アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ8
(注意)
現在、したらば掲示板が2ch側の意見を無視して勝手な行動を繰り返しているということで
このレスを除く
>>1-8の上記テンプレは2ch側の判断で無効にさせていただいております。
(過去スレ/削除議論板参照)
※ したらばで、彼らの行動に反対する意見を書き込んだ場合は
すべてC・もしくはGとみなされて無条件でアクセス禁止になります。
(「李下に冠を正さず」の法則=「疑わしきは皆殺し」の原則」)
しがたって、彼らの行動に対する反対意見は
したらばに書き込まないでください。すべてこちらで引き受けます。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
※ したらばに参加する人間がこちら側で開催するロワ等に参加したい場合
問題はありませんが、ひとつだけ
したらば掲示板のバトルロワイアル運営をおこなっている人間は、
バトルロワイアルを専門におこなっている業者みたいなものです。
実際、こことほぼ同様の内容のバトル・ロワイアルを他の板でも行っている模様です。
つまり、ここの
>>1で書かれている掲示板でアク禁された場合は、
別企画の掲示板でも無条件で同時アク禁になることがあります
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
したらば企画に参加したい場合は、プロキシの利用をお勧めします。
ホストをさらす行為も危険ですので、したらばに参加する気があるのならおやめください。
このスレでは責任もてません。
・参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)
5/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
○スバル・ナカジマ/○ティアナ・ランスター/●エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/○八神はやて/○シャマル/○クアットロ
5/6【BACCANO バッカーノ!】
○アイザック・ディアン/○ミリア・ハーヴァント/●ジャグジー・スプロット/○ラッド・ルッソ/○チェスワフ・メイエル/○クレア・スタンフィールド
5/6【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○ランサー/●間桐慎二/○ギルガメッシュ/○言峰綺礼
4/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/○カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/○ロイド・アスプルンド/○マオ
5/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/○アルフォンス・エルリック/○ロイ・マスタング/○リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/○マース・ヒューズ
3/5【天元突破グレンラガン】
●シモン/○カミナ/●ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
4/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/○ジェット・ブラック/○エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/○ヴィシャス
3/4【らき☆すた】
○泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
3/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/○アレンビー・ビアズリー
4/4【金田一少年の事件簿】
○金田一一/○剣持勇/○明智健悟/○高遠遙一
4/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/○パルコ・フォルゴレ/○ビクトリーム
3/4【天空の城ラピュタ】
○パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/●ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/○ドーラ
3/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/●玖我なつき/○藤乃静留/○結城奈緒
2/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/○読子・リードマン/○菫川ねねね
2/3【サイボーグクロちゃん】
●クロ/○ミー/○マタタビ
3/3【さよなら絶望先生】
○糸色望/○風浦可符香/○木津千里
2/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
○神行太保・戴宗/○衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
2/2【トライガン】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
2/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/○相羽シンヤ
2/2【王ドロボウJING】
○ジン/○キール
【残り68名】
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
あぼーん
【書き手の注意点】
・トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、
>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
携帯からPCに変えるだけでも違います。
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】
・このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
程度によっては議論スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)
・したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
・初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
・予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
・予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
・申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
まとめwikiを参照のこと
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html
その提案を最初にしたのは、この男だった。
「着替えたとは言え、私とカレンさんは体が冷え切っています。このままでは風邪を引いてしまうかもしれません。
ところで、地図を見れば、この直ぐ近くに温泉があるようです。
折角です。そこの様子を見て行きましょう。なんなら、そこで少し休憩でも……」
「……そんなところで油を売っている暇が有るのですか? 今も、どこかで殺し合いが続いているかも知れないというのに」
「だからこそ、そんな危ないところからは少しでも離れ……ゲフンゲフン、失礼。
今、カレンさんの体調を損ねてしまうのは、我々にとって大幅な戦力ダウンです。
何があるか分からないですし、用心しておくのに越したことは無いかと思います」
「そんな、ゼロ、私なんかのために……」
あくまで自らの保身を考えている様子の偽ゼロ。
その詭弁に感極まっている始末のカレン。
そして。
「僕は別にどっちでも……あのトンネルの方でさえなければ」
自称「猫」の、奇妙な機械。
この場に存在するあらゆるものが、俺の神経を蝕む。
それは無論、この状況下に於いて、何一つ有効な手を未だ打てずにいる自分自身も該当する。
苛立ちが、止まらない。
この機械猫が派手に乱入してきたのが、凡そ1時間前のことだ。
それから、執拗に偽ゼロを殴ろうとする機械猫を止めつつ、
「ゼロに危害を加えるな!」といきり立つカレンを「弾を無駄にするな」となだめながら、
やっとのことで場が落ち着いたのが約30分前。
そこから、情報交換――と言っても、ずっと逃げ回っていただけの猫と反体制派メンバーとその偽者では、
碌な情報の交換は無かったが――が為されたところだった。
不快だ。不快極まりない。
そもそも、本来ならば、こんな所で愚図々々している暇など無いのだ。
情報を集め、反主催集団を組織し、反抗、脱出に向けて、能動的、効率的に動き出す……筈が、現実はどうだ。
意味の有る行動を何一つとれず、ただ手を拱いているだけではないか。
我ながら、情けない。
これが若し、アイツだったら、スザクだったらどうしただろうか。
あいつも、スザクもきっと、俺と同じように考え、行動しようとしたはずだ。
例え俺とは違う道であっても、その目指すものは同じ筈。
だが、そのスザクはもう……居ない。
だと言うのに。
「そ、それよりも、やはり早めに移動を始めた方が……
先ほども、外からなにやら人の声がしていた様ですが、それも気がかりですし。
ここに居て、また、通りすがりの危険人物に遭遇なんかしちゃったりしたら嫌ですから……」
「って、なんでそこでコッチをチラ見するんだよ! 確認せずに殴ったのは悪かったけど、変態丸出しの格好してたそっちも悪いだろ!」
「な、ゼロを愚弄する気かッ!」
……この一団は、万事この調子だ。頭痛がしてくる。
事実、今までの騒動の最中に、外から何者かの声が聞こえて来る、という出来事があった。
何者かが近隣エリアで拡声器か何かを使い、他者とのコンタクトを図ったのだろう。
その調査を提案したのは俺だが、それを頑なに拒んだのは、有ろう事かこの偽ゼロだ。
声がしている最中には調査を渋り、十分な時間が経ち、安全と判断して初めて行動に移す。
この男は、リスクを負うことから徹底的に逃げているのだ。
そして、その偽ゼロを妄信するカレンと、機械であるにも関わらず、消極的な猫。
俺の提案は少数派となり、折角の他者との接触の機会も失われてしまったのだった。
いっそのこと、ギアスの力でこいつらを強制的に服従させる、という手も考えたが、
仮面に、機械に、既に一度ギアスを使ってしまった人間が相手では、折角の能力もその力を発揮することは出来ない。
使えない。使えないにも程があるぞ、こいつら……!
「さ、さあ、そうと決まれば善は急げです。先ずは、温泉施設へと向かいましょう!」
「はい!」
逃げ出す様に民家を出るゼロと、犬の様にそれに付き従うカレン。
その後に、機械猫と俺が、渋々と追従する。
現在、この集団の意思決定権を握っているのは、間違いなくこの偽ゼロだ。
だが、その判断力は高くない。寧ろ、劣っていると言っていいレベルだ。そう断言できる。
自らが持つ発言権を有効に使えず、只々無駄に時間を浪費するだけのこの男。見ているだけでも苛々する。
例え4人の小集団であったとしても、若し、自分がその長で有ったならば、選択肢は無限に広がるだろう。
だというのに……
自分の行動を、このような道端のちっぽけな小石に妨害されるのがここまで不快なものだったとは、夢にも思わなかった。
では、どうするか?
隙を見てギアスを行使するか?
それとも、いっそこのまま、消えてもらうか……?
温泉施設への道を歩く中、様々な可能性を検証し、選択肢を吟味する。
今、自分に与えられたカードは何だ?
その手札で、何が出来る?
リスクは? リターンは?
負けることの許されないこの勝負、どう、打って出るべきなのか?
どうすれば勝てる?
どうすれば……アイツの仇が討てる?
「あ、どうやら見えてきたみたいですよ!」
思案を妨げるカレンの声に、我に返る。
いつの間にか、ずいぶんと先まで歩いていたようだ。
前を見ると、確かに、カレンの言うとおり、眼前の、木々の合間から――
『新装開店記念! 熱烈歓迎!! ようこそ、エイチロク温泉へ!!!』
と読める電飾が、チカチカと目に喧しく光っていた。
「……派手ですね」
「……派手だねえ」
頭痛がまた、悪化した。
「と、とりあえず中に入りましょうか」
「待てカレン、迂闊に入るな、もし待ち伏せされていたら――」
しかし、俺の忠告も一歩遅かった。
魔境の扉が、開かれてしまった。
――ガラガラガラ
そして、その扉の先に広がっていたのは。
目を覆いたくなるような、信じ難い程の……絶望だった。
「あら、お客さんみたいやね」
「よく来たな。まあゆっくりしていけ」
「な、何か聞き覚えのある声が……」
「てゆーか、クレアさんは早く服を着てください!」
「お、お前はトンネルに居た奴じゃないか。また会ったな」
「やや、やっぱりいいいい!!」
「む、お主は……無事だったか」
「ってお前、マタタビじゃないか! 無事だったのか!」
「ところで、はやて、クレア、さっきの話を詳しく聞きたいんだが」
「ちょ、タンマ、タンマ! それは後で!!」
「ま、また変な喋る猫が……この世界には、一般常識というものは存在しないのですか!?
絶望した! フィクションをフィクションとして楽しめない現実に絶望した!」
「ゼ、ゼロ、お気を確かに!」
……なんだ、これは?
ここは、望まずして連れて来られた人間たちが、命を賭けて戦う、殺し合いの舞台では無かったのか?
己の、そして他者の命のために、不条理な運命に抗う世界では無かったのか?
それが、なんだ?
この、緩みきった、三流コメディの様な馬鹿面共は?
こいつらは、ふざけているのか?
冗談のつもりなのか?
しかし、この世界には、冗談では済まされない事が確実に有る。
今のこれは、その一つとして明らかに該当するのではないだろうか?
それを判断する力が、こいつらには無い、と?
俺の心中を一切察することなく、和やかな談笑がそこかしこから漏れ聞こえ出す。
その嬌声が、ギリギリと、万力のように俺の頭を締め付ける。
これは、こに溢れ出す感情は何なのだろう。
怒り、悲しみ、失望、落胆……
上手く言い表せないが、ドス黒い、不快な負の感情が、こころに満ち溢れてくる。
そもそも、こいつらは理解する気があるのだろうか。
想像することが出来るのだろうか。
今も、誰かが誰かを殺し、誰かが死んでいるかも知れないという事実を。
誰かが自分のせいで死に、誰かが自分のミスで窮地に陥っているかもしれないという可能性を。
人知れず、だが人の為に戦う様な種類の人間の事を。
この、ふざけた状況に反抗し、決して状況に流されようとはせず、
全ての人間を助けようと、本気で考えるような大馬鹿野郎の存在を。
そして、その男が、自らを賭して戦う姿を。
その男の、最後の瞬間を。
これは、侮辱だ。
この世界で死に行くものへの、抗う全ての生命に対する、侮辱行為だ。
失われて行く命を余所目に、安全な位置で矜持を貪る。
こいつらは、俺が、俺たちが忌むべき奴等と同じ、いや、それ以下の存在だ。
俺は、スザクは……こんな奴等の為に、戦っているんじゃない!!
「……もういい……」
ならば、どうする?
この堕落しきった群集を、どう裁く?
決まったことだ。
舞台の外で、他人事を気取るような観客は。
この舞台へと引きずりあげてやれば良い。
そうだ。今こそ、舞台の上で踊る時だ。
この俺と共に!!
「もういいッ!! 全員黙れッッ!!!!」
前触れ無く叫んだ俺の声に、騒がしかった場が水を打ったように静まり返る。
そして、全員の注目が俺に集まる。
本来は、この注目を浴びるリスクは避けたかったが、もういい。
自分だけが安全な位置に居ることは、最早諦めた。
「突然だが、ここはゼロを筆頭とする、反螺旋王組織『黒の騎士団』の指揮下に置かれる!
以降は、そこに居られるゼロが全ての指揮を取る! 異論は認められない!!」
「……へ? 私……?」
反論を塞ぐように次の言葉を重ねる。
無駄口を挟む隙は一切与えない。
「詳しくは、ゼロに代わり、私が説明をさせて頂く。
我々はあの螺旋王と名乗る男によって、この場に拉致された。
このままでは、奴に反抗することは限りなく不可能に近い。
だが、多数の人の力を合わせれば、その可能性はゼロでは何倍にも膨れ上がるはずだ。
なお、当面の問題点は以下の通り。
・絶対的な情報の不足
・人員的不足
・強大な力を持つ存在への対策法
これらの問題に対処すべく、君たちにはまずはこのエリアの中心地付近に出向き、
情報収集及び他参加者への接触を図って貰いたい。
そして、それらによって得られた状況から、次の指令をゼロが下す。
……ですよね、ゼロ? 先ほど貴方が私に語ってくださった内容は」
そうして、自論の一部を、一方的にぶちまける。
説得や理解など、臨むべくも無い。
だが、今はこれで良い。情報さえ与えておけば、それで良い。
“後は勝手に理解してくれる”
更に言えば、この情報も、大切な部分が大幅に、そして意図的に削除されている。
この自論の、最も大切な趣旨が抜けているのだ。
その趣旨こそが――このルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、最も確実に生存し、元の世界へ帰還すること――である。
そのために大切な事は4つ。
・情報を収集し、掌握すること
・戦力の拡充
・敵戦力の削減、削除
・参加者自体の間引き
これらの問題を解決するには、市街地で大規模な戦闘行為を起こしてしまうのが簡単かつ効率的だろう。
それにより、他参加者を皆殺しにした上での生き残りを図る殺人者や、無力無能な参加者を減らすことが出来る。
そして、その避難場所をここに誘導してやれば、自然と情報と人間は集まってくる。
その人間達をまた使ってやれば、更に効率が上がる。
もしその中に不穏分子が混ざっていたならば、炙り出し、数の利でもって処理してしまえば良いだけのことだ。
万が一、手に負えない戦力を持つものや暗殺を謀る者が出たとしても……その標的はゼロ、つまりはあの偽者だ。
アレを囮にすれば、多少は時間も稼げるだろう。
言い訳のようだが、本当は、もっと青臭い、犠牲を最小限に留める様な案も考えてはいた。
だが、奴等を見て、覚悟した。
自分の求める道と、その険しさを。要求される、代償を。
そして、自分が守ろうとしたものの醜さを。
だから、もう迷わない。
俺は、俺の――俺と、スザクが目指した世界の実現の為なら、迷わない。
生きて帰り、争いの無い、ナナリーが安心して暮らせる世界を作るためならば、
泥を啜り、手を血で汚し、死体を踏みしめてでも、前に進もう。
我が目的の為に、手段を選んでやるのはもう止めだ。
さあ。
今から、その道の一歩を、踏み出そう。
「ええ、ええ?」
ワンテンポ遅れて慌てだす偽ゼロ。
やっと自分の立場を理解したようだ。
無論、この話をこの偽ゼロとしたことなど一度たりとも無い。
「ちょ、ちょっと、いきなり何をいってるん……? 黒の騎士団って……?」
「にいちゃん、何か変なモノでも食ったのか?」
「というか、戦力が不足しているとは聞き捨てならんな。この俺様が居るというのに」
そして、溜まっていた物が噴出すように、一斉に皆の口から言葉が打ち出される。
質問、疑問、非難、嘲笑……まあ、そうだろう。
いきなり現れた人間に、前振りも無くあんなことを言われたのでは、誰だってそうするだろう。俺だってきっとそうする。
だから。
「わかった、わかった。でも、これだけは聞いてくれ」
言ってやる。
「確かに皆の言うことも最もだ。でも、これは皆が生きて帰る為の、最善の手段だと思う」
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの名に於いて!
「やって欲しいことはこれだけだ。
『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
それだけだ。頼む。協力してくれ」
そして、ギアスの力が、奴等の脳内を駆け巡る。
「いや、そんな街中とか危ないって――「ああ、わかった」「了解した」「ええよ」――ってええ!?」
予想通り、機械猫にはギアスは効かなかったようだ。
だが、残りの2人と1匹には狙い通りの効果が出たようだ。
それでいい。十分だ。
こいつらが他の参加者達の注目を集めておけば、こちらも動きが取りやすい。
これで、最初に爆殺された様な強力な奴と相打ちにでもなってくれればしめたものだ。
手駒の戦力は未知数ではあるが……精々、上手く働いてくれることを期待しよう。
「よかったですね、ゼロ。彼らも我々に賛同してくれたようです」
「え、ええ……?」
この偽ゼロの顔は分からないが、奴の呆然とする表情だけは読み取れる。
嵌められたという事実を、そろそろ理解しだしたころだろうか。
少々強引な手ではあったが、これでひとまずは完了だ。
もう、始まってしまった。
これで、奴ももう逃げることは出来ない。
こうして『ゼロの命令で』動き出した人間が居る以上、この偽ゼロ如きでは何も出来はしないだろう。
歯車は回りだしたのだ。
そして、たとえその形が歪でも、一度回りだした歯車は、そう易々と止まりはしない。
全てを巻き込み、擂り潰すまで……
「ではゼロ、我々は別の行動を始めましょう。先ずは外敵に対応する為の準備を――」
――ドクン――
「ぐ……ッ!?」
その時。
――ドクン――
「な、何……!?」
それまでに感じていたような、生ぬるい、精神性の物とは違う、
――ドクン――
「ぐ、ぐああああああああああああッ!!!」
強烈で、鮮烈な、“頭痛”が、俺を襲う。
何だこれは?
こんな事は今までに無かった。
一体、これはなんだ?
――ドクン――
そのまま、意識を持っていかれそうになる。
だめだ。こんな所で、寝ている暇など無い。
俺には、まだやるべきことが山のように残っているんだ。
こんなところで、こんな所で倒れる訳には……
「ちょ、ちょっとルルーシュ、大丈夫!?」
「え、ええと……ウチらはもう行かなあかんけど、後は宜しくな!」
「ところで、このモノレールと言うのは何だ? レールと言うからには、列車なのか?」
「拙者は、はやてがキッドと落ち合う約束をした、観覧車にでも向かうとするか」
「この拡声器つこうたら、他の人を呼ぶのに役に立つかなあ? でもこれ、読子さんのやし……」
「ああ、もしリザ・ホークアイという女が訪ねてきたら、宜しく言っておいてくれ」
「え、ちょっと、みんな本気で行っちゃうの? ちょ、ちょっと待ってよ〜!」
「そ、それより、ルル……」
「ま……」
「……」
:
:
:
雑踏が、痛みと共に遠のいてゆく。
そして、そのまま、
2回目の放送が鳴り響くその時を目前に、
俺は、
完全に、
意識を、
失った。
【H-6/温泉/一日目/昼・放送直前】
【八神はやて@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、強い決意、ギアス
[装備]:H&K MP7(40/40)+予備弾40発@現実
[道具]:支給品一式、トリモチ銃@サイボーグクロちゃん、レイン・ミカムラ着用のネオドイツのマスク@機動武闘伝Gガンダム 、
読子の支給品一式と拡声器、支給品一式(食料:缶詰)、テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、
血に染まったはやての下着(上下)
[思考] 基本思考:力の無いものを救い、最終的にロージェノムを逮捕する。
1:『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
2:クレアの求婚に困惑。人生で一度も体感したことのないような変な気持ち。
3:慎二の知り合いを探し出して、彼を殺した事を謝罪する。
4:戦う力のない人間を救う。
5:北上してデパートへ行って下着を入手。
6:東回りに観覧車へ。クロと合流する。
7:読子達にデイパックを返したい
[備考]
※ムスカを危険人物と認識しました
※シータ、ドーラの容姿を覚えました。
※モノレールに乗るのは危険だと考えています。
※言峰については、量りかねています。
【クレア・スタンフィールド@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:自分への絶対的な自信、全裸(下半身にバスタオルを巻いている) 、ギアス
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、マタタビの目玉入り瓶@サイボーグクロちゃん、フライング・プッシーフットの制服(天日干し中)
[思考] 基本:脱出のために行動する 、という俺の行動が脱出に繋がる。はやてと結婚する。
1:『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
2:はやてを守りつつ彼女とともに行動。
3:モノレールとやらに乗ってみたい。
4:名簿に載っているのが乗客なら保護したい。
5:はやての返事を待つ。
【マタタビ@サイボーグクロちゃん】
[状態]:健康、ギアス
[装備]:大工道具一式@サイボーグクロちゃん、マタタビのマント@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式、メカブリ@金色のガッシュベル!!(バッテリー残り95%)
[思考]:
1:『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
2:クレアからさっきの言葉の真意を問い質す。
3:リザを待てないので、リザと接触したい。
4:キッド(クロ)と合流すべく、観覧車へ向かう。
5:暇があれば武装を作る。
【ミー@サイボーグクロちゃん】
[状態]:普通
[装備]:セラミックス製包丁@現実、アニメ店長の帽子@らき☆すた
[道具]:支給品一式、世界の絶品食材詰め合わせ@現実
[思考]:基本:殺し合いには乗らず、ゴー君の元へと帰る。
1:エリア中心地に向かうか、温泉に留まるか迷い中。
2:現状を打破する為クロに会う。襲われた場合は容赦しない。
3:性能の悪さをどうにかしたい。
4:帰って絶品食材を振舞う
[備考]:
※武器が没収されているのに気がつきました。
※自分の体の制限を正確に認識しました。
【糸色望@さよなら絶望先生】
[状態]:絶望(デフォルト)、軽い怪我
[装備]:ゼロの仮面とマント
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品(0〜2個) 服(まだ湿っている)
[思考]:
1、絶望した! あまりの本人置いてけぼりっぷりに絶望した!!
2、カレンがあまりに不憫なので、ゼロとして支えながら正しい絶望へ導く
【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:普通
[装備]:ワルサーP99(残弾16/16)@カウボーイビバップ
[道具]:デイパック、支給品一式、、不明支給品(0〜2個)
[思考]:
1、ゼロの命令を守り、ゼロ自身を守る。
2、ルルーシュの手当てをする(ただしゼロの命令を優先)
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:精神的疲労(大)、気絶。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、メロン×11
[思考]基本:何を代償にしても生き残る
1:状況の把握
2:以下の実行
・情報を収集し、掌握すること
・戦力の拡充
・敵戦力の削減、削除
・参加者自体の間引き
此処はどこなのだろう。
――暗い。目の前に何を捉えることもできない。それだけでなく何もかもが朧だ。
手を伸ばしてみる。そのつもりだが、本当に身体が動いているのかそれすらもわからない。
何もその先に触れるものはない。暗闇の中、何かがないかと求めてみるが何にも触れることができない。
足を一歩前にだす。そうしているつもりだ。だが、本当に私の足は地面を踏みしめているのだろうか。
私は地面の上に立っているのだろうか。いや、そもそも――、
――私は生きているのだろうか?
何もない此処こそが死後の世界なのではないだろうか。
そうかもしれない。だがもしそうだとしても、もう少しだけ足掻いてみよう。
果たさなければならないことがある。成し遂げなくてはならないことがある。救わなくてはならない友がいる。
ならば、この僅かに残った心の火が……、それが燃え尽きるまでは――。
◆ ◆ ◆
日が昇りきり、本来ならばそこを行き交う人々によって賑やかになっているはずであろう街の中。
そこを、マース・ヒューズ、アルフォンス・エルリック、泉こなた、スバル・ナカジマの4人は進んでいた。
彼らは河に沿って走る大通りは使わず、駅のあった所より北東へ向かい真っ直ぐと市内を突っ切って進んでいる。
それは、とりあえずの目的地であるデパートに向けて近道を使っているということであるが、それよりも
駅に夥しい血痕を残して行方の知れなくなった、ヒューズとアルの仲間であるロイ・マスタング。
彼との遭遇、再会を期待しているという部分の方が大きい。
先頭に、リボルバーナックルを装着しバリアジャケットを展開したスバル。
真ん中に、アルとその陰に隠れて続くこなた。3人のバックアップに銃を構えたヒューズ。
そんな形で、4人は慎重にゆっくりと街中を進んでいる。
駅より北東へと離れたのは怪我を負った仲間だけではない。その怪我を負わせた敵も存在するのだ。
一級の国家錬金術師であるロイ・マスタングに重症を負わせた敵。それに対し警戒を怠ることはできなかった。
しかし、彼らの歩みが遅いのは敵を警戒しているということからだけではない。
彼らの足を重くし、目から精彩を奪っているのは、仲間や友の死という不安だ。
放送が必ずしも真実ではないと、誰も死んではいないと、それを聞いた時はそう誤魔化した。
そう。それは所詮誤魔化しでしかない。口先ではどう理屈をつけようと、そうであることは誰しもどこかで解っていた。
しかし、崩れ落ちかけた理性を支えるには、そんなご都合主義にすら頼らざるを得なかったのだ。
今は心を支えるそのか細い柱が折れてしまわないか。それが怖い。
いつか来るであろう、誤魔化しが破かれ真実に向き合わなくてはならない時。それが怖い。
一歩足を踏み出す度に近づく不可避の真実。それを恐れるが故に、4人の足取りは錘をぶら下げたかの様に重かった……。
ガンッ――と、不意に何かを倒す音が通りに響き、4人の耳に飛び込んだ。
「ヒューズさん……」「……ああ」
ヒューズは音が漏れてきた角へ拳銃で狙いをつけると、壁沿いにスバルを先行させる。
そして、アルにこなたを庇うよう言葉を残すと、自身もスバルとは反対側の壁際に沿って慎重にそこへと近づいた。
◆ ◆ ◆
――寒い。此処はとても寒い。まるで最後の残り火を私から奪おうとすかのように。
◆ ◆ ◆
スバルとヒューズが通りの向うに発見したのは、まるでそこに打ち捨てられたかのように倒れていたロイ・マスタングの姿だった。
「ロイ! しっかりしろ」
駆け寄ると、ヒューズはそう言いながらロイのうつぶせの身体を仰向けにと返す。
「……う」
それを見たスバルは思わず口に手を当て、顔を顰めた。
あらわになったロイの腹。その部分がまるで巨大な獣に噛み付かれたかのように酷く抉れ、そして焼け爛れている。
とてもではないが、正視に耐えられるものではなかった。
すくむスバルとは対象的に、ヒューズは冷静だった。いや、必死に冷静であることを努めた。
どう見ても、助かるなどとは言えない状態だ。次の瞬間にも目の前の親友は死んでもおかしくない。
だから、今は一手たりとも間違いを犯すことはできない。ましてや、取り乱すなどということは絶対に。
心中で暴れ狂おうとする感情を、ヒューズは鋼の理性で必死に押し留め、叫び声を洩らしそうになる口を硬く結ぶ。
「…………スバル。アル達を呼んできてくれ」
一瞬の沈黙の後、スバルにそう指示を出すとヒューズは改めて親友の容態を観察した。
抉られた腹を焼いたのは彼自身だろう。恐らくは大量出血を防ぐための緊急的な処置。
出血や細菌の感染を防ぐために傷口を焼く――よいとは言えないが、極めて緊急な場合にはそういう処置も
取られないこともない。だが……、
「(これは無茶苦茶だ……)」
皮膚や筋肉までならまだしも、それは内蔵にまで達していた。どう見てもいくつかの内蔵はその機能を失っている。
また、傷はそれだけではなかった。全身に隈なく刻まれた傷によって、青かった制服は血によってどす黒く染まっており、
自身が起こした爆風を浴びたのだろうか、体中に埃と煤を被っている。
「一体、どんな化物と戦ってたんだよ。おまえは……」
よくも生きているものだとさえ思える。ましてや、ここまで歩いてきたなど……。
◆ ◆ ◆
……………………………………………………………………………………………………………………。
◆ ◆ ◆
「お湯を汲んでくるっ!」
そう言うと、こなたは店の奥へと駆け足で消えていった。
ヒューズはスバルがアルとこなたを連れて戻ってくると、アルにロイを担がせ手近な商店の中へと運ばせた。
そこは小さな布団屋だった。医療品はないが、その代わりに清潔なタオルや布団には事欠かない。
店の奥、ある程度の広さがあるスペースに布団を敷き、とりあえずはそこに傷ついたロイを横たわらせる。
アルがボロボロになった服をロイから脱がせ、スバルは店内を使えそうな物がないかと探し回っている。
そして、こなたは血と煤に塗れた身体を拭くために必要なお湯を調達しに店の奥へと入った。
そんな中、ヒューズはそれらを見守りながら難しい顔で思案に耽る。
「(……どうすれば、こいつを助けられる?)」
応急手当ぐらいまでならしてやれるだろうが、所詮はそれぐらいだ。
そして、目の前の親友の傷はそんなものでは済むものではないということも解っている。
医師による、それも極めて高度な治療が必要だ。だが、そんなものはここではとても期待できない。
仮にこいつを病院にまで連れて行ったとしても、そこには医師は――、
「ヒューズさんっ!」
――と不意にかけられたスバルの声によってヒューズの思考は中断された。
「どうしたんだスバル?」
ヒュースは店の出入り口で慌てふためいているスバルに何事かと問う。
「とにかく来てくださいっ! 八神部隊長の声が聞こえるんですっ!」
「――!?」
◆ ◆ ◆
『――――最後に……皆、絶対に諦めたりしたらあかんで!!』
それは紛れもなく、スバル達が敬愛する八神はやて――機動六課部隊長の声であった。
機械を通してのものであったが、この場に来てより初めて聞いた仲間の声に、スバルは心の中に希望を取り戻す。
そして、それは彼女の隣りに立つヒューズにとっても僥倖であった。
「(……地獄に仏とはまさにこのことか)」
つい先程までは彼が取り得る手は皆無といってもよかった。だが今、遠く細い道ではあるが手立てを見出した。
「スバル。今すぐ彼女を探し出して合流するんだ」
そう言うヒューズを見るスバルの顔には小さな疑問と困惑の表情が浮かんでいた。
八神部隊長の元へ向えと言われればもちろんそうしたい。だが……、
「あの、ロイさんはどうするんですか? すぐに治療しないと――あ!」
言葉を口にしている途中でスバルも気付く、瀕死のロイを助けることのできる――今唯一の方法を。
「そうだ。お前さんが言っていたシャマルという仲間。彼女を隊長さんと合流して探し出してきてくれ」
とても普通の治療では間に合わない。それこそ魔法の力でも借りなければ……。
そう思ったところに丁度天より声が響いた。まるで神が彼らに救いの手を差し伸べているような、そんな錯覚さえ感じる。
スバルが語った、風の癒し手と称されるシャマルと言う名の魔導師。
彼女をロイの元にまで導くことができたなら、全快とまではいかなくとも死は免れることができるだろう。
「わ、解りました。じゃあ今すぐにでも……」
と、慌てて走り出そうとするスバル。だが、ヒューズはその肩を掴んで押し留めた。
「……まてまて、お前は隊長さんがどこにいるのか解っているのか?」
「え? あ、そうか……」
戸惑うスバルの両肩に手を置き、顔を見合わせるとヒューズはこれまでにない真剣な顔で言葉を紡いだ。
「声が聞こえた方角と音の大きさから推測すると、彼女はここから南の川向こうにいるんだと思う。
そして北へ向うとだけ言っていたが、見つけてもらうことを考えれば捻くれた道は通らないだろう。
恐らくは……この、川沿いの大通りを素直に北上してくるはずだ。
だから君はこのデパートの先、E-7にある丁字路へと向かえ。そこで待てば十中八九会える」
地図を取り出し説明するヒューズにスバルはうんうんと頷きながら、彼の冷静さに感心していた。
これだけ気が焦るという状況なのに、決して目の前の男は無鉄砲にはならない。
「……いいか。なにも彼女を探すのは君だけじゃあないはずだ。
このクソッたれたゲームに乗った殺人者。そんなのも近づいてくるだろう。
正直な話。そんなところへ君を送り出すのは申し訳ないと思っている」
「でも、ロイさんを救うには他に方法がありませんし、私も八神部隊長に早く会いたいです。
それに他の六課のメンバーもあれを聞いてたかも知れませんし」
「そうか。そう言ってくれると助かるよ。ありがとう……スバル」
大きな責任を押し付けられている。なのにそれでも真っ直ぐなスバルにヒューズは明るい希望の光を見た。
それはどんな重く苦しい絶望の闇をも切り裂き、そして希望の道に我々を導いてくれるだろう。
そうなることを願い、ヒューズは彼女を独り送り出す。
「じゃあ、こなたさんとアル君にもよろしくお願いします」
「ああ。それと、ここが禁止エリアになったら俺たちはさっきまで潜伏していた民家へと移動する。
そこもダメなら俺たちが最初に出会った所を待ち合わせ場所にしよう」
最後に「ハイッ!」と気持ちのよい返事をすると、スバルは通りを猛スピードで駆けて行った。
見送るヒューズが余韻を感じる間もないうちに、その視界から消えてしまう。
「(……頼んだぞスバル)」
見送るとヒューズは踵を返し、彼女の幸運を祈りながら店舗の中へと戻った。
どれだけ順調にことが運んでも半日程はかかってしまうだろう。その間、親友の命を繋ぎ止めるのは彼の役割である。
【F-5/市街地/1日目-午前】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、腹一杯、バリアジャケット
[装備]:リボルバー・ナックル(左手)(カートリッジ:6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のじゃがいも、2/3][水])、ジャガイモカレー(特大)
ランダムアイテム不明(本人確認済み)、予備カートリッジ(×12発)
[思考]
基本:仲間を集めて事態の解決を目指す
1:八神部隊長を探し出して合流(そのためにE-7の丁字路に向う)
2:八神部隊長と合流できたら、協力して他の仲間を捜索する
3:シャマルと合流できたら、彼女を連れてヒューズの元へと戻る(F-5/商店街・布団屋の中)
4:その後は、八神部隊長やヒューズの指示を仰いで行動する
5:キャロや他のみんなもまだ生きていると信じたい
◆ ◆ ◆
…………暖かい。……なんだろうこれは? ………………………………?
◆ ◆ ◆
ふうと一息つくと、こなたは暖かいタオルをロイの身体から離し、脇に置いたバケツの中で濯いだ。
血と煤に汚れたタオルを通すと、お湯は見る見る間に赤黒く染まってしまう。
「お湯変えてくるね」
そう言うと、こなたはロイの近くにアルだけを残してまた店の奥――居住空間にある風呂場へと向った。
その足取りは硬い。それは、お湯を満たしたバケツが重たいからだけと言うわけではない。
冷たく硬いマネキンの様な身体。傷口に纏わりつくねっとりした半乾きの黒ずんだ血。
初めて見る――死にかけの人間。
毎夜プレイしているMMORPGの中でなら何度も見かけた光景だ。
もしそこでこの様な状況に遭遇したならば、簡単な通信で癒し手を呼ぶか、
倒れている人に「デスペナからのリカバリがんばってね」と、簡単な励ましを送って通り過ぎるだろう。
だが、ここはそういった仮想の世界ではない。痛みや、死。失うということがリアルな現実の世界だ。
カタカタとバケツが揺れ、その縁から濁った水しぶきを床へと零す。
指や、手や、腕や、肩や、脚や、頭が、――こなたの心が再び恐怖と緊張にカタカタと揺れていた。
◆ ◆ ◆
「ヒューズさん、これを見てください。大佐の身体がおかしいんです」
ヒューズが近くに戻ってきているのに気付くと、アルはすぐに声をかけた。
そこに含まれた不穏な言葉と、戸惑いを含んだ声の調子に、ヒューズは足を早め寝かされている親友の身体を覗き込む。
「……なんだ、これは?」
アルによって上着とシャツを脱がされ、露出したロイの上半身。そこには大小様々な傷とは異なる奇妙な異変が起こっていた。
鈍色の鱗がロイの右肩を中心に広がり、胸と右腕を覆っていた。触れてみるとそれは金属質で、冷やりとした感触を手に返す。
「……これは一体なんなんだアル? 錬金術の一種か?」
問われるアルは首を横に振る。彼も最初は錬金術の一種かと思ったが、それを確定させることはできなかった。
身体を金属で覆い、その頑丈さや刃で以って戦いの道具にする――そういう錬金術師は少なくない。
ゆえに、最初は身体を守るためにそうしたのではないかと思った。ロイは火を起こすことを得意としているが、
何も他の錬金術が全く使えないというわけではない。事情や必要があれば火以外の術も使うだろうと。
「おかしいんですこれ。金属の鱗が直接身体から生えてきていて……、つまりは融合しているんです」
言いながらアルはロイの腕に手をのばし小さな鈍色の鱗を捲ってみせ、そこが癒着していることをヒューズに見せた。
「それに、これも見てください……」
今度は手を胸の上へと滑らし、鱗が生えている部分とまだ生身の部分との境界を示した。
「……少しずつですけど、侵食しています」
二人が見ている前で生身の皮膚の一部がささくれ立ち、色を変えて一枚の鱗へと変化する。
瀕死のロイに埋め込まれたDG細胞。
それが、見守る者も。宿主さえも知らぬうちにじわりじわりとその身体を別種の物へと書き換えていた。
◆ ◆ ◆
…………ぬくもりは何処だ? ………………さっきのぬくもりは? ………………………………あれは?
◆ ◆ ◆
「何か心当たりはないのかアル? こいつはこのままだとどうなっちまうんだ?」
得体の知れぬ感情に、今まで平静であり続けていたヒューズの心が揺らぎ始めていた。
生きるか死ぬか、それとはまた全く違う何かに親友は陥ろうとしているのではないか。そういう不安に。
「……生体合成。キメラの一種かも知れません」
その言葉を聞き、ヒューズの背中に冷たい汗が一つ流れ落ちた。
キメラ――生体合成。それは2種以上の生物を錬金術によって無理やり一つの生き物へと組み合わせる術だ。
生き物の命を徒に弄ぶこの術を知っていい顔をする人間は少ない。
ましてや人間との合成は禁忌扱い。その使用が明らかになれば術者は厳しい刑に処されることになっている。
誰が、どうして、こんなことを? これは錬金術なのか、それとも魔法か。はたまた全く未知のものなのか?
そして、どうすれば目の前の男を救うことができるのか?
「アル。お前の錬金術じゃあどうにかならないのか?」
どうにかなるのならアルは行動を起こしているはず。だが、無駄と解っていててもヒューズはそれを口から零した。
言葉は返ってこない。ただ、アルが首を横に振る時に鳴る金属が擦れる音――それが答えだった。
◆ ◆ ◆
……………………寒い。………………寒い。…………寒い。……寒いのはいやだ。
◆ ◆ ◆
その後、二人が出した結論は代謝を抑えるためにロイの身体を冷やすということだった。
それが有効かどうかはわからない。だが、鈍色の鱗も生物なのだとしたら冷やせば活動が弱まるかもしれない。
しかし、自分達がしていることが正しいのか解らないゆえに焦燥感は募る。
もしかしたら、これが親友の命を奪うことになってしまうかも知れない。
だが、それがどれだけ不明な道であっても、何もせずに時が経つのを待てるほど彼らは冷静ではなかった。
「こなたちゃん。そっちの奥にタオルがあるから、ありったけ持ってきてくれ」
その指示に、こなたは素直に従って小走りで店内の通路をかけていく。
ヒューズの目の前では、アルが氷水に浸したタオルをロイの身体の上に這う鈍色の鱗へと被せている。
また一枚のタオルを氷水の中から取り出すと、アルはそれをロイの鱗が浮かんだ右腕に巻こうとして――気付いた。
◆ ◆ ◆
………………やめろ。…………やめろ。……寒いのはいやだ。……私は、……私はまだ、………………!
◆ ◆ ◆
巻きつけようとしていたタオルを脇に置き、アルは鱗に包まれたロイの右腕を取る。
微か、ほんの微かにだが彼の腕が震えていた。弛緩していた筋肉に力が戻ってきたのか……?
「大佐……?」
アルの聴覚にただの呼吸ではない吐息が聞こえてきた。それはほんの僅かでまだ言葉としては捉えられない。
”…………ヤ…………ロ……”
「大佐。解りますか? ボクです。アルフォンス・エルリックです。…………大佐?」
アルは覆いかぶさるような形でロイの口へと顔を近づける。震える唇が何を紡ごうとしているのかを確かめるために。
「 邪 魔 ――ダ ! 」
◆ ◆ ◆
ロイの口から漏れたそれをアルは聞き取ることができなかった。それと同時に鳴った派手な破壊音に気を取られたからだ。
アルより見て左側、それほど離れていない棚の中に何かが飛び込んでいた。
それはロイの腕を掴んでいたはずの、アルの左腕だった。だが、それに気付く間も彼には与えられなかった。
「(……アレ?)」
気がついたらアルは宙を待っていた。
投げ飛ばされたのかと一瞬彼は思ったが、グルグルと回る視界の端にまだ残ったままの己の身体を見てそれを悟った。
「(首を刎ねられたんだ……)」
そして同時に、自身の存在が空気に溶けるほど希薄になっていることに気付き、兄から貰った刻印が破られたことを知った。
固い床の上を派手な音を立てて兜が転がるのも、最早ひとごとの様に感じる。
最後の瞬間。おぼろげな視界の中に見えたのはこちらを覗き込む少女の顔だった。
” ……こなたさん。逃げて……ください…… ”
ちゃんと最後の言葉を発することができたのか。目の前の少女はどんな表情をしていたのか。
それを確かめる間もなく、アルの魂は解けて――消えた。
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師 死亡】
◆ ◆ ◆
………………五月蝿い。…………私の、……私の行く手を、阻むな。……私は、私には…………!
◆ ◆ ◆
その一瞬の出来事に、ヒューズの心と身体は凍り付いていた。
それは、命の危機が迫る恐怖によってではない。友を、無二の親友をこの世から喪失する恐怖によってだった。
ヒューズは見た。振り払った手がアルの腕を引き千切り脇の棚に放り込むのを。
そして、返す手刀でアルの金属の身体をまるで紙に鋏を入れるかのように容易く裂くのを。
バネ仕掛けの玩具の様に飛び起きた彼の親友は、仲間であるはずのアルを一瞬で無残な姿へと変えてしまった。
刻印を破壊され、ただの鎧となったアルの身体は床に倒れると派手な音を立ててそこに四散した。
「 アル君――――ッ!」
立ち上がったままの姿勢で彫像の様に静止していたロイと、同じく動けないでいたヒューズはその悲鳴を号砲として
同時に動き出した。
十歩はかかる距離をたったの二歩で進みきると、ロイは鋼の鎧を切り裂いた手刀を目の前の少女に突き出す。
その一瞬前、ヒューズの持つ銃の狙いはピタリと親友の頭にポイントされていた。後は、引き金を引く指に力を入れるだけ――。
◆ ◆ ◆
……………………暖かい。…………これがもっと欲しい。……私の身体を、……凍ってしまった身体を溶かしてくれ。
◆ ◆ ◆
「――――――ぅぶッ」
こなたの鼻と口から鮮血が噴出し、目の前の怪人の顔を赤く染める。
腹の真ん中に挿し込まれた獣の腕は、彼女の小さな身体の中を何かを求めるようにまさぐり、奥へ奥へと侵入する。
圧迫する柔らかで温かな臓物の壁を押しのけながらそれが深い処へと進むたびに、吊り上げられたこなたの身体は揺れた。
身体の内側を抉られる刺激に、彼女はびくりびくりと大きな反応を返し、それに合わせて長い髪と細い足が宙で揺れた。
力無く人形のものの様に垂れる脚を伝い、幾筋もの紅の線が落ちその足元に少しずつ赤い円を広げてゆく。
こなたは思う。もっと早くに気付くべきだったと……。
この事態に巻き込まれた時から、どこかでこう思っていたのだ――「自分が死ぬはずがない」と。
殺し合い、そして死ぬ。そんな不条理や不都合、不幸が自分に降りかかる訳がないと。何の根拠もなしにそう思っていた。
それどころか、自分はこの物語の主人公であると、そんな風にすら思っていた。
特別なところはない。魔法や錬金術のような不思議な力は持ってないし、命を賭ける度胸も持ち合わせてはいない。
導かれるに値する運命などとも無縁だし、古より伝わる血統なんてものにも心当たりはない。
だが、何ももってはいないからこそ。一本の旗も立っていないからこそ、自分は意味のある存在なのだと。
これこそが典型的な巻き込まれ型主人公のポジションであると、自分が好む非日常の物語の中にあるものだと。
そして、自分はその位置に立っていると、何の根拠もないのにそう思っていた。
紆余曲折はあるにせよ、自分が途中で脱落するなんて夢にも思っていなかった。
最後まで自分は物語の中心に立っていて、全てが終われば全部いい思い出に変わるだろうと……。
だが――、
「(……二次元と、リアルは………………)」
――違った。
最後に一際大きく痙攣すると、こなたは遺言を語るべき口から血の塊を吐き出し、何も言い残さずにそのまま死んだ。
【泉こなた@らき☆すた 死亡】
◆ ◆ ◆
――ヒューズは引き金を引くことができなかった。
目の前の親友を――すでにもう自分の知る親友ではないのに――撃てなかった。
その逡巡は十分の一秒にも満たない短いものだった。だが、それが少女の生死を別けた。
アルと一緒に現れた小柄な少女。最初は周りを取り囲む何もかもに怯えきっていたが、それが彼女の本質でないことは
その後すぐに知ることができた。かわいい女の子だ。自分の娘に匹敵するぐらいに、彼女の親を羨むぐらいに……。
殺されてしまった――自分のせいで。
殺させてしまった――無二の親友に。
これは一体どんな悲劇なのだろうか。螺旋王は一体何を望んで自分達をこんな舞台に立たせたのか。
目の前の親友は、未だ少女の身体を弄んでいる。彼は一体何者になってしまったのか。
「――やめろ! やめるんだロイ!」
室内に乾いた破裂音が連続して鳴り、それに合わせてロイのまだ肌色だった部分から血が迸る。
銃撃を加えるヒューズの目。その端には理性で抑えきれない分だけ涙が溜まっていた。
逆に、鬱陶しそうな動きで身体を向けたロイの目に感情はない。灰色に濁っており、ヒューズの姿も捉えられてはいなかった。
「ロイ! 俺だ! ヒューズだ! 正気を取り戻せ!」
ヒューズは訴えながらさらに弾丸を叩き込む。だが、声も衝撃も彼の心に届いているようには見えなかった。
片手に少女を引きずり、緩慢な動きでヒューズの方へと歩み寄ってくる。
「ロイ――――――ッ!」
遂に感情を解き放ち、叫びと共に放たれた弾丸によって鮮血と剥がれた鱗が宙に舞い、ロイの片腕よりこなたが滑り落ちる。
だがもうそれには興味を失ったのか、加えられた傷に怯むことなくロイはさらに一歩前に出る。
「ヒューズだ! 俺が解らないのか!? ――ロイッ!!」
必死の訴えに対するのは無言の一撃だった。アルやこなたを屠った手刀がヒューズに対しても容赦なく振るわれる。
◆ ◆ ◆
……五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。五月蝿いぞ、マー……。
◆ ◆ ◆
床に真新しい血が音を立てて落ちる。
親友から繰り出された必殺の一撃を辛うじて避けたヒューズは片手で傷を庇い、もう片方の手で銃を構える。
「……ふざけるなよ。お前がそんなものになっちまってどうするんだ」
ロイは相変わらず無言だ。まるで殺すために作られた機械の様に、無感情でヒューズの方へと詰め寄ってくる。
それに合わせてヒューズもじりじりと後退する。だがすぐに背中に壁がつき、彼は部屋の隅へと追い詰められた。
構える銃の中にはもう一発しか弾丸は入っていない。予備はあるが、それを取り出す余裕は与えられないだろう。
ヒューズは静かに、銃口の先を親友の眉間へとポイントする。
いくら化物になったとはいえ彼は人間なのだ。頭を撃ち抜かれれば死ぬに違いない。
そう――死んでしまうのだ。死んで彼は永遠にこの世から失われる。夢も何もかも諸共に――、
「……ロイ。思い出せ。……俺を、仲間を、そしてなによりもお前自身を! ――お前が目指していたものを!」
――だが、死ねば罪も悪夢も諸共にこの世から連れ去ることができるだろう。
「――目を覚ませっ! ロイ!」
◆ ◆ ◆
……私はあの時、自身を取り巻く世界というものに対し絶望した。一人の人間のなんと無力なことか……と。
そしてまた、自身の無力さと臆病さにも絶望した。……そのままだったら、私はただ朽ちて世界から消えるだけだっただろう。
だが、私は一人ではあっても独りではなかった。
だから足掻けるのだ。絶望に包まれた世界の中でも――いつかそれを改変できる時が来ると信じて。
心をも凍る絶望と暗闇の中でも私は抗う。たとえ光が無くとも、這ってでも前に進んでやるさ。
そして、今度こそアイツを救うんだ。私を独りにはしなかったあの男を――!
◆ ◆ ◆
侵食を続けていたDG細胞は、それに必要な時間を経てついにロイの身体を覆いきった。
彼の眼の中に消えていた虹彩が戻り、久しく失われていた光が取り戻される。
そして、それと同時に靄の中にいたような意識も少しずつ晴れ、はっきりとしたものになろうとしていた。
通常ならばDG細胞に脳を侵されれば、碌な意志を持たないゾンビ兵へと成り果ててしまう。
だが、ロイは強靭な意識によってそれを跳ね除けた。この世の天元を目指す強い意志で――!
まだ取り戻したばかりで薄ぼやけた視界の中に誰かがいる。それは闇の中で声を聞いた親友なのだろうか?
「……マース。お前なのか…………? マース…………?」
目の前に捜し求めていた親友――マース・ヒューズがいた。
もう二度と死なせはしないと誓ったその男が――目の前で死んでいた。
真っ黒に乾いた血の円の中で親友は蹲り、胸にポッカリと大きな穴を開けて死んでいた。
―― ナ ン ダ コ レ ハ ?
――ひ、と口から小さな悲鳴が漏れた。
こびり付いた血によってどす黒く染まった自分の手は、何時の間にかに自分のものではなくなっていた。
そして、血に塗れた手と親友の胸に空いた穴を見比べれば、もう寒くは無いのにガチガチと歯が震える……。
一歩後ずさろうとして、何かを蹴ってしまったことに気付く。
薬缶かバケツを蹴ってしまったのかと思ったが、そうではないとすぐに気付いた。それは彼がよく知る者の「一部」だった。
室内を見渡せば、それが散らばっているのが解る、そしてその合間に見知らぬ少女の死体も発見できた。
俄かに脳内が粟立ち、恐怖や不安、焦燥や絶望。何もかもが入り混じったものが身体中を駆け巡り心を掻き乱す。
強く天の方向へと伸びていた強固な意志は雲散霧消し、心に灯った赤い炎は明るさを失う。
闇に閉ざされた中よりもより最悪な光景に、現実感は急速に失われていき立っていることすら覚束無くなってくる。
そして彼は見た。透き通ったショウウィンドゥに映った自身の姿を。そこに映し出された化物の姿を――。
マース・ヒューズは死んだ。
暗雲がロイの心に覆いかぶさろうとしている。だが、……まだ雨は降っていなかった。
【マース・ヒューズ@鋼の錬金術師 死亡】
【F-5/商店街・布団屋の中/1日目-昼】
【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師】
[状態]:激しい混乱、DG細胞寄生.、上半身裸
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:??????????
※DG細胞は全身に行き渡りました
※布団屋の中に、ヒューズ、アル、こなたの支給品が落ちています
[マース・ヒューズの支給品]
デイバッグ(×2)、支給品一式(×2、-ランタン×1)、ロイの発火布の手袋@鋼の錬金術師
S&W M38の予備弾数20発、エンフィールドNO.2(弾数5/6)、短剣×12本、制服のボタン(ロイ)
単眼鏡、水鉄砲、銀玉鉄砲(銀玉×60発)、ジャガイモカレー(中)
[アルフォンス・エルリックの支給品]
デイパッグ、支給品一式
[泉こなたの支給品]
デイバッグ、支給品一式、マチェット、チェーンソー、ジャガイモカレー(小)
※死んでいるマース・ヒューズの手に拳銃が握られています >[S&W M38(弾数1/5)]
43 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/11/09(金) 21:17:47 ID:UVyIQbEN
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
「……言ったろう、スザクくん。その矛盾が、いつか君を殺すってね」
放送で枢木スザクの名を告げられたとき、ロイド・アスプルンドはそう呟いた。
真剣な面持ちである。今まで取り続けてきたような躁病的な軽い雰囲気は消え去
っている。
ロイドはスザクが何故死んだかは知らない。
だが正義感が人の二倍も三倍も強い彼のこと、ここに来ても変わらず誰かのため
に行動し、死んだのだろう。
人の死を嫌いながら死に近い場所にいようとする矛盾を抱えながら。
(結構強そうに見えたアニタくんもそうそうに脱落。
ジェレミア卿だって失脚してからは散々だけど、無能って訳じゃあない。
こりゃあ、ぼくなんかはうかうかしてらんないかなぁ?)
たとえ相手がかよわい女の子だったとしても、殺意を持って襲い掛かられればおめおめと殺される自信がある。
銃を持ってはいるが、荒事は苦手だし、多少でも心得のあるものには通用しないだろう。
(死んじゃうのは勘弁だなぁ。
ここにはまだいろいろ面白いものがいっぱいあるだろうし、シンヤ君の持ってくる首輪はぜひ解析したい。
まぁ、駄目なときはそれまでだろうけどね)
退廃的なことを考えながら廊下をうろつく。放送は既に終了していた。
熱心にいじっていた携帯電話は、放送が開始されたのにあわせてデイパックの中に戻した。
ふらふらと、校舎内を彷徨い歩き、黒板を見て回った。
『いいですとも!』
『2月2日』
『あんたの思った通りだよ、諸岡さん』
びっしりと書き込まれた黒板の落書きは結構な量だが、別に覚えきれない程ではない。
幾つ目かの教室を見終わり次の教室への移動中、ロイドはある教室の名前に目を留めた。
(んん?何か、新しい発見があるかなぁ?)
好奇心が押さえきれない、といった様子でにんまり笑う。
ロイドは鼻歌混じりに、足早にその教室の中へと入っていった。
その教室の名を示すプレートには「理科準備室」と記されていた。
◇
何故だが勝手に流れていた涙がひとまず止まり、それが完全に乾ききった頃に鴇羽舞衣は学校に辿り着いた。
体中にこびりついた血は臭いがつくのがいやだったので途中できる限り拭った。
重たい足取りで校庭に踏み入る。
その心中もまた、重く沈んだ虚ろな状態であった。
思考をできるかぎり単純化することで、何とか精神の均衡を保っている。
出会った人を殺し、大切なものを奪う。
今まで散々自分がされてきたことを、今度は自分がする側へと回るのだ。
それが正しいのだ、当然のことなのだと思う。思い込もうとする。
そうすればする程涙が溢れてくるのは奇妙だったが、その理由を考えるのが面倒くさくなる頃に涙は止まった。
おかけで、今は邪魔されることなく思考に集中できる。
ひとまずはエレメントの代わりとなるような武器の調達だ。目的地に学校を選んだ理由でもある。
調理実習室に行けば包丁程度の刃物ならば入手できるだろう。
包丁。
そういえば巧海や命にはよくご飯を作ってあげた。
特に命は舞衣のご飯はおいしいっていつもとても嬉しそうに言っていた。
そんなことを、思い出した。
奪われていったもののことなど、もうどうでもいいのに。
舞衣は心底うっとおしげに頭を振って、心中に浮かんだものを振り払った。
そうしたら、顔を上げた際に一つの教室が目に留まった。
校庭から眺める限り、どこもかしこも人のいる様子のない校舎だが、その教室にだけは人影が見えた。
よく目を凝らすと、ひょろひょろとした眼鏡をかけた男が、何か作業をしている。
へらへら笑いながら手を動かす様は、いかにも理系のもやしっ子という感じで、武器を持っている可能性はあるにせよ当人はとても強そうには見えない。
最初に殺すのはあいつでいいか、と舞衣は思った。
善良な人間のふりして接触してみて、隙を見て殺そう。
ついでに持ち物も奪ってしまおう。
光沢を失った瞳の奥でそのようなことを考えながら、舞衣は校舎の中へと姿を消した。
◇
「おいおいおいおいおいおいおい!
俺ってば今空飛んじゃってるよ!何でだろうなぁ、どうしてこんなことになってんだろうなぁ!おい!!
つーか何だこの乗り物はよぉ!羽虫かっつーの!あと、羽が近ぇよ!どっか切っちまったらどうしてくれんだっての!」
頭上で喚くラッド・ルッソの声を聞き流しながら、東方不敗マスターアジアは思案していた。
「そんときゃもちろん俺がぶち切れるんだけどなぁ!あぁ!?何か今上手いこと言っちまったかぁ!?
つーか、ジジィ!手前ぇ、俺が気持ち良く人殺しやってる真っ最中に邪魔してくれるたぁ、どういうつもりだぁ!?
おかげでこっちは鬱憤がたまりまくってんだけどなぁ!?」
この男は野に放っても問題あるまい。
自らの欲望のままに闘争を繰り返すこの男なら、赴いた先々で混沌の種となるだろう。
「ていうかあんた何?何でそんな細い糸指でつまむだけでぶら下がってられんの?
せめて手に巻き付けるぐらいはしなきゃ駄目だろぉ!普通はよぉ!」
となればこれ以上ここで時間を浪費する必要はない。
再び地に降り立ち、争乱の火種を求めて駆け回らなければならない。
武道家の血をたぎらす猛者がいれば、手合わせするのも良いだろう。
しかし、と白髪交じりの弁髪を風に踊らせながら、東方不敗は市街地を見下ろす。
ちなみに、弁髪はお下げ部分以外の毛髪を剃り落とすのが正しいスタイルであり、東方不敗のそれを弁髪と呼ぶのは不正確なのだが、そんなことはどうでもいい。
「無視かよ!
ところでなぁ!俺ってば段々分かってきちまったよ!
つまりこのレバーを動かしゃ、この羽虫を俺の好きに動かせるってことなんだよなぁ!?」
それ程の距離を移動してきた訳ではない。判断を下すにはまだ早いかも知れない。
だが、川を一本越えてからというものぱったりと人影が途絶えていたのもまた事実だった。
やはり、より多くの人物と出会うためには人の集まりやすい施設などを狙うのが得策か。このまま人が見つからないのであればしばし休息するのも一案。
東方不敗がそのように考えたとき、フラップターが学校らしき建物の上空に差し掛かった。
「ほらこうすりゃ右だろ、んでもって左!
おいおい、俺ってばもう乗りこなしちゃったよ!
これって結構すげぇんじゃねぇの!?やっぱ才能ってやつかぁ!」
そして、その校庭を歩く一人の少女を発見したとき、東方不敗の口元が怪しく歪んだ。
絶望の淵に生きる幽鬼の如き雰囲気を纏いながら歩く少女。
そこに、東方不敗は己が目的達成の一助となる可能性の芽を見出した。
「まぁそれはそれとしてだ!
かくして俺は自由にこいつを動かせるようになっちまったって訳だぁ!
こいつの意味が分かるかぁ!?」
だが、弛まぬ修業と長年の人生経験で鍛えぬかれた東方不敗の眼力は、同時にその少女の奥底に未だ燻る迷いをも見て取った。
そして、それが今にも消えそうなほどに弱弱しくなりつつも、確かにその娘を支えているということも。
ならば、最後の一押しをしなければなるまい。
「つまり、俺がむかついちまってどうしようもねぇ手前ぇを、じっくり上からなぶり殺しにすることができるように……って何でいなくなってんのぉ!?
この高さから飛び降りるとかマジありえねぇっての!ヒャーハハッハッハッハ!」
ラッドの高笑いが響く中、フラップタ−から延びる金属糸が、風を受け激しく揺れ動いていた。
◇
舞衣は調理室で苦もなく包丁を入手することができた。
何本か見比べ、鞘つきで一番切れ味の良さそうなものを選ぶと、スカートの背中に差し挟んだ。
調理室の黒板はよく分からないいたずら書きで埋め尽くされていた。
『我の拳は神の息吹!』
『“堕ちたるたる種子”を開花させ、秘めたる力をつむぎ出す!!』
『美しき
滅びの母の力を!』
そんな言葉が目についた。
「……わっけ分かんない」
掃除くらいちゃんとしなさいよね、そうとだけ言って舞衣は調理室を後にした。
首尾よく調理室で包丁を手に入れ、男のいる教室を目指す。
「いらっしゃいまぁせぇ」
教室の扉を開けた舞衣を出迎えたのは、そんな言葉だった。
「あぁ、そんなあからさまに警戒した顔されると傷つくなぁ。
僕はロイド・アスプルンドっていいます。殺し合いをするつもりはないよ?
女性の扱いは心得てるつもりなので、リラックスしてもらって構わないよ」
「ああ…いや…」
甲高い声と調子っぱずれの抑揚ででまくしたてる男、ロイドに舞衣は生返事を返すことしかできなかった。
ロイドが言うような警戒した顔をしていたつもりはない。
扉を開ける前にできるだけ平静を装えるように、心の準備は済ました。
舞衣は教室に入ってすぐ視界に飛び込んできた、部屋の余りに雑然とした様子に思わず目的も忘れて息をのんでしまっただけである。
教室には大きな長机が一つと、左右に棚が一つずつ置かれている。
しかし、器具や薬品の保管用と思われる棚は空っぽであり、そこに収められていたと思われる物達は現在、机の上といわず床ののあちらこちらにまで、無節操に展開していた。
足の踏み場は何とか残されているが、気を付けないと危険な薬品をぶちまけかねない。
そして、ロイドと名乗った男はそんな部屋の中で悠々と椅子に腰掛け、火を灯したアルコールランプで焙ったパンを口に運んでいた。
「ああ、失礼。食事しながらっていうのが気に障っちゃったのかなぁ?
それなら申し訳ないけど、いきなり部屋に入ってきたのは君だしこの件に関してはそっちが折れてくれるとありがたいなぁ。
ま、何にせよすぐに済ませます」
言葉の通りにパンを食べきり、ランプの火を消す。
「い、いや、それはいいんだけど。この部屋って全部あなたが…?」
舞衣はあきれ顔で部屋を見回した。
誰にいつ襲われるかも分からないこの状況下で、この男はずっと、珍しくもない理科室の道具達をひっぺがえしいたというのだろうか。
普通の神経では考えられないが、ロイドの締まりのないにへら顔を見ているとありえなくもない、と思えてしまう。
「いや〜お恥ずかしい。ちょっとした捜し物のつもりだったんだけどねぇ。
いつの間にか止まらなくなっちゃって」
「捜し物って…そのアルコールランプのこと?」
「んんん。まぁ、そんなとこだねぇ」
何を考えているのか分からない。
舞衣はロイドとの会話で毒気を抜かれそうになっていることに気が付いた。
落ち着け、と心中で喝を入れる。
おかしな男だが状況もろくに分かっていないただの馬鹿だ。襲い掛かれば今すぐにでも命を奪うことができる。
「ちょおっと待ってねぇ、その辺どかすから。
これだけ散らかしてちゃ、座ってって言っても無理だよねぇ」
「ええ…ありがとう。名前、まだ言ってなかったわ。鴾羽舞衣よ」
「舞衣くんだねぇ。りょ〜かい」
ロイドは慣れた手つきで床に散らばっている瓶や実験用具などをほいほい片付けている。
顔は下を向いており、舞衣は視界に入っていない。
今なら、と舞衣は思った。
だが、舞衣が背中に手を伸ばしかけたとき、ロイドはそれを察したかのようなタイミングでひょいと顔を挙げた。
そして、奇妙なことを言った。
「一つ言い忘れてた。
断っておくけど僕はイレヴンに対して差別的な感情は別に持ってないからね。
大切なのはそれが僕にとって興味深いかどうか。その前には全ての物事は平等なんです」
「…はいぃ?イレヴン…って何?」
「イレヴンを知らない?本当に?それは…実に面白いねぇ!」
「うぇっ!?」
舞衣の発言のどこに興味をひかれたのか嬉々とした表情でロイドが迫ってきた。
目に宿るあやしげな光が、そこはかとなく怖い。
舞衣は思わず、包丁に伸ばし掛けた手を戻し、身を庇っていた。
「君日本人でしょう?イレヴンが何か分からない何てありえないなぁ。
でもそれが真実だとすると…あ〜、想像が膨らむなぁ。
ちらっとはそういう可能性も考えてたけど。シンヤくんにも聞いておけば良かったなぁ。うふふ」
訳の分からないことを言いながら、一人で身悶えしている。
舞衣は軽く引きながらも、ロイドの注意がそれた今がチャンス、と慎重に手を後ろに回そうとした。
しかし。
「おぉほっ!」
「ひいぃ!」
奇声を挙げて飛び付いてきたロイドにその手を捕まれてしまった。
気付かれたかという焦りと生理的嫌悪感が合わさってもの凄く気持ち悪い。
しかし、ロイドはそのまま何をするでもなく、好奇心に満ちた気色の悪い視線を舞衣の手に注いでいる。
どうやら殺そうとしているのに気付かれた訳ではないらしい。
「…この指輪、見せてもらえる?」
「へ?」
一瞬何のことを言われているのか分からず、少ししてから支給品の指輪をはめっ放しにしていたことを思い出した。
「どうかな?僕にとっては君の話と同じくらい興味があるんだけど。
これは君の私物?」
「し、支給品よ。ちょっと待って、今外すから」
どうせこの状況ではただの指輪になど何の価値もない。
舞衣は手を振り払い、残った感触に寒気を覚えながら指輪を外すしてロイドに渡した。
眼鏡を外し興味津々と言った様子で指輪の観察を始めたロイドに言う。
「そんなに珍しい?ただの指輪でしょう」
「ただの指輪?馬鹿言っちゃいけない。
詳しく解析してみないとはっきりしたことは言えないがおそらくこの指輪は、宝石部分まで含めて僕が知っているどの材質とも、違う」
「ふ〜ん…」
舞衣は興味のなさを隠しもせず、気の抜けた返事をした。
舞衣の思考は今、全く別のところに向いていた。
ロイドが、指輪の観察に熱中する余り、舞衣に背中を向けている。
自分の指にすぽすぽ指輪をはめてみたり、相変わらずよく分からない男だが、がら空きの背中は舞衣に、突き刺して下さいと言っているように見えた。
ゆっくりと包丁を取出し、構える。
即死させられなくてもいい。どうせこの校舎に他に人はいない。
泣き叫ばれたなら、叫び声もあげられなくなるまで刺し続ければいいだけの話だ。
奪われる側でいるのはもう御免だと、自らを鼓舞する。
舞衣は、背を向けたままぶつぶつと何事か呟いているロイドに向けて一歩足を踏み出した。
息が荒くなるのを自覚した瞬間、腰溜めに構えた包丁を一気に突き出そうと足に力を入れ、
「ざぁんねんでした」
くるりと振り返ったロイドが放り投げた何かによって突進を阻まれた。
舞衣が認識できたのは自分の額に何か固いものがぶつかったことと、振り向いたロイドが相変わらず気持ちの悪いスマイルを浮かべつつ、目だけはしっかりと覆い隠していることの二つだけだった。
次の瞬間、舞衣の目の前で閃光が放たれた。
「あ…あぁぁぁあ!!」
突如放たれたまばゆい光をまともに目にくらってしまい、舞衣は視界を奪われた。
かちかち明滅する暗闇の中にロイドの声が響く。
「簡単な閃光弾だよ。マグネシウムの燃焼ってやつだね。
お粗末なつくりで申し訳ないが、生憎この部屋にあるものは色々けちられていてそれが精一杯なんだぁ。
この場合は結果オーライかな?
勝手に反応が開始しないようにする工夫が、一番苦心した点です」
「うるさいうるさい!何なのよぉ!あんたも!あんたもそうやって私を…!」
耳障りな声のする方向を頼りに、半狂乱になりながら滅茶くちゃに包丁を振り回す。
だが手応えはなく、包丁は何かに中途半端に食い込んだ拍子に手からすっぽ抜けた。
舞衣はバランスを崩し、前のめりに転倒した。
床に散乱している物にぶつかりちゃがちゃとやかましい音をたてる。硬い物が顎を打った。
「何があったかは知らないが、あれだけ死んだ目をしていれば誰だって警戒するよ。次からは改めることをお薦めする。
あ、君の話やこの指輪に興味があるのは本当だから、これちょっと貸してもらうよぉ。じゃあね、さよぉ〜なら〜」
「殺してやる!あんたなんか絶対殺してやる!!」
遠ざかっていく声に、舞衣は倒れ伏したまま、ありったけの憎しみを込めて叫んだ。
ロイドが自分でお粗末なつくりと言っていたとおり、視力が回復するのにそれ程の時間はかからなかった。
完全に回復するまで待って、舞衣はのっそりと身を起した。
辺りを見回す。ロイドの言ったままの、死んだ魚のような目をしながら。
ロイドの姿はもうどこにも見えない。
教室の床に割れた瓶の破片が散らばっている。
破片の一つが肩口を傷つけ、浅く血が流れていた。
おぼつかない足取りで教室を出て、そのまま校舎の入り口まで戻る。
包丁は回収しなかった。
何だかそれが、とても惨めなものに思えたので。
「う…う…うぅ」
込み上げてくる嗚咽が押さえきれなくなって、舞衣はグラウンドの土に倒れこんだ。
情けなさに涙が出てくる。
「どうしろって…言うのよぉ…」
武器となるエレメントが出せなくなり、それでも加害者の側に回ることを決意した。
だが、実際は妙な男のペースにはめられ、まんまと出し抜かれている。
指輪も持ち逃げされてしまった。
所詮、忌まわしいHIMEの力に頼らなければ自分は何もできないのだと、舞衣は思った。
何の力も持たない、小娘に過ぎない。
「もう…駄目かも、私」
どうしていいか分からなくなって、呟いた。
このままずっとここで寝転んでいようかとさえ思う。
「エレメントも無しに、何も出来る訳…ないじゃない…!」」
「ならば、ワシが代わりの力をくれてやろうか?」
「…え?」
突如として声が響いた。
左右を見渡して見ても誰もいない。
「どこを見ておる。ワシはここだ。ここにおる」
「ここって…はいぃ!?」
声をたどった先で目に入ったものを見て、舞衣は驚愕した。
校庭に建てられた二宮金次郎の銅像。
読書に励む少年を模したその銅像の頭上で、がっしりした体格の初老の男が腕を組み、直立不動の姿勢で佇んでいた。
その眼光は鋭く、射貫くような視線で舞衣を見据えている。
大真面目な顔をして銅像の頭上から舞衣を見下ろす男、という光景はともすれば滑稽に思われかねないものだったが、そのような感想など吹き飛ばし、これでいいのだと思えるような威厳がその男からは発せられていた。
「な、何…アンタ?」
疲れ切った舞衣の精神では、そう聞くのが精一杯だった。
「ワシの名は東方不敗マスターアジア。娘よ、随分と荒れておるようだな?」
「何言って…」
「力が欲しくはないかと問うておるのよ。つぇい!」
気合いとともに東方不敗を名乗る男はデイパックから何かを取り出した。
だがそれは、水や食料のように簡単に出てきた訳ではない。
明らかにデイパックの容量を十数倍はオーバーしているであろう物体が、たっぷり十秒程の時間をかけて舞衣の眼前にその姿を現したのである。
引きずりだされたものが、ずしんと重たい音を響かせて、グラウンドに足を下ろす。
「ロ、ロボット…?」
舞衣がそれに対してまず抱いた印象は、そのようなものだった。
白を基調にした武骨なフォルム。
人型でありながらも、その体躯は舞衣よりも二回りも三回りも巨大である。
右肩から、砲身が一門突き出されている。
それは、舞衣がテレビの中で見た、所謂戦闘ロボットと呼ばれるのもの達に極めてよく似ていた。
「ソルテッカマン一号機という。ワシの支給品よ。これをお主にくれてやろう」
「ソル、テッカマン…?」
HIME同士の戦いの中ではまるで機械のように金属質なチャイルドもいた。
だが舞衣の知るチャイルドはどれも動物のような形状をしており、ソルテッカマンと呼ばれたもののように人型をしているものなど見たことがない。
にも関わらず、そのフォルムを見て舞衣はある記憶を連想していた。それも、つい最近の記憶である。
「ふん、最初に螺旋王によって爆破されたあの馬鹿者を思い出しおったか。
マニュアルによると、これは奴らのような生物を模して作った機械だとか。
つまりは、この機械は奴らに準ずる性能を持っておるということ。
奴の放った光線の威力はお主も見たであろう?
螺旋王には通じずとも、人の身には過ぎた力であることに変わりはない」
「人には過ぎた力…」
さっきの男に負けず劣らず奇妙であるはずの東方不敗の言葉は、不思議な程にすんなり舞衣の精神に染み込んでいった。
「そうだ。この力があれば並大抵の者に遅れをとることはあるまい。
それを貴様にくれてやろうと言うのだ」
「何でそんなこと…て、ていうかいきなりこんなもの渡されても使える訳ないじゃない!」
「ふん!」
舞衣の理性が行った精一杯の反論は、東方不敗が放った裂帛の気合いにかき消された。
気迫と共に投げ付けられたものが舞衣の目の前の地面に突き刺さる。
それは数枚の紙束だった。ただの紙でしかないはずのそれらが、固いグラウンドの土に深々と突き刺さっていた。
「マニュアルだ。読めい。
これをワシに与えた螺旋王もその辺りのことは考えておるようでな。
全くの素人でも問題なく扱えるように、操縦系統はかなり簡略化されておる。
最初の質問にも答えておこうか。まずこのような物はワシにとっては無用の長物。
そしてワシが望むのは戦乱、ただそれのみよ。
貴様のように他人を蹴落とそうと狙う者が多ければ多い程、ワシにとっては都合がよい」
「これに乗れば…私でも戦えるってこと…?」
振って湧いたように目の前に提示された、戦うための力は蠱惑的な魅力で以って舞衣を誘っている。
その誘いに乗ることはとても簡単で、そして魅惑的であるように舞衣には思えた。
東方不敗の言うとおり、一度乗ってしまえば手足のように動かせる仕組みになっているらしい。
かなり高機動で動くようだが、そのような戦闘を舞衣は経験済みだった。
熱にうなされたような顔でマニュアルをめくる舞衣の心は、着実に一定の方向に傾いて行った。
もはや乗ることを決意したのも同然の様子である舞衣を見て、東方不敗は満足気に笑う。
そして、最後の一押しと言うかのように口を開いた。
「さっき貴様が取り逃がした男だがな。北の方角へ逃げていきおったぞ」
はっとしたように舞衣が顔をあげた。その目はどうしてそのことを知っているのかと言っている。
「お主達のやりとりは一部始終見させて貰った。
お主があの男を取り逃がすところまで含めてなぁ。
おそらくは今頃どこぞの民家にでも身を隠しておろう。
このソルテッカマンでも用いねば、見つけだすのは不可能の一語に尽きる。
だが逆に、これを使えば奴を葬り去ることなど赤子の手を捻るも同じことよ」
東方不敗がソルテッカマンに顔を向ける。
それにつられて、舞衣もまた同じように視線を移した。
白亜に輝く巨体を見ていると、それに乗って戦う姿が不思議なくらい自然に想像できた。
這うように、ソルテッカマンの前に進み出る。
そんな舞衣の目の前に、東方不敗が降り立ち手を差し伸べた。
「どうした?何を迷うことがある。
ワシらの利害は一致しておる。お主はこれを用いて破壊の限りを尽くせばよい。
それこそ、お主が本当に望んでいたことであろう。
ワシの手を取れ。そして揺るぎない力を手に入れるのだ」
泥に汚れ涙も枯れ果てた顔を起こしながら。
舞衣は、自らの手を東方不敗の手に重ねた。
◇
舞衣の手を逃れたロイドは、学校の北側から市街地を抜け川べりにたどりついたところで、足を止めて息を吐いた。
「追いかけてはこないみたいだね。いや〜、あぶなかったぁ」
背後を確認しながら言う。
手に舞衣に投げ付けたものと同形の、瓶型の手製閃光弾を持っている
その指には舞衣から拝借した指輪がはめられていた。
「早速役にたったねぇ。残り一個になっちゃったけど」
手のひらで多少もて遊び、手製の閃光弾をデイパックに戻す。
ロイドは理科準備室に入ってからずっと、護身用の武器の調合をしていた。
あわよくば未知の物質を、という期待もないではなかったが、残念ながらそういったものは発見できなかった。
それどころか、そう簡単に爆弾などの強力な武器は作らせないという意図か、理科準備室と名乗りながらそこにはろくなものが置かれていなかった。
そのため、部屋にあるものとロイドの知識、技術を用いても粗悪な閃光弾を二つ作るのが限度だった
そのうちの一つは早くも失われてしまった。
「良く頑張った方だとは思うけどねぇ?んふふ、あの子結構本気で面食らってたなぁ」
携帯電話からの情報で、ロイドは部屋に入ってきた人物が鴾羽舞衣という名前だと気付いていた。
相手の名乗るに任せていたのは扉を開けたときの舞衣のただならぬ表情、本人は隠しているつもりのようだったが、を見て変な刺激を与えるのはまずいと判断したためだ。
「ん〜それにしても困ったなぁ。
できればシンヤくんが帰ってくるまで学校にいたかったんだけどなぁ。まだあの子近くにいるよねぇ。
今戻ったら今度こそ殺されちゃうよぉ、僕ぅ。いや〜すんごく怒ってたもんなぁ、あの子」
軽い調子で笑う。いたずらが成功したことを喜ぶ子供のようだった。
シンヤとの合流を優先し、しばらく指輪の観察でもして時間を潰してから学校に戻るかと、ロイドが考え歩きだそうとしたとき、
「おい、あんた!」
何やら必死な声に呼び止められた。
声のした方を向くと、どういう訳か全身ずぶ乗れの少年が声の印象と違わぬ必死の形相でこちらに駆け寄ってきていた。
けがをしているのか歩き方がどこかぎこちなく、速度はそれ程ではない。
衛宮士郎、とロイはその僅かな時間に携帯電話が表示した名前を思い出していた。
「おい、あんた、教えてくれ。ここは地図のどのあたりなんだっ!
早く戻らないと玖我が、う…!」
掴み掛からんばかりの勢いでまくしたてたかと思うと、突然頭を押さえて崩れ落ちる。
軽い脳震盪、とロイドは当たりを付けた。
よく見れば肩には銃創がある。手当てをした様子はない。
結構大変な体験してきたところらしい。
「まぁまぁ落ち着いて。ひどいけがだね、君。そこの川を泳いできたの?頑張ったねぇ。
ここはB-6エリアの真ん中あたりだよ。
僕はロイド・アスプルンド。君はお名前聞かせてくれないのかなぁ?」
少年の様子から危険人物ではないと判断したロイドはとりあえず少年を落ち着かせるようと既に知っていることを敢えて隠して名前を尋ねた。
パニックに付き合わされて無駄に時間を使ってしまってはたまらない。
「あ、あぁ悪い。俺は衛宮士郎…ってB-6!?
くそ、結構流されちまった。急いで助けに戻らないと」
「あら?もう行っちゃうの?まぁ、止めないけど。
でもその傷の応急処置と、ふらふらの足が回復するくらいの休憩をとった方が移動するにはかえって効率がいいと思うよ?」
「そんなことしてられるかっ!玖我…俺の知り合いが襲われてるんだぞ!」
めまいを起こしてふらつく体を無理やりひきずりながら、ロイドを怒鳴り付けてくる。
自分のことを完全に度外視して他人のために奔走する姿は、一瞬だけロイドにスザクの姿を思い出させた。
すぐに、その考えを否定する。
(違うね。スザクくんとは違う。
正義感が強いと言っても、この子のそれからはもう少し破滅的なものが含まれている)
未だロイドが殺人者であるか確かめようとしないのもそのせいか、とロイドは推測した。
それが合っているか気になったので聞いてみることにした。
「ところで君さぁ。
僕が人殺しで自分が襲われるかもとかそういう可能性は考えなかったのかい?」
士郎はやはりろくに移動できず、すぐ先の電柱にもたれかかり、肩で激しく呼吸していた。
さすがにしばらく歩くのを断念したのか、そのままずるずると座り込む。
そして、顔だけをロイドに向けて質問に答えた。
「あ…うっかりしてた。
あんた、そうなのか?そりゃあ、その、ちょっと、困るっていうか…」
「うっかりときたか!あ〜っははははは!」
予想外といえば予想外の答えにロイドは大爆笑した。それを見た少年の表情が憮然としたものに変わる。
「何だ違うのかよ。ていうかそんな笑うとこじゃないだろ」
「いやいやいや!君が自分の安全なんてものにまるで価値を感じちゃいないてことが分かって可笑しくってねぇ。
気に障ったなら謝ります。あっはっはっは!」
「何か前にもそんなこと言われたような…。ん、あんた…その指輪!」
なおも笑い続けようとしたロイドを、士郎の真剣な声が止めた。
少年はロイドの手をつかみ、指にはめられた指輪を食い入るように見つめている。
それは先程ロイドが舞衣に対してしたことと全く同じだった。
こんなこと自分はしてたのかこりゃあ気持ち悪いなぁ、とロイドは思った。
「魔術礼装だ…!あんた魔術士だったのか!
魔術が使えるんなら心強い、あんた、玖我を助けるのに協力して…」
「なになになになぁ〜んだってぇっ!?
今とっても気になる単語が聞こえたんだけどぉ〜!」
「いぃっ!?」
士郎の言葉を完全に遮って、ロイドはぐいと顔を近付けた。
多少引かれたようだ構いはしない。
ロイドは一瞬で指輪を抜き取ると、何か知っている様子である士郎の手に握りこませた。
「君はこれが何なのか知ってるみたいだねぇ。
是非とも詳しく聞かせてもらいたいなぁ。今魔術って言った?」
「だから魔術礼装…ってもしかしたこれあんたのじゃなくて支給品か何かか?じゃあ何も知らずに見につけてたって訳か」
「おう!俺も聞かせて貰いてぇことがあるんだがよぉ!」
「まぁ、僕のだと思ってくれ構わないよ。それで?『魔術礼装』って何?」
「魔術士が使う魔術をサポートする道具みたいなもので…そうか、あんた魔術士じゃなかったのか。ぬか喜びだ」
「趣味の悪ぃ、紫色の服着た俺が殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてたまんねぇジジィがこの辺にいるはずなんだがぁ!」
「んっふふぅ。『魔術』という言葉がさも常識であるかのような口振りだねぇ。
その指輪だけじゃなく、君自身にも興味がわいてきたよぉ」
「いや近い!顔近いから!何も見えないから!」
「ああ!あとそういや女みてぇに長いお下げをしてたっけなぁ!」
「是が非でも話を聞きたいなぁ。君の知ってることを洗いざらい全部、ねぇ?」
「いや目ぇ!目ぇ恐いから!顔笑ってるけど目が笑ってないから!」
「アンタらぁ!あのクソジジィがどこにいるか知らねぇか!?」
「うるさいな。その人ならこの道を東に五千メートル程歩いたところにいましたよ」
「そうか!サンキューな!」
ロイドはいつの間にか割り込んでいた声に無意識にかつてない程不機嫌な声で答えた。
去っていく気配に満足し、再び尋問を始めようと冷や汗をかく少年に顔を近付け、
「…ってぇ、んな訳ねぇだろうがあああああああ!!」
何ものかが投げ付けたデイパックに弾き飛ばされた。
「あっら〜〜!?」
ロイドは軽やかに吹っ飛び、コンクリートの地面に強かにその身を打ち付けた。
起き上がる間もなく、近寄ってきた乱暴な足音に胸ぐらを引きずり起こされる。
「あのジジィがいなくなったのはこっから南だっつ−の!適当な返事するにも程があるんじゃねえのぉ!
せっかく俺がぶち切れつつも着地が上手いこといってちょっと上機嫌になってたってぇのに、アンタ何水差してくれちゃってんのぉ!?」
はち切れんばかりの怒りを顔中に漲らせ、ぐいと顔を突き出してくる。
それは先程ロイドが士郎に対してしたことと大体同じだった。
こんなこと自分はしてたのかこりゃあ気持ち悪いなぁ、とロイドは思った。
すぐそばでは、少年が助かった、と呟いていた。
「あれ、僕そんなこと言ったかなぁ?
…ごめん、覚えてない」
ラッド・ルッソ、と男の顔を見ると同時に携帯電話の情報を思い出した。
ラッドはロイドの答えがえらく気に入らないようだった。
「よぉ−し分かったぁ!まず手前ぇからぶっ殺す!
あのジジィのために取っとくつもりだったが、手前ぇのおかげで少しぐらい使ってもお釣りが出るぐらいに俺の殺る気は今最高潮だ!
つーわけで死ね!今すぐ死ね!」
「ちょ、ちょっと待て!いくら何でもやりすぎだ!」
本気で殺すつもりで殴ろうと腕を振りかぶったラッドを見て、士郎が慌てて止めに入った。
抱き抱えるようにしてラッドの剛腕を押さえ込む。
「ああ!?何なのお前?何かこいつといい感じになってたみたいだけどぉ!?」
「どこをどう見たらそうなる!いいからその手を放せ!」
「放すよぉ!
つ−か、今から俺がこいつをぼこってぼこってぼこってぼっこぼこにするからよぉ!?
最終的に持つとこ無くなって自然に放れるんだけどなぁ!?」
「無茶くちゃ言うなって!?ああもう、こんなことしてる場合じゃないってのに…!」
「あの〜…すみません…くび、しまってます。…先にそっちで死んじゃいそう…ぼく」
息も絶え絶えのロイドの訴えは、二人の耳には届かなかった。
「ああああああ!!もう面倒くせええええぇぇぇ!!」
そして、ついに業を煮やしたラッドが、腕に士郎をぶら下げたままロイドを殴り付けようとした次の瞬間。
三人のから最も近い位置にある民家が、跡形もなく消し飛んだ。
「あぁん!?」
「何だぁ!?」
「KMF…いや、違う…!」
爆風が轟く中、三人が三様の言葉を発する。
熱波が吹き荒れ、降り注ぐ火の粉がたちまち3人の額に汗を浮かび上がらせた。
びりびりとした振動が、大地を揺らした。
そして、それらが収まると同時に三人の周囲を、太陽が消え去ったかのような黒い影が覆った。
静かに、全く同じタイミングでそれぞれ顔を上げる。
三人の正面には、数階建ての鉄筋のビルがあった。
その屋上。
日の光を遮るように、白い威容を誇る巨体が、三人を見下ろしていた。
肩に設置された砲身に真っ直ぐ三人に向けられていた
「おいおい、マジかよ。あんなのもいちゃうわけ?」
「ロ…ボット…?まさか…」
呆然とする士郎とにやつきながらも未だにに手を放してくれないラッド。
二人の対照的な表情を見ながら。
ロイドはぽりぽりとこめかみを掻いて、言った。
「もしかして、僕達だぁいピンチぃ?」
◇
「…うん。射撃はまだあんまり上手くいかないな」」
ソルテッカマンのコックピットの中で、舞衣は一人呟いた。
舞衣にソルテッカマンを授けた後、東方不敗をはどこかへ去っていった。
計器類の放つ淡い光しかないその場所で、舞衣はこれまでにない安堵を感じていた。
これで、もう何も奪われずに済む。
これで、全てを焼き尽くすことができる。
これで、絶望を感じずにいることができる。
「カグツチは出せないんだから…代わり、頼むわよ」
沈みきった声で、乗機に対し言う。
舞衣は静かに照準を眼下の男たちに定めた。
中心にいるのは、にやけ顔のあの男。
忌々しい、ロイド・アスプルンド。
ぎっ、と音が鳴るほど強く歯を食いしばりながら、舞衣はレーザーライフルを発射した。
たとえ涙を流したとしても、鋼の鎧の中では誰にも見えはしなかった。
【B-6左の川沿い/一日目/昼】
【ロイド・アスプルンド@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式、携帯電話 閃光弾×1
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:シンヤが戻ってくるまでに学校に戻る。
2:携帯電話と黒板に書かれた落書きをもっと詳しく調べてみる。
3:シンヤが持ってくる首輪を分解してみる。
【携帯電話】
@全参加者の画像データ閲覧可能。
A地図にのっている特定の場所への電話番号が記録されている(どの施設の番号が登録されているのかは不明)。
全参加者の現在位置表示システム搭載。ただしパスワード解除必須。現在判明したのはロイドの位置のみ。
パスワードは参加者に最初に支給されていたランダムアイテムの『正式名称』。複数回答の可能性あり?
それ以外の機能に関しては詳細不明。
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康。
[装備]:、超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾20/25)
[道具]:支給品一式(ランダム支給品0〜1を含む)、ファイティングナイフ フラップター@天空の城ラピュタ
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:ソルテッカマンに対処
1:東方不敗を探す。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、腹部、頭部を強打、左肩に未処置の銃創
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:玖我を助けに戻る
2:イリヤの保護。
3:できる限り悪人でも救いたい(改心させたい)が、やむを得ない場合は――
4:18:00に図書館へ行く
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。
真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※チェスに軽度の不信感を持っています
※なつきの仮説を何処まで信用しているかは不明
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷と切り傷
[装備]:ソルテッカマン一号機@宇宙の騎士テッカマンブレード
フェルミオン砲11/12 レーザーライフル20/20 機体エネルギー100%
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
【B-6学校/一日目/昼】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(小)。全身、特に腹にダメージ。螺旋力増大?
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:支給品一式、
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝する 。
1:一時休息を取るが気になることがあればそちらを優先。
2:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:できればドモンを殺したくない。
あぼーん
モノレールの車内は、明智が考えていたものより広々とした印象を受けた。
それが無人の車内に一人きりという状況だからなのか、それとも本当に車両自体が広いのかは判断しかねるところだが。
「元の世界に戻ったら、もう少し列車について勉強することにしましょうか」
明智は語り聞かせるように呟く。
反応がないということは分かっているが、何もしないよりはマシだろうという考えの元だ。
――それにしても、このままではクセになってしまいそうですね。
明智は苦笑した。
改めて、明智は車内を見渡す。
座席は進行方向に交差する形で並んでいる。クロスシートという、二人がけの座席を中央の通路を挟んで複数列配置する形式だ。
シートは、ボックスシートという前後の二列が向かい合わせになる形で固定されている。
座席と床の間には、僅かに空間が開いていた。横幅は広いが高さが低く、子供ならまだしも大人では通れそうにはない。
――つまり、子供なら潜むことぐらいはできるというわけです。
「おかげで、いちいち覗き込まないといけないんですよ。……楽しいですか?人の這い蹲る姿を見るのは」
愚痴をこぼしながらも、明智は確認を怠らない。
ひょっとしたら、怯えて隠れている子供がいるかもしれない。殺し合いに乗った子供が、息を潜めているかもしれない。
また、魔法や錬金術といった特殊な能力を持つ者が潜んでいるかもしれない。
不安の種は、考え出したら切りがない。しかし、明智は今いるこの会場が常識外のもので溢れていることを知っている。
自身の常識が通用しない以上、ある程度の警戒は必要だった。
■
明智は最初に乗り込んだ先頭車両から最後尾の車両を調べ、もう一度座席の下を調べながら先頭車両に戻った。
幸いと言っていいのか、人影は見当たらなかった。
手間はかかったが、モノレールの中のひとまず安心を買えるとしたら安いものだろう。
「つかの間の休息といった所ですか、……なら、今のうちに食事にでもしますか」
デイパックから支給品の食料を取り出し、手早く口に含む。
あまりの味気なさに眉をひそめるが、しかたがなく咀嚼する。
「まったく、カロリーメイトでももう少しマシな味ですよ」
味わうことなく水で流し込み、文句を言う。
その時に食べかすが少しこぼれ、生乾きのシャツに付着した。
明智はため息をつくと、ネクタイを外しシャツを脱ぎ始めた。
以下蛇足。
明智の体は筋骨隆々とは言わないが、無駄な贅肉がなく引き締まっていた。
胸は鍛えられた筋肉によってうっすらと盛り上がっており、生乾きのシャツを着ていたせいか薄っすら湿っている。
腹筋も見事なもので、よく見れば割れているのが分かる。しかもボディビルダーのような暑苦しさはなく、むしろ清涼感を感じさせるものだ。
腕や肩などのパーツも、筋肉が皮膚を押し上げていて理想的な形だ。
注目すべきなのは、全体のバランスがよくまるで彫像のように美しい体だということだ。
本人の美貌とも相まって、『美しい』という言葉を体現しているようである。
以上蛇足終了。
食べかすと僅かに残った湿り気と塩分を振り飛ばすつもりで、明智はシャツはパンッと払う。
スラックスも同様にやってみようかとも考えたが、流石に止めておいた。
監視されているかもしれない状況で裸を晒すのには流石に抵抗があった。
改めてシャツに腕を通し、少し迷ってからネクタイをデイパックに仕舞った。
もう一度ネクタイを巻くのには、少々首輪が邪魔だったからだ。
トントン、と首輪を指で叩く。
「まさか、これの解除にも『螺旋』が絡んでるとかいうことはありませんよね」
螺旋博物館の螺旋尽くしを思い出し、思わず辟易する。
結びつけるにはやや安直すぎる気もしたが、そうであってもおかしくない気がした。
もっとも、現状では手の出しようがないため確認することすらできない。
そもそも解除できるように出来ているのかすら分からないのだ。
「やはり、一度首輪を調べてみないといけませんか」
明智の目的であるこのゲームから脱出するためには、首輪の解除は必須の条件だ。
ゲームが始まった当初から、考えていたことではる。
しかし目視できない自分の首輪に手を加えるのは危険だし、手を誤れば爆破してしまう可能性がある首輪を他人が易々と触れさせてくれるはずがない。
そう思って、保留にしておいたのだ。――死者が出るまでは。
「……死者を弄ぶ趣味は無いんですがね」
死者から、首輪を回収する。
道徳的にどうかと思われる手段だが、殺し合いの乗るつもりのない明智が首輪を手に入れるにはそれぐらいしかない。
――私にはこの首輪を解除するスキルはありませんが、機会があったら回収することにしましょう。
他にも考えることはあったが、それは中断されることになった。
考え事をしているうちにモノレールはD-1の駅についたからだ。
無人の車掌室は自動的に操作され、安全にモノレールを駅に止める。
扉が開き、明智はプラットホームに足を踏み出した。
「モノレールが再出発するまで三時間二十分、その間に何か見つかればいいのですが」
残してきたクロスミラージュのことも気がかりだ。
彼は必ず説得すると言っていたが、それを愚直に信じるわけにはいかない。
――最悪の場合も、考えておかないといけませんしね。
ティアナという少女が殺し合いに乗ったなら、恐らく明智をD-4の駅で待ち伏せするだろう。
確実に来ることが分かっている獲物を逃すはずがないし、何より明智は予備のカートリッジを持っている。
「どちらにしろ、彼女は駅を動けないはずですしね」
今は、クロスミラージュを信じることしかできない。
明智は機能していない駅の改札を通り、空を見上げた。
もう朝日とはいえない太陽が、馬鹿みたいに眩しかった。
【D-1・駅/一日目・朝】
【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:若干疲労、右肩に裂傷、服も乾いてきた頃(上着喪失)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、参加者詳細名簿、予備カートリッジ8
ダイヤグラムのコピー
[思考]
基本思考:犯罪芸術家「高遠遙一」の確保。ゲームからの脱出。
1:ゲームに乗っていない人間を探しつつ施設を回る。
2:D-1駅に到着次第、付近を調査(水族館かドーム球場を回りたい)
3:D-1駅から10:50発のモノレールに乗ってD-4駅へと戻り、クロスミラージュと合流。
4:金田一、剣持を探す。
5:明日の正午以降に博物館の先に進む。信頼できる人物にはこのことを伝える。
6:もし死体を見つけた場合、気が進まないが首輪を回収する。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終回(怪奇サーカスの殺人)後
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
白い床に煌びやかな照明。立ち並ぶ人型は色とりどりの衣装を纏い、思い思いのポージング。
ガラスの中の貴金属はどれもこれもが眩い光を反射して、キラキラと価値を主張する。
飯麓百貨店婦人服売り場。
時が時ならば、有閑な奥様方が連れ立って、ショッピングに興じるであろうこの場所は今、静寂に包まれていた。
もはや日も高いというのに、店内には商品のチェックをする売り子一人見当たらない。
本来ならば、開店間際の喧騒に包まれていなければいけないそこには今、代わりに少女がただ一人。
白い肌。キメ細やかな髪。華奢で柔らかなボディ。
どことなく高貴な感じを漂わせるその少女は、少し幼すぎることを除けば
十分にこの場に似つかわしいキャラクターを持ち合わせている。
しかし、彼女がその手で行っている所業は、とてもこの場にマッチしているとは言えなかった。
少女の両手には抱えきれないほどの布の山があった。
よく見ればその山は、この売り場の主役、買い手のない婦人服たちでできている。
彼女は一枚何万円という値段がついたそれを一枚ずつ無造作に掴み出し、床へと落とす。
一枚落とせば、もう一枚。次を落とせばさらに一枚と、少しづつ間を空けながら、服を床に広げていく。
そんな作業をしばらく続け、腕に抱えた服を全て撒きおわると、少女は次に周りのラックから
服をひっぺがし、さっき落としたものの周りに配置していく。
床のうちの少なくない部分が布に覆われたことを確認すると、少女はほっと一息。
一瞬の間を置いた後、止まっているエスカレーターに向かって走り出し、駆け下りて行ってしまった。
少女の去った後には、布の山と、鼻を衝くような刺激臭だけが残っていた。
◆
長い影が道路に広がる朝のビル街。
スーツを着たビジネスマンも、着飾った若い女性もいないそこ、広い道路の中心に、一人の恰幅のよい老婆が立っていた。
老婆の手には黄色いペンキがたっぷりついた刷毛が握られている。
彼女は、傍らのペンキ缶の中にそれを突っ込み、一、二度まさぐった後、刷毛の先を道路へと向けた。
たちまちのうち、黒いコンクリートに黄色い線が3本刻まれ、それが矢印(←)の形を成す。
周りを見渡せば、前後の道路には、これと同じような矢印がいくつか描かれている。
老婆は自ら作り出した記号の群れを一瞥すると、満足そうに頷く。
「おばさま〜こっちも全部終わりました〜」
作業を終え、老婆が道具の片付けに入るのと、正面の豪奢な建物――デパートから少女の声が聞こえるのとはほぼ同時だった。
「なかなか、いいタイミングだ。こっちもちょうど終わったとこだよ」
老婆は少女に応えると、もう一度、何かを確かめるように周りを睥睨する。
「さぁて、それじゃあお待ちかねのショー・タイムといこうかね」
懸案事項がないことを確認すると、彼女は支給品のランタンから即製のたいまつに火を移し……
そのままそれを、デパートの中目掛けて放り込んだ。
◆
「念の為だ。もう一度だけ手際を確認しとくよ!」
「はいっ!お願いします!」
ドーラが受話器に怒鳴ると、向こうからは威勢のよいニアの声が返ってくる。
彼女達は今、デパートの大通りを挟んだ向かい側、六階建てのオフィスルビルにいた。
目の前のデパート一階は、既に赤々と燃える炎の前にその体を首まで没している。
この調子で燃え広がれば、二階、三階と陥落していくのはほぼ間違いないだろう。
言うまでもなく既に自明のことではあるが、この火災は、ドーラとニアによって人為的に起されたものである。
何故、彼女達はこの殺し合いの場で、何もない、誰もいない建物にわざわざ火を放つような真似をしたのか?
それにはもちろん、理由があった。
「まずは、この作戦の狙いだ。もちろんちゃんと分かってるだろうね?」
「はいっ!今回の作戦の狙いは、できるだけ安全に、かつ、効率的に人を集めることです!」
そう、今回の放火、その目的は人集めにある。
この殺し合いが始まってから既に十数時間。
にもかかわらず、彼女達はまだ、お互い以外の人間を影も形も目撃していない。
ここが血で血を洗う蠱毒の壷中であることを考えれば
それはある意味で幸運なことかもしれなかったが、そうこうしているうちに、大切な仲間が死んだと聞かされては話が違う。
ヨーコ。シータ。そしてパズー。
人と接触し、情報を集め、一刻も早く会場にいる残りの仲間と合流しなければならない。
シモンのような悲劇が、また繰り返されるその前に。
だから彼女達は、そのための方法を考えねばならなかった。
「よし。
……これだけの建物が燃えりゃあ、随分、遠くからでも煙が見えるはずだ。
あそこで何かが起こってるとなりゃ、多少、危険なことが分かっていても、見たくなるのが人情ってもんさ。
今回みたいに知り合いとちりぢりにされてんなら、なおさらだ。
このデパートは言ってみりゃあ、大きな狼煙みたいなもんさね」
この計画を発案したのはもちろん、ドーラの方だ。
九人もの人間の死亡を伝えた放送は、彼女の方針を変更させるに十分なできごとであった。
当初の予定では、市街地を慎重に探索しながら、信用できそうな人間を吟味して接触するつもりだったが
殺し合いが予想以上に速いスピードで遂行されつつある以上、グズグズしてはいられない。
そう考えたドーラは、穏当な従来のやり方を投げ捨て、代わりに、荒っぽい海賊のやり方を採用することに決めたのだ。
「だけど……本当に燃やしてしまってよかったのでしょうか?」
「構やしないよそんなこと!どうせこのビルもあのハゲ親父の持ちモンだろうしね。
アイツがアタシたちにしたことを考えりゃ、この街全部、焼け野原にしてもまだ足りないくらいさ」
何やら物騒なことを言っているが、勿論これは冗談で、ドーラとてこの街を焼き尽くすつもりなどない。
むしろ、火が必要以上に広まって、探すべき人をバーベキューにしてしまわないよう、最大限の注意を払っている。
燃やす建物としてこのデパートを選んだのも、気づかいの一環だ。
このデパートは、四方を幅の広い道路で囲まれているので、延焼の心配が少ない。
煙を目立たせるため、盛大に燃やしても、ここなら被害を拡大させることもないだろう。
「でも、本当によく燃えますね。あんなに大きな建物なのに、もう全体に火が回って……」
「あったりまえさね!アタシを誰だと思ってるんだい!?
本業は海賊だから、さすがに本職には負けるが、そんじょそこらの素人とは経験が違わぁ!」
「海賊?海賊って何ですか?」
「ア"?」
実際、ドーラの手際は見事なものだった。
まず、巨大な建物を燃やすには燃料が必要だと見るやいなや、道路に散在している自動車に目をつけた。
入念に車体を調べ、ガソリンタンクを見つけると、その中にデパートで調達した服を突っ込む。
するとたちまち布が油を吸い、あっという間に固形燃料のできあがりだ。
彼女はその手順で発火元を量産すると、今度はニアに命じてそれを建物内に敷き始めた。
建物の構造、各階にある品物、火が広がる仕組み。
燃え盛る百貨店は、それらに配慮したドーラの指示が的確だったことを雄弁に語っている。
ちなみに余談ではあるが、店内を見てまわっているときに、貴金属店を見つけた彼女は
嬉々としてショーウインドーをぶち壊し、その中身を拝借していた。
余技の放火だけではなく、本職の泥棒もきちんとこなしていたというわけだ。
職業犯罪者は逞しいのである。
「……あー、何だか話が逸れちまったね。まあいい。おさらいの続きだ。ニア、アンタの仕事を言ってみな」
「ハイッ!私の仕事は、ここ――六階の窓から、この建物に誘導されてくる人を見張ることです。
人の姿を見つけたら、その人の特徴と動きをこの電話でおばさまにお教えします。
その人がビルの中に入ったら、とりあえず私の仕事はおしまい。おばさまに交代です」
派手な焚き火で人を集めるにしても、ただ口を開けて待っているだけというのでは芸がない。
せっかく仕掛けをうつならば、できるだけ確実に、かつ安全に接触したいと考えるのが自然の成り行きだ。
そのためにドーラが考えたギミックが、道路に多数刻まれた黄色い矢印である。
これらの矢印は、デパートの周りを隙間なく囲むように配置されている。
そして、矢印の頭は全て同じ一方向、すなわち、ドーラとニアが潜むこのビルの入り口に向けてある。
「上出来だ。覚えのいい子は嫌いじゃないよ。
矢印に従ってビルに入ってきた相手とは、一階にいるアタシが話をする!
こっちは相手の動きが分かってるが、相手にはこっちの正確な位置すら分かりゃしないんだ。
お客さんが殺る気だろうが、そうでなかろうが、交渉をする上で不利ってことはないはずだよ。
まあ、招待の仕方がずいぶんと露骨だから、ひっかかってくれるかどうかは五分五分だが
それでも、まあ、入り口の前までは来る奴がほとんどだろう。姿が見えりゃ、最悪、話はできるからね」
ちなみに、正面の入り口を警戒されて裏に回られるのを防ぐため、他のところは全て施錠してある。
姿を見失った上に、側面を衝かれては、この計画が台無しになるからだ。
「それから、分かってるとは思うが、殺す気マンマンの奴が来た場合、戦いになるかもしれない。
そうなったときは、電話か、それが無理なら手榴弾を爆発させて知らせるから、すぐに裏の階段から逃げるんだよ」
「……あの、やっぱりおばさまを残していくのは……」
「自惚れるンじゃないよ。足手まといだといってるのさ。
あんたのことに気を回しながら戦って、隙を突かれておっ死にましたじゃあ、コメディにもなりゃしない。
逃げた後はD−8の古墳まで行って待ってな。アタシも後からそこへ行く。
……分かったね!?」
「……ハイ、わかりました」
そのやりとりが終わると、ドーラは受話器をはずしたたまま、床へと置いた。
いざというとき、すぐに上のニアと連絡がとれるように、回線は繋ぎっぱなしにしておく。
仲間の居場所、首輪への対処、脱出の算段。
人と会って話し、手に入れなければならない情報は無数にある。
(いけ好かない王様に、外せない首輪を嵌められて、見たこともない街で、聞いたこともない殺し合いをさせられてる。
どう見たって大いにややこしい話なのに、アタシが持ってる情報はほぼ素寒貧……か。
やれやれ、頭痛がしてくるね)
ドーラは自分が置かれている状況をもう一度認識し、少し嘆いた。
はやる気持ちを抑え、彼女はまだ見ぬ何かの来訪を待ちわびる。
天衝く炎が召喚するは幸運の女神か?それとも無慈悲な死神か?
【E-6/デパート向かいのオフィスビル/1日目/昼】
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式 毒入りカプセル×3@金田一少年の事件簿
[思考]:
1.ビルの六階から外を見張り、人を見つけたらドーラに報告する
2.ヨーコ、シータ、パズーを探す
3.カミナの名前が気になる(シモンの言うアニキさんと同一人物?)
4.お父様(ロージェノム)を止める
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※ドーラの知りうるラピュタの情報を得ました。
※ドーラとはぐれた場合には、D−8の古墳で落ち合う約束をしました。
【ドーラ@天空の城ラピュタ】
[状態]:健康
[装備]:カミナの刀@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式 食料品(肉や野菜など) 棒付手榴弾×3@R.O.D(シリーズ)大量の貴金属アクセサリ
[思考]:1.ビルの一階で来訪者を待つ
2. 来訪者が来たら接触して情報収集したい
3.シータ、パズー、ヨーコを探す
4.ムスカを警戒
5.ゲームには乗らない。ニアに付き合うが、同時に脱出手段も探したい
※ニア視点でのグレンラガンの世界観について把握しました。
※ニアとはぐれた場合には、D−8の古墳で落ち合う約束をしました。
[補足]
※デパートが炎上しました。
※火事の煙がどのエリアから観測可能なのかは、後の書き手さんにお任せいたします。
【B-6左の川沿い/一日目/昼】
【ロイド・アスプルンド@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式、携帯電話、 閃光弾×1
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:シンヤと会うために学校に戻る。
2:士郎の話しに強い興味
3:携帯電話をもっと詳しく調べてみる。
4:シンヤが持ってくる首輪を分解してみる。
【携帯電話】
@全参加者の画像データ閲覧可能。
A地図にのっている特定の場所への電話番号が記録されている(どの施設の番号が登録されているのかは不明)。
全参加者の現在位置表示システム搭載。ただしパスワード解除必須。現在判明したのはロイドの位置のみ。
パスワードは参加者に最初に支給されていたランダムアイテムの『正式名称』。複数回答の可能性あり?
それ以外の機能に関しては詳細不明。
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
予備マガジン(超電導ライフル専用弾5/5)×4@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式(ランダム支給品0〜1を含む)、ファイティングナイフ
フラップター(+レガートの金属糸@トライガン)@天空の城ラピュタ
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:ソルテッカマンに対処
1:東方不敗を探してぶち殺す。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、腹部、頭部を強打、左肩に未処置の銃創、軽い貧血
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
0:ソルテッカマンに対処
1:玖我を助けに戻る
2:イリヤの保護。
3:できる限り悪人でも救いたい(改心させたい)が、やむを得ない場合は――
4:18:00に図書館へ行く
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。
真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※チェスに軽度の不信感を持っています
※なつきの仮説を何処まで信用しているかは不明
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷と切り傷
[装備]:ソルテッカマン一号機@宇宙の騎士テッカマンブレード
機体状況:無傷、エネルギー100%、フェルミオン砲11/12 レーザーライフル20/20
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※フェルミオン砲の衝撃が周囲に響き渡りました。
【ソルテッカマン一号機・加具土】
テッカマンブレードのデータを元に軍が作り上げたパワードスーツ。
本ロワにおいては誰でも扱えるよう、操縦系統が簡略化されている。身長は2〜2.5メートル程度。
脚部ローラーでの移動の他、同じく脚部のスラスターで空中移動も可能。が、常時飛行は厳しい。
武装はフェルミオン砲(非拡散タイプ)とレーザーライフル。
【B-6学校/一日目/昼】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(小)全身、特に腹にダメージ。螺旋力増大?
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:支給品一式
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝する 。
1:一時休息を取るが気になることがあればそちらを優先。
2:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:できればドモンを殺したくない。
※舞衣と分かれた直後の行動については不明。
気付いたら私は草原にいた。
視界いっぱいに広がる鮮やかな緑色の絨毯とどこまでも続く透き通るような青空。
草原を走る風が爽やかな匂いを届けて、ぽかぽかした陽気が体を暖めてくれる。
そんな心地いい世界で、私は草原に背を預けごろんと寝転がっていた。
ふと隣に気配を感じて、首を横に向けるとそこには私と同じように寝転がる“お姉ちゃん”の姿があった。
といっても年の離れた実の姉のゆいお姉ちゃんじゃなくて、私にとってのもう一人の“お姉ちゃん”。
血縁的に言えば従姉で、今は一つ屋根の下で暮らすこなたお姉ちゃんだった。
「やっほー、ゆーちゃん元気ー?」
いつも通りの声で私に笑いかけるお姉ちゃん。
「うん、元気だよ、こなたお姉ちゃん」
信じられないほどに体の調子がいい。
やはり空気のいいところにいると体の調子もいいものなのかな?
「うんうん、そりゃ何よりだよ」
そう言うお姉ちゃんは言葉とは裏腹にニヤニヤと笑みを浮かべている。
こういう場合は大抵かがみおねえちゃんをからかっている時なのでちょっと不安だ。
「それにしてもゆーちゃんがいい人とめぐり合えたみたいで私は安心したよ」
そう言われて脳裏に浮かぶのは顔の左側に大きな傷を負った男の人。
徒でさえ強面で――時々ほんとうに怖い顔になるけれど、私は知っている。
自殺しようとしていた自分を落ち着かせてくれて、行動を一緒にしてくれている優しい人だ。
「うん、Dボゥイさんはいい人だよ」
「そうだね、結構カッコイイし。
でもちょっとそこは意外かな? ゆーちゃんのタイプって純朴そうなのかと思ってたからさー。
まさか男ツンデレを攻略するとは……ゆーちゃん、GJ!」
えええええええええええ! い、“いい人”ってそういう意味!?
そ、そうじゃない! Dボゥイさんはそういう相手じゃないよおねーちゃん!
確かに抱きしめられてドキドキしたりもしたけど!
その時にちょっと「男の人の匂いってこんな感じなんだ……」とか思ったりもしたけど!
「……まさかゆーちゃんがそこまで進んでたなんて……ショックだよ……」
だから違うよ! 『ホントにショック受けた』って顔で言わないでよ!
お、お姉ちゃんこそどうなの! 男の人の影がないって言ってたじゃない!
でも、私がそう返すとお姉ちゃんはちょっと困ったような表情で。
「んー、私もいい人たちと出会えたかな。
ただちょっと……リアルLUCが足りなかったみたいでさ、そこで運が尽きちゃったみたい。
もしかしてレバ剣拾ったときに使い果たしちゃったかなー?」
その人たちとケンカでもしたのだろうか?
そう訊くとお姉ちゃんは首を横に振った。
「ううん、ケンカはしなかったな。
でも、ここで“終わり”だと思うと残念かなって」
そう言って私を見る目はどこまでも穏やかで、不安になる。
だってなんでそんな――『遠く』から私を見るのだろう?
「な、に……言ってるの?」
お姉ちゃんの言うことが理解できない。
ねえ、“終わり”ってどういうこと?
「ははは……現実は非情なのにさ、こういうところは漫画みたいなんだね。
もしかしたらあっちには神様もいるかも……できれば綺麗な女神サマがいいんだけどね〜」
そんな空っぽな笑い方、らしくないよ。
こなたお姉ちゃんはもっと明るい笑顔が似合ってるよ。
「ん……ありがとね、ゆーちゃん。
……さてと、そろそろ行かなきゃ。
つかさも待ってるだろうし……もしかしたらお母さんにも会えるかもしれないしね」
体が動かない。声が出ない。何で? どうして?
言いたいことがあるのに。聞かなきゃいけないことがあるのに。
「あ、そうそう。お父さんに伝えといて。“『俺より先にいくな』って約束守れなくてごめん”って」
自分で伝えればいいよ。じゃないと叔父さんも悲しむよ。
「あはは、うん、でもね私、ここでバッドエンドみたいなんだ。
いやーセーブ&ロードが使えないってユーザーフレンドリーじゃないよね。
一昔前ならともかく今ならクソゲー呼ばわりだよ」
言ってることはいつも通りなのに私の中の不安は消えない。
それどころか不安がどんどん膨れ上がっていって体ごと破裂してしまいそう。
「でも大丈夫! ゆーちゃんならノーコンテニューで最後までいけるって!」
そう言いきった姿はいつも通り、自信満々なお姉ちゃんの姿。
でも、何処か寂しげで。その理由を訊こうとした瞬間、
「こなたー!」
「おーい、そろそろ時間だってよー」
声のした方に目を向けるとそこには中学生ぐらいの男の子とさっき会ったお姉さんと同じ服を着た眼鏡のおじさんがいた。
その時、私には何故か見覚えの無いその二人がお姉ちゃんを連れて行っちゃう存在に見えて、
失礼にも程があるのに『あの人たちについてっちゃだめ』と言いかける。
でも声が出ない。指も動かせない。動かなきゃいけないのに体の境界線が滲んでしまったみたいにあやふやで動かせない。
そんな感覚に戸惑う私の体を暖かさが包み込む。
そして――理解する。
ああ、抱きしめられてるんだ、私。
「春にゆーちゃんがうちに来てから色々会ったよね。
夏祭りも行ったし、文化祭で踊ったの楽しかったね」
うん、楽しかった。だからもう一度――ううん、何度でもやろうよ、こなたお姉ちゃん。
「今はつらいけど、未来には楽しいことが色々待ってるから、挫けちゃダメだよ。
みなみちゃんやひよりん、パティ達とも仲良くね」
そこにはお姉ちゃんもいなきゃダメだよ。かがみおねえちゃんやつかさおねえちゃん、高良先輩たちもいっしょじゃなきゃヤダよ。
「私、一人っ子だったから、ゆい姉さんとゆーちゃんがホントの姉妹みたいで嬉しかったよ」
私だってそうだよ。お姉ちゃんが二人もいるなんて幸せだよ。
「もっと沢山話したかったよ。もっと色々遊びたかったよ。もっとずっと一緒にいたかったよ。
でもさ……私はここまでっぽいや」
耳元から聞こえる声は、優しくて、暖かくて。
なのに――なんで涙が溢れて止まらないんだろう。
「ゆーちゃん、泣かないで。いつもみたいに可愛い笑顔を見せてよ」
頬にやわらかい感触。お姉ちゃんの指が涙を拭き取ってるんだ。
「私が思うにゆーちゃんの笑顔はいわゆる一つの萌え要素ってやつでさ、きっと色々な人に癒しと幸せを運ぶと思うんだ。
これからさ、辛いことや悲しいことが沢山あると思うし、泣きたいときは泣いてもいい。
でもさ、笑うことだけは忘れないで。私には出来なかったけど、ゆーちゃんなら出来るよ」
笑うから、きっと笑うから。だから――いかないで。
「じゃあね、ばいばいゆーちゃん。
ホントに……ホントのホントに大好きだよ。私の……自慢の従妹で、素敵な友達で、かわいい妹だったよ」
どんどん意識がぼやけていく。
気を失うのとは違う、夢から覚めてしまうような感覚。
ああ――そうか、これは夢なんだ。
覚めないでと願っても、夢だと気付いた瞬間にどんどん指からすり抜けてしまう幻みたいな記憶。
だから願いとは裏腹に温もりが、大好きなこなたお姉ちゃんの温もりが消えていく。
「もう……いいのか?」
「……うん、言い出したらきりが無いし。それにゆーちゃんはああ見えて強い子だから大丈夫だよ」
「こなたが言うならそうなんだろうね。僕も応援するよ」
「ああ、俺たちにできるのはもうそのくらいしかないしな。スバルの奴もきっと大丈夫だろうよ」
「そうそう、だってスバルもゆーちゃんも“萌え要素”の塊だもん」
「“モエ要素”?」
「んー、あっちに行ったらアル君たちにも教えてあげるよ。
“萌え”の真髄ってやつをさ――」
そう言いながら二人と一緒に歩いていくお姉ちゃんの背中を最後に、私の意識は光の中に落ちた。
***
「……たか……ゆたか!」
ゆたかの瞳に映るのは自分を心配そうに見つめる二つの瞳。
顔の左側に大きな傷――ああ、そうだ私はこの人を知っている。
「D……ボゥイ……さん……?」
Dボゥイは心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。
「大丈夫か、ゆたか」
「え……何が……」
そう言われて頬を伝う冷たい感触に気付く。
そういえば、何かとても悲しい夢を見た気がする。
でも指の間から水が零れていくみたいに、夢の記憶が無くなっていく。
大切なことだったのに――思い出せない。
「――本当に大丈夫か?」
より深くゆたかの顔を覗き込むDボゥイ。
その距離はゆたかにしてみれば密着状態といっても過言ではない距離で
男性に免疫の無いゆたかは顔に血が上ってしまい、顔を背けてしまう。
そこで気付く。周りの光景が先程までいた公園ではないと。
「あれ……ここはどこですか?」
「地図でいうD-6の端……総合病院の裏側から少し離れたところだ」
***
Dボゥイも最初はゆたかが目覚めるまで自然公園に留まっているつもりだった。
だがゆたかが気絶してから1時間ぐらいたった頃だろうか。
北の方から連続した銃声と建物が倒壊する音が連続して聞こえてきたのだ。
しかも
――今、戦闘に巻き込まれるわけにはいかない
そう考えたDボゥイはその視界から消えるため、ゆたかを抱えたまま移動するという分の悪い賭けに出た。
周囲を警戒しつつ、喧騒から逃げるように南下。
そして物陰に隠れながら慎重を期しつつ、E-5から回り込むようにして
直線距離で言うとたったの1キロを1時間以上かけて移動した。
そして幸運なことに誰にも会わずに病院に辿り着いたのだが――
「あの……何で病院に入らないんですか?」
目的地が目の前にある以上、それは当然の疑問と言えた。
その疑問に対してDボゥイは僅かに迷った後に、その理由を端的に答える。
「病院には……危険なやつがいる」
***
その原因を説明するには、時間を約1時間ほどさかのぼることになる。
Dボゥイがゆたかを抱えて病院近くに到着したのは午前9時前のことだった。
そして見通しのいい道を避け、裏口から入ろうとしていたDボゥイを押し止めたのは、
内部から響いた何かが割れる音とその直後に病院から出てきた中年男性の姿だった。
男は身を隠したDボゥイたちに気付く余裕もないようで、全身がボロボロの状態で北に向かって行き、
その直後、またもや病院から――明らかに人間を超えた速度――二人組の男が中年が逃げた方向に走っていった。
その態度にただならぬものを感じたDボゥイが建物の影に隠れるようにその後の様子を伺っていると、
『ぎゃああああああああああああ!?!?』
そこには右腕を切り落とされ、さらに全身を何らかの電撃で焼かれ絶命する中年男の姿があった。
それは遠目に見ても圧倒的な実力差で、“嬲り殺し”という表現が一番しっくり来るように思えた。
102 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/11/11(日) 20:59:19 ID:BX9g5lAr
その光景を見てDボゥイは自分の迂闊さを呪う。
病院ならば治療器具がある……そう考えるのは怪我したものだけではない。
そう考えた手負いの者を狙って動く殺戮者も存在するのだ。
恐らくはあの全身が青い男と東洋風の格好をした男もそうなのだろう。
男を殺した二人組が男の死体に何かをしている隙に病院から離れたが、これからの予定は白紙に戻ってしまった。
――せめてあいつらがいれば。
Dボゥイの脳裏に浮かぶのはアキやノアルを初めとしたスペースナイツの仲間達。
信頼できる彼らがいれば、この少女を彼らに預けてあの危険人物たちと戦えるのだが――
だが、そこまで考えてDボゥイは己の思考をあざ笑う。
(まともな“人間”なら、まずこの殺し合いの戦場に彼らの名が無くて良かったことを喜ぶべきだろう。
……所詮俺もあの悪魔達と同類なのか)
その証拠に今もしもシンヤと……エビルと会ってしまえば、自分はきっとゆたかを見捨てて殺しあうだろう。
そんなネガティブな思考を止めたのは自分の手を握る小さい手の感触だった。
すでにかつての仲間を殺した、血塗られたこの手を包み込む少女の柔らかな両手。
「Dボゥイさん……怖い顔してます。
その……辛いときこそ笑いましょう。きっと……大丈夫だって思えるはずですから……」
――これが先程まで知り合いの死を嘆いていた少女の姿だろうか。
絶望の中で笑顔を作るのは難しい。それはDボゥイが誰よりも知っている。
だからこそ、この笑顔には確かな力がある。
儚げで、今にも消えてしまいそうだがそれでも咲き続ける一輪の花のような笑み。
その笑顔を見て、感じていたネガティブな思考が霞のように消えていく。
「ああ……そうだな。ありがとう、ゆたか」
ゆたかの笑顔に応えるように、Dボゥイは唇の端を持ち上げる。
それは微かであまりにも不器用だったが、彼がこの戦場に連れてこられてから初めて見せる笑顔だった。
【D-6/総合病院から少し離れたところ/昼】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:左肩から背中の中心まで大きな裂傷(出血は治癒、裂傷に伴う痛みは若干残っている)、吹き飛ばされたときに全身に打撲、中度の貧血
[装備]:テッカマンアックスのテックランサー(斧) @宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、月の石のかけら(2個)@金色のガッシュベル!!
[思考]
1:しばらく潜伏した後、何処に向かうかを決める
2:テッカマンエビル、相羽シンヤを殺す
3:2を果たすためなら、下記の思考を度外視する可能性あり
4:兎に角、ゆたかと自分が休める場所(ある程度安全でベッドや布団のある場所)を探す
5:ゆたかを知り合いか信頼できる人物にゆだねる、つもりだったが迷い中。
6:仲間を探すべきか? だがこの戦場で本当に信用できる人間がいるのか?
7:ゲームに乗っている人間を殺す
[備考]
:殺し合いに乗っているものはラダムと同じだと結論しました
:テッカマンアックス撃破後、身体が蝕まれる前ぐらいを意識しました
:ヒィッツカラルドの簡単に埋葬された死体の上にフィーロの帽子@バッカーノ! が置かれています。
:六課メンバー、クロ達、リザの仲間達の情報を入手。
:紙の詰まったトランクケースはD-7に放置されたまま。
:青い男(ランサー)、及び東洋風の服装の男(戴宗)を危険人物として認識しました
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:肉体的疲労小、精神的疲労中
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式、鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
M16 アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)、M203 グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
1:辛くても笑わなきゃいけない気がする
2:なんで私泣いてたんだろう……?
[備考]
:コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました。
:夢の内容は今のところぼんやりとしか覚えていません
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
「ねぇ、金ぴか」
「何だ蜘蛛女」
「そろそろ……さ。掘り出して貰いたいんだけど」
この<<蜘蛛女>>という呼称にも大分慣れて来た体感時間でいう多分九時くらい。
あたし――結城奈緒は暗闇の中、本のベッドに寝転んでいた。
あーいや、訂正。
うん、正直相当に意味の分からない話だと思うんだけど、落ち着いて聞いて欲しかったりする。
ぶっちゃけ本の山の中に『埋れて』いる。
……いや、マジで。
全方位三百六十度。四方が闇。
別に宇宙空間に一人取り残された訳でもないし、少しぐらい光明があっても良いものだがソレさえ皆無。
隙間から漏れてくる筈の光さえ別の本に掻き消され、どうしようもない状態だ。
パズルみたいにきっちりと足の間やら手の上に本が積み重なって身動きも取れない。
しかも逆さまである。
体位的には倒立というかその、えーとアレだ。
なんかあの古い映画のワンシーンを思い出す。主役の名前は……えーと何だっけ。
ああ、金田一! そういえば、名簿にも同じ苗字の奴がいた気がする。確か【金田一一】だったか。
一が二つも重なってバランスの悪い名前だと鼻で笑った記憶がある。
さて、こんな最悪な状況である。とりあえず金ぴかに助けて貰わない事には始まらない。
とりあえずは下手に出て様子を見るべきか。
「だが断る」
「な――ッ!? まだそんな事言う訳!?」
あたしはどこに居るかも分からないアホに向かって、声を荒げた。頭に血が昇る。
ソフトに対応しようなどと言う意識は一瞬で霧散した。
というか、何故あたしがこれ程気を遣わなければならないのだろう。
大体、こんな事になったのも、全てゴールデン馬鹿ことギルガメッシュが悪いのだから。
検分などと称して、いきなりデイパックの中身を床にぶちまけたのが事の始まり。
四角形の口から飛び出してきたのは本本本本本本本本本本本、とにかく本。本の嵐だった。
この四次元何とかにも似た荷物入れにはどうも、中に入っている物の体積を調整する力があるらしい。
金ぴかは命の愛剣である巳六なんかもココに入っていたと言っていたし、今現在あたしのデイパックの中にも何か変なものがゴテゴテ付いた趣味の悪い巨大十字架が入っている。
本の波に飲まれたあたしは今、腕や足をまともに動かす事も出来ない。
エレメントを起動してあたり一面微塵切りにしてやってもいいが、そんな事をすれば本の崩落で下敷きになってしまうのは火を見るよりも明らかだ。
故に最善の脱出策は金ぴかに掘り出して貰う事。コレは譲れない。
それなのに、この王様と来たら……、
「貴様は我の家臣だろう。なればこの程度の逆境、自らの力でどうにか出来て貰わなければ困る。
そもそも書物の濁流に飲まれるなど油断していた証拠。恥を知れ」
あぼーん
コレ、だ。
やれやれ、というニュアンスに満ち溢れた溜息が聞えて来たような気がするが封殺。
「よりにもよってお前がその台詞を吐くか」と突っ込みを入れたくなる気持ちも同じくグッと飲み込む。
……我慢、我慢だ。
とりあえず自力で這い出すのが困難を極める以上、金ぴかを無駄に刺激するのはマズイ。
というかコイツ、場所的にはそれ程離れてはいないのかもしれない。
嘆息の音が聞える距離。本の山に遮られているとはいえ、ソレって多分案外近くの筈。
はぁ、しょうがないか。
とりあえず、抜け出す努力だけはしてみようか。
このまま紙の山に抱かれていたら、酸欠でぶっ倒れてしまう気もするし。
死因=酸欠(陸の上)とか冗談以下だ。
考えてみると、本当にあたしが自力で抜け出す事が不可能なら、金ぴかだって無理を言ったりしない筈だ。
態度は不遜だし、自分勝手で人を見下すし、傲慢だけどやる事には一応筋が通っている。
自力で何とか出来る問題だから全く手を貸さない、とも思考可能だ。
「分かったわよ。とりあえず、やるだけの事はやって――ッ!?」
「……ほう、思ったよりも早かったようだ」
「思ったよりって……!!」
あたしが「仕方ない、やれるだけの事はやろう」と少しだけやる気を出そうとした瞬間の出来事だ。
常識的な頭で考えれば分かる回答だったのかもしれない。
いや、少なくとも金ぴかは知っていたと思う。だから私に何もしなかったのだろ今更理解する。あの野郎、どうしてくれようか。
本の濁流が最初に発生した時、一瞬でその本は図書室を埋め尽くしそれでも尚足りず、廊下側の扉を突き破って外へと侵攻した。
扉は当然木製である。布製の暖簾だったり、某童話よろしくお菓子で出来ていたりはしていない。
しっかりと立て付けられている筈のドアを吹き飛ばす程の圧倒的質量だ。
つまり――室内の窓が吹き飛ばない訳がないのである。
幸か不幸かドアがすぐさま崩壊したため、窓ガラスは今の今まで無事だった。
そう、この瞬間。「パリーン!」だか「ガッシャーン!」かは知らない。
とにかく凄まじいまでの轟音と共に"ソレ"は砕け散った。
そして、波の向きが変わる。
「……っ、ぷはぁっ!! え、ちょ――これって!! ちょっと、金ぴかどこ!?」
「ふむ、久しいな蜘蛛女」
数分間だけ本の山に埋まっていた事がまるで数時間にも感じられた、とかそんな戯言はどうでもいい。
流れ始めた本の渦を掻き分け、なんとか上半身だけ脱出する。
本は図書室の3メートル近い天井のほぼ頂点付近まで達し、土石流の如く移動している。その方向は、窓。
すぐ目の前には「バラ売りしたらいくら位の値段になるんだろう」とか考えたくなってしまう金色鎧、加えてソレを着込む人間――ギルガメッシュの姿。
分厚い本の上に胡坐をかいてコチラを見下ろしている。やはり奴はすぐ近くにいたらしい。
「久しいな……じゃなくて! どうなってんの、コレ!?」
「……まったく、騒々しいぞ。何度も言っている、"恥じらいを持て"と。
何、簡単な話だ。窓が割れて外に向けて本が動き出しただけの事。
器が小さければ、それさえ破壊する……我の支給品に相応しいではないか。
見るがいい、未だに本を吐き出し続けている。我の宝物庫には遠く及ばないが、中々の質量よ」
金ぴかは未だにドバドバと本を吐き出し続けている自分のデイパックを逆さに持って、得意げな表情で「ふふん」と笑った。
あたしのすぐ側にいた筈なのに、セットされた太陽のような煌きの髪には一切の乱れはなし。
枝毛一本存在しない完璧な黄金率を保っている。
本当にコイツ、どんだけの身体能力なんだろう。
言葉通り、本には一切巻き込まれなかったようだ。こっちの髪はボサボサなのに、畜生。
「いいからっ! 早くソレの口を閉めて!じゃないと、」
「……少しだけ、遅かったな――飲み込まれるなよ、"上"だ」
「ちょっ――!!」
"上"という謎の言葉を残して金ぴかが動いた。
金の全身鎧をガチャガチャ鳴らして立ち上がり、デイパックを背負い直すとすぐさま窓から飛び降りた。
そう……本に流され流され、あたし達は既に外に放り出される寸前の所まで来ていたのだ。
そして、ギルガメッシュが無駄に凄いのはここから。
『飛び降りた』という表現では、予想される移動方向は当然"下"。だけど事実は小説より奇なり、だ。
滝のようにこぼれ落ちる無数の本。
イメージとしてはアメリカのナイアガラの滝か、ギアナ高地のエンジェルフォールが思い付くがそんな事はどうだっていい。
だってさ。
まるでコンクリート塊のようにダバダバと落下していく本を足場にして、ピョンピョン"上"に向かって上昇していくのだから。
人間離れしているとは思っていたが、またもやありえない光景を目撃してしまった。
大体アイツは右手に大剣を持って、見るからに重そうな鎧を身に着けているのだ。その重量が何kgになるか、想像もつかない。
それでいてあの身のこなしだ。規格外にも程がある。
あたしは呆然としたくなる気持ちを抑えて、現状を再確認する。
"上"という事は、多分屋上を指しているのだろう。
何となく感じてはいたが、金ぴかは高い所が好きらしい。
上空を舞う黄金の影を眼で追いながら、私も両手にエレメントを出現させる。
さすがに身体一つで飛び回るギルガメッシュのような非常識な真似は出来ない。
ああいう軽業師のような真似は尾久崎晶みたいな忍者の専売特許であるべきで、あたしには全くの不釣合いなのだ。
「っ……たく」
とりあえず本の山から身体を抜く。
大量の本が流れ出した関係上、容易くその拘束は解かれた。
収穫なしでこの場を後にするのもアレなので、とりあえず数冊本を回収。
適当に見繕って……っと。
ハードカバーの分厚い本や洋書、図鑑などが大多数を占める中で、何故か明らかに場違いな日本の漫画なんかもあったり。
えーと、聖痕のクェイサー? 何、コレ。ぽいっと放り投げる。
その後、いくつか掻き集めるように露骨なハズレ以外を除いてデイパックに詰める。
そして上方を確認。屋上のフェンスに丁度いい取っ掛かりを見つける。ビンゴだ。
十指全てから鋼柔自在の糸を射出する。確実に引っ掛かった事を確めると、一気に糸を巻き取る。
ここまでやれば後は簡単だ。
エレベータかリフトの要領で勝手に身体は高度を増してくれる。
「よっ……と、ん……?」
身体は一気に上昇。無事に屋上へと着地出来た。
当然先に向かっていた筈の金ぴかは学校において最も高い場所にいた。
つまり、学校の『凸』に当たる部分、給水塔の隣だ。
あぼーん
その遠方を見つめる凛々しい横顔にあたしは胸の高鳴りを感じ――たりはしない。
『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という言葉がある。
だが総じてこの名言の後には『口を開かなければ』などの注釈が入るのがお約束だ。
主に女に対して使われる格言だが、今のあたしの心境としてはコレを使うためだけに金ぴかを女性化しても構わない所存だ。
黙っていれば相当なレベルだと思うんだけどなぁ。うん、黙っていれば。
そりゃあ、ああいう尊大な態度見せられて惚れる奴はいないだろう。いるとしたら余程の変人だと断言出来る。
あの俺様気質さえどうにか出来ればなぁ……って、無理っぽいかな。
「何見てんの、金ぴか?」
「客だ」
言われるがままに金ぴかの視線の先を追うと、校舎のすぐ側に赤いハチマキを身につけた男がいた。
デイパックも持たずに身に着けたマントはボロボロ。見るからに怪しさ爆発である。
どうもあたし達が屋上へ避難したシーンは目撃していないらしい。こちらの存在にはまだ気付いていないようだ。
「我の領地に断りもなく足を踏み入れるとはな。これは処断が必要――む?」
「あ……人が出て来た」
なんともう一人新しい登場人物が。
本の激流がようやくストップしたらしい図書室の下、要するにあたし達がさっきまで居た場所の真下から一人の男が現れたのだ。
ハチマキ男も十分に妙な格好だったが、この男も中々凄い。
なんと神父である。しかもうちの学校の教会にいたヨボヨボのお爺さんみたいなのではなくて、結構若い。そしてでかい。
そして――黒い。
全身黒尽くめにも程があるだろう、と思わざるを得ない黒さ。
しかも何か手に槍持ってるし。
最初に爆破された変身ヒーローといい、金ぴかといい、あの髭オヤジは変人ばかり中心に呼び寄せたのだろうか。
「また変な奴が……」
「――言峰」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声があたしの口から飛び出す。
呼んだ、確かに今、神父の名前を。
つまりソレって……アイツは金ぴかの知り合いだって事?
あぼーん
□
「ここは……学校?」
――おかしい。
俺は今一体どこにいるんだ?
そんな疑問がいつまで経っても頭の中を支配している。
否。足を進めれば進めるほど、落ち葉を踏み締め傾斜を下れば下るほど、違和感は更にその存在を増す。
そしてその感情は今、見慣れぬ学び舎の登場によってピークに達した。
在り得ない。俺はほんの数刻前まで、少なくとも川の畔にいた筈なのだから。
もちろん風浦可符香にデイパックごと荷物を全て渡してしまったため、そもそもあの傷の男と交戦する以前の正確な現在地把握していた訳ではない。
加えてゲームが開始してから一度も地図に眼を通していないため、建造物から居場所を割り出す事も不可能だ。
だが明らかに周囲の様子が異なる事だけは分かる。
思い返してみれば、ある一点を超えた際に突然辺りの景色が一変したような気がしないでもない。
突然の山林の出現、河川の消滅。これらが導き出す答えは――
「誰かに聞いてみるしかないか……」
結局、そういう結論に落ち着く訳だ。
何、急な地形の変化や空気の異常などの体験が初めてという訳でもない。
それにあの傷の男がこの近くにいる、という事実は変わりようがない。
奴の怒りと憎しみ、行き場のない感情は俺が止めてみせる。
――キングオブハート、ドモン・カッシュの名にかけて。
俺はひとまず、誰か適当な参加者と接触すべく学校の門をくぐる。
少なくとも辺りには誰かが闘った跡は見えない。
だが先に拳を交えた双剣の少年や銃を持った少女、そしてエドの事を考えると十代付近の参加者が多く存在するような気もする。
ならば、彼らにとって学校とは馴染み深い場所。
目に付いた時、ふらりと立ち寄る可能性も高いように思える。
鬱蒼と茂った桜の木やよく手入れされた花壇など、殺し合いの舞台には不釣合いな植物がいくつか見受けられる。
日当たりから考えるに、こちらは裏門なのだろう。
それに「学校」という建物を成立させるために確実に必要になるであろう、校庭が見当たらない。
こちらからも校内に入る事も可能なようだが、わざわざ勝手口から進入するのも盗人のようで気持ちが悪い。
武道家とは礼を重んじる存在であり、拳の道は礼に始まり、礼に終わるもの。
多少の労力を惜しみ、自らの志を曲げる事など到底出来る筈がない。
俺は校舎をグルリと迂回し、表側に回る。
そしてそこで――信じられない光景を眼にした。
「本の……滝?」
あまりにも異様な光景。
物理法則やら各種科学法則を無視しているようには見えない。
ただ世界の変化を多く目の当たりにして来た俺ですら思わず唖然としてしまう。
ギアナ高地にあった巨大な滝を思い出す。
規模としては校舎の二階から一階に向けて落下しているだけなので、まるで及ばない。
だが落ちて来ているものが"水"ではなくて"本"であるだけである種の威圧感を覚える。
本棚が多数頭を覗かせている以上、おそらくあそこは図書室なのだろうが、それにしても本の量が異常ではないだろうか。
「ふむ、貴様が襲撃者か? いや……違うようだな。
何一つ荷物を持たない者が罠を使った奇襲を試みるとは考え難い。
物量に決定的な差がある事を自覚しているのならば、すぐさま追撃を行った筈。
それが無かった時点でアレは何らかのアクシデント、もしくは――既に下手人は逃亡した後と見るのが妥当か」
「な……!?」
本の滝の奥、一階のベランダへ続くドアを蹴飛ばして現れたのは二メートル近い身長の大男だった。
胸に十字架の付いた着衣。どこかの宗教の神父なのだろう。
だがその肌の色、髪の質などから察するに明らかに日本人であるのは確かだ。
そしてもう一つ気になる事がある。それは右手に持った蒼い槍の存在だ。
先端部分が鋭利な刃物というよりも、ビーム砲でも付いているかのような独特の形状をしている。
加えて男の放つ独特の闘気。武道家の身体を巡る気のようなものとは明確な差異を感じる。
妙な威圧感を全身から醸し出す男。
その眼はいわばDG細胞に侵された者のように暗く、そして暗澹としている。
しかしその口調はまるで弁士のように滑らかで理知的な印象だ。
研ぎ澄まされた闇、触れれば身体ごと持っていかれてしまいそうな永久の暗黒。
どちらがこの男の本性なのだろうか。的確な判別を付ける事が出来ない。
しかし警戒すべき人物である事は紛れも無い事実。俺はすぐにでも戦いに移れるよう、両の拳を構えた。
「一つだけ答えて貰おう。俺はドモン・カッシュ、ネオジャパン所属のガンダムファイターだ。
神父よ、貴様は殺し合いに乗っているのか!?」
「殺し合いに乗っている――か。実に素直で、飾らない言葉だ。
初対面の相手にその台詞をぶつける事が出来る勇猛さ、そしてその無謀さは賞賛しよう。だが、」
男は言葉と共に少しだけ嬉しそうに瞳を輝かせた。
その眼はまるで俺を『俺ではない誰かと重ね合わせた』ように感じられた。
「その"殺し合いに乗っている"とは、一体どういうものを差すのだ?」
「な……に?」
「おそらく君は私が積極的に他人に害を成す人間か否か、という趣旨でその言葉を発したのだろう。
だがそれでは真の回答は得られぬのだ、若き拳士よ。
例えばその者が自らの中で殺しをどのように消化し、どの部分に位置付けているかによって答えには誤差が生じる。
そう、では逆に私が問おう。
自衛の為に自らの拳を振るい、刃を持ち、撃鉄に指を掛けるものは殺し合いに乗っていると言えるのか。
白か黒か、裏か表か。殺意というものはそんな単純な図式で表す事が出来るものなのか。
意見を聞きたい――ドモン・カッシュよ」
面と向かって言葉を交わしたおかげで、男がただの神父ではない事は容易く理解出来る。
例えば、一つ一つの台詞と共に動かされる手――武道家特有の拳ダコと特殊な筋肉の付き方などが挙げられる。
眼を覆わんばかりの長身に加えて、背中や腕回りの身体つきも非常にしっかりしている。
先に出会った双剣の男などはまだまだ身体の完成具合が半端で、技術ばかりが先行している感覚があったの事と対照的だ。
だが、俺は神父の態度に強烈な既視感を覚えた。
そうだ、俺は……つい先程、似たような場面に遭遇したのではないか?
相手に語り掛ける独特の間、話としての軸をぶらしこちらを揺さぶるかのような口調。
似たような相手に俺は出会ったばかりではないのか。
あぼーん
「他人の事は分からない……が、俺にとっての殺し合い――それならば答えよう。つまり"魂"の有無に決まっている」
「ほう、魂か。曖昧模糊にして形には出来ない、あくまでただの概念と言ってしまえばそこまでだが……興味深い意見だな。
続きを聞こう――ああ、そうだ。名乗り忘れる所だった。
私の名前は言峰綺礼。見ての通り"ただの"神父だよ」
疑問に満ちた声で、それでも俺は自らの中で揺らぐ事のない絶対解を言峰と名乗った男にぶつけた。
「概念とは言え馬鹿には出来んさ。相手がどんな理由で、どんな信念で戦いに身を投じているのか。
魂は武道家が一度拳を合わせれば自ずと身体の中に流れ込んで来るものだ。
心のない争いは殺し合いに過ぎず、拳士の手合わせとは別の次元を成す」
「魂を拳の道と解く訳か……やはり若いな」
「なんだとッ!?」
「元々私にも君に一つ、聞いておきたい事項があったのだよ。
つまり『君はこの空間において何を成し、何を求め、何を遂行するのか』という質問だ。
だがその問は既に意味をなさない。全くの不要だ。
ドモン・カッシュ、君は弱い人間を護り、この遊戯に頚木を打ち、螺旋王を撃滅する事を目的としている――違うか?」
その台詞は同じだった。
そう、それは――数刻前に出会った少女が俺に投げ掛けた言葉とほとんど同じ意味を表すもの。
彼女は言峰と非常によく似ていた。
当然、姿形はまるで違う。大男と少女、似ても似つかない。
だが少し言葉を交わしただけで、相手の間合いに引き摺り込まれるような、固有の感覚は見事なまでに酷似している。
思えば少女も不思議な眼をしていた気がする。
それは光。恒星のように煌く求心者の瞳だ。この男とは真逆――それでいて同じ台詞を吐き、どちらも俺を諭そうとする。
ああ……『風浦可符香』とどこか似ているのだ、この男は。
「なるほどな……お前の言いたい事は十分過ぎる程分かった」
「ほう、外見に似合わず物分りがいいな。そうだ、拳と拳のぶつかり合いなど強者の勝手な言い分に過ぎんよ。
精神的弱者にとってそんな騎士道精神にも似た理念など全くの無意味。
生きたい、死にたくない。そんな叫びを無視し、拳のみで全てを語ろうなど――」
「言峰綺礼ッ!!! お前にガンダムファイトを申し込むッ!!!!!」
あぼーん
「…………何?」
言峰は出会ってから初めて、不愉快を表す怪訝な皺を顔面に刻んだ。
その呻きにも似た問い掛けからは他にも多くの感情が読み取れるが、この場では取捨する。
そもそも神父とは人を導き、正しい道を歩むように助言する職業だと記憶している。
俺は未熟だ。まだまだ師匠や兄さんには遠く及ばず、間違いも多く犯す。
ではその為に成すべき事は何か。
それは――
「だから、全てを護れるように強くなれ――そう言いたいのだろう? あの少女が俺に語った事と同じように!
明鏡止水とは清らかなる水の心。
一転の曇りもない鏡にも似た無の境地。
そして全てを包み込み、受け入れる母性とも共通する不動心だ。救ってみせる、キングオブハートの名にかけて!」
心が研ぎ澄まされる。
俺の中で燻っていた迷いが浄化されて行くようだ。
ボロ切れとなったマントを脱ぎ捨て、臨戦態勢へ。
「少女……? 私以外にも似たような事を行っている者が居ると言うのか。
しかし、失望したぞドモン・カッシュよ。もっとも……君は既に聞く耳を持たないようだが」
「……言葉が無礼だったのならば謝る。
神父・言峰綺礼、貴方を相当な使い手とお見受けして頼みがある。一度――手合わせを願いたい」
機嫌を損ねたのだろうか。
言峰は深々と肺から息を吐き出し、更に表情を険しくする。
「一つ、問おう。ドモンカッシュよ、君は私が"何人目"だ?」
「……この会場内で拳を合わせるのは貴方で三人目だ。
一人は高速道路で戦った茶色い髪をした双剣の男。もう一人は河川で戦った褐色の肌と額に大きな傷を持った男」
「――ほう」
俺の言葉を聞いた途端、言峰の口元が若干歪んだような気がした。
だがそんな違和感もピリピリとした闘いの空気に掻き消される。
「そう……だな。では、仕方ない。相手になってやろう。
だが――殺されても文句は言わせんぞ」
死が怖くて武道家は名乗れない。
俺は戦いの開始を告げるいつもの台詞を腹の底から全力でぶち上げる。
「行くぞ――ガンダムファイト、レディィィィィゴォォォォォ!!!!!」
支援
□
「何言ってるかほとんど聞えない……か。ガンダムファイトって何よ、一体……。
ん、ガン……ダム? アレ、何だっけ……それ」
隣で蜘蛛女が騒いでいるが、現状問題となるのは言峰達の戦闘の具合ではない。もっと別の所にある。
いかにありとあらゆる才に長け、王者たる素質を存分に持ち合わせた存在である我であろうと、微妙に手の届かない点というものは在る。
「って、うわー戦い出しちゃったよ、あの二人。
てか金ぴかの知り合いなんでしょ? 助けに入らなくて良いの?」
「構わん――それよりも、」
この場で争点となるのはそう、聴覚だ。
仮にも人の形を取り、現世に存在している以上我にも五感に関してはある程度の限界がある。
つまり異常なほどに鼓膜を働かせる分野は蝙蝠や梟と言った畜生共に任せておけばいいのであって、我にはそこまで秀でた能力は必要ないと言える訳だ。
だがさすがに英雄王たるもの、雑種以上の聴覚は当然のように持ち合わせている。
むしろ劣る要素がないとも言えるが。
蜘蛛女はまるで聞き取る事が出来なかったようだが、我は確かにあの雑種が【双剣の男】【高速道路】【河川】と言った単語を口にするのを確認している。
「にしても、あのハチマキ男……『どりゃああああああ!』だとか『うおぉぉおおおおお!』だとか五月蝿過ぎ。
あ、てか金ぴか。少しアンタの声と似てない、アレ?」
「我と……だと? あのような薄汚い格好をした吼えるしか能のない駄犬がか? 笑えない冗談だな」
「んーそう? 本人だとやっぱ、分かんないのかな。
聞けば聞くほど――あははっ! 今度は『でぇりゃあああああああ!』だって。おっかしーの」
何と失礼な奴だ。
我の声とあのような俗物の声を聞き分ける術さえ持たんとは……嘆かわしい。
ケラケラと笑いながら、地面に座り込んで言峰達の格闘戦を見物している蜘蛛女を放置し、ひとまず考察を進める事とする。
デイパックも降ろしており、完全に観戦ムードとは何と緊張感のない。
双剣の男――十中八九、衛宮士郎と見て間違いないだろう。
確かに最高の一手として、二本の剣を用いる剣士が他の雑種どもの中にも存在する可能性は存在はする。
もっともこの過程からして極僅か、少数ではあると思うが。
しかしこの遊戯において使用する武器は主に自らの支給品に頼らざるを得ない。
それでは二刀流を得意とする剣士に『"剣"が"二本"与えられる』という確立は如何程だろうか。
おそらく皆無であろう。
我にさえ、宝具が何一つ支給されなかったという事実がある。
なれば自らにとって最良の獲物が与えられる参加者など、そもそも存在しないと容易く結を下す事が出来る。
加えて、大半の雑種共は剣を二本支給されても、満足に扱えず片方だけを使うだろう。
だが衛宮士郎の魔術は投影――贋作を作り出す、忌々しい能力と言えよう。
そして奴が闘う際には、まず間違いなくあの弓兵が使っていたものと同じ双剣を用いる筈なのだ。
「蜘蛛よ。時に会場内で高速道路と河川、この条件に当て嵌まる場所は何処だ?」
「……不躾ね。えーと……川はともかくとして、高速なんてもっとずっと上の方よ。
モノレールを使わなきゃ行けないような場所かしら。大体、何で急にそんな事――ッ!?」
「察したか? 学校の視察は終了だ。行くぞ、時間が惜しい」
我はすぐさま結論を行動へと移した。
蜘蛛があたふたと荷物を背負いなおしているが、いずれ追い付いて来るだろう。
明確な目的地は現時点では存在しない。
宝具を回収しておきたい、という意思はあるがその行動に具体性を持たせる手段を持っていない故だ。
だが、衛宮士郎のある程度の居場所が判明したのは僥倖と言えるのではないか。
そう、少なくとも"方角"だけは決定したのだ。
下で戦っている言峰も気にはなるが、この程度で命を落とすならばその程度の男だった、という事。
……しかし、もう一人の雑種。中々不愉快な声をしている。
あの瞬間、相対したのが我ではなかった幸福を噛み締めるがよい。
「あーもう、ちょっと待ってってば!! あ、げ――」
「……全く、自らの荷も満足に管理出来んのか。む……?」
余程慌てていたのだろう。
蜘蛛女のデイパックから一冊の本が丁度、我の足元に飛び出して来た。
黒い装丁に分厚い紙、そして赤字で示された文字。
表紙にはタイトルが刻まれている。つまり――BATTLE ROYALE、と。
我はソレを拾い上げた。
普段ならば気にもしない。もしくは蜘蛛に拾わせるであろう些細な事象ではあった筈。
では何故か。何、大した意味などない。
デイパックの中には今も多数の本が眠っている。
その中から一冊を選び出すのと比べれば、初めに読む一冊を決定してしまった方が具合が良い。
単なる暇潰し程度の役割は期待してもよかろう。
ただ、それだけの話だ。
【H-1 道路/一日目 午前】
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:健康、眼帯を外したい
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
[道具]:支給品一式、パニッシャー@トライガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ) 、奈緒が適当に集めてきた本数冊
[思考]
基本思考:面倒なのであまり戦いたくない。ヤバくなったら真面目にやる。
1:とりあえず金ぴかと一緒に行動する
2:攻撃してくる人間を殺すのに躊躇いは無い
3:藤乃にはあまり会いたくない
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:巳六@舞-HiME 黄金の鎧@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、シェスカの全蔵書(1/2)@鋼の錬金術師 、『原作版・バトルロワイアル』
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【乖離剣エア】【天の鎖】【王の財宝】の入手。
1:モノレールを用い、北上する。出会えば衛宮士郎を殺す。具体的な目的地のキーワードは【高速道路】【河川】
2:異世界の情報を集めておく。
3:宝具、それに順ずる道具を集める
4:目障りな雑種は叩き切る
5:ドモンに不快感
6:エレメントに興味
※学校の図書館には様々な異世界の歴史を記した本があります。
(ただしどれだけ関係ない話があるか、どこまで詳細かは不明。
少なくとも参加者の名前や能力については述べられていない。
また1stガンダム〜ガンダム00まで全黒歴史を紹介するなど、関係ない情報も相当数紛れている)
※主催者による監視を警戒しています
※ギルガメッシュの最後の支給品は『シェスカの全蔵書@鋼の錬金術師』です。
※参戦時期は原作死亡時。
□
――強い。
男が気合と共に打ち出した拳を捌きながら私は思案する。
修めた拳法がまるで通用しない、とまでは言わない。
だが体術を用いた戦闘においては目の前のドモン・カッシュは私の一歩、いや数歩先を進んでいる事は否定出来ない。
そもそも自らに拳の才にて一流を自負していた訳ではない。
とはいえ、努力で到達出来る段階までは極めた――その程度の認識は存在した。
「だぁりゃああああああああああ!!」
「ちっ……!!」
右足による上段蹴り――目標は私の延髄か。
左手を同じく上段に構え、迎撃の姿勢を保つ。
腰を据え、飛来する衝撃を予測。加えてすぐさまカウンターの準備に移行する。
私には「ストラーダ」という突撃槍にも似た魔術礼装が支給されていた。
だが、今現在ドモン・カッシュの相手をしているのは我が身一つだ。
支給品は戦闘が始まる前にデイパックに既にしまっておいた。
あぼーん
それは小さな遊び心だった。
男の実力を見極め、負の方向へと背中を押す――その一点においては、男と同じ舞台に立った方が最適だと思えたのだ。
あそこまで面と向かって拳の道を説く程の拳闘狂だ。
つまり拳を介して行われる戦闘こそが奴の矜持。それを完膚なきまでに叩き折ってこそ、絶望への道は開かれる。
だが――
「……くっ!?」
「もらったぁぁぁああああ!!」
フェイントだと……!?
自らの顔面が驚愕に歪む事を意識する。
男は完全に足が伸び切った――少なくとも私の眼にはそう見えた。
非常識な体勢から蹴りの軌道が完全に変わる。
そして狙うは左脇腹。蛇の尾のように撓る強烈な蹴撃が一直線に飛来する。
私はすぐさま迎撃の構えを防御の構えに変更。
左腕を下げ、肘骨を用いた瞬間的な動きで奴の目標点を保護する。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
「な……に――っ!!」
完全にガードし切れると判断した私の認識がまだ間違っていたのか。
ドモン・カッシュの蹴りは私の右肘を見事に跳ね上げ、そのまま脇腹に突き刺さった。
これはつまり、一瞬の私の"甘さ"だったのかもしれない。
なぜならあの時点で私は左腕を右肘と交差させ、更に安定性に優れたクロスガードに移る事も可能だったからだ。
だが――私はソレをしなかった。
クロスガードは確実に相手の攻撃を捌き切る。その一点においては非常に有効だ。
だが次の動作、つまり攻撃・防御・移動のどの動作に移行するとしても若干のタイムロスが生じてしまう。
戦闘の状況は明らかにこちらの不利。
スピードや手数、加えて流派不明の見かけぬ拳術を用いる相手に水を開けられているのは理解出来ていた。
全ての打撃を丁寧に受け流す事が出来ていれば、このような思考にさえ至らなかったかもしれない。
しかし縦横無尽に繰り出される乱撃に私は若干の焦燥感を覚えていたのだろう。
故に常識通りの防御で済ませてしまった――これが敗因だ。
加えてそこには「明らかに私の方が体格で勝っている」という驕りが存在したようにさえ感じる。
いや、驕りと言う程のものではないか。
ただ純粋に私がドモン・カッシュの実力を完全に評価出来ていなかっただけの事。
結果として――私の防御は打ち抜かれ、身体ごと数メートル吹き飛ばされた訳だ。
私は無様にも地面に膝を付き自らの状態を分析する。
肋骨を数本持っていかれたか? 行動に支障が出るレベルには到底思えないが。
しかし、あの細身の身体のどこにこれほどの力が眠っているのだろう。
ドモン・カッシュ、奴は――超一流の武道家だ。
「……見慣れぬ拳だな」
「流派東方不敗に敵はない。それに――中国拳法を得意としている知り合いがいてな。何度も拳を交えている。
故にお前の動きにも対応出来た。さぁ立て、言峰!! もう一度だっ!!」
「残念だが……くくく、私にはもう闘う意志はない」
「何……? どういう事だ!?」
ドモンは私の言葉に追撃の意思をなくしたのか、構えを解いた。
そうだ……それでいい。
「拳だけの争いでは私に勝機はない。勝てない戦に意気揚々と赴く兵士が何処にいる?
君にとっては武術の手合わせこそが自らの流儀なのかもしれないが、私は違う。
もう、満足しただろう――それに、私が殺し合いに乗っているように感じたか?」
「いや……殺し合いには乗っていない。それだけは確かだ」
「だろう? 私はただの……いや、"少しだけ武術を学んだ"神父に過ぎんよ。
さて……今度は私の質問に答えて貰いたい」
「ああ、いいだろう。拳で語り合った仲だ。俺が知っている事なら何でも答えよう」
ドモンは小さく一度頷いた。私を疑っている様子は微塵も見えない。
確かに私自身は殺し合いには乗っていない。その事実に虚構はないのだ。
「双剣の男と――そうだな、ドモン・カッシュ。
君がどのような経緯でここまでやって来たのか説明して貰おうか」
「……そんな事でいいのか? まず俺が――」
■
「――と言った所だな」
その言葉が最後まで紡がれたのを確認してから、私は口を開いた。
明らかに彼の発言の中に不可解な要素が多数含まれていたからだ。
「待て、ドモン・カッシュ。図書館と言ったな? それは学校の図書室の間違いではないのか?
それに高速道路など……ここから、どれだけ離れていると思っているのだ」
「いや? 間違いなく図書館だった筈だぞ。
それに、離れていると言っても大した距離を移動したつもりもないしな」
ドモンはそう、当たり前のように言った。
……どういう事だ?
彼の話を適当に纏めるとこうなる。
・ゲーム開始時、エドワードという少女と図書館で出くわした。
・風浦可符香という少女にとにかく手当たり次第にファイトを行うよう諭された。
・双剣の男=衛宮士郎と高速道路で手合わせをした。
・褐色の肌の男と戦っているうちに、突然山林が現れた。
高速道路も図書館も地図の北側に位置する建造物だ。
そしてこの非常に入り組んでいる会場内において、直線距離でH-2の学校まで移動して来たとは考え難い。
ドモン・カッシュはおそらく衛宮士郎と似た気質を持っている。
それ以上に真っ直ぐで単純な部分もあるようだが。
おそらく嘘はついていない――そう断言出来る。ではこの時間的、立地的な矛盾はどうなる?
「言峰、質問はこれで終わりか? そろそろ俺も移動したいのだが」
「……ああ。時間を取らせて済まなかったな」
「何、容易い事だ。ではっ!」
ドモンは最後に私に合図を送ると、凄まじい勢いで駆けて行った。
あの速度ならば本当にマップの上から下まで走破しても可笑しくないのではないか、そんな考えさえ生まれる。
さて……これから私はどのように動くべきか。
何も出会う人間を衛宮士郎に限定する意志はほとんど存在しないと言える。
神父としての仕事を執行するのに相手を選ぶ必要もない。
不幸と混沌と混乱――その結果生まれる至極の愉悦。
それさえ味わう事が出来れば良いのだから。
ドモン・カッシュにしてもそうだ。
あのような誰彼構わず闘いを挑むやり方は場を掻き回すのに非常に有効と言える。
今回の私との戦闘で奴は、自らの中にあった迷いを完全に吹っ切ったと言っても良い。
おそらく今後も積極的に戦いの種を蒔いてくれるだろう。
そのためならば肋骨の一本など痛くも痒くも無い。
「それにしても……奴の声はギルガメッシュとそっくりだったな」
私は今頃になってそんな感想を抱いた。
しかし、ギルガメッシュの奴は今何処で何をしているか。
いや案外、近くに居るのかもしれない
何しろ既に私は間桐慎二と出会い、衛宮士郎の情報を掴んだ。世界は案外に――狭いのだ。
【H-3/道/一日目 午前】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド
1:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む (ある程度力を持った者には全力、ある程度以下の者には稽古をつける)
2:傷の男(スカー)を止める
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護する
4:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する
5:言峰に武道家として親近感。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿に目を通していません 。
※地図にも目を通していません。フィーリングで会場を回っています 。
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません 。
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
※マントはボロボロになってしまいました。
※はやての拡声器はエリア移動をしていたため聞いていません。
【H-2 校庭/一日目 午前】
【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:荷物一式
[思考]
基本:観察者としての姿勢を崩さない。苦しみを観察し、検分し、愉悦とする。
1:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
2:シータに会えばパズーの伝言を伝える。
3:ドモン・カッシュの不可解な移動について考察する。
※制限に気付いています。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
[備考]:H-2学校の図書室でブックドラフトが発生しました。
図書室及び図書室周辺の廊下と階段付近は大量の本に埋め尽くされています。
あぼーん
あぼーん
あぼーん
っととすいません。
ドモンの状態表から
※マントはボロボロになってしまいました。
を削除。
言峰の状態表に
4:風浦可符香に興味
を追加で
どうせくだらない内容なんだからどうでもいいさ
空港、格納庫内。
幾多ものコンテナが格納されているその倉庫の一角に、シャマルは立っていた。
つい先ほどのヴィラルとの対話からは、もう2時間程の時が経過している。
と言っても、2時間もの間、延々とその場に立ち尽くして居たわけでは無い。
シャマルは、その時間をこの空港内の探索に充てていた。
未だ非道になりきる事も出来ぬまま、ゲームに乗ることを決意した彼女にとって幸か不幸か、
空港内部及び、周辺からは人の気配を感じる事は出来なかった。
本来ならばそのままこの格納庫の中に隠れて、失った魔力を回復させる為にも睡眠を取りたかったのだが、
パートナーとなったヴィラルが休息の為に先に眠ってしまっている今、その手段を取る訳にも行かない。
二人一緒に睡眠を取った挙句、他の参加者に寝込みを襲われては堪った物ではない。
というか、そもそもこんな薄暗い場所で、若い男女が共に寝るという状況が、その、少なからず倫理観に引っかかると言うか、
私まだそういう経験とか無いのに、それにそんな、主を差し置いて自分だけ抜け駆けなんて…ああいや、そうじゃなくて。
まぁ、とにかく。
かくしてシャマルは、『もし誰かが来たら起こしてくれ』と言い残して勝手に先に寝てしまった、
存外に可愛い寝顔の相棒に心の中で謝罪しつつも、空港内の探索を決行した訳である。
なお、当たり前の事だが彼女はきちんと制服を着衣した上で行動を開始している。
『幾らこんな状況下でも、下着姿で歩き回る人間なんていないわよね…』と何気なしに彼女が呟いた瞬間、
彼女が敬愛している主と、その主に熱烈な想いをぶつけた不届きな男と、
さらにそれとはまた別のとある馬鹿男が同時に盛大なくしゃみをしたかどうかは、定かでは無い。
流石に無防備に睡眠を取っているヴィラルをそのままにしてじっくりと調査を行う訳には行かず、
シャマルは手早く空港内を見回るだけで探索をすませようとしたのだが、残念ながら収穫はほぼ0と言って良かった。
『螺旋空港』なる珍妙な施設名を目にした時には思わず眉根を寄せてしまったが、内部は驚くほどに普通の空港として稼動していた。
最も、空港の一番の目玉(?)とも言えるであろう飛行機械の類は、シャマルの探した限り空港内のどこにも発見できなかった。
確かにこの会場内は速度に優れる飛行機械で移動するにはいささか狭すぎるであろう。螺旋王の気持ちもわからなくも無い。
だが、空港内の扉、主に『関係者以外通行禁止』と分類されるタイプの物は幾つか施錠がされていた。
鍵が掛かっている、という事はこの先に見られたくは無い物があると察しは付くが、その鍵が無くてはどうしようもない。
自分達に支給された武器を使えば強行突破も可能であろうが、貴重な弾丸を使用した挙句肩透かしでは目も当てられないだろう。
結局そのまま、簡単な探索を終えたシャマルは格納庫へと舞い戻り、車内にて未だ深い眠りについているヴィラルを見て、
『随分、よく寝てるわね…』と感心ともなんとも言えぬ物を呟いた後、ふと後部座席にあったディパックに目を留め―――
ある事を思い出し、自分に支給されていた『それ』を取り出した。
かくして、場面は冒頭部へと戻る。
ゴーカートのすぐ近くに設置されていたコンテナに持たれかかりながら、シャマルは腕につけた『それ』を見つめていた。
その顔に浮かぶのは、深い悲しみの色。儚げな表情のまま、そっと『それ』に手を添えた。
「形見、みたいになっちゃったわね」
シャマルの腕にある『それ』は……ブーストデバイス、『ケリュケイオン』。
彼女の良く知った人物であり、共にこの殺戮の宴に巻き込まれた人物であり……
つい先ほど、その死を告げられた少女、キャロ・ル・ルシエの愛用していたデバイスであった。
今まで、彼女がそれを装備しなかったのには、幾つかの理由がある。
まず第一の理由は、ケリュケイオンはミッドチルダ式のデバイスであり、
古代ベルカの眷属・ヴォルケンリッターであるシャマルには、その性能を完全には引き出す事は出来ないからだ。
そして第二の問題は、ケリュケイオンの性能。
ブーストデバイスという名が示す通り、このデバイスが得意としているのは、ブースト…つまり、強化魔法である。
だが、強化魔法は基本的には自分以外の者を対象とする物。術者自身に強化魔法を掛けてみても、大きな効果は望めない。
強化魔法以外にも、ごく簡単な射撃魔法の発動も可能だが、それらの攻撃力は低い。
それは、相手を殺す際には出来るだけ苦しめず、即死に近い状態で仕留めたいシャマルにとっては望ましい事ではなかった。
さらに、第三の障害として挙げられるものは、ケリュケイオンと共に自分に支給された武器、ゲイボルグだった。
デバイスとはまた違った存在でありながら、同一の物を動力源とするそれを扱う為には、無駄な魔力消費は抑えたかったのだ。
……結局の所、ゲイボルグはいかな仕組みかは知らぬが『咄嗟の時に役に立たない』ハズレアイテムであったようだが。
閑話休題。とにかくシャマルは、ここまでに上げた複数の要因からケリュケイオンを自らのディパックの中に眠らせていた。
ただ一つ、この会場で一刻も早くキャロと合流し、彼女の大切な相棒を送り届ける事だけを胸に留めて。
………だが、しかし。
「…………結局、間に合いはしなかった」
世界は、いつだって…こんなはずじゃないことばっかりだ。
僅かな願いでさえも容赦なく打ち砕かれ、無残に切り裂かれ、後に残るものは仄暗い絶望だけ。
しかしそれでもなお、シャマルは未だ消えぬ願いを胸にただ修羅の道を行く。
仲間を、自分の大切な主を守る為ならば、修羅にでも羅刹にでもなろう。
その目的を成す為ならば、どんな物だって利用してやる。
そう、どんな物でさえ……大切な仲間の形見でさえ、殺す為の、道具として?
「使う、わ。そうしなくては、いけないのなら」
心の奥に芽生えた痛みを、無理やりねじ伏せる。
考えてみれば、自分が今までこのデバイスを使わなかったのには、まだ大きな理由があったのではないか?
これの使い手である彼女は、心優しい少女だった。召喚師として、子竜と戯れる姿に微笑ましい物を感じたのは一度や二度ではない。
健気で慈愛の心に満ち溢れていた少女。この殺し合いに、最も向いていないタイプを上げるとすれば彼女のような人物だろう。
その彼女の愛用していた道具を、血で汚す。
自分は、自分でも気づかぬ無意識の内に、それを避けようとしていたのではないか?
唇を、噛み締める。振り払わなければ、この感情を。これ以上仲間を失わないためにも。大切な主を、失わない為にも。
「ごめんなさい、キャロ。私は……私にしか出来ない事を、やらなきゃいけないから」
瞳を閉じ、一言だけ謝罪をする。
刹那の暗闇の中で垣間見た、かの少女の顔は……彼女の目に、ひどく哀しそうに映った。
-----------------------------------------------------------------------------------
「………う…」
「…?」
突如耳に入ってきたうめき声に反応してシャマルは目を開き、声のする方――すなわち、眠っているヴィラルを見やった。
ピク、ピクと瞼が動いているのが確認できる。彼が寝入ってから相当に時間も経っている事だし、そろそろ起きる頃合か。
「ヴィラルさん?」
無理に起こしてしまわないように、近寄ってから小声で声を掛けて反応を見る。
が、予想に反して彼は、しばらく寝言のような唸り声を発した後、再び寝息を立て始めた。
「ま、まだ寝るのね……?」
思わず引きつった笑みを浮かべながら呟くシャマル。
仲間達を助ける為にも、ここから移動して参加者達の始末を行いたい、という気持ちはあるが、
そろそろ放送も近い事だし、それまでは寝かせてあげても良いかもしれない。
それに、何となく起こすのをためらってしまうほどに、ヴィラルは無防備な寝顔をさらけ出していた。
「……………」
何をするでもなく、じっとその寝顔を見つめてみる。
一瞬鼻をつまんでやりたい衝動にも駆られたが、『今はそんな事やってる場合じゃないでしょうに』と思い直した。
と、言ってもこのまま寝顔を見ている場合でも無い気がする。
さて、ならば何をした物か。
「…………この人、どういう人なのかしら」
相変わらず視線は固定したままで、ぽつりと呟く。
成り行き上とは言え、おそらくしばらくは共に行動する事になるパートナーだ。
かの人物の人間性(いや、彼の場合は獣人性か?)について考察してみるのも必要かもしれない。
シャマルは、つい先ほど彼と会話した時に感じた印象を思い出す。
(……生真面目な人…かな)
腹部の怪我を処置した際に、わざわざ『この礼は必ずすると約束しよう』と言うような人物。
本人は戦士と名乗っていたが、どちらかといえば騎士のようなタイプに近いかもしれない。
騎士、という自分に馴染み深い単語を思い浮かべた所で、脳裏にある人物の顔が映った。
その人物の名は、シグナム。自身と同じヴォルケンリッターであり、剣の騎士の名を持つ女性だ。
考えてみれば、このヴィラルには彼女の性格に似たものを感じなくも無い。
自分と付き合いの長い人物と似た人間…もとい、獣人ならば、接し方も今までの経験が生かせそうだ。
(…どちらかといえば、ストレスとかには黙って耐え続けるタイプかしら。
上司から酷い仕打ちを受けてもただただ甘んじて受け入れて…体に良くないわね。
溜まりに溜まって爆発なんかしたら大変……って、段々話が脱線してきたような……
あ、もしかしてだから睡眠時間が長いのかしら…睡眠がストレス解消になってるとか…ってそんな事を考えてる場合じゃ…)
彼女が就いている医者という職業がそうさせるのか、徐々に人物に対する考察がカウンセリングの様になってきた。
流石に脱線しすぎだと思い直し、思考を中断する。
支援を。
「ふぅ……それにしても、本当に良く寝てるわね…」
一息つきながら、何気なく寝ている彼に手を伸ばし、額に触れた瞬間――――
妙な違和感が手に残った。
「……汗…?」
べったりとはいかないまでも、妙に寝汗をかいているのがわかる。
ゴーカートの運転席に座りながら、という奇妙な体勢で眠っている事からくる寝苦しさからか?
「……う……む…」
そこまで思考した所で、ヴィラルが先ほどと同じようにうめき声をあげ、顔を歪める。
うなされている…いや、これはどちらかと言えば、もっと物理的な苦しみ…?……まさか。
シャマルが、ゴーカート内部を覗き込みヴィラルの体を確認すると、
彼の両腕がわき腹を抑えており、時折撫でられているのが見て取れた。
やはり……傷跡が、痛みを与えているのか。
つい先ほど応急処置を施したものの、きちんと傷跡を検診したわけでは無い。
もしかしたら予想外に深い傷跡だったのかもしれないが、
かと言って幾ら医者のシャマルとて医薬品も治療器具も皆無なこの状況ではどうする事も……
「………待って」
あった。一つだけ、現状を打破する方法が。
だが、しかし。この方法はいささかリスクが大きいのでは無いか?
いや、リスクより何より確実性に欠けている。そんな不安定な手段に余力を使う余裕は無い。
「………ぐ…」
大丈夫、応急処置は適切だったはずだ。痛みを消す事は出来なくとも、命に別状は無い。
「ぐぅ……く…」
落ち着け。冷静になれ。もしもそれを実行したならば、必ず一つの弊害が生じる。
その弊害は、下手をすればようやく手に入れたこの同盟すら破綻させてしまう。
「…がっ……」
どうしても気になるのならば……そうだ、病院。
確か、この会場の中には病院がある。そこで薬を調達するなりして、改めて彼の処置を行えばいい。
「……………」
考えるな。気に病むな。そこまで、彼の事を助けてやる必要は無い。
これでいいんだ。何よりも自分の事と、六課の皆の事だけ優先すべきだ。
この男の為に、無駄な労力を使うべきではないのだ。
だって、この男はただの……『手駒』じゃないか。
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気分が、悪い。
ここはどこだ?辺りは薄ぼんやりとしている。足元が覚束ない。自分が立っているのか、寝ているのかすらわからない。
何もかもがはっきりとしない、それが何よりも自分を苛立たせる。
ああ、いや。二つだけはっきりとした感覚がある。痛みと熱。……どちらも忌々しい。より一層、心の中をかき乱す。
最悪だ。頭がフラフラする。痛い。焼け付くような痛みだ。いや……実際に、焼けているのか?
意識が薄い。思考力が低下している。ああ、腹立たしい。憎らしい。
何がだ?痛みが。それだけか?この痛みを俺に刻み付けた、あの蛇が。まだあるんじゃないのか?
下水道で俺と戦った、あのハダカザルが。他にもだろう?最初に俺をコケにしてくれた、あの二匹。
忌々しい。忌々しい。忌々しい。忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい
忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい
忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい!!!!!!!!
この実験に参加してから、この殺し合いに参加してから、人間どもは俺を苦しめ続けている!
俺は何度尻尾を巻いて逃げ出した!?俺は何度手痛い反撃をこの身に受けた!?そして、奴らは何度俺を追い詰めた!?
この結果はまるで……まるで……ふざけるな!!人間どもが獣人よりも勝っている筈が無い!!!
だが……だが……ならば何故だ?何故俺は、人間どもを仕留められない?
今までに五匹ものハダカザルと戦っておきながら、始末できたのはたったの一匹だけ!
どうしてだ?どう言う事だ?この身が……人間に近しい物となったからとでも言うのか!?
いや、違う、そんなはずは無い!その改造を施したのは、螺旋王自身!!
かの偉大な螺旋王が、獣人の能力を弱めるなどというミスを犯す訳が無い!!
じゃあ何故だ?何故俺は………人間どもに………?
わからない。何の理由があって…理由など、無い…のか……?
わからない………俺は……俺は……?頭の熱が、冷めていく…寒い……
ただ、傷跡だけが熱く、苦しい。この苦しみだけは、一生消えないとでも言うのか。
出口は、どこだ。俺は、いつこの苦しみから解放される?この、歪んだ苦しみから抜け出せる?出口は……
…………そんな物は……どこにも…?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ふわり。
……この感覚は、なんだ?体が、少し楽に……痛みはまだあるが…?
俺は……どうなって……寝かされているのか……?
………暖かい。頭に、熱が戻っていく。…誰かがいるのか?
『今……すから………願…………の風…』
声が聞こえる。何を、しているんだ?………風?
これは、風なのか?微かな、ほんの僅かにしか感じられない…だが、これもまた暖かい。
何だこれは…ん……?……痛みが、引いていく………。
『…う、大……だか………う少し……我慢し…』
暖かい。心を苛んでいた痛みと熱が、少しずつ消えていく。段々と気分が落ち着いていく。
そして、それに伴って徐々に俺の体に感覚が戻っていくのを感じる。ふわりふわりと、少しずつ浮き上がっていくような感覚。
……そこにいるのは誰なんだ?
ゆっくりと、瞳を開く。その精神は未だまどろんだ状態のまま、それでも彼はそこにいる誰かを見た。
膝の上にヴィラルの頭を乗せているその人物の表情は、緊迫していたようだった。だが、それも徐々に綻んでいく。
「………よかった」
安心しきったその声を聞きながら、ヴィラルは久しぶりに感じたこの感情の正体に気付く。
それは…………この場所に来てから始めて感じる、心からの『安らぎ』だった。
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シャマルが行ったのは、デバイス『ケリュケイオン』を起動した状態での、回復魔法の使用。
予想していた通り、古代ベルカ式の魔法を扱うシャマルがミッドチルダ式のデバイスを使用するのには多少の手間を要した。
それでも、使用した魔法がミッドチルダ式の中でも基本的かつ初歩的な物だった為か、どうにか一定の効果は見られたようだ。
少しずつ塞がっていく傷口を見ながら、シャマルから段々と緊張が抜けていく。
「………よかった」
自然と、そんな言葉が口に出た。その事に何より自分自身が驚く。
結局、見捨てる事は出来なかった。目の前で苦しんでいる男を無視する事は出来なかった。
それは何故なのか。
癒し手として、医者としての彼女の精神が、そうさせたのか。
『手駒』を出来るだけ万全な状態にしておきたいと言う打算的な思考が、そうさせたのか。
それとも―――――
「…シャマル…か…?」
自分の名を呼ぶ声に、シャマルが下を見る。
寝かされているヴィラルの目が、うっすらと開き自分を見据えていた。ようやく目を醒ましたらしい。
そのままゆっくり起き上がろうとするヴィラルを、シャマルは押し留める。
「まだ動かないで。傷がきちんと塞がりきって無いの」
「…いや…だが……」
「いいから。患者だったら、医者の言う事はちゃんと聞きなさい?」
「………むう……」
どこか不満げの表情をしながらも、ヴィラルはシャマルの言う通り再び体を横たえた。
何処と無くバツが悪そうに見えるのは……まぁ何となく理解できると言うか…シャマル自身も似たような物と言うか。
客観的に見れば、『妙齢の女性が男性に膝枕をしてあげてる』という、状態なわけで。
いや、そりゃ気恥ずかしいのはわかるけども、こうするのにはちゃんと理由もあるわけで。
治療する為にも、彼を運転席に座らせたままと言う訳にも行かず、床にとりあえずマントを引き、
その上に彼の体を横たえたまではいいのだが、流石に硬い床にそのまま頭を置くのは不味いと考えた物の、
手近に丁度いい枕代わりになる物も無く…仕方なくシャマルは自分の肉体の一部を提供する事にしたのだ。
というか、何ですか。人の体あれだけ平然と弄っといて今ここでその反応というのは何よ?
ちょっと順番違うでしょー…と、そこまで思考が回った所でシャマルは頭を振る。
今は、治療に集中しなくては……そして、もう一つ。そんな事よりも考えなければならない事がある。
支・援
(回復魔法の効きが、予想以上に悪い……しかもそれだけじゃなく、魔力消費がこんなに大きいなんて…?)
ヴィラルの傷はじわじわと塞がってはいる物の、その速度はシャマルが普段見慣れている物よりも遥かに遅い。
普段扱いなれぬ形式の魔法を使っている事を差し引いても、これは異常だ。
実際の効果の程にも不安は残る。傷口は塞がり出血は止まるだろうが、痛みは残るかもしれない。
さらに、もう一つ。魔力消費量もまた、異常な程に高いのが感じられる。
数時間前のあのサングラスの男達との戦いの結果、予期せず気絶という『睡眠時間』を取る事が出来た為、
ゲイボルグを二回使用したことによる魔力消費は多少回復していたのだが…その魔力が再び、どんどん失われている。
とりあえず魔力切れを起こす程ではないものの、治療が終わる頃には半分弱の魔力しか残らないだろう。
明らかに異常な事態だ。……だが、今はその異常事態よりも先に対処すべき事がある。
回復魔法を行った事で突発的に判明した事実とは別の、使用を決意した時から危惧していた問題が。
彼女にこの行動自体を躊躇させた、もう一つの大きな問題が。
「……シャマル」
彼女に言われたとおり寝転がった体勢のままヴィラルが声を掛けてくる。
だが、現在の彼の状態からかけ離れて、その声は低く、重い。
シャマルを見る彼の瞳に浮かぶのは困惑と、先ほどと同じく疑惑の色。
「お前は、俺に何をしている?その力は……一体なんだ?」
ヴィラルの獣の様な姿が自分達の見慣れないタイプの物であると気づいた時から、彼が管理外世界の住人と言う事はわかっていた。
管理外世界、つまり…魔力の存在が人々に知られていない世界。
その世界の人間に魔力と言う未知の力を教える事は、難しくはあるが不可能では無いだろう。
だが、シャマルは彼に嘘をついている。
『自分が彼と同じ螺旋王の手の者である』。つまり、彼と同じく魔力を知らぬ管理外世界の住人であるという嘘。
その嘘をついた状態で、彼の疑惑を拭い去る為には、どうすればいい?
………また、嘘を重ねるしかない。
ごくり、とシャマルは彼に気づかれぬように唾を飲み込む。
さぁ――――ここからが、正念場だ。
-----------------------------------------------------------------------------------
ヴィラルは困惑していた。
あれほど自分を苦しめていた腹部の傷からは、ほとんど痛みが消え去っている。
血も止まり、ただ僅かな傷跡が残っているだけ。流石に完治しているとは言いがたいが、それでも異常な回復速度だ。
これが自分の体質によるもの、つまり螺旋王の改造による物なのかとも一瞬思ったが、予想は外れているようだ。
目の前のシャマルがいつの間にか手につけていた奇妙なグローブ。
そこから発せられた光が自分の傷を包み、痛みを少しずつ和らげて行くのをこの目で見た。
ならば、シャマルの持つこのグローブが癒しの力を持っている、という事か?
もしそうなのならば僥倖だ。回復の力を持つ支給品があるのならばそれは非常にアドバンテージになる。
しかし……その他にももう一つの可能性がある。
それは、この回復の能力がシャマル自身の持つ力だと言う事。
この『実験』の開始を告げられた時のあの場所…見慣れた螺旋王の玉座の間の中に、ヴィラルは他の参加者と共に存在していた。
その時に見た、螺旋王に刃向かい無様に命を散らしたあの男。
あの男は奇妙な水晶を掲げた瞬間にその身に鎧を纏うという、奇妙な力を持っていた。
目の前の女性、シャマルもそれとはまた別の奇妙な力…ヴィラルの予測が正しければ回復の力を持っているのではないか?
だが、もしそうだとすると疑問が生じる。
当たり前の事だが、ヴィラルは『薬などを用いることなく怪我を治す』力が存在することなど知りはしなかった。
獣人として螺旋王に命を賜って後、同じ獣人達の中でもそんな能力を持つ者など見たことが無い。
しかし、シャマルはその奇妙な力をヴィラルの目の前で実際に使って見せた。
それはどう言う事だ?
シャマルは獣人には無い能力を持っていると言う事。
そしてそれは、シャマルが獣人などでは無いと言う事に繋がるのではないか?
獣人では無いと言う事は、つまり………彼女は自分と同じく螺旋王に仕える者では無い事になる?
もしそうだとすれば、シャマルは自分の敵だ。
人間では無い事に変わりはないようだが…それでも、この実験の参加者であればこの手で殺さなくてはならない。
今、ヴィラルの手元に武器は無い。しかし相手は非力な女性一人、素手だとしてもすぐに殺せる。
大丈夫だ、その首を絞めてやるだけで済む。力を込めれば引きちぎる事も出来よう。
そうやって、殺せばいい……自分を助けてくれた相手をか?
ズキリと、塞がった筈の傷が痛みを発した気がした。
「今、私が貴方に使ったのは『魔法』と呼ばれる力よ。
私や機動六課に所属する者だけが使える、特殊な力の事を『魔法』と呼ぶの」
シャマルがゆっくりと、ヴィラルに今起きた事の説明を始める。
マホウなど、聞いた事の無い単語だ。やはり……そうなのか。
いや、待てよ。自分は今までキドウロッカという部隊の存在も知らなかった。
ならば、このマホウという能力も、極秘裏に螺旋王が作り出した物なのか?
それとも……キドウロッカの情報自体が、嘘だったのか?
感づかれぬように、自身の体に力を込める。もしも、『その通り』だった時の事を想定して。
しえん、いっせぇん!
「魔法には様々な種類があるわ。今みたいに回復に使われる物だけじゃなく、攻撃の手段としての魔法も存在してる。
まぁ、私が得意としてるのは回復や補助と言ったタイプの魔法なんだけど…」
「随分と、便利な力だ」
「そうでも無いわ。まだ、『実験段階』の能力だから問題点も多いの」
思わず、眉を潜めた。
「『実験段階』………?どう言う事だ?」
「そうね、まず…ついさっき言ったとおり、魔法というのは私達だけが使える能力よ。
そして私達だけが魔法を使える理由は、私や機動六課の…人間型の獣人が、『魔力』という力を持っているから。
私達は魔力を消費して魔法を実行する。だけど、あまりにも魔法を使いすぎると魔力切れを起こしてしまう。
正直な話、現段階では燃費が悪い能力と言わざるを得ないわ。今の魔法で、私の魔力はもう全体の三分の一ぐらいしか残ってないし」
「成るほど……まだ実用化しているとは言いがたい能力だな」
「機動六課と同じで、つい最近に研究が始まったばかりの能力だから…」
つまり、機動六課の事を知らないヴィラルが魔法を知らなくてもおかしくは無い、と言う事か。
「…今回の『実験』は、私達のこの魔法がどこまで使える物なのかを試す、テスト的な一面もあるわ。
機動六課の人間が、私だけじゃなくて数人参加させられているのもそういった理由から」
「………ああ、大体は理解した」
シャマルに答えながら、ヴィラルは頭の中で手に入れた情報を纏めだす。
獣人達の主力な武装は、言うまでもなくガンメンという機動兵器だ。
ガンメンの兵器としての能力は高い。ヴィラルの持つエンキクラスの性能があれば、単機で小さな村を潰す事も可能である。
だが……性能が高い兵器故に、一つ疑問も残る。
もしも、そのガンメンが人間どもの手に渡ったらどうなるか?
自分達の兵器の強さは自分達がよく知っている。現に一つ、それに似た事例があったでは無いか。
ヴィラル自身が向かう筈だった、リットナーと呼ばれる村付近にて……人間の一匹がガンメンを奪い取り、一部隊を壊滅させたと。
それまでは間抜けなハダカザルがガンメンなど操れる筈も無く、ただの偶然だろうとも思っていたが、
もしかしたら螺旋王はその可能性を見越していたのかもしれない。
だからこそ、『魔法』なる特殊な力を持つ獣人を生み出した………。
だが、何かが引っかかる。
シャマルの言う事は、確かに理に適ってはいるように思える。だが…今ひとつ、根拠が足りない。
信用するに足る根拠が。……まだ、ヴィラルには彼女の『真偽』が掴みきれない。
そしてまた、これらの問題とは別の…もう一つの疑問が、ヴィラルを悩ませる。
「………一つ、聞きたい」
「何かしら?魔法の事なら、私の知ってる限りで良ければ……」
「いや、その事では無い………何故、わざわざ俺を治療した?」
ヴィラルの言葉を聴いたシャマルの表情が、強張る。
「俺の傷の応急処置をしたのは、お前自身だ。確かにきちんとした処置は必要だっただろうが…
貴重なお前の魔力を使ってまで、しなければならない事だったのか?」
引っかかっていた事は、これだ。
シャマルが嘘を付いており、本来はヴィラルが狩るべき人間だったとすれば、
先ほどの状態はシャマルに取ってはチャンスであり…ヴィラルに取っては危機であったはず。
理由はどうであれ、このゲームに乗っている自分と手を組む事を選んだシャマルも、恐らくは殺人者としての道を選んでいるのだろう。
だとすればどうして、寝首を掻かなかった?自分と手を組んだ、『手駒』を失いたくは無かったからか?
だが、もしそうだとしても限りある魔力を消費してまでわざわざ治療を行うこともあるまい。
一体、何故――――――
「後悔、したくは無かったから」
……………何?
「私は、私にしか出来ない事をしないで後悔はしたくないから。
例えそれが…他の人にとって、間違っている事でも、許されない事だったとしても」
じっと、ヴィラルがシャマルの目を見る。
幾ら彼が考えた所で、今の言葉に隠されたもう一つの事実――――
彼女が、自分の大切な仲間を守る為に過ちを起こしているという事実を知る事は出来ないだろう。
だが、それでもわかった事が一つある。
彼女のこの言葉が、完全に本心から来ている言葉であり……彼女の『真意』であるという事。
「そう、か」
その言葉を聞き、そう呟いたヴィラルは。
「……もう起き上がっても構わないか?」
「へ……あ、ああはいどうぞ!」
とりあえず、体勢を立て直した。
-----------------------------------------------------------------------------------
結論として、ヴィラルは『現状維持』の判断を下した。
合理的に考えて、今ここでシャマルを屠る事よりも、リスクが掛かるとはいえ有用な技能を持つ彼女と共に行動することを選んだという事もあるが、
何よりも一度『礼を尽くす』事を約束した相手に手を下すのは、彼の性分に合わなかった所為もあるかも知れない。
または、その『礼を尽くす』べき相手ならば、信用せずにいるのは信念に反する、と言う事か。
まぁ、理由はどうあれ彼はもう一度彼女を信用する事に決めた、というのは事実。
(……騙してて、ごめんなさいね)
まさか口に出すわけにもいかず、シャマルは心の中だけで彼への謝罪を行った。
嘘を付かなければ自分の命が失われるかもしれない状況とはいえ、少なからず罪悪感は感じているのだ。
だが、いつまでもこうしている訳にも行かない。
信用を保ったまま、ヴィラルに『魔法』の存在を伝えられた今ならば、『あの支給品』について話し合える筈。
「ちょっと良いかしら、ヴィラルさん?」
すぐそばのコンテナに寄りかかりながら座っているヴィラルに声を掛ける。
「何だ?」
「少し、私の持っている支給品について話したい事があるの」
「支給品?……そういえば、まだ最後の一つを確認していなかったな」
ふと、自分があの小僧から奪ったディパックをまだ確認していなかったのを思い出し、
ゴーカートの中から自分のディパックと、シャマルの物と思われるディパックを二つ取り出して渡してやる。
「ありがとう……その、私の話の方から始めてもいいかしら?」
ヴィラルが黙って頷いたのを見て、シャマルは一つのディパックの中から『あの支給品』を探し始める。
「魔法を使うには魔力が必要不可欠である事は、さっき話したけれど……その魔力を回復する為には術者の休息…つまり、睡眠が必要になるの。
けど、この殺し合いの会場の中でそうそう何度も睡眠を取るわけには行かない。
だから、私のような人間が取るべき行動は『魔力を温存する』か、『魔力を回復する他の方法を見つける』かの二つに一つと言う事になるわ」
………ちょっと、これを見て」
そう言ってシャマルはディパックの中から目当ての物を取りだす。
「これは……割れた鏡のかけらか?」
それは、ゲイボルグとケリュケイオンの二つと共に、最後にシャマルに支給されたアイテム……『魔鏡のかけら』。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、そして高嶺清麿に支給されたものと同種類の、最後の一枚である。
だが、もちろんシャマルにこの鏡の真の力がわかっているはずも無い。
「とりあえず、この鏡から僅かながらも魔力を感じるの。詳しい事は私にもわからないけど…」
「これを使えば、その魔力が回復できると…お前はそう睨んだ訳か」
「ええ…でも、その肝心の使い方がよくわからなくて。
割れてる所を見ると、他に同じようなかけらが幾つかあると思うわ。それを全部合わせればもしかしたら…」
ふむ、とヴィラルが顎に手を当てる。鏡を存在するとすれば、それは同じく誰かへの支給品としての形でだろう。
どの道この先は参加者を殺して回る予定だ、そう簡単に見つかるとは思えないが、全くの不可能とも思えない。
と……そこまで考えた所で、ヴィラルがふとシャマルのある異変に気づく。
「シャマル、ついさっきまで嵌めていたグローブはどうした?」
ほんの数分前までグローブに覆われていたシャマルの両手には、もう何も嵌められていなかった。
周りを見渡すも、脱ぎ捨てられたと思われるグローブは見当たらない。鏡を探すついでに、わざわざディパックへと仕舞いこんだのか?
「ああそれなら……ケリュケイオン、セットアップ」
シャマルの言葉に反応し、彼女の手首に嵌められていたアクセサリーが光に包まれ……
次の瞬間には、あのグローブがシャマルの両腕を包み込んでいた。
「な……!?」
予想外の展開に、ヴィラルの顔に驚愕の色が浮かぶ。
「これは………まさか、それも魔法の一種なのか?」
「まぁ……似たような物ね。これはデバイス。魔法を使う為に必要な…まぁ、魔力の制御を行う道具よ。
普段は持ち運びやすいように、小さなアクセサリーのようになっているけど」
「………俺達で言うガンメンのような物か……それは、お前の専用の道具なのか?」
何気なしに言った言葉だが、それを聞いた瞬間にシャマルの顔にさっと影が差した。
「…違うわ……。これは、元々キャロの為のデバイスだから」
「………すまん、余計な事を言った」
「いいえ、気にしないで……私のデバイスは、クラールヴィントという名前の指輪よ。
……ああそうだ、もう一つ。細かい説明は省くけど、魔法の系統には二つの種類があるの。
そして、私が得意としている魔法と、キャロが得意としていた魔法は別の種類。
今はこうしてあの子のデバイスを借りているけど、今の状態では私もこのデバイスも本当の力を出し切れてないわ」
ならば、出来るだけ早く専用のデバイスを探し出したい所ではあるが……指輪か。
サイズも小さいであろうそれを見つけるのには、苦労しそうだ。だが――――
「この傷の礼もある。何とかしてその指輪と鏡は見つけ出し、お前に渡そう」
なんかいた違いのSSが何度も流れてるが削除依頼だしていいんだろ?
あぼーん
『礼を尽くす』とは言った物の、現状を見れば延々と彼女に手助けされている状況だ。
ほんの僅かでも礼を返さねば、ヴィラル自身の気が済まない。
シャマルの話はここまでで終わりらしい。ヴィラルは、手元のディパックの中を漁り、最後の支給品を確認し始めた。
「さて、妙に重いが……?」
「武器か、魔力に関係する物だといいんだけど」
だがシャマルの願いに反して、取り出されたものは鈍色に輝く、ただの鉄の手枷だった。
ずっしりと重量感のあるそれを嵌められる事があれば、行動に支障が出る事は必死だろう。
誰かを捕らえたり、監禁するのには最適なアイテムだろうが、生憎と出会った人間はなるべく殺そうと考えている二人にはさほど価値は見出せない。
「まぁ、重量を考えれば鈍器として使えない事も無いか?」
そんな事を呟きながらヴィラルが手枷を振り回すが、とてもまともに武器として使えるとは思えない。
ふと、そんなヴィラルにシャマルが話しかける。
「ヴィラルさん、貴方の武器は…?」
「とりあえず、銃を一つ持っている。後は……まぁ、これも手枷よりは武器になるか」
言いながら、ヴィラルがシャマルへと調味料の大瓶を手渡してみせる。
しばらくそれを眺めながら『バルサミコ酢って…確か高級な調味料だったかしら?』などと呟いていた彼女だったが、
やがて自分の持っているもう一つのディパックを引き寄せると、中から大鉈を取り出してヴィラルに渡した。
「これ、良ければ使ってください」
「………良いのか?」
大鉈を検分しながら、ヴィラルがシャマルに問う。
長さは80cmほどで、武器としてのリーチはかなり長く扱いやすそうではあるが、だからこそ黙って貰うには抵抗がある。
しかし、それでもシャマルは首を横に振った。
「いいの。多分、私にはこういう武器は上手く扱えないから…」
シャマルとて、ベルカの騎士の一員。戦場へと赴いた事は幾度と無く経験している。
だが、シャマルが担当し、得意としているのは主に魔力を使った補助的な魔法である。
最初に得物としていたゲイボルグの様に特殊な能力が存在する武器ならばともかく、特に何のギミックの無い武器では振り回すのが精々。
ならば、まだ自分よりも肉弾戦を得意としていそうなヴィラルが扱ったほうが武器としても生きるだろう。
ところで、それよりももう一つ気になるというか、心に留まった物があるというか。
「ならば、ありがたく貰っておくが……どうした?」
ヴィラルが何かを言いたげな様子のシャマルに気付く。その手にしっかりと握られているのは、バルサミコ酢の大瓶。
あぼーん
あぼーん
「その……ヴィラルさんは、この調味料のビンをそのまま武器にしようとしていたの?」
「いや、貴重な食料である事だし、とりあえず中身を消費してからの話だと考えていたが…」
「中身を消費……つまり、食べてからって事よね?」
「まぁ、流石に直に飲むわけでは無いが……一体何が言いたい?」
「ええと……この調味料、私が料理に使っても良いですか?」
「…………………………………は?」
驚いた。ぶっちゃけ、魔力やら魔法やらが云々の時よりも驚いた。
目が点になったヴィラルを見て、慌てたようにシャマルが取り繕い始める。
「いや、その…これって確か高級な調味料で、どうせ使うなら料理に使ったほうがいいような気がするというか何というか…」
「…まあ、別に…どう使おうが俺は構わないが…それにしても料理か…」
ディパックの中から時計を取り出し、時間を確認する。第2回目の放送までは…後数十分と言った所か。
随分と睡眠を取ったお陰で、体力はほとんど回復している。
このまま即座に出発しても良いのだが、放送までの時間を考えると微妙な所だ。
ハダカザルの相手をしている内に放送を聞き逃し、禁止エリアや死者と言った重要な情報を得られないのは痛い。
ならば、いっその事。
「丁度昼飯時だ。それを使って、簡単な料理を頼めるか?」
言った直後で、またこの女性に頼り切りかとも思ったが…
少し嬉しそうに大瓶を自分のディパックに入れ始めた所を見れば、これもある意味で礼なのかもしれないとヴィラルは思った。
自分が非常に『危うい選択』をしてしまった事を、彼は知る由も無い。
【G-3/空港/1日目/昼:放送数十分前】
【チーム:Joker&Fake Joker】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:脇腹に傷跡(塞がってはいるが痛みは僅かに残っている)、衣服が濡れているが、上着は脱いでいる。
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、大鉈@現実
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと9秒連射可能、ロケット弾は一発)を搭載したゴーカート
[道具]:支給品一式、ワルサーWA2000用箱型弾倉x4、鉄の手枷@現実
[思考]
基本:ゲームに乗る。人間は全員殺す。
1:第二回放送までは空港で休息を取り、食事を済ます。
2:シャマルに礼を尽くす。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
3:蛇女(静留)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
4:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
5:螺旋王の目的とは?
6:あのコンテナはなんなんだ?
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
…人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。
単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
B二アが参加している事に気づきました。
C機動六課メンバーをニンゲン型の獣人だと認識しました。
Dなのは世界の魔法について簡単に理解しましたが、それは螺旋王の持つ技術の一つだと思っています。
また、その事から参加者の中で魔法が使えるのは機動六課メンバーだけであるとも思っています。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疑心暗鬼 低 魔力消費 中
[装備]:ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×2、バルサミコ酢の大瓶@らき☆すた、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:八神はやてを守る為に、六課メンバー以外の全員を殺す。けれど、なるべく苦しめたくは無い。
1:第二回放送までは空港で休息を取り、食事を作る。
2:ひとまず、しばらくの間はヴィラルと行動する。
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
※宝具という名称を知りません。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。
※空港内には、幾つかの施錠された扉が存在しています。が、鍵がなくても強力な武器があれば強行突破も可能です。
※シャマルの残り支給品の内訳はケリュケイオンと魔鏡のかけら、ジェレミアの残り支給品の内訳は大鉈でした。
※シャマルの料理はなのは世界では受け入れがたい代物ですが、
文化の違うグレンラガン世界の住人であるヴィラルならば適合する可能性もあります。
が、もちろん某副司令のように消えないトラウマを植えつけられる可能性もあります。
あぼーん
こいつ…代理じゃんwwwww
代理はしたらばだけの掲載だけにしろというルールがあるのだが
無視かよwwww
あぼーん
「――っぐぅっ!?」
そう、男が苦しげに呻いたのは何度目だったろうか。
金髪に赤コートを纏った男は、軋む体に鞭を打ち、泣き言も言わずただ北への道を目指している。
彼の名はヴァッシュ・ザ・スタンピード。自らが誇示する正義を証明するため、我が身すら投げ出すお人よし。
――出会い頭から抱いていた印象は、やはり的を外れてなどいなかった。
「ヴァッシュさん……」
「え? あ、ああ、ごめん。いや、大丈夫だよ。早く、君を襲ったっていう男を捜さないとね……」
心配そうに瞳を向ける女をよそに、ヴァッシュはふらふらな足取りで前に進む。
その後姿を見て、女――『四女』の名を持つナンバーズ4、クアットロは妖艶に微笑む。
Dr.スカリエッティの一派に属する戦闘機人、ナンバーズ。その中からたった一人この地に召集された彼女は、当然のごとく生還を望む。
そのためなら他者を蹴落とし、貶め、殺すことも厭わない。それらはすべて、彼女にとっての日常とも言える。
ナンバーズ12姉妹の中でも、彼女は特に異質な存在だった。主に、その卑劣さ、残虐性の面で――。
「ヴァッシュさん。やはり、この辺りで一旦休みましょう。このままでは、ヴァッシュさんのほうが参ってしまいますわ」
「大丈夫さ……これしきで弱音を吐いたりなんてできないよ。死んじまったクロにも……」
「ヴァッシュさん!」
クアットロがいつになく大声を出すと、ヴァッシュは驚いた顔で彼女のほうへ振り向いた。
ああ、なんて期待通りな反応だろう……と、腹の底で恍惚な余韻に浸つつ、瞳に虚偽の涙を浮かべる。
「ヴァッシュさんの優しさは理解しています……でも、私の気持ちも察してください! もう……誰かが傷つくのなんて嫌……!」
「クアットロさん……」
――ああ! 本当に、本当にこの男は、なんというおまぬけさんなんでしょう!
クアットロは表では涙を見せ、裏では高笑いをし、善良なヴァッシュを楽しそうに謀る。
騙し、誘導し、自らの思うがままに、他者の行動や心理をコントロールする。その達成感は、何物にも変えがたい極上の快楽。
そんな変態的な趣味を持った人間というのも、世の中にはそうそういないだろう。が、あいにくクアットロは人間ではない。
「お願いです、ヴァッシュさん。どうか、今は休んでください。このままヴァッシュさんが誰かに襲われでもしたら……私……」
「……わかった。ううん、ごめんよクアットロさん。僕は、ちょっと焦りすぎてたみたいだ……」
「いいえ。私にはヴァッシュさんの気持ちが痛いほどよくわかります。だから今は休んで、その後はきっと……」
「ああ……もう、誰も死なせやしない。誰も死なせるもんか」
クアットロの嘘泣きに胸を打たれたヴァッシュは、焦る衝動を抑え、その身を一件の民家へと赴かせる。
それに付き従うクアットロは、内心で爆笑を続けていた。
なにからなにまで自分の思い通り。この男は実に扱いやすい。まるでアンテナの付いた自動人形のようだ。
(重宝しますわねぇ……このお馬鹿さんは。いずれはお別れしなければならないのが残念ですが……
それまでは精々、私のために働いてもらいますわよ……実験台としてね)
クアットロの眼鏡に陽光が反射して、怪しく光った。口元の笑みも相まって、いっそう不気味に見える。
そんな背後の悪意を、ヴァッシュは微塵も感じることができず、言葉に流されるまま休息につく。
そう、ここまでのすべてが計画通り。
ヴァッシュを休ませ――あわよくば眠りにつかせ――単独行動できる時間を作る。
そしてその時間を使い、『実験』に入る。
クロの残した一つの金属片。それを用いた、重要な実験を――。
◇ ◇ ◇
殺し合いに乗った者に気付かれぬよう、家の明かりはつけず、窓からの太陽光のみで、クアットロは実験準備を進めていた。
一休みという建前で作ったこのフリーな時間。有意義なものにするため、クアットロは『首輪の調査』という選択肢を選んだ。
キャロ殺害後の不手際を思い出す。あのときは黒服のせいで回収に回れなかったが、結果的にはこうやって首輪を入手している幸運な自分がいる。
これをどう扱うかが問題だった。他者の荷物に潜ませ疑心暗鬼を誘発するなり、解析を望む者に対する餌として使うなり、用途は余りある。
大きなアドバンテージを手に入れたクアットロは、まずこう思ったのだ――この首輪の情報がもっと欲しい、と。
首輪の情報。即ち、内部を構成する物質やら、分解するための目処、起爆の条件や詳細な爆発力などだ。
それらはまた、情報だけでも脱出に有益な材料として機能する。欲する者は多く、だからこそ持っていて得をする。
クアットロは、まずこの首輪について調べることにしたのだ。
運よく生き永らえたとはいえ、全身に大きなダメージを負ったヴァッシュは、今は寝室のベッドで眠っている。
暢気なものだとは思うが、彼の殺人を憎むような言動には、並々ならぬ正義感を感じた。
それを抑えつけてまで眠っているということは、それだけ体に負担がかかっているということだろう。
どちらにせよ、クアットロにとっては好都合。この誰にも邪魔されない機会を、十分に活用させてもらうとしよう。
机には、クロから回収した首輪が一つ。自分のものより一回り小さいのは、クロが猫だったからだろう。
そして首輪の隣には、この家に置いてあった工具セットが一式。
半田鏝のような専門的なものはなく、ドライバーや鑢など日曜大工品くらいしかないのが難だが、贅沢は言っていられない。
もとより、そんなに簡単に解体できるものであるはずがない。今回の趣旨は、あくまでも調査だ。
この首輪がいったいどういった物質なのか。それだけでもわかれば、成果は十分と言える。
(さ〜て、ドキドキのお調べタイムとまいりましょうか〜♪)
スタンドライトに照らされた机上をにんまり眺めるクアットロの表情は、マッドサイエンティストそのものだった。
まずは肝心の物を手に取り、じっくり触ってみる。
摩り、小突き、力を加えてみた感触は、やはり金属。
弾力性があるわけでもなく、重さも極々一般的。未知の文明を用いた代物とも思えたが、どうやらその線は薄そうだ。
次に、その全姿を今一度よく観察してみる。
なんの変哲もない新円の輪。色は銀。ただし純銀というわけではなく、鍍金のような色感だ。
外周部分には『KURO』と、持ち主の名が英語で刻まれている。これでどの首輪が誰のものか判別できるのだろう。
それ以外は目立った装飾もない。ただ一つ、爪が入り込めるほどの繋ぎ目らしき溝が二つあったが、それだけだ。
ここにドライバーを捻り込み、無理矢理分解しようものなら即ドカンだろう。これは安易すぎる。
クアットロは自身に嵌っているほうの首輪を撫で、クロのものと同様の溝を確認する。
位置は、ちょうど首の真後ろ。無論、自分で気付く可能性は限りなく低く、銀一色のため溝自体が判別しにくいだろう。
クアットロのように長髪だったり、襟のある服を着た者では、他者からも気付かれにくい。
もちろんこの溝が参加者全員の首輪にあり、首の後ろ側に付いているという確証はないが、クアットロとクロの場合は一致した。
(『KURO』の刻印はこの溝と溝の間に刻まれてますわね。鏡はあれど、首の後ろまでは届かず。私の名前も溝と溝の間に?)
クアットロは机に置かれていた化粧用の手鏡を持て余しつつ、自身の首輪とクロの首輪を見比べる。
首輪が全参加者共通である確証などないが、逆に考えれば、各々別のものを用意する理由も思い浮かばない。
クアットロとクロの首輪のサイズが違うのは、単純に首周りのサイズを考慮しての結果だろうし、深い意味はないはずだ。
もちろん、中身も同じはず。爆薬の量は多少増減するかもしれないが、いずれにしても必殺の威力分はあると思われる。
でなければ首輪による抑止力は効果が半減してしまう。そもそも、首輪の爆弾が原始的な火薬によるものかは不明だが。
(う〜ん、やっぱり見ただけじゃなんとも……いっそ分解できればいいのですけれど……そううまくはいきませんわねぇ)
早くも手詰まりな予感を感じたクアットロは、口をへの字にしながら首輪を再度眺め回す。
どこからどう見ても輪。サイズが従来のものより小さいため、クアットロにとっては腕輪とも解釈できる。
手触りはツルツルしていて、特筆するような違和感はない。とても綺麗な素の状態だった。
(……ん? きれいな状態……それって、おかしくありませんこと?)
この首輪は、木っ端微塵に爆散したクロから回収したものだ。
所有者が木っ端微塵になるほど衝撃を受けたというのに、この首輪が綺麗な状態で現存しているのは、いったいどういうわけか。
首輪とは形状を表すための言葉でしかなく、その本質は爆弾だ。当然、中には可燃性物質が入っているはず。
鈍器で叩いたり、刃物で傷つけようとしたり、下手に干渉すれば誘爆して当然のはず。なのに、これはここに現存している。
(まさか、弄っても爆発しない? いいえ、そんなはずはありませんわ。でも、あるいは外部からの干渉も可能なのでは?)
ふとした疑問から、様々な仮説を展開するクアットロ。そのどれもが、確証を得ない曖昧なものだった。
力ずくで分解に臨むには、今一歩安心材料が足りない。現時点ではリスクが大きすぎる。
しかし、所有者が死んだ場合でも、首輪の爆弾としての機能は継続されるのだろうか。
たとえば、禁止エリアに首輪だけを放り込んだ場合、爆発はするのか。螺旋王の意志で、この首輪単体を爆破させることは可能なのか。
もしかしたら、所有者が死んだ時点で、爆弾としての機能は停止している可能性はないだろうか。
もちろん、これも都合のいい憶測だ。この首輪に所有者が死んだと認識できるシステムが組み込まれているかは、まったくの謎。
仮に組み込まれていたとしたら、彼女の機械をも騙すIS『シルバーカーテン』で爆弾としての機能を停止させることも可能だが……。
いや、でも、ひょっとしたら……クアットロの脳内を、葛藤の渦が包み込む。
(手詰まりですわねぇ……)
クアットロは狡猾な性格だ。さらに言えば、慎重派で臆病者でもある。
爆発というリスクが拭いきれない現段階では、この首輪を安易に分解する気にはなれなかった。
しかし、科学者には時に冒険し、自ら危険地帯に足を踏み入れる度胸が必要とされる。
彼女の主人、ジェイル・スカリエッティならば、こんなときどうするだろうか。
僅かな確率に懸け、首輪の分解に挑戦するか。それとも、安心できる要素が揃うまで待ちに徹するか。
どちらの選択肢も正しいようであり、間違いであるように思える。クアットロはますます頭を悩ませた。
(あ〜んもう! イライラしますわねぇ……せっかく首輪を手に入れたっていうのに、これじゃあ……ん?)
ヒステリックな表情で奥歯を噛み締め、クアットロはクロの首輪を弄繰り回す。
溝に爪を差し入れたり、机の角に軽くぶつけてみたり、机上を転がしてみたりするが、成果はなにも得られない。
と、いろいろ試行錯誤するうちに――クアットロは、ある違和感に気付いた。
それを真っ先に感じ取ったのは、彼女の白い指先。触れる場所は、『KURO』の名が記された溝と溝の間。
その部分が微かに、何度か擦ってみなければわからないほど微かに、窪んでいる。
指先で押したり擦ってみたりして、そのおかしな感触をより深く検証していく。
どうやら、この窪みは円形に広がっているようだ。
大きさは指先と同じくらいで、『KURO』の刻印の中心に位置している。
まるで、『KURO』の刻印の位置はここだと示すかのように――もしくは、その逆か。
(これはもしかして……あら、あらあら、あらあらあら、あらあらあらあらぁー!?)
陰鬱に淀んでいたクアットロの眼鏡が、ギラリと光った。
違和感に気付いたクアットロは、窪みの部分、『KURO』の刻印周りを爪でガリガリと擦り、すると。
べリッという小さな音が鳴って、爪になにかが引っかかった。
ちょろんとはみ出た、三角型の突起。微かにねばねばするそれは、『KURO』のちょうど左下部分に位置している。
クアットロはその突起に指をかけると、そのまま右上方向に向かって、慎重に引っ張った。
するとどうだろう。三角型の突起はベリベリと音を立てていき、徐々に大きくなっていく。
やがては『KURO』の刻印も巻き込み、ビッという音を最後に、突起は首輪から完全に剥がれた。
クアットロの指先には、少しだけ丸みを帯びた長方形の粘着性物質が残っており、その表面には『KURO』の文字が。
一方、首輪の溝と溝の間からは、いつの間にか『KURO』の刻印が消えており、代わりに謎のマークが記されていた。
丸の中に、十字が刻まれた、謎のマーク。それが、クアットロの指先が捉えた違和感の正体。窪みである。
クアットロは、このマークに見覚えがあった。いや、クアットロでなくとも、大抵の者はこれを知っているだろう。
丸に、十字。これは――『ネジ』だ。
(…………!)
クアットロは荒い呼気をそのままに、一瞬思考することを忘れてしまった。
それほどまでに、この発見は重要な意味を持つものであったと言える。
所有者の名前が刻まれた、首輪後部の溝と溝の間。そこに触れて始めて気付いた、微かな窪み。
その正体が、このプラスのネジである。機械の接合などに用いる、あのネジだ。
なぜ、首輪にネジなんかが付いているのか。簡単だ。接合するためである。
なにを接合するというのか。それも簡単だ。答えは首輪。厳密に言えば、首輪と参加者の首を接合するためのもの。
おそらく、首輪はこのネジを緩めるによって外れる仕組みになっているのだろう。
逆に、参加者の首に嵌めた状態でネジを締めれば、それで首と首輪の接合が完了する。
なんという、単純なメカニズム。クアットロは思わず感嘆する。
殺し合いを強制する最重要アイテム『首輪』は――ネジ式だった!
(……拍子抜けですわ! 螺旋王、これでは、これではあまりにも……簡単すぎますわぁ〜!)
もはや、喜んでいるのか怒っているのかもよくわからない。
クアットロは首輪に付いたネジを食い入るように注視し、口を開けながら笑っていた。
ネジ。それは、右に回せば締まり、左に回せば緩むもの。漢字を用いれば『螺旋』とも書き表せる。
そしてクアットロの手元には、ネジを締めるも緩めるも自由な万能工具、プラスドライバーが存在している。
これを使えば、ネジは首輪から外れ、その中身を露出することだろう――それが、あまりに簡単すぎる。
いくら問題のネジ部分を所有者の刻印――同色のネームシールで覆い隠そうとも、隠蔽工作としてはあんまりな措置。
位置は鏡を使っても視認することができない首の後部。他者の目を借りても、それは気付かれにくいだろう。
だが、こうやって他者の首から頂戴した物を念入りに調べれば、いつかは気付かれる。
首輪解除のスイッチをシールで隠すだけ。そのようなおざなりな対応策で、参加者たちの首輪解除が防げるとでも思っているのだろうか。
まさか、そんなはずはない。それではあの傲岸不遜に演説を行っていた禿頭が、あまりに滑稽すぎる。
誰かがこのネジに気付いたとしても、簡単に首輪が解除できるはずはないのだ。
つまり、仕掛けはまだ残されている。
(ま、一番あり得る可能性としては、ネジを回そうとした瞬間にドカン、ですわね)
ネジ式首輪のトリックに気付き、嬉々してネジを回そうとしたらご臨終。首輪は起爆し、死を招くだろう。
どこぞの馬鹿が引っかかりそうな、チープな罠だ。慎重派のクアットロは、そのような軽率な行動は取らない。
冷静に深呼吸してから、このネジについて再度考える。
ネジとは本来、円形の面に沿って螺旋状の溝を設けたものであり、別個の部材の締結や、回転運動と直線運動の変換などに用いられる。
ここで気になる単語が一つ。この殺し合いを考察する上で、忘れてはならない重要なキーワード――螺旋が出てくる。
螺旋王、螺旋遺伝子、螺旋生命体、そして螺旋力。
クアットロのデータベース上を検索してみても、これらの単語の意味するところはわからない。
だが、この螺旋こそが、この殺し合いを左右する重大な要素であることは間違いない。
螺旋状に回すことで締結が可能なネジ、それが首輪に付いているのも、なにか大きな意味があるのだろう。
(キーワードは螺旋、スパイラルですわね。それに気になることはもう一つ……)
机上に頬杖を突きながら、クアットロは心中で先ほどの放送内容を反芻する。
幼き少女が、螺旋の力に目覚めた――たしか、螺旋王はそんなことを漏らしていた。
螺旋の力。即ち螺旋力。それに目覚めたという少女。いったい何者なのか……クアットロの興味は、謎の少女へと向いた。
(幼き少女、というだけでは誰のことかわかりませんわねぇ。なにをどうして螺旋の力に目覚めたのか、そもそも螺旋の力とはなんなのか。興味深いテーマですのに)
螺旋の力の詳細、螺旋の力に目覚める方法、螺旋王を満足させる理由……こればかりは、クアットロの知識だけでは及びつかない。
螺旋王に通じている者、螺旋を知る者、螺旋力に目覚めた少女――いずれかとの接触を得る必要があった。
とはいえ、手がかりもなにもないのが現状だ。運よく出会えれば万々歳だが、血眼になって探し回るほどのものでもない。
今はとにかく、武器にも防具にもなり得る首輪の情報搾取が最優先。螺旋とネジの関連性については、頭の隅に止めておこう。
(で・す・が……せ〜っかく分解の足掛かりが掴めたんですもの。このまま様子見で終わるわけには……いきませんわよねぇ)
甘美な果実を前に黙って指をくわえているほど、クアットロはお利口な性格ではない。
奪い、騙し、利用して――欲するは、絶対の優位。そして、勝利の栄冠だ。
この殺し合いの勝者が一人と言うのであれば、クアットロは彼女なりの手段を使い、それを目指すまで。
そして今は、『利用』のフェイズ。
首輪の情報を入手するために、利用する。
――あの善良すぎるお馬鹿さん、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを。
◇ ◇ ◇
作業をしていた机から離れ、クアットロはヴァッシュの眠る寝室へと赴いた。
ステルス機能を有した彼女の固有装備『シルバーケープ』が取り上げている現状、隠密行動には不安があったが、
お人よしのヴァッシュ相手なら、万が一相手が目覚めても、『シルバーカーテン』で誤魔化しが利く。
息を殺して歩み寄ると、ヴァッシュは安らかな寝息が聞こえてきた。その表情は、微かな苦悶。
初見の印象はアホ面のお人よしだったが、どうやら、彼は彼なりに殺し合いの現状を受け止めていたらしい。
だとすれば、今彼が見ているのは、クロを死なせてしまったことに対する後悔の悪夢か。
己が不甲斐なさと現実の悲惨な推移に、腹を立てているのやもしれない。
(なんて可哀想なヴァッシュさん。いっそこの場で楽にしてあげたほうが幸せかもしれませんわねぇ)
ベッド上のヴァッシュを睥睨しながら、クアットロは口元だけで笑う。
その妖艶な眼差しは、実験用のモルモットを見つめる科学者のようだった。
(この場で楽になるか、それとも、今後も私のために働いてもらうか……すべては『実験』の結果しだい)
クアットロは、仰向けになっていたヴァッシュの体を、そっと横に倒す。すると、彼の首輪の後部が見えるようになった。
そこには二つの溝があり、間には『Vash the stampede』の文字が刻まれている。
ここまではクロとまったく同じ。やはり目で確認することはできないが、クアットロの首輪にも『Quattro』と名が刻まれているのだろう。
問題はここから先。ヴァッシュの首輪が、果たしてクロのそれと同じ仕掛けかどうか……。
手で摩り、確認する。窪みはあった。爪で、刻印の付近を擦ってみる。なにかが引っかかった。
それを摘み、引っ張ってみる。ベリベリという音が鳴り、『Vash the stampede』の刻印が剥がれていく。
そして、クロの首輪と同じくネジが露見した。
(ビンゴ……♪)
ヴァッシュの首輪も、サイズ以外は全てクロのものと同じ。
偽装工作のためのネームシールが付いており、それを剥がしたところに、プラスのネジ。
想像通り、そして期待通り。これで、問題なく実験が行える。
「ん……んん……」
僅かに寝息を漏らしたヴァッシュに臆することなく、クアットロは持参したプラスドライバーを用意する。
彼女が目論む実験とはただ一つ。『ヴァッシュの首輪のネジを回し、首輪が解除できるかどうか検証する』こと。
もし成功すれば、クアットロは重要な分解状態のサンプルが入手でき、ヴァッシュに恩も売れる。
失敗したとしても、最悪ヴァッシュの首が弾け飛び、手駒が減る程度の損害。
もちろん、ヴァッシュは扱いやすいという意味では有能な駒であるため、惜しくもあった。
だが、痛む体を押して悪党退治に熱意を燃やしていたことからわかるように、彼は我が強い。
ここぞというところで思慮外の行動を起こす可能性は、十分に考えられた。それが、自分にとって不幸を呼ぶ可能性であることも。
それに、手駒ならばいくらでも代わりが利く。ヴァッシュが駄目になれば、また善良な人間を捜して取り入ればいいだけだ。
それに比べ、クロの首輪は一度爆発してしまえば、もう手元には残らない。
また手に入れようとしても、それには死者の首が必要だ。入手難度でいえば、ヴァッシュの代わりよりよっぽど手に入れにくい。
クアットロは天秤にかけたのだ。ヴァッシュの命とクロの首輪。失った場合、損害が大きいのはどちらか。
そしてその結果、クアットロはクロの首輪を残しておくべきだと判断した。
故に、分解の実験材料にはクロの首輪ではなく、ヴァッシュの首輪を選んだ。
(悪く思わないでくださいねぇ〜。本当はこんなことしたくないんですけれど、好奇心が抑えられなくて〜)
耳には届かぬ心の声で、調子のいいことを並べるクアットロ。疲労からくる眠気のためか、ヴァッシュは彼女の気配に気付くことができない。
まずは下準備。クアットロは用意したドライバーの他にもう一つ、白い布を取り出しそれを手に巻く。
これは、DG細胞と同じくキャロ・ル・ルシエの支給品から拝借した一品であり、かなりの耐久力を秘めているらしい。
首輪が起爆したとして、その爆発によりネジを回す手が被害を受けてはたまらない。これは、それを防ぐための措置だ。
すぐ側に迫る邪な野心に気付かぬまま、ヴァッシュの身はさらなる窮地へと誘われようとしている。
クアットロが布越しにプラスドライバーを握り、その切っ先をついにヴァッシュの首下に伸ばした。
(無事に解除できたら拍手喝采、万が一爆発しても恨まないでくださいねぇ〜。まぁ、爆発するでしょうけど)
心底楽しそうな笑みで、クアットロはごくりと生唾を飲み込む。
切っ先をヴァッシュの首輪に付いたネジの、十字型の溝に嵌め込んだ。
あとは、左に捻るだけ。
左に捻るだけで――どうなるかは、もうすぐわかる。
(さぁ、参りますわよ!)
集中し、クアットロは手に力を込めた。
ドライバーを左に捻り、ネジを回そうとする。
回そうとする……の、だが。
(なっ――ビクともしない!?)
クアットロがどれだけ力んでも、ネジはいっこうに回る気配を見せなかった。
決してクアットロが非力なわけではない。武闘派ではないが、彼女とて戦闘機人の端くれ。
一般女性以上のパワーはあるし、その力でネジがビクともしないなどというのは、考えられなかった。
とすれば、ネジが回らないのは、腕力以外の別の要因が関係していると考えられる。
クアットロはその要因について、ネジと悪戦苦闘しているうちに気付くこととなる。
『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』
「――ッ!?」
瞬間、ヴァッシュの首輪から遠雷のような音声が響き、クアットロは反射的に手を離した。
異変は、その直後に始まった。
「――ぐああああああああああああああああああああああああああっ!?」
眠っていたはずのヴァッシュが、突然弓なりに動き出し、絶叫を上げたのである。
混乱するクアットロの瞳に映ったのは、苦痛に歪むヴァッシュの顔。まるで、拷問でも受けているかのような深刻さだった。
その動きは、蠢動するミミズそのもの。ベッド上で小躍りする姿は、転落してもおかしくないほどの激しさ。
突然の事態に、さすがのクアットロも思考が追いつかない。ただ、苦しむヴァッシュを呆然と見つめるだけだ。
「……ヴァッシュ、さん?」
ヴァッシュの絶叫は十秒ほど続き、やがて糸がぷっつり切れたかのように、またベッドに倒れ込んでしまった。
……数秒間、なにもせず待ってみるが、ヴァッシュが動く気配はない。
さっきまでの異変が嘘だったみたいに、シンと静まり返ってしまった。
恐る恐る、クアットロがヴァッシュに近づいてみる。
その顔を覗いてみる。酷くやつれていた。安眠の状態にあるとは言えないだろう。
脈を計ってみる。心音を確認してみる。どうやら、生きてはいるようだ。
首輪を見てみる。目立った変化は見当たらない。ネジは、やはり寸毫も回ってはいなかった。
(これはいったい……どういうことなのかしら?)
人差し指を口元に添え、クアットロは首を傾げる。
今一度、状況を整理してみよう。
クアットロは、ヴァッシュの首輪の解除を試みた。
結果は、失敗。
その際に下るペナルティは、首輪の爆発だろうと考えていた。
だがその予想は外れ、『螺旋力なき者よ、その愚かさを悔いるがいい』という謎の音声が響く。
そして、ヴァッシュは突如苦しみ出し、気絶してしまった。
以上が、クアットロの行った実験の過程と結果である。
(ふむふむ。なるほどなるほど……これは、おもしろくなってきましたわぁ)
予想外の顛末を迎えた実験。成果は得られなかったが、クアットロは満足気だった。
手に巻いた白布を取りつつ、考察に入る。
まずは、ネジがまったく回らなかった理由について。
これはやはり、クアットロの腕力の問題ではなく、なにかしらの仕掛けによって、回せなくなっていたと考えるべきだろう。
そして、力任せにネジを回そうとしたクアットロを嘲笑うかのごとく轟いた、不気味なメッセージ。
螺旋力なき者よ、その愚かさを悔いるがいい――今を思えば、あの音声は螺旋王の声質に似ていた。
本人が首輪に入力したものと見て間違いないだろう。そして、その音声は先ほどのような、解除に失敗した場合にのみ流れる。
このメッセージが、最大のヒントだった。
螺旋力なき者よ――螺旋力なき者とは、首輪の解除を実行しようとした、クアットロのことを差しているのだろう。
その愚かさを悔いるがいい――これについても、首輪が解除できなかった、ネジが回せなかったクアットロに対しての言。
愚かさとは、螺旋力がないという事実を差し、悔いろというのは、ヴァッシュに与えられた制裁を悔いろということだろう。
つまり――『おまえに螺旋力がなかったからネジは回らず、助けようと思った仲間は苦しんだ。馬鹿め』――これが、あの音声の要約。
(な〜んて親切なんでしょう。というか螺旋王……これでは、ネジを回す方法を教えているも同然ではありませんこと!?)
螺旋力。やはり、キモはそれだった。
螺旋王のメッセージを要約するならば、『螺旋力がなかったから、ネジが回らなかった』と解釈できる。
逆に考えれば、『螺旋力があれば、ネジは回った』ということでもある。
クアットロにはその螺旋力がないと判断され、ヴァッシュはこの始末だ。
だが、もしネジを回したのがクアットロではなく、放送に出てきた、『螺旋の力に目覚めた少女』であったならばどうか。
恐らくネジは回り、ヴァッシュの首輪は外れていたことだろう。
原理はわからないが、このネジは螺旋力を持つ者が回せば回る。クアットロはそう推理した。
(でもぉ……螺旋王、これはちょ〜っと優しすぎるんじゃありませんこと?)
螺旋力を得ることが容易なのかどうかは、現時点ではわからない。
しかし、ネジという解除のための確かな鍵穴を用意し、それに嵌る鍵を参加者が持つことを望むなど、主催者の趣旨としては不可解すぎる。
なにせ、首輪が外れれば参加者は晴れて自由の身だ。会場からの脱出は困難だとしても、禁止エリアに引きこもるなど、殺し合いに反する行為は容易くなる。
それでは、螺旋王の目的である『一人になるまでの殺し合い』が破綻してしまう。
本当にたった一人の勝者が出ることを望むなら、首輪が外れる要因など完全に排除してしまわなければおかしいのだ。
(そう。本当に殺し合いを望むのなら、首輪の解除なんてもってのほか。じゃあ……それが『嘘』だとしたら?)
螺旋王の目的は、殺し合い。82名の参加者がやらされていることも、殺し合い。それが、全て偽りだったとすれば……?
いや、そもそも、螺旋王の目的が殺し合いであるという前提が間違っていたのだ。
開幕の際の説明をよく思い出してみる。螺旋王は、クアットロたちに殺し合いをしてもらうと確かに言った。
だが同時に、こんなことも漏らしていた――優秀な螺旋遺伝子を求めている。これは言わばそのための実験、と。
(実験。そう、つまりはそれ。私たちがやっていることは、端から殺し合いなどではなく、優秀な螺旋遺伝子を選出するための実験だった)
殺し合いは、そのための手段でしかない。クアットロはそう考えたのだ。
殺し合いなどでわかるのは、各々の戦闘能力、知力、体力、演技力、結束力、状況判断能力、精神力等々……その中に、螺旋力に通じるものがあるのかもしれない。
重要なのは、殺し合いという行為ではなく、それよって生じる極限の環境。螺旋力とは、そういった環境でしか育めないものなのだろう。
仮に最後まで生き残った一人が決定したとして、その者が螺旋王の求める優秀な螺旋遺伝子の持ち主かはわからない。
逃げ隠れて運よく最後まで生き延びただけかもしれないし、誰かに守られ続けて最後まで残ることだってあり得る。
トーナメント方式にでもするならともかく、このような誰にでも勝ちが拾えるサバイバルでは、真の一番など選出できはしない。
そして肝心の螺旋力は、そういった極限の環境下ならば、誰にでも齎される可能性があるものなのだろう。
何者かは知らぬが、『幼き少女』というからには、殺し合いに消極的な弱者と推測できる。
そんな少女でも掴み得るもの。それが、螺旋力。その少女こそが、螺旋王の求めに現段階で最も近い人物に違いない。
(ますます興味が湧いてきましたわぁ〜。螺旋力に目覚めた幼き少女! ぜひ、私の手で実験したい……)
未知なる力、螺旋力。クアットロは、いつしかその魅力の虜となっていた。
もっと深く、螺旋力を知る必要がある。そしてあわよくば、そのデータをスカリエッティの下に持ち帰ろうとさえ考え始めていた。
殺し合いは建前。その本質は実験。仮に首輪が解除されようとも、殺し合いが破綻しようとも、螺旋王の目的はその時点で達成されたことになる。
螺旋王も、言うなれば科学者の一端なのかもしれない。そう思うと、螺旋王自身にも興味が湧いた。
(接触が図れればいいのですけれど……さすがにそれは無理ですわよねぇ。私は私で、地道に螺旋力の調査を進めるしかありませんわね)
決意を新たにすると、クアットロは脳内でこれからの方針を整理し出した。
螺旋力の究明。螺旋力に目覚めた少女の捜索。螺旋力に目覚める方法の検証。障害となり得る存在は手早く排除。
首輪のネジの秘密は当面隠すつもりだが、これは脱出派にとって有益すぎる情報だ。いざというときは交換材料として使える。
疑心を招くため誰かの荷物に混ぜるのもいいが、ややもったいないか。第一、首輪にネームシールが貼ってあるのでは思惑通りの混乱は狙えまい。
そしてこの男……未だ眠りから覚めぬ、ヴァッシュの処遇について。
(これではもう、黒服を始末させるのは無理そうですわねぇ。あの苦しみようでしたし、いつ目覚めることやら。
で、もぉ……実験材料としては、まだまだ使い道はありますわね。起きたら起きたで、駒として使うだけでしたし)
眠っているうちに始末しておくのもアリかと考えたが、先を見越し、しばらくは放置しておくことに決めた。
と、おもむろに時計を確認すると、短針がもうすぐ北の数字を刺そうとしている。
(あら、もうこんな時間。ちょうどいいですわ。この男は当分目覚めないでしょうし、『苗床』の様子でも見に行きましょうか)
次なる行動を決めると、クアットロは気絶したヴァッシュをベッドに残したまま、民家を後にした。
工具は元の場所に戻し、『Vash the stampede』のネームシールも、元の位置に張り直してある。
ヴァッシュが目覚めたときのため、少し外に出てくるという置き手紙も残しておいた。
不手際はない。彼はクアットロが自身の首輪で実験をしたなど、露にも思わないことだろう。
――しかし、ここで一つの疑問が残る。
クアットロは首輪の解除に失敗し、ヴァッシュはそのペナルティとして、螺旋王による制裁を受けた。
果たしてその制裁とやらは、本当に所有者を気絶させるだけのものだったのだろうか?
螺旋王は言った。螺旋力なき愚かさを悔いろ、と。
果たして、真に後悔することとなるのは、クアットロか、それともヴァッシュか――
【E-5東部・民家/一日目/昼(放送直前)】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:全身打撲、気絶、???
[装備]:ミリィのスタンガン 残弾8、ナイヴズの銃@トライガン(破損)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]基本:絶対に殺し合いを止めさせるし、誰も殺させない。
1:???
2:C-5に向かい、少女(クアットロ)を攻撃した男を止める。
3:ナイヴズの銃は出来るだけ使いたくない。
4:ランサーが次に会ったときに怒ってたら、とりあえず謝り倒しながら逃げる。
[備考]
※クロの持っていた情報をある程度把握しています(クロの世界、はやてとの約束について)。
※首輪の解除に失敗したため、螺旋王による制裁を受け気絶しました。
詳細は不明ですが、目覚めた後なんらかの後遺症が残る可能性があります(ただし、洗脳などヴァッシュの意識を乗っ取る類のものではありません)。
【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:銃撃を受けた左肩がまともに動かない
[装備]:なし
[道具]:暗視スコープ、支給品一式、ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、不明支給品×0〜1 、首輪(クロ)
[思考]
基本:勝ち残り、ドクターの元へ生きて帰る。その際、螺旋力に関するデータを持ち帰る。
1:苗床(ロイ)の様子を見に戻る。
2:螺旋力について調べる。また、螺旋力や螺旋王を知る人物を捜し情報を入手する。
3:『螺旋の力に目覚めた幼き少女』を捜す。
4:首輪を分解したい。
5:駒(ヴァッシュ)を使って、黒服の男(ウルフウッド)を始末する。
6:善良な人間の中に紛れ込み、扇動してお互いを殺し合わせる
7:出来る限り自分は肉体労働しない。
[備考]
※支給品はすべて把握しています。
※首輪及び螺旋に関する考察は以下のとおり。
・首輪はネジを回すことで解除できる。ネジを回すには、螺旋力が必要。
・死者から採取した首輪でも、上記の条件は適用される(未検証)。
・シルバーカーテンで首輪の爆弾としての機能を停止できるかもしれない(不安材料が多すぎるため未検証)。
・螺旋力とは、殺し合いのような極限の環境下において、誰にでも目覚める可能性があるもの。
・螺旋王の目的は、あくまでも『実験』。殺し合いはそのための手段でしかない。
【首輪について】
銀色のリング。首の後部に二つの小さな溝があり、その間に所有者の名前が刻まれている。
これは実はシールになっており、見ただけではわかりにくいが、よく触ってみると裏に隠れたネジの窪みがわかる。
シールを剥がすとプラスのネジが隠れており、これを回そうとすると螺旋王の音声が響き、所有者に謎の苦痛を与え気絶させる。
クアットロの推理どおり、このネジを回す方法に螺旋力が関係あるかどうかは不明。
また解除に失敗した場合、どういった方法で所有者を気絶させたのかも不明。その後の影響も一切不明。
【ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!】
ガッシュの兄、ゼオンのマント。色は白。
とても高価な魔界の布でできており、胸元のブローチが健在な限り、破損しても自動で修復する。
また、布生地自体が相当な耐久力を持っており、よく伸びる。
訓練し使いこなせるようになれば、自由に操れるようにもなる。飛行も可能。
ガッシュも同じものを持っているが、本人はその性能を知らず、扱い方もまったく知らない。
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
すっっっっげええ下らない議論してましたんで乗っけました
こんなにいちいちぐだぐだ説明しないとわからない奴らも珍しい
220 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/11/13(火) 10:56:04 ID:sHOSO+nF
殺人狂いのみなさんへ
他所でやる考えは無いのですか?
無いだろう
リュシータ・トエル・ウル・ラピュタは逃げていた。
突然に狂乱したマオから逃げていた。
ただ訳も分からず逃げていた。
エドの左手を右手で握りながら逃げることしかできなかった。
永遠とも思えるような距離を、エドと共に走ることしか出来なかった
だが、その永遠とも思えるような距離を走り続けるのに限界がきた。
いくら山育ちで同年齢の少女よりも足腰が強いとはいえ、
両足に蓄積された疲労は彼女に限界を訴えかけるのに充分であり、着込んだ鎧は体力を容易に奪った。
疲労により足を止めたシータは手ごろな電柱に左手を着き、腰を僅かに落としながら無意識的に息を整え始める。
いったい何が起こったのか?
ある程度落着き、冷静になりつつある彼女の頭はそれを考えた。
まず、図書館の手前まで自分とマオはやってきた。そこで放送が起こり自分とマオは彼らの死を悲しんだ。
そこまでは良かった。その後が問題であった。突然現れた子供を見たとたん、マオの様子がおかしくなったのだ。
そうだ。その子供はいったいどうしたのだろうか?
たしか手を握ったままここまで連れてきたはずだ。
シータはそうぼんやりと考えながら背後に振り向く。そこには赤毛の少年がいるはずであった。
「そんな!?」
目を見開き驚く。辺りには少年どころか誰もいなかった。
途中で逸れてしまったのだろうか? それともマオのいる場所に置いてきてしまったのだろうか?
どちらにしても今すぐ探さなければいけない。
あのような子供が観覧車の側で見た亡骸と同じものになってほしくない。
また悲しい思いをしたくない。後悔の念がシータの心に満たされる。
「バァ〜!」
「キャア!?」
が、そんなシータの思いを裏切るかのように、真上から逆さまとなった少年の顔が降ってきた。
予想すらできなかった展開に驚き、シータは思わず尻餅をついてしまう。
見上げると、何時の間にか電柱に片足を引っ掛けながらぶらと振り子のように揺れているエドの姿が見える。
「あ、あぶないから早く降りなさい!」
シータは叫ぶ。片足一本で飛び出ている杭に引っ掛っている体勢は非常に危険に見える。
いや、実際に危険だ。別段高いというわけでもないが、それでも頭を下手にぶつけてしまえば怪我ではすまないかもしれない。
早く降ろさなければ。
「分かった〜」
が、自分の心配など他所に簡単に体勢えお立て直すと、エドは宙返りで電柱から降り、鮮やかに着地した。
まるで猿のようだ。なんとなくではあるが、ただ立っているだけでも猿のようにどこか安定していない。
「ありがとう」
突然ペコリと頭を下げられた。いったい何のことだろうか?
「おねえさん、よく分からないけどあのお兄さんから助けてくれたでしょう」
こちらが疑問に思う前に、にっこりと笑顔で答えを告げられる。
ああ、そうだった。自分はマオに襲われていたこの少年を連れて逃げ出したのだ。
けれど自分は御礼を言われるべき立場ではないと思う。
なぜなら、この子を襲ったマオは自分の仲間なのだから。
「ううん。御礼を言わなきゃいけないのこっち。ありがとうエド」
それに少年を助けて救われたのは自分だ。
なんとなくではあるが、この少年とのやりとりで心が落ち着いた気がする。
この少年を守れて、自分というものを少しだけ取り戻せたような気もする。
この少年の笑顔を見ていると、自分の中にあった黒いものが少しだけ消えたような気がする。
だから助かったのは自分の方だ。自分のことを心配してくれている少年に助けられたのだ。
「んにゃ? よく分かんないからもう一回ありがとう」
再び無邪気に笑う。本当に助けてよかったと思えるような笑みだ。
「フフ」
こちらもにっこりと微笑み返す。
すると少年は笑いながら横に飛び跳ね、半回転してこちらを向く。
「にひ〜」
あいかわらずの無邪気な笑みを浮かべると、後ろへと振り向きそのまま歩みだす。
おそらくは付いて来いということなのだろう。
無論、あの少年と離れるつもりなどない以上は後を追わなければいけない。
だが、ここで一つだけ問題がある。
それはこの鎧を脱ぐべきか着ておくべきかということだ。
着たままであれば襲われても多少の痛みぐらいでなんとかなるかもしれない。
が、それでは足が鈍くなり逃げ切ることは困難だ。
逆に脱げば足は速くなるが、襲われれば自分の体など容易く切り裂かれるだろう。
「おねちゃん、早く早く〜!」
シータはエドに催促されると、考えるのを止める。
鎧のことは歩きながら考えればいい、と結論付けるとエドの後を追う。
幸い、エドの向かおうとしている方向は自分たちが逃げてきた道ではない。
ゆっくり考えればいい。鎧のことも、パズー達のことも、マオの事も、これからの事も。
【A-4/一日目/午前】
【エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労、強い使命感
[装備]:アンディの帽子とスカーフ
[道具]:
[思考]
1:当てもなくどこかにいく(マオがいた方向ではない)
2:アンチシズマ管を探す。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労、迷い、若干自暴自棄、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)
[装備]:日出処の戦士の鎧@王ドロボウJING
[道具]:
[思考]
1:エドに付いて行く
2:マオから離れ、エドを守る
3:マオに激しい疑心
4:重い鎧を脱ごうか、着たままか考えたい。
[備考]
マオの指摘によって、パズーやドーラと再会するのを躊躇しています。
ただし、洗脳されてるわけではありません。強い説得があれば考え直すと思われます。
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※エドのことを男の子だと勘違いしています。
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
また、優勝の特典として「巨万の富」「不老不死」「死者の蘇生」などのありとあらゆる願いを叶えられるという話だが……?
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。【舞台】に挙げられているのと同じ物。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は…書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わないかと。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f3/304c83c193c5ec4e35ed8990495f817f.jpg 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
--------------------------------------------------
まずここから組みなおそうぜ
全削除でいいお
「すまナい……」
商店街、布団屋の裏庭。そこに、4つの土饅頭の前に立つ鎧姿の異形がいた。
「おマエを助けるドころカ……こんナコとになってしまッタ……」
異形は、黒い鎧に身を包み、灰色の皮膚を持つ。右腕は全て金属の鱗に包まれており、目じりや
他の部分にも所々鱗が生え、目はまるで爬虫類の如く釣り上がり、真っ赤に染まっている。
鎧は、つい先ほどまで自らの意思で歩き回っていた大鎧を、漆黒に染めて平均的な成人男性の
体格にあわせたような物で、所々から銀色の鱗が生えている。
けして、大柄とは言えないその異形は、しかしその見た目に似合わぬ怪力で大きな木を小脇に
軽々と抱え、鋭く尖った刃と化した右腕の手甲部を用いてそれを削り続けていた。
この男、ロイ・マスタング。かつて失った親友、マーズ・ヒューズの名前をこのゲームの名簿で
見つけ、彼を守りたい一心で再び修羅と化す事を決意し、戦いの中でその手を血に染め、
子供を焼き、サイボーグを焼き、その身を異形と化してまでも戦い抜いて、遂に友と出会い――
そして、殺した男。
その男、ロイ・マスタングは、やがて木を削り終えると、友とその仲間達であろう人間が眠る
土饅頭へと突き刺し始めた。
一つ目に刻まれた名は、『アルフォンス・エルリック』。彼が今着込んでいる鎧に宿っていた魂、
かつて禁忌の人体練成によってその体を失い、僅かに血印によってかりそめの肉体へと魂を
縛り付けていた、少年。
彼の墓に、骨は無い。あるのは、ただ僅かに彼の持っていた荷物と彼の現在の顔とも言える兜、
そして、彼が確かに『そこ』に居た証である……破れた血印のみ。
二つ目に刻まれた文字は、『無名少女の墓』。泉こなたという名のこの少女を、ロイは知らない。
しかし、マーズ・ヒューズの性格を考えれば、ロイにも大体察しはついた。
きっと、マーズ・ヒューズは彼女とこの惨劇のゲームの中で出会い、今までアルフォンスと共に
守り抜いてきた……そのような所であろうと。
だが、運命は残酷であった。親友が守ろうとした彼女は、ロイ自身の手にかかり、今は冷たい
土の中で静かに眠り続けている。
三つ目に刻まれた名は、『マーズ・ヒューズ』。彼、ロイ・マスタングの親友。どこまでも親バカな
男で、公衆の面前で愛娘の特大写真の前に立ってノロけ話をした上、倒れてきた写真の下敷き
になって笑われるような、気楽で……優しい男。
彼、ロイ・マスタングが殺し合いのゲームに乗った理由となった人物であり、命を懸けても守らんと
した人物であり……
そして、彼自身が手にかけた人物でもある。
異形は、三つの木材を墓に差し終えると、最後の一柱に向けて刃を向け、そして一秒、呼吸を
止めた後、未だ何も記されていないその木肌に、一気に文字を彫り込んだ。
『世にも無能で愚かな男 ロイ・マスタング ここに眠る』
「私は……死ンダ」
無機質な声で呟くロイ。彫り終えたその一柱を右手で高く掲げた後、一気に最後の土饅頭へと
突き刺した。
「今ノ私は悪魔の錬金術師。悪魔軍人デビルマスタング……」
彼は、突き刺さった墓の、ロイ・マスタングの文字を見つめると、最後にそれだけ吐き捨てて歩き出した。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
彼は、親友を殺した時から考えていた。考え続けていた。いっそ、この身を川に投げてしまった方が、
どれだけ楽なことか……と。
しかし、彼の野心は、それを許さなかった。彼には、やらなければならない事が多すぎたからだ。
この陰惨なゲームを開催した螺旋王。彼は、どんな手段を用いたのかは知らないが、死人を蘇生させていた。
それは、ロイ自身がマーズ・ヒューズという例を間近で見ているから間違いない。
錬金術をも軽く上回り、魔法や、ファンタジーと呼んでも差し支えないような絶大なその力が……
禁忌と呼ばれ、一例の成功例も見ない死者の人体練成にも等しいことを、やってのけるそのその力が……
欲しい。これが今の彼の『野望』だった。優勝して力を願い、叶うものなら力をもらう。
もし、それが駄目だと言うのなら……螺旋王を殺してでも奪い取るまで。
「私に取り付いテイルこの金属片……。何かハ知らんが、宿主に絶大な力をモタラすらしいな」
歩きながら、右手につけた鎧の手と、その下にはめた発火布の手袋を脱ぎ、自らの手を見回す異形。その
右手では、銀色の鱗が蠢き、犇めき合っている。しかし、痛みは感じないし、何よりある程度は意のままに
操れるようであったのだ。
その力を、彼はもう体験済みである。散らばったアルフォンスの鎧をかき集め、錬金術も使わずに取り込み、
再構成して漆黒の鎧に仕立て上げたり、ボロボロであった制服にも侵食し、真紅に染まったギザギザの、
丈の長い服として仕立て直したり、あっという間に鎧の手甲の部分を錬成陣も描かずに刃へと変えて見せたり、
その力は、神か、悪魔の業としか思えないほどであった。
また、それ以外にも生命力を増幅させる効果でもあるのか、傷つき、今にも息絶えそうだったロイの体は、
見る間に回復していき、銀色の鱗こそ付いたものの、今では以前よりもずっと力強く、ずっと早く動けるように
なっていたのである。
「そシテ……取り込んだモノ、取り付イタ物の力を模倣シ……『進化』スル……」
ゆっくりと手袋と鎧をはめなおし……次の瞬間、鎧の指同士を激しくこすり合わせるロイ。同時に、可燃物を
着弾地点に練成、大気中の酸素濃度を調節しておく。
すると、まるで発火布の手袋で着火した時と同じように火花が走り、爆発が起こる。
……これは、DG細胞が宿主であるロイに『適応』し、発火布の組成を『模倣』して『進化』し、まるで発火布の
手袋そのものの様に、鎧の指先部分のDG細胞だけを変化させたものだ。
ロイは思う。もし、この金属片の侵食能力を利用して、螺旋王を自らの支配下に置くか、その能力を手に
入れることが出来たら……と。
もし、そうなればこのゲームを破壊することはおろか、いかなる攻撃からも身を守る程の防御能力、いかなる
参加者にも気づかれずに首輪を嵌めて見せるだけの隠密行動性、その他、死者蘇生を含めてまるで夢の
様な数々の能力を駆使し……国に、いや、世界に大革変を起こすことも可能になるはずだ。自らが大総統に
就任するよりも、迅速、且つ、確実に。
「手段ハ……選ばナイ……!」
その野望の為、手段は選ばない。確かに、ロイはロイ・マスタングであった頃よりも遥かに強靭になり、様々な
物質に対してDG細胞を通じ働きかけることが可能になった。しかし、恐らくそれだけでは螺旋王に対抗する事
は不可能だろう、とロイは考える。この、残酷なゲームの場でロイの体に入った以上、これは誰かの支給品で
ある、と考えていたからだ。それならば、螺旋王はこの金属片と同化しただけの参加者が自分に歯向かって
来ても問題ないと考えているのだろう。不思議な力を手に入れた参加者が、螺旋王に歯向かう可能性はある
筈であり、首輪や監視、迎撃体制の構築などなどの対策を施しているはずだから。
だから、もっと『進化』する。……具体的に言えば、この悪趣味なゲームに参加している参加者達を取り込んで
『進化』するのだ。……それこそ、螺旋王ですら想像だにしえない、『化け物』へと……。
理想の為に軍へと入り、理想の為に狗と呼ばれようとも戦い続けてきた男は、理想のゆえに……
人間を、止めた。
【F-5/商店街・布団屋から徒歩3分くらい/1日目-昼(放送直前)】
【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師】
[状態]:デビルマスタング状態、以前よりも身体能力が向上。
健康(?)、DG細胞の意識支配率…およそ5%
[装備]:アルの鎧(DG細胞寄生、黒い色)、制服(DG細胞寄生、赤い色)、
ロイの発火布の手袋@鋼の錬金術師
[道具]:デイバッグ(×1)、支給品一式(×4、-ランタン×1)、ジャガイモカレー(大)、マチェット
[思考]
基本思考:優勝して願うか、螺旋王を殺して吸収し螺旋王の能力(死者蘇生や戦闘能力など)を
手に入れて現実へ帰還。その力を持って世界に大変革を齎して、新世界の神になる。
1:参加者は、発見しだい半殺しにして取り込む。そして力を吸い尽くし次第捨てていく。
2:どんどん力を吸って、自らを螺旋王に対抗しうるだけの力を持つ生物へ『自己進化』させる。
3:もう迷わない。迷いたくない。
4:リザ・ホークアイに出会った時の対応は考えたくない。
※DG細胞は全身に行き渡りました
※強い精神力で、DG細胞をある程度支配しています。
※精神的にダメージを受けているので、DG細胞による意識支配への抵抗力が多少低下。
精神的なダメージをさらに受けて侵食が進むと「人間を絶滅させたくなる」や、「自我を失い
暴走する」などといった症状が現れる可能性があります。
※布団屋の裏庭に、ヒューズ、こなた、アルの血印が埋葬され、以下の支給品が共に埋もれています。
デイバッグ(×3)、S&W M38(弾数1/5)、S&W M38の予備弾数20発、エンフィールドNO.2(弾数5/6)、
短剣×12本、単眼鏡、水鉄砲、銀玉鉄砲(銀玉×60発)、チェーンソー
※S&W M38(弾数1/5)は埋まったマース・ヒューズの手に握られています
あぼーん
あぼーん
あぼーん
なに下らないことをはなしとるんだい
1のアーカード的な立場になるだろう強マーダーが
ほとんどオリキャラで厨設定なのはどうなんだろ?
って事だな
「うーん、結構移動したはずなのに……誰も居ないね」
海上に造られたE-3の高速道路の上で時空管理局、機動六課のエース『高町なのは』一等空尉は背伸びをしていた。
周囲を見回しても延々と道路が続くだけで人っ子一人見当たらない。
彼女の首にかけられたデバイスが声を発する。
『……マスター、前方に何かあります。行ってみてはどうでしょうか?』
「そうだね。じゃあそろそろ休憩は終わり。行ってみようか」
そういって『高町なのは』は駆け出した。
陸士として鍛えられた彼女はフォワードとしてローラーブーツで走る仲間や
竜種に乗る仲間と共に行動できる程の速度を維持し、走り続けなければならない。
故にその脚力は常人の比ではなかった。
すでに一時間近く走り続けた後だというのその姿に疲労の色はない。
そして自分の力によほど自信があるのか、
その走る姿はこの殺し合いという場にそぐわない程、無用心であり、また堂々としていた。
彼女の首にかけられたデバイスは思う。
主は何故矛盾に気付けないのかと。
空士である『高町なのは』が何故地面を走る必要があるのかと。
そう、これはすべて幻想。
『高町なのは』などこの場にはいなかった。
居たのは目の前で仲間を失い、心を病んでしまった少女が一人。
辛うじて動いている壊れかけの少女。
彼女の精神は『高町なのは』という殻を被る事で辛うじて人としての理性を保っていた。
螺旋博物館に近付けたくないデバイスの誘導と
無意識のうちに仲間が死んだ場所を避ける彼女。
気付くと彼女達は海上の人となっていた。
◆◇◆◇◆
「これ、何かな?」
道路上にそびえ立つソレを見て、思わず『なのは』は呟く。
見上げると眼前には巨大な人型(?)のような塔が建っていた。
それは文鎮というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして意味不明だった。
だからそれが何なのか、『なのは』には理解できなかった。
「何だと思う、クロスミラージュ?」
『なんらかの墓標ではないかと推測します』
「……そう、かもね」
ちらりと脇に置かれた少年の死体を見て『なのは』はそう呟く。
周りは酷い状況だった。
何かが爆発したのか道路の中心部は抉れ、その衝撃で壁が吹き飛んでいた。
その近くには延焼したバイクの残骸と、炭化した少年の死体がただ静かに眠っている。
周囲を見回すだけでここで起こった戦闘の凄まじさが判る。
『なのは』は少年の前に立つと胸に手を当て静かに黙祷する。
少年が殺し合いの被害者なのか加害者なのかは彼女には判らなかったが、
それでも自分が間に合えば保護出来たのにと『なのは』は唇を噛む。
「ごめんね、助けてあげられなくて……」
短い黙祷を終えると強い意志を込めて正面に立つ謎のモニュメントを見上げる。
「向こう側にも誰か居るかもしれないよね」
『どうしますか?』
「そうだね……こうしよう!」
そう言って『なのは』は魔法を使った、使う魔法はアンカーショット。
黄の魔方陣から魔力で編まれたアンカーが飛び出し謎のモニュメント――瀬戸の文鎮の頂上付近に突き刺さる。
次の瞬間にはアンカーの吸引力で『なのは』は空中に身を踊らせていた。
頂上付近でアンカーを解除、軽く体勢を整え危なげなく瀬戸の文鎮の上に着地してみせた。
そして、思わず歓声をあげる。
「綺麗だね……。殺し合いが起こってるなんて信じられないぐらい……」
頂上から見下ろす世界は美しかった。
太陽の光を反射し青く輝く海と波、遥か遠くに見える緑萌ゆる山々。
遠くには観覧車まで見えた。
『なのは』はしばらくその光景に目を奪われていた。
その時、クロスミラージュが警告を発した。
『マスター! 前方に人影が』
「……あ、うん。多分参加者だよね」
景色に見とれていた『なのは』が慌てて前を見ると、
まだかなり距離が開いているが確かにこちらへと向かってくる人影が見えた。
「……そうだね、とりあえずお話してみよう」
『なのは』はそういうと無造作にトンと軽く、立っていた瀬戸の文鎮を蹴ると地面に向かって飛び降りた。
急降下で風が体を吹き抜けていく。
目を細めながら『なのは』はタイミングを計る。
(今だ!)
地面にぶつかる寸前に浮遊魔法を発動し落下の衝撃を相殺しゆっくりと地面に足をつける。
前を見ると一人の男がこちらに走ってくるのが見えた。
『なのは』は多少の警戒と共に男を観察する。
ただ遠目から分かったのは男が青い髪をしている事、V字のサングラスをかけている事、
何故か上半身裸だという事……それだけだった。
青い髪を見て一瞬スバルの事を思い出し、『なのは』の頭に僅かに痛みが走る。
(……スバルは大丈夫。だって『私』に助けられ無いものなんてないんだから)
痛む頭を押さえながらふらふらと男に近づと、男も気付いたのかこちらに顔を向けた。
その瞬間、何故か男は目を剥くと突然速度を上げて近寄ってきた。
「おうおうおうおうおうおうっ! そこのお前! その服、てめえがさっき言ってた奴の仲間だな!」
「……服? なんの事、かな?」
その言葉に『なのは』は内心ギクリとした。
思わず自分の服装を見直すが……おかしな所なんて何処にも無い。
茶色の機動六課の制服を着た自分の姿があるだけ。
血塗れの制服なんてあるはずが無かった。
しかし男は更に声を荒げた。
「なめんなよ! てめえらの姑息な企みなんざ、俺にはお見通しなんだよ!
例え天が許そうと大グレン団の鬼リーダー、このカミナ様が許さねえ!!」
何処と無く芝居がかった口調で男は見得を切る。
「というわけで、覚悟しやがれ!」
という訳といわれても『なのは』には訳が分からなかった。
『なのは』は慌てて手を振りこちらに敵意がないことを示しながら話しかける。
「ちょ、ちょっと待って、話を聞いて!」
「問答無用っ! てめえらはこの俺がぶっ潰す!」
そういいながらカミナと名乗った男は大剣を掲げ、一気に距離を詰めた。
その速度は思わず『なのは』が目を見張るほどだった。
「うりゃあああ!!」
「くっ!」
振り下ろされた剣の速度もその大きさにしては異常、『なのは』の想像を遥かに越えていた。
『なのは』の前髪を鉄板のような剣の腹が撫でる。
咄嗟に後ろに跳び辛うじて避けたが、あと少しで当たっていた。
そして――そう、剣の腹。
『なのは』を殺す気はないのかカミナは刃を向けないが、
あれだけの速度でこれほどの鉄塊を叩きつけられたら幾ら『なのは』でもただではすまないだろう。
避けたときに巻き起こった剣風に怯みながらも『なのは』は冷静に最善手を選ぶ。
「クロスミラージュ・セットアップ!」
『Standby ready』
後方に跳びながらデバイスを起動する。
(デバイスを使わなきゃ多分勝てるない……
『私』の目的は殺す事じゃなくって相手の保護、それが出来ない場合は無力化して拘束。
それが勝利条件なんだ)
そこまで一瞬で考えた『なのは』だったが彼女の銃に対するトラウマは重かった。
銃形態となったクロスミラージュを前にすると、それだけで硬直して腕が動かなくなってしまう。
(大丈夫。『私』なら、『高町なのは』なら――こんなの何でもない!)
内心そう呟き辛うじて『なのは』は精神を安定させ、トラウマを押さえ込む。
何度も何度も呪文のようにそう念じるとようやく腕が動いた。
熱い物に触れる様にゆっくりと、クロスミラージュに手を伸ばし……掴む。
「っ!!」
その感触に思わず『なのは』は吐き気を覚える。
だが『なのは』は必死にクロスミラージュを構えるとバリアジャケットを展開していく。
その身を包むは白と青
胸元には赤リボン
髪を結ぶは白リボン
それはエース・オブ・エースと言われた『高町なのは』のバリアジャケットだった。
「な、なんだぁぁぁ!?」
『なのは』が突然光って変身したことに驚いたのか、カミナが声をあげる。
無理矢理押さえつけたトラウマの反動で止まない頭痛と吐き気に襲われながらも
『なのは』はその隙にカートリッジをロードした。
薬莢が弾き出されると共に膨れ上がる魔力を制御し、流れるような速さで魔法を完成させるが
トリガーに指を置こうとした瞬間、『なのは』は動けなくなった。
「うっ……」
胸から血の花を咲かせるキャロの姿が脳裏に浮かび
その瞬間、一際強烈な吐き気が彼女を襲う。そしてついには足まで震え始めた。
(違う、『私』なら、もうあんな事にはならない……!
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!)
震えながら銃を構える『なのは』を見て思わずカミナは攻撃の手を止める。
「な、なんだぁ? おい、もしかして震えてんのか?」
その台詞に『なのは』の頭に血が昇る。
「違うっ!! 『私』はっ! 『私』は震えたりしないっ!!」
『なのは』はヒステリックにそう叫ぶと、銃口をカミナへと向けた。
あまりの怒りにトラウマを忘れ、指は自然にトリガーへと伸びる。
「ちっ、なんだかよくわかんねえ奴だな」
カミナがそんな事をぼやくと同時に『なのは』が動く。
「ヴァリアブル・シュート!」
「でもな、そんなモンに当たる俺じゃあねえぜ! どりゃあ!」
照準も定まらず放たれた魔力弾は本当にあっさりと避けられてしまう。
だが――
「クロスミラージュ……お願い!」『了解』
クロスミラージュの援護を受け、『なのは』は魔力弾を操作する。
狙うはカミナの後頭部。後方で反転させ、死角へと魔力弾を跳ね返す。
『なのは』の操作通りに魔力弾は急旋回し、カミナに命中する直前――
「うおっ!?」
動物的直感でそれに気付いたカミナは、それを紙一重で避ける。
魔力弾はただ地面を抉っただけで消失してしまったが、それすらも『なのは』の策の内だった。
無理な体勢で避けたカミナはバランスを崩し、つんのめる。
「おっと……って、なんだこりゃあ!?」
その瞬間を狙い、『なのは』はフープバインド――拘束の魔法でカミナの体を縛った。
「ぬ、くそ! 取れねえ!」
「捕まえた……うっ、く……クロスミラージュ、モードリリース」
『……了解』
ふらつきながら『なのは』はクロスミラージュを待機状態に戻す。
激怒のあまりトリガーを引けたが、その怒りが収まると急速に吐き気が『なのは』を襲う。
銃形態のクロスミラージュを最早持っていられなかった。
「……すぅ……はぁ……」
大きく息を吸い、吐く。
しばらくそうして呼吸を落ち着けるとようやく『なのは』は口を開いた。
「……いきなり斬りかかって来るなんて、なんでそんな危ない事をするの?
それじゃあ、螺旋王の思う壺じゃない」
なのはの口調で。なのはのように。
(そうだ、そしてきっと『私』はこう言うんだ)
「 少 し …… 頭、 冷 や そ う か …… 」
◆◇◆◇◆
カミナはなんとか体を縛る光る輪から抜け出そうと足掻いていたが、
卑怯な罠で人を集めて狩ろうという外道に説教されて、思わずかっとした。
「あん!? なに言ってやがる、てめえらがまず頭冷や――」
そこでカミナの言葉が止まる。カミナは気付いてしまった……女の、瞳の、奥の……闇に。
(なんだこいつ、まるで穴倉の底みてえな目ぇしやがって)
感情の見えない空虚な眼差し、カミナはその奥に得体の知れない闇を見たような気がした。
気付くと背筋に冷たいものが走っていた。滲み出す汗に肌が寒気を覚えたのだ。
知らずカミナの心臓は早鐘のように激しく脈打ち、汗が額を伝うのを感じる。
ヨーコやシモンを探してずっと走り続けていたから仕方ないと自身をごまかすが、
それが間違いである事は自覚していた。真実は目の前にある。
すなわち――
「う、うおおおおおおおお!! くそ! こんな所でもたついてられるか!」
一瞬でも怯んだ事を恥じてカミナは突発的に叫ぶが鼓動は静まらない。
(ちくしょう、俺はこんなもんなのか?)
力を込めてもがくが体を縛る光る輪っかは緩みもしない。
あまりの頑丈さに彼の脳裏に諦めが浮かびかけた――その時
――ザクザクザク――
穴を掘る音が聞こえた……ような気がした。
思わず地面を見るがそんな音はしていない。
だが、どこからか聞こえるこの穴掘りの音は……
――ザクザクザク――
これはシモンだ。
どんな時でも最後まで諦めなかった自慢のダチ公の穴掘りの音だ。
理由もなしにカミナはそう確信した。
(――そうだ。最後まで諦めねえ。それが俺たち大グレン団だ! そうだよなシモン!)
カミナは顔を上げ、再び気合を入れると、今度は光る輪っかを引き千切ろうと力を込めた。
自身の気合を、進む道を、ダチ公を信じて。
「こんな所で、やられるわけにはいかねえんだよ!!!」
いつの間にか、早鐘のように鳴っていた心臓は静まり、変わりにカミナの瞳から強い螺旋(いし)の光が閃く。
◆◇◆◇◆
叫びながら、もがき続けるカミナを見つめながら
『なのは』はゆっくりと空中に多数の魔力球を作り出していた。
生み出すのは彼女の脳裏に刻み込まれたある魔法。
(大丈夫……『私』になら出来るはず)
多数の魔力球を精製・制御し一点に集め散弾ではなく砲弾としそれを一気に放つ。
―― 良く見ておきなさい ――
脳裏に声が響く。
よく知っているはずの声なのだが、今の彼女にはそれが誰の声だったのか理解できない。
でも、それでもその声の教えは覚えている。
言われた事、戦い方、優しいその人の怖い魔法。
かつて彼女が恐怖と共に目に焼きつけた忘れがたい魔法。
その必殺の魔法の名前は――
「クロスファイア……シュート!!」
『なのは』は魔法を撃ちだす!
会心の出来だった。
魔方陣から生み出された一陣の閃光は外すことなくカミナを捉え、盛大に炸裂した。
「ぐああああああああ!!」
爆音と共にカミナの絶叫が周囲に響く。
渦巻く爆煙を見ながら『なのは』の口から言葉が漏れる。
「……やった」
巻き起こった爆煙のせいでカミナの姿は確認出来なかったが『なのは』は魔法の手ごたえで勝利を確信していた。
ゆっくりと腕を下ろし乱れた呼吸を整える。
……その顔に浮かぶのは歓喜と悲哀。
泣き笑いのような歪んだ表情をしながら『なのは』の口から意識せず言葉がもれる。
「……出来た。あの時『私』が撃ったクロスファイアのバリエーション……」
そして震える体を腕で抱えながらうわ言の様にただただ呟く。
「やっぱり『私』なら……『私』だったらこんな殺し合いだってどうにか出来るんだ……
『私』ならもう無くしたりしない……『私』なら『私』なら『私』なら……」
『マスター……』
クロスミラージュが哀しげに呟く。
この結果が彼女自身の努力の成果だという事を彼は知っていた。
高町なのはの長く厳しい特訓を耐え切った今の主だからこそ出来た事。
ただそれだけの事実。
高町なのはの戦い方を真似ているつもりのようだが、その実ほとんどは主自身が習得した戦闘方法だった。
だから言った。彼女のデバイスとして言わずにはいられなかった。
『これはマスターの努力の成果です、あなたが強くなられたのです』
その言葉に『なのは』はしばらくきょとんとすると突然笑いだした。その表情を歪ませたままで。
「は、あはははははははは! 何を言ってるのか判らないよ、クロスミラージュ。
これぐらい『私』にはもともと出来た事だよ?」
『正気に戻ってくださいマスター』
悲痛なデバイスの声は今の彼女には――届かなかった。
だが――
無理を通して道理を蹴っ飛ばす
絶望すら吹き飛ばすそんな力がこの場には存在していた。
「まだだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声と同時に未だ立ち込める爆煙が切り払われる。
現れたのはカミナ。
――そのサングラスは何処かに吹き飛び、
サラシもボロボロ、見るからに満身創痍だったがそれでも剣を握り立っていた。
「なっ!?」
その姿を見て『なのは』は驚愕した。
バインドが解けている事より、倒れていなかった事より、
なによりも露になったカミナの瞳の奥に、吸い込まれそうな不思議な輝きを見つけて。
「へっ! この程度、痛くも痒くもねえ! 俺を誰だと思っていやがるっ!!」
ダメージを受けているのはその姿を見れば一目瞭然だった。
それでも意地を通す男の姿に『なのは』は迎撃を忘れ、ぽかんとそれを見つめ続けていた。
……それはあるいは羨望だったのかもしれない。
自分が見失い、あるいは無くしてしまった筈の輝きを、目の前の男は激しく見せ付けてくる。
今の『なのは』には――それは眩しすぎた。
「あんた、何っ! 何なのよっ!!」
思わず『なのは』は叫んだ。
じっと男の瞳を見ていると不安になるから。
自身の殻が破れそうになるから。
「そうと聞かれりゃ答ねえわけにはいかねえな! 耳の穴かっぽじってよ〜く聞いとけよ!」
そんな『なのは』の変化も何処吹く風、カミナは右手の人差し指を高らかに太陽に向けると大見得を切った。
「真っ赤な太陽この手で掴みゃ、凄く熱いが我慢するっ!
意地が支えの男道、大グレン団のカミナ様たぁ、俺のことだっ!!」
『なのは』の目にはいつの間にかカミナ以外見えなくなっていた。
そして太陽の下で輝くカミナを見つめているうちに『なのは』は唐突に思う。
(ああ、この人は、あの人に似ているんだ)
姿かたちではない、何処までも諦めない不屈の心を胸に秘めた所が。
どんな逆境でも怯まず立ち向かう……そうレイジングハートを持つあの人に。
―― 苦しかったんだよね、ごめんね ――
記憶から 思い出が甦る
胸に響いた この言葉は
(……覚えてる。これ、『私』の言葉だ。『私』が誰かに……違うっ!!
『私』が言った言葉じゃない、これは……これは!)
―― 今日も頑張ろう、ティアナ ――
脳裏に 笑顔が広がる
それは それが 高町なのはさん
そして、彼女はようやく気付けた。
「私は……なのはさんじゃ、なかったんだ……」
『マスター……!?』
それはどんな奇跡か。
デバイスが幾度言葉を繰り返しても払われなかった彼女の幻想は
たった一人の男の一度の大見栄で吹き飛ばされてしまった。
「クロス、ミラージュ……私は――」
しかし彼女の言葉はそこで途切れる。
何故ならばその瞬間、動かない彼女に接近したカミナが剣の腹をぶち当てたからだ。
「……はがっ」
「くらえ、必殺! 男の魂 完全燃焼ぉ!」
衝撃でカミナの左肩の傷が広がり、血が飛び散るが
――まるで痛みを感じてないように、カミナはそれを振り抜いた。
「場外ホームラン、アターーーーーーーック!!!」
「―――っ!!」
彼女は空中を吹っ飛びながら思う。刹那の間に。
―― ああ、そうだ。なのはさんならこういうふうに空を飛べたはず……馬鹿だ、私は馬鹿 ――
5、6メートルほど吹っ飛んだ彼女は地面にぶつかっても止まらず、
ボールのようにゴロゴロと地面を転がった。
そして巨大文鎮にぶつかりようやく止まる。
その時にはもう彼女に意識は無かった。
「っっっぅう!!!」
カミナは痛む左肩を押さえて呻く。
力ずくでバインドを引き千切ったり、思いっきり彼女を打ち飛ばしたりと
とんでもない無茶をしたせいか左肩からは凄まじい激痛が襲ってくる。
この傷ではしばらくは左腕は使えないだろう。
「ちっ……この俺とした事が少し手こずっちまった……なっ――!?」
カミナはぼやいてる途中で気付いた……彼女の姿が変わっている事に。
カミナの一撃で彼女が被っていた『高町なのは』という殻は完全にやぶれ、真実の姿が現れていた。
心弱き少女、血塗れの制服を着たティアナ・ランスターの姿がそこにはあった。
「――んだ、なんだ? 今度は顔まで変わりやがった!?」
◆◇◆◇◆
女が完全に気絶している事を確認してカミナはようやくその場に座り込んだ。
「体がだりぃ……そのわりには肩以外に傷はないし……なんだったんださっきの攻撃は?」
わかんねえ、そう呟きながらカミナは考える。
正直、体がだるくて眠ってしまいたい所だがヨーコやシモンを探すまで眠るわけにはいかなかった。
とはいえ、そうなると当面の問題は目の前の女だ。
変な光る攻撃もそうだが、人を集めて殺しまくってる奴の仲間にしては、どうにもこの女はおかしい。
銃を向けて震えるわ、ぶつぶつ一人で喋ってるわ、ぼけっとつっ立ってるわ
とても外道な罠を張れるような人間には見えなかった。
「うーむ、やっぱ俺にはわからねえ。……しかしどうっすかな。
もう縛れるような物もないし。ここに置いといたらなんか殺されそうだしなぁ……」
カミナは頭をかきながらついついひとりごちる。
一人で居る事に慣れてないのだ。
『殺し合いに乗っていないならば、少し話をしませんか』
「……あん?」
唐突に声をかけられ思わず間抜けな返事をしてしまう。
カミナは慌てて辺りを見回すが周囲には倒れた女以外は誰も居ない。
「おうおうおう! 何処にいやがる!?」
『ここです、貴方の足元です』
「足元ぉ?」
カミナが足元を見るとそこにはただ板のようなモノがあるだけで
人っ子一人、もしくは小型ガンメンモドキ一体もいなかった。
「誰もいねえじゃねーか、隠れてないで――」
そこまで言った瞬間、その板が点滅して喋りだした。
『初めまして』
「――うおっ!? 板が喋ったぁ!?」
【E-3海上/高速道路上/1日目/昼】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:気絶、精神異常、全身打撲、肋骨数本骨折、血塗れ、体力小消耗、精神力中消耗
[装備]:クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:3/4)
[道具]:なし
[思考]
基本思考:???
1:もう『高町なのは』ではいられない
2:機動六課メンバー以外の人間は敵だ
3:11:00までにはD-4駅に戻る?
[備考]
※キャロ殺害の真犯人はジェット、帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。
これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。
この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。
※冷静さを多少欠けていますが、戦闘を行うことは十分可能なようです。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っています、無理に銃を使おうとすると眩暈・吐き気・偏頭痛が襲います。
※カミナの影響で自分が『高町なのは』であるという幻想はぶっ壊されました。
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:魔力ダメージによる精神力大消耗
体力大消耗・左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る )マントを脱いでいる
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
[道具]:支給品一式、ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!(?) 、ゲイボルク@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。
1:なんだこの喋る板?
2:ヨーコと一刻も早く合流したい
3:ヴィラルを逃がした事に苛立ち
3:グレンとラガンは誰が持ってんだ?
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
[備考]
※グレンとラガンも支給品として誰かに支給されているのではないかと思っています。
※ビクトリームをガンメンに似た何かだと認識しています。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※1/4メロンは海に出た際、落っことしました。どこかに流れ着いても、さぞかし塩辛いことでしょう。
※向岸流で流れ着いたメロンが6個、F-1の海岸線に放置されています。
※シモン死に対しては半信半疑の状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、機動六課メンバーを危険人物と認識しています。
……ウチが初めてなつきと会うた時の話どすか? そうどすなぁ。
あれはまだウチが中等部3年で、あの子が中等部1年の頃どした。
意地っ張りな目が印象的で、せやけど……その刃物のような切れ味を持った瞳の奥に、薄っすらと悲しさが見えましてん。
その視線がウチの琴線に触れたんか、気がつけば何かと理由を託けて会うようになりまして。
最初のころは中々懐いてくれあらへんかったけど、
あれこれちょっかい出してるうちに、少しづつ心を開いてくれはるようになって……。
ほんで、どれくらいちょっかいを出したかわからん位になったある日、向こうが言ってくれはったんどす。
「どうして私に構うのか? 」と。もう嬉しゅうて嬉しゅうて思わず抱きしめましてん。
思わず「なつきの事が好きだから」と返したのをよぉ覚えとります。
……ええ、本当に優しい子どすえ。付き合うて増々そう感じるようになりましたなぁ。
本当は繊細な感情とおなごらしい趣味も持ち合わせてはる、可愛えらしい普通の女の子。
ああ見えて、下着に凝ってはったり、ぬいぐるみやらピンクのふわふわしたワンピースやらが好きやったり……。
だが、それがええんどすわぁ。ウチはそんな彼女に惚れましてん。
昔の諺で例えるなら『目に入れても痛くないほど何とやら』どすな。
生涯を掛けてでも大事にしたい……なつきはそんな想い人どす――――
(風華学園新聞 インタビュー記事 没原稿より一部抜粋 詳細不明)
■ ■ ■
やぁ! 全国の3000人を超える私のファンのチビッ子達。
いつも応援ありがとう。華麗なるビクトリーム様だ。
皆のベリーメロンな気持ちのパワーのおかげか、今日も私は元気でやってるぞオィ!
んん? 今ここで何をしているのかって? 決まってるだろォ。
グラサン・ジャックと決別した私の目の前に、突然現れた謎の女を冷静に慰めてやってるのさァ!
いやァ実に大変だった。彼女がど・う・し・て・も私の体とヒストリーに興味を持ってしまったようでねぇ。
最も、私も彼女の『世界』とやらにィいささかの興味を湧いちまったので聞いてやったのだがね。
おかげで予想のV、いや倍以上の時間がかかってしまった。
まぁ一番大変だったのは、矢継ぎ早の言葉で彼女を落ち着かせる事だったのだがな。
何かあるとすぐ私の顔を……あ、いやいや今のは忘れてくれ。
ともかく、私は彼女とF−1の海でデートをしている真っ最中なのだよ。
目的は美しき我が体。これがなければ彼女を抱きしめてあげることも出来ないからな。
だから急いで当初から来た道を戻ろうってわけだ。
「……本当にさっきの海岸付近に上陸したんどすか?」
「はい」
「それまでこの海の上を浮いてきたと」
「そうです」
「もう一度確認しはすけんど、その前にいた場所は本当にここ……D-8どすか?」
「多分」
「まぁ試す価値はありますなぁ。ビクトリームはん、ほなこのままどんどん進んでおくれやす」
「『華麗なる』をつけろォィこのデコスケ野郎ォ! 」
「……何か? 」
「……ぐぬぬ、申し訳ありませェん。まァた頭に血が登ってしまったようです。
しっかりつかまっててくださァい。全速力で進ませていただきまァす」
「おおきに」
ってブルァァァァァァなに敬語で寒い建て前を喋っちゃってんだ私はァァァァァァァァ!!
ふざけんじゃねぇぇぇぞこのアマァァ!! 何が『おおきに』だコンチクショォォォ!!
ここに来るまでに文句言う度に踏んづけたりつねったり鞭みたいな剣で縛ったりしやがってェェェ!
恐怖のあまり、すっかり敬語になっちまったじゃねェェかアィ! 素晴らしいニックネームを付ける気もおこらん!
くぅ〜保身の為に言う事を聞き過ぎたのが仇になったか。洗いざらい身の上話もしてやったのにこれだ。
いくら私の体が頑丈だからとはいえ、頭部ダメージはとっくに150を超えとるわァ!
お前なんか私が本気を出せばマグルガ100発で即お陀仏なんじゃい!
体さえ手に入ればコッチのものだというのに……ちくしょう! ちくしょォォォ!!
「いやぁ〜ビクトリームはんもこの名簿に載ってはるということは、首輪が無いはずがないんやろけど……
本当の本当に手とか足首にも無いんどすか? あれがないと禁止エリアの意味が無うなってしまうような気がしますけどなぁ」
「無いもんは無いっつってんだろこのア……いや藤乃『様』。私もあなたから話を聞くまで何から何までサッパリだったのです」
「支給品はともかく、名簿も見てないのは頂けませんえ」
「地図は確認していたのだから別に良いではありませんか」
「せやけどなぁ……」
うゥゥるせェェ偉そうによォォォォー……っといかんいかん。あんまり怒っては体に悪い。
ともかく、私とこの藤乃静留というアマの2人旅は出会ってからかれこれ2、3時間以上経っている。
結構沖合いまで来たのだが、いかんせん最初に見た海の眺めのアングルが見つからない。
アマ曰く、特定のエリアだけに起こる現象なのかどうかを調査するために、出来る限り前と同じようにやって欲しいとのことだ。
ぐぬぬ……そんなに知りたいのなら自分で泳げばいいものを。さっきから塗れた服が気持ち悪いんだよォい。
「ともかく、お互いの話は粗方話し合いましたことやし、ビクトリームはんは目の前のことに集中してください。
この世界には、あんさんも私も知らんようなもんが仰山あるに違いまへん。うっかりしてると……頭ぶつけますえ?」
「ん? ってブファァッ!? 」
「言わんこっちゃない」
痛ェ〜痛ェよォ〜全身、いや全頭が痛ェ!大木の壁にしこたまぶつけちまったァい!
い、いつのまにか森に到着していたようだ。私としたことが前方不注意……ベリィィィシィィィット!
女は私の頭部から飛び降りて『すごいなぁ』、『なんどすこれぇ……』、『……どうなっとるんやろか』とかほざいてやがる。
フフン。だが私にはこの風景に見覚えがあるぞ。私が最初にグラサン・ジャックといた森だ。
やはり私は間違っていなかった。私とグラサン・ジャックは確かに森にいたのだ。さて、早く私の体を探さねばなァ。
「……ビクトリームはん、あそこにうっすらと見える建物。あれは恐らくキャンプ場どす。あっちの方は何や建物が仰山あります。
地図でよう見るとビクトリームはんの言ってた場所より若干ずれとるみたいや。けど、あんさんのおっしゃる通りでしたなぁ。
『この地図の端と端は繋がっている』。ウチらの居場所を考えると、おそらく全てのエリアに対応しとるはずや」
「な! な! 私の言った通りだろう!? よし、この森のどこかに遺跡のような建物があるはずだ。そこの近くに私の体が……」
「ほんなら、早速G-6に向かいますえ。ここから行けばお昼前には着きますなぁ」
「……は?」
「気づいとらんようでしたけど……もうこんな時間どすえ?
ビクトリームはんの話が余りにも奇想天外過ぎて理解するのにえろう時間がかかりましたからに」
「いや、そう言う事じゃなくて」
「ウチにはこのローラースケートもありますし、ビクトリームはんは気にせず浮いて進んでおくれやす」
「いや、あの」
「何 か 問 題 で も? G-6に着いたら、ビクトリームはんには禁止エリアに入ってもろて、
本当に何も起きんのか確認してもらいます。それで何もなければ、改めて体探しを手伝いますえ」
「だったらァ……今すぐ……体を……」
「先に体を楽にして、逃げられたらかなわんわぁ。一遍に2つ捕まえとくのはしんどいどす」
「ま、まさか体を見つけて解放したらもう一回G-6に戻るって言んじゃあないだろうなァ!? 」
「頭が何ともなければ、尚更ビクトリームはんの体がどうなってるのか気になりますわぁ。
あ、安心してくれやす。さすがにもう一度ここまで戻らんでも禁止エリアは他にもあることやし、ウチはF-5の駅にも用が……」
「…………………………初めてだよォ。私をここまで怒らせたおバカさんはなァ」
「何 か 問 題 で も? 」
「絶対に許さんぞォこの虫けら女ッ! じィわじィわと嬲り殺してくれるゥゥゥゥッ! 」
■ ■ ■
やぁ! 全国の3000人を超える私のファンのチビッ子達。
いつも応援ありがとう。華麗なるビクトリーム様だ。
皆のベリーメロンな応援レター……本当に感謝している。
けど、今の私にはもう言葉を発するほどの気力もない。ごめんな皆。私は詰まるところ……おバカさんだった。
あの女強すぎだろォォォォ!! なんだよあの薙刀! リーチありすぎ!ローラースケート履いてて動きも素早いしさぁ!
相棒のいない私が勝てるわけンねぇだろォォォォい!! 正直ガチで死ぬかと思ったぞォォォ!
んん? そう言う私はここで何をやっているのかって? 決まってるだろォ。
G-6とかいうエリアで、この華麗なるVの文字の舞をあの女に見せつけてやってるのさ……鎖につながれた状態で。
正確に言うと、私の頭にはあのアマの剣が巻きついている。蛇のように伸びたアイツの剣は痛い。非常にチクチクする。
ああ逃げ出したい。これならグラサン・ジャックのほうがずっとマシだった。奴はどこで一体何をしているのだろうか。
「ビクトリームは〜ん、何か変わったことはあらしまへんかぁ〜」
「何も無いぞォォ〜螺旋王の警告とやらもナッシングだァ〜」
「おおきに〜」
くそったれ……一体こんな事になんの意味があるのだ。禁止エリアという物の存在がそこまで重要なのか?
私の頭がなんの『反応』もしないのなら、それはつまり私には全く関係のない話に決まっているだろう。
同じ禁止エリアだったら9時からのD-5にすればよいものを……『何か問題でも?』の一言だけで拒否しやがってェ!
第一そんなに首輪のことをなんとかしたかったら、ついさっき遠くに見えた温泉に向かう集団にでも頼めばいいっつぅのォ!
……まぁ正直、これ以上得体の知れない連中と関わるのも後々面倒だし、私の体探しを『面倒だから』と拒否されたら適わん。
一応、このアマは最終的に解放すると約束してくれているからな……今は大人しくしておこうか。
「ビクトリームはん、そろそろ埒が明かんようなってきましたし、一旦さっきの森まで戻りますえ〜」
「よっしゃァァァァ!! 」
「あ〜でもその前に一旦ウチを乗せてF-5の駅まで連れてってくれたら嬉しおますなぁ。
ほんでさっき遠くで見かけた、温泉に向かう変梃りんなお方々とも後々接触してみとう思うんやけど……」
……全くとんだじゃじゃ馬だァ(さりげなく敬語を止めたのには気づいてないようだな)。
出会ってからというもの、私のことを痛めつけるか、涼しい顔で語りかけるかのどっちかしかやらねぇ。
一体私が何をしたというのだ。知ってることは全部話しただろうが。
魔物の王を決める戦いと千年も石版に閉じ込められていたこと。それにベリーメロンの素晴らしさ。
ここでグラサン・ジャックと最初に出会って、海を渡り、わけもわからず縁切りを叩きつけられた事もだ。
なのにいきなり『相手の気持ちがわかっとりませんなぁ。罰として付き合ってもらいます』だとよ!
グラサン・ジャックの気持ちとかワケがわからん! 私が何か怒らせる事でも言ったかぁ!?
あーちくしょィィィ! こんな忌々しい物さえ巻きついてなかったら……ん?
どうしたんだ? いつのまにか……締め付けが緩くなってきたぞ。あれ? これ逃げれるんじゃないか?
そういえば……なんだ? あのアマ、さっきからずっと私のことをそっちのけで変な方角を見てやがる。
「おい藤乃くぅん! どうしたィ!?」
「……………燃えてはる」
「あァ!? ……あ〜そういえば燃えてるなァ。あれは地図でいうと、確かデパート? さっき燃えてたかァ?」
「ビクトリームはん、あんたの世界のヒトはあれぐらいのこと、朝飯前やろか」
「? 当たり前だ。私もガッシュも本気を出せばあの建物を破壊することぐらい造作もない。
それに何だ、藤乃くぅんの言う『HIME』達も相当な戦士なんだろう? あれぐらいのこと朝飯前では……」
「ウチのアホ! 」
「お、オイオイオイィィィィどこに行くんだ藤乃くぅん!? 私の大事な体を助ける面目でコキ使うんじゃなかったのかァ!? 」
「そないなもんよりも、もっと大事なもんを助けにいくんどす」
「ん何ィィ! この私の素晴らしい華麗なるVのボディよりも大事なものな、ベリーメロン以外にあるというのかァ!?」
「ある!! 」
「ヌゥ!? 」
「『パートナー』を失いたくない気持ち……相手を思いやる気持ち……まだ、わからんのやね」
「オ、オイ藤乃くぅん!」
「なつき……! 」
……行ってしまった。おぉスンゴォイスピードだ。
それにしてもどういうこと? パートナーを失う? 相手を思いやる?
だからなんだというんだ。一体何の問題がある。デパートに何かあるのか?
なつき……とか言ってたな。確かあのアマの『パートナー』の名前だったかな。
まぁいいか。ともかく私はこれで一人になったわけだ。これラッキーなのか? ベリィィィィィグッドなのかァァァ!?
よし! そうとなれば話は早い。一刻も早く体を取り戻さねばいかんなァァ。
それまでの仮初のパートナーを見つけねばならん。できれば凶暴じゃないやつがいい。これは間違いない。
ああ我が青春の相棒モヒカン・エースよ、お前は本当にこの世界にいないのか。
あのアマの話が本当だとしたら、ガッシュが実に羨ましいぞォォォ……。
グラサンジャックとは大分離れてしまったから、しばらく再開するのは無理だろうし……ん!?
いかんいかん、奴とはもう縁を切ったのだ! 私としたことが、何であんな男に協力を仰がねばならんのだ。
全く……あんな……男……など……。
【G-6/エリア北東部/1日目/昼】
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!!】
[状態]:身体部分がD-8に放置 静留による大ダメージ 鼻を骨折 歯が二本欠けています
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム支給品2個(本人確認済み)、魔本
ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!
[思考・状況]
1:わが身体、おそらく古墳付近(D-8?)! はやく回収しなければ……でも一人じゃなぁ
2:モヒカン・エースがいないとしたら、誰に頼ればいいのだ……
3:パートナーの気持ち? 相手を思いやる……?
4:カミナに対し、無意識の罪悪感。
5:F-1海岸線のメロン6個に未練。
【備考】
※参戦時期は、少なくとも石版から復活し、モヒカン・エースと出会った後。ガッシュ&清麿を知ってるようです。
※会場内での魔本の仕組み(耐火加工も)に気づいておらず、半ば本気でカミナの名前が原因だと思っています。
※モヒカン・エースがゲームに参加していない事に薄々感づきました。
※静留と話し合ったせいか、さすがに名簿確認、支給品確認、地図確認は済ませた模様。
お互いの世界の情報は少なくとも交換したようです。
※分離中の『頭』は、禁止エリアに入っても大丈夫のようです。
ただし、身体の扱い(禁止エリアでどうなるのか?など)は、次回以降の書き手さんにお任せします。
■ ■ ■
堪忍して……堪忍して……!
神様お天道様仏様、お願いどす。堪忍しておくれやす!
怠けとったわけやない。うつつ抜かしとったわけでもない。油断なんかせぇへん!
全部アンタの為にやっとったんやえ。これはジャグジーはんの為でもあるし、ウチなりに考えとってん。
首輪、首輪や。これさえ無くなればウチもアンタも皆全員戦う必要が無くなるんやで。
聞いてやぁなつき。技術者でも見つかればと思うとったら、首輪のない参加者に会うてん。
だからウチ、絶対何かの手がかりなると思うて調べてなぁ? ついでに駅に行って、あわよくば他の人から情報もろて……。
途中でなつきに会えたらそのまま一緒に首輪を……だって無事に済むやろ? あんな事もっぺんせんでも生き残れるえ?
だから堪忍してなつき! お願いだからそこにはおらんといて! あの燃えるデパートからはよ逃げて!
あぁごめんなぁなつき。さっきの嘘や。やっぱりウチ、油断しとった。
ビクトリームはんの話を聞いた時に、いやそれ以前にもっと警戒すべきやった。
いや警戒しとったんや! せやからビクトリームはんと海を渡って効率良くこの地図全部のエリアを……アホアホアホ!
ウチが清姫出せへんでも、周りがそうとは限らんわなぁ。周りが清姫並の破壊力持ってるかもしれへんこと忘れとったんや。
本当に堪忍なぁなつき。そこにおらんのならそれでええんやで?
けどもしそこにおったら……ウ、ウチ、また、また、ま……なりふり構わんくなる!
ジャグジーはんには黙っとったけど、ウチの最後の支給品のサングラス……これも、使わなあかんかもしれん。
これ、実は色々便利な機能を持っとるらしいわ……不意討ちにはもってこいやろなぁ。
そしてもう一つ。何の因果か知らんけど、ビクトリームはんと森に着こうた時にこっそり拾ったんどす。
最初はただのビンやと思たら、ラベルんとこに濡れてぐしゃぐしゃになっとった説明書が貼りついとったんや。
――不死の酒、とそこには書かれてあったん。
そん時は文字も滲んでてあんまり良く読めなかったんやけど、何となく鞄の中に入れてしもうてん。
軽い気持ちやった。『なつきとずっと一緒に暮らせる』とかそんな発想もなかった。
ウチも女。ほんの出来心で不死という言葉に惹かれたんやろね。
けど……もしこれが本当もんの薬だとしたら!
ウチが一人ぼっちになってしもうた後に、ウチが『万が一の事の為』に使ったとしたら!
そんなウチの姿、なつきはもう見とぉないやろ!? ウチは構へんけど……なつきが悲しむんならウチも見せとうない!
だから堪忍して……堪忍して……!
はよぅ……はよぅそこから……………………ああ、堪忍して!
堪忍して……堪忍して……堪忍して……堪忍して……堪忍して……堪忍して!
な つ き !!!
【F-7/道路/1日目/昼】
【藤乃静留@舞-HiME】
[状態]:健康 、衣服が半乾き
[装備]:雷泥のローラースケート@トライガン、サングラス@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、 巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
ジャグジーの首輪、包丁、不死の酒(不完全版)@BACCANO バッカーノ!
[思考]:
基本思考:なつきを守る。襲ってくる相手には容赦はしない。
1:全速力でE-6のデパートに向かう。
2:デパートになつきがいたら全力で助ける(いなかったら、なつき、なつきの事を知っている人間を探す)。
3:万が一の時は不死の酒に望みをかける?
4:F-5の駅、ビクトリーム、温泉に向かった集団、豪華客船にゲームに乗っていない人間を集めるのは後回し。
5:首輪を詳しく調べられる技術者を探す。
6:あまり多人数で行動するつもりはない。
【備考】
※「堪忍な〜」の直後辺りから参戦。
※なつきがデパートの火災に巻き込まれているのではと考えています。
※ビクトリームとおおまかに話し合った模様。少なくともお互いの世界についての情報は交換したようです。
※マオのヘッドホンから流れてくる声は風花真白、もしくは姫野二三の声であると認識。
(どちらもC.C.の声優と同じ CV:ゆかな)
※不死の酒(不完全版)には海水で濡れた説明書が貼りついています。字は滲んでて本文がよく読めない模様。
※不死の酒(不完全版)は海を流れてG-1からF-8とG-8のあたりにワープしたようです。
【サングラス@カウボーイビバップ】
Section4で登場。ジェットとスパイク兼用のサングラス。
賞金首の照合やズーム、サーモグラフィーなどの機能を持つ。ちなみに公式の名前もサングラス。
一度、二度と足を運び、そして三度目。三度足を運んで――三度小さな亡骸を運んだ。
「ガキばっかかよ…………」
病院の中。ひんやりとした明かりに満ちた霊安室の真ん中で、ランサーは暗鬱な溜息を漏らした。
彼の目の前、3つならんだ簡素な寝台の上にはそれぞれ一つずつ小さな死体が乗っている。
少年――少女――少年。三者三様に死を与えられ今はただ同じように眠っている。
「……ああ、そうだ」
ランサーの呟きに答える戴宗の言葉もまた愁いに満ちていた。
此処で行われているのは殺し合い。――ならば、未熟で力の弱い子供から死んでいくのは当然だ。
それは至って自然な道理と言えるだろう。
だが、そうだからこそそんな「子供」達の前はに自分達「大人」が立っていなければならないのではないだろうか?
戴宗は再び自問する。「大人」である自分達が、ここで「子供」達に対して何ができるのだろうか? と……。
「そっちの金髪の小僧もさっきの野郎に?」
エドワード・エルリックの死体を指して問うランサーに、戴宗は無言で頷きそれを肯定した。
それは彼が見つけた最初の被害者。
そして、その下手人に一時の情けをかけてしまったが故に彼は再びここに戻ってくるはめとなった。
ぎり……と音を立てて拳を握る。しかし、どう憤り後悔したところで時は逆巻きにはできないのだ。
「じゃあ、こっちの嬢ちゃんは……?」
言いながらランサーは顔を顰める。横たえられた三人はどれも無残な姿に成り果てていたが、
少女――アニタ・キングの遺体はその中でも取り分け損傷の度合いが酷かった。
弔った戴宗の手によって血と汚れは拭われていたが、その分白い肌に膾と刻まれた傷の多さが目立つ。
「わからん。だが……」
少女を殺害した下手人。それは、事の終わりに遭った自分には分からない。
そう言いながら、だが手がかりはあると戴宗は鞄に手を入れ、彼がそこで見つけた一本の剣を抜き出した。
鍔の先より、刃のない黒柱がのびる奇妙な剣。それを見て、ランサーの顔が僅かに驚きの表情を浮かべる。
「……それは、宝具じゃねぇか」
「宝具? なんだいそりゃあ」
片眉を上げて尋ねる戴宗に、ランサーは宝具――ノウブルファンタズムのことについて軽く語った。
それは貴き幻想。英霊のための最終最強の武装にして、顕現化した伝説そのもの――であると……。
「……じゃあなんだ。あんたもその英霊ってやつなのかい?」
それを肯定するランサーを前に戴宗は顎に手を当て、なるほどねぇ……と息を漏らして感心した。
さらにランサーの口により語られた、エリオの所属する機動六課と時空管理局。それらを聞いて戴宗は顔を顰める。
「次元の違う世界から……か。なんともややこしい話じゃあねぇか。
どうやら、螺旋王とかいうおっさんをぶっちめただけじゃあ話は済みそうにもねえなぁ……」
複雑奇怪な話に肩を落とす戴宗ではあったが、それを前にしたランサーの心中も穏やかではなかった。
「(これで、ただの人間だとか言うのかよ。このおっさんは……)」
その戦闘力から、戴宗のことをどこの英霊か、はたまた超一級の魔術師か……と思っていたランサーだったが、
聞けば齢30足らずの真っ当な人間。ただ、国際警察機構とやらで修行を積んだだけのエキスパートだと彼は言う。
しかも、彼はその中でも最上級に値する九大天王の一人ではあるが未だ末席の身にすぎず、
警察機構と言う組織の中には、彼に匹敵し上回る人間が何人もいるらしい。
さらには相対するBF団とやらも同様で、彼らは日夜巨大ロボットを交えて戦い、しのぎを削っているのだとか……。
「(……どうやら、普通の人間そのものの基準が違う世界らしいな)」
そこでは制服を着た平の構成員ですら、訓練を受けていれば10メートル、20メートルを難なく飛ぶらしい。
そんな常識外れな話に驚いたランサーではあったが、同時にそこに対して強い憧れも感じていた。
もし自分がそんな所に召喚されたならば、一体どれだけの勝負を楽しめるのかと……。
……と、お互いが交換した情報にそれぞれの感慨を抱いて僅かな時を過ごした後、二人は話を戻した。
「……でだ。こいつの持ち主には何か心当たりはないか、あんちゃんよ?」
戴宗は再び金色の奇妙な剣を持ち上げる。話通りならば、大概の場合は宝具を見ればその持ち主も解るらしい。
「それが何か――ってのは俺は知らねぇ……が、持ち主になら心当たりがあるぜ」
そいつは? と目で問う戴宗に、ランサーは続けて英雄王ギルガメッシュだ――と続けた。
最古にして最強の英雄であり、この世の万物の所持者でもある男。ランサーを一度討ち、この場にも召喚されている者だ。
戴宗が見つけた不可思議ながら強力な力を感じさせる宝具。それは十中八九その男の物だろうとランサーは言う。
「じゃあ、その英雄王とやらが下手人であるという線もあるのかい?」
その質問にランサーは首を振った。
宝具とは英霊にとってはかけがいのないものであるため、それを放ってその場を去るとは考えづらい。
それに、それが宝具でないとしてもわざわざ使える武器を放っていってしまう者などいないだろう。
「……確かにそうだわな」
言われて納得している戴宗の前で、ランサーはこの話とは別のある可能性に気付いた。
「ギルガメッシュの宝具がどことも知れないやつの手に渡っていた……てことはだ」
そこで、一旦言葉を区切り口の端をにやりと歪める。
「――俺の槍(ゲイ・ボルグ)もこの場にいる誰かが持っているかも知れねえってことだ!」
すでに手中にある偽・螺旋剣もそうだが、さらに他の者にも宝具がばら撒かれているとすれば、
従来ならば持ち主の手から離れることのない宝具――この場合はゲイ・ボルグも誰かの手に渡っていてもおかしくは無い。
「……じゃあ、お前さん」
「ああ。悪いが、俺は人集めより自分の槍探しを優先させてもらうぜ」
いずれ訪れるであろう強敵との激突を予感しているのであろうか、眼を爛と輝かせるランサーに戴宗は溜息をつく。
「安心しなおっさん。槍が見つからなくとも頃合を見てそっちに顔を出すさ」
月がはっきりと見える頃には自分も温泉へと向う。そう言うランサーに、戴宗は渋々承諾すると
最後にいくらかの警告と言伝を頼み、足早に去る彼を見送った。
「じゃあ、こちとらも行くとしますかい」
ランサーを見送った後、新しく書いたメモをエリオの傍に残すと、もう一度だけ眠ったままの三人を見やって
決心を再び強く締めなおすと、戴宗もランサーに続いてその場を後にした。
そして、再び霊安室に一時の静寂が訪れる――。
◆ ◆ ◆
霊安室を出て病院の屋上まで風の様に駆け上がると、ランサーはそこで一旦立ち止まりこの先に向け思案した。
探しているのは槍を持つ者。――だが、そいつは何処にいるのか?
頭の中に地図を浮かべて考えてみる……。
橋を渡り、北西の方角へと向ってみるか?
――向えばそちらは賑やかな繁華街だ。地図の中でも中央に当たるし、人が集まっているかもしれない。
それとも、此処を真っ直ぐ北へと向うか?
――其処にあるのは学校だ。そう言えば、士郎という男と最初に出会ったのも学校だったなと、そんなことを思い出す。
はたまた東へと向かい橋を渡るか?
――朝方に見かけた青い軍服の女と子供。彼女たちと再会できるかも知れない。
「さて、どうしたものか……?」
どちらに向えば、目当ての槍と出会えるだろうか……?
そして……、
「衝撃のアルベルト……ねぇ」
別れ際に戴宗より預かった言伝。
衝撃のアルベルトと言う男に、「自分達の決着はしばらく預けてくれないか」と伝えて欲しいと言うものだった。
戴宗の言によると、その男も相当の強者であり相容れない敵ではあるものの、道理は弁えており決して外道の類ではないらしい。
「じゃあ、行くとするか――!」
短い思案を終え行く先を決めると、ランサーは屋上の床を蹴り、向うその先の宙へと身体を躍らせた――……。
【D-6/市街地/1日目-昼】
【ランサー@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、強い決意
[装備]:鉄槍(折ったポール+アサシンナイフ@さよなら絶望先生×1本)
[道具]:デイバック、支給品一式×2、ヴァッシュの手配書、防水性の紙×10、
不明支給品0〜2個(槍・デバイスは無い)、偽・螺旋剣@Fate/stay night、暗視双眼鏡
[思考]
基本:このゲームに乗った者、そして管理している者との戦いを愉しませてもらう
1:どこかにあるかもしれないゲイ・ボルグを探す
2:↑のために他の参加者を探して接触する
3:言峰、ギルガメッシュ、ヴァッシュと出会えれば、それぞれに借りを返す
4:衝撃のアルベルトと出会えれば戴宗からの言伝(一時的な休戦の申し込み)を伝える
5:エリオの知り合いと出会えたら事の経緯を伝える
6:日が暮れたら、戴宗と合流するため一旦温泉へと向う
最終:エリオの遺志を尊重し、螺旋王を討ち倒して彼の仲間を元の世界へと帰す
[備考]
エリオ、戴宗と情報交換をして、それぞれの世界についての知識を得ました
◆ ◆ ◆
「あー……、なんだかややこしい事になってきたねぇ……」
太陽も頂点に近づき地面に落ちる影も短くなった中を、戴宗は難しい顔で歩いていた。
意味不明なまま何処かへと連れてこられたかと思いきや、今度は次元だ。魔法だ。英霊だ……ときた。
複雑怪奇な事態に立ち向かう戴宗が持つのはこの身一つ。
しかし、それは悪人を討つには足りても、諸処の問題を解決する手段には足りえなかった。
頭脳労働は専門外。まぁ、それは誰かに任せるとしても、こんがらがった頭の中を綺麗さっぱりに流してくれる酒は未だない。
青く晴れ渡った澄み切った空とは対照に、悩み事を抱えた戴宗の顔は暗いままだった。
「まさか、この世界には酒はありません。……ってなことはねえよなぁ?」
そんな不安も戴宗の中に浮かび上がってくる。まさかとは思うが、先ほどより一軒の酒屋も見当たらない。
酒そのものが無いと言うのは考えられないにしても、聞いた話によるとアメリカでは国全体で禁酒していた時代もあったらしい。
もしかしたらこの場所も、そういう所なのでは……そう思うと、決心は別として気も身体も重くなってくる。
「でも、まぁ……デパートって言うんなら、なぁ」
温泉へと向けて南へと歩を進めているが、その間にデパートがあると地図には記されていた。
デパートとは、つまり百貨店。普段立ち寄るような場所ではないが、百貨店というからには酒もなければおかしいだろう。
そんな期待を原動力に戴宗は足を進める……が、
「なんで、燃えてんだよおぉぉ――――っ!」
ビルの合間より、青い空へと濛々と立ち昇る黒煙。それに気付いて駆けつけてみれば、
戴宗の希望である酒――それが並べられていたであろうデパートは、一つの火柱となり轟々と音を上げて燃えていた。
【E-6/デパートの近く/1日目-昼】
【神行太保・戴宗@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:疲労(中)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-[握り飯、3日分])、
支給品一式(-地図、-名簿)(食料-[大量のチョコレート][紅茶][エドの食料(詳細不明)])
虎柄の水筒(空)、アサシンナイフ@さよなら絶望先生×10本、乖離剣・エア@Fate/stay night
『涼宮ハルヒの憂鬱』全巻セット@らき☆すた(『分裂』まで。『憂鬱』が抜けています)
ダブルキャノン@サイボーグクロちゃん(残弾28/30)、不明支給品1〜2個(確認済み)
[思考]
基本:不義は見逃さず。悪は成敗する
0:ちくしょぉぉぉぉぉ――っ!
1:何が起こったのかを調べる
2:温泉に向かいそこでランサーを待つ
3:道すがら人と出会えたら、正義の心がある者は仲間に誘い、弱き者は保護する
4:酒が飲みたい
5:死亡した3人(エド、アニタ、エリオ)の知り合いと出会えたら経緯を伝える
最終:螺旋王ロージェノムを打倒し、元の世界へと帰還する
[備考]
ランサーと情報交換し、彼の世界の知識と彼から聞いたエリオの世界の知識を得ました
◆ ◆ ◆
日が昇っても依然として薄暗く、冷ややかな雰囲気の病院内。
戴宗とランサーの二人が出立した直後、入れ替わりに入り込んできた二つの影があった。
静かな院内にコツコツと小さな足音を立ててその二人は進んでいる。
怪しい人物は両方とも去ったがまだ誰も残っていないとは限らない。
そう考え、警戒を最大限に強め静かだが油断のない目で周囲を窺っている青年はDボゥイ。
そしてその後ろを、子リスの様にキョロキョロと首を振ってついていっている小さな少女は小早川ゆたかだった。
裏口より侵入し、病院の中を貫く長い廊下を進み正面入り口が見えるロビーまで達すると二人は一度足を止めた。
Dボゥイが端にある案内板を指差すと、ゆたかは無言で頷きそこへとかけて行く。
外から差し込む光を頼りに、ゆたかは目を凝らして案内板と睨めっこをする。
「Dボゥイさん……ここ」
爪先立ちのゆたかが、案内板の上の方にある一箇所を指差しDボゥイに呼びかけた。そこは……、
「産婦人科? ……まさか君は」
「え? ええっ? いや。ち、ち、ち、違いますよ。そーでなくて……っ!」
ゆたかはくるりと振り返ると、真赤な顔をぶんぶんと振ってDボゥイの勘違いを否定する。
「えーとですね、妊婦さん用の病室は……」
そして、なぜ二人が休息する場所に妊婦用の病室を選んだのかを説明し始めた……。
「――個室にキッチンと、トイレか……なるほど」
「ええ。妊婦さん用のお部屋って、あまり動かなくてもいいように全部揃っているんですよ。
それにこの部屋、お風呂も一緒にあって……」
そこまで口にしたところでゆたかがカチンと固まり、同時に湯気を立てながら顔を赤く染めた。
「どうした? また熱が出てきたのか……?」
突発的に挙動が怪しくなる少女にまたも訝しむDボゥイの前であったが……、
「……な、な、なんでもないです! へ、変なことじゃなくて。その汚れてるから……その、その……綺麗に」
言われて気付くと、確かにそうであると彼は納得した。
お互いに山道を転げ回っている内に服や身体は泥だらけになっていたし、自分に至っては血塗れである。
その血は自身の物であったが、事情を知らぬ者から見られれば誤解を招きかねない。
「そうだな。新しい服も調達したいし、君が選んだ部屋へ行くとしようか」
そう言うとDボゥイは固まるゆたかの手を握り、先程よりはやや大股で病院の奥へと歩き出した。
◆ ◆ ◆
突然に放り込まれた殺し合いという非日常の舞台。その中で体験する見知った人の死と、自身に降りかかる死の恐怖。
そして、今までの人生にはなかった頼れる異性との接近。経験したことのない肌のふれあいと、何らかの期待――。
自身の中に渦巻くそれらにゆたかの頭は再びオーバーヒート寸前にまで至り、
引っ張られる手に身体を任せたまま半ば夢心地で歩いていたのだが……、
「ヘブッ!」
……ドンッと鼻頭を打たれて、強制的に現実へと引き戻された。
顔をぶつけたDボゥイの背中を見上げれば、なにやら剣呑な雰囲気を帯びている。
「……誰か、いるんですか?」
「…………いや」
怯えた声で質問するゆたかへのDボゥイの答えは曖昧なものであった。
だが、行動は素早くゆたかの手を握る力を僅かに強めると、登るはずの階段を無視して通路の奥へと歩を進めた。
Dボゥイが感じ取ったもの。
それは戦いの中で無数の死を経験したことのあるものでなければ感じ取れないような微細な違和感。
静謐な空気の中、ほんの僅かに漂う死の匂い。Dボゥイはそれを捉え、それを辿る……。
「……れ、霊安室……ですか?」
その部屋の役割を示すプレートを読んだだけで足を震わせ始めたゆたかの手を放し、Dボゥイはその扉へと手をかける。
罠を警戒しながらゆっくりと慎重に扉を開け、それが半分まで開いた時――Dボゥイの身体が凍りついた。
「Dボゥイさんっ?」
「――来るな!」
異変を感じ取ったゆたかをDボゥイはもう片方の手で制し、強く扉を閉めた。
未だ固定された視線の先、見開かれたDボゥイの眼に映っていたのは――……。
◆ ◆ ◆
霊安室から離れた後、すぐに目当ての病室に移動した二人であったが、互いに安息とは程遠い表情であった。
ゆたかの目の前、椅子の上に腰を下ろしたまま固く沈黙を続けるDボゥイに、彼女も顔を暗くする。
彼が霊安室で何を見たのか。それは教えてもらえなかったが、その態度から彼女にもある程度は察しがついた。
「(……あそこで、誰かが亡くなっていたんだ)」
彼女のその読みは正しかったが、事態はそれを遥かに上回るものであった。それがDボゥイを悩ましている。
Dボゥイが霊安室の中に見たもの。それは三人の幼い少年少女の惨たらしく傷つけられた遺体であった。
一人は全身を焼かれ、残りの二人は身体を切り刻まれていた。
そのどちらもが、先刻までここにいた二人の男――彼らの手口に一致する。
Dボゥイは見ていたのだ。サングラスの男が無残にも片方の男に槍で腕を落とされ、もう片方の男に焼かれる姿を――!
霊安室に寝かされていた憐れな少年少女達。彼らを殺害したのはまず間違いなくあいつらだろうとDボゥイは考える。
しかし不思議なのは、何故遺体を集めるのかと言うことだ。
サングラスの男の遺体を放置していったことから、目的は子供の遺体であるのかと推測できるが、それが何故なのかは解らない。
ただ解るのは、あの二人組の男が最悪の外道であるということだけだ。
そして、この病院の霊安室に収集しているということは、また彼らが戻ってくる可能性が高いことを示している。
もしかすると、あのサングラスの男もこのことに気付き、戻ってきたあいつらに見つかってしまったのかもしれない……。
何のために、どうしてそんなことをしているのかは解らない。しかもあいつらは恐ろしく――強い!
Dボゥイは視線を上げ心配そうにこちらを窺う少女を見る。
彼女がもしあいつらに見つかれば――、彼女があの少年少女の隣りに並ぶようなことになれば――……。
◆ ◆ ◆
コツコツとゆたかの前で小さな鍋が揺れている。
ゆたかが立っているのは室内に備え付けられたコンロの前で、今病室には彼女一人である。
Dボゥイは彼女に食事を取ることを指示すると、自身は代えの服装と薬品を取りに部屋を出て行ってしまった。
詳しい説明はされず、ただあまり時間がないとだけ彼に言われたので、ゆたかは料理することを諦めたが、
せめて一度は身体を温めたほうがよいと、お茶を入れるためにお湯を沸かしている。
「(…………怖いな)」
沸き立つお湯を見て、自身の心の中もそうなっているとゆたかは感じる。
腕にはめた時計を見やれば、予定されている二回目の放送までもうあまり時間はない。
それがくれば、また人が死んだということを知ることになるのだ……、否応もなしに。
水が沸騰したことを確認すると、ゆたかはコンロの火を止め予め用意してあった病室に備え付けの急須の中に湯を注いだ。
二人分の食事をテーブルの上に広げ、空っぽの湯飲みの中に緑茶を注ぎ、立ち昇る湯気を見ながらその時を待つ。
「(………………怖いよぉ)」
何故だかは解らない。ただ漠然とした予感のようなものが彼女の中にあった。
なにか恐ろしいことを自分は知っていたが、今はそれを忘れている――そんな感覚が。
カチリ……、カチリ……、カチリ……と、等しく時間を刻み続ける時計の針の音。
それがまるで時限爆弾のカウントダウンのよう。
まるでそんな風に、身体を振るわせるゆたかの耳にそれは届いていた――。
【D-6/病院内/1日目-昼】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:左肩から背中の中心までに裂傷(傷は塞がったが痛みは若干残っている)、全身打撲(中)、貧血(中)
[装備]:テッカマンアックスのテックランサー(斧) @宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:デイバック、支給品一式、月の石のかけら(2個)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:テッカマンエビル(相羽シンヤ)を殺す
1:病院内で二人分の代えの服や薬品、治療のための道具を集める
2:ゆたかの待つ部屋に戻って放送を聞き、食事と休憩をすませる
3:次の目的地を定め、速やかに病院を離れる
4:信頼できる人物にゆたかを預けたい……だが(?)
5:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない
[備考]
殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています
情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました
青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています
【D-6/産婦人科・病室内(421号室)/1日目-昼】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:疲労(小)、心労(中)
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる
0:なんだろう、この不安は?
1:Dボゥイが帰ってきたら、一緒に食事と休憩をすませる
2:Dボゥイの指示にしたがって行動する
[備考]
コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました
夢の内容は今のところぼんやりとしか覚えていません
保守
削除人さん、乙でした!
201 こんな感じ? sage 2007/10/08(月) 22:34:29 ID:XMC9H2dC
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。 (余計なお世話)
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。 (余計なお世話)
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。 (不要)
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。 (不要)
・『展開のための展開』はNG (意味わかんね不要)
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。 (当たり前不要)
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。 (当たり前不要)
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。 (大きなお世話)
紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。 (大きなお世話)
携帯からPCに変えるだけでも違います。 (大きなお世話)
,..-‐−- 、、
,ィ":::::::::::::::::::;;;;;:ii>;,
/:::::::::::::::;;;;;;;;iii彡" :ヤi、
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|:::::::::j'_,.ィ^' ‐、 _,,. ::iii》 ,. ‐- .. _
|:::i´` `‐-‐"^{" `リ"゙ / __ `` ー- 、
ヾ;Y ,.,li`~~iノ , ィ/ ゝヽ ̄ヽ ー- '
`i、 ・=-_、, .:/ _ / { {ヽ、_ ヽ' ノ_,.〉
/ヽ '' :/_ -ァー- 、_ ... -‐ ';;;;;;;;;;;;;ヽヽ、 `>、..ノ=┘
_ ノ ` ‐-、、ノ;;;;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ `ー '!
, -‐;;7;;;/iーニ二,.フ_/;;;;;;;;;j;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;>‐'
/;;;;/;;//〉' , ヽ、>\;;;;;;;;!;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;, ' ´
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┌‐────┐
│ ムスカ. |
├───‐─┴────────────────────────
│ムダなルールが多すぎる!
└─────────────────────────────‐
202 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:02:32 ID:OkkBigmn
ここはムスカがルールを決めるスレでつか
203 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:24:45 ID:nbY+h1qD
とりあえず他所で仮投下したものは多重になるので
こちらでは張らない、はる場合はこちらで相談というルールでいいね
204 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:27:27 ID:vgb1iNwE
反対する理由はない
205 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:42:14 ID:7rtLANVd
____,,....,,__
,.、-‐ ' ´ ゙`'‐、
,ィ'´ _,,..、、--‐‐---、., l
( ,.、ィ'´ i⌒i `Y
Y´ _,.、-‐'"_゜,´、ニ`゙、`ェ_.l
├r'i´、-‐'"´__,,..、、..,,__ ``‐、
├'、,.、-‐'"゙`'-、.,_ , ._-"゛゙`i‐'
ィ'、~i ,,.. (´._“,ィ '、;.“.,)‐iO
l´ ii `'‐‐' r .i``'´ 'l
ヽ` , . `、'‐'"゜`_'´゚`゙,' {
,r ' `゙ニ、-゙`'"´_``,´ l
l `'‐---‐'´ ∠___,,..、、 ,-‐,‐‐'''>‐- 、.,_
>-、,_ -‐ _,ィ'´, ;="゜ r'_=___,'´ `'‐、
>>203 __,,.、-、, -‐''l i .i i i‐`'‐- 、,、..,,,___,,..r';;="゜ , ヽ
,r‐r'´'_,ィ'´ `/`'‐,---`‐‐‐'''";;="゜ / ヽ 同意してやろう
206 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:44:26 ID:ii3yw4EW
>>203 ノシ
207 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:45:00 ID:S7EADUG/
そしたら読むのにこことしたらば行ったりきたりしなきゃなんないの?
208 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:50:17 ID:d3gX2hVM
どうせしたらばはしたらばで勝手にまとめるんじゃね?
こっちには関係ない
209 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/08(月) 23:57:55 ID:Q9M4zBBv
問題は無いな
210 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/09(火) 00:02:59 ID:S7EADUG/
ここで議論したって反映されないんじゃないの
211 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/09(火) 00:07:44 ID:5lRS/M12
ここの自治の問題だから無問題
212 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/09(火) 00:09:18 ID:09dwlPPr
まああとでしたらばに通告しておいて
それでも張られれば削除依頼
213 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/09(火) 00:19:39 ID:yBoPNUfW
だおー
214 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/09(火) 00:27:24 ID:meBTWBfx
ところで君たち雑種共は『SEX』について知っているのかね?
215 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/09(火) 02:22:48 ID:7kXyjEgS
仮投下→認められたらここに本投下
だと思っていたんだが
216 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2007/10/09(火) 02:33:06 ID:xHANmjOW
仮投下で認められればそれで終わりでええやん
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1191637331/より抜粋 議論そのものはこれだけで、無駄だということで話はそれで終わった。
・少なくとも、したらばの仮投下で投下が終わっている場合はもはや本スレ投下の必要は無い
これが、ここの議論の結果の1(→同内容をしたらばに通告したが削除)
ご苦労さん。
>>277-286 たぶん、エドワード・エルリックの死体のとこにはムスカの死体の位置情報と「仇はとった」みたいな内容があるはず
それにDボゥイが気付けば、ランサーと戴宗への誤解は無くなるんじゃね?
なんのこっちゃ
>>295 「仇をとった」としてもそいつが信用できるかどうかわからんだろ……。
平気で復讐に「殺し」を選択肢に入れてるんだぜ?
まだ話したことも無い人間にホイホイ誤解解けるかよ。Dボゥイは身内が殺人者なのに。
危機に陥ったゆたかを守るくらいしないと誤解は解けないだろうな
299 :
295:2007/11/19(月) 08:02:50 ID:x15ja8V0
>>296 【1日目 昼】の「勝利の栄光」の中でランサーが
「エリオを埋葬してやりに戻って、霊安室の義手義足の少年のところにここの場所を書いてやろうと思う」
と言ってたんで
>>297-298 確かにそうかも
たった一行をそこまで拡大解釈しろって方がおかしい。
そして、雑談スレでなくSS投下スレで延々と雑談を続けることも十二分におかしい。
テンプレが読める人間は本スレへ。読めない人はスルー徹底で。
そんな必要ないよ
そもそもテンプレ否定されてるんだからね
えらそうな口叩くな
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1192195953/32-より 【NGについて】
(不要)修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
(不要)NG協議・議論は全てしたらばで行う。2chスレでは基本的に議論行わないでください。
(不要)協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
(不要)どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
(OK)『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』
NG協議の対象となる基準
(不要)1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
(不要)2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
(不要)3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
(不要)4.イベントルールに違反してしまっている場合。
(不要)5.荒し目的の投稿。
(不要)6.時間の進み方が異常。
(不要)7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
(不要)8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
(不要)上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
(不要)例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
(不要)トーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×
(必要)・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
(不要)ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
(不要)修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
(不要)書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
(不要)【予約に関してのルール】(基本的にアニロワ1stと同様です)
(不要)したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行う
(不要)初トリップでの作品の投下の場合は予約必須
(不要)予約期間は基本的に三日。ですが、フラグ管理等が複雑化してくる中盤以降は五日程度に延びる予定です。
(不要)予約時間延長を申請する場合はその旨を雑談スレで報告
(不要)申請する権利を持つのは「過去に3作以上の作品が”採用された”」書き手
(不要)【主催者や能力制限、支給禁止アイテムなどについて】
(不要)まとめwikiを参照のこと
(不要)
http://www40.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/1.html ほぼイラネ
【読み手の心得】
(不要)好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
(不要)好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
(不要)荒らしは透明あぼーん推奨。
(不要)批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
(不要)擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
(まったくもって不要)嫌な気分になったら、「ベリーメロン〜私の心を掴んだ良いメロン〜」を見るなどして気を紛らわせましょう。「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!)
(不要)「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
(不要)「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
(不要)やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
(不要)冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
(不要)感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
(不要)丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
(不要)ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
【議論の時の心得】
(不要)このスレでは基本的に作品投下のみを行ってください。 作品についての感想、雑談、議論は基本的にしたらばへ。
(不要)作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
(不要)ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
(不要)議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
(不要)『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
(不要)強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
(不要)これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
(不要)【禁止事項】
(不要)一度死亡が確定したキャラの復活
(不要)大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
(不要)程度によっては議論スレで審議の対象。
(不要)時間軸を遡った話の投下
(不要)例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
(不要)この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
(不要)こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
(不要)話の丸投げ
(不要)後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
(不要)特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。
-------------------------------------------------------------------
俺的にはこうかな?
いままでここまで禁止事項だらけだったSSなんてなかった気がする
誰が決めたの?これ
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
とりあえず、過去において。
このテンプレのほとんどが不要という意見が出てます。
この話をたたき台にして進めてください
それよりもここのSSをアニサロに誘導するほうが先だよ
>>304 ここのスレのテンプレの話じゃないか
なんで誘導する必要があるんだ?
とりあえず、「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!) は即やめろ
>とりあえず、「ブルァァァァ!!ブルァァァァ!!ベリーメロン!!」(ベリーメロン!!) は即やめろ
それには激しく同意せざるを得ない
誰だよそれ考えたの
連続投稿で書き込めなくなったのでこっちで
議論スレは議論スレでまた別の用途で話せばいいのであって
そもそも作品投下そのものがまだ早すぎるという話で
そうなってるだけですよ?
今普通に楽しんでる住人にまで迷惑掛けないようにして下さいといわれても
そのかたがたは外部の方々であって、こっち住人とは違いますから
>>248 >あなた方に必要な説明を、あなた方がする気が無いように見えるが故の「要するに」です。
また意味不明ですね
あなた方に必要な説明ってなんですか?
あなたがしてほしいと願ってるだけの有利な結末のことですか?
まあ、書き込めないんじゃ仕方ないんで落ちるわ
んじゃ
大枠の決定=2ch上の「本スレ」=作品投下スレ
感想=2ch上の「本スレ」=作品投下スレ
作家同士の細かい点の刷り合わせ=2ch上の「議論スレ」
作品にまったく影響しないところ=外部掲示板。チラシの裏、死者スレ
-、
( ヽ
ヽ,_ \
/゙i、`゙""゙ヽ -‐ '´ ̄ ̄`ヽ、
/ `'i ゙、 / /" `ヽ ヽ \
l, _/ヽ .入 //, '/ ヽハ 、 ヽ
ヾ、 / .ノ 〃 {_{\ /リ| l │ i|
`ー'く /.\. レ!小l● ● 从 |、i|
\\_. ヽ|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃ |ノ│ 基本にょろ
( __ノヽ__|ヘ ゝ._) j /⌒i !
. \\::| l>,、 __, イァ/ / │
/\\ | ヾ:::|三/::{ヘ、__∧. |
. `ヽ<\\ ヾ∨:::/ヾ:::彡' |
…なんだかよく分からないけど
あの削除人は、うちらは利用者じゃないと仰られてます?
ずっとこのスレにいますけど、はて、どういうことやら
うーんとね。
100人書き手がいれば100人のムスカがいるんだから
100回ムスカが生き返るし100通りのムスカの人生があるんだよ
ムスカなんて人気あるんだから100人書きたければ
100人全員に好きなように書かせればいいだけ
名作なんて作る必要なんてない、2ch程度で誰もそこまで期待しないよ
どれも作品なんて五十歩百歩なんだしさ
やめてくれよそういう変な書き手煽りはさ、SSは長ければいいってもんじゃないんだよ、
長すぎるとむしろ読む方だって迷惑なんだよ
そんなにやりたければ創作の板かなにかで専門的にやってくれよ
したらばで参加者制限して限定された人間だけが楽しむような企画なんぞで
自己満足な名作を作ることより、アニキャラ総合板で扱うすべてのアニメの
すべてのキャラクターを何回でも出せる環境を作る方が
より多くの参加者と板の住人が参加できるし有意義なんだよ。
できないかもしれないけど、どんなキャラでも好きなだけ参加可能な体制を作っておけよ。
人気がないから出さないとか、最近じゃないから出さないとか、文章力ないからしたらばでアク禁とか
そういういじめみたいなこと止めようよ
そもそもアンチスレが作られたり、アンチが出る事がおかしい
>>311 他の板のロワは、作品投下スレが感想と運営兼ねてるよ
1スレですむような単純な話だからね…
だからこの板のロワも、作品投下スレで感想と運営兼ねるのが当たり前だと思うんだよね。
それでどうしても必要だったら運営スレ立ててもいいけど、だからといって作品投下スレである
本スレでの議論が無効かというと、そんなことは無い。
ましてや削除依頼なんて正気の沙汰とは思えない
荒れるのが怖くてバトロワやってられるかよ
はげ頭でひげ面の大男と育ちの良さそうな雰囲気を纏った少年。
その二人が奇妙な螺旋型にモチーフされた扉の前で立ち尽くしている。
二人を足止めしているのは、何てことは無い、ただの張り紙だ。
『特別展示準備中』
改めて言う事でもないが、この一枚の紙切れその物に何ら力は無い。
紙が扉に硬い鍵をしているわけでも、紙その物が人間を押し返すような障壁を作り出しているわけでもない。
なのに、人間はたかが紙一枚に行動を制限されてしまう。それはなぜか。
簡単な話しだ。人間には知能があり、必然的に与えらた情報から物事を推察してしまう生き物だからである。
紙と、そこの書かれている文字、その二つが扉の前に立ちはだかっている以上、人間は情報から事実を推察しようとし、必然的に動きを止めてしまうのだ。
(準備中?なら今は準備している人の邪魔になってはいけない、後でまた来よう)
その張り紙を見た人間は自然とそう考える。
これは人間社会で培われた当然の考えであり、言い換えればモラルというものである。
現代社会程度の文明で相応の年月を社会で過ごした者ならば、この程度のモラルは当たり前、そういう次元の話なのだ。
当然、その扉の前に立つ二人も……。
「……フンッ」
大男が躊躇いも無く扉に手をかけ、力を入れて扉を押し開こうとする。
モラル云々の話しが一気に霧散した瞬間だった。
しかし、それも仕方の無い事とご理解いただきたい。
時と場合によっては間違いなく警備員や関係者に注意を受けるであろうこの行為も、
今この瞬間だけで言えば、そう責め立てる様な行動ではなくなってしまっているのである。
なぜなら、今大男と少年を取り巻く環境が『殺し合い』という常軌を逸した状況であり、生き残る為にモラルさえも捨てなければいけない環境だからだ。
張り紙一枚で行動を制限され、その隙に殺されたのでは死んでも死に切れない。
ゆえに、切迫している状況で張り紙に掛ける配慮などあって無いようなものであり、大男の行動は至極当然というべきものなのである。
「ヌッ……」
大男、つまりジェットの額に僅かばかりの汗が浮かぶ。
喰らい付いたら離さない「ブラックドッグ」と言う異名を警察官時代に持っていた男は、現在は賞金首を追いかける賞金稼ぎとしてその豪腕を振るっている。
荒仕事から情報戦に至るまで何でもこなす彼にしてみれば、単純な力作業でさえ手を抜くような事はしない。
その為、この瞬間も本気になって目の前の障害をぶち破らんばかりの勢いで力を込めているようだ。
しかし、ジェットの太い腕には、残念ながらピクリとも反応が返ってこなかった。
「……フゥー、なんて硬い扉だ、びくともしないとは」
疲労の溜まった息を吐き出し、ジェットが感心したように呟く。
すると、今度は隣にいた少年が扉に触れた。
「ただ鍵が掛けられてるから、とかじゃないみたい……。
ほら、見た目金属質で作られた扉みたいだけど、こうやって触ると、なんだか押し返されるような感触がするよ。それに、なんだか少し暖かいような……」
ドモンと名乗った少年の言葉にジェットが同じく扉に手を触れながら答える。
「ああ、どうやら、下の入り口と同じ自動ドアのようだが、こっちは何か不思議な力で守られてるようだな」
ジェットの指先は確かに扉に触れていた。
しかし、指先の皮膚には、集中しないと分らない程度に押し返されるような不思議な感触が伝わってきており、少年の言葉が真実だと告げていた。
「不思議な力?」
少年の顔に疑問の色が浮かぶ。
その顔を見下ろし、ジェットはゆっくりと説明するように語りだした。
「爆弾やら危険な物が参加者に支給されてるこの殺し合いじゃ、鍵を掛けた部屋なんて何の障害にもならないはずだ。それこそ紙切れと大差ない。
それなのに、こうやって時間制限付で立ち入りを禁止している部屋を無理やりにでも作らなきゃいけないって事は、
この部屋は参加者が持ち出すどんな兵器より強くなきゃいけないって事になるだろう。
それこそ、一番最初にあの螺旋王とやらに向かっていた男が放った、あの光の攻撃にも耐えられるぐらい頑丈なのは絶対だ」
そこで一呼吸置き、ジェットは扉から手を離し、その周囲の壁を見つめる。
「となるとだ、話はこの扉ばかりというわけじゃなくなってくるんだよ。
荒っぽくなるが、扉が開かないなら、今度は周りの壁を壊せばいい、てな事を考える奴が必ず出てくる。
そうなると、もう鍵だの何だのは意味が無い。その考えが出た時点で、扉だけを頑丈にすれば済む話じゃなくなっちまうのさ。
だから、俺が思うに……」
「部屋一つ丸ごと、最初に螺旋王が使ったバリアーってので守られてるって事?」
「ま、そう考えるのが妥当だろうな。
見たところ、扉は金属性でも、周りの壁は明らかにコンクリートだ。
入り口が玄関の自動ドアと同じと見る限り、厚さも大して無い。ダイナマイト一つで穴ぐらいは簡単に開くだろう。
て事はだ、本気で侵入者を拒みたいのなら、何か特殊な力で覆っちまうしか手が無いってわけだ。
そして俺達は、一番最初にその特殊な力を見ている……」
そこまで言って、ジェットは大きく息を吐き出した。
そして、ただ漠然とこれからの事を考え始める。
(やはり、俺の予想通り各施設に何かがあるのは間違い無い。
映画館、そしてこの螺旋博物館。
訪れた二つが二つとも、こうやって参加者を足止めするような小細工が施されているって事は、他の施設も回れば何かしら出てくるって事だ。
そしておそらく、その何らかは、確実に今の俺達のような殺し合いに乗っていない人間の為に用意されたものに違いない。
なぜなら、本当に殺し合いで選び出されたたった一人を求めるのなら、こんな無駄とも取れる施設を用意する必要何て全く無いからだ。それもわざわざ地図に載せてまで……。
俺が思うに、螺旋王が求めているのは、あからさまな力だけではない。
この状況を打破する程の何か、そう、それが螺旋力と言う奴なのだろう。
各施設の役目は、この状況の打破の為に用意された、いわばヒントだ。
何故俺達は選ばれた?
何故俺達はここにいる?
俺達の役割は?
そして、螺旋力とは何なのか、それをどうやって手に入れるのか?
それらの疑問に答えを出す為のヒントが、点在する施設にあると、俺は考えている)
「クソッ!せめて中に何があるのかだけでも分ればな……」
張り紙の上にはタイマーのような物があり、その予想される時刻から明日の正午まで扉は開かないと指している。
現実に開かない以上、それを受け止め、出直してくるのが筋と言うものなのだろうが、
ジェットは目の前にぶら下がったヒントを見過ごし、次の場所に向かうような余裕を持ち合わせているような男ではなかった。
その為、何か無いかと漠然と周囲を見渡してしまう。
何か、この閉ざされた部屋に関する、何でもいい、何かの痕跡を――
すると、都合よくジェットの瞳が一つの物体を天井近くに捉えた。
「……まさか、もしかしたら!」
「え?なに?どうかしたの?」
突然のジェットの行動に隣にいた少年が同じように視線を泳がす。
そして、少年の目もそれを捉えた。
「あれ何?」
少年の疑問の声を聞き、ジェットは嬉々とした表情で答える。
ジェットが見つけたもの、それは、天井にぶら下がっている一台のカメラだった。
「防犯カメラだ」
「カメラって……、あの写真を取る奴でしょ、何であんなところに……」
その一言でジェットが思い出す。
自分とこの少年には、丁度140年もの時間の差があるということを。
全く信じられないような話だが、少年は1930年代からこの場所に呼ばれたらしい。
対してジェットは、2071年から召喚されていた。
つまり、少年の頭の中には、20世紀後半に誕生した監視カメラという当たり前の知識その物がないのである。
「そうか、君の居た時代ではまだ監視カメラの類は発明されていなかったっけな。
えーっと、映画は知ってるよな?確か1930年頃には既にあったはずだし……。
あれは映画のように映像を記録することが出来る装置だ。
ああやって、大事なものがある部屋の映像を常時撮り続ける事で、人の出入りを監視するんだ」
流石に映画と言う言葉には思い当たる節があるのだろう。
少年は納得したように頷いた。
余談だが、少年にしてみれば10年程前の1920年頃に、映像だけのサイレント映画から音声と映像を合わせたトーキー映画に移り変わると言う時代の流れをリアルに見ているため、
それを考えれば、目の前の物体が小型化された映像を記録する装置だと説明されても、何ら疑いようも無く頷けるのは当然と言えよう。
そこまで発明が進めば、いずれ防犯の為に一般的にカメラが使われる日もそう遠くは無い。
少年ことドモン、いやチェスという名の錬金術師は瞬時に考えていた。
「え、じゃあ、つまり……」
「あれを調べれば何か分かるかもしれないって事だ」
ジェットはそう言うと、チェスの腕を取って歩き出した。
目の前のカメラには目もくれず。
「って、あのカメラ調べるんじゃなかったの?」
「君の知ってる映画と違って、防犯カメラの類はカメラ自身に映像は記録されない。大抵はまとめて別の記録媒体に映像が放り込まれるんだ。そいつを見つける」
そう言いながら、ジェットはどんどんと進んでいった。
その迫力に押され、少年は再び生まれた疑問を喉の奥に押しやり、ジェットの後についていく。
その瞳は、知的好奇心に絆された少年特有の輝きをもっていたのだが、ジェットも少年自身もまるで気づかなかった。
◆ ◆ ◆
結論だけ言えば、防犯カメラが記録した映像を保存する為の記録媒体が見つかる事は無かった。
建物の隅々、それこそ通風孔から天井裏を覗くほど探したが何処にも無かったのである。
「……はぁ、疲労が溜まっただけってわけか」
博物館の入り口の隣に据え付けられた受付まで戻り、ジェットの呟きが溜息と共にむなしく響かせた。
その溜息には言葉以上にジェットの残念な想いが込められているようだった。
(ま、考えればそうだよな。
マジックで横から覗いたら種が見えたなんて話しはマジシャンとして最低の失態だ。
あれほど厳重に閉じられている事を考えると、防犯カメラぐらい手を回してるのは当然と言える。
俺は何を焦っていたんだか――)
「ねェ、ジェットおじさん、大丈夫?」
「あ、ああ…」
少年の呼びかけにより幾分心が落ち着き、ジェットは今一度活力を取り戻す為、再び大きく息を吐いた。
「すまない、ちょっと当てが外れたからって落ち込み過ぎだな。
まだやれる事は沢山ある。次に行こう」
ジェットはそう言いながら、支給されているディパックを背負いなおす。
厳密に言えばこの施設は空振りだったわけじゃない。
開かずの間という明らかに何かある部屋を見つけることが出来たのだ。
それを考えれば、防犯カメラでの失敗の一つや二つ――。
(って、待てよ。
何で防犯カメラが設置されているんだ?
最初から施設内に記録媒体を置いて無いんだったら、わざわざ防犯カメラその物を設置する必要が無いだろう)
瞬間的に頭を過ぎった防犯カメラと言う存在。
それがジェットの思考に引っかかった。
(博物館という建物の雰囲気作りの為に設置してるなら、防犯カメラがあるのは確かに必然だ。
しかし、それならただのイミテーションでいいはずだ。本当に稼動させる必要は無い。
カメラが稼動している理由、それは――)
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「うん、そうだね、わかったよ。
それにしても、文明って発達するんだね。
僕、あんな機械が未来に誕生するかと思うとわくわくするよ」
少年の声を左から右へと聞き流しながら、ジェットはハッとなって頭上に煌めく入り口と受付を撮影してるであろう防犯カメラを見据える。
その眼差しは、一瞬にして鋭く険しいものへと変わった。
「ドモン君、直ぐにここを離れるぞ」
「え?」
突然の一言に少年の表情が固まる。
何を言われたのか分らないような表情だ。
「俺は馬鹿だ。
螺旋王がこのサバイバルゲームを実験と言っている以上、何らかの方法で俺達は監視されているって事は直ぐに気づけたはずなのに、その事を単純に失念していた」
「それって、もしかして……」
「ああ、俺達は常に監視されてる可能性がある。
建物の監視カメラがそのまま俺達を監視する為の道具だとは思わないが、利用されている可能性は十分にあるんだ。
外に出れば監視から外れるとは到底思えないが、こうあからさまに見られてるのは気分のいいものじゃない。
姿だけじゃなく、もしかしたら音声だって盗聴されている可能性もあるからな」
その言葉に、少年の瞳も頭上のカメラを捉えた。
その眼差しは、カメラの向こう側でこちらを見ているかもしれない者に対して怯えているようだった。
「本当ならカメラを回収して調べたいところだが、調べようとした瞬間首輪を爆発させられたら堪らん。まだ情報が少なすぎる。
今は当初の予定通り他の施設を回りながら、参加者と接触し、情報集めに専念しようと思う」
そう言いながら、ジェットは外に向かって歩き出した。
その後を追いながら、少年が聞く。
「う、うん、わかったよ。それで、次は何処へ?」
後ろから聞こえた震えるような声に反応し、ジェットは振り返りながら答える。
「本当なら図書館や警察署に向かいたいところだが、その道は今朝の爆発を引き起こした危険な奴がまだ居る可能性もある。
だから、次はここから一番近い地図に書かれた施設に向かう。つまりゴミ処分場だ」
そうして、大男と少年は博物館を出て歩き出した。
これから自分達を待っているであろう現実なんて、勿論知るよし無く……。
【D-4/博物館前/1日目-午前】
【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、アゾット剣@Fate/stay night
薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
基本:最後の一人になる。または、何らかの方法で脱出する
1:ジェットと同行し、彼に守ってもらう
2:ゲームのクリア、または脱出に役立ちそうな人間と接触し利用する
3:不死者かもしれない人物を警戒(アイザック、ミリア、ジャグジー)
4:未知の不死者がいないか警戒(初対面の相手には偽名を名乗る)
5:ゲームに乗った人間はなるだけ放っておく
[備考]
※なつき、ジェットにはドモン・カッシュと名乗っています
※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません
※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません
※ジェットと情報交換をし、カウボーイビバップの世界の知識をある程度得ました
※監視、盗聴されている可能性を教えられました。
※無意識の内に急激に進化する文明の利器に惹かれつつあります。
【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:コルトガバメント(残弾:6/7発)
[道具]:デイバック、支給品一式(ランダムアイテム0〜1つ 本人確認済み)
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
[思考]
基本:情報を集め、この場から脱出する
1:情報を集めるために各施設を訪れる。とりあえず次はゴミ処分場。
2:ドモン(チェス)を保護
3:出会えればティアナを保護
4:謎の爆弾魔(ニコラス)を警戒
5:仲間(スパイク、エド)が心配
6:明日の正午以降に博物館に戻ってくる
[備考]
※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます
※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません
※チェスと情報交換をしました
※監視、盗聴されている可能性に気づきました。しかし、それは何処にでもその可能性があると考えているだけで、首輪に盗聴器があるという考えには至っていません。
【螺旋博物館】
その名の通り螺旋に関するものを展示している博物館。
常設展示用の部屋は3つあり、それぞれ、
「どうぐにもなる螺旋!〜おとこのロマンだ〜」「きみのなかの螺旋!〜じんたいのふしぎ〜」「うちゅうのなかの螺旋!〜すごくでかいぞ〜」
と題して展示物が並んでいる。
二階には特別展示用の部屋があり、そこは二日目の正午まで開かず、中に何があるのかも不明。(螺旋力によるバリアーで完全防護されている模様)
入るには螺旋に関するものが必要らしいが……?
館内には監視カメラが設置され稼動しているが、それが、防犯の為なのか参加者を監視する為なのかは、今のところ不明。
お前一人で出てけ
弐/1――
舗装された道路、罅割れたコンクリート、倒壊した家屋、血痕。
文明も生活環境もごちゃ混ぜになった街で、リザ・ホークアイとパズーの二人は争いの痕跡を辿った。
「誰が争っていたかはわからないけれど、どうやらここにはもう誰も残っていないようね」
と、銃を構えたリザが、短剣片手に周囲を目配りするパズーに。
「家が一軒、丸ごとぺしゃんこになってる。こんなの、大砲でも使わなきゃ無理だよ」
と、短剣を構えたパズーが、銃片手に周囲を目配りするリザに。
互いに背中合わせで告げ合い、しばらくして警戒の糸は途切れた。
Dボゥイと小早川ゆたかの二人組と別れた後、リザたちはそのまま北上し、この現場に行き着いた。
おそらくは数時間前、この地で戦闘が行われていたのだろう。
路上には血の跡が溜りを作っており、検察して見るとまだそう時間は経っていなかった。
近くで崩れ落ちていた家屋の様子を見るに、ただの殴り合いや銃撃戦ではない。
国家錬金術師クラスの異能者による戦闘か、それに匹敵する兵器を用いた戦闘であったと、軍人であるリザは推測した。
そして気になったのは、道路上にポツンと放置されていた、赤い車。
フロントガラスが破壊されており、車体にもところどころ歪みがあったが、エンジンはまだ動いている。
使えなくなったから乗り捨てられた、というわけではない。
走行中に襲撃され、応戦するために飛び出し、そのままどこかへ……といった具合だろう。
「すごく派手な車だなぁ〜。僕のいた町じゃ、こんなの見たことないよ」
「搭載されている装備から考えて……火災時などにそのまま対応できる、消火用の車みたいね」
パズーが住んでいたスラッグ渓谷にも、リザが暮らしていたアメストリスにも、消防車なるものは世に出回っていなかった。
が、その根底は車だ。ハンドルとペダルの配置や差しっ放しキーから鑑みるに、運転方法はそう変わらないだろう。
リザには運転の心得がある。運転席に座りハンドルの感触を確かめるが、やはりいけそうだ。
そんなリザの様子を見て、パズーはしかめっ面をする。
「おねえさん、その車どうするつもりさ?」
「そうね……警察署に向かうための足にしてもいいし、いざというときは車体全体を盾にすることもできるわ。
持ち主が戻ってくる気配はないし、このまま拝借して――」
「ちょっと待ってよ! それって泥棒じゃないか!」
整然とした態度で語ったところを怒鳴られて、リザはやや驚いた後、冷ややかな視線でパズーを見やった。
「パズー、今は非常時なのよ? 確かに窃盗は罪だけれど、生きるか死ぬかというときに、そんな些事には構っていられない」
「それは……そうだけどさ」
「それにあなた……ここに来る前は、仮にとはいえ空賊とやらの手伝いをしていたそうね。そのことについては?」
「うっ」
リザの現実を見据えた反論にあてられて、パズーは口を噤んだ。
空賊――山賊が山を根城に強盗を働くのと同様に、空を根城にする盗賊がいるという、嘘みたいな現実をリザは先刻知った。
『ねぇおねえさん。ちょっと遅いけど、朝ごはんにしない?』
『は? この一刻も争うときになにを悠長な……』
『でも、食べるもの食べなきゃいざってとき困るよ? それに実は僕、ずっとおなかぺこぺこだったんだ』
支援
発端は、Dボゥイたちと別れた直後のこの会話だった。
人気のない民家にお邪魔し、リザとパズーはそこで一旦、小休止として朝食を取った。
その際、リザはパズーからシータたちのさらに詳細な情報を聞き、その延長として、彼の世界の『空』についても聞かされたのだ。
アメストリスでも実用化には至っていない空の航行方法――飛行船。パズーの住まう国では、それが確立されているというのだ。
しかも話は飛行船だけに留まらず、シータやムスカを交えた争いの発端……ラピュタという『天空に浮かぶ城』まで出てきたから驚きだ。
いや、これはもはや驚きを超越して、疑ってかかるべき御伽話のようにも思えた。
城というからには、かなりの質量を持っているはず。それが宙に浮かぶなど、どのような方法を用いればいいのか検討もつかない。
論理や法則を知らない一般人からは魔法のように捉えられる錬金術でも、それは不可能なことなのだろう。
でなければ、アメストリスでも飛行船くらいならとっくに実用化している。
動力はいったいなんなのか? そもそもパズーの住まう国には錬金術が存在しないとか。しかし科学は発展していて……
と、話に花を咲かせるうちに、ほんの小休止が、予定よりも長い足踏みになってしまった。
パズーの齎した情報は決して無益なものではなかったが、今はなにより、銃器の調達が先だ。ラピュタの謎など後回しで構わない。
しかし、シータという少女に興味が湧いたのも事実。パズーが、どれだけシータを気にかけているのかも。
『約束したんだ。シータを連れて行くって。こんなところで死なせたりなんかしない。するもんか』
少年らしからぬ使命感に燃えた瞳はどこか――リザが慕うある野心家のものに似ていた。
だからなのかもしれない。気が付けばパズーに肩入れし、シータを保護しようという考えさえ生まれ、二人とも死なせたくないと願う自分がいた。
同時に、思う。時期を早くして死亡の報告がなされてしまったエドワード・エルリック、その弟、アルフォンス・エルリック、
同僚であり故郷に妻子を残してきたマース・ヒューズ、そしてロイ・マスタング。
彼らもまた、死なせたくはない人間たちだ。
リザが仲間に対し抱くそれと同じように、パズーもまた、シータやドーラに対する心配を募らせているのだろう。
ましてや、パズーはまだ子供だ。不安を看破できるほど精神が研磨されているとは思いがたい。
国家錬金術師に軍人にほぼ不死であると言っても過言ではない鎧。それらと儚い少女を比較しても、安心でいられるはずなどないのだ。
「……まぁ、慣れないものに触るのはよくないわね。これの所有者が取りに戻ってくる可能性もあるし。早々に切り上げましょう」
屈託なく微笑んで、リザは消防車から身を降ろした。
その、直後。
二人の下に、静寂を突き破る爆音が轟いた。
「今の爆発音は……橋の向こう?」
「見て、おねえさん。煙が上がってる。誰かがあそこで戦ってるんだ」
襲撃者どころか通行人もろくにいない、寂寞とした道路に訪れた、突然の騒音だった。
見ると、西の方角に煙が濛々と立ち上る光景があった。
普段なら火災の一言で済ます惨事だったが、現状を考えれば、あれが自然災害や事故であるはずもなく。
つまりは、何者かによる放火、それもなんらかの爆発物かそれに準じる兵器を用いた可能性が高い。
「行こう、おねえさん。ひょっとしたら、シータが巻き込まれてるかもしれない」
「……いえ。この川沿いに北上し、迂回して警察署に急ぎましょう」
リザは淡白に、パズーの提案を制した。
至って冷静な顔つきで焦り顔の少年を宥め、煙の立ち上る方角に背を向ける。
「どうして! あそこで何かが起こってるのは間違いないんだ。誰かが危険な目に遭ってるのも!
それがもしかしたらシータかもしれないし、おねえさんの知り合いだって可能性もある!」
「私たちの目的は敵の殲滅でも、弱者の救護でもない。そもそも、私たちはそれを可能にするだけの戦力を持ち合わせていない。
今は自分たちの身の周りを固めることが最優先よ」
「そんなの屁理屈だ! シータが誰かに襲われてからじゃ遅いんだよ!」
徹底したリアリストを貫くリザに、まだ幼いパズーは反発するしかなかった。
パズーとシータの繋がりがどれだけ強固なものかは、皮肉にも先ほど、共感を覚えるほどに知ってしまった。
仲間のために命を懸ける、自ら死地に飛び込む、これらの行動は若さだけで片付けられるものではない。
単なる命知らずではなく、『死なないという覚悟』があるからこそ、冒険ができる。
「……たしかに、私の言葉は臆病者の戯言かもしれない。でも、子供のあなたをみすみす死にに行かせるわけには」
「どうしてそんなに難しく考えるのさ!? 困っている人がいたら助ける、悪い奴がいたらやっつける、敵わないようなら逃げる!
そんなの、当たり前のことじゃないか! やりもしないうちから諦めるなんて、そんなの間違ってるよ!」
理路整然とした論理で武装しても、パズーはことごとくそれを剥がしてしまう。
正義の代弁者でもなく、職務に準じる執行官というわけでもなく、パズーは人間として、目の前の惨事を見過ごせなかった。
その若すぎる勇気にリザは感銘を受け、それでもパズーの主張を肯定することができない。
縁も薄い赤の他人。ただ行き先が同じだっただけ。いずれは別れるつもりだった。なのに、リザはパズーを死なせたくないと思った。
いつの間にか、こんなにも肩入れしてしまっていた。おばさんなどと、数々の失言を浴びせられたこの少年に。
(どうして、私の周りにいる男性は、こうも無謀な挑戦が好きなのかしら)
思い、冷笑した。
その後、パズーとリザの討論は数十分にも及んだ。その末に、
「荷物を」
「え?」
「私の荷物を、あなたのデイパックに移させてもらうわ。穴が空いた荷物を持ち歩いていては、いざというとき対応が遅れるから」
「おば……おねえさん、ッデェ!?」
リザはパズーの熱意についに折れ、西への進路を検討した。たび重なる失言への制裁は、しっかり忘れずに。
この、勇ましくも失礼極まりない少年を、慈愛に満ちた彼女は突き放すことができなかったのだ。
荷物をパズーのデイパックに移す傍ら、リザはなおも騒動の続く西の方角を見やり、息を飲む。
23本のダーツ、一振りの短剣、残弾3発の銃……これらの心許ない手持ちで、どうにかなればいいのだが。
(待っているのは重火器で武装した凶悪犯か、それとも……いえ、争いは避けるべきよね。まったく)
これからやろうとしていることは、破壊者の検挙ではない。状況の確認と、襲われている者の救護だ。
必ずしも戦う必要はない。うまく立ち回ることができれば、誰も傷つけずに場を収拾できるはずだ。
――と、そのときのリザはパズーに感化されたのか、軍人に相応しくない希望的観測を胸に抱いていた。
その背後を、一つの影が追跡していたとも知らずに。
◇ ◇ ◇
壱/1――
男が三人、街中で小躍りする。
鋼の装甲を鎧った女が一人、三人の男を躍らせる。
阿鼻叫喚の宴は、咳き込むほどの粉塵と猛火の熱気に彩られ、さらに加速する。
「おいおいマジやべぇマジやべぇって。なんなのアイツ? なんなんだよオイ!」
「いやぁ〜、厄介なのに目を付けられちゃったねぇ。とりあえずどうする? 逃げる? 戦う?」
「ブッ殺す! ツラ拝まないことにゃどんな奴かもわからないが、あいつは今こう思ってるはずだ。こんな強力な兵器を持ってる俺は――」
「僕としては、安全を確保できればそれでいいんだけどなぁ。相手も無差別になってきてるし、このままじゃここら一帯火の海だね」
「聞けよ! で、問題はどうやってあいつをブッ殺すかだ。さすがの俺もあんなのとは戦り合ったことがねぇ!」
「逃げるにしても隠れるにしても、このまま町を無差別に破壊され続けたら、巻き込まれることは必至だ」
「いや、だからあいつをブッ殺せばそれで済むじゃねぇか! こちとらあのジジイのせいで鬱憤が溜まってんだ。揚げ足取るんじゃねぇよ!」
「ひゃあ顔近い! あと首に手かけるのやめて! ボク死んじゃう!」
「ああもう、あんたら少し静かにしてくれ! 声が聞こえない!」
ブリタニア軍に属する技術者、ロイド・アスプルンド。
マフィア崩れ、ラッド・ルッソ。
魔術師の少年、衛宮士郎。
数分前、ロボットにも似た謎の鎧人間に襲われた彼らは、ろくに自己紹介も終えぬまま、追われる身の上を共通項として一軒の民家に逃げ込んだ。
家の外では、今でもロボットが三人を探し回っている。圧倒的な火力を用いての、市街破壊という方法で。
このまま潜んでいても、いずれは家ごと抹消されてしまうだろう。そこで、素性も知らぬ三者は一時的に手を取り合った。
選択肢は二つ。外敵であるロボットを無力化するか、被害の届かぬ場所まで逃げ切るか。
ラッドは前者、ロイドは後者の選択肢を推したが、どちらも難しく、マイペースな態度とは裏腹に絶望感すら漂いつつあった。
そんな中、士郎は一人指もとのリングにぶつぶつとなにかを呟きかけ、ロイドとラッドの論争を邪魔とさえ言い出した。
「おいおい兄ちゃん、早くも現実逃避か? 死ぬ覚悟を決めたっつっても、男の子ならせめて派手に散ろうぜ!?」
「そんなつもりは毛頭ない。それと、一応俺はあんたに賛成だ。あんな危険な奴、野放しにしておくわけにはいかないからな」
「士郎くんって言ったね? ずいぶんと勇ましいことを言うけど、なにか策でもあるのかい?」
「……ない。けど、俺たち三人と『こいつ』で協力すれば、どうにかできるかもしれない。だから二人とも、俺に力を貸してほしい」
そう言って、士郎は指に嵌めたリングを翳した。
「こいつ? その指輪が勝利の鍵だとでも言うのかい? 魔術礼装とか、興味深いことを言っていたけど……」
『Ja』
「のぅわぁ!?」
ロイドが士郎の嵌めた指輪を小突くと、そこから機械的な音声が聞こえてきた。
大袈裟に驚き仰け反るロイドを尻目に、士郎は先刻知った指輪の正体を説明する。
「こいつの名前はクラールヴィント。シャマルって人の相棒で、厳密に言うと魔術礼装じゃなくてアームドデバイスってものらしい」
「なんなのよ、その魔術とかアームドなんとかってのは。ロボットが出てくるSF展開かと思えば、今度はオカルトか?」
「むむむむむ! いやぁ、ますます興味深い! ぜひ分解……じゃなくて、お話を聞きたいなぁ。自立思考システムでも搭載されているのかい?」
指輪が喋るという、時代的にも技術的にも不可思議な現象を目の当たりにして、しかし二人の反応は楽観的だった。
もっとも、人型の機動兵器に追われている現状を鑑みれば、今さら喋る指輪ごとき驚くほどのものでもないが。
技術者としての欲望全開で士郎に縋るロイドだったが、本人はそれを振り払い、真面目な顔で話を続ける。
「今はお互い、暢気に身の上話をしていられる状況じゃない。あのロボットをなんとかするほうが先決だ」
「それはそうだけど、その指輪が役に立つっていうのかい?」
「ああ。こいつは俺の力になってくれるって言ってる。でも俺たちの力だけじゃ、あいつは止められない。だから――」
「俺たちに手を貸せって? 殺し合いの会場で出会ったばかりの俺たちに、背中を預けろって?
おまえ、ちょっと平和ボケしすぎなんじゃねぇの? 頭イカれてる? それとも、俺は死ぬはずないとでも思ってんのか?」
「んなわけあるか! これは、生き残るための提案だ! 俺は玖我を助けに戻らなきゃいけない……だけど、ここで逃げることもできない!
無理強いはしないさ……俺だって、あんなのを止められる自信はないんだ。でもな、ここで退くわけにはいかないんだよ!」
士郎の言葉は勇敢を越えて、もはや無謀とも言える域だった。
勝算はない。だが逃げない。少しでも勝算を上げるため、赤の他人に協力を求める。まるで馬鹿な思考だ。
が、ロイドは気付いていた。彼をそうまでして無謀に近づけさせるものの正体……それが、衛宮士郎という人間が持つ強い正義感だということを。
彼とは違う。だが根底に鎮座する抗いようのない意思は、死んでしまった彼、枢木スザクのものとまったく同じだ。
あるいは、その意志に共感と懐かしさを覚えたのかもしれない。
そしてラッドも、士郎の発言を無碍に扱ったりはしなかった。言葉よりもまず、その確固たる意志の灯った目に感嘆した。
緩みきった目ではない。この地で最初に出会った高嶺清麿のものよりも、遥かに崇高な眼差し――死ぬ覚悟を決めた目。
自分がいつ死ぬともわからない、安心などありはしない、それを自覚してなお、困難に牙をむく。
ラッドが忌み嫌うタイプとは、明らかに正反対な人間。だからかもしれない。
「ククク……ヒャーハッハァ! こいつぁおもしれぇ。とんだ馬鹿野郎がいたもんだ」
「笑いたきゃ笑えよ。俺は一人でもあいつを止めるから」
「待てよ。誰も協力しないとは言ってねぇ。俺もああいう輩は虫が好かなくてね。ブッ殺すってんなら協力するぜ?」
「まぁ、殺すかどうかはともかくとして、止められるなら確かに止めたいね。このままじゃ被害が増すばかりだ」
士郎の正義馬鹿ぶりに爆笑するラッドと、含み笑いを浮かべながら携帯電話を弄るロイド。
おちょくられている気分でもあったが、二人の言動には、士郎に対する一応の同調が見られた。
と、そんなときだ。ロイドの操作する携帯電話から、突如『ラセーン』という珍妙な機械音が響き、他二名の視線が集まる。
「……ああ、なるほど。タイミングからしてもしやと思ったけど……あの機動兵器の操縦者がわかったよ」
「な、なんだって!?」
思わぬ発言に瞠目する士郎と、「すげぇなオイ。で、どんな奴なんだ?」と血走った目を輝かせるラッド。
二者を前にして、ロイドはやや冷淡な口調でこう告げた。
「……彼女の名前は鴇羽舞衣。なんてことはない、ちょっと顔が怖いだけの女の子だよ」
◇ ◇ ◇
参/1――
カチリ……、カチリ……、カチリ……と、等しく時間を刻み続ける時計の針の音。
それがまるで時限爆弾のカウントダウンのよう。
まるでそんな風に、身体を振るわせるゆたかの耳にそれは届いていた――。
その微音の波を、轟然とした爆発音が突き破る。
「っ!? な、なに?」
Dボゥイとともに訪れた、人気のない静謐な病院。その産婦人科病室内で、小早川ゆたかは轟音を耳にした。
壁際を見やると、外の風景を映し出す小窓が僅かに空いている。おそるおそる覗いてみると、外はもう完全に明るかった。
が、その視線の最奥で――コンクリート色に広がる淡白な市街が、濛々とした煙に包まれているのが見えた。
「誰かが……してる、の?」
殺し合い、とは口に出せなかった。
街を焼き、数十メートルは離れているであろうこの病院に届くほどの音を掻き鳴らして、誰かと誰かが争っている。
本能的に導き出した答えと向き合い、しかしすぐに顔を背ける。目をギュッと瞑り、残酷な現実から逃避した。
怖い。ただ恐れの感情だけを胸に抱きしめて、ゆたかはその場に蹲った。
「――ゆたか!」
そのときだった。ゆたかと同じく異変を聞きつけ舞い戻ってきたDボゥイが、脇目も振らず421号室の門を掻い潜る。
仲間の帰還に安堵したゆたかは、目尻に涙を溜めながら、助けを請うようにその身に縋った。
「Dボゥイさん、あの、すぐ近くで爆発が……」
「ああ、俺も聞いた」
ゆたかとDボゥイの二人は、改めて窓の外を注視する。立ち上る煙の量は、初見のそれより遥かに拡大していた。
そしてまた、爆音が一回、鳴り響く。ゆたかは反射的にDボゥイの身にしがみ付くが、今は気恥ずかしさを感じる余裕もない。
「どんな兵器を支給されたかはしらないが、あの破壊は異常だ。少し探ってくる。君はここで待っていてくれ」
「えっ!?」
Dボゥイの発言を聞き、ゆたかは明らかに狼狽する。
「あ、あの! わたしも……わたしも行きます!」
そして気付くと、無謀極まりない言葉を口走っていた。
当然、Dボゥイは顔を顰め、これに反論する。
「今度ばかりは、君を守れるという保障がない。いや、素直に自信と言ってもいい。
あの破壊は、恐らくは人の手によるものではないだろう。それこそラダムのような、人智外の輩が暴れ回っているかもしれない」
「な、なら、Dボゥイさんも一緒にここで大人しくしてれば……」
「いや、駄目だ。あの規模の戦闘が続けば、いずれはこの病院にも被害が及ぶかもしれない。
万が一の場合すぐに逃げ出せるよう、状況は把握しておくべきだ」
そう断言すると、Dボゥイは踵を返し病室の出入り口へと向かう。
遠ざかっていく大きな背中を見て、ゆたかはたまらずそれを抱き止めた。
「ゆたか?」
「……」
少女に無言のまましがみ付かれ、Dボゥイはやむをえず足を止める。
背中越しに伝わる少女の体温は仄かに暖かく、そして震えていた。
脆弱な小動物のように微動し続けるゆたかを見て、Dボゥイは考えを改める。
「……すまなかった」
「ふぇ?」
唐突に謝られて、ゆたかは情けない声を漏らして返す。
「一緒に行こう。ただし、君はどんなことがあっても俺から離れるな。絶対にだ」
「は、はい!」
市街での戦闘に、ラダムと同等の外道が、あるいは宿敵である愚弟が関与している予感に駆られ、失念していた。
すぐ傍で震えている、守るべき存在。アキやミリィとは生まれも境遇も違う、弱すぎ少女のことを。
ブレードの力を失った今、爆心地に少女を連れて潜入するのは危険かもしれない。
もし敵がラダム獣やテッカマンと同等の力を保持していたとして、現状のDボゥイではゆたかを守りきれはしないだろう。
だが、少女にとっては危険よりもまず、Dボゥイとの別離がなによりの恐怖と成り得た。
それを知り、Dボゥイは少女とともに行く。そこに、なにが待っているかも知らず。
騒動により放置された病室には、口の付けられていないお茶が二組だけ残された。
◇ ◇ ◇
弐/2――
猛火に包まれた被災地を、鋼鉄の少女が練り歩く。
ポイントにして、C-6地区。あの飄々としたアホ面を闇雲に追撃しているうちに、こんなところまでやって来てしまった。
後方、まだ戦火の残る街々を眺め、少女は陶酔する。素晴らしき炎、輝かしき燃焼、破壊。
カグツチもエレメントもなしに、これらをやってのけた力……落手した力の壮大さに、鴇羽舞衣は歓喜した。
「すごい……すごいよコレ! これならもうなにも心配いらない……やれる、やれるやれる!」
自身を覆う鋼をマジマジと眺め、歴戦の愚かな兵士たちと同じように、舞衣は兵器の齎す力に酔い、溺れた。
鉄砲から始まり、核兵器に至るまで。人間という生き物は、己が欲望のままに兵器を生み出し、破滅の道を歩んできた。
どんな世も変わらない。絶対的な力が持つ魅力は、人の心を狂わせる。舞衣のような力を求める者にとっては、なおさらのことだった。
「それにしても、あいつらどこに行ったのよ? まさか逃げられた? それとも、街ごと壊しちゃったかしら?」
これより北の街々は、無造作に乱発したフェルミオン砲によってほぼ廃墟と化している。
規模が規模だ。追っていた男たちが戦火に巻き込まれ、とっくに死んでいる可能性は十分に考えられた。
「そうだとしたら、おかしいったらないわね。でも、そんなんで死なれたら困るのよ……」
表情を窺わせぬ鉄仮面の裏で、舞衣は妖艶に微笑んだ。
激しい憎悪と、奪うことに対する快楽を求めて、進路を再び北に取る。
「そうよ……私は奪う側に回った……力も手に入れた……味わわせてやるのよ……あいつらに……奪われる苦しみを」
スーツ越しから、抑えきれないほどの殺意が滲み出る。
これまでの波乱万丈にして幸薄い半生を恨みながら、北へ、北へ、不気味にローラーを滑らせる。
焦る衝動を抑え、まだ戦火の広がっていない地区を中心に、獲物を捜す。
そして、とある十字路に差し掛かったとき、
「!」
標的は、曲がり角の向こうから姿を現した。
舞衣は熱源を察知したことにより走行をやめ、次にその全姿を確認して、動きを止めた。
曲がり角の奥から現れた人物は、白衣に身を包んだロイド・アスプルンドでも、彼と一緒にいた二人の男でもなく。
薄汚れた帽子を被り、作業着のようなズボンを穿いた――巧海やシモンと同年代くらいの――少年だったのだ。
「なぁアンタ、シータって女の子を知らないか!?」
舞衣の異様な姿に若干驚きつつも、その少年――パズーは、常の元気さを装い声をかけてきた。
対して舞衣は、返事を返すことができない。脳内で巧海の消滅、シモンの失血死、自分が殺した少年の残滓が蘇り、困惑する。
(また――弟と同じくらいの男の子が死ぬ。違う。殺す)
似ている箇所など一点もない。なのになぜか、巧海やシモンの面影が、目の前のパズーに合致していく。
カメラ越しの映像が、潤んだ瞳のせいか歪んで見えた。
「パズーくん! そいつから離れなさい!」
「――ッ!」
数秒、動きを止めていると、パズーに続いて青い軍服を着た女性が飛び出してきた。
その手には銃を持ち、ソルテッカマンの装甲に纏われた舞衣を見て、明らかな敵意を飛ばしている。
反射的に、動いた。右腕のライフルを展開し、銃口を目の前の二人に向ける。
ターゲットは二つ。僅かに揺れるレーザーライフルの照準は、パズーのほうに向けられ、
光の一閃が、放射された。
「え――」
それは少年の脇腹辺りに命中し、貫通する。
本来ならばラダム獣をも粉砕する光線の一撃は、此度の実験仕様に改造されていたため、肉体を完璧に破壊するほどではなかった。
だが、傍から見ればあまりにも鮮烈で、十分すぎるほどの殺傷でもあった。
光線に射抜かれたパズーの体は、ゆっくりと仰向けに倒れていく。
「パズゥゥゥゥゥ!!」
リザは絶叫とともにその身を抱え、反撃としてM500ハンターの弾丸を三発、惜しむことなく放つ。
対象はもちろん、パズーを攻撃したソルテッカマンである。
三発の銃弾はソルテッカマンの右足へと命中。操縦者である舞衣はバランスを崩し、その場に転倒した。
その間、リザは追撃をかけることはせず、負傷したパズーの身を抱え退却する。
ただのきぐるみとは勝手が違うこともあってか、舞衣はなかなか起き上がれず、リザとパズーの二人は無事にその場を逃げ果せた。
しばらくして、舞衣はソルテッカマンの重量維持の難しさを噛み締めながらも、どうにか立ち上がった。
軍服の女と少年の姿は、もうどこにもない。追撃するにしても、どの方角を目指せばいいのかわからなかった。
いや、それよりもまず。立ち上がった舞衣の胸中にはなぜか、あの二人を追おうという気持ちが湧いてこなかった。
「……これで、四人目。私が殺したのは、二人目」
か細い声で言い漏らし、しばしの間立ち尽くす。
前方の路上、灰色のコンクリートの上には、微かに黒ずんだ血痕が残されていた。
量からしてかなりものである。シモンの流したそれよりは少ないが、十分な致死量に思えた。
「どうしてかな……どうして私、落ち込んでるんだろう」
あの二人の関係がどういったものかはわからない。
だが確かな結果として、舞衣はあの金髪の女性から、少年という大切な存在を奪った。
求め、願い、掴み取った結果であるはずなのに……どういうわけか、達成感は欠片もなかった。
それどころか、虚しげな寂寥感すら覚える。認めたくはないが、少し、悲しくなった。
あれが少年ではなかったら、巧海やシモンに重ねようがない、老人や女性だったら違ったのだろうか。
自問しても、答えは見えてこない。
「…………」
空に問いかけることも虚しくなって、またしばらく、舞衣は無言で佇んだ。
誰かから、大切ななにかを奪う――自分がこれまでに受けてきた不幸に対する仕返しとして選んだ道が、霞む。
殺意が霧散し、どうでもよくなってきた。
やっぱり、自分はあそこで死んでおくべきだったのではないだろうか。
そんなことさえ、考え出し――
「――よぉ子猫ちゃん。空なんか眺めてどうした? 休憩だってんなら付き合うぜ。いっちょ踊ってくれや」
銃を構えた白スーツの男の来訪により、また殺意は蘇った。
◇ ◇ ◇
壱/2――
『……彼女の名前は鴇羽舞衣。なんてことはない、ちょっと顔が怖いだけの女の子だよ』
なんでさ。
誰に語りかけるでもなく、士郎はロイドの宣告に対し、心中でそう呟いた。
(鴇羽舞衣……それが、あのロボットみたいなのを動かして、街を破壊していた奴の名前。なんで)
士郎が指に嵌めているリング、クラールヴィントは、元はロイドが学校で舞衣から没収した支給品だ。
ロイドは、『支給品の正式名称を入力することで、支給主の現在地を特定する携帯電話』を用いることにより、
クラールヴィントの本来の支給主――鴇羽舞衣がどこにいるのかを割り出した。
その結果、戦場となっているC-6地区付近を高速で周旋している彼女こそ、彼らを襲ったロボットの正体であると判明した。
敵は優勝に目が眩んだ快楽殺人者でも、支給品の威力に溺れ暴れまわる大馬鹿者でもなく――
(なんでそれが……よりもよって、玖我の知り合いの鴇羽なんだよ!)
――ただの、女子高生だったのだ。
情報によれば、彼女も玖我なつきと同じくHiMEと呼ばれる異能者であるらしかった。
だが、それだけだ。殺戮や市街破壊に及ぶ危険性など、微塵も持ち合わせていない。
実際に会ったことはなくとも、士郎はなつきからの情報によって、勝手にそう判断していた。
HiMEの事情は知らない。だけど、魔術師でもない同世代の女の子が、ロボットを駆り街を破壊するなどありえない、と。
(悪い玖我、少し遅れる。お願いだから、俺が助けに行くまでもってくれ。その代わり、おまえの友達は)
まだ破壊の及んでいない、比較的平和な街路のど真ん中。士郎は武器となる剣を投影し、来るべきときに備える。
曰く、中国古代の呉の刀工によって作られた夫婦剣、かつての赤い弓兵が用いた双剣を、少女を止めるための得物として選択した。
そして、
「クラールヴィント、頼む」
『Ja』
士郎が声を発し、クラールヴィントがそれを返して、全身は光に包まれた。
清風を思わせる緑色の輝き。その奥に形成されていくのは、赤い外套。
士郎が得意とする投影魔術ではなく、クラールヴィントの機能を用いての、変身。
鴇羽舞衣を止めるための戦い。そのための武装が今、完了した。
◇ ◇ ◇
弐/3――
それは、天空に浮かぶ城を廻るを御伽話。
竜の巣と呼ばれる嵐雲の中で、今は亡き少年の父は、天空の城を見た。
周囲からすれば、信じがたい話だった。城が空に浮かぶなど、妄言としか思えない。
そんな世間の評価を受け、嘘つき呼ばわりされた少年の父は、やはり間違ってなどいなかったのだ。
パズーは見た。竜の巣を抜けた先、広大な天空に浮かぶ、ラピュタという名の巨城を。
あの瞬間、少年の夢であった天空の城――ラピュタの発見は果たされた。
だがその頃にはもう、少年は新たな目的を胸に抱いていた。
あの日スラッグ渓谷の銀鉱で働いていた少年の下に降って来た、シータの助けになるという目的が。
ムスカの野望はまだ終わっていない。シータは狙われている。飛行石やラピュタも。
力にならなければ、いや力になりたい。少年は願い、殺し合いという窮地に立たされても、その指針を忘れなかった。
こんなことは早く終わらせよう。そしてシータを連れて帰るんだ。
ラピュタへ、もう一度――
「……ズー! パズー!……」
(……誰だい? シータ……じゃない……おかみさん……でもない……ああ、なんだ)
深い闇の中で、パズーはラピュタの光景を思い出していた。
シータと一緒にタイガーモス号に乗り込み、竜の巣を越えて、やっと見つけたラピュタ。
降り立とうとして、しかしその寸前で、二人は螺旋王の下に連れて来られた。
まだ、なにも終わっちゃいない。シータを連れて、もう一度ラピュタへ――
「パズー! しっかりしなさい、パズー! くっ……駄目だわっ、血が、止まらない!」
目を開いたパズーの視界に飛び込んできたのは、青い、どこまでも青く続く、快晴の空だった。
こんな青空は、久しく見ていなかった気がする。見つめれば、シータが降って来た日を思い出す。
こんなに空が綺麗な日は、きっといいことが起こる。そんな予感がした。
「止血が……追いつかない! パズー、私の声が聞こえる? いい、気をしっかり持つのよ!」
親方、おかみさん、マッジ、ポムじいさん……鉱山町のみんなは元気にしているだろうか。
それに、ドーラ一家のみんなも。急に大黒柱が消えて、戸惑ったりはしていないだろうか。
ドーラおばさんは……なぜだろう、こんな状況下でも、たくましくやっていそうな気がする。
ムスカは……どうなっただろうか。ここでも、シータや飛行石を求め歩いているのだろうか。
シータは……シータは、どこにいるのだろうか。
「! パズー……喋れるの? 意識があるなら、私の手を強く握って! 生きて! あなたには、やり残したことがあるのでしょう!」
そうだ……ぼくには……まだ……やり残したことが……ある……。
ようやく……見つけたんだ……シータと……一緒に……ラピュタを……。
「……おばさん……」
あ……間違えた……おねえさんだった……ごめん……でも……。
「……ラピュタはあった。父さんの言っていたことは、嘘じゃなかったんだ」
それが、少年の最後の言葉だった。
◇ ◇ ◇
壱/3――
白いスーツが、笑う。鋼の乙女が、猛る。
それぞれ異なる銃器を持ち合い、奇声を上げながら盛大なパーティーを繰り広げる。
片方は楽しげに、片方は怒りながら、相手の命を奪うべく、殺し合う。
「ヒャッハァ! やべぇって、破壊力だけでなく推進力もハンパねぇって! どこで売ってんのそれ? ねぇどこで売ってんのよそれ!」
入り組んだ市街地を舞台に、超伝導ライフルで地球連合軍の最新鋭兵器・ソルテッカマンに対抗する男――ラッド・ルッソ。
マフィアの肩書きを背負い、ある特定の人間に対して熱烈な殺意を抱く狂人ではあったが、彼は一応はただの人間である。
テッカマンのような超人でも、ラダム獣のような化け物でも、HiMEのような異能者でも、ましてや不死者などでもない。
なのに彼は、ライフル一丁でソルテッカマンを装備した舞衣と渡り合っている。それも、心底楽しそうに。
「まったくスゲーもんを作るとこがあったもんだ! 作ったのは米軍か!?
今年死んだっていうトーマス・エジソンの遺作かなんかか!? 無理矢理作らせたのか!?
しかし、いったいどこと戦争するつもりだったんだろうなぁ! 全世界を相手に喧嘩でも売る気だったのかね!」
舞衣が纏うソルテッカマンは、言ってみれば鉄の鎧だ。ならば、ナイフも拳も意味を成さない。接近戦は不利と考えた。
都合のいいことに、向こうも接近戦を良しとはしていない。
ラッドと舞衣は互いが視認できる距離を保ちつつ、隠れ、狙い、撃ち、避け、移動してを繰り返していた。
決定的なのは、防御力の差。舞衣は全身が一つの兵器であるため、多少の被弾はものともしないが、対するラッドは生身。
フェルミオン砲の直撃を受ければ悪くて蒸発、良くて丸焦げ。レーザーライフルでも、致命傷は避けられない。
つまり、いずれかの攻撃に一発でも当たればゲームオーバーは必至。
それを自覚してなお、ラッドはスリルを満喫するかのように、狂気的な笑顔で舞衣に挑みかかった。
「だんだんパターンが掴めてきたぜ! テメェが主力にしてんのは、右腕のちいせぇヤツと、背中のでけぇヤツ、計二つ!
ちいせぇほうはスピードもあって射程もそこそこだが、距離がありゃまぁ避けられる! だがでけぇほうはやべぇ!
当たりゃ一撃で死ぬ! 避けるしかねぇ! けどよ、そのでけぇほうにも欠点はあるみてぇだなッ!」
民家の庭先に逃げ込んだラッドが、自らの居場所を知らしめるかのように大声を発する。
当然、舞衣はそれを聞き逃さない。足を止め、背部のフェルミオン砲を展開。照準を前方の民家に定める。
フェルミオン砲発射。レーザーライフルのそれよりも数段は大きい破壊の閃光が、家を燃やす。
爆砕音が鳴り響くも、耳障りな挑発は、それでやみはしなかった。
「威力はスゲェ! 認めるよ! だけどな、そのでけぇのを撃つには、溜めがいる!
ちいせぇほうみたいに走りながら撃つことはできねぇ! 必ず一旦止まる! そこが丸分かりなんだよぉ!」
ラッドの声は舞衣の前方から轟き、声量の変化に合わせて左方に傾くと、その姿はいつの間にか、横合いの路地先にあった。
すぐさま超伝導ライフルが発射され、装甲に命中するが、僅かな反動だけでダメージはない。
舞衣は欠点を指摘されながらも、展開したままのフェルミオン砲をラッドに向ける。
たしかに、フェルミオン砲には背部パッチを展開し、射撃体勢に入るまでの僅かなタイムロスがあった。
だが、それも一時のものだ。一度このように展開してしまえば、連射は容易。
螺旋王の改造によってその速度は低下していたが、生身の人間を相手にするのに支障はない。
「あーヤダヤダ! スゲェ武器を手に入れた奴ってのは、どうしてこう馬鹿になるのかね、っとぉ!」
フェルミオン砲の銃口を向けられ、それでもラッドは怯まず、舞衣の脚部目掛けて超電導ライフルを撃つ。撃つ。撃つ。
立て続けに命中した弾丸は舞衣の右脚部へと命中し、体勢を崩させた。
舞衣の右肩が下がり、フェルミオン砲の銃口が明後日の方向に向く。
放たれた衝撃がラッドの数十メートル横を通り過ぎ、爆風が金髪を靡かせた。
避けるのではなく、相手の体勢を崩すことによって照準を外させる。
少しでも手元が狂ったり、目測が外れれば、直撃コース必至の狂った戦法。
それを平然とやってのけて、ラッドは狂気的な笑顔のままだった。
膝を折り、残りカートリッジの少ないフェルミオン砲を一発無駄にしてしまった。
舞衣はソルテッカマンの火力に酔い、だというのに翻弄されている現状を嘆き、内部で舌打ちした。
巧海やシモンのときに感じた悲しみをパズーに重ね、彼を射抜いたことに対して覚えた後悔など、当に忘れていた。
皮肉なことに、ラッドの挑戦が舞衣を鬼に戻したのだ。一時的な迷いを吹き飛ばすほど、彼の行いは舞衣の怒髪天を突いた。
「しかしやべぇな、弾の残り数が心許なくなってきやがった! このままじゃジリ貧だ!
そういうあんたはどうなのよ? さっきからバンバン撃ってんのにも、残数とかあんの? ええ、マイちゃんよぉ!?」
「――ッ!?」
ふと、面識のないはずの男に本名を呼びかけられ、舞衣は驚きのあまり静止した。
ソルテッカマンを装備してからは、誰にも素顔を晒していない。操縦者が舞衣である事実など、これを齎した老人しか知り得ないはずだった。
「そこでだ! 名残惜しいが、俺は一時退却させてもらうぜ! なぁに心配すんな!
いざというときテメェを殺すのは俺の仕事だ! そんときにまた会おうぜ! じゃ、後は頼むわ!」
舞衣が疑問で動けなくなっている間、ラッドは調子のいいことを言って背中を向けた。
まさか、本当に逃げようと言うのか。舞衣は残り少ないレーザーライフルをその背に向けて放とうとするが、
間を、赤い外套を着込んだ男が遮った。
◇ ◇ ◇
壱/4――
『なるほど! 電話もできる上に探知機にもなる、その上こんなにも小型とは、スゲェ発明品があったもんだ!
ところでよ、俺ぁそのマイとか言う女が動かしてるロボットにちょっとばかし見覚えがあるんだが、どう思う?
いや、実を言うと今の今まで忘れてたんだがな! あんなスゲェもんだとは思わなかったしよ!』
数分前、舞衣打倒のための算段中にラッドが零した言葉を思い出す。
(やれやれまったく……出来すぎているというか、まるで螺旋王がこうなるよう仕組んだような配置だねぇ。
まさか、ラッドくんにこんなものが支給されていて、しかもそれを僕が使うことになるとは……。
だいたい、気分じゃなかったから使わなかった、マニュアルを読むのも面倒だった、なんて……あぁもったいない!
あのまま死蔵品にならなかったから良かったものを、こんなお宝を今の今まで忘れてたなんて、考えられない!)
右腕を動かす。問題はない。
左腕を動かす。問題はない。
脚部も、正常に駆動した。
(こういうのは得意じゃないんだけどなぁ……どちらかというとセシルくんの領分だよ、これは。
スザクくんならもっと上手く扱えるんだろうねぇ。なにせ彼は、最高のパーツだったから)
それは、1934年のアメリカからやって来たラッドにとっては、とても理解の追いつくものではなかった。
よもや、これが動くなど……ましてや武器になるなど、デイパックを覗いたときは思いもしなかったのである。
舞衣との相対でラッドが死蔵していたそれを思い出したのは、不幸中の幸いと言えようか。
(僕としては、彼が持っていた飛行機で逃げるって案が良かったんだけど……あれは良くて二人乗りだしねぇ。
そもそも、ああなってしまった士郎くんは僕一人じゃ止められない。根底は違うけど、その苦労はスザクくんで経験済みだ)
最低限ではあるが、準備は整った。螺旋王の調整に感謝するべきだろうか。
(ソルテッカマンねぇ……舞衣くんのアレはパワーこそ及ばないが、総合的なスペックならKFを凌ぐものがある。
まぁ、それでも僕のランスロットには到底敵わないんだけどねぇ〜! そして、フェルミオンか。これもなかなか……)
未知なる技術の片鱗を前に、欲望を混ぜて笑う。
時刻は、襲撃を受けてから1時間余りが経ち、11時を回っていた。
第二回目の放送も、もう間もなく訪れるだろう。
その頃には片付いていることを祈りたい。
◇ ◇ ◇
壱/5――
かつて、遠坂凛という魔術師の少女に仕えた弓兵がいた。
キリストの聖遺物に由来する聖骸布を元にした、一級の概念武装――それとよく似た赤い外套を纏い、立つ。
しかし違った。彼が着込むその外套は、かつての弓兵が纏っていたような概念武装ではない。
その名称をバリアジャケット――魔力で生成した防護服を身に纏う、魔法の一種。
魔術ではなく、魔法。その相違箇所は多いが、魔力という根底は大きくは変わらない。
それは魔術師である衛宮士郎が、クラールヴィントを通しバリアジャケットを展開した事実が証明している。
両手には、投影魔術によって精製した干将莫耶。武器として、使い慣れたものを選択した。
そして向かい合うは、鋼鉄の異形で武装した、鴇羽舞衣という名の少女。
二振りの短剣を彼女に向け、再度確認する。
彼女は敵ではない。助けるべきただの女の子だと――
「やめろ、鴇羽っ!」
レーザーライフルの射線上を遮るように現れた士郎は、そのままの勢いで舞衣に突進する。
左手の刃を一振り、舞衣の重厚な右腕に穿ち、狙いをラッドの背中から外す。
予想外の乱入者、そして予想外の言葉に怯み、舞衣は士郎の接近を許してしまった。
「ッ……なんで、私の名前を?」
ソルテッカマンのマスク越しに、舞衣の驚嘆の声が響く。
やはり、あの携帯電話によるロイドの推測は当たっていた。
学校でロイドを襲った鴇羽舞衣が、隠し持っていた装備で逆襲に訪れた――と。
「玖我さ! 玖我なつき! その子が君のことを教えてくれたんだ!」
「――ッ!」
なつきの名前を出した途端、舞衣はソルテッカマンの稼働を再開し、士郎へ銃口を向ける。
しかし、士郎は臆さず。低い姿勢で舞衣に挑みかかり、接近戦を貫いた。
「君は玖我の友達なんだろう!? だったら、こんなところで馬鹿やってる場合じゃない!」
頑健すぎる装甲に刃を打ち鳴らし、士郎は舞衣に言葉を投げることをやめない。
士郎の目的は、舞衣の殲滅でも鎮圧でもなく、説得だった。
彼女が自らの意志で戦意を収め、ともになつきの救援に向かってくれればベスト。
叶わぬときは……力ずくで捻じ伏せる。しかしそれは、士郎にとっての最終手段だった。
「あいつ、今ピンチなんだよ! 早く行ってやらないと、殺されちまうかもしれない! だから――」
「……私と、玖我さんが……トモダチ? ……はっ、なに言ってんのよ……ああおかしい、ちゃんちゃらおかしいわッ!」
友達の危機を知れば、頭を冷やしてくれるだろう――士郎は常の性格どおり、そんな甘い考えで舞衣と相対した。
が、違う。鴇羽舞衣と玖我なつきの二人では――連れて来られた時期のせいもあって――互いへの印象が、まるで違った。
蝕の祭が終わり、舞衣を友人と見做していた玖我なつきと――
蝕の祭の最中で、なつきを含むすべてのHiMEは敵だと思い始めていた鴇羽舞衣とでは――
精神的余裕に、天と地ほどの差があった。
「敵よ、全員! 大切なものを守るためには、誰かを蹴落とすしかない! 私は、その大切なものすら失った!
だから、もう、私は――奪うだけなのよッ!!」
舞衣は叫び、背部パッチを右腕の砲身に連結、フェルミオン砲の発射態勢に入る。
「こ……のっ、おお馬鹿やろぉぉぉぉぉ!!」
それに合わせ、士郎も走り出した。突きつけられた銃口にも怯まず、真っ直ぐ、正面に。
いくらバリアジャケットを展開しているとはいえ、フェルミオン砲の極大的な破壊を防げるほどの効果はない。
当たれば蒸発は必至の場面で、士郎はしかし、退かなかった。
二つの刃が、左右から挟み込むような形で砲身を穿ち、銃口を上空に逸らす。
舞衣はそれにパワーで抗おうとするが、上がった砲身はなかなか下がらない。
ソルテッカマンの馬力に一介の魔術師である士郎が対抗しているのは、意地の成せる業としか言いようがなかった。
「っ、このぉ!」
舞衣はやむをえず、そのままの体勢でフェルミオン砲を発射。
天高くフェルミオンの閃光が迸り、士郎は衝撃の余波を受けて、大きく吹き飛ばされた。
また一発、貴重なカートリッジを無駄にしてしまったが、泣き言は言っていられない。
アスファルトを転がり蹲った士郎、その体がまだ再起し切れていないのを確認し、脚部のローラーを滑らせる。
火器に頼りすぎたのが失敗だった。ソルテッカマン本来のパワーを持ってすれば、接近戦でも十分に戦える。
そうだ。しかも舞衣は既に、なんの装備にも頼らず一人の少年を殺している。
そうだ。人殺しは難しいことではない。大抵の人間ならば、二本のアームを打ち下ろすだけで終わる。
そうだ。舞衣は奪うだけだ。なつきの窮地も関係ない。それを助けようとしている士郎の意志も関係ない。
そうだ、そうだ、そうだ、そうだった――!
「死ねぇぇぇぇぇ!」
意識せず、舞衣は醜い形相で叫んでいた。
機械的な走行音に混じって、怨嗟の声を響かせて、
それがまた、レーザーの照射される音に掻き消えて、
不快な声が、舞衣の進行を止めた。
「ざぁ〜んねんでしたー!」
◇ ◇ ◇
弐/4――
血は止まった。呼吸も落ち着いた。意識も戻った。
これで助かる――しばらく安静にして、然るべきところで処置を施せば――
――――助かる――――はずだった。
「パズー……」
刹那の瞬きに抱いた淡い希望。それが無残に、音を立てて崩れ落ちていくのがわかる。
リザの目の前に横たわるパズーの体。その顔面に、墓標のように突き立てられた一振りの剣。
元気だった笑顔は、出血による蒼白状態でも明るく見せようとしていたパズーの顔は、
今は血に染まり、なにも見えなくなってしまった。
「あ、あ、あ」
嗚咽を漏らし、涙を流し、涎を垂らし、リザは悲劇に直面した。
荒ぶる精神状態を懸命に押さえつけようとして、しかしどうにもできない。
希望から絶望への急転直下が、彼女の身を苛んだ。
ジャンパーを着た長身の男は、そんな有り体のリザを見てなにも喋らず、黙ってパズーの顔面から剣を引き抜く。
赤く濡れた刀身をそのままに、今度はその刃を、パズーの首へと振り下ろした。
一刀では足りず、二度三度、繰り返して振り下ろした。
女性ならば目を背けたくなるような光景だった。
しかしリザは、硬直して瞼すら下ろすことができなかった。
やがて、パズーの頭部は首から切断され、男はその境目から一つの金属片を拾い上げた。
輪。それは、『Pazu』と名の書かれた銀色の輪。血塗れた首輪。パズーの首から採取された、輪。
男はパズーの首輪をデイパックにしまうと、満足げな顔でその場を立ち去ろうとした。
その後姿を目で追って、リザは声を絞り出す。
「……っ! どぉしてぇ!?」
歩みを止めた男が、振り向き様に答える。
「どうして……? おかしなことを聞くね。いや、虫ケラ同然の人間の知能としては、至極真っ当な疑問か。
教えてあげるよ。これは殺し合いで、俺は首輪を欲して、その子供は死に掛けだった。ただそれだけのことさ」
罪悪感など欠片もない、微かな笑みすら浮かべた男の態度が気に入らず、リザは本能のままに銃を向けた。
「……急いでいるんだ。借りを返さなきゃいけない人間もいるし、瑣末事には構っていられない。
あるいは放置しておくのも滑稽かと思ったんだが……そんなに死にたいのかい?」
男はリザの向ける銃口を恐れず、一振りの剣で殺意に応えた。
残酷すぎた少年の終わり。その衝撃がリザの整然とした精神を乱し、弾なしの銃を構えさせた。
涙はまだ零れ続けている。パズーの死を克服できないまま、リザは男の殺意を買った。
男は近づき――しかし咄嗟に飛び退いて、リザの下から去っていった。
そして、フェルミオンの衝撃がリザを襲い――相羽シンヤもそれに巻き込まれた。
パズーの意に同調し、彼を先行させ、謎の鎧に撃たれ、逃げ、火急ゆえ道端で彼を治療して、そこに男が現れて――現在に至る。
リザの失敗は、いったいどの部分にあったのか。
ただパズーへの申し訳なさを募らせて、
リザの意識は、闇に消えた。
【パズー@天空の城ラピュタ 死亡】
【残り62人】
◇ ◇ ◇
壱/6――
咄嗟に放ったレーザーの一撃が、上手く舞衣の進行を止めてくれた。
いやはや、僕の射撃の腕前も捨てたもんじゃないなぁ……と自画自賛し、ロイドは家屋の屋根から飛び降りる。
着地の際、ガシャン、と機械的な音が鳴った。
「ご無沙汰でしたぁ〜! ありゃありゃ、ずいぶんと好き勝手やってくれたものだねぇ。
僕はイレヴンへの差別意識はないとは言ったが、ここがブリタニアなら君は極刑ものだよぉ?
あれ? 反応が薄い。もしかして僕が誰だかわからないとか?」
「……ロイド・アスプルンド」
「ぴんぽ〜ん。だいせーかい!」
常の飄々とした態度で構えるロイド。舞衣は彼の登場に立ち尽くし、呆然としていた。
予期していなかったわけではない。ラッド、士郎と続き、二人と戦う発端となったロイドが出て来ないのは、腑に落ちないものがあった。
予想外だったのは、その姿だ。
「おや、僕がブリタニア軍技術部主任のロイド・アスプルンドであると知りながら、まだ混乱しているみたいだねぇ。
なんならそんなものは脱ぎ捨てて、裸で話し合ってみる? や、女性に対してこの言い回しは失礼だったかな?」
舞衣を包むその鎧が緑ならば、ロイドのそれは青。
細部のデザインこそ異なるが、その全体像は、舞衣の着込むそれと明らかに同種だった。
「カラーがホワイトなら、白兜とでも名乗れたんだけどねぇ。まぁ僕はあの俗称が嫌いなんだけれど。
それにこの機体の構造はとても魅力的だけれど、僕のランスロットには到底及ばない!」
舞衣のソルテッカマン一号機に対し、ロイドが切り札として用意してきた決戦兵器は――
「それでも一応呼称を作っておこうか! そうだね、プリン伯爵とでもお呼びください!」
――ソルテッカマン二号機。ラッドの最後の支給品にして、舞衣が操縦するそれの後継機だった。
(って!)
絶対だと思っていた力。その同格が現れたことに唖然としてしまった舞衣が、ロイドの進撃により我を取り戻す。
ロイドは射撃武器を用いず、脚部のローラーを滑らせ、舞衣目掛けて真っ直ぐ推進しきたのだった。
すぐさまレーザーライフルで迎撃しようとするが、弾数の残り少なさが脳裏を過ぎり、躊躇した。
その間、我が身を両腕で覆いつつ攻め寄ったロイドが、舞衣の機体に取り付き、なおも推進する。
――ソルテッカマン二号機による舞衣の拘束。ここに至るまでの全てが、ロイドら三人の立てた作戦だった。
まず、長距離射撃の可能なラッドが先駆となり、相手の弾数と体力を消耗させ、後続の安全度を上げる。
次いで、バリアジャケットで武装した士郎が接近戦を展開。本人の意向により舞衣に説得を試みる。
その時点で事態が収拾できればオールオーケー。もし駄目ならば、第三手。
同じくソルテッカマンで武装したロイドが、舞衣を力ずくで拘束し、戦闘をやめさせる。
殲滅ではなく抑止――敵の正体が鴇羽舞衣であると知った士郎が提案し、全員の支給品を考慮した上でロイドが組み立てた、平和的解決策だった。
「つーかまーえた! 残りのエネルギーも少ないんでしょう? 今謝ればみんな許してくれるよ?」
「誰が!」
「強情だなぁ。野蛮なことはしたくないんだけど、お仕置きが必要かねぇ」
ロイドの二号機が舞衣の一号機に抱きつき、完全に身動きを封じた。
軍人ではあるが、ロイドは軟弱な技術者だ。殺意を持った女子高生相手に挑めば、敗戦は必至。
だが、技術者には技術者なりの戦い方がある。武器――この場合はソルテッカマンのスペックを理解し、活用する。
捕縛が目的ならば、操縦者がロイドであろうと達成は容易。動かし方さえ把握できれば、それで十分なのだ。
そもそも、こんな素敵なもの(舞衣のソルテッカマン)を傷つけるなんてとんでもない! 破壊するぐらいなら分解して……
と、本人の職業病も加味されて、なおのこと作戦の遂行に対する熱意は燃えた。
「貴重な研究材料を傷つけたくはないし、悪いこと言わないからこのまま降伏――ってあらぁー!?」
舞衣を抱えたまま推進するロイドだったが、不意にその進行が止まった。
足元がキュルキュルと音を立て、二者が踏みとどまる。見ると、舞衣の脚部ローラーが前進しようと回っていた。
互いに押し合う状態になり、しばし均衡する。その間も、舞衣は拘束から逃れるためアームの駆動系に力を込める。
「無駄だって! マシンの操縦はそんな力任せでどうにかなるものじゃない! 大人しくしなさい!」
「うるさいっ! 私は……私はああああああああ!!」
鉄仮面越しだというのにも関わらず、舞衣の怒気は普段前線に立たぬロイドを竦み上がらせた。
その結果、舞衣を縛る二本のアームが微かに緩み、一気に振り解かれた。
「!?」
飄々とした口を利く暇もなく、ロイドは後方に仰け反った。
しかし舞衣はその隙を見逃さず、ロイドの胸元目掛け、文字通りの鉄拳を振り翳す。
同時に、脚部ローラーを回転させ、推進。
鉄拳で押し出し、推進し、苛烈な勢いでロイドを前方に追いやる。
「わああああああああああああああああ!」
周囲一帯に喚き散らしながら、舞衣はロイドを殴りながら前へ前へと驀進していった。
「痛い! 痛い! 痛い!」
衝撃から逃れるため、脚部ローラーを後進させてしまったのがロイドの間違い。
二号機の肢体は転倒を許さぬまま、むしろ勢いづいて後退させられ、胸元のフレームが歪んでいく。
「やめ、やべ、やめてー!? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなざっ!?」
舌を噛んだ。が、ふざけているのではない。
殴打の衝撃による純粋な痛みと、舞衣の鬼気迫る迫力に圧倒されて、ロイドは早くも弱腰になっていた。
だが、それでいて常の冷静さは崩さない。状況を打開するため戦略を練るが――
「がふんっ!?」
後頭部を強打し、組み立て前の思考材料が全て吹っ飛ぶ。
舞衣に後方まで殴り飛ばされ、背後にはいつの間にか、ビルという名の巨大な壁が迫っていた。
退路を断たれたロイドは半ばヤケ気味に、鉄拳を翳す舞衣の機体にしがみ付く。
ゼロ距離ならば殴られる心配もない。と考え実行に至った、苦肉の策である。
しかし、戦闘本能むき出しとなった舞衣には、それすらも通用しない。
「こいつ……離れなさいよおおおおおおおお!!」
右腕の砲身を持ち上げ、背部のパーツと連結。フェルミオン砲を展開する。
銃口は標的の急所を捉えていたとは言いがたいが、この距離ならばさして関係はない。
至近距離からの発射で、ロイドの体を吹き飛ばすつもりだった。
「なっ――よしなさい! こんな密接した状態でそんなもの発射したら――」
「っさい! 殺す、あんたはここでえええええ!」
チャージが始まり、チャージが終わる。
改造されているとはいえ、フェルミオン砲の発射速度はそれほど遅くはない。
想定外ばかりの事態が続く前線での戦闘に戸惑い、ロイドはあたふたと思考の海を泳ぐ。
(至近距離からのフェルミオン砲!? 馬鹿な、そんな真似をしたら、
いくら装甲があるとはいえどうなるかわかったもんじゃない! 僕のほうもフェルミオン砲を撃って相殺する!?
それこそ愚行だ! だって、相殺できるような物質かどうかもわかっていないんだから!
だいたい僕はフェルミオンという物質に関して数パーセントしか理解していない。
それも憶測と推論が混じった割合だ、ギャンブル性が高すぎる! ああ、だから正面きって戦うなんて柄じゃなかったんだ!
スザクくんやセシルくんならこんなときどうするの!? 誰か、誰か教えてください!!)
いや、むしろ溺れていたのかもしれない。
未知の物質、フェルミオン。それが生み出す破壊の方程式。
技術者だからこそわかる恐怖にロイドは混乱を極め、本能のままに舞衣の身から離れた。
舞衣がフェルミオン砲の照準を、ロイドに向け修正。
ロイドも咄嗟にフェルミオン砲を展開し、両者、銃口を向け合う。
溜めに溜めた引き金を、舞衣は満を持して絞った。
ロイドもやや遅れて、正面に迫る光に撃つ。
フェルミオンの輝きがぶつかり合い、爆ぜた。
◇ ◇ ◇
壱/7――
フェルミオンとは、言ってしまえば反物質粒子を元にした破壊のためのエネルギーである。
その性質はロイドの危惧どおり危険極まりなく、人間の手には余る代物だ。
本来ラダム獣の殲滅に用いられるフェルミオン砲を、ソルテッカマン同士で撃ち合うなど、前代未聞だった。
その末の惨事が、数件のビルを巻き込むほどの大爆発であり、震源地となった二人のソルテッカマンは、
「……し、死ぬかと、思った」
ロイド・アスプルンドのほうは、どうにか生きていた。
「ロイドさん!」
「おーい、生きてるかー!?」
焼け爛れた市街地跡、そこにうつ伏せのまま蹲るロイドがいた。
士郎とラッドの二人はフラップターを駆り、ロイドの下に降下する。
「おいおいひでぇなこりゃ! 脚イッちゃってんじゃねぇか!」
「痛いですすごく……涙……出てます」
ソルテッカマン自体はまだ健在だったが、衝撃により露出した頭部には流血の跡が見られた。
それ以上に悲惨なのが、脚部。ロイドの片脚はソルテッカマンの装甲ごとぺしゃんこに拉げ、再起不能に陥っていた。
ロイド自身は息も絶え絶えで、普段の余裕が窺えない。重傷だった。
「ロイドさん……鴇羽は?」
「さて……運がよければ僕と同じように、装甲に守られて、生きてるかも、だけど……」
「ってロイドさん、今は黙って! このままじゃいけない……すぐに治療を――」
「オイオイオイ! やっこさん生きてやがんぞ!」
士郎がロイドの容態に血相を変える傍ら、ラッドの口から悪報が届いた。
振り返るとそこには、残骸の中、膝立ちでフェルミオン砲を展開しているソルテッカマンが一機。
照準はもちろん、士郎たち三名に向けられていた。
「鴇羽……おまえ! まだこんなこと続けるってのかよ!?」
「言っても無駄だろ。最初の予定どおりだ……シロウが説得して、ロイドが力ずくで、それでも駄目なら俺が殺す。
残念だったなぁ。作戦通りなんだわ。わかるかマイちゃん? おまえはここで死ぬんだよ!」
「いけない!」
超伝導ライフルを構え殺気を放つラッド。その寸でのところで、ロイドが待ったをかけた。
青ざめた顔で、ラッドに忠言を下す。
「撃っちゃいけない……おそらく撃てば、彼女の機体から零れ出ているフェルミオンに反応して……爆発する。
逃げ……るんだ。すぐに撃ってこないところを見ると、彼女の意識はたぶんまだ完全じゃない……隙があるうちに早く」
ロイドの言葉を聞き、二人は舞衣のほうを見やる。
幾つか装甲が外れ、制服が露出している。自壊寸前なのだろう。
「チッ、銃が駄目ってんなら、殴り殺しゃいいじゃねぇか!」
「なにを馬鹿なこと言ってるんだ! ロイドさんの言うとおり、今は逃げよう!」
「あの飛行機を……運転できるのは君だけだ……頼むよ、ラッドくん」
士郎とロイドの二人は、一人反対したラッドを制する。
普段ならば、テンションの高ぶった彼にこれらの進言はまるで意味を成さない。
が、今は状況が状況だ。ラッドは殺人狂ではあるが、短絡的な命知らずではない。
殺したい奴は他にもいる。ジャンパーに、おさげジジイに、ハゲジジイに、そしてなにより元の世界に置いてきた婚約者が、ラッドに殺されるのを待っている。
対して、舞衣はラッドが熱意を燃やすほど殺してやりたいタイプではなかった。
「だぁー畜生! わぁったよ、マイちゃんは後のお楽しみに取って置くよ! 今はこっから離れるぞ!」
天秤にかけて、ラッドは退却を受け入れた。
舞衣は怒声も発さず、黙々と砲身が安定するよう努めている。
「さぁ、ロイドさんも速――く!?」
ラッドがフラップターを起動させ、士郎はそれに乗り込むべくロイドの身を引っ張り――そこで気付く。
「……無駄さ、士郎くん。人型だからってなめちゃいけない。これだけの代物だ、重量だって、並外れてる」
ソルテッカマンを着込んだロイドの体は、とても士郎の力で持ち運べる重量ではなかった。
たとえラッドと二人がかりだとしても、数十分はかかる。引きずることすら叶わない。
「だったらロイドさん、早くそれを脱いで!」
「だから無駄だって。拉げて……脱げなくなってる。脚なんて、もう感覚ないし……」
見ると、ロイドの目は力なく沈みかけ、顔はいっそう青ざめていた。
出血がまだ続いている。士郎は唇を噛み締め、再度舞衣に向きなおった。
「鴇羽! もうやめろ! こんなことしたって、なにも意味はない! 殺し合いなんかしちゃいけないんだよッ!」
血迷ったかのように、再び舞衣に説得の言葉を投げかけた。
◇ ◇ ◇
壱/8――
霞む視界の奥で少年が必死に呼びかけている。
自らの理想を言葉にして、若さという原動力に乗せて、他者にぶつけている。
誰かに似ていた。無防備な後姿が、誰かのそれと被った。
(ああ、スザクくんか。彼ならまぁ、この場面でもこうしただろうね。やっぱり、彼は似ていたんだ)
自身が最高のパーツと評した少年を思い出し、笑う。
矛盾を抱えた正義感という、共通の概念を持ち合わせた衛宮士郎に対し、叫ぶ。
「自重しろ! 衛宮士郎!」
死に掛けの弱々しい声でも、いつもの飄々とした口調でも、なかった。
「君の理想は立派だ。だがそれは、現実を受け入れず駄々捏ねるだけで掴める理想なのかい?」
今にも泣きそうな、それでいて悔しそうな顔をする少年を、厳しく叱咤する。
「君は軍人ではないし、彼とも違う。だけど君が正義の側に立とうとするなら――生きて、理想を貫くことだ」
理想に準じて命を投げ出すのでは、なにも変わらないし変えられない。
「わかったら行きなさい。行って、君が信じるべきことをやればいい。あと、もう一つ」
常のような、憎たらしくもどこか温情に満ちた笑顔を作り、
「命を捨てて理想を貫くなんて、そんな矛盾は抱えちゃいけない。矛盾は君を殺すよ。ふふふ……だから、行きなさい」
士郎がフラップターの下に駆け出したのを見て、満足した。
「……さて、最後の言葉はなににしようかな。未練がましくプリン食べたいとか? ああ、相羽くんにも謝る必要があるか。
天国なんて信じちゃいないけど、ひょっとしたらスザクくんやアニタくんに会う機会もある、かな?
セシルくん……ランスロットの調整、よろしく頼むよ。アッシュフォードのお嬢様は……悲しんでくれるかな?
……おやおや、僕ってば、未練タラタラじゃないか。死にたくないなぁ……今からでもやめてくれないかなぁ、舞衣ちゃん」
羽ばたき飛行機が、飛び去っていく音が聞こえる。
一秒か十秒か、一分以上の時が流れたかもしれない。
しばらくして閃光は奔り、ロイドの身は熱気に包まれた。
「それではみなさん、さよ〜なら〜♪」
これは、誰の耳に届くこともなく。
ひょっとしたら、空耳だったのかもしれない。
【C-6中央部/市街地跡/1日目-昼(放送直前)】
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:フラップター(+レガートの金属糸@トライガン)@天空の城ラピュタ
[道具]:支給品一式×2、ファイティングナイフ、超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾5/5)
ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ、携帯電話、閃光弾×1
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:後味悪ぃな畜生!
1:東方不敗を探してぶち殺す。
2:鴇羽舞衣を殺す。
3:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
4:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※ソルテッカマンを着込む際、ロイドの荷物を預かりました。
【携帯電話】
@全参加者の画像データ閲覧可能。
A地図にのっている特定の場所への電話番号が記録されている(どの施設の番号が登録されているのかは不明)。
全参加者の現在位置表示システム搭載。ただしパスワード解除必須。現在判明したのはロイドと舞衣の位置のみ。
パスワードは参加者に最初に支給されていたランダムアイテムの『正式名称』。複数回答の可能性あり?
それ以外の機能に関しては詳細不明。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、腹部、頭部を強打、左肩に未処置の銃創、軽い貧血
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット
[道具]:なし
[思考]
0:ちくしょう……
1:玖我を助けに戻る。
2:舞衣に殺人をやめさせたい。
3:イリヤの保護。
4:できる限り悪人でも救いたい(改心させたい)が、やむを得ない場合は――
5:18:00に図書館へ行く
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。
真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※チェスに軽度の不信感を持っています
※なつきの仮説を何処まで信用しているかは不明
【ロイド・アスプルンド@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
【残り61人】
◇ ◇ ◇
壱/9――
舞衣が放った最後のフェルミオン砲は、ロイドの機体から漏れていたフェルミオン粒子に反応を起こし、大規模な爆発を起こした。
反動で吹き飛ばされた彼女は、倒壊した家屋の中に叩き込まれ、そのまま気を失った。
大切なものを奪う――かつては死にたいとさえ思っていた少女は、歪んだ方法で生きる意志を手に入れた。
それに操られるがまま、過ちを繰り返し、それでも運命は、彼女に死を許さなかった。
本当、イラつく。
自らの境遇に悪態をついて、それでも舞衣は生きて奪うほうを選択した。
【C-6中央部/市街地跡/1日目-昼(放送直前)】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、気絶、疲労(大)、全身各所に擦り傷と切り傷
[装備]:ソルテッカマン一号機@宇宙の騎士テッカマンブレード
機体状況:ほぼ全壊、エネルギー10%、フェルミオン砲0/12 レーザーライフル1/20
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※瓦礫の山に埋もれているため、簡単には発見されません。
◇ ◇ ◇
弐/5――
全ての戦いに決着がついた後、その男は遅れてやって来た。
「――英霊か、はたまたあのおっさんの言ってたエキスパートって奴か……どっちにしろえらい化け物がいたもんだ」
蒼き槍兵――ランサーは、騒ぎを聞きつけ戦地跡に訪れた。
崩壊した大地、破壊しつくされた住居郡を見て、他人事のように頭を掻く。
誰かは知らないが、派手な殺し合いをしていた輩がいる。思うところはそれだけで、収獲がなさそうだと判断すると、その地を後にしようとした。
ランサーが求めるもの。それは愛用するゲイ・ボルグであり、あるいはその情報源となる参加者だ。
ここで誰かが争っていたとして、情報の得られなさそうな殺戮者や、死体には用はない。
生きた参加者ならば、まぁ接触する意味はある。そういう意味では、なんとも微妙な発見だった。
「……」
無言で立つランサーの眼下には、一人の女性が転がっていた。
軍服を纏い、軍靴を履き、そのいたるところに血痕を宿した……金髪の女性。
橋で襲撃するかどうか迷った女、そしてエリオに致命傷を与えた男の、おそらくは同僚。
言うなれば、敵になるやもしれぬ女。それが、気を失って目の前に転がっている。
「軍人ってのは、決まって口が堅いもんだがな」
試しに鉄槍で小突いてみるが、反応はない。重傷というわけではなかったが、かなり疲弊しているようだ。
ランサーは女の身を小脇に抱え、乱暴に運び出した。
「まぁ、こいつが本当にあの男の仲間だとしたら……いろいろ恨みもある」
慈愛が働いたわけではない。ランサーは冷徹な憎悪を持って、眠る女に接した。
労わるべき患者ではなく、単なる情報源として。
【C-6南部/市街地跡/1日目-昼(放送直前)】
【ランサー@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、強い決意
[装備]:鉄槍(折ったポール+アサシンナイフ@さよなら絶望先生×1本)
[道具]:デイバック×2、支給品一式×4、ヴァッシュの手配書、防水性の紙×10、
不明支給品0〜2個(槍・デバイスは無い)、偽・螺旋剣@Fate/stay night、暗視双眼鏡
M500ハンター(0/5)@現実、ダーツ@現実(残り23本)、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実
泉そうじろうのデジタルカメラ・説明書付@らき☆すた(※マタタビの勇姿(後ろ姿)を撮ったデータが一枚入っています)
[思考]
基本:このゲームに乗った者、そして管理している者との戦いを愉しませてもらう
1:女(リザ)を病院に運び、軍服の男(ロイ)等について尋問する
2:どこかにあるかもしれないゲイ・ボルグを探す
3:↑のために他の参加者を探して接触する
4:言峰、ギルガメッシュ、ヴァッシュと出会えれば、それぞれに借りを返す
5:衝撃のアルベルトと出会えれば戴宗からの言伝(一時的な休戦の申し込み)を伝える
6:エリオの知り合いと出会えたら事の経緯を伝える
7:日が暮れたら、戴宗と合流するため一旦温泉へと向う
最終:エリオの遺志を尊重し、螺旋王を討ち倒して彼の仲間を元の世界へと帰す
[備考]
※エリオ、戴宗と情報交換をして、それぞれの世界についての知識を得ました
【リザ・ホークアイ@鋼の錬金術師】
[状態]:気絶、疲労(大)、精神的ショック、全身各所に擦り傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考] 基本:ここから脱出する。殺し合いをするつもりはない
0:……
1:北上し、警察署で更なる銃器を調達する
2:ロイ・マスタング大佐、マース・ヒューズ中佐、エルリック兄弟(アル)を探し合流する
3:2日目の0時頃に温泉へと戻り、マタタビに協力を要請する
4:トンネルで見た化物を警戒す
5:ゆたかを心配
※リザ・ホークアイの参加時期はアニメ15話辺り。彼女の時間軸では、マース・ヒューズはまだ存命しています
※トンネルで出会った人物より、『線路の影をなぞる者(レイルトレーサー)』の名前を聞きましたが、
それが名簿に記載されていないことにまだ気づいていません
※マタタビと情報交換をしてません。また、マタタビを合成獣の一種だと考えています
※Dボゥイとゆたかの知り合いについての情報を得ました。
※穴の空いたデイパックは、めぐみの消防車の運転席に放置。
※ルールブレイカー@Fate/stay nightは、パズーの遺体とともにC-6のどこかに放置。
◇ ◇ ◇
参/3――
全ての戦いに決着がついた後、その二人は遅れてやって来た。
「ひどい……街がめちゃめちゃ」
「……卑劣な」
その破壊が、ソルテッカマンによって齎されたものなどとは露とも思わず、Dボゥイは憤る。
ゆたかも、テレビなどで見た震災の映像を思い出しながら、珍しい光景にただただ息を飲んだ。
二人もまたランサーと同じく、騒音に引き付けられやって来た者。
騒乱に直接関わることはなかったが、惨事の大きさは、容易に想像ができた。
粉々に砕け転びやすくなったアスファルトを踏みしめながら、二人は破壊された街々を行く。
「あっ、あれ見てください」
そのとき、Dボゥイの背中に縋るように歩くゆたかの瞳に、微動する瓦礫の山が映った。
何者かが埋もれていると直感したDボゥイは、ゆたかの身を長身で隠し、声を発した。
「誰かいるのか!? 返事ができるようなら――」
瓦礫の山に向かって――Dボゥイは、すぐさま異変に気付いた。
埋もれているのが騒乱の被害者であるならば、助ける余地はある。
だが加害者であるならば、それなりの戦力を持った危険人物であるのは必至。
前者ならともかく、後者なら即座に対応しなければならない。ゆたかを守るための最善策を。
そしてその異変の正体は――どうやら後者のほうであるようだった。
瓦礫の山が、崩れる。中から、人が出てきた。
「……やあ、久しぶりだね。兄さん」
埃に塗れた姿は、どこか狂気染みたオーラを纏う青年で――顔つきは、どこかDボゥイに似ていた。
「シンヤ……」
強張った形相で、Dボゥイは埋もれていた男をねめつける。
「Dボゥイ……さん?」
この二人の因縁などまったく知らないゆたかは、ただ首を傾げることしかできなかった――
――その胸に、得体の知れぬ不安を抱えて。
放送が、流れた。
【C-6南西部/市街地跡/一日目/昼(放送開始)】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:左肩から背中の中心までに裂傷(傷は塞がったが痛みは若干残っている)、全身打撲(中)、貧血(中)
[装備]:テッカマンアックスのテックランサー(斧) @宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:デイバック、支給品一式、月の石のかけら(2個)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:テッカマンエビル(相羽シンヤ)を殺す
1:シンヤに対処。ただしゆたかの安全を最優先
2:病院に戻り、二人分の代えの服や薬品、治療のための道具を集める
3:病院に戻ったら、一度食事と休憩をすませる
4:次の目的地を定め、速やかに病院を離れる
5:信頼できる人物にゆたかを預けたい……だが(?)
6:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:疲労(小)、心労(中)
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる
0:なんだろう、この不安は?
1:Dボゥイが帰ってきたら、一緒に食事と休憩をすませる
2:Dボゥイの指示にしたがって行動する
[備考]
※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました
※夢の内容は今のところぼんやりとしか覚えていません
【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:全身各所に擦り傷
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、ファウードの回復液(残り700ml)@金色のガッシュベル!!、首輪(パズー)
[思考]
1:まずは兄さんに“挨拶”
2:ロイドの下に首輪を持っていく。
3:制限の解除。入手した首輪をロイドに解析させ、とりあえず首輪を外してみる。
4:テッククリスタルの入手。
5:Dボゥイの捜索、及び殺害。
※B-6の一部、C-6のほぼ全域が崩壊しました。一部まだ火災が続いてる場所もあり、煙が昇っています。
やだ。
『くだらん』
それが結論だ。
地図の枠に沿って位相差ゲートがあるのかどうか。
そのようなオーバーテクノロジーが存在するのかしないのか。
この枠の外へ踏み出せば何が起こるのか、起こらないのか。
あの女が不可思議な技を使うのか使わないのか。
今、あの女が何処にいるのか。
生きているのか、死んでいるのか。
その全てが、自分にとっては取るに足らない、下らない問題なのだと再確認する。
科学的な検証は物理学者がすれば良い。
理解不能な事象を無理に理解しようとする必要も無い。
可能性は、可能性として留め置けば良い。
あの女が生きているなら、見つけ出して殺せば良い。
怪しい技を使うのならば、使わせる前に殺せば良い。
自分の知らない情報を知っているなら、吐かせれば良い。
そう、全ては極めて単純なことである。
俺が今、思い悩む必要など、無い。
そして、目に見えない境界線へと向けていたその眼を、街の方へと向け直す。
その視線の先では、この閉じた世界に囲われた、虫けらの如き人間共が、殺し合いをしているのだろう。
そう、是は極めて簡単な状況だ。
俺は、前に進む。
障害は、排除する。
邪魔をするものは、殺す。
そして、俺は、俺自身が行きたい場所に行き、成りたい物になる。
ただそれだけの事だ。
それは、何時だろうが、何処だろうが、変わることなど無いだろう。
これまでも、そしてこれからも。
まどろっこしい真似などする必要はない。
進み、奪い、屠る。
虱潰しに。
ただ、それだけだ。
毒蛇は、人を呑み、他の蛇を呑み、そして、龍をも呑み込む。
そして、獲物を求めて、前へと進みだした。
@ @ @ @ @ @
/ ./i `、
/ ィ/ ヾ,,、 }
lノ、i゙, , _,.r'`ゝ、r-、 |
ゝ,、( o) ̄'v'6,l i
ヽソ.  ̄ ,r'、 ノ ぶっちゃけ、したらばがこのスレを荒らしてるんじゃないか
', -‐'` ノ ヾr、._
', ` / ,r‐'゙/ \_
゙ フヾ゙,r''´,r/ /
_,,r'ヽ',~,r''/__/
‐''´ ‐''" !/ \
「わぁ! こんどはおっきい観覧車だぁ!!」
「おいおいイリヤ、地面も見ないと転んじゃうぞ!」
「ハァ……“また”か……一難去ってまた一難…・・・欝だ……」
やあ、全世界60億の老若男女即ち僕のファン達、元気かな?
ご存知、全人類のスーパースター、フォルゴレさ!
僕達、フォルゴレ、イリヤ、ねねねの3人は、
昨晩一夜をエキサイティングな思い出で満たしてくれた水族館を後に、
ミス・ねねねご所望の、図書館へと向かって歩き出した所だぜ。
もうお日様もずいぶん昇り、ちょいと小腹が空いてきたって頃合かな?
「つーか、どんだけ牛歩なんだよこの集団は……
お前ら、目に付くモノ全てに興味示してるんじゃ無いよ……
なんでン時間も経ってるのにこの程度しか進んで無いんだよ……」
さっきからご機嫌斜めのねねね嬢を笑顔にしてあげられない、自分の無力さが残念極まりない。
そもそも、折角仲良く(?)なったラセン君との別れを惜しんだりと、水族館を離れるまでにも、それなりの時間が必要だった。
それに、道中で見たワンダースポット、モノレールやドーム球場に心奪われるイリヤが居ては、
僕としてもそれを無下にあしらうことなど出来はしない。
近代的かつ展望の良さが期待できるモノレールには、当初からイリヤが目を付けていた事もあり、
その使用の是非を巡って中々な熱戦が繰り広げられた。
しかし、図書館に行くには遠回りになる、次のモノレールが来るまでに時間がありすぎる、と言うねねねによって、
結局、モノレールを利用するという案は却下になった。
そして、次に我々を虜にしたのがドーム球場だったが、
これも、誰も試合をしていないドーム球場なんて殺人事件の起きない推理探偵モノのようなものだ、という、
ミステリー作家に恨みでもあるのか? と言いたくなる様なねねねの暴論によって、その探索は却下となった。
そして、そういった諸所での出来事が積み重なることにより、
僕とイリヤのテンションは上がり、それと反比例するようにねねねの表情は曇って行ったのだった。
「僕のやり方が、ねねねにはお気に召さなかったみたいで残念だなあ。
でも、そんなに暗い顔してたって、何も良いことなんかありゃしないぜ?
ほら、スマイル、スマイル!」
「いや、お気遣いはありがたいんだが……もうちょっと、こう、緊張感というか……」
「ハハハ、そんなにツンツンしてたら、逆に相手も構えちゃうだろう?
そういうのって損だと思うよ。壁を作って周りを拒絶してたって、何も良いことなんか無いさ。
それに、誰だって心を割って話し合えば、理解しあえないことなんて無いよ!
だからホラ、ねねねもスマイル、スマイル!」
「世界中がお前みたいなのだけなら、戦争も起こらないんだろうなあ……」
「おいおい、褒めても何にもでないぜ?」
「褒めてねえ……」
「ちょっと、二人とも、早く――!! 置いてっちゃうわよー!!」
前を行くイリヤが叫んでいる。
「おのれちびっ子め……ここまでのタイムロスを誰のせいだと……」
「ハハハ、過去なんて、あんまり気にするもんじゃないよ?」
「過去ってか今さっきだし! つか、お前も同罪だし!!」
「よーしイリヤ、あの観覧車まで競争だー!!」
「あー、フォルゴレずるーい! ちゃんとヨーイドンしなよー!」
「……逃げたな……」
そんなこんなで、観覧車直前の橋まで来た時だった。
先頭はぶっちぎりでこのフォルゴレ。後にねねねとイリヤが続いている。
先に橋を渡って待とう、そう考えた僕が、橋を渡りかかったその時に、ふと気付いた。
橋の上の真ん中に、誰かが立っていたんだ。
失礼ながら、オバケとか悪魔とか、そういうのを連想してしまう雰囲気の人だ。
杖代わりの棒を持っているようだけれど、長い距離を歩いて疲れているのだろうか。
僕達以外で巻き込まれてしまった人だろう。そう思った。
だから、僕の取る行動は、決まっていた。
「やあ! そこの人! 君もこのパルコ・ファルゴレの仲間にならないかい!?」
何時ものスマイルで、そしてビシッ!とポーズを決めながらの一言!
よし、今回も決まった、完璧に……!
「…………って、アレ?」
しかし、眼前の男の人は、仏頂面のまま、眉一つ動かさない。
は、ハズしてしまったか……!?
だ、だが慌てない、スーパースターはこの程度では慌てない!
僕にはまだ、掴みのテクニックは無数に――
「おーい、フォルゴレー、待ってー」
と、後方から2人が追いついて来た様だ。
これで仕切りなおし、といったところだろうか。
「ああ、紹介しよう、彼女らが僕らの仲間の――」
そう言いながら振り向いた、その時。
「フォルゴレ、危ないっ!」
――ヒュン
「うわぁっ!」
僕の眼前を、黒い鉄塊が通り過ぎていった。
男が手にした鉄パイプの一撃……と、瞬時に理解する。
かわせたのは、偶然と、咄嗟の反射のおかげだった……だけど。
「ぐほッ!」
切り替えしの一撃が、鳩尾に直撃する。
一撃目はフェイント代わりで、本命はこちらだったのだろう。
しかし、これは確かにねねねの言う通り、もう少し緊張感を持っておいた方が良かったかもしれない。
食らった一撃の重さに悶えながらも、うっすらとそう考える。
……うん、それぐらいの余裕は、まだある。
「フォルゴレ、離れろ! ソイツはヤバイって!」
後ろで叫ぶ、ねねねの声が聞える。
そういえば、彼女が持っている、特別な“名簿”があったっけ。
全参加者の情報が載っているという名簿。
ソレを読んだねねねがそう言うってことは、相当ヤバイ人だったんだな、この男。
でも、ねねねに言われるまでもなく、この男のヤバさは肌で感じ取れる。
緩んでいた僕のネジが、高速回転で締まってゆく。
【書き手の注意点】
・トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、
>>1の予約スレにトリップ付きで書き込んだ後投下をお願いします
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの仮投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に仮投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない仮投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
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いらない文章本当に多すぎだな。何度も見てるけど
僕も、昔はちょいとヤンチャが過ぎる頃があった。
でも、だからこそ分かる。子供の遊びと、大人の仕事の間にある、確固たる隔たりを。
僕らが無意識の内に持っている大事なものを、とっくの昔に捨ててしまったような人種というのは、確かに居る。
そういう人間って言うのは、特有の目をしているんだ。
そう、この男のような。
男が、無表情のまま、ねねねとイリヤのほうを見た。
ああ、いけない。
この男は、全員殺す気だ。
そのためには、僕を放って置いて、逃げられると厄介な2人を先に始末した方が効率的なんじゃないかと、
冷静に計算しているんだ。
ダメだ、それだけは、なんとしても、ダメだ……!
「待ってろファルゴレ、いま助けに――!」
ダメだ、来ちゃダメだ。
こいつは、相手が女子供だからって、容赦どころか、意にも介さない。
冷静に、淡々と、ノルマをこなす様に……殺される。
ダメだ、、ダメだ……!
「ダメ……だ……! 二人とも、来ちゃダメだ……!」
痛むお腹を押さえつつ、やっとの思いでその言葉を捻り出す
「おまえ、その状況で何カッコつけてんだよ!」
「格好も……付ける……さ。な、何たって僕はスーパースター、だからね。
それよりもねねねは……イリヤを、頼むよ」
僕の言葉を聞いたねねねは、はっとしたようにイリヤを振り向く。
イリヤも緊張した、張り詰めた顔をしている。
そう、今にも僕を助けようと、駆け出しそうな表情だ。
イリヤを、こんな危険な事に巻き込んではいけない。
子供を守るのが、大人と、お兄さんの役目だろう?
「で、でもっ、それじゃあフォルゴレが、フォルゴレが!」
そんなイリヤの悲痛な叫びを、優しく、窘めるように、言ってあげるんだ。
「ハハハ、僕を誰だと思っているんだい? 僕は、鉄の、無敵のフォルゴレだぜ?」
その時、おもむろに、男が2人の方へと歩き出した。
2人に狙いを定めたんだ!
「ねねね! 今なら間に合う、いや、“調度良い時間”だ! 行けっ、行くんだ!!」
絶叫にも似た僕の声に突き飛ばされるように、ねねねの体が飛んだ。
イリヤの腕を掴んで。
「何するの、ねねね! ダメ、ファルゴレを助けないと!!」
「黙ってろ! 黙って、走れ!!」
嫌がるイリヤを、ねねねが無理やりに連れて、走り出す。
ねねねは、ちゃんと僕の“キモチ”を察してくれたみたいだ。
「そうだ、行くんだイリヤ! 大丈夫、僕も直ぐ行く!」
「……逃がさん」
その2人を追おうとする男の背中に向けて。
「待てッ!!」
懐にしまっておいた、ソレを出し、
「動くと……撃つぞ!!」
狙いを、つける。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
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話し合いの結果、移動することがきまったんですがねー
聞いてないというし、荒らしだともいうし
@ @ @ @ @ @
ああ、くそ、イライラする。
私が敵前逃亡? あいつにビビッたっての?
ふざけんな!
クソッ、クソッ、クソッ!!
感情的には、不本意極まりない。
でも、理性的には、こうするしかないって分かっている。
あそこで私たちが加勢して、いったい何が出来たっていうのか?
私たちが持っている武器といえば。イリヤのマッハキャリバーぐらいだ。
ちびっ子の、正体不明の不思議アイテムを頼って、あのマフィアと殺し合いをさせる?
死んだアニタのように?
……あり得ない。
それに、ここは離島。袋小路だ。
このままでは、遅かれ早かれ、あのマフィアに追い詰められてしまう。
――“あの時間”を逃してしまっては。
その時間は、しっかり覚えている。
それを逃せば、次のチャンスは数時間後。
だから、このチャンスを逃すことは出来ない。
しかし、時間的には、かなり際どいタイミングのはずだ。
だからこそ、まごまごしている暇は無かった。
迷っている時間を惜しんで、走りださなければ、間に合わない。
それが、分かってしまったから、
アイツの言葉で、気付いてしまったから、
私は走り出した。
理性では分かっている。
イリヤを巻き込んじゃいけないってことも、分かっている。
でも……感情は、理屈だけではどうにもならない。
イライラする。
どうにもならないことが、むしょうにイライラする。
でも、どうにもならない。
クソッ!
@ @ @ @ @ @
「動くな! そのまま、そのパイプを捨てろ!」
銃を両手でしっかりと支え、男にそう叫ぶ。
気迫で呑まれてしまう訳にはいかない。
でも、この男は……とりたて慌てる素振りすら無い。
2人を追おうとした足を止め、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「アンタも見れば分かるだろう? この銃はオモチャじゃない!
撃たれたくなかったら、僕の言うとおりにしろ!」
必死にそう叫ぶ僕を見る男の目は、あくまで冷静で、冷ややかだ。
しばしの間、静かに僕を見据えた男は、
そのまま、ゆっくりと、
一歩。
また一歩。
無造作に、まっすぐに。
僕に向かって、歩いてきた。
「と、止まれ! 撃たれたいのか!?」
慌てる僕。冷静な男。
銃を向けているのは僕だというのに、まるで立場が逆だ。
男はなんの躊躇もしない。
くそっ、本当は撃ちたくなんか無いけれど……
男を止めるために、足を撃つか!?
そう思い、ぐっと指に力を入れ――、
「安全装置が付いたままだぞ」
「えっ――!?」
慌てて手元の銃を見た、次の瞬間。
強烈な衝撃が、銃を握る両手を襲った。
銃が宙を舞う。
次に僕が見たのは、自分の顔面へと滑り込む、鉄パイプの鈍い光沢だ。
痛みを感じたのは、その後だった。
地面に倒れる僕を余所目に、男は銃を拾い上げる。
そのまま、銃のマガジンやグリップをかちゃかちゃといじる。
品定めでもするかのようだ。
「……まあ、良いだろう」
そして、改めて、僕を見下ろした。
「……無駄弾を使うことも無いな」
>その時間は、しっかり覚えている。
>それを逃せば、次のチャンスは数時間後。
>だから、このチャンスを逃すことは出来ない。
>しかし、時間的には、かなり際どいタイミングのはずだ。
>だからこそ、まごまごしている暇は無かった。
>迷っている時間を惜しんで、走りださなければ、間に合わない。
>それが、分かってしまったから、
>アイツの言葉で、気付いてしまったから、
>私は走り出した。
こんな文書で楽しんでるとか、ウソじゃない?
鉄パイプが振り下ろされる。
鈍い痛みが、全身を貫く。
呻きとも、呼吸音ともつかない音が、口の中から漏れ出てくる。
立ち上がろうにも、脚が言うことを聞いてくれない。
残念ながら、今の僕にできることと言えば、僅かに体を捩り、ダメージを僅かに和らげることぐらいだ。
でも、それにだって、意味は有る。
男は、銃を使わないつもりだ。
鉄パイプで殴り殺すつもりのようだ。
だから、ここで僕が、一分でも、一秒でも長く生きていれば、
それだけ2人と男との距離が開き、
2人が逃げるだけの時間が稼げる。
だから、僕は、必死に耐える。
今にも燃え尽きそうな命の火を、必死で守る。
たとえちっぽけなことだとしても、それには確かな理由があるのだから。
だから、僕は、必死に今を生きる。
今、この瞬間を。
なあに、大丈夫さ。
こう見えても、タフさには自信があるんだぜ?
それに、あの歌を聴けば、僕には力が沸いてくるんだ。
ほら、あの歌が聞えてきた……
【パルコ・フォルゴレ@金色のガッシュベル!! 死亡 】
@ @ @ @ @ @
無駄な文章多すぎ
発車ベルが鳴り響く。
その音が、自分の徒労をあざ笑うかの様に聞え、うんざりしてしまう。
先にこの場所を訪れたのが、凡そ2時間前。
それから、私は速やかに行動を開始した。
螺旋博物館に続く施設の捜索――それが、私の目的だった。
水族館と、ドーム型球場。
時間的な問題もあったため、その2つの内のどちらか一方に探索は絞るべきだろう。
そう考えた私は、ドーム型球場に足を向けた。
螺旋……くりかえす円循環と、そこから別次元への前進……それを思わせる、円。
まあ、結局は唯の山勘だった訳だが、それは完全に外れてしまったようだ。
もしや、“ドーム内に何かを隠蔽しているのでは……?” とも考えたが、
そこにあったのは、がらんとした無人の球場だけだった。
もっと細部に至るまで調べれば、何かを発見できたのかもしれないが……
残念ながら、そのブレイクスルーが起きる前に、タイムリミットが訪れてしまった。
「結局、他の参加者とすら会えなかったか……」
そう呟いて、モノレールに乗ろうとした、その時。
ふと改札口の方を見ると、こちらに向かう人影が目に飛び込んだ。
物凄い形相で走ってくる、女性と、その女性に腕を捕まれている女の子。
彼女達は確か……
「やあ、こんにちは、はじめまして。
私は警視庁の明智と申します。
出来れば少しお話を聞かせて頂けますか? 薫川ねね――」
「うっさい!」
どがっ
相手の心情と微妙な間合いを計る私の言葉も聞こうとせずに、
彼女のタックルが私を直撃する。
そして、3人の体がモノレールの中に吸い込まれたのを確認したかのように、
そのドアが、ゆっくりと閉じていった。
【C-1/1日目/昼】
【ビシャス@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:鉄パイプ、ジェリコ941改(残弾16/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式、マガジン(9mmパラベラム弾16/16)×1
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し。元の世界に戻ってレッドドラゴンの頂点を目指す。
1:皆殺し。
2:武器の補充、刀剣類の獲得。
[備考]
※地図の外に出ればワープするかもしれないと考えています
【D-1・駅/一日目・昼】
【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:右肩に裂傷(応急手当済み)、(上着喪失)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、参加者詳細名簿、予備カートリッジ8
ダイヤグラムのコピー
[思考]
基本思考:犯罪芸術家「高遠遙一」の確保。ゲームからの脱出。
1:ゲームに乗っていない人間を探しつつ施設を回る。
2:ねねねとイリヤと会話
3:D-4駅へと戻り、クロスミラージュと合流。
4:金田一、剣持を探す。
5:明日の正午以降に博物館の先に進む。信頼できる人物にはこのことを伝える。
6:もし死体を見つけた場合、気が進まないが首輪を回収する。
[備考]
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:苛立ち
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、詳細名簿+@アニロワオリジナル、手書きの警戒者リスト
:ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
[思考]:
1:イリヤの安全確保
2:図書館に行く。誰も見つけられなければ本がある場所へ。
3:読子、スバル、ティアナ、エリオ、はやて、シャマル、清麿、ガッシュ、士郎を探す。
4:詳細名簿を参照に、危険人物、及び死亡者の知り合いを警戒する
5:柊かがみに出会ったら、ボン太くんのぬいぐるみと『フルメタル・パニック!』全巻セットを返却する。
6:読子が本当に自分の知る人物なのか確かめる。※
最終行動方針:打倒タコハゲ
[備考]:
※詳細名簿+はアニタと読子のページだけ破り取られています。
※思考7、パラレルワールド説について。
富士見書房という自分が知り得ない日本の出版社の存在から、単純な異世界だけではなく、パラレルワールドの概念を考慮しています。
例えば、柊かがみは同じ日本人だとしても、ねねねの世界には存在しない富士見書房の存在する日本に住んでいるようなので、
ねねねの住む日本とは別の日本、即ちパラレルワールドの住人である可能性が高い、と考えています。
この理論の延長で、会場内にいる読子やアニタも、ひょっとしたらねねねとは面識のないパラレルワールドの住人ではないかと考えています。
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、支給品リスト@アニロワオリジナル
[思考]:
基本行動方針:シロウに会うまで絶対生き残る
1:フォルゴレを助けに戻りたい 。
4:マッハキャリバーを使えるようにしておく。
5:放送で呼ばれた死亡者の知り合いを警戒する。
[備考]:
※フォルゴレの歌(イリヤばーじょん)を教えてもらいました(イリヤ向けに簡単にしてあります)。
※チチをもげ!(バックコーラスばーじょん)を教えてもらいました(その時にチチをもげ!を完璧に覚えてしまいました)
※キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! の入ったデイバックは、フォルゴレの遺体の傍に放置されています。
472 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/11/23(金) 01:48:56 ID:bovCFUvU
473 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/11/23(金) 01:57:07 ID:/OTFu3Yv
llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll
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>ID:PKjTl46f
2chのスレで決められた運営ルールは守りましょう。
したらばでいくらテンプレを作って強引にスレ立てしたってこのスレの住人は納得しませんよ
移動はあなた方の代表と話し合って決めて、しかもそれに対して何度も通告してます。
削除依頼を出せというのは、あなたがたの代表のお話です。
十二分に時間は与えた筈です。
アニメサロンに自ら行くと仰られたのですから、その自己の発言には責任を持ちなさい
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llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll
太陽は高く、時刻は時期正午。
ここは端っこジーワン駅。
人気はなく喧騒もなし。
ただページを捲る音だけが響いていた。
本当にここが戦場なのかと疑いたくなるほどに静かな世界。
駅のベンチに座りあたしは本を読んでいた。
そのすぐ隣で、同じく金ピカに輝く男が本を読み漁っている。
あたし達はモノレールを待っていた。
駅に到着したのは10時になろうとか言う時刻だった。
時刻表によれば次の到着は正午。
待ち時間は長く、歩いたほうが早いんないかと言うあたしの意見は、モノレールに乗りたいという意見(わがまま)に却下され。
こうして、待ち時間を潰すため、何故か大量にある本を読み漁っているのだった。
あたしが今読んでいるのは金ピカがすぐさまほぽらかした『BATTLE ROYALE』という本。
持ち辛いったらない位の分厚さに、重々しいまでの黒の外装。
黒の外装に似つかわしく、その内容は――――殺し合い。
とある国の中学校から選ばれた一クラスの生徒達が、隔離された小島に集められ、最後の一人になるまで殺し合いを強要される。
殺戮。虐殺。疑心暗鬼。
あらゆる最悪が詰め込まれたバトルロワイアルから果たして主人公は生き残れるのか?
まあ、だいたいストーリーはそんな感じだ。
それを読み耽りながら、あたしの頭に思い浮かぶ感想は、主人公の性格が気に食わねぇなぁ、とか、面白いとか面白くないとかいうモノではない。
なんと言うか、それ以前にこれは…………。
「ねぇ金ピカ……」
「なんだ、蜘蛛女。その本の感想でも述べたいのか?
語りたいのであれば勝手に語れ。面白ければ耳を傾けてやらん事も無いぞ」
本を読む手を止めるでもなく、興味なさげに相槌を返す金ピカ。
「そうじゃなくて。いや、全然違うってわけでもないけど。
この話って、さあ………なんか今の状況と似てない?」
あたしの言葉に耳を傾ける気になったのか、金ピカは本を読む手を止めて目を細める。
「ほう……どこが似ているというのだ?」
「どこって、まんま殺し合いって状況に、この首輪でしょ?
あと禁止エリアとかルールは大体いっしょじゃない。
だから――――」
「――――だから、この物語がこの遊戯のモデルなんじゃないか?
そう言いたいのであろう?」
「あ、うん。その通りだけど」
金ピカは少しだけ愉快そうな顔をしながら、こちらの意図など見透かしたような言葉を放つ。
そう言えば、こいつは先にこの本を読んでいるのだから、同じ考えに至ってもおかしくはないわけか。
「そうだな、これを見たなら大半のモノがそう思う。
そして、こう擦り込まれるワケだ。
”殺し合いの話をモデルにしているのだから、この状況も殺し合いに違いない”と。
それだけの話だ。その小道具がここに存在することに、それ以上の意図は無い。
意図が読み取れたのならば、それ以上読んでも無駄というものであろう?」
「いや、擦りこまれるもなにも、実際殺し合いじゃないの、これ?」
金ピカの口ぶりだと、まるでこの状況が殺し合いじゃないと言っているように聞こえる。
今のところ金ピカという安全圏にいるあたしは呑気なものだが、実際すでに死者も出てる列記とした殺し合いだ。
「ああ、そうだな。本質がどうあれ、殺し合いに違いはあるまいよ。
そしてこの話を参考にしているのも確かだろう。だが本質は別にある。
聖杯戦争と同じだ。殺し合いなど本質を隠すための隠れ蓑に過ぎん。
よいか? この場合、考えるべきは共通点ではなく相違点だ」
「相違点……?
この本の話と今の状況と違う点ってこと?」
「そうだ。例えば相違点の一つに能力制限があるか。
この一点だけを取っても、この実験の本質がある程度は見えてくる。
この実験は一見すれば壺毒に近い。だが、その実まるで違う。
壺毒は死にこそ意味がある。能力制限などは死を遠ざける足かせにしかならん」
「まあ……たしかに。てか逆効果じゃん」
こっちからしても無駄に動き辛いし、あのオッサン、何でこんな制限つけてんだ?
「その通りだ。端からつまらん制限などつけずにおけば、半刻と待たずこんな遊戯は終わっている。
そうなっては困るのだろう。
つまり、この実験の”死”に意味はない。
意味があるのはその過程なのだろう」
「過程って……」
呟いてみて、すぐさま思い至る。
死の過程、そこにあるもの。
なんてことはない、それはあたし達には慣れ親しんだものに過ぎない。
「……そっか、戦いか」
こんな場所で病死や老衰もあるまいし、死ぬとしたら戦って死ぬ以外にはありえない。
あたしの答えを聞いたギルガメッシュは満足げに口の端を吊り上げる。
「そうだ、我とお前が最初に出会ったときを思いだせ。
本来戦いにすらなりはしないこの我と貴様ですら”戦い”になったであろう?
能力制限はそのためのモノだ」
力の差がありすぎれば、それは戦いではなくただの虐殺にしか為り得ない。
確かに、力の差が縮まれば戦いは生まれるだろう。
「さて、時に蜘蛛女。貴様の能力制限はどうなっている?」
「どうって、エレメントは少し強度が落ちてる感じがするけど……。
そう言や、チャイルド至っては完全に出せないわね」
よくよく考えれば、エレメントは出せるのにチャイルドだけ出せないのもおかしな話だ。
本来セットのはずのモノが片方だけ出せなくとはどういうことだ?
「その”チャイルド”とはどういったものだ?」
「どうって聞かれても、あたしも詳しくは知らないわよ。
エレメントと同じでHiMEの能力と言うか……なんと言うか……」
チャイルドがなんなのかと聞かれても答えられるはずも無い。
そこらへんの詳しい事情は凪かチビッ子学園長辺りに聞いてほしい。
「当ててやろうか? チャイルドとは大方、召還獣のようなものであろう?」
「あ。そうそう、そんな感じ。
って、何でわかったの?」
「簡単な話だ。能力制限が”戦い”を生み出すためのモノとして。
なぜこれに限って”制限”ではなく完全に”禁止”されているのか。
その理由を考えてみろ。
そうすれば自ずと推察できる話だ」
「えーっと……強すぎて戦いにならない、とか?」
ジュリアや玖珂の犬コロはともかくとして、藤野や鴇羽のチャイルドは桁が違う。
あれに暴れられては会場は一瞬で火の海、瓦礫の山だ。
「ほう。大きく出たな蜘蛛女。
それはこの我を相手取っても同じ事が言えるのか?」
「…………あ」
そうだ、ここにはチャイルド並の、それ以上の化け物がゴロゴロいるワケだ。
強さと言う点なら、チャイルドだけ封印される謂れはない。
むしろ化け物相手ならチャイルドが在ったほうが、まだ戦いになるだろう。
「では何故それに限っては弱体化ではなく封印なのか?
他の能力とそれの違いは何か?
答えは簡単だ。
それが本人とは別の意志を持つモノを生み出す能力だからだ。
つまり、それに戦わせては意味がない。
きっと”本人”が”戦う”ことに意味があるのだ」
「なにそれ、結局のところ戦ってなんの意味があるの?
っていうか、そんな理由でHiMEだけ能力封印だとか、なんか不公平じゃない?」
「たわけ、そのようなこと我が知るか。
だが、なにか目的のために封印されているのなら。存外、目的が達成されれば封印は解かれるかもしれんぞ?
まぁ、どうでもいい話だが」
ふん、と興味なさげにギルガメッシュは吐き捨てる。
いやいや、こちらにすれば死活問題なんですが。
「さて、他の相違点と言えば、禁止エリアがあるか」
HiMEの死活問題には本当に興味がないらしく、早くも次の話題に移る金ピカさん。
……まあ、いいけど。チャイルドよりもこいつに戦ってもらったほうがとりあえずは安全だし。
「って、ちょっと待って。禁止エリアはあるじゃない、この本のルールにも」
「名目と効果は同一だろう。だが宛がわれる意図と役割が違えば別物だ。
そもそも、この禁止エリアとはいったい何のために存在するのだ?」
「何んでってそりゃ、動ける場所を限定して遭遇率を上げたり、隠れてるやつ等をあぶりだすため、とかそんなんじゃないの?」
まあ、この本の受け売りだけど、そんな感じで間違いはないだろう。
「ああそうだ。我も始めはそう思っていた。
だが、蓋を開けて見ればどうだ?
まるで無意味な場所ばかりを指定し、人が集まるような拠点は放置だ。
適当に決めているワケでもあるまいし、これでは炙り出しも何も無いだろう」
あまり気に止めてはいなかったけど、確かに、言われて見ればそうだ。
まだ禁止エリアは三箇所、偶然で片付けられる範疇とは言え、一つも施設は封鎖されていない。
それどころか施設を避けているようにも思える。
「これは見方によっては、参加者を誘導しているようにも見える。
さて、奴は参加者をどこに誘導し何をさせたいのか。
はたまた、何を見つけさせたいのか。
まあこれに関しては次の放送を聞けばよりハッキリとすることか」
金ピカは誰に話しかけるでもなく一人、自らの言葉に頷く。
自己中ここに極まれりといったところか。
「ああ、放送と言えば、奴はこんな事を言っていたな。
”一人、螺旋の力に目覚めた”と。
何故わざわざご親切にもこんなことを明かす必要がある?
嬉しさのあまり口を滑らせたか?
それこそまさかだ。これ程の事を行う輩がそんな迂闊な阿呆でもあるまい」
何が楽しいのか。
語りながら、ギルガメッシュは口元に笑みを張り付かせている。
「大体これほど書物が支給されている時点でおかしな話だ。
これを凶器にする訳でもあるまいし
大体本当に殺し合いをさせたいのなら本など支給する必要はあるまい。
では本とは何だ?」
「いや、なにって本は本でしょ?」
「たわけ。本とは情報だ。
この舞台。施設といい、図書といい。奴の発言といい。
あからさまなまでに参加者を釣る情報と言う餌がばら撒かれいる。
まるで何かに気付いた下さいと言わんばかりにだ。
は。これでは釣堀か何かのようではないか。
ここまで露骨過ぎては釣られてやる気にもならん。
もっとも、釣り餌に喰らいついた者(さかな)の末路など語るまでもないだろうが」
嘲笑うかのような冷笑。
それはきっと、ギルガメシュの言うところの釣られた魚に向けられたモノだろう。
あのオッサンがキャッチ&リリースするようなエコロジストでもない限り、釣られた魚はまな板の上ということか。
「結局のところ奴は情報を開かしてなにがしたいのか?
何故明かす? 何故見せる?
何を明かす? 何を見せる?
その意図は? その意味は?
いったい奴は、何を期待している?」
矢継ぎ早にギルガメッシュは問いを投げる。
その問いかけは誰へ向けたモノか。
あたしに対してか、己に対してか。
それとも、ここいない誰かへか。
少なくとも答えを知らないあたしは押し黙るしかない。
「まあよい、残りは宿題だ。己で考えて置け」
元から答えなど期待していなかったのか、それとも、既に答えを得ているのか。
金ピカはあっさりと問答に見切りをつけ読書を再開する。
先ほどの話で色々気になるところはあったのだが、こうなってはもう駄目だろう。
こいつに一度失った興味を取り戻させるなど、この殺し合いを生き残ることより困難だ。
金ピカが先ほどから熱心に読み耽るのはやたらと分厚い一冊の本。
ティム・マルコー著『今日の献立一〇〇〇種』。
本を読み進めながら、ギルガメッシュは満足げな笑みを浮べている。
献立見ながら笑う様はなんかアレだ。
「……ねぇ。面白い、それ?」
「悪くはない。
生きた人間を材料に錬金術を用いた”賢者の石”とやらの創り方が書かれているが。
この錬金術も、我の知る――穴倉の輩が使う――錬金術とも形態が異なるようだ」
…………スゲエ献立だな、ティム・マルコー。
「足りぬものを一から創るのではなく、既にある余所から持ってくるのは効率的だ。
増えすぎた余分なものから使える部分を抽出して、道具を生み出すこのやり方は理想的とも言えるだろうよ」
本当に感心したような声でそう呟くギルガメッシュ。
だが、さっきこいつは、その材料が、なんであると言ったか?
「余分なモノって……人間がってこと?」
「そうだ。今の世は余計なモノで溢れている。
我の時代の話なのだがな。
十人の奴隷を選び、その中で“いなくともよい”モノを殺そうとした事がある。
どうなったと思う?」
我の時代、という謎発言はスルーして。
無視する訳にもいかないので、一先ず考えて見る。
「そうね……全員殺した、とか?」
奴隷なぞ皆殺しだぁ、とか言って。
こいつの性格ならやりかねない。
だが、ギルガメッシュはあたしの言葉に頭を振る。
「いやいや。それがな、一人も殺せなかった。
いかな人足とは言え無駄なモノなどいなかったのだ、かつての世界には。
だが、現界してみればどうだ?
今の世ならば十人どころか何千という人間を選んだところで、殺せない人間など出てこまいよ。
なんとも人間に優しい世界になったものだ」
そう言ってギルガメッシュは皮肉げに肩をすくめる。
その様は酷く残念がっているようにも見えるし、酷く楽しんでいるようにも見える。
「ただ無価値なものが数ばかりが溢れている世界なぞ、見ているだけで気色が悪い。
わかるか? 多いという事は、ただそれだけで怖ましい。
怖ましきは一掃するが正義というものだろう?
我は豪勢な物を許す。装飾華美など最も愛でるべきものだ。だが余分なモノに与える意義などない。
そんな無意味で無価値な余分なモノなぞ、生きる権利をすら持ったいない。
せめて穢れた生の苦より救うために死を遣わせるのが、情けと言うものであろう?」
驚くほど冷たい赤い瞳。
こいつは本気で多いというだけで人を無価値と断じている。
そしてこいつは、本気でそんな理由だけで人が殺せるのだろう。
「まあ、この場所に集められたものはある程度の人選はされているようだ。
多少の小石はあれど、無価値なものは少なかろう。その点はよい。
だが、 選定はあくまで我が行う。奴の定めた人選なぞ、畜生にも喰わせてしまえ。
弱者はいらん、我が統べるに値するはあくまで強者のみだ。
この程度の事態で脱落するような輩は我が統べるに値しない。
蜘蛛女。我の従者となれたこと、もっと喜んで良いのだぞ」
あーそーっすか。光栄すぎて涙がでそうだ。
モノレール早く来ねーかな。
「まあ、このままこの実験とやらが進めば、必然的に我が統べるに値する強者が生き残るだろうが。
こんな遊戯は早めに潰すに限る。これ以上おめおめと人間が殺し合うのを放置しておくのも性にあわぬからな」
正直、驚きだ。いや、マジで。
この自分のこと以外考えていない、散々人を無価値と断じてきた男から、まさか、他の参加者を心配をするような発言が飛び出すとは。
「……どういう風の吹き回しよ。アンタがそんなこと言うなんて?」
「驚くことはあるまい。我は、我以外の者が人を殺める事を善しとせん。
人が人を降せばつまらぬ罪罰で迷おう。その手の苦しみは楽しくもないからな」
本に目を落としたままギルガメッシュはそう言った。
むちゃくちゃな奴だけど、こいつにはこいつなりの正義心があるのかもしれない。
まあ、その正義心もむちゃくちゃなのが問題なんだけど。
「さて、モノレールも見えて見たか、直に放送だ。準備しておけよ蜘蛛女。
定時内容の他に、きっと奴がつまらんことを抜かすぞ」
くっ、と喉を鳴らしながら、ギルガメッシュは本を(あたしの)リュックに仕舞い込む。
「つまらんことって、何よ?」
「さてな。聞けばわかることだ。
精々聞き漏らさぬようにすることだ」
そう言ってギルガメッシュはベンチから立ち上がった。
あたしも同じく席を立つ。
太陽は高く、時刻は時期正午。
ここは端っこジーワン駅。
人気はなく喧騒もなし。
モノレールが駅に到着する。
静寂に鳴り響くブレーキ音。
それを掻き消す様に天上から声が響いた。
【G-1 道路/一日目 昼】
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:健康、眼帯を外したい
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
[道具]:支給品一式、パニッシャー@トライガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ) 、奈緒が適当に集めてきた本数冊 、『原作版・バトルロワイアル』 、『今日の献立一〇〇〇種』
[思考]
基本思考:面倒なのであまり戦いたくない。ヤバくなったら真面目にやる。
1:とりあえず金ぴかと一緒に行動する
2:攻撃してくる人間を殺すのに躊躇いは無い
3:藤乃にはあまり会いたくない
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:巳六@舞-HiME 黄金の鎧@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、シェスカの全蔵書(1/2)@鋼の錬金術師
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【乖離剣エア】【天の鎖】【王の財宝】の入手。
1:モノレールを用い、北上する。出会えば衛宮士郎を殺す。具体的な目的地のキーワードは【高速道路】【河川】
2:異世界の情報を集めておく。
3:宝具、それに順ずる道具を集める
4:目障りな雑種は叩き切る
5:ドモンに不快感
6:エレメントに興味
※学校の図書館には様々な異世界の歴史を記した本があります。
(ただしどれだけ関係ない話があるか、どこまで詳細かは不明。
少なくとも参加者の名前や能力については述べられていない。
また1stガンダム〜ガンダム00まで全黒歴史を紹介するなど、関係ない情報も相当数紛れている)
※主催者による監視を警戒しています
※今日の献立一〇〇〇種はシェスカの全蔵書から出てきた物です。
※参戦時期は原作死亡時。
>>472-473 荒し仲間として教えてあげよう。
ここは投下専用スレ。そのルールを守ろうとする人が、ここで議論するわけがない。
2ch側とかしたらば側とか自称しても、証拠も何もない。
荒し同士で議論してるフリをして、議論に参加しなかった人を追い出す、という策は脆くも崩れたわけだ。
ご愁傷様。
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>ID:s2H/XUtY
2chのスレで決められた運営ルールは守りましょう。
したらばでいくらテンプレを作って強引にスレ立てしたってこのスレの住人は納得しませんよ
移動はあなた方の代表と話し合って決めて、しかもそれに対して何度も通告してます。
削除依頼を出せというのは、あなたがたの代表のお話です。
十二分に時間は与えた筈です。
アニメサロンに自ら行くと仰られたのですから、その自己の発言には責任を持ちなさい
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>>492 ここに住人がいるって事がなによりの証拠やん
何寝言言ってるんだ?
ほらほらー、お前が正しいと思ってんなら言ったとおりにSS削除依頼だせよー♪
できるもんならなーw
まぁ、SS職人が認めないんじゃ議論も無効だね、それで終わり。
493君ことゴッキー君無駄だよーーん、どんなにがんばってもテンプレ変更はないし、書き手は移動しないよーんw
永久にがんばってね、ばーかw
なるほど、今度は荒らしにかまってる住人がいるふりをしようという腹か
IPチェックこの間の削除の時にされてるだろうから、IPに気を使えよ
とりあえず、皆さん
荒らしは今まで通りスルーで。
>>495や
>>496の発言は9割9分Gです。Gは削除を逃れるために何でもやってきます。
ここを乗り切れば終わりでしょうし。とりあえず自分の発言ごと削除依頼出してくる。
495 名無しさん@お腹いっぱい。 sage New! 2007/11/23(金) 16:37:09 ID:aOp3zC+i
ほらほらー、お前が正しいと思ってんなら言ったとおりにSS削除依頼だせよー♪
できるもんならなーw
まぁ、SS職人が認めないんじゃ議論も無効だね、それで終わり。
↑完全な荒らし宣言じゃんwwwwwwwwwwwwwwwwwww
, - ─- 、_
/ `丶
rー‐<::/ ン-―ー- 、 、 \
{(こ 〆.:::/ ____ \ ヽ..::::ヽ
__/'´/ 〃7了.:.:.:.:.:.:.:.:`ヽ.j ::ヤ¬寸
/,イ>/ .:::/,':::{:::::!:::::::::::::::::ヽ ::|:. ::::Vヽ_,イ
レ/,イ ::/ :{:ハ\{ ::、::ヽ ::::::}::_|_: :::::l >::|
{/::| :!{.::ィ'f坏ト\{ヽ ,><ム:!:::::::: Kヽ:ト、
|::::ヽ::i:ヽi. r'_;メ ヽ´ イ圷ハ|::::::::::|\/ヽ>
|i:::::::トl::ハ. , r';ン´j::::::::: l: V したらばSSに
|i::::::::!:::: ヘ {>ーァ /:!::::::::/::/ 削除依頼だしてきたわ
lN:ヽ:ヽ::',:::ヽ、ヽ _,ノ ,.ィ::/::::::/ /
ヾ /}::}八::::ヽ>.-‐か/7::/∨
r<¨ リ\`ヽ、\__ { 〉/イ l )} もう我慢も限界でしょ?
f⌒ \ \ヽ )' \ニニ∧ | |!彡ヘ
| \ ヽム ヽ‐' .| | }ヘ,__,イ
r-ヽ  ̄ )\ Vrj/ ̄ヽ ヽ
| \ // /)ミ ー-∨ / ̄ ヽ
| (>―‐'/ /勺ヽ¨ア / }
| \三三‐'ノ ^ヽ/ /-―一 '
「だからその紙を置け、紙を」
スパイク・スピーゲルは温泉に入りながら微妙に命の危機を感じていた。
目の前には紙を構えた読子・リードマンがおり、その紙がなぜかは不明であるが鋭利な刃物となることを知っていたからである。
混浴だからと言って一緒に入ったのが問題であったらしい。
とはいえ、リードマンの裸などに興味はない。
「水着着てるんだから、見られて困るようなモンはないだろ」
それにリードマンは混浴だということを事前に知っていたため何処かから調達した水着を着ていたのだ。
これでは裸を見られるも何もあったものではない。それを知っていたが故に自分は混浴の温泉に入っているのだ。
流石に、裸婦のいる浴場に突入して紙手裏剣や風呂桶が飛んでこないことを予測できないわけがない。
「……むぅ」
読子は膨れっ面で紙や本を入れている風呂桶を持って湯から上がり、
「俺も上がるか」
スパイクも重い腰を上げ後に続く。
H2Oという空間からスパイクの裸体が介抱され、周囲に晒される。
手ぬぐいという邪魔なものなど一切身に着けてはいない。
正真正銘の丸裸である。
その体は180を超える長身を誇り、普段の鍛錬で引き締まった筋肉は女性を魅了するに相応しい。
また、無駄な贅肉が付いていないため男が憧れるのも無理はないと言うべき姿である。
だがこの場に唯一存在する女性にはまったく魅了の効果を発揮せず、
逆に背中を向きスパイクの方を見もせずに顔を背けさせる効果しか持たなかった。
「スパイクさんには恥じらいが足りません」
「わりぃ、貧乏なんだ」
スパイクの方に振り向こうともしない読子の非難に、彼は至極あっさりとした冗談を返した。
■
「なあ、機嫌直そうぜ」
体を拭き服を着たスパイクと読子は廊下を歩いていた。
だが読子の機嫌は斜め右下に進んでいた。
30というおばさん呼ばわりされても不思議ではない年齢の彼女とて、スパイクの無神経ぶりには御立腹なのであった。
「俺が悪かったからさぁ」
図太い神経を持つスパイクでも流石に調子に乗りすぎたと考え、
なんとか機嫌を直してもらおうと浴場を出てから何度か謝罪の言葉を紡ぐがいっこうに効果は上がらない。
読子がスパイクの先を歩いているため彼に彼女の表情など窺えないが、背中越しからでも考えていることが理解できる。
ああ、流石のこいつでも怒るんだ。と。
数時間ほどの付き合いで流石も何もあったものでは無いが、
これまでの行動からスパイクはリードマンのことをあまり怒らない人種の人間だと判断していた。
「もういいッ!! 全員黙れッッ!!!!」
そんな二人が廊下を当ても無く歩いているときだった。玄関先から聞こえた若い青年の声が耳朶を振るわせたのは。
スパイクと読子はお互い顔を見合わせ疑問符を浮かべる。
いったい何が起こっているのか?
二人は無言で小走りに廊下を歩き、曲がれば何かが起こっているであろう場所の手前で立ち止まり壁に隠れながら玄関の様子を窺う。
「突然だが、ここはゼロを筆頭とする、反螺旋王組織『黒の騎士団』の指揮下に置かれる!
以降は、そこに居られるゼロが全ての指揮を取る! 異論は認められない!!」
玄関では複数の人間と猫達がいた。
先ほどまで共に行動していたはやて達である。
他にも見知らぬ学生達にどこぞのヒーロのコスプレにメカメカしい猫、と奇人変人のオンパレードである。
いったい何をしているのか?
スパイクは読子と共に様子を窺うことにした。自分でも知らず知らずの内に銃を握り締めながら。
だがスパイクが予想していたような血なまぐさい展開は起こってはいなかった。
ただ青年が声を張り上げ演説をし、全員の注目を集めているだけであった。
しかも内容は非常におざなりなものと言わざるえない。目的だけ駆け足で言っているだけだ。
あれならば、まだビシャスの方が口が達者だ。案の定はやて達からは非難の声が聞こえる。
だがたった一声で、非難の声が突然止まる。こちらに背を向け全員の注目を集めている青年の一言で。
「やって欲しいことはこれだけだ。 エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。
我々に害を為すようなら排除する。それだけだ。頼む。協力してくれ」
青年がそう言い放った瞬間、その場にいたほぼ半数の者達が同意する。
そのままはやて達は屋外へと出て行ってしまった。なぜか倒れた青年を無視して。
「……なんだぁ?」
スパイクには何が起こっているのか理解できない。声を掛けるという発想すら思いつけないほどに奇妙な状況であった。
「スパイクさん、ちょっとこちらへ」
だがそんなスパイクの困惑を無視するかのように読子は彼の腕を掴み、以外な力を発揮してその場から離れようとする。
「おい、痛いって……」
「静かにお願いします」
「どこに連れて……」
「黙っていて下さい」
スパイクは言葉を紡ごうとは思ったが、読子から発せられる何かに押しとどめられ黙ってしまう。
リードマンからは先ほどまで発せられていた朗らかな空気は消え去っており、
逆に自分のようなカウボーイたちが発する硝煙の臭いに似た何かに取って代わっていた。
リードマンは真剣な表情でそんな気配を纏いながら、自分を手近な部屋へと連れて行く。
「スパイクさん、たぶん非常に厄介なことになっていると思います」
部屋の扉を閉めると、開口一番に何を言おうとしているのか分からないことを言い放つ。
何が厄介なのか、この女の一言ではまったく分からない。
「いや、いきなり厄介なことになったと言われても……」
「あの男の子は特殊能力を持っているんですよ」
「ハァ?」
「だから、相手の行動を操る類の能力を持っているんですよ。一般には催眠術と呼ばれるようなものを」
リードマンの答えは予想を遥かに超えた珍解答であった。
とりあえず黄色い救急車を呼んで、病院に連れて行くのが一番だろう。
「いいかリードマン。温泉に入ったからといって脳までふやけるのは人間としてどうかしているぞ」
「ふざけないで下さいスパイクさん」
「ふざけているのはお前だろうが」
「スパイクさんも見たはずです、いきなりはやてさん達の行動が変化したのを。あれは彼の仕業です」
「……たまには人間変わったことをしたくなるもんさ」
「それでもおかしすぎます。温泉に入っていた私達を放っておいてどこかに行くものでしょうか?」
「そりゃあ……」
そこで言いよどむ。たしかにリードマンの言うとおり、あっさり自分達を放って一言もなしにどこかに行くのは妙である。
猫と男の方は我が強く人の言うことを簡単に聞くとは思えず、はやての方も何か一声ぐらいは掛けそうな性格だ。
それに、はやてはたしか自分が風呂に入る前にリードマンに鞄を返したいなどと言っており、
その時にはリードマンが風呂に入っていたために、上がってから返すつもりだったはずだ。
あの少年が青臭い正論を吐いたからと言って、彼の言葉を第一目標にするのはおかしい。
そうするにしても、相談の一つぐらいあっても良さそうなものなのだ。
しかし、人を操る超能力をあの少年が持っているなどと言われ簡単に信じるのは馬鹿がやることだ。