AKB前田「あたしはAKBにいてもいい人間なのかな…」

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1 ◆TNI/P5TIQU
前スレ書けなくなったので立てました
続きはこちらで書きます
2 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:44:28.60 ID:qAhU43P/0
松原「良かった、うまくいったんだね」

手裏剣を投げていた松原が、亜美達のもとへ駆け寄る。

峯岸「なっつみぃ、次は?」

松原「向こうで美宥ちゃんが地面を振動させて攻撃を防いでるけど、そろそろ限界みたい。助けに行こう」

峯岸「わかった」

4人もまた、対覆面部隊としてチームプレーを発揮していた。
メンバーはこうして助け合いながら、ロボットと覆面部隊を制圧していく。
そして戦況を遠くから見つめる者達がいた。

高橋「みんな…頑張って…」

高橋は胸の前で両手を組み、祈るように言った。
メンバーが団結した今、レジスタンスとは互角に戦えているといってもいい。
だがやはり、目の前でメンバーが傷を負い、ぼろぼろになりながら戦っている姿は、見ていて辛いものがあった。
何よりその戦闘に加わることが出来ないことが悔しい。

――あたしの足がこんなじゃなかったら…。

高橋の傍らでは、横山、野中、咲子、中村、入山、田野、川栄の7人が同じく戦況を見守っていたが、田野の精神状態はかなり不安定になっていた。
田野は北原の死を完全に自分のせいだと思いこみ、その罪悪感に押しつぶされそうになっていたのだ。
3 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:45:16.21 ID:qAhU43P/0
田野「……」

全身がガタガタと震える。
これが悪い夢だったら、どんなにいいだろう。
目が覚めれば、今までの出来事すべてなかったことになり、北原が元気に笑ってくれる。
だけど、これは現実なのだ。
全身から吹き出る脂汗、それを冷やす空気の感覚と風の音。
耳に届く破壊音、打撃音、爆発音。
現実に今、メンバーは戦っている。
そしてその中に、北原の姿はない。

田野「あたし…あたし…」

何やらぶつぶつと呟きはじめた田野を、入山が心配そうに見つめた。
とても見て見ぬふりが出来なかったのだ。
入山はそっと田野の肩を叩くと、無言で手を振った。
向こうへ行こうと合図する。
田野はわけもわからず、そんな入山について行った。

田野「あのぉ…」

高橋達からも、戦闘の輪からも離れた場所で、田野はびくびくと入山を窺う。
2人きりだった。
入山がなんのために自分を連れ出したのか、田野は理解できない。
と、入山が神妙な面持ちで口を開いた。

入山「田野ちゃん、ヴォイド…また使ってくれないかな?」

入山の一言に、田野は激しく首を振る。
4 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:46:26.89 ID:qAhU43P/0
入山「怖いのはわかるよ?田野ちゃんは自分がヴォイドを使ってガスタンクを運んだせいで、北原さんがあんな爆発を起こしたと思って、自分を責めてるんでしょ?だからもうヴォイドを使いたくないんでしょ?」

入山は優しい声で、だがその問いかけには有無を言わせぬ強い意志がこめられていた。
こんな入山は初めて見る。
田野は驚きとともに、無言でこくりと頷いた。

入山「だけど北原さんは田野ちゃんをこうやって苦しめるために爆発を起こしたんじゃないはずだよ。あたし達を…メンバーを助けるために、自らが犠牲になることを選んだんだと思う」

入山「これってすごいことだよ。もしあたしが北原さんの立場だったとしても、同じ決断が出来る自信ない」

田野「……」

入山「せっかく北原さんに守ってもらった命だもん。今のあたし達に出来ることは、レジスタンスと戦って、生きて、また前の生活を取り戻すことなんじゃないのかな?それが北原さんの望みだったんじゃないのかな?」

田野「北原さんの…望み…」

入山「そうだよ。北原さんの死を無駄にしないためにも、田野ちゃんはまたヴォイドを使って、レジスタンスをやっつけるんだよ」

入山の言葉に、田野の表情が変わっていく。
いつの間にか体の震えもおさまっていた。

――そうだ、あたしが北原さんの希望を次につなげないと…。

そこでようやく田野は落ち着きを取り戻した。
入山がほっと胸を撫で下ろす。
田野が立ち直ったことを悟ったのだ。
5 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:47:09.64 ID:qAhU43P/0
入山「一緒に戦おう、田野ちゃん」

田野「え?でもどうやって…あたし、ただ怪力になるだけで攻撃は…」

入山「出来るよ!あたしのヴォイドを使えば…」

田野「あんにんさんのヴォイド…。あ、そういえばまだ見たことなかったですけど」

入山「あたしのヴォイドは…これだよ」

入山はそう言って、田野の目の前でヴォイドを掲げてみせた。

田野「マイク?」

入山「そう」

田野「でも、それでどうやって…」

入山「ちょっと見ててね…」

入山はマイクを利き手に持ち帰ると、スイッチを押した。
それから素早く、戦場の方向へと向ける。

田野「あぁ…」

すると田野の前に、巨大な雲のようなものが出現した。

入山「大丈夫。触ってみて」

圧倒される田野に、入山が意味深な笑顔を浮かべて話しかける。
田野はおそるおそる、出現したばかりのその物体へと手を伸ばした。
それは見た目からの想像とは違い、硬くごつごつしていた。
6 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:47:41.07 ID:qAhU43P/0
田野「これって、あんにんさんが出したんですか?てかこれって何ですか?」

入山「音だよ」

田野「音?」

入山「そう。あたしのヴォイドは音を拾う。そして拾った音をこんな物体の形に変えて出現させるんだよ。これはね、拾った音量によって大きく重く、硬くなるの。今はみんなが戦っている方向にマイクを向けたから、大音量の破壊音が拾えたんだよ」

田野「あんにんさんのヴォイドにそんな力が…」

田野は脅威の目で、入山を眺めた。
それからはたと気がつく。

田野「でもこれを、あたしにどうしろって言うんですか?」

入山「これをどうするか。もう田野ちゃんならわかるんじゃないかな?」

入山は今度、悪戯っぽい笑顔を浮かべ、田野の両手に視線を落とす。
田野の両手にはヴォイドであるグローブ。
怪力を発動するグローブ。

田野「あたし…あたし…わかりました!!」

田野は入山が出現させた物体を掴むと、一目散に駆け出した。

田野「うわぁぁぁぁぁぁ…!!」

そのまま真っ直ぐアジトのほうへ向かい、戦闘の輪に飛び込む。
田野の存在に気付き銃を向けて来たロボットに、手の中の物を思い切りぶち当てた。
その攻撃により、ロボットの機体には大きな穴が開く。
戦闘不能となったロボットが、ゆっくりと傾き、地面に倒れた。
田野は微動だにせず、ロボットを最後を見届ける。

田野「あんにんさん、ありがとうございます。そして北原さん…見ててください…」

田野はそう言って、天を仰いだ。
7 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:48:30.90 ID:qAhU43P/0
一方その頃、小森は――。

小森「えーっと…」

小森は戦闘の輪の中に身を置いていた。
健気にも自分に出来ることはないか探しているのだ。
だが――。

宮崎「小森危ないよー」

背後を戦闘隊員に狙われていたことを、宮崎の声で知る。
宮崎はヴォイドを使い小森を攻撃から守ると、面倒臭そうに注意した。

宮崎「小森はたかみなさん達のところにいたほうがいいんじゃない?」

小森「え?でもわたし、ほらほら、こうやって物を浮かせることが出来るんですよ」

小森は得意げに、自分のヴォイドを披露する。
しかし宮崎は冷めた顔で指摘した。

宮崎「それって今この状況で役に立つことなの?」

小森「え…」

宮崎「いいから向こう行ってなって。あたしも小森ばかり守りきれないよ」

小森「くぅーん…」

小森を狙っていた覆面隊員に、松原が攻撃をしかける。
宮崎はそれを確かめると、また新たなメンバーを防御するため、立ち去って行った。
8 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:49:03.81 ID:qAhU43P/0
小森「いいな。なっつみぃさんかっこいいな」

小森は松原へ羨望の眼差しを向けると、そっとその場を離れた。
しかし今度はロボットに銃を向けられてしまう。
戦闘タイプのヴォイドでない小森は、格好の餌食、そしてメンバーの足手まといであった。

鈴木ま「こもりん危ないっ…!!」

横から飛び出してきたまりやが、小森を救う。
ロボットをなぎ倒し、慌てて振り返った。

鈴木ま「こもりん、怪我はない?」

小森「まりやんぬちゃん…。あ、あのね、わたし…」

鈴木ま「ごめんねこもりん、今はゆっくり話している暇ないから。こもりんは早く安全なところへ避難しててくれる?」

小森「くぅーん…」

まりやはそして、新たな敵へと向かってしまった。
すっかりしょげ返る小森は、ぷいとそっぽを向く。
すると視界の端に、ロボットと戦う田野と入山の姿が映った。

――みんなもああして戦ってるのに…。わたしだけ…。

宮崎やまりやの言い分もわかるが、この状況は小森にとって面白くない。
小森は自分がメンバーから邪険に扱われている気がしてきた。
とぼとぼと戦いの輪から離れていく。

小森「ふーんだ、みんな勝手に戦ってればいいんだ。わたしはもう知ーらないっと…」
9 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:50:00.66 ID:qAhU43P/0
一方その頃、高橋は――。

高橋「才加!!」

メンバーを連れて戻ってきた秋元に、高橋は驚きの声を上げる。

高橋「あぁみんなも…良かった無事だったんだね」

秋元達はその後、アジト内で覆面部隊をやり過ごしながら、脱出を成功させたのだった。
戦闘の輪を避けて、とりあえず高橋のもとへ無事を報告しに来たのである。

秋元「ともちんと陽菜はあっちゃんの傍にいる。あと見つかっていないのは玲奈ちゃんとぱるるだけだよ」

高橋「あと2人…」

藤江「たかみなさんごめんなさい、ご心配おかけしました」

高橋「いいよいいよ。れいにゃん、怪我はない?」

藤江「はい」

佐藤亜「たかみな達、中学校から移動してきたんだね」

高橋「うん。みちゃ達がトラックで迎えに来てくれて」

高橋はそう言って、ちらりと野中を見やった。
野中が微笑む。
10 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:50:57.34 ID:qAhU43P/0
秋元「そっか、じゃあ中学校に残ってたメンバーは全員こっちに来てるんだね。みんな戦ってるもんなぁ」

高橋「それが…全員じゃないんだよ…」

秋元「え?まだ誰か残ってるの?」

秋元が不思議そうに問う。
高橋は少しの間迷う仕草を見せたが、痺れをきらした秋元に詰め寄られ、すべてを告白した。
北原が爆発を起こし、メンバーを襲おうとしていたロボットを全滅させたこと。
その爆発に巻き込まれた北原が、帰らぬ人となったこと。
そして、爆発直後から近野が行方不明になっていること。

秋元「そんな…嘘でしょ…」

高橋の話を聞き終えた秋元が、小刻みに肩を震わせる。
怒りと悲しみが同時に押し寄せ、頭がどうにかなりそうだった。
だが必死に感情を抑え、口を開く。

秋元「きたりえのためにも…あたし達は絶対に勝利しなきゃいけない」

高橋「うん」

秋元「それに、ちかりなが行方不明っていうのは…」

高橋「こっちに来てトラックを降りようとした時に気付いたんだよ。それで、みんなの話を総合すると、誰も爆発の前後からちかりなの姿を見ていないことになって…」

藤江「嘘…ちか…」

藤江がショックのあまり、膝の力を失う。
よろめいた藤江を支えたのは石田だった。

石田「……」
11 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:51:38.44 ID:qAhU43P/0
高橋「ただトラックに乗り遅れただけならいいんだけど、もし爆発に巻きこまれたのなら…」

秋元「いや、今は希望を捨てないほうがいい。ちかりなはまだ中学校に残ってるんだよ。そう信じよう」

高橋「そう…だね…」

高橋が俯く。
秋元の言うとおりだと思った。
近野の無事をメンバーである自分達が信じないで、他に誰が信じるというのか。

秋元「それで状況は?」

秋元は近野のことを気にかけながら、だが今は割り切って尋ねる。

高橋「戦闘力でいったら互角かな。みんな頑張ってくれてるよ。だけどどんどんロボットや覆面部隊の数が増えてきてて…」

秋元「わかった。あたしも今からみんなを助けに行くよ。この炎で戦闘部隊を威嚇するくらいはできるから」

仲川「うん、遥香ロボット吹き飛ばしちゃうよ!わさみん、行こう」

岩佐「はい!」

そうして秋元達も戦闘へと足を向けた。
だがその時、横山が呼び止める。

横山「あの、秋元さん!」
12 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:52:10.65 ID:qAhU43P/0
秋元「ん?何ー?」

横山「秋元さん達は、どこから脱出してきたんですか?」

秋元「あぁ、裏口があるんだよ。正確にはロボットを排出するためのものだと思うけど、そこから逃げてきたんだ」

横山「そうですか。わかりました」

秋元「どうかしたの?」

横山「いえ、なんでもないです…」

秋元「?」

なぜか口ごもる横山の様子に首をかしげながら、秋元は再び歩き出そうとした。
だがまたしても、呼び止められてしまう。

中村「秋元さんすみません、ちょっと…」

呼び止めたのは中村だ。
中村はびくびくしながら、秋元に尋ねた。

中村「永尾とみおりんは一緒じゃないんですか?」

秋元「あぁ、まりやちゃん?それならまだあっちゃん達と一緒にいるよ。それにレモンちゃんならあたし達と一緒に脱出して…って、あれ?」

秋元はそこできょろきょろと辺りを見渡した。
13 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 14:52:49.59 ID:qAhU43P/0
中村「あのぉ…、どうしたんですか?」

中村は秋元の様子に不安を覚えた。

秋元「どうしよう…レモンちゃんがいない。一緒に来てない」

中村「えぇ?どういうことですか?」

佐藤亜「あ、あの時だよ。ほら、1階まで降りたところで覆面部隊に襲われた時!最初みんなバラバラに逃げたよね?ね?」

島田「あ、そういえばそうでしたね…まさかみおりんはその時に…」

島田が顔を青くする。

島田「はぐれちゃった…とか…?」

中村「そんな…!じゃあ今みおりんは…」

中村がおそるおそる尋ねる。
秋元がアジトを指差した。

秋元「まだあの中にいる」
14名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 14:58:43.32 ID:1+qNKMa5P
(бвб)支援!
15 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:02:20.25 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、珠理奈達は――。

松井珠「前田さんの話だと、裏口から脱出できるみたいです」

珠理奈、玲奈、倉持の3人はアジトから脱出するため、先を急いでいた。
その少し前に前田達と合流し、玲奈のヴォイドを取り出してもらったのだ。

倉持「急いで脱出して、玲奈ちゃんのヴォイドでたかみなちゃんの足を治してあげないとね」

倉持が言う。
玲奈はこくりと頷いた。
3人はそのまま一気に階段を駆け下り、2階まで到達する。
だがそこで、予期せぬものと遭遇した。

松井珠「うわっ…」

現れたのは覆面部隊――ではなく、小型のロボット。
今まで戦ってきたロボットとは形状が違う。

倉持「何する気…」

3人の前に立ちはだかるロボットは、手足部分が細長く、胴体に操縦席が置かれていた。
半透明の機体故、中で操縦している覆面隊員の様子がよく見える。
かなり奇妙であり、何か底知れぬ禍々しさが感じられた。

松井玲「キャッ…」

耳障りな音を立て、ロボットが動き出す。
操縦する覆面部隊は、怯える3人を見て楽しそうだ。
珠理奈と倉持は即座にヴォイドを構えた。
16名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 15:03:31.99 ID:7Y9yPmVZ0
ほんとだあっちかけないね
支援
17 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:04:11.37 ID:bJeVS0wMO
松井珠「これって一応ロボットですから、攻撃しても構いませんよね?」

倉持「中で操縦している人を傷つけなければ、たぶん大丈夫なんじゃないかな」

松井珠「わかりました!玲奈ちゃんは下がってて」

相手の数は4体。
それに対してこちらは珠理奈と倉持の2人だけ。
初めて遭遇するタイプのロボットで、戦闘力は不明な上、何を隠し持っているのか想像がつかない。
果たして戦えるのか――。
珠理奈は自分の心に問いかけてみた。

松井珠「戦える!戦う!」

そう、こうしてせっかく玲奈と再会できたのだ。
絶対に生きてここから脱出してみせる。

松井珠「……」

引き金を引く。
相手はびくともしない。
それでも珠理奈は諦めず、ピストルを撃ち続けた。

倉持「珠理奈ちゃん、足を狙って!」

倉持が叫ぶ。
と、狙いを定めた珠理奈の弾が、1対のロボットの足に当たった。
ぐらりとバランスを崩し、倒れる。
すかさず倉持が金属バットを操縦席に突き立てた。

覆面隊員「ひいっ…」

ロボットを操縦していた覆面隊員は、咄嗟に腕で頭を庇う仕草を見せる。
次の攻撃に備えた。
だが倉持はそれ以上の攻撃はせず、残りのロボットに飛び掛っている。
18名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 15:05:16.08 ID:OzmoPRkN0
>>1乙!
容量いっぱいになったみたいだね
支援
19 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:06:08.41 ID:bJeVS0wMO
覆面隊員「へ…?」

覆面隊員はぽかんとした表情で、戦いを続ける倉持と珠理奈を眺めた。
そして気付く。
すぐに仲間へ向かって叫んだ。

覆面隊員「こいつらに俺達は攻撃出来ない!殺せないんだ!偽善者ぶってるんだよ!」

倉持「何…」

珠理奈倉持優勢で進みかけていた戦況が、一変する。
痛いところを突かれた。
そう、2人には覆面隊員を殺す気などないのだ。
武器を取り上げるか、相手が怯んだ隙に逃げるのが狙いだった。
そしてその思惑がバレた今、主導権は覆面隊員達へと移る。

覆面隊員「さぁ、出来るもんなら攻撃してみろよ」

覆面隊員達はロボットから降りると、3人の目の前で所持していた銃を床に投げ捨てた。

覆面隊員「丸腰となった俺達を殺すなんて、そんな残酷な真似お前達には出来ないだろう」

松井珠「…くっ…!」

覆面隊員の言葉に、反論出来ない。
無抵抗の相手に、ヴォイド向けることなど珠理奈の正義感が許さないのだ。
それは倉持もまた同じだった。
珠理奈達が攻撃してこないことを確信すると、覆面隊員は両手を広げ、一歩、また一歩に歩み寄ってくる。
それに合わせ、3人はじりじりと後退した。
20 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/07/11(水) 15:06:31.10 ID:kFr+paDai
誰か前スレのリンクを貼ってちょ
21 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:07:59.96 ID:bJeVS0wMO
松井珠「どうしますか?倉持さん」

倉持「仕方ない。あたしのバットであの人たちを殴り、気を失わせる」

松井珠「だ、駄目ですよ。見た目は普通の金属バットですけど、ヴォイドですよ?それに相手はロボットじゃなく生身の人間です。倉持さんのバットで殴ったら、即死しますよ」

倉持「じゃあどうやって…」

覆面隊員達は3人の反応を楽しむかのように、ゆっくりと近づいてくる。
3人はどうすることもで出来ず、追い詰められた。

松井玲「あ…」

ついに玲奈の背中が柵にぶつかる。
外と中とを隔てる柵。
その下はアジトを覆う岩壁になり、さらに下へ行くと水路が待ち構えている。

――ここから落ちたら…。

そう考えると、玲奈の足はすくんだ。

松井珠「あ、玲奈ちゃん!」

珠理奈が気がついた時にはもう遅く、バランスを崩した玲奈の体は、柵の外へと投げ出される。
それでも玲奈は咄嗟に腕を伸ばし、柵の淵を掴んでいた。

松井玲「たすけ…」

宙ぶらりんになりながら、玲奈は必死に体を持ち上げようとする。
しかし彼女の細い腕では、そう長いこと体を支えることができない。
柵に掴まってじっとしているのが精一杯だった。
22 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:09:21.91 ID:bJeVS0wMO
倉持「玲奈ちゃん掴まって!」

倉持が手を差し伸べる。
その時、背中に衝撃が走った。
蹴られた。
そう気付いた時には、倉持の体もまた柵の外へと投げ出されている。
玲奈を助けるため、一瞬覆面隊員に背中を見せたのが間違いだったのだ。
遅れて珠理奈が、覆面隊員の手にかかり、柵の外へと投げ飛ばされた。

松井珠「キャー…」

落とされる瞬間、珠理奈は闇雲に手足を動かしていた。
それが幸いしたのか、何かに手が触れる。
無我夢中でそれにしがみついた。

倉持「ぐっ…」

珠理奈がしがみついたもの。
それは、倉持の足。
倉持は今や自分と珠理奈、2人分の体重をその腕で支えることになり、苦しみに表情を歪ませた。
それでも絶対に掴んだ柵を離してはならない。
倉持はそう自分に言い聞かせ、必死に頭を働かせる。
隣では早くも玲奈が痺れはじめた腕に、懸命に力をこめていた。

覆面隊員「助けてほしいか?」

覆面隊員が余裕を窺わせる態度で、3人を見下ろす。
玲奈はもう言葉を発する力もなく、小さく頷いた。
ふと下を見れば、ごつごつとした岩壁。
こんなところに体を叩きつけられたら、無事ではいられない。
玲奈はハッとして、視線を上に戻した。

松井玲「……」

その瞬間、玲奈が目にした絶望的な光景。
覆面隊員の足が、柵に掴まる倉持の手を踏みつけようとしていた。

松井玲「駄目ぇぇぇぇぇ…」

玲奈の声が、虚しく響く。
23 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:11:49.37 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの中では――。

大場「あ、そうだ。ありがとう。教えてくれて」

長い通路を歩く大場と中村。
大場はふと立ち止まると、改めて中村に礼を言った。
2人は今、アジトの中にいる。

中村「何?今更改まって…」

大場「だってさっきは慌てて言えなかったから」

中村「うん」

秋元の話を聞いた中村は、市川がアジト内で迷っていることを大場に伝えた。
大場が市川のことを気にしているだろうと、中村は見抜いていたのだ。
案の定大場は戦いを抜け出し、裏口からアジトに侵入したのだった。
市川を救うために――。

大場「でも麻里子まで一緒に来なくても良かったのに」

中村「あ、でもあたしも心配だったから…」

大場「そう?」

2人は慎重にアジト内を探索する。
初めて足を踏み入れる場所。
どこにレジスタンスが潜んでいるかもわからない場所。
大場の体に緊張が走る。
密かにヴォイドを握り直した。
24名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 15:12:13.21 ID:OzmoPRkN0
25 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:14:38.49 ID:bJeVS0wMO
――みおりん、こんなところにひとりでいて、きっとすごく怖がってるはず…。

市川の舌ったらずな話し方。
大場にはとてもわざとらしく見える、市川の言動。
憎たらしいくらい可愛くて小さな顔。
今はそれがたまらなく恋しい。
早く再会し、不安で涙ぐむ市川の顔を拝みたかった。
そして――謝りたかった。
これまでしてきた数々のきつい言動を、市川に直接会って詫びたかった。
市川は果たして許してくれるだろうか。

中村「キャー…!!」

その時、大場の背後にいた中村が悲鳴を上げた。

大場「え?」

振り返る。
そこには覆面部隊が銃を構え、整列していた。
いつの間に現れたのか、大場の頭は混乱する。
しかしヴォイドを構えることは忘れなかった。
覆面部隊に向け、それを投げつける。

中村「あ、駄目!!」

と同時に、中村が叫んだ。
中村は大場が覆面隊員を殺してしまうのではないかと慌てたのだ。
そんな中村の声で、大場はヴォイドを投げる瞬間、僅かに体を捻ってしまった。
大場のヴォイドは覆面隊員を掠めて壁に激突すると、かしゃりと音を立てて床に落ちた。
26 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:17:39.46 ID:bJeVS0wMO
大場「麻里子なんてことするの!」

大場が焦る。
ヴォイドは今、拾い上げられ、覆面隊員の手中にあった。

――もしあれを壊されたらあたしは…。

大場の背中に冷たいものが走る。
そして、2人は完全に攻撃する術を失ったのだ。

大場「…仕方ない」

大場はそこで、悔しさを滲ませながら言った。

中村「?」

大場「ここはあたしが食い止める。麻里子は逃げて。さっきのことは麻里子のせいじゃないよ。何も考えずヴォイドを投げようとしたあたしが悪いの」

大場「あはは…あたしっていっつもそうなんだ。よく考えないで動いて、言っちゃいけないこと言って、後で後悔するの。きっとバチが当たったんだよ。自分の起こした行動の責任は、自分でとるしかないんだよね」

中村「みなるん…」

覚悟を決めた大場の横顔を、中村はじっと見つめる。
自然と手は首から下げた自身のヴォイドに伸ばされていた。

――これを使う時…。

中村はペンダント型になった鏡をぎゅっと握り締めた。
覆面隊員を見据えると、大場を守るように一歩踏み出す。

大場「ばっ、何やってんの!?」
27 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:19:40.09 ID:bJeVS0wMO
中村「キャプテンはまだやり残したことがあるでしょ?あたしなら大丈夫だから…たぶん」

大場「麻里子!!」

中村「撃つならさっさと撃ちなさいよ!その銃で…だけどみなるんだけは見逃してあげて!」

驚く大場。
中村は両手を広げると、なんと大声で覆面隊員を挑発しだしたのだ。

大場「ちょっと、」

大場は強引に中村の肩を掴んだ。
だがそれ以上に力で、中村に突き飛ばされてしまう。
大場は床に倒れ、その勢いのままごろごろと転がった。
すぐに半身を起こす。
中村の姿を捉えた。

大場「そんな…」

大場の目の前で、中村が左肩を押さえていた。
辺りに漂う、焦げた臭い。
中村が小さく呻き声を洩らす。

――撃たれたんだ…!!

大場「麻里子もうやめて!」

大場は叫んだ。
しかし中村はまだ覆面隊員を挑発する。
その度に銃を向けられ、撃たれ、ぼろぼろになって、それでも必死に立ち、声を振り絞る。
28 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:21:30.47 ID:bJeVS0wMO
中村「ちょっとそこのあんた!腰が引けてるんじゃない?せっかく銃を持ってるのに撃たないの?怖いの?」

覆面隊員「…ぐぐっ…」

挑発された覆面隊員が銃を向けるのと同時に、中村がふらりと後方に倒れ、尻餅をついた。
それからゆっくりと半身を倒す。

大場「そんな…麻里子…麻里子しっかりして…」

大場は中村のもとまで這っていくと、その肩を揺さぶった。
中村は浅い呼吸を繰り返すばかりで返事をしない。

大場「どうして…どうしてこんな無茶なこと…」

中村「あたしのヴォイドはね、相手から受けた攻撃をそのまま相手に返すの…」

大場の必死に呼びかけに、中村が薄く目を開けた。
途切れ途切れに説明する。

中村「学校で覆面隊員に狙われたあたしを…みなるんが助けてくれた時…みなるんのヴォイドがあたしの頭を掠めたでしょ…?その時、あたしと一緒にみなるんまで頭に痛みを感じてた。それで…気付いた、んだ…あたしのヴォイドの力、に…」

大場「麻里子!麻里子しっかり!目を開けて!」

中村は最後の力を振り絞り、震える指を覆面隊員のほうに向ける。

中村「見、て…あたしを攻撃した奴らは…、あたしと同じ痛みを受け、てる…。今のうちだよ、みなるん…。みお、りんを…必ず見つけ、て…」
29 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:23:27.37 ID:bJeVS0wMO
大場「麻里子…こんなのってないよ。いくら相手に攻撃できても、自分まで傷ついてたんじゃ意味ないじゃん!馬鹿なんだからもう!ほんとにあたし以上の大馬鹿だよあんた…」

覆面隊員「さて、友情ごっこは終わりにしてもらおうかな?」

大場「え?」

頭の上から降って来た声に、大場はハッと顔を上げた。
そこには覆面隊員が勝ち誇ったようにたたずんでいる。
中村に呼びかけることに必死で、接近する人影に気がつかなかったのだ。

――しまった…!

覆面隊員「まさかのこいつのヴォイドのそんな仕掛けがあったとはな。妙に挑発してくるから怪しいと思い、攻撃しなかったことが幸いした。俺だけは無傷で済んだよ」

中村のヴォイドの力で自身が放った攻撃と同等の痛みに苦しむ覆面部隊。
その中で、大場に語りかける覆面隊員ただ1人だけが、平然としていた。

大場「……」

観念して目を閉じる。

――麻里子、みおりん…みんなごめんね。あたし、ここまでだ。

こめかみに銃口が当てられる感覚がした。

大場「…くっ…」

これまでの楽しかった思い出、辛かった思い出、AKBのメンバーになってからの出来事が走馬灯のように大場の心を駆け巡る。

覆面隊員「うわぁぁぁぁ…」

だが、次に大場の耳に届いたのは、レーザーが放たれた音ではなく、覆面隊員の叫び声。

大場「何…!!あっ…」

大場は閉じていた目をパッと開いた。
最初に飛び込んできたのは――。
30 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:25:08.72 ID:bJeVS0wMO
大場「みおりん…?」

市川「みなるんさん!大丈夫ですか?」

目の前に市川がいる。
信じられなかった。
市川は肩で息をしながら、水鉄砲のようなヴォイドを構えている。
その顔は真剣で、だからこそ手にしているヴォイドとのギャップに面食らった。
見るからにちゃちな作りの鉄砲。
中身はただのレモン汁。
それを使う市川を、尚のこと幼く見せている。
まったく馬鹿らしい光景だった。
一体そんなヴォイドで何が出来るというのか。

覆面隊員「くそっ…目が…目があぁぁぁぁ…」

だが覆面隊員はまるでムスカのような大袈裟な動作で苦しんでいる。
目元を覆い、ふらふらと動くので壁にぶつかって。
その足元にはさっきまでその顔を覆っていた覆面が落ちていた。

大場「みおりんまさか…」

市川「だってわたすぃ、みなるんさん達の声を聞いて必死で…あの人がみなるんさんに注目すぃている隙に体当たりすぃて、頭突きをお見舞いすぃたんです。そうすぃたら覆面が脱げたから、慌ててこれで目にレモン汁をかけて…」

大場「あ、あはは…」

大場は全身の力が抜け、放心したように笑い出した。
まさか頭突きとレモン汁に助けられるなんて。
考えると笑える。
だけどこれが現実なのだ。
そうして笑っているうち、大場の目からは涙がこぼれた。
31 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:26:38.92 ID:bJeVS0wMO
市川「あ、あの…みなるんさん?大丈夫ですか?どこか痛むんですか?」

市川が真面目な顔で問いかけてくる。

大場「ごめん、みおりん…」

大場は市川を見て笑いを引っ込めると、ぼそりと呟いた。

市川「え?え?」

大場「あたし、ずいぶんみおりんにひどいこと言ったよね。ごめんね。ずっと…謝りたくて…」

市川「え?え?何のことですか?わたすぃ別にひどいことなんて言われてないですよ?みなるんさんが本気でわたすぃのこと嫌ってるわけないすぃ、冗談だってこと知ってますぃたよ?」

市川はそんな大場に、きょとんとした顔で答えた。

大場「え…」

市川「わたすぃこそなんか意地になってたみたいで、ごめんなさい…。今もみなるんさん、わたすぃを探すぃに来てくれたんですよね?わたすぃ、すごく嬉すぃです」

大場「みおりん…」

大場はがくりと肩を落とした。
大場が思っている以上に、市川は大人だったのだ。

市川「そ、それより早くここを出まそう。みなるんさん、ヴォイドを拾って。それから麻里子ちゃんを運びますよ」

大場「う、うん…」
32 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:28:12.29 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、前田達は――。

前田「あ、あそこ!」

小嶋の話を信じて最上階までやって来た前田達は、通路の奥に扉を見つけた。
これまでアジト内で見てきた扉とは、見るからに違う。
厚く重そうな扉。
明らかに外からの侵入を警戒しているような作り。

板野「ボスはあの中かな?」

小嶋「きっとそうだよー」

前田「…行こう…」

慎重に足を進める。
扉が近づくにつれ、確信を深めた。

――ついに来たんだ…。

前田は仲間達を確認するため、そこで一旦立ち止まり、ひとりひとりの顔を見つめた。
誰もが緊張し、強張った表情をしている。

前田「ここから先は、」

そして前田は以前から決めていたことを口にしようとした。
だがそれを、柏木の声が遮る。

前田「?」

柏木は今、驚愕の表情で扉を見つめている。
その視線の先には――。

柏木「麻友!!」
33 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:29:59.00 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの外では――。

仲谷「あれ…」

高橋らと一緒に戦況を見守っていた仲谷は、何かに気付き走り出した。

高橋「あ、危ないよ!」

高橋が制止する声を振り切り、仲谷は真っ直ぐあるメンバーの元へ向かう。
偶然宮崎が気付き、怪訝な顔でそんな仲谷の姿を防御した。

仲谷「…ハァ…ハァ…」

突然駆け寄ってきた仲谷に驚いたのは、篠田だ。

篠田「ど、どうしたの?」

篠田は相手にしていたロボットをさっさと片付け、仲谷に向き合う。

篠田「危ないよこんなとこ来たら。まだロボットがたくさんいるのに…」

篠田の言葉に仲谷はふるふると首を振った。
それから息を整え、アジトを指差す。

仲谷「あ、あれ…!!」

篠田「え?」

仲谷が指差した先に、篠田は体を向けた。
すると信じられない光景が目に飛びこんでくる。

篠田「珠理奈…!!」

そこには2階部分の柵にしがみつく、珠理奈、玲奈、倉持の姿があった。
目を見張る篠田に、仲谷が言う。
34 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:31:37.65 ID:bJeVS0wMO
仲谷「篠田さん、ヴォイドを…ヴォイドを3人に向かって投げてください!」

仲谷の言葉に、篠田はますます目を見張った。

篠田「え?そんなことしたら3人は鉄網に押しつぶされて…」

仲谷「大丈夫です。あたしを信じてください!」

仲谷はいつになく強い口調でそう言い切った。
こんな仲谷を見るのは初めてだ。

篠田「なかやん…」

篠田は悩む。
仲谷の考えが読めない。

仲谷「早く!じゃないと3人が落ちちゃいますよ!」

仲谷の言う通りである。
揺れる3人の体。
一体いつからああしているのだろう。
もう限界が迫っていることは明らかだった。
悩んでいる時間はない。

篠田「わ、わかった!」

篠田は決心すると、自身のヴォイドである鉄網を3人に向け投げた。
その瞬間、仲谷がステッキを振るう。
それが彼女のヴォイド。
いつも優しく穏やかな仲谷の心を象徴する、救いのヴォイド。
35 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:33:09.35 ID:bJeVS0wMO
篠田「……」

篠田の目の前で、鉄網は3人の体を包んだ。
だがそれは極めて優しく、柔らかに。
その時珠理奈達は、自分の体が繭に包まれたかのような心地良さを感じていた。
無意識に柵から手を放し、篠田のヴォイドに体を預ける。
仲谷のヴォイドによって軟化した篠田のヴォイドは、クッションの役割を果たしていた。

倉持「…あきちゃの耳たぶみたいに柔らかい…」

そうして地面に着地した3人は、束の間呆然とした表情を浮かべていたが、自分達が先ほどまでしがみついていた柵を頭上に捉え、安堵の息をついたのだった。

篠田「珠理奈ー!!玲奈ちゃん、もっちー!!」

3人の元に、篠田と仲谷が駆け寄ってくる。
珠理奈はもう、飼い主を見つけた仔犬のように喜びを全身で表現していた。

仲谷「だ、大丈夫でしたか?」

仲谷はそっと玲奈と倉持を気遣った。
玲奈が笑顔で頷く。

松井玲「ありがとうございます」

それからきりりとした表情に戻り、仲谷に問いかけた。

松井玲「すぐにたかみなさんを治します。どこにいますか?案内してください」
36 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:36:20.13 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、前田達は――。

前田「まゆゆ…」

中にボスがいるであろう扉の前。
そこに突然現れたのは渡辺だった。
レジスタンスの一員だった渡辺。
メンバーを陰で裏切っていた渡辺。

渡辺「……」

前田達が扉を突破するのを阻止しようというのか。
渡辺は前田達の前に立ちはだかり、無言で睨みをきかせている。

前田「まゆゆがそうまでするってことは、やっぱりこの扉の奥にレジスタンスのボスがいるんでしょ?お願いまゆゆ、道を開けて」

前田が静かに語りかける。

すると渡辺は俯き、肩を震わせた。

板野「あたしからもお願い…」

板野が眉を下げる。
次に顔を上げた渡辺は、涙を湛えた瞳を、うるうると揺らしていた。
だが決意は固く、その場を動こうとしない。
前田は困ったように小嶋と顔を見合わせた。
前田の手には高橋のヴォイド。
一方小嶋の手には大砲。
しかし2人とも渡辺を攻撃する気はなかった。
ここに来るまで、渡辺に対して様々な思いが交錯していたが、いざ本人を目の前にすると、やはりそこには情しかない。
37名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 15:38:27.15 ID:cqOEtO4oO
支援
38 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:38:46.12 ID:bJeVS0wMO
柏木「麻友…」

困り果てた前田と小嶋の間から、柏木が歩み出る。
そして渡辺へ近付くと、そっと両肩に手を置いた。
びくりと渡辺の肩が揺れる。
この細い肩に、渡辺は一体何を背負っているのか。
そう考えると、柏木は切なくなった。
きっとメンバーを裏切ったことにも理由があるのだろう。
渡辺は今、何か言いたげな表情で柏木を見上げている。
柏木は腰を屈めると、渡辺に視線の高さを合わせ、じっとその瞳を覗きこんだ。
渡辺のすべてを受け止める覚悟だ。

渡辺「ゆきりん…ひっ…ひっく…ご、ごめん…ごめんね…」

しばらくその体勢を続けていると、渡辺は安心したのか、堰を切ったように泣きじゃくった。

柏木「いいよ。麻友も辛かったんだよね。メンバーを裏切って平気な顔でいられる子じゃないもんね、麻友は。大丈夫、ゆっくりでいいから話してごらん」

柏木が優しく語りかける。
渡辺と再会したら言ってやりたいことがたくさんあった。
だがやはり、いざその時が来ると、柏木の口から出るのは渡辺への愛情がこもった言葉しかなかった。
柏木は意識しなくとも知っているのだ。
相手の心に直接語りかける術。
怒り、憎しみ、恨み…そんな感情を言葉に変えたところで、理解は生まれない。
柏木は今、仏のような慈悲深い顔で渡辺を見つめている。
39 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:41:08.76 ID:bJeVS0wMO
渡辺「そんな…わたし…みんなを裏切るつもりなんかなかった。ただ怖くて、レジスタンスに協力すればこの恐怖から逃れられると思ったの。わたしはまだ…弱い人間だから…」

渡辺が嗚咽を呑みこみ、打ち明けた。
前田達は無言で渡辺の話に耳を傾ける。

柏木「ウイルスが怖かったの?キャンサー化することが怖かったの?」

柏木が問う。
すると渡辺は激しく首を降り、否定を表した。

渡辺「違う。わたしが怖かったのは…あっちゃん…」

前田「あたし?」

渡辺「あっちゃんがAKBを卒業すること。それがたまらなく怖くて不安で…だってあっちゃんはAKBの象徴だったから。あっちゃんがいなくなったらこの先AKBはどうなっちゃうの?わたしもし次にセンターを指名されても、あっちゃんみたいに務めあげる自信まだないよ」

前田「……」

渡辺「知ってたよ。AKBが抗ウイルス対策のグループだってこと。中でもあっちゃんの力が強力で、そのお陰でウイルスを抑えられてきたことも」

前田「でもね、もうメンバーは個々に力をつけて、あたしがいなくても充分AKBとして成立する力を身に付けてるってたかみな言ってたよ?あたしが抜けても大丈夫なんだよ?まゆゆにだってすでに、これからのAKBを支えていく力があるんだよ!」
40 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:43:48.38 ID:bJeVS0wMO
渡辺「わたし…それでもやっぱり…自信ない。ウイルスを暴走させれば、まだあっちゃんはAKBに籍を置かざるをえなくなる。まだウイルス対策としてあっちゃんの力が必要だと判断される」

渡辺「そうしたらあっちゃんの卒業は延期される。だからわたしはレジスタンス側について、今回のウイルス暴走に手を貸したんだよ」

柏木「そんなこと…」

渡辺「まさかこんな大事になると思わなかった。でももう後戻りは出来なかった。ごめんなさい…ごめんなさい…」

渡辺の嗚咽が通路に響く。
柏木はそっと渡辺の頭を胸に抱いた。

柏木「まったくこの子は…馬鹿なんだから…」

渡辺「……」

柏木「忘れたの?あたしがいるでしょ?あたしはこれからもずっと麻友の傍にいて、麻友を支えるよ。だからもっとあたしに言っていいんだよ。甘えていいんだよ」

渡辺「ゆきりんは…わたしを、許してくれるの?こんなわたしを…」

柏木「許すも何も、あたし達は親友でしょ」

柏木が呆れたように言う。
途端に柏木の胸に、重さがかかった。
渡辺が完全に体を預けたのだ。

柏木「うわぁ、ちょ、麻友?なんで全体重かけてくるのよこの子は…」

柏木はよろめきながら目を丸くした。
渡辺は柏木から離れると、今度は前田達に頭を下げる。
前田は無言で頷いてみせた。
41 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:45:08.66 ID:qAhU43P/0
前田「じゅあまゆゆとゆきりんはもうここを脱出したほうがいいよ。それで改めて外にいるみんなに話すの。大丈夫だよ。みんなまゆゆが本当はいい子だって知ってるから。ちょっと話せばわかってくれるよ、きっと」

それから前田は渡辺の胸元に手を伸ばし、ヴォイドを取り出した。

前田「脱出経路はきっとまゆゆがわかってるよね?それからお願いがあるの。もし制御室の場所がわかるなら、有華達にも早くここから出るように知らせてほしいんだ」

渡辺「うん、制御室の場所ならわかるよ」

前田「良かった。たぶん2人は制御室にたどり着いてるはずだから。ロボットを停止させられてなくてもいい。今は一刻も早く脱出を優先するように言ってくれるかな?」

柏木「わ、わかった」

制御室へ向けその場を離れる渡辺と柏木。
だが渡辺は途中で立ち止まり、前田を振り返った。
42 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:45:40.31 ID:qAhU43P/0
前田「?」

渡辺「あっちゃん、あのね本当は、ボスは、」

渡辺が言いかけたのを前田が遮る。

前田「大丈夫。早く行って!」

渡辺「でも、」

柏木「麻友?行こう」

柏木はそっと渡辺の手を引いた。
渡辺は迷う仕草を見せたが、前田に頷かれると納得した。
今度こそその場から去っていく。
2人の背中を見送りながら、板野が尋ねた。

板野「あっちゃん、本当に良かったの?まゆゆ、ボスについて何か知ってるみたいだったけど…」

それに対し、前田が神妙な面持ちで答える。

前田「平気だよ。ボスの正体については、あたしもなんとなくわかってるから…」
43 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:48:11.59 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、横山は――。

横山「……」

閉塞感。
鼻をつく埃臭い空気。
吐く息が熱い。
手探りで進みはじめてから、どれくらいの時間が経ったろうか。
先ほどから何の音も耳に届かず、暗闇だけが横山の感覚を鈍らせる。

――わたし、まだ何もやってない…。

横山を突き動かしているのは焦り。
そして、仲間への思い――。

――優子ちゃんも里英ちゃんも…2人とももうわたしの元には帰って来ない…。

横山「2人がみんなのために動いている間、わたしは何をやっていたんだろう。不満を理由に何もせず…こんなん怠けてたんと同じやんか…」

横山を猛烈な恥ずかしさが襲った。
しかし一方で、妙に冷静だった。
熱くなっていた頭の芯が、スッと覚めていく感覚。

――わたしが馬鹿やったわ…変にこだわって、わたしひとりの感情にみんなを巻きこんで…前田さんに突っかかって…。やぎしゃんと中塚さんは戦う決意をしたのに、わたしだけはいつまでも同じ場所でひとり意地張ってた…。
44 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:50:17.31 ID:bJeVS0wMO
横山は今、ダクトの中を進んでいる。
秋元の話をもとに、大場達に続いてこっそり裏口からアジト内に侵入したのだった。
ただ大場達と違ったのは、素直に通路を進まなかったことである。
横山は壁際に小さな梯子が備え付けられていたのを見つけ、そこからダクト内に体を押しこんだのだった。
狭いダクト。
これがどこへ繋がっているのかもわからない。
しかしヴォイドを持たない自分には、これが前田を探す一番安全な道である気がした。

横山「…わたしの、ヴォイド…」

横山はダクトを進みながら、呟いてみた。
果たして自分は前田と会って、何がしたいのだろうか。
わからないまま衝動に突き動かされ、ここまで来てしまった。
しかし口に出してみると、その答えのシンプルさに気付く。

――わたしは前田さんに会って、ヴォイドを取り出してもらう。そうしなければ、例えレジスタンスとの対決に決着がついたとしても、わたしの中で戦いは終わらないままになってしまう…。

暗いダクトが続く。
必死にもがく横山がダクトを抜けた時、そこには何が待っているのだろうか――。
45 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:52:09.37 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、制御室では――。

小林「はい、わかりました。ありがとうございます…じゃあ、すべてのロボットを停止してくれるんですね?」

小林はそう言うと、静かに聴診器を外した。

増田「うまくいったんか?」

増田が待ちわびたように尋ねる。

小林「うん、やっぱりゆったんの言ったとおりだった。どんな相手でも、ちゃんと話せばわかってくれるんだね」

増田「当たり前やんか。香菜なら尚更や。香菜と話して、嫌いになるやつなんかおらん。それが機械でもや」

小林「ありがとう…。もうすぐ外にいるロボットは止まるよ」

増田「ほんならまたあっちゃんとこ戻るか?」

小林「うん。でもその前に…」

増田「?」

制御室には増田が縛り上げた覆面隊員が3人。
小林はそっと近づくと、彼らを拘束するロープに手をかけた。

増田「あ、あかん…」

すぐに増田が止めに入る。
しかし小林は笑顔で振り向くと、自信満々に言いきった。

小林「この人達をこのままにしておくわけにいかないよ。大丈夫。もう解放しても平気だよ」

増田「で、でも…」

小林「お願いしてもいいですか?」

小林は覆面隊員達に向き合うと、そっと話しかけた。
46 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:53:08.81 ID:qAhU43P/0
小林「ひどいことしてごめんなさい。でもあなた方がおとなしくしてくれていたお陰で、香菜達は目的を達成することが出来ました。本当にありがとうございました。それで…図々しいかもしれないけど、最後にもう1つだけお願いをきいてください」

小林「香菜達はこれからここを出ます。その前にあなた方を縛っているロープを解きます。香菜達はあなた方を傷つけるつもりはありません。だからあなた方も、香菜達が行くのを邪魔しないでください。どうか…お願いします」

そうして小林は深く頭を下げた。
小林の純真な瞳を見つめ、じっと話に耳を傾けていた覆面隊員達は、互いを確認することなくそれぞれ頷いた。

小林「じゃあ今からロープを解きます」

小林はそれから本当に宣言したとおりロープを解きはじめた。
その背後では密かに増田が剣を構えている。
覆面隊員達が小林に何かしようとしたら、すぐにでも切りかかるつもりだった。
だがその心配は杞憂だったと気付く。
ロープを解かれ自由の身になった覆面隊員達は、それでもその場から動くことなく、小林の顔を見つめ続けていたのだった。

増田「……」

増田がごくりと唾を呑む。
それは奇跡の瞬間だった。
小林の邪気のない心が、覆面隊員達に通じたのだ。
47 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:54:23.99 ID:qAhU43P/0
覆面隊員「あんたには負けたよ」

3人のうち1人が、ぼそりと呟く。
小林は返事をする代わりに、にっこりと笑ってみせた。
覆面隊員達はずっと見ていたのである。
機械相手に、小林が敬語で話しかける様を。
初めは本気で小林を馬鹿だと思った。
だが次第にその考えこそが馬鹿なのだと気付いた。

――この子は馬鹿なんじゃない。馬鹿正直で真面目なだけなんだ。

覆面隊員は確信した。
小林が信じるに値する人間だということを。

小林「じゃあそろそろ行きます。お付き合いさせてしまいすみませんでした。行こうゆったん」

増田「せやな!」

小林と増田は足取りも軽く、制御室の外に飛び出した。

増田「おわっ…!」

そこで思わぬ人物と遭遇する。

増田「ゆきりん!と…まゆゆ!?」

柏木の背中に隠れるようにして、渡辺がもじもじと2人を窺っていた。
48 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:56:55.28 ID:bJeVS0wMO
柏木「あっちゃんからの伝言。すぐにここから脱出しましょう」

小林「え?でも今あっちゃんのとこに行こうとしてたんだよ」

柏木「あっちゃんはこれからボスと直接対決する気なの。その前にあたし達には安全なところへ避難していてほしいのよ」

増田「だけどあっちゃん1人じゃ…」

柏木「平気だよ。昔からあっちゃんを支え続けた仲間がついているから。今のあたし達に出来るのはあっちゃんの言う通りにしてあげることだけ。急ぎましょう。道案内なら麻友がしてくれる」

柏木が言うと、渡辺が小さく頷いた。
だが増田は警戒の色を滲ませ、渡辺を睨む。

増田「まゆゆはレジスタンスの手先やろ?信じてええんか?」

柏木「大丈夫。麻友はもう反省したよ」

増田「……」

渡辺「ご、ごめんなさい…」

渡辺はちらちらと上目遣いに増田を見た。

――この目にうちらはずっと騙されてたんや…。

増田は考える。
見た目の可愛さに、渡辺を許していいものだろうか。
信じて、また裏切られるのは辛い。
しかしその時、小林が増田の肩を叩いた。
49 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 15:59:19.65 ID:bJeVS0wMO
増田「?」

小林「ゆきりんの言う通りだよ。大丈夫」

増田「香菜…ほんまか?ほんまなんか?」

増田が小林に詰め寄る。
だが小林よりも先に答えたのは、先程解放したばかりの覆面隊員だった。
彼らはまだ制御室にいて、開けられたままの扉から増田達の会話を聞いていたのだ。

覆面隊員「その子が嘘をつかないこと。お前がよく知ってるだろ?」

増田「……」

覆面隊員の指摘に、増田は唇を噛んだ。
相手に正しいことを言われ、悔しかったのだ。
まさか覆面隊員に教えられるなんて――。

増田「わかった。香菜のゆうことを信じわ。まゆゆを…信用してもいいんやね?」

小林「うん!」

渡辺「ありがとう…ありがとうゆったん…」

渡辺は感激に涙を滲ませ、何度も頭を下げた。

柏木「あたし達が入ってきた正面口とゆったん達が入った裏口の他に抜け道があるの。だよね?麻友…」

渡辺「うん」

柏木「そこから脱出しましょう」
50 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:01:20.17 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの外では――。

篠田「ロボットが…止まった…?」

突然訪れた静けさの中、篠田は呆然と辺りを見回した。
直前まで対峙していたロボットは、篠田に襲いかかろうとする体勢のまま停止し、一切の攻撃が止まっている。
その他のロボットもあちこちで奇妙な体勢のまま止まり、メンバーは拍子抜けした顔でそれを眺めていた。
中には早くも安堵の息をつく者さえいる。
ロボットが停止した理由。
その疑問は亜美菜のよく通る声で解決された。

佐藤亜「香菜ちゃんだ!香菜ちゃんがヴォイドでロボットを停止してくれたんだよ!」

そして亜美菜が発言した直後に、メンバーの間からは歓声が上がった。

内田「こっちもOKです!」

覆面部隊は銃を取り上げられ、内田と田野が作る岩壁に包囲されていた。
51 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:03:20.39 ID:bJeVS0wMO
高橋「みんな…助かったんだ…」

高橋はメンバーの様子に、思わず身を乗り出した。

松井玲「あ、たかみなさん動かないでください!もうすぐ終わりますから…」

すぐさま玲奈に叱責され、姿勢を正す。
玲奈は今、高橋の足に自身のヴォイドである包帯を巻き付け、治療の真っ最中であった。

松井玲「…完了しました」

そして玲奈が手をかざすと、光が溢れた。
包帯は空気に溶けるかのように消失し、現れた高橋の足は元の形に戻っている。

高橋「ありがとう玲奈ちゃん」

高橋は早速立ち上がってみた。
久しぶりの地面を踏む感覚。
思わず笑みがこぼれた。

峯岸「たかみな…」

傍で心配そうに見守っていた峯岸も、つられて笑顔になる。
その間に戦闘へ加わっていたメンバーが、高橋のもとへ集まってきた。
元気になった高橋の姿に喜び、一方で玲奈へ称賛の声をかける。
玲奈はメンバーから褒められ、少し居心地悪そうに、だが真っ直ぐに顔を上げて微笑んでいた。
和やかな空気の中、メンバーの誰も大場や市川の動きには気づいていない。
52 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:04:58.90 ID:bJeVS0wMO
大場「良かったバレてない」

市川「なんかタイミング良かったみたいですね」

2人はこっそりアジトから脱出し、何食わぬ顔でメンバーの輪の中に戻ったのだった。
市川はともかく、大場は誰にも相談せずアジトへと侵入していたので、バレた時にどんな注意を受けるかわからない。

市川「玲奈さん…ちょっとお願いできますか?」

2人の目的はもちろん玲奈だった。
市川はこそこそと玲奈に近づき、耳打ちする。
玲奈は最初不思議そうな顔をしていたが、市川の真剣な表情を見て何事かを感じ取った。
市川に案内されるまま、メンバーから離れ、物陰へと急ぐ。
そこには中村が寝かされていた。

松井玲「だ、大丈夫。麻里子ちゃんは治るよ」

玲奈は詳しくは訊かなかった。
すぐに治療に取りかかる。
数分後には、中村が血色のいい笑顔を浮かべていた。

中村「ありがとうございました」

それから3人は抱き合い、玲奈に礼を告げた。
だが大場はすぐに深刻な表情を浮かべ、切り出した。

大場「玲奈さん、あの、今のこと…」
53 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:06:25.73 ID:bJeVS0wMO
松井玲「え?あ、あの、言いにくいなら別に…」

意外にも玲奈はそう言って、大場の言葉を遮った。
これまでどこか近寄りがたいと思っていた玲奈が見せるおおらかさに、3人は感動を覚える。
自分達はまだまだメンバーについて知らないことが多いのだ。
一番身近なチームメイトでさえ、少しの言葉の掛け違いから関係にヒビが入ってしまう。
しかしだからこそ、関係が深まった時の喜びは大きい。
この喜びが感じられる限り、自分達はAKBのメンバーであり続けるだろう。

市川「あ…」

ふと見れば、メンバーの中には渡辺達の姿がある。
渡辺は泣きじゃくりながら何事かを喋っていた。
それを見つめるメンバーの穏やかな顔。
裏切った渡辺を許すという選択。
やはりそれが出来るのがAKBだ。
玲奈と大場達は顔を見合わせ、それからそっとメンバーの輪に加わった。
54 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:08:56.57 ID:bJeVS0wMO
数分後――。

和やかなだった空気は一変し、メンバーは皆一様に険しい表情で遠くの空を見つめている。
メンバーの視線の先にはこちらへ向かって飛ぶ黒い影があった。

高橋「なんなの…あれ…」

河西「もしかして飛行タイプのロボットとか?」

河西が自分の肩を抱くようにして震えた。

高橋「だとしたら厄介だね」

小林「そんな…ロボットなら全部停止したはずなのに…」

メンバーは口々に自分の考えを言い、しかしそのどれもが確信を伴わないまま、謎の飛行物体はどんどん距離を縮めてくる。
そしてついに羽ばたきとともに辺りの砂を舞い上がらせながら、メンバーの前に着地した。

仲川「あ、あきちゃだー!」

身構えていた仲川が、突然大声を上げ走り出す。
高城はいつもの周りを和ませるほんわかとした笑顔を浮かべていた。
飛行物体の正体とは、高城のことだったのだ。

高城「すみません、遅くなりました」

高城が挨拶する。
大家が息を呑んだ。
55名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 16:09:53.51 ID:MxhNJC/d0
一気に読んだけど面白いね!
あっちゃんが気にしてた優子のヴォイドってなんなんだろ
56 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:12:55.59 ID:qAhU43P/0
大家「北原…!」

そして、高城に抱えられ一緒に空を飛んできた北原が、気まずそうに頭を下げた。

北原「あの…すみませんでした」

高橋「きたりえ…無事だったんだ…」

高橋が声を震わせる。
直後、メンバーの間からは歓声と泣き声が上がった。
中でも田野は北原の件について責任を感じていたので、喜びもひとしおだった。
誰よりも早く北原に駆け寄る。

高橋「え?で、あのさ、どうして?」

やがて再会の喜びが一段落した頃、高橋が問いかけた。

北原「あきちゃが助けてくれたんです」
57 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:14:38.25 ID:qAhU43P/0
北原がおずおずと語りだした。
高城から大量のロボットがメンバーのいる中学校へ攻めこもうとしていることを教えられた北原は、裏庭に落ちていたガスタンクからヒントを得た。
自分なら、このガスタンクを使って爆発を起こすことが出来る。
ロボットからメンバーを守ることが出来る。
危険が伴うことは百も承知だった。
だがこれしか方法はないと思った。
その瞬間、北原は自らが犠牲となってメンバーを救うことを決意したのだ。

相談はしなかった。
すれば必ず反対されるだろう。
ただ、爆発の衝撃にメンバーが巻きこまれることがないよう、田野達後輩に嘘をつくしかなかったのは心残りだった。
結果、爆発によってロボットは全滅。
メンバーは危険から逃れた。

北原の予定では、自分は爆発に巻きこまれる死ぬつもりだった。
ところがその時になって、何かが北原の体を掠め取ったのだ。
北原は経験したことのない浮遊感の中、眼下に爆発の真っ赤な炎を見た。
そして、意識を失った。

高城「一旦は里英ちゃんに言われて中学校を離れたんだけど、途中でなんか嫌な予感がして、引き返したんです。そうしたら里英ちゃんを見つけて…助けなきゃって夢中で飛んで…」

飛んできた高城に抱え上げられ、北原は九死に一生を得た。
直後に凄まじい爆風に襲われ、2人は遠くまで流されてしまったが、ちゃんと生きていたのである。
そして高城は意識を取り戻した北原とともに、ここまで飛んできたのだった。
58 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:15:35.38 ID:qAhU43P/0
高橋「2人ともよく無事でいてくれたね。ありがとう…ありがとう…」

すべてを聞き終えた高橋は静かに言った。

北原「や、そんなお礼なんて…」

北原は慌て両手を振った。

篠田「きたりえとあきちゃも戻ってきたし、これで残る問題は…」

峯岸「あっちゃん…」

高橋「あたし、あっちゃんのところに行く!あっちゃんは今頃ボスと対決しようとしてるんだよね?」

柏木「あ、はいそうです」

渡辺「ボスの部屋は最上階の奥です」

高橋「わかった。じゃあ…行ってくるよ。みんなは危険だからここで待ってて」

高橋はそう言い残すと、アジトへ向かって歩き出した。
じっと前を見据えて、ずんずんと進む。

――あっちゃん、遅くなってごめん。今行くから…。

これから先、どんな結末が待っているのか。
考えると足が震え、不安に胸が押し潰されそうになる。
だが高橋は前へ進むことを選んだ。
それがメンバーへ向けて、今の自分に出来る唯一の方法だった。
59 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:16:12.69 ID:qAhU43P/0
高橋「……?」

と、背後で足音がすることに気付く。
それは自分と歩調を合わせ、後ろからついてくるのだ。
振り返る。

高橋「なんで…?」

そこには峯岸と篠田がいた。
高橋と目が合うと、にやりと笑ってみせる。

高橋「待っててって言ったじゃん!」

高橋が泣きそうな顔で言った。

篠田「でもたかみなヴォイド持ってないじゃん」

篠田がさらりと言う。

峯岸「そうだよ。あっちゃんに預けたままでしょ?何の武器も持たずにアジトへ行くなんて危ないよ!」

篠田「あたしとみぃちゃんも一緒に行く。あっちゃんのところへ…行かせて!」

高橋「麻里子…」
60 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:22:55.72 ID:qAhU43P/0
一方その頃、前田は――。

前田「……」

前田はおもむろに腕を振り上げたかと思うと、それを素早く下ろした。
辺りに光が溢れ、手にして高橋のヴォイドが消失する。

板野「あっちゃんいいの?これからボスと戦うのに…」

板野が心配そうに問いかけた。

小嶋「そうだよー。あたしのヴォイド使う?」

小嶋もまた、妙に軽い調子で言う。
しかし前田はゆっくりと首を横に振り、その申し出を断った。

前田「ううん…いいよ」

板野「?」

前田「ずっとみんなのヴォイドを取り出すばかりだった。ヴォイドとはその人の心の在り方。あたしはまだ…その心をさらけ出してない!今がその時なの!」

永尾「前田さん!」

永尾は思わず後ずさった。
前田の左手が閃光する。

前田「……うっ…」

前田の手は、前田自身の胸元へと添えられている。
小嶋は眩しさに目を細めた。
光に包まれる前田。
果たして彼女は何をしようとしているのか――。
61 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:23:56.67 ID:qAhU43P/0
板野「まさか…」

板野は息を呑んだ。
その時背後から慌ただしい足音が迫ってくる。
高城により直接最上階までやって来た高橋達だった。

板野「たかみな…みぃちゃん…」

小嶋「あ、麻里ちゃん来たんだー?」

板野と小嶋は身を寄せて、、3人のためのスペースをあけた。
駆けつけた高橋達は前田の様子を見て、目を見張る。

高橋「何を…してるの…」

すると前田を覆っていた光は弱まり、完全に消えた。
前田が深い息をつく。
高橋の足元を見て、僅かに微笑んだ。

前田「たかみな…良かった足治ったんだ…3人とも来てくれたんだね…」

高橋「あっちゃんそれ…今何を…?」

高橋が尋ねる。
前田は自分の左手を見下ろすと、思い出したように顔の横に持ってきて、ポーズを決めた。
その手首には赤いリボンのようなものが巻きついている。

前田「これがあたしのヴォイド」
62名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 16:24:33.68 ID:VcOrysjVi
普通に感動する(´・ω・`)
映画化したら涙止まらなそうw
完結したらまた一から読み直そう。
ってことで支援。
63 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:25:34.15 ID:qAhU43P/0
板野「あ、あっちゃんの…?」

篠田「ヴォイド?」

峯岸「自分の体から取り出したの?」

前田「うん。みんなの体から取り出せるなら、あたし自身からも出せるんじゃないかって」

高橋「まさかそれで…そのリボンでボスと対決する気?無茶だよ。どんな力かもわかってないのに」

前田「ううん…わかるの。なんとなく、取り出す前から予想はついてたの。あたしのヴォイド…それはみんなと繋がる力。赤い糸…。まりやちゃん、お願いがあるんだ」

前田はそこで、永尾に向き合った。
永尾がびくりと肩を揺する。

永尾「あ、あたしですか?」

前田「うん。この扉の奥にいるはずのボスと対決するには、まりやちゃんのヴォイドが必要なの」

永尾「で、でもあたしのヴォイドは…」

永尾はそう言って、視線を落とした。
前田の考えがさっぱり読めない。
ただ、自分のヴォイドがそれに適しているとは思えなかった。
64 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:27:50.12 ID:qAhU43P/0
前田「他の誰でもない。まりやちゃんのヴォイドが必要なんだよ」

しかし前田は信頼のこもった眼差しを永尾に向け、そう言った。

前田「いいかな?まりやちゃん…」

永尾「あたしは…あたしは…はい…!」

高橋「……」

高橋達が見ている前で、前田は永尾のヴォイドを取り出した。
その瞬間から、前田の胸元にはロケットペンダントが光る。

高橋「まりやちゃんのヴォイドは…」

高橋は驚いた。
こんなペンダント一つで、どうやってボスと戦うというのか。
そして――。
65 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:30:05.74 ID:bJeVS0wMO
小嶋「あ、あっちゃんその顔…」

小嶋が何かに気付いた。
前田の顔を凝視する。
永尾もまた前田を見つめ、ハッと息を呑んだ。
慌てて自分の顔に触れてみる。
そこにはあるはずのものがなかった。
永尾を蝕んでいたキャンサー化の痕跡が、きれいさっぱり消えている。
そして代わりに前田には――。

峯岸「キャンサー化してる…」

前田の頬の辺りは結晶化し、そのせいでぎこちない表情になっていた。

永尾「もしかして前田さん、あたしのヴォイドを取り出したせいで?でも昨日はそんなことなかったのに…」

永尾の頭は混乱した。
ただ、体が元の戻ったことを素直に喜べる状況ではないことはわかっていた。

――あたしのせいだ。あたしのキャンサー化した部分が、ヴォイドと一緒にそっくりそのまま前田さんに移っちゃったんだ。でもなんで…。

永尾「前田さん、ごめんなさい。やっぱりあたしのヴォイドを返してください!そうすれば前田さんの顔も元に戻るはず…」

永尾は切羽詰った声で言う。
思わず前田の腕にしがみついてしまった。
しかし前田は、キャンサー化した頬を出来るだけ揺らして、精一杯の笑顔を作ると、そっと永尾の腕をほどいた。
66名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 16:32:09.61 ID:h/1+cOwsi
@@@@
67 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:32:45.15 ID:bJeVS0wMO
前田「ううん、いいの。まりやちゃんからヴォイドを取り出せば、こうなることはわかってた。あたしが望んでしたことなの。まりやちゃんは悪くないよ」

永尾「前田さん…」

高橋「あっちゃん、どういうことなの?」

高橋がおそるおそる尋ねる。

前田「これがあたしのヴォイドの力ってことだよ、たかみな」

前田の声は何かを悟ったかのように穏やかで優しい。
それがたまらく高橋の心を不安にさせた。

――あっちゃん、何を考えてるの…?

前田「あたしのヴォイドは相手と繋がる赤い糸。それが重なり、リボンになったの。あたしのヴォイドは――相手のすべてを受け入れる。いいことも悪いことも全部、繋がって、引き受けるヴォイドなんだよ」

高橋「まさか…それでまりやちゃんのキャンサー化した部分があっちゃんに?」

前田「そういうこと。びっくりさせてごめんね、まりやちゃん。でもまりやちゃんがキャンサー化してしまったのも、他の人達がみんな消えてしまったのも、全部あたしのせいなの」

前田「あたしがAKBを卒業するって言ったから、ウイルスのバランスが崩れてこんなことになったの。だから…まりやちゃんの体を蝕んでいたこの結晶は、あたしがすべて貰っていくね」

前田のぎこちない笑顔。
永尾は喉に熱いものが詰まったように、うまく声を発することができない。
しきりに首を横に振り続けた。
そんな永尾の肩を、篠田がそっと抱き寄せる。

篠田「あっちゃんの選択を否定しないであげて」

篠田の言葉に、永尾はようやく首を縦に振った。
68 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:34:53.90 ID:bJeVS0wMO
前田「ありがとう麻里子、まりやちゃん。それで…みんな薄々勘付いてると思うけど、この扉の先にはあたしひとりで行こうと思う。ううん、あたしひとりで行かなきゃいけないの」

高橋「何言ってるのあっちゃん!あっちゃんは戦闘タイプのヴォイドを持ってないじゃん!あたしも行く!あたしも一緒に行って戦うよ!」

前田「たかみな…」

前田は嬉しいような困ったような、複雑な色を瞳に浮かべ、高橋を見た。

前田「たかみなにはいっつも助けてもらってたよね。たかみなはずっとあたしの傍にいてくれた。あたしのせいで、たかみなが損することも実は多かったんじゃないかなって、今となっては思うよ」

前田「もし次の機会があるなら、今度はあたしがいっぱいたかみなを甘えさせてあげる。だからあたしの最後の我儘…聞いてくれる?」

高橋「……」

前田「お願いたかみな。あたしにひとりで行かせて。みんなも…お願い」

前田はそう言うと、深々と頭を下げた。

板野「あっちゃん…」

高橋「…何か、理由があるんでしょ?」

高橋はそんな前田の姿からスッと目を反らしたが、しばらくすると低い声で問いかけた。
69 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:36:36.65 ID:qAhU43P/0
高橋「なぜあっちゃんはそんなにもひとりで行きたがるの?あたし達みんな…ずっと一緒だったんじゃん!」

峯岸「そ、そうだよ!」

小嶋「あっちゃーん…」

前田は頭を上げると、ゆっくりと仲間達の顔を見回した。
戸惑いながらも、どこか強い信念を感じさせる永尾。
瞬き一つせず、じっと視線を向けてくる板野。
頬を膨らませ、潤んだ瞳をしている小嶋。
丸い目で、前田の顔を射抜くように見つめる峯岸。
無表情に涙を流す篠田。
そして、唇を噛み、涙を堪えて顔を真っ赤にしている高橋。
前田は静かに語り出した。

70 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:37:53.69 ID:qAhU43P/0
前田「ずっと不思議だった。最初に玲奈ちゃんが攫われて、たかみなは今日まで足の痛みに耐えなければならなくなった。満足に動くことができなくなってしまった。でも…なんで最初に攫われたのが玲奈ちゃんだったんだろう…」

板野「たまたまひとりでいたからじゃない?」

前田「そうだね。それもあるかもしれない。でも、違うかもしれない。レジスタンスはどうしても最初に玲奈ちゃんをあたし達から遠ざける必要があったんじゃないかな」

峯岸「どういうこと…」

前田「あたし達を追い詰めるため。玲奈ちゃんがいなくなれば、その後怪我人が出た時、治療する術がなくなってしまう。そうしたらレジスタンスはもう、あたし達を執拗に狙わなくてもよくなるの。ちょっと攻撃して、怪我を負わせるだけでいいの」

前田「だってこんな状況では、小さな怪我が命取りになるからね。レジスタンスはそれを狙って、あたし達から降伏するのを待ってたんじゃないかな」

篠田「だけどその後もあたし達は降伏なんかしなかった。むしろ玲奈ちゃんを攫われたことで、闘争心が火がついたというか…みんなそれまで以上にロボット狩りやレジスタンスの詳細を探る作業にのめりこんでいったんじゃないかな…」

前田「そうなの。だからレジスタンスはさらにあたし達を追いこむため、優子を殺害した。メンバーからの信頼も厚い優子を殺すことで、あたし達の心をバラバラにし、結束力をなくすことが目的だった」

前田「そしてあたしはレジスタンスの思いどおりに動き、みんなの心、プライドを傷つけてしまった」

永尾「でもそれについてはもう誰も前田さんを責めている人なんていないと思います」

前田「うん、ありがとう…」

前田はそこで、優しく永尾に声をかけた。
そして話を再開する。
71 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:42:38.59 ID:bJeVS0wMO
前田「優子がいなくなってから、なぜかロボットの力が弱まった気がした。それはたぶんたし達を油断させるため。そして時を見て、直接対決を申し出てきた。その対決の場で、ともちんや陽菜、麻里子達が攫われるという事件が起きた」

小嶋「うん…」

前田「ここまでの流れであたしには少しおかしいなって思う点があった。レジスタンスはなぜ玲奈ちゃんのヴォイドの力を知っていたのか。それがわかっていたからこそ、最初に玲奈ちゃんを攫ったわけだし」

前田「確かに玲奈ちゃんはロボット狩りに加わって、一緒に戦場へ出たこともあったよ。だけどその都度ロボットは全滅させていたし、レジスタンスには玲奈ちゃんはおろかあたし達のヴォイドの力でさえ知る手立てはなかったはず」

高橋「もしかして…ロボット自体は無人だったけど、カメラや盗聴器を搭載していたものがあったとか?それでレジスタンスはあたし達の動き、あるいは音声を受信していたってことも考えられるよね?だから玲奈ちゃんのヴォイドが癒しの力だと知って攫ったんだよ」

前田「うん、あたしもそう考えた。だからそれ以上は深く探らなかったの。それにまゆゆがレジスタンスに加担していたから、そこからあたし達の力のことがレジスタンスの耳に入ったって可能性もあるからね」

前田「でもね、昨日あたしは、川栄ちゃんのヴォイドで気付いてしまったの。あ、川栄ちゃんのヴォイドは盗聴器だったんだよ」

篠田「盗聴器?それであっちゃんは何を聞いたの?」
72 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:44:58.78 ID:bJeVS0wMO
前田「アジトの中で話す覆面隊員達の会話。そこで覆面隊員達ははっきりと言ってた。ボスが才加のヴォイドについて教えてくれたって。その他のメンバーのヴォイドについても、覆面隊員達はボスから教えられてるみたいだった」

板野「まゆゆじゃなくて、ボス自身があたし達のヴォイドの力を把握してたってこと?」

前田「そう。おかしいでしょ?ロボット狩りや戦闘に出ていたメンバーならともかく、才加は一度も中学校の外に出ていないのに。どうしてボスは才加やその他のメンバーのヴォイドについて知ってたんだろう?そんなこと…メンバー同士でしか知りえないことなのに…」

峯岸「まさかあっちゃん…」

小嶋「えー?何何ー?」

前田「そう、そのまさか。ボスは…あたし達メンバーの中にいる」

高橋「そんな…嘘でしょ?嘘だよそんなの!」

前田「うん、あたしだってそう思いたいよ。でも状況がそれを物語ってる」

高橋「……」

板野「誰なの?誰がボスなの?あっちゃんはもうわかってるんでしょ?」
73名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 16:45:27.74 ID:cqOEtO4oO
支援
74 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:47:49.19 ID:bJeVS0wMO
前田「…うん。レジスタンスに攫われて、監禁されていたメンバーは救出された。まゆゆも含め、メンバーは今、全員アジトの外に避難してるんだよね?」

高橋「うん。中学校から脱出する時にちかりなが行方不明になってるけど」

前田「状況からみてちかりなは違うと思う」

高橋「だよね。きっと今頃まだ中学校の周辺にいるはず…」

篠田「あれ?」

小嶋「ん?どうしたの麻里ちゃん」

前田「麻里子…わかったんだね?」

驚きの声を上げた篠田に、前田はゆっくりと問いかけた。
篠田が目を丸くしたまま頷く。

篠田「アジトの外に…全員はいない。まだ監禁されたままの子がいるよ」

前田「そう。その子はたぶん、最初から麻里子達のように監禁なんかされてない。攫われたふりをしてレジスタンスの元へ戻り、今もボスとしてこの扉の奥にいるんだよ」

高橋「まさか…ボスは…」
75名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 16:50:11.09 ID:OzmoPRkN0
まさか・・・
76 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:50:40.49 ID:bJeVS0wMO
前田「うん。あたしはこれからその子と話合ってみようと思う。今までちゃんと喋ったことないし、だけどみんなでおしかけても緊張して本音が出せない性格だと思うんだ、その子は。だからあたしがひとりで行く。必ずその子を説得してみせる」

高橋「大丈夫なの…?」

前田「平気。たかみながあたしやみんなにしてくれていたようにするだけだよ。たかみなはずっと傍であたしを見ていてくれた」

前田「でもね、あたしだってずっとたかみなを見てたんだよ。大丈夫。あたしがAKBとして、たかみなの姿から学んだことを、今生かすだけだもん。自分の力を…試したいの」

高橋「……」

板野「行きなよ。あっちゃん」

前田「ともちん…」

板野「でも必ずその子と一緒にみんなのとこに戻ってくるんだよ。約束だよ」

峯岸「そ、そうだよ。あっちゃんばっかり尺取るなんて許さないからね。さっさと済ませて帰ってきなよ」

小嶋「あっちゃん、帰ってきたら一緒にごはん作ろう」

前田「みぃちゃん…陽菜…」

永尾「前田さん、お願いします」

前田「まりやちゃん…」

篠田「あっちゃん今履いてる靴、あたしがプレゼントしたやつだよね?気に入ってあっちゃんにプレゼントしたんだから、大事にしてくれなきゃ困るよ。汚さずに戻ってきてね」

前田「麻里子…ありがとう。あ、あのね、たかみな、」

高橋「行ってきなよ」

前田「え?」
77 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:52:12.48 ID:bJeVS0wMO
高橋「あっちゃんが決めたことを、あたしは信じる。だから後悔がないように行ってきな。待っててあげるから」

前田「ありがとうたかみな…。みんなは先にアジトの外に出て待ってて。ここにいたらまたいつ覆面部隊が襲ってくるかわからないから。あきちゃは…まだその辺飛び回ってるんだよね?あきちゃにお願いして早く!」

前田はそう言って、高橋達を急かすと、扉に手をかけた。
そして振り返るとことなく言う。

前田「行ってきます…」

高橋「あ、あっちゃん…」

高橋が呼びかけたのも虚しく、扉は重々しい音とともに閉じられた。

――あっちゃん…大丈夫だよね…?

高橋は扉に向かって祈る。
篠田が高橋を急かした。
高城が通路の奥、窓の外から手招きをしている。
高橋は様々な思いを振り切るように、篠田に続いて走り出した。
78 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 16:54:50.42 ID:bJeVS0wMO
その時、ボスの部屋へと入った前田は――。

前田「……」

室内は薄暗く、ひんやりとしていた。
一歩一歩を確かめるように前へ進む。
ふいに首筋の辺りに、誰かの息遣いを感じた。
慌てて振り向く。
だがそこには誰もいなかった。

前田「…え?」

――もしかして…優子?あたしを心配してついてきてくれたの…?

心の中で呼びかける。
当然のことながら、相手の返事はない。
だが前田にはそれで充分だった。
体の底から、力がみなぎってくる。
自分は決してひとりじゃないと思えた。

前田「…寒い…」

両手で肩を抱くようにして先へ進む。
と、突然目の前が明るくなった。

前田「ま、眩しい…えぇぇ…?」

そこには巨大な鉱石が鎮座していた。
それは不思議な輝きを放ち、前田の顔を照らしている。
あまりの眩しさに視線を落とす。
すると鉱石の前に誰かが座っているのがわかった。
逆光になっていてはっきりと顔はわからないが、見たことのあるシルエットだ。
その華奢な体つきは――。

前田「やっぱり…ボスはぱるるだったんだ…」
79名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 16:59:10.77 ID:gK7syZa50
支援
80 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:06:56.46 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、高橋達は――。

高橋「…ということなんだ…」

高城により順番にアジトを脱出した高橋達は、メンバーが集まっているところまで戻って来た。
そして、事の経緯を説明する。

宮澤「じゃああっちゃんはまだあの中にいるの?」

篠田「そうだね」

秋元「心配だな…ボスと1対1なんて…」

高橋「大丈夫。あっちゃんはもうボスの正体に気づいているみたいだから。自信があるんだよ」

河西「本当に…大丈夫なの?」

高橋「あっちゃんを信じよう」

宮澤「あーでも気になる。ボスってどういう奴なの?せめて中の様子がわかればなぁ…」

宮澤は地団駄を踏んだ。
何も出来ず、ただ待つしかないことが悔しいのだ。
81 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:08:05.28 ID:bJeVS0wMO
川栄「中の様子なら…聞けますよ」

その時、川栄が子供のように元気よく挙手すると、発言した。

高橋「えぇ?なんで?どうやって?」

川栄「前田さんが中学校を出発する時、あたし抱きつくふりしてこっそり前田さんの服のポケットに盗聴器を忍ばせておいたんです。なんとなく、役に立つかなと思って…」

峯岸「聞かせて!早く!」

川栄「あ、はい。ちょっと待っててくださいね…えーっと確かこのボタンを操作して…」

川栄はそこで腕に巻いていたリストバンドを操作し始めた。
それが受信機になっているのだ。
だがメンバーから一斉に注目されて焦りがあるのか、川栄はその操作に手こずる。
その間に柏木は、隣にいる渡辺にひそひそと問いかけた。

柏木「ねぇ、ボスって誰なの?麻友は会ったことあるんでしょ?」

渡辺「…うん…ボスはね…」
82 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:10:22.13 ID:bJeVS0wMO
その頃、前田は――。

前田「ぱるるちゃん?ぱるるちゃんしっかりして…」

椅子に縛り付けられている島崎の体を、前田は強く揺すった。
気を失っているのか、眠らされているのか、島崎はぴくりともしない。

前田「そんな…どうして…ボスは、ぱるるちゃんじゃなかったの?」

前田の頭は混乱した。
攫われたメンバーのうち、救出されていないのは島崎だけだった。
だから、島崎がボスだと思ったのだ。
しかしこの状況は何だろう。
なぜボスであるはずの島崎が拘束されているのか。
必死に島崎の体を揺する前田の耳に、誰かの足音が届いてくる。

前田「だ、誰…?」

前田はハッとして、島崎から離れた。
しきりに視線を動かし、足音の正体を探る。
その音は、鉱石の後ろから聞こえてくるようだった。
聞きなれた声が、島崎が薬で眠っていることを告げる。

前田「嘘…嘘だよ…なんで…だって…」

前田はいやいやと激しく首を振った。
こんなことが起こっていいのだろうか。
自分の耳が信じられない。
だけど、この独特のハスキーボイスを聞き間違うはずなどなかった。
そして、鉱石の後ろから現れたのは――。

前田「優子…」
83 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:11:27.89 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの外では――。

柏木「優子ちゃん!?」

柏木の驚き声が響いた直後、川栄の腕についた受信機が反応した。
そこから流れてきた音声に、メンバーは硬直する。

梅田「なんで優子の声が…」

宮澤「嘘でしょ?ねぇなんで優子が生きてるの?」

受信機からは確かに前田と、そして大島の声が聞こえてきていた。

渡辺「そう。ボスは…優子ちゃんだよ…」

渡辺がぼそりと呟く。
メンバーの間に衝撃が走った。
そしてざわつきはじめたメンバー達を、高橋が宥める。

高橋「静かに。何か2人で喋ってる。聞こう…」
84 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:14:56.92 ID:bJeVS0wMO
その時、前田は――。

前田「なんで…優子は死んだはずじゃ…」

前田は震える声で呟いた。
目の前に現れた大島が、にやりと笑う。

大島「あれは全部演技だよ。あたしも女優志望だからね。一度いなくなったふりをすれば何かと動きやすい」

前田「優子…なんで…」

大島「知りたい?答えはもう明白なはずだけど」

前田「……」

大島「レジスタンスの目的はこれまでの世界を壊し、新しく作り直すこと。あたしは先代のボスからその座を譲り受けた。そして今日まで、レジスタンスとして密かに活動を続けてきたんだよ」

前田「そんな…嘘だよ!優子がそんなことするはずない!あたしの知ってる強くて優しい優子は、こんなひどいことする子じゃない!」

大島「あたしは変わったんだよ。あっちゃん…あなたと出会ってからね」

前田「あ、あたしと?そんな…あたし達友達だったじゃない!いいライバルだったじゃない!」

大島「そうだね」

前田「じゃあなんで…」
85名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:17:30.30 ID:OzmoPRkN0
ええええええええええええ
完全にぱるるだと思ってた 騙されたw
86名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:19:07.29 ID:7Y9yPmVZ0
優子生きてる予想当たったw
支援
87名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:19:29.54 ID:VcOrysjVi
優子は死んでないと思ったけど、
まさかボスだったなんて(´・ω・`)
とりあえず優子の声に気付く台詞、
梅ちゃんにした作者さんGJ!www
88 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:19:50.43 ID:bJeVS0wMO
大島「あたしとあっちゃんは正真正銘のライバル。総選挙は2人でトップの座を争ってきた。メディアはこぞってあたし達の戦いを煽り、世間は盛り上がった。この異常なまでの熱狂。不思議だよね、あたし達ただのアイドルなのに。疑問に思ったことない?」

大島「教えてあげようか…あたし達がなぜ戦わなければならなかったのか。たかみなも知らなかった、A488-KB型ウイルスの本当の意味…」

前田「なぜ…戦うのか…」

大島「そうだよ」

前田「……」

前田が考え込むと、大島は淡々と説明を開始した。
大島のよく通る声が、室内に響く。
鉱石は先ほどよりもさらに輝きを増し、2人の顔を照らしていた。

大島「A488-KB型ウイルスは人類に感染し、人々をキャンサー化への恐怖に陥れる。その対策として作られたのがAKB。そのお陰でウイルスの働きは抑えられ、人類は平穏な生活を送っていた」

大島「たかみなはそう教えられていたはずだし、あっちゃんにもそう説明したんだよね?」

前田「うん…」

大島「だけど真実はもう少し複雑なの。この世界には、ウイルスは活性化させてしまう力を持つ人間がいる。その人こそ…あっちゃん、あなたなの」

前田「あ、あたしが…?」

前田はハッと息を呑んだ。
信じられなかった。
まさか人類を危険に陥れているのが、自分だったなんて――。
89 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/07/11(水) 17:26:13.70 ID:kFr+paDai
前田「うそだよ•••なんで•••だって•••ちかりな」
90 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:27:54.88 ID:bJeVS0wMO
前田「じゃあ…あたしがいなくなれば、ウイルスはその働きを失うの?あたしがいなくなりさえすれば…」

大島「ううん。あっちゃんはこの世界に必要な人間だよ。そもそもなぜウイルスに感染すると、人々はキャンサー化して消滅してしまうのか。それはA488-KB型ウイルスが、人々の負の感情を刺激するからなんだよ」

大島「だからといって、突然ウイルスの働きを抑えると、やっぱり人は死に至る。自殺してしまうんだ」

前田「どうして…ウイルスの力を抑えれば、みんな助かるんじゃないの?」

大島「優れた芸術は、それを作る芸術家の悲しみ、怒り…負の感情が根源となっている。人はそんな芸術に触れ、感動するんだ。人間には潜在的に負の感情を求める意識が備わっているんだよ。だから、ウイルスに感染している間はある種の幸福感を持っているはず」

大島「そしてそのウイルスが働きをやめた時、心に残るのは大事な物を失った時と同じ、空虚感。それに耐えられず、人は自殺してしまうんだ。そのために、ウイルスを活性化させずにぎりぎりのところで活動させる。生殺しの状態に置いておく必要があるの」

大島「それが出来るのは世界でひとり、あっちゃんだけ」

前田「……」
91 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:29:22.48 ID:qAhU43P/0
大島「だけどあっちゃんひとりの力を野放しにしていたら、ウイルスはその力を増大するばかりで、やがて人類はキャンサー化してしまう。だからあっちゃんの力とバランスを取るための、今度はウイルスの力を弱める人間が必要になってくる。それがあたし」

大島「あっちゃんが陰なら、あたしは陽。あたしが光なら、あっちゃんは影。そうやって世界はバランスを保っていた。選挙が盛り上がるのも当たり前だよ。どちらが勝ち、どちらが負けるか」

大島「公には知らされてないけど、あたしとあっちゃんのバランスに人類の存亡がかかってるんだから、人は潜在的にそのことを感じとり、注目せざるを得なくなる」

大島「あたしがあっちゃんになかなか勝てなかったのも、あっちゃんが負の感情を象徴しているから。多かれ少なかれ、人は誰でも暗いところに惹かれるんだもんね」

大島が発する言葉の一つ一つが、前田の心に突き刺さる。
ならば、自分はこれからどうしたらいいのか――。

前田「だったらなぜ…秋元さんはあたしに卒業を許したんだろう」

大島「あっちゃん、最近明るかったよね?前みたいにけらけら笑うようになって、なんか…吹っ切れたみたいな」

前田「そ、そうかな…自分ではよくわからないけど」

大島「たぶんそれを見て、秋元さんの考えが変わったんじゃないかとあたしは思ってる。あっちゃんが卒業し、ウイルスを活性化させる力が弱まったのなら、また新たにあっちゃんのような人間を作ればいい」

前田「あたしのような…?どういう意味?」
92 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:30:57.30 ID:qAhU43P/0
大島「あっちゃんは長年センターとしての重圧に苦しみ、もがき、傷ついてきた。そこから生まれる負の感情がウイルスを活性化させる。あっちゃんがAKBを去ったなら、また新たなセンターが指名される」

大島「センターに指名された子はこれからたくさんの批判に耐え、苦しみ抜くんだよ。最近までのあっちゃんのようにね…。それが本当の意味での抗ウイルス対策…AKBプロジェクトなんだ」

前田「そ、そんな…。ひどいよ…新しくセンターに指名された子は、自分が求めるアイドル像を追求できないじゃない!あたしと同じレールに無理やり乗せられて、その子の個性を殺すの?」

大島「そういうことになるね…」

前田「だったら誰がセンターになっても同じじゃない…何も変わらない…」

大島「そう、だけどそんな悲しみももうなくなる。これから新しい世界が始まるんだ。あたし達の手で、新世界を作ろう、あっちゃん」

前田「優子…」

大島がそっと前田に手を差し伸べる。
前田はその小さな手をじっと見つめた。
時にメンバーを優しく抱きしめ、小柄な体を大きくみせるためのダンスに一役買う、世界でたったひとりの、大島優子の手。

――この手を…悪に染めさせるわけにはいかない…。

前田はぎゅっと目を瞑ると、ふるふると首を横に振った。

前田「あたしは…優子の意見に賛成できない」
93 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:32:09.43 ID:qAhU43P/0
大島「何でよ?あっちゃんだって随分苦しんだはずでしょ?これからはウイルスのバランスだなんだって気にせずに、ずっと一緒にいられるんだよ?もうあたし達、競わなくていいんだよ?」

前田「違う…あたしが求める世界は、そんなんじゃない!」

大島「あっちゃん…」

大島は悲しげに目を伏せると、すっと手を下ろした。

前田「あたしが求める世界…あたしが好きな世界それは…優子がいて、みんながいて、時に仲間として、時にライバルとして高め合える、そういうAKBがいる世界なんだよ!」

大島「だったらさぁ!!」

前田がそう言い切ると、大島が叫んだ。

前田「優子…?」

大島「だっらさぁ、なんであっちゃんは卒業なんて決めたの?なんでAKBを辞めるの?なんでなんでなんで?みんなあっちゃんのことが大好きなのに」

大島「あっちゃんだってメンバーのこと好きでしょ?ずっとメンバーと一緒にいればいいじゃん。なんでわざわざ卒業なんてするんだよ!!」

大島が早口でまくし立てる。
前田はじっと耳を傾けた。
大島が肩で息をする。

前田「メンバーのことは…大好きだよ。だから、卒業するの」

大島「?」
94 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:33:17.11 ID:qAhU43P/0
前田「あたしがAKBを去れば、また新たな子が、あたしのいた場所で新しい夢を見られる。アイドルは夢を与える職業なんだよ。そして、夢を与える人は、自分自身も夢を見ていなければならないと思うんだ」

前田「あたしはAKBに入って、辛いこともたくさんあったけど、そのぶん素敵な夢をたくさん見させてもらった。すごく幸せだった。だからこれからは、自分の力だけで夢を見ていかなきゃいけないって思ったの」

大島「あっちゃんは本当に…それでいいの?」

前田「うん、自分で決めたことだから」

大島「だけど…あたしはまだ…納得してないんだよ!!」

前田「キャッ…」

大島は隠し持っていたピストルを、前田に向けた。

前田「何するの優子…」

大島「約束して。ここで宣言して。卒業を取りやめるって。今ここで宣言したら、助けてあげる」

前田「い…嫌だよ。あたしには他に…やらなきゃいけないことがあるの」

前田はしかし、頑として大島の言葉に頷かない。

大島「だったら今ここであたしと戦う?あたしを殺せる?誰かのヴォイド持ってきてるんでしょ?」

前田「た、戦わないよ。あたしが持ってるのは、あたし自身のヴォイドと、まりやちゃんのヴォイドだけ」

大島「まりやんぬの…?」

前田「永尾ちゃんだよ!」

大島「え?何でそんなもの…」

前田「それより優子、お願いだから考え直してよ!」
95 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:33:58.61 ID:qAhU43P/0
大島「嫌っ!!簡単なことだよあっちゃん。あっちゃんが卒業を辞めれば、また新しい世界で、みんな一緒に暮らせるんだよ!」

前田「そんな偽りの平和なんていらない!」

大島「あっちゃん…頑固だよね。そういうとこ好きだったし、尊敬もしてたけど…今は、」

前田「優子!!」

前田が叫ぶ。
大島はなぜかピストルを天井に向けたかと思うと、もがくような仕草を見せた。
まるで誰かに操られているようである。

前田「?」

大島「放せ…放して…!!」

その時、前田は自分の目を疑った。

――どこから現れたの…?

誰かが大島を羽交い絞めにし、ピストルを取り上げようとしている。
96名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:35:07.85 ID:ClBXrxUm0
支援
97 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:35:26.79 ID:bJeVS0wMO
大島「放してってば…ちかりな!!」

大島を抑えているのは近野だった。
近野は必死の形相で大島の自由を奪い、ピストルを取り上げようと動いていた。
大島は顔を真っ赤にして抵抗するが、近野の根性には負ける。
とうとうピストルを取り落とし、その場に崩れ落ちた。

前田「ちかりな…」

近野「前田さんそれ、早く拾ってください!」

ピストルは床の上を滑り、前田の足元までやってくる。
前田はそれを拾い上げると、さっと後ろ手に隠した。

前田「どうして…ここにいるの?」

近野「あたし心配で…前田さんと一緒に入って来たんです。外での会話も、ずっと聞いてました」

前田「嘘…どこに隠れて…?全然気付かなかった」

近野「ヴォイドですよ」

近野が腕につけたブレスレットを掲げて見せる。
98名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:36:08.60 ID:OzmoPRkN0
近野△
99名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:36:18.13 ID:kFr+paDai
>>89
あながち間違ってなかったwww
100 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:36:47.74 ID:bJeVS0wMO
近野「このヴォイドの力で体を透明化してたんです」

前田「じゃあ…入った時あたしが首筋に感じた息遣いは…」

近野「すみません。興奮してたんで鼻息荒くなっちゃって…」

前田「ずっと、傍にいてくれてたんだ…」

近野「はい!」

近野がにっこりと笑う。
後をつけていたことに悪びれた様子もなく、むしろ快活とした近野らしい笑顔だった。

大島「ちかりな!!何してくれてんの!」

大島は立ち上がると、笑顔の近野に詰め寄った。

大島「もうちょっとだったのに!」

近野「あ、すみません…」

だがやはり近野は笑顔を保ったままである。
それを見た大島は脱力した。

大島「もう…」

近野「あ、それで…もう喧嘩は終わりですよね?どうしますか?前田さん」

近野が元気よく尋ねる。
前田はゆっくりと大島に近づいた。
101名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:37:20.42 ID:gK7syZa50
マジで近野△
102名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:38:31.38 ID:7Y9yPmVZ0
ミラクルミラクルきっとくるううう!!!!
103 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:39:16.60 ID:qAhU43P/0
前田「優子に…見てほしいものがあるんだ…」

前田はそう言うと、ロケット型のペンダントを開いた。

前田「まりやちゃんのヴォイド…これはね、過去の映像を映し出すことができるの…」

大島「映像…?」

前田「見て…」

ペンダントから光が溢れ、それが徐々に大きくなる。
輪郭を作り、動きはじめた。
大島の目の前に現れたのは在りし日のステージ袖の風景。
ソロ曲を控え緊張する大島に、音程を教える増田の歌声。
力強くもきれいな歌声。

――そうだ、あたし…この声に何度も助けられてきた…。

場面は切り替わり、ふざける秋元。
一点、気を抜くメンバーに激を飛ばす真剣な表情。
情熱的な視線とパワフルなダンス。

――やっぱり才加のこういうメリハリがあるところ好きだな…。そのわりに女らしくて優しくてさ…。

場面が切り替わる。
楽屋の隅で黙々とダンスの練習をする梅田。
凛とした表情。

――梅ちゃん、いつも頑張ってたな…。そんな梅ちゃんを見てるとあたしたくさん勇気をもらえた…。
104 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:39:56.77 ID:qAhU43P/0
大島「みんな…」

映像は様々な場面を映し出す。
分け隔てなくメンバーに声をかける宮澤。
楽屋の隅でこそこそと話す柏木と渡辺。
河西の安らかな寝顔。
後輩を気遣う板野。
小嶋にちょっかいを出す篠田。
峯岸の上目遣いと、くるくる変わる表情。
高橋に泣きながら相談している、誰かの背中。
すべて、何のへんてつもない日常の風景だ。
だがそのどれもがたまらなく懐かしく、美しい。
映像に出てくるメンバーはみんなキラキラと輝いている。
この美しい日々を壊したのはそう――自分だ。

大島「…あたし、なんてことを…」

大島が再び崩れ落ちる。
前田はそっと声をかけた。

前田「ずっと不思議だったの。ヴォイドを取り出す時、相手の心が…感情があたしに流れこんでくる。怒り、恐れ、優しさ、希望…すべての感情が伝わるの。だけど、優子のヴォイドを取り出す時は、悲しみしかなかった。優子は…何をそんなに悲しんでいるの?」

大島「そんなの、決まってるじゃん。あっちゃん、あなたがいなくなることだよ」

前田「でも卒業したって前みたいに一緒にごはん食べ行ったり、遊べるよ?」

大島「違うの。あたしはあっちゃんがいるAKBが好きだったの。だからそれがなくなるのが…たまらく怖くて、悲しかった」

前田「優子…」
105 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:41:12.14 ID:qAhU43P/0
大島「世界を壊すとか新しい世界を作るとか、本当はどうでもいいの。ただ、今のAKBを続けたかっただけ。でも…やっとわかったよ、あたし。メンバーがいれば、それがAKBなんだって。それなのにあたしはみんなになんてことを…」

前田「ボスといっても、勝手に動いていたのは覆面隊員のほう。そうだよね?じゃなかったら優子がメンバーを危険な目に遭わせるわけないし。それに、攫ったメンバーを監禁するだけで殺さなかったのは、優子が覆面隊員にそう指示してたから。でしょ?」

前田「優子はヴォイドを取り出すことに悩んでいたあたしに、優しい言葉をかけてくれた。勇気をくれた。メンバーを守るため必死にロボットと戦ってくれた。それが優子の本心だったって、あたしわかってるよ」

前田「だから優子…。今からでもみんなのところに行って。遅くなんかないよ。まだきっと、間に合うよ」

大島「でもあたしは…」

前田「後悔してるならずっとAKBにいればいいよ。みんなが許してくれるまで絶対に卒業なんかしちゃ駄目だよ?これから先、まだまだメンバーと一緒にいてあげてよ」

大島「あっちゃん…」

前田「あー!あたしには卒業するなって言ったくせに、自分の時だけ辞めたいなんてなしだからね?」

大島「い、言わないよそんなこと!でもあっちゃん、本当に卒業するんだね…。これからどうするの?レジスタンスに破壊された世界で、あなたは…」

前田「あたしは…」

前田はそこで言葉を区切った。
ぎゅっと拳を握る。
106 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:42:17.87 ID:qAhU43P/0
前田「あたしは…ウイルスに支配されたこの世界を変えたい!メンバーがこれからもAKBとして…抗ウイルス対策でなくて本当の意味でのアイドルグループとして、安心して活動できる。そしてそれを求めるファンがいる。そんな当たり前の世界を再び取り戻したい」

前田「教えて優子、レジスタンスのボスだったあなたなら、その手掛かりを知ってるんじゃないの?」

大島「…手掛かりは…ないよ」

大島はしばらく沈黙を続けていたが、仕舞いにはぽつりとこぼし、肩を落とした。

前田「そんな…ボスなら知ってると思ったのに…」

前田もまた項垂れた。
期待外れだったのか。
せっかくここまで来たのに。
落ち込む前田を、大島はじっと見つめていた。
そして、ゆっくりと口を開く。

大島「だけどたった一つだけ、方法はある」

前田「えぇ?」

前田は伏せていた顔をパッ輝かせ、視線を上げた。
107 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:44:30.77 ID:bJeVS0wMO
前田「方法って?教えて優子」

大島「いいけど…誰も絶対に実行できないんだよ。ボスであるあたしでさえ無理なんだ」

前田「でも今方法って…」

大島「空想だよ、全部」

前田「空想でもなんでも、可能性があるなら話してよ」

前田が大島に詰め寄る。
大島はなぜかそこで、ぎりぎりと前田を睨んだ。
目が血走っている。
それほどまでに辛い方法なんだろうか――。

大島「わかった、話すよ…」

前田「……」

大島「ぱるるの後ろにある鉱石。あれが何かわかる?」

前田「ううん…」

大島「あれがすべての根源なんだよ。A488-KB型ウイルスの母体とでも言うべきかな?」

前田「うん」

前田は短い返事をして、大島の話に聞き入った。
108 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:47:57.20 ID:bJeVS0wMO
大島「だからあの鉱石を破壊すれば、ウイルスの力は徐々に弱まることになる。この方法ならウイルスに対する禁断症状も起きないから、自殺もない」

大島「それにね、あの鉱石はレジスタンスの切り札なんだよ。あれを保有しているからこそ、レジスタンスは目的を忘れずにいる。レジスタンスの生命線といってもいい」

大島「もしあれが破壊されれば、レジスタンスは何も持たない、ただ武力に頼るだけのテロ組織へと堕ちるだろうね。そうなったらもうレジスタンスの人間はここを去ると思う。組織の人間がいなくなれば、自然と武力も弱くなる。レジスタンスは…自然消滅」

前田「じゃあ早くあの鉱石を壊そうよ。ね?優子そうしよ?」

大島「誰にも実行できないって言ったよね?あたし」

前田「でも、誰かがやらなきゃ…」

大島「だから無理なんだよ。その鉱石を破壊しようとした人物は、その衝撃で一気にキャンサー化して消滅してしまう…死んじゃうんだよ…」

前田「……」

大島の告白に、前田は唇を噛んだ。

大島「それに破壊するには特別なヴォイドが必要になる。先代からボスの座を譲り受ける時、そのヴォイドにだけは気をつけろと忠告された」

前田「ヴォイド…」

大島「そう。この世で唯一、A488-KB型ウイルスを断絶することの出来るヴォイドそれは…鋏型をしているらしい」
109 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:49:16.57 ID:bJeVS0wMO
前田「あ、それってもしかして――ぱるるちゃん…」

前田はそこで、島崎のほうを見やった。

島崎「……んっ…」

タイミング良く、島崎が目を覚ます。
自分を見つめる前田と大島、近野に気付き、怯えた表情を浮かべた。

島崎「あの…」

前田「気がついたの?もう大丈夫だからね」

島崎「……」

近野「立てる?いいよ、あたしに掴まって」

島崎「え……」

近野が甲斐甲斐しく島崎に手を貸す。
島崎は今の状況がわからない上、自分が眠らされていたことを思い出し、腰が引けてしまっていた。
一旦は立ち上がったものの、すぐにその場にへたりこんでしまう。
その間に、前田は再び大島と向き合った。
110 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:51:02.69 ID:bJeVS0wMO
前田「だからぱるるちゃんを攫ったんだね…」

大島「そう。一番の脅威は、手元においておくほうが安全なんだよ」

前田「……優子…、あたしね、」

前田が何かを言いかける。
その時、2人の前に黒い影が落下してきた。
前田は反射的に天井を見上げる。
一方大島は、落下してきたものを凝視した。
落下してきたもの。
落下してきた者――。

大島「由依…」
111 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:51:35.06 ID:qAhU43P/0
2人の目の前で、横山は床に打ちつけた腰をしかめ面でさすっている。
それから前田の姿を確認し、慌てて飛び起きた。

横山「前田さん!!」

前田「由依ちゃん…来てくれたの…?」

前田がおそるおそる問いかける。
横山は即座にそれを否定した。

横山「違います!」

前田「え…」

横山「わたし、ずっと上で話を聞いてました。わたし、前田さんに言わなきゃいけないことがあるんです。そのためにダクトの中を進んでここまで…わたしは、わたしのためにここへ来たんです」

横山はそう言うと、ピンと姿勢を正し、前田を見据えた。

横山「前田さん、みんなに謝ってください!」

前田「謝る…。そうだね、あたしはこれまでメンバーの図々しくメンバーのヴォイドを使い続けて…みんなに謝らなきゃいけないね」

前田が声を落とす。
すると近野が割りこんできた。

近野「謝るって…前田さんは昨日の校内放送で、ちゃんとメンバーに謝ったじゃないですか」
112名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 17:52:52.80 ID:h/1+cOwsi
真面目か
113 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:53:21.75 ID:qAhU43P/0
前田「ちかりな…でもね、あたしという存在自体が、この世界を…AKBというシステムを作り出す要因になったことは間違いないんだよ」

前田「次のセンターが、またあたしと同じ苦しみを味わい、同じレールを歩かされる。そうやって次々に人を代え、世界を維持していくしかないんだよね」

横山「そうです。そしてそのシステムを、前田さんは今ここで終わらせようとしている。謝ってください!」

大島「え?まさかあっちゃん、本当にあの鉱石を壊すつもり?そんなことしたらあっちゃんは…」

前田「うん…」

横山「前田さんがいなくなればすべて解決する問題じゃないですよね?前田さんを失った後、わたし達はどうすればいいんですか?前田さんがいない悲しみを、メンバー全員に味合わせるつもりですか?」

横山「勝手ですよ。結果的に世界を救えれば、メンバーのことは無視ですか?そんな我儘許されません。ちゃんとみんなのところに戻って謝ってください、前田さん。そして…考え直してください」

前田「由依ちゃん…悪いけど、それは約束できないんだ…」
114 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:54:09.49 ID:qAhU43P/0
横山「そんな…ほんならわたしのヴォイドを取り出してください!わたしはまだ一度も前田さんにヴォイドを取り出してもらっていません」

横山「もしかしたらわたしのヴォイドが、ぱるるよりもうまく、安全に鉱石を破壊できるかもしれないじゃないですか。そうしたら前田さんは死ななくて済みますよね?」

横山は切羽詰った顔で言うと、前田に詰め寄った。
横山は信じているのだ。
またメンバー全員で集まり、一緒に過ごせる日を。
あの日常が再び戻ってくると、信じている。

前田「ごめんね。あたしもうわかっちゃったんだ。由依ちゃんのヴォイドでは、この鉱石を破壊することはできない。由依ちゃんのヴォイドは、もっと別の力なの…」

横山「そんな…わたしのヴォイドは…一体なんなんですか…」

前田「由依ちゃん…!!」

前田は素早く左手を伸ばし、横山に声を発する間さえ与えず、ヴォイドを取り出した。

横山「……」

前田「これが由依ちゃんのヴォイド。救いのヴォイド」

横山「わたし…」

前田「2人ともあたしから離れて!!」

横山が何か言いかけた時、前田は隠し持っていたピストルを取り出し、2人に向け構えた。
大島と横山が硬直する。
それは先ほど大島から取り上げたピストルだった。
115 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:55:12.23 ID:qAhU43P/0
大島「あっちゃん無茶はやめて!!」

大島が叫ぶ。
しかし前田はそれを無視して近野と島崎のほうまで駆け寄った。
近野を突き飛ばす。
と同時に、島崎の腕を取った。

横山「前田さん!!」

近野「痛てて…」

前田「ごめんね、ちかりな。許してね。みんな…みんな…ごめん」

前田が島崎の体へと手を伸ばす。

島崎「…うっ…」

ヴォイドを取り出した。
一見するとただの鋏。
大きさが巨大なだけで、これのどこに鉱石を壊す力が備わっているのかわからない。
だけど、もうこれしか方法はないのだ――。

前田「ぱるるちゃんごめん…!」

そう呟くと、前田はそっと島崎から離れ、鉱石に向き合った。
それからゆっくりと大島達のほうを振り向く。
116 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:55:51.54 ID:qAhU43P/0
大島「そうだちかりな!ヴォイドを使って!また透明化してあっちゃんからピストルを取り上げるんだよ!」

大島が近野に向かって叫ぶ。

前田「無駄だよ。ちかりなのヴォイドはさっき、ちかりな自身の体に戻したから使えないよ」

近野「あ、ほんとだブレスレットが消えてる…」

大島「あっちゃん…」

大島は前田のもとへ駆け寄ろうとした。
しかしその足元に向け、前田は容赦なくピストルの弾を放った。
弾は大島の足を避けたが、あと数センチずれていれば危なかっただろう。

前田「またこっちに来ようとしたら、次は本気で撃つよ」

大島「……」

前田「行って優子!3人を連れてここから出るの!お願い!」

大島「嫌だよ。そうしたらあっちゃんは鉱石を破壊して、自分も死ぬつもりなんでしょ?」

前田「どっちにしたってあたしはもう一部キャンサー化してる。今ここで鉱石を壊さず生き延びたとしても、いずれは死ぬ運命。だから最後にあたしの我儘…きいてよ。お願い…」

大島「……」
117 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:57:17.68 ID:bJeVS0wMO
横山「でも、」

大島「由依!!」

横山が一歩前に踏み出す。
今度は前田は撃たなかった。
しかし横山の足はそこで止まる。
大島が横山の腕を取り、引き止めていた。

横山「放してください、優子ちゃん!」

大島「…ここから出よう」

横山「え…?」

横山はハッとして、大島を見つめた。
大島は硬い表情で、じっと前田に視線を向けたまま言う。

大島「決められた立ち位置があるんだよ。あたし達は一歩下がって、センターを引き立てるべきなんだ。AKBのセンター…あっちゃんをね。あっちゃんが決めたことなら、それに従おう」

横山「優子ちゃん…」

前田「ありがとう、優子」

大島「行くよ!ここから出るんだ!ほら、ちかりなとぱるるも…早く!!」
118 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 17:57:58.90 ID:qAhU43P/0
一方その頃、アジトの外では――。

柏木「あ、雨…」

柏木は空を仰いだ。

宮澤「やっぱり降ってきたか…」

メンバーは川栄のヴォイドにより、アジト内での前田達の会話をすべて聞いていた。
大島の想い。
前田の決意。
ショックだった。
誰もがうなだれ、口をつぐむ。
重苦しい空気が漂う中、最初に声を発したのが柏木だった。
それをきっかけとして、押し黙っていたメンバーが口々に語り出す。
ある者は他に方法がないのかと探り――。

秋元「こんなの滅茶苦茶だろ?別に今すぐ壊さなくたって、後でよく調べて…あ、ほら、科学的な面で鉱石を消滅させる方法とか…」

そして、ある者は前田が考え直すよう説得しようと言い――。

峯岸「ちょっと待ってみんな、こんなことしてる場合じゃないよ!早くアジト行こう。あっちゃんを止めよう」

そして、ある者は前田との思い出を口にし――。

小嶋「あっちゃんと一緒にごはん食べるとさ、すごくおいしく感じたよね。ほら、あっちゃんよく食べるから…。ね?麻里ちゃん」

そして、ある者は静かに涙する――。

篠田「あっちゃん…」
119 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:00:01.79 ID:bJeVS0wMO
一方で梅田は大島のことを心配していた。

――優子が戻ってきたら、なんて声かけたらいんだろう…。

しかし余計な言葉を交わさなくとも、大島とは分かり合える気がした。
大島が戻ってきたら、ただ傍にいてあげようと心に決める。

河西「ねぇ、たかみな…」

河西は窺うように、高橋に声をかけた。

高橋「こんな結末…全然嬉しくないよ。どうしてあの時、あの扉の前で別れる時、あっちゃんはあたしに何も言ってくれなかったんだろう…」

河西「…たぶん、たかみなに依存したままじゃいけないって思ったんじゃないのかな…」

高橋「そんな…依存だなんて…」

河西「そうだね…」
120 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:01:26.13 ID:bJeVS0wMO
高橋「あたしとあっちゃんは、どちらかがどちらかを支えるなんて関係じゃない。あたし達は…友達だったんだ。これからもずっと、友達…」

河西「うん…」

高橋の言葉に、河西は感慨深げに頷いた。
そして2人の関係性を、心底羨ましいと思った。

板野「あ、優子達が戻ってきた…」

板野が気付いて、メンバーに知らせる。
その瞬間、もう余計なことを考えるのはやめようと思った。
妙な小細工も、演出もいらない。
AKBのことを、前田のことを考えるあまり起こしてしまった大島の行動。
許されないことではあるけれど、その根底にある想いは、誰にも非難することは出来ないのだ。
だから今は、ありのままの心で、大島と向き合おう。
そして、受け入れよう――。
121 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:03:13.21 ID:bJeVS0wMO
その時、前田は――。

前田「これで…すべてが終わる…」

前田は巨大な鉱石に向き合っている。
手には島崎のヴォイド――鋏――。
鉱石はまるで自身の危機を感じ取ったかのように、激しく点滅していた。

前田「……!!」

鋏を振り上げる。
一気に突きたてた。
鉱石はその輝きを失い、ゆらゆらと揺れ出す。
すぐに島崎のヴォイドが本人のもとへ戻るよう念じた。

前田「あぁぁ…」

そして、鋏を握る左手から順に、前田の体はキャンサー化していく。
全身の感覚が消えていく。
もう、音を聞くことも、声を発することもできない。
かろうじて残っていた視覚で、前田は鉱石が破裂する瞬間を見た。
それが最後だった。
122名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:04:08.71 ID:cqOEtO4oO
支援
123 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:05:13.83 ID:bJeVS0wMO
その時、アジトの外では――。

高橋「アジトごと爆発する!みんな伏せてー!!」

高橋が叫ぶ。
メンバーは頭を抱えた。
その時、誰かが走り出す。

柏木「麻友ー!!」

今度は柏木が叫んだ。
メンバーを守るように、正面へ立った渡辺。
その手には、自身のヴォイドである盾が握られている。
渡辺がこれまで発したことのない大声で言った。

渡辺「岩田ちゃん、盾を硬化させて!お願い…一緒にみんなを爆発の衝撃から守るの!」

岩田「は、はい…」

岩田がよろよろと腰を上げると、不恰好な姿勢で渡辺のもとに走り寄った。

渡辺「みんなは早く盾の後ろへ!急いで!」

その言葉に、メンバーは渡辺の背後へと滑りこむ。
直後、轟音とともにアジトは爆発した。
メンバーは渡辺の盾のもと、辺りが静まるのを震えながら待つ。

――終わったんだ…。

言いようのない喪失感が、メンバーを襲った。
124 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:06:53.68 ID:bJeVS0wMO
渡辺「もう…大丈夫みたい…」

どれくらい時間が経ったろうか。
渡辺がぼそりと呟いた。
メンバーはぞろぞろと盾のもとから這い出てくる。
そうして呆然と辺りを見回した。
そこには――何もなかった。
わずかに残っていた建物も、瓦礫の山も、停止したロボットも全部――。

柏木「何もないよ…」

最初は小降りだった雨は、いつしか勢いを増し、メンバーの肌を叩きつけていた。
灰色のぬかるんだ土が、足元を汚す。
それ以外、辺りには何もない。
自分達が暮らしてきた街の断片は、跡形もなく吹き飛ばされてしまっていた。

高橋「こんなのってないよ…何もなくて…あっちゃんもいなくて…あたし達だけでこんな世界を…どうしろっていうの…」

高橋はその場に崩れ落ちると、手や服が汚れることもいとわず、地面を殴った。

峯岸「たかみな…」

その時、この場の気まずさから押し黙っていた大島が、何事かを横山にささやく。

横山「…そうですね…」

横山は大島の言葉に数回頷くと、手にしていたものを天へ向け掲げた。
125 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:08:26.96 ID:bJeVS0wMO
大家「横山?なんで鈴なんか持ってんの?」

横山「前田さんに取り出してもらったんです。これがわたしのヴォイド…!!」

そして横山は願いをこめ、その鈴を振るった。
辺りに涼やかな音が響く。
瞬間、メンバーを取り囲む世界が、目まぐるしく動きはじめた。
周囲には色が溢れ、様々な音が響く。

篠田「これは…」

小嶋「えー?なんでー?」

世界は元の状態を取り戻し、街は完全に機能していた。
なかったはずの木々や草花、建物、道路などが出現し、柔らかな光がメンバーを照らす。

柏木「あ、雨やんだんだ…」

宮澤「それよりもほら、人が…たくさん…」

河西「キャンサー化した人達も元に戻ってる!動いてる!」

梅田「みんな何事もなかったように生活してるよ…」

大島「やっぱり…」

梅田「ん?」

大島の言葉に、梅田が不思議そうに首をかしげる。
126 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:09:50.30 ID:bJeVS0wMO
大島「あっちゃんは最後に言ってた。やっぱりあっちゃんの予想は合ってたんだ。由依のヴォイドは、救いのヴォイドだって…」

横山「わたしのですか?」

大島「そう。古都京都で生まれ育ち、日本の美を愛する心が備わっている横山だからこそ持つことが出来たヴォイドの力。それは――かつての美しかった世界を取り戻す力」

横山「そんな…じゃあ前田さんは全部見越してたんだ。わたしが前田さんの元に現れることも、ヴォイドを取り出してもらうことも、こうなること全部…」

大島「そうみたいだね。やっぱあっちゃんはすごいよ…」

横山「これが…前田さんがわたしに託してくれた世界。前田さんが見たかった風景なんですね…」
127 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:12:18.14 ID:bJeVS0wMO
1年後――。

大島「……」

待ち合わせ場所に入った大島は、きょろきょろと目当ての席を探した。
渋谷のカフェ。
大通りから外れているため静かではあるが、人の多さは相変わらずだった。

峯岸「優子ー?こっちこっち!」

峯岸の声がする。
そちらを向くと、メンバーはすでに集合していた。
それぞれ好みの飲み物を片手に、大島へ手を降っている。

大島「ごめんねー。撮影が長引いちゃって…」

大島は帽子を取りながら、みんなの集まる席へと駆け寄った。
ちゃっかり小嶋の隣へ腰を下ろす。

高橋「あー、そっかドラマだったね…」

大島「そうなのー。ほんとごめん」

宮澤「大丈夫だよ。ともーみだって今来たとこだし。てか信じられる?こんな日にもともーみ寝坊するんだよ?」

河西「え?だって眠かったんだもん…」

宮澤「まったく、今日は1年ぶりにみんなが集まる日なんだよ?」

河西「ごめーん」
128 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:13:47.84 ID:bJeVS0wMO
大島「1年、か…。なんかあっという間だったね」

高橋「うん、そうだね。あの日から…1年…。信じられないよ。世界はすっかり元通り。あんなことがあったなんてほんと嘘みたい…」

大島「あの時はほんと…ごめんね…」

秋元「ばっ、馬鹿優子!せっかくの日にしんみりするのはナシだよ」

大島「……」

篠田「あ、どうする?ひとまず乾杯する?優子何か注文しなよ」

篠田が空気を変えるように言う。
大島へメニューを差し出した。
大島はしばらくそれを眺めていたが、結局何も注文せず閉じてしまう。

横山「頼まないんですか?」

大島「ううん、いい。全員集まってからにする」

高橋「あれ?でもさっき、ちょっと遅くなるってメール来たよ」

大島「え?マジで?」

板野「映画の番宣があるんだって」

北原「公開したら観に行かなきゃですね」
129名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:14:22.89 ID:OzmoPRkN0
おっとこれは
130 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:15:21.59 ID:bJeVS0wMO
篠田「実は…じゃーん!全員分前売り買っておいたよー」

小嶋「えー?麻里ちゃんすごーい」

篠田は手早く映画のチケットを全員に配った。
受け取った大島は、にんまりと笑い、宣伝文句に目を落とす。
それからうっとりとため息をついた。

大島「主演かぁ…」

高橋「あの子の夢だったからね。山下監督の作品で主演するの」

その時、入り口の開く音が聞こえてきた。
メンバーは一斉にそちらを見やる。
それから大きく手を振った。
131 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:17:17.57 ID:bJeVS0wMO
高橋「あっちゃん、こっちだよー!」

前田はメンバーの顔を見つけると、ぱっと目を輝かせ、小走りに駆け寄ってきた。
高橋の隣へ腰を下ろす。

前田「待たせちゃった。ごめんね」

梅田「大丈夫。優子も今来たところだから」

前田「え?優子…」

前田はそこで、初めて大島の顔を見た。

大島「あっちゃん、久しぶり」

大島がぎこちなく笑う。
前田はその何倍も自然な笑顔で答えた。

前田「優子久しぶり。あーでもなんかそんか感じしないよ。あたし優子の出てるドラマ毎週見てるもん」

大島「あっちゃん…」

前田「みんなは元気だった?AKBの新曲、そろそろだよね?」

前田は今度、メンバーの顔を懐かしそうに見渡しながら尋ねた。
132名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:17:52.66 ID:OzmoPRkN0
きたあああああああ
133名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:19:08.05 ID:VcOrysjVi
(´;ω;`)
134 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:19:38.97 ID:qAhU43P/0
篠田「うん、みんな頑張ってるよ。あっちゃんに負けないようにね」

前田「そっかー。楽しみだなー」

篠田「それもこれも全部、あっちゃんのお陰だからね。頑張らないわけにいかないよ」

前田「え…麻里子…」

高橋「あっちゃん、ありがとう。また戻ってきてくれて」

高橋は体ごと前田のほうに向くと、視線を合わせた。

高橋「ありがとう…。1年前…」
135名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:19:50.58 ID:gK7syZa50
おお…(´;ω;`)
136 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:20:12.56 ID:qAhU43P/0
1年前、鉱石爆発直後――。

小森「まったくやんなっちゃうなぁ…雨が降りだしたかと思ったら、すごい揺れだよこれ。何が起きたんだろう…」

アジトから、そしてメンバーから離れ、ひとりくだを巻いていた小森は、遠くに爆発音を聞き、呆れ顔をしていた。

小森「どうせまた誰かが派手に戦ってるんだ。いいな…戦闘タイプのヴォイドの人は…」

小森は完全にいじけてしまっている。
と、そんな彼女を突風が襲った。
それとともに、何かが飛んでくる。
小森は咄嗟に両手で顔を覆った。

小森「うわっ…何…石ぃ?」

無意識のうちに自身のヴォイドの力を使い、飛んできた石を宙に浮かせた。
そのお陰で怪我を負わずに済んだが、見たこともない輝きを放つその石を、不気味に思った。
おまけに石は無数にある。
137 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:20:51.96 ID:qAhU43P/0
小森「変なの…」

小森はそれをしばらく眺めた後、ヴォイドの力を弱めようとした。
が、その瞬間、宙に浮いていた石は勝手に動きはじめ、1つにまとまろうとする。

小森「えー?何これ怖いよ…くぅーん…」

泣きべそをかく小森の目の前で、石は結合してどんどん大きくなり、やがて人の形を作りはじめた。

小森「あれ?どうしたんですか?」
138 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:22:00.72 ID:qAhU43P/0
そして、現在――。

前田「あの日は、雨が降ってた」

運ばれてきた水を一口飲むと、前田は言った。

高橋「うん、そうだったね」

柏木「あたし、覚えてます。鉱石?でしたっけ?それが爆発する少し前から本格的に振り出して…」

前田「そう、そのお陰であたしは助かったんだ。鉱石を破壊して、体がどんどんキャンサー化していって…あたしは最後、結晶となり吹き飛んだ」

篠田「だけど飛んでいった先にいたのがこもりんだったんでしょ?」

前田「うん。その瞬間は意識がなかったから覚えてないんだけど…。結晶化したあたしはバラバラになって、それで…消えるはずだった」

前田「だけどたまたまこもりんが、あたしの結晶をすべて浮かせて、飛んでいった先に留めてくれたの。そこに雨によって水分が加えられ…あたしは再び体を取り戻した。ヴォイドを取り出す力は失ったけどね」

峯岸「あっちゃんが生きてるって分かったときはびっくりしたよ」

渡辺「でも、良かった。生きてて…」

前田「うん…」

大島「あっちゃん、あの時はほんとに…」

大島が眉を下げる。
前田はそれを遮って言った。
139 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:23:10.73 ID:qAhU43P/0
前田「えー?もういいよ。それより優子、ドラマ…頑張ってよー?あたしと優子はさ、」

大島「わかってる。永遠のライバル…だもんね」

大島はそこでようやく本来の華やかな笑顔を取り戻した。

大島「でもあたし、いつかあっちゃんと共演したいな」

前田「うん」

前田は元気よく返事すると、急にそわそわし始めた。

高城「あ、あっちゃん、メニューこれ…」

前田「ありがとー。もうおなかすいちゃったよ。あ、サラダ頼もう。量2倍にしてもらうんだー。すみませーん…」

前田が店員を呼ぼうとする。
だがそれを高橋が途中で引きとめた。
140 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:24:01.90 ID:qAhU43P/0
高橋「あ、あっちゃん、ごはんの前に…」

前田「?たかみな…?」

高橋「ずっと言えてなかったから今言うよ」

高橋はそこで、もぞもぞと姿勢を正した。

高橋「お帰りなさい、あっちゃん…」

メニューを持つ前田の手が震える。

前田「…ただいま」





―END―
141名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:25:15.04 ID:OzmoPRkN0
>>140
乙!最初から最後までずっと待機してたw
面白かったっす
142名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:25:52.34 ID:gK7syZa50
乙!ハッピーエンドでよかった!
143名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:25:53.63 ID:h/1+cOwsi
小森w
144名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:25:54.39 ID:kFr+paDai
あっちゃぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁん
145名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:26:07.57 ID:KB+keHjLi
感動した!
お疲れ様でした!
146名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:26:28.03 ID:7Y9yPmVZ0
作者さん乙でした!
まとめんばーに前スレごとまとめてほしい
147名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:26:39.77 ID:kFr+paDai
やっぱり卒業してもあっちゃんはあっちゃんだね
148名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:26:47.30 ID:cqOEtO4oO
面白かったありがとう (●^ー^●)
149名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:26:53.95 ID:MthnuL+z0
お疲れ様
優子っていつもこういう役どころだよなw
まあおいしいからいいけど
150名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:28:30.68 ID:kFr+paDai
>>149
あとまゆゆの裏切り率の高さw


あっちゃんが卒業するまでもう二ヶ月も無いなんて信じられない
151名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:32:06.67 ID:Azsju4Aai
人妻さんありがとう
152名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:52:35.14 ID:VcOrysjVi
感動した(´;ω;`)作者さんお疲れ様!
とりあえず映画化希望でw
153名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 18:53:04.89 ID:7Y9yPmVZ0
今までタイトルになったのってあっちゃんたかみなともちんだけだっけ?
154 ◆TNI/P5TIQU :2012/07/11(水) 18:54:36.37 ID:qAhU43P/0
読んでくださった方、支援、保守してくださった方、ありがとうございました!
あっちゃん卒業が悲しすぎて考えたお話
色々と突っ込みどころが多いと思いますが、優しいコメントや参考になる指摘ばかりで本当に励みになりました
感謝しています
また何か書いた時にはよろしくお願いします
ありがとうございましたー
155名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 19:14:03.75 ID:kFr+paDai
ぜひ次回作を!
156名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 19:37:52.00 ID:gK7syZa50
>>153
ゆきりんのもあるよ。事件のなぞは解いて見せる、みたいなタイトルだったはず。
157名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 19:39:09.84 ID:IrUvcV630
もう遅刻してないのにな…
158名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 19:39:53.96 ID:lbjOa4OF0
作者さんよかったです。何度涙腺がw
また期待してます。
159名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 19:55:10.16 ID:fJ/oe+/nO
>>154
乙でした
元ネタを知らないので新鮮に楽しめました
はるごんが序盤大活躍でしたね
敦子に対してなれなれしく振る舞える貴重なキャラですもんね
160名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:09:13.00 ID:7Y9yPmVZ0
>>156
そうなのかありがとう!
いつも推しがいい味出してるから次回作に期待
161名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:11:17.47 ID:eg1sdckA0
最近小説スレ減ったよな
皆ブログにでも移行でもしたのか?
162名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:29:14.89 ID:4q/p7qas0
作者さんお疲れさまです!
本当に面白かったです!
ありがとうございました!
また作者さんの作品が読める機会を楽しみにしてます!
映画化希望(*`ω´)
163名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:31:56.32 ID:wMMJR3E60
小森きたー!
164名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:35:23.42 ID:MthnuL+z0
結局誰一人として命を落としてない
物語だろうと人が簡単に死ぬのは好きじゃないから良かったよ さすが人妻!愛があって良かったぜー
165名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:44:28.34 ID:pxzcGZQCi
>>154
おつかれちゃんね
166名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:45:59.08 ID:3B8xqGr30
捕手
167名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:46:39.82 ID:FVUcx1Zf0
美宥ちゃんについてコメントしたやつです!
最初から読んでたけど、ちょくちょく泣ける場面があって素敵な作品だった。
おかげですごい涙流したけどww

おつかれさま!
168名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 20:55:45.38 ID:9xEERVwui
横山が最強のヴォイドかと
169名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 21:03:13.42 ID:ATiOSs2IO
おつかれさまでした
レモンさんのしゃべりあまり聴いたことなくて、脳内では途中から徳井のヨギータになってました
170名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 21:31:36.12 ID:3i9YnQTRi
>>154
面白かったですお疲れ様でした
171名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 21:49:12.49 ID:1+qNKMa5P
推しは活躍しなかったけどw物語に入り込めて面白かったよ!ありがと!
172名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 21:58:19.36 ID:DHkmxA8f0
>>154
めっちゃ面白かったです!!
173名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 22:48:25.51 ID:g2nNe3zK0
出掛けてる間に前スレ落ちてたorz
174名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 22:49:33.00 ID:CKFZ0wMIO
お疲れさまでした

楽しかった

ハッピーエンドで良かった(^^)v
175名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 22:52:20.29 ID:313zrIrE0
面白かったっす!作者さんGJ!
176名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 22:53:57.69 ID:7Y9yPmVZ0
まとめられる前に落ちちゃったか 残念
177名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 23:03:01.64 ID:0jq+lAHp0
>>117
ここの大島の、センター前田に対する達観したセリフが秀逸
178名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 23:19:27.11 ID:e98CwVTZ0
前スレ途中までしか読めなかったorz
どーしたら見れる?
179名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 23:28:03.98 ID:/4qpmVSW0
>>178
とりあえずログ速などで見るぐらい?

http://logsoku.com/thread/awabi.2ch.net/akb/1341808158/
180名無しさん@実況は禁止です:2012/07/11(水) 23:58:17.94 ID:Ke/s5VN7i
お疲れさまでした。
やぎさんがいいポジションにいたのも嬉しかったです。
とてもいい作品でした!
181名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 01:20:17.92 ID:Dpgm3nTu0
昨夜から一日掛かりで読んだよー。すげぇ面白かった!
スレ落ちが心配で仕事が手に付かなかったしw
レモンのムスカのくだりは吹いたしまゆゆのとこは泣いたわ
次回作も期待!
182名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 01:46:57.05 ID:saiFNWVP0
ほしゅ
183名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 02:44:07.12 ID:jrnjjxdc0
あっちゃん生きてて良かったありがとうー
184名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 02:59:20.13 ID:6jSaHVQaO
今読み終えた
素晴らしかった!
作者さんGJ!ありがとう!
185名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 03:01:09.09 ID:JeIK4cZQ0
昨日から一気に読んだ!
次回作も楽しみにしてるのでぜひお願いします!
186名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 03:32:27.20 ID:Od2FO5rv0
すごい面白かったです
泣かされました( ; ; )!
187名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 04:48:07.72 ID:Rv74Ejro0
横山の謝ってくださいw
188名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 08:50:18.91 ID:K0q/7m8d0
一応ここでまとめられてるよ
http://encra48.doorblog.jp/archives/11330323.html
189名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 13:01:31.10 ID:vVVZOO0dO
>>188
始めの方だけ読んで批判している奴がいてワロタ
190名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 13:12:07.11 ID:eTRe4Qa70
面白かった!
作者さんありがとうございましたそしてお疲れさまでした
次回作も楽しみにしてますね

作者さんの他の作品も読んでみたいけどタイトルとかわからない・・・
AKB小説スレも今ないんだっけ うーん
191名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 13:12:28.15 ID:xEDIEXFY0
乙でした
192名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 13:31:51.10 ID:0BggdwO60
一気に全部読みました
すばらしかったです、乙でした!
193名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 13:33:46.61 ID:KdnKtzFNO
俺も読んだよ
194名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 13:36:45.77 ID:K0q/7m8d0
>>190
多分ここにいくつか載ってると思う
http://blog.livedoor.jp/ngzk46/archives/6706738.html
195名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 14:37:35.92 ID:eTRe4Qa70
>>194
ありがとう!!
楽しませてもらいますー
196名無しさん@実況は禁止です:2012/07/12(木) 14:44:35.92 ID:FRez4YBbi
梅優好きとしては何回か絡みがあって嬉しかった!!作者さんありがとう。
お疲れ様でした(´・ω・`)人(-∀-`)
197名無しさん@実況は禁止です
あげぽよ〜