかるようつべよりWIKIにある人物紹介のほうがよくないか
反応がない……が!
とりあえず二個目を投下してみる。
う〜ん、短編の予定から前後編に。そして更に収まりきらず、三部編成になりそうだぜ。
お空の戦士支援
「むっ?」
ピッツァがその不信人物を見つけたのは一重にゾンダリアンとしての超感覚の賜物だ。
何時も通りに見上げていた星空から視線を外し、眼下にてコソコソと自分が天辺に立つ搭、つまり学園の寮に入っていくローブの人影。
学園の生徒だろうか?とも考えるが、あんなにコソコソする必要は無い。となれば……侵入者、排除すべき存在だ。
「マスター」
「なっ何よ! ピッツァ?」
声が掛かる場所が予測していた方向と反対だと人は必要以上の衝撃を覚えるものだ。
ルイズもドアに向いていた感覚が窓の外から届く声にビックリ仰天。バッと振り向けばそこには見慣れた使い魔と幼馴染が浮いていた。
ただ問題があるとすれば……幼馴染の顔が真っ青で口をパクパクさせながら、今にも死にそうな点だろう。
「搭に進入しようとしていた不審者を捕縛した。衛兵にでも突き出すか? それともこのまま息の根を止めるか……選択を」
幼馴染が使い魔に首を締め上げられている。片腕で軽々と人間一人の首を絞めながら持ち上げるのは大したものだ。
だがそんな事を考える余裕などあるはずもなく、ルイズは叫んだ。
「このバカ! 今すぐ手を離しなさい!!」
「離したら落ちるが……墜落死をお望みか?」
「ちっ違うわよ! 早く中に入ってから離しなさい!!」
ルイズの部屋の中で開放されたその人物は、咳き込むほどに酸素を貪ってから、サッとピッツァから距離を取る。
そして未だに青い顔を可能な限りの微笑を浮かべ、ジョークかどうかも解らない小言を一つ。
「お強くて遠慮を知らない恋人ですわね? ルイズ・フランソワーズ」
「ひっ姫殿下! このたびは使い魔がトンでもないご無礼を〜」
月明かりの下で見たときは人違いかも?と念じていたルイズだが、部屋の中でしかと確認したその顔に間違いではないことに気がつく。
トリステインの王女、アンリエッタその人が僅かに青い顔で微笑んでいた。
「良いのです、ルイズ。私がこっそりとここを訪れようとしたことは事実ですもの」
「しかし姫殿下の身に何かあったら……」
「そんな他人行儀はやめてルイズ。私の大切なお友達、いったい何時振りかしら、こうやってお話するのは」
そこからの流れは『キャッキャ、ウッフッフ』である。
既に興味を失ったピッツァが窓から逃げ出そうと試みるも、アンリエッタがソレを止めた。
花の笑みは真剣な顔に、国を代表する王の顔に。
「大事な友達にこんな事をお願いするのは酷いことかもしれません。でも……」
託されるのは天空の国への手紙の回収という極秘任務。
支援
プラズマ支援
「おぉ!?」
ルイズはそんな感嘆の声を上げるピッツァを横目で見た。
ワルドと言う許婚の登場にも、以前捕まえたフーケが傭兵を率いて襲撃にも、コッソリついてきたキュルケ達にも動じなかった使い魔。
それが純粋に驚いて興奮している様は言いようの無い満足感と達成感を彼女に与えていた。
「これが桟橋……そしてあれが空を飛ぶと言う船か」
眼前に聳え立つ巨大な樹、そこに実のように繋がれた無数の船にピッツァは呟く。
無数の星を侵略する過程で様々な風景を見てきたが、その様子は未だに彼の心に響く壮大さを持っていた。
テキトウな船との交渉はすぐさま終了し、一向はアルビオンへと向かう。
「空は良い」
轟々と空気を切り裂いて空を進む船の穂先、風に飛ばされることも無く器用に立ち、ピッツァは何時ものように言った。
自分で飛ぶのとは違う風の感じ方、空の楽しみ方ができる未開の星の移動手段を彼も気に入ったようだ。
つい先程視界に入るようになった巨大な浮遊大陸アルビオンと、そこから滴る水が作り出す雲海。
ロケーションは最高だと言って良い。だがそこにピッツァの気分を悪くさせ、同時に闘争の喜びを与えるものが来た。
「空賊船だ〜!!」
この船よりも一回り大きく、黒くタールで塗られた船体。そして舷側に開いた穴から突き出る無数の大砲。
まさしく戦う為の船。そしてピッツァにしてみれば主であるルイズを守る為に戦うべき相手だ。
「待ちたまえ、使い魔君」
すぐにでも『テイクオフ!』しようとした彼を止めるのはもう一人の同行者、トリステイン魔法衛士隊 グリフォン隊隊長のワルド子爵。
足りない風石の代わりに船の主力器官を担っていた彼の疲労は計り知れない。戦力として数えられるかも解らない。
だが助力など無くてもピッツァは一人で船の一つ、制圧してみせるつもりだった。
「何故止める?」
「君の空中戦での力は信用している。だが既に船の横に付かれ、敵の大砲は臨戦態勢だ。
君には当てられなくても、この船を沈めるのは容易いだろう。ルイズと密書を危険に晒すのは良くないだろう?」
「ちっ! ならば敵の懐に入ってから制圧する」
空での闘いの楽しみを邪魔されて、戦士は舌打ち。守る闘いは常に自分以外の心配をしなければ成らない。
故にピッツァは思うのだ。『飛ぶなら一人がいい』と……
支援
「空は良い」
「アァ、まったくだね……空は良い」
『ピッツァが二人に増えた』ルイズはその様子をそんな風に表現した。
ここは先程まで敵だと思っていた空賊船改めアルビオン王立空軍最後の戦艦、イーグル号。
王党派最後の砦、ニューカッスル城へと向かう船の甲板で二人の人物は風を感じている。
「空は地上の煩わしさとは無縁だ」
「僕もこうしている時だけは一国の皇太子である事を忘れ、空に生きる軍人になっていたのかもしれない。
もっとも……その王子も軍人も風前の灯であるわけだが」
片や言わずと知れたルイズの使い魔、紅い鳥を模したような仮面と緑のマントを纏ったピッツァ。
そしてもう一人は金髪の青年、先程までは空賊の頭に化けていたアルビオン王国皇太子、同王立空軍大将であるウェールズ・デューター。
まったく奇妙な組み合わせである。彼らの心を繋げているのが『空』だと言う事だけが、部外者たちからでもわかる。
その様子を見ていたルイズは囁くように零した。
「何か……イヤね」
「どうしたんだい、僕のルイズ?」
「さっき会ったばかりで身分も全然違う二人が、数年来の親友みたいだなって思ったの。
うん、ただそれだけよ」
隣に立ったワルドの問いに、船の先端で進行方向の空を見続ける二人をルイズは評す。
自分とは一定の距離を置く使い魔がウェールズとは瞬く間に親しくなった。本人たちにそのつもりはないのかもしれない。
だが他人から見れば『話す必要すらない程の友』に見えた。故にピッツァのご主人様は疎外感に打ちひしがれる事になる。
アンリエッタから受けた手紙の回収と言う任務を終え、ルイズ達はニューカッスル城で王国最後の大使として、文字通り最後の晩餐に出席していた。
ニューカッスルまで追い詰められ僅かな自軍と莫大な敵戦力。何処から見ても負け戦、明日には予告された貴族派の攻撃が迫っている。
だと言うのに晩餐の席には貴族たちが着飾り、豪華な食事が所狭しと並んでいる。
「楽しんでくれているかい? ピッツァ」
「食事に娯楽を見出せる性質ではないのでな」
長く仕えた重臣たちへの労いを終えたウェールズが向かった先に居た人物に、彼の挙動に注目していた者達が驚きのざわめきを起こす。
見たことが無い人物だった。見慣れない服装をしており、滅亡寸前の国とは言え皇太子相手になんと言う口の聞き方!
「一途なのだね? 君の恋人は幸せだろうが、苦労も多そうだ」
「ふん、女など要らん。私には空と戦いがあれば良い」
ピッツァは何時もの亜人と評される姿ではない。真っ赤な野球帽を深く被り、TシャツとGパンを纏う。その上に袖を通さずにコートを羽織っている。
ゾンダリアンとして人間に混じっての行動を容易にする為の擬態だ。もっともソレは地球上だからこそ意味を成す。
この世界では完全に怪しい姿だが、「亜人としてこのような席に出席するよりは良いだろう」というルイズの助言を参考にした結果。
「空は良い……が、僕は君ほど一途には成れそうにない。現に今も……」
「あの女王のことで頭が一杯……か?」
「! なんだ、意外と鋭いみたいだね」
いつの間にか二人は壁際に移動し、晩餐を眺める。ピッツァの手にはウェールズに渡されたワインのグラス。
僅かに口に含み、やはり味など分からんと首を傾げた。そんな様にウェールズは苦笑を浮かべ、自分のワインを一口。
此方は味わうように舌で転がし、頷きながら飲み込む。さすが我が国民たちが作ったワインだと感心する。
「そんなに恋しいのならば亡命でもしたらどうだ? マスターも騒いでいたぞ」
「残念だがそれは出来ない。王家の人間が亡命などしたら、レコンキスタがトリステインに攻め込む口実を作るようなもの。
それに僕は王族であると同時に……軍人であり、戦士であるつもりだ。敵に背を向け、部下を見捨てて何を成すのか?」
燃える闘志を宿す瞳と視線を合わせ、ピッツァは笑う。
どうやら『類は友を呼ぶ』と言う太陽系第三惑星の諺はゾンダリアンにも、異世界の国でも適用されるようだ。
ワインの味は分からないが、闘争の匂いに酔うことは出来る。
「もうイヤだ」
「どうした、マスター?」
案内された寝室でルイズはベッドに身を投げ出して、呻くように言った。
「この国の人はお馬鹿さんばっかり……死にたがりと恩知らずばっかり。
姫様が亡命してって、恋人が生き伸びてくれって言ってるのに、どうしてウェールズ様は死を選ぶの!?」
「守る為だ。そして……成し遂げるため」
「なにソレ! 意味わかんない!?」
ピッツァとて人の心の中を全て理解しているとは言えない。だが少なくともルイズよりはウェールズの心境を理解しているつもりだった。
「王族であること、戦士である事を守り……その本懐を成すためだ」
「理解できない」ともう一度ベッドに顔を埋めたルイズから、ワルドとの結婚式を行う事を告げられても、ピッツァは黙していた。
別に主が伴侶を得ようと、自分が使い魔を続ける事に何ら問題は無いと思っていたから。
だが……
「三つ目は貴様の命だ! ウェールズ!!
ルイズの拒絶とワルドの急変。結婚式の最中で行われたトリステインの使者による凶行。
誰も止められるものは居ない。何せ新郎は司祭役を務めるウェールズの誰よりも近くにいる。
もちろん隣にいるルイズも理論からすれば同じ距離なのだが、彼女にはその一瞬を把握することなど出来ない。
正に閃光の速さで突き出された魔法衛士隊の剣としても使える杖が、ウェールズの心臓を貫こうと迫る。
「グハッ!? ワルド、キサマ……」
ウェールズがその一撃を僅かに逸らせたのは正しく偶然だ。僅かに体を捻った結果、抉られるのは心臓の僅かにした。
だとしても致命傷には違いなく、血を流して崩れ落ちる。意思はしっかりしていても、戦うのは無理だろう。
「ほぉ? よくぞ避けた。だがコレで終わりだ!!」
取り押さえようとした衛士とルイズを片手まで吹き飛ばし、ワルドは再び杖をウェールズに向ける。
今度こそ外しようがない必中の構え。しかしソレを拒むものがあった。
「オォオオ!!」
「なにっ!?」
ステンドグラスを盛大にぶち抜き、室内に飛び込んできた緑の翼。
そこから繰り出された高速の一撃はワルドの体を確かに捉え、大聖堂の長椅子の群れへと叩きつけた。
「ピッツァ……」
「何でアンタ……全然興味なさそうな顔してたくせに」
「別にマスターが誰と結婚しようが構わん。
だが戦士として、ワルド! 貴様のやり方が許容できない。
そして……同じく空を愛する者として、ウェールズを無駄死させる気が無いだけだ」
ワルドとピッツァ、どちらとも無く構えをとる。戦士としてお互いが容易い相手ではないこと既に認識していた。
「ピッツァ……君とはもっと早く出会いたかったな……
そう、例えば……アルビオンが平和で……自由に空が飛べた時に……」
「同感だ、ウェールズ」
僅かな差でワルドを退けたピッツァに、水のメイジに処置をされながらウェールズは言う。
外からは砲撃の音が響いており、攻城戦が始まった事を示していた。傍らではルイズが未だにハラハラと涙を零している。
未だに自分の回りで起きている事を完全に把握できてはいないだろう。
「殿下、残された水の秘薬では応急処置が限界です。傷はすぐに開きましょう」
「なに……僅かでも動けるようになれば良い。バリー、城と父上は任せる。僕はイーグル号で出るぞ」
本当ならばイーグル号で女子供を避難させる手筈だった。もし計画通りならばアルビオン王立空軍は最後の戦艦を失うことになる。
だが予定外にもう一隻 ルイズ達が乗ってきたマリー・ガラント号が手に入ったので、そちらを脱出用に採用。
故にイーグル号が戦闘に投入可能と言う嬉しい誤算が生じた。しかし……
「何を仰るのですか!? 一隻で出て行っても狙い撃ちにされるだけですぞ!?」
「それが狙いだ。脱出船から敵の注意を逸らせる。敵も王家の旗をはためかせて突っ込んでくる船のほうに注意が行くだろう。
な〜に、ただで撃墜されるつもりは無いさ」
だがソレは勝ち目が有ると言う事ではない。どんな策も力も抗えない絶対状況。
それが死を意味すると気がついて、ルイズは搾り出すように告げた。だがウェールズはようやく体を起こして、困ったように答える。
「そんな……せっかく助かった命なのに……」
「すまない」
しかし助けた本人は特に気にした風も無く、むしろ当然とこんな事を言う。
「構わん、そのために助けたのだからな。
こんな場所で暗殺など、キサマの望む所ではあるまい? ウェールズ」
「そうだな……僕は王族として、軍人として生き……僕の戦いは……」
砲撃の音は尚激しくなる一方、大聖堂内を悲しくも穏やかで、熱い空気が満たす。
そんな状況にヒョッコリと現れたモグラとその主、帯同者は状況が把握できずに右往左往。
「ウェールズ殿下! イーグル号、出港準備完了!」
「よし、逝くとするか……」
部下たちに支えられながらも立ち上がり、大聖堂を出るウェールズの背にピッツァは問う。
「どうやら脱出の手段はもう一つ確保できたようだし……手伝ってやろうか?」
タバサに告げられた内容、穴の下でシルフィードが待機している事を知り、主人の脱出と言う問題は無くなった。
船を使うよりも秘密裏かつ確実にトリステインに帰り着けるだろう。故に助力を申し出たのだが……
「止めてくれ……アルビオンの空は僕の庭。
そしてこれは……ウェールズ・テューダーが命を賭けるべき闘いだ。
ピッツァ、君の戦いは……まだ先に待っているだろう。君が全てを賭けるべき戦い、君だけの空が」
「そうか……そうだな。では……」
『さらばだ! 勇者よ』
以上でした。しかしピッツァもウェールズもキャラがワカリマセン!
ルイズの扱いが酷いのは次回への伏線と言う事で許してくれ。
色々とシーンを飛ばしているのは、いつも長々と書いてしまう癖を封じようとした努力の跡。
しかしそれでも短編→三部構成へOrz
GJ
SSだし原作のシーンを羅列するくらいならバッサリカットはテンポが好くていいと思う
どうしてもヤンが好きになれん…。
どっちかと言えばオーベルシュタインやルビンスキーみたいなヤツが好きだ…。
なんとめずらしい
投下乙そしてGJでした
テンポよく進む物語と空大好きなピッツァがすばらしいです
>>548 お前、よく人に「ひねくれてる」とか言われてない?
まぁそう言うのであれば、ルビンスキー召喚でよろしく。
脳腫瘍ですぐ死んじゃうけど
つーか、ガンダーなのに全く戦わないって・・・ありなのだろうか
口先三寸でワルドも倒してしまったり
ピッツァかっこいいぞピッツァ
553 :
LFO:2008/03/08(土) 00:05:54 ID:RfFbaBEW
5分後位に投下Okですか?
>>553 LFO!?
これはまさか・・・・・
支援だ!
>>551 俺も微妙なキャラだと思うけどな。
割り切れないところが人間味があってよいのかもしれないが、
結局人としても軍人としても中途半端な印象がある。
556 :
LFO:2008/03/08(土) 00:10:48 ID:RfFbaBEW
では投下します。
キュルケは軽く身繕いをした後、少女の手を引いて階下へと向かう。
ルイズが追って来るのではないかと時々後ろを振り返りもしたが、そこには誰もおらず、ただ薄暗く続く長い廊下があるだけだった。
まあ、追って来ていたとしてもあれほどの事を言った後である。
上手い文言の一つや二つが早々簡単に思いつくわけはないと思われるが。
それにしても、メイジ失格なんて少し強く言い過ぎたか?と思ってしまう。
実際二人はしょっちゅう言い合いをする事があった。
家は国境を挟んで隣同士だし、お互い家名を背負っているプライドからか些細な事でも火種になる始末だった。
しかし、今回はそれらとは少し事情が違う。
あそこまで他人に対して棘を出し、塞ぎこんでしまいそうなルイズに発破をかけるなら、あれぐらい言わないと無理だろう。
それに、からかったり弄ったりする楽しさも無くなってしまうし。
と、異様なまでにその場が静かな事に気づいた。
隣で手を引かれている少女は言葉を失ったように黙り込み、キュルケの方を見つめている。
目はさっきまで泣いていたせいで、隅の辺りが赤くなってしまっている。
少しでも少女の不安要素を取り除こうと、彼女は手始めに自分の名前を名乗ってみる。
「挨拶が遅れてごめんなさいね。私の名前はキュルケ。本当はもっと長い名前なんだけどこれから呼ぶ時は短く『キュルケお姉さん』でいいわ。」
「キュルケ……お姉さん?」
「そうそう。それで良いの。じゃあ、今度はあなたのお名前を教えてくれるかしら?」
「わたしは、ミー。」
「そう。可愛い名前なのね。お姉さん気に入ったわ。」
キュルケは子供をあやすといった事はした事が無かったが、その要領は意中の相手を落とすのに似ている。
先ず些細な事を何でも良いから聞き出し、それに関して褒める。
そうされて困ったり嫌がったりする人間というのはまずいないからだ。
そして、相手は自分に敵意が無いと信じ、心の内奥に通じる扉にかけられた鍵を開錠するのである。
案の定、少女は顔を僅かに赤らめて俯いた。まずは第一段階終了である。
そしてその次に進む為の扉が二人の目の前に現れた。
Louise and Little Familiar’s Order 「First meal at the another world」
それは厨房へと通じる扉だった。
同級生達が、料理や使用人の態度について色々と文句をつけるためにここへ来ていたのを、何度か見た事があったからだ。
中ではまだ仕事が続いているのか、騒がしい音が続いている。
もう殆ど片付け終わったかしらと気にしつつ、キュルケはその扉を高らかな音をさせて何度かノックした。
「はあい。今参ります!」
可愛らしい声がした後で扉がすっと開いた。
中から現れたのは、メイド服姿がよく似合う純朴そうな黒髪ショートの少女だった。
彼女はキュルケの姿を確認すると、かしこまって挨拶をする。
「これは貴族様。こちらへはどのような用事でしょうか?」
「一ついいかしら?賄いってまだ残ってる?」
それはメイドの少女にとって、全くといって良いほど意外な質問だった。
いつもなら、貴族がここを訪れる時は出した料理に何らかのけちを付けるものなのだが、妙な事になった。
557 :
LFO:2008/03/08(土) 00:12:00 ID:RfFbaBEW
「少々お待ち下さいませ。……マルトーさあん。賄いってまだ残ってますか?」
「何ぃ?ああ、それならちっとだがそこにある鍋に残ってるぞ。ところでシエスタ、そんなもん何に使うんだ?」
シエスタと呼ばれた少女の問いに、物凄い勢いで山のような洗物を片付けるコック長らしき中年の男性が答える。
「いえ……私ではなく、貴族様が必要だと仰られているので……」
「分かった。今そっちに行くから待ってろ。」
マルトー氏は手を拭き、いそいそといった感じで戸口までやってくる。
「これは貴族様。このような下賤な場所へ一体どのようなご用件で参られたのでしょうか?」
声は威厳があり丁寧な感じもしたが、どこと無く相手に対して敵意を向けている感じだった。
「この子に何でも良いから何か食べさせてあげたいのよ。今日丸一日何も口にしてないらしいから。」
「分かりました。では早速ご用意させて頂きます。」
二つ返事をして深々と頭を下げてはいるが、やはり慇懃な感じがするのが否めない。
それからマルトー氏は厨房の奥へと戻り、鍋に火をかけ出した。
と、シエスタがミーと視線が同じくらいになるまで屈み込んでから、キュルケに質問をした。
「あのう、失礼ですがこの子ってまさかミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう子ですか?」
「そうよ。よく知ってるわね。あたしは違うけど。」
「それは……私達の間でも召喚の魔法で平民を喚んだって噂になっているので……」
シエスタは完全にへどもどした状態になる。
一方、厨房の奥では多くの使用人達がひそひそ声で陰口を言っていた。
「使い魔が平民って噂本当だったんですね。」
「しかもあんな小さい子がねえ。」
「しかし今日一日ご飯も貰えなかったとは可哀相に……機嫌一つで飯の一つや二つを下げさせるなんて貴族様ってのは本当鼻持ちならんねえ。」
「しぃっ!聞こえますって!」
ルイズが聞いたら、平民のくせにといって大声で怒鳴りつけかねないだろう。
この場に彼女がいないのが幸いしたとキュルケは心底思った。
するとシエスタがミーの手を引いて、一番近くにあった椅子に座らせる。
多くの大人に囲まれて緊張でもしているのか、おどおどした表情で周りを見渡すミーにシエスタはにっこり笑って話しかける。
「初めまして。私はここで働いているメイドのシエスタ。あなたのお名前は?」
「ミー。わたしのなまえはミー。」
「そう、ミーちゃんって言うんだ。ミーちゃん、もう少しだけ待っててね。暖かいスープがあったの。直ぐ持ってくるから。」
そう言ってシエスタは大きな竈の前へ行く。
それから2、3分経った頃だろうか、暫くすると彼女は、湯気の立つスープの入った皿を持ってそこに現れた。
「はい、どうぞ。おかわりもあるからゆっくり食べていってね。」
558 :
LFO:2008/03/08(土) 00:13:20 ID:RfFbaBEW
シエスタは皿と簡素な銀スプーンをテーブルの上に置き、優しい声でスープを食べるよう勧める。
ミーは最初周りを見渡すばかりで、スプーンに手を触れようともしない。
だが、ややあってから彼女はゆっくりとスプーンを手に取り、それから夢中でスープを口にかき込み始めた。
その様子を見てシエスタはポツリと呟く。
「よっぽどお腹が空いていたんですねえ。」
「召喚された後、ルーンが刻まれる時のショックで丸一日寝込んでいたそうだもの。無理も無いわ。」
「ルーンってあの手の甲にあるやつですよね?」
「そうよ。ところであなた、やけに小さい子の扱いに慣れてるのね。」
「はい。田舎に親戚の子が沢山いましたから、面倒を見なければならなかったんです。慣れてくると楽しかったんですけどね。」
キュルケはシエスタの呟きにいつの間にか相槌を打っていた。
彼女はシエスタが平民だという事に関しては、そこまで気にしてはいなかった。
キュルケはトリステインの出身ではない。隣国の帝政ゲルマニアの出身なのだ。
トリステインでは貴族である条件が「領地を購入する事」、「公職に就いている事」そして「魔法が使える事」と、如何にも固い物である。
が、彼女の故郷では殆ど原則金回りの良さが物を言う為、元平民の貴族が街路にごろごろしている事も珍しくは無かった。
当然、キュルケもそんな中で暮らしてきたので平民の扱いは手馴れている。
そしてその中で思う。
この娘なら毎日のご飯どうにか出来るのではないか、と。
「ねえ、頼みがあるんだけど。」
「あ、はい。何でしょうか?」
「明日の朝、もしこの子が食堂から締め出し喰らってたら、今みたいにご飯あげてくれる?
この子の『御主人様』は多分食堂の中に入れさせないだろうし、例え入れさせてもこの子にとって良い物は出ないでしょうね。」
「分かりました。そうします。」
シエスタは二つ返事で頼みを承諾した。
その時、ミーがスプーンを置いて小さく呟いた。
「おかわり……ください。」
温かい食事と人付き合いは冷たく凍った心を溶かす。
誰が言ったか知らないがそんな言葉を聞いた事がある。
聞いて直ぐは「そんな事って本当にあるのかしら?」と思っていたが、今日はそんな様子を傍で目にした。
強ち嘘ではないのかもしれない。
キュルケはそんな事を思いつつ、食事を終えたミーを連れてルイズの部屋の前に来た。
そこまで来るとミーは内心怯えきっていた。
厨房の人々にさっきまで柔らかい笑みを撒いていた彼女の顔も、すっかり恐怖で歪んでしまっている。
「ルイズが恐いの?安心して。お姉さんがきちんといろいろ言っておくから。」
そう言ってキュルケは部屋の戸を数回叩いた。
「開いてるわ。入って来て良いわよ。キュルケでしょ?」
極めて不機嫌そうなルイズの声が聞こえる。
その声には答えず、キュルケは扉を開け、ミーを伴って部屋の中へ入る。
その時キュルケは部屋の中の惨状に唖然とした。
卓がひっくり返り、本という本は彼方此方に吹き飛び、普段着ている衣服は全て散らかったままになっていた。
まるで嵐が一陣通り過ぎていったかのようである。
そして天蓋付きのベッドの上では、ネグリジェ姿のルイズが毛布を被って猫のように体を丸めていた。
どうやら彼女が積もり積もった癇癪を爆発させた結果らしい。
559 :
LFO:2008/03/08(土) 00:14:09 ID:RfFbaBEW
「何の用?」
ルイズは上体を起こし、虚ろな目線で戸口にいる二人を見つめた。
そんな彼女を見てミーはさっとキュルケの背後に隠れる。
「あなたの使い魔を返しに来たのよ。」
「何よ。随分早い返却じゃない。」
「但し、あなたがこの子の面倒をきちんと見れるっていう前提付きだけどね。きちんと面倒を見るって約束するなら今この場で返すわ。
出来ないのなら私か厨房で知り合った平民の使用人がこれから面倒見る事になるから。」
キュルケがそう言うと、ルイズはさっとベッドから飛び出て二人の元までやって来た。
手は硬く握り締められ、顔は流石に真剣な顔つきになっている。
幾ら自分と最初の出会いが悪かったとは言え、使い魔として召喚された以上、キュルケ、ましてや平民の手を借りなければ子供一人手なづける事も出来ないと思われるのは嫌なのだろう。
そしてルイズは震える手でキュルケの元からミーを引き離し、凛とした声で言う。
「馬鹿な事言わないでよ。この子は私の使い魔なのよ。あんたや平民の手を借りるまでもないわ。私の使い魔なんだから私がこの子を立派にしてみせるわ!」
それは意地でも見栄でも何でもない。飾りも無い。
使い魔を持った一人のメイジとして、果たすべき責務に向かうという一言だった。
メイジと使い魔は一生を共にするのだ。
最初からその義務を投げ出していたのでは、自分が目指す立派なメイジなんて夢のまた夢に等しい。
面白いわね、とばかりにキュルケが笑みを浮かべてそれに答える。
「そう?じゃあ私は部屋に戻るわ。……いい?ミーちゃん。ルイズの側にいて恐くなったり泣きたくなったりしたら直ぐ私の所に来るのよ。」
「ふざけないで。どんなにこの子が辛い目に会ったって、最後は……最後は絶対に私の所に戻るようにしてみせるわ!やってやろうじゃないの!」
「あら、随分と頼もしい言葉じゃない。本当の事になれば良いけど。ま、せいぜい頑張ってね。それじゃあ、お休み。」
キュルケはくすっと笑って部屋から出て行った。
そんな様子を見てきーっと吼えたくなったが、隣にミーがいるのでそれは泣く泣く我慢する事にした。
悔しいが彼女は、ミーにご飯を与える等今の自分にはやってのけない事を幾つかやって貰ったのである。
また癇癪を起こしてあっさり約束が反故になるのも嫌だった。
取り敢えず落ち着く為に深呼吸し、改めて名前を訊く。
「あなたの名前は何?」
「わたしは……ミー。」
改めて始まった主人と使い魔の生活。
自分より小さい子をあやした事の無い、厳しく躾けられたルイズは、果たして異世界から来たミーと上手くやれるのか。
未来へと続く道は未だ暗闇に閉ざされている。
560 :
LFO:2008/03/08(土) 00:21:27 ID:RfFbaBEW
投下終了します。
最近ゼロ魔のサイトは凄いと思えてきた。特に初期、右も左も分からぬ世界で、いきなり使い魔になれと言われてやってるんだもん。
エヴァのシンジとは大違いだ(あれも確かに無茶苦茶な状況に放り込まれて××やれって言われてるのに大元の姿勢としては逃げてばっかりだった。)。
欧米人はそこを凄く嫌っているようだった(大体彼等はそんな状況に放り込まれてもみんなヒーロー気分で最初からクライマックスな気質の為)が、
さて実際そんな状況に放り込まれてまともに理性的な行動が取れる人間が果たして何人いることやら。
おっと話が脱線しすぎてすまなかった。
それでは夢幻竜の方でまた近い内にお会いしましょう。
サトシままんが肉奴隷にされる映画だったっけ?
>>560 乙!
だがネタがわからなかった・・・・(タイトルではエウレカだと思ってた)
けど面白かったよ。
乙でした。
橘さんが呼ばれたら、クロムウェルに騙され、ジョセフに騙されるに違いないな。
乙
でもさ、最後の後書きははっきり言って蛇足
一方を持ち上げる為に他の物を引き合いに出してそれを貶めるかの如き物言いは
正直誉められたもんじゃないよ
初代マクロスからゼントラン召喚
コントラクト・サーバントでヤックデカルチャーというネタを思いついたが、
いくらなんでもサイズが違いすぎてそこから先が進まん
>>565 過敏過ぎじゃね?
別にそんなんじゃなくて単純にサイトとシンジの性質の違いを言っただけに感じるけどな
余計なことは書かないにこしたことはない
ゆとり乙。
文句しか口から出せないんだな。
と、遅ればせながら職人諸兄にGJ!
もやしもんの樹教授召喚して教授の持ってた粘菌とサーヴァント。
ルーンが粘菌細胞の一個一個に刻まれて教授の持ってた顕微鏡でしか見れないとか
ルイズが菌見えるようになって沢木化して食中毒菌見つけたりするネタ思いつたが
文章力無さすぎて無理だた。
召還直後にルイズ殺してとっとと契約解除する奴とか
最初の決闘でギーシュをガチで殺して決着付ける奴とか
出てきたら面白いやもしれんが
話が続かんな……
>>571 動物のお医者さんの漆原教授を呼んでヴィンダールヴにするのも面白そうだ。
本編そっちのけになりそうだがw
状態異常の回復ができるアイテムや魔法を使って契約解除・・・
洗脳効果とかあるから契約はバステだろ?
実際のところ召喚者殺害が一番確実な契約解除方法であるのは確かだろうが
いや、それやっちゃうと話が進まないから無理なのはわかってるが
たぶん呼んだ奴にキレられて逆に殺されるような展開になったケースもあったんだろな……
格ゲキャラに瞬殺ならあるな
>>572 姉妹スレの生ハム兄貴が「ブッ殺すと思った時にはッ!既に行動はry」で
ギーシュを殺っちゃってたな、そういえば
そういやまとめには未収録の小ネタで
神官なんかに改造されてローブ姿の連中にいい思い出なかったのか
周りの使い魔やメイジぶっちぎりで虐殺して、挙句の果てに自分で帰っていった改造人間もいたなw
>>580 ひょっとしててつをか!?
過去ログのどのへんに乗ってるか知ってたら教えてほしいんですが
読んでみてぇ……
582 :
規格外品0号:2008/03/08(土) 03:12:11 ID:nOpPXj6W
第三話はちょっと短めで。
投下しますですよー。
支配したがるマジシャンや怪しげなエスパーと戦うときはソルジャーなのが俺の誇りって
本人が歌ってたしなぁw
いや、ホントにてつをかどうかはしらんがな
>>581 誰とは言わんが、真っ赤な目で黒いお方でした。
かなり前だし、ログ消しちまったからいつのだか覚えてない。スマナイ
そして、支援
第三話「Waiting For...」
――結論から言えば、ルイズが使い魔の召還に成功したことは、あまり評価されていない。
彼女を“ゼロ”と蔑み、見下し、鬱憤の捌け口にしていた少年少女たちは、
ギーシュとの戦いで使い魔の実力を見せ付けられ、過去に自分達の言ったことを思い出し、
教師たちにしてみれば、あのような恐るべき戦闘能力を持った使い魔を、
誰であろう、あのルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召還した事で、
ある共通の懸念を抱いていたのだ。
自分たちは彼女の事をあまりにも軽んじ、蔑ろにしていたではないか。
そのルイズが今、『力』を手に入れた。
彼女の本質を知らぬ者にしてみれば、いつ激昂し、復讐の為に使い魔の力を振るうかもわからない。
召還するならするで、何の能力も持たない平民でも呼び出していれば良かったのに。
口にこそ出さないが、誰もがそう思っているのは事実であった。
一方で、ルイズの召還成功を我が事のように喜ぶ者もいた。
ツェルプストー家の令嬢、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーである。
キュルケにとってルイズとは出来の悪い――或いは魔法以外においては出来の良い――妹のような存在だ。
その妹が、ついに初めて魔法を成功させ、あまつさえギーシュをやっつけてのけたのだ!
しかもシエスタから、こっそり聞き出した話によれば……どうやら他の貴族も一人叩きのめしたのだとか。
『メイジを見るには使い魔を見よ』
この格言を用いるのならば、ルイズの実力は一目瞭然である。
そう、どういう理由かはわからないが、今まで表に出なかっただけでルイズには才能がある。
とてつもない魔法の才能があると、証明されたのだ。
これが嬉しくない筈がない。
「ちょっと、ツェルプストー! あんまり0号に近寄らないでよ!」
「んふふー……良いじゃない、べつに減るもんじゃないでしょ、ダーリンは?」
「そ、その……減りはしないですけど、0号さんは一人なので、独占はちょっと……」
だから今日の放課後も、こうしてルイズや0号、シエスタ達と共に中庭でお茶を楽しんでいる。
まあ、0号の寡黙な態度に心惹かれたという理由も多分にあるのだが、
何にしたって賑やかなのは良い事だ。ついついタバサも引っ張りこんでしまった。
「………………」
とはいえ、彼女は何時も通り本を読んでいるだけなのだけれど。
0号と相俟って、二人だけで放っておくといつまでも黙っていそうで怖い。
「ぜ、0号は、わたしの使い魔なの! それにあんたがいると、勉強に集中できないじゃない!」
「……まあ僕としては見目麗しい女性が増えるのは歓迎し痛い痛い痛いッ!モンモランシー、抓らないでッ!」
「ふんッ」
そう、変わったといえばもう一つ、ルイズの性格――精神性だ。
良い意味でも悪い意味でも傲慢だった彼女は、0号と出会って以来、少しずつ変わり始めている。
例えて言うならば……責任とでも呼ぶべきなのだろうか。
ありえないほど強大な『力』を手にし、そして0号が自らの意思でそれを振るえないと悟った彼女は、
恐らく、それだけならば暴走し、好き勝手にあの――奇妙な鎧の力を行使しただろう。
だが0号は、他の何よりも、そう言った『暴虐』を嫌い、憎悪していた。
そう言った二つの事情が相俟って、ルイズはまず『力』の使い方を学ぶことを決意する。
驚くべきは、この後。
彼女が師事を仰いだのが、誰であろう先日0号が叩きのめしたギーシュ・ド・グラモンだったのだ。
普段の軽薄な行動と相俟って、学院の誰もが忘却しているが彼はこれでも元帥の息子である。
教師を除けば、彼以上に軍事に関して詳しいものは学院に存在しない、と言っても過言ではあるまい。
0号という強大な力――兵力をどう扱えば良いのか。
問われたギーシュは、当初こそ0号に対する恐怖から渋々とルイズに教えを説いていたが、
やがて0号自身に害意がないこと、そしてルイズの意図を知ると共に打ち解け、自然に彼女たちと会話する機会が増えた。
これに我慢ならなかったのがモンモランシーである。
0号が決闘をする原因ともなったギーシュの浮気事件の後、何とか寄りを戻したばかりだというのに、
ルイズかキュルケかタバサか、もしくはシエスタとかいうメイドに手を出そうとしているのではないか。
もはや直接手段を用いるしかないと決意した彼女は、ついに『監視』という名目でお茶会――勉強会に乱入した。
未だツンツンとした態度は変わらないものの、それも時間の問題であろう。
「……しかし、この0号の鎧――いやガイバーだっけか。随分と奇妙な力ばかり持っているね」
「そうね。わたしも……初めて見た時は、信じられなかったもの」
「……ルイズ、あんまりギーシュに近寄らないで」
「それなら0号に引っ付いてるツェルプストーを何とかしてよ」
「あら、良いじゃない。恋愛は自由よ、ねぇダーリン?」
ぎゃいぎゃいと喚く外野を他所に、ルイズは熱心に帳面にペンを走らせる。
其処には彼女なりに考えた0号の力の使い方や、
0号から聞き出した――要領を得ない――鎧の力などが記されていた。
頭部の熱線。
口元の金属球が発する音。
腕の突起から転じる刃。
そして胸部から放たれる、恐るべき光。
今のところ0号が扱える力の全てが、これだ。
転じてルイズが手綱を握らなければならない力。
だが――――……別に其処まで気負う必要は、無いんじゃないだろうか。
わいわいと皆で騒いでいる姿を見ると、不意にそんな事も考えてしまう。
まあ、それは間違いでは無い。
より正確に言うならば、その必要が無くなった、という意味だが……。
以上、投下終了。
ちょいと幕間的短さ。
戦闘まで書きたかったけど、それだと長すぎるかなあ、とか。
次回はフーケ戦と、ガイバーに欠かせない事態について。
乙。続きに期待
ルイズが責任感を感じるのは珍しいな
乙。スパイダーマンでもありましたね>強大な力に伴う責任
乙。事態を受け止め対処のために他人を頼るとは良い傾向だ>ルイズ
592 :
ゾディアックストーリー/ゼロ 1:さらばアホテマ:2008/03/08(土) 06:22:55 ID:w4q2IWeI
t
593 :
ゾディアックストーリー/ゼロ 1:さらばアホテマ:2008/03/08(土) 06:27:10 ID:w4q2IWeI
失敗。スマソです
594 :
ゾディアックストーリー/ゼロ 1:さらばアホテマ:2008/03/08(土) 06:40:24 ID:w4q2IWeI
なんか投下できないんでみおくりっす。
ラムザ呼ぶSSとムスタディオ呼ぶSSと聖石のみ呼ぶSSを読んだので、
とりあえず全部呼んでみたやつだしたw
ID:w4q2IWeI
とりあえず、
>>1を熟読してから出直しておいで
596 :
ゼロの魔獣:2008/03/08(土) 09:47:25 ID:lcKok+IU
進路クリアーでしょうか?
5分後くらいに投下させてもらいます。
しえん
旧タルブ村跡地。
そこに、かつての人々の営みの跡は見受けられない。
目の前に広がるのは、ペンペン草一本生えていない荒野。
明らかに自然の作ったものではない、断層と陥没。
そして、その中央にポッカリと開いた 『 地獄の釜 』・・・。
最後の調査隊が引き上げを決め、今や無人となった惨劇の場に、一組の男女が立ち尽くしている。
女の方は、ズタボロのマントに全身を包んだ緑髪。
端正な顔立ちを台無しにする異常な目付きの悪さ、加えて、やたら大仰且つ悪趣味な煙管をふかしている。
一目見れば分かる危険人物 ― 『土くれ』のフーケだった。
「・・・旦那もまた えらくこっぴどくブチのめされたもんだねえ・・・」
フーケがしみじみと言う。
男の方は、右手は手首から先が、左は肩口から先が丸々存在せず
羽織っただけの上着の袖を、風にはためかせていた。
「お前には随分と世話をかけたな 『土くれ』」
「貸し借りは無しだよ ワルド」
それっきり、二人は無言となり、暫らくの間釜の底を睨み続けていた・・・。
「・・・結局 あの光柱はなんだったんだい?」
「さて な・・・」
フーケの問いに、虚空を見上げながらワルドが答える。
「本来交わるはずの無い 異なる世界が出会った結果なのか
あるいは この眼前の惨状すら 大いなる始祖ブリミルの 導きの一部なのか・・・」
「・・・・・・」
「・・・かつての俺は あのシャフトと同じだった
異界のもたらす力を求め それにおぼれた挙句 このザマだ」
「今は 違うとでも?」
「今はもっと強欲さ
力はいらん 真理が知りたい
あの魔獣は何処から来たのか? そして俺達は何処へ行くのか・・・」
「懲りない男だねえ アンタも・・・ 勝手に身を滅ぼすがいいさ」
フウゥゥっと、大きくケムリを吐き捨てた後、フーケが煙管を高々と振り上げる。
直後、背後にいたゴーレムの関節が回転を繰り返し、瞬く間に巨大なバギーへと変貌を遂げた。
「これからどうする?」
「怪盗のやる事はただ一つ・・・ だろ?
ただ これからは貴族のお宝なんてケチくさい事は言わないよ
魔獣は虚空に去ったが あたしにはヤツとの戦いで得た最強の力がある
コイツであたしは天下を盗む!
口だけのスカした貴族どもを片っ端から蹴散らして
世界中をあたしのシマに塗り替えてやる!」
「・・・懲りないのはどっちだ
魔法学院のガキどもにブチのめされたヤツの台詞じゃあないだろ」
「過去の事を蒸し返すんじゃないよ
そういうアンタこそどうするんだい? アルビオンに戻るのかい?」
「そうだなあ・・・」
言いながら、ワルドは躊躇いもせずバギーへと乗り込む。
「俺はヤツとの戦いで 全ての力を失ったが
未だに好奇心と 小賢しい頭脳の方は残ってる
とりあえず暫らくは 女極道の片腕をやらせて貰うとしようか・・・」
「つくづくけったいな男だねえ・・・ 当分の間給金は出ないよ! ワルド」
フーケは煙管を持ち替え、トン、トン、トーン、と、三度ゴーレムを叩いた。
四つの巨大なローラーが土煙を巻き上げ、二人を乗せたバギーが荒野へと消えた・・・。
・
・
・
しえん
タルブでの戦闘から二週間。
「地獄の釜」から10リーグ程離れた草原地帯に、タルブ村の移住作業が始まっていた。
最終的な勝者にこそなったとはいえ、異界の技術がもたらした被害は事のほか大きく、
軍の再編、負傷者の介抱、虜囚の保護、難民の支援と、
トリステイン軍は猫の手も借りたいほどの忙しさに追われていた。
その為、魔法学院も授業の一時休止を決め、貴族の子弟たちはタルブの復興支援に参加していた。
「―それにしても これからハルケギニアはどうなっちゃうのかしら・・・?」
再建が進む村を一望できる丘の上で、キュルケが呟く。
眼下には、タルブ復興のシンボルとして、
子供達の英雄となった巨大な青銅乙女が、木材を運ぶ姿が見える。
「なーにしみったれた事言ってんのよ まったく似合ってないわよ キュルケ」
「だって あんな物を目の当たりにしちゃったら ねえ ・・・タバサ」
「・・・・・・・」
ルイズの反発を受け、キュルケは青髪の少女へと同意を求める。
二人とも、タルブの地に『地獄の釜』を開けた光柱を、最も間近で見た生き証人だった。
あるいは、学生たちの中ではタバサこそが、事態の深刻さを最も理解していたのかもしれない。
世界が注目した、『レコン・キスタ』のトリステイン侵攻。
その中で明かされた、未知の力 ― 箱舟、ドグラ、魔獣・・・
そして・・・ 大地に巨大な風穴を開ける程の、膨大なエネルギー。
あの光柱で、世界ははっきりと、『異世界』の存在を認識してしまった・・・。
勿論、今すぐにどうという事ではない。
異世界の技術を御せず、手痛いしっぺ返しを喰らう形となったアルビオンは、
首脳部の責任問題に端を発した内乱により、外征に打って出る余力を完全に失った。
ガリア、ゲルマニアの諸国も、アルビオンの二の舞を恐れ、現在は静観に徹している。
だがそれも、所詮、喉元過ぎれば・・・ というヤツであろう。
追い詰められたアルビオンが、シャフトの残した技術力をテコに、巻き返しを謀る可能性は十分にある。
他の諸国も、あの巨大なエネルギーを己が物にせんと、いずれは独自の研究を始めるであろう。
『異世界』と出会ってしまったハルケギニアは、もはや引き返せない時代へと突入していた。
しえん
「大丈夫よ」
ルイズが断言する。
「異世界との遭遇がもたらしたものは 何も邪悪な力ばかりではないわ
シンイチと出会ったあたしも もう過去の臆病な自分ではない
あたしだけじゃない キュルケにも タバサにも ギーシュの中にも
シンイチと出会った全ての人たちの中に 彼の強烈な生き様が息づいている・・・
だから 世界が巨大な変革を遂げる事も あたしは恐れない
シンイチの世界の技術が ハルケギニアを脅かすのなら
彼の魂を受け継いだあたしが それを喰い止める力となって見せる!」
桃色髪の少女の大言壮語を、友人二人は呆れ顔で見ていた。
「あなた・・・ 前々からバカだとは思ってたけど いつの間にか本物のバカになってたのね」
「大風呂敷」
だが、そう語るキュルケもタバサも、どこか吹っ切れたような笑顔をしている。
「まったく 随分と大きく出たものだな ルイズ
今の君が心配しなきゃいけないのは 三日後の事じゃないのかい?」
ワルキューレの右肩に乗りながら、ギーシュがこちらへと近づいてくる。
三日後、トリステイン魔法学院の、授業再開の日。
その日の最初のプログラムは、学院史上でも異例の事態となる、
ルイズの2度目のサモン・サーヴァントの儀式と決まっていた。
「余計な心配は無用よ あたしを誰だと思っているの?」
かつての彼女の使い魔のように、不敵な笑みを浮かべながら、ルイズが言い放つ。
「楽しみにしてなさいよ デルフ
今度こそ アンタを持つにふさわしい 伝説の使い魔を呼び出して見せるわ!」
「おう! そいつはありがてえ
今度は俺をブン投げたり 置いてけぼりにしたりしない奴を頼むぜ!」
伝説の剣のおどけた口調に、その場に居合わせた一同が笑う。
「みなさーん 食事の準備ができましたよー」
風に乗って、遠くからシエスタの声が響いてきた―。
・
・
・
「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ
神聖で美しく そして強力な使い魔よ
私は心より訴えるわ! 我が導きに答えなさい!」
ド ワ オ オ ォ ッ ! !
― いつもの詠唱、 いつもの爆発。
今日もトリステインは平和であった・・・。
「何やってんだバカヤロー」「ふざけんなッ! ゼロのルイズ」
眼前で生じた爆発にも、学友たちの罵倒にも、ルイズは身じろきひとつしない。
腕組仁王立ちの体勢で、黒煙の中を凝視している。
「いいえ! 召喚は成功よ!!」
ルイズがピッ、と杖を指し示す。
立ち込める煙の中に、確かに何者かの影が動く。
「あれこそが あたしの新しい使い魔
この世で最も神聖で美しく そして強力な・・・ って ええッ!?」
いち早く使い魔を発見したルイズであったが、驚愕の声を上げたのも、彼女が最初だった。
さもありなん。 爆発の中央にいたのは平民の少年・・・。
―その日
虚空の果てまで吹き抜けるような青空の下
真理阿の最後の予言が、現実となった。
( ゼロの魔獣 完 )
しえん
乙でした。
607 :
ゼロの魔獣:2008/03/08(土) 10:04:53 ID:lcKok+IU
以上で全エピソードの投下終了です。
慎一が地球に帰り、ハルケギニアも本来のストーリーに戻ったところで、本作は終劇とします。
(一部、大きく逸脱してしまったキャラもいますが・・・)
今まで支援してくださった住人の皆さん、まとめサイトの編集をしてくださった皆さん
本当にありがとうございました。
完結乙でした
すばらしい長編でした!
ありがとうございます!
炎の力は、俺のエネルギーだ!!
乙
乙です。
よかった、おマチ姐さん生きてたーー(゚∀゚)
おマチ姐さん謹製ゴーレムの変形に、「ギガゴゴゴゴ」と言う擬音が脳裏に浮かんだ俺orz
おマチさんが極道兵器になっとるー!?
14時30分頃より、投下よろしいでしょうか?
元作品はPS2版「メタルサーガ〜砂塵の鎖〜」、召喚対象はアルファです。
7万のアルビオン軍。
それをただ一人で撃退した彼女は、しかし力尽き、その場に崩れ落ちた。
「あ……申し訳、ありません、マスター」
うわごとのように、彼女は呟く。
「……自己診断プログラムによると、このままでは、全ての機能が停止。再起動は不能……のようです」
見ればその姿は、既に片腕を失くしている。両足にも数箇所大きな傷を受け、既に歩くことすら出来ない。更に言えば、全身が傷だらけ。焦げたような痕もあれば、凍りついた痕もある。失った片腕の断面からは、ばちばちと火花が散っていた。
「申し訳ありません……。これ以上、マスターのお役に、立てそうにはありません……」
その呟きを聞く者は、誰かいるだろうか。
荒野に倒れ臥した彼女は、一人呟き続ける。
「……私には、感情というものがありません。ですが……。
マスターと過ごした時間は……短い間でしたが、とても、印象深いものでした……。
さようなら、ルイズさま。
わたしの、マスター……」
その呼びかけを最期に、彼女は動かなくなった。
ルイズが召喚したのは、ひとつの大きなカプセルであった。
高さは1.5メイル、長さは3メイル程もあろうか。上面は透き通った硝子のようなもので覆われており、中には一人の少女が横たわっていた。
ルイズがよく中を見ようと、しかし恐る恐るカプセルに触れた時、突如カプセルから声が聴こえてきた。
「アルファX02D、起動開始。
システムチェック、動力チェック、各種センサーチェック、各部駆動チェック……オール・グリーン。
アルファX02D、起動します」
思わず後ずさったルイズの目の前で、ゆっくりとカプセルが開き、中の少女が身を起こした。カプセルから降り立ち、軽く辺りを見渡す。
紺の髪をポニーテールに束ね、白いゆったりとしたワンピースを纏った少女。頭から伸びる二本の紐のようなものは何だろうか? その可憐だがどこか異様な姿の少女は、目の前にいる桃色の髪の小柄な少女……ルイズと目を合わせると表情ひとつ変えることなく尋ねた。
「あなたが……私のマスター・コマンダーですか?」
「マスター……そ、そうよ。私があんたのご主人様よ」
「マスター」、すなわち、「主人」。
全くの無表情で問うその少女に気圧されたのか一瞬口ごもるが、ルイズはしっかりと頷いた。
「了解しました。
パーソナルインフォメーションの取得を開始します」
「はぁ?」
突然わけのわからない事を言い出したその少女に、ルイズは怪訝な顔をする。
「……収録完了、識別子生成完了。貴女をマスター・コマンダーと認識します。
はじめまして、マスター。私はアルファX02Dです」
そう言って、ポニーテールの少女は軽く会釈した。
……それが、ルイズとアルファの出会いだった。
端的に言ってしまえば、アルファは人間ではない。地上を襲った『大破壊』以前に建造され、暴走を続けていた巨大地上戦艦『ティアマット』の中で眠りについていた、人間型の戦闘兵器である。
従って、彼女は食事を必要とせず、まずは食事から躾けようとしたルイズの怒りを買う羽目になった。
睡眠も必要としない。当然藁のベッドも毛布も使わず、ルイズの部屋の一角に佇むその姿は当然ルイズの常識を超越しており、気味悪がったところもあっただろう。
結局、彼女の素性がはっきりしたのは、『土くれのフーケ』と呼ばれる盗賊が学院の宝物庫にある『破壊の杖』を狙い、30メイルはあろうかという巨大なゴーレムを差し向けた時であった。
ゴーレムに立ち向かおうとするルイズの前に立ち、アルファは勢いよくワンピースを脱ぎ捨てる。そこにあったのは、見たこともない薄い鎧のような肩当て・胸当て・腰当で構成されたプロテクターを身に着けた、戦乙女の姿だった。
片腕をゴーレムに向け、アルファは一言。
「レーザーライフル、発射」
ばくん、とゴーレムに向けた腕が上下に分割され、その間から光が迸る。それは正確に、ゴーレムの片足に直撃し、見事吹き飛ばした。
……その光景を見て、ようやくルイズは、そして彼女の友人達は、彼女が人間でないことを理解するのであった。
アルビオンとの戦いから数日後。
トリステイン魔法学院には、奇跡的に生き延びたコルベールからアルファの戦死を聞かされ、泣き崩れるルイズの姿があった。
確かに彼女は人間ではなかった。その上感情を持たず、淡々と自分に付き従うアルファだったが、それでも彼女はルイズにとってかけがえのない存在となっていたのだ。友とすら、思えていたのだ。
コルベールは涙を流すルイズに、静かに告げる。
「アルファ君から、貴女に渡すよう頼まれたものがあります。ミス・ヴァリエール、ついて来なさい」
そう言って彼がルイズを連れて行った先は、タルブ村から回収した『鋼の地龍』が置かれている格納庫であった。
「彼女はこれを一人で乗りこなしていましたが、これは本来、車長・操縦手・砲手の3名で使うのだそうです」
地龍に手を当て、コルベールは言う。
「それを一人で使えるようにしたのが、Cユニットという部品なのだと、彼女は言っていました」
「……それが、アルファと何の関係があるんですか」
泣きはらした瞳を、ルイズはコルベールに向けた。
「アルファ君が人ではなかった事は、今更言うまでもありませんね」
コルベールも、ルイズに向き直る。
「彼女本人から聞いた話によれば、形や使い方が違うだけで、彼女もこの地龍と同じようなつくりになっているとのこと。
特に思考を司る部分は、このCユニットとほぼ同じなのだそうです。
……彼女は恐らく、自分が早晩こうなることを予見していたのでしょう。彼女の思考と記憶を司る部品の外し方を、教えてくれていました。
そして、その使い方も」
そう言って、コルベールはルイズの手に何かを握らせた。小さくて硬い感触。
ルイズが手を開いて目を落とすと、そこには小さな鍵があった。
「彼女の身体は回収され、私に預けられました。そして私は彼女の意志に従い、貴女にこれを託します」
ルイズは視線を地龍に向ける。その地龍を動かす為の鍵こそが、今ルイズの持っている鍵であった。
「動かし方は解りますね?」
コルベールの問いに、操縦席で小さく頷くルイズ。何度かアルファが動かすのを見ていたので、鍵の使い方は把握していた。
鍵を差込み、軽く捻る。力強い咆哮を上げ、地龍が吠えた。その時である。
「――『零式』管制システム・アルファX02D、起動開始。
システムチェック、動力チェック、各種センサーチェック、各部駆動チェック……オール・グリーン。
『零式』、起動します」
ノイズが混じった少女の声。聞きなれたその声に耳を疑う。
「あ……アルファ!? あんた……」
「お久しぶりです、マスター。『零式』管制システム、アルファX02Dです」
……鋼の地龍、いや、零式と呼ばれた戦車のCユニットとして、身体を失いつつも復活を遂げた、アルファの目覚めだった。
その後の彼女たちの活躍については、語るまでもないだろう。
『ゼロのルイズ』と『零式の戦車』。その奇妙な符号も手伝い、彼女らの名と姿は対『無能王』ジョゼフの旗印として長く語り継がれる事となる。
また、人々の生活を脅かす魔の手からの鋼の守り手、『ハンター』としても。
以上、お目汚し失礼致しました。
「小ネタ」と明記するのを忘れておりましたこと、申し訳御座いません。
乙乙乙ー。
乙!!
元ネタ知らんけど楽しめた。乙&GJ。
乙ー。
そのイベントの存在をwikiで知ってからは一度もアルファを戦闘不能にしなかったぜ。
もちろんCユニット「アルファ」なんて存在させない!
とはいえ、これを読むとCユニット化も物語的にはアリかもと思える………ともかく再度乙!
625 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/08(土) 15:45:09 ID:oITg4OLv
○________
なぎはらえー |:|\\:::::||.:.||::::://| /イ
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__ ィ ,. -――- 、 |:|:二二二二二二二 !// /
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/ ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./ / / l l l lハ |:|//:::::||.:.||:::::\\l /
ト、 ,.  ̄ ̄Τ 弋tァ― `ー / l从 |メ|_l l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄ | イ
ヽ \__∠ -――く __ .Z¨¨\ N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\| / / | / !
ヽ ∠____vvV____ヽ < ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐ . \ / / \ / l
. \\_____ivvvvvvvv| V. ( ( /Tえハフ{ V ‐一 '´ / __. -―=-` / / l l
\! | / 入_.V/| >-ヘ \:::∨::∧ ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ / / / l. l
__ |\ l/V _{_____/x| (_|::::__ノ }ィ介ーヘ / ,.-‐ ' ´ / ____  ̄ ̄フ ∧ l
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| ヽ /____|]]∧ __|__L.∠ ム' <`丶 、 `丶、 / \_____/ /
| ', { |]]]>' __ ∧ l\ \ 丶、 ` 、 ∠ -――- ..____ノ /
ノ } l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/ V' \ ヽ `丶\/ /
/ ∧ { \ | .|>' / // :/ :/ : ', l \ ヽ ,.-――┬ \ /
入ノ. ヽ く ヽ______7 ー―∠__ 〃 l :/ :l l \V ヽ \ ,. '´
`ー′ \ `< | { / | /〃 :|/ __V/ ̄| ̄ ̄{_ \_ ` <
\ `' ┴ヘ { .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' | / ノ`y‐一' >、_/ / ̄ 7丶、_ 丶
\ ヽ /`ー「と_し^´ | | } ム-‐' / / \_/ / / ヘ \
ヽ _>-ヶ--∧_} ノ j /` 7 ̄ ̄ ̄{ (  ̄ ̄`ー‐^ーく_〉 .ト、_>
', / 人__/ .ィ {__ノ`ー' ヽ 人 \__ { } |
V 人__/ / | /  ̄{ ̄ >‐ ァ-、 \ 〉ー} j
{ / ./ ∨ __  ̄ ̄ >-</ / ̄ ̄ 廴ノ '
<ヽ__ /し / < )__ \ _r‐く___/ / < ) \ {__ノ /
Y__>一' / ___r―、_\ >' `ー' ,. ´ >.、 \__ノ {
∠二)―、 `ー‐┐ ∠ ∠_r‐--― <__ ∠ )__ \_
∠)__ノ ̄`‐⌒ヽ__|> ∠)__r―――-― ..__{> ∠_廴,. ⌒ー'  ̄ \__{>
なんとなく浮かんだギーシュがUMA子召喚
ワルキューレを素手でをなぎ倒しながら「ギっちゃぁーん!!」と抱きしめ
サイトとギーシュの話してるとこで乙女美ジョン発動
「このご法度野郎があぁーっ!!」と二人を殴り飛ばし
マリコルヌとオスマンが覗きを行ったら「じゃけんのぉー!!」「美しさは罪ィー!!!」
イザベラってタバサ外伝のキャラ?
タンクとかレーザーライフルとか大破壊って単語で某ACを連想したのは俺だけでいい。
むしろアラシヤマを呼んでワルドを心友扱いするってのは
>>630 そこは奴同様に友達がいないイザベラさまで
無視しようが魔法を喰らわそうが、自分を心友扱いするアラシヤマに少しずつ心を開いていくイザベラさま
メタルの人乙&GJ、家に来てドラム缶を押していいぞ。
砂塵の鎖は別会社が作ったわりには結構メタルマックスしてて良かったなぁ。
>>629 何らかの被害によって文明が衰退した設定とか機体をカスタマイズするって所が似てる。
メタル好きにはAC好きも多いんじゃないかな?
史上最強の弟子ケンイチからケンイチ
むしろ謎の青年 我流Xを
>>631 イザベラ様が普通にツンデレヒロインになっちゃうじゃないか!
アラシヤマも決める時は決めるやつだしな
はじめまして、数日前にまとめWikiを見て書きたくなりました。
作品名:Yes!プリキュア5
使い魔:カワリーノ(敵組織ナイトメアの幹部、嫌味でドSな策士)
とりあえず、召喚時点では個性が出せそうにないので、いきなりギーシュ戦からです。
これで20:20くらいから投下したのですが、いいでしょうか?
トリステイン魔法学院の食堂の隅で、カワリーノはお茶を飲んでいた。
食堂では学生達が談笑している。
「なあギーシュ、お前誰と付き合ってるんだよ」
「つきあう?僕にそのような特定の〜」
(そういえば、こちらの世界に来てから一度も『絶望』を集めていませんでしたね。あのメイジなら、中々にいい『絶望』を搾り出せそうです…)
カワリーノが指を鳴らすと、ギーシュのポケットから、香水の瓶が抜け出して床にカランと落ちた。
「おや、今、あなたのポケットから、この瓶が落ちましたよ。」
しかし、ギーシュは振り向かない。
カワリーノは、瓶を拾い上げ、周囲の皆に見せた上でギーシュの手に握らせる。
「はい、これは、あなたの香水ですよ。」
その香水の瓶に気づいたギーシュの友人達が騒ぎ始める。
そこから二股がばれたギーシュは…
「待ちたまえ、君が軽率に香水の瓶なんか拾い上げたおかげで2人のレディの名誉が傷ついてしまった。」
「自分は二股をかけていて、ばれたら責任転嫁ですか?」
「僕は君が最初に声をかけたとき、知らないフリをしたじゃないか。話をあわせるくらいの機転があってもいいだろう?」
「いえいえ、香水の瓶なんかをポケットに入れている軽率なあなたが悪いんですよ。その程度じゃ、すぐにばれますよ。」
「こ、この…貴族に向かって…」
彼は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「確か、ゼロのルイズが呼び出した平民だったな?平民に貴族の機転を期待した僕がバカだったよ…」
「今、何と言いました?ルイズお嬢様への侮辱は許しませんよ!」
いつもの笑顔を崩さぬまま、言葉に怒気がこもる。
ギーシュは一瞬たじろいだが、すぐに言い返した。
「君は貴族に対する礼を知らないようだな。外に出ろ!礼儀を教えてやる。」
ギーシュが外に出たあと、ルイズが後ろから駆け寄っていた。
「あんた、何してんのよ!決闘なんて止めなさい!」
「あいつは、ルイズお嬢様を侮辱しました。」
「…え??」
「見ていてください、私は負けませんから。」
カワリーノの言葉の半分は本心である。
しかし、カワリーノにはもう一つの目的があった。
(気位だけが高くて、世間を全く知らない貴族様、いい『絶望』が搾り取れそうです…)
カワリーノの、いつも笑っている口元がさらに緩んでいた。
ブンビーさん再就職支援
決闘が始まると同時に、ギーシュはゴーレムを作り出す。
「僕はメイジだ、だから魔法で戦う。『青銅』のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ。」
ワルキューレは、カワリーノに向かって突進し、右の拳を繰り出した。
だが、その拳は空を切り、地面にめり込んだ。
…そして、ワルキューレの右手は肩から、ポロリと落ちてしまった。
「おやおや、一発殴っただけで壊れるとは…たいしたゴーレムですね。」
ギーシュも唖然とした顔をしている。ワルキューレがこれくらいで壊れるはずはない。
そう、これはワルキューレのせいではない。
カワリーノは、ゴーレムの攻撃が当たる寸前にかわすと同時に、右肩を切断していたのだ。
一瞬の沈黙の後、周囲の観衆がどっと笑う。
「こ、この、ゼロのルイズの使い魔ごときが、どこまでも馬鹿にして!!」
彼は怒りに顔を高潮させながら、6体のワルキューレを呼び出した。
「ルイズお嬢様への侮辱は…、許さないと言ったはずですよっ!!!」
彼の顔から笑いが消え、その目が開いた!
ギーシュは杖を振り上げたまま動かない。…いや、動けないのだ。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……)
カワリーノの目を見た瞬間、ギーシュの体は動きを止めた。
(ワルキューレを…、いや、逃げ…、逃げなきゃ…、ワ、ワル…)
頭の中では、様々な思考が回っているのに、体が動かないのだ!
ただ、全身がガクガクと震え、汗がダラダラと流れ落ちるのみ。
「『青銅』のギーシュさん。私は別に貴族を馬鹿にしているわけではありませんよ。」
カワリーノはゆっくりと歩き始めた。
「すぐに壊れるようなゴーレムしか作れない貴方には、貴族の価値はありませんね。」
その手には、いつの間にか仮面が握られている。
「二股の証拠となる品を常に持ち歩いているなど、レディ達の薔薇が聞いて呆れます。」
カワリーノは動かないワルキューレの横を難なく通り抜け、一歩一歩近づいてくる。
「それを、平民のせいにして場を取り繕おうなんて、考えることが下劣ですよ、貴方は…」
その手に持った仮面をギーシュの顔へ押し付ける。
「絶望の闇に落ちなさい…」
仮面を被ったギーシュの手が力なく垂れ下がり、杖を落すと同時にワルキューレも姿を消した。
「終わりましたよ、ルイズお嬢様。」
ブンビーさん空飛べる支援
カワリーノの迫力に、静まり返っていた観客達が、われに帰ったように歓声を上げる中、ルイズがカワリーノに駆け寄ってきた。
「あんたね、何でこんな無茶したのよ。たまたまギーシュのゴーレムが壊れてくれたから良かったものの…」
「いえいえ、簡単な相手でしたよ。あ、そうだ、まずはお嬢様に謝っていただかないと。」
カワリーノが指を鳴らすと、ギーシュは仮面を被ったまま黙って頭を下げた。
「ちょっと、なに?貴方、ギーシュに何をしたの?」
「この方には、『絶望の闇』に落ちていただきました。二度と目覚める事はありません。」
「え!そ、それって、一生この仮面を被ったままってこと?」
「そうですね。彼が自分の意志で動くこともないでしょう。」
「な、なに言ってるのよ!そんなの絶対ダメ!!そんな事したら、ギーシュの家の方だって黙ってないし、それにギーシュはクラスメイトだし…、とにかく…すぐこれを外しなさい!!」
「ま、まぁ…ルイズお嬢様が、そうおっしゃるのでしたら…。」
カワリーノが指を鳴らすと、仮面はカランと下に落ちた。
仮面の下のギーシュの顔は、やつれきって、汗がダラダラと滴り、焦点の合わない目が虚ろに開いているのみだった。
「よかったですねぇ。ルイズお嬢様が慈悲深い方で…。これに懲りたら、二度とお嬢様を侮辱しようなんて思わないことですね。」
カワリーノが仮面を拾い上げながらそう言うと、ギーシュはふと我に返り、奇声を上げながら部屋へと走り去った。
「おいおい、あの平民ギーシュに勝っちゃったよ…」
「あいつも情けないよなぁ、怒鳴られただけですくんじゃうなんてさ」
「でも、あの平民もすごい迫力だったなぁ、ルイズの悪口言うの止めといた方がいいかもな…」
周囲の野次馬が騒ぐ中、カワリーノはルイズと共にその場を去った。
(せっかく、極上の『絶望』が集められそうでしたが、仕方ありませんね…。平民なら1人や2人消えてもルイズお嬢様は気にも留めますまい…)
とりあえず、これで終了です。
とりあえず、設定はこんなところです。
・デスパライア戦の後、ブラッディに引きずり込まれたところで飛ばされた。
・もう帰るところがないので、ルイズの使い魔になっている。
・ルイズとデスパライアを一部重ねている。
すみません、操作をミスって途中で送ってしまいました。
支援していただいた方、どうもありがとうございました。
また、読んでいただいた方々にも感謝です。
それではでは、これからも宜しくお願いします。m(_ _)m
乙です
カワリーノ乙!
こいつら実はメチャ強いから楽しみだ
>>629 ある意味世界が崩壊し技術も失われた世界感で
部品の交換改造で巨大ロボットを改造し、発掘部品でパワーアップ!
というのであればバトルテックワールドもそれっぽいよ。
補給がちょっときつい世界感なのがちょっとあれだけど。
サモンジ中尉の続編まだかな。
カワリーノお疲れ様でございました!
ナイトメアの人GJ!!
ギーシュに言いたい事全部言ってくれたぜ
カワリーノの方、お疲れ様でした。
プリキュアシリーズは観た事がなかったのですが、意外とハードな展開だったのでしょうか。
ダークで面白そうです。
拙作をご覧になって下さった皆様、どうもありがとうございました。
ゼロ魔にせよメタルサーガにせよ、初めてこういうものを書きましたので、緊張致しました。
ご満足いただければ幸いです。
>>624様
実は私も、未だアルファを戦闘不能に陥らせた事がありません。
Cユニットアルファは強いらしいんですが、それ以前に過程に耐えられない!!(笑)
>>629様
他の皆様も仰っておられますが、世界観は近いのかもしれません。
正直なところACシリーズは(一時期サターン派だったので)プレイしていませんが、
プレイしていればきっとハマったんだろうなあとは思います。
>>632様
目λ....
思ったよりメタルマックスしてましたね。
レベルアップのシステムやアイテム所持・預け数など、細かい不満は幾つかありましたが、
楽しめるゲームだったと思います。
>○○がタンクでやってくる!
俺はハナ肇の方を期待しちゃったよw
>>651 乙です
>プリキュア
敵幹部がプリキュア達に、
「管理職の私には残業代が出ないのでね」
とこぼす位にはハードですw
ゾフィー呼ぼうぜ
はじめまして
作品名:機動戦士ガンダム00
使い魔:刹那・F・セイエイ
投下よろしいでしょうか?
どぞー
俺が使い魔だ支援
ばっちこーい
おお、なんかルイズがやたら苦労しそうな使い魔だががんばれー期待してるぞ
phase00 終わりの始まり
人物紹介
名前 刹那・F・セイエイ
真名 ヤマオカタカシ
年齢 14才
職業 学生。裏の世界では凄腕の暗殺者。
身長 185cm
外見 モッズヘアーで黒のブランド服を着こなしている。
趣味 スキー
好きな科目 英語・パソコン
技能 魔眼による石化。吸血鬼と皇族のクォーターでもある。
備考:異能集団ニーチェに囚われの兄を助け出す今一歩の所でリトルウィリー・田中に妨害され失意の中に新たな出逢いにより
FifthHevenの入会試験に意欲を示すも仇敵断紅麗に惜敗する。
協会に終結する異能たち。幾多の組織から派遣された者たちの考えが考察する中でタカシは光る鏡につつまれ・・・
こりゃもうガンダム関連は全て禁止だw
支援
見なかったことにしようorz
なぁなぁ、そんなことより
>>654 もっとウルトラ系が来てもいいと思うんだ。
何これwwマジwwwww釣られたww
あれ?エラーが出て投下できませんね。なんでだろ?
あのー
ガンダムは姉妹スレのトレーズ様板じゃあ・・・
これはイイ邪気眼w
>>667 専用スレに行けという神からのお達しかと
携帯でしこしこ書いてるんだが
携帯からの投下って絶対見づらいよな…
>>671 いや容量の無駄遣いはするなとの神の啓示だろw
>>665 ルイズが召喚するわけじゃないが、サイトが瀕死状態になってる対7万人後がいいタイミングかも
問題はコスモスがやってくると無能王が一発で改心してしまうことだな
ねえ、1サント=ほぼ1cmでいいの?
草加雅人を呼ぼうぜ!
なんだよこの名前だけで駄作とわかる作品の連投は?
test
厭忌を与える対象への想念がタカシの脳内の精気を多量に下膵十二指腸動脈の方に導くために精気は?汁が通常流れ込むであろう入り口をことごとく圧縮し、?汁が血液と混ざり合うことを妨げる。
厭忌の対象、断紅麗に関連する第一想念は再度精気を脾臓の小神経及び胆汁の存在する肝臓下部への小神経へ大量に誘うために血液のうち常にそれら場所に投ぜられる部分が脱し大動脈分岐内の血液とともに心臓に注ぎ込まれる。
良作の連投を見て何か勘違いしたんだろう
以前のシンジ(と見せかけてオリキャラ)召喚の人じゃね
ヤン提督を救いにくるのは誰か賭けないか
俺はお約束で一番ありそうでそれゆえ一番なさそうなミュラーを推す
えーと……これは投下しちゃならないふいんきなのかしら?
30分から「ゼロロ使い魔」投下しようと思うのだが
>>672 いいんじゃね?
改行に苦心しそうだけど
(野原ひろしの声で)異世界への逃避……じゃなくて転移。それは二次元に思いを馳せる者であれば、いや恐らく大抵の人間が子供の頃には一度は願う夢物語。
そんな人々の想いが積み重なりすぎたのか、この世界達は日ごとに妙な人間、時としてそれ以外のナニかが飛んでくるわけです。ええ、召還する身としては迷惑な話で……あ、いやゲフンゲフン。
まあともかく今日もある新参者がここ、ハルケギニアの平行世界の一つにやって来ました。
果たして前代未聞か? 今回はなんと……って大体予想はついてる? いえいえ今回、問題は数の方なんです。
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メイジの学び舎であるここ、トリステイン魔法学校では二年生になった者達の(ry
そして、最後に残った少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエールは幾度となく儀式を失敗し続けていた。
コルベールの明日に回す、といった提案も既に耳には入ってないらしい。次こそは、とルイズは再び杖を振るう。見物している他の生徒はいい加減うんざりしてルイズに野次を飛ばしていた。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!」
何度目になるか分からない召還の儀式。周りから聞こえる野次もそうだが、この延々と続く失敗の方にも大分うんざりして来た。殆ど拷問のようなものだが、とにかく成功するまでは形振り構ってはいられない。
結果よ、結果さえ残れば過程がどうであろうと関係ないの。とにかくこの儀式を成功させるのよ!
「私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!!」
瞬間、閃光と共に爆発が起きた。おまけにおびただしい土煙まで上がり、ルイズのみならずそこに居合わせた者全ての視界を奪う。
煙が少しずつ晴れ、やがてうっすら見えて来た影に一人の生徒が声を上げた。
「おい、あそこに何かいるぞ!」
やがてその煙も殆ど晴れてくる。
そして高鳴る動悸を抑えられないでいたルイズの視線の先に会った、自分の使い魔とは……
「さん、しー……五匹いるぞ!」
「なんだありゃ!? 妖精か、何かか!?」
「ゼロのルイズが妖精を呼び出したぞ! しかも五匹もだ!」
騒ぎ出す生徒達を他所に、ルイズはルイズで口をぽかんと開けたまま自分の呼び出したそれらを見つめていた。
緑、黒、赤、黄、四匹に紛れて一瞬気付かなかったけど、青。
それらのどれもが同じような体型をしていて、同じような帽子を被っている。
よく見れば顔の方は五匹それぞれ違いがあるようだ。
緑のはマヌケな、黒のは愛らしい、赤は厳つい、黄はメガネをかけた嫌らしそうな顔(青は後ろ向きで見えなかった)で……
……五匹揃って気絶していた。
「や……やったの、かしら?」
ルイズは我に返ると気絶した五匹に向けてふらふらと歩き始めた。何だか色々と良くわからないけど、召還の儀式は成功したのだ。それも、一度に五匹も!
「ほう……五匹もの使い魔が同時に召還されるとは前代未聞ですな。しかも何れも見たことの無い……彼らの正体については図鑑で調べるか専門の研究機関に訊くなりするしか……おっと、兎に角サモン・サーヴァント成功おめでとうございます、ミス・ヴァリエール」
監督をしていたコルベールが興味津々といった様子で五匹を眺めながらルイズに語りかける。
「ありがとうございます、コルベール先生……でも私、どれと契約したら……」
「確かに……いや、召還の儀式で呼ばれたと言うのなら例えそれが四匹、五匹でも総じて君の使い魔になるということではないかね?」
言われてみればそうかもしれない。それに、どれか一人だけが使い魔として召還されたということであれば全員と契約を試してみればどれか一匹が反応するだろう。
五匹の内の緑な一匹を抱き上げ、ルイズは口を開いた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そして緑に口づけをする。……しかし なにもおこらない。
(こいつじゃなかったのかしら?)
いきなりのハズレにルイズは少し顔を赤くするがそれでも続けて今度は黒いのを抱き上げ、同じ契約を繰り返した。
しかし、これも失敗。続けざまに赤いの、黄色いの、青いのとも契約を繰り返すがやはり反応はなかった。
(もしかして、コントラクト・サーヴァントまで失敗したの!? ……そ、それとも……まま、まさか、こいつら死んでる……なんてこと!)
如何ともしがたいルイズの沈黙にコルベールが声をかけようとした瞬間だった。
「ギィ――――ヤァ―――!!!」
「ホデュアァァァァァ―――!!!」
「アッ―――――――――!!!」
「あばばばばばばば」
「ぬ、ぬぅぅぅっ!?」
五匹の使い魔が同時に目を覚まし、同じく同時に左手を押さえ悶え始めたのだ。
突然の出来事にルイズは慌てたが、程なくして五匹の呻き声も小さくなる。
「ふむ、これは珍しいルーンだな。それも五匹そろって同じものだ」
やはり五匹とも使い魔として召還されたのか、とコルベールがうんうん頷いた。
やがて、悶絶から立ち直った五匹の内の一匹が口が開く。
「……な、何が起こったでありますか……?」
【第一話 ケロロ 飛ばされてハルケギニア であります!】
ウボァ、最後4/4だった。
というわけで一話でした。
五匹まとめて出せばインパクトあるかなと思ってやった。知ってる漫画なら何でもよかった。今は(ry
支援
乙〜こいつらか!!
これからに期待しています、頑張れ〜!
乙であります
乙。
ケロロ達がいなくなったせいで地球にガルル小隊がポコペン征服に来そうで怖いけど支援w
支援じゃない、期待w
野原ひろし(違)のナレーションの再現度がなかなか。乙でした。
しかし5体召喚ってのもここだと珍しくはなくてな……。
遂にケロロが…ちょwww小隊ごと招待かwww
GJ
緑はガンプラの無い世界に召喚されて
発狂するんじゃなかろうかw
しかし、ケロロ軍曹のガンダム中毒は大丈夫なのか?
ケロロ小隊は、実はスペックがなかなかに高い。
それが地球の文化および日向家らとの交流によって、のんびりしてしまったのが侵略の進まない原因なのは明白。
心理的に侵略しない要素が存在しないこの世界なら――無理だな。
蛙五匹にどう反応するかえらい楽しみでありますw
そういやルイズ、カエルが嫌いなんだったwwww
まああいつら生態以外カエルに見えないしいいか
泣くほど嫌いなんだよな。色々ネタに出来そうでいいじゃないw
クロノトリガーのカエルがケロロの格好してものすごいリアルな質感になってるのを想像した
つまりルイズを啼かせたい、泣かせたいわけだな
ケロン星の科学力が発揮できるような装備もそうないだろうし、マジでケロロがボケガエルと化しそうだ
しかしシエスタが「はぁーっはっはっはっは」とか三白眼で笑ってたらどうしよう
>>681 まあ普通に考えたらユリアン・フレデリカ・アッテンボローの三人だと思うのですよヘル・ミンツ
それより他にもマイン・カイザーとか死んだ人が呼ばれてるんじゃないかと気が気じゃないのですよヘル・ミンツ
ジョセフ犬!
なんかイザベラに仕えているキルヒアイス。
レコンキスタにいるトリューニヒト、フォーク准将、ラング、ルビンスキー
とりあえず
オーベルシュタインの犬でどうでがしょう?
しかしフツーにロケットランチャーとゼロ戦の組み合わせで来て欲しかったな…
地球教徒側が弱小ながらもそれなりに隠れて権勢振るえてたのはハルケギニア由来のマジックアイテムの使用があったとか…という伏線でクルかと思たのだが
釘宮理恵と高橋名人こと齋藤千和をよく聞き間違える
高橋名人に失礼だ!
>>708 ブルース・アッシュビー提督とか?>死人
そしてシエスタの先祖がオフレッサー
717 :
松下:2008/03/08(土) 23:23:53 ID:T+TiCtnA
ケロロ乙。ルイズにカエル…これは危険だ。
さて、水木しげる先生の誕生日に松下が参りました。投下いたします。
そういやあ、「悪魔くん」ドラマ化の噂はガセだったのかな? どうせ松下版は危険すぎて無理でしょうが。
過去の人物で東洋系ならリン・パオあたり?
墓場鬼太郎の録画に失敗した俺が支援
投下開始。かなりカオス気味。
《このすべての出来事は、主が預言者イザヤを通して言われた事が成就するためであった。
「見よ、乙女が身篭って男の子を産む。その名はインマヌエル(神が我らと共にいます)と呼ばれるであろう」と》
(新約聖書『マタイによる福音書』第一章より)
始祖ブリミル降臨暦6243年、ヤラの月。降臨祭が終わる頃。
アルビオン大陸に攻め込んだトリステイン軍は、謎の反乱とゲルマニア軍の離反により、壊滅寸前であった。
松下率いる『千年王国』軍団は、敗走するトリステイン軍を羊飼いのように導き、スカボロー港へ向かう。
以前に上陸地としたロサイス港には敵の艦隊が待ち構えているのだ。
しかし三万足らずとは言え、これだけの人数を本国へ輸送できるだけのフネの余裕はあるまい。
アルビオンからの脱出は早い者勝ちだ。敵に捕まればどうなるか分からないが、ぼろぼろと投降する者もいる。
そこへゲルマニア・アルビオンの連合艦隊が現れ、空中からぶわっと降伏を促すビラを撒く。
捕虜の生命と身分は保証する、との文面だ。それを見て、投降するものの数はどんどん増えていく。
「ははは、脆いものだな! しかし伯爵、捕虜が何万もおっては負担ではないかね?」
「捕虜諸君の生命と身分は、確かに保証しますよ。有能ならゲルマニアの軍人や官僚にもなれるでしょう。
ただし、身分と能力の低い奴は武器工場で死ぬまで働かせます。合法的な奴隷としてね」
ゲルマニア艦隊の旗艦では、総司令官ハルデンベルグ侯爵と黒幕ブラウナウ伯爵が笑っていた。
ここまでは作戦通りだ。ゲルマニアとガリアの本国では、何も知らないトリステイン本国を奇襲する手筈になっている。
小国が気張ってあれだけの兵力を動員したところで、両大国はそれぞれが、あの国の十倍以上の国力だ。
マザリーニ枢機卿がいかに有能であっても、資本の蓄積が根本的に違う。日本とアメリカほども違う。
「さあて、アルビオン大戦の仕上げだ。イスカリオテのギーシュくんは、ちゃんと松下を裏切ってくれるかな?
メシアの持つ強力な『命運』を覆し、死に到らせるには、悲劇的受難というシナリオを作るしか方法がないからなぁ。
これぞ秘策『シナリオ縛り』の術さ。ははははははは……」
『松下一郎』は一万年前から出現すると預言(予言)されていたメシアであるがゆえに、『預言』の通りの運命をたどる。
だがカエサルもキリストもナポレオンもヒトラーも、飛びぬけた英雄は必ず悲劇的な最期を遂げるものだ。
その筋書きを作ってそちらへと導けば、メシアである彼はそのシナリオに縛られ、遂には『預言通り』死に到るだろう。
風が吹けば木の枝が揺れるように、その呪術的な力は世界という劇場に自動的に働き、役者の運命を動かす。
これこそがブラウナウ伯爵、ダニエル・ヒトラーの秘策なのだ。
「もしあいつが本当にメシアなら、死んだところでいずれ生き返るだろう。
だが人間である以上、復活には時間がかかる。それまでに僕は僕の『千年王国』の地盤固めをしておくさ。
そして松下を偽メシア、反キリストとして貶め、僕が『聖地』に先に到達して真のメシアとなってやる!」
支援
敗走が始まって、二日目。トリステイン軍の残りは、もうほとんど降伏するか逃げ散ってしまった。
それでもスカボローへ向かう松下たちのもとに、ギーシュがホウキで舞い戻ってきた。
顔は蒼白で、脂汗たらたら。震える手には、総司令官となったウィンプフェンからの命令書が握り締められている。
それを見たルイズは、いやな予感がした。命令書を受け取り読み終えた松下は、眉根を寄せてふんと鼻息を吹く。
「ぼくとルイズに命令だ。スカボローからの総司令部と非戦闘員の脱出を援護するため、殿軍を務めろ、だとさ」
「し、しんがり……私とあんた、で?」
「まあ『千年王国』軍団も使えということだろう。まったく、無能で臆病な連中だ。
スカボローから50リーグ手前の隘路に敵を引きつけ、食い止めろ、だと。
ロサイスも他の軍港も奪い返されているから、スカボローも外側から封鎖されかねん。事態は急を要するな」
「い、幾らなんでも、さすがにヤバイんじゃないかい?
こっちは千人ちょっとだけど、敵は七万、いやさ十万はいるかも知れないんだぜ」
ギーシュは、がたがたがたがたと震え続けている。松下はそれを聞き流し、ルイズの方を向く。
「ルイズ。護衛をつけるから、きみは命令を聞かなかったことにして、急ぎ脱出したまえ。
きみに万一のことがあれば、ヴァリエール公爵が怒る。ギーシュは残れ」
こりゃもうダメだと悟り、ギーシュは精神的ショックでぶっ倒れた。しかしルイズは首を横に振る。
「いやよ! 殲滅しろっていうんじゃなく、食い止めればいいんでしょ、食い止めれば!
私とあんたと、この狂信者たちがいれば、十万の大軍なんかどおってことないわ!
一騎当千の勇者が千人いれば、計算上は百万の軍集団じゃないの!」
「……もう一度言う。この場は逃げろ、帰国するんだ。きみまで捨石になる必要はない」
「いや。何回言っても聞かないわ、逃げ隠れるのはもうごめんよ。
貴族は後ろを見せずに戦い、名誉を勝ち取るもんなの。それに……司令部はともかく、非戦闘員は逃がさなきゃ。
弱い味方を逃がすため、強大な敵に立ち向かう戦いよ。これってとても名誉なことじゃない?」
ルイズの鳶色の瞳は、狂人のそれではない。迷いを振り切り、澄み切った強い意志を感じさせる、凛とした目だ。
彼女はただ、狂おしいほどに『認められたい』のだ。ゼロではない、無能ではない、できそこないではない、と。
両親や家族に、貴族や平民に、学院のみんなに、王軍に、女王や枢機卿に、国家に、世界に認められたい。
そして自分の使い魔、マツシタにも。おお、それにしてもなんという勇気であろう!
「ぼぼぼぼ、僕は、僕は死にたくない! 帰る!」
「ギーシュ。グラモン家家訓、『命を惜しむな、名を惜しめ』、でしょ!
元帥閣下の家に生まれたあんたが、真っ先に逃げ出すなんて恥を知りなさい!」
支援
ルイズの決心は固いようだ。ギーシュ以外の全員も、松下に従って戦いたいと言う。
松下は、彼らの多くの顔に死相が出ているのを見てぎょっと驚き、深く溜息をついた。
どうやら敵の『シナリオ縛り』の術中に嵌ってしまったようだ。そうすると、ぼくは再び死ぬ可能性が高い。
敵は降伏した兵士や民間人を『人間の盾』に使うかも知れないが、それらをいちいち助けるだけの余裕もない。
総員死に物狂いで戦って、一日だけ進撃を食い止める。それが精一杯だろう。
「しかしルイズ、自信たっぷりのようだが、いい『虚無』の魔法は見つかったのか?」
「ええ、時が来たようね。この『始祖の祈祷書』に使える呪文が出てきたわ。
一緒に出て来た解説によれば、虚無にもおぼろげながら『系統』みたいなものがあるらしいの」
「ほう。まあ、虚無も四つあるらしいからな」
「私の虚無の系統は『移動』。時空間に『穴』を開き、自分や他者を移動させる系統よ。
あんたの『ヴィンダールヴ』も、《あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空》と歌われているものね。
それでね……(ひそひそ)………どう? 使えそうでしょ!」
ルイズは嬉しそうに、松下に自分が見つけた呪文の事を話す。
それを聞いた松下も、くくっと笑った。
「分かった、ならば戦おう。勝機はある。
では第七使徒マルトー、きみにはこの『白い粉』の入った壷と、信仰心の特に篤い信徒十二名を授ける。
万一のときに備え、『千年王国』教団再興のためアルビオンに隠れ潜んでいるのだ。
絶対に死ぬな、ぼくの帰還を待て。ぼくは必ず帰ってくる」
「承知いたしました、『我らのメシア』」
マルトーと十二人がホウキで飛び去ると、松下は近くの丘の上に一同を集め、両手を振り上げて大声で叫んだ。
「さあルイズ、シエスタ、ギーシュ、そして『千年王国』の諸君!!
これより我々は、味方の脱出を助けるため、推定兵力十万のアルビオン・ゲルマニア連合軍に立ち向かう!
戦艦も竜騎士も幻獣も亜人兵もいるし、メイジや火器の質・量とも圧倒的に向こうが上だ。
だが、我々にあって彼らにないものがある! それは伝説の『虚無』の魔法と正しい信仰、そして鉄の結束だ!」
「「AMEN(そうだ)!!」」
「世界をひとつにし、貧乏も戦争も病気もない『千年王国』を築き上げるには、
この戦いはどうしても乗り越えなくてはならない試練なのだ!! 全力で立ち向かわなくてはならない!
人は我々を狂人の集団と呼ぶかもしれない! しかし彼らは、真の教えを悟らないのだ!
諸君、この戦いで肉体が滅びても、それは霊となって生き、永遠不滅の生命に与かることだ!
死に到るまで雄雄しくあれ! そうすれば諸君は、輝かしい至福千年王国に入ることができるであろう!!」
「「「「AMEN!! AMEN!! AMEN!!」」」」
松下エクセルスタッフ支援
かくして一同は指定された隘路に潜み、敵の進軍を食い止めることになった。
その近くには打ち捨てられた砦があり、二つの丘の上からスカボローへの街道を見下ろすような地形になっている。
兵力差は数十倍、正面からぶつかるのは無理だ。指揮官たちを潰すか、ゲリラ戦で足止めするしかない。
敵の移動速度から、推定到着時刻は今夜遅くか、明朝になろう。それまでに迎撃準備をしておく。
「土メイジは塹壕と陥穽、それにゴーレムを作っておけ。風メイジは偵察・斥候だ。
水メイジは衛生兵として後ろに控え、火メイジは敵の『目』を攻撃すること。
順次、風メイジ・土メイジも攻撃に加える。単に殺すより、恐怖を煽れ! 地形と暗闇を活用せよ!」
松下はメイジたちに指示を与え、平民兵には銃器の点検と食事、交代での休息を命ずる。
「では、この魔道書に封印しておいた『地獄の番犬ケルベロス』を呼び出し、戦列に加える。
金属の壷に封じてあるデカラビアとブエルも、サポート程度には使えるだろう。
確か、触れただけで傷を癒す力があったはずだ。使い魔も沢山呼ばせて、盾にしてやるか。
ルイズは切り札の呪文が完成するまで、この奥でトランス状態に入っているのだ」
「分かったわ。でも強力な分、詠唱が完成するまでにはかなり時間がかかりそうよ」
ルイズの答えに頷くと、松下は地面に魔道書を広げ、壷を置く。その周りに魔力の強い信者たちが集まる。
「さあ諸君、呪文を唱えよう。エロイムエッサイム、我は求め訴えたり……」
《朽ち果てし大気の精霊よ 永遠なる呪いの深淵に転落せる精霊よ 地獄の犬よ
永遠なる呪いの深淵に転落せる精霊よ
悪魔の怨霊の大群のただ中に 雄々しく立てる我を見よ
エロイムエッサイム エロイムエッサイム
イン ゲ トゥ イ ゲ シ サン ミム タ チュ
天地万物を混乱に陥れている地獄の魔物よ 陰気なる住みかを立ち去りて 三途の川の此方へ来たれ
エロイムエッサイム エロイムエッサイム 我は求め訴えたり》
(18世紀末の魔道書『黒い雌鳥』より)
呪文によって魔道書から巨大なケルベロスが、壷から悪魔デカラビアとブエルが解放され、戦列に加わる。
戦乱の浮遊大陸アルビオンで、人知を超える戦いが始まろうとしていた。
さて、時刻は真夜中。アルビオン軍四万を率いて南下するのは、ダータルネスで不覚を取ったホーキンス将軍。
歩兵、騎兵、砲兵、竜騎士、亜人兵などを纏め上げ、進行方向にいる敗残兵の掃討と投降してきた捕虜の収容に努める。
サウスゴータの反乱兵も加わり、兵力は七万にも膨れ上がる。ロサイスはすでに奪取し、残る逃げ道はスカボロー港のみ。
これだけ脱落者が出れば、トリステイン軍はもはや崩壊、雲散霧消したといってもよかろう。
「この戦は、どうやらこちらの勝利に終わりますかな。『蜘蛛仙人』殿」
「さあてのう、将軍。まだ抵抗する連中が残っているようじゃわい」
200リーグほどを数日で走破する強行軍で、兵にも疲れが見える。
そこで陣営を築いて各地の軍勢を集結させつつ、ホーキンスは天幕の中で軍議を開いている。
蜘蛛仙人と呼ばれた禿頭白髯の小柄な老人は、片手に持った近辺の地図の一点を、とんと指で突いた。
40リーグほど先にある丘陵地の中の、街道の関所でもある隘路だ。
「ここじゃ。この隘路に、千人ばかりの敵が潜んでおる気配がある」
「それだけですか。七万の大軍でかかれば、一揉みではありませんか。放っておいてもいいのでは?」
「いやいや、地形もよく選ばれておるし、どうせスカボローへはこの道を通らねばならん。
まずはわしが軍団を率いて探りを入れてみようぞ。揉み潰せたらお主はゆるりと通ればよろしい」
そう言うと、彼は手勢数千を率いて空中を飛び、隘路に近付く。彼も『悪魔』のようだ。
「メシア、敵襲です! 空中を飛んで来ます!」
「うむ、この妖気は『悪魔』だな。ではケルベロスよ、敵を充分引き付けてから、火炎と煙を吐き出せ!」
蜘蛛仙人の軍勢が隘路の手前に迫り来ると、物凄い炎と黒煙が彼らを包んだ!
ケルベロスが三つの口から吐き出した、地獄の業火である。煙にはトリカブトが持つような猛毒が含まれている。
「おおっ!? こいつは驚きじゃ、ケルベロスか!
ならばそこに潜んでおるのは、『東方の神童』マツシタじゃな! 大物が残っておったわい!」
数十の悪鬼が一度に焼き殺されるが、蜘蛛仙人は炎を浴びても平気な顔だ。
彼はしわがれ声で呪文を唱え、巨大で恐ろしく醜悪な悪魔の姿を現す。
体は大蜘蛛、頭は三つ。大きな禿頭には王冠を戴き、その左右にヒキガエルと猫の首が生えている。
地獄における最も有力な魔神、ソロモンの七十二の霊の筆頭、『東方の王』バエルだ。
「「ははは……タルブの戦いでは、よくもわしを『地獄の門』から召喚してくれおったな!
この『東方の王』にして主(バアル)なる神であるバエル様を、なめるでないぞ小童めが!!」」
「おおっ、バエルか! よりにもよって厄介な奴が来たもんだ!」
バエルはウワッハハハと高笑いし、松下たちに呼びかける。
「「たったの千人で、七万を超える軍勢を防ごうとはのう! 愚かな、そして無駄なことよ!
トリステイン軍はすでに壊滅し、スカボローにもロサイスから、ゲルマニアのフネが回り込もう!
それにな、帰還できても本国にはガリアとゲルマニアが攻め込んで来るぞ! 今のうちに、大人しく降伏せい!!」」
「もうあとには引けん、ぼくらはここで戦う!
……EXARP、EHEIEH、ORO IBAH AOZPI、YHVH!
《東の大いなる王》BATAIVAH の御名に於いて、《空気の霊》たちよ、汝の創造主を崇めよ!」
松下が東方に向かって『風の召喚五芒星』を描くと、猛烈な嵐と稲妻が迸ってバエルの軍勢を打ちのめす。
ヘブライの神が偶像神バアルから奪い取った、大いなる天の雷である。
「「ぬう、小癪な小童め! わしに嵐と稲妻で対抗するとは!」」
「堕ちた神よ、今から地獄へ送り返してやる! ぼくに変わって七年の間、不毛な冥土の底で眠りにつけ!
《アナテマ・マラナ・タ(呪われよ、主よ来たれ)》!!」
「「わしもきさまも、死んで甦る神ということか! しかし、その呪いの言葉にはかからぬぞ!
死ぬのはきさまじゃ、『東方の神童』マツシタめ!!」」
かーーーっとバエルが三つの口から大量の蜘蛛の糸を吐き出す。
松下は『占い杖』を回転させて『炎の杖』に変え、蜘蛛の糸を焼き払う。
バエルの率いる66の地獄の悪霊どもと、松下率いる『千年王国』軍団の決戦が始まった!
ホーキンス将軍は夜明けを待って進軍を再開することにしたが、凶暴な亜人兵は興奮して騒ぎ立て、先へ先へと暴走する。
その勢いに引きずられるように、やがて七万の軍勢もぞろぞろと、黒い闇の中を地響き立てて進み出した……。
《汚れた霊に憑かれた人が墓場から出て来て、イエスに出会った。
…彼はたびたび足枷や鎖で縛られたが、鎖を引きちぎり足枷を砕くので、誰も彼を押さえつけることはできなかった。
そして昼も夜も墓場や山で叫び続け、石で自分の体を傷つけていた。
…イエスが「何という名前か」と尋ねられると、「レギオン(軍団)といいます、大勢なのですから」と言った》
(『マルコによる福音書』第五章より)
迫り来るその時を前に、ルイズは暗闇の奥で『虚無の呪文』を呟き続けている……。
(つづく)
729 :
松下:2008/03/08(土) 23:40:46 ID:T+TiCtnA
投下終了、支援感謝。
ついに来ました、対七万との決戦です。松下たちの運命はどう定められるのか?
今回の敵は歴代悪魔くんにとって、なぜか常に強敵の「大蜘蛛」です。
では、また。
大作が連投された為このスレも容量が限界なので
スレ立て挑戦してよろしいでしょうか。
>731
うぃ、むしゅー
>>730でもう立ってるのかと思って見に行ったら違った
巧妙だな
松下氏、乙でしたー!!
>今回の敵は歴代悪魔くんにとって、なぜか常に強敵の「大蜘蛛」です。
水木先生が実は蜘蛛が嫌いだったりして。
ナショナル氏乙
パナソニック氏乙
さて、埋めようか
エロイムエッサイム エロイムエッサイム
ほら! 熱い夢が 僕らの魔法だぜ!
乙!
66の軍団ってすでに7万人より多いんじゃなかろうかと思ったり。
鬼太郎もどうしようもなくて自分ごとやかんづるに吸い込ませてたよね。
とりあえず、「東方王国の王女」超公パール=クールちゃんさまを貼っておきますね。
_ . -- 、
r ニ>' ゙ ヽ /二 ヽ
r―{L/ \ fヨ-‐マ}
/二フ / ヽ /イ爪l \
ヽ二イ /l 、 \ ',ヘ じ ソl ヽ
/ /|;;| l l | | |! l、 ヽ _ヽ_ l! ー1レイ ; } !
| | |;;| l | |⊥! l ヽ./\_ヽ| :|;|川 ! / |
| | |;;N! !.| ムミ ヽ ィeハ l l|;|イ l .レ !
ヽj/;/ハルヘ{ヘハ 辷ソ| l! ||;| | |/ イ
/;/ヽ }、.小 ゞ'′, | | N;| j/ / |
,ム{\ヽ.! ヽ! ゝ . ー ' .イjハr≠ミ / /! .|
{==}ヽヽ| ! | > - .'// ゝ-イ ./ / j /
リ _ !_L -ァ' |;;レ/ ゞj / / .レ
/ ;, ! ゝ' / lイ ./ 、
/ l |/ / ノ!/ ヽ
ノ\ | / / ,; ',
/ ヽ l! / / / / _|
/____ ヽ{ / /;. }〃 / .|
r≠ ´ ハ __/_ヘ ____ l!/ |
/ -― - {三三三}三ヨ三三三ヨ--r'' |
そう言えば不運にもアンゼロットを召喚しそうになって召喚し返されたルイズもいたなw
ちゃん様は言ってた!
ブラストハンドの座はベルには譲らないって!
ゼロの使い魔のラジオを聴いて
なんかルイズとサイト、使い魔のイチャイチャカップルモノもいいかも知れないとおもった
あのバカップルトークを文章で表現し伝えるのは大変だけど
その路線もいいよね?
いぬかみっな使い魔の作者です。
ウィキに乗せてくださった方、ありがとうございました。
現在3話を書き直している最中です。
読んでいてあまり面白くなくて、路線変更を迫られています。
もっと脱がさなくてはなあ。
そういう報告とかあんまりしつこくやると嫌われるよ
誰も途中経過聞きたいとか言ってないでしょ?
>>745 あのバカップルぶりは正直うらやましい……
>>748 本当は中の人たちは新婚さんかというほどのバカップルぶりだな
×本当は中の人たちは
○本当、中の人たちは
だった。
ちょっと敵兵7万人を食い止めてくるorz
さて、埋めるか
○________
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ヽ ∠____vvV____ヽ < ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐ . \ / / \ / l
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