3年B組ベリーズ工房 其の七

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1ミヤビイワナ
●みなさん気軽に書きましょーう↑↑
2ミヤビイワナ:2007/02/23(金) 20:23:33 ID:HN9EEjhR0
・清水佐紀 :優等生。もう一人の黒幕。愛読書は我が闘争 母からの虐待 
       深夜独り踊る孤独さも持ち合わせる。

・夏焼 雅 :不良グループ。佐紀に操られていた【秘密の日記】 アメリカンカルチャーに憧れる。
       デ・ニーロとヘミングウェイを敬愛する。 茉麻に恋心を抱いている。

・菅谷梨沙子:転校生。アホを装っているが黒幕。知能犯。ヘビメタ 謎の病気を抱えている。

・嗣永桃子 :クラスのアイドル。極貧から抜け出すためにアイドルを目指す
       佐紀のダンスの件を唯一知っている。実家は【すなっくもも】

・熊井友理奈:転校生。過去を背負っている。影がある。義の人。クラシック ブルーハーツ
       親友、石村舞波との過去に苦しむ。 好きな映画:仁義なき戦い ウディアレン全般

・石村舞波 :友理奈とは以前の学校で大親友。友理奈の為に自殺を図る。
       千奈美と同じキーボードスクールに通う

・徳永千奈美:クラスのお調子者。天真爛漫。ヘッドフォン通学 音楽オタク
       雅と茉麻とは幼なじみ 新聞配達 軽い万引き癖。キーボードスクールに通う

・須藤茉麻 :癒し系。誰からも一目置かれる存在。ラーメン屋【須藤飯店】の娘
       陸上部エース矢島まいみと交際している

・矢島まいみ:C組の男子。陸上部のエース。茉麻と交際している。
3ミヤビイワナ:2007/02/23(金) 20:24:55 ID:HN9EEjhR0
・丹下のおっちゃん:雅と千奈美が夏休みにバイトをする屋形船のオーナー

・寺田さんw:千奈美が新聞配達後、毎日牛乳を盗まれるw
       千奈美と舞波が通うキーボードスクールの講師でもある。

・田中れいな:桜中学の卒業生。新聞配達と屋形船でアルバイトをしている。
      
・久住小春 :桃子の友達 オーディションのライバルでもある テレビ出演の経験あり

・国井美代子:桜中学の教頭。

・坂本金八 :桜中学3年B組の担任。

・乾 友彦 :桜中学3年A組の担任。

・北 尚明 :桜中学3年C組の担任。

・辻 希美 :3Bのクラスメイト、加護と行動を共にする。大食で有名。食べ物の為ならリアルで泣く。

・加護亜依 :3Bのクラスメイト、辻の相棒。奈良から引っ越してきた。

・岡井   :C組の男子。  

・萩原   :C組?の男子。

・村上 愛 :C組の女子。
4ミヤビイワナ:2007/02/23(金) 20:28:18 ID:HN9EEjhR0
・亀井絵里 :れいなのクラスメイト。引っ込みがちで人見知り。

・新垣里沙 :れいな・絵里の同級生。優等生で、桜中学一年のときには学年委員長。

・大森巡査 :桜中学近くの交番の警官。

・石井リカ :舞波の叔母。東京のコンピュータシステム開発会社でシステムエンジニア
        として勤務。現在は北海道千歳市で長期出張で勤務している。

・吉澤ひとみ:千奈美の通う楽器屋の店員。藤本美貴とは高一の頃からの付き合い。

・藤本美貴 :小春の近所の焼肉店「焼肉ふじもと」を経営する藤本家の末っ子。
        久住家と藤本家は昔から家族ぐるみの付き合いで、小春は美貴を
        実の姉のように慕っている。

・八名信夫 :れいなの母親の父。「焼き鳥食堂」を営む。

・中澤裕子 :警視庁広域特別捜査隊(実際には存在しない)所属の警官。
        元少年課勤務で、そのときに美貴が世話になった。

・稲葉貴子 :中澤裕子と同期の警官(巡査)。
・徳永千造 :千奈美の父。徳永鉄工所の社長。
5ミヤビイワナ:2007/02/23(金) 20:34:08 ID:HN9EEjhR0
・道重さゆみ  :れいなと絵里の同級生、財閥のお嬢様

・柴田あゆみ  :さゆみの専属秘書、元自衛官

・信田美帆   :柴田の新隊員教育隊の班長

・市井紗耶香  :新隊員教育隊の鬼の班付

・木村絢香   :沖縄出身の柴田あゆみの新隊員同期

・木村麻美   :北海道出身の柴田あゆみの新隊員同期
6ミヤビイワナ:2007/02/23(金) 20:36:07 ID:HN9EEjhR0
神谷 龍毅(かみや たつき)=京都生まれで京都育ちの中学3年生。
              野球や空手など全ての事を親にやらされてきた。
              ある事件がきっかけで東京に引っ越してきた。
              ヴィジュアル系ヘヴィメタルバンドのボーカルであり
              オーディションを受けて、見事合格
              デビュー条件のアメリカ行きに迷っている
              桃子に体育祭の後に告白したが返事は返ってきてない

神谷 廉(かみや れん)=龍毅の兄であり、プロのギタリスト。18歳。
             成績優秀な模範生徒であったが、音楽にのめり込み
             高校を中退している。龍毅の目標であり頼れる兄

神谷隆也(かみや たかや)=龍毅と廉の父親であり、ベンチャー企業の社長。
              高校を中退しており、人一倍龍毅には進学して欲しい。
              また野球を愛しており龍毅にも教えてきた。
              龍毅のバンドの件を許した

神谷優子(かみや ゆうこ)=龍毅と廉の母親であり、よき相談相手。
               いつも心配している


南山 楓(みなみやま かえで)=龍毅の元彼女であり、幼馴染。
                ある事件をきっかけに龍毅と離別。
                容姿が桃子とそっくりである
                夏休みの京都旅行で和解
7ミヤビイワナ:2007/02/23(金) 20:38:21 ID:HN9EEjhR0

と、と言うことで「七」です。

輝夫さんまたやったね・・・・
8松輝夫:2007/02/23(金) 23:35:18 ID:ALBuUuMEO
>>7
イワナ氏、スレ立て乙です。
いやあ、まさかまたしても引導を渡してしまうとわ……悪気は無いので了解くださいな。
とりあえず、こちらでもよろしくです。

あ、あと、「僕の手紙」の登場人者紹介と、過去ログ・まとめサイトのリンク貼りもお願いできる☆カナ?
9ねぇ、名乗って:2007/02/24(土) 07:07:55 ID:+QwEWrQV0
・平岡圭太郎:佐紀の幼馴染。転校したことにより、佐紀の父、竜二との約束を果たせなかったという負い目を感じている。

・清水竜二 :佐紀の父。脳梗塞で倒れ半身不随に。一年にわたる入院生活の末、それを苦に自殺。死の直前、圭太郎に佐紀を託す。

・清水まゆみ:佐紀の母。竜二の死後、酒に溺れ佐紀を虐待する。

・斉藤瞳 :ギャルサー「デス・ラビット」のリーダー。

・久住章  :小春の父

・久住千代子:小春の母

・菅谷詩子 :梨沙子の母

3年B組ベリーズ工房 其の六(メモリーオーバーのため1000件を迎える前に書き込み不能)
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1164238834/l50

まとめサイト「3B同創部」
http://www.geocities.jp/iwa3b/index.htm
10松輝夫:2007/02/24(土) 20:18:43 ID:Tb52ObZVO
>>9
イワナ氏☆カナ?どうもありがとうございます。


今日は自分の仲間とオールナイトヲタカラ行ってきます。
まあさんも来るので楽しみ。
11ミヤビイワナ:2007/02/24(土) 20:38:04 ID:+QwEWrQV0

静かでいいですね。
ゆっくりじっくり紡いで行きたい。
確実に物語りを紡いで行きたい。

時間はかかっても誰にも相手にされなくても、
立ち上げたからには責任がある・・・

なに、簡単な事さ、
少しでもいいからやり続けるだけ・・・・

読んでいる人がいてもいなくてもネ。

まだだ!!まだ終わらないよ!!

12シド・州*‘ o‘リ:2007/02/24(土) 22:30:48 ID:8X/RiHSuO
シンジラレナーーイ!
またパンクしてるし!
其の六は荒らしもなくいい感じでパンクしたね!
てか読んでくれてる人は絶対いますよ!
だからそんな淋しいこといっちゃダメ!
イワナ兄の情熱に感動してんだから!
ありがとうです!
毎回スレ立てしてもらって
仕事のストレスや学業の苦難、いろんな苦痛を抱えて人間は生きてるけども
それでもこのスレに居てくれる人達にはささやかな癒やしを提供できたらいいよね!
んでBerryz工房に興味をもってくれたらそれ程嬉しい事ないし
13ミヤビイワナ:2007/02/25(日) 08:37:37 ID:i9840Oqr0

りしゃす・寂しい書き方だったか。
済まない、しかし覚悟を書いたまでなんだ。

2回もパンクさせたこの板、みんなが膨大な文章を書き上げた結果ですね。

また一から始める今、当然何もない・・静かな時だと思う。

何もないとこから過去を振り返ると感慨深いよね。

「同窓部」にBIRTHDAYを追加してみた、前スレッドが落ちて読めない人は
どうぞ読んでやって下さい。

世紀末さんが最近書き始めたのにすぐにパンクしてしまったのが残念でした。

そのうちメール下さいね。

よく考えたらイワナはサイドストーリのサイドストーリを書いているな。
しかもベリメン出ないし・・・トホホ・・・
14ねぇ、名乗って:2007/02/26(月) 06:02:41 ID:x23XToLL0

ちょっと落ち過ぎなので、
保全
15世紀末:2007/02/26(月) 07:40:21 ID:rOkuxNfK0
スレ立て乙です!これから更新していきます!
後、原稿はメールで送ります
16世紀末:2007/02/26(月) 07:42:42 ID:rOkuxNfK0
返事を聞くチャンスと進路
  
   翌日、避難訓練があると聞き、龍毅は矢島に話しかけた
  『矢島!今日が返事聞くチャンスやんけ!』
  だが矢島は気付いておらず『どういう事?』と不思議そうに聞いた
  『だーかーら!避難訓練中に誰もいなくなるから!その時聞け!
   わかったな!』と言い、龍毅は席に着きうつぶせになった。
    すると2時間後、『校内で火災が発生しました!全校生徒は速やかに非難
  してください!』とアナウンスが流れた。
  『さて・・・この先、どうなるかな・・・』
  龍毅は矢島と須藤が気になり、ひそかに後ろから見ていた。
  だが案の定、タイミングの悪いところで金八が出てきてしまった・・・
  『ハァ・・・またか。間が悪いな』
  龍毅はため息を付き、しぶしぶ校庭へ向かった。
  そして避難訓練も一応終わり、ホームルームが始まった。
  『あなた達もいよいよ、受験の時期が来ました。この中で高校を目指すもの、挙手!』
  と聞いてきたが、龍毅は上げなかった。何しろ、まだ進路も決まっておらず
  そのまま東京に残る事すら分からなかった。
  『それじゃ私はやりたい事・・・皆と違った道を目指しますという者、挙手!』
  と聞かれた。龍毅は今はバンドの事で精一杯なのでこれに上げておいた
  すると坂本が長々と話、ファイティングポーズを取った。
  これには龍毅もおかしくなり笑ってしまった。
17世紀末:2007/02/26(月) 07:44:52 ID:rOkuxNfK0
放課後、龍毅は自分の進路が気になりだし、坂本の元へ向かった。
  職員室に入ると、転校当時の様な視線が龍毅を襲った。
  龍毅は髪も染めており、前の学校でも喧嘩もよくしていたので目をつけられていた
  そんな龍毅をかばうように坂本は笑顔で屋上へ引っ張った
  『先生・・・俺の進路ってこれでいいんかな?』
  『どうしたんだ。いきなり』
  『いや、俺はさ。3年で転校してきたし高校に行くかも決まってないねん。
   しかも俺はバンドで頂点取りたいし、高校行かへんのやけど
   それでええんかな?親とか怒りそうやし』
  『龍毅。中学生の内は自分のしたい事をしたらいいんだ。
   だからお前がバンドで頂点取るならそれでいい。
   もし親が怒鳴ったら俺がお前を守ってやる!』
  龍毅はそれを聞き涙を流しそうになった
  『先生・・・ありがとう!俺が頂点取ったら、一番に先生に聞かせるわ!』
  『おう!期待してるぞ!』
  龍毅は『バンドで頂点、取ったるわ!!!』と叫び走り回った。
  坂本はそんな龍毅を見て、父のように微笑んでいた
18世紀末:2007/02/26(月) 07:47:19 ID:rOkuxNfK0
 勝負とオーディションと気付いた恋心

   翌朝、ベットから起きると兄の廉が珍しく早起きしていた。
  『おはよう。兄貴が早起きなんて珍しいな』
  廉は朝ごはんを食べながら『ああ。今日はレコーディングでな。
  それよりもお前にいい話があるんや』と言いタンスから書類を取り出した
  『これ何かわかるか?』
  『わからん。何これ?』
  そういうと廉は得意げに『オーディションの申込書や。しかもこの事務所は
  いろんなバンドが所属してるぞ。確か15歳以上やから。
  rikiとかも、プロ志望やろ?受けてみたらどうや?』
  『まあ考えとく』
  そう言うと書類を受け取り、しばらく見つめていた
19世紀末:2007/02/26(月) 07:49:34 ID:rOkuxNfK0
帰り道、龍毅は兄から渡された書類をずっと見つめていた
  すると後ろから書類を取り上げられた。嗣永だった
  『えーと・・・メタル・デトロイト・シティオーディション?』
  『返せや!』
  すると桃子はからかうように『へえ、龍毅君ってオーディション受けるんだ!』
  といった
  『まだわからん。兄貴に渡されただけやし。ていうかお前アイドル目指してるん?』
  と今度は龍毅がからかった。
  すると桃子も驚いたようだった『何で知ってるの?』
  『ちょっとね。オーディション受けてるん?』
  『受けてるけど・・・まだ受かってない・・・』
  『へえ・・・じゃあどっちが速く受かるか競争するけ?』
  すると桃子は素っ頓狂な声を上げた。
  『無理?てか勝負から逃げる?』
  そう挑発され桃子も『いいよ!勝負ね!負けたら・・・一ヶ月昼ごはん奢るって  
  のはどう?』
  『いいで!さーて楽しみやな。まあ俺の勝ちやけどな!』
  『うるさいな!絶対負けないもん!』桃子はそう言うと龍毅の背中を叩いた
  龍毅はこのとき、確信した。自分は嗣永が好きなんだろうと  
20ミヤビイワナ:2007/02/26(月) 20:52:12 ID:x23XToLL0

世紀末さんメール受け取りました。
うーん、メインタイトルってありましたかね?
イワナが見落としたかな?
板の書き込みでもメールでもいいからメインタイトルおしえていただけますか?

どうしても思いつかないとか決めたくないとかとにかく「無い!!」と
言うならイワナが勝手につけちゃうぞ〜。

それと作品紹介のキャッチもね!!

たとえば「ラブ☆なっくる!!」なら


「ラブ☆なっくる!!」 連載中
ミヤビイワナ 作

「3年B組ベリーズ工房」からのサイドストーリー。
幼くして両親と死別した少女が送る青春。
ボクシングを通して人生を切り開く彼女の運命はいかに!!

って感じのところです、これも面倒ならイワナが考えます。

しかし桃子ちゃんとのオーディションバトル、う〜ん、サイドって言うか本編になっているね。
凄く楽しみだし桃子ちゃんの運命は?

りしゃす・まあさん・輝夫さん、各作家は世紀末さんとのアクセス許可のメール下さい。

特にりしゃす・は桃子ちゃんの進路について世紀末さんと一回うち合わせしなさい。

こんなポップな青春物語をイワナも書いてみたいと思いつつ無理だなとも思ったり・・・・
21シド・りしゃす:2007/02/26(月) 23:33:23 ID:3L52S/+0O
ただいま仕事中><

アドレスの件構いませんよ!

なんかまだまだ帰れそうにありません助けてくださいorz
22ミヤビイワナ:2007/02/27(火) 05:54:51 ID:H3yedQq40

りしゃす・仕事大変だね、がんばっているようだね。
アクセス許可了解です。
23世紀末:2007/02/27(火) 07:35:31 ID:HiTwuFU30
メインタイトル思いつかないんで決めてもらえますか?
本当は僕が考えるんですけど・・・


「桃子に恋した男」 連載中
世紀末 作

「3年B組ベリーズ工房」からのサイドストーリー。
全てゼロからやり直したい京都出身の少年からの視点から描いた物語
自分のしたいこと、進路は見つかるのか・・・
そして桃子との恋は実るのか・・・

こんな感じでお願いします
後、りしゃすさん、打ち合わせしましょう!

ちなみに今書いてる物語の他に2つ出来上がってるので近いうちあげます
一つは中1の頃の雅の恋を表現した物語です
もう一つは3-B、3-C合同のバトルロワイアルです。
まあ殺し合いはさせませんが・・・

24世紀末:2007/02/27(火) 07:36:45 ID:HiTwuFU30
翌日、龍毅が学校に行くと須藤と矢島が親しく喋っていた。
   矢島も須藤も笑顔で話し合っている
   昼休み、龍毅は矢島を屋上に呼び出した。
   『お前、成功したんか?』と恐る恐る聞いた
   矢島は嬉しそうに『おう!』と答えた
   龍毅は『よかったやんけ!』と自分の事の様に喜んだ。
   矢島は『次はお前の番だよ。嗣永の事、好きなんだろ?』と言った
   『お前・・・まあ俺の事はええから。須藤が待ってるんじゃないんけ?』
  すると矢島は真剣な表情で『もう誤魔化すな!素直になれよ。好きだろ?』と聞いた
   『まあ、好きなのは好きや。でも告白は・・・』
   『しろ!余計なお世話かもしれないけどもっと素直になれ』
   そう言うと矢島は3-Cの教室に戻った。
25世紀末:2007/02/27(火) 07:40:10 ID:HiTwuFU30
龍毅はそのまま教室に戻るのが気まずく、屋上でサボっていた。
   『何が告白しろ!やねん・・・無理じゃ』
   『何が無理なの?』と言いコーヒーを差し出してきた奴がいた。
   夏焼 雅だった。
   龍毅はコーヒーを受け取り『関係ない!今のは忘れろ!」と言いコーヒーを
   開けて、飲み始めた
   『まさか好きな人に告白するとか?』と笑いながら夏焼は言った
   これに龍毅が飲んでいたコーヒーをブワっと吐き蒸せた。
   『汚いなぁ!ハイ、ハンカチ』夏焼は笑いながらハンカチを渡した
   そんな夏焼を見て、龍毅は苛立ちを覚えて吹っ切れた。
   『お前のせいや!そうや!好きな奴いるわ!』
   夏焼はそんな龍毅を『誰?教えて』とからかうように言った
   『全く・・・お前にはペースを狂わされるわ。で、お前は何でサボってるねん』
   『ちょっと色々あってね。好きな人が幸せになったのに、憂鬱だったから』
   と言うと寂しげな表情をしたので龍毅は気になった
   『何や?何かあったんか?』夏焼は珍しく気遣ってくる龍毅が不思議だった
   『何にもない!じゃあね』そういうと夏焼は階段を下りていった
   龍毅はその時、まだ夏焼が寂しげな表情をした理由を知らず不思議だった
   
26世紀末:2007/02/27(火) 07:43:50 ID:HiTwuFU30
オーディション参加と修学旅行

  『ヤバッ・・・修学旅行とかぶってるやん・・・』
  龍毅は明らかに焦りを隠せない表情で届けられた用紙を見た
  他のメンバーは幸い、日にちは重ならなかったが龍毅だけが重なっていた
  『ていうか修学旅行、後4日か・・・』
  龍毅はオーディション4日前に失態に気付いた自分を恨んでいた
   
  昼休み、龍毅は職員室で気まずく今回の事を話そうと、先生を呼び出した
  すると応接室のドアがガチャッと開き、金八が笑顔で来た
  『いやーゴメン!先方から電話があってね。今回はどうした?』
  すると龍毅はすまなさそうに『あの・・・修学旅行、途中から合流する
  って形でいいですか?』
  金八は4日前に予想外の事をいきなり言われて唖然としていた
  『何でなんだ?』
  『あの・・・修学旅行の当日に大阪で事務所のオーディションが
   あるんですよ・・・なので夕方から合流したいんですけど』
  『いいけど・・・それってバンドのオーディションか?』
  『はい。なので今回がチャンスなんです!お願いします!』
  龍毅はそういうと深々と頭を下げた。
  金八は頭をかきながら『わかった。頭上げろ。ちゃんと言っとくから。
  その代わり合格しろよ!』と言った
  『先生!恩に切るわ!』そう言うと龍毅は勢い良く応接室を飛び出した
27世紀末:2007/02/27(火) 07:46:14 ID:HiTwuFU30
放課後、龍毅はオーディションの用紙を凝視していた。
  何しろ生まれて始めてのオーディション。なので今から緊張していた
  すると後ろから矢島が用紙を覗き見していた
  『メタル・デトロイト・シティオーディション・・・』
  『何見てんねん!』
  だが矢島は『ていうかお前、修学旅行とかぶってるじゃん。どうすんだよ』
  『ああ。それなら初日は大阪でオーデ受けて、夕方から合流するわ』
  すると矢島は驚きを隠せないでいた
  『お前・・・で、前日に京都の実家に行くのか?』
  『ああ。オトンやオカンにも進路の事を言うし』
  『ていうか進路はどうするんだ?』
  すると龍毅は『まだ特に決めてない。まだ東京に残るか、京都に戻るか
  決めてない』
  『そうか・・・まあ頑張れよ!』
  矢島はそう言うと龍毅の肩を叩き、教室を出た。
  龍毅は誰もいない教室でひそかに闘志を燃やしていた
28ミヤビイワナ:2007/02/27(火) 19:20:49 ID:H3yedQq40

世紀末さんサイトに掲示しました。
うまく表示出来たかな。

ごめんねやっぱり題名イワナが見落としてたね。

りしゃす・忙しく仕事しているかい。

メールの件頼みますネ。
29ミヤビイワナ:2007/02/27(火) 22:10:39 ID:H3yedQq40

おじさんなので「GAM」の「メロディーズ」を今日初めて聞いた(PV)。

凄いな・・・

アヤヤの歌唱力は揺るぎないけど、藤本さんの歌唱力は自分的にはハロモニ等で後輩達に見せる顔とは違いとても油断した「カワイ」さがある。
本当にズバ抜けている。
「突っ込みキラー」もやはり天才的なアイドルかな。

アレンジが震える程に丁寧で綺麗。

なるほど、3拍子だね、コードの基本はE7にA。
主音が「A」ですね。

つんくPが作ったとしたら彼の一番得意とする手法だけどアレンジの基本がフレンチですね。

最後のフェイドアウトのタイミングは80年代の手法でとても切ない。

「こんな事ばかりするために生まれてきた・・・・」

イワナもそうかも・・・

こんな事ばかりするために生まれてきた・・・・・

30世紀末:2007/02/28(水) 08:05:38 ID:Q145W8wh0
ミヤビイワナさん>ありがとうございます!
31世紀末:2007/02/28(水) 12:24:31 ID:Q145W8wh0
帰省と進路

  龍毅は学校を休み、新幹線で京都に帰ってきていた。
  だが懐かしいという気持ちは無かった。龍毅は前日に練習しようと
  メンバーに連絡したが学校や大学があり、無理だった。
  なので実家に帰り、じっくりと話し合いするつもりだった。
  龍毅は久しぶりの実家に着き懐かしい気持ちでいっぱいだった
  何しろ練習で京都には着ていたが、実家には戻っていなかった
  龍毅は一回、家のドアを開けるのを躊躇ったが、逃げてはいけないと
  思い、思い切ってドアを開けた
  懐かしい雰囲気が漂ってきた。綺麗に整理された玄関
  すると母の優子がいつもどおり『おかえり』と優しく声をかけた
  『ただいま。オトンは?』
  『仕事。疲れたやろ。さっ、部屋に入り』
  龍毅は素直に自室に入った。
  懐かしい匂い。部屋は転校する前とそのままになっていた。
  小さいアンプ、テレキャスのギター、空手の胴衣、野球道具
  全てそのままにしておいてあった。
  龍毅は長旅に疲れ、自分のベットに寝転がった。
  すると龍毅は疲れのせいかそのまま眠りに落ちた
32世紀末:2007/02/28(水) 12:42:34 ID:Q145W8wh0
ハッと目が覚めると時間は7時、父親も帰ってきているようだった。
  龍毅は決心をして階段を降りた。すると父親は居間でビールを飲んでいた。
  『オトン、久しぶりやな』
  『おう。で、何かあったんか?』
  案外父親は怒っておらず、いつもどおりの父親だった
  『実はな、俺、高校行かへん!ミュージシャン目指す!』
  父親の隆也もいきなり言われ『アホか!アカンに決まってるやろ!』と怒鳴った
  『なんでやねん!別にいいやんけ!兄貴だって中退してるし』
  確かにそのとおりだった。兄の廉は成績は学内でも良く、模範生徒だったが
  音楽の為に中退していた。父の隆也もそうだった。
  家の経済状態が悪く、仕方なく中退していた。
  『そんな問題ちゃう。お前にはな。立派に高校は行ってほしいねん。
   俺も廉も高校行ってないし』
  『頼む!先生も納得してる!』そう言うと龍毅は土下座した
  すると母親の優子が『隆也。龍毅だって廉のようになりたいって言ってるし。
  チャンスを上げたら?』とタイミングのいいところでアドバイスをした
  すると隆也も『そうやな。じゃあチャンスをやろう。お前、オーディション
  受けるらしいな。それで合格したら認めるわ』
  龍毅は『わかった。その代わり約束は守れよ』
  そう言うと携帯の着信音が鳴った。嗣永 桃子だった

  龍毅は慌てて外に出て、電話に出た。
  『何や?』
  『龍毅君、オーディション明日でしょ?』
  『何で知ってんねん!』
  『矢島君から聞いた。で、受けるんでしょ?』
  『おう、で、冷やかしか?』
  『違うよ!!ちょっと気になってね。
   オーディション頑張りなさいよ!』
  そう言われて龍毅は嬉しくなり『おう!見とけよ!』と言い
  龍毅は『受かったるねん!!!』と叫んだ。
  桃子はそんな龍毅を電話越しから笑っていた
33シド・りしゃす:2007/02/28(水) 15:02:11 ID:rOEhYI/RO
世紀末さん!頑張れ!!
34ミヤビイワナ:2007/02/28(水) 21:07:21 ID:YXDQ6r4j0

うーん桃子ちゃんと携帯でお話する仲になっていたのか。
りしゃす・世紀末さんとメールアクセスできたかな。

まあさんも今日メールをくれたのでアクセスの調整しました。

世紀末さんよく二人に相談して深みのある作品を生みだしてください。

イイカンジですよ。

35シド・りしゃす:2007/03/01(木) 00:22:01 ID:JR4CPnF/O
イワナ氏パイプ役ありごとぅー!
世紀末さんも遠慮なしにご連絡ちょうだいな^^
なんか若さの漲るペースに私などはただ目を見張るだけです><
今は見守らしてください
世紀末氏も疲れた時は休んでね
でわ今から帰宅です・・Zzz
36ねぇ、名乗って:2007/03/01(木) 00:30:26 ID:mm8j1lihO
オマイツ軍団首領港湾関係者♂キショイ
37ミヤビイワナ:2007/03/01(木) 18:29:49 ID:y9+tiGKI0
〜BIRTHDAY〜

第5話「「願い」なんて言葉だけじゃ・・・」

柴田あゆみは地元神奈川の「久里浜駐屯地」で基地通信中隊に配属するための教育を受けていた。
後期教育中の事だった、

7月26日 イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法
(イラク特措法)が国会で成立していた。

アメリカはイラクに対して世界的な「テロ国家」の烙印を押して各施設の公開を要求。
イラクはこれに応じて施設公開するが核兵器を元にする「大量破壊兵器」は見つからなかった。

アメリカはなおも執拗にイラクが「大量破壊兵器」を保有していると主張してイギリスと同盟を
作りイラクを「武力制圧」して5月には形式的な「終戦」を宣言した。

国連は当初からこの戦争には関与せず、アメリカとイギリスのリードで戦争は始められそして
終了された。

日本はイラクに民主政治を普及させたいと意図する「アメリカ」の要請により国際貢献を求められた。
そんな激動な世界をよそに柴田あゆみは通信技術の教育を修了していよいよ中隊配属である。
38BIRTHDAY:2007/03/01(木) 18:31:16 ID:y9+tiGKI0
中隊配属の9月、柴田あゆみは中隊長室に呼ばれた。

「柴田2士入ります!!」

「どうぞ。」

中隊長室は大きな事務机と小さなソファーセット、部屋の壁には歴代の中隊長の写真がずらりと
飾られた小綺麗な部屋である。

柴田はソファーに座らされた。

「実はね、現在陸上自衛隊は今までに経験していない任務を与えられたのだよ。」
「・・・・・。」
「君たちも知っていると思うが陸上自衛隊の海外派遣、つまりイラク派遣だ。」
「!!」
「陸上自衛隊からは百数十名が常備滞在すると思われるのが基本計画でね、第一陣主力は来年1月に
派遣される予定なんだ。」
「・・・・・。」
39BIRTHDAY:2007/03/01(木) 18:34:04 ID:y9+tiGKI0
「今も続いている「ゴラオン」や「カンボジア」派遣は「PKO」と言う国連の機関が大きな枠組み
となって活動していた派遣なんだ。」
「しかし、今回の派遣については完全にアメリカとイギリスの主導による活動になる、戦争が終結
したと言っているがまだまだ現地の治安は危険である。」
「・・・・・。」
「つまり、世論と外交関係においても良いイメージを日本の自衛隊に持って貰いたいとの意味合いで
広報活動的な女性自衛官の参加が必要なんだよ。」
「!!」
「中隊長、まさか私が・・・・。」
「まだ、本決まりではない、これから健康診断や適正試験及び基本訓練の段階で決められる。」
「・・・・・。」

「まずは明日、東京の自衛隊病院で身体検査から受けて貰う、そこで異常がなければ予防ワクチンの
接種を受ける。」
「!!」
「なにしろ時間がないのだよ。」
「・・・・・。」
「自衛隊・・・いや、日本の命運も長期的な歴史主観の上でかかっている。」
「あの・・・私に考える時間はないのですか?」
「すまない、陸上幕僚長の命令なので私では・・・どうにも・・・」
父と娘ほど歳が違う中隊長は深々と頭を下げていた・・・・・。
40BIRTHDAY:2007/03/01(木) 18:36:14 ID:y9+tiGKI0
翌日病院へ身体検査を受けてからはめまぐるしく日々が過ぎた。

身体は良好でその場で海外生活での予防接種を受けた。
その次の週には個別人事命令を発令され「イラク派遣準備隊」に配属された。

イラク派遣の任務に就いていたのは北海道の北部方面隊であった。
北部方面隊は3個師団1個旅団で編成されている国内で最大の軍事力を持つ方面隊である。
第一次「イラク派遣はこの北部方面隊の隊員達で編成されることになる。

選抜要員の条件としては個人戦技が重要であり特に個人装備火器の小銃射撃が重要視される。
他には身体的な健康優良者等でありあくまでも「実戦」を担う人選が必要だった。

初の派遣隊は北海道の中央である「東千歳駐屯地」で合同訓練をする事になる。
合同訓練は市街地戦における近接戦闘の演練である。

9月の半ば柴田あゆみもこの訓練に参加するよう命令が発令された。

北部方面隊に行く前に1日だけ実家に泊まる休暇が与えられた。

現役警察官の父は夜間勤務を交代してもらい早めに帰宅した。
母は久しぶりの娘の帰宅にごちそうを沢山作っていた。

あゆみは何もすることもなく自分の部屋で古いアルバムを見ている。
41BIRTHDAY:2007/03/01(木) 18:37:19 ID:y9+tiGKI0
古いアルバムには幼い頃から習っていた「空手」と高校時代やっていた「柔道部」の写真が
以外と数が多いのにビックリしていた。

(私は戦う事が好きだったのだろうか?)
(自分を鍛えるために戦ったのではないのだろうか?)

「あゆみ〜ご飯よ〜」

「はーい〜」

久しぶりの自宅で家族の食事である。

あゆみは、
「明日部隊に帰ってその後成田から北海道に行くの。」

「・・・・・。」

両親は複雑だった、イラク派遣の候補にあがっている話は聞いていたがまさか本当に行くとは
思っていなかった。

「ねぇ、本当にあゆみがイラクに行くの?」
母は心配そうに娘に訪ねた。

「母さん私もね、まだ分からないの、とにかく準備だけだと言われているの。」
父は、
「あゆみは国際貢献に興味があって自衛隊に入ったんだよな、それがこんなに早くチャンスが
くるなんて男性社会では誇りある仕事だと父さんは思うよ。」
42BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:18:54 ID:y9+tiGKI0
言ったが本当は複雑だった。
何しろ国連のPKO活動ではない、アメリカとイギリスのいわば原油世界における「利益」が
からむ活動に疑念があるからだ。

しかも終戦と言っても戦争が終わってからの抵抗ゲリラの活動は日本の報道であからさまであった。

実際日本の民間団体で悲しい被害も出ていた。

「とにかく今は訓練を受けて自分が任務に任じることができるかってことだけなの。」

静かな空気が流れた・・・

「ねぇ、父さんちびっ子空手の、あの女の子元気にしている。」

「ん、ああ、あの子な、あゆみに似ておてんばだがスジが良いんだ。」
「中学生になったら大会に出したいな。」

「そうなんだ。」

不安な空気を払うように家族は談笑を始めた・・・・・。

それからあわただしく出発の準備をしていよいよあゆみは北海道のイラク派遣準備隊に参加である。

約200名の隊員達が東千歳駐屯地に集合していた。

「柴田2士」
「はい!!」
目の前には20代半ばの女子士官(幹部自衛官)が立っていた。
43BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:20:50 ID:y9+tiGKI0
「私は第1高射特科群(東千歳駐屯地)所属の飯田2尉です。(軍隊の階級では中尉)」

彼女は防衛大学を卒業して自衛隊に入隊した「キャリア」である。
防衛大学を卒業して自衛隊に入隊すれば部隊経験もなく幹部自衛官から勤務出来る。

「女子隊員は陸上自衛官ではあなたと私、他には主に衛生科職種の看護士(幹部)の方々です。」

「少ない女子隊員だけど力を合わせてがんばりましょう。」

飯田2尉は両手で強くあゆみの手を握った。

編成完結式が終わりそれぞれの所属が達せられた。

あゆみは広報班であった。

広報班の編制は班長に飯田圭織2等陸尉、2等陸曹の男子隊員、3等陸曹の男子隊員、2等陸士の
柴田あゆみである。

任務は主に活動の写真を撮って記事を書き部隊外の機関への情報公開等の任務である。

(初めて出会う4人・・・この先もしかしたらこの4人でイラクに派遣されるかも・・・)

「はじめまして今井 雅之(いまい まさゆき)と言います。」
戦車兵の2等陸曹である。
44BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:25:11 ID:y9+tiGKI0
身長が180cm近い30代半ばの屈強な大男であった。
「自分は部隊では戦車の車長をやっています、戦闘車両の操作は自信があります。」
「空手と柔道をやっていまして趣味は野球観戦です。」
無骨な男らしい言動と風貌であった。
「・・それから一人娘がいまして来年小学一年生になります。」

飯田は顔を明るくして、
「まあ、それはおめでとう御座います楽しみですね。」
今井は顔を真っ赤にしてもじもじしていた。

「二宮 和也(にのみや かずなり)です。自分は部隊では車両を整備をする仕事をやっています。」
少し猫背が目立つ20代半ばだが少年みたいな顔をして3等陸曹である。
「空手も柔道も出来ませんが現地で車両のトラブル等機械は任せて下さい。」

あゆみは、何となくこの班ならやっていけそうな気がした。

飯田2尉は、
「取りあえずまずは明日から1週間基本訓練を受けます、主に市街地戦における基礎的な
 射撃等です。」

細かい指示が終わり課業終了の時間が近づき飯田は解散を命じた。

「柴田2士」

「はい。」

飯田はあゆみに話しかけた、
「あなたはまだ車両の運転免許を持っていませんね。」
「はい。」
45BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:27:27 ID:y9+tiGKI0
「実はね現地では車両操縦は必須なの、だから後2ヶ月で優先的に自衛隊の自動車教習所で
 車両の免許を取って貰いたいの。」

「はい。」

「大変だけど昼間は教習所で夜間は基礎的教育を私が教えるわ。」
「・・・・・。」
「苦しい所だけど頑張って乗り切ってほしいの。」

11月に入り予定通りあゆみは自衛隊が装備する大型車両を運転できる免許「第一種大型免許」を
取得した。(大型免許は普通車免許を取って2年の条件があるが自衛隊の場合は任務に限って
大型車両を運転できるが、2年経てば普通に任務以外でも公道を走れる。)

その他にもイラクで装備する車両「96式装輪装甲車」の操縦訓練も受けた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/96%E5%BC%8F%E8%A3%85%E8%BC%AA%E8%A3%85%E7%94%B2%E8%BB%8A

野外訓練においては市街地で戦闘する事を想定した訓練も受けた。
自衛隊の新型主力装備火器89式小銃の教育と訓練も受ける。

89式小銃はあゆみが新隊員教育隊で教育を受けた小銃より小型で次世代の陸上自衛隊の主力
装備であり、64式小銃の装弾数20発を越える30発が装弾可能で一度の引き金で3発連射が
可能な3点制限点射(スリー・ショット・バースト)の能力を持ちアサルトライフル(突撃銃)
としても存在する。
http://ja.wikipedia.org/wiki/89%E5%BC%8F5.56mm%E5%B0%8F%E9%8A%83
46BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:32:08 ID:y9+tiGKI0
11月も半ばあゆみは来月末に自衛隊がいよいよイラクに派遣されるため本庁がある東京で待機しな
ければならい。

千歳の飛行場に自衛隊の輸送機が待機していた。

飛行場には広報班が見送りに来ている。

「それじゃ柴田2士、出発までしばし別れね。」
「はい、飯田2尉。」

(せっかく北海道に来たけどあさみには会えなかった・・・)
あゆみは、準備隊に参加する際任務の「秘密性」を上官から強調された。
何処でどんな訓練をしているかは部隊の一隊員では「口外」してはならないと。
どんな弊害が流出する「情報」から発生すのかは組織としては計り知れないのである。

いよいよ輸送機に乗り込もうとしたとき、
「あの、飯田2尉。」
「なに?」
「やはり、私はイラクに行くのでしょうか?」

派遣の行動命令はまだ発令されていなかった。

飯田2尉は答える代わりに笑顔で敬礼をした。

あゆみも黙って敬礼をして輸送機に乗り込んだ。

明くる年 1月9日 陸上自衛隊の先遣隊(約30人)と航空自衛隊の本隊(約150人)に
派遣命令が発令された。

あゆみの「運命」がまさに激しく動き出した・・・・・。
47BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:35:28 ID:y9+tiGKI0
あゆみはとうとう砂漠のイラク、サマーワにやってきた。
30度を超える気温と聞いていたが確かに熱いのであるが、砂漠のため湿気が少なく
蒸し暑いと言う不快感がない。

クエートを出発地点として陸路を96式装輪装甲車(きゅうろくしきそうりんそうこうしゃ)に
乗って移動してきた。

96式装輪装甲車は通称WAPCと言われる。
APCとは装甲車の意味でWはホィールの意味である。
戦車と違いキャタピラではなくタイヤを採用した装甲車で30mの機関砲と煙幕弾を撃つ能力を
持ち最大速度は80km/hを出す。

サマーワに到着に到着すると第一次復興業務支援隊長が出迎えてくれた。
髭を蓄えた40代前半の隊長だ。

階級は一等陸佐、
一等陸佐は「連隊長」と言う部隊単位(約1000名)の指揮官である。
軍隊で言う「大佐」である。
今更であるが日本の「自衛隊」は軍隊の定義を持っていない。
だから階級も一等陸佐なのである。

サマーワに到着して1時間後隊長の精神教育が行われた。

「みなさん、良く無事にたどり着いてくれてありがとう御座います。」
「いろいろ報道で家族を含めて不安な事だと思いますが、何よりもみなさんに了解していただきたい
 事があります。」
48BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:37:10 ID:y9+tiGKI0
「・・・・・。」

「自分、もしくは仲間が危険にさらされたら躊躇わず銃を撃ってください!!」

「!!」

張りついた空気が流れた・・・・・。

(基本教育では確か指揮官の命令がなければ射撃はできない・・・・)

あゆみの背中に一筋汗が流れた。

真っ青な顔をして本部の人事幹部が隊長を見ていた。

「全責任は私が取ります!!どうか、自分自信と仲間を助けてください!!」

隣にいる飯田2尉の目から涙が流れていた。

翌日から隊員達は任務に就いた。

活動は主に医療と学校施設建設、道路補修作成、近隣村に給水活動である。
民間の研修機関が来ていて浄水器の販売企業「旭川化成」が参加していた。
旭川化成はもともと繊維商品で経営されていたが長年培った繊維の技術をもって水を繊維に通して
浄化する事業にも取り組んでいて最近はアジアへの進出が著しい。

「柴田1士!!、今日は隣の村で道路補修している部隊の取材にいくわよ!!」
あゆみは今年の1月1日に定期昇任で1等陸士に昇任した。
49BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:40:24 ID:y9+tiGKI0
サマーワに来てから飯田2尉は勢い良く任務に取り組んでいた。

あわただしくWAPCに乗り込もうとする飯田の背中に今井2曹が、

「班長!!防弾チョッキを着て下さい!!」
「!!」
「ご、ご免なさい、忘れてました。」

10歳近く年下の女性指揮官に防弾チョッキを手渡し装着ベルトを後ろから締めている大男の姿は
まるで妹の世話をする「兄」のようだった。

柴田はこの「兄」のような大男が日本を出発する際に行われた壮行会における言葉を思い出した。

出発の3日前に東京のホテルで関係者における壮行会が行われ飲食をした。

同じテーブルの4人はお互い励まし合い任務を達成する事を話し合った。

飲酒が進んだ今井は班長が席を外し他の部署指揮官と話している間に、

「シバちゃん、ニノ・・・実は俺・・自衛隊のイラク派遣反対なんだ・・・」
「!!」
隊員による組織に対する主観を発言する事は絶対にあってはならない事だ。

二宮は周りを静かに見回し誰も聞いていないことを確認して、
「今井2曹飲み過ぎですよ。」

10歳近く年下の後輩に静かにたしなめられた。
50BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:49:31 ID:y9+tiGKI0
「・・・・ごめん。」

大男は静かに自分の主観を話し始めた。

「日本が戦争した経緯はやはり民族の密度に関係があると思うんだよ、つまり白人と有色と言う事
 なのかな、とにかく日露戦争は大国と小国の戦争だったが理由は日本がアジア大陸に進出して
 経済を発展させてロシアの食いぶちを減少させる事がロシア自体も気に入らなかったし、他の
 西洋層も気に入らなかった。」

あゆみは黙って聞いていた。

「それでも当時イギリスだけは日本に金を貸した、だけどそれは優しさとか共感ではないんだよ
 お金を貸してロシアが大陸を独り占めするのを阻止したかったんだよ、イギリスはインドを植民地
 として持っていたからね、日本人も有色とみなしていたんだよ。」

二宮は聞きながらも辺りを見回して警戒していた。
その姿を見たあゆみは、
(二宮3曹はあまり喋らず無口だけどこんなに繊細で状況を判断するのね・・・)

これから米軍とイギリス軍と合同で任務にあたるなかで今井の様な話は避けるべきなのである。

「アメリカに関しては遠く離れたアジアと言う「市場」がとても欲しかったんだよ、ハワイと
 言うのはアメリカ領になっているけど昔は一つの平和な国だったんだ、今は大陸に面する
 太平洋の空軍基地だな。」

「・・・・・。」

「アメリカはね、大陸以外にも太平洋に出て南洋を開拓する日本が邪魔だったし生意気にも思った
 のだよ、実際にアメリカと戦争した原因を学校やマスコミは国民に教えない、アメリカはね
 白人だけで世界を掌握したかったんだよ、「ハルノート」なんてもの受けて「はいそうします」
 なんて言えなかったんだよ・・・・。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88
51BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:56:07 ID:y9+tiGKI0
「・・・・・。」

飯田2尉が席についた。
「今井2曹、酔ったのですか?」

「・・・・・。」

ザワザワと全員が起立しだした最後の乾杯の用意である。

二宮は引きずるように今井を起こして立たせた。
「乾杯!!」

「NO MORE WAR・・・」
「!!」

あゆみの耳に確かに今井のささやきが聞こえた。
あゆみは二宮の顔を見たが彼は顔色を変えずに乾杯に拍手していた

「シバちゃんも着るんだよ。」
「はい!!」

二宮があゆみに防弾チョッキを手渡し後ろからベルトを締めた。
こちらも兄と妹だった。

どちらの男性も一般社会のサラリーマンとは違う軍隊独特の誠実さと許容が大きい男性である。

カメラ機材と備品を入れたリュックを背負いWAPCに乗り込んだ。
(出来れば使わないで終わりたい・・・・)
52BIRTHDAY:2007/03/01(木) 20:58:18 ID:y9+tiGKI0
89式小銃も人数分携行である・・・・・

WAPCに乗り込み出発である。

サマーワに来て2ヶ月が経ち任期の3ヶ月が残り少なくなった。

近隣の村にも顔見知りが出来た。

思えば到着した時は不安だらけだった、しかし今は何もない砂漠に生きる人々の強さと
美しさを知った。

日本ではとても飲めないような泥水を子供達はペットボトルに入れて飲んでいた。
あゆみはちびっ子空手の少女を思いだした。
助けたい、守りたい、世界が「平和」になるように願いたい・・・・・


1時間程の道のりの途中であった。

「!!」

車がいきなり急ブレーキをかけた。

(どうしたの?)

あゆみは不安そうに後部席からフロントガラスの景色を見た。

「!!」
53BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:01:13 ID:y9+tiGKI0
(なぜ?米軍の警戒地区のはず。)

後日分かった話だが警戒時間までに到着する部隊が車両の故障で遅れその隙をねらった
武力行為だった


顔見知りの1年生くらいの小さな女の子が流れ弾を受け足を押さえてうずくまっている姿を見た。
それを助けようとする両親を村民が泣きながら押さえていた。

「班長どうします!!」

今井2曹は目を鋭くして年若い女性の指揮官に判断を求めた。

飯田2尉は大きな目を見開き震えていた。

あゆみは血の気が一気に上がるのを感じた・・・

(あの少女は・・・どうなるの?・・わたしは何から誰から守れば・・・・)

「シバちゃん!!」

二宮が小銃の準備と「発煙弾」の準備をしていたときあゆみは油圧式で開く扉を避け
小さな手動の扉から飛び降りた。
54BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:04:37 ID:y9+tiGKI0
「!!」
飯田は震えるだけだった。

今井は、
「ニノ!!車両無線機で本部に報告!!」
「了解!!」

二宮は後部席に備えられた大きな無線機で本部に状況を報告していた。

あゆみは腰をかがめながらジグザグに少女とゲリラの間に滑り込み少女を引きずり家屋の影に
入った。

「!!」

突然現れた日本の正規軍にゲリラは動揺した。

最初は動揺したゲリラも日本の軍隊は戦闘を避けているのを知ってあゆみの隠れる家屋に銃を
乱射した。

徐々にゲリラは近づく。

虫の息の少女を引き寄せ生死の確認をした。
(まだ、助かる!!)

「カチャッ」

あゆみは小銃のセレクターをスリーバーストショットに切り替えた・・・・。

あゆみは物陰から立ち上がりゆっくり照準してゲリラに発砲した。

「!!」
55BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:07:20 ID:y9+tiGKI0
あゆみは意図的に足を狙った。

一人のゲリラが足をおさえて倒れた。

ゲリラも家屋に隠れ激しく応戦しだす。
「うっ!!」
腕に熱と衝撃が伝わった。

(しまった!!腕に当たってしまった・・・)
当たりどころが悪かった、血が止まらない・・・・

ただ見ているだけの飯田だった・・・・。

「班長・・・」
今井は激しい呼吸を押さえながら、

「私は当初からイラク派遣は反対でした・・・・。」

「!!」

「しかし、私のような学歴もなく貧乏で不良でどうしようもない奴を自衛隊は受け入れてくれて
 軍曹様までにしてくれました。」

二宮は無線の報告を終わり、やりかけの発煙弾の準備をしながら静かに聞いていた。

「結婚もして娘まで授かりました・・・。」

「そんな幸せをくれた自衛隊を自分の理由だけで見捨てるわけにはいかなかったのです!!」

飯田は震えながら目を伏せていた。
56BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:12:31 ID:y9+tiGKI0
「あの少女がもしイラク人ではなく日本人で自分の娘だったら・・・
 班長は助けてくれるのですか!!」

今井は流れる涙を止めることが出来なかった、自衛隊は指揮官の命令が無ければ行動できないのである。

「・・・・・。」
「今井2曹・・前進せよ・・・。」

「え?」

「車両を柴田1士の盾になるように前進!!」

「了解!!」

今井はWAPCのアクセルを底まで踏んで前進させた。

「二宮3曹!!発煙弾の準備!!」

「はい!!準備完了しています!!」

「!!」

あゆみは出血で薄れゆく意識の中で見た、
自分を守るようにWAPCが滑り込んでくる様を・・・・。

「二宮3曹!!発煙弾発射!!」

「了解!!」

ゲリラに向かって発煙弾が発射された!!

辺りは煙に巻かれ視界が無くなった。
57BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:15:04 ID:y9+tiGKI0
「今井2曹はエンジンをかけたまま現在地で待機!!」

「二宮3曹は私と下車、WAPCを盾にして応戦する!!」

「了解!!」

「下車!!」

二人は車両を降りてゲリラの方向から身を守るWAPCの影に回った。

「!!」

煙が消えて開けた視界にはゲリラが砂埃をあげてジープで逃げる姿が目に入った。

飯田は今井に警戒監視を命じ二宮とあゆみに駆け寄った。
「柴田1士大丈夫か?」

「・・・・はい・・」

「!!」

あゆみの腕から血が流れていた。

「急いで本部に帰隊する!!」

二宮は、
「班長!!この少女も本部の医療班に連れて行きましょう!!」

村民達がWAPCと飯田達を取り囲み少女を助けるように両手を合わせていた。

「私が全責任を取る!!少女と両親を本部に連れて行く!!」
58BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:24:37 ID:y9+tiGKI0
あゆみは、
「良かった・・・助かる・・・。」

二宮は、
「シバちゃん!!シバちゃん!!」

(信田班長、市井班付、あさみ、あやか、班のみんな・・乙女の本領見せてあげ・た・から・・)
あゆみは気を失った・・・・。

本部では緊急手術が行われあゆみと村の少女の命は助かった。

あゆみは意識を取り戻した。

「あの・・ここは?」

ベッドから身を起こし近くにいた白衣を着た看護士の女性に尋ねた。

「やっと気がついたね。」

手術の麻酔もあって昨日から寝ていたそうだ。

「あの・・広報班は?」

看護士は笑顔で、
「大丈夫よみんな無事だし、あなたの助けた村の少女も元気に意識をとりもどしたわ。」
59BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:25:53 ID:y9+tiGKI0
「よかった・・・・。」

「後で隊長と人事幹部が来て下さるからその時に後送(前戦を退き治療を受ける事)の命令を
受けるわ。

「・・・・・。」

(ただじゃ済まないわよね・・・やっぱり・・・)

「飯田2尉入ります。」

本部の隊長室に飯田は入室した。

隊長室には隊長と2等陸佐の人事幹部が居た。

人事幹部は、
「防衛庁と調整がついて柴田1士をヘリの空輸でクェートに送りそこから航空自衛隊機で後送する
 事になりました。」

「!!」

「あの、あと数週間です、何とか我々と帰隊出来ませんか?」

人事幹部は青い顔で、
「これでも穏便に済ませたつもりだよ、隊長も頑張って幹部と陸曹の「クビ」はつなげた。」

隊長は黙って聞いていた。
60BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:29:03 ID:y9+tiGKI0
「しかし、文書整理等ここでも出来る仕事はあります。」
飯田は納得がいかなかった、何故そんなに急いで・・・・。

「はぁ〜、いいかい陸上自衛隊は組織の防衛の為にしか武器を使用してはいけないんですよ、
 さんざん教育したでしょ、現地のゲリラと戦闘した事実はあってはいけないのだよ。」

「・・・まさか・・。」

飯田は目を見開いて隊長を見た。

「済まない飯田2尉・・・私は君たちの行動を正当な人道的活動だったと思っている、
 しかし外交上・・・自衛隊ではまだ・・・。」

つまり今回のゲリラとの武力衝突及び武器の使用は正式記録として発表できないのである。

人事幹部は不機嫌になり、
「柴田1士に「依願退職」(自ら自衛隊を退職)してもらう形を取って一般社会に戻ってもらう。」

(切り捨てなの・・・・)

「以上、用件はそれだけだ、任務に復帰しなさい。」


「せめて何時後送されるか教えて下さい!!」

「2時間後にヘリが来ます。」

「!!」

仮説病院のあゆみのところに看護士が身近の私物品を入れた段ボール箱2つを持ってきた。

「人事幹部の命令であなたの部屋の荷物まとめて持ってきたわ。」
61BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:31:00 ID:y9+tiGKI0
「!!」

「今聞いたのだけど柴田1士、ヘリでクェートの空港に後送されるらしいわ。」

「!!」

「あの、誰ともまだ会っていないのですが?」


その時病室に隊長と人事幹部が入ってきた。

「やあやあ柴田1士、元気そうだね。」

「はい、ありがとうございます。」

「実は大事をとって君を日本に帰して治療してもらいたくてね。」

「・・・あの、後数週間勤務できませんか?。」

人事幹部は顔色が変わった。

「人事発令を達する。」

人事幹部はA4の書類を出し一方的に勤務地変更の命令を読み上げた。

「クェートから防衛庁の人間が迎えにくる、その時この書類を渡しなさい。」

「・・・・・。」
62BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:38:17 ID:y9+tiGKI0
「2時間後にヘリが到着する、準備をしたまえ。」

「あの、せめて広報班のみんなに会わせて下さい!!」

あゆみはベッドから降りた。

「分かっていると思うが、イラクの事は忘れなさい。」

人事幹部は病室を出て行った。

「・・・・・。」

隊長は、
「済まない・・・・・。」

柴田は諦めた・・・この隊長でも出来ないことはあるのだろう。

「柴田1士・・・私はこの任務が終了したらいつか必ず現場の人間が安心して任務に就けるため
 働く、必ず君のやった事を無駄にはしない!!」

隊長は肩を落として病室を出て行った。


広報班の事務室では、

「班長、嘘ですよね・・・。」

今井は飯田の言葉を信じられない。
63BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:42:45 ID:y9+tiGKI0
「いいえ本当です、彼女は無かった事として切り捨てられます。」

今までずーっと我慢していた飯田はとうとう泣き出した。

もはや今井も二宮も何も言い出せなかった・・・辛いのはみんな同じはずだから。

ヘリが到着したらしい。

二宮は部屋を出た・・・・。

ヘリの着陸場はフェンスで囲まれ小さな人員用入り口は警備班がいて許可がある者しか入れない。

今日の警備は知り合いの者だった。

「よう!」

「おうニノ!」

「あのさ、これ。」

二宮はアイドルのグラビアDVDをポケットから見せた。

「なんだよ〜ニノ〜まだ日本でも発売から一週間しかたってないのに持ってんだよ〜!!」
64BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:52:56 ID:y9+tiGKI0
「しっ!!」
「我が広報班に手に入らないメディアはない。」

「いいなぁ〜」

「おい、こっそり休憩室においといてやるか?」

「いいのか!!」

「ああ、この前おごってもらったからな。」

「頼む、俺の名前が書いてあるバックに入れといてくれ。」

二宮はあっさりヘリポートに入った。

ヘリポートに包帯で左手を吊ったあゆみが現れた。

隊長と人事幹部が見送りと言うか防衛庁の人間に引き渡すと言うところだろう。

二宮は小走りであゆみに近づいた。

「!!」
65BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:56:10 ID:y9+tiGKI0
「シバちゃん!!、これシバちゃんが助けた女の子から預かった!!」

錆びた古い銀色の十字架ペンダントをあゆみに手渡した。

(こんな古く塗装がはげたペンダントでもあの子にとっては宝だろうに・・・・)

あゆみは・・・うれしかった。

「貴様!!だれが許可してここに入った。」

人事幹部が顔を真っ赤にして怒鳴り始めた!!

「それから昨日はあの子の誕生日だったんだ!!」

「!!」

ヘリのエンジン音がうるさく大きな声じゃないと会話が出来なかった。

「あの子の両親自衛隊に両手で拝んでいたよ!!バースデイをありがとうって!!」

あゆみは涙があふれ出した。

「さあ、柴田1士行きますよ。」

背広を着た防衛庁の職員が迷彩服に包まれた柴田をヘリに乗せた。
66BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:58:22 ID:y9+tiGKI0
「二宮3曹!!あたしずっと広報班の人たち上官じゃなく兄さんと姉さんだと思っていました。」

二宮も涙が流れてきた、
「みんなそうだよ!!」

「あぶないから離れろ!!」

人事幹部は二宮の襟首をひっぱって引きずった。

ヘリはゆっくり上昇して空に消えていった。

後に残った二宮は、
「済みませんでした、どんな処分でも受けます。」

「・・・・おい二宮3曹。」
「・・・・・はい。」

「俺だって入隊したときから人事幹部だった訳ではない。」

「・・・・・。」

「誰か恨む相手が居なければ彼女も救われないだろ。」

「!!」

「柴田1士におみやげ・・・ありがとな。」
67BIRTHDAY:2007/03/01(木) 21:59:40 ID:y9+tiGKI0
「・・・・・。」

「班に帰って柴田1士が無事ヘリに乗ったことを伝えろ。」

「さっ、隊長午後から企業説明がありますから準備しましょう。」

「済まない・・・。」

気落ちした隊長をいざない人事幹部は歩いていった。

その後ろ姿に二宮は敬礼を送った・・・・。

第5話 終了
68シド・りしゃす:2007/03/02(金) 09:18:11 ID:QLQ5I0OYO
イワナ氏更新乙です!
世紀末さんと連絡とれました!
彼はとても熱い若者だったよ!
それでは仕事しますか!
69世紀末:2007/03/02(金) 13:09:09 ID:zOPCLVo80
 大物揃いのオーディション

  皆が新幹線に乗り込み、クラスメイトが談笑している頃、龍毅は会場にいた。
  龍毅はこの日の為に一睡もしておらず、オーディション一時間前から
  会場の大阪厚生年金会館に付いていた。
  周りは見たことのあるバンドばかりで龍毅の様な中学生は1人もいなかった
  中にはインディーズで活躍しているバンドもあった。
  龍毅は明らかに緊張していたが、嗣永の言葉を思い出し顔を引き締めた
  するとやっと4人がおおがかりな荷物を持ってきてやってきた
  『龍毅!悪い!練習しよか!』
  そういうと4人は会場に入り、メイクを始めた。
  周りは女の子らしいメイクをしているが、龍毅達は初期のXを彷彿とさせる
  メイクをしていた。
  すると龍毅達の番が来て、ステージに立った。
  他の出演者と違い、ワイルドなメイクなので一際目立っていた
  そしてライブではいつも恒例の火を吹いた。
  審査員の1人は腰を抜かし、驚いている。場が騒然となった
  そしてジャラジャラと静かなアルペジオから一転、
  激しいヘヴィなサウンドが鳴り響き、龍毅の高音ボイスが響いた。
  そして曲が終了すると、審査は長引いている様だった。
  客観的に見たらよかったのだが、龍毅は気にいらなかった
  いつもより高い声が出ず、シャウトも掠れ声となってしまった
  メンバー達は気付いていたが龍毅の為に何も言わなかった
  龍毅はメンバー達のその気遣いが逆に重くのしかかった
  『クソッ!これからを左右するオーディションやったのに!』
  龍毅は肩を落として、ゆっくりと帰っていった・・・・
70世紀末:2007/03/02(金) 13:12:01 ID:zOPCLVo80
 大物揃いのオーディション

  皆が新幹線に乗り込み、クラスメイトが談笑している頃、龍毅は会場にいた。
  龍毅はこの日の為に一睡もしておらず、オーディション一時間前から
  会場の大阪厚生年金会館に付いていた。
  周りは見たことのあるバンドばかりで龍毅の様な中学生は1人もいなかった
  中にはインディーズで活躍しているバンドもあった。
  龍毅は明らかに緊張していたが、嗣永の言葉を思い出し顔を引き締めた
  するとやっと4人がおおがかりな荷物を持ってきてやってきた
  『龍毅!悪い!練習しよか!』
  そういうと4人は会場に入り、メイクを始めた。
  周りは女の子らしいメイクをしているが、龍毅達は初期のXを彷彿とさせる
  メイクをしていた。
  すると龍毅達の番が来て、ステージに立った。
  他の出演者と違い、ワイルドなメイクなので一際目立っていた
  そしてライブではいつも恒例の火を吹いた。
  審査員の1人は腰を抜かし、驚いている。場が騒然となった
  そしてジャラジャラと静かなアルペジオから一転、
  激しいヘヴィなサウンドが鳴り響き、龍毅の高音ボイスが響いた。
  そして曲が終了すると、審査は長引いている様だった。
  客観的に見たらよかったのだが、龍毅は気にいらなかった
  いつもより高い声が出ず、シャウトも掠れ声となってしまった
  メンバー達は気付いていたが龍毅の為に何も言わなかった
  龍毅はメンバー達のその気遣いが逆に重くのしかかった
  『クソッ!これからを左右するオーディションやったのに!』
  龍毅は肩を落として、ゆっくりと帰っていった・・・・
71世紀末:2007/03/02(金) 17:53:57 ID:zOPCLVo80
すいません。ミスって同じのを載せてしまいました

ミヤビイワナさん>いつも応援ありがとうございます!それが励みになってます!

シド・りしゃすさん>これからもよろしくお願いします!りしゃすさんも熱い男ですよ!

ちなみにさっきまで学年末試験の最終日でした。
数学がぁ・・・ヤバかったです。

72世紀末:2007/03/02(金) 18:07:45 ID:zOPCLVo80
喧嘩・・・そして補導

  龍毅は夜の祇園をゆっくりと歩いていた。
  3-Bの皆との合流も忘れて路頭にさまよっていた。
  『ハァ・・・なんでなんやろな』ため息を着いて歩いていると
  ある3人組と肩が当たった。普段なら謝る龍毅だがこのときは苛立っていた。
  明らかに不良と見えるその3人は龍毅を呼び止めた
  『おいおい、肩が当たったのに謝罪も無しか!」と言い胸倉を掴んだ
  龍毅も下がらず『お前が謝れや。クズは黙れ・・・』
  この言葉に3人は逆上して、路地裏に連れ込んだ。
  そしてニキビ面は『オラ!ぶっ殺してやる!』そういうと龍毅に殴りかかった
  だが龍毅はそれを難なく避けて不良の顎を殴った。
  不良は吹っ飛びドラム缶に頭を打ち付け、鼻から鼻血が流れでた。
  龍毅は昔、空手をやってたので、間合いの入り方も理解していた
  すると次の不良が殴りかかった。龍毅は久しぶりにブチ切れ、その不良を
  こかして、上から殴りかかった。もう1人の不良は腰を抜かしている
  龍毅は基本的に喧嘩は嫌いだった。だがマジギレすると止まらない性格だった
  もう1人の不良が腰を抜かし、逃げていった10分後
  するとファンファンとパトカーの音が聞こえてきた・・・・
73世紀末:2007/03/02(金) 18:17:00 ID:zOPCLVo80
『遅れてすみません!』金八は息をきらして警察署まで来た
  そして婦人警官が『龍毅君がですね。喧嘩をしていまって・・・
  でも相手に大した怪我も無く、喧嘩両成敗という事で今回は見逃します』
  そう言うと金八は『ありがとうございます!』と何回も頭を下げた
  そして一時間後、龍毅と金八は旅館の一室にいた。
  『龍毅・・・何で喧嘩なんかしたんだ?暴力なんてお前らしくないぞ』
  龍毅は何も答えずうつむいているだけだった。
  『龍毅・・・教えてくれないか?先生相談に乗るからさ』
  『分かったような口聞くなや!俺の気持ちなんて・・・』
  そういいかけると龍毅が涙を流した。
  『先生ゴメン・・・先生に当たるなんて、俺、最悪やな・・・』
  『いやいや・・・大丈夫。何かあったのか?』
  『実は今日オーディション受けたんや。客観的にはよかったと思う
   皆、調子もよかった。でも・・・俺が足を引っ張ったんや
   シャウトの所も出来ずに・・・最後のチャンスやのに・・・』
  そう泣いて話す龍毅を金八は『大丈夫!俺は見てないけど、お前は精一杯やった。
  胸を晴れ!』
  そう言われて龍毅はプッと吹きだし『先生ってポジティブすぎるな』
  と泣き笑いしながら言った
  『うるさい!』
  時折子供のような表情を見せる金八を見て龍毅は大爆笑していた
74ねぇ、名乗って:2007/03/07(水) 01:51:57 ID:MU2a7ZOP0
輝夫氏どこ行っちゃったの?
75ミヤビイワナ:2007/03/08(木) 21:29:21 ID:SG9zvsIA0
いや〜静かになったね。
読んでる人たちには済まないと思っています。

荒らされるほど注目もあびてなくイインだかワルイんだか。

世紀末さんにはワルイ事しましたね、ごめんね、大人達がいたのに続けられなくて。
本当にだらしなくてご免なさい。

だけど、あなたが本当に中学生であれだけのテンポで書けたなら「凄い」から自信持ってね。

まさかあなたが「ニート」ではないと思うけどね、イワナの周りには(ネットでのつき合い)一杯いるからね。この板でもいるけど。
76ミヤビイワナ:2007/03/08(木) 21:36:26 ID:SG9zvsIA0
書く作家の人たちは本当にいそがしいので読んでいる人たちは分かってください。
実はイワナが物語の「核」になるところである「作家」に調整した所から全体的に進まなくなった。

残念だけどたぶん終わりです。

けど、イワナは続けますので読者はたまに見に来てね。

イワナがある程度書いた所で「同創部」も終わりです。

でも、まだ続きますからね。

本当に楽しかったな。(すみません、まだ終わらないですけど)

各作家達を一行でもいいから誉めてください。

作家のみんな今まで「ありがとうね」
77ミヤビイワナ:2007/03/08(木) 21:42:59 ID:SG9zvsIA0
みんな色々事情があって小説書く所ではないので読者のみな様は分かってやって下さい。
小説を書くと言うことは本当に大変で大変で、りしゃす・なんかは風邪をひいてでも書いていて辞めたくなるのは分かります。

本当に大変なんです、そこだけは分かってやってください。

卒業では無いのですがこの板は一旦終わります。

作家のみんなもう書かなくていいよ。

いいんだ本当に、辛いとか書けないとか色々あるから、みんなの自由さ!!

78ミヤビイワナ:2007/03/08(木) 21:49:21 ID:SG9zvsIA0
自分が書いている小説ももうすぐ終わりです。

後2話残っています。

自衛隊を書くのは難しかったな、専門用語が多すぎで読んでいる人たちもつかれるだろな。

絶対最後まで書きますので読者はたま〜に見に来てください。

今回は各作家に「決別」で、(なんちゃって)
読者サービスに「答えを見つけてください」を
http://www.youtube.com/watch?v=NBGNcIOH0Us
イワナも探してみます。

それじゃ作家のみんな「さよなら」
79ミヤビイワナ:2007/03/08(木) 21:55:27 ID:SG9zvsIA0
みんな本当に今まで辛いところがんばってくれました。

みんなやめたんだけど残った文章イワナが書いて良いかな?

しばらく待って返事なければ残った文章全部イワナが引き継ぐから。

本当にみんな今までありがとう、
最後に
http://www.youtube.com/watch?v=NBGNcIOH0Us

本当にみんなお疲れさまでした。
80ねぇ、名乗って:2007/03/09(金) 00:32:17 ID:LrBbF+X2O
>>79
続き書いてくれるのはいいと思うんだけど、ちゃんと承諾取った方がいいんじゃないかと。
忙しいとかで板見てすらいない作家の方もいるんじゃないかなぁ。
メルアドわかってるんならメール送るとかしたらいいんじゃないかと一読者の戯言ですが。
81秘密のウタヒメ:2007/03/09(金) 00:58:32 ID:ElY4MroJO
「ももちゃん!今日も可愛いなぁっ!」

「ももちゃんなら絶対歌手になれるぜ!おっちゃんが保証する!」

「ももちゃんみたいな娘が、うちの娘だったらなぁ!」

『すなっく・もも』に訪れる顔馴染みの客達は、声を揃え桃子を可愛がり、気分良くコップを空けていく。

酒の肴はコンビーフのオムレツとレトルトの枝豆、それ以外のメニューを注文しないのは、いつしか常連達の『暗黙の了解』となっていた。

この二つと、好みの酒さえあれば、あとは何にも必要ない。下らない世間話と笑い声は、閉店時間まで途切れることはない。
82秘密のウタヒメ:2007/03/09(金) 01:18:48 ID:ElY4MroJO
暗黙の了解といえば、ほとんどの常連達が、会計の時に出る小銭を「ももちゃんに」と風に渡す。
小銭といえど馬鹿に出来ず、少しづつ貯まった金額はゆうに五万円ほどまで達していた。

桃子はレジに打ち出される金額の端数を見る度に、毎回のように胸が高鳴る。

「ありがとうございましたぁー!!」

「いらっしゃいませー!!」
ほろ酔いで帰っていく客、それに入れ替わり、ほろ酔いでやって来る客。
それらの動作を忙しなく繰り返し、大人達の世間話に耳を傾けていると、時計の針は21時をさしている。
83シド・りしゃす:2007/03/09(金) 01:27:03 ID:ElY4MroJO
この話は責任を持って書きます。
時間はかかれどやりぬきます。
心配かけてごめんなさい。
イワナ氏、頑張るからさ俺。
84ミヤビイワナ:2007/03/09(金) 06:44:20 ID:6p2rhWwU0
りしゃす・忙しいのに書いてくれてありがとう御座います。

時間はいくらかかっても良いと思うが、書くことがどんなに大変なのかは
イワナが一番知っている。

今も書いているからね。

だからもう頑張らなくて良いんだよ。
りしゃす・が書いていることはうれしい。
しかし辛いところで書いても良いものにならない。

最近の若い者は「本領」も見せず、口だけは達者だ、世の中全体としてね。
その中で「気合」見せようとする・りしゃす・余計に負担がかかることをさせたくない。

しかし板があるうちはりしゃす・のペースで良いんじゃないかな。
85ミヤビイワナ:2007/03/09(金) 06:49:50 ID:6p2rhWwU0
とにかく約束なんかしなくていいし、途中で辞めるのもオッケー!!

一人一人がまたやりたくなったらまたスレッド立てれば良いんだし。
人の言うことなど気にしないで今を生きればいいのさ。

りしゃす・ありがとうね。
体に気をつけてお互い元気に働こうね。
86世紀末:2007/03/09(金) 13:13:24 ID:NfhzuUkm0
ミヤビイワナさん>ニートじゃないですよ。千奈美に更新している時間帯がおかしいのは
学校で書き込んでるからです。
87ミヤビイワナ:2007/03/09(金) 13:35:09 ID:6p2rhWwU0

別にあなたの事を言っている訳ではないが、不快だったら謝ります、「申し訳なかったです。」
それに更新時間がおかしいって思った事もないのですが、そんな風に受け取られる「ロジック」ってあるのですか?

自分が中学生の時はクラブ活動だけで終わりましたね、携帯もネットも消費税もない時代でしたが楽しかったですよ。
山に住んでいたので季節の風景や水の美しさ等感受性を育てる環境だったのかも知れませんね。

世紀末さん、これからが「青春」の本番です、豊かな感受性と勤勉(信用)を持ち得ればどんな事でも出来ます。
これから傷つく事も沢山あるだろうし賭けられる「運命」もあります。

失敗しても自分らしく失敗しましょうね。
おじさんもまだ「青春君」だね。
88松輝夫:2007/03/10(土) 10:20:15 ID:C7S/sdSAO
ご無沙汰してました。
最後の書き込みからちょうど二週間たってるわけですが、もうここに書き込むのは止めようと思ってました。
そういうわけで、ここを見るのも二週間ぶりになります。
細かく理由を書くと雰囲気悪くすると思うので止めときますが、二週間前のあの日は、個人的には最悪の一日でした。信頼を裏切られるということは相当こたえますね……。
正直、このままの精神状態でいい話が書けるわけもないし、ここに来るべきではないと思っていました。
千奈美に、入院とかしてたわけではありません。体の方はピンピンしてました。ただ、精神的にはかなり打撃だっただけです。
ですが、二週間でだいぶ頭も冷えてきたみたいで、どうやら水に流せそうです。だから、近いうちに続きを揚げます。心配してくださった方、どうもすみませんでした。

イワナ氏
一通り書き込みを見させていただきました。
少なくとも今の話は最後までやりぬきますのでよろしくです。
なお、世紀末さんのメールの件は了解しましたので、よろしくお取り計らい願います。
89ミヤビイワナ:2007/03/10(土) 22:13:47 ID:O81G8uO50

輝夫さん精神的な痛みを持っているのですか?

なんて辛いことだろうね。

「舞波」の中で悲しい話があったが実はあれはイワナの後輩です。

優秀な男でまだ20代半ばでイワナより出世していました。

精神的な「痛み」でした。
この板で書き始めたのは少なからずも「彼」と心で会話したかったのかもしれません。

いつか立ち直った「舞波」の話を彼の両親に読ませたいなんて・・・

90ミヤビイワナ:2007/03/10(土) 22:24:02 ID:O81G8uO50

当初は何が起きたか分からず、現実を理解したくなくて・・・

彼の両親とその場で挨拶を交わしたとき初めて
「崩れ」ました。

輝夫さん、嫌なことがあったら「逃げなさい」、「辞めなさい」
人は幸せになるためにこの世に生まれてきたのだから。

愛する者が居なくなるのは何よりも・・永遠に・・淋しい・・・
何にもなくても、好きな人が元気である事の方が何よりも「価値」があるのですから。

期待はずれの言葉を受けたりしても必ず誰かがあなたを応援しています、必ずです、一人じゃない!!
だから、ゆっくり探せばいいのです、絶対に手段があるはずです。

ゆっくりゆっくり、ですよ、彼の母親にも別れの間際イワナは精一杯に心を強くして言いました。

今日ちょっと泣きます。
おやすみ。
91ねぇ、名乗って:2007/03/12(月) 21:03:03 ID:2TOMbEz60
ヲタでもねーのに調子国からだぜ
サイトも消せyo うぜーの
92世紀末:2007/03/14(水) 18:03:15 ID:oMvjl83D0
お久しぶりです。明日卒業式です
思えばいろんな事がありました。
野球部での日々、テコンドーに費やした時間
そして学校生活・・・それが明日で終わると鳴ると悲しいです
しばらくこの板にこれませんが必ず来て更新します
出来れば待っていてください
93ねぇ、名乗って:2007/03/15(木) 16:40:32 ID:pdonsAjI0

卒業おめでとう御座います。
あなたの作品見られる日を楽しみに待っています。
94ミヤビイワナ:2007/03/18(日) 19:46:24 ID:czn7WgVs0
初めて下げてみようか。
なんか最初は苦しかったんだけどやっぱり展開的には自分のリードは何となく良かったのかなんて思って。

ここまで何もしなくなるなんて、イイカンジだね。
でもね、やっぱり捨てられないなんて本当に思い出したりみてね。
一人でも良いかな?
やっぱり書きたいんですよね、どんな嘘つきでも自分だけは騙せないんだ。
自分の作品何度も読み返せば読み返すほど。
95ミヤビイワナ:2007/03/18(日) 19:49:01 ID:czn7WgVs0
永遠に書いていたい、命尽きるまで・・・
絶対にね・・・だから・・・・
彼女達をこのまま放置は出来ない!!
96ミヤビイワナ:2007/03/18(日) 19:52:11 ID:czn7WgVs0
同窓部も絶対消しません!!
形は当然変わりますがね。
分かる人には分かる音楽のページを作ったり、ガン○ムねたばかりとかね。
生きているうちは楽しいことしたい!!
命尽きるまで!!
97墨堤通り:2007/03/19(月) 23:57:57 ID:1wKE4YlyO
突然停滞しまったようですが、何かあったのですか?

最低私だけでも『3ベリ』のコアな愛読者がおりますよ。

どんなに細々であっても私はこの板が存続する限り『楽しませて』頂きます。

イワナさん、私ちょっと普通の方よりかは毛の生えた程度はガ○ダム好きですよ。
初放映時、小Eでした。
98ミヤビイワナ:2007/03/21(水) 18:38:28 ID:wmBMhfNq0
「墨堤通り」すみませんでした、気使わせてしまって。
ちょっと遅くなりましたが、別になんて事ないんです。
「物」を作る人間達には良くあることで、どんなに良いバンドだっていつかは解散するでしょ?
バンドではないのですが。
落ちないスレッドなので少しイワナが甘えているだけでして、エヘッ!!

ガ○ダムはちょっと言い過ぎました、悪ノリしすぎましたね・・・。
99ミヤビイワナ:2007/03/22(木) 21:03:11 ID:etGNg75W0

今日7年働いた部署を移動しました。
その部署は日本で初めて作られた部署でした。
新しい企画が生まれたときに組織に発生するのは「迫害」と「無理解」です。
当初の1年はこれを一所懸命乗り越えました。
当初の一年は営業一本でしたが、一生懸命やってもやっぱり自分の持っているスキルを優先されて弱い隷下組織に技術者としてシフトされました。
営業の一年は本当に辛かったのですが自分の転職と思いやっていましたが組織のためならしょうがありません技術者として生きて行こうと思い6年間組織が軌道に乗り今では・・・なんて。
100ミヤビイワナ:2007/03/22(木) 21:08:33 ID:etGNg75W0

明日からやる仕事は大組織の民間と公をつなげる窓口みたいな仕事で、机に大きな看板を置かれ名刺もどっさり作られている状態です。
正直、技術の腕一本と喧嘩の技だけでやってきた自分には水が合わなかったりします。

しかし、こんなご時世に仕事があるだけでも有りがたいと思わなければ罰があたると思いつつ明日も30分のジョギングで通勤します。

みんなが書かないからブログみたいになってしまったね・・・・。
101世紀末:2007/03/25(日) 14:05:17 ID:sAZf9N8d0
お久しぶりです。今すぐにでも作品を更新したいのですが
パソコンが故障してるのでまだ一カ月先になるかもしれません
そこでミヤビイワナさんにお願いがあります
前に送った原稿を僕の代わりに挙げてもらえますか?
お願いします
102ミヤビイワナ:2007/03/25(日) 20:43:35 ID:oZ+fGBoy0
ごめん・・「新学期とバイト」から後の原稿って知らないんだ・・・
学校からまたメール出せないかな?
103ミヤビイワナ:2007/03/25(日) 20:53:01 ID:oZ+fGBoy0
メールが出せないから困ってるんだったね、
ごめん、サイトにアップしてある分は確かにあるんだけどな〜
各作家達からのアドレスも消したしメールも全部消したんだ。
各作家達の個人情報もし漏れたらみんなに迷惑かけるしね。

またいつか前みたいな活動出来れば普通にメールも来るはずだし、活動休止になった今、上記に書いたように迷惑かけるような事になったら困る処置だったんだ。
そんな危険性は無いのだがイワナが弱きになって「決別」しといて甘えるような「弱気」が出てフラフラっとメールでも出したらそれこそと言うかそれが一番みんなには苦痛なはずだからね。

板読んでくれたかな?
梨作家とメールやり取り出来てるなら是非、松輝夫さんのアドレス聞いてメールを出してあげて下さい。
イワナは教えたくても全部消したものなので。

それじゃ勉強と青春がんばってね。

サ・ラ・バ。
104ねぇ、名乗って:2007/04/01(日) 11:01:03 ID:248BJ4M/0
サ・ラ・バ。
105ねぇ、名乗って:2007/04/10(火) 22:03:59 ID:Kynm/1JEO
惜しい…
106ねぇ、名乗って:2007/04/11(水) 20:53:35 ID:2CVcr8rkO
オレも惜しいと思うんだが……もう終わりなの?
107ミヤビイワナ:2007/04/11(水) 21:13:46 ID:VrVDtFuF0

惜しいって何が惜しいのかな?

具体的に言って貰ったら各作家にもメッセージになると思うのですが。

結局は自分が良い空気を作れなかったのが本当のところなのだけどもし、読んでいる人たちが各作家を欲しってくれるなら動機付けになると思うんですよ。

梨作家の作品が読みたい!!茉作家の作品が読みたい!!松輝夫の作品が読みたい!!世紀末の作品が読みたい!!等、メッセージを送ってもらいたい。(イワナは別にいいから)

全ては作家では完結出来ない、何故ならば読む人がいての作品なのだからネ。

なんちゃって。
108106だけど:2007/04/12(木) 01:00:32 ID:0+1TM7y9O
>>107
もちろん、オレは皆さんの作品が読みたいんだけど。あなたのも含めてね。
109ねぇ、名乗って:2007/04/14(土) 20:04:43 ID:tIg9a00YO
待つわ♪
110ねぇ、名乗って:2007/04/14(土) 23:07:37 ID:FjeLRo2+0
もう辞めていいよ
111ねぇ、名乗って:2007/04/18(水) 20:10:33 ID:MNi0GxdZO
ベリ見てると無性にムカつく
112ねぇ、名乗って:2007/04/18(水) 20:33:46 ID:oQfkfnT40
無理して上げないように、もうほっときなさい
113ミヤビイワナ:2007/04/21(土) 18:56:15 ID:PxswftNm0
〜BIRTHDAY〜

第6話「お嬢様」

新聞やテレビのメディアは自衛隊イラク派遣から日本へ帰国する報道をこぞって公開していた。
特に「ヒゲの隊長」と称された第一次隊長は防衛庁に任務達成において戦闘による損耗が
発生しておらず隊員は無事任務終了のため各部隊に帰ったと公式発表した。

柴田あゆみは実家の自室であの日の事を思い出していた。

あゆみはヘリでクェートに到着した後、次の日には航空自衛隊の輸送機で空路により日本に帰国した。

帰国した後はそのまま東京の防衛庁に背広を着た事務官に連れられて自衛隊のスカートとネクタイを
しめる制服に着替えて庁入りした。

その後は監察官による「査問」を受け、結論はその場で「依願退職」の書類を書かされた。
つまり「クビ」である。
114BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:00:37 ID:PxswftNm0
監察官曰く
「懲戒免職ではありませんからね、あくまでもあなたの心身の理由によるところで
 防衛庁としてはあなたを大事に思い一国民として人間的に扱いたい事からの判断ですから。」

「・・・・・。」

「それから何度も言うようにイラクの事は忘れなさい、あなた一人の問題ではなく部隊の
 隊員、特に飯田2尉、今井2曹、二宮3曹らの、この先を考えてイラクでのあの件は
 プラスになりませんからね。」

「・・・・・。」

少ない私物品は自宅に届けられて、事務官は目立たぬようにタクシーで神奈川の実家まで送り、
「柴田さん、お疲れさまでした。」
「これからは普通の女性として生きて下さい。」
深々と頭を下げた事務官はそのままタクシーに乗って帰って行った。

久しぶりの実家だった。

玄関を開けて家に入ると、母と父が揃って出迎えてくれた。
115BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:07:46 ID:PxswftNm0
「ああ、良く帰ってきた・・・・。」
父は目を真っ赤にしていた。

母は何も言わず涙を堪えながら娘を抱きしめた。

包帯で吊られた腕を見て、
「・・・痛かっただろうね・・・。」

両親は全の事情を防衛庁から聞いているようだった・・・・。

あれから2週間が経ち腕の怪我も治った。

しかし彼女は何もやる気が起きない。

(この1年・・・夢だったのかな?)
(本当は普通の生活していて信田班長も市井班付もいなくて、ただ夢を見ていたのかな?)

外は雨が降り出していた・・・・・。

夕飯になり家族は食卓についた。

「父さんな、3月一杯で警察を退職することにした。」

「!!」

あゆみの心に衝撃が走った。

「父さん・・・まさか・・・」
116BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:10:15 ID:PxswftNm0
父はまだ40代の半ばだった、まだ10年以上も職務に就けるのだ。

「次は市役所の勤務員をやらせてもらえるそうだ。」

「ねえ、父さん。」

「図書館の管理人らしいが父さん本が好きだからうれしいな。」

「あたしのせいなんでしょ!!」

あゆみは顔を硬直させ大きな声を出した。

「・・・・・。」

母は涙ぐんでいた、どうやら知っていたようだ。

「なんで、なんで父さんみたいな誠実な警察官が・・・・・。」

父は黙っていたが顔の笑顔を崩さなかった。

あゆみは知っていた、国の組織が簡単に「困った」人間を「排他」出来ることを。

あゆみはふらふら立ち上がり、
「お父さん・・・ごめんなさい・・・。」
部屋に帰った。
117BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:13:20 ID:PxswftNm0
その週の土曜日に訪問者が現れた。

「初めまして、電話でご連絡した「旭川化成」です。」

土曜日は家族が揃っていたためなにやら話がしたいとの事だった。

その男性は小柄で髪を七三に分けてグレイのスーツを着た父と同じくらいの普通のサラリーマンだった。

名刺に本店の人事部長と書いてある。

本店の部長と言えば相当なポストである、将来は役員も務めるエリートである。

母はテーブルにお茶を持ってきて部長に勧めた。

「あの〜単刀直入に言いますがあゆみさんがイラクで「仕事」していたことは私知っていますから。」

「!!」

家族は動揺し不安な空気が流れる。

「私もいたんですよ現場に。」
「あゆみさんが働く姿も拝見していました。」

あゆみは驚いたが自分の働きを見ていてくれた人と会えてうれしかった。

「あ、浄水器の研修で来ていた時ですか?」

「はは、覚えていてくれましたか。」

柴田家では久しぶりに明るい空気が流れた。
118BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:23:39 ID:PxswftNm0
部長はニコニコしていた。

昼間から酒宴が始まった。

全く奇想天外な事だ、昨日までの暗い家が一人の「サラリーマン」の出現で明るい家になった。

人事部長はイラクでの自衛隊の活動と現地に生きる人間の美しさ、日本に比べれば何もない
貧しい国だが人の持つ心の「強さ」を父と母に語り聞かせた。

「お父さん、お母さん、娘さんは命をかけて「イラク」を守りましたよ。」

「!!」

あゆみは初めて、初めてイラクの事を誉められた。

両親は涙ながらに人事部長の話に聞き入った。

あゆみは、
(さすがだ、人間の度量が違う)

重い事情を抱えた家庭に来て酒を飲んで話を始めるなど普通の「度胸」では出来ない。
それをさりげなく始めて父と母をねぎらっている。

2時間程楽しい時間が過ぎた。

「あーこんな時間まで、すみません。」

「いえいえ本当に楽しかったです。」
父の本音だった。
119BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:26:32 ID:PxswftNm0
>>118
書き込みミスなのでご了承ください。
120BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:53:02 ID:PxswftNm0
警察官だった父は遠慮しがちに、

「あのもし良かったら、お話を聞かせていただけますかね?」

「ええ、結構ですよ。」

父は小さな希望にあふれた。
「母さん!!ビールを持ってきてくれ!!」

あゆみはまさか大企業の部長が昼間から会ったばかりの人間と酒など飲むはずもないと思い、
「父さん、部長さんは仕事で来てるのよ。」

「えー、いただけるんですか?」
121BIRTHDAY:2007/04/21(土) 19:55:06 ID:PxswftNm0
部長はニコニコしていた。

昼間から酒宴が始まった。

全く奇想天外な事だ、昨日までの暗い家が一人の「サラリーマン」の出現で明るい家になった。

人事部長はイラクでの自衛隊の活動と現地に生きる人間の美しさ、日本に比べれば何もない
貧しい国だが人の持つ心の「強さ」を父と母に語り聞かせた。

「お父さん、お母さん、娘さんは命をかけて「イラク」を守りましたよ。」

「!!」

あゆみは初めて、初めてイラクの事を誉められた。

両親は涙ながらに人事部長の話に聞き入った。

あゆみは、
(さすがだ、人間の度量が違う)

重い事情を抱えた家庭に来て酒を飲んで話を始めるなど普通の「度胸」では出来ない。
それをさりげなく始めて父と母をねぎらっている。

2時間程楽しい時間が過ぎた。

「あーこんな時間まで、すみません。」

「いえいえ本当に楽しかったです。」
父の本音だった。
122BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:11:08 ID:PxswftNm0
「えーっと私が来た用件をまだ言ってませんでしたね。」

「・・・・・。」

「実はあゆみさんの再就職の件で・・・」

「!!」

(旭川化成に入社かしら。)

「道重グループってご存じですか。」

知らない訳はなかった、重工業から繊維、食料なんでも屋の財閥グループである。

「その道重会長が秘書を捜していまして。」

「!!」

あゆみは、
「申し訳ありません、私はご存じの通り高卒で大型車両の免許しか持っていませんので
 いきなりOLは 無理だと思います、運転手なら免許があるので出来ます。」

「はは、普通そうですが今回の秘書の資格は「強さ」なのですよ。」

「??」
123BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:14:53 ID:PxswftNm0
「無理にとは言いませんが近いうちに面接に行きませんか?」

「・・・・・。」

「気持ちが決まりましたら私に連絡下さい山口県なので旅費をお支払いしますので。」

「・・・・・山口県ですか。」

その夜あゆみは「面接」について考えていた。
(他にすることもないし・・・)
あゆみはイラクでもらった勲章、錆びた十字架のペンダントを握りながら決意した。

次の朝
「母さん、私、面接に行ってみようかなと思うの。」

母は笑ってうなずいた。

人事部長に連絡した後1時間程で迎えのタクシーが来てグレーのスラックスとスーツに包まれた
あゆみを乗せて駅まで送られた。

駅では人事部長が20代半ばの女性を従え待っていた。

「ああ!!やっぱり来てくれましたね。」
部長は嬉しそうにあゆみの両手を握った。
124BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:18:25 ID:PxswftNm0
「こちらの方は道重会長直属の秘書で「前田有紀」さんと言います。」

「前田です。よろしくお願いします。」

「前田さんが直接あなたをお連れするので心配ありませんよ。」

そのまま前田に連れられ山口へ旅立った。

山口県に到着して駅を出たら黒い車が迎えに来ていた。
何かの映画のようだが前田に促されるまま車に乗り込んだ。

「柴田さん、今年二十歳になったそうですが大学は行っているのですか?」
「・・・・・。」

前田が唐突に柴田に質問を投げかけた。

「はい、「ハートブレイク・リッジ」を短期で卒業しました。」

「・・・・???」

あゆみはにっこり笑っていた。
あゆみは久しぶりに家族以外で歳の近い女性と話せたのがとても嬉しかったのだ。
人には分からない冗談が出てしまうのもしょうがなかった。
125BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:19:38 ID:PxswftNm0
道重会長の邸宅に到着した。

古い門構えだがとてつもなく広い屋敷であった。

前田に連れられ渡り廊下を通り会長の待つ応接室に来た。

前田が、
「会長、柴田あゆみさんをお連れしました。」

「・・・・・入りなさい。」

広い洋室の部屋だった、大きなソファーに白髪の道重会長がいた。

「初めまして柴田あゆみと申します。」

「遠くからお疲れだったね、ソファーに掛けてください。」

あゆみは言われるままソファーに座った。

「あなたの話は旭川化成の部長から聞いていてね是非会いたくなったんだよ。」
「・・・・・。」
「こんな老いぼれでも国の為に働いてくれた若者になにか報いたかったんだ。」
「お気遣いありがとう御座います。」

前田がコーヒーを二人の座るテーブルに置き一礼して部屋を出て行った。

「・・・とは、言っても本当はこちらが助けて貰いたい所なのだよ。」
「・・・・・。」
126BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:22:31 ID:PxswftNm0
「私には今年中学3年生になる孫娘がいるのだが、少し事情があって昨年の秋から学校に行っていないのだよ。」

「つまり登校拒否だな・・・。」

「・・・・・。」

「登校拒否をする前には学校で暴力事件も起こしてしまい・・・完全に世の中を否定する
身になってしまった、このままではただただ自分の殻に閉じこもる生活をするばかりなのだよ。」

白髪の老人は瞳の中に悲しくも悔しい光を携えながら空を見た。

あゆみは、
「私に何か出来るのでしょうか・・・家庭教師の経験もありません・・・。」

「・・・・勉強を教えてやってくれとは言わないが、君が命がけで任務を果たした心を教えてやって
くれないだろうか、人を慈しみ心を何とかあの子に教えてくれないだろうか。」

「!!」

白髪の老人はテーブルに手をついてあゆみに向かって頭を下げていた。

「やめて下さい!!、その娘さんに会いますので、どうぞ頭を上げて下さい!!」

あゆみは経済界の首領を前に緊張の絶頂を感じていたが一人の孫娘にかける老人の姿に覚悟を決めた。
127BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:29:06 ID:PxswftNm0
「孫娘さんに会う前にもし良かったら事情を聞かせていただけますか?」

人の家庭の事情に踏み込むのは勇気がいる事だったがあゆみは小銃を握って敵前に飛び出した
気持ちを思いだし直球を投げた。

「実は・・・」

昨年の話だった。

道重会長の息子は大学を卒業した後父の事業の一部を運営している企業に平サラリーマン
として下積み修行していた時期があった。

その職場で普通の家庭で育ったOLと恋に落ち結婚して会長の孫娘が生まれた。

道重グループでは当初一般家庭からの結婚相手では不服だと論議されたが道重会長は息子を擁護していた。

息子が決めた相手なら息子が幸せになれるのなら。

道重会長が思ったとおり本当に優しい妻だった、生まれた孫娘も明るく聡明で幼少のころから
帝王学を学ばせたが優秀な成績で私立の女子中学校にも難なく入学だった。

高校はアメリカに留学させ後には道重財閥の中心的存在になってもらいたいと会長は夢見ていた。
128BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:30:26 ID:PxswftNm0
そんなある日

「もうすぐさゆみの誕生日ね。」

自宅のリビングで母と娘は歓談していた。

「さゆは母さんが選んだ髪に飾るかわいいリボンが欲しいな。」

会社社長を営む父を持つ家庭だが一般的なマンション住まいだった。

母は必要以上な生活を好まず普通な環境で娘を育てたかった、今はまだ一緒に暮らせるが、そろそろ
道重財閥の後継者としての本格的な教育が始まる。

高校はアメリカに留学だろう、もうそれは彼女の宿命として受け止めなければならなかった。

(一緒に居れる今を大事に)

母はそう思いさゆみを慈しんでいた。

7月の盛夏さゆみは元気に登校していた、いよいよ今日は誕生日。
(お母さんリボン買ってくれるかな)

何気ない物が大事な年頃であるが母から選ばれた物が一番大事なのである。

昼休みの学校に校内放送が流れた。
129BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:33:33 ID:PxswftNm0
「2年A組の道重さゆみさん職員室に来てください。」

「!!」

(なんだろう教材準備の手伝いかな?)

さゆみは教室から職員室に入った。

「!!」

そこには祖父の秘書の一人前田有紀がスーツ姿で担任と話していた。

職員室の空気は重かった。

「お嬢様、これからすぐに帰宅します。」

「ええ、どうしてですか?」

「事情は車の中で、学校には許可を取りました、とにかく急いで下さい。」

「どうしたのですか!!」

一方的に話を進める前田に少し疑問が沸き少し声が大きくなった。

「お母様が事故に巻き込まれました・・・。」

「!!」
130BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:38:38 ID:PxswftNm0
前田はしかたなく一言ですませた。

本日1000過ぎに市街を走る列車が脱線事故を起こした。

利益追求の基に過密な列車運用が大惨事をもたらした。

その列車にはさゆみの母が乗っていた、手にした紙袋に大きなピンク色をしたリボンが数個入っていたらしい。

事故後すぐ緊急手術が始まり命は取り留めたが意識が戻らなかった。

今も生命維持装置の管理で意識が戻らない状態である。

医者の話によると身体機能は異常がないので意識が戻る可能性は充分あるが何時と言えない状況であった。

「あたしのせいだ・・・・。」

「!!」
131BIRTHDAY:2007/04/21(土) 20:41:20 ID:PxswftNm0
手術が終わり医師から術後経過を聞いた後、会長と父親、前田の前でさゆみは様子がおかしくなった。

「あたしのせいだ、あたしが誕生日プレゼントを
ねだらなければ・・・あたしの誕生日がなければ・・・。」

「母さん・・・は・こ・・んな・こと・・に・・。」

「さゆみ!!」

父は思わず娘の肩を両手で掴んだ。

「さゆみがしっかりしなければ!!」

さゆみは目の焦点が合わず顔を上に向けて倒れ込んだ。

病院で夜中を迎え日付は変わった・・・14才の誕生日が終わった・・・。

「・・・そうですか・・辛い話を申し訳ありません。」

会長は立ち上がり、

「バカな年寄りの我が儘・・・頼みます。」

深々と頭を下げた・・・・。
132BIRTHDAY:2007/04/21(土) 21:05:56 ID:PxswftNm0
前田にこれから住み込む部屋に案内された。

トイレバス付きのワンルームである。

「あの前田さん。」

「何ですか?」

「仕事の内容についてですが。」

「ええ、明日0700頃に食堂に来て頂き会長とお嬢様、私と同席で食事をします。」
「準備はすべてこちらでやりますので軽い服装で来てください。」

(軽い服装って・・・)

「奥のクローゼットに一通りの服を用意しておりますのでご自由に着用してください。」

「食事が遅くなりましたので今夜は部屋食にします、入浴については
お疲れでしょうから部屋のシャワーの方がよろしいですね。」

「それでは何かありましたら携帯電話にいつでもかけて下さい。」

(慣れないわね・・・・。)

疲れたあゆみは早々に用意されたベッドで就寝した。
133BIRTHDAY:2007/04/21(土) 21:09:27 ID:PxswftNm0
翌朝、

早めに起きたあゆみは軽い服装と言われたが分からないので昨日着ていたスーツを着ていた。

部屋のドアをノックして前田が迎えに来た。


前田に案内されて食堂に来た時には会長しか居なかった。
洋風の部屋で大きなテーブルの椅子にあゆみは座らされて会長と前田の3人で食事をする事になった。

会長は食事の前に茶を飲みながら、
「昨日話した事故の後、この屋敷から孫を通学させたのだが1ヶ月も経たないうちに学校で
暴力事件を起こしてしまい、それからは誰とも話さなくなったし、こうして人と食事も
しなくなってしまったよ。」

会長は苦笑いしていた。

「・・・・・。」
134BIRTHDAY:2007/04/21(土) 21:11:44 ID:PxswftNm0

食事が終わりあゆみは前田に屋敷内にある小さな事務室に案内された。

「もう少ししたらさゆみ嬢様の部屋に案内します。」

前田は気が重そうに話した。

「お嬢様はもとは明るく聡明な少女でした、お母様の事故以来変わってしまったのです。」

「・・・・・。」

(母親を愛さない娘はいない・・・)

「さあ、こちらです。」

あゆみは前田に案内され「お嬢様」と呼ばれる少女の部屋の前に立った・・・・・。

第6話 終了
135ねぇ、名乗って:2007/04/24(火) 09:48:32 ID:QNd/yl/mO
更新有難うございます。
この日をどれだけ待ち望んだ事か…。
136ミヤビイワナ:2007/04/24(火) 20:40:24 ID:KaXQ4qL20
>>135さん 有り難う御座います。
こんなイワナの文章でも待っている人もいるのかな。
ペースは落としていますが丁寧にゆっくり書いて行きたいと思っています。

もし良かったら他の作家にメッセージ送ってもらいたいです。
それがイワナの願いです。
137ねぇ、名乗って:2007/04/24(火) 22:55:33 ID:HNCm/cPmO
イワナさん更新お疲れさまです。
他の作家の皆さんも頑張ってください。お待ちしてます。
138世紀末:2007/04/30(月) 20:28:31 ID:YLAIu0Ph0
 合流と結果

  龍毅は1人、旅館のベランダで見慣れた京都の町並みを見ていた。
  オーディションに失敗した以上、進路の事を考えていた
  親父になんて言おうか・・・
  すると『暗い顔してどうしたの?』と猫なで声が聞こえた
  嗣永 桃子だった。髪が濡れており、風呂上りのようだった
  龍毅は強がって『別に』と答えてみせた
  『本当?まさかオーディション失敗したとか?』
  龍毅はその言葉を聴き、肩を落とした。
  すると桃子はすまなさそうに『ゴメン・・・』と謝った。
  『大丈夫や!ちょっと失敗しただけ!受かってるって!
  お前もオーディション、受けたんやろ?どうやった?』と機転を利かせ聞いた
  すると桃子も暗い顔をして、肩を落とした。
  『まあアタシも失敗したかな・・・でも受かってる!』
  桃子はいつもの笑顔でそう言った。
  『まあお互い様やがな!元気出して行こう!せっかくの修学旅行やし!』
  そう言うと龍毅は桃子の肩を叩き、笑いだした。
  桃子も龍毅がおかしく思わず吹きだし笑いだした。
  龍毅は桃子と一緒にいることが幸せのように感じた。
139世紀末:2007/04/30(月) 20:29:45 ID:YLAIu0Ph0
旅立ち
  
  龍毅は次の日の朝、自由行動を断り、実家に向かっていた
  その目的はただ一つ。進路のことだった  
  龍毅はオーディションを失敗したが、このまま高校に進学し
  生ぬるい音楽活動をしたくはなかった。
  おそらく父は反対するだろう。母親も。
  龍毅は家出する覚悟も持っていた
  龍毅が自宅前に着くと父親が立っていた。表情もいつもと違い真剣だった
  『入れ』そう一言だけ言うと家の中に入っていった
  龍毅は始めてみる父親の真剣な表情に戸惑いと驚きを感じた
  『ただいま』そう言い居間に上がると、母も珍しく険しい表情をしていた
  『龍毅。座れ。何の話かわかってるよな?』
  龍毅が見たその表情は自分や兄と同じ様に写真で一度だけ見た
  ドラムを叩いていた表情だった
  『わかってる。進路の話やろ。俺は高校には行かへん』
  『まあそれよりもオーディションはどうやったんや?』
  すると龍毅は重い表情で『・・・失敗した。まだ結果は出てないけど
  審査員なら気付いてるやろ』
  『そうか。じゃあ高校に行くんやな』
140世紀末:2007/04/30(月) 20:30:44 ID:YLAIu0Ph0
『それは無理や!俺は音楽一筋で行きたい』
  『条件が違うな。でも高校行きながら音楽でもいいやろ』
  『それじゃアカンねん!兄貴だって中退して、やっと今年からデビューや。
   高校行ってたらデビューなんて無理や』
  すると父は龍毅の肩を掴み『龍毅!お前には高校に行ってほしいんや!
  廉も俺も高校には行ってない。だからお前には・・・』
  『それや!オトンだって音楽の為に中退した。そして兄貴も。
   俺もバンドで頂点取りたいんや。頼む!』
  『龍毅!バンドでもし、成功しなかったらどうするんや。保証も無いのに』
  『兄貴だってオトンだってそうやろ。頼む!』そう言うと龍毅は土下座していた。
 
  そんな龍毅に隆也は迷っていた
  果たして龍毅を自由にするか、高校に行かせるか・・・
  すると横から『龍毅!高校行かんでいい!ミュージシャンになり!』
  という声が聞こえた 母親の優子だった。いつになく激しい口調だった
  『優子、何言ってるんや。コイツはまだ・・・』
  そういいかけると優子は激しい口調でその言葉を遮った
141世紀末:2007/04/30(月) 20:31:33 ID:YLAIu0Ph0
『前から思ってたけどアンタは龍毅になんでも押し付けすぎなのよ!
   野球も空手もそうじゃない。龍毅にとって音楽は一番大事な物なのよ・・
   隆也、アンタも認めてあげたら?ホントは分かってるんでしょ?
   龍毅がやりたくもなくて、野球や空手をやってた事』
  すると隆也は黙り込み、頭を抱えた。
  『オトン、確かにオトンの気持ちはわかるけど、俺は音楽をやりたい!
   認めてくれ!』そう言うともう一度頭を下げた
  そう言うと一分間沈黙が流れた。それを破ったのは隆也だった
  『・・・そうやな。確かに俺は龍毅の為に!って思ってやらせてきた
   でもそれが間違ってたって気付いてたんや。よし!龍毅!バンドで頂点を目指せ!』
  『じゃぁ・・・』
  『ああ!高校は行かんでいい!派手に暴れてこい!』
142世紀末:2007/04/30(月) 20:33:43 ID:YLAIu0Ph0
『でも親父さんに認めてもらったんだ!』
  『まあ一応な』
  龍毅は帰りの新幹線で矢島に実家での出来事を話していた。
  『でも、よかったよな。いち早く進路が決まって』
  『そんな楽なもんじゃないで!バイトしながらバンド活動するか
   オーディション中心で活動するか決めなあかんし
   それにしても須藤とはどうや?キスぐらいしたんか?』
  矢島はその言葉を聴くと顔を赤くした
  『しっ、してねえよ!』
  『でもデートは修学旅行でしたんやろ?お前は恋愛だけは奥手やな
   ガキというか純情というか!』
  『うるせぇよ!でも次はお前の番だよ』
  『わかってるわ!』
  そう言うと龍毅はヘッドフォンを耳に付け、KISSを聞き始めた
  『そろそろやな・・・』
  龍毅は嗣永のほうをチラっと見て、目を瞑った
143世紀末:2007/04/30(月) 21:39:21 ID:YLAIu0Ph0
素直になれない気持ち


  龍毅は修学旅行から帰ってきた夜、嗣永の事を考えていた
  居間では廉が作曲・作詞の為にアルペジオでギターを奏でていた
  その美しく、綺麗な旋律は龍毅の心情と重なっていた。
  すると廉はいきなり龍毅の部屋に入ってきた。いつになく真剣な表情だった
  『龍毅、好きな人はいるか?』いきなり聞いてきたので龍毅は顔が赤くなった
  『何言ってるねん・・・俺はいいわ。兄貴はどうなんや?』と思い空気を
  取り払うかのように軽い口調で聞いた
  『誤魔化すな!お前はいつもそうや!自分の事は誤魔化して逃げる!
   もっと素直になれ!』その言葉を聴いた瞬間、龍毅は矢島の事を思い出した
  『・・・それ、矢島にも言われたわ』
  『そうやろ。矢島君も気付いてるんや。お前、嗣永ちゃんが好きやろ?』
  すると龍毅は顔を赤くして黙り込んだ
  『まあ俺には言わんでええけど、好きな奴には気持ちを伝えろ。
   そうじゃないと俺のように後悔するから』
  そう言うと廉は部屋を出て行った
  『素直。か・・・』龍毅は素直になりきれてない自分に苛立ちを感じた。
144世紀末:2007/04/30(月) 21:40:17 ID:YLAIu0Ph0
翌日、久しぶりのゆっくりとした休日に龍毅は矢島を呼び出した。
  矢島はいつもと違い真剣な龍毅に何かを感じた
  『矢島、俺、嗣永に告白しようかと思うねん』
  『そうか。でもいきなりどうした?』
  『いや、昨日な兄貴にお前と同じ事を言われたわ。素直になれって。
   まあ確かに俺は楓との事を気にして、自分の気持ちに素直になってなかった
   いや、なりたくなかった。でもお前に言われて気付いたわ。
   気持ちを伝えないと後悔するって』
   すると矢島は『お前、変わったな』と言った
   『変わってないって』
   『いや、変わった。転校当初はすぐ誤魔化す割には頑固な意地っ張りだったし』
   龍毅はその言葉に笑いながら『やかましいわ!』と言い、肩を叩いた
   龍毅はやはり再確認した。後悔しないためには自分に素直になることが大事
   だという事を。
145世紀末:2007/04/30(月) 21:41:30 ID:YLAIu0Ph0
体育祭と進路
   
   『あーあ、準備なんかめんどいわ・・・・』
   龍毅はしぶしぶ、一生懸命、準備をしている。
   気がつくと横で嗣永が走り回っている。
   龍毅もこれにはムカついた様で頭に巻いていたタオルで叩き注意した
   『嗣永!お前も手伝え!』と言うと椅子に座り込んだ
   『イタッ!アタシはか弱いから、男の仕事』
   『何がか弱いやねん。俺ばっかりやってるやんけ』
   そう言うと辺りを見渡すと、一生懸命やっていたのは数えるほどであり
   大半は遊んでいた。そんな光景を見て龍毅はバカらしくなってきた
   『アホらし。なんかやる気なくなったわ・・・』
   『そうでしょ?誰も準備なんかやってないって!』
   そんな二人は怒りの殺気を感じ、振り向いた。熊井 友理奈だった
   龍毅よりも少し高い背で上から見下ろしている
   『二人とも!何サボってんの!早く手伝って!』と言い椅子を運び始めた
   『だってさ、誰もやってへんやん!サボり放題やん』
   『ハイハイ。屁理屈言わないの。ホラ、梨沙子も佐紀もやってるじゃん』
   熊井が指を刺した方を見ると二人は一生懸命準備をしていた
   まあ梨沙子については遊んでるようにも見えるが・・・
   『へえ・・・真面目やなぁ。じゃあ熊井と嗣永で頑張って!』
   そう誤魔化し、逃げようとする龍毅を熊井は襟を掴み、捕まえた
   熊井と嗣永は明らかに睨んでいる
   『あーもうわかった!睨むな!手伝うから!』
   その言葉を聴くと嗣永は笑顔で『やった!』と言い逃げていった。
   『チッ・・・損な役回りやな』そう言うと龍毅はしぶしぶと手伝いはじめた。
146世紀末:2007/04/30(月) 21:42:34 ID:YLAIu0Ph0
体育祭当日、生徒達は気合が入っており、騒がしかった
   龍毅は応援旗に『精一杯やったら悔いは無いから、後悔はしないように頑張る』
   と書いておいた。体育祭にしても恋にしてもこれが龍毅の今の気持ちである
   するとガラガラとドアが開いた。その正体は徳永だった。
   どうやらよっぽど急いできたようで肩で呼吸していた。
   『また遅刻か・・・』徳永は日ごろから遅刻してくるので驚きは無かった
   するとチャイムが鳴り生徒達は席に着いた。
   
   全生徒達がグランドに並ぶと3-Cの村上 愛が選手宣誓をした。
   北はほころんでしまいそうな笑顔で村上を迎え入れている
   開会式が終わり、生徒達は散り散りになって席に座った。
   気がつけば、嗣永がいなかった。
   『熊井、嗣永ってどこにいるん?』
   『多分、保健室。保健委員だから』
   『へぇ・・・』
   すると『100m走の選手は教員テントに集まってください』という
   アナウンスが流された。
147世紀末:2007/04/30(月) 21:43:41 ID:YLAIu0Ph0
 そして龍毅はトラックの一番内側でゴールの方を見つめていた
   矢島や岡井、金八の声がうっすらと聞こえてくる。
   すると『位置についてーっ!』という声がして
   『パン!』とピストルが鳴った。
   龍毅は一生懸命走った。おそらくこんなに思い切り走ったのは久しぶりだろう
   去年の体育祭。楓もいなくて、やる気もなかった。
   でも最後の体育祭。これで勝ったら思い出に残るような気がした。
   後ろを向くと3-Cの男子がゴール前で追い上げてきている。
   龍毅は無我夢中だった。気がつくと自分は野球のスライディングの要領で
   滑り込んでいた。だがゴールテープを切ったことは覚えてた
   すると3-Bの座席からはクラスメイトが旗を持って歓喜の声を上げていた。
   金八も満面の笑顔で席を立っていた。
   龍毅は自分の足から血が出ている事に気付いたが、気にはならなかった。
   矢島と岡井が『龍毅!やったな!』と言い声をかけてきた
   『当たり前やろ!俺が負けるわけないやんけ!』
   龍毅は胸が苦しかったが精一杯の強がりでそう言った
   『うわっ!血出てる・・・肩かしてくれ!』
   そう言うと龍毅は二人にもたれかかった。
   クラスメイトは珍しく自分達を頼る龍毅がおかしく笑いながら、テントに運んだ。
148世紀末:2007/04/30(月) 22:09:24 ID:YLAIu0Ph0
『ヤバッ!血が止まらへんし・・・痛いわ』
   龍毅はその血で染まった足をタオルで拭きながら保健室へ向かった。
   ガラッとドアを開け『すいません。怪我したんですけど・・・』
   そう言い静かに入るとそこには偉そうな嗣永が本田先生の指定席に座っていた
   『お前・・・何してんねん』
   『何って看護よ!看護!』
   『へえ・・・偉そうに座るのが看護か』と龍毅はからかうように言った。
   『もう!ちゃんとやってるの!で、どこを怪我したの?』
   そう言われ龍毅は赤く血で染まった足を嗣永に向けた
   『血がめっちゃ出てるから。じゃあ看護してもらおうか』
   すると『血!血!うわっ!』と悲鳴に近い声を上げながら龍毅に救急セットを
   投げつけた。
   『おい!保健委員やろ!サボんな!』
   『血だけは無理!』嗣永はそう言うと傷口から目をそむけた。
   そんな嗣永にブツブツ文句を言いながら龍毅は消毒液を豪快に足にかけた
   『イタッ!・・・で、お前は体育祭に参加せえへんの?』
   『アタシはナイチンゲールなの!介護専門!』
   そんな嗣永に龍毅はガーゼを巻きながら笑っていた
   『お前、ホンマに面白いな!まっせいぜい頑張んな!
    逆ナイチンゲール!』龍毅は皮肉たっぷりにそう言うと
   保健室を出て行った。
   『いつ、告白したらいいんやろ・・・』
   龍毅は絶好のタイミングを逃したことを後悔していた
149世紀末:2007/04/30(月) 22:10:36 ID:YLAIu0Ph0
体育祭もいよいよ終盤に差し掛かり、女子リレーよりも先に
   男子リレーを行うことになった
   『龍毅、足は大丈夫か?』
   『大丈夫や。単なるかすり傷。それにしても順番どうする?』
   女子の順番は決まってたが、男子はまだ決まっていなかった。
   『お前、アンカーいってくれ。俺は脚、怪我してあんまり走れないから』
   『はぁ!?俺、そんな脚は速くないしさ・・』
   確かに龍毅は足は普通より速いが、陸上部には勝てなかった
   『頼む!それに嗣永にいい所見せろ!』
   そう言うと龍毅の肩を叩いた
   すると選手集合の放送が鳴り3-Bの男子5人が集まった。
   後ろからは女子や男子の声援が聞こえてきて、金八も精一杯叫んでいた。
   龍毅はこれまでにないほど緊張していた。
   5人は集まり円陣を組んだ。
   『龍毅、お前が締めろ!』
   『ええっ!俺?』
   『そうそう!早く!』
   男子に続き、周りの女子も龍毅に茶化した
   すると龍毅は真剣な表情になった
   『さんねんびーぐみーーっ!!』
   『勝つぞーーーー!!!』
   男子らしい気合の入った声が運動場に響き渡った。
150世紀末:2007/04/30(月) 22:11:49 ID:YLAIu0Ph0
   前の学校でもリレーは何度か出た事があるが、アンカーは始めてだった
   すると第一走者は真剣な表情でクラウチングのポーズをとっている
   そして『バァン!』と大きい音がするといっせいに走り出した
   一番手はどんどん他の生徒を抜いていき、ダントツの1位となった
   すると2番手、3番手、4番手も1位維持して龍毅にバトンを渡した

   苦しい・・・足が痛む・・・気がつくと足から血が出ていた。
   もう休みたい。ベットに寝転がりたい!楽になりたい!
   そんな時、後ろからはクラスメイトの声援が聞こえてきた
   声を枯らして応援している。応援旗を振り回している
   その時、龍毅は我に返り、精一杯走った。
   そして後ろからは3-Cのアンカーの矢島が追い上げてきた
   
   やはり陸上部のエースだけあり早い・・・
   どんどん追い上げてくる。でも負けない!
151世紀末:2007/04/30(月) 22:12:48 ID:YLAIu0Ph0
『負けるか!!!!』龍毅はそう叫ぶと、ラストスパートをかけ  
   無我夢中に走った。気がつくと龍毅はゴールテープを切り、そのまま
   勢いあまって、地面に転がっていた。
   後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。金八が笑いながら何か叫んでいる
   すると3-Bのリレー選手が駆け寄り『龍毅!!』と言い背中に飛びついてきた
   それから次々と3-B男子が駆け寄ってきて龍毅を叩いた
   『龍毅!土壇場でやったな!』
   『当たり前や!俺ってカッコイイな!』
   笑いながら話す、龍毅にクラスメイトは笑いながら突っ込んでいた
   『なんでやねん!!!!』

   結局4位に終わったが、皆、誇らしい顔をしていた
   女子のリレーでは菅谷が一生懸命走っている姿を見て
   龍毅も心を奪われた様な気がした。
   3Bの応援席から1人、また1人、梨沙子に駆け寄った
   龍毅はその行動が信じられなかったが、気がつくと自分も駆け寄り
   声援をかけていた。それも大声で。
   龍毅はその時思った。『世の中、未来はあるな』と。
152世紀末:2007/04/30(月) 22:13:25 ID:YLAIu0Ph0
帰り道、龍毅は嗣永を公園に呼び出し二人はブランコに座っていた
   横には嗣永が龍毅の包帯でグルグル巻きにされた足を見て笑っている
   『嗣永!お前がしっかり看護しいひんからやぞ!』
   『アタシは精一杯やったもん!』
   嗣永はそう言うと頬を膨らませた。
   『ったく・・・こっちは1位になったのに、誰も褒めへんし』
   そう言うと道端にある小石を蹴り飛ばした。
   『褒めてほしい?はいエライエライ!』
   そういいながら桃子は龍毅の頭を撫でた。
   『おちょくってんのか!』
   『いや、でもカッコよかったよ!一生懸命走ってて』
   それを聞いて龍毅は顔を赤らめて黙り込んだ
   「あっ!照れてるでしょ!ホラ、照れてる」
   『照れてないわ!お前もちょっとは頑張れ!』
   すると桃子はまた頬を脹らました。
   『せっかく褒めてあげたのに・・・』
   『ハイハイごめんなさい!!・・・それよりも嗣永、話があるんや』
   『何、急に真剣な顔して』
153世紀末:2007/05/01(火) 06:47:51 ID:nMy4lYU40
桃子は始めてみる龍毅の真剣な顔に一瞬、ドキっとした
   『俺が転校した理由って知ってるか?』
   『うん。廉さんに聞いた事がある』
   桃子は前に廉とCDショップで会った時にその理由を聞いていた
   『実はな、俺はそれ以来から女に関わるって事が
    あまり好きじゃなかった。最初は質問とかされた時は
    我慢したけど辛かったわ。でもそれが解決されてから
    気になる人が現れた。誰かわかる?』
   すると桃子はのんきに『うーん・・・友理奈?』と答えた
   『違うわ!・・・それはお前や!!!』
   一瞬時が止まりかけた様な時間がその場を流れた。
   桃子は言っている意味が分からずキョトンとしていた
   『あーもう一回言う。俺はお前が好きなんや!!!』
   桃子はその言葉を聴くと『エエッ!!!』と素っ頓狂な声を上げた。
   『返事はまだ出さんでもいい。お前がいい時でいいし。待ってるから』
  そう言うと龍毅は恥ずかしくて顔が真っ赤になり、走って帰っていった
   『まさか私が好きだったなんて・・』
  そんな龍毅の後姿を桃子はずっと見ていた・・・・
154世紀末:2007/05/01(火) 06:49:29 ID:nMy4lYU40
  
思いがけない転機
 
  龍毅はあの告白以来、照れくさくて桃子とは一言も会話を交わしていなかった
  『返事はいつやろ・・・』そんなことをずっと授業中、考えていた
  その日の帰りのホームルームの時間―――
  「え〜、体育祭が終わったばかりですが、いよいよ来週からは三者面談が始まります。   文化祭も近いので慌しいですが、みんなの進路を決める大事なことです」
   教壇から3Bの生徒30人を見渡しながら金八は言った
  まあ俺からしたら、この学校に来て半年くらいか・・・
  時がたつのも速いものやな。

  HRも終わり、龍毅は家に返ると、兄の廉が笑いながら座っていた
  『龍毅!お前にいい知らせを教えてやるわ!』
  そう言い、封筒を渡された。あて先は”メタル・デトロイト・シティ”と
  書いてあった。おそらくこの前のオーディションの結果だろう。
  龍毅は落ちてると思い、軽い気持ちで封筒の中を見た。
155世紀末:2007/05/01(火) 06:50:19 ID:nMy4lYU40
すると何やら難しい内容の言葉がズラリと並んでいた
  内容はわかりにくかったが龍毅はその書類に書いてあった
  一つの単語に驚愕した。
  なんと紛れも無く『合格』の二文字が並んでいた。
  龍毅は声にもならない声で『やったでーーーーー!!!!!』と叫んでいた
  すると隣の隣人がベランダからこっちを除いている
  『龍毅!声デカイ!!でもよかったな!』
  『おう!でも何で、受かったんやろ・・・シャウトのミスくらい
   見抜いてるはずやのに』
  『まあ、お前達の才能が評価されたんちゃうか?』
  『おう!』龍毅は上辺はそう言っておいたが本当に不思議でならなかった。
156世紀末:2007/05/01(火) 06:51:12 ID:nMy4lYU40
  その週の日曜日、5人は午前中は練習を行い、午前に事務所を尋ねる事にした
  『お待たせいたしました。オーディション担当の田村です』
  そう言われて5人は会議室に通された。
  『えー今回はわざわざ来ていただき、ありがとうございます
   まずは合格おめでとうございます』
  すると5人は『ありがとうございます』と声をそろえて言った
  『で、今回合格したのは2組なんですよ。
   ホントは一組の予定だったのですが、特別枠として合格させてもらいました
   但し条件があります』
  『条件?』
  『はい。普通ならレコーディングからインディーズデビューですが
   アナタ達には我慢してもらいます』
  すると『ハァ?どういう事ですか?話が違いますよ!』と龍毅が怒鳴った
157世紀末:2007/05/01(火) 06:52:43 ID:nMy4lYU40
次の日、バンドのメンバーにその事を報告すると
  どうやら3日前から知っていたようだった。
  そして担当の方に問い合わせてみると、今週に東京の本社で話をする事になった

 『話は最後まで聞いてください。もう一組は普通にデビューしますが
   アナタ達には一年間、アメリカでレッスンを受けてもらいます。
   年間ライブ80本をこなしてもらい、経験をたっぷり積んでもらって
   からデビューしてもらいます。コーチ陣も選りすぐりの
   人達に来てもらいます。結論は今すぐじゃなくてもいいですから
   じっくりと考えてみてください』
   話も終わり、事務所の外に出たとき5人は予想もしなかった事態
   に一言も喋らずバラバラに解散した。
   龍毅は最高の条件なのに行くのを迷っていた。
   理由は一つ。嗣永の事だった。
158世紀末:2007/05/01(火) 07:07:34 ID:nMy4lYU40
その夜、龍毅は新聞配達のバイト先でもずっとバンドの事を考えていた
   『龍毅君、元気無いけどどうしたの?』
   徳永が新聞を整理しながら話かけてきた。
   『まあいろいろあってな・・・』
   『何?悩みなら聞くから!』
  
   『で、オーディション受かったのはいいけどアメリカに行くか迷ってるんだ?』
   龍毅は前と同じくしつこい千奈美に一連の事を話していた
   『まあな。親も兄貴も納得はしてくれてるんやけど・・』   
   『それなら行ったらいいじゃん!!!』
   『でも・・・実はな俺、嗣永の事が好きなんや!』
   すると千奈美も桃子と同じように『ええ!?』と素っ頓狂な声を上げた
   『体育祭の後に告白もした・・返事はまだ返ってきてない
    だから・・・まだ行けそうにない気がするんや』
   『まさか龍毅君が桃子の事が好きだったなんてね・・・
    でも茉麻も今、同じ状況なんだよ』
   『どういう事?』
   『茉麻が北海道に引っ越すかもしれないんだよ。
    だからある意味茉麻と同じ状況だね』
   『まあちょっと違うけどな。後、この事は誰にも言わんといて
    くれるか?』
   『わかってるよ!じゃあ、私はまだ仕事あるから!
    元気出して!!!』
   そう言うと徳永は自分の仕事に戻った
   (一応言っといてよかったかもな・・・)
   『アメリカか・・・』
   龍毅はまだ自分には思いがけないと思っていた出来事にまだ動揺していた
159ミヤビイワナ:2007/05/01(火) 09:01:16 ID:nMy4lYU40

以上ここまで世紀末さんから送られた原稿をアップしました。
読んでいる方がいましたら是非感想を書いて応援してあげてください。

うーん、スレッド200件越えずに112KBまで来てしまった・・・・
160松輝夫:2007/05/02(水) 21:51:58 ID:6NREB9WoO
イワナ氏・世紀末氏、更新乙です。
自分も少しずつ揚げていきたいと思います。
これから揚げるのは前スレの続きになります。前の分は

http://www.geocities.jp/iwa3b/souko/Main/025.htm



FIND THE WAY

「それじゃ、またね」
「うん、佐紀ちゃんも気をつけて」
玄関で小春に見送られ、佐紀は久住家を辞して帰途についた。
久住家の目の前にある「焼肉ふじもと」の店先には、まだ開店まで時間があるというのに既に開店を待つ人の列ができていた。
この様子では、きっとさっき美貴が言っていた通り、今夜も「ふじもと」は忙しいのだろう。
列に並ぶ人たちは、カップルもいれば家族連れもいて、皆楽しそうに話をしながら開店までの時間を過ごしている。
佐紀は店の前に並ぶ人たちの列を横目に見ながら、家族連れの楽しそうな様子に少しうらやましさを感じつつ自宅に向かって歩いていた。
「ただいま…」
佐紀が家に戻ると、母は例によって寝ているようだった。
161松輝夫:2007/05/02(水) 21:53:22 ID:6NREB9WoO
台所のテーブルには幾ばくか現金があって、冷凍食品やコンビニの弁当など適当に買ってくるようにと殴り書きされたメモがあり、その傍には、また飲んだのだろう、ビールの空き缶やら空になったつまみの袋やらが散乱している。
それらを片付けながら佐紀はため息をついた。
父が倒れるまで、この場所でさっきの家族連れのように家族三人楽しく食事をしていたなんて、今では恐ろしく遠い過去のように思える。
いや、もしかしたらそんなモノは最初から存在せず、それは夢や幻の類だったのかもしれない、そんな風にすら思えてしまう。
さっき小春には言わなかった(言えなかったという方が正しいかも知れない)が、佐紀には一つ不安があった。
それは母親のまゆみのことだった。
まだ父も元気だった頃の母ならきっと喜んで応援してくれただろうが、今の母にそれが望めるのだろうか…。
162松輝夫:2007/05/02(水) 21:54:41 ID:6NREB9WoO
佐紀は首を横に振った―――今ここ悩んでいてもしょうがない。
桃子に言われたではないか、なるようになる、と。
佐紀は、さっき美貴に言われた言葉を思い出した。
『迷ったら金八先生に相談するといいよ。あの先生なら必ず力になってくれるはずだから』
そうだ、坂本先生に相談してみよう、きっと力になってくれるはずだから…。
163松輝夫:2007/05/02(水) 21:59:44 ID:6NREB9WoO
月曜日の放課後、佐紀は金八に相談してみようと職員室の前に立っていた。
教室では他のクラスメイトもいるので話しづらいし、そうなると職員室で話すしかないが、何度か中に入ろうとしたもののいざとなると何となく気後れを感じてためらってしまい入れないでいた。
『なんか入りづらいなぁ…』
佐紀がそんなことを思ったその時だった。
「なんだ、清水じゃないか。どうした?」
声をかけてきたのは、3年A組の担任である数学教師「カンカン」こと乾だった。
「乾先生…」
「坂本先生に用があるんじゃないのか?遠慮しないで入りなさい」
「あっ、いえ、その…」
乾は佐紀の手を掴むと職員室の扉を開けた。
「坂本先生!先生のクラスの清水が来てますよ」
乾の声に、金八が振り向くと席を立って入り口にやってきた。
164松輝夫:2007/05/02(水) 22:00:45 ID:6NREB9WoO
「佐紀、どうしたんだ?」
「あ、その、えっと…」
「…まあ、ここで立ち話もなんだから、こっちに来なさい」
話しづらそうな様子の佐紀を、金八は職員室の中の応接スペースに連れて行った。
金八は佐紀をソファに座らせると、自分もその向かい側に座った。
「さ、ここなら話せるだろう?何でも話してみなさい」
佐紀は金八の顔を見た。
金八は何も言わず、黙って頷いて見せるのだった。
なぜか、不思議と生徒に安心感を与えるいつもと変わらぬ金八の様子に、佐紀も意を決して口を開く。
165松輝夫:2007/05/03(木) 14:52:31 ID:8SD2OZdMO
「あの、三者面談のことなんですけど…私、卒業しても高校には行かないつもりです」
「ほう、どうして?佐紀の成績なら晴海か紫蘭あたりでも十分狙えると思うけど」
「実は、卒業したらやりたいことがあるんです…私、プロのダンサー目指したいんです。小さい頃からの夢だったんです」
それから佐紀は、10月に桃子に誘われてオーディションを受け、それ自体は不合格だったが審査員の一人の目に留まりある事務所を紹介されたこと、中学卒業後にその事務所と提携している学校に進んでプロを目指したいということを金八に打ち明けた。
「そうか…佐紀がそう決めたのならそれでいいじゃないか」
あっさりとそう言った金八の反応が佐紀には意外だった。
166松輝夫:2007/05/03(木) 14:54:35 ID:8SD2OZdMO
「あの…何も言わないんですか?反対されるかと思ってました」
「佐紀の夢は、私が反対したくらいで簡単に諦められる夢なのかい?」
逆に金八に聞き返され、佐紀は首を横に振った。
「よく考えたんだろう?佐紀が自分で考えて決めたことなら、先生は応援するよ。ただ、やるからには最後までとことんやり通すんだよ」
「はい!」
「そうか、佐紀がダンサーか…難しいことは判らないけど、確かに京都で見た佐紀のダンスは凄かったもんなぁ…」
「ちょっ…先生見てたんですか?」
「たまたま雅が旅館を出ていくのを見つけて追いかけていったら君が公園で踊ってたのさ。邪魔しちゃ悪いと思ったから声はかけなかったんだ」
「雅もいたんですか?あ、あの、このこと誰にも言わないで下さいね。お願いします」
「どうして?まあ黙ってろと言うならそうするけど、もったいないじゃないか」
「やだ…恥ずかしいですよ…」
おっちょこちょいが服を着て歩いているような桃子や千奈美と違い、普段は冷静沈着な佐紀の狼狽振りが金八には少しおかしかった。
167松輝夫:2007/05/03(木) 14:55:40 ID:8SD2OZdMO
「佐紀のダンスは本当に凄かった。ダンスのこととかよく分からない私にすらそう思わせたんだ、それはとても素晴らしいことなんだよ。恥ずかしがることはないさ」
「お、大袈裟ですよぉ…でも、そんな風に言われるの初めてだから嬉しいです。ありがとうございます。ただ…ちょっと一つだけ…」
佐紀はまさに今一番気掛かりなことを金八に打ち明けようとしていた。
168松輝夫:2007/05/03(木) 15:59:25 ID:8SD2OZdMO
「あの…実はお母さんのことなんですけど…」
坂本先生は自分が虐待を受けていることをだいたい気づいてる―――佐紀にもそれはわかっていたが、それでもなるべく虐待のことには触れないようにして話をしなくては、と思っていた。
「…お母さんにはまだ話していないんだね?」
「…たぶん高校に行かないなんて言ったら反対すると思うんです」
「そうか…でも、まずは佐紀が自分で話してみなさい。それでもし駄目なら、三者面談の時に先生も一緒に話してみるから」
「はい…」
結局、まずはそうするしかないようだが、もし駄目だったら先生も一緒に話してくれるというから、今はそれでよしとするしかないと佐紀が思ったその時だった。
169松輝夫:2007/05/03(木) 16:01:47 ID:8SD2OZdMO
「佐紀…この前君に聞いたこと、もう一度聞きたいんだけど…まだ『かくしごと』をやめる気にはなれないかな」
不意に金八に聞かれ、佐紀は答えに詰まった―――やはり虐待のことに触れずにはいてくれないのだろうか、この前のようにまたいろいろ聞かれるのだろうか。
しかし無言のまま俯く佐紀に向かって金八は言った。
「いや、すまなかった。言いたくないなら無理に話さなくてもいいよ。ただ、私もクラスのみんなも君のことを心配してるんだということをわかって欲しい。そして、もし話したくなったらいつでも言ってくるんだよ?」
「…はい、ありがとうございます」
まだ話してくれないか…佐紀に気づかれないよう表情には出さずに落胆する金八だったが、佐紀がなぜ話してくれないのか、そのわけはわかるつもりだった。
体育祭の何日か前の放課後、教室で佐紀が言った言葉を金八は思い出す。
170松輝夫:2007/05/03(木) 16:03:13 ID:8SD2OZdMO
『言ったら本当に一人ぼっちになっちゃうもん』『もう…寂しいの嫌だよ 先生』
佐紀が自分の母親に虐待を受けているのは明らかだった。
児童相談所に通報して、最悪の場合は佐紀と母親を引き離すこともできるのだが、恐らく佐紀はそれを望んでいない。
既に父親を亡くした佐紀にとっては、例え虐待を繰り返す母親でも自分の唯一の家族には違いないのだ。
だから離れ離れになりたくないのだろう。
そんな佐紀の気持ちが金八にはいじらしく、また母に届かないその想いがあまりにも悲しかった。
171ねぇ、名乗って:2007/05/14(月) 03:01:58 ID:Pd2MsuX9O
172ねぇ、名乗って:2007/05/20(日) 07:55:21 ID:a9BnlOGhO
保全
173ミヤビイワナ:2007/05/20(日) 20:04:37 ID:d337PDmI0
保全している人がいるようですが、本当にありがとうございます。
自分が今書いている作品は次の話で最終回です。

今書いている途中ですが必ず完結いたします。

思えば昨年の9月頃にこの板の物語に参加したくて「文化祭」などを書きたくて提案したけど色々あってまだ文化祭を書いていません。その変わりサイドストーリは我ながら充実したのかな。

文化祭もまだ後になりますね、取りあえず松輝夫氏の作品が終わらないと書けません、上手く輝夫氏の作品と繋げたいためです。

だから今書いている自分の作品が終わったら短編でもう一つサイドストーリを書きたいな。(いったい、いつ本編を書くのか)
174松輝夫:2007/05/22(火) 21:36:57 ID:EQBUEnvLO
>>173
イワナ氏、どうもすみませんです。
この前お話した通り、かなり手こずっていますが、けっこう先に進みました。明日にでも少し揚げたいと思います。
ただ、話自体はまだまだ終わらないんですよね。でも、必ず最後まで頑張りますので、よろしくお願いしますm(_ _)m
175ミヤビイワナ:2007/05/23(水) 06:01:18 ID:nQle1aTR0
おけーおけー
ゆっくりやりましょ!!
176松輝夫:2007/05/23(水) 17:18:09 ID:yu3nKS+oO
>>170

「…それじゃ先生、私、帰ります」
短い沈黙を破って佐紀が言った。
「ああ、気をつけてな。また何かあったらいつでも遠慮無く言ってきなさい」
「はい、ありがとうございました。失礼します」
そう言って席を立ちかけた佐紀は、ふと思い出して金八に尋ねた。
「そうだ―――あの、先生、美貴先輩のこと憶えてますか?」
「美貴…もしかして、『焼肉ふじもと』の美貴かい?」
「そうです、先生によろしくって言ってました」
「そうか…でも、佐紀が何で美貴を知ってるんだい?」
佐紀は金八に、オーディションの時に桃子に紹介された久住小春という娘が美貴の妹的存在で、今回佐紀が事務所に話を聞きに行った時に小春と再会し、その後小春の家に行った時に紹介されたことを話した。
177松輝夫:2007/05/23(水) 17:19:15 ID:yu3nKS+oO
「そうだったのか。ところで美貴は今何をしてるんだい」
「小春ちゃんの話だと、実家のお店を継ぐための勉強中だそうです」
「そうか。頑張ってるみたいで良かった」
「美貴先輩って、どんな生徒だったんですか?昔は荒れてたなんて先輩は言ってましたけど」
佐紀の言葉に金八は昔を思い出して懐かしそうな表情になった。
「…まあ、確かにいろいろとあったけど、でも根は優しくていい娘だったよ。佐紀はどう思った?」
「とても優しい人だと思います。私のことも励ましてくれました。それにしても、先生は何年も前のことなのにちゃんと憶えてるんですね」
「私は何年教師やってると思ってるんだい?大事な私の教え子なんだから当然だろ?佐紀のことだってちゃんと憶えておくよ」
この先生なら本当に憶えていてもおかしくないな、そう思いながら佐紀は黙って頭を下げると職員室の入り口に向かった。
「失礼します」
入り口でもう一度頭をちょこんと下げると、佐紀は職員室を出ていった。
178松輝夫:2007/05/23(水) 17:26:05 ID:yu3nKS+oO
放課後の廊下は、今から部活に向かう生徒や下校していく生徒が行き交っていた。
職員室を出た佐紀は、そんな廊下を歩きながらさっきの金八の言葉を思い出していた。
『大事な私の教え子なんだから当然だろ?佐紀のことだってちゃんと憶えておくから』
私は卒業した後、どんな生徒だったとあの先生の記憶に留まるだろうか?
それは今の佐紀にはわからないけど、あの先生が卒業生・在校生問わず多くの生徒から慕われる理由はわかった。
『坂本先生が担任の先生でよかった…』
佐紀は心からそう思う。
すんなり認めてもらえるかどうか分からないけど、まずは自分の口から母に相談してみよう、佐紀はそう心に決めた。
佐紀は、この先に自分を待ち受ける過酷な運命を知る術もないまま、軽い足取りで教室に向かって歩いていった。
179松輝夫:2007/05/23(水) 17:27:36 ID:yu3nKS+oO
―――佐紀が出ていった職員室で、金八はまだソファに腰掛けたまま虚空を見上げていた。
まずは佐紀自身で母親に話をし てみるように言ったものの、果たしてそれで良かったかどうか…虐待を今も続けているあの母親が、ちゃんと佐紀の話を聞いてくれるだろうか。
だが、佐紀が虐待を認めていない以上どうしようもなかった。
上手くいけばいいが…今はそう祈るしかない金八だった。
その一方で、佐紀が出会ったという昔の教え子、美貴のことも気になる。
卒業してから全く会っていないが、佐紀にも言った通り忘れてしまったわけではない。
その佐紀の話を聞く限りでは、卒業してからだいぶ人間として成長しているように感じられ、それが金八にはとても嬉しかった。
美貴の妹分で佐紀の友達だという、久住小春という女の子の存在も影響しているのかもしれない。
そう言えば、毎年年賀状は欠かさず来ていたが今年は来なかった。
「一度、会いに行ってみるか…」
いいきっかけかも知れないな、そう思いながら金八は一人呟いた。
180ミヤビイワナ:2007/05/23(水) 19:53:10 ID:nQle1aTR0

輝夫さんお疲れです。

うーんミキティーねぇ〜
ワクワクしますね。

しかし輝夫さん本当に話の組み立て方が上手くなりましたね、色々思い悩んだ日々もあったんだろうね。

イワナもそうだけど誰かに気づいてもらいたかったのだよね。

書いていると色々見える事もあって精神的に得る物もあるのでラストまで楽しんでもらいたい。

ゆっくりね。

181松輝夫:2007/05/23(水) 19:55:53 ID:yu3nKS+oO
翌日の放課後、金八は「ふじもと」の前にいた。
「ごめんくださーい」
金八は扉を開けて声をかけた。
「すいませーん、まだ準備中なんですよ」
そう言いながら厨房から出てきた女性は、金八の姿を見て足を止めた。
「…え…まさか…」
「美貴、久しぶりだな」
「坂本先生、お久しぶりです!」
美貴は頭を下げた。
「元気そうだね」
「先生もお変わりないみたいで…あ、どうぞ座ってください。今お茶淹れますから」
金八に椅子を勧めると厨房に戻った美貴は、やがて小さなポットと急須、二つの茶碗が乗ったお盆を手に持って姿を現した。
「いやいや、お構いなく」
「そうはいきませんって」
そう言いながら、美貴は急須にお湯を注ぐと、茶碗にお茶を注いで椅子に座った金八の前に置いた。
「すまないね」
お茶の香りを鼻に感じながら金八は軽く頭を下げた。
「いえいえ、それにしても、今日はどうしたんですか」
美貴がそう言いながら金八の向かいの椅子に腰を下ろそうとした時だった。
「お姉ちゃん、ただいまーーー!」
元気な声と共に扉が開くと、一人の女の子が店の中に入ってきた。
182松輝夫:2007/05/24(木) 19:53:10 ID:yXnbffn8O
>>180
とりあえず揚げてみました。まだまだ揚げられる分があるので、見直しが終わり次第揚げていきますよ。
今日も仕事の休憩時間に少しずつ進みました。何とかキレイにイワナ氏に繋げられるよう頑張ります。
183ねぇ、名乗って:2007/05/24(木) 20:15:02 ID:JfcF4x1w0
キャラ設定で盛り上がっていた頃からの読者です。
色々ありましたが、ずっと楽しみに読んできた人間もいますよ、と伝えたくてのレスです。
無料でこれだけの物語を読めていることに感謝しています。
ずっとレスを控えていましたが、これからは適度にレスをしていこうと思います。
184ミヤビイワナ:2007/05/24(木) 20:34:33 ID:Ea42DnDG0
>>183
読んで頂いてありがとうございます。
今回の輝夫さんの物語いかかです?
「狼」の頃からの読者ですか?
すみません、メインの作家二人も居なくなってしまって。

あなたのレスは本当にありがたいです。
輝夫さんも喜んでくれてると思います。

・・・しかし・・まだ読んでいてくれる人もいるのだな・・・

頑張ります。
185ミヤビイワナ:2007/05/24(木) 21:04:53 ID:Ea42DnDG0

「FIND THE WAY」http://www.geocities.jp/iwa3b/souko/Main/025.htm

を通して今読んでいました。

なんて読み応えがあるのだろうか。

昨年書いている「夢、いつの日にか・・・〜小春の夢、美貴の想い〜」が今一層に光る。

金八先生とミキティーのやりとり・・・ある意味「ズルイ」手法。

輝夫さんの物語が凄く楽しみです。

ノっているときはとことん書いてもいいんじゃないか?

なんちゃって。

体に気をつけながら書くんだよ。

186ねぇ、名乗って:2007/05/25(金) 20:36:33 ID:NMXY9qLj0
>>184
キャプテンの話、良いと思いますよ。
ずっと読んできたからというのもあるのでしょうが、
物語の世界にすっと入っていけます。
違和感なく読者に読ませるというのは、
そう簡単に出来ることでもないと思います。
187ミヤビイワナ:2007/05/25(金) 21:26:26 ID:nYZjnOoj0
>>186
そうですよね。

本当に上手く書けてますよね、ドラマになっています。

今後の展開が楽しみだし辛いけど必ず物語りの節目があるのでしょうね。

母との問題はどのように乗り越えるのか、実に興味深いです。
188名無し。。。:2007/05/27(日) 22:03:06 ID:Qcz5+Tw10
ミヤビイワナさん、松輝夫さん、初めまして!
ここにもちゃんと読者がいますよ。(新参者ですが)
お二人の書く物語はとても読み易くて、そのシーンがちゃんと
頭の中にイメージ出来るんですよね。
これからもゆっくりで結構ですので、ご本人も含め私達を
楽しませて下さい!本当にここの物語気に入ってます!!
189松輝夫:2007/05/27(日) 22:24:25 ID:EQb1UB4/O
>>186
狼からの読者の方でしたか。このスレでは自分より先輩ですね。
読んでいただき、ありがとうございます。
オリメン二人が卒業してしまい、イワナ氏はともかく、自分では技量の差がありすぎて物足りなく思われるでしょうが、お見捨てなきよう、よろしくお願いします。
>>187
先日はまたお話できて嬉しかったです。
おかげさまで最後まで書ききれるメドは立ったと思います。
千奈美に、ホントは昨夜揚げるつもりでしたが、ちょっと用ができてしまい……誠に申し訳……。
>>188
はじめまして。読んでいただきありがとうございます。過分なお言葉をいただき恐縮ですが、励みにもなります。
現在、続きを鋭意執筆中であります。近いうちに揚げるつもりですので、またお時間のある時にでも読んでくだると嬉しいです。


嬉しい書き込みを立て続けにしていただき、とても嬉しいです。
また明日から頑張って書きますので、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m
190ミヤビイワナ:2007/05/28(月) 09:44:22 ID:j3xBWwWQ0

>>188さん始めまして、ミヤビイワナと申します。

暖かいレス感謝するしかないですね、本当にありがとうございます。

無数にあるハロプロ関連の板の中でこの板は本当に特殊ですね。

ハロプロの関連の話もあまりないしファンの方々には本当に面白みがないと思いますが、ここまで本気で書き込んだ物語もないと思います。
小説なので2〜3行のレスでは終われないので進行も遅いのですが良い話にしたかったり自分の狭い主観の中で全然見知らぬ世界にもメッセージを伝えたいとかそれなりの想いがあったりします。

永遠に封じ込めた青春の中でもやはり未来があって出来れば救いが欲しかったりもします、現実な生活にもですね。
そんな願いや想いだけでは伝えられない物を創造できればいいなと思っていますし、目指してます。

なんちゃって。
191松輝夫:2007/05/28(月) 15:52:28 ID:MUM8nJ06O
再開します。良かったら読んでやってくださいな。

>>181

その女の子は、店の中に美貴だけでなく金八もいることに気がつくと、その場で立ち止まり金八に向かってちょこんと会釈した。
「お姉ちゃん…お客さん?」
「小春、こちらが中学の頃に美貴がお世話になった坂本先生だ」
「えっ…それじゃ、佐紀ちゃんの担任の先生?」
金八の真向かいの席に腰を下ろした美貴は小春の言葉に頷いた。
「はじめまして!久住小春です。お姉ちゃんがお世話になってます」
小春は金八に向かって頭を下げた。
長い黒髪が揺れる。
「はじめまして、坂本金八です。そうか、君が小春ちゃんか。佐紀から話は聞いているよ。二人とも、佐紀のためにいろいろ力になってくれたみたいだね。私からもお礼を言わせてもらうよ。どうもありがとう」
金八は立ち上がると美貴と小春に頭を下げた。
192松輝夫:2007/05/28(月) 15:54:07 ID:MUM8nJ06O
「止して下さいよ、先生。昔、先生がしてくださったことに比べたら、全然たいしたことしてませんって」
「…美貴、大人になったな」
金八は目を細めて美貴を見た。
美貴が人間として大きく成長していたことを自分の目で確かめることができ、今、金八は大きな喜びを感じていた。
「先生…」
「ずいぶんキレイになったけど、成長したのは外見だけじゃないね。人間としてもとても大きく成長してる。私は本当に嬉しいよ」
「ちょっ…や、止めて下さいよ先生、おだてても何も出ませんからね」
「あれぇ?お姉ちゃん、もしかしてガラにもなく照れてるんじゃない?頬っぺた赤いよ?」
金八の言葉に少し頬を赤らめている美貴を小春が冷やかす。
「う・る・さ・い!後でお仕置きしてやるから覚悟しとけよ」
美貴がゲンコツを振り上げるまねをした。
193松輝夫:2007/05/28(月) 15:55:18 ID:MUM8nJ06O
「お仕置きだなんて、やだぁ。こわ〜い。坂本先生、お姉ちゃんはい〜っつもこんな風に小春のこといじめるんですよぉ」
「バ…バカッ、坂本先生に余計なこと吹き込むんじゃない!」
美貴が再びゲンコツを振り上げるまねをする。
「ハハハ、佐紀に聞いていたけど、本当に仲がいいみたいだね」
「仲がいいんだか悪いんだかわかりませんよ、ホント」
「え〜?仲いいじゃな〜い」
「ハイハイ…」
美貴が軽くいなす。
「ところでお姉ちゃん、小春もお茶飲みたいなぁ」
「ええ、どうぞ。うちはセルフサービスなんで自分でやってね」
無愛想にそう言うと、美貴は急須を指差した。
「ぶぅ〜〜〜。お姉ちゃんの意地悪!べ〜〜〜っだ」
小春は美貴に向かって舌を出すと、急須を持って厨房のほうに歩いていった。
194松輝夫:2007/05/28(月) 15:57:26 ID:MUM8nJ06O
「…ったく、いつまでも甘ったれで生意気だし、世話焼かされっぱなしですよ」
「ハハハ、なかなかいい娘じゃないか。美貴もあの娘のおかげでずいぶん救われてるんじゃないのか?」
「まあ、そうですけど…ところで先生、佐紀のことですけど、少し気になることが…」
美貴の言葉に、金八は茶碗を口元に持っていきかけて止めた。
「目立たないように隠してるけど…あの娘、いろんなところに傷がありますね」
茶碗を置いた金八は厳しい表情で頷いた。
「そうだよね〜。小春もおかしいと思ってたんだ。触れない方がいいかなと思って黙ってたけど」
そこへ、急須と茶碗を手にした小春がそう言いながら厨房の中から出てきた。
195松輝夫:2007/05/28(月) 16:01:03 ID:MUM8nJ06O
「お姉ちゃんも気づいてたんだ」
「まあな。それより先生、あの娘、どうしたんです?虐待でもされてるんじゃないですか?」
隣の席に腰を下ろした小春の言葉に頷いてから、美貴は金八に尋ねた。
「たぶん…いや、恐らく間違いはないと思う。あの娘は、父親は既にいないんだが、母親に虐待を受けている」
「そうなんですか…でも先生、何でわかってるのに放っておくんです?」
「あの娘は自分が虐待を受けていることを認めないんだ。昨日もそのことを聞いてみたけど、話してくれなかった。あの娘が認めていない以上、どうしようもないんだ」
「そんな…」
「仕方ないんだ。あの娘の意思に反して介入するわけにもいかないし…それに、例え虐待を繰り返す母親でもあの娘にとっては唯一の肉親なんだ。離れたくないんだと思う…」
「ウチの親なんか血は繋がってなくても美貴のことを実の子供とわけ隔てなく育ててくれたのに、一体何なんですか、佐紀の母親は。今目の前にいたら引っ叩いてますよ」
美貴の激しい言葉に金八と小春は思わず美貴の顔を見た。
196松輝夫:2007/05/28(月) 16:10:57 ID:MUM8nJ06O
「おいおい、気持ちは分かるけど穏やかじゃないな」
「すいません、つい…」
美貴の両親は彼女を生んだ直後に亡くなっており、その後彼女を引き取って今日まで育ててきた今の両親とは血が繋がっていない。
金八は思う―――美貴と彼女の両親は永遠に一緒の時間を過ごすことができないのに、それができるはずの佐紀の母親は実の子供に虐待を繰り返している、だから特に美貴には佐紀の母親を許せないだろう。
「とにかく、今は佐紀が自分で話してくれるのを待つしかないと思う。それまで、美貴も小春ちゃんも佐紀を見守ってやってくれないかな。そして、必要な時にはできる範囲で力になってあげて欲しいんだ」
「わかりました」
美貴と小春は異口同音に答えた。
「ありがとう。よろしくお願いします―――さてと、それじゃ、そろそろ私はお暇させてもらうよ。準備中なのに邪魔しちゃって悪かったね」
そう言って金八が席を立とうとした時、小春の携帯電話が鳴った。
「メール?佐紀ちゃんからだ。なんだろ…」
そう言って携帯の液晶画面を見た小春の表情は見る見る曇っていった…。
197松輝夫:2007/05/28(月) 16:12:36 ID:MUM8nJ06O
「小春、どうした?」
「お姉ちゃん…佐紀ちゃんからのメールなんだけど、なんか様子が変なの。『さよなら』なんて書いてあるし…」
そう言って小春が差し出した携帯電話の画面を美貴と金八は覗き込んだ。
『この前はありがとう。でも、ゴメンね。やっぱり私ダメみたい。最後にまた小春ちゃんと会えて嬉しかった。短い間だったけど、今までありがとう。美貴先輩にもよろしくね。さよなら』
画面に表示された文章を読んだ金八と美貴は思わず顔を見合わせた。
「小春ちゃん、すまないが佐紀に電話してやってくれないか?」
金八の言葉に小春は頷くと急いで佐紀に電話をかけた。
「…ダメ、繋がんない…電源切ってるみたい…」
何度か試した挙句、諦めた小春は沈んだ口調で二人に結果を告げた。
198松輝夫:2007/05/28(月) 16:14:05 ID:MUM8nJ06O
「ありがとう、小春ちゃん。とりあえず、私はまず佐紀の家に行ってみる。大丈夫だと思うけど、万が一ということもある。早まったことをする前に佐紀を探さないと」
「先生、私も行きます」
美貴も一緒に立ち上がった。
「美貴…」
「大事な後輩だし、小春の親友だし、それに、佐紀も佐紀の母親もこのまま放っておけません」
「…そうか、でも、店の方はいいのかい?」
「店ならウチの親もいますから大丈夫です。小春、父さんか母さんに事情を話しといてくれ」
「うん…あの…佐紀ちゃん大丈夫だよね?また会えるよね?」
美貴は心配そうな表情の小春に向かって言った。
「何言ってんだよ!大丈夫、当たり前だろ!先生だってついてる、きっと…いや、絶対大丈夫だから―――それじゃ先生、行きましょう」
美貴は小春に対してだけでなく自分自身にも言い聞かせるようにそう言うと、金八と一緒に店の外に出た。
199松輝夫:2007/05/28(月) 16:51:41 ID:MUM8nJ06O
時間はこの日の朝に遡る―――いつものように学校に行く準備を終えた佐紀は、スニーカーを履いて立ち上がると、玄関のドアのノブに手をかけて立ち止まった。
その場で後ろを振り返り目をやった母の寝室のドアは閉じられており、母は未だに眠ったままのようだ。
昨夜、佐紀は自分の口からちゃんと母に話をしようと思っていたのだが、母が寝室から出てこなかったため結局話はできなかった。
「今日は話できるかな…」
とりあえずまずは学校に行こう、佐紀がそう思った時、寝室のドアがガチャッと音を立てて開き、けだるそうな表情の母が姿を表した。
「お母さん…」
母は無言のまま佐紀をジロッと見ると、そのまままた寝室に戻ろうとした。
「お母さん、待って!」
佐紀の言葉に母が足を止めた。
「あの…今週、三者面談があるんだけど…」
無言のまま振り返った母は、感情のこもっていない目で佐紀を見た。
200松輝夫:2007/05/28(月) 16:52:42 ID:MUM8nJ06O
「…私、卒業しても高校には行かない」
「…高校行かないでどうするつもり?」
「ダンサーになりたいの!夢が叶うかもしれないの!」
佐紀はオーディションを受けてから今までの経緯を母に話した。
「―――だから、私高校には行かない。ダンサーになるための勉強をしたいの」
「ハァ?バカ言ってんじゃないわよ!アンタは普通の高校出て、就職して、さっさとここを出てくのよ!くだらないことやってる余裕なんかアンタにはないの!」
以前、同じように玄関で母に『産むんじゃなかった』と言われたことがあった。
その時ほどではないが、あっさりと夢を否定されたうえに『さっさとここを出てくのよ』と言われたことに大きなショックを感じつつも佐紀は言った。
「…お母さんが出てけって言うならそうするよ。でも、今はもう少し待って。夢をかなえるチャンスが目の間に来ているの。無駄にしたくないの!」
凄まじい形相で睨みつける母に対して、佐紀も負けずに思いを訴えた。
201松輝夫:2007/05/28(月) 16:54:08 ID:MUM8nJ06O
「夢?フン、くだらない。だいたい、誰がお金出すと思ってんの!?」
「お母さん…昔はあんなに応援してくれたじゃない…それに、お金なら後で必ず返すから…だからお願い」
夢を軽く鼻で嘲う母に再度ショックを受けつつも、佐紀は必死で懇願した。
「母親の言うことが聞けないの?ホント、アンタなんか産むんじゃなかったわ」
『産むんじゃなかった』―――佐紀が最も言われたくない言葉だったが、母はさらに容赦なく止めの言葉を投げかけた。
「親の言うことは聞かないし、もしかしたら、あんたさえいなければ竜二だって死なないですんだかもしれない。あんたは疫病神だよ、ホント!」
「―――!」
今まで受けてきたあらゆる過酷な虐待すらもその前では霞んでしまうような、強烈な呪詛の言葉が佐紀の胸の奥まで深く鋭く突き刺さった。
佐紀は目の前が真っ暗になった―――何かが佐紀の中で音を立てて崩れていったような気がした。
呆然とその場に立ち尽くす佐紀をよそに、母はまた寝室に戻っていった。
乱暴に閉められたドアが「バタン」と大きな音を立てたが、今の佐紀には全く聞こえていなかった。
202松輝夫:2007/05/28(月) 16:55:07 ID:MUM8nJ06O
―――どのくらい時間が過ぎたのだろうか、ようやく顔を上げた佐紀はドアのノブに手をかけた。
全てを拒むかのようにドアが閉じられた母の寝室に目をやる。
疫病神、か…そっか、そうだよね…お父さんはいつも私のために無理して頑張ってた―――四年前の「父の日」の時のように。
お母さんの言う通り、私さえいなければお父さんも死ななかったかも…お母さんを変えたのもお酒じゃない、私という疫病神の存在そのものなんだね…。
お父さんを死なせたのも私、お母さんをあんな風に変えたのも私、悪いのは全て私―――妙に納得できたような気がする。
「…いってきます」
返事がないであろうことはわかっていたが、佐紀は寝室に向かって小さく声をかけてから外に出ると、ドアを閉めて鍵をかけた。
「…お母さん、さよなら…元気でね…」
ドアに向かってそう言うと、佐紀は学校に向かって歩き出した。
その胸には、ある悲壮な決意が秘められていた―――。
203松輝夫:2007/05/28(月) 22:10:58 ID:MUM8nJ06O
>>200
間違い発見

×目の間
目の前

気づかなかった……orz
204ねぇ、名乗って:2007/05/28(月) 22:51:32 ID:ebjMkYfd0
>>178
を読んでいたので覚悟はしていましたけど…
でも、分かり合える人がいて、素晴らしい担任がいることが救いだ、
と考えつつ続きを楽しみにしています。
205松輝夫:2007/05/30(水) 14:57:22 ID:MOJ42XSHO
再開します。

>>202

荒川の土手は、昔から多くの桜中学の生徒の通学路になっていた。
今まで、どれだけの生徒がこの道を歩いていったことだろう。
家を出た佐紀は、その荒川の土手をいつものように学校に向かって歩いていた。
いつもと違うのは、今この土手の道を歩いている桜中の生徒は佐紀だけだということだった。
当然だった、家を出た時点でとっくに登校時間を過ぎていたのだから。
3B遅刻女王の千奈美と違い、佐紀にとっては生まれて初めての遅刻なのだが、しかし今の佐紀には急ごうという気持ちは全く無かった。
今朝は空気が少し冷たいが、天気は良い。
遠くに見える橋の上を車が行き交い、時おり電車が大きな音を立ててその隣の橋を通り過ぎていくのも見える。
そんな見慣れた風景は、それはそのまま多くの桜中の生徒たちが見てきた風景だった。
いつもほとんど変わらない見慣れたはずの風景が、なぜか今の佐紀にはとても新鮮で愛しく感じられた。
そして、もう二度と見ることは無いはずのこの風景を、少しでも目に焼き付けておきたくてゆっくりと歩いていたのだった。
206松輝夫:2007/05/30(水) 14:58:33 ID:MOJ42XSHO
―――さっきの母親との会話で、佐紀は自分がすべきことを理解したつもりだった。
佐紀の出した結論―――それは、父を死に追いやり、母をあんな風に変え、多くの人たちに迷惑をかけた、そんな自分自身にケリをつけるために、自分がみんなの前から消える―――。
『私がいなくなれば、きっとお母さんも昔のやさしいお母さんに戻ってくれる。周りのみんなにもこれ以上迷惑をかけないで済む』
それが今の佐紀の切なる気持ちだった。
以前の佐紀なら、自分が傷つけられたことの埋め合わせに周囲を傷つけていただろうが、しかし今の佐紀にはそんな思考は無かった。
本当なら、佐紀は学校にも行かずに今すぐ消えてしまいたいと思う。
にもかかわらず学校に向かって歩いているのは、せめて今のうちに自分が傷つけてしまった人たちに心から詫びたかったからだ。
許してもらえるとはとても思わないけど、消えてしまう前にそれだけはやっておきたかった。
そんなことを考えながら歩いているうちに、気がつけば見慣れた桜中学の校舎が佐紀の視界に入ってきた。
時計を見ると、もう少しで一時間目が終わろうかという時間だった。
207松輝夫:2007/05/30(水) 15:01:33 ID:MOJ42XSHO
扉を開けると、教室中の視線が一斉に佐紀に注がれた。
「…すみません、遅くなりました」
「佐紀、どうしたんだい?佐紀が遅刻なんて珍しいじゃないか。家に電話しても通じないし、心配したんだぞ?」
担任であり国語の教師である金八が声をかけてきた。
一時間目は国語の時間だった。
「あ…あの、すみません。寝坊しちゃって…」
内に秘めた決意を誰にも悟られないように、なるべく普段と変わらないような口調で佐紀は謝った。
「…そうか、まあ、今後気をつけるように。とりあえず席に着きなさい」
「はい、すみませんでした」
金八に頭を下げてから佐紀は自分の席に向かって歩き出した。
『何か気づかれたかな…』
坂本先生は、本当は寝坊で遅刻したという説明に納得していないような気がする。
歩きながらそんなことを思いつつ、それでも何ごとも無かったかのように装いながら佐紀は席に着いた。
208松輝夫:2007/05/30(水) 15:03:03 ID:MOJ42XSHO
佐紀が自分の席に着いて程なく、チャイムが一時間目の終了を告げた。
「よし、それじゃ今日はここまで。佐紀は後で誰かにノート写させてもらうように。はい、号令!」
「起立!」
生徒と挨拶を交わすと金八は教室を出ていった。
『何とかごまかせたかな…』
教室を出て行く金八の後姿を見送りながら佐紀がそんなことを考えていると
「さ〜きちゃん」
不意に桃子の顔がにゅっと佐紀の目の前に現れた。
209松輝夫:2007/05/30(水) 15:37:28 ID:MOJ42XSHO
「うわぁ!!」
金八のことを考えていて完全に無防備だった佐紀は、この不意打ちに思わず大きな声を上げてしまった。
周りのクラスメイトが何事かという目で佐紀を見る。
「ちょ、ちょっと桃子、何すんのよ!ビックリするでしょうが!」
「だってぇ、さっき先生が言ってたでしょ、誰かにノート写させてもらえって。だから桃のノート見せてあげようと思ったのにぃ…あんなに驚くなんて思わなかったもん」
「…ああ、ゴメンね。ありがと」
礼を言いながら佐紀は桃子の差し出したノートを受け取る。
ノートを渡しながら、桃子は佐紀の顔をジーっと見ていた。
「な、何?」
「佐紀ちゃん、何か悩み事とかあるんじゃない?」
「な、ないよ、別に」
桃子が佐紀の顔のすぐ前までずいと身を乗り出してきた。
210松輝夫:2007/05/30(水) 15:38:59 ID:MOJ42XSHO
「…近い近い」
「ホントに?佐紀ちゃんが遅刻するなんて珍しいから、何かあったんじゃないかと思って。ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫だってば。ホントに寝坊しただけだし。目覚まし時計の午前と午後を間違えてセットしちゃってさ。心配かけてゴメンね。でも、ありがと」
佐紀は桃子の意外な鋭さに驚いたが、その驚きを隠しつつ嘘をつき通した。
思えば、本人にそのつもりがあったかどうかはわからないけど、結果として堕ちるところまで堕ちた佐紀を救ってくれたのは桃子だった。
今日まで、どれだけ彼女のおかげで救われてきたことだろうか。
そんな桃子に嘘をつくのは心が痛むし本意ではないが仕方が無い。
『桃子、心配してくれてありがとう。嘘ついてゴメンね。やっぱり最低だね、私。でもね、これ以上あなたに迷惑かけたくないの…』
佐紀は心の中で桃子に詫びた。
211松輝夫:2007/05/30(水) 15:54:16 ID:MOJ42XSHO
>>178
読んでいただき、さらには感想まで書いていただき、どうもありがとうございました。
今回のエピソードが佐紀の虐待解決編になります。そういうわけで、彼女は徹底的に追い詰められるます。
ですが、ちゃんと救いを用紙してありますので、安心してお読みくださいな。
212松輝夫:2007/05/30(水) 16:34:00 ID:MOJ42XSHO
>>178

×用紙して
○用意して

どういうミスしてんだヲイ……orz
213松輝夫:2007/05/30(水) 16:35:25 ID:MOJ42XSHO
おまけにアンカー打ち間違えてるし……>>178ではなくて>>211です。
214墨堤通り:2007/05/30(水) 23:01:06 ID:0KVH/FaCO
あ〜!松さん、結果を先に言っちゃわないで下さいよぉ!

最悪の可能性も少しは考えつつ、ドキドキしながら読んでたのにぃ。

佐紀だけは気掛かりでしたので、続行してくれてホント感謝しております。

頑張って下さいね。

数多いる愛読者の一人より。
215松輝夫:2007/05/31(木) 10:30:36 ID:RfSLIXSmO
>>214
墨堤氏、お久しぶりですね。書き込みありがとうございます。
話の結末については……どうもすいませんですm(_ _)m千奈美に、謝罪はしますが、賠償は勘弁を……。
まあ、金八先生の世界ですから、どこかに必ず救いがあるわけでして……。その過程を見守っていただきたく思います。
216ねぇ、名乗って:2007/05/31(木) 21:30:31 ID:gQHteBG60
読んでいて緊張感のある話ですが、救いがあるということに安堵しています。
彼女にとっては一大転機になりそうですね・・・。
217ミヤビイワナ:2007/05/31(木) 22:14:27 ID:DwG2jGBR0

輝夫さんの物語に感想ありがとう御座います。

自分も一読者として本当に楽しみに読ませて貰っています。

輝夫さんの物語も大好きだし感想を書いてくれる人たちもにもただ感謝です。
218松輝夫:2007/06/01(金) 01:34:25 ID:KfX7yyuiO
感想を書いて下さった皆さま、どうもありがとうございました!
やはり感想を聞かせていただけると励みになります。
これで、確実にイワナ氏を含め少なくとも三人の読者の方がいることがわかりましたし、ROMの方もいらっしゃるでしょうから、読者はもう何人か増える☆カナ?
読んで下さる方のためにも、これからも頑張って書きますのでよろしくお願いします。
219ミヤビイワナ:2007/06/01(金) 21:49:28 ID:2n5CKIt40

輝夫さんお疲れです。

読者の方々はいるようですね、もちろん自分も輝夫さんの読者です。

ゆっくり楽しくいきましょう!!
220松輝夫:2007/06/02(土) 21:50:07 ID:jenL4IOLO
読んで下さってる皆さま、お待たせしました。これより再開します。

>>210

昼休み、佐紀は友理奈を探していた。
佐紀はまずは友理奈に謝るつもりだった。
以前、雅を使って友理奈に嫌がらせをしたことがある。
それでも彼女は、そんな自分を修学旅行の時もその後も、色々と気遣ってくれた。
おそらく彼女はまだ真相を知らないだろうが、もしそれを知ったらどうするだろう、許してくれないかもしれない。
それでも佐紀は、自分がこの世から消えてしまう前に絶対自分の口で彼女に謝りかった。
その友理奈は、梨沙子と校舎の屋上にいた。
「佐紀ちゃん、たぶん何かあったんだと思う」
転落事故防止用の金網越しに校庭を見下ろしながら梨沙子が言った。
二人の話題は佐紀のことだった。
221松輝夫:2007/06/02(土) 21:51:14 ID:jenL4IOLO
「どうしてそう思うの?」
その隣で金網にもたれかかりながら友理奈は尋ねた。
「あのね、上手く言えないんだけど、いつもと違うって言うか、何て言うか…」
「そう?確かに遅刻はしてきたけど、それ以外は普段と変わらなくない?」
「違うの、わざとそういう風に振舞ってるような気がするの」
正直、友理奈も何かおかしいんじゃないかとは思っていたが、ただその「何か」が何なのかがわからず、単なる自分の思い過ごしじゃないか、そう思っていたのだった。
「もし梨沙子の言う通りだとしたら、何でそんなことするのかな」
そう言った友理奈は、何気なく視線を向けた先にある、さっき自分たちが通ってきた出入り口の鉄扉が開くのを見た。
「佐紀…」
友理奈の声に梨沙子も後ろを振り向く。
たった今まで二人が話題にしていた佐紀本人が、出入り口に立っていた。
222松輝夫:2007/06/02(土) 21:53:04 ID:jenL4IOLO
佐紀も二人の姿を認めると、二人の方に向かって歩いてきた。
二人の前に来ると、佐紀は切り出した。
「…友理奈…ゴメン、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「いいけど、何?どうしたの?改まって」
ようやく探し当てたものの、いざとなると、佐紀は躊躇いを感じる。
せっかく普通に話せるようになったのに、もう今日を限りに会うことは無いだろうとは言え、真実を話せば最後の最後でその関係が壊れてしまうかもしれない、その恐れが佐紀を躊躇わせていた。
しかし、例えそうなったとしてもそれは自業自得、理由はどうあれ、やってはいけないことをやってしまった自分に与えられた罰に違いないと思う。
そしてそれよりも、本当のことを友理奈に伝えないまま自分が消えてしまうことのほうが佐紀には怖かった。
「で、どうしちゃったのかな、お嬢さん?黙ってちゃわかんないよ?」
佐紀が何の話をしたいのかはわからないけど、軽い気持ちで来たわけではないことはわかるから、言いづらそうな様子の佐紀を気遣い、友理奈はわざとおどけた口調で尋ねた。
223松輝夫:2007/06/02(土) 21:54:04 ID:jenL4IOLO
その時、梨沙子も言った。
「…あの…私、先に教室に戻ってるね」
「待って。できれば…梨沙子にも一緒に聞いてほしい」
歩き出そうとしていた梨沙子は、佐紀の言葉に一瞬躊躇ってから頷いた。
二人が見せてくれた気遣いに感謝しつつ、佐紀もついに覚悟を決めた。
「あの…私、どうしても友理奈に話しておかないと…謝らなければいけないことがあるの…」
こう前置きした佐紀は、一学期、自分が雅に命じて友理奈に対してやらせたことの一部始終を語った。
「ごめん。謝って済むとは思わないし、許してもらえるとも思ってないけど、でも、どうしても謝りたかった。本当にごめんなさい」
話を終えた佐紀は、深く友理奈に頭を下げた。
話を聞き終えた友理奈は、頭を下げている佐紀を険しい顔で見下ろしていた。
その様子を、梨沙子はハラハラしながら見ているしかなかった。
224松輝夫:2007/06/02(土) 21:55:23 ID:jenL4IOLO
三人の間を重い沈黙が支配していた。
佐紀は相変わらず頭を下げたままで、友理奈は険しい表情で佐紀を見下ろし、二人の間で梨沙子は、自分がどうしたらいいかわからず、ただ成り行きを見守るしかなかった。
「…佐紀、顔上げなよ」
ようやく沈黙を破って友理奈が口を開く。
「な〜んだ、話ってそんなこと?って言うか、そんなことあったっけ?私忘れてたよ」
そう言う友理奈の顔には、今までの険しい表情は既に無く、いつもの『熊井友理奈』の顔だった。
その様子に、傍でどうなることかと心配しながら見守っていた梨沙子はホッとした。
そして思った―――そう、私の大切な親友のユリは、いつまでも人の過ちを責め続けるような人じゃなかったね。体育祭のリレーの時もそうだったっけ―――。
225松輝夫:2007/06/02(土) 21:58:19 ID:jenL4IOLO
一方、友理奈の言葉に顔を上げた佐紀は、すぐには友理奈の言うことが理解できず怪訝な顔をしていた。
「…あの、友理奈…」
「なんとなくだけどわかってたよ。でも、もう忘れた。佐紀はまだ拘ってたんだ。間違いは誰にだってあるでしょ?それを許せるのが友達じゃないの?」
「…友理奈…ありがとう」
泣きそうになるのを何とか堪えながら、再び、佐紀は心から頭を下げた。
「だから、顔上げなって!もういいんだからさ」
「そうだよ佐紀ちゃん」
二人の言葉にも、佐紀はなかなか顔を上げられなかった。
二人の優しさが素直に嬉しかったし、消えることの無い罪を犯してしまった自分の愚かさが恥ずかしくて、とても二人とまともに向き合えそうに無かった。
『友理奈、梨沙子…ありがとう…もっと早くあなたたちに会いたかったよ…もう、何もかも手遅れだけど、でも最後にいい友達に会えてよかった…』
大粒の涙が、佐紀の頬を伝わって落ちていった。
226松輝夫:2007/06/02(土) 22:04:36 ID:jenL4IOLO
梨沙子は黙ってハンカチを取り出すと、佐紀の涙を拭ってやった。
「…ありがとう、梨沙子。もう大丈夫だから」
「佐紀さぁ…一つ聞きたいんだけど」
その様子を見ながら友理奈が言った。
「さっき梨沙子とも話してたんだけど、何か悩み事とかあるんじゃない?」
ようやく顔を上げた佐紀は、友理奈の言葉に思わず身を固くする。
「どうして…そう思うの?」
「だってさぁ、佐紀が遅刻なんて珍しいし、急にさっきみたいな話してくるし」
「何でもないよ。さっき桃にも言ったけど、遅刻したのは目覚まし時計を間違えてセットしたからだし、友理奈にはいつか謝りたいと思ってたから…それがたまたま同じ日になっただけだよ」
「ふ〜ん…」
佐紀は内心の動揺を隠しながら答えたが、友理奈が納得しているようには見えなかったし、友理奈は友理奈で、佐紀が梨沙子の言う通り何か隠し事をしていることを確信した。
227松輝夫:2007/06/02(土) 22:08:08 ID:jenL4IOLO
「佐紀ちゃん、何かあったなら話してよ。私も心配だよ」
梨沙子が佐紀の左手を掴んだ。
「だ、大丈夫だよ、梨沙子。心配しないで」
「佐紀に言っておくけど、私たち友達だよね。悩みとかあるならちゃんと話してよ。そういうの隠される方が、前に佐紀にされたことよりもよっぽど悲しいし悔しいよ。信用されてないのかな、って思う」
「…う、うん、わかった。ありがとう、友理奈」
その時、昼休みの終わりを告げる五時間目の予鈴が鳴った。
「…じゃあ、そろそろ教室戻ろうか」
友理奈の言葉に、三人は教室に戻ろうと歩き出した。
二人と一緒に歩きながら、佐紀は心の中で呟く。
『ごめんね、二人とも。やっぱり私あなた達とは友達になれないみたい…あそこまで言ってもらっても嘘つくんだから。でもわかって欲しい。信用してないとかじゃない…あなたたちを巻き込みたくないだけなの…』
228ねぇ、名乗って:2007/06/03(日) 16:25:57 ID:QqekcUNU0
物語の一つの山になりそうな予感?
229七姉妹スレの人:2007/06/03(日) 21:46:17 ID:snSyGsn50
七姉妹スレからHN検索して辿り着きました
めちゃくちゃ歴史あるスレじゃないすか いいなあ。
ゆっくり読ませてもらいたいと思います。
230松輝夫:2007/06/03(日) 23:05:16 ID:md5c07OqO
>>228
仰る通り、一つの山になろうかと思います。
また、非才ではありますが、そうなれるよう頑張って書いていますので、温かく見守っていただけますよう、よろしくお願いしますm(_ _)m

>>229
3年B組へようこそ!ゆっくりしていてくださいねm(_ _)m
それなりに歴史があるスレなので、きっと読み応えがあるんじゃない☆カナ?と思います。もし感想なんかいただけたらうれしいです。
231松輝夫:2007/06/07(木) 18:37:23 ID:Np1WTw0AO
>>227

そして放課後、佐紀は校門で最後に謝らなくてはならない人たちを待っていた。
彼女が待っているのは雅、千奈美、茉麻―――彼女が最も傷つけてしまった人たちだった。
確か、雅がバイトしている屋形船のおじさんが入院したとかで、学校の帰り道に、三人で一緒にお見舞いに行くと言っていた。
その雅はHRが終わった後、金八に呼ばれて職員室に行ったので、佐紀が教室を出る時には千奈美と茉麻はまだ教室にいて、雅を待っていた。
そういうわけで、佐紀は一足先に教室を出ると、こうして校門で三人が出てくるのを待っていたのだった。
―――佐紀の目の前を下校する生徒たちが次々通り過ぎていく。
どれくらい時間が経っただろうか、生徒たちの下校もピークを過ぎたらしく、学校から出てくる生徒もまばらになってきた。
三人を待ってる間、佐紀は校門にもたれかかった姿勢で色んなことを考えていた。
232松輝夫:2007/06/07(木) 18:38:21 ID:Np1WTw0AO
三人に会ったら何て言おう、どうやって切り出そうかな…たぶん、雅は許してくれないだろうなぁ…話を聞いてすらくれないかもしれない。
しかし、今まで自分が彼女にしてきたことを思えば、例え何を言われても、何をされても文句は言えないだろう。
『雅…許してくれないのは仕方ないけど、せめて話くらいは聞いてくれないかなぁ…』
佐紀は心からそう願う―――なぜなら、彼女に残された時間はもう無いのだから…。
そんなことを思いながら体を起こして昇降口の方を見やった時、佐紀は三人が何か話しながらこっちに向かって歩いてくるのを視界に捉えた。
『圭ちゃん…行ってくるね』
お守り代わりのリストバンドに軽く手を触れ、佐紀は三人の前に立った。
突然目の前に現れた佐紀を、三人は驚いた表情で見た。
「佐紀じゃない。とっくに帰ったと思ってた。どうしたのよ?こんなところで」
茉麻が尋ねた。
「あ、あの…ゴメン、三人に話があるの。忙しいと思うけど、少しだけ、少しだけでいいから…時間、くれないかな…お願いします」
佐紀は頭を下げて懇願した。
233松輝夫:2007/06/07(木) 18:45:17 ID:Np1WTw0AO
「…ウチら忙しいんだけど。話ならまたにしてくれる!?」
真っ先に反応したのは、ずっと険しい表情で佐紀を見ていた雅だった。
予想通りの反応に『自業自得だよね』と佐紀が自嘲気味に思った時、とりなしてくれたのは茉麻だった。
「みや、話聞いてあげるくらいいいじゃない。佐紀だってそのためにずっと待っててくれたんだし」
修学旅行に体育祭と、最近の佐紀に明らかな変化を感じていた茉麻は、雅の気持ちももちろんわかるものの、かといって佐紀に対して冷淡に振舞うことはできなかった。
「そうだよ!佐紀の話だって、一時間も二時間もかかるわけじゃないでしょ?だよね?」
茉麻と同じ思いを抱く千奈美も続いて声をあげ、その問いかけに佐紀はうなずいた。
「ね?ほら!みや、いいよね、少しくらいなら」
「…わ、わかったよ、わかりました!聞きますよ、聞けばいいんでしょ、聞けば!でも、少しだからね」
二人に言われ、雅も渋々といった感じで言った。
234松輝夫:2007/06/07(木) 18:46:55 ID:Np1WTw0AO
「…ありがとう、雅」
自分を弄んでいた頃と違い、妙に弱々しい口調で礼を言う佐紀が、逆に雅の癇に障る。
「別にアンタのためじゃないから!まあと千奈美が言うからなんだから、そこんとこ勘違いしないでよね!」
「うん、わかってる…」
「ちょっと、みや…」
見かねた茉麻が雅をたしなめようとする。
「いいの茉麻、元々私が悪いんだから…」
「佐紀…」
茉麻に睨まれ、雅は軽く首をすくめた。
「…そ、それよりさ、佐紀の話って何なの?早く聞かせてよ」
その場の空気を変えようと、わざと千奈美が明るい声で言った。
235松輝夫:2007/06/07(木) 18:48:16 ID:Np1WTw0AO
「あ、あの…私…」
三人はそれぞれの表情で佐紀の次の言葉を待つ。
次の瞬間、佐紀は三人の前で土下座した。
「―――!」
「ごめんなさい!私、あなたたちに今までずっと酷いことを…謝って済むとは思ってないけど…でも、今謝らないと時間が無いから…本当にごめんなさい」
「ちょっ…何やってんのよ佐紀!止めなよ」
茉麻がそう言いながら佐紀の手を取って立たせようとする。
「そ、そうだよ、何もそんなことしなくたって」
茉麻が佐紀を立ち上がらせると、千奈美が佐紀の膝をはたいてやったが、それでも佐紀は再び跪こうとする。
「止めなよ!そんなことしてまで同情買って許してもらおうってつもり!?」
初めから厳しい表情を崩さないでいた雅が堪りかねて言った。
236松輝夫:2007/06/07(木) 19:37:15 ID:Np1WTw0AO
「みや、その言い方ひどくない」
「そうだよ、みやの気持ちもわかるけど、言い過ぎだよ」
茉麻と千奈美が二人して佐紀を庇うのが雅には気に喰わない。
「…いいの、二人とも。私は何を言われても仕方ないから…もちろん、これで許してもらえるなんて思ってないよ…」
さらに、今日に限ってどういうわけかいやに弱々しい佐紀がまた雅には気に入らなかった。
「ゴメンね、私にはあなたたちに謝る資格すらなかったのにね。でも、忙しいのに聞いてくれてありがとう」
佐紀は深々と頭を下げた。
それに対して、またしても何か言いたげな雅を制して茉麻が言った。
「もう止めなよ、佐紀の気持ちはよくわかったから。それより、『時間が無い』ってどういうこと」
佐紀はしまったと思った―――さっき思わずそう言ってしまったのだ。
237松輝夫:2007/06/07(木) 19:39:45 ID:Np1WTw0AO
「佐紀、体育祭の時に思ったんだけど、何か隠し事してるでしょ?もしかしてそれが関係あるんじゃないの?」
顔を上げた佐紀は茉麻の言葉に首を横に振った。
「ち、違うよ…今謝らないと一生謝れない気がしただけだから…」
「もうどうでもいいよ、それより、早く病院行こうぜ」
雅が口を挟んだ。
「あ…ゴメンね、長く引き止めちゃって。でも、聞いてくれてありがとう…」
その時佐紀は、何気に目をやった雅の右手首に、修学旅行の時にあげたリストバンドを見つけた。
「それ…してくれてるんだね」
「!…べ、別にいいだろ!」
慌ててその右手首を隠す雅を見て、佐紀は微笑んだ。
「何笑ってんだよ!」
「ゴメン…でも、まだそれを持っていてくれたのがすごく嬉しくて。それ、これからもずっと大事にしてくれると嬉しいな。私にとっても大切なものだから…それじゃ、さよなら…」
佐紀はもう一度微笑みながらそう言うと、踵を返して歩いていった。
238松輝夫:2007/06/07(木) 19:40:43 ID:Np1WTw0AO
その笑顔と、歩いていく後姿を雅は妙に寂しく感じた。
それに『さよなら』って…普段、当たり前のように使っている別れの言葉だが、佐紀が今口にしたそれは、単にそれだけにとどまらないような気がしたのだった。
後に雅は佐紀の『さよなら』の本当の意味を知ることになるが、この時の雅はそこまではわからず、違和感とでも言うのか、ただ漠然と変だと感じるだけだった。
『なんなんだよ、アイツ…今日はなんか変だよ…』
修学旅行の頃から確かに佐紀は変わった、それは雅も認めないわけにはいかなかったが、やはり以前のことが引っかかって素直になれない。
その時、雅は不意に後ろから「ドン!」と背中をどつかれた。
「何すんだよ!」
後ろを振り向きながら雅は声を上げた。
239松輝夫:2007/06/07(木) 19:41:58 ID:Np1WTw0AO
雅をどついたのは茉麻だった。
「まあ!何すんだよ」
「みや、ちょっとひどすぎ。あれじゃ佐紀がかわいそうだよ」
「そうだよ。いくらなんでもあれはひどいと思うよ。もう少し言い方あったんじゃないの?」
茉麻と千奈美に同時に言われ、雅も負けずに言い返す。
「な、何だよ、二人して!私がアイツにどれだけひどい目に遭わされてきたか、二人が一番よく知ってるだろ!?」
「もちろん知ってるよ。みやが傷ついたことも、みやの痛みも苦しみも誰よりもわかってるつもり。でも、佐紀だって一生懸命変わろうとしてる、それはみやだってわかってるでしょ?」
「そうだよ、それに前にウチに教えてくれたじゃない。佐紀のこと、助けてあげたいんだ、って」
二人の言葉と、咎めるような視線に耐えられず顔を背けた雅は、修学旅行の初日、夜の京都の公園で金八に言われた言葉を思い出していた。
240松輝夫:2007/06/07(木) 19:43:37 ID:Np1WTw0AO
『時間が掛かっても構わない…ゆっくりでいいから少しづつ、佐紀を許してやって欲しい』『もう佐紀は人は一人じゃ生きていけないって気づきはじめているんだ』
「私だってわかってる!わかってるけど…私はあんた達みたいにはやれないんだよ!」
「みや…」
茉麻は雅に優しく呼びかけた。
「佐紀に謝った方がいいよ。まだ佐紀のしたことを許せないのは仕方ないけど、でも今回はみやの方が悪いと思うよ」
「…わ、わかったよ。佐紀に謝ればいいんだろ。明日、学校で謝るよ」
茉麻は首を横に振った。
「ダメだよ。こういうことは少しでも早い方がいいの。ね?」
「わかったよ、じゃあ、病院の帰りでいいだろ?確かアイツの家近かったはずだし」
雅の言葉に今度は茉麻も頷いた。
「よし、決まりだね!じゃあ、早く病院に行こ!面会時間過ぎちゃうよ」
千奈美の声に二人は頷くと、病院に向かって歩き出した。
241小僧すし:2007/06/07(木) 20:55:42 ID:9vXAmlyB0
作家のみなさんへ

このスレすごく大好きです!実は僕がBerryz工房に興味持ち出したのはこのスレからですw
家に帰ってきて更新されてないかな〜?と思いながらこのスレをクリックするのが僕の楽しみの一つです。
僕みたいになかなかコメントとか書けないけど楽しく読んでる方というのは少なくないと思うので、
作家活動大変だと思いますが頑張ってください♪♪
242ミヤビイワナ:2007/06/07(木) 21:25:11 ID:sP0kQNj80

「小僧すし」さん初めまして、ミヤビイワナと言う者です。

すごく嬉しい書き込み本当にありがとうございます。

ちょっと涙が出ちゃいそうな書き込みでした、感激です。

松輝夫さんが渾身の力を振るって書いています。

本当に尊敬に値する物語を紡いでいます、素敵です。

丁寧に今までの物語を活かして読者(自分)を楽しませてくれています。

答えなきゃね、まさかここまで物語が愛されるなんて・・・

ちょっと複雑な問題を抱えてて変則的な書き方をイワナがこれからしますが、まあ・・書いてなんぼな世界、行けるところまで行きますか。

7姉妹も応援しています、まだまだ組み立てに迷いがあると思いますが、あきらめずゆっくり続ける事です、それしかないです。

本当に7姉妹を応援しています。
243松輝夫:2007/06/07(木) 22:25:33 ID:Np1WTw0AO
>>241
小僧すし氏、はじめまして。松輝夫です。とても嬉しい書き込みをありがとうございます。
やはり、書いていて何か反応があるというのが一番嬉しいし励みになります。もしよかったら、気が向いた時でけっこうです、これからも感想とか思ったこと思うままに書いていただけたら、と思います。
これからも頑張って書いていきますので、よろしくお願いします。

>>242
頑張って書いてみましたがいかがでしょうか。
やはり読んでくれている人っているんですね。その人達にこたえるためにも頑張って書いていきましょう。
あと、自分の要請で歪な形になってしまったんですよね?誠に申し訳ないですm(_ _)m
でも、イワナ氏なら大丈夫だと(勝手に)期待してますので、よろしくお願いします。
244作家に対する応援団員:2007/06/08(金) 01:53:09 ID:NvUrRoKp0
ミヤビイワナさん。松輝夫さん。お久しぶりです。
>>188の書き込みをしたものです。
僕も小僧すしさんの言うように、あまり書き込めないの
ですが、毎日ワクワクドキドキしながら更新を楽しみに
しています。更新されていない日は、まとめサイト
「3B同創部」をじっくりゆっくり読む事にしています。
今更ですが、一行ずつ本当に良く考えて丁寧に文章を
書いている事に驚かされました。
素直に「あなた達はすごい!」と思います。
だからお願いです。ミヤビイワナさんも、松輝夫さんも
決して無理はしないで下さいね。
お二人が楽しい気分で書く小説・・・。それが私の(多分
読者全員の!)本当に読みたい小説(私達も楽しめる小説)
になるはずですから!そのためにならいくらでも待ちます。
と、自分勝手な事をつらつらと書いてしまいましたが、
お許し下さい。これからも応援しています!
245松輝夫:2007/06/08(金) 15:46:33 ID:/U/zdqrLO
>>244
またしても嬉しい書き込みをしていただき、ありがとうございます。

今書いているものなどは特に、何度も何度も読み返しては書き直しての繰り返しです。が、こうやって暖かい書き込みをしてくださる読者の方がいると思うと、その苦労も苦労ではなくなります。

千奈美に、自分も煮詰まった時には同創部で過去の作品を読み返しています。
他の人の作品を読んで刺激を受けることで、またアイデアが浮かんでくるんですよね。

ですが、やはり一番効き目があるのは、なんと言っても読者の方々からの書き込みです。これからも、機会があったら何かカキコしてくださると嬉しいです。

今後とも、よろしくお願いしますm(_ _)m
246ミヤビイワナ:2007/06/08(金) 21:17:48 ID:J+FG22W10

>>244さん、有り難う御座います。
なんて嬉しい書き込みでしょうか。

書き続ける力が沸いてきます、本当に読者はいるのだなって。

最高の差し入れありがとうございます。
247小僧すし:2007/06/08(金) 22:23:21 ID:cGZ1R0Yd0
松輝夫さん、ミヤビイワナさん、

はい、これから下手なコメントになるかもしりませんが感想などを書きこまさしていただきます。

微力でも作者さんの力になれたら幸いです。

ほんとこちらこそ心温まる作品を読ましていただきありがとうございます。

Berryz工房本人たちも大好きですし、この作品の中にいるBerryz工房とハロプロのみなさんも同じくらい好きですw


作家に対する応援団員さん、

はじめまして、小僧すしといいます。

ほんとみなさんの世界観、文章力、構成の仕方などには驚かされますよねw

僕もたまに『3B同窓部』のほうを読みかえしたりするのですが、その中の特にお気に入りとかありますか?

僕は≪友理奈ノキズ≫が特に好きだったりします。
248松輝夫:2007/06/09(土) 09:25:37 ID:TmTk+iwFO
>>248
小僧すし氏、書き込み感謝ですm(_ _)m
文章の巧拙とか関係ないですから。読んで下さった方の反応がわかるだけでも書いてるだけでも自分はありがたく思っています。
小僧すし氏も他の読者の方もこれからも何か思ったり感じたことは遠慮せずに書いて下さると嬉しいです。
千奈美に、先に書き込んだ通り自分も頻繁に3B同創部を読んでいますが、「涙とナミダ…」が一番好きですね。最後のシーンがお気に入りです。
249松輝夫:2007/06/09(土) 09:41:03 ID:TmTk+iwFO
自分にアンカーって…>>247です
250作家に対する応援団員:2007/06/09(土) 12:47:26 ID:tFv+qYA30
小僧すしさん。初めまして!
本当にこんな作家さん達に出逢えて私達は幸せですよね!
しかもファンである私達に、作家さん本人が直接レスを
返してくれるって!!本当にうれしいし、ありがたいこと
ですよね!
だからこそこの板を大事にしつつ、のんびりと待ちながら
作家さん達の投稿を一緒に待ちましょうよ!
チャット的にならない程度に(連投などはやめて)
3Bについてだったり、あの娘はこうなって欲しい等の
妄想だったり(笑)を会話なんてしながらね!

こちらは頻繁に書き込みが出来る状況ではないので、
そんなに会話が続かないかもしれませんが・・・。
でも遅くなっても必ず返事は返しますので!(笑)

ちなみに私の一番のお気に入りは「僕の手紙」です。
すみません!本編ではなくサイドストーリーです!
僕はこの「僕の手紙」からここのファンになったので、
これが今でも一番好きです。

特に、圭太郎がプレゼントするリストバンドのシーンが
いいんです!だから>232の「圭ちゃん・・・」の
シーンを読んだ瞬間、つい涙が・・・。

そして今最も気になる人物は、「〜BIRTHDAY〜」の
柴田あゆみさんです。

長い書き込みになってすみません!
作家のみなさん。小僧すしさん。その他の読者の皆さん。
今後とも宜しくお願いします。
251ねぇ、名乗って:2007/06/09(土) 17:34:43 ID:G+C3MgmX0
物語のうえで転機になったというのもありますが、「夕陽の死闘」もよかったなあ、と思っています。
現在進行中の話にも、同じものを予感させる緊張感があって面白いと思いますよ。
252ミヤビイワナ:2007/06/09(土) 17:39:30 ID:/y+8ysQe0
>>250

ああ、いままでこんなに感想をいただいた事があっただろうか?

読者の皆様・・・本当にありがとう御座います。

輝夫さんの物語からファンになったのですか、と言うことは本編を後から読んだのですね。

輝夫さんの物語が本編を引き立てましたね。

嬉しすぎて涙が出そうです。

「〜BIRTHDAY〜」は本当に申し訳ないのですが遅くなりそうです。

しかし絶対書きますので、必ずです!!

ああ、書いてて良かった・・・・見てる人がやっぱりいたのですね、こっちのほうが物語みたいだな。

なんちゃって


253作家に対する応援団員:2007/06/10(日) 02:36:22 ID:cHgZIzvk0
ヤバイですね・・・。この時間にエピソード15まで一気に読み返して
見たのですが・・・。小僧すしさんのお気に入り「友理奈ノキズ」
松輝夫さんが好きな「涙とナミダ・・・」、ねぇ、名乗ってさんの
上げた「惨!!夕陽の死闘」。どれもイイ!

しかもあらためて見返しても、未だに泣けてきます。
皆さんはどうか分かりませんが、僕はこの小説で泣いています。
いばって言えるような事ではないですが(笑)
なんか素直に感情移入出来てしまうんですよね。

でもだからこそ、こんなに泣ける物語を書いている作家さん達は、
実は物語のキャラクターと同じ位悩んで、涙してきた人達では
ないのかな?と、勝手ながら思ってしまう自分がいます。

実体験が生きているから、こんなにも切なくて優しい物語が
書けるのかなと・・・。

でも、いくら泣いてでも最後はハッピーエンド!
私はこの設定が一番好きです。(何気にリクエスト笑)

うーん。取り留めの無い話になってきたので、この辺で。

(変なテンションでごめんなさい!寝てないもので・・・。)

254松輝夫:2007/06/10(日) 10:14:59 ID:P0ZfXstDO
>>250
>>253
書き込み感謝です。まさか「僕の手紙」がキッカケになったとは…どうもありがとうございますm(_ _)mプレゼントのシーンと、その前後は特に力を入れた所ですので、お褒めに預かり光栄です。
あとがきにも書きましたが、あの話はZONEの同タイトルの曲をヒントに書きました。もし機会があったら一度聴いてみてくださいな。

さて、オリメン二人が書いてきたいくつもの話は何れも秀作揃いですが、個人的には「かくしごと」も好きな話です。今の話を書くにあたり、何度も読み返しました。
さりげない描写・セリフが素晴らしいのですが、特に、佐紀の「絶対大丈夫なんだ、あの二人は」のセリフは見事!の一言に尽きます。
自分もオリメン二人やイワナ氏のように書ければ良いと思い頑張ってはいますが、なかなか上手くいかないのが現状ですね(>_<)
255松輝夫:2007/06/10(日) 11:09:24 ID:P0ZfXstDO
>>252
「夕陽の死闘」もいいですね。この話も、今書いてる話と深く関連があるので、何度も読み返しました。
あの緊張感はなかなか出せませんねぇ…オリメンとの力の差を感じます(>_<)
>>253
最近、読者の方が増えたみたいで嬉しいですね。ここまで書いてきて本当に良かったと思います。
イワナ氏の続編も期待しています。これからもヨロシクですm(_ _)m



ノリo´ゥ`リ 千奈美に、DDの輝夫は、今日は中野に行くそうです。
川´・_・リ GAMのライブで美貴先輩と松浦亜弥さんに会いに行くんでしょ?
ノリo´ゥ`リ 小春一筋とか言いながら、たぶんライブ中は「あやや〜〜〜っ」とか叫んでがっついてるよ、きっと。やだやだ…。
川´・_・リ 仕方ないよ、あの人浮気者だもん。私の前はちいのこと推してて私に乗り換えたし、最近はみやとかゆりに転びそうだし。
ノリo´ゥ`リ ライブの後はヲタカラだって。だから、今日は更新ないね。
川´・_・リ 早く続き書きなさいよね。ヒロインは私なんだから!



…そういうわけで、今日は更新はありません。3B同創部で過去スレをお楽しみ下さい。
なお、3B同創部にも掲示板がありますので、そちらもゼヒゼヒご利用下さいませm(_ _)m
256松輝夫:2007/06/10(日) 11:30:59 ID:P0ZfXstDO
>>255
またやってもうたorz
最初のアンカーが>>251、次が>>252です
257松輝夫:2007/06/11(月) 17:33:12 ID:OAAnS3UbO
川´・_・リ 浮気者の輝夫は、昨日は松浦亜弥さんと目が合いまくったので悶絶しまくりだったそうです。やだやだ…。
ノリo´ゥ`リ DDの輝夫は、昨日はお姉ちゃんとも目が合いまくったのでやっぱり悶絶しまくりだったそうです。サイッテー…。
川´・_・リ でも、今日中に少し更新するみたいだよ。
ノリo´ゥ`リ さっさと更新しなさいよね。最近、私の出番が全く無いじゃないの。



…そういうわけで、もう少ししたら揚げます。現在、最後の見直し作業中です。もう少々お待ち下さいm(_ _)m
258松輝夫:2007/06/11(月) 20:41:08 ID:OAAnS3UbO
>>240

三人と別れた佐紀は、特に当てもなく賑やかな夕方の街中を彷徨っていた。
少しずつ暗くなり、佐紀もあちこちいろいろ歩き回ってようやく少し疲れてきた。
だが、いくら疲れたとしても、今の彼女にはもはや帰る場所はない。
そして、佐紀はその足で荒川の河川敷に来ていた。
荒川は佐紀が生まれた時から今まで、ずっと生活の一部だった。
小学校の頃はよく幼馴染の圭太郎と土手で遊んでいたし、中学生になってからは登下校の際の通り道だった。
佐紀は、自分の人生の最後の場所にその荒川を選んだ。
土手に腰掛け、佐紀は朝とは違う表情を見せる夕方の荒川の風景を眺めていた。
いろんな人の顔が浮かんでくる―――桃子、友理奈、梨沙子、雅、千奈美、茉麻、坂本先生、小春、美貴、そして、お母さん…。
259松輝夫:2007/06/11(月) 20:43:14 ID:OAAnS3UbO
『桃子、最後までウソついてごめんね。今までありがとう。オーディション楽しかったよ…』
『友理奈、梨沙子、私のことを友達って呼んでくれた二人の言葉、すごく嬉しかった…』
『雅、今までゴメン。やっぱり許してくれなかったね。当然だよね。でも、最後に自分の口で謝ることができてよかった。リストバンド、持っていてくれて嬉しかったな…』
『千奈美、茉麻、こんな私を庇ってくれてありがとう。屋上で食べたお弁当、おいしかった。これからも雅と三人で仲良くね』
『先生、結局本当のことを言えなくてごめんなさい。最後まで手間のかかる生徒ですね、私。でも、こうするしかないんです…』
『小春ちゃん、美貴先輩…せっかく励ましてくれたのにごめんなさい。でも、二人に会えてよかった…いつまでも仲の良い姉妹でいてください』
『お母さん、私がいなくなればきっと昔の優しかったお母さんに戻ってくれるよね…もっと早くこうしていればよかったんだよね…ゴメンね…』
260松輝夫:2007/06/11(月) 20:44:13 ID:OAAnS3UbO
そして佐紀は思った―――クラスのみんなとは最後に会うことはできたけど、できるなら小春と美貴にも会っておきたかった。
「小春ちゃんにメールくらい打っておこうかな…」
短い付き合いだったけど、クラスのみんなに負けないくらい自分のことを想ってくれたのだから、最後にそれくらいしても良いだろう、そう思った佐紀はカバンから携帯電話を取り出した。
ちょうどこの頃、金八が小春や美貴と会っているなど知るはずも無い佐紀は、小春宛に別れの文章を打って送信すると、携帯電話の電源を切ってカバンにしまい、再び荒川の風景に目をやった。
このメールこそ小春が金八と美貴に見せたものであり、後に佐紀の運命を大きく変えることになるが、今の佐紀がそれを知るはずも無かった。
261松輝夫:2007/06/11(月) 20:47:53 ID:OAAnS3UbO
一方、『ふじもと』を出た金八と美貴は佐紀の家に向かってひたすら急いでいた。
「大丈夫ですか、先生?」
美貴は立ち止まると、心配そうな顔で尋ねた。
金八の足が止まっていた。
『ふじもと』を出てから、一度も立ち止まらず一気にここまで駆けてきたのだが、若くて昔からスポーツ万能だった美貴はともかく、金八にはかなり応えたらしい。
「…私ももう歳だなぁ…」
肩で息をしながら思わず漏らした金八は、首を何度も横に振った。
それにしても、我ながら迂闊だったと金八は思う。
何が『私は何年教師やってると思ってるんだい』だ、佐紀がこんなに思い詰めていることも気づけなかったくせに。
あの遅刻も何かのサインだったに違いない、もっとよく話すべきだった。
だいたい、佐紀が虐待を受けていることを知っていたのだから、例え彼女の意思に反することになったとしても介入すべきではなかったか。
262松輝夫:2007/06/11(月) 20:48:42 ID:OAAnS3UbO
「やっぱり歳なんだなぁ…」
「先生…」
「あの娘のこと、何も気づいてやれなかった。何もしてやれなかった。私がしっかりしていれば、もしかしたら今度のことも未然に防げたかもしれない。何てダメな教師なんだ…」
「…先生…でも・・・後にならないとわからないことも多いと思いますよ。とにかく、今はまず佐紀に会わないと、全てはそれからですよ」
「…ありがとう、美貴。よし、急ごう、もうこの近くだから」
そうだ、今は弱音を吐いている場合ではなかった。
佐紀に会ったら、気づいてあげられなかったことを、何もしてあげられなかったことを謝ろう、そして、今度こそちゃんと話を聞いてやろう。
『佐紀、間違っても早まったことするんじゃないぞ。今行くからな…』
金八は疲れきった体に鞭打って再び駆け出した。
263松輝夫:2007/06/11(月) 21:23:31 ID:OAAnS3UbO
二人がようやく佐紀の家に辿り着いた頃には、辺りはかなり暗くなっていた。
「…ここですか、佐紀の家」
「ああ、そのようだね…よし、行こうか」
『清水』の表札を確認してから、金八はチャイムを押した。
一度、そしてもう一度、しかし、全く反応は無かった。
「すいません、清水さん、すいませーん」
金八は大きな声で呼びかけながら、ドアを激しく叩いた。
それを何度か繰り返して、ようやく玄関に人の気配がすると明かりが点き、ドアが開くと佐紀の母親・まゆみが顔を出した。
「…坂本先生…何なんですか、いったい」
「あの、佐紀は?佐紀はいますか?」
「さあ…たぶんいるんじゃないですか。今まで寝てたからわかりませんよ」
「見てきてください!今すぐ!」
金八の有無を言わせぬ口調に、まゆみはいかにも渋々といった感じで二階の佐紀の部屋に様子を見に行った。
264松輝夫:2007/06/11(月) 21:24:29 ID:OAAnS3UbO
少しして、ようやく戻ってきたまゆみは
「いないですよ、まだ帰ってきてないんじゃないですか」
いかにもどうでも良いという感じだった。
「アンタって人はーっ!!」
次の瞬間、美貴はまゆみの胸倉を掴んでいた。
金八が止める暇も無かった。
「あの娘から私の妹にメールがあったんだよ、『さよなら』って!アンタ、佐紀に何やったんだよ!?何であの娘が『さよなら』なんて悲しいこと言わなきゃいけないんだよ!?」
美貴は叫びながらまゆみの体を激しく揺さぶった。
265松輝夫:2007/06/11(月) 21:25:40 ID:OAAnS3UbO
「美貴、やめるんだ!なんで佐紀があんなことを言い出したのか、まだ理由はわからないだろう?」
「止めないでください!理由なんて、この人の虐待のせいに決まってるじゃないですか!」
まゆみを胸倉を掴みながら美貴は言った。
「そうだとしても、今はそんなことをしてる場合じゃないだろう?まずは佐紀を探さないと」
金八の再度の言葉に、美貴もようやく手を離す。
それから金八は、乱れた襟を直しているまゆみに向かって言った。
「…いや、どうもすみません。さて、話は聞いての通りです。私たちはこれから佐紀を探します。お母さんの方でも、何かわかったらすぐ学校か私の携帯に連絡ください」
「…ええ、わかりました」
「お願いします。よし、美貴、行こうか」
美貴はまだまゆみを睨みつけていたが、金八に促され、憮然とした表情で一緒に外に出た。
外はすっかり暗くなっていた。
266松輝夫:2007/06/11(月) 21:26:41 ID:OAAnS3UbO
「喧嘩っ早いところは昔から変わってないなぁ、美貴は」
「…すみません、でも…」
「まあ、気持ちはわかるがね。それよりも、これからどうするかだが…」
そう言いながら金八は携帯電話を取り出すと、学校に連絡を取った。
手短に事情を話し、佐紀を探すための方策を打ち合わせる。
それがようやく終わって金八が携帯をしまった時だった。
「先生!」
金八はその声がした方を向いた。
「…なんだ、君たちか」
雅・茉麻・千奈美の三人がこちらに駆け寄ってきた。
267松輝夫:2007/06/13(水) 09:10:20 ID:EiAUjdW6O
―――これより少し前、校門で佐紀と別れた三人は、病院に丹下を見舞った後、佐紀の家を目指して歩いていた。
「おっちゃん、元気そうだったね」
「うん、とりあえずもう大丈夫らしいね。交通事故で入院したって聞いた時は、一時どうなるかと思ったけどさ」
そんな雅と千奈美の会話を聞き流しながら、茉麻は佐紀のこと考えていた。
さっきの校門での一件もそうだが、今日の佐紀の様子はどう考えてもおかしい。
「ねえ、まあ、さっきからずっと黙っちゃって、どうしたの?」
千奈美が心配そうに見ている。
「どうせ矢島のことでも考えてたんじゃないの?今どうしてるかな〜、なんて」
「…そんなんじゃないよ。ただ、佐紀のことが気になって…」
雅の冷やかしにも全く取り合わず茉麻は答えたが、それが面白くなくて、雅は忌々しげに足元の小石を蹴飛ばした。
268松輝夫:2007/06/13(水) 09:11:24 ID:EiAUjdW6O
「二人とも、おかしいと思わない?あの娘、今日は朝から変だった。遅刻はしてくるし…」
「遅刻といえば、先生はウチが遅刻するといっつも長々とお説教なのに、佐紀は何であれで終わりなのよ。納得いかないんだけど」
茉麻の言葉を遮って千奈美が口を尖らせながら言った。
「ちいは常習犯だからでしょ。ま、それはいいとして、佐紀だって遅刻くらいするんじゃないの?人間なんだし」
千奈美にすかさずツッコミを入れてから、雅は茉麻に言った。
「うわっ。なんかヒドいその言い方…ウチだってねぇ…」
拗ねた千奈美は何か言おうとしたが、どちらも全く相手にしてくれなそうな様子なので、不満そうな顔で黙り込んだ。
「遅刻のことだけじゃないの。あの娘、先生と話してる時、何か隠してる感じがした」
体育祭の時に気づいた、雅が嘘をつく時と似てる佐紀の仕草、それを茉麻は今朝も見たのだった。
「それに、自分のしたことを謝るのはいいとしても、『時間が無い』ってどういう意味だろ?すごく気になるの。何でもなければ良いけど、悪い予感がする…」
茉麻の言葉に、雅も考え込む。
269松輝夫:2007/06/13(水) 09:59:24 ID:EiAUjdW6O
確かに、今日の佐紀の様子はおかしい、それは雅も感じていた。
茉麻の言う遅刻のことはわからなかったけど、さっきの校門での佐紀の態度は明らかに変だった。
茉麻が指摘した『時間が無い』という言葉、妙に弱々しく、寂しそうな態度、そして、最後に言った『さよなら』…。
『…アイツ、ホントは何が言いたかったんだろ。何を隠してるんだろ…』
雅は右手首に納まった、修学旅行の時に佐紀からもらった白いリストバンドを見ながら思った―――今日の佐紀と、二学期の初めまで自分を苦しめた佐紀、いったい、どっちが本当の佐紀なんだろう。
その時、今まで黙って話を聞いていた千奈美が口を開いた。
「でもさ、ちょうど今から佐紀の家に行くんだし、気になることは直接本人に聞けばいいじゃん。今ウチらだけで考えてもしょうがないでしょ」
重苦しい雰囲気を変えたくて、千奈美はできるだけ明るい声で言った。
270松輝夫:2007/06/13(水) 10:00:34 ID:EiAUjdW6O
「そうだね、二人ともゴメン。佐紀に直接聞いた方がいいよね。もちろん、まずはみやがちゃんと佐紀に謝ってからだけどね」
「ええ、ええ、ちゃんと謝りますよ。何度も言わなくたっていいじゃんか」
そんな会話をしながらようやく佐紀の家の近くに来た三人は、彼女たちの担任である坂本金八が、佐紀の家の前で若い女性と話しているのを見つけたのだった。
「…ねえ、あれ、坂本先生でしょう?」
「ホントだ…って言うか、あの女の人、誰よ?佐紀のお母さん?」
先に見つけた茉麻の指差す方向を見た雅が言った。
「え?どれどれ?」
いかにも興味津々と言う感じで言った千奈美はその女性に見覚えがあるような気がした。
「…あの人、どっかで見たことがあるような…」
少し考えて千奈美は思い出した。
そうだ、以前師匠が連れて行ってくれた近所にある焼肉の名店『ふじもと』の若女将…でも、何でそんな人が先生と一緒にいるんだろう、それも佐紀の家の前で。
「…ねえ、もしかして、佐紀に何かあったのかな…行ってみようよ」
千奈美の言葉に、三人は佐紀の家の前まで駆けて行ったのだった。
271松輝夫:2007/06/13(水) 10:23:44 ID:EiAUjdW6O
「いったいどうしたんだい?こんな時間に、こんなところで」
金八は三人に尋ねる。
「私たち、佐紀に会いに来たんです。ちょっと話したいことがあって。先生こそどうしたんですか?佐紀に何かあったんですか?」
茉麻の言葉に、金八は美貴と顔を見合わせてから言った。
「佐紀は…家にはいない。今、多くの人たちが手分けして探してる。私たちもこれから探そうとしてたんだ」
「先生、それどういうこと?何があったんですか?」
雅の当然の質問に、金八はまず美貴を三人に紹介し、その妹分の小春に佐紀から別れを仄めかすメールが来たこと、電話をかけても繋がらず、家にも帰っていないことを話した。
だが、佐紀が自分の母親から虐待を受けていることだけはまだ伏せた。
一方、ここに至って雅は、ついに佐紀の『さよなら』の意味を理解した。
272松輝夫:2007/06/13(水) 10:24:41 ID:EiAUjdW6O
「アイツ…さっきの話は、そういうつもりだったのかよ!『さよなら』ってそういう意味かよ!」
「…何かあったのかい?話してくれないか?あの娘を助けたいんだ、知ってることがあったら何でも話してほしい」
金八の言葉に、三人は校門での一件を打ち明けた。
「ちょっとおかしいとは思ったけど、まさか、なんで…こんな…」
茉麻はそれ以上は言葉にならなず、金八はそんな茉麻の震える両肩に優しく手を置いた。
「大丈夫だ、茉麻。佐紀はきっと…じゃないな、必ず見つかるから」
「先生、ウチらも探すの手伝います。何でこんなことするかわからないけど、佐紀のこと、放っておけません」
千奈美の言葉に茉麻も頷いた。
「…お願いできるかい?」
「はい!」
同時に頷いた二人とは対照的に、雅は険しい顔をしていた。
金八は雅を見た。
273松輝夫:2007/06/13(水) 10:25:51 ID:EiAUjdW6O
「…雅、どうした?」
「アイツ…どこまで周りに迷惑かければ気が済むんだよ!見つけたら思いっきり引っ叩いてやる」
「ちょっとみや、こんな時に…」
嗜めようとする茉麻を金八は制した。
「ああ、雅の言う通りだ。人に迷惑をかけるのは良くないよな。だから、見つけたら思いっきり引っ叩いてやるんだ。そのためにも、まずは一刻も早く見つけてやらないとな」
「はい!」
金八の言葉に雅は強く頷くと、茉麻と千奈美に向かって言った。
「ほら二人とも、グズグズしない!早く行くよ。絶対に見つけるんだから!」
言うが早いか、雅は先頭切って駆け出す。
「ちょっと、みや、待ってよぉ」
茉麻と千奈美が慌ててその後を追いかけていった。
「…佐紀はいい友達がいるみたいですね」
目に熱いものを感じながら三人の後姿を見送る金八に、美貴が言った。
274松輝夫:2007/06/13(水) 10:27:14 ID:EiAUjdW6O
「ああ。さてと…私たちも行かないとな」
今、学校の方では残っていた教師総動員で連絡網を用いて各家庭への問い合わせ、警察への連絡など可能な限りのあらゆる手段が執られているはずだ。
一部の教師、さらには部活などで校内に残っていた生徒たちが数名、実際に街に出て探してくれることになっている。
そして、何かあったら金八にもすぐ連絡が来る手はずになっていた。
金八もクラスメイトの家などを中心に街中を探し回ってみようと思う。
『佐紀、君は今どこにいるんだい?雅も、茉麻も、千奈美も、他にも多くの人が君を心配しているんだよ。だから、早く君の無事な姿を見せてほしい…』
心の中で、金八は佐紀に呼びかけていた。
275松輝夫:2007/06/13(水) 10:49:48 ID:EiAUjdW6O
その頃、佐紀はまだ荒川の土手に腰を下ろしていた。
近所の土手から、さらに気の向くままに何も考えず土手の上をずっと歩いてきたが、ここはどの辺だろうか。
まあ、例えここがどこであったとしても、今の佐紀にはどうでもいいことではあったが。
辺りは完全に暗くなり、周囲の家々には明かりが灯り、窓から光が外に漏れている。
「そろそろ行こうかな…」
そう呟いた佐紀は、立ち上がると土手を下り、川のすぐ手前まで来た。
もうあと何歩か前に進めば川の中だ。
今日、日付が変わるのを待つことなく自分はこの世から消えるだろう。
だが、目前に迫った『死』を、佐紀は特に怖いとは思わなかった。
佐紀は右手首のリストバンドに目をやった。
276松輝夫:2007/06/13(水) 10:55:40 ID:EiAUjdW6O
『圭ちゃん、元気かな?まだ夢に向かって頑張ってる?私はもうダメだよ。約束破ってゴメンね。いつか天国で会えたら、その時は文句はいくらでも聞くから…』
もしそうなったら、だらしなくてデリカシーのカケラもない圭太郎のことだ、ずいぶん失礼なことを言い出すだろう。
きっと、佐紀が怒り出してケンカになって、でも最後には圭太郎の方が謝ってくるに違いない。
今思うと、ケンカするほど仲が良いとは言うけれど、圭太郎とはよくケンカしたし、その度に周りからそう言われて冷やかされたものだ。
ケンカの原因は色々あったが、ほとんどの場合些細で他愛もないものばかりで、そして、後から落ち着いて考えればどう見ても佐紀の方が悪かったとしても、それでもいつも決まって謝るのは圭太郎の方だった。
佐紀の方でも実はそれを待っていて、どんなに大ゲンカをしても、結局次の日には何事もなかったようにまた一緒に遊んでいるのだった。
277松輝夫:2007/06/13(水) 10:56:53 ID:EiAUjdW6O
小学生くらいの頃は二人の間で何度も当たり前のように繰り広げられた、そんな懐かしい光景を佐紀はふと思い出していた。
『でも、私は天国には行けないかもね。みんなにひどいこといっぱいしちゃったもんね…だから、ケンカもできないかもね、圭ちゃん…』
自嘲気味に呟く佐紀の目に、うっすらと涙が浮かんでいた。
278松輝夫:2007/06/13(水) 10:58:16 ID:EiAUjdW6O
佐紀はすぐ目の前に広がる荒川の黒い川面を見下ろしていた。
二学期の初め、雅に屋上から飛び降りるように命じたことがある。
あの時、雅はどんな気持ちだっただろう、何を考えていたんだろう?
それはわからないけど、その時、自分が許されざる罪を犯したことだけは間違いなかった。
『結局、自業自得なんだよね…因果応報とも言うかな…』
その件だけじゃない、他にも今まで自分がしてきたことを考えれば、今日、この場所で、こういう形で人生の最後を迎えるのも当然の報いだと佐紀は思う。
『…みんな、さよなら…』
佐紀が心の中で別れを告げ、川に向かってゆっくりと歩き出そうとした、まさにその時だった。
不意に強い光が向けられ、眩しさのあまり思わず目を覆った佐紀はその場に立ち尽くしてしまった。
「おい、君!そんなところで何やってるんだ!?」
そんな声と共に、誰かが駆け寄ってくるのがわかる。
佐紀は反射的に川に飛び込もうとしたが、それよりも僅かに早く、はるかに強い力で腕を掴まれていた。
279松輝夫:2007/06/13(水) 10:59:15 ID:EiAUjdW6O
「放して!放してください!」
「どんなわけがあるか知らないけど、バカなことは止めるんだ!」
そう叫びながら彼女を強い力で押さえつけているのは、どうやら警察官らしい。
いくら抗っても、ただでさえ普通の女の子よりも非力な彼女ではどうすることもできなかった。
『もう少しだったのに…』
佐紀は、もはやいくら抵抗しても無駄だと悟った。
そして、自ら望んだ『死』が許されなかったことも。
全身から力が抜けていった。



FIND THE WAY(前編) 了
280松輝夫:2007/06/13(水) 11:40:44 ID:EiAUjdW6O
川´・_・リ とりあえず、長くなりそうなのでいったん終了だそうです。
ノリo´ゥ`リ ここまで読んで下さった皆さん、ありがとうございました。
川´・_・リ 感想とか書いていただけると輝夫も喜ぶと思います。
ノリo´ゥ`リ っていうか、輝夫、アンタ小春のヲタよね?最後の方、お姉ちゃんは目立ちまくりなのに小春の出番は全く無いってどういうこと?
川´・_・リ あの〜、ヒロインは私なんですけど…。
ノリo´ゥ`リ とにかく、さっさと続き書きなさいよね!



…そういうわけで、いったん終了します。なるべく早く再開しますので、しばらくお待ち下さい。
千奈美に、次は小春の出番もあると思います。
281ねぇ、名乗って:2007/06/13(水) 12:11:59 ID:fPagmSXvO
き も い
282ミヤビイワナ:2007/06/13(水) 19:28:44 ID:Ubi/NHkl0

輝夫さんお疲れです。

ここまで書き込むと相当疲れるよね、ゆっくり休んでまた後編を是非読ませてください。

しかし物語は急速に高まりメンバー達も集まりだしてますます楽しみです。
283ねぇ、名乗って:2007/06/13(水) 20:08:51 ID:zeqVrT6s0
佐紀ちゃんも無事?なようで、後編に期待ですなあ。
複数の作家による作品なのに、話が破綻していなくて、
登場人物のキャラがたっているところがよいと思います。
充実したサイドストーリーが上手く本編にいかされている
という感じですね。
284墨堤通り:2007/06/14(木) 01:49:15 ID:Ohv10XA7O
出勤前に原稿が上がってるのに気付き、私ゆっくりと読みたいので30分ほど遅刻させて貰い、作品を堪能しました。

読み進むに連れ、目から汗が出そうになったのですが…いい所で前編が終わりましたねぇ。

松先生、後編を気長に待っております。
また我々多くの愛読者に珠玉の作品を分けてやって下さい。
285作家さんに対する応援団員:2007/06/14(木) 03:19:39 ID:OSE/pk770
松輝夫さん、お疲れ様です。

とりあえずの一言。「良かった!佐紀ちゃんが助かって!」

続きがすごく気になります・・・。

しかし状況が分かり易い文章ですね。だからこそゆっくりとじっくりと読んでしまう。

墨堤通りさんの気持ちが良く分かります。

ちなみに私は目から汗が、少し出てしまいました。

後編も楽しみにしています!
286松輝夫:2007/06/14(木) 06:43:11 ID:rhzicRbCO
レスくださった皆さん、ありがとうございました。深く感謝しますm(_ _)m



>>282
この前は久しぶりにお話できて良かったです。
ここまで書いてくると相当疲れますが、全く苦痛は感じません。
なお、PCにメール送ってありますので、お時間のある時に対応宜しくお願いしますm(_ _)m

>>283
自分もこの話の中の世界が好きです。また途中参戦した者でもありますから、絶対に話を破綻させるわけにはいきません。
そういうわけで、書く前や最中にも、何度も過去ログを読み返しています。

>>284
楽しんでいただけたなら嬉しく思いますが、お仕事に差し支えない程度でお楽しみくださいねw
自分でもいい所で終わったなぁと思います(自画自賛)

>>285
なるべく読んでる人に情景がわかるように意識して書いているつもりですので、お言葉とても嬉しいですね。



今後は閉ざされた佐紀の心をどうやって癒していくのか、まずはそこが焦点になると思います。
いつ揚げられるわかりませんが、しばらくお待ち下さいませm(_ _)m
287ミヤビイワナ:2007/06/15(金) 22:28:39 ID:7xjHu4j60

今はもう引退してしまった茉作家と言う作家がいましたが、彼が途中でまで書いた作品をイワナが続きを書こうと思いまして・・・
意に反する読者もおられると思いますが、書いてみます。

あくまでも原作は「茉作家」と言う事でお願いします。
288ミヤビイワナ:2007/06/15(金) 22:32:20 ID:7xjHu4j60
第3話 『親子』

安井病院にれいなと雅が駆けつけた時には八名と徳永鉄筋の社長がすでに居た。

「じいちゃん!!おっちゃんは?」

病院のロビーを全力で駆けて息を切らせながられいなは祖父に尋ねた。

「今、集中治療室だ。」

徳永社長は、

「軽トラを運転中に小学生の自転車が飛び出してきたそうだ。」
「悪気はないのだがふざけて友達と追いかけっこして、それを避けるため電柱に激突したそうだよ。」

「・・・・・。」

八名は、

「あいつ、救急車来たとき「子供は大丈夫か?」って聞いたらしい、自分は大丈夫じゃないのにな。」
八名の苦笑いは、皺を深く刻ませた。
「しばらくは様子をみるしかないのう・・・。」

「・・・・・。」

手術は6時間に及んだが丹下の命は取り留めた・・・明日まで麻酔で眠るらしい。
289『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 22:38:13 ID:7xjHu4j60
電話を切った徳永社長は、

「れいなちゃん、雅ちゃん、今日はもう遅いから一旦帰るよ。」

徳永は八名、れいな、雅を白いワゴンに乗せそれぞれ送って行った。

その後、徳永社長は真青を迎えに駅に行き自宅に泊めた。

雅は帰宅して丹下から託されていた家族の連絡先が書いた封筒をもう一度開けて見た。

「?」

古い一枚の小さな紙をみつけた。
小さな字で何か書かれている。
290『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 22:42:26 ID:7xjHu4j60
海がどうして青いか
知っていますか

それは空を映してるから
あんなにも青いんです

じゃあどうして空は
海をあんなキレイに染めるほど
青いか知っていますか

それは海が
雲をつくり そして雨を降らし
空をキレイにしているから
あんなに青いんです

けっきょく
『海』だけでも 『空』だけでも
あんなにキレイに青くはなれないんだよね

そんな『海』と『空』
二人の関係ってとても素敵だよね

(これは・・詩だよね・・)
(おっちゃんが作った詩かな?)

「でもなんか良い詩だな。」
291『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 22:45:58 ID:7xjHu4j60
雅は服も着替えず眠りについた。


雅は朝起きると自転車で安井病院に丹下の様子を見に行った。

れいなのスクーターが病院の自転車置き場に停められてる。

昨日あわてて雅にすがりついたときスクーターは無造作に倒され前部のカウルにキズが入っている。

(れいな先輩でもあんなに慌てるとは・・無理もない)

(れいな先輩のありえない強さは丹下のおっちゃんによるボクシングトレーニングで作られたそうだからね)

中学1年生の時、意地の悪い3年生にからまれた時、自分がいくらかかって行っても勝てなかった体の大きな上級生をまるで草でもはらうように倒したれいなの強さは今でも忘れられない。


病室に行くと徳永社長と八名、れいな、千奈美も来ており見知らぬ男性が立っていた。

「ああ、みや。」

千奈美は雅を見つけると声をかけた。
292『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 22:49:22 ID:7xjHu4j60
「ちぃ、あの男の人は?」

七三に髪を分けた徳永社長と同年代に見える男性だ。

グレーのスーツに小綺麗なそぶりはいかにもサラリーマンという感じである。

千奈美は小声で、

「丹下おっちゃんの息子さんだって。」
(!!)

丹下とは似ても似つかぬ細身のサラリーマン。

「ん・んん」

丹下は眠りから覚めた。

「丹下!!大丈夫か?」

八名が心配そうに問いかけた。

「ああ、」
「・・・そうか寝てたんだな。」
293『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 22:52:57 ID:7xjHu4j60
「おお、丹下!!」

「おお、社長まで、すみません迷惑かけて。」

「なに言ってるんだよ!!」

「徳永社長は目を潤ませて大きく笑っていた。」

「おっちゃん心配させないとぉ!!」

「おお、れいなちゃん、すまんすまん。」

「ん?」

丹下を囲んでいた顔達に見慣れぬ顔があった。


「父さん久しぶり、真青です。」

「・・・・・・・!!」

驚く丹下の顔を見ながら真青は笑っていた。
294『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 23:02:18 ID:7xjHu4j60
笑い顔は丹下の面影があるかもしれないと雅は思っていた。

徳永社長は、
「なあ、みんな丹下のおやっさんはこの通り元気なので一回帰ろう。」
「今日は息子さんと二人きりにしてあげよう。」

「社長!!」

丹下は少し困ったように徳永に言った。

「まあまあ、おやっさん無理しないようにつもる話してくれよ。」

真青は笑顔だった。
295『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 23:09:53 ID:7xjHu4j60
>>288>>289の間です(書き込み間違いでした。)

手術は6時間に及んだが丹下の命は取り留めた・・・明日まで麻酔で眠るらしい。

雅の携帯が鳴り出した。

「もしもし」

「午前中に電話かけてもらった藤原真青(ふじわら まさお)です。」

(ああ!!おっちゃんの息子・・・)

「東京駅に今着きました、父親の容態はどうなんでしょう?」

「はい、今手術が終わりました、麻酔から覚めるのが明日らしいです。」

「そうですか、自分は教えられた親父のアパートに行きますので明日病院に行きます。」
296『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 23:12:47 ID:7xjHu4j60
「さあ、さあ、みんな行くよ。」

雅は二人がどの様に接し会うかが気がかりにもなったが、みんな一緒に帰宅する事にした。

取り残された親子は病室に二人きりになった。

「20年以上経ったよな。」

丹下はベッドに横たわり窓を見ながらポツリと言った。

「はい。」

時は過ぎても親子と言う関係は断ち切れない。

望むか望まざるはない・・・・・。
297『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』:2007/06/15(金) 23:16:10 ID:7xjHu4j60

茉作家に悪いが・・・待っている人がいることをイワナは知っている。

イワナは綺麗な物語を書ける技量はないが最後まで書くつもりです。

良かったら読んでください。
298墨堤通り:2007/06/16(土) 00:27:02 ID:KzwVel9HO
イワナ先生、待ってましたよ。
299ねぇ、名乗って:2007/06/16(土) 20:23:42 ID:uzdXkwrt0
私も待っていましたよ。おっちゃんの話は続きが気になっていたんですよねぇ。

ところで、このスレの住人的には、新曲のPVはどうなんですか?
かなり懐古調の曲ですけど、PVには色々と想像させられるなあと。
http://www.dohhhup.com/movie/zzk3UVkIaFWzuGpndWPjY1idyEszp2a9/view.php
300松輝夫:2007/06/17(日) 08:28:14 ID:N1sCWOKFO
イワナ氏、更新乙です。

まあさんの未完のエピソードがいよいよ動き出しましたね。
自分は以前、まあさんから原作のあらすじは聞いていますが、イワナ氏が同じ原作からどんな話を書き上げてくれるのか、お手並み拝見です。
こちらは少しずつ書き進んでいます。まだ揚げられる程ではありませんが。

千奈美に、時系列のお話を少し。
今回のイワナ氏のお話は体育祭の当日から始まったことになりますね。
自分の話と、時期的に被っています。現在二つの話がほぼ同時進行しているということで読んで下さい。

今回の新曲は、まだPVを少し見ただけですが、悪くはない☆カナ?と。
301ミヤビイワナ:2007/06/17(日) 12:15:54 ID:3iORHxHg0

>>298
「墨堤通り」さんいつもいつも応援の書き込みありがとう御座います。
あなたの書き込みがあるからいつもまでもがんばれる気になります。
お気に召すかは賭だからしょうがないけど、自分らしく書きますね。

>>299
イヤー良い曲です!!
イワナのストライクゾーンにははまります。
今回のおっちゃんの世界に偶然にもはまっています!!

>>300
輝夫さんどうもです。
今回は人の作品にどっぷり乗っかっているのでいつになく緊張です。
でもがんばります!!
302作家さんに対する応援団員:2007/06/22(金) 02:50:45 ID:1kUJe+LM0
お久しぶりです。
最近忙しく、ようやく今見る事ができました。

「自分らしく書きますね。」ミヤビイワナさん、それで良いと思います。

茉作家さんには茉作家さんなりのストーリーがあったのでしょうが、
今はミヤビイワナさんの書くストーリーが見てみたい。

やっぱり読み手としては、止まったストーリーより、
動いているストーリーが読みたい。
あなたの言うように待っている人がいるんです!
だからミヤビイワナさん頑張って下さい!

そしていずれは茉作家さんの書く「空と海の青さに〜叶えられなかった言葉」が読みたいと思う。

新曲PVですが、個人的には大好きです。曲自体はうーん?と思いますが、
悪い物ではないと思います。ただ、あの年齢の子達が歌う曲調ではないと
思うだけで。
303ねぇ、名乗って:2007/06/23(土) 00:07:21 ID:5WS9V2qJ0

「作家さんに対する応援団員」さん書き込みありがとう御座います。

力の続く限りがんばってみます。

本当に応援ありがとうございます。

今回のPVは本当にいいですね、コブシまわしまくりで、スナックにはまる歌ですね。

しかし数年前の「恋の呪縛」http://jp.youtube.com/watch?v=AAoa9J3uzsUはもっと年齢的にどうかなですが、彼女達の魅力大爆発でしたね。

心に肉薄するのですよね。

メロディーが直線的に来るのですよね。

みなさん夏本番にむけて体調はいかがでしょうか?

自分は体調はばっちりです、このままハイテンションで夏に突入しましょう!!

おやすみなさい。

304『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 07:22:40 ID:5WS9V2qJ0

『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』

茉作家:ミヤビイワナ

第4話『黄金時代』

丹下は山口県で漁師を営む家に生まれた。

中学生の頃から漁師の手伝いをして将来は自分の船を造り漁師になろうと思っていた。

そのため高校には行かず東京に出て色々な仕事をして金を貯めて山口に帰ろうと考えた。

そのころの日本は経済発展の真っ最中であり中学卒業し就職する若者達は「金の卵」と言われた時代である。

丹下は鉄筋工場のアルバイトから江戸川で屋形船の仕事まで幅広く働いていた。

上京して7年の歳月が過ぎた。

305『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 07:28:58 ID:5WS9V2qJ0
夕方屋形船の掃除が終わり船を下りようとした時、

「おおーい、丹下ー」

作業ズボンに白いランニングシャツの八名が土手を走ってきた。

八名はもともとこの街に育った青年であるが、近くのボクシングジムで出会った唯一気の合う仲間である。

「何をそんなに慌ててるんだよ。」

丹下は船を下りて八名に近寄った。

「この前2丁目の煙草屋のばあちゃんちにヤクザが追い込みかけたろ。」
「ああ、安い金で土地売らせて立ち退かせてビル立てる話だろ。」

丹下は法被を脱ぎながら喋った。
306『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 07:29:38 ID:5WS9V2qJ0
180cm以上の身長の大男は丸坊主の頭に流れる汗をタオルで拭いていた。

八名も180cm近くのスラリとした男だったが丹下の体に比べれば小さく見えた。

八名はただでも怖い顔を鬼のようにして、
「今度は本気で押し掛ける気なんだ!!、10人ほど組員を連れてくるそうだ。」

「ばあちゃん相手にか?」

「ああ、もっとも息子が話すのだけどあそこの息子も腕っ節は強いが相手が10人だし刃物も出るよ。」

「くくっっ」

「てめー!!何笑ってるんだー!!」

丹下は笑いながら、
「わかったわかった、もういいよ、お前もっともな顔して話してるが、ただヤクザと喧嘩したいだけだろ?」

八名はカンカンに怒って、
「バカやろー!!、そうに決まってるだろ!!」
307『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 07:30:30 ID:5WS9V2qJ0
丹下は腹を抱えて大笑いしだした。

インターネットも携帯電話もないこの時代、男達の楽しみは「喧嘩」と「女」の事だけだった。

「ところで八名、この前のスパーリングあれは俺の勝ちだったよな?」

八名は、
「バカやろー!!何キロ体重差あると思ってるんだ!!」
丹下は、
「喧嘩相手にもそう言うか?」

八名はニヤニヤして、
「行くだろ?」

「あたりまえだ。」

そう言うと丹下は走り出した。

「あ!!ずるいぞ!!」
308『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 07:32:29 ID:5WS9V2qJ0
その後は、

10人を殴り倒して、恐れて逃げる組員を追い事務所まで行き大暴れで、組長が拳銃を発砲したところから近所の住民がパトカーを呼び二人の「楽しみ」は終わった。

ヤクザが行う地上げは警察も取り締まっており丹下と八名は取り調べだけで帰宅を許された。

「おい、丹下お前ひどい顔だぞ、まあブサイクが目立たなくなったけど。」

八名はかすれた声で煙草を吸いながら歩いた。

「あの組員いきなり木刀で叩きやがったもんな。」

八名が吸いかけのハイライトを丹下に差し出し丹下は受け取りゆっくり吸い出した。

「何言ってんだよ、お前ブロック片手であいつに投げつけて、あいつ木刀で防いだけど木刀ごと顎折れたぞ。」

八名はうれしそうに笑っていた。

下町の通りにあかちょうちんが光っていた。
おでんの臭いがしている。
309『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 07:50:32 ID:5WS9V2qJ0
「おい丹下寄ってくぞ。」

「ああ。」

二人は店の、のれんをくぐった。

「いらっしゃい!!」

20代半ばの髪を結って着物を着たおかみがいた。

一人で店をやっているそうだ。

「まあ、あんた達またやらかしたでしょ。」

おかみはうれしそうに笑っていた。

「まあね。」

八名は自慢げである。

「いらっしゃいませ。」

奥から割烹着を着た八名達と同い年じくらいの女性が出てきた。
310『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 07:51:31 ID:5WS9V2qJ0
「!!」

髪を後ろで縛った色白で目が綺麗な女性だった。

「ん?」

八名は丹下が赤くなるのを見逃さなかった。
(どんな所行っても女に興味を持たない丹下がねぇ・・)

丹下は働き者で大きな笑い顔は男にも女にも人気があった、どんなつまらん仕事も引き受けてくれてさっきのたばこ屋の婆ちゃんにも今回の事は感謝されていた。
一歩間違えば二人とも拳銃で撃ち抜かれたかもしれないのに。

「はい。」

おかみはコップ酒をカウンターに置いた。

丹下は、
「おお。」

一気に飲み干した。

八名も喉が乾いていたので一気に飲んだ。

(ん・・ここは一つ丹下のために・・・)
311『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:15:25 ID:5WS9V2qJ0
八名は、
「おかみさん、そちらの女の子は?」

おかみは、
「ああ、あたしの地元山口から一人で上京してきたのさ。」

おかみはおでんを大皿に適当に詰めていた。

「山口!!」

丹下は驚いていた。

「あの山口の何処からきたんだい?」

(丹下が娘に話しかけるなんて・・・)

八名は驚いていた。

そこから丹下と「海洋(まりん)」と言う娘はうち解けて話していた。

「まあ、楽しそうに話して。」

おかみは嬉しそうにしていた。
312『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:18:00 ID:5WS9V2qJ0
「まりんちゃんは家出かい?」

カウンターに肘を立て八名はコップ酒を飲んでいた。

おかみは頷いた。

「そう言えばおかみ北海道から出稼ぎに来ている須藤さんとはどうするんだい?」

「そんなのあたしがどうこう出来ないでしょ。」

おかみは一升瓶をカウンターに置いて、
「あたしにもちょうだい。」

八名はおかみが差し出すコップに酒をついだ。

「須藤さんはもっとどうこう出来ないよな。」

「あの人は働き者で誠実だよ北海道で商売やりたくて一生懸命東京で働いた、そろそろ北海道に帰る時期って言っていたよ。」

おかみはコップ酒を少し飲みカウンターに置いて。

「あんたこそ加代ちゃんどうする気なの?」

「!!」
313『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:20:21 ID:5WS9V2qJ0
加代とは八名の家の近くに住む幼なじみの少女だった。

工場の事故で早くに父を亡くし傷心で病んだ母親も中学卒業と同時に亡くなった。

父親が亡くなった工場に現在は勤めていてアパートで一人で暮らしている。

八名の家は昔ながらの焼き鳥屋だった、今は工事現場で働いているがいずれ八名が継がなければなくなってしまう。
そのためそろそろ両親から店のやり方を教わらなければならない。

「俺の所になんか来たって苦労するだけだよ。」
「・・・・・。」

「俺はねこんな下町で暮らしている貧乏人達が安い金で腹一杯食える店を作りたいんだよ。」
「・・・・・。」

「こ汚い、俺みたいな貧乏な子供でもデパートなんかに行かなくてもエビフライが食える店を作りたいんだ。」

おかみは少し胸が熱くなりながら、
「あんたいい男だよ。」

八名はコップを置いて、
「だからあいつは俺の所に来ても一生貧乏人だ・・・そんなんだったら。」

おかみは、
「加代ちゃん、夜一人で食事しているのよ、誰も話し相手がいない。」
「・・・・・。」
「悲しいことがあっても楽しいことがあっても、誰も聞いてくれない。」

「・・・・・。」
314『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:22:09 ID:5WS9V2qJ0
「お給料が出るといつもここに来てご飯を食べていくわ。」
「一人は寂しすぎるよね、・・・お金あれば寂しくないのかな?」

「・・・・・。」

「加代ちゃんいつもあんたの事あたしに聞いてくるわ、喧嘩で怪我してないか、葬式の手伝いをしてくれたお父さんお母さんは元気か。」
「・・・・・。」
「それと・・・あんたに彼女が出来たか。」

「・・・・・。」

丹下とまりんは並んでカウンターに座っていた。


「ねえ、藤原さんは何で丹下と呼ばれているの?」

「時代劇の「丹下左膳」って知ってる?」

いきなりおかみが会話に入ってきた。

「ああ、片目、片腕の侍ね。」

「そう。」
315『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:24:52 ID:5WS9V2qJ0
16才で丹下は上京して17才の時工事現場で建物の倒壊により左腕を折ってしまい右目も打撲で眼帯をしていた。

出稼ぎの労働者が共同で寝起きする大きなプレハブで丹下はしばらく療養していたある日。

「おい、藤原!!大変だ!!」

年上の労働者先輩が丹下の枕に来た。

「俺達が良く行っていた、屋台のおでんや」

「ああ、あの姉さんが一人でやっているおでん屋」

「そうだ、あの辺を取り仕切っているチンピラにからまれてショバ代出せって言われたのだけど、ピシャッっと断って見せしめに今夜5〜6人で屋台潰すそうだ。」

「!!」

「兄さん誰か助けてやれねえのか」

丹下は腕をかばいながら起きあがった。
316『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:45:08 ID:5WS9V2qJ0
「すまね〜うちの会社、今日みんな夜間作業だ・・・」

「そうだったすね。」

丹下は立ち上がり外の廃材置き場から太い鉄パイプを拾って来て

「兄さん、俺の腕にこのパイプをロープで縛ってくれ。」

「・・・お前・・まさか・・・」

「・・・・・。」

「俺が警察にたれ込むから、お前は寝てろ!!」

「いや、今日は逃れても、そのうち絶対嫌がらせをしに来る。」

「バカな奴だな・・・・」
317『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:46:41 ID:5WS9V2qJ0
夜の8時を過ぎた頃だった。

「なあ〜ここは俺らの縄張りなのだからショバ代払ってくれないか?」

「・・・・あたしはね保健所と役場にちゃんとスジ通しているんだよ・・なんで働きもしないチンピラに金なんか払わなきゃいけないの。」


屋台を囲んだチンピラ6人がとうとう屋台をひっくり返そうとした時だった。


折れた腕のギブスをしたまま眼帯の丹下が現れた。

「なんだ、小僧」

チンピラはイラつきながら近づいた。

「この屋台に因縁つけると言うなら、俺が相手だ。」

チンピラ達は笑っていた、いくら体が大きくても片手片目の少年、相手になどならないと思った。

「ああ!!家帰って寝ろ!!」

チンピラは丹下を殴ろうと拳をあげたその時。
318『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:48:21 ID:5WS9V2qJ0
片腕の鉄パイプがチンピラの顔面にめり込んだ。

リーダー格のチンピラはその場に倒れ起きあがらなかった。

子分達は懐からドスを取り出した。

一斉に襲いかかったが丹下の鉄パイプは的確にチンピラ達の顔面を打ち抜いた。

丹下の後ろに回ったチンピラが背後を取った!!

「おおおお!!」

丹下は振り向きざまに背後のチンピラを打ち抜いた。

パトカーが屋台通りに入り全員警察に連れて行かれた。

次の日

「おお!!藤原!!無事だったか!!」

労働者のプレハブに帰ってきた丹下はボロボロになって帰ってきた、特に鉄パイプを縛り付けた右手はすりむけて真っ赤になっていた。

「・・・あんまり無事じゃねえすっけど・・・生きてます。」
319『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 08:51:20 ID:5WS9V2qJ0
労働者達は夜勤明けだったがみんな起きて丹下の帰りを待っていた。

「おお、喉が乾いただろう!!飲め!!」

年輩の労働者が丹下にコップ酒を渡した。

丹下は一気に飲み干し自分の布団に向かった。

「あんちゃん!!」

おでん屋のおかみだった。

「ありがとう、助けてくれて。」

丹下の事を会社に伝えに来たのだった。

「いいえ、姉さんの屋台なくなったらみんな行くとこなくなるから・・・」

丹下はぶっきらぼうに言って布団をかぶった瞬間寝てしまった。

「社長さんご迷惑かけました。」

おかみは頭をさげてお礼をした。

「いやいやいいんだよ、これからもがんばってくれよ。」
320『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 09:07:10 ID:5WS9V2qJ0
労働者達は、

「おう!俺達も飲みに行くからよ!!」

社長は、

「それにしてもまだ17才だが凄い強さだな、まるで「丹下左膳(たんげさぜん)」だ。」

その後、藤原は「丹下」と呼ばれるようになった。

もう、6年前の話だ。

丹下は、
「古い話だが、その後そのおかみはがめつく働き一軒店を作ったのさ。」

八名は笑っていた。

おかみは、
「なにががめつくよ私は地道にコツコツやっているだけよ。」
321『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 09:09:18 ID:5WS9V2qJ0
その後、丹下とまりんはちょくちょく会う様になった。

まりんは会社社長の娘だったが大学卒業と同時に会社関係の子息と無理矢理お見合い結婚させられそうになり家出したのである。

まりんはもともと文系で詩集を作りたい夢があったが父親には全く認められなかった。

八名は焼き鳥食堂で両親から修行を受けていた。

店に出て焼き鳥を焼いていた、昔なじみの客が声をかけてきた。

「のぶちゃん、良い手つきになってきたよ。」

「はい、ありがとうございます。」

客は八名の父に向かって
「おかみさん、体調子悪いのかね?」

「へい、まあ風邪だと思いますが。」

「心配だね。」

「まあ、その変わり息子にがんばってもらいます。」

焼き鳥食堂は活気に満ちていた。

2200を過ぎて店を閉め八名と父親は店の片づけをしていた。
322『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 09:11:43 ID:5WS9V2qJ0
ガラガラ

店の戸が開きおでん屋のおかみが入ってきた。

「ああ、姉さん。」

八名はテーブルをふきなが言った。

父は、

「おお、おかみどうした?店が終わって飲みに来たか?」

「・・・・・。」

八名は、

「姉さん、どうしたんだ?」

いつもと様子がおかしいおかみを心配した。

「須藤さんが昨日の夜来て父親が倒れたので急遽北海道に帰るって・・・」

「!!」

「いつ帰るって!!」

「今晩よ・・・」
323『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 09:15:03 ID:5WS9V2qJ0
八名は奥に行って着替えた。

バイク用のブーツとジーパン、黒い革ジャンを来ておかみの所に来た。

「さあ、姉さんフェリー乗り場まで行くよ。」

「!!」

「行ってどうするの?」

「無理矢理須藤さんについていくさ!!」

「・・・・・。」

「姉さん、本心を偽ってる暇はもうねえ。」

「今行かなきゃもう二度と会うことはできねえ。」

「・・・・・。」

「姉さん!!」

「・・・・わかった、・・・ありがとう。」
324『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/06/23(土) 09:16:36 ID:5WS9V2qJ0
八名は350ccの中型バイクを出してまたがり軽く跳ねてエンジンキックを回した。

闇夜にエンジン音が響いた。

「姉さんしっかりつかまれよ。」

「おかみ、これ少ないが餞別だ。」

八名の父がおかみを見送りに来た。」

「大将・・・ありがとうございます。」

「さあ行くぜ!!」

轟音と共にバイクが闇に消えて行った。

月夜がきれいな晩に八名の父は自分の若き頃を自分の息子に重ねていた・・・・・。
325ミヤビイワナ:2007/06/23(土) 09:23:27 ID:5WS9V2qJ0

って感じで書いてみました。

みなさん今日は休みですか?仕事ですか?

仕事の人はガンバって、休みの人は楽しんでください。

それでは更新終了いたします。
326ねぇ、名乗って:2007/06/24(日) 08:13:10 ID:rquDXAs10
いやぁ、怒涛の更新ですねぇ、ありがとうございました。
色々と登場人物間の繋がりが見えてくるのも面白いと思います。
327墨堤通り:2007/06/24(日) 14:43:26 ID:flAsXWTPO
れいなの祖父の八名は、まんま八名信夫氏でイメージし、丹下のおっちゃんは『丹下段平』でイメージしておりました。

藤原組長だったんですね。
(;^_^A
328ミヤビイワナ:2007/06/24(日) 17:17:25 ID:y8VZ665r0

>>326
読んでくれて有り難うございます。
ベリーズ工房と言う単語が付いている板で人情劇書くのもどうかなと思いつつやっぱりこうなってしまいました。
これしかできないんでしょうね。
イワナの腕ではw

>>327
墨堤さん読んでくれてありがとうございます。
そうですか、ジョーの方でしたか。
しかし八名信夫氏の単語が出たのは初めてですね、分かる人には分かっていたのかな。

今年の春に終了してN○Kの連続小説で3人の孫娘を持つ味噌職人の八名氏を頂きました。
3人の孫娘は母親は病死、父は事故死といった数奇な運命を持ちながら力強く生きていく物語。
両親が居ない分、孫娘の心配ばかりして過ごす頑固な祖父。
いつもいつも孫の力になっていました、作中、最後に結婚した3姉妹の末っ子(宮崎あおい)の結婚式の夜、母親(八名氏の娘)が使っていたピアノに寄り添い眠るように人生を終えた。
彼の魂の演技は自分に文章を書く見えない力をくれました。

彼が居なかった物語は締まらないでしょうね、出汁の効いた味深い味噌。

なんてね。
329松輝夫:2007/06/24(日) 20:25:57 ID:4y156UABO
昨日も今日も仕事の輝夫が来ましたよ?

まずはイワナ氏、更新おつかれいな!
自分はこういう人情モノ好きですがね。それにしても、文中の描写を読んでるとデジャヴを感じるのは何ででしょうね。
この話は、自分はまあさんの原作もあらすじで知ってるし、それとは違うイワナ氏の話も読めるので、何か得した気分☆カナ?

そして、読んで下さった方々、感想を書いて下さった方々にも感謝します。読んで下さる方がいるからこそ我々も書こうという気になります。これからもよろしくお願いします。

さて、

イワナ氏だけに任せられるものか!

というわけで、自分もそろそろ再開しようかと思います。
330松輝夫:2007/06/24(日) 20:32:32 ID:4y156UABO
FIND THE WAY(後編)



僕は言った
泣いていいんだと
ずっと傍にいてあげるよ
欲しいのは抱き上げる手を
手を…



桜中の保健室は重苦しい雰囲気に支配されていた。
あの後、佐紀は警察からの連絡で迎えにやってきた金八に連れられ、とりあえず保健室で休まされていた。
金八が警察で聞いたところでは、佐紀を止めた警官はたまたま付近をパトロール中、中学生が遅い時間にいつまでも土手に一人でいるのを不審に思った近所の人からの通報で駆けつけたらしい。
そして、佐紀を保護して交番に連れ帰る途中に無線で連絡が入り、その時初めて彼女が桜中から捜索依頼が出されている生徒であることを知ったそうだ。
佐紀は保健室で丸椅子に座らされ、俯いたまま無言を守っている。
警察で金八と会ってから今まで、誰が何を話しても佐紀はひたすら無言だった。
佐紀は思う―――みんな、無事で良かったと言ってくれるけど、私にとっては本当にそうだろうか…。
今の佐紀には、自分がこうして生きていることそれ自体が罰としか感じられなかった。
『私、死ぬことすら許されないんだ…そっか、こうやって晒し者になるのが私への罰か…』
331松輝夫:2007/06/24(日) 20:34:16 ID:4y156UABO
もっと早く川に飛び込むべきだったと思うが、今さら後悔しても遅かった。
屈辱感から佐紀は、できることなら今すぐこの場から消えてしまいたかったが、しかし、もちろんそれが許されるはずもなかった。
その時、廊下を誰かが駆けてくる気配がすると、やがて保健室の扉が「ガラガラッ」と音を立てて開いた。
「先生、佐紀は!?」
「無事なんですよね!?」
入ってきたのは茉麻と千奈美、そして少し遅れて雅の姿もあった。
三人は金八たちと別れた後、町中を探し回っていたが、佐紀が荒川に飛び込む寸前に保護されたことを知らされ、急いで学校までやってきたのだった。
「ああ、三人とも、すまなかったね。もちろん無事だよ、みんなのおかげだ」
金八の言葉に安堵した茉麻と千奈美は、思わず胸をなでおろす。
「良かった…佐紀、心配したんだから」
「そうだよ〜。でも、怪我とかないみたいだし良かった」
茉麻と千奈美が声をかけたが、佐紀はやはり俯いたまま無言を守り続け、雅はその様子を二人の後ろからずっと険しい表情で見ていた。
332松輝夫:2007/06/24(日) 20:36:22 ID:4y156UABO
「…二人とも、ちょっとどいて」
不意に雅は二人を押しのけて佐紀の前に立つと、静かに言った。
「…佐紀…顔、上げなよ」
雅の言葉にも、佐紀は下を向いたままだった。
雅の様子に茉麻と千奈美はただならぬものを感じ、一体どうなるのか、固唾を飲んで見守っていた。
「ちょっと…顔、上げなさいって言ってるでしょ!」
さっきよりも強い調子の雅の声に、佐紀がようやく顔を上げた次の瞬間、雅は佐紀の左頬をぶち、保健室には「パン!」と乾いた音が響いた。
その雅の右手首には、今も佐紀があげたリストバンドがあった。
「アンタ…ふざけんじゃないわよ!みんながどれだけ心配したか、アンタわかってんの!?アンタが何を悩んでるか知らないけど、何でこんなことする前に誰かに打ち明けないのよ!」
佐紀はぶたれた左頬を押さえながら、呆然とした表情で雅を見ていた。
333松輝夫:2007/06/24(日) 20:37:33 ID:4y156UABO
「勘違いしないでよ!人間は一人じゃ生きていけないんだから!なんでも自分だけで解決できると思ったら大間違いだよ!思い上がらないで!」
この前、自分もまあに似たようなことを言われたっけ…感情をぶちまけた雅は、そんなことを思いながら保健室を飛び出していった。
「ちょっと、みや!待ってよ!」
茉麻がその後を慌てて追いかけていく。
「…ゴメンね、佐紀。みやは素直じゃないし口も悪いけど、でも佐紀のことすごく心配してたんだ。だから、許してあげて」
一人残された千奈美は佐紀を気遣って言ったが、その時、うつむく佐紀の目から、涙がこぼれ落ちるのを見た。
「大丈夫?痛かった?」
「…ううん、そんなんじゃないよ…」
雅の言葉が佐紀の心を開いたらしく、ようやく、佐紀は保健室に連れてこられてから初めて口を開いた。
「私もわかってるから、雅の気持ち…だって…あのリストバンド、まだ持っててくれてたから…」
334松輝夫:2007/06/24(日) 21:48:58 ID:4y156UABO
「ねえ、佐紀…前から聞きたかったんだけど、あのリストバンドが何でお守りなの?ウチにはただのリストバンドにしか見えないんだけど…気を悪くしたらゴメンね」
千奈美は修学旅行の京都の夜からずっと抱いていた疑問を佐紀にぶつけてみた。
「佐紀、私も聞いてみたいよ。あれにはどんな謂れがあるんだい?良かったら話してくれないか」
それまで黙ってやり取りを見守っていた金八が口を開いた。
佐紀は千奈美と金八を交互に見やると黙って頷き、千奈美に向かって言った。
「千奈美…一年の時に同じクラスだった圭ちゃん、覚えてる?」
佐紀の言葉に、千奈美は必死に記憶を辿った。
「圭ちゃん…ああ、佐紀の幼馴染の平岡君でしょう?一学期に転校しちゃった…」
「その圭ちゃんがくれたの。『いつも側にいてはあげられないから、せめてお守り代わりに』って。すごく嬉しかった…それからずっと、私の大切な心の支えだったの…」
「そっか、それであの時みやにあげたのね。お守りだって…」
千奈美の言葉に、佐紀は頷いた。
335松輝夫:2007/06/24(日) 21:51:37 ID:4y156UABO
「あの時、雅に無事でいて欲しいって心から思った。でも、雅のために何かしよう、何かしてあげたいと思った時、私にはあれしか思いつかなかった。それで咄嗟に…あまり意味無かったと思うけど」
「そんなことないさ。あの時、雅は無事だったじゃないか。きっと守ってくれたんだよ、彼のお守りと君の想いが」
金八に言われ、佐紀は自分の手首にあるリストバンドに目を落とした。
「そして今日、君のこともね」
「―――!」
「守ってくれたんだよ、彼が、みんなの想いが。だから、こうしてまた君と会えたじゃないか」
佐紀は何も言葉にできず、ただ、とめどなく溢れてくる涙を、肩を震わせながら懸命にこらえていた。
「…佐紀、泣きたい時は泣けばいい。遠慮しなくていいんだ。君は十分頑張った、もう頑張らなくていいんだよ」
もう限界だった―――金八の言葉に、佐紀は声をあげて泣いた。
涙が堰を切ったように溢れ、止まらなかった。
336松輝夫:2007/06/24(日) 21:53:10 ID:4y156UABO
声をあげて泣きじゃくる佐紀の姿に、千奈美も思わず目に涙を浮かべ、美貴は泣きこそしないものの、一人目を瞑ると天井を仰いだ。
「佐紀…君は頑張り屋だから、一人で頑張ってしまったんだね。優しい娘だから、みんなに迷惑をかけまいと、誰も傷つけまいと、全部一人で抱え込むつもりだったんだね」
金八は佐紀にやさしく声をかけた。
「でも、もうそんな必要はないんだ。雅も言ってただろう?人間は一人じゃ生きていけないんだよ。だから、何もかも一人で抱え込むのは止めるんだ。悩みがあるなら何でも打ち明けてほしい」
言葉を切った金八を佐紀は見上げた。
「佐紀、今度のことも、その体の傷も…原因はお母さんだろう?」
「…ち、違います、そんなんじゃ…」
「佐紀!いい加減にするんだ!」
「!」
金八は佐紀の両肩に手を置いた。
337松輝夫:2007/06/24(日) 21:55:20 ID:4y156UABO
「…佐紀は本当に優しい娘なんだなぁ。でも、君のその優しさが本当にお母さんのためになっていると思うかい?母親が実の娘を傷つける、そんな悲しいことをいつまでも続けさせることが本当の優しさだと思うかい?」
「先生…」
「もっとも、私にも君に偉そうなことを言う資格なんかないんだ。君が傷ついているのはわかっていたのに、もっと早く手を打つべきだったのに、結局何もしてやれないままに君にこんなことをさせてしまった。すまない」
金八は佐紀に頭を下げた。
「!…先生、止めて!そんなこと…」
「でも、だからこそ、もう一度私に機会を与えて欲しい。今度こそ君の力になりたい、君も、君のお母さんも助けたいんだ。何もかも話してくれないか。お願いだ」
金八は再び佐紀に頭を下げて懇願した。
「…先生…止めて下さい。私、先生のクラスで本当に良かったと思ってるんですから…だからそんなこと…」
「佐紀…」
「…わかりました。全部…お話します」
佐紀はついに決心した。
338松輝夫:2007/06/25(月) 01:02:59 ID:UyW9EIETO
その頃、保健室を飛び出した雅は、屋上から初めて見る夜の景色を眺めていた。
当たり前だが、今までこんな時間に屋上に来たことはない。
雅は夜景を眺めながら、先ほどの保健室での出来事をそんなことを思い出していた。
『さっき、なんでアイツためにあんなに熱くなっちゃったんだろ…』
冷たい夜の空気は熱くなった雅の頬と心を冷やしていく。
「みや…」
不意に後ろから声をかけられたが、雅は後ろを振り返らないまま話し始めた。
「…二学期の初め、アイツに言われたっけ。ここから飛び降りろって」
振り返らなくても、声の主が誰なのか、雅にはもちろんわかっている。
絶対に聞き間違えるはずのない声だから。
339松輝夫:2007/06/25(月) 01:04:48 ID:UyW9EIETO
「バカだよね、私。さっき、あんなに熱くなっちゃってさ。アイツのこと探してる時も、無事でいてって、死なないでって、そればかり考えてた。散々私たちにひどいことしてきた相手なのに」
「ううん、そんなことないよ。それはみやがやさしいからだよ。私は好きだよ、みやのそういうやさしいところ」
声をかけてきたのは茉麻だったが、茉麻の「好き」という言葉に、思わず雅はドキッとしてしまった。
『何考えてんだろ、私…』
茉麻の言葉に妙に反応してしまった自分が恥ずかしくなって、雅は頭を振った。
「どうしたの?」
「な、なんでもないよ」
「そう?変なの」
「悪かったね、変で」
内心の動揺を悟られまいとわざとぶっきら棒に言う雅に、茉麻は肩を竦めて見せたものの、それ以上深く聞こうとはしなかった。
340松輝夫:2007/06/25(月) 01:08:34 ID:UyW9EIETO
二人は屋上から夜景を眺めていた。
夜景を眺めながら、茉麻は雅の髪に触れていた。
今まで、いつも二人で話しをする時にはずっとそうしてきた、いつの間にか二人の間にできていた二人だけの約束ごとだった。
「…私だって」
不意に雅が口を開く。
「私だってさ、本当はわかってるんだ。アイツが変わろうとしてること。修学旅行の時にさぁ、先生に言われたんだ。時間がかかっても構わないから、アイツのこと許してやってくれって」
茉麻は無言のまま、続きを促す。
「でもさ、ダメだね私。不器用でさ。まあやちいみたいにはできないみたい。アイツの前に出ると、つい、ね…校門で会った時もそうだけど、さっきだって、もっとやさしくしてあげれば良かったのにさ」
「う〜ん…でもさ、どんな訳があったとしても、佐紀がしようとしてたことは良くないことだよ。そういう時に、厳しく言ってあげるのも友達だと思うよ。それもやさしさじゃない?」
「まあ…」
「時間、かかったっていいじゃない。不器用でもいいじゃない。みやはみやらしく佐紀に接してあげるのが一番だと思う」
「そっか…そうだよね。ありがとう、まあ」
雅は、ふと右腕の袖を捲ると、手首のリストバンドに目をやった。
341松輝夫:2007/06/25(月) 01:09:58 ID:UyW9EIETO
「アイツ、何であんなことしたんだろ」
「…気になる?」
「そりゃ…ね」
雅は右腕の袖を元に戻した。
「じゃあさ、今度こそちゃんと佐紀の話を聞いてあげようよ」
「うん」
「保健室に戻ろっか。寒くなってきたしね」
茉麻の言葉に雅も同意し、二人は校舎に戻ろうと歩き出した。
342ミヤビイワナ:2007/06/27(水) 21:16:33 ID:+peRKTJc0

輝夫さん更新お疲れです。

物語は核心に迫っていますね。

ストーリーの大きな骨格の中に雅ちゃんと茉麻ちゃんのやり取りがビシビシ効いていますよ。

忙しい中書いているんだろうね。

体に気を付けて頑張って下さいね☆
343作家さんに対する応援団員:2007/06/28(木) 03:19:11 ID:bpIp+A/E0
こんな時間なんですが、ようやく見れました!
ミヤビイワナさん!昭和時代の匂いと情景が、ひしひしと
伝わってきましたよ。

ちなみに私も、丹下段平の方で想像してました(^〜^;)!

松輝夫さんも後編に突入しましたね!

お二人とも、体調だけは気を付けて頑張って下さいね!

「この感動は二度とない瞬間である」のDVD最高!
344松輝夫:2007/06/28(木) 20:08:02 ID:pC6huEJAO
>>342
イワナ氏、いつも支援感謝です。
仕事が忙しい方が、実はじっくり書けるんですね。家だと誘惑が多くでナカナカ先に進みませぬ。
早くイワナ氏が本編を書けるように頑張って終わらせますので、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m

>>343
応援団員氏、いつも書き込みありがとうございます。
ついに後編突入ですが、ハッキリ言って前編よりもかなり手こずってます。
ですが、読んで下さる方々がいるので頑張れます。今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m
345松輝夫:2007/06/29(金) 21:03:43 ID:VpqZIH6pO
桜満開DVD発売記念でプッチ更新

>>341

二人が出入り口の鉄扉を閉めて鍵をかけた時だった。
「いた!やっぱりここだったんだ」
千奈美の声に二人は振り返った。
「ちい…どうしたの?」
「二人を探しに来たんだよ。早く保健室に戻ろ?佐紀が何もかも話すからウチらにも聞いてほしいって」
茉麻の問いに千奈美は答えた。
―――佐紀がようやく全てを打ち明ける決心を示した後、金八は目を真っ赤にしている千奈美に言った。
「千奈美…済まないが、しばらく席を外してくれるかな」
千奈美が金八の言葉に頷いて外に出ようとした時、佐紀が言った。
「先生…千奈美にも一緒に聞いてもらっていいですか?できるなら、雅と茉麻にも…」
金八は黙って千奈美の顔を見た。
「先生!ウチ、二人を探してくる。ちょっと待ってて!」
そう言って、千奈美は保健室を飛び出してきたのだった。
346松輝夫:2007/06/29(金) 21:05:54 ID:VpqZIH6pO
―――保健室に向かって早足で歩きながら、千奈美は二人が出て行った後の出来事をかいつまんで二人に話した。
「みや…佐紀がね、リストバンドのことも話してくれたよ」
千奈美はさっき聞いたばかりのリストバンドの謂れを雅に話した。
話を聞き終えた雅は、改めてリストバンドを見た。
一見何の変哲もないこのリストバンドが、佐紀にとっては幼馴染からもらったとても大切な心の支えだったこと、そしてそれに込められた佐紀の本当の気持ちを雅は知った。
「アイツ、このリストバンドだけが支えだったんだね。ホントは誰かに助けてほしかったくせに…強がっちゃってさ…一人で無理して…バカだよ…」
「みや…でも、佐紀だって一人じゃ生きていけないって気がついたんだよ。今度は私たちも助けてあげられるでしょ?きっと私たちにも何かできることがあるはずだもん」
茉麻の言葉に雅は強く頷いた。
347松輝夫:2007/06/29(金) 21:48:39 ID:VpqZIH6pO
「ガラガラッ」と音を立てて保健室の扉が開くと、雅たち三人が中に入ってきた。
雅は先頭を切って保健室に入ると、真っ先に佐紀の前に立って言った。
「佐紀…ちいから話は聞いた。アンタの話を聞く前に…私もアンタに言っておきたいことがあるの」
金八と美貴、続いて保健室に入ってきた茉麻と千奈美は、無言で成り行きを見守ろうとしている。
「…その…さっきは、ぶったりしてゴメン。それと…校門の前でひどいことを言っちゃってゴメン」
佐紀が怪訝そうな表情で雅を見たが、雅はやはり佐紀の前に出ると素直になりにくいらしく、思わず視線を逸らした。
「私だってさ、アンタが一生懸命変わろうとしてるのはわかってる。だから、これからはアンタが私たちにしてきたこと、なるべく許してあげられるように努力するから」
「…雅」
「私、不器用だからさ、だからそれがいつできるかわからないけど…もしかしたら、一生できないかも知れないけど…でもね」
そこでいったん言葉を切った雅は、今度はしっかりと佐紀の顔を見た。
348松輝夫:2007/06/29(金) 21:50:34 ID:VpqZIH6pO
「それでも、精一杯努力するから!それは約束する。だから、アンタもこれからは精一杯生きなさいよね!それを今ここでみんなの前で約束して。自分から勝手に死ぬなんて絶対に許さないから!」
「…わかった…約束する。ありがとう、雅…」
佐紀は涙をこらえながら心から雅に礼を言った。
その光景を黙って見守っていた金八は、黙って雅の肩を叩く。
「…先生、これでいいんですよね、私?」
「…ああ、よく言ってくれたね。どうもありがとう」
それから金八は佐紀に言った。
「佐紀…みんな揃ったことだし、辛いとは思うけど話してほしい。今回のこと、そして、その体中にある傷…全ての原因は君のお母さんの虐待だね?」
佐紀は金八の言葉に、涙を拭うとゆっくり頷いた。
雅たち三人は思わず顔を見合わせる。
既に事情を知っている美貴はともかく、三人にとってはまさに寝耳に水だった。
349松輝夫:2007/06/29(金) 21:53:16 ID:VpqZIH6pO
虐待…最近、よくニュースなどで取り上げられる言葉だから、三人も何度も耳にしたことがある。
しかし、大変なことだと、ひどい話だとは思っていても、自分の身近にそれが存在し、しかも級友がその被害者であるなんて考えてもみなかった。
佐紀が今まで一人で抱え込んできたものの重さに、三人は愕然とする。
『アイツ…あの傷はそういうことだったんだ…』
今思えば、修学旅行で京都に泊まった時、雅は旅館の近くにある公園で一人踊る佐紀の姿を見つけ、その時に彼女の体のいたる所に傷があるのを見ていた。
実の母親から、あんなにひどい傷をつけられるような目に遭わせられるなんて、いったい佐紀はどういう気持ちだったのだろう。
「…いつからなんだい、佐紀?それが始まったのは」
佐紀に尋ねる金八の声に、雅は我に返った。
「…お父さんが死んじゃって、しばらくしてからでした」
できることなら思い出したくない、触れたくない過去だったが、佐紀は覚悟を決めて淡々と話し始めた。
350松輝夫:2007/06/29(金) 21:54:43 ID:VpqZIH6pO
―――佐紀が小学校五年生の時に父が入院し、それが長引くにつれ、やがて母も心労からノイローゼ気味になり、眠れない日が続いていた。
やがて父が亡くなると、その現実から逃避するためか、母は昼間から酒を呷るようになってしまった。
そんなある日、その日も酒を飲み続ける母をついに見かねて諫めた佐紀の勇気は、暴力を以って報われ、そしてこの日から母の暴力が始まった。
暴力は次第にエスカレートし、当初は酒を飲んだ時だけだったが、ついには酒を飲んでいなくても日常的に暴力を振るわれるに至った。
佐紀によって語られた過去のあまりの凄惨さに、その場にいた全員は言葉もなかった。
351松輝夫:2007/06/29(金) 21:56:45 ID:VpqZIH6pO
「…でも、お母さんは悪くないんです。全部悪いのは私だから…きっと、私の存在自体が周りの人を傷つけちゃうんです…私は疫病神だから…」
「…お母さんにそう言われたのかい?」
「…はい…今朝、学校に行く前に…」
金八の問いかけに佐紀は答えた。
「…でも、間違ってないと思います。お父さんは私のために無理して死んじゃったし、だからお母さんも変わっちゃったし、クラスのみんなにもひどいことしてきたし…」
淡々とそう話す佐紀の姿が、聞く者に彼女の心が負った傷の深さをいやでも感じさせる。
352世紀末:2007/06/30(土) 17:47:27 ID:QnGzHd9W0
お久しぶりです
部活とバンドが忙しくしばらく顔を出せていませんでした
そのうち早く更新したいと思いますので待っていてください
原稿はまたイワナさんに送ることになりますが・・・
353松輝夫:2007/06/30(土) 17:56:48 ID:yRAfiCQMO
>>352
お久しぶりですね。戻ってきてくれてとても嬉しく思います。忙しそうですが、また一緒に頑張りましょう。
千奈美に、メール送ったんだけど届いてない☆カナ?
354墨堤通り:2007/06/30(土) 21:05:38 ID:EiJolQlRO
松先生…

あなた神だ…
355ミヤビイワナ:2007/07/01(日) 12:01:16 ID:NPWFw3xQ0

>>輝夫さん更新お疲れです。

いやーとうとう佐紀ちゃんの虐待告白ですね。

きつい所だけどガンバって下さい。

>>352 久しぶりですね、がんばってるのかな。

ホームページを少し更新して過去ログの板自体をダウンロード出来るようにしました。

最近の読書方々も板の歴史が分かるようにしました。

よかったらダウンロードして見てください、圧縮ファイルにしましたので解凍してください。
356松輝夫:2007/07/03(火) 12:56:04 ID:G2CFEVdFO
从o゚ー゚从 今日が15回目の誕生日だとゆいたいです!


>>354
墨堤氏、いつも書き込みありがとございますm(_ _)m
自分は神とか先生なんて呼ばれるほどたいしたものは書けないんですが、一人でも読んでくれる人がいるなら全力を挙げて書き抜きますので、今後ともよろしくお願いします。

>>355
ついに、というか、今回の話自体が難しいんですが、なんとか進んでます。
それから、同創部の更新乙です。さっそく其の六の過去ログを落として現在の作品に生かしています。おかげさまでだいぶ助かりました。ありがとうございます。
357ミヤビイワナ:2007/07/04(水) 22:11:21 ID:GaOCr+Xo0

>>356

お役に立てて良かったです。

しかしネットでハロプロ関係のビデオを今日見ましたが、本当にメディアの多さにビックリ。
正直ファンの方々の嗜好には着いて行けません。

自分の作るキャラクター達に凄く乖離を感じてしまい少し萎えました。

それだけ彼女達が素晴らしく魅力があると言うことです。

それだけにセリフを作ったりする側はちょっと萎えてしまいますね。

本当にこれで良いんだろうかなんてですね。

それだけ元気に明るい彼女たちが魅力的なんですね。

358松輝夫:2007/07/06(金) 20:15:37 ID:LMSuAB/EO
飯田さん結婚記念で(?)更新します。

>>351

「…佐紀、バカなことを言うもんじゃない」
「先生、でも…」
「私が知ってる清水佐紀という娘は、入院したお父さんを毎日お見舞いに行き、自分を傷つけるお母さんをそれでも庇い続け、事故に遭った友達の無事を心から願う、そんな心の優しい娘なんだがね」
金八は佐紀の肩に手を置いた。
「そんな娘が疫病神だなんてことがあるわけないじゃないか。だから自分をそんな風に言うのは止めなさい」
「坂本先生の言う通りだよ。佐紀のダンスはすごいって、夏先生にも認められたんだろ。そんなダンスを踊れる人間が疫病神なわけないじゃんか」
金八に続いて、今まで黙っていた美貴も口を開いた。
「先生…美貴先輩…」
「佐紀、よく話してくれたね。今まで君一人で抱え込んで辛かったと思うけど、でも、もうそんな必要はないんだ。これから、一緒にお母さんの所に行こう」
「でも…」
「今、佐紀のお母さんは少し道を踏み外しておられる。でも、きっと元に戻ってくれるはずだ。君のお母さんじゃないか。大丈夫、信じてあげるんだ」
佐紀は金八の言葉に頷いた。
359松輝夫:2007/07/06(金) 20:17:25 ID:LMSuAB/EO
それから金八は雅たち三人を見た。
「三人とも、遅くまで済まなかったね。私はこれから佐紀の家に行くが、君たちはもう帰りなさい。他の先生方に家まで送ってもらうようお願いしてくるから」
「先生!ウチはお父ちゃんに迎えに来てもらうから、みやとまあも送っていくから、先生は早く佐紀の家に行ってあげて!」
「千奈美…雅に茉麻も……いいのかい?」
三人は力強く頷いた。
「…わかった。ありがとう、みんな―――よし、それじゃ行こうか佐紀」
金八が佐紀を顧みてそう言った時だった。
「…先生、ちょっと待って」
そう言ったのは雅だった。
360松輝夫:2007/07/06(金) 20:19:39 ID:LMSuAB/EO
「…佐紀…さっきの約束…わかってるよね?」
雅の問いに、佐紀は小さく頷いた。
「私、アンタのことが少しだけわかった気がする。まだアンタのこと許せないけど、でもいつか必ずできると思う。だから…アンタのこともっと知りたいから…必ず、戻ってきなさいよ、私たちの所へ」
「うん、わかった…ありがとう」
「よし、それじゃ、そろそろ行こう」
そう言って金八は、佐紀と美貴と共に保健室を出て行った。
「行っちゃったね…」
「佐紀、大丈夫かな…心配…」
「大丈夫に決まってんだろ、先生もついてるし。いちいち心配しなくても平気だって」

心配そうな千奈美と茉麻に向かって、雅はぶっきらぼうな口調で言った。
「そういうみやだってホントは心配なんでしょ」
すかさず千奈美が突っ込む。
「う、うるさいな。それより、早く帰ろうぜ」
「そうだね、家に電話してみる」
鞄の中から携帯電話を取り出してかけ始める千奈美をよそに、雅は保健室の窓から真っ暗で誰もいない校庭に目をやった。
361松輝夫:2007/07/06(金) 20:21:27 ID:LMSuAB/EO
『虐待、か…』
佐紀が一人で抱えていたもの、雅は今日ようやくそれを知った―――その重さと共に。
雅の両親は共働きのため、いつもどちらか、あるいはどちらも家にいないことが多かったが、少なくとも世間で虐待と言われるようなことは一度もされたことはないし、それは茉麻も千奈美も同じだろう。
そんな雅たちが、実の親に心も体も深く傷つけられた佐紀の気持ちを、果たしてどれだけわかってあげられるか、それは雅にもわからないけど、それでも佐紀のことを少しでもわかってあげたいという想いだけは本心だった。
『先生…神様…どうか佐紀を助けてあげてください』
声には出さなかったが、しかし雅は心の底からそっと祈った。
362松輝夫:2007/07/06(金) 21:36:20 ID:LMSuAB/EO
桜中を出た三人は佐紀の家に向かって歩いていたが、佐紀の家の近くで金八はふと立ち止まると言った。
「…ところで、何で美貴も一緒なんだ?」
「ちょっ…先生、今さらそんなこと言わないでくださいよぉ。ここまできたらお供します。最後まで見届けたいんです」
「でもなぁ、さっきみたいなことがあるとなぁ…」
「あの…さっき、何かあったんですか?」
二人の会話を聞いていた佐紀が、当然の疑問を口にした。
「な、何でもないって。こっちの話。それより、今度はちゃんとおとなしくしてますから…お願いします先生!」
美貴に頭を下げられ、金八は困った顔をして頭をかいた。
「まあ、しょうがないなぁ。でもおとなしくしてるんだぞ」
「はい!ありがとうございます!」
「それにしても、気が短い所は昔から本当に変わらないねぇ、美貴は。良くも悪くも美貴らしいというか…」
「か、勘弁してくださいよ、佐紀の前でそんな話…」
佐紀や小春の前では気が強くて自信に溢れた頼れる姉貴といった美貴も、さすがに金八には頭が上がらないらしい。
363松輝夫:2007/07/06(金) 21:37:29 ID:LMSuAB/EO
程なく、三人は佐紀の家の前に着いた。
佐紀の家の前に立った金八は、硬い表情で自分の家を見つめている佐紀を見た。
「佐紀…大丈夫だ、君のお母さんだろう?信じてあげなさい」
「…はい」
佐紀の母・まゆみには、佐紀が見つかった時にまずそのことを真っ先に知らせたのだが、実の親とは思えないほど反応は薄く、結局学校にも現れなかった。
学校を出る際にも、これから佐紀を連れて家まで向う旨を電話したのだが、反応は似たようなものだった。
果たして本当に大丈夫か…さすがの金八もそんな不安を覚えたが、それを振り払うように決意を込めてチャイムを押した。
364松輝夫:2007/07/06(金) 21:40:33 ID:LMSuAB/EO
何度かチャイムを押すと、玄関に明かりが点き、まゆみが顔を出した。
「お母さん…電話でお話しした通り、佐紀を連れてきました」
「…はい、それはどうも…」
「あの…それで、ちょっと佐紀のことでお話があるんですが、よろしいですか?」
「…こんな時間にですか?」
「それは承知しています。ですが、大事なことなんです。お願いします!」
「…わかりました…どうぞ」
金八は佐紀と美貴を省みて言った。
「佐紀、済まないがちょっとここで待っていてくれないか。美貴、君は佐紀の傍にいてやってほしい」
金八の言葉に美貴は頷いたが、佐紀は不安そうな表情で金八を見上げている。
「先生…」
「大丈夫だ、佐紀。決して悪いようにはしないから、信じて待っていて欲しい」
「…はい」
金八は佐紀に頷いて見せると、家に上がった。
365松輝夫:2007/07/06(金) 21:42:17 ID:LMSuAB/EO
居間に通された金八は、まゆみと向かい合ってソファに腰を下ろすと、早速切り出した。
「…お母さん、電話ではお話しませんでしたが、警察に保護された時、佐紀は川に飛び込む寸前でした」
「!…まさか…そんなこと」
「本当です。あと一歩遅かったらどうなっていたかわかりませんでした」
「…」
「お母さん…佐紀が何でそんなことをしたのか…お母さんには心当たりがあるんじゃないですか?」
まゆみは金八の顔を見たが、金八と目が合うと視線を逸らしてしまった。
366応援団員:2007/07/08(日) 00:54:52 ID:xpgkRqKQ0
ここに訪れるのが結構久し振りだったので、ドキドキしながら
覗いてみると更新されてたーーー!!

しかも世紀末さんが帰ってくる宣言してくれているし!

なんか非常に楽しくなってきました!

せっかくなので、ここを訪れている方々も足跡を残して
いってみませんか?
作家さん達も喜ぶと思いますし、自分もなぜか参加している
気分に浸れますよ。

という私はあまり頻繁に訪れる事が出来ないので、
そんなに足跡を残す事は出来なのですが・・・。

 墨堤通りさん。はじめまして!ここでは新参者の
応援団員と申します。ここの作品は本当に良いですね。
今後もしよろしければ、同創部の掲示板の方でもお話が
できればと思います。

ねぇ、名乗ってさんも小僧すしさんも宜しくお願いします!
367ねぇ、名乗って:2007/07/08(日) 23:49:12 ID:S6yTAILJ0
色々あってしばらく来なかったらかなり進んでいた…
やはりこの話は物語の山場の一つになりそうな。
登場人物の和解と成長の描写が丁寧なのがよいと思います。
368墨堤通り:2007/07/10(火) 00:27:45 ID:M92r1KTAO
応援団員さん、こんな一読者にお声を掛けて頂き有難うございます。
自分はパソコンが不得手でありまして同創部の掲示板にお邪魔すること叶わず、この2chに携帯から作品の感想を書き込むだけで精一杯な状態なんです。

本来、何事にも無関心なのですが『3ベリ』だけには作家ではないのですが参加せずにはおれません。

同じ愛読者でありましょう応援団員さんに声を掛けて頂き、つい一筆とってしまいました。
これからも共々応援していきましょう!

貴重な1レスを作品の感想以外に私用で使ってしまい申し訳ありません。
ご容赦の程を……
369松輝夫:2007/07/10(火) 08:15:09 ID:5goi0zhiO
いつも読んで下さっている読者の皆さま。

まずは書き込んでいただいた方々、ありがとうございました。
当初の予測を遥かに上回り、前編・後編に分れてしまった今回のお話ですが、ようやく後編の後半に突入します。
後半はかなり強引なオチになると思いますが、暖かく見守っていただきたく思います。

それから、更新がないと板も寂しいので、その間は小説の話だけでなく、ハロプロ絡みのネタとか、雑談風に自由に書き込んでいただければ、と思います。
自分は小説関連の書き込みだけに限定される閉鎖的な板にはしたくないと思います。
自分が書き込み始めた時は、確か一番最初は感想の書き込みでしたが、その後はライブの感想なども書き込んでいましたので。
そういうわけで、今後とも機会があったら思ったことを自由に書き込んでいただきたいと思います。

千奈美に、今日もプッチ更新を予定しています。
370松輝夫:2007/07/10(火) 09:51:18 ID:5goi0zhiO
>>365

「…佐紀がいつも右手首に付けているリストバンドを、お母さんはご存知ですか?」
まゆみは無言のまま、いきなり何を言い出すのかとでも言いたげな顔をしていた。
「もう転校してしまった幼馴染にもらったそうです。それ以来、ずっとあの娘の心の支えだったそうですね。悲しいことですなぁ、誰も頼ることもできず、ただあのリストバンドだけが支えだったとは」
まゆみはやはり無言のままだったが、金八は続けた。
「お母さん、リストバンドのことはご存知でないとしても、佐紀がそのリストバンドで隠している、右手首の傷については良くご存知ですね?まあ、傷はそこだけではないようですが」
「…」
「はっきり申し上げましょう。佐紀の体にある傷、そして今回のこと、全ての原因は…お母さん、あなたですね?あなたは、佐紀を虐待している。違いますか?」
「…佐紀がそう言いましたか」
「ええ…もっとも、佐紀は最後の最後まで認めようとはしませんでしたが」
まゆみは無言のまま、あらぬ方向を見ていた。
371松輝夫:2007/07/10(火) 09:53:05 ID:5goi0zhiO
「…私も、前々から薄々気づいてはいました。何度か佐紀に問い質したこともあります。それでも、佐紀は今日まで決して話そうとしませんでした。それがなぜか、あなたにはわかりますか?」
「…」
「あなたを守りたかったんですよ、佐紀は。あの娘自身が身も心も深く傷ついているのに、それでもあなたを守りたかったんですよ。あの娘が一番守りたかったものが自分を一番傷つける存在だったとは悲しいですなぁ」
「…」
「虐待を通報して、あなたと佐紀を引き離すこともできました。でも、あの娘はそれを望まなかった。たった一人の肉親と離れ離れになりたくなかったんでしょう」
まゆみは無言のまま目を閉じた。
「あの娘の気持ちを知っていたから、私も様子を見るしかありませんでした。しかし、もはやそんなことを言っていられなくなりました。ですから、今日は言わせていただきます」
「…」
372松輝夫:2007/07/10(火) 09:56:06 ID:5goi0zhiO
「どんなひどいことをされても、言われても、あの娘の気持ちは今も変わっていません。応えてやっていただけませんか、あの娘の気持ちに。その手でしっかり抱きしめてあげていただけませんか、あの娘を」
「…」
「お母さん、最後まであの娘を守ってやれるのは、愛してあげられるのはあなたしかいないんです!あなたが守ってあげないで、愛してあげないで、いったい誰があの娘を守るんですか!?愛してあげるんですか!?」
373松輝夫:2007/07/10(火) 09:58:03 ID:5goi0zhiO
金八が口を閉じると、二人の間に沈黙が流れた。
まゆみは相変わらず無言で、天井を見上げている。
『これだけ言ってもダメか…佐紀、力不足ですまない…』
金八が心の中で佐紀に詫びた時、不意にまゆみが口を開いた。
「…あの娘の父親は、あの娘が生まれた時、刑務所の中にいました。そのことに負い目を感じていたんでしょう、私のために、そしてそれ以上にあの娘のために相当無理していました…」
「お母さん…」
「そしてあの人が死んだ後…あの娘の存在が、今度は私にとって重荷になりました」
佐紀が言われたという、『疫病神』という言葉が金八の頭をよぎった。
「…お母さん、よかったら話していただけますか?あの娘のお父さんのことを」
佐紀の父親は佐紀が小学生の頃に亡くなったと聞いている。
金八の言葉にまゆみは頷くと話し始めた。
374松輝夫:2007/07/10(火) 09:59:08 ID:5goi0zhiO
―――佐紀の父・竜二は、90年代の初め頃、渋谷近辺を拠点に暴れ回っていたチームnWo(ニュー・ワールド・オーダー:新世界の秩序の意)の一員だった。
ケンカに強いうえに情に厚く涙もろい竜二は、大勢の仲間に慕われリーダーとなり、日々他のグループとの抗争に明け暮れていた。
そんな竜二とまゆみの出会いは、喧嘩で大怪我をした竜二が当時まゆみの勤めていた病院に担ぎ込まれ、そこでまゆみに一目惚れしたことがきっかけだった。
最初は竜二にいい印象を持っていなかったまゆみも、だんだん竜二の人柄に惹かれていき、二人が愛し合うようになるまでさほど時間はかからなかった。
やがてまゆみは佐紀を身篭り、竜二が今まで自分がいた世界から足を洗い、家族のために生きる決意をした、その矢先だった―――事件が起きたのは。
375松輝夫:2007/07/10(火) 10:22:00 ID:5goi0zhiO
ある日、竜二は自分の仲間が自分に隠れて麻薬や覚せい剤などの売買を行っていたことを知り愕然とする。
そして、その後警察の摘発が行われた際、彼は仲間を庇って自ら罪をかぶることを選択し、やがて裁判を経て刑務所に入ることになった。
「本人も後で悔やんでいましたが、確かにバカなことをしたと思います。でも、そんなところがあの人らしいといえばあの人らしかった…そして、あの人が刑務所に入って間もなく、私はあの娘を産みました」
金八は口を挟むことなく、ただひたすら聞くことに徹している。
「それから四年後、あの人が刑務所を出て、ようやく家族三人揃っての生活が始まりました…」
376松輝夫:2007/07/10(火) 10:24:15 ID:5goi0zhiO
誰もが待ちに待っていた家族が三人揃っての生活、それには多少の不安はあっても、長く待たされた分不安よりも大きな期待を三人に持たせていた。
実際、経済的には決して豊かではなかったが、自らの過ちを償おうと家族のために必死で働く竜二のおかげで、三人が生活していくうえで経済的に困ることは全く無かった。
そして、何よりも心が満たされ、未来への夢と希望があり、生きている喜びを実感できた。
三人はこのささやかな幸せがいつまでも続くことを願い、そしてそう信じていた。
「あの人のおかげで、私たちは幸せでした。そして、あの人は必死でした。特にあの娘のためには…今思うと私はそれに嫉妬していたのかもしれません…」
だがこの幸せな生活は、ある時竜二が脳梗塞で倒れて入院したことで終わりを告げる。
377松輝夫:2007/07/10(火) 10:25:38 ID:5goi0zhiO
日々病状が悪化していく竜二、そして毎日病院でそれを見せ付けられるまゆみからは次第に笑顔が失われ、幸せな家庭はあっという間に崩壊した。
追い討ちをかけるように竜二が自殺、幼い佐紀を残されたまゆみは一人途方に暮れる。
そして、最愛の竜二の死という受け入れたくない現実から逃れようと、ついにまゆみは酒に走った。
まゆみは元々酒が好きではない、というより、憎しみすら持っていた。
まゆみが幼い頃に亡くなった父親が飲めないくせに酒好きで、事業がうまくいかない現実から逃れるために大酒を飲んで酔っ払っては、しょっちゅうまゆみや母に暴力を振るっていた。
だからまゆみは酒を憎んでいたのだが、父と同様彼女自身も酒には弱かったので自分から望んで酒を飲むことはなかったし、竜二もあまり飲む方ではなかったので今までの生活には問題なかった。
そのまゆみが、亡き父親と同様に現実逃避のために酒に走ったのはこれ以上ない皮肉だった。
378松輝夫:2007/07/10(火) 10:27:10 ID:5goi0zhiO
酒に溺れ荒んでいく母親、それを悲しそうな目で見つめていた佐紀は、ついに勇気を出して母を諫める。
「最初、あの娘が悲しそうな目で一生懸命止めてくれた時、私もこのままじゃいけないんだ、と思いました。でも…」
酒に浸かりきった、まゆみの病んだ心には娘の気持ちも届かなかった。
「私、何度もあの人の後を追おうと思ったことがあります。そして、佐紀に止められた時思ったんです。この娘さえいなければ後を追うことができたのに、いや、そもそもこの娘さえいなければあの人も死なずに済んだかもしれない、と…」
次の瞬間には、まゆみは生まれて初めて佐紀に手を上げていた。
この時まゆみは、佐紀に手を上げたことで心に痛みを感じると同時に、歪んだ快感を覚えていた。
以来、崩壊していくまゆみの心は、佐紀に暴力を振るう度、自分のやり場のない感情の捌け口として実の娘に暴力を振るうことへの罪悪感を失っていく。
初めの頃こそ暴力は酒を飲んだ時だけだったし、その度に酒に酔っていたからと心の中で言い訳をして正当化もしていたが、ついにそれすらなくなり、佐紀への暴力は酒を飲む飲まないに関わらず日常化していった。
379松輝夫:2007/07/10(火) 11:51:55 ID:5goi0zhiO
「結局、今思えば私はあの娘を産むべきではなかったのかもしれません。そのためにあの人には余計な負い目を感じさせてしまったし、そしてあの娘にも…」
「…お母さん、それではあの娘もご主人もあまりにもかわいそうじゃありませんか」
ここまで黙って聞き役に徹してきた金八が、ようやく口を開いた。
「私にも子供が二人います。妻はだいぶ前に逝ってしまいました。もちろん、あなたと私とでは状況が違うでしょうが、ですが、私は子供たちをあなたのようには思えません」
「…」
「子供たちは、私と妻が確かに愛し合ったその証だと思っています。そして、妻の分も子供たちを立派に育てていくことが私の務めだと思っています。あなたはそうは思えませんか?」
「…」
「佐紀は重荷なんかではありません。疫病神なんかでもありません。あなたとご主人の愛の証ではありませんか。それを重荷なんて言ったら、ご主人も悲しむとは思いませんか?」
「…」
まゆみの両目に涙が浮かんでいた。
380松輝夫:2007/07/10(火) 11:56:39 ID:5goi0zhiO
「佐紀はご主人が命を賭けて守ろうとした、お二人の愛の証じゃないですか。お母さん、ご主人の分まであの娘を愛してあげてください。このままでは、ご主人も浮かばれないではありませんか」
「…」
まゆみの両目から涙が滴り落ちていくのを金八は見た。
「お母さん、今からでも遅くないんです。さっきも言った通り、佐紀の気持ちは今も変わっていません。この世でたった二人の親子じゃないですか。立ち直ってください。あの娘のためにも、ご主人のためにも」
まゆみはついに頷いた。
「…お母さん、私もできる限りのことはします。ですから、今後は何か困ったことがあったら遠慮なく言って下さい。では、今佐紀を連れてきますから…」
金八がそう言って立ち上がった時だった。
「先生、ちょっと待ってください」
入ってきたのは美貴だった。
「美貴…どうしたんだ?」
「…先生、話は全部聞きました。事情はわかりましたけど…私は今佐紀をこの人の所に返すのは反対です」
381ミヤビイワナ:2007/07/10(火) 19:56:05 ID:6hAyodki0

輝夫さん更新お疲れです。
ミキティーは今回すごく粘り強いね、彼女の正義がそうさせるのか・・。

彼女の正義、私の正義・・・さてさて楽しみです。

仕事で忙しいなか、応援の書き込みをしてくれている方々本当にありがとうございます。

更新のペースが遅いイワナですが確実に更新していこうと思っています。
382『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/07/10(火) 20:01:28 ID:6hAyodki0
『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』

茉作家:ミヤビイワナ

第5話「If you are troubled, I go for help」

(フェリーが出るまで2時間ってとこだな)

八名は後ろにおかみを乗せたバイクを走らせながら考えた。

(二人乗りじゃ無理だな・・・やっぱ、丹下の750だな・・・)

八名は丹下の住む川沿いにあるアパートに向かった。

丹下は屋形船の掃除と修理を終えてちょうど部屋に帰ってきた所だった。
今日の修理は人でが必要なので昔働いていた土建会社の若い衆に手伝ってもらっていた。

「丹下の兄さんバイクの音が聞こえるよ。」

「ん?」
383『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/07/10(火) 20:02:19 ID:6hAyodki0
遠くから聞き覚えのあるバイクのエンジン音が聞こえてきた。

「おお、八名!!」

八名はエンジンを止めた。

「なんだ、めずらしい、おかみを乗せてるなんて。」

八名は、

「なあ、丹下、疲れているところ悪いがお前の750CC出してくれ。」

八名はヘルメットの下でまるで2〜30人を相手にするような鬼の目をしていた。

「・・・・・待ってろ。」

丹下は何も聞かずアパートの自転車置き場に歩いて行った。

土建会社の若い衆は、

「八名の兄さん、なにかあったのか?」

「ああ、姐さんを船出に送らなきゃならないんだが、あいにく時間がたりねえ、丹下の750CCならギリギリ間に合う。」

ギラギラした真剣な八名の目を見た若い衆は、

「何処まで行くんだい?」

若い衆達もおでん屋のなじみだった。
384『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/07/10(火) 20:04:55 ID:6hAyodki0
地響きの様な轟音が聞こえた。

「おーい!!準備が出来たぞ!!」

不安げなおかみを見て取った丹下は、
「おい、八名どこまで行くんだ?」

「今夜フェリーに乗って須藤さんが北海道に帰る!!」

「・・・フェリーか・・・ギリギリ・・だ・な。」

「おかみ!!早くこっちに乗ってくれ!!」

おかみは750CCにまたがり丹下の岩の様な体にすがりついた。

二台のバイクは矢の様に闇の中を全力疾走した。

八名は走りながら考えた、
(こんな闇の中を走ってやっとたどり着いた時、須藤さんはどんな顔をするんだろう・・・姐さんはどんな気持ちになるんだろう・・・)

市街に入り海が見えて来た・・・・
385『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/07/10(火) 20:07:16 ID:6hAyodki0
丹下は、
「あと30分で着くぞ〜!!」

闇夜に叫んだ、おかみはただ丹下に祈るようにしがみついていた。

「!!」

バックミラーに赤い回転灯が映った。

(ちっ!!もうすぐなんだよ!!)

八名は、
「丹下!!先に行ってくれ!!」

「八名〜!!」

八名は減速してパトカーの進路を塞いだ。

(すまねぇ)

丹下はアクセルを緩めず矢の様に750CCを走らせた。

しばらく減速してパトカーを引きつけていた八名のバックミラーに爆走してくるトラックが映った。

「!!」

さっきの土建会社の若い衆が運転したトラックだった。
386『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/07/10(火) 20:20:51 ID:6hAyodki0
パトカーを抜かしトラックは急ブレーキをかけた。

急ブレーキで横になって止まったトラックはパトカーの進路を塞いだ。

助手席から飛び降りた若い衆はバールでタイヤを思いっきり刺した。

見る見るタイヤから空気が抜けた。

「おい!!お前らトラックを早くどけろ!!」

パトカーから二人の警察官が顔を真っ赤にして近づいてきた。

「すみません、パンクして動けねーです。」

八名はニヤニヤしながらバイクを走らせた・・・・。

「おかみ!!着いたぞ!!」

バイクから飛び降り丹下はおかみを引きずる様に走った。

「お客さん!!もうここから先は入れないよ!!」
387『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/07/10(火) 20:23:16 ID:6hAyodki0
制服を着た係員が入り口に来た二人を制止した。

「まだ出てないだろ?頼むから一人乗せてやってくれないか?」

係員は、
「ムリムリもう寝台がないよ。」

丹下は、
「いや、中にこの姉さんを待ってる男がいるからベッドは一つでいいんだ。」

おかみは顔を真っ赤にしていた。

「あのね・・」

言おうとした係り員を丹下は押さえつけた!!

「姉さん!!早く行け!!」
388『 空と海の青さに〜叶えられなかった言葉 』 :2007/07/10(火) 20:26:31 ID:6hAyodki0
すこしためらったが、
「ありがとう丹下!!まりんを頼んだよ!!」

フェリーの中におかみの姿が消えていった・・・。

汽笛が鳴りとうとう船出である。

八名はバイクに寄りかかる様に座りハイライトを吸ってフェリーを見送っていた。

「!!」

須藤とおかみがデッキに立ち八名に笑顔で手を振っていた!!

八名は口から煙草を落とし去りゆくフェリーに駆けていき何時までも手を振った。

八名の脳裏には何故か一人で暮らす「加代」の顔が浮かんでいた・・・。
389ミヤビイワナ:2007/07/10(火) 20:29:53 ID:6hAyodki0

ああ・・・やっぱり今回も終われきれなかった・・・。

「BIRTHDAY」ではさゆみの部屋の前でいつまでも柴田が立ったままでした・・・。

遅くてみんなごめん・・・。

更新終了。

またね!!


390松輝夫:2007/07/12(木) 08:21:05 ID:D7IGIxy/O
>>381
>>389

イワナ氏、更新乙カレーでした。

もともと自分が書いてる話のために、イワナ氏にお願いして今の話を書いていただいたんですよね。本当に申し訳ないです。
ですが、あゆみの話もそうですが今の話も好きなので、ゆっくり頑張ってください。

美貴様は今回、かなり佐紀にイレ込んでますが、彼女の過去を考えるとそれも当然かもしれません。

次の更新は来週の日曜日☆カナ?

ノリo´ゥ`リ 小春の誕生日ですよ?皆さんお祝いしてくださいね?
391松輝夫:2007/07/15(日) 06:09:13 ID:SAkatkztO
ノリo´ゥ`リ 今日は小春の誕生日!

15歳の誕生日おめでとうございます。
というわけで、予告通り更新します。小春の出番もある…☆カナ?
千奈美に、現在名古屋市内のホテルにいます。今日から夏のハロコン開幕ですので。小春姫聖誕記念公演でもありますので頑張ってきます。

>>380

「…美貴、盗み聞きはよくないなぁ…」
金八は首を何度も横に振った。
「すいません…だけど、今佐紀をこの人の所に返すのは絶対反対です」
美貴はまゆみを見据えたまま、さっきと同じ言葉をもう一度繰り返す。
「反対って、それじゃいったい佐紀をどうすると言うんだい?」
「ウチで何日か預かります。しばらく佐紀とこの人を引き離して、その間にもう一度この人によく考えてもらうんです。本当にこれから佐紀と一緒にやっていけるのか。そうじゃないと、この人はまた同じことを繰り返すに決まってます」
「美貴…佐紀の保護者はあくまでもお母さんなんだ。勝手にそんなこと決めて良いわけないだろう。それに佐紀の気持ちだってわからないし…」
金八が美貴に諭すようにそう言った時、まゆみは思いがけないことを言い出した。
392松輝夫:2007/07/15(日) 06:11:17 ID:SAkatkztO
「…坂本先生…あの、私の方からもお願いできますか…あの娘なら、たぶん私が認めたと言えば嫌とは言わないと思いますから…」
「しかしお母さん…」
「その方の言う通りです。もしかしたら私、またあの娘にひどいことをしてしまうかもしれない…今はまだ、あの娘とちゃんと向き合う自信がないんです。だから、時間が欲しいんです」
「お母さん…」
「坂本先生。私、わかったんです。現実から逃げてただけなんだって。そして、それをあの娘のせいにしてた。でも、もう逃げません。だから、そのためにもう少し時間が欲しいんです」
まゆみは決意のこもった目で金八を見る。
「…わかりました」
それから金八は美貴を見た。
「美貴…佐紀と話をしてくるんだ。もし、それで佐紀が納得するなら、その時は…まあ、お母さんも希望されてることだし、仕方ないだろう」
美貴は頷くと、居間を出て行く。
少しして美貴は戻ってくると、
「…佐紀も納得してくれました。これから私も手伝って準備します」
二人にそう告げ、美貴は再び居間を出て行った。
393松輝夫:2007/07/15(日) 06:13:38 ID:SAkatkztO
佐紀が美貴と準備をしている間、金八はまゆみと居間でそれが終わるのを待っていた。
「お母さん、本当によろしいんですね?今ならまだ間に合いますが…」
「これでいいんです。これで…ただ、あの方にはご迷惑をかけてしまいますけど…あの方、先生の生徒さんですか?」
「ええ。彼女は藤本美貴、私の昔の教え子です。曲がったことが大嫌いで困った人を見ると放っておけない性格で、基本的にはいい娘なんですが、気が短いのが…さっきは大変失礼なことをしてしまい申し訳ないです」
金八はまゆみに頭を下げた。
「いえ…それよりも、佐紀のためにあんなにまで一生懸命になってくれるなんて…私も佐紀も感謝しなくてはいけませんね」
「…あの娘は産まれた直後に両親を亡くしてまして、今の両親に引き取られて育ったんです。ですから、今の両親とは血が繋がっていませんし、産みの親の顔も知らないんです」
まゆみは驚いた表情で金八を見た。
「私の想像ですが、だからこそあなた方を放っておけなかったんでしょうなぁ。あの娘からすれば、実の親子が傷つけあうのを黙って見ていられなかったんでしょう」
「…」
その時、美貴が部屋に顔を出すと告げた。
394松輝夫:2007/07/15(日) 06:15:28 ID:SAkatkztO
「先生、準備終わりました。玄関で待ってます」
美貴の言葉に金八は立ち上がった。
「ああ、今行く。それではお母さん…」
「ええ…申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
まゆみも立ち上がり頭を下げる。
「お母さん、どんなに時間がかかっても、必ずあの娘を迎えに行ってあげて下さい。何かあったら、いつでも私に言ってくださればお力になりますから」
「はい…ありがとうございます。必ず…必ず、迎えに行きます」
「…佐紀に、お会いにはなりませんか?」
「…いえ、今はまだ…恥ずかしくてあの娘に合わせる顔がありませんから…でも…必ず迎えに行くとお伝えください」
金八はまゆみの言葉に頷いた。
395松輝夫:2007/07/15(日) 06:47:47 ID:SAkatkztO
佐紀の家を出た三人は美貴の家に向かっていた。
金八と美貴の間を、小さな体には不似合いな少し大きめのバッグを抱えて歩く佐紀の表情は寂しそうだった。
無理もないな、と金八も思う―――遊びで友達の家に泊まりに行くのとはわけが違うのだから。
「佐紀、荷物は私が持つよ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですから…」
佐紀は寂しげな微笑みを浮かべながら答えた。
「…そうか」
佐紀の心中を思うと、金八もそれ以上のかける言葉を見つけられなかった。
―――やがて三人は美貴の家の近所まで来た。
「…先生、ここで大丈夫です。もうウチはすぐ近くですから」
美貴の言葉に金八は立ち止まると、佐紀を見た。
396松輝夫:2007/07/15(日) 06:49:05 ID:SAkatkztO
「佐紀…お母さんは今苦しんでおられる。君が生まれ変わろうとして苦しんだように、お母さんも必死なんだ。わかってあげて欲しい」
「先生、心配しないでください。私もわかってますから…」
「そうか…そうだな。それじゃ美貴、佐紀のこと、よろしく頼む」
「はい、任せてください」
「では二人とも、おやすみ」
金八はそう言って歩きかけてから、ふと立ち止まった。
「…佐紀、明日は無理しなくて良いからね。ゆっくりでいいから、君が大丈夫になったら、その時はいつでも戻ってきて欲しい。私も、クラスのみんなも待っているからね」
「…はい、ありがとうございます」
「それじゃ、おやすみ」
そう言って金八は夜の街に消えていった。
397松輝夫:2007/07/15(日) 06:51:55 ID:SAkatkztO
金八と別れた二人が美貴の家の前まで来た時だった。
「佐紀ちゃん!」
ドアが開いて、飛び出してきたのは小春だった。
佐紀の家を出る時、美貴は予め自宅に電話して両親に話しをしている。
その時に、小春も美貴の両親と一緒に美貴たちの帰りを待っていることを聞いていた。

「小春ちゃん…」
「…よかった…心配してたんだよ…」
佐紀に抱きつくと小春は声を上げて泣き出した。
佐紀よりもはるかに背が高いはずの小春だが、佐紀の目の前で泣きじゃくる今の小春はとても小さく感じられた。
「…小春ちゃん…ゴメン…」
「ううん、もういいの。でも、二度とさよならなんて悲しいこと言わないでね。絶対だよ、約束だよ」
涙を拭うと小春は佐紀に小指を差し出した。
「破ったら嫌だからね?」
「うん…」
頷いた佐紀は自分の小指を小春の小指に絡める。
398松輝夫:2007/07/15(日) 06:53:18 ID:SAkatkztO
「小春、もう遅いし、佐紀も疲れてるだろうから今日は家に戻りな。佐紀は何日かはウチにいるから、またいつでも会えるだろ」
「うん、そうだね。それじゃ佐紀ちゃん、お姉ちゃん、おやすみ」
小春は美貴の言葉に素直に頷くと、目の前の自分の家に帰っていった。
「…佐紀、疲れてるのに悪かったね。でも、アイツも佐紀のことすごく心配してたんだ」
「ええ…わかってます」
「それじゃ、ウチらも中に入ろうか」
美貴の言葉に佐紀は頷いた。
399松輝夫:2007/07/15(日) 07:01:51 ID:SAkatkztO
川´・_・リ 今日はここまでみたいです。
ノリo´ゥ`リ ちょっと!久ぶりの出番なのにあれで終わり?佐紀ちゃん目立ちまくりなのにどういうこと!?もっと出番増やしなさいよね!
川´・_・リ あのー、今回の話のヒロインは一応私なんですけど…。



…とりあえず今日はここまでですが、近いうちにまた揚げます。
さて、今日は小春姫聖誕公演がありますので、参戦される方、楽しんでいきましょう。
参戦されない方も、姫の15歳のバースデーを祝ってあげてくださいな。
400ねぇ、名乗って:2007/07/15(日) 17:57:26 ID:eOf18WAz0
この展開にちょっと安心…

そういえば、小春も15歳になったんですね、おめでとうございます。
オーデの頃から見てますけど、すっかり垢抜けたなあと思います。
美人なのは昔から変わりませんけど。
401松輝夫:2007/07/16(月) 08:51:09 ID:UVsIxTVgO
>>400

レスありがとうございます。
かなり強引な展開だと思いますが、もう少しお付き合いくださいませm(_ _)m

小春はホントキレイになりましたよね。
昨日は夜公演は干され席でしたが、昼は前から四列目だったのでよく見えましたよ。
昨日はきらぴかで一曲歌った後、「恋☆カナ」「ハッピー☆彡」を歌いました。かなり厚遇されてますね。

しかしながら、このスレのメインはあくまでもBerryz工房なので、Berryz工房についても少し触れないと。
今シナリオのヒロイン、我らがキャプテンは昨日もキレ味全開のダンスを見せてくれました。
梨沙子は終盤バテ気味だったみたい。今回は曲数多かったから仕方ない☆カナ?
友理奈は実物を近くで見るとホントにデカい(失礼)…しかも美人だから映えますねえ。
茉麻もキレイになりましたね。けっこう自分の前に来てくれまして、指差されて悶絶してました(逝ってよし)
千奈美は相変わらず笑顔が眩しく、桃子の媚態も相変わらず、そして雅も相変わらず安定した歌とダンスを披露してくれました。

今回のハロコンはなかなか良かったです。可能でしたらぜひ行ってみて下さいな。
402松輝夫:2007/07/17(火) 23:19:42 ID:ivIOI6u1O
>>398

「ただいまー」
美貴はドアを開けて中に入る。
「あの…お邪魔します」
美貴に続いて家に入ろうとした佐紀は、美貴が首を横に振るのを見た。
「…佐紀、ここにいる間は佐紀もウチの家族の一員なんだから、ここは佐紀の家なんだぜ」
「先輩…?」
美貴の真意がわからず、佐紀は美貴の顔を見上げた。
「だから、自分の家に入るのに『お邪魔します』はないだろ?」
「…あ…その、えっと…た、ただいま」
「お帰り」
美貴が笑顔で答えてくれる。
こんなやりとりは何年ぶりだろうと佐紀は思った。
普段なら、ほとんどの場合寝ている母を起こさないようにと黙って静かに家に入っていたし、まして玄関で迎えてくれる人なんていなかったから。
「それじゃ、こっちにおいでよ。父さんと母さんに紹介するから」
「はい」
佐紀は美貴の後に続いて居間に入る。
居間には美貴の両親が待っていた。
403松輝夫:2007/07/17(火) 23:20:44 ID:ivIOI6u1O
「父さん、母さん、この娘が電話で話した佐紀だよ。金八先生のクラスなんだ。ちょっと色々あって、しばらくウチで預かるから」
「は…はじめまして…清水佐紀です。えっと…」
美貴の言葉に続いて挨拶をしようとした佐紀だったが、何を話したらいいかわからなくなってしまった。
美貴の両親は、しかし傷心の佐紀に気まずい思いをさせるような人たちではなかった。
404松輝夫:2007/07/17(火) 23:23:47 ID:ivIOI6u1O
「佐紀ちゃん、今日は遅いから詳しい話はまた明日にでも聞かせてもらうとして、ここにいる間は変な遠慮しなくて良いからね。いつまでもいてくれたっていいのよ」
美貴の母・真奈美が、佐紀を気遣って優しく声をかけてくれた。
「おいおい、母さん。いつまでもいるようじゃマズイだろ。ウチはかまわないけど」
真奈美の言葉に父・昭二が突っ込む。
「あら、そうね。ま、とにかく自分の家だと思ってゆっくりしてちょうだい」
「…はい…ありがとうございます。よろしくお願いします」
佐紀は美貴の両親に頭を下げた。
「佐紀、何も食べてないだろ?お腹空いてない?」
「…大丈夫です。あまりお腹空いてませんから…」
「そうか…ところで、明日学校はどうする?」
「…行きます」
佐紀は一瞬躊躇ったが、静かに、そして決意を込めて答えた。
405松輝夫:2007/07/17(火) 23:25:15 ID:ivIOI6u1O
「大丈夫?無理しないほうが良いんじゃないか?」
「いえ、大丈夫です。それに…雅と約束しましたから…」
「そっか…じゃあ、早く風呂入って、今日はもう寝なよ。布団敷いとくからさ。美貴と一緒の部屋で狭いけど我慢してくれよな」
美貴も佐紀の意志が固いのを見て取り、それ以上止めようとはしなかった。
「そうそう、今日は疲れたでしょう。お風呂沸かしてあるから入ってらっしゃい」
「え…でも…」
「変な遠慮するなって言われたろ?先に部屋に案内するから、荷物置いてからゆっくり入ってきなよ」
「わかりました…ありがとうございます」
今は藤本家の人々の好意に甘えさせてもらおうと佐紀は思った。
406松輝夫:2007/07/17(火) 23:52:14 ID:ivIOI6u1O
「ふぅ…」
風呂から上がり藤本家の人々に寝る前の挨拶を済ませた佐紀は、二階にある美貴の部屋の床に敷かれた布団の中でため息をついた。
身も心も疲れているはずなのに、いやむしろそのせいだろうか、佐紀はかえって目が冴えて全く寝つけないでいた。
何気なく目をやった隣のベッドは空で、美貴はまだ下にいるみたいだ。
それにしても、いろいろあった一日だった。
そんなことを考えると、ますます目が冴えてしまう。
「なんか、のど渇いたな…」
そのうち今度はのどの渇きを覚えた佐紀は、布団から出て立ち上がると階段を静かに下りていった。
―――階段を下りきった所にある居間からは明りが漏れていた。
やはりまだ藤本家の人々は起きているらしい。
「父さん、母さん、勝手なことしてごめん」
美貴の声が聞こえ、居間の前を静かに通り過ぎようとしていた佐紀は思わず足を止めた。
『!?先輩が謝ってる…やっぱり私のせいだよね?』
盗み聞きはいけないとわかってはいるけど、佐紀は漏れ聞こえてくる声に耳をそばだてた。
407松輝夫:2007/07/17(火) 23:53:22 ID:ivIOI6u1O
「謝ることはないだろう。悪いことをしてるわけじゃないんだから。それにあの娘、佐紀ちゃんだったな、なかなかいい娘じゃないか。小春ちゃんの他にもまた娘ができたみたいで父さんは嬉しいよ。なあ、母さん」
「そうね。それに、あの娘は坂本先生のクラスの生徒さんなんでしょう?昔の恩返しをするいい機会じゃない。だいたい、あんたの性格じゃあの娘のこと放ってはおけないでしょう?」
「父さん…母さん…」
「でも、やるからには最後までやり抜くんだぞ。どんなことがあっても途中で投げ出すことだけは、父さん絶対に許さないからな」
「そうよ、私たちも協力するから、アンタは余計なことは心配しないで最後まであの娘の力になってあげなさい」
「うん、わかってる」
藤本家の人々の会話を聞いてしまった佐紀は、静かにその場を離れた。
408松輝夫:2007/07/17(火) 23:54:30 ID:ivIOI6u1O
部屋に戻った佐紀は、そのまま頭から布団を被った。
涙が溢れて止まらない。
偶然聞いてしまった美貴と両親の会話があまりにも衝撃的だった。
『こんな私のためにあそこまで言ってくれるなんて…』
藤本家の人々だけではない、自分のために本気で怒ってくれた雅、心配して遅くまで待っていてくれた小春、必死で母と話をしてくれた先生…他にも多くの人に自分が支えられていることを、今日佐紀は改めて実感した。
そして、ようやくこう思えた―――あの時、川に飛び込まなくて良かった、と。
もしそうしていたら、きっと心配してくれた多くの人を悲しませただろう。
それは、自分がそれだけは避けたいと思っていたことを、周りの人に対してしてしまうことに他ならなかった。
今までの佐紀は、他の誰かと深く関わることが怖くて仕方なかった。
なぜなら、彼女の大好きな母が、父の死後、酒に溺れて壊れていく様を目の当たりにしてきたから。
もうそんな悲しみは味わいたくない、そう思った彼女は、以来誰かと深く関わることを恐れ、そして見えない心の壁を築くことでそれを避けてきたのだった。
409松輝夫:2007/07/17(火) 23:55:47 ID:ivIOI6u1O
だが、彼女は気づいた―――大切なのは、悲しみを避けるために人を避けることではないのだと。
『それは逃げてるだけなんだね。それじゃ、何の解決にもならないんだよね。人は一人では生きていけないから、だから、みんな周りの誰かのために自分にできることを精一杯してあげるんだよね』
彼女の周りの人たちは、皆そうしていたはずだ―――桃子、友理奈、雅、千奈美、茉麻、梨沙子、坂本先生、美貴先輩、小春―――悲しみから逃れるために人から逃げるのではなく、自分にできることをしようとしていた。
『だから、いつか機会があったら今度は私が大切な誰かの力になってあげよう。私、もう絶対に逃げないから―――』
410松輝夫:2007/07/17(火) 23:57:27 ID:ivIOI6u1O
今までの自分は、今日荒川の底に消えたんだ、明日から新しい私に生まれ変われるんだ―――布団から顔を出した佐紀は、暗い天井を見上げながらそう思った。
きっと、お母さんも生まれ変わろうと必死に頑張ってくれるだろう。
そして、いつかまた昔みたいにお母さんと一緒に幸せに暮らせる日が来る、その時は、今度こそお父さんの分も幸せに暮すんだ。
最初、美貴の家に預けられると聞いた時、佐紀は正直失望を覚えたし、もうどうにでもなれ的な投げやりな気持ちで話を承諾した部分もあった。
だが、今佐紀は、お母さんを信じて自分を迎えに来てくれる日を待とうと、そう決意したのだった。
―――それから少しして美貴が自分の部屋に入った時、佐紀は安らかな寝顔で深い眠りについていた。
こうして、佐紀と周囲の人々にとってもっとも長い一日は終わった。
411ねぇ、名乗って:2007/07/20(金) 05:23:04 ID:sd5ft9RT0
保守
412松輝夫:2007/07/26(木) 22:33:15 ID:+s+92rVRO
保全してくださった方、ありがとうございます。
このスレも最近静かになってしまったけど、イワナ氏も世紀末氏もお忙しい☆カナ?続編期待して待ってますよ。
ちょっと保全を兼ねて、いろいろカキコしてみたいと思います。

まずは話の中の日付について。
今のお話は体育祭の後から始まったわけですが、冒頭で佐紀が公園で踊っていた日が11月5日(日)、小春と再会した日が11日(土)、そして佐紀にとってもっとも長い日となったのが14日(火)となります。読者の皆さんの理解の助けになれば幸いです。
さて、現在続きを頑張って書いていますが、だいぶ進みました。もう終わりは見えていますので、イワナ氏に本編を引き継ぐ日も近かろうと思います。

最近では、まず今の話を書き終えることに専念したいのに、「僕の手紙」の続編の構想が頭に浮かんできて困ってます。
この構想はイワナ氏には打ち明けてありますが、桜中を卒業した佐紀と圭太郎がふとしたことから再会して……その先どうなるかはいずれ書ければ書きたいですね。
千奈美に、冒頭のシーンのBGMは映画「トップガン」で使われていたケニー・ロギンズの「DANGER ZONE」を使いたい☆カナ?なんでそうなるかは、いずれ書く日のお楽しみ、と言いたいところですが、さてどうなりますか。

他にも、「小さな恋のメロディー」の続きとして千奈美の悲しい恋の短編の構想とかあるんですが、まずは今のお話を完結しないと。近いうちに再開しますので、しばらくお待ち下さいm(_ _)m
413応援団員:2007/07/27(金) 00:13:21 ID:8pQPsJpu0
本当にお久し振りです。

まず私の第一声は「佐紀ちゃん!良かった!!!
松さん本当にありがとう!!」と、ゆいたいです!

なんか本当にうれしくてうまく言葉が出てきません。

読んでて良かった!そう思わせてくれる物語ですね。

松輝夫さん。ありがとうございます。

そして・・・。なんと!「僕の手紙」の続編構想があるのですか!?
その他にもいろいろ構想がおありだとか!?

楽しみにしていますので、是非お願いします!

ミヤビイワナさんも世紀末さんも、多分現在鋭意執筆中なのだと
思います。

皆さんの物語を楽しみに待っていますので、これからも
頑張って、そして無理をせずに楽しんで執筆をして頂けたらと思います。

墨堤通りさん、ねぇ、名乗ってさん、小僧すしさん達と
ゆっくり待ってますので。
414松輝夫:2007/07/27(金) 10:01:09 ID:FjW1D3w+O
>>412
冒頭で踊っていたのは銀行の前でしたね。

>>413
いつも書き込みありがとうございます。
今回の話も先がいよいよ見えてきました。もう少しお付き合いくださいませ。
続編の構想は確かにありますよ。イワナ氏にはあらすじはお話してありますが聞きたいですか?
ただ、中学を卒業してから10年後(このあたり、年数は再考の余地あり、ですが)くらいの話なので、本来は卒業式が終わってから書くべきじゃない☆カナ?と。ま、あらすじを書くくらいならかまわないと思いますがね。
ただ、そうなるといつになるかわからないですね。まあ、他の方々のご意見も伺ったうえでいつ書くか決めたいと思います。
415松輝夫:2007/07/28(土) 16:47:24 ID:HM8/eHCmO
川*^∇^)| 1stソロ写真集「友理奈」8月29日発売決定です!ヨロシクね!

よって、写真集発売記念で更新します。

川*^∇^)| 私も出ますよ。

>>410

翌朝、佐紀が目覚めると、隣のベッドには既に美貴の姿はなかった。
佐紀は着替えて布団を畳むと、部屋を出て階段を降りていった。
「…おはようございます」
佐紀がダイニングに顔を出すと、食卓には朝食の支度が整っており、昭二と真奈美が席に着いていた。
「おお、佐紀ちゃん、おはよう。ちょうど準備も終わったし、一緒に食べよう」
昭二が笑顔で声をかけてくれた。
「お、起きてきたか。そろそろ起こしに行こうかと思ってたけど、ちょうど良かった」
エプロンをした美貴がそう言いながらキッチンから顔を出した。
「今日は美貴が用意したんだ。早く食べようぜ」
「…これ、先輩が?」
「ま、こう見えても一応この店の跡取りなんでね。家族の朝食くらい用意できないとな…って、どうした?」
目に涙を浮かべている佐紀に美貴が尋ねた。
「…すいません。私、嬉しくて…家族揃って朝ごはん食べるなんて何年ぶりかな、って…そんなこと考えたら、つい…」
美貴は佐紀の頭を優しく撫でてやる。
「…バカだなぁ、こんなことで泣いてたらここにいる間毎朝泣くことになっちゃうぞ?それに…大丈夫、佐紀の家だってまたそうなるよ。ほら、早くしないと遅くなるぞ?今日は学校行くんだろ?」
佐紀は涙を拭うと、美貴の言葉に頷いた。
「そうよ、早く食べましょう佐紀ちゃん。明日は私が作るから、今日は美貴が作ったので我慢してね」
「ちょっ…母さん、それどういう意味!?」
「まあまあ、お腹に入っちゃえば一緒だしいいじゃないか」
「父さん、それって全くフォローになってないんですけど…」
美貴と両親のやり取りがおかしくて、佐紀はクスリと微笑んだ。
416松輝夫:2007/07/28(土) 16:49:54 ID:HM8/eHCmO
「行ってきます」
久しぶりの賑やかで楽しい朝食を終えた佐紀は、玄関で美貴と両親に見送られ藤本家を出た。
程なくたどり着いた荒川の土手の上は、昨日とは違い多くの桜中の生徒が歩いていた。
その中には、昨夜の一件を知っているのだろう、佐紀を見て驚いたような表情をする者もいたし、あからさまに好奇の目を向けてくる者もいたが、無理もないだろうと佐紀は思う。
自分が学校に行けばたぶんこうなるであろうことは佐紀にもよくわかっていたが、それに耐えることが今の自分の義務であり自分なりのけじめのつけ方だと思っていた。
「佐紀ちゃん!」
不意に後ろから呼びかけられた佐紀が後ろを振り向いた瞬間、佐紀は誰かに抱きつかれた。
それは佐紀とほぼ同じ背丈の女の子―――桃子だった。
見れば、友理奈と梨沙子もいる。
「佐紀ちゃん…よかったぁ…心配したんだよぉ」
「そうだよ、でも、無事でよかった…」
「桃子…梨沙子…ゴメンね」
それから佐紀は友理奈を見た。
「…友理奈、ゴメン。私…」
「あ〜あ、昨日はすごくショックだったなぁ、あれだけ言っても信じてくれないんだもんねぇ。確か、隠し事されるほうが方が信用されてないみたいで悲しいし悔しいってちゃんと言ったのにさぁ」
「ゴメン…」
力無く謝る佐紀に、しかし友理奈はいたずらっぽく笑って見せる。
「…でも、こうも言ったよね?間違いを許せるのが友達だって。大丈夫、もう気にしてないから。だけど、また何かあったら、今度はちゃんと話してよね」
「…うん、ありがとう、友理奈」
「よし、じゃあ、そろそろ行こうか。遅くなっちゃうしね」
友理奈の言葉に、四人は再び歩き出した。
417松輝夫:2007/07/28(土) 16:52:00 ID:HM8/eHCmO
桃子と梨沙子の後に続いて佐紀が教室に入ろうとすると、中にいた生徒たちが一斉に佐紀を見た―――さすがに3Bの生徒たちは皆昨夜の一件を知っているらしい。
集中する視線に、一瞬足を止めた佐紀の肩に友理奈は手を置いた。
「佐紀…大丈夫だから。私たちがついてるよ」
佐紀が友理奈の言葉に頷いて歩き出そうとした時だった。
「あーっ、佐紀じゃない」
「大丈夫なの?もう」
声をかけてきたのは千奈美と茉麻、さらには雅も一緒にいた。
「う、うん。あの…昨日はゴメン。それから…ありがとう」
「いいのいいの!佐紀が元気になってくれればウチも嬉しいから」
「そうだよ。また学校に来てくれて私も嬉しいよ」
「…って言うかさ、学校に来るなんて当たり前のことだろ。二人とも何騒いでんの?アホくさ」
雅はぶっきらぼうに言いながら、喜ぶ千奈美と茉麻の横を通り過ぎようとする。
「みやはねぇ、ホントはすごく嬉しいんだよ。朝からずっと心配してたんだから。佐紀、今日は学校来てくれるかなぁ、って。素直じゃないよねぇ」
千奈美が佐紀たちに小声でささやくと雅は足を止めた。
「ちい!余計なこと言わないでよ!」
「何でよ〜、だってホントのことじゃんか」
雅の言葉に口を尖らせて千奈美が言い返す。
いつもの光景に、茉麻と友理奈は顔を見合わせるとヤレヤレといった感じ肩を竦めてみせ、佐紀も思わず微笑んだ。
「ちょっと佐紀!何でアンタまで笑ってるのよ!」
そう言いながら佐紀を軽く小突いた雅だが、しかしその言葉や口調は乱暴でも今までのような棘は感じられなかった。
そして、佐紀はようやく自分の居場所に戻ってきたような気がして嬉しかった。
418ミヤビイワナ:2007/07/29(日) 09:13:31 ID:g58doygK0

うーん。

輝夫さんお疲れでした。

本当に何処で書いても負けない文章ですね。

心の裏側を表す伏線の貼り方やセリフも少女らしさをサラッと通す人物構成の立て方。

本当に上手です。

ここで書き終わったら(3B自体の板が終わったら)独立した板を作ってみては?

そしてこれから書き始める人たちに指南をするとかですね。

これからラストに向けて楽しんで書いてください。

・・・ああ!!そういえば自分は書きかけだった・・・どうしよう・・まだまだかかりそうです。

ごめんなさい・・・トホホ・・・・。
419松輝夫:2007/07/30(月) 10:58:57 ID:gxOe0ZOfO
>>418
イワナ氏、お久しぶりです。

長々と引っ張ってしまい申し訳ないですが、もう少しで終わります。

イワナ氏もお忙しいことと思いますが、一読者として続きを楽しみに待ってますので、頑張って下さいね。

千奈美に、今の話が終わったら、佐紀と圭太郎の話、書いちゃってもいいですかね?卒業式終わってないですけど……。
420世紀末:2007/07/30(月) 18:03:49 ID:JOnjAmgG0
今、イワナ氏に原稿送りました
そろそろもう一つの作品にも手をつけようかと思います
421松輝夫:2007/07/30(月) 20:03:27 ID:gxOe0ZOfO
>>420
世紀末氏、おかえりー。
続き楽しみにしてますよ。新作もあるんですか。それも楽しみですね。
みんなで板を盛り上げましょう。
422ねぇ、名乗って:2007/07/31(火) 00:26:19 ID:PH2XUeQ+0
Berryz工房「噛んじゃった♪」
http://vision.ameba.jp/watch.do?movie=530624
423小僧すし:2007/07/31(火) 22:05:57 ID:0OKGC9QT0
お久しぶりです。
キーボードが壊れてしまって書き込みが出来ませんでした。
でもやっと昨日、パソコンが返ってきたので一気に読まして頂きました!
しばらく見れないうちにかなり展開が進んでて作者のみなさんほんとにお疲れ様です。


松輝夫さん

保健室の下りはで涙が止まりませんでした。特に雅ちゃんと佐紀ちゃんの絡みが…
でも本当に佐紀ちゃんは大きな壁を乗り越えてくれて良かったです。
藤本家のような暖かい絡みを佐紀ちゃんとお母さんの間でも出来る日を待ってます。
あと応援団員と同じく『僕の手紙』楽しみにしてますよ。


ミヤビイワナさん、
大人の恋愛ですね!マーサの両親はこんな結ばれ方だったとは…♪
丹下や八名は男!って感じなので勝手に自分の中では恋とかは不器用なのかな?と想像してるんですが…
加代やまりんとどんな恋をするのか楽しみにしてます。


世紀末さん、
続きかなり待ってました♪
3年B組での桃子のキャラ設定は自分はかなり好きなので、桃子と龍毅の絡みもすごく好きです。
あとは桃子が龍毅の告白をどう返事するのか期待してます。


余談ですけど、名古屋のハロ紺、自分も参戦しました。
松輝夫さん、茉麻に指を差してもらえるとか反則ですよwww
そろそろベリーズのツアーも始まりますし色んな意味で熱い夏が始まりますね♪♪
それに明日は4thアルバム発売日〜おめでとうとゆいたい☆★
424小僧すし:2007/07/31(火) 23:11:31 ID:0OKGC9QT0
連投すいません!!

さっきの文で応援団員さんに「さん」が入ってないです…ほんと申し訳ないです。
425ミヤビイワナ:2007/08/01(水) 18:55:19 ID:JUL9jpsY0

世紀末さんから自分にメールで原稿が送られてきました。

確かに前自分が彼から送られた原稿を彼の代わりに書き込みましたが、それはちょっと違うと思いました。

今回は自分に何の断りもなく次々メールを送ってきました。

私は送られたメールを板に書き込む約束はしていないので必ず書き込むとは言えないです。

誰が何を勝手にこの板に書き込むのは結構ですがアップするのが面倒くさいから自分に断りもなくメールを送って来るのはやはり学生の自由さなのかな。

自分は一応社会人でそれなりの立場を持っています。

自分を拘束するだけの物が世紀末さんにあるのか、彼自身が考えなければならないでしょうね。

それに物語を書くにあたっては良く他の作家と調整してストーリーの軸を合わせなければなりません。

勝手に書き込むのは結構ですよ、話の流れを乱してもそれはしょうがない、もともと2ちゃんはそう言うのが楽しいのだから。

しかし自分的には世紀末さんのやり方は認められません。

なので世紀末さんは他の手段を使ってここで書く作家ともなんの調整もしないで好き勝手にやって頂いて結構。

他の手段を使って頑張って下さいね、
それでは「さようなら」。
426松輝夫:2007/08/03(金) 10:26:45 ID:f6xqRTpSO
川*^∇^)| 今日は私の誕生日!

友理奈嬢、誕生日おめでとうございます。ますますキレイになっちゃって、とても14歳とは思えませんね。
昨年の今日は、愛知で聖誕記念公演に参加していたのを思い出します。
今月29日には写真集もでますし、ますますの活躍を期待したいところです。

で、ようやく今書いてる作品も終わりが見えてきたので友理奈嬢聖誕記念で更新しようかと思ったんですが、なんか書き込める雰囲気じゃないような……とりあえず今月中には終わります。

とりあえず世紀末氏、なんでご自身で書き込めないのか自分にはわかりませんが、人にはそれぞれ事情がありますからね、人に何かをお願いするなら筋を通さないと。

さて小僧すし氏。お久しぶりですね。パソコンが壊れてたんですか。
ようやく先が見えてきましたよ。もう少しお付き合い下さいね。
名古屋公演に来てたんですか。小春とさゆの誕生祝いができて良かったですよね。昼は席が異常に近かったので悶え死んでましたよ。

イワナ氏。
自分も、今本編の流れを自分の所で止めたり、イワナ氏に迷惑かけまくりですよね。誠に申し訳ないです。
ですが、精一杯がんばりますから、お見捨てなきよう、よろしくお願いしますm(_ _)m
427ミヤビイワナ:2007/08/03(金) 18:09:40 ID:mxMAzzjZ0

輝夫さんお疲れです。

気にせずどんどんやって下さい。

自分が言いたいのは「2ちゃん」は自由だ!!

誰が何を書いても結構!!

しかし、自分の手で書き込みましょう、それ以上を求めるときは調整しましょう。

輝夫さんも気にせず自由にどうぞ、今までの話は凄くお互いで調整したので迷惑ではないですよ、実際読者の方々も喜んでいます。

輝夫さんの活躍にイッパイ期待です。
428ねぇ、名乗って:2007/08/03(金) 21:18:36 ID:tO1/3suB0
熊井ちゃん誕生日おめでとう。
熊井ちゃんの写真集は、その美貌を強調したものであってほしいと
思う今日この頃です。
本家の金八も今年10月から第8シリーズが始まるそうですね。
http://www.zakzak.co.jp/gei/2007_08/g2007080314.html
429世紀末:2007/08/04(土) 14:21:24 ID:qwtWrbhV0
イワナさん・・・
申し訳ありませんでした
確かに自分には甘えがあったと思います
これからは自分で更新できそうなので
自分で更新します。
さて新作の内容はズバリ雅の初恋についてです
中学一年生の雅が3年生の先輩に恋するという話です
大体は出来上がっているので出来しだい載せます
430世紀末:2007/08/04(土) 14:22:25 ID:qwtWrbhV0
もう1人の兄貴


11月の昼下がり龍毅は授業をサボって校舎裏で1人携帯をいじっていた。他の生
徒は進路を決まっている生徒が大多数だったのだが龍毅の心はまだ揺れ動いてい
た。それにまたアイツが帰ってくる…それを思うと授業にも出る元気が無かった
のだ。
「ハァ…またアイツが帰ってくるんかなぁ」
「アイツって誰?」
龍毅は後ろから突然声をかけられて慌てて振り向いた
「夏焼か…」
後ろには11月だというのにアイスを食べている雅が立っていた。
「アイツって誰?」
「別に…ちょっとな」
「気になるじゃん!!教えてよ」
「…もう1人の兄貴や。アメリカにいたんやけど今日帰ってくるらしい」
「で、いつくるの?」
「もうすぐ来るわ。俺もそろそろ行くしな」
龍毅はそう言うといきなり立ち上がって走り出した。
雅も気になり無我夢中で走った。
そして校門に付いた龍毅に追いつくと1人の声が聞こえた
431松輝夫:2007/08/04(土) 14:26:12 ID:TjzeufykO
>>428
熊井ちゃん写真集は期待大ですよね。
今までBerryz工房のソロ写真集には全く手を出してなかったけど、今回だけは買おう☆カナ?

川*^∇^)| さて、一日遅れの私の生誕記念更新スタートですよ?Let's enjoy!

>>417

「起立!」
担任の金八が教室に入ってくると、日直がすかさず号令をかける。
日直の号令に立ち上がった佐紀は、教壇に向って歩く金八と目が合った。
佐紀の姿を視界に捉えた金八も一瞬驚いたような顔をしたが、小さく頷くと何もなかったように教壇に立つ。
「…礼!…着席!」
号令に従って生徒たちが席に着くと、金八は教壇から教室を見渡す。
「あの…先生、私…」
不意に佐紀が立ち上がったが、金八は手を上げて佐紀の言葉を遮った。
「佐紀、たぶん君が言いたいことはわかっているから…だから座りなさい」
「でも、私…」
「いいから、座りなさい」
再度金八に言われ、佐紀は席に着いた。
「今日はまず君たちに話しておきたいことがあります。既に知っていると思いますが、昨夜このクラスの大切な仲間が一人、自ら命を絶とうとしました。もちろん彼女は無事でしたが、昨夜のこの件では皆も驚いたと思う。すまなかった」
金八は教室中を見渡して頭を下げた。
432松輝夫:2007/08/04(土) 14:27:49 ID:TjzeufykO
「もちろん、彼女は決して軽い気持ちでそんなことをしたわけではありません。彼女には深刻な悩みがありました。それを誰にも打ち明けられず、一人で傷つき、悩み、苦しんだ末に自殺という選択肢を選んでしまった…。
それでも私は、例えどんな理由があっても自ら命を絶つなんてことだけは絶対にして欲しくない。世の中には生きたくてもそれが叶わない人もいるんです。どうか皆さん、もう一度、命の重さを、大切さをよく考えてください。
そしてもう一つ、人は一人では生きていけないのです。もちろん、自分の力で頑張ることはとても大切なことです。ですが、生きていくうえで自分一人の力だけではどうしても解決できないこともあるでしょう。
そんな時に仲間の力を借りるのは決して恥ずかしいことではありません。だから、皆さんにはぜひそんな仲間を見つけて欲しい、そして逆に誰かが困っていたら手を差し伸べられる、そんな人になって欲しい。それが私の願いです」
生徒たちは思い思いの表情で頷く。
「最後に―――彼女は自分のしてしまったことを深く反省しています。だから、皆もそれを受け入れて、過ちを許してあげてください。お願いします。さて、この話はここまで。HR始めるぞ」
こうして、いつもの3Bの一日が始まった。
433世紀末:2007/08/04(土) 14:36:42 ID:qwtWrbhV0
「龍毅!!」
その声の方には金髪のオールバックの青年がいた
後ろにはベースを担いでいる。
「真二兄貴…」
どうやら龍毅の様子ではこの人物が兄貴のようだ
「龍毅!!元気やったか?お前もデッカくなったなぁ」
ハイテンションでそう言うと雅の方も見た。
「龍毅この子は?」
「ウチのクラスの友達や」
すると真二はニヤっと笑いサングラスを外して雅に近づいた
「どうも龍毅の兄貴の神谷 真二です。今はアメリカでベーシストやってます。よ
ろしく!!」
真二はそう言うと雅に手を差し出した
雅はそのテンションに圧倒されてしばらく真二の顔を見ていた。雅はもう1人の
兄貴の廉を思い出したが同じ兄弟とは思えなかった。そしてようやく雅も手を差
し出して握手した
「夏焼 雅です。よろしくです」
「兄貴、早く行こう。廉兄貴も待ってるわ」
「ハイハイお前はせっかちやな。じゃあ雅ちゃん、またな」
真二はそう言うと嵐の様に龍毅と去っていった。
雅はその光景を呆然と見ていた…

434松輝夫:2007/08/04(土) 14:36:54 ID:TjzeufykO
『坂本先生らしいな…』
座って話を聞いていた佐紀は思う。
金八が、これ以上佐紀が傷つかないように気を遣ってくれたのがよくわかった。
そしてその日一日、クラスの皆もまた普段と変わらず接してくれた。
『やっぱりここが私の居場所…あの時死ななくてよかった…』
自分がこんなに前向きな気持ちになれるなんて、今でも少し信じられない気がする。
でも、今の私ならきっとお母さんともやり直せる、だから、後はお母さんを信じて待ってあげよう―――改めてそう誓う佐紀だった。
その日の放課後―――
「佐紀、ちょっといいかな」
金八に呼ばれ、佐紀は職員室にいた。
「どうだい?美貴の家は」
金八は職員室の応接スペースで佐紀をソファに座らせると、自らも佐紀の向かい側に腰掛けながら尋ねた。
「美貴先輩もご両親も優しくしてくれます」
「そうか、それはよかった。寂しくないかい?」
「…先生、そんなに心配しないでください。私、もう大丈夫ですから」
「佐紀…」
「お母さんは必ず迎えに来てくれます。私、信じてます」
金八の目をまっすぐ見ながらそう言い切った佐紀に、金八は少し驚いた。
佐紀の言葉が、強がりとか自棄から発せられたものではないことがわかるから。
昨夜の佐紀は、やはり心のどこかで引っかかるものを金八に感じさせていたが、昨夜美貴の家で何があったのだろう。
しかし金八は詮索はせずに、ただ黙って頷くのだった。
435世紀末:2007/08/04(土) 14:37:16 ID:qwtWrbhV0
「で、兄貴はいきなり何で帰ってきたんや」
龍毅と真二は廉を交えて三人で自宅マンションのリビングの椅子に腰掛けていた

「久しぶりに会ったのに冷たい奴やなぁ。まぁ廉兄貴からお前がオーディション
に受かった事を聞いたんや」
「聞いたんか…で、その事がどうしたん?」
「お前はアメリカに行くんか?」
龍毅はこれまで軽い表情をしていた真二がいきなり厳しい表情をしたので少し驚
いた。
「…まだ決めてないんや」
「やっぱりそうやろうと思ったわ。東京に来てお前の顔見た時からな」
「どういう事や…」
「お前何で東京にいるんや。京都のままでええやないか。まだ楓ちゃんの事気に
してんのか?」
「兄貴には関係ないやろうが」
「関係あるわ。お前さては逃げたな。だから東京来たんやろ」
「その事は兄貴には関係無いやろ!!」
「お前はまた逃げんのか。野球も空手もそうやろ。勝手に辞めやがって」
「黙れ!!兄貴だって親父から逃げたやろうが」
すると真二は一呼吸おいて続けた。
「だから今回親父に話するために帰ったんや。お前は俺が逃げたと思ってるやろ
。でも違うぞ」
436松輝夫:2007/08/04(土) 14:38:41 ID:TjzeufykO
―――『焼肉ふじもと』は、終日人で賑わっている。
その日の夜、佐紀は物陰から店内の様子を窺って息を呑んだ。
『すごい…』
飾り気の無い地味なつくりの店内だが、嫌でも食欲をそそるいい匂いと人々の活気で満ち溢れていた。
以前TVでこの店が紹介された時、たまたま佐紀もそれを見ていてすごいと思ったものだが、目の前でそれを見てそのすごさを改めて実感した。
「今日はまあまあ混んでるかな。でも、今日は平日だし、これが過ぎたら落ち着くと思うけど。混む時は外にも順番待ちの列ができちゃうけど、今日はそこまでいかないだろうな」
夕飯の支度をしながら美貴が言った。
これから、佐紀は仕事の合間に休憩をもらった美貴と二人で少し遅めの夕飯の時間だった。
「ウチの店は忙しいのがちょうど夕飯の時間だからさ、夕飯はいつも交代で食べてるんだよね。だから朝と昼はなるべく全員揃って食べるようにしてるんだ―――さてと、冷めないうちに食べようか」
美貴の言葉に佐紀は席につき、二人っきりの夕飯の時間が始まった。
さすがに『ふじもと』の跡取りらしく、短い時間の中で用意されたとは思えない夕食だった。
「まあ、もうちょっと時間があればちゃんとしたの用意できるだけんだけどさ。佐紀は料理とかしないの?」
「…私、料理は全然ダメで…」
小さい頃から勉強でもスポーツでも、他のことでも大概のことは人並みに、あるいはそれ以上にこなして来た佐紀だったが、料理だけはどういうわけか苦手だった。
「そっかぁ。でも、料理くらいできたほうがいいぞ?ここにいる間に少しくらい教えてあげたられたらいいけどねぇ」
「ええ…あの、先輩」
「どうした?」
「何か、私にも手伝えること無いですか?みんな忙しそうなのに、私だけ何もしないでいるのは…料理はダメですけど、他にできることがあれば…」
美貴は手に持っていた茶碗を置くと首を振った。
「…佐紀、そんなに気を使わなくていいんだよ。でも…そうだな、夕飯の後片付けと、あとは風呂の支度でもしてくれれば助かるかな。それが終わったら、あとはゆっくりしてなよ」
「…はい」
437世紀末:2007/08/04(土) 14:41:40 ID:qwtWrbhV0
後、調整とはどんな調整をしたらいいのでしょうか?
教えていただけると嬉しいです
438松輝夫:2007/08/04(土) 14:48:53 ID:TjzeufykO
なんか、同時に更新してしまったみたいorz読者の皆さん、読みづらくてすみませぬm(_ _)m

ノリo´ゥ`リ そんなあんたのはなをぷーん

>>437
おかえりー!また一緒に頑張りましょう。
調整っていうと、自分とイワナ氏は連絡取り合ってお互いの作品が矛盾しないようにしていますよ。
世紀末氏も同じ一つの作品を一緒に作っている同志なんだから、よかったら連絡くださいな。
439松輝夫:2007/08/04(土) 15:56:52 ID:TjzeufykO
川*^∇^)| まだまだ更新いきますよ!

>>436

「はぁ…」
佐紀は美貴の部屋で天井を見上げてため息をついた。
夕飯の後片付けも風呂の支度もそんなに時間がかかるものではなくあっさりと終わってしまったため、佐紀は下にいても仕方ないので二階の美貴の部屋に来ていた。
明日の学校の準備も終わってるし特にやることも無いので、佐紀は美貴が飼っているハムスター・ムクをケージから出して手の上に乗せて眺めている。
佐紀は自分の手の上で毛繕いをしているムクを眺めながらふと思った。
『そう言えば近くに公園があったっけ、今から踊りに行こうかな…』
佐紀は夜中に一人で踊るようになってから、何か外せない用事か、雨でも降らない限りはほぼ毎日踊ることを欠かしたことは無かった。
そうだ、昨日は行けなかったけど、今日これから行ってみよう。
行って思いっきり踊ってこよう、せっかく今生きているんだから。
そうと決めた佐紀は、ムクをケージに戻すとウインドブレーカーを羽織って階段を下りていった。
階段を下り切った所で美貴と出会った。
「佐紀…どうした、そんな格好で」
「あ…その、ちょっと出かけてきます」
「今から?どこ行くの?」
「あの、公園まで…すぐ戻ってきますから」
「そうか…気をつけて行ってきなよ」
「はい」
―――『ふじもと』を出た佐紀は、近所にある小さな公園に来ていた。
公園には佐紀以外誰もいない、ただ静寂に支配された暗闇があるのみだった。
公園に着いた佐紀は、思い切り伸びをするとウインドブレーカーをベンチに脱ぎ捨てる。
夜の冷気を肌に感じながら佐紀は踊り出した。
440松輝夫:2007/08/04(土) 15:58:59 ID:TjzeufykO
一方、美貴は佐紀の後をつけて公園に来ていた。
一体こんな時間に一人で公園に何をしに行くのか、興味もあったが何より心配だった。
『アイツ…こんな時間にこんな所で何するつもりだろう…』
不意に佐紀が立ち止まったので慌てて美貴は木の陰に隠れる。
「…」
木の陰から見守る美貴の前で、佐紀は大きく伸びをしてからウインドブレーカーを脱ぎ捨てるとおもむろに踊りだした。
「すごい…」
美貴は佐紀のダンスを実際に見るのは初めてだったが、小春が口を極めて絶賛するのも、あの夏まゆみに認められたというのも「なるほど」と納得してしまう説得力があった。
激しく大胆に空気を引き裂いたかと思えば、夜の静寂と一体化するかのようなしなやかで繊細な動き、佐紀のダンスはさまざまな表情を見せる。
小さく華奢な身体から力強さと繊細さを放ちながら生き生きと踊る佐紀の姿は、まさに命の躍動そのものだった。
そして、自分は今ココにいるよと、精一杯生きているよ、と懸命に訴えているように美貴には思えた。
その時、佐紀のダンスに見入っていた美貴は後ろから背中をつつかれた。
美貴が振り返ると、いつの間にか後ろには小春がいた。
「小春…何やってんだよ、こんな時間に」
佐紀に気づかれないよう、小声で問いかける。
「だってぇ、たまたま窓の外見てたら佐紀ちゃんがお姉ちゃんの家から出て行って、そしたら今度はお姉ちゃんも出て行ったからどうしたのかなって…お姉ちゃんこそ何やってんの、こんな所で」
同じく小声でそう言いながら小春は、美貴の肩越しに踊る佐紀の姿を捉えた。
「あれ、佐紀ちゃん?」
「ああ。話は聞いていたけど、すごいな」
「でしょ?でも…なんか前に見た時よりもっとすごくなってる気がするな。上手く言えないんだけど、何か吹っ切れたというか…」
その後は美貴も小春も無言のまま、ただ佐紀のダンスに見入るのだった。
441松輝夫:2007/08/04(土) 16:01:30 ID:TjzeufykO
―――佐紀が美貴の家に来て一週間が過ぎた。
その間も桜中学の生徒たちは来月の終業式に向って残り少なくなった二学期の学校行事をこなしていた。
三年生は既に三者面談が終わり、今は今月末に控えている中学校で最後の文化祭の準備に忙しかった。
3Bでも佐紀を除く全員が三者面談を終え、他のクラス同様文化祭の準備に力を注いでいる。
「もう一週間か…」
火曜日の放課後、金八は職員室の自分の席で呟いた。
「坂本先生、いまだに清水の母親から連絡とかないんですか?」
金八の呟きを聞きとがめた乾に尋ねられ、金八は黙って頷いた。
「困ったもんですなぁ。それに比べて、あの娘の健気なことといったら・・・あの騒ぎの時は一時どうなるかと思いましたが、今では立派に立ち直って…私はね、時々あの娘がかわいそうで見ていられなくなるんですよ」
乾はそう言いながらため息をついた。
最近の佐紀はとても活発で明るく、少し前まで虐待を受けていたとか、現在母親と離れ離れになっているとか、そういったことを全く感じさせない。
そして、今までの自分と決別するかのように、積極的にクラスに溶け込もうとしていた。
そんな健気な佐紀の姿が、金八たち教師のように彼女の抱える事情を良く知る者にはいじらしく感じられて仕方ない。
「…佐紀は今でも母親を信じて待っています。我々は彼女が信じるものを一緒に信じてあげるしかないんでしょうなぁ」
金八が乾に答えた時だった。
「坂本先生、お客様ですよ」
呼ばれて立ち上がった金八は、職員室の入り口を見て驚いた。
「清水さん…」
金八の目に入ってきたのは、たった今乾と話題にしていた佐紀の母親・まゆみの姿だった。
金八と目が合ったまゆみは、深々と頭を下げた。
442松輝夫:2007/08/04(土) 16:03:23 ID:TjzeufykO
今日も『焼肉ふじもと』は相変わらずの賑わいだった。
値段は決して安くなく、むしろかなり高めの部類だったが、それでも評判を聞きつけ遠くからわざわざ来る人は後を絶たないし、リピート率もかなり高かった。
「ありがとうございましたーーーっ!!」
また一組、満足そうな表情の客を送り出し、美貴は一息つくと時計を見た。
そろそろ忙しさも一段落する時間だし、そして佐紀はたぶんいつもの場所で踊っている頃だろう。
そんなことを考えながら美貴は、ある人物の来訪を待っていた。
『もう来てもいいと思うんだけど…道にでも迷ったか?それとも…気が変わったとか言い出すんじゃないだろうな…』
その時、店の扉が開いた。
「いらっしゃ…」
言いかけて美貴は絶句する。
入ってきたのはまゆみだった。
―――居間で美貴とまゆみは向かい合って座っていた。
「それにしても、ずいぶん時間かかりましたねぇ」
美貴は敢えて挑発するように言った。
佐紀には悪いが、美貴は今もまゆみを信じてはいない。
この日の夕方、金八からまゆみが学校に来たこと、これから『ふじもと』に向うことを美貴は聞いていた。
にもかかわらず、美貴は佐紀がいつものように公園に向うのを止めなかったし、そもそもまゆみが『ふじもと』に来ること自体も教えていない。
まゆみが本当に変わったのか、それを見極めるまで佐紀に会わせるつもりは無いからだった。
「…すみません」
「別に謝ってもらう必要は無いですけどね。で、そろそろ聞かせていただけますか?これからあの娘をどうするのか、というより、一番問題なのはあなたがどうするのか、ですが」
相変わらず挑発的な口調で美貴は尋ねる。
443松輝夫:2007/08/04(土) 16:33:28 ID:TjzeufykO
「もしあなたがあの娘とやっていけないというなら、ウチで本当に引き取っても構わないんですよ。あの娘のためにもその方が良いと思いますがね」
美貴は口ではそう言ったものの、無論本心ではない。
最悪の場合はそうすることも考えてはいるが、佐紀の気持ちは十分すぎるほど知っている美貴だから、誰よりもそんなことにはなって欲しくないと願っている。
まゆみの本音を引き出すためにわざと言ってみせたのだ。
『さて…どうしますか?』
美貴は黙ってまゆみの言葉を待つ。
短い沈黙の後で、まゆみはまっすぐ美貴の目を見ると口を開いた。
「私…この一週間いろいろ考えました。今まで自分があの娘にしてきたことを。そして、もしあの娘が死んでいたら私はどうしていただろうって。
そして気づいたんです。結局、私は昔自分が父にされていたことと同じことを娘にしていたことに。そんな自分に無性に腹が立って…情けなくなって…。
最初は、正直言ってあの娘を置いてこのまま逃げてしまおうかとも思いました。でも、それじゃまた逃げてるだけで何の解決にもならないんですよね。
だから、坂本先生が言うようにもしあの娘がまだ私と一緒にいたいと思ってくれているなら、もう一度あの娘とやり直そう、今度こそあの娘とちゃんと向き合おう、そう覚悟を決めたんです。
このままじゃ、恥ずかしくてあの娘の父親にも顔向けできませんから…」
今まで黙ってまゆみの話を聞いていた美貴は不意に立ち上がった。
「あの…ちょっと付き合ってもらえますか?」
まゆみは怪訝な表情で美貴を見上げたが、黙って頷いた。
―――美貴とまゆみは近所の公園に来ていた。
美貴は何も言わずにそのまま暗い公園の中に入っていき、まゆみも無言のままその後をついていった。
「…いたいた。見えますか?」
立ち止まった美貴が指差すその先に、踊る人影らしきものをまゆみは認めた。
「あれ…佐紀ですか?」
まゆみの言葉に美貴は頷く。
444松輝夫:2007/08/04(土) 16:37:07 ID:TjzeufykO
「ウチに来てから、毎晩ああやってここで踊ってるんです。踊ることで、自分が今確かに生きていることを実感してるんじゃないかと私は思ってます。
初めてあの娘のダンスを見た時、声が聞こえた気がしたんです。『自分は今ココにいるよ。精一杯生きているよ』って、そう訴えてる気がしたんです。
あの娘、本当は死にたくなんてなかったはずです。なのにあんなことをした。そこまで追い詰められていたんですね。そのことを、もう一度よく考えてください」
美貴は、無言のまま踊る佐紀の姿を見つめているまゆみの横顔を見た。
「―――私の今の両親は、本当の両親じゃありません。私の本当の両親は私を生んだ直後に亡くなったそうです。だから、私は親の顔も声も知りません。
私には姉もいます。もちろん血は繋がっていません。でも、私の両親は実の娘と区別することなく私を今まで育ててくれました。
ウチみたいに血が繋がっていなくても、いろいろあったけどこうやって本当の家族になれたんです。実の親子にそれができないはずが無いと思います。だからあなたと佐紀にもきっとできるはずです。
私は、今でもあなたが佐紀にしたことを許せません。でも、佐紀が信じるあなたを私も信じたい…だから、今度こそあの娘の気持ちに応えてあげて下さい。お願いします」
美貴は頭を下げた。
「藤本さん…頭を上げてください。坂本先生にお話は聞いています。私の方こそ…今までありがとうございました。なんとお礼を申し上げていいやら…」
「お礼なんて…あの娘が幸せになってくれれば、それで十分です。それよりも、今まで失礼なことを言ったりして申し訳ないです」
いったん顔を上げた美貴だが、再び頭を下げる。
「…藤本さん、止めてください。もう、すんだことですから。それより、あなたのおかげであの娘の誕生日をちゃんと祝ってあげられそうです」
「誕生日?」
「ええ、明日なんですけど…その日を私たちの新しい出発の日にしたいと思って…」
445松輝夫:2007/08/04(土) 16:38:21 ID:TjzeufykO
この時美貴の頭の中に閃くものがあった。
「あの…ちょっといいですか」
美貴は今閃いた考えをまゆみに打ち明ける。
「…私はかまいませんし、あの娘もきっと喜ぶと思いますけど…いいんですか?散々お世話になったばかりか、そこまでしていただいて…」
美貴はまゆみに向かって頷いてみせる。
「…わかりました。お言葉に甘えさせていただきたいと思います」
446松輝夫:2007/08/04(土) 16:40:13 ID:TjzeufykO
翌日の夕方、学校から戻った佐紀は『ふじもと』の店先に張り出された張り紙を見上げて怪訝な表情をしていた。
『本日休業』
何度見直しても、張り紙には確かにそう書いてある。
『どういうこと?昨日はそんな話してなかったよね』
最近の佐紀は、藤本家の家の手伝いだけでなく店の手伝いもしたいと思い、開店前の『ふじもと』の店内を掃除することを自らの日課にしていた。
当然今日も学校から戻ったら早速そうするつもりだった。
事態が飲み込めないまま店の扉を開けて中に入った佐紀は、目に飛び込んできた光景にさらに愕然とする。
普段は飾り気の無い無骨な印象のある店内が、テープやモールなどで派手に飾り立てられていた。
『な…何なの、これ?どういうこと??』
全くわけがわからなかった。
「お、帰ったか。お帰り」
その場に立ち尽くしていた佐紀は後ろから美貴に声をかけられた。
「あの…先輩、これはいったい何なんですか?表には今日はお店休みって書いてありましたけど」
「そうだよ。今日はめでたい日だからね。何しろ誕生日だからさ、ココでお祝いのパーティをやるんだ」
「そうなんですか。でも、誰の誕生日なんですか?」
佐紀の言葉に美貴はため息をつくと呆れた口調で言った。
「…アンタさぁ、自分の生年月日言ってみ?」
「…えっと、1991年11月…ええっ!?」
「わかったら、主役は準備終わるまで部屋で待ってなよ。もう少ししたら小春も来るしさ。ほ〜ら、準備の邪魔だから行った行った」
美貴はドンと佐紀の背中を押した。
447松輝夫:2007/08/04(土) 17:16:00 ID:TjzeufykO
佐紀は美貴の部屋で着替えを済ませると、ケージの中でさっき佐紀が与えたばかりのヒマワリの種をほおばるムクを眺めていた。
美貴の部屋に来る途中、美貴の両親にも帰宅の挨拶をしてきたが、二人ともパーティの準備に余念が無い様子だった。
それにしても、誕生日を祝ってもらうなんていつ以来だろう。
美貴に呆れられたように、今日が自分の誕生日であることを佐紀はすっかり失念していた。
そんな佐紀も、父が亡くなるまでは毎年ちゃんと誕生日を祝ってもらっていた。
テーブルを彩るのは大好きなお母さんの美味しい料理、そして家族三人の笑顔…一年の中で佐紀がもっとも幸せを感じられる日だった。
父が入院していた時でさえ、それでも病室でささやかに祝ってもらったものだ。
しかし、それが親子三人揃って誕生日のお祝いをした最後の記憶だった。
やがて父が亡くなり母と二人っきりの生活が、そして虐待が始まると、当然誕生日を祝ってもらうようなことも無くなった。
だから、彼女にとって誕生日なんてものは別にめでたいものでもなんでもなく、単に何年か前のその日に自分が生まれた、ただそれだけのものでしかなかった。
そんな彼女だから、自分の誕生日を忘れていたとしても無理は無かったかもしれない。
448松輝夫:2007/08/04(土) 17:16:53 ID:TjzeufykO
「でも、先輩は何で私の誕生日知ってるんだろ?先生に聞いたのかな…それに、何で私にここまで優しくしてくれるんだろ」
佐紀の呟きが聞こえたわけでもないだろうが、ムクは一瞬佐紀の顔を見たが、再びヒマワリの種をかじり始めた。
確か、以前桃子がオーディションに誘ってくれた時にも同じようなことを考えた気がする。
佐紀は、最近明らかに自分が変わったことを、彼女自身でも意識していた。
だが、今まで誰かと深く関わることを意識して避けてきた彼女だけに、誰かに優しくされたりすると、時々むず痒いような、妙な感覚に陥るのを避けられなかった。
『余計なことは考えない…甘えていい時には素直に甘えさせてもらおう、甘えっ放しはよくないけど…でも、今はそれでいいんだよね、きっと』
そう思えるようになったことが、今日、一つ歳をとった自分の成長の証と考えてもいいだろうか。
しかし、せっかくみんながお祝いをしてくれるのだから素直に喜ぼう、そう決めた佐紀の心に、それでも引っかかるのはやはり母・まゆみのことだった。
これでお母さんが一緒だったらどんなに嬉しかっただろう―――どうしてもそう思ってしまうのは無理もないことだっただろう。
449松輝夫:2007/08/04(土) 17:18:43 ID:TjzeufykO
「さ〜きちゃん」
ムクを眺めながら物思いに耽っていた佐紀は後ろから声をかけられた。
振り返ると小春が立っていた。
「小春ちゃん…」
「お誕生日おめでとう!これからも小春のお友達でいてくださいね」
「う、うん…どうもありがとう」
「…佐紀ちゃん、どうしたの?せっかくのお誕生日なのに嬉しくないの?」
「そ、そんなんじゃないよ…」
「小春はお誕生日嬉しいけどなぁ。皆でお祝いくれるし、おいしいものたくさん食べれるし、プレゼントまでもらえちゃうんだもん」
佐紀は小春が抱えている過去を知っている。
だが、小春自身の口から聞くまで彼女がそんなものを抱えているなんて気づかなかったし、にも拘らずいつも明るく振舞える小春が佐紀にはうらやましかった。
「嬉しくないわけじゃないよ。ただね、慣れてないんだ、こういうの…」
小春はハッとなった。
佐紀がいろいろと複雑な事情を抱え込んでいたことは美貴から聞いている。
そして思った。
『私、もしかして悪いこと言っちゃったかも…』
小春の表情が暗くなってしまったのに佐紀もすぐ気づいた。
「ゴメンね、小春ちゃん。小春ちゃんは悪くないのにね。お祝いしてくれてありがとう。これからもよろしくね」
「うん!あ、そうそう、そろそろ下りておいでってお姉ちゃんが言ってました。一緒に行きましょ」
そう言って、小春は佐紀の手を取ると部屋を出て行った。
450松輝夫:2007/08/04(土) 17:54:25 ID:TjzeufykO
小春と一緒に一階に下りて行った佐紀は、改めて目の前に飛び込んできた光景に目を見張った。
派手に飾り立てられた店内の一角のテーブルの上に、たくさんの料理の皿、飲み物とグラスが用意されている。
「すごい…」
佐紀はそれ以上言葉にならなかった。
「ホントだ…って言うかお姉ちゃん、今年の小春の時よりも豪華じゃない?どういうこと!?」
小春が口を尖らせて美貴に抗議する。
「そりゃあ、佐紀は生意気な誰かさんと違って素直だからなぁ」
「ひど〜い、こんなにかわいくて素直な妹なのにぃ」
泥沼になる前に真奈美が間に割って入った。
「ほらほら、二人ともケンカしない。今日は佐紀ちゃんの誕生日をお祝いするんでしょう?早く乾杯しましょう」
昭二も早く飲ませろと言わんばかりにグラスを持って待ち受けていた。
「かんぱーい!」
五人の声に五つのグラスが触れ合う音が重なりパーティが始まった。
「佐紀ちゃん、ローソク消してみてよ?」
テーブルには火が点いた15本のローソクの刺さったケーキがある。
佐紀は小春の言葉に頷くと、一気にローソクの火を吹き消した。
「おめでとー!」
「あ…ありがとうございます」
皆からの祝福の声に佐紀は頭を下げた。
「そうだ、小春とお姉ちゃんからプレゼントがあるんだよ。これ、受け取ってね」
小春はそう言ってリボンで飾られた小さな箱を差し出した。
451松輝夫:2007/08/04(土) 17:55:58 ID:TjzeufykO
「小春ちゃん…ありがとう。開けてもいい?」
「もちろん!気に入ってくれるといいなぁ」
佐紀は小春から受け取った箱を開けた。
中にはピンクの水玉模様の太目のカチューシャ―――
「かわいい…ありがとう、大切にするね」
「よかったぁ、気に入ってくれて。気に入ってくれるか心配してたんだ」
小春は胸を撫で下ろした。
「先輩も…どうもありがとうございます。まさか誕生日を祝ってもらうだけじゃなくてプレゼントまであるなんて思ってませんでした…」
「ああ、よかったよ喜んでくれて…って、おいおい、泣くなよ」
目に涙を浮かべている佐紀を見て美貴は言った。
「せっかくかわいい顔に生んでもらったのに、泣いてたらもったいないぜ?」
美貴の言葉を聞きながら、佐紀も思う。
最近ずいぶん涙もろくなったような気がする、いつから自分はそんなに弱い人間になってしまったんだろうか…。
「そうだよ〜、おめでたい日なんだから笑ってよ、佐紀ちゃん」
小春にも言われ、佐紀は涙を拭くと精一杯の笑顔を見せた。
「そうそう!佐紀ちゃん笑うとすごくかわいいよ」
「…や、止めてよ小春ちゃん…恥ずかしいから」
本気で恥ずかしがる佐紀の様子に、美貴や美貴の両親の顔もほころぶ。
「やだぁ、佐紀ちゃん顔真っ赤!照れてるんだぁ、かわいいーっ」
「もう、小春ちゃんったら!怒るよ!?」
小春にからかわれ、そうは言った佐紀だったが、本気ではないのは彼女の顔を見れば誰の目にも明らかだった。
452松輝夫:2007/08/04(土) 17:57:42 ID:TjzeufykO
『ふじもと』の店内では楽しい時間が過ぎていた。
おいしい料理、絶えない笑い声―――佐紀はパーティがこんなに楽しいものだとは知らなかった。
今まで周囲の人々と深く関わることを拒絶してきた佐紀にとって、多くの人が集まってパーティなんて考えられなかったから。
そんな佐紀は、美貴がさっきからしきりに時計を気にしているのに気がついた。
「ねえ、お姉ちゃん、どうしたの?さっきから時計ばかり見てない?」
小春も同じことに気づいたらしく、美貴に問うた。
「い、いや、なんでもないよ」
そう答えた美貴だったが、相変わらず時計が気になるらしい。
その時、不意に美貴の携帯が鳴った。
「…はい…ええ、わかりました。今すぐ行きます」
そう答えて美貴は電話を切った。
「ゴメン、ちょっと出てくる」
「ちょっとお姉ちゃん、何言ってんの!せっかくの佐紀ちゃんのお誕生日のパーティなのに」
「悪い悪い、すぐ戻るからさ」
そう言うと美貴は店の外に出て行った。
「もう!相変わらず自分勝手なんだから!」
「小春ちゃん、先輩だって忙しいんだろうし、仕方ないよ」
憤る小春を佐紀が宥めていると、やがて入り口の扉が開いて美貴が戻ってきた。
「お姉ちゃん!どこ行ってたの!?」
「悪い悪い。それより佐紀、実はスッペシャルなゲストに来てもらったんだけど…いいかな?入ってもらっても」
ゲストって一体誰なんだろう、そう思いながら佐紀は頷いた。
453松輝夫:2007/08/04(土) 17:59:47 ID:TjzeufykO
「どうぞ」
美貴が店の外に向かって声をかける。
そして、店の中に入ってきた人物を見て、佐紀は一瞬自分の目を疑った。
「お…お母さん…」
見間違いでもなんでもなく、そこには確かに佐紀の母・まゆみが立っていた。
「…佐紀、誕生日おめでとう…遅くなってゴメンね…」
「悪いな佐紀、本当はお母さん昨日来てくれてたんだ。ただ、今日が誕生日だって聞いたから一緒にお祝いしたいと思ってもう一日待ってもらったんだ」
佐紀は未だに信じられないという面持ちでその場に立ち尽くしていた。
「ほ〜ら、どうしたんだよ。せっかくお母さんが迎えに来てくれたのにさ。ずっと待ってたんだろ」
「先輩…」
「今までの分も、思い切り抱きしめてもらってきなよ」
美貴は佐紀の背中を押した。
「お母さん!」
佐紀はまゆみに抱きつく。
「お母さん!お母さん!」
「佐紀…遅くなってゴメン…ゴメンね」
まゆみは佐紀をしっかりと抱きしめた。
「佐紀ちゃん、よかったねぇ…よかったねぇ…」
美貴が振り返ると、小春と真奈美が抱き合いながら顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
昭二は佐紀とまゆみに向って黙ってグラスをささげると、一気に飲み干す。
美貴も思わず目頭が熱くなるのを覚えるのだった。
454松輝夫:2007/08/04(土) 18:02:01 ID:TjzeufykO
「先輩、小春ちゃん…今までありがとうございました」
『ふじもと』の店先で佐紀は深々と頭を下げ、まゆみもそれに続く。
パーティが終わり、佐紀はこれからまゆみと一緒に自宅に帰るところだった。
「よかったね、佐紀ちゃん!また遊びに来てね」
「うん、ありがとう」
「気をつけて帰れよ。ま、お母さんがいるから大丈夫だろうけど」
「はい」
佐紀とまゆみは顔を見合わせて頷きあう。
「佐紀…佐紀には話してなかったけど、美貴の今の親は本当の親じゃないんだ。でもさ、いろいろあったけどそれでもうまくやれてると思う。
ウチみたいに血が繋がってなくてもうまくやれてるんだから、佐紀にもできないはず無いよ。お母さんと仲良くな。たまには遊びに来なよ」
「はい。ありがとうございます」
「藤本さん…もう、なんとお礼を言えばいいのか…」
「いえ…お礼なんていいんです。それより、佐紀のこと、しっかり守ってあげて下さい」
「はい…それはもう、必ず」
まゆみの言葉に美貴は頷いた。
「それじゃ、佐紀、そろそろ行きましょうか」
小春と美貴に会釈して、二人は歩き出した。
「…もう、大丈夫だよね。佐紀ちゃん」
「ああ、当たり前だろ。さてと…それじゃ後片付け始めるか」
「うん!小春も手伝うね」
佐紀とまゆみを見送った二人は『ふじもと』の店内に戻っていった。
455松輝夫:2007/08/04(土) 20:02:49 ID:TjzeufykO
佐紀とまゆみは自宅に向かって夜道をゆっくりと歩いていた。
まゆみは荷物を持つ佐紀を気遣って車を呼ぼうとしたのだが、佐紀は母親と一緒に歩いて帰ることを望んだのだった。
母と並んで歩くなんて何年ぶりだろうか、そんなことを思いつつ、佐紀は歩きながら美貴の家での出来事をまゆみに話して聞かせていた。
生き生きと話す佐紀の姿に、まゆみはこの一週間の間に娘がずいぶん大きくなった気がした。
それだけに、自分の犯してしまった罪の重さにともすれば押し潰されそうになる。
だが、それを背負う覚悟はしてきたはずだ、まゆみは自分にそう言い聞かせる。
「佐紀…ゴメンね、長く待たせちゃって」
「ううん!これからずっと一緒なんだし、気にしてないから」
母に答えながら佐紀は思う―――それにしても、長かったような、短かったような一週間だった。
彼女は一生忘れないだろう、美貴の家で過ごした一週間を。
「佐紀…母さんね、明後日あなたの学校に行くわ」
「お母さん?」
「坂本先生がね、三者面談をやってくださるそうなの。その時にも言うつもりだけど、今言っておくわ」
いったん言葉を切ったまゆみの顔を、佐紀は黙って見上げた。
「佐紀…あなたはあなたの夢を追いかけなさい…いえ、違うわね。お願い、夢を追いかけて。母さん、お父さんの分も応援するから」
「!…お母さん…いいの?」
「もちろんよ。お父さんだってそう願ってるはずだから。あなたの夢はお父さんと母さんの夢なの。だから頑張って。それから…この前はひどいことを言ってゴメンね」
「お母さん…もういいの。ありがとう、私、頑張るね。必ず、夢叶えてみせるよ。だって私、お父さんとお母さんの子供だもん」
まゆみは隣を歩く佐紀の肩を優しく抱いた。
佐紀の肩を抱きながら、まゆみは竜二を想った。
『竜二…私、今度こそあなたの分までこの娘を守り抜いてみせる。だからお願い、ずっと私たちを見守っていて…』
456松輝夫:2007/08/04(土) 20:04:41 ID:TjzeufykO
母に肩を抱かれながら歩く佐紀は、ようやく自分の進むべき「道」が見つかったことを感じていた。
『お父さん、先生、みんな、私の進む道、見つけたよ。これからはお母さんと歩いていくんだ、ずっと一緒に…』
その先には何が待ち受けているだろう、それはまだ佐紀にはわからない。
だが、もはや今の佐紀は一人ぼっちではなかった。
大好きなお母さん、大切な仲間、尊敬する先生…何があってもきっと乗り越えていけるだろう。
「佐紀…明日になったらお父さんのお墓参りに行きましょうか」
母の言葉に佐紀は即答した。
「うん、行こう行こう!お父さんきっと喜んでくれるよ」
「そうね」
佐紀の言葉にまゆみは微笑みながら頷いた。
その笑顔は佐紀の大好きなお母さんの笑顔だった。
冬空の下、街灯の光に照らされながら母と娘は寄り添いあって自宅への道を歩ていく。
佐紀にはその道が未来へと続く道のように思えた。
その道の先はきっと希望の光で満ちている、そう信じる佐紀だった。



FIND THE WAY
言葉なくても
飛ぶ翼(はね)はなくても
乱す風に負けぬ様に
進んだ道の先
確かな光を見た…
YUO'LL FIND THE WAY



FIND THE WAY(後編) 了
457松輝夫:2007/08/04(土) 21:01:21 ID:TjzeufykO
酔った勢いで一気に更新してもうた…

ノリo´ゥ`リ そんなあんたのはなをぷーん

…さて、佐紀ちゃんがヒロインとなった今回のお話、これにて終了でありますが、まずは最後まで読んで下さった方に満腔の感謝を捧げたいと思います。
今回のお話、こういう終わり方となりましたが、読者の方々はどう思われたのか、もし宜しければ感想などお聞かせいただければ幸いです。
しかし、だいぶ長引いてしまいました。申し訳ないです。特にイワナ氏には文化祭に取りかかれないためにサイドストーリーを書かせるハメに…まことに申し訳なく思いまする。

ノリo´ゥ`リ そんなあんたのはなをぷーん

…まあ、それはさておき、なんとかイワナ氏にはキレイな形で繋げたと、それだけは自負しています。

今回も、ワンパターンにも曲をモチーフに書いてみました。
今回使った曲は、タイトルにもなっていますが、中島美嘉の「FIND THE WAY」です。またしてもハローじゃないです。すみませぬ。

ノリo´ゥ`リ そんなあんたの…

しつこい!
まあ、それはさておき、この曲はアニメ「機動戦士ガンダムSEED」のEDとして使われた良曲です。是非一度聴いてみていただきたく思います。
「FIND THE WAY」…今回、佐紀は自分の進路としての道、そして母や友人たちとの関わり合いの中で人としての道を見つけられたと思いますが、まさにこのタイトルが今回の話にぴったりだったと思います。

さて、ようやく書き終えたので少し休みつつ、「僕の手紙」の続編の構想を固めよう☆カナ?
458墨堤通り:2007/08/05(日) 00:33:28 ID:MPDBhRffO
松さん、有難うございます。

40過ぎのオヤジがラーメン屋で、携帯片手に泣いてしまいましたよ。

社会に揉まれ心の薄汚れてしまった中年ですが、忘れてしまっていた何かを思い出されました。

このような話を描ける松さんは、きっと心の純粋な方なんでしょうね。

次回作もおありのようですので、楽しみにしております。

本当に今回は珠玉の作品を有難うございました。
459世紀末:2007/08/05(日) 15:31:47 ID:sWeu4GmL0
そうですね!
ありがとうございます
近いうちにまたメールします


「どういう事や?」
「俺が親父と喧嘩してアメリカに行った時、俺はいずれ親父に話をするつもりや
った。だから今回帰ってきた。お前は逃げるのか?まだ楓ちゃんからも逃げるの
か?」
その瞬間龍毅は真二に殴りかかっていた。
真二はそれを運良く避けて龍毅を突き飛ばした
「何するんじゃ!!
やるならやったるぞ!!」
真二も龍毅に殴りかかった。
「二人とも止めろ!!龍毅、お前も暴力は振るうな。真二も言い過ぎや」
廉はそう言い二人を宥めた。
「…龍毅、今のままじゃアメリカ行っても通用せえへんぞ。よく考えろ」
460世紀末:2007/08/05(日) 15:32:23 ID:sWeu4GmL0
翌日、龍毅は納得行かない
面持ちで学校へ向かった。
色のとれかかった茶髪はそのままで
只、ワックスを使っているだけだった。
教室へ向かうと何やら
一部の女子がそわそわしている。
特に夏焼 雅の様子がおかしかった。
いつもはうるさい雅が珍しく
ソワソワしてるので思わず
徳永 千奈美に聞いてみた。
「徳永、夏焼の様子おかしくない?」
「うん…ちょっとね…」
「清水が学校休んでるのに関係ある?」
千奈美はいきなり核心を
ついたので少し驚いた。
「うん…まぁね」
「まぁ障らぬ神に祟りなしやな」
龍毅はそう言うと席に着いた。
「クソ兄貴め…今頃何してるんやろ
461世紀末:2007/08/05(日) 15:34:12 ID:sWeu4GmL0
「昨日、このクラスに命を
絶とうした人がいます」
龍毅は金八がこの言葉を口にした時
言葉が出なかった。
いや、正確に言えば体が動かなかった。
龍毅はすぐにその生徒の正体が
清水 佐紀だとわかったが
敢えて口にしなかった。
龍毅は雅や千奈美や友理奈に
比べると佐紀とは絡みが
少なかったがショックは受けていた。
かつて楓も自殺未遂をした事が
あるので龍毅にもトラウマがあった。
千奈美や雅の顔を見ると
少し暗くなっていたが
その表情に絶望感は無かった。
「皆、一歩ずつ進んでるんやな…」
龍毅はそれを胸に誓うと
授業の用意をし始めた。
462世紀末:2007/08/05(日) 15:34:53 ID:sWeu4GmL0
「龍毅君、珍しく暗いねー」
横を見ると徳永 千奈美が
笑顔でそう訪ねてきた。
「まぁな…」
「何かあったの?」
「実はもう一人の兄貴が
アメリカから帰国して会いに来た」
「で、それでどうしたの?」
「お前は逃げてるって言われたんや…
確かに嗣永に返事聞けてないけど…」
龍毅がそう言うと予想外の
答えが返ってきた。
「確かに龍毅君は逃げてるよ!!
失恋が恐いなら恋は実らないよ」
「確かにそうやけどさ…」
「それにアメリカ行くんでしょ!?
決まってないとしても聞くべきだよ」
「でもさ…」
「龍毅君も桃子が好きなら
聞くべきだよ。それでアメリカに
行ってもいい音楽は作れないよ」
龍毅はこの千奈美の必死な
言葉に胸を打たれた。
「…確かにそうやな!!徳永の言うとおりや!!
文化祭でいい所見せて終わったら自分で返事聞くわ」
「うん!!」
「今日はありがと!!
徳永のお陰で元気出たわ」
龍毅はそう言うと教室を駆け出した。
千奈美はそんな龍毅を見て笑っていた。
463松輝夫:2007/08/05(日) 18:33:42 ID:2JI2DyPnO
>>458
墨堤氏、いつもカキコありがとうございます。ようやく終わらせることができました。
今年の1月13日から書き始め、半年以上という長い時間を書けてしまい、皆さまにはご迷惑をおかけして申し訳なく思っています。
にもかかわらず温かいお言葉をいただき恐縮です。
次回作の構想ですが、今お話できるのは、以前書いた「僕の手紙」の続きでもあるということです。
中学校を卒業した佐紀が圭太郎と再会して……という話になります。
まだ卒業式を書いてないのにどうかと思いましたが、イワナ氏と競技の末書くことにしました。
近々書き始めたいと思いますのでよろしくお願いします。

>>459
更新乙でした。
アメリカ行きどうするのか、告白の行方は?気になるところですね。

ところで、調整の件なんですが……。
その話をする前に、今回の更新分についてなんですけど、まず佐紀は学校休んでないんですよね。
あと、文化祭の部分はイワナ氏が書かれることになっています。それから、新作もあるとのことで楽しみですが、雅が一年生の頃といえば以前イワナ氏が「ラブ☆なっくる!!」で既に書かれていますね。
そこで、今回のように他の話と矛盾が生じないようにするのが調整です。
自分とイワナ氏は何度もそれを行っています。そういうわけで、差し支えなければ世紀末氏にも是非参加していただきたく思います。
464松輝夫:2007/08/05(日) 18:35:44 ID:2JI2DyPnO
競技じゃないよね、協議だよorz
465ミヤビイワナ:2007/08/06(月) 18:34:39 ID:N+2rFjLW0

おお!!輝夫さん大作お疲れさまでした。

そうですか1月からでしたか・・・

実は・・佐紀ちゃんの進路についてイワナは「母親と決別」と言うシナリオを考えていました、それを輝夫さんは「ダメです」と言って今回の大作が生まれました。

実に丁寧な構成で少女の心理、心の美しさを一定に保った作品で台詞もみずみずしく優しさを覗かせました。

もしカーテンコールがあるのなら彼女達に惜しみない拍手を捧げたい気持ちで読み終えました。

しかし!!

輝夫さんには次回作があるのでまだまだ気が抜けません!!

読者の皆様においては作家「松輝夫」にこれからも応援のメッセージを重ねてお願いいたします。

台風も去った8月の夕映えにて・・・・。
466応援団員:2007/08/07(火) 02:42:06 ID:o7TO8U1U0
松輝夫さん。長期間に渡る大作、お疲れ様でした!

私はこの物語を読んでる間に、本当に色んな事を考えさせられました。
登場人物一人一人の気持ちになってみて、ゆっくりと読み進めて
行くうちに、「あの時はこうすれば良かった。」「あの時は
こんな言葉を掛けてあげた方が良かったのでは・・・。」と、
今までの自分を振り返るきっかけにもなりました。

それ位入り込みやすく、読みやすかったです!

本当にお疲れ様でした!


それから小僧すしさん!
お帰りなさい!そして大丈夫ですよ。「さん」が入ってないだけで
怒ったりしませんよ!逆にちょっとフレンドリーな感じがしたので
結構いいんじゃない?なんて思ったくらいですから。

あと墨堤通りさん!僕も墨堤通りさんに近い年齢ですが、
やはり泣いてしまいました。
でも良い作品を読んで泣けるなんて、とても良い事だと思いますよ!



追伸

どんな結末になっていても良かったのですが、
正直こんな結末を望んでいたので、ちょっと涙しました。

次回作も楽しみにしています!
(長いレスですみません!)
467松輝夫:2007/08/07(火) 16:59:57 ID:xp02f6RhO
>>465
いつも支援感謝です。ようやく終えることができ、ホッとしているところです。

今回の話を書いたおかげで、実はイワナ氏が描いていた文化祭のシナリオはだいぶ変更を余儀なくされてるんですよね。本当に申し訳ないですm(_ _)m

次回作は、基本的にはこの前お話したあらすじの通りでいきますが、若干設定に変更ありかも。
現在ネットを駆使して調べものの真っ最中です。まだ一行も書けてないおorzとりあえず、登場人物紹介だけ書いたけど、それすら未完成……そもそも話のタイトルすら未だに決まってなかったり……。

とまあ、とにかく大苦戦中で、果たしていつ発表できるかわかりませんが、しばらくお待ちください。

>>466
いつもありがとうございます。べらぼうに長くなってしまいましたが、無事に終わりました。今までお付き合いいただき深く感謝します。

とりあえず今回のような終わり方とそこまでの持っていき方、果たしてどう☆カナ?と思いますが、とりあえず好評(?)ということで喜んでます。

次回作は「僕の手紙」の続編にあたります。まだ本編では中学の卒業式すらやってないのに、卒業して約10年後くらいの話をやっちゃいます。
大人になった圭太郎と佐紀がひょんなこと再会して、さて……という話ですが、桃子や小春なども登場します。
まあ、いつになるかわかりませんが、しばらくお待ちくださいm(_ _)m
468ミヤビイワナ:2007/08/07(火) 23:36:10 ID:LA8aIrAW0

「応援団員」さん「小僧すし」さん「墨堤通り」さん本当にいつもいつも「松輝夫」に応援ありがとうございます。

彼は「才能」と「勤勉」さに満ちあふれた作家です。

彼をそそのかせて辛く長い長い「作家」と言う仕事をさせた要因がもしかしたら自分にもほんのちょっと少しだけあるの☆カナなんて思ったりもします。(ウソです思ってません)

とりあえずこの板の看板作家の物語が終わり書き込みも少なくなりますが、イワナもがんばります。

本腰入れて書けるのは来月かな〜なんて思っています。

小説ではないのですが自分は職場の配置転換で今年の3月から雑誌の記事を書いたり取材の仕事していて小説を書くのはなかなか難しくなり・・・(すいません言い訳です)

筆が遅いのはしょうがないのですが絶対書こうとは思っています。

なんたって作家「松輝夫」がついてるのですから、問題なし!!

なんちゃって

469松輝夫:2007/08/09(木) 23:14:02 ID:XpZYzS6QO
>>468
え〜、とりあえず一言。おだてても何も出ませんので。

ノリo´ゥ`リ そんなあんたのはなをぷーん

……まあ、ゆっくりやりませう。


こちらは少しずつ書き始めました。
舞台は2017年、○○○○○の○○○○○になった圭太郎は偶然から佐紀と再会し……というお話ですが、○の中に何が入るか、お時間のある方は想像してみてください。
とりあえず冒頭部分を少し書いてみました。近いうちに揚げられる☆カナ?

それから、皆さんにご協力いただけるとありがたいんですが。
話の中で桃子と小春にユニットを組ませるんですが、二人のイメージにピッタリの名前があったら教えてください。一応考えてはありますが、そちらの方がよかったら採用させていただきたく思います。
470ミヤビイワナ:2007/08/10(金) 06:41:58 ID:fs4fNU9N0

輝夫さんお疲れです。

さて私事ながら今日引っ越しをします、回線が復旧するまで10日間くらいかかるのでしばらく書き込み出来ませんのでご了承ください。

小春と桃子のユニット名は、
「spring peach」(スピリング ピーチ 春の桃)などを提案します。

輝夫さんガンバってくださいね☆

471ミヤビイワナ:2007/08/10(金) 06:45:50 ID:fs4fNU9N0

「スピリング」ではなく「スプリング」でした。

エヘ☆^^;


472墨堤通り:2007/08/10(金) 12:39:22 ID:Rgu0bvvUO
実は私も…

『スプリングピーチ』
473応援団員:2007/08/11(土) 02:47:04 ID:dnEW74Dm0
私は直球?で

「はる☆もも」or「ももはる」。(コブクロみたいな・・・)

変化球で

「WILD CAT's」。(大人になった二人の勝手な私のイメージ・・・)

デッドボールで

「Emergency(エマージェンシー)」。
(あらゆる意味で突発事故が起こりそうなので)

圭太郎と佐紀の物語、楽しみにしています!
474松輝夫:2007/08/11(土) 10:18:31 ID:kQgH7/kpO
皆さま、レスありがとうございます。

イワナ氏と墨堤氏がお考えの名前は、実は自分も思いついてたものなんですよね。
他には、

「もも☆こは」
「桃色シスターズ」

なんてのも考えましたが、ちょっち微妙☆カナ?
応援団員氏の「エマージエンシー」ナカナカいいですねぇ。
このユニット、話の最初の方で少し出てくるだけなんですが、重要な小道具なので、他にもあったら挙げて下さいな。

さて、今日は久住小春 with モーニング娘。誕生10年記念隊のツアー開幕日なので中野に行ってきますよ。
小春姫とガキさんに会うのは先月の名古屋での姫の聖誕祭以来ですが、他のお三方に会うのは一月の横アリ以来なのでだいぶ間が空いてますね。
飯田さんはこのツアーを最後にお休みになってしまうので、今日はその雄姿をしっかりと見届けてきます。

>>470
引越大変ですね。お疲れさまです。
475ねぇ、名乗って:2007/08/11(土) 17:21:43 ID:kVCq1cyn0
佐紀ちゃんの話、良い感じで終わってほっとしました。
最初からの読者からすると、一つの山場を越えたという感じです。
476松輝夫:2007/08/12(日) 17:20:43 ID:Yvb56q1oO
昨日、10年隊の開幕戦昼夜参戦してきました。いや、懐かしい曲が多くで自分なんかはかなり好きですね、今回のセットリスト。
昼は普通に終わったんですが、夜は娘。のメンバーが見に来ていました。うさちゃんピースをやったら手を振ってくれましたお。
あとは、夜の最後のMCでなっちとかおりんの誕生日をお祝いしました。

我らが小春姫は元気いっぱい大活躍、かついじられてましたが、飯田さんが語ったミラクル伝説をお話したいと思います。
姫と飯田さんが初めて一緒に仕事をした時のこと。
台本を読んでいる飯田さんのところに

ノリo´ゥ`リ 飯田さ〜ん

そう言って膝の上に乗っかってきたんだとか。
大先輩に物怖じしない、これだけでもミラクルですが、そこは我らが姫。これだけで終わるはずもなく。
後日、飯田さんにこの話をされた姫、フツーに

ノリo´ゥ`リ 小春、そんなことやってませ〜ん

と言ってのけたそうです。さすがミラクル……。

さて、現在「僕の手紙 その後(仮称)」を書かせて頂いてるわけですが、またまた皆さんにお聞きしたいことがあります。
先にお断りしておきますが、今回お聞きした結果は話の結末には一切影響しません。
その上でお聞きしますが、皆さんは佐紀と圭太郎にどうなってほしいと思っているの☆カナ?と。くっつくのか、それともそうじゃないのか。
先に書いた通り、話は既に出来上がっていますから今さら変わることはありませんが、書いていてふと思ったものでお聞きしてみました。答えていただける方には、ぜひお答えいただければ幸いです。

>>475
感想をいただき、ありがとうございました。
他にも終わり方があったかもしれませんが、自分にはこれしか思いつきませんでした。受け入れていただいたようで嬉しく思います。
477世紀末:2007/08/16(木) 21:07:09 ID:M9U33zs00
松輝夫氏にメールを送りましたが届いていますか?
自分なりに考えて確かに今まで自分の思いつきで作品を
書いていました。なのでこれからはしっかり調整をしたいです
もしここに私がいるのが迷惑或いは邪魔ならばここを去ります
では・・・
478松輝夫:2007/08/17(金) 10:27:47 ID:ra8i4vknO
>>477
世紀末氏すいません、メールは来てないみたいなんですね。また送ってもらっていい☆カナホント申し訳ないですm(_ _)m
まあ、それはともかく、自分は世紀末氏が邪魔なんてこれっぽちも思ったことないですよ。
だから、よかったらこれからも一緒にがんばりませんか?
479松輝夫:2007/08/22(水) 07:44:34 ID:o4bf5BcvO
保全カキコ。
日曜日、中野でのBerryz工房夏ツアー行ってきました。
まあ、今までにない趣向で悪くはなかったんですが、でもなんでだろう、昨年の夏ツアーのほうが良かったような気がします。
佐紀タソは相変わらずかわいかったしダンスは激しかった。ちょうど、その頃書いていたのがライブのシーンなのでイメージを膨らませる助けになってくれました。
さて、今書いてる話は第二話まで完成したので、見直しを終えたらそろそろ揚げよう☆カナ?
この板は作品が展開中ならともかく、そうでないとすぐ寂しくなっちゃうので、皆さんお忙しいことと思いますが、作品の感想やら要望はもちろん、Berryz工房またはハロプロのネタとか、何でもいいので保全を兼ねて書いてくださると助かります。
480松輝夫:2007/08/25(土) 09:39:34 ID:/APslrrzO
ノノl∂_∂'ル 今日はみやの誕生日!

そういうわけで夏焼雅嬢、誕生日おめでとうございます。
新ユニットも始動しましたし、さらなる活躍を期待していますよ。

さて、夏焼嬢生誕記念で自分も新作いきたいと思います。

ノノl∂_∂'ル でも私の出番はないんでしょ?

……まあ、とりあえずまずは予告編みたいなのを。


3年B組ベリーズ工房 番外「僕の手紙」その後 〜それぞれの空〜

登場人物
平岡圭太郎:航空自衛隊第7航空団第305航空隊所属のF-15戦闘機パイロット。階級は三尉。同じ部隊の新垣里沙と交際中。
酒井三郎 :航空自衛隊第7航空団第305航空隊所属のF-15戦闘機パイロット。階級は三佐。圭太郎を弟のようにかわいがっている。同じ部隊の高橋愛と交際中。
新垣里沙 :第7航空団基地業務群会計隊所属。階級は二尉。圭太郎と交際中。
高橋愛  :第7航空団基地業務群会計隊所属。階級は二尉。三郎と交際中。里沙とは大の親友。

清水佐紀 :ダンサー。師匠である夏まゆみの主宰するダンス集団「FUN-KEY
HEARTS」に所属。
嗣永桃子 :アイドル。佐紀の中学以来の親友。
久住小春 :女優。佐紀、桃子の親友。桃子と共にユニット「Emergency(エマージェンシー)」を結成。
夏まゆみ :もはや伝説となったカリスマダンサー。佐紀の師匠。ダンス集団「FUN-KEY
HEARTS」を主宰。


桃子と小春のユニットは応援団員氏の案を採用させていただきました。感謝いたしますm(_ _)m
今日中に第一話を揚げますが、一つだけ。一応書くにあたって色々調べましたが、間違っている部分とかあるかもしれません。ですが、そういう点は大目に見ていただき、ツッコミはナシでお願いしますm(_ _)m
481松輝夫:2007/08/25(土) 16:05:11 ID:/APslrrzO
3年B組ベリーズ工房 番外「僕の手紙」その後 〜それぞれの空〜


第一話 Danger Zone


F-15イーグル戦闘機は青空を力強く上昇している。
平岡圭太郎三尉が後ろを振り返ると、さっき飛び立ってきたばかりの百里基地はもうだいぶ遠くなっていた。
眼下には真っ青な太平洋が広がる。
圭太郎の右前方を編隊長である酒井三郎三佐のF-15が飛んでいる。
圭太郎たちは四機編隊で基地を飛び立ってきたのだが、これから二対二の空中戦の訓練を行うことになっている。
少し前に、三郎の指示で二機は編隊から離れていた。
圭太郎は三郎と組んでその二機を相手に戦うのだ。
既に圭太郎たちは鹿島灘上空に設定された訓練空域の所定の位置についていた。
相手も今頃所定の位置に向かって飛んでいるはずだ。
相手から連絡が入り次第、訓練開始だ。
作戦は既に打ち合わせてある。
三郎が相手の編隊長を狙い、圭太郎はその僚機を相手にすることになっている。
圭太郎は操縦桿を握りなおした。
その時、相手から無線が入った。
訓練開始だ。
圭太郎たちは編隊を組みなおした。
二機が500〜600mほどの距離をとって真横に並び、100mほど高度差をつける。
「戦闘隊形」と呼称されるこの隊形は、周囲を警戒しつつそのまま空戦に入れる有利な隊形だ。
二機は編隊を維持しつつ、マッハ0.9の速度で飛んでいく。
482松輝夫:2007/08/25(土) 16:06:26 ID:/APslrrzO
不意にマイクが「カチカチ」という音を立てた。
三郎が敵を発見したことを知らせてきたのだ。
レーダーでは既に捕捉していたが、目視でも確認したわけだ。
圭太郎も相手の姿を肉眼で捉えた。
相手との距離は約30キロほどだ。
圭太郎は目はかなり良い方だし日頃から視力を維持する訓練もしているが、だからと言ってこの距離では普通に見ようとしても見えるものではない。
神経を集中してようやく針の穴ほどの点が見える。
そして、その針の穴ほどの小さな点が次第にはっきりと見えてくる。
相手もこちら同様戦闘隊形を組んで真っ直ぐに向かってくるのがわかる。
すれ違った瞬間に戦闘開始ということになっていた。
敵機とすれ違った瞬間、三郎のF-15が急激に左に横転し、半回転したところでピタッと機体が止まると、そのまま急降下していく。
背面飛行のまま宙返りに入り、水平飛行に戻して敵機の死角に飛び込もうという「スプリット・エス」という動作である。
事前の打ち合わせどおり、圭太郎も僅かに遅れて同じ動作で後に続いた。
相手方は左右に分かれ旋回を始めていた。
圭太郎たちの姿を見失って慌てているようだ。
目では見失っても、レーダーではこちらの機影を捉えているはずだ。
だから余計に混乱するだろう。
三郎と圭太郎も事前の打ち合わせどおり左右に分かれた。
圭太郎の標的は相手の僚機だ。
「いくぞ!」
圭太郎は敵機を睨みつけると相手に向かって機体を上昇させていった。
483松輝夫:2007/08/25(土) 16:09:16 ID:/APslrrzO
2017年5月。
平岡圭太郎は航空自衛隊のパイロットとなっていた。
元々飛行機好きだった彼の夢は、当然のごとく飛行機のパイロットだった。
ただ、最初彼が考えていたのは旅客機のパイロットであり、戦闘機のパイロットなど考えてもなかった。
もともと、圭太郎はあまり争いごとは好きではない。
だから自分が自衛隊に入るなんて思考は全く無かった。
ところが、中学1年生の春に北海道に引っ越した彼はたまたま参加した基地祭で見たF-15戦闘機の勇姿にすっかり魅せられてしまった。
さらに、大切な人々を守るために日々黙々と訓練に励む自衛官の姿に、昔の記憶が重なった。
自分の大切な人を守りきれず、自らの無力に悔し涙した昔の記憶が…。
それ以来、圭太郎は「いつか、あれに乗るんだ」と誓い、高校を出ると迷わず航空学生を志望した。
そして晴れてパイロットになった圭太郎はF-15を装備した第305飛行隊に配属され日々訓練に励んでいた。
第305飛行隊は第204飛行隊と共に茨城県小美玉市にある百里基地に司令部を置く第7航空団に所属し首都圏の防空任務にあたっている。
ちなみに、少し前までは第204飛行隊もF-15を装備していたが、今は最新のユーロファイタータイフーン自衛隊仕様機に置き換えられている。
484松輝夫:2007/08/25(土) 16:10:12 ID:/APslrrzO
F-15はアメリカが開発した戦闘機で、初飛行から既に40年以上経過し、またF-22ラプターやF-35ライトニングU、タイフーンなどの次世代の戦闘機も現れているが、未だに多くの国では現役でありそれは自衛隊も例外ではなかった。
ただ、幾度に渡って行われた改修に加え、空自パイロットの技量の高さからまだまだ十分使用に耐えると判断されていた。
実際、F-15よりもさらに古い機体を現役で使用している国も多く、それらに対してF-15が優位であることは間違いなかった。
もっとも、これには世界的な軍縮の傾向で防衛予算を削減され後継機の実用化が遅れているという事情もあった。
予算の都合からタイフーンは十分な数が配備されず、「21世紀のゼロ戦」を目指して開発された初の純国産主力戦闘機「極光」も生産・配備のペースは遅かった。
タイフーンの場合は極光実用化までの中継ぎのためという理由もあったが、何にしても多くの航空隊ではまだ当分はF-15を使い続けなければならないというわけだった。
F-15はこれまでの改修で極限まで性能を高められており、あとはそれを扱うパイロットの技量を引き上げるしかない。
そういうわけで、圭太郎たち現場のパイロット達は休日以外は毎日今までにも増して厳しい訓練に明け暮れるのだった。
485松輝夫:2007/08/25(土) 16:12:35 ID:/APslrrzO
「乾杯!」
酒井と圭太郎は唱和してグラスを干した。
ここは小美玉市内にある居酒屋「荒鷲」の店内だ。
アイパッチをしたいかつい風貌の店の主人は元航空自衛隊のパイロットで、事故で片目を失って自衛隊を辞めたらしい。
だが外見とは裏腹にとても気さくで話しやすく、また料理の腕は超一流だった。
そんな主人の人柄と旨い料理を目当てに、今日も多くの客が訪れている。
客の大半は百里基地の関係者だったが、評判を聞きつけた一般市民の姿も見られる。
「それにしても圭太郎、腕を上げたな!」
今日の訓練の結果は非常に満足いくものだったので、三郎の機嫌はすこぶるいい。
特に、初めて会った時から今日までずっとかわいがってきた圭太郎の成長ぶりが彼にはとても嬉しかった。
圭太郎にとっても、三郎は人間としてもパイロットとしても尊敬する存在だった。
「いえいえ、まぐれですよ」
「なんだ、謙遜するな」
「そんなんじゃないですよ…」
「ん?ああ、そうか、女性陣がいないからつまらないか。すまんな、気持ちは分かるけどもう少し男の相手で我慢してくれよな」
「ち…違いますって」
その時だった。
「いらっしゃい!」
主人の声に入り口を見た三郎は手を上げた。
「おう!こっちだこっち」
その声に圭太郎も入り口を見ると、高橋愛二尉と新垣里沙二尉がこちらに向って歩いてくるのが見えた。
486松輝夫:2007/08/25(土) 16:35:42 ID:/APslrrzO
「乾杯!」
改めて四人で乾杯しなおす。
「いや、ちょうどよかったよ。圭太郎がむさい男の相手は飽きたって言うからさ」
「そうなの?まあ、圭ちゃんの気持ちもわからないでもないけど。でも、圭ちゃんはガキさんさえいればいいでしょ?」
「ああ、そうだったな。悪いな、邪魔者が二人もいて」
「ちょ…ちょっと、酒井三佐やめてください!愛ちゃんもやめてよね」
三郎と愛に冷やかされ、里沙が恥ずかしそうに言った。
「そ、そうですよ、そんなことあるわけないじゃないですか」
「ちょっと、圭太郎…『そんなこと』とか言われるとそれはそれでムカつくんですけど」
「な、なんだよ、フォローしてやったんじゃんか」
「おいおいお二人さん、夫婦喧嘩は結婚してからにしてくれよな」
三郎に冷やかされ、圭太郎も里沙も顔が真っ赤になる。
その様子がおかしくて、三郎と愛は思わず吹き出した。
―――圭太郎が新垣里沙と付き合い始めて九ヶ月になる。
二つ年上の里沙とは、圭太郎が三郎と二人で「荒鷲」で飲んでる時に、偶然三郎の彼女である高橋愛と一緒に里沙が店に入ってきて、その時に出会った。
もっとも、里沙も愛も第7航空団の基地業務群会計隊に所属していたので、圭太郎も顔くらいは知っていたが話をしたことはなかった。
話しているうちに、里沙が圭太郎と同じ北海道出身で、しかもその前も同じ東京の足立区に住んでいて、さらには同じ中学に通っていたことも知った。
そして、三郎と愛を介して何度か会ううちに次第に二人の距離は縮まっていき、付き合うことになった。
一方、愛は三郎の彼女であり、里沙の同期で一番の親友だ。
福井の出身で、三郎や里沙の話では初めて会った頃は訛りがひどかったらしいが、圭太郎はほとんど聞いたことがない。
もっとも、二人によればたまに気を抜いた時などにはひどく訛ることもあるらしいが。
487松輝夫:2007/08/25(土) 16:38:48 ID:/APslrrzO
―――三郎、愛と別れた圭太郎と里沙は小美玉市内の圭太郎の部屋に来ていた。
「いよいよ明日ね」
圭太郎は里沙の言葉に頷くと、壁に貼られたある一枚のポスターを見上げた。
それは一つだけ、飛行機に関する本やスクラップ、模型やポスターなどで埋め尽くされた圭太郎の部屋で、周囲とは明らかに不似合いな、笑顔が眩しい女の子のポスターだった。
圭太郎と里沙のお気に入りのアイドル、嗣永桃子のポスターだ。
嗣永桃子は、長い下積み時代を経て最近人気急上昇中のアイドルである。
圭太郎は同い年で頑張ってるなぁ、ということで無名時代から応援していたのがたまたま里沙も同じで話が合い、それが二人が付き合うきっかけの一つにもなった。
桃子のブレイクのきっかけは、航空自衛隊を舞台にした人気漫画「私の彼はパイロット」がアニメ化された時、ヒロインの声に抜擢されたうえアニメと同タイトルの主題歌も歌い、どちらも大ヒットしたことだった。
以来、老若男女問わず幅広いファン層に支持され一躍人気者になった。
最近では「私の彼はパイロット」が実写で映画化され、主演の人気女優・久住小春と期間限定ユニット「Emergency(エマージェンシー)」を結成し映画の主題歌「恋のスクランブル」を歌って話題になった。
そして、今年ついに待望のコンサートツアーが始まり、圭太郎と里沙は幸運にも開幕日のチケットを入手することができたのだった。
それが明日なので、里沙は今夜は圭太郎の部屋に泊まり、明日の朝早く圭太郎の車で東京に向かうことになっていた。
もっとも、今回圭太郎が東京に行くのは単にコンサートのためだけではなかった。
488松輝夫:2007/08/25(土) 17:29:33 ID:/APslrrzO
13年前、中学一年の時に転校して以来、圭太郎は仕事で必要な時以外東京には行っていない。
だが、今回のコンサートの翌日、以前住んでいた辺りを訪ねてみようかと思っている。
そして、墓参りをしようと考えていた―――圭太郎の憧れの存在だった清水竜二、すなわち13年前に離れ離れになってしまった幼馴染・佐紀の父親の墓へ。
佐紀を守ると言う竜二との約束、それを果たせなかったことは今でも圭太郎の心の中で引っかかっている。
それが自衛隊に入った大きな理由の一つだったし、またプライベートで今まで一度も東京に行かない理由でもあったが、その圭太郎を後押ししてくれたのが里沙だ。
佐紀のことなど、圭太郎は過去のことを里沙には話してあるし、里沙も過去にいろいろ抱えていることを知っている。
その上で里沙が圭太郎の背中を押してくれたから圭太郎も決断できたのだ。
この時、二人は東京で自分たちを待ち受ける運命を知る由もなかった。

第一話 了
489応援団員:2007/08/26(日) 05:15:55 ID:G9jlvWsv0
ものすごく久しぶりに帰ってきたら更新されてる!
しかも待望の「僕の手紙」2が!

本当にお久し振りぶりです。
体調を壊し、そのために仕事に追われ、しかもその仕事も
ゴタゴタが続き、連日寝れない日々・・・。

まだ何も解決してませんが、ようやくマイパソコンの
前に座る事が出来ました。

松さん。採用して下さってありがとうございます!
感無量です。大好きな圭太郎と佐紀ちゃんの物語に、
自分の考えたものが出てくるってちょっと鳥肌ものですね。

それと随分遅くなりましたが、松さんのアンケートの返事です。

「くっついて欲しい!!!」です。

これに関しては感情移入が激しすぎて、上手く表現できないのですが
くっついて!としか言えません。(笑)

でも!でも!なんで現在付き合っているのがガキさんなんですか!?

基本この人も好きなので、出来れば泣かせたくない!と思い、
今はエライ迷ってます。

なので松輝夫さん!誰も泣かせずにハッピーエンドを望みます!

(なんちゃって!こんな戯言はスルーして書いて下さいネ!)
490松輝夫:2007/08/28(火) 16:01:14 ID:AidjNF5ZO
>>489
応援団員氏、お久しぶりです。お忙しそうですね。お身体は良くなった☆カナ?

いつも書き込みありがとうございます。
氏が考案されたユニット名は、映画と主題歌のタイトルにピッタリだったんですよね。そういうわけで採用させていただきました。
千奈美に、次回登場します。お楽しみに。と、ちゃっかり次回予告。

さて、氏は佐紀と圭太郎にくっついてほしい派ですか。さて、この先どうなるんでしょうねぇ。
もちろん、当たり前ですが自分は結末をもう決めているし変えるつもりもないんですが、氏の気持ちも十分理解した上でこの先書いていきたいと思います。お答えいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

里沙はイワナ氏の「ラブ☆なっくる!!」で出てきたので、ちょうど圭太郎てと同じ年に(月は違うけど)同じ北海道に転校したので、これはちょうどいいなぁと思って再度登場願いました。
というのも、最初舞台は千歳基地を想定していたので、北海道に転校した里沙はうってつけのはずだったんですが、話の展開上北海道では色々と不都合なので舞台は百里基地に変更に……でもまあ、今回の話においては極めて重要な位置にいる人物であるのは間違いありません。
とりあえず、今後の展開を見守っていただきたく思います。

次回、ついに佐紀が登場します。桃子と小春のユニットも出てきますよ。おそらく二人にとっては唯一の出番になりそうですが……。
491ねぇ、名乗って:2007/08/31(金) 00:49:44 ID:fTbAfFU/O
保全
492応援団員:2007/08/31(金) 01:32:25 ID:Ne9PjrF20
皆さんお疲れ様です。

松輝夫さん、身体を心配して頂きありがとうございます。
なんとか持ち直しました!

次回とても楽しみです。エマージェンシーも佐紀ちゃんも頑張ってるんでしょうね。

さて気になる二人の結末を妄想しながら今夜は寝るとします。

皆さんもお身体には気をつけて下さいね!
493松輝夫:2007/09/02(日) 06:37:15 ID:yxVS6oDuO
>>492
応援団員氏、書き込みありがとうございました。
体の方は大丈夫みたいで良かったです。9月になっても残暑が厳しいと言いますからお互い気をつけたいですね。

なんか、氏と自分しか書き込みが無くて寂しいですねぇ。まあ、皆さん都合があるんでしょうがね。
今も頑張って書いてはいますが、ほとんど反応がない今の状況では書く気も萎えますね。今ちょっと煮詰まってるんですが、以前と違ってなかなかそれを打破できないんですよね。
ですが、最低氏だけでも読んで反応を示して下さるので、ゆっくり書いていきます。
494ミヤビイワナ:2007/09/03(月) 19:56:00 ID:aw4WTtr50
みなさん、お久しぶりです。
引っ越しに際してのネット回線の復旧が思いの外手間取りまして、やっと開通です。

輝夫さん、いつの間にか新作の発表、おめでとう御座います。

しかし煮詰まってるらしいですね、分かりますよ手応えを感じない焦燥感。

イワナもかつて味わいました、おまけにオリジナルの作家を二人も失いましたしね。

しかし一人になっても何故自分が書き続けるのかが何となく分かった時もありました。

煮詰まってるのなら一回全部止めて休むことも凄く大事なことです、いつか書ける時も来ますからね。

自分たちは商業作家ではないので適当にパラパラ書かなくても良いのです、こだわり続けて例え「痛小説」と言われても自分のこだわりと主観、メッセージが書ければ誰に評価されなくても後に続きます。

書き終えた自分を自分で誇れれば結構、あなたは充分に偉業を成し遂げましたよ、無理して書かなくてもイワナはあなたの事を分かっています。

だから、決して無理だけはしないで責任(板での)に縛られないで生きて欲しいです。

応援団員さん、体の具合はいかがです?

焦らず生きてみましょう、人は生まれたからには生きていくしか方法はありません、世の中には悩みはありません、悩みと言う定義は「問題」です。

「問題」は解決するのが前提です、一つずつ解決する手段を考えましょう、イワナも頑張ります。

495応援団員:2007/09/03(月) 20:30:59 ID:lwkjilUq0
ミヤビイワナさんお久し振りです。

引っ越し&ネットの開通おめでとうございます!

確かに問題は一つずつ解決して行くしか無いんですよね。

まぁこれを乗り越えられたら人間的に一回り大きくなれるかなと、
勝手に思い込んで頑張ろうと思ってます。

途中で逃げ出すかもしれませんがww

松輝夫さんへ。

イワナさんのおっしゃる通りだと思います。

でも多分ですが、みんな書き込まないだけでちゃんと見てくれていると
思います。(他の板で自分がそうだったように)

私は最後まで必ず読ませて頂く所存です!

496松輝夫:2007/09/04(火) 14:25:06 ID:YIKh77S6O
>>494
イワナ氏、おかえりなさいです。ネット開通おめでとうございます。

ようやくイワナ氏も戻ってきてくれたので、これで自分が焦って書く必要もなくなりました。

これからはゆっくり書いていきます。今後ともよろしくですm(_ _)m


>>495
いつも書き込みありがとうございます。
ゆっくり書いていきますので、どうか最後までお付き合いくださいm(_ _)m
497ミヤビイワナ:2007/09/04(火) 21:01:45 ID:lQca2de30
輝夫さん、どうもです。

ゆっくりやりましょう、応援団さんが言ってくださるように読書は必ずいるはずですので。

自分も凄くゆっくりやろうと思っています、ただし必ず書くつもりです、ゆっくり。
498ねぇ、名乗って:2007/09/08(土) 19:41:22 ID:en3KHQ6R0
>>494
おかえりなさい。引っ越したわけではありませんけど、
一読者の私もずっとばたばたしていました。

私も、お二人の作家さんには、無理せず責任に縛られず、
気力と時間のあるときに執筆し、納得のいったときにアップして
いただければよいなと思います。
無料でこれだけの物語を読ませていただいているわけですから。

圭太郎と佐紀ちゃんの未来のはどうなるのですかねえ。
499松輝夫:2007/09/11(火) 23:59:23 ID:NNwWDHnbO
落ちたと思ったら復帰してたんですね。
とりあえず、ゆっくり書いていきます。今後ともよろしくです。
500ねぇ、名乗って:2007/09/16(日) 17:45:25 ID:tFXMPy4EO
保全
501松輝夫:2007/09/21(金) 20:35:07 ID:uYCyrO6GO
再開します。良かったら読んで下さい。

>>488

3年B組ベリーズ工房 番外「僕の手紙」その後 〜それぞれの空〜


第二話 アイドル


5月の連休初日でもある翌日、中野サンプラザ前の広場は多くの人で溢れていた。
カップルや親子連れもいれば、一昔前の暴走族よろしく特攻服に身を固めた親衛隊の方々もいて、桃子のファン層の広さをうかがわせる。
圭太郎はそれらの人々を広場の一角で観察しながら、里沙を待っていた。
里沙はグッズを買いに行くんだと言って、グッズ売り場の前の順番待ちの長い列に加わっていた。
ちなみに、圭太郎はその列を目にした瞬間、あまりの列の長さにあっさり戦意喪失して戦線離脱している。
やがて戻ってきた里沙を見て圭太郎はため息をついた。
里沙は両手にいっぱいグッズを抱えてご満悦といった表情だった。
「…ず、ずいぶん買い込んだね…」
「だって、こんな機会滅多に無いからね。ほら見て見て、ポスターでしょ、生写真でしょ、Tシャツにトレカに…」
笑顔で「戦果」を報告する里沙に圭太郎は半ば呆れつつ、それでも里沙の楽しそうな様子が嬉しかった。
里沙は中学三年の時に北海道に引っ越したらしいが、東京にいた頃、「決して許されないこと」をしてしまったと圭太郎は彼女の口から聞いたことがある。
詳しいことは教えてくれなかったが、それゆえに里沙も圭太郎と同じくプライベートで東京に行くことは無いことを圭太郎は知っていた。
そんな里沙が背中を押してくれたからこそ圭太郎も決断できたのだ。
だから、その里沙が東京に来ても楽しそうにしているのが嬉しいのだった。
「圭太郎の分も買ってきたからね。はい、生写真の3枚セット。見て見て、この桃子ちゃんかわいくない?」
里沙は満面の笑顔で生写真のセットを圭太郎に差し出す。
一番上の写真では桃子が微笑んでいた。
「そ、そうだね。ありがとう…」
受け取りながら圭太郎は『里沙の方がかわいいよ』とでも言ってあげた方がいいかなと思ったが、それは止めて代わりにこう言った。
「…そろそろ、中に入ろうか」
圭太郎の言葉に、里沙は桃子に負けないくらいの笑顔で頷いた。
502松輝夫:2007/09/21(金) 20:38:47 ID:uYCyrO6GO
同じ頃、中野サンプラザの控え室で清水佐紀は、右手に着けたリストバンドを愛しそうに何度か撫でると、それを外して自作の小袋に納めてバッグにしまった。
13年前、幼馴染の圭太郎にもらってからいつも身に着けていたリストバンドだが、さすがに本番でステージに上がる時にはそうも行かない場合がほとんどなので、これが本番前の彼女の儀式みたいなものだ。
「さ〜きちゃん」
声をかけられた佐紀が振り向くと、後ろに久住小春が立っていた。
「佐紀ちゃん、今日はよろしくね」
「うん、こちらこそ」
今や人気女優として不動の地位を築いている小春は、今日の公演にスペシャルゲストとして登場して一曲だけ桃子と一緒に歌うことになっているが、それはまだ一般には伏せられている。
「佐紀ちゃん…小春ちゃん…」
声がして二人が振り返ると、いつの間にやら暗い表情の嗣永桃子が後ろに立っていた。

「桃、ダメだよ…うまくいくかなぁ、なんて考えてたらどんどん不安になってきちゃって…やっぱ桃には無理だよぉ…」
佐紀は軽くため息をつくと桃子の両肩に手を置いた。
「今さら何言ってんの。今日、この日のためにここまで頑張ってきたんでしょう?お客さんだって、あなたのためにたくさん集まってくれてるんだよ。しっかりしなさい」
「でもぉ…」
503松輝夫:2007/09/21(金) 20:39:51 ID:uYCyrO6GO
「桃子…中学の時、どうしようもなく荒んでた私を救ってくれたのは桃子、あなただったよね。だから、私は今ここにいられるんだよ。
私はあなたのおかげでこの世界に入ることができたし、小春ちゃんとも出会えた。私、ホントあなたに感謝してる。いくら感謝しても足りないくらい」
「佐紀ちゃん…?」
「私、あなたの初めてのツアーがこの会場から始まるって聞いた時、運命みたいなものを感じた。最初のオーディション、覚えてる?あなたが受けることを勧めてくれたんだよね?私にとっては全部あの日この場所から始まったんだよ。
だからね、今度は私がこの場所であなたのために頑張る。このツアーが最高のツアーになるように、まずこの会場で精一杯頑張るから、桃子も頑張って!」
「そうだよ桃ちゃん。小春だって、この場所で桃ちゃんに出会わなかったら今の小春はいなかったんだよ。小春は一曲しか一緒に歌えないけど、最後まで後ろで応援してるから頑張ってね」
「佐紀ちゃん…小春ちゃん…ありがとう、桃、頑張るね」
桃子の言葉に佐紀と小春も笑顔で頷いた。
504松輝夫:2007/09/21(金) 20:41:11 ID:uYCyrO6GO
「桃子!桃子!」
会場の桃子コールは佐紀たちがいる控え室にも十分聞こえてくる。
「そろそろお願いします」
スタッフの声が聞こえた。
「それじゃ、いつもの掛け声行きますか。桃子、よろしく」
佐紀の言葉に桃子は頷くと、三人は手をつないで輪になった。
「せーの!ダンシング シンギング エキサイティング オー」
「ダンシング シンギング エキサイティング オー」
三人の声が一つになる―――イベントなどの前にいつもやっている、桃子たちの所属する事務所のお決まりの掛け声だった。
「二人ともありがとう。じゃ、行ってくるね」
桃子は笑顔で二人に手を振ると控え室を出て行った。
『桃子、頑張ってね。あなたなら大丈夫だから』
佐紀を始めとするバックダンサーたちの出番は桃子が小春と一緒に歌う時からなので、最初は桃子が一人で歌うことになるが、今の桃子ならもう大丈夫だろうと、桃子の後姿を見送りながら佐紀は確信していた。
―――やがてコンサートが始まった。
のっけからデビュー曲「初恋の味は甘酸っぱ〜い桃の味」、ブレイクのきっかけとなった「私の彼はパイロット」、そのカップリング曲「君にロックオン」と三曲が立て続けに歌われ、会場のテンションは既に最高潮に達していた。
いったんステージから下がった桃子は、素早く衣装を替え軽くメイクを直してもらうと観衆の桃子コールに迎えられ再びステージの上に姿を現した。
「皆さーん、こんばんはーーーっ!嗣永桃子でーーーす!!」
桃子の声に応えて大歓声が沸き起こった。
桃子は会場を埋め尽くした観客の熱気に応えるように満面の桃子スマイルを見せる。
再び大歓声が沸き起こった。
505松輝夫:2007/09/21(金) 20:42:45 ID:uYCyrO6GO
「やっぱり桃子ちゃんかわいいねぇ」
会場の熱気に圧倒されつつ、圭太郎は里沙の言葉に相づちを打つ。
確かに実物の桃子はポスターや写真よりもはるかにかわいいのは間違いなかった。
「皆さん、今日は桃の初めてのツアー、その初日に来てくれてどうもありがとうございまーす。
私、嗣永桃子は昔からこうして大勢の人の前で歌ったり踊ったりするのが夢でした。中学校の時、コンサートを見にこの会場に来たこともあります。その時私は皆さんと同じ席にいました。自分もいつかステージの上に立てたらなぁ、なんて夢を見ていました。
何度もオーディションに落っこちて、何度も諦めようと思いました。でも、今こうしてステージの上に立っちゃってます。ようやく夢を叶えることができました。夢って、諦めずに頑張ればきっと叶うんです。だから皆さんも夢を諦めないでくださいね。
そして、私が今この場所にいられるのも、支えてくれた友達、スタッフの皆さん、そして何よりいつも応援してくれるファンの皆さんのおかげです。ありがとうございまーーーす」
再び大歓声が拍手とともに沸き起こった。
「ありがとうございます」
桃子は深々と頭を下げると話を続けた。
「皆さん知ってます?桃の花って、春に咲くから春の季語なんですって。だから、私も春に咲く本物の桃の花に負けないように、今日この場所で、皆さんの前で精一杯咲き誇りたいと思います。
そして、会場中を皆さんの笑顔という花でいっぱいにしたいと思います。だから皆さん、今日は楽しんでいきましょうねーーーっ」
桃子の声に応えて今までにないほどの歓声が沸き起こり、桃子は右手を高々と上げて歓声に応えるとその手をお腹の前に持ってきて一礼した。
「それじゃぁ次の曲に行きたいと思うんですけどぉ、そ・の・ま・え・に。実は今日はスッペシャルなゲストが来てくれているので皆さんに紹介したいと思いまーす」
桃子の言葉に会場がどよめく。
「スッペシャルなゲストって誰だろね?楽しみ!」
「う、うん。誰だろうね」
ノリノリの里沙が圭太郎とそんな会話を交わしている前で、桃子は舞台の袖に向かって声をかけた。
「こはるー!カモーーーン!!」
桃子の声に、一人の長身の女性が舞台の中央に歩み寄ってきた。
会場が一段と大きなどよめきに包まれる。
506松輝夫:2007/09/21(金) 22:52:43 ID:uYCyrO6GO
「皆さーん、紹介しまーす!桃の大親友、女優の久住小春ちゃんでーす」
「桃ちゃんのコンサートにご来場の皆さん、こんばんは!久住小春でーす!!」
会場のどよめきはあっという間に大きな歓声に変わった。
「おいおい…マジかよ」
圭太郎も思わず呟く。
確かに、インターネットの掲示板などで噂はあったしそれは圭太郎も知っていたが、まさか本当に出てくるとは思っていなかった。
圭太郎も里沙も「私の彼はパイロット」のロケが百里基地で行われた時に小春とは会ったことがあった。
サインをもらった里沙に散々自慢されたことを覚えている。
「皆さーん、いい感じに盛り上がってますねぇ。今日は桃ちゃんの初めてのソロツアーの初日ということで、小春も応援に来ちゃいました。今日は楽しんでくださいねー。
ところで、私、久住小春が桃ちゃんと一緒に出演した映画『私の彼はパイロット』が来月の3日公開になるんですけど、皆さんもちろん知ってますよね?
その映画の主題歌を桃ちゃんと私がユニットを組んで歌ってるんですけど、今日は皆さんの前でその曲を歌っちゃおう☆カナ?と思いまーす」
会場が再び大きくどよめく中、桃子と小春は笑顔で頷きあった。
「それでは聴いて下さい。5月24日発売です。Emergencyで、『恋のスクランブル』」
桃子の曲紹介に、会場が大歓声に包まれた。
「ラッキーだね。まさか今日聴けるとは思わなかった」
「ああ」
里沙は、自分の言葉に相槌を打った圭太郎が、次の瞬間手に持ったサイリウムをポロリと落とすのを見た。
「圭太郎?どうしたの?」
足元に落ちたサイリウムを拾い上げながら呼びかける里沙の言葉も耳に入らない様子で、圭太郎はステージのただ一点を凝視していた。
ステージの上では、四人のバックダンサーたちが桃子と小春の後ろに立っている。
圭太郎は、その中の一人をただずっと見つめていた。
507松輝夫:2007/09/21(金) 22:54:22 ID:uYCyrO6GO
そのダンサーは、一人だけ他の三人よりも背が低かったが、しかしその存在感では他のダンサーの誰にも負けていなかった。
時には激しく、時には静かに、様々な場面に応じて、彼女のダンスは様々な表情を見せる。
圭太郎の目は、もはや彼女に釘付けだった。
そして、彼は佐紀のことを思い出していた。
『間違いない…佐紀だ…』
13年前に別れ別れになった佐紀の将来の夢がダンサーだったことを圭太郎は今も覚えている。
彼女のダンスを見たことは無かったけど、圭太郎は直感で感じていた。
「ちょっと、圭太郎!」
里沙に脇をつつかれ、圭太郎は我に返った。
「どうしちゃったの、一体?」
「な、なんでもないよ。ゴメン」
そうは言ったものの、もはや圭太郎はコンサートどころではなかった。
やがてコンサートも終盤に差し掛かり、ステージ上ではいったん後ろに下がった桃子がアンコールに応えて再度ステージに上がり、観客に挨拶をしようとしているところだった。
「皆さーん、暖かいアンコールどうもありがとうございました!桃の初めてのコンサート、おかげさまで大成功でした!桃は今、すごく感激しています!!
実は桃、最初はすごーーーく緊張してて、不安で不安でたまりませんでした。本気で逃げ出したいと思ってました。
でも、皆さんのおかげで今日はメッチャクチャ楽しかったです!これからも、嗣永桃子は突っ走っていきます。皆さん、応援よろしくお願いしまーす!」
桃子の挨拶に、会場は割れんばかりの大歓声と、そして暖かい拍手に包まれる。
「さて!それではアンコールをお届けする前に、今日のコンサートを盛り上げてくれたダンサーの仲間たちを皆さんに紹介したいと思いまーす。拍手お願いしますね。まずは…清水佐紀ーっ!!」
名前を呼ばれた佐紀は、一歩前に進み出ると両手を挙げて歓声に応えてから、深々と頭を下げた。
「佐紀…」
会場の盛り上がりをよそに、圭太郎は13年ぶりに見た幼馴染の姿をじっと見つめていた。


第二話 了
508ミヤビイワナ:2007/09/22(土) 09:25:05 ID:JL1upzYO0

みなさんお疲れです。

今日じっくり輝夫さんの作品を読ませてもらいました。

文章とは本当に不思議・・・・

映画やテレビで戦闘機は見たことがあるが自分がコックピットにいるような情景が浮かぶ文章。

読書とはもともとそう言うもので、自分が行った事もない場所や風景を作り出してくれる。

本当に労力がいる作業であって手を抜けばすぐ分かってしまう作業。

しかしながらあまりにもくどく書きすぎると読む気がなくなるので気をつけなければならない物もあるが今回の作品はよく描かれています。

大変労力を使われていると思います。
509ミヤビイワナ:2007/09/22(土) 09:31:00 ID:JL1upzYO0

新垣ちゃんの方は自分が前にあんまり良い役をやらせてないので今回の圭太朗との触れあいには凄く優しい気持ちになれます。

彼女が優しければ優しいほど過去の事件が鮮やかに心に浮かぶのでしょうね、そこに圭太朗と佐紀の再会。

様々な人物を通しての物語・・・さあこれからどんなドラマが描かれるか、本当に楽しみです。

今年は残暑が厳しく体調も崩しがちになりやすいですがこのドラマも楽しみにしつつ自分自身のドラマも楽しみながら9月を乗り越えましょう。

輝夫さん更新お疲れ様でした。

510ねぇ、名乗って:2007/09/22(土) 22:16:11 ID:3dE/txHY0
更新お疲れ様です。
コンサートの情景描写はかなり良いと思います。
桃子の台詞はいかにもといった感じで、キャラがよく
反映されているように思います。
511応援団員:2007/09/23(日) 04:37:33 ID:+NWWpCTk0
松輝夫さん、お疲れ様です!

いや〜ワクワクドキドキしますね!それぞれがしっかりとした
将来を歩んでいる・・・。そんな中でのある一つの物語。

丁寧な描写なので頭の中でしっかりと映像が浮かんできます。

しかも「Emergency 恋のスクランブル」を見てちょっと
ニヤリとしてしまいました・・・。

さて今後三人の関係が非常に気になります。

あの当時の本当の圭太郎の気持ち&佐紀の気持ち。
そして現在の本当のお互いの気持ちを知りたいなぁ。

楽しみに待ってます!
512ねぇ、名乗って:2007/09/23(日) 09:37:49 ID:PeumHLGn0
http://ex23.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1190499661/1-100
       ↑
    リア消だったら誰に告ってた99章
513ねぇ、名乗って:2007/09/23(日) 16:05:28 ID:X5sjemtC0
http://ex23.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1190530533/1-100
            ↑
          リア消だったら誰に告ってた100章
514ねぇ、名乗って:2007/09/24(月) 19:25:26 ID:ounO1hY80
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1190584023/1-100
         ↑
     【小説】リア消だったら誰に告ってた
515ねぇ、名乗って:2007/09/25(火) 00:48:13 ID:QyZjzfjD0
まとめサイト覗いたけど青地に青文字ってなんかの嫌がらせかと思った
疲れるし集中力が続かないからとても読めんわ
せっかく書いた作者さんが可哀相、再考しなよ
516ミヤビイワナ:2007/09/25(火) 20:07:42 ID:JI9kmP5H0

みなさんお疲れです。

今日1日いかがでした?

仕事で嫌な事がありましたか、それとも良いことがありましたか?

猛暑も和らぎ良い季節になりました、この秋を自分の出来ることで楽しみながら励もうと思いますが、読者の方々もそんな気分でいてくれたらうれしいです。

日々は良いことばかりではないけど自分の心次第で景色も変わります、そう、いつだって自分の人生、自分が主人公です。

自分はお手軽な「まとめサイト」なんぞを作ってはいないのです、従来の読者様方たちには言わなくても分かってくれていると勝手に思っています

イワナが苦しい時に書き込みして下さった方々には分かって下さっていると思います。

集中力が無い方はどうぞ他のおもしろくお手軽なメディアへどうぞ、「松輝夫」の作品に感想の一行も書けない様ではこの板には向いていません、ご縁が無かったと言うことです。

自分も「作家」の一人だと勝手に思っています。

なんちゃって。
517ねぇ、名乗って:2007/09/25(火) 21:20:28 ID:5DrOOf9o0
>>516
最初から読めないから誰も新規読者が入ってこなくてレスもつかないってわからないのかな?
素人の書いたモノはまず「振り向いてもらうこと」「読んでもらうこと」の工夫が一番大事なのに
作家を自認しててそんな事もわからないの?
永遠に仲間内だけでやってたいならいいんだろうけどさ・・・・・・
やっぱ松さん可哀相だわ
518ミヤビイワナ:2007/09/25(火) 21:43:18 ID:JI9kmP5H0

そうですか。

松さんが可哀想なら励みの書き込みをお願いします。

もちろん彼だけで結構ですので。
519ねぇ、名乗って:2007/09/25(火) 22:07:41 ID:5DrOOf9o0
いえ
こちらも感情的になりすぎましたスイマセン反省してます本当です

でも、モニターって本来小説を読むには不向きなモノって思ってるんですよ。
長時間文字を追う事自体がすごく疲れるし、集中力も必要だし。
だから読み手に対する配慮(改行や行間空けとかも)が常に必要だと思ってたので。

小説サイトは地色を白に変えるだけで全然楽に読めるようになると思うんだけど、
こだわりとかあるんですか?
520ミヤビイワナ:2007/09/25(火) 22:25:12 ID:JI9kmP5H0

特にこだわりはありません。

そうですね、この板の色なら誰でも苦痛ではないのですかね。

でもいきなりは改修出来ませんので気長に待ってください。

それから、「松輝夫」の作品に感想をお願いします。

おやすみなさい。

521介清:2007/09/29(土) 11:18:51 ID:wbYPpRSG0
『気になるあの子』

「今、何て言ったの・・・?」
教室の窓から夕日が差し込まれてくる・・・・。
けど、私は窓とは反対方向を向き夕日を直接見ることができない・・・。
そして、私から見える廊下側の窓にはうっすらと私と・・・あの人が
写ってる・・・。
そう二人っきりで・・・・。
「だから、俺は・・・俺は・・・夏焼の事が好きなんだよ・・・!」
ドキドキと心臓が鼓動を打ってる・・・。苦しいよ・・・。
それから、しばらく沈黙が続く・・・・・。

なんでちぃじゃなくて私に告ったの・・・?
私も確かに好きだった・・・。矢島君の笑顔・・・陸上で汗を垂らしながら
走る姿・・・授業中、疲れて居眠りしてる姿・・・なにもかも好きすぎてたまらなか
った・・・・。でも、私は正直になれなかった。他の人にこのキモチがバレ
るのが恐すぎてたまらなっかたんだよ・・・・。
でも、ちぃは・・・泣きながら私に相談してきた・・・私は許せながったけど
その時のちぃは輝いてた・・・。だからアドバイスとかをやってしまった・・・。
それに引き換え私なんて輝いてないのに・・・・。
でも・・・Okしちゃえばちぃに勝てる・・・。Okしちゃえば・・・・。

女の友情ってこんなもんだったのかな・・・?
522介清:2007/09/29(土) 11:35:25 ID:wbYPpRSG0
「い・・・」
私の口から『いいよ』という言葉が小声で漏れそうになる・・・・。
矢島君はふっと顔を上げた。
私は矢島君と見つめ合った・・・。矢島君は夕日のせいなのかどうかは
わからないけど顔が赤かった・・・。
「いい・・・」
あと、「よ」が言えば楽になる・・・・。そう考えると同時にちぃへの罪悪感
が一気に爆発してしまった。
「いいや、だめだよ!矢島君みたいなかっこいい人が私と付き合うなんて!」
私は出来る限りの笑顔で振ってしまった・・・・。好きすぎてたまらながった
矢島君を・・・。
矢島君は悲しそうな笑顔で
「やっぱり・・・フラレちゃった・・・。あっ・・・夏焼、ごめんね!」
そう言い残すと矢島君は走って教室を出て行ってしまった・・・。
その瞬間涙が溢れてきて
「うわぁぁ〜〜!!」
私は泣き崩れてしまった・・・・。
そう、夕日が覗き込む教室でたった一人で・・・・。

それらをベランダで全部聞いてた徳永 千奈美は不適な微笑みで
その場から立ち去った・・・。そして
「これで、矢島君は私のモノになるのも時間の問題ね♪」
 
                           【終わり】
523介清:2007/09/29(土) 13:08:12 ID:OeC/trte0
初めましてです・・・。
「すけきよ」と呼びます。
できれば小説のアドバイスお願いします。
524名無し募集中。。。:2007/09/30(日) 12:03:33 ID:sO47sbcUO
何がおもしろいのかわかんないんだけど
525ねぇ、名乗って:2007/09/30(日) 19:24:20 ID:9cwtUZz40
新人作家さんgoodです。
526ねぇ、名乗って:2007/10/01(月) 17:31:27 ID:YAt/tO52O
>>523
よく話が分からないんだけど……本編と関連はないの?残念ながらとりあえず何を言いたいのか良くわかんない。それに、本編と関係ないならよそでやった方がいいのでは?
527ねぇ、名乗って:2007/10/01(月) 19:19:52 ID:MYC78CFt0
そうやって誰もいなくなるんだよな
528ねぇ、名乗って:2007/10/07(日) 06:31:56 ID:skSUZ9quO
保全
529松輝夫:2007/10/14(日) 21:53:42 ID:iT0XEvW4O
いろいろ忙しくてしばらく来れませんでした。感想をくださった皆さん、どうもありがとうございましたm(_ _)m
続きは一応書いたんですが、揚げてもいいの☆カナ?なんかホントに人がいないようですが……イワナ氏はもう書かないの☆カナ?
530ミヤビイワナ:2007/10/15(月) 17:54:52 ID:QSsluh2d0

やあ、輝夫さん久しぶりですね。

続きの作品を揚げられるのなら是非是非揚げて下さい。

是非読みたいです。

それから掲載のペースが遅いですが自分は少しずつ書いてますので。

読む人が居なくてもそれなりに書こうとは思ってますから。

531ねぇ、名乗って:2007/10/19(金) 00:24:28 ID:EgOp6IhAO
保全age
532松輝夫:2007/10/22(月) 05:49:07 ID:uPX+8IEyO
久ぶりに再開します。

>>507

第三話 運命の再会


コンサートの翌日、圭太郎と里沙は竜二が眠る墓地を目指して歩いていた。
竜二の墓には引っ越す直前に一度両親に連れて行ってもらっただけだが、北海道に住む両親に場所は聞いてあった。
「変わらないね、この町は」
里沙の言葉通り、引っ越してから13年も経つのだが、町は当時とほとんど変わっていないようだった。
「…うん」
「圭太郎…元気ないね。どうしたの?昨日から変だよ」
「…大丈夫だよ。ゴメン」
昨日のコンサートの途中から圭太郎の様子がおかしいことに里沙は気づいていた。
ホテルに着いても、一晩経って今朝になっても圭太郎の様子は変わっていなかった。
『嘘つき…全然大丈夫じゃないくせに…』
里沙はそう思ったが口には出さず黙って歩いていく。
しばらく無言で歩くうち、今度は沈黙に絶えられなくなった圭太郎の方から里沙に声をかけた。
「あのさ…里沙は大丈夫なの?」
「…何が?」
「色々あったって言ってたから…絶対許されないことをしちゃったって言ってたし…」
「…まあね。でも、前からずっと来たかったんでしょ?私のことは気にしないでいいよ」
「…ありがとう、里沙」
―――程なく二人は目的の墓地についた。
入り口の門をくぐり墓地の中を歩くうちに、圭太郎の記憶が蘇ってきた―――確か、清水家の墓は墓地の隅にあったはずだ。
そして、ようやく二人が清水家の墓に近づいた時、一人の女性が墓の前で立ち上がるのが見えた。
振り返ったその女性と目が合った瞬間、圭太郎はその場に立ち尽くしていた。
533松輝夫:2007/10/22(月) 05:52:03 ID:uPX+8IEyO
「…佐紀…?」
「…圭ちゃん…?」
次の瞬間、圭太郎は踵を返して今来た道を戻ろうとした。
「待って!」
佐紀の言葉に圭太郎は足を止めた。
「…圭ちゃん…圭ちゃんなんでしょ?待ってよ…どうして逃げるの?」
圭太郎は振向かずに答える。
「…佐紀…僕は…君のことを…」
そう、理由はどうあれ彼女が苦しんでいる時に、傷ついている時に自分は彼女を守ることができなかったのだ、今さら彼女に会わせる顔などあるわけがなかった。
「…圭ちゃんは守ってくれたじゃない。私のことを今までずっと」
今までずっと、だって?―――佐紀の言葉の意味がわからず振り向いた圭太郎に向って、佐紀は右腕の袖を捲くって見せた。
「―――!」
佐紀の右手首には、13年前に圭太郎が贈ったリストバンドが今も巻かれていた。
それはだいぶ傷んではいるようだが、間違いなく自分が13年前に彼女に贈ったものだった。
『まだ…持ってたんだ…』
「ね?圭ちゃんは約束守ってくれたんだよ。胸張っていいんだよ。だからお願い。お父さんのお墓にお参りしてあげて。せっかく遠くから来てくれたんでしょう?私、すごく嬉しい。お父さんもきっと喜んでくれるよ。お母さんも…」
「佐紀…」
その時、圭太郎は後ろから背中を突付かれた。
振向くと、里沙が無言で頷いている。
「…わかったよ、佐紀」
圭太郎は清水家の墓の前に立ち、佐紀に軽く会釈してから里沙もそれに続いた。
534松輝夫:2007/10/22(月) 05:54:39 ID:uPX+8IEyO
佐紀の目の前で墓に線香と花を供えて手を合わせると、圭太郎と里沙は立ち上がった。

佐紀は二人に頭を下げる。
「ありがとう、きっとお父さんもお母さんも喜んでるよ」
「佐紀…まさか、おばさんも?」
「うん、もう5年経つかな…肝臓悪くしてたからね。でも大丈夫、今はお仕事が楽しいし、友達もいるから寂しくないよ」
「そうだったのか…。そうだ、遅くなったけど紹介するよ。彼女、新垣里沙。僕の…彼女」
圭太郎は佐紀に里沙を紹介した。
「はじめまして、新垣理沙です。あなたのことは圭太郎から聞いてるわ。でも、どこかで見たような…もしかして、昨日中野にいなかった?」
「ええ、まあ…」
「佐紀、昨日、君がステージの上で踊っているのを見てたよ。ダンサーになる夢、叶えたんだね」
「やだ、来てたの?」
「私も圭太郎も嗣永桃子ちゃんのファンだから。でも、圭太郎の幼馴染が桃子ちゃんのバックで踊ってたなんてねぇ。ところで圭太郎、せっかく会ったんだからしばらく二人で話したら?私、適当に歩いてるから後で電話くれる?」
「里沙?」
「いいから、遠慮しないの。それじゃ、また後で」
里沙はそう言うとさっさと歩いていってしまった。
「かわいい人じゃない。よかったね、素敵な彼女ができて」
「まあね…里沙もこの町の出身なんだ。中学校も一緒でさ、僕らが入学した年に生徒会長やってたんだって。全然覚えて無かったよ」
「やっぱりね。どこかで名前聞いたことがあるような気がしたの。確か、急に転校しちゃったけど、その人と圭ちゃんが付き合ってるなんてね」
「よく覚えてたね。まあ、いろいろあって転校したらしいけど、詳しいことは教えてくれなかったな。さてと、せっかくだから少し歩かない?」
圭太郎の言葉に佐紀も頷いた。
535松輝夫:2007/10/22(月) 05:58:21 ID:uPX+8IEyO
春の暖かい日差しを浴びながら、墓地を出て街中を歩いた二人は荒川の土手に来ていた。
昔はよくこの土手で遊んだものだし、中学時代はこの道を通って一緒に学校に通ったものだ。
荒川に架かる橋の上は相変わらずたくさんの車が行き交い、時折、その傍の鉄橋を大きな音を立てて電車が通り過ぎていく。
「ホントに変わらないなぁ、この町も、この土手も。小学校の頃は君とよくここで一緒に遊んだっけね。懐かしいよ」
「そうだね。その頃はお父さんもお母さんも元気だったし、毎日が楽しかったな。この町はホント昔のまんま。でも、だから私はこの町が好き。いいことも悪いことも、思い出がたくさんあるから。それにしても、圭ちゃんはずいぶん変わったね」
「そう?」
「うん。すごくかっこよくなったよ。背もこんなに高くなっちゃって」
佐紀の知ってる圭太郎は、佐紀より背が少しばかり高いだけで、クラスの男子の中では小柄な方だった。
それが今は、話をするにも佐紀が見上げなければならないほど背も高くなったし、体つきもがっしりしていた―――まあ、13年も経っているのだから当然といえば当然だろうが。
「そっかな…でもさ、佐紀だって、すごくキレイになったよ。背が低いのは昔のままだけどさ」
「…ふ〜ん、お世辞も言えるようになったんだね。圭ちゃんも少しは女の子への接し方がわかってきたのかな?背が低いっていうのさえ言わなかったら満点だったけどね。やっぱり里沙さんのおかげ?」
キレイになったと言われて本当は嬉しい佐紀だったが、照れ隠しにそう言った。
「ち、違うよ。本気でそう思ってる」
「はいはい、どうもありがと。お世辞でも嬉しいよ」
圭太郎を軽くいなしつつ、佐紀はこんなやり取りをしていると何だか昔に戻ったような気がして嬉しかった。
「お世辞じゃないのに…」
呟く圭太郎がおかしくて、佐紀は思わず吹き出す。
「何笑ってんだよ〜」
笑われた圭太郎が抗議するのを聞き流しながら、佐紀は思った。
『やっぱり変わってないね、昔のままだよ、圭ちゃんは…』
どんなに外見は変わっても、圭太郎の中身は昔のままであることに安心感を覚える佐紀だった。
536松輝夫:2007/10/22(月) 06:36:03 ID:uPX+8IEyO
二人は土手に腰を下ろして昔とちっとも変わらない荒川の流れを眺めていた。
「…それにしてもさ、まだ持ってたんだね、そのリストバンド。驚いたよ」
「当たり前でしょ。圭ちゃんがくれた大切なお守りだもん。でもゴメンね。一つは親友が怪我をした時にあげちゃったんだ」
佐紀は修学旅行の時両手を怪我した夏焼雅のことを思い出して、一瞬懐かしそうな表情になった。
「いや、それは構わないけどさ、嬉しかったよ、まだ持っててくれたなんて。ところで、おばさんも亡くなってしまったって言うけど、佐紀は今どうしてるの?家はどうしたの?」
「家は処分してね、今は近くのアパートで一人暮らし。できれば売りたくなかったけど、私が一人で住むには大き過ぎるし仕方なかったの」
「そっか…苦労したんだね。それにしても、まさか君が嗣永桃子のバックで踊ってるなんてね」
「桃子は私の親友なの。あの娘も桜中の出身でね、私のことずっと支えてくれたんだ。私が今の仕事をしていられるのもあの娘のおかげなの」
「そうだったんだ。それも驚きだけど、君とこんな風にまた会えるなんて想像もしなかったよ」
「それは私もだよ。まさか圭ちゃんにまた会えるなんて、今でも信じられないくらい。あの時、どうして手紙くれなかったの?私、ずっと待ってたのに」
「…ゴメン」
「あ…ゴメンね、圭ちゃんを責めてるんじゃないんだ。でもね、私すごく寂しかったよ…」
「すまない…一応、手紙は書いたんだ。でも、おじさんとの約束も守れないで、君の傍にいてあげることすらできなかった僕が君に手紙を出す資格はないと思った。だから出さなかった…というか、出せなかった…」
佐紀は改めて実感した―――14年前の約束が未だに彼を縛り続けていることを。
537松輝夫:2007/10/22(月) 07:38:06 ID:uPX+8IEyO
「…圭ちゃん、さっきも言ったでしょ?圭ちゃんはちゃんと約束果たしたんだよ。だから、もう昔の約束に縛られることはないんだよ」
「佐紀…」
「ゴメンね、お父さんが変な約束したばかりに…ううん、結局は私のせいなんだよね。いつも圭ちゃんに迷惑かけてたね、私…」
「佐紀、君のことを迷惑だなんて思ったことは一度もないし、おじさんだって悪くないよ」
14年前は幼かった圭太郎も、今では自分に佐紀のことを託したあの時の竜二の気持ちがわかる気がしていた。
小学6年生の男の子ができることなど高が知れている、そんなことは竜二にだってわかっていただろう。
にも拘らずあんなことを言ったのは、残していく一人娘の今後を案じてきっと藁にもすがる思いだったのだろう、圭太郎はそう思うと竜二を恨むような気にはなれないのだった。
538松輝夫:2007/10/22(月) 07:50:08 ID:uPX+8IEyO
「ありがとう。そんな風に言ってくれて嬉しいよ。そう言えばさ、圭ちゃんは今何をやってるの?パイロットになるって夢、どうなったのかな?」
佐紀は肝心なことを聞くのを忘れていたことに気づいた。
「ああ…まあ、パイロットにはなれたよ、一応ね」
「すごいじゃない!おめでとう」
ちょうどその時、旅客機が二人の遥か上空を飛んでいくのが雲の切れ間から見えた。
その姿を目で追いながら、佐紀は圭太郎が大勢の客を乗せた飛行機の操縦桿を握る光景を頭の中に描いて嬉しくなった。
「すごいね、圭ちゃんもあんな風に大勢の人を乗せて飛んでるんだ」
「佐紀…違うんだ」
「え?何が違うの?だって、パイロットになったって言ったじゃない」
「言ったよ。僕は…航空自衛隊のパイロットになったんだ」
「うそ…でしょ…?」
「…うそじゃない。ぼくは自衛隊の戦闘機パイロットになった。今は茨城県の百里基地にいる」
佐紀には信じられなかった。
佐紀の知ってる圭太郎は争いごとは嫌いなはずだった。
男子の中では小柄で非力だったこともあって、ケンカといえばせいぜい佐紀と他愛もないことで口ゲンカするのがいいところで、普段は暴力とはおよそ無縁のおとなしい性格だった。
その圭太郎がまさか自衛隊に入るなんて、それも戦闘機のパイロットになったなんて佐紀は夢想だにしなかった。
「圭ちゃん…」
外見はともかく中身はちっとも変わっていないと思った圭太郎が、実はそうではなかったのかもしれない。
これが13年という歳月の重みだろうか。
年とともに人は良くも悪くも変わっていくのだ。
それはわかっていても、佐紀は圭太郎が自分の知らない世界の人間になってしまったような気がして、さっきとは違い一抹の寂しさを覚えるのだった。
539松輝夫:2007/10/22(月) 07:56:02 ID:uPX+8IEyO
その時、不意に圭太郎の携帯電話が鳴った。
液晶画面は里沙からメールが届いていることを表示している。
「里沙からだ…さすがに一人で歩くのは飽きたみたい」
「圭ちゃん、そろそろ里沙さんのところに行ってあげたら。私も行かなくちゃ。今日も公演があるから、会場に行かないと」
時計を見ながら佐紀が言う。
その言葉に圭太郎は思い出した。
確か、昨日から明日までの三日間連続で桃子は中野サンプラザでコンサートをやる予定になっていたはずだ。
「圭ちゃん、今日はお父さんとお母さんのお墓参りに来てくれてありがとう。それに、久しぶりにお話できて私嬉しかった」
「ああ、僕も君に会えて嬉しかった。コンサート、頑張ってね」
「ありがと。それじゃ、私そろそろ行くね」
「佐紀、ちょっと待って」
歩き出そうとする佐紀を圭太郎は呼び止めた。
「…今度、また会えないかな。もっとゆっくり、色々話したいんだ。あの…よかったら連絡先教えてくれないかな?」
「うん、いいよ」
二人は携帯電話の赤外線通信機能を使ってお互いの電話番号とメールアドレスを交換した。
「また後で連絡するよ」
「うん、待ってる。里沙さんにもよろしく。それじゃ、またね」
圭太郎に手を振ると、佐紀は歩いていった。
やがて佐紀の姿が見えなくなると圭太郎は里沙に電話をかけた。
「もしもし、里沙?待たせてゴメン、今どこ?」
少し不機嫌そうな里沙と話しながら、圭太郎は自分の中で13年前に自ら封印したはずの想いが再び蘇ってくるのを抑えられないでいた…。

第三話 了
540松輝夫:2007/10/22(月) 08:08:18 ID:uPX+8IEyO
今回はここでおし舞波!
だいぶ手こずってしまい更新に時間がかかってしまいましたが、まだ読んで下さってる方がいましたら感想などカキコしてくださると嬉しいです。

それから2日遅れですが、今月20日は今回のお話のもう一人のヒロインであるガキさんこと新垣里沙嬢の19歳の誕生日でしたね。おめでとうござりまするm(_ _)m
デビュー以来ずっと見てきましたが、キレイになりましたねぇ。今や娘。のサブリーダーとして娘。にはなくてはならない存在と言えるでしょう。今後の活躍に期待です。
541ミヤビイワナ:2007/10/22(月) 20:20:21 ID:f5d5kQ9c0

輝夫さん更新お疲れさまでした。

仕事明けでの更新ですかね、すごい朝早くから頑張りましたね。

新垣里沙の13年後・・・・う〜ん・・・シブイ。

ラブ☆なっくるでは悪役の親玉にしてしまったが、自分で言うのもなんだけどやはり過去があるとキャラとストーリーは締まるな。

それにしても輝夫さんは本当に上手くなったな、いつか大きな意味で次のステージがあったら書くべきでしょうね、ここまで書ければ何でも出来そうな気がする。

今回のストーリーはどうなってしまうのか?

本当に楽しみです、もしかしたらもしかしたら圭太朗は佐紀とヨリを戻してしまうのか!!

ゆっくり頑張って下さい、輝夫さん。


542ねぇ、名乗って:2007/10/22(月) 22:35:18 ID:NpZOT7ZZ0
待ってました〜
圭太郎にはガキさんを悲しませるようなことはしないでほしい
と願いつつ次を楽しみに待っています。
543応援団員:2007/10/24(水) 14:13:45 ID:rcXHUwYq0
う〜〜〜〜〜〜ん!!
佐紀ちゃん不足だ========!!

と、思ったら新作来てたーーーー!!

嬉しすぎるタイミングだ〜〜〜〜〜〜〜!

松輝夫さんお疲れ様です。

いいですねぇ。う〜ん気になる展開です!
でもガキさんが可愛い過ぎる!!健気!

もうどっちが圭太郎と一緒になっても・・・。
イヤイヤここはやはり佐紀ちゃんで・・・。
でも・・・。

と、一人で悶絶しながら悩んでいる今日この頃です・・・。

それと大分寒くなってきましたね。
松さんもミヤビイワナさんもお身体には気を付けて下さいね!では!
544松輝夫:2007/10/24(水) 14:26:21 ID:TQ5C6ILxO
正月ハロ紺申し込み全滅orz

さて、それはおいといて書き込みしてくださった皆さん、ありがとうございましたm(_ _)m
前回の更新からほぼ一月経っての更新になりますが、お待たせしてすみません。にも関わらず待っていてくださる方がいることに感謝します。
現在続きを書いていますが、今回の作品はとにかく難しいのでかなり苦戦してます。次の更新も一月後を目指してますが、もっと先になるかもしれませんのでご了承下さい。
545ミヤビイワナ:2007/10/24(水) 20:12:59 ID:Aqajdclj0

輝夫さんハロ紺残念でしたね。

小説の方は本当に丁寧に作られているのでゆっくりで結構ですよ。
本当に良い物をじっくり読みたい一ファンである自分の意見です。

応援団員さん輝夫さんを誉めてくれてありがとうございます。

自分の好きな作家を誉めていただくことは自分のセンスがやはり他の人も好いてくれてる自信にもなりましてうれしいです。

やはり自分は物語を溺愛してしまったのだななんて思ってインスタントなメディアとは訳が違うんだなと他の書き込みを見ると勝手にそう思ってしまいます。

去年の今頃は文化祭を書こうとガンバって他の作品を一生懸命書くと言う謎な執筆をしていました、今も謎な執筆をしていますがもう一つ勇気が足りなくて書ききれませんがそろそろ書かなきゃなとも思っても今週も他のクリエイトな仕事が忙しく手につきません。

まあ、急がずにと、自分に良い聞かせて今日は寝ましょうかね。

おやすみなさい。
546ねぇ、名乗って:2007/11/03(土) 02:10:56 ID:p6gQZm8aO
保全
547ねぇ、名乗って:2007/11/03(土) 02:13:27 ID:jv7m5MzmO
DoCoMo/2.0 D903iTV(c100;TB;W23H16;ser359490000285965;icc8981100000337208765f)
548ねぇ、名乗って:2007/11/06(火) 07:20:43 ID:p6WPTiMv0
とりあえず書き込み。
549ねぇ、名乗って:2007/11/10(土) 01:52:58 ID:F/6blFZCO
待ってる方が多いでようですね。

筆不精な私は『感想文』はマメに書けませんが、確実に良作を待ち望む【愛読者】が多くいる事が感じられます。
550応援団員:2007/11/12(月) 01:34:54 ID:bGaLJNpy0
私もとりあえず書き込み!

上の方が言っている様に確かに待っている方が結構居ると思います。

私もその一人ですが(笑)
551松輝夫:2007/11/15(木) 06:24:24 ID:82xq8ISNO
皆さん、書き込みありがとうございますm(_ _)m
自分の方は、今書いている部分がとても難しく煮詰まりっぱなしだったんですが、昨日ようやく前に進みました。うまくいけば前回同様21日にはあげられるかもしれません。
まあ、今回の話のヒロインである佐紀ちゃんの聖誕祭に合わせて、もう一日待つかもしれませんが……。
聖誕祭と言えば、先日田中れいな聖誕祭公演昼夜参戦のため4ヶ月ぶりに名古屋に行きました。今でこそ小春姫に一押しのため座は譲ったものの、依然自分の中の娘。メンでは上位にくる娘。だけに聖誕祭公演行けて良かった。
千奈美に、次に誕生日当日がライブにあたるのは2012年になるようですから、なおさら今回行けて良かったです。
とりあえず、わずかずつですが書いていますので、もう少しお待ちください。その間は、Berryz工房も15枚目のシングルもリリースすることですし、スレの保全も兼ねて雑談などしていていただけると助かります。何の書き込みも無いのでは寂しいですしね。
552鯖味噌:2007/11/15(木) 21:39:42 ID:fO0ANMQZO
まだ続いてたんだねこのスレ
初期作家はあぼーんしちゃったけどさ少しずつでいいから彼女達を卒業まで導いてやっておくんなまし!
今書いてる作家さん!
分かち合わせてください「青春狂想曲」を!!
553まぁ、名乗って:2007/11/16(金) 01:48:00 ID:CUoknREy0

こんばんは 皆様お元気でしょうか
茉作… いやいや ご無沙汰の引退作家でござますw

随分と久しぶりにスレ拝見しました

今も物語を描き続けて下さっている事

未だ行動を共にしている
ふたりの引退作家はとても嬉しく思っています

ボク達、引退作家の『 夢 』は
卒業式までの物語を描き終える事でした

叩かれたり、荒らされたり、煮詰まったり
それでも今尚、描き続けている作家さんと読者の皆さんへ


いつまでも見続ける夢も素敵だけれど

叶えられた夢はもっと素敵だと思います


ボクらが見続けていた
卒業式までの物語を描き終えるという夢

皆さんの力で叶えられること
心より願っています


それでは、引退作家の戯言でしたw (*^ー゚)ノシ *・゜゚・*:.。 ガンバレ!サッカ!! 
554ねぇ、名乗って:2007/11/17(土) 15:00:28 ID:zN3pITsM0
懐かしい人が。お元気でしたか?
一読者は新作をマターリと待っています。
555ねぇ、名乗って:2007/11/18(日) 22:18:46 ID:95rfgZypO
りしゃす

戻っておいで

そもそもキミが作ったんだから!

頼むよぉ。
556川*^∇^)||:2007/11/19(月) 01:28:34 ID:KOSgXeGg0
ある霊感体質の女の子がね、信号待ちをしていたんだって。
そうしたら、向こう側の人の群れのなかに、異様な女性が立っているのが見えたんだって。
彼女は直感で、この世のものではないって感じたらしいの。
で、その女性と目が合うと、急に寒気を感じて、見ちゃいけないと思って、
顔を伏せて信号を渡ろうとしたんだって。
で、こうやってすれ違いざまにその女性はこう言ったんだって。
見えてるくせに!
557ねぇ、名乗って:2007/11/19(月) 10:41:22 ID:W/GvBz/T0
age
558松輝夫:2007/11/19(月) 17:09:20 ID:ag/dDYU+O
まあさん・りしゃす氏、出来たら帰ってきてほし〜の。もともとはお二人が作ったスレですし。待っているのは自分やイワナ氏だけではないですから。
イワナ氏もどうしちゃった☆カナ?先日ヤフーのメッセで話して以来ですが、まだ忙しい☆カナ?
さて、自分の方は佐紀ちゃん聖誕祭当日に更新する目処が立ちました。もっとも、今回の更新分には佐紀ちゃんは出てこないんですがw
559松輝夫:2007/11/22(木) 00:13:57 ID:nhdUoAVBO
川´・_・リ 今日は私の誕生日ですよ。皆さん、お祝いしてくださいね?

そういうわけで、佐紀ちゃん16歳の誕生日おめでとうございます。
予告通り、誕生日記念で更新します。

川´・_・リ 私は出てきませんけどね。

……それでは、どうぞ!

第四話 苦悩


中野での嗣永桃子のコンサートが終わって一月が経ち、圭太郎はまた過酷な訓練に明け暮れる毎日に戻っていた。
そんなある日、アラート待機の任務に就いた圭太郎は三郎と共にアラートパッドと呼ばれる待機所の中にいた。
他国の航空機による領空侵犯に備えていつでも発進できるよう24時間待機し、いざという時にはスクランブル発進することになっている。
自衛隊機によるスクランブル発進は東西冷戦期には一年で900回を超えた年もあるが、冷戦終結後は200回前後に落ち着いている。
この任務は圭太郎も既に何度か経験し、一度だけ実際にスクランブル発進したこともあるが、ほとんどの場合は何事もないまま勤務明けになることが多かった。
この日も何事もないまま時間だけが過ぎていたが、雑誌に目を落としていた三郎が不意に口を開いた。
「圭太郎、最近里沙ちゃんとはうまくいっているのか」
三郎の口から里沙の名前が出たことに、圭太郎は一瞬体を硬くした。
「…別に…問題ありません」
答えながら、圭太郎は自分でも表情が強張っているのを感じていた。
「…そうか」
三郎は短く答えるとそれ以上は何も言わず、再び手元の雑誌に目を落とした。
その様子を見ながら圭太郎は思った。
『酒井さんは全部知ってる…』
本当は、里沙とのことは問題ないどころではなかった。
そして、その原因が自分にあることを圭太郎も自覚していた。
560松輝夫:2007/11/22(木) 00:14:52 ID:nhdUoAVBO
佐紀と13年ぶりに再会した後、圭太郎はプライベートで一度も里沙と会っていない。
あの日以来、圭太郎は一度は諦めたはずの佐紀への想いをどうにも抑えられずにいた。
佐紀に自分の気持ちを伝えるべきか否か、彼は迷っていた。
そして、そんな自分がこのまま里沙と付き合っていていいのか悩んでいた。
だから、里沙の方から何度か誘われてもことごとく断っていたのだった。
561松輝夫:2007/11/22(木) 00:16:25 ID:nhdUoAVBO
「圭太郎、今週の土曜の夜は空いてるか?」
再び三郎が口を開いた。
「…特に予定はないですけど…何か?」
「愛に言われてたんだ。今度の土曜日、『荒鷲』でお前と二人で飲みたいから都合聞いといてくれってな」
「自分は構いませんけど…酒井さんは?」
「最初に言ったろ?愛と二人だ。俺は行かない」
「はぁ…」
どういうことだろう、と圭太郎は思う。
今まで愛と一緒にどこかに出かけたり、飲みに行ったことは何度かあるが、その場合は必ず三郎や里沙も一緒だった。
それが何で今回は二人っきりなのだろうか。
「何だ、愛と二人じゃ嫌か?アイツ悲しむぞ?お前のことは弟みたいだって気に入ってるからなぁ」
「べ、別に嫌とかじゃないですよ。ただ…いいんですか、酒井さんは?」
「ああ、たまには二人もいいだろ。お前と一緒なら安心だしな。俺のことは気にせずに行ってこい。何か話があるって言ってたしな」
それで圭太郎はわかった気がした。
言うまでもなく、愛と里沙は歳は違うが同期でプライベートでは大の親友同士だ。
話があるというが、たぶん里沙のことだろう。
圭太郎がそんなことを考えていると
「おいおい、あまり乗り気じゃなさそうだな。嫌なら無理しなくて良いんだぞ?」
「い…いえ、そんなことないです。あの、えっと喜んで行かせていただきます」
慌てて圭太郎は答えた。
562松輝夫:2007/11/22(木) 00:18:51 ID:nhdUoAVBO
「いらっしゃい!」
土曜日の夜、「荒鷲」の扉を開けた圭太郎はいつも通り威勢のいい店の声に迎えられて暖簾をくぐった。
週末の店内は既に大勢の客で賑わっている。
時間的に開店して間もないはずだが、店内の席はほぼ全てが埋まり、店員が忙しそうに酒や料理を運んでいた。
圭太郎は、その店内を愛の姿を探して視線を走らせた。
「圭ちゃん、こっちこっち」
圭太郎が声のした方を見ると、店の片隅の席で愛が手を振っているのが見えた。
「すいません、遅くなりました」
席に着く前に圭太郎は謝った。
「ううん、私も来たばかりだし。それより、最初は生でいいかな?」
「え…まあ、それで…」
圭太郎が腰を下ろしながら頷くと愛は近くにいた店員に声をかけた。
「すいません、生二つお願いします」
注文を聞き終えた店員が立ち去ると、愛はメニューを取り上げた。
「さてと。今日は何食べようかな〜。私お腹空いてんだよね。圭ちゃんは何か食べたいものないの?」
「いや、特には…」
「そうなの?適当に頼んじゃうよ?食べたいものがあったら遠慮しないで言ってね」
愛はそう言って再びメニューに見入る。
「う〜ん、トマトカレーは締めに食べるからなぁ…あ、でも締めにはミニソースカツ丼も捨てがたいし…」
『もう締めのこと考えてるの?』
圭太郎は多少呆れ気味にメニューに見入る愛を見守っていた。
563松輝夫:2007/11/22(木) 00:22:58 ID:nhdUoAVBO
ちなみに、トマトカレーとソースカツ丼は共に愛の出身地である福井の有名な料理である。
「荒鷲」の主人が元々福井の出身であることからメニューに加えているのだが、それが愛がこの店をことの他気に入っている理由のひとつだった。
主人の方も愛が福井の出身であることを知っているので、たまにおまけしてくれたりもするらしい。
「よし、決まりっと」
愛がそう言ってメニューを閉じた時、
「生二つ、お待たせしました!」
アルバイトだろう、高校生くらいの元気のいい男の店員がジョッキを片手にやってきた。

「ありがとう。あの、注文もいいですか?」
―――やがて注文を聞き終えた店員が立ち去ると、愛はジョッキを取り上げた。
「さてと。それじゃ、今週もお疲れさまでした。乾杯!」
乾杯して二人はジョッキに口をつける。
「圭ちゃんと二人きりで飲むのは初めてだよね」
「ええ、まあ。でも、あの…いいんですか?」
「何が?」
「いや、あの、僕と二人だけで飲むなんて…」
「ああ、そのこと。どうしても圭ちゃんと二人で話したいことがあるからね。大丈夫だよ、三郎も知ってるわけだし。ま、最初から隠すつもりなかったけどね。それより圭ちゃん」
愛はまっすぐ圭太郎の目を見た。
「そういう圭ちゃんはガキさんに話した?私と二人だけで飲むってことを」
「―――!」
再びジョッキを口に運ぼうとしていた圭太郎は手を止めた―――中野に行って以来里沙とは全く連絡を取っていないのだから、当然今日のことも何も話していない。
その圭太郎の様子に、愛は軽くため息をついた。
564松輝夫:2007/11/22(木) 00:36:56 ID:nhdUoAVBO
「お待たせしました!」
そこへさっきの店員が注文していた料理を持って来ると、手際よくテーブルに並べてから立ち去った。
「…ホントなんだね、最近全然連絡取ってないって」
店員が立ち去ると愛は再び口を開いた。
「大丈夫だよ、ガキさんは知ってるから。実はね、ガキさんに相談されたんだ。でもどうしたの?あんなに仲良かったじゃない。いったいあなたたちに何があったの?」
「…」
「そっか、私にも言えないか。残念だな」
「愛さん…」
「私がこんな話をするのはね、もちろんガキさんに相談されたっていうのもあるけど、圭ちゃんのことも心配だからだよ。でも、圭ちゃんには迷惑だったかな。ゴメンね、余計なこと言って」
「いえ、別に迷惑なんかじゃないですけど…」
圭太郎は意を決した。
「…わかりました。全部、話します」
圭太郎はジョッキをテーブルに置くと、13年前に別れ別れになった幼馴染の佐紀のことを、そして五月の連休に東京に行った時、その佐紀と再会したことを愛に打ち明けた。
「別れてからも、佐紀のことを忘れたことは一度もありません。でも、まさか再び出会うなんて思ってもいなかった…もし知っていたら、里沙と付き合ったりしませんでした。
里沙とは軽い気持ちで付き合っていたわけじゃありません。でも、佐紀は昔僕が守ってあげられなかった大切な人なんです。今度こそ傍にいてあげたいんです。
だから、こんな気持ちで里沙と付き合っていてはいけないと思って…でも、それを里沙に伝えることもできなくて…」
「そうだったの…辛いね、圭ちゃん。圭ちゃんは優しいから余計に辛いね」
「…」
「でもね、それならなるべく早く本当の気持ちを言ってあげるのが優しさじゃないかな?このまま中途半端な気持ちで付き合うのはガキさんに失礼だし、遅くなればなるほど傷つくと思うよ」
圭太郎は愛の顔を見た。
その圭太郎に向って愛は頷いてみせる。
565松輝夫:2007/11/22(木) 00:40:23 ID:nhdUoAVBO
「恋愛ってさ、結局誰かが傷つくんだよね。それは仕方ないことだと思う。でも、だからこそなるべく相手を傷つけないようにしてあげるのが暗黙のルール、みたいなもんじゃないかな?私はそう思うんだ。
ずっと、想い続けてきた人なんでしょ?圭ちゃんがその人を選ぶなら、それはそれで仕方ないじゃない。でも、だったら少しでも早く本当のことを圭ちゃんの口からガキさんに伝えてあげて欲しいの」
「…」
「だけど圭ちゃん、これだけは覚えておいてね。あなたと付き合うようになって、ガキさんすごく幸せそうだった。ホント、傍から見ていて妬けるくらい。
あなたが決めたことを否定することは私にはできないけど、でもあなたの決断が間違いなくガキさんが傷つけることを、それだけは忘れないで欲しいの。
そして、ガキさんのためにも今度こそその人をしっかりと守ってあげるんだよ。そうじゃないと、ガキさんも報われないから」
愛は今まで見たこともないような真剣な表情で言った。
「…わかってます。もう覚悟は決めましたから」
「そっか、そうだよね…よ〜し、じゃあ今夜はとことん飲むよ」
「はぁ…」
「そんな顔しないの!…ガキさんなら大丈夫、年下だけど、私なんかよりもよっぽどしっかりしてるんだから。時間はかかるかもしれないけど、でもきっと立ち直ってくれるはずだから…」
「…そうですよね、僕が言えたセリフではないですけど…」
圭太郎はジョッキを持ち上げると一気に飲み干した。
「愛さん。今度の休みに…里沙に全部話します」
「…そうね、そうしてあげて。圭ちゃんも辛いと思うけど…」
「いえ、もう大丈夫です。それに、里沙のことを考えたら、僕の辛さなんて…」
圭太郎に言葉をかけようとした愛だったが、圭太郎の心中を察して止めると代わりに自分のジョッキを空けてから店員に声をかけた。
「すみませーん!生二つお願いします」
「愛さん…」
「ほら、さっきも言ったでしょ。今日はとことん飲もう。ね?」
愛の言葉に圭太郎は頷いた。

第四話 了
566松輝夫:2007/11/22(木) 00:48:01 ID:nhdUoAVBO
今回はココでおし舞波!次の更新は一月後を一応目標にしますが、間に合わなかったらお許しください。
佐紀ちゃん、16歳の誕生日おめでとうございます。Berryz工房のキャプテンという立場は何かと大変だと思いますが、これからも頑張ってください。応援してます。
それでは、今日という日が佐紀ちゃんにとって素晴らしい誕生日になることを祈念しつつ、自分はそろそろ寝ます。おやす雅
567ねぇ、名乗って:2007/11/22(木) 19:05:21 ID:ArARIXWk0
佐紀ちゃん誕生日おめでとう〜
今後も力強い動きを見せてください〜

更新待っていました〜
愛ちゃんと三郎は( ;∀;)イイヒトダナー
次の更新も楽しみに待っています〜
568応援団員:2007/11/30(金) 21:02:58 ID:77JcQk5F0
お久し振りです!しばらく仕事が忙しすぎて見る事が出来ませんでしたが、
更新来てた!松輝夫さん!お疲れ様です!

ああ〜〜!内容も面白くて(って言ったら圭太郎に失礼かな?)
ドキドキしながら読ませてもらいました。
今後どうなるのか?本当に気になって一人悶えています。(笑)

それと随分遅くなってしまいましたが、佐紀ちゃん誕生日おめでとう!
リアルの佐紀ちゃんも、この物語の佐紀ちゃんもどちらも
幸せになって欲しいものです。

もちろん佐紀ちゃんだけでなく、松輝夫さん、ミヤビイワナさん、
茉作家さん、りしゃすさん、そしてこのスレを見ている読者の方々、
すべてが幸せになれればいいですね。

萩原舞曰く、「幸せはその人が幸せと感じたら幸せなんだよ!」だそうです。
どんな時でも幸せを感じる心を持ち続けたいですね。

では松輝夫さん!次はクリスマスくらいの更新ですね?
楽しみにしています!(でもくれぐれも無理はしないようにお願いします!)
569ねぇ、名乗って:2007/12/18(火) 10:28:38 ID:8zKLJ20lO
保守
570ねぇ、名乗って:2007/12/18(火) 21:45:31 ID:Wrq4smXE0
fds
571空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:02:22 ID:8bqsRrWE0
空と海の青さに〜叶えられなかった言葉

第6話「君となら・・・」

おでん屋のおかみと須藤氏を見送って数週間が経った・・・・。

土曜日の夜、丹下は八名の「焼き鳥食堂」で一杯やっていた。

八名は父親と忙しく焼き鳥を焼いている。

土曜日の焼き鳥食堂は人で一杯だった。

カウンターに座って丹下はゆっくり焼酎を飲んでいた。

「おい八名、レバー焼いてくれ。」

「おお、毎度!!」

「しかしお前が焼き鳥を焼けるとはな、ビックリだよ。」

「まあな、昔から料理は好きだったんだよ。」
572空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:03:04 ID:8bqsRrWE0
丹下は、

「おかみのおでん屋は知り合いの奥さんが引き継ぐって決まったよ。」

「ああ、あの大工の奥さんだよな。」
八名は焼き鳥を焼きながら答えた。

「あの奥さんなら大丈夫だ、しっかりやってくれるよ。」

「ところでまりんちゃんはどうするんだ?」

丹下は、
「あのままおでん屋に住み込みさ、店の勝手を知っているから奥さんを手伝うよ。」

八名は、
「まりんちゃんは良いところのお嬢様だよな、芸術大学も出てるんだろ?」

丹下は焼酎のグラスを置きながら、
「ああ、そうらしい、親に無理矢理見合いさせられそうなので家出してきたって言っていた。」

「なあ、丹下・・・まりんちゃんの事どう思ってるんだ。」

「どっどうって・・なにが・・・」

店の扉が開いてまたお客が入ってきた。
573空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:04:04 ID:8bqsRrWE0
「!!」

八名の幼なじみの加代だった。

八名の父は、

「おお!!加代ちゃん!!勝手に家にあがってくれ後でご飯持っていくから。」

「おじさん、こんばんわ、少しノブちゃんと話したくて。」

「・・・・・。」

丹下は、
(妙だな、加代ちゃんもそうだが、八名も様子が変だ。)

丹下は妙に勘ぐっていた、フェリー乗り場におかみと須藤氏を送ってから八名が気になっている。

フェリー乗り場からの帰り道にまだ空いていないドライブインの自動販売機で缶コーヒーを買って飲んだ。

「人は誰かの為なら頑張れるのかな・・・」

「はあ?」
丹下は見たこともない弱気な八名を見た。
574空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:04:33 ID:8bqsRrWE0
「丹下、なんか凄いよな、好きな男の為なら何もかも捨てられるんだな。」

「・・・なに言ってんだよお前がおかみに須藤さんについて行けってけしかけたんだろう?」

丹下はハイライトに火をつけてゆっくり煙を吐き出した。

八名は、
「なあ丹下、俺そろそろ親の後を継いで焼き鳥食堂やろうと思っているんだ。」

「それは良いことじゃねえか。」

丹下は心からそう思った。

「一人でやっていこうと思ってんだ、俺となんか一緒になった女は一生貧乏だよ、苦労するよ。」

丹下は何となく八名が何を言いたいかを分かった気がした・・・・。

どこに座ればいいか立ちすくむ加代に丹下は自分の座っているカウンターに加代を誘った

「おお!!加代ちゃんここに座りなよ!!」

「藤原さん、こんばんわ。」
575空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:05:05 ID:8bqsRrWE0
軽い会釈をしながら加代は丹下の横に座った。

丹下は町内会のボランティアでゴミ拾いや子供会の手伝いをするのだが、加代も手伝いにいつもいるから顔なじみなだった。

丹下もそうだがやはり一人で生きるには淋しいのでそんなボランティアでも人とふれあうのが楽しいのだろう。

八名は無表情で加代に、

「おい、お前まだ飯食ってねえんだろ?」

「うん。」

「サンマ焼いてやるから待ってろ。」

八名は言う前にはもう網にサンマを乗せて焼いていた。

加代は八名にサンマ定食を作ってもらい嬉しそうに食べながらおしゃべりしていた。

身近にあったことや仕事の事、人と語りたかった。

丹下は優しく頷き、八名はときおり笑ってみせた。

「ああ、長居してごめんなさい。」
576空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:35:46 ID:8bqsRrWE0
加代が財布を取り出そうとすると八名は、

「ばかやろう!!お前みたいな貧乏人なんかから金なんて取れるわけねえだろう。」

「・・・・・。」

八名はそっぽを向きながら、

「別に毎日飯食いに来てもいいからな・・・。」

聞いている丹下の方が照れくさかった。

加代は帰って行った。

「なあ八名、加代ちゃん何か別の話があったのかな?」

八名は黙って店の片づけをしていた。

「なんで?」

丹下は困りながら、

「う〜ん、何となく。」

本当に何となくの思いのまま丹下は帰宅した。
577空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:36:25 ID:8bqsRrWE0
次の日、

丹下はおでん屋の新しい主である大工の奥さんに頼まれ古くなった棚を直しに行った。

「悪いね藤原ちゃん、うちの人は大工なんだけど今忙しくてね。」

「いいんだよ奥さん、気にしないで。」

そこへ丁度仕込みの材料を買ってきたまりんが帰宅した。

「あら、藤原さん来てくれたの。」

白いワンピース姿のまりんがヒマワリのような笑顔で店に立っていた。

それだけで・・・よかった。

丹下はまりんの笑顔がそばにあればそれだけでよかった。

「ああ、店の方は急にだけどよろしく頼むぜ。」

3人で一通り店の棚類を直して休憩でお茶を飲んでいたときだった。
578空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:36:59 ID:8bqsRrWE0
「あ!そうだ!!」

大工の奥さんはいきなり大声で言い出した。

丹下はびっくりして

「ど、どうしたんだよ。」

「ノブちゃんの幼なじみで良く町内会の仕事に来る加代ちゃんっているでしょう。」

「!!」

「あの娘ね会社の上司に無理矢理お見合いさせられるんだよ。」

「え?」

「相手がねアメリカとの貿易で成り上がった会社のボンボン息子でさ、工場のパート奥さん達は心配しててね。」

「・・・・・。」

「本当はやめときなって言いたいんだけど・・・。」

丹下は、
「だけど?」

「相手はお金持ちでしょう。」
579空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:38:19 ID:8bqsRrWE0
まりんは堪らず口をはさんだ。

「好きでもない人と結婚するなんて幸せではないわ!!」

二人はポカンとまりんを見つめた。

「そ、そうよね・・・でもあの娘・・両親がいないから。」

まりんは意を決して、

「ねえ、藤原さん八名さんはこのこと知っているの?」

「う!!・・・全く知らない、俺が今知ったんだからな。」

「どうにかならないの!!」

「ん〜」

さすがに丹下でもこればっかりはどうにもならなかった・・・・・。

忙しい昼を過ぎた1時だった。

焼き鳥食堂の戸が開き加代は入って来た。
580空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 18:39:20 ID:8bqsRrWE0
洗い場で父親と皿を洗っていた八名は、

「ど、どうしたんだ!!とっくに昼休み終わったろ!!」

八名は訳が分からず加代に問うた。

「ちょっと話いいかしら?」

加代はどことなく力が無いような感じだった。

八名の父親は何かを感じ取り、

「おい信夫、休憩してこい。」

父親は素知らぬ顔をしていたが、何か加代に気にかかる物を感じ取っていた。

二人はとぼとぼ歩きながら近くの川が良く見える土手を歩いた。

川から流れる心地よい風を受る眺めのいい土手に二人は並んで座った。

「ねえ、覚えてるあの辺でノブちゃんが作ったイカダが沈んだこと。」

加代は笑いながら川を指さした。

「けっ!!」
581空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:21:06 ID:8bqsRrWE0
小学生の頃、近くの工場の廃材の丸太をビニールのヒモで縛りイカダを作ったがヒモの縛りが甘くあっという間にほどけてしまった子供時代のはなしだった。

加代は思い出しながら腹を押さえながら笑っていた。

八名は寝そべり反対を向いた。

「なあ。」

「うん?」

「会社で何かあったのか?」

「・・・・・。」

「一人は寂しいんだろ。」

「そんなことないよ工場の人たちはみんなやさしいし、度々町内会の集まりで藤原さんやまりんちゃんとも会えるし・・・・」

(ノブちゃんだっているし・・・・)

想っていても加代には言えなかった、恥ずかしくて自分の気持ちが簡単に言える時代ではなかった。

「それならいいんだ。」

八名は寝そべり加代とは反対の方向を見ながらぶっきらぼうに言った。

川の水が昼の強い日差しに当たりキラキラ光っていた・・・・・・。
582空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:21:43 ID:8bqsRrWE0
丹下は、
「それでお見合いっていつなんだい?」

大工の奥さんは良い辛そうに、
「明日よ。」

「ええ〜!!」

営業が終わった2200頃、丹下とまりんは焼き鳥食堂に行った。

「・・・・そう・・か・・。」

店の後かたづけをしながら八名は丹下の話を聞いた。

八名の父親は、
「昼間、加代ちゃんが来たのはそのせいか。」

「なあ、どうするんだよ。」

丹下は八名に問いかけた。

「どうするって、・・・どうもこうもないだろ。」

まりんは、
「加代ちゃんは信夫さんの事を好きなのよ。」

八名は、
「俺なんかと一緒になるより金持ちと結婚した方が幸せに決まってる。」
583空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:22:22 ID:8bqsRrWE0
まりんは、
「ねえ、なんでそんなにお金にこだわるの?」

「・・・・あいつが幸せになった方が俺は嬉しいんだ。」

「本当に幸せだなんてどうして分かるの、信夫さんがお金にこだわる様に加代ちゃんが両親もいない孤独な自分を負い目に感じていたらどうなの?」

「!!」

「ばかな!!そんな事あいつには関係ないだろ、あいつはあいつだ!!」

まりんは落ち着きはらった声で、

「そうよ、全く同じ事が信夫さんにも言えるのよ。」

八名は黙ってしまった。

丹下も黙ってまりんに任せるしかなかった。

女の気持ちは女にしか分からないのである。

1時間ほど丹下とまりんは焼き鳥食堂で八名に進言した後帰宅した。

八名は良く眠れないまま朝を迎えた。

良く晴れた日曜日だった。
584空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:22:50 ID:8bqsRrWE0
都心にある高級料亭に会社の上司に連れられて加代は来た。

「お見合い」である。

「いいかい加代ちゃんお見合い相手の人はこれから会社でも取引に関わる大事な相手だし、そこは一つ覚えていてね。」

50前半のやせた会社の上司はすこし顔をこわばらせて加代に語りかけた。

黒塗りの高級自動車がお見合い相手を乗せて料亭に向かっていた。

会社社長とその息子であった。

「父さんお見合いなんてかたぐるしいのはやだね。」

「そう言うな、親もいない娘だ気なんて遣うこともない、形だけ済ませてとっと籍だけ入れればいい。」

「わしも闇市場から一代で会社をここまで作ったが周りからは色々言われてな。」

息子は、

「貧乏人に何言われてもしょせんひがみだよ、言わせておけばいいんだよ。」

社長は、

「それだけでは済まないんだよこれからの時代は、今アメリカの会社と貿易をしているがこれからは車社会だどんどん輸出が増えるわしもその事業にこれから乗り出すが、その時に薄幸の娘を後継者の嫁とした事が世間に与えるイメージはでかい。」
「マスメディアの注目もあるのだよ、まあポーズではあるがな。」
585空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:23:24 ID:8bqsRrWE0
良く太った腹を紺色のスーツの下でゆらしなが社長は笑っていた。

「その為いつも使ってるヤクザ達も置いてきたしな。」
「周りからも良いイメージだぞ。」

時代は高度成長期に向かってどんどん景気がよくなりつつあった、しかしまだ戦争が終わった爪痕は色濃く残りアメリカとの「日米安全保障条約」に反対を掲げる国民が多数存在していた。

両親、一族を焼き払ったアメリカを死ぬまで許せぬ人々は余りにも多かった、その為政府と反対運動をする国民とが衝突して事件事故が国内では相次いでいた。

特にアメリカにへつらいて商売をする人間などは反対勢力に制裁の「標的」になっていた。

そんな時代であった。

八名はバイクで料亭のある街角に佇んでいた。

後ろからバイクの音が聞こえた。

丹下である。

「おう、八名やっぱり来たな。」

「・・・・・。」

八名は黙って料亭の方向を見ていた。

丹下はバイクから降りて八名に近づいた。

八名は、

「・・・・・もう何が出来る訳じゃないがただあいつの幸せを願うだけなんだ、あいつが幸せになればいいと思うだけなんだ。」
586空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:52:02 ID:8bqsRrWE0
丹下は、

「それなら・・・それでいいな。」

「俺も何か出来る訳じゃないがつき合うぜ。」

料亭の裏手に黒い作業服でヘルメットを被りサングラスと口もとにマスクをつけた若者6人ばかりがいた。

裏手から若い従業員が出てきてその一団としゃべっていた。

「本当にあの会社の社長が今日ここに来るのか?」

「ええそうよ、息子のお見合いに来る事になってるわ。」

「あの社長はアメリカの手先になってこの日本で大手を振って稼いでいる。」

「そうだ!!俺達の親父達を焼き払ったアメリカ人にへつらいやがって!!」

「今日は取り巻きのヤクザ達が居ないのがはっきりしている、今日こそ正義の「鉄槌」を下すのだ。」

討てば討たれる・・・・正に「狂気」の固まりである・・・・・。

料亭の一室に待たされて30分ほどで社長と息子は入って来た。

頭がはげ上がり贅沢を尽くす社長は腹が異常に張りだし顎にもたっぷり肉をつけていた。
587空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:52:59 ID:8bqsRrWE0
その息子は黒いスーツを着ていて長身で髪にべったり油を塗りオールバックにしていた。

甘やかされてそだった子供の典型で人を見下すような視線を加代とその上司に向けていた。

加代は一目で心が曇ってしまった・・・・八名の顔を思いうかべた。

鋭い目つきながらも人に気を遣わせないように親切をして照れ隠しに憎まれ口を言う八名の顔を心に描いていた。

「!!」

部屋の障子が急に開き作業服にヘルメット顔にタオルを巻いた男達が部屋に入った来た。

「何じゃお前ら!!」

社長は怒鳴り出したがすぐに顔面を木刀でなぐられ後ろに倒れた。

息子はその様子を見てすぐ逃げようとしたが取り押さえられ後ろ手に縛り上げられた。

「自分の親父を見捨てて逃げるなんて貴様にはやはり正義の鉄槌を与えなければならない!!」

加代と会社の上司は何も出来ず目を見張るだけだった。

「!!」

加代は煙の臭いを感じた。

「まさか火事?」

男の一人が、

「さあ、お前らは火にあぶられあの世で死んだ者達に詫びを入れてこい!!」
588空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:53:42 ID:8bqsRrWE0
男達は料亭の離れの棟に既に火を放ち親子をつれて放り投げようとしていた。

加代と上司に向かい男が、

「おい、あんたらは関係ないから逃げていいが俺達の事を喋るなよ。」

「・・・・・。」

男達は親子を引きずって行った。

「おい!!八名!!」

「!!」

料亭の方からうっすら煙りが立ち上っていた。

「さあ!!加代ちゃん早く逃げるよ!!」

上司は駆け足で振り向きもせず逃げ出した。

加代は引きずられる親子を何も出来ず見送り煙のあがる家屋の二階を見た。

「!!」

年寄りの女性が口を押さえながらこちらに手を振っていた。

二階で作業をしていて取り残された賄いのお婆さんだった。

男達は親子をまさに燃え上がる家屋の中に放り投げようとした瞬間だった。
589空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:54:55 ID:8bqsRrWE0
「うっ!!」

後ろから殴られ一団の一人が倒れた。

「なんだ!!お前ら!!」

八名と丹下だった。

「おまえらこそ何のまねだ!!」

一団の一人は、

「こいつらは俺達の親父を焼き払ったアメリカの手先となって金儲けをしている。」

「だから正義の鉄槌を与えなければならないのだ!!」

言い終わった瞬間、丹下の鉄拳が顔にめりこんでいた。

「そんな事をしてお前達の親父は喜ばない!!」

八名は、

「そんな事はどうでもいい!!加代はどこにいる!!」

男は、

「女には手を出していない、きっと逃げたはずだ。」
590空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 19:55:34 ID:8bqsRrWE0
「誰かー!!」

火の手に気づいた人たちが二階に人がいるのを外から確認していた。

「!!」

二階の窓に加代と年寄りの姿を八名は見た。

八名は走って階段に向かった。

一団は邪魔をしようとする丹下を囲んだ。

「我々の邪魔をするならただではおかない。」

一団はナイフと鉄パイプを取り出し丹下に構えた。

丹下は、

「一人じゃなにも出来ないカスども相手になるぞ。」

一団は一斉に丹下に襲いかかった!!

丹下はフットワークを踏みボクシングスタイルを取り振り下ろされた鉄パイプを避け左ストレートを放ち、倒れた男から鉄パイプを取り上げナイフを持った男達の腕に叩きつけた。

一団はあっという間にうずくまりもがいていた。
591空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:24:42 ID:8bqsRrWE0
丹下は鉄パイプを投げ捨て一団のリーダーと思われる男の前に片膝を着き、

「戦争で沢山の人が死んだ。」

「・・・・・。」

「恨んでも恨んでも足りゃしねえ。」

「・・・・・。」

「だけどな俺達は死んだ者達を忘れねえで生きなければならない残された人たちと力を合わせて生きなければならない。」

「・・・・・。」

「自分だけが苦しい訳がねぇ、みんな懸命に生きている、何があっても今も人は生まれてくる、今も生きようとして必至で赤ん坊も泣いている。」

「・・・・・。」

「近所のガキ達も垢だらけでも笑って走り回ってる。」

「・・・・・。」

「俺達がやらなきゃならないんだ、これからどんどん良くなる!!かならず良くなる、頑張って働くだけなんだ。」

丹下は自分に言い聞かせるように言っていた。
592空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:25:13 ID:8bqsRrWE0
「あんたにだって必ず良い未来がある!!絶対だ!!」

「・・・・・。」

「それじゃな。」

丹下は八名と加代が心配になり立ち去った。

二階に登った八名は煙に巻かれる加代を見つけた。

「おい!!早く逃げるぞ!!」

加代は、

「お婆さんが腰を抜かしたの!!」

八名は賄いのお婆さんを背に抱えて部屋を出ようとした瞬間。

「キャー!!」

天井から加代の首から肩にかけて火が落ちて来た。

「加代!!」

お婆さんを背負ったまま加代に近寄った。

加代は火傷の痛みに震えながら。

「ノブちゃん、私を・・置いて逃げ・・て・」
593空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:25:53 ID:8bqsRrWE0
八名は目をつり上げて、

「ばかやろう!!」

八名は後悔していた加代の気持ちは分かっていたし自分も同じ気持ちだったが加代のためを思えば少しでも条件の良い結婚があればと思い上がっていた。

「俺のせいだ、お前がこんな目にあうなんて。」

「ノブちゃん?」

「結婚しよう、もう今から家に来い!!」

「・・・・・。」

外から丹下の大声が聞こえた。

八名は部屋の窓から顔を出し下に立つ丹下を見た。

「おーい!!八名!!、あきらめて窓から飛び降りろ!!」

丹下は大きな笑顔で両手を開いていた。

丹下の太い腕と胸筋が3人を受け止めると言うのだ。

丹下はにやりとし、

「加代、もう時間がねぇ!!飛び降りるぞ!!」

「・・・・・。」
594空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:26:32 ID:8bqsRrWE0
八名はお婆さんを背に加代を胸に飛び降りた。

「おお!!」

丹下は落ちてくる3人を受け止めながらクッションになるように倒れた。

八名は、

「加代、もう何処にも行くな、今日から一緒に暮らそう。」

「・・・うん。」

加代は泣き出した。

「お二人さん・・そう言うのは俺を下敷きにしない所でやってくれ・・・」

「すまねぇ・・・・」

八名は真っ赤になり丹下は3人を受け止めたまま大声で笑っていた。

やがて消防と警察が事故と事件を片づけ加代も病院へ行き治療を受けた。

丹下はひとしきり事が落ち着いた後バイクに乗り帰ろうとした。
595空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:27:01 ID:8bqsRrWE0
八名は、
「丹下ありがとう、後悔せずに済んだ。」

丹下は、
「いや、こっちこそ、気持ちのふんぎりがついた、二人のおかげだありがとうよ。」

「?」

丹下はバイクで帰って行った。

夜も遅くまりんはおでん屋ののれんを下ろしたところだった。

丹下はおでん屋の戸を開けた。

「あら、藤原さん!!」

まりんは持っていたのれんをテーブルに置き丹下に近づいた。

「八名さんと加代さん良かったわね!!」

八名と加代の話はすでに町内で美談として知れ渡っていた。

「藤原さん今回がんばったわね!!ありがとう!!」

まりんはまるで自分の事のように喜んでいる。

丹下はカウンターに座り。

「俺、今回気付いたんだ・・・やっぱり素直な気持ちを伝える事が大事なんだと。」
596空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:57:41 ID:8bqsRrWE0
「・・・・・。」

「いまだに戦争の悪夢から覚めない人間達がいるんだ・・・もう戦後ではないと言われてるのに。」

「・・・・・。」

「友達も知ってる大人達も一杯死んだ酷い戦争だった・・・・。」

まりんはコップに水を注いで丹下の前に置いた。

「だけどさ、戦争は終わったんだ、これからどんどん世の中は良くなる・・・生き残った人たちは幸せにならなければならないんだ、自分の手でね。」

「・・・・・。」

「だから・・・俺と結婚してくれないか?」

「!!」

「一人じゃダメなんだよ・・・やっぱり一人じゃ幸せになれないんだよ。」

丹下はありたっけの勇気を振り絞ってまりんに伝えた。

静寂が店を包んだ・・・・。

まりんはカウンターにあるメモ用紙に静かに何かを書き始めた。

書き終えたまりんは小さなメモ用紙を丹下に渡した。
597空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:58:49 ID:8bqsRrWE0
海がどうして青いか
知っていますか

それは空を映してるから
あんなにも青いんです

じゃあどうして空は
海をあんなキレイに染めるほど
青いか知っていますか

それは海が
雲をつくり そして雨を降らし
空をキレイにしているから
あんなに青いんです

けっきょく
『海』だけでも 『空』だけでも
あんなにキレイに青くはなれないんだよね

そんな『海』と『空』
二人の関係ってとても素敵だよね
598空と海の青さに〜叶えられなかった言葉:2007/12/19(水) 20:59:11 ID:8bqsRrWE0
まりんは優しく丹下を見つめ、
「そんな風な関係になれたら良いわね。」

丹下は言いしれぬ優しい気持ちになれた・・・・。

その月に二人は故郷の山口に帰り結婚する事になる。

戦争の爪痕をそれぞれが掻き消し自らの力で幸せを模索する時代だった・・・

未来を信じて・・・・・・
599ミヤビイワナ:2007/12/19(水) 21:01:02 ID:8bqsRrWE0

イヤー輝夫さんの新作本当にいいな。

ドラマになっていますね。

クリスマスに更新ですか?

とても楽しみにしています。
600応援団員:2007/12/20(木) 01:30:02 ID:nL1RvRvz0
ミヤビイワナさんお疲れ様です!

イヤーミヤビイワナさんの作品も本当にいいですよ!

本編を見て一杯やりたくなり、しみじみと飲みながらこれを書いています。

本当にお疲れ様です!良い作品をありがとうございました。
601ミヤビイワナ:2007/12/20(木) 21:52:32 ID:dDch9k4C0

応援団さんいつも応援ありがとう御座います。

今回のお話を魚に一杯やってくれるなんて書き手としては光栄です。

この作品は飲酒のシーンが多々あるので自分も書きながら日本酒をコップ酒にして飲みたくなりながら書きました。

今回の話はこれで年内中に完結出来そうです。

更新が遅くてご免なさい。

おやすみなさい。
602空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:09:31 ID:Ef/lNAWl0
最終話 「明日へ・・・」

息子との再会で丹下は走馬灯の様に青春時代を思い出していた。
「・・・誰でも若い頃はあって、ただただ若いだけだったな・・・。」

しばらく窓の外を見て黙っていた丹下が呟いた。

息子は、
「ん?」

息子は丹下を不思議そうに眺めた。
「父さん!!」

丹下は、
「え、え?」

「何故、遠くを見る様に終わった顔をしているのですか!!」

「・・・・・。」

まだまだ人生は終わりませんよ。」

「・・・・・。」

「母さんは未だにあなたを待ち続けているんです。」

「・・・まさか?」

事の経緯はこうであった。
603空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:11:44 ID:Ef/lNAWl0
「・・・・・。」

丹下は黙ってまりんの父親と自宅に向かって歩き出した。

歩きながら丹下はまりんの事を考えていたが、とてもまりんの父親の話しは信じられなかった。
(何かの間違いに決まっている・・・)

父親と二人で自宅前に立って見た光景に目を見張った。

(まさか・・・)

スーツを着た背の高い若い男性とまりんは部屋の中で抱き合っていた。

その姿を窓からハッキリ丹下は確認していた。

「どうかね、私の話しを信じてもらえたかね?」

丹下は、
「直接まりんに聞きます!!」

まりんの父親は、
「藤原君!!」
「もし、本当にまりんの事を思うならこのまま君が消えるのも愛ではないか?」

「・・・・・。」
604空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:12:23 ID:Ef/lNAWl0
丹下は諦めた様に、
「わかりました、それでまりんが幸せになるんだったら・・・」

まりんの父親は、
「とりあえず港に戻りオホーツク海の漁船に調整をしているのでそれに乗る事だね。」

丹下は来た道を走って戻って行った。

まりんの父親は丹下の後ろ姿が見えなくなるのを確認し家に入った。

「お父さんあの人は見つかったの?」

「いや、太平洋の真ん中で漁の最中事故で落ちたんだ・・・見込みはないだろう・・・」

まりんが抱き付いていた青年は、
「まりん諦めてはダメだ!!希望を捨てない事だ!!」

「ええ、そうよね私が諦めては駄目よね兄さん。」

その青年はつい最近まで海外出張していたイトコの兄さんだった。

丹下はまりんの父親にまんまと騙された訳だった。

息子は、
「騙す人が一番悪いのだけど騙される人も問題ですよ。」

「結局お爺さんの思惑通りにいかず、母さんは再婚しなかったです。」

「お爺さんは死ぬ間際まで後悔してましたよ。」

「・・・・・。」
605空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:12:50 ID:Ef/lNAWl0
「その際にあなたの話しと連絡場所を僕に託して亡くなりました。」

息子は病室の窓の外を眺めながら、

「僕にも娘と息子がいます、つまりあなたの孫です。」

「・・・・・。」

「夏焼雅さんでしたか?」

「ん?」

「ぜいぶん父さんの事心配してましたよ。」

「・・・・・。」

「父さんみんなに好かれているのですね。」

「僕の子供達にも会って甘えさせてもらえないですか。」

「そうだな。」

息子は床に置いてある鞄を取り、
「それでは帰りますこれでもそこそこ忙しい身なもので。」

息子は祖父の跡を継ぎ道重グループの貿易会社に勤めていた。
606空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:40:56 ID:Ef/lNAWl0
その時病室のドアが空きドタドタと少女達が入って来た。
「丹下のお祖父さま!!」

「こらー!!さゆ!!まだ入っちゃだめとお!!」

「さゆ!!れいな!!病院を走っちゃだめよ!!」

「だって絵里、さゆがいきなり走り出すとお・・・。」

丹下の事故を後から知ったさゆみは必要以上に慌てて病室に見舞いに来たのだった。

「お祖父さま体は痛くありませんか?」

「ああ、さゆみちゃん、大丈夫だよ。」

丹下は笑顔で答えた。その後に雅と千奈美が入って来た。

息子は、
「夏焼雅さん。」

「はい?」

「連絡をくれて本当にありがとうございました。」

「い、いえ。」

「僕はもう今から帰ります。」
607空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:41:20 ID:Ef/lNAWl0
「そうですか。」

「今度は家族を連れて来ます。」

「おっちゃんの奥さんも?」

「ええ、必ず母とも再会させますよ。」

息子は家族の様な少女達に囲まれた丹下を一瞥して病室を出た。

歩きながら息子は、
(はて?あの娘さん道重会長のお嬢様に似ていた様な・・・)

(まさか・・・)

息子はグループの大きなレセプションで白いドレスで着飾ったお嬢様しか見た事がなかった。

最近では母親が列車事故に巻き込まれた反動で問題を起こし地元を離れたらしい。
(まさか、世界が違い過ぎる財閥のお高いお嬢様が父さんなんかをあんなに心配などしない。)

息子は苦笑いしながら、
(父さん、優しい良い孫達に囲まれているんだね。)

息子はどこか誇らしかった。
608空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:41:55 ID:Ef/lNAWl0
階段を使いロビーに出ると徳永社長と八名が柴田と話しをしていた。

「徳永様、我がグループでの医療機関でなく丹下様の治療はこちらの療養で大丈夫なのですね。」

徳永社長は、
「はい、大丈夫です。」

八名は、
「柴田さん丹下なんかを気にかけてもらって本当にありがとう。」

柴田は、
「いいえ、皆様が居なかったら私もお嬢様も未だに魂がただよっていたはずです。」
「私と、お嬢様が立ち直れたのはみなさんのお力なのです。」

柴田は一礼して病院の玄関に向かった。

息子は、
(あの出来そうな秘書みたいな人が父さんと何か関係があるのか??)

息子は徳永社長のところに歩み、
「社長、私は一旦帰りますので父親の事お願いします。」

「ああ、またくるんだよね。」

息子は笑顔で、
「ええ、必ず母も一緒に。」
609空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:42:24 ID:Ef/lNAWl0
八名は、
「まりんちゃんによろしく。」

「ええ、今度来る時は是非父と八名さんの黄金時代を聞かせて下さい。」

八名は苦笑いだった。

病室でさゆみは、
「桜中学校文化祭での屋台は今回さゆみが責任持ってやりますから。」

丹下は昔から町内の桜中学校文化祭で毎年屋台を出していた。

隣りで聞いていたれいなは、
「ダメに決まってるとお!!」

丹下はクスクス笑い、
「ああ、さゆみちゃんの好きにしな。」

「!!」

れいなはあまりにも簡単に丹下が承諾した事にびっくりした。
「さゆ!!屋台は遊びじゃないとお!!」

れいなはちょくちょく丹下の仕事も手伝っており桜中学校を卒業してからは定時制高校に通いながら焼き鳥食堂で働いていた。

難関の名門進学校にあっさり合格したさゆみは度々焼き鳥食堂に行ってれいなの邪魔・・・ではなく手伝いをしていた。

「何言ってるのさゆみだって焼き鳥食堂で馴れたものなんだから!!」
ほっぺたをふくらませていた。
610空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 13:43:12 ID:Ef/lNAWl0
八名は、
「れいなが店主になってさゆみちゃんと二人でやればいいかの。」

丹下は、
「それがいいな。」

さゆみは目を輝かせた。

横で聞いていた絵里は堪らず
「れいなはいいとしても、さゆは心配だから私も屋台やるわ!!」

娘はヤイヤイ言い出した。

にぎやかな輪の中で丹下は、
(まだまだ逝く訳にはいかないな)

もめている娘達に丹下は、
「みんなでやればいいさ、昔はやりたい者達でやったものさ、祭りだからな。」

丹下は言いながら窓の外の川を見た。

(俺にもまだ明日は来るんだな・・・・。)

川はあの頃と同じ様に強い日差しを受けキラキラ光りながら海へ向かって流れていた。


「空と海の青さに〜叶えられなかった言葉」  完
611空と海の青さに〜叶えられなかった言葉〜:2008/01/01(火) 14:08:36 ID:Ef/lNAWl0
ふぅ〜
長い長いお話もこれで終了!!

今回は人の作品を未熟なイワナの腕でこねくり回した作品でした。

茉作家さん、あなたの途中作品このぐらいで勘弁してやって下さいね。

やはり人によって「ツボ」が違うと思うのでがっかりした人はあしからず。

今年もがんばりまっしょい!!
612墨堤通り:2008/01/02(水) 00:57:44 ID:pZ5qgg1/O
高価なお年玉有難うございます。
半ば諦めていたストーリーの完結を読めるとは夢にも思ってませんでした。
見事に昇華されましたね。

余り読後感想文は書かないのですが、今回は心動かされました。
613ミヤビイワナ:2008/01/03(木) 09:46:56 ID:RqOvVKsf0

墨堤さん、あけましておめでとうございます。

拙い筆でやっと書き終えました。

自分も墨堤さんからお年玉もらえました、文章に対する感想は本当に励みになります。

松輝夫さんから個人的にメールが来ましたが彼も忙しいなか書き続ける意志を伝えてくれて大変喜ばしかったです。

輝夫さん作品を待ってる方はいつも通り気長に待ってください。

簡単に書ける作品を輝夫さんは書いていないのです、何を書いているかわからないネタ話のような文章を書いてくれる訳で自分も期待しながら気長に待っています。

614ミヤビイワナ:2008/01/03(木) 13:58:11 ID:RqOvVKsf0
>>613
× 簡単に書ける作品を輝夫さんは書いていないのです、何を書いているかわからないネタ話のような文章を書いてくれる訳で自分も期待しながら気長に待っています。
○ 簡単に書ける作品を輝夫さんは書いていないのです、何を書いているかわからないネタ話のような文章を書いてくれる訳ではないので自分も期待しながら気長に待っています。

何を書いてるのかが分からないのはイワナでしたすみませんw
615〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:10:10 ID:RqOvVKsf0
〜BIRTHDAY〜

第7話 「ブラス☆なっくる」

あゆみは前田に案内され「お嬢様」と呼ばれる少女の部屋の前に立っていた。

ドアを開けて少女の部屋に入る。

朝だがカーテンも開けず勉強机に座ってうなだれる少女を見た。

髪はぼさぼさに伸ばしたままでピンクのスウェットを着た姿だった。

「お嬢様おはようございます。」

前田は笑顔を作りあいさつした。

「・・・・・。」

反応はない。

「本日から秘書見習いをする柴田あゆみさんを連れてきました。」

「・・・・・。」

「柴田です、さゆみさんよろしくお願いします。」
616〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:10:41 ID:RqOvVKsf0
「・・・・・。」

さゆみは重そうに顔をあげて、

「前田さん、用はないので一人にしてください。」

さゆみは一言言うと何をするわけでもなく又、机にうなだれた。

前田は、

「お嬢様、2日食事していません、今日はちゃんとした食事をしていただきます。」

部屋に無造作に「カロリーメイト」の箱が散らばっていた。

「もう、かまわないで!!」

さゆみは机に置いてある鉛筆削り機を前田に投げつけた。

「!!」

運悪く前田の額に削り機は当たってしまい額から血が流れた。

「だいじょうぶですか!!」

うずくまる前田にあゆみは寄り添った。
617〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:11:09 ID:RqOvVKsf0
さゆみは無関心にまた机にうなだれた。

「さゆみさん、前田さんに謝ってください。」

「!!」

前田は思わず顔をあげた。

「柴田さんいいのですよ、お嬢様は」

あゆみは前田の言葉を遮って

「良い訳ないです!!」

「さゆみさん、あなたお嬢様だか何だか知らないけど無抵抗な人間に暴力を振るうなんて許される事ではないのよ。」

さゆみの顔は赤く硬直しはじめた。

机の引き出しをあけて大きなカッターナイフを出した。

カッターナイフを手に持ちさゆみはあゆみに向かい立ち上がった。
618〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:11:38 ID:RqOvVKsf0
「もしかして私に斬りかかるの?」

あゆみは静かにさゆみに問いかけた。

前田は、
「お嬢様どうかやめてください!!」

前田の目からは涙がこぼれ落ちていた。

「もう・・・どうでも・・」

さゆみはあゆみに斬りかかった。

空手家で白兵戦の経験があるあゆみにとって中学生の凶行など・・・。

振りかざした細い腕はあゆみの手であっという間につかまれカッターナイフは床に落ちた。

「今もこの世界のどこかに痛みに耐えている人々がいるわ。」

あゆみはさゆみの目を見てつぶやいた。

「・・・・・。」

さゆみの目には憎しみがこびりついていた。

「人の痛みを知りなさい。」
619〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:35:19 ID:RqOvVKsf0
あゆみはさゆみの脇腹に拳をねじこんだ。

「う!!」

さゆみは体を九の字にして床にうずくまった。

前田は一瞬の事でしばらく何が起こったのか分からなかったが、急いでさゆみによって行った。

「柴田さん!!あなたなんて事するのですか!!」

さゆみは床で腹をおさえてもがいていた。

「どうも失礼しました。」

あゆみは深々と頭を下げて自室に帰って行った。

「あ〜あ、またやっちゃた。」
「私があんな事をしても誰も喜ばないわよね。」

あゆみは自室に戻り実家に帰る準備をしていた。

「コンコン」

ドアをノックする音が聞こえた。

「はい。」

ドアには前田が立っていた。
620〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:56:12 ID:RqOvVKsf0
額に大きなバンソーコウが貼られていた。

「前田さんどうも大変な事をしてしまって申し訳ありません。」

深々と頭を下げた。

「もう少ししたら実家に帰りますので。」

「・・・・・。」
「何故ですか?」

「・・・・・?」

「え?」

「道重会長にその様に言われたのですか?」

「・・・いえ。」

「ならば帰ってはいけません。」

「でも、私は人に仕える秘書としては絶対にやってはいけない事をしました、どんな理由があるにしろ中学生の少女に暴力を振るってしまいました。」

「それでも道重会長はあなたをまだ解雇していません。」

「・・・・・。」

「先ほど事の次第を会長に報告しました、会長はあなたを本採用する事に決めました。」
621〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:56:41 ID:RqOvVKsf0
「そんな・・」

「先ほども前田さん見ましたでしょう、私は暴力をふるってしまったのですよ、この先この様な事がまたあるかもしれないのですよ。」

あゆみは本音で前田に喋った。

「それはあなたの正義でしょうね、世の中は正しいと思われることだけでは生きていけません。」
「道重会長もそれは重々お分かりです。」

「・・・・・。」
「お嬢様に対しては道重会長も私も愛しいだけで本当に厳しく育てる事は出来なかったのです。」
「・・・・・。」
「あまりにも分かっているから・・・・。」

前田は顔をふせた。

あゆみは、
「それでも、もう少し考えさせてもらえないでしょう?」

「ええ、研修ということでも構いません、とにかくお嬢様になにかしらの御教授をお願いします。」

事の次第はその様にあゆみの思惑とは全く別の方向に進んでいた。

次の日

柴田はさゆみの部屋に一人で行った。

前田は道重会長と共に会社に行って執務に対応していた。
622〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:57:16 ID:RqOvVKsf0
さゆみは昨日と同じ格好で机に座っていた。

「さゆみさん昨日はどうも失礼しました。」
あゆみは少し笑顔で言った。

「・・・・・。」
あゆみは、
「昨日わたしが殴ったところ痛くないですか?」

「すっごく痛いわ・・・。」

あゆみは薄く笑った
「今日は天気がいいですね。」

あゆみは閉じているカーテンをさゆみの許可を得ずに勝手に開けた。

「う!」

一瞬にして明るくなった日差しを浴びてさゆみは目がくらんだ。

「あゆみさん。」

さゆみがしゃべった。

「はい?」

「どうしてあゆみさんはそんなに細い体で強いの?」

「・・・・・。」

「私は小学生の頃から空手を習っていたのですよ。」
623〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 14:58:12 ID:RqOvVKsf0
「え?」

「そして昨年まで自衛隊にいたのです。」

「自衛隊?・・・女の人も入れるのですか?」

あゆみはさゆみの隣に小さな椅子を引き寄せ座り自衛隊の話をしだした。

入隊日に出会ったどうしょうもなく不器用な北海道から来た同期。

沖縄から来た感じの悪い同期。

髪が短くて男みたいな厳しい班付。

凛として厳しくも誰よりも優しい班長。

最初は嫌でしょうがなかった自衛隊生活、思いもよらず強かった同期、弱かった同期。

足りない力を持ち寄って歩き切った行進訓練。

寂しさで張り裂けそうだった修了式での別れ・・・・・。

さゆみはまばたきを忘れんばかりにあゆみの顔を見つめ話に聞き入った。

「それで修了式の後はどうなったの?」
624〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 15:42:28 ID:RqOvVKsf0
「・・・・・。」

「さゆみさん、数日まともな食事をなされていないそうですね?」

「・・・・ええ」

「喉が乾きませんか?」

「はい。」

「私と二人で軽い食事をしませんか。」

さゆみは少し戸惑ったがあゆみの提案を受け入れた。

あゆみの話をまだ聞きたかったのだ。

二人は食堂に行った。

軽い食事を終え、

「さゆみさん、天気もいいから少し運動でもしませんか?」

「柴田さんの話聞いていたら運動がしたくなったわ。」

二人は近くの公園を散歩しだした。

歩きながらあゆみは自分の配属した中隊訓練の話をした。
625〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 15:42:58 ID:RqOvVKsf0
さゆみは興味深く聞いていた。

あゆみはさゆみの母の事や現在学校に行っていない事には何も触れなかった。

「さゆみさん」

「はい」

「空手をやってみませんか?」

「・・・・・」

さゆみはスポーツは何でも出来て、特にテニスは得意だった。

「はい!、わたしやってみたいです。」

あゆみはちょうど近くの河川敷に着いた頃言い出した。

次の日から二人は空手のトレーニングを始めた。

朝早起きをして、時間をかけてストレッチをした。

あゆみは、
「いいですか、さゆみさん、体の柔軟さは全ての運動に直結します。」
「硬い体では自由な運動が出来ません。」

「はい、柴田さん。」
626〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 15:43:20 ID:RqOvVKsf0
その後河川敷へ6km程のランニングをこなして帰宅する。

汗を拭き朝食を食べる。

その席に会長が同席した。

昨日、あゆみは会長にさゆみとの会話に学校の話や今後の話を持ち出さないこと進言した。

会長はもっともな事だとあゆみの進言に従った。

さゆみは運動のおかげで顔に赤みを取り戻し目の焦点もあってきた。

食事を終えると二人はウェイトトレーニングを自宅の20畳程の広間で実施した。

「さゆみさん、己を鍛えるのに器具は必要ありません、一畳ほどあれば出来ます。」

あゆみは腕立て腹筋背筋を無理なく続けられるフォームをさゆみに指示して繰り返した。

その後基本の構えをひとつずつゆっくり教えた。

夜は食事が済むとあゆみの自衛隊での話やちびっこ空手の話をして寝る前の少しの時間に読書をする事をさゆみに進めた。

そんな生活をして2週間が経った。
627〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 15:43:53 ID:RqOvVKsf0
20畳の大広間では、

「バシッ!!」

ピンクのウィンドブレーカに身を包んださゆみの蹴りがあゆみの持つパンチンググローブに当たる音が響いていた。

この2週間でさゆみは驚く程に空手を上達させていた。

あゆみは、
(・・・この娘は身体的にも精神的にも才能がある・・・・)

素早く的確に繰り出されるあゆみの拳と蹴りを受けながら思っていた。

「柴田さん次はローブローを教えて下さい。」

「はい、ローブローは相手のわき腹をモーションを小さくして素早く重く打ち抜きます。」

「・・・・・。」

「岩の様な拳、そうブラスナックルですね。」

「・・・・・ブラスナックル?」

「そうです。」

さゆみはしっかりと地面に足をつき体をかがめてあゆみの構えるミットに拳を打ち込んだ。

会長と前田は書斎で執務をしながらさゆみの話をしていた。
628〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 15:44:23 ID:RqOvVKsf0
前田は、
「会長、お嬢様は確実に回復しています、むしろ前とは違い力強さを身につけています。」

会長は、
「柴田君はまだ採用については返事していないのかね?」

「はい、再三本採用について聞いているのですが、まだ考え中だそうです。」

「・・・・出来れば我がグループの会社に就職してもらいたいな。」

前田は、
「彼女は初めてお嬢様に会った時手を挙げてしまったのを気に病んでいるのか、それとも・・・。」

「それとも?」

「大学卒業と言う学歴が無いことを気にしているのかと・・・。」

「・・・・・。」

「彼女に卒業した大学を尋ねたら「センチメンタルリッジ」と言いました。」

「・・・・・。」

「最初は何のことか分からなかったのですが調べたところ古い映画の主人公である軍人が戦場が大学だと皮肉った台詞でした。」

「なあ前田君。」

「はい?」
629〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:13:19 ID:RqOvVKsf0
「彼女が我がグループを選んでくれたら特待生で大学に通わせられるかな?」

「・・・・・ええ、いくらでも理由をつけて会社のお金で大学に行かせられます。」

前田は悪戯な目をして笑っていた。

会長は笑いながら、
「その時は頼むよ。」

前田は本当にそんな日が来る事を願った。

「ハァハァ」

「さゆみさん今日のトレーニングはこれぐらいで終わりましょう。」

「柴田さん、さゆみは最後にランニングしてあがります。」

さゆみはこの数週間で体力が向上していた。

あゆみは、
「それじゃ私も行きます。」

さゆみは、
「いいですよ、そのかわり後で一緒にお茶を飲んでくれませんか。」

あゆみは笑顔で、
「わかりました、ホットケーキを用意しておきます。」

「楽しみだわ☆」

さゆみの後ろ姿を見送りシャワーを浴びに廊下へ出た。
630〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:13:46 ID:RqOvVKsf0
あゆみは廊下で携帯電話で話している前田の姿を見た。

「会社に連絡が来たのですか?」
「・・・そうですか、今から「手」を打ちますので。」
「すぐ、終わらせますので、後で連絡をします。」

電話を切りながらあゆみに近寄った。

前田は、
「隠してもしょうがないから話すけど。」

さゆみが母が列車事故に巻き込まれたためさゆみは精神が不安定になり自分の誕生日プレゼントを買いに行った為母が事故に巻き込まれたと自分を責めた。

学校に行っても優しくしてくる級友を拒んだ、あまりに不安定になったさゆみは級友に暴力をふるって学校を飛び出し不登校になった。

それは大きな財閥の孫娘のスキャンダルとしては格好な「ネタ」だった。

週刊誌にとってそのような「ネタ」は商売のもとだった。

そのネタを持ち込んだライター崩れの二人組がいて2ヶ月前にゆすりにきた。

前田は200万円程度で追い払ったが、味をしめた二人組はまたゆすりのため連絡をしてきた。
631〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:14:16 ID:RqOvVKsf0
前田は、
「あなたは心配しなくていいから、今回は人影のない河川敷工場跡に呼び出して「業務処理」しますので。」

あゆみは、
「今日ですか?」

「ええ、もうすぐ行きますよ。」

(しまった!!)

前田は、
「ええ?」

「すみませんさゆみさんを一人にしてしまいました!!」

あゆみは前田をおいてスエットスーツのまま工場跡地に走り出した。

「離して下さい!!」

工場跡にさゆみは拉致されていた。

二人組のライター崩れは、

「お嬢さんちょっと我慢していてくれよ。」

黒いジャンパーを着た男はさゆみにナイフを突きつけ威嚇していた。

もう一人の男は茶色のジャケットをはおった180cmある大男だった。
632〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:15:09 ID:RqOvVKsf0
「こんな所に呼び出してから普通に話をするとは思わねぇよな。」

「だけどよ諦めて屋敷の前で様子を伺っていたらなんとお嬢さんがスエットスーツで走ってるじゃんよ。」

「・・・・・。」

「ちょっとの間人質になっていてくれよな。」

ナイフを突きつけられたさゆみは震えていた。

「あなた達!!その娘を離しなさい!!」

あゆみが走ってここまで来た。

ジャケットの大男は、
「ああ、何だお前?」

近づき胸ぐらを掴もうとした瞬間、

「うっ!!」

あゆみのローキックが入った。

片膝を着いた大男の顔面に蹴りを入れた。

「そこまでだ!!」

黒いジャンパーを着た男がさゆみの首に腕を回し顔にナイフを突きつけていた。
633〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:16:03 ID:RqOvVKsf0
「!!」

動きが止まったあゆみを大男は怒りにまかせ蹴り上げた。

「うっ!!」

思わず倒れ込んだあゆみの体に容赦なく大男は蹴りを浴びせた、顔面から腹を執拗に蹴り続けた。

さゆみは、
「やめて〜!!」

あゆみは、
(こんなでかいだけの大男なんて、相手じゃないのに・・・・)

苦しかった自衛隊の訓練を思い出していた。
(あの行進訓練はきつかったな・・・・)

男はまだあゆみを蹴り続けていた。
(砂漠でのゲリラとの白兵戦・・・本当に怖かった・・・・)

あゆみはだんだん気が遠くなってきた。
(砂漠で助けたあの少女・・・元気にしているかな・・・・)

「あゆみさーんっっっっ!!」

さゆみはつかまれている男のみぞうちに深く肘を打ち込んだ。
634〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:27:07 ID:RqOvVKsf0
「うっっっ!!」

男はたまらず崩れたが、

「このガキ!!」

ナイフを振り回した!!

「スッ」

ナイフを避け左右の拳を打ち込んだ!!

男は崩れた。

「おおおっっっっ!!」

さゆみは右足を自分の頭の上まで振り上げ崩れた男の背中にかかとを落とした。

さゆみのかかとは鈍い音と共に背中にめり込んだ。

男はぴくりとも動かなくなった。

あゆみを蹴っていた男は相棒の様子がおかしいのに気づき振り向いた。

あゆみは、
(まさか・・・さゆみさんが?)
635〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:27:36 ID:RqOvVKsf0
さゆみはジャンパーの男にトドメをさしてあゆみを蹴っている大男に走って行った。

「さゆみさん!!逃げなさい!!」

大男は逃がすまいとこちらに突進してくるさゆみを捕まえようとした。

「せいっ」

さゆみは助走をつけて跳び蹴りを大男の顔面にめりこませた!!

大男は倒れ込んだ。

「!!」

あゆみはさゆみが笑っていることに気付いた。

(さゆみさん・・・あの目は肉食獣の目だわ・・・)

倒れていた大男は立ち上がり用意しておいた木刀を掴みさゆみに振りかざした。
「くそガキども!!叩き殺してやる!!」

男の目は血走っていた。

さゆみはしっかり足を地面につけ腰を落とし、
「ブラスなっくるっっっっっっ!!」
636〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 16:27:58 ID:RqOvVKsf0
鈍い音を出しながらさゆみの拳は男の脇腹にめりこんだ!!

「!!」

男は呼吸を止めてうずくまった。

さゆみはあゆみに駆け寄り、
「大丈夫ですか!!」

うずくまるあゆみを抱き起こした。

「さゆみさん・・短期間で空手の腕をあげましたね・・・。」

「・・・・・。」

「しかし・・世の中にはもっともっと強い相手がいるので・・今回はたまたま弱い相手にあたっただけと思わないといけません。」

「はい!!」

大男は脇腹を押さえながら立ち上がり、転がっている鉄骨を握りゆっくり二人に近づいた。

その姿を認めたあゆみはヨロヨロと立ち上がり、
「いいですかさゆみさんブラスナックルは「岩石の拳」です、相手の戦意も肉体もつぶし切らないと本領ではありません。」

大男は鉄骨を振り上げ、
「ガキども殺してやるっっ!!!!」
637〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 17:45:16 ID:RqOvVKsf0
あゆみは地面に両足をしっかりつけ腰を落とし体を捻りローブローを大男に放った!!

「ああああっっっっ!!!!」

あゆみの「鉄拳」は男の脇腹をえぐり、あゆみの拳には大男のアバラ骨を砕く感触が伝わった。

大男は鉄拳に吹き飛ばされて意識を断ち切られた。

「!!」

さゆみは大男を吹き飛ばすあゆみの後ろ姿に幼い頃読んだギリシャ神話「軍神マルス」を見た。

あゆみは振り返ってさゆみに優しい笑顔を見せた。

あゆみの顔は蹴られた怪我で左目は腫れ上がりつぶれて血だらけだった。

「お嬢様!!柴田さん!!」

前田が警備員を数名引き連れて駆けつけた。

「お嬢様!!お怪我はありませんか!!」

「ええ!!大丈夫です前田さん!!でも柴田さんが!!」
638〜BIRTHDAY〜:2008/01/03(木) 17:45:49 ID:RqOvVKsf0
前田と数名の警備員を確認したあゆみは安心しながら意識を失った。

駆け寄るさゆみと前田の声を聞きながら脳裏には在りし日の記憶が巡った・・・・



「おねえちゃん自衛隊に入るの?」

「うんそうなんだ。」

「戦争に行くの?」

「・・・・・。」

「自衛隊はね、絶対戦争なんかしないんだよ。」

「自衛隊は大きな地震や台風とかの災害事故からみんなを守るためにもあるんだよ。」

「じゃ、あたしが台風で飛ばされそうな時は助けてくれるの?」

「もちろんよ。」




第7話 終了
639ミヤビイワナ:2008/01/03(木) 17:49:47 ID:RqOvVKsf0

引っ張り過ぎて忘れられたかも知れないけど、まぁ書いてます。

そろそろエンディングを書かなきゃね☆
640ねぇ、名乗って:2008/01/05(土) 21:02:32 ID:3ziUmh+DO
誰も読んでもいないみたいだからもう辞めて違う板で書けばいいよ。バカみたいだよw
641ねぇ、名乗って:2008/01/05(土) 21:25:33 ID:CLjdjgMSO
(ё_ё)身も蓋もない
642ねぇ、名乗って:2008/01/06(日) 17:12:40 ID:O2/iX9OnO
もう見苦しいからやめな、俺しか書き込まないから全体の一番正しい意見だから絶対だから、もう書くなよ!!
643応援団員:2008/01/06(日) 23:05:46 ID:+keQ+Qok0
あけましておめでとうございます。

本年も楽しい作品をお待ちしています。

ミヤビイワナさん。お疲れ様でした!ようやくひとつ完成しましたね。

更に次まで上げてくるとは思いませんでした。(笑)

さて久しぶりに覗いてみると心ない書き込みがあるようで。

でもなんか逆に「書いてくれ!」って天の邪鬼っぽいようにも
受け取れてちょっと笑っちゃいました。

作家の皆さん方、こんなしょーもないコメントは放っておいて下さい。
読んでる人はいます。待ってる人もいます!

だからゆっくりで良いですから、作品は続けて下さい。
宜しくお願いします。
644墨堤通り:2008/01/06(日) 23:34:11 ID:HAwv42h4O
お年玉、二度頂いちゃいました。

有難うございます。

応援団員さん、最低でも私達二人は果報者ですね。
645ねぇ、名乗って:2008/01/07(月) 01:16:47 ID:Nqz6QER90
読ませるための工夫も何もない作品に
作家を上達させる気もない「何を書いてもマンセーのみ」の無限ループ・・・
646ねぇ、名乗って:2008/01/07(月) 20:41:46 ID:jxRvX5rFO
おっ!
真摯な意見!

シカトされるよっか嬉しいんじゃない?
647ねぇ、名乗って:2008/01/08(火) 21:58:28 ID:UKgTPayC0
>>646
苦言でも呈してくれる人がいる人がいるうちはありがたいって事がわかんないんだろうね
読んでもらうって事がどれだけ大変な事かもわからずに、わざわざまとめサイトまでいって
意見してくれた人に対して>>516みたいな事が言えるんだから
どうせまた俺らも荒らし扱いだよ
648ねぇ、名乗って:2008/01/09(水) 20:14:47 ID:Y/u1KMlX0

>>646の自演乙。しつこい椰子だなw
649ねぇ、名乗って:2008/01/10(木) 00:54:56 ID:EHhqpLYYO
やったぁ!

僕にもっと釣られてみる?
650ねぇ、名乗って:2008/01/10(木) 20:25:10 ID:LOZhBC4F0
まぁ〜関係ないこの板で言うのも何だが>>516書く力ないからって荒らすなよw
651ねぇ、名乗って:2008/01/11(金) 06:11:56 ID:RbVw3b+M0
>>516この数日の勢いが無くなったぞw
652〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 15:16:10 ID:QvQqaLlz0
最終話 「〜BIRTHDAY〜」

「それではよろしくお願いします。」

漁船の船長は、
「ええ!!そりゃもう・・仕事は一杯ありますから!!」

深夜の港に前田はいた。

グループの屈強な警備員達に後ろ手を縛られたライターくずれ2人組は前田に向かって、
「すいませんでした!!もうしませんから助けて下さい!!」

泣きながら2人組は前田に懇願していた。

前田は、
「あなた達・・やりすぎましたね。」
「道理がないのはライターくずれだけではないのですよ。」

前田は冷たい冷静な口調で言い放ち、
「仕事が終わったらまた来て下さい、こちらも仕事は一杯ありますので。」
(生きて帰ればですけど・・・・・。)

遠洋漁業の漁師達にひきずられ2人組は暗闇に消えていった。

深夜の海に漁船は遠く太平洋に向かい出港して行く・・・・・。
653〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 15:17:05 ID:QvQqaLlz0
さゆみは屋敷にて会長と一室にいた。

「さゆみそろそろ3月だが3年生に進級しなければならないぞ。」

ソファーに深く座りながら孫娘に視線を送った。

「・・・・・。」

会長は、
「もうこのままで良いと言うならそれも良いが柴田さんはどう思うかの。」

「・・・・・」

「そこで提案があるのだが東京の下町の公立中学校に通ってみないか?」

「え?」

「わしは若い頃その町で働いていた時期があり主に貿易の仕事じゃったがな。」
「下町で懸命に働く労働者達と力を合わせ仕事をした事があり、夜は垢だらけの労働者達と肩を並べて酒を飲んだものだった。」

会長は懐かしそうに話していた。

「まさかお祖父様がそんな事を?」

「ははは、わしにも青春時代があったのじゃよ。」

会長は、
「柴田さんと2人きりでやってみないか?」

「え?」

「ちょっと早いが旅立ってみるかの?」
654〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 15:18:21 ID:QvQqaLlz0
柴田は屋敷で自室のベッドに横たわり一人考えていた。

(あの時人を蹴り上げるさゆみさんの目は肉食獣だった・・・力を持つ者が一度は陥る感情だ・・・)

片目の腫れはだいぶひいたがまだ完全に目は開かなかった。

(もしかしたら・・・力の使い方を良く教えきれなかったかも・・)

ノックの音が聞こえた。

あゆみは起きあがり、
「どうぞ。」

前田が入ってきた。

「具合はいかかですか。」

前田は椅子に座りながらあゆみに聞いた。

「はいだいぶよくなりました。」

前田の目に映る柴田の顔は腫れがひいたとはいえ左目いっぱい青くなり口のまわりにもキズが残っていた。

前田は、
「今回は本当に申し訳ありませんでした。」

立ち上がり深々とあゆみに頭を下げた。
655〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 15:19:44 ID:QvQqaLlz0
「やめて下さい、私も勝手に走って行ってしまったのです。」

前田は椅子に座り直し、

「お嬢様はもうすぐ進級なされますが未だに学校に行こうとはしません。」

「・・・・・。」

「会長は東京の下町にゆかりがありそこの中学校にお嬢様を通わせないか思案なされています。」

「・・・・・。」

「会長は柴田さん、あなたと2人で東京に行かせたいと思っています。」

「!!」

あゆみは、
「まさか!!」

前田は、
「あなたにどんな過去があるかわかりませんが今のお嬢様にはあなたがどうしても必要だし私もあなたが必要です。」

「・・・・・。」

「人は一人では生きられません・・・どんな事をしても社会を構成する一人として他を助け助けられ生きていかなければなりません。」

「・・・・・。」

柴田は大きな組織から排他された悲しみを知っていた・・・
しかし、それでも何かを信じてみたかった。
656〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 15:20:42 ID:QvQqaLlz0
「・・・わかりました私もそろそろはっきりしなければいけませんね。」

「・・・・・。」

「こんな私でよければどうぞ雇って下さい・・・。」

あゆみは涙を流して前田に頭を下げた。

前田は立ち上がり泣いているあゆみを優しく胸に抱きしめた。

会長にさゆみは、
「わかりました、柴田さんと一緒なら行きます。」

立ち上がり部屋を出ようとする孫娘に会長は、
「それから忘れてもらわないでもらいたいのだが、お前の母親は死んだ訳ではない。」

「・・・・・。」

「医者は意識を取り戻す可能性があると言っている・・・だから・・せめて・・自分からあきらめたりしないでもらいたい。」

さゆみは目を強くつぶり部屋を出て行った。

さゆみは柴田の部屋に向かった、心細かった・・・。

「さゆみさん?」

さゆみは押し黙りあゆみのベッドにすがりついた。

「柴田さん!!さゆみもうどうしていいか分からないの!!」

あゆみは手を差しだしさゆみの頭をなでた。
657〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 16:13:28 ID:QvQqaLlz0
「私がついています・・・。」

「!!」

さゆみは顔をあげてあゆみを見た。

片目をおおきく青く腫らして、それでも笑顔でいてくれるあゆみを見るとまた泣けてきた。

「私が一緒に東京へ行きます、そこで精一杯生きてみましょう。」

(私とこの娘の魂は漂っている・・・自分達で決着を付けなければならない)

「やり直しましょう・・・お嬢様。」

「!!」

さゆみは初めてあゆみから「お嬢様」と呼ばれた。

数週間経ちあゆみの体もすっかり良くなりいよいよ新しい学校に通うため上京する日が来た。

駅で見送る前田はさゆみに言った。
「お嬢様、困った時はすぐに私に連絡をしてください。」

「はい・・前田さん本当に今までありがとうございました。」

さゆみは深々と頭を下げた。

前田は、
「お嬢様が困った時は空を飛んで助けに行きますからね。」
658〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 16:14:24 ID:QvQqaLlz0
「柴田さん。」

「はい。」

「あなたにどんな過去があるかは知りませんが私にも「センチメンタルリッジ」はありますから。」

柴田は笑顔でうなずいた。

「柴田さん!!」

「え?」

「どうかしたのかね?」

丹下が脚立の上からあゆみに声をかけた。

あゆみは手に持っていたくす玉を丹下に手渡した。

丹下は、
「ようしこれでヒモを引っ張れば紙吹雪ができる寸法だ。」

今日は道重さゆみの15歳の誕生日だった・・・。

れいなと出会ったさゆみはこの数ヶ月で大きく成長した。

れいなの悲しい生い立ちとそれを吹き飛ばすような生き様と人々との出会い、どんなにお金を払っても得られぬ出会いだった。

(もしこの町へ来られなかったら私とお嬢様は一体どのように暮らしていたんだろう。)
659〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 16:15:31 ID:QvQqaLlz0
あゆみとさゆみにとってこの町は今の人生そのものだった。

カウンターで料理を作っていた八名が、
「おい丹下そろそろ軽トラで酒を仕入れてきてくれよ。」

「おお、まかせとけ。」

丹下は焼き鳥食堂を出て行った。

今夜は焼き鳥食堂でさゆみの「誕生日会」だった。

柴田は最初この会をやるべきか悩んだ。

前田の話によればちょうどさゆみの誕生日に母親が列車事故に遭い、その日さゆみは自分のせいだと己を責めてあげくの果てに自分の誕生日が来なければと言っていたと聞いていたためだった。

あゆみはもし、れいなと出会っていない、さゆみであったならば誕生日会などやらなかったであろう。

れいなと過ごす日々がどれだけさゆみにとって貴重であり、さゆみを強くしたかを一番分かっていた。

1800を過ぎた頃れいなとさゆみはボクシングジムからの帰り道だった。

さゆみとれいなは学校帰りの制服のままジムへ行き帰る途中だった。

「ねえ、れいな今日は遅くまでトレーニングしたけどお店大丈夫なの?」

「ああ、今日は貸し切り一件だから大丈夫とお。」

「ああ、たまにはボクシングジムもいいわね。」

さゆみは歩きながら背を伸ばしていた。
660〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 16:16:32 ID:QvQqaLlz0
緩い風が吹く土手で夕陽に照らされ赤み掛かったれいなの顔をみつめ、

「しかしれいな、なんであんなに速く動けるの?」
「明日にもプロデビュー出来るんじゃない?」

れいなはまっすぐ正面を向いたまま、
「れいなはまだまだとお。」
「?」
「あの工場跡地でさゆがいなければとっくに死んでいたとお。」
「・・・・・。」
「うかつだったとお・・・。」

普段は滅多にさゆみを誉めないれいなが、らしくなくさゆみを認めていた。

さゆはまた一段と堪らなくれいなが好きになり、れいなだけには今日が自分の誕生日だと打ち明けようと決めた。

「ねえ、れい・・・」

その言葉を遮って、
「なあ、あんた今日うちに来れると。」

「え?う・うん、今から一緒に帰って店手伝おうと思ってるけど。」

「ああ、それならいいんだ。」

「?」

いつものれいなならくどくど焼き鳥食堂の手伝いを言ってくるが何故か今日はあっさりしてるなとさゆみは思った。

だけど、来なければ良いと思った誕生日をれいなに教えなくて良かったのかもと自分に言い聞かせた。
661〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 16:17:51 ID:QvQqaLlz0
明かりのついている焼き鳥食堂に2人はたどり着き、さゆみは嬉しそうに戸を開いた。

その後ろ姿にれいなは微笑んだ。

パーンッ!!

クラッカーの音だった。

「さゆみちゃーんお誕生日おめでとう!!」

さゆみは一瞬何事かと思った。

店には八名、丹下、柴田、担任の坂本金八、絵里とその両親。

後輩の夏焼雅、須藤茉麻、徳永千奈美は鉄筋工場の社長である父親と来ている。

柴田は静かにさゆみに近づき、

「お嬢様、15歳のお誕生日おめでとうございます。」

「あ、あ、・・・」

絵里は笑顔で、

「さあ!!さゆそのヒモを引くのよ。」

食堂の中央の天井に昼間、柴田と丹下が用意したくす玉がぶら下がっていた。

さゆみは言われるままゆっくりヒモを引いた。

「!!」
662〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:25:40 ID:QvQqaLlz0
紙吹雪と共に大きな垂れ幕に書かれた「道重さゆみ15歳おめでとう」の文字が現れた。

さゆみは呆然としていた。

れいなはさゆみに歩み寄り、
「さゆ、誕生日は例え自分が拒んでも必ずやってくるとお。」

さゆみは涙を必至に堪えていた、

絵里はさゆみの肩を抱き、
「泣いていいんだよ。」

さゆみは堪らず絵里にすがりついた。

その光景を静かに見つめていたあゆみの携帯が鳴り出した。

着信者は道重会長だった。

あゆみは誕生日メッセージだろうと笑顔で電話に出た。

「!!」

「はい分かりました、今すぐ準備いたします。」

れいなと絵里に抱きしめられたさゆみにあゆみは、
「お嬢様、今から山口に帰ります。」

店内は静寂に包まれた・・・・。
663〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:26:18 ID:QvQqaLlz0
びっくりしているさゆみの顔を見つめ、
「入院中のお母様の意識が先ほど戻ったと会長からたった今連絡がきました。」

あゆみは冷静にはっきりさゆみに伝えた。

さゆみは震えだした。

「今から河川敷に行きます。」

「?」

あゆみは、
「みなさん!!もうしわけありませんありたっけのキャンドルを持って一緒に来てください!!」

八名は素早く誕生日ケーキのキャンドルと仏壇のろうそくをかき集めた。

さゆみは言われるままあゆみに手を引かれ店の外を出た。

れいな達は黙ってあゆみに手を引かれるさゆみの後をついて行った。

河川敷についた。

あゆみはキャンドルの数を二つに分け30メートル離して一列に並べて地面に差すように皆に伝えた。

皆は30メートル離れて並列のキャンドルの線を作った。

「!!」
664〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:26:58 ID:QvQqaLlz0
遠くからヘリコプターのエンジン音が聞こえた。

あゆみは、
「皆さん!!並べたキャンドルに火をつけてください!!」

大人達はライターでキャンドルに火をつけた。

ヘリコプターの操縦席から暗闇の中に小さく光るキャンドルを見つめながら、
「オーケー柴田さん、降りれるわ。」

前田は自家用小型ヘリを操縦しながらにやりと笑った。

緊急で飛んで来たヘリに夜間管制を急ごしらえしたのである。

「!!」

ヘリコプターのエンジン音はキャンドルを目指して着陸した。

着陸の風圧でキャンドルの火はすぐ消えたが位置はすでに把握していた。

ヘリコプターにあゆみは駆け寄った。

「柴田さん、無理言ってごめんなさい、さゆみお嬢様の誕生日キャンドルのおかげで無事着陸できたわ。」

自家用小型ヘリで急遽東京まで来た「前田」は夜間の河川敷着陸に緊張して大汗をかいていた。

前田は、
「さあ!!お嬢様!!お母様に会いにいきますよ!!」

2人乗りの小型ヘリにさゆみは飛び乗った。
665〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:27:42 ID:QvQqaLlz0
あゆみは、
「前田さん後はお願いします!!」

前田は笑顔で、
「これが私の「センチメンタルリッジ」よ!!」

ウィンクしながら上昇レバーを引いた。

上昇するヘリの窓からさゆみは、
「みなさ〜ん、さゆみに誕生日をくれてありがとう〜!!」

光の点が西に向かい小さくなるまで皆で見送った・・・・・。

丹下は、
「よーし!!店に戻ってみんなの誕生日やるぞ!!」

「!!」

八名は、
「さあ、柴田さんみんなと肩を寄せ合って笑うんじゃよ。」

「八名様・・・ありがとうございます。」

幸せな時間が皆に流れた・・・・。

その後意識を取り戻したさゆみの母親は奇跡的な回復をして退院した。

しかし、さゆみは桜中学を卒業する事を決めていたし本当はれいなと一緒に定時制高校に行こうとしたがアメリカ留学を免除するかわりに東京の私立進学校に行くことにしたが実は密かに「絵里」の受験する学校に絞って受験した。

受験の当日も全然知らなかった素振りをしていた。

さゆみの母は東京での話しを家族から聞いてさゆみの東京での進学を心から喜んだ。
666〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:28:20 ID:QvQqaLlz0
本当だったらすでに留学しなければならないところだが自分の意志で進路が決まるなら娘の為には幸せであろうと思った。

柴田は会社の業務命令で「大学受験」を命ぜられた。

あの日会長と前田が望んだ話しが実現したのだ。

これにはさすがに柴田も閉口したがさゆみと2人で受験勉強に励み2人とも無事合格した。

ある日「焼き鳥食堂」にあゆみの姿があった。

八名は、
「今日は誰かと待ち合わせかね?」

「はい、ちょっと仕事で。」

八名は真顔で、
「財閥グループの仕事にこんな店使うなんて。」
「出世しないよ、柴田さん。」

柴田は顔中を笑顔にした。

柴田はカウンターにある新聞を手にとって読んだ。

戦後創設された防衛庁が世界の有事に対応するべき国際貢献に伴い防衛省と改められた記事が一面に載っていた。

その一方でイラク派遣一次隊のヒゲの隊長が国会議委員に立候補するという記事が載っていた。

あゆみにとっては見覚えあるヒゲの隊長だった・・・・。
667〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:53:42 ID:QvQqaLlz0
(隊長・・・自衛隊の為に立候補するのですね・・・)

ヒゲの隊長はあの日約束していた、

「柴田1士・・・私はこの任務が終了したらいつか必ず現場の人間が安心して任務に就けるため働く、必ず君のやった事を無駄にはしない!!」

戸が開き中澤祐子が入って来た。

「おお、すまんね、あんたも忙しい身なのに。」

「いえ、構いません。」

「あんたのグループの会社での食品偽装問題でね、なかなか強制捜査までおぼつかないけど内部の裏さえ取れればなんとかなるんだわ。」

柴田は前田に相談して出来る限りの「情報公開」の書類を中澤に説明して渡した。

「すまんね、あんたのグループ印象悪くなるのにな。」

「いえ、早い段階で責任問題を解決できれば逆に企業にとってはプラスです。」

「すべてグループの計算済みです。」

「ふーん。」

中澤は、
「大将!!ビールお願いします。」

あゆみは、
「それでは、失礼します。」

席を立つあゆみを止めて、
「ええ!!アホやろ、普通飲むやろ、びっくりやわー」
668〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:56:19 ID:QvQqaLlz0
八名は、
「柴田さん、つき合ってあげなさい。」

軽く柴田をたしなめる八名を見て、
「ええ!!大将!!この店グループなん!!」

八名は、
「はは!!そう見えるかい?」

中澤は、
「まさか!!」

3人は笑い出した。

しかし出された焼き鳥を食べると。

「うっそ〜めちゃくちゃうまいやん!!」

そのころになると店は労働者で一杯になっていた。

もう八名は忙しく仕事をしていた。

中澤は、
「なぁ、さっきは冗談で言ったがほんまにグループの店ちゃうん?」

あゆみは嬉しそうに、
「いつかはそうなるように狙っています。」

中澤は、
「うっそ〜企業買収やん!!」
669〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:57:07 ID:QvQqaLlz0
時間が過ぎカウンターにうつぶせていた中澤は、

「前から言おうと思っていたけど、あんた硝煙(銃を撃った後の火薬の臭い)臭いんよね・・」

あゆみは急に汗ばんだ。

「なんて、ウソや。」

カウンターにうつぶせて軽く笑っていたがそっぽを向いている中澤の瞳は鋭かった・・・。

季節が移りれいなの誕生日が近づいていた。

れいなは中学生の頃から母が残したバイクを乗る日を夢見ていた。

そのため中型自動二輪の免許を取得するため教習所に通っていたがとうとう誕生日の日試験を受ける事となった。

その日、

「じいちゃん行って来るとぉ。」

八名は、

「頑張るんじゃぞ。」

れいなは試験場に出発した。

八名はれいなが出ていく姿を確認して丹下に電話した。

その後すぐに大きなトラックを運転した徳永鉄筋の社長が丹下と現れた。

徳永社長は、
「おじさんれいなちゃんもう行ったんだね。」
670〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:58:00 ID:QvQqaLlz0
八名は、
「おお。」

丹下はれいなの母親が乗っていた「MVX250F」をトラックに乗せた。

その後徳永鉄筋の作業工場でレストア(古いバイクを新品同様に復元整備する事)された。

徳永社長と丹下は素早くバイクをばらしてパーツ交換の準備をした。

20年以上前のバイクなので部品もすでに生産されていないが・・・

徳永鉄筋の敷地に1台の大きなワゴン車が入って来た。

「おお!!来てくれたか!!」

運転席から「柴田あゆみ」が降りてきた。

「おまたせしました、言われた部品は我がグループで作成しました。」

ワゴン車にはレストアするのに充分な部品が揃っていた。

丹下は、
「よっしゃ〜!!れいなちゃんの試験が終わるまでに組み上げるぞ!!」

免許センターで筆記試験が終わったれいなは試験結果を表示する電光掲示版を見つめていた。

(あったとぉ!!)

とうとうれいなは中型2輪の免許を取得する事になった。

その後は免許写真を撮影したり手続きの書類を書いたりしてやっと免許証を手に取ったのは夕暮れ時だった。
671〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 17:59:36 ID:QvQqaLlz0
免許センターを出たれいなはにこにこしながら駐車場を横切り帰りのバス停に向かった。

「れいな!!」

「!!」

駐車場でれいなを呼ぶ声にびっくりしながら声の方向を見た。

「え?」

20年以上も昔のバイク、「YAMAHA−RZ350」にまたがるさゆみだった。

黒いフルフェイスのヘルメットに黒い革つなぎ、グローブ、ブーツ。

まさに全身真っ黒だった。

「あ、あ、あんた何やってるとぉ?」

後ろに止まっているトラックから丹下と徳永社長が降りてきて、

「れいなちゃん誕生日おめでとう!!」

「おっちゃんまで、何してるとぉ。」

トラックの荷台を覆っているシートをはずそうとしている徳永社長は、

「おやっさん!!はやくはやく!!」

徳永社長は待ちきれずいた。

丹下はトラックにれいなを引き寄せ、
672〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 19:08:06 ID:QvQqaLlz0
「れいなちゃん誕生日プレゼントだよ。」

シートを取られた荷台に母の愛車が乗っていた。

「!!」

れいなはピカピカになったMVXを見つめて呆然としていた。

さゆみはトラックの助手席に積んであるれいなの赤いヘルメットとつなぎ、グローブ、ブーツをれいなに差し出した。

「さあ着てみて☆」

れいなはジーパンの上からつなぎを着てブーツを履いた。

全身真っ赤なスタイルだった。

徳永社長は嬉しそうに、

「さぁエンジンを掛けて!!」

れいなはMVXにまたがりキックペダルを蹴った。

「!!」

エンジンは一発始動して溢れるエネルギーを持てあますように吠えた。

さゆみはれいなにヘルメットを渡して、

「さぁ環状線を流しましょう☆」
673〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 19:08:58 ID:QvQqaLlz0
れいなは静かにうなずき、

「おっちゃん、社長、本当にどうもありがとう。」

徳永社長は、
「今回はね、柴田さんが道重グループにかけあってくれて普通手に入らない部品を用意してくれたから出来たんだ。」

「さゆ、ありがとう。」

「柴田さんがやってくれたの、柴田さんはいつも影から助けてくれるの☆」

仕事の都合でれいなに誕生日プレゼントを渡す「行事」に立ち会えなかった柴田が免許センターの駐車場に車で来たときには2台の黒と赤のバイクが高速の入り口に向かって走り去っていた。

駐車場にいる丹下と徳永社長のところに行き、

「どうもお疲れさまでした。」

徳永社長は、
「いやいや今日は楽しかった!!職人はやっぱこうじゃないと。」
674〜BIRTHDAY〜:2008/01/14(月) 19:09:38 ID:QvQqaLlz0
柴田は2人のバイクが走り去った方向を見ながら、

(人がやりなおそうと・・生まれ変わろうと決めた日がバースディ・・・)

徳永社長は、
「おーい、柴田さん後で焼き鳥食堂で誕生会だから車置きに帰るよ!!」

「わかりました。」

柴田は車のドアを開けて乗り込みエンジンをかけた。

(私にもバースディはある・・・)

暮れる陽にまぶしそうにあゆみは下町に向けて車を走らせた。




〜BIRTHDAY〜 完
675ミヤビイワナ:2008/01/14(月) 19:22:07 ID:QvQqaLlz0
やっと終わったね。

墨堤さん、応援団さん、輝夫さん、そしてあの頃から読んでいただいている方々、やっと書き終わりました。

昨年は自分としては本当に仕事も生活も節目でして正直、小説書く暇もあまりなかったのですが諦めず書くことが出来ました。

それは全て読んで直接感想を下さる人たちがいたからで自分一人では絶対無理な事です。

心から感謝です。

自分はもともとアイドルのコンサートに行ったり追っかけなどはしていないのでおもしろい話は書けないです。

熱烈なファンだけが分かるネタ話も出来ませんのでそのような目的で見る人にとっては本当に面白味もないでしょうね。

しかし確実に読者と言うものがいてわかって下さる人たちがいることも知っています、だからこれからも諦めず書き続ける気持ちでいます。

この板も自分が参加した時期から1年を越えました。

これだけの物を1年以上もやり続ける板は自分は知りません。

せめて1年以上は続けてやり続ける、話はそこからなのかなと最近ちょっと思っています。

さぁ、次のステージはどんなものか・・・・・

おやすみなさい。
676応援団員:2008/01/21(月) 20:48:57 ID:CB65QGEw0
ミヤビイワナさん。大変お疲れ様でした!

最後はちょっと急ぎ足だったかな?と思いましたが、ストーリーが
面白くいろいろな部分で頷きながら読ませて頂きました。
うれしい事に、みんなの表情もちゃんと見える。二つともそんな作品でした。


二つの物語を完結させた・・・。

そうとう疲れ、悩み、歯を食いしばって書き上げたのではないでしょうか?

「いえいえ、楽しく書いています」と言われれば、それ以上言う事はないのですが
一度書こうとしてみた自分はそう思ってしまいます。

だからこそ書き上げた後、達成感と充実感があるのだと思います。

人の意見はいろいろで、こんな事を書いても「そういった態度が作家を
ダメにする」と言われもします。

しかし、事実物を生み出すには相当な力の消費が必要です。
私も物を作っている側なので、その部分は痛感しています。
だからこそ、ミヤビイワナさんが作品を完結したという行為そのものに
拍手を送ります。

本当にお疲れ様でした。そしてゆっくりで結構です。次の作品、期待しています!

松輝夫さんも頑張って!
677ミヤビイワナ
応援団員さん・・・あなたの書き込みにどれほど自分が感動してるかあなたにはわかるだろうか。
本当に感謝です。

「急ぎ足」・・・やはり分かる人にはわかる事なのだな。

「私も物を作っている側」・・なるほどクリエイターなのですね。

「そういった態度が作家をダメにする」・・・そうなのかな。

少なくてもこれだけ読んで頂いて直球の感想を書いていくれている板は自分は知りません。

書き込み自体が作品になっている板なんて素敵です。

最近似たような板がちらほらありますが、読んでいてくれる人のレベルが全く違います。

松輝夫さんはちょっと事情があって板に今書き込み出来ませんが原稿をすでに自分に送ってくれています、しかし現在の残りメモリーを見るともうすぐこの板は落ちます。

あたらしい板のトップに掲載したいためまだアップ出来ません。

近々、新しい板が出来たら掲載いたします。

これからもヨロシクお願いします。



ああ・・・書いてて良かった。