アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ13
参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)
2/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
●スバル・ナカジマ/○ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/●八神はやて/○シャマル/●クアットロ
2/6【BACCANO バッカーノ!】
●アイザック・ディアン/●ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/○ラッド・ルッソ/○チェスワフ・メイエル/●クレア・スタンフィールド
4/6【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/●ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/○言峰綺礼
2/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/○カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/●ロイド・アスプルンド/●マオ
1/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/●アルフォンス・エルリック/●ロイ・マスタング/●リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/●マース・ヒューズ
3/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
3/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/○ジェット・ブラック/●エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/○ヴィシャス
2/4【らき☆すた】
●泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
3/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/○アレンビー・ビアズリー
2/4【金田一少年の事件簿】
●金田一一/●剣持勇/○明智健悟/○高遠遙一
3/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/●パルコ・フォルゴレ/○ビクトリーム
1/4【天空の城ラピュタ】
●パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/●ドーラ
3/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/●玖我なつき/○藤乃静留/○結城奈緒
1/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/●読子・リードマン/○菫川ねねね
0/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/●ミー/●マタタビ
0/3【さよなら絶望先生】
●糸色望/●風浦可符香/●木津千里
1/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
●神行太保・戴宗/○衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
2/2【トライガン】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
1/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/●相羽シンヤ
1/2【王ドロボウJING】
○ジン/●キール
【残り41名】
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【書き手の注意点】
トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、
>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
無理して体を壊さない。
残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)
この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
叩かれても泣かない。
来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
人物背景はできるだけ把握しておく事。
過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
一人称と三人称は区別してください。
ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
『展開のための展開』はNG
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
携帯からPCに変えるだけでも違います。
【読み手の心得】
好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
荒らしは透明あぼーん推奨。
批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】
このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】
一度死亡が確定したキャラの復活
大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
程度によっては議論スレで審議の対象。
時間軸を遡った話の投下
例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
話の丸投げ
後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
【NGについて】
修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)
したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
まとめwikiを参照のこと
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
注)この後、自分でスレを立てる事もしないギャグの人本人による偽テンプレが貼られます
さぁどうぞ
↓
「……師匠。お会いしとうございました……」
東方の空に日は没しかけ、世の全てが朱に染まる時。自らの最愛の弟子にして、最強の敵、
ドモン・カッシュと出会った東方不敗は、ドモンの言葉に違和感を感じていた。
(「お会いしとうございました……」!?妙だな、てっきり「んんッ?東方不敗ッ!やはりあんたかッ!!」
などと言って即座に飛びかかって来ると思っていたが……)
そんな疑念の抱きながらも、悠然と構える東方不敗。しかし、殺気の方は少しも消えてはいない。
いや、むしろドモンの登場によって、一気にその鋭さを増した、と言ってもいいだろう。常人ならば、
その殺気に当てられただけでも気が狂って死んでしまいそうなほど、濃密な気が、東方不敗の全身
を包み込んでいた。
(凄まじい殺気だ……。流石師匠、と言うところか……)
しかし、東方不敗の正面に立つドモンは、その針のような殺気をいくら浴びせられようとも一向に
怯まない。目の奥に熱い炎を燃やしながら、東方不敗をキッを見つめていた。
(だが、師匠はつい先ほど、その殺気をなんの力も持たなそうな弱いカップルに向けた挙句、その
命までも奪わんとした……。何故だ?何故師匠がそんな事を……)
そんな疑問を抱きながら、ゆっくりと東方不敗に歩み寄っていくドモン。やがて、二人の距離が
10m程に縮まったところで、ドモン・カッシュが重い口を開く。
「師匠……、一つお聞きしたいことがあります。……何故、あのような弱き者を襲っておられたの
ですか!返答次第では、例え師匠と言えども……ッ!」
東方不敗の目を睨み付けて問うドモン。対する東方不敗は、涼しい顔で答える。
「何故?決まっておろう……このゲームで優勝するためじゃ!このゲームを生き残って現世へと
帰り……、念願たる地球人類抹殺ッ!を完遂する為になぁーッ!ハーッハッハッハ!」
そう言い切り、大声をあげて笑い始める東方不敗。何をいまさらそんな事を聞く、とでも言い
たげな表情である。
……だが、東方不敗の言葉を聴いたドモンは、強いショックを受けていた。
(バ、バカな!師匠は俺との最後の決戦で俺の心を受け入れてくれた筈だ……!それが、
それがまた人類魔抹殺ッ!などという大罪に手を染めようとするとは、何故ッ!
……第一、あの時師匠は確かに死んだはずだ……俺が末期を看取った筈だッ!)
あまりの衝撃に、思わずよろめきかけるドモン。なんとか気を保ち、東方不敗の方向を睨み
つけるドモンの目に入ったものは、一瞬のうちに距離を詰めた東方不敗が襲い掛かってくる
姿だった。
「戦いの最中に気を逸らすとは……未熟ッ!つぇーィッ!」
「ち、ぐううッ!」
驚くドモンに容赦なく迫る東方不敗の回し蹴り。刹那の一瞬でそれを察知し、ドモンは咄嗟に
両腕でなんとか防御する。
「チッ!師匠……いや、東方不敗マスター・アジアァーッ!!このような残虐なゲームに乗り、
今再び悪夢のような惨事を成そうとするとは……血迷ったかッ!」
吹き飛ばされつつも受身を取り、直ぐに起き上がり戦闘態勢をとるドモン。既に眼前に迫って
いるであろう東方不敗に怒りの大声で吠え掛かるが、眼前にその姿は無く……
「だぁかぁらお前はアホなのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー―――――――――――ッ!!」
ドモンの背後から声がするのと同時に、背中に強い衝撃を感じてドモンは吹き飛び、崩れ落ちた
コンクリートの残骸に凄まじい勢いで叩きつけられ、その中に埋まってしまった。
(つ、強い……ランタオ島で戦った師匠よりも……遥かに強く感じるッ!ウルベやウォンなどと
言った小物など言うに及ばず……あのデビルガンダムのコアよりも、強いかもしれないッ!)
コンクリートの残骸を掻き分けて地上へと再び出るドモン。幸いにして大した怪我は無いが、
死んだはずの師匠の再会と、事態の急展開はドモンの心に大小の細波を起こしてかき乱し、
その集中力を削ぎ落として行く。
(フン……、再開したときはあの時よりも出来るようになった、と思ったものだがな……。未だに
明鏡止水の境地とは程遠いようだの。ギアナのあの輝きは……まぐれだったか)
対して、それを見つめる東方不敗の心の中には少なからぬ失望があった。この舞台へと降り
立ち、ドモンと相対した時に感じた覇気と闘志は、ギアナ高地で最後に戦ったその時よりも、
ずっと強いものだと感じていたからである。それだけに、今のドモンの無様な姿を見て、期待を
裏切られたような気になるのも仕方ないと言えば仕方ないだろう。
やがて、ドモンが再びファイティングポーズを取る。それを合図に東方不敗も腰帯を手にし、
……空に大きな音が響き渡ったのを合図に、激しい打ち合いが再開された。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!肘打ち、裏拳、正拳、どぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!ふんぬッ、てッ!とぉりゃやああああ!」
エリアを、激しい乱打の音が駆け抜ける。もし、この音を聞いた人間が居たとしたら、その音を
何だと考えるだろうか?
……少なくとも、生身の人間の殴り合いの音だとは、夢にも思うまい。
「ぐ、ぬぉぉッ!?」
そんな乱戦の中。ドモンの怒りの鉄拳を受け止めた東方不敗が足元を軽く滑らせてしまい、
手刀を作ったまま螺旋を描くように膝を地面に付く。
「今だ!東方不敗マスターアジアァ!覚悟ぉぉ!!シャイニングフィンガァァァァァァー―ッ!」
その隙を見逃さず、ドモンは東方不敗に攻撃を仕掛ける。出来うる限りの最速行動で拳を開き、
いつもの長い前口上も居れずに即座に攻撃に移るドモン。その、うっすらと……いや、紛れも無く
黄緑色の光を放つその拳が、壮絶なるドモンの怒りと共に、ついに東方不敗を捉える……
「まだまだ貴様は未熟ッ!秘技!十二王方牌大車餅ッ!」
と、思われたその瞬間に12体のチビマスターに掴み掛かられ、ドモンはあちこちにチビマスター
を取り付かせたまま行動の自由を失ってしまった。
「う、うわぁぁぁぁッ!」
「観念しろドモン!」
そう叫んだ東方不敗は、ドモンへ向かって拳を開く。即座にその拳に殺気が漲り始め、やがて
強い暗紫色のオーラを形成していった。
(所詮、ここまでの男か……見損なった!見損なったぞドモン!)
自らの策を何度も打ち破り、自らの計画に何度も横槍を入れた宿敵のどてっ腹に、その必殺の
一撃を入れる瞬間、東方不敗の心を駆け巡ったのは失望と絶望と怒り。
(絶望したッ!情けない貴様に絶望したぞドモンッ!戦いの最中に心を乱し、隙を作る!見え見えの
挑発に乗り、いとも簡単に敵の術中に落ちる!恥を知れッ!貴様、それでもキング・オブ・ハートかッ!
それでも……
それでもわしの弟子かァァァァァァァァァァァァァァァァァァァー―――――ッ!!!!!!!!)
「死ねッッ!ダァァァァァッァクネェス・フィンガァァァァァァァァァー―――――――――――ッ!!!」
そのトドメの一撃には、いままでの戦いの中で最も強い殺意、最も強い怒り、そして……
最も強い、悲しみが込められていた。
(殺られる!死ぬ!……俺が死ぬ……な、なんだこの感覚は……)
自らの腹部をめがけ、その必殺の黒き刃が迫ろうとしている瞬間、ドモンは不思議な感覚に襲われていた。
全ての時間がゆっくりと流れ、今まで歩んできた自らの歴史の全てが眼前に姿を現し、そしてその一切が
過ぎ去っていく……。
(走馬灯……これは、走馬灯なのか……。俺は、俺は……)
その光景を、多少の高揚感と懐かしさに包まれながら見るドモン。師匠との出会い、母との別れ。復讐に
身を焦がした時代に、あの……覆面の男との出会い……。
(愚か者が……あれほど忠告したのに、なぜスーパーモードを発動させた!)
懐かしい……。ドモンはなんとなくそう思った。とても懐かしい、そんな……心に染み入る声が聞こえた気が
したからだ。
(ああ、この声は先に逝ったシュバルツの……、俺の、もう1人の兄さんの声じゃないか……)
(しっかりしろ!ドモン、しっかりしろ!気を確かに持て!心を乱すなッ!冷静になるんだ!)
自分を叱咤激励してくれたあの声に迎えられて、死ぬのも悪くない……。ドモンは、死の瞬間、
……確かにそう感じた。
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム 死…】
バッチィィィンッ!そんな、そんな音と共に、顔に激しい痛みを感じて目を開くドモン。見れば、
シュバルツが涙を流しながらこちらを睨んでいる。
(な、何をするんだ兄さん!僕をいきなり殴るだなんて……)
思わず、そんな情けない声をあげてしまうドモン。すかさず、第二打がドモンの頬を襲う。
(情けない奴だ、貴様やはりあの頃から変わっちゃいない。……貴様が死んだらどうするッ!?
貴様を待つ人は……貴様を愛する人はッ!貴様が愛するレインはどうなるッ?)
(……あー――ッ!!)
その瞬間、一度は生を諦め、消えかけたドモンの闘志が再び燃え上がり始める。
(そうだ、俺は……俺は死なんッ!死ねんッ!!)
崩れ掛けていた膝が持ち直す。右手に光が集まり、シャッフルの紋章に強い光が宿る。目には
烈火の炎が、緑色の輝きが燃え盛り、されど、その心からは怒りも憎しみも、諦めも絶望も、その
一切の感情が溶けていく。
(もう惑わされない……。ありがとう、シュバルツ!……レイン!)
強い闘志をこめて拳を握り締める。と、同時に……。自分をずっと教え導いてくれた覆面忍者が
光の中に解けうせて逝くのが見えた。
(頼むドモン……。私のかわりに、螺旋王に正義の一撃を……)
(分かった……。分かったよ、兄さん……)
ひ と し ず く
「 見 え た ッ ! 水 の 一 滴 ッ ッ ! ! 」
金色の、光が見えた……。その一瞬、東方不敗が感じたのは、それだけだった。必殺必中、
絶対に避わせぬ筈の一撃は空を切り、ドモンからは眩い光があふれ出し。……周囲の瓦礫が
そのオーラだけで軽々と空に舞いあがり、同時に赤い、巨大な手が東方不敗にすら反応できぬ
凄まじい勢いで迫り……そして……
【E-6/デパート跡/1日目/夜】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲 背中に中ダメージ すり傷無数 疲労(大) 明鏡止水の境地 螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:もう惑わされずに東方不敗の目を覚まさせる。少し頭冷やしてください師匠……。
1:光の柱の正体を探る。18:30にはF-5駅でカミナたちと合流。
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿と地図に目を通しました。
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません 。
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュのこれまでの経緯を把握しました。
※螺旋力に覚醒したことを知りません。
※第三放送があった事に気が付いていません。
気が付いた時には、東方不敗は空を飛んでいた。
「ぐふふぅッ!目が、メガあぁぁぁああぁぁぁ……」
強い光を直視した東方不敗はその五感の一つを奪われ、錐揉み状に落ちて行く。しかし、
そこは流石に東方不敗。残りの四感を駆使して、何とか地上に無事降り立った。
「うぐぐぐぐ、この東方不敗が不覚を取った、だと……?」
腹を押さえ、両膝を折り、大地にうずくまる東方不敗。だが、その闘志は消えるわけでもなく、
むしろ、大きく膨らみ始めていた。
「見たぞ……、見たぞ!あの黄金の輝きを!あの赤きキング・オブ・ハートが拳をッ!ふふ、
ふふふ、ふぁーっはははは!やった、やりおったあの馬鹿弟子め……。あの死地にあって、
独力で持って流派東方不敗が最終奥義・石破天驚拳を身に付けおったわ……ハーッハハ!」
通常、宿敵に、弟子に、大いなる計画最大の邪魔者相手に不覚を取ったなら、その心を
支配するのは怒りや憎しみのはずであるが、この東方不敗の場合はそうではなかった。
勿論、東方不敗に悔しい心が無いと言えば嘘になるだろうが……
それよりも、結局最後まで自分が弟子に伝授できなかった最終最後の奥義を、弟子が自らの
力で放って見せたその喜びの心が、勝ったのである。
……無論、東方不敗はドモンが自分よりも暫く後の時間より連れてこられたのを知らない。
「ドモンめ、ようやるわ……。わしも、負けてはおれんのぅ!」
腹部を押さえながらゆっくりと、しかし、しっかりした足取りで立ち上がる東方不敗。この瞬間、
彼は自らの愛弟子・ドモンを自らの命を賭けるに値する、真の好敵手と認めたのであった……。
やがて、ぼやけていた東方不敗の瞳に螺旋の光が宿り、それと同時に霞んでいた周囲の
景色が東方不敗の視覚野へと流れ込んできた。
東方不敗の、見た光景とは一体……ッ!?
【E-6から2エリア以内の禁止エリアになっていない陸地のどこか/1日目/夜】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身にダメージ 特に腹部に無視できぬ大ダメージ 疲労(大) 螺旋力覚醒
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:なし
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。
1:ドモンが予想以上に強いのでわしなんだかワクワクしてきたぞ!
2:光の柱は……まぁいい。結局なんだったんじゃろう?ついでにここはどこだ?
4:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
5:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
6:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
7:そしてドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
※137話「くずれゆく……」中のキャラの行動と会話をどこまで把握しているかは不明です
※173話「REASON(前・後編)」の会話は把握しています。
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。
本人も半信半疑です。
※Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 ですが、『なんらかの要因』については未だ知りません。
ついでに、自分自身が覚醒していることも知りません。
※支給品一式、乖離剣エア、カリバーン、ゲイボルク、短剣×1がE-6デパート跡の瓦礫の下に埋まっています。
※※※※※※※※※※※※注意※※※※※※※※※※※※※※※
このバトルロワイアルという形で行われている企画みたいなもの(
>>2-8)は
実際に2chで行われているバトルロワイアルとはまったく別のものです。
彼等の企画(以下したらばでの企画)に関してはアニメサロンに移転が決まっております。
彼等は2ch上で議論ができなかったために外部掲示板に逃げた逃亡組であり(※1)
いうなれば荒らしに相当します。
アニキャラ総合板で行われる正式なバトルロワイアルは現在このスレッド上で
討議中ですので奮ってご参加ください(※2)
ーーーーーーーーーーー(Q&A)ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここに投下された偽SSはどうしますか?
全て削除依頼を出してください。また、出していいという話し合いもついております
(4スレ目参照)
ここはSS企画を行うスレなのですか?
そういう話はありません。ただ、『何故か』バトルロワイアルはSS形式でなければならないという
固定概念にとらわれた妙な人たちはいますが、このスレの住人ではありません。
・GとかCというのは実在するのですか?
わかりません。
ただ、特にGに関しては、彼等がGの本拠地と言っているLeaf・Key板ですら、
Gといわれている人間のほとんどはしたらばの交流所から出た憶測でしかないという話です
したらばの行いがあまりにむごいために、反感を持つ人間が多いのは事実です。
したらばは、彼等にはむかった人間全てをGやCという一人の人間の単独犯にしたいようですが
結局はただの憶測であり、証拠が挙がっておりません。
はむかえば全てGとかCとかアンチと呼ばれます。気にしないようにしましょう
また、通称dionと呼ばれる、反・したらばバトルロワイアル陣営を全て敵視する変な人が
削除議論板などで暴れています。
彼等は2chの企画なのに2ch上で企画内容を話し合うのは荒らしという奇妙な論理で
削除依頼を出してきます。
ただ企画を行うのは2chであるので、2ch上で企画を話すのは当然のことです。
それを彼は許さないといきまいているのです。
彼等は2chでは必ず荒らしがでるから(Gが出るから)2chでは話せないといってますが
しかし、荒らされたというログは存在しません。
あるのはただの議論ログであり、彼等が荒らされたという間のログを見ても
話し合いが平穏に行われています。(彼等に対して「荒らされたときのログを出せ」と
何人かが要求してますが、なしのつぶてです。実在しないのだから出せないのでしょう)
つまり、したらばが言う「荒らされた」というのは、ただの被害妄想、いいがかりに過ぎないのです。
彼等の言う「荒らし」はいうなれば「Dionやその一派に歯向かった人間」の総称です。
まず気にしない事が一番です。が、たまに削除議論板で彼が暴れるのでたまに運営板などの
監視を行ってください。
現在、テンプレ議論が進行中です
ちなみに※1、※2はしたらばの管理人が付け加えたものですが、
>※1 これは議論スレがギャグの人に乗っ取られたためしたらばで話さざるをえなかったため。
とほざいてますが、そんなことはまず物理的にありえません。
彼等らギャグの人は一人だと仰っています。つまりこの話をそのまま通すと
書き手も住人もたくさんいる(彼等の言い分曰く)がいるのに
たった一人に乗っ取られたとそういうことになるわけです。
ありえるかどうかは、少し考えてみればわかることです。
(逆視点から見ると、『たった一人の住人?にボロボロにあらされるような企画』だと
自分達が言ってるようなものですが・・・)
>※2 乱立しているキャプテンのお気に入りの作品ばかりを入れたロワの事。もちろん嘘なので
善良なロワ住人は騙されないようにして欲しい。
と叫んでいますが、そもそも自分から「善良な」と言い出す時点で
結論だけで言ってしまえば、ほんのわずかな、しかもあらされたというログすら出せないような
矮小な事実だけを針小棒大に騒ぎ立てて自分達の勝手気ままに動かしたいという意図だけしか
みえませんです。
で、
>>9のような妨害工作をさんざしかけてきておりますので注意です。
うむ
でもこの
>>1から始まってるのって
もう2chと関係ない企画なんでしょ
彼女は慟哭していた。
何で、命がこんなに軽いんだろうと。
何で、殺し合わねばいけないのだろうかと。
何で、分かり合えないのだろうかと。
何で、自分は無力なんだろうと。
何で、自分は生きているんだろうと。
◇ ◇ ◇
「あ、あ……エ、ド? そん、な、わた、し……」
守ると誓った。
誰も死なせないはずだった。
なのに、その結果が目の前にある。
こっぱみじんにふっとんだ。
のうみそぐちゃぐちゃ、ちでまっか。
おでこのまんなか、とんねるひとつ。
ぐらぐらぐらり、おおきなじしん。
とんねるのなかはたいへんなことに!
ぶちゅりぼとぼとぶちゅりぼと。
なかみいっぱいぶちまけて。
こどもがひとり、ばたんきゅう。
「……ふん、ショックか何かで動けんのかいな。ま、都合ええわ」
ウルフウッドは呆然と立ち尽くす、赤く染まった服の少女に狙いを定める。
温い温いと思っていたが、たかが死体一つ程度であそこまで怯えていることがとても腹立たしい。
お前は死ぬことをどう思っているんだと。
死にたくないならそれこそ死に対して何の覚悟もないのかと、その在り様がいちいち癇に障る。
しかしそれもすぐに見えなくなるだろう。
「あばよ、嬢ちゃん。こいつで仕舞いや」
どうせ目の前の事で手一杯でこちらに注意なんて向けていないだろうが、念を入れて身を隠し、腕を突き出す。
デリンジャーの引き金に指をかけ、弾丸を解き放つ。
狙いは実に淀みなく。
それがあるべき姿だと言うような気持ちいいほどの正確さで、死の伝令者は少女を貫こうとする。
だが。
「何ィッ!?」
突然少女の周りに光の幕のようなものが浮かび上がったかと思えば、それきり何の変化もない。
びくりと彼女が身を震わせただけだ。
ウルフウッドには知る由はなかったが、シータの持つストラーダが自動で防御魔法を展開させたのだ。
パニッシャークラスの一撃ならともかく、たかがデリンジャー程度でそれを貫けるはずもない。
ウルフウッドの知識にない事態ではあったが、そもそもこんな訳の分からない環境であれば何が起こってもおかしくはないのだ。
感情の昂りとは別に、冷静に事態を考察する。
「……チ、遠距離攻撃を弾く障壁ってーあたりかいな?
しゃーない、だっちゅうんならな……」
狙撃は無効化される。真っ向から向かっても遠中距離戦での撃ち合いは一方的に撃破されるだけだ。
見た所あの障壁は、少女からはある程度離れた所に展開されていた。
故に狙うはただ一つ。
「……ポイントブランクショット、か。めんどいが、しゃあないな」
ついでに、念には念を入れておくとしよう。
再生なんてされたら目も当てられないのだから。
◇ ◇ ◇
「あ、あ……」
こわいひとがきます。かんたんにい■ちをうばえるひとが。
こわい。こわいこわいこわいこわい。
こしにさげたけんがこわいです。でも、もっとこわいのはてにあるじゅうです。
ばん、ばんってうつと■にます。ひとがどんどん■にます。
わたしのからだはまっかっか。
あのひとが、ばきゅーんってうったから、■■は■んじゃいました。
こ■すのってなんてかんたんなんだろう。
い■■ってとってもなくなりやすいんですね。
なんで、わたしはいきているんだろう。
■ぬひつようがないのなら。
いきるひつようなんて、あるのかなあ。
なんとなく、そんなことをおもってしまいました。
「……あ、」
気がついた時には、シータからほんの数歩はなれただけのところに男が立っていた。
危険性は良く分かっている。
自分達が荷物だけ狙ったという事で交戦の意思はないことを示したはずなのに、エドを殺したのだから。
しかし体は動かない。音も何も聞こえず、全てがスローモーションのように映って彼女を縛る。
恐怖に震えているからなのか、自暴自棄になっているからなのか。
……あるいはその両方か。
はじめて目の前での人死にに触れたことで、シータの儚くも高潔な決意は木端微塵に砕け散った。
決意と言う壁は失われ、剥き出しになるのは彼女の精神そのもの。
その、彼女の本質に、
「い、やああぁぁぁぁぁぁあぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッ!!」
目の前の惨劇は容赦なく傷を彫り込んでいく。
彼女の眼前で繰り広げられた光景、それは。
「……フン。さすがにこれくらいブチかましときゃもう動かんか。ったく、面倒臭くてやっとれへんな」
痙攣し続けるエドに、男が何発も何発も弾丸を撃ち込んでいたという、それだけのことだ。
彼女には分からない。何故、男がそんな惨いことをしたのか。
不死者をウルフウッドが警戒していたなどということは彼女には知りえない。
分かるのは現在進行形で起こっていることだけ。
目の前でエドの頭蓋が砕け散り、ぶよぶよとした脳漿が自分のドレスにかかったこと。
ぶちゅりという音と共に胴体が弾け、黄色い脂肪と紫色の内臓の一部が覗いていたこと。
ころころとした柔らかそうな頬に巨大な穴が開き、赤黒い内部の空洞が拡張されたこと。
つぶらな彼女の目玉が転がりだし、踏み潰されて透明な液体を滲ませたこと。
額から上を失ったエドの、空っぽの眼窩が自分を見つめていたこと。
まあ、その程度のことでしかない。
「さあて、と」
一仕事終えた男は、それが何でもないことであるかのようにまた弾丸を込めなおす。
現実感がない。
ああ、今度は私を殺そうとしているんですね。
虚ろな思考が脳を満たす。それもいいかもしれない。
そうなった方がどれだけ楽なことか。
ゆっくりと、顔のそばに冷たい鉄の輝きが近づいてくる。
もう殺されることに怯える必要もなく、殺すことを拒む苦しさともお別れできるのだから。
それに、もし死後の世界があるのならば、パズーとまた会うことすら出来るかもしれない。
しかしそれは叶わない。
「……次は耳じゃ」
「……え?」
パン、パンという音と共に、不意に全ての感覚が現実に戻ってくる。
首のすぐ近くを何かが通ったのだ。
何か? 考えるまでもない。
やけに頭が軽い気がする。余計なものがなくなったからか。
「楽になれるとでも思っとったんか? つくづく甘いやっちゃなあ!
あれだけワイの事を舐めくさっといて簡単に逝けるだなんて、その考えにヘドが出るわッ!!」
つい今しがたまでおさげのくっついていた髪を掴まれ、ぐきりと首を曲げられる。
彼女の力でパニッシャーを軽々と扱う男の腕力に敵う筈もなく、いとも簡単に組み伏せられる。
「嬢ちゃん、死ぬだけならそんなに苦しくはないんやで。怖くはあってもな。
……世の中にはな、死より苦しいことなんざ仰山ある。それを教えてやるわ」
「ご……、ごめんな、さ……」
抵抗する気も起きなかった。ただただ怖かった。
誰も殺さず、殺させない。その信念という柱を崩され、あまつさえ目の前の光景で心を抉られたシータ。
どうしようもない絶望、それだけが彼女に出来た空洞を満たしていた。
「……まず手始めに犯す。いろいろ鬱屈しとってな、上玉やし慰み者にはちょうどええわ」
シータは喩え様もない悪寒とそれ以上の恐怖に見舞われる。
犯されるという、具体的な行為を耳元で告げられることで、絶望の色は更に煮詰まっていく。
知識としては知っている。
しかし、それは愛する人との幸せな結末として迎えられるべきものだった。
こんな、暴力と共に無理矢理純潔を失う事など、彼女の人生の中では一度も想像したことなどなかったのだ。
その怯えが、僅かに抵抗の意思をシータに取り戻させる。
「い、やあ……、ご、ごめんなさ、ごめんなさい……! ごめんなさい……っ!
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ、」
「じゃかあしいわあッ!!」
ウルフウッドが吼える。名前の通り、狼のように。
赤頭巾はただ食われることしか出来ない。猟師はこの場にいないのだ。
そもそも体勢からしてシータがこれ以上できることなど何もない。
びくりと震えたその隙に、両腕を鷲掴みにされる。
もう外面も何も関係ない。シータは子供よりもなお幼く、ただ泣き喚くことしか出来なかった。
「いや、いや、いやあ……パズー……いやぁ、助けて……」
「観念しい。……いや、泣き叫んでもらった方がそそるわな。
まあ好きにしてもろて構わへんで。最後には殺すしな」
そうしてウルフウッドがシータの服に手をかけた、その時。
「いやぁぁぁああああぁぁああああああッ!!」
「な…………ッ!!」
突然、シータの衣服が爆発した。
――――リアクティブパージ。
バリアジャケットの最終手段が発動したのである。
持ち主の身を守る為、ジャケットそのものを吹き飛ばすことで衝撃を軽減する。
……ウルフウッドにも、シータにも知る由はなかったが。
結果として、ウルフウッドは弾き飛ばされる。
その、僅かな隙に、シータは立ち上がり、ストラーダを抱えて逃げ出していた。
もはやどうなってもいいと、一時は思っていたはずなのに。
――――ただ、死を避けようとする本能に従って、彼女は走る。
信念も矜持も砕いたまま。
「逃がすかぁッ!!」
獲物を逃がす道理はない。
ウルフウッドは、前を行くシータに追いすがる。
相手は子供、身体能力はウルフウッドのほうが遥かに上。
だが、中々追いつけない。
先刻見た高速移動の術を、あと数歩と言う所でシータが使ったのだ。
再度追いかけるも、近づくたびにその繰り返し。
どちらの体力が先に尽きるか。
……追いかけっこの結末は、それが決め手になると思われた。
だが。
◇ ◇ ◇
言峰綺礼は、卸売り市場を上機嫌で歩いていた。
もっとも、普段の彼との違いは彼をよく知るものしか分かりえないだろうが。
理由は二つある。
まず一つは、市場に入ってすぐに質のいい豆腐屋を見つけられたこと。
螺旋屋豆腐などというセンスのカケラもない店名だったが、コク、舌触り、硬さ、香りなど、全てにおいて高品質。
使用しているのはもちろん有機栽培の国産丸大豆。
凝固剤にはグルコノデルタラクトンなどといった大量生産可能な薬品ではなく、昔ながらのにがりを。
もちろん日本近海の汚れた海水から生成されたものではない。
そのまま食べても自然な甘さとクリームのような味の濃さが舌の上で広がるが、やはり相応しいのは麻婆豆腐だ。
水を抜く処理をした上で、ありがたく拝借したという訳である。
そしてもう一つは放送の内容だ。
シータの知り合いであるドーラという女性。その名前が先刻告げられたのだ。
エドも既に殺された。おそらく、シータの目の前で。
エドを失った上にそれを耳にしたシータがどんな有様になっているか。
想像するだけで、言峰は格別の愉悦を感じるのである。
仮に彼女戦闘にかまけて放送を聞いていなかった場合、それを自分の口で教えることができたなら。
……そんな事を思い、言峰は自分の性癖に苦笑する。
もちろん、彼は聖職者である。
近しい人や、その知人の死に思うところがない訳ではなく、素直に冥福を祈る気持ちはある。
だが、それと同時に悦楽を見出すその在り様。
そんな歪さを十年前に既に受け入れた彼は、最早迷うことはないだろう。
故に、彼は迷う存在に期待を寄せる。
行動を先刻まで共にしていた、一人の少女を思い浮かべたまさにその時だった。
「あ……あ、言、峰神父……」
泣きじゃくる幼子よりも顔を歪めたシータが、言峰の所まで走り寄って来る。
その表情を見ただけで、言峰には大体の状況が理解できた。
伊達に人間の苦悩を歓びの糧としてきたわけではない、恐怖の類を見分ける眼力を彼はその身に宿している。
この表情は、自己の喪失を脅かされる時にするものだ。
人間が、今まさに崩れ落ちているその様。
まさしくシータは、言峰にとっての極上の美酒に熟成したのである。
彼女の背後を見れば、予想通りそこには。
「ち、……もう追いついてきおったんかい。洒落にならんな、なあご同業?」
デリンジャーを構え、こちらを警戒する牧師の姿があった。
言峰はやはり表情と、状況から彼の状態を判断する。
牧師の顔に浮かぶのは紛れもない苛立ち。
それも、鬱屈した感情を、どこに向けるべきか分からない時のもの。
そして、自分達を不意打ちしてきたという事実。
これらから分かるのは――――彼は、何でもいいから破壊を求めているというやけっぱちな思考をしているということだ。
言峰は思う。
……心地よいな、と。
なんと切開のしがいのある男なのだろう。
攻撃的な思考とは即ち、自身の弱さを認めたくないからするものだ。
不意打ちとは即ち、自身を危険に曝したくないという保身から来るものだ。
鬱屈した感情とは即ち、自身ではどうにもならない壁があるから存在するものだ。
何と素晴らしい場所なのだろうか。
先ほどの傷の男といい、シータといい、八神はやてといい、間桐慎二といい――――、
バトルロワイアルという極限の状況下では、人間の本性はいとも簡単に外面と言う皮を剥かれ、曝される。
言峰綺礼は、究極の娯楽とは人間そのものと考える。
その彼にとって、この戦場の空気はそれこそ新緑の季節よりなお心温まる場所なのだ。
「――――ふむ、君がエドを殺した下手人かね?」
「こ、言峰神父!? な、何故あなたがそれを……」
シータは驚きで一瞬生気を取り戻す。何故その事を知っているのかと。
言峰は内心ほくそ笑む。
……ああ、彼女は何という都合の良い存在なのだろうか、と。
「シータ、君はどうやら大分頭が回っていないようだ。
すでに三回目の放送は行われている」
「あ……」
「……そして、だ。君にとっては辛い内容だが、つまらぬ偽善は君を冒涜することになるだろう。
故に告げさせてもらう。
君は、もう二度とドーラ女史と会話を交わすことはない」
僅かにシータの全ての動きが停止し、……そして、糸の切れた操り人形のようにくずおれる。
ぼろぼろと、大粒の涙を流しながらもその顔には一切の感情は浮かんでいない。
もはや彼女の精神は限界であり、全身どころか顔筋の制御をする余裕すら失ったのだ。
その姿が、ますます言峰を楽しませることに気付いているものは彼本人を除き誰もいない。
「ち、……聞き逃しおったわ。ああ、ええ加減にせえよあんたら!!」
怒鳴り散らしながらも、ウルフウッドは冷静に考える。
目の前の神父に対抗するにはデリンジャーは役不足だ。
幸い自分とは異なり、殺し合いに乗ってはいないようなのでここは口八丁でどうにかすべきだろう。
後々、武器を補給してから殺してやれば済むのだから。
「ご同業、兄さんはワイをどないするつもりや? あのクソガキの敵討ちとでも?」
「生憎ながら、そのつもりはない。
話し合いで済むならそれに越したことはなかろう。
まだ先は長い、不要な争いで体力を消耗するのは愚かしいと思わないかね?」
「ち……」
戦意がないなら牽制する必要はない。
デリンジャーを収め、ウルフウッドは立ち去ろうと背を向ける。
……だが、それを見逃す言峰ではない。
せっかく切開のしがいのある相手なのだ。リリースする道理はない。
相手の傷へのメスとなる一言を捻り出そうとして、しかし。
言峰は思わぬ方向からの声にその言葉を遮られた。
「……どうして」
「あん?」
ウルフウッドは振り向き、声の主を確認する。
それは、自分が犯そうとした少女だった。
顔を見るだけでイライラする。神父さえいなければ、今すぐにでも滅茶苦茶に壊してやりたいとすら思う。
そんな殺意の対象が、一体何を言わんとしているのか。
言峰も興味深げにそれを見守っている。
「どうして……エドを、エドの、し……死体、を、あんな風に扱ったんですか?
酷い、……酷すぎます……」
その、全てが癇に障る。
めそめそめそめそと、自分を舐めきったその態度。戦場を冒涜するその甘さ。
それが誰かの影に重なるようで……ウルフウッドはブチ切れる。
「ああん!? 念には念を入れただけじゃいこのボケ!
知っとんのか? この会場には斬ったり撃ったりしたくらいじゃすぐ生き返るバケモンだっておるんやぞ?
少しばかり念入れて殺しただけで何言っとる!
その甘さがあのガキ殺したって事に気付いとらんのか?」
びくりと肩を震わせ、シータはそれ以上答えなくなる。
手にかけたのはウルフウッドでも、もしあの場面でシータが別の選択をしていたら。
……それは、シータを苛んで止まないのだ。
そして、代わって前に進み出てくるのが神父だった。
肉弾戦の達人。今の自分では不利な相手。
あの傷の男を相手取って、全く消耗していないその様子からは敵に回すなと直感が告げている。
そんな男が何の用なのか。
一度はしまったデリンジャーをいつでも取れる体制をとりながら、ウルフウッドは言峰の言葉を待ち受ける。
傷を抉り切り開く、その福音を。
「なんや、ご同業……。やるっちゅんなら容赦はせんで」
牽制の一言だ。それくらいは相手にも分かるだろう。
その期待に洩れず、神父は悠然と首を振る。
「いや、先ほども言った通りそのつもりはない。
……ただ、君が殺す理由を知りたくてな」
「ワイに説教でもするつもりか?
ご同業、そりゃ悪い冗談やな。その手の言葉なんか腐るほどよう知っとる」
牧師が神父に説教される。それはどこの宗教戦争かと突っ込みたくなる状況だ。
だが、やはり神父は首を振る。
「そうではない。一時とはいえ、あの子と我々は共に過ごしていたのだ。
せめて殺された理由くらいは聞いておかねば、感情を納得させられないだろう?」
「ああくそ、面倒なやっちゃなああんたらは!」
歯噛みするも、しかし、ここは素直に応じておいた方がいいだろう。
デリンジャーの残弾も残り少ない。
さっさとここを立ち去った方が賢明なのは明らかなのだ。
「ワイはここに来る前死んだはずでな、しっかし死んだと思ったらこんなとこで生かされとった。
したらすぐに殺しあえ、と来やがった!
ざけんなボケ、死んだり生きかえしたり、ワイをなんだと思っとるんやと。
この場所も、ワイが生きとることも、させられとることも、何もかもが気に入らん!
これでええか!? ワイはもう行くで」
言うだけ言って、今度こそ身を翻す。
だから、ウルフウッドは気付かない。
神父が――――言峰綺礼が、どんな表情をしていたのかを。
自分が、決してこの男に言ってはならないことを言ってしまったのだと。
「……成程、君がそう思うのも仕方ないようだ。
――――君は、自身の行動で自分が“彼”ではない事を証明し続けているのだから」
ぴたり、とウルフウッドの足が止まる。
だが、彼は決して振り向かない。いや、振り向けないのだろうか。
僅かな震えすらなく、完全にウルフウッドは固まっていた。時間が停止したように。
「君は二度目の生を下らないと考えているようで、その実死にたくないと思っている。
その歪さは、間違いなく劣等感から来るものだ。
自身が憧れた在り方がありながら、しかし君はその人物と同じ事を為すことが叶わない。
それを認めたくないからこそ、自身の命の価値を――――」
そこまで言い、しかし言峰はようやく気付く。
いつのまにかシータがいなくなっていたのだ。
溜息を吐き、言峰はそれ以上の切開を中断させる。
彼は聖職者なのだ、か弱き迷える羊を放っておくことなどできはしない。
「……ふむ、失礼した。悪い癖が出たようだ。
それではまた会おう、同業者。
いずれまた、君は私を殺しにくるだろう?」
その時までに蒔いた種を育んでいてもらいたいものだがな、との言葉を飲み込んで、言峰綺礼も背を向ける。
銃撃するのにちょうど良く、背中をこちらに向けているにもかかわらず。
説教をしないという言動に反して説教を受けたという、ある種挑発とも取れる行動をされたにもかかわらず。
言峰綺礼の姿が見えなくなっても、振り返ることすらなく。
ウルフウッドはその場に立ち尽くしたままだった。
◇ ◇ ◇
駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。
もう何もかも見たくなかった。
もう何もかも聞きたくなかった。
あの場所には居たくなかった。
気に入らないから犯して殺す。
蘇るのが怖いから死体を壊す。
何でそんな事をする必要があるのだろうか。
死んだり、生きたり。
あの人は言った。生き返ったのが気に入らないと。
あの人は言った。生き返って欲しくないから念入りに殺したと。
まだ生きたがっている人もいるのに。
生きていてもしょうがない、自分のような人間もいるのに。
生きているって何だろう。
死んでいるって何だろう。
殺すことって何だろう。
蘇ることって何だろう。
分からない。分からない。
全ての価値観が反転する。
“彼”は言った。
価値観を決めるのは自分自身だと。
命は大切だと、そう思っていた。
なのに。
あまりにもそれは軽すぎて、ほんとうにどうでもいい理由でどうこうできるものだった。
純朴な少年も、老獪な女傑も死んだ。
あまりにもあっけなく。
悲しむ暇もないまま、ただただ状況に流され続ける自分。
威勢のいい事を言っておきながら、誰一人守ることなどできず、翻弄される。
自分の命が大切だとは思えない。
他の人の命も、どうでもいい理由で失われる程度のものだ。
じゃあ、命の大切さって、どの程度のものなんだろうか。
あんな風に命を軽く扱える人が生き返った。
なら、パズーやドーラが生き返らないのは何故なのか。
死なない体を与えられなかったのは何故なのか。
分からない。分からない。
とにかく、死の軽い場所から離れたくて、手にした槍の力を借りた。
前も見ず、とにかくその速さを以って。
右手に宿る力。
使い切るまであと数時間は持つであろうそれを槍に流し込み、ひたすらひたすら加速する。
だから、気付かなかった。
自分の内側ばかり見て、外の事まで思い浮かべる余裕がなかったから。
とすり、と嫌な感触がする。
何かが沈み込むような手ごたえ。
ずぶずぶずぶり。ずぶずぶり。
「……え、」
声にした瞬間、何かにぶつかりそのまま倒れこむ。
どうにか槍を放さないように強く握り、そのまま慣性に任せるまま放り飛ばされ、壁にぶつかる。
全身を強かに打ちつけた。息が詰まり、吐き気を催す。
朦朧とする頭でどうにか立ち上がり、ぶつかった何某かの方へ眼を向けると、そこには。
「……こんなの、夢、ですよね、パズー……?」
既にもうどこにもいない少年に語りかける。
目の前の光景が信じられないからだ。
眼前に展開する光景は実に実に分かりやすい。
「いや、……いやぁぁぁあぁぁあぁぁあっぁあああああああぁああぁぁぁああああっぁあぁぁあああああ!!」
真っ赤な血溜りの中に、女性が倒れているというだけの構図だからだ。
シータの手の中にある、槍の斬撃痕をその体に刻んだ女性が。
◇ ◇ ◇
「アルベルト。映画館に向かうのはいいんだけど、それまでの時間はどうするつもり?
戦うのはともかくとしても、実際遭遇するまでの方針は聞いてないんだけど」
「だいぶ余裕が出てきたようだな、不死身の。
まあ、とりあえずは映画館の付近で情報収集といったところか。
その周りの施設を巡ってみるのもよかろう」
「……ということは、学校とか卸売り市場、病院とか辺り、か……。
病院なんかは確かに人が集まりそうだけど」
衝撃のアルベルトと晴れて“不死身の柊かがみ”を襲名したかがみは、C-4南東の道を歩いていた。
途中博物館やモノレール駅などがあったりしたが、とりあえずは映画館に向かうことにしてこれまでスルーしてきたのだ。
しかし、この分だとだいぶ時間が余りそうである。
だとするならば、ここらでひとつかがみには提案したいことがあった。
「……ねえ、どうせなら卸売り市場に行ってみない?
そろそろ何か美味しいものでも食べて英気を養っときたいとこだし」
にやりと笑うかがみに、アルベルトは多少驚きながらも感嘆していた。
わずか一日でここまで成長するとは、将来が非常に楽しみだ。
これは本当に十傑衆に値する器かもしれない、と。
ちょうど腹が減ってきていた所だし、悪い気はしない。
「ほう、不死者でも腹は減るのか。なんとまあ、都合いい体をしているものだ」
かかかと笑ってみると、かがみはジト目でこちらを見て呟く。
「……一応、その辺りは結構融通効くみたいよ。生理現象も起こるみたいだし」
少し顔を赤くしているかがみに、アルベルトは口元を歪ませて会話を楽しむ。
「ふむ、まあ、何にせよ僥倖ではないか。食事の楽しみというのは人生において割と大きなものよ。
特にお前の場合はこれから先は永いであろうからな」
さりげなく不死身である――――もう、死ぬ事はできはしないということを言葉の端に含めても、
「まあね。逆に言えば、これから先永遠に美味しいもの食べ続けられるって事でしょ?」
と軽く受け流し、貫禄をつけるように腕を組んでみせている。
見上げたものだ、とアルベルトは思う。
サニーとも会わせてやれば、良い友人となれるかもしれない。
何にせよ、この場を切り抜けてからの話になるのだが。
「……アルベルト、あれ」
かがみの声が耳に届くなり、口端を吊り上げるアルベルト。
「気付いたか。さて、どう動く? 不死身の」
「……まずは何にしても情報ね。武器に振り回されてる時点で戦力としては論外。
ま、私が出向いて“死んで”みせればすぐ大人しくなるでしょ。
あなたが出るまでもない……で、どうかしら? 衝撃の」
アルベルトの真似をして笑うかがみ。
……アルベルトは、ただ笑みを深くするだけだった。
目標の座標は目視で数百メートル。得物は槍。
相対速度は現時点ではおよそ車並み、といった所か。
通常の人間ならば見逃すことしかできずともおかしくない運動エネルギーを持っているだろうが、
今のかがみにその程度は障害となりえない。
体を張って止めてやればそれで済む。
そして、その通りにした。
痛みがかがみの体に走る。しかし問題はない。
接触の瞬間に体を僅かに沈め、目標の体が円運動を描くように下部から力を込め、転倒させる。
全てが自分の想像通りだ。
多少傷は深いが、すぐに回復する。
意識が飛び、ホワイトアウトしつつある頭でかがみは考える。
思考の復帰までは瞬間と言っても間違いではない。
血が戻り、動けるようになるまでですら十秒もかからないだろう。
「……え、」
投げ出され、呆然とする少女の顔が見える。
そこで刹那全てが途切れ、しかし即座に意識は戻り――――、
「いや、……いやぁぁぁあぁぁあぁぁあっぁあああああああぁああぁぁぁああああっぁあぁぁあああああ!!」
少女の慟哭が耳に届く。
……随分と温いのがいたものだ、とかがみは思う。
もっとも、一日前は自分もそんな中の一人だったのだろうが。
軽口を叩こうにも、まだ再生は終わっていない。
それまではアルベルトに任せるしかないのだ。
だが。
「……む!?」
アルベルトの驚愕。その理由は簡単だ。
目の前の少女が掻き消えるようにいなくなったのだ。
しかし気配は消えていない。
アルベルトとかがみは、同時に可能性に思い当たる。
短距離間の高速または瞬間移動。
あたりに目配せをし、即座に発見するが、しかし。
「……逃がしたか」
意識したときには既に、遠のく後姿しか見えなかった。
それも当然だ。
彼女の手にする武器はストラーダ。突撃及び一撃離脱に特化するアームドデバイスである。
いくら十傑衆とはいえ、力を制限された状態では仕方がない。
追いつけないわけではないが、こんなことに力を使うのはあまりに勿体無いと言うものだ。
それに、再生を終えていないかがみを放っておくと言う選択肢は今の彼には取り得ない。
「……いたたたた。あちゃ、ミスするなんて珍しいわね」
「面目ない、不死身の。……異常はないか?」
再生を終えたかがみは立ち上がり、少女の消えた方角を見る。
どうやら彼女は真東に突っ込んでいったようだ。
次いでアルベルトに視線を移せば、貴重なことにわずかにアルベルトは面目なさそうな表情をしている。
それを見れただけでもよしとするか、などとかがみは思い、フォローする。
「いいっていいって。私に気を使ってくれたんでしょ?
それに、あれは武器が優秀すぎたみたいね。持ち主がヘボでも気を抜く訳にはいかないのが分かっただけでも収穫よ」
「……その通りだな。あの慢心王も、本人はともかくその武装は恐るべきものであった。
我々には使えんのが惜しい所ではあるがな、あの剣は魔力とやらの持ち主とはいい交渉材料になるだろう」
アルベルトの言うのは黄金の王の持っていた王の財宝とかいう名前の支給品だ。
自分達には扱えなくとも、何らかの有力なアイテムと交換できる可能性などはあるだろう。
「……ま、いいわ。一働きしたら余計お腹空いたし。
早いところ市場に行きましょ」
「む、……異論はない」
「あ、それと」
思い出したようにかがみは付け加える。
「着替えるから先行ってて。すぐ追うからさ」
そうして着替えを即座に終え、卸売り市場に向かって歩き始めてしばらくした時。
進行方向から影が一つ、ゆらりと暗がりから染み出るように歩み出てかがみとアルベルトの前に立ち塞がる。
……一軒先程度の距離だと言うのに、目の前の男はここに至るまでに全く気配を感じさせなかった。
かがみは直感で理解する。この男は相当の実力者であると。
警戒態勢を取る二人だが、しかし人影は丸腰であることを示すように悠然と両手を広げて言う。
「……これは失礼。しかし、争うつもりはないのだよ。
私は言峰綺礼。見ての通りしがない聖職者をしている者だ。
尋ね人がいるのでね、用件はその人間を見なかったかということだけだ」
言峰と名乗った神父は、その佇まいからして隙がない。
……自分では相手にならないとかがみは判断する。
尋ね人とやらに心当たりはある。先刻自分に突っ込んできた少女だろう。
だが、実力差からしてどうするかはアルベルトに一任すべきだ。
そもそも彼は強者と戦いたがっていたはず。これは絶好の機会ではないだろうか。
口を噤み、アルベルトと神父のやりとりを見守ることにする。
「ほう。……尋ね人か。
だが、神父よ。我々が彼女を知っているにせよ知らないにせよ、教えないと言う可能性は考えないのか?
……いや、あえて言おう。ワシは後々邪魔になりそうな輩は早々に叩き潰す方針を取っている」
やはり戦闘か。
アルベルトの補助をすべきだろうか、と考えるも、しかし足手纏いになる可能性のほうが高い。
自分のスタンスを決めかねているかがみの心中とは裏腹に、神父の返答はそれを否定するものだった。
「ご冗談を。……彼我の実力差を見極められないほど、私は若くはないつもりだ。
私と戦っても貴殿の昂る戦意を満たせないであろう事は、そちらの方がよく分かっているのではないかね?」
「……ほう」
「そして、そもそも貴殿は彼女と言う代名詞を意図的に用いている。
……最初から戦うつもりなどないのだろう? 私が使えそうであれば使い、そうでないなら殺す。
貴殿の判断はそれだけのはずだ」
「く、くくくく、ハァッハハハハハハハハハハハ!! ワッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
突然高笑いをしだすアルベルト。
今の会話のどこにそんな要素があったのか、物騒な単語が入っていた気がするのだが。
混乱するも、かがみは口を挟むつもりはない。
そのほうがスムーズに事が進むだろう事は考えるまでもないからだ。
39 :
過去ログ1:2008/02/28(木) 00:20:36 ID:NSP4HFNC
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(開催用に開発された白地図)
40 :
過去ログ2:2008/02/28(木) 00:21:22 ID:NSP4HFNC
207 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2007/12/17(月) 23:13:41 ID:si8yiggO
死んでも生き返ってはいけないというルールはないから
死んだら別フィールドににぶっ飛ばせばいいんじゃね
>>192 の世界で死んだら、>>203の世界に転生とか
208 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2007/12/17(月) 23:29:12 ID:YXM1jlhX
糸色望はA世界のバトルロワイアルに参加決定しますた
僕達は殺し合いをすると、3回書かされました
「へたれセイバー」に食われて死亡しました
A世界で糸色望が死亡しました
糸色望は他界しました
・
・
・
糸色望はB世界のバトルロワイアルに参加決定しますた
僕達は殺し合いをすると、3回書かされました
突如、「ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ」に鈍器で殴られて死亡しました
糸色望は他界しました
・
・
・
糸色望はC世界の…
41 :
過去ログ3:2008/02/28(木) 00:21:56 ID:NSP4HFNC
たとえばね
キャラが増えれば増えるほどいいというんだったら
キャラ数の上限は無いほうがいい
ということで、
>>208のような形で死んでも復活できるようにして軍団制で戦う
あと、同じキャラを何人も作っておけばいいのではないかなと
たとえば、糸色望だったら
A軍団にもB軍団にもC軍団にも等しく糸色望がいるとか
---------
とりあえず過去議論ログはっつけときました
ウルフウッドマジ外道だな。
原作でもこうなのか?
原作なんざ原型もとどめてませんが何か
暗い。真っ暗などこか。
そのどこかにシャマルは立っている。たった独り、何をするでもなく。
気がついたらここにいた。何でここにいるのか分からない。
見渡しても見えるのはただ闇、闇、闇。手を伸ばしてみても、掴むのは何も無い空間だけ。
ずる ずる
不意に後ろから異質な音が聞こえる。
湿った、何かを引きずるような音。
「だ……誰?」
少し驚いた彼女は反射的に呼びかける。
彼女の声はまるで狭い浴場で大声を出したときのように不自然に響いた。
ずる ずる
不快な反響が消えても返事は戻ってこない。
湿った音はどんどん大きくなってくる。
音の元が少しづつシャマルのもとへ近づいてきている。
(敵……!?)
状況が読めない中、何とかまだまともそうな結論を強引に出して、彼女は身構える。
本当はそうじゃないと心のどこかでは知っているのに、それを理性で強引にねじ伏せて。
足が、震えているのを感じた。
ずる ずる
……んぇぃ…… ………せぃ……
「……何?」
湿った音がする方から、小さな、消えてしまいそうな声が聞こえる。
ささやくようなその声は、どうしてか分からないが、彼女を呼んでいるように思えた。
僅かすぎるその声をしっかりと聞き取るため、シャマルは耳をそばだてる。
ずる ずる
……せんぇぃ…… ………シャマルせんせぃ……
やはりそうだった。
声は、確かに彼女の名前を呼んでいる。シャマルせんせい、シャマルせんせいと。
よく聞くと、その声は一人だけが出してるものではない。
男の子と女の子、二人の声がまるでハモるみたいに重なって聞こえていたのだ。
「エリオ?キャロ?……そこにいるのはエリオとキャロなの?」
彼女はまた、虚空に向かって名前を呼ぶ。
呼びかけていたその声に聞き覚えがあったから。
湿った音は止まり、目の前の暗闇に、薄ぼんやりと男の子の影が見えた。
「エリオ!一体どうしたのこんな……」
姿が見えたことに安心し、シャマルはエリオに一歩近づく。
そのとき、彼女の足裏が何か柔らかいものを踏みつけた。
反射的にそこにあるモノに目を向けた彼女は
びち びち
踏んだものの正体を見て絶句した。
それは、子供の腕だった。
肩の付け根から無理矢理引き剥がされたのだろう。
断面から黒い血管や白い骨がだらしなく垂れ下がり、赤と透明の液をビュルビュルと吐き出している。
白く、綺麗だったのであろう肌にはカビ色の斑点が浮かび、その肉からはかすかに腐った臭いが漂ってくる。
なのに、その腕はなお、靴の下でもぞもぞと指を動かしていた。
まるで、彼女を撫でてみたいとでも言うように。
「ひっ……」
あまりのことにシャマルは後ずさり、思わずエリオの顔を見た。
しかし、本来あるべきところに、エリオの顔はなかった。
本来、エリオの顔があるはずの場所から少し下にキャロの顔があった。
頭の無いエリオが頭だけのキャロを抱えて立っていた。
「っっっっっっっっーーーーーーー!!!」
血の気が引く、とはまさにこのことに違いない。
悲鳴をあげようにも喉が痙攣して声にならない。
エリオの首の切断面は、まるでノコギリか何かで切り取ったかのようにザラザラだった。
心臓がドクンドクンと脈打つたび、肉の中の血管がビクンビクンと反応して僅かな血潮を吹き出す。
その血が滲んで、垂れていく先の体もまた無事ではない。
右腕がなく、全身に酷い火傷を負っていた。
火傷は特に右半身が酷く、腕の付け根の辺りなどは、よく焼いたビーフステーキのような色をしている。
脛、もも、臀部、脇腹などは、ところどころが黒く焦げ、そうでないところはケロイド状に腫れて、膿んでいた。
いつも着ている黒いインナーは皮膚に食い込んで癒着している。
おそらく、剥がせばベタベタとした皮膚組織も一緒に剥がれ、下の血肉を露わにするだろう。
左腕に抱えられているキャロの頭も酷いものだった。
おそらく、どこかに強く擦られたのだろう右の額は、髪の毛ごと皮が剥がれてずるりと抜け落ち、黄色い頭蓋を晒している。
左の眼球は醜く潰れ、その透明な中身が涙のように眼窩から零れていた。
右の顎から頬にかけての皮は捲れ上がっており、皮下の繊維と歯の骨とがだぶついた皮膚の下に見え隠れする。
そんな状況にあってなお、残った右目はシャマルの方を虚ろに睨み、擦り切れた唇はシャマルの名を囁く。
キャロが口を動かすたびに、首の付け根から伸びた脊椎が、生きた魚のようにびちびち跳ねた。
「シャマル先生ぃー」
「せんせーい」
シャマルはそのあまりの光景に吐き気を覚え、思わず膝をつく。
地面に触れた手が、何かべたべたするものに触れた。
「!!?」
彼女が正体を確かめようと手を見ると、そこには赤黒い血糊がべったりと着いていた。
見渡してみれば、そこは一面の血と肉のプールだった。
人間のパーツだったものらしき肉塊がそこかしこに散乱し、赤い飛沫を黒い空間に振りまいている。
おぞましいことに、肉片達は既に原型を留めないほどバラバラにされているにもかかわらず
そのどれもが独立した生き物のように蠢き、這い、こちらへと向かってきていた。
ずるずる、ずるずると湿った音を立てながら。まるでシャマルを求めるように。
肉に張り付いたわずかな布だけが、その正体を示している。
それは、キャロの身体だった。
せりあがってきたものを我慢することができず、シャマルはその場に嘔吐した。
「シャマル先生ぃー」
「せんせーい」
「せんせい、わたしたちの幸運とったんですか?」
「え……?」
キャロがいつも通りのかわいらしい声で問いかけてくる。
シャマルには意味が理解できない。
悪夢じみた空気に呑まれて、まともに頭が回らない。
「とったんですね?」
答えに窮しているうちに、エリオが確認してくる。
エリオとキャロの幸運を、とった。その言葉の意味を噛み締める。
(エリオとキャロは死んでしまった……こんなひどい姿になって、惨たらしく殺されてしまった。
それに比べて私は……?まだ傷ひとつ負わずに、酷い目にも遭わず生きている私は……)
とったかもしれない。
その考えが頭をよぎった瞬間、視界が赤く染まった。
「かえしてー」
「かえしてくださいー」
エリオとキャロと、肉片が飛び掛ってきていた。
エリオは残った左手で白衣を強く引っ張り、キャロの首は蹲った背中の上でぴょンぴょン跳ねた。
キャロの身体だった肉片は、服の隙間から入り込み、そのおぞましい感触はシャマルの肢体を犯す。
「かえしてー」
「かえしてー」
「ぃぃいやぁっ!!」
虚ろに呟く子供達を半狂乱で振りほどき、シャマルは逃げ出した。
彼らが来たのとは反対の方向へ。
よろめきながら体勢を立て直し、さらに速く走り出そうとしたそのとき
「あっ……」
何かにぶつかった。
顔を上げると、そこにはまた見知った顔。
鎖骨から下の無いスバルがシャマルを見下ろしていた。
スバルはやっぱり虚ろな目をこちらに向けると、冷たい声で言った。
「かえして」
と。
「いやああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーー!!!!」
絶叫が闇を切り裂く。
けれど悪夢は消えてくれない。
「かえしてー」
「かえしてー」
「かえしてー」
「あぁ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ……」
シャマルはただ蹲る。
耳を塞ぎ、目を塞いで蹲る。
目の前の恐怖と、罪悪感の前では、彼女にはそれしかできない。
「せんせい、わたし銃で胸を撃たれて死んじゃったんです。
そのあと、死んだ私のところに怖いお兄さんがやってきてわたしのことを爆弾でバラバラに……」
「せんせい、僕は身体をいきなり燃やされて、死ぬほど痛い思いをしました。
炎が僕の身体をこんがり焼いて、いつまで経っても痛みが収まらなくて。
それで、そのあと病院に行ってやっと助かったと思ったら胸に大きな剣を捻じ込まれて……」
「先生、私が死んでどうなったかは知ってますよね?
先生、見ましたもんね……あの人と一緒に」
スバルが抑揚の無い声でそう言い放ったとき、何故か心臓が一際大きく脈打った。
嫌な、予感がした。
「ねぇ、先生?私達が苦しい思いをしてる間、先生は一体、何をしていたの?」
心臓を掴まれた思いがする。
急に息が苦しくなる。
「男か」
「ちがっ……!」
弁解をしようと、目を開けたシャマルの視界に別の見知った顔が飛び込んでくる。
傷だらけの三人はいつの間にか消え去り、そこには悠久の昔から生をともにしてきた仲間達が立っていた。
「シグナム、ヴィータ、ザフィーラ……」
「見損なったぞシャマル。敵の男にうつつを抜かしている間におめおめと仲間を死なすとはな……」
蒼い毛を持つ狼、ザフィーラが吐き捨てるように言う。
「違うっ!違うわっ!私はっ、私はみんなを助けようと……だから、あの男を利用して……」
「黙れ痴れ者がっ!」
赤みがかった髪を後ろで束ねた凛とした女性、シグナムに一喝され、シャマルは二の句を告げなくなる。
彼女を睨みつけるシグナムの目には、燃えるような怒りが宿っていた。
「……利用だと?戯言もいいかげんにするのだな。
敵の傷を癒し、甲斐甲斐しく手料理まで振る舞い、服のはだけた身体を見ては頬を赤らめる……
あれが利用などと……本気で言っているのか貴様はッ!?」
仲間の、普段では考えられない激しい言葉に晒されて、彼女は動揺することしかできない。
ただ、顔を青くし、まるで鉢に閉じ込められた金魚のように口をぱくぱくさせる。
そんなシャマルを見て、黒い帽子を被った少女、ヴィータは溜め息をつく。
「……それでよぅシャマル、てめーはその男とやらを利用して、誰か助けられたのかよ?」
さっき見た三人の姿がシャマルの頭にフラッシュバックする。
爆弾で肉片と貸したキャロ、焼かれた末串刺しにされたエリオ、頭と手首と、足首だけを残して消えてしまったスバル……
「え?どうなんだよシャマル?
お前があのヴィラルとかいう男と仲良くすることで、キャロを危機から救えたのか?
あいつと人間狩りなんて馬鹿なことをやってれば、エリオは半身を焼かれずに済むと思ったのか?
こんなクソッタレな殺し合いを始めた奴の部下に取り入って、それでスバルは元の世界に帰れんのかよ?
ええっ!?どうした……答えろよ?」
「わたし……わたし……は」
シャマルには返す言葉が見つからなかった。
彼女はこの右も左も分からない殺し合いの空間の中で、精一杯やってきたつもりだった。
みんなを助けられるように、危険のある他の人たちを排除したり、慣れない交渉ごとに臨んだり……
しかし、結果は知ってのとおり。
キャロも、エリオも、スバルも死んでしまった。
シャマルの打った手が果たして何番目に良い手だったのか、それは分からない。
けれど、それはこんな悲惨な結果が出た後では、論じる意味のないことだ。
「わたし……は、はやて、ちゃんを」
ぐちゃぐちゃに混乱した頭から、やっと出た一言がそれだった。
そうだ。いくら酷い結果になっていたとしても、ここで立ち止まるわけにはいかない。
シャマルには八神はやてを守るという重要な使命があるのだから。
そう、全てはそれを成し遂げるためだ。
敵と手を組んだのも、素性を知らない人を殺したのも。
「だから、わたしは――」
「……ああ、そうだな」
胸のうちを吐き出そうとしたシャマルの言葉は、ザフィーラの横槍によって遮られる。
「お前は、主、はやてを守るべきだった」
「何者にも換えられぬ我らが主を、どんな手段を使っても守り通すべきだった」
「てめーもこのふざけた殺し合いが始まった時に、そう誓ったはずだった」
「この残酷な世界には盾の守護獣も」
「烈火の将も」
「鉄槌の騎士もいねーんだから」
「お前が」
「湖の騎士シャマルが」
「やるしかなかった」
彼女は困惑する。
仲間の言ってることが彼女には分からない。
「だった」?それはどういうことだ?
「螺旋王の手下と手を組んでも」
「敵の男とよしみを結ぼうとも」
「最後にははやてを守ってくれる。あたしたちはそう信じていた」
「キャロが死に」
「エリオが息絶え」
「スバルがこの世から消えても」
「最後には我が主の命を救ってくれると、我々は確信していた」
「だが」
「お前は」
「シャマル……」
体全体が震えていた。
シャマルはだんだんと分かりかけていた。
いや、本当は最初から分かっていたのかもしれない。
何故、こんな悪夢を見るのか。
何故、自分は今こんな思いをしているのか。
そうだ、それは――
「八神はやて」
螺旋王の非情な声がその名前を呼ぶ。
「主、はやてを死なせた」
「何の手も打つことができず、ただ、死なせた」
「おめーしかいなかったのに、死なせた」
『 オ マ エ ハ ハ ヤ テ ヲ コ ロ シ タ ノ ダ 』
彼女は全てを思い出し、もう一度絶叫した。
◆
布団を跳ね除け、シャマルは目覚めた。
全身に粘ついた汗を感じる。体がべたついて気持ちが悪い。
今まで眠っていたとは思えないほどの疲労が肩にのしかかり、呼吸は、荒い。
(ここは……どこ?)
見渡せば、そこは和室。
萌黄色の畳が敷き詰められた六畳の部屋。
四方は白いふすまと押入れ、アルミサッシの引き戸で区切られている。
自分の寝ていた布団と部屋の角に置かれている二つのデイパックの他には何もない、ガランとした部屋だった。
まだ半ば夢見心地の頭で記憶の糸を手繰り寄せる。
中心部への移動、スバルの遺体の発見、謎の男の襲撃、赤マントの男に助けられて……
そこから先は覚えが無い。
自分の置かれている状況に少し困惑していると、突然、庭の方からドスッという音がして、何かが屋根から下りてきた。
驚いて目を向けると、そこには見慣れた顔がいた。
「気がついたか」
引き戸を開けて、ヴィラルが入ってくる。
ああ……足に土つけたままあがっちゃだめですよなどと、ずれた考えがぼんやりと浮かぶ。
彼女の言いたいことはそんなことではないというのに。
かける言葉の定まらぬまま、焦点の合わぬ目で見つめていると、ヴィラルは心配したのか、む、眉根を寄せる。
「大丈夫か?俺のことが分かるか?」
「ヴィラルさん……」
弱弱しくもそう呟き返したシャマルを見てとりあえず安心したのか、ヴィラルは大きく溜め息をつきこれまでの経緯を話し始めた。
「俺達を襲った忌々しいジジイのことは覚えているな?
あの後俺達は……あの場から撤退した。突然割り込んできたあの赤マントの言うとおりにな……
奴らから十分な距離をとったとき……螺旋王の三回目の放送が始まった。
逃げることも忘れ、聞き入っていたお前は放送の途中で、ある名前が呼ばれた途端、意識を失い、倒れた。
お前が寝ていたのはそのせいだ」
「放送……」
霞がかっていたシャマルの意識が静かに、しかし急速に覚醒する。
その名を呼ぶ螺旋王の声が彼女のなかで唐突に甦り、リフレインした。
「はやてちゃん……」
知らず知らず口から名前が漏れ、瞳からは涙が流れる。
ぽたりぽたりと垂れる雫は、白い布団に染みを刻んだ。
「……仲間の中でも、大切なヤツだったんだな、そいつは」
「…………」
沈黙が流れた。
まるで自分の大切な人が死んだときのように、重く、苦しい調子で発せられた問いに、答えは返らない。
しかし、ただ涙を流し続けるシャマルの姿が、何よりの答えだった。
何か言わなくちゃ、とシャマルは必死で頭を働かす。
しかし、何かを言おうとすればするほど、感情が胸に詰まって、言葉にならない。
言葉がないから返せないのではなく、言葉が多すぎて返せない。
それほどまでに、シャマルにとっての八神はやては大きな人物だった。
「…………」
「…………」
シャマルが持っている楽しい記憶のほとんどは、はやてのくれた記憶だった。
闇の書を守る騎士としてひたすらその主に仕え続けてきた半生。
それは言い換えれば血と戦いの半生であった。
知識を蒐集するためリンカーコアを集め、主の敵を屠り、闇の書に害を為すものたちを排除する。
敵を探し、殺すための指示を出し、また、自ら手を下す。
シャマルの人生の前半はそんな記憶ばかりだった。
楽しいとか嬉しいとか、辛いとか切ないとか、そんなことを考える暇も、余裕も、きっかけも与えられない。
機械のような灰色の人生。
そんな道を歩き続け、戦って、戦って、最後に擦り切れて灰になる。
本来ならシャマルは、他の守護騎士たちは皆一様にそんな人生を生きるはずだった。
しかし、現実はそうはならなかった。
何故なら、八神はやてが彼女の主になったから。
はやてはシャマルに、守護騎士たちに人間としての喜びを教えてくれた。
家族を持つ喜び、友を得る喜び、共に暮らし、笑いあう喜び
人の怪我を治して「ありがとう」を言われる喜び、お料理を作る喜び、ドジなミスをして人に笑われる喜び……
これらの喜びは全て、はやてがいなければ知るはずのなかったはずのものだ。
シャマルにとってはやては、主であり、母であり、妹であり、人間としての自分を生み出した救世主でもあった。
それら全てを同時に失ったとき、神ならぬ人に一体何が言えるというのだろう?
「……シャマル」
長い沈黙の末、やっとヴィラルが口を開く。
「……お前はここで隠れていろ」
少し唐突な言葉に、シャマルは一瞬だけ泣くのを忘れ、ヴィラルの方を見る。
「灯りを消してじっと動かずにいれば、まず見つからんはずだ。
その間に俺が全ての敵を叩き伏せ、この実験を終わらせてやる」
一人で?終わらせる?この殺し合いを?
彼は何を言っているのだろう。
先ほども、おさげの老人にこれでもかというほど実力の差を見せつけられたばかりではないか。
彼女は混乱する。
シャマルにはヴィラルの意図が掴めない。
視線から困惑が伝わったのだろうか。
彼はあらためてシャマルの方を向きなおすと、ひどく真面目な顔になり言った。
「……お前はこの戦いで仲間を失いすぎた。
キドウロッカの仲間達がお前にとってどれ程大切だったのか、よく分かった。
お前の心は最早傷だらけだ。そんな気持ちではこれ以上戦いを続けることはできん」
ヴィラルはシャマルの肩をつかむと、まるで幼子に言い聞かせるように穏やかに、しかし決然と語る。
「俺は生憎不器用でな。お前の心をどうこうする術などまるで持ち合わせていない。
だが、俺は戦士だ。戦うことに関しては人一倍の自負がある。
ここからは俺がお前の代わりに戦おう。
お前の仲間を殺した奴らを八つ裂きにし
残ったお前の仲間、ティアナ・ランスターをどんな手を使ってでもここへ連れてきてやる。
だから、シャマル、もう休め。お前はよく頑張った……」
(この人は――)
その優しい言葉を耳にした刹那、彼女には自分がとても醜い生き物のように思えた。
(馬鹿らしい。本当に馬鹿らしいわこんなこと……)
私は何のためにこの優しい男を騙したのだった?
仲間を、主はやてを救うための手駒にするためではなかったか?
もしそうならば、今も騙し続ける意味は何だ?
この真面目な獣人を誑かし、侍らせている私は一体何だ?
仲間を次々と死なせ、大事な主まで死なせてしまったというのに
騙した敵に慰められながらのうのうと生き延びている私は一体何なのだ?
(私は最悪の女だ……)
そう結論づけた途端、彼女の中で何かが切れた。
もう、全て終わってしまった。
この後、自分がどれだけ足掻こうが、何も変わることはない。
私は今ある最悪をなされるがままに受け入れるしかないのだ。
そんな絶望と虚無感が後から後から湧いてきて、シャマルの心を塗りつぶしていく。
「放送までには一度戻る。それまでここで大人しくしていろ」
「……はい、分かりました」
消え入りそうな返事を聞いて、ヴィラルは少し心配そうな顔をしたが、すぐに向き直ると引き戸を開けて出て行った。
シャマルは彼がいなくなった後もしばらくはぼんやりと外を見つめて泣いていたが
やがて、腕でごしごしと涙を拭き、よろよろ立ち上がった。
その様は、さながら甦った死人か、幽鬼のようであった。
「……もう、疲れちゃったわ」
うわごとのように呟くと、シャマルはのろのろと外へと向かった。
やつれ果てた彼女の体が夜の闇へと溶け込んでいく。
◆
「おいおいおいおいキヨマロぉ〜お前も案外聞き分けねぇ〜のな」
「いや、聞き分けとかそういう問題じゃないだろ!」
病院のロビーで、清麿はラッドと言い争っていた。
彼はあれからいくらも経たないうちに、プラン1の採用、即ちラッドと共に即時映画館へ向かうことを決めていた。
ジンの件をラッドに相談してみたところ、映画館にはレーダーがあることが判明したためだ。
ジンの位置を逐一把握することが可能ならば、合流の心配をすることもない。
しかし、今後の方針が決まったにもかかわらず彼らは一向に病院を出発しようとしない。
何故か。
「別にいーじゃーん、置いてったてよう!何も殺そうって言ってるわけじゃねえんだしさあ!
ま、別に俺としちゃ殺したっていいんだけどよ!
あんなガキちょびっと首を捻ってやりゃ、絞められたニワトリみてえにイチコロだろうしな。
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーーーーーッッッッ!!!」
「馬鹿野郎っ!縁起でもないこと言うんじゃねえ!」
「あ、もしかしてキヨマロ?お前アレか?ロリコンってやつなのか?」
「バッ、ちが、そんなわけないだろ!……ってか、別にオレの齢から考えればあの子が相手でもおかしくなくないか?」
「いやあっー!!やっぱそうかそうだったのかキヨマロォ!!ごめんなー、俺様気がきかねえからさあ!!」
「だから違うって言ってるだろォォォォォォーーーーー!!!!」
「でもよう、いくらお前がロリコンでもよ?残念ながら連れてくワケにはいかねーんだわ。
あのフラップターとかいう機械二人乗りなんだよ。つまり、あいつを乗せると重量オーバーなんだな、これが」
彼らが揉めている原因、それはラッドが殺した相羽シンヤの忘れ形見、小早川ゆたかの処遇だった。
ラッドがゆたかの同行を頑なに拒否している一方、清麿はゆたかの同行を強硬に主張。
主張は平行線のまま、お互い一歩も譲らず
結果、二人はロビーのソファに寝かせたゆたかを挟んで喧々諤々の議論をする羽目になっているのである。
「だからって置いていくわけにはいかないだろ!?
ここは戦場のド真ん中なんだぞ!?
そんなとこに、ただの女の子を放置するなんて、そんな危ない真似ができるか!!」
清麿は口から唾を飛ばしながら叫ぶ。
彼がここまで強くゆたか同行を主張するのには、口に出している以上のワケがある。
清麿は相羽シンヤの死に対して重い責任を感じていた。
確かに、シンヤは自分を危うく殺しかけた相手である。
しかし、だからといって死んで当然の人間だったかと言えば、そうではない。
だが、彼の仲間であるところの殺人鬼、ラッド・ルッソはシンヤの心を弄んだ挙句、無惨に殺してしまった。
この会場に呼ばれて以来、常にラッドの殺人を抑制することを頭に入れて動いてきた清麿にとってこの事実は重い。
たとえ相手が殺し合いに積極的な人間だったとはいえ、もう少し何とかする余地があったのではないか。
そんなことを考えずにはいられない。
だから、その思いが長じて、彼がゆたかに対して罪悪感を覚えてしまうのもまた無理からぬことと言えよう。
清麿は実際に目覚めたゆたかに対し、きちんと真正面から話をし、シンヤの死について告げることを望んでいた。
そのためには、是が非でもゆたかには同行してもらわねばならない。
「おい、俺ァがっかりだぜキヨマロォ?お前ここに来て、今まで何を見てきたんだぁ?アアァン!?
“ただの”女だぁ!?そんなことどーして言えるよ?
この殺し合いに参加してる奴らがどういう奴らか忘れたのかァ?
物騒なビームを出すバケモンに、尋常じゃねえ身体能力のムラサキジジイ!!まさか忘れたなんて言うんじゃねえだろうなあ?
ましてやコイツはあのブラコン野郎と一緒にいたんだぜぇ?
ちったあ、疑ってかかるのが人の道ってモンじゃーねぇ〜のぉ〜?
一緒に映画館に連れてって大暴れ!なんてことになったらどう責任とるんだよォ?
ま、俺は楽しいからそれでもいいけどな。ヒャーーハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
食い下がってくる清麿に対し、ラッドはあくまで飄々と、自分のペースで受け流す。
彼もまた、表に出している事情以外に、腹にイチモツ隠し持ってモノを言っていた。
実のところ、彼はゆたかが危険な能力を持っている可能性は低いと踏んでいた。
先ほどシンヤを出し抜いた際、ゆたかの身体に触ったが、特に鍛えている様子もなく、ごく普通だった。
ならば心配されるのはいわゆる特殊能力の類だが、これもまずないといってよいだろう。
何故なら、ラッドは映画館で明智たちが携帯電話の入力作業をしている間に詳細名簿をチェックし
ヤバそうな能力者の顔と名前をあらかじめ確認しておいたのだから。
ラッドは念のため、もう一度密かに頭の中の危険人物リストを総覧してみるが、そこに目の前の少女の顔はない。
つまり、ゆたかは特殊能力という面からみてもシロということだ。
では、何故そこまで分かっていながら、彼はゆたかの同行を拒否するのだろうか。
実のところ、ラッドがゆたかを同行させたくない理由はその無害さにこそあった。
ラッド・ルッソの目的、それは『自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる』ことだ。
そして、その人間の中には当然、螺旋王も含まれている。
だからこそ、彼は螺旋王打倒を目指す清麿に賛同し、その計画を練る明智に協力している。
彼らの目論見が無事に達成され、自らの拳で螺旋王を嬲り殺すことができるようになるのはラッドにとってとても喜ばしいことである。
そして、それゆえに小早川ゆたかは邪魔になる存在なのだ。
(だってよ?小賢しいだけの羊の群れなんざ、狼に食い散らかされるのが関の山だもんなァ!)
無力な保護対象というのは、ただそこにいるだけで集団全体の機能性を著しく阻害する。
足手まといが増えていいことなど何もない。
ラッドは自らの欲望に忠実な男ではあるが、また同時に利を嗅ぎ分ける嗅覚も鋭い男なのである。
ゆえに、彼はゆたかの同行を望まない。
「確かにこの子が危険人物である可能性もある。それは認める。だが、そうでない可能性だって……」
「戦場で無駄なリスクを冒そうってのは感心しねぇなぁ、キヨマロォ?」
「そりゃ、確かにそうだが……だったら、万が一のためにシーツか何かで拘束しておけば」
「シーツぅ?おいおい、んなモンこいつがもしバケモンだったとしたらぜ〜んぜん役に立たねえぜ?多分。
シーツくらいだったら俺でも破れるしな。バリッ!ってよ」
会話は平行線のまま、夜は更けゆく。
◆
夜闇の中、街灯が照らす都市の街路をシャマルは一人行く。
ふわりふわりと、身体を覚束なく揺らし、その瞳には深い闇色を湛えて。
どこを見るでもなく顔を上げ、どこを目指すでもなく歩く。
その様は、まるで繰りの甘い人形のように不自然、不合理、不安定。
足をとられ転ぶこと数度。
ストッキングには丸い穴が開き、膝には擦り切れた傷がつく。
されど、彼女は気にすることなくゆっくりと往く。
あてども知れぬ、死に場所を探すために。
家を出たとき、まず最初に浮かんだフレーズが『死のう』だった。
考えれば考えるほど、彼女にはその考えが最良のものに思えて仕方がなかった。
(私が生きてる意味なんて、もうどこにもありはしない。
キャロも、エリオも、スバルも死んでしまった。ティアの居場所もさっぱり分からない。
そして……何もできないうちにはやてちゃんを死なせてしまった……
いや、『死なせた』なんて言い方は逃げだわ。
殺したのよ。私が。はやてちゃんを殺したのよ。
私がもたもたしている間に、はやてちゃんはどこの誰かも分からない敵に殺されてしまった。
もし私があの『V』にやられて気絶しなければ、適当なところでヴィラルさんのもとを去ってはやてちゃんを探していれば
はやてちゃんはまだ生きていたかもしれない。また元気に笑いかけてくれたかもしれない。
私が、私が無能だったから。
……シグナムや、ヴィータ、ザフィーラがこのことを聞いたらどう思うだろう?
きっとあの娘たちはすごく悲しむ。悲しんで、泣いて、私を責めるかもしれない。
どちらにしても私は守護騎士失格だ。
それに私は人を殺した。酷いことを言う人だったけど、何にも悪いことをしてないジェレミアさんを串刺しにした。
私は人殺し。だから、もう、時空管理局には戻れない。
なのはちゃんやフェイトちゃんに見せる顔なんてない。
八神家にも時空管理局にもいられない私に生きる居場所なんてもうどこにもない。
生きる居場所がなければもう死ぬしかない。死ぬしかないんだわ。私は。
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない……)
シャマルの頭の中は今や死でいっぱいだった。
(いつ死のうかしら?いや、いつなんて悠長なことを言っている暇なんてないわ。
早く、一刻も早く死なないと。私みたいのがいつまでも生きていちゃいけない。早く死ななきゃ。
どこで死のうかしら?別にどこでもいいんだけど、そう言ってると、なかなか踏ん切りがつかないわ。
ちょうどいい場所があればいいんだけど。
どうやって死のうかしら?どう死んでもいいんだけど、痛そうなのはちょっと勇気がいるわよね。
刃物はないから使うのは銃かしら?私の魔法じゃ死ねないから銃を使うのがやっぱり確実かも。
でも、銃って何だか痛そうよね。でも、いざとなれば……薬なんかもいいかもしれないけどこんなところには……)
破滅的な感情が彼女の中を駆け巡る。
最早、正気の糸は切れ、思考は悲しみの濁流に押し流されてしまっていた。
自分の無価値を心から信じ、生の可能性を自らひき潰す、今のシャマルはそういう生き物だった。
ふらりふらりと、麻薬中毒者のように虚ろな目を揺らしながら、彼女は歩く。
そのくすんだ視線が、自らの正面に白い、一際白い建物を見出した。
理性の欠片を振り絞り、ピントをあわせた彼女に見えたそこは病院。
時空管理局に配属された彼女が一番多く過ごした場所。
人生を終わらせるには、最適なところに思えた。
:失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:55:03 ID:48bRF7xk0
◆
「あ゛〜あ゛、まったくキヨマロも強情だよな」
赤い虫のように空を飛ぶフラップターに一人跨り、ラッドはやれやれと肩をすくめていた。
病院のロビーでさっきまで続いていた討論は泥沼の延長戦の末、清麿に軍配が上がった。
頑なに主張を曲げない清麿にラッドが降参した形だ。
「『オレがこの子を背負って映画館まで行くから、ラッドは先に帰って報せてくれ』か……
はぁー、そうまでして連れて帰りたいかねぇーあんなガキ。
シロウといいあいつといい、ここにいるヤツラはどっかおかしいぜまったくよォ!」
ラッドは自分のことを棚上げにして一人ごちる。
フラップターに三人は乗れないことを盾にしていたラッドに対し、清麿は自ら分散行動を申し出たのだ。
ラッドとしては、ゆたかの危険性を建前にもう少し粘ってもよかったが
よく考えれば、そうやってこれ以上時間を消費する方が余程無益であることに気がついた。
足手まといが増えるのは気に入らないが、まあ、仕方ない面もある。
「……しっかし、あいつらもしかしてこの後も、あのガキみたいなよわっちい連中を次々連れてくるつもりなのかねぇ?
やだやだ。哀れな子羊ちゃんのお守りなんざ俺ァ、まっぴらごめんだぜ。モーゼってんじゃねえんだからよう」
シンヤを殺し、せっかく上がったテンションに水を差されたのが不快だったのか
ラッドはフラップターを縦横に繰り、無駄にアクロバティックな飛行を繰り返す。
常人なら酔って吐くこと間違いなしの機動を涼しい顔でやり過ごす。
「あ゛ーめんどくせえ、めんどくせえ。いっそのこと役に立たねえボンクラどもは皆、殺しちまおうか?
この期に及んで緩いパンピーが生き残ってるとは思えねえからあんま気は進まねえが
みんなのヒーローってのはもっと気に食わねえ。ってか吐き気がする」
目茶苦茶な飛行を続けながら、事も無げに彼は呟く。
その口調は明日の献立を考えているときのそれとまるで変わらない。
思えばそれもある意味当然のことだ。
ラッド・ルッソは殺人鬼なのだから。
彼は、自分が死ぬなどと微塵も考えていない緩い人間を殺すのを好むが、決してそれしか殺さないというわけではない。
抗争になればどんな敵でも速やかに始末するし、フライング・プッシーフットの事件の時も、乗客は残らず皆殺しにするつもりだった。
とどのつまり、ラッドにとっての『緩い人間』とは肉なのである。
彼は肉食だが、必要とあらばパンも芋も野菜だって食らう。
「あーあ、クソッ、せっかくいい気分だったってのに何かテンション下がってきちまったぜ。
こーゆーときはどうすっかな?やっぱあれか?殺しか?人殺しか?
そーか、そうだよなぁ!!こういう暗い気分の時は頭ゆるゆるのガキでもパァーッとブッ殺してスッキリするのが一番だ!
キヨマロが映画館に着くまでにゃまだ時間もあんだろうし、パッと殺って、サッと帰りゃ問題ねえだろ。
よぉーしっ!!そうと決まれば獲物探しだ!
イキのいいのが見つかんなかったときは……足手まといになりそうな奴殺して我慢するってのもま、アリか」
機体に落ち着きを取り戻し、神をも恐れぬ殺人狂は空を翔る。
自らの飢えを満たすために。
【D-6・上空/一日目/夜中】
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:疲労(小)、左肋骨2本骨折、両拳に裂傷(戦闘には問題なし)
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾3/5)
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ファイティングナイフ、フラップター@天空の城ラピュタ
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ 、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:下がったテンションを上げるため、誰かしらブチ殺す。できれば緩い奴がいい。
1:獲物の有無にかかわらず、あまり遅くなりすぎないよう映画館に帰る。
2:東方不敗と鴇羽舞衣の所に戻ってぶち殺す。
3:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
4:足手まといがあまり増えるようなら適度に殺す。
5:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
6:覚悟のある人間ばかりなので面白くないから螺旋王もぶっ殺す。
7:シンヤの兄であるDボゥイに興味。死なないと思っているようならブチ殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※明智たちと友好関係を築きました。その際、ゲーム内で出会った人間の詳細をチェックしています。
※詳細名簿の情報をもとに、危険な能力を持つ人間の顔と名前をおおむね記憶しています。
※テンションが上がり続けると何かに目覚めそうな予感がしています。
799 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:56:34 ID:48bRF7xk0
◆
「ない……ない……ない……」
夜の病院、薬品保管庫の中に蠢く影が一つ。
棚という棚に手をやり、何かを探すように手を突っ込んではまさぐり、かき回す。
取り出した薬品のラベルを見ては、顔を引き攣らせ、また新たな容器を探すために手を入れる。
影は何かにとりつかれたようにそんな動作を繰り返し続けていた。
「ない……ないわ……死ねるお薬……どこにも」
シャマルは動揺していた。
いくつかの部屋を探し回ったが、自殺を決行するために最適な毒薬が、どこへ行っても見つからないのだ。
もし、彼女がいつもの冷静さを保っていたならば、螺旋王が殺し合いに有利な道具となる毒薬をあらかじめ排除していた可能性
あるいは、先にここに来た誰かが、毒薬だけを持ち去ってしまっていた可能性に気づくことができただろう。
しかし、残念ながら、今のシャマルにその判断力は望むべくもない。
ゆえに、彼女は白痴のように棚を開け、かき回し、うわ言を呟きながら天国への片道切符を探していた。
その様子は、おもちゃを探す少年のようにひたむきで、犠牲者を探す死神のように不気味だった。
「どうしよう……ない……ないわ」
顔を青くし、頭を抱える。
このままでは死ぬことができない。
せっかくいい場所に巡り会って、いい方法も見つけたというのに、肝心の薬がないなんてあんまりだ。
彼女は思うように行かない状況に苛立ち、バリバリと頭を掻いた。
強く掻くあまり、綺麗な金髪が抜け落ち、はらはらと廊下に舞う。
「どうすれば……どうすれば……」
必死で次の手をシャマルは、手がかりを求めるように周りを見回す。
自分を殺してくれる、自分が死ぬことができる何かを求めて。
血走ったシャマルの目に、ライトアップされた中庭が映った。
「あれだわ」
魂の抜けたような声で呟き、とっさに思いついたプランを確認すると、彼女はすぐさまそれを実行するため走り出した。
800 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:57:32 ID:48bRF7xk0
◇
この病院の中庭は半ば公園のように機能するよう整備されていた。
入院患者たちが座って閑談できるよう、あちこちにベンチが備え付けられ、灰皿も完備。
人工の小川が中庭を周回するように流れ、その周りには色とりどりの花が咲く花壇が腰を据える。
さらには夕涼みする患者に気を使ってか、かなり明るめの照明も据え付けられており
そこは完全に日が没し、夜になった今でも、十分に心地のよい空間だった。
その中央、庭の中でも一際大きな存在感を放つ巨木の前にシャマルは立っている。
手には病室から剥ぎ取ってきたシーツと大きなプラスチックの箱を持って。
彼女はしばらく無表情で木を見つめていたが、やがて決心がついたのか、プラスチックの箱を木の脇に置き、その上に立った。
手頃な高さの枝を見繕うと、シーツを輪の形に結び、括りつける。
輪の大きさを何度か調整し、それが手頃な大きさになったと見るや、シャマルはその輪の中に自分の頭をすっぽり通してしまった。
「あとは、この箱を蹴り出すだけ……それでもう、この世とはさようなら……」
シャマルが思いついた次善の策は、首吊り自殺だった。
首吊りはそのビジュアルの残酷さや、首を絞められて死ぬというイメージなどから
苦痛の伴う死に方のように思われがちだが実はそうではない。
首を吊った場合、吊るために使用している紐が首の動脈を圧迫し、十秒ほどで自殺者の意識を奪うため
実際に感じる苦しみはイメージと比べて相当に軽いものとされている。
柔道の達人の絞め技が一瞬で相手の意識を奪うのと基本的には同じメカニズムである。
医者であるシャマルは当然、そのことを知っていた。
だから、薬での死という最善策が不可能となった今、彼女は次善の策として首吊りを選んだのだ。
「もう、本当、疲れちゃったわ。だから、終わりにしましょう……」
シャマルは箱の上から中庭に生えた芝を見つめながら、これまでの人生を思い出してみる。
初めてはやてに召喚されたあの日。
石田先生の病院へ行った帰り、はやてと買い物に行ったあの日。
ヴィータのゲートボールを見に、みんなで出かけたあの日。
中々日常生活に慣れないシグナムをショッピングに連れ出し、服を着せて回ったあの日。
なのはやフェイトと和解したあの日。
管理局に入り、医務局に配属されたあの日。
怪我を治してあげた局員の人に、ありがとうを言われたあの日。
はやてに六課の話を聞いて、驚いたあの日。
六課に配属されて、自分の部屋をもらったあの日。
キャロとエリオが話す休日の話を笑顔で聞いたあの日。
スバルが訓練で怪我をして、治療にやってきたあの日。
ティアがそれに付き添って、文句を言いながらもずっと傍にいたあの日。
大切な、どれも大切な『あの日』たち。
辛いことも多くあったはずなのに、何故か頭に浮かぶのは楽しかった、嬉しかった思い出ばかりで。
でも、それはもう遠くて、儚くて、ぼんやりとぼやけてしか見えなくて。
マッチ売りの少女が熾した火の中に見える幻影のようで。
知らず知らずのうち、シャマルは泣いていた。
心の底から思う。何がいけなかったのかと。
(ねえ、神様、もしいるならば教えてください。
私はそんなに悪いことをしたでしょうか。
はやてちゃんやシグナムやヴィータ、ザフィーラ、六課のみんなと普通に暮らす。
そのささやかな望みを永遠に絶たれなければいけないほど、私は重い罪を犯したのでしょうか。
わけも分からずこんな恐ろしい殺し合いに参加させられて、わけも分からずみんな死んで。
教えてください神様!一体、私達、何がいけなかったんでしょうか!)
しかし、問うても答えは返らない。
神は常に黙して語らず。
夜風に吹かれて、目の前の芝だけが静かに揺れていた。
シャマルは最後に一度、本当に疲れた、と小さな声で呟くと、滑らかに、しかし確実に、箱を、足場を、外した。
ガコンという音がして、華奢な体が宙に浮く。
風が、吹いた。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
802 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:59:02 ID:48bRF7xk0
「そんなもの、俺は断じて認めないッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
ガコンという音がして、華奢な体が宙に浮く。
疾風が吹いて、シャマルは一瞬後、地面に尻餅をついていた。
「きゃ!?」
予想外の事態に反射的に目線を上げる。
鉈を構えた獣人が息を切らせて立っていた。
803 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 22:00:03 ID:48bRF7xk0
◆
「ヴィラルさん……」
追ってきて正解だった。
ヴィラルは今、心の底からそう思っていた。
一人実験を終わらせるべく街に出た彼は、偶然通りかかった四つ辻で真新しいシャマルの臭いを感じ取ったのだ。
今しがた民家に置いてきたはずの彼女の臭いに嫌な予感を覚えた彼はそれを追い、この病院に辿り着いたのである。
彼が中庭の入り口に辿り着いたのは、丁度シャマルが箱を蹴り出し、飛び降りんとしている刹那だった。
彼女が首を吊ろうとしているのだという事実を認識した瞬間、頭より先にまず体が動いていた。
小川を飛び越え、花壇を踏み潰して、ヴィラルは神速をもって木の袂まで辿り着き、鉈でシーツを切断したのだった。
「お前は馬鹿だッ!!大馬鹿だッッ!!」
戸惑うシャマルをヴィラルは一喝する。
その声はあまりにも鋭く響き、木を、花を、大気を揺るがす。
「何故こんな真似をした!?お前が死ねば死んだ仲間が喜ぶとでも思ったのか!!?」
「……どうして、放っておいてくれなかったんですか」
「なにぃ!?」
怒るヴィラルに対し、シャマルの反応はあまりにも冷ややかだった。
まるでまた一つ罪を重ねてしまったとでも言わんばかりに俯き、恨みがましい目で彼のほうを睨む。
その目の中の淀んだ光を見て、ヴィラルは思う。
これが、本当にあのシャマルの目なのかと。
「……私はもう生きていても意味のない生き物なんです。
私に帰るところはもうないし、私の大切な人は死んでしまった。
もう、私の人生に残ってるものなんて、これっぽっちもありはしないんです。
だから、私はもう……」
「帰るところがないだと……?甘ったれたことを言うな!それでも貴様は螺旋王の戦士か!!」
ヴィラルは期待していた。
螺旋王の名を出して煽れば、シャマルが何度か見せたあの持ち前の気丈さを取り戻し
こんな馬鹿な真似は即刻中止してくれると信じていた。
しかし、彼女の反応は期待したものとは程遠いものだった。
シャマルは悲しそうな、それでいて皮肉そうな目を彼に向けると、唇を歪めて薄く笑ったのだ。
「何がおかしい!!?」
「螺旋王の戦士……そうですよね。私、今はそういうことになってるんですもんね。
もうそんな嘘、何の意味もないっていうのに……」
「嘘だと……!?」
ヴィラルは絶句する。
全く予想外のところから殴られたような衝撃が走った。
確かに、はじめのうちは不審にも見えた。
しかし、その誤解は話をするうち、一緒にいるうちに段々と氷解していった筈だった。
だが、それが、まさか。
「……いいわ。どうせもうみんなおしまいなんですもの。
教えてあげますよヴィラルさん。ホントのこと全部ね」
戸惑う彼にシャマルは気持ちの悪いほどに優しくそう前置きすると、真実を語りだした。
時空管理局のこと。
守護騎士のこと。
全てはヴィラルを利用するための嘘だったこと。
真実が語られるたび、ヴィラルの顔色は赤く、ときには青く変じた。
「馬鹿な……お前は、お前は俺を謀ったのかシャマル!?」
「そのとおりよ」
機動六課のこと。
八神はやてのこと。
そしてシャマル自身のこと。
残された謎が明かされるにつれ、興奮していたヴィラルは徐々に落ち着き、今度は逆に寡黙の影が濃くなっていく。
対するシャマルは話が進めば進むほど感情的になっていく。
涙を両目から止め処なく流し、まるで喉の奥につまった感情を投げつけるかのように。
「分かったでしょ!私はどうしようもない大嘘つきなのよ!!
自分の利益のためだけに、ヴィラルさんに嘘をついて!利用して!!
……軽蔑した?軽蔑するわよねこんな最低女……
いいわよ、軽蔑してくれても。どうせ私にはもう何もないんだから!!」
「……………………」
気がつけば、この場の構図は、喚き散らすシャマルの言葉を石のように動かぬヴィラルが受け止める形となっていた。
「……もう答えるのも嫌だって言うの!?
……ううん、そうよね、それが当然よ。当然。
さあ!もう私の戯言を聞くのにもいいかげん飽き飽きしてきたでしょう!?
……そろそろ、殺したら?私のこと」
「……………………」
シャマルの息が切れ、声が枯れても、ヴィラルは動かない。
じっと、燃えるような双眸で彼女の眼を睨みつけ、話に耳を傾ける。
ただ、それだけ。
「……ねぇ、何か一言くらい言い返せないの?
私はあなたを裏切ったのよ?利用して、利用して、その挙句に殺そうとしたのよ?
憎んじゃないの私のこと?引き裂いてやりたいんじゃないの?
だったら、殺して……殺してよ……」
少しずつ、少しずつ叫ぶ勢いが弱くなっていく。
されど、彼女の瞳から流れ出す涙の川だけは、いつまで経ってもその勢いが衰えない。
むしろその流れは時間とともに激しく、荒々しくなっていく気配すら見せている。
「……もう一度聞く」
そんなとき、男はついに沈黙を破った。
「何故、自殺なんて馬鹿な真似をした」
その声は静かだったが、有無を言わせぬ強さと、厳かさを持ち合わせていた。
彼女は眼光に射竦められ、しばらく何も喋れずにいたが、やがて先ほどまでの癇癪を取り戻し、強い調子で叫んだ。
「私なんて生きてる価値がない人間だからよ!
仲間も主も守れずに、自分ひとりだけおめおめ生き残ってる、最悪の騎士だからよ!
そんな私がこれ以上生きてたって、私があの幸せを取り戻せる場所なんて、もうどこにもないのよっ!!」
血走った目を大きく見開き、美しい髪をざんばらに振り乱し、喉を軋ませ訴える。
悲しみを訴える。絶望を訴える。虚無を訴える。
「歯ァ、食いしばれェェェェェェェェェェッッーーーーーーーー!!!!!!!!」
吼えたのはヴィラルだった。
大きく前に一歩を踏みしめ、大地を掴み、その余勢をかって腕を振るう。
それ自身が一つの生き物のように、見事にしなったその腕は円弧を描き――激しく左の頬を打った。
「きゃああっ!!」
強烈な平手打ちがクリーンヒットしたシャマルは吹き飛ばされ、後ろに一回転、木に体を激突させる。
「な……何を」
目を白黒させながら、やっとのことで目線を彼のほうへと向ける。
突然の一撃に理解の方が追いつかない。
「どうして『取り戻す』なんて考える!?何故『掴み取ろう』と考えない!?
お前にあるのは過去だけか!?死んだ主だ、死んだ仲間だ、それが貴様の全てなのかッ!!?」
「ッッッッッ!」
強い言葉が降り注ぐ。しかし、女にも意地がある。
「そうよッ!私にははやてちゃんとの生活が!六課の皆との昨日が全てなのよッ!
それをとったら、私には何にも残らないのよッ!」
「なら、何故お前は俺を助けたッ!!」
「!!?」
「空港で俺が傷に苦しんでいた時、お前は魔法を使って俺を助けた。
だが、あの時、正体がバレるリスクを負ってまでそうする必要はなかったはずだ!
もし、お前に八神はやてとの思い出と、六課の仲間との絆しかないのなら、あそこで殺人者の俺を助ける理由はどこにもないッ!
俺は獣人。人間である八神はやての敵でしかありえないからな!
お前がもし、守護騎士シャマルでしかないというのなら、お前はあそこで俺を殺すべきだった。
主の敵を一人でも減らしておくべきだった。
……だが、お前は俺を助けたッッ!何故だッ!答えろ!シャマルゥッ!!」
「そ、それは……」
根元に屈みこむシャマルの元に、いつの間にかヴィラルが肉薄していた。
獣人特有の牙をむき出しにし、瞳を彼女の魂だけに注いで。
男の咆哮は止まらない。
「教えてやるシャマル!それがお前だ!!
八神はやての騎士でもない、機動六課でもない、お前はお前だッ!癒し手シャマルだ!
それが正真正銘、確かにここにいる『今』のお前だ!
貴様はさっき自分には『昨日』しかないと言ったが、それがそもそもの間違いなんだよッ!!」
だから過去に捕らわれるな!昔の容れ物に縛られるのはもう止めろ!
思い出が全て消えただと!?もうあの日には帰れないだと!?それがどうした!
帰れないのなら先に進めッ!!過去を見ずに『今』を見ろッ!!そして『明日』を掴み取れッ!!」
ヴィラルは瞳を、シャマルの魂だけを見つめて叫ぶ。
鼻と鼻が触れそうな距離で、彼は命を燃やして叫ぶ。
ヴィラルはただ嫌だった。
彼を助けてくれた優しい女性が悲しい顔をするのがただただ嫌だった。
彼女がもう一度生きるためなら何でもできると、心の底からそう思った。
強く強く、何よりも強く想い、そのための言葉を心の海から引きずり出した。
そしてそのことが、彼の体に奇跡を起す。
命の螺旋が彼の中で、いや、彼の外でも回り始めた。
緑の閃光がヴィラルの身体を包み込み、その光は天に向かって立ち昇る。
回る回る緑の螺旋。
螺旋王の改造か、螺旋遺伝子の気まぐれか、それとも、この世界の特殊さゆえか。
理由は誰にも分からない。
しかし、それでも螺旋は回る。
緑の光に包まれたヴィラルを、シャマルは呆然と見つめていた。
シャマルの頭の中で、ヴィラルの放った言葉が回る。
『今』、『明日』、そして『昨日』。
思い出の断片と、緑の光がぶつかり合って、彼女の頭はグルグル回る。
「……分かりません。そんなこといきなり言われても。私には……いきなり……」
シャマルは守護騎士としての生き方しか知らない。
プログラムとして何千年の経験を積んできたが、彼女の知っている生き方はそれしかない。
それをいきなり捕らわれるなと言われたところで、どうしてよいやら分からない。
飛び立ちたい、けれどどうやって飛べばよいかが分からない。
静かに、男は手を差し伸べた。
「……ヴィラルさん?」
「シャマル、俺と来い」
「……えええっ!!!???」
「『明日』が分からないなら、とりあえず、俺の明日がお前の『明日』だ。
どこに行けば、何を目指せばいいのかもし分からないというのなら、まずは俺について来い。
それからゆっくり探せばいい。お前の『明日』はいつもお前の前にあるんだからな」
シャマルは迷う。
ヴィラルと行くということは、一度投げ出した修羅の道にまた戻ること。
これからも人を殺し続け、もしかしたらティアの命をも奪って、それでも未来を目指す道。
ゆえに迷う。
いいのかと。自分にそんなことが許されるのかと。
他人を踏みつけてまで『明日』を目指していいものなのかと。
緑の光の中、ヴィラルはなお彼女の瞳を射抜き、強く言葉を投げかけ続ける。
彼女の迷いを見透かすように。
「戦え!シャマルッ!!
道が分からぬのなら、『明日』を目指してよいか分からないなら、まず戦え!!
戦いに敗れたのならお前の道は所詮そこまでだったということ!諦めるのは負けてからでいい!!
だから戦わずに逃げるような真似はよせ!死ぬなッッ!!シャマルッッ!!」
「ヴィラルさん……」
ヴィラルはもう一度手を伸ばす。
その口元は、穏やかに、優しく笑っていた。
「歯ァ、食いしばれェェェェェェェェェェッッーーーーーーーー!!!!!!!!」
吼えたのはヴィラルだった。
大きく前に一歩を踏みしめ、大地を掴み、その余勢をかって腕を振るう。
それ自身が一つの生き物のように、見事にしなったその腕は円弧を描き――激しく左の頬を打った。
「きゃああっ!!」
強烈な平手打ちがクリーンヒットしたシャマルは吹き飛ばされ、後ろに一回転、木に体を激突させる。
「な……何を」
目を白黒させながら、やっとのことで目線を彼のほうへと向ける。
突然の一撃に理解の方が追いつかない。
「どうして『取り戻す』なんて考える!?何故『掴み取ろう』と考えない!?
お前にあるのは過去だけか!?死んだ主だ、死んだ仲間だ、それが貴様の全てなのかッ!!?」
「ッッッッッ!」
強い言葉が降り注ぐ。しかし、女にも意地がある。
「そうよッ!私にははやてちゃんとの生活が!六課の皆との昨日が全てなのよッ!
それをとったら、私には何にも残らないのよッ!」
「なら、何故お前は俺を助けたッ!!」
「!!?」
「空港で俺が傷に苦しんでいた時、お前は魔法を使って俺を助けた。
だが、あの時、正体がバレるリスクを負ってまでそうする必要はなかったはずだ!
もし、お前に八神はやてとの思い出と、六課の仲間との絆しかないのなら、あそこで殺人者の俺を助ける理由はどこにもないッ!
俺は獣人。人間である八神はやての敵でしかありえないからな!
お前がもし、守護騎士シャマルでしかないというのなら、お前はあそこで俺を殺すべきだった。
主の敵を一人でも減らしておくべきだった。
……だが、お前は俺を助けたッッ!何故だッ!答えろ!シャマルゥッ!!」
「そ、それは……」
根元に屈みこむシャマルの元に、いつの間にかヴィラルが肉薄していた。
獣人特有の牙をむき出しにし、瞳を彼女の魂だけに注いで。
男の咆哮は止まらない。
「教えてやるシャマル!それがお前だ!!
八神はやての騎士でもない、機動六課でもない、お前はお前だッ!癒し手シャマルだ!
それが正真正銘、確かにここにいる『今』のお前だ!
貴様はさっき自分には『昨日』しかないと言ったが、それがそもそもの間違いなんだよッ!!」
だから過去に捕らわれるな!昔の容れ物に縛られるのはもう止めろ!
思い出が全て消えただと!?もうあの日には帰れないだと!?それがどうした!
帰れないのなら先に進めッ!!過去を見ずに『今』を見ろッ!!そして『明日』を掴み取れッ!!」
「私は獣人ではありません。もし仮に私達が運良く生き残れたとしても……」
「安心しろ。お前のことは三日三晩喰らいついてでも螺旋王に認めさせてやる」
「いつかは獣人であるあなたと戦う日が来るかもしれない……それでも……?」
「構わん。そうなったらいつでも正面から相手してやる」
「…………私、もしかしたら螺旋王の命を……」
「復讐もまた道だ。そうなったなら、まず俺を相手にすることになるだろうがな」
「でも……」
「心配するな!!」
「俺を誰だと思っている!!?
都の戦士は……いや、戦士ヴィラルは、一度守ると誓った女は何があっても守り通す。
信じろ……お前の仲間がいくら死のうと、俺だけは最後までお前の傍にいる。
俺達の道が、ぶつからない限りな」
ヴィラルは親指を立てて自分を指し、不敵な笑みを浮かべて宣言する。
その様がどうにもおかしくて、シャマルの顔に、久方ぶりの花が咲いた。
切れた涙が照明の光を反射して、巨木の下に一瞬、小さな虹がかかる。
その虹のゲートをくぐって女は立ち上がり、優しく強く男の手を取った。
(……ごめんなさい、はやてちゃん。ごめんなさい、みんな。
私、多分、あなた達を裏切ります。
私、この人の言うことに賭けてみたいんです。
守護騎士でもない、機動六課でもない。
そんな私が、ただのシャマルがもし本当にいるのなら、その姿をこの目で見てみたいんです。
許してくれとは言いません。むしろ、罰を与えに来てください。
そしたら私は戦います。力の限り、私のできる精一杯で戦います。
そうして戦って、戦って、戦い抜いて……
もし、私が罰に打ち勝つことができたなら、そのときは、私の『明日』は許されるでしょうか、神様)
自らの意志で、自らの道を歩み始めた女の瞳には、男と同じ、螺旋の炎が灯っていた――――
ヴィラルは瞳を、シャマルの魂だけを見つめて叫ぶ。
鼻と鼻が触れそうな距離で、彼は命を燃やして叫ぶ。
ヴィラルはただ嫌だった。
彼を助けてくれた優しい女性が悲しい顔をするのがただただ嫌だった。
彼女がもう一度生きるためなら何でもできると、心の底からそう思った。
強く強く、何よりも強く想い、そのための言葉を心の海から引きずり出した。
そしてそのことが、彼の体に奇跡を起す。
命の螺旋が彼の中で、いや、彼の外でも回り始めた。
緑の閃光がヴィラルの身体を包み込み、その光は天に向かって立ち昇る。
回る回る緑の螺旋。
螺旋王の改造か、螺旋遺伝子の気まぐれか、それとも、この世界の特殊さゆえか。
理由は誰にも分からない。
しかし、それでも螺旋は回る。
緑の光に包まれたヴィラルを、シャマルは呆然と見つめていた。
シャマルの頭の中で、ヴィラルの放った言葉が回る。
『今』、『明日』、そして『昨日』。
思い出の断片と、緑の光がぶつかり合って、彼女の頭はグルグル回る。
「……分かりません。そんなこといきなり言われても。私には……いきなり……」
シャマルは守護騎士としての生き方しか知らない。
プログラムとして何千年の経験を積んできたが、彼女の知っている生き方はそれしかない。
それをいきなり捕らわれるなと言われたところで、どうしてよいやら分からない。
飛び立ちたい、けれどどうやって飛べばよいかが分からない。
静かに、男は手を差し伸べた。
「……ヴィラルさん?」
「シャマル、俺と来い」
「……えええっ!!!???」
「『明日』が分からないなら、とりあえず、俺の明日がお前の『明日』だ。
どこに行けば、何を目指せばいいのかもし分からないというのなら、まずは俺について来い。
それからゆっくり探せばいい。お前の『明日』はいつもお前の前にあるんだからな」
シャマルは迷う。
ヴィラルと行くということは、一度投げ出した修羅の道にまた戻ること。
これからも人を殺し続け、もしかしたらティアの命をも奪って、それでも未来を目指す道。
ゆえに迷う。
いいのかと。自分にそんなことが許されるのかと。
他人を踏みつけてまで『明日』を目指していいものなのかと。
緑の光の中、ヴィラルはなお彼女の瞳を射抜き、強く言葉を投げかけ続ける。
彼女の迷いを見透かすように。
「戦え!シャマルッ!!
道が分からぬのなら、『明日』を目指してよいか分からないなら、まず戦え!!
戦いに敗れたのならお前の道は所詮そこまでだったということ!諦めるのは負けてからでいい!!
だから戦わずに逃げるような真似はよせ!死ぬなッッ!!シャマルッッ!!」
「ヴィラルさん……」
ヴィラルはもう一度手を伸ばす。
その口元は、穏やかに、優しく笑っていた。
「私は獣人ではありません。もし仮に私達が運良く生き残れたとしても……」
「安心しろ。お前のことは三日三晩喰らいついてでも螺旋王に認めさせてやる」
「いつかは獣人であるあなたと戦う日が来るかもしれない……それでも……?」
「構わん。そうなったらいつでも正面から相手してやる」
「…………私、もしかしたら螺旋王の命を……」
「復讐もまた道だ。そうなったなら、まず俺を相手にすることになるだろうがな」
「でも……」
「心配するな!!」
「俺を誰だと思っている!!?
都の戦士は……いや、戦士ヴィラルは、一度守ると誓った女は何があっても守り通す。
信じろ……お前の仲間がいくら死のうと、俺だけは最後までお前の傍にいる。
俺達の道が、ぶつからない限りな」
ヴィラルは親指を立てて自分を指し、不敵な笑みを浮かべて宣言する。
その様がどうにもおかしくて、シャマルの顔に、久方ぶりの花が咲いた。
切れた涙が照明の光を反射して、巨木の下に一瞬、小さな虹がかかる。
その虹のゲートをくぐって女は立ち上がり、優しく強く男の手を取った。
(……ごめんなさい、はやてちゃん。ごめんなさい、みんな。
私、多分、あなた達を裏切ります。
私、この人の言うことに賭けてみたいんです。
守護騎士でもない、機動六課でもない。
そんな私が、ただのシャマルがもし本当にいるのなら、その姿をこの目で見てみたいんです。
許してくれとは言いません。むしろ、罰を与えに来てください。
そしたら私は戦います。力の限り、私のできる精一杯で戦います。
そうして戦って、戦って、戦い抜いて……
もし、私が罰に打ち勝つことができたなら、そのときは、私の『明日』は許されるでしょうか、神様)
自らの意志で、自らの道を歩み始めた女の瞳には、男と同じ、螺旋の炎が灯っていた――――
【D-6/病院中庭/1日目/夜中】
【チーム:Joker&New Joker】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、脇腹・額に傷跡(ほぼ完治・微かな痛み)、左肩に裂傷、螺旋力覚醒
[装備]:大鉈@現実、短剣×2
[道具]:支給品一式、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
S&W M38(弾数1/5)、S&W M38の予備弾数20発、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、短剣×9本、水鉄砲、銀玉鉄砲(銀玉×60発)、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実、鉄の手枷@現実
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0: シャマルと共に進む
1:道がぶつからない限りシャマルを守り抜く。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
2:蛇女(静留)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
3:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
※二アが参加している事に気づきました。
※機動六課メンバーについて正しく認識し直しました。
※なのは世界の魔法について簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
【[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、強い決意、螺旋力覚醒
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×3(地図一枚損失)、ワルサーWA2000用箱型弾倉x3、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
0:ヴィラルと共に進む
1:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
2:優勝した後に螺旋王を殺す?
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。
◆
(で、オレは一体どうしたらイインダ……?)
高峰清麿は気まずかった。
それはもう、何と表現してよいやらさっぱりわからないくらいに気まずかった。
中庭に面した窓の一つから、一部始終を覗いていた清麿にとって、目の前の状況はあまりにも気まず過ぎた。
病院に潜伏していた謎の侵入者がいきなり中庭で首を吊り始めたときは、相当焦ったが
まさか、それが今の今まで延々と続く悪夢のプレリュードだとは、さすがの清麿も見抜けなかった。
男の乱入、痴話喧嘩、告白、仲直りという砂を吐きそうな最強コンボに、清麿の自制心は何度決壊しそうになったか分からない。
(フフフ……お前ら、今はワールド フォー アスな気分でさぞハッピーなんだろうが
その幸せは毎日のオレのカルシウム満点生活に支えられてたことを忘れるなよ?
正直、オレがもう少しストレスに弱い人間だったら、半狂乱で中庭に特攻して短機関銃を撃ちまくってるところだぜ……)
ヴィラルとシャマルにとって幸運なことに高峰清麿は空気の読める男だった。
(とはいえどうしたもんか……
話を聞いてる限り、あの二人はどうやら殺し合いに乗った人間らしい。
そうと分かれば、こんなところからは一刻も早く脱出したいが……)
清麿は肩越しに振り向き、ロビーのソファに目を遣る。
柔らかいソファーの上で静かないびきを立てている眠り姫は、どうやらまだ全然、起きる気がないらしい。
(あの子を抱えて気づかれないように逃げる……できるか?)
彼の首筋を一筋の汗が撫でる。
正直言って、かなり危険な橋になることは間違いない。
だが、うまくやり過ごせれば、収穫は大きい。
シャマルという女が話した時空管理局の話、螺旋王の直接の手下であるヴィラルの存在、そしてあの緑に渦巻く光。
情報としてはどれも価値のあるものばかり。
持って帰ることができれば脱出に向けて、有益な糧になるに違いない。
ここは何としてでも切り抜けねばならない。
(くそっ、こんなときにラッドがいてくれれば……タイミングが悪過ぎだ!!)
清麿は一人心の中で悪態をつくと、肝心な時に空気が読めない神様を少しだけ呪った。
【D-6/総合病院エントランス/1日目/夜中】
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、疲労(中)、精神疲労(中)、苦悩
[装備]:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)
[道具]:支給品一式(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
首輪(エド)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、清麿のネームシール、
各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
[思考]
基本方針:螺旋王を打倒して、ゲームから脱出する
0:何とか目の前の二人をやり過ごし、ゆたかを背負って映画館に向かう
1:ゆたかが目覚めたら、シンヤのことについてきちんと話をする
2:脱出方法の研究をする(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
3:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない(有用な情報が得られそうな場合は例外)
4:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
5:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:気絶、疲労(中)、心労(大)
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる
0: ……Dボゥイさん……、……シンヤさん……。
1:Dボゥイと合流する
2:シンヤとの約束を守り、彼が自分から参加者を襲わないように気をつける
3:当面はシンヤと行動する
[備考]
※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました
※今のところシンヤとの約束を破るつもりはありません(シンヤの事を他の参加者に必要以上は言わない、テッククリスタルを持つ参加者に譲ってくれるように交渉する)
※螺旋力覚醒
『…ミナ、起きてください…カミナ!』
「む、ぐ…んんぅ」
カミナの意識を呼び覚ましたのは、電子音声による必死の呼びかけ。
なんともいえない嫌な気分と疼痛とに表情を歪まされながら起きあがり、思い出す。
どうして自分が気絶していたのか。誰にそうさせられたのか。
「ちっ、くそぉ…てめぇ、ドモン!」
『目が覚めましたか。ではお静かに願います』
「やいクロミラ、ドモンのヤロォどこに行きやがった」
『私はお静かに願うと言ったのです、カミナ』
立つなり殺気立ち、ぶっ飛ばすべきアンチクショウの姿を求めるカミナは
クロスミラージュをきりきりとつかみ上げるが、返ってきたのは負けじの剣幕。
声を荒げているわけではないが、問答無用の命令形を頭から浴びせてきたことは、
人ならぬインテリジェント・デバイスにしてみれば剣幕と表現する以外にないだろう。
「ン、だとォ?」
『私が何のために貴方を起こしたのか、わからないのですか?
モノレールが来る時間であり、同時に放送の時間でもあるのですよ』
「それがど…」
『Mr,ドモンはこのモノレールに乗った先の駅で待っていると言いました。
この返答では不足でしょうか?』
言うこと言うこと、完璧に先手を取られる形となったカミナは気が抜けて黙り込むしかなかった。
そして、こんな場合に言うべき言葉も、ほぼ無意識に心得ている。
「あ…いや、不足じゃねぇよ。 …すまねぇ」
『まもなく放送です。そこに座ってください』
言われるがままに座った。
それから少しの沈黙。のち、放送…
************************************
『まずいことになりました』
螺旋王の部下とおぼしき耳障りな声を聞き届け、
到着していたモノレールに乗り込んで後、
最初に口を開いたのはクロスミラージュの方からであった。
『螺旋王の流す放送が事実であるという前提に立てばの話ですが』
「もったいつけんな。言えよ」
カミナは近場の壁を蹴りながらも、表面上は冷静を保つ。
そんな前提は聞く耳持たないところだが、
男を賭けた誓いの手前、うるせえ、と一蹴するわけにもいかない。
が、それも、続く言葉の前では大して長く続かなかった。
『マスターの古くからの友人…貴方風に言えば、相棒にあたる人間が死にました』
「…ん、だと?」
『スバル・ナカジマです。陸士訓練校の頃からマスターとはコンビでした』
気がついたらカミナは、座席を思い切り蹴り飛ばしていた。
蹴った自分の足の方が痛いことも気にならなかった。
相棒が死んだという。
カミナ自身にとって、その言葉が意味する人物はたった一人、シモンのみ。
そのシモンは、とっくの昔に放送で名前を呼ばれて…そのような与太話を信じてたまるか!
声にならない、溜息にも似た唸りを漏らしつつ、カミナは蹴った。
蹴って座席を滅茶苦茶に叩き壊す。
『カミナ、やめてください、カミナ、気を静めてください』
クロスミラージュの声が届いた頃には、ひとつの座席が蹴りで穴だらけと化していた。
八つ当たりで暴れるなど、男らしさのカケラもない。
だが、でなければこの怒り、どこに持っていけというのだろうか。
「くそっ、たれが」
『カミナ、この話は続けると、さらに貴方の神経を逆撫ですることになりますが』
「さっさと続けな。この俺様がムカッ腹を必死でこらえてる間によ。
今しか聞かねぇ、早くしな」
『申し訳ありません』
「謝ってんじゃねえ、テメェはなんにも悪くねぇーだろが!
いらねぇことにウジウジ気ィ回してねぇで、ほら、話せよ」
壊した座席の隣にどっかと腰を下ろし足を組む。
男の約束とは、決して違えられることのないものだ。
カミナは、聞いた。
クロミラのマスター、ティアナから見て親分である八神はやてまでもが死んだこと。
あと、生き残っているのは医者であるシャマルだけ。
シャマルが殺し合いに乗っている可能性があることをティアナが知らないにしても、
誰がどう見ても『キドウロッカ』一味は壊滅だった。
下手をするともう、ティアナに残されたものは何ひとつないのではないか。
ただでさえ、キャロの死で精神的にやられていたところにこの仕打ちである。
絶望して全てを投げ出し、壊れてしまったとしても、誰にも攻められはしない…
「クロミラよぉ…」
『カミナ?』
カミナはおもむろに立ち上がり、
手にしたクロスミラージュを握り締める。
呼びかけてくる声を無視して車内の中ほどに立ち。
「歯ぁ、食いしばれぇ!」
『な…』
驚くほどあっさりと、カミナは約束を違えた。
腕を振りかぶり、手中のものを下に向かって叩きつける。
メンコとなったクロスミラージュは、ぺちんといい音を立てた。
『何をするのですか、カミナ』
「うるせぇ」
拾い上げたクロスミラージュをぎしぎしと握り、
真正面からにらみすえる。
カミナの胸に燃え盛るのは、どうしようもない怒り。
外側に向かいたくて仕方ないのに、内に封じられるしかない溶鉱炉の灼熱。
ふとしたきっかけを見つけたそれは、あふれて外に噴出したのだ。
「テメェ、相棒を信じてねぇのかよ。
命預けた相棒を、まるで信じてねぇってのかよ」
『そのようなことは言っていません。客観的事実を述べたまでです。
マスターは依然、心身共に危険な状態にあると』
「キャッ、カン、テキ、事実…そうかよ。
そいつを信じるお前からしてみりゃ、俺の相棒もよぉ…シモンもよぉ、死んでるって言いてぇのかもなぁ…だがよぉ!」
クロスミラージュを今度は壁に投げつけ、カミナは吼える。
「あいつは俺の相棒で、俺はあいつの相棒で、相棒同士に全部を賭けてグレン団の旗を立ち上げた!
どこのどいつがなんと言おうが、あいつを信じることだけはッ…あいつの背中を信じることだけはッ…
ぜッ…てェに、やめてやらねぇんだよぉぉぉ―――――ッ!!」
そして殴った。
壁の広告枠にはまっていたクロスミラージュに、拳骨がめり込み音を立てた。
背後の壁面がへこみ、外装の一部が破れる。
時間が止まったように一瞬釘付けとなったクロスミラージュが、はらりと地面に横たわったところに、
カミナはなんとか声を落ち着けて、問う。
「クロミラよ。
お前の言うキャッカンテキ事実とかいうのはよ、
テメェの相棒を見限っちまってまで信じるようなモンなのか?
俺にゃ、さっぱりわかんねぇんだけどよ…」
『……私がマスターを見限ることなど、ありえません』
「言うじゃねえか」
『私もまた知っているのです。マスターのもろい弱さも、ひたむきな強さも。
だから、共に戦うために手の携え方だけを考えるのです』
…なんだ。そういうことかよ。
瞬間、湯に落とした氷が溶けていくようにみるみる理解できてしまった。
この平たいヤツは、こいつなりのやり方で相棒を信じているじゃないか。
信じているから、悪い予想もできるんじゃないか。
そこで一緒に戦うことを考えていられるんじゃないか。
答えを聞けたカミナは、殴ったことがふいにバカらしくなった。
とんだ大マヌケもいいところである。
俺が殴りたかったのは、こいつじゃない。
むしろ、俺の中で言いたいことも言えずにくすぶっている何かだ。(シモンの死を受け入れることで解消される)
あのムカつくドモンが殴ろうとしたのも、今思えばそれだったのだろう。
「すまねえ、お前を殴るのはスジ違いってやつだったな」
『謝罪を受け入れます』
「に、してもよぉ…薄っぺらなクセに硬ぇじゃねぇーか、お前。
殴った手の方が痛くなるなんざ、こいつぁビックリだ」
『私はマスターの相棒であり武器です。柔(やわ)ではありません』
「へっ、口の減らねぇ板ッキレだな。
いいこと思いついた。お前、『鉄のクロミラ』に改名しろ」
『…よくわかりませんが、全力全開でごめんこうむります』
************************************
話している間、いつの間にか発車していたモノレールがF−5駅に到達したのもまた、いつの間にかであった。
一連のやりとりの後、一人と一枚は互いの相棒について話し込んでおり、それは駅に降りた後も続行された。
ドモンが自分で先に行って待っていると言った以上、何があってもここには戻ってくるはずだと踏んでのことである。
せっかちなカミナは行動したがったが、これといって当てがあるわけでもなし。
クロスミラージュを説得するだけの材料は持ちえず、駅員詰め所で結局は時間を潰すこととなった。
シモンのことを何も知らないクロスミラージュに当たり散らしてしまった引け目もまた理由のひとつ。
とはいえ、それにしても限度というものはある。
「遅ぇ…遅いにもほどがあんぞ」
『先ほども言いましたが、彼の反応は付近に認められません』
しびれをきらしたカミナは詰め所を発ち、付近をうろつき始める。
手中のクロスミラージュも、もう咎めはしない。
「テメェで言ったことをテメェで守らねぇヤツぁ男じゃねえ」
『Mr,ドモンはそのようなタイプの人間ではないでしょう』
「…だよなぁ」
『どこかで何かが起こって、それに巻き込まれた可能性があります』
もう、それしか考えられなかった。
あれほどの強さを持ってしても戻って来られない、
もしくは戻って来ないのだから、並々ならぬ事態だろう。
カミナとしては、やられっぱなしのまま黙っている趣味はないから、
このままドモンにいなくなられてはたまらない。
『助けの手が必要かもしれませんね』
「誰が助けになんか行くかよ。
俺はあいつによ、いつまでも待たせてんじゃねぇぞパンチをお見舞いしに行くんだよ」
『では急ぎましょう。高い所から見回せば何かわかるかもしれません』
そのアドバイスに従って駅ビルに入り、エレベーターと非常階段を使用。
最上階からフェンス越しに周囲を見回したカミナはすぐに異変を察知する。
「なんだありゃあ?」
『大規模な火災ですね』
川向こうの街の一角で、不自然な光の集合が目に映った。
街の夜景はカミナにとっても絶景であったが、
高層建築物の合間に見える黄色い光は、逆に見慣れた性質のものであり、
ゆえに、周囲の風景から明らかに浮いていると見てとれた。
そしてそれを何というか、クロスミラージュもよく知っていたというわけだ。
『ですが、逆方向も気になります』
「おうおう、あんなのを前に何を気にするって…んだ、こりゃあ」
言われるがままに反対側を向いたカミナは、やはり不自然を見た。
街の夜景を彩る多数の光が、一カ所だけ…それもかなりの範囲で、ごっそりと抜け落ちているのだ。
さらに、高い建物に上ったからこそわかったことだが、その周辺部だけ、高い建物がまったくない。
それもやはり、周囲から見るに、明らかに浮いた景色であった。
『ほぼ間違いなく、あの中心部で何かが爆発した跡です』
「あんな範囲を…ぶっ飛ばすだと? ガンメンでもなきゃ無理だぞ」
そこまで言って、カミナはひとつの可能性に行き当たる。
まさか、だったが、もとからありえないとは考えていなかった。
あんな破壊ができるケタ外れの武器といったら、
ヴィラルのガンメンが最初の戦いで使った、光を飛ばしてくるアレか、
そうでなければ、これから乗っ取る予定であった、大砲つきの巨大ガンメンか。
だがカミナは知っている。そんなガンメンどもですら目ではない、大グレン団の最終兵器を。
それはすなわち、自分と相棒、ふたつでひとつに合体し無敵となる…
「グレン、ラガン…まさか、あそこに」
『知っているのですか、カミナ』
「ああ、だがよ」
カミナは身をひるがえし、来た道を戻り始める。
どこに向かうかは、すでに決まった。
『カミナ、どこへ』
「たった今、火事が起こってるのはあっちだ。
だったらよ、ドモンの野郎もそっちにいるとは思わねぇか?」
『その可能性は高いでしょう』
「文句はねぇな、んじゃ行くぜ!」
夜はまだ、始まったばかり。
たった今に下されたカミナの決断は、再び彼に朝日を見せるのか。
そんなことは、もちろんカミナの気にするところではなかった。
【F-5/F-5駅・駅ビル/一日目/夜】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(中)、体力消耗(中)、
全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、服は生渇き
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!(?)、
クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。
1:なんだか知らねぇが、火事場に突っ込む!
2:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
3:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームをガンメンに似た何かだと認識しています。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。
削除
依頼
出してき
た
ん
さんざんにわめき散らしたあたしは、気付いたら高速道路にうずくまっていた。
どれくらいの時間がたったのか分からない。泣いていたような気もする。
ずっとそうしていようかと思ったけど、腕に巻き付けられた黒いリボンが夜なのに妙にはっきり目に入ってきて、あたしはびくんと体を震わせると立ち上がった。
行くあてなんてない。
情報を集めろって言われてもどうすればいいのか分からなかった。
あたしはのろのろと高速道路を歩き出す。
無意識の内に、足は南へ向いていた。
アレンビーの気持ち悪いくらい溌剌とした表情が頭に浮かんだけど、それがどれくらい関係があるかは知らない。
助けを求める、なんて発想はなくなっていた。
いや、実際面と向かって救助を頼めばアレンビーは恐らく力になってくれるだろう。
他人を信用することなんてないあたしだけど、世の中には馬鹿みたいなお人好しがいることくらいは知っている。
でも、多分駄目だろうなとあたしは思った。
何故なら、今あたしがいる高速道路はジュリアをなくしてから腐ったように這いずり回っていた夜の街と、とても良く似た匂いがしたから。
そのことに気付いたとき、あたしは少しだけ気持ちが軽くなるのを感じた。
月明かりがどれだけ道を照らしても、泥みたいな暗闇は全然晴れてくれない。
それがむしろ心地好い。
どれだけ辛い環境だって、それが慣れ親しんだものであるならそれだけで心は落ち着いた。
灰でできているような空気を体に溜め込む。
中から汚れて行く感触に、あたしは手に力が戻るのを感じた。
しばらく歩くと邪魔をするみたいにでかい物体が道を塞いでいた。
あたしを遮るように道が塞がれているのを見て、どうせそんなとこだろうなと思った。
何かをしようとしたときに邪魔が入るのは、それは当然ではなく前提だ。
どうしようもないくらいに、世間は都合の悪いようにできている。
横の壁に大穴が空いていた。覗いてみると、光に照らされた大きな船が見える。
アレンビーの言っていた豪華客船だ。移動していたらしい。
あたしはエレメントを出すと、糸を高速道路に結び付けゆっくりと船に降り立っ
た。
別に、危険なんか感じなかった。
上から見ただけでもそこに生きてる人間の気配なんて全然しなかったんだから。
甲板は火事でもあったのか一部分が激しく焼け焦げていた。構造がしっかりしていたのか、そんなに酷くは燃えなかったみたいだけど。
最初に見つけたのが首のない女の死体。ダンスでも踊ってるみたいに、楽しそうに両手を広げている。
おかしな格好。それ以上のことは思わなかった。
あたしは炭みたいになった肉の残骸をひょいとまたいだ。青い髪が見えたような気がするが、確認する気はない。
ここは繁華街の裏に伸びる路地みたいなものだ。
ドブ酒に酔って吐いていようが麻薬漬けになって寝ていようが誰も気にしない。
死体なんて薄汚れたごみ箱みたいにあり触れたものだ。
そしてあたしはもう一つ死体を見つけた。
血溜まりに顔を浸して倒れている男の死体だ。
しばらく見ていると死体はあたしに気付いたのか、ぎこちない動きでぐりんと顔を向けてきた。
「ようこそ、希望の船へ。私、案内役を勤めさせて頂く、高遠遙一と申します」
死体は血でベトベトに汚れた口でそんなことを言った。
「希望なんてどこにもないじゃん」
あたしは見たままの事を返した。特に考えて言った訳じゃない。
死体は、死体の分際で愉快そうに笑ったようだ。
「ええ、希望なんてありはしません。ここにはもうね。それは、あなたも同じことのようだ」
生意気な口をきく。踏み潰してやろうかと思う
「綺麗なリボンをしていらっしゃいますね。黒い色が月夜によく映える。何より実に不吉そうだ」
どこまで分かってて言ってるんだこいつは。うざい。
「ポロロッカというものをご存知ですか?」
知らない。何だこいつ。気持ち悪い。
あたしはもう会話を続ける気はなくなっていた。だから言ってやった。
「関係ないわよ。だって、あんたもう死んでんじゃん」
あたしに言われて死体はようやくそれを思い出したのか、それきり喋らなくなった。
あたしはため息を一つつくと、来たときと同じようにしてその船を後にした。
【高遠遙一@金田一少年の事件簿 死亡】
【E-3高速道路上/1日目-夜中】
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:精神的疲労(小)、かがみにトラウマ
[装備]:右手にかがみのリボン
[道具]:ディパック、支給品一式(ただし食料は無い)、黄金の鎧@Fate/stay nightのかけら
[思考]
基本思考:とりあえず、ぶらつく
1:かがみ達の命令にどこまで従うか決めかねている。
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
※博物館に隠されているものが『使い方次第で強者を倒せるもの』と推測しました。
※第2回放送を聞き逃しました。
※ギルガメッシュは殺されたものと思っています。
※柊かがみの『呪い』について
ま っ た く の 大 嘘 で す。
リボンを外したり、約束を守らなくても奈緒の体にはまったく変化はありません。
奈緒は真偽を疑っているものの、嘘という確信も得られないので外せずにいます。
◇
????
チェスワフ・メイエルは目の前に転がるミリアの首に一瞬呆然としたものの、すぐに冷静さを取り戻した。
ミリアは不死者である。不死者は全身を強酸に溶かされようが肉を一片毎に切り分けられようが、悪魔の定めたルールに則らない限り何度でも再生する。
フェルメートにされたことを思い出す。生きたまま暖炉の中に放り込まれた。焼けた火箸を目と耳に突き刺された。それこそ体をぐちゃぐちゃにされたこともあった気がする。そして、そのことごとくからチェスは再生を果たした。
だから、首と胴体が泣き別れになったくらいで、ミリアが死ぬ、なんてことは、ない。
「く、クロスファイヤッ……きゃっ!」
「ぼさっと突っ立ってるんじゃねぇ!」
「ティアナ君!う……くっ」
チェスの横を黒い影が通り過ぎたと思ったら次の瞬間生温い液体が降りかかった。
ミリアの首からとくとく流れ出ているものと同じ、血だ。
(血?血が流れる?血は逆流するものだろう?)
「止めるのだお主!戦ってはならぬ!」
「ガッシュ!前に出るんじゃねぇ!」
「ウヌゥッ!?」
「させるかああああああ!」
地震のような衝撃が甲板を揺らした。うるさい。
ああ、そうか。自分が後生大事に抱え込んだりしているものだから首が帰ろうにも帰れないのだ。
切り分けられた体が元に戻ろうとする力自体はそんなに強いものじゃない。
手を切ったならその手を押さえつければそれだけで動けなくなるし、くり抜いた目をケースか何かに入れればそのまま保存することだってできる。
どうやら自分は冷静になったつもりでまだ相当慌てていたらしい。
苦笑のようなものを浮かべながらミリアの首を甲版の上に置く。何も起こらない。おかしいな。
「アレンビーか!すまん、助かった」
「みんな無事!?こいつの相手はあたしが……って、逃がさないわよ!」
おかしい。おかしいな。何で生き返らないの。お姉ちゃん不死者だったんでしょう。
さっき高遠が言ってたよね。ナイフで刺したって。でもお姉ちゃんが生き返ったから、高遠の企みに気付くことができたんじゃないか。
犠牲者を出さずに済んだのはガッシュのお陰だけど、でもやっぱり一番はお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんがあんな、この世に悪いことは一つもないって言うみたいな綺麗な顔で笑っていたから。
だからボク達は色んな恨みで妬み合わずに済んだんだよ。
ねぇ。
だからさ。
お願いだから、もっと皆の前で笑ってよ。
さっき一瞬見えたミリアの顔は確かに笑っていた。そう思い、チェスは首だけのミリアの顔を覗き込んだ。
血があらかた流れ終えたミリアの顔は気持ちの悪い色に変色していた。白眼を剥き、だらしなく舌をたらしたその表情は到底見るに耐えるものではなかった。
「う……うああああああああ!」
数百年ぶりとなる心の底からの絶望の叫びを上げ、チェスは船内に逃げ込んだ男を追って走り出した。
静止を告げる仲間の声は、憎悪で満たされたチェスの頭には届かなかった。
◇
アレンビーは船内に逃げ込んだビシャスに追い付くとパニッシャーを振り上げすぐさま戦闘体制に入った。
「逃がさないわよ!これ以上アンタの好きにはやらせないから!」
返事はなく、期待さえしていなかったが、男はただ冷静に右に左にパニッシャーをかわし続ける。
無駄のない動きだが捉えきれない程ではなく、身体能力に関してはこちらが上だと確信できる。
だが、大振りの隙ができたときに一瞬の踏み込みとともに放たれる一閃がたまらなく鋭く、無意識に警戒して思いきった攻撃に移れない。
十字架がうなりを上げ白銀が走る。一進一退の攻防が続く船内の通路はかなりの広さがあったが、パニッシャーを振り回すには十分ではない。一撃毎に窓や壁など船内のそここに傷を作っていた。
(こいつの動き、前よりもよっぽど鋭くなってる。接近戦が本領ってわけね、なら)
後ろ飛びにかわされたパニッシャーが木製の扉に派手に突き刺さったのを決起に、アレンビーは手を放し素手での戦闘に切り替えた。一撃の重さと引き換えにスピードと手数を増したアレンビーの拳打が放たれる。
右のフェイントを見抜かれ足先の牽制を軽くいなされながらも、左腕で放ったストレートの一撃がビシャスの肩口を深々と捉えた。
「ぐぬぅ…!」
「はは。奈緒とギルガメッシュには悪いけど、あたしはやっぱりこっちが性に合うな。効いた、って顔してるじゃない?」
苦悶の表情を浮かべるビシャスにファイテイングポーズを取りながら不敵に笑いかける。
相当の経験を積んでいると分かるビシャスの冷静な体捌きは決して油断できないが、それでも接近戦の技量は自分が上だと、油断ではなく確かな手応えをもってアレンビーは感じていた。
「さっき甲板にあったミリアの体……あれはアンタがやったんだよね」
表情を引き締め、唇を噛み締めながら言う。
対するビシャスはアレンビーの言葉に一切聞く価値を感じていないのか、何も言わず距離を取って隙をうかがっている。
「もう少し速ければ何て言わない……。今はただ、絶対にアンタをぶっとばす!」
「……」
何人もの仲間の命を奪った黒衣の男への怒りを込めて、アレンビーは真っ直ぐに拳を付きつけた。その表情には絶対の決意が溢れ出ている。
ビシャスはそれにも答えず、迷いのない動作でくるりと背を向けると無言のまま通路の奥へと走り出した。
「待てってんでしょ!」
対戦相手の宣言を完全に無視すると言う、正規のファイターであればはあり得ない行動に更に怒りを燃やしながら、アレンビーは微塵の躊躇もなく駆ける黒衣の背中を追い走った。
ビシャスの姿が通路の先に消え、アレンビーがそれに続いたところで二人の姿は通路からは全く確認できなくなった。
後には、数分前とは打って変わって静まり返った通路と本来の用途から離れ放置されたままのパニッシャーだけが残された。
そのまま、しばらくの間静かに時が過ぎる。
熱中していれば一瞬、しかし何もせずにいるには長すぎるくらいの時間が経つ間、何者かの立てる乱暴な足音が響いてきた他は、通路は全くの静寂に包まれていた。
結局足音の主が姿を現すこともないままもうしばらく時が過ぎ、次にその場に現れたのは一人の男だった。
照明の明かりを受け付けないかのように沈み込む黒衣に、清廉さというよりは何十人もの人間の血を吸った刃物のような危うさを感じさせる銀髪。
ビシャスが再び戦闘跡の残る通路に姿を現していた。
息一つ乱さずレーダーを取りだしたビシャスはアレンビーを完全に撒いたことを確認すると、扉に突き立てれるようにもたれていたパニッシャーに目を止め無音で歩み寄った。
予想を遥かに越える重量にほんの僅か顔をしかめ、試みにそれを包んでいたバックルの一つを外す。
すると連鎖的に他のバックルも次々と戒めを解き、予想していた面倒な手間を省いてパニッシャーが解き放たれた。
目の前に姿を現したそれを僅かな時間で検分するとビシャスは表情は変えず、ただ一つの確信を持って心中の牙を歪ませた。
これは、銃器だ。
◇
「さて、どうする?ありゃ相当頭に血が昇ってるぞ……無理もねぇが。
ティアナ、怪我は大丈夫か?」
「え、ええ…少し手を切ったくらい。ジェットさんのお陰で…。
あの、高遠さん怪我はないですか?」
「ええ、ありがとう。
チェス君があの様子では仕方がない。ひとまず追い掛けて合流しましょう。
本来ならあの男の相手は戦闘に秀でた様子のアレンビー君に任せ、怪我人の集団に過ぎない我々は援護に徹するなり一所にじっとしているなりするべきなのですが……」
半ば半狂乱になって黒衣の男の後を追いかけていったチェスの静止に失敗した後の甲板で、高遠はティアナの傷を診ながらジェットに向けて息を吐いた。
アレンビーの到着が速かったため、で新たな犠牲者が生まれることはなかった。ガッシュのデイパックが奪われた程度だ。
ミリアが犠牲になった以上決して速かったとは言えないのだが。それに、依然として危機は船内に潜伏している。
「俺達も船の中に入るってのか?アレンビーを信用しない訳じゃないが、そりゃあまり良い考えとは思えんな。襲ってきた奴は、マジに最悪な部類の人間だ」
「心得ています。だからこそ脱出のために幾重も頭を捻らなくてはならない。
それに、これ以上我々がばらばらになるのは避けたい。私には、彼を説得する自信はちょっとありませんので」
多少ふらつくのか毛髪の薄い頭を押さえながら訝しげな視線を向けてくるジェットに高遠は前方を指差す。
高遠が示す先には小さな背中を震わせながら立っているガッシュの姿があった。
ガッシュは泣いていた。ミリアの死体を前に大粒の涙をぼろぼろと溢れさせている。
いつまでもそうしているのではないかと高遠達には思われた。だが、やがて振り切るかのように乱暴に涙拭うと決然とした様子で向き直った。
赤く泣きはらして真っ赤になった目には、決然とした意思が生まれている。
「高遠!ティアナ!ジェット!私は行くぞ!奴にこれ以上人は殺させぬ!そんなことは私が絶対に許さぬ!」
「ほら、ね」
「……下手に手を出して頭突きを食らうのはごめんだな」
心配そうに肩を貸すティアナに支えられながら、高遠はジェットと苦笑を交わした。
痛む腹を押さえ、ゆっくりと今にも飛び出しかねないガッシュの目の前へと進む。
高遠は穏やかな口調で、告げた。
「では、行きましょうか」
「ウヌ、ミリアの仇討ちを手伝ってくれるのか!」
仇討ち、か。怒りに満ちた瞳で見上げてくるガッシュを見ながら高遠は思う。
地獄の傀儡師として何人もの人間を捨て駒にしてきた高遠にすれば、今更そのような感情を抱くいわれはないだろう。
まして、ミリアはほんの少し前に高遠自らが被害者に仕立てようとした人間だ。
むしろ討たれるべき仇は高遠であるとさえ言える。言えるのだが。
なるほど、あの天真爛漫な笑顔がもうなくなってしまったことを惜しむ気持ちは確かに高遠の中にもあった。
そしてその感情が非常に強いものであるのを高遠は認める。柄ではないが、それを認めるのは決して嫌な気分ではなかった。
だから、高遠はガッシュに笑いかけた。いつものように、奇術師然としたにんまりとした笑みで。
「ええ、そうです。ですが命を奪うことばかりが敵討ちではない。
それに私はミリア君の死もそうですが、私の舞台を完膚なきまでに破壊してくれたことにもそれなりに怒りを覚えていましてね?
だから私は彼に見せてやろうと思います」
高遠はそこで言葉を切ると、くるりと向き直った。そして、それこそ奇術の前説のように流麗に腰を折り続ける。
「この『奇術師』高遠遙一の、世紀の脱出マジックをね」
「ジェット刑事、大分お加減が悪そうだ。デイパックをお持ちしましょう」
「う……すまん。くそ、二日酔いの方がまだましだ」
「ごめんなさい、私のせいで……」
「今更言っても始まらん。いいからお前さんは前だけ見ていろ」
不気味なくらいに物音のしない船内を、4人は隊列を組んで慎重に進んでいた。
先頭はティアナである。間にジェットとガッシュを挟み、しんがりは高遠が受け持っている。
戦闘というよりは索敵能力に重点をおいた結果の布陣である。
「だが、ティアナ。本当に銃はいらんのか?情けないが、今の俺が持つよりいくらかましだろう」
「ええ…ごめんなさい。正直、まだちょっと抵抗があるの」
「ウヌゥ…高遠、私達はどこへ向かっているのだ?」
「先ほども言いましたが、ブリッジです。この船を動かします」
「おお、鍵が見つかったのだな!」
「いえ、最初から私が持っていました。探して欲しいと頼んだのは嘘です」
「酷いのだ高遠!」
ガーンという表現そのままに目を丸くしてショックを受けるガッシュに高遠は思わず噴出してしまう。そこまで衝撃的なことだっただろうか。
「申し訳ない。ですがこれで私の嘘も打ち止めですよ」
「そうして貰いたいもんだ。道すがら話すと言ったな。こいつを動かしてどうするつもりだ?」
「ええ、そもそも、移動さえままならない私達が完全な脱出を果たすには……」
「チェ、チェス君!?」
顔を向き合わせて話していたジェットと高遠の会話が、先頭を歩くティアナの声にかき消された。
その声に二人も何事かと前方に視線を戻す。ついでに見上げる形で話を聞いていたガッシュも顔を向け、三人はようやくそれに気付いた。
この距離になるまで気付かなかったのは通路の構造上そこが死角になっていたからだ。
そこには確かに、先ほど激情に任せて船内に飛びこんでいったチェスの姿があった。
但し、軍用ナイフで腹を貫かれそのまま壁に突きたてられるという無残な姿でではあるが。
ぐったりと顔を伏せ、腹からだらだらと血を流す様はどう見ても死体のそれだ。だが。
「……くっ」
死んでいるはずの体が、ティアナやガッシュが近づくよりも早くぴくりと動いた。そのまま自分の腹に刺さっていたナイフをずるりと抜き取る。
支えを失った小さな体が通路の床に落ちどすんと音を立てた。
「チェ、チェス君……あなた、一体?」
「僕は死なないんだよ、ティアナお姉ちゃん……。時間もないしそれで納得してもらえるかな?ジェットおじさんと、ガッシュもね」
死なないはずなんだ、と戸惑う様子のティアナ達にチェスが言った。顔を暗くして呟くチェスに、高遠以外の三人はそれ以上何も言えなくなる。
腹の傷はほぼ塞がっておりナイフには一滴の血も残っていない。良く見れば壁に突きたてられていた時点でも血は流れ出る端から戻っていた。
あれでは臭いも広がるまい、と高遠は思った。
「頭は冷えましたか?
不死者と言えどこの場では絶対ではないことは悲しいことですが既に証明されてしまいました。以後は慎重な行動をお願いしたい」
「……頭に血が昇っていたことは認めよう。だが貴様はどうなんだ?怪我人をぞろぞろ引き連れて歩くなど、私のことを言えた義理ではあるまい」
高遠の言い草が心底気に入らないというように、チェスが視線を鋭くする。
「あなたが軽率な行動を取らなければ、待ちの戦法を取ることもできたのですがね」
「……言ってくれるじゃないか、若造が」
「どちらが」
「け、喧嘩をしている場合ではないのだ!」
チェスの変貌ぶりにおろおろとしていたガッシュがそこでようやく二人の間に割って入った。
う〜、という唸り声と共に睨まれ、ついでにもう二対の瞳からも呆れたような視線を投げかけられる。
数秒の沈黙の後、チェスと高遠は同時に折れた。
「申し訳ない。私としたことが少々気が立っていたようです」
「ごめんよ、ガッシュ」
同じく同時にため息をついた二人を見てガッシュはうむ、と妙にやりとげた感のある表情で言った。
「それで、実際のところ何しにきたのさ?まさか何も考えがない訳じゃないんでしょう?」
混乱を避けるためにひとまず「素」は隠すことにしたのか、見た目どおりの愛らしい口調で高遠を見上げて聞いてくる。
ころころとした笑顔にむずがゆさのようなものを感じながら、高遠が返した。
「ええ、我々全員が無事脱出を果たすためにこの船を起動させようと思っていました」
「船を?分かんないな、もっと詳しく聞かせてよ」
「そのつもりでしたが……チェス君とこうして合流できた以上、アレンビー君が吉報を持ち帰るのも待つのも手だと思えてきましたね。
彼女がどうなったかはご存知でないですか?」
高遠の問いに、チェスは不安げに顔を伏せる。
「知らないよ……。僕は船に入ってすぐに、何も分からないままやられちゃったから」
「ふむ……。ではやはり次善の策を講じておきましょうか。
ここまでくれば帰り道も危険は……」
「高遠!後ろだっ!」
突如形相を変えてチェスが叫んだ。高遠と、話を静観していた他の三人がつられたようにばっとそちらに向き直る。
そして、次々に驚愕の表情を浮かべた。
四人の視線の先、通路の端には先ほどの黒衣の男がいた。氷でできているかのような冷徹な視線でこちらを見据えてくる。だが、男はどういう訳か立てひざの姿勢で、距離もかなり開いていた。
即座の危険はない、ように思えた。
ただ問題は、男が抱えるようにして床に置いているデイパックから突き出された砲塔らしきものが、真っ直ぐ高遠達を狙っていることだった。
「くそったれが!」
ジェットが手近の扉に飛びつこうとするよりも速く、砲塔からどしゅうという重い音を立てて弾丸が発射される。
煙を上げて飛んでくるロケットランチャーの弾丸を見ながら、高遠はブービートラップという言葉を思い出していた。
戦場でわざと人形などを置いておき、それに気を取られ近づいた兵士を巻き込んで爆発するという兵器の一種だ。
まさか不死者をそれに使うとは、彼は私よりも余程「未知」の扱いに長けているらしい。
なす術も無く床に倒れこんだ高遠は、意識を失う一瞬前にそんなことを思った。
◇
ティアナはうっという小さなうめき声と共に目を覚ました。
視界は白一色に塗りつぶされている。
爆煙か、それともついに死んでしまったのだろうかと思いながら体を起こし、付着した白粉からそれが爆風に煽られてまき散らされた消火器の中身によるものだと気付いた。
「一体、何が……」
頭を押さえながら呟く。呟いた言葉自体に意味などなく、状況を把握するための反射のようなものだ。
そして、一瞬後に記憶が繋がり自分達が置かれている状況をはっきりと思い出した。
「高遠さん!」
覚醒して最初に発見したのが、気絶している高遠とそこに刃を振り下ろそうとしている黒衣の男だったのは幸運という他はない。
意識するのとほぼ同時に、自分でも驚く程の速さで魔力スフィアを精製し間髪を入れずに放っていた。
「シュ、シュート!」
それぞれに違った軌道を描きながら魔力スフィアがビシャスへと迫る。
しかし、甲板上の戦いで見せてしまった技では虚を突くことができず、俊敏な動きで回避されたスフィアは窓や壁面など関係のないところに衝突し小規模の爆発とともに霧散した。
再び開いた数メートルの距離を経て、ティアナとビシャスが対峙する。
ティアナの周囲は白煙に包まれ、高遠以外の人物の生死はおろか姿すら確認することはできない。
僅かに足元の霧が晴れた。ティアナの左手に、扉に背中を預けて気絶しているジェットの姿が確認できた。傍には銃が転がっている。
ティアナも含めて、視界にいる皆は奇跡的に重傷を負ってはいないようだった。
「絶対、やらせないから。アンタなんかに…!」
威嚇するようにビシャスを睨みながら、魔力スフィアを再精製する。数は三つ。明らかに一度に作れるスフィアの数が減っている。
そう思った瞬間、ティアナは反射的にジェットの傍にあるコルトガバメントを拾い上げていた。
僅かな頭痛と吐き気が襲う。だが、倒れたままピクリとも動かない高遠の姿を見ると不思議と押さえ込むことができた。
震えは無い。撃つことはできなくても威嚇の役割は十分に果たしている。
ティアナはコルトガバメントの狙いををぴたりと据え付けたまま、物言わぬまま攻撃を再開しようとする殺戮者に向けて再び魔力を行使した。
「クロスファイヤーーー、シューート!!」
三つの橙色のスフィアがティアナの意思に従い動き始める。今度は同時ではなく、僅かな時間差をつけて操られた光球がビシャスへと向かった。
直線の軌道で顔を狙った一発目は大きく体を沈めることで回避され、そのまま後ろの壁にぶつかる。これはいい。
天井すれすれのところから弧を描くように急降下させた二発目はサイドステップで回避すると予想したのだが、体を捻る最小限の動きでかわされ大きく距離を詰められた。
一発目に近い位置に衝突した光球が壁に皹を入れ窓を割る。どのみちこれで仕留めるつもりではない。
本命は二発目に注意を向けさえている間に背後に回りこませた三発目だった。足元で炸裂させて無力化を狙う。
狙い通りの位置で光球は炸裂した。
「うそ…!」
狙い通りに行かなかったのは見えないはずのそれを察知したビシャスが着弾の瞬間に小さく飛び、爆風を利用して一気に目の前に踊り出たことだ。
着地までの一瞬の間にティアナは思考する。新たにスフィアを精製する時間はない。瞬きをするほどの時間があれば、自分は目の前の男に切り捨てられるだろう。
生き残るには、銃を撃つしかない。
引き伸ばされた一瞬の中で、ティアナの脳裏に頭を弾き飛ばされた親友の姿と自らの魔法を敢えて受けたジェットの姿がフラッシュバックする。
頬を汗が伝うのを感じた。そんな時間は存在しないはずなのに。
そして、視界の隅で気を失っている高遠の指がぴくりと動いたのを見たとき、ティアナの指は自然と引き金を引いていた。
慣れない反動に腕が上がる。
(やらせない、高遠さんも。他の皆も!)
ティアナの意思に応えるように弾は射線をぶれさせることなく正確に発射された。見えるはずのない弾道までがはっきりと見えるように感じられる。
頭痛も吐き気もなくなり、ティアナの瞳には力強い輝きが戻っていた。
脳裏に全員で脱出を果たす光景を力強く描きながら。
(私が。私がやらなきゃ。皆のために、スバル達の分まで――!)
凶行を止めるべく放たれた銃弾は狙い違わず真っ直ぐビシャスの眉間目掛けて吸い込まれるように飛び込み――。
当然それを予測していたビシャスに横飛びに回避され、同時に回転力を加えて放たれた一閃によってティアナの両腕は手首から切断された。
「え……?」
ありえないくらいにゆっくりと宙を舞う自分の両手を見ながら、意思とは関係なく呆然とティアナが呟いた。
返す刀で左肩から袈裟切りに切りつけられる。それも含めて一切の痛みを感じなかった。
更にとどめの一撃が放たれようとするのを、ティアナは他人事のようにぼんやりした知覚で認識していた。
「うおおおおおおおおお!!」
すんでのところでティアナを救ったのは、雄叫びとともにビシャスに飛び掛ったジェットだった。
ほとんど密着するようにビシャスの頭を掴み、割れて無くなった窓枠に叩きつける。
そうして、脆くなっていた壁ごと揉みあうように二人は船外へと落下して行った。
「ティアナ君!?大丈夫ですか!?」
自分の名を呼ぶ高遠の声が聞こえたような気になりながら。
その声に奇妙なくらいの安心感を感じると、ティアナは静かに目を閉じ意識をゆっくりと闇の中に沈めていった。
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
◇
船内を揺るがした衝撃の元に辿り着いたアレンビーが見たのは、血まみれになりながらティアナを抱き起こす高遠の姿だった。
「高遠ぉ!大丈夫…ってその人……」
「ティアナ君です……。私が気付いた目を覚ましたときには既に」
アレンビーにとってその少女との直接の面識はさっきの甲板上のやりとりぐらいでしかない。だが、抱き起こす高遠の様子を見ればその関係はおおよその察しはついた。
決して悲しみに打ちひしがれているという様子ではないが、固く引き締められた表情からは高遠が何らかの強い感情を持っていることは用意に知れる。
「これもあいつがやったんだよね……。絶対に許せない」
「はい、襲撃を受けました。アレンビーさんはずっと彼を?」
「うん。船中追いかけてたんだけど、すぐに逃げて見つかんなくなっちゃうしたまに攻撃してきたと思ったらまたいなくなるし。
まるでこっちの位置がばれてるみたい」
「こちらの位置が……ですか。なるほど」
アレンビーの言葉から何か感じ取ったのか、高遠が思案するように頷く。そして、抱えていたままのティアナをそっと横たえるとすっと立ち上がった。
「他の皆は…?」
気遣うような、返事を恐れるような声音でアレンビーが恐る恐る聞く。
「ジェット刑事は私の意識が戻る直前にそこの壁の穴から男と一緒に落下するのをぼんやりとですが確認しました。
残念ながら、彼の容態を考えるとあの男を振り切って岸に泳ぎ着くのは絶望的と考えざるを得ません」
意識してそうしているのか、淡々とした口調で告げられたアレンビーの顔が沈む。
「そう…。チェスとガッシュは?」
「お二人ならそこに……」
「高遠!チェスが目を覚ましたぞ!」
高遠の言葉を遮るように、床に空けられた大穴からガッシュの良く通る黄色い声が届けられた。
爆撃でもあったかのように焼け焦げた床に空けられた穴の底には、一つ下の階層が見える。
そこから、ぼろぼろになりながらも元気な顔を除かせるガッシュと、肩を借りながら何とか立っているチェスの姿が覗いていた。
「おお、アレンビー!無事だったのだな!」
「ガッシュもね!チェス君は大丈夫…?」
「心配いらないよアレンビーお姉ちゃん。……僕は頑丈なんだ」
「いや、しかし爆発の規模が思ったより小さくて助かりました。
まるで何かが上から押さえ込んでくれたかのようにね」
安堵の表情を見せるアレンビーの隣で、顔を覗かせた高遠がどこか茶化すような口調で言った。
それに挑発めいたものを感じたのかチェスが顔を上げ口を尖らせる。
「何が言いたい。私が身を呈してかばったとでも言うのか?馬鹿な。
ガッシュやジェットならともかく、貴様達のために私がそこまでするとでも?
そもそもここでは不死者が絶対ではないと言ったのは貴様だろう。できる訳がない」
「私は何もそのようなことは言っていませんが、まぁいいでしょう。
ですが私はともかくティアナ君は既に亡くなられました。
悪く言うのは止めていただきたい」
「……それで、これからどうするつもりだ」
トーンを落として聞いてくる。ティアナの死に何か感じるところがあるようにも、先行きに不安を感じているようにも聞こえた。
答える高遠の口調は、既に完全に平常のものに戻っている。
「予定通り、船は機動させます。
あの男ががここへと舞い戻ってくる前に船外へ逃げる手も考えましたが、どうやら彼は何らかの手段で我々の位置を把握しているようです。
強力な武装も確認できましたし、満身創痍の我々が外へ出たところで闇討ちで各個撃破されるのが関の山でしょう。この中で一番死に易そうな私など、特に遠慮したい」
最後の言葉は場を和ませるつもりで言ったのだが、笑うものはいなかった。
「私達の位置を掴んでいる?ありえない話ではないが、どうやって?」
顔を上げたままのチェスが、自信も思案するような顔をしながら聞く。
「何らかの道具でも、彼個人の能力でも、可能性は色々と考えられます。
『ありえない』ことを考慮せずに痛い目を見た私としては、ここは一つ慎重に行きたいと思います」
自嘲気味に告げられた言葉の意味をアレンビーだけが理解できず、他の三人の顔を不思議そうに見渡した。
結局気にしないことにしたのか、期待に満ちた瞳を高遠に向けてくる。
「高遠の言うとおりにすれば皆助かるんだよね?
確かに、外であれだけ逃げ隠れされると、私もちょっときついな」
「うむ!私も高遠の言う通りにするのだ!」
アレンビーに続き、ガッシュも両手を挙げて高遠に賛同した。横では、しぶしぶといった様子でチェスが頷いている。
全員が了承したと判断し、高遠も笑みを浮かべて頷く。
そして、デイパックを探ると中から取り出したものをチェス目掛けて放りなげた。
渡された鍵のようなものを両手で受け取り、その形状の奇妙さにチェスが訝しげな表情を浮かべた。
「これは?」
「この船の機動キーです。
ブリッジの鍵穴に差し込めば、この船は決められた航路を周回するべく動き出します」
「ああ、鍵見つかったのね」
「いえ、最初から私が持っていました。探して欲しいと頼んだのは嘘です」
「酷いじゃない、高遠!」
「ア、アレンビー!それはもう私が済ませたのだ!」
ガッシュよりもさらに激しく怒るアレンビーをなだめつつ計画を説明するのに、高遠は思った以上の苦労をするはめになった。
高遠の立てたプランに従い、四人が行動を開始する。
希望は必ず掴めると、まだこのときは皆が信じていた。
◇
寄せては返す波が岸壁にぶつかりざわざわと音を立てる。
飛び散るしぶきの立てるリズムの他は一切の騒音もなく、埠頭は静寂に満ちているとさえ言っても良かった。
殺人劇の舞台として選ばれた豪華客船ですら、そんなものはどこ吹く風とその巨体をただ波の揺れるに任せている。
昼間であれば見るものを緩やかな気持ちにさせたであろうその場所は、日が落ちたことで新たな情景を浮かび上がらせていた。
闇を恐れる人間の本能も、それを創り出す側には全く関係がないと言わんばかりに。
いつまでも続いていくかのように思えた平穏な光景は、しかし水中から無遠慮に突き出された一本の腕によって破られた。
「……」
全身を水浸しにしながら、相変わらずの感情の篭らない瞳でビシャスは埠頭へと這い上がった。
自身を水中に叩き落とした男は着水の衝撃に耐えられなかったのか意識を失い、勝手に水中深く沈んで行った。
それについて特にどうという感情を抱くこともなくビシャスはレーダーで敵の位置を探りながら慎重に自身の体力と怪我、そして装備を天秤にかけ方針を探る。
数秒の後、問題なく戦えると結論付けた。
だが、懸念事項もない訳ではない。怒りに身を任せて向かってきたあの子供。
苦もなくあしらったが、奇妙なことに切った端から傷が治っていた。
理屈など知らないが、余計な体力を使わないためにも確実に仕留める手段を確保しておく必要がある。
慌てることも急ぐこともなくそれだけ考えると、ビシャスはただ空気のように自然に殺意を放ちながら豪華客船の中へと戻っていった。
そして、埠頭に再び静寂が戻った。
これまで起きたことも、そしてこれから起こることにすら一片の関心も持たず揺れ続ける豪華客船。
飛び散るしぶきが埠頭を少しの間だけ濃い色に変え、水が浸み入るのに合わせて元の色に戻る。
周囲に響く波の音。遥かに見えるのは穏やかに軒を連ねた民家のみ。埠頭に存在するのはどこまでも平穏な光景。それと。
「畜生、こんなことでくたばってたまるか……!」
真っ暗な水中から新たに這い出た、かつて執念深さを謳われた一人の賞金稼ぎだけだった。
◇
高遠の立てたプラン自体は簡単なものだ。
固まって行動することは避け、チェスはアレンビーと船の機動を、高遠とガッシュは脱出に必要な道具の調達をそれぞれ担当する。襲撃を受けた場合は戦おうとせずひたすら逃げる。
戦力比がチェスの側に傾いているのは船の起動を優先した高遠の判断である。
「ここね!」
アレンビーとチェスはブリッジに辿り着くと乱暴に扉を開け転がり込むように中に飛び込んだ。
幸いにもあれから一度も襲撃は受けていない。ちまちまとした走りに、それでもチェスにとっては全力だったのだが、痺れを切らしたアレンビーがチェスを抱えて爆走したのだ。
それなりに消耗していたチェスは数百年の常識を覆されるような人間離れしたスピードに何度か意識を失いかけたのだが、結果的には功を奏したと言える。
「鍵穴ってどこ!?」
「ここだよ!アレンビー姉ちゃん!」
首を振って叫ぶアレンビーにチェスは目聡く舵の横に設けられた穴を見つけ指を差した。
身長が足りないため飛びつくようにして確認する。奇妙な螺旋状の形は鍵と一致しており、間違いはないだろう。
「よし!じゃあ、チェス君!」
「うん!」
チェスは最短の動作でポケットから鍵を取り出すと突き刺すように鍵穴に差し込んだ。勢いをそのままに右に捻る。
鍵は抵抗もなくチェスの手にに従って回り、そのまま問題なく二人の役目は完了すると思われた、が。
『螺旋力を確認できません。出港は不可能です』
聞こえてきたのは船を動かす駆動音ではなく、絶望を告げるをハスキーな女性の声を模した機械の音声だった。
「うそ、何で動かないのよ!螺旋力ってなに!?」
汗を浮かべて何度も鍵を回し直すチェスの後ろでアレンビーが声を上げる。
まさかこんな訳の分からない理由に邪魔をされるとは思ってもみず、アレンビーの怒りはチェスにとっても全く同感だった。抑揚の変わらない機械音が何度も同じ内容を告げる。
(螺旋力だと?博物館にも似たような言葉があった。
何だというのだ?螺旋王は何を考えている?
私達は皆貴様に踊らされているとでも言うのか!)
必死で鍵を回すも、結果に変わりはない。焦りを通り越し、チェスの表情にも怒りが込み上げてきた。
頭の片隅で錬金術師の自分が冷静な思考を訴えてくるが、そのための情報が圧倒的に不足しているのはそいつも十分承知しているようだった。
一向に好転しない状況に、チェスの手から力が抜ける。絶望に襲われそうになったそのとき、チェスの体は横に押しのけられた。
「ちょっと代わって!」
「あ、アレンビー姉ちゃん!」
「何だかわかんないけど挫けちゃ駄目、要は気合よ!うおおおおおおおお!!」
アレンビーは一旦鍵を引き抜くと、叫びとともに再び鍵穴に叩き付ける。
中の機構もろとも殴り壊さんばかりの衝撃に、チェスは船室が一瞬大きく揺らいだように感じられた。
そうして右に捻る。チェスがやったのと同じ小さな動作のはずが、そこに使われているエネルギーには何十倍もの差があるように見えた。
「絶対みんなで助かるんだから!こんなとこで邪魔される訳にはいかないのよ!だから、うごけえええええええええ!!」
船室中の大気をびりびりと弾き飛ばすように叫ぶアレンビーの背中を見ながら、しかしチェスの思考は現実的なものだった。
アレンビーの言葉には賛同するし、諦めようとしないその心根は賞賛に値する。だが、だからと言ってそれで船が動く訳ではない。
あの男の策は外れたのだ。何か別の手立てを考えなくてはならない。
見ろ、アレンビーがいくら叫び声を上げたところで鍵穴の周囲にしつらえられた渦巻状の模様に緑色の光が満ちていくだけだ。
そして、その光が模様を満たし淡い光を発したところで事態は何も――
『螺旋力確認。出航します』
「え?」
淡い光を発したところで聞こえてきた、さっきまでとは違う内容の機械音声にチェスは思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
「やったぁ!ね、チェス君、言ったとおりだったでしょ?」
汗だくになりながらアレンビーが勝利の喜びに満ちた表情でチェスにウインクをする。
鍵穴から発するのと同じ緑色の光を湛えたその瞳を見ながら、チェスは茫然と頷くしかなかった。
船の起動を終えた後のブリッジには、チェスが一人で残っていた。
アレンビーは先に行かせた。一緒に高遠達のところへと走る振りをしながら、少しずつ歩調を落とし気付かれないように一人で戻ってきたのだ。
彼女の脚力ならばれたら連れ戻されるのは一瞬だろうが、問題はない。用事はすぐに済む。
アレンビーには疲れも見えたしすぐに気付かれるということはないだろう。
気になることがあった。チェスは緑色に淡く発光する鍵穴を見上げる。
(螺旋力……。博物館のことと言い、一体何のことだ?
アレンビーは要は気合いと言い、そしてその通り船は動いた。それに、あのときの瞳……)
揺れを増した船室の中で、チェスは文字通り色を変えていたアレンビーの緑色の瞳を思い出す。
(放送でも奴はしつこいくらいに螺旋力について触れていた。
そして、それが無くては動かない装置をこうして置いておく……)
久しく見せていなかった錬金術師としての一面が顔を覗かせ、論理的な思考を積み重ねさせる。
その背後に、黒い影がそっと近寄った。
(試されているとしか思えんな。殺し合いと言いつつ、その実私達が用意された解答にどこまで到達できるか見ているようだ。
高遠のように趣味に走る馬鹿ばかりでもないだろう。まるで実験……実験、そうか)
何かを掴んだような表情で頷くチェスの背後で、影は刀を構えゆっくりと腰を落とす。
そのまま一息に首をはねようと静かに息を整え――。
「……ぐぅ!」
「残念だったな」
懐に飛び込んできたチェスの小さな両手で、軍用ナイフを胸に突き立てられた。
抉り込むようにナイフに力を込めながら嘲るようにチェスが笑う。
「そういつまでも上手くいくと思うな。
……螺旋力などどうでもいい。今は……貴様を殺す!」
老獪さと獰猛さに唇を歪ませながら、チェスはさらに手に力を込めてナイフを突き出した。
◇
正直なところ、高遠はティアナの死をどう受け止めたものか決めかねていた。
騙されて殺人までさせられたと知りながら、変わらずに慕ってくれたのは素直にありがたいと思う。だが、これまでの犯罪人生の中でそのような経験をしたことはなかった。
そもそも、自分が殺人を教唆した犯人達は高遠の考える芸術犯罪を汚したと判断した時点で容赦なく切り捨ててきたのである。
どうにも、いつもと違う立ち位置というものには慣れない。
「むう、高遠。道具はもうよいのか?」
「ええ、十分です。ありがとう、ガッシュ君」
高遠の謝辞にガッシュが目を輝かせて喜びを表現する。
自分もこれくらい素直なら、と少し思わないでもない。
だがそういったものを切り捨てる形で望んだ今の姿を手に入れたのだ。
後悔するほどのことではない。
「静かなのだ。チェスとアレンビーは大丈夫だろうか」
「アレンビー君の身体能力には目を見張るものがあります。滅多なことはないでしょう。
チェス君は……私に心配されても嬉しくないでしょうから、止めておきます」
「ウヌゥ、仲良くするのだ」
高遠の言葉を真に受け、ガッシュが慌てるようにたしなめる。
先程からのガッシュの様子は必要以上にキョロキョロ周囲を警戒するなど、明らかに落ち着いていない。
ティアナとジェットを失ったと知ったときの悔しがりようを見れば無理もないことと言えるが、それにしてもこのような警戒の仕方に効果があるとは思えなかった。
「落ち着いてください、ガッシュ君。敵は床から現れたりしませんよ」
「わ、私は落ち着いて……いないのだ。本当を言うと怖いのだ。
これ以上仲間を失くてしまうかと思うと……」
「それは私も同じことです。
それに、このような無粋極まりない形で私の脱出計画を邪魔されてはたまりませんし」
「ウヌゥ、それでも高遠はこうやって率先して働いておる。偉いのだ。
だというのに私は……」
がっくりと肩を落とす。
どうやら相当に参っているようだ。
ふむ、と高遠は思案する。一人の奇術師としては、落ち込んだ子供を元気付けるに吝かではない。
どれ程効果があるかは分からないが、ちょうどそれに使えそうな物にも心当たりがあった。
「まぁ、今は目の前の状況に対処することを考えましょう。
これを差し上げますので、元気を出してください」
「ん……?お、おお!バルカンではないか!!」
菓子箱に割り箸を付けただけの適当な代物でどれだけ喜ばせることができるか、奇術師としての腕の見せどころのつもりだったがどうやらその必要はないようだった。
ガッシュはそれを一目見るなり飛び付き大喜びで戯れている。というか、そもそもガッシュが持っていたものらしい。
「おや、お知り合いでしたか。それは良かった」
「うむ!バルカンなのだ!清麿が私のために作ってくれた友達なのだ!
空気ミサイル300発に、ナオミちゃんにどれだけ虐められようと帰ってくる強い体を持っておる!!
おお、二人入れば一緒にゲームで遊ぶこともできるのだぞ!!
今度高遠も一緒に遊ぶのだ!!」
「お誘いいただき光栄です。覚えておきましょう」
苦笑しつつ、鷹揚に返す。まさかここまで受けるとは思わなかった。
「うむ、きっとだぞ!なぁ、高遠……」
「はい?」
「高遠は良い奴だな」
曇りのない顔でガッシュにそう言われ高遠はかなり面食らった。
甲板上では確かに許すと宣言されたが、こうまで心の底からの笑顔を見せられるとは想像していなかった。
呆れつつもなるほど優しい王様とは伊達ではないなと思い、さらにそのような肯定的な感情を持った自分に対して驚いた。
照れ隠しという訳ではないが、少しからかうような口調で言う。
「そんなことを言っていいのですか?
……こんなことをしながら、また新たな犯罪計画を練っているかも知れませんよ」
「そ、そんなことはやめるのだ!それは悪い奴のすることなのだ。
ウヌゥ、しかし高遠はバルカンを守っていてくれていたし……良く分からなくなったのだ」
両腕を組んでう〜んと考え込む。本気で悩んでいる様子だ。
一々素直な反応を返すガッシュとの対話を楽しんでいたとき、船ががくんと大きく震えた。
同時に、揺れが大きくなりどこからか機械音が聞こえ始める。
「おお!船が動き始めたぞ」
「成功したようですね。さすがはチェス君」
窓の景色が流れ始めたのを確認する。今のところ計画支障は出てないようだ。
「では、我々も急ぎましょうか」
「うむ!」
ガッシュを促し、連れだって高遠も歩き始める。
元気良く先を行こうとするガッシュの背中を眺めながら、高遠は思った。
(さて、申し訳ありませんティアナ君。
私はあなたのために泣いてあげられるような人間ではありません。そのような心性はとうの昔に過ぎ去ってしまった。
ですが……そうですね。あなたに膝枕をして頂いていたとき。
その間だけは私は確かに「安らぎ」のようなものを感じていたように思います)
今は、これでどうかご勘弁を。
最後だけ口に出して呟くと、ティアナへの追悼を終えた高遠は再び目的地に向けて歩き始めた。
チェス達は無事だろうかと、そのようなことを思いながら。
◇
両腕から伝わってきた感触にチェスは歯噛みした。硬い。明らかに、何か金属質のものに刃を止められている。
そう思い手を引いた瞬間、チェスはビシャスに突き飛ばされ大きく吹き飛んだ。
自動で動き続ける舵に強かに頭をぶつけ、意識を失いそうになる。
霞んで消えそうになるチェスの視界が、銃のようなものを向けるビシャスの姿を捉えた。
そして、UZIの放つ9mmパラベラムの弾丸がチェスに降り注ぐ。
咄嗟に転がって回避しようとしたが、かなりの数を食らってしまった。お陰で意識がはっきりしたのはありがたかったが。
問題なく再生が行われているのを確認し、チェスは立ち上がると愛らしい見た目に不釣り合いな憎悪の顔中に浮かべてビシャスを睨み付けた。
高遠の言う通り、この場ではどういう訳か不死者の再生力にに限界があるらしい。
趣味の悪い悪魔がいたずら心でもだしたか。首を折られたとき、あれは実は危なかったか。
とはいえ、これまでの経験からしても肉体の破壊などの致命傷を負わなければ大丈夫だろうとチェスは考えていた。
(もっとも、人間の致命がどのくらいだったかなど半分忘れてしまったがな)
自嘲ぎみに心中で付け加える。
こちらの武器は軍用ナイフとアゾット剣、それに回復力のみ。冷静にそう分析していると男が懐から何かを取りだし、忌々しげに顔を歪めた。
どうやらそれがチェスの刃を止めたものの正体らしい。表情を見るに一矢は報いたか。
だが、まだ足りない。高遠達との取り決めも忘れてチェスは思った。
「貴様は私の手で殺し尽くしてやる。貴様は……貴様だけは!」
怒りの叫びとともにチェスはビシャス目掛けて飛び出した。
もとより戦闘は得手ではない。再生力にまかせて押しきるしかなかった。
一気に駆け寄り、捨て身でナイフを突きだす。だが、交差する形で放たれたビシャスの刃が両ももを深々と切り裂き、勢いをなくしたチェスの体は床に叩きつけられた。
「ぐぅ!」
顎を打った嫌な衝撃が脳を揺らす。降り下ろされた一撃は予測していたため、何とか転がって回避する。
(懐には潜り込んだ。後はどれだけ切られようと構わん!少しずつでも切り刻んでやる)
首や心臓への攻撃さえ避ければいい。後はひたすら突っ込み、敵の体力を消費させる。いくら切っても立ち上がることに僅かでも恐怖を感じさせることができればなおのこと良い。
幾度も刃を振るい、傷を負いながらチェスは思った。
(ごめんね、アイザックさん。僕じゃあなたの代わりはできないよ。
だってさ、僕はこいつがどうしようもなく憎いんだ。
アイザックさんならこんな気持ちでも許しちゃうのかな?)
心中で語りかけても、当然返事はない。だが、アイザックの記憶の片隅にある目の前の男との邂逅の様子を見ればあり得なくはないと思えてくる。
(ううん。でもやっぱり僕にはミリアお姉ちゃんが殺されたらなんて想像はできな
いや。それくらい、二人はぴったりだったから。
離れ離れになるなんてあり得ないくらいに)
ミリアの笑顔が再び浮かび上がってきた。
アイザックの記憶、アイザックの中にあるチェス君の表情。
どれを見ても二人の仲は完璧だったと知れる。
それを引き裂いたのはチェスだ。そして止めを指したのが目の前の男だ。
その事実に、チェスは自分の血が頬にべちゃりと張り付いたことにも構わず皮肉げに笑った。
(仇討ちなどと言えた義理ではながな。
本来ならこの刃は真っ先に私に突き立てるべきなのだろうが、まぁいい。
そんなことは後でいくらでもしてやる。今はただ、こいつを!)
こいつを殺す。
目の前にいる漆黒の男を。
奪えないはずのミリアの命を奪ったこの男を。
そうしてミリアの
ミリアの仇を。
ミリア。
眼前に、ミリアの顔が現れた。
「…………ふ、ぇ?」
男が放り投げてきたそれを、反射的に受け取ってしまう。
それは、甲板にあるはずの切り離されたミリアの頭部だった。
原形を止めない程にぐしゃぐしゃに潰されたミリアの首がチェスの眼前に広がる。
舌を抉られ耳を削がれ、額は骨が覗くまでにばっくりと割られている。綺麗なブランドの髪は血で真っ黒に染められ元色の部分はほとんど残っていない。
それでいて本人と判別できるだけのラインはぎりぎりで保たれたそれは、どれ程記憶を辿っても決して見ることのできないミリアの新しい表情だった。
チェスの中の全ての記憶が消し飛んだ。頭の中がまっさらになる。
「う、あ」
言葉がしゃべれない。やり方を忘れてしまった。五感が閉じていくのを辛うじて感じる。
「き。き」
それでも体は一方的に、感情を言葉にして紡ぎだそうとする。
脳は既に、一切の思考を放棄していると言うのに。
「貴様ああああああああああああああああ!
あああああああああああああああああああ!!
あああああああああああああああああああ!!!」
喉の皮が破れ血が噴出する痛みも感じないまま、チェスは絶叫した。
「赤い涙を流すがいい」
そうして一片の策も持たず狂人のように突進を始めたチェスは、待ち構えていたビシャスの一閃により首を撥ね飛ばされた。
刈り取られた首は、衝撃で吹き飛んだミリアの首と一緒にころころと寄り添うように床を転がり、壁にぶつかって止まった。
二人の首は、仲の良い男女がよくそうするように真っ直ぐ視線を合わせて向かい合っていた。
【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ! 死亡】
◇
最初に甲板上で襲撃を受けた時点で高遠は通常の方法での脱出は不可能だと確信していた。
身体能力に差がありすぎる。普段のように十分に道具を揃えた状態ならともかく、今の高遠は怪我人だ。
加えて、高遠以上の重傷を負っている者も何人かいた。
彼等を放置するのは人道的にでもなんでもなく、全員での脱出を決意した高遠の矜持が許さない。
奇術師として、不可能と思われる状況からの脱出は得意とするところである。大前提であるはずの全員で、という部分は既に大幅に崩されてしまったが。
怪我人の集団である高遠達が無事逃げおおせるために、確実に敵の手の届かないところまで移動する必要があった。
船から飛び降り、闇夜に紛れるなどという方法ではまだ足りない。確実に誰かは追い付かれ殺される。アレンビーからもたらされた情報で、この案は完全に却下された。
下に逃げても追跡は避けられない。ならば、どうするか。下が駄目なら上に逃げればいい。
相手が追跡を諦める程の高みへと、一瞬で。
「そこで、高速道路ですよ」
「ウヌゥ……緊張してきたのだ」
甲板上は数刻前までとは打って変わって叩きつけるように海風が吹いていた。ライトアップされたその場所に、身を隠すように高遠とガッシュが潜んでいる。
「資料によるとこの船は停泊していた島の周囲を右回りに2時間程度で周回するようです。
結構なスピードでしょう?チャンスは一瞬です。
だからこそ価値があり、同時にわくわくもするというものです」
高遠の計画は船内の備品である太縄を道路の高架に巻き付け、船が道路の下を通るのに合わせてそれに掴まり脱出するというものだった。
そうして高遠達は高速道路に登り、殺人鬼を一人残した船はあっという間に遥か彼方へと去っていくという寸法だ。
もちろん、技術はともかく高遠にはそんなに高くに縄を投げるような腕力はない。
だがアレンビーや、あるいはガッシュのような常人離れした能力があれば十分に可能だと判断していた。
「我ながら力技も良いところで少々お恥ずかしいですが、まぁ贅沢は言わないでおきましょう」
未知というものに頼るのも中々に悪くないですし、と続ける。
「滑車の原理を利用して自動的に縄が我々を道路まで引き上げてくれるという、怪我人に配慮したプランもあったのですが……その必要はなくなってしまいましたからね」
「……もう誰も死なせないのだ。絶対に皆で脱出してみせる。
この船だけではない。この争いそのものを止めさせるのだ」
ほんの少し悔しさを滲ませる高遠に対し、ガッシュははっきりと告げる。
高遠は苦笑した。この年でこれ程までに強い決意を見せるとは、感心するほかない。
「そうですね、バルカンと遊ぶ約束もありますし。そのためにもお二人には早く
戻ってきてもらいたいものですが……ああ、いらっしゃいました。アレンビー君!こちらです!」
甲板にアレンビーの姿を認めて高遠は声をかけた。向こうもすぐこちらに気付く。
だが、近付いてきたアレンビーは何か焦っているように見えた。
「……お一人ですか?」
原因はすぐに知れた。チェスの姿がない。
「うん……。ごめん、二人とも。
船を動かすところまでは一緒にいたんだけど、
戻ってくる途中ではぐれちゃったみたいで……。
ほんとごめん!すぐ探しに戻るから!」
「わ、私も行くのだ!」
沈痛な面持ちで船内に戻ろうとするアレンビーの後をガッシュも続こうとする。
高遠は二人を押し止めるように強く、けれども口調だけは静かに言った。
「いえ……その必要はないでしょう。お二人は、とにかく脱出を。
もう、時間がない。どうしてもというならチェス君は私が探します」
高速道路はもうすぐそこまで近付いていた。これを逃せばもう後がない。
高遠がそう言ったのには理由がある。チェスが単独行動をしようとする訳には心当たりがあった。
なおも納得しない様子の二人に続ける。
「チェス君なら大丈夫です。彼を甘く見ると痛い目に会うことは誰よりもこの私がよく知っている。
はぐれたのではありません。一人で行動したいだけの用事が彼にはあったのでしょう。
彼は見た目よりもずっと大人です。老獪と言っても良い程にね」
具体的な理由までは触れなかった。言えば二人は飛び出していくだろうし、自分のせいで脱出のチャンスを潰すのはチェスの本意ではあるまい。
どうしても邪魔されたくないものは誰にだってある。
ガッシュはまだ迷っているようだったが、アレンビーは理解してくれたようだ。多少逡巡しつつも、納得したように足を止めている。
「……分かったわ、高遠。チェス君にはどうしても残りたい理由があった。そうなんだよね?」
「ええ、そう考えて間違いありません」
「自分がやらなくてはいけない戦いというものはあるのだ……だが、本当にそれで良いのか。
ウヌゥ……分からないのだ」
「チェス君を、そしてこの高遠遙一を信頼してください、ガッシュ君。
それこそが……うっ!」
うつむき瞳を震わせるガッシュを諭す高遠の言葉を遮るように、船ががくんと一際大きくな揺れを示した。船内のどこかで爆発でも起きたのか、震動が伝わってくる。
そして、船が徐々ににその速度を落とし始めついには高速道路の高架下に差し掛かる寸前で緩やかに停止した。
「……基幹部をやられたようですね。どこまでも邪魔をしてくれる。
さぁ、もう一刻の猶予もありません。アレンビー君、あなたならあそこまで飛び上がることはできますか?おあつらえ向きに穴が空いている」
「うん。そんなに高くもないし、行けるよ」
高速道路を指差して聞く高遠にアレンビーは力強く頷いた。高遠も満足気に首肯を返す。
「結構。ではまずガッシュ君からお願いします。ガッシュ君、デイパックをお預けします。
全員分の荷物をまとめてありますので」
「う、うむ……」
未だどう判断するか決めかねている様子のガッシュに無理やりデイパックを背負わせる。そして、決断させるように背中を押した。
たたらを踏んだガッシュが、不安そうに高遠を見る。
高遠はできるだけ子供を安心させられるような表情を心掛けながら、にんまりと笑った。
「ただの順番ですよ。私もすぐに引き上げて貰います。
もちろん、彼が望むのであればチェス君もね」
「……分かったのだ。約束だぞ高遠。皆で一緒に脱出するのだ」
「ええ、約束です。バルカンと遊ぶのでしょう?」
その言葉でようやくガッシュは決心、というよりは安心することができたようだ。
デイパックを背負い直し、準備運動を終えたアレンビーに抱き抱えられる。
「じゃあ、先に行くわね。って言っても私はすぐに降りてくるけど」
「お願いします。計画が失敗した場合は速やかに去るのが私のモットーでして」
高遠がそう言うとアレンビーはふっと笑った。
そうして走りやすい形にガッシュを抱え直すとその表情を一気に引き締める。
「じゃあ、飛ぶわよ。ガッシュ、しっかり掴まっててよね」
「う、うむ。任せるのだ」
「上等!うおおおおおおおおお!!」
アレンビーは数歩助走をつけると、ダンと踏み抜かんばかりの大きな音を立てて甲板を蹴り飛び上がった。
高遠が見守る中、重力を無視するかのように高速道路へと手を伸ばす。
(やれやれ、この場所は全く反則ばかりだ)
呆れつつも、ひとまず全滅は避けられたことに安堵の息を漏らす。
アレンビーが今まさに高速道路に足をかけんとするのを見ながらさてチェスをどうしようかと思案を巡らせたところで、
月明かりの中、無数の銃弾がアレンビーの体を貫くのを見た。
◇
甲板にいる高遠と、船に背を向ける形のアレンビーには見えなかったが、空中で船を見下ろすガッシュにははっきりとそれが見えた。
さっきの男が、凍てついた刃物ような視線でデイパックから突き出した砲塔をガッシュ達に突き出している。
警告する間もなくその先端が火を吹き、同時にアレンビーの体が小刻みに揺れた。
「あ……」
そんな音がアレンビーの口から漏れ、高速道路を目の前に勢いをなくした体が静かに落下を始める。
「ア、アレンビー!しっかりするのだ!死んではならぬ!」
「う……お」
抱き抱えられているガッシュにはアレンビーの蜂の巣のように穴だらけになった背中しか見ることができない。
弱々しい吐息が耳に届く中、砲身を反転させた男が通路で使ったのと同じロケットランチャーを発射するのが見えた。
「アレンビー!!」
「う……おおおおおおおおおおおおお!!」
ガッシュがこれまでで一番大きな叫びを上げた瞬間、伏せられていたアレンビーの顔がぎっと前を向いた。
口から大量の血が溢れるのも構わず、アレンビーは全身を大きく捻りガッシュを掴むと高速道路の中目掛けて全力で放り投げる。
「どおおおおおおりゃあああああああ!!」
ガッシュは見た。アレンビーの歯は痛みを叩き潰すかのように力強く食いしばられ、両の瞳には緑色の光が煌々と輝いている。
届く訳がないと知りながらもガッシュが空中で手を伸ばしたとき、アレンビーのその表情が緩み慈しむような優しいものへと変わった。
「頑張ってね、応援してるから!そうだ。ドモンに、ドモンに会ったら――!」
着弾したロケットランチャーによりアレンビーの体は爆散し、その続きを聞くことはできなかった。
衝撃の余波を受けたガッシュもまた、気を失い高速道路の中に吸い込まれるように落ちていった。
【アレンビー・ビアズリー@機動武闘伝Gガンダム 死亡】
◇
アレンビーの体の残骸が甲板上に落下したのを確認し、ビシャスはパニッシャーをデイパックへと仕舞った。
代わりに、強奪したデイパックに入っていた愛用の刀を取り出す。レーダーは破損してしまったが残るはすぐ近くの男のみ。戦闘に秀でているようには見えない。
苦もなく葬ることができるだろう。
さすがに疲労を感じながら立ち上がって歩きだそうとし、背後に感じた固い気配に動きを止めた。
「ポロロッカって知ってるか?」
ビシャスの後頭部にコルトガバメントの銃口を向けながら、ジェットは言った。
全身を水で濡らし、飛びそうになる意識を意地で繋ぎ止めながら言葉を続ける。
「ある女が言ってた話だ。
何でも宇宙のどっかにゃそんな名前の星があって、この殺し合いはその星の入国審査なんだと。
は、俺やお前さんがこうしてやってることは全くの茶番って訳だ。
どうだい、あんたこんな与太信じるかい?」
話の途中で、レンズのピントがぼやけるようにジェットの視界がぶれる。
ビシャスは何も答えない
「俺は信じるぜ」
絶対の確信をもって、ジェットは言った。
「だってそうだろうが?死んだと思ったのは実は眠りから覚めるだけで、晴れて入国した暁には飯にも金にも一切不自由しない生活が待ってるときたもんだ。
肉抜きの料理も、ハネっ返りの女も、馬鹿な相棒ともまとめておさらばできるってんだ。
こんな上手い話信じない手があるか?」
内容の正確さにも構わず、まくし立てる
息が上がるのを、無理やりに笑うことで抑えた。
俺はいつからこんなにお喋りになったのかと思いながら。
「上手い話にゃ裏があるっていうが、この話ばっかりは例外だ。
何せ、これを聞かせてくれたのは裏も表もないまっさらな女なんだからな」
ビシャスは身じろぎ一つしない。
聞いているのかいないのか、その表情を窺い知ることはできない。
「最近じゃあ珍しい、優しい女だったよ。この銃を持ってた女だってそうだ。
色々厳しい目にもあったが、最後は仲間を想ってわんわん泣いていた。
さぁこれからってときに夢から覚めちまったがな」
自分の女を自慢するかのように、ジェットは言う。
構える銃はその女との間で奇妙に行き来したものだ。
「何でこんな話をするのかって?意味はねぇ。ただ、お前さんが殺しちまったのはそういう女だったってだけの話だ。
青臭ぇか?青臭ぇよなぁ?
だがな、今はどうしようもなくそういうことを言いたいんだよ!俺はなぁ!!」
ついに、ジェットは激昂した。
言いたいことを腹の底から言い終えたジェットが黙り、二人の間に静寂が満ちる。
聞こえるのは、黒い波の音のみ。
ビシャスは何も答えない、かと思われた。
「死んだ女のためにできることなどない」
その言葉がビシャスより発せられたものだと理解するのに、ジェットは数秒の時間を必要とした。
この男が言葉を発することなど、完全に想定の外にあった。
ジェットは答えず、ただへっとだけ笑うと銃を構え直した。
そのまま、ただ静かに時が過ぎる。
しばらくして、ジジ、という音とともに機械を通した能天気な声が響いた。
『エドです。地図の載っている施設を全部、良く調べてみてください。すごいお宝を発見ができるかもしれません』
名乗られずとも分かった。ビバップ号で散々に聞かされた声だ。
『詳しい情報は追って連絡しますが、ラセンリョクという物を用意してください。それが絶対必要なんだそうです!』
軽やかな声が、二人の間を通りすぎていく。
その声を聞きながらジェットは思った。
『もしも見つけてしまったらぁ〜一切、粉砕、喝采ぃ〜八百屋町に火がともる〜!』
何だよ、お前らもちゃんと働いてんじゃねぇか、と。
始まったときと同じジジ、という音を最後に、声は聞こえなくなった。
甲板の上に、再び静寂が戻る。
その静寂がもう一瞬だけ続き。
数発の銃声と白銀の一閃が交錯した。
◇
直撃を受け吹き飛ぶアレンビーとそこから放り投げられたガッシュの姿を、高遠は見上げていた。
ガッシュが高速道路の中に消えるのを確認し、視線を正面に戻す。
姿勢良く伸ばされた背中には何の感情も含まれておらず、その表情を確認することはできない。
高遠はしばらく、そのままの姿勢でただ立っていた。
特に動くこともなく、外界の刺激に反応することもなく。
背後にコツコツと足音が近付いてくるそのときまで、高遠は微動だにしなかった。
その間、高遠が何を考えていたのかは分からない。
だが、少なくとも。
「いかがでしたか、私の脱出マジックは?」
くるりと向き直り、背後に迫ってきたビシャスに向かってそう言った高遠の顔には、これまでと変わらない奇術師然としたにんまりとした笑顔が浮かんでいた。
【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ 死亡】
「自己評価を申しましょうか。散々と言う他はありません。
ガッシュ君に全てを押し付ける形になってしまい、何より私が脱出できていない」
おどけるように笑った。
観客はつられてはくれなかったが。
「彼の今後を思うと心苦しいですが、まぁ信じるより仕方ないですね。
彼はやる男だと思っていますよ、私は?
あなたもその怪我では追跡は諦めて休まざるを得ないでしょう」
ビシャスの体には幾つかの銃根が生まれ、血が滲んでいた。
動きからも、最初に見せた敏捷さが失われている。
「かくして私の脱出劇は幕、となります。続きの舞台はガッシュ君に任せ、役目を終えた奇術師は退散するといたしましょう。
夢から覚めるか地獄に落ちるか、はたまたおかしな名前の星で楽しく暮らすことができるのか、楽しみにしながらね」
ビシャスが腰だめに刀を構えるのを見ながら、
奇術師は恭しい仕草で腰を折った。
「それでは、Good Luck」
◇
傷の手当てを終えしばしの休息をとったビシャスは、奪取したデイパックに入っていた水上オートバイを駆り豪華客船を後にした。
レーダーは破壊されたが、代わりに自分の得物と移動手段を手に入れた。
戦果を考えれば十分収穫があったと言える。
いくつか傷をもらいはしたが、まだ十分戦える。
人が見つからなければ更に休息を取ることも視野に入れながら、ビシャスはこれ
までと一切変わらない冷徹な視線で闇夜の水上を駆けた。
船中で起きた全てのことに一切の感慨を持たず、ビシャスは高速道路を潜り闇夜に消えていった。
ビシャスが走り抜けた高速道路の直上に、全身をぼろぼろにしながら夢の中に沈み込む少年の姿があった。
道路を縦断する巨壁にもたれ、希望を詰め込んだデイパックを肩にかけながら、少年は未だ目覚める気配すらない。
彼がいつその気高さを秘めた意識を取り戻し、そしてそのとき何を思うのか、まだ知ることはできない。
ただ、少年の手には菓子箱に割り箸を付けただけのいい加減な造りのおもちゃが、しっかりと握られていた。
【E-3水上を移動中/1日目-夜中】
【ビシャス@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ大、左肩と右脇に銃創(応急処置済み)
[装備]:ビシャスの日本刀@カウボーイビバップ 、ジェリコ941改(残弾7/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、水上オートバイ
[道具]:支給品一式×3(内一つの食料:アンパン×5)、日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、アゾット剣@Fate/stay night
レーダー(破損)@アニロワオリジナル、
コルトガバメント(残弾:3/7発)、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、防弾チョッキ@現実、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し。元の世界に戻ってレッドドラゴンの頂点を目指す。
1:皆殺し。確実に仕留められる参加者が見つからなければ休む。
2:武器の補充
[備考]
※地図の外に出ればワープするかもしれないと考えています
【E-3 高速道路・巨大文鎮の南側/1日目-夜中】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ肉体疲労(大)、精神疲労(大)、気絶
[装備]:バルカン300@@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。
1:……
2:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
3:ジンとドモンと明智を捜す。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリアと情報交換済み
※螺旋力覚醒
[持ち物]:支給品一式×8(ランダムアイテム0〜1つ ジェット・高遠確認済み、内一つは食料-[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
ドーラの大砲@天空の城ラピュタ(大砲の弾1発)、
東風のステッキ(残弾率60%)@カウボーイビバップ、
ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、
スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、
賢者の石@鋼の錬金術師、
ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!、
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ6/6、予備カートリッジ数12発)、
ドミノのバック×2@カウボーイビバップアイザックの首輪
【通常の道具】
マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ、剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:生きてる)、アンディの衣装(−帽子、スカーフ)@カウボーイビバップ、アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、カウボーイ風の服とハット、血塗れの制服(可符香)
んじゃとっとと削除依頼だして話しあい始めようか
>>202 お前がいわゆるアンチロワイアルってやつか
野良猫にエサを与えるべからず
と野良猫
人数はひとまず七人前を想定。
しかも普段の食卓と違って、成人した男性が大半を占めることになる。
少しだけ、多めに考えた方がいいかもしれない。
――鶏モモ肉(骨付)900g。
――生椎茸二パック。
――ホウレン草三束。
――木綿豆腐二丁。
――人参二本。
――春菊三束。
――白菜八枚。
――白ネギ四本。
――出汁昆布一枚。
――大根1/2本。
そして、ポン酢の大瓶を一つ。これでとりあえずの準備は整った。
あとは環境か。映画館に食事用の設備があるとは考え難い。最低限の調理器具は必要だろう。
他にはガスコンロも調達しておくべきか。そして鍋料理に土鍋は絶対に欠かせないファクターだ。
それは後でいいか。少しだけ、行ってみたい場所がある。
しかし、商店街の奥に大型のスーパーがあったのは本当に幸いだった。
(とはいえ……)
カート一杯になった材料を見つめながら、少年は溜息を付く。
「やっぱり、財布と全く相談しなくていい買い物っての慣れないもんだな」
これだけ買い込んでも総額はゼロ円。
『タダより高いものは無い』という格言をその身で体感する。
タイムサービスも家計簿との兼ね合いもセールも、この場では一切考慮する必要はないのだ。
もはや買い物ではなく、収穫とでも表現した方が適当であるかのようにさえ思えた。
□
「……戻って来た、ってことか」
いくつもの倒壊したビルの跡。
黒塗りのベルベットのようにコーティングされた空の下、瓦礫の山に佇む一人の少年の姿があった。
彼の名前は衛宮士郎。第五次聖杯戦争における実質的な勝者であり《投影》の魔術を得意とする魔術師だ。
彼の指先にキラリ、と光るのはデバイス・クラールヴィント。
湖の騎士シャマルが愛用する補助型のアームドデバイスであり、鴇羽舞衣から入手した士郎が今は装備している。
このデバイス、という道具の最大の特徴がバリアジャケットだろう。
展開した持ち主に呼応した魔術礼装にも似た衣服型の防御壁を張り巡らせることが出来る。
さすがに非戦闘時は魔力の消耗を抑えるため、動作はさせていない。
濃厚な死の臭いに誘われた、とでも言えばいいのだろうか。
気がつけばこの場所に足を踏み入れていた。
ソレは鴇羽舞衣が操るソルテッカマン一号機と士郎達が激戦を繰り広げた場所。
エリアで言えばC-6だろうか。
光は収束し、鋭利な刃物へと変わり全てを切り裂き焼き尽くした。
白塗りのビルは煤けた煙によって灰色に染まり、今も鼻腔をくすぐる焦げ臭さは抜けない。
爆発は更なる破壊を生み、一瞬で世界を新しい段階へと押し上げる。
造られた箱庭は引っ繰り返され、現れたのは『崩落のステージ』だった、ということだ。
この場所は既に瓦礫山としての役割しか果たさない。
否、果たせないのである。
「酷い……もんだな」
士郎の口から自然と漏れる言葉が、その惨状を雄弁に語っていた。
『街』は失われていた。
もはや元在るべき姿を保っている建造物の方が少なく、誰が見てもソレは「廃墟」と断定出来るに違いない。
名うての建築家や歴戦の戦災復興部隊であっても、この空間を元通りの正常な街並みへと引き戻すには多大な年月と労力が必要なことは想像に難くない。
(……おっと、いけない。早めに帰って料理の準備に取り掛からないとな……)
彼は食材調達の途中で、光に誘われる蟲のようにこの戦場跡へと舞い戻って来てしまったのだ。
衛宮士郎は主夫である。
彼にとって台所に立ち、食材を吟味し、その日の献立を考え料理を作ることはある種完成した生活サイクルの一つとも言える。
つまり彼にとって自らの思考を整理し、己の立場を明示化させるため最適の手段なのだ。
(今の俺に出来ることはこれくらいか……)
そして食事は団欒をもたらす。
どのように危機的で、困難な状況であっても人の身体は糧食を求めるのである。
特に士郎達のグループは大所帯だ。
本拠地となっている映画館に明智、ねねね、イリヤと三人の仲間がいる。
そして他の仲間を迎えに行っているラッドのことを考えれば、一つのテーブルで食事を取るのも難しい人数が集まるかもしれなかった。
その証拠に、瓦礫山を眺める士郎の両手には大きく膨らんだ白いスーパー袋が握られていた。
中に入っているのは各種調味料に肉や野菜――右の袋からは葱が、左の袋からは大根が飛び出している。
彼の頭に描かれている本日の献立、それは『鍋』であった。
士郎が料理を振舞わなければならないメンバーの国籍は様々だ。
彼自身を含めて日本人が多いとはいえ、イリヤはドイツ生まれであるし、ラッドはアメリカ人だ。
和食には絶対の自信を持っていたが、洋食は後輩の間桐桜に、中華は同級生の遠坂凛に敵わない。
コテコテの和食を出してしかめっ面をされるくらいならば、ある程度他国の人間にも受け入れられる料理を作るべきであるとは思った。
だが、状況が状況だ。
何種類もの料理を用意するだけの時間があるとは思えない。
それに出来るだけバランスよく栄養が摂取できるメニューが最適だろう。
故の、鍋だ。
メニューはひとまず、水炊きを予定している。
海外には一つの鍋を複数人で突き合う文化はないかもしれないが、コミュニケーションを取るためにこれほど最適な料理はないだろう。
初めて出会った人間が一同に介して食事をするのだ。
同じ料理を食べる、ということは安心感を共有することにも繋がる。
(駄目だな…早くイリヤ達に旨い飯を作ってやらないと……)
そう心の中で呟き、士郎は崩壊した町並みに背を向けた。
この場所へやって来たのはほんの気紛れだった。
自分達の本拠地の一つ隣のエリア。
先ほどはラッドが操縦するフラップターに乗って脱出した場所を、今彼は自らの足で後にしようとしている。
が、その瞬間、彼の靴が妙な物体に触れた。
「――ッ!? これは……!!」
足元に落ちていたのは奇妙な形をした短剣だった。
明らかにまともな切れ味など持っていないことが一瞬で分かる。
そして伝わってくる魔力。
「宝具……か?」
士郎は思わず辺りを見回した。だが、依然人の気配は感じられない。
とにかく、間違いなくこの短剣は宝具だ。
「ルール……ブレイカー?」
少しだけ、記憶にある。
外套を羽織ったサーヴァント、キャスターが持っていた宝具。
確か、奴は他のサーヴァントが宝具を使用するのを妨害するために使用していた。
だが詳しい用途や効力まではさすがに士郎も知らなかった。
(早めに映画館に帰った方がいいかもしれないな)
映画館に帰れば、イリヤの支給品リストがある。
そうすれば、この宝具がどのような力を持った宝具なのかも分かるという寸法だ。
「にしても……本当に酷い臭いだな。まるでこれ――ッ!? 何だ……? この……臭い?」
そして、その時士郎はようやく気付いた。
焦げ臭い木材の燃焼する臭いに混じって『少しだけ生臭い』臭いが彼の鼻腔を突いたのだ。
グルグルと頭は回転し、最も適当な答えを導き出す。
士郎は走り出した。彼は自らの視界に明らかな『異変』を発見したのだ。
「し……たい? にしても、これは……っ!!」
駆け寄った士郎の眼の前に飛び込んで来たのは、思わず目を背けたくなる様な惨殺された少年の亡骸だった。
酷い、などと言う言葉ではあまりに陳腐過ぎて表現出来ない。
脇腹は微妙に焼け焦げポッカリとした空洞が見える。そこから溢れた血液が少年の衣服をドス黒く変色させている。
そしてそれ以上に酷いのが頭部の損傷具合だろう。
本来あるべき場所にある器官が完全に切り離され、潰され、裂かれ、黒く変色した血が泥の池のように広がっている。
明確な敵意を持って『破壊』されたことが空気を伝って士郎の中に入り込んでくる。
(どうして……どうして、ここまでやる必要があるんだ!? どう見ても普通の子供じゃないか……っ!)
気がついた時、士郎は血が滲むほど両の拳を握り締めていた。
湧き上がる感情は複雑にして怪奇。少なくとも明確な『怒り』だけでは表し切れない。
後悔、自責の念、憤怒、そしてこのような惨劇を作り出している大本である螺旋王に対する強い憎しみ――
(待てよ。……無い、無いじゃないか! 在って然るべき筈の物がこの死体にはない!)
鬱屈した感情を持て余していた士郎は、少年の死体にとある大切なものが欠けていることに気付いた。
つまり――首輪だ。
参加者の喉元を等しく圧迫し、枷となっている筈の首輪がどこにも見当たらないのである。
(様々なケースが考えられる……が、首輪を集めている人間がこの子を殺した犯人……そう考えるのが妥当か)
他の人間に殺害された少年をこの場所を通り掛った第三者が切断し、首輪を持ち去った……とも考えられるが、少し不自然だ。
やはり犯人が首輪を集めている人間である、と仮定するのが一番分かり易いように思えた。
もっと言うならば『今彼の首輪を持っている人間』だろうか。
首輪を集めている人間――そう聞くと最初に思いつくのがラッドが言っていた『高嶺清麿』という参加者だ。
どうも飛び切り頭の良い中学生……らしいのだが、士郎は未だ一度も顔を合わせたことが無かったためイマイチしっくり来なかった。
「明智さんに聞いてみるべきかもしれないな。とにかく早く皆の所へ帰らないと……」
士郎は少年の死体に背を向け、元来た道へと歩みを進める。
首輪がなかったため、反応がなかったのだろうか。
ひとまず明智に報告しておくべきだろう。情報は大いに越したことはないのだ。
「――何処へ帰ると言うのだ、小僧?」
□
背後から響いたのは押し潰したような老人の声だった。
背筋を走り抜ける捉えようのない戦慄。
走り抜ける雷光に撃ち抜かれたかのように、フッと躯から力が抜ける。
震えていた。
カタカタ、カタカタと幽霊に脅える幼い子供のように士郎の手が振動する。
両手に握り締めたスーパー袋を思わず取り落としてしまいそうになる。
(な……ん……だ!? この殺気は……っ!!)
真後ろから放たれる佇まいだけで人を死に至らしめることさえ可能であると錯覚するほど圧倒的な闘気。
身体が、動かせない。
いや、それは正確ではない。今も手は、肩は、膝はガクガクと小刻みに震えているのだ。
固定されてしまったのは身体の軸だ。
まるで頭上から大きな杭で地面に打ち付けれられてしまったかのように『後を振り返ることが出来ない』のだ。
「そんなに震えてどうしたというのだ? 折角話し掛けておるのだ。こちらを向いたらどうだ? ん?」
「…………くっ!?」
引き摺るように、何秒も掛けて、ようやく士郎は背後のしわがれた声の老人を睨み付けた。
紫色の胴着。銀色の髪と長いお下げ。どう見ても何十歳も年上の老人にしか見えない。
だが――
躯は痛いほど理解している。本能が全力で警鐘を鳴らしている。
脅えた小動物のように全身の器官が大脳へと命令を送る。
全身全霊を賭けても、眼の前の相手にだけは敵う筈がない。そう錯覚してしまいそうになる。
闘う前から敗北しているのか? 在り得ない。自分に限ってそんなことは……。
(何なんだ……!! コイツは、こんな……こんな化物が……っ!?)
だが、心の奥でゆらりと芽生えた疑惑を握り潰すには不十分だった。
ランサーに突然、非現実的な戦いの渦の中へと蹴落とされた時も――
言峰の教会から家へと帰る最中にバーサーカーと初めて出くわした時も――
黄金のサーヴァント、ギルガメッシュに襲撃された時も――
「ククク……蛇に睨まれた蛙と言った所か。貴様も螺旋の王に招聘された戦士の一人なのだろう?
既に闘う気概をこれっぽっちも感じんと言うのはどういうことだ?」
――ここまで、心の底から実力の差を痛感したことは一度も無かった。
「だ……れ……だっ!! アンタは……アンタは…………いったい、誰なんだっ!?」
士郎は吼えた。
しかし、腹の底から打ち出した叫びはフラフラと空を舞う蟲のようにか細く脆い。
老人はそんな士郎の態度を見据え、小さく笑いを噛み殺しながら告げた。
「ワシか? ククク、覚えておくがよい。ワシは東方不敗・マスターアジア」
「東方……不敗」
もう一度、士郎は眼を背けたくなる気持ちを抑えつつ東方不敗と名乗った老人を睨めつけた。
(俺は……幻覚を見ているのか?)
我が目を疑う、とはこのことだろう。
明らかに眼の前の老人は異様だった。
確かに彼の全身から湯気のように立ち上る凄まじい闘気を別にしても、だ。
士郎の頭は少なくとも異常を認識することに対してある程度の自信を持っていた。
そして危険を察知する能力もそれなりである筈だ。
だから老人、東方不敗が放つについても理性的な頭で噛み砕くことが出来る筈なのだ。
「小僧、深くその胸に刻み込むがいい。それがワシの名、今からお前の息の根を止める男の名だ」
ぐるぐる、回る。
ゆらゆら、揺れる
ぐらぐら、振れる。
くるくる、落ちる。
螺旋を描くように東方不敗の躯から吹き昇る緑色の風。
勢いに飲まれてはいけない。
相手のペースに嵌ってはいけない。
理性は心へ、身体へ楔を打ち込む。
一歩、一歩と自然に後退りをしている臆病な自分を叱責する。
だけど一つだけ。少なくともこれくらいは妥協してもいいのではないだろうか。
つまり、現状を端的な言葉で分析するということ。
概してその総評は敗北宣言と同意義となるのだが、それだけ力の差は歴然としていた。
――コイツは、絶対に出会ってはならない相手だった。
□
ドン、という音を立てて、士郎の両手からスーパーの袋が零れ落ちた。
そして、それが開幕の合図となった。
ゆらりと濡れた月光が、少しだけ背の低くなったビルの隙間から二人を照らした。
(退却は不可能……戦うしか……ッ、ない!!)
何百、何千と言う修練を積んだ躯は自然と反応する。
創造理念と基本骨子を脳内で処理し、只一つの回答を導き出す。
脳裏に浮かぶのは剣。士郎にとっての『魔術属性』である王権と力の象徴を。
「――――投影(トレース)、開始(オン)」
瞬く間もなく、士郎の両手に雌雄の双剣、干将・莫耶が投影される。
陽剣干将と陰剣莫耶。
士郎にとって最も手に馴染む武器であり、死んだ筈の英霊――アーチャーが愛用する武器でもある。
まさに彼にとっての最善の一手。相手の出方を伺うにしろ、牽制するにしろ一つ目の動作としてこれ以上の選択肢はない。
「かぁぁぁああっ!!!」
東方不敗が一瞬で数メートル近くあった筈の間合いを詰め接近してくる。
まずは小手調べと言った所だろうか。ギリギリながら、士郎の眼でもその動きを追うことが出来る。
だが、闘うに値しない相手であるならば一瞬で息の根を止めることが可能な、悪魔の如き意志が込められた突進である。
「くっ!!」
その突撃を双剣で受け止める。
伝わってくる衝撃はまるでブルドーザーを受け止めたかのような圧倒的な力に満ちていた。
目にも止まらぬ速度で繰り出される連撃。
付いていくのがやっと…………違う、
――明らかに捌き切れない。
マグナム弾のような右の正拳が士郎の脇腹へと炸裂した。
まるでそのまま躯を貫通して、背中へと突き抜けてしまうのではないかというような錯覚。
ポキリ、と明らかに何本かの肋骨が砕かれた感触が脳髄を駆け上がる。
いや、おそらくそれが『貫手』であったならば士郎の躯は串刺しにされていただろう。
東方不敗は己の拳を《刃物》として扱うのではなく、《鈍器》として士郎へと打ち込むことを選択したのである。
「ぐっ……あっ……!!」
「……ふむ、足りんなぁ小僧」
「なん……だと……ぐッ……!!」
胃袋から込み上げて来る不快感を必死で飲み込む。
取り落とした干将・莫耶が砕け散る音が脳を震わせた。
たったの、一発。
それだけで今、士郎は全身を駆け回る苦痛に苛まれていた。
だが、それでも頭は、心は大分落ち着いて来たと言えるだろう。
東方不敗と遭遇した直後の震えは完全に止まっていた。
「安心するがいい。"まだ"殺すつもりはない。今の一撃は貴様への問い掛けだ」
「どう、いう……意味だ……」
「何、単純なことよ。貴様の仲間達は何処にいるのだ?」
ドクン、と一度心臓が大きく鼓動を打った。
背中の神経を抜け、熱が一気に思考を侵蝕する。
何故、知っている。
何故、そんなことを聞く。
そんな情報を手に入れて、いったいどうするつもりだというのだろう。
(まさか……皆をッ!? 駄目だ、コイツをイリヤ達のいる場所に行かせる訳にはいかない!)
士郎の脳裏に浮かぶのはまず、老人のこの状況におけるスタンスを見極めるべき、という意志だった。
そうだ、自分は目の前の老人について何も知らない。
明智が示唆した明確な危険人物……というのもいまいち思い出せない。
所持している情報は彼の名前が「東方不敗マスター・マジア」であるということぐらいだ。それと、
「仲間なんて、俺には……いない。
大体、そんな奴らがいたら、こんな場所をぶらぶらほっつき歩いている訳ないだろう。爺さんの……勘違いじゃないか?」
「ふむ、その言い分には一理ある。
このような闘いの匂いが色濃く残る場所に進んで足を踏み入れるのは、余程の死にたがりか狂人だけかもしれんな」
「……ああ。それには俺も同意だな。そうだ……アンタ、ドモン・カッシュの知り合いか……何かか?」
彼の拳の『型』が、依然遭遇した格闘家ドモン・カッシュとそっくりであるということ。
(分析しろ、衛宮士郎。奴は一体何を考えている? ただ殺すことだけが目的じゃない。
奴はそのもっと先、最奥にある何かを見据えて行動している筈だ)
士郎はジッと目を凝らして眼の前の老人を観察する。
やはり気になるのは、彼の身体から渦巻いている緑色の光だ。
この輝きは一体……?
「……ククク。奴を……いや、奴の"拳"を知っておったか。道理で剣の動きに淀みがないと思ったわ。だが――」
不敵な笑いを浮かべた東方不敗が、その言葉と共に、小さく溜息をついた。
「まだまだ、若いな。我が弟子ながら情けない。人を見る目はそうそう鍛えられないものか……」
「弟子、だと!? じゃあ、まさかアンタは……」
該当する答えはすなわち、師弟関係。
自分をまるで幼い子供のように扱ったあの男の師匠がこの男、東方不敗だと言うのだろうか。
確かに、それならばこの圧倒的な強さも頷ける。
「そう、ドモンとワシは共に流派東方不敗を修めし武道家よ。
しかし、小僧。貴様もう少しマシな嘘は付けんのか? 余程仲間が大切と見える」
「お、俺は嘘なんて……っ!!」
「……貴様が持っていた食材、何人前だ?」
「――ッ!!」
思わず、後方にぶちまけた鍋の食材を一瞥する。
そうだ、冷静な頭で考えれば子供にだって分かる問題だ。
いくら何でも一人であれだけの量を食べる人間、というのは考え難い。それならば仲間がいる――と想定するのは、当然ともいえよう。
東方不敗の雰囲気に呑まれ、対して考えもせずに口から出任せを言ってしまったことは後悔し切れない。
「しかも一人でやって来ているということは、本拠地はすぐ近く――そう映画館、と言った所か」
「ぐっ!!」
「図星、か?」
「……皆を、どうするつもりだ」
ここまで来れば下手な嘘は何の効果もない。
士郎は早鐘を打ち鳴らす心臓に必死で「静まれ」と言い聞かせながら、問い掛ける。
「ふむ、一人や二人ならばやり方も様々だが……五、六人かそれ以上はいるのだろう? それならば――」
一瞬、言葉を止め、士郎の心の奥底を東方不敗は睨みつけ、
「皆殺し、というのはどうだ?」
絶望的な一言を吐き出した。
□
「……何故だ」
「ワシは優勝を目指しておる。他の参加者を殺すことに何の躊躇いがあろうかっ!
加えてもうすぐで一日目が終わる。疲労が躯に蓄積し、動きも鈍る時間帯――絶好の"狩り"の時間だと思わんか?」
何かがカチリ、と音を立てて切り替わった。
残酷な笑みを浮かべ、声高らかにぶち上げる東方不敗。
彼が全身から放つ闘気は更に勢いを増し、黒色と灰色に染まった街並みを打ち鳴らす。
"普通の人間"ならば、一瞬でこの雰囲気に呑まれてしまったことだろう。
士郎でさえ、そうだ。出会った直後の士郎であれば、もはや東方不敗を見つめることさえ拒否感を覚えていた筈だ。
だが衛宮士郎はお世辞にも、曲がり間違っても"普通の人間"などとして括ることは不可能な人間だった。
「……俺さ、爺さん。アンタを見た瞬間、正直な話……"絶対に勝てない"って思ったんだ」
「ほう。闘わずして負けを認めるか。それとも命乞いか? 仲間を差し出してでも己の命が欲しいか?」
淡々と。
懺悔する信徒のような口調で。
士郎の思考を支配していたのは原始染みた"本能"などでは決してなかった。
「ああ、この男はドモン・カッシュとは違うんだ」という漠然とした意識。
同門の武道家なのにここまで違うものなのか、という驚きがその中には多分に含まれる。
そして、それだけだった。
恐怖は、ない。
老人の言葉で全て吹き飛んだ。
殺す? 誰をだ?
イリヤか?
明智か?
ねねねか?
ラッドか?
清麿か?
それとも、まだ顔も見たことのない仲間か?
死ぬのか? 皆が? 本当に?
「……ふざけるな」
呟くような呻きとして、漏れた怒りの感情。
溜息にもにたその囁きは東方不敗の鼓膜を震わすこともなく、空気に溶けた。
それは、絶対にあってはならないことだ。
そうだ――俺は、誰かが死ぬのが怖いんだ。
俺の命が尽きて、塵になって、抹消されることの何倍も何十倍も、何百倍も。
眼の前で誰かの命が消えていくことが、守れないことが何よりも辛いんだ。
だから、人の命を救うためには何だってやってやる。
だって、それが、正義の味方が在るべき姿なのだから。
「だがその選択は認めん!! この空間に呼び出されたからには闘って闘って死力を尽くしてから死ねぇぃい!!!」
東方不敗の声は鼓膜を突き抜け、そして体内へと侵入し、消化された。
ああ、戦ってやるよ。それがお望みならな。
精神を、身体を、そして魂を、奥底から支配する自らの尊厳――つまり、"セイギノミカタ"であること。
その理想郷を守れるんだったら……!!
「爺さん。アンタ……何なんだ?」
「……? 面白いことを聞く小僧だ。ワシが人に見えぬというか!?
確かに参加者の中に宇宙人はいる。だが、ワシは正真正銘の地球人よ!! それ以外の何に見えるというのだっ!?」
「――――悪人さ」
「……ほう」
正義の味方は仲間を守るもの。
正義の味方は悪の怪人と戦うもの。
それは色鮮やかな衣装に身を包んだ戦隊ヒーローでなくても出来ることだ。
……いや、やっぱり訂正だ。
雰囲気付けが出来るのならばソレに越したことはない。色はやっぱり"赤"がいいかもしれない。
今から自分が戦うのは英霊でも魔術師でもない一人の武道家。そして悪の親玉だ。つまり、
「おい、爺さん。命乞い、って言ったっけ? 残念だけど俺は絶対にそんなことはしない。
性分なんだ。自分の命よりも他の人間の方がずっと……大切さ」
「小僧――中々、良い目も出来るではないか」
「アンタに褒められても嬉しくない。それにさ、まるでアンタは俺を殺して皆の所に行く前提で話しているけどさ――」
決して、背を向けることの出来ない相手だ。
ヒーローは皆を守らなければならない。
折れない。譲らない。
不器用なまでの頑固さで眼前の悪を撃滅する生き物なのだ。
そう夢を見ていれば、いつか――憧れた正義の味方になれる気がした。
士郎の頭に浮かんだのは一人の男の背中だった。
浅黒い肌、白い髪、そして鍛え抜かれた技術に裏付けされた戦闘力に自らの信念を持った男。
何の因果か、自分があの魔術礼装を用いるとアイツの服が現れるのだ。
それが何故かは分からない。性格も気に食わないし、いけ好かない。正直な話、大嫌いだった。
だけど、今、この瞬間だけは、アイツのようになりたいと思った。
高潔でいつまでもその信念を貫き通したアイツのように。
だから、その最期の言葉を――東方不敗に叩き付けた。
「別に、俺がアンタを倒しちまっても構わないんだろう?」
それが、士郎にとってこの戦いで生まれた初めての余裕だった。
指先のクラールヴィントに魔力を込め、そしてバリアジャケットを展開させる。
綺羅星のような輝きの後、士郎の身体は見慣れた"ある男"の衣装へと変貌していた。
弓騎士のサーヴァント、アーチャー――いや、《英霊エミヤ》が身に纏う赤い聖骸布へと。
「――――投影(トレース)」
「――――完了(オフ)」
そして続けざまに投影。生み出したのは当然、あの雌雄の双剣――干将、そして莫耶。
「さぁやろうぜ、爺さん! それとも俺じゃあ不服かい?」
「ククク……ハッハッハッハッハ!! よくぞ吼えた、小僧!! それでこそ螺旋王の選びし螺旋の戦士よ!!」
干将の切っ先を東方不敗へと向けながら、士郎が威勢よく啖呵を切った。
大気を震わせるような怒声でもって一喝。
ビリビリとまるで衝撃波のように、音の波が廃墟と化した街を駆け抜ける。
夜の闇が空を濡らし、静謐な空気が熱く燃え滾るマグマのように加熱する。
凛とした世界は一瞬で男と男の戦場へと変わった。
この場で拳と剣を重ねるのは一人の螺旋に目覚めた武道家と、そして――
正義の味方に憧れる少年だけだった。
□
――約束された勝利など、掌の中にある訳がなくて。
「くッ!!」
「どうした小僧ぉ!!! 息が乱れておるぞっ!?」
気概や理想などで埋められるほど、両者の間に刻まれた年月の皺は深くはなかった。
東方不敗の実力は血の滲むような修練と天賦の才によって気付かれた年輪のようなもの。
彼――東方不敗は天才だった。
それに対抗するためには、衛宮士郎が生きた時間は明らかに短い。
東方不敗は彼の二倍以上の年月を生き、そして四十九歳という齢を持ってして習熟した肉体を持っている。
「まだだ!!」
「甘いわっ!! その程度の攻撃、見切れずして何がマスターアジアか!?」
交差する剣と拳。
その実力の差は、天と地ほどに離れている。
真正面からの馬鹿のような――ぶつかり合いで士郎に分がある訳がなかった。
(勝負の機会は一度だけ――ッ!!)
故に士郎が選択した戦法は戦士として、あるまじき一手だった。
つまり、一撃必殺に全てを賭ける、ということだ。
現在の士郎が用いることが可能な最大の攻め――『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』を投影することに他ならない。
力、技、心――どれを取っても士郎は東方不敗に敵わない。
つまり、干将・莫耶を用いた接近戦では勝機はほぼゼロパーセントに近い、という訳だ。
だからと言って、先程手に入れたルールブレイカーはこの状況では何の役にも立たない。
故に、自らと東方不敗を分ける分水嶺とは《魔術》の存在だけ。
《強化》と《投影》しか出来ない魔術師である士郎にとって、選択の余地はなかった。
距離を、取る。
東方不敗の接近を避けつつ、そして不信がられない最適の距離を。
そして『あの場所に誘い込む』のだ。
今士郎がやるべきことは、発動のタイミングを見計らうことだった。
カリバーンを投影し、絶対的に不可避の状況を作り出す必要がある。
真名解放による宝具の行使は今の魔力残量では一度だけが限界。それ以上は命に関わる。
自らの生死に関する懸念ではなく、今ここで自分が倒れればイリヤ達に危険が及ぶのだ。
ならば決して倒れる訳にはいかない、死ぬ訳にもいかない――そういうことになる。
「これならどうだッ!!」
「――むぅっ!」
『惹かれ合う双剣』である、莫耶をブーメランのように投擲する。
東方不敗は当たり前のようにソレを回避。叩き落されなかったのは幸運だ。
新しく投影するためには微量ながら魔力を消費する。
結局、カリバーン以外の全ては囮だ。
干将・莫耶による斬撃に意味はない。
何もかもが時間稼ぎと好機を見計らっているという事実を悟られないためのフェイク。
(俺の剣術じゃ爺さんを止められない。退却するのも今からじゃ遅すぎる……! だから……っ!!)
その一撃に全てを賭けるしかなかった。
勝機は必ず来る。それだけを信じて。
□
何分、打ち合ったのだろうか。
時間の感覚はとっくに麻痺してしまった。
投影した干将・莫耶もこれでそれぞれ三本目。
掌握されただけで魔力で創り出した剣を叩き折る東方不敗の胆力には度肝を抜かれる。
東方不敗はその気になれば、いつでもコチラを仕留めることが出来た筈だった。
だが、ソレを奴はしなかった。
遊んでいる――という訳ではないだろう。
おそらくあの男、ドモン・カッシュと似たような理由なのだろう。
同門の武道家だけあってやはり、どこか雰囲気や佇まいに共通点が見られる。
そしてそれ以上に分かり易いのが格闘スタイルだ。
あの一瞬のドモン・カッシュとの鍛錬は決して無駄ではなかったようだ。
明らかに身体が追いつかない部分であっても、『身体が微妙に覚えている』
つまり、確実に命を奪うつもりで放たれた打撃を防御出来たため、被害を最小限に抑えることが可能だった、という訳だ。
おそらく東方不敗も全力で戦闘することが出来ずにいるのだろう。
五人、六人という大人数が控えていることは奴も理解している。
そのため、出来るだけ少ない労力で士郎を斃そうとしている。
「……時に贋作使いよ。名前を聞いてなかったな」
「衛宮士郎。覚えて貰わなくて結構さ、爺さん。それに――準備は整ったんだ」
「準備……だとっ? まさか!?」
「俺とアンタの最大の違いは機動力。だから"ソレ"を殺させて貰った」
「――室内戦に持ち込むことが望みだったか」
東方不敗が憎々しげに呟いた。
体力を温存しつつ戦っていたのが仇になった形だ。
そう、士郎は東方不敗を『ほとんど無傷な状態に近いビル』へと誘い込んだのである。
「そして……ここからが本番さ――――投影(トレース)、開始(オン)」
カラン、という乾いた音と共に干将・莫耶を投げ捨てる。
そして現れたのは煌びやかな装飾の施された聖剣カリバーン。
士郎は小さく息を吐き出しながら、獲物を両手で構えた。
「ほう。二刀流よりも一刀流こそが本願だということか?」
「そんな……所さ」
東方不敗が意外そうな表情のまま、そう呟いた。
それは彼が始めてみせる類の反応だと、何となく士郎は思った。
士郎と東方不敗の距離は約十メートル。
真名解放には十分過ぎるほどの距離。
『約束された勝利の剣』を使用するための条件が整ったことになる。
「爺さん――アンタは本当に、強かったよ」
カリバーンを大きく頭上へと掲げる。
「何だ、その台詞は……? 辞世の句のつもりか?」
「違う。これは――」
東方不敗が肩を竦め、士郎を笑い飛ばした。
どっちがさ。笑いたいのは――こっちの方だ。
「ただの、勝利宣言だ」
「まさかッ!!!!!」
凄まじい勢いでこちらへと突進してくる東方不敗。
その速度は今まで士郎と戦っていたスピードの倍以上だ。
気付いたか。
――だけど、もう遅い。
右足を一歩、踏み出す。ザラザラとした感触が靴の裏側を通して伝わって来る。
――見据えるは拳王・東方不敗マスターアジアの鬼気迫る形相。
――構えるは伝説に名を残す騎士王アルトリアの聖剣。
――打ち砕くは悪に満ちた意志。その背後に潜む螺旋王の真意。
――そして、振るうは名もなき魔術師。
――腹の底から叫べ、その剣の名を。
「――――勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!」
輝いた刀身が放つ極光が全てを切り裂く。
ビデオのスローモーションのように全てがゆっくりと動いているように見えた。
光で眼が潰れてしまいそうだった。
ガラガラ、と音を立てながらビルが崩れる。そしてカリバーンの輝きに呑まれて消滅する。
全てが、無に還る。
全てが、消えてなくなる。
□
「はぁっ……はぁっ…………」
瓦礫山は『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』の一撃によって塵と化した。
投影、そして身体中に残った魔力のフルドライブによる真名解放。
確実に、仕留めた。間違いない――
「小僧、手品は終いか?」
「な――!?」
筈だったのに。
東方不敗は無傷だった。全く、いやこれっぽちも傷を負っていない。
背後から幽鬼のようにゆらりと、姿を現した奴は小さく笑っていた。
「馬鹿な……っ! 俺は……確かにっ!!」
士郎は思わず声を荒げた。
全力による投影、後の事を一切考えずに放った狙い済ませた必殺の一撃。
タイミングは完璧だった。間合いも十分だ。
そして光の波によって掻き消えて行く東方不敗の身体……確かにこの眼で見たはずだ。
「この阿呆がっっっっ!!!! 陳腐なまやかしにさえ気付かぬとは貴様それでも戦士か!!!!」
「まや……かし!?」
「十二王方牌大車併――分身、という使い方もある。もっとも、児戯故普通は気付く……正常な頭であればな」
ニタリ、と口元を歪めながら東方不敗の躯が真夏の陽炎のように揺らめいた。
魔力を消耗し、全身の魔力回路が悲鳴を上げている。
そんな今にも倒れてしまいそうな激痛、だが意識だけはハッキリしている。
つまり、フェイク。
贋作使いがまんまと相手の紛い物に騙された、という事なのか。
「小僧、貴様は闘う前から負けていたのだ」
「……ッ!!」
「一撃必殺などと言う安易な戦法がワシに通用すると思ったか? ワシが貴様を仕留めなかったのも、その気配を察知していたからよ!
残念なことは……それが二回目であったことか。貴様が造り出した剣――カリバーンと言ったか。
その技をワシは一度見ておるのだ。それ所か、ほんの数刻前までその剣はワシが持っておったのだよ。
露呈した切り札ほど愚かなものはあるまい。貴様の浅はかな蠢動など、その剣が現れた瞬間瓦解したわ!」
士郎のカリバーンは当然、投影により造り出した贋作である。
なぜなら、今現在、オリジナルのカリバーンはE-6にて埋もれている。
そして、螺旋力に目覚めたDボゥイが数時間前に『勝利すべき黄金の剣』をこの東方不敗に放っているのだ。
そしてその一撃でさえ、東方不敗に傷一つ付けられず回避された。
つまり、二回目であれば勝算が残っている筈もなかったのだ。
「先程見せた眼――死と乖離した思い切りの良さ! ワシはそれなりに貴様を評価していたのだがな……」
衛宮士郎の魔術属性は『剣』である。
一度その目で見た剣であれば、すぐさま投影することが可能である。
残念ながら、イリヤが持っていた『支給品リスト』の画像では基本骨子を解析するには至らず、投影することは難しい。
カリバーンはまたの名をカルブリヌスと言う。
様々な誤解もあるが、アーサー王伝説にある『岩に突き刺さった選定の剣』の本当の正体はこのカリバーンなのである。
そして、戦いの中で破損したカリバーンの破片を「湖の乙女」が修復した剣こそがエクスカリバーなのだ。
衛宮士郎が投影可能な宝具は三つ。
――アーチャーの使用する双剣『干将・莫耶』
――セイバーを召喚した触媒であり、最強の盾『全て遠き理想郷(アヴァロン)』
――そして、"士郎が想像する最強の武器"である『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』
『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を投影するためには決定的に"何か"が足りない。
つまり、現在の彼にとって東方不敗に対抗するための、切り札は一つしかなかった。
そして――それが、破られた。
それは、矢尽き刀折れた純粋なる終焉を、意味する。
「――さらばだ、若き贋作使いよ」
赤い聖骸布が、空を舞った。
□
「…………え?」
「気付いたか、小僧」
「お……れ、ぐッ……いき……て?」
息が、出来ない。
何故だ? 俺は死んだ筈……なのに。
「――貴様は人質だ」
「ひと……じち?」
「そう。大人数、それはそれは情報なども集まっているだろう。だが、この場において情報は何にも変え難いもの。
ただ襲撃しただけで、おいそれと手掛かりを渡すとは思えん」
首にしっかりと東方不敗の腰布が巻きついている。
一体どういう原理なのだろうか。
窒息する訳でもないが、呼吸が十分と言う訳でもない。活かさず殺さず、という言葉がピンと来る。
「故に貴様の存在よ。お人よしの貴様の仲間の事だ。
『情報を渡さなければコイツを殺す』と言った時、どうなるか……今から楽しみだわい」
「俺が……そんなことは……させ……ない」
「無駄な抵抗は止めることだ。自殺など考えるでないぞ?
最期まで、貴様が大人しくしていたら――気が変わって、一人くらい生かしてやるかもしれん」
その言葉で俺は磔にされてしまった。
俺が、死ぬのは怖くない。
そうだ。皆に迷惑を掛けるくらいなら、今ここで舌を噛み切っても構わない。
だけど――こんな事を言われたら、自害なんて出来る筈がない。
空は寂しげな黄金の月が瞬き、無言で大地を照らす。
朽ち果てた都市と二人の男。
一人は拳士。とある武術を極限まで修めた最強の武道家。
一人は魔術師。一般的には非生産的と言われる《投影》と《強化》に特化した少年。
幽玄の時に終わりなどないように、二人の戦いは終わりを告げた。
観客のいないその激突は、醜くもあり美しくもあった。
闇を照らすは月の光だけ。英雄の姿を真似、少年は戦いへと赴いた。
そして、その全力が紡ぎ出した《黄金の光》はか弱い蛍のように蹴散らされた。これが全ての顛末だ。
赤い弓騎士の本当の最期を少年は知らない。
ソレを知るのは、少年の帰りを待つ雪割りの花のような幼き少女だけ。
ただ一つだけ、確かなことがあったとすれば、
――その男は確かに英雄だったという事。それだけ。
【C-6/瓦礫山/一日目/夜中】
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(極大)、魔力消費(極大)、腹部と頭部を強打、全身に大ダメージ、肋骨三本骨折、
左腕骨折、左大腿骨にひび、頭部から出血、意識朦朧、左肩に銃創(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本方針:螺旋王の実験を食い止める。イリヤを守る
1:???
[備考]:
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※ロイドの言葉を受け、ある程度ですが無駄死にを避けてより多くの人を救う選択を意識できる様になりました。
※士郎のバリアジャケットは英霊エミヤ(アーチャーの赤い聖骸布)
※首にマスタークロスを巻きつけられて東方不敗に引き摺られています。
※C-6に鍋の材料(七人前)が散乱。
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身にダメージ 特に腹部に無視できぬ大ダメージ 疲労(中) 螺旋力覚醒
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム、クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(一食分消費)、レガートの金属糸@トライガン 、ルールブレイカー@Fate/stay night、卓上コンロ用ガスボンベx2
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。
1:映画館へ行き士郎の仲間を襲撃し、士郎を人質に情報を入手してから皆殺しにする。
2:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:そしてドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
※137話「くずれゆく……」中のキャラの行動と会話をどこまで把握しているかは不明です
※173話「REASON(前・後編)」の会話は把握しています。
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。
本人も半信半疑です。
※Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 ですが、『なんらかの要因』については未だ知りません。
ついでに、自分自身が覚醒していることも知りません。
削除依頼済
あきらかに投降スピード落ちてきたなwww
261 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/02(日) 23:11:04 ID:8Mndc79s
うこん
■
鴇羽舞衣について。
病弱な少年、健気に語る。
小さいころにお母さんが死んじゃったから、ボクはお母さんを知らない。
けど、全然寂しくなかたんだ。
だって、お姉ちゃんはお母さんみたいだったから。
いつもボクを守ってくれて、抱き占めてくれて。
お姉ちゃんがいたから、こんな体のボクでもここまで生きてこれたんだ。
本当に感謝してる。
こんな言葉なんかじゃ言い表せないくらいに。
だからさ、ボクはお姉ちゃんには笑っていて欲しいんだ。
例え、ボクにもしもの事があっても、悲しまないで笑っていてほしい。
だって、ボクは本当に幸せだったんだから。
お姉ちゃんがいつも傍にいてくれて、ボクは全然寂しくなかった。
けど、時々思うんだ。
お姉ちゃんはボクなんかのために自分の幸せを犠牲にしるんじゃないかって。
ボクのために色んな物を我慢してるんじゃないかって。
お姉ちゃんは本当はもっと自由になりたいんじゃないかって。
ボクさえいなければ、お姉ちゃんは自由になれるんじゃないかって、そう思ってしまうんだ。
あっ・今のはお姉ちゃんには内緒ね。
たぶん、ボクがこういうこと言うと、お姉ちゃんすごく怒って、すごく、悲しむから。
それにさ、ほら、本人は、絶対認めないと思うけど。
お姉ちゃんああ見えて結構弱虫なところもあるんだ。
だから、誰かお姉ちゃんを支えてくれる人が見つかるといいな。楯さんとか。
別に、楯さんじゃなくてもいいんだけど。
お姉ちゃんを支えてくれる誰かがいてくれたらボクも安心できるんだけど。
とにかく、お姉ちゃんには幸せになってほしい。
もし僕がいなくなっても強いお姉ちゃんでいられるように、何か大切な物を見つけてほしい。
うん。けど、それもこれもボクが手術を成功させて、お姉ちゃんを守れるくらい強くなれたら一番いいんだけどね。
■
夜の中、Dボゥイと舞衣は連れ添うように歩いていた。
目的地は病院。
他に当てがなかったというのもあるが、輸血用の血液がある可能性など他にない。
多少の危険はあるが、正直な話、ここはどこもかしこも戦場だ。
どこにいても大差ない。というのがDボゥイの見解だ。
舞衣も明確に反対する理由もないし、Dボゥイについて行くと決めた以上異論はなかった。
時折貧血にふらつくDボゥイを支えながら、二人は道を南下していた。
そんな二人の上空から、唐突に風きり音が聞こえてきた。
何事かと思い二人は空を見上げる。
そして、そこから降りてくるモノがなんであるかを理解した舞衣は身を強張らせた。
「よぅ、こんばんは舞衣ちゃん。
久しぶり、って程でもねぇか。まだあれから半日もたってねえ訳だしな」
見上げた空から舞い降りたのは、白服の死神だった。
青い目をした死神は嫌に親しげに夜の挨拶を交わす。
対する少女は口を噤み、その動きを止める。
「なんだ? 舞衣の知り合いか?」
Dボゥイは硬直する舞衣の様子に気付かず、男に向かって声をかけた。
見るからに怪しい男だったが、舞衣に対して妙にフレンドリーな態度である事から敵対者ではないと考えたからだ。
「お? おお!? なんだよ、よく見りゃ連れはアンタだったかい。
いいねいいね、最高についてるぜこりゃ!
こんなに早く兄貴の方にも出会えるだなんて!」
フラップターから降りたラッドは、地団駄を踏みながら歓喜に満ちた叫びをあげる。
同時にDボゥイもラッドの言葉に目を見開いた。
「兄貴? まさかアンタ、シンヤと会ったのか?」
「ああ、会ったぜ、ついさっきな」
Dボゥイにとって予想通りの返答。
この場にDボゥイを兄と呼ぶ相手は一人しかいない。
その呼び名が出たと言う事はつまり、そいうことだ。
まさか、このような形でシンヤの手がかりが手に入るとは。
Dボゥイはこれがまさに天から降ってきた僥倖だと、信じて疑わなかった。
「本当か!? だったら、頼む。教えてくれ!
ゆたかは、一緒にいた女の子は無事だったのか!?」
まず始めにDボゥイが尋ねたのはそれだった。
喰らいつく勢いで迫るDボゥイに対し、ラッドはこいつもあれか? などと若干引きつつもその質問に答える。
「ゆたか? ああ、あのガキね。
無事だぜ。意識はなかった見たいだけど、寝てるだけみたいだったな」
「そうか……よかった」
ゆたかの無事を聞きDボゥイはひとまず胸をなでおろす。
だが、すぐさまその安堵の表情を打ち消し、表情と共に気を引き締めた。
「続けざまで済まないが、もう一つ教えてくれ。
シンヤは、テッカマンエビルは今どこにいるんだ?
知っているんなら教えてくれ。頼む」
放っておけば土下座でもしかねないほど、強い決意と真摯さを込めたDボゥイの問い。
それとはまったく対象的に本当に気楽に、友人を食事にさそうような気軽さでラッドは言った。
「どこ、つーか。死んだぜ、あいつなら」
「―――――――――、何?」
そんな返答は予想すらしていなかったのか。
ラッドの言葉にDボゥイの思考は停止した。
「つか」
衝撃受け停止するDボゥイを気にせず、ラッドは続けて口を開く。
「俺が殺した」
■
相羽兄弟について。
年配の男、懐かしむように語る。
あの兄弟について、か。
そうだな、まあ付き合いは長い。
まあ、言って見りゃ両方俺のガキみたいなもんだな。
だから、例えタカヤ坊。いや、ブレイドがオレ等を裏切った後だとしても、アイツが成長すんのは嬉しいもんだ。
矛盾してるかい? まあ、そうだろうな。
アイツはいずれオレを殺すかもしれねえ。
そして、シンヤ坊を殺すかもしれねえ。
それでも、思っちまうもんは仕方がねえだろ。
あの双子はいわば鷲と鷹。
両方とも抜きん出た才能を持つ天才さ、間違いなくな。
指導者を必要とするタイプと必要としないタイプ。その程度の違いはあったがね。
シンヤ坊に格闘技を仕込んだのは、オレだがよ。
シンヤ坊のタカヤ坊への対抗心は、一言でいや異常だったな。
まあ、それを煽ってたオレが口にする事じゃないだろうが。
ありゃ憎しみつてもいいだろう。
けどその憎しみも、ほんの少しだけ歯車がズレちまっただけさ。
あの火事から、少しずつズレちまった歯車がな。
まあ、それ歯車もラダムのせいで完全に壊れちまったが、
おっといけねぇ、こんなことエビル様に聞かれたら殺されちまうかね。
まあなんだ、あの二人は内心では嫌いあってた理由じゃない。
シンヤ坊は自分でもわかってないみたいだけどな。
なんせ双子の兄弟だ本気で嫌いあうはずもねぇさ。
まあ、ラダムになっちまった今、それもこれももう手遅れってのが、悲しいと言えば悲しいがね。
■
「……何を、言っている?」
意識がふらつく。
気分が悪い。
貧血の所為じゃない。
目の前の男が訳のわからないことを言ったからだ。
目の前の男は今なんと言ったのか?
「なにって、この返り血見てわかんねぇか?
こりゃオマエの弟の血だぜ? 双子なんだろ、それくらいわかれよ。
って、悪ぃ悪ぃ。わかるわけねぇか。ヒャハハハハハ!」
赤い斑点を見せつけるように白服が笑う。
頭が痛い。
男の高笑いが酷く五月蝿い。
目の前の男が何を言っているのか理解できない。
いったい男は何を言っているのか。
「何を、言って、」
理解できない男の言葉が頭の中に纏わりついて酷く気持ち悪い。
いや、言葉の意味はわかる。
だが、理解はできない。
だって、そんな事があるはずがない。
Dボゥイだって、この戦場が一筋縄で行かないのは十分知っている。
自分自身もこの場で幾度も遅れを取り、手痛い傷を負っている。
だが、シンヤは違う。違うんだ。
無謀に突っ込んでいくデンジャラスボーイと違って、シンヤは何事も努力を重ね完璧にこなすパーフェクトボーイだ。
そのシンヤが負けた?
そのシンヤが、死んだ?
ありえない。
テッカマンを殺せるのは、テッカマンだけだ。
いや、テックセットせずとも、その身体能力は常人の非ではない。
そんなシンヤが殺されるはずがない。
そんなシンヤを殺せるのは、
「そんな強い強い弟を、ブッ殺せるのはこの俺様しない、とか思ってんじゃねぇだろうな?」
深く沈んだDボゥイ思考に割り込み、その先を次いだのは白服を着た殺人鬼だった。
図星を突かれてはっとするDボゥイを殺人鬼は鼻で笑う。
「はん。弟と同じだな、だからアイツも殺してやった訳だが。
拾った力で、人間やめて手にいれた力で、オレは最強だ! オレは絶対に負けない! オレは絶対に殺されない!
なんて温い勘違いしてやがったから、俺が世の中の厳しさってモンを、たぁ〜っぷりと教えてやったのさ!
例え宇宙人様に改造されようとも、どれだけ強かろうとも、死ぬときゃ誰でもゴミみたいに死ぬって現実をな!」
「………………黙れ」
目の前の男はとてもうるさい。
聞きたくも無い事をベラベラと。
触れられたくない場所にズカズカと土足で踏み込んでくる。
「しかしスゲェよな宇宙人だぜ。驚きだよな! アンタもそれに改造されたんだろ?
つか、ホントにいたんだな宇宙人、オレも会えるもんならあって見たいぜ。
なあ? 舞衣ちゃんもそう思うだろ?」
「……黙れ」
唐突に話をフラれても、舞衣にはなにも答えられない。
知りたいと思っていた男の過去だが、こんな形で知らされてもどうして良いのかわからない。
「しかもアンタ、テッカマンってのに変身してその宇宙人ブッ殺して回ってたらしいじゃねぇか。
いいなぁ。オレも殺してぇな宇宙人。
で? どんな感じよ? 宇宙人を殺すってのは?
やっぱ楽しい? 人間と違うのかな、どうなのよそこらへん?」
「黙れと言ってるだろ!!」
「あれぇ? 怒った? 怒っちゃった?
ヤッベぇ。どうすっかなこれ。
ブッ殺すの? ブッ殺されんの? ねぇどっち? どっちなのよ? ねぇねえ!?
ってかおかしくねえ? 確かオタクら兄弟って殺しあう仲だったはずだよな?
そいつが死んでなんで怒るわけ? もしかしてあれ? アイツを倒していいのは俺だけってやつ?」
「煩い! 黙れ! 貴様に、貴様なんかに俺達の何がわかる!?
俺とシンヤの、いったい何がわかるっていうんだ!?」
強く握り占めた拳からは血が流れ。
知らず、Dボゥイの瞳からは一筋の涙が零れていた。
いつか殺し合う運命にあったとしても。
相羽シンヤは相羽タカヤの双子の弟だったことに違いはない。
一つの命を分け合った己の半身であったことに、何一つ違いはないのだ。
その半身が失われたことを嘆いて何が悪い?
弟を喪った兄が涙を流して何が悪い?
その仇を、殺したいほど憎んで何が悪い?
思考にドス黒い闇が広がる。
黒く燃え上がる憎悪が内臓を焦がす。
爪先から髪の毛一本にまで憎しみが染み渡る。
憎い。
憎い憎い憎い。
ただひたすらに目の前の男が憎い。
「……殺す。殺してやる」
漏らした呟きは暗く重々しい怨磋の声だった。
聞くもの全てを呪うようなその言葉に、舞衣は背筋に寒いものを感じ、ラッドはひたらすらに歓喜した。
ラッドだってこの兄弟の関係が単純なものじゃないって事くらい、なんとなくは理解してる。
だが、怒ってくれたほうが動きが読みやすくなって、都合が良いので特に訂正も謝罪もしないが。
「俺を殺すだぁ?
なんだ、ひょっとして、オマエもあれか?
弟と同じで自分は絶対に死なない。
宇宙人に改造されたこのオレが。
宇宙人も余裕でブッ殺せるこのオレ様が!
こんなただの人間ごときに殺されるわけがねぇ!
とか思ってんじゃねえだろうな、あぁん!?」
聞くだけでも不愉快な仇敵の声に、Dボゥイはギリ、と歯を噛み締めた
そして、その相手めがけ、最大限の憎悪と怒りを込めて叫んだ。
「ああそうだ! オレはオマエなんかに絶対に殺されない!
死ぬのはオマエだ! 貴様だけは、オレがこの手で殺してやる!」
Dボゥイの叫びを聞いたラッドの頭の中で、パチリという音が鳴り、それと共に嬉しげに口元が吊り上がる。
それは、歪んだ歪んだ、どうしようもなく捻れきった殺人鬼の笑顔だった。
■
ラッド・ルッソについて。
とある青年、狂々ト語ル。
悲しい……悲しい話をしよう。
ラッドの兄貴は最高に輝いた男さ。
あぁ……駄目だ。悲しい。悲しすぎる。
え? なにが悲しいか、だって?
だって、そうだろ!?
ラッドの兄貴は素敵にイカれた最高の男さ!
それに比べて俺はなんだ? なんなんだ!?
あの人に比べたら俺なんてクズだ! ゴミだ! 壊すしか能のないただのカスだ!
ああ、チクショウ、なんてこった!
ラッドの兄貴について語っていたと思ったら、自分が生きる価値のないゴミクズだったと気付かされるだなんて、こりゃ一体どういう事だ!
何かの罠か!? オレのオレによるオレのためのオレを貶めるための陰謀か!?
なんだ、オレは自殺志願者か? 死ぬのか? 死ねばいいのか!?
悲しい……こんなに悲しい話があるか!? あっていいのか!?
オレに悲しい話をさせて、神はいったいどういうつもりだ!?
この世界はどういうつもりだぁ!?
あぁもう駄目だ。全てが気だるい。
殺せ。いっそ殺してくれ。ラッドの兄貴のように超絶的に超越的に超人的に!
ああぁぁぁぁああぁああ…………ん? んー、あー。…………そうさ!
YES。
ラッドの兄貴の話だろ? 考えたら、こんなに楽しい話もねえ!
ラッドの兄貴は超絶的で超越的で超人的な生粋の殺人狂さ!
これほどデンジャラスでスリリングな存在もいねえ。
オレが『壊す』ことしか考えられないように、ラッドの兄貴は『殺す』ことしか考えられねえんだ。
けどな、ラッドの兄貴がスゲエのは、何でもかんでも考えなしに壊したがるバカなオレと違って、きちんと殺す相手を選んで、殺す方法を考えてるところさ。
つまるところ、ラッドの兄貴は理性的に狂ってるんだ。
素敵だろ!? 最高だろ!?
こんなに最っっ高に素敵にクレイジーでデンジャラスでハッピーでバカな存在は他にいねえぜ!
そして何よりラッドの兄貴が最高なのは、あそこまで見事にぶっ壊れてるのに、あんなにも輝いてるところさ!
そんな素敵で最高な兄貴と出会わせてくれた神様に感謝だ!
だけどな、そんな素的な素的なラッドの兄貴だが、付き会う時にあたって、一番言っては言葉が二つある。
……なに? 一番なのに二つあるのはおかしいだって?
おお! なんてまっとうなる突っ込みだ!
まっとうすぎてなんだかオレ、ワクワクしてきたぞ!
だけどオレは負けない、そのワクワクをすべて受けきって見せる!
さあ、疑問があるならドンドン突っ込んでみろ! ただし、楽しい質問以外は受け付けないぞ!
なに? さっきから語っているオレが誰か、だって?
そんなことはラッドの兄貴の輝きに比べたらどうでもいい話さ。そうだろ?
■
「俺の前で言っちゃ行けない言葉が二つある」
怨磋と殺意の入り混じる空間の中で、何の緊張もなく指を二つ立てた殺人鬼は口を開いた。
「一つは『おじさん』だ。つまらないとか言ってもブッ殺す。
今年で25を向かえる微妙なお歳頃の俺に取っちゃ切実な問題だ。
まあ、そろそろ歳相応に落ち着かにゃならんとは思うが、俺は礼儀のなってない野郎は大嫌いなんで、とりあえず即殺す」
二つ突き出した指を一つ折り。
残った指を強調するように言った。
「そして、もう一つは『俺は絶対に死なない』だ。
俺ぁ、そんな温い考えをしてる奴を殺すのが大好きでね。
その言葉を聞くとよ、俺の頭ん中でパチリって音を立ててスイッチが入るのさ。
何のスイッチかわかるか?」
ラッドの問いに、Dボゥイも舞衣も何一つ答えない。
舞衣は目の前の男を測りかねるように。
Dボゥイは驚くほど冷たい目をしたまま無言を保っていた。
そんな二人の態度もまったく気にせずラッドは謳うように言葉を続ける。
「人を殺せるかどうか、ただそれだけを決める単純なスイッチさ。
俺だけじゃねぇ、人間なら誰の頭にだってこのスイッチはあるんだ。
信じられるか? こんなスイッチ一つで誰でも誰かを殺せるんだぜ?
このスイッチを入れるか入れないか、ただそれだけで人は人を殺せるんだ」
訳のわからない事をいいながら、ラッドは自分のこめかみに突き出していた指を押し当てる。
そして、押し当てた指を弾いて一言。
「パチリ」
そう言って、そのまま自分のこめかみを弾き続ける。
何度も何度も、狂ったように。
「パチリ、パチリ、パチリ、パチリ、パチリ、パチリ、パチリパチリパチリパチリパチリパチリパチリパチリパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチってな!
その言葉を聞くと、しまいにゃあ拍手みたいにスイッチが鳴り続けるんだ」
沈黙を保つ二人とは対象的にラッドは両腕を広げ、実の楽しげに語り続ける。
「そのスイッチが入れば、女だろうと子供だろうとジジイだろうとババアだろうと宇宙人だろうと殺せる」
誰よりも楽しそうに。
誰よりも禍々しく。
誰よりも凶悪に。
「俺は俺のムカツク事を言いやがる奴は誰であろうと殺せるんだよ」
狂気と純粋さに満ちた笑顔と撒き散らしながら。
「殺せるんだ」
殺人鬼は内に秘めていた、これ以上ないくらい捻じ曲がった殺意を解放した。
「という理由で、この入っちまった何十、何百、何千、何万というスイッチのために死んでくれ。
ああ、心配すんな、死ぬのは別に一回でいいから」
理不尽極まりない言葉と共に、自らの意志で捻じ曲がった殺人鬼は凶悪に口元を歪ませる。
放つ殺意は輝かしく、ギラギラと光を返すギロチンを思わせた。
■
―――深い宿命を背負って相羽タカヤはテッカマンブレードになった。
相羽タカヤは宇宙研究の第一人者を父に持ち、彼自身もタイタン調査船アルゴス号の乗組員の一人だった。
彼だけではない、アルゴス号には幼いころに火事で死んだ母以外の全ての肉親が乗組員として乗り込んでいた。
その調査の途中、土星の衛星軌道上に彼等はそれを見つけた。見つけてしまった。
人類初の宇宙人との遭遇となるはずだったそれが、悲劇の幕開けだった。
見つけたそれは、侵略者ラダムの母艦だった。
あっというまにアルゴス号の乗組員は彼を含め全員ラダムに囚われ素体とされることになる。
彼はそこで全てを失った。
家族も、
未来も、
自分自身も、
全て失ってしまった。
全てを失った人間は生きて行けない。
なにもなければ、例え肉体が生きていても心が死んでしまう。
生きて行くには何かが必要だった。
愛でもいい。
理想でもいい。
野心でもいい。
全てを失っても、なにか強い思いが一つでもあれば人間は生きて行ける。
生きるために、彼が抱いた感情は憎しみだった。
自分から家族を奪ったラダムが憎い。
幸せな日常を奪ったラダムが憎い。
そうやって、ただひたすらに彼はラダムを恨む事で生きてきた。
憎しみこそ彼の原動力だ。
憎しみは彼を縛る鎖であり。
同時に彼を生かす糧だった。
憎しみがあれば彼は生きて行ける。
ラダムを憎むこの心さえ忘れなければ彼は生きて行けるのだ。
彼を逃がすときに父は言った。
侵略者たるラダムを殺せと。
ラダムは肉親を奪った。
彼もラダムが憎い。
だが、肉親はすべてラダムとなった。
それはつまり、父は彼に肉親を殺せと言ったのだ。
あの瞬間、彼は肉親を自らの手で殺すと言う宿命に呪われた。
世界のため。
己が復讐のため。
肉親をその手で殺す宿命を背負った宇宙の騎士。
どうしようもない矛盾を孕んだその宿命を呪わなかったことはない。
時の止まってしまったあの家に戻れたならどんなに素晴らしいかと、そう願わなかったことはない。
ラダムは憎い。
だが、取り込まれ自らを襲ってくる肉親達を恨んだ事はない。
何度襲われようとも、何度殺されかけようとも、彼はシンヤを恨んだ事は一度も無い。
彼に取り付いたラダムを恨んでも、誓ってシンヤを恨んだ事は無い。
だって、相羽シンヤは相羽タカヤにとって、たった一つの命を分け合った己の半身なのだから。
■
「……言いたい事はそれだけか?」
狂人の言い分を聞き終え、これまで沈黙を保っていた青年が口を開いた。
青年が放つのは殺人鬼の殺意に負けぬ黒い憎悪だ。
「……そんなに聞きたきゃ何度でも言ってやる。
俺は絶対に死なない。オマエなんかに絶対に殺されない!
オマエは、オレが殺してやる!」
告げるDボゥイの手足に力が篭る。
貧血など既に何所かに吹き飛んだ。
今、体中には血液よりも熱く煮えたぎる憎悪が巡っている。
肉親を奪ったラダムが憎いのと同じように。
弟を殺した目の前の男が憎い。
スイッチなんて要らない。
そんなもの入れなくても、憎悪があれば、彼は敵を殺せる。
憎悪は彼の原動力だ。
憎悪があれば、彼は生きて行けるんだ。
「フヘヘヘ。たまんねぇな。もう殺意ゲージMAXって感じだ!
最高だぜ、テメエ等兄弟はよぉ!!」
自らに向けられた憎悪を前に、ラッドはティパックからファイティングナイフを取り出し、いとおしげに刃を舐めた。
そして、ナイフよりも鋭く夜闇を切り裂くように白服が駆ける。
一瞬でDボゥイの懐に飛び込んだラッドは、その勢いのまま手にしたナイフを振りぬいた。
だが、Dボゥイは慌てるでもなく、驚くほど冷徹にナイフを避け、そのままラッド目掛けて反撃の蹴りを繰り出した。
ラッドは咄嗟に首を折り曲げるが、避け切れず、Dボゥイの蹴りが頬を裂き、髪の毛を数本掠めとった。
テッカマンにならずともDボゥイの身体能力は常人の非ではない。
直撃していれば、恐らくただでは済まなかっただろう。
それでもまったく怯むでもなく、水場ではしゃぐ子供のようにラッドは楽しげに叫ぶ。
「マジかよおいおいマジかよおい、ありえねぇって!」
ラッドが叫びながらDボゥイの頭部目掛けてナイフを振り下ろした。
Dボゥイはそれを今度は避けるでもなく、ナイフを持つ手首を弾き、弾いたその手でそのまま号と風を切り裏拳を放つ。
防御からの流れるような見事なまでの反撃だったが、ラッドは重心を後方に逸らし、スウェーバックでその裏拳を避けた。
「よく、ミュージカルや小説で、戦闘中だってのにやたらと喋りまくる奴っているよな!
それで隙つくって反撃されたりする大馬鹿野郎とか、俺は実際の殺し合いの場所でも何度も見てきた!
はっきり言って、俺もそのタイプだ! だから喋りまくるけど、あんま気にすんな!」
紙一重の攻防を続けながらも、ラッドの口はまったくと言っていいほど止まらない。
語る内容と裏腹に、戦闘中にこれほど無駄口を叩きながら隙を作る気配はなかった。
それどころか、語れば語るほど彼のテンションは上がってゆく。
そして、上昇するテンションに比例して彼の動きは激しく、狂おしく、その切れを増してゆく。
「しかし、アンタも弟思いだね。
弟のためにここまで怒れる。いやぁ今時珍しい良い兄貴だアンタは!
けどよ、俺のみた資料によれば、あんた等兄弟はもっと険悪な感じだと思ったけどな」
叫ぶラッドの口から弟の、シンヤの話題が出た事にDボゥイの眼に憎悪の光が再燃する。
その光を確認して、殺人鬼はニヤリと笑みをこぼした。
ラッド・ルッソは別に正々堂々戦う正義の味方でも戦闘を楽しむバトルジャンキーでも何でもない。
真正面から相手を殺すことが多いのは、ただそれが一番楽しいから
強い絶対に死なないと思ってる奴が死ぬ様を最も見やすいから。
ただそれだけの理由だ。
ラッド・ルッソの本質は命を奪う殺人鬼だ。
殺すために特に手段は問わないし、相手の付け入れるところには付け入る。
人間の尊厳や命が大事な物だと言う事は理解しているが、それを踏みにじる事を特になんとも思っていない。
だから土足で踏みにじる。
この兄弟を、その絆ってやつを。
執拗に、粉々になるまで。
「アイツもよう、最後には兄さん、兄さんってオマエの事を呼んでたぜ?
互いにいがみ合ってると思いこんでいた兄弟が互いに思いあっていた事を知る。
いいねぇ麗しの兄弟愛。感動の仲直りだ! よかったじゃねぇか。
もっとも、残念ながら片方はもう死んじまったがね!
ああ、そういや、殺したのは俺か。ヒャハハハハ!」
それは、Dボゥイのみならず、シンヤすらも侮辱するような言葉だった。
一秒でも早く目の前の狂人の口を止めてやる。
息の根ごと、その軽口を止めてやる。
Dボゥイの最後の理性が切れ、思考はすべて赤に染まる。
「ウアアアァッァァアアアアア!!」
それは、理性を失った獣の雄たけびだった。
それと共に憎悪と怒りと渾身を込めた一撃が放たれる。
風きり音すら置き去りにする速度で放たれたその右拳は、まともに当たれば頭蓋を砕くどころか、その首を根元から吹き飛ばすだろう。
「はい、残念」
だが、渾身であるが故にその軌道はこれまでになく読み安い。
身を屈めあっさりとその一撃を躱わしたラッドは、すれ違い様にDボゥイの鳩尾に右膝をめり込ませる。
「グハ…………ッ!」
自身の渾身をカウンターで返されたDボゥイは口から反吐を吐いてその場に倒れこんだ。
内臓が幾つか破裂したのか、反吐には血が混じっている。
肺が潰れてしまったように息が出来ない。
全身が酸素を求めてピクピクと痙攣する。
地獄のような痛みと苦しみがDボゥイの体を蹂躙する。
憎しみや意志とは一切関係ないところで、強制的に体が静止する。
だが、もがき苦しむ暇すら与えず、ラッドは倒れこんだDボゥイの上に馬乗りになり、その首元にナイフを宛がった。
「はーい。さよならぁ」
押し付けられてたナイフは正確に頚動脈に触れている。
こうなればテッカマンで在ろうとなんであろうと関係ない。
ナイフを引けばDボゥイは確実に死ぬ。
だが、ラッドはそのナイフを引かず、Dボゥイの上から飛びのいた。
その直後、ラッドのいた場所を炎の渦が通過する。
「おいおい、そりゃないぜ。
いいとこで邪魔するだなんてよぅ」
そう肩をすくめてぼやくラッドの視線の先には、エレメントを装備した鴇羽舞衣の姿があった。
■
―――媛星を巡る運命の輪に巻き込まれ鴇羽舞衣はHiMEになった。
思えば、彼女の人生は守るための人生だった。
幼いころに母を失い、そしても父を失った。
一人取り残された彼女は病弱な弟を守るためその身をすべて投げ打ってきた。
そして、弟の手術代のため、奨学金を出してくれるという風華の地へ足を踏み入れた。
そこで彼女は運命に巻き込まれる。
媛星を巡るHiMEの戦い。
戦いなど望んではいなかったが、彼女は守るために戦いに身を賭した。
それなのに、何よりも守りたかった弟は失われた。
自分を姉のように慕ってくれた少女も、想い人も失われた。
守るために全てを捧げた彼女の人生。
だというのに、何一つ報われない。
守るということは、奪わないことに等しい。
奪わないとことは、奪われることに等しい。
つまり、守ることは、奪われることに等しい。
酷い仕組みだ。
致命的なまでに理論が破綻している。
彼女はただ、奪われたくないから守っていただけなのに。
その仕組みを知ったのはいつだったか?
母が死んだときだったか?
父が死んだときだったか?
HiMEになったときだったか?
楯が詩帆を選んだ時だったか?
弟を失った時だったか?
命を殺した時だったか?
シモンが死んだ時だったか?
それとも、本当は初めから気付いていて、気がつかない振りをしていただけだったか?
彼女はこの負の螺旋から抜け出したかった。
だから、彼女は奪う側にろうと決意した。
だと言うのに、結果は散々。
何一つうまく行かない。
空回りばかりで、より惨めになっただけだ。
だが、彼女自身は気づいてないが、うまく行かないのも当然だった。
だって、彼女の本質は奪うことじゃないんだから。
■
「なぁ。人の楽しみを邪魔しちゃいけねぇよ。舞衣ちゃん」
「うるさい! 何が楽しみよ! そんなことの何が楽しいって言うのよ!?
大体、なんなのよアンタ。私を殺しにきたんじゃないの!?」
空中から降りてきたラッドを見た時、舞衣はこの男が自分を殺しに来たのだと思った。
なにせ、殺してしまった男の仲間だ、その仇を討ちにでもきたのかと。
自分はこれから奪ってしまったその報いを受けるのかと、そう思った。
だと言うのに、この男は舞衣をまるっきり無視して、誰も聞いていないDボゥイの過去をベラベラと語りだし。
仕舞いにはDボゥイと殺し合いを始める始末だ。
まったく以って、意味がわからない。
「いやまあ、最初はそのつもりだったんだけど、まあもっと面白い玩具を見つけちまったんでね。悪いね舞衣ちゃん。
いや、でもなぁ。よく考えたら一応アンタと引き合わすっていうエミヤとの約束もあるし、舞衣ちゃんここで殺すわけにもなぁ。
いっそ、エミヤがどっかで死んででくれれば約束もなかったことになるんだがなぁ。うーん」
律儀なんだがそうじゃないんだがよくわからない呟きをブツブツと漏らしながら、ラッドは頭を捻らせる。
そして、何か思いついたように、ラッドは顔を輝かせた。
「よし、決めた。この事はエミヤ達には黙っておこう。そうしよう。名案だこりゃ。
そういう訳だ。舞衣ちゃん、今死んでくれ」
ハッキリ言って、名案でもなんでもない、割ったガラスを隠す悪戯小僧の発想だが。
ただそれだけのことで、ラッドの中で鴇羽舞衣の生死は決定した。
ラッドが押し込めた舞衣への殺意が露になる。
そしてその殺意を真正面から受けた舞衣は気付いた。
男は殺意を放っているのではない。
この男には殺意しかないのだ。
まるで、男が殺意そのもののような。
怖い。
深い理由も無く舞衣は単純にそう感じた。
まだ、なにをされた訳でも無い。
力ならば自分が操っていたカグツチの方が遥かに上だろう。
だと言うのに、目の前の男はただひたすらに恐ろしかった。
なにせそうだろう。
彼女は化け物と対峙したことはあっても真正面から殺人鬼と対峙した事はなかったんだら。
「どうしたよ、舞衣ちゃん?
あのへんなの着てた時の威勢はどうしたんだよ?
ほら、言ってみろよ。私は絶対に死なないってよ」
怯える女を見て、凶悪に口元を歪ませる殺人鬼。
悲しみでも、怒りでも、狂気でもなく。
その殺人鬼は、自分の意志でどうしようもないほど歪みきっていた。
「まあ、言っても言わなくても、殺してやるがねぇ」
下種な笑みを張り付かせたまま、ラッドが駆ける。
それに反応して、舞衣は両腕を突き出し炎の玉を打ち出した。
目の前に迫る幾つもの赤い炎。
それを前にしてもラッド・ルッソは止まらない。
駆ける速度を緩めるどころかますます早めながら舞衣に迫る。
「くっ……!」
少しでもその疾走の足を止めようと、舞衣も必死に炎を放つが、まるで当たらない。
舞衣のエレメントは飛行と防御が主体だ。
攻撃はカグヅチ任せだったので、正直得意ではなかった。
炎が放てるがそれだけだ。
素人や知性のない化け物ならともかく、理性を持った殺人鬼には通用しない。
何の苦もなく舞衣の懐にもぐりこんだラッドは体重を乗せた右ストレートを放った。
正直、舞衣には目視すら出来ない一撃だったが、咄嗟に腕を突き出したのが幸いした。
エレメントにより生み出された盾が、殺人鬼の一撃から彼女を守ってくれた。
そしてそのまま、殺し切ることのできなかった衝撃のベクトルを逃がすように彼女は上空へと舞い上がる。
「痛ってー。やっぱ折れてんなこれ」
そう言いながらラッドは裂けた拳から流れる血をぺロリとなめ取る。
そして、空中で息を整える舞衣を見上げた。
「おいおい、空に逃げるなんてずるいぜ舞衣ちゃん。
これじゃ俺が攻撃できねぇじゃんかよぉ。
まあ、別に、そうなったらなったで、こっちを先に殺すだけだがね」
そう言って、ラッドは上空の舞衣から視線を外し、今だ悶絶しているDボゥイにその視線を向けた。
「くっ。させない!」
ラッドを止めるべく、舞衣は上空から炎を放つ。
「おっと、おっ、はっ、とう!」
だが、近距離でも当てられなかった攻撃だ、これだけ離れていて当たるはずがない。
ラッドは器用に炎の雨を躱わしながら、ナイフを片手に鼻歌混じりにDボゥイに近づいてゆく。
この距離からの炎では埒があかない。
そう判断した舞衣は、直接その凶行を止めるべくラッドに向けて空中を疾走した。
「なんちて」
「え?」
そこに向けられたのは巨大なライフルの銃口だった。
銃声と共に、何の躊躇もなく放たれる弾丸。
ラッドに向かって全力で近づいていたため、回避は不可能だった。
咄嗟にエレメントを生み出したがライフルの威力は凄まじく、衝撃に撃墜され地面へと落下する。
そして、背中から叩き付けられ、地面を滑った舞衣の体は偶然にもDボゥイの近くで停止した。
強力な防御手段を持ち、飛行する的を撃ち落とすのは困難だ。
おまけに弾数も少ないとなればなおさらだ。
そこで、ラッドは遠距離攻撃の方法がないと見せかけ、人質を使って近づいてきた所を撃ち落とすと言う作戦に出た。
その結果は見て通り、見事に的中。
空中にいた舞衣は地に伏せ、立っているのはラッドだけ。
何一つ特別な力を持たない殺人鬼がテッカマンを、HiMEを圧倒している。
それは絶望するには十分な恐るべき光景だった。
そんな絶望と死の満ち溢れる世界の中で殺人鬼は一人、声を上げて笑っていた。
■
―――ラッド・ルッソが殺人鬼になったのに、特に理由はない。
叔父こそ裏世界に生きるマフィアだが、両親自体は一般的と呼べる部類の人間だったし、家庭環境も特にこれと言って荒れていた理由ではない。
ついでに言えば、彼には弟分はいるが弟はいない。どうでもいいが。
相羽タカヤの様に、重すぎる宿命を背負ったわけじゃない。
鴇羽舞衣の様に、逃れられぬ運命に巻き込まれたわけじゃない。
ビシャスの様に、燃え上がるような野心があったわけじゃない。
衛宮士郎の様に、歪んでしまうような古傷(トラウマ)があったわけでもない。
そう言うものとは一切関係なく、ただ、気付いたらこうなってた。
別に何をしたわけじゃない。
ただ少し、ほんの少しだけ考えただけだ。
人の生と死について。
生きる人間と、死ぬ人間の違いについて。
本当に何気なく考えただけだ。
それだけ。
その結果を知るよりも早く、彼はその過程に蝕まれた。
そして、ラッド・ルッソは殺人鬼に成り果てた。
そこに一切の躊躇も、微塵の後悔もない。
あるのは快楽と、人殺しとしての才能だけだった。
ただただ、どうしようもないほど自分の意志で殺人鬼は生まれ出た。
人間は。
何の理由もなく。
何の運命もなく。
何の宿命もなく。
見事なまでに粉々に、跡形も無いほど壊れることができる。
人間は。
何の怒りもなく。
何の絶望もなく。
何の憎しみもなく。
どうしようもないほど歪に、これ以上ないほど捻じ曲がることができる。
そんなものがなくても人間はどこまでも狂うことができる。
どこまでも、どこまでも、自分の意志で。
■
笑う、笑う、殺人鬼が笑う。
狂々と、狂ったように、狂った声を響かせながら。
そんな絶望的に狂った世界で、それを打ち消す声で、舞衣は叫んだ。
「カグツチ!」
「あん?」
突然の舞衣の叫びに、ラッドが笑いを止め疑問符を浮かべた。
まず、単語の意味がわからない。
人名ではない。
そんな人間はここにはいない。
ラッドの知る限りでは参加者にもいない。
必殺技か何かかと思って少しワクワクしたが、残念ながら特になにもおこらない。
「お願いだから出てきてよ、カグツチ!」
それでも舞衣は涙ながらにその名を呼びかけ続けた。
それは、全てを焼き尽くす炎の化身の名。
彼女に唯一与えられた奪う力。
鴇羽舞衣が操る、最強のチャイルド、カグツチの名を。
だが、破壊の竜は、彼女の呼びかけには答えない。
なにもおこらない。
ただ少女の声が虚しく響くだけだ。
「どうして、どうして出てきてくれないのよ! カグツチ!
お願いよ! もう嫌なの。これ以上失すのは嫌なのよ!
だから出てきてよ、カグツチ!!」
ここにいない何かに涙ながらに懇願する少女。
その奥から、唐突に輝く緑色の光が僅かに放たれた。
それを見てラッドはなんだかよく分からないが、嫌な予感がした。
とてもとても嫌な予感だ。
このまま続ければきっと何かが起きる。
だから、ラッドは何か起きる前に、サックリ、とっとと、即効で舞衣を殺そうと決意した。
だが、ラッドが動くよりも早く。
舞衣がその輝きを自覚するよりも早く。
舞衣の肩に静止の手がかかった。
「もういい。十分だ。下がってろ、舞衣」
「D、ボゥイ」
舞衣が振り向いた先に立っていたのはラッドの一撃を喰らい、倒れこんでいたはずのDボゥイだった。
「お、タフだね。もう立てんのか?
やっぱ凄いなぁ宇宙人」
そう言って、割と本気で感心するラッドだが、そんな事はない。
最後に残った月の石のかけらを使って無理矢理に立ち上がっただけだ。
呼吸は整ったが、貧血は変わらないし、破裂した内臓は治らない。
正直、立ってるのがやっとだといっていい。
「舞衣。こいつはオレが絶対になんとかする。
だからその間にオマエは逃げろ。その飛行能力があれば逃げ切れるはずだ」
「はぁ!? 何言ってんのアンタ!?」
「いいから行け! オレはアイツを許すわけには行かない。
ここで必ず決着をつける。だから行け舞衣!」
もはや舞衣のいい分にも聞く耳持たないといったDボゥイ。
それを見て舞衣は溜息を漏らし決意した。
「……わかったわよ。行くわ」
「それでいい」
舞衣の言葉に安堵して、Dボゥイは舞衣に背を向けラッドへと対峙する。
だが。
「なっ!? 何をする、離せ舞衣!」
「何ってアンタも一緒に逃げるのよ!」
後から抱きつくようにして、舞衣はDボゥイと共に宙に浮いていた。
Dボゥイは舞衣を振りほどこうともがくが、その拘束をとくことは出来ない。
「ほら、私も振り切れないくらいボロボロの体で何ができるっていうのよ!」
「それは……! それも、とにかくオレは!」
そのまま、空中で言い争いを続ける二人。
その様子をしばらく眺めていた殺人鬼は言い争いをする二人を嗜める様に口を開いた。
「はいはいはいはい。痴話喧嘩も結構だけど俺の事も忘れんなよ。寂しいじゃないの。
でさぁ。俺からも提案なんだけど、両方ここで俺にブッ殺されるってのはどうよ?
つか、それしかなくねぇ? ま、他に選択肢が在ってもそうするんだがよ」
凶悪に笑いながら、ラッドは空中に浮かぶ舞衣とDボゥイに銃口を向ける。
そのラッドの態度に舞衣は口論を止め、Dボゥイを抱えたままラッドに背を向けて全力で空を奔りだした。
そこに、当然のように鳴り響く銃撃音。
もちろん舞衣もそれがくるのは予想してた。
ギリギリのタイミングで飛行する軌道を変え、その弾丸を避ける。
それが、成功した事を確認し、舞衣が安心したのも束の間。
まったく容赦なく、無理矢理に軌道を変え避けた直後を狙い、続けざまに二発目の銃声が鳴り響いた。
更に軌道を変えようとするが、どう考えても避けきれない。
Dボゥイを抱え両腕が塞がっているため、盾も張れない。
当然の結果として弾丸は二人に被弾する。
その衝撃に舞衣達は水しぶきを上げて近くの河に墜落した。
「うーん。死んだかな?」
その結末を見届けラッドは首を捻る。
落下したと言っても下は河だし、見る限りライフルも当たりはしたが直撃ではない。
正直生存率は五分といったところか。
「ま、いいや。生きてたらまたブッ殺すってことで」
そう言ってラッドはフラップターに乗り込み夜空へと舞いあった。
このままフラップターで二人を追いかけてもよかったが、少しばかり寄り道が過ぎた。
そろそろ映画館に戻らなければならない頃合だ。
あまりより道が過ぎて、その間に映画館の連中は全滅してました、となれば目も当てられない。
「いやぁ、まぁそれはそれで……」
面白いかもしれない。
などと不吉な予感に口を歪ませながら、殺人鬼は空を行った。
【C-6・上空/一日目/夜中〜真夜中】
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:疲労(小)、左肋骨2本骨折、両拳に裂傷、右手にヒビ(戦闘には問題なし)
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ファイティングナイフ、フラップター@天空の城ラピュタ
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ 、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
1:とりあえず映画館に帰る。舞衣達に出会った事は黙っておく。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:足手まといがあまり増えるようなら適度に殺す。
4:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
5:覚悟のある人間ばかりなので面白くないから螺旋王もぶっ殺す。
6:舞衣とDボゥイが生きてたらまたぶっ殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※明智たちと友好関係を築きました。その際、ゲーム内で出会った人間の詳細をチェックしています。
※詳細名簿の情報をもとに、危険な能力を持つ人間の顔と名前をおおむね記憶しています。
※テンションが上がり続けると何かに目覚めそうな予感がしています。
■
バシャリという水音と共に、一組の男女が水中から飛び出した。
河から這い上がった女、舞衣は手にした男、Dボゥイをなんとか地面に下ろし荒い息を整えた。
だが、見下ろした先にある自身の手を見て彼女は驚愕した。
その手は河の水ではなく、ベットリと赤い血で濡れていた。
彼女の血ではない。
見れば、その血は意識を失い倒れこむ男の背から流れでていた。
あの時。
避けきれない弾丸を前にDボゥイは身を挺して舞衣の体を庇ったのだ。
結果、衝撃で河に落下したものの舞衣はほぼ無傷となり。
その代わり、傷を一手に引き受けた男の背中の肉は抉れ、そこから湯水のように赤い血が溢れて止まらない。
その傷を見て舞衣は絶望する。
死ぬ。
ただですら血の足りなかった男だ。
このままでは確実に死んでしまう。
なんとかしてこの血を止めなくてはならなかった。
だが、手元には鋏しかない。
どうすればいい。
悩む舞衣だったが、なにかを思い立ち、両腕をDボゥイの傷口に宛がった。
そしてエレメントより炎を生み出し、その傷口を焼き払った。
付け焼刃の良いところな治療だったがなんとかうまく血は止まったようだ。
これ以上血が流れることはない。
だが、駄目だ。
これ以上血液が失われることは防いだが、失われた血液が戻るわけじゃない。
放っておけば間違いなく死んでしまう。
また奪われるのか。
また失われるのだろうか。
彼女はただ、奪われたくなかっただけなのに。
奪われたくないから守って。
守るから奪えなくて。
奪えないから奪われる。
そんな連鎖には飽きたんだ。
そんな螺旋には疲れたんだ。
奪う側に回ろうとしても、うまく行かず。
足掻いた結果に残ったのは無残なモノだ。
結局この螺旋からは抜け出せず、回りに不幸と死を撒き散らしただけ。
当然だ。
初めからうまく行くはずがなかった。
だって、彼女の本質は奪うことじゃない。
彼女の本質は守ることなんだから。
奪うのは容易い。
失うのはもっと容易い。
けれど守ることは難しい。
その道は遥かに辛くて厳しい。
その道を行けば、色んな物を犠牲にしてしまうかもしれない。
見っともいほど惨めに足掻くことになるかも知れない。
どれだけ頑張っても報われないかもしれない。
けど、それでも、その道を歩んできたのは、守りたいモノがあったからだ。
どんなに辛くて苦しくても、守りたいモノがあったんだ。
彼女は奪いたかった理由じゃない。
彼女はただ、守りたかっただけなんだ。
大切なものを、ただ守りたかっただけなんだ。
そんな単純なことを、何故忘れてしまったんだろう?
大切なことだったはずなのに、人は何故忘れてしまうんだろう?
「死なせない。死なせてたまるか」
失って。
失って。
また失って。
それでもまだ、掌の中に砂粒ほどでも守りモノがあるのならば。
見っとも無く足が縺れても。
惨めに泥に塗れても。
足掻き続けるんだ。
だってそれが、守ると言うことなんだから。
【D-6/河近く/一日目/夜中〜真夜中】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、鋏
[思考]:
1:Dボゥイをなんとしても助ける。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※螺旋力半覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:気絶、貧血(大)、一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み) 左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1:???
2:ゆたかと合流する。
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:ラッドをこの手で殺す。
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※全身にシーツを包帯代わりに巻いています。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
削除依頼済
「ああ、クソ……! どうにも噛み合ってねえな……」
D-8に位置する山小屋の傍で、スパイクは一人でスコップを手に穴を掘っていた。
ジンはちょっと確認したいことがある、といって山小屋を離れ、
カレンはスコップの他に何か山小屋の中で役に立つ物がないか探している。
必然的に余ったスパイクが一人でマタタビを埋葬するための穴を掘っているのだ。
「噛み合ってねえな……」
スパイクはまた呟く。
今日一日の経緯を思い出した彼の感想はこれに尽きた。
最初は読子とのんびり物見遊山をして帰るつもりだった。
が、そもそもここから既に状況と噛み合っていない。
(まあ、聞いていなかった自分たちが悪かったのだが)
その後も協力する予定だったはやては合流直後、何故かこちらを残して出立。
放送が真実ならば、それっきり死んだらしい。
次いで襲ってきた傷面の男に同行者だった読子は殺され、新しい同行者の一人はやたらとこちらを敵視している。
主催者に反抗する仲間を募っているジンと出会えたのはよかったが、ここでもケチがついた。
彼らに保護されていた喋る猫、マタタビが死んでしまったのだ。
はやてたちに何が起きたのか知っているだろう猫だったのだが、話一つ聞けなかった。
しかも、どうやらビバップ号の同居人、エドまで殺されてしまったらしい。
人生はままならないものというのは身に染みて分かっているつもりのスパイクだが、どうにも今日は巡り合わせが悪い。
本音をいえばガキなんてほっぽり出してビシャスやジェットを探しに行きたいが、そこまで薄情にはなれない。
特に、マタタビの死についてはきちんと考えておかないと、今後の身の振り方にかかわる問題だ。
そこに誰かの作為が入っているならば、仲間の中に他人に殺意を持った奴が潜んでいる、ということなのだから。
『考えるな。感じろ!』とはスパイクが尊敬するブルース・リーの名言であるが、この場では直観と思考、どちらも必要になる。
それだけでも頭がいっぱいになりそうなのに、同行者のカレンははた目で見ても精神的に不安定だ。
(やれやれ、こんなのはお前の役目だろうがよ、ジェット……。
正直、俺は推理や子守りなんてガラじゃあないぜ……)
子どもと女、そして動物が嫌いだと標榜する彼が、動物のために穴を掘り、女の子どもの子守りをしなければならない。
(せめて、煙草でもありゃな……)
どうにも噛み合わない状況に、スパイクは小屋の中で手に入れたライターを見てため息をついた。
ふと、何か視線を感じて振り向く。
だが、そこには誰もいなかった。
■
スパイクの感じた視線は気のせいではない。
彼の背中を物陰からじっと見つめる人影があった。
ゼロによって『スパイクを殺せ』と命令されたカレン・シュタットフェルトである。
事実、穴を掘るスパイクの背中は無防備に見えた。
今、カレンが持っている銃で狙えばあっという間に始末できそうなほどに。
カレンには先代ゼロを守れなかったという自責の念がある。
それだけに、ゼロに障害を与える可能性のある人物は何としても排除したかった。
それがゼロ本人からの命令となればなおさらである。
ジンがどこかへ行っている今はチャンスのようにも思えたが……。
(ダメだ。ゼロは『悟られないように始末しろ』といったんだ)
今すぐスパイクを銃で撃ち殺したくなる気持ちを何とか自制する。
ここで撃てばスパイクは殺せるかも知れないが、流石にそれをジンに悟らせないのは無理だろう。
(チャンスを待たなきゃ……)
銃を仕舞い、カレンは山小屋の中へと戻っていく。
■
数十分後、三人の乗った消防車はジンの運転で山道を降りていた。
「これから図書館に向かうんだったな。どういうルートでいくつもりだ?」
助手席に座ってざっと地図を眺めたスパイクは、運転席のジンに尋ねた。
見たところ、図書館へはいくつもの行き方がある。
大まかに分けて飛行場や豪華客船の停泊地のある離れ小島を通る
ルートと、病院や映画館などが集まる町の中心を通るルートだ。
「そうだね。まずはデパートへ行って、そこで今後の観光ツアーの道行を考えようと思ってるよ」
「また随分適当ね」
呆れたようにつぶやく後部座席のカレンに、ジンはルームミラー越しに、笑って見せる。
それを聞いたスパイクがつぶやいた。
「ん? デパートっていやあ、ちょっと前……」
「そ。やたら大きなキャンプファイアーをしてたと思ったら、せっかちな誰かさんが消防士の到着前にでっかい爆弾で消したみたいでね。
あのお姫様やビクトリームによると、そこに何人かいたらしいし、調べてみるつもりだよ」
「ニアの? 信用できるのかしら……?」
「さあね。でも、さっき木の上から確認したら、デパートの辺りだけスッパリ光が盗まれてたよ。
何かあったのは間違いないだろうね。どの道、左回りで行くならデパートは通らなきゃいけない。
怪我人がいるようなら、病院へエスコートしてあげなくちゃ」
「なるほど。ついでに光を見て寄ってきた人にも会えるかもしれない、か」
「そういうこと。ま、この消防車ならすぐに着くよ」
ジンがそういうのを聞いて、スパイクはシートにもたれた。
ほんの少しだろうが、暇ができた。
カレンの相手はジンがしてくれるだろうし、ここらでもう一度、考えておく必要がある。
つまり、マタタビの毒殺について、だ。
■
ニアがマタタビを殺した。
この事実はもはや疑う余地はあるまい。
問題はそれが単なる過失なのか、それともニア本人を含む誰かの悪意によるものなのか、この点だ。
単なる過失、つまりうっかりの可能性はもちろんある。
だが、状況に不自然なものを感じるのも事実である。
いくら不注意でも、怪我人に得体の知れない薬を飲ませるだろうか。
ニアは相当常識に欠けるようだが、そこまで致命的な人間がいるとは正直、スパイクとしては考えにくい。
となると、やはり誰かが彼女を彼女自身にも気付かれないように誘導したと考えた可能性が高い。
万一、ただのうっかりならこれ以上何も起きはしないだろうからそれはそれでいい。
なら、悪い可能性についても考えておいて損はないだろう。
では、誰かの故意だと仮定する。
つまりニアが薬を毒と偽って飲ませた、もしくは周囲がニアの持っていた薬を毒とすり替えた場合である。
この場合も一番怪しいのはニアだが、これは却って不自然だ。
自分で螺旋王の娘だと明かし、それによって周囲から疑惑を受けた直後にわざわざ自分が犯人とわかる形で猫を殺し、ご丁寧に悲鳴をあげて全員に犯行を知らせる。
そしてその理由が「毒なんて知らない。薬だと思っていた」。
(アホらしい。子どもでも疑われることくらいわかるだろう)
そもそも殺すつもりならジンがいない間にいくらでもやりようはあっただろう。
同様に、ジン、ビクトリームにもいくらでも機会と方法はあったはずだ。
そもそもジンなら毒殺というまだるっこしい手を使わなくてもニアとビクトリームとマタタビを殺した後、何食わぬ顔でスパイクたちの前に現れればいい。
この得体のしれないところのある少年は、おそらくそれが簡単にできるだけの実力の持ち主だろう。
ビクトリームについても同様だ。
もともと彼(?)とニアがマタタビを拾い、さらにそれをジンが拾ったらしい。
つまり、二人っきりの時間が相当あったのだから、支給されていた銃を使えば一瞬で片がつく。
私怨があるとも思えない彼らがマタタビを殺すとしたら、優勝のためだろうから、他者を生かしておく必要などない。
いや、相手を信用させるためにあえて足手まといを確保するなら、いざという時に見捨てる覚悟でマタタビを生かした方が都合がいいはずだ。
結論としてはあの三人は犯人である蓋然性が低い。
もちろん、人間は論理だけで動くわけではないから言い切れないが、そこまで言い出したら誰も彼も疑わなければならない。
大体、いくら素直で世間知らずのお嬢様とはいえ、わけのわからない薬をいつ起きるともしれない怪我人に飲ませるのはリスクも難度が高いように思える。
(ああ、畜生。何を遠回しに考えてやがる)
心の中でため息をついた。
そう、実はニアのその勘違いを意図的に誘発できる要素を、スパイクは知っている。
完全に忘れていたが、順序立てて考えていくうちに思い出した。
読子が言っていたではないか、『ルルーシュ・ランペルージには催眠術のような特殊能力があるのではないか』と。
その後、あの傷面の男が襲ってきたため、あやふやになっていたが、この推測が仮に当たっていた場合、事情は一変する。
たかが催眠術と馬鹿にすることはできない。
以前、スパイクを含むビバップ号の面子全員で追い詰めた新興宗教の教祖、ロンデス。
彼は機械を通してではあるが、人を自殺へ追い込むほどの強力な催眠・洗脳術を持っていた。
生存本能を捨てさせることに比べれば、薬と信じ切っているものを毒とすり替えた後、怪我人に飲ませるくらい造作ないだろう。
(問題は……信じてもらえねえことだよなあ……)
これは推測にすぎない。
こんなことを言い出して信用してもらえるかは怪しい。
読子にこの推測を伝えられた時、スパイク自身が疑ってかかったくらいだ。
ましてはやて達が突然行動を変更した場面を見てすらいないジンに信じてもらえるわけがない。
カレンなど問題外だ。
ルルーシュが怪しいと言った瞬間に銃を向けられかねない。
そもそも、スパイク自身がこの発想を少し突飛だと思わないでもない。
(やれやれ。マタタビが生きてりゃ話を聞いてもう少しはっきりしていたんだが……ん?)
そこでスパイクはふと気がつく。
あの場にいた面子で生き残っているのは自分とカレンとルルーシュの三人だけであると。
あの時、自分は隠れていたからカレン・ルルーシュの視点で考えればカレンとルルーシュ二人だけである。
■
立場を変えて考えてみよう。
瞬間催眠のような能力を持っている人物がいるとして、その人物はその能力を公言するだろうか?
ちょっと良く考えればそんな愚行は避けるだろう。
他人の意思に介在できるような人間を信用できる者は相当限られている。
特に、こんな殺し合いの舞台ではそんな能力があるというだけで疑心暗鬼の対象となって銃を向けられかねない。
とはいえ、こんな状況下にある以上、止むを得ず使うこともあるだろう。
だが、使った対象の催眠が解けるなり、催眠をかけた目的を全く遂行できない状態になったらどうだろうか?
瞬間的な催眠術はうまくやればかけたことすら相手に気付かれないだろうが、行動を真逆に捻じ曲げられたりすれば流石に気づくだろう。
その人物が正気を取り戻せば、自分が催眠術をかけられたことを周囲に伝えるのは間違いない。
また、よくよく観察されれば言動から催眠状態にあることを知られる可能性がある。
そんなことになれば、いずれその能力を持つ人物は割り出され、周囲から孤立し、自分の生存すらおぼつかなくなる。
自分に強力な戦闘能力がないならなおさらだ。
ならばどうするか。
古人いわく、死人に口なし。
用済みの者が死んでしまえば秘密は漏れない。
スパイク自身も『レッド・ドラゴン』に所属していた時代、さんざん味わってきた非情な教訓である。
もちろん、マタタビ以外にもカレンがいるわけだが、ゼロの椅子を手に入れた今、カレンがルルーシュに不利なことをするとは考えにくい。
それくらい、カレンの中で『ゼロ』という称号が重い位置を占めているのは見れば分かる。
つまり、マタタビを殺せばこの能力の秘密を知られる恐れはない。
(とまあ、こう考えればランペルージがマタタビ殺害の黒幕って説は動機の面からも筋が通るが、証拠はないしなあ……)
証拠などこの状況では必要ないが、少なくとも周囲を納得させることは必要だ。
出会って間もないが、ルルーシュは冷静で、頭が回る人間だということは分かっている。
本当に催眠能力を持っているのだとしたら、マタタビに自殺させればいいところをニアを利用することで周囲の信用を勝ち取っていることにもなり、それなりの狡猾さも持っていることになる。
そんな奴相手に、スパイクが人望やら口論で勝てるだろうか。
スパイク自身が無理だと断言できる。
(それどころか、下手に疑いをかけたら周囲に袋叩きか、催眠術で操られてこっちが返り討ちだろうな)
読子の警告さえなければ、スパイクだって彼を「もやしっ子だが頼れる好い奴」と評価していただろう。
だが、光るものの全てが黄金とは限らない。
日常生活では好人物でも、裏で行っていた犯罪が明るみに出て賞金首になった人物など掃いて捨てるほど見てきた。
好青年のルルーシュが実は人殺しも厭わない非情な男だったとしても驚きはしない。
問題は対策だが……さっぱりわからない。
実力行使に訴えるのも手だが、この状況では無理だろう。
何か尻尾を出すまで警戒するしかない。
といっても、スパイクの側に彼はいないので、合流するまでその部下であるカレンをそれとなく気をつけるしかないが。
「ゼロ」に固執する彼女は、ルルーシュの能力の秘密など気付かなくても自棄を起こして何かするかもしれない。
突然自殺でもされたら気分が悪いことこの上ない。
(あーあ、面倒くせえ。だからガキと女と動物は嫌いなんだよ……)
■
スパイクがふと気がつくと、妙に車内は静かになっていた。
横を見ると、ジンが無言で運転している。
さらに後部座席を見ると、カレンは疲れが出たのか、うとうとと眠っていた。
「おい、カレン……」
起こそうとしたスパイクの目の前に、横から指が突き出された。
その指の持ち主を見ると、ジンはそのまま指を唇に押し当てる。
(まあ、小うるさいのが黙っててくれていいか。)
眠りは精神の疲労も和らげる。
今のカレンには必要なものだろう。
ジンの意図を察し、スパイクもジンにならって黙り込んだ。
ただ、スパイクにはひとつだけ気になることがあり、声を抑えて口を開いた。
「ジン、お前、ランペルージのこと、どう思う?」
「冷静で頼りになると思うよ。女の子にも優しいしね」
「そうか……。ニアのことは?」
「……難しいね。いろいろ考えてみたけど、彼女がマタタビを殺したとしかおもえないし、素性も怪しい。
ルルーシュは信用していたみたいだけど…………」
「まあ、だろうな……」
それきり、スパイクは黙り込んだ。
光るものの全てが黄金とは限らない。
だが、その輝きに騙される者は多い。
王ドロボウがその真贋を見極められるのはいつだろうか?
三人を乗せた消防車は夜の闇をかき分けながら、デパート跡地へ到着しようとしていた。
【E-6/路上/一日目/夜中】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:消防車の運転席。全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:いい夢みなよ、カレンおねーさん。
1:デパート跡地を探索する。
2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。
3:ラッド、ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
4:ニアに疑心暗鬼。
5:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
6:マタタビ殺害事件の真相について考える
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:消防車の助手席。疲労(小)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(一応全て治療済みだが、右手は痛みと痺れが残ってる)
[装備]:デザートイーグル(残弾7/8、予備マガジン×2)
[道具]:デイバック、支給品一式(-メモ) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター
[思考]
0:小うるさいのが黙っててくれて助かるな……。
1:デパート跡地を探索する。
2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。
3:カレンをそれとなく守る。もちろん監視も
4:ルルーシュと合流した場合、警戒する。
5:ジェットは大丈夫なのか?
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところは他人には話すつもりはありません)
【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:消防車の後部座席。疲労(小)精神疲労(中)若干不安定 睡眠中
[装備]:ワルサーP99(残弾15/16)@カウボーイビバップ
[道具]:デイパック、支給品一式(-メモ)、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿
[思考]:
基本:黒の騎士団の一員として行動。ゼロの命令を実行する。
0:…………
1:デパート跡地を探索する。
2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。
3:スパイクを出来るだけ密かに始末する。
4:ゼロ(ルルーシュ)に指示を仰ぐ
5:先代ゼロ(糸色望)の仇を取る
[備考]
※マタタビを殺したのはニアだと思っています。
※ジンは日本人ではないかと思っています。
「……動き出しましたか。さて、ここからが勝負どころですね」
「……そうだね。じゃあ、私達の手番という訳か」
――――明智健吾と菫川ねねねは、映画館のロビーで向かい合いながら意見を交換していく。
目の前に広がる数多の道具。
その中でも、明智達が特に注視しているのは携帯電話だった。
8×8の盤上で動き回る無数の駒たちは、各々の動き方に従いそれぞれの役割を果たしていく。
そして、今彼が最も重要視する駒が、とうとう動き出したのだ。
それも、こちらに向かって。
……高峰清麿。
全ては彼と接触してからだ。
螺旋王の掌で踊っているのが分かっていても、まずは動かなければ話にならない。
彼のプロフィールはほぼ把握している。
必ず、こちらの力になってくれるだろう。
「……ラッドが単独行動をし始めた時は交渉が決裂したかと思ったけどね」
どうやらそれはねねねの杞憂だったようだ。
おそらく、その原因は傍らにいる少女だろう。
小早川ゆたか。プロフィールを見ても、紛う事なき一般人だ。
危険人物と目される相羽シンヤと同行していたのが気になる点だが、
人質などには持って来いとでも言わんばかりのパーソナリティの彼女は何らかの利用価値があったと明智達は考える。
あるいは、危険人物だった相羽シンヤを説得でもしたのか。
……それはもう、推し量る事しかできないのだが。
相羽シンヤはおそらく死亡しているのだから。
それまで同行していた小早川ゆたかは現在彼女は高峰清麿と同行中であり、
相羽シンヤはラッドの座標と全く同じ位置にいる。
それも、ラッド・ルッソとの接触の直後から、だ。
これの意味する事は、ラッドがシンヤの首輪を持ち歩いているという事だろう。
携帯電話に表示される座標は、首輪の信号を元にしているのだから。
その逆も考えうるが、しかし、高峰清麿が現在無事に生き残っている事から察するにその可能性は低い。
ラッドとシンヤの首輪の反応を考えても、平気で建物を飛び越す動きをしている。
おそらくフラップターに乗っているのだ。
フラップターの操縦技術を考えても、まずそこにいるのはラッドだろう。
明智は目を閉じ、彼の冥福を祈る。
そもそもの原因はラッドを派遣した自分にあるのだ。
警戒者リストに名を連ねていた、相羽シンヤ。
たとえゲームに乗っていたとしても、人の死というのは彼の心に圧し掛かる。
――――だが、明智は臆さない。揺らがない。
彼に報いる事のできる行為は、自分達が螺旋王を上回る事だけだと理解しているからだ。
今まで死んできた全ての人間に対して、明智は呼びかける。
あなた達の死は無駄にはしない。いや、無駄にさせないのだ、と。
携帯電話を通してチェス盤を俯瞰することで、明智の脳内ではどこで誰が何をなしたのかが明確なビジョンとなって現れる。
――――そう、高遠遙一たちの顛末でさえも。
危険人物ビシャスと高遠遙一達との接触。
その後に残るは動かぬ名前が5つだけ。
高遠遙一。ティアナ・ランスター。アレンビー・ビアズリー。ジェット・ブラック。チェスワフ・メイエル。
彼らはもう、動かない。
たった一つの希望――――ガッシュ・ベルだけを残して。
あの高遠がそこまで簡単に殺されてしまうのは俄かに信じがたい。
日本警察が幾度となく取り逃がし、脱獄さえして見せた男なのだから。
だが、同時に明智は高遠故に、十分死亡もあり得ると判断していた。
彼の犯罪手法は主に殺人教唆。
奇術の腕は図抜けているが、彼とてこの場では充分一般人の範疇に納まってしまうだろう。
故に、高遠も志望していると見るのが妥当だ。
それが悔しいのか、悲しいのかは明智には区別がつかなかった。
……ガッシュ君とも接触を持ちたいですが、と明智は考えるが、しかし。
まだ時期ではない。自分達の安全を確保してからだ。
現在、映画館は既に安全無事な場所ではない。周囲に危険な人物が多々集まりつつあるのだ。
あたかも誰かのシナリオに沿うかのように。
ニコラス・D・ウルフウッドや鴇羽舞衣、東方不敗といった明確にゲームに乗った人物。
また、衛宮士郎が元の世界で敵対したという言峰綺礼やギルガメッシュ。
――――後者なら話し合いの余地があるだろう。が、前者に今の段階で接触する訳にはいかない。
あまりにも戦力が足りなさすぎるからだ。
反面、同時に味方になりそうな人間も、この周囲に向かっている。
Dボゥイ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードといったプロフィールを見てゲームに乗りそうもない人間なら交流する価値は高い。
だが。
そうした状況でねねねが提案したのは、映画館の放棄だった。
早々にここを離脱し、刑務所に向かうべきだと。
彼女の“シナリオ”とは、こういうものだった。
「危険人物はともかく、この、衝撃のアルベルトとか柊かがみちゃんとかは確かに話し合えるかもしれないよ。
かがみって子はぬいぐるみとかこのフルメタル・パニックって小説を見る限り、ごく普通の女の子だと思う。
二人で行動してるなら、話し合いの通用しない可能性もゼロじゃないし。
こっちに近づいてきているヴァッシュさんって人も平和主義者らしいし、力にはなってくれそうだよね。
……だけど、そういうエサにつられてこのまま留まり続けるのは、螺旋王の思う壺じゃないかと私は思う。
螺旋王が混乱の中で螺旋力に目覚める事を期待しているのなら――――、」
ねねねは、うん、といったん頷いた上で明智を見つめ、言う。
「……私達に十分な人材をあてがった上で、ゲームに乗った人間をぶつけるはず。
あるいは、螺旋王に対抗する人間同士でも因縁があればぶつかり合うよね。
今、この近くにいるのはそんなクセのある人間ばっかり。
そうやってここを中心に、更なる混沌を引き起こすのがヤツの目的だよ、きっと。
……だから」
一息。
「だから、私は敢えて仲間になってくれそうな人たちからも一旦距離をおいて、螺旋王の読みを外してやるべきだと思う」
確かに最善手はこの場で戦力を確保し、対螺旋王の一大集団を結成する事だ。
人数が多ければ多いほど、向かってこようとする人間は減っていく。
現時点でも映画館付近を目指すゲームに乗っていないであろう人間はそれなりに多いのだ。
彼らを纏めきれさえすれば、ゲームを中断させるのも難しいことではない。
だが、それが戦乱を巻き起こす為の工作だとしたら。
念を入れすぎるなんて事はありえない。ここは文字通り何でもあり、バーリ・トゥードなのだから。
戦場の中心にいる必要など何もないし、螺旋王の思惑に対抗する為にこちらの行動にノイズを紛れ込ませるだけでも価値がある。
故に、高峰清麿の合流時点を以って、刑務所への移動を開始する。
当初は夜中に戦力の足りない状態で動くのは危険だったが、今はその心配はだいぶ下がっている。
何故なら、携帯電話の現在位置特定機能があるからだ。
どの参加者とも接触しないコースを随時確認しながら進行することで、戦闘は高確率で回避できるだろう。
他の参加者への接触は、刑務所についた後ゆっくりと行えばいい。
既に衛宮士郎やラッド・ルッソにはいざという時刑務所に向かう旨を伝えてある。
彼らに関しては問題ないだろう。
では、本来の予定では人員確保のために接触する予定だった、危険人物と目されていない人物が映画館に侵入したときはどうか。
ギルガメッシュや言峰綺礼などはゲームに乗ったとは限らない。
あくまで元の世界で衛宮士郎と敵対していただけなのだ。ゲームの脱出に関しては協力し合える可能性はあるだろう。
他にも、とりあえず協力できそうな人物にコンタクトしない手はないのだ。
今ここを離脱すれば、その機会すらも失ってしまう。
その解も簡単だ。
誰かが映画館まで到達したら、携帯電話で映画館に連絡を入れればいいのである。
参加者の位置を特定できるという機能に気をとられがちであるが、携帯電話本来の役割は遠距離通話だ。
この携帯電話には、あらかじめいくつかの施設の電話番号が登録されているのである。
その中のひとつに映画館があったのは僥倖だ。
逐次参加者の位置を確認して、映画館に誰彼が来たときに連絡を入れればいい。
そもそも怪しまれて電話を取ってもらえない可能性もあるし、うまく会話に持ち込めたとしても敵対する可能性もある。
だが、その点はこちらの現在位置や刑務所に向かう事さえ教えなければ直接の危険までには至らないだろう。
そして、もう一つ明智に移動を決意させた事項がある。
……それは、一つの放送だった。
『エドです。地図の載っている施設を全部、良く調べてみてください。すごいお宝を発見ができるかもしれません。
詳しい情報は追って連絡しますが、ラセンリョクという物を用意してください。それが絶対必要なんだそうです!
もしも見つけてしまったらぁ〜一切、粉砕、喝采ぃ〜八百屋町に火がともる〜!』
無邪気な子供の声。
先刻、それが突然館内に鳴り響いたのだ。
罠かもしれないという意見のねねねに対し、明智の意見は異なった。
エドという名の該当する子供は二人。
エドワード・エルリックとエドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世。
どちらも死亡している為遺言となったその言葉について、明智にはそれが正しい事であるという確信があった。
博物館の存在だ。
螺旋力と螺旋に縁のあるアイテムによって開くというあの扉は、実験を円滑に進行させようという螺旋王の意図の下に設置されたのだろう。
矛盾しているような感覚は拭えないが、しかし螺旋王直々に用意されたあの場所が罠であるとは考えにくい。
仮に螺旋王ではなく他の参加者の罠だとしても、地図に乗っている施設というのはあまりに広範囲すぎる。
やはり罠にしては悪手でしかない。
そして、肝心の放送の内容は、あのような場所が他に複数存在する可能性を示唆している。
ならば、できる限り他の施設も調査しておきたい所だ。
危険な物品もやはりこのゲームでは駒なのだ。
参加者が取り返しのつかないチェスの駒なら、支給品や隠されたアイテムは将棋の駒だ。
自分の手にあれば心強い戦力となるが、敵の手に渡っては目にも当てられない事になる。
それを取りに動くのも全く正しい一手である。
まずは刑務所に向かい、そこを調査。
次いで、そこを基地として人員を派遣、他の施設を調査する事が望ましい。
万一刑務所さえも安全でなくなった場合、明智が着目するのは警察署だ。
そこを選択する理由も、やはり刑務所と同じ様な理由になる。
……尤も、そんな事態は想定したくないが。
第二第三の候補として、図書館や発電所なども考えておいた方がいいだろう。
一見役立ちそうにない施設ほど、襲撃される可能性は低いのだから。
「……それも、やはり他の方々と交流を持たねば話になりませんか」
一人ごちるも、明智の目は携帯電話から揺るがない。
すでにねねねには博物館の事は話してあるが、やはり彼女だけでは心もとない。
そう、刑務所に着いたとしても、やる事はまだたくさんある。
とにかく、螺旋王に対抗する為の人員が欲しい。
その為に、いかにリスクを抑えながら他の参加者と接触するか、だ。
現在位置、及び動向を考えると刑務所付近で接触できそうな参加者は3組。
ルルーシュ・ランペルージ一行。スカー。リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ。
まず、彼らの誰かと連携することが第一の目的になるだろう。
ただ、前者二組はともかくリュシータという少女は、ニコラス・D・ウルフウッドと接触して以後動きが一定していない。
彼女と同行していたエドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世が死亡したのがその辺りでもあることから、動揺でもしたのだろう。
保護する必要があると明智は考えるも、しかし彼女の動向次第では刑務所から離れる可能性もある。
確実に接触できる訳ではない以上、不確定要素は二の次だ。
即ち、確実に一番最初に接触し得るのはルルーシュ・ランペルージ一行あるいはスカーという男だろう。
では、どちらに対して先に接触すべきか。
スカーという男は、現状未知の要素が多すぎる。
なにせ、携帯電話で座標を確認して以来ショッピングモールからほとんど動いていないのだ。
リストに記載された、イシュヴァールという民族出身であり、その虐殺の復讐のために生きているという情報くらいしか自分達は持ち得ない。
自分達と敵対する要素はないが、このゲーム内でどういう意図で動いているかがほとんど読めないのである。
対し、ルルーシュ・ランペルージ一行はどうか。
彼らは集団で動いている以上、ある程度の信頼は置けるだろう。
殺し合いに乗っていない可能性は高い。
また、人員確保という現状の指針にも適合している。
更に螺旋王の娘というニアという少女も存在しているのだ。接触する価値は高い。
だが、同時に懸念もある。
彼らはしばらく前に内部分裂を起こしているのだ。
その発端は、おそらくマタタビという参加者の死だろう。
地図の一箇所に置き去りにされた彼の首輪が示すのは、おそらく彼が死亡したことを示している。
……その原因が何であるにせよ、不安要素は確かに存在しているのだ。
「まあ……、結局は刑務所に着いてからの話なんだけどね」
「そうですね。できる限り早く行動しましょう」
誰に接触するにせよ、刑務所到着の時点で誰が一番近くにいるかというのも問題になるだろう。
場合によってはリュシータという少女がすぐ近くにいるかもしれない。
そうならば真っ先に彼女を保護すればいい。
ルルーシュ・ランペルージ一行やスカーに関しても、今後の動向次第なのだ。
そして安全を確保したまま接触する方法も、乱暴にではあるが考えついている。
ガジェットドローンを介せばいいのだ。
考察やこちらの意図を伝えるメモなどを括り付けた上で彼らの元まで飛ばし、伝令の後に帰還させる。
その際に彼らの返答をやはりメモさせておけば、ある程度の交流は可能だ。
何度かやりとりを繰り返した上で、安全だと判断すれば刑務所まで案内しても問題ないだろう。
「さて、と……。イリヤ君にも今後の事を伝えません……と……」
「どうした!? 携帯に何が……」
急に言葉を止めた明智に、ねねねは即座に聞き返す。
……だが、明智の表情を見て何かのっぴきならない事態が発生した事を嗅ぎ分けていた。
「……即座にここを離脱します。菫川先生はイリヤ君を連れて外に出てください。
……衛宮君は、ルッソ氏に拾われて直接刑務所に向かう、と、携帯電話に連絡があったとでも彼女には伝えてください」
「……ッ!! 衛宮が!? 根拠は!?」
「彼の首輪は現在東方不敗と接触中です! ……急いで!!」
顔をくしゃくしゃに歪め、ねねねはしかし即座に外へ飛び出していく。
……殺人に乗った東方不敗と首輪の反応が共にある。
それは即ち、交戦中であるという公算が非常に大きい。
最悪、士郎が殺され、首をもがれた可能性すらあるのだ。
最早一刻の猶予もない。
ラッド・ルッソから話を聞くに、東方不敗の戦闘能力は自分達が立ち向かうには高すぎる壁である。
衛宮士郎が生きているなどという希望的観測はしないほうが懸命だ。
今からではどうやっても間に合わない。
助けたい思いはあるが、しかし明智は命を天秤にかけ、苦渋と共に切り捨てた。
犬死にが目に見えている。
自分達の戦闘力など、常人に毛が生えているかすら怪しいところなのだから。
……もし、衛宮士郎が生き延びてくれたのなら。
その時は刑務所に来てくれるだろう。
それが唯一の希望である。
「……衛宮君。もし生きてくれているのならば、どれだけ恨んでくれても構いませんよ。
私達は、君を見捨てるのですから……」
唇を噛み締めながら、明智は携帯電話に目を通す。
現在東方不敗は衛宮士郎とおそらく交戦中。
そして、高峰清麿と小早川ゆたかも次第にこちらに近づいてきていた。
中間地点で落ち合い、そのまま刑務所に向かうべきだろう。
明智は卓の上に広がったものをそれぞれのデイパックに押し込みながら立ち上がる。
一つに纏めないのは自分が倒れても全ての情報を渡さない為だ。
石橋を叩き、犬を渡らせ、なお油断しない。
それだけの慎重さを持ちながら、明智はしかし闘争心を昂らせる。
ここから撤退するのは確かに守勢だ。
だが、螺旋王が殺人者という駒でチェックをかけるのならば、それすらも耐え忍んで見せよう。
一連の攻防をしのぎさえすれば、こちらの手番はいずれかならず回ってくる。
ずっと螺旋王のターンであるなどありえない。
全ては勝利の為の布石。
いかに相手が手数で攻めて来ようとも、結局は最後に凌ぎ切れない一手を繰り出した方が勝つのだから。
それが、衛宮士郎に対する手向けの花になると信じて。
明智健吾は、振り向かずに部屋を後にする。
一人の少年の死に対し涙はなく、しかし、握った拳から血を滴らせて。
◇ ◇ ◇
夜。
暗闇の中。
静まり返った病院、その中庭で、一組の男女が手と手を取り合い、寄り添っていた。
男は握り合っていない方の手で女の肩を抱き、女の顔を見つめて告げる。
「……さて、行くぞシャマル。まだ先は長い、ニンゲンはだいぶ残っている。
……案ずるな、お前が手を出す必要はない。手を汚すのは俺だけだ」
握った手と手に力を入れ、笑うヴィラル。
彼に言いようのない感情を覚えながらも、シャマルは照れ隠しに呆れ笑いをしてみせる。
「もう……。まずはその前に、治療をしてしまいましょう。
ここは病院ですから、設備が幾つも――――、」
そう言った瞬間、シャマルは浮遊感を感じた。
何故だろうか。
疑問はすぐに氷解する。ヴィラルが自分を抱えて一気に後ろに跳躍したのだ。
だが、そんな事をした理由が分からない。
それを確かめようとした瞬間、聞きなれない男の声が中庭に響き渡った。
「毒ガスをこちらは持っている! ……その場から動かず、話を聞いて欲しい」
第三者の介入。
シャマルはようやくそれに思い当たった。
見れば、さっきまで自分の足下だった場所に何かが転がっている。
……それは、薬品のビンに見えた。
もしそれが手榴弾などだったら、自分達は木端微塵だったろう。
ヴィラルのとっさの判断でその場を退いたという訳だ。
杞憂だったにせよ、慎重を期すに越した事はない。
「ちぃ、……ニンゲンか、ふざけてくれる……!」
ヴィラルは即座に声のほうに向かって走り出そうとする。
声の主の姿は見えない。エントランスの内側、壁のぎりぎりに身を隠しているようだ。
場所が分かるなら話は早い、とばかりに武器を構えるヴィラルに、しかしシャマルは彼を制止する。
「待って、ヴィラルさん!! 毒ガス相手じゃあなたでも……!」
この中庭は四方を壁に囲まれている為、毒ガス散布には好条件である。
たとえ相手を倒せても、ここから男の場所に行くまでにまずガスを発生させられるだろう。
そうなれば逃げ場はない。
どう出るかも分からない現状、自分達はどう考えても不利すぎる。
今は、とにかく相手のいうことを聞くべきだ。
「くッ……、ハッタリではないのか……!?」
彼の今の最優先事項は、シャマルだ。
誰彼構わず無差別に被害を及ぼす毒ガスならば、確かに相手を倒してもシャマルが生き延びられる可能性は低い。
現在の彼のスタンスにとって最悪の相性である。
……そもそも、そんな事をすれば男だってただでは済むまい。
故に、ヴィラルは男の言葉がハッタリだと推測した。
……だが。
「いいえ、……多分、本当よヴィラルさん。さっきのそのビン、間違いなく毒ガスを精製できる薬品の入った代物だわ。
……そうなんですよね、そこにいらっしゃる誰かさん。
あなたが、この病院のお薬を全部回収したのかしら?」
シャマルの視線の先のそのビンは、シアン化ナトリウムの入ったビンだった。
強酸を注げばそれだけで青酸ガスが発生する。
……毒ガスを保有している証拠としては、これ以上のものはないだろう。
なにせ、軽くこちらに転がしてよこせるのだ。
彼の手元には、大量の毒ガスの元、それも青酸ガス並みに危険な代物があるとみて間違いない。
シャマルが先刻この病院を調べた時、あまりにも薬品が少なすぎたことへの解。
誰かが先立って薬品を回収していたに相違ないだろう。
そして、シャマルの懸念は肯定された。
「……ああ、その通りだ。こちらとしても、正直死にたくはないんだ。
ただ、100%あんた達に見つからず抜け出す方法も思いつかなかったし、正面きって戦って勝てるとも思えなかったんだよ。
……だから、」
「……全滅覚悟で私達をこの場に釘づけて、自分が逃げおおせるまで牽制する、ということですね」
成程、とシャマルは思う。
あの壁の向こうにいる人間は、戦闘に自信がない上に殺し合うつもりはないらしい。
自分達を殺すつもりなら、さっさと毒ガスを散布して逃げてしまえば済むのだから。
「……ヴィラルさん、彼を見逃す事にしましょう。誇り高いあなたには苦痛でしょうけど……」
「分かっている。お前を死なせては元も子もない。
……所詮は姑息な手しか使えん輩だ。こちらを殺す意図がなければ捨て置くまでだ」
……シャマルは、その言葉に安堵した。
ヴィラルはたしかに、自分のことを考えてくれているのだ。
心が温まるのを感じる。彼が、プライドと自分を天秤にかけて自分を選んでくれたのだから。
「……感謝するよ。一応、俺は安全と判断するまでいつでもガスを発生させられる態勢でここを退かせてもらう。
それと……」
「なんだ、ニンゲン」
少しの間。だが、躊躇うように、駄目元でという声色で男はヴィラルとシャマルに呼びかける。
「……あんた達、螺旋王の意図に従って動いてるんだよな」
「……それがどうした」
そして、未だ姿を見せない男はこう告げた。
「……螺旋王の目的は、多分殺し合いそのものじゃない。それを分かった上で、あんた達は人間を殺そうとしているのか?」
「「……!!」」
男の声は、彼自身の考察を伝えていく。
螺旋王の、真の目的。
趣旨は殺し合いではなく、その状況で発生する力の事。それに関する実験。
螺旋力とは。
首輪の解体の可能性。その条件と、制裁。
「……螺旋力さえあれば首輪の解除もできる。なけりゃ電気ショックだけどな。
首輪のネームシールの下にあるネジに、螺旋力を込めて回せばいい。
そして、あんた達は見たところさっき螺旋力が覚醒した可能性が高いんだ」
「……何を、根拠に……!」
吠えるヴィラル。
彼は、動揺していたのだ。
ニンゲンの考察、それがあまりにも的確すぎた為に。
彼自身も、うすうすと考えていた『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』。
それを一歩推し進めた男の考えは、あまりに状況に合致しすぎる。
ニンゲン同士の殺し合いそのものに確かに意味があるとは考えにくいのだ。
ガンメンを駆り、叩き潰せば済む話なのだから。
思い返してみれば、確かに一介の獣人である自分に螺旋王が真の目的を教えるとは考えづらい。
だが。
だがしかし、それならばシャマルの仲間が死ぬ必要はなかったのではないか。
彼女を泣かせる事もなく、ただニンゲンを追い詰めさえすればよかったのではないか。
シャマルは、自分の体を抱きしめて、俯いている。
彼女の心中を推し量れるほどヴィラルは器用ではない。
だから、彼は怒鳴り返す。
シャマルを守る為に決して勇み足は踏まず、しかし自身にできる精一杯の攻撃として。
「さっき、あんた達の体に緑色の――――、」
「そこまでにしろニンゲン……ッ!! 戯言はもういい、早々に立ち去れ!!
俺の自制心が許容量を越えるまでにだ……ッ!!」
「――――」
男の声が止み、わずかな静寂がしばし空間を満たした。
そして、男の声が再度響きだす。
「……悪かった。もう行くよ。
ただ、これだけは言わせてくれるか?」
ヴィラルもシャマルも返事はしない。
ただ、声のする方向をじっと眺めていた。
「……俺は、あんた達と殺し合いたくなんてない。
誰かを大切にできるんなら、きっと分かり合える。争う必要なんてないと思うんだ」
それだけを告げて、男の気配は次第に遠ざかっていく。
中庭からエントランスを見ていると、二つの人影が暗闇の中に浮かびあがった。
片方がもう一方を背負ったその背中は、扉を開けて病院を出て行く。
あまりにも無防備に見えながら、その背中に何故か二人は銃を向けることさえできないでいた。
実際はいつでもガスを発生させられるのだろうが、牽制をするに越したことはないはずなのに。
ただ、そこに立ち尽くしたままで。
どれだけ時間が経ったろうか。
ヴィラルは、未だ抱きかかえたままのシャマルになにがしかを伝えようとする。
「……シャマル。俺は――――、」
「ヴィラルさん」
しかし、それはシャマル自身の言葉で遮られた。
まるで、ヴィラルにその言葉を言わせてはならないかのように。
お姫様抱っこの態勢のままで、シャマルはぎゅっとヴィラルの腕を抱き締める。
「先へ、進みましょう。私たちの道の先へ。
……あなたの信じた道を、あなたがあなたである道を。
私なんかのために、踏み外さないでください。……ね?」
穏やかに微笑みかけるシャマルに、ヴィラルはゆっくり息を吐き、自身も笑い返した。
迷いを振り払う、そんな意思を込めながら。
「……ああ。お前がそれを望むなら、俺も躊躇いはない。
行こう、俺達の道を。誰の為でもない俺達のために」
星の落ちてきそうな夜の中庭で。
二人のニンゲンでないものが寄り添いあう。
それぞれの為に、自分達の道を行くと誓い合いながら。
【D-6/病院中庭/1日目/夜中】
【チーム:Joker&New Joker】
[共通思考]
1:自分達の道を行く。
2:二人で優勝する。
3:お互いを助け、支えあう。
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、脇腹・額に傷跡(ほぼ完治・微かな痛み)、左肩に裂傷
[装備]:大鉈@現実、短剣×2
[道具]:支給品一式、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
S&W M38(弾数1/5)、S&W M38の予備弾数20発、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、短剣×9本、水鉄砲、銀玉鉄砲(銀玉×60発)、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実、鉄の手枷@現実
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0: シャマルと共に進む。できる限りシャマルの望みを助ける。
1:道がぶつからない限りシャマルを守り抜く。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
2:蛇女(静留)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
3:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
4:機動六課のニンゲンを保護する。
※二アが参加している事に気づきました。
※機動六課メンバーについて正しく認識し直しました。
※なのは世界の魔法について簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※自身の螺旋力に関しては半信半疑です。
※螺旋力覚醒
【[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、強い決意
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×3(地図一枚損失)、ワルサーWA2000用箱型弾倉x3、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル、シアン化ナトリウム
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
0:ヴィラルと共に進む。 ヴィラルがヴィラルらしく行動できるよう支える。
1:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
2:優勝した後に螺旋王を殺す?
3:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
4:病院内でヴィラルを治療する。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
※自身の螺旋力に関しては半信半疑です。
※螺旋力覚醒
◇ ◇ ◇
「――――務所に向かわせてもらいます。
緊急事態である為、我々も映画館を放棄して――――」
「――――りました。
とりあえず、俺達も同行――――」
……暗闇の中で、彼女が聞いた第一声はそんなやりとりだった。
聞きなれない男達の声だ。
誰だろう、と思うも。目覚めはまだ遠い。
次第に頭の靄が消えていくのが分かるが、やはり覚えのない声だ。
Dボゥイの声ともシンヤの声とも違う。
そこまで思い至った時、彼女――――小早川ゆたかの脳は一気に覚醒した。
「シンヤさん……!!」
跳ね起きる。
だが、体が思う通りに動かない。誰かに背負われているからだ。
果たしてそれが誰の背中なのか。
知っている誰かであることを確認する為に彼女は呼びかけるが、しかし。
「……シンヤ、さん?」
「あ、……起きたのか。すいません、明智さん。ちょっと待ってて下さい」
「……え、」
自分が負ぶさっているのは、全く覚えのない少年だった。
そして、彼から手短に話を聞く。
シンヤと自分が病院にいたこと。
彼がシンヤに首輪に関して尋問されたこと。
その後、彼の仲間の乱入で辛くもそこを逃れたこと。
結果――――、シンヤは、もう既にこの世にいないことを。
それら全ては、自分が気を失っている間に全てなされたのだと。
唐突に、世界の時間が消し飛んだかのように。
「……すまない。本当に、すまない。
あの時俺がもっとうまく立ち回っていれば、彼を殺させずに済んだのかもしれない。
どれだけ謝っても謝り足りないけど、それでも謝らせて欲しい。
本当に、すまなかった」
顔面に苦悩を満たし、幾度となくすまないの4文字を繰り返す清麿と名乗った少年。
話を聞かされたゆたかは当初こそ言い知れぬ恐怖や憤りを感じたが、しかし次第にそれは別の感情へと変化していった。
……自身への無力感と、後悔に。
目の前でシンヤが削り取られる凄惨な光景の後、自分はずっと気絶して何も出来なかったのだ。
あの時、シンヤの前に立ち塞がった二人の男女や猫。
彼らがどうなったのかも分からず、シンヤはその後病院に向かい、そこで命を落とした。
自分が気絶さえしていなければ。
シンヤと清麿の接触を、円滑に進められたかもしれない。
シンヤは今も生きていたかもしれない。
なまじシンヤの死んだ瞬間を見ていないだけに、今の喪失感はとても大きいのだ。
死んだなんて信じられない。
しかし、あのシンヤがDボゥイに繋がる自分を見放して放っておくほうがもっと信じられない。
……つまり、本当にもうシンヤはいないのだ。
自分が気絶していたせいで。
呆然とするゆたかの前で、清麿は今も謝り続けている。
だが、ゆたかには彼を憎む事はできなかった。
責められるべきは自分なのだから。
彼に何と言ったかも覚えていない。
多分どうにか悪口は言わずに済んだと思う。
ただ、清麿は自分をここまで連れてきてくれたのは確かだ。
怖い人ではないんだろうな、とぼんやりと思う。
そして今清麿は、明智と名乗った男の人と話しながら携帯電話をいじりつつ前を歩いている。
もう一人、ねねねと名乗った女性も話を聞き、何かをメモしているようだ。
自分はただそれについて行っているだけ。
まるで、映画のゾンビのように。
そんな時間の感覚すら定かでない夢うつつな世界は、唐突に破られることになった。
「ね、あなたの名前はなんていうの?」
不意に、そんな声がかけられたのだ。
はっとしてそちらを向いてみれば、そこにいたのは銀髪赤目の可愛らしい少女だ。
こちらの顔を覗き込むように、目と目を合わせてじっと見つめてくる。
そこまで観察してようやく名前を問われたことに気付き、やや慌てながらもゆたかはしっかりと返答する。
「え、あ……小早川ゆたか……です」
「ユタカね。うん、わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
イリヤでいいよ、ユタカ」
にこりと笑うイリヤ。それにつられて、ゆたかは礼儀正しく返事をした。
「あ、はい、よろしくお願いします、イリヤさん」
そして、それがきっかけで互いにこれまでのことを話し始めた。
……といっても、殆どゆたかが一方的に話しているだけだったが。
好奇心旺盛なのか、イリヤはどんどん次を促してくるのだ。
……そして、話すうちにゆたかは次第に心が落ち着いてくるのを実感していた。
順を追って話すことで、心の整理がついてきたのだ。
もちろん、ショックや感情がなくなったのではない。
ただ、誰かに話すことで悩みを自分なりに消化する――――、それと同じ事をしたにすぎないのだろう。
それでも、何も分からないままぼうっとしているよりはずっとマシだ。
そして、彼女は、今の自分がシンヤにせめてしてあげられることを理解する。
イリヤに話すことで、シンヤの死を認識し始めたために。
そして、シンヤの死を受け入れるためにできることを。
曖昧なままのそれも、イリヤに話すことで明確な形にしていく。
「……ひとり、わたしが一緒にいてあげなきゃいけない人がいたんです。
でも、その人はもういなくて、それでわたし、その人に最後の挨拶だけでもしたくて……」
一つ一つ、言葉にしながらゆたかは自分の中のシンヤに向き合っていく。
そして、彼女の今彼に唯一してあげられることを、明確な行動として確認した。
「わがままだって分かってます。だけどそれでも、……お墓とか作ってあげたいんです」
――――そう。シンヤが死んだというなら、もう自分と話すことも助け合うことも出来はしない。
だけど、彼を弔うことはできる。
彼の死を自分は認めて、彼には安らかに眠ってもらいたいのだ。
「……そう、なんだ。……うん。分かるよ、その気持ち」
イリヤは頷き、悲しそうな目でゆたかに同意する。
……彼女も何か失ったのか、それは今のゆたかには分かりはしない。
ただ、彼女の手助けになりたいと、ゆたかはなんとなく思った。
「そっか。じゃあ、いったん安全な所に行ったら、アケチに頼んで病院に行かせてもらおう!
あとであちこちの施設を調査してみるって言ってたし、その時に組み込んでもらえばいいよ。
ユタカは私が守ってあげる。大丈夫、こう見えても私、正義の味方なんだよ」
不安を拭うかのように、イリヤは表情を一変させてゆたかに笑いかける。
言葉の内容は正義の味方なんて子供らしいものだけど、自分を安心させる為のものであるのは明白だ。
そうして、ゆたかもイリヤに対してようやく笑みを見せて告げる。
「あ、はい! ありがとう、イリヤさん……。とにかく、皆さんが落ち着いてからじゃないと話も切り出せませんよね」
……はじめてゆたかの笑う顔を見て、イリヤも自分の笑みをゆたかに返す。
その顔の下に、その言葉の下に、彼女もまた大きな決意を秘めながら。
ゆたかの手を取り、イリヤは明智達の後を追う。
それが自分のなすべき事であると、皆に知らしめるかのように。
◇ ◇ ◇
……唐突に、ここを移動すると言われたの。
シロウやラッドが出かけているよ、って聞いたら、
シロウなら途中でラッドが拾ってくれるから、あっちで合流できるよってネネネは言った。
……でも、多分それはウソ。
だって、ネネネは泣きそうな顔だったんだもん。
それでもムリして笑って、大丈夫だから、って言ってくれた。
ネネネも大切な人を亡くして辛いのに。
……きっと、さっきのお返しのつもりなのかな。
ネネネの優しさが身に染みる。
だから、私は気付かない振りをした。
急いで刑務所に行ってシロウを待つことに文句を言うけど、結局折れて一緒に行く。
そんな事を演じてみせて、今はアケチ達の後ろを歩いている。
顔を見られたくないから。
こんな事になるんじゃないかって心のどこかで思ってた。
だって、シロウはあんな性格だもん。
再会出来た事だって大きな奇跡だったのかもしれない。
『……マスター』
マッハキャリバーが呼んでくれる。
……でも、私はうまく答えられない。
「……ごめんね、マッハキャリバー。
少しだけ、少しだけでいいから……放っておいて」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
涙が止まらない。
皆にシロウのご飯を食べて欲しかった。
一緒に座って、わいわい楽しく食事を囲んで。
私はシロウの手伝いをして、シロウに頭を撫でてもらったり。
そうして私は皆の前で魔法を披露してみせる。
頑張って身につけたんだよ、私も皆を手伝えるんだって。
……そうして、すごいぞイリヤ、ってシロウに誉めて欲しかった。
でも、そんな夢はもう終わり。
アケチもネネネも、すごく優しくて。
……だから、シロウに何が起こったかなんて、簡単に分かっちゃった。
シロウ、見ていてくれてる?
私ね、決めたんだ。
絶対に螺旋王を倒してやるって。シロウの命を弄んだヤツを許さないって。
アイツの思うとおりになんか、動いてやるもんか。
そして皆と一緒に絶対に帰るんだ。
もちろん誰一人殺させなんてしない。
……シロウのユメは正義の味方だもん。
だから――――、
弟のユメは、お姉ちゃんが叶えてあげる。
そもそも、キリツグからユメを受け継ぐのは私でも良かったんだから。
だから、シロウ。
まかせておいて、シロウの夢は――――
――――ああ、安心した。
……そんな声が、聞こえた気がした。
◇ ◇ ◇
明智は、自分の予測が最悪の形で的中した事を思い知らされた。
東方不敗は衛宮士郎の首輪と同行している。それも、映画館へ向かって。
明智健吾の名の側に、キャロ・ル・ルシエの名前があるように。
……衛宮士郎は、倒した相手の首輪を奪う様な真似はしない。
ありえる事象はその逆の場合だけだ。
傍らにいるねねねも血が出るほどに唇を噛み締めている。
まず、衛宮士郎の首をもいで首輪だけ取り出したと見ていいだろう。
しかも衛宮士郎は自分の命を蔑ろにする傾向があるのだ。
生き延びている可能性など、間抜けにも生け捕りにされた場合くらいのものである。
そんな希望的観測にすがって全滅するなどは、絶対に犯してはいけない過ちだ。
だが、明智もねねねもその思いを必死に押し殺す。
後ろを振り向いたときに、そんな顔は見せられないからだ。
絶対に後ろにいるイリヤに気付かれてはならない。
衛宮士郎の死を教えれば、彼女はパニックに陥るだろう。
それは避けねばならない。
自分達の行動に支障が出るし、何より残酷すぎる。
……せめて、放送の時までは。
どれだけ彼女が暴れても、多少は落ち着いて対応できる刑務所までは知らせる訳にはいかないのだ。
携帯電話を見る。
……ラッドは、実はすぐに近くにいる。だが合流する訳には行かない。
『士郎はラッドと行動している』という嘘を移動の間だけでも貫き通す為に、急いで刑務所に行かねばならないだろう。
Dボゥイと舞衣という二人と接触していたようだが、そこで何があったのかも今ひとつ判然としない。
どちらも動いていることから、死者は出ていないようではあるが。
可能な限り早足で病院を目指す。
正確には、病院から映画館へ向かう“彼ら”の元を。
……そして、邂逅が訪れる。
壊滅した町のその端で。
二つの希望が、巡り会う。
「――――高峰清麿君と、小早川ゆたか君ですね?
お待ちしていました。
……そして、早速ですが――――」
【C-6南西端/路上/1日目/夜中〜真夜中】
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、疲労(中)、精神疲労(中)、苦悩
[装備]:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)
[道具]:支給品一式(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
首輪(エド)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、清麿のネームシール、
各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
[思考]
基本方針:螺旋王を打倒して、ゲームから脱出する
0:これからが勝負どころだな……。
1:ゆたかを保護しながら明智たちに同行、刑務所を目指す。
2:脱出方法の研究をする(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
3:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない(有用な情報が得られそうな場合は例外)
4:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
5:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:疲労(中)、心労(大)、やや茫然、後悔
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる。
0:……シンヤさん、ありがとうございました……。
1:Dボゥイと合流する。
2:シンヤを弔う為に、どうにかして病院に戻りたい。
3:ちゃんと弔ったら清麿たちに同行する。
4:シンヤを殺したラッドにどう対応すればいいのか分からない。
5:Dボゥイの為にクリスタルを回収する。
[備考]
※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました。
※清麿に対して負の感情は持っていません。
※イリヤに親近感を抱いています。
※螺旋力覚醒
【チーム:戦術交渉部隊】(明智、ねねね、イリヤ)
[共通思考]
1:各種リスト、便利アイテムを利用した豊富な情報量による仲間の選別及び勧誘。
2:基本的には交渉で慎重に。しかし、実力行使も場合によっては行う。
3:首輪の解析・解除が可能な者を探す。
4:最終目的は主催者の打倒、ゲームからの脱出。
5:携帯電話の現在位置探査を利用して他の参加者との接触を避けつつ刑務所へ向かう。
6:映画館内部にジンやラッド、その他協力できそうな人物が到達したら携帯電話で映画館に連絡を入れる。
7:刑務所に到着次第、ガジェットドローンを経由してルルーシュ一行、スカー、シータと接触する。順番は未定。
8:人員が揃い次第、各所施設に調査班を派遣する。
9:高峰清麿と情報交換、考察を行う。
10:万一刑務所が安全でないと判断できた場合、警察署へ向かう。
[備考]
※明智とねねねの考察メモの内容は同じです。
【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:右肩に裂傷(応急手当済み)、上着喪失、怒り、決意
[装備]:レミントンM700(弾数3)、フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、携帯電話、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、閃光弾×1
予備カートリッジ8、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、参加者詳細名簿、
ダイヤグラムのコピー、首輪(キャロ)、考察メモ
[思考]:
基本:螺旋王より早く『螺旋力』を手に入れ、それを材料に実験を終わらせる
0:……仇は討ちます、衛宮君。
1:清麿たちと共に刑務所に向かう。
2:菫川ねねねに情報を提供し、螺旋王を出し抜く『本』(方策)を書いてもらう。
3:螺旋力が具体的に何を指すのか? それを考察する。
5:首輪に関しては、無理をしない程度に考察。
6:ラッド・ルッソの動向には注意する。
7:2日目の正午以降。博物館の閉じられた扉の先を検証する。
8:東方不敗を最優先で警戒。
9:衛宮士郎の冥福を祈る。
[備考]
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
※ガジェットドローンは映写室に繋いだ時点でいったん命令がキャンセルされています。
※ラッドがシンヤを殺害したと推測しています。
※豪華客船にいた人々はガッシュ以外全滅したと推測しています。
※ルルーシュ一行、またはジン一行の誰かがマタタビを殺害したと推測しています。
※衛宮士郎が生存している可能性は絶望的と見積もっています。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康、悲しみ、決意
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、 詳細名簿+@アニロワオリジナル、手書きの警戒者リスト
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)、考察メモ
[思考]:
基本:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
0:衛宮……。
1:本を書くにはまず資料! 明智と一緒に考察をする。
2:ある程度考察が進んだら、ハッピーエンドを迎える『本』(方策)を書く。
3:ラッド・ルッソの動向には警戒する。
4:柊かがみに出会ったら、「ポン太くんのぬいぐるみ」と「フルメタル・パニック全巻セット」を返却する。
5:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
6:東方不敗を最優先で警戒。
7:衛宮士郎の冥福を祈る。
[備考]
※詳細名簿+はアニタと読子のページだけ破り取られています。
※詳細名簿+の情報から、参加者それぞれに先入観を抱いている可能性があります。
※殺人鬼であるラッドに軽度の不信感を抱いています。
※思考7、パラレルワールド説について。
富士見書房という自分が知り得ない日本の出版社の存在から、単純な異世界だけではなく、パラレルワールドの概念を考慮しています。
例えば、柊かがみは同じ日本人だとしても、ねねねの世界には存在しない富士見書房の存在する日本に住んでいるようなので、
ねねねの住む日本とは別の日本、即ちパラレルワールドの住人である可能性が高い、と考えています。
この理論の延長で、会場内にいる読子やアニタも、ひょっとしたらねねねとは面識のないパラレルワールドの住人ではないかと考えています。
※イリヤと士郎の再会により、自分の知る人物がやはり同じ世界の住人ではないかと疑い始めました。
※衛宮士郎が生存している可能性は絶望的と見積もっています。
※螺旋力覚醒
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]:健康、深い悲しみ、螺旋王とゲームに乗った人間への激しい怒り、強い決意
[装備]:マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、支給品リスト@アニロワオリジナル
[思考]:
基本:シロウのユメを代わりに叶え、正義の味方として行動する。ゲームから脱出する。
0:シロウ……ッ!
1:明智たちと一緒に刑務所に向かう。
2:マッハキャリバーからベルカ式魔法について教わる。
3:アケチ、ネネネの言うことを聞いてがんばる。
4:聖杯については考えない。
5:ゆたかとは仲良くなれそう。彼女を守り、一心地ついたら病院まで連れて行く。
[備考]:
※フォルゴレの歌(イリヤばーじょん)を教えてもらいました(イリヤ向けに簡単にしてあります)。
※チチをもげ!(バックコーラスばーじょん)を教えてもらいました(その時にチチをもげ!を完璧に覚えてしまいました)。
※バリアジャケットが展開できるようになりました(体操着とブルマ)。
※聖杯にランサーの魂が取り込まれました。
※マッハキャリバーより、「プロテクション」「シェルバリア」「リアクティブパージ」を習得しました。
現在は攻撃魔法を習得中です。詳細は不明です。
【プロテクション】:魔法障壁を張り、攻撃をガードします。
【シェルバリア】:半球状の結界を張り、外部からの干渉を遮断します。一定時間持ちますが、それなりの魔力を消費します。
【リアクティブパージ】:バリアジャケットを自ら爆破し、その威力で攻撃を防ぐテクニックです。
※明智たちの様子から、士郎が誰かに殺害されたと推測しました。
※保有するアイテムの詳細は、以下の通り。
【参加者詳細名簿】
全参加者の簡単なプロフィールと、その人物に関するあだ名や悪評、悪口などが書かれた名簿です。
【参加者詳細名簿+】
全参加者の個人情報と、その人物に関する客観的な経歴が記されています。情状など主観になる事は書かれていません。
※読子・リードマンとアニタ・キングのページはねねねが破いて捨ててしまいました。
【警戒者リスト】
ねねねがメモに書いた、要注意人物のリスト。自分、または仲間が遭遇した危険人物の名前が書き連ねてあります。
「高遠遙一」「ロイ・マスタング」「ビシャス」「相羽シンヤ」「東方不敗」「鴇羽舞衣」「ニコラス・D・ウルフウッド」
また、仲間がゲーム参加以前で敵対していた人物や、詳細名簿のプロフィールから要警戒と判断した人物を要注意人物として記載しています。
「ギルガメッシュ」「言峰綺礼」 「ラッド・ルッソ」他。
【全支給品リスト】
螺旋王が支給した全アイテムが記されたカタログ。正式名称と写真。使い方、本来の持ち主の名が記載されています。
【携帯電話】
通常の携帯電話としての機能の他に、参加者の画像閲覧と、参加者の位置検索ができる機能があります。
また、いくつかの電話番号がメモリに入っています。(※判明しているのは映画館の電話番号、他は不明)
[位置検索]
参加者を選び、パスを入力することで現在位置を特定できる。(※パスは支給された支給品名。全て解除済み)
現在位置は首輪からの信号を元に検出される。
【ダイヤグラムのコピー】
明智健吾がD-4にある駅でコピーしてきた、モノレールのダイヤグラム。
【首輪】
明智健吾が死体から回収した、キャロ・ル・ルシエの首輪。
【考察メモ】
雑多に書き留められた大量のメモ。明智、ねねねの考察や、特定時間の参加者の位置などが書き残されている。
◇ ◇ ◇
“彼”はそのやりとりを暗がりから観察していた。
雄雌の一組と、一匹の雄のやりとりだ。
病院の中庭とエントランス。
壁を挟み、言葉の応酬が交わされる最中。
――――“彼”の視界の一部には、一つの無防備な肢体が映し出されていた。
自分の元の宿主や、ラダムの裏切り者が執着していた個体だ。
エントランスにいる雄は、雌雄との駆け引きに気を取られてこちらに意識が向いている様子はない。
寄生するには好機と言えるだろう。
……だが、あの個体に寄生すべきか、否か。
元の宿主と共に行動していた時に、あの個体は人間の中でも特に脆弱な個体であることが判明している。
殺し合いという状況下で役に立つかどうかは疑問符をつけねばならないだろう。
“彼”は思考する。
手っ取り早くあの個体に寄生するか、更なる優秀な個体が現れるのを期待すべきかを。
あの個体よりも優秀な個体という点なら、中庭にいる二匹でも構わないのだ。
――――そして、“彼”は決断した。
自分が、これからどうすべきかを。
“彼”は動き出す。
それが身を隠すためか、誰彼に寄生するためかは――――依然、誰も知ることはない。
※ラダムが小早川ゆたかに寄生したか否かは不明です。
ただし、寄生された場合でも今のところ本人に自覚や症状はありません。
新しくやり直すとして
作品何で出すのよ
板の企画であるんだからアニメキャラは原則全員出すべき
411 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 19:13:27 ID:YxH8QJxP
412 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 19:16:13 ID:YxH8QJxP
>>411に追記。
投票の結果作品は
バンブーブレード
瀬戸の花嫁
新世紀エヴァンゲリオン
おおきく振りかぶって
スクライド
ゼロの使い魔
solty rei
ひぐらしのなく頃に
フルメタルパニック
スケッチブック
ARIA
破天荒遊戯
無限のリヴァイアス
CLANNAD
school days
魔法少女リリカルなのはStrikerS
Fate/stay night
狼と香辛料
ハヤテのごとく!
灼眼のシャナ
今日からマ王!
ヘルシング
少女革命ウテナ
の以上23作品に絞られています。
上限6下限2のキャラ投票で最終的に92人に絞り込む予定です。
既出制限などは特に設けていませんので、自由に投票が出来ると思います。
ごくろうさん
3rdの話するなら別のスレ立てりゃいいじゃない
>>414 サロンの本スレがGかただの荒らしか不明だけど、それに占拠されつつあるので一時的な非難。
初代の雑談スレでセカンドの告知もやってたし、サードの告知もセカンド通じた方がいいと思って。
キャラ投票が終わって正式に参加キャラが出揃えば、サード用の新スレを立てるつもり。
いや、2ndはやり直しだから3ndを名のるなら勝手にやればって感じ
一応確認。
地図氏がいたら
>>411で行う新ロワでセカンドと同一のマップを使う可能性があるので、
事前に報告します。
ちなみにキャラ投票は、土曜日の0時から丸一日掛けて行う予定です。
よろしければご参加お願いします。
418 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/07(金) 19:26:28 ID:kAP5vsHd
宣伝したいなら毒吐き別館とかでやれよ
べつにここで勝手にすればいいよ
むこうなんて関係ないし
投票10分までの期待age
自スレにお帰り下さい
くすくすくすくす。
私、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタは殺し合いに乗ることに決めました。
この会場の最後の一人になって、螺旋王のおじさまに私の願いを叶えてもらうためです。
なぜなら、私はパスーにもう一度会いたいから。
ドーラさんにも会いたいし、エドとももう一度お話したい、私が殺してしまった女の子にも謝りたいからです。
でもこわい人には会いたくありません。殺します、ずっと死んでて下さい。
さて、そのために私は強い人にかくまってもらおうと思っているのですが――強い人はどこにいるのでしょうか?
それにもし強い人を見つけても、それが殺し合いに乗ったこわい人だったら?
……困りました、私はどうやって強い人を見つけたらいいんでしょうか。
ああそういえば、こわい人のマオさんがこう言っていました。
『街は確かに人が多い、けど同時に殺人者もまた多く潜んでる可能性が高いんだよ!』
……強い人を探す手がかりにはなりませんけど、こわい人を避けることはできそうです。
ひょっとしたら人が多い街にこそ強い人がいるのかもしれないけど、こわい人に会ってしまったら大変です。
だから私はこの会場の中心を避けて、ぐるぐる回ることに決めました。
運よく強い人がいることを、神様に祈っておこうと思います。
■
「でぇ、どんなルートで図書館まで行くつもりなのだルルーシュよ」
「……」
「ブルァァァァァァァァァッ!ルルーシュよ、この華麗なるビクトリーム様がせっかく貴様の意見を聞いてやろうというのにその態度はなんだブルアァァァァ!
さてはこの見るからにもやしっ子め、ここまで歩いてくるまでに既に喋れないほど疲れたというのか!いくらなんでもヘナチョコ過ぎやしないかぁヲォイ!」
「……大丈夫だ、何の問題もない」
「本当に大丈夫ですか、ルルーシュさん」
「ああ、本当に大丈夫だよ。歩いていればそのうち治るさ」
本当のところはビクトリームに名前を呼ばれるだけで幼少の頃のトラウマを抉られているルルーシュであったが、どうにか笑顔で誤魔化す。
心配そうにニアが見つめてくるが、理由が理由だけにルルーシュは真相を話す気にはなれなかった。
――言ったところで、このV字が聞き入れるとは思えないしな。
それどころか、絶対に騒ぎ立てるだろうというのはルルーシュでなくとも想像できることだろう。
「てめぇらこのビクトリーム様を置いてきぼりにしていい雰囲気作ってるんじゃねぇぇぇ!ぶっちゃけ寂しいだろうがぁぁぁぁぁぁ!」
「分かったから叫ぶな、目立つだろうに」
「何を言うか!このビクトリーム様の華麗なVは目だって当然!てか違ぁぁぁぁぁぁぁう!
つい先ほど言ったばかりだがルルーシュよ、貴様本当にどんなルートで図書館まで向かう気なのだ!
我輩、てっきり右回りに各施設を巡って人間共を集めて図書館に行くものかと思っていたが、このまま行けば消防署を普通に通り過ぎるぞヲォイ!」
ビクトリームの絶叫の内容に、ルルーシュは軽く驚いた。
――ああ、こいつ少しは考えられるんだ。と
「ブルワァァァ!貴様その顔思いっきり我輩を馬鹿にしておるな小僧ォォォォォォォォ!」
現在、ルルーシュたちはC-7エリアの中心からちょうど東の位置にいる。
ビクトリームの言った通り、仲間を集めるつもりなら施設を巡った方が他の参加者たちと出会う確立は高いだろう。
――これ以上騒がれる前に、説明しておいた方がいいか。
「すまないな、どうもタイミングが掴めなくて話すのが遅れた。歩きながら聞いてくれ」
「む、むぅその謙虚な態度に免じて大人しく聞いてやろうではないか」
「あ、はい」
嫌味にならないようにマタタビの件の事で気をつかったことをアピールしつつ、ルルーシュは説明を始めた。
誤:パスー→正:パズー
「まずビクトリームが言っていた仲間集めだが、俺はジンたちに全面的にまかせようと思っている」
「何ぃぃぃ!ルルーシュ、貴様正気か!」
「落ち着け。もし施設にいるのが殺し合いに乗った人間だった場合、どうする?」
ルルーシュの問いにビクトリームはむぅ、と声を漏らす。
ビクトリームの脳裏には、トンネルで見かけた変態トリオの脅威が蘇っていた。
あまりのインパクトのため、ビクトリームの脳内では殺し合いに乗った人間とはデフォルトで彼らのような人物と認定されている。
畳み掛けるように、ルルーシュは続ける。
「今の俺たちに、そういった脅威に対する決定的な力はない。ジンたちだってそれは分かっているさ。
彼らが俺たちに期待しているのは、安全に図書館まで到着して欲しいってことだけだ」
期待しているのくだりは推測だが、そう間違ってはいないだろうとルルーシュは思っている。
逆に間違っていた場合、ルルーシュはジンやスパイクに対する評価を下げざる終えないだろう。
「ぬぅ……しかし」
「分かっている、俺だって何の手土産もなしにで図書館に行くつもりはなさ。
だから、途中でショッピングモールに寄っていこうと思っている」
そこまでルルーシュが喋った所で、ニアが小さく手を上げた。
「あの、ショッピングモールって何ですか?」
「……そうだな、ニアはデパートなら知ってるね。そことだいたい同じさ、構造が少し違うだけだよ」
「そうなんですか。え〜と、それじゃあ何でショッピングモールに寄るんですか」
「それは……ショッピングモールに、何があるかを確認するためだよ」
ニアはルルーシュの返答の意味が分からず、う〜っと首を斜めに傾ける。
ビクトリームは即座に考えることを放棄し、率直にルルーシュに答えを求めた。
「ブルワァァァァ!回りくどいぞルルーシュ!我輩にも分かるように、こうズバッと説明しろ!」
「……少しは考えろ、まあ時間が惜しいから説明するが。
まずは食料、いつまでも味気のない物を食べていなくなんてないだろう。ニアの手料理も、残念なことに食べ損ねたしな。
次に医薬品などの確保。出来ればジンたちには無傷で図書館に到着して欲しいが、備えておいて損はないだろうしな。
後は……何か役に立ちそうなものを適当にといった所か」
ルルーシュの説明に、ニアとビクトリームはおおーと感心したような声を上げる。
そのまま拍手でも送ってきそうな雰囲気に、思わずルルーシュは頬を引きつらせた。
まったく疑いもせずルルーシュの言うことを信じる二人に、少し不安を覚えたからだ。
実際のところ、ルルーシュが二人に説明したことはほとんど跡付けで考えた理由だった。
ルルーシュの真の目的は、脱出派の筆頭となるためのカードを作ることにあった。
いくらジンやニアたちから信頼を得たといっても、『結果』を出さなければ信頼以上のものになることはない。
そして、出遅れたルルーシュが脱出派を指導する立場になるためには強力なカードが必要なのだ。
期待を込め、ルルーシュはノートパソコンの入っているデイパックを軽く押さえる。
支給品ということで何か仕掛けがあるかもしれないが、もしも何の滞りもなく使えたとしたら――
「小僧!ブルァァァァァァァァァァァ!」
ルルーシュの思考は、ビクトリームに押し倒されたことで強引に中断されることになった。
文句は、ない。
ビクトリームに倒されるまでルルーシュが立っていた位置を、何かが恐ろしい速さで通り過ぎたからだ。
即座に、ルルーシュは叫んだ。
「敵襲だ!森へ逃げ込め!」
■
……失敗です、失敗しました。とっても沢山のことを失敗しました。
私がぐるぐると周辺を探っていたら、すぐに一緒に行動している三人組を見つけることが出来ました。
幸先のいいスタートに、私の心は浮かれました。
でも、その私の心はすぐに落胆に変わりました。
だって、その三人はどう見ても強そうには見えなかったんです。
一人目、黒い服の男の人です。
とっても線が細く、華奢な印象を受けました。
二人目、白い服の女の子です。
とっても綺麗。同じ女の子の私から見ても綺麗なので、男の人から見たらきっともっと綺麗に見えるかもしれません。
いいな。、あれだけ綺麗なら、きっと簡単に男の人を篭絡できるでしょう。
最後に、V字のロボットです。
ひょっとしたら、ラピュタのロボット兵みたいなものかもしれません。
でも……とても変ですけど、強そうに見えません。
――ここで、私は一つ目の失敗をしました。
きっとこの人たちは、簡単に殺せる。
見た目だけで、そう判断してしまったんです。
もう少し様子を見れば、もっと上手に奇襲出来たと思います。
――ええ、そうです。私は奇襲に失敗してしまったんです。
二つ目の失敗は、まさにその奇襲でした。
ストラーダのジェットの音と、光。そして私の白い衣裳が、どうしても目立ってしかたがなかったのです。
私はすぐにどうにかならないかと、ストラーダにお願いしました。
その結果、音と光は無理でしたけど、私の着ていた衣裳は魔女が着るような真っ黒いローブに変えることが出来ました。
頭に大きな赤いリボンもついてきましたが、これぐらいなら大丈夫だろうと思いました。
そして私は気を取り直し、改めて三人組に奇襲をかけることにしたんです。
はい、三つ目の失敗です。
その時は慌てていて思いつかなかったんですけど、同じ奇襲を二度三度とやっても意味ないですよね。
簡単に避けられてしまいました。
一番ヘロヘロになっている男の人を狙ったんですけど、女の子とV字のロボットが頑張ってフォローしていたので殺せませんでした。
そして、三人組はとうとう私を振り切って森の中まで逃げ込んでしまったのです。
困りました、逃げられてしまいました。
顔は、見られていないとは思います。
もし私の特徴を言いふらされても、ストラーダを腕時計にして、衣裳もまた変えてもらえば問題ありません。
もしもどこかで顔を合わせた時、きっと大丈夫だとは思います。
――でも、もし顔が見られていたら?ストラーダのことを知っていたら?
……ああ、四つ目の失敗です。
私は不安です、どうしても、あの三人組を殺さなくてはいけません。
でも大丈夫。今回のことで私は学びました。
少なくとも、今回のやり方は間違っていました。
次は、ちゃんとうまくやってみようと思います。
くすくすくすくすくすくすくす。
■
「……どうにか、逃げ切れたな」
「はい……これで、諦めて、くれるでしょうか」
木の幹に背中を預けながら、ルルーシュとニアはゆっくりと息を整えていた。
ビクトリームは地面に身を投げ出して、ゼエハァと必死に呼吸を整えている。。
――禁止エリアになるまでに余裕もあるし、小休止してから移動すべきだな。
そう判断し、ルルーシュは世間話代わりにニアの質問に答えることにした。
「襲撃者が取ってきた戦術は、急降下と急上昇の繰り返しによる一撃離脱戦法だ。
あれはまず前提として、上空からターゲットを定めなければならない。森の中にさえ逃げ込んでしまえば、攻撃はできないさ」
「ブルワァァァァァァ!ルルーシュよ、てかそれってもし襲撃者が我輩たちの位置を特定できた場合どうしてくれんだコンチクショウ!」
復活したらしいビクトリームが、ルルーシュに疑問をぶつける。
これは思ったより早く移動できるかもしれないとルルーシュは思いつつ、一つの事実に背筋を凍らせた。
――ああ、マズイ。名前で呼ばれることに段々と慣れてきた。
「ちょっと上を見上げてみろ、ビクトリーム」
「ん?」
「この樹海の中を直進してきたら、枝に引っかかってとても痛いと思わないか?」
想像してしまったのか、ビクトリームはガクガクと恐怖に震え始めた。
いったい何を想像したのかは気になったが、止めた。股間を押さえやがったからだ。
「……どうやら、みんな動けるようになったみたいだな」
「オォイもやしっ子、逃げるときに我輩と小娘に引きずられてて一番楽してやがった奴のセリフじゃねぇだろと我輩は思うのだが」
「大丈夫そうだな」
ルルーシュがニアの方を見ると、彼女は元気強くガッツポーズで答えた。
「よし、それじゃあ移動を開始しよ「キャッ!」――」
パキパキという枝が折れる音と共に、ルルーシュたちの目の前に少女が落ちてきた。
見覚えのない顔だったが、見覚えのある槍と服装から、ルルーシュたちは彼女が何者なのかを即座に理解した。
「馬鹿な、なぜ場所が分かった」
思わず漏らしたルルーシュの疑問をよそに、少女は頭に引っかかった葉っぱを払う。
そしてルルーシュたちの存在に気づくと、とても嬉しそうな表情を浮かべた。
「初めまして、私はリュシータ・トエル・ウル・ラピュタ。シータと呼んで下さい」
■
シータがルルーシュたちを発見できたのは、本当に偶然だった。
ストラーダに跨って上空から森を見張っていたところ、木々の隙間から白い何かをシータは発見したのだ。
他に手がかりとなりそうなものもなかったため、シータはすぐにその白い何かがあった場所へストラーダを走らせ――
「そういう理由で、また会うことが出来ました」
にっこりと笑い、シータはルルーシュが思わず呟いた言葉への返答を済ませた。
呆れた夜目だと、ルルーシュは苦々しくシータを見つめる。
「ブルワァァァァァ!小娘Mk-U!貴様いきなりこの華麗なるビクトリーム様とその下僕たちに襲い掛かってきて、何をノォン気にしてやがる!
とりあえず土下座して泣いて謝れば許してやらんこともないかなぁと我輩は思わなくもないぞブルワァァァァァァ!」
「……そうですね、すいません。初めからちゃんとお願いしておくべきでした」
「む、むぅ、貴様妙に物分りがいいな。まあ分かればいい、分かれば」
啖呵を切ったビクトリームだったが、シータがしおらしい態度を取ったため気勢を制されることになった。
どうでもいいことだが、小娘Mk-Uとはやはりシータのことなのだろう。
ルルーシュはこの時点でなんとなく不穏なものを感じ、腰元にあるベレッタM92に手を伸ばしていた。
「ええとすいません、みなさんには一度死んでもらいたいんです」
言い終えた瞬間に、シータが消えた。
……すくなくとも、ルルーシュたちにはそう見えた。
ルルーシュたちが風が通ったかのような錯覚の後――ビクトリームの胴体が、二つに分かれた。
「ビ、ビクトリームさん!」
「くそっ!」
自らの対応の遅さを悔やみながら、ルルーシュはベレッタM92を抜いてシータを探す。
シータは、すぐに見つかった。
消えた地点からルルーシュたちを挟んでちょうど反対の位置――つまり、シータがいた地点とルルーシュたちがいる地点を結んだ直線状にいた。
その事実に、ルルーシュは寒気を覚えた。
簡単なことだ。シータはルルーシュたちの横を通り抜け、その行きがけにビクトリームを真っ二つにしていったということだ。
ただ、そのスピードが段違いに速いという一点を除いて。
「どういう心算だ、俺たちを最初に襲った時、それだけのスピードがあれば簡単に殺せたはずだ」
ルルーシュの言葉に、シータは困ったように答える。
「……ごめんなさい、そこまで深く考えてなかったんです」
シータはただ、素人なれではの奇襲を思いついたまま実行したに過ぎない。
ルルーシュたちを初め襲ったときにそれは役に立たないことを知り、今度は以前行った方法を取っただけのことだ。
狂人め、とルルーシュは吐き捨ててベレッタM92の引き金を引く。
銃声をあげ、鉛弾がシータの体を目指す。
しかし、銃弾はその途中で唐突に出現した光の幕により弾かれることになった。
「……枝に引っかからなかったのも、そいつのせいか」
「はい、ストラーダが私のことを守ってくれるんです」
ベレッタM92を構えたまま、ルルーシュは忌々しそうに舌打ちする。
状況は、絶望的だ。
銃が通用しないということは、既にルルーシュの打つ手は――ギアスしかない。
――ギアスを使わざる終えない。
――しかし、ニアに気づかれないように、さらに見えないほどの速さで動く標的と目を合わせなければいけない……
ルルーシュが瞬時に数パターンの作戦を考え、緊張を高めたとき――ニアが、あまりにも無造作にルルーシュの前へと出た。
即座に下がれと言おうとしたルルーシュだが、それをニアは手を上げることで制した。
黙々と、ニアはシータのすぐ近くまで歩き始める。
シータは、困った。無防備に近づくニアが、何かの罠にも見えるし、本当に何も考えていないように見えたからだ。
結局どうしようか悩んでいるうちに、ニアとシータはお互いに手を伸ばせば触れられる位置まで近づいていた。
「私の名前は、ニアといいます。シータさん、私はあなたに聞きたいことがあります」
「……はい、なんでしょう」
「先ほど『一度』死んで欲しいと言っていましたけど、それはどういう意味ですか」
真っ直ぐ、鋭く問うニアにシータは少し気圧された。
――大丈夫、ストラーダが守ってくれる。同じ女の子ならエドを殺した黒服みたいなことはない。
「言ったとおり意味です。安心して下さい、ちゃんと私が螺旋王のおじさまにみなさんを生き返らせてもらえるようにお願いしますから」
パァンと、小気味いい音が森に響いた。
ニアが、シータを平手打ちにしようとしたのだ。
バリアジャケットの性能のため、ニアの掌はシータの皮一枚挟んだところで止まっている。
だが、ニアはそんなもの関係ないとばかりに叫んだ。
「あなたは、ムカつきます!」
もう一度、ニアは平手打ちを行った。先ほどと同様に、パァンという音とともに手が止まる。
「ドーラおばさまからあなたのことを、パズーさんのことも聞きました!
あなたがパズーさんや、ドーラおばさまが死んでしまって悲しいことは分かります!
でも、だからと言って人を殺して大切な人を生き返らせるなんて、間違っています!」
また、パァンとの小気味いい音が森に響いた。
「それは、あなたの価値観の問題です」
今度は、シータがニアの頬を叩いたのだ。
「私も、それは間違っていると思っていた時があります。
けど、言峰神父が言ってくれました。
全ては、人の価値観しだいなのだと。
……人を殺して、大切な人を生き返らせることのどこが間違っていることなんですか?
それに殺してしまった人も生き返らせれば、殺したことなんて『なかったこと』になりませんか?
私の願いは、どこが間違っているのですか?」
シータは今まで見せた笑みと違う、ぞっとするほど妖艶な笑みを浮かべた。
ルルーシュはひとまず言峰神父という人物を脳内の警戒リストに書き加え、思考する。
――こいつは、ひょっとして言いくるめば篭絡できるか。
「もし、螺旋王が嘘をついていたらどうする。君は殺人者で、大切な人も戻ってこない。得るものも返ってくるものも何もないぞ!」
「それなら、大丈夫です。私、死んだはずなのに生き返っていた人と出会ったことがありますから。
螺旋王が人を生き返らせてくれるのは、間違いないはずです」
「……なんだと」
「たぶん、本当です。私はシモンの兄貴さんは死んだと、シモンから聞いていました。
けど、ビクトリームさんはこの会場でシモンの兄貴さんと出会ったと言っていました」
ニアがシータの言葉を肯定したが、ルルーシュはそれでも信じきることはできなかった。
――いや、信じたくなかったのかもしれない。
――もしもそれが本当だとしたら、俺は、スザクを……
ルルーシュに起きた危険な考えをよそに、頬を押さえ黙っていたニアが再び口を開いた。
「それで、あなたは生き返った人に、なんて言うんですか」
「……え」
「褒めてくれると思っているんですか、頑張ったねって言ってくれると本当に思っているんですか!」
パァンと、また平手打ちの音が炸裂した。
シータがニアを叩いたのだが、当のシータは驚いた顔でニアの顔を見つめていた。
ニアの言葉を聞いて、まったく無意識に手が動いていたからだ。
まだ生きてたんだここの書き手w
死んだかと思ってた
「い、いいって言ってくれます!だって生き返ったんだから、よくやったって、頑張ったってパズーも言ってくれます!」
「言ってくれるわけありません!」
パァンと、何度目かの平手打ちの音が響く。
今度はニアがシータを叩き、今回も皮一枚のところで手が止まった。
しかし、シータにあった余裕は一気に無くなってきていた。
「あなたがやっているのは、悪いことです!恐ろしいことです!絶対に、褒められないことです!」
シータにとって、それは古い価値観だ。
何の感慨も沸かない、捨て去ったもの。
それでも、シータは間違いなくニアに追い詰められていた。
「あ、あなただって大切な人に生き返って欲しいでしょうに!」
起死回生を図るため、シータは絶対に反論できないはずと考える言葉をぶつける。
しかし、シータ自身が言ったように――そんなもの、所詮人の価値観の問題なのだ。
「いりません!私の大切な人は!シモンは!ヨーコさんは!ドーラさんは!マタタビさんだって!みんなこの胸に、一つになって生きています!」
目に涙を浮かべ、はっきりとニアはシータの言葉を拒絶した。
ニアは、これまで以上に大きく手を振りかぶる。
「これは、私の胸にある、シモンの!」
なぜか、シータにはその手がこれまでの平手打ちと違うって怖いものに見えた。
逃げようとしたが、足が竦んで動けなかった。
「天を、突く、ドリルです!」
雄たけびと共に、ニアの腕が振り下ろされた。
パリンと何かが割れる音がして、瞬時にパァンと音が重なる。
頬に強い痛みを感じながら、シータは足元から崩れ落ちた。
■
「……そうだよな、スザクがそんなこと望む訳がないか」
死者蘇生の話が現実味を帯びたところでルルーシュは一瞬我を失いかけ、ニアの言葉で目を覚ました。
死者が、本当に蘇生を望むのか。
ニアが突きつけた問いに、シータは答えきることが出来なかった。
ルルーシュは想像することしか出来ないが、ニアとシータが知る人物はそんなことを望む人間ではなかったのだろう。
――スザクの場合、こんなの間違っているとか言って自分の首を跳ねかねないな。
頑固な親友を思い出し、ルルーシュは密かに笑った。
気を取り直し、今のうちにシータの持つ槍を奪っておこうとしてルルーシュはビクトリームのデイパックが光っていることに気がついた。
――連鎖的に、あることに気がつく。
「ビクトリーム、お前まさか――」
「……くすくす」
ポツリと、崩れ落ちたシータの口から楽しげな声が漏れた。
ルルーシュに、再び緊張が走る。
「シータ、さん?」
「ニア!槍を奪うんだ!早く!」
「え、あ、はい」
ルルーシュに言われて、ニアがストラーダへと手を伸ばす。
しかしシータは癇癪を起こしたかのようにストラーダを振り回し、ニアを追い払う。
「くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす」
「きゃ、わ、きゃあ!」
シータはくすくすと笑いながら、ストラーダを振り回す。
槍という物理的な恐怖と、シータのくすくすと笑うことへの精神的な恐怖に負けて、思わずニアはルルーシュの元まで退却する。
ニアが逃げたことを確認すると、シータはやっとストラーダを振り回すのを止めた。
「くすくすくすくすくす。ねえ、ニアさん。私あなたのおかげで分かったんです。
よかったぁ……このままだと、本当に全部失敗してしまうところでした」
「……どうせ、碌なことじゃないんだろう」
「それは、人の価値観が決めることですよ」
くすくすくすくす、と。シータはニアに叩かれた頬を撫で、より一層に壊れた笑みを浮かべていた。
「私、螺旋王のおじさまにみんなを生き返らせてもらうときに、こうお願いしようと思うんです」
『みんな、私と同じ価値観にして生き返らせて下さい』って」
「ッ……シータさん!あなたは!」
ニアが、信じられないといった顔でシータを非難する。
ルルーシュもまさかここまで悪化するとは思っておらず、深くため息をつく。
ここにきて、ルルーシュは確信した。
――シータは、間違いなく手遅れなのだと。
「ブルワァァァァァァ!小娘よ!てめぇふざけるのもいい加減にしろよ!」
唐突に鳴り響いた怒声に、思わずシータは硬直する。
この声の主は、確かにシータが真っ二つにしたはずだからだ。
「ベリィィィィィィシィット!さっきから聞いてればワガママ放題しやがってぇ!
この華麗ならビクトリーム様が直々にその性根を叩き折ってくれるわぁぁぁぁ!
ちなみに言っておくと我輩は死んだ振りをしていた訳ではないぞ!ちょっと休んでいただけだ!」
「……なんなんですか、それ」
思わず呟いたシータの言葉に、ルルーシュは思わず同意したくなった。
なぜなら声の主――ビクトリームは、V字の頭部だけになって浮かんでいたからだ。
ルルーシュとて、二つに分かれた滑らかな断面を見ていなければ信じられなかっただろう。
「小娘Mk-T!我輩のデイパックから魔本を取り出してみろ!」
「え、あ、はい!」
「さ、させません!」
動揺から抜け出せないシータだったが、それでも何か自分にとって不利なことが起きそうだというのは感じ取ることが出来た。
慌ててストラーダを構え、宙に浮くV字の頭を貫こうと集中し――後方からの投石によってその集中は乱されることになった。
慌てて、シータは石が飛んできた方向を振り返る。
ビクトリームは元より、ルルーシュとニアもシータの前方にいるため、後方には誰もいないと考えていたのだ。
そして、シータは目の前のVの非常識の断片を見ることになった。
「……どうたい?」
「クククククククッその通り!我が胴体が独立して動かないとは誰が言った!
こんなこともあろうかと、予め貴様の背後に回りこませていたのだ!ハァーハッハッハ!」
ビクトリーム(頭部)が笑っている間にも、シータの後方にいたビクトリーム(胴体)は投石を続ける。
石を拾っては投げるという動作を繰り返す首なしの物体は、とってもシュールで怖いものがあった。
そしてシータが見事にビクトリームのペースに巻き込まれているうちに、ニアは空色に輝く魔本を手にしていた。
「ビクトリームさん!」
「小娘Mk-T!我輩としては貴様のような天然ボケ娘などパートナーとして願い下げだが、今回ばかりは強力してやろう!
ブルワァァァァァァァァァァァァ!ブルワァァァァァァァ!ブルワァァァァッァァァァァァァァァァァ!」
掛け声と共に、ビクトーム(頭部)は空高く舞い上がり、乱回転を始める。
……なんとなく、ルルーシュは危険な予感がした。
「小娘よ!読み上げろ!我輩の華麗なるVの軌跡を残す呪文を」
「はい!え〜と……マガルガ?すいません、マガルガって何ですか?」
「ブルワァァァァァァァァ!二回も唱えるとはトリッキーだな小娘ェェェェ!」
乱回転するビクトリーム(頭部)から、V字をかたどった光線が二度発射された。
それはシータのすぐ近くと、ビクトリーム(胴体)の近くに着弾し、見事なV字を大地に残した。
「ブルワァァァァァァ!我が胴体にダメージ10!損傷は軽微なり!小娘Mk-Tよ唱え続けよ!」
「あ、はいマガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!」
「ロボットの光線!」
ビクトームに促されて、ニアはマガルガを連呼する。
シータはこの会場にくる以前のロボット兵の光線を思い出し、軽いパニックに陥いっていた。
なんとなく予想していたルルーシュはマガルガを連呼するニアを引きずり、巻き添えを食らわないように木の陰まで避難した。
「マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!」
「ブワァァァァァァァ!ブルワァァァァァァァァ!ブルワァッァァァァァァァ!」
乱回転するビクトームの放つ完全にランダムな砲撃を前にシータは攻勢に移れず、遮蔽物に身を隠すことにした。
膠着状態となり、、現在のこの場は完全にビクトリームの独壇場と化した。
ルルーシュはその隙に、作戦を練る。
「……ニア、魔法を唱えながらでいいから話を聞いてほしい」
「マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!」
「ブワァァァァァァァ!ブルワァァァァァァァァ!ブルワァッァァァァァァァ!」
呪文を唱えながら、ニアはコクンコクンと顔を上下に揺する。
ニアとビクトリームの絶叫が煩かったが、どうにか意思疎通ができることにルルーシュはホッとした。
「この状況がいつまでも続けば、そのうちここは禁止エリアになって俺たちはお仕舞いだ。
だから、罠を張って彼女を撃退しようと思う」
「マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!」
「ブワァァァァァァァ!ブルワァァァァァァァァ!ブルワァッァァァァァァァ!」
魔法を唱えながら、ニアが悩ましげな顔をする。
これまでのニアとシータのやり取りで、ルルーシュはなんとなくニアが言いたいことを察した。
できれば、ニアはシータを説得したいのだろう。。
しかし、ルルーシュとしてはあそこまで不安定な人物を仲間に入れる気にはなれない。
だから、詭弁を用いる。
「……分かっているだろ、ニア。彼女はもう手遅れだ。
君の声……ドリルが届かなかった以上、ここで楽にしてあげるのがきっと彼女にとって一番なはずだ」
「マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!」
「ブワァァァァァァァ!ブルワァァァァァァァァ!ブルワァッァァァァァァァ!」
そんなはずありません、とニアは顔を左右に振る。
もちろん、ルルーシュが予想していた通りの反応だ。
できるだけ悲痛そうな顔を作り、同情を誘う。
「分かってくれニア。彼女を助けようとして、ニアやビクトリームが死んでしまっては元も子もないんだ」
「マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!マガルガ!分かりました!マガルガ!」
「ブワァァァァァァァ!ブルワァァァァァァァァ!ブルワァッァァァァァァァ!」
ニアは悲しそうな顔で、呪文に混じって肯定の言葉を言った。
説得がうまくいったことに安心し、ルルーシュはおもむろに学生服の上着を脱ぐ。
そして、ニアに少し恥ずかしそうにしながら告げた。
「それで……すまないが、服を脱いでくれないか」
■
ビクトリームが乱回転しながらマガルガを連発しているせいで、森の中にはビクトリームを中心としてミステリーサークルが出現していた。
「ブルワァァァァァ!おい小娘Mk-U!貴様なんかかなりベリィィィィィィシットなこと言ってなかったかぁ!」
乱回転しながら、ビクトリームはシータに対して話しかけていた。
シータからの返答は、ない。
返事を返すつもりなど元からないし、そもそもビクトリームの砲撃のおかげで返事を返す余裕などないからだ。
「てーかよー!なんだかよく分からんが、貴様の話を聞いてるとなんだが腹の虫がベリィィィィィにムカついてくるんだよ!」
一方的に、ビクトリームは語り聞かせるように話し続ける。
そもそも、ビクトリーム自身何が言いたいのか分かっていないのだが、元々深く考えるタイプではないので話し続ける。
シータは絶対に嫌がらせだと確信していたが。
「死んだ人間を生き返らせる?ブルワァァァァァァァ!確かにそれは名案だな、みんな何事もなくハッピー間違いなし!」
ビクトリームは死んだ振りをしている間、ルルーシュたちの会話を盗み聞きしていた。
そしてシータが死んだ人間を生き返らせると言った時から、ビクトリームは理解不明な苛立ちを感じていた。
シータが生き返らせるときに『価値観を同じにする』と言ったときにブチ切れた。
理由は、まったくといっていいほど分からない。
「OKハッピーけどなぁ、じゃああの時のグラサン・ジャックの涙はなんだったんだ!無駄じゃねぇかコンチクショウ!さらに我輩は殴られ損だおい!
ブルワァァァァアァ!マジ分かんねぇぇぇえぇぇ!我輩なんでこんなにイラついてんだ!なんだか切ないぞブルワァァァァァァ!」
ビクトリームは苛立ちに任せて、乱回転の速度を上げる。
さらにマガルガのランダム性が上がって、シータへのプレッシャーが増加した。
「無視か無視なんだな!この華麗なるビクトリーム様がなんだが分からんがイラついているというのに、て、ヲイなんだかマガルガ止まってませんかぁ!」
ビクトリームの言葉に、シータは隠れていた物陰から顔を覗かせる。
中空に浮かんだV字の頭が、心の力がどうとか騒いでいる。
よく分からないが、確かにあの厄介極まりない光線は止まったようだった。
――なら、今のうちに。
シータはストラーダを構え、今度こそV字の頭を貫こうとする。
先ほど邪魔をしてくれた胴体は、今のところ見当たらない。
物陰から飛び出そうとしたところで――声が聞こえた。
「弾切れだ。ニア、俺が援護するから君は先に逃げろ!」
「は、はい」
同時に、木々の向こうから白い何かが飛び出てくる。
会話からそれがニアだと判断したシータは、ほとんど反射的に標的をその白いものに変更していた。
Sonic Move――高速移動魔法を発動させ、次の瞬間には目標を刺し貫いていた。
「……え?」
「シィィィィィィィィッットォォォォォォォ!この臭いはまさかベリィィィィィメロン!」
シータはあまりの手ごたえの軽さに驚き、次の瞬間には刺し貫いた目標を見てさらに驚いた。
ストラーダが貫いたのは、白い布で包まれた(ビクトリームの言葉を信じるなら)メロンだった。
――しまった、とシータは思い
――かかった、とルルーシュは思った
ルルーシュの立てた作戦は、シータにマガルガを直撃させるためのものだ。
シータの素人臭さを利用しておびき寄せ、メロンを利用してビクトリームの射角を調整する。
囮となる物を作るためにニアに服を脱いでもらわねばならなかったが、勝つためには手段を選んではいられない。
完璧とは言いがたい綱渡りの作戦だったが、シータが戦闘に慣れてないこともあってルルーシュの思った通りに事は運んでいた。
「ニア!やれ!」
後はニアがマガルガと唱えれば、全てはルルーシュの考えどおりに進んでいただろう。
しかし、世の中は全てが考えた通りに進むことなどまずないのであった。
「ルルーシュさん、ごめんなさい!」
「な、に」
ニアは一言だけルルーシュに謝ると、魔本を投げ捨ててシータへ向かって走り出した。
瞬時に、ルルーシュはニアの目的を悟る。
――くそっ!納得したんじゃなかったのか!
ルルーシュはベレッタM92の引き金に指をかけ、構える。せめてもの牽制のためだ。
「ニア!戻れ!」
「ブルワァァァァァァ!何をやっとるんじゃこの馬鹿どもぉぉぉぉ!」
シータは、戸惑った。。
自分は罠に嵌められたと思い、この状況だ。混乱しないほうが無理だとシータは思う。
――けど、向こうから来てくれるなら。
未だに切っ先にメロンが刺さったままのストラーダを、走り寄ってくるニアに向ける。
なぜかニアが下着姿で黒い上着を羽織っていて、ルルーシュが上半身裸なのが気になったがあえて無視した。
再び、Sonic Moveを発動させて今度こそニアの心臓を目掛けて加速する。
トンッという音と共に――ストラーダは、空を切っていた。
「嘘!」
「本当です!」
ニアの声は、シータの背後から聞こえた。
ハッとなって振り向くと、ニアはシータを羽交い絞めにしようとするところだった。
何が起こったか分からず混乱しつつも、シータはニアの拘束から逃げようとする。
「ストラーダ!お願い!」
「逃がしません」
シータがストラーダに跨って上空に逃げようとしたため、ニアはシータに掴まって阻止しようとした。
結果、ニアはシータと共に上空に飛び上がることになった。
「は、離して!」
「嫌です、離しません!」
ニアのあまりのしつこさに、シータは舌を巻く。
ならばこのまま振り落としてしまおうと、シータはストラーダのスピードを上げた。
もちろんニアも振り落とされまいとより一層、シータを掴む手に力を込める。
「この、落ちて!」
「絶対に嫌です!」
時にもみ合いになりながら、少女たちは空中でちょっとした決闘を繰り広げていた。
……彼女たちが、いつの間にか海の上にいることを認識するのはしばらく後のことだった。
【C-1/海上/一日目/夜中】
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、ギアス 、右頬にモミジ、下着姿にルルーシュの学生服の上着
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:シータをなんとしても止める。
2:ルルーシュとビクトリームと一緒に脱出に向けて動く。
3:ビクトリームに頼んでグラサン・ジャックさんに会わせてもらう。
4:シータを探す
5:お父様(ロージェノム)を止める
6:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
今後も読めるかは不明です。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)、令呪(使用中・残り持続時間約2〜3時間) 、
おさげ喪失、右頬にモミジ
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式 (食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml 2本)、びしょ濡れのかがみの制服
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガン、暗視スコープ、音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)
士郎となつきと千里の支給品一式
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる。
0:ニアをなんとしてでも振りほどく。
1:自分の手でアシがつかずに殺せる人間は殺す。
2:自分の手に負えないものは他人に殺させる。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:恩人の言峰は一番最後に殺してあげる。
5:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※令呪は、膨大な魔力の塊です。単体で行使できる術はパスを繋いだサーヴァントに対する命令のみですが、
本人が術を編むか礼装を用いることで、魔術を扱うにおいて強力な補助となります。 ただし使えるのは一度限り。
扱い切れなければ反動でダメージを負う可能性があります。人体移植された魔力量が桁違いのカートリッジと認識してください。
効果の高さは命令実行に要する時間に反比例します。
※令呪への命令は『ストラーダを運用するための魔力を供給せよ』です。
ストラーダ以外の魔力を要求するアイテムには魔力は供給されません。
持続時間は今後の魔法の使用頻度次第で減少する可能性があります。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※第三回放送を聞き逃しました。
※価値観が崩壊しましたが、判断力は失っていません。
※かがみを殺したと思っていますが、当人の顔は確認していません。
※言峰との麻婆豆腐の約束はすっかり忘れ去っています。
※ストラーダは元々飛行用の装備ではないため、ある程度直進的に飛行しています。
ただしスピードの出しすぎ、危険運転、二人乗りなどの危険行為をしているためどこに行くか分かったものではありません。
つまり自由です。
■
シータが駆け寄ってくるニアに槍を向けた時、ルルーシュは最悪の事態を覚悟していた。
しかし槍がニアを貫くと思った瞬間、ニアはまるで読んでいたかのようにその身を空中に躍らせていたのだ。
ニアは空中で身体を捻らせてシータの後方に着地し――もみ合いの末、シータと共に空に消えた。
「……なんだと!」
ニアたちが飛んでいった方向を目で追っていたルルーシュは、何度目かになる混乱に陥いることになった。
「ブルワァァァァ!ルルーシュよ!我輩はベリィィィィィィィメロンが大好きだ!どれくらい大好きかと言うと世界中のメロンは我輩のものと言ってもいいほど大好きなのだ!
よって我輩が小娘どもを追いかけるのはベリィィィィィメェロンのためであって断じて小娘どもが心配だからなどではなぁい!ブルワァァァァァァァァァァァァ!」
待て、とルルーシュが口を挟む間もなくビクトリームはニアたちが消えた方向へ向かって飛び出した。
胴体も、置いていかれぬようにと魔本を回収して走り出す。
そしてニアたちと同様にビクトリームは消失し――ここで、やっとルルーシュは消失する地点がマップの端だと気がついた。
「まさか、な」
ある可能性に気づき、ルルーシュはニアたちやビクトリームが消失した地点へ近づく。
ある程度近づいたところで片手を前に出し、ゆっくりと歩く。
二、三歩あるいたところで、ルルーシュの片手は淡い光に包まれて消失した。
「……感覚は、ある」
確認して、ルルーシュは片手を消失した地点から引き抜く。
当然のように、ルルーシュの片手は元に戻る。
今度は、頭から消失した地点に突っ込み――風景が、一転した。
「なるほど、そういう仕組みか」
目の前に広がる海に対し、ルルーシュは忌々しく呟く。
少し先にドーム球場が見えることから、間違いなくC-7エリアとは反対に位置するC-1エリアだろう。
念のためにと顔を引き抜いてもう一度突っ込んでみたが、風景は変わらない。
――ループしているのは、間違いないか。
常識外の連続のため、ルルーシュはこの事実をあっさりと認めた。
そして、悩む。
ニアたちに追いつくのは、おそらく不可能に近いだろう。
せっかく信頼を得た相手だが、こうなっては無事を祈るしかない。
「まいった」
最終的には図書館に集まるの予定だ。
臨機応変にルートを変更すると決めていた以上、地図の西側から図書館を回るのもありだろう。
ルルーシュには今二つの道がある。
ショッピングモールへ行く道と――ループを利用して、モノレールを調べる道だ。
ショッピングモールもモノレールも、どちらも脱出のための鍵となりえる。
決断の時は、迫っていた。
【C-8/森のはずれ/一日目/夜中】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(大)、中度の頭痛 、上半身裸
[装備]:ベレッタM92(残弾13/15)@カウボーイビバップ
[道具]:デイパック、支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、ゼロの仮面とマント@コードギアス 反逆のルルーシュ 、
予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:ショッピングモールへ行くか、モノレールを調べに行くか決断する。
2:清麿との接触を含む、脱出に向けた行動を取る。
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「戦力の拡充」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればモノレールを調べる。
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※ギアスを使った影響は若干収まってきましたが、いまだ頭痛があります。
※清麿メモの内容を把握しました。
※会場のループについて把握しました。
「ブルワァァァァァ!我が胴体よ!泳げ、泳ぐのだぁぁぁぁぁぁ!」
ビクトリームは現在、漂流していた。
正確には、胴体が準備運動もなしに海に飛び込んだせいで足をつったのだ。
「ノォォォォォォ痛い、痛いぞ我が胴体ぃぃぃぃぃ!しかも小娘どもを見失ってしまうとは我輩としたことがぁぁぁぁぁ!」
頭部は空に飛ぶことでどうにかなっているが、胴体はなんとか浮かんでいて波に流されるがままの状態だ。
「ブルワァァァァァァァ!イッテェェェェェェェ!」
流石に胴体を放っておくことは出来ず、ビクトリームは波間を揺られ続けることになった。
【D-1/海中/一日目/夜中】
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!!】
[状態]:静留による大ダメージ、鼻を骨折、歯二本欠損、股間の紳士がボロボロ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、魔本
[思考・状況]
1:なんか我輩漂流してないか!
2:小娘どもを追うのはメロンが欲しいからで、別に心配なぞしておらんぞ!?
3:パートナーの気持ち? 相手を思いやる?
4:吠え面書いてるであろう藤乃くぅんを笑いにデパートに行くのもまぁアリか…心配な訳じゃ無いぞ!?
5:カミナに対し、無意識の罪悪感。
6:シータに対し、意味の分からないイライラ
7:F-1海岸線のメロン6個に未練。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも石版から復活し、モヒカン・エースと出会った後。ガッシュ&清麿を知ってるようです。
※会場内での魔本の仕組み(耐火加工も)に気づいておらず、半ば本気でカミナの名前が原因だと思っています。
※モヒカン・エースはあきらめかけており、カミナに希望を見出しはじめています。
※静留と話し合ったせいか、さすがに名簿確認、支給品確認、地図確認は済ませた模様。お互いの世界の情報は少なくとも交換したようです。
※分離中の『頭』は、禁止エリアに入っても大丈夫のようです。 ただし、身体の扱い(禁止エリアでどうなるのか?など)は、次回以降の書き手さんにお任せします。
※変態トリオ(クレア、はやて、マタタビ)を危険人物と認識しました。また、六課の制服を着た人間も同じく危険人物と認識しています。
※ニアとジンにはマタタビの危険性について話していません。
※持っていたベリーなメロンはジンを待っている間に完食しました。
※ニアが魔本を読めた理由はかけらも気にしていません。
さて、したらばなんてほっといて話を再開するか
で、参加者の決め方をどうするかだけどさ、
どうする?
どうしましょうか
どこ行ったって今のご時勢どんなパロロワであろうがしたらばのお世話になる
としたらばのボケ管理人が申しております
無限ループって怖くね?
3rdはもうしたらば立ってるじゃん
脂の焦げる匂いがする。
じゅうじゅうと肉汁が炭に滴る音がする。
並べた端から肉が消えていく光景がある。
焼肉、それは日本人なら誰もが知っている韓国料理。
一晩以上コクのあるタレに漬けておき、あっさりとした付けダレでいただくのが乙というものだが贅沢は言っていられない。
二重の意味でここはまさしく戦場だ、今の状態でさえ贅沢というものである。
一心不乱で焼き、ひっくり返し、タレに付け、食らう。
ばくばくムシャムシャと、食い続ける。
「……こんな贅沢覚えちまって。明日から肉抜きチンジャオロースなんざ食えるのかね、俺」
「あ、スパイク・スピーゲル! それは私の肉よ、勝手に持っていかないで」
「確かにこれもファイトではある、か……。ジン、次は何だ?
何であろうと俺は挑戦を受け付けよう!」
「お待ちどう。今度の獲物は白銀の蜜(あぶら)の詰まった桃(モモ)肉さ。
まだまだ他の肉もある、戦闘(ディナーコース)は始まったばかりだしね、気楽に行こう」
焼く。
骨の付いたままのカルビを焼く。
ぼたぼた、ぼたぼたと大量の脂が網の下に落ちていく。
それは備長炭にまんべんなくまぶされることで、赤と白に染まった炭を芯とした蝋燭に早変わりするのだ。
蝋の成分は脂そのもの。
従って、そこから出てくる煙の中身には焦げた脂の香ばしさが詰まっている事になる。
煙は上に立ち上る。再度肉の在り処に辿り着き、燻す事で肉に香りを付けるのである。
下半分が白く染まった所で、ひっくり返す。
そこに覗くのは熱される事で肉表面に生じたいくつもの沸き立つ脂と、
こんがりといい具合に色をつけた焦げの混ざり合う光景だ。
数回それを繰り返すだけで十分食べられるようになるのに、一回ひっくり返しただけですぐ口に運びたくなるのは人間という種に定められた業なのか。
口の中に広がる肉の甘みとタレのコクを想像しながらそれに耐えつつ、程よい加減の所でようやく自身に口に運ぶ事を許す。
そろそろ網を変えなければならない事を意識の隅において、肉を掠め取ろうとする他の連中の手を払いのけながらハシを伸ばす。
網に張り付いてしまったそれを、間違えてちぎってしまわない様に気をつけながら丁寧に、手早く剥がしとって手元に運び、素手に持ち替える。
骨の部分を掴んで、熱いのにも汚れるのにも構わずタレにつけるのだ。
あまりつけすぎればクドくなって肉の味が分からないし、タレの温度で肉が冷める。
つけるのは一部分だけ。
サンチやコチュジャンが欲しい所だがあいにくと見つからなかったので我慢する。
肉の塊を一気に放り込めば、口の中はもう幸福の極地だ。
美味い。旨い。甘(うま)い。
……ウマい。
トロける脂。滲み出る赤身本来の味。香ばしい焦げ。コクのあるタレ。
骨の周りの肉は、アミノ酸が多い。
よく使う部分だからこそ、鍛えられて味の成分も溜まるのだ。
それを丁寧に丁寧に、餓鬼のようにこそげとる。
一片たりとも残しては天に顔向けなど出来はしない。
噛む。何度も何度も咀嚼する。
その度に口内の味の密度は濃くなっていく。
噛み応えそのものもまさしく上々。
適度な弾力がありながら、しかしスジが引っかかる事は決してないのだ。
確実に噛み切れる。だから、不快感はない。
何度も何度も噛み締めたくなる。
……そして、口の中に残るのは肉の味だけ。
これ以上何を食べても味気ないだろう、そんな風に思ったその時にビールを一息!
ゴクゴク、ゴクゴク。
程よい炭酸の喉越しが、全てを綺麗サッパリ洗い流す。
もちろん原料は麦芽ホップ100%。いわゆるプレミアムビール。
広がるのは苦味だけではない、大麦の味も嫌味のない程度に、しかし鮮やかに舌の上で自身を表現する。
グラスを離して思うのは、ガキどもは可哀相だということだ。
こんな幸せを味わえるのは大人だけ。
そんな優越感を味わいながら、同時になんとなく罪悪感を抱いてしまうのは何故だろう。
しかしそんな感傷も肉の匂いを嗅げば即座に消える。
見れば、タンもロースも既にない。
カルビは残りわずか、次に投入されるはハラミとホルモン。
逃す訳にはいかない。
既に舌はリセットされている。肉を味わう態勢は十分だ。
かくして、スパイク・スピーゲルは新たな肉に手を伸ばす。
戦いを生き延びる為に、目先の戦いを制する事を目的として。
◇ ◇ ◇
「……ジン、何か見つかったか?」
「首尾は上々、収穫祭は盛大に。見積もりましてはひと財産ってところだね。
そっちはどうだい?」
「ああ……。見てもらいたいものがある、ちょっくらこっちに来てくれ」
就寝中のカレンを消防車に残し、スパイクとジンは、崩壊したデパートの探索を行っていた。
何らかのアクシデントに対応できるよう約十分おきに顔を合わせることにして、二手に分かれて最初の集合。
それだけわずかな時間だけの探索で、スパイクとジンは奇妙な事に気づいた。
デパートが丸々消滅していたにもかかわらず、瓦礫ひとつひとつの大きさは実に小さいものだったのだ。
つまり、この場で起きた現象は、爆発などではないということである。
まるで満遍なく分解されたような異様さには空恐ろしいものを感じたが、しかし現状それ以上分かる事はない。
とりあえずは保留にして、まずはジンの見つけたものを見繕ってみる事にする。
「俺の眼からしても天恵ものだね、これは。
工芸品としては一級品、ぶつけ合うならそれ以上。蒐集家垂涎のお宝さ」
そうしてジンの突き出した最初のものは、スパイクには一見何か分からなかった。
……だが。
「……剣、か? どうにも妙な形だが」
じっと見つめているうちに、それが何か一応は把握することができた。
螺旋の形状をした奇妙な剣。
それは異常な妖しさを湛えながら、息の詰まるほどの存在感を醸し出していた。
「ご名答。コイツ以外にもいろいろ暴れ馬が揃っていてね。
とりあえず、しかるべき持ち主さえいるなら間千金の大サーカスを見せてくれるものばかりさ」
次いで突き出されたのは黄金の剣と紅い槍の2つと、そして短剣。
最後の短剣は大したものではないが、その前の3つは別格だとスパイクにも分かる。
滲み出るオーラといえばいいのか、威圧感が尋常ではない。
武器としてどうなのかはよく分からないが、美術品として売りさばくなら相当な値になるだろう。
「……まあ、それはお前さんに任せる。で、俺の方だが」
スパイクは手にぶら下げていたデイパックを掲げながら告げる。
「……仏さんの握ってたモンだ。原形殆ど留めちゃいなかったがな。
とりあえず、冥福を祈ってから使わせて貰う事にした」
デイパックの持ち主と思われる人間。その遺体は、殆どの部分が消失していた。
部分部分が点在するしか残っていなかったといった方が正しいかもしれない。
瓦礫の中に埋もれるようにデイパックが綺麗に残っていたのは奇跡とすら言えるだろう。
わずかな服の切れ端などから察するに、彼ないし彼女はおそらくは古代の中国人のような服を着ていたと思われる。
おそらくデパートの消失に深く関わっていた人間だったのだろうが、物言わぬ骸となっては何があったのかを聞きだす事はできはしない。
まだ中を検めてはいないが、おそらく何かしら使えるものはあるだろう。
「……成程ね。パーティの彩りにまたしても真っ赤なワインの栓が開けられたのか。
やっぱり主催者サマには早いところご退場願いたいね」
相変わらずのジンの口調ではあるが、その表情に茶化した色はない。
顎に手を当てた後、ジンは親指で背後を指差してスパイクに向き直る。
「それでスパイク。収穫祭はまだ終わっていなくてね。
こっちはちょっとばかり手間がかかりそうだし、少しばかり自分の目で確かめて欲しいかな」
ジンの指差す方には瓦礫の山しか見えないが、どうやらそちらの方になにか持ち運びできない何らかがあるらしいというのは分かる。
別に反対する理由もなく、くるりと優雅に半回転したジンの背中をとりあえず追う事にしてスパイクも歩き出す。
足場に気をつけながら追いすがり、肩を並べて進む。
スパイクは考える。
……今、自分はジンと二人きりだ。
カレンは消防車の中であり、そこから出た様子は全くない。
この場でジンと何を話そうと、彼女には何も伝わらないだろう。
では、どうすべきか。
もちろん、ルルーシュとマタタビ殺害に関する自説についてである。
カレンの目の前では話せないことを伝えるのには今はまさしく絶好の機会だろう。
そこで問題となるのがジンがそれを話して信用するか、否か。
そしてまた、それだけ信頼するに足るか、だ。
……前者に関しては限りなく否の方だろう。
あるのは状況証拠だけ。
それも、ゼロの素性など、当事者でない彼に話すべきか分からないような事象まで存在するのだ。
そもそも自身すら信用しきれない仮説などはまずまともに受け取ってはもらえまい。
だが。
後者という点に関してならば、ジンは十分条件を満たす相手だとスパイクは判断した。
ここでジンに自説を開陳しても、彼ならば信じまではせずとも頭ごなしの否定もしないだろう。
不用意に口を開く事もしないはずだ。
まともに受け取ってもらえないのなら、それを逆手に取ればいい。
戯言である事を前提に情報を渡しておけば、多少なりともそれを意識してくれるはずである。
後はこれからの事実でそれを肯定する何某かの証拠を得られれば御の字といった所だろう。
「……ジン。今からの俺の『独り言』は全部妄言だ。聞き流してくれて構わん。
ああ、絶対に『他言はするな』よ。こんな馬鹿げた事を考えていたと知られたら一生の恥だからな」
「……オーケイ、とりあえずは頭の検問をスルーさせることにするよ。
俺の口を動かすには結構体力が必要でね、アタマの中だけで収まる程度の事ならいくらなんでもパワー不足さ」
つまり、それは誰にも話さないということだろう。
『頭の中で収まらない事態』が発生するまでは、だ。
その返答に満足し、スパイクは語り始める。
温泉での出来事。ルルーシュの言葉を受けて妙な行動をした3人。
そこから導き出された読子・リードマンの仮説。
催眠術のような技能をルルーシュが持つ可能性。
自身の催眠術に関する体験談。
マタタビ殺害の経緯にそれが使用された疑い。
催眠術の弱点。マタタビを消す事でそれが漏れるのを防いだという動機。
それらの『妄言』を、万一カレンが追ってきた時に聞こえないよう念を入れて注意しながら事細かに伝えていく。
……そして。
「これだけは、誰にも明かすな。万一が起こった時でも俺が呟いたと悟られないようにしろ」
言葉を切り、ジンを見る。
目線の先の彼はこれまで話を聞いても軽口を一切叩かず、聞き役に徹していた。
そして、表情を一切変えずにジンは頷く。
その様子を確認したスパイクは、とうとう告げる。
これからのルルーシュ・ランペルージの動向を知る鍵に十分なり得る、その事実を。
「……ルルーシュ・ランペルージは『ゼロ』だ。
それを知っているヤツは俺とカレンだけしかいない。
この意味は分かるな?」
「カレンおねーさんが消しに来る可能性、か。
それをスパイクは待ち受けているという訳だね」
ゼロ、という名詞の意味しているものが何か。
それを知らずとも、スパイクの口調は今後起こり得る可能性を示唆するのに十分だった。
ジンの飲み込みに安堵しながら、彼の知る限りのゼロの意味する事項、カレンのゼロへの執着を語っていく。
そして、全てを語り終え、スパイクはようやく一息ついた。
「……すまんな。しょせん状況証拠しかないもんだ、疑心暗鬼を振り撒いたのと同じだな。
そもそもこんなトンデモ理論が信頼に足りるかどうかすら……」
煙草を探す動作をするスパイクだが、今は持っていない事をすぐに思い出し、頭をかく。
だが、それを見たジンは、スパイクに対する不信は微塵もないという表情で返答した。
「いやいや、なかなか有意義だったよ。
ダークヒーローは素性を隠すもの。ルルーシュがあんな雰囲気を湛えていたのも納得だね。
そして選定の剣は王を選んだ後に力を授けるもの。どんなチカラを彼が持っていても別段不思議ではないんじゃないかな」
表情を崩したジンの手にあるのはカリバーン。
スパイクは知る由もないが、それはまさしくアーサー王伝説に出てくる王を選ぶ為の岩に刺さった剣である。
どうやら、ジンはスパイクの仮説を少なくとも可能性のレベルでは認めたようにスパイクには思えた。
だとするならば非常にありがたい。
議論する相手がいるならば、自分だけでは見えない視点からの考察もできるのだ。
そうしてスパイクが、ジンの今の仮説についての意見を聞こうとした瞬間、その男は現れた。
「――――俺はネオジャパン所属のドモン・カッシュ!!
お前達にファイトを申し込む! いざ、正々堂々と――――」
現在考察中という空気を全く読まずに拳を振りかざす、実に暑苦しいハチマキ男が。
◇ ◇ ◇
「ふう、満腹満腹。一切れのパンは時として100万の宝石よりもなお尊いね。
それが血湧き肉踊る謝肉祭(カーニバル)とあればなおさらさ」
先刻までの焼肉。
とりあえずそれに満足しながらも、ジンには一つ引っかかる事があった。
殺し合いという状況下にそぐわない御馳走を調達する事を可能とした、この場の状態だ。
現在自分たちがいる場所は、日の光や星の瞬きを望む事のできない場所である。
即ち、地下。
現代日本の住人ならば、『デパ地下』という言葉で大体思い浮かべるであろう空間の中を進んでいるのである。
その中の一角の精肉店からグラム1,000円を越えるようなお肉ばかりをドロボウとして頂戴した後、やはり地下のレストラン街にあった鉄板焼きの店で美味しく頂いたという次第だ。
ジンがスパイクに見せようとしていたものとは、まさしくこの地下空間の存在だった。
デパートの地上部は丸々消滅していたが、しかし地下の部分には全く影響はみられない。
何らかの現象が、地上からデパートの建築物部分に向かって発生したのだとすれば筋は通る。
だが、それにしても。
「……さすがに影響がなさすぎるね、これは」
――――そう。あまりに綺麗すぎるのだ。
まるで何か不可思議な力がここを守っているかのように。
……普通、デパートを見てそこに何があるかを調べようとした時、まず意識するのは高々とそびえる建造物の方だろう。
逆に言えば。
(……本命は地下に。大きな建物は立派な孔雀の尾羽ってところかな。ドロボウを相手するには基本だね)
現在自分たちがいるのは地下一階。
その下に何階層あるのかは分からないが、そこに何かが隠されている可能性は十分あるだろう。
それこそ『地上では目立ちすぎる巨大な何か』や『どこかに抜ける通路やゲート』があっても、地下に隠されている限りは空間的な不都合さを気にする必要はないのだから。
「……とはいえ、今は調べている暇はなさそうだ」
一人呟きながら、ジンは先方を行く3つの人影をそれぞれ順繰りに見渡す。
まず目に留めたのは左端にいるスパイク・スピーゲル。
ルルーシュに関する興味深い仮説を自分だけに告げた男だ。
仮説そのものはどこまで信用できるかは分からないが、彼という男本人は信頼に足るとジンは判断した。
森の中や山小屋での立ち振る舞いを考えれば、彼がゲームに乗っていないのは明白だ。
疑心暗鬼を振り撒くような行動もしていない以上、影で暗躍しているとも思いがたい。
とりあえず、温泉で起こった事象や、ルルーシュにはマタタビを殺す動機があったという点は留意しておくべきだろう。
そして、真ん中にいるのが現状最優先でどう扱うか考える必要のある男――――ドモン・カッシュ。
いきなり殴りかかってきたのは人としてどうかと思ったが、食事に誘ったらホイホイついてきたので当面害はないだろう。
ここがハッテン場でなかったことに彼は感謝すべきだ。
彼がそういう趣味の持ち主だとしたら全く問題がないことではあるが。
とりあえずは彼の今までの経緯を聞いてみて、いくつか考慮すべき事が判明した。
まず、カミナという男を捜す必要がある。それが現状の彼の行動指針らしい。
18:30に駅で合流する予定だったとの事だが、彼がそこに着いた時には既にその姿はなかった。
そこで、とりあえずカミナの向かいそうな所としてドモンが絞った候補は二つ。
炎上する何らかの施設と、暗闇がぽっかりと空いた空白地帯――――つまりこの場所だ。
あいにくとカミナはここにおらず、おそらくは行き違いになったか、炎上した施設――――地図から確認するに豪華客船の方向に向かったかのいずれかだろう。
人員を集める事が目的の自分達としては、カミナを探すのに異論はない。
だが、豪華客船の方向に向かえば清麿のいる病院からはどんどん離れていく事になってしまう。
そこで今後の方針をどうすべきかが問題となる。
デパートの地下を調べる暇がないというのは、彼が急いでカミナを探しに行きたがっているからだ。
だったら焼肉食ってる場合じゃないだろというツッコミは、しかし彼自身が空腹だった為却下された。
何にせよ、他にも参加者に関する有力な情報を幾つも手に入れることができたのは僥倖だ。
会場のループの情報も非常に有用だろう。
彼はケダモノのように誰彼構わず襲い掛かっていたらしい。
その事に対し言いたい事はあるものの、そのおかげで自分達の知りえない人員についての情報を得られたのだからとりあえず保留にしておく事にする。
東方不敗という彼の師匠の事。
ゲームに乗った上に強大な戦闘力を有する彼は最も警戒すべき人物だ。
ドモンはどうにか彼を説得したいようだが、状況次第ではそんな悠長な事を言っていられないだろう。
額に傷のある男の事。
説得の余地はあるが、それには入念な注意をする必要がある。
とにかく意識しておくに越したことはない。
言峰という神父の事。
ゲームに乗ったわけではないようだが、掴みどころのない人物だ。
彼に関しては協力できるに越したことはないか。
双剣使いの少年と銃使いの少女たち。
話を聞くに、彼らがゲームに乗るとは思えない。
探し出して合流したい所ではある。
こうした情報を得て、ドモンに下す評価は一つだ。
信用できる男である。
彼自身の戦闘能力はおそらく相当高い。
自分たちの味方になってもらえるなら心強いだろう。
彼もそれを快く了承してくれた。
ドモンに出会えただけでもパーティを二分した甲斐は十分あったと言える。
そこでジンは、全員が落ち着いて揃っているというタイミングの良さもあり、ルルーシュにしか明かさなかった清麿から預かった考察メモを開示することにした。
有用な意見こそ出てこなかったものの、とりあえずは清麿は信頼できるということと、考察内容の把握はできたはずだ。
これからどうなるとしても後々役に立つこともあるかもしれない。
最後にジンが目を留めたのは、右端にいるカレンだ。
ドモンがネオジャパン、日本出身だと聞いた為か、初対面からかなりの信頼を置いているようである。
スパイクからの視線への楯にするように、間にドモンを挟んで黙々と歩き続けている。
それだけ彼女が不安定だということでもあり、好ましい傾向だとは言いがたい。
スパイクの言によれば、彼女が彼を消しに来る可能性もあるのだ。
それだけに注意をしておくに越したことはない。
彼女がこんな事を言った後なら尚更だ。
「――――ジン。あなたがドモンを消防車に乗せて、豪華客船の方をまわって来るというのはどう?
私とスパイク・スピーゲルは病院に寄って、清麿という人を回収。
もちろんカミナって人と会ったら連れて行く。
その後で映画館か卸売り市場で全員合流すれば問題はないんじゃない?」
カレンがそう発言したのは、食事の直後の事だ。
食事中不意に考え込むような仕草を見せていたのは、おそらくその事について考えていたからだろう。
確かに消防車を運転できるのは自分だけであり、豪華客船側に向かうルートは遠回りであるため、
カミナと合流するには理に叶ってはいる。
しかし、嫌っているスパイクと同行するという時点で何かおかしいと勘繰るのは果たして考えすぎなのだろうか?
仮にカレンがスパイクを消そうとしているのなら、二人きりにしたとすればそれこそ殺してくださいと言っているようなものだ。
……だが、スパイク自身はこちらを向いて軽く頷いたきり、特に肯定も否定もしなかった。
つまり、それはカレンを止めるという意思の現われだ。
現状他に有効な手を思いつかない以上、彼に任せる他はないだろう。
気が付けばもう階段だ。
これを昇れば、そこに見えるのは満天の星空。
一時の別れは近い。
とりあえず、合流地点を映画館に指定して二手に分かれることにする。
何らかの理由で映画館が危険と判断したなら卸売り市場に集合と決め、ジンとドモンは消防車に乗り込む。
「それじゃ、スパイクとカレンおねーさん、良い旅を。
次会うときにはもっとフレンドリーに笑いあえてるなら嬉しいね」
「スパイク! カレン! カミナと会ったら頼んだぞ!
……それと、師匠に会ったら伝えてくれ、人間も自然の一部なのだ、と……!」
窓からそれだけを告げて、消防車は闇の中へ消えていく。
もう一度スパイクとカレンに会えるかどうかも分からないまま。
その先の出会いに希望があると信じながら。
◇ ◇ ◇
――――月の綺麗な夜だった。
瓦礫の中、邪魔な建物が消失して一気に広がった黒い空にぽっかりと浮かぶ円月。
それがやけに印象的だった。
空気は肌寒く、視界は遠くからの電光頼りにぼんやりとしか得られない。
だからこそ、空の綺麗さがくっきりと映し出されたのかもしれない。
街中のはずなのに、天の星々が良く見えた。
いい夜だ。
とても静かで心地いいと、彼女は思う。
なんで静かなのか。
それは人気がないからだということに思いを馳せ、月を仰ぐ。
いい夜だ。
人間がどれだけ夜毎に騒音を奏でているのか、どれだけ人工の光が明るいのかが良く分かる。
すぐ近くの海からは、潮騒の音さえ響いてくる。
夜の海はどれだけ綺麗なのだろう。
ちょっとだけ見てみたいと思うも、そうするには少し手間をかけねばならない。
今ここにいる人間は数少ない。
自分ともう一人の男。彼女はそれを強く意識する。
実に都合がいい。
というよりも、その為に慣れない口八丁でこの状況を作り出したのだ。
もちろんロマンチックな理由などではない。
そんなのは願い下げだ。
では、何の為にこんな状況を作り出したのか。
いい夜だ。
昔から語り継がれる常套句がある。
こんな月の綺麗な晩には、何が起こってもおかしくない。
通り魔が出るにしても怪物が出るにしてもうってつけ。
まさしく人が死んでもおかしくないとばかりの出来過ぎたシチュエーション。
月には魔力がある。
人を惑わせ、有り得ない出来事を導く魔力が。
ゼロは言った。
あの男を排除せよ、と。
何という好機だろう。
今の彼女には、夜の月さえ自分の味方をしていると思える状況だ。
前の男は先刻、気楽そうな顔で病院に向かう旨を告げ、さっさとこちらを振り向きもせずに歩き始めた。
無防備な背中を曝しながら。
いい夜だ。
何かと癇に障ることばかり言う男だった。
あの男の背中に鉛のお守りを真心込めてプレゼントしてあげる。
そうすれば、いい夜はきっと更にいい夜になるだろう。
自身の気の持ち様次第でしかないと分かっていても、それだけで十分価値はある。
紅月カレンは。
カレン・シュタットフェルトは懐のワルサーを握り締め、ゆっくりと、ゆうらりと腕を突き出し狙いを定める。
冴えない男だ、と彼女は思う。
自身が指にかけた引き金をほんの少し動かすだけで死ぬというのに。
あまりにも彼は、自然体でいつもと変わらなかったのだから。
そしてその時は訪れる。
彼女は指先に力を込めながら、思う。
――――ああ、本当にいい夜だ。
そして、銃声と共に夜空の月は紅く染まる。
真っ赤な真っ赤な花を咲かせながら、
紅の月は、輝きを増す。
「え、…………あ、れ?」
――――ただし。
その銃声はワルサーとは似ても似つかないものだったのだが。
ほんの少しだけ違和感を感じたので、下を見る。
ごっそりと、お腹の殆どががらんどうになっていた。
そこから辺り一面に血がブチ撒けられる。
地面にも、手に持つワルサーにも、彼女の顔にも飛び散った。
ずるずると、下の支えのなくなった臓器も重力に引きずられて定位置から外れ落っこちてくる。
ゆっくりと顔を上げる。
冴えないと思った男の顔は、それまでの所作から信じられないほどの驚愕と、憤怒に満ち満ちていた。
どうやら彼の仕業ではないらしい。
その視線の先は彼女を通り越して背後まで向かっている。
良かった、と彼女は思う。
あんな怒りを自分に向けられたら、怖くてみっともない姿を見せてしまいそうだ。
そんな、自身の状態に全く無頓着なことを思いながら、ゆっくりとカレンは崩れ落ちた。
うつ伏せに倒れつつ、ぴくぴくと体を震わせながら。
流れ出る血はいつの間にか池と化し。
血溜りに映り込む星空には、紅い月が輝きを放っていた。
煌々と。煌々と。
いい夜だ。
こんな月の綺麗な晩には、何が起こってもおかしくない。
◇ ◇ ◇
いい夜だ。
そこにたどり着いた時には、消防車が闇の彼方へ消え去る所だった。
追っても人間の足では追いつけないだろう。追う価値はない。
それに、なによりも自身の追い求めた宿敵がすぐ側にいる。
あの男に出会えるならば、どんな曇天でもいい夜に違いない。
だが、仕掛けるタイミングが重要だ。
ロケットランチャーを撃ち込んでやるような形で葬っても、自身がそれを許さない。
故に、少し観察をすることにした。
背後から幽鬼の様にゆっくりと追いながら。
あの男は、背後の小娘に随分警戒しているようだった。
下らない話だ。
邪魔になるならば早々に排除してしまえばいいものだろうに。
更に愚かなことに、小娘はそれにさえ気付かない。
消防車が消え去ってからしばらくして、宿敵に対して銃口を向けた。
気付かれていないなどと思い込みながら、あの男を殺そうとして。
だからこそ、だ。
目障りだから、片付ける。
機を窺うまでもない。
あそこまで愚かならば、先刻まで持っていたレーダーに頼るまでもない。
宿敵との戦いを幕開けるための、始まりのベルになってもらうまでだ。
十字架を構え、重機関銃の銃口を小娘に向ける。
この武装は便利だが、あの男との戦いで悠長に振り回すには重過ぎる。
邪魔な塵芥を排除することにしか使えないだろう。
頼りにするのは、やはり愛着ある自身の武装だ。
いい夜だ。
因縁を清算するには、これ以上ない程に――――いい夜だ。
◇ ◇ ◇
「ビシャァァアアァァァアァァーーーーースッ!!」
――――カレン・シュタットフェルトだったモノが血と臓物を撒き散らして転がった。
どう見ても致命傷だ。駆け寄って声をかける必要すらもないくらいに。
上半身と下半身が皮一枚で繋がっているだけなのだから。
中に詰まっていた臓器やら脊椎やらは血煙となってカレンだったモノの上に漂っている。
上半身から覗くのはアバラや黄色い脂肪、それに紫色の臓物だ。
腹側のアバラの周りの脂肪分が多い部位がカルビ。
反対に、背中の方の赤い血を流し続けている辺りがロース。
どろどろと零れ落ちてくる横隔膜の周辺が文字通りのハラミだ。
そうした筋肉の間からちらちらと、レバーやハツ、つまり心臓が精一杯まだ生きていることを示そうとしているのが見える。
勿体ないことに、ミノやギアラと呼ばれる胃の部分は完全に木端微塵になってしまったようである。
下半身の方もだいぶ内臓系のは吹っ飛ばされてしまったらしい。
しかし、半分くらい残ったホルモン、いわゆる大腸が弾ける寸前のソーセージの様に蠢きながら自己主張をしている。
焼肉にはあまり使われない小腸も一緒に、臓物が後から後から押し出されてくる。
その、モノの横を見向きもせずに通り過ぎ、血煙の奥から湧き上がるように歩み出てきた影が一つ。
誰、などという疑問は顔が見える前から吹っ飛んでいる。
その手にある獲物は、紛う事なき日本刀。
……その男の名は、ビシャス。
自身のかつての相棒であり、最大の宿敵でもある野心家だった。
◇ ◇ ◇
銀の髪の男は、モノを見続ける黒髪の男の視界を遮るようにモノの前に立ち塞がる。
そして、抜き身の刀を手から下げながら、告げた。
……この場における台詞として、この言葉以外などは在り得ない。
これは再演。
いつかどこかの世界で告げたときと同じ様に。
戦いは、繰り返される。
「ようやく目が覚めたか。
……いつか言ったはずだスパイク、お前を殺せるのは俺だけだと」
黒い髪の男の眼光に既に驚愕はない。
僅かにヒトだったモノへの哀悼を漂わせるも、今この時に気を取られている暇などない。
手の中にデザートイーグルを収め、握り締める。
どんな因果か、この銃は彼の愛銃と同じメーカー製の逸品だ。
世界最強のオートマチックとの呼び名も高いその威力は、手にした時の馴染み具合の悪さを補ってくれるだろう。
「……そのままお前に返すぜ、ビシャス」
二人の男が睨み合う。
月は高く、足場は朽ちて。
一人の女の死がその戦いを呼び込んだ。
他に何の音も生じない。
ただ、潮騒が遠くから響く、それだけだった。
「……どの道お前とはこうなる運命だ」
言葉が放たれ、それが契機となった。
世界の全てがコマ送りになる。
最早余分な修飾は、必要ない。
黒髪の男が銃弾を放つ。
直後、銀髪の男がナイフを投げた。
黒髪の男はそれを意に会さない。
ナイフをその身に受けながらも迷うことなく突撃する。
だが、銀髪の男は流れるようにそれをいなした。
そして、銃と刀が交差する。
両者とも、押し負ける事はない。
ぶつかり合う銃と刀を挟んで、二人の男は眼光を刺し合う。
不意に、黒髪の男が2発、銃弾を撃ち放った。
しかし決定打にはならない。銀髪の男の頬を掠めただけだ。
そのまま銀髪の男は刀で黒髪の男の足を斬りつける。
だが浅い。
直後。
銃と刀が激突する。
――――二つのくろがねが、宙に踊った。
それぞれが持ち主の手元を離れ、それぞれの仇の元へと飛んで行く。
二つの武器は仇の足下に転がり、しばしの静寂が訪れた。
「……カレンは逝っちまった。……終わりにしようぜ」
「望み通りに」
二人の男は、互いの仇の相棒を互いに放る。
男と男は、それぞれの獲物に手を伸ばし。
相手よりも早く一撃を加えようとする。
決着は一瞬。
再演は、終了した。
全ての結末は物語通りに。
倒れ伏せるのは銀髪の男。
黒髪の男は。
――――スパイク・スピーゲルは、因縁を清算した。
残るのは、それだけだ。
ただその事実だけが、残っていた。
◇ ◇ ◇
「くそったれ」
スパイクは倒れて動かないビシャスと、その奥のカレンの残骸を見る。
自分のもたらした結末が、そこにある。
たとえ、殺し合いに乗っていたのだとしても。
――――カレンは、自分達の因縁に巻き込まれたのだ。
「……くそったれ」
気分が悪い。
旨い肉をたらふく食ったばかりというのに、とんでもなく気分が悪い。
肉抜きのチンジャオロースが恋しかった。
因縁を清算したのに、その後に残ったのは清算したというその事実だけだ。
他に何も手に入れたものなどない。
ジュリアもここにはいない。
二つの死体があるだけだ。
「…………くそったれ」
自分の傷は浅い。大したことはないだろう。
それ故に、カレンの事が脳裏から離れない。
「……だから、ガキと女と動物は、嫌いなんだよ」
カレンとビシャスに背を向け、スパイクは一人のろのろと歩き出す。
もう、自分にできる事は何もない。
埋葬くらいはしてやるべきなのかもしれないが、その気力も湧かないほどに気分が悪い。
一心地、つきたかった。
僅かに痛む足で、とりあえず病院に向かう。
そこには清麿というジンの仲間がいるはずだ。
……脱出していたり、カレンの様な目にあっていたりしなければ、の話だが。
ジン達、そしてルルーシュにはどう説明すればいいのだろう。
彼女は自分を消そうとしていた、それはおそらく正しいはずだ。
だが、それがルルーシュの意図なのか、彼女自身の考えなのかは今となっては分からない。
……ただ、それを伝えるのが気が重かった。
彼らは自分の事を信用してくれるだろうか。
二人きりになって、合流した時には一人減っている。
そんな状況で自分の事を信じてくれる可能性はどの程度のものか。
疑問ばかりが脳に浮かぶが、しかしそれ以上考える気力は浮かばない。
黙々と、黙々と。
スパイクは振り返りもせず、ただ、綺麗な月の下を一人歩いていた。
……だから、彼は気付かなかった。
最強にして最大の個人兵装が、彼の背中に照準を定めていたことに。
◇ ◇ ◇
――――負けた。
純然たる事実として、自分は負けた。
その事に異論を挟むつもりはない。
因縁は清算された。自分の敗北という形で。
だから、もうそれをどうこうするつもりは一切ない。
だが。
……だが。
――――ビシャスは生きていた。
もちろん無傷ではない。
相手取ったのは世界最強の拳銃の一つだ。
それを食らって生きているのは幸運としか言えないだろう。
体は明らかに異常を訴えている。
これだけ早く意識を取り戻せたのが不思議なくらいだ。
しかし、それでも。
それでもビシャスは決闘を生き延びた。
何故か。
……偶然手に入れた、防弾チョッキを着込んでいたからだ。
それがなければ、確実に死んでいただろう。
とはいえ、防弾チョッキとは銃撃を無効化するような代物ではない。
衝撃を分散させ、打撃という形に変換するだけだ。
運の良いことにデザートイーグルの弾丸が直撃したのは右胸だった。
反動の大きさがわずかに狙いをズラしたのだろう。
心臓に直接のダメージはない。
だが、それでも被害はあまりに大きすぎる。
呼吸がしにくい。
おそらく、アバラを粉砕骨折でもしたか。
喉元から血と一緒に何かの塊がせり上がってきた。
肺が潰れた公算が大きい。
内臓にもダメージが行っているだろう。
自身の状態を鑑みる。
……以前の女格闘家とのダメージも相まって、最早相当危険な状態だ。
この調子では夜明けまで保つかどうかすら怪しいとさえ思える。
長く見積もって、朝。
早ければそれ以前に。
自分の命は尽きることになる。
……運良く回復手段でも見つけない限りは。
だが、そんな魔法のような回復手段など期待するだけ無駄だろう。
故に、その前に。
どうにかしてでも、この会場の人間を殺し尽くさねばならない。
既にスパイクとの決着はついた。
だからこそ、それにこだわる必要はもう、ない。
自分は生きている。
ならば出来ることをするまでだ。
日本刀を用いる理由はなくなった。
自分の使えるありとあらゆる手段を以って、所在なげに暗闇の中を歩き続けるあの男を抹殺する。
十字架を引きずり出し、機関銃の銃口をスパイクの背に向ける。
これは手始めだ。
自分の人生で最も長い夜の始まりを告げる開幕のベル。
それをあの男に奏でてもらう。
別れの言葉に、銀髪の男が何と言ったかは定かではない。
◇ ◇ ◇
――――彼女の意識は、混濁していた。
しかし、そんなぐちゃぐちゃになった自我の末路でさえも、分かることが一つある。
……自分は、もう間もなく死ぬ。
何か、やらなければいけないことがあった気がする。
何か、守らなければいけないものがあった気がする。
何か、成し遂げたかったことがあった気がする。
しかしそれも最早叶わない。
このまま自分にできるのは、横たわって混沌とした意識が完全な無に帰るのを待つだけだ。
……本当に?
何か出来る事はあるだろうか。
頭の中は混沌さえ薄れつつある。
それ故に多少ははっきりとした意識でそんなことを考えた。
そして、声が聞こえた。
二種類あった。
一つは自分の敵だ。少なくとも、自分の知る誰かはそう判断した。
そして、自分がそれを消そうとしたのだ。
もう一つははっきりと分からない。
ただ、聞いたことがあるような気もする。
それはどこかのVの字だったろうか。それともどこかの国の皇だったろうか。
それとも全く関係のない人間か。
……分からない。分からない。
ただ、一つ理解できた。
前者の“敵”は“敵”ではなかった。
おそらく、自分の死に対して怒ってくれたのだから。
“敵”とは後者だ。
紛う事なき、敵だ。
災厄そのものだ。
この男を、大切な何某かに近づけるわけにはいかない。
ぼんやりとした視界に、歪んだ像が映り込む。
銀色の髪の男が、自分を撃ち抜いたと思しき十字架を黒い髪の男に向ける。
あの男は自分達が死んだと思っていて、全くこちらを意識していない。
……それだけは、させてはならない。
彼の正体を知るのは既にあの男だけだ。
自分はもう力になれない。
だから、彼を誰かに守ってもらわなくては。
たとえそれが、彼が危険だと判断した存在であっても。
意識は、それを決意した。
しかし体は動かない。
当然だ。血を流しすぎた。
それ以前に下半身と上半身が泣き別れしている状態で動けるほうがおかしいだろう。
動かない。
動かない。
動かない。
動かない。
動かない。
止める手段はあるのだ。
未だ手には銃が握られたままなのだから。
あの男を殺すはずだった銃が。
しかし体は動かない。
動け。
動け。
動け。
動け。
動け――――!
動かない。
動かない。
動かない。
動かない。
――――動いた。
それは火事場の馬鹿力か、死せるものの最期の力か。
分かるものはこの場にはいない。
ただ、緑色の光がそこにあった。
螺旋が今わの際にいる少女の瞳の中に浮かぶ。
そして、ほんの少しの間だけ。
彼女の体が満足だった時と同じだけの動きを神様が許してくれた。
◇ ◇ ◇
――――銃声がした。
それも、自分が葬ったビシャスの方からだ。
聞き届けると同時、スパイクは振り向き、そして驚愕した。
死んだと思ったビシャスがこちらに機関銃の砲口を向けていたこともそうだったが。
……何より、明らかな死人だったはずのカレンの上半身が、寝転んだままビシャスの足を撃ち抜いていた事に。
こちらを向いて、彼女は吠える。
死人同然の体だというのに。
それが最期の命の炎を燃やし尽くして告げる言葉だったからこそ、スパイクはそれを何よりも強く意識した。
「……スパイク・スピーゲル……ッ!!
ル、……ゼロを、守って……!」
それだけを告げて、彼女は再度ワルサーをビシャスに向ける。
だが、ビシャスは即座に日本刀を抜き放っていた。
……スパイクの決断は一瞬だった。
駆け足で、この場を離脱する。
今の間合いはまさしく機関銃の的でしかない。
拳銃で応戦するのは自殺行為すぎる上に、近寄ることすら出来はしない。
出来るのは態勢を立て直す為に退くことだけなのが明白であり、
何より、それが彼女の最期の時間稼ぎに報いる行為だと分かっていたからだ。
一人の少女の最期の輝きによって、カウボーイは闇の中に消えていく。
銀の髪の災厄は、少女のその輝きを断ち切るために髪と同じ色の刃を翻した。
月が刀に映り込む。
それを見て、少女は思う。
なんて綺麗な月なんだろう。
ああ、やっぱり――――いい夜だ。
――――銀の煌きが迫る一瞬。
少女は永い永い夢を見た。
兄と母が側にいて、皆でずっと幸せに暮らすのだ。
後は託した。
幸せな夢も見た。
悔いはある。不安もある。
……だが。
それでもきっと、結末は幸いであることを信じられた。
だから、これで一つの物語はおしまい。
一人の騎士のまま、一人の少女は眠りに就いた。
銀の刃からは赤い雫が滴り落ちた。
血溜りに映った月は紅く、紅く。
――――いい夜だ。
紅い月が、まるであの世の門であるかのように空に穴を穿っている。
【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反逆のルルーシュ 螺旋力覚醒】
【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
◇ ◇ ◇
――――走る。
傷の手当もしないまま、走り続ける。
それは逃げる為に。
勝者は敗者を恐れてただ走り続ける。
敵わない事を認め、しかしその眼の炎は絶やさずに。
力が足りない。
倒しきれない。
だからこそ、それを得る為に。
既についた決着。
そこに残った最後の残滓、銀の髪の幽鬼を葬り去る為に。
男は血が滴り続ける傷を構いもせずに、力を求めて走り続け――――、
次第に速度を緩めていく。
力は足りない。
武器が足りない。
だが、それ以上に、……冷静さが足りない。
後ろを振り返り、幽鬼が追いついてきていないことを確かめ、ゆっくりと息を吐き出す。
一服の為に煙草を探すも、それがない事を思い出し、彼は舌を鳴らした。
「…………」
男は何も言わず、歩を再開する。
見れば、すぐ近くに建物がある。
暗闇の中でもうすぼんやりと月明かりに染まる白亜の城築。
――――病院だ。
傷の手当をして、仲間となるはずの少年を探さねばならない。
重機関銃に一人で対抗する術は今の所ない以上、誰かの力を借りる必要があるのだから。
決着はついた。
しかし、それは命のやり取りの終わりではなかった。
……それだけの話だ。
スパイク・スピーゲルは静寂の中に足を踏み入れる。
その脳裏に一人の少女の生き様を刻み込みながら。
彼女の遺言を果たす為にも、幽鬼を葬らなければならないことを理解して。
自分達と別れた少年に対する疑念が消えたわけではない。
だが、それでも。
この戦いが終わるまでは、彼の命の灯くらいは守ってみせよう。
「……せいぜい、出し抜かれんように気をつけねぇとな……」
【D-6/総合病院前/一日目/夜中〜真夜中】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(中)、心労(中)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(一応全て治療済みだが、右手は痛みと痺れが残ってる)、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:デザートイーグル(残弾4/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式×2(-メモ×1) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター、軍用ナイフ@現実、不明支給品×1〜2(中身は未確認)
[思考]
0:……くそったれ。
1:病院内を捜索し、高嶺清麿と合流する。
2:カミナを探しながら映画館もしくは卸売り市場に向かい、ジン達と合流後図書館を目指す。
3:準備が出来たら、今度こそビシャスを完全に葬る。
4:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
5:ジェットの肉抜きチンジャオロースが恋しい。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
◇ ◇ ◇
――――完全な失策だった。
よもや、死に損ないがあのような動きをするとは。
緑色の光に全身が包まれた瞬間、小娘の上半身が生き返ったように動き出し、自身の右足を撃ち抜いた。
理由は不明だが、自分の消した女格闘女家同様の光を纏っていた気がする。
あれは、危険だ。
確認した場合、最優先で消去せねばならないだろう。
スパイクは逃げおおせた。
今の自分には足の負傷、そして呼吸の乱れからして、追う事すらままなるまい。
疲労も激しく、休息という選択肢もあるだろう。
だが、時間は残り少ない。
そんな悠長なことをしている暇などあるだろうか。
……考えるまでもない。
もとより自分のできることは殆ど変わらないのだ。
あの男の逃げた方向は分かっている。
追いつけないにしても、そちらの方に向かえば出くわす可能性は高いだろう。
――――決着に異論はない。
だが、生死を分かつ要素はまた別のものでしかないのだ。
【E-6/デパート跡付近/1日目/夜中〜真夜中】
【ビシャス@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ大、左肩と右脇に銃創(応急処置済み)、右肺損傷、右肋骨粉砕骨折、内蔵損傷、右脛部に銃創×3(長時間の疾走は不可能)
[装備]:パニッシャー(重機関銃残弾70%/ロケットランチャー残弾50%)@トライガン、ビシャスの日本刀@カウボーイビバップ 、防弾チョッキ(耐久力減少)@現実
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×1欠損)、
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、アゾット剣@Fate/stay night、
ジェリコ941改(残弾7/16)@カウボーイビバップ、コルトガバメント(残弾:3/7発)、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、ワルサーP99(残弾11/16)@カウボーイビバップ、
レーダー(破損)@アニロワオリジナル、 ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、水上オートバイ、
薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し。元の世界に戻ってレッドドラゴンの頂点を目指す。
0:スパイクの逃げた北部へ向かう。
1:皆殺し。スパイクであっても手段を選ばず抹殺。
2:回復手段の模索。ただし期待はしない。
[備考]
※地図の外に出ればワープするかもしれないと考えています。
※スパイクとの決着には納得しています。故に、スパイクを特別視はしなくなりました。
※螺旋力覚醒を目の当たりにしたため、同様の現象を確認した場合、最優先抹殺対象となります。
※戦闘などの瞬間的なものを除き、走る事はできません。移動速度が低下しています。
※長くとも朝まで自身の体は保たないと見積もっています。あくまで自己診断です。
◇ ◇ ◇
「……しかし、良かったのか? ジン。
あの女……、カレンはおそらくスパイクに敵意を抱いているぞ」
港湾を渡る橋に差し掛かったところで、不意にドモンは話題を切り替えた。
最初に出会ったときから感づいていたことだ。
カレンのスパイクへの態度はあまりにとげとげしすぎる。
それこそ、スパイクへ害意を抱いているといってもおかしくないくらいに。
「だからこそ、だね。
カレンおねーさんには悪いけど、スパイク相手なら頭を冷やさざるをえないでしょ」
しかし、ジンはその質問を予期していたのか流れるように言葉を繋げる。
「分かってるだろ? それこそドモンがやってた事さ。
拳の交換は時として言葉を束ねて編み上げた紐よりなお強靭。
カナリアよりも高らかに歌い上げる事だってできるんだ」
ジンの返答に、ドモンは満足げに眼を瞑る。
ガンダムファイターといえど、休息は欠かせない。
休めるうちに休んでおかなければ体がもたないだろう。
「……フ。それもそうだな。俺も少し疲れがまわった様だ。
人影を見つけたら起こしてくれるか?」
頷くジンを確認して、ドモンはひとまずの眠りに就く。
気がつけば、もう橋の真っ只中。
月の光に照らされる水面は黒く、静かにさざめき続けている。
空の星々も町の光もすでに遠い。
潮騒の音に包まれて、一台の車は夜の海の上を滑るように進み続けていた。
――――月の下で起こった一つの戦いの結末も、知ることがないままに。
【F-4/連絡橋上/1日目/夜中〜真夜中】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:消防車の運転席。全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、満腹
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、カリバーン@Fate/stay night、乖離剣エア@Fate/stay night、ゲイボルク@Fate/stay night、短剣
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:どうだいスパイク、そっちは上手くやってるかい?
1:豪華客船方向に向かいながら、カミナを探す。
2:仲間を集めつつ左回りで映画館、あるいは卸売り市場に向かう。スパイク達と合流した後に図書館を目指す。
3:ラッド、ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
4:ニアに疑心暗鬼。
5:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
6:マタタビ殺害事件の真相について考える。
7:時間に余裕が出来たらデパートの地下空間を調べる。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(中)、明鏡止水の境地、満腹、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:……………………。
1:カミナたちを探しながら、映画館または卸売り市場に向かう。
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
7:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿と地図に目を通しました。
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません 。
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュのこれまでの経緯を把握しました。
※螺旋力に覚醒したことを知りません。
※第三放送があった事に気が付いていません。
※ジンから支給品一式を受け取りました。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
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らき☆すた こなたVS無能大佐
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__ヽ:| ヽ: | |: : : ! ' ヽ! ・|:|: : ヽ|: |: : : : :|
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‐ '"´ `ヽ、 \ |: : ,. ''´ ,. -‐ ''´ ̄ ̄ ` '' ‐- 、`ヽ: : ト 、! : : : | かがみんも
\_∨´ / `'ヾ. |/> 、: |
、 ヽ `ヾ |:l/ / ヾ、
ヽ ヽ ヽ r--┴、/ ',
(`丶、 ヽ ヽ r--`=- ヽ !
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ヽ ---‐'、 ヽ ヽ `丶、 \ \
r、 _ .. >: : :ソ`ー― 、}ノ _
_x≦メ_,-、 ,ィ≦:_:./:/ ;イi: : :j : : : :\ {ヽ.__>、_ゝ
. ヘニ ,ィ r< /:/:/:/ {:| : ∧ : ヽヽハ r―-、 ノ-ァ.勹
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`7_} /,イ: :| ハz== ヽ{ =弍 | |:| | <_へ> { f=} }_
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≦ィくトrf}f,勹 rヘ: |∧ |/, イ :/ ⌒} |_.} f{ ィ=士ゝ
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│ |lll|三 ヽ ::.:|三三7:ヽ|.::.::.`ヽ
│ |lll|" \| ""・l.::.::|⌒l:ド、l
│ |lll|、 ‘ー'ー' j.::.::|-イ.:| もう14スレ目か……思えば長かったねえ
│ |lll|:l>ー‐rーt< リ .::|.: l :|
│ |lll|:|_j;斗<_,>/.:: /! ::.: |
│ |lll|:| >、 __/.:: / ヽ.::. |
├‐tュ‐‐┬‐tュ――|lll|:| / /.:: / i.::.|
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// ヽ } ´ ̄ ´ '´ う
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 ̄ ̄\ \. / / ! ∧ ||ヽ__| ∨ `
\ \ / / | / ' ||'´ヽ l l. ', 13スレ目オワタ
\ \l ' | ,ィ´′ ∨ ハ. | Nヽ. |、 i
\ \l. | /|/ / / ', |、ヽ!
\ ヽ、. | i ∨ 三三 ハ. ! \
\. /\ | | xィ彡 ・{ l. ∧ /
/\ / }'ヽ! "´ ,、_, l |∨ ∨
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\ / ', ヽ----r ' ´ | | ./
| ー ´ ', ', ヽ | | /
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/ 〃 / _./-ァ' |/ ,' -H.、 ! '.、 ',
///' ,/ /// j/ / '.| :|l | ヽ |
/' | i´i /:fr≠=r | /ァ=ォ !| | '.|
(⌒ー、 /, ´ヽ|. / N!ら、_リ ,! ' ん, ソ' ! /,ハ ,′ 計算ミスしたか
\ { __ / l |/ :| ‘ー‐' , ー-'/N// |/ でも今度こそ500!
l ∨ y | 'l. |>、._ ーー'_ ノ !ル' さーて、終盤はどうなるかな……
l. './, ,ハ | | ヾミこ彡'ヽ| ||
| .f / ,.'/ ____'. '. _/ ̄ ̄ ̄¨¨¨丶、__, ' ´ ̄ ̄〉
/////レ'´,. -‐-'、,ノ´ v / 7 _/.
{ ( /l/' K「 '´ ̄ ヽ.`) / / r'ーf