3 :
1:2006/03/22(水) 18:29:12 ID:oB4Irn8J
保守も兼ねて、とりあえず投下
4 :
1:2006/03/22(水) 18:30:10 ID:oB4Irn8J
桜田ジュンはとても不機嫌だった。
理由は膝の上に座っている彼女にある。
彼女の名は翠星石。今夜も寝る前に本を読んでもらっているのだ。
ジュンが本を読む声に聞き入っている彼女は、とても素直で可愛げもある。
だが、昼の彼女はまるで別人だ。
ジュンを平然と「チビ」と呼び、憎まれ口を次々と連発する。
今日も酷い言葉で罵られたジュンは、今の状況が納得できない。
どうして、こんな奴のために毎晩本を読んでやらなければならないのか。
特に悪く言われた日には、こんなふうに思えて仕方がない。
ジュンの我慢も限界を超えようとしていた。
「ジュン、どうしたです? 続きを読むです」
朗読が途切れた事に文句を言う翠星石。
ジュンの気持ちを知らない彼女は、遠慮無しに先を促す。
無性に頭に来た彼は、ささやかながら復讐する事を決心した。
「これから話す事は、嘘みたいだけど本当にあった話です」
「え? そんなの本のどこにも書いてないですよ」
「いいから聞け。今日はとっておきの話をしてやる」
「おもしろそうですぅ。せっかくだから聞いてやるですぅっ」
ジュンを信用しきっている翠星石は、期待に瞳を輝かせる。
これから眠れない夜が訪れるのことも知らずに……。
5 :
1:2006/03/22(水) 18:31:16 ID:oB4Irn8J
「も、もうやめるですぅっ。聞きたくないですぅ……!!」
「――テレビの電源がひとりでに入り、砂嵐の画面が徐々に井戸のある風景に変わっていく」
翠星石が身を縮こまらせながら、涙声でジュンの話を止めようとする。
怖がりすぎているせいか、鞄に逃げもできないし、耳も塞げなくなっていた。
もうお解かりだと思うが、彼がしている話は怪談物だ。
翠星石がかわいそうになるほど怯えているのだが、ジュンに話を中断する気配は見えない。
これは彼女へのおしおきだ。それに、話し手として、これ以上嬉しい反応はない。
ジュンはやや調子に乗りながら、話を最後まで続けた。
話し終えて一時間後、今度は逆にジュンが困り果てていた。
「おーい、もう話はないから寝ろよ」
膝の上の翠星石は何も答えない。彼女は怖くて、ずっとジュンにしがみついていた。
何度も鞄で寝かそうとしたが、ぎゅっと彼の服を握って絶対に離れない。
効き目がありすぎるのも困りものだ。ジュンは溜め息を吐いて同じ言葉を繰り返す。
「もう寝ろよ」
返事はない。
まだ駄目だと思った時、蚊の鳴くような声がする。
「……寝れるわけないですぅ」
返ってきたのは震えた声だが、やっと会話ができたことに少し安心する。
そして、声が出るようになった翠星石は、真っ先に批難する。
「どうして、あんな話をするですか。やめてと言ってもやめないですし……!」
「いや、あの、いつもあんまり僕を馬鹿にするから、おしおきにと……」
やりすぎたと自覚しているジュンも、だんだん声が小さくなる。
その理由にショックを受けた翠星石は、涙目でジュンを見上げる。
「それにしても酷すぎるです。ジュンは翠星石が嫌いですぅ……?」
「悪かったよ。もうしないから……」
この後、ジュンはひたすら頭を下げ続けた。
6 :
1:2006/03/22(水) 18:32:44 ID:oB4Irn8J
夜も更け、そろそろジュンも睡魔に負けそうになっていた。
「なあ、離れてくれないか?」
「ムリですぅ! 独りになんてなれないですぅ」
いまだに翠星石はジュンの胸から離れられないでいた。
ジュンが引き剥がそうとすると、とたんに泣き出しそうになる。
まだまだ眠れそうになかった。
翠星石は夢を見ていた。
お日様の暖かい日差しが降り注ぐ庭で、花や木の手入れに勤しむ。
木は青々と茂り、花は色鮮やかに咲き誇る。蝶は華麗に舞い、鳥が美声を囀る。
こんな楽園のような庭は見たことがない。
庭師の翠星石は、まさに夢のような時間を過ごした。
「うぅ……朝ですかぁ……?」
窓から入る朝日に目が刺激され、穏やかな覚醒を迎える。
鞄の外で目覚めるのはいつ以来だろうか。
そんな事を考えている翠星石だが、目に映っているものを理解して、はっと息を呑む。
「ジュ、ジュンと寝てたですか……!?」
目前にはジュンのかわいい寝顔が。
彼に抱かれるように寄り添って寝ていた。
昨晩、眠気に負けたジュンは、怖がる翠星石と一緒にそのまま眠ってしまったのだ。
いきなりな状況に驚いていた彼女だが、それもすぐ落ち着いた。
ジュンの緩やかな呼吸と心地良い体温が、翠星石を安心させる。
「素敵な庭を手入れできたのは、ジュンのおかげかもですぅ」
彼女は甘えるように彼の広くない胸に頬を着ける。
ジュンの鼓動を子守唄に、素敵な庭を目指して夢の世界へ旅立った。
7 :
1:2006/03/22(水) 18:33:51 ID:oB4Irn8J
朝から桜田家は賑やかだった。
「翠星石ずる〜い。ヒナもジュンとねんねするのぉ」
「ジュン、見損なったわ」
雛苺がジュンにまとわりつき、真紅が怖い顔をする。
翠星石が二度寝をしたので、いつもの時間に起きた残りの人形達に現場を見られてしまったのだ。
仲良くベッドで寝入っている姿は、相当な衝撃を与えたらしい。
「僕は何もしてない!」
「翠星石、あなたもはしたないわよ」
「こ、これは不可抗力ですぅ! 誤解するなです!」
ジュンと翠星石は揃って弁解しようと必死になる。それが庇いあっているようで、真紅を余計に苛立たせる。
怒りっぱなしの真紅に、雛苺が不思議に思って尋ねる。
「真紅はジュンとねんねしたくないの?」
「私だって……」
「だって?」
ぽろっと出てしまった言葉を雛苺がオウム返しする。
「うるさいわね。早く朝食を食べましょ。のりが待ってるのだわ」
怒りではなく廉恥に顔を染めた真紅は、そう言ってドアノブにステッキを掛ける。
真紅も内心は雛苺と同じで、翠星石が羨ましかったのだった。
8 :
1:2006/03/22(水) 18:35:18 ID:oB4Irn8J
あっという間に昇った日が沈み、時刻は人形達が眠りに就く頃になっていた。
翠星石は今夜はベッドでジュンを待つ。
「ジュン、本を読むですぅ」
「今いく」
急かされたジュンは、少し意外に思いながらベッドに座る。昨晩、あれほど怖い目に遭わせたのにこれだ。
翠星石が嬉しそうに膝に登るので、意地悪かもしれないが聞いてみる。
「よく懲りないな。昨日、あれだけ怖がっていたのに……」
昨晩の恐怖を思い出し、翠星石が一瞬肩を震わせる。
しかし、次には何かを期待した目でジュンを見る。
「怖い話……してもいいですよ? その代わり、今日も一緒に寝ることになるですぅ」
反省の色が見えない様子に、おしおきの効果がなかったのをジュンは思い知る。
彼は苦笑しながら手元の本を開く。
「じゃ、読むぞ」
「はいですぅっ」
二人だけの大切な夜が始まる。
だが、彼らは知らない。二つの鞄がわずかに開いていることを……。
終
2番手GET!
>>1乙っっっっっです。激しい批評は変わらんかもだけど、取り合えず
これで住み分けはできそうかな。
>>1 乙
虐殺嫌いだからスレ分けありがたいです。
もっと話を!
では、投下します
水銀燈が空を飛んでいた
水銀燈の右腕は、翠星石の蔦に引き千切られ、皮一枚で肩からぶら下がっていた
水銀燈の顔は、蒼星石の庭師の鋏によって無数に刻まれていた
水銀燈の側頭部は、金糸雀の超高周波音によって、抉られるように崩壊していた
水銀燈の胸は、深く食い込んだ真紅の花びらによっていくつもの穴が穿たれていた
水銀燈の黒い羽根は、雛苺の刺蔓によって、根元を僅かに残しむしり取られていた
水銀燈の命は、ただ見つめつづける薔薇水晶によって最後のひと匙までに奪い取られた
水銀燈が空を飛んでいた、6つのローザ・ミスティカを抱え、命を垂れ流しながら飛んでいた
メグは眠っていた
水銀燈が最後の命をふり絞ってたどり着いた病室、彼女のミーディアム、メグは静かに眠っていた
つい数時間前、水銀燈がすべてのローザ・ミスティカを奪うため、ここを飛び立つ少し前
メグは胸の脈打ちを止め、呼吸を止めた
戦いは地獄だった、そして戦い終わり傷ついた体で、帰るべき所へ帰る道は・・・本当の地獄だった
メグは静かに、深く、冷たく眠っていた
「メグ・・・遅くなって・・・ごめんね・・・・ほら・・・全部集めてきたよ・・・キレイでしょ・・・・・
あなたに・・・何かあげるなんて・・・これが最初で、最後ね・・・だから全部あげる・・・早く、目を、覚ましてよぉ」
水銀燈は自分の集めた6つのローザ・ミスティカを、メグの体に押し込もうとするが
ローザ・ミスティカは冷たくなった体を拒むように、幾度も弾かれる
幾度も・・・・・幾度も・・・・・・
「もう・・・メグったら・・・欲張りさぁん・・・あげるわよぉ・・・最後のひとつも・・・ぜんぶ・・・あげる・・・」
水銀燈は自分の胸に深く手を刺し入れ、紫のローザ・ミスティカを掴み出すと、メグの体の上に置いた
「ひとりで壊れて・・・消えるのは・・・イヤだったの・・・メグに会えなくなるのは・・・イヤだったの・・・
・・・・・・・・でも・・・わたし・・・メグに・・・なりたいの・・・メグの・・・命に・・・・・なりたい・・・・」
ローザ・ミスティカはメグの体の上で何度も跳ねる、輝きながら、もう動かないメグの上で何度も跳ねる
何度も・・・・何度も・・・・・・・
水銀燈はもう動かなくなりつつある、冷たくなっていく両手で、7つのローザ・ミスティカをメグに押し付けた、
紫の、水銀灯の命を・・・メグに、強く強く押し付けた
強く・・・・・強く・・・・・・・・・・
お願い・・・メグ・・・わたしはもう・・・動く事も、感じる事も・・・・・・出来なく・・・・・・なるけど
そばに・・・置いてね・・・わたしは・・・ずっと・・・メグの・・・・・・そばがいいの・・・・・・お願い・・・」
冷たくなったメグは、水銀燈が最後の命で押し込もうとするローザ・ミスティカを冷たく拒み続ける
冷たく・・・・・・・・冷たく・・・・・・・・
「お願い・・・・メグ・・・動いて・・・よぉ・・・・・」
水銀燈は聞いた、それは水銀燈が最期に見た幻覚だったのかも知れない、でも、確かに、水銀燈は感じた
「水銀燈・・・・わたしの最初のドール・・・わたしのアリスよ・・・さあ・・・・わたしの元へ・・・」
水銀燈は、空に居るローゼンを、会いたかったお父さまを仰ぎ見た、メグの手をしっかりと握りながら
「お父さま・・・お父さま・・・・わたしの望みは・・・わたしのミーディアム・・・・いえ・・・
わたしのたった一人の・・・・メグ・・・・わたしは・・・永遠に・・・・メグと・・・・共に・・・・」
水銀燈は6つのローザ・ミスティカを、自分の紫のローザ・ミスティカと共に空へ捧げた
「ローザ・ミスティカよ・・・その在るべき所へ・・・・還れ」
6つのローザ・ミスティカは空に浮かび、各々の方角へと飛んで行った
水銀燈はそれを見届けると、メグの胸に身を委ね、微笑み、静かに目を閉じ、その動きを止めた
紫色のローザ・ミスティカは天井でぱちんと弾け、水銀燈とメグに、紫の雪となって降りそそいだ
柿崎メグの葬儀がしめやかにいとなまれた
家族を苦しめ、病院を困らせ、学校に背を向けたメグの葬式に参列し涙を流した人は意外に多かった
何も持たず、何も欲しがらなかったメグの棺にはひとつだけ、銀髪の美しいドールが入れられた
メグと水銀燈は棺の中、まるで二人寄り添って生まれて来たかのように花の中で安らかに眠っていた
それはまるで、同じ所から来た二人が、同じ所に還るために永遠に寄り添っているかのようだった
永遠のアリス(完)
後ほど、第二部を投下します、では
ドールショップ、その奥の工房では、金髪長身の人形師が椅子に深くかけ、壁を眺めていた
工房と売り場を隔てるカーテンは開けられ、そこには赤い目の男が寄りかかっていた
「まさか貴方がローゼン・メイデンシリーズを再び作り始めるとは思いませんでしたよ」
「そんなつもりは無いさ、僕はただ、我が師の創りしドールを修復し続けるだけさ」
作業場の隅には6つの椅子が並んでいる、それぞれの椅子の上にドールが在る、一度壊れたドール
「あなたが師を越えるために創った第七は、結局、微塵となってしまいましたね」
永い眠りについていた薔薇水晶、自らの設計でローゼン・メイデンを創り出せという、師の試練
彼が課せられた本当の試練は「負けること」自らの生み出したる物が掌の上で滅びる様を知る事だった
「ローゼン・メイデンは世界にたった八体、それ以上は存在しないし、決して生まれない
わたしの人形師としての在り方は、創ることじゃなくて蘇らせる事だと知った、だから戻したよ
師の創りし最初の姿に、見た目は変わらないだろう?でも、中身は古えの、師の生み出したる薔薇水晶」
槐は机の端、かつて薔薇水晶を構成してた土くれの山を一掴みして、また土の山にさらさらと落した
「新しい土を・・・拒んだんだ、ローザ・ミスティカが、まだ命を宿すに足る器ではないと・・・
最新の精製技術で産出された、全ての数値に置いて旧い土を上回る、新しい人形材料としての土は
かつて土がまだ職人の産物だった頃、地を這い土を舐め、土を我が子とし寝食を共にした職人の志には
遠く及ばなかった、修復のために苦労して譲り受けて来たよ、未だに生きる、土を愛する職人から」
アリス・ゲームで壊滅的な損傷を受けた6体のドール達が、在りし日の外見のままで並んでいる
「ドール達、元通り直りそうですか?・・・・すべて」
「たとえ髪の一筋でも、焼かれた灰の一粒からでもローゼンメイデンは蘇る、人工精霊が在る限り
そこには師の残したローゼン・メイデンの全て、遺伝子ともいえる生命の設計図が宿っているんだ」
「あなたで何代目、でしたっけ?」
「ローゼンの徒弟はローゼン、その徒弟も然り、何度繰り返したかは知らないよ、君もそうだろ?」
白崎と呼ばれる男、ラプラスは何も答えず、ただ謎めいた笑みを浮かべながらドール達に視線を向けた
「君はラプラスの魔、そして私はローゼン、ローゼン・メイデンを創りしローゼンの徒弟」
槐は、並んだドールのひとつ、美しい黒髪と紅い瞳を持つ、唯一の着物姿のドールを見つめている
「最後のドール「メグ」、第一ドールと対で作られたローゼン・メイデン第八のドール
人間の愚かさゆえに何代目かのミーディアムの手で、脆弱な人間となってしまったメグは
ローザ・ミスティカを失い、我々から、全てのドール達の記憶から、その姿を消してしまった
師が生み出したる時の姿、美しいドールの姿を蘇らせたよ、第一が取り戻した、失われた片割れ」
「彼女は・・・頑張りましたからね」
水銀燈が傷つき、耐え、成し遂げた独りぼっちの戦いを的確に表す言葉は、白崎の語彙の中には無かった
「ドール達が人の世の中で時と共に朽ちていく摂理、水銀燈はそれを受け入れた真紅達と独りで戦った
たとえ世界を壊しても、自らの身を焼かれても、想う人の命の時計を戻す、その気持ちと共に戦った
記憶が消えても滅びぬ想い、再び愛する者をこの腕に抱きたい想いのために戦う彼女は・・・美しかった」
「彼女はアリスになったんですね、壊れ、消えたローザミスティカの再生儀式、その祭司たるアリス」
「儀式という言葉には当たらぬ、再形成の作業、全てを引き換える覚悟を試される、非常に困難な作業
全てのローザ・ミスティカの力を受け、己のローザ・ミスティカの最大の力と、ドール達の強い意思で
失われたローザ・ミスティカのほんの極微の残滓から、ローザ・ミスティカは再び生まれ出ずる」
槐は水銀燈を見つめる、慈しむような瞳、彼は今まで修復対象をそんな目で見る事を己に禁じていた
「高い山の頂の花、愛する者を救う唯一の薬を生む花、全てのドールが力尽き、山を登るのを諦めた
しかし、わたしの愛しい水銀燈はすべてを捨てて、命の花を手に、愛する者の元へと生きて帰ってきた」
「記憶の封印、ローゼン氏も酷な事をいたします、彼女達、せめてあなたか私が何か知っていれば・・・」
槐は横目で白崎を見つめた、その目は彼では無く、つい先日の凄惨な光景を見ていた、目を閉じ、呟く
「姉妹が集いローザ・ミスティカを出して『ちょっと貸して』『はいどうぞ』それは果たして試練かね?」
結局、槐自身もまだ納得はしきれないようだ、彼はただ、自分の役目に没頭する事で、贖罪を望んだ
ローゼンもラプラスの魔も、そしてドール達も、いずれ最初のローゼンの施した「記憶の封印」が発動し
アリス・ゲームの事を忘れ去るだろう、そしていつの日か再びその時が訪れた時、封印は解かれる
「我らに、アリスを」の記憶が解き放たれ、全ての記憶が蘇るのは、全てを終えた後の、ほんの短い刻
「どんな花よりも気高く美しく、どんな宝石よりも輝くもの、一点の穢れも無い完全なる少女、アリス
私がこのアリス・ゲームに関して、我が師ローゼンに同意できる数少ない事のひとつは、我が師が
『無償の愛』をこのような言葉で意した事だ、現実に目の前にあるのは、打算、等価交換、穢れた愛
しかし、あるかもわからぬ美しき愛を、信じ追い求める気持ちを失った時、愛は暗闇に墜ちてしまう」
姉妹への見返りを求めぬ愛で成し遂げるアリスへの途を拒むドールを見て、ローゼンは涙を流したという
「零れ落ちてしまった姉妹は・・・「今」を守るため、時と共に忘れ去られた・・・切り捨てられた者に・・・
闇に差し伸べられる手はどこにも無いのか・・・愛はどこにある?・・・誰か・・・愛はあると言ってくれ・・・」
槐は椅子の上で目を閉じる水銀燈の髪を撫で、ドレスのリボンを結び直した、服の下には、胴体の無い体
「そして彼女は、自分自身と戦った、父たるローゼンの残した、他のドールとは違う、彼女の体と
ローゼン氏が全てを徒弟に託し、世界に旅立つ前の最後の作品、胴体の無い体、ボディレス・ボディ」
槐にとって最も困難だった修復、損傷は軽微だったが、体の各部の精度は他のドールの比ではなかった
「彼女達を創った初代のローゼンは、いつの日にか姉妹の身に危機が訪れた時のために、第一ドールに
自らの思想の全てを注ぎ込んだ、天駆ける翼、他の精霊を我が身に宿す力、そしてボディレス・ボディ」
もう一度彼女の体を、その胴体を掌で撫でた、今度こそ彼女は、この体を愛してくれるだろうか
「眺めて楽しむドールじゃない、ローゼン・メイデンは生き、戦うドール、そのためにあらゆる部分を
徹底的に軽量化した、軽い胴体と空間故のほぼ無限に近い可動域、全ては戦い、生き延び、守るため
世の全てを敵とし、時には姉妹達までもを敵とする宿命の彼女に、ローゼン氏はその全ての想いをこめ
他の姉妹には扱えぬ高い能力の体を与えた、ボディレス・ボディこそが水銀燈の強さ、そして美しさ」
「彼女は、指輪の契約に依らず人間の力を奪う事が出来る、それを誇っていましたね」
「指輪やネジ巻きは『互いの信頼』という最も強力な契約には及ばない、一方的に力を奪う事ではなく
心通じる者と常に力を分け合う、それがファースト・ドールが幾多の戦いを経て得た、最大の武器」
「まぁ彼女の場合は、口でそう言ってても、力を奪うよりも奪われる事の方が多かったようですから・・・」
「こう見えて小賢しい第五辺りと比べても少々抜けた所のある娘だから・・・育てた者に似たのだろう」
槐は白崎を見つめた、穢れ無き瞳が逆に滑稽に見える、白崎も槐を睨み返す、赤い鋭い目に悪意は無い
「いえ、作り手に似たに違いありません」
槐は、心から愛情のこもった仕草で、もう一度水銀燈の髪を撫でた・・・もう一度・・・
槐は、並ぶ6体のドールを見つめながら、無口な彼には珍しく、愛娘へ語りかけるように話し続ける
「全てのドール達は対で作られた、成長と修身を司る翠星石と蒼星石、知恵と勇気を授く金糸雀と雛苺
そして、他者を想う優しさを宿す真紅と、孤高を貫く強さを持つ薔薇水晶」
「水銀燈は『過去』ですね、彼女のnのフィールドは怖かったですからね」
槐は椅子を回し白崎を睨んだ、彼が珍しく人と多くを語る時の癖、白崎はそれが嫌いじゃなかった
「君は墓場を怖いと思う種類の者か?、彼女の中にあるのは過去の蓄積さ、宝石のような叡智の蓄積」
「そして『未来』のドール、メグと対を為す・・・」
「そう、未来への希望が無い限り、過去はただの骸と廃墟、過去を温められぬ未来もまた、空虚さ」
「彼女達、変わらないんでしょうね」
槐は自分の頬に手を当てながら微笑んだ、彼は困難な修復作業を終えて以来、少し笑う事が多くなった
「ふふふ、そうだね、水銀燈は相変わらず憎まれ口を叩き、メグは悲観的な言葉で周囲をやきもきさせる
彼女達はずっとそうしてきた、変わらないだろうね、真紅や翠星石ともきっと喧嘩が絶えないさ、ふふふ」
「でも・・・今までとは違う」
「そうさ、水銀燈もメグも、もう、片割れを無くした孤独なドールじゃない、失われた記憶の中
互いの呼び合う心を聞き、互いを見つけ、互いを信じる強い心で、自分と繋がる存在を蘇らせたんだ」
「過去」のドールは、様々な形の現在と戦った、過去を切り捨てた現在を待つ「暗黒」と戦った
そしてドール達は、現在と過去を繋ぐものの存在を信じ、それは「未来」を蘇らせた
それが、愛
「彼女はただ・・・愛したんだ・・・美しく輝く・・・穢れなき心で・・・ただひとりを・・・心から・・・
我々は、この絶望だらけの世界に泣きながら生まれた時、世界を壊す力と共に愛する心を授かったんだ」
ドール・ショップの入り口のドアの上、来客を告げる青銅のカウベルが元気よく鳴った
少年がドールショップのドアを開ける、両腕にドールを抱いた、まだ少し幼さと未熟さの残る少年
槐は再び呟く「そしてローゼンの徒弟はローゼン、その徒弟も然り」
「やぁ人形師のオッサン、学校帰りにあんたのウンチク聞いてやりに来てやったぞ、」
「こんな貧相なドール・ショップ、今日こそはまともなお茶を出してくれるのかしら」
「蒼とカナとヒナと薔薇水晶、それと水銀燈とメグのヤロウをちゃんと治すまで毎日見張りに来るですぅ!」
少年とともに入ってきた2体のドールを見て、白崎が彼女達から顔を逸らし、くすくすと笑う
「あの二人組は『日帰り入院』、ですか?」
アリスゲームの後、すべてのドールは変わり果てたジャンクとなり、槐の元に運ばれた
そしてその中の2体は今、これまでと何も変わらずミーディアムの元で生きて動いている
「第五は、過酷なアリスゲームにも係らず幾重にも組み込まれたフェイルセーフ(安全装置)が働き
微小な損傷のみで済んだ、衝撃でポンと外れる関節が体の破損を食い止めた、日本の車のように精密だ
第三は外れたローザ・ミスティカを手で押し込んだら突然目を覚ました、外部の損傷もあったが
『こんなのツバつけて直すですぅ!』と、そのまま歩いて帰った、ソビエトの戦車のように逞しいよ」
「第四とは大違い、ですね」
「彼女は大変だったよ、分離したローザ・ミスティカを再び宿すために、殆どの部品を作り直した
最初から作り直すことが前提だった第二や第七、そして第八のほうがまだ作業時間は短かったよ
困難だったが、その価値はある、イタリアのハイ・スピードカーのように美しいドールだから」
少年はいつの間にか定位置となったローゼンの仕事場のデスク、その手元がよく見える彼の隣に座った
紅いドールは白崎の所まで来て、彼を睨んで「フン!」と言うと背中を向けたまま彼の側に居座り
翠のドールは店のあちこちを無遠慮に見回ると、ドール達が座る椅子の並んだ一角に突っ立ってる
少年は槐の隣、彼の手元を見ながら、時に手伝いながら、言葉と指先で語らいを重ね、
ローゼンとなるべき者に口伝される職人の秘術を、貪欲に吸収している
「ジュン君、今日はヒゲゼンマイの調律とその特性について覚えてもらおうか」
白崎は彼らを見つめた、「ローゼンの徒弟はローゼン、その徒弟も然り・・・ですか」
「ドールの場合はこのテンプを遅らせ気味に合わせるのか?・・・って上手いな、ローゼンのオッサン」
「我が時計仕掛けの師の直伝さ、ローゼンは時計職人であり、医師であり、お針子でなくてはならない
ジュン君もこれから多くの師を得て、多くを学びたまえ・・・それから『オッサン』はやめたまえ」
「服飾では僕があんたの師だ、あんたはいい弟子だよ、いつかは女神のローブだって縫えるよ」
少年の助力と、彼の記憶の中に在る「型紙」が無ければ、ドール達の美しい衣装の再生は不可能だった
「しかしジュン君、今回の修復を機に、その、もっと今風の露出の多い服にしては?せめて下着位は・・」
「オッサン!」
翠星石は物言わぬドール達の前に立っている、ここに来た時はいつも、妹の前にずっと突っ立っている
「こら!水銀燈とメグ、目をさましたらわたしが家来にしてあげるから、また一緒に遊ぶです・・・うう・・
泣いてないですぅ!お前らの前で泣くもんかです!蒼星石が目をさますまで泣かないって・・・ふぇぇ・・・」
真紅は白崎に背を向けていた、彼が黙しているとダダをこねるように、黙って背中を押し付けてくる
「相変わらず、わたしが嫌いみたいですね、真紅さん」
「当たり前よ!わたしは昔からあなたと薔薇水晶が大嫌い!、大体紅茶にジャムを入れるなんて・・・」
白崎は微笑む、あの房総の薔薇園手作りの薔薇ジャムを浮かべたダージェリンの芳醇さを知らないなんて
「そういわず・・・今日のはニルギリ葉にジンジャー、シナモンを加え、甘く味付けて牛乳で煮た物です」
「ヒッ!汚らわしい!・・・飲むわよ!飲めばいいんでしょ!一口だけよ・・・コク・・・も、もう一口だけ」
「あーっチャイ大好きです!わたしにもくれやがれですぅ!」
「なんだコレ、臭っせぇ!・・・ん、まぁ結構クセになりそうな味じゃん・・・」
「そうだな・・・僕もそろそろお茶にしようか、白崎君、一杯注いでくれたまえ」
ほどなくして、お茶がさめる暇も無く、来客が喧しくドアベルを鳴らす、3人の女性
「どーもー!カナにお洋服届けに来ましたぁ!いつ着れるようになるんですか?今日?明日?」
「こんにちわ・・・・雛苺におみやげ・・・・雛がまだ食べないならあなたたちが食べても・・・」
「ジュンくぅーん!最近お外を出歩いてばかりでお姉ちゃんと遊んでくれないから、捕まえに来たよ!」
間もなくドアベルが優しく鳴った、老夫婦、父と母を知らず、笑顔を知らず育った槐の顔が和らぐ
槐の時計仕掛けの師、いささか頼りなかった彼の師ローゼンとは違う、父のようなもう一人の師
「やぁ槐君、バーゼル(*世界最大の時計展)での仕事が終わったので、爺の愚痴を垂れにきたぞ」
「主人たら私がデンマーク王室のお友達に放出させた懐中時計を買い占めちゃったのよ、槐が喜ぶって」
本当の「宝」は王家や富豪の宝庫にあり、それは然るべき家柄の「お友達」の間のみで流通している
「これはシバザキ師匠、あ、白崎君、お茶を、スイスの若い技術者達は如何でしたか?教え子としては」
「日本の職人が一番、という訳でもなさそうだ、若者はどの国も変わらん、あ、土産を開けてみなさい」
王室の紋の入った箱を開けた槐の顔色が変わる、どの専門誌にも「現存しない」と記された職人の至宝
「こ、これは?幻のナポレオン・ダイヤル?白崎君!今すぐ特上の玉露を・・・あと、ヨーカンも!」
「お茶の温もりは人を呼ぶと言いますが・・・翠星石君、スコーンでも焼きましょうか?」
「任せるですぅ!まずはトウモロコシ粉と天ぷら油、それからチリ・パウダーを・・」
「そっちのスコーンですか・・・」
思いがけず催された午後のお茶会、小用でその輪から外れた槐に白崎が声をかけた
「彼は『ローゼン』になれますか?」
「師の言葉、ローゼンはローゼン・メイデンを創り、そしてローゼン・メイデンもまたローゼンを育む
ジュン君はドール達とそれに関わる人たちから何かを学び、そして彼女達もまた、何かを得るだろう
それに・・・ふふふ、似てないかい?彼は我々が伝え聞く初代のローゼンに、よく似てると思うんだが」
「あえて申し上げます、似てません」
白崎はきっぱりと答えた、ドール達が想い慕う父祖たるローゼンは高貴なる美貌の持ち主と聞いている
「いつの日か再び、人間の愚かさゆえにローザ・ミスティカが失われる日が来るだろう、その時は
彼女達は再び集い、魂の存続の選択をする、復活の実行者アリスを生み出す選択、戦う事もあるだろう」
「もしも・・・」
「わたしは信じるよ、彼女達が決して「終末」を選ばない事を、もしも復活の試練に傷ついたとしても
その魂さえ滅びなければ、その時代のローゼンが、一粒の芥から彼女達の肉体を、必ず蘇らせる
ローゼンが継承される限り、ローゼン・メイデンは滅びない、彼女達が存在し続ける事そのものが
人間の技巧と進歩、生命を生む未知の力への憧れ、それは・・・人間の愛への永遠の希望だから」
「そしてそれは、少女の美しさ、薔薇の花のような美しさを形作る・・・ですか?」
「それが一番、大事だろ?」
槐と白崎はかすかに、しかしとても愉快そうに笑みを交わした
一度壊れた6体のドールは、既に最後の仕上げを残すのみとなって並べられた椅子の上で憩っている
最後の作業、余り仕事熱心とはいえない上に、字を書くのが少々苦手な当代のローゼンが残した作業
6通の「まきますか」「まきませんか」のメッセージ、彼がそれを著し終えれば、ドール達は新たな
マスターを求めて世界へと放たれる、槐がそれを渋ってるのは、自分の作品への未練だろうか
6体のうち3体のドールは既にマスターが決まっている、いずれも自分のドールが完成した暁には
自らの手でネジを巻くために地の果てまでも追いかけて行く覚悟を持ったお嬢さん達、彼女達の催促で
ローゼン・メイデンは現在、前例の無いバックオーダーの状態にある、槐も最近やっと納期を意識し始めた
未知のマスターを待つ薔薇水晶、そして水銀燈とメグ、その3体全てのネジを巻きたがっているのは
どうやらジュン君とそのお姉さんのようだ、もっともそれは真紅と翠星石の嫉妬に阻まれているようだが
「人形同士でミーディアム、それも面白いかもしれないね、互いが互いのネジを巻き・・・なんてね」
白崎はありえないと首を振る、しかし最近彼女達はありえない事をよく起こす、もしかして・・・
彼は並んで眠る水銀燈とメグ、まるで夢の中で軽口を叩き合ってるかのように寄り添う二人を見つめた
「わたしもせいぜい、ジュン君の為に意地悪な「試練」を考えておくとするかな?我が師のように」
「ローゼンの徒弟はローゼン、その徒弟も然り、です」
二人は、ドール達と、ドール達の縁の者に囲まれた少年を見た、椅子の上でまだ動かないドールさえも
表情を和らげてその少年を見つめているように見える
それは、ドール達に「お父さま」と愛される初代のローゼンに驚くほどよく似ているように思えた
前半部分は、ある夜ボクが見た夢の中身そのまんまです
アリス・ゲームへボクなりのオトシマエをつけたいと思い、第二部を書きました
追伸、
「第八ドール・メグ」の執筆にあたっての外観のモデルは「地獄少女」の閻魔あいタンとさせて頂きました
では
ここは感想ありですか?
久々に良SSが二つで小躍りしてますよ
感動した!面白かった!
超GJです。
インド風煮出し紅茶とか、バーゼルとか、設定がかなりツボにハマリマシタです。
ヒゲゼンマイとか読んだ途端、妄想が花開いて
テンプを仕様してるなら、こいつはきっとトゥールビヨンだな、
しかも100石位ルビーの代わりにRMの欠片を使用しシャトン止め…ローゼンならやり得るとかなんとか。
ううっ、おいらの妄想も貧相だなぁ…。
バーゼルはアンティーク扱ってましたっけ?アンティコルムとかなら知ってるんですが…。
それにしても、バーゼルで仕事って…ジジイって独立時計師だったんだ…。
GJ
メグが八番目とかびっくりの連続で斬新でした。
感動しました。とても。
娘の入学のために久しぶりに訪れた母校。
卒業式も終わり、春休みの中学校には生徒の喧騒もなく、たおやかな時間が流れている。
古い学び舎だ。僕が中学生として通い、引きこもりながらも卒業し、やがて結婚して生まれた娘が同じ中学校に今、入学する。
校舎だけが今でも変わらない。
あの頃の思い出が蘇る。
懐かしくて切ない思い出がある。
もう20年以上も昔、僕とローゼンメイデンというドール達の物語が始まった。
そして、突然その物語は終焉を迎えた。
自由意志を持つアンティークドール…そんな御伽話を信じる人はいないだろう。
だけど、僕と僕の妻はその御伽噺を現実に体現したのだ。
妻とは幼馴染だった。特別に仲良しと言う訳では無かったが、ドール達との触れ合いの中で、僕達の絆は徐々に深まっていった。
そんな御伽噺の時間は夢の様に終わり、ドール達は突然僕の前から姿を消した。
理由は今でも解らない。
僕達は彼女達を必死に探したが、とうとう見つける事は出来なかった。
そして、そんな現実を直視する事を拒否した僕は、それが無駄だと分かっていても、
ドール達が帰って来ることを信じ、彼女達を待ち続け、いつしか自暴自棄の生活を送っていた。
そんな僕の心の支えになってくれたのが妻だった。彼女のお陰で僕は立ち直る事ができたといっても過言ではない。
現実は容赦なく流れて行く。
その流れに溶け込みながら、1年が過ぎ、5年が過ぎ、美化された思い出を共有する僕等はやがて結婚し、娘を授かることとなった。
そういえば、娘の容姿はあの人形達と同じ位になっているのだろうか…彼女達はどんな思いを持ってここから去っていったのだろう。
帰り際、校舎にチャイムが流れる。
ふり返った夕焼けの差し込む教室で、あの時どこかに置いてきた子供の心と、
人形達の思い出が一同に介して同窓会を開いているような…そんな気がした。
夕食後、久しぶりに娘と3人で星を見た。
冬の大三角形は、訪れた春の星座に押し流されて、大空に季節の変わり目を告げている。
ドール達もどこか遠い世界で、この星の輝きを眺めているのだろうか。
僕は今でも彼女達の帰りを待っている。
人形達の物語…そんなおとぎ話は、もう、娘には通用しない…。
卒業と入学のシーズンですねぇ。
そんなシーズンにのせて、オイラなりにその後を書いてみました。
トリ付けました
>>13-
>>25を書いた者です
レス多謝です
>>27氏
詳細なご感想ありがとうございました
用語は知ってる単語並べただけですが、反応してくれるとは書き手冥利に尽きる思いです
SSだけでなくビギンとか読んでた若気の至りの過去まで救われた気がしました
>>1氏
通しで読んでみて、改めて翠のカワイさと真紅の静かなる炎に悶々としました
「こ・・・こここのサダコという奴はなかなか見所が・・・あわわわ・・・グスッ・・・コワイデス」
こういう場を与えてくれた事も含めて、スーパーGJ!
では、また何か書けたらスレ拝借に参上します
>>30 グッジョブ!
やはり巴か!巴はJUMを尻に敷くか、それともデレ化か、妄想が走る
>>1 翠派の私には心に染みる作品でしたwグッジョブ!
その翠星石、単価いくらかな?
>>18 すごくいい、感動しました!グッジョブ!
今までエンジュ、兎共、どうしようもない悪役と言う印象ばかりでしたが
こうした、弟子を見つめて周囲に貢献する様なエンジュは素晴らしいですね!
2人がこんな人格だったなら、何と素晴らしい第二期になっただろうに
うおーんうおーん、翠星石ぃ(ノД`)
この一般スレは、伸びるよぉー!
>41
>42
>49
>50
>51
36 :
1:2006/03/24(金) 10:24:04 ID:W6uBY54E
>>30 時期ネタGJ
しんみりきた
>>32 レスどうもです。そう言っていただけると嬉しいです。
それと、
>>25まで読ませていただきました。
ローゼンメイデンにはみんなハッピーが似合いますよね。よかったです。
またの投下を楽しみに待ってますよ。
>>34 この翠は高いですよ。一億万円でどうですか?なんてね
スレ立てした以上、スレの維持に協力しなくては。
SSのネタ考えてきます。
続きに期待してます。
普通のSSはこっちじゃないといけないの?
あっちは虐待専用になっちゃったの?
普通のを書いたはいいが、どっちに投下すればいいか分からん
虐待以前に議論で埋まってるから投下する意味あるかな?
>38
どっちに投下スレばいいか判断付き難いのならば
コピペして両方に投下するって手も、
何はともあれwktk
>>40 いや、それやるとマルチ扱いになっちゃうだろ。
とりあえず、こっちでいいと思う。
まぁこのゴタゴタが冷めたら投下するよ
>>42 むしろごたごたしてるとこに投下して
流れを変えてみては?
ここは否定意見禁止のスレだから、虐待でもノーマルでも
自作に厳しい批評批判を望むなら、あっちに落とせばいいと思う。
批評批判が好みじゃないとか、スレのためにならないって考えなら
ノーマル作品はこっち、エロ作品はエロスレに投下すればいい。
スレのゴタゴタは、書き手は気にしないほうがいい。
自分なりに一生懸命書いたSSだったけど
こういうスレに投下すれば、あんなにボロクソ言われずにすんだのかな…
何はともあれ皆さんGJ!
向こうは荒らしと批判厨の巣窟になってるからねぇ……。
>>45 今一度、自分の欲するSSを語ってみません?
因みにオイラは、現在大戦中に出会った水銀燈と神父の話を構想中。
神父ったってアンデルセンじゃないよ。近々どっちかに投下予定です。
そろそろおいらもコテ名乗ろうかなァ
しかし、何で大戦のエピソードには、誰も先鞭を付けないのだろう(w
48 :
1:2006/03/25(土) 10:58:50 ID:tJT26cTT
このスレ立てた者ですが、私の不手際で混乱させたようですみません。
このスレは私が強引に立てたようなものなので、ここが立っても、むこうの総合スレは今までと同じです。
ノーマルなSSならどちらでも投下できます。
>>26 レス忘れていました。ごめんなさい。
もちろん感想は大丈夫ですよ。
ただ、職人やスレ住人を不快にさせるような感想は控えてください。それがこのスレのルールです。
感想は職人さんが喜びますので、どんどん書いてあげてください。
感想が多ければスレも活性化しますしね。
しっかし下らん理由で分けたもんだな
>>47 ひょっとしてもう書きましたか?
向こうのSS板で同じような構想の物語見つけたものですから・・
>>50 ええ、まぁ、あれがそうです。
あれであっちの流れが好転すれば良いのですが、
それでもダメならおいらにゃどうにもならんですね。
甘めのお話をこっそり投下
53 :
ケットシー:2006/03/26(日) 12:17:46 ID:wt+kMwSZ
お小遣い
平日の昼間から、学生のはずのジュンは机でパソコンのモニターと睨めっこをしている。
ネット通販にはまっている彼は、暇さえあればパソコンの相手をしているのだ。
今、彼の家には三人の――こう呼んだ方が自然だろう――人形達が暇をもて余しているというのに、彼はひたすら独りで過ごそうとする。
人形達の中で割りと大人な真紅は、それに文句を言ったりしない。彼女も独りでいるのが好きなのか、黙って読書やテレビ観賞を勤しむ時間が多い。
しかし、雛苺は違う。行動と考え方が幼稚園児並みの彼女は、とにかく人の気を引こうとする。
幼い彼女は寂しさに耐えられないのだろう。ジュンはしょっちゅう雛苺に付きまとわれ、嫌々ながらも遊び相手をしていた。
もう一人の人形翠星石は微妙な立場だった。彼女も他のドールと同じようにマスターのジュンが大好きだ。
できるなら、一緒にお茶を飲んでお話もしたい。だが、出会ってからずっと馬鹿にしてきたツケもあり、彼の前ではなかなか素直になれないでいた。
そんな彼女は、ジュンと楽しそうに戯れる雛苺を見ると羨ましく思い、同時に苛立ちも感じてしまう。それが元でジュンと雛苺にイジワルをする事もしばしばだ。
54 :
ケットシー:2006/03/26(日) 12:18:55 ID:wt+kMwSZ
今、ジュンは独りでネット通販に没頭している。
雛苺の相手を真紅に押し付けてきた翠星石は、彼の部屋でその後ろ姿を眺めていた。
「なになに、伝説の都アトランティスを破滅に陥れた呪術アイテムか。誇大広告もいい加減にしろって感じだな。買い、と」
ブツブツと呟いて品定めをしながら、マウスをクリックする。新しいページが開かれ、違う商品の物色が始まる。くだらない買い物は終わる気配を見せない。
そんな駄目人間のお手本のような姿を飽きもせず眺めていた時、彼女はふと思いついた。そして、すぐに実行に移す。
「おい、チビ人間。おまえだけ好きに買い物できるなんてズルイですっ」
「なんだ、急に……」
至福の一時を邪魔され、ジュンは不機嫌な顔を背後に向ける。
そこには、両手を腰に置いて怒ったポーズをする翠星石の姿があった。
「翠星石にも欲しい物があるです。マスターなら、かわいいドールに少しのお小遣いでもくれやがれです」
彼女は小遣いが欲しいと言い出した。それを聞いたジュンの眉が不満で震える。
「あのなぁ……忘れてもらっちゃ困るんだけど、おまえらは居候中の大食い迷惑呪い人形なわけだ。どの口でそんな事が言える? まったく、こっちが黙ってれば調子に乗って……」
頼み事をするならタイミングは非常に重要だ。
子供の時にお母さんによく物をねだった者なら解るだろう。
相手の機嫌がいいのを見計らってお願いするのが、この世界では鉄則。
翠星石は見事にタイミングを外していた。
もっとも、迷える思春期少年ジュンの機嫌を窺うのは並大抵ではないが……。
ぐちぐちと嫌味たっぷりで却下され、お願いした翠星石の怒りメーターも急上昇。普段から悪い口が更に毒を増す。
「まぁったく、どーしようもないチビ人間ですぅ。体の大きさだけじゃなく、心の広さもミニマムサイズこの上ないとは。はぁ……」
そう言って、溜め息を吐きながらオーバーに残念な表情をする。
このふてぶてしい態度にジュンも当然ヒートアップする。
「なんだとっ!?」
「本当の事を言ったまでですぅ。悔しかったら、小遣いの一つでもあげてみろです」
「誰がおまえみたいな性悪人形にやるか!」
「やぁっぱり、正真正銘のチビ人間です。それでも男かです」
「どーせ僕は小さい男だよ! わかったから、もう部屋から出てけッ!!」
ひと際大きな怒声を最後に、翠星石は文字通り部屋から放り出された。
ドアが勢いよく閉まる音で床が振動し、炸裂音の後には後味悪い静けさが広がった。
55 :
ケットシー:2006/03/26(日) 12:21:14 ID:wt+kMwSZ
追い出された翠星石は階段を踏み鳴らして一階に下りる。
すると、階段の下にもう二体の人形が待ち構えていた。
真紅は何があったのか聞きたげにし、雛苺は怯えて真紅の袖を握っている。話してもまた腹が立つだけなので、翠星石は無視してリビングに向かう。
ソファーの前で小さく跳びはね、どかりと腰を下ろす。
少なからず悪いことをしたと思っている翠星石は、まずは落ち着いて反省しようとする。しかし、それもままならない。
「翠星石、またジュンと喧嘩したの?」
「ジュン怒ってるのぉ」
階段下からついてきた真紅と雛苺がソファーの上を見上げる。その視線が冷静になろうとする翠星石の邪魔をする。ふつふつと怒りが湧き上がり、つい思ってもないことを言葉にしてしまう。
「う〜、あのチビ人間の小ささには呆れるしかねーです。ちょ〜っとお小遣いをせびっただけであのありさまです」
「お小遣い?」
ポンと出た言葉に二人が揃って反応する。
興味を持ったのを見て翠星石は思いついた。二人を引き込めば何とかなるかもしれない。こういう事には頭の回転が速いのだ。
「そうです。お金があれば、ジュンみたいに欲しい物が買えるです」
「それなら、のりに頼めばいいわ。お金なんか無くても、欲しい物を言えば買ってきてくれるじゃないの」
「そうなのそうなのぅ。のりが買ってくれるの」
「うっ……」
もっともなツッコミが入り、翠星石の言葉が詰まる。真紅の言うように、のりにお願いすれば大抵の物は手に入った。
しかし、ここは負けず嫌いの翠星石。ムリヤリにでも理由を搾り出して反論する。
「解ってないですねぇ」
「何を?」
「お小遣いの素晴らしさですぅ」
「どう素晴らしいの?」
「仕方ないから、翠星石が教えてやるです。ねえ、雛苺」
「うゆ?」
「大きくてまぁるいケーキを、一人で全部食べたいと思わないですか?」
翠星石が両腕をいっぱい使って大きな円を描く。
そう聞かれて想像した雛苺は、とたんに大量のよだれを溢れさせる。
「食べたいのっ。ヒナ、大きな大きなイチゴのケーキ食べたいのぉっ」
56 :
ケットシー:2006/03/26(日) 12:22:41 ID:wt+kMwSZ
大興奮する雛苺に確かな感触を掴む。したり顔を見られないよう横を見た後、悲しそうな表情を作って続ける。
「でもね、雛苺。今のままではゼーッタイに食べられないのですぅ」
「ええ――ッ!?」
「考えてもみなさい。のりが大きなケーキを買ってきたとするですよ。それを全部、雛苺に独り占めさせると思う?」
「させないわね」
即、真紅が的確に答える。
それに対して、全部食べたい雛苺は判っていても答えられない。欲望と事実のジレンマに泣きそうになる。仮定の話で泣けるのだから、相当に無邪気な子だ。
頃合を見計らい、翠星石は満を持してその解決法を教える。
「そこでお小遣いの出番ですぅ。もし、そのケーキが雛苺のお小遣いで買ったケーキなら、雛苺がどう食おうと誰も文句を言えない。一人で食べたい放題やりたい放題なのですぅっ!!」
「すごいすごーい! ヒナもおこづかい欲し〜いっ!」
「素晴らしいわ」
大喜びする雛苺の横で、真紅も目を輝かせて賛同する。彼女も食べ物の誘惑には弱かった。
こうして一致団結した姉妹達は決意を胸にジュンの待つ戦場へと向かったのだった。
意気揚々と二階に向かった彼女達だが、三分も経たないうちに元のリビングに戻ってきていた。
結果は惨敗。
部屋に入って「おこづかい」と言っただけで、三人まとめて部屋から放り出された。取り付く島もないとはこの事だ。翠星石が一度失敗した直後の強行軍なので、結果は見えていたのかもしれない。
「ジュンは私の下僕よ? なのにあの態度は何? この真紅の話を聞こうともしないなんて、許せないわ」
「くぅ〜、あのチビ。まだ根に持ってやがったです」
「うわぁ〜〜んッ、おこづかいもらえないよぉ〜」
リビングに三匹の負け犬の遠吠えが木霊する。プライドの高い真紅は怒りに震え、翠星石は逆恨みを倍化させ、雛苺は物をねだる子供みたいに泣き喚く。
その声は二階にまで届き、ジュンは痛くなりそうな頭を指で押さえた。
つづく
GJ!
ほのぼのしますね〜
乙!!
翠星石らしくっていいな!
乙
ところであの続きはもう書かないの?
60 :
sage:2006/03/26(日) 17:48:21 ID:e20bRmCs
今北
このスレって本編にストーリーが全然そって無くても
年齢指定さえなければ全然OK?
OKなら何か考えてみる
というかスレが別れててどっちに投稿すればいいのかわからんのだが。
こっちが隔離スレか?
むしろ避難所
つまり、批評関係でのゴタゴタが収まるまでと?
>>64 無理じゃない?
あっちは悲惨な感じ。いっそのこと分けてしまえば・・・
別けて上手く行くならこのままでいいし、
向こうが平常運転?に戻れば再度合流でも良し。
よくわからんが、とりあえず批評に関して云々言うのが収まるのを待つか
>53
グッジョブ!
・・・金の価値を知ったドールってのは嫌ですねぇw
続き期待してますー
69 :
sage:2006/03/26(日) 21:42:51 ID:e20bRmCs
どうせ批判なしなら虐待もありにすれば良いんじゃね?
自治が沸いて五月蝿くなりそうだけど。
>>72 個人的にはやめてほしい
向こうと区別がつかなくなってしまう
>>72 それは正気で言ってるの?
それを"五月蝿い"と捉えられちゃたまらないね
書きもしないで文句ばっかりだからそう感じるのもやむなし・・・
いや、あっちの争点は虐待ではなく批判についてでしょ?
それ虐待スレから派生したものだし。
そもそも
>>1が二つもスレ立ててややこしくしたんじゃないか?
個別のほうにもスレ立ててそれ気に食わないのかどうかわからないが、こっちにもスレ立てて。
その辺責任者としてきっちりしてもらいたい。
>78
まるで
>>1が悪者の様に言うねぇ
言い争いは総合でやればいいじゃない
ここは、その総合で決まった路線に沿って
ただ何時もの様に書き手が作品投下をして、それを読み手が感想を述べて
そう言う所だと思う、そこまで言い争いたきゃ総合いっトイレ
80 :
sage:2006/03/27(月) 00:07:37 ID:98EAmK0w
小説できましたがうpしていいですか?
81 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/03/27(月) 00:25:35 ID:QMy++xPV
・・・・・来い!
なるほどねえ。
俺でも投下できる条件があるわけか。
了解した…多分途中で飽きられると思うけど…
もしもシリーズ…もし水銀燈が優しかったら
AM11時00分IN桜田家
ジュン「ふぁーぁもう昼か…そろそろ起きて飯でも食うか」
そして1階にピンポーンとチャイムの音が鳴る
ジュン「ん、だれだ?真紅たちは…くんくんでも見てるだろうし…ああそういえば糊は部活だったっけ」
再度急かす様にピンポーンとチャイムが鳴る
ジュン「ああ少し待っててください!」
と下のリビングに降りていくと呪い人形たちの挨拶(?)が聞こえる
真紅「早くでるのだわ、音が五月蝿くてくんくんが聞こえないのだわ。」
起きて来た人間に言う第一声がそれか
翠星石「まーったく、チビ人間はこれだから使えないですぅ。」
お ま え も か
蒼星石「おはよう、ジュン君それと翠星石それは言い過ぎだよ、あとジュン君お客さんのようだよ。」
やっとまともな発言がきたなぁ
雛苺「お客さんなのー!トゥモエだといいなぁ」
まぁ巴なら多分今日は部活でこんな時間には来ないだろう…
ジュン(それより、何時までこんな生活が続くんだろう…少しイヤになってきた…)
それより先は考えずに玄関に出る不幸(?)少年ジュン
ジュン「はーいどちらさ…ま…」
が辺りを見回してみるとそこには、
???「すみません、此処は桜田さんのお宅でしょうか?」
一見普通の小学生くらいの少女だろうか、一人ぽつんと玄関に立って居た。
なぜ言葉が止まってしまったかと言うと、着ている服が俗に言うゴスロリなので、
ジュン(へ?誰?こいつ?こんな悪趣味の奴なんて知らn)
ジュンが等と考えていると
???「どうかいたしましたか?」
ジュンはこの言葉でふと我に返る
ジュン「あ、ああそうですけど、家に何か?」
???「ああ、すみません名乗るのが遅れてしまいましたね、私はローゼンメイデンの第一ドール水銀燈と言うものです」
ジュン「へ?ああ!それが僕に何のようですか?」
水銀燈「すみません、用が有るのは貴方ではなく、真紅と言う人形達の方なんですが…」
ジュン「へ?あの呪い人形たちに?」
水銀燈「え、ええそうです」
取り合えず真紅達に用が有るようなので家の中に入れることにしたジュン。
ジュン「おーい真紅ーお前に用事があるって水銀燈って言う人形が…!!お前らは何してんじゃあぁ!!」
切れるのも、この部屋の悲惨な状態を見れば頷けると思う。
部屋にお菓子が散乱しカーテンは裂け床は捲れ…これ直すのかと思うと頭が痛くなる状態であった。
なお蒼星石はあはははと奇声をあげて暴れ回っていた。
そして蒼星石の首に一発入れて気絶させた後、翠星石と雛苺を問い詰めもう二度としないと言わせたのは、別の話。
(数分後落ち着いた頃になって)
真紅「568796時間と37分ぶりね、それで何の用かしら?」
落ち着き払った様子で真紅が言う
水銀燈「実は二つ聞きたいことが有って、貴女はこのアリスゲームに乗るか反るかそれを聞きに来たのが一つ。」
水銀燈「もう一つは、出来れば桜田さんのミーディアムにして頂けないか、と言うのがもう一つです」
ジュン(こういう感じの人形なら喜んでミーディアムにするのになぁ)
真紅「1つ目はそれが運命ならそれに従うのだわ」
真紅「2つ目は決めるのは私だけではないのだわ」
水銀燈「私だけでないと言うと?」
真紅は気絶していた蒼星石の方を向くと
真紅「皆、水銀燈を入れても良いと思う?」
蒼星石「うーん、僕は良いと思うけど…姉さんは?」
とてもさっき暴れていた人…いや人形とは思えない発言だった
翠星石「私は蒼星石が良いならいいですよ」
雛苺「水銀灯は優しいから好きぃ!!」
真紅「決まりのようね」
水銀燈「有難う…皆…」
水銀燈の目から涙が零れた
蒼星石「あたりまえじゃないか僕等は姉妹何だから」
翠星石「そうですよ水銀燈このハンカチで涙を拭くですぅ」
水銀燈「有難う…本当に有難う…」
ジュン(あれ?僕に決定権なし?つーか僕は無視ですか?そうですか)
夜になって…
海苔「みんなぁ元気にしてた?ってまた新しいお人形さん?」
水銀燈「水銀燈と申しますこれからしばらくの間お世話になります」
と言うと深々と水銀燈礼をした
海苔「気にしないでね?何かジュン君が真紅ちゃんが来てから元気になって来た所だから」
ジュン(さわがしくなっただk)
真紅「何か言った?ジュン?」
ジュン「いいえ何でもありません…」
真紅たちが来てから座禅を始めたのは内緒だ
水銀燈「ジュンさんって優しいですね」
真紅「けどあれは私の下僕だから勝手なことしないでちょうだいなのだわ」
水銀燈「けど、ジュンさんは諦めませんよ真紅」
その2日後ジュンが体力作りに励みだしたのはまたの機会に話しましょう…
虐待といってもエロがなければバトルもの扱いでノーマルになるんだよな。
俺はそういう方針でバトルものを描かせてもらうぜ。
まあそれにおいて戦闘の悲惨さを伝えるためにデティールはしっかり描かせてもらうけどな。
こんな状態でSS書いて投下したとしても
誰かさんの二の舞で間抜けになるだけだなぁ…
デュードはタフだからそういうことにはならないんじゃないの。
それよりバトルもの描くなら期待。
今思ったんだけど残虐要素も18禁に入んじゃね?
>>87 >虐待といってもエロがなければバトルもの扱いでノーマルになるんだよな
普通にならないと思う。とりあえずあなたの作風だと根本的に書くこと全てを変えない限り
虐待物というかこのスレのルールに反するものになると思う
いや俺はそう認識しているから止めても無駄だぜ
そもそもバトルで腕もげなかったりするのがおかしな話だ
まあ所詮人形だしな
どうせ避難所なんだからエロだけ禁止にすればよかったのに。
というかあっちのスレももう批評云々言う人間いないんだし、再利用しても良いのでは。
>>92 そういう認識だとこのスレのルールを破ることになるし元のスレで投下するべきかと
おいおい、俺は虐待を描くなんていってないぜ?
戦闘だよ、ウォーズやバトルだよ
その辺履き違えるなよ
元虐待スレなんだから許可してやれば。
エロと同列に語られるのは遺憾だな。
>>95 わざわざここに投下しないで元のスレに投下すればいいんじゃね
また雑談スレにするつもりか?
>戦闘の悲惨さを伝えるためにデティールはしっかり描かせてもらうけどな
この辺が言い方をかえているだけで虐待の要素とイコールなのでその辺さえ削除すれば
もともと文章はうまいしこのスレのルールも破らないし問題ないとは思いますけど
四肢や体、精神等にひどい損傷を負わせたりするのはあなた個人の考えがどうであっても
虐待の要素に含まれるので、どうしても含まれてしまうのならば元のスレもありますし
荒らし目的でないのなら向こうに投下しておいたほうがよろしいかと
(できれば虐待系の専門スレのほうがいいとは思いますが)
>>98 すいません、文章自体はうまい方なのでどうしてももったいなく思えてしまいまして
やりすぎました。これで終わりにして私は書き込むのやめようと思います
>>1の気ままで立てられて、個別板のほうは好きにやれって考えが気に食わない。
そもそも議論が長いってだけでスレ新しくスレ立てってのが間違ってる。
しばらくすれば治まるのにね。
ここで愚痴っても始まらねえ
とにかく描いて証明してやるよ
虐待だけじゃないってことをな
確かに虐待とバトル中の負傷の基準は人それぞれだから難しいな。
でもスレを分けたのは正解だと思う。
個人的に虐待モノは読みたくなかったし、そういう人多かったみたいだから。
虐待は、
個人が自分の満足を得るために相手を痛めつけること、
とすれば区別つくと思うな。
コテハンのデュードって人間の個人主張スレだったんだなここは。
ここ以外にSS書いてUPできるような所ってもう無いのか?
何だこの流れは
SS自体がそんなもんだろ
おいらは、もう様子見しますんで…トホホ
109 :
1:2006/03/27(月) 13:39:19 ID:oqdxjuW1
>>101 新スレを立てた理由は、それだけではないんですよね。
今荒れているのを見ればわかるとおもいますが、虐待や虐殺との共存が無理だと前々から思っていたからです。
虐待に限らず、元ネタのキャラが不当に酷い目に遭うSSはヘイトSSと呼ばれるんですが、この類のSSは世間一般的には大変嫌われています。
それで、そのヘイトという危うい部分の隔離も兼ねてこのスレを立てたんです。
この考えは総合スレを少なからず否定することになりますので、できる限り穏便に済ませようと、このスレを立てる時には何も言わなかったのです。
デュード氏が書いてきたSSは、まさにヘイトに当てはまります。
バトル物を書くなら、戦いになるまでの過程を丁寧に書かなければ、読者はただの殺し合いにしか思えません。
腕が飛ぶような殺し合いだけを純粋に楽しめる人は極一部だと思います。
その殺し合いをしているのが好きなアニメのキャラなら、余計に不快になっても当然ですよね。
デュード氏がここに投稿するのは自由ですが、その際には上で言った事を考慮して下さるとありがたいです。
できるなら、荒れる要素は極力少ない方がいいので、総合の方に投稿してもらえると助かるのですが。すでにデュード氏が原因で荒れてますし…
>>109 異存はございません
せっかく総合と一般とを分けたのに
どちらのスレでも同じ話題で言い争って
いい加減、馬鹿じゃないの?総合でやってよ総合でぇ
小ネタ投下
薔薇乙女誕生の真相
偉大なる人形師ローゼンは、究極の少女「アリス」を作るため日夜作業に没頭していた。
まずは一体目、水銀燈の製作に取り掛かったローゼン。
ロ「と、意気込んでみたものの、やっぱりめんどいな〜
まぁ腹のパーツが無くてもどうにかなるだろ、服で見えないしw」
こうして完成した水銀燈。しかし、納得のいかない様子。
二体目、金糸雀の製作に取り掛かる。
ロ「サイズを小さくすればそんなに面倒じゃないし、すぐに完成するだろうw」
こうして完成した金糸雀。しかし、またもや納得のいかない様子。
三体目、四体目の翠星石、蒼星石の製作に取り掛かる。
ロ「同じパーツにすれば量産が可能!ビバ、近代化!w」
こうして完成した翠星石と蒼星石。しかし、納得がいかない。
五体目、真紅の製作に取り掛かる。
ロ「やっぱり真面目にやらなくちゃいかんなw
でもちょっとめんどいかも…」
こうして完成した真紅。だが、まだ納得のいかない様子。
六体目、雛苺の製作に取り掛かる。
ロ「やっぱり小型にした方が楽だなw」
こうして完成した雛苺。ここまでしてもまだ納得のいかない様子。
七体目、雪華綺晶の製作に取り掛かる、が。
ロ「あー!もうめんどい!」
こうして実体なしで完成した雪華綺晶。ここでついにローゼンの堪忍袋の緒が切れる。
ロ「もうやめだやめだ!こんなんやってられんわ!」
こうしてローゼンは失意の中、行方をくらますのであった。
おしまい
なお、槐が丹精込めて作った薔薇水晶に、ドールズが敗れる事となるのはまた別のお話。
>>111 それだと、伝説の人形師ローゼンが
伝説の人形師(自称) と品が下がってしまう恐れがあるので
ご注意下さいw
面白かったですー
>>111 まさに「小ネタ」ですねw
ローゼンが納得のいかない理由が欲しかったです
グッジョブ!
小ネタってだけにローゼンの声が小枝師匠の声に変換されてしまった
ローゼン「やってきました薔薇庭園♪まさにパラダイスですぅ〜♪」
115 :
111:2006/03/27(月) 22:04:58 ID:5qDYiL9m
感想ありがとうございます
>>113 確かに足りなかったですね
つーわけで理由も投下
ラプラス「なぜ彼女たちに満足しなかったのですか?」
ロ「そうだな〜、やっぱり一つのローザミスティカを分けたのがいかんかったのかな?
水銀燈はなんかグレてる、何でああなったのか未だにわからん。
金糸雀は間抜け過ぎる、ドジっ子どころの話じゃない。
翠星石は性格に問題がある、少女らしからぬ言動が多すぎだ。
蒼星石は少女と言うよりは少年、自分のことを僕って言ってるし。
真紅は高飛車過ぎる、おまけに紅茶中毒だし。
雛苺は少女と言うよりは幼女、あれじゃただの子供。
雪華綺晶はなんか変、何考えてるのかさっぱりわからん」
ラ「だからアリスゲームを…」
ロ「そう、もしかしたら良い感じにミックスされてアリスになるんじゃないかなーって思ってさ♪」
ラ「……」
116 :
111:2006/03/27(月) 23:11:35 ID:5qDYiL9m
>>115 今更自分で読み直してなんか足りんなって思ったので
最後の行の後に
ロ「しかし、どうしてあんな風になっちゃたんだろうか…、私はアリスを求めているのに…」
ラ「……(いろいろ言いたい事あるけど言えない…)」
を追加
ラプラスが何を言いたいのかはご想像にお任せしますw
>>115 備考として、蒼星石の一人称が「僕」なのは女性性を引き立たせる効果があると思われます
断じて少年っぽいから「僕」を使っているのでは無いでしょう
まぁアリスが「僕」という言葉を使ってたらそれはそれで楽しいですけどwww
アニメあんまり見てなくて漫画派だけど、大戦もののif書いてもいい?
書いたもん勝ちですよ。たいてい。
>>1の決まりが守れて、かつ「あの御方」が出てこなければ
あー、殺戮とかじゃなくて一兵士とのふれあいを書こうかなと。
こういうのはダメ?
いいんじゃない
wktkって待ってるよ
水銀燈は煉瓦でできた部屋の窓から外を眺めていた。
何を考えているかはわからないが、誰かを待っているという感じだった。
後ろの方からドアが開く音がした。
「今日は遅かったのね」
彼女は窓に映った初老に入ろうとかといった感じの男だったに声をかける。
「悪かったな。こっちも報告書を書かなくちゃいけないからな」
「それで」
顔を男の方へ向けて
「今日はどうだったの?」
「十一人殺しだ。特務曹長四人に、兵士二人に・・・」
男が殺した人間について話し始めると、水銀橙は飽きれた顔をする。
「もういいわ。そんなこと聞いてもわからないもの」
男との出会いは数日前に遡る。
「あなたがネジを巻いたのぉ?」
机に置かれた鞄の上に立つ人形。
「なんだ貴様は?スパイか?」
その人形を見て男は威嚇するような目線で睨みつけた。
「スパイ?失礼ねぇ。私はローゼンメイデンのドール、水銀燈よ。それにしてもあなた、見たところ兵隊さんのようねぇ」
水銀燈は男をまじまじと見つめた。
「今は戦争中だ。奇妙な鞄が置かれていれば爆弾か何かと勘違いするのも仕方ない。それよりも人形とはどういうことだ?」
「まああなたには話しても無駄でしょうけど、一応教えるわ」
水銀燈は自らについてや契約のこと、アリスゲームのことなどを大雑把に伝えた。
男は意外と物分りが良いのか、すんなりと理解し、いろいろと質問までしてきた。
「なるほど。君達人形同士の戦いに私は巻き込まれたというわけか」
「そういうことねぇ。わかったら早くこの指輪にキスして契約してくれる?」
男はしばし考えた結果、次のような返事をした。
「そうだな。戦争が終わったら考えよう。それまで待ってくれるか?」
「私の気はそんなに長くないわよ。まあこの時代に他の姉妹が目覚めているかどうかすらわからないんだし、しばらくは待ってあげてもいいわ。ところであなた、名前は?」
「ハインツだ。偉大なる我がドイツ帝国軍狙撃手だ」
そして今に至るのだった。
夕方になって、ハインツは食事を取っていた。
薄暗い部屋に豆電球が一つ寂しい明かりを照らすだけで、明るいとはいえない。
「ねえ、あなた、どうやって人を殺しているの?」
水銀燈のその言葉にパンを掴んでるハインツの手が止まった。
「知りたいか?」
ハインツは興味深そうに水銀燈に迫る。
「別に。ただ気になっただけよ」
するとハインツは立ち上がり、壁に掛けていた細長い布製の袋を、食事をどけて置いた。
ハインツはその袋にを縛る紐を解き、袋を取った。そこからは一丁のライフルが出てきた。
水銀燈は興味深そうにそのライフルを見る。
「これが私の愛銃、モーゼルKAR98だ。他人にこういうものを見せるのはあまり好きじゃないが、今回は特別だ」
「このレンズはなに?」
ライフルのボルトの部分に取り付けられたスコープを前方部分から覗き込んで言った。
「これはスコープといってな。相手をより正確に狙うためのものだ」
ハインツは立ち上がり、銃をアイアンサイトで構える。
「こうやって構え、スコープの中心に敵が入ってきた瞬間、息を止め引き金を引く」
スコープを覗き込み、引き金に手を掛けた。
「すると相手は動かなくなる。肝心なのは頭を狙うことだ」
「ふぅん。なんだかあっけないかんじぃ」
熱く語るハインツに冷めたような言葉を返す水銀燈。
「さて、明日の早いので私はもう寝るとする。君も早く寝たまえ」
そう言ってハインツはベッドに入った。
水銀燈はその後外を眺めていたが、しばらくして鞄の中に入り眠った。
夜中になり、彼女は苦しそうな顔をしている。
「ここは?夢の中?」
水銀燈は荒廃し、炎の燃え上がる街中にいた。
目の前には大量の死体が転がっている。
その死体の中で一人だけ微かに息をし、苦しそうに這いずる兵士がいた。
「あれは・・・ハインツ!?」
その兵士の顔を良く見ると、それは水銀燈を養ってくれているハインツではないか。
彼の方へに飛んでいく水銀燈。
その時だった、目の前に建つ、巨大な塔からレンズの反射する光が見えた。
水銀燈はとっさにハインツが教えてくれたライフルを思い出す。
良く目を凝らして凝視すると、そこにいるのはスナイパーだった。
そしてそのスナイパーは引き金を引いた。一発の銃声が鳴り響く。
水銀橙はハインツのほうを見ると、彼の頭からは大量が血が流れていた。
「そんな!嘘よ!」
そこで水銀燈は目を覚ました。
興奮した状態でハインツはいないかとベッドを見いやるが、彼はいなかった。
あれは夢ではなかったのだろうか。そう思うとよりいっそう不安になる。
水銀燈はそんな不安な気持ちの中、また窓から外を眺めていた。
正直なところ、彼女にはあの男はそれほど気になるわけでもなかったが―心配になるということは気づかないうちにそういった感情が芽生えてきたのかもしれない。
そうしているうちに外は暗くなり、夜になった。
ハインツはまだ帰ってこない。
「遅い」
そう言ったと時、ドアが開いた。
水銀燈は慌ててドアの方を振り向く。そこに立っていたのは待ちわびていた人、ハインツだった。
「まったく、おそいわねぇ。死んだかと思っちゃったわぁ」
いつものように振舞う水銀燈。だが内心は安堵の気持ちで満ち溢れていた。
「すまんな。また報告書を書いていたんだ。今日はいつも以上に多かったなあ」
「また殺したの?」
「ああ。今日は二十五人だ。内容は、准尉一人に・・・」
「それはもう聞き飽きたわ」
と、いつものような会話が続くのだった。
そして食事の時間。
「ねえ。今日あなたが死ぬ夢を見たわ。頭を銃で撃ちぬかれて。本当に人が死ぬさまってあっけないのねぇ」
その言葉にハインツは真剣な顔になる。
「そうだな。そして私もいつそうなるかわからない。いや、明日にでも無残な死体となり、カラスの餌になってるかもな」
「カラスの餌?あっけなぁい」
水銀燈はケラケラと笑った。
「確かにそれで死んだら笑いもんだな。二度も約束破ることになっちまう」
「二度?」
ハインツはポケットから一枚の写真を出して水銀燈に見せた。
そこには妻と思われる女性と年は十歳くらい少女の姿があった。
「これは?」
「私の妻子だ。今年中には娘に顔を見せてやるって約束したんだが無理みたいだ。ダメなオヤジだよな・・・」
それを聞いて水銀燈は表情を濁らせた。
「だから、せめて君と契約するという約束くらい果たそうかと思ってな。そして娘に会う。それが叶うまで私は死ねないんだ」
「そう。あなたも必死なのね」
「必死だよ。私のように人を殺すしか脳のない人間でも迎えてくれる人がいるんだ。君のようにな。さ、もう遅い。寝よう」
ハインツはベッドに横たわると、すぐに寝てしまった。
水銀燈は鞄の中に入って、ハインツと娘のことを思い浮かべた。
戦いが始まる前はきっと暖かい家庭を持っていたに違いないと。
「お父様・・・」
そう思うと彼の娘が羨ましく思えた。
朝になると、外がやけに慌しい。
水銀燈が目を覚ますと、ハインツもすでに軍服を着込み、出かける準備をしていた。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「戦況が慌しくなってきた。しばらくは帰ってこれそうにない」
「そう」
水銀燈は少し悲しそうな顔をした。
「安心しろ。毎日手紙を書くさ。実は娘にも書いていてな。君にも書くよ。文字は読めるだろ?」
「馬鹿にしないで。文字くらい読めるわ」
「そうか。なら安心だ。それじゃ行ってくる」
そしてハインツは最後になるかもしれない会話を交わして部屋を出て行った。
それからというもの、ハインツの部屋には彼からの手紙が毎日のように届いた。
誰もいないはずだが、彼の権限で毎日手紙が届けられる。
水銀燈は手紙を開き、読んでみる。
『元気にしているか?私は今東部戦線最前線の狙撃部隊体長を勤めている。今日もまた十八人の指揮官を殺した。内容は、、、書かないほうが良いだろう。君のためにも必ず帰ってくる。それでは』
このような手紙が毎日届けられた。
水銀燈はそれを欠かさず読んだ。
十日ほど経っただろうか、ハインツからの手紙の内容が日に日に重苦しくなってきた。
『我々もだんだんと押され気味になってきた。だが負けるわけにはいかない。この山場を乗り切れば帰ることができる。もう少し待っていてくれ ハインツ・ソルバルト』
それを読んで水銀燈は不安になった。もしかしたら今頃死んでいるかもしれないと。
明日手紙は来るのだろうか。そう考えると、また彼の帰りを心配するような気持ちになった。
「私が彼を心配?馬鹿馬鹿しい」
そう言って水銀燈は眠りについた。
次の日の朝、また手紙は届いた。
『まずいことになった。日に日に押されている。このスターリングラード戦線もいつまで持ちこたえられるか・・・。明日は決死の守衛に出る。私も死ぬかもしれない。だからこの写真は君に預けておくよ。大切な妻子の写真をロシア兵に踏みにじられるのは御免だからな』
水銀燈は封筒の中を漁ると、この前ハインツが見せてくれた彼の妻子の写真があった。
その写真の裏には文字が書かれていた。
『結局約束を破ることになりそうだ。すまない。』
写真と手紙を封筒に戻し、棚の引き出しにしまう。
「最低ね。ハインツ」
そして鞄の中に入り、また明日の手紙を待ちつつ水銀燈は眠った。
だが、次の日も、その次の日も手紙が来ることはなかった。
話し相手もおらず、何もすることがない水銀燈はずっと鞄の中にいた。
そして夜になって眠りだす。
それはいつ目覚めるかわからない、深い眠りであった。
終
すまん、かなりヘタクソだが・・・
スターリングラードって映画見たことあるからじんわり来た(´・ω;`)
想いを寄せる人の死・・・
それなのに彼女は涙しないとは、んまぁ陰で哀しんではいるんでしょうけどね
それもまた水銀燈らしく、文面でも大変彼女と言うキャラを描写出来ていると思います。
内容も解りやすく、すぐ頭に入ってきました。
大変シリアスで面白かったです。深夜にありがとうございましたw
次回作期待してすますーw
なんか…変な雰囲気のスレだな…
いずれ元に戻るよ、虐待残虐スレに…
そういうのがOKな総合SSスレを選ばず、わざわざこっちを狙って投下しようと
画策してる自己中なのが潜んでるからね…
現代より遥か未来のSFチックなローゼンメイデンってのもあり?
グッジョブ!
水銀燈と狙撃猟兵、荒んで心を忘れた二人は一刻、ほんの少し・・・それで充分だと思う
15禁くらいの微エロってここでもいいのかな?
一緒にお風呂(H無し)とか、H済みっぽい二人の何気ない会話とか
どうにもエロ成分が薄くて、エロ板に落とすに気が引けるブツがいくつかある
はっきりとした状況描写が無ければここでいいと思うよ。
133 :
ケットシー:2006/03/28(火) 19:04:52 ID:1sbeSkle
微エロと判断できたものなら大丈夫だと思うよ
>>125 戦争時はこの水銀燈のような思いをする人が多かったんだろうなぁ
GJです
投下いきまーす
134 :
ケットシー:2006/03/28(火) 19:05:53 ID:1sbeSkle
>>56 「ジュン君、ただいま〜」
夕方になり、のりが学校から帰ってきた。両手には買い物袋が提げられており、まずは荷物を片付けに台所へ向かう。
その後を追う三つの影。
彼女達が狙っているのは買い物袋の中身ではない。
今日は財布の中身を狙っているのだ。
そう、彼女達はまだお小遣いを諦めてなかったのだ。
ジュンが駄目でもこの家の家計を取り仕切るのりが居る。
この家のボスはのり。
彼女達の考えは正しかった。
「あら、おなか空いてるのぅ? もう少し待ってね。急いで夕飯にするから」
ピッタリとマークされているのに気付いたのりは、流し台で手を洗って学生服の上からエプロンを着ける。
このまま勘違いが続くと話を切り出し辛くなるのを察し、真紅が口を開く。ここ一番では彼女が最も頼りになった。
「のり、話があるの」
「おこづかいちょーだいなのぉっ!」
「え?」
雛苺が先走って大変元気な声でお願いする。しかし、あまりに唐突過ぎて肝心な内容がうまくのりに伝わらない。
出だしで挫いてしまっては始まらない。翠星石は歯噛みしながら話を引き継ぐ。
「チビ苺は黙ってろです」
「どーして?」
「いーから後は翠星石に任せろです」
「うぃー」
渋々引っ込んだのを見てから、のりに満面の営業スマイルを向ける翠星石。薔薇乙女の中で最も世渡り上手なのは彼女かもしれない。
135 :
ケットシー:2006/03/28(火) 19:07:54 ID:1sbeSkle
「おほほほほほ、えーっとですね。実は折り入ってお願いしたいことがあったりするのですぅ」
「何かしら〜」
普通の人ならここで警戒するのだろうが、のりは違う。どんな頼みでも真剣に聞こうとする彼女は、裏のないにこやかな笑顔で応えようとする。
翠星石は何かに負けそうになるが、ここで倒れたら笑い者にもならない。負けないように正面から頼み込む。
「ちょっと話し辛いことですけど、お金のことですの。たくさんくれとは言わないです。少なくてもいいですから、私達にも決まったお小遣いを作って欲しいのですぅ。もちろん、多いに越したことはないですよ」
「ヒナもたくさん欲しい〜」
最後に一言付けるのがかわいらしくて、のりの頬が緩み切りそうになる。
「あ! お小遣いの事だったのね。でも、欲しい物なら私が買ってあげるわよぅ?」
この反撃は予想できたが、明確な受け答えは用意できなかった。
及び腰になる二人を差し置いて、無鉄砲野郎の雛苺が嬉々として答える。
「ヒナはおっきなケーキを買うのっ。それで、いっぱいいっぱい食べるのっ」
「あらあら、ケーキならいつでも買ってきてあげるわ」
「ちがうのぉ! 丸くて大きなヒナだけのケーキなのっ」
「雛ちゃんだけの――ああ、バースデーケーキね。それなら今度、雛ちゃんだけの大きなケーキ、買ってきてあげる」
「ほんとにっ!?」
早くも雛苺に脱落の色が見え始める。
物に釣られやすい彼女は、仲間にするのは簡単だが、使い物にもならなかったようだ。
ここで仲間の一人が落とされるとなると、のりに勢いがつくことになり、戦いは非情に不利になる。それだけは阻止せねばならない。
翠星石は雛苺の不甲斐なさに腹を立たせる。
そして、危機を悟った真紅は、とにかく流れを変えようと待ったをかける。
「待って、のり。私たちが欲しいのは違うの」
「え? 他っていうと、誕生日プレゼントとかパーティーグッズとか? 大丈夫、買ってあげるから、そっちの心配もいらないわ」
あくまで誕生パーティーに固執するのりに、真紅と翠星石は苦戦を強いられる。
「だから、違うと言ってるのだわ」
「私が欲しいのは……ぶっちゃけると自分の好きに使えるお金ですぅ。のりに頼みにくい買い物だってあるのです」
「それって……」
翠星石の本音を聞き、のりは黙って考えを巡らす。
そして、何を妄想したのかしらないが、急に顔を上気させて慌てふためく。
136 :
ケットシー:2006/03/28(火) 19:10:38 ID:1sbeSkle
「そ、そうよね。あなたたちも立派な女だものね。エッチな下着とか欲しくなるわよねっ!」
「な、何を想像してやがりますかッ! んなわけねーだろですぅッ!!」
のりが変態妄想をぶちかまし、翠星石も真っ赤になって絶叫する。
相変わらずのりの思考は常人と何処かズレている。しかも、一度火の点いた妄想は簡単には止まらない。
「でも、そんな下着をどうして――ま、まさか! あなたたち、ジュン君を色香で惑わすためにっ?!」
「ちったぁ人の話を聞きやがれですぅ!!」
「ダメよ! ジュン君はまだ中学生だもの。それに、そういう話はお姉ちゃんの私を通してくれないと……!!」
のりの見苦しいまでの妄言連発に、ついに真紅の我慢も限界を突破する。
長く垂れた髪を鞭のように撓らせて横っ面を叩く。「フギャ」と気の抜けそうな叫びを上げて、ようやく騒ぎが収拾する。
「慎みが足りないわよ、のり」
「ひ〜ん、ごめんなさ〜い」
「それで、お小遣いをくれるの? くれないの? はっきりなさい」
叱られて半泣きののりに高圧的な態度で決断を迫る真紅。どっちが頼み事をしているのかわかったものではない。
人形達はのりの次の言葉を固唾を呑んで待つ。
そして、審判が下されようとのりが息を吸った時、絶妙のタイミングで邪魔が入った。
「やる必要ないぞ」
全員が一斉にキッチンと繋がったリビングの方を見る。
そこには、いつの間にやら二階から下りてきていたジュンが立っていた。
あれだけ騒げば感付かれても仕方がない。
「くっ……チビ人間は二階でひきこもってろですぅ!」
今の彼女達と彼は敵同士。厄介者の干渉を嫌い、翠星石が追い払おうとする。さらりと酷いことを言う。
だが当然、そんな事でジュンは退散しない。
「居候のこいつらに小遣いなんかやるなよ。大体、こいつらのおやつ代やら食費やらも馬鹿にならないんだろ?」
「失礼ね。まるで私が大飯喰らいみたいなのだわ」
137 :
ケットシー:2006/03/28(火) 19:12:20 ID:1sbeSkle
自称淑女の真紅が、真っ先にジュンの言い分に異論を唱える。それを聞いたジュンは、嘲笑で口元を緩めずにはいられなかった。
「違うのか?」
「違うわ」
「違わない」
「違うわ」
「違わない」
一歩も退かないジュンを見て、真紅は無言で彼の前に歩み出る。
足下まで来られて恐怖を感じずにはいられないジュンだが、ここで逃げては様にならない。
わずかな間――ジュンにとってはかなり長く感じられる間――の後、この家では聞き慣れた悲鳴が上がる。弁慶の泣き所に人形靴のつま先が突き刺さったのだ。
床を転げ回って悶える彼をよそに、のりが出した答えを言い渡す。
「いいわよぅ。おこづかいをあげる」
「やったぁっ。のり、ありがとなの〜」
「感謝するわ」
「チビ人間、どうだ見たかですぅ」
「おい! そんなの許さないぞ!」
歓喜する姉妹達に対し、床に転がって涙目で不満を訴える少年。
ここで勝者と敗者がくっきり分かれた。
一緒になって喜んでいるのりが、薔薇乙女達にさりげなくお願いする。
「だから、これからもジュン君と仲良くしてあげてね。あと、私のお手伝いとかしてくれると助かるかなぁ?」
「ヒナ、もっとジュンと仲良くする〜。おてつだいもする〜っ」
「小遣いのためならしゃーねーです。翠星石も仲良くしてやるですぅ」
「ジュンの躾なら任せなさい。私に相応しい大人にしてみせるわ」
雛苺は床のジュンの体に飛び乗り、翠星石はあんなことを言いながら赤くなり、真紅はなにげに独占欲を見せる。
ああ見えて、ジュンはみんなから好かれていた。
つづく
グッジョブ
真紅の立場を弁えない言い様には吹きましたw
GJ!
結局JUMは陥落しちゃいましたかw
続き楽しみにしてます
また大戦ものを翠星石で思案中だけど、なかなかネタ思いつきにくいもんですね・・・
国はどこ?
イメージからすると森深き国って感じだけど。
翠星石は疎開先でひもじい思いをしてそうなイメージ
「あの頃はイモのしっぽしか食べられなくて、ホッカホカの銀シャリが夢にまで出てきたですぅ・・・」
「・・・・・・・・その手に持ってるジョウロは飾りか?」
なんとなくオランダ
アルデンヌの森とかどうかな
で、ドイツ軍が侵攻してくると
フィンランド
どっちかといえばカランタンとかフォイみたいな農村で考えてるんだけど、マーケットガーデン作戦系は激しすぎるのでやめた。
なんとなく考えてみる。
戦雲の広がる森深き国
兵士を夢見るやさしい少年と翠星石の物語。
兵士として未来の活躍を夢見ながら、友達と一緒に離れて行く少年を見送る翠星石が
つぶやくずっと言えなかった言葉「活躍する日なんて来なくてもいいです…」
彼女がツンデレになった理由とは、さよならしても傷つく事が怖かったから。
っていう話…かな??
うわぁぁぁああ!!
期待大
まああんまり期待はしないでくれ
大戦ものは最近書き始めたばかりだし
緑の草原の中にぽつんと点在する農村。
家が数件立ち並び、庭には色とりどりに咲く花。畑を耕す老人。まさに平和そのものである。
その長閑な雰囲気を煉瓦造りの家の一階の窓から楽しそうに眺める翠星石。
『・・・けてくれ』
「え?」
ベランダの下から声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、翠星石の目の前にヘルメットを被り、土で汚れた男の顔が飛び込んできた。
「きゃあ!」
翠星石は驚いてその場に伏せてしまった。
「開けてくれ!頼む!鍵を開けてくれ!」
その男は随分と慌てていた。
元々人見知りの激しい翠星石にとって、このように唐突に助けを乞う人間に対してどう対応すれば良いのかわからなかった。
だが男の疲労に満ちた目を見ると、このまま何もしないわけはいかないと思い、翠星石は意を決して家の鍵を開けた。
男は鍵の外れる音を聞くと、急いで家の中に駆け込んだ。
家の中に入るなり、壁に張り付きながら、何かから隠れるように慎重に顔を窓の方へ近づけ外を覗きこんだ。
翠星石は奥の部屋の壁からそっと顔を出し、そんな彼を見ている。
音が監視していると、窓越しにたくさんの兵士と戦車が列を組んで道を行進しているのが見えた。
「ジェリー(ドイツ人の蔑称、スラング)め!こんな村を通るなんてまったくついてない!」
男の表情には悔しさが見えた。今にも彼らに突っ込もうかというくらいの気迫だったが、その感情を押し殺し、今は相手の動きだけを真剣に観察している。
「パンター四台にタイガー二台、兵力は八十人ほど・・・」
男は窓から見える相手の兵力をぶつぶつと声に出して暗記する。
そうしているうちに、やがて兵隊達は村を通り去り、男もその場に力が抜けたように座り込んだ。
俯いたまま力なくはぁとため息を漏らす。
よほど疲れていたのだろう。
そんな男の目の前に小さな手とハンカチが入った。
「あ、あの、これ・・・」
顔を上げると、恥ずかしそうにハンカチを差し出す翠星石の姿があった。
「ありがとう、嬢ちゃん」
ありがたくその行為を受け取った男はそれで汗を拭った。
「嬢ちゃん、この家に一人で住んでいるのかい?」
どうやら男には彼女が人形ということには気づかないようだ。
「妹が一人いるですぅ。それとマスターも」
「マスター?」
「あ、いや、親みたいなもんです!」
翠星石は慌てて誤魔化した。
「まあ事情はなんであれ嬢ちゃん一人だけだと心配だったからな」
「嬢ちゃんという言い方はやめやがれですぅ!翠星石という名前があるですぅ!」
「悪い悪い。翠星石。でも変わった名前だな。この辺りじゃそういう名前が流行か?」
「知るかですぅ!」
気さくに笑い、軽い感じの男に、翠星石はすっかり馴染んでいた。
翠星石は名前のことで外方を向いていたが、しばらくして何も言ってこなくなったので心配になって振り返った。
「人間?」
翠星石が男の顔を覗き込むと、彼はスースーと眠っていた。よほど疲れていたのだろう。
どのくらい眠ったのだろうか。
目を瞑り、気づいたら小鳥の囀りが聞こえてくる。
その囀りで男ははっと目を覚ました。
ふと気づくと、体には毛布がかけられていた。おそらくあの少女がかけてくれたのだろう。
「おーい、嬢ちゃん!どこ行ったんだい?」
大声で呼ぶと、奥の部屋から足音が聞こえてきた。
「もう行くのですか?」
男は立ち上がって、トンプソンM1A1短機関銃を両手に持った。
「ああ。ここから中継地点の無線機を借りればあの機甲部隊の情報は伝えられる」
「そうですか」
翠星石は寂しそうな顔をして言った。
「心配しなさんなって。ここからならそう遠くはない。それに長居して迷惑かけるわけにもいかんからな」
そう言って男はドアの方へ振り向いた。
その時、翠星石は男の右腕から血が出ているのに気がついた。
「あ、人間!血が!」
「ん?ああ、俺も全然気づかなかったぜ。多分銃弾が霞めたんだろう。大丈夫さ」
激しい戦闘状態では、耳や目といった気管が麻痺することもある。銃声によって精神異常を来たすということもあるくらいだ。
この男の場合もそういった部分に該当するのだろう。
「大丈夫じゃねえです!早くこっち来るです!」
翠星石は男の腕を強引に引っ張った。
「おいおい、いいって!」
「いいから来るです!」
そのまま男は椅子に座らされた。
そこへ翠星石が包帯を持ってやってきた。
「ほら、腕を見せるです!」
「あ、ああ(世話焼きな子なのか?)」
男は翠星石の強引な言い草に従い、上着を脱いで腕を見せた。
血が出ているところに翠星石は小さな手で包帯を巻いていく。
それをかわいい子だな、と思いつつ見つめる男。
「嬢ちゃん、綺麗な目してるな」
「え?」
翠星石は赤面して目線を逸らす。
「俺も嬢ちゃんみたいな子をカミさんにしたいぜ」
「ええ!?そ、それは・・・」
さらに赤面して慌てる翠星石。
「はは、冗談だよ。ま、国帰ってから見つけるとするか」
「か、からかうなですぅ!ほら、これで大丈夫ですよ」
「ありがとうな。面倒かけちまって」
包帯を巻き終わると、男は服を着て、荷物を提げ、いよいよ家を出る準備をした。
ドアの前まで見送りにくる翠星石に、男はポケットからお菓子を渡した。
「お礼と言っちゃなんだが、このチョコレートをやるよ。じゃあな」
「怪我しないように気をつけるですよ!」
「世話焼きな子だなあ。心配しなくても死なない限りいつでも包帯巻かれにやってくるよ!」
男はジョークを言いながら家を出て行った。向かう先は生死を賭けた戦場。
全速力で走っていく男の姿がだんだんと粒のようになって見えなくなっていく。
翠星石にとってはたった数時間の劇的な出会いであったが、気の会ういい人に会えたという気持ちのほうが強かった。
それから数日が経った。
翠星石はいつもの様に窓から外の風景を眺めていた。
すると遠くから戦車や兵士達が列を成してやってくるのが見えた。
それが翠星石の家の近くを通った時のことだった。
一人の男が手を挙げている。それは紛れもない、この前出会った男だった。
翠星石は嬉しくなってその男に見えているかはわからないが、笑って返すのだった。
終
>>151 乙!
ドールズは大戦がよく似合いますね。
>>151 乙。
てっきり死亡ENDかと思ってたから嬉しい誤算だ(ノ∀`)
ええ話やん
>>151 GJ!!
んじゃ次はこれ書いてホスィww
つ「ベルリン戦」
ジュン「・・・58万6千時間前の君たち、一体、どこで、誰の下で、どんな風に生きてたんだ?」
真紅「ジュン・・・ダメよ・・・ドールに決して過去を聞いてはならない・・・開けてはいけない箱もあるのよ・・・」
ジュン「ゴ・・ゴメン水銀燈!もし辛い話なら話さなくても・・・」
水銀燈「いいの・・・話させて・・・聞いてくれる人が居るだけで・・・わたし・・嬉しいわ」
小一時間後
水銀燈「・・・瓦礫の影から音も無く現れたのはポルシェ博士の戦車!しかし神戦車T−33は一歩も退かず
ウラー!の叫びと共に赤い旗を翻し、プリンツ・アルブレヒト通りを蹂躙していく!
そこへ割って入ったわたしの97式軽戦車!ティガーだろうがシャーマンだろうがちぎっては投げ・・・」
ジュン「コレ・・・いつまで続くんだ?」
真紅「今が『ダウンフォール編・黒いチハ車の奇跡』だから、この後オデッサ編、南極編と続くのよ・・・
わたしがこの話を何回聞かされたか・・・アンタがいらん事聞くから・・・」
ジュン「すまんかった」
小5時間後
水銀燈「そしてわたしは、ある元オイルマンの作家に会い、すべてを打ち明け・・・って皆、起きなさぁい!」
158 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/03/30(木) 20:53:18 ID:G9oXrugI
チハタンワロタwwwww
フォーサイスとか落合とか出てきそうな勢いだ。
>>156 とりあえずその手のゲーム持ってるんで、雰囲気掴んでからなんとか書いてみます。
>>160 ベルリン戦の様子を掴みたいのだったら、
迷わず「ヒトラー最期の12日間」をレンタルだね。
>>160 「ベルリンの戦い」ってやつか?ペーペーシュで戦車破壊できるクソゲー
163 :
ケットシー:2006/03/31(金) 18:28:57 ID:JpUxYEDC
>>137 日差しが穏やかな昼下がり、桜田家のリビングから陽気な歌声が聞こえてくる。
「おっこづかい〜、おっこづかい〜っなのぉ」
雛苺が上機嫌で歌いながらポシェットの中を何度も覗く。お小遣いが貰えたのがよほど嬉しいのか、朝からこの調子だ。
遊びに来ていた蒼星石が、楽しそうな姿につられて微笑む。
「ポシェットに何か入ってるの?」
聞かれた雛苺は、自慢したかったのか、得意げになって教える。
「うぃっ、おこづかいが入ってるの!」
「へぇ、お小遣いが貰えたんだ〜」
「そうなのっ。蒼星石にも見せてあげるなのぉ」
「ほんとに?」
「うぃっ」
雛苺がポシェットへと手を突っ込み、小さな小銭入れを出す。そして、それを嬉しそうに蒼星石に見せる。
「これね、ジュンが作ってくれたの! ヒナ初めてのお財布なのよ」
「いいなぁ」
ファスナーが付いた四角い小銭入れ。
これを作ったのは裁縫が得意なジュンだった。
誰でも簡単に作れる単調なデザインだが、仕事が丁寧で良い品に見えた。
蒼星石が羨ましがったのは、本心からだった。
164 :
ケットシー:2006/03/31(金) 18:30:02 ID:JpUxYEDC
雛苺は小銭入れの口を開いて逆さまにする。すると、一枚の硬貨が絨毯の上を転がった。
「あ、五十円玉だ」
「うん、おこづかいは一日五十円なの」
のりが決めたお小遣いの額は、一日五十円。毎日、五十円玉を一枚ずつ三人にあげることになった。
相変わらず、ちょっとした物ならのりが買ってくれるので、お小遣いの大半は貯金になるだろう。
「チビ苺、お金を床にぶちまけるなです! 無くして泣いても知らないですよ」
雛苺が見せびらかしている所へ、翠星石がお金の扱いを注意しながら現れた。
同じようにお小遣いを貰っていても、蒼星石相手に自慢している雛苺が気に障るようだ。
「無くさないもん!」
「それはどーだか。第一、チビチビが無くさなくても、誰かに盗られる可能性があるですぅ」
「そんなことを考えるのは、翠星石だけだと思うよ」
「蒼星石はもっとお金の大切さを知るべきですぅ。お金には人を惑わす魔力があるのですよ」
「そうなんだ。それで、翠星石もお小遣いを貰ってるの?」
「当たり前ですぅ。貰ったお金はジュン特製の財布に入れて、肌身離さず持ち歩いてるですよ」
待ってましたとばかりに翠星石は懐から小銭入れを取り出し、それに愛しげに頬擦りする。
彼女もジュンにお願いして――強要とも言う――作ってもらったのだ。もちろん、真紅のも作らされた。
チラチラと蒼星石の反応を窺う彼女も、自慢したいだけなのかもしれない。
そして、その背後からジュンが来ているのに、まだ彼女は気付いていない。
165 :
ケットシー:2006/03/31(金) 18:30:54 ID:JpUxYEDC
「大事にするのはいいけど、おまえらは店で買ったりしないんだろ? 財布は持ち歩かずに仕舞っておけよ。落として無くすぞ」
「なっ!? チビ人間っ、誰もおまえなんぞの作った財布なんて大事にしてないですよ! 無くして泣いたりしないですよ!」
おもしろいように狼狽する翠星石。それを見ながら蒼星石は「無くしたら泣くんだね」と姉の本心を代弁する。
恥ずかしくて言葉も出なくなった彼女は、リビングから逃げ出て行った。
「人に作らせといて、なんだよ、まったく……」
本心を見抜けなかったジュンは憤慨し、蒼星石はそんなすれ違う二人を溜め息混じりで見ていた。
リビングに来ていきなり腹を立てたジュンだが、ここに来た目的を思い出して幾分か冷静になる。
「蒼星石、これ」
ジュンが差し出した手には、みんなと同じ小銭入れがあった。
「これを僕に?」
「どうせバカ姉がおまえにも小遣いをやるだろうから。それだけだからな」
押し付けるように渡したジュンは、すぐに背を向けて廊下に出た。
「よかったね。蒼星石もヒナと同じお財布なのっ」
「あっ、ジュン君――」
嬉しさのあまり夢見心地だった蒼星石は、雛苺の声ではっとなってジュンの後を追う。
そして、階段で追いついた彼女は、急いでお礼の言葉を送る。
「ジュン君、ありがとう。大切にするよ」
ジュンは一瞬足を踏み止めるだけで、振り返りもしないで二階に向かった。
それでも、彼女には解っていた。感謝の気持ちが、彼にしっかりと届いたことを。
蒼星石はもう一度小銭入れをよく見た後、両手で包むようにして小さな胸に押し当てた。
つづく
166 :
ケットシー:2006/03/31(金) 18:31:55 ID:JpUxYEDC
次で終わる予定
長々とスマソ
GJです。
ほのぼのしました。
>>165 > 「なっ!? チビ人間っ、誰もおまえなんぞの作った財布なんて大事にしてないですよ! 無くして泣いたりしないですよ!」
これはいいツンデレですね
あっちの前スレ561のおまけです。ま、あれこれ悩んでも切りがないので投下します。
ほどなく、3つのコーヒーカップは空になった。
「ふぅ、ごちそうさまでした、ですぅ♪」
「美味しかったの〜♪」
「……紅茶党の私が、このようなものを気に入るなんて……」
満足そうに元気良く言葉を発した翠星石と雛苺とは対照的に、真紅は複雑な表情でぶつ
ぶつと呟いた。翠星石が怪訝そうに真紅の顔を窺った。
「どうしたですか、真紅?」
「美味しくなかったの?」
「……不味くはなかったのだわ」
翠星石と雛苺の問いかけに、真紅はほんの少しムッとしながら答えた。
「なるほど。つまり、美味しかったという事ですね?」
「……紅茶よりは数段劣るのだわ」
「『ジュンの淹れた』が抜けてるですよ?」
やや意地悪な翠星石のツッコミを、真紅は聞こえないふりをして無視した。翠星石が、
ふと何かを思い出したような顔をした。
「そういえば、真紅はコーヒーを飲まないですねぇ……?」
「泥水みたいな、ただ苦いだけの液体を、好んで飲む気は起こらなくてよ」
「このストロベリーカフェモカみたいな、あまあまのコーヒーなら飲めるということです
か……真紅はお子ちゃまですぅ♪」
「す、翠星せ――きゃあっ!」
からかう翠星石に抗議しようとした真紅だったが、最後まで言い終える代わりに悲鳴を
上げた。
真紅の口の端に付いたミルクの泡を、翠星石が舐め取ったからだ。
突然の出来事に口をパクパクする真紅を見て、翠星石は悪戯っぽく笑った。
「お口に泡をくっつけちゃって……やっぱり、真紅はお子ちゃまです、ウフフッ」
「真紅、お子ちゃまなの〜」
「〜〜〜〜っ!」
真紅は翠星石と雛苺をキッと睨みつけると、顔を真っ赤にしてリビングを飛び出した。
階段を駆け上がり、ジュンの部屋に飛び込むと、リビングでの出来事などお構いなしとい
った風に、眼鏡をかけたままベッドで熟睡するジュンがいた。
その無邪気な寝顔に無性に腹が立った真紅は、足早に彼の元へ歩み寄った。真紅のお下
げに不穏な気配が宿る。
「ジュン! 今すぐ起きなさいっ!」
「……真紅……」
ジュンの頬にツインテール往復ビンタをお見舞いする体勢に入った真紅だったが、突然
のジュンの言葉に、気を殺がれた。それに呼応するように、怒りのはけ口を失ったお下げ
が力なく垂れ下がる。真紅は恐る恐るジュンに囁きかけた。
「ジュン、どうしたの?」
「……すぅ」
「ジュン?」
返事は無い。どうやら寝言だったようだ。
「まったく……眼鏡くらい外しなさい、お行儀の悪い」
真紅は紅葉のように小さな手を、ジュンの眼鏡に差し伸べた。
眼鏡に触れた瞬間、ジュンの意識が真紅に流れ込んできた。
ジュンは、今度は紅茶でストロベリーカフェモカもどきを作るつもりらしい。
「……せめてロシアンティーに、蒸気で泡立てた苺ミルクとホイップクリームを載せるだ
けにして頂戴。チョコレートシロップは要らないわ」
真紅は微笑みながらそう呟くと、そっとジュンの眼鏡を外した。
「ストロベリーカフェモカ、美味しかったわよ……ジュン、ごちそうさま」
静かな寝息をたてるジュンの頬にそっと口づけをし、真紅はそそくさと部屋を後にした。
ドアが閉まる音に、一瞬まぶたをピクッとさせたジュンだったが、目を覚ます事は無か
った。安らかな寝息を立てるジュンを優しく包み込むように、苺の甘い香りが、部屋の中
をいつまでも漂っていた。
過去作いじりはここまで。
>>124 無理があるというか、ハインツの設定が無茶すぎ
終わり方も中途半端だし
あ・・・あれ?日付が・・・
>>172 気にするな。どこでも同じことになっている。
ちと余談。
SS総合の方がだいぶ落ち着いた感じがする。
でもまぁ、あっちで同じ様な構想投下最中だと書き辛い事もあるので
使い分けできて便利便利。
と言う訳で久々に投下です。
それは気持ちの良い初夏の昼下がり。
翠星石は、桜田家の庭に群生しているシロツメクサで花冠を作っていた。
「完成したらチビ人間にあげるです。あの部屋には緑が無くていけねーです。ふふふ」
そんな事を考えながらも、とても静かで穏やかで、あまりの心地好さに
彼女は誘われるままにいつしか縁側で眠りに落ちていった。
まぁ、そこまではごく平和な日常の光景。
日にあたりながら縁側ですやすや眠る翠星石。だがその格好はあまりにも無防備。
更にはそよ風でスカートがめくれてパンツ丸見え状態で眠りこけている。
乙女としては、かなり痛い格好。
そこに雛苺がやって来た。何か探し物をしているらしい。
あられも無い姿で眠る翠星石を見つけた彼女は、
ちょっと声をかける事をためらったものの、彼女の体をゆすって自分の探し物を尋ねる事にした。
「翠星石ぃ〜ひなのうにゅーがないのぉ、一緒に探して欲しいの〜」
「う〜ん…知らないです、そんなの自分で探すです…翠星石は忙しいです…」
「だってだって…」
「あー…もう、チビ苺のうにゅーなら翠星石が食ってやったです…だからあっち行けです」
面倒くさそうに寝ぼけながら答える翠星石。
その言葉にショックを受けた雛苺は、半泣き状態で部屋の中にかけ戻っていった。
「翠星石の、いやしんぼーーーーーっ!!」
やがて戻ってきた雛苺の右手にあるのは油性マジック。
「翠星石なんか、こうしてやるのっ!」
悔し紛れに雛苺は翠星石の顔にドジョウヒゲを書き込んだ。
しかも先をくるくるカールしたヒゲである。
それはまさしくフランス風、例えて言うならピエールとでも形容するのだろうか。
いや、ピエールが誰かは知らないけど。
何も知らない翠星石は、そのまま大股開いて幸せそうに眠っている。
その光景を双眼鏡で覗いていた金糸雀が、チャンス到来とばかりにやって来た。
「うわっ、なんて大胆な格好なのかしら〜、でもこんなチャンス滅多にないかしら、ふっふっふ…」
そう言うと、金糸雀は翠星石の股の間に100円均の象ジョーロを挟み込み、
右手にでんでん太鼓、左手に万国旗を持たせてポーズを付け、
それから近くに落ちていたマジックを見つけると、風に髪が乱れている翠星石のおでこに
「肉」にしようか「米」にしようか「中」にしようかと迷った挙句、やっぱり「肉」と書き込んで、
そそくさとヤラセ写真を撮りだした。
かなりおばかな格好なのだが、当の翠星石はいい気持ちで眠っている。
「うはぁ〜すっごいかしら〜、みっちゃん喜ぶかしら〜」
一通り写真を撮り終ると、金糸雀は喜び勇んで帰っていった。
白い肌着から緑の象さんがにょっきり生えている状態で喜ぶとしたら、みっちゃんもかなりのアレである。
いや、アレが何かは特定しないけど。
蒼星石は全てを見ていた。何て説明したら良いのだろうと悩みながら、とりあえず姉の身なりを整えて、翠星石を起こす事にした。
「翠星石…そろそろおきなよ…」
「う…ん、あぁ…蒼星石」
さわやかな気分で眠りから目覚めた翠星石の心は安らぎに満たされていた。
「あのさ、…聞いて欲しいんだけど…」
「あ、そうだ、花冠…蒼星石はちょっと待ってるです」
「あ、いや、あの…ちょっと…」
こうして翠星石は話も聞かず、ジュンに会うために階段を登っていったのだった。
「チビ人間―!庭の草花で冠を作ってみたですぅ」
季節を感じさせる花冠を被りながら、翠星石はジュンの部屋に入っていった。
ジュンと真紅はしばらく呆然と翠星石の顔を凝視し、やがてハモりながら返事をする。
『…トレビヤ〜ン』
…やはりマジックでドジョウヒゲのイメージはピエールなのか。
いや、ピエールとマジックは関係なくもないんだけど、雛苺がフランス帰りって事で、解る人だけ解ってください。
その返事を言葉通り受けとめた翠星石は、顔をほころばせながら嬉しそうにはしゃいでいる。
「そんな…おだてたって何もでねーですよ、でもこれはジュンにあげるです」
もともとその為に作ったものだ。
「……」
珍しく素直に嬉しさを表現している翠星石を、ジュンは何か言いたそうな顔をして見つめている。
その視線に気付いて、少し照れながらうつむいて小さな声でささやくのだった。
「…チビ人間、そんなに見つめるなーですぅ…」
二の句が続かないジュンを、真紅が傍から肘で突っつく。
我に返ったジュンは、翠星石の頭をなでながら労わりの言葉をかける。
「…もし、何か困った事とか悩みがあれば、いつでも相談に乗るからな」
思いがけない優しい言葉に、つい赤面する翠星石。
「じゃ、チビ人間は勉強がんばるです、翠星石は応援してるです」
そう言い残して、嬉しいような恥ずかしいようなそんな心を悟られないように、翠星石はジュンの部屋を後にする。
翠星石が去った後、ジュンは真紅に問うのだった。
「あいつ…何か悲しい事でもあったのか?」
「さぁ…知らないわ」
翠星石、嗚呼…哀れ。
階下で蒼星背石が待っていた。
「蒼星石―!ジュンが翠星石の花冠をトレビヤンって言ったですぅ!しゃーねーから花冠はくれてやったですぅ!」
うきうきはしゃぐ姉に、蒼星石はもう何も言えなかった。
「あのさ…鏡持ってきたから…」
「へっへーん、鏡を見せて何をしようって言うです?この妹は…」
そう言って上機嫌で鏡を覗き込む翠星石。 そして笑顔で固まった。
「………うふ…ふふ・・ふ」
「あの…だいじょうぶ?」
「…うふ、くふ、ふふふふふふ…!!!」
状況を理解した翠星石は、不気味に笑い続けたと言う。
その時の姉は野獣の様だった、と蒼星石は述懐している。
そしてその後、翠星石は泣きながら1日中家の中で暴れたという…。
因みに、翠星石の知らない間に撮られた写真は、みっちゃんのお気に入りとして、
彼女の部屋に四つ切サイズで飾られているらしい。
おしまい
ワロタwww
翠星石テラカワイソスwww
ワロタwwwwww
かなりのアレ→かなりアレ にしてほしかった
うーん確かに。
前レスでピエールと形容?してるから
「の」を入れてアレを名詞扱いにするより
入れないほうが韻を踏んでるかも。
全く同じ感想なので引用
翠星石テラカワイソスwww
184 :
ケットシー:2006/03/32(土) 18:41:32 ID:umAZEE6D
>>165 ある夜、ジュンは静かな自室でネットを楽しんでいた。
人形の夜は早い。彼女達は午後九時前には、ベッド代わりの鞄で眠りに就く。
彼女達がそれぞれの愛用の鞄に入ってからが、ジュンにとっては貴重な落ち着ける時間なのだ。
そのジュン以外に起きているはずの無い時間、背後からゴソゴソと物音が聞こえてきた。
邪魔されたような気分になったジュンは、気にせず無視することにする。
彼女達の誰かが起きたのは確かなようだ。わずかな足音がそろそろと椅子に近づいてくる。
そして、足音はジュンの真後ろで止まる。
時間にして何分は無視し続けただろうか。
後ろの彼女は黙ったまま動かない。彼女は起きてから、一言も声を出していない。
これには、ジュンも少し気味が悪くなってきた。次第に落ち着きがなくなり、意地を張るのも辛くなってくる。
とうとう、彼は我慢できずに後ろを振り向く。
185 :
ケットシー:2006/03/32(土) 18:42:24 ID:umAZEE6D
「……翠星石か」
天井の蛍光灯は消してある。
勉強机の灯りに浮かび上がったのは、彼女の白い肌と特徴的な翡翠色の左目だった。
雰囲気のある登場の仕方に、ジュンはゾクリと寒気を覚える。
それは恐怖からなのか、はたまた幻想的な美しさからなのか、当の本人には判別できなかった。
正体が分かって安心したのも束の間、今度は脅かされた事に少しばかり腹が立ってきた。
「脅かすなよ、性悪人形。寝る前に本は読んでやっただろ。さっさと寝ろよ」
やや口悪く追い払おうとするジュン。
しかし、彼女は少しも怒らない。あの怒りっぽい彼女がだ。それどころか、潤んだ瞳を彼に返す。
さすがに異常を感じたジュンは、視線に怯みながらも彼女を心配する。
「ちょっと、どうしたんだ? 何かあったのか?」
「あの……あ……」
優しい声を掛けられた彼女は、ようやく声を出して何かを伝えようとする。
だが、それもうまく言葉にならない。息が詰まったように口だけ動く。
声を出すのを諦めた彼女は、トコトコと俯きながらジュンに向かって歩き出す。
ジュンの横まで辿り着いた翠星石は、手に持っていた何かを彼の膝上に叩き付ける。
そして、こう叫ぶ。
「プレゼントですぅ!!」
彼女は一目散に逃げ出し、寝床の鞄に飛び込んだ。
全ての鞄は固く閉じられ、再び静かな夜が訪れる。
ジュンはただただ、驚きで鞄の一つを眺めるだけだった。
186 :
ケットシー:2006/03/32(土) 18:43:26 ID:umAZEE6D
翌日のジュンと翠星石の関係は、とてもぎこちないものになっていた。
二人は顔を合わせるたびに目線を外し合い、揃って口篭る。夕食を食べ終わっても、今日は口喧嘩の一つもしてない。
のりと雛苺は、喧嘩をしたのではと二人を心配した。だが、真紅にそういう素振りは見えなかった。彼女は事情が解っているらしかった。
夕食後、ジュンは部屋で考え事をしていた。
机に置いてあるのは昨晩、翠星石から貰ったプレゼント。それは、この部屋にもたくさん飾ってあるミニカーだった。
車種はトヨタ2000GT。言わずと知れた名車である。このミニカーの値段をネットで調べたら、千円そこそこだった。
別に高価な代物ではないのだが、彼女達のお小遣いを思うと、そうも言ってられない。一日たったの五十円なのだから、十日貯めても五百円にしかならない。
夜中にこっそりと渡しに来たのだから、彼女のお小遣いで買った物と考えるのが妥当だろう。
そこまで思い至ったジュンは、さらに込み入った可能性まで推測してしまう。
お小遣いが欲しいと言い出したのは翠星石だ。もしかしたら彼女は、最初からこのためにお金が欲しいと言い出したのかもしれない。
そう思うと、彼女に悪いことをした気がしてならない。
どんな顔をして会えばいいのか分からなくなるのも仕方がなかった。
187 :
ケットシー:2006/03/32(土) 18:44:24 ID:umAZEE6D
「おやすみなの〜」
「おやすみなさい、ジュン」
夜の九時が近くなり、人形達は各々の鞄に帰っていく。
翠星石だけは鞄の前に立ち、物言いたげに部屋のあちこちを見る。
ジュンも今日中に何かを言わなければならないと思い、彼女の周りに視線を彷徨わせる。
「おやすみです……」
翠星石が寂しそうに鞄を開ける。
最後の最後になって、ようやく声を掛ける勇気がジュンに湧いた。
「ま……待てよっ。寝る前の読書がまだだろ」
翠星石がジュンに振り向く。その顔が、みるみる明るくなる。
「そうですっ。本を読んでもらってないですぅ」
鞄を閉じ、本を読んでもらうためにベッドの上に駆け上がる。
「早くするです!」
「はいはい」
急かされたジュンにも自然と笑みが浮かぶ。
息苦しい空気はすでに吹き払われていた。
翠星石の胸は高鳴りっぱなしだった。
ベッドに腰を下ろしたジュンが本を朗読し、翠星石はその膝の上で耳を傾ける。
しかし、彼女はただ本の内容に耳を傾けるだけではない。あーだこーだとはやし立てては、疑問に思ったらすぐ質問する。
今夜の彼女は、いつにも増して口数が多い。はしゃいでいるのか、はたまた、心の内を悟らせないためなのか。どちらにせよ、彼女は胸躍る楽しい一時を過ごしている事に違いはない。
「プレゼント、ありがとな……」
本を読んでいる最中、ジュンが唐突に言った。
騒がしかった翠星石も黙り、急に部屋が静寂に包まれる。
変な雰囲気になる前に、ジュンが慌てて言い訳のように続ける。
「その、まだお礼言ってなかったから。言わなきゃと思って……」
しどろもどろになる彼を見て、翠星石にも余裕が出てくる。
「べ、べつに礼なんかどーでもいいですぅ」
「でも、一応な、ありがとう」
二人とも慣れない事で顔が真っ赤になる。
本を見ているおかげで、お互いの顔を見なくて済むのが、せめてもの救いだった。
再び沈黙が広がるが、今度のは少しも不快ではない。とても暖かい気持ちになれた。
188 :
ケットシー:2006/03/32(土) 18:45:10 ID:umAZEE6D
「感謝してるなら、お礼に私のお願いを聞いてほしいです」
調子に乗った翠星石が、こんな事を言い出した。
「お礼はどうでもいいんじゃなかったのか?」
「さっきのは取り消し。いーから聞けよですぅ」
「勝手なヤツ……。で、なんだよ」
何をお願いされるのか分かったものではないので、ジュンはわずかに嫌な顔をする。それでも、普段の彼からは考えられないような優しい対応だ。
翠星石はぐっと恥ずかしさと不安を抑えてお願いする。
「これからもずっと、翠星石に本を読んで欲しいですぅ」
思っていたよりも普通の願いだと思ったジュンは小さく笑う。
「そんなの今と変わらないじゃないか」
そのジュンの様子が気に入らなかった翠星石は頬を膨らませる。
「ずっとなのですよ、ずっと! ここが大事なのですぅ!」
繰り返し「ずっと」を強調する翠星石。それほどまでに、この願いには彼女の想いが詰まっていた。
「いつでも読んでやるよ」
「今の言葉、忘れるなです。約束したですよ!」
そう言い残し、彼女はのしのしという足取りで鞄に帰っていった。
最後は喧嘩みたいになってしまったが、鞄の中で翠星石は微笑みながら目を閉じる。
この夜、翠星石は顔がにやけて、なかなか寝付けなかった。
おわり
189 :
ケットシー:2006/03/32(土) 18:46:30 ID:umAZEE6D
ピエールカワイソスな翠星石を救済w
ミニカーの車種に深い意味はないっすw
アニメのジュンの部屋には古い自動車の模型が多く置いてあるんだけど、あまり車に詳しくないんだよねぇ。
そこで唐突に思い出したのがトヨタの古いスポーツカー。
小学校の社会見学でトヨタの自動車工場に行った時、トヨタから土産としてプラモデルが生徒全員に配られたんだ。
それが2000GTだったってだけですw(遠い思い出
ピエールって聞くと某ゲームの殺し屋思い出す
俺はスライムナイトを思い出す。
>>184-188 幸せっぷりに読んでる方も顔がニヤけちまったぜチクショー
ま、まさかこんな落ちが待っていようとは・・・
けど翠派には、とてもいいSSでしたw
GJ!次回作期待していますー
翠星石……(⊃Д`)
ジュンが羨ましく、そして微笑ましいですなぁ。
幸せな気分で眠れそうです。
>>190 漏れはドラクエ5小説のピエールですね。
ケットシー氏の作品と大戦もの翠星石編は俺的に良かった
こっちのスレあっちと違って少し活気がないような
気のせい?
もっと職人褒めなきゃ、あっちと違ってここはそういうスレなんだから。
投下の流れの早い遅いも、他スレとの比較も、余り過敏になる必要はない。
関連の他スレに活気があるのはいい事、荒れれば必ずここに波及する。
既にここは充分な作品投下があって、いい書き手と住人がいい流れを作ってる。
俺も今書いてるSSは、完成し次第ここに投下するって決めてる。
本当はつまんねーとか思ってても無理矢理褒めたりしてってことはないよな
>199
頭悪いな、
両スレ活気があってよろしい
向こう側もかなり元通りになってるし。
>>200 いや、多少なりアンチとかいたりするでしょ。
皮肉る意味でそうやっている人もいるのではないかと。
頭悪いとか中傷的な発言をするのも禁止だというのに
>>199 >SSを投下してくれる職人は神様です。文句があってもぐっとこらえ、笑顔でスルーしましょう
頭の悪い子ね
これを踏まえての社交辞令が、偽りの民主主義では必要なのよ?
荒らしにマジレスも春か
翠星石がジュンと遊んでばかりなので、
蒼星石が寂しく荒らしている光景を想像してしまった……。
>>206 それでSS書けるかもナ・・・
しかし暗い蒼は見たくないと思うのは漏れだけだろうか?
先生、狂気な蒼星石のSSが読みたいです。
口から糞たれる前にGJと言え
ここはそういうスレだ
雛苺から失敬したうにゅーの隠し所に困った翠星石は
家の玄関に置いてあった蒼星石のカバンの中に、とりあえずうにゅーを忍ばせておいた。
「ここならちび苺なんかに見つかりっこないですぅ〜」
1時間後、蒼星石が帰ろうとしてカバンを開けたのだが
目の中に飛び込んできたのは、もぞもぞと動く恐怖の黒い山。
そこは、こんもりと出来ていた蟻の黒集りで大変な状態に。
そして悲鳴が響き渡る。
「ギャーーー!ウワァーーー!!ウヲォーーー!!!」
そして夜がやってきた。
蟻に体を這いずりまわれる錯覚がよぎり、綺麗に掃除したカバンに入る事が出来ず、
蒼星石は翠星石のカバンで一緒に寝るのでした。
「フフフ…蒼星石はあまえんぼさんでしゃーねぇです」
いや、オマエが一番の原因だろうが!
…ていう甘甘狂気な蒼星石SSじゃダメ?
もう全然OK
いいんじゃないですか〜www
うはwwwww翠星石反省汁!!
そこが可愛いともいえますが。
GJ!
次回作期待
wktkです
216 :
熊のブーさん:2006/04/03(月) 02:25:30 ID:DGSpQ49x
作ってみたので投下
日曜日の昼下がり、桜田邸は今日も騒がしかった。
「ジュン〜、ヒナと遊んで欲しいの〜」
「うるさいですぅチビ苺! ジュンは翠星石と遊ぶのですぅ」
「いいかげんにしろよな、おまえら・・・」
ここ最近、これといった事件も無く平和そのもの。しいてあげれば、庭の茂みが毎日のようにガサガサと動いているぐらいであろう。
「・・・ジュン君、うちの茂み、何かいるのかしら・・・」
「知るかよ、そんなこと」
2体の人形にじゃれつかれて、ジュンは機嫌が悪かった。
のりも別に深く考えようとはしていない。猫か何かだろうと思っていた。
「ジュン。お茶の時間よ」
「へいへい」
この毎日繰り返される光景も、少しずつ違っているものだ。
しかし、ずっと同じことをしている存在が一つ。そいつは今日も本を読んでいた。
蒼星石である。
(ジュンとお話したいけれど・・・)
蒼星石だって姉や雛苺と一緒にジュンにじゃれ付きたかった。騒ぎたかった。
だが、彼女には楽しそうにしている三人(?)に割り込んでいく勇気は無かった。
「はぁ・・・」
ため息を合図に、本を閉じた。
平和な毎日。変わらない日常。良いことだと分かってはいるのに蒼星石はそこはかとない疎外感に苦しんでいた。
気分を変えるために部屋を出て、ジュンの部屋に行くことにした。
部屋の面々は蒼星石が部屋を出たことに気付かない。
217 :
熊のブーさん:2006/04/03(月) 02:26:55 ID:DGSpQ49x
ジュンの部屋に来た蒼星石は何をするわけでもなく本を片手にぼぅっとしていた。
「暇だなぁ」
辺りを見回してみる。
ふと目に付いたのはジュンのノートパソコン。電源は付けっ放しだった。
「・・・ちょっとぐらいならいいよね」
蒼星石はパソコンの扱い方について一通りの知識は持っていた。
インターネットに接続し、お気に入りを見る。
適当にクリックしてみた。ジャンプした先は
「えーと、《Vチャンネル》?」
「蒼星石ーどこにいるのですぅー?お茶にするから出てきやがれですぅー」
「ああ、行かなくちゃ」
蒼星石は下に降りていった。
「ん、なんだこれ?」
お茶を飲み終り、部屋に戻ってきたジュンは自分のノートパソコンの画面を見た。
「“くんくんについて語るスレ”? こんなとこにつないでたかな?」
218 :
熊のブーさん:2006/04/03(月) 02:27:53 ID:DGSpQ49x
水曜日、その日は朝から雨だった。
ジュンは図書館に入り浸り、のりは学校に行っている。今日の桜田邸は比較的静かだった。
人形達はテレビを見ている。しかしその中には蒼星石の姿は無かった。
蒼星石はジュンの部屋でパソコンをいじっていた。《Vチャンネル》をやっていたのである。スレはもちろん“くんくんについて語るスレ”だ。
書き込まれたスレを見つつ、ときおり書き込みながら蒼星石は呟いた。
「面白いなぁ」
すっかりはまっていた。
―――次のくんくんはどうなるんだろうね?―――
―――お隣さんちで事件が起こるんだよw―――
―――たいしたことじゃないさ、きっと―――
―――かずきィーーー!!―――
「あはは・・・あは・・あははははは」
そんな蒼星石をドアの隙間から翠星石が覗いていた。
「これは引きこもりの予兆なのかですぅ・・・」
雨はまだやみそうに無い。
219 :
熊のブーさん:2006/04/03(月) 02:29:09 ID:DGSpQ49x
次の日も雨だった。
昨日より幾分雨脚が強くなっているため、ジュンは家にいた。一階で雛苺と遊んでいる。
ジュンは昔のようにずっと部屋に引きこもることは少なくなった。
本人曰く「遊んでくれって雛苺や翠星石がうるさいから仕方なくやってんだ」と主張しているが
「最近ジュン君よく笑うようになったわねぇ」と、のりの一言が全てを物語る。
だが、一方でみんなの前で笑わなくなっていた者もいた。
今日もパソコンに向かっている蒼星石である。
まったく笑わないわけではないが、
「うふふ・・・あはははは・・・・あははァ!」
とてもじゃないが健全な笑い方とは言えなかった。
「さて、今日はどんな書き込みがあるかな〜」
慣れた手つきでマウスを動かす。目的地は《Vチャンネル》だ。すぐに到着。
しばらくして、マウスを動かす手が止まった。
―――人形って儚いよね―――
3日で新スレになる“くんくんについて語るスレ”は今日も賑わっていた。
そこでは「名探偵くんくん」の突然の放送中止の話題でもちきりだった。
真紅が怒っていたから蒼星石の記憶にも新しい。
―――なんで放送中止〜!?―――
―――またやるだろ。充電中さ―――
―――出来はよかったのに―――
―――いくらよく出来ててもなぁorz―――
―――所詮は人形劇ってことか・・・―――
―――このまま皆から忘れ去られたりして―――
蒼星石はそこで見るのをやめてしまった。
どうしても「人形」である自分と重ね合わせてしまい、見ていられなくなったのだ。
「そんな・・・嫌だ・・・僕は・・・僕は・・・あぁあああァ!!」
頭を抱えて錯乱すること10分。
「蒼星石〜・・・どうしたですか!?顔色真っ青ですぅ!」
「あ・・・あぁ、なんでもないよ翠星石。ちょっと眩暈がしただけだから・・・」
「さっき聞こえた奇声といい、本当に大丈夫かですぅ?」
「大丈夫、大丈夫・・・」
蒼星石はまるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。
その時、蒼星石の脳裏にある考えが浮かんだ。
(アリスになりさえすれば・・・お父様からも愛してもらえる・・・
アリスになりさえすれば・・・ジュンと・・・)
蒼星石の目に一瞬、狂気の光が宿った。
しかし、翠星石はそんなことには気付かない。
「下に行って、ソファで休むですぅ」
「・・・・・・そうするよ」
雨はまだ降り続く。いつまでも、いつまでも。
蒼星石が「アリスを目指す宣言」をする七日前のことだった。
おわり
>219 熊のブーさん
そんな理由でw
笑いました。ナイスです
こんな理由でアリスゲームが始まったのかぁあああ!!
恐ろしい、恐ろしい真実だ……!!
>219
壊れる蒼星石に吹いてしまった
GJ
物語はリアルタイムで進行する
これは、午後7時から8時の間に起きた出来事である・・・
やべ、書いてて飽きた
はや!
>「うるさいですぅチビ苺! ジュンは翠星石と遊ぶのですぅ」
ここに心をグッと掴まれました・・・翠派の必然ですね
蒼の壊れて行く裏事情
よかったですー
やい、お前達、一体ローゼン・メイデンをなんだと思ってたんだ?
仏様とでも思ってたか ああ?
笑わしちゃいけねえや。ローゼンメイデンぐらい悪ずれした生き物はねんだぜ。
オッパイ出せって言や、無え。マソコ出せって言や、無え。何もかも無えって言うんだ。
ふん、ところがあるんだ。何だってあるんだ。
ドレスひっぺがして掘ってみな。そこに無かったらドロワースの奥だ。
出てくる、出てくる、球体関節とょぅι゛ょ の体だあ。
ケツの割れ目の間へ行ってみろ。そこには隠し穴だあ。
正直面して、ペコペコ頭下げて嘘をつく。なんでもごまかす。
どっかにアリスゲームでもありゃ、すぐ人工精霊使ってローザミスティカ狩りだい。
よく聞きな。ローゼンメイデンってのはな、けちんぼで、ずるくて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだあ。
ちくしょう。おかしくって涙が出らあ。
だがな、こんなケダモノ作りやがったのは一体誰だ?
おめえ達だよ。人間だってんだよ。
ばかやろう。ちくしょう。
ネジ巻かれるたびに犯される、虐待される、人間化される、フタナリ化に淫乱化、手向かえばカバンに封印
一体ローゼンメイデンはどうすりゃいいんだ。ローゼンメイデンはどうすりゃいいんだよ。くそー。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう
真紅=ジャック
翠星石=トニー
蒼星石=ミッシェル
水銀燈=ニーナ
似合ってね?
>>228 似合ってるといえば、やっぱり
蒼星石=死神の蒼
翠星石=射的屋の翠
真 紅=トドメの真紅
水銀燈=月見の銀
で、ケルベロスものがたりですかねぇ…あー、解る人だけ判ってください。
>227
七人の薔薇乙女
真紅が志村喬、水銀燈が三船かw
233 :
sage:2006/04/04(火) 21:03:38 ID:G+eh/sBs
保守
235 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/04(火) 22:47:43 ID:yDaL3NUJ
sage
フィルコリンズとかけてhage
238 :
ケットシー:2006/04/05(水) 20:10:05 ID:Xz9OOSZ4
あべこべろーぜんめいでん
本棚に囲まれた自室で、真紅は黙々と分厚い本を読み耽っている。
本棚に並ぶ書籍のジャンルは多岐に渡り、恋愛小説から、果ては医学書のような専門書まで見える。文字も日本語だけではなく、英語やらドイツ語やらが見える。彼女は本を読む事が余程好きなようだ。
彼女は現役の女子中学生なのだが、学校も行かずに朝から晩までこの部屋で本を読む毎日を過ごしていた。いわゆる、不登校児の引き篭もりである。
当然、家族や学校の先生から登校を勧められるのだが、その度に彼女はこう言い返す。
「学校ってつまらないんですもの。家で本を読んでいた方が有意義なのだわ。学業のことならご心配なく。学校の教科書なら、全て暗記できますので」
だそうである。
実際、彼女の学力は半端ではなく、知識だけなら、すでに大学生レベルを超えていた。一度、学校の担任が期末テストの用紙を持ってきて真紅にやらせたのだが、全教科が満点かそれに近い点数で学年トップの成績を叩き出した。
なので、家族も教師も真紅には強く出れず、彼女は悠々自適な読書ライフを満喫していた。
239 :
ケットシー:2006/04/05(水) 20:11:00 ID:Xz9OOSZ4
今日も真紅は相も変わらず読書に勤しんでいた。窓辺で椅子に座り、紅茶の入ったポットとカップを手の届くテーブルに用意するのが、彼女の決まった読書スタイルだ。
今、彼女が読んでいるのは、ドイツ語で書かれた古い本。タイトルは「RozenMaiden」とある。
何ページ目かをめくった時、本に挟まっていた何かが彼女の膝の上に落ちた。
「しおりかしら……」
真紅は手に取ってそれを確かめる。それは薔薇の刻印で封をされた手紙だった。
封筒は表も裏も真っ白で、宛名も何も書かれていない。
未開封で宛先不明の手紙があったら確かめてみたくなるのが人の性。真紅は盗み見は悪いと思いながらも、ペーパーナイフを取りに行こうと腰を上げた。
真紅は若干わくわくしながら、封筒の端にナイフを入れる。何が出てくるか分からないので、ちょっとした冒険気分だ。
手紙を取り出して広げた真紅は、一目で興醒めした。
手紙の出だしはこうだ。
おめでとうございます。真紅様!!
これは詐欺行為の常套文句だ。腹が立った真紅は、衝動的に手紙を破り捨てる所だった。
しかし、彼女は思いとどまった。おかしな点に気が付いたのだ。
そう、封筒は真っ白だったのだ。この郵便物は、どうやって真紅の所まで郵送されたのか。何故、古い本の間から見つかったのか。不審な点は尽きない。
「きっと、誰かのいたずらね」
身内の者の悪戯と結論付けた彼女は、手紙に一通り目を通すことにした。どこかに犯人の手掛かりがあるかもしれない。
「まきますか、まきませんか……人工精霊ホーリエが異次元より回収に参ります」
読み終えた真紅はペンを取り、手紙の「まきますか」という文字を丸で囲む。そして、手紙を本に挟み、元あった本棚に戻した。彼女は「人工精霊ホーリエ」と名乗る犯人を捕まえる気なのだ。
これが、これから起こる騒動の始まりになるとは、彼女は思いもしなかった。
240 :
ケットシー:2006/04/05(水) 20:12:18 ID:Xz9OOSZ4
真紅は窓辺で読書をしながら、テーブルのティーカップに手を伸ばす。
その時、彼女の視界の隅に見慣れない物が入った。
「何かしら……。あんな物を置いた覚えはないし、誰もこの部屋には来てないと思うし……」
いつの間に置かれたのか、床の上には見慣れない鞄があった。
不審な手紙の事もあり、真紅は人の出入りに気を回していたつもりだった。
それでも、そこに覚えのない鞄が置いてあるのだから、誰かが部屋に来たのだろう。
二度目の悪戯にやや気分を害した真紅は、パタンと音を立てて本を閉じた。
鞄を開けた真紅は、中に入っていた物を見て驚いた。
「人形? それにしても大きいわね……」
それは、まるで眠っているようだった。
黒髪に黒縁メガネに黒い学生服を来た男の子が、鞄の中で丸くなっていた。身長は五十センチはある。
その人形は細部まで異常なほど作り込まれ、今にも目を覚ましそうだ。
真紅は恐々と人形へと手を伸ばす。本当に動き出したら堪らない。真紅の指が人形の頬に触れた。
「柔らかい……」
人の肌と変わらない感触が指先に伝わる。その感触が気持ちよくて、何度も指先で突付く。
段々、怖くなくなってきた真紅は、人形を鞄から出して抱き上げた。
「本当によくできてるわね」
真紅はまじまじと人形を観察しながら、その作りの良さに唸る。見れば見るほど、人間と区別がつかない。
空っぽになった鞄を見た真紅は、ネジ巻きを見つけた。
「これがあるということは、ネジを巻く穴があるはずだわ」
彼女はそう言って、ネジ穴を探す。
しかし、なかなか見つからない。仕舞いには、両足を持って逆さまにしたが、やっぱり見つからない。
こうなったら、最後の手段をとるしかない。
241 :
ケットシー:2006/04/05(水) 20:13:30 ID:Xz9OOSZ4
「人形だし、いいわよね」
真紅は誰にでもなく言い訳をしてから、学生服のボタンを摘む。その顔は、少し赤くなっていた。
学生服の下にはシャツまで着させられていた。本当にいい仕事をされた人形だ。
真紅は荒くなりそうな息を抑えながら、シャツの小さなボタンを外す。
上半身を裸にして、ようやくネジ穴の場所が判明した。ネジ穴は背中の腰に近い所にあった。
早速、真紅はネジ巻きを穴に挿し込み、巻き上げる。
すると、人形の全身が震えるように動き出した。
「な、何っ……!?」
気味の悪い動きに、真紅は思わず人形を手放した。
床に崩れ落ちた人形は、重力を無視した動きで浮き上がるように自立する。
そして、人形が目を開いた。
「お前がネジを巻いたのか――って、裸ッ?!」
しゃべり始めた奇妙な人形は、服が脱がされていることに気付いて青ざめた。そして、体を隠すように自分を抱き締めて真紅を睨み付ける。
「寝ている僕を襲ったな! この変質者! ケダモノ! アバズレ! 男の敵!」
思いつく限りの罵声を浴びせる人形の男の子。
動いたばかりでなく会話までこなす人形に驚いていた真紅だが、延々と止まない罵声だけはしっかりと聞こえていた。彼女の額に血管が浮かぶ。
「――レイプ魔! 人形フェチ! バカ! アホ! えーと……おたんこなす!」
「黙りなさい!!」
「へぶしっ!!」
真紅の鉄拳が顔面に炸裂し、吹っ飛んだ男の子は本棚に激突して沈黙した。その上から大量の本が衝撃で崩れ落ち、男の子は見事に埋まってしまった。
242 :
ケットシー:2006/04/05(水) 20:14:35 ID:Xz9OOSZ4
「まったく、こんなに酷く言われたのは生まれて初めてだわ」
真紅は助けようともしないで本の山を一瞥する。彼女の中では、失礼な人形よりも本が傷まなかったのかが心配だった。
誰も助けてくれないので、男の子は自力で本の山から這い出る。頑丈な人形である。
「暴力まで振るうなんて……。こんな酷い人間は初めてだ」
真紅はまだ減らず口を叩く人形の前にズンと立ち、迫力のある目で見下ろす。
「貴方が悪いのよ。人を一方的に悪者にして。私はネジ穴を探しただけよ。勘違いもいい加減にしてほしいわ」
真紅の言い訳を聞いた男の子は、黙り込んでしまった。冷静になって考えれば、勝手に決め付けてしまった自分が悪いと思ったからだ。
真紅は脱がした服を拾い、男の子の前に放った。
「服を着なさい」
男の子は黙ったまま学生服の袖に腕を通す。
「手を上げたのは謝るわ。ごめんなさい」
真紅がぶっきらぼうに殴った事を詫びた。人形相手に謝るなんて馬鹿みたいだが、彼女はこの男の子が可哀想に思えたのだ。
「僕の方こそ、ごめん」
服を着終えた男の子も、顔を上げないでぶっきらぼうに謝る。
二人の心が初めて繋がった瞬間だった。
つづくと思う
243 :
ケットシー:2006/04/05(水) 20:15:52 ID:Xz9OOSZ4
あはは、かなり無茶苦茶やってますな。
思いつきだけで書いちゃったので、当然終わりは見えてません。
適当に流し読みでもしちゃってくださいw
素直に面白い。是非続けて頂きたく思います。
>>243 面白かった・・・ってこのネタが今までなかったのが不思議だ
なんかワロタよ
GJ
でもこのまま行くと蒼星石(人間)のドールはじじぃか…
うわぁ。。。
引きこもりドールに痴呆ドール、コスプレドールに自壊ドールが揃うんですね?
…単純に剣道ドールが最強ダガナ(´・ω・`)
ケンドール(剣ドール)か
250 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/06(木) 03:44:06 ID:JakRcthF
>>243 >>245のいうとうり、なんで今までこのネタが無かったのかが不思議だ。
今まで色々なローゼンの小説を読んできたが、性転換、逆行、クロス、立場の入れ替えなんかはほぼなかった。
上に挙げたネタでなんか書けないかな。
まあ、逆行は原作がまだ完結してないから無理っぽいんだろうけど・・・
>>243 乙です。
いつかやろうと思っていたネタでしたが、俺が書くよりケットシー氏が書かれた方が良いので単純に嬉しいですw
>>250 上で挙げられた全てのジャンルは長編でこそ面白味を増す設定であるから、
このスレに投稿されるほぼ全てのssがショートショート以下の長さであることを考えれば
今までそれらのジャンルが出なかったのはある意味必然かもしれんね。
>>243 これは女性受けしそうな作品ですねw
乙ですー
こういうSS書いてる人って文系大学で国語でも専攻してんのか?
>>253 それはいくらなんでも現代文学を専攻している世の大学生に失礼だと思うが。
それが何か?
>>253 気持ちさえあれば意外と書けますよ。
表現は文庫から学べますしw
258 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:14:56 ID:gIQASey8
私も見よう見まねで書いてます。
だから、それなりの文しか書けないんですがw
国語の勉強はあまり真剣にやってなかったです。
SS書いてる今では、真面目にやっておくべきだったと反省してたり。
なので、根気さえあれば誰でもそれなりのSSは書けますよ。
文章を書くには慣れも重要かなと思う、勉強嫌いな私です。
>>251 ネタは早い者勝ちということで、恨みっこなしでw
では、投下いきます
259 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:16:16 ID:gIQASey8
>>242 「僕はローゼンメイデン第五ドール桜田ジュン」
「私は真紅。それ以上は何も聞かないで」
騒々しい出会いが一段落した所で自己紹介を始める二人。
人形の自己紹介を聞いても、真紅はそれほど混乱しなかった。彼女はローゼンメイデンに関する書籍を読んでいてジュンと出会ったのだ。わずかでも予備知識があった分、冷静に対応できた。
真紅の自己紹介については、深く考えないでおいてほしい。真紅は真紅。それでいいではありませんか。
自己紹介が終わった所で、ジュンは大切な交渉を持ち掛ける。これを成すために真紅が選ばれたのだ。
「ローゼンメイデンはアリスゲームで争っているんだけど、それにはミーディアムの協力が必要なんだ」
「アリスゲーム? ミーディアム?」
「そう、アリスゲーム。アリスを生み出すための戦い。僕にとっては非情に迷惑な戦いなんだけど、狙われているから戦うしかないんだ」
「それで、ミーディアムは?」
「ミーディアムは、僕達ローゼンメイデンに力を送ってくれる人間を指す言葉。今から真紅がそれになるんだ」
「は? どうして?」
ミーディアムになれと言われ、真紅が見るからに嫌そうな顔をする。戦いに巻き込まれるのだから、それが常識的な反応だろう。
こうまで露骨に嫌な顔をされるとは思っていなかったジュンは、一瞬怯みながらも説得する。
「ホーリエがお前を選んだからだよ。人工精霊は、ドールに見合うミーディアムを選ぶ事ができる」
「それはいいけど、私に見返りはあるのかしら」
「見返り?」
「当然でしょ。得る物も無いのに戦うなんてごめんなのだわ」
交渉はここでストップしてしまう。歳に似合わず、やけに現実主義な真紅の主張に、ジュンは何も言い返せなかった。アリスゲームに報酬など期待できない。
260 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:17:10 ID:gIQASey8
ジュンがこの場は諦めようとした時、二人の頭上から黒い羽が数本落ちてきた。ここは屋内。野鳥の可能性は無い。
「もう来たのか!」
ジュンが張り詰めた表情で周囲を見回して警戒する。
「来たって、何が?」
「敵だよ、敵。他のローゼンメイデンが来たんだよ!」
敵襲と聞いて真紅も表情を硬くする。すでに彼女も逃げられない所まで来ていたのだ。
二人が背中合わせに警戒する中、敵は静かに現れた。
「ジュン、やっと会えた……」
外から入ってきたのか、黒い翼を持った人形が窓ガラスを通り抜けてきた。
その人形は長い黒髪に真っ白な肌で、まるで幽霊のようだった。何故か、その服装はパジャマにカーディガンの姿だった。
「第一ドール柿崎めぐ……!!」
ジュンが黒い翼のドールの名を呼ぶ。彼女は第一ドールの柿崎めぐだった。
ジュンはめぐを見て恐れおののいた。その様子は、蛇に睨まれた蛙さながらだ。
だが、めぐの様子は正反対だった。儚げに微笑むと、両頬に涙の筋を作らせる。
「何十年もあなたを探したわ。今度こそ、あなたを逃がさない……」
めぐは両腕を広げ、浮遊したまま無音でジュンに近寄っていく。
ジュンは逃げたかったのだが、金縛りにあったように体が動かない。
とうとう、めぐはジュンの身体を捕まえ、両腕でひしと抱き締めた。
「ジュン、大好きよ。だから、おとなしくしててね」
そう言った後、めぐはジュンを強引に押し倒した。ジュンは必死にもがいて助けを呼ぶ。
「真紅っ、助け……」
261 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:18:23 ID:gIQASey8
真紅は助けを求められても、何もする気が起きなかった。どこから見ても、ただの惚気だ。
だが、傍観していられるのも最初だけだった。
なんと、めぐがジュンに跨ったままパジャマを脱ぎ始めたのだ。上着を脱ぎ、ズボンに指を差し込んだ時、さすがに真紅も黙っていられなくなった。
「ちょ、ちょっと貴女、何をしてるの!?」
「見て判らないの? 服を脱いでいるの」
「そんなの判ってるわっ。だから、どうして脱ぐ必要があるのかと聞いているのだわ」
「だって、服を着てたらできないでしょ」
「できないって、何が」
「子作り」
真紅の時間がたっぷり十秒は止まった。
人形が子作り? 子作りって、やっぱりアレのこと? ちょっと待って。そもそも人形にできるの?
真紅の思考が同じ疑問で何周もループする。
その間にめぐはズボンを脱ぎ、下着も脱ごうとしていた。
固まっている真紅をどうにか呼び戻そうとジュンが声を掛ける。
「真紅、これがアリスゲームなんだ! だから、早くミーディアムの契約を……!!」
この呼び掛けで真紅は溺れかけていた思考の海から生還した。この部屋で男女の情事をおっぱじめられては堪ったものではない。
「契約はどうすればいいの?」
「この指輪に誓いの口付けを……」
262 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:19:13 ID:gIQASey8
伸ばしたジュンの左手薬指に薔薇の指輪が具現化する。
めぐはジュンのズボンを脱がすことに夢中で、そのやりとりには気付いていない。
真紅の唇が指輪に触れた瞬間、ジュンの身体は自由になった。
「きゃっ」
めぐが突き飛ばされて床に仰向けになる。
真紅の左手にも指輪が具現化し、赤く光って熱を持つ。彼女を通して力が送られている証だ。
「指輪が熱い……」
「ミーディアムの力を使ったからだ。おかげで助かったよ」
ジュンがズボンのベルトを締めながら説明する。そんな姿で感謝されても誠意は半分も伝わらないが……。
あられもない姿で倒れていためぐが、むっくりと上半身を起こす。
「ジュン、どうして拒むの……?」
「こんなの間違ってるよ。だから……」
「私のこと、嫌い?」
「そんなんじゃない。でも、ごめん」
正面から拒絶されためぐは居たたまれなくなって、脱ぎ散らかしたパジャマや下着を急いで掻き集める。
そして、今度は窓ガラスを破って外へと出て行った。その目尻には、光るものが見えた。
263 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:20:37 ID:gIQASey8
「ねえ、アリスゲームって何なの?」
めぐが去った後、真紅がアリスゲームの詳細をジュンに尋ねた。ミーディアムになった以上、知らなかったでは済まされない事が起こるかもしれないし、知る権利もあるはずだ。
「その話は少し長くなるから、紅茶でも飲みながらにしよう。窓ガラスも元に戻さなきゃいけないし」
「当然、ジュンが淹れてくれるわよね? 私は協力してあげる立場なのだから」
「かしこまりました」
ティータイムを提案したジュンに、すかさず真紅が注文を入れる。彼女の露骨だが正しい意見に、ジュンは必要以上に改まってささやかな反撃をした。
早くも真紅に使われるジュンだった。
お茶にする前に、ジュンは風通りがよすぎる窓を直すことにした。
「ホーリエ、頼む」
赤い光の精霊が現れ、窓の前で踊る。
すると、ばらばらになったガラスの破片が、どこからともなく集まってきた。
窓ガラスが時間が巻き戻るように元通りになるのを、真紅は呆然と眺めていた。魔法としか言いようのない奇跡に、驚嘆の声も出なかった。
次は崩れた本棚をてきぱきと整理し、ジュンは電気ポットのお湯で紅茶を淹れにかかった。
264 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:21:52 ID:gIQASey8
「なかなかの腕前ね。もう少し熱い方が好みなのだけど」
「覚えておきます、お姫様」
ジュンが淹れた紅茶を彼女なりに褒め、ジュンは思いっきり皮肉混じりに受け答える。
それでも、真紅はお姫様と呼ばれて悪い気はしなかったようだ。彼女は涼しい顔で紅茶を啜る。
ジュンも紅茶で喉を潤しながら、アリスゲームの話を始めた。
「ローゼンメイデンは全部で七体。その中で男として作られたのは僕だけなんだ」
「どうして貴方だけ男なの?」
「それはアリスゲームのためさ。僕を巡って残りのドールズがしのぎを削る。何のためかは、めぐに聞いただろ?」
「まさか、本当に子作りのために?」
「その「まさか」だよ。僕との間の子が、アリスとして誕生するらしい。お父様も信じられない事をしてくれるよ……」
人形の子供がアリスとして生まれる。そんな馬鹿げた話に真紅は眩暈を起こしそうになった。それにはジュンも同感で、彼も頭を抱えて塞ぎ込んでいた。
話は解っても、当然湧いてくる疑問がある。好奇心に負けた真紅は、恥ずかしげもなくそれを尋ねる。
「貴方、子供が作れるの?」
「僕はローゼンメイデンだぞ。不可能は無い!」
「そうね……」
ジュンの自信たっぷりな返答に、真紅は疲れを感じずにはいられなかった。
つづく
265 :
ケットシー:2006/04/07(金) 20:25:01 ID:gIQASey8
暴走しまくりのケットシーです。
ついでなのでアリスゲームも改変しちゃいました。
血生臭くないローゼンメイデンがあってもいいですよね?
別の方向で生臭いですがw
子作りてwwwwwwなんかほのぼのしてていいですね。
>>265 ちょwww
いろいろツッコミたいが黙って続きをwktk
ちょwwwめぐがズボンかwww
人形とセックスかいな
他のドールが誰なのか気になりますwww
ジュンは薔薇男児だったんだなw
トゥモエとみっちゃんと韓国海苔は確実に出てくるだろうなw
後は大穴で由奈か。
マツ・・・
>>273 ……ジュンに子作りを強要する姿を想像してしまった。
鬱だSNOW
>>273 ・・・え?7人?ふむ
けど主要人物の人間の女って5人しかいないよね?
だから数合わせに翠星石が起用されるのだとしたら・・・
JUMに△×を強要する翠・・・JUMに○□を強要する翠・・・
うわぁぁ、俺の思考がぁぁーードカーンッ
巴の母いるでしょ
そこで最凶メンヘラーオディールさんですよ
コリンヌもな
里芋ドール、加藤さんを忘れてないか?
アナゴは?
では、一本投下します
渋いお茶など煎れてご笑読下さい
歯にしみるような甘口のお話なので
大学病院の一室、心地よい5月の風が病院の薬臭い瘴気まで流し去ってくれるような、そんな穏やかな時間
病室には一人の少女と、一体のドールが居た
不治の病の少女の病室だった、他の姉妹をすべてブッ壊す使命を負った、命宿る人形がそこに居た
その少女の生命を食い物にするために媒介の契約をしたドールは、最近は戦う以外の時間を
少女の病室で過ごす事が多かった、喋るでもなく触れ合うでもない時間、ただ、少女の歌が好きだった
「水銀燈・・・いいこと考えたの♪」
「めぐ・・・アンタのその顔、怖いわよぉ」
窓枠に腰掛けていた水銀燈は体をひねってめぐの顔を見た、めぐの笑顔を見て自分の顔をひん曲げた
めぐの瞳がクリクリと動き、イタズラっぽく光る、めぐは水銀燈と出会うまではこんな顔をしなかった
水銀燈はめぐのその目がキライだった、こういう目をする時、めぐは突拍子も無い事を言い出す
この間こんな目をした時、めぐは真顔で「水銀燈、キスをしましょう」と言い出した
水銀燈はメグのその目が嫌いだった、嫌いすぎて胸の鼓動が不安定になる、キライすぎて目が離せない
キライで・・・キライで・・・目が離せなくて・・・胸がドキドキして・・・動けなかった・・・そして受け入れた
「わたしの・・・お嫁さんになりなさい!」
水銀燈は腰掛けていた窓枠から落っこちそうになった、普段は蒼白な顔を真っ赤にして、めぐに毒づく
「バ・・・バ・・・バカじゃないの?あんたイカレてるわぁ!この私に白いウエディングドレスを
着ろですって?イヤよ!バカじゃないの?何で二人してバカ面並べて、あんたらがありがたがる
『キョーカイ』とか『シンプ』の前で、『生涯愛する事を誓いますか』なんて・・・イヤよ!絶対イヤ!」
水銀燈は絶対イヤだった、めぐはひどいと思った、とても意地悪でイヤな奴だと思った、絶対に無理
ドールの自分に、罪を重ねた自分に、そんなママゴト遊びのような真似なんて、そんな、幸せなんて・・・
「・・・・めぐ・・・・・イヤだからね・・・バカよ・・・めぐはバカよ・・・こんなジャンクのわたしを・・・貰ってくれるなんて
誓うから・・・何でも誓うから・・・幸せにしてくんなきゃ・・・・・イヤだからね・・・・・わたし・・・・う・・・う・・・」
水銀燈の震える背中を見つめるめぐは、もういちど目をクリクリとさせて笑った
その笑顔は・・・水銀燈の心を奪った笑顔
「めぐのプロポーズ作戦、大成功♪」
「・・・・・・・・バカぁ・・・・・ドールとじゃ、女のコ同士じゃ、結婚できないじゃない・・・」
「いいこと考えたの♪」
「めぐゥ・・・アンタのその顔、怖いわよぉ」
めぐはベッドの上で身軽に転がった、1年の保証すらないメグの病は、精神的な変化でほんの少し好転した
それが「容態の急変」で瞬の間に消えてしまう命だとしても、めぐは今を楽しんでいた
ベッドの手すりに引っ掛けていたコード、その端のボタン、あまり使わなかったナースコールを押した
ポーン
スピーカーから声が流れる、水銀燈は嫌いだった、距離を隔てて声が届く現象、摂理に反してると思う
めぐの部屋にそんなものがあると、自分の声とめぐの囁きに割り込む物があると、その・・・ジャマになる
「ハーイ、柿崎さん、どうかしましたか?」
「あ、婦長さん?ちょうどよかった、わたしロンドンに転院しま〜す♪、今すぐ!」
「え?ロンドンって?ちょっと柿崎さ(ブツッ)」
めぐは二人の邪魔をする無粋なコードを引き千切った、水銀燈の不満を一瞬で解決、そしてまた笑った
水銀燈は不安だった、何だかワケのわからない展開、ひどい目に遭う予感じゃない、逆の不安
「ろんどんって、どんなオトギの国よぉ?わたしたちが結婚できるの?」
「ねぇ水銀燈・・・エルトン・ジョンって知ってる?ジョージ・マイケルは?」
「?」
英国が採択した新法案で、同性のパートナーとの事実上の結婚を果たしたアーティストの名を、
水銀燈は知らなかった、めぐは知っていた、病室の青春、ラジオが友達だった時期がとても長かった
水銀燈は再び俯く、やっぱりこのミーディアムはダメだ、わたしの黒い体まで何だか赤っぽくなるようだ
それが「幸せの前の不安」だなんて信じられなかった、まさかあの「何とかブルー」とかいう物だなんて
「ダメよ・・・やっぱりダメ・・・だってあんたら人間が遠くに行く時は
『ヒコウキ』に乗らなきゃいけないんでしょ?めぐ、そんな体で長旅なんて無理よぉ、死んじゃうわよぉ」
「いいの」
「よくないわぁ!だ、だって、アンタが死ぬと困るのよ!バカでもアンタ、ミーディアムだからね!」
「だって・・・『愛は命がけ』って言うじゃない」
水銀燈は・・・・・何も言えず・・・・ただ・・・・・・・・・・・・・・黒い体を真っ赤の染めて・・・
「あらあら、わたしの天使さんは泣き虫さんね、これじゃ『本番』が思いやられるわ」
「バカぁ!・・・バカぁ!・・・・めぐのバカぁ・・・・びぇえぇぇん!・・・・」
MEGU YOU HAVE TAKEN SUIGINTOU TO BE YOUR WIFE. WILL YOU LOVE HER, COMFORT HER,
HONOR AND KEEP HER, IN SICKNESS AND IN HEALTH, IN GOOD TIMES AND IN BAD, AND BE FAITHFUL TO HER
AS LONG AS YOU BOTH SHALL LIVE?”」
「I WILL!」
「SUIGINTOU YOU HAVE TAKEN MEGU TO BE YOUR WIFE. WILL YOU LOVE HER, COMFORT HER,
HONOR AND KEEP HER, IN SICKNESS AND IN HEALTH, IN GOOD TIMES AND IN BAD, AND BE FAITHFUL TO HER
AS LONG AS YOU BOTH SHALL LIVE?”」
「・・・・・・I WILL」
「 MEGU AND SUIGINTOU HAVE DECLARED BEFORE ALL OF US
THAT THEY WILL CONTINUE TO LIVE TOGETHER IN MARRIAGE. THEY HAVE MADE SPECIAL PROMISES
TO EACH OTHER. THEY HAVE SYMBOLIZED IT, BY THE JOINING OF HANDS, THE TAKING OF VOWS
AND EXCHANGING OF RINGS.”
“SO THEREFORE IT GIVES ME GREAT PLEASURE TO REAFFIRM YOU AS WIFE AND WIFE.” 」
「“YOU MAY KISS THE BRIDE.”」
「めぐ、汝は 水銀燈を妻とし、水銀燈を愛し、敬い、慰め、助け、
病める時も健やかなる時も、良き時も悪しき時も、
どんな時でも命ある限り誠実に尽くすことを誓いますか? 」
「誓います!」
「水銀燈、汝は めぐを妻とし、めぐを愛し、敬い、慰め、助け、
病める時も健やかなる時も、良き時も悪しき時も、
どんな時でも命ある限り誠実に尽くすことを誓いますか? 」
「・・・・・・誓います」
「本日、めぐと水銀燈は結婚し生涯を共にするという誓約を明らかにされました。
それは、両手を取り合い、愛を誓い、指輪を交換したことにより象徴されています。
それ故に、お二人を正式に妻と妻として宣言いたします。 」
「それでは、誓いの口づけをどうぞ! 」
大学病院の一室、湿っぽい6月の風を乾かすような、暖かく甘い雰囲気の病室、そんな幸せな時間
病室には、一組の・・・・・
コリント人への手紙−第13章
愛は寛容であり、親切です。
また愛は人を妬みません。
愛は自慢せず、高慢になりません。
愛は礼儀に反することをせず、
自分の利益を求めず、怒らず、
人を恨まず、不正を喜ばずに真実を喜びます。
全てを耐え、全てを信じ、
全てを望み、全てを忍びます。
どのようなことが起ころうとも、
真実の愛は決して終わることはありません。
魔法の言葉(完)
この作品のタイトルは Do As Infinityの名曲
『魔法の言葉〜Would you marry me?〜」から頂きました
毎回甘々でも飽きるので、次あたりはスパイスの効いた作品など投下したいと思います
では
追伸
(4)のケツについてる「邦訳」は無しって事でお願いします、投下ミスです
金糸雀「イェア!ファッキンエイリアンをぶちのめすぜ!」
翠星石「フゥーハッハ!弾はいくらでもあるぜ!」
>>287 いいよ。
俺はピアノマン派なんで次回はビリー・ジョエルきぼんぬ。
291 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/09(日) 18:40:33 ID:K4r9QSjY
甘すぎて糖尿病になった
あー、タイミング見誤っちゃったよ。
>>287 その極まった甘さに乾杯
結婚までしてしまうとは思わなかったw
甘いのもいいですね、GJ
後日談があればなお良かったかもしれません。
でもとてもいい感じです。GJ!
296 :
放蕩作家:2006/04/10(月) 03:00:20 ID:HCT/k/Om
初投下。
温かい目で読んでやってください。
297 :
放蕩作家:2006/04/10(月) 03:02:18 ID:HCT/k/Om
>>296 なんか消えた・・・。
すみません。暫く待ってください。
298 :
放蕩作家:2006/04/10(月) 04:10:11 ID:HCT/k/Om
ローゼンメイデンの秘密
ジュンは復学に向けて図書館で勉強をしていた。
「ふ〜・・・。一段落着いたし、ちょっと休むか」
そう言いながら立ち上がり、体を伸ばす。
「そういえばこの図書館の奥の方って行ったこと無かったな・・・。少し覗いてみるか」
ジュンは彼のまだ見知らぬ処女地へと足を向けた。
「・・・図書館の奥なんてみんなこんな感じか」
人気が感じられず、どこか暗い感じがする図書館の奥には、一度も触れられた事が無いような本が、本棚を隙間無く
埋めていた。
世界には自分しかいないのではないか。そう錯覚しそうなほど辺りは静まり帰っていた。
そんななかジュンは、本棚と本棚に挟まれてできた通路を、本のタイトルを流し読みしながら歩いていた。
暫く足を進めていると、ふとある本のタイトルに目を留め、次の瞬間、石のように固まった。
その本のタイトルは・・・
『ローゼンメイデンの秘密』
ジュンは硬直した。するしかなかった。
何だこれ?とか、何でこんな所にとか、誰よ書いたのとか、ありとあらゆる思考が彼の脳内を駆け巡り、それが飽和
状態に達した時・・・。
「は、はいーーーーーー!!!!???」
彼は絶叫した。
それはもう壁に貼ってある『館内ではお静かに』という壁紙に真正面から喧嘩売るような大声で。
その後ジュンは、館内の隅々まで響いた大声を聞いた職員が、駆けつけるまでその場で唖然としていた。
事務室まで連行されたジュンが、職員に大目玉を喰らったのはまた別の話。
その日以来、ジュンが図書館に入るたびに、ドライアイスよりも冷たい目で見られるようになったのも、やっぱり別
の話。
(たぶん)続きます
wktk
>>297 メモ帳等にこまめに保存しながら書くといい。
期待。
301 :
ケットシー:2006/04/10(月) 20:24:27 ID:GPhT6aES
>>264 真紅とジュンの奇妙な共同生活が始まった夜。普段はテレビの音もしない静かな部屋が、またまた騒がしい事になっていた。
今度の騒ぎの元凶は、真紅の姉だった。彼女がこの部屋に乗り込んできた所まで時間は遡る。
「真紅! 今日という今日は許さないわよ」
ノックもしないで部屋に入ってきたのは、銀髪と赤い瞳が印象的なきれいな女性だった。その肌の白さは異常で、めぐにも勝る。この女性の白さは本当に病気なのかもしれない。
読書に耽っていた真紅は、別段驚きもせずに本から顔を上げる。
「あら、水銀燈姉さん」
赤い瞳の女性は、真紅の姉だった。彼女の名は水銀燈といい、ここの長女である。年齢は……高校生とだけ言っておこう。ちなみに、この家は七姉妹という大家族で、真紅は五女だ。
真紅のすました顔が水銀燈の虫の居所を悪くさせる。彼女は真紅という問題児に昔から手を焼かされているのだ。長女として生まれてしまったからには、妹の面倒を看る責任がある。その妹の中でも、真紅は群を抜いて厄介な存在だった。
真紅の引き篭もりは今に始まった事ではない。小学校に上がる前から、今と同じような、本に囲まれた生活を送ってきたのだ。小学校へは、一年生の初めに何日か登校しただけだ。どれだけ周りに心配をかけたか、想像に難くない。
302 :
ケットシー:2006/04/10(月) 20:25:23 ID:GPhT6aES
部屋に入った水銀燈は早速、見慣れない鞄と人形を発見する。ジュンは絨毯に寝そべって何かの本を読んでいた。
水銀燈はジュンに近付いて、本を読む人形を上からしばらく観察する。そして、いきなり学生服の襟を摘んで、猫を扱うようにひょいと持ち上げた。
「わわっ!」
急に持ち上げられたジュンは、驚いて手足をじたばたさせる。
水銀燈はジュンをこっちに向かせ、顔をじっくりと拝見する。
「貴方がジュンね。でも、少しガッカリ。もっといい男かと思ってたのにぃ」
初対面で名前を当てられ、ジュンと真紅はぎょっとする。そして、この人形慣れしている態度に嫌な予感がしてならなかった。
「水銀燈姉さん、ジュンを知って……?」
「よぉく知ってるわよぉ。この子の事は毎日のように聞かされているからぁ。私のめぐにね」
それを聞いた真紅は、咄嗟に水銀燈の左手を見た。薬指に薔薇の指輪がはめられている。彼女もミーディアムだったのだ。それも、よりによって第一ドールの……。
ジュンにとっては最悪の事態だ。あの柿崎めぐが、同じ屋根の下の住人をマスターに選んでいたのだ。めぐもこの家で暮らしていると考えた方が自然だ。ジュンの顔色がみるみる悪くなる。
「めぐの知り合いですか?」
「私はめぐのミーディアムよぉ。今日はあの子を泣かせてくれたそうじゃないの。今も私の部屋で泣いてるんだからぁ」
水銀燈はめぐから直接、今日の出来事を聞いていた。彼女が立腹してここへ来たのは、そのためだ。彼女はめぐを可愛がっていた。
めぐは今も傷心中らしい。そのめぐを慰める手っ取り早い方法は一つ。水銀燈は、ジュンを持ったまま部屋を出ようとする。
それを真紅が見逃すはずも無く、慌てて椅子から腰を上げて引き止める。
「姉さんっ、ジュンをどうするつもり!?」
「めぐにあげるのよ。彼女、この子を欲しがってたから」
303 :
ケットシー:2006/04/10(月) 20:26:22 ID:GPhT6aES
水銀燈が事も無げにこう答えた。
それはまずい。まずすぎる。確実にジュンが殺られる。というか、犯られる。
人形がどうなろと真紅にとっては関係ない話だったが、このまま見捨てるのも寝覚めが悪くなる。
「ジュンは私の人形よ。勝手に持ち出さないで」
「あらぁ、貴女が本以外に執着するなんて初めてじゃないの?」
水銀燈が驚いた顔で真紅を見る。その表情から、彼女が言っていることが本当なのだと解る。それだけ、真紅は本の虜になっていたのだ。
「執着なんてしてないわ。ただ、ジュンがかわいそうだと思っただけよ」
「人形相手に?」
真紅がジュンを人形だと言ったので、意地悪くそこにつけこむ。真紅はむっとなって声を張り上げる。
「気まぐれよっ。気まぐれ!」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるぅ」
水銀燈は真紅の喜ばしい変化に微笑みながら、ジュンを床に下ろして開放する。
「妹をよろしくおねがいね、ジュン」
水銀燈はウィンクをしながら小声でそう言うと、部屋を出て行った。その柔らかい表情に素直に引き込まれたジュンは、彼女が出て行った後も、しばらく惚けていた。
好きなだけ惚けたジュンは、真紅のおかげで危機を脱したことにようやく気が付いた。水銀燈の言葉も思い出し、真紅の足下までトコトコと歩く。
「また助けられたね。ありがとう」
真紅は黙って椅子に座り、本を開いた。
「気まぐれだと言ったはずよ」
真紅は意地になって、助けた事を認めようとしない。彼女が素直になれるまで、まだまだ時間が掛かりそうだ。
つづく
銀様ハァハァハァハァハァハァハァ
銀様の「柔らかい表情」ってw
是非とも見てみたい!!GJ
復学に向けて勉強をしている最中、真紅が背後から僕を呼んだ。
「ジュン、何か面白い本はないかしら?」
「物置にあるだろ? 探してくればいいじゃないか」
「全部読み終えてしまったのだわ」
「……ほら」
今の僕にとっての最優先事項は、参考書と柏葉から借りたノートとのにらめっこだ。煩
わしさも手伝って、僕は机の上にあった広辞苑を、無造作に後ろに放った。背後でバサッ
と大きな音がしたのと同時に、真紅の怒鳴り声が聞こえた。
「危ないじゃないの! 私が潰れたり壊れたりしたらどうするの!」
「せいせいする」
もちろん冗談だったが、真紅を怒らせるには十分過ぎる一言だった。
ヒュッ……ガスッ!
延髄に激痛が走った。「いってえぇぇぇっ!」と喚く事が出来れば、どんなに良かった
だろう。一言も発する事が出来ず、僕は床に倒れた。僕の目の前に、さっき投げた広辞苑
が転がっていた。広辞苑の更にその先、ベッドの上で、真紅が顔を真っ赤にして仁王立ち
していた。
「……ど、どうやって投げたんだ、そんな重い本を……?」
「火事場のクソ……じゃなくて、馬鹿力なのだわっ!」
真紅の赤い顔が更に赤くなったようだ。それはそうと、僕の目が霞む。意識が朦朧とし
てきた。真紅を睨みつけたいところだが、もはやそれさえも叶わない。真紅がベッドから
飛び降り、床の広辞苑をいかにも大儀そうに両手で抱え上げた。
「随分と分厚くて重い本ね……まぁ、せっかくだから読ませてもらうわ」
「ど、どういうつもり、だよ……真紅……?」
僕の力ない抗議を無視して、真紅はよたよたと部屋のドアに向かう。僕は重ねて尋ねた。
「こ……答えろよ、真紅……僕が……こ、このまま……起き上がらなくなったら……」
僕の問い掛けに、真紅は澄ました顔をしながら言った。
「せいせいするわね」
「――――!」
「大丈夫よ。力は加減しているから、死ぬような事はないわ。もっとも、半日ばかり悪夢
にうなされる事になるだろうけど」
動けない僕を冷たく一瞥すると、真紅は一旦広辞苑を床に置き、ステッキでドアを開け
た。僕の横をすれ違いながら、真紅は止めの一言を口にした。
「ジュン。私は、あなたが私に言ったのと同じ事を言っただけよ?」
キィ……パタン
閉まったドアの向こうから、段々と遠ざかっていく真紅の足音が聞こえる。
消えかける意識の中、僕はただ一言『ごめん、真紅』と言ったような気がした。
なんか、初めて短い話を書いた気がする。
結構ピュアな真紅だね
短編SF
水銀燈「諸君、今回が我々ライノスクワッドの最初の任務だ。心してかかるように」
金糸雀「ハッハ!乗ってきたぜ!」
翠星石「ド派手にファッキンエイリアンをぶち殺そうぜ!」
〜地上到着
水銀燈「ゴー!ゴー!カムン!」
金糸雀「イェア!ぶちかましてこようぜ!」
水銀燈「待て金糸雀!突っ込みすぎると死ぬぞ!」
金糸雀「もう待ちきれねえ!ヒャッフォー!」
翠星石「さすが切り込み隊長!俺も続くぜ!」
水銀燈「おい!無茶しすぎだ!そんなに突っ込むと俺も我慢できなくなってくるぜ!行け!突っ込め!ファッキンエイリアンをキルしろ!」
真紅「俺たち衛生兵がいつでもバックについてるぜ!さあ行ってきな!」
そして突っ込みすぎて囲まれた金糸雀、翠星石
敵は大量、弾は少量
金糸雀「アスホール!ファッキンビッチ!」
翠星石「隊長おせえぜ!俺たちだけで全員殺せそうだぜ!」
わらわらと沸いてくるエイリアン
金糸雀「イェア!ファッキンエイリアンをぶちのめすぜ!」
翠星石「フゥーハッハ!弾はいくらでもあるぜ!」
向こうでウケたからって・・・
309が非常にいいこと言った
批判禁止だから何もいえない
向こうは批判禁止でないが無関心というもっと酷い状態だな。
批判でも、反応あれば書き手は喜ぶだろうに・・・
313 :
熊のブーさん:2006/04/11(火) 00:58:13 ID:lQ9QqjB/
なんか流れ悪いから投下。パクリだけど・・・
《ターミネーター翠〜プロローグ〜》
「……なぁ」
「何ですか?ジュン」
「嘘だろう……」
「何度も言わせるんじゃねえですぅ。嘘なら翠星石はこんなところになんか来てないですぅ」
「ありえねぇぇぇーーー!!」
桜田家に絶叫が響き渡った。
事の始まりは今朝のことだった。
桜田家ドールズとのりは一昨日から二泊三日の温泉旅行だ。商店街の福引で当たったのである。
しかし我らがジュンは風邪を引いており留守番。泣く泣く旅行を諦めたジュンだったが不幸にも翌日にはすっかり完治していた。余談だがジュンの枠には巴が入ったとのこと。
家でおとなしくDVDを見ていたジュンはだらけていた。そこに響き渡るチャイム音。
ピンポーンピンポーン。
不機嫌なジュンはもちろん無視した。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。
高橋名人もびっくりな見事な連打だった。ジュンも流石に腰を上げる。
「はいはいどなた?」
扉をけだるそうに開け……凍りついた。
そこにはダンボールを体に巻いた女性が立っていた。
「ど、どちらさまで!?」
「ふ、服を貸してくれですぅ!!」
悲壮な叫びだった。しかもその顔はジュンの良く知る顔だった。
「翠星石?」
「どうでもいいから早く中に入れやがれですぅ!!」
温泉に行ったはずの翠星石がそこに立っていた。
314 :
熊のブーさん:2006/04/11(火) 00:59:30 ID:lQ9QqjB/
「助かったのですぅ……」
のりの服を勝手に使うわけにもいかないのでジュンは自分の服を着せていた。ジーンズにワイシャツというなんともラフな服装だが致し方ない。
ジュンはじろじろと翠星石を眺めた。なんか怪しい。髪の色、顔つき、左右の瞳の色、口癖、ぱっと見は翠星石だがドールの特徴とも言える球体関節が無かったような気がする。しかも目の前の翠星石は身長がどう見積もっても一八〇近くある。本物はこんなに大きいはずが無い。
「お前は何者だ?」
「翠星石ですぅ」
(いや、そうなんだろうけどさ。こんな翠星石は存在しないって言うかなんと言うか)
「えーと、正確には〔量産型翠星石試作機0001〕ですぅ」
ジュンはなんかすごいことを聞いたような気がした。
「手短に話すですぅ」
「桜田ジュン。貴方は命を狙われているのですぅ。そして私は貴方を守るために未来からやってきた人造人間ですぅ」
315 :
熊のブーさん:2006/04/11(火) 01:04:04 ID:lQ9QqjB/
ジュンは開いた口が塞がらなかった。おもむろに電話帳を引っ張り出す。
「えーと、この街の精神病院っと」
「信じてないですね。チビ人間」
「当たり前じゃ! なんだ人造人間って。お前は…本物の翠星石は人形だろ!」
「人の話を聞かないチビ人間には論より証拠ですぅ。スィドリーム!」
どこからか人工精霊がやってきて、四角い機械のようなものを出した。翠星石はおもむろにスイッチらしきものを入れる。半透明の映像が浮かび上がった。
「ホログラムか?これ……」
しばらくジュンは翠星石のナレーションを交えながら映し出される映像を見た。
映し出されるのはどうやら未来の世界。だが廃墟と骨、使い捨てられた兵器ばかりだった。
翠星石が言うには近い将来世界規模の戦争が起こるらしい。ロボット工学の進化と人工知能の開発、発達により体が機械ということ以外はほとんど人間と言えるロボット達が反乱を起こしたためだ。人間VS機械である。
初めは人間側が優勢だったが次第に苦しくなってきた。そこで持ち上がった計画が人間側も人造人間を作って数で一気に押し返す計画である。
その計画の中心にいたのがジュンの子孫だった。先祖が研究したという人形の資料をベースにしてついにローザミスティカの劣化版が完成した。
劣化版といっても機能的にはほとんど同じである。ただし、半永久的には使ずnのフィールドにも入れないことが難点だが兵力としてはそれで十分な出来だった。特殊能力ドールズの活躍によって戦況は人間側に大きく傾いた。
「ここからが問題なのですぅ」
機械側も黙ってはいない。打開策としてドールズの発明を無かったことにしようとした。
そう、時間軸への干渉である。すでに理論上完成はしているが何が起こるか分からないとして禁忌とされてきたがついに決行された。
一方で人間側もスパイによってその情報を得ていたため、同時期に一体ずつ試験的に過去に送られた。対象は桜田ジュンである。
「なんか某映画と同じシュチュエーションなんですが」
「まさにそうなのですぅ。いい加減自分のおかれた状況を理解するのですぅ」
桜田家に絶叫が響き渡った。
つづく?
316 :
熊のブーさん:2006/04/11(火) 01:10:52 ID:lQ9QqjB/
ローゼンスレで出てきた話題をSSにしてみました。
続きは考えてありますが…
いかんせん某映画のパロディ+スレで出た案の引用なので不快に思われる方もいるかと思います。
「嫌だ」という声が多いのならば続きは書きません。どうすべきかご意見おねがいします。
個人的にはノープロブレムなんだけど、翠が180cm越えは勘弁して欲しい('A`)
映画ならマイノリティーリポート風きぼんぬ
>>316 トロスレでターミネーターの話題を切り出した者です。
wktkしてます!続きを!
せめて160cmくらいだなw
久々に書こうと思ったけどネタないね
桜田家、ジュンの部屋。 下の階ではいつもの人形たちがいつもの通りに騒いでいる。
しかし、彼、桜田ジュンの現在の心境は「いつもの通り」とは程遠いものだった。
漆黒。 彼の手に収まった一冊の黒いノート。
……ごくり。 ……ごくり。 渇く。 渇く。 …もう何度、唾液を嚥下しただろう。
かすれかけた声で、ゆっくり、確かめるように。 ジュンはノートの表題を読み上げた。
「…………デス・ノート」
週刊少年ジャンプ。 日本に住む男子なら、10人中10人は読んでること請け合いのキング・オブ・少年誌だ。
当然僕だって読んでる。 まして「デス・ノート」ときちゃあ、知らないワケがない。
名前を書いただけで人を殺してしまえるノートなんて、とんでもない設定だよな。
ありえないし、悪趣味だし、心臓に悪い。 だけど…面白いんだよなぁ、これが。
絶対うちのクラスにも「桜田ジュン 自殺」なんて悪ふざけをしてる奴がいるに決まってる。 くそっ。
でもまぁ、そんなのなら別にいいんだ。
そんな田中何某やら、鈴木Aくんやらのノートに名前を書かれたからって、僕が死ぬわけない。 当たり前だけど。
そいつが自分の幼稚さと馬鹿さ加減を周囲にアッピールするだけで、ハイ終〜了〜、だ。
問題は、僕の部屋にあるこのノート。 「いつの間にか」僕の部屋に「現れた」このノート。
これがどうも「本物のような気がする」ってこと………。
自慢じゃないが、僕はクーリングオフの達人だ。 その商品がどれくらい「インチキ」かなんて、直感で大体分かってしまう。
で、僕はなるべく「インチキそうなもの」を買う。 だって、まともなもの買ったってつまんないじゃん。
…………だから。 僕が「これ」を買うはずはない。 ありえないんだ。
自慢じゃないが、僕はクーリングオフの達人だ。 そのせいなのか……一目で分かった。
「やばい。」
乾く。 渇く。 手に持っているだけで汗が出る。 喉が渇く。
エアコンは今日も絶好調。 なにせ、真紅たちにせがまれてこないだ新調したばっかりの新品だ。
室温は快適、湿度も最適。 なのに。 後から後から訳の分からない汗が吹き出て、一向に止まってくれない。
「開けちゃ駄目だ…」
頭の中で、正しく理性が警告を向ける。 やばい。
これを開けたら、開けてしまったら……? たとえ偽物でも。 きっと、確実に、僕の中の「何か」が壊れてしまう。
ハッと我に帰って、愕然とした。 僕の指が、知らない内に、1ページ目にかかっている…?
開けるな! …頭では分かってる。 でも、頭と、体が、なぜかちっとも……繋がってくれていない。
もちろんありえない。 馬鹿げてる。 ノートに名前を書いただけで、人が死ぬなんて。
……でも。 もし「できたら」? 本当に人が殺せたら?
………………あいつらの居ない世界が、本当に創れたら………………?
「桜田ぁー、俺の姉ちゃん、お前の姉ちゃんと友達でさぁー……」
中西。
「桜田の席もちゃあんと空けておいたんだぞ!」
梅岡。
「……………………………………」
……桑田、由奈。
緩やかに、緩やかに、僕の心が誘惑に負けていくのが分かる。
それはとてもいけないこと。 分かっている。
……でも。 いけないから、何だってんだ?
どうしてだよ? なんで僕なんだよ?
あの時、ノートの落書きさえ消してれば。 いや、あの提出したノートにさえ書いていなければ。
…そもそも、あいつらが余計な事さえしなければ。
どうしてだよ!! なんで僕なんだよ!!!!
うつろだった。 僕の頭は考えることをやめて。
僕の目はただ、僕の指がゆっくりとページを開く光景を映していた。
ページの端を空しくなぞっていた指が、やがてページとページの隙間に入って……
「ジュン」
……………「心臓が口から飛び出る」とは、まさにこの事を言うんだろうな。
100のお小言より、1000の体罰よりずっとずっと効果的。
その小さな赤い人影のたった一言で、僕はすっかりバッチリ現実に戻ってきた。
「のりが呼んでるわ。 夕食よ。」
「……先に行ってろよ。 すぐ行くから。」
背を向けたまま答えて、真紅が立ち去るのを待つ。
なんだか後ろめたくって、真紅の顔をまともに見られなかった。
いま真紅と目を合わせたら、あの凛とした視線に、心の奥底まで見透かされてしまいそうで。
今か今か…真紅がいなくなる気配をうかがう間も、僕の心は安堵と息苦しさでミキサー状態だった。
1分……2分……不思議に思って振り返る。 真紅はまだそこにいた。 柔らかに微笑んで。
「いい子ね、ジュン」
「な、な、な!? なんだよ唐突に!?」
もう焦りまくってしまって、全然口が回らない。 僕と真紅の心は繋がっている。
早い話、さっきまで僕を支配していた仄暗い考えが、真紅にバレてしまったのかと思ったのだ。
「別に。 あなたの頬……泣いていたようだから。」
「え?」
頬に手をやると、確かに濡れている。 全然気付かなかったが、僕は泣いていた…らしい。
泣いてるところを見られた気恥ずかしさやら何やらで。 できるならもう何処かに消えてしまいたかった。
でも、真紅は言った。
「顔をあげなさい、ジュン。」
「それは貴方が自分の弱さと向き合って勝った証。 貴方の誇り。 ……私の、誇り。」
……こいつは。 僕は、今にもノートを開いてしまうところだった。
楽になれる気がしたから。 もう苦しい思いをしなくても済むと思ったから。
戻ってこれたのは。 声を掛けてくれたから。 ……こいつが。
「……僕は」
「ジュン」
「うわっ!」
気が付くと真紅の顔が大接近していた。 心拍数が激増したのが嫌なくらい分かる。
落ち着け僕! 人形じゃないか! 平常心…平常心…
真紅の手の平が僕の手を包む。 平常心! 平常心!
……と。 いつの間にか真紅の手にデス・ノートが握られている。 あ、そういう事……。
「ジュン。 このノートが貴方を苦しめていたのね。」
パラリ。
「うわあああああああああ!!!???」
ここここいつ! あっさり開きやがった!
なんだよ! なんなんだよ!
さっきまでの僕の逡巡はなんだったんだよぉーーー!
あんまりな展開にノリ突っ込みしようとした矢先。 真紅の険しい顔に気が付いた。
「ジュン…………あなた、このノートを開いたの?」
「え? い、いや。 開こうとしたらお前に声掛けられてさ……」
「そう……」
真紅はノートを閉じると僕に告げた。 声が心なしか固い。
「いいこと、ジュン。 世の中には沢山の扉がある。 でも、無闇やたらに開いては駄目。」
「扉の中にいるものは、必ず貴方を見返してくる。 それは、魅入られてはならないものかもしれないのに。」
「ジュン。 貴方は開けてはいけない扉を開こうとしたのよ。」
なんだ、この剣幕は。 静かだけど、確かに怒気を含んでいる。
……まさか。 さっきまでの震えがブリ返してくる。
……本物だったのか。
僕は。 取り返しのつかないことをするところだったのか。
「………………………………ごめん。」
言葉を選んでも、適当なのが見つからなくて。 結局僕の口から出たのはありきたりな「ごめん」だった。
あぁ、そうだ。 真紅は言った。
気付こうとしなければ分からない。 自分が想われているということ、自分を想ってくれるひと。
それを、その気持ちを、僕は裏切るところだったのだ。
昔の僕ならどう思ったかは分からない。 でも、今の僕は。
そんなの嫌だと、確かに思った。
そんな僕の心を知ってか知らずか。 真紅はもう一度……今度は僕の耳元で囁いた。
「いい子ね、ジュン」
「ジュン、夕食に行きなさい。 そこに貴方を待っている人たちがいるわ。」
「……いちいち大袈裟なんだよ。」
照れ臭くてしょうがないから、憎まれ口。 まぁ、バレバレだけど。
まったく、たかが一冊のノートのために何だか随分疲れさせられたもんだ。
でも……真紅たちのような「生きた人形」がいるんだ。
僕がデス・ノートを信じかけてしまったのも、無理はない……よな?
他ならぬコイツ等に、世の中何でもアリな所を見せ付けられてきたんだから。
「ほら…………抱っこだろ。 下まで運んでやるよ。」
「私は後から行くのだわ。 『これ』をどうにかしなきゃいけないし。」
そっか。 デス・ノートの処分。 餅は餅屋というか、怪奇現象は怪奇現象に任せるのが一番いいのかもしれない。
「そんじゃ、任せた。 ……あ、死神が出てきたら僕を呼べよ? お前、怖がりなんだから。」
一言残して、僕は階段を降りていった。
「……………危なかったのだわ。」
ジュンが去った後、ノートをパラパラとめくる真紅。 その表情は先程よりも一層険しい。
【○月×日 晴れ】
今日のジュンはいつもより何だか…ちょっとだけ凛々しかったです。
もちろんチビ人間にしてはですけど。
ジュンがソファに腰掛ける時、いつも左側に私の分のスペースを空けてくれてる事に、今日急に気付いてしまったです。
おかげでテレビの内容を全く覚えてないです…………覚えてる……のは……。
【○月△日 晴れ】
雛苺と金糸雀が今日もおチビ同士じゃれ合っているです。 騒がしい奴らですが、まぁ許してやるです。
……でも、二人を見ていると、どうしても私と蒼星石を重ねてしまうです。
蒼星石。 蒼星石に会いたい……。 人前でこんなこと言って、みんなを心配させたくないです。
でも、やっぱり顔に出ているんですね。 今日流れ込んできたジュンの意識は……私の傷を包もうとしてくれていたから。
きっと、ジュン自身も気付いてないですけど……。
「……………危なかったのだわ。 色々な意味でギリギリだったのだわ………」
私は何も見なかった事にして、翠星石の鞄の中にそっとノートをしまった。
私は誇り高きローゼンメイデンの第五ドール・真紅。 この物語の正ヒロインなのだわ……。
「ですぅノート・完」
まぁオチは読めたけど面白かった
GJ
最後の真紅の必死さがツボwww
ワロタwww
そうきましたかw
もうちょっとで、翠星石がヒロインに成り上がれたのに・・・w
次回作wktkですー
真紅必死だなw
>>300 ご助言ありがとうございます。考え付かなかった自分が情けない(-_-;)
>>322 そんな展開でくるとはw
次回作期待
GJ
どこでもジャンプネタ多いな。やっぱ週刊漫画紙で一番売れてるのか。
335 :
熊のブーさん:2006/04/11(火) 22:49:07 ID:7QUxIRDh
お久しぶりです。前回の続きを投下。
《ターミネーター翠〜第1部〜》
「最近なんかすごい不幸だ…新学期シーズンで頻繁に梅岡は来るし…風邪ひくし…命狙われるし…」
「激しく鬱モードに入ってないでシャキッとしやがれですぅ」
一人と一体はテンションがまったく逆だった。
「とにかく、翠星石が来たからには安心ですぅ。チビ人間をしっかり守ってやるですぅ」
「どうだかなぁ」
「でも、一応翠星石はお客さんですぅ。お茶くらい出しても…」
ピーンポーン
「お客だお客」
「こらぁチビ人間!!逃げるんじゃねえですぅ!!」
ジュンは一刻も早く扉を開けようとした。
たとえ梅岡でもかまわない。現実味のある話がしたかった。正直、梅岡と世間話は嫌だがしかたない。あぁ、平穏な現実へのドアノブに今、手をかけて……
「待つですぅ」
肩を掴まれ止められた。ジュンは恨めしそうに振り返る。
「なんだよお前。僕はこれからめくるめく現実への第一歩を……」
その先が言えなかった。一八〇の巨漢は険しい顔でショットガンを持っている。
「なぁ、銃刀法って知ってるかな。ってゆーかお前どこからそんなもんもってきた!!」
「静かにするですぅ。刺客かも知れないのですよ?」
ジュンの血の気が引いた。
「もしかして…もう来ちゃってたりするわけ?」
「可能性は特大ですぅ」
ジュンはゆっくりと慎重に覗き穴から様子を伺った。梅岡だ。
336 :
熊のブーさん:2006/04/11(火) 22:50:24 ID:7QUxIRDh
「大丈夫だ。怪しいやつじゃない」
「情報によると相手は液体金属で出来た化け物ですぅ。どんな形にでもなれるのですよー?」
「じゃあどうやって調べろと……」
「こうするですぅ。スィドリーム、アレを」
翠星石が手をかざすと手の中には空き缶のようなものが現れた。
そして、おもむろにドアを開けると梅岡に缶を放り投げた。梅岡の足元で落ちると一気に白いもやが缶から噴出する。
「何投げたんだ?」
「液体窒素ですぅ」
翠星石はこともなげに答えた。
「おい!あれが本物の梅岡だったらどうするんだ!!」
「人体には無害ですぅ。多分!!」
みるみる内にもやが晴れていく。ゆらりと人影が現れた。
しかし、それは梅岡では無かった。水銀のような液体が人の形を作っており顔の部分だけがかろううじて元の梅岡の姿を保っている。しかも笑顔だ。
『サァクラダ〜ァ〜』
「……うわぁ」
「さしずめ液体UMEOKAってところですぅ」
あろうことに液体UMEOKAの第一声が自分の名前だったことにジュンは寒気がした。
液体UMEOKAは笑顔を貼り付けたままゆっくりと動き出した。
「どうするんだ?あいつ」
「こういうときは逃げるのが鉄則ですぅ。スィドリーム!」
人工精霊が大型のバイクをどこからともなく召喚(?)した。
「何でもありだな。未来の人工精霊って」
「おっと、今のうちに準備をしておくですぅ」
337 :
熊のブーさん:2006/04/11(火) 22:52:18 ID:7QUxIRDh
翠星石はまた缶を出させ、UMEOKAに投げつける。
動きが鈍っていたUMEOKAは白いもやに包まれると動きを止めた。
「しばらく足止めできるですぅ。さてチビ人間、早いトコ旅の支度をするですぅ」
「はいぃ?」
「鈍いですねチビ人間!この家にとどまっている気ですか?」
のり達を巻き込むわけには行かない。さすがのジュンにもすぐ理解できた。
ジュンは大慌てで家に入った。
「えーと、準備準備っと……」
ふと目に入るのは旅行用のバッグ。荷造りしたままでほったらかされていた。
「これでいいか。あとは…」
帰ってきたのり達に自分がいないことをどう伝えるべきか。今世紀最大の難問だった。
「まともに書いても普通信じないしな、かといってでたらめ書くのもマズイ」
考える人となった。
「チビ人げーん! 早くするですぅー!」
「よし、これでいこう」
「お待たせ。翠星石」
「早くバイクに乗るですぅ。」
もう既に翠星石はバイクに跨りエンジンをふかしている。ジュンは翠星石の後ろに跨った。
「……おまえの服装を何とかしてから行ってもいいかも知れん」
「そんなもの後回しですぅ。出発ですよ!」
翠星石は思い出したように振り向き、持っていたショットガンの引き金を引いた。
見事命中。UMEOKAの頭が吹き飛んだ。頭だった液体が地面に落ちてプルプルと震えている。
「完全消音装置付きなのでご近所にばれて通報される恐れも無いですぅ。今なら二つセットで三十万円ですぅ」
「色々と突っ込みたいところだがあえて我慢しよう」
グォン!ガロロロ……
けたたましい音を立てて一人と一体を乗せたバイクは走り去った。
しばらくして、固まっていたUMEOKAは動き出した。瞬く間に人間の姿に戻り抹殺対象の追跡を開始する。
「桜田ァ〜待ってろよォ〜」
やはり笑顔だった。
周りに人がいたら通報されそうな怪しい雰囲気だが周囲には人の影はまったく無い。
生死をかけた鬼ごっこが始まった。
つづく
一応3部作ぐらいで終わるように書いています。
駄文ですがどうぞお付き合いください
俺の脳内では玄田ボイスのシュワルツェネッガーがですぅ口調で喋ってるんだが、何か間違ってるか?
339 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/12(水) 00:18:01 ID:ykZkHAUO
>>338、脳内フィルター!脳内フィルター!
桑谷夏子がシュワちゃんの声をあてているんだ!
_| ̄|○ソンナワケネェヨ
ごめん、ageてしまった…鬱氏
翠の身長は180だとはわかったが---背だけならまだいい。背が180なのはいいが、筋肉でムキムキな翠はキツいかもww
だがそれがいい
………んなわけないな、こんなカオスw
343 :
ケットシー:2006/04/12(水) 21:03:50 ID:rDzW6dMx
>>303 今日の真紅は朝からずっと不機嫌だった。
理由は、目の前の人形達にあった。
「どうして逃げるの? 手を握っただけじゃない」
「なんで手を握る必要があるんだよ!」
「私のこと、嫌い?」
「嫌いじゃないけど――って、もうそれはいいって!」
「ぐすん……」
「泣いてもダメェッ!!」
昨日の今日だというのに、めぐは懲りずにアタックを続ける。ふられたからといって、アリスゲームを諦める訳にはいかない。これは、ただの恋愛ゲームではないのだ。
しかし、あれだけ見事に玉砕して一晩で立ち直れる彼女は恐ろしくもある。めぐのジュンへの執着心は病的だった。ジュンが彼女を恐れるのも納得できる。
人形達は朝からこれと似たようなやりとりを、飽きもせずに何度も繰り返していた。厳密には、ジュンはうんざりしているのだが、めぐを無視することは許されない。何故なら、彼女を完全に無視すると、もっと凄い事になるからだ。
以前に一度、散々追い掛け回されたジュンは、彼女を無視してみた事があった。
その時の事は思い出したくもない。めぐは口を利いてくれないことに耐え切れず、昨日のようにいきなり襲ってきたのだ。言うまでもなく、強姦である。
その時は他のドールの助けもあって九死に一生を得たのだが、そんな危ない橋は何度も渡りたくはない。なので、めぐを放っておく訳にもいかないのだ。
そんな理由を真紅が知るはずもなく、彼女のイライラは沸点を超えようかという所まできていた。ジュンとめぐのやりとりは、傍からだとイチャイチャしているようにしか見えない。真紅は自分の部屋に居ながら、二人の邪魔をしているように思えて居心地が悪かった。
とてもではないが、この空気の中では落ち着いて本など読めない。読書という最も大切な行為に支障をきたされ、真紅の精神状態は平静ではいられなかった。
それでも、真紅は本を開いて読書に集中しようとする。読書への情熱が、こんな障害如きに阻まれてはならないのだ。もはや、これは戦いだ!
344 :
ケットシー:2006/04/12(水) 21:05:08 ID:rDzW6dMx
「ねえねえ、私のマスターにはもう会った? 水銀燈っていうんだけど」
「ああ、昨日の夜、怒鳴り込んできたよ。でも、優しくてきれいな人だったなぁ」
「でしょ〜。今度のマスターは大当たりだわ。ジュンの新しいマスターはどんな感じ?」
真紅の耳がピクリと動く。話題が自分の事となっては、気になっても仕方がない。
ジュンは難しい顔をして自身のマスターの印象を語る。
「うーん……気難しい人っていうのかな。どうも、とっつきにくい感じがあるんだ。ちょっと苦手かも……」
「あはは、それってハズレってこと?」
「そうなるのかな」
本を持つ手がワナワナと震える。
ハズレだと? 人形風情が人間様に向かって何を言う!
我慢に我慢を重ねてきた真紅も、標的をピンポイントで狙ったこの攻撃には耐えられなかった。
本を閉じてテーブルに置くと、すっくと椅子を立って人形達の方へ歩を進める。
ジュンとめぐは、二人を覆う影に気付いて上を見た。
そこには、ツインテールを角のように立てる赤鬼の姿があった。
「真紅、どうしたの……?」
ジュンが怯えながらご機嫌を窺うが、時すでに遅し。真紅は問答無用で二人を片手ずつに抱き上げると、部屋の出入り口へと向かった。
「読書の邪魔」
それだけ言って、真紅は二人を部屋から放り出した。
345 :
ケットシー:2006/04/12(水) 21:06:03 ID:rDzW6dMx
「追い出されちゃったね」
めぐが何やら嬉しそうに話し掛ける。
ドアが閉まるのを呆然と見ていたジュンは、今の状況に気付いて戦慄した。
めぐと二人きり。それは、これ以上なく危険な状況に他ならない。
人目があってもすこぶる積極的な彼女だ。それがなくなったら、どんな行動に出るか簡単に想像がつく。獣は野に放たれた!
「真紅っ、ドアを開けて! お願いだよっ!」
ジュンはドンドンとドアを叩くが、鍵を掛けられたドアはびくともしない。
部屋の中で、真紅はその様子を聞いていた。助けを呼ぶ声が、椅子に向かう彼女の足を止める。
「開けてっ! 独りにしないでっ!」
真紅を頼るジュンの声が、彼女の心を揺さぶる。
「ひど〜い、私がいるじゃないのぉ」
「め、めぐっ、ダメだって!」
「何がダメなの?」
真紅が迷っている間にも、外のジュンにめぐの魔の手が伸びる。声しか聞こえなくても、ジュンが危ない目に遭っているのは目に見えるように分かる。
「もうっ……!!」
意地になっていた真紅が、身を翻してドアに向かう。あれだけ散々に言われても、彼女はジュンを放っておけなかった。
ロックを解除してドアノブを押した真紅は、助けが遅かったことを知る。
「あれ……いない?」
部屋の前に二人の姿はなかった。廊下に出て端から端まで見渡しても、それらしい姿はなかった。めぐから逃げるためにどこかへ行ったのだろう。
探してまで助ける気は起きず、真紅は部屋の中へと戻った。
つづく
ジュンの行方が気になるww
次回を待ってます。
なぁ、JUM
いっそ全員相手してやれよ、不可能は無いんだろ?w
もう本格的に貞操の危機w
続き待っているのであります!
めぐに襲われるだと……?羨まし過ぎる!!!
・・・ここってパロ書いていいの?
あらすじ
ダメだ、書く気力がねえや
ドールなのに何か特殊能力ないのか?
また寂れてきたな
もう---何かの宿命でつか?(汗
寂れてはいけないのか?
>>350 この板ネタスレ多いし、大丈夫…と思う
どうしてもダメなら、次スレはサロンにでも立てればいいんじゃないかな
いやいや、流行らないから他のところに立てるってのは考え方としては間違っている。
358 :
熊のブーさん:2006/04/15(土) 00:48:49 ID:PErZorpn
ちょっと間が空きました。前までのお話覚えてる人います?
パロディの是非に関しては……ご愛嬌ってことで許してください。では投下
《ターミネーター翠〜第二部〜》
一人と一体を乗せたバイクは市街地を抜け、郊外に出ていた。
遠くに山も見える。
「おい、どこまで行くつもりなんだよ」
「海外に高飛びするですぅ」
「……マジ?」
「冗談ですぅ」
何時間走ったのだろうか。そろそろ日も暮れる。
「いつまでに逃げ続ければいいんだ?」
「大体七十二時間程。まぁ三日前後ですぅ」
具体的なゴールが見えてきた。
「やけにはっきりしてるな。理由は?」
「極秘ですぅ。たった今翠星石がでたらめにでっちあげたなんて死んでも言えるかですぅ」
ジュンは後ろから翠星石の首を絞めたくなる衝動に駆られた。しかし楽々とショットガンをぶっ放していたとはいえ運転している翠星石は細身の体だ。ハンドル操作を間違えて事故を起こされても困るので自重する。
「もちろん冗談ですぅ」
翠星石はケラケラと笑った。
「あの手の化け物はエネルギーの消費が半端じゃないんですぅ。おまけにエネルギー源はこの時代には発明されてないはずなので補給不可。よっておよそ七十二時間程度でエネルギー切れになり、ただの液体になってしまうのですぅ」
「UMEOKAのエネルギー源って何なんだ?」
「詳しく聞いてきたわけじゃないからよく分からないですぅ。確か“ようりょくたい”なるものから精製されるエネルギー源とか言ってたような…」
ジュンのこめかみがピクリと動いた。
「ソレハ、「ハッパ」トカニフクマレテイルモノデスカ?」
「それですぅ。あ、でもあいつには精製は無理ですぅ」
「なぜに言い切れる」
「大量の“ようりょくたい”と、時間が必要になるのですよ。チビ人間。まとまった量を精製するのに1週間はかかるはずですぅ」
ジュンは安堵した。
へたをすると一生逃げ回ってないといけないのかという不安が拭い去られたからだ。
「…………桜田〜……………」
359 :
熊のブーさん:2006/04/15(土) 00:50:06 ID:PErZorpn
ジュンのこめかみがまたピクリと動いた。
「疲れてるのかな。幻聴が聞こえるや」
翠星石は後ろを振り返った。
「幻聴ではないのですぅ。ヤツが追いついてきました」
ジュンは恐る恐る振り返る。
UMEOKAが走っていた。笑顔で。
なんというスピードだろうか。ジュンは生まれて初めて「走っている人の足元から煙が出ている」という現象を目の当たりにした。このままでは追いつかれる。
「ついに天は我を見放したか……」
ジュンは胸の前で十字を切った。
「しつこいヤツですねぇ。そんなヤツにはこれをプレゼントですぅ」
どこから取り出したかバナナの皮。中身はもちろん翠星石が頬張っていた。
ぽいと後ろに放り投げる。完全にポイ捨てだ。
「これでこけるはずですぅ。うしししし」
ジュンはもう一度胸の前で十字を切った。もうだめかもしれない。
ちらっと後ろを振り返ってみた。
それは見事な宙返りだった。UMEOKAが宙を舞う。頭から舗装された道路に突っ込み、なんか卵を地面に思い切りたたきつけたような音がした。
後に残るのは微妙に蠢く水溜りのみ。
「楽してズルして迎撃ですぅ。おっとっと」
翠星石は巧みなハンドル操作で後ろからきた大型トラックに道を空ける。
「やっぱ世の中間違ってる」
「桜田〜」
また聞こえた。
「もう追いついてきたのか」
振り向いて確認する……が、道路が続いているだけで何も無い。
「今度は前ですぅ」
先程ジュン達を追い抜いたトラックの荷台の上にUMEOKAがいた。いつの間に。
「かなりまずいですぅ。緊急事態ですぅ」
翠星石が珍しく緊張した声をあげる。
「あいつ、何のつもりか葉っぱを食べてるですぅ。意味の無いことはしないはずの化け物が何故…?」
ジュンもUMEOKAを見てみた。しかしもう辺りは薄暗い。
「よく見えないぞ」
「まぁチビ人間には無理ですぅ。暗視オッドアイ完備の翠星石だから見えるのですぅ」
さすが人造人間。
「桜田〜死ねェ〜!」
UMEOKAの腕が変化していく。鉤爪のような形だった。引っかかれたら痛いではすまないだろう。
「スィドリーム!」
現れたるはショットガン。
翠星石は片手でショットガンをぶっ放した。しかしUMEOKAは鉤爪を振り銃弾を弾いた。あまりのスピードにジュンの目には爪の残像が見えた。
「桜田ァァァァ!!」
こちらに飛び移ってこようとUMEOKAは大きく身を屈めた。
360 :
熊のブーさん:2006/04/15(土) 00:50:52 ID:PErZorpn
刹那、UMEOKAの姿が消えた。
ジュンは自分の目を疑った。あまりの速さにまた視認できなかったのか?
「どこに行ったんだ?」
「トンネルに入ったんですぅ。小さめのトンネルなのであのトラックの車高ぎりぎりですぅ」
その頃、UMEOKAはトンネルの入り口の天井部分に張り付いていた。
「サ…クラ…ダ……ァ」
しばらく走ると巨大な木があった。もうUMEOKAは追ってこないようだ。
辺りはすっかり暗いが、月と星の光でやや明るい。
「ここらで休むですぅ」
ジュンは疲れてもう返事も言えない。休めることはありがたかった。
ジュンは木に寄りかかって一息ついた。翠星石は火を起こそうとしている。
「こういうときこそ文明の利器ですぅ」
人工精霊がライターと小枝、紙までも出した。
将来、重い荷物は全て人工精霊に持ってもらう時代が来るかもとジュンはぼんやりと考えながら
翠星石の作業を眺めていた。
無事に火がつき、だいぶ明るくなった。
ふいに、ジュンの旅行バックから賑やかな音が流れてきた。
「あー……そういや携帯持ってきてたんだっけ……」
家の番号から着信ありだ。通話ボタンを押す。
「もしもし」
「ジュンくん!? ジュンくんなのね! 良かったぁ繋がって」
のりの声だ。もう帰ってきていたのか。
「今どこにいるの?なんなの“旅に出ますもう探さないでください。”って!」
そういえば書置きにそんなことを書いたような気がする。
「もしかして家出?今どこにいるの!!」
「……」
ジュンは電話を切り、電源をOFFにした。いちいちかまっているほど余裕が無い。
「あんまり家族にそっけない態度を取るのもどうかと思うですぅ」
「大きなお世話だ」
「心配してくれる人がいるから出来ることですよ?はい、ご飯ですぅ」
携帯食料のオンパレードだったがジュンは残さずたいらげた。
「翠星石の手料理なんですからうまくて当然ですぅ!」
いや、お前は暖めたりしただけだったような気がするが。
満腹になったせいかジュンは急に眠くなった。
「見張りは翠星石がしておくですぅ。おやすみなさいですぅチビ人間」
そのままジュンは横になり寝てしまった。
「……さてっと」
焚き火の火をつつきながら翠星石は一人思案する。
「どうにも不可解ですぅ。なぜにあの化け物は葉っぱを食べていたんでしょうか?」
翠星石は自分なりの答えが出ていた。しかしそれは最悪の部類の結末だ。
火の粉がパチパチと飛んでいる。
「あくまで仮説ですが……」
誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「自分でエネルギーを作りだせるように進化しているのかもしれないですぅ」
そうなると三日間逃げ切ればよいなどという悠長なことは言ってられない。永遠に鬼ごっこは続いてしまう。
「なにか手を打っておいた方がいいかもしれないですぅ……」
翠星石はちらと出しっ放しにされているジュンの携帯を見た。
つづく
どこまでマジなのか笑えばいいのかわからんですぅ
ですぅ口調ウザ
ん〜ん、いい天気ですぅ。ジュンの新しい門出を祝うには、うってつけです。
それなのに、なんでのんびり朝寝坊を決め込みやがりますか、このチビ人間は。
ほらっ、とっとと起きやがれですっ!
『ユサユサ……ユサユサユサッ!』
はぁ、しょうがないですぅ。奥の手を使うです。
この『えむぴーすりーめざましどけい』に吹き込んだ『起きろったら音頭』を聞けば、
一発でチビ人間が目を覚ます事間違いなしです。ここをこうして……っと!
♪おっきろーおっきろーおっきろーおっきろー
おっきろーおっきろー おきろったら! ですぅ
おっきろーおっきろーおっきろーおっきろー
おっきろーおっきろー 寝ぼけてるひまはない! ですぅ
――あ、起きたです。効果てきめ……きゃあっ!
何するですか、枕なんぞを投げやがって! 翠星石が潰れたらどうするですかっ!
『ブンッ! ゴスッ! バタッ!』
きゃああああっ! こ、こらチビ人間起きろですっ! せっかく起きたのに寝るなです
っ! というか、永眠しないで、ですううううっ!
遅いわよジュン……どうしたの、顔面が変な形に腫れ上がっているわよ?
早く席について。のりが作ってくれた朝食を食べなさい。
『ペシッ!』
行儀が悪いわよ。ちゃんと「いただきます」とおっしゃい。
――え? スープがぬるい?
『ペシッ!』
自業自得よ。寝坊してきた分際で、偉そうな事を言わないで頂戴。
『ペシッ!』
ズルズル、クチャクチャと音を立てないで頂戴! もっと上品に食事をなさい。
『ペシッ!』
ジュン、「ごちそうさまでした」は? ――ん、よく言えました。
あ、えっと……ジュン、なかなか似合うわよ、その新しい『せいふく』は。
あ、ジュン君おはよう。ジュン君、今日から『がっこう』だよね? 今、僕と雛苺でジ
ュン君の靴を磨いていたところなんだ。ほら、見て。
あ、そっちは雛苺が……あははは、ごめん。僕が磨き直すよ――これで良いかな?
――ジュン君、顔が真っ青だよ? ひょっとして、『がっこう』に行くのが、怖いの?
『ぎゅっ』
――大丈夫。ジュン君は、もう1人で歩けるんだから。さぁ、靴を履いて。
もしも不安になったら、しゃがみこんでいい。振り返ってもいい。皆、ジュン君の事を
見守っているから。お姉さんも、柏葉さんも、真紅も、翠星石も、雛苺も――もちろん僕も。
ジュン君は、決してひとりぼっちじゃないよ? だから、安心して。
元気、出た? ――そう、良かった。
――え? 翠星石が? あ、あははは……よく言っとくよ。
うん、いってらっしゃい!
終わり
>>364 実際には、学業復帰に戻るのはいつのなるやら
個人的には学業復帰ENDでその際はアリスゲームも済んでいて
人形がお父様の元に戻っていて
ドールズの居なくなった桜田家のラストと思ってるんだけど
こう言うエンドもいいね
それでは、一本投下します
「日曜夕方のブルー」を少しでも癒して頂ければ幸いです
では、SS「みっちゃんはね♪」、どうぞ
「ハァ・・・」
ローゼン・メイデン第二ドール金糸雀のマスター、みっちゃんはため息をついていた
みっちゃんは・・・綺麗な服で着飾った可愛い女のコが好きだった、そんな写真を撮るのが夢だった
カメラマンを目指し、写真学校に入った、親の反対を押し切った手前、学費は自分でバイトして稼いだ
学校ではいい成績を維持した、卒業制作で出した東欧の少女達の写真はプロの間でも高い評価を受けた
在学中から憧れていた売れっ子カメラマンの仕事場にバイトで入り込み、卒業後はそのまま師事した
お師匠はブツ撮り、風景、何でも来いの女性カメラマンで、特に人物を撮らせれば右に出る者無しだった
生意気な新入りのみっちゃんに、自分が撮った写真が実際に媒体になるまでのすべての工程に係らせた
最初は便利屋扱いに反発したけど、対等の友人として接してくれるお師匠とは次第に打ち解けていった
キツい助手時代を数年過ごした頃、お師匠は突然、高給を貰える広告代理店の専属カメラマンをやめた
「今撮っておかなきゃいけないひとが居る」といって、カメラ片手にイラクまで飛んで行ってしまった
助手時代から、お師匠が色々な分野の撮影仕事を均等に回してくれたおかげで、その頃のみっちゃんは
何でも撮れる小器用なカメラマンになっていた、みっちゃんへの名指しでの仕事も入りつつあったので
その広告代理店からのお師匠の後釜へのお誘いを丁重に断り、このご時世に大変な独立の道を選んだ
綺麗な服で着飾った、可愛い女のコを撮りたい、みっちゃんは夢に向かって動き出した
そして・・・・
今日の仕事は、大手スーパーのチラシに使われる商品写真の撮影、ギャラは笑っちゃうほど安い
今日のモデルはマグロの刺身だった、実際に特売で店頭に並ぶマグロよりずっと上等な代物に
さらに脂の照りを出すためにサラダ油をハケで塗り、ライトで生温くなったマグロの機嫌を伺う仕事
みっちゃんはため息をついていた、独立をしたみたはいいものの、来る仕事はつまらない仕事ばかり
夢とはほど遠い生活と、どうにも増えない残高、元より自分の写真の腕には絶対の自信を持っていた
仕事場である広告、出版業界でも、「みっちゃんに任せればいい写真撮ってくれる」との評価を得ていた
でも、いい写真を撮る人材は毎年多く吐き出されて来るが、それに回ってくる予算は年々渋くなる一方
結局、代理店時代のコネで手の届く仕事を入れてはこなすしかなかった、何でも撮ってた助手時代の
経験は役に立ったが、みっちゃんは嬉しくなかった、夢みてた未来、夢にほど遠い今、不満の多い生活
お師匠の下で広告代理店に籍を置いていた頃は、年収相当額の買い物でもすんなりローンが通った
独立した途端にガソリンスタンドや量販店のクレカ付き会員カードを作る時も審査で難癖をつけられる
「フリー・カメラマン」という職業がすでに、信販会社のブラックリストに載っているらしい
「はぁ・・・フリーでやってくのががこんなに大変なんてねぇ・・・」
みっちゃんは、またため息をついた、みっちゃんの横で、彼女のドール、金糸雀が心配そうに見る
最初に金糸雀に会ったのは、独立してすぐの頃だった、営業下手でこなせない仕事、減りつづける貯金
何かの幻覚かと思った、幻覚なら付き合ってやれと、訳のわからないまま「まきます」に丸をつけた
あの後カナが突然やってこなかったら、多分私はろくでもない男にでも騙されてたとみっちゃんは思った
「みっちゃん・・・何か・・・疲れてるみたいかしら・・・みっちゃん・・・だいじょう・・・ぶ・・・?」
横で見つめるカナ、この感情を持つ不思議なドールの表情に気づき、みっちゃんは笑った、無理に笑った
「ハァ・・・ごめんね、カナ・・・こんな甲斐性無しのマスターで、・・・でも安心して・・・
カナには絶対、綺麗なお洋服着せてあげるし、おいしい物もいくらでも買ってあげるから・・・」
みっちゃんは決めてた、カナには決して仕事の愚痴は言わない、カナには絶対、不自由な思いをさせない
でも・・・・
みっちゃんは傍らに居るドール、端正で汚れ無き、命宿るドールを見て、もう一度・・・・繰り返した
「カナ・・・・ごめんね・・・こんな・・・私で・・・カナには・・・きっと・・・もっといいマスターが・・」
金糸雀はみっちゃんの言葉に俯いた、悩むマスター、無力なドール、金糸雀にとってみっちゃんは
ただのミーディアムではなかった、共に目覚め、眠り、一緒に生きる大切な人、たったひとりのひと
みっちゃん以外の誰かが自分に触れ、ネジを巻くなんて・・・みっちゃんと引き裂かれるなんて・・・
金糸雀は俯いたまま叫んだ、みっちゃんに見られたくない瞳を隠しながら・・・ぽたっ・・・ぽたっ・・・
「みっちゃん!わたしはみっちゃんが・・・夢を持って生きているみっちゃんが好き・・・・こんなわたしの
・・・わたしのネジを巻いてくれたから・・・・ぐ・・・・ぐすっ・・・ひっぐ・・・ひっぐ・・・」
金糸雀はみっちゃんの横で、握った手を震わせて、涙をこぼしながらみっちゃんを見た、
「わたし・・・綺麗なお洋服もいらない、ピザ屋さんのアップルパイも・・・うぅっ・・・い、いらないかしらぁ!
みっちゃん!・・・・わたしは・・・・ムシロをまとってでもみっちゃんについていくかしら!」
金糸雀はみっちゃんの胸に飛び込んだ、綺麗な服に皺が寄り、涙で汚れるのも気にせず胸に抱きついた
いつも可愛い服を着せてくれるみっちゃんの服が、地味でくたびれたダンガリーって事に気づいて
また泣き出した
「いや・・・イヤぁ・・・みっちゃんと離れたくないの・・・・カナはみっちゃんがいいのかしらぁ〜」
「カナ・・・わたしも!わたしもカナと一緒に居たい!・・・ごめんね、カナ、わたし、こんなに幸せなのに
わたし、カナと一緒に居られる・・・こんな幸せな事に気づかないなんて・・・ごめんね・・・」
金糸雀はみっちゃんの胸で大声を上げて泣いた、落ちて来るみっちゃんの涙が自分に滴るのが嬉しかった
カナはみっちゃんの胸から体を起こすと、ぐいと涙をふき、まだ赤い目のまま胸を張り、逞しく笑った
「もしみっちゃんがカメラマンでおかね貰えなくなっても、安心して!このわたしが
辻のバイオリン弾きでもやって、みっちゃんひとりくらい食べさせてあげるかしらぁ!」
みっちゃんは涙をぬぐいながら笑い出した、カナも笑った、二人で床に座り込んだまま笑った、二人で・・・
「ありがと・・・・カナ・・・・・でも私は欲張りなのよ♪カナとの暮らし、カメラの仕事、両方とも欲しいの!
ローゼン・メイデン一の頭脳派のカナリアさん、欲張りなわたしが突っ走っても、ついてこれるかしら?」
「任せてみっちゃん!カナに出来ることがあったら何でも言って!炊事洗濯用心棒、洗車に録画予約
何でも来いかしら!最もアリスになるに相応しい、この金糸雀の辞書には不可能は無いかしらぁ!」
「じゃあ・・・わたしの小さなバイオリン弾きさん・・・弾いてくれるかしら・・・・・『ニーベルングの指輪』を」
「よしきた!」
カナが生まれた時お父さまに与えられたバイオリンが、壮麗な曲の第一章「ラインの黄金」を奏で始めた
ワグナーの調べが、二人を優しく包んでいく
優しい夜が、二人を包んで流れていく
「さぁて!明日はヒラメでも撮ってくるかぁ!」
生まれ変わる事は出来ないけれど
変わっていくことは出来るから
みっちゃんは変わっていった、少しづつ・・・少しづつ・・・
最近は仕切りを任されるようになった写真の現場では、まず時間に対して正確無比である事を心がけた
唯一、食事の時間は進行中の作業を止めてでも確保した、現場の皆で食べる「同じ釜の飯」を大切にした
本来の仕事である撮影だけでなく何でもやった、助手にやらせてた機材準備や掃除で一緒に汗を流し
スタイリストやメイクの仕事を積極的に手伝い、畑違いの構成や写植、コピーや記事書きの技術も学び
欠員は自ら補った、当然彼らの領分とプライドを尊重し、たとえ非能率的でも彼らの流儀に従った
自分の写真のクオリティは決して落とさなかった、ただ、そのために他の工程を圧迫する真似は慎んだ
それは決して難しくない事だと知った、自分の才能を発揮しながら「広く見る事」を意識すること
自分の係る作品が世に出るまでの全ての流れを広い視線で見た、全てに責任を持った
好きで集めていたロモ、希少なライカ、今の自分の仕事には高スペック過ぎるニコンのカメラ
みっちゃんの部屋には数十機のカメラがあった、それなりに使ってる物も、埃を被ってる物もあった
仕事で必要な銀塩カメラとデジカメ、ムービー各2台と、遊びには一台づつと決めて厳選した物を残し
他の物は、本当に役立ててくれる人、「腕」はあるが「武器」の無い後輩達に捨て値で譲った
金糸雀との生活も変わった
一緒に早起きをするようになった、カナと二人で毎朝6時半のラジオ体操なんて物を始めた、
出前とテイクアウトの食生活を改め、毎日ご飯を炊いた、貧乏写真学生の頃に立ち戻って自炊した
金糸雀には毎朝作ったお弁当を持たせた、カナの体の事を第一に考え、心をこめたお弁当
、
宅配のピザを頼むより、週末の夜に二人でおめかしして、石窯で焼いたピザを食べに行く生活
休日にはカナと思い切り遊んだ、温泉や旧跡に行った、部屋でDVDじゃなく本物の芝居を見に行った
今までやらなかった海のスポーツや雪スポーツ、登山や禅寺修行にも、カナと二人で挑戦したりした
「カメラマンズ・ワゴン」の響きに憧れ、助手時代にローンで買ったアウディ・アヴァントは売り払い
替わりに機材が積めてスタジオや現場の狭いスペースにも停められるジムニーを一括で買った
どこへでも駆けつけられるジムニーの月間走行距離は、アウディの時よりずっと多かった
色々な場所に出かけた記憶、カナと二人の思い出を、たくさん、たくさん、刻んだ
ローゼン・メイデン達ともよく遊んだ、カナほどは人懐っこくない、気難しい姉妹達だったけれど
服が目当てだお茶が目当てだと言いながらも、入れ替わり立ちかわり部屋まで遊びに来てくれる
無愛想な黒いドールが突然やってきて、一番いい服をよこしなさいと言って来た時は傑作だった
問い詰めると彼女は顔を赤らめ「メ・・・メグのご両親が会いに来るのよ!・・・悪い?」と怒鳴り散らした
みっちゃんはひとしきり大笑いした後、うんと上等で清楚なローラ・アシュレイを見立ててあげた
その黒いドールは後でクリーニングした服を黙って置いてった・・・「ご対面」はどうなった事やら
浮いた噂と縁遠い状態は当分変わりそうにない、どうも男の心について鈍感なのは昔からの性根らしい
でも・・・花の愛好家雑誌の仕事で知り合った、やたら無愛想な初老の資産家、結菱さんって名前だったか
あの人の事は何故か頭に残った「貴女はきっと、私と同じ秘密、素敵な秘密を持っている」という言葉
何かの洒落のセリフにしては、そのひとはあまりにも透明で無垢な瞳をしていた、ドールのような瞳
その仕事の後でみっちゃんの元に届いたお誘いの手紙、古めかしい蝋封付きの便箋に綴られた夕食の招待
どうしようかと考えてると、ふふっ、と顔がほころんでしまう、でも・・・きっとまだ、早いだろう
デートのお誘いを執事とやらに任せるようでは、きっと私にはまだ早い・・・「まだ早いゾ?お坊ちゃん」
でも・・・カナとの出会いで信じられるようになった「無限の未来の可能性」の中では・・・ひょっとして・・・
みっちゃんは未来を楽しみにしていた、毎日、明日を楽しみに、仕事に遊びに生きていた
みっちゃんは生きていた、カナとふたり、生きていた
その仕事っぷり、最初は便利に使われるだけだったが、その内周囲のみっちゃんへの評価が変わってきた
「みっちゃんはいい写真を撮る」から「みっちゃんに任せれば限られた状況での最善の物が出来上がる」
無理な納期でも間に合わせるみっちゃんの仕事は、上の人間の信頼を得はじめ
無茶な納期を押し付けるクライアントを怒鳴りつける姿に、下の人間は慕いはじめた
仕事を頼む人達も、仕事を受ける人達も、「みっちゃんなら大丈夫」と口を揃えて噂した
みっちゃんの撮影の腕は、自分でも気づかない位ゆっくりとだけど、磨かれ、冴え渡ってきた
笑顔のプロである子役モデルも、緊張で固まってる素人も、チラシ写真の鯵フライやホウレンソウさえも
みっちゃんがファインダー越しにラブコールを送ると、蕾が花開くような笑顔を浮かべた
今でもカードやローンの限度額にため息をつく事はあるけれど、みっちゃんの名前と評判を聞き
個人的な裁量で、マニュアルにある職業別限度額を大幅に越えたローンを通してくれる知人も増えた
信販会社からは限度額アップのお誘いが来るけど、どちらにしてもローンはあまり使わなくなった
仕事の出費も大きい買い物も、信用の出来ない銀行融資より自分の口座からの持ち出しで賄う事が増えた
それまで「経費」で乗せていたカナを着飾る高価なお洋服の支出を税務署に少々疑われたのには困ったが
来年明けの申告の時はこの「扶養家族」を机にドンと置いて税吏を引っくり返らせてやろうか、と思った
みっちゃんの成長に歩幅を合わせるように、金糸雀も少しづつ変わっていった
アリスゲームでいつも遅れを取っていたカナは、色々な物を見、聞き、触れ、成長と成熟を重ねていった
真紅が読書を重ねて知った心理学は、みっちゃんがカナを後学のために連れてってくれた永田町の取材で
「ひとの心理が剥き出しになる瞬間」を見た時に、カナが背中で感じた戦慄には及ばなかった
翠星石と蒼星石がnのフィールドで育んでいた巨木の自慢話も、みっちゃんと行った屋久島で
数千年の刻の輪を重ねた杉の幹に二人で抱きついた時に感じた、流れ続ける命の実感には敵わなかった
ドールのカナが宿す無限の命、人間のみっちゃんが営む老いていく命、それは全て同じ流れに在るもの
姉妹の悩みを引き受けるのは相変わらず姉御肌の真紅だったけど、彼女には経験の堆積が足りなかった
時に真紅にも裁ききれない問題が生じた時、彼女はいつも金糸雀が耳打ちしてくれる言葉に頼った
ドールのマスター達も、唯一の勤め人マスターであるみっちゃんと話す事で、多くの悩みを解きほぐした
「いつか究極の少女、アリスになる」というカナの長らくの夢は変わり始めた、カナの夢見る未来
「誰がアリスになろうと、皆でお茶して遊んで、そんな皆を誰一人犠牲にしない、誰も失わない」
ドール達の新しい未来を開こうとするカナの姿を見て、姉妹達は少しづつ変わり始めた
みっちゃんとカナは変わっていった、ある日突然ってわけにはいかないけど、少しづつ・・・少しづつ・・・
生まれ変わる事は出来ないけれど
変わっていくことは出来るから
以前よりずっと忙しく、とても時間の流れの早い日々を送ってたある日、お師匠から手紙が届いた
なぜかベラルーシ共和国の消印の押されたエアメール、中には一枚のチラシが入ってた
郊外の大手子供服量販店の新聞折込チラシ、これでも一応は、綺麗な服を着た可愛い女のコの写真
みっちゃんが撮影だけでなく衣装、コピー、レイアウト、印刷、頒布、その他、全ての進行に係った作品
渋い予算とトラブルの連続、妥協の産物だった、でも、その状況でみっちゃんは自分の全てを発揮した
神奈川県内で配布したチラシがなぜかお師匠の手元にあり、赤いマジックで大きな花丸が書いてあった
みっちゃんは自分の写真の腕に自信を持っていた、作品を生み出すたびに顧客や同業者が誉め称えるのは
当たり前だと思っていた・・・みっちゃんは今、初めて自分が認められた気がした、初めて・・・誉められた
チラシの間に挟まっていた一枚の紙、ホテルの便箋の走り書きを見た時、みっちゃんの目に涙が溢れた
らしくあれ
神はあなたがあなたらしく生きることしか望んでいないんです
p.s 今度あなたの小さなお友達にも会わせてね
わたしは・・・・・すぐそばで見つめてくれてるひとが居る・・・・・・・・離れていても見つめてくれるひとがいる
そのひとたちに・・・見て欲しい・・・わたしを・・・わたしの夢を・・・・・そして・・・夢に向かう、今のわたしを
遠くで見つめてくれるひと、すぐそばに居てくれるひと・・・今日もみっちゃんの横には、カナが居る
「カナ・・・ありがとう・・・・わたし・・・すべてに感謝してる・・・カナ・・・・カメラマンの仕事・・・
お師匠・・・・生んでくれたママやパパ・・・あなたを創った人形師さんや素敵な姉妹にも・・・ありがとう・・・」
「わたしの小さなバイオリン弾きさん、弾いてくれるかしら・・・・・『To love you more』を」
「まかせて!」
金糸雀のバイオリンが葉加瀬太郎のストリング・パートを誇らしく奏で始めた
みっちゃんの声が、セリーヌ・ディオンのヴォーカル・パートを静かに歌い始める
二人の旋律はいつまでも流れつづけた、二人を乗せて、未来に向かって流れつづけた
二人は、未来を信じていた
あとがき
アニメやコミックでは一番ひどい扱いwの金糸雀には、逆に無限の可能性を感じます
唯一の勤め人マスターであるみっちゃんには、つい感情移入してしまいます
JUMもメグも結菱サンも不労者だし、柴崎爺ちゃんは自営で半隠居だし
不明な部分を思い切り俺補正してしまいましたが、まぁ10マソの服をポンと買える経済力ですから
では
GJ!
金糸雀とみっちゃんはいいコンビになりそうだよね
みっちゃんがこれだけクローズアップされているのを読んだのは初めて
力作GJです。
しっかし、以前のバーゼルとか今回のワグナーとか
趣味がオイラとモロカブリですっごいうれすぃ〜っすよ(w
375氏は年末恒例のNHKバイロイト音楽祭放送を聴いてるとオイラは読んだ!
あそこでラインの黄金って…大丈夫かカナリア!あの分散和音は狂的だぞ!
おいらもまた何か書きたくなってきたよ(w
どうも、始めまして
以前総合スレの方で、1つの妄想が流れたんですが
それが面白くて、是非こちらのSS職人の方々に
その妄想ストーリーを完全化させて貰いたく、来させて戴きました。
個人的には金⇔銀が見たい
金に入れ替わった銀は、とりあえずミーディアムであるみっちゃん宅に帰る。
するといつもの行事でまさちゅーせっちゅー。銀大混乱。
銀に入れ替わった金は、自由自在に飛びまわれる事にはしゃいで空中散歩
その後胴体が無い事に気付いて、10分程銀に対する同情、黙祷を捧げる。
そのあと、一度やってみたかった黒龍波を桜田宅で乱射
ドールズ大迷惑。
どなたかお願いします。
リクエストスレは別のあった希ガス
>>375 っはぁ〜・・・
まさか翠派の私が、何の興味もなかったカナペアに
心を動かされるとは思いませんでした。
次第に成長して行く彼女達、そして後半部分では
心の中でジワッと感じさせられる物がありましたw
もうあとはこれだけです。
ブラボーブラボー!
>>378 何か書きたくなってきたとか書いた後に
んな事書かれると、何だかオイラが書かにゃならないヨウナ気が…
しかも、ここに誘導されて書いた最初の話しが似た物ダッタヨウナ気もするヨウナ…
まぁ、前のに書いたピエールの奴とか、神父と水銀燈とか、薔薇水晶出撃前夜の話とか
そんな感じのおいらで良かったらガムバッテみますけど。
>>375 あん?何言ってんだおめえ
金糸雀は今ようやく日を浴び始めたところだろうが
>>381 差し支えなければ、よろしくお願いしますー♪
>>367 GJ!!
自然と引き込まれる文章がすごい!
385 :
364:2006/04/16(日) 23:38:49 ID:bwnF4Fmf
>>367-374 微に入り細に至る描写は、真似出来ません。脱帽。
薄っぺらな話しか書けない自分が恥ずかしいです。
>>385 なぁーにをおっしゃる兎さんー
いや、マジ素晴らしかったですよ
恥じる様な個所など。むしろ誇ってもいいと思いますよ
>>385 作風は人それぞれ。
心理描写が得意な人もいればギャグが得意な人もいる。
皆違うから面白いのであって一緒だったらトリビァル!
>>385 そう思いますよ。
ところで、起きろの歌にサクラ大戦3のエリカの歌を思い出したのは
オイラだけではあるまいて。
おっはよーおっはよーぼんじゅーる♪
370
些細な話し
舞台神聖祭典劇「ニーベルングの指輪」は
ラインの黄金=前夜
ワルキューレ=第一夜
ジークフリート=第二夜
神々の黄昏=第三夜
>>385 何か読み返したら意味不明だったので
「そう思いますよ。」は
>>387を受けての感想ですので。
「やあ、ドールズ。」
カップ麺が喋った。 おいおい。 僕は熱湯を注いだだけだぞ。
予想外の事態に何のリアクションも取れずにいると、性悪人形が駆け寄ってきた。
「蒼星石…………!!!」
何言ってんの。 何言ってんの。 即席めんと聞き間違えたのだろうか。
「蒼星石………生きて………生きていたんですね。 ………ぐすっ。」
「ふふっ………相変わらず泣き虫なんだね。 …………ただいま。 翠星石。」
カップ麺が微笑んだように見えた僕は、どうかしてしまったのだろうか……。
「凄い………呼び戻したんだわ。」
いつの間にか傍らに来ていた真紅が感慨深げに、いつぞやと同じセリフを呟いた。
「いや、あの……真紅さん。 これ、麺類じゃないっすか。」
ごもっとも。 ごもっとも僕。 もう全然裁縫の腕とか関係ない。
え、何で? 何で狼狽えてるの僕だけなの?
カップ麺が喋ってるんですよ。 何でお前らちっとも驚いてないの?
おかしいよこの家! 何で僕の方が異端に見えるんだよ!
「凄いわジュン……貴方の指は、まるで美しい旋律を綴るよう……。」
出湯のボタンを押しただけなのだが。
え〜。 認めたくないが、目の前の現実を整理すると。
このカップ麺はどうやら結菱の屋敷で最期を迎えたはずのローゼンメイデン第4ドール。
「あの」蒼星石という事らしい……。
日本人にはごくたま〜に、猛烈にカップ麺が食べたくなる日というものが存在する。
今日は日曜日、のり姉は部活。 「麺欲」を満たすには最適の日…のはずだった。
なのになぜ自分は今も腹を空かし。 なぜ眼前には狂ったとしか言い様のない光景が展開されているのだろう。
「ふふ……こうして蒼星石の髪を梳くのも久し振りですね。」
「ごめんよ……僕も君の髪を梳いてあげたいけど、生憎と腕が無いんだ……。」
「大丈夫よ、蒼星石。 ジュンの技術なら貴女に腕をつけるくらい造作も無いわ。」
箸で嬉しそうに麺をほぐしながら、優しくカップ麺に語りかける翠星石。
返答するカップ麺。(のびてきた)
サラッと訳の分からない事を言う真紅。 ならお前やってみろ。
「あ、あのさ……言い辛いんだけど。」
苦言を呈そうとした矢先、翠星石と目が合った。
……あぁ。 ………………泣いている、のか。
当たり前だった。 そうだ、分かっているのだ、彼女だって。
こんなのは、望まれたかたちでの再会じゃない。
カップ麺は永遠ではない。 まして今は夏場だ。 あっという間に腐ってしまうだろう。
別れの時は、きっとすぐそこ。 それでも。 たとえ束の間でも。 最愛の妹と再び巡り合えたのだ。
どうして自分は、その気持ちを分かってやろうとしなかったのだろう。
今の翠星石のためを思うなら、カップ麺が喋るくらい些細な事じゃないか。
「……なんか飲むか? 入れて来るよ。 蒼星石もスープが減ってきただろ?」
「! ……ジュン。 …………………………ありがとう、です…………。」
「私には紅茶を入れて頂戴。 ミルクも忘れないでね。」
そう言った真紅の眼差しはどこか優しげで、なんだか照れ臭かった。
「そうだね……僕も紅茶を貰おうかな。 何だか酷く喉が渇いてね。」
すまん。 君は激辛キムチ味なんだ……。
「あ、待つですジュン。 翠星石も手伝うですぅー。」
台所に立とうとする僕に翠星石が付いてきた。
「いいのか? ……久し振りじゃないか。」
リーフを選びながら、無難な言葉を選んで聞いてみる。
束の間の再開。 1分、1秒でも惜しいはずなのに。
少しの間を置いて、翠星石がぽつりぽつりと呟いた。
「……言いたい事は沢山あるです。 あれも、これも、それも。
でも、いざとなると、胸が詰まって言葉が出て来ないです。
……こんな短い時間じゃ、足りないです。 ぜんぜん、ぜんぜん、足りないです……!」
胸が締め付けられる気がした。 もし自分と姉が、最後の時を過ごすとしたら。
自分には何が言えるのだろう。 別れを受け容れて、耳に心地良い言葉を捜すのだろうか。
それとも、最後まで「今」を大切にして、さよならを飲み込むのだろうか。
……分からないけど。 今、僕には言ってやれる事がある。
「いつも通りに喋ればいいさ。 今日お前が、妹とお別れしなきゃいけないなら。
……何時だって、何度だって、あの子を呼び戻してやるから。 ………ぼ、僕が、さ。 」
「…………ジュン………!!」
僕にしがみついてしゃくり上げる小さい背中を、少し照れ臭いけど抱き締めた。
安請け合いをしてしまったけど。 僕にその力があるというなら、そうしたいから。
「きゃああああああーーーーーーー!!??」
突然の悲鳴で、僕らは我に還った。 この声は……真紅!?
あの真紅がこんな大声を上げるなんて……。 大慌てで居間に戻った僕達が見たものは。
「うい?」
無邪気な顔でカップ麺をすする雛苺だった……。
「ごめんなさいなの…………」
事情を知って散々泣き腫らした雛苺が、もう何度目か分からない謝罪を口にする。
「私が悪いのだわ……。 私が部屋にマイカップを取りに帰ったりせずに、蒼星石の側についていれば……」
真紅は真紅で、見ている方が辛くなるくらいしょげきっている。
なんて事だろう。 あまりにあんまりな結末に、僕は何も言えずにいた。
蒼星石は結局ほとんど言葉を交わす事なく、再び遠い所に旅立ってしまったのだ。
ちらりと翠星石の方を見る。 彼女は先程から俯いて押し黙ったまま。
こんなの、慰めるなんて不可能だ。 再会も別離も、何もかもが普通じゃなさすぎた。
あぁ、でも。 雛苺と真紅を見る。 今は、僕が何とかしなくっちゃ。
口を開こうとしたその瞬間、先に口を開いたのは翠星石だった。
「ほらほら皆、何て顔してるですか。 こんなの蒼星石は望んでないですよ!」
蒼星石の名前が出た瞬間、雛苺と真紅がビクッと肩を震わせる。 そんな二人に翠星石は優しく語りかけた。
「こぉら、食い意地の張ったおバカいちご。 いつまでそんな顔してるです。
カップ麺は食べられるためにあるですよ? 雛苺がしたのは、当たり前の事です。」
「でも、あれは蒼星石だったの…………」
また泣きそうになる雛苺。 それに被せるように、翠星石が続ける。
「…確かにあれは蒼星石でした。 でも、カップ麺だったんです。
カップ麺ですよ? 悪い冗談にも程があるです。
本当の蒼星石の体は、ほら。 今もおじじのお屋敷で眠ってるですよ。」
「きっと蒼星石は、あんまり私が泣いてるもんだから、ちょっとの間だけ無理して帰ってきてくれたんです。
だってそうです。 私が泣き出すと、いつだって蒼星石は飛んできて、側に付いていてくれたから。」
「だから、きっと。 また会える気がするんです。
……蒼星石は。 こんな形になってまで、飛んできてくれたんだから。」
夜。 昼間の事が気になって眠れない僕は、通販で買ったプラモデル「ガンガル」を組み立てていた。
正直こんなネタプラモ要らないが、クーリングオフできなかったのだ。
ふと。 背後に気配を感じて振り返る。 そこには予想通りの人影があった。
翠星石……そうだよな。 眠れるわけが無い。 真紅も雛苺も、今日は中々寝付けなかったみたいだった。
まして双子の姉である翠星石ともなれば、その心中は察するに余りある。
「ジュン……昼間は…………ごめんなさい、です。」
「…………なんでお前が謝らなくちゃいけないんだよ。」
誰よりも一番苦しんでるはずなのに、まだ気を遣うのか。
自分よりも真紅と雛苺の事を気に掛けて。 今、僕にまで気を遣ってる。
そんな事しなくていい。 そう言ってやりたかったけど。 今は何を言っても、苦しめてしまいそうで。
「…………ありがとう、ジュン。 …………伝わる、です……。」
……あぁそうか。 マスターとドール。 その心の海は繋がっている。
わざわざ言葉というフィルターを通さなくても、伝わるのだ。
「でも、私は、本当に大丈夫なのです。 ……だって、信じてるですから。
ジュンのこと。 ジュンが、昼間に聞かせてくれた言葉。」
「え…………」
(何時だって、何度だって、あの子を呼び戻してやるから。)
「あ、あれは………………」
「……ジュンは、自分の可能性を否定するかもしれません。 ……でも、私は。
信じてます。 信じられるのです。 ……ジュンの、ことば、なら。」
……胸が。 胸が痛い。 はじめて、本当の翠星石を見たような気がした。
知らず手に力がこもる。 ………あぁ、なんて、やわらかい……。
………………へ? やわらかい!? ガンガルが? ……恐る恐る手元を見る。
「やぁ。 ジュンくん。」
ガンガルが喋った。
次の日の朝。 ガン星石はドールズから熱烈な歓迎を受けた。
「凄い………呼び戻したんだわ。」
お前は他に言う事は無いのか。
「蒼星石かっこいいのーーー!」
ガンガルだぞ……ガンガルなんだぞ……。
「蒼星石、お久し振りなのかしらー!」
「誰だっけ?」
神奈川が泣き出した。
ああもう騒がしい……昨日のお通夜ムードは一体何だったんだ。
「ジュンくん……もう片方の腕にもデカールを貼ってくれるかい? その方が美しいよ。」
「………………」
昨日喰われたばかりだというのに、恐ろしくマイペースな奴だ。
今も乙女のドレスアップとやらで、面相筆で細部を塗装させられている。
「ひゃあっ!?」
「絆パンチ!!!」
ガンガルが奇声を上げた次の瞬間、真紅の鉄拳が僕の顔面にめり込んだ。 鼻が! 鼻が!
「まったく人間のオスは想像以上に下劣ね……塗装にかこつけて、まさか筆で乙女のあんな所を……」
「分かるかぁーーー!!!」
「まだ接着剤が乾ききってないね。 ちょっとだけ……こうしててもいいかな。」
「まぁ……フフフ、蒼星石は甘えんぼさんですね。」
肩に寄り掛かる妹?を前に、翠星石が満面の笑顔を見せる。
カーネルサンダース並の可動範囲の狭さが災いしてか、寄り掛かるというより潰されてるようだ。
まぁそんな事、今の翠星石にとってはどうでもいい事だろう。 …たぶん。
カップ麺からガンガル。 食物から人形へ。 見ようによっては一歩前進だ。
だが、以前より確実に騒々しくなった部屋を見て、一瞬ジュンはこれで良かったのだろうかと思わず自問してしまった。
目頭を押さえて俯くジュンに、翠星石がいつもの調子でのたまった。
「まぁ今回の事は確かにジュンのお手柄ですけどぉー。 だからってあんまり自惚れるなですぅー。」
な!? なななな!? 何だそりゃ。 そりゃ無いだろ!
お前な、昨日の夜はあんな泣いてた癖に……。
文句を言おうと顔を上げると、そこには柔らかな笑顔の翠星石がいて。
あぁ、くそ、まったく。
照れ臭くて視線を逸らすと、今度はガンガルと目が合って。
ガンガルが微笑んだように見えた僕は、何だかこんな日常も悪くないような気がしたんだ。
おわり
蒼星石ぃぃーーー!!!www
もし呼び戻せるなら蒼人形を作って呼び戻せば良かったんでは?
面白すぎる!GJ
ガンガル吹いたwwww
ジュンに賛同
これでよかったのか?w
カップ麺てwww此処はグロ禁止だぞwwwwww
>>375 良かったけど一気に投稿せず何日かに分けてやればよかったのに
あまり集中するとまた過疎る
こんにちは、蒼星石です
んー、ジュン君はまだ僕のアドバイスを聞いていないようだね
勉強をやるにしても、あの暗い部屋での勉強は大きなマイナスなんだ
小さなライト、睡魔を押し殺しての勉強、多くの面でマイナスになっているね
僕の見たいジュン君に一日でも早く戻ってくれる事を望んでいるよ
そうそう、図書館での勉強は欠かさないでくれ
沢山勉強して復学してほしいな
>>396 あまりのカオスっぷりにGJがとまらないwwww
ちょっと質問なんですが
こちらのスレでは性的な意味を含まなければ
夜ネタのSSを投下してもよろしいのでしょうか?
別に性的=夜じゃないだろ
>>401 俺は一気投稿支持派、読みやすくレスしやすく、スレへの負担も少ないと思う。
連載形式での投稿も、続きを楽しみに待つ気分でスレを開くのが楽しくなる。
投下のスタイルは職人諸氏の好みや都合に合わせて、好きな方法で投下して欲しい。
直後投下とか途中投げ出しとか、やらないほうが望ましい投下方法もあるけど
そういうマナーに反しない範囲で、複数の投下方法が許容されるスレでありたい。
408 :
ケットシー:2006/04/17(月) 20:37:52 ID:1a7WfB+T
>>345 ジュンはめぐを振り切るために家の中を走り回っていた。いや、家よりも屋敷と言った方がしっくりくる。余裕で人がすれ違いできる幅の通路が何十メートルと続き、部屋数も相応にある。
真紅は大邸宅に住まうお嬢様だったのだ。彼女の硬い口調や、値段の張りそうな本のコレクションを見れば、それも頷ける。
しかし、今のジュンにとって真紅の素性がどうなどという話は二の次だ。背後から迫るめぐを巻けなければ、身の安全は守れないのだ。
通路の壁に掛けられた絵画や脇に置かれた調度品には目もくれず、逃げ道だけを探してひた走る。
だが悲しいかな、ジュンの逃走はめぐには通用しそうになかった。彼女にはジュンには無い優れた移動方法がある。それは、翼を使った飛行だ。
全力で走るジュンの後ろを、余裕を持って追うめぐ。黒い翼を広げて飛ぶ姿は優雅にさえ見える。追う目的を知っていれば、そんなふうには断じて見えないだろうが……。
「――行き止まりッ!?」
慣れない屋敷内で、いつまでも走り回っているのは不可能だった。
ジュンが何度目かに曲がった角の奥は、ドアが一つだけある薄暗い行き止まりだった。
このドアの向こうは用具置き場か何かだろう。この日当たりの悪さといい、埃臭さといい、人が住んでいるような環境には見えない。
立ち止まった彼のすぐ後ろで、着地しためぐが翼を畳む。
ジュン、絶体絶命のピンチだった。
409 :
ケットシー:2006/04/17(月) 20:38:51 ID:1a7WfB+T
真紅は自室で本を広げていた。
しかし、手元の本は同じページのままで、一向に先に進まない。それもそのはずで、真紅の視線は本の文字を追ってはなかった。
彼女の目は開いているだけで、何も見えてない。頭の中は、人形の男の子の事でいっぱいだった。もう一体の人形に襲われてないか気掛りで何も手に付かない。
ジュンを追い出したのは真紅だが、だからこそ気になってしまう。彼女は負い目に近い感情を抱いていた。
「ジュンが悪いのよっ。私は悪くないわ」
読書を妨げる余分な思考を振り払おうと、真紅は独り呟く。もう一度、紙に並ぶ文字に視線を落とし、読書を敢行しようとする。
しかし、感情は荒れるばかりで、文字を強引に目で追っても内容が全く頭に入らなかった。
落ち着いて本を読むために独りになったのに、これでは逆効果だ。
「ほんっと、手間の掛かる子なのだわ……!」
ついに真紅が音を上げた。文句を言いながら席を立つと、本をテーブルに放って部屋を出て行った。
410 :
ケットシー:2006/04/17(月) 20:39:38 ID:1a7WfB+T
袋小路に捕まったジュンの背後から、黒い翼の悪魔が忍び寄る。その殺気を背中に感じた彼は、恐る恐る振り向く。
「もう逃げないの?」
そこにいたのは、嬉しそうに笑みを浮かべるめぐだった。今の彼の目には、その笑みも邪悪なものにしか映らない。
ジュンは体を敵の正面に向けて後ずさる。後が無いと判っていても、怯える身体が彼女から距離を取りたがった。
「こんな暗い所に逃げるなんて……。もしかして、私を誘ってる?」
めぐの冗談か本気か区別のつかない発言に、ジュンは大きく首を振って否定する。
その必死な様子が可愛く見えたのか、彼女はクスクスと笑いながら足を前に踏み出す。こうなっためぐは、ちょっとやそっとでは止まらない。
後退するジュンの踵が閉ざされたドアに突き当たり、めぐがじりじりと距離を詰める。
息をする音さえ聞こえそうな距離に近付いためぐは、ジュンのメガネを外して瞳を覗き込む。その目は、恐怖で大きく開かれていた。
「怖がらないで。これは、お父様の望みでもあるのだから」
めぐはそう囁いてジュンの肩に手を置く。触れられたジュンは、悲鳴に近い声を上げた。
「めっ、めぐ――」
めぐはこれ以上騒がれる前に強引に声を奪った。口を口で塞ぐという強引な方法で。言ってしまえば、キスである。
途端にジュンの頭は真っ白になる。極限まで張り詰めていた彼の心は、キスだけで流されてしまったのだ。
ショックで放心状態の彼をめぐが見逃すはずがない。その隙に、舌を彼の口に送り込む。
腰の抜けたジュンは、背中をドアに預けたまま、ズルズルと尻餅をつく。その間も、めぐは唇を逃がさなかった。
411 :
ケットシー:2006/04/17(月) 20:40:35 ID:1a7WfB+T
長い長い口付けがようやく終わり、めぐがジュンの唇を解放する。その必要が無くなったからだ。ジュンの瞳は虚空を見たまま動かず、心ここにあらずといった様子だった。完全に陥落していた。
「可愛い子……」
めぐはうっとりとした表情で、ジュンの頬の形を指でなぞる。顎の先までなぞり、行き場をなくした指先は、そのまま学生服のボタンへと移る。第一ボタン、第二ボタンと素通りした指先は、彼のズボンへと向かう。
チャックに到達しようとした時、その救世主は現れた。それも、いきなり飛び蹴りで。
「桜田君、危ないッ!!」
「ほげっ!!」
もろに両足を側頭部にもらっためぐは、頭から壁に突っ込んで倒れた。人間なら頭が割れて流血の惨事になっていただろう。
その救世主は、セーラー服を着た少女の人形だった。髪型は健康的なショートカットで、左目の泣き黒子がチャームポイントになっている。
新たに現れた人形は、ジュンの様子を見て慌てふためく。彼は未だに放心の真っ只中だったのだ。
めぐに何をされたのかは知らないが、どうにかしないと……。
そう思ったセーラー服の人形は、ジュンの前に膝を着いた。
「こういう時は、人工呼吸が基本です」
意味の解らないことを言った彼女は、ごくりと生唾を呑む。この先の行動は、誰でも想像できる。
そして、彼女は期待を裏切らなかった。ゆっくりと唇を寄せ、瞼を閉じる。
412 :
ケットシー:2006/04/17(月) 20:41:21 ID:1a7WfB+T
だが、唇が触れ合うことは無かった。隣で復活しためぐが、飛び蹴りをお返ししたのだ。
「ジュン、危な〜いッ!!」
「はぶううぅっ!!」
セーラー服の少女は、めぐとは反対の壁に頭を打ち付けて沈黙した。だが、めぐの蹴りは助走が少なかったせいか、すぐに立ち上がる。
「何するの!」
「何するのじゃないわよ! それはこっちのセリフ」
初めてまともに顔を合わせた二人は、敵意を剥き出しにして大喧嘩を始めた。この二人の間には、何やら因縁めいたものがあるようだ。
髪を掴み合って子供みたいな喧嘩を繰り広げる横で、ジュンが正気を取り戻す。
「あ……柏葉も起きてたんだ」
二人の動きがピタリと止まる。惚れてもらわないといけない相手の前で、幼稚な姿は見せられない。利害が一致した二人は、素早く離れて笑顔を作る。
「三日前に目覚めたの。桜田君は?」
「昨日起こされたばかりだよ」
ジュンは自分の足で立ち、お尻の埃を払う。
これが、第六ドール柏葉巴とジュンの運命の再開だった。
つづく
413 :
ケットシー:2006/04/17(月) 20:43:01 ID:1a7WfB+T
上にもありますが、考えなしで連載物を書き始めるものじゃないですねぇ。反省しております
この話でかなり苦労してます。
突然ですまないですが、スレ住人に聞いてみる。
総合スレで途中になっていた欝話の続きをここに投下してもいい?(死にまくりのあれです)
独断で投下しちゃうのもまずいかと思いまして、意見を聞いてみた次第です。
(今やってる話がつまったりはしてませんよ!つまっていませんとも!多分……)
414 :
にんじん:2006/04/17(月) 21:27:38 ID:fZOMSH2z
/ /// / //
′ /// / //
| r'/:::::\/ ィ /
| |'ヘ::::/ /
∠! へ\</´
/ \ ヾ
/ ヽ |!|
/ }ヽ 〉
{ ̄ ̄ ‐- `′ i トリビャルですぞー!!
ヾ- ――- 〉 .:o:.
\ (__,.. ソ
_r― ー;.,.,. '´
_/マ==|ヽ{、
-‐ .:::.:::.::\::\└勺! ,. ---,
//.:::.:ヽヽ:::.:::.:ヽ:::.\ ゞヽ、 / ∠二/ノ_
|l:::.:::.:::.:i i:::.:::.:::.:i l:::.:ヽ ヾヽト、 / ´ ̄ _∠二ニ'
|l:::.:::.:::.:j l:::.:::.:::.::|ヽ:::.::ヘ `i! l:::ヽ ヘヽ ,. ´
亅L. イ /.:::.:::.:::.\\:::.:Y i! l::.::| /:::.:::.:::i丿
f―::: /:::.::l:.:::.:::.:::.:::.\`:::Yi! |:V| /::.::.::.::.:/
ヾ ∠:::.:::.:::j.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.∧i!|/::ト /.::.::.:::/
| /:::.:::.:/:.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.\il!|::;ハ /::.::.//
| i:::.:::.::∧:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::レ/!:\ヽ /::/ /
| l:::.:::.∧ ヽ:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::/:::.:::.ヽ了/:/ /
>>413 虐待でないからいいんじゃないかな。
個人的には続きが気になっていたんで書いて欲しいな。
>>413是非書いてほしいです。
もうあの続きは見れないのかと軽く凹んでましたからね。
>>413 私もあの話の続きはすごいみたいですが、最近ローゼンSS関係の板
全部荒れ気味だし一応反対な人は少ないと思いますけどちょっと長めに
2,3日意見聞く時間取ったほうがいいかなと思ったりしました
話かわる上に微妙に書いてた板もちがうけど双剣さんのSSもよみたいよ・・・・
>>413 翠がお亡くなりになって俺を。・゚・(ノД`)・゚・。とさせたやつですか?
それならwktkwktk('A`)
>>413 欝話が来るのは一向に構わんが今のが楽しみで楽しみで仕方ないので打ち切りだけは勘弁してくれ
今日は私たちローゼンメイデンをケロロ軍曹に当てはめてみたのだわ
いつも通り姉妹順で水銀燈から
3「武闘派ですぅ」
2「ツンデレかしら」
ギロロ伍長がぴったりなのだわ
1「いつになったらペコポン侵略をするのぉ?お馬鹿さん」
2「次は金糸雀かしらー」
6「黄色いのー」
4「いつも変なこと考えてるよね」
クルル曹長に決定なのだわ
2「ローゼン小隊1の頭脳派かしらクーックックック」
3「翠星石の番ですぅ」
4「甘いもの大好きだよね」
1「あら、真紅がJUMと一緒に居るわぁ」
3「しぃ〜んく〜、真紅ばっかりJUMと一緒でずるいですぅ〜・・・!!」
6「語尾も一緒なのー」
あらタママ2等兵、なにかしら?
4「次は僕の番だけど・・・」
1「影薄い」
2「影薄いかしら」
3「青いですぅ」
影が薄いのだわ
6「ドロロ兵長なのー」
4「ひどいやみんな、僕だけ僕だけ・・・」
私の番のようね、くんプラを作っている時が無常の幸せを感じるでありますのだわ
3「そうやってすぐに仕切ろうとしたがるですぅ」
2「でもそれぐらいしか役がないかしら」
6「最後は雛の番だけど、っていうか役者不足なのー」
1「全然女子高生でも恐怖の大王でもないじゃないの」
仕方がないわね、アンゴル・モアに決定でありますのだわ
6「おば様ありがとうなのー、っていうか感謝感激なのー」
さて、最後はみんなで共鳴するでありますのだわ
メイメイメイメイメイメイメイメイメイメイメイメイ
ピチピチピチピチピチピチピチピチピチピチピチ
スイスイスイスイスイスイスイスイスイスイスイ
ホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリ
ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ
偽7「マタ忘レラレタ」
1「宇宙探偵864(バラシー)」
2「宇宙探偵864かしら」
3「宇宙探偵864ですぅ」
宇宙探偵864でありますのだわ
6「宇宙探偵864なのー」
偽7「ハーッハッハッハッハッ・・・」
7「すみませんすみません、姉が本当にすみません」
4「ううう、僕なんか・・・僕なんか・・・・・・」
>>413 >>419に同意
自分も欝話が来るのは一向に構わないから、今の話は続けてください。
楽しみにしてるんで・・・
>>413 水銀燈は死に際さえ何も語られないあの話か
424 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:17:35 ID:F48kqBOe
今日も一日楽しかったです
蒼星石と一緒に遊んだですし、チビ苺や金糸雀を苛めて気分壮快でした
真紅とはくんくんの推理合戦で盛り上がったです。
結局は真紅に言い負かされちゃいましたけど・・・
けど、あの事件の犯人は絶対あの猫の小娘だと思うのです。翠星石が言うんだから絶対そうです。
のりの作ってくれたハンバーグも美味しかったですし
どうしようもないチビ人間も・・・・この翠星石が構ってやってるおかげで
引篭りとしては真っ当な日々を送ってるです。
とにかく、今日も楽しかったです。
425 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:20:38 ID:F48kqBOe
そんな風に、何気なく一日を振り返る緑のドレスに頭巾を被ったドールが一人
明日はどんな楽しい事が始まるのだろうか・・
太陽はすっかり沈んでいて、空には数多の星とまん丸のお月様が浮んでいる
時計の針は9時を指していて、もう寝床に着く時間である
「おやすみなさい」
「おやすみなのー」
「あぁ、おやすみ」
そう眠りの挨拶をすると、2人は鞄を閉め深い眠りに着く
ドールにとって、睡眠の時間は過去と今を繋ぐ大切な時間なのだ
机で勉強に勤しむジュンは、私達がせっかく声を掛けたのに
本人ときたら教科書とばかり睨めっこして
まぁったく、翠星石達が声を掛けてるんですから少しはこっちに振向いたらどうなんですー?
大体チビ人間はですね〜・・・
何て頭の中で一人説教をごねていると
「おい」
「ひっ!」
「ん・・・寝ないのか?」
「い、いきなり振向くなですぅ!」
突然のジュンからの声にあわてて部屋から出る
「なんだよ・・まったく・・・」
バタン、そのまま背中に腕を組みドアにもたれ掛かる
何だろう、この胸のドキドキは・・ちょっとジュンに声を掛けられただけなのに
「こんなんじゃ、眠れないです・・」
「あら、どうしたの翠星石ちゃん」
振り向くと寝間着を着たのりが心配そうにこちらを窺っている
彼女はいつも私達を気遣ってくれて、引篭りの弟もいるのに大変な野郎ですぅ
そんな人柄から、この娘には何でも相談したくなるのだが
今回ばかりは打ち明けるわけにもいかないので、頭の中でストッパーがそれを押し止める。
「な、なんでもないですーのりはもう寝るですか?」
「うん、翠星石ちゃんも早く寝なきゃダメよ」
翠星石のその言葉を聞くと、のりの曇っていた顔が途端に晴れ渡る
この女の前じゃおちおちあくびも出来ないですねぇ
お節介にも等しい心配性の彼女だが
でも、そんな所がみんなから好かれていると翠星石はいつも思っている
「それじゃあ私もそろそろ寝るね」
そう言い残し、のりが自分の部屋に戻ろうとしていたその時
そんなのりの背中を見詰めながら、翠星石の頭の中で1つの考えが過ぎった。
そして、その考えが口に伝わり声に漏れてしまう
あわてて頭の中で揉み消そうとしたがもう遅かった
「ちょ、ちょっと待つです」
「え、何かしら」
案の定、のりの歩が留まりこちらを振り向いてしまった
思わず頭の中で後悔と混乱が渦を巻く
何で引き止めちゃったんだろう、こんな事したらどうなるか・・・
ええーい、落ち着くです翠星石!言っちゃった物は仕方ないです!こうなったらとことん貫いてやるです!
「えーと、ですねーー・・・」
426 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:24:19 ID:F48kqBOe
「・・・・」
翠星石が部屋を出てからもう30分くらい経つだろうか
あれからすっかり気が滅入り、一応机に座ってはいるが勉強に気合いが入らない。
「・・・僕が何したって言うんだよ」
誰もいない部屋で(2体のドールはいるが)答えの帰って来ない疑問が宙を舞う
僕が何したって言うんだよ、悪いのはあいつだろ?勝手に出てって・・・
なんでこんなに気にしているんだ僕は・・
「・・・トイレに行くだけだからな、あいつの事はついでだからな・・」
そんな言い訳をしながら、何一人で喋ってるんだろう僕は・・・
席を立ちトイレへ、もとい翠星石を探しに部屋を出ようとする
ジュンがドアの前まで歩を進め、取っ手に手を掛けようとしたその時
ガシャ、
「うわっ」
ドアが開き翠星石が戻ってきた、しかし
ジュン「なんだ、人がせっかくトイレ・・・いや、・・ん?」
「えーと・・・」
ドアが半開きで、翠星石は頬を赤らめ顔だけ出している
何と言うか、全部出てこない。
「どうしたんだよ、さっきの事気にしてるのか?
・・・えーと、何か気に障る事したんなら謝るけど」
「そんなんじゃないです、べ、別にあれは何でもないです・・・」
どうやら自分のせいじゃないらしい。そうと解ると、少しおちょくって見たくなった
・・・が
「そうなのか、あーじゃーわかったぞ、おねsッグハッ!」
"おねしょ"と言う前に消しゴムが飛んできた、どこに隠し持っていたのやら
顎に当たってそのまま後ろのベッドに倒れ込む
「だ、だぁ〜れが!ドールはチビ人間みたいに汚い老廃物なんか出さないのですー!
乙女の前でそんな汚い事吐きやがるんじゃねーです!この老廃チビ人間!」
頭を抑えながら、・・・倒れた拍子に打ったらしい。必死に言い返す
「いってて・・・、消しゴム投げる乙女何て聞いた事ないぞ!じゃーなんなんだよ」
「そ、それは・・・・」
この反論に翠星石がわずかにたじろぐ、効いたのか?
「わ・・・笑うなですよぉ・・・・」
427 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:26:22 ID:F48kqBOe
そう一言告げると、頬を赤らめたままドアを開き全貌を露わにする
次はどう言い負かしてやろうか、そんな事を考えていたジュンだが
翠星石の姿に途端に思考が止まってしまった
目の前にいる翠星石は、いつもの緑のドレスに頭巾を被った服装ではなく
長袖に長ズボンで首の付け根に留め具のボタンが二つ付いた、布は緑色の柄に水玉模様の
言わいるパジャマ姿の翠星石がそこに立っていた。
「ど、どうしたんだよ・・・その格好」
あまりの予想外の展開に戸惑うジュン
いや、別に服装が変わる事はおかしい事じゃないんだが、こいつらがいつもと違う服を着ている所何て
金糸雀のミーディアムの家でコスプレ何て事をしたらしいけど・・・
この目で見たのは初めてだったので、尚更なのかもしれない
「え、えーと・・・」
戸惑うジュンとはまた別に、翠星石の頭の中もてんてこ舞いになっていた
のりにお下がりのパジャマを貸して貰って、それを着たまではいい物のそこから何も考えてなかった
困り顔でちらちら自分を覗うジュン
それが更に彼女の顔を赤くさせる、もう少しで真っ赤なリンゴになってしまいそうだ。
そして、そんな時間がしばらく流れた。そして、この空気を断ち切ろうとジュンが口を開ける
「とりあえず、寝たらどうだ・・?その、ドールにとって眠りの時間は大切なんだろ?
ほら、もう9時も過ぎてるし」
ジュンは目線を時計に向ける。時刻はもう10時半だ
本来9時になると寝ているドール達、翠星石にとっては結構な夜更しだろう
「・・・いやです」
「え?」
「・・・せっかくパジャマを着たですのに、このまま鞄で寝る何て
それじゃ着た意味がないです。翠星石はごめんです」
これまた予想外の事態に困り果てるジュン
そして翠星石は顔を赤らめ俯きながら、・・・腕を揚げ、ベッドで頭を抱えて座るジュンに指を指した
「・・そこで、寝たいです・・・」
428 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:28:16 ID:F48kqBOe
・・・どうした物か、僕はただいつもの様に
翠星石達が鞄で寝て、机で教科書の問題を解いて、その後僕も寝て、起きて・・
そんな普通の日常を、いや、動いて喋る人形がいる何て普通じゃないか、いや、今はそんな事じゃなくて
どうしてこんな事になったんだ?
どうしてこんな成り行きになったのか、そんな多くの不確定要素が頭の中を渦巻きながら
今僕はベッドで寝ている
そして、その傍でパジャマ姿の翠星石が一緒に寝ている、同じ布団でだぞ!?
もちろん、こんな状態で易々と寝れるはずもなく
2人して目がギンギンに開いている。
お互いに背を向けて、何を喋っていいやら、この場をどうすればいいやら
1つのベッドの下で激しい心理戦が繰り広げられている
そしてそんな中、最初に口を開いたのは翠星石だった
「ジュ、ジュン・・、は・・・」
後ろから聞こえてくる声
掠れた声で、一言一言言葉に迷いながら綴られていく
「真紅の、事・・どう思ってるん・・・ですぅ?」
「え?」
これまた予想外の、これで何度目だろうか
「僕は、別に・・真紅の事は何とも、思ってないぞ・・・」
そう言葉を告げて、またしばらく沈黙が続いた
429 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:30:01 ID:F48kqBOe
そして、また翠星石の声が背中から聴こえてくる
「嘘です。・・・いつも真紅とばっかり、・・翠星石は解ってるんですよ?」
「別に・・そんなつもりは・・・・」
何でそんな事を聞いてくるんだろう・・・そんな事が頭を過ぎったその時
「・・・!?」
背中に衝撃が走る、けどさっきの消しゴムをぶつけられた時の様な感覚とは違う
そう、何かに抱き付かれている様な、・・・え?
「す、翠星石・・・?」
「え・・えぐっ・・・・」
背中から返って来た声は、とても掠れていて、・・泣いてるのか?
思わず振り返ろうとしたが、後ろから抱き付かれているので下手に振り向くわけにもいかず
仕方なくそのまま彼女に声を掛ける
「ど、どうしたんだよ・・また僕が何か・・・」
「ジュンは翠星石と契約したんです!もう、真紅だけのジュンじゃないんです!なのに、なのに・・・」
背中を掴む手が次第に強くなる
「でも、ジュンは真紅の事が好きなんです!翠星石はわかってるです!でも、・・・翠星石はっ!」
「泣くな!」
気付くと、自分が翠星石を抱きしめていた
何をしているのか自分でも解らない、けど
彼女が泣いてる姿をこれ以上見たくない!
「僕は、僕が真紅の事が好きかどうかは解らない、けど、僕にとって大切な人なのは本当だ」
「え・・えぐ・・・」
泣き続ける彼女を、僕は強く抱きしめ続ける
「けど、それは翠星石、お前も一緒だ!お前も僕にとって、とても・・・大切なんだ」
「お前が居なかったら、僕はここまで強くなれなかったと思う、いや、なれなかった」
「だから、そんなお前が僕の前で泣かないでくれ。お前は、僕にとって大切・・・だから・・・・」
そう一人で叫んでいると、いつの間にか胸元の彼女の泣く声はやんでいた
泣き止んでくれた事に安心するが、それから声が返ってこない
「翠星石・・・?」
あまりに何も喋らないので、心配になり声を掛ける
「ッグハ!」
胸元に顔を覗き込もうと下を向いたその時、勢い良くヘッドバットが顔面に飛んできて、そのまま倒れ込んだ。
「やぁーれやれ、チビ人間はとんだ語り野郎ですねぇ〜
ちょっとの事で熱くなり過ぎなのですー」
あまりの態度の変貌ぶりに面を食らうジュン
「いきなり抱きつかれて、チビ人間の体臭が服に付いちゃったじゃないですかぁ
あーぁ、こんなチビ人間の臭いが付着した服を他の人間が着たら
その人間も引篭りに変身しちゃいますねぇー
恐ろしい呪いの引篭り増幅マシーンになっちゃったもんですぅ〜」
「な、なんだとー」
「さぁーて、茶番も済んだ事ですし、翠星石はもう鞄で寝るですよー
おやすみです〜〜」
ジュンが反論する間もなく、瞬く間に翠星石は鞄の中に入ってしまった。
残ったのは、やり場の無くなった想いと、顎と後頭部、顔面の打撃痕が計三ヵ所
「・・・まるで僕がバカみたいじゃないか・・・・」
430 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:31:05 ID:F48kqBOe
鞄の中で、翠星石は寝ずにいた
まだ少し目が潤むが、手で擦り取る
だって、哀しむ事何てないのだから・・・
ジュンにはあぁ言った物の服に付いたジュンの臭いをかぎくと、自然と顔が和らぐ
ジュンに想われている実感、それがとても嬉しかった。今まで悩んでた自分がバカみたい
それから一通り妄想にふけ、翠星石は一言ぼやき、眠りついた。
「真紅には負けないですよっ!」
431 :
妄想のままに:2006/04/18(火) 03:32:34 ID:F48kqBOe
ただパジャマ翠が見たかっただけ何ですが
いざ出来上がってみると予想とは大きく違う出来となってしまいましたw
本当にありがとうございました
今にも萌え死にそうです
一体どうしてくれるんですか
434 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:41:34 ID:LwpP9Iv9
世間では新学期が始まってはや一週間。皆様いかがお過ごしでしょうか。
……忙しすぎてSS全く書けません。だってもう(以下略)
遅くなりました。ターミネーター翠完結させておきます
435 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:42:39 ID:LwpP9Iv9
《ターミネーター翠〜第三部〜》
ジュンが目を覚ましたときにはもうお昼頃だった。
「おはようですぅ。寝ぼすけチビ人間」
朝食を兼ねた昼食を食べて、今日も始まるバイクの旅。
ジュンは唐突にとある文庫のことを思い出し、
(旅って大変だなぁ)
と、いまいち覚醒してない頭で悟ったのはまた別の話。
「今日はどこまで行くんだ」
「とりあえず元の町まで戻るですぅ。うまくすれば入れ違いになって化け物を撒けるですぅ」
……あれ?
「もーしもーし翠星石さーん。姉ちゃんらを巻き込まないために町を出たんじゃなかったっけ?」
「そんなこと一言も言った覚えはねぇですぅ。未来から来た存在が過去に干渉したら何が起こるかわからんから極力「標的」のみに危害を加えるはずですぅ」
「今までの苦労は一体……」
「不特定多数とは接触、会話、物をあげる等もってのほかですぅ。殺害なんて論外ですぅ」
「僕を普通に殺そうとしてるじゃないか」
「ほんとはNGですけどね。平たく言えば“殺した後の歴史が変化するなら利益があるかも”と思われるから狙われるのですぅ」
「かもって……なんともいいかげんだなオイ」
「まだはっきりしないのですぅ。たとえ何か重要な発明をする過去の人間を殺しても別の人間が発明するだけで歴史は絶対に変わらないという説もあるのですぅ」
「ある意味僕はモニターだな」
「モニターと言うよりはモルモットと言ったほうがしっくりくるですぅ」
ジュンはとりあえず翠星石の髪を引っ張った。
436 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:43:25 ID:LwpP9Iv9
しばらくすると町が見えた。
「なんかすごい早く付いたような気がするのは気のせい?」
「行きは遠回りに回り道に行っては帰っての連続だったのですぅ。直線距離で見ればそんなに進んでいないのですぅ。気が付かなかったのですか?」
まったく分かりませんでいた。はい。
「人がたくさんいそうなところで身を隠すですぅ。人を隠すには人の中ですぅ」
「そんなとこあるか?」
「市街地なら人がいるはずですぅ!」
今日は月曜日の真っ昼間。人通りなど無いに等しい状態だった。
「そうか……世間では今の時間帯は学校なのか」
ジュンはしみじみと思った。
「まぁ僕には関係ないけど」
「チビ人間。携帯を貸すのですぅ」
「何に使うんだ?」
「チビ人間は知らなくてもいいのですぅ」
ジュンの額に一瞬「怒りマーク」が浮かんだがすぐに消える。
護衛してもらっている手前、携帯ぐらい貸すべきだろう……ジュンはそう考えた。
「ほら」
「どーもですぅ」
「携帯使えるのか?」
「愚問ですね。翠星石をなめるんじゃねぇですぅ」
翠星石は携帯を受け取るやいなやすごい速さでキー操作をしている。さすが未来のロボット。
「もしもし?」
電話のようだ。自分の携帯を使われているので何を話しているか聞きたいところだがそんなことをするのは野暮だろう。
ジュンは手持ち無沙汰に周りを見回していると見知った顔を見つけた。
向こうもこちらへ気が付いたようで手を振って近づいてくる。
蒼星石だ。
437 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:45:01 ID:LwpP9Iv9
「探したよジュン君。いきなり失踪なんてどういう事だい?」
――ちとやばい。未来の翠星石と蒼星石が出会ったらとんでもないことになるかも知れん。
「こんにちは。小さなお嬢さん」
「なッ!?」
何話しかけてんだ翠星石ぃーーー……ありゃ?
そこにいたのは翠星石では無かった。レースの付いたスカーフは何処へやら、髪はゴムで無造作に縛り、瞳の色は両方とも澄み渡るような青に変わっていた。心なしか声も違う気がする。
「……変装?」
ジュンは小声で呟いた。
「この子の知り合い?私、警察官でね」
翠星石は何処からか警察手帳らしきものを取り出し、蒼星石に見せた。お前それ、偽造だろ。
「パトロール中に駅前で浮浪少年見つけたから保護してたのよ」
「あぁ、これはどうもありがとうございました」
「いえいえ〜」
なんかとんでもない設定を組まれてジュンは憤った。
その時、ジュンの五感に何かが走った。得体の知れない嫌なヨカンにジュンは戦慄する。またUMEOKAが近くにいるのだろうか?
「じゃあ連れて帰ってね。もう家出なんてさせちゃダメよ?」
翠星石はジュンの背中を押した。そっと囁く。
――向こうにUMEOKAがいたですぅ。撃退するのでこの子と共にいてください――
勘も当たるようになってきたか。
「さて、お別れよぅ。浮浪少年!」
さっと踵を返して翠星石は通りの角に姿を消した。
「いい人もいるんだね。さ、帰ろうか」
「……そうだな」
ジュンはいまいち釈然としないものを感じながらも蒼星石に手を引かれていった。そういえば携帯持ってかれたじゃないか。
「会いたかったよ……ジュン君」
438 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:46:51 ID:LwpP9Iv9
「待つですぅ!!」
一方で翠星石はUMEOKAと交戦中だった。
入り組んだ市街地で屋根から屋根へ、路地から路地へとUMEOKAは移動を繰り返しつつ時折鉤爪で攻撃してくる。ヒット・アンド・アウェーだ。
――昨夜襲撃してこなかったのは地理を確かめておくためか……行動を読まれていたことに翠星石は舌打ちした。
「なめるんじゃねぇですぅ!!」
隙を見てショットガンで銃撃する。避けられた。弾かれた。なかなか当たらない。
「こんな戦い方が出来るなんて……やっぱり進化してやがるのですぅ!」
ジュンの方も気がかりだった。かなり離れてしまった。早めに合流しないと何が起こるかわからない。
しばらくして、翠星石はUMEOKAを狭い路地に追い詰めた。
「もう逃げ場は無いですぅ」
ショットガンを構える。
唐突に対峙していたUMEOKAが溶けた。
「なっ!?」
そのままUMEOKAは再生することなく液状化した。
「…………やられたですぅ」
完全に出し抜かれた。UMEOKAの目的はジュンと翠星石を離すことだったのだ。
「すると本体は何処に……あ……大ピンチですぅ!!」
やっぱり悪寒がする。ジュンはいまだに抜けない悪寒に首をかしげていた。
「寄りたいところがあるんだ。一緒に来て?」
「ん。わかったよ」
のろのろと歩いていくとそこは図書館までの道。
「図書館に行きたいのか?」
「……そうだよ」
エンジュのドールショップの脇を通ると、白崎がいた。
「あれ、こんな時間に通りかがるとは珍しいじゃないか?」
「あぁ、どーも」
蒼星石ともども、足を止める。
世間話でもして行こうかと思ったら白崎の眉根に一瞬しわが寄った。見間違いだろうか。
すると一転して玩具を見つけた子供のような目でこちらを見てくる。
「なにか僕の顔に付いてますか?」
「いやいや……ジュン君」
もったいぶるような口調で告げる。早く言えよ。
「とりあえず鏡を見てみたらどうだい?」
一言だけ告げると店の中に引っ込んでいった。
439 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:47:47 ID:LwpP9Iv9
「鏡なんて……これで見てみるか」
店のショウウィンドウを覗き込んでみた。別に何もおかしいところは――
冷や汗が出た。脇にいる蒼星石のオッドアイがおかしい。
振り返ってしっかり見てみる。左右逆だった。
「ジュン君……どうしたの?……」
(冷静になれ冷静になれ冷麺になれ桜田ジュン!! 落ち着いていつも通りしていれば…っ!)
蒼星石がショウウィンドウを覗き込んだ。そのときの驚愕した表情はジュンのトラウマ確定だろう。
偽蒼星石が溶けて瞬時にUMEOKAの姿に戻った。ジュンは一目散に逃げようとしたが一足遅い。気が付いたら地面に組み伏せられていた。
「現地時間で現在時刻十五:四十二分。これより桜田ジュンの抹殺を決行」
笑顔で死刑宣告が下った。
ジュンは抵抗してみたが全く動けない。もう諦めてこれまでの人生をざっと回想してみた。
――死んでも死にきれん。
ジュンはまた暴れまくった。
「離せ変態液体教師!! この×××××な×××! ××××!! ×××××!!」
放送禁止用語の雨あられを浴びせたが全く効果が無いようだ。
「抹殺」
鉤爪が振り下ろされた。ジュンは思わず目をつぶる。
鋭い金属音がした。
ジュンは恐る恐る目を開けた。首はまだ繋がっている。
首だけ何とか動かして様子を見た。鋏が脇から鉤爪を受け止めている。
440 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:48:46 ID:LwpP9Iv9
「蒼星石ぃ!!」
UMEOKAは面食らったようだったが、もう片方の手も鉤爪にしてジュンを殺そうとする。
今度は脇からステッキが鉤爪を受け止めている。
「真紅ぅ!!」
「翠星石、雛苺! 今よ!!」
店のショウウィンドウのガラスの表面がぐにゃりと歪んだ。
瞬時に無数の蔓がUMEOKAをガラスの中に引きずり込む。
「桜田ぁぁぁ……―― 」
UMEOKAはガラスの中に完全に引きずりこまれ、かわりに二体の人形が出てきた。
「翠星石……雛苺……た、たすかったぁ〜〜〜」
「で、何が起こっていたのか説明してもらおうかしら、ジュン」
「昨日の夜電話があってね。ジュンの声で“殺人鬼に追われているぅ!!”とかかかってきたんだよ」
電話をかけたのは未来版翠星石だろう。変声機かなにか使ったようだ。
「ジュンが家出した挙句壊れちゃったかと皆心配したんですよぅ」
「そしたらさっきまた電話がかかってきたのー。今度は“ドールショップ・エンジュの前でジュンが襲われている”っていってたのー」
「「「「説明しなさい」」」」
異口同音に問い詰められた。
「実はな……」
「はいーみなさんちょっとお待ちくださいー」
四体の人形が声の主を見ようと顔を上げた途端、カメラのフラッシュのような光が辺りを包み込んだ。一瞬遅れてジュンも顔を上げる。
サングラスをした未来版翠星石が立っていた。
「良いですか?」
頭の奥に響く不思議な声色だった。ドールズは虚ろな目つきで首を縦に振る。
「貴方達は殺人鬼のこと等全く分かりません。電話の内容は全て忘れます。これより一週間はnのフィールドは立ち入り禁止です。そして貴方達はこれから真っ直ぐ家に帰ります。良いですか?」
ドールズがまた首を振ると未来版翠星石がパチンと指を鳴らした。
ドールズはぞろぞろと桜田低に向かって歩いていく。
「簡単な暗示ですぅ。これで事後処理は完璧ですぅ」
「襲われそうになった時どうして店の前だって分かったんだ?」
「?そんな電話かけてないですよう?」
441 :
熊のブーさん:2006/04/18(火) 22:49:41 ID:LwpP9Iv9
「え?」
「何はともあれ、ミッションコンプリートですぅ」
ジュンはようやく肩の荷が下りたような気がした。
「お別れですぅ桜田ジュン。もし、次会うときには兵器としてではなく……いや、なんでもないですぅ」
「短い間だったけど、ありがとな」
ジュンは恥ずかしさから顔を伏せた。
「縁があったらまた会いましょう。貴方の人生が良いものでありますように……」
ふいに、ジュンの目の前が閃光で満ちた。
「……くん……ジュンくん……」
「んあ?」
「ジュン! いつまで寝てるつもりなの!!」
真紅のツインテールが唸りを上げる。
「いってぇーーーー!!」
気が付いたらリビングで寝ていた。DVDが付けっぱなしになっている。
タイトルは「ターミネーター」
――夢、だったのかな――
「ジュン。さっそく仕事よ。お茶を沸かして頂戴」
「いきなりかよ」
擦り切れたジーンズにワイシャツが玄関に置いてあったのだがのりが片付けてしまっていた。
ジュンの記憶からこの二日間の出来事がおぼろげな思い出となる日まではそう遠くないだろう。
おわり
感動した!!GJ!
早い展開がアクション映画っぽかった。GJ!
そろそろ新作wktk
ちょっと質問。
契約の破棄って、ミーディアム側から出来たっけ?
あとnのフィールドの出入り口は鏡とかパソコン画面だけ?
>445
基本的にほぼ不可能。無理に剥がそうとすると指の肉ごと指輪が
剥がれ落ちると真紅が言ってました。
唯一例外的なのはミーディアムの心が閉じてドールとの絆が極端に薄くなると
指輪にヒビが入る。消滅するかまでは謎(第一期最終話付近ジュン参照)
出口は鏡、パソコン画面、ショーウインドウのガラス、水溜りなど、ある程度
ものを映せるものならば結構アバウト。
入り口は命の欠片が宿っているもので上記のものなら可能。アニメでは水溜り、
ショーウインドウのガラス、鏡などから入る事が出来た。けど水溜りに命の欠片が
宿っているかは謎・・・きっと製作サイドのミs・・・
原作もそんなこと定められてない。
448 :
ケットシー:2006/04/21(金) 23:11:29 ID:YxDWa/GC
続き投下についての意見どうもです。
どうやら大丈夫そうですね。
今日は鬱話じゃない方の投下いきます。
>>412 真紅は屋敷内を速い足取りで歩き回っていた。ジュンを探しているのだ。
「どこまで行ったのかしら……」
なかなかジュンが見つからないので、真紅の顔に焦りの色が出始める。
走って探そうかと考えた時、真紅は自分と同じように屋敷を歩き回っている少女を見つけた。
大きな瞳の幼い顔立ちが可愛らしい雛苺だ。彼女は真紅の一つ下の妹で、同じ中学生だ。だが、その童顔のために、よく小学生と間違われる。
雛苺はあっちこっちと見ながら真紅の先を歩く。何かを探しているようだ。
少しして、彼女は後ろを歩く真紅に気付く。すると、走って向かってきた。
「お願い、真紅。手伝ってほしいのお」
「ごめんなさい。私も忙しいの」
何のためらいもなく断る真紅。助けが欲しいのは真紅も同じだ。それにしても、このあっさりとした対応はさすがだ。
しかし、雛苺も負けてはなかった。目に涙を溜めて食い下がる。
「そんなこと言わないでぇ。ヒナのお友達が迷子なの。一緒に捜してほしいの」
「知らないわ。他を当たってちょうだい」
しつこいので真紅の口調もきつくなる。それでも、雛苺は諦めずに見つめてくる。急いでいる真紅は、脇を通り抜けようとした。
「お願いなのぉ。大事なお友達なのっ」
「雛苺っ、離しなさい……!」
雛苺が真紅の腰に抱きついて追い縋る。それほどまでに大事な友達らしい。
しかし、真紅にも大事な用事がある。腰に回された腕を振り解こうと無理にでも足を前に出す。それに、雛苺が必死にしがみつく。
「イヤなの。今は真紅しかいないの。お友達はお人形さんなのよ!」
「なんですって!」
真紅の態度が一変する。このタイミングで「人形の友達」と聞けば、あの生きている人形しか思い浮かばない。
真紅は後ろに振り向き、雛苺の両肩に手を置いて尋ねる。
「貴女もローゼンメイデンを所持しているの?」
「うん、真紅は聞いてないの? ヒナは水銀燈から聞いたのよ。真紅もお人形さんとお友達になったって」
「聞いてないわ……」
雛苺は真紅がマスターになったことを聞かされていた。何も聞かされてなかった真紅は、のけ者にされたようで気分が悪かった。だが、これは自業自得と言える。一日中、部屋に篭って家族とのコミュニケーションを疎かにしていれば、こうなっても仕方がない。
真紅はしがみつく雛苺を引き剥がし、まさかと思って聞いてみる。
「他にもあの人形を所持している人はいないでしょうね」
「多分、いないと思う。それより、早く捜すの」
「そうね」
二人は協力してドールの捜索を再開した。
廊下の真ん中を三体の人形が歩く。子供より小さい人形が歩くと、広い廊下が更に広く見える。ジュンの両隣にはめぐと巴が陣取っている。まさに両手に花の状態だ。
だが、二人に挟まれたジュンは生きた心地がしなかった。度々、めぐと巴は互いを牽制し合って視線で火花を散らす。先程、ドロップキックの応酬をしたばかりなのもあり、二人の仲は最悪だった。
そんな中、我慢を知らないめぐが、さりげなく手を繋ごうとする。当然のように、目を光らせていた巴は見逃さなかった。彼女はジュンの後ろを回ってめぐを突き飛ばした。
「桜田君に触らないで」
めぐは倒れそうになるのを堪えて、キッと睨み返す。二人の間の険悪度が一気に増す。
一触即発の空気の中、ジュンは声を震わせて仲裁に入る。見た目によらず、勇気のある男だ。
「仲良くしようよ。久しぶりに会ったばかりだし。ね?」
「ジュンが言うならそうする〜。私っていい子でしょ? そう思うでしょ?」
「あ、ああ」
急に明るく振舞うめぐに気圧され、ジュンは仕方なく頷く。返答に満足しためぐは、子供のような屈託の無い笑顔を見せる。本当に喜んでいるようだ。
時々、ジュンはめぐのことが解らなくなる。このような笑顔を見せる子が、真顔で襲い掛かってくるのだ。それがアリスゲームのためだとしたら、彼はやめさせたかった。そんなのは悲しすぎるからだ。
複雑な表情でめぐを見つめるジュンを、巴は心配そうに見ていた。
「トモエーっ」
大きな声で呼ばれ、人形達が一斉にそちらに振り向く。声の先には、駆けてくる雛苺と、その後ろを歩く真紅の姿があった。
「捜したのよ。突然いなくなるから……」
「ごめんなさい」
やはり、雛苺は巴のマスターだった。巴を抱き上げて軽く叱る。
遅れてきた真紅は、何も言えずにそれを眺めていた。そして、ジュンと目が合う。
「僕を捜しにきてくれたの?」
真紅は返答に詰まる。彼の言う通りなのだが、それを認めると負けなような気がしてならない。
「違うわ。そこの雛苺に頼まれただけなのだわ」
ジュンが落ち込んで俯く。その分かりやすい反応が、真紅をじわじわと責め立てる。真紅は彼に背を向けながら言う。
「ジュン、部屋に戻るわよ」
「いいの?」
ジュンはまだ部屋を追い出されたことを気に病んでいた。黙ってついてこればいいのに、と真紅は心の中で髪の毛を掻き回す。
「人形に家の中を歩き回られても困るのよ。誰かに見られたらどうするの」
「わかったよ」
真紅は適当な言い訳を考えてジュンを連れ帰った。彼女は本当に強情なマスターだった。
つづく
続きを期待。
でも次の投下は鬱話の方?
コンセプトは『14行縛り』。
「ねぇ水銀燈。あなたの姉妹にも、羽はあるの?」
不意に、めぐが尋ねてきた。姉妹と聞いて、思い出したくもないあの子の顔が、私の
頭の中をよぎった。
「――ないわ。私だけよ」
「そう……あなたは『お父様』から愛されているのね。羨ましいな」
そう言うと、めぐは寂しそうに笑った。愛されている? 私が?
「他の子にはないものを、あなたは持っているのよ? 愛されている証拠だと思うよ?」
「私は愛されてなんかいない。愛されようとも愛そうとも思わないわ」
私にだけ羽をくれたお父様は大好き。白い羽をくれなかったお父様なんか大嫌い。
でもお父様に会いたい。会って、どうして黒い羽なのかを確かめたい。
フフッと、めぐが悪戯っぽく笑った。私の胸の内を見透かしたように。
「……二度と馬鹿な質問をしないで頂戴」
「水銀燈って、ホント屈折してるよね♪」
あなたほどじゃないわ。めぐの言葉を聞いて、私は心の中でそう反論した。
終わりです。
ツンデレデレw
ちゃんとお話が成立して14行。すごいですね
457 :
ケットシー:2006/04/23(日) 20:02:26 ID:BvhBhrN0
総合スレの続きいきます。
陰鬱な話ですので、苦手な方はご注意ください。
458 :
薔薇乙女戦争:2006/04/23(日) 20:03:56 ID:BvhBhrN0
>>総合スレ5の782
夜が明けて、今度は翠星石と雛苺が帰らなくなったのをのりが知る。真紅から聞いた彼女は、用意した朝食を見て悲嘆に暮れた。
そして、自分の事以上に弟の心配をした。立ち直りを見せていた所なのに、これが原因で再びひきこもってしまうかもしれない。のりは様子を聞いてみた。
「それで、ジュン君は……?」
「ジュンなら心配ないわ。今、自分にできる事をしようとしている。強くなったものだわ」
二階のジュンのベッドはすでに空だった。いや、昨晩からベッドは使われていない。寝床の主は朝になってもカーテンも開けず、机で一心に針を操る。手には深緑の鮮やかなドレス。彼のために命を落とした者のドレス。彼には一つの想いがあった。
459 :
薔薇乙女戦争:2006/04/23(日) 20:04:44 ID:BvhBhrN0
ある日の午後、裁縫道具を片付けたジュンは、大きな鞄を片手に外へ出た。薔薇の金細工が施されたその鞄は、ローゼンメイデンの持ち物だ。
向かう先は人形の専門店。そこは巴に教えてもらった人形工房で、ジュンは足繁く通っていた。彼が通うのには理由がある。そこの人形師は得体の知れない技術を持っているようなのだ。
一度、人形に生命を吹き込む所を見せてもらったが、その光景が薔薇乙女と重なって見えたのだ。無論、彼女達のように自在に動いたわけではないが、その神業には恐怖すら覚えた。
「桜田君、いらっしゃい」
人形売り場に入ってすぐ、店員の白崎が声を掛ける。ジュンとは人形制作の手伝いをする仲なので、客相手のよそよそしさはない。棚の埃を掃っていた白崎は、ジュンの鞄を見て手を止めた。
「随分と大きな鞄だねぇ。それにとても古そうだ。何が入ってるんだい?」
「人形です。先生に見てもらおうと思って……」
「それは君の人形かい?」
「そうです」
はっきりと持ち主だと主張するジュン。少し前までの彼なら「男が人形なんて」といった感じで恥ずかしがっただろう。だが、今の彼にそんな思いは微塵も無い。人形である彼女のあの生き様を見たら、恥ずかしいとはとても言えない。
「彼ならいるよ。行こうか」
変化を感じた白崎は、ジュンの顔を確かめるように眺めてから奥の工房へ招き入れた。
460 :
薔薇乙女戦争:2006/04/23(日) 20:05:50 ID:BvhBhrN0
店内から仕切りのカーテンを潜れば、そこは職人の領域だ。一般人は見慣れない素材や機材が並ぶ。
そして、その先に彼は居た。奥の作業机で人形の制作に打ち込んでいた。職人気質な彼は、人の気配に気付いても構わず作業を続ける。
終わるのを待っても仕方がないので、白崎が無遠慮に声を掛ける。
「桜田君が来たよ。何か見せたい物があるんだって」
槐は手を休め、のっそりした動作で振り向く。別に機嫌が悪いわけではないのだが、どことなく怖い。そして、彼の目も鞄で留まる。視線に気付いたジュンは改めてお願いする。
「僕の人形なんです。見てくれませんか」
「持って来て」
ジュンは言われてすぐ、鞄を手渡しに奥に行く。槐は作業中だった机の上を片付け、受け取った鞄を置いた。
鞄の留め具を外して開ける。中から光が溢れ、薄暗かった工房を照らす。その光を見た槐は、鞄の蓋を持ったまま動かなくなった。驚いているのを見てジュンが説明を始める。
「生きている人形ローゼンメイデン――人形師ローゼンの傑作と名高いあれです。でも、壊れてしまって……。それで、先生なら直せるんじゃないかと」
「美しい……」
今の槐の耳には何も入らない。この光に魅入ってしまっているのだ。白崎はそんな彼の様子に驚き、鼻眼鏡を掛け直す。
「光っているのはローザミスティカと言って、人形の命みたいなものらしいです」
説明は続けられるが、槐は歓喜の笑みを浮かべてローザミスティカを手にする。そして、静かに眠る翠星石を見て涙した。その涙には喜びと悲しみが入り混じっていた。
「この子は素敵な主人と巡り逢えたんだね。この命の輝きを見れば判る。今はゆっくりおやすみ。愛しい私の娘よ……」
461 :
薔薇乙女戦争:2006/04/23(日) 20:06:50 ID:BvhBhrN0
ジュンはそれを聞き逃さなかった。私の娘――彼は確かにそう言った。前からもしかしてとは思っていたが、今は驚きよりも期待が先を行く。生みの親なら生き返らせることも可能なはずだ。あの水銀燈のように。
「あなたがローゼンだったんですね。お願いです。翠星石を直してください」
「残念だけど、それはできない」
返事は無情なものだった。娘に命の奪い合いをさせているのは彼なのだから、この返事は想像できた。だが、あと一歩の所まで来たジュンに、そんな考えはできない。いや、したくない。
「どうしてッ! あなたの娘なんだろ。今だって泣いてるじゃないか!」
槐は今も流れる涙を隠そうともしない。彼も悲しいのは同じだった。しかし、考えは変わらない。憤るジュンを諭すように話す。
「君もこのローザミスティカを見るんだ。この輝きはアリスに相応しいと思わないか? 彼女はドールとして生をまっとうしたんだよ。そんな彼女を認めてあげないでどうする」
話を聞いてジュンは愕然とした。価値観があまりにも違いすぎる。アリスゲームを強いた彼を以前から疑問に思っていたが、これは決定的だった。ジュンは肩を震わせて咆える。
「翠星石はアリスに拘ってなかった。もっと生きたいと言っていた。勝手に決めるなよ! 離れていたあなたに翠星石の何が分かるッ!!」
言うだけ言ったジュンは肩で息を切らす。それをじっと聞いていた槐は、悪いと思いながらも微笑んだ。
「今のだけでも君の愛情の深さが分かるよ。君になら娘を嫁がせてもいいとさえ思った。娘達が揃って成長する訳だ……」
「真面目に聞けよ!」
「私は至って真面目だよ。だから忠告しておく。ローザミスティカは有効に使うんだ。でないと、君のもう一人のパートナーも無事では済まない」
そう言った槐は、ジュンの薬指の指輪を見やる。真紅のことを思い出したジュンは言葉に詰まる。最近の彼は翠星石のことしか頭に無かった。姉妹を亡くした真紅はもっと辛いはず。
そのまま勢いを失くしたジュンは、槐ことローゼンを説得できず、工房を出る羽目になった。
つづく
462 :
ケットシー:2006/04/23(日) 20:08:57 ID:BvhBhrN0
設定の違いで混乱すると思ったので、ここで言っておきます。
アニメと違って槐をローゼンにしました。したがって、薔薇水晶も本物の第七ドールです。
偽者だと話がややこしくなるので、アニメのひねりをなくしました。(単にめんどくさかったとも言う)
当分の間は、こっちの投下がメインになると思います。
もう片方は話が煮詰まってからにしようかと……。すみません。
まあ気長にやってください。
続きを楽しむのは読者の特権ですw
蒼星石「アッー!」
・・・・グッジョブ
槐の「ローザミスティカは有効に使うんだ」という台詞が気になりますね。
今後の展開に期待してますw
467 :
放蕩作家:2006/04/24(月) 03:07:48 ID:3rl8RoWD
>>298の続きです。
書くのが遅すぎですね、すみません。
それと作者は原作をほとんど読んだことがありません。
原作をろくに読んでないパットでがssなんて書くんじゃねぇ、という方は
スルーしてくださってかまいません。
それではどうぞ。
翠星石。・゚・(ノД`)・゚・。
469 :
放蕩作家:2006/04/24(月) 03:10:33 ID:3rl8RoWD
図書館で日ごろ溜まった熱いパトスを開放したジュン(違
その後あらゆる苦労をして、なんとか図書館の奥で見つけた本を借りることができた。が、その途中経過は本編と
なんの関係もないし、書くのもたるいので省略(J ひどっ!!
とにもかくにも、ジュンは本を家に持ち帰った。
自分の部屋に上がる時、居間にいた真紅たちに「ただいま」と声をかけたが、誰一人としてジュンの方を見ず、上
の空に「お帰り」というだけだった。全員『人形探偵くんくん』に夢中になっているからだ。「あんな子供騙しな番
組のどこがいいんだ?」とぼやきつつも、この本を見られずにすんだので、少なからずほっとしていた。
ジュンは人形劇に夢中になる真紅たちを横目に階段を登っていった。テレビではくんくんが「犯人はあなたです!
こうもり伯爵!!」と決め台詞を決めているところだった。
「まず目次から見てみるか。えーと、なになに」
目次は次のようになっていた。
P4〜P95 第一章 製作記
P96〜P170 第二章 ローゼンメイデン
P171〜P190 第三章 アリスゲーム
P191〜P224 第五章 ローザミスティカ
P225〜P256 こ を だ ー へ
「最後のところだけ字が消えかかって読めないな・・・。とりあえず『製作記』のところを・・・」
パラパラと流し読みするジュン。
「十二月二日 どんな宝石よりも輝かしい乙女、アリス。ああ、彼女のバラのような、いやそれ以上の微笑みを早く
見たい。・・・製作記、ね。ようは性悪人形どもの製作日記ってとこか」
関心したように呟くジュン。
「・・・ってそういえば何でこんな本、存在するんだ?」
かなり大きな謎だったが、今考えるべきではないと思い、とりあえず保留にしておくことにしたジュン。
しばらくの間ジュンは、ローゼンメイデン製作日記ともいえる物を読んでいった。
最初の方はなにか重要なことが載っているかも、と思い、一日一日を丁寧に読んでいったが、案外どう
でもいいと思われる事が書かれていることが多く、だんだんと流し読みしていた。
それでもこれを書いたと思われる人形師、ローゼンの薔薇乙女への、いやアリスへの執着を感じずに
はいられなかった。
最初は「どんな宝石よりも輝かしい」とかそのくらいだったアリスの表現が、次第に「夜空に輝く満
天の星々や、女神のように煌く月ですら、彼女に比べればガラス玉でしかないだろう・・・」というよ
うにアリスを(ジュンからしてみれば)大げさ過ぎる美麗美句でかざっているのだ。
ジュンはさらに読み進めていった。本の右ページ、右下の数字がどんどんと増えていく。数字が74ま
でいった時、ジュンの手が止まった。気になる単語と文章を幾つか読み取ったからだ。
「一月二十三日 錬金術最高の奥義、『夜空のかけら』から作られし生命石『ローザミスティカ』。
私はこの奇跡の石をさまざまな文献や研究書を読みながら作ったが、できたこと自体、奇跡だろう。
ただでさえ製作するのが困難、いやほぼ無理といっていい『夜空のかけら』を作り、生命を創り出す
という神の所業を可能とする『ローザミスティカ』を作ったのだ。奇跡といわずなんといおう。
・・・古来から『夜空のかけら』を求める者は後を絶たない。なにせこれがあるだけで、錬金術の夢
(例えば不老不死、銅を金に変える、等々)全てが叶うのだから。
・・・『夜空のかけら』、ね。今度ネットで調べてみるか。怪しげなグッズに混じって、あるかも」
いや、ないだろ。
さらに数ページめくる。
「一月二十七日 だめだ!だめだ!!だめだ!!!どうしてもだめだ!私の創った娘たちは誰一人とし
てアリスには程遠い。彼女たちには何かが足りない。それが埋まらない限り私の理想の乙女、アリスは
誕生しないのだろう。一体なにが足りない? その答えはまだ出ない。
・・・あいつらはアリスを目指すためにアリスゲームをしている、っていってたよな。ということは、
アリスゲームの勝者はその『足りないもの』が埋まるといことなのか?」
疑問を口にするジュン。無論それに答える者はいない。
ジュンはまたページをめくり、ローゼンメイデンのさらなる謎を解き明かしてくれるだろう、正体不
明の本を読み進めていった・・・。
471 :
454:2006/04/24(月) 03:29:26 ID:Qs65RrRK
>>456 長文を書くと、まとまりがなかなかつかなくて。逆転の発想で、短い文で何が
どれだけ書けるかにチャレンジしてみました。
とはいえ、残り行数を気にするあまりに、あちこちいじりまわし、結局ラスト
1行はケツカッチン気味。
すごい、と言われると、面映ゆい限りですが、感想ありがとうございます。
472 :
放蕩作家:2006/04/24(月) 04:31:34 ID:3rl8RoWD
>>470 とりあえずここまでで。
続きます。
そういえばローゼンメイデンが一人も出でない・・・。
それなんてラヴクラフト??
謎が謎を生み、どんどん深まっていくんですね
続きwktk
では、以前リク貰った水銀燈と金糸雀が入れ替わる話しを投下。
「第1楽章ぉぉっ、攻撃のワルツゥーッ!!」
金糸雀のバイオリンが衝撃波を打つ。
nのフィールド中の空気が水銀燈の攻撃を阻む。
攻撃の性質上、金糸雀は接近戦を得意としない。特に格闘に至っては水銀燈にかなり遅れをとっている。
それを知る水銀燈は、このゲームを自分の有利に進めるべく、何度となく接近を試みてはいるものの、
音波の攻撃に阻まれて思うような戦いを仕掛けられないでいた。
決定打に欠ける金糸雀は、攻防を繰り返しながら充分な距離を稼ぎつつ、既に退散の機会を伺っている。
埒があかないと判断した水銀燈は、一時体制を整えるために、攻撃の手を緩め、上空高く舞い上がる。
「しめた、その間にカナは逃っげるかしら〜」
しかし、それは水銀燈の予想した行動であった。
「ふっ、あなたの思考なんてお見通しよぉ!」
そそくさと逃走に入る金糸雀を見計らったように水銀燈が攻勢をかける。
いっきに勝負を決しようと、上空から金糸雀に急接近し一撃を加えようとする。
「と、見せかけて…最終楽章!破壊のシンフォニィィィ!!」
金糸雀もそれを読んでいた。きびすを返し楽章飛ばしの攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ああっ、ずるいわよ金糸雀!次は追撃のカノンとやらじゃない!!」
その攻撃を避け切れないと判断した水銀燈は、衝撃波の中にモロに突っ込んだ。
そのまま金糸雀を仕留めようとの魂胆だったが、思いのほか厚い金糸雀の放つ空気の壁に目測を誤り、
また金糸雀も水銀燈が肉を切らせて骨を絶つような真似をするとはおもいもよらず、
両者は急接近の末、激突して気を失った。
水銀燈が目を覚ました時、静けさを取り戻したnのフィールド内にはもはや金糸雀の姿は無かった。
「くっ、逃がしたか……」
しかし、体を起こした水銀燈が上を見ると、ピチカートがくるくる回っている。
「は?ピチカート??」
水銀燈に緊張が走る。
金糸雀がまだ近くに潜んでいる、そう考えた水銀燈は安全圏である上空に避難しようとしたが、飛ぶ事が出来ない。
「あれ…?」
ようやく体の変化に気付いた水銀燈は、自分の状況を客観的に理解して愕然とした。
水銀燈は金糸雀の体と入れ替わっていたのだ。
「な、何これぇぇぇぇ!!」
右手で素早くピチカートを捕まえた水銀カナは、人工精霊を脅迫するかのように説明を求めた。
「これはいったいどういう事よぉ!!」
「カナ―おかえりー!」
金糸雀と入れ替わった水銀燈をみっちゃんが出迎える。
ピチカートの話から状況を理解した水銀カナは、とりあえず金糸雀を見つけるために、金糸雀のミーディアムの家で網を張ることにしたのだ。
とりあえず、他のドールが尋ねてこなかったかを聞くために、声のした方向に目をやると、みっちゃんはバスルームで粘土作業をしていた。
「あんた、なにやってるのよ?」
「見て、見てぇ!カナが一度入りたいって言った露天風呂みたいにしてみたのよ、どう?」
それは昨日のTV番組の影響だった。温泉旅行に興味を示し、「一度行ってみたいかしら〜」
などと言ったものだから、みっちゃんがバスルームを1日がかりで改造したのだった。
壁一面に紅葉の風景写真を貼り、無骨な蛇口には石膏でライオンを模ったり、岩のオブジェが配置されていたりした。
石膏は水に弱い事がたまに傷なのだが、そんな事は気にしない。金糸雀のためなら何でもやるのがみっちゃんスピリットである。
「さー、私も汚れちゃった、カナ一、一緒に温泉しましょー」
そう言ってみっちゃんは水銀カナの目の前で服を脱ぎはじめた。
『なんなの?この人間…』
唖然としながらみっちゃんの裸を見ていた水銀カナだったが、はっと一つの結論が脳裏をよぎった。
『こ、このままじゃ、私、剥がされる!!』
案の定、普段の着せ替えで鍛えたみっちゃんの早業に抵抗虚しく脱がされて行く水銀カナ。
「ち…ちょっとぉ…」
神業的な手捌きが水銀カナを襲い、気付いた時にはもう下着を残すのみ。しかも、みっちゃんは既にバスタオル姿。
逃げるにしても攻撃するにしても、金糸雀のボディでは勝手が解らず、あたふたとするだけで好い様にあしらわれてしまう。
「カナ〜、温泉の元は何がいいカナ〜なんちゃって……カナ?」
恥ずかしさと憤りで水銀カナが切れた。
「いいかげんにしなさいよー!」
ガブリ!とみっちゃんの手をかじり、そのままぷらーんと垂れ下がり状態。
事態が飲み込めずにしばらく固まっていたみっちゃんだったが、やがて手の痛さが彼女を現実にひき戻した。
「イャ――――!カナが家庭内暴力を―――!!」
パニック状態で手をブンブン振り回すが、そのままスッポンの様に放さない。
ようやくみっちゃんの魔の手を逃れた水銀カナは、近くの窓のカーテンで自分の体を隠しながら、真っ赤になってみっちゃんを睨む。
「あ、あんたばっかじゃないの、そんなブサイクなお風呂なんて聞いたことないわ!」
打ちひしがれるみっちゃんを後に、そのままカーテンを引きちぎった水銀カナは外に飛び出したのだった。
『こ…こんな所になんかいられないわよ!』
みっちゃん轟沈。
その頃、カナ水銀は上機嫌で夜空の散歩を楽しんでいた。
「うっはぁ〜最高の気分かしら〜、一時はどうなっちゃうのかと思ったけど、これはこれで良いってことかしら。
でもおなかがスースーする…なんでお父様はおなかを作らなかったのかしら…」
月齢14.7の月が街を明るく照らし出している。月の光りを受けた夜間飛行はカナ水銀の一つの疑問を解決した。
「そうよ、この体におなかが無いって事=軽量化ってことよ。飛ぶ事に特化した体には最適の設計だったのよ!
さすがお父様…でもカナは遠慮したいかしら……」
そんなこんなで暫く月光浴を楽しんだカナ水銀だったが、一人でいても楽しくない。
そこでちょっとした妙案をおもいついた。
「そうよ、この体で真紅たちをぎゃふんと言わせに行こうかしら。
しかも何やっても水銀燈に責任をなすりつけられるじゃないかしら〜ふっふっふ!」
これといってやる事もないので、とりあえず桜田家にちょっかいをだしにむかったのだった。
「たーのーもー!」
夕食を楽しんでいた桜田家のドールズは、その声を無視しておかずの争奪戦を繰り広げている。
「あー!だめなの!これはヒナのソーセージなの!」
「そんなの知らないですぅ!隙あらばいっただきですぅ!」
「おまえら、いいかげんにしろよな!いっつもいっつもおかずの取り合いばっかしやがって!!」
見事に無視を決め込まれたカナ水銀。怒りに任せてトイレの窓から室内に進入しドアを開けて食卓に乱入する。
「って、あんた達!!こっち向きなさいよ!!」
迷惑な奴が来た…という視線が一斉にカナ水銀に注がれる。
「な、なにかしらその目は…」
たじろぐカナ水銀に雛苺のソーセージをぱくつきながら、翠星石が食卓代表として質問する。
「一体、何しにきやがったのです?」
何しにきたのかと言われても、何しに来たわけではないのだが、何かしなくてはやっぱりいけないと考えたカナ水銀は、
食卓にたまごやきを見つけて、つい、こう口走ってしまった。
「たまごやき…おいしそ〜」
瞬時におかずの皿を抱え、一目散に庭へ逃げ出すドールズ。
「ああっ、ちょ、待っ、たまごやきぃー!」
カナ水銀もドールズを追って外に出る。
やれやれ…とばかりにのりとジュンは食事を済ませて後片付けを始め出す。
上空からドールズめがけて黒い羽が降り注ぐ。
3体のドール達はこれを巧みにかわしながら、カナ水銀の攻撃から逃げ回っている。
「くう〜っ、おかず如きを本気になって横取りしようとは、薔薇乙女の風上にもおけねーです!!」
おかずを死守しながら叫ぶ翠星石は、いつもの自分の行いを棚にあげておく。
当のカナ水銀は、ドールズが自分の攻撃に手も足も出ない事に恍惚を感じていたのだった。
「うはっ!これは良い気分かしらぁ〜!一度でいいから真紅たちをギャフンと言わせてやりたかったのよ!」
恍に浸るカナ水銀に、真紅が訝しげに問う。
「水銀燈…あなた、キャラ変わった?」
カナ水銀はこの戦いに感動しまくっていた。勝利の気分に酔いながら、高らかに自分の強さを宣言する。
「ふっふっふーあなたたちって、やーっぱりローゼンメイデン一の策士、金糸雀がいないと何にもできないのかしら〜!」
「はぁ?金糸雀…?なんであんなのがローゼンメイデン一の策士って事になるのですぅ?」
「金糸雀はヒナのお友達なのー」
「まぁ、ドジっ子であることは確実なのだわ。雛苺といい勝負ね、本人の前では言えないけど」
好き勝手言うものである。
そんな言葉に、さっきまでの爽快感が一転し、金糸雀の自尊心が音を立てて崩れて行く。
「あ、あなた達!私を何だと思ってるのかしら!!あームカムカするかしら!!」
「何で水銀燈が反応するです?あなたには関係ない事です!」
「水銀燈…もしかして金糸雀に遅れをとった事でもある訳?」
「ヒナは金糸雀怖くないもん」
ドールズの会話は、徐々に金糸雀にたいする暴露大会の様相を呈してゆく。
「そう言えばこの前、nのフィールドからの帰りに、金糸雀ったらおしりが大きすぎてつまっちゃったのよね」
「うわ!トロイですぅ。静岡県は丸子名物むぎとろろ汁ですぅ」
「ヒナねー、かにみそが隣の家の屋根から落っこちる所を何度も見たのー」
ドールズの会話を聞いていたカナ水銀は、恥ずかしさの余りぷるぷると体を痙攣さながら、
顔を真っ赤にして3人の井戸端会議を力ずくで遮った。
「ええいうるさーい、みんなこれでも喰らうかしらーっ、まっくろなビーム!!」
カナ水銀の放つ漆黒の龍が襲い掛かる…が、何ともセンスの無いネーミングである。
目からナントカと同じセンスが伺えるような気がするのは気のせいだろうか?
「あなたたちなんか!あなたたちなんか――――!!!」
半泣きでわめきながらめちゃくちゃに乱射する。
土はほじくり返され、庭木は折れ、塀が半壊する。
「わぁぁぁぁあ、止めるです水銀燈!ていうか、なぁんであんたが一々反応しやがるのです?!」
逃げ回るドールズ。収拾が付かなくなって、もう家のそこら中が穴だらけである。
ボロロン!!
カナ水銀の後方から、弦を爪弾く音が夜空にひびきわたる。
「いいかげんにしときなさいよ」
静かな怒気を含んだその声に、カナ水銀が弾かれた様にふり返る。
「誰!かしら?!」
そこにはバイオリンをアコースティックギターの様に演奏しながら、満月をバックにした水銀カナが、
電柱の上からドールズを見下ろして立っていた。羽織ったマントが月明かりに翻る。
中は当然肌着だけ状態。ちょっと間違うとストリーキング。
彼女の肩が怒りに震えていた。水銀カナはみっちゃんの所から逃走した後、めぐの病院に向かったのだが、
そこで見た光景は悶え苦しみながら運ばれて行くめぐの姿だった。
どうやら調子に乗って力を使いすぎ、金糸雀はミーディアムを疲弊させてしまったらしい。
「あなたのせいで…あなたのせいで、めぐが集中治療室に入っちゃったじゃないのよぉ!!」
しかし、そんな事言われても、金糸雀はめぐなんて誰なのか知らない。
復讐の決意を胸に秘めて白いマントをなびかせながら、といってもみっちゃん家のカーテンなのだが、
カルメンの第3幕への前奏曲を情熱的に掻き鳴らす。
ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!
ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!!!
薔薇が宙を舞い、ドールズたちは一斉に掛け声を上げる。
「オ・レ!!」
…マンボだったら「ウ!!」とでも返したに違いない。
だがカナ水銀だけは、演奏の超絶技巧を見抜いて動揺していた。デキル!心の中でそう思ったけれど言葉には出さない。
「おほ、おほほ、おほほほほほ、何かしらぁ?どっかの渡り鳥にでもなったつもりなのかしら〜ぁ?」
そのネタは古いぞ、カナ水銀。
各々外野がエールになっていないエールを飛ばす。
「カナガワーがんばるですぅ!」
「かにみそーがんばるのー!」
「将軍さまーまんせーなのだわー!」
顔を真っ赤にしたカナ水銀のヒステリーじみた声が響き渡る。
「そこっ!!今喋ったの誰かしら!!?」
全員です。
「だから、なーんで水銀燈が反応するです?」
カナ水銀が気をとられたその一瞬を衝いて、水銀カナが素早く攻撃を仕掛けた。
「いっくわよぉ、序曲!背徳の不協和音!!!」
遅れをとったカナ水銀の顔に緊張が走る。
『わわっ!一体どんな演奏が奏でられるって言うのかしら!?』
しかし、思わず身構えたカナ水銀の予想とは裏腹に、バイオリンの弓を空中に投げ捨てた水銀カナは、
爪で弦を直につまんでそのままゆっくりと上下にしごきだした。
ギャキキキィィィイイ!!!!
そこから放たれる音は黒板を引っ掻く様な強烈に不快な音。
桜田家の窓が粉々に割れて吹き飛ぶ。屋根がビリビリと共鳴しだす。
「わあぁぁぁぁ!!これはたまらないですぅぅぅ!!!」
「くぅぅぅ、金糸雀、止めるのだわ!!」
この攻撃にはカナ水銀も耐え切れずに、失速して地面に突っ伏しのたうち回る。
「ひいいいいぃ、何てハイレベルの演奏なのかしらー!!ジョン・ケージも真っ青かしらぁ!!」
いや、これを演奏とは言わないぞ。
予想外の攻撃にカナ水銀は這いずりながら逃げに入る。逃げ足だけはローゼンメイデン一。
「ちょっと、待ちなさい!」
水銀カナが追撃に移行する。だが、金糸雀の体では水銀燈に追いつく筈が無い。
遠く逃げゆくカナ水銀を見ながら、水銀カナは攻撃の手段を変えることにした。
「…金糸雀、めぐの仕返しはあなたのミーディアムにさせてもらうわよぉ」
2体が去った後、ドールズは穴だらけの庭に呆然と佇んでいた。
「金糸雀…おそるべき嫌がらせ攻撃ですぅ…」
「…水銀燈の攻撃の名前って『まっくろなビーム』って言うのね…」
「ダッサイ名前ですぅ」
「ほんと、最低のセンスだわ」
「うにゅー、たまごやきがじゃりじゃりなのー」
こうして水銀燈の黒龍波は、まっくろなビームと呼ばれることになった。
後編へつづく。
ついカッとなって前後分割をやってしまいました。今は反省している。
後半の場面はみっちゃん家の御風呂シーン再び。1週間後位に予定。
笑わせていただきましたw
笑ったwww
期待して待ってます
「誇り高き我が名前、真紅にかけて誓う。 貴方をここで。 処刑するわ。」
「ヒナねぇ、こんな気持ちになったの初めて。 これからすっごくすごく酷い事するつもりなのに。
……ちっとも可哀想に思えないの。」
「お前のボキャブラリーなんてタカが知れてますけどぉ、命乞いするだけしてみたらどうですかぁ?
ひょっとしたら気が変わっちゃうかもしれないですよぉ。 に・ん・げ・ん。」
クスクスと笑う声に総毛立つ。 愛らしい声。 だが、その双眸には情なんて一かけらも見当たらない。
憎悪。 そうだ。 人形達の瞳が秘めたもの。 それは、憎悪と……殺意だった。
恐ろしい。 心の底から恐ろしい。
もし人間だったら、これほどまでの憎悪を抱えていても、なお笑えるものなのだろうか。
少なくとも僕にとっては、笑いは喜びの発露だった。
これは何なんだ? 夢なら、夢なら今すぐ覚めてくれ。
いつもと同じように起きて、いつもと同じように過ごした日。 いつもお馴染みの桜田家で。
僕はいま、命を落とそうとしている。
何なんだ、この状況は。 本当にここは、あの憩いの桜田家なのか。
逃げる。 動かないに等しい頭に、その単語が浮かんだ。
そうだ、逃げなくては。 ここから、この状況から、逃げなくては。
「はっ……ひは……」
なのに。 走ろうとすると膝に力が入らない。 何か言おうとすると言葉にならない。
ただただ怖い。 恐怖という感情がこれほどのものだなんて、知らなかった。
それでも、生きてこれたのだ。 今日までは。
シンクが静かに動いた。 瞳がそれを認識した瞬間。 僕は弾かれたように走り出した。
でも、それでは遅く。
明確な殺意を持った拳が、僕の顔面に叩き込まれた。
「えふぁ……!」
顔面を襲う衝撃。 僕は「痛い」という単語が浮かぶ間もなく吹き飛んだ。
あっけなく床に転がる僕。 慌てて立ち上がろうともがく。
だが、焦れば焦るほど、直ぐに立てない。 早く! 早くしないと!
痛いっ。 手に何か刺さった。 何かの破片だ。
横を見ると、僕がぶつかったせいなのか、花瓶が割れて辺りが水浸しだ。
……化物だ。 改めて思い知った。 理性で考えまいとしても、絶望感が押し寄せる。
人は殴られたくらいじゃ、何メートルも吹き飛んだりしない。
それを、あんな小さな人形が。
喋る。 動く。 人を…殺す。
あいつらは、あの人形は紛れも無く化け物なのだ。
周りを見回す。 ここはリビングを出て直ぐの場所だ。
そしてまだ、人形たちはリビングから出て来ない。
生存本能がなんとか僕を立たせた。 …玄関はすぐそこだ。 外に出さえすれば…!
一歩。 二歩。 三歩。 駆け出すと、体に力が湧いてきたような気がする。
やった、追いつかれてない! 何とかなる……!
はずだった。
「え……?」
玄関など無かった。
いや、あったはずなのだ。 あったはずのものが 消 え た 。
「ジュン……」
背中から声。 正しいかどうか、考えもしなかった。 そんな余裕は無かったのだ。
僕は立ち止まって、後ろを振り返ってしまった。
シンクがいた。
近い。 5メートルも離れてない。 死ぬ。 殺される。
死を予感する自暴自棄な気持ちと、最後まで生を諦めきれない気持ち。
感情が僕の口をついて出た。
「なんでこんな事するんだ!? 一体、僕が何をしたって言うんだ!!」
「理由なんて無いわ。」
シンクはさらりと即答した。
は?
僕の頭の中が真っ白になる。 無い。 理由なんて無いって言ったのか。
怪奇現象には理由がある。 その原因を解消すれば、命は助かる。 恐怖映画でお馴染みのパターン。
その可能性にすがっていた。 助かりたかった。
でも。 一縷の望みは、今、ゼロになったと宣告されたのだ。
「理由が無くてはこんな事をしてはいけない?
あなたがいるのが気に入らないの。 同じ空気を吸うなんて耐えられないの。 ただ、それだけ。」
「痛くないわ。」
一歩、近付かれた。
「それは、とても甘美な眠り。 起こす者も無く。 もう誰も貴方を傷つけない。」
そしてまた一歩。
動けない。 すくんだままの僕に、最期の時が迫る。 助けて……助けて…!
前後も分からない、この奇妙な空間。 それを見つけたのは偶然だった。
学校の上履き。 頼りない筆跡で書かれた「JUM」。 学校。 そうだ。 こんな所で、終われない…!
瞬間、金縛りが解ける。 僕は弾かれたように体を翻し、この場から遠ざかろうと走り出した。
「翠星石。 そちらに行ったわ。 始末して頂戴。」
背中から聞こえてきた言葉は最悪なものだったが、止まる訳にはいかなかった。
鼻の周りが腫れぼったい。
感覚が鈍くなっていて、痛いのかどうかも、鼻があるのかすら分からない。
おかげで口だけで息をしなければならない。 それがどうにも辛い。 肺に余計な負担が掛かっている。
喉が痛い。 服が重い。 こんな事なら、もっとラフな格好をしておくんだった。
「止まるです。」
正面に小さな影。 スイセイセキだ。 誰が止まるか!
ガクッ。 !? 心とは裏腹に、僕はもんどりうって倒れた。
あ、足が! 足が誰かに掴まれてる! ……いや、これは……草?
「うふふふ……ヒナもいるのよ♪ ふ、ふ。 ふふふ。 ヒナがやったの。 ヒナがやったのぉ〜♪」
やられた! 正面は囮だったのだ。 無邪気に、楽しそうに笑いながら。 ヒナが暗がりから、僕の顔を覗きこんでいた。
神経を直接掴まれたような足の痛み。 元凶である彼女の笑みは、怖いくらいに無垢。
狂っている。 この人形達は狂っている。
「無様な成りですねぇ。 n のフィールドで私達から逃げきるなんて、最初から不可能なのです。」
止まってしまった事で、走り続けてきた疲労が一気に押し寄せて来る。
あぁ……もう駄目だ。 恐怖、後悔、悲しみ。 絶望感に、僕は怨嗟を吐き出さずにはいられなかった。
「……どうして。 どうしてこんな事するんだ。 ……理由も、無いなん、て。 じゃあなんで。 なんで僕なんだ……」
溢れてきた嗚咽が、視覚と直結して引っ込んだ。 スイセイセキ。 彼女の顔が、憤怒で、歪んでいた。
恐怖と……美。 動けない。 動く人形と、動けない人間。 なんという悪夢だろう。
「どうして? 理由が無い? ……お前が、言うですか。 …………よくも、抜け抜けと……!」
「……おやめなさいな。 言って聞かせたって駄目。 自分で気付かせなければ、なんの意味も無いのよ。」
理由? 理由がある、のか。 理由って何だ? どんな理由か知らないけれど、こんなの非道いじゃないか。
私刑。 自分の尺度で善悪を決めて。 それを僕に押し付けてるだけじゃないか……。
でも、もうどうでもいい。 もうどうしようもないのだ。 真紅の手が迫り、激痛。 僕の意識が失われていく。
「何してるんだ君たちは!!」
闇を払い。 失われた僕の意識を呼び戻した、その声。 なぜだか僕はその声を酷く懐かしいと思った……。
「あっとゆーま♪ あっとゆーま♪」
うるさいな、まったく……日曜日くらいゆっくり寝させてくれよ。
まぁ、日曜日以外もゆっくり寝てるけど。
ふわぁ〜と伸びをして眼鏡をかける。 んむ、09:20。 ……そう早くもないか。
「ジューン! 凄いのよー! 今日は朝からプリンなのー!」
失われた僕の意識を呼び戻した、その声。 苺の奴はいつも通りエンジン全開だ。
子供って、何でこんなにエネルギーが余ってるんだろう。
「にっちようびー♪ にっちようびー♪ きょうはいっしょぉー♪
ジュンものりもずっといっしょぉー♪ にちようび、だぁ〜いすき!」
……ったく。 何だよその歌は。 ……僕は顔を赤くなんてしないぞ。 しないったらしない。
「ほらほらチビチビ! くんくんが始まっちゃうですよ! ダッシュダッシュですぅー。」
性悪人形ご登場。 くんくんと聞いて、雛苺はスーパーダッシュで部屋から出て行った。
それを目で追った後、こちらに目をやってくる翠星石。 悪戯っぽく微笑むと、いつもの軽口を叩いてきた。
「んー、相変わらずジュンは寝坊助ですねぇー。 このまま永眠しちまうかと思ったですぅー。」
言葉は相変わらずだけど、いつもみたいな含みのある笑顔ではなくて。
なんだか純粋に……。 まだ半分寝惚けた頭で、そんな事を考えながらぼんやり彼女を見つめていると。
「な、何ですか、ジュン……そんなにじっと見て。 言いたい事があるなら、男らしくハッキリ言いやがれですぅ!」
「え? いや、なんか可愛いなって。」
っておい!! 何言ってんだ僕!! 思わず返答してしまったが、もう遅い。
あぁあ、赤い。 翠星石は今や完全にユデダコと化していた。 やばいやばいやばいヤバイやばい!
「と、突然何を言うですか! こ、心の準備ってものが…じゃなくて! ま、真っ赤な顔して、いきなり変なこと言うなですぅー!」
「こ、言葉のアヤって奴だよ! いつもと比べたらっつぅか……そもそもお前の顔の方が絶対に赤い!」
「ジュンの方が赤いですぅー! もうにんじん同然です! トマトです! パプリカです! 真紅よりも真紅ですぅー!」
「真紅って言う奴が真紅だ! アイデンティティの崩壊だ! 人気投票を怖れてももう遅いわ!」
「誰が私ですって?」
戸口を見ると、そこには仁王立ちの真紅。 顔は笑っているが、目はマジだ。
「誰の人気が何ですって?」
「い……いえ……真紅様のミリキを得票数で計ろうとする馬鹿どもの愚を力説していた所で……」
「そう……良かったわ、ジュン。 惨劇には似つかわしくない朝だものね……。」
どうやら生存ルートに入れたようだ。
朝っぱらから人生を綱渡りしてしまった。 たぶん残機も1機減った。
「す、翠星石はもう行くですぅー。」
う。 翠星石が顔を伏せたまま、小走りに立ち去った。
まだビミョーに気まずい気はするが、なんとか有耶無耶になってくれたか。
なんか危ないムードだったよな、さっきのは……。
くいくい。 ん? 気付けば真紅が服の裾を引っ張っている。
……心なしか、顔がムスッとしている…ような?
「いつまでボケッとしているの、気の利かない下僕ね。
……下まで抱っこして頂戴。 それで、先刻の無礼は忘れてあげるから。」
苦笑する僕。 かなわないな、こいつには。
「はいはい。 これでいいですか、お姫様。」
「はい、は一回よ。 ……よろしい。」
真紅を抱き上げると、甘えるように頭をもたせ掛けてきた。
こいつのこういう仕草には、いつまでたってもドキッとさせられる。
それに、なんだろう、今日はみんな……やけに、優しい、ような気がする。
何だか恥ずかしくって、取り繕うように言葉を紡ぐ。
「まったく……ひょっとして僕は自分から憑り殺されようとしてるんじゃないだろうな。」
それに対する真紅の返答には……なぜだろう。 妙に真剣な響きがあった。
「馬鹿な事を言わないで。 私達が貴方を傷つける事なんて無いわ。 絶対に。」
「貴方はもう、私達にとってかけがえの無い人間なのよ。
私も、雛苺も、翠星石も、みんな貴方のことを大切に思ってる。」
「貴方がミーディアムだから、なんて理由ではないわ。
知っているから。 貴方の強さを。 包みたいから。 貴方の弱さも。
寄り添っていたいから。 貴方の優しさに。 …桜田ジュンを知ったから。 いま、私達は此処にいる。」
「貴方の喜びは私達の喜び。 貴方を喜ばせるもの全てに接吻て回りたいくらい。
貴方の敵は私達の敵。 百の夜を越えて必ず償いをさせるわ。
貴方の未来は私達の未来。 できるなら……これからも共にありたい。」
「ねぇ、ジュン。 こんな事を言うのは恥ずかしいけれど、私達は当世の常識に欠けているわよね。
だから、たまにやり過ぎる事があると思う。 でも、それは真心の裏返し。
それだけは、分かってほしいのだわ。 …………せめて、貴方には。」
……真紅は、真剣だ。 罪のない嘘をつく事はあっても。 冗談でこんな事を言うような奴じゃない。
胸が熱くなる。 こんな気持ち、言葉なんかで表せるはずがない。
それなら。 言葉になんか、しなくてもいい。 僕と真紅。 言葉が無くても、きっと。 「伝わる」気がするから。
だから居間に入った時、僕は何度も目をこすった。 ごし、ごし。 ごしごしごしごしごし!!
……梅岡。 うん、梅岡先生だ。 パンツ一丁で手足を縛られ、ボコボコにされてる点を除けば、不審な点は全く無い。
そう言えば昨日来るとかなんとか、柏葉が教えてくれてたし。
教師の癖に約束破ってんじゃねーよとか思ってたけど、来なかったんじゃなくて来れなかったんだね、先生。
あぁ、なるほどね。 さっきの熱弁はこれの予防線だったのね。 凄い力説だったよね。 うんうん。
真紅、これはアウト。
「……分かってほしいのだわ。 …………だめなの?」
真紅がどんなにかわいこぶった所で、目の前の梅岡が無かった事になるわけでもなく。
僕はあらん限りの声で叫んだ。
「何してるんだキミタチはぁァァァーーーーーーー!!!」
「うっうぅぅ……本当なんだよ、桜田さん……。 人形が僕を襲ってきたんだよ……」
「きっと疲れて悪夢でも見たんですよぅ〜。 先生、いつも一所懸命でいらっしゃるからぁ…。」
苦しい言い訳をしながら、姉ちゃんが梅岡を送りに行った。 苦手極まりない人だが、こうなると哀れだ。
「だって泥棒さんかと思ったの……」
スーツ姿で堂々と玄関から入ってくる泥棒などいない。
「気絶させてひっ捕えたんですけど、そしたら丁度おやつの時間になって……てへ☆ 今朝まで忘れてたですぅ〜。」
含みのありすぎる笑顔が炸裂した。 おやつ>>>梅岡なのか。
「何より、対・水銀燈用に編み出した新必殺技『絆クロー』の威力を試したかったのだわ……」
そう言いながらアイアンクローでリンゴを軽々粉砕する真紅。 試すまでもないだろ、それ!
「…でも、お前らはこういう事しないと思ってた。 いくらなんでも、やり過ぎ…だろ?」
「…………だって。」
だっても何もあるかよ、と言おうとした刹那。
「だって、あの男。 以前ジュンを苦しめた人間に、似ていた、から。」
とか言うもんだから。 僕は二の句が継げなくなった。
似ていたも何も、本人なのだが……だから、許せなかった? …………僕の、ため?
見回して、気付く。 ………あぁ、そうなんだ。 雛苺も、翠星石も。 真紅と同じ理由なんだ。
薔薇乙女の矜持に触れても。 ……僕を、守ってくれようとしたんだ。 ……僕の心を、風がひとつ吹き抜けた。
「……分かったよ。 別に、責めたりしない。 ……って言うか、その……」
僕はくるりと背を向けて、小さな声で呟いた。 ありがとう。
恥ずかしくて、顔なんて見られたくない。 今、真紅たちがどんな顔をしてるかなんて知りたくもない。
でも、言葉には。 カタチにはしておきたかった。 だって分かったんだ。
真紅達が僕を想ってくれるように、僕も真紅達を想いたいから。
いつだって彼女達には曇りの無い笑顔でいてほしいから。
梅岡とかどうでもいいから。
おわり
493 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/25(火) 00:36:43 ID:A2Q2prEt
GJ
梅岡哀れwwww
GJ!
UMEOKAが〜w
冒頭の夢はこれの伏線だったのか!
梅岡センセイご愁傷さまです。というか、最後の一行で吹きました。
懲りずに14行縛り。
「おはようです、蒼星石お姉ちゃん♪ 朝ご飯の準備が出来たですよ♪」
いささか唐突な翠星石の言葉に、蒼星石は目が点になった。
「後から生まれた方が双子の兄、または姉なのです。だから、蒼星石は翠星石のお姉ちゃ
んですぅ♪」
その日、翠星石は蒼星石の事を「お姉ちゃん」と呼び続けた。蒼星石の当惑なぞどこ吹
く風といった具合に。その夜、翠星石が寝付いたのを見計らって、蒼星石はジュンに事の
子細を説明した。
「――という訳なんだよ。すっかり調子が狂っちゃった」
「あ、ごめん。それを教えたのは僕」
「……頼むから、翠星石に余計な事を吹き込まないでよ」
「あくまでも、人間の場合として教えたんだけどなぁ……」
蒼星石が刺した釘の穴を、少しでも広げるようにジュンは呟いた。蒼星石はキレた。
「それが余計な事なの! 被害を受けた僕の身にもなってよ!」
それからしばらくの間、蒼星石がジュンと口を利かなかったのは言うまでも無い。
終わりです。
>>485 GJ!
まったく、真紅たちの想いとは裏腹に
JUMはひどいなw
>>495 まぁ、一生もんの失態だからねw
>>492 > 梅岡とかどうでもいいから。
声だしてワロタw
水銀燈「真紅ぅ〜、今日こそジャンクししてあげるわぁ」
金糸雀「アリスゲームなんて下らねぇ!俺の歌を聞け!かしら」
真紅 「ヤック、デカルチャ~」
>>476 まっくろビーム、物の形を即座に表現し
命名された大変無駄のないネーミングですねw
続きwktk
>>492 アップルクラッシュは握力100`以上ないと出来ない荒技・・・恐ろしい
501 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/25(火) 13:46:55 ID:TNUsQMqB
・・・の多様は避けた方がいい。
文章が安っぽく見えるし、点だけで何がしたいのか伝わりにくい。
俺は・・・を多用した文章を書くのも読むのも好きだったりする。
過去に感動を受けた神作品や、二次やエロだけでなく好きな商業作品を読んだ結果。
普通にドバっと使ってるし読んで面白いし、使うべき調味料はドバっと使うのがうまい料理。
もちろん・・・の多用を控えた文章にもいいのがあるよ、
そういうのが共存できるのがこのスレのいいところ。
>>492 シリアスシーンとギャグシーンの使い分けが絶妙ですw
>>495 14行という限られた行数で巧妙に物語を展開していて、見事です。
>>502>>503 ようするに、職人が・・・をうまく使い分けれるかどうか、ってことかな。
この前投下した自分の作品は出来ているかどうか不安だけど・・・。
505 :
アルテマ:2006/04/25(火) 18:46:17 ID:voDgzcuJ
薄暗い世界、空もなく、雲もなく、ただ殺風景な景色だけが広がる空虚な世界。
そんな空っぽな世界には凡そ不似合いな轟音が鳴り響く・・・・
ビシュン!ガキィィン!
nのフィールドと呼ばれる異次元空間で日夜繰り広げられる血で血を洗う戦い、
アリスゲーム
人形師ローゼンが作り上げし7体の薔薇乙女達によるローザミスティカを賭けた戦い。
六つのローザミスティカを得た者だけがなれる完璧なる乙女、アリス。
そのアリスになる為、この虚無の世界で今宵も2体の薔薇乙女が死闘を繰り広げていた・・・・・・・・
ジャームーオージーサーン
ハーーーーーーーーーイ
508 :
薔薇乙女戦争:2006/04/25(火) 19:40:49 ID:rbUz2kmo
>>461 薔薇乙女の父に会った。そう聞いた真紅は初め、何かの冗談かと笑い飛ばした。
アリスにならなければ会えないとされるドールズの創造主。その偉大な存在とジュンがとうに出会っている。近所の店で「槐」と名を変えて人形師をしていると彼は言うのだ。
話をするジュンの顔は、真剣そのものだった。もしかしたら、と彼女が思い始めるのに、そうは時間は掛からなかった。
薔薇乙女の誰もが恋焦がれた「お父様」がすぐ手の届く所にいる。真紅はいても立ってもいられなくなり、帰ったばかりのジュンを連れて外へと飛び出した。
「ジュン、本当にここなの?」
「ああ、そうなんだけど……」
道路上で佇むジュンと、それに抱っこされている真紅。二人が見ている先はただの空き地。
それも普通の空き地ではなく、土地はアスファルトで舗装され、街路樹や小さな花壇で整備されている。まるで、ここには最初から建物など無かったかのようだ。
ジュンは狐につままれた顔で突っ立っていた。今さっきあった店が消えているのだ。ここに店が建っていた痕跡が微塵も無い。魔法でも使ったのか、そうでなければ、本当に店があったのか。ジュンは記憶に自信が持てなくなりそうだった。
この怪奇現象を確かめたかったジュンは、通行人を捕まえて尋ねてみることにした。彼はちょうど通りかかった地元の人らしい私服の青年を捕まえた。
「すいません、ここに人形の店ってありましたよね?」
509 :
薔薇乙女戦争:2006/04/25(火) 19:41:47 ID:rbUz2kmo
青年は抱いている真紅を見て奇異な視線を向けたが、質問に答えてくれた。
「そういえば、あったな。あれ? でも、いつの間になくなったんだ……?」
青年は店があった場所を見て首を捻る。やはり、ジュンの思い違いなどではなかったのだ。
「それは確かなの?」
「おう、確かに――」
青年の動作が固まる。
やたらと目立っていた人形が喋ったのだ。そして、その人形と目が合う。
「何? 私の顔に何か付いてる?」
異様に自然な動作で頬に手をやる真紅。青年の顔は真っ青になる。まずいと思ったジュンは慌てて取り繕おうと苦笑する。
「ぼ、僕の腹話術、上手いでしょ? 将来は芸人を目指してるんです」
「ジュン、何を言ってるの?」
「いいから、黙って合わせろ」
「私に命令する気?」
「そんなんじゃないって!」
「じゃあなんなのよ」
喧嘩を始めた二人を見て後退する青年。数歩下がって距離を取り、一気に背を向けて走り去った。真紅のことがばれてなくても、危ない人だと思われたのは確実だ。ジュンは髪を掻き毟った。
510 :
薔薇乙女戦争:2006/04/25(火) 19:43:00 ID:rbUz2kmo
真紅はジュンの言っていた事が信じるに値するものだと確信した。確かに人形店は存在し、ローゼンはそこにいたのだ。真紅が出向くなり消えた店が、それを裏付けているようなものだ。
自室に帰宅した真紅はもう一度、槐について詳しく聞いた。そして、ジュンはその事について苦々しく語った。
「あの人は壊れた翠星石を見て「自分の娘だ」って泣いたんだ。それで、翠星石を直してもらおうとした。だけど、駄目だった。どうしてだと思う?」
真紅には辛い質問だった。お父様はアリスの誕生を望んでいる。それを考えれば、答えは明確だった。
「翠星石は……今のままの私達は、お父様に望まれていないから……」
最終的に求められているのは完璧な少女。不完全な命の欠片を持つ薔薇乙女などは、そこへ行き着くまでの過程でしかない。それは、真紅が生まれた時から承知していた事だった。
それでも彼女が父親を愛せたのは、確かな愛情を受けて生まれたからだった。ローゼンは、いずれはアリスになる娘達に等しく愛情を注いだ。例え道具として創られたとしても、その愛情は本物だった。
「そうだよ。ローゼンは翠星石のローザミスティカを見て「アリスに相応しい」なんて言ったんだ。ふざけるなッ。翠星石は翠星石だ!」
思い出して熱くなるジュン。ふと、真紅は彼女が羨ましく思えた。傍にいられなくなっても、想い続けてくれる人がいる。私が遠くへ行ってしまっても、この人は同じように想ってくれるのだろうか。
「翠星石はジュンの心の中で生きている。あの子もきっと喜んでいるわ」
「まだ僕は諦めてない」
翠星石が死んだように言われ、ジュンは気分を悪くした。だが、絶望的なのは彼も解っていた。頼みの綱の槐には断られ、しかも、その槐がローゼン本人だったのだ。他に薔薇乙女を修理できそうな当ては無かった。
「わかってるわ。でも、これだけは言わせて」
「何だよ」
「もし、私が倒れても、ジュンの心の中に居させてくれる? 居場所はほんの小さなスペースでいいの……」
511 :
薔薇乙女戦争:2006/04/25(火) 19:43:50 ID:rbUz2kmo
ジュンは言葉を失った。激情に駆られて、またも真紅のことを忘れてしまっていたのだ。忘れていたばかりか、彼女を追い込むような質問さえしている。
目の前の真紅は怯えているのか、いつもより小さく見えた。それに、あの真紅が負けを考えるような弱気になっているのだ。その心情は察して余りある。ジュンは不甲斐ない己に腹を立たせ、拳をぎゅっと固くした。
「そんなスペースはない」
真紅は呆然と目を見開いて放心した。そして、俯いて肩を落とす。最後の居場所まで無くなったのだ、と……。
だが、ジュンにそんなつもりはなかった。
「真紅は倒れない。僕が倒れさせない。だから、そんなスペースは用意してない」
「ジュン……!」
感極まった真紅は、目頭が熱くなるのを感じた。しかし、気丈な彼女は涙は見せない。彼女は誇り高い薔薇乙女なのだから。
そして、ジュンはその彼女に相応しい男に育ちつつあった。出逢ったばかりの頃の彼の暗さは影を潜めている。自暴自棄の彼に励ましの手を差し伸べ続けた成果が表れ始めたのだ。
真紅は己のマスターを誇らしく思えた。同時に、不甲斐ないドールで申し訳なく思えた。いつしか戦いを恐れるようになり、蒼星石との戦いではマスターの負担を顧みない愚を犯してしまったのだ。
ドールはマスターの期待に応えなければならない。真紅はジュンの想いに応えるべく、新たに決意を固める。
二度と情けない姿は見せない。
ゆっくりとだが、彼女の闘志は戻りつつあった。
512 :
薔薇乙女戦争:2006/04/25(火) 19:44:52 ID:rbUz2kmo
金糸雀は日傘を片手にnのフィールドを彷徨っていた。と言っても、当ても無くぶらついている訳ではない。彼女には目的があった。
そして間も無く、彼女は目的の人物と遭遇する。
「アリスゲームを、始めましょう」
白い髪の少女の開口一番は宣戦布告だった。
それでも、金糸雀は驚かない。一斉に脱落者が出た今、これは至極当然の成り行きなのだ。
「まずは話を聞いて。ゲームはその後でもできるのかしら」
日傘を差したまま、彼女は落ち着いて不戦の意志を告げる。薔薇水晶は何も言わずに静止する。それを了解と受け止め、金糸雀が話を始める。
「私は雛苺のローザミスティカを手に入れたわ。だから、持ってるのは二つかしら。あなたは?」
「答える必要がありません」
「そうね。でも、多くて三つかしら。真紅が少なくとも二つは持ってるもの」
金糸雀は頭脳派と自称するだけあり、情報の収集に余念が無かった。住居が特定されている真紅の監視は比較的やりやすい。これを見逃すのは愚かだ。
彼女は人工精霊のピチカートを偵察に連日送り、翠星石の脱落を知ったのだ。隙を突いて雛苺を襲えたのも、その努力があっての事だった。
513 :
アルテマ:2006/04/25(火) 19:45:22 ID:voDgzcuJ
翠星石「ハァ・・ハァ・・・・」
息を切らす一体の人形、エメラルドとルビーの左右で色の違うオッドアイ、草原をイメージさせる様な緑のドレスに自身の背丈以上に長いブラウンの髪・・・・・・
彼女の名は翠星石。人形師ローゼンが作り上げし第3ドール、人の夢の扉を開き、心を育て、癒す夢の庭師。
彼女もまた、自身の宿命に従い、アリスを目指して戦う者の一人である。
この日は自身の双子の妹である第4ドール・蒼星石に会いに行くため、nのフィールドを通って蒼星石が世話になっている家え迎う所だった。
普段は鞄に乗って空を飛んで移動しているのだが、生憎この日は大雨で、空を飛んで行くの不可能だった。そのため、普段は戦いの時ぐらいしか入らないnのフィールドを通って向かおうと考えたのだ。だが・・・
それが全ての間違いだった
――――――
――――
――
―
翠星石「ハァハァ・・・・・クッ!」
ジャキィィン!ズオォォン!
満身創痍の翠星石に水晶の巨槍が襲う。
ヒュンッ!
足元から不規則に出現する巨槍を紙一重で躱す翠星石。その表情からは余裕は感じられず、動くだけで精一杯だった。
514 :
薔薇乙女戦争:2006/04/25(火) 19:45:49 ID:rbUz2kmo
「あちらはローザミスティカ二つに加えて、ミーディアムのジュンまで居る。正直、カナの勝ち目は薄いかしら」
マスターを殺された金糸雀の戦力は、大幅にダウンしていた。ローザミスティカを一つ奪ったが、相手も同じように強くなっていては戦いが有利にはならない。真紅が翠星石のローザミスティカを使えば、金糸雀と同じ数になる。
彼女はこの差を埋めるために薔薇水晶と接触したのだ。今から、そのための交渉に入る。
「もしもあなたにマスターがいないとしたら、やっぱり真紅には勝てないと思うわ」
仮定が当たっていても、薔薇水晶の表情は変わらない。彼女も指輪の契約はまだだった。ローザミスティカも蒼星石から奪っただけなので、真紅とぶつかれば苦戦を強いられるのは確実だろう。
だが、彼女はどんな状況でも真紅に負けるつもりはなかった。分が悪いのなら、目の前の少女の力を奪うまでだ。自然と瞳に殺気が宿る。
敏感に危うい空気を感じ取った金糸雀は、事が起こる前に本題を述べた。
「そこで提案だけど、私と手を組んで欲しいのかしら」
それは、同盟の提案だった。アリスゲームに明確なルールは無い。これも立派な作戦だ。
「もちろん、真紅を黙らせるまでの一時的なものよ。ダメなら、ここで命の取り合いをするしかないのかしら」
共闘の誘いを受け、薔薇水晶は熟考する。
ここで金糸雀を潰すのも悪くない。しかし、万が一にも手傷を負わされでもしたら、その後の強敵真紅に勝てる見込みは無くなる。
アリスに選ばれるのは一人だけ。最後まで生き延びなければ意味がないのだ。最も優位な立場の者を蹴落としたいなら、下位で無用な争いをするべきではない。益々、上位が楽になるだけだ。
それに、ここで誘いを蹴っても損をするだけだ。下手をすれば、金糸雀が他のドールと組む事もありえる。金糸雀があくまで最終的な勝ちを狙うなら、真紅を誘っても何ら不思議ではない。
結論は出た。
「いいでしょう」
その返事に満足し、金糸雀は不敵な笑みを浮かべる。薔薇水晶も同じ笑みでそれに返した。
つづく
おまえら総合スレのほうも見てやれよ
当然、関連のスレは一通り拝読させて頂いている。
各々のスレがいい書き手を抱え、良質なSSを輩出している。
極めて良好な状態に見えるが?
>>514 まってました!
翠星石の死すは翠派としてつらい物がありますが
物語が整っていて大変、自然と感情投入してしまいます
もうGJとしか言い様がありませんね
次回作wktk!
>516
コンディションなんて誰が聞いたよ?
薔薇水晶「・・・・・・。」
翠星石から数メートル先、金色の瞳、左目には薔薇のアイガード、紫電の髪を靡かせ、紫のドレスを纏うその姿はまさに悠然の二文字。
自身の手掌から繰り出される攻撃を必死に回避する翠星石を無表情で見つめ、一切手加減する事なく、非情なまでに攻撃を加え続ける・・・・・
薔薇水晶―――――
ローゼンメイデン第7ドールにして薔薇乙女最強の戦士。冷酷にして非情・・・・・勝つの為なら手段を選ばない戦いぶりに畏怖する者も多い。
ドドドドッ!ガシュゥン!
翠星石「クッ!」
薔薇水晶の攻撃を躱し続ける翠星石。そしてそれを尚も冷徹な面持ちで見つめる薔薇水晶。
翠星石「ハァ・・・ハァ・・・・何なんですかアイツは!?しつこい野郎ですぅ!」
薔薇水晶の猛攻に曝され、満身創痍になりながらも自身の苛立ちを吐き捨てるように翠星石が叫んだ。
事の発端は一時間前、蒼星石の元へ向かうべくnのフィールドを一人意気揚揚と歩いている所を突如薔薇水晶に強襲され、有無も言わさず戦闘になったのだ。
序盤こそ善戦していたが、その実力差故に徐々に押され始め、今では首を落とされる寸前にまで追い詰められている。
翠星石「(こんな事なら黙って家に入れば良かったですぅ〜)」
自分の愚行に対して今更ながらに後悔する翠星石。
そもそもnのフィールドというのはドール達にとっては庭の様なものであり、自分の力を最大限まで引き出して戦える場所である。
そんな世界に一歩でも足を踏み入れれば、それを自身に戦う意志があるという証明であり、例え襲われても文句は言えない。それはドールである翠星石自身もよく知っている筈だったが、桜田家での平穏な生活がそれを忘れさせていた・・・・
書きながら貼るより、一度メモ帳に纏めて(携帯なら下書き保存して)完成してから貼った方がいいよ。
良作投下のラッシュ、嬉しい悲鳴を上げながらこのスレを読んでます
ボクも微力ながら向こうを張る気持ちで、一本書き上げました
では、SS「されざる者たち」、投下します
ある日
ニュースでもネットでも、不自然なほどの平穏が保たれた、とても平和なように思えた日
僕は真紅に呼ばれた、神妙で無表情な顔、僕は知っていた、真紅のその顔の意味、青く冷たい瞳の意味
とても辛く悲しい事を封じ込めた顔、ローゼン・メイデン達がその永い営みの中で数多く経験した悲しみ
どうにもならない別れ、忍従、諦念、無力感、そして怒り、それらを湛えた青い瞳が僕を見つめる
背を向けたまま何も話そうとしないまま歩く真紅の導きで、僕は階段の下、僕の家の玄関に降りていった
開け放された玄関には既に他のローゼン・メイデン達が集結していた、揃って無言で僕を見つめる
真紅を加えて7体、七人のドール達が黙って僕を見つめる、そして真紅がやっと重い口を開いた
「ジュン、私達、貴方に言わなきゃならないことがあるの」
それだけ言って口篭もる真紅に、何故か今日は大人しく他のドール達と一緒にいた水銀燈が割り込んだ
「人間・・・私達、あんたらとおさらばするって事よぉ・・・丁度いい厄介払いでしょお?」
水銀燈の瞳は微かに泣き腫らされていた、ここに来る前にあの病床のマスターに別れを告げて来たのか
「う・・・うぅ〜、ツライですぅ〜・・・・翠星石はせっかくチビ人間を真人間にしてやろうと・・・」
翠星石はいつもの意地っ張りが嘘のように泣きじゃくってる、僕らはいつだって、手遅れの繰り返し
「仕方ないんだよ・・・これが歴史の必然・・・もう僕たちは、明るいおもてを歩けないんだ・・・」
なぜか最も冷静を保っている蒼星石の姿から、一番大きい泣き声が聞こえた気がした・・・泣きたくなった
「ヒナはこんなのいやなのー!ヒナわかんないもん!なにもわるいことしてないのに!おわかれなんて!」
怒りと悲しみに地団駄を踏みながら涙を流す雛苺、それが彼女だけでなく皆の本当の姿なんだろう
「命は・・・大事なのよ・・・みんな自分の命が大事・・・・愛する者の命ならどうかしら?」
薔薇水晶の無感動な顔、彼女は目の前の僕じゃなく、もっと大きい物と戦っている、そして嘆いてる
「皆気づかないのかしら!誰の為にお別れしなきゃいけないの?私やマスターじゃない奴等の為かしら!」
みんな気づいてる、「奴等」の正体も意図も、それに何も出来ない僕らの無力さも・・・正義は、死んだ
僕は立ち尽くした、僕は無力、僕は正しくない、僕は異端、でも、奪われていいものなんて何もない
「そんな・・・そんな突然・・・何でだよ!何とかならないのか?何か方法が・・・せめてもう少し時間を・・・」
それでも、何もない僕には、言葉しか術は無い、僕は空に向け、絶対言いたくなかった言葉を叫んだ
「ローゼン・・・見てるんだろ!・・・・こんなこと許していいのか?・・・何とかしてくれよ・・・・頼むよ・・・」
僕は跪いて涙を零した、ロクでもない人形師のためじゃない、僕らを引き裂く「力」のためじゃない
その時・・・曇り空の間から光が射した、決して晴れないと思われた雲が、ほんの少しの光明を落とした
天空から「矢」が飛んできた、無数の黒い矢がドール達の顔面に降り注いだ
ドール達は強い電流に撃たれた、1千ボルトもあろうかという電圧、絶縁体強度検査のような過酷な電圧
彼女達は倒れない、矢の衝撃にも、確実に寿命を縮める高い電圧にも、彼女達は決して倒れない
矢はドールの顔面に刺さり、それは紋章となって焼き付けられた、3つのアルファベットの紋章
静かになった
顔面に矢を食らったドール達は、お互いの顔を見合わせた、真紅は右頬に、水銀燈は目の周りに、
ドールの顔のあちこちに刻みつけられた矢の紋章を見て、笑い出した、涙を出しながら笑いつづける
「奇跡よ・・・奇跡が起きたのだわ・・・・」
「あぁ・・・お父さま・・・ありがとうございます・・・こんな私の事も、認めて下さるんですね」
「あはは・・・しょーがねぇからこれからも居てやるです、でも・・・あと少しだけ・・・ですぅ・・・・」
「真紅・・・みんな・・・ソレは一体」
誇り高き薔薇乙女達は、顔に紋章をつけた物凄くみっともない姿で、高らかに声を合わせて謳った
「PSEマークよ!」
「ジュン・・・私は真紅、誇り高きローゼンメイデンの第五ドール、経済産業省認定のお人形」
パン!パン!パン!パン!
「トリビァル!見事な茶番でしたな、とりあえずあなた方には、ほんの少しの「飴」を与えましょう
販売はレンタル、猶予期間の延長、『消費者保護』は誰の保護?お神の為でない法があるでしょうか?」
「ウサギ」から与えられた時間はほんの少し、無力な僕らが足掻く様を彼らは笑う、でも、僕らは・・・
「私達が、必ず何とかしてみせるのだわ!」
真紅がウサギに、いつも雲の上から弱き者に痛みを強いるウサギに一歩も退かず、意思の声を上げた
「あんまりあざといマネで私ら零細な者をシメ上げると・・・何するかわかんないわよぉ」
水銀燈は本当に何するかわからない不気味な笑みを浮かべた、海の向こうの悪魔とさえ契るだろう
「そうですぅ!私達はゴマじゃないんだから、絞れるだけ絞ろうなんて奴等は痛い目に遭えです!」
翠星石はたくましくしたたかな、鳴かぬ者が鳴くまで待つタヌキのような食えない笑顔を浮かべた
「僕たちは生かさぬよう殺さぬように搾り取られてきた、それなら僕らにも考えがある」
蒼星石は努めて争わず決して退かない、しぶとく忍耐強い三河武士のような強い意思をみなぎらせる
「みなしレンタル、オブジェ扱い、偽装輸出、この私にかかればあいつらなんて穴だらけかしら!」
金糸雀の猿知恵、でも追い詰められた者の知恵は何よりも怖い、その知恵の結論は「法の無視」
「フランスはデモとかしてこわいのー!でもヒナは何もしない日本の若いひとの方が怖いの」
雛苺は見た・・・オイ!僕のことか?僕は何もしてない、何も生み出さない、それが何だってんだ
「何もしない事・・・それは最大の破壊、それは彼らが最も恐れる、富を還流するシステムの破壊」
薔薇水晶の言ってる事がわからなかった、僕は、ひきこもりの僕はずっと、わからないふりをしていた
確かに僕は限りある富を食い続けるだけで、何一つ世の中に富をもたらしていない、それはいけないと
思っていた、「彼ら」に富を返さなくちゃいけないと思ってた、でも、彼らが信用出来なくなった時
僕はそういう努力をやめてしまうだろう、ガッコ行って働いて、そういうのへの義務感は鈍るだろう
僕ひとりがそうなった所で何かが変わるとは思えないが、僕みたいなのがゴマンと出てきたら・・・
「彼ら」はその時、気づくんだろうか、愛さない者は愛されない、えげつない奴等は早暁に破滅する
破壊する者達、奪われざる者達、支配されざる者達、僕は・・・・・・・・・もう少しひきこもろうかな
誇り高き薔薇乙女、とても幸せな僕のお人形達は揃って見つめた、彼らを見つめた、そして、宣言した
「私達ローゼン・メイデンは電気用品安全法に反対します!」
されざる者たち(完)
あとがき
先立って成立した「自動車リサイクル法」に涙を呑んだ者として、この話を書きました
家電の流通を許可するPSEマークを付与する為の検査は、1千ボルト近い電圧をかけるらしいです
旧い楽器を愛好する人達、家電板に居る「冷蔵庫や洗濯機を型番で呼ぶヤツラ」そんな熱い奴等に
願わくば試練よりも福音がもたらされることを祈ります、様々な物々の進化を創るのは彼らだから
では、また近いうちに
吝嗇
GJ!
読みごたえがありました
>>526 なんだかよくわからないが熱い志を持つことは理解できた
経済産業省認定・・・(´A`)
面白かったですw
長い
531 :
妄想のままに:2006/04/26(水) 18:38:26 ID:e7CJ0QeV
タイトルは「お菓子選挙」
532 :
妄想のままに:2006/04/26(水) 18:39:23 ID:e7CJ0QeV
「スコーンですぅ!」
「いいえっ、クッキーだわ」
春の暖かな日差しに包まれる桜田家で
今小さな争いが繰り広げられている
リビングで言い争う翠星石と真紅、何でこんな事になったのか
そんな2人を眺めながら、ジュンは頭の中で呟いていた
533 :
妄想のままに:2006/04/26(水) 18:42:03 ID:e7CJ0QeV
ご飯を食べ終わり、各々が自由な時間を過していた
雛苺と真紅、翠星石はソファーで何時ものくんくんを楽しみTV鑑賞会
蒼星石はのりと食器の後片付けをしていた
「くんくんっ、誰なの?犯人は誰なの?」
「犯人は絶対あの猫娘ですー、今にあの犬探偵の口から語られるはずですぅ♪」
「うー、くんくんすごいのー、頑張るのくんくんー!」
3人がTVに熱中している中
食器を洗いながら、のりがふと真紅達に訊ねた・・・。
「今日のおやつ、何がいいかしら?」
いつもなら大体彼女のおまかせで作られているのだが、今日はリクエストに応えてくれるらしい
ドール達に問い掛けたあと、最初に雛苺が声をあげる
「ヒナはねぇー、のりが作ってくれるおやつならなんでもいいのー」
「僕も特には、のりさんのおまかせでいいよ」
一緒に食器を洗っている蒼星石からも同じ返事が返ってきて
2人の言葉にのりは少し嬉しくなった
自分はみんなから信用されてるのかな、何てバカな事を頭の中でぼやきながら
思わず表情に漏れて微笑んでしまう
「そっかぁ〜、じゃーわかったわ!今日も私が頑張って
「そうですねぇ〜、翠星石はスコーンが食べたいですぅー」
と言おうとしたが、途中で翠星石からのリクエストに阻まれてしまった
少し笑顔が歪んだが、元々自分が言い出した事なのですぐ立ち直る
「スコーン〜?雛苺も食べたいのー!」
「姉さんがそう言うなら」
他の2人も異論はない様なので、今日のおやつはスコーンに決まるかに見えた
だが
「じゃー翠星石ちゃんの言う通り、今日はスコーンに
「まって、のり、私はクッキーが食べたいのだわ」
今度は真紅からの声に、また言いそびれてしまった
「クッキー?んー、ヒナも食べたいのー」
「へぇー、きみが他人の意見に口を出すなんて意外だね」
のりが作ってくれる物なら何でもいい雛苺に
真紅の普段見せない反応に意外性を浮ばせる蒼星石
それに真紅が迷いなく答えた
「今日のくんくんはクッキーを食べていたの、私はくんくんの一番の助手ですもの
そんな私がくんくんと同じ物を食べなくてどうするのだわっ!くんくんと同じ物を食べて、同じ生き方を貫かなきゃ
真にくんくんと心を通じ合わせるのは不可能なのだわ」
恥らう様子もなく、淡々とくんくんへの愛を語る
「うぬー?くんくんがクッキー?、食べてたっけーなのー」
「そう言えば食べてた気もしますけど・・・多分ほんの一瞬ですぅ、よく覚えてましたね真紅」
同じTVを見ていた2人だが、返事は疑問形で返って来た
「貴女達にはくんくんへの愛が足りないのよ!」
大真面目に一喝を入れる
おそらく、くんくんを見ている間の彼女は動体視力が飛躍的に揚がるのだろう。愛は常識を凌駕するらしい
しかし、その二つのリクエストにのりはやや困った顔を見せる
「えーと、どうしましょう・・・今日は卵と小麦粉をあまり沢山用意してなかったから
二つも一緒に作れそうにないのよ」
ちょっとしたトラブルの発生に、今日のおやつの献立を決め兼ねているのりだが
戸惑う彼女に真紅が愛の名の元に畳み掛けた
「クッキーは今日でなきゃ意味がないの、私のくんくんは今日クッキーを食べていたのよ
明日じゃダメなの、そう言うわけだから翠星石、今日のスコーンは諦めてちょうだい」
きっぱりと言い切る。だが、それに翠星石が応じようとしなかった
「ちょ、ちょーっと待つです!昨日もクッキーは食べたですよ
何で2日も続けて同じ物を食べなきゃならないのですかぁ〜、断然今日はスコーンですぅ!」
「あなた、私とくんくんとの愛を引き裂こうって言うの!?」
「そんなの知らないですぅ、花よりだんごですよ!」
「ちょ、ちょっと2人とも・・・」
534 :
妄想のままに:2006/04/26(水) 18:43:06 ID:e7CJ0QeV
とまぁ、僕が2階から降りて見たらこんな感じである
「大体スコーンなんて、お菓子は味もそうだけれどそのシェフが奏でた繊細な形を楽しむ物よ
生地と言うキャンバスに描かれた小さな芸術品なのだわ、それを何?
あんな何も手を加えずに無造作に膨らませた様な外形は。まったく、洋菓子の風上にもおけないわ」
まだ言い争っている様だ
「クッキーも作れない真紅にお菓子のなんたるかを語る資格はねーですぅ!
あの雲の様で、口に入れた瞬間に広がる柔らかさ〜♪さらに中にレーズンを入れるともっと美味しさが増すですよ〜
あんな石を食べてる様なお菓子より絶対スコーンですぅ」
なんです〜!なんなのだわ!
2人による互いのお菓子の罵り合いは激しく続いた
そんな中、まるで自分の腕を否定されているかの様で途端に落ち込んでしまった娘が一人いるのは
言うまでもないだろう
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「けんかはやめるの〜」
「そうだよ、2人とも落ち着いて」
言い争う翠星石と真紅を、見兼ねた2人が引き止める
その言葉が届いたのか、ハッと2人が我に返った
「そうね・・・、私ともあろう者がちょっと熱くなり過ぎたわ」
「所詮お菓子くらいの事で、大人げなかったですね」
これでやっと事が治まったかに思えた、ジュンも騒動の終着に1つ安堵の息を付く
のだが
「けど、私はやっぱりクッキーが食べたいのだわ」
諦めてないらしい、そこで次に真紅が1つの妙案を言い出した
「それなら今日のおやつをどちらかにするか
みんなに決めてもらうって言うのはどう?票を多く勝ち取った方が今日のおやつよ」
その妙案に、勝負好きの翠星石が快く受け入れる
「それは名案ですぅ〜♪受けて起ちますよ真紅」
「負けないのだわっ!」
「こっちこそです!」
蒼星石や雛苺、落ち込む姉ちゃんや僕を他所にどんどん話を進めていく2人
まったく、そのお菓子を作るのは誰だと思ってるんだか・・・
535 :
妄想のままに:2006/04/26(水) 18:45:02 ID:e7CJ0QeV
一通り張り合った後、さっそく翠星石が行動に出た
「と言うわけでチビ苺、クッキーとスコーンどっちが食べたいです?」
「うゆー?えーっとねー、ヒナはねぇー」
迷っている雛苺に、そっと耳元で囁き掛ける
「スコーンはですねぇ、苺ジャムを浸けるととっても美味しいのですよー」
「苺っ!?ヒナ、スコーンがいいー!」
有権者の好物を利用した見事な戦術で一票を獲得した
「ず、ずるいのだわ翠星石っ」
「スコーンの利を生かしたまでです〜♪これで一票ゲットです〜」
負けじと真紅も蒼星石に問い詰める
「蒼星石、貴女はどちらがいいの?」
「僕は別に、どっちでも」
そんな特に関心の無さそうな返事に
「貴女、昨日の・・・・いいのね?」
「ク、クッキーが食べたいなぁ〜」
見事な精神操作で一票を巻き返した
「昨日って、何があったですか蒼星石・・・」
「な、なんでもないよ!それより早くどっちにするか決めようよ!」
相当まずいのか、慌てて話を逸らそうとする。本当に何があったのやら
「くぅぅ、妹を脅迫で揺さ振るとは卑怯ですよ真紅」
「やったもの勝ちなのだわっ」
これで1−1、次に狙うのは・・・
グリンッ、今まで様子を眺めていた僕に一斉に顔を向けてきた2人、少し怯んでしまう
しかし、そんなジュンの動揺もお構いなしにズンズンと近寄ってくる
「チビ人間っスコーンかクッキーどっちがいいんです!」
「ジュン、クッキーとスコーンどちらがいいの!」
「わ、まて、そんな同時に言われても」
いきなり叫ばれてまた戸惑うジュン
それからじっと2人が見詰めてくるものだから、意味もなく頬が赤くなり慌てて目を逸らした
何を動揺してるんだ僕は
「・・・どっちも、じゃダメか?」
「ダメです!」
「ダメだわっ」
んな事言われても、どちらか一方を選べばどっちかに殴られるのは目に見えている
そうジュンが返事を迷っていると、ふと翠星石が訊ねて来た
「チビ人間っ、フワフワとカチカチ、どっちが好きです?」
「え?えーと・・・フワフワかな?」
この返事に、してやったりの笑みで勝ち誇る
「でしたらー、ジュンはスコーンの方が好きに決まってるですぅ〜これで2票ゲットです♪」
「ま、待つのだわ!クッキーはサクサクなのよ、カチカチじゃないのだわっ!」
「どっちでも一緒です〜、ジュンは硬いのより柔らかいのを選んだんですぅ〜♪」
「ジュ・・・ジュンッ!」
真紅が睨みながらこちらを振り向いた・・、いや、これは違っ
「おい、ま、まって」
左ストレート絆パンチ!
「グハッ」
カンカンカーンッ!WINNER赤いのッ!
536 :
妄想のままに:2006/04/26(水) 18:47:07 ID:e7CJ0QeV
倒れたジュンは放って置いて、雛苺がしゃがみながら指で突っつき、ジュンの頭の上にお線香を焚いてお祈りをしている
「まだよ、まだのりがいるわっ」
必死に挽回を謀ろうとする真紅だが
「のりはもうダメです〜」
そう告げると、翠星石が目をのりに向ける
そこには俯いたまま、すっかり自暴自棄になってしまった彼女
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「のりー!のりーー!」もはや返事を訊ける状態ではなかった
「これで決まりですねぇ〜、今度こそ今日のおやつはスコーンですー♪」
「ま、待つのだわ!まだあの子がいるのだわっ」
そう言ったかと思うと突然片手から花びらを舞い上がらせた
え、何する気ですか・・・
それは手から滞りなく舞い続け、頭上に桜色の集合体を形成して行く・・、
一通り放出した、次の瞬間、勢い良くその花びら達をドアに向けて飛ばし出したっ
リビングの中を、桜色の一線が駆け抜けるっ
そして、バーンッ!
花びらがぶち当たり、そのままドアが勢い良く開いたっ
ひっ、いきなり何をやらかすですかこの娘は
翠星石がそう驚嘆の表情を見せていると
「うぅ・・・」ドアの外で花びらに埋もれた金糸雀が顔を揚げた
「さぁ、話は聞いていたんでしょ?貴女はどっちなの?」
「いきなり、この仕打ちはひどいかしらー・・」
途端に隠密がばれてしまった金糸雀、突然の攻撃に埋もれて、意識がもうろうとするが
「うぅ、カナはーー、えーっとー」
睨み付け、金糸雀に見える様に拳を握る
「ク、クッキーがいいかしらぁ〜!」
「これで同点だわっ!」
「い、色々とずるいですー!」
こうしてまた、振り出しに戻ってしまった。
もう他のドール達は2人に振り回されてぐったり
頭に線香を乗せたまま意識の戻らないジュン、祈り続ける雛苺
翠星石もさすがにはしゃぎ過ぎたと言った感じで、ソファーにぐったり倒れ込んでいる
そんな疲れ切った雰囲気の中、真紅が一言呟いた
「そうよ」
「ジャンケンだわっ」
537 :
妄想のままに:2006/04/26(水) 18:49:07 ID:e7CJ0QeV
間違えて二度もageてしまいました、すいません
本当にありがとうございました。
538 :
アルテマ:2006/04/26(水) 23:31:05 ID:knRyyDa8
ビシュン!ガシュゥン!
翠星石「きゃあ!」
尚も続く薔薇水晶の容赦無い攻撃。隙の無い攻撃に反撃する事すら出来ずに追い詰められる一方の翠星石。
翠星石「もう!雨なんか降らなきゃこんな事にならなかったのに!っていうか蒼星石が一緒に暮らさないのが悪いんですぅ!」
自らの軽率な行動を雨と蒼星石のせいにして逃げ惑う翠星石。
薔薇水晶「・・・・・・・」
薔薇水晶は依然として攻撃の手を緩める事無く、執拗に翠星石を追い詰めていく。相変わらずその表情からは一切の「情」は感じられない・・・
翠星石「この・・・・いつまでも調子に乗るんじゃねーですよ!スィドリーム!!」
一か八か・・・薔薇水晶の容赦無い攻撃に手を拱いていた翠星石が人工精霊を呼び出し攻撃を仕掛ける。
キィィィーーン!
頭上から薔薇水晶の頭部目がけてスィドリームが高速で飛来する。しかし・・・
ガシィッ!
スィドリームが頭部に命中する寸前、薔薇水晶の左手がスィドリームを素早く掴み取る。スィドリームが飛来する方向に視線を移す事もなく・・・・・
翠星石「スィドリーム!」
完全に死角を突いたつもりが、簡単に防がれた事に驚きの色を隠せない翠星石。
薔薇水晶「馬鹿正直・・・・こんなものを攻撃とは言わない・・・・・」
薔薇水晶が無機質な声で呟く。
翠星石「クッ!」
539 :
薔薇乙女戦争:2006/04/27(木) 20:50:48 ID:12EYk/7X
>>514 ある日の午後、ジュンの家に久々の来客があった。
しかし、客人と言っても人ではない。その小さな客人は金糸雀だった。
彼女は堂々と正面から玄関の呼び鈴を鳴らし、のりにリビングへと通された。雛苺の事を知らされてないのりは、上機嫌で紅茶と菓子を出す。
「カナちゃん、どこへ行ってたの? 心配してたのよぅ」
「どこってほどの所はないかしら」
金糸雀はソファーで紅茶を一口飲み、部屋を見る。他には誰も居ない。この部屋も静かになったものだ、と感慨に耽る。この時間、少し前までは薔薇乙女の憩いの場だったというのに……。
「真紅は?」
「たぶん、二階ね。呼んでこよっか」
「お願いするわ」
金糸雀はカップを置き、気を引き締める。今から会う真紅は仇であり敵なのだ。呑気にお茶を楽しむ事は許されない。
そんなことになっているとは露知らず、のりは軽い足取りでリビングを出た。
のりが呼びに行ってすぐ、真紅が硬い表情で金糸雀の前に現れた。後ろにはジュンの姿も見える。アリスゲームの真っ最中の今、マスターの彼が付きっ切りになるのは当然だ。
「真紅、元気そうでなによりかしら」
「貴女もね」
金糸雀の挨拶には皮肉の意が込めてある。真紅もそれを解って返している。のりだけが普通の挨拶だと受け取っていた。金糸雀はソファーから降り、真紅の前へ出た。
「私がここへ来た意味、言わなくても判るかしら」
540 :
薔薇乙女戦争:2006/04/27(木) 20:51:57 ID:12EYk/7X
真紅は判っていた。だが、それを認めてしまっては悲劇を避けられない。もう手遅れなのは彼女もひしひしと感じている。それでも、言わずにはいられなかった。
「金糸雀、まだ遅くないわ。ここに戻ってきて。雛苺の事は水に流すわ」
「別に流さなくても構わないかしら。カナはみっちゃんの事を水に流すつもりないもの」
まさに、聞く耳持たず。金糸雀は真紅の言葉を一笑に付した。これには、ジュンも何かを言いたくなる。
「お前はそれで本当にいいのか?」
「それはこっちのセリフかしら」
金糸雀はきっと睨み、ジュンの物言いに反発を見せる。彼が気に入らないようだ。
「ジュンはどうして真紅の味方ができるのかしら。悪いのは全部真紅よ」
「まだそうと決まったわけじゃ……!」
「決まってるのかしら!」
眼前で繰り広げられる剣呑な言葉の応酬に、のりはおろおろとうろたえるばかりだ。
言い合ってても仕方がないと、金糸雀が一歩一歩と足を前に出し始める。
「ついて来るのかしら」
それは戦いへの誘い。アリスゲームを申し込まれた以上、無視する事はできない。仮に無視しても、ここが戦場になるだけだ。
やはり、こうなるしかなかったのか。真紅とジュンは、諦めに似た思いで金糸雀の後に続いた。そこが、最後の決戦の場になるとも知らずに。
541 :
薔薇乙女戦争:2006/04/27(木) 20:53:40 ID:12EYk/7X
金糸雀に連れてこられた異世界は殺風景な所だった。
辺り一面が真っ白な雪原で、地平線の彼方まで全方位に建物の一つ、木の一本も見えない。空はどんよりと厚い雲に覆われ、微かに粉雪がちらついている。
金糸雀は二人と距離を置いて対峙する。戦いの幕開けが目前に迫っていた。
「そろそろ始めるかしら」
武器であるバイオリンを形にした時、彼女の上空に異世界からの扉が開く。
そこから飛び出したのは薔薇水晶だった。
金糸雀と薔薇水晶が当然のように並んで立つ。完全に罠だったのだ。
「お前達、二人掛かりなんて卑怯じゃないかッ」
「何が卑怯なのかしら。真紅とジュンで二人。カナと薔薇水晶で二人。とっても公平な戦いかしら」
ジュンが抗議するが、金糸雀はそれを一蹴する。それを言い出したら、最初に同盟を組み始めたのは真紅の方なのだ。ジュンの所に集まっている真紅達に金糸雀も一度は戦いを挑んだ。
彼女には罪悪感の欠片もない。バイオリンを喉元に構え、宴の始まりを奏でる。
「第一楽章、白雪のプレリュード!」
弓が弦を激しく擦り、かなり騒々しい前奏曲で始まった。耳をつんざく音の連続は、曲と言うのもおこがましいものだった。ちなみに、曲目に意味はあまりない。彼女がその場の気分で付けているだけだ。
542 :
薔薇乙女戦争:2006/04/27(木) 20:55:59 ID:12EYk/7X
「うわっ、耳が……ッ!!」
騒音攻撃だと思ったジュンが両手で耳を塞ぐ。
だが、それは間違いだ。本当の攻撃はこれから来る。
演奏の高鳴りと同時に金糸雀の姿が陽炎のように揺らぐ。空気が大きく振動しているのだ。そして、その揺らいだ空気の塊が前方に何発も撃ち出される。
それが見えていたジュンは、驚いて逃げようとした。
しかし、耳を塞いでいては体勢が悪く、見事に逃げ遅れた。瞬間的に体が逃げるのを諦め、頭だけを守ろうと顔を逸らす。
その時、小さな影が彼の前に躍り出る。彼女は手を翳し、薔薇の花びらを集めた盾で空気の砲弾を吸収した。
「ジュン、音くらい我慢なさいっ」
チラリと後ろを見て叱責する真紅。
来るであろう痛みを、目を閉じて待っていたジュンは、助かったのを知って表情を緩める。
しかし、安心するのはまだ早い。金糸雀の砲撃は止まずに続いているのだ。
真紅の顔が焦りで歪む。花びらの防壁が突破されそうだった。
この時、金糸雀は違和感を覚えていた。真紅に手応えが無さ過ぎるのだ。疑問に思った彼女は挑発してみることにした。
「真紅〜、どうしたのかしら。ローザミスティカを奪ってもこの程度?」
「私は奪ってなんかないのだわ」
返ってきたのは意外な答えだった。だが、敵の言う事を鵜呑みにするのは危険だ。金糸雀は確認するためにも追求する。
「この金糸雀が知らないとでも? あなたが翠星石のローザミスティカを持っているのは調査済みかしら」
「それなら別の場所に残してあるわ。あの子は必ず生き返ると信じているもの」
真紅は手元にあったローザミスティカを吸収してはなかった。それをしてしまったら、彼女が忌み嫌うアリスゲームを容認する事になる。一度は不戦を誓った彼女なりのけじめだった。
それを聞いた金糸雀は、呆れるのを通り越して怒りさえ覚えた。せっかく手に入れたローザミスティカを、骨董品よろしく蔵に仕舞い込んだと言うのだ。この命を狙われている時期に、だ。
「カナも随分となめられたものね。いいわ、ここで後悔するだけなのかしら!」
弓を扱う手の動きが激しさを増し、倍加した空気の砲弾が雨のように降り注いだ。
つづく
カナががんばってる半面バラスィ全く動いてないなw
続き期待。
新学期始まったのに何かと色々な書き手が投下してるな。
漏れもまたがんばってみるか……
545 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/04/28(金) 11:41:58 ID:cY5GYtWn
>545
エロ小説を期待すんなよw
一本投下します
エロが少々入ってますが、15禁くらいってことでご容赦を
SS「ぴんはっ!」全6話です
翠星石が泣いていた
全身ビショ濡れになって泣いていた
「チビ人間がかまってくれないのがいけないのですぅ!」と言って泣いていた
その日の翠星石は、例のごとく僕に何かのイタズラを仕掛け、いつも通り自爆し
何か僕にぶっかかる仕掛けだったらしきバケツの水を自分の頭にかぶってしまった
この性悪人形は水で濡れたくらいで泣くタマじゃないが
今日の翠星石は、彼女のお気に入りの服を、濡らしてしまった
その日、僕はいつも通り、ネットの物々を買う気もなく眺め、見るだけの物欲を満たしていた
真紅はそういう時、傍らに座って自分の読書を愉しむが、翠星石は横からちょっかいを出す
その日も、僕が画像を見るために開いたオークションの画面を見て、ドール服の映像に騒ぎ始めた
翠星石は、裁縫好きな主婦が出品した若草色のエプロンドレスの画像を、何度も何度も拡大表示させる
自分の着たきりの服と画像の服を交互に見て、「欲しい欲しい!欲しいですぅ!」と騒ぎ出した
その服は手作り服の古着一斉処分にしては高い値だったが、某ブランド服をドール用に直したって事を
考えればまぁ安価い方だった、翠も最近不安定だし、こんなもので機嫌直してくれるなら安いもんか
いやいや、口先だけでも感謝してくれる真紅や蒼星石と違って、翠は甘やかすとつけあがるだけだ
「えっ・・・うぇぇん、お洋服、濡らしちゃったぁ、汚しちゃったぁ、ゴメンなさいですぅ
せっかくジュンに買ってもらったお洋服、ダメになっちゃったですぅ・・・えぇぇん・・・」
床の水たまりの中にへたりこんで泣く失禁状態の翠星石に、僕はガラにもなくドギマギしてしまった
「翠星石・・・とりあえず、カゼひくから、風呂入ろうか?、一緒に入ってやるから、泣くな、な?」
あの後、翠星石が居なくなった後で、そのエプロンドレスを最初の予想よりほんの少し高価く落札した
途中で、同じドール服マニアだがやたら資金力があるらしいmi-chan~kana02(846)とかいう奴が
競ってきたが、ショップ系じゃなく手作り系だと気づいたらしく、あっさり退いてくれた
縫製への目利きはまだ鈍いらしい、僕が見てもショップ物よりはるかに丁寧な作りだというのに
翠星石は僕の言葉に顔を赤らめる、服が乾きそうなほどの湯気を体から出しながら両の拳を振り回し
「な・・・な・・・何言ってるですかこのチビ人間!スケベ!変態!一緒にお風呂なんて・・・一緒なんてぇ・・・」
僕は、両手を握り地面をばたばたと踏み、「あわわ」とか「あうう」と呻く翠星石の頭をベシっと叩き
「何イッチョマエに照れてんだよ!お前は一人で風呂入れると必ず何かイタズラするだろ?・・・イヤか?」
僕の言葉に余計に意固地になった翠星石は怒鳴り返そうとしたが、僕が背を向けると焦ったような声で
「わ、わかったです・・・そのかわり・・・少し後で入ってきて・・・体洗った後で・・・わたし・・・キタナイから・・・」
「そうするよ・・・ちょっとやる事があるし・・・あ、そーだ、翠は汚くないよ、それとも小便でも漏らしたか?」
「バ・・・バカぁ!このバカチビ人間!・・・そ、そこで大人しく待ってろですぅ・・・脱いでるの・・・見ないで」
翠星石は濡れたエプロンドレスのまま「ィクショイ!」と威勢のいいくしゃみをすると、風呂場に向かった
言う通り少し、ほんの少し待ってから、着替えを忘れてった翠星石のドレスを持って脱衣所に向かった
翠星石はすりガラス越しに「バ・・・バカ!来るなです!体洗うまで待っててですぅ!」と怒鳴ったが
「洗濯機を使う用があるだけだ、もう少し後で入るから耳の後ろまで洗って待ってろ!」と言い返す
そしてビショ濡れなのに丁寧に畳んであったエプロンドレスを洗濯機に放り込み、スイッチを入れた
急ぎモードで洗濯の終わったエプロンドレスを、本当はいけないんだけど直射日光の下に干した
天然素材が化繊より優れてる点はそう多くないけど、時に使い手の無理に応えてくれる
「やる事」の終わった僕は着替えを持ち、いい感じに茹であがった翠星石が待つ風呂場に向かった
翠星石は風呂の中で、かなりのぼせたらしい赤い顔で、湯船の中に首まで浸かっていた
風呂場には少しでも使うと怒られるのり専用シャワーソープの、椿の匂いが充満している
「あの・・チビ・・・・チビ人間・・・・その・・・チビ・・・・隠したら?・・・・」
別に子供相手に隠すものなど何もないので手ブラで風呂場に入ったが、翠星石は背中を向ける
「うっせーな、ほら入るからつめろ、端につめろ」 両足を抱えてダルマ状態の翠を押しやった
湯船に浸かり、僕がいつも通り「森の石松」を唸り始めると、黙って体を抱えていた翠星石が口を開く
「チビ人間・・・ジュン・・・ジュンはわたしのこと・・・・嫌いになっちゃったですかぁ・・・?」
「嫌いじゃない、それよりここからがシブいんだ、聞け!」二代目広沢虎造の名調子を聞かせてやった
湯船から上がると、かけ湯が苦手な僕は熱いシャワーを出し、薬局の安物シャンプーで頭を洗い始めた
「チビ人間・・・ひどいですぅ・・・わたしを子供扱いして・・・蒼星石より、真紅よりお姉さんなのに・・・」
「相撲甚句」を唸りながら頭を洗う事に集中した、また何かすねてるな、としか思わなかった
「真紅より・・・蒼星石より・・・・ジュンを・・・・男だと思って・・・・ジュンのことを・・・」
洗い終わった頭を振って目を開けると、目の前には翠星石の体があった、湯船から上がった翠星石が居た
「ジュン・・・わたしは・・・子供ですか?・・・わたしが嫌いなジュンは・・・女だと思ってくれないですか・・・」
僕は、すこし震える手でシャワーのコックを持ち、冷水に切り替えたシャワーを翠星石にブっかけた
「バーカ、色気づいてるんじゃねぇ!その貧相な球体関節バディをしまえ!・・・その・・・危ないだろ?」
のぼせて甘ったれてる翠を飛び上がらせてやった、僕の「チビ」も少し冷ます必要があったし
「ひぁっ冷ゃっこい!こ・・・このチビ人間!何するですか!この変態!意地悪!チビチンチン・・・バカぁっ・・・・」
翠星石は僕に怒り狂いながら体当たりしてきて、そのまま裸の体をしがみつかせた、熱い、芯まで熱い
何か聞き捨てならないコトを言ったような気もしたが気のせいだろう、気のせいじゃなきゃ熱のせいだ
「お願い・・・ジュンに可愛がってもらうまで・・・・・お風呂から出さないです・・・お願いです・・・
一生・・・ずっと・・・このままで・・・このままチビチ・・・ジュンを・・・お風呂で蒸し焼きにするですぅ」
僕や僕のチビが翠星石焼ビビンバになるのも困る、僕は翠の熱い体、両肩に手を添えた、皆、真紅・・・すまん
翠が唇を突き出し、目を閉じる、そして・・・翠星石に・・・キスをした・・・もう戻れない・・・真紅・・・許せ
キスの時に舌を入れる事を知らない翠星石は、キスの間中、唇を「ちゅう」の形にしたまんまだった
「翠・・・今日は、これまで!わかるだろ?、僕らは今はここまでしかダメなんだ、キスはイヤかい?」
裸で迫ってきた翠星石はというと、僕がキスをしただけで、翡翠と瑪瑙のヘテロ・アイズをぐるぐる回し
そのまま棒のようにバターン!と後ろに倒れた・・・こういう時、男はどうすれば?・・・お姫様抱っこで
介抱すればいいんだろうか?・・・考えた結果、僕はケロリンの桶に冷たい水を汲み、翠星石にブっかけた
心はデリケートなドールだけど、体はラグビーのフォワードのように丈夫だって事は今までの付き合いで
知っているつもりだった、チャージを食らってノビたフォワードには、ヤカンの水をブっかけるに限る
「っきゃぁ!ちべたい!ちべたい!冷たいですぅ!何してくれてんだこのチビ人間!バカバカバカぁ!」
ローザ・ミスティカがもしもCPUのような精密機械なら、熱暴走した時はやっぱ空冷より水冷だろ?
一瞬で飛び上がった翠星石は僕の胸を拳でドンドン殴り、そのまま握り拳を僕の背中に、ぎゅっと回した
「ジュン・・・みずはつめたいです・・・・・」
「うん」
「ジュンはあったかいです・・・・」
「そうさ」
「翠星石は、あ、あついです・・・・・」
「そうだな」
一日に二回、いや三回の水責めを食らった翠星石はまだ熱暴走中だった、きっと長湯のせいじゃない
彼女を創った人形師ローゼンはなぜ頭にアルミのヒートシンクでもつけてやらなかったんだろうか?
頭のレース布がそれなんだろうか?、そういえばドール達は皆、何かしら被り物をお召しになっている
「もう、上がろうか?」
「また・・・・・・・・一緒に・・・・・・・・おフロ入って欲しいですぅ・・・・・・・・・・・」
「また今度、また、今度、な」
また今度、な・・・・・・言葉で出来る約束はそれまで・・・僕らはもう、言葉じゃない約束を交わしたから・・・
翠星石を先に上がらせ、僕も湯上りの気持ちいい体で「爆弾三勇士」を唸りながら翠の待つ居間に向かう
風呂上りの翠は、自分の深緑のドレスを着ていた、幾年も着続けた物なのになぜか窮屈そうに見える
僕は日向干しした洗濯物を背中に隠して翠星石を鏡の前に連れていき、髪にドライヤーをかけてあげた
鏡に映る翠星石、洗い髪のせいか少し艶っぽく見える、確かに真紅達よりお姉さんだ・・・ほんの少しね
栗色の髪を僕に委ね、夢見るような瞳をしている鏡の翠星石の前に、若草色のエプロンドレスを当てた
「ジュン・・・・これは・・・」
「さぁ、着てみな」
翠星石はエプロンドレスを身に纏い、自分で自分の体を抱きながら、うっとりと目を閉じている
「お日さまの・・・・匂いですぅ・・・・・」
「翠星石、この服は「魔法の服」なんだ、一回洗うとヨロヨロになるような安物のレース服とは違う
厚手の、とびきり上等な木綿布をたっぷりと使ってるから、何十回洗濯してもビクともしない、
破れても繕える、サイズが変わってもお直しできる、たとえ擦りきれたってリフォーム出来る」
翠星石が体をひん曲げながらドレスのタグを読んだ、タグを残してくれた縫い手には感謝したい
「・・・・ピンク・・・・ハウス・・・・・」
「翠星石、この服はね、時が経ち世界が変わっても、ずっと少女のままで居る少女達のために
いつの日か、少女が自分でお金を稼ぐようになった時のために、ボーナスを注ぎこんで買えるように
イサオ・カネコっていう人が作った夢の服・・・ピンクハウスは・・・何度でも蘇る魔法の服なんだ」
そうさ、魔法さ・・・人間の魔法、少女への憧れが創った魔法、少女は、その存在そのものが奇跡なんだ
少女は自分を包む若草色のドレスを、腕や胸を掌で撫でた、呼び戻された魂を、魔法を確かめるように
「翠星石、何があっても僕に任せろ、汚れたら洗って、破れたら縫ってやる、直してやる
何があっても・・・翠星石がどうなっても、僕に任せろ、僕が必ず、魂を呼び戻す」
翠星石の瞳から涙がこぼれる、ぱたたたた・・・と頬を伝い、顎から滴り、ドレスに染み込んだ
今日4回目の水責めにカウントするか、きっと翠星石は水の星の下に生まれたドールなんだろう
翠星石は突然僕を振りほどき、手の甲で顔をぐいと拭うと「チ、チビ人間にしては上出来ですぅ!」と
叫び、そのまま若草色のエプロンドレスを翻して走り去った、ドアから出る間際、一瞬こちらを見ると
何も言わず廊下を走り去った、僕らはまた、何か言葉にならない密やかな約束を交わしたような気がした
その時、出かけてたはずの真紅が絶妙のタイミングで、別の入り口から居間に入ってきた、ドキリとする
別にやましいことをしていた訳じゃないが見られなくてよかった、真紅は訝しげに僕の匂いを嗅いでいる
真紅は険しい顔で僕を見て一言「だらしないわよ」、考え事をしていた僕はにやけた顔をしていたのかも
翠星石は夜、寝る時にはまた甘ったれてくるんだろうか、それなら・・・それでもいい、一緒でもいい
水遊びが過ぎて寝小便でもして、本日五度目の水責めを食うのもカワイソーだし・・・おねしょは火遊びだっけ?
まぁその時はまた洗濯機で洗ってやるよ、そのドレスを何度でも綺麗に洗ってやる、中身ごと洗ってやる
翠星石、水のドール、水はぶっかかると冷たいものだけど、キタナイ物を洗って蘇らせるのも、水なんだ
濡れても、汚れても、破れても、少女は決して終わりなんかじゃない
繕ってシミを抜いて「お直し」をして、水で洗って、キレイにして
少女は、何度でも蘇る
ぴんはっ!(完)
あとがき
登場した服の詳細については、いくつか架空の記述もあります、ご了承ください
(金子いさお氏は奥さんに似合う服を作りたい一心でピンクハウスを作ったそうです)
あと、今回初めて「取材」をしました、おウチの洗濯機とお風呂を調査しました
最後に、ボクの女のコ服への乏しい知識を補足してくれた友人に礼を言っときます
では、今回はこれで
吝嗇
ジュン・・・頭の上から冷水を何度もぶっ掛けるとは
何故だw
GJ!
流石翠星石、ドールズ達の中でも群を抜いてツンデレだぜぇ!
そこに痺れる、憧れる〜〜〜!!
GoooD・J!!!
ピンクハウスだとかジェーンマープルだとか書かれると(書いてないって)
イメエヂが沸いてきてしまうので不思議ですねぇ。
しっかし、森の石松たぁ、渋いねェ兄さん。スシ食いねェ。
というか、翠とジュンの掛け合いがソレを踏まえての推移なのかいな?
などと途中で思いつき、このオチはきっと
「バカはァ〜死ななきゃ〜なおらないぃ〜」だ!などと妄想してしまいましたとさ。
しかも爆弾三勇士ときましたか…二曲あるから(廟行鎮の敵の陣〜と、廟行鎮の夜は明けて〜)
どっちかはワカラねど、鎮(チン)という歌詞が妙に気になったり気にならなかったりww。
それにしても、お風呂ネタですかぁ…
熱いシャワーとか冷水ぶっ掛けとか、やろうとしてた事、結構やられちゃったよ。
おいらは今から後編書きなおさなきゃ…というか、前後編に分けるんじゃなかった…。
うおおおお!
GJです!翠の子がかわゆすぎる…
しかしここでピンハ創立の裏話を知る人がいるとはw
>>547 ジェーン知ってる男の人って凄いですね。
口調から察するに、コルベ神父の話の方ですか?
金銀入れ代わりも楽しみにしてますよーノシ
レスアンカー間違えたorz
正しくは
>>557宛です。
>>554 何故か深い悲しみと情熱を中に感じた
GJ
>>558 そうでーす。
コミケなんかでヘタレな同人マンガ描いてたりするもので、
そっち方面とかチェックしとかないと
妄想力が貧困だから絵が描けないの…orz
それでは、金銀入れ替わりの後編を投下です。
>>481 一方みっちゃんは…バスルームに一人全裸で壊れ気味。
「カナに…カナに嫌われたぁ…くすん」
とか言いながら、心ここに在らずという感じで大量の石膏をこねくり回していた。
心も体も真っ白である。
悲しみの余り珍妙な巨大石膏オブジェが完成されようとしている。
それは、『ミとッとキーとマとウとス』が付く危険な記号を秘めたオブジェであった。
そこに水銀カナが戻ってきた。
無表情の奥に復讐の念を秘め、金糸雀のミーディアムに襲い掛からんとする水銀カナ。
「さっきはごめんなさぁーい、一緒に楽しい事しましょぉねぇ」
優しいような、甘いような声がみっちゃんを誘う。
「カナ?」
瞬時に反応するみっちゃんの見えない尻尾がピンと立つ。
バスタオル姿のまま喜び勇んでバスルームの外に出ると、鏡台の傍らで金糸雀が待っている。
「ああっカナァ!帰ってきてくれたのねぇぇぇ!」
犬の様に駆け寄るみっちゃんの顔は、喜びの涙と鼻水で緩みっ放し。しかも両手は石膏で真っ白状態。
バスタオルで谷間の強調された少し大きめな胸が、ぷりんぷりんに揺れている。
*お見せできなくてすみません。
その狂喜の顔にこもるみっちゃんの気迫に、水銀カナはびびり気味。
この状態で抱きつかれたら、きっと胸に押し潰されて身動きも取れず、
みっちゃんの成すがままくしゃくしゃにされてしまうであろう。堪った物ではない。
水銀カナの背筋に寒いものが走る。
『抱きつかれる前に決めてやるわよぉ、覚悟しなさぁい』
冷や汗を流しながら気合を入れなおすのだった。
その時、消えていたはずのTVにノイズが走った。その現象に気づいてみっちゃんは立ち止まる。
ザザザザザザザザ―――という雑音の後に
ブラウン管から銀色の髪を振り乱した人間?がずるずると這い出してくる。
みっちゃんの脳裏に甦る、とある恐怖映画の一場面。
「ひいいいいえぇ―――――!貞子っ!?」
腰を抜かしてひっくり返るみっちゃん。それは、水銀燈の意図を察知して戻ってきたカナ水銀だった。
まさに間一髪のタイミング。
「危ないみっちゃん!!そのカナはみっちゃんの命を狙っているかしら!!」
しかし、みっちゃんから見ればこの場合、『あんたの方が怖いわよ!』と突っ込みを入れたくなるのが必定。
気が動転し、あたふたと慌てふためきながら屋外に逃げようとする。
もちろん全裸で。
「みっちゃん、ちょっと落ち着くかしら、何もしないから!」
水銀カナが口元に笑みを浮かべながら二人の会話に割って入る。
「あらあら、その子は危険よぉ、見ず知らずのドールなんか信用しちゃダメよぉ」
「みっちゃんだまされちゃダメ!!そいつはカナであってカナではないのかしら!!」
カナ水銀は、みっちゃんの側に駆け寄ると、挑発する水銀カナを睨み返す。
事態がさっぱり飲み込めないみっちゃんは、カナと水銀燈を交互に見ては、目をしばたかせている。
「何を言ってるのかしらぁ、私はミーディアムと遊びたいだけよぉ〜」
「水銀燈!あなたの考えなんて、お見通しなんだから!」
「ふふん、だったら止めてみなさいよおばかさん、できるものならね」
水銀カナは二人の方向に歩み始める。だが、ミーディアムを守ろうとする金糸雀の決意は何よりも強い。
「みっちゃんに何かしたら承知しないんだから!力を使い果たして壊れてやるんだから!!」
毅然としたその言葉に水銀カナの足がぴたりと止まる。先程までの不敵な笑みが困惑の色へとみるみる変わる。
「な!?あなた何を言ってるのか解っている訳?」
今の金糸雀なら本当にやりかねない、攻撃の手段を封じられた水銀カナには、それ以上なすすべが無い。
自分の体とめぐを人質に捕られた様なものである。
「カナはみっちゃんを守る為だったら何だってするんだから――っ!!!」
みっちゃんの為なら壊れることなど覚悟の上である。金糸雀の言葉には、ミーディアムを思う気持ちが強く溢れていた。
思う気持ちは勇気と力を生み、対峙する相手の心にも何かしらの変化を与えるものである。
が、その言葉に劇的に変化したのは、当の水銀燈ではなく、みっちゃんの方だった。
もはや、みっちゃんのハートは完全に撃ち抜かれていた。
カナ水銀をガバッと抱きしめ、みっちゃん必殺のまさちゅーせっちゅで攻撃開始。
「うわぁぁぁぁぁ!!なんて健気な子なのっ!カナも素敵なんだけどこの子も好いわっ!!
ね、ね、一緒にここで暮らさない?というか、うちの子におなりっ!ね、ねっ?」
水銀カナのほっぺたを、ものすごい勢いですりすりし続けるみっちゃん。
こうなったらもう、嫌と言おうが何と言おうが放さないだろう。
「も、ちろん当然かしらぁ…って摩擦、摩擦ぅっ!」
「ああっ、かあいいわぁっ!さだこ(仮)ちゃーん!!」
勝手に名前まで付けられ、2人の世界は桃色に染まる。
みっちゃんのバスタオルは床にはらりと落ち、もはやあられもない姿で仁王立ちである。
*本当にお見せできなくてすみません。
そんな中、いつの間にか忘れ去られている水銀カナは、2人の世界について行けずにボーゼンと成り行きを眺めている。
「こいつらって…いつもこんな事やってるの…」
もわーんとしたラブな世界がしばらく演じられた後、更なるラブへのステップが始まろうとしていた。お風呂タイムである。
「うふふ…ちょっと汚れちゃったわね、お風呂にはいって綺麗にしましょうね〜」
二人の世界は夢の中。みっちゃんの涙や鼻水や石膏まみれの手でくしゃくしゃにされたので
ちょっとどころの汚れでは無いのだが、確かめ合った二人の絆の前ではそんなことは些細なことなのである。
思考が停止していた水銀カナが我に返る。もはや第三者扱い。
何でお風呂?という突っ込みを入れる間もなく、カナ水銀は早くも服を脱ぎ始めていた。
温泉ぽくて面白そうなバスルームに、ルンルン気分でもう入る気満々。
自分の体が人前に晒される、もとより自分の体にコンプレックスを感じている水銀燈にとって、それは屈辱にも等しい行為だった。
「やめてよぉぉぉ!私の体を弄ばないで!!」
咄嗟に駆け出して止めようとしたものの、足がもつれて勢い良く2人に体当たりした水銀カナは
そのままみんなを巻き込んで『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』に突っ込んだ。
バスルームに大轟音が響き渡る。
『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』がクッションとなり、大事には至らなかったものの、
2体のドールは下着姿のまま、つぶれたカエルの様にそのボディににめり込むのだった。
ど根性なんとか風。
「やったわねぇ!」
めり込んだ顔を引きはがし、金糸雀は水銀燈に掴みかかる。
水銀燈も感情を抑えられずにこれに応じ、
あらん限りの罵詈雑言の応酬の果てに、髪を引っ張ったり噛み付いたり引っ掻いたりと、
両者ともに半裸状態のままで、取っ組み合いの喧嘩が始まった。
みっちゃんは、倒れた瞬間に頭をシャワー水栓にしこたまぶっつけて気を失ってしまい、
『デンジャラスキャラクターの首』は、あらぬ方向にねじ曲がってひしゃげ、
その歪んだ顔には、みっちゃんの大きなお尻がスタンプされて、鼻がくっきりとへこんでいた。
あらゆる方面で危険なオブジェの完成である。
全裸でのびるみっちゃんを放ったらかしにして、低レベルな戦いは夜半まで続く。
いつの間にか元の体に人格が戻っていた事にも気付かずに、半泣きになりながら不毛な猫の喧嘩は白熱してゆくのだった。
水銀燈はフカフカなソファーに座って、みっちゃんに髪を梳かれている。
水銀燈の服はみっちゃんが手洗いして現在乾燥中なので、代わりに真っ白なビクトリア調のドレスを着せられていた。
水銀燈は部屋一杯に香るリンスの匂いの中で、清楚な白いレースドレスの裾を持て余しながら、
鏡台に写る自分の顔をみては少々赤くなったりしている。
みっちゃんの趣味により、一連の着せ替えを笑顔で強要され、水銀燈は今だけ黒から白へと変身を遂げている。
「ほらほら、銀色の髪こんなに綺麗よ、ああん、サラサラの長い髪って良いわぁ〜」
その言葉にふと振り向いた瞬間、ニコニコ顔のみっちゃんと目が合った水銀燈は、慌てて目をそらし前を向く。
勢いに乗ったみっちゃんが水銀燈の髪を編み編みしはじめた。
良い様にいじくられる中で、水銀燈は黙ってうつむきながら小さな声で自問自答するのだった。
「なんで私、あんな事したんだろう…」
おとなしく座る水銀燈を良い事に、みっちゃんの髪いじりは徐々にエスカレートしてゆく。
おさげ、おだんご、ポニーテールにツインテールと、パトスのままにやりたい放題。
あの後、意識を取り戻したみっちゃんの仲裁で、その場は何とかとりなしたものの、
結局3人でお風呂に入り、体を洗ったり、シャンプーしたり、仲良くバスタブに浸かったりしてしまったのだ。
髪もくしゃくしゃだったし、体もかなり汚れていたので仕方なく付き合ったのだけど
その事を思い出すと、恥ずかしさの余り湯気がでる程に顔が火照ってしまう。
こうなると普段の強がりもどこかに消えうせて、ずいぶんしおらしくなってしまうものである。
金糸雀は何事も無かったかのように、湯上りの牛乳を飲んでいる。
「あ〜、やっぱりお風呂上がりに牛乳は欠かせないかしら〜」
すかさず金糸雀をくすぐり笑わせ始めるみっちゃん。
「カ〜ナァ〜、コチョコチョコチョコチョ」
「ぶふっ、むははははははは、やめてみっちゃん〜」
思いっきりみっちゃんの顔に牛乳を噴出す金糸雀。みっちゃん自業自得。
そんな光景をぼんやり眺めながら、今の笑顔の裏にある、あの時の金糸雀の決死の表情を思い出し、
きっと自分と違う大事なものを見つけたのだろう。と、そう感じるのだった。
「さー、今日はみんなで一緒に寝るわよ――!」
夜中にもかかわらず、妙にハイテンションのみっちゃんが、唐突に
「え?…ええーっ!!」
「ふふふっ、さだこちゃん、お泊り会は友達の第一歩よ!」
シドロモドロの水銀燈に、根拠の無い自信を持ってきっぱりと言い切るみっちゃん。
「……」
すっかりペースに呑まれて威勢を削がれた水銀燈には、もう名前の訂正も反論する気力も残っていない。
終始「みっちゃん(攻)×水銀燈(受)」の状態で、夜は更けて行くのであった。
やがて金糸雀とみっちゃんは眠りに付く。初めての経験になかなか寝付けない水銀燈は、
寝返りを打ったみっちゃんに抱きつかれ、お風呂で見たみっちゃんの裸を思い出して真っ赤になる。
静かな夜の奇妙な安らぎの中、ふと病院に残しためぐを思い出し、水銀燈はみっちゃんの部屋から抜け出した。
二人の寝顔を少し見つめた後、煌々と照る月明かりの中に飛び去っていった。
こうして不思議な縁が交差して、一日がかりで紡ぎあげられたパッチワークは終わりを告げた。
「やっぱり帰っちゃったのね…」
いつもの様に爽やかな朝が到来した。
みっちゃんと金糸雀は一緒に歯磨きをしながら、水銀燈の事を話し合っていた。
「んーでも、壊したみっちゃんの作品を直していくなんて、ちょっと見直したかしら」
金糸雀は、昨日壊れたはずの危険なオブジェが、ちゃんと直されてるのを見つけて感心していた。
へこんだ所を新たに石膏で埋め、曲がったところを直しただけの、完璧な修理ではなかったけれど、
それでも、気持ちというものは伝わるものである。
「…ねぇみっちゃん、それでこの像って一体何なのかしら?」
みっちゃんにしてみれば、単に妄想で作っただけの産物に過ぎず、意味なんて全く無い。
楽しい事を想像してワクワクする金糸雀の瞳に見つめられて、みっちゃんはしばし言葉に窮する。
本当に禁句を言わせたいのかよ、金糸雀?
「えー、あの、その…アレよ、アレ!」
「アレ???」
「そう、アレよ…こんど一緒にその遊園地にでも行きましょうか」
そんな風にみっちゃんが誤魔化していると、ピシピシ…と言う音と共に『アレ』の補修跡にヒビが入りはじめ、
水銀燈が直した石膏がポロポロ剥れ落ち、バランスを失った『アレ』は倒壊して粉々に砕けてしまった。
その残骸の中からは、半裸状態で乱闘していた時にめり込んだ金糸雀と水銀燈の石膏型と、
みっちゃんが尻餅を付いた時のお尻の型が、二人の前にきれいにぽろりと転がったのだった。
歯ブラシを咥えて呆然とする二人の前で、出来たばかりの金糸雀と水銀燈の石膏型は、
一夜の心の交流を確かめ合うかのように、みっちゃんの大きなお尻の石膏型を
仲良くお触りしていたのだった。
隣人に愛を、人類に平和を、ラブ&ピース。
もう収拾つかないので強引におわり。
お風呂バトルの書き直しキッツ― orz
銀様やさしいよ銀様
572 :
薔薇乙女戦争:2006/04/30(日) 20:28:56 ID:hS6F9Y25
>>542 「逃げるわよッ」
真紅がそう言うのと同時に、花びらの盾が霧散して消えた。金糸雀の休む間もない攻撃に力負けしてしまったのだ。
執拗な砲撃に曝された二人は、みっともなく見えるくらい必死になってかわす。
かわされた空気の砲弾が硬く凍った大地を掘る。こんなのを一発でも喰らったら怪我では済まない。必死になって当然だ。
真紅はいきなり追い詰められていた。見晴らしのいい平原で逃げ回っていても埒が明かない。彼女は賭けに出る事にした。
「ジュンはここで見てて」
真紅はジュンから離れて戦う事を告げる。マスターと距離を取れば、ドールに攻撃を集中してくれると考えたのだ。
彼が何かを言おうとする前に、真紅は金糸雀に向かって駆け出した。
「く、来るのかしら――ッ!!」
防戦一方から転じて反攻してきた真紅にやや焦る金糸雀。
バイオリンでの攻撃は近接戦闘に向かない。あの大きな楽器を持って殴り合いはできない。近寄らせまいと真紅に集中砲火を浴びせる。
しかし、真紅には一発も当たらない。彼女は確実に砲撃の軌道を見切り、虚しく外れた弾が雪煙の柱を無数に立たせた。
あっという間に距離を詰められ、金糸雀の瞳が恐怖で震える。
真紅の顔が手の届く位置にある。そして、彼女の手は攻撃のために固く握り締められている。絶対に殴られる!
「ヒィッ……!!」
悲鳴を上げた瞬間、殴られたのは真紅だった。
金糸雀の視界の左から凄まじいスピードで細長い腕が割り込み、真紅の右頬をぶち抜いた。
もんどりうって地べたに激突し、数十メートルは雪上を転げ回る。殴られた真紅も何が起こったのか判らなかった。
573 :
薔薇乙女戦争:2006/04/30(日) 20:30:05 ID:hS6F9Y25
「真紅ッ!!」
ジュンが彼女の名を叫び、血相を変えて助けに向かう。
吹っ飛ばされた真紅は両手を付いて起き上がろうとする。が、ダメージが深いのか、その動作も鈍重で覚束ない。
長い助走を取り全体重を掛けた拳にカウンターを合わせられたのだ。その破壊力は凄まじいの一言に尽きる。立てなくても無理はないだろう。
渾身の一撃を間近で見た金糸雀は、その破壊力の大きさに怯えを隠せなかった。殴っただけであれだ。助けが無かったら、地べたにへばりついていたのは自分だった。
「た……助かったかしら。一応、礼は言っておくわ」
薔薇水晶は金糸雀の礼には関心が無かった。真紅が思うように動けない今がチャンスなのだ。すかさず彼女は追い撃ちへと向かう。移動の間際に水晶の剣を創って手にする。
真紅の所には先にジュンが駆けつけていた。だが、そんなものは関係ない。まとめて斬り伏せてしまえばいい。薔薇水晶は勢いをそのままに剣を振りかぶる。だが、彼女の考えは甘かった。
「――何ッ!?」
薔薇水晶の驚愕の声が上がる。アメジストの剣が硬い壁に阻まれて止まったのだ。彼女はとっさに真紅を見る。まだ立つのがやっとの状態で、何かをしている様子はない。
では、この力は?
ジュンが真紅を庇うように背を向けていた。そして、薔薇水晶は彼の指輪が際立った光を放っていることに気が付いた。ルビーよりも鮮やかな紅い光が目に熱い。
「ミーディアムが力を行使していると言うの!?」
574 :
薔薇乙女戦争:2006/04/30(日) 20:31:47 ID:hS6F9Y25
それは、本来ならあり得ないイレギュラーだった。ミーディアムは薔薇乙女にエネルギーを送るパイプラインでしかない。薔薇の契約を交わしてもドールの能力は手に入らない。それなのに、ジュンは真紅が汲み上げた力を操れていた。
驚く薔薇水晶の一方で、ジュンはただ必死になっているだけだった。
真紅を守ると約束した。二度と翆星石の時のような思いはしたくない。
その一念が彼を突き動かしていた。
守ろうとする強い想いが少女に流れ込む。少女の中で彼の存在がどんどん大きくなっていき、体中に力がみなぎる。マスターとの絆が深まるほど、ドールはより強くなれる。
「もう大丈夫よ、ジュン」
真紅が地をしっかり踏みしめて立ち、剣に対抗してステッキを手に取った。
今は誰にも負ける気がしない。
彼女は薔薇水晶に向かって突進した。
575 :
薔薇乙女戦争:2006/04/30(日) 20:33:05 ID:hS6F9Y25
杖と剣が高速でぶつかり合い火花を散らす。二人の斬り合いは常識外れの動きの連続だった。傍からでも見るのがやっとの剣筋を二人は的確に捉えて打ち落とし、場合によっては体の動きで避ける。
ドールズの本気の戦いは、その体の大きさに似合わず迫力があった。人間のジュンは見守ることしかできない。しかし、金糸雀は違った。彼女も同じドールなのだ。
「この時を待ってたかしら」
不敵な笑みを浮かべてバイオリンを構える。そして、大きく深呼吸して目を伏せた。
「最終楽章、薔薇人形へのレクイエム」
ゆったりとした演奏が始まり、周辺の大気が静まり返る。
今度は先程のような騒音ではなく、重厚と言える曲だった。彼女のバイオリンの腕前は確かなのだ。
しかし、それは嵐の前の静けさ。
演奏の盛り上がりと共に一帯の空気が震え、次第に円を描いて流れ始める。
576 :
薔薇乙女戦争:2006/04/30(日) 20:34:23 ID:hS6F9Y25
「この風は?」
剣を交えていた真紅の手が止まる。
だが、気付くのが遅すぎた。すでに金糸雀の術中に嵌っていたのだ。
真紅は薔薇水晶諸共、巨大な竜巻の中に閉じ込められていた。金糸雀は二人まとめて葬るつもりなのだ。
金糸雀は薔薇水晶と手を組む前から、この時を待っていた。真紅と薔薇水晶がやり合っている間の漁夫の利を狙っていたのだ。
ドールを確実に負かすには出来得る限りの大技を使いたい。だが、大技は発動までに時間が掛かる。それで、足止めを兼ねて薔薇水晶を引き込んだのだ。
真紅が二つのローザミスティカを確保したと薔薇水晶が知れば、金糸雀が最初に狙われる公算が高い。その回避も含め、金糸雀は一石二鳥の作戦を立てたのだ。
薔薇水晶も仲間の裏切りを察知して攻撃の手を休めた。
金糸雀とはこの場限りの同盟なので、それほどのショックはない。しかし、この状況は不味すぎる。
「貴女も危険なのではなくて?」
「そのようです」
落ち着いて会話を交わす真紅と薔薇水晶だが、実はかなり焦っていた。お互い、敵の前では弱味を見せられないだけだ。
話している間にも暴風の壁は着実に迫る。あんなのに巻き込まれたら、手足がもがれて壊れた人形になってしまう。正面から突っ込んで突破する気は起きない。しかし、周りを何度見ても逃げ道は無かった。
つづく
GJ!
続きが気になります……が、
「あべこべろ−ぜんめいでん」の続きはありますか?
「薔薇乙女戦争」の勢いが強いので流れ的にお蔵入りしそうで怖いんですが。
>>576 乙!
こちらのカナは頭使って動いているな
>「そのようです」
冷静さを装ったにせよ
絶体絶命の状況下でそんな台詞が出るとは
さすがだねw
なんとなく、バロン西とウラヌスを担ぎ出してみたくなったのだけど
話が巧くまとまらない(つД`)
てか、薔薇乙女の誰を絡ませるべき? お知恵を拝借いたしたく。
>>577 大丈夫じゃないかなぁ。
元々、こっちの方を先に書いていたんだし。
途中で放り出すような人じゃないと思う。
>>580 やりようによっては何でもアリだと思う。
バロン西繋がりで思い出したけど
血闘絶対防衛圏というKKノベルでもバロン西が日本版ヘッツアーを指揮して
サイパンで南雲中将と一緒にハルぜーの首取ったり、メイドさんや巫女さんが出てきたり
っていうのも商業で通用するくらいだから。
というか、バロン西の場合、舞台を欧州にするか南方戦線にするかで大きく違うけど。
ドイツあたりなら水銀燈が適任のような
真紅はソヴィエト前のロシアかイギリスというイメージがあるし
翠蒼はなにか日本ぽい属性が強い
下手に軍事系に手を出すなよ。
軍艦ヲタ暦十年の俺の逆鱗に触れることになるからな。
キムの昔のマスターは山本五十六連合艦隊司令長官に間違いない。
金糸雀だったら李香蘭とか甘粕とか、満映を思いつくがなァ…。
どうでもいい話だな下らない。
キムの元マスターは牟田口中将。
じゃあ真紅はトム・フィリップスか
誰も知らないと思うけど
あれ?ここ軍板だったのか?
じゃジュンとメガネつながりで翠は摂政宮殿下ねw
だから軍オタは嫌いなんだよ
594 :
熊のブーさん:2006/05/02(火) 00:55:11 ID:PXBRloGQ
久しぶりに投下。
色々パクってますが、この際開き直ります。
これからも色々パクるので今後は「パクリのブーさん」と(ry
DELUSION1 いつもの朝
ジリリリリリリリリリイr(バチン)
あぁ、目覚ましが響いてる――もう朝か――学校行かなきゃ――
めんどくさ、さぼっちまえ……
ガチャリ
「ジュン。今日は学校に行かないの?」
「今日は日曜日だぞ……」
「我が家のTVは壊れたのかしら?ちょうど今、月曜日にやってる“オハヨウくんくん”が終わったところよ」
「今日はしんどいから学校休む……」
「蒼星石、雛苺。JUMがぐずってるわ」
「ジュン君、髪型の保障は出来ないよ」
「落書きしちゃうの〜」
鋏を開け閉めする音と絵筆を水に浸してかき回している音が聞こえる。無視、無視。
ガチャリ
また誰か入ってきたようだ。
「あらあらあらぁ。寝坊すけさんがいるわよぉ」
「姐さんお早うなの〜」「お早う」「珍しいわね」
「じゅ〜ん〜。覚えてるかしらぁこの前の約束」
何か重いものがしなだれかかってくる。この声、パターンから察するに――
「今度私に起こされたらなんでも言うこと聞くって約束。うふふ、楽しみだわぁジュンを好きなように出来るって。」
ジュンに危機が訪れた。
「そのまま寝てて良いわよぉ。ふふふふふ」
「ジュン君。そろそろ起きないと襲われちゃうよ」
「ごめんなさいごめんなさい!! 起きる!起きるからぁー」
「チッ」
「お早う。ジュン君」
「……お早う。姉さん達」
四人の女性がジュンを見下ろしていた。
今日も一日が始まった。
ジュンが覚醒した途端、ぞろぞろと姉達は出て行った。
心なしか部屋が広くなった。
「僕の朝の日課はまず起きることだ」
もうジュンは起きている。ベットからのそりと這い出す。
「次にご飯を食べなくてはならない」
「顔を洗ったりしないのぉ?不潔ねぇ」
ギョッと振り向くと黒基調の服に身を包んだ女性が立っていた。
肌の色は透けるように白く、一見すると病気のような痩せた女性だ。
それでも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。さらに冷たい感じはするが美女の部類に入る顔つきだ。
「水銀燈姉さん……」
桜田水銀燈。桜田家薔薇乙女軍団の長女である。
「銀姉でいいわよぅ、家の中なんだから。顔、ちゃんと手入れをしないと大変な目に遭うわよぅ」
全く気配が感じられなかった。部屋から出て行ったのでは無かったのだろうか?
「姉さん、いちいち茶々を入れるなよな。何の用だよ」
ジュンはさっさと居間に行くことにした。朝御飯が呼んでるぜー!
「あらぁ素っ気無い。いいのぉそんな態度で」
後ろから抱きつかれた。
(当たってる当たってる! 胸が……)
「貴方は今しがた私に起こされた。約束は守らなきゃねぇ」
(ホント起きるのが遅いわねぇジュン)
(うるさいな。次はちゃんと起きるよ)
(信じられないわぁ)
(じゃあ賭けをしてみようか)
(へぇ?)
(一週間姉ちゃん達より早く起きてこれたらご褒美くれ)
(早く起きるのは普通の事だと思うけど?ま、いいわ。失敗したら私の言うこと何でも聞きなさいよぉ)
ジュンの頭につい先日のことがフラッシュバック。
「しまったぁぁぁぁァァ!! 今日が七日目かあ!」
「大方、すっかり忘れてたんでしょうねぇ。お馬鹿さぁん」
ジュンの首筋に水銀燈が甘噛みした。最近彼女がやるようになった悪癖の一つである。
「うふふ、今夜は徹夜確定〜♪」
踊るような足取りで水銀燈は部屋を出て行った。部屋には灰のように白く燃え尽きた青年が残された。
「神よ……」
ジュンは胸の前で十字を切った。
「この哀れな子羊めをお救いください。夜には姉さんが約束を忘れていますように……」
水銀燈とは対照的に、今しがた掘り起こされたゾンビのような足取りでジュンは部屋を出た。
居間ではすでに食べ始めていた。もうほとんど食べ終わっているものもいる。
皆揃ってから食べ始めるという習慣は桜田家には無い。各々、仕事や学校といった予定が詰まっているからだ。
なお、桜田家の構成員は全部で十人。大家族だ。それ故にかなり騒がしい。
新調したての大きな四角テーブルはまさに戦場と化していた。
「誰か醤油を取りやがれです!」「自分で取りなさい」「……」
ザワザワガヤガヤ
「はい、醤油」「ヒナが先なのー」「カナが先かしら!」
ザワザワガヤガヤ
「みっともないわねぇ」「ジャンクは黙れかしらー」「醤油ゲットですぅ」
ザワザワガヤガヤ
「……」「今ジャンクって言ったの誰!?名乗り出なさい!」「僕じゃないよ」「ごちそうさまかしらー」
ジュンは自分が座るべき椅子を探した。が、間の悪いことに開いていない。
残るはテレビの前にある小さなテーブルだけなのだが、そこには先客がいた。
「あら、遅かったわね。ジュン」
桜田家五女、桜田真紅だった。
うまい具合に真紅の反対側に手付かずの朝食が並べられている。そこに座ることにした。
「いつものことながら騒がしい朝ね」
真紅は紅茶を入れている。ある意味場違いな程落ち着いていた。
ジュンは返事を返さない。ひたすら目の前の食べ物を食べることに専念していた。
「寝起きなのによく食べるわね。お先に」
真紅は朝食の入っていた食器を持つと、流しに置きに行った。
大テーブルの方でも一人、二人と席を立つ。
戦場は静かになりつつあった。
(何でこうなったんだろうなぁ)
箸が止まった。ジュンは静かに頭の中の思い出のページを開き、回想する。
少なくとも、真紅達は人形だったはずだ。――以前は。
今の彼女らの体は立派な人間である。
薔薇水晶にローゼンメイデンが敗れたあの日から、桜田家の内情は大きく変化していた。
なにより、ジュンが復学したことは人類の大いなる一歩だろう。その他にも――
ジュンは「あの日」以来何度もため息をついた。
そして今日もまた一つため息をついた。
――“こうなった”のは三年程前のことだったような気がする。
まだ僕が中学二年生。引き篭もりのときだった。
当時、真紅達ローゼンメイデンは生ける人形であり、アリスになるために姉妹で戦っていた。なんとも救われない話だ。
最終的にアリスゲームは偽ローゼンメイデンの薔薇水晶が勝利した。が、ローザミスティカを体に取り入れると自壊し、作り主であるエンジュと共に消え去った。アリスは誕生しなかった。
その後、ローゼン本人が現れた。
その時のことは良く覚えていない。でもある程度なら思い出せる。
真紅達が椅子に座らせられていた。ローゼンが一人一人の服装を直している。
エンジュに似ていたような気がする。顔がはっきりと思い出せない。
そして彼は作業をしながら独り言のように呟いた。
「アリスというのは存在しない」「美に関する感覚は人それぞれ」
「アリスの概念は矛盾している」「では、矛盾を追い求めたら?」
「錬金術師として名高い私でも」「どうなるかは分からなかった」
「私の持つ全ての錬金術の知識」「応用すれば分かるかも知れん」
「そこで人格を持った人形達に」「人間に限りなく近い人形達に」
「アリスゲームをさせてみたが」「結果は未だにはっきりしない」
「方法を変えてみることにする」「アリスゲームではない方法に」
ローゼンが真紅の前に来た。服装を直しつつはっきりと言った。
「アリスゲームだけが、アリスになる道ではない」
「またすぐに会おうではないか」「ネジを巻いただけの神業少年」
ローゼンの姿はもう無かった。
人形達をそのままにしておくのもなんか釈然としないのでとりあえず全員連れて帰った。
真紅以外覚醒していないのでどうすべきか迷ったがソファに雛苺と蒼星石に並べて座らせておくことにした。
後はのりが何とかするだろう。
それから疲れきった僕は眠ったのだが……やけにはっきりした変な夢を見た。
『ジュン君、ジュン君』
「何だお前?くんくん?」
『その答えは正解とも言えるしそうでもない。僕は誰だろう?』
この人をバカにしたような口調は一匹しか思い当たらない。
「ラプラスだろ。何の用だ」
『残念。覚えてないのかい?ネジを巻いただけの神業少年?』
「あー……アリスゲームの首謀者?」
『もう分かったようだから本題に入るよ。時間が無いもんでね』
このくんくんはローゼンのようだ。何しに来たんだろう。
『アリスゲームのやり方を変えてみようかと思ってね。アリスという矛盾を追い求めた時の過程と、その結果が分れば良いのだから発想を転換させてみる』
「僕には関係ないだろう」
『まあ聞いてくれ。前回のアリスゲームの問題点は三つ』
くんくん(ローゼン)はさくさくと話を進めていく。
『一つ目は彼女らが人形だった事。人形では経験できないこともあるしね。二つ目は動力源ともいえるローザミスティカを奪いあわせた事。真紅のように罪悪感から戦いを放棄されてしまうかもしれない。』
「……」
僕はほとんど話を聞いていなかった。
『三つ目は思わぬ横槍が入った事だ。エンジュがあれ程にも完成度の高い人形を完成させるとは……正直思っても見なかった。弟子を過小評価しすぎたな』
エンジュはローゼンの弟子だった説は本当だったようだ。
僕は赤の他人だと思っていたのだが。
『正直な所、エンジュに無いものはローザ・ミスティカの精製法ぐらいだ。人形師としての腕前は僕に匹敵する。』
「ひょっとして、エンジュ達が飲み込まれた光はお前の仕業か?」
『おや、ご名答。薔薇水晶がこのまま壊れてしまうのは惜しかったから、とっさに九秒前の白に送った。オマケも付いてきたようだがね。壊れるのだけは食い止めれただろう』
最初から最後までこいつはアリスゲームを観察し続けたのか。
真紅なんか水銀燈のことであんなに悩んだっていうのに……なんか頭にくる。
『話を本線に戻すよ。結論として、ローゼンメイデンとプラスαを人間にしてみようと思う』
「……はい?」
『まじめな話なんだよ。究極の少女ではなくて女性を目指す、というのでもほとんど同じだと思うが』
くんくんはパイプをくゆらせている。
『それに、戦わせるようなことはさせない。約束しよう』
「究極の女性か……なんかニュアンス狂う……」
『しょうがないだろう。人間の生活で得られる経験も新アリスゲームには必要だ』
「人間には寿命があるじゃないか」
『色々突っ込んでくるね。しかし全ての疑問は一言で解決』
「?」
『現代の錬金術師ローゼンの力を見せてやろう。全ての事象は僕の思うがままだ』
断固たる自信に満ちた口調だった。
しかし、くんくんの声、口調で無かったらとてもかっこよかっただろうに。
『楽しみにしていてくれ。君はまだ真紅のミーディアム。これからの変化は必ず君の周りで起こるのだから――』
急にくんくんが透けていった。
『ん、時間切れかな。……また会おう。意見を聞かせて欲しい』
「二度と御免だ」
くんくんは消え去った。
「……はっ」
目が覚めた。何も変わった所は無い。
何も起こってないじゃないか。変化なんて
ジュンの視界に、鞄を抱いて気持ち良さそうに寝ている十七、八の女性が目に入った。
漫画的表現をするならメガネに小さなヒビが入ったような衝撃だった。
「し……んく?」
服装から判断して真紅っぽい。あ、覚醒した。
「お早うジュン」
何事も無かったかのように挨拶されても困るんですが。
「挨拶も出来ないの?無礼な下僕ね」
「真紅なのか?真紅なんですか?真紅じゃないよな誰ですかアナタ!」
「騒々しい。朝からテンションが高いわね」
「人形が人間になってたら驚くわ!」
「お父様が夢の中に出てきておっしゃられたの……」
真紅、夢見る乙女モード突入。
「これからは人形としてでなく人間として生き、究極の女性を目指しなさいって……」
背筋に走る嫌な予感。急いで一階の様子を見に行く。
予感は現実のものとなっていた。
ソファの上ではお互いに寄り添うようにして眠っている五人の女性が――
「ジュン」
「ん、はい?」
思い出の日誌が勢いよく閉められた。
「妄想の世界に浸るのは勝手よ。でも、時間を考えなさい」
ジュンは時計を見た。もうすぐ家を出ないと間に合わない。
「じゃあね。学校で会いましょう」
真紅はもう身支度を終えていた。すたすたと玄関まで行ってしまう。
居間はガランとしていた。ジュン含めて三人しか残っていない。
「遅刻だぁぁぁ」
ジュンは大急ぎでご飯を片付け、準備を始める。
「はい、お弁当」
のりが弁当を差し出した。
「おい姉ちゃん!! なんで声かけてくれなかったんだよ!」
「だってジュン君、声かけづらい雰囲気だったんだもの……」
「遅刻するぞ」
新聞を広げていたエンジュがポツリと呟いた。
今日も一日が始まった。
終わり
601 :
熊のブーさん:2006/05/02(火) 01:06:20 ID:PXBRloGQ
えーと、「終わり」と書きましたが、まだ短編(?)連作の形式で続けていこうかと思います。
元ネタ……分かっても糾弾するのは勘弁してください。
「これじゃないか?」は一向に構いませんので。
銀姉さん・・・JUM羨まし過ぎるぞ?グッジョブ!
>>580氏
チンタラしとっとワレがかいてまうど?ってことで仁義破りのネタ頂き失礼!
まずは僭越ながらボクから、雑談の一環ということで、どうかお許しを
初めに言葉あり、言葉は神なりき 〜ヨハネの福音書 第一句〜
その島は、米軍の熾烈な艦砲射撃によって人ならざる者が住む処の様相をなしていた
強襲揚陸艦の艦長は、傍らに立つ副官、奇妙な外見に似合わず非常に優秀な女性少佐を、そっと見た
「水銀燈、どうか許してくれ、君とニシとの事は知っている、しかし・・・ステイツを守るためなんだ」
「サー、わたしのことはお気遣いなく、・・・しかし、提督、ひとつだけ・・・お願いがあります」
水銀燈は海兵隊による上陸作戦の直前、提督の許しを得てブリッジに立ち、マイクのスイッチを入れた
初めに言葉あり、言葉は大切な人を守る最強の武器、そして最後の武器・・・ぜんぶ嘘っぱちだ
人間は最初に武力で争い、最後に武力で片をつける、言葉の力なんて、武力で勝った者の言い草だ
「・・・バロン西、バロン西、どうか投降してください、バロン西、わたしは、あなたを失いたくない」
・・・・・・・・島の日本兵は玉砕した、そして西竹一少尉の死体は、後の調査でも見つからなかった
最近になって、この投降勧告が米軍の創作であるとの論評が発表された
水銀燈は黙して語らない、真相を知る水銀燈は、決して何も話さない
だって初めに言葉あり、言葉は最強の武器、いつだって愛するひとを守る最後の武器なのだから
いやぁ〜哀・戦士ですなぁ〜
馬鹿だな。
アメリカから見れば日本人なんて現地猿だよ。
ミッチャーもそう思ってる。
せっかくブーが流れ変えたのにまた軍オタかよ…
こくり。 アッサムを一口味わい、傍らの本を閉じて嘆息。
なんて穏やかな午後。
静かに時を刻む針の音だけが、私とうつつを繋いでいるよう。
窓の外に目をやれば、青く済んだ空が柔らかな光を投げかける。
とても清か。 とても静か。 日ごろ机の前に陣取っている少年も、今はいない。
ジュンはどうしているかしら。
いつも来て貰ってばかりでは悪いからと、今日は彼の方から巴に会いに行った。
いえ……会いに行かされた。
のりに根負けした時の悪態を思い出して、自然に微笑がこぼれる。
いつか。 いつか、私が永い眠りにつくとしても。
この記憶が癒してくれるでしょう。 この想いが暖めてくれるでしょう。
ひとりでいても、ひとりではない。
時を渡し、夢を渡し。 私を明日へと歩ませてくれるでしょう。
それは、なんて幸せで、優しいこと。
気付けば、窓から差し込む日が低くなっている。
うとうとしていたかもしれない。 でもまだ、私はひとり。
ゆっくりと背を傾けていき、ぽふん、と床に寝転がった。
……少し、はしたないかしら。
でも、今日はひとりだもの。 このくらい、いいわよね。
何を見るでもなく、漫然と部屋に目を巡らす。
今ごろは雛苺も、翠星石も、待ち人との逢瀬を楽しんでいるのかしら。
くすり。
いやね。 逢瀬だなんて、大袈裟な。
らしからぬ言の端に、自分で自分がおかしくなる。
家に一人きりという事実が、少しだけ私を大胆にさせていた。
だからだろうか。 頭に浮かんだ悪戯っ気を、打ち消すでもなく受け容れたのは。
……あった。 ここね……。
目の前に置かれた黒い箱。 探り当てたその一部を押すと、箱が低く唸りはじめる。
これはピー・シー。 パーソナル・コンピューターというものだ。
そう。 私も、してみようと思ったのだ。
ジュンがいつも夢中になっている、「インターネット」というものを……。
目覚めの声と共に、ピー・シーが映像を映し出す。 いい子ね。
あれは雛苺がここに来てすぐの頃だったかしら。 水銀燈はこの子の中から現れた。
それは魂を宿すものの証。 この子もまた生きている。 闘っている。
ふわり。 微笑むと、心の中で語りかける。
突然起こしてしまって御免なさいね。 でも、ジュンに仕えるという事は私に仕えるのと同じ。
いい? 今日の事は私と貴方の秘密。 ジュンに教えては駄目よ。
応えるように起動音。 素直な子。
この子の扱い方は、ジュンを観察していた過程で熟知したと言ってもいい。
本、人、心。 知識は知恵へ、経験は直感へ。 いつしか私は時の川をたゆたうレクシコンとなる。
インターネット・エクスプローラ。 これを素早く2回押して……。
かち、かち。 確かな手応えと共に、渇いた音が主無き部屋に響く。
私は「インターネット」を満喫していた。
凄い。 なんと凄いのだろう。 まるで知識の世界樹。 これこそ本当のレクシコンだわ。
キーワードを尋ねただけで、無数の情報が返される。 紅茶、ドレス、くんくん……あらゆる答えがそこに、在る。
なんて魔法。 なんて不思議。 なんて素敵。
お茶も忘れて、埋没。 ふと顔を上げれば、空は朱に染まり始めていた。 でもまだ、私はひとり。
夢のような一時だけれど……少し、疲れてしまった。 私はこれで最後にしようと、その言葉を入力した。
___________ ___
| R o z e n M a i d e n | | 検索 |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄
「ありがとう桜田くん。 私、パソコンの事なんて全然分からなくて……。」
「いいよ。 ……よし、セキュリティもオーケー、と。 ほら。 もう使えるから。」
すやすやと眠る雛苺の髪に、そっと手櫛を入れる。
桜田くんが来てくれてよかった。
パソコンを買ってから半月。 ようやく使える時が来たのだ。
私の家は古風だ。 電話は未だに黒電話。 パソコンともなれば、もう完全に別世界。
少しでも文明の火を入れようと、購入したはいいけれど。
買ったのは格安の中古。 大型電気店で売っているような、最初から何もかもお膳立てされたものではなくて。
情けない事に、家族の中の誰ひとり、動かし方が分からなかったのだ。
桜田くんが気にするだろうから、誰が動かしてくれたのか、家のみんなには内緒にするつもり。
……でも。 なんだかくすぐったいな。 大きくなって、疎遠になって。 桜田くんは「男子」になって。 私は「女子」になって。
この間まで、話もしなかったのに。 いま、私達はおんなじ「秘密」を抱える仲。
あなたのおかげね。 微笑って、眠る雛苺のほほをつつく。 ふにっ。
「……でさ。 真紅が動かなくなった時、ヒントになったのがこのサイトで……」
いけない。 考え事にかまけて、桜田くんの話を聞き流してたみたい。
話を把握しようと、慌てて意識を集中する。 今話しているのは、どうやらインターネット掲示板の話題。
真紅が動かなくなってしまった時に、桜田くんはインターネットで色々調べたらしい。
……楽な事じゃ無かったろうな。 モニターをぼんやり見つめる。
ローゼンメイデンは幻のドール。 その実態を知っている人なんて、世界にほんの一握り。
> 462 : 銀様最高! あの目、あの足、あの背中……(;´Д`),、ァハァハァ/、ァ/ヽァ/ヽァ
> 463 : 翠星石と一日中ストロベり隊
> 464 : ウホッ!いい罵声。 OK、こみ上げてきた。 ちょっと荒縄買ってくる ノシ
………のはずだったんだけど。 …………何これ…………。
「……あの……桜田くん…………」
「凄いだろ? みんなローゼンメイデンにやたらと詳しい人ばっかりなんだ。 いやぁ、やっぱりインターネットは頼りになるよ。」
なんで嬉しそうなのよ。 喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込み、再び画面に目を移す。
> 465 : 今日も死ぬほど乳酸菌を摂取した。 いずれこの身も乳酸菌となり、銀様の一部にして頂けるだろう。
> 466 : カカカナのおデコでままままさちゅーせっちゅーしてぇぇええぇ
> 467 : イッチゴッアジノォスッパゲッチィ〜♪ウォォ〜アンマァエアウェァ〜♪クハッ!キャハ!ケヘァ! カハァ!
くらり。 なによ、この病人の群れは……。
「か、柏葉!? どうしたんだ、大丈夫か?」
へたり込んだ私をいっちょまえに心配する変質者(故・桜田くん)。 妊娠するから話しかけないでくれる?
そんな私の内心など知る由も無く、変態の解説は続く。
「この掲示板は凄く流れが速いんだ。 ほとんどチャット状態だから、見てる分にも面白いってわけ。」
ハァ、面白い。 これが面白い、と。 そうね。 あるイミ面白いね、ほんと。
適当に話を合わせる振りをしながら、私はこのよく分からない炭素化合物に帰ってもらう理由を考え始めた。
……それにしても、本当に頭が痛くなる文面だわ……。 思いつつ、なんとはなしに雛苺に触れたレスポンスをチェックする私。
この子を穢すような書き込みがあったら許さないんだから!
と意気込んだものの、度を過ぎた内容のものは無さそう。 それが分かると、少しだけ気分も落ち着いてきた。
どうも大別すると、翠星石(オッドアイのあの子ね)と水銀燈(誰かしら…)の魅力を讃えるレスポンスがほとんどのようだ。
「まぁ、その二人がツートップだろうな。 実はこの掲示板で、今日締め切りの人気投票をやっててさ。
二大勢力である銀派と翠派の動きが活発ってわけなんだ。 ……真紅なんて、名前すら見かけないけど。」
確かに真紅の「し」の字も見かけない。 ……無いのかな、人気。 そんな事を喋りながら、更新ボタンをカチッ。
何分も経ってないのに、もう書き込みが増えてるみたい。
ぷっ。 桜田くんが小さく噴き出した。 何かしら……。 つられて覗き込んだ私も、思わず微笑ってしまう。 すごいタイミング。
> 480 : やはりドールズで一番かわいい真紅に投票するのが、人として自然だと思うのだわ。
「なに笑ってるんだよ……プフッ。」
「そういう桜田くんだって……。」
くすくすくす。 ふたり、顔を見合わせて笑う。 何の変哲も無い書き込みなのだけれど。
初めて真紅に触れたレスポンスが、何の偶然か、あの子の喋り方そっくり。 それが私達には妙におかしかった。
> 481 :
>>480 寝言は寝てこけ
> 482 : やっぱりドールズで一番可愛い雛苺に投票するのが、人として当然だと思うのよ〜
> 483 : 1日1票だからなぁ。 真紅に入れるくらいなら銀様に入れる。
> 484 : 人気のある真紅(笑)
> 485 :
>>480 >>480 >>480 > 486 : ごめん、もう翠に入れちゃったし…
> 487 : 3票持ってても全て蒼の子に入れますが何か?
> 488 :
>>480 の人気に嫉妬
「プッ! サンドバッグだな、こりゃ。 あいつがブチ切れる様子が目に浮かぶよ。
『私より水銀燈に入れるですってぇ!許せないわ!節穴なのだわ!ジュン!お茶を淹れて頂戴!すぐによ!』 なんてな。」
「もぅ、やだ、桜田くんったら……。」
笑いすぎておなかが痛い。 桜田くん、すっごい特徴掴んでるんだもん。
> 489 : 真紅より水銀燈に入れるですってぇ!許せないわ!節穴なのだわ!撤回を要求するのだわ!
……。 この人、なんでこんなに必死なんだろう。 人気って、そんなにムキになるほど大事なのかな。
「……この人、凄くムキになってるな。 少なくとも僕は。 こんな得票数なんかじゃ、人の気持ちは測れないと思うけど。」
ドキリとする。 桜田くんも、おんなじ事考えてたんだ。 私の方を見ないで、桜田くんは続ける。
「例え世界の片隅に置かれてたって。 皆にそっぽを向かれてたって。 きっと誰かが気付いてくれる。 必要だって言ってくれる。
それなら。 もし一人でも、自分を見てくれる人がいたなら、それは。 ……凄く、幸せな事なんじゃないか。」
僕は、そう思うけど。 段々声が小さくなって、頼りない言葉尻。 ……でも。 何かが、私の胸にこみ上げてくる。
それは、すごくすごく強くて、深くて、暖かい何か。 私はその気持ちを表す一言を探して、呟いた。 そうだね。
桜田くんはそんな私の呟きに、照れくさそうに微笑み返すと、おもむろに翠星石に一票入れた。 くたばれ。
○月×日(晴れ)
今日はとってもいいお天気だったかしら。 いわゆる潜入日和って奴かしら!
今日はおうちに真紅しかいない事は調査済み。 ローザミスティカを奪うには絶好のチャンスだったかしら。
というわけで、カナはいつも通りジュンのお部屋を見張ったの。
あっさり真紅発見! どうやら本当に一人みたい。 怖いくらい順調かしら!
真紅は今日も湯水みたいに紅茶をがぶ飲み中。 なんてただれた食生活なのかしら、ぷんぷん。
でも、異変はその時起こったのかしら。 どさっ。 床に倒れこむ真紅。
? 一体どうしたのかしら……。 くすくすくす。 い、いきなり真紅が笑いだしたかしら!
どこに笑うネタがあったのかしら? ひょっとしてカナの事がバレてるかしら!? いやいやまさか……
と思ってたら、真紅の目が油断なく周囲をぐるり。 はぅあ!? か、隠れるかしら!
どうやら見つからずに済んだみたい。 けれど口元には、相変わらずギタリと不敵な笑みが浮かんでいる。
うぅ、やっぱり真紅は一筋縄じゃいかないかしら……。 ここはもうちょっと様子見かしら!
そうこうしてる内に、真紅は机の前に座ってごそごそし始めたかしら。
カナ知ってるかしら! あれは「いんたぁねっと」って言うのよ、ピチカート。 みっちゃんもよく使ってるかしら。
でも、画面に向かってグフグフ笑ったり、顔を赤らめたり……きょ、今日の真紅はおかしいかしら……。
はっ! 真紅は今「いんたぁねっと」に夢中……。 ひょっとしてこれは絶好のアタックチャンスではないかしら?
そうよねそうよねやっぱりそうよね! 後ろからソロソロ近づいて、ポカポカポカリのばたんきゅーかしら!
ふっふっ……薔薇乙女仕事人、金糸雀の本領発揮かしら。
真紅、あなたが弱いわけではないのよ。 ただ、カナがあまりにも賢すぎただけかしら……!
一歩、二歩、三歩……。 ターゲット・ロック・オン! もらったかs
『 ズ ガ ン ! ! ! ! 』
うきゃー! ぴきゃー! みきゃー! 何かしら? 何かしら! 心臓止まると思ったかしら!
え、何、ピチカート? 心臓無いでしょって? それもそうかしら。
慌てて部屋の入口まで戻って、恐る恐る覗き込むと……はわわわゎわわわゎわ!!
紅蓮の瘴気も明らかに、真紅の剛拳雨あられ。 「いんたぁねっと」は今まさに公開処刑中だったのかしら……。
「うっ……ううっ……うっうっ…………液晶薄型……20万……」
「ジュンー、泣かないでぇー。 いい子いい子なのよー。」
夜は7時を回ったばかり。 最近おなじみ、桜田くんの部屋。
桜田くんは、パソコンの亡骸を抱えて、かれこれ20分ほど泣き尽くしていた。 お腹空いたなぁ。
「ひどい……ひどいよ……何で……僕のPCに、何の恨みがあってこんな……」
「ごめんなさい、ジュン……。 私も必死で守ろうとしたのだけれど、力及ばなかったのだわ。
水銀燈は、ジュンのピー・シーを完膚無きまでに叩き壊すと、高笑いしながら帰って行ったのだわ……。」
もうスクラップなんてレベルじゃなかった。 目の前にある、ソフトボール大の鉄球。
それが、かつて桜田くんのパソコンだったものの全てだと言う。
一体どれだけの力があったら、一体どれだけの怒りを覚えたら、巨大なパソコンをここまで小さく圧縮できるのだろう。
私は、未だ会った事もない、水銀燈というドールの力に身震いした。
「うっうっ……そんな……銀様がこんな酷い事を……。」
銀様て。 気のせいかしら? 真紅のこめかみに血管が浮いたような……。 でも、ドールに血管がある筈無いわよね。
「なんて可哀想なジュン。 水銀燈は見た目はともかく、中身は血も涙も無い、ルール無用の残虐ドールなのだわ。
今回の事で、貴方もそれが身に染みて分かったと思うのだわ。
やはりドールを選ぶなら、真紅のような、可愛くて、優しくて、正義をこよなく愛するドールが一番だと思うのだわ。
あくまで一般論だけど。 客観的に見て。 大衆の意見としては。
貴方もこれからは邪心を捨てて、ピュアな心で真紅に仕えると良いと思うのだわ……。」
雛苺に頭を撫でられながら、子供みたいにうんうん頷く桜田くん。 お姉さんになったね、雛苺……ふふっ。
「しかし、広域無差別破壊ドールの水銀燈にしては、えらくピンポイントに破壊してったもんですねぇ〜。」
時計を見ながら、心底どうでも良さそうに呟く翠星石。 お腹空いたねぇ。
「シャラーップ!貴方の意見など聞いていないのだわ! へっ、すいませんね。 あっし如きが、王者さまにこんな偉そうな口叩いて……」
「し、真紅?一体どうしたんですぅ!?」
どうでもいいから、早くお夕飯にしようよ。 そう思いながら、黙って喧騒を眺め続けるだけの私。
私、柏葉巴、中学2年生。 いっつもそう。 言いたい事、誰にも言えないの。
おわり
>>595-600 ジュンくん、一日だけ代わって下さい。というか代われ!
>吝嗇さん
仁義破りなどとそのような…。おかげで腹が据わりました。
今晩中に投下します。
勿論14行で。
>>612 思わずロートロスレ410以降をチェックしちまったよ。
>>612 ちょw
でだしの詩みたいにきれいな文に騙された(いい意味で)
真紅も巴もいい感じに壊れててワラタ
不思議な読後感が残ったGJ
>>601 エンジュいたのかw
最後のエンジュがツボったGJ
>>577 遅レスすみません。書くつもりはありますよ〜。
でも、暗い方を終わらせてからにしようかと思ってます。
雰囲気が違いすぎますしね。
真紅もタイミング悪いな
今日に昼間なら真紅大隊来てたのにw
>>610 > 桜田くんはそんな私の呟きに、照れくさそうに微笑み返すと、おもむろに翠星石に一票入れた。 くたばれ。
ちょwww
はい、約束どおり?投下します。
最初はもう少し会話文があったのですが、手を入れに入れたらこんな風になってしまいました。
一応、ベルリン五輪の直前ということで。
というか、水銀燈を色物キャラ化してしまったようで、申し訳ないなと。
「馬、好きなのかい?」
ドイツ軍・馬術教練場。外埒沿いにいた水銀燈に、軍服姿の東洋人の男が、馬上から屈
託の無い笑顔で話しかけてきた。突然の事で戸惑う水銀燈を馬が銜え上げた。
「ちょ、ちょっとぉ! 離しなさいよぉ!」
男はもがく水銀燈を自分の前に座らせ、馬を外埒沿いに走らせる。そして、加速がつい
たところで、巨大な生垣障害へと馬の進路を変えた。悲鳴を上げる水銀燈をよそに、男が
裂帛の気合を発する。同時に浮遊感。馬は見事に障害を飛越し着地した。
「お、下ろしなさいよぉ!」
泣きべそをかく水銀燈に、男は「すまんすまん」と、悪びれた様子も無く快活に笑った。
そして先ほど同様、馬に水銀燈を銜えさせると、埒の外に解放した。
「こ、こんな目に遭わせて……お、覚えておきなさいよぉ!」
「またウラヌスに乗りたくなったらここに来なさい」
背中ごしに男の声が聞こえたが、水銀燈は涙を拭き拭き、後をも見ずにその場を去った。
その男――『バロン西』こと西竹一が、その後戦死した事を、水銀燈は知るよしも無い。
終わりです。
何か水銀燈は動物には好かれるっぽい、GJ!
これを読んで、エロパロ向けに銀様獣姦物を書こうと思った俺は、汚れている
このスレ専用の保管庫を、誰か作ってくんないかなあ とか思ったり。
ごめんなさい。一人言っす。
自分で動こうとしない人間の独り言は醜いな
提案という行動を否定するつもりか
624 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/03(水) 16:15:21 ID:OPhF0/j+
ローゼン+ミンサガというかなり人を選ぶネタ。
だ が 投 下 す る 。空気も読まずに。 許せ。
一応ギャグのつもり。
―――確かにそこには違和感があった。
位置してはいけないはずの場所に、位置している。
それは真紅にとって障害物だった。
行かねばならない道を塞ぎ、悪びれた形相も無く鎮座している。
それをこの場所に置いたままでは、目的は果たせない。
それを取り除くのに大した力は要らない。
ただ、心臓を止めれば良い。
真紅の魂―――ローザミスティカが、震える。
球体関節が、軋む。
瞳が、燃える―――
「真紅、止めろッ」
ミーディアムからの静止が掛かる。
ジュンは、それの防衛者だった。共存者、かもしれない。
―――真紅の気持ちは解る。確かにこのままじゃいけない。だけど…ッ
真紅が何をしようとしているのか。そんなことは簡単に理解出来てしまう。
だからこそ必死になっている。あと少しで最善の処置がとれる。
「止めろよ、真紅…止めてくれぇ…ッ」
「女々しいわね。」
先に約束を破ったのはあなた。
気遣ってなど…やるものか。
真紅は一歩ずつ『心臓』へと近づいていく。
人工精霊を使うまでも無い。一呼吸の間で、この陳腐な劇もお仕舞いだ―――
625 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/03(水) 16:18:03 ID:OPhF0/j+
…ぷちん、と気の抜けた音がした。
「ジュン、いい加減にゲームを止めなさい。くんくんの時間よ。」
さ、急がないと、と真紅はリモコンを操作する。
コンセントを抜かれたハードからは何の音もしない。
―――これでいい。これがあるべき『かたち』。
後ろで下僕が何か言っているような気もするけれど、何も聞こえない。聞こえても無視。
「オマエさえいなければ…ハトは、妹は幸せになれたんだぁ!」
「落ち着くんだクマゲラ!スズメを殺したってあの娘は戻って来ないんだぞ!」
「アンタに何がわかるっていうんだ、くんくん!」
…これって、普通のドラマにしたら良いんじゃないのかなぁ。
蒼星石の『たんてい犬くんくん』に対しての感想はそんなものだった。
真紅や雛苺が語るように、この番組は非常に興味深い。
動物のぬいぐるみで人間のような憎悪劇などを繰り広げる。
このアンバランスさが自分達、ローゼンメイデンに似ているのではないだろうか。
姉妹で殺しあう。そんなことをした自分だからこそ、人形劇にそんなことを思ってしまうのだろう。
だからこそ、隣に翠星石が、みんなが居てくれる平和な今が蒼星石はとても好きだった。
「ジュン君、元気出してよ。ゲームなんてまたやり直せばいいじゃない。」
「君に何がわかるっていうんだ、蒼星石…」
慰めようとする蒼星石にジュンが先程終わった番組のセリフになぞらえて返事を返す。
「チビ人間の事なんて放っとくです、蒼星石。
しばらくしたら勝手に元気になるですよ。」
テレビを見終え、のりと食事の準備をしている翠星石が台所から妹にそう言う。
それもそうだね、とその言葉に共感した蒼星石は姉を手伝いに行こうと立ち上がった。
「ジュン君、もうすぐご飯だからテーブルの準備をお願いね。」
のりがそう頼まれると、ジュンは立ち上がった。
何とか、吹っ切れたらしい。
626 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/03(水) 16:20:27 ID:OPhF0/j+
「で、ジュン。あなたは何のゲームをしていたの?」
午後8時、真紅がふと思い出したらしく、そうジュンに尋ねた。
「ん?ああ、これだよ。ロマンシングサガ。」
完全に吹っ切れたらしいジュンがパッケージを取り出し、真紅の目の前に持っていく。
それはかつて販売された物の移植作らしい。
物語に決まった筋道は無く、自分でやりたいことを出来るのだとか。
嫌なイベントがあればしなければいい。
そのことは真紅にとってとても魅力的に思えた。
「ジュン、興味が湧いたわ、やってみましょう」
ながいよるが はじまる…
Romancing Rozen-真紅と愉快ななかまたち-
「みんなで、遊んでみましょう。」
真紅が提案した。
このゲームでは主人公以外のキャラクターを四人まで仲間にすることができる。
それらを真紅、雛苺、翠星石、蒼星石で振り分けて遊ぶのだという。(ジュンは不参加)
ある種、それは最もRPGの遊び方に相応しいのかもしれない。
ジュンの取り出した攻略本を広げ、四人はロール(役割)を選び始めた。
とりあえずここまで。
人いるならキャラを当てはめてみてください。最後まで頑張ってみます。
ロマサガはSFCでしかプレイしてないけど当てはめてみる
真紅 ホーク
ヒナ ゲラハ
翠 シフ
蒼 アルベルト
628 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/03(水) 21:14:12 ID:OPhF0/j+
>>627 dクス。
最初は真紅をシフにしようとしてたけどホークのが面白そーだ。
でも…雛苺がゲラ=ハとは思いもせんかった。
雛「げっこぞくはとりがせいりてきにねー、キライなのー!」
蒼=アルベルトというのは俺も思ったw
630 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/03(水) 22:43:32 ID:OPhF0/j+
読み返してみて後半のgdgd感に凹むorz。
ま、いいや。
主人公=真紅≒ホークということなので追放されてからの序盤のイベントは
ワロン(アロン)島関係にしようかな。
翠「私はバルハル族のシフですぅ」
あいてにしない→翠「あいそが悪い ぼーやですぅ のたれ死んじまうですよ?」
631 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/04(木) 04:40:20 ID:RMZ3Fx8t
こんな場末のとこまで街宣する暇人がいたとは
わっがんね〜
ロマサガ知らないし。人を選ぶSSになりそうな予感。
それより、このスレの容量あと何k位なん?
2立てる?あっちと合流するん?
1の意見とか知りたいこの頃。
最近元ネタわかりにくいやつ多いな
636 :
1:2006/05/04(木) 21:46:15 ID:jCUnj+Fj
>633
容量は現在436KBで残りは60KB
虐待・ヘイトからの脱却がスレを新しく立てた理由でもありますし、個人的には合流は不要かと思います。
容量が480KB近くになったら次スレを立てて誘導でいいんじゃないでしょうか。
>>635 そうじゃなくて映画とかゲームとかそういうのを使った時。
>>637 書き手側からしたら「元ネタの分かりやすさ」について配慮しにくいんでは?
完全に理解せんでも
「あぁ、なんか軍関係の事がバックボーンなんだなー」
「今回のお話はゲーム関係なんだなーよく分からんけど」
ぐらいに考えておけば良いと思う。
640 :
熊のブーさん:2006/05/05(金) 00:06:25 ID:KJBAgrEg
GWなのに忙しいのは何故ですか?熊ブーです。
《桜田さんちの薔薇少年》の続き投下です。
DELUSION2 桜田家の居候(前編)
「えーと、今日はレッスン1の途中からね」
学校の教室に英語教師の声が響く。それにしてもよく通る声だ。
場所にして高等部の一年A組、時にして一限目のことであった。
我らがジュンは机に突っ伏していた。
「眠い……」
引き篭もりを卒業して今年で三年目。様々な受難がありつつもジュンは高校へと進学していた。
ジュンの学校は高校、大学とが同じ敷地内に入っている。
広大な敷地を有し、多方面で活躍できる人材を育成するようにと高校の段階から凄まじい数のコースに分かれている。
ジュンは普通科の生徒だった。
「予習はしてきたぁ?」
そして、卒業した中学校もすぐ近くにあった。交通面、将来性の面からこの中学校からの進学率はかなり多い。
「だるい……」
しかし、ここまで立地的に揃っていると新鮮味が無いのである。
クラスメイトには中学の同期がちょこちょこいる。
通学の方法、距離もほとんど変わらない。
ついでにジュンの完全夜型の生活習慣も変わらなかった。
「……この文のと同じ意味の“ことわざ”はー……」
「もうダメだぁ――」
ジュンは先生に見つからずこっそり寝る達人だった。
今日も職人(?)の技が光る。
だが、英語教師は女性だが恐ろしいことで有名だった。体罰など屁とも思わない。
ジュンは眠りの世界に駆け足で走り出したが引き返してきた。
「うう、一応ノートだけは取っておくか……」
うつらうつらする頭で授業を聞く。
ふと、ジュンの頭に真紅達が人間になった時の事がよぎった。
「眠気覚ましにはちょうど良いかも知れん……」
ジュンは居候が増えたときのことを眠い頭で思い出した。
ジュンが人間となった真紅と一階に降り、同じく人間となった薔薇乙女達を見つけてから約5分。
「ちょっとぉ!! 解きなさいよ!」
水銀燈がじたばたと暴れている。
彼女の体はもう人形ではない。人間だ。
しかし、縄でぐるぐる巻きにされて椅子に縛り付けられている様はとても「人間らしい」とは言えなかった。
「静かにするですぅ」
「解かなかったら酷いわよぉ皆ジャンクにしてやるんだから!!」
「雛苺」
「うゆ?」
「さるぐつわを噛ませなさい」
「分かったの〜」
「やめて!ちょっとぉ…ムグムグ」
雛苺のあまりの手際のよさにジュンは戦慄した。
これから何が始まろうというのか。
のりがいればもう少し平和的になっただろうが、出かけている。
「うう、真紅が怖いかしら〜」
「水銀燈……貴女にはいくつか質問に答えてもらうわ」
「ムグー(なによぉ)」
「イエスなら首を縦に、ノーなら首を横に振って頂戴。分かった?」
「……」
水銀燈は真紅を半目で睨んだだけで首を動かさない。
「もう一度聞くわ……今の話を分かった?」
水銀燈は微動だにしない。
「翠星石、蒼星石。水銀燈をくすぐりなさい」
「いい加減に素直になるですぅ〜」
「言うことを聞いておいた方が良いよ。水銀燈」
「ムグ!ムグググゥムムグ(きゃは!あひゃひゃぁあは)」
「もういいわ」
水銀燈は椅子ごと床に転がって荒い息をしている。
焦点の合っていない涙目で小刻みに痙攣されるとかなり怖い。
「質問をするわ、良いわね」
翠、蒼の二人に起こしてもらった水銀燈は恨みがましい目で真紅を睨んだ。
さっきの睨みよりも殺意二十%増しだ。ジュンは寒気がした。
「またくすぐられたいのかしら?よ・い・わ・ね」
水銀燈はブンブンと首を上下に降った。
「よろしい。では聞かせて頂戴」
場に神妙な空気が流れる。
「ヤクルト好き?」
緊張の糸が音を立てて千切れた。
「真紅! ふざけるなですぅ」
「このためだけに水銀燈を縛ったの……?」
「真紅はSかしら」
「ヒナはヤクルト好きなの〜」
「なぁ真紅。何のつもりなんだよ」
「いいから外野は黙ってなさい。水銀燈、答えて」
水銀燈はゆっくりと頷く。
「どんどん行くわよ」
しばらく質問攻めが続いた。
「何のつもりなんだろうな」
「考えでもあるのかしら?」
「さっきから意味の無いような質問ばっかりですぅ」
「政治がどうとか、何年前何処にいたとか」
「ヒナもう眠いの〜」
外野は固まってヒソヒソと話していた。
どんどん質問はペースが上がっているような気がする。
「次よ」
「ムグ」
「めぐという娘は貴方のミーディアム?」
「ムグ」
水銀燈が首を縦に振った。
「めぐは元気?」
「ムググ」
首を横に振った。
「私達を襲ったのはめぐのため?」
「ムグ……ム!!」
首を縦に振りかけて、水銀燈ははっと我に返った。
「惜しいわね」
「ムググゥ!ムグムグムグググー!!(ちょっと! 今のは無しよぉー!!)」
水銀燈がかつて無いほど焦っている。
「リズム良く質問を出しといて本命の答えを聞きだすとは……」
「恐るべきですぅ」
「うにゅ〜」
「ムググググ、ムググッ!(汚いわよ、真紅!)」
「初めからストレートに聞くと嘘つくでしょうからね」
平然と真紅は答える。やっぱり恐ろしい。
「聞きたいことは聞き出せたわ。薔薇水晶と戦った時、貴女が言った言葉が気になってね」
「言葉ってなんだったの?」
「“ごめんね、めぐ”って言ってたわ」
水銀燈の顔が真っ赤になった。
「貴女のローザ・ミスティカを貰ったときに見た記憶が何なのかこれではっきりしたわ」
「ムグゥ……(生き恥よぉ……)」
「水銀燈が……意外かしら〜」
真紅がそっと、うなだれている水銀燈を抱きしめた。
「もう、大丈夫だから。人間になってアリスゲームの目的が変わった以上、姉妹で争うことも無いわ」
水銀燈は驚いたように目を見開いた。が、すぐに泣いているのか笑っているのかいまいち分からない表情になる。
「なぁ真紅。じゃあミーディアムの僕はどうなるんだ?この指輪外れるのか?」
水銀燈の表情が一変した。
「まだ分からないわ。追々調べていく必要があるわね」
「人工精霊は機能しているみたいだけど」
蒼星石がレンピカを突っついている。
皆の目が飛んでいる人工精霊に移った瞬間、ゾン! と聞き慣れない音が響いた。
水銀燈の背中から巨大な羽が生えて(?)いる
「力を使えるのか!?」
「なまじ人間サイズ分だけ大きいわね」
あっというまに水銀燈は縄を切り裂き、さるぐつわを取り自由の身になっていた。
水銀燈が叩き壊すかのように桜田家の窓ガラスを叩くとガラスが波打った。
「nのフィールドの入り口ですぅ!」
「真紅! どうするんだ!」
「泳がせるわ。ホーリエ」
水銀燈はもうガラスの中に消えていた。
「水銀燈を追って頂戴。気付かれては駄目よ」
後を追うようにホーリエがガラスの中に飛び込む。
「ホーリエの帰還待ちね……ジュン、お茶を入れて頂戴」
真紅は淡々と指示を飛ばす。
「うう……なんかかっこいいかしら……でもカナ負けないかしら」
密かにライバル意識を燃やしている黄色いやつがいた。
有能な指揮官は辛いな。真紅。
「お茶がぬるいわ」
ビシィ!!
「いってぇぇ」
すごい音がした。
でかくなった分、髪の毛鞭も威力が上がっているようだ。
しばらくしてホーリエが帰ってきた。
「場所は割れたわ。突入よ」
「やっぱりかっこいいかしら……」
しばらくnのフィールドを進んでいくと目的の位置に着いたようだ。
出口は病院の廊下に取り付けてある大きな鏡らしい。
「行くわよ」
ひょいひょいと鏡から出ていく。
この光景を一般の人が見たら色々やばいだろうが、幸い周囲に人の影は無かった。
ホーリエがとある病室の前で旋回し始めた。
「ここみたいだね」
「突入なの〜」
ドアを蹴破って病室に入る――ようなことはしない。意気込んでいた割に普通に入った。
「おじゃましま……す……」
先陣を切ったジュンだったが病室に入った瞬間後悔した。
水銀燈が床にへたり込んで呆けたようにベッドを見て、なにやらブツブツと口走っていた。
「うわぁ……」
ジュンのトラウマに新たなる一ページが刻まれる。
後続が続々と病室に入ってくるが誰しも水銀燈を見るなり黙ってしまった。
次第にこそこそと小声で話し始める。
「これじゃ鬱銀燈ですぅ」
「なにがあったのかな?」
「誰か聞いてみるのかしら〜」
一同、また黙ってしまった。
「だって……ねぇ?」
「やっぱり……」
「ちょっとなあ」
「ヒナ、あんな電波な水銀燈に話しかけたくないの〜」
幼い感性は時として残酷な表現をする。
あまりにストレートな表現すぎて話題に上がっている本人に聞かれたらえらいことになるだろう。
聞かれてはいないようだったが。
「ジュン」
「なんだよ……」
まさかこのタイミングでは……
「水銀燈に何があったか聞き出しなさい」
やっぱりか。
「何で僕なんだよ! 他当たれ」
「頑張って、ジュン君」
「やるときはやる男だって信じてたですぅ」
「男気かしら〜」
「生贄なの〜」
うう、皆酷い。
「分かったよ。全く……」
そろりそろりと水銀燈に近づく。
正直気が引けるが仕方が無い。ジュンは思い切って話しかけてみた。
「どうしたんだ?」
ギチギチと錆びた歯車同士がゆっくり回るような速度で水銀燈はジュンに振り向いた。
さりげなく目の焦点が合っていない。その上、口が半開きだ。
ジュンは会話を続けずに逃げ出したい気分に駆られたが踏みとどまる。
「どうしたんだ?」
もう一度聞いてみた。
「めぐが……めぐが……」
水銀燈に気をとられていて今まで気付かなかったが、ジュンはベットを見た。
「いなくなっちゃったぁ……」
ベッドは空だった。
とどめとばかりにベットの横のテーブルには菊の花が生けてあった。
つづく
646 :
熊のブーさん:2006/05/05(金) 00:15:59 ID:KJBAgrEg
いきなり前編、後編に分かれてしまいました。
全然短編じゃありません。
なんとかせねば……
このまま続いていいよ
このまま続けてもらって問題ありませんよ
この話は、短編じゃ収まりそうにありませんしw
むしろ長く楽しませてくれ。
1レスずつとか変に小出しにしないから、不満は無い。
650 :
薔薇乙女戦争:2006/05/05(金) 21:07:56 ID:FqdWBkhE
>>576 この危機に、ジュンは傍観している場合ではなくなった。竜巻の外に居た彼は、意を決して金糸雀の元へと走る。
「やめろッ!!」
雑音が入り、演奏に陶酔していた金糸雀が薄っすらと瞼を開ける。そして、つまらないものを見るような目をジュンに向ける。
「命が惜しかったら邪魔しないで」
破壊の演奏は止まらない。冷たく言い放った金糸雀は、すぐに全身を使って曲を表現する。演奏中の彼女は別人のようだった。
ジュンはそう言われて黙っている訳にはいかない。言って駄目なら行動で止めるしかない。彼は恐れず前に進む。
金糸雀はそれを見て呆れた。
「忠告したのに……」
直後、ジュンの情けない叫び声が上がる。
数歩進んだ所で突風に吹き飛ばされたのだ。数メートルは舞い上がった体が重力のまま落下し、全身をしたたかに打ちつけた。
「あがっ……うぅ……」
這いつくばっているジュンが痛みで呻きながら身をよじる。幸いにも、命と手足の骨は無事だった。彼はすぐに立ち上がり、よろよろと足を前に出した。
「まだ懲りないの!?」
鬼気迫るジュンの行動に、金糸雀も動揺を見せる。人形のためにここまで命を張る人間は初めてだった。所詮は薔薇乙女も人間から見ればただの人形。物のために命を捨てる奇特な人は稀だ。
651 :
薔薇乙女戦争:2006/05/05(金) 21:09:09 ID:FqdWBkhE
「お願いだから来ないで! 本当に死んじゃうかしらっ」
再三の忠告は、やはり聞かれなかった。ジュンは痛む体でゆっくりと、だが確実に近づいてくる。
いつの間にか、金糸雀はお願いする立場になっていた。彼女はマスターが殺されて非情になっていただけで、本当は優しい子なのだ。
しかし、完璧な勝利を目前にして立ち止まる事はできなかった。彼女は目に涙を湛えて風に命令する。
これで、彼は再び宙に舞うはずだった。
「どうしてッ!?」
金糸雀が驚いて叫ぶ。ジュンが今もこちらに向かって歩いて来ているのだ。
何も起こらなかった訳ではない。一度目に劣らない風が確かに吹き荒れた。しかし、彼は何事も無かったかのように歩を進める。
よく見ると、左手の指輪が強い輝きを放っていた。彼も同じ力で対抗していたのだ。
こうなっては金糸雀に成す術は一つも無い。力の大半は巨大な竜巻に取られているのだ。
「い……いやっ。こっちに来ないでっ」
怯えて後ずさる金糸雀。それでも、演奏の手は休めない。
最後の仕上げまで来てしくじりたくない。
そう思っても、ジュンはすぐそこまで来ている。
ついにジュンが眼前に立ちはだかった。
金糸雀は強張った顔で彼を見上げる。依然、バイオリンの音は止まない。
そして、思ってもなかった方法で演奏が止められる。
ジュンは力尽きたように膝から地面に落ち、そのまま倒れて金糸雀を下敷きにした。
「きゃあっ」
652 :
薔薇乙女戦争:2006/05/05(金) 21:09:54 ID:FqdWBkhE
小さな悲鳴と共に、バイオリンが手を離れて凍った雪の上を滑る。
演奏が止まったのと同時に、成長を続けていた竜巻が徐々に小規模になっていく。
急激に静寂が戻りつつある中、金糸雀は動けないでいた。
ジュンに押し倒された形になったままなのだ。
彼の肩口から頭は出せているが、体はすっぽりと下敷きにされていた。ジュンがそのまま耳元で説得する。
「こんなの、お前に似合わないって……」
ジュンのか細い声が金糸雀の胸に響いた。久しく忘れていた暖かいものがこみ上げてくる。
そして、今は亡きマスターとの日々が思い返され、今戦っている彼との日々と重ね合わせられる。
雛苺と遊ぶことが多かった金糸雀は、よくジュンに叱られた。落書きしたり、物を壊したり、散らかしたり。彼を怒らせて楽しんでいた。
楽しかった時間を思い出した彼女は、完全に戦意を喪失した。
653 :
薔薇乙女戦争:2006/05/05(金) 21:11:16 ID:FqdWBkhE
次第に破壊力が減衰する竜巻の中、薔薇水晶が先に脱出を試みた。
弱まったといっても竜巻には変わりない。風の弱い中心でも立っているのがやっとだ。かなり危険な行為だった。
「まだ早いわっ」
制止する真紅を振り切り、薔薇水晶は暴風へと身を投げ出した。彼女の姿が瞬く間に消える。
真紅はわずかに逡巡した後、彼女を追って風の壁へと飛び込んだ。
654 :
薔薇乙女戦争:2006/05/05(金) 21:12:08 ID:FqdWBkhE
「どうでもいいけど、早くどいてほしいのかしら」
金糸雀が半分投げやりな口調でぼやいた。彼女は今も押し倒されたままだった。
「わるい、動けないんだ……」
ジュンが弱々しい声で謝る。彼は本当に動けないでいた。
慣れない力の使い方をした上に怪我までして、立っていられない状態だったのだ。あの演奏の止め方をしたのは、倒れ込むしか方法が無かったからだった。
金糸雀はなんとなくこのままでもいいと思った。ジュンの重みは嫌じゃなかった。
だが、そんな甘い考えが許されるはずもない。今は戦いの最中なのだ。その事を忘れた者には、手痛いしっぺ返しが訪れるのが世の常。
「薔薇水晶……ッ!!」
その名の姿を目にして叫ぶ金糸雀。
だが、叫ぶのが精一杯だった。
なぜなら、彼女の腹には細長い水晶が突き刺さっているのだから。当然、その上の彼にも……。
金糸雀とジュンは剣で串刺しにされ、一つに繋がっていた。
背中から一突きにされたジュンは、声も無く絶命していた。心臓を貫かれての即死だった。
金糸雀の傷口から彼の熱い血潮が大量に流れ込む。
この死の間際で人の体温を感じられた事を、彼女は幸せだと感じた。どうとでもない事かもしれないが、最期の時はどんな小さな幸せでも見つけたくなるものだ。
「策に溺れたかしら……」
それが彼女の最期の言葉だった。
血みどろの剣が引き抜かれると、金糸雀が淡い光で輝き出した。二つの魂が折り重なるジュンを突き抜けて浮上する。その様子は、まるで金糸雀とジュンの魂のようにも見えた。
薔薇水晶は二つの輝きを掌に載せて鑑賞する。ローザミスティカの輝きには、即賞味するには惜しいと思える魅力があった。彼女はその美しさに恍惚となって微笑んだ。
つづく
656 :
乙女馬鹿一代:2006/05/05(金) 21:30:16 ID:HImHKZ6r
〜深夜〜
「うぃ〜、ねむれないの〜、こまったの〜」
昼寝のしすぎで眠ることのできない雛苺が鞄から起きだしていく。
真紅の鞄の前に立ち、真紅を起こそうとするがそんなことをすれば
激怒することは雛苺にも分かるので流石に諦める。
「ね〜ジュン〜、ジュンってば〜、起きてぇ〜」
だがジュンはどんなに揺り起こしても目を覚ますことはなかった。
仕方なく雛苺は所在なさげに1階へと降りていく。
「うゆ〜、まっくらなの〜」
暗い階段を恐る恐る降り、リビングに入る。
「うゆ〜、お昼と違うの〜」
プチン
「きゃっ」
床にあったTVのリモコンを踏んでしまい、突然TVがつく。
「なんなの〜これ〜、この人たちなにしてるのなの〜」
雛苺はTV画面を食い入るように見ていた。
のりが気づいてTVを消すまで・・・・
「あ〜、翠星石、それヒナのうにゅ〜なの〜」
「知らねぇですぅ、そんなに大事なものなら名前でも書きやがれですぅ」
いつも通りのやりとり、のりもいない今、雛苺の泣き寝入りとなるところだ。
だが今日は違った・・・あらゆる意味で・・・
「うぃ〜、翠星石!ヒナは怒ったのよ!」
言うが早いか猛然と翠星石に襲い掛かる。
「ご〜わんらりあーとなの〜」
小さな右腕を翠星石の喉元に叩きつける。
「ひぃ!ぐお!!」
勢いよく翠星石がダウンした。雛苺は訳の分からない咆哮をする。
側で見ていた真紅もジュンも呆気にとられ雛苺の暴走を止められない。
「ヒナいくの!せいしゅんのにぎりこぶしなの〜!!」
言うが早いかテーブルに登り猛然とアタックする。
ドシィッ!!
雛苺のムーンサルトプレスが翠星石にクリティカルヒットした。
「真紅〜!真紅〜!はやく〜カウントなの〜!」
「・・え?あ、アイン・ツヴァイ・ドライ・・・」
「ちがうの!ちがうの〜!!ジュ〜ン!!」
「・・え、あ、ああ、ワン・ツー・スリー」
ジュンがしっかり床まで叩いてカウントする。
ジュンに無理矢理勝ち名乗りまでやらせ、雛苺は両手を高々と上げた。
後に格闘乙女と呼ばれる彼女のデビュー戦だった・・・。
657 :
乙女馬鹿一代:2006/05/05(金) 21:32:15 ID:HImHKZ6r
>>650-654 一人二人とミーディアムが死んでいく…
もう鬱エンド一直線ですね。
>>656 雛苺ぉぉ〜〜!!
筋肉ムキムキの雛を想像してしまったじゃないかw
久々に初心に返ってトロイメントのサイドストーリーを投下。
スレの容量的に見ると、オイラのSS投下はこれが最後かもw
巴は夢を見ていた。
雛苺と手を繋ぎながら長い道をずっと歩いていた。
突然立ち止まった雛苺が、自分に何かを語りかけている。
だけど、その言葉を巴は聞き取る事が出来なかった。
繋いだ手を離そうとする雛苺を励ましたり、抱っこしたりして一緒に歩こうとするけれど、
雛苺は困惑するだけで、その場から一歩も動こうとはしなかった。
心の中の一抹の不安。
手を離したら消えてしまいそうで、巴は雛苺の手を離す事ができなかった。
明け方の窓に残る夜露が、燃えるような朝焼けに染まりながら巴の部屋の窓を濡らしている。
眠りから醒めた巴の頬に残る涙の乾いた跡は、昨日の悲しい出来事を物語っていた。
雛苺は巴の胸の中で動かなくなっていった。ありがとうの言葉を残して。
魔法の時間は終わり、夏の夜の夢は足早に過ぎ去っていった。
白い残月が儚く透き通って空に浮かぶ。
巴は雛苺を看取った後、泣きつかれてそのまま眠ってしまった。
部屋は雛苺が眠りについた時のままに散らかり、そこかしこに少女の面影が溢れている。
巴は夜明けの薄明かりの中で一人、ただ一人でその思い出の中に埋もれていた。
雛苺の残していった古い宝物。物に染みこんだ思いが、巴にそんな夢を見させたのだろうか。
いつのまにか、巴はドールショップエンジュに足を向けていた。
未だ昨日の悲しみは癒えず、思い出を追いかけていたらここにたどり着いたのだ。
ドールショップの扉は固く閉ざされて、人の気配は無い。
ガラス越しに中を覗くと、店の品物が綺麗に梱包されている。
「閉店しちゃったのかな」
巴の心に数々の思い出が甦り、同時にやるせない寂寥感が心を捉えて、彼女はその場に立ちつくす。
「柏葉さん」
ふいに後ろから、耳なれた言葉を掛けられてふり返ると、そこに白崎が立っていた。
「お店はエンジュ先生の都合で、移転する事になりまして…って、どうしたんです?泣いているんですか?」
堪えきれない寂しさがこみ上げて、巴は白崎に抱きついて、泣いた。
「どう?落ち着いた?」
「あの…ごめんなさい、突然あんな事を…」
ガランとした引越し途中の店の中で、冷たいサイダーがグラスに泡を立てている。
たおやかに流れる朝の静寂の中で、巴は幼い友達の死を切々と打ち明けた。
目を閉じて彼女の話を聞いていた白崎が、やがて静かに口を開きはじめた。
「その子はあなたの大切なパートナーだったんですね。
だけど、これからもきっと、その子はあなたの人生を思い出させてくれるはずですよ」
白崎は話を続ける。
巴には、それがまるで雛苺のためのレクイエムの様に響いていく。
「去って行った少女に思いを伝えることは出来ないけれど、でも、伝わらなくてもいい、
その思いを大切にしてください。あなたはその子の心を受け取っているのですから」
雛苺がくれた笑顔、生活の中で出会った人たち、精一杯に遊んだ日々。
それは巴にとって、両手で持ちきれないほどの綺麗な花々となって胸に咲き誇っている。
「あなたならきっと大丈夫、人生をふり帰った時、愚かしいものだった…なんて決して思わない筈ですよ」
巴は黙って聞いていた。我慢しようと思っていてもどうにもならず、涙の雫が白いテーブルクロスに落ちて広がり、目の前がにじむ。
「思い出は心の支えであって、荷物ではないのですから…って、ぁぁ、ごめんね、
やっぱり僕の話って安っぽすぎるかなぁーなんて…」
「さて、そろそろ僕はいかなくちゃならないので、失礼しますよ」
「あの…ありがとう、聞いてくれて」
白崎は立ち上がると、役目を終えた店の中を見回して、寂しそうに言葉を繋ぐ。
「僕は好きでしたよ、このお店。たとえ無くなっちゃってもね。
ここは僕の人生そのものじゃないけど、人生を思い出させてくれる場所でしたから」
そして、白崎はにっこりと笑って去って行った。
「役目を終えた魂に別れを告げ、再会の時のために乾杯し、自分の人生に戻っていってください。
あなたの心は溢れるほど豊かですよ」
店の外に降り注ぐ陽光の、その暖かさを肌に感じながら仰ぎ見る高い空。
ひび割れた心に染み入る初夏の空の青さ。
白崎の言葉に、不思議と少女の心は癒されていた。
「光と闇は常に選択を求めているんですよ。過ぎ行くものであれ、残されるものであれ、全ては美しいものです」
今は光りさす空に届かなくても、いつかこの想いは空へ届くのだろうか。
夢を見ている。
夢の中の雛苺は、声にならない声で何かを伝えようとしている。
少女の声は巴には届かない。
だけど、巴は少女に微笑を返す。
「あなたの言葉はもう聞こえないけど…でも分かるよ、雛苺。いままでありがとう…私の方こそありがとう」
巴の手が、ゆっくりと少女から離れて行く。一緒にいてくれてありがとう。
その言葉に、金髪の少女は笑顔を浮かべ、やがて光の泡となって巴を包み込み、消えた。
こぼれ落ちる涙を拭いもせずに、その光の泡を静かに見送った後、
二人で歩く筈だった道を、巴は一人で歩き出した。
少女は伝えたかったのだ。もう一緒に歩く事が出来ない事を。
だから、ひとりで歩き出して欲しいと。
「桜田君…一緒に帰っていいかしら」
巴が図書館帰りのジュンを待っていた。
そして、巴は数日の間に起こった出来事を知った。
彼女は「そう…」とだけ呟くと、何も言わずに歩き出した。
夏のかげろうの中で、言葉少なく2人は並んで歩いてゆく。
ふと、ジュンは足を止めた。
強い日差しが巴の横顔をきらめかせ、
汗でにじんだ白いブラウスから、白い肌が透けるようにまぶしく輝いている。
いままで気付かなかった事が、少年の瞳に新鮮に写る。
「…おまえ、なんだか変わったな」
悪戯な風は、少年の言葉を少女に届ける代わりに、少女の髪の匂いをふわりと少年に運ぶ。
「え、何?桜田君」
振り向く巴の姿を見て、少し顔を赤らめた少年は、足早に巴に駆け寄って俯きながら言葉を返す。
「いや…なんでもないよ」
いつもの飾らない巴の中に、知らない目をした少女がいた。
もう彼女は未来を歩いて行ける。
雛苺は巴に成長という遺産を残していった。巴はそれを受け取った。
夏が過ぎ、時が流れて夢が色褪せたとしても
金色の髪の少女の思い出は、彼女の胸のアルバムに時を止めて、
いつも笑っていることだろう。
泣いた
トゥモエ。・゚・(ノД`)・゚・。
まるで雛が復活しな(r
669 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/06(土) 21:23:20 ID:3n92ei39
>>624,
>>625,
>>626の続き。
(めんどいんで割愛)
………一週間後。
「なあ真紅。」
「どうしたの?」
「ガラハドを殺すのはもうやめにしないか…?」
話が進まないしネタが繋げられないんでオチないまま終わる。
真剣に後悔してる。オナ行為と言われてもいい。
真紅VS水銀燈と烈海王VSドイルのバトルコラボ物、以前思いつきかけて、
やられの方があまりに悲惨過ぎて挫折した事があったなぁ。
671 :
アルテマ:2006/05/06(土) 22:25:22 ID:WjGUXVXF
>>505-519-538の続き
薔薇水晶「・・・・・」
スィドリームを掴んだまま薔薇水晶はうろたえる翠星石を見据えていた。
翠星石「コラァ!スィドリームを離しやがれですぅ!このデク人形!」
虚無の世界に翠星石の怒号がこだまする。
薔薇水晶「・・・・・」
ググッ・・・
翠星石の言葉が勘に触ったのか、左手に力を込める薔薇水晶。
翠星石「!?や、やめて!」
一瞬で薔薇水晶がスィドリームを握り潰そうとしているのを悟る翠星石。スィドリームを取り返そうと踏み出したその瞬間・・・・
ザシュンッ!
翠星石「!!」
足元から二つの水晶の巨槍が翠星石を突き上げる様にして出現する。
翠星石「しまった・・・!」
翠星石の両腕は二つの巨槍によって拘束され、宙吊り状態で身動きが全く取れない。
翠星石「何しやがるですか!離しやがれですぅ!」
ジタバタと藻掻く翠星石。
薔薇水晶「・・・・・」
悪あがきを続ける翠星石にゆっくりと近づく薔薇水晶。
翠星石「く、来るなですぅ!あっち行けですぅ!」
薔薇水晶「・・・・・」
翠星石の遠吠えなどまるで聞こえていないかのように一歩、また一歩と、翠星石へと近づいていく・・・
ザッ
翠星石「ヒッ・・・・!」
翠星石との距離僅かに数センチ、それでも尚、薔薇水晶の表情に変化は無い。
笑う訳でも、怒る訳でも無く、ただその冷徹な視線で翠星石を見つめるだけであった・・・・
672 :
薔薇乙女戦争:2006/05/07(日) 12:42:17 ID:pF2wROpO
>>654 遅れて竜巻から脱出した真紅は、目にした現実が悪い夢としか思えなかった。
白銀の大地を汚す血の色の染み。その上に重なって倒れる金糸雀とジュン。その横で宝石を手に載せて微笑んでいる薔薇水晶。彼女の手には、紅い水が滴り落ちる剣。
薔薇水晶が気配に気付いて振り向いた。
面が合い、立ち尽くす真紅の表情が呆然のそれから無表情のそれへと変わる。
「ジュンを、どうしたの……?」
一見、穏やかな声で尋ねる真紅。
しかし、その奥底には計り知れない激情が垣間見える。訊くまでもなく、彼女は事態を把握していた。
薔薇水晶もそれを知りながら、一切の怯みも見せず淡々と答える。
「彼は死にました。でも、心配はいりません。苦しまないよう、一瞬でしてあげましたから」
瞬間的に真紅の感情が爆発した。
今の彼女の心を支配しているのは悲しみではない。目前の妹に対する憎しみだけだ。
これまで憎まれてばかりだった真紅は、初めて憎む側に立ったのだ。
薔薇水晶は並ならぬ怒気を肌で感じ、宝石鑑賞を早々と切り上げた。
二つの輝きが掌から舞い、彼女の胸元へと吸い上げられる。そして、彼女は金糸雀と雛苺の魂を吸い込んだ。
「胸が、熱い……!」
体内でローザミスティカの吸収が始まり、薔薇水晶の胸を焦がす。言いようの無い高揚感に満たされ、体の底から力が湧き上がる。
一方の真紅も、相手の力が増すのをただ傍観しているだけではなかった。どこから取り出したのか、掌にはローザミスティカが。
「薔薇水晶……貴女は地獄に堕ちるべきだわ」
手の中のローザミスティカが呼応するように輝きを増す。翠星石の魂も愛する者の仇を許せないのだろう。
真紅は両手を胸元に当て、翠星石の命を吸収した。もはや、彼女に姉妹を思いやる心はわずかも残っていなかった。
673 :
薔薇乙女戦争:2006/05/07(日) 12:43:11 ID:pF2wROpO
睨み合って対峙する真紅と薔薇水晶。
ローザミスティカの持ち数は真紅が二、薔薇水晶が四。数値上は薔薇水晶が有利な感は否めない。
しかし、真紅には別の力の源があった。それは、凄まじい憎悪で燃え盛る心だ。
かつての水銀燈がそうだったように、狂気は時に恐ろしいまでの力を生む。
ジュンの亡骸を前に、真紅の感情は天井知らずで昂ぶっていた。
先に動いたのは薔薇水晶だった。前方に翳した掌から、水晶の飛礫を無数に放つ。先の尖った水晶は、弓矢の雨と同じだ。
真紅は花びらの舞で反撃しながら回避運動を取る。薔薇水晶も花びらから回避するために後ろに跳ぶ。
激闘の幕が再び上げられた。
薔薇水晶は水晶を放って距離を置こうとする。
真紅はそれを嫌い、花びらの盾で防ぎながら突撃を繰り返す。闘争心剥き出しの彼女は、一秒でも早く薔薇水晶を叩きのめしたかった。
殺気を異常なほど振り撒く真紅に、薔薇水晶は押される形となった。それでも、ローザミスティカの数が上回る相手の攻撃を掻い潜って接近するのは至難の業だ。
「くっ……なかなか近づけないわ」
逆上して闇雲に突っ込んでいた真紅も、戦法を考えざるを得なくなった。忌々しく吐き捨てた彼女は、思案を巡らす。
その時、不思議とすぐにアイデアが浮かんだ。なんとなく、真紅は誰かに助言された気がしたのだ。そして、彼女は道具を出す。
674 :
薔薇乙女戦争:2006/05/07(日) 12:45:03 ID:pF2wROpO
「スィドリーム!」
翠星石の人工精霊の名を呼ぶと、手元に如雨露が現れた。翠星石愛用の庭師の如雨露だ。
真紅は如雨露を持って駆け回る。すると、いつしか周りには濃い霧が立ち込めていた。
「どこ……?」
薔薇水晶は濃霧で真紅を完全に見失っていた。しかし、焦りは無い。彼女にも考えが思い浮かんだのだ。
「ピチカート」
薔薇水晶の手には金糸雀のバイオリンが現れる。
このバイオリンの力で霧を振り払おうと言うのだ。彼女は弓を構えて音を奏でる。
しかし、それは失策だった。音を出してしまっては、位置を教えているようなもの。
真紅はここまで計算していたのか、少しも霧が晴れないうちに薔薇水晶の位置を捉えた。
死角から真紅がスピードを上げて忍び寄る。
霧と楽音が隠れ蓑になり、気付かれる様子は無い。薔薇水晶の思いつきはことごとく裏目に出ていた。
この思いつきは、彼女が身体に宿している金糸雀、雛苺、蒼星石の抵抗だったのかもしれない。ジュンは、彼女達の誰からも好かれていたのだから。
千歳一隅の好機。背後を取った真紅は必殺の意を込めて掌の一点に力を集中し、至近距離から花びらの大砲を撃ち抜いた。
「――ッ!?」
突然、薔薇水晶の背中に衝撃が起こる。
叫び声を上げる間も無く前方に吹き飛ばされた。
その威力は半端ではなく、体に風穴が開くかと思ったほどだ。真紅の攻撃は背後からでも容赦無しだった。
675 :
薔薇乙女戦争:2006/05/07(日) 12:46:40 ID:pF2wROpO
程なくして霧が晴れていく。
真紅が霧に消えた薔薇水晶を捜す。近くには見えない。手応えは充分あったが、念のため周囲を一度警戒してから目を凝らす。
すると、遥か遠くに倒れ伏しているのがぽつんと見えた。全力攻撃の衝撃であそこまで飛ばされたのだ。動く様子が無いのを見ると、致命傷を受けたようだった。
倒れた薔薇水晶の耳に小さな足音が入る。真紅が止めを刺しに来たのだ。それが判っていて立てない彼女には、もう戦う余力は無かった。
それでも、何もせずに殺られるのはご免だった。彼女は足音のする方に寝返りを打ち、ゆっくりと歩いて近づく真紅を眼帯をしていない右目で睨む。
「私の勝ちのようね」
頭のすぐ脇に立った真紅が、見下ろして勝ちを宣言した。
彼女の瞳は氷のように冷めていた。アリスゲームの勝者となれた喜びの色は髪の毛一本ほども見えない。
ジュンを失った彼女の怒りは、それほどまでに大きかった。
「まだ、負けてません……ッ!」
しかし、薔薇水晶は諦めなかった。這いずるようにして真紅の左足を掴む。彼女はアリスへの道を渇望していた。全ては、愛するお父様のために……。
そんな行動が真紅の癪に障ってしょうがない。顔を顰めた彼女は、掴まれてない右足を高く上げた。そして、ありったけの力で踏みしだく。
「あぐっ!!」
ボキリ、と鈍い音がした。
苦痛で顔を歪めていた薔薇水晶が自分の腕を見る。
右の手と手首が分断されていた。
それでも、彼女は諦めない。何かに取り憑かれたように、左手を伸ばして掴む。
676 :
薔薇乙女戦争:2006/05/07(日) 12:48:02 ID:pF2wROpO
「いっ……!!」
間髪置かず、先程と同じ鈍い音が鳴る。左腕も折られたのだ。今の真紅に相手を哀れむ心は無い。
両手を失っても尚、薔薇水晶は抵抗を続ける。手首までしかない両の腕で、硬い雪の上を這う。今度は口で噛み付こうとでも言うのか。
「お父様のアリスに……私が、なります……!」
「目障りだわッ」
真紅が思い切り蹴り上げた。薔薇水晶は見事な放物線を描いて宙を舞い、きれいに頭から落下した。
薔薇水晶は動かなくなった。
しかし、まだ目は死んではなかった。仰向けになった彼女は、見下ろす真紅をぎらぎらとした目で睨む。
真紅はステッキを取り出した。
その絶望に濁らない目が我慢できなかった。眼帯で片目しか見えない分、余計に目に付く。
杖の先端を薔薇水晶の右目の上に持っていく。
それでも、薔薇水晶は怯えない。目を閉じない。
真紅は真上に杖を上げ、そのまま真下に衝き下ろした。
「キャアァアアアアアア――ッッ」
硝子の瞳が砕け、誰も居ない世界に絶叫が響き渡る。そして、脆くなっていた薔薇水晶の心も砕けた。
つづく
677 :
ケットシー:2006/05/07(日) 12:51:36 ID:pF2wROpO
真紅ブチ切れ。暗くなってますなぁ。
容量制限が迫ってきたので次スレ立ててきま〜す
678 :
ケットシー:2006/05/07(日) 12:56:58 ID:pF2wROpO
680 :
ケットシー:2006/05/07(日) 14:54:22 ID:pF2wROpO
下手でも褒められるから手厳しい個別スレに投下する猛者はいないのね
向こう虐待ばっかだしね
真紅の勝ちか……
しかし銀様の安否が気になるな…………
銀様は死にません!!!
うーん、いよいよクライマックスの予感・…
どうまとまるんだろう…ローゼンが出て来て元通りとかさらなる強敵エンジュの出現とか
夢オチだったとかその後どうなったかと言うと…まだここに居るのですみたいなツゲオチだったりとか
デウスエクスマキナっぽいのじゃないのおながいします。
た
687 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 07:36:24 ID:tLanITBq
いけるか?
何が?
みんな次スレに移った様だけど、ここはどうする?
落ちない程度に保守するか、投下されたSSについて雑談で埋めるか、放置するか…
んじゃスレの総括ってことで、今スレのオスカーは誰のSSに?
総合スレではデュードがパルムドールを受賞しそうな勢いだが。
デュードさんは質もさることながら量が半端じゃないね。
中にはいい加減なのもかなりあるけど。
虐待が嫌いな人は評価しないし。
あっちのスレは放置ですか
様子を見てるだけで、別に放置してる訳じゃないが…
というか、銀英伝のパロ落したのオイラだしw
暗いのだわ…… ジュン…… なぜ明かりを点けないの……?
意識が覚醒し、うっすらと目を開け、わずかに沈黙。
真紅は、自分を取り囲む世界が昨日までとは全く違ったものになっている事に気付いた。
「ここはどこ……?」
立ち上がってみる。 地面は確かにあるのだが、上も下も分からない。 仄暗く漂うおぼろげな光だけが、漂う雲霞を照らしている。
なんと寂しく、なんと悲しげで……そして、どことなく安らぎを感じる光景なのだろう。
「これが、あの世……なのかしら。」
最初に受けた印象を口に出する。 確信は無かった。 しかし、その言葉が幽玄な世界を確固たるものとした。
辺りに漂う雲霞が晴れる。 墓碑。 墓碑。 墓碑。 そこには無数の墓碑が漂っていた。
何とはなしに墓碑へ手を伸ばす。 触れられそうなほど近くにあるのに、空を泳いだ手には何も残らない。
この世ではない。 nのフィールドですらない。 となれば、自分は。
「……アリスゲームに、負けたのでしょうね。」
不思議と気分は落ち着いていた。 悠久の闘いから解放された喜びのためだろうか。
分からない。 だが、傍目にも薄気味悪いはずのこの空間に、怖いほど安息を感じているのは確かだ。
自分はようやく、あるべき場所に辿り着いたのかもしれない。
「少し、歩いてみようかしら……。」
思えば、箱庭の中で生きた生涯だった。 私は人形。 持ち主の住む家が、世界のすべて。
今、こうして歩かなければ気付かなかっただろう。 世界は、こんなにも、どこまでも、開けているのだ。
世界を分かつ国境線など、人が生まれる前には無かったのだ。
真紅の心を一抹の寂しさがよぎる。 この気持ちを、ジュンたちにも伝えたかった。
感傷のままに歩を進める。 帰る所も、いるべき所も、今は無い。 自由である事は、不自由である事なのかもしれない。
はじめまして。 ふと、後ろから突然の声。 人? 振り返ると、不可思議。 何も無かったはずの場所に、お茶を飲む少女たちが現れた。
少女たちはみな、独創的な身なりをしていた。 もっとも、私も人の事は言えないけれど。
品のいいテーブルを囲み、穏やかにお茶を飲む彼女たちを見て、この輪こそ自分の居場所なのだと直感的に悟った。
「はい、真紅ちゃん。 紅茶でいいかな? 分からない事、聞きたい事ばかりだよね。 私に分かる事だったら何でも聞いて。」
一人の少女が、紅茶を淹れてくれた。 制服なのだろうか。 肩はむき出し、髪は染髪。
およそシックとは言えない出で立ちだけれども。 健康的な笑顔と物腰で、心優しく家庭的な女性だと窺い知れた。
「私の事はマイって呼んで。 真紅ちゃんの事を知っているのは……本当なら、ここには来てほしくなかったから。 私たちのように。」
マイは悲しげに顔を曇らせている。 優しい子だ。 その想いを受け、私もまた言葉に想いを込めて問い掛けた。
「ありがとう、マイ。 でも、私は知りたいの。 ここは何処なのか。 私は何故ここにいるのか。 ここは……死後の世界なのかしら?」
「……そうでもあるし、そうでもない。 ここに居るのはみな。 近しい誰かの手によって命運を絶たれたものばかり。」
……近しい誰かの手に。 悲しい響きだ。 辺りを漂う墓碑が淡い輝きを放ち、少女たちを照らしている。
彼女たちの纏う寂寥感の理由が理解ったような気がした。 そして私も、もうこの中の一人。 近しい誰か。 愛しい姉妹たちの誰か。
「そう……。 やはり私は、アリスゲームに負けたのね……。」
誰に言ったわけでもなかったのだが、その言葉に反応してマイが首を横に振る。 ? ……どういう意味なのかしら。
「違うわ、真紅ちゃん。 あなたはアリスゲームに勝った。 ここに来たのは、まったく別の理由。 ……見て。」
突如、目の前が湖面のように漣を立て、鏡のように光景を映していく。 あれは……ジュンと、翠星石だ。 でも、なんだか様子がおかしい。
いつも顔を合わせれば喧嘩ばかりの二人だったのに、今は一ミリの隙間も見出せないほど、ピタリと体を寄せ合っているようだ。
「はい、ジュン♥ この卵焼きは自信作なんですよ? ほら、あ〜んですぅ♥」
「ば、馬鹿、やめろよ……はっ、恥ずかしいだろ。」
「えぇっ。 ひどいですぅ。 真紅に負けちゃって、私はジュン無しでは生きていけない体になったというのに……よよよよ。」
「へへ変な言い方するなよ! 契約だったら、真紅に負ける前からしてただろ!?」
「はいです。 真紅に負ける、ずっとずっと前から。 私はもうジュン無しでは生きていけなかったのです。 ……それくらい、気付けです……。」
「……翠星石。」
「ほら、また。 私はもう、翠星石じゃないです。 じゅ、ジュンの……お嫁さん……の……桜田石ですぅー!」
「桜田石ぃーーー!」
……………………。
この殺したいコントはどう解釈すれば良いのだろう。 理解不能の事態に、私は途方に暮れてマイを見た。
マイはと言えば、さっきまでの表情が嘘のような最高の笑顔。 少女たちに謎の垂れ幕を持たせると、みなで引っ張って一気に広げた。
『 よ う こ そ ! ヒ ロ イ ン 墓 場 へ ♥ 』
「どういう事なのだわああぁあぁぁぁーーーーっッ!!!???」
「くっ、『の・せ・てぇ〜』のあいつさえいなければ……私が! 私がぁ〜!!」
「枢って何よ、枢って! それ本当に日本人の名前!?」
「あんたらはまだいいわよ! 私なんて、よりにもよって男にヒロインの座を追い落とされたのよォーー!!」
少女たちは今や鬼女の集団と化していた。 先程までの済まし顔は演技だったのか。 醜い。 なんと醜いのだろう。 悲しさすら感じる。
さらに悲しいのは、このヒロイン墓場を一瞬でも還るべき場所だと感じてしまった自分だ。 駄目だ。 認めるわけにはいかない。
「私は! れっきとしたヒロインなのだわ! 人気も存在感も、なんら問題は無いはずよ! 貴女たちとは違う!!」
私の反論を鼻で笑い飛ばすマイ。
「笑わせないで! ヒロインには絶対に不可欠なものがある! 『逆境』と『ロマンス』! この二つでファンを魅了してこそ真のヒロインなの!
『順風満帆』はヒロインを殺す遅効性の毒なのよ! 真紅ちゃん! あなたは『順風満帆』に浸ってなかったと言える!?
『逆境』は水銀燈ちゃん! 『ロマンス』は桜田石ちゃん! ライバル二人に勝る場面を演出できたと言えるのぉぉーーー!!??」」
「 桜 田 石 言 う な ! ! ! 」
思わずレディの品格に欠けた返答をしてしまった。 くっ、ヒロイン不適合者の分際で腹立たしい……!
腕もげ〜絆パンチは最高の逆境だったし、「ここを動かないわよ、ずっとよ」は立派なロマンスだったじゃないの。
得意げに弁舌を奮ってはいるが、そもそもマイの場合、単純に怒っている時の鬼面がいけないのではないだろうか。 怖いもの。
でも、彼女たちの言う事にも一理ある。 私は順風満帆な現状に満足してはいなかったか?
高みを目指す心を失ってはいなかったか? アリスゲームに勝ってもヒロイン争いに脱落するようでは、到底アリスには届かない。
……もう、駄目なのか? ……いいえ。 違うわ! これが逆境よ! これこそがヒロインの証。 ならば。 私は諦めない。 最後まで闘う!
「闘うって事は生きるって事なのだわ!」
「あだっ!!」
勢い良く飛び起きたヘッドドレスが、ジュンの眼窩に突き刺さった。 ……え? ジュン? 地面をのた打ち回る下僕を尻目に、辺りを見回す。
のり、雛苺、翠星石。 お馴染みの面々。 薄汚く、狭苦しく、懐かしい部屋。 間違いなくジュンの部屋だ。
「いっ、痛ってぇぇーー! この呪い人形! うなされてるから心配して来てみれば!」
猛然と抗議する下僕を無視して、状況を確認。 夢? 夢だったのね。 あぁ。 お父様は私を見捨てなかった。 あの夢は警句だったのね。
今なら分かる。 あらゆるヒロインを包括した、究極のヒロイン。 それこそが、私の目指すアリスだったのだわ。 ……そうと分かれば。
「こ、こらぁ! お前、無視してないで、謝るなりなんなり……」
「もぉー、ジュンくんったら、そんなに怒っちゃイ・ヤ・だっちゃ♥ ……えへっ。 ごめんなさいにゃん♥」
ぴしっ。 ギャラリーが停止する。 次の瞬間、なぜか私はヒロイン墓場にいた。 <<おわり>>
墓場に落とされた他のヒロインは誰ですか?
何はともあれ最後の真紅は端から見たら狂ったようにしか見えませんね。
笑わせてもらいました。
エアギアの林檎がいる事だけはわかったwwwww
GJ!
ワロタ
蒼星石と雛苺も来ることになりそうだね(笑)
笑わせてもらいました。GJ!
多分、鬼面舞衣茸が入ってる気がする…
ワロタw
マイマイワロタwwwww
706 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/21(日) 15:36:43 ID:65GKuOBu
ほしゅ
有楽町から東京まで、延々と続く架線。
梅雨特有の不愉快な湿気が、夜の闇を満たしていた。
私の名前は桜田純一。 中小企業に勤めるしがないサラリーマンだ。
妻に若くして先立たれてからの15年、仕事だけを生き甲斐に暮らしてきた。
家路を辿る足を休め、頭上を走る山手線を見上げる。
趣味もなく子供もない私にとって、家とは睡眠を取るために帰るだけの場所に過ぎなかった。
帰らなくてもいいか。 不意に捨て鉢な衝動が込み上げる。
今日はまだ、週も半ばの水曜日。 本来ならば明日に備えて休息を取るべきだ。
だが、疲れてしまった。 愛する妻を失い、仕事だけをこなす日々。
それでも今まではこなしてこれた日々。 それなのに、今日、唐突に人生に疲れてしまった。
疑いながらも明日を信じていたのかもしれない。 だからこそ今日まで生きてこれたのかもしれない。
なのに、今日鏡の中から自分を見返していたのは。 希望もなく年老いていくだけの、単なる疲れた中年だった。
帰らない。 そう決めた時、不安と恐怖の片隅で、不思議な快さを感じた。
仕事も辞めよう。 もちろん辞めますと言って今日明日に辞められるような会社など無いが。
それでもいい。 明日は仮病で会社をサボればいい。
会社を辞めたら、毎日ぶらぶらと暮らそう。 僅かな蓄えを使い切ったら、妻の下へ逝こう。
疲れた。 もう疲れてしまった。 もう挑戦も、新しい事も要らない。
ただ、妻に会いたい。 もう一度めぐに会いたい。
この人生が終わった時、私はめぐのいる天国に行けるのだろうか。 それだけが不安だった。
陰鬱な梅雨にあてられたのか。 私の思考も暗く暗く回って落ちていく。
ここに居ても仕方がない。 東京まで歩くか。
目をやれば、架線に立ち並ぶ幾多の店。 仕事帰りの人々の楽しげな表情に、言い知れない嫉妬と羨望を覚える。
思えば、めぐが生きていた頃はこの店を一軒一軒眺めて、二人で戯れたものだ。
彼女を失ってからというもの、私は生気に溢れたこの通りを、無意識に避けていたのかもしれない。
そうだ。 あの店。 最後に訪れたのはいつになるだろう。 「アリスゲーム」。 めぐが名付け親になった、場末の小洒落たバー。
……行ってみようか。 行こう。 今日は、少しでもめぐの事を思い出していたかった。
アリスゲームに着いた私は、入店を躊躇っていた。
品の無いネオンと、いかがわしさを感じる入り口の男女。 私の記憶の中の店とは、何か雰囲気が違っていた。
私の知っていたアリスゲームは、老若男女を問わず憩いの場となる品の良いバーだった。
今私が目にしているけばけばしい店構えとは似ても似つかない。
これではバーではなく、スナックと呼ぶ方が相応しい。
そう考えて自嘲する。 40過ぎの疲れた男やもめ。 スナックの方が相応しいのは私も一緒のようだ。
「あらぁ。 ひょっとしてぇ……あなたジュンじゃなぁ〜い?」
舌っ足らずな口調で僕を呼ぶ声。 急激に懐かしさを呼び覚まされた僕は、声のした方向に振り返った。
「銀ちゃん……。」
間違いない。 めぐの親友だった女性。 夢に燃えてアリスゲームを開店した、美貌の才媛。
年月は残酷だった。 あれ程美しかった彼女の容貌も、今や廃墟そのものだ。
めぐより年上だった彼女は今40半ば頃。 年の割には若く見えるが、やはり衰えは誤魔化しようが無かった。
顔だけではない。 彼女を蝕む年月という名の年輪は、あらゆる場所に見え隠れしていた。
厚化粧にぬり込めて隠していても、私には分かってしまった。 彼女もまた、人生に疲れているのだ。
目の下の隈はもはや隠しようもなく、彼女の選んだ人生の過酷さがありありと見て取れた。
「珍しいじゃないのぉ。 ひょっとして、このうらぶれた『スナック』に飲みに来てくれたわけぇ〜?」
思わず苦笑が浮かぶ。 外見こそ衰えたが、シニカルで機知に富んだ感性は健在らしい。
「そんな所。 この店も変わったね……少し驚いた。 銀ちゃんは、変わらないみたいだけど。」
「見え透いたおべんちゃらはやめてよねぇ。 そうね……何もかも変わってしまった。
六本木なんかも随分発展しちゃってぇ。 うちに来るのはオジサンばかり。 お互い年を取るわけねぇ……。」
言葉に詰まる。 あれほどプライドの高かった彼女が、自分が敗残者であると認めるとは。 そんな言葉は聞きたくなかった。
めぐと丁々発止していた頃の彼女のままでいて欲しかった。
……やはり、来なければ良かったか。 思い出は綺麗なまま切り抜いて、アルバムにしまっておくのが一番だったのか。
なんと侘しい夜なのだろう。 それでも、一つだけ良かった事もある。
これだけ久し振りに会ったというのに。 私と銀ちゃんの間には少しの気詰まりも無かった。 めぐは、銀ちゃんの中にも生きているのだ。
雨の中いつまでも立ち話をするものでもない。 私たちは連れ立ってアリスゲームの階段を降りていった。
悲しいかな、店内にもかつての瀟洒ぶりは見る影も無かった。
憩いの『空間』を提供するはずだったアリスゲームは、酒と艶やかなホステスを提供するだけの店になっていた。
「まるでキャバクラよねぇ……理想よりもお金が大事なのよ、あの娘たち。 悲しいわねぇ……。
でもねぇ、軽蔑する一方で賢いとも思うわけ。 理想だけじゃ生きていけないって、あの年で知ってるんだものねぇ……。」
ウイスキーをちびちびとやりながら、銀ちゃんの話を聞く。
話の内容はみじめなものだが、それでもいい。 彼女の疲労を分かち合う事は、不思議と苦では無かった。
「あれぇ、ママ。 珍しいじゃん、営業スマイル抜きでしっぽりしてるなんて。 ひょっとして彼氏?」
茶化すような声に面食らって咳き込む。 私と銀ちゃんが? そう見えるのだろうか。
「下らない事を言うんじゃないわよぉ、トモエ。 ほら、お客さんが待ってるじゃないのぉ。」
「はいはぁ〜い。 あらぁ梅ちゃんセンセ、今日も来てくれたのねぇ……」
元気な声が遠ざかっていく。 どぎつい化粧と衣装だが、なかなかの美人だった。
「あの娘がうちのナンバーワンのトモエ。 私ほどじゃないけど、まぁまぁ美人でしょぉ?」
銀ちゃんがカラカラと笑う。 釣られて私も笑顔になる。
笑うとこじゃないわよぉ、との発言に、またしても笑い声を立てる。 不思議な気持ちだ。
社交辞令として彼女に「変わっていない」と言った私だが、奇しくもそれは的を射た発言だったようだ。
思えば、昔から銀ちゃんは人を元気付ける達人だった。
めぐが心から愛した、彼女のその稀有なる資質。 それは年月で色褪せてしまうような物ではなかったのだ。
ここに来て良かった。 私はそう思い始めていた。 だが。
「ジュン……? なんでこんな所に……?」
後ろから、私を呼ぶ男の声。 このパターンは本日二度目だ。 しかし一体誰だろう。 私は何故だか不吉な予感がした。
振り返った私。 その男を見た瞬間、視神経が悲鳴を上げた。 確かに見覚えのある男。
かつて銀ちゃんの恋人だった男。 私と親友だった時期もあった男。 だが、ある時期を境に、彼は私の前から姿を消したのだ。
そして今、長い空白の期間を経て再会した彼は……「彼女」になっていた。
筋骨隆々とした大男がフリフリとした少女趣味全開の真っ赤な服を着込んだその光景は、一種の悪夢としか思えなかった。
「真吾……だよな? あの……一体どうしたんだ? その惨状は……。」
「真吾だなんてイヤン! 今の私はオ・ン・ナのコ。 キューティービースト『真紅』って呼んで、ね?」
衝撃で言葉が口から出てこない。 性転換。 まさか、知人がするとは思ってもいなかった。
だって、お前は銀ちゃんと付き合っていたじゃないか。
「真紅ぅ。 お店の方には来ないでって言ったでしょぉ。 ……それに、今月の分はもう渡したはずよぉ。」
「今月は色々と入用なのよね。 いいじゃない、この程度。 それとも、ジュンを独り占めにしたかったのかしら?
貴女、昔っからジュンに首ったけだったものねぇ。 ジャ・ン・クの癖に。」
げらげらげら。 耳障りな笑い声と只ならぬ雰囲気に、店が静まり返った。
なんだ、この険悪さは。 真吾……いや、真紅の言葉には、明らかな悪意が込められていた。
銀ちゃんの顔色は固い。 私の知らない時期に、一体何があったのだろう。 ジャンクとは一体どういう事なのか。
いや、それより。 銀ちゃんが……私を? 私の胸は、年甲斐も無く早鐘を打っていた。
「ねぇジュン。 そんな汚いものでも見るような目つきは止めて頂戴。 私は自分の心に正直に生きようと思っただけ。
私も昔から貴方の事が好きだったのだわ。 見て、私を。 自分と比べて、溌剌としてると思わない?」
確かにその通りだ。 真紅は私や銀ちゃんよりも、遥かに若々しく見える。
生に対して貪欲に、生きたいように生きている人間と、生に蹂躙されて意気を喪くした人間の差。
だが。 とてもじゃないが、私には真紅を好意的に見る事はできなかった。
「やめろ真吾。 お前と銀ちゃんの間に、何があったのかは知らないが。 それでも敢えて言わせて貰う。
お前も一人前の大人なら、人前で銀ちゃんの顔に泥を塗るような真似をするんじゃない。」
真紅の顔が怒気で紅潮する。 皮肉げに口の端を吊り上げた真紅の顔は、急に40男の素顔に戻ったように見えた。
やがて銀ちゃんの方に向き直って紡いだ言葉には、どこか哀切が篭っていた。
「またなの? 銀子。 貴女は私から何もかも奪ってしまう。 もうジュンも貴女のものってわけね。 いいご身分だわ。」
「真紅……! 違う。 違うわ。 私たちは、何年か振りに再会したばかりなのよ。」
聞いているのかいないのか。 真紅は宙空に視線を漂わせたまま、懐かしむように続けた。
「なんだか疲れちゃった……。 ねぇ、純一、銀子。 あの頃は良かったわね。 私がいて、めぐがいて、純一がいて、銀子がいて。
何もかもが光り輝いていた。 ずっとあのままでいたかった。 ……なんで人は変わってしまうのかしら。
どうして幸せなままでいられないのかしら。 めぐが生きていたら違っていたのかしら。 それとも、現実は変わらなかったのかしら。」
真吾。 深い哀愁と、ノスタルジーが襲ってくる。 それは、まさしく私の気持ちだった。 おそらく銀ちゃんも。
思わず手を差し伸べようとして気付く。 真吾の手には刃物が握られていた。
「しっ、真吾……」
「お金がね、たくさんいるのよ。 借金で首が回らなくて。 それこそ、本当に内臓売るしかないくらい。
それでも何とかしようと思ってたんだけど。 なんだか、もう、どうでもよくなっちゃった。
……貴方と会って昔を思い出したせいかしらね、ジュン。 絆も、過去も、何もかも。 全部終わってしまえばいいわ。」
恐慌をはらんだ、痛いほどの静寂が店を包む。 私の身体は恐怖ですくんでいる。
会社を辞めるとも、めぐに会いたいとも思ったが、こんな最期はまっぴらだ。 こんな形で死にたくない。
逃げ切れるか? 分からない。 いや、それ以前に。
こんな状態の真吾を残して、銀ちゃんを置いて逃げるわけにはいかない。 ……私が、やるしかない。
なんとか突きを捌くんだ。 突きを……来た! 無我夢中で手を払おうとする。
しかし私の手は虚しく空を切った。 フェイント? 熱いっ。 差し出した手から、血飛沫。 ……切られた。
誰かが悲鳴を上げる。 警察だ! そんな叫びも上がる。 駄目だ。 間に合う訳がない。
鈍い輝きに魅入られたように、私は動けなくなった。 全てがスローに見える。 真吾の手が、少しずつ私に近付いて……。
「キャアアアアア! ママ! ママァ! 誰か! 救急車! 救急車を呼んでぇ!」
何が起こったのか分からなかった。 気が付けば、私は床に尻餅をつき。 眼前には、倒れこむ銀ちゃんの姿があった。
騒がしくなった店内に、トモエさんの叫び声。 ……。 さっ。 さっ。 刺されたのか。 銀ちゃんが。 私を、庇って。
放心したように立ち尽くす真吾を、客たちが押さえ込む。 真吾は一切の抵抗もせず、されるがままだった。
ぎっ、銀ちゃん。 銀ちゃん。 銀ちゃん銀ちゃん銀ちゃん。 銀ちゃん!
駆け寄って絶望的な気分になる。 腹だ。 どうやって止血しろって言うんだ。 血が、流れる。 流れてしまう。
「ごめんなさいねぇ、ジュン……めぐの思い出の詰まった、大切な場所だったのに……最期に、こんなオマケを付けちゃった……。」
「馬鹿っ! 何を言うんだ。 最期なんて言うな。 思い出は思い出だろ。 大切なのは今だ。 銀ちゃんだ!」
腹の失血は地獄の苦しみだと聞いた事がある。 なのに。 銀ちゃんは、笑った。
「うれ……しい……。 ねぇ、ジュン、真吾を……恨まないで、あげて。 ……私ねぇ……子供のできない体質だった、の。
それに、彼の、言った通り。 真吾と結婚しても、ずっと。 …………ずっと、ジュンの事、が…………好き…………だったの。
彼から、子供のある家庭も、妻との愛情も、取り上げて、しま……た。 ぜん……ぶ……私……の、せ……」
体温は下がって、呂律は回らなくなって。 消えてゆく。 銀ちゃんの命が少しずつ消えてゆく。
嫌だ。 こんなの嫌だ。 誰か。 誰でもいい。 私はどうなってもいい。 銀ちゃんを。 銀ちゃんを助けてくれ!
「たすけてなのー。」
「雛ちゃぁん、何してるのぉぅ?」
「あっ、のりぃー。 ヒナね、おはなしを書いてたなの!」
「おはなし?」
「そうよー。 あのねのね、最近ジュンはヒナにご本を読んでくれるようになったのよ。
ヒナはそれがと〜っても嬉しいの。 だから、今度はおかえしにヒナがおはなしを読んであげるのよー!」
「まあぁ……。」
なんていい子なのかしら。 文字はよく読めないけれど、その健気さに、思わず頬擦りしたくなる。
まぁ凄い。 漢字も使ってるわ。 これは、う〜んと……有楽町……かな?
「雛ちゃん、すごぉい。 むつかしい字も知ってるのねぇ〜。」
「えへへへへ。 おはなしができたら、のりに一番最初に読ませてあげるねぇ〜。」
もぉぉ、ほんと可愛いっ。 天使みたぁい。
どんなお話なのかしら? 雛ちゃん食いしん坊だから、お菓子の家とかかな。
それともぉ、巴ちゃんみたいな子が出てきて、雛ちゃんと仲良くするようなお話かしらぁ。
うふふ。 楽しみねぇ。
「え〜と、ぎんちゃん、おへんじをしてなの〜……と。 まる。」
かきかき。 雛ちゃんが続きを書き始めた。 それがすっごく楽しそうで、思わず私も八の字まゆげ。
「うふふふふふ。」
「えへへへへへ。」
かきかきかきかき。 桜田家の午後は、今日も平和に過ぎていった。
ちょwwww雛wwwww
オチに大爆笑
雛!? 雛ああああああああああああああああああああああっっ!?!?
スレ落とさずになにやばいの投下してるんですかw
めちゃめちゃ真剣に読み入ってしまいましたよ。
GJ!
最初、何変なもの書いてんだって思ってたんですけどオチに大爆笑。
あんた天才だ。
ブワッハッw
ブワッハッw
面白かった、以外の表現が見つかりませんwww
メガトンGJ!
でも、前半の話はとても深い内容なのはわかるんだけど
なぜか心の中に、中々ストンと入ってこなかった
言ってる意味はわかるんですけどね
あぁ、私ももっと年輪刻まなきゃねぇ
真吾…もとい真紅で、漏電迷伝を思い出した件について
しんみりしながら読んでたのにw
なんだこれwwwwwww
01. 【 -- (怪談) 】 >3-8 (吝嗇)
02. 【 永遠のアリス 】 >13-16 (吝嗇)
03. 【 永遠のアリス 第二部 】 >18-24 (吝嗇)
04. 【 -- (母校) 】 >30
05. 【 お小遣い 】 >53-56 >134-137 >163-165 >184-188 (ケットシー)
06. 【 もしもシリーズ…もし水銀燈が優しかったら 】 >83-85
07. 【 薔薇乙女誕生の真相 】 >111 >115-116
08. 【 -- (戦争) 】 >122-124
09. 【 -- (戦争) 】 >151-152
10. 【 -- (戦争) 】 >157
11. 【 -- (ティータイム) 】 >169
12. 【 -- (油性マジック) 】 >175-178
13. 【 -- (蟻) 】 >210
14. 【 -- (蒼星石) 】 >216-219 (熊のブーさん)
15. 【 -- (七人の侍) 】 >227
16. 【 あべこべろーぜんめいでん 】 >238-242 >259-264 >301-303 >343-345 >408-412 >449-452 (ケットシー)
17. 【 魔法の言葉 】 >282-286 (吝嗇)
18. 【 ローゼンメイデンの秘密 】 >298 >469-470 (放蕩作家)
19. 【 -- (本) 】 >306
20. 【 -- (エイリアン) 】 >308
21. 【 ターミネーター翠 】 >313-315 >335-337 >358-360 >435-441 (熊のブーさん)
22. 【 DEATH NOTE 】 >322-328
23. 【 I'veの『Imaginary affair』を聞いていて、なんとなく思いついた 】 >364
24. 【 みっちゃんはね♪ 】 >367-374 (吝嗇)
25. 【 NOODLE 】 >390-396
26. 【 -- (ケロロ軍曹) 】 >420-421
27. 【 -- (パジャマ翠) 】 >424-430 (妄想のままに)
28. 【 14行縛り 】 >454 >495 >619
29. 【 薔薇乙女戦争 】 >458-461 >508-514 >539-542 >572-576 >650-654 >672-676 (ケットシー)
30. 【 -- (金銀入れ替わり) 】 >476-481 >562-568
31. 【 DOLL HOUSE 】 >485-492
32. 【 アルテマ 】 >505 >513 >519 >538 >671
33. 【 されざる者たち 】 >523-525 (吝嗇)
34. 【 お菓子選挙 】 >532-536 (妄想のままに)
35. 【 ぴんはっ! 】 >548-553 (吝嗇)
36. 【 《桜田さんちの薔薇少年》 】 >595-600 >641-645 (熊のブーさん)
37. 【 初めに言葉あり、言葉は神なりき 】 >602 (吝嗇)
38. 【 Web of Love 】 >606-612
39. 【 -- (ロマンシング・サ・ガ) 】 >624-626 >669
40. 【 乙女馬鹿一代 】 >656
41. 【 -- (巴) 】 >661-665
42. 【 GRAVEYARD 】 >696-698
43. 【 ANGELICA 】 >707-712
計 43 作品 おつかれさまでした