1 :
名無し募集中。。。:
| |/ ◎◎ \|
| | ◎◎◎=3
ノハヽヽ.  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ε=(´Д`O)
( つ⌒O───────────────
/ ヽつ"つ =3
/ ブッ
>>1 乙
書いたことないけど始まったら挑戦してみよ
>>1 ありがとう(●´ー`●)
お題は『デパート』からでいいんかい?
6 :
名無し募集中。。。:03/11/18 22:59 ID:HFqRvPrV
消えちゃいそうだから書いといてあげる
初回テーマはこれでいいんですか?
33:名無し募集中。。。 11/09 02:16 fipQf71D [sage]
いくつか設定考えてるけど起こせないのあるし、試しに一つ上げるよ。
タイトル:デパート
ストーリー
小さな町にデパートが出来た。
オープン前に町の住民から数名にモニタリングしてもらうことに。
しかしそこには、招かれざる客が居てモニターと従業員を人質に立て篭ってしまう。
モニターと従業員が力を合わせ脱出を試みるが…
配役
モニター:現娘。メン+α(安倍・飯田・矢口辺りが主役)
従業員:中澤・保田・後藤+α
オーナー:つんく
招かれざる客:福田・石黒・市井・平家
いいんでない?とりあえずやってみんことには。
それで問題があるようだったら、色々考えていけばよか。
中途半端で続きも出来そうにない感じでちょっとだけ書いてみました。
〜〜〜〜デパート〜〜〜〜
(あれからどのくらいの時間がたったのだろう・・・)
今度の日曜に開店するデパートのモニターに選ばれて、
今日来たは良いけれど、いきなり店内に閉じ込められて人質にされてしまった。
布で口をふさがれ、腕と脚はきつく縛られた状態のままで身動きがとれない。
遠くの時計売り場から時刻を告げる音が聞こえてくる・・・
ひとつ・・・・ふたつ・・・・みっつ・・・
四回目以降の音が聞こえない。
(もう三時かぁ・・・・あと、どのくらいここにいればいいんだろう・・・)
周りにはモニターとして来ていた客と、このデパートの従業員の人達。
みんな私と同じ格好で一箇所に集められていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こんな感じでいかがでしょう?
やっぱり書き手としても、読み手としても、
全部書いてから載せた方がいいのではないでしょうか。
分量はまあ20レスぐらいを目安にして。
で、
>>9についてですが、書き出しだけなんでなんとも言えませんが、
人質にされるまでの経緯をパラパラッと書いてしまうのは、ちょっともったいない感じ。
これからの話の流れによっては効果的になるかも知れないけど、
書き出しだけとしてみると、いまいちインパクトにかけるかなぁ。と思います。
でもそんなことより、最初に載せたことに対して拍手。
みんなこんな感じで気楽に書いちゃえ!
川‘〜‘)<どんどん盛り上げていきまっしょい!!
まぁオレはまだ書けてないんだけどな
12 :
亀:03/11/19 20:18 ID:i6zyG7+w
飼育で一本短いのをはじめて書かせて貰いました。
批評、アドバイスを頂ければ凄く嬉しいのですが、ここのスレでお願いできるんでしょうか?
6期で、しかも微妙にエロなんですけど・・・
思案しながら保全
保全しながら考え中
16 :
9:03/11/21 01:17 ID:1a+ZuRck
単なる保全だったと考えてもらえると助かります。(^^;
保全
ほしゅ
保
全
どこぞで下手くそながら小説書かせてもらってる者です。
保全がてら書いてみました。(どう考えても長編になりそうなんで途中までですが…。)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「んん…あれ?」
いつの間にか眠ってしまったらしい。
矢口は家具売り場のベッドからゆっくりと降りる。
そして、すぐにこのデパートの様子がおかしいという事に気付いた。
「なんで誰もいないんだろう?」
たしかにここのデパートはもうすぐ閉鎖されるということで、普段から客足は少ない。
(だからこうやってたまにここで勝手に寝ちゃったりしてるんだけどね。)
だが、それにしてはあまりに静かすぎる。
というより、人の気配が感じられない。
もしかして閉店まで寝ちゃったとか?
そんなことを考えた時、矢口は外がやけに騒がしいことに気が付いた。
「…サイレン?」
外からパトカーらしきサイレンの音が微かに聞こえる。
それもかなりの量のようだ。
もしかして…。
矢口の頭の中に考えたくもないような最悪なシナリオがよぎる。
しかし、次の館内放送によってそのシナリオが現実に起こっているということを思い知らされた。
『警察の諸君、このデパートは我々が乗っ取らせてもらった!人質の命が惜しければ直ちに我々のいうことを聞け!』
はぁ…なんて運が悪いんだ、と矢口は心の底から思った。
なんで寝に来ただけなのに(ってそれもどうかと思うが…)、こんな目に遭わなきゃいけないんだろう…。
私ってやっぱりこういう悲劇のヒロインになっちゃう運命なのかなぁ…、なんて暢気な事を考えながらふと思った。
「よく考えたら、私がいるってまだばれてない?」
周りに人の気配はまったくない。
という事、強盗は私の存在に気付いていないのだろう。
そう考えると少し気が楽になった。
と同時に、なぜか突拍子もないことを思いついてしまった。
「私がヒーローになれるかも!」
思った事はどうしても行動に出てしまう私…。
せっかくだから逃げちゃえばいいのに。
なんでこう変な事に首を突っ込んじゃうんだろうか…。
つくづく損な性格だな、と私は改めて思った。
「人質がいるって言ってたよなぁ〜、とりあえず探してみるか。」
そして矢口は勇敢にも一人、今最も天国に一番近いであろう場所へと歩き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
とりあえず、こんな感じで。
よかったら感想などお願いします。
>>21-22 そのまま別スレ立てて最後まで長編を完結させてください。
おお、なんかたまにシリアス入るホームアローンみたいになりそう
面白そうなのでよかったら続きも書いてください。
>>21-22 面白い
是非、続きも読みたいね
ただ、
>>22の矢口の最後の台詞の前の部分
〜つくづく損な性格だな、と私は改めて思った。〜
ここは「私は思った」っていうのはちょっとおかしくない?
矢口の一人称で語られる小説ではないんだし・・・
矢口の心の中の独白だけど、ここは「私」が主語ではおかしいと思った
とにかく、そういう小説の「視点」には注意して書くといいかも
>>26 確かにちょっと変かも、私がなくても意味通じるし。
あの時私はこう思った、とか過去形と現在形の使い分けって結構、間違う
こと多いからね。
28 :
21-22:03/11/24 14:40 ID:4ruIuXFL
皆さん、いろんな意見ありがとうございます。
一度書いてみる方向で検討してみまつ。
>23
羊だと立て辛いようなので、別スレ立てるなら空板とかの方がいいですかね?
>24
実は先のことなど全く考えていなかったという罠w
>26-27
経験が浅いのでそういうのをご指摘してもらえるとホントに助かります。
よければ今後もご指導よろしくお願いします。
氏にスレで書けば良いのでは?
30 :
21-22:03/11/24 22:50 ID:4ruIuXFL
ほ
堅守
そろそろ次のお題に移ってもいいんじゃないかと思うんだけどなんかない?
デパートで途中まで書いてる人もいそう。
次からは期限付けてやってった方がいいかも。
あと、デパートみたいにストーリーを設定するんじゃなくて、
前スレでもやってたけど1シーンの設定の方がサクサク進むかもね。
>>34 ここは、ストーリーを実戦的に書くところなんじゃない?
それは向こうでするって言ってたよ
>>35 あっちは相談に来た人の文の批評、分析を中心にしたいからって事にな
ってこのスレが立ったんだと思ったけど?
ほ
保
今、初めて見たんだが、誰も設定や色彩を指摘してやらなかったのか?
なんか誉めてるだけだよね。こんなんじゃ意味ないかも。
今回のお題は12/7でしめ切ってどう運営するかとか話し合った方が良くない?
創作文芸板に似たようなスレがあるから参考にしてみたらどうだろう。
スレタイ何?
>>39 どういうこと?
あと、
>>40に賛成。今のままだとこのまま中途半端に終わりそうだわ。
でも一番の問題は人がいないことなのだけど。
ども。一応羊で書かせてもらってる者です。
前にも書いたと思うんですが、
自分の作品すら忙しくて進まないんですよね。
できればいろいろ書いて皆さんに批評していただきたい気持ちはたっぷりあるんですが・・・・・
自分の作品の読者のみなさん(いるのかどうかわかんないですけど)を放置しているようでなんかいまいち踏み切れません。
45 :
39:03/11/29 21:42 ID:RPi1GqSX
上記の小説は、一人称と三人称の区別ができてない。
行動や展開の説明ばかりで、背景のない漫画を見ているみたいだ。
46 :
添削:03/11/29 23:12 ID:9EycMvKQ
「んん…あれ?」
いつの間にか眠ってしまったらしい。
矢口は家具売り場のベッドからゆっくりと降りる。
そして、すぐにこのデパートの様子がおかしいという事に気付いた。
「なんで誰もいないんだろう?」
たしかにここのデパートはもうすぐ閉鎖されるということで、普段から客足は少ない。
だからこうやってたまにここで勝手に寝ちゃったりしてるのだが。
だが、それにしてはあまりに静かすぎる。
というより、人の気配が感じられない。
もしかして閉店まで寝ちゃったとか?
そんなことを考えた時、矢口は外がやけに騒がしいことに気が付いた。
「……サイレン?」
外からパトカーらしきサイレンの音が微かに聞こえる。
それもかなりの量のようだ。
もしかして…。
矢口の頭の中に考えたくもないような最悪なシナリオがよぎる。
そして、館内放送によってそのシナリオが現実に起こっているということを思い知らされた。
47 :
添削:03/11/29 23:19 ID:9EycMvKQ
『警察の諸君、このデパートは我々が乗っ取らせてもらった!人質の命が惜しければ直ちに我々のいうことを聞け!』
はぁ……なんて運が悪いんだ、と矢口は心の底から思った。
なんで寝に来ただけなのに、こんな目に遭わなきゃいけないんだろ……。
私ってやっぱりこういう悲劇のヒロインになっちゃう運命なのかなぁ…、なんて暢気な事を考えながらふと思った。
「よく考えたら、私がいるってまだばれてない?」
周りに人の気配はまったくない。
という事は、テロリストは私の存在に気付いていないのだろう。
そう考えると少し気が楽になった。
と同時に、なぜか突拍子もないことを思いついてしまった。
「私がヒーローになれるかも!」
思った事はどうしても行動に出てしまう私……。
せっかくだから逃げちゃえばいいのに。
なんでこう変な事に首を突っ込んじゃうんだろうか……。
つくづく損な性格だな、と矢口は改めて思った。
「人質がいるって言ってたよなぁ〜、とりあえず探してみるか」
そして矢口は勇敢にも一人、今最も天国に一番近いであろう場所へと歩き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
とりあえず文章上おかしいところの添削だけしてみた。人称の間違いと脱字、…を……に、会話文の最後の『。』、
接続詞の間違い(一レス目の最後の文)、強盗をテロリストに。
そんでもって今度は自分なりに同じ設定で書いてみようと思う。
>>46ー47
どうせだったらやるんだったら
>>そんなことを考えた時、矢口は外がやけに騒がしいことに気が付いた。
こーゆうとこも直してみて。一人称のトコに矢口って入ってるのは変だよ
「んん……、あれ?」
ぼんやりとする頭を二三度振って、私はあたりを見渡した。
見覚えのある風景。とあるデパートの三階家具売り場。
そうだ。たまにやるように、今日もここで売り物のベッドに寝転んでいたらいつのまにか寝てしまったのだ。
「それにしても……」
まるで全ての音がブラックホールみたいな穴に吸い込まれてしまったような静寂。
普段必ず流れている有線さえ今は聞こえてこない。
……私以外に、このフロアーに人がいないのだった。
そのことに、脳が水をかけられたように萎縮する。
まさかもう閉店してしまったのか。
そうだとしたらどうすればいいのか。
店の人にこっぴどく怒られるんじゃないか。
そんな不安が胸の中を飛び回っていた。
「……サイレン?」
微かに、パトカーのサイレンの音がした。それも、デパートのすぐ近くから。
どうやらかなり台数は多いらしい。
尋常じゃない状況に、頭がくらくらするのを私は感じていた。
一レス目だけでいいか。こんな感じでどうでせう。
>>48 うーん、おかしいかな。自分にはよくわかりません。
まあ内容の添削はまた別に誰かがということで。
>>49 ちょっと「〜のように」の比喩がうるさいような気がするが。
「ブラックホール〜」と「脳が水を〜」は、
比喩自体としてはとても面白いと思うんだけど、
続いてしまっていると、少ししつこい感もあるかな、と。
「・・・サイレン?」の部分へのつなぎが少しおかしいかな、と。
原文では「外が騒がしい」と言うのでつなげていたが、
ちょっと飛んでしまった感がある。
批評厨でスマソ。
どうもありがとう。比喩好きなもんで…。
なんだか直書きで書いたせいか自分で見直してもへんな感じだなー。
53 :
添削w:03/11/30 00:25 ID:kN1aDD6O
「んん…あれ?」
いつの間にか眠ってしまったらしい。
おいらはきょろきょろと辺りを見回しながらそっと家具売り場のベッドから降りた。
どうも、デパートの様子がおかしいのだ。
「なんで誰もいないんだろう?」
たしかにこのデパートはもうすぐ閉鎖が決まってるぐらいだから、普段も客足は少ない。
だからこうやって勝手に寝ちゃったりもできるんだけどさ。
ただ、それを差し引いてもあまりに静かすぎる。
というより、人の気配がまったく感じられない。
もしかして閉店まで寝ちゃったとか?
ぼんやりとそんなことを考えていると、外がやけに騒がしいことに気付いた。
「……サイレン?」
外からパトカーのサイレンらしき音が微かに聞こえてくる、見上げると窓際の天井がチラ
チラ赤く光っていた。
どうもかなりの量のようだ。
もしかして、まさか。
頭の中に考えたくもないような最悪なシナリオがよぎる。
おいらなんか警察に捕まるようなことやったっけ……不法侵入、とか?
そして、館内放送によってそのシナリオが現実に起こっているということを思い知らされた。
初心者的な質問で悪いんだけど、
ここのお題で書いた小説はここに載せるの?
それとも、氏にスレに載せて直リンするの?
>>54 他スレ行きってのは、お題を元にして連載とかする人用で長く書く場合だ
から基本的にここでOK。
56 :
21-22:03/12/01 01:50 ID:Xg0vJZRD
自分の文章をこうやって添削してもらえると嬉しいですね。
書き手さんによって表現方法がこうも変わってくるものなんですね。
いろいろと勉強になります。
自分で書いといて今更ながら気付いたんですが、矢口が自分のことを「私」と言ってることにワロタw
57 :
54:03/12/02 02:40 ID:jDzM89/n
なるほど
>>55さん、ありがと〜
問題は小説が全然書けない事なんだよな〜(w
58 :
:03/12/06 11:18 ID:gLYg/2UE
明日いっぱいで今回のお題は終了です!!
書けた人はうpお早めに。
書けた人はおらんのかいな?
やっぱ短めにさらりと書けるお題の方がとっつきやすいかもね。
と言いつつ、お題の案は無いわけだけども。
期待ほぜ
しょうがねえな。
まずは、起承転結からだ。
起=娘がライブを終えた。
承=いつものようにホテルへ移動した。
転=深夜に火事がおきてパニック。
結=辻のいたずらだった。
これを4レスくらい使って三人称で書いてみろ。
三人称というのは、神の声とか言われるやつだ。
それが終わったら、辻以外のメンバーの一人称だな。
63 :
名無し募集中。。。:03/12/27 01:59 ID:i9h709cN
あげ?
>>62 ”結”だけは自由に書けるようにした方が、書きやすいんじゃない?
今年初カキコ。
66 :
名無し募集中。。。:04/01/14 15:36 ID:rHdfIRxq
x
スレが進まないので、ちょっとしたイベントしませんか?
・『卒業』を題材に30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)
・作品を添削する
という流れです。投稿期間は大体二〜三週間。
添削期間は次の企画が始まるまで。
いかがでしょう??
おもしろそうだし良いとおもうよ。
ただ俺あんまり長くかけない方だから書いても短くなると思うんだけど、
最低何レスとかはあんの?
最低は無くていいと思うよ。
1レス〜30レス程度でいいんでないかい??
賛成賛成。
添削は養成塾の本スレで随時やってっても良いんじゃない?
71 :
67:04/01/16 00:47 ID:xE27y35p
>>70 川o・-・)<そうですねぇ。
(●´ー`)<向こうも進んでないからね。
(〜^◇^)<何気に酷い事言うねぇ〜。
川o・-・)<それよりいつから始めたらいいと思いますか?
(●´ー`)<なっちは、1/20〜25から始めるのが時期的にいいんでないかって思うんだけど…
(〜^◇^)<でもさルールとかも詰めないといけないよねぇ〜。
川o・-・)<皆さんのご意見聞かせてください。
ほぼ
>>67の通りで問題無いかと。
投稿期間はあんまりダラダラするのもちょっと嫌だから、
2週間で良いんじゃない?開始日時はお任せ。
それと、小説総合スレにちょろっと宣伝しといた方がよろしいかと。
一応考えてみました
・『卒業』を題材に30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)
・投稿期間は1/21 0:00〜2/4 23:59まで。
・必ず完結させたものを上げる事。
・投稿時、名前欄はタイトルを入れる。
・作品の最後もしくは次レスに『完』や『終わり』というように終了を明確に記す。
・作品を上げる時に前の作品が完結しているのか確認を。
・添削は『娘。小説作家養成塾 其の2』で随時行う。
このような感じでいい?
j
俺はそれでいいぞ。
>>73を総合に貼りました。是非参加してくださいね。
77 :
仕事:04/01/21 00:02 ID:26C9RQOW
私の存在意義とは何なのか。
いつもそう思っていた。
ライブ会場でも私は考える。
それが、どこか無愛想なのかもしれない。
べつに、本気で交信してるわけじゃない。
私は考える時間がほしかった。
これまでも、これからも。
「飯田、仕事が終わったら卒業やで」
つんく♂さんにスタジオに呼ばれた。
この人の言うことは、どうも理解できない。
私の仕事? それはお客さんを元気にすること。
それがモーニング娘。というアイドルの仕事だ。
違うのか? それとも、他に仕事があるのか?
わからない。私にはわからない。
「ふう」
今日はライブがある。
久しぶりの横浜アリーナ。
新春ハロプロツアーの中日になる。
私はメンバーより遅れて楽屋入りした。
すぐにリハーサル。これは疲れる。
78 :
仕事:04/01/21 00:02 ID:26C9RQOW
「圭織。乙女組、気合が入ってるねえ。さくら組も負けないよ」
なっち。
私、仕事が終わったら卒業だってさ。
仕事って何かなあ。
よくわかんないよ。
また考えることが増えた。
「飯田さぁん。お話があるんですけどぉ」
作ったような声が私の神経を逆撫でする。
私の至福の時間を邪魔する黒い顔した石川。
考える時間を邪魔されるのは、マジで腹がたつ。
絶対に暴力はいけない。なんてTVで言わなきゃよかった。
そうすれば、この無神経な女にヤキをいれられる。
「ののとあいぼんが卒業しちゃうじゃないですかぁ」
それがどうした。
卒業なんて詭弁じゃないか。
アイドルには自分の意志など必要ない。
この、乙女組の楽屋にも、多くの操り人形がいる。
私は操り人形のリーダー。
操り人形にリーダーなんか必要ない。
それが解かるまで、6年もかかった。
79 :
仕事:04/01/21 00:03 ID:26C9RQOW
「メンバーだけで、送別会をしませんかぁ? 」
送別会?
まるで、左遷されるみたいだな。
圭ちゃんや後藤は、完全な左遷だった。
ハロプロのソロで成功してるのは松浦だけだ。
なっちはどうなるんだろう。
「いいじゃん! 焼肉をガンガン食おうぜ! 」
―――藤本。こいつも黙ってれば可愛いのに。
性格がきついとか言われてるけど、要するにワガママなだけだ。
大人になりきれてない。だから娘。に入れられたんだ。
私が甘やかしてるのだろうか。―――わからない。
「押忍! 藤本さん。田中は焼肉、賛成です! 」
「よっしゃー! そうと決まれば、小川! 焼肉屋の予約しろ」
「は? はははは―――はい! 」
こんなことでいいのか?
小川は年下だけど、娘。では先輩だろ?
藤本には注意しなきゃいけない。
でも、藤本は私の話を聞いてくれるだろうか。
80 :
仕事:04/01/21 00:04 ID:26C9RQOW
「藤本、ちょっといい? 」
私は藤本を廊下に連れ出した。
藤本にもプライドがあるから、みんなの前では注意できない。
今の娘。で藤本が一目おいてるのは、私となっち、矢口の3人だけ。
なっちと矢口は、さくら組だから、私が注意しなくちゃいけない。
「何ですか? 」
「小川は先輩でしょう? 少し気をつけなきゃね」
廊下にはスタッフもいるから、私は小声で注意した。
ところが、藤本は迷惑そうに舌を鳴らす。
このままじゃ駄目だ。藤本のためにならない。
藤本は集団生活に慣れてないんだ。
「何? その態度は! 」
けじめをつけなくては。
私は藤本の髪をつかみ、廊下の壁に叩きつけた。
鈍い音がして、藤本の眉あたりから血が流れる。
驚いた藤本は額に手をやるが、指の間から血がこぼれた。
「藤本さん、焼肉屋って―――うっ! 」
小川が楽屋から出てきて、血まみれの藤本を見て固まる。
私は藤本に暴力を振るった。これじゃ、TVでの公約違反だ。
そんなことはどうでもいい。藤本にわかってもらいたい。
81 :
仕事:04/01/21 00:05 ID:26C9RQOW
「小川、なっちを呼んできて」
「はははははは―――はい! ここここここ―――こえーよおおおおおおー! 」
血まみれの自分の手を見て、藤本は私を睨んだ。
どうした? 文句があるなら、かかって来なよ。
私は藤本くらいなら、余裕で相手になれる。
勝てる自信があるから、藤本を壁に叩きつけたんだ。
「痛いなあ! 」
「甘えんじゃないよ! 」
私が脇腹を蹴ると、藤本は涙を流しながら苦しんだ。
解かってほしい。何で私が怒ったのか。
何で苦しい思いをしなきゃいけないのか。
「圭織! 何してるんだべさ! 」
なっちは驚いてたけど、私が落ちついてるから安心したみたい。
自前の救急箱からガーゼを出して、藤本の傷の手当てを始めた。
それを、小川が震えながら見てる。
冷たい廊下の床に倒れた藤本が、少し可哀想になった。
82 :
仕事:04/01/21 00:06 ID:26C9RQOW
「深くないべさ。バンドエイドでいいっしょ」
「安倍さん。飯田さんはひどいですよ。いきなり壁に叩きつけるんですから」
なっちに言いつけるとは、藤本も莫迦だ。
私となっちは、苦楽をともにした仲。
お互いの気持ちは、嫌というほどわかる。
まだ、子供なんだろうね。
「圭織が怒るなんて、よほどのことだべさ。藤本が悪いよ」
「どうして? あたしは怪我したのよ! 」
藤本は泣きながら走って行った。
まったく、世話のやける子だ。
「全部見とったで」
「裕ちゃん」
「うちに任し。心配せんでええから」
裕ちゃんは、ほんとうに頼りになる。
娘。を卒業したのに、私は甘えっぱなしだ。
藤本にも、いい機会かもしれない。
裕ちゃんと、できれば圭ちゃんの話も聞いてもらいたい。
83 :
仕事:04/01/21 00:07 ID:26C9RQOW
裕ちゃんが藤本に、どんな話をしたのかはわからない。
でも、それから藤本は素直になった。
小川を顎で使うこともなくなったし、娘。に馴染んできたみたい。
あいかわらず、私にツッコミを入れたりしているが、
以前のようなワガママな態度はとらなくなった。
「藤本、イイ感じだよ」
私がそう言うと、藤本は嬉しそうに笑った。
これでいい。藤本はようやく娘。になれたのだ。
私がしたことは、決して正しいことではないだろう。
でも、藤本はわかってくれた。それでいい。
「―――仕事」
つんく♂さん。私の仕事は終わりました。
これからは、矢口や石川、藤本が娘。を引っぱって行きます。
卒業の意味が、ようやくわかりました。
ありがとうございます。
――――― 終 ―――――
私もそろそろ卒業の時が近づいていた。
この国の人々は十五歳の誕生日に国家の組織を卒業し、国から出て行かねばならないことになっている。
それは血路だ。
この国の頽廃には目を覆うものがある。流行病が猖獗を極め、犯罪が跋扈し、人々の双眸に希望の色を見て取ることはできない。そんな国に、私、亀井絵里は生まれてきた。
人口たったの百名。国民全員が十五歳以下で「チルドレン」と言う組織に属している。掟は唯一つ、この国から出てはいけないということだけだったが、それを破ると確実に死が待っているとのことだ。実際に掟を破った人間がいるかどうかは知らない。
ここは子供の国なのだ。何もしなくても食事は出る。ある程度の医療も教育もある。もちろん教育なんかは放棄する者も少なくはないが。
豊かではあるがそれをもてあまし、頽廃している。それがこの国だ。
しかしただで卒業できると言うわけではない。十五歳の誕生日の前日、両足の小指を切り落とされるのだ。それを私たちは「卒業の儀式」と呼んでいた。
私には友達が二人いた。れいなとさゆみだ。彼女たちは私より年下だから、三人の中では私が最初に卒業ということになる。
私の誕生日が近づくにつれ、不衛生な街角で私たちは外の世界について語ることが増えた。もちろん「卒業の儀式」も話題にのぼった。これまでの艱難も慰めあった。
そしていよいよ、「卒業の儀式」の日になった。公開されてはいるが、見物人はれいなとさゆみだけだ。
私は台に載せられた。うつ伏せで寝転がったため、足は見えない。そんな私のまわりを二人の男女がせわしなく動く。やがて右の小指に何かが塗られたかと思うと、脳まで衝き抜けるような痛みの炎が熾った。息が詰まり背筋が凍る。じっとりとした汗を脇や手のひらに感じた。
やがて左足の小指も切り落とされた。じんじんとうねるような痛みが私を襲う。それで儀式は終わったが、私はしばらくそこで身悶えていた。
その日の夜、私は足の痛みに呻吟し、一睡も出来なかった。しかし翌日になると少し痛みはおさまった。
このぶんならいつか痛みも完全に消え、足の指が十本あったことも忘れてしまいそうだ。しかし、
「絵里さん、元気で。」
「あたしいつか絵里さんに会いに行きます。」
この二人のことは一生忘れないだろう。門の外に一歩踏み出すと、私の目の前には渺茫たる世界が広がっていた。
*「改行が読みにくい」、「会話の最後の。はいらない」以外でおながいします。
あいぼんの投げたボールは、空をゆるやかなに横断しながら私のミットに。
太陽が眩しくて少し目を凝らした。
「曲がった?」
「ううん、全然」
キャッチボールなんて初めてだった。ご丁寧にグローブまでつけて。女の子の人生には一生ご縁のない遊びかもしれないから、きっと忘れることのできない日になる。
だけど、初めてだけど初めてじゃない感じ。
私は腕を大きく振り上げて、地面を平行線に走る直線的なボールをあいぼんに返す。
あいぼんは少し慌てながらそれをとる。
「なかなか曲がらへんな」
「そんな簡単なもんじゃないでしょ」
「おとんに教えてもらってん。こうすれば曲がるって」
そう言ってあいぼんはボールと睨めっこしながら、真っ白いボールに真っ白い指を忙しなく動かしている。
「次は曲がるで」
「はいはい」
あいぼんが言う。私は返す。
そう、これはいつもと何ら変わらない、同じようなキャッチボール。
楽屋に入ってくるなり、いつものように私の膝の上を占拠するあいぼん。
「痛っいなぁー。少しはダイエットしろよー」
「うわぁっ! よっすぃーに言われたないわ!」
あいぼんが私のほほを引っ張る。私はあいぼんのおでこを叩く。
そんなことやり合ってたら、あいぼんが急に大人しくなってこう言った。
「なぁ、よっすぃー。──キャッチボールせえへん?」
「はぁ? キャッチボール?」
「うん、キャッチでボール」
ふと見た、あいぼんの横にはスポーツ用品店の名前が入った袋が置いてあった。
私の視線に気付き、あいぼんは嬉しそうに袋をひっくり返し中身を放り出した。
「買っちった」
そこには新品のグローブとミット。そして真っ白い軟球のボール。
「うぉ! 本格的だな」
「ホンキホンキ。あいぼんはいつだって本気なの」
じゃあこれ、と言ってあいぼんは私にミットを渡す。
「あ、ちょっと待ってよ。なんでグローブ二つじゃないのさ」
「お店の人が、受け取る側の人はこれですよ、って言ってたもん」
「なんだそれ? 私が取る側って決まってるの?」
「そんなん当たり前やん」
「なんだそれ」
私は笑ってあいぼんをこずく。
「だってよっすぃーやったら私がどんなボール投げても取ってくれそうやん」
「なんでよ?」
「面積でかいやん」
「お前に言われたないわ!」
そして私達は投げあう。
青い空を渡りながら、茶色い地面を走りながら。
ゆるやかな曲線を描きながら、真っ直ぐな線を引きながら。
少しずつ距離は離れて行って、だんだん私達の声は大きくなる。
あいぼんは投げる。
「曲がったやろ!」
「曲がらへん曲がらへん!」
私は返す。
「なぁよっすぃー」
また慌しく、ボールに指を絡めながらあいぼんは言う。
「なぁーに」
「よっすぃーはいつだってあいぼんのボール取ってくれるんやろ!」
相変わらずボールと睨めっこしながら、大声で言う。
「おう! いつだってとったるでぇー!」
ミットを一度叩いて、私も大声で返す。
「もう一歩離れたって取ってくれるんやろ!」
「おうおう! 何歩離れたって取ってやる! この吉澤様に不可能はなぁーいっ!」
あいぼんの指が止まった。ボールに不器用にかかった指を見つめて、一度にやりと笑った。
「…いっくでぇー!」
あいぼんが顔を上げて言う。腕を大きく振り上げる。
「おう、どんとこい!!」
私は膝を少し折って、ミットを構える。
あいぼんの投げたボールは、空をゆるやかなに横断しながら私のミットに。
太陽が眩しくて少し曲がって見えた。
おわり
私とあいぼんがモーニング娘。卒業を発表して数日後、私の下にやけに重いものが入った段ボール箱と、一通の手紙が届いた。
箱はしっかりとガムテープで口を塞がれている。
中身はなんとなくだが本類っぽい。
そして手紙の方は、なんの変哲もない普通の封筒に普通の便箋だ。
しかし、私は本能的にこれらのものがあまりよろしくないものだということを感じ取った。
いわゆる女の勘というやつだ。
まあ、そんなものがあてになるかといえばこの部屋が埋まりきってしまうくらい『?』といった感じだが…。
もしかしたら、何か重要なものということも考えられなくもない。
あれこれと考えてみるが、とにかく読んでみなければ何も始まらない、そう判断した。
ということで、何はともあれ、まず私はその手紙を読んでみた。
--------------------------------------------
辻希美へ
お前、モーニング娘。を卒業するらしいな。
そこでひとつ、お前に言っておきたい事がある。
お前は岡女の生徒として、成績があまりにも悪い。
だから、お前には抜き打ち卒業試験をする。
当然、点数が低かったら岡女には残すから。
日程は追って連絡する。
岡村女子高等学校教師 岡村隆史
---------------------------------------------
はぁ……。
お世辞にも上手とはいえない走り書きしたようなこの手紙を読み終え、私は思わずため息を漏らす。
とりあえず、抜き打ち試験を予告してるってとこは置いておこう。
こんなの冗談じゃない。
なんで私だけこんなことをしなければいけないのさ?
確かに私はバカ女になっちゃったけどさ。
はぁ……。
ダンボールを開けてみると、そこには幸か不幸か、参考書らしき本がぎっしり詰まっていた。
そんな愛情があるのなら、極楽の加藤さんを一生私に近づけさせないでほしいものだ。
はぁ……。
その日から私、辻希美の卒業のための地獄のような猛勉強の日々が幕を開けたのであった。
ある日。
私は体育の参考書を読んでいた。
どうやら今回の抜き打ち(?)卒業試験、期末と同様の5教科に加え、体育、音楽、芸術なんてのもあるらしい。
ただでさえ忙しいのに、と、私はひとりでぶつぶつと愚痴をこぼしながらも参考書に目を通す。
「珍しいな、のの。あんたが本なんて読むなんて、今日は地震でも起こるんとちゃうか?」
私の相棒、あいぼんこと加護亜依が茶かを入れてきた。
よく考えたら、この禿も私と2点違いじゃん。
なのに、何で私だけこんな目に遭わなきゃいけないんだ?
腸が煮えくり返りそうな怒りを心の奥に押し込め、私はあいぼんに事の次第を説明した。
「ま、この2点の差が、バカ女とそうでないものの違いや。」
そんなことをクソ女の禿に言われても説得力ないな…。
そんな口には出せないような事を心の中で思っていると、あいぼんは私の勉強を手伝ってくれると言ってくれた。
さすが、持つべきものはハ…じゃなくて友だ。
とりあえず、お手並み拝見ということで問題を出してみる。
「ハロプロが現在行っている、サッカーに似た、ボールを蹴って試合をする競技は何?」
あいぼんは頭を抱え、そして何かが閃いたのか、手をパチンと叩いて勢いよく答えた。
「わかった!テナガザルや!」
今度は私が頭を抱える。
そして、とりあえずつっこんであげる。
「蹴る競技なのに、手が長くてどうするのさ。」
「じゃ、アシナガザルか?」
ダメだこりゃ。
さすがはクソ女、こと運動に関しては貫禄が違う。
「何かサルやったんは覚えてるんやけどなぁ、ミザル・キカザル・イワザルあたりやったっけ?」
卒業のための猛勉強はまだまだ続く。
数日後、今日は社会の参考書を読んでみる。
娘。は全体的に社会は弱いので、これがよかったら結構目立ってただろうな。
そんな事を思っていたら、後ろから誰かが声をかけてきた。
「のの、お勉強中?えらいねぇ〜。」
社会が大の苦手の、なちゅみこと安倍なつみ。
日本で一番高い山が『ヒマラヤ山脈』、学校の地図記号で『奇妙な標識』を書いたという伝説を持つ、超天然だ。
例にもよって、なちゅみも手伝ってくれるらしい。
だが、今回はどうにも嫌な予感しかしない。
断ろうとも思ったが…。
そんなに笑顔で言われると断りにくいことこの上ないんだよね。
私は仕方なく諦める。
とりあえず、する必要もないだろうけど、なちゅみのお手並みを拝見してみる。
「今のアメリカの大統領は誰でしょう?」
「クリキントン!」
間髪入れず答えられた。
はぁ…。
なちゅみ、それじゃ岡女の時の一の舞、二の舞、三の舞だよ。
「あれ、違ったっけ?じゃあクリオコワ?クリアンカケ?クリボー?」
なちゅみ、こんなんで岡女を卒業しても大丈夫なんだろうか?
間違った答えを必死で思い出そうとしているなちゅみを見ると、私はなぜか悲しくなってきた。
「わかったわかった!クリームシチューだ!」
卒業のための猛勉強はまだまだ終わらない。
数日後、今日も社会の参考書とにらめっこをする私は、必死に日本の農業について暗記中。
食べ物に関してだけは、私もそこそこ頑張れる。
暗記をしつつ、頭の中で各地の名産品を浮かべては消してを繰り返していた。
伊達にミニモニ。で♪ささかま〜ささかま〜、なんてやってない。
「のんつぁん、ちょっと…あ、お勉強中?」
岡女の才女、紺ちゃんこと紺野あさ美。
岡女ではいっつもこの紺ちゃんと比べられる。
あ〜、私も紺ちゃんくらい頭がよければ、こんな苦労をしなくてもよかったのに…。
はぁ…。
「どうしたの、何か悩みでもあるの?」
紺ちゃんならなんとかしてくれるかな…。
私は紺ちゃんに事の次第を説明し、ぜひ私の手伝いをしてほしいと依頼した。
紺ちゃんはお菓子1週間分でなんとか手を打ってくれた。
実は紺ちゃん、こういうところは意外と抜け目がないのだ。
そして早速、不要かもしれないが、私はとりあえず紺ちゃんのお手並みを拝見させてもらう。
「日本でじゃがいもの生産量1位の場所はどこ?」
すると、紺ちゃんは一生懸命真面目に考え始めた。
真面目に考える。
真面目に考える。
真面目に考える。
真面目に真面目に真面目に……。
一時間後、私の意識があるか否かという限界のところにまでやってきていた時、ようやく紺ちゃんが口を開いた。
「1位はやっぱりさ、王道のポテトサラダじゃない?」
その瞬間、私はガラにもなく、思わずこけてしまった。
んなあほな…誰が好きな芋料理ランキングを聞いたんだよ。
「のんちゃん、大丈夫?」
お前が大丈夫かよ、と言ってあげたい。
はぁ、このまま私が娘。を卒業してしまって大丈夫なんだろうか?
「あ〜、頭使ったらお腹空いたからお菓子食べに行こっと♪」
私の猛勉強は全然進まない。
−完−
101 :
ばいばい:04/01/25 04:00 ID:VM9Q9CGg
「圭織、考えすぎなんだよ!そういう優しさは優しさじゃない。ウンザリしてくる」
私となっちがまだ2人で暮らしていた頃。
お互いに限界を突き抜けてしまった日、なっちは私にそう言った。
決定的だった。
私は千切れるほど唇を噛み締めて、なっちの言葉に耐えた。
程なくして、私たちは居を別に構えた。
その日から降り積もった時間に、あの頃の思いや感情は過去の堆積となって埋もれ、
今となっては何をあんなにいがみあっていたのかは覚えてない。
そのきっかけすらも。
私はなっちを、なっちは私を許せなかった。
なっちが涙を隠さずに叫んだ言葉だけが、はっきりと私に刻まれている。
事実だけが、ただ記憶として残った。
きっと、些細なズレが積み重なって、
気がついた時には大きな亀裂ができていただけのこと。
今なら、そのズレがその人の個性なんだと受け入れたり、
やんわりと距離を置くことだってできるのに。
102 :
ばいばい :04/01/25 04:02 ID:VM9Q9CGg
───
──
─
『ちょっと、圭織、聞いてんの?』
電話の向こうからなっちの明るい声が聞こえる。
「ん?聞こえてるよ」
『嘘だぁ〜、またお酒飲んでるんでしょ。
聞いたよ、裕ちゃんから。量が増えてるんだって?』
「いや、飲んでないよ」
ワインのコルクを空いた手で転がしながら、意味もなく嘘をついた。
『ほんとに?』
「ホントだって」
『いや、絶対に飲んでるね』
「さすがに飲まないよ。明日はなっちの最後なんだから」
『だから心配してんの。無様な二日酔い顔でDVDに映って欲しくないの』
紗耶香と裕ちゃんの時、無様な醜態を晒してたの誰だよ。
そんな時期もあったね、なんて笑って流されそうだったから、言わなかった。
『圭織?・・・やっぱり飲んでるっしょ?』
「飲んでないって。そんなに心配なら、こっち来て確かめたら?」
『わかった。今から行く』
「え?うそ。ちょっと待っ──」
103 :
ばいばい:04/01/25 04:04 ID:VM9Q9CGg
なっちは勝手に電話を切ってしまい、そのまま電源まで切ってしまったようだ。
本当に来るんだろう。
私に来るなと言わせない為に、なっちは電源を切った。
腐れ縁が故の理解を苦笑で吐き出し、半分ほど残ったワインを見る。
隠そうとも思ったが、酒の匂いに敏感ななっちには、すぐにバレてしまうだろう。
それに、冷蔵庫の脇でオブジェのように積まれている酒瓶を見られては、説得力も何もない。
なっちは食事の途中に電話してきたのだろう。
電話の向こうは騒がしかった。
のんちゃん、あいぼん、紺野にシゲさん。
腹ぺこ組は、間違いなくみんなと食事に行っていることだろう。
と、ここでのんちゃんと紺野の体調不良を思い出す。
矢口もあいぼんも、やはり全快ではなかった。
なっちの卒業を前に、どこか冷静でない自分がいる。
104 :
ばいばい:04/01/25 04:06 ID:VM9Q9CGg
私はライブが終わってすぐ、
事務所に戻るという車に乗せてもらい、途中で降ろしてもらった。
一応、ホテルが用意されていたのだが、私は家に戻った。
これだけ人数が多くなれば、古株である私の多少のワガママは簡単に通る。
今、モーニング娘。についてるスタッフの多くは、
私よりもずっと後になって入って来たんだから。
何となく、一人になりたかった。
みんな、なっちよりも残される私に気を使っているのがわかる。
だからといって、何でもないフリはしたくなかったし、
一人でホテルの部屋に篭るなんてもっと嫌だった。
部屋の照明を全て落とし、無理して買った一目惚れのソファに身を埋める。
目を閉じ、深く呼吸する。
鼓動と、エアコンから吐き出される温風、
耳鳴りのようなパソコンのモーター音に車の往来。
そのどれもが、私を取り巻く静寂の隅に、ぽつぽつと存在するだけ。
つい数時間前に立っていたステージの、怒号のような咆哮が嘘のようだ。
モーニング娘。の今をスタートさせた一曲が、セットリストから外されていた。
LOVEマシーンの頃、なっちは当たり前のようにセンターにいた。
105 :
ばいばい:04/01/25 04:10 ID:VM9Q9CGg
そのLOVEマシーン時のメンバーが5人いなくなり、明日になればもう1人。
あの頃から12人もメンバーが入り、夏になれば、その中から2人抜ける。
入ってきた当時は本当に小さくて、泣いたり拗ねたり笑ったり。
幼子のように喜怒哀楽を表現していた2人がモーニング娘。を離れ、2人で歩いていく。
常に変化していくモーニング娘。にあって、
唯一、結成当初から一度も動いていない私。
手探りでグラスを取り、一気に呷った。
口の端から一筋こぼれ、首筋を伝う。
「ったくよー、みんな勝手に去って行きやがって」
てきとーに見繕った独り言は、何の余韻もなく暗闇に吸い込まれた。
106 :
ばいばい:04/01/25 04:12 ID:VM9Q9CGg
──
ほどなくして、本当になっちがやってきた。
私がドアを開けると、暗っ、と笑い、すぐに、臭っ、と酒の匂いを嗅ぎ当てた。
「別に私の勝手でしょ」
私はそう言いながら、なっちにスリッパを差し出し、部屋の電気をつける。
細かく明滅しながら部屋が一気に光を取り戻すと、
私の視界は一瞬白み、眩暈がしてよろけてしまう。
「『勝手でしょ』なんて、なーに甘ったれたガキみたいなこと言ってんのぉ」
そうなっちはヘタクソに私の真似をして、崩れそうになる私を支えた。
大丈夫だから、と私は自分で歩き始めると、なっちは黙って私の後をついてくる。
「まあ、何もない部屋だけど、ゆっくりしてってよ」
なっちはソファに座ると、置きっぱなしにしてあったワインのボトルに気が付く。
「なっち、お茶でいいでしょ?」
酒を飲んでないと言った手前、罰が悪く、努めて明るく振舞った。
返事は当然YESだろうと、冷蔵庫から作り置きしてある緑茶を取り出した。
「いや、なっち、ワインでいいよ」
「え?でも、明日・・・」
「いいから。グラス持ってきてよ」
腕を組んだ真顔のなっちは、視線を動かさず、小鼻が少し開いてる。
107 :
ばいばい:04/01/25 04:12 ID:VM9Q9CGg
「なに難しい顔してんのさ」
私はなっちの前にグラスを置き、ワインを3分の1ほど注ぐ。
すると、なっちは一息に飲み干し、次を要求する。
言われるがまま、またワインを注ぐ。
なっちはそれもすぐに空にすると、再び私にグラスを突き出す。
「もうやめた方がいいんじゃない?」
「いいから」
「明日に響くよ。なっち酒弱いんだし」
「いいから!!これで最後」
この頑固娘を諭すのには時間がかかる。
そう思った私は、瓶を唇に当てると、残りのワインを一気に胃へ流し込んだ。
なっちはどこか解けたように、ソファに仰け反る。
「あ゙〜、気持ち悪い。圭織、やっぱお茶ちょうだい」
お茶を大きめのグラスに満たし、手渡す。
なっちはそれをおいしそうに喉を鳴らして飲む。
「いやー。やっぱ、日本人はお茶だね。ワインなんて、外国の飲み物はダメだよ」
「じゃあ、焼酎飲む?あるよ、圭ちゃんが持ってきたやつ」
「いやー、なんで圭織はこんな気分悪くなるだけのモノ、飲みたがるんだろうね」
なっちは笑顔でそこまで言うと、急に真剣な顔になる。
「ねぇ、なんで?」
「なんで?って言われても・・・なんでだろ」
ひとしきり考えてみるが、理由なんて見当たらない。
矢口が氷を食べてばかりなのと同じ、だと思う。
108 :
ばいばい:04/01/25 04:15 ID:VM9Q9CGg
「なっち、それだけが心残りでさ。圭織、大丈夫?」
「大丈夫ってなにが?」
「その、健康面とか、ほら、その・・・いろいろあるっしょ」
私の生々しい傷口を撫でるかのような、なっちの口調。
「あの〜、安倍さん。もしかして、私が病んでるとか思っちゃってます?」
「え?いや、うん、まあ」
「で、酒に逃げてると」
「そんな感じ・・・かも」
意気込んで来たかと思えば、こんなんかい。
何とも言えない種類の脱力。
「何を勘違いしてんのよ。このオッチョコチョイ。たぶんだけどさ、裕ちゃん、
私が酒が強くなった、って意味で量が増えた、って言ってたんだと思うんだけど」
「でも、今日だって飲んでたし」
「確かに飲んでたけど、別に自分を見失うほど酔ってもないでしょ?」
なっちは自分の勘違いにゆっくり気付いたようで、その頬が徐々に紅潮していく。
「ね?」
私はとびっきりの笑顔を見せてみた。
なぁんだ、となっちはアホみたいに無防備に破顔する。
「なっちね、実はかなり心配してたんだよね」
「じゃあ、心残りが解消されたところで、日本の焼酎でも飲もうか」
109 :
ばいばい:04/01/25 04:25 ID:VM9Q9CGg
なっちは私の意地悪な視線から顔を逸らすと、パソコンのモニターに目を留める。
白と青、2色のラインアートがモニターの中で踊るように形を変えていた。
「パソコンしてたんだ」
「ちょっとね。調べ物」
「なにを?」
「ひみつ〜」
なっちは立ち上がると、パソコンのところまで。
「ね、なっち、ちょっと!」
私の制止も聞かず、無遠慮にマウスを動かす。
パチン、と画面が切り替わる。
「え〜!なにこれ・・・チケット?・・・明日、の?」
「hello 横浜 25 夜」のキーワードで検索されたオークションサイトが開かれている。
そのどれもが高値で取り引きされ、中には何十万もの価格がついているものもある。
なっち自身、チケットがオークションで取り引きされていることは知っているだろうが、
自分の晴れ舞台がこれほどまでにプレミアがついていることは知らなかったのだろう。
後姿が小刻みに震えている。
「なんか、こういうの嫌だ」
「いや、私も帰りの車で社員に聞いて・・・」
興味本位の行動が、取り返しのつかない過ちのように感じられ、言葉を続けられなかった。
「・・・まあ、見ての通り。そういうこと」
110 :
ばいばい:04/01/25 04:28 ID:VM9Q9CGg
「圭織。もう少し、飲もっか・・・」
力なく倒れるようにソファに沈み、身を小さく、自分の手で手を強く握り締めている。
伏せた瞳はうっすらと濡れているようで、ゆらゆらと揺れていた。
「お酒・・・まだあるんでしょ?」
半ば縋るように私の手を握り、瞳の奥まで覗き込んでくる。
なっちの手は冷たく、頼りない。
「あるよ。酒」
私はそう言うと、
キッチン備えつけの収納にしまってあったシャンメリーを取り出した。
クリスマスが過ぎて、半額で売っていたのを何となく買ったまま、飲まずにいたもの。
収納の中まで暖気は届いてなく、飲めるくらいには冷えていた。
新しいグラスに注ぎ、なっちに手渡す。
「焼酎じゃないの?」
「ほら、焼酎って、酒飲めない人にはきついから。甘いの、このスパークリングワイン」
なっちはグラスを両手で抱えるように持つと、そっと一口含み、
これなら飲めると、また一気に飲み干してしまう。
シャンメリーのボトルをテーブルに置くと、私はなっちの隣に座った。
「なんかさ、こうやってなっちと2人でいると、昔を思い出すね」
111 :
ばいばい:04/01/25 04:32 ID:VM9Q9CGg
それきり、緩やかな沈黙が舞い降りる。
なっちはチビチビとグラスを舐め、私はなっちの息遣いを感じてる。
まだなっちと暮らしてしばらくしてからは、居心地の悪い沈黙が幾度となくあった。
当時、私達の仲は致命的だったが、2人ともそれを認められなかった。
だから、無理して2人、同じ部屋にいた。
仲違いをお互いに認めてしまったなら、
モーニング娘。の活動に支障がでるのではないかと、それが怖かったのだ。
馬鹿馬鹿しくて青臭い生真面目さだと、今なら笑い飛ばせてしまえることなのに。
112 :
ばいばい:04/01/25 04:36 ID:VM9Q9CGg
「なんでかなぁ」
ちょっとした空気の切れ間、なっちがポツリと漏らした。
「ん?」
「あ、チケットのこと」
「需要と供給のバランスじゃないの?」
「まあ、そうだけどさ」
なっちは短く言葉を切り、少しだけ息を詰める。
「なんかね、そこまでしてくれる人がいるのは嬉しいことかもしれないけど、
わたしってそうなの?」
そこまでの魅力ある?
そう言ってるように聞こえた。
「私に聞いてもわかるわけないじゃん。
今更なっちを冷静に見ようなんて、無理な話なんだから」
あまりにも私に深く入り込んでいるから。
そう口にはしなかった。
「そっか。そうだよね」
なっちは嬉しそうに顔を綻ばせた。
私達だけにある関係、感じる温度、伝わる感情。
113 :
ばいばい:04/01/25 04:47 ID:VM9Q9CGg
──
「いや〜。でも、なっちね、わかったわ。大人が辛い時、お酒を飲みたくなるの」
「なにそれ」
なっちはすっかり上機嫌で、シャンメリーをがばがば飲んでいる。
言葉足らずでも、存在を感じられるだけで事足りてしまう、絶対的な信頼。
それがなっちであることを、私は誇りに思う。
テンションの突き抜けてしまったなっち。
あまりにも私に飲ませようとするから、
私は何かの記念に飲もうとしていたワインのボトルを開けた。
なっちはそれを血の色みたいだと気味悪がり、いつもよりもっとアホみたいに笑う。
「なっち、圭織がいてくれて本当によかったよ」
曇りない眼差しで言う。
「圭織とは、いろいろあったよねぇ。いいことも、悪いことも、
嬉しいことも悲しいことも辛いこともむかついたことも、たくさん」
感慨深そうに言葉を噛み締める。
「そういえばさ、私達が仲悪くなるちょっと前にさ、なんか2人で・・・」
「あー!あれでしょ?圭織が足に画鋲刺さたってパニックになって、
なっちの大事にしてた置物かなんかを壊しちゃって、また泣き喚いて・・・」
「でもさ、あれって───」
───
──
─
私達は先を急ぐように、溢れる思い出を笑いあった。
114 :
ばいばい:04/01/25 04:49 ID:VM9Q9CGg
言葉となった昔話が途切れると、なっちが遠慮がちに呟いた。
「ねぇ、圭織。明日さ、最後に泣く?」
「私が?泣くわけないっしょ」
「それが圭織の美学だから?」
「わかってんじゃん」
そう言って、私はそっぽ向く。
なっちの決心、鈍らせたくないんだよ。
「圭織、寂しがらなくてもいいんだよ。なっちはいつでも圭織の味方だよ」
「はい?」
「へへ、いいじゃーん。なんか言いたくなっただけ」
「じゃあさ、カオリの味方なら、モーニング娘。やめないで、
って言ったらやめないでくれんの?」
「でも、圭織はわたしのこと、応援してくれるんでしょ?」
「いーや。この際、はっきり言っとく。まだモーニング娘。一緒にやろうよ」
なっちは心底困った顔をして、散々悩んだ挙句、そのまま私に顔を近付ける。
「キスして誤魔化そうとすんなよ」
ビクッとなっちが距離を戻す。
「別にぃ?なっち、キスしようとなんてしてないよ」
唇を尖らせ、しどろもどろに言った。
115 :
ばいばい:04/01/25 04:54 ID:VM9Q9CGg
そんななっちに助け舟を出すように、私の携帯が鳴った。
「矢口からだ」
なっちにそう言ってから、私は電話を取った。
矢口は酷く慌てた様子で、矢継ぎ早に話し出す。
『あ、圭織?今、ライブ終わってさ、あ、圭織もそん時はいたか。
でね、ご飯食べに行ったんだ。でね、もう帰ったんだけどさ、なっちがいないの。
あっ、っていうか、もうとっくにホテルなんだけどさ、ホテルにもいないし。
圭織、今何時なの?もうずっと探してんだけど。
携帯の電源も切ってあるし、あ〜、もうドコ行ったんだよ、なっちのやつ。
圭織、なっちどこにいるか知らない?って、知るわけないよね』
「今、ここにいるけど」
『だよね。わかった。なっちに何かあったらすぐに連絡して』
人の話を全く聞かずに、電話を切ってしまう。
かなり切羽詰っているようで、話の内容が微妙にちぐはぐだったし。
「なんだったの?」
「なんかね、メンバーが行方不明なんだって」
さーっとなっちの表情が翳る。
「だれ?」
「なっち」
「え?」
「なっち、誰にも言わずに来ちゃダメだよ」
ハッとしたなっちは、バタバタと鞄をひっくり返して携帯に電源を入れると、タイミングよく着信が来た。
「はい、もしもし。ごめんなさい。なっちは無事です。今から帰ります」
平謝りでぺこぺこ頭を下げていた。
116 :
ばいばい:04/01/25 04:58 ID:VM9Q9CGg
電話を切っても、なっちはまだ落ち着かないようで、申し訳なさそうにあたふたしてる。
「ホテルに戻らなきゃ。あ、でも、お酒飲んでたってバレないかなぁ」
「大丈夫だよ。なっち飲んでたの、シャンメリーだし」
「はぁ?シャンメリー?・・・圭織、なっちをハメたのかい?」
「そりゃあねぇ。主役が二日酔いで酷い顔じゃ、DVDに残せないでしょ」
してやられた、といった風のなっちが、顔を真っ赤にさせて猛抗議。
ふと視線を外すと、掛け時計の針が12時に近づいていた。
やっとなっちのいなくなる日がリアルに感じられ、
それがどうしようもなく嫌で寂しくて、耐えられなくなってしまった。
なっちの顔、声、仕草、香り、温み・・・
その存在全てが私から遠ざかり、消えてしまうようで、涙腺が熱く震え、苦しかった。
未知の喪失感が、乱暴に私の胸の内を掻き乱した。
「いやぁ〜。でも、なっちはシャンメリー・・・飲んで、
大人が辛いとき、に、酒を飲む気持ちがわかっ、わかったんだ」
なっちをからかおうとしても、声が詰まり、
泣くまいとする意志とは裏腹に、ぽろぽろと涙が零れていくのがはっきりわかった。
117 :
ばいばい:04/01/25 05:03 ID:VM9Q9CGg
「圭織?」
なっちが呼ぶと、堰を切ったように感情が私を突き破り、
気が付けば蹲って咽び泣いていた。
人前では泣かないと決めていたのに。
絶対なっちに涙は見せないと、固く心に決めていたのに。
「・・・圭織」
ふわっと包み込むように、なっちが私を抱きしめた。
なっちに抱きしめられるのは、たぶん初めてなんじゃないかと思う。
「ごめんね、なっち。なっちが気持ちよく卒業できるように、
ずっと頑張ってたんだけどね。無理だったわ。
泣きそうになっても、こっそりどっかで一人泣こうと思ってたのに。
あー、かっこわるい」
「ありがとう」
これまでに聞いたなによりも、なっちの言葉は優しかった。
私は、髪が乱れて露出したうなじに、ぽたぽたと降る滴を感じていた。
そのまま、私の嗚咽が止まるまで、なっちは私を抱きとめていてくれた。
118 :
ばいばい:04/01/25 05:05 ID:VM9Q9CGg
──
なっちの腕の中、鬱積していた感情を全て吐き出して、妙にすっきりした気分だった。
「ねぇ、なっち」
「ん?」
「そろそろ戻れば?」
「圭織もでしょ?」
「・・・そうだね。みんなのとこに帰ろう」
私は涙を拭うと、なっちの背中に手を回し、力一杯に抱きすくめた。
非力な なっちも、同じ強さで返してくれる。
そこで、私はようやく顔を上げた。
119 :
ばいばい:04/01/25 05:09 ID:VM9Q9CGg
──
マンションを出て、流しのタクシーを捕まえようと、大通りへ向かう。
その途中、後ろを歩いていたなっちが唐突に私の肩を掴み、強引に振り返らせる。
そして、まっすぐに私を見据えて言った。
「圭織、モーニング娘。を頼んだよ」
「・・・鬱陶しい」
「え?」
「鬱陶しいっつってんの。頼むとか、任せたとか。
みんな、私をなんだと思ってんのさ。どいつもこいつも勝手に出て行きやがって。
ったく、こんなこと言わせないでよ」
残される私の、精一杯の憎まれ口。
なっちは何もかも見透かしたように、私を優しく見つめている。
ただ、じっと。
私は無駄な抵抗は諦め、大きく息を吐いた。
「なっち、ありがとう」
──モーニング娘。には、私がいるから
底冷えする冬の夜気の中、東京では珍しく、星が綺麗に瞬いていた。
120 :
ばいばい:04/01/25 05:10 ID:VM9Q9CGg
おわり
保守
〈序曲〉
すっかりと春らしくなった陽気に、庭のソメイヨシノの蕾が膨らみ、
風景全体が無機質な季節からの脱却を始めているようだ。
もうじき、薄ピンク色の花が咲き乱れ、美しい風景になるだろう。
中澤はブラインドの隙間から庭を覗き、春の息吹を感じていた。
「卒業式か・・・・・・」
本日、一人の少女が、ここを『卒業』する。
それはお目出度い事であり、彼女を祝福すべきだった。
あのソメイヨシノの蕾のように、彼女はこれから花を開く。
美しさと儚さ。ソメイヨシノと少女には共通点が多い。
中澤は溜息をつくと、立派な椅子に腰を降ろし、
机の上にあった『卒業証書』を手に取った。
「・・・・・・後藤真希」
昨日、雨が降ったせいか、この季節には珍しく、
透き通った青空に、眩しい太陽が照っていた。
庭先の水溜りに太陽が反射して、ブラインドに光のダンスを映している。
それを背に受けながら、中澤は机の上に置いたポカリスウェットを飲んだ。
二日酔い気味の渇いた胃は、水分を得て狂喜乱舞している。
その清涼感は、全てに勝ると言っても過言では無かった。
「そろそろやな」
中澤は腕時計を見て時間を確認すると、ポカリスウェットをもう一口飲み、
『卒業証書』を持って部屋を出て行った。
〈保田圭〉
都内の某大手企業に総合職として入社した保田は、
将来を嘱望された優秀な人材だった。
そのせいか、配属先も活気がある第一営業部である。
彼女はここで、営業事務の仕事を任されていた。
「保田、お茶を煎れろ」
総合職の彼女にお茶汲みをさせるのは、
一般職だが先輩の石黒というOLだった。
石黒は鳴り物入りでやって来た保田を毛嫌いし、
露骨な虐めをしていたのである。
それでも我慢強い保田であるから、
嫌な顔もせずに、言われた事をやっていた。
「石黒さん、お茶が入りました」
「ぬるいんだよ!」
石黒は保田の顔にお茶をぶちかけた。
朝夕は若い男性社員がいるせいか、石黒も大人しくしている。
しかし、日中は営業マン全員が出払ってしまうため、
第一営業部は石黒の牙城と化していた。
「す、すみません。煎れ直して来ます」
保田には総合職としてのプライドもあったが、
とにかく我慢する事が必要だと思っていた。
ポジティヴな彼女だからこそ、そう考えられるのだろう。
石黒の虐めは、次第にエスカレートして行った。
お茶汲みや雑用、残業を押し付けるのは当たり前で、
社員食堂で定食の入ったトレーを運ぶ彼女の足を引っ掛けたりもしたのである。
これにはポジティヴな保田も凹んでしまい、屋上で泣く事が多くなった。
「どうして虐められなきゃいけないの?」
遠くに見える東京タワーを見つめ、保田は悔し涙を流していた。
この就職難の時代に、自分の能力を評価してくれた会社。
彼女はそれに報いるため、全身全霊を懸けて奉仕しようとしていた。
だが、そんな気持ちも、石黒の虐めで頓挫しそうになる。
能力や知識だけでは補えないものが、そこにはあった。
「辞表を出したりするなよ」
驚いた保田が振り返ると、そこには同じ課の彼がいた。
彼は石黒と同期で、保田の事を心配していた一人である。
きつい性格の石黒に虐められ、これまでに何人も辞めて行った。
会社としては、そのくらいの事で辞める人間など必要ないわけであり、
卓越した能力を持つ石黒を責める事など無かったのである。
「ありがとうございます。私は辞めませんよ」
自分の事を心配してくれる人がいると思うと、
凹んでいた保田にも元気が出て来た。
彼は優しい笑顔が素敵な青年である。
保田に恋心が芽生えても、決して不思議な事では無かった。
それからも、保田に対する石黒の虐めは続いた。
保田は精神的に追い詰められていたが、彼の存在が、
彼女を会社に何とか留まらせていたのである。
保田はストレスから眠れない夜が続き、
眼の下の隅を隠すのに苦労するようになった。
「疲れてるみたいだけど、大丈夫かい?」
彼に話し掛けられた保田は、鳥肌が立つほど嬉しくて、
思わず眼を潤ませながら笑顔で頷いた。
どんなにつらい事も、彼と話が出来ただけで忘れられる。
今、彼女を支えているのは、彼に対する恋心だけだった。
「へえ、あの保田がね・・・・・・」
石黒は物陰から、その様子を覗っていた。
彼に対する保田の恋心に気付いた石黒は、
精神的に立ち直れないほどの決定的な虐めを考えている。
それは、彼を保田から奪ってしまうというものだった。
「ねえ、今晩、空いてる?」
石黒は保田の眼の前で彼を誘った。
性格はきついが美人である石黒は、第一営業部の華である。
その華に誘われたのだから、彼に断る理由など無い。
石黒と彼は同期入社であるから、積もる話もあるのだろう。
保田は、そんな能天気な事を考えていた。
翌日、彼に手作りの弁当を渡す石黒を見て、保田は茫然と立ち尽くした。
そこには、誰も入り込めない二人だけの空間が存在していたのである。
昨夜、二人が何をしたのか、いくら鈍感な保田でも予想がついた。
「そんな・・・・・・」
深く傷付いた保田は、眩暈を感じながら給湯室へ逃げ込んだ。
とにかく泣きたい。そう思った彼女はヤカンに水を汲み、ガスコンロに火を点ける。
これで、多少の泣き声は、お湯が沸く音が打ち消してくれるだろう。
失恋は悲しいが、保田にはどうする事も出来なかった。
「アハハハハ・・・・・・失恋しちゃった? 辞めちゃえば? 」
保田が顔を上げると、眼の前には勝ち誇った顔をした石黒が立っていた。
そうだ。この女は、私から何もかも取り上げてしまう。
保田の空っぽの頭の中に、悲しみと憎しみ、妬みや恨みが充満して行く。
彼女は全ての音が、遠くで聞こえるような錯覚にとらわれてしまった。
「彼を・・・・・・愛してるんですか?」
「んなわけないじゃん。あんな退屈な男。あんたが辞めないからよ」
これで石黒が彼を愛してると言えば、保田も納得しただろう。
しかし、石黒は保田を辞めさせるため、彼を利用したにすぎない。
これには、温厚な保田も箍が外れてしまった。
「この悪魔!」
保田は沸騰したお湯を、石黒の頭からブチかけたのである。
石黒は全治三週間の重傷。保田は殺人未遂と傷害の疑いで逮捕された。
〈矢口真里〉
コンビニの前の公衆電話から、矢口は電話をしていた。
彼女の周りには、だらしない服装をした若い男達が屯している。
すでに日没の時刻で、あたりは次第に暗くなって来た。
「そう、あたし真・・・・・・真由美っていうの。中学二年生の十四歳」
彼女はテレクラに電話をかけ、中年男を誘い出す役だ。
小柄でハイトーンの彼女は、話し方によっては中学生でも通用する。
相手は三十代後半の男で、すぐに逢って食事をしたいと言う。
「ご飯食べるだけだったら、一万円でいいよ。
でも、それ以上だと、もっとお小遣いが欲しいな」
彼女達がやっているのは、俗に言うオヤジ狩りであり、
それは、実質的な強盗と同じ事である。
彼女達はこれまで、三人の男を襲い、二十万円を強奪していた。
下心がある男達は、決して警察に届けたりしない。
下手をすれば、淫行未遂で検挙されてしまうかもしれないからだ。
「それじゃ、甲州街道沿いの阿佐ヶ谷三丁目バス停の前で待ってるね」
そう言うと、矢口は電話を切り、男達にOKサインを出した。
彼女にしてみれば、別に悪い事をしているという感覚は無い。
それどころか、いたいけな少女を誘惑する悪い大人を、
自分達が退治するのだという正義感すらあった。
矢口が待ち合わせの場所に来ると、男達は近くの物陰へと身を隠す。
後はスケベヅラをしたターゲットが現れるのを待つだけである。
矢口はすでに十九歳になっていたが、これだけ暗ければ小柄な事もあり、
中学生だと言っても充分に通用するだろう。
五分ほど待つと、スーツを着た三十代くらいの男がやって来た。
「あの、ちょっと・・・・・・」
男が矢口に話し掛けた途端、物陰から若い男達が姿を現す。
スーツ姿の男は、矢口の嫌悪感に満ちた顔を見て首を傾げた。
その直後、彼は若い男達に取り囲まれてしまう。
「何だ。君達は」
「うるせー!この変態オヤジ!」
腹を殴られ、腕を捩じ上げられた彼は、男達に近くの公園へ連れて行かれた。
すっかりと日が暮れた公園には、日中と違って人の姿など無い。
倉庫街にある公園の近くなど、ほとんど人通りが無かった。
彼はこの公園で、男達から何度も殴られたのである。
「カネを出せよ!この変態野郎!」
「待ってくれ。これは勘違いだ」
若い男達は彼の弁解など聞かず、執拗に殴りつけた。
一対一ならまだしも、数人がかりでは一方的な暴力である。
彼は鼻血を出し、唇を切って顔を腫らしていた。
そんな彼を矢口は冷めた眼で見ていた。
男達が彼の財布を奪い取ると、これで終わりになるはずだった。
ところが、彼は財布を奪還しようと、男達に飛び掛って来たのである。
これには、何より男達の方が驚いてしまった。
「やめてくれ!それには今月の生活費が入ってるんだ!」
「この野郎!死にてえのか!」
彼がここまで財布に固執するとは思っていなかった男達は、
驚いた事もあって、徹底的に殴り付けてしまった。
すでに意識が無くなった彼を、男達は執拗に殴る。
さすがの矢口も、思わず止めに入ったくらいだ。
「やばいよ!死んじゃうよ!」
「この変態オヤジが!」
一人の男が突き飛ばすと、彼はジャングルジムに頭を強打して昏倒し、
そのまま動かなくなってしまった。
この時点で救急車を呼べば、まだ彼は助かったかもしれない。
「し・・・・・・死んじゃったんじゃない?」
「そ、そんな事ねえよ。行こうぜ」
矢口は後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。
まさか、彼が死んでいるとは、誰も思っていなかった。
翌日、彼の死体が発見され、警察では強盗殺人事件として捜査を始めた。
強盗殺人事件ともなると、警察は威信にかけて捜査をするため、
数日で容疑者グループを割り出す事が出来たのである。
そして、逮捕された若い男の証言から、矢口は強盗殺人の共犯として逮捕された。
「お前達が殺した人には、小学生の子供がいるんだぞ」
検察官に指摘され、矢口は自分が犯した罪の大きさを実感した。
いくら少女を食い物にする悪い大人でも家族がいる。
矢口にしてみれば、そんな事は全く考えていなかった。
「で・・・・・・でも、中学生の女の子を食い物にする大人なんて・・・・・・」
「馬鹿!人違いだったんだよ!彼はたまたま通りかかっただけだ」
彼は妻に先立たれ、男手一つで子供を育てていたのである。
小学生の息子の誕生日という事もあり、彼は早く家に帰りたかった。
そこで、プレゼントを買い、早く帰れるバスを利用しようと思ったのである。
たまたま腕時計の電池が切れてしまい、彼は矢口に時間を聞きたかったのだ。
「そんな!」
彼女が裁判所から拘置所に移送される時、
ふと報道陣を見ると、その前に一人の子供がいる。
こんな場違いな風景は、彼女の中に違和感を残す。
俯きながら移送車に乗り込もうとした矢口に向かって、
少年は泣きながら大声で怒鳴った。
「この悪魔!おとうさんを返せ!」
その時の少年の眼を、彼女は一生忘れられないだろう。
その場で謝罪出来なかった自分に、矢口は後悔していた。
〈市井紗耶香〉
市井は幼い頃から、あまり両親と一緒では無かった。
団体役員の父と市民運動家の母は、家に居る事が少なく、
彼女は一人で夕食を済ませて寝ていたのである。
市井家は市営住宅に住んでおり、裕福では無かったが、
いつも夕食を作ってくれる人が来ていた。
「紗耶香ちゃん、今日はオムライスですよ」
「わーい」
玉子を二個も使ったオムライスは、彼女の大好物だった。
しかし、食事を作ってくれる人も、彼女に食べさせると、
洗い物をして、さっさと帰ってしまう。
彼女は自分で風呂を沸かして入浴すると、
テレビを観たり本を読んだりして眠くなるのを待った。
「寂しいな・・・・・・」
彼女はテレビの前で膝を抱え、そこに顔を乗せて呟いた。
空腹でもなければ、欲しい物があるわけでもない。
ただ、両親と一緒に過ごしたかったのである。
そんな彼女の願いが叶う事は、残念ながら一度も無かった。
やがて、市井も成長し、高校へ通う頃になると、
両親の仕事を理解するようになって来た。
五月一日には、両親が着飾って出掛けて行く。
この日に行われるものはメーデーであった。
「我々労働者の権利は、いつから踏み躙られるようになったのでしょうか!」
日比谷公園で行われたメーデーに、彼女は初めて参加した。
小雨の降る天候ではあったが、日比谷公園には二万人もの人が集まった。
傘の花が咲く中、彼女はここで初めて、両親の演説を聴いたのである。
そこには二十世紀の遺物である階級闘争が存在していた。
中間搾取と階級差別を否定した団塊の世代は、
年功序列の方程式に従い、順番で得た役職に、
しがみ付いているのが実態である。
「団結、ガンバロウ!」
いつからか、労働者の団結の象徴だったメーデーは、単なるお祭りとなり、
今日では日経連、経団連の役員を招いて開催されている。
七十年代には数千人の機動隊が警戒を行ったメーデーも、
今では申し訳ていどに、数十人が公園の隅で雑談していた。
「警察庁では、労働組合員の監視を始めています!」
ステージ上でそう言ったのは市井の母だった。
慌てた主催者側がマイクの音を切ってしまう。
降りしきる雨の中、聴衆が困惑した声を上げていた。
それは、蒸し暑い夜の事だった。
一学期の期末テストの勉強をしていた市井は、
家の外で誰かが唸っているのを聞いたのである。
恐る恐る窓から覗いてみると、そこには彼女の父が倒れていた。
「お・・・・・・お父さん!」
彼女は家から飛び出して行って、血だらけの父を抱き起こした。
バットのようなもので殴られたらしく、あちこちに打撲があり、
両目は開けられないほど腫れ上がっている。
鼻骨は折れ、顎の骨も砕けているようだった。
「誰か!誰か救急車を呼んで!」
彼女が叫ぶと、近所から人が出て来た。
近所に住む同級生の母親が救急車を呼んでくれる。
幸い彼女の父の命に別状は無かったが、
通報した警察の対応は、とても冷たいものだった。
「酔っ払って転んだんだろ?」
「いいえ。父は下戸なんです」
「これは事故なんだよ!」
警察では彼女の話など、全く取り合わおうとしない。
その夜から彼女の母は姿を消し、父も病院からいなくなった。
途方に暮れる市井は、眠れぬ夜が続いた。
数日すると、数人の捜査官がやって来て、
誰に遠慮するわけでもなく、家の中をひっくり返し始める。
市井が泣いてやめるように懇願すると、
捜査官はいきなり特殊警棒で殴り付けた。
「公務執行妨害の現行犯だ。連行しろ」
彼女の頭蓋骨は陥没し、全治一ヶ月の重傷だった。
それでも、警察は彼女を三日間入院させただけで、
公務執行妨害、銃刀法違反、殺人未遂の容疑で逮捕したのである。
まともに歩けない彼女を、警察は一睡もさせなかった。
「紗耶香ちゃんのご両親は、ある左翼団体の幹部だったの」
弁護士の接見で、彼女は両親の仕事を初めて知った。
アフリカ某国の反政府ゲリラに、大金を援助していたのである。
その資金は言うまでも無く、某共産国から出ていた。
「あたしをここから出して!お父さんやお母さんに逢わせて!」
彼女は泣いて弁護士に訴えたが、その日以来、弁護士の接見は無くなった。
今では食事を作りに来てくれていた女性が、たまに面会に来るだけだった。
〈後藤真希〉
真希は幼い頃に父を亡くしたが、何ひとつ不自由無く育った。
平凡な小学生、中学生を経て、この春に高校へ進学した。
勉強は嫌いでは無かったが、平凡過ぎる毎日に嫌気がさしている。
そこそこ可愛い子ではあったが、魚顔の自分に自信が無く、
恋愛などは無縁であると頭から決めつけてしまっていた。
「アハハハハ・・・・・・だからさー」
窓際の席で大声で笑う豪快な少女は、
クラスで人気者の吉澤ひとみ。
真希は彼女のようになりたかった。
しかし、真希は無理である事を悟っていた。
なぜなら、吉澤ひとみはクラスの太陽だからである。
太陽はひとつあればいいのだ。
「真希ちゃん。クラブって行った事ある?」
「んあ?」
昼休みに真希がウトウトしていると、吉澤が話し掛けて来た。
寝惚けていた真希は、眼を擦りながら吉澤を見上げる。
ホクロの多い吉澤は、イタズラっぽい眼で真希を見ていた。
「クラブ?行った事無いけど、面倒そうじゃん」
「面白いよ。ねえ、明日の夜、一緒に行かない?」
なぜ吉澤が誘うのか判らなかったが、ここまで熱心に誘われたら、
断ってしまうのが気の毒に思えてしまった。
真希は何気なく約束してしまったが、これが全ての始まりだった。
渋谷のクラブは、裏通りの雑居ビルの地下にあった。
薄暗い照明の中、ヒップホップが大音量で流れている。
半裸に近い恰好で踊り続ける少女達。甘い匂いのする煙。
そこでは、まるで治外法権のように、大麻が吸われており、
覚醒剤を注射し、コカインを鼻から吸引していた。
「何となく、かなりヤバイところみたいなんだけど」
さすがの真希も、こんな場所は危険だと思った。
中学生ほどではないが、女子高生はカネになる。
こうした少女を薬漬けにし、売春で儲けようとする男が後を断たない。
薬物中毒になった少女達は、麻薬欲しさに売春を始めるのだ。
「平気だって」
吉澤は近くの男を呼び止め、財布から三千円を出すと、
見るからに怪しい白い粉末の入った薬包を買った。
そして、真希と二人でテーブル席に座った吉澤は、
薬包を開けてから、ポケットから短く切ったストローを取り出す。
真希が唖然として見ていると、吉澤はストローを鼻に入れ、
白い粉末を少しだけ吸い込んだのだった。
「うはっ!効く!」
クラスの太陽が、法的禁制品を満喫している。
それは真希にとって、とてもショックな事だった。
しかし同時に、自分でもやってみたくなってしまう。
「真希ちゃんもやってみる?」
クラスの太陽と秘密を共有化したいという感覚で、
真希は差し出されたストローを握り締めた。
緊張のあまり手が震え、彼女は白い粉に顔を近付けてゆく。
そして、粉にストローを付けると、一気に吸い込んだのである。
「あうっ!」
鼻腔から耳に突き抜けるような痛みがあり、
真希は堪え切れずに悲鳴を上げてしまった。
素人にしては、大量に吸い込んでしまったのである。
ところが、痛みはえもいわれぬ快感へと変化し、
全てに刺激を感じて気分がハイになって行く。
「何か飲まない?」
軽そうな男が声を掛けて来た。
返事をするのも億劫な真希は、椅子に座ったまま虚空を見つめている。
吉澤にも別の男が声を掛けていた。
真希は介抱されながら、胸や太腿を触られる。
普段であれば悲鳴を上げるような事だったが、
彼女は嫌悪感よりも快感を感じていた。
「もう!真希ちゃん、帰ろう」
しつこい男に怒った吉澤は、真希の手を引いて店から出て行った。
それから、真希は一人でクラブに行くようになった。
あのトリップ感は、他に味わえないほど刺激的だったのである。
やがて、真希は学校や渋谷のクラブにも行かなくなり、
自宅でコカインをやるようになった。
「アハハハハ・・・・・・原色・・・・・・ギャル・・・・・・アハハハハ・・・・・・」
ふくよかだった身体も、あまり食事をしないせいか、
頬はこけ、手足は栄養失調の子供のように細くなっていた。
わずか数ヶ月で、真希は重度のコカイン中毒になっていたのである。
彼女の状態は、刺激を求めた平凡な女子高生の堕落ぶりを、
まるで絵に描いたような状態だった。
「後藤真希だね?麻薬取締法違反で逮捕するよ」
捜査員が部屋に踏み込んだ時、彼女はベッドの上に座り、
涎を垂らしながら、虚空を見つめて笑っていた。
彼女は病院に搬送され、そこで医療少年院行きが決定する。
誰もが社会復帰は不可能だと思っていたが、
彼女は奇跡的な回復を見せ、逮捕されてから二年で、
一般の刑務所へと移って来たのだった。
〈逃亡〉
たった六畳間しか無い部屋で、彼女達は暮らしていた。
室長の保田圭、矢口真里、そして市井紗耶香の三人である。
この寒さに耐え兼ね、三人は毛布に包っていた。
裸電球の真下にある食卓兼勉強机兼作業台では、
保田が手紙を書き、反対側では市井が小説を読んでいる。
矢口はというと、市井の背後で瞑想していた。
「ん?来るよ!」
耳のいい保田が、足音に気が付いた。
ここでは就寝時間外に、寝具を出す事が禁じられている。
三人は慌てて毛布を脱ぐと、丸めて押入れに放り込んだ。
その直後、ドアが開いて中澤が入って来た。
「今日から、この子が入るしな。虐めたらあかんよ」
中澤の隣には、どこか魚類を連想させる顔をした少女が立っていた。
少女は中澤に促され、気が付いたように自己紹介を始める。
『先輩』の三人は、寒さに震えながら彼女の自己紹介に注目した。
「後藤真希。十八歳です」
「あたし保田圭。ここの室長なの。判らない事があったら、何でも聞いてね」
「オイラ矢口真里。ちょっと背は低いけどナメんなよ」
「市井紗耶香。よろしくね」
一通り自己紹介が済むと、中澤は押入れからはみ出た毛布に気付くが、
見て見ぬふりをして出て行った。
真希は最年少という事もあり、とても可愛がられた。
特に市井は、真希を事の他、面倒をみていたのである。
朝寝坊の真希を起こしたり、頬についた御飯粒を取ったりと、
まるで母親のように接していたのだった。
「いちーちゃん。寒いよう」
まだ十二月半ばだというのに、今年は寒さが厳しかった。
すでに日付が変る時間帯だったが、真希は寒くて眠れない。
そんな劣悪な環境ではあったものの、『全寮制』のここはある意味、
世俗に塗れた外界から隔絶されたパラダイスだと言える。
「しょうがないね。おいで」
市井が言い終わる前に、真希は彼女の布団に潜り込んで来た。
どんなに寒くても、二人で抱き合っていれば暖かい。
真希は市井を実姉のように慕い、いつも寄り添っていた。
彼女の天真爛漫な性格は、他の同居者にも癒しを与え、
みんなの妹的存在になっていたのである。
「うっせえんだよ!」
「そういう言い方はないじゃん!」
小さくても気が強い矢口と真希は、しょっちゅうケンカしている。
それでも、本当の姉妹喧嘩のようであるため、みんな笑いながら見ていた。
どこか影のある真希だったが、いつしかみんなの中心になっていた。
大晦日は就寝時間が一時間だけ延長される。
明日は元旦で、なぜかみんなワクワクしていた。
そんな中、四人は部屋の中で頭を寄せ合い、何やら謀議を始めている。
例年に比べて寒くないが、それでも室内の温度は五度にも満たない。
「深夜一時に、厨房から出火するの」
「マ・・・・・・マジ?」
いつもは陽気な矢口も、ゴクリと固唾を飲み込んだ。
すると、市井は袋から小説を取り出し、フォントが違う活字を拾ってゆく。
知人からの差し入れだった小説には、暗号が隠されていたのだった。
「裏の出入口が開いてるの?」
保田が市井に訊くと、三人が唇に人差し指を当てた。
厨房が火事になって電気がショートしたら、あたりは真っ暗になる。
ダークグレーの『制服』であれば、壁際に移動すれば誰にも見付からないだろう。
普段は鍵が掛けられている裏口が開いているとすれば、
きっと、職員の中にも協力者がいる可能性が高い。
「外に出たら『制服』は着てられないから、中に違う服を着てようね」
とはいっても、大した服があるわけでもなし、
恐らく作業着等になってしまうだろう。
エプロン等を紐で縛ったりして加工すれば、
そこそこの服に見えなくもなかった。
四人は寝たフリをして、午前一時になるのを待った。
遠くで除夜の鐘の音が聞こえ、新しい年の到来を告げている。
このあたりには民家も無く、人通りも少ないので、
まず誰かに目撃される事は無いだろう。
「そろそろだよ」
市井が押し殺した声で言うと、保田と矢口の返事が返って来た。
ところが、横にいるはずの真希の声が聞こえて来ない。
市井が真希を覗き込むと、事もあろうか寝息をたてている。
緊張で胃が痛くなるような中、真希は平気で眠っていた。
「起きなさい。この馬鹿」
市井に鼻をつままれ、真希は「んあ?」と言いながら眼を開けた。
その直後、けたたましいベルの音が響き、全員が飛び起きる。
非常ベルが鳴った時は、電灯を点けても良い事になっていたので、
保田が手探りでスイッチを押してみるが、点く事は無かった。
「厨房から出火しました!全員、外へ避難しなさい!」
廊下を眼をやると、マグライトの光が見えた。
四人はセロハンテープで右目を閉じさせる。
こうする事によって、右目を暗さに慣れさせるのだ。
そうでないと、暗い壁際を移動するなど不可能だからだ。
「行こう!」
市井が三人の肩を叩くと、全員が深く頷いた。
四人は計画通り、壁際を通って裏口に向かった。
まさか、こんな騒ぎの時に、壁際を移動する者などいない。
警備の盲点を突いて、四人は裏口に到着した。
「やった。開いてる」
保田は嬉しそうに、上着を脱ぐと外へ出て行った。
他の三人も、慌てて上着を脱ぎ、保田に続く。
すると、待っていたように一台のクルマがやって来て、
市井に紙を渡して走り去って行った。
「これは地図だわ」
四人はとりあえず、見付からない場所へと移動し、
そこで地図を見ながら、今後の事を話し合う。
何しろ小銭さえ持っていないので、移動は徒歩に限られた。
「約二キロね。とりあえず、ここへ行ってみようよ」
市井はここに協力者がいると思っていた。
まずは、服を着替えて当面の逃亡資金を得る。
四人はゴミ箱からコンビニの袋を取り出し、
あたかも買い物をした帰りのように装った。
「心配しなくてもいいわよ。何かあったら、あたしが対応するから」
今年、二十四歳になる保田は、どう見ても大人だった。
いくら元旦とはいえ、深夜に少女だけの外出は警察がうるさい。
こうした時に保田のような大人がいれば、何かと便利だった。
四人は怪しまれずに、住宅地のはずれにある民家へと向かった。
薄着だったが、早足で歩いたせいか、少しは身体が温まっている。
そして、目的地に着くと、一人の男が現れて、彼女達を中へと案内した。
「おじゃましまーす」
四人は何の疑いも無く、民家の中へと入って行く。
すると、男は「同志を呼んで来る」と言い残し、出て行ってしまった。
四人は居間のソファに座り、その同志が来るのを待っていた。
「圭ちゃんは、これからどうするの?」
市井はテレビとファンヒーターのスイッチを入れた。
たった六畳間であるから、すぐに暖まるだろう。
温かい飲み物が欲しかったが、同志が来るまで待つ事にする。
真希が押入れから毛布を引っ張り出して来て、市井と一緒に包った。
「あたしは・・・・・・今度こそ石黒を殺しに行く」
保田は石黒を殺さないと気が済まなかった。
そのために、市井の作戦に参加したのである。
石黒を殺害して逮捕されれば、待っているのは絞首台だろう。
それでも彼女は、憎い石黒を殺そうと思っていた。
「それも人生かもしれないね。やぐっつぁんは?」
「オイラは、あの子に逢って謝るよ。そうじゃないとオイラ・・・・・・」
矢口は、あの少年に謝罪したくて参加したのだ。
何の罪も無い父を惨殺され、少年はどれほど傷付いただろう。
それを思うと、矢口は胸が張り裂けそうになる。
普段は元気で陽気な矢口も、こんな傷を背負っていた。
「そう言う紗耶香は、これからどうするの?」
「アフリカに行く事になると思う」
彼女の両親が無事ならば、資金援助したゲリラに匿われているだろう。
協力者によって、ロシア経由等でアフリカへ渡る可能性が高かった。
彼女は右翼系作家の本を読んで、監視者を油断させていたが、
根本的に両親から受け継いだ左翼思想は曲げていなかったのだ。
「真希は?」
「あたしは・・・・・・」
その時、外が騒がしくなり、電気が消えてしまった。
驚いた市井が外を見ると、そこには赤色灯が回転している。
夥しい数の警察官が、この家を取り囲んでいた。
「ど・・・・・・どういう事?」
「逃げなきゃ・・・・・・うっ!」
台所へ飛び込んだ真希は、何かに躓いて転んでしまう。
窓から入る回転灯の明かりで凝視してみると、
彼女が躓いたのは、中年の女性の死体だった。
「い・・・・・・いちーちゃん!」
「真希!どうしたの!」
市井はライターを見付け、怯える真希を照らしてみた。
すると、その足元には、頭が半分吹き飛んだ死体が転がっている。
真希を抱き締めて悲鳴を上げる市井に、矢口は怖くなって浴室に逃げ込んだ。
すると、そこには後頭部に大きな穴が開いた初老の男の死体があった。
「そ・・・・・・そんな」
腰を抜かす矢口に、さすがの保田も抱き付いて怯えた。
次の瞬間、裏口が破られ、二人の男が飛び込んで来た。
一人の男が散弾銃を天井に向けて何発も発射する。
悲鳴を上げて怯える四人に、もう一人の男が拳銃を向けた。
強力なライトで照らされ、四人は眩惑されていた。
「こいつは保田圭だ。実行!」
そう言うと、男は拳銃で保田の頭を撃ち抜いた。
即死した保田の頭を蹴ると、蹲って震えている矢口を引き起こす。
その間も、もう一人の男は散弾銃を撃っていた。
「矢口真里だ。実行!」
男は矢口を放り投げると、背中めがけて三発発射した。
苦しそうに唸った矢口も、すぐに動かなくなる。
そして、悲鳴を上げる市井の髪を掴んだ男は、
ライトで顔を照らしてみた。
「いたぞ。市井紗耶香だ。実行!」
男は市井の額に銃口を当て、引き金を引いた。
市井が即死すると、男達は引き揚げようとしたが、
真希の悲鳴を聞いて困ってしまった。
「おい、誰かいるぞ」
「こいつは、同室の後藤真希だな」
「まさか、一緒に逃げるとは思わなかった」
「実行するのか?」
「いや、後藤は未成年だ。殺すとまずい」
「とりあえず、気絶させておこう」
男は真希の頭を散弾銃の銃床で殴った。
一日午前二時ごろ、鹿児島市内の山崎直樹さん方に、
近くの鹿児島女子刑務所を脱獄した四人の女たちが侵入した。
四人は山崎さん所有の猟銃を奪い、山崎さんと妻を射殺し、
約一時間にわたって立て篭もった。
再三の説得にも応じなかったため、警察は強行突入をした。
女たちは猟銃を撃って抵抗したため、警察と銃撃戦となり、
主犯格の市井紗耶香容疑者(20)と共犯の保田圭容疑者(23)、
同、矢口真里容疑者(20)が警察官により射殺された。
抵抗をせずにいた十八歳の少女は無事で、
警察では事件との関与を調べている。
新聞報道は捏造されたものだった。
これは警察庁による罠であり、市井を殺害する事が目的だったのである。
彼女は母親以上のカリスマ性を持っており、警察庁では暗殺を企てていたのだ。
刑務所内で病死すれば、市井は殉教者として崇められる事になるだろう。
そうならないために、警察庁では合法的に市井を殺す計画をたてていたのだ。
刑務所の所長以下数名を買収し、『内通者』が存在するように思わせ、
市井に脱獄をさせようと企んだのである。
市井と同室の保田と矢口は、最初から一緒に殺すつもりで同室にし、
山崎夫妻も警察庁のエージェントが殺したのだった。
真希の存在は予想外で、警察庁では責任の押し付け合いを行った挙句、
ウヤムヤにしてしまう事でおしまいとなった。
〈たった一人の卒業式〉
その大きな部屋には何も無く、ただ数脚の椅子が並べてあるだけだった。
薄汚れた床や壁からは、冷たさと悲しみしか感じない。
そんな中、窓から差し込む春の日差しだけが、少しばかりの温かさを感じさせていた。
限り無く無音に近い部屋の中に、その少女は俯いたまま座っている。
彼女の名前は後藤真希。本日、ここを『卒業』する少女だった。
「・・・・・・」
数人の足音が聞こえて来る。それは真希が何度も聞いた音。
革靴の音。恐怖の音。非常識の音。そして非情の音だった。
足音は部屋の前で止まり、ドアが開いて彼女達が入って来る。
真希は疲れた顔を上げて彼女達を見た。
「時間や。始めるで」
中澤が無造作に椅子に座ると、彼女達は壁に貼られた国旗に礼をしてから、
厳めしい顔をしながら、形式的に椅子へ腰を降ろした。
こんな単純なデザインの国旗が、何の意味を持つのだろう。
ある国では侵略者の象徴であり、ある国では差別の対象。
また、ある国ではユートピアであり、ある国では、どうでもいい事だった。
「どうも保護者がいないと、サマにならへんな」
司会・進行役の稲葉は、苦笑しながら立ち上がった。
中澤に眼で促されて真希が立ち上がると、
たった一人の『卒業式』が始まったのである。
柔らな春の日差しが差し込む窓を見ながら、中澤は在り来たりの話を始めた。
こんな話が真希にとって、いったい何の意味を持つのだろう。
俯くこの少女に、死んで行った彼女達は、どう映ったのだろうか。
真希に長い冬が終わったような、晴れやかな顔は無かった。
「卒業生、後藤真希」
「はい」
『卒業証書』を授与された真希は、卒業にあたっての作文を朗読する。
勿論、それは予め用意されたものであるのは、言うまでも無い。
こんな馬鹿げた卒業式でも、仕事だからやらなくてはいけなかった。
中澤は疲れた顔でため息をついた。
「卒業に当たり、お世話になった教官の先生方、せ・・・・・・先輩・・・・・・」
真希は声を震わし、涙をポロポロと溢し始めた。
そして、少しすると、膝を付いて号泣してしまう。
慌てた稲葉が真希を抱き起こそうとすると、
裕子は唇を振るわせながら立ち上がった。
「泣くんやない!これが現実や!生き残れただけでも感謝せえ!」
中澤は稲葉を突き飛ばして、号泣する真希を抱き締めた。
そして、一方的に卒業式を終わらせ、自室に戻ってしまう。
前代未聞の卒業式に、教官達が動揺している。
それを落ち着かせたのは、司会・進行役の稲葉だった。
警察庁に買収された鹿児島女子刑務所の数人は、
発覚を警戒した警察庁によって、別の職場へと移動させられた。
そのため、一気に管理者がいなくなり、中澤のような年齢でも、
所長代行を務める事になってしまったのである。
公表される事は無かったが、中澤はこの事件の概要を悟っていた。
「これからは、しっかり生きなあかんで」
稲葉は真希の出所(卒業)の手続きを済ませ、
正面玄関まで真希を見送る事にした。
誰も迎えに来ない不幸な少女だったが、
それ以上に彼女の心は傷付いている。
十八歳の少女にしてみれば、あまりにも辛い現実だった。
「ほんま、辛いやろな・・・・・・」
中澤は窓から外を見ながら溜息をつく。
悪夢は悪夢で終わった方がいい。
覚めない夢など無いのだから。
「うちも、もう疲れたわ」
卒業式を終え、ここから去って行く真希の後姿を見つめ、
中澤は一気にポカリスウェットを飲み干した。
〔終〕
○●終了●○
ho
154 :
名無し募集中。。。:04/02/07 02:14 ID:20xDgE1U
age
155 :
名無し募集中。。。:04/02/10 22:15 ID:3brSsW/A
スレに動きがないので勝手に。
・『たまご』を題材に30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)
・投稿期間は本日〜2/29 23:59まで。
・必ず完結させたものを上げる事。
・投稿時、名前欄はタイトルを入れる。
・作品の最後もしくは次レスに『完』や『終わり』というように終了を明確に記す。
・作品を上げる時に前の作品が完結しているのか確認を。
・添削は『娘。小説作家養成塾 其の2』で随時行う。
たまごの解釈は、物体としての卵でも、比喩表現としての(ex画家のたまご)でも構いませんということで。
飼育係とは、クラスの誰よりも早く起き、クラスの誰よりも早く登校し、クラスのどんな係りよりも辛い仕事をしなければいけない、タフでハードな係りだ。
仕事の内容は、学校で飼っている飼育小屋のウサギの世話。このウサギがかなりの曲者だ。
一般的には可愛い動物とされているが、爪はあるし、鋭い前歯で噛まれた日には、血がどぴゅーどぴゅー、そりゃあ大変なことになる。
何よりも一番辛いのが、フンの処理だ。こいつのおかげで飼育小屋はいつだってすんごい臭い。それにクツもフンだらけになってしまう。
だから誰も飼育係なんてやりたがらない。飼育係なんて進んでやる人は、動物大好きっ子か、少し変わっている人に違いない。
だから私は、今こうして誰よりも早く起き、誰よりも早く登校し、誰よりも辛い仕事をしているのだ。
だって、係り決めの時にみんなが私の方見たんだもん。先生が「飼育係やりたいひとー」って訊いた時、みんなが「紺野やれよー」って顔で私を見たんだもん。
いつだってそうだ。私は少しだけ勉強が出来る。少しだけだ。決して、天才とかそういうタイプの人間ではない。
私だってテスト前に一生懸命勉強してるんだ。だけど先生やクラスのみんなは私を優等生扱いする。マジメっていう目で見る。そして何だってクラスの決め事で面倒なことがあると私が係りになる。
朝の落ち葉掃きも私だったし、朝の黒板掃除も私だったし、文化祭の買出しも、あれもこれも全部私!
だって、仲間はずれになるのが恐いんだもん。だって、期待を裏切るのが恐いんだもん。
だから私はみんなから見られると「はい…」と弱々しく手を挙げてしまう。いつだってそう。
だけど今日、初めて自分のそんなダメなところが、少しだけ報われた気がした。それは不思議な出会いだった。
いつものようにウサギ小屋を掃除していると、白と茶色のブチ模様のケン(♂・5歳)が小屋の隅でうずくまっていた。
いつもだったら私が小屋に入ると真っ先に足目掛けて突進をかましてくるような、ちょっとイカしたPURE BOYだ。だけど今日は様子が違った。
私が小屋に入っても微動だにせず、部屋の隅で固まったままだった。近付いて見ると目を閉じて小さく震えていた。
少し不安になって身体を撫でてあげると、目をゆっくり開き、私に向かって微笑んだ。そう、確かに微笑んだのだ。ニッコリというよりはニンマリという感じで微笑んだ。
私は、驚いてその場に腰をついてしまった。待ち構えていたかのようにフン達は私のお尻を柔らかく支えてくれた。
それに気付いた私が「ひゃぁー!」と、間抜けな声をあげると、ケンはそれに合わせてスタートを切り、開けっ放しだった飼育小屋のドアをすり抜け校庭へと飛び出して行ってしまった。
他のウザギも逃げ出さないように飼育小屋のドアを閉めて、私も慌てて後を追った。だけど時はすでに遅し、いくら探してもケンの姿を見つけることは出来なかった。
落胆と不安と恐怖を抱えながら、とぼとぼと飼育小屋に戻った。「どうしよう……」と何度も呟いてしまうほど、追い込まれていた。
小屋の隅まで行き、壁によりかかっていたら、私の目に、もの凄く奇妙なモノが飛び込んできた。
それが"タマゴ"だ。ケンと同じく、白と茶色のブチ模様のタマゴだ。何度か目を擦った。あまりのショックから幻想が見えるまでに切羽つまっているのかと思った。
けど、違う。何回目を擦ったって、確かにそれはそこにあった。恐る恐るそれに手を伸ばして、手のひらに乗っけてみた。ちょっと暖かい。近くで見てもブチ模様以外、なんら普通のタマゴと変わりなかった。
登校時間になり、ぞろぞろと飼育係以外の生徒も登校し始めた。飼育小屋を片付けて教室に戻ると、クラスのみんなも大方集まっていた。
みんなが、昨日TVなに見た? などと話している間も、私はずっとこのタマゴについて考えていた。うん、正直に言おう。この時点ではケンが逃亡したことをすっかり忘れていた。それよりも目の前にある、この不思議なタマゴについて黙々と考えていた。
見た目は普通のタマゴとそれほど変わらない。だけどそんなことが問題なんじゃない。ウサギ小屋にこのタマゴがあること自体が問題なんだ。
少なくとも私が生きてきたこの十何年間で、ウサギがタマゴを産んだなんてサプライズな出来事を一度も聞いたことはない。しかも、タマゴが置いてあった場所には同じブチ模様の今は亡きケンがいた。どう考えても不思議だ……。
「───あっ! ケン!!」
思わず、口に出してしまった。みんなの視線が私に集まる。
「あ! あさ美ちゃん何それ!?」
最初に食いついたのは、まこっちゃんこと小川麻琴ちゃんだ。好奇心と食欲旺盛ないつでも元気な女の子。
「タマゴだ! タマゴ! しかも変なガラの!」まこっちゃんは見たまんまをストレートに実況した。
彼女は私の手の上からタマゴを取り上げ、しげしげとそれを眺めていた。
「なんやそれ? 私にもみせて」
次に"私"のタマゴを手にとったのは、あいぼんこと加護亜依ちゃん。ユーニクな女の子で、このクラスで1,2番の人気者。
「ほへぇー。これどしたん?」
あいぼんが太陽の光にタマゴを透かしながら、そう言った。
私はその質問の答えに困った。だってケン(♂・5歳)が微笑んで、逃亡して、このタマゴが置いてあった、と言っても信じてくれるわけがない。ウサギがタマゴなんて産むわけないもの。
「あさ美ちゃん?」あいぼんとまこっちゃんが私の顔を覗き込んだ。それでも私は何も言えずに固まっていた。あの時のケンのように。
「おぉー!! なんだそれ! オレにも見せろよ!」がらがら声で、私達の元に向かってくる一人の男。
「うわぁー気持ちわりぃー! んだよこれぇっ!!」汚い物を触るように2本の指でタマゴを掴み上げたこの男の名前は、田中拳。
クラスの男子のリーダー的存在。そして通称ケン(♂・16歳)。そう、ケンだ。
「離してよ! それあさ美ちゃんのだよ!」
「うっせーブスっ!」
ケンはそう言って、まこっちゃんを突き飛ばした。
「なにすんねん! 自分いいかげんにせぇーよ!」
「はぁ? なに言ってるのかわかりませーん。日本語勉強して来てくださぁーい」
あいぼんの顔が赤くなり、前髪がゆらりと柔らかに揺れる。そしてあいぼんの両足がケンの背中にヒットする。
私が知る限り、あいぼん型低空ドロップキックは一度たりとも敵の背中を外したことはない。
「──ってぇーなハゲ!!」
「誰がハゲじゃい! チビ!!」
これがいつもの合図。こうして毎日あいぼんVSケンの男子女子の尊厳をかけたバトルが行われる。男子はケンを、女子はあいぼんを大声で応援する。
私はと言うと、あいぼんに蹴られた反動で、宙へと飛び出したタマゴを見事にキャッチ。
まこっちゃんはケンとあいぼんのケンカをいつものように涙目で見守っている。
私はいつだってこういう時は大人しくしている。なるべく目立たないように、優等生らしく、静かに事の成り行きを見守る。これに関わっちゃダメ。目立っちゃダメ。仲間はずれになっちゃダメ。期待を裏切っちゃダメ。
「しゃいにんぐういざぁぁぁーどぉっ!」
「ぐはっ!!」
あいぼんのお父さん直伝のプロレス技が次々と繰り出される。すでにケンは鼻血を垂らし、半ベソ状態。いつだってあいぼんは強い。いつだってケンカじゃあいぼんが勝つ。でも、いつも───
「──今だ! 必殺地獄スカート捲り!」
「う、うわぁぁぁぁーーー!!!」
こうして、イチゴがプリントされたあいぼんパンツがクラス中にオープンされる。
そして、これが決まり手となり「いやぁーん!」という声と共にあいぼんは先程よりも顔を真っ赤にして、教室を飛び出して行くのだ。
「うははははは! 今日も圧勝!」ケンは男子たちの歓声と拍手と共に勝ち名乗りを上げる。鼻血をタラしながら。
「というわけで紺野! それはオレのもんだ!」ケンが私のタマゴを指差す。
「あさ美ちゃん……」まこっちゃんが心配そうに私を見つめる。
「よこせガリ勉!」ケンが私の手を掴む。
だから、ビンタしてやった。
ケンの頬っぺたをビンタした。
クラスのみんなが黙り込む。ケンは叩かれたほっぺを茫然と抑えている。私も叩いた右手を茫然と見ている。
少しジンジンした。
「──な、何すんだ!」
うん、私は何してんだ。
たかが、タマゴのために何してんだ。
クラスのみんなが私の一挙一動に注目している。
まずい、どうしよう。
特別なことをしたら仲間はずれになっちゃう。みんなの優等生の期待を裏切っちゃう。
「てめぇー!」
ケンが私の胸元を掴む。私はパニックになった頭を静めようと色々考える。だけど余計に複雑にこんがらがる。ケンの動きがスローモーションに見える。ケンが私をぶとうとする。
だから、もう一回ビンタをした。
さっきよりも大きな音がして、ケンは床に座り込んだ。
「このタマゴは私のなのっ! まこっちゃんのでも、あいぼんのでも、ケンのでもないのっ!!」
私のどこにこんな声が隠されていたのだろう。自分でも信じられないくらい大きな声が出た。膝が、さっきからずっとガクガク震えている。
ケンは両方の穴から鼻血をタラし、まこっちゃんは涙は止まっていたけど口を今まで以上に大きく開けていて、クラスのみんなはいつものまこっちゃんくらいに口を開き、白黒ハッキリした目で私を見ていた。
やってしまったんだ。私はやってしまった。
仲間はずれになってしまった。期待を裏切ってしまった。
終わりだ。全部終わりだ。
「───おおおぉぉぉーーー……」
突然響いたその声は、廊下を渡りこの教室まで届いていた。
地鳴りのような音と共に、高く、それでいて重みのある声が近づいて来る。
だけど、クラスのみんなは誰一人それには反応せずに私を見つめている。だから、私だけが気付いた。
ツインテールを振り乱し、もの凄い勢いで教室に突入し、今、上空を飛んでいる彼女に。
「てぇんちゅうぅーーっ!!」
そして、彼女の両足がケンの腹に着地し、ずっぽりと減り込んだ。
「うごがほぉっ!!!」
身体を、くの字に曲げ、声にならない声をあげ悶絶し、ケンは彼方へと逝った。
その声と共にクラスのみんなの時間が戻った。みんなの視線が私から、ケンと彼女へと移される。
「ふっ、悪は成敗された」
そう言って彼女は前髪をかきあげた。少し褐色の肌に、白い八重歯がキラりと輝く。
彼女こそが、辻希美。新世紀破天荒方美少女、ののことのんつぁんだ。
少し間を置いて、女子から一斉に歓喜の声があがる。「のんつぁん! のんつぁん!」の大合唱。
私はその声で、全身の力が一気に抜けて床に座り込んだ。
どちらにしろ、私ものんつぁんに救われた。
と、思われたがのんつぁんが私に近づき、こう言った。
「で、タマゴはどこなの?」
頭が良く働かない中、「あ、あれ」なんて言いながら机の上に置いてあったタマゴを指差した。
「ふーむ、これかい」のんつぁんはタマゴを掴むと、ポンポンと軽く2,3度それを浮かした。
気をつけて!って言おうとしたけど、疲れちゃっていて声なんて出なかった。
のんつぁんは確かめるように、ゆっくりタマゴを床に転がす。
そして右足でそれを柔らかに止めた。
次にの瞬間「ふぅー」と、全身を使って大きく息を吸い上げると、のんつぁんはその右足を大きく踏み上げた。
「あぁーっ!!!」クラス中のみんなが声を合わせてそう言った。
「どすこぉーいっ!」
のんつぁんは、一気にタマゴを踏み潰した。
今度は私を含めたみんなの視線がのんつぁんに向けられる。
「なはは! めんごめんご。ののむっずかしぃーことわかんないもんで」
全く悪びれずに、極めてナチュラルに、のんつぁんは頭をかきながら言った。
「あり? このタマゴが全部悪いんじゃないの?」
私はのんつぁんの右足の下にある──あったタマゴを見つめていた。
「だ、だってあいぼんが泣きながら色々言ってたけどよくわかんなかったんだもん! タマゴが、タマゴがって言うからタマゴが悪いと思ったんだもん!」
のんつぁんはみんなの視線に徐々に追い込まれ「いやぁーん!」という声と共に顔を真っ赤にして、教室を飛び出して行った。
しばらく床に散らばったタマゴの殻を眺めていた。すると、まこっちゃんが私の肩を掴んで言った。
「ごめんね、あさ美ちゃん。なんかごめん」
「あ、え? あー」なんで謝られたのか、なんて返してよいのかわからなくて、すっとぼけた応えをした。
「でもビックリした。あさ美ちゃん、あんな大きな声出るんだね」
「うん、私もビックリした」正直な感想。
「ははは! 変なの!」まこっちゃんが笑う。
「ねー変だよね?」私も笑う。
「ほんとあさ美ちゃんって変な人だよねぇー」
「ははは。ねぇ──えっ!?」
「うわぁっ!? なに急に驚いた顔しちゃって! ははは! 面白い!」
「いやいや、まこっちゃん今なんて?」
「うん? …面白い?」
「違くて違くて。……へ・ん?」
「あーあー、そうそうほんと変な人」
「私って変なの!?」
「変じゃん! 思いっきり変じゃん!!」
「マジメな子って感じじゃないの? 優等生って感じじゃないの?」
「はぁ? あさ美ちゃん十分変人じゃん」
「へ? へ、へ……変人?」
「うん、変人変人。ははは!」そして、まこっちゃんはどこまでも大笑い。
今日の結論。
私は優等生なんかじゃなかった。マジメなんかじゃなかった。
私は変人だ。良かった私は変人なんだ!
特別なことをしたら仲間はずれになっちゃうことも、みんなの”優等生”という期待を裏切っちゃうこともないんだ!!
良かった、ほんと良かった。
……ははは、変人で良かった。
あ。そういえば、床に広がったタマゴは普通の黄身と白身だった。
───話は翌朝に進んじゃう。
昨日の一件以来、ウサギ小屋は大盛り上がり。みんなが不思議なタマゴを探しに集まっていた。
のんつぁんが「ごめんね」と何度も謝りながら、あいぼんが「ほんま、ののはろくなことせえへぇんわ」とぼやきながら、まこっちゃんが「ウサギ小屋汚い! 臭い!」って実況視ながらタマゴを探していた。
あ、
「いてぇー! 離せバカウサギ!!」と、無事帰ってきていたケン(♂・5歳)と無事生きていたケン(♂・16歳)もいる。血をどぴゅーどぴゅー飛ばしている。
一体全体あのタマゴは何だったのか、ケンはどこへ行って、どうやって戻ってきたのか、あの微笑みは?
全ては謎のままだけど、
「なにをっ! あいぼんがちゃんと説明しないからいけないんじゃん!」
「なんやねん! やんのかっ!」
「うわぁー! ウザギってマジで目真っ赤!!」
「いってぇぇぇえーっ!! 誰か誰か助けてぇー!!」
私は変人だし、少しくらいの変なことは目を瞑ろうと思ったのでした。
おわり
まだ肌寒い季節に、れいなの額にうっすらと浮かぶ汗。
あたしの家へ続く、長い長い坂道の途中。
「無理しないで押せば?」
「うるせー」
見上げた坂のてっぺんは、少しにじんだ夕焼け色。
必死にペダルを踏んづける、れいなの横顔は真っ赤っか。
「歩いたほうが速いんだけど。」
こう言ったら、ムキになるのを知っているから。
「ぜんっぜん余裕!」
一瞬むっとしたれいなが力を込める。
スピードが上がる。
てっぺんはまだまだ遠いのに、しばらくするとスローダウン。
だから、横にならんで話しかける。
「疲れてきたんでしょ?」
今度は険しい視線を投げてきた。
無言でさらに力を込める。
さっきよりちょっとだけスピードアップ。
やっぱり長くは続かないから、すぐに追いついてもう一回。
「ホントは疲れてるんでしょ?」
眉間にしわを寄せてれいなが言い返す。
「見とらんで、押すとかなんとかしぃ!」
「やだよ。」
「冷たか女やねー。」
「なっさけない子。」
さっきよりもっともっと力が入る。
さっきよりぐっとスピードアップ。
「にひひ!余裕たい、えり!」
あたしよりちょっと前に出た誇らしげな背中。
スピードにのって、夕焼けの中にすいこまれそうに見えた。
そんなのだめだから、駆け寄ってうしろに飛び乗る。
「おい!重かっ!」
「余裕なんでしょ?」
「……んっ!」
言葉につまった背中が、一生懸命左右に揺れる。
ヨタヨタの二人乗りだけど、これなら二人で一緒にいけるね。
「あ!うちばい!えり、見えとぉ?」
「見えないよ。」
でもね、ずっとずっと見えてるものがある。
いじっぱりなれいなの背中。
その内側にある、小さな思い。
ラストスパート。夕焼け色のてっぺんまで、もう少し。
「ねぇ、れいな。」
「ん?」
知ってる?あたしの中にもあるんだよ。
まだ形もあやふやだけど、小さな小さなこのタマゴ。
のぼりきったら、夕焼け色に染めようね。
おわり。
「ハァ・・・・・・」
朝の楽屋に響いた私の溜息は、誰の耳にも入ることなく白い壁に吸い込まれる。
うーんと・・・昨日から数えて、確か121回目の溜息かな?
少し早く来すぎた楽屋、いつもの喧騒はどこへやら、沈黙が胸に響く。
「紺野はちっとも進歩しない・・・・・・かぁ」
一昨日のコンサートの後、矢口さんにぶつけられた言葉。
確かに振りも遅れたし、MCでちょっとつっかえた。
自分で分かっているだけに、お説教は余計に心に痛くって。
昨日のオフも、ずっとのんちゃんを前に愚痴っぽく話しちゃったけど。
あんなに吐き出したはずの心の澱(おり)なのに、ちっとも無くなってなかった。
『んー、やぐっさんがそういう風に怒り狂ってくるのって、よくあることだよ。
ホント、ミニモニの時もそうだったけどねぇ・・・あのチビ』
私の気分を軽くしようと時々悪態を挟んで、のんちゃんはずっと私の湿っぽい話を聞いてくれていた。
でもなぁ・・・今日矢口さんに会って、自然に振舞う自信・・・・・・無いなぁ。
通算122回目の溜息が唇を吹き抜けたとき、ドアが勢いよく開く音がした。
「おはよーっす!!」
「あ・・・・・・おはようございます」
何で私って、こんなに運がついてないのかなぁ・・・
扉を背に立っていたのは、私の目下の悩みの張本人。
巻き髪を肩の辺りで楽しげに揺らしながら、私の挨拶に左手を上げて応えた。
一昨日のことはもう綺麗さっぱり忘れました、とでも言いたそうなほどの笑顔。
「あぁ〜、重かったぁ〜!」
矢口さんはスタスタと私の向かいまでやってくると、声とは裏腹に、右手に提げていた荷物を静かにテーブルに上げる。
まるでそこが指定席みたいなんだけど。
・・・早く誰か来てくれないかなぁ・・・
目の前でマフラーを外しながら汗を拭う姿を見ながら、そんな不謹慎なことを考えてしまう。
さっきの挨拶から、私と矢口さんは一声も発していない。
どうしよっかなぁ・・・ここでトイレに立つのってわざとらしすぎるよねぇ・・・
ドラマ見ててちょっときわどいシーンになった時、お父さんがチャンネル替えるのと同じくらいわざとらしいよねぇ・・・
なんか話題ないかなぁ・・・
と、目の前の矢口さんの荷物に目がついた・・・これだ。
「あ! 矢口さん・・・あの・・・これ、なんですか?」
「え!? ん、これ?」
びっくりしたように目を見広げて、矢口さんはキョドッて見せる。
マズイなぁ・・・・・・選ぶ話題、失敗したかなぁ・・・
やっぱり『ミニモニにおけるミカさんの存在意義』とかの方が良かったのかなぁ・・・
と、縦長に広げていた口をにんまりと横に引き伸ばすと、ふふっと軽い息を漏らした。
「これ・・・ね。なんか今日来る途中にさぁ、行商みたいなおばあさんがいてねぇ。
ゆで卵だってさ・・・なんか、お嬢ちゃんが幸せになれるように、とか言ってて変な人だったよ。
でもなんかね、買わなきゃいけないような気がしてさ」
「はぁ・・・」
ごそごそと袋を開けると、矢口さんの掌には真っ白な卵がつかまれていた。
あの袋、全部ゆで卵なのかぁ・・・あんなに買ってどうするんだろう?
私に一つ手渡すと、斜め上を見て思い出し笑いを浮かべながら、矢口さんは目を細める。
「なんかねぇ・・・変なこと言っててね。
なんだっけ・・・そう、『卵には過去が詰まってる』んだってさ。
意味分かんないでしょ?」
矢口さんの声を聞きながら、ぼんやりと手の中の卵を眺める。
全然曇りが無い白で、とっても美味しそう。
私の目つきに気付いたのか、慌てて矢口さんが手を伸ばす。
「ちょっと、紺野、食べんなよ。・・・古かったら危ないし・・・捨てるよ」
「え・・・もったいないですよ」
「ゆで卵だから大丈夫だとは思うけどさぁ・・・」
「ちょっと、剥(む)いてみていいですか?」
不肖、紺野あさ美。食べ物を粗末にするのは許せないのだ。
気持ちいいくらいにスルスルと殻は向けていって、つやつやの白身が現れてくる。
うーん・・・ぷるぷるだぁ。
「・・・貰っていいですか?」
「お前絶対、殻剥く時点で食う気満々だっただろ?
まあ・・・別にいいよ、一昨日ちょっぴり・・・・・・とにかく! 食べなよ」
一口、二口・・・口に運んで、ようやく黄身にたどり着く。
美味しい卵って、そのままでも美味しいって言うけどホントなんだなぁ。
と、黄身を飲み込んだその刹那、
【はぁ〜あ・・・・・・ねぇ、どうしたらいいんだろ? のんちゃん・・・】
あれ?
なんだろ、今の声。
「紺野、何か言った?」
「いえ・・・あれ? 矢口さんじゃないんですか? 今の声」
首をふるふる横に振りながら、矢口さんはきょろきょろと辺りを見回すけれど、何もなくて。
その代わりに、また同じような声が響く。
【私、先輩になったって、ちっとも歌やダンス上手くなってないし、矢口さんの言ったこと、正しいんだけどさぁ・・・】
【はぁ・・・・・・明日、矢口さんにどんな顔して会えばいいんだろ?】
【気にしないなんて・・・できないよ】
どこかで聞いた台詞。
あれ? 確か昨日、のんちゃんにこんな風に愚痴ったっけ?
その声が今楽屋の中で聞こえて・・・?
矢口さんも私に負けず劣らず、目をぱちくりさせながら首を傾げる。
「今の声・・・紺野の声でしょ?」
「えっと・・・たぶん、そうです。昨日・・・のんちゃんに話してたようなことだと・・・」
「ふ〜ん・・・ふふふ、なるほどね」
一人うんうん頷きながら、にやりと唇の端を上げる。
・・・何か嫌なことを思いついたに違いない。
「卵の中身は、過去・・・かぁ・・・ふ〜ん、そういうことね」
「?」
「よっし! 紺野! メンバーみんなのオフの過ごし方、調べるぞ!!」
「はあ?」
「昨日辻に喋ったことが、卵食って出てきたんだろ?
ってことは、他の奴らが何やってたかも分かる!!」
「知りたいですかねぇ?」
「すっげぇ、知りたい!!」
野次馬根性が爆発したのか、右手をきつく握り締めて高く掲げる矢口さん。
絶対碌でもないことが起こるに決まってるんだからなぁ・・・
―――
「あれで食べてくれますかねぇ?」
「絶対食べる。辻は、そういう女だ」
のんちゃんのバッグの中にゆで卵を潜ませたのはいいんだけど・・・普通食べるかなぁ?
だって、自分のバッグの中に入れた覚えが無いものがあるんだよ?
まして、それを食べるなんて・・・
私と矢口さんは、柱の影からのんちゃんの様子を伺う。
何が嬉しいのか鼻歌を歌いながら、バッグをごそごそと漁っていたのんちゃんが、不意に手を止める。
見つけた・・・・・かな?
出てきた手に握られていたのは、紛うことなきあの卵。
・・・と思う暇も無く、躊躇せずに殻を剥き始める。
「ほら、な・・・」
何を勘違いしているのか、一瞬こちらを向いて矢口さんが胸を張る。
その間にも、のんちゃんは爪の短い指で殻を蹂躙していって・・・
・・・あれ、ちょっと待てよ。
さっき私の口から出たのは昨日のことだった・・・ってことは。
のんちゃんが話し始めるのは、当然私の愚痴に対する答えで・・・
ヤバイヤバイヤバイ。
悪態たっぷりの悪口が詰まってるよね・・・止めなきゃ!!
と、思ったのも束の間、
「あいつ、一口で卵食いやがった・・・」
矢口さんの呆れた声に振り返った時には、もう遅くって。
【んー、やぐっさんがそういう風に怒り狂ってくるのって、よくあることだよ】
【ホント、ミニモニの時もそうだったけどねぇ・・・あのチビ】
【自分が失敗したときはさぁ、鳥みたいに三歩で忘れるくせにねぇ・・・】
【一回シメないとダメだね、ホント!】
「辻ぃ〜!! てめぇ! 覚悟しろぉ〜!!」
「・・・え? やっぐさん何怒ってるの? ちょっとぉ〜!!!」
―――
「・・・いってぇ・・・あいつ、なんでマジで反撃してくんだよ」
「・・・矢口さんが本気で殴りかかるからですよぉ。
のんちゃんも私を元気付けるのに、冗談半分で言っただけですから・・・」
「紺野、それ先に言えよな・・・」
「言う前に飛び出してったじゃないですかぁ」
「まあ、いいや。よし! 次は・・・あいつらだな! じゃあおいらが渡してくるか」
さっきの反省はどこへやら、矢口さんは戯れている吉澤さんとまこっちゃんに向かっていく。
・・・ホントに脳味噌鳥並みじゃないの?
そして二人とも全く疑うことなく、卵を剥き始めた・・・少しは疑ってよ。
【うんッ!! ダメだよッ・・・麻琴、そこは!!!】
【いいじゃないですかぁ〜・・・ほら、吉澤さん、そろそろなんじゃないんですか?】
「なんですか? これ」
「分からん・・・でもこいつら、昨日一緒だったみたいだよ?
ちゃんと会話調になってて面白いじゃん」
【そんなこと言ったら麻琴の方だって、こんなになってるよ?】
【そ、それは・・・】
【ほらぁ・・・透明なのが、こんなに】
【言わないでください!! 吉澤さんのだって・・・こんなにいっぱい・・・】
えっと・・・どう反応すればいいんだろ?
矢口さんはニヤニヤしながら、元に戻った二人を見詰める。
え・・・吉澤さんとまこっちゃんが・・・そういう関係?
え? めくるめく官能の世界? 禁断の百合の園?
二人の顔を見詰めるだけで、自分の顔が真っ赤になるのが分かる。
「いやぁ〜、二人とも熱いねぇ」
中年上司みたいに、肘で二人をつつく矢口さん。
二人はきょとんとしながら、お互いに顔を見合わせた。
「とぼけなくてもいいんだって!! 二人で昨日はよろしくやってたんだろ!?」
「ええ、二人で一晩中やってましたよ」
爽やかに前髪を掻きあげて、吉澤さんが流し目でこちらを見やる。
まこっちゃんは何でかしらないけど、その横で真っ赤になってて。
・・・やっぱり、そういう関係なの?
「楽しかったよな? ぷよぷよ」
「ちょめちょめ?」
「いや、ぷ・よ・ぷ・よ! 何で麻琴とえっちぃことしなくちゃいけないんですか!!
ちなみに私の100勝45敗ですよ」
「・・・お前ら、紛らわしいから」
―――
【私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、絵里より可愛い、
私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、れいなより可愛い。
私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、私は可愛い、誰よりも可愛い・・・】
「シゲさん・・・なんだこれ? 誰か呪ってるのか?」
「・・・鏡に向かって呟いてるんじゃないんですか?」
―――
―――
【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】
【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】
「あれ? 高橋、ちゃんと卵食ったよな?」
「おかしいですねぇ・・・普通のが混じってたんじゃないんですか?」
「いや・・・全部同じ種類だと思うんだけどなぁ・・・」
「じゃあ、お昼寝とかしてたのかも」
「なんだ、つまらないな」
【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・友達欲しいなぁ・・・】
「撤収!!」
―――
―――
「いやぁ〜、危なかったなぁ・・・」
「もうやめましょうよぉ、矢口さん」
「でもさ、結構楽しいでしょ?」
「少しは楽しいですけどぉ・・・」
気が進まないながらも、おかしな連帯感。
ちょっとだけ楽しくなってきている・・・いや正確には、矢口さんと一緒に走ったり笑ったりするのが、楽しくなっていて。
『やめよう』とは口で言っていても、心のどこかでこの時間が終わるのが惜しい気がしていた。
矢口さんの手の中には、最後の一つが握られていた。
・・・どうするんだろ?
「誰がいい? 個人的にはさぁ、圭織の宇宙との交信を録音してみたいけどね」
「任せますよ・・・なるべく、楽しそうな人で」
「なんだぁ〜、紺野も楽しんでんじゃん・・・えっと、それじゃおいらにお任せね。
圭織は・・・と・・・あれ? いねえな・・・」
楽屋口にならんできょろきょろと見回すけど、飯田さんは見当たらなくて。
と、なにか影が差したような気がして振り返る。
「矢口ぃ〜、紺野ぉ〜・・・・・・あんたら!! 何やってんの!!!」
この日、私と矢口さんは、修羅を見た。
――― 翌日
朝、再び楽屋でグロッキーになった私がいた。
口をつく溜息は・・・320・・・もういいや、数えるのめんどくさいし。
飯田さんのお説教がまだ耳の中で響いているみたい。
結局最後の卵は没収されて、私たちはメンバー全員に反省文を書かされたのだった。
もう・・・矢口さんのおかげでとんでもないことになったなぁ・・・
楽しかったことは楽しかったけど、どことなくやりきれないものが残る。
ん?
と、部屋の隅のポットの陰で、何かが輝いたのが見えた。
あれ・・・? 昨日の卵・・・かな?
飯田さん、取り上げたのに忘れちゃったんだぁ。
机の上で意味もなく卵を転がす。
微かに残像を残しながら、ゴロゴロと音を立てて回って。
・・・そうだ・・・矢口さんに食べさせたらどうなるんだろ?
「くふふふっふ・・・・・・」
「おはよぉ〜・・・って、あれ? 紺野、何あぶねー笑い浮かべてんのよ?」
「あ、矢口さん・・・おはようございます」
「圭織の怒鳴り声がまだ頭ん中でガンガンしてんだよねぇ〜」
「あ、それ・・・私もです」
「あいつさ、絶対将来の夢はのび太のママだよ」
どんよりとした溜息を漏らして、矢口さんはテーブルにべったりと張り付く。
よぉ〜し、仕返ししてやるんだから!!
「矢口さん! これ・・・お弁当に持ってきたのだけど、あげます!」
「いや・・・当分ゆで卵とか見たくないや」
「美味しいですよぅ? だから、ほら! 食べてください!」
「ん・・・じゃ、貰うかな・・・」
綺麗にマニキュアをした指で、器用に殻を剥くとかぶりついた。
さて・・・昨日あの後、どんなことしてたのかなぁ〜
一瞬神妙な顔をすると、矢口さんの唇の間から腹話術みたいに声が漏れ聞こえてくる。
【あ〜あぁ・・・結構いいきっかけになると思ったんだけどなぁ・・・】
【紺野、怒っちゃったかなぁ・・・可哀相なことしちゃった】
【やっぱり卵あげて機嫌とろうなんて、甘いって分かってんだけど・・・】
【でもなぁ・・・『この間は言い過ぎた! ゴメン!』なんて言えねーしなぁ・・・】
【何かますます、顔合わせづらくなっちゃったなぁ・・・】
「え!? あれ? 今のって・・・」
きょろきょろと辺りを見回す矢口さん。
と、私の方を見て、ことを悟ったのか顔を真っ赤にして俯いた。
卵の中は過去が入ってる。
どんな味がするかは、どんな過去があったか・・・それ次第か。
今丁度、私と矢口さんの、二人の卵も割れたのかもしれない。
二人とも仲直りしたかったんだもん、そんな気持ちを抱いてた過去があるんだから。
きっと、ううん、絶対、とっても美味しい卵なんだから。
それをどんな風に料理していくかは、私たち次第。
とってもとっても、美味しくしてあげるよ。
「矢口さん・・・! あの・・・今度のオフ、どこか・・・ご飯食べに行きません?」
「ん・・・いいねぇ・・・行こっか?」
コックの息もピッタリだから・・・・・・きっと!!
時卵(ときたまご)
おしまい
「たまごとニワトリのどっちが先に生まれたと思います?」
自販機が立ち並ぶテレビ局の休憩所。
ポッキー食べていた紺野は一瞬固まったが、再びポッキーに手を伸ばした。
しかし目線は質問者である道重の頭上に固定されており、一応考えてはいるようだ。
紺野の隣で同じくポッキーを食べていた小川は
「しばらく動かないから。」と言って、道重達に別のお菓子を差し出した。
今日、道重と田中が受けた授業の中で
『たまごとニワトリのどちらが先に生まれたのか?とその理由』
という宿題が提出されたのだが、いくら考えてもわからない。
ニワトリは元々たまごだが、そのたまごはニワトリが生んだもの。
そのニワトリだって元々はたまごだったハズ。
とりあえず同期の亀井に相談してみたのだが、道重達と同じところで詰まってしまった。
そこで、頭が良いと評判の紺野に助けを求めたという訳だ。
その紺野も道重の頭上(だった)場所を見つめ続け、1分が経とうとしていた。
「う〜ん。確かに難しい問題だねぇ。」
「そうですよねぇ。っていうかこの問題を解くこと自体が無意味な気がするんですけどね。」
一応小川にも聞いてみたが、予想通りの結果に田中は用意しておいたフォローをいれる。
結局小川は諦めて、道重に渡したお菓子を味見し始めた。
道重達もお菓子を食べながら紺野の回答を待つことにした。
「たまごじゃないかなぁ。」
紺野の発言により、4人の視線はお菓子から紺野に移された。
「でも、そのたまごを生んだのはニワトリだと思うんですけど。」
「うん。ニワトリはね、昔からニワトリだった訳じゃないの。
ヤケイの一種を品種改良してニワトリができたの。」
「「へー。」」
「あっ。これ1個もらうね。でね。ふぁいご(最後)の限りなくニワトリに近いヤケイのたまご
からニワトリが初めて生まれたんだからたまごが先じゃない?これ美味しい。もう1個もらうね。」
4人はポカンと口をあけ、加入当時、安倍や後藤を見るような眼差しで紺野を見つめていた。
「紺野さん!すごいったい!完璧たい!
これでクラスのモーニング娘。に対する偏見を払拭できるとですよ。」
いち早く目覚めた田中が礼をいうと、道重、亀井もそれに続いた。
モーニング娘。はうたばん等でのクイズの影響か「世間知らず」のイメージが強い。
クラスでも「モー娘。だからw」と見下されることも少なくなかった。
「じゃあ早速、宿題ば終わらせてきます。ありがとうございました。」
「・・・コレもありがとうございます。」
道重はお菓子を抱えるとペコリと頭を下げた。
「うん。がんばってね。」
紺野は少し名残惜しそうにお菓子を見つめ、ポッキーに手を伸ばす。
小川は未だ口を開けたままだが、手を振っているのでこれが素のようだ。
興奮気味に休憩所を後にする3人だったが、重大なことに気がついた。
回答は田中と道重の2人分必要なのだ。
こんな中学生らしからぬ回答が被ってしまっては、カンニングしたのがばればれである。
「こっこれはれいなの(回答)だからね。」
「・・・渡さんばい。」
「っ!渡すばい!」
「渡さんばい。」
「渡すばい!」
「綿三倍。」
どうこの場を収めようか思案していた亀井だったが、思いもよらぬ人物によってそれは成された。
自販機の裏から威勢の良い声が聞こえ、3人は固まる。
そこには見覚えのある体格の二人組。濃いサングラスをかけているが、誰であるかはすぐに判った。
「話は全て聞かせてもらったのれす!」
「「辻さん。」」
「今はその名前じゃねえ。俺はトニーってんだ。トニー辻。」
「わいはジョニー加護や。そこんとこヨロシクぅ〜」
「ヨロシクぅ〜」
再び口を開けたまま固まる3人だったが、トニーは気にするそぶりを見せない。
手をピストルの形にして3人に突き出す。
「ビシッ」という音が聞こえてきそうな場面だが、二の腕が「ぷるん」と鳴った。
「あんたらが取り合っている説は真実ではないのれす。」
「せや。真実を知りとうないか?」
「えっ?でも私たちすごい納得しちゃったんですけど。ねえ」
戸惑いながらも田中は道重に同意を求める。
無言で頷く道重。亀井も異存はなかったが、ここはセンパイの顔を立てる為に
一応聞いてみることにした。バカ女だけど。
「正解はニワトリれす。」
「なんでですか?」
「お譲ちゃん。わいらガキの使いやあらへんで。
理由が聞きたいんならそれなりのもん用意してもらわんとなぁ。」
「まったく舐められたものれす。」
お互いに肩をすくめるトニー&ジョニー。
いったいこの人達は何が目的なのだろうか。
訝しむ亀井達をよそにトニーは続ける。
「そのお菓子で手を打ってやるのれす。」
全てを理解した3人。この人達はずっとこのお菓子を狙っていたのだ。
結構好きだったのに。と思いながらも彼女達に目をつけられては諦めるしかない。
田中、道重を見つめる亀井に、2人は頷く。
亀井は渋々お菓子を差し出すと、トニーは満面の笑みで受け取った。
今トニーの目にはサングラスを通して尚、眩い光が差し込んでいるであろう。
多様化するカツアゲの手口に亀井は不安を感じずにはいられなかった。
「ゴホン。ではあいぼん先生の解説をよーく聞くように。」
トニーは咳払いをひとつすると、ジョニーを前に促し、自分は一歩引いた。
「うむ。」と頷くと、ジョニーはサングラスを外し語り始めた。
「たまごとニワトリを使った料理、親子丼に答えは隠されとる。」
予想もしなかったキーワードに3人は身を乗り出した。
「親子丼は子鍋にわりしたをしいた後、玉ねぎ、鶏肉を入れる。つまりニワトリや。
ちなみにあるある大辞典によると2×2×1cmサイズがええそうや。
その後、たまごを2回に分けてかける。こうすることで半熟感がでんねん。」
本日3度目のポカン状態の3人。
「吉野家の新メニュー焼鳥丼はどうかね辻君。」
「ニワトリが先であります。」
「うむ。そのとおりや。」
「しかし先生、いくら鮭丼はどちらが先なのでしょうか?」
「むむ。それは難しい質問やな。あれは海の親子丼とも言える一品。」
「カレー丼もドゥルドゥルでなかなかの美味であります。」
「うむ。ケータイを落とすんやないで。」
「築地の吉野家一号店では今でも牛丼が〜」
戦利品のお菓子を手に去ってゆく辻と加護。
3人はその後姿を見つめるしかなかった。
「でっでもよかったっちゃ。さゆの分も終わって。」
「・・・渡さんばい。」
「っ!渡すばい!」
「渡さんばい。」
「渡すばい!」
「綿三倍。」
結局数分前と同じ状況になり、変わったといえばお菓子が無くなったこと。
とりあえず他の(まともな)センパイにも聞いてみることでその場は収まった。
( `.∀´)<漢字はまず「卵」が出来て、その後「鶏」が出来たとドリルに書いてあったわ。
※たぶん
川‘〜‘)||<昔ニワトリはひよこのまま生まれてて、ニワトリママは凄く痛かったと思うの。
だってクチバシとかツメが引っかかりそうじゃない?
かわいそうに思ったニワトリパパは神様にお願いしたの。
「どうかママが痛くないようなシステムにしてください。」
ニワトリパパの願いを聞いた神様は、お腹の中にいるひよこをまーるい殻で包んであげたの。
ニワトリママは今までの苦労がうその様にスルっと生むことができました。
つまり何が言いたいかというと、愛こそ全てってことね。
(0^〜^0)<宿題ぃ〜?そんなものは忘れてパーと遊ぼうぜベイビー?
( ^▽^)<この人に関わるとロクな大人にならないわよ。
(●´ー`●) <なっちは親子丼に秘密が〜
「うん。さゆ達といっしょ。今日食べて帰るから。10時過ぎには戻れると思う。」
午後9時、亀井達はテレビ局の食堂で少し遅めの夕食を取っていた。
亀井は自宅に連絡を入れると、席に戻り注文していたサンドイッチを一口食べた。
ほとんどのメニューは制覇した食堂だったが、落ち着いて食事の出来る数少ない場所の1つだ。
モーニング娘。に加入した当初はファミレスやファーストフード店も利用していたが、
メディアへの露出が増えるにとともに一般人から声をかけられることも多くなった。
嬉しかったのは最初の方だけで、だんだん面倒くさくなり人目のを多いところは避けるようになった。
帽子やサングラスが増えていったのも、この時期からだ。
既に食べ終わった田中はあごに手当て、ノートを見ていた。
ダンスの振り、歌の注意点、落書きを中心に賑わっているノートだが、
一番新しいページには今日聞いて回ったたまごとニワトリについて書かれていて、
読んでいるのもそのページだった。
「やっぱり紺野さんが一番まともやねえ。」
「でも、親子丼説は辻加護(安倍も)さんらしいよ。」
「保田さんは漢字の成り立ちまで勉強しているようね。」
(暇なのかしら?)
「・・・さゆ。」
「ん?」
「紺野さんの答えはさゆに譲るったい。」
「・・・なんで?」
「ここに書かれているのはセンパイ達の個性。私達に足りないものばい。
れいなはれいなの答えを探すたい。」
「・・・そういう事ならさゆも要らない。さゆにはもっとカワイイ答えが似合うから。」
「でも、飯田さんよりカワイイ答えは難しそうねえ。」
「む。」
「私が一番カワイイ。」とスプーン相手に連呼する道重を見ながら亀井は感じていた。
もうセンパイに憧れる時期は終わったのだと。
川VvV从<目標とされる人になりなさい。
おわり
目を閉じたまま考えてみた。
「浮遊感」ってコトバ。
たぶん、「まるで浮いているような感覚」ってイミだと思う。
でも、じゃあ、実際に浮いているときの感覚ってどう表現するんだろう?
これも「浮遊『感』」?っていうか浮遊してるし。わかんないなぁ…
私バカだからなぁ…
「のんちゃんお腹冷えないの?」
かおりんの声がする。
目を開けると、目隠しの塀と建物にさえぎられた細長い空が、また雲で半分になっていた。
脱力状態から腰を折り曲げると、体は勝手にお湯の中に沈んでいった。
ここは露天風呂。おとめのコンサで新潟に泊まるコトになって、昨日からたまたまこんな日本旅館に当たった。
もちろんみんなで大喜びした。久しぶりにまともに日本料理を食べられるし。紅白で
「おかずもオイシイ!」
とか言ったりしたなぁ、そういえば。
何も心の足をひっぱるものがなかったんだよなぁ、あの時点では。
ほかのみんなも外に出てきた。歓声を上げながら飛びこんでくる。
すぐにすんげぇ津波が押しよせてきて、私は手を使わずに顔を洗うコトができた。
かおりんは髪がぬれるのが嫌みたいで、あわてて立ち上がってる。
はい、「ヴィーナスの誕生」。
ウォーターウォーズ
津波の発生源あたりでは、やっとお湯かけ戦争が終わったみたい。
マゴトとか歌いだしてるし。
「温泉〜旅行なんて〜」
梨華ちゃんも続けないでよ。気が滅入るから。
「何年〜ぶり〜でぇしょうぉ〜」
「いや昨日入ったし」
よくやった、ミキティ。私の気持ちがよく分かってる。まぁそんなつもりないんだろうけど。
あの日、卒業が伝えられて25日目のあの日から、私はその歌が怖くなった。
なちみを失うのはヤだった。でも半年すると、今度はあいぼん以外の全員とさよならだ。失うのは一人じゃない。
また会える、そんなのは分かってる。そういう問題じゃないコトは、あの日の自分を見ればすぐに分かる。
みんなから…分離したくない。
別にそんな私の気持ちを分かってもらおうなんてつもりはない。
実際今年になるまで、全然なちみがいなくなるコトなんて考えてなかった。それといっしょ。
「ええーい!」
マゴトがこっちに泳いでくる。服を着ていようがいまいがこいつの行動は変わらない。
すかさず潜って、底にはりついて、うまくやり過ごす。
起き上がって顔をごしごししている時に、後ろから捕まった。
「のんつぁん夏になったら卒業旅行いこーね!」
「あーじゃぁハワイね、ハワイおごってよマゴト」
「えー無理!そんな永遠に会えなくなるわけじゃないし近場でいいよ!のんつぁんの家とか」
「全然想い出にならないじゃん」
「じゃあー…探しとくね!」
そう言ってマゴトはかおりんの所に行ってしまった。
「ののが卒業するとか、安倍さん以上に実感湧かないんだよねー」
梨華ちゃんにはずいぶんと軽く見られたものだ。どうせそんなコト言ってても当日は…私の方がやばいかも。
もうピースでいたずらできないんだ…心残りのないようにしないと。
ミキティは田中ちゃんと重さんに「ウチらの時代」とか聞こえよがしにハッパかけてるし。
みんなこんな感じだし…心配することはないか。私がいなくなっても大丈夫そうかも。
それよりも心配なのは、自分達のコト。
卒業って言われてすぐは、あいぼんと一緒だし、まだ時間があるって感じで何とも思わなかった。
でもなちみが卒業してから、あいぼんがヘンなコト言い出して。
「私、ののの足引っ張らないようにガンバる」
最初はどうしちゃったんだろ、って思った。あいぼんはいつも私の上に置かれていたから。
でも、言われてみると不安になった。
「ののがいれば何でもできる、って言ったけど、ミスったら二人とも引退だよ?
ごっちんみたいに娘の中ですごい人気あったわけでもないっしょ?」
ごっちんの減速具合は、見てて申し訳なくなるくらい。
もともとの人気がごっちんより低かったら…自分達は今のごっちん以下になる、ってコト。
芸能界に放り出された娘。メンバーを見ると、自分達の未来が全然明るくないのはすぐに分かる。
ここは平和だもん。名前が一人歩きしてメンバーを押し上げてるんだもん。
私みたいにボーっとしてても一応「トップアイドル」になれるんだもん。
それがなくなった時…考えたくもない。まんま「トラの威を借るキツネ」じゃん。
幸せな人達(まぁ私もだけど)に目を上げると、田中ちゃんがさっきの私と同じコトをしていた。
大の字になって浮かぶ。丸見え。私にもこんな時代があったなぁ、とか懐かしく思ったり。
「あはーこれ面白いですよぉ、雲の上に寝てるみたいで」
ウマい表現だな、って思った。いろんなイミで。
そんな田中ちゃんに重さんがお湯をかける。
「ウワー!さゆのバカ!」
「ダメだよそのまま浮いてて、水はじくか調べてるんだから」
「自分でやってよ!」
「私がはじくのは当たり前だから。浮いて」
マゴトも梨華ちゃんも観察しに行ってたりして。
「すごーい田中はじくじゃ〜ん!」
「石川さんもはじくじゃないですか、ほら」
若いってすばらしい。…でも卒業したら、若くてもスタイルよくても…
マゴトがセクハラしだした。
「れいなちゃんっていい肌してんねぇ、湯上がりタマゴ肌、ってやつだね!」
あったかいお湯の中で、意識が無くなりかけていた。急にメルヘンの世界に飛び込んだ気がした。
雲…浮いてる…タマゴ……
航空会社の宣伝に出てきそうな、超キレイな空。白い雲。
綿菓子みたいなその雲の上に、でっかいタマゴがいくつも転がってる。
雲の上のタマゴ…自分達だ。
私は芸能人。トップアイドル。人気者。一般人から遠く離れた、雲の上に住む人。
明るくて、いつも晴れてて、足元はふかふかの雲。最高の場所に、今私はいる。
でも、私はここにどうやって来たの?
ちゃんと地面から少しずつジャックの豆の木にしがみついて登ってきた?
ううん、違う。
ある日空を見上げてたら、「イェイ!」「イェイ!」って鳴く鳥が迎えに来て、連れてってくれた。
そんで、私は殻に包まれて、雲の上に置かれたんだ。
タマゴの中は快適だった。全然形にもなってない私を、みんなが白身になって包んでくれた。
なちみとかおりんは、私のカラザになってくれた。
娘。っていう殻は、とってもキレイな色をしてて、そこにあるだけでいろんな鳥が暖めてくれた。
他にも同じ模様をしたタマゴがいくつかあった。みんな幸せそうだった。
でも忘れちゃいけない。これは巣じゃなくて、タマゴなんだってコト。
ちゃんと孵化しなきゃいけないんだ。
しかも、雲の上のタマゴは、殻から出たらもう飛べなきゃいけない。自立しなきゃいけない。
もし飛べないまま殻が割れたら、雲の世界から地面にまっさかさま。
もうタブーになっちゃった人。市井さん。
自分で殻をつついて、そのまま雲にめり込んでいっちゃった。
ごっちんも、視界の悪い雲の中を抜けようと必死に飛んでる。
あと数ヶ月で、あの人たちと同じ環境に放り出されるんだ。
あいぼんと二人で、うまくやっていけるの?
二人一緒だから、目立つし道に迷うコトもないと思う。
でも、私の羽ばたきが弱かったら、あいぼんも道連れにしちゃう。文字通りの「お荷物」。
そんなのイヤだ。絶対イヤだ。
卒業の発表のとき、「卒業まで半年、全力で突っ走っていきます」って二人で約束した。
希美、お前は今本当に全力で突っ走っているのか?
周りのみんなは幸せなままだ。私の運命は決まってるんだ。
ハローじゃない同い年のアイドルとか見なよ。
キレイな殻を創りあげたなちみやかおりんの16歳を思い出しなよ。
必死じゃん。
だから、もっと頑張ろうよ!あいぼんと二人で高い所に行くために。
突然お湯をかけられて、私はメルヘンワールドの説教部屋から帰ってきた。
「のんつぁんったらホントボケてるんだから…いくら呼んでも起きないんだもん」
「のの、そんなことじゃ卒業したらお仕事遅刻しちゃうよ!」
「リガちゃんだってこの前寝坊したじゃんか!まったく…」
まったく、幸せな人たちだ。でも遅かれ早かれこの人たちにも時はやってくる。
部屋に戻ると、夕食の準備ができていた。おいしそうな料理がいっぱい!
難しい考え事は、ちょっと休憩。
食べている間は、その幸せに浸るのがルールってもん。
…でも、前はこんなコトも考えなかった。ただ自分がいて、みんながいた。
「卒業予定」って肩書きがついただけで、こんなに気分が変わるとは思わなかった。
これからの自分のコト、みんなのコトを、よく考えるようになったと思う。
娘。を卒業する、っていう決定はとても悲しいし、みんなとはできれば離れたくないけど。
この卒業決定は私を単なるノーテンキから、ちょっとはちゃんとした芸能人にしてくれたのかもしれない。
でもみんなに言ってもわからないだろうなぁ。見た目変わらないし。
仕方ないか。卵は生まれるまで中身が見えないもん。私頑張るよ。
上手く飛び立って、みんなをびっくりさせてやるんだ。
そのためにも、体力をつけなきゃ!
「マゴトその天ぷら一個にしときなさーい、はい、よこしなさい」
「あ”ー!のんつぁん酷い!最悪!」
( ´)ー`)<おしまい>(`▽´∬
ho
次はこれです。
・『病気』を題材に30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)。
・投稿期間は本日〜3/21 23:59まで(20日間)。
・『病気』の解釈は何でも可(医学的・恋煩い他)
・必ず完結させたものを上げる事。
・投稿時、名前欄はタイトルを入れる。
・作品の最後もしくは次レスに『完』や『終わり』というように終了を明確に記す。
・作品を上げる時に前の作品が完結しているのか確認を。
・添削は『娘。小説作家養成塾 其の2』で随時行う。
ho
廊下の隅に置かれた日の当る長いす。さゆみはそこでぼんやりと本を読むのが好きだった。目の前には大きな窓があり、見慣れたいつもの景色が映る。
さほど高くないこの場所からはあまり遠くを見渡せるわけもなく、さゆみは色のない景色を何の感慨もなく眺めていた。
ふと見上げると、向かいの病棟の屋上に小柄な少女が立っていた。少女は肩までの髪をポニーテールに結び、どこか遠くを見つめている。見慣れない子だな、とさゆみは思った。
しばらく見つめていると、少女がふっと振り返る。その瞬間目が合ったような気がしたが、少女はそのままさゆみの視界から消えていった。
さゆみはこの場所で生まれ、この場所で育った。生まれつき体が丈夫でなくこの病院以外の生活を知らない。病院から出たことすら数えるほどしかなかった。
「なに読んどぉと?」
突然の声に顔を上げると、先日の少女が立っていた。切れ長の目が好奇心で輝いている。黒目がちの印象的な瞳だった。
「あ……。」
少女はさゆみのとなりに腰をおろすと、大げさにため息をつく。
「入院ってひまやねぇ。」
少女の持つ雰囲気と入院という言葉があまりにも不釣合いでさゆみは驚いた。
「入院、してるの?」
「うん。手術せんといかんらしか。」
少女はぶらぶらさせていた足をとめ、さゆみの方を向いた。
「驚かんの?」
少女の顔が予想以上に近くて、さゆみは少し緊張する。
「あたしはずっとここにいるから。生まれてからずっと。手術なんてよくあるもん。」
動揺を隠し、あっさりと答えた。
「えー!ずっとってずっと?そんなん、つまんなくなか?」
少女は目を見開き、驚いた顔で身を乗り出す。
「あたしここしか知らないから。よくわかんない。」
「外に興味なかと?」
少女は不思議そうな顔でさゆみを見つめる。ころころ表情の変わる子だなぁ、とさゆみは思った。
「よくわかんない。」
「変なの。」
さゆみを見つめる目がぱちぱちと瞬きをする。
「やばい、検査?だかなんだかの時間。行かなきゃいけん。」
廊下の掛け時計をみた少女は、あわてて立ちあがる。
「あたし田中れいな。そっちは?」
「あ、あたしはさゆみ、道重さゆみです。」
「さゆみ、かぁ。かわいか名前やね。じゃあまたね、さゆ。」
れいなは笑って手を振ると、さゆみの病室とは反対の方へ駆けていった。
それから二人は、毎日のように長いすで話をするようになっていた。
「窓開けてよか?」
そう言ってれいなが窓を開けると、風が吹き込んで本のページがぱらぱらとめくれた。れいなはトンッ、と床をけるとそのまま窓枠に腰をおろし、気持ち良さそうに伸びをする。
「暖かくなってきたね。」
日の光を浴びたれいなが、太陽を振り返って眩しそうに目を細める。つやつや光る黒い髪とパジャマの襟がはたはたと揺れるのを見て、生きてるってこういうことを言うのかな、とさゆみは思った。
「外って、楽しい?」
「え?」
れいなが不思議そうな顔でさゆみを見返す。
「れいな、外の話する時なんか楽しそうだから。」
「うーん……嫌なこともいっぱいあるけど。やっぱ楽しかよ。」
何を思い出したのか、れいなは楽しそうに笑う。なぜかさゆみはせつない気持ちになった。
「さゆ、あたし明日手術なんだ。」
れいなが何でも無さそうに言う。
「やけん、手術終わったらこっそりどっか連れてってやるっちゃ。」
れいなはいたずらっ子のような顔でそう言うと、にひひと笑った。
「うん。」
少し照れくさい感じがして、さゆみは顔を伏せる。
「手術、頑張ってね。」
つぶやくように声をかけた。
あれから半年、さゆみは今日も日の当る長いすで本を読む。あれ以来、れいなは一度もここに来ていない。
さゆみは視線をあげ、窓の外を見つめる。木々がうっすらと黄色く色づいていた。
ここは病院。そういう場所。
窓から吹き込んだ風が本のページをめくっていった。
おわり
わたしはおかしい。
紺野は止まっていた。止まって、見ていた。
澄み渡る空の下、茶色の学生カバン、鼻歌まじりに、
五メートルほど前を行く少女の背中を。
のん気そうな足どり、揺れるマフラーとポニーテール、
襟元を直すしぐさ、少女の全てに視線を注ぐ。
何故こんなことをしているのだろう。
何故こんなことをしてしまうのだろう。
毎日、毎日。
少女は歩く。紺野に気付くこともなく。
紺野は動かない。少女だけを見つめながら。
自然と二人の間に距離が開いていく。
もう動かない。もうやめたい。
少女は進んでいく。紺野は止まっている。
少女は離れる。紺野は離される。
少女の姿が2本先の角で消える。紺野は―走った。
走って、走って、少女が曲がったあの角まで走って、そして止まる。
「のんつぁん・・・・・・」
紺野の視線の先には、また同じ背中があった。
何がこの衝動を呼ぶのかと、自問し悲観し焦燥しながら
紺野あさ美は少女を見つめ続けていた。
眩しい太陽。
水色の空。
白い雲。
吹かない風。
キミドリの草。
茶色の地面。
午後3時。
そして大の字の私。
空は綺麗でもこの星は病んでる。緑はなくなっているし、空気は汚れているし、オゾン層だってもう限界だ。
この星はもう終わりだ。
みんな病気だ。
空を回る鳥。いつかは死ぬことを決定付けられた鳥。良く見る鳥。だけど鳥の名前なんてしりやしない。
鳥だって死ぬまでに私の名前を知ることなんてないだろう。
「てめぇーらみんな病んでるよ」
空は憎いほどに青い。私には少し目が痛む。空は遠すぎる。穏やか過ぎる。
私の声なんて届かないだろうし、もし聞えたとしても無視するだろう。
鳥になれば少しは届くのかな。
「あーら、お嬢さん。こんなところで寝てましたらお風邪をおひきになってよ」
首を傾けるとそこは一面薄いピンク。
「いやん。みきたんのエッチ」
中腰の彼女は声だけは嫌がった振りをしていたが、膝の間から見える世界を隠そうともせずに、私の顔を覗き込んだ。
「あのねー、マイニチマイニチマイニチマイニチ女の子がケンカばぁーっかり。これ異常なの、わかる?」
あらためて見ても、ばっちり可愛い顔。透き通るような白い肌、ちっちゃな顔に凛とした瞳。これでもかってくらいに幸せとキュートさが敷き詰められている。
そんな彼女もいつかは死ぬ。
「わかったなら、返事しようねぇ藤本さぁーん」
水色の空をバックに彼女は言う。その構図は雑誌や写真集に載ってそうなくらい見事に絵になっていた。空はすでに彼女のもの。
「ほら、口切れちゃってんじゃん」
彼女は私の隣に座り、取り出したハンカチで私の口を拭いた。
そのピンクのハンカチは甘い甘いニオイがした。私の口の中は鉄の味がした。
「いい、みきたん。あなた普通にしてれば普通に可愛い子なの。それなのに、なんでこんなことするかなぁー」
なんでだろうーなんでだろうー。ジャージを着ればわかるかな。
きっとわからないだろうなー。学校でも教えてくれないことを誰がわかると言うのだろう。
「制服もそんなに汚しちゃって。お母さん悲しい! みきたんが非行に走って悲しいわ!──って、…………ごめん」
ふふふ、謝るなよ、お調子者の亜弥ちゃんが好きなんだ。いつでも元気と幸せでいっぱいの亜弥ちゃんが好きなんだ。
亜弥ちゃん。ハンカチを噛んだって、悲しみは拭えないぜ。
私の哀しみだって拭えない。空いた穴なんて埋まりやしない。
この星は病んでるよ。もうマイニチマイニチあいつらの顔を見るのはウンザリなんだ。
母さんがいないからって何なのさ。母さんが男と出て行ったからって何なのさ。知らない男と一緒に死んだからって何なのさ。
あいつらの顔もやり口も喋る言葉も、何から何までウンザリなんだ。いなくなればいいんだ。
私かあいつらか、どっちかが。
鳥は未だに私の上を飛んでいる。回っている。
クソでもしてみろ。ロケットパンチかましてやる。
「亜弥ちゃーん」
「およ、起きた。なに?」
「鳥になりたいよぉー」
「まぁー可愛い。みきたん以外にロマンチストさんなのね」
亜弥ちゃんに頭を撫でてもらった。だから甘えた。
「鳥になってお空を飛んで、どこか遠くのお星にゆきたいのです」
「だけどねぇー案外鳥もハードっぽいよ」
「なして」
「鳥だって地面に足をつけて休みたいかも。マイニチマイニチ空で羽を動かしてさ。あれって何時でも走ってるようなもんでしょ。私だったらイヤだなー、たまには歩きたいもん」
ふーん、鳥は鳥なりに辛いってか。亜弥ちゃんも亜弥ちゃんなりに辛いってか。辛いのは私だけじゃないってか。
鳥はずっと回り続ける。亜弥ちゃんは横で私に微笑んでる。
──どっちも何も考えてなさそうだけど。
「亜弥ちゃんは今、走ってんの? 歩いてんの?」
「うーん、走るっていうか歩いてるっていうか……助走段階?」
「って感じ?」
「って感じ!」
亜弥ちゃんは手で銃の形をつくり、慎重に空飛ぶ鳥に狙いを済ませて、片目をゆっくり瞑り、
「ばーん」
と、やった。
鳥はひらひらと地面に落ちてくることもなく、何事もなかったかのように──てか、何事もないんだけど──空を回り続けていた。
鳥は飛び続ける。死ぬまで彼らは空で飛び続けるんだろう。私が空に焦がれるように鳥はもしかしたら地面に恋しているかもしれない。私はそんな地面で生きている。鳥が恋する地面で息を吸う。
「すぅー……はぁー」
「おっ、深呼吸! 私もっ!」
吸ってやる。たくさん吸ってやる。土の匂い、草の匂い、鉄の臭い。別に美味しくもないけど、鳥にはここの空気を吸えやしない。
地面も捨てたもんじゃないな。
「あっ!? また寝っ転がった!」
「亜弥ちゃん。地面はいいね」
「いいでしょ、いいでしょっ! なんせ地面には私がいるかんね」
亜弥ちゃんが私の胸の上に頭をおく。
「みきたーん」
「なに」
「心臓鳴ってるよー」
「当たり前」
「そっか。当たり前か」
「まだ生きてるからね。くやしいくらい」
「良かったじゃん。歩けるじゃん」
見なくてもわかる。今、亜弥ちゃんの顔は反則なくらい笑顔だ。
なんだかなー。
まぁー、星も病気ながら必死に生きてるしな。
「私も必死になって歩いてみるか」
「おぉー! 歩いちゃえ、歩いちゃえ!」
亜弥ちゃんは拳を振り上げながら言う。そして振り上げた拳をゆっくり開いて太陽の光にかざす。
「ぼぉっくらはみんなぁーいぃきているぅーいきぃーているからうたうんだぁー」
そして歌詞どおりに唄いだした。
「亜弥ちゃんってさ、──結構病的だよね」
「そんなこと言わないの、はい! みきたんもご一緒に!」
亜弥ちゃんが空に向けて指で指揮をとる。
「勘弁…」
「ぼぉっくらはみんなぁーいぃきているぅーいきぃーているからかなしいんだぁー」
楽しそうに亜弥ちゃんは歌う。亜弥ちゃんはいつだって笑顔だ。そういえば私は亜弥ちゃんの悲しい顔を見たことがない。
亜弥ちゃんは空に向け指揮をとり唄う。大声で高らかに、笑顔で唄う。その姿は空の青さの様に痛かった。
見上げた空は、果てしなく広く遠い。鳥だってこの下で生きている。あいつらだってこの下で生きている。
私だってそうだ。
鳥だって悲しいんだろう、あいつらだって悲しいんだろう、実は亜弥ちゃんも悲しいのかもしれない。
空も地面も結局は病気なんだ。みんな病気なんだ。
でも生きてるんだ。
「みんなぁみんなぁいきているんだぁ友達なんだぁーー!! ってか」
「おぉー立ったぁー! みきたんが立ったぁー!」
陽射しの強い午後3時。
現在、私は空の下で地面に立ち、この病気の星で病気ながら生きている。そしてこれからも生きてゆくし、必死に歩いてみせる。
空に向けて宣戦布告のロケットパンチ。
「ガッツポーズ! みきたんかっこぃーっ!」
「どーも」
おわり
あっちのスレ落ちたけど如何したもんか
やっぱ新しく建てたほうがいいのか?
建てよう。建てよう
n日かな…
立ててくれ
249 :
名無し募集中。。。:04/03/14 02:41 ID:6fA6oraE
age
はぁーい、お・ひ・さ。石川梨華ことチャ―ミーで〜す。
HPNが終わってしばらく経つけど皆さんはどのようにお過ごし?
えっ、もぉ分かってるわよぉ、寂しかったって言っちゃえばいいじゃん
プロデューサーさんったらホントにイケズなんだから。
ま、でね。石川梨華の第二人格ことチャ―ミー石川改め私がただ今潜伏
中のこの場所、どーこだ?
ヒントは都内それじゃシンキング、ターイム!!
って時間が無いので止め。はいそれじゃ正解は……六期亀ちゃんのお部
屋です。
もお、亀ちゃんったら玄関先の植木の下なんかに合鍵置いてちゃダメで
しょ。先輩として後で注意、注意っと。
それじゃメモも取り終わったとこで、服が汚れないようにカッパきて手
袋、帽子に眼鏡。よし完璧だね、始めましょっか。
「お、おはようごさいます……」
「え、絵里、どないしたとよ?」
集合時間までのちょっとした合間私、紺野が暇つぶしで雑誌をペラペラ
捲っていると砂漠を数日間彷徨ってやっと見つけた民家で水くださいっ
て感じの、そりゃもう見るからに満身創痍の亀井ちゃんがはいってきた。
「か、亀井!?」
年上の人達もビックリしたように集まって、あっという間に亀井ちゃん
を中心にした輪が出来る。
私と他何人かは相変わらず座ったまま見てたんだけど、急に人だかりが
できて亀井ちゃんは逆に怯えちゃったらしく隣の田中ちゃんにぎゅっと
抱きついてしまう。しばしの沈黙。
「ぴ、ピンク……なんです」
クスッ
思ったよりずっと長かった沈黙に疲れ、私がまた読みかけの記事に目を
移すと不意に二つの音が不自然なほど同時に重なっていた。
みんなは前者私だけは後者に疑問を感じる。確かに誰か笑ってた。
「昨日家に帰ったら、そしたら部屋がピンクなんです」
「亀井落ち着いて、言ってる事がよく分からない」
「だから、ピンク、ピンクだったんです」
そこまで言うと、何かを思い出してしまったのか亀井ちゃんは部屋の隅
まで猛ダッシュしうずくまってしまう。
突然すぎて誰も動けなかった。ただ一人を除いては……
「亀ちゃん、ピンクはとってもいい色だよ」
ふわりと置かれた右手に亀井ちゃんの肩が揺れる。
「いしかわさん?」
「ピンクはね桜色でしょ。みんなの心の中にピンクは根付いてるんだよ」
「で、でも」
「亀ちゃんは……ピンク嫌い?」
諭すような口調とちょっと困り顔の笑み。普段なら誰かがキモイとちゃ
ちゃ入れるような雰囲気なのに何故か納得してしまうような安心感。
「えと……スキです、、」
そして、それにさらされたせいなのか亀井ちゃんはちょっと戸惑いなが
らも答えた。
「ありがと、亀ちゃん」
……亀ちゃん? なんか変。
石川さんが亀井ちゃんを宥めるのを見ながら妙な違和感に私は知らず
知らずに不審の目を向けていた。石川さんの体が震える。
気付かれた!? 私は慌てて目を逸らす。
「それではお願いします」
同時に掛けられたADさんの声に私は心底ほっとした。でも遅かった。
石川さんと亀井ちゃんが珍しく一緒に帰ったその夜、お風呂上りに濡
れ髪をタオルでいじっていると一通のメールが届いた。
ハッピー!! 次のターゲット発見!!!
だって紺ちゃん気付いちゃうんだもん。い・け・ず
ちょっと前に亀井ちゃんが言ってた、変なメールが来るんだって。春
はピンクが咲く季節。
次の日、亀井ちゃんが桜組の衣装がピンクで本当に良かったとしみじ
み語っていたらしい。
ピンク感染症?
石川さんって??
終わり
254 :
名無し募集中。。。:04/03/16 23:52 ID:bUWP7LcA
ほぜん
ごめん。
下げ忘れた。
負けることが好きな人間なんて世界に存在するのだろうか。
負けるのに慣れた人間ではなく、負けてもいいと諦めた人間でもなく、
負けることを好む、進んで負けたがるそんな人間。
・・・・・・やっぱり、いないな。
少なくともあたしの狭い世界の中にはいないな。
って言うかちょっと変人っぽいな、そんな人。
でも、でももし世界がそんな人ばかりだったら楽なのに。
「しんどいなぁ・・・」
あたしは負けるのなんて嫌だ。
できることなら勝ちたい。それもぶっちぎりで。
どうせもらうなら一等賞がいい。
誰の手も届かないような一番になりたい。
モーニング娘。の一番、アイドルの一番、人間の一番。
・・・それはちょっと無理か。
まあとにかく、この「負けず嫌い」に今まであたしは動かされてきた。
誰からも見下されたくないから、たくさん努力をした。
頑張って、頑張って、頑張って、・・・頑張った。
それがこの現状ってわけですか。これでいいの?藤本美貴。
「・・・いいわけないだろぉー」
「なーにがですかぁ?」
うわぁ。
突然真横にちっちゃな黒髪ストレートが。
ああ、相変わらず顔ちっちゃいなぁ。
「・・・おどかさないでよ。ガキさん」
「あー、やっぱり驚きましたぁ?」
ニコニコと屈託なくガキさんこと新垣里沙ちゃんは笑う。
そう楽しそうにされちゃ、怒る気にもなれない。
「へへ。で、何が『いいわけない』んですか?」
しっかり聞かれてたか。・・・今度から楽屋で考え込むのやめよう。
「えーと、日本の現状?」
「・・・え?」
ボケ失敗。
本気にされてもこまるし、話を変えるか。
「なに、ガキさん今ヒマな感じ?」
「いやぁー、ヒマじゃないんですよ」
ならなんでここに。
「実はですね」
マジ顔であたしを見つめる。
「ニイガキは亀井ちゃんからの重大な任務を果たすため、
藤本さんに会いに来たんです!」
ガキさん・・・。それってパシリじゃあ―
「藤本さん!」
「はい」
「今度のお休み!」
「うん」
「一緒に遊びましょう!」
・・・・・・・・・はい?
「って、亀井ちゃんとれいなちゃんとしげさんから」
ちょっと呆然としているあたしを無視してガキさんは続ける。
「なんか直接言うのは照れくさいってことで、
代わりに頼まれたんですよ。もちろん、ニイガキも一緒しますけどね」
そういうことかぁ。ガキさん、パシリじゃなかったのかぁ。
よかったぁ。もう5期が6期のパシリなんてシャレになんないもんねーって、
そうじゃないだろ、あたし。
「いいよ。まだ予定入ってなかったし」
言いながら、にっこりと笑ってみせた。
やっぱり年上だし?ここは余裕のある対応をしとかないと。
「ほんとですかぁ!」
うん。ガキさん、ハイテンション。
「やっぱり、まこっちゃん達も一緒?」
「はい!まこっちゃんとあさ美ちゃんが一緒で
久しぶりにゴロッキーズです。愛ちゃんは仕事で行けないんですけど・・・」
愛ちゃんは仕事かぁ。ミニモニ。だな、きっと。
「藤本さんが来てくれるなら、もう全然オッケーです。
わたし、みんなに伝えてきまーす!」
言い終わらないうちにガキさんは駆け出していた。
うーん。若いわ。パワーが違う。
あたしも15歳のころは、・・・あそこまで元気じゃなかった。
「ねえー!どこに行くかは決まってるのー!」
すでに10メートルは遠ざかった、ちっちゃな後姿に向かって呼びかける。
「はいー!東京タワーですー!」
・・・・・・・・・・・・あ?
ちょっと待って、今なんて言ったガキ。
「みんな行ったことないらしいんでー!社会科見学な感じでー!」
社会科・・・見学。
いや、社会科見学はいい。
なんの問題もない。あの子達らしい実に可愛い発想。
ただ何であたしと一緒のときに限って東京タワーなんて
チョイスをするんだろうなーってだけで。
もっとあるでしょ、遊園地とかショッピングとか。
社会化見学なら、えーと・・・都庁とか?行きたくないけど。
「ねぇー!ガキさーん!」
あわてて呼んだけど、ガキさんはもう走り去っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
さて、うまい断り方考えなきゃ。
・・・亜弥ちゃんと予定入れてたってことにしようかな。
あ、ダメだ。亜弥ちゃんその日仕事だった。
じゃあ仮病。あと急用、災害、家族の不幸・・・。
あたしは行けない言い訳を指折り数えて創作しながら、
なんとかあの子達の気が変わってくれないかと祈っていた。
「うわーあ」
「すごいすごい!」
「TVとおなじ!」
カメラがあるわけでもないのに、いいリアクションをとる6期3人組。
今日は朝からずーっとはしゃぎっぱなしだけど、全然疲れる気配はない。
「・・・・・・なんでこうなったんだろ」
思わず小声でつぶやいた。
ここは、東京都港区芝公園。目の前には東京タワー。
・・・なんだかなぁ。何で来ちゃったんだろうなぁ。
仮病使おうと思ったら、紺ちゃんとまこっちゃんが
家まで迎えに来てたってのが最大の理由だけど。
だけどなぁ。居留守って手もあったわけだし・・・・・・。
「それじゃあ早速大展望台に行きましょうかぁ」
嬉しそうに田中が提案する。
もはや逃げ場はない。
覚悟を決めろ、藤本美貴。
「社会科見学って、小学生のときに道庁行って以来かも」
外の景色を見ながら紺ちゃんが言う。
「そーいや。あたしも行ったなぁ、道庁」
外の景色を見ずにあたしは応じる。
ああ、なんだか足がふらつく。
「やっぱり行きましたぁ?六年生で」
「・・・うん。確か六年生」
「なに?ドウチョウって」
「北海道庁だよ。都庁とか、麻琴のとこで言えば新潟県庁みたいな・・・」
「ああ、県庁の北海道バージョンかぁ」
「うん。・・・ん?何か変な気もする・・・」
なんで展望台に登ってまで、
こんないつもと変わらない会話を繰り返すのか、この二人は。
外の景色について触れなよ。外の景色。
・・・それにしても、気分悪いなー。
「そーいえば、藤本さん」
「はいっ?」
思わず声が裏返ってしまった。
びっくりしたぁ。突然こっち振らないでよ、まこっちゃん。
「松浦さんって高いとこ好きなんですよね」
・・・亜弥ちゃんか。
「うん。そうみたい」
あたしは嫌いだけどね。
高いとこなんて、怖いだけで楽しくもなんともない。
格好悪いね。高所恐怖症だなんて。
「藤本さーん」
ぶんぶんと手を振りながらしげさんがやって来る。
両手にはお土産用紙袋。ここにそんな買うべき物があるとは。
「そろそろ特別展望台行きましょうよ」
・・・・・・・・・・・・特別?
「特別…なんだって?」
「だからこの上の特別展望台です。
って、もしかして藤本さんも東京タワー初めてなんですか?」
「・・・そーだけど」
この上?この上?まだ上がるの?
「なんだぁ。そうだったんですかぁ」
「誘ってよかったねー、れいな」
なぜか6期3人組は喜び出した。
あたしがショックを顔に出さないよう精一杯努力してるなんてこと、
まるで気付く様子はない。
まあ・・・いいんだけどね。
「それなら一刻も早く特別展望台に行かなくちゃね!」
やっぱよくない。
これ以上高いところになんて行けるかっての。
楽しそうなこの子達には悪いけど、藤本美貴、戦線離脱します。
「ねえ、ちょっと待って」
6人の目線が一斉にこっちを向いた。
キョトンとした丸い瞳が6人分。つまり12個。
「・・・上までいくら?」
「600円です。藤本さん」
自分で逃げ場をなくしてどうする、美貴。
「藤本さーん。こっちですよー」
「はいはい〜」
もう嫌だ。帰りたい。
あたしは心の中で半泣きになりながら、
潔く特別展望台へのエレベーターに乗り込んだ。
「あの・・・藤本さん。顔色悪くありません?」
エレベーターの中で、心配そうにガキさんがあたしの顔をのぞきこんだ。
「そう?」
やっぱり?顔に出てる?
確かに自分でもヤバイとは思ってるんだけど。
「ほんと。真っ青ですよ!」
同じように覗き込み、大声を出す亀井ちゃん。
「うん。ちょっと・・・貧血っぽい」
足元がふらつく。
頭からスーッと血の気が引いていくのが自分でもわかる。
「うそ!大丈夫ですか?・・・あ!」
あ。
・・・・・・あーあ。
「着きましたよ!藤本さん」
ガラスの向こうの青があたしを迎えた。
明るく眩しい空。きっとその下には、ビル、家、道、人。
亜弥ちゃんはどうしてこれが楽しいんだろう。
いや、あたしの方がおかしいのか。
高いところにいるというだけで、こんなに怯えなくちゃならない。
あたしの方が絶対おかしい。
「藤本さん!とりあえず椅子あるみたいだから座ってください!」
椅子?ちょっと待って。足がうまく動かない。
なんでかな。一歩も進めない。
とにかく足元が不安定に思えて、自分が立っていられるのが不思議で、
吐き気がして、頭が痛くて、眩暈が―
「藤本さん?」
「大丈夫ですか?」
一番になりたい。世界の頂上に立ちたい。
いま亜弥ちゃんに負けてることが悔しくて悔しくて堪らない。
だけど、本当はね。一番になるのが少し怖いんだ。
努力して、皆を蹴落として、そうしてトップに立ったとき、
あたしは何を得ることができるのだろう。
もしその時、あたしが得るのが満足ではなく充足でもなく、
ただこの眩暈だったら―
「藤本さん!」
床が崩れた気がした。
もちろん、崩れたのはあたしだった。
結局あたしには地面で這い蹲っているのがお似合いなのかな。
「藤本さん?起きましたか?」
・・・田中の声がする。
ここ、どこだっけ。
「やっぱり貧血だそうですよ。気分よくなりました?」
ああそうか。あたし倒れたのか、格好悪い。
「えっと、ここは?」
「タワーの医務室です。係員さんに運んでもらったんで・・・」
田中の声がおかしい。
あたしは皆の顔を見渡した。
田中、しげさん、亀井ちゃん、ガキさん、紺ちゃん、まこっちゃん。
「もう大丈夫。ゴメンね、みんな」
「なに言ってんですかぁ」
「よかったぁ。・・・藤本さぁん」
・・・・・・・・・なに泣いてんのよ。
なに泣いてんのよ、あんたたち。
あーあ、こういうのやだなぁ。
あたしはいつかあんたたちを見捨てていくつもりなの。
あんたたちを踏み台にしてトップに立つの。
だから、だから優しくなんてしないでよ。
懐いてこないで。
捨てられないじゃない。
あんたたち置いていけないじゃない。
「・・・ごめんね」
たとえ何が得られるのかわからなくても、
それでもあたしが目指すのは一番の場所。
現状は最悪。
多くの女の子たちの中で、埋もれないように必死。
亜弥ちゃんとの差は開く一方。
だけど、この子たちといられて嬉しい。
今は、楽しい。
この状況に甘えてダメになるつもりはないけど、
一日ぐらいは、今日ぐらいは気を抜いて遊んじゃおう。
「・・・ね。お腹すかない?」
「え?」
「・・・そういえば、ちょっと」
「決まり!ごはん行こ!」
あたしはベッドから飛び降り、カバンを掴んで外に出る。
急に自分の足を、力強く感じた。
おしまい。
藤本さんは天使のような微笑を浮かべている。
「きゃー!このビカクシダちゃん、すてきぃ〜♪」
「…雑草じゃねえの」
藤本さんは鬼神のような眼付きで僕を睨む。
小便ちびりそうになった、いや、マジで。
「この裸葉と胞子葉の芸術的な絡み合いが理解できないなんて、信じらんない!」
「理解できるの、学校で藤本さんと希美だけだと思う」
「あなた、シダ部むいてないわね」
「いや、最初から言ってるじゃん。僕は希美に無理矢理…」
「アァ〜ン。こっちのポリポディウムちゃんも順調に育ってるわ」
僕は眉間に指を当てて、言葉を詰まらせた。
彼女がシダ植物に目を向けている時は、何を言っても無駄だと段々わかってきた。
(大体、なんでシダ部だよ…)
この小さな部室の中は、変な形の植物でいっぱいになっている。
藤本さんと希美から言わせれば「可愛い」らしいが、僕にはちっとも理解できない。
「ポリポディウムちゃんはね。アフリカかオーストラリアでしか見れないんだから」
「あーそ」
「何よその、やる気のない返事は」
「やる気って言われても…」
藤本さんは怖い。学年は同じなのに、部長だと言ってやけに高圧的態度をとる。
(しゃべんなきゃ美人なんだけどな…)
「何か言いました?」
「いいえ、申しておりません」
納得してくれたのか、藤本さんはまた別のシダに目を移した。
僕はホッと安堵のため息をつく。すると部室の扉がガラガラッと豪快に開いた。
もう一人のシダ部員、辻希美が植木鉢を抱えてやってきた。
「辻ちゃん、遅いわよ。この人じゃ話にならなくて…」
ややきつい口調で藤本さんが問い詰めると、希美の眼に大粒の涙が溜まり出した。
「な、な、な、泣くことないでしょ!」
「やーい、泣ぁ〜かした、泣ぁ〜かした」
「あんたは黙ってて!ちょっと辻ちゃ…」
「…病気れす」
僕と藤本さんは同時に「?」マークを頭上へ浮かべた。
希美は目に涙をためながら、持っていた植木鉢を僕らの方へ見せた。
「うえぇ…変な色」
「コンテリクラマゴケね。藍色のきれいな葉が特徴の」
「どこがきれいだよ。茶色じみて汚ねぇじゃん」
僕がそう言うと希美は肩を震わせて本格的に泣き出した。
とがめる眼つきで藤本さんは、さっき僕が言った台詞をそのまま返してきた。
「泣ぁ〜かした、泣ぁ〜かした」
「お前もう高1だろ、泣くかよ普通」
「ののの愛するコンテリクラマゴケちゃんが!病気になっちゃったんだも〜ん!」
そうそう、希美は昔から泣き虫だったよな。
近所の悪ガキにいじめられているの、何度か助けたことあったっけ。
おかげですっかりなつかれて、高校まで同じ所に来やがった。
挙句の果てには、シダ部作ったから入部してなんて無理矢理付き合わされるし。
「わかった、わかった。この病気を治せばいいんだろ。だから泣くな」
「ほんとれすか!」
「いや、できるかわからないけど一応やってみよ」
「うん!」
希美の良いところは立ち直りが早いところだ。
「つーか、あんたできんの?」
「知恵をお貸し下さい、藤本様」
部室に希美を残し、僕は廊下で藤本さんに懇願した。
彼女のシダ植物に関する知識が半端ないことも、分かっていたからだ。
「条件。一週間、奴隷ね」
「へへ〜藤本様」
「女王様とお呼び」
(バカめ、好都合だ)
こうして僕は美貴女王様の奴隷に成り下がりました。
「それで、どうすればいいでしょう。女王様」
「オホホホ、あれは単に水やり忘れてるだけよ」
「え!そんだけ」
「そぅ」
なんかムカつくな、この女。
ともかく僕は部室に戻り、希美の前で豪快に水をかけてやりました。
――――――――そして1週間後。
「うわぁーーーい!コンテリクラマゴケちゃんが治ったのれす!!」
小さな部室で植木鉢を抱えた希美が小踊りする。
その様子を、僕は横になりながら温かく見守った。
「何、寝てんの邪魔よ」
「うるさい。この一週間、ワガママ女王にコキ使われてボロボロなんだ」
「自業自得でしょ。あっ、辻ちゃん。私にも見せて〜♪」
すっかり病気の治ったシダ植物を、希美と藤本さんは心から嬉しそうに眺めている。
「美貴先輩、美貴先輩。やっぱり常緑多年草はいいですよねぇ〜」
「ね。特にこの子は環境で色彩が変化して、レインボーフォーンとも呼ばれるのよ」
僕をほうっておいて、二人楽しげにシダ談義に花を咲かせている。
(やっぱり、こんな部やめてやる)
ふてくされていると、希美が立ち上がり窓のカーテンを開けた。
「見て、見て〜」
太陽からの光で、コンテリクラマゴケの色彩が鮮やかに変化する。
これがレインボーフォーン。
僕は不覚にも、初めてシダをきれいだと思ってしまった。
「お兄ちゃんのおかげで、この子の病気治ったんだよ」
そう言った希美の笑顔は、太陽に照らされキラキラ輝いていた。
一方の、藤本さんはニヤニヤと僕を見ている。
「だってさ、お兄ちゃん」
「うるせ」
起き上がってシダのよく見える位置に動く。
もう少しだけ、この部にいてもいいかなって思った。
――――――希美の「泣き虫」って病気が治るくらいまで。
おわり。
マネージャーが放ったその言葉は右耳から入った後、一瞬私の中にとどまり
左耳から抜けて行き、紺野ちゃんに届いた。
あるいはヨッスィと梨華ちゃんの耳を通過した言葉が、連想ゲームのようにデフォルメ
されて、私の右耳に入ったのかもしれない。そう思いたかった。
「あいぼんが意識不明の重体・・・」
その場に居合わせたメンバー全員の耳を通過し、2週目に入ろうかという所で、
やっとその意味が理解できた。紺野ちゃんと梨華ちゃんは泣きそうな顔でヨッスィを
見つめている。ヨッスィもすごく動揺していたけど私達に落ち着くよう諭してくれた。
雑誌の取材中に呼び出された私達は、(とてもそんな気分じゃなかったけど)テーブル
に戻り、加入当初のようなたどたどしい口調でインタビューに答えた。
マネージャーの助けもあり、なんとか記事になりそうなところで終わりにしてもらい、
あいぼんがいる病院に向かった。マネージャーが運転する車の中で、取材の内容を思い
出そうとしたが無理だった。どんな顔をしてただろうか?きっとすごい顔をしていたに違
いない。ただそれも、あいぼんの事故が公けになれば、記者の人も納得してくれるだろう。
「ドラマの撮影中に、機材が崩れて加護が下敷きになったらしいの・・・」
「意識が・・・無いんですか?」
「・・うん。血も結構でてたらしい。」
泣き崩れた梨華ちゃんをヨッスィが抱きしめている。
紺野ちゃんは気丈にも耐えていたけど、私の手を握る力が強くなり熱を帯び始めた。
もっとも私も同じかそれ以上の力で、紺野ちゃんの手を握りかえしていたんだけど。
マネージャーは30分ぐらいで着くと言っていたし、実際30分ぐらいで着いたのだけど、
その時の私には永遠に感じられた。何も聞こえない世界。
窓から見える景色は絶えず流れているが、数分前に見た町並みとどこが違うのか
良く分からなかった。悲しみ、戸惑い、怒り、後悔・・・種類は特定できないし、
する事に意味があるとは思えないが、とにかくマイナスの感情が私の中から溢れ、
私を包んでいた。私だけじゃない。みんなも自ら作り出した感情の海に溺れているよう
だった。私は窓を開けてみたが海水は車内に留まるばかりか、その量を増やしていった。
車が止まった。泣き疲れて眠ってしまった梨華ちゃんを起こして外に出ると、
ドラマに出てくるような大きな病院があった。そしてドラマに出てくるような愛想は悪いが、
確かな腕と情熱を持ったお医者さんがあいぼんを助けてくれている。
そんな事を考えながら、病院へと向かった。
正面玄関前はリポーターやカメラマンで溢れていた。
棟と棟をつなぐ通路にも張り付いている。事故のことが知れ渡っているのは明らかだ。
マネージャーは一番入りやすそうな所を探していたが、私は正面玄関に突っ込んでいった。
人を掻き分けて進んでいったが、病院まで後少しと言うところで捕まってしまった。
いつもとは勝手のちがう質問やフラッシュを浴びせられ、私は泣きそうになった。
あいぼんが死んじゃうかもしれないのに何で通してくれないの?どいてよ!
そう叫びたかったが、マスメディアに対して本音で接してはいけない。と、ここ3年の間に
作られた理性に押し込められ、より惨めな気分にさせられた。
その時、前のほうでざわめきが起きた。
騒ぎを聞きつけた事務所の人が、強引に道を作ってくれたのだ。
そして、道の奥から伸ばされた長い手につかまれ、一気に病院まで駆け込んだ。
倒れ込んだ私が見上げた先には、飯田さんの姿があった
飯田さんは私を抱きしめ、優しい声でお説教を始めた。
「ほんとにこの子は。こんな無茶してぇ。」
「ごめんなさい。」
自己嫌悪と安堵感から私は泣いた。こうして飯田さんに抱かれるのは久しぶりだ。
加入当初はことある毎に泣きついて慰めてもらったが、最近ではほとんど無かった。
それは私が成長したせいだろう。後輩が入り、年齢の上ではお姉さんチームになった。
それでも私にとって飯田さんは、センパイであり教育係でありお姉さんだ。
今改めて思う。そして私は良いお姉さんになっているだろうか?
紺野ちゃんの手を握ることしか出来なかった。というか私の不安を紺野ちゃんに
受け止めてもらった気さえする。もし私に泣きついてきたらどうしてただろう。
かける言葉がみつからない。しっかりしなくては。
急速に膨らみ始めたお姉さん意識により、私は飯田さんから離れた。
「飯田さん。あいぼんは・・・」
「・・・うん。行こうか。」
私たちはゆっくり立ち上がり、エレベーターへと歩き出した。
飯田さんも誰かに泣きつくことなんてあるのかな?
病室へ向かうエレベーターの中、私はそんなことを考えていた。
案内された病室は個室ではなく、共同で使う大きな病室だった。
中に入ると、そこに病室という雰囲気は無く、ちょっとしたパーティーのように見えた。
6台あるベッドにはメンバー、事務所のスタッフ、ドラマのスタッフと共演者、テレビ関係者が
それぞれ腰掛け、あいぼんの姿はない。私を見つけたメンバーが駆け寄ってきた。
「あいぼんは?」
「集中治療室。大人数で行くと迷惑だから、順番に行くことになってる。
今はごっつぁん達が行ってるから戻ったら行ってきなよ。」
「まだ意識は・・・」
「うん。戻ってない。」
本当はすぐに会いに行きたかったが、
とりあえず容態に変化は無いことが分かったので待つことにした。
矢口さんに連れられてベッドに腰を下ろすと、遅れてマネージャー達も到着した。
やはり取材陣を掻き分けて入ってきたらしく頭はボサボサだ。
ベッドがいっぱいになったので私と矢口さんの元ミニモニ。コンビがベッドに上がって席を空けた。
矢口さんはさっき私にしてくれた説明を、もう一度マネージャーにしていた。
ベッドの真ん中で体育座りの私は病室を見回してみた。
窓の外はオレンジ色に染まり、一日の終わりを知らせている。一方まわりの大人達は
これからが始まりだと言わんばかりに忙しなく動いている。
携帯電話が使えないせいか、病室の出入りも激しい。
自分も電源を入れっぱなしだったことに気づき、携帯を取り出し電源を切った。
ストラップはあいぼんと同じもの。隣で揺れている名前を知らないキャラクター
もあいぼんと買った物だ。私の人生には、かなりあいぼんが溶け込んでいる。
もし私が商品化されたとしたら、原材料名には『加護亜依』と記されるだろう。
それくらい濃い付き合いだ。
「辻。」
矢口さんに呼ばれて振り返ると、後藤さんの姿があった。
後藤さんはこの世の終わりのような顔をしていた。
教育係だった後藤さんにとって、やはり特別な存在なんだなあと思った。
というか、タンポポとしてのあいぼん。ミニモニ。としてのあいぼん。
後輩としてのあいぼん。同期としてのあいぼん。先輩としてのあいぼん。
娘。としてのあいぼん。芸能人としてのあいぼん。
いろんな人の中でいろんな形で特別な存在でいるんだろう。
玄関前の報道陣や、ごった返した病室を見ればそれが良く分かる。
「のんちゃん。行こう。」
既に病室を出ている紺野ちゃんに「うん。」と答えると、ベッドを降り、靴を履いた。
それから、後藤さんの手を握って「だいじょうぶだよ。」と言った。
だいじょうぶかどうかなんて分からなかったけど、そうすることが正しいと思った。
集中治療室に近づくにつれ、私はあいぼんを見るのが怖くなった。
マネージャーから聞かされた時は飛んで行きたいと思ったし、
今でも「やめるか?」と聞かれれば「行く。」と答える。
ただ、ここが病院であることを再認識させる規則的な景色や、
後藤さんの青ざめた顔が私を怯えさせる。きっと梨華ちゃんたちも同じ恐怖と戦って
いるのだろう。病室を出てから唇を固く結んで、一言も発していない。
時折くる分岐路を無視し、真っ直ぐ歩き続けた私たちだったが、スタッフに続いて
右に曲がると、集中治療室というプレートが目に入ってきた。
他の部屋となんら変わりないその外観は、プレートだけが集中治療室であることを主張していた。
中に入った私たちを出迎えてくれたの1人の看護婦さん。
スタッフの人は看護婦さんにバトンタッチしたので部屋には看護婦さん、マネージャー、
ヨッスィ、梨華ちゃん、紺野ちゃん、私の順番で並んでいる。
集中治療室(の見学席?側)は細長い部屋で、皮のベンチや小さなラックしか
置いていない簡素な造りだった。
ただ、ガラス張りの大きな窓の向こうには数人のお医者さんと看護婦さん、
良く分からない機械が並んでいた。
そしてその中央にはベッドで目をつぶっているあいぼんがいた。
額と首に包帯をしている以外、顔に目立った傷はなく、すぐあいぼんだとわかった。
とりあえず、芸能界からの引退はないと不謹慎?にも思ってしまう。
休憩中居眠りをしているあいぼんと同じ顔だ。後は目を覚ますだけだよ。
「運ばれて来た時から意識は戻りませんが、容態は安定しています。」
看護婦さんが何回目かになるであろう説明を私達にしてくれた。
病状の詳しい説明に入ったが、『骨折』ぐらいしか私が理解できる単語がなく、
諦めてあいぼんのほうに目を戻した。集中治療室はレコーディングスタジオのように見える。
私には良く分からない音楽機器を操るアーティストに囲まれて、あいぼんはどんな歌を
歌っているのだろう?つんくさんもこんな感じで私たちを見てるのかな?
そういえばモーニング娘。に入って間もないころ、見学に連れて行かれたよね。
4人ではしゃいで怒られたっけ。あの時も今みたいに真剣に見てたら怒られずに済んだのにね。
でも私は怒られてもいいからもう一度あいぼんとバカしたい。
モーニング娘。でいられる時間だって、もう少ししかないんだよ。
だからお願い。目を覚まして。
吐く息でガラスが白くなるくらい食い入るように見ていた私は、肩をたたかれて振り返った。
「もう時間だって。」
梨華ちゃんが残念そうに言う。見回せば部屋には私と梨華ちゃんと看護婦さんしかいなかった。
あいぼんだけは変わらずに眠っている。
「のんちゃん。」と催促する梨華ちゃんに頷いて私たちは部屋を出た。
「あんたたちはもう帰りなさい。事務所の人に送ってもらえるよう頼んどいたから。」
「いやです。あいぼんが目を覚ますまでここにいます。」
「だめよ。明日はコンサートでしょ。」
「加護さん抜きでなんて出来ません。」
メンバーがいる病室に戻る途中、マネージャーと私たちは口論になった。
私と梨華ちゃんのおとめ組は昨年から動きが無いが、さくら組は安倍さんが抜けて
初めてのツアーとなる。さらにあいぼんまで居ないとなると、そのダメージは大きい。
「加護の意識が戻った時、自分のせいでコンサートが中止になったと知って喜ぶと思う?」
「・・・・」
「あなた達はプロで、明日のお客さんはお金を払ってあなたたちを見に来てくれるのよ。
たしかに加護が居ないのは痛い。その中でも最大限にすばらしいものを見せるのがプロでしょ。」
マネージャーの言葉に何も言い返せなかった。
私達の世界はそんなに甘いものじゃない。でもそれは承知の上で入ってきたんだ。
「・・・はい。」
「加護ならスタッフが見てくれてるから。大丈夫、心配しなくていいのよ。」
メンバーと合流した私達に今後のスケジュールが発表された。
さくら組は今夜の最終で群馬に出発。早朝からあいぼんを外したフォーメーションを練習する。
飯田さんは記者会見。その他のおとめ組メンバーは予定通り、朝出発する。
「じゃあまた明日ね。」
飯田さんはそう言うとスタッフの人と会見会場に向かった。病院のホールを使用するそうだ。
その隙に私たちは病院を出ることになっている。
玄関前、誰も居ないのを確認して急いで車に乗り込んだ。帰る方向から私と紺野ちゃんは
同じ車に乗っている。紺野ちゃんと過ごす時間は少なくない。たいていはくだらない話をしている。
今日くらい何もしゃべらず、何も食べないのは初めてじゃないだろうか?
3月とはいえ日が落ちるのは早く、あたりは真っ暗だ。
私は夜景と窓に映った自分の顔と紺野ちゃんを見つめていた。
車はまず紺野ちゃんの家に着いた。
去り際に紺野ちゃんを励まそうと思ったけど、言葉が出てこず結局、
「がんばってね。」としか言えなかった。
でも紺野ちゃんは「ありがとう。」と言ってくれた。
再び動き出した車の中では、携帯テレビから記者会見の映像が流れていた。
スタッフの人が気を利かせてくれたのか、それとも自分が見たかっただけか。
飯田さんはしっかりとした口調であいぼんの容態を説明していた。
しばらく見ていたが、疲れと心地よい振動で私の意識は遠のいて行った。
−−
翌朝、お母さんに起こされた。時計は6時を指している。
「まだ6時じゃーん。」
「加護ちゃんの意識が戻ったって。事務所の人が迎えに来てるわよ。」
布団に潜ろうとしていた私は一気に抜け出し、「ホントに!?」と確認した。
「ホントよ。」とお母さんは言った。
急いで着替えると、用意しておいたバックを掴み部屋を飛び出した。
「ちょっと待ちなさい。」
スニーカーのかかとを潰して出て行こうとした私に、お母さんはおにぎりを渡し
「良かったわね。」と言った。私はうなずいてドアを開けた。
車に乗り込んだ私は、靴を履き直した。既に飯田さん、重さん、れいなちゃんが乗っていて
「遅いですよー」とからかわれた。私としてはベストラップだったんだけど。
そう思ったが、ついつい口元が緩んでしまう。
朝6時ということもあって道はすいている。おにぎりも美味しいし、空も青い。
幸せとはこういうことを言うのだろう。
「朝から良く食べれますねー。」
れいなちゃんは呆れた様にそう言ったが、あいぼんの知らせを受けてから何も口にしていない
私にとって、このおにぎりは今この瞬間に食べられる運命にあるとさえ思えた。
重さんがものほしそうに見ていたので、1つあげると喜んで食べていた。
れいなちゃんは「お前もかよ。」とつっこんでいる。最近藤本さんに似てきたなあ。
飯田さんはそんな私たちを見て笑っていた。目の下に大きなクマは出来ていたけど
そんなことは気にならないくらい良い笑顔だ。
病院についた私たちは裏口からこっそり中に入った。
だいぶ少なくなったが正面玄関には多くの報道陣の姿があった。
あの中に飛び込んで行くとは我ながらたいしたのもだ。でも
「あのくらいなら今度は突破できるかな?」
と言うと、「バカ。」と飯田さんに叩かれた。
一般病棟に移ったようでナースセンターで病室を聞くと、最上階の一番奥と言われた。
ボリュームを抑えてあいぼんになんて言おうかと相談しながら廊下を歩く。
私は「あいぼんのヤロー心配させやがってー。」とボディブローをお見舞いしたかったが
一応病人なのでやめる事にした。
病室の前まで来た私たちは、窓の外の景色に目を奪われた。
どこかの展望台にいるような気分になる。ドアも昨日の集中治療室と違い豪華な造りだ。
「VIPルームだね。」
そう言いながら飯田さんはインターホンを押した。
目の前にあるカメラにニッコリと笑顔を向けるとガチャッと鍵の開く音がした。
ドアを開けると同時に「あ〜いぼ〜ん。」と駆け込んだが、そこには昨日と同じ空気があった。
あいぼんは寝たままこっちを見て笑ってくれた。でも、泣いていた。
あいぼんのお母さん、お婆ちゃん。一足先に到着していた梨華ちゃん、藤本さん、
まこっちゃんも泣いている。
唖然とした私たちに対して、梨華ちゃんが説明してくれた。
「あいぼんね。声帯が切れちゃっててね。もう・・・声出ないんだって。」
「ええっ。」
驚いたれいなちゃんは重さんと目を合わせた後、目のやり場に困ったようで
落ち着かなくみんなの顔をみている。
飯田さんはしゃがんで泣いてしまった。
私は・・・あいぼんを見た。さっきと同じように笑っていた。
それが悲しくて私も泣いた。
声が出ない。それは歌手、芸能人としての引退はもちろん、日常生活でも苦しいハンデだ。
夏に卒業を控えている私とあいぼん。私はソロになるんだろうか?りんねさんみたいに。
りんねさんて何してるんだっけ?ああ、もういないんだ。「W」じゃないよ。
ひとりだから「V」だよ。変な名前。ヴィクトリーって娘。じゃん。
涙がひとつこぼれる度に、くだらないことが浮かんでくる。
「あいぼん。いやだよ。私一人なんて無理だよ。」
あいぼんは何も言わない。いや、必死に伝えようと口をパクパクしていた。
私も必死で聞き取ろうとしたが、何を言っているのか分からなかった。
世間からは双子みたいと言われ、あいぼんと出合ったのは運命なんて言ってたのに。
声が出なくなっただけで、もう意思の疎通が出来ないなんて。
「わからない。あいぼんわからないよ。」
悔しい。涙がとまらない。私はあいぼんの手を握り、ただ泣いた。
どれくらいそうしていただろう。インターホンが私たちの沈黙を破った。
あいぼんのお母さんが確認してドアを開ける。マネージャーだった。
「みんな・・・時間よ。」
マネージャーも事情を聞いているのだろう。
あいぼんのお母さんに一礼すると、申し訳なさそうに言った。
みんな重い足取りで部屋を出て行く。
「また来るから。」
「大丈夫。絶対良くなるよ。」
まるで卒業コンサートのようにあいぼんに声をかけている。
あいぼんも笑って頷いていた。
「のんちゃん。」
昨日と同じように梨華ちゃんが催促する。頷いて立ち上がろうとした時
「「行かないで。」」
「えっ?」
驚いて振り返った私は、あいぼんに尋ねた。
「いま行かないでって言った?」
「「うん。ここにいてほしい。」」
はっきりと声が聞こえた。さっきまでは全く分からなかったのに。
わかったよ、あいぼん。私は振り向いて梨華ちゃんに言った。
「梨華ちゃん。ごめんね。私行けない。」
「えっ?」
「辻加護は2人で1人だもん。私1人じゃやっていけない。
ちょっと早いけど卒業だよ。それにあいぼんの声も聞いちゃったし。」
梨華ちゃんは困ったように飯田さんに助けを求めた。
私も飯田さんを見つめた。飯田さんはあいぼんを見た後、真剣な顔で
「辻。本当にそれでいいの?後悔しない?」と質問した。
私は目を閉じた。そして飯田さんの言葉を繰り返した。
本当にいいのか?後悔しないか?答えは出た。
「しません。」
「そう・・・じゃあお別れだね。」
「はい。」
「さよなら。辻。」
「いいらさん。いままでありがとうございました。」
飯田さんは昨日と同じように抱きしめてくれた。温かかった。
私も昨日と同じように泣いた。
ああ、もうこの感触を感じることはないんだ。
飯田さんは悲しいような怒ったような困ったような顔をしていた。
ああ、もうこの顔も見ることはないんだ。
私はこの瞬間を忘れないようにと必死で記憶した。
メンバーが去った後、あいぼんのご家族の人もいなかった。
気を使ってくれたのかな。
あいぼんはもう泣き止んでいて、満面の笑みを浮かべていた。
私も袖でゴシゴシ顔を拭くと精一杯の笑顔をあいぼんに見せた。
あいぼんは布団をめくった。
「「いっしょに入ろう。」」
「・・・うん。」
本当はだめかもしれないけど、靴を脱いでベッドに上がった。
確か骨折しているので、そーとそーと布団に入る。
あいぼんは笑っている。大丈夫。私は間違ってない。
そして飯田さんにしてもらったように、優しく優しくあいぼんを抱きしめた。
あいぼんはすごく冷たかった。
−−
飯田は大きなため息をついて新聞から目を離した。
一面には辻加護に関する記事が踊っている。
既に他のメンバーも読んだらしく、あちこちにしわがあったり滲んで読みにくい部分が多々あった。
これから記者会見が控えている飯田だったが、何度やっても慣れるものではない。
モーニング娘。はこれからどうなっていくのだろうか?
辻加護は夏に卒業する予定だった。それが少し早まっただけだ。
しかし、今までの卒業とは違う。今までは娘。ではなくなっても、会えないことはなかった。
安倍とは毎週のように会っている。しかし今回は違うのだ。
メンバーも動揺している。リーダーである自分がしっかりしなくては。
飯田はそう自分に言い聞かせると、新聞をたたみ立ち上がった。
そして、自慢のロングヘアーを揺らして会場へと足を向けた。
−−
◆辻希美さん 臓器傷による出血多量のため死去
人気アイドルグループ、モーニング娘。のメンバー辻希美さん(16=つじ・
のぞみ)が13日、都内の病院で死亡した。辻さんは12日午後8時すぎ、所属
事務所スタッフが運転する軽自動車に乗車中、ハンドル操作を誤り対向車と衝突
した。XX救命センターに運ばれたが、13日午前6時50分、臓器傷による出
血多量のため死去した。
辻さんは13日未明に亡くなった加護亜依さん(16=かご・あい)に面会し
た後、自宅へ向かう途中だった。
モーニング娘。はテレビ東京の番組「ASAYAN」から生まれたグループで
辻さんは第4期メンバーとして加入した。グループ内ユニットのミニモニ。とし
ても活躍し、幅広い層から人気を集めた。今夏、加護さんと共にモーニング娘。
を卒業し、「W」(ダブルユー)としてデビューが決まっていた矢先の事故で、
関係者は大きなショックを受けている。モーニング娘。の今後の予定は今のとこ
ろ未定。
完
ほぜん
ほぜん
川*’ー’)<あいろだ(仮)やよ〜
304 :
ねぇ、名乗って:04/03/26 22:11 ID:DubNBlwh
亀井が実力不足で脱退解雇 アメリカに単独渡米。アメリカでバイトしながらレッスンを志すが相手にされず 食うに食われず教会にいくと謎の黒人男性(マディウォーターズ)に出会う。
305 :
ねぇ、名乗って:04/03/26 22:16 ID:DubNBlwh
亀井本人はその黒人男性を単なる爺さんとしか思ってなかった。 その黒人老人の家にお世話になり教会でゴスペルやブルースを歌って孤児に奉仕。それを見守る謎のほほのふっくらした日本人女性(福田某?)
306 :
ねぇ、名乗って:04/03/26 22:21 ID:DubNBlwh
そのころ日本では大騒ぎ 元モー娘。のメンバー解雇後に行方不明?神隠しか?拉致か?ヒキコモリか? 一方亀井はアメリカに渡り真の歌う意味の大切さを知る。 謎の日本人福田某?は常に亀井にキツクあたった。それは何故なのか?そう
307 :
ねぇ、名乗って:04/03/26 22:25 ID:DubNBlwh
疲れたのでもう打ち切り。要するに亀井は娘。をクビになり。波乱万丈の経緯をえて 三年後に娘。に復活しエースになる成長物語にしたかった。
308 :
ねぇ、名乗って:04/03/26 22:33 ID:DubNBlwh
西暦2010年 遠藤愛香は少年院出のメンバーとして8期メンに加入。春の気配が漂う3月初旬 モ娘。リーダーの嗣永桃子は遠藤を呼び出した
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次のお題です。
・『しるし』を題材に30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)。
・投稿期間は本日〜3/15 23:59まで(20日間)。
・必ず完結させたものを上げる事。
・投稿時、名前欄はタイトルを入れる。
・作品の最後もしくは次レスに『完』や『終わり』というように終了を明確に記す。
・作品を上げる時に前の作品が完結しているのか確認を。
・添削は『娘。小説作家養成塾 其の3』で随時行う。
訂正です……
・投稿期間は本日〜4/15 23:59まで(20日間)。
あたしはあたしがこの世界で生きている印を示したくて、芸能界に足を踏み入れた。でも実際は、
たくさんの女の子の中、他に紛れない様に必死だった。周りから見たら結局あたし個人だけを見て
くれている人なんていないんじゃないのかな?あたしは、印を示すことが出来ているだろうか?
最近、あたしはそんな事で悩んでいた。
「梨華ちゃん!」
名前を呼ばれて振り向く。ののだった。
「なに?のの。」
「今日もう仕事ない?」
「うん、ないよ。」
「じゃあご飯食べに行こ♪」
「うん。」
あたしの声に元気がなかったせいか、ののはあたしに訊ねた。
「どうしたの?元気ないよ。」
どうしよう、あたしは考えた。ののに相談して、相談になるかな?
それにあたしの中でも人に説明できるくらいにまとまっているとは
思えなかった。
「ううん、なんでもないよ?行こっか。」
あたしはののの手を引くと、歩き出した。
「やっぱ梨華ちゃんやっぱ変だよ。」
自分の名前を言われてののを見る。どうやらどこかをボーっと
見ていたみたいだ。
「飯田さんみたいになってたよ今。」
いや、別に交信はしてないけどさぁ。
「う〜ん、・・・・。聞いてくれる?」
「何?」
あたしは思いきって悩みを打ち明けることにした。
「ネガティブですな・・・。」
「え?」
「そんな、自分がここにいる印とか、色々難しい事考えてると、
縮こまっちゃって示せるものも示せないよ。」
あたしは知らずのうちにまたネガティブな面が出ている事に
気がついた。ののの言う通りだ。難しい事考えて、
縮こまっちゃったらだめだ。
「そうだね!」
あたしは意識的に強く返事をした。それはあたしの中での
決意表明に近いものでもあった。
「それに・・・。」
「それに?」
ののが意味深に止めてみせたから、気になって聞き返した。
「梨華ちゃんは充分示せていると思うよ?その、印ってやつを。」
「そうかな?」
「そうだよ。明日のライブで、気づくよ、きっと。」
ののがすごく大人びて見えた。でも、
「ハンバーグランチです。」
「はーい!!」
ののはすぐにいつものののに戻ってみせた。凄い勢いで
ハンバーグを自分の胃の中へと送り込んでゆく。
「あ、いただき♪」
その姿を見ているだけで食べないあたしを見て、ののは
あたしのポテトを奪い取った。まさに瞬間芸!取られた瞬間、
あまりの速さに逆に感心してしまった。
「あ〜!!!」
1テンポ遅れて抗議開始。でもポテトはののの宇宙の胃袋へ
行っていた。
次の日の分割ライブ。ののはライブで気づくって言っていた
けれど、一体どういう意味なんだろう。あたしは発声練習を
しながら、頭の片隅ではそればっかりを考えていた。
舞台袖からふと、あたしではなく他の、例えば、ここで昔ライブを
した歌手は、どんな事で自分がいる事を示したのだろう、と考えた。
歌手が自分を示してくれる存在・・・。
「あ。」
あたしは気がついた。そうだ、こんな簡単な事だったんだ。
「どうしたの石川。」
あんぐり口を開けるあたしを心配してか、飯田さんがあたしに話し
かけてくれた。あたしは思いきり声を出した。
「頑張りましょう!!!」
飯田さんは少し驚いた顔をしたけど、すぐに頷いた。
幕が開いてゆく。それと共に凄い声援があたし達の耳へと
届いてゆく。そうだ、これだったんだ。これこそが、あたしの
存在を示してくれる、印。
凄い歌手なら自分の歌声でもってファンを魅了し、時に涙を
流させる程の感動を与える事で自分を示せるのだろう。残念ながら
あたし達に、歌声でファンを涙させる自信はない。なら、あたし達は
ここで歌って、踊って、精一杯の笑顔を見せる事で、自らを示せばいい。
それで示せていることを証明してくれるものこそ、ファンなんだ。
この日のライブ、多分あたしは今までで最高の笑顔で送れたんじゃないか
と思う。
完
318 :
ねぇ、名乗って:04/03/27 19:05 ID:2Dxlm8LL
シリアスで切ないラブストーリーを書いているんですが、レイプシーンって
皆さん的に大丈夫でしょうか?勿論、直接的な描写は避けるつもりなんですけど。
>>318 話の展開上入る、それがメインではないのなら許容範囲ではないでしょうか?
>>318 露骨な描写でなければ規制的にも問題ないと思います。
>>318 それが邪魔にならないほど面白ければ評価されるだろうし
そうじゃなきゃそっぽ向かれるかな
322 :
318:04/03/28 03:40 ID:qxuCauRH
>>319-321 レスどうもです。皆さんのおっしゃる通りに表現の際には、
十分気をつけたいと思います。ありがとうございました。
わたしたちは森に捨てられた。
暗くて深い、真っ黒な森に。
「帰り道は、わかります」
わたしは月が昇ったことを確かめて話し始めた。
のんちゃんは樹の根っこに座って泣きじゃくっている。
「来る途中、目印に白い小石を落としてきたんです。
『ヘンデルとグレーテル』みたいに。今日のこの時間なら、ほら―」
のんちゃんの肩を叩き、顔を上げさせた。
白い小石が森の中に差し込んだ月光に照らされ、
キラキラと道を教えてくれる。
「これでわたしたちは帰れます。だけど―」
わたしはのんちゃんの青あざの残る腕を見つめた。
そして、自分の荒れた手も。
「帰りますか?」
のんちゃんは、黙って首を横に振った。
「・・・そうですよね」
お母さんは自分の娘じゃないからといって、
のんちゃんを棒で叩いた。
お母さんはお義父さんの娘じゃないからといって、
わたしを「厄介もの」と呼んだ。
そして、お義父さんはなにもしなかった。
あんな場所、家じゃない。この道は家路じゃない。
帰ってもきっとまた捨てられる。
それこそ「ヘンデルとグレーテル」のように。
でも、じゃあ。
「これから、どうします?」
「・・・わかんないよ。あさ美ちゃん」
のんちゃんはまた顔を伏せて泣き始めた。
わたしはその横で途方にくれる。
行くあてなんて何処にもない。
目の前では落としてきた小石がわたしたちを嘲笑うかのように瞬いている。
いっそのこと童話のように、お菓子の家でもあったらいいのに。
悪い魔女は二人で倒して、楽しく困らず暮らしていくんだ。
おわり
『 圭織の下で待ち合わせする事を禁止します。
圭織 』
楽屋の扉を開けると、いつも通りテンションの高いメンバーの奥に
こんな張り紙がしてあった。白の模造紙に黒のマジックで書かれた文字。
『禁止』の部分だけが、赤インクで強調されていた。
「おはようれいな」
絵里とさゆがいつもの笑顔でお出迎え。
「おはよう。ところで今度はなに?」
視線で張り紙を示し、二人に尋ねた。
「なんかさ、矢口さんに待ち合わせの目印にされたんだって」
「待ち合わせの目印? なにそれ?」
「さぁ?」
たいして気にした風もなく、二人が同時に首をかしげた。
「あ! れいな、こないだ貸したマンガ持ってきた?」
さゆが思い出したように口を開いた。
「ごめん忘れた。明日持ってくるー」
さゆの肩越しに、大きな体を小さく丸めた飯田さんが見え、
その横では矢口さんが、手を合わせて何かしゃべっていた。
こないだもこんな光景見たなぁ。次は来週末辺りやね。
おわり
hozen
hozen
329 :
遠くの山:04/04/04 15:34 ID:uW3gN0MP
遭難した。
名前も知らない山だった。
さゆと来たけど、途中ではぐれた。
はぐれる前、さゆは言ってた。
「遭難しちゃったね。れいな、私を置いて一人で帰ったりしないでね」
さゆを見失ったのは、その後すぐだった。
日が沈んだ。
もうほとんど何も見えなかった。
大声でさゆの名前を叫ぼうかと思った。
だるかったので止めた。
とても寒かった。
その場にうずくまった。
目の前に大きな木があった。
しばらくそれに寄りかかっていた。
時々上から枝が落ちてきて、頭に当たった。
その中からできるだけ先の尖った枝を拾った。
枝で、木に何か彫ろうと思った。
自分の似顔絵を彫った。
完成しない内に眠り込んでしまった。
目が覚めると、太陽が真上にあった。
似顔絵は目や鼻の位置がめちゃくちゃだった。
さゆの名前を呼んだが、返事がなかった。
それから私は、次の似顔絵を彫るために、山の中を進んでいった。
おわり
330 :
朝一:04/04/07 01:57 ID:5zh8B3bH
目覚ましが鳴る前に目が覚める。ベッドの上で伸びをすると大きな欠伸と一緒に涙が
滲む。
少しだけ目が冴えてきた。閉じられていたカーテンを一気に捲ると窓から見えるのは
この辺りではちょっと有名な広めの林。
窓を少し開けてゲンナリしながらそれを眺める。
部屋の中は静かすぎて、初めての一人暮らしはちょっぴり物足りなくなってきた。
この時間にテレビを付けてみても、たいして興味をそそられるような話題も無ければ
昨日と言ってることは変わらない。適当にチャンネルをいじってから、リモコンを
ベッドに放り投げてBGM代わりに決めた。
やがてトースターのパンが焼きあがって香ばしい匂いが漂ってくる。
冷蔵庫から確かまだ残っていたはずの牛乳を取り出して一口……。
賞味期限ギリギリみたいだ。
確か今日スーパーで特売をしているはずだから、残りは流しに捨ててしまおう。
今日も透けるような青空で晴天は間違いなさそう。花粉症の人はご愁傷様。
最後の一欠けらを口の中に押し込んで、自転車の鍵を見つめながら気合を入れなおす。
勝負はここから、隣の林がそろそろかと騒ぎ出すのを確認しながら部屋の扉を思いっきり
開けた。
表札の後藤に「いってきまーす」とか悠長にしてる暇はない。
一階まで一気に駆け下りると止めてあった自転車の鍵を外す。もちろん焦って手元を狂わす
なんてことはもうしない。そのまま飛び乗って猛スピードでこぎ出した。
横の景色が霞んで見えるのは多分気のせいだろう。
331 :
朝一:04/04/07 01:58 ID:5zh8B3bH
春のうららかな景色を眺める余裕も無く巧みなコース取りと慣性に任せたコーナーワークで
裏道を抜けていく。レーサードライバーのように、映画で見た逃亡者のように、目的である
大学の屋根が見え始め、もうすぐこの辛い日課もクリアできる。
ちょっとだけ感慨深げにその屋根を見つめてしまった。最後のコーナーに差し掛かる。
いつもの感じでアウトからインへ……がっしゃーん。油断大敵。
春の陽気に笑われてる気がする。家に帰るまでが遠足ですよ、小学校の校長先生の話が初めて
役に立った。おやつの300円は未だに不明。
隣でカラカラと回る車輪に馬鹿にされながら、どうやらたいした怪我はしなかったらしいのには感謝。
自然と目の前に広がる空は気持ちいいくらいに……真っ黒だ。
「こらーー!! 毎日毎日付いてくんな!!!」
負け惜しみでも空に叫ぶのって結構気持ちいい。
332 :
朝一:04/04/07 02:00 ID:5zh8B3bH
「おはよー美貴」
「よ、やっぱり来たね」
教室に入ると窓際に陣取った美貴がニヤニヤしながら話し掛けてくる。そしてそれに更に
輪をかけるのは隣でサンドイッチをパクついている……
「おはよーございます、親分」
「亜弥ちゃんってばその呼び方やめてって言ってるじゃん。黒親分とか女鬼太郎とかさぁ
もうホントに勘弁してほしいって」
「えーでもちょっとカッコよくないです?」
「「よくないって」」
持ち主の違う二本の手が同調して横に揺れる。
この子はちょっとだけズレてる。そこだけは美貴と私、両方が通じ合っている点だ。
そもそも高校から知り合いだった2人に大学入学と同時に私が加わったのだから、実はよく
知らない事の方が多くてこんな瞬間が意外と嬉しい。
亜弥ちゃんの変な敬語も私専用だし、いつか普通に話してくれる時がくるといいなぁ
「……所で講義ってまだ始まんないの?」
ぱっとみ教卓の上に置かれたそっけない時計は開始時間から30分も過ぎている。
ちょっと遅すぎでしょうが。
333 :
朝一:04/04/07 02:00 ID:5zh8B3bH
「あのねぇ、黒板にデカデカと書いてるあの字見えないの? 2人して真希が来るのずっと
待ってたんだけど」
ん、どれどれ……まわりの星マークがいい味出してる。
亜弥ちゃんも頷いている所をみるとどうやらお気に入りみたいだ。
「休みだねー、てっきり職務怠慢かと思ったよ」
「ってか入ってきた時にすぐ気づけよ」
「後藤さんってちょっとだけズレてますよね」
亜弥ちゃんに言われるとちょっと傷つくんだけど。こらそこ、ニヤニヤしないの!
そんなこんなで次の時間まで一階で寛ぐ事になった。
「あ……」
「どしたの?」
「私の朝の苦労ってなんだったわけ?」
「さあ」
美貴が苦笑した。
334 :
朝一:04/04/07 02:01 ID:5zh8B3bH
自動販売機コーナーでお気に入りのカップのココアを買って、適当に座る所を選ぶ。
朝一だけあって人気はまばらで選り取りみどり。
朝から何の用事も無くうろうろしてる人なんて私達と同じように、講義がつぶれて
次まで時間を潰してる人かよほどの暇人ぐらいだから当然だろうけど。
掌のなかで揺らめく湯気にそっと息を吹きかけて一口啜る。このちょうどよい甘さが
お気に入りの秘密だ。コーヒーはなんか冷めたのをもう一度暖め直したみたいな苦さ
で美味しくない。
もう一口飲もうとしてこっちに向けられている視線に気付いた。
「もう有名人じゃん」
嬉しくないんですけど……
美貴に抗議の視線を送りながら不機嫌そうに音を立てながら強く啜る……火傷したかも。
そのまま強気で押し通す事も出来なくなって諦めてカップをテーブルに置いた。
「だってさぁ、しょうがないじゃん。私だって毎朝振り切ろうって必死なんだよ。でも
やっぱ、空を飛べる方が早いわけ」
「魔法使いみたいですよ」
半ば諦め気味の私は亜弥ちゃんの多分慰めの言葉を聞きながらはぁーとため息をついた。
住む所を決める時、電話一本で決めたのが今更恨めしい。ちゃんと下見しておけばこんな事に
なんなかったはずだよね。
「それにしても、あんなにいっぱい付いてくるなんて異常じゃない?」
「だってあそこ巣だし」
「はっきり言って、最初見たときかなり怖かった」
「だよね、親には見せたくないかも」
335 :
朝一:04/04/07 02:01 ID:5zh8B3bH
この話になるといつも落ち込んでくる。だって烏だよ、烏。まだフラミンゴとかの方が絶対
ましだと思う。あの大群を見てるとお葬式ぐらいしか思い浮かばない。
改めて私の落胆ぶりを見て美貴の笑いが段々からかいから苦笑に変わっていくのが分かる。
「まあそんなに落ち込む事無いって、烏達からしてみたら真希を目印にしてるぐらいなんだから
きっと感謝されてるって……」
感謝って……できればされたくないし。その後もどんどん勝手に深みに嵌る私を見ていたせいか
段々場の雰囲気がおも〜くなって三人とも口数が減ってしまう。何度も立て直そうとして何度も
失敗。
そのまま、時間は過ぎて講義終了のチャイム。
「そろそろ、次いこっか」
少しだけ話を振ったのに後悔したのか何時に無く優しい美貴の口調、でもこのまま行っても
テンション戻りそうにないし。
「もうちょっとしてから行くから先に行ってて」
先に教室へ向う二人の背中を見送りながら自動販売機へ向う。
こんな時はやっぱお気に入りのココアしかないでしょ。
財布を開けて小銭を確認する。10円だまがひい、ふう、みいの60円、20円足りない……
おやつの300円だ。無駄づかいしてると大事な時にお金がなくなりますよ。
校長、今日は大車輪ですね。
336 :
朝一:04/04/07 02:03 ID:5zh8B3bH
夕方になって茜色の空の下、講義にへとへとになった私が帰路につく。勿論空の上には
同じく帰路につく無数の大群。でも朝は嫌だけど夕方はちょっとだけありかも知れない。
か〜ら〜すなぜなくの〜って童謡を思い出してちょっとだけノスタルジックにさせられる。
続きはなんだったけかなぁ……烏の勝手でしょ?
だめじゃん
終わり
337 :
机のキズ:04/04/08 01:08 ID:1TC4x6WU
一人静かに自分の席についていたさゆみはいろいろと彫られている
机を指でなぞりながら静かな笑みを浮かべていた。
教室にいるクラスメートは、まるでそこに人がいないかのように、
仲良しグループごとに楽しそうに騒いでいた。
(この席に座るのも久しぶりだな…最後に座ったのはいつだったっけ?)
そんなことを思いながらおもむろに持ってきていたコンパスを取り出して
机に何かを彫りだした。
それが終わると、するべき事は全てやったという感じで立ち上がり、
教室を後にした。
ちょっと高台にある学校の屋上からは大きな海に沿うように造られた
街並みが一望でき、奇麗な景色が広がっていた。
(この景色はいつ見てもいいよな〜)
さゆみは屋上を取り囲んでいる金網の外側に立ち、
そこから見えない床があるかのように空中に一歩を踏み出していた。
さっきまで使われていた席の机にはその机を使っていた人の名前が
新しいキズとして彫られていた。
おわり
昼休み。屋上。静か。誰もいない。
鉄柵に手をかけて下を眺める。うん、みんな校庭で楽しそうに騒いでる。
「……誰もいないよね」
小さな声で確かめてみる。返事はない。誰かいたとしても小声だから気づかないかも。
突然、風が吹いた。髪が巻き上げられていく。スカートの裾が持っていかれる。抑える。
目にゴミが入った。目を擦る。ダメだ、痛くて涙が零れる。ダメだ、もう我慢できない。
もう一度鉄柵に手をかけて、足を踏ん張る。準備万端。よし、やってしまおう。
せーの、
「うわぁぁぁぁぁーーーーん!」
ちきしょー。ぶっちきしょー。
急に別れようってなんだよ! 何がいけなかったのさ! こんなに可愛いのに! 私めっちゃモテるのに!
まだ3ヶ月しか経ってないじゃん! 映画しか見に行ってないじゃん! 誕生日だってクリスマスだってバレンタイだって迎えてないじゃん!
「うぇぇぇーーん!」
もう、寝転がって泣いてやった。いくら手で拭っても涙と鼻水は止まる気配を見せなかった。
「ちきしょー! どちくしょぉー!」
地面をバンバン叩いても悲しみも悔しさも出て行きやしない。
「愛なんていらねぇーよこんちくしょぉぉーー!!」
大声で言ってやった。
「愛は大切やよぉぉぉぉー!」
大声で返ってきた。
目を開けると透んだ空とポニーテールの女の子。
「だぁれ?」
太陽が眩しくて顔が良く見えない。女の子が私に手を伸ばす。恐る恐る手を伸ばしてそれを掴む。
「ひっどぉーいな松浦さん」
私が起き上がるとスカートをさっさっと払ってくれた。そして差し出されたハンカチ──ではなくタオルで顔を拭いていると、彼女は言った。
「正義の味方、高橋愛やよ」
顎に指を当てて、にやりと笑う。
「ごめん、誰だっけ?」
「しょんな!」
「うそうそ。同じクラスの高橋さんだよね」
「うん! 愛やよ!」
満面の笑顔でこっちを見つめている。拾われた子犬みたいだ。
正直、同じクラスだけど彼女のことはよくしらない。同じグループじゃないし、あまり話すこともなかった。
ただ、休み時間よく本読んでるなーって印象しかない。
「それより亜弥ちゃん大丈夫?」
それより亜弥ちゃんって呼び名はどういうこと?
名前で呼び合う間柄までに急激に発展した私達の関係にもビックリしたけど、たしかに、それよりも私の恥ずかしい姿を見られたことの方が問題。
「……見ちゃった?」
「うん、ばっちり!」
すんごい嬉しそうに親指立ててる。
あ、まずいな。この子危険な臭いがする。
「そ、そう……あはは、恥ずかしいところ見られちゃったな。誰もいないと思ってたんだけど」
「びっくりしたよ! 入口の上で本読んでたら急に泣き声が聞えて来るんやもん! 昼間から幽霊が出たのかと思っちゃった!」
一人お腹を抱えて笑う高橋さん。
「あはははは! ……あ、あれ?」
不思議そうに私を見つめる高橋さん。
え? なに? 今のもしかして笑うタイミング?
「あ、あはは。昼間から幽霊なんて、で、デナイヨー」ぺしっと腕を叩いてみる。
「だよね! あははあははは!!」
…いやいやいや。
こいつは手強い。好んで一人で本読んでるんだと思ってたけど、こいつはもしかしたらもしかするぞ。
「高橋さん。悪いんだけど、このこと黙っててくれる?」未だに笑っている高橋さんにお願いする。
「ははははぁはぁ……へぇ? あ、あぁもちろんやよ!」またサムアップ。
「よ、良かったぁー、ありがとう。じゃあ私はこれで」もうお礼だけ言って早く教室に帰ろうと思った。
「だ、だって──」
高橋さんがまだ何かを言おうとしている。
まずい。非常にまずい事態だと私の五感が総動員で訴えている。
それに動かされるままに出口に向かって私は足を早めた。
「だって私達は──」
後ろから高橋さんの声が聞える。
ダメよ亜弥! 今すぐここから逃げ出して!
急に私の時間がスローになる。足が中々前に進まない。出口までの距離が遠い。心音が早まる。
「だって私達は──」
止めて高橋さん! それ以上は言わないで!!
だけど抗い難い引力に引かれて私はゆっくり彼女を振り返る。そして彼女の口は確かこう動いた。
「友達だから!!」
──友達だから──友達だから──友達だから──
頭に響き続けるエコー。
言われた。言われてしまった。悪魔が契約を迫っている。
高橋さんは、もはやお馴染のサムアップに満面の笑顔。少し照れたのか顔が赤くなってる。
どうする亜弥。どうするんだ。高橋さんはこちらを力強く見つめ親指を上げ続けている。
言えるのか亜弥。お前に「なんで? なんで私が高橋さんと?」なんて言えるのか?
私は一世一代の決断をした。
「あ、あはは……そうね、友達ね」私も力なくサムアップ。
「あはは! そうそう!」高橋さんが私の肩に手を回す。
「あはは……はは」顔が近いっつーんだよ。
「だから恋の相談にものってあげるよ!」
「は、はあぁあっ!?」何言い出すんだこいつは。
「私一度そういうのしてみたかったんだぁー。これこそ青春やね!」
なんか遠くを見つめちゃってる。
速く過ぎ去れ休み時間。
─────────
──────
───
「──と言うわけです」
私達は鉄柵に寄りかかりながら恋の相談とやらをしてしまった。
結局、今日初めて友達(仮)になった相手に全部話してしまった。なんだかんだ言って、私も誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。だけど、よりによって高橋さんじゃなくても……。
「ふんふん、なるほどねぇー。亜弥ちゃんふられちゃったんだーしょっぼいなぁー」
あれ? 今の聞きマチガイ? 空耳? なんかサラッととんでもないこと言ったよね、この人。
「そっかぁー。それで振られて泣いてたんやね」
「う、うん……」
あ、また凹んできた。何が悲しくて、昼休みに屋上で一人で本読んじゃうような、こんな哀しい女の子に振られたことを告白しなければならないのだろう。私も十分哀しい人だ。
「だいじょうブイ! 愛ちゃんに全部お任せやよ」彼女が胸を叩いた。
「な、なにを?」背筋に悪寒が走った。
「ふふん! まぁまぁ放課後になったらわかるやよ」
「ほ、放課後?」
「うん。放課後に私達のクラスに待ち合わせね」
よし。何もなかったように速攻で帰ろう。いや、むしろ何もなかったもん。うん。
「わかってると思うけど、もし約束を破ったら……」
高橋さんはそう言って顔を俯ける。
うん? 目を擦る。何か高橋さんの周りに黒いもやもやが。
あれ? もう一度目を擦る。高橋さんの目ってあんな色だっけ?
カァーカァーカァー!
え? なに? 気づけば鉄柵の周りをたくさんのカラスが包囲していた。
そして先ほどまでは晴れ渡っていた空を暗雲が覆っている。
急に足が震え出した。そして背中からもの凄い勢いで汗が流れ出す。
「や、やめてよ! 私が約束破るわけないじゃん!!」
お母さん、私は巧く笑えてますか。
高橋さんの顔がゆっくり起き上がる。
「そうやよね! なんせ私達友達やもんね!」
はっ! 金縛りが解けた。あれ? カラスは一匹もいないし、空は青い。
なに? 夢? 夢なの!? わからない。私には何もわからない!
「じゃあまた後で!」
そう言うと満面の笑顔で高橋さんは屋上を後にした。
残された私と彼女の赤いタオル。
高橋さん。あなたは何者ですか、高橋さん。
─────────
──────
───
夕陽差し込む放課後の教室。そこには呆然と立ち尽くす私と、腕を組みなぜか満足げな高橋さん。
そして私の目の前には、いとも簡単に私を振った人。つまり彼氏(元)。
「あの、ちょっとごめん」
「あ? あぁ」
彼氏(元)に断りを入れる。
「高橋さん、ちょっといいかしら?」
「うん? なんやの?」
教室の隅に彼女を引っ張っていた。
「これどういうこと!」
「なにがぁ〜?」
え? なんでわずらわしそうなの? なんでメンドイって感じを前面に押し出してるの?
「なにがってこのシュチュエーションでしょ! ありえないでしょ! なんであいつがここにいるの! そして私とあなたはここでなにをする気の!!」
「そんなに大きな声でガミガミ言わんでも聞えるやよ。ちょっとは落ち着きぃ」
「お、落ち着けるわけないじゃん! 私、あの人に昨日振られたばっかりだよ! しかもケイタイで素っ気無く振られたばっかり! 突然『別れよう』って言われて何も考えずに『あ、うん』って言っちゃったんだよ! どうしてくれんの!」
「ど、どうしてくれんのって……そんなところ八つ当たりされても」
「もう最悪! 泣きそう! なんも喋れないよ!」
「だからやないの、なんも話してないんやろ? 話さないけんよ。十分話し合ってからでも遅くないやろ」
高橋さんらしからぬ至極真っ当な意見。ちらりと彼氏(元)の方を振り向く。窓際にたたずみ夕陽に照らされている。…………正直かっこいい。
「ほら、勇気出して! 大丈夫。よく話し合えばなんとかなるよ!」
高橋さんはそう言って私の背中を叩いた。
そうかもしれない。ちょっとした心の行き違いだ。会話が足りなかったのかもしれない。
「ありがとう、高橋さん! 私頑張る!」
「水臭いよ、亜弥ちゃん。愛でいいやよ」
それは無理だけど、私は高橋さんに感謝して彼氏へと足を進めた。
「おっす」軽く挨拶。
「おっいす」彼氏も挨拶。
「あのさ……私達って……別れ──たんだよね」
「うん」
彼氏(元)は、極めてナチュラルにあっさりそう言い放った。
そして私はやっと現実を知った。どこかフワフワしていた心が、きちんと地面に打ち落とされた。
そうだよね。やっぱり私達別れたんだ。
あぁー泣きそう。だけど絶対ここじゃ泣きやしない。最後の抵抗。
「……あのさぁー、じゃあ一つだけ教えてくれる?」
「あぁ、なに?」
「なんで私と別れたいと思ったの?」
彼氏(元)は一度上を向いて、躊躇しているように見えた。
そして暫らくの沈黙の後、こう言った。
「顔可愛いからいいなーって思ったんだけど、なんか生理的にお前無理だわ」
生理的に無理。セイリテキに無理。セイリテキにムリ。
「じゃあ、俺はこれで」彼氏はそう言って教室から出て行った。
「ごくろうさまぁ〜〜」高橋さんは満面の笑顔でそれに手を振った。
「いやぁー亜弥ちゃん、ナイス! 逆にナイスなふられっぷり!」
そう言って高橋さんは私の肩を強く叩いた。
「清々しいよね! あそこまで言われれば逆にすっきりやね!」
高橋さんは今までで一番の笑顔。
私は今日、半ば無理やり友達になった人に半ば無理やりに彼氏(完全に元)に合わされ、そして2度に渡りふられて、今、爆笑されています。
「ははははっ! しかし、生理的にって……ぷっ!」
私は夕陽差し込む窓を開いた。そして、そこにゆっくりと足をかけた。
「ははは! 良かったやん! なんやわからんけど良かったやん───っておい! なにしてんるん!!」
「止めないで、私鳥になるの! ここから飛び立つの! 何もなかったの! 今日はなにもなかったの!」
「落ち着け、落ち着くんや! ものすごい勢いで現実から逃げるな!」
「いやぁー! 人間なんてだいっきらい!! 愛のバカやろぉー!!」
「亜弥ちゃん! 聞いて! 愛はちゃんとあるんやよ!!」
「愛なんてないもん! 愛なんて幻想だもん!!」
「違うぅ! 愛はあるぅ!!」
「じゃあどこにあるっていうのさっ!!」
高橋さんは私を抱きとめていた腕をほどき、一度ゴホン、と咳払いをした。
そして、自分に向かって親指をグッグッと指した。
「はぁい?」
「愛、愛」
「……まさか」
「愛。私、高橋愛!」
そして、自分を指していた親指をゆっくりと私の方へ向けて必殺のスマイル&サムアップ。
ダメだ。これやられると全身の力が抜ける。なんか全部がバカらしくなっちゃった。
高橋さんは、やっぱり恥ずかしかったのか顔を赤くしてこう言った。
「ぐぅーっ!」
何が?
アホらしくて仕方なかったけど、私も親指を立てて言った。
「…ぐぅー」
「あはは! ナイスや亜弥ちゃん! 私達はベストフレンドやね!」
うーん、夕陽が眩しい。そのせいなのか我慢していた涙がポロリと零れた。
さよならカレシ、日常、愛のプライド。
ちゃんちゃん
私には超能力がある。
って言ったら、大袈裟か。
でも、他の人にはないちょっと特別な能力を超能力と言うのなら、
これも超能力じゃないかと思う。
私には、これから先に起こる出来事が分かるのだ。
予知能力?
やっぱりちょっと大袈裟かな。
もっと、本当に些細なこと。
たとえば私は今、大勢の友人たちと一緒にカラオケBOXに来ている。
私には今日みんなでここに来ることが分かっていた。
何故ならば麻琴が朝からずっと遊びたそうにしていたのは知っていたし、
亜依はいつもみんなと一緒にいるのが好きだ。
里沙は時間が空いていれば「ん? いいよ」とか言ってどこにでも付き合うし、
愛は一見誘いにくそうだけど、誘えば案外嬉しそうにやって来るし、
麻琴は愛の誘いかたを熟知している。
希美は結構気まぐれだけど、食べ物のおいしいところなら大抵ついてくる。
なんでもよく食べるけど、ここのチーズケーキなんかは大好物だ。
だから私には、今日、みんなでこのカラオケBOXに来ることが分かっていた。
それって要するに観察と推理じゃん?
と言われればそうかもしれないけれど、実際そうなんだけれど、
他者に対してそれが圧倒的優位性をもたらすのであれば、
やはりそれはある種の超能力と言ってもいいんじゃないだろうか。
だって私だけ分かるのにみんなには分からないことがすごく多いし、
みんなには分からないのに私だけわかるということがすごく多いのだ。
里沙が深く考えずに自分の歌う曲ばっかり入れまくって、
みんなに微妙に引かれることも知っていたし、
亜依がナポリタンで口の周りを真っ赤にしてみんなの笑いを取りながら、
最後にはお皿をひっくり返してしまって大騒ぎになることも知っていたし、
愛がソファの端で一人で黙って曲を選んで、
これから自分の番が来たらみんなが引くくらい大熱唱することも知っているし、
希美がお気に入りのメニューをこの店は切らしがちで、もうすぐ半べそをかくことも知っている。
ね。これってちょっとした超能力でしょ?
私には、みんなの因果律の端緒に感応する能力があるのだ。
もう少し簡単に言うと、みんながこれから起こす予兆(しるし)が、私には見えるのだ。
でもこれが便利かというと、結構そうでもない。
漫画とかに出てくる予知能力と同じで、
未来を予測することはできても、未来を変えることはできないのだ。
ナポリタンをひっくり返すことは知っていても、それを私に止めることはできない。
何故なら、ひっくり返すのが亜依の持って生まれた因果的資質であり、
その運命を変えるだけの因果律における特異性を私が持ち得ていないからだ。
例えば私が「亜依、そんなことしてるとナポリタンひっくり返しちゃうよ」と言っても、
「うんわかったわかった」。
ひっくり返した後に「ほら、やっぱり」なんて言ったら性格悪い子みたいだし、
「次は気をつけるんだよ」って言っても「うんわかったわかった」。
また次も同じことを繰り返す。
希美に「チーズケーキ無いかもよ?」って言っても「いいよ」って答えるし、
そもそも、行く前からそんなしらけるようなこと言いたくない。
なんでみんな分かってくれないんだろう。って思う。
恋愛なんかもそうだ。
ああ、この子はあの人のこと好きになりそうだな。っていうのは見てるとすぐ分かる。
その子は大抵、最初は「あんな人興味ないよ」って言う。
でも、しばらくするとそいつはどんどん馴れ馴れしくその子に近づいてきて、
気がつくと、いつの間にか二人はべったり。
そんなことばっかりだった。
それって結局のところ嘘じゃん?
って私は思うんだけど。本人には嘘を言ったつもりがまったくないから始末が悪い。
「だって最初は本当にそう思ったし。今は……ねえ?」
ねえ? じゃないよ。
今だってほら、麻琴がいつの間にか希美の隣に座っている。
私は勿論そうなることを知っていた。超能力で。
麻琴が希美の隣が空くのを狙っていたことは知っていたし、
麻琴が隣に座る理由を言い訳みたいにブツブツと言いながら少しずつ近寄っていたの知ってるし、
そもそも今日、カラオケ行こうって麻琴が言い出したのがそういう事だって知ってたし。
クラス変えになって、希美とは別々のクラスになったときからこうなることは分かってた。
一緒のクラスになって喜びあう麻琴と希美を、私は横で見ていた。
最後の帰り道、寂しくなるねって言ったら希美は「そうだね」って言った。
「麻琴と性格あいそうだし、仲良くなりそうだよね」って無理して明るく言ったら、
「そうでもないよ、あんまり趣味合わないし」って言ってた。
でもほら、やっぱり。
「私たちの友情は永遠だよね」なんてことは、さすがに恥ずかしくて言えない。
女の嫉妬とかみっともないし、変な意味に取られて気持ち悪がられたくないし。
麻琴だって別に嫌いなわけじゃない。むしろ好き。
と、そんなことを思っていたら、亜依と里沙がBOXを出て行った。
トイレでナポリタンで汚したシャツを洗ってくるんだって。
あの子たちにも私みたいな超能力があれば、そんな苦労しなくてすむのに。
麻琴と希美のいちゃついてるBOXに残るのは嫌だった。愛は我関せずだし。
でもだからって一緒に出て行くのもなんかかっこ悪いから私は変な意地張ってBOXに残る。
おもむろに本を開いて、「何歌おうかなー」なんて小さな声で呟いて。
◇◇◇
「あさ美、絶対気にしてるよね」
「うん。してるしてる」
トイレの洗面所で、亜依と里沙が喋っていた。
「はたから見ててあの子、丸分かりだもんねー」
「そうそう。もう、希美大好き光線がばしばしっと」
「きゃー」
「あれくらい考えてることが表に出る子も珍しいかも」
「珍しいよ〜。わたしの希美に近づくな〜って。顔全体にしるしが出てる」
「ある意味テレパシー能力だね」
「一方通行だけどね」
「エスパーあさ美!」
顔を見合わせて笑いあう。
「あの二人、クラス分かれちゃったもんねえ」
「ねえ……」
「じゃあ、可愛いあさ美のために、私たちもいっちょひと肌脱ぎますか」
「そうだね。わたし麻琴の家近いから、引っぱって連れて帰るよ」
「頼む。あの子もそういう空気読めないとこあるからね〜」
「たまには二人きりにしてあげないとね」
「苦労しますのう」
「ホントホント」
◇◇◇
頭になんか全然入らない曲名を適当に呟きながら私は思う。
あー。二人とも早く帰ってこないかなあ。
私にこんな超能力さえなければ、
もっと気楽に、気持ちに正直になれるかもしれないのに。
あー。
おわり
・・・あつい。
楽屋に入った私は上着を脱ぎ、冷房のスイッチを入れた。
桜は散り、季節は深まったが、まだまだ過ごしやすい時期のはずだ。
ところがこの部屋ときたら初夏の陽気を思わせる暑さだ。
熱の原因は解っている。テーブルの上に等間隔に並んでいるノートパソコンだ。
その光景は、なんとかコールセンターの様に見える。
「おほようございます。暑くないですか?」
既に冷房は入れた後だったが、一応確認してみる。私はまだ新メンだ。
「おはよう。あいつらをシェイプさせる為にも、もっと上げたいぐらいだよ。」
誰に対してでもない確認だったが、矢口さんが答えてくれた。
矢口さんの顎が指す方向を見ると、小川さん、加護さん、紺野さんがおしゃべりに花を
咲かせている。誰の事を言っているのか大体分かるが、当の本人は矢口さんの嫌味を
理解しているのかいないのか、のん気に笑っている。
この部屋で彼女だけが今春であることを教えてくれている。
って嫌な春だな。
私もパソコンをしない訳じゃない。というかノートとデスクトップ両方持っている。
でも新メンバーが楽屋でパソコンをカタカタというのも『おこがましい』ように思えて
一度も持ってきていない。そう、私はナイーブなのだ。
いつもの様に私は、読みたくも無い雑誌をパラパラとめくって暇を潰す。しかし、そんな
行為も今日で終わりということを私は知っている。その時が来るのをひらすら待った。
パラパラ、パラパラ、パラパラ、パラパラ
「おはよーございまーす。」
元気のいい声が楽屋に響く。私はその時が来たと確信した。
声の主は田中れいな。私の同期だ。
れいなはかばんの中から黒い物体を取り出すと、辺りをうろうろし始めた。
「あれー。田中それ何?」
「あっ気が付いちゃいました?」
そりゃ気付くだろと内心つっこんだが、計画通り事がすすんでニンマリ。
おっと、ここで表情を崩すわけにはいかない。私はポーカーフェースだ。
「あー。ノートパソコンじゃん。買ったの?」
「はい。昨日さゆに選んでもらって。」
「でもなんかゴツくない?」
「そこが良かとですよ。」
みんなの視線がれいなの手元に集まる。
そこにあるのはIBM社製ThinkPad(X31 2672-PHJ)だ。
「これ重さんが選んだの?」と矢口さん。
「違いますよ。私はもっとカワイイのが良いって言ったんですけど。」と私。
「いやいや、この無駄の無いシャープなボディがカッケーと吉澤は思いますよ。」
「ほんとヨッスィーにも見習って欲しいよね。」とキッツイ矢口さん。
「まあ、私みたいなパソコンね。」とカンチガイの石川さん。
「黒いところはな。」と絶好調な矢口さん。
「でも最近のはコンパクトだねー」と飯田さん。
「カオ・・・「矢口さんと一緒ですねー」
ファッション雑誌を読みながら表情の無い声でつっこむ藤本さん。
でもその背中がすごく嬉しそうに見えるのは私だけだろうか?
「なんだとコノヤロー。」
飛び掛る矢口さんとフォローも完璧つっこミキティーはとりあえず無視。
パソコントークに戻る。
「昔さ、圭ちゃんが初めて買ったパソコンなんてこれの3倍ぐらいはあってさ、
何で朝から汗だくなんだよって感じでさー。」
「へーそうなんですか。昨日見た所はもっと小さいのありましたよ。ねぇ」
「うん。」と私。「でも小さすぎると文字見にくいから。」
「飯田さん。保田さんといえば。」と石川さん。
「ん?ああ、そうだね。田中。今日は圭ちゃんから話があると思うけど、ウザイとか
思わずにちゃんと聞くように。これリーダー命令。」
「え。」明らかに戸惑っているれいな。
私は飯田さんの言っている意味を分かっているので平常心だ。
「飯田さん!飯田さん!」「ん?」
「既にいらっしゃってます。」
ミニモニ寺に出家された保田さんが近づいてくる。
れいなの肩に手を置くと、れいなの肩がビクッと震えた。れいな、ちょっと失礼だろ。
「田中。収録後、私の楽屋まで来るように。パソコンも一緒にね。」
コクコク
頷くれいなを見て、保田さんはきびすを返す。
「辻、加護、高橋。行くわよ。」「「あーい。」」
「大丈夫よ。とって食われる訳じゃないから。そうだなあ。教育係・保田圭としての
最後の仕事ってとこかな。」れいなを諭す飯田さん。
その横を「今日はこのくらいで勘弁してやるよ。」と涙目の矢口さんが通り過ぎて行った。
収録後、約束通り保田さん(正確にはソロ組=中澤さん、安倍さん、保田さん、ミカさん
(どんな会話をするんだろう?))の楽屋にやって来た。
ノックすると、「どうぞー」と保田さんの声がした。れいな、続いて私が楽屋に入る。
中には保田さんの姿しかなく、安倍さんたちはもう帰ったようだ。7,8畳ほどの和室で、
正方形の低いテーブルが置いてある昔ながらの楽屋だ。
保田さんがポンポンと座布団を叩いたので、保田さんの隣にれいな、私の順で座った。
「おつかれさま。お茶でいい?」
「あっはい。」
保田さんが入れてくれたお茶でとりあえず一息つく。
収録の反省会的な流れで文字通り茶を濁していたが、「さて」と保田さんが姿勢を直した。
「きょう来てもらったのは田中がパソコンを買ったということで、ひとつ教えて
おかなければならない事があるからよ。」
「はあ。」
「パソコン、というかネットは良いわよ。家にいながらショッピングや住所変更
とか面倒くさい手続きも済ませられるし、なにより情報がたくさんある。」
「はい。」
「でも知らなくてもいい情報も存在するの。それを見極めれるようになってもら
いたいと思ってね。で、今日紹介するのはこのサイト。」
保田さんは、れいなのパソコンをカタカタ操作し始めた。
れいなは保田さんのブラインドタッチに目を輝かせている。
そうこうしている間にディスプレイには(予想通り)2ちゃんねると表示されている。
「ここはハッキングから今夜のおかずまで幅広い情報を扱う掲示板。もちろん芸能界の事
もよ。ここを見てちょうだい。」
保田さんは羊をクリックした。天に召される辻さんと加護さん。それを見送る私たちの
画像と、ぎっしりと並んだスレッドが表示された。
「ここには普段は表に出さない一般人、ファン、ヲタの本音が書かれているわ。正直、キ
モかったり、ムカついたりするけど、怒らず凹まず参考程度に見てちょうだい。」
れいなは適当なスレッドを開いて食い入るように見ている。今はただ知らなかった世界
に夢中といった感じだ。
私も初めてパソコンを買った翌日、保田さんの2ちゃんねる講座を受けた。
その時はまだ保田さんは娘。のメンバーで、私は入ったばかりだった。2ちゃんねるでは
新メン(゚听)イラネ的なスレッドがいくつも立ちショックを受けたことを覚えている。
今ではファンスレも出来て、よく来るようになったが、当時はパンドラの箱を空けるよう
なものだった。
(そして最後にキモータ(希望)が出てきた。なんちて)
「コレなんですか?」
>(●´ー`●) <なっちは親子丼に秘密が〜
「これは顔文字といってメンバーの似顔絵というか、記号みたいなものね。ちなみにこれ
はなっちで、私はこんな感じよ。」
>( `.∀´)
「じゃあ、私のもあるんですか?」
「あるわよ。今書くから。♪田中のたーはータモリのたー」
田中絵描き歌(保田オリジナル)を口ずさみながら、れいなのAAを作っていく保田
さん。コピペじゃないのに少し感動。
「♪カッコカッコカッコ〜 出来たわよ。」
>从 `,_っ´)<れいなはボーボーたい!
「ちょっ、これの何処がれいななんですか!まじめに書いてくださいよ。それにこの台詞。
こんな変態が教育係だなんて・・・」
「そんな事言われても、もう決まってるの。」と保田さん。「いや、台詞は・・・」と私。
「まあ台詞はともかく、気の強そうな所はうまく表現されてるわ。」と保田さん。
「目が二つあるなんかそっくりよ。」と私。
れいなは「こんなん私じゃなか。」とAAを改造し始めている。もっと酷くなってるけど。
>从 ・,□っ゜)
「ちょっと落ち着きなさいよ。もうひとパターンあるから」
>从 ´ ヮ`) <保田マンセー
「台詞は訳わかんないですけど、まあ絵はこれでいいです。さゆのはどんなんですか?」
「道重はねぇ。」
結局その後は保田圭の顔文字講座となり、保田さんは20曲ほど熱唱した。
少しかすれた声で「最後に」と保田さん。
「メンバーもコテハンでカキコしてるから、それも教えとくわ。」
なに。それは初耳。意味が分かってないれいなには、後で私が教えるということで当講座
は終了となった。保田さんが最後に洩らした「最近歌ってないから堪えるわ。」という言
葉が哀愁を漂わせていた。
スレッド名は『娘。小説作者養成塾 其の3』。いわゆる娘。小説の批評の様だけど、
これってただの願望でしょ。
矢口さんと石川さんは娘。小説をよく読むらしく「やぐちゅーは死んだよ。」と以前
洩らしていた。紺野さんは「明らかに中澤さんのレディコミの影響だよね。文明が進化
しても人間のする事は変わらないんだよ。」と分析している。
その紺野さんも矢口さんに無理矢理書かされているやぐちゅー小説が羊で好評連載中
だ。周りの目を気にしながら、隅っこでキーボードを叩いている時はたぶん執筆中なの
だろう。
飯田さんは詩を書いたり、最近ではグラフィックにも手を出したようで、たまに作品
を見せてくれる。娘。の中では一番パソコンを有意義に使っていると思う。
あと高橋さんは出会い系に夢中。って誰か止めろよ。
パソコン所有者の行動内容はだいたいこんな感じだ。
「送信っと。」
>155 名前: しゃれこうべ从 ´ ヮ`) 投稿日: 04/04/07 15:41 ID:iGbkQn1h
>
>>148 >それは願望ですよ。キショ。
れいなも最近慣れてきたようで、ちょくちょく書き込んでいる。
「矢口さんに怒られても知らないから」と私。「平気平気」とれいなは全く懲りていない。
>>366と
>>367の間に下記が入る予定でした。やっちまった。
2ちゃんねる講座の翌日かられいなにパソコンを教えるという名目で、私もパソコンを
仕事場に持ち込んでいた。といっても学校でもパソコンの授業があるので基本的なことは
知っていた。結局2ちゃんねる絡みの事ばかり教えているのが現状だ。
私がヲタみたいじゃない。
れいなは羊が気に入ったらしく、暇さえあればパソコンに向かっている。自分を中傷し
た記事も特に気にしないようで「ムカツクー」と笑っている。そういうところは正直うら
やましい。
「さゆ。また矢口さんの書き込み見つけた。」
矢口さんも結構チェックしているらしく、よく彼女の書き込みを見つけた。
どれどれ。
>148 名前: 矢口の半分は優しさで出来ています 投稿日: 04/04/05 11:35 ID:WO/gNdqt
> 文章には特におかしな点は見当たらなかった。
>ただ残念なのは中澤が矢口に対してあまり積極的でなかった点だ。
>本当の中澤は「うちは矢口がおらんと何も出来んのやー」位の勢いがある(と思う)
>次回はその辺に期待したい。
・・・疲れたー。
仕事を終え家に着いた私は、冷蔵庫からむぎ茶を取り出しコップに注いだ。
むぎ茶に口を付けながらディスプレイの電源を入れる。本体の電源は入れっぱなしだ。
ディスプレイにはUD Agentがキリキリ解析している様子が映っている。
保田さんに無理矢理入れられたものだが、人の役に立つのであれば悪い気はしない。
ちなみにれいなのノートにも「おまじない」と騙されインストールされている。
おかげでviva_yasuda@ainotaneは今日もトップを快走中だ。
昨日と同じ日がない娘。としての生活の中で、数少ない日課にファンスレの巡回がある。
カワイイと言って貰えるとやはり元気が出る。特に私の場合は。
ギコナビを立ち上げ、お気に入りから『さゆみんの一日』をダウンロードする。今日は
レスが多いなぁ。・・・荒れていた。
>305 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:06 ID:QOy9rDme
>道重キモすぎ。氏ね。
この手の書き込みには大分慣れたがやっぱり辛い。れいなみたいにはなれないなぁ。
でもそう認めれる分、少しは強くなったのかな。
>306 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:10 ID:iGbkQn1h
>どこがキモいんだよ。お前が死ね。
>
>307 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:12 ID:QOy9rDme
>キモくないところを探すのが無理。
>
>308 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:13 ID:iGbkQn1h
>黙れ。どっかいけよ。
>
>309 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:13 ID:GMJBqPRR
>
>>308 >もちつけ。煽りは放置しろよ。
>
>310 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:14 ID:iGbkQn1h
>
>>309 >なんで!?悔しくないの?
iGbkQn1hが煽りに反応してスレが伸びているようだ。iGbkQn1h?
私は『娘。小説作者養成塾 其の3』を開いてれいなの書き込みを探した。
やっぱり。iGbkQn1hはれいなだ。
掲示板は本音が見える場所。そこでれいなが怒ってくれている。
私の為に・・・うれしい。
私は保田さんのコテハンを借りて書き込んでみた。
>315 名前: ( `.∀´)NO YASU, NO LIFE. 投稿日: 04/04/07 21:20 ID:7QgJC9eu
>
>>310 >とりあえず落ち着きましょう。
>悔しいのは分かりますが、煽りは反応すると喜んでスレに居続けます。
>それはこのスレの住人もあなたも望んでいないでしょう?
>316 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:21 ID:iGbkQn1h
>ごめんなさい。
れいなは気づかれたくないのか名無しのままだ。
恥ずかしいのかもしれない。
>317 名前: ( `.∀´)NO YASU, NO LIFE. 投稿日: 04/04/07 21:22 ID:7QgJC9eu
>いえいえ。道重の為に怒ってくれて私はうれしいです。
>ひとつ聞いても良いかしら。
>あなたにとって道重さゆみとは?
どう返してくるだろう。私のほうが緊張してきた。
チクタク、チクタク、チクタク
10秒に一回位のペースで更新ボタンを押すが、なかなかレスが来ない。
考えているのだろうか?それとも・・・
十数回目の更新で書き込みがあった。
>318 名前: ねぇ、名乗って 投稿日: 04/04/07 21:25 ID:iGbkQn1h
>大切な仲間、友達、ライバル
私は今の気持ちをそのまま書き込んだ。
>319 名前: ( `.∀´)NO YASU, NO LIFE. 投稿日: 04/04/07 21:27 ID:7QgJC9eu
>ありがとう。れいな。
私はディスプレイの電源を落とした。
れいなは驚いているだろう。保田さんを尊敬し直しているかもしれない。
もうしばらくIDの事は教えないでおこう。
参考スレッド
娘。小説作家養成塾〜実戦編〜
娘。小説作者養成塾 其の3
[白血病・がん]UDProject参加者募集中[@ainotane]
さゆみんの1日
おしまい
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次のお題です。
・『薬』を題材に30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)。
・投稿期間は本日〜5/10 23:59まで(20日間)。
・必ず完結させたものを上げる事。
・投稿時、名前欄はタイトルを入れる。
・作品の最後もしくは次レスに『完』や『終わり』というように終了を明確に記す。
・作品を上げる時に前の作品が完結しているのか確認を。
・添削は『娘。小説作家養成塾 其の3』で随時行う。
なんとなくほぜむ
今回はなかなか作品が出ませんな
真っ白な廊下を歩く。
廊下に染み付いた消毒の匂いも、響き渡る私の靴音も、全てがもう慣れ親しんだもの。
この1ヶ月…一体何度この廊下を歩いただろう。
私立J大学付属病院第8病棟
この廊下を東向きに歩いているとき、そう今だけど、私の顔にはかすかに微笑むが浮かんでいると思う。
窓ガラスに映った私の口元、確かににやけていたもの。
当たり前。
だってこの廊下を真っ直ぐに行けば、大好きなあの人に会えるから。
紺野あさ美…私の今現在は、あの人…のんちゃんに会うために費やされていると思う。
娘。に入ったばかりの私をいつも笑わせてくれて、そしていつも慰めてくれた。
八重歯がキュートで、食い意地が私以上に張って、そして泣き虫な大切な友達。
彼女に会えるんだもの…この顔がにやけないはずがないじゃない。
でも
私がこの廊下を西向きに歩くとき、私の顔に浮かぶものは…なんだろう?
現実を真っ直ぐに見詰めたことで覚える、絶望と衝撃?
それとも…のんちゃんの瞳を見て感じる、諦めかな?
少なくとも、今の私のにやけた顔が続くことは、多分ないだろう。
そう!!
多分…この感情!!
【何で、第8病棟なんだろう?】
何で第1病棟じゃなかったんだろう?
何で第12病棟じゃなかったんだろう?
第8病棟じゃなかったら、どこでもよかったのに。
流石に心臓外科の病棟とかだったら困るけど…でも、なんで?
何で、第8病棟なんだろう。
のんちゃんの病室の前に着いたその時、私は軽く頭を振った。
いいじゃない。
そんな感情は帰りにとっておこう、今はとにかく…今を楽しもう。
お土産のポッキーが入ったレジ袋を高々と掲げて、一気にドアを押し開ける。
「のんちゃん!! お見舞いに来たよッ!!」
―――
全ての始まりは、5月の終わり頃からだった。
のんちゃんの遅刻の回数が、際立って増え始めたのだ。
しかも5分や10分じゃない、酷い時は1時間なんてこともあって。
それでもやっぱりのんちゃんの人徳なんだろうか、
最初のうちは矢口さんが悪態をついて終わっていた。
「辻さぁ…あんたいい歳なんだから、いい加減遅刻とか減らせよな」
「…ごめんなさぁい」
「まぁ…いっか。とにかく次から気をつけろよな」
「はい」
「それとも何か? 電車の中でキモヲタにでもからまれたりするのか?
だったらホント、車で迎えに来てもらったりしろよ…
マネージャーに頼みにくいなら、おいらから頼んでやるから」
「うん、ありがとう、やぐっさん。でも…大丈夫だから」
「そっか」
ホントただのよく見る光景、ってヤツだった。
そのやりとりを見ていた石川さんが、
「それじゃ、明日ののの家に迎えに行きますよ! それで大丈夫でしょ?」
「そうしてやってよ、石川」
そんなやり取りすら、この3年間で何度も見たような感覚がして。
私といったらそんな関係がちょっぴり羨ましくて、わけわかんない嫉妬心と戦っていた。
次の日
やっぱりのんちゃんは遅刻した。
何度マネージャーさんが電話をしても繋がらなくって、
矢口さんのオーラが徐々に黒く激しくなっていくのを、私とまこっちゃんは後ろから怯えて見てた。
1時間半遅れで二人が入ってきた瞬間、すくッと矢口さんが立ち上がる。
私とまこっちゃんは続く怒声に備えて肩をすくめた……けれど。
けれど、矢口さんは怒りを飲み込んだ。
多分…呆気にとられたんだと思う。
入ってきた二人の表情があまりに凄まじくて。
のんちゃんは満面の笑みで、ホントに悪びれもせずに、大きく挨拶をした。
そして………石川さんは、涙を浮かべていた。
「石川…何があったのよ?」
早々にメイク室に入ったのんちゃんを尻目に、石川さんを取り囲む。
口をへの字に曲げて、そしてこらえていたものが一気に吹き出したみたいに、彼女は声をあげて泣いた。
「ののが…おかしくなっちゃったんです」
「電車に…あの子、絶対に同じドアからじゃないと乗ろうとしなくて」
「しかも、ドアから入って斜め左前の席が空いてないのが分かると、電車降りちゃって」
「何本も何本も………電車見送って」
「引っ張って乗ろうとしたんですよ? でも……のの、絶対に足を前に出そうとしなくて」
「段々周りに人とか集まってきて…ホント、怖かったんです」
「ごめんなさい、私が悪いんです」
「…………ごめんなさい」
私たちは声をかけることも忘れて、呆然と石川さんの話を聞いていた。
ただひとつ、飯田さんが石川さんの頭を撫でていることが、何か救いがあるような気がして。
次の日から、のんちゃんはマネージャーの車で仕事に向かうことになった。
まだ仕事を続けさせるって結論に、飯田さんは目を見広げて怒鳴り散らした。
私だって……のんちゃんにお休みが必要なことくらい、十分分かっていた。
でもそれと同じくらい、今がとっても大切な時期だってことも。
やっぱりそれを分かっていたんだろう、加護ちゃんはのんちゃんに微笑みながら泣いていた。
6月の湿り気のある空気の中、私たちには一つの仕事…ううん、一つの大切なことが身についた。
ひたすらに、のんちゃんを見守ること。
のんちゃんはリップの蓋を、12回閉めなおさないと納得がいかないらしくて。
閉めて開けて、閉めて開けて…延々と12回。
ポッキーのパッケージを開けるときは、必ず向かって右側の袋から手をつけて。
私たちはひたすらそれを見守った。
微笑みながら、そして涙を流しながら。
のんちゃんが徐々に徐々に、少しずつだけど壊れていくのを見守っていた。
6月22日、のんちゃんの入院が決まった。
―――
私立J大学付属病院第8病棟
……精神科入院患者病棟
のんちゃんはいつもの調子で、ベッドに座りながら笑いながら私に振り返った。
「紺野ちゃん!! 来てくれたんだぁ!!」
「うん…これ、お土産のポッキーだから」
「へへへ…いつもありがとね」
おばさんは買い物に出かけたらしく、一人部屋の窓は閉ざされていて。
自殺衝動があるわけじゃないけど、やっぱり開けたまま外に出るのは気が引けたんだろう。
おばさんから借りてた窓のカギをお財布から出して、私は窓を開け放った。
初夏のとっても爽やかな空。
蒼い空を見ていると、なんだか立ちくらみがしそうだった。
窓を開けた私に目も向けずに、のんちゃんは夢中でポッキーの箱を開ける。
いつもどおりに、右側の袋から手をつけて。
「……やっぱポッキーは美味しいねぇ。紺野ちゃんも食べようよ?」
「うん、もらうね」
のんちゃんはいつも通り。
ちょっとだけ…ほんのちょっとだけ、変なこだわりが出ただけ。
「最近どう? ちゃんと娘。のお仕事やってんの?」
「うーん、まあまあ、ってとこかな」
「何それ」
『多分仕事のストレスから来たものだから、なるべく仕事の話はしないように』
担当医さんの言葉が耳に突き刺さる。
でも実際のところ、私は今ほとんどお仕事に出ていない。
のんちゃんを放ったまま出たくないって言うのも事実だし、
私のわがままに事務所の方も不思議と何も言ってこない。
それが不満なわけじゃない、むしろ感謝している。
……だって、のんちゃんを治すためのお薬、作る時間が出来たもん。
私には日課がある。
のんちゃんの様子を見て、そして部屋に帰ってお薬を作る。
今日だって……
「そうそう、のんちゃん。いいもの持ってきたよ」
「え? 何? 紺野ちゃん」
「エヘヘ……えーとねぇ…あれ? ないなぁ」
バッグの中に入れたはずなのに、お薬は忽然と姿を消していた。
おっかしいなぁ…どっかに落としたのかなぁ?
「無いの?」
「うん、ゴメンネ」
「何か毎日落としてるよね、紺野ちゃん」
愛想笑いを浮かべて私は言い訳を考えたけれど、検診に来た看護婦さんに私の言葉は遮られた。
のんちゃんと軽く手を振って、私は元来た廊下を西向きに歩く。
やっぱりやってくる、いつものあの感じ。
ちょっぴりの諦めと、そしてたくさんのやりきれなさ。
でも……その想いが募れば募るほど、気合が入ってくる。
いつか、ホントにいつになるか分かんないけど、のんちゃんを治す薬を作ってみせる。
精神科に内服薬が効くかなんて、試してみないとわかんないじゃない。
だからこそ、あまり試されていないからこそ、私はますます燃えるんだ。
でもなんであんなに普通そうなのんちゃんが、こんな病棟に押し込められているんだろう。
同じ電車の席に座りたくて、リップを12回閉めなおすのが、そんなにいけないことだろうか?
人と違うから?
だってみんな、同じ人なんて世の中にはいないじゃない。
誰がのんちゃんが標準外で、私たちが標準だって決めたんだろう?
帰り道、私はずっとそんなことを考えながら、ぶつぶつと呟いていた。
―――
「あ! あさ美ちゃん…お帰り」
「まこっちゃん!!」
部屋に戻るとまこっちゃんが椅子に腰掛けたまま振り返った。
私の白いベッドの上にバッグを投げ出してあるのはいつものことだね。
いつものぼんやりとした顔つき、でも最近ちょっと悲しそうかな?
「どこ行ってたの?」
「うん、のんちゃんのとこ。
もう少しでねぇ…お薬しっかりしたの作れると思うよ!!
ちゃんと持ってかないとダメなんだけどさ。
何かねぇ…前の日にバッグの中に入れといても、いっつもどっかに落としちゃってるみたいでさぁ」
「そっか」
一瞬だけまこっちゃんの目が泳いだような気がした。
でもすぐに微笑むと、ふっと窓の外を見る。
夕暮れが迫った部屋の中はちょっぴり薄暗くて、それがなんだか淫靡(いんび)な感じ。
「あさ美ちゃんさ…食べたがってたケーキ屋さんのチーズケーキ、買ってきたから。
生ものじゃないから…大丈夫でしょ?」
「うん、ちょっと待ってね。今、手洗ってくるから」
まこっちゃんは私の部屋に来るとき、いつもお土産を持ってくる。
しかも私が食べたいモノっていうツボをちゃんと押さえていて。
チーズケーキを思い浮かべながら、部屋の脇の水道で私は手を洗う。
液体石鹸を手の中に入れて、27回手のひらで泡立てる。
次に右手の甲を左手で23回、逆を23回。
指を一本7回ずつ、全部で…70回。
手首の周りを4回ずつ。
水道で一旦泡を流して、そしてあと3回これを繰り返す。
流れる石鹸の泡の色が、白色から段々ピンク色になっていって。
真っ白な洗面台に、赤い雫が何滴か垂れる。
それを見てようやく安心できる。
よし! ちゃんと洗った!!
「まこっちゃん!! それじゃ一緒に食べよ!!」
振り向いた私を、まこっちゃんが哀しげに見ているような気がした。
その目をしながらまこっちゃんが口元で呟いた言葉に、かすかなデジャヴを感じた。
「何で……第8病棟なんだろ」
「第8病棟」
おわり
ほ
392 :
名無し募集中。。。:04/05/07 03:11 ID:8yl9XVCy
位置的に落ちそうなところ(463)にあるんで上げとく
街灯や対向車のヘッドライトが、次々と現われては流れていく。
目を閉じても無数の光りの残像は消えない。
鬱陶しい、と思う。気分が悪い。
窓に映るあたしの顔は不機嫌そうに歪んでいて、
大きくため息をつくと窓ガラスが白く曇った。
明日のライブ会場へ移動するバスの中、大声を出す者はいない。
先程までのライブでみんな相当消耗しているのだろう。
車内灯が明るい光りを放っているが、あちこちから小さな寝息が聞こえてくる。
あたしは、眠れないで過ごすこの時間が大嫌いだ。
短時間の車移動なら我慢できる。
長時間の移動でも新幹線や飛行機なら平気だ。
しかし長時間の車移動だけはどうしても我慢できない。
眩暈のような感覚。
胃のあたりに感じる違和感。
おそってくる吐き気。
時間はゆっくりと流れ、最悪の状態をいつまでも味わい続ける。
薬も色々試したが、気休め程度にしかならないのはもうわかっている。
バスが揺れるたびに、あたしの気分は沈んでいく。
光りの残像がいつまでも目蓋の裏を漂っていた。
隣からも小さな寝息が聞こえている。
何故か最近さゆも絵里もあたしの隣に座ろうとしないから、
今隣に座っているのは新垣さんだ。
視線を向けると、新垣さんは背もたれに体をあずけ目を閉じている。
その幸せそうな寝顔を見つめる。
眩暈がした。
だからあたしはそのつるつると綺麗な頬を、ひっぱたいた。
頬がぱしっと音をたて、新垣さんがぱっと目を見開く。
そして唖然とした表情でその頬に触れる。
「え? 何? 田中ちゃん? え?」
「どうかしました?」
あたしは首を傾げる。
「なんかほっぺたが痛いんだけど」
「どっかにぶつけたんじゃないですか?」
「……そうかなぁ?」
頬を撫でながら、きょろきょろ辺りを見まわす新垣さん。
その頬が、うっすらと赤みを帯びている。
あたしは視線を窓の外へ戻した。
流れる光が、綺麗に見える。
しばらくすると隣から再び寝息が聞こえてきた。
新垣さんを見ると、その頬はまだうっすらと赤い。
しばらくその悩みなど無さそうな寝顔を見つめる。
眩暈がした。
だからあたしは、そのまだ赤い頬をひっぱたいた。
新垣さんの頬が再び音をたてる。
「いっ! ちょっと、なに?」
目を開けた新垣さんは眉間にシワを寄せ、指先で頬に触れる。
「またどっかにぶつけ」
「田中ちゃん、叩いたでしょ?」
新垣さんは睨むような視線をあたしに向ける。
あたしは笑っていた。
「じゃあ、虫がいたんです」
「虫って……」
「刺されたら死んでましたよ? あいつは猛毒持ってますからね」
「猛毒?」
「そう、だから」
頷くあたしを、新垣さんは釈然としない表情で見つめてきた。
「でも」
彼女は赤い頬をふくらませ、更に何か言おうとした。
だからあたしは新垣さんの頬をつまむ。
「あ、腫れてますよ! やばい、もう刺されたのかも」
「な、ちょっとちょっと!」
「針が残ってるかもしれんけん。それに毒も出さなきゃ」
慌てる新垣さんの頬をつねる。
彼女の顔が歪んだ。
「いたっ! 痛いってば、田中ちゃん!」
「黙ってください」
あたしが睨むと、新垣さんはぽかんと口を開いた。
「あー、こりゃ危ないなー」
新垣さんの頬を思いきりつねる。
「いたっ! 痛いってば!」
「うるさい。新垣さんのためにやってるんですよ?」
そう言って、更に赤くなった新垣さんの頬をひっぱたく。
乾いた音が響き、新垣さんの瞳に涙が浮かんだ。
「そんな虫なんて……」
「いるんですよ。それともあたしが嘘ついてると思ってます?」
新垣さんは何か言いたげに口を開いたが、結局諦めたように視線を落した。
「こりゃ相当やばいですね。真っ赤ですよ?」
「なんでこんなこと……」
「はぁ? あぁ、あいつはホントに性質が悪いですからね」
真っ赤に腫れあがる頬を見ていると、沈んでいた気分が昂揚していくのがわかる。
その頬を更に叩き、つねる。
最後に新垣さんの頬を一張りして、にっこりと微笑んで告げる。
「もう大丈夫ですよ」
清々しい気持ちで、赤く腫れた頬と涙を浮かべた瞳を眺める。
いつのまにか眩暈も吐き気も治まっていた。
きっとよく眠れるだろう。
「じゃ、あたし寝ますから。新垣さんも寝たほうがいいですよ?」
そう言って目を閉じる。
バスの揺れが、あたしを眠りに誘っていた。
おわり
不思議な夢を見た。
変な黒頭巾被ったお婆さんが私に向かって『これいらんかね?』そんな事を言うのだ。
差し出されたのは小さな小瓶で、その中には怪しげな紫の錠剤がめい一杯詰められ
上から強引にコルクの蓋で止められている。
私は何のことか分からず頭に何個もクエスチョンマークを浮かべながら
ただただ、そのお婆さんの話を聞いていた。
「それで最後にそやつは「裏切ったな!」 と喚きおって……そりゃもう痛快だったぞえ」
ふわぁふわぁふわぁ、と思い出し笑いを始めたお婆さんを他所に私はいつの間にか並べられたテーブルの上のお茶菓子をぽりっとかじる。
しばらくして、ひとしきり笑い終わったお婆さんが美味しそうにズズッっと啜った。
「それでなんの話だったかね?」
「あの、この錠剤のことだったんですけど……」
テーブルの上にデンと置かれた瓶に視線を向ける。
「おおそうじゃった。最近孫も大きくなったせいか、わしの話を中々聞いてくれんでツイツイ夢中になってしもうたわ」
「はぁ…」
「もう夜明けも近いの、悪いが簡単に説明させてもらうとこれは歌薬じゃよ」
「はぁ……?」
歌薬?何それ?? まあ夢の話だしこんな事もあるのかな。よく分かんないけど、せめて大っきいどら焼きとかだったらいいのに……
今度は煎餅に手をつけた私にお婆さんは更に続ける。
「ここという時に一錠飲むのじゃよ。服用時は水でなけりゃ駄目じゃ。分かったかぇ?」
促されてうんうんと頷く私にニヤリと笑いかけて
「そろそろ時間じゃ、うまくやるんじゃよ」
そこで眼が覚めた。パチパチとまばたきして天井を眺める。
変な夢だったなぁ……
しばらく、ぼーっとしてその夢の余韻に浸っていると今日がコンサートなのを思い出した。
よし、と気合をいれて布団を跳ね除ける。すると何処からかコロンと見覚えのある瓶が……あれ?
「あさ美ちゃんおはよう!」
「おはよう……」
東京の某所。現場に着くと先に来ていたまこっちゃんが手を振りながら元気に迎えてくれた。
小走りに私の方によって来て肩を叩く。でも今日の私はそのノリに付いていけず、
「どうしたの? 元気ないよ」
「うん、ちょっと風邪引いたみたいで」
「あ、ごめん」
心配されてしまった。
「…でもちょっと咳き込むぐらいだし」
「なんか顔色もよくないよ」
慌ててフォローを入れてみても、その姿が力なかったせいかますます心配されてしまう。
「大丈夫、大丈夫だよ。早く楽屋いこ」
と、大事になる前にそこでいったん話を終わらせたのは良かったんだけど……
不味い事に楽屋にメンバーが集まってリハーサル、その後休憩と時間が経つごとに体調がおかしくなってきた。
初めは軽い頭痛と喉の痛み、それが段々と重くなって一度目の本番が終わり一汗かいた辺りからは寒気まで感じはじめる。
これはちょっと不味いかなーと、極めて明るく頭の中で呟いて心配されるのが嫌だからこっそりバッグを持って楽屋を出た。
ふらふら揺れる足元に変な浮遊感を感じながら少し離れた所で、いつも常備している風邪薬を飲み込む。
これで、少しは楽になってくれないかな……
そして、二度目の本番。
興奮と歓声。誰かがそんなお客さんたちを煽って歓声はもっと大きく興奮は最高潮に。
最高の盛り上がり、だけど……
私はというとそんな様子を終始ぼーっと眺めていた。もちろん、喋ったり歌ったり踊ったりしてたけど。
なんだか聴覚と肌に感じる感覚だけが加速して、後から視覚がついて来るような変な感じ。
熱に浮かされてるってまさにこの事かもしれない。
自分が変なが分かり始めると一緒に失敗するのが急に怖くなった。
舞台裏で、少ないパートを気にも止めず必死に次に歌う歌の歌詞口づさみながら次の出番に備える。
一度だけまこっちゃんが話しかけられてような気がするけど
コンサートの事だけで頭がいっぱいになってて、なんて答えたか何を言われたのかさえ覚えてない。
ただ驚いたような顔してたから、変な事言ったのか熱があるのバレちゃったのかも……変な事言ってたら明日あやまっておこう。
みんなが手を振っているので私もそれを真似して手を振った。
それがコンサートの終わりだと気付いたのはきっかりその三分後。正直ホッとした。
それで今は布団の中。
一眠りしたらちょっとだけ気分が良くなったのもあって体を捻ると何となくメールをチェックしてみた。いっぱい来てる。
風邪引いてたのみんなにばれてたんだ……
隠してたのが馬鹿みたいでちょっとだけ恥ずかしくなってしまう。
それでも『早く治せよー』とか簡単な励ましの言葉が嬉しくて一個ずつ返信しながら読んでいると、一通だけ何か的外れな物を見つけた。
『あさ美ちゃん何時の間にあんなに歌上手くなったの?』
まこっちゃんからだ。
思わず首を傾げてしまう。
『歌?』
歌った記憶も曖昧すぎてまったく覚えてない。
何のことか分からず疑問系の返事を送って、取り合えず他のメールを読んでいると返信が来る。
『ほら、あの舞台裏での鼻歌。凄く上手だったよ』
『え? そうなの?』
そうだったのかな。力が抜けて上手い具合に歌えてたとか、ん?
……そこでおるモノの存在に気がついた。
恐る恐る、バッグの中からそれ専用のポシェットを取り出して中を覗くと、あの変てこないわく付きの瓶がある。
夢よりもっと毒々しい紫色は他の風邪薬を侵食しそうなほどで思わず顔が引き攣った。
私、もしかしてこれ飲んだの? 効果があったんだろうか……
でも余り信じたい話ではない。どう見ても猛毒にしか見えないよね。
一人でうんうんと頷きながら恐る恐るコルクの蓋を指先で摘みあげた。
不審気にしげしげと見つめると私の目線の高さでコルクが軋む音がして持ち上げていた指先の負担が軽くなる。
なんだか泣きそう……
散らばった紫が部屋の明かりを浴びて笑いかける。もう最悪。
箸で摘もうかと真剣に考えた挙句、結局は一度飲んでるって事実にぶち当たって素手で触ることにした。
両手でさらうと見る間に瓶がいっぱいになっていく。
そして残りの粒もあらかた片付け終わると、ふと私の中に疑問が浮かんできて間がさした。
これ本当に歌が上手くなるのかな?
当然といえば当然の疑問、今まで気にならない方が不思議だったかもしれない。
摘み上げた一粒をそーっっと鼻先に近づけて匂いを嗅いでみた。匂いは無い。
もしかしたら凄く美味しいかも……もしと言う言葉に人は凄く魅力を感じている。
今の私はちょうどそれなんだろうけど……
もう一度、飲んでるって事実が頭をちらついて私は毒ではない事を認識した。そうなってしまえばもう好奇心には勝てない。
嫌がる指先を口元に寄せて開いた口の中に、紫の爆弾を投げ込んだ。
口の中に広がるのは、まったりとした甘さ。
張り詰めていた緊張感が一気に解けて、ほっとしたの半分、なぁんだって期待を裏切られたようなのが半分。
以外に美味しかった。舌で何度か転がして水で飲み込めと言われていたのに気付いて台所へ。
昨日洗ってあったお気に入りのコップを選んで水道の蛇口からコップに水を入れる。そしてなんの疑問も持たずに口へと水を注いだ。
と、その瞬間に私の顔は多分真っ赤だったと思う。
口の中に水が入ったとたんに口の中の甘さは科学反応を起こしたように変化した。
単純に言うと辛い、それもものすごく。
多分、生の唐辛子をかじったなんてのには、余裕で勝利しそうな辛さの王様が私の口の中で猛威を振るう。
すっかり騙されていた私は、瞬間何も出来ずにただ眼を見開いて瞬きを一回した後で口の中のモノを吐き出した。
「げほっ、はっ、げほっげほっげふ……」
辛さが全然収まらない、両目から涙が流れてるのを確認しながら急いで水を飲む。
所がそれが更に反応して、辛さを増してしまう。逆効果だった。
気が動転するのを何とか抑えながら、それでもどうしたらいいか分からなくなって私は助けを求めるようにうろうろしながら
目に付いた甘いものを片っ端から口に詰め込んだ。
結局、その日は寝れなかった……そして
上る朝日を眺めながら私はこの禁断の薬には二度と手をつけない事を誓った。
でも、何となく捨てるのも勿体無いようで……未練がましく薬は今も私のバッグに眠っている。
終わり
「誕生日おめでと」
いつもみたいにベッドに寝転がって、何をするでもなくハナクソをほじくっていると、
その言葉と共に頭の上から小さな箱が降ってきた。一見して分かる。ガムの箱だった。
「何?これだけ?」
私の誕生日はもう大分過ぎてしまっていたが、嬉しさを隠しつつそう答えた。
「ちゃんと箱見てみなよ」
そう言われて箱を見ると、ヘタクソな字でLike a Strawberry Dessertと書いてある。
どういうことだろうと思って目を上げると、臭ってくるようなヤニ臭い笑顔があった。
胸がヤケるような気持ちがして目をそらすと、赤く光る夕陽が笑っていた。
窓の外の遠くの方で、キラキラうるさい海面が、私を尚更イライラさせた。
私は、無造作にその箱を破り開けると、ピンク色したそのガムを、
よく考えもせず口へと押し込んだ。イチゴじゃない、変な味がした。
遠くに見える海面が、赤くキラキラとわたしを手招いていた。
◇
輝いていた。空気がキラキラと輝いていた。
あるモノは、私に向かってやあいらっしゃいと走り寄ってきたり、
またあるモノは、私から逃げるように遠ざかっていったり、
形あるモノは全てその形を保ちながらも、絶えず動きつづけていた。
視線を上げると、グラマーなどこか見覚えのある女の人とキラキラと輝くモノが、
夜空に浮かんでいた。それはくっきりはっきりとしていて、私に古い歌を口ずさませる。
―――Lusy in the Sky with Diamonds
私もダイアモンドと共に、空に浮かべるだろうか。
◇
何年前のことだろう。私と彼女が出会ったのは。
あの時のことは、思い出せないぐらいはっきりと覚えているのに、
やたらフワフワとしていて、現実味が無くて、夢だったんじゃないかとさえ思えてくる。
それでも私はあの時のことを何度も何度も繰り返し思い出しては、
焼け焦げてしまうような胸の熱さを感じた。今はもう無い胸の高鳴りを。
慣れない都会に出てきてまだ間も無い頃。
何にも分からない癖に、ちょっと遅れてこっちに出てきた友達の手前、
「ココ、近道なんだよ」と知ったかぶりをして私たちは路地裏に迷い込んだ。
その路地裏は暗くて、臭くて、ジメジメしていて、
更に足元には得体の知れないゴミがたくさん転がっていた。
割れた注射器や、使用済みのコンドームを横目に見ながら、私は後悔をし始めていた。
それでも、泣き声になりながら何度も「表の道を通ろう」と言ってくる友達の言葉を、
私は受け入れることが出来ずにいた。頑なに「大丈夫だから」の一言で全て遮って、
前も見ずに靴の先ばかりを見つめて、やみくもに早足で歩いた。
そうして何度目かの角を曲がると行き止まりに突き当たった。
一生懸命の照れ笑いで恐怖を隠しながら「間違っちゃった」と言って振り向くと、
そこに友達の姿は無かった。ハッとして辺りを見回すと、自分がどうしようもないぐらい、
この薄暗い袋小路に迷い込んでしまっていることに気が付いて、恐ろしくなった。
私は、友達の名前を叫びながら駆け出した。
今まで出した事の無いぐらい大きな声を張り上げて、声が枯れるのも、
足がもつれるのも構わずに、叫んで、走った。
そして何度目か、足がもつれて転びそうになった瞬間、誰かに引っ張り上げられた。
振り向こうとした所で頭を押さえられて、口を塞がれる。背筋に寒いモノが走った。
遠くから「おいコラァ!」とか「もう一人おるんやろ!」とかいう乱暴そうな男の人の声が、
段々と近づいて来るにつれて、身体の震えを抑えることができなかった。
私は死を覚悟した。最低でも、貞操は守れないとも思った。
「大丈夫、私の言う通りにして」
耳元でささやかれたその声で、私の自由を奪っている人が女の人だと言う事を知った。
そして少し安心した。私は言われるがままにその女の人に従った。
しばらくしてその物騒な声が過ぎ去ると、その女の人は私を自由にした。
振り向くとそこには私より背の低い、ちんまりとした女の人が居て驚いた。
女の人は「ごめんね」と言うと、剥き出しの紙幣の束を私のポケットに突っ込んだ。
何が「ごめんね」なのかその時の私には分からなかったし、
なんで私を助けてくれたのにお金をくれたのかも分からなかったけど、
路地裏から表通りへ連れて行ってくれてる間中、私は胸の熱さと、高鳴りを抑えられなかった。
何もかも分からないだらけの慣れないこの街で、ただ一つ確実だったことは、
私は彼女のことが好きになった。それだけだった。
道すがら、彼女は名前を教えてくれた。私もそれに答えた。
「私、矢口真里っていうんだ」
「あなたの名前は?」
「吉澤……、吉澤ひとみです」
彼女は難しそうな顔をして、しばらく黙り込んだ。
「吉澤ひとみかー……、よっすぃーでいい?」
「何が……ですか?」
「あだ名。よっすぃー。なかなかいいでしょ?」
「ええ……まぁ」
「じゃ、決まりね。私はまりっぺでいーよ。そう呼ばれてるし。」
「はぁ……」
「はい、ここから表通りだよ、気ーつけてね」
「……ありがとうございました。……矢口さん」
私がそう言っておじぎをすると彼女は笑いながら「いいっていいって」と言った。
そして表通りに向かって歩く私の背中越しに、微かに「またね」という声が聴こえた気がした。
後で知ったが、その時彼女はまだ18歳で、そして私はまだ15歳だった。
◇
私は19歳になった。あの時の彼女よりも一つ年上。
Like a Strawberry Dessertの箱を見つめながら、ビルの上で夕暮れ、黄昏。
キラキラと光る海面が眩しくて、目を細めてしまう。
この表情をすると彼女がいつも「よっすぃーかっこいいよね」と言うのが、
私は大嫌いだった。
彼女も私を見てはいないし、私も彼女を見てはいないということが、
はっきりと、分かってしまうから。
Like a Strawberry Dessertの箱から残り2枚になったガムを一枚取り出して、
口に放り込む。しばらく噛んでいると、空気がすべて透き通って、キラキラとして、
眩しくて訝しかったはずの海面が、美しくて仕方がなくなってくる。
「やっぱりここにいたー」
彼女の声が、背中に突き刺さる。その声が、彼女がこちらへ歩みよる足音が、
固体となって私の背中を叩きつづける。私は振り返る。
「気に入ってくれたんだ、それ」
彼女は少し寂しそうな顔をして私の手に握られているLike a Strawberry Dessertの箱を見る。
私も彼女のヤニ臭いだろう顔を見つめる。今日は何故だか彼女が大きく見える。
そしてあの時のように、美しく見える。私の胸は高鳴るドキドキという音を、
マンガみたいに身体の外へと漏らしつづける。胸が苦しい。
「一枚もらうね」
そう言って、私の手から箱を取り、最後のガムを取り出すと、それを口に放り込んだ。
そのすべて一連の動作が、ありえないぐらい美しかった。気付くと私は彼女を抱きしめていた。
「好きだ」
そう言うと彼女は笑った。悲しそうに笑った。どうして悲しそうかと言うと、泣いていたから。
涙がこぼれていたから。その涙の粒は彼女の涙にしては大きすぎる気がした。
「分かってるよ。よっすぃーは私のことなんか、ホントは好きじゃないのなんか分かってる」
「そんなことない」
「それは全部ガムのせい。よっすぃーはいつも私じゃなくて、別の人のことを見てた」
「ちがう」
「多分それはあの『梨華ちゃん』って子。私があの時見殺しにしたあの子」
梨華。その言葉だけは、他の言葉以上に確固たる形をもって、私の頭を叩きつけた。
梨華、梨華、梨華、梨華、梨華ちゃん、梨華ちゃん。私があの時、知ったかぶりをして、
路地裏へ連れ込んでしまった梨華ちゃん。あの時から連絡が取れなくなった梨華ちゃん。
私のせいであんなところできっと男どもに輪姦されて死んでしまった梨華ちゃん。
そして、私の本当に好きな人、梨華ちゃん。
私の胸は何度も飛び出そうになった。
私はそのハートをどこかへ落っことしてしまわないように、両手で押さえ込んだ。
もうこれが、何のドキドキなのか、わかんなくなっていた。
「でも矢口さんだって、私を見てなかった。私の眩しがる顔に誰かを見ていた。」
私は激しく息切れがした。そんな私を彼女は抱きしめてくれた。
彼女の体温が液体のように私へと流れ込んで来る。
私は彼女の血液を吸い取っているんだ。そんな感じがした。
「そんなことないよ、私はずっとずーっとよっすぃーが好きだった」
「だから、私の方を向いていて欲しかった」
私を抱きしめながら、彼女はそう言って手に持ったLike a Strawberry Dessertの空き箱を、
じっと見つめていた。私には彼女がその空き箱の中に入ってしまいそうなほど小さく見えた。
「イチゴのデザートみたいな甘ったるい恋がしたかったんだ」
彼女はとても小さい。今や私の小指の指先ほどの小ささに見える。
だから私はとても愛しくなって、彼女にこう言った。
「しようよ、今から」
彼女を抱き上げて、ルーシーとダイアモンドが浮かぶ夜空に飛び出す。
―――ルーシー、私は今、ダイアモンドと一緒に、空に浮かんでいないかい?
−了−
421 :
薬指:04/05/09 19:19 ID:zKzOl9Ka
_薬指
422 :
薬指:04/05/09 19:20 ID:zKzOl9Ka
「ねぇ、見て」
さゆみが左手の薬指に嵌めた指輪を掲げている。
れいなはハッと息を飲み、絵里は首を振り、言う。
「さゆ、あのさ……それって恋人いるって印だって知ってる?」
さゆみは首を傾げ、嵌めたそれを弄んでいる。
柔らかな丸みを帯びた、シンプルにハートだけをあしらった、シルバーのリング。
れいなは絵里の諦めたような表情を窺い、遠慮がちに言う。
「さゆ、彼氏できたの?」
絵里は、まさか、と緩んでいた頬を引き締めた。
さゆみはどういった訳か、言葉を選んでいる。
絵里とれいなは、祈るような面持ちで、さゆみを見つめている。
その視線は沈黙を帯び、停滞し、やがてそれは期待と裏切りの両極を満たした。
423 :
薬指:04/05/09 19:21 ID:zKzOl9Ka
さゆみが小さく息を吐く。
「できるわけないじゃん」
素っ気なく言った。
「連休中、お姉ちゃんが東京来たから、お揃いで買っただけだよ」
ここで、やっと絵里とれいなは破顔した。
「あー、ホントびっくりしたぁ。さゆが男を認めるなんて、ありえないと思っちょったから」
興奮を抑えきれない様子のれいなが、そう一気に捲くし立てた。
「そうだよねぇ」
舌足らずに、絵里が胸を撫で下ろす。
424 :
薬指:04/05/09 19:21 ID:zKzOl9Ka
そんな二人の反応に納得いかないのか、さゆみは呟いた。
「でも、右も左も薬指に指輪するのは、そんな意味変わんない、って飯田さん、言ってたもん」
姉との仲良しリングを笑われたのが心外だったのか、さゆみは口を尖らせる。
飯田には、薬指のリングは親愛の印程度に聞いていたのだろう。
さゆみは姉とお揃いのリングを大事そうに撫でている。
425 :
薬指:04/05/09 19:22 ID:zKzOl9Ka
「でもさ、本当のところはどうなんだろうね?」
興奮を引きずったままのれいなが言った。
「どういうこと?」
「実際はさ、恋人できたら、右と左の薬指、どっちに指輪するのかな、って」
絵里の疑問に淀みなく答えたれいな。
そのれいな共々、絵里とさゆみも腕を組みつつ、首を傾げた。
「じゃあ、飯田さんか矢口さんに聞いてみようか」
そう言ったのはさゆみ。
飯田と矢口、どちらも右手の薬指に指輪を嵌めているのが脳裏を掠めたのだろう。
「でも、飯田さんも矢口さんも、そういう質問、怒りそうじゃない?」
そう言ったのはれいな。
「じゃあ、まずは藤本さんに聞いてみようよ」
絵里が藤本の名前を出し、さゆみとれいなは、あぁ、といった感じで頷いた。
426 :
薬指:04/05/09 19:23 ID:zKzOl9Ka
───
──
─
「指輪?知るわけないっしょ。今はそんなの意味ないし」
意を決した三人の質問に、藤本はそう返した。
「前も言ったじゃん、美貴、処女だって。そんなの、必要になったら知ればいいよ」
藤本はそうも付け加えた。
絵里とさゆみとれいな、それぞれに顔を見合わせ、笑い合う。
怪訝そうにそれを見ていた藤本、三人の笑う様子に相好を崩した。
そして、三人を抱きしめ、その輪に加わった。
427 :
薬指:04/05/09 19:31 ID:zKzOl9Ka
おしまい
428 :
PSY:04/05/18 18:03 ID:2uQPXi2B
これから『劇団モーニング娘。』を書こうと思ってるんですが
似たような感じの小説ってすでにありますかね?
タイトルだけなんでなんとも言えませんが、『娘。のメンバーで組織された劇団』
という設定は読んだこと無いです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次のお題です。
・『パズル』を題材に30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)。
・投稿期間は本日〜6/8 23:59まで(20日間)。
・必ず完結させたものを上げる事。
・投稿時、名前欄はタイトルを入れる。
・作品の最後もしくは次レスに『完』や『終わり』というように終了を明確に記す。
・作品を上げる時に前の作品が完結しているのか確認を。
・添削は『娘。小説作家養成塾 其の3』で随時行う。
431 :
ピース:04/05/20 14:13 ID:FvVCrMee
「ピース」
バラバラだよ・・・・
ちゃんと組み立ててよ・・・・
そうじゃない!それはそこに入るピースじゃない・・・・ん?ピース?
裕ちゃんの卒業を聞かされた時、みんなはどうだったんだろう?
私は正直不安でいっぱいだった。誰がこのグループをまとめるの?
飯田さん?安倍さん?それとも年長の圭ちゃん?
それ程の大きな存在だったんだ。裕ちゃん・・・・初めは怖かったよ。
裕ちゃんなんて呼べなかった。本気で嫌いになった事だってあったんだ。
毎日怖くて・・・・怒られない様に・・・・けれどそれでまた怒られた。
でも今は大好きなお姉さん。卒業なんてやだよ。
「こら!聞いてんの?」
「えっ?」
「えっ、じゃない!もう、しっかりしてよ」
裕ちゃんの卒業が近いこの日。「ライブレボリューション21春」に向けて
私達はレッスンの真っ最中。私はミニモニのダンスレッスン中に矢口さんに怒られた。
いつもならこの位では怒られないんだ。矢口さん、虫の居所が悪いのかな?
八つ当たり・・・・?まさかね。
432 :
ピース:04/05/20 14:14 ID:FvVCrMee
「ごめんなさい」
「もう、ちゃんとやってよね。裕ちゃんのラストなんだよ」
「はい・・・」
そうなんだよね。このツアーでラストなんだ。でもね。
駄目だよ。みんなバラバラだよ。
裕ちゃんと言う大きな柱がなくなってしまう。みんなの不安・・・当然だよね。
新しいリーダーは飯田さんに決まった。うん、そうだよね。でも・・・・
でも、みんなどっかぎこちないよ。頑張ろうって気持ちは伝わって来るけどね。
飯田さん、安倍さん、矢口さん・・・みんな必死なんだ。
みんなやっぱりどっか裕ちゃん頼っていたんだ。
でももうすぐいなくなる。私も頑張るよ。
そんな時、TVで新しい番組が始まった。「モーたい」
始めは裕ちゃんの卒業スペシャルだったよ。
みんなで裕ちゃんの卒業式を手作りでやるんだ。
最後の思い出・・・他にもあったよ。水族館の引越しのお手伝い。
裕ちゃんとごっちんとよっすぃ〜と4人でお手伝い。
裕ちゃんとよっすぃ〜が大きいアナゴを捕まえてきた。「ごなつよ」
TVでの卒業式。やっぱりさみしかった。
でもね頑張るって言ったんだ。負けないよ。
433 :
ピース:04/05/20 14:15 ID:VG1fc9Bs
2001春、大阪城ホール最終日。この日、裕ちゃんは「モーニング娘。」を卒業した。
みんな泣いてたよ。私達は勿論、平家さんも、りんねちゃんも、あさみちゃんも
あややも、ミカちゃんも・・・・どうしてだろう?会えなくなるわけじゃないのにね。
この日は、当然盛り上がったよ。メンバーだけじゃなくてファンのみんなも。
みんな裕ちゃんが大好きなんだね。そして・・・・
私達は9人になった。新しい「モーニング娘。」もうすぐ新メンバーも入るらしい。
9人になった私達・・・保田さんは言ってたよ。
「裕ちゃんがいなくなったから駄目だって言われるのは悔しい」
私も同じだよ。でもね、まだみんなぎこちないよ。どこか今までと違うんだ。
裕ちゃんがいないとやっぱり駄目なの?悔しいけどそうなのかな・・・・?
裕ちゃんがいなくなったら駄目なの?ううん、そんな事はない。
私達が少し弱虫になってただけなんだ。
そんな私達のこと、つんく♂さんはちゃんと解っていたんだね。
9人になった私達の新曲は「ザ☆ピース」
ピースって何?平和?確かにその意味もあるんだ。
けどね、実はもう一つ意味があるんだよ。
434 :
ピース:04/05/20 14:16 ID:VG1fc9Bs
「新曲で一番好きなところは何処?」
私はこの質問に
「デリバリピザいつも悩むLかMかピザ・・・・」
こう答えた。でも本当は違うんだ。だって・・・照れくさいもんね。
本当は・・・・
♪好きな人が優しかったうれしい出来事が増えました。
大事な人がわかってくれた感動的な出来事となりました。♪
この歌でみんな変わったよ。新しくなったんだ。
それまでは裕ちゃんに頼っていたけどこれからは違う。
モーニング娘。は私達なんだ。裕ちゃんはもう必要ない。私達だけでやれるよ。
みんなこの歌で解ったんだよね。変わらなきゃって・・・・
「ピース」このもう一つの意味はパズルのピース。
ほらパズルって1000ピースとか言うよね。
そのピース。9個のピースがしっかり組み合わさって「モーニング娘。」
バラバラだったピースが一つになったんだ。
だから「ザ☆ピース」のピースは二つの意味があるんだよ。
435 :
ピース:04/05/20 14:17 ID:VG1fc9Bs
♪言葉で離せなくても離れていてもテレパシーってあるんだと信じてみるよ♪
カップリングの曲にこんな歌詞があった。うん、今の私達みたいだね。
みんな心が通じてるんだ。もう大丈夫。
♪HO〜ほら行こうぜ そうだみんな行こうぜ
さ〜ほら歌おうぜ そうだみんな歌おうぜ
HO〜ほら誓おうぜ そうだみんな誓おうぜ
さ〜ほら愛そうぜ 最高級で愛そうぜ♪
裕ちゃんもう大丈夫だよ。私達はやれるんだ。
私達9人で・・・・それから新しいメンバーと一緒に・・・・
負けないよ。頑張るよ。
もっともっと成長して・・・・
いつか裕ちゃんを追いこすんだ。
WOW WO WOW WO WOW WO ピース ピース
WOW WO WOW WO HAh HAh ハアッ!!
おしまい
「安倍さん、のんちゃん、あいぼん、飯田さん、石川さん」
スタジオの屋上で、指折り数えてため息をつく。
「うん」
さゆが小さな声で相槌を打った。
きっと考えていることは一緒だろう。
度重なるメンバー卒業の話に、あたしの気分は沈んでいた。
自慢じゃないがあたしは人見知りが激しい。
先輩メンバーに慣れるのにも、随分時間がかかった。
最近ようやく打ち解けて、一緒にいるのが楽しくなってきたところなのに。
漠然とした不安に、もう一つため息をつく。
空を見上げた。
目の前に広がる、淡く透き通るような五月の空。
雲のないその空はすい込まれそうな水色で、あたしは思わず息をのむ。
さっきまで降っていた雨は嘘のように上がり、
漂う冷ややかな空気が、その水色をなにか神聖なものに感じさせた。
「きれいかねー」
「五月晴れっていうんだって。絵里が言ってた」
隣で同じように空を見上げていたさゆが、眩しそうに目を細めた。
真っ白なさゆの肌が、水色の中で映える。
「あ、今あたしのことかわいいって思ったでしょ?」
「はぁ? 思ってなか」
「うそ。思ったもん」
頬をふくらませるさゆをよそに、視線を再び空に向ける。
眩しいくらいの水色が、憂鬱な思考を少し切り取ってくれた。
「いっつも、こんな空が見れたらよかね」
あたしの声にさゆが小さく頷いた気がした。
次の日いつものように楽屋に入ると、さゆがちょこちょこと寄ってきた。
「あのね、これあげる」
さゆが大事そうに差し出したのは、いくつかの水色のパズルのピース。
「なにこれ?」
「ジグソーパズル」
「それはわかっとぉ。なんのパズル?」
「空だよ」
受け取ったパズルのピースは透き通るような水色で、あたしは昨日見た空を思い出した。
「昨日みたいな?」
「うん、昨日みたいな」
さゆはそう言って目を細めて微笑んだ。
「……ありがと」
あたしはしばらくその水色のピースを見つめていた。
しばらくして、のんちゃんとあいぼんが卒業した。
昔はテレビで見ているだけだった二人。
娘。に入っても、しばらくは遠くから見ているだけだった。
それだけに仲良くなってからは楽しくて、余計に悲しかった。
これからのことも、不安だった。
それからさゆは、時々パズルのピースを持ってくるようになった。
渡されるピースはいつも数個。多くても十個程度だった。
「なんでちょっとずつ持ってくると?」
「いっきに持ってくると困るでしょ?」
「……何が?」
「うーん、色々? ゆっくりでいいの」
いまいちはっきりしないさゆの答え。
確かにさゆの持ってくるピースはどれも水色で、微妙な色の違いはあったけど、
一度に持ってこられたら永久に完成しない気もした。
「まぁいっか」
「うん、まぁいいよ」
そう言って頷くさゆは、とても可愛らしい顔で笑う。
あたしは次第に増えていくそれを、悪戦苦闘しながらも大きくしていった。
ゆっくりと形を成していくジグソーパズルは、
やっぱりあの日の空のように、どこまでも透き通るように水色だった。
誰が卒業しようが、季節が次々と変わっていこうが、
やらなければいけないことは山ほどあって。
そしていつものように収録が始まる。
あたしはメインパートを歌いながら、飛んだり跳ねたりしているファンを見ていた。
あたしに送られる歓声も、ボードに書かれたあたしの名前も、
以前とは比べ物にならないくらい増えている。
一般の認知度の高いメンバーが続々と卒業していく中、
娘。の人気はそれほど低下しなかった。
それどころか、最近人気は盛り返してきているようだ。
そんな中、あたしの人気の上昇度は何故かかなり大きくて、
あたしを扱う雑誌や新聞の記事には『モー娘。の新エース』の名が冠される事さえあった。
うるさいほどの歓声を聞きながら、なんとなく不思議な気分で曲を終える。
いや、確かにうれしいのだけど。
どんな状況にあっても、不安が消える事はない。
簡単なトークの収録も済ませ、今日の仕事はこれで終了。
あたしはさゆと絵里と共にタクシーに乗り込む。
「あ、雨」
絵里の声に、視線を窓へ向ける。
徐々に大きくなる雨粒が、次々と窓へ落ちては踊るように後方へ流れて行く。
そんな雨粒を見ながら、絵里がつまらなそうにつぶやいた。
「最近、なんか天気良くないよねぇ」
「冬だし、こんなもんやなかと?」
「そうかなぁ? あー、最近ずっと青空見てないなー」
「青空……そうだっけ?」
「そうだよ」
絵里が不満そうに口を尖らす。
助手席では、マフラーに顔を埋めたさゆが、気持ち良さそうな寝息をたてていた。
家に帰ると、バッグからパネルに入ったジグソーパズルを取り出す。
パネルは、パズルがある程度大きくなった時に、
「どこにいても見れるように」とさゆがくれた物だ。
ジグソーパズルはもうほとんど水色で埋まっていて、
真ん中近くだけが、まるで雲のように空いている。
この大きさなら、多分あと少しで完成するだろう。
あらためて見ると、不思議な絵柄だと思う。
300ピースほどの、水色一色のパズル。
でも、ただの水色じゃない。
あの日見た空のように、どこまでも透き通るような空の色。
見つめていると、溶けてしまいそうになるほどの淡い青。
その色を見ていると、不安はどんどん小さくなるような気がする。
窓の外では、まだ雨が降り続いていた。
飯田さんが卒業して数ヶ月、そろそろ石川さんの最後のライブも近づいている。
その卒業を前に、昨日やぐっつぁんと高橋さんの卒業が発表された。
またあたし達は大きく変わることになるだろう。
次から次へとよくやってくれる、と感心してしまう。
「今日も曇っとぉね」
あの日と同じように、屋上で空を見上げる。
雲間から、小さな空が申し訳なさそうに顔をのぞかせていた。
「はい、これで最後」
さゆはにっこり笑って、空色のピースを差し出した。
あたしはコンクリートにパズルをひろげ、それを最後の場所にはめ込む。
どこまでも透き通るような水色の空が、あたしの目の前に完全な姿を見せた。
雲一つない、水色に光る空。
「すごかー。ホントの空みたいやね」
あたしはパズルを見つめてため息をつく。
「ホントの空だもん」
さゆは、心外だとでも言いたげに頬をふくらませた。
さゆがそう言うなら、この小さな水色は本物の空なんだろう。
あたしもなんとなくわかっていた。
「なんでこんなものくれたの?」
「あの時、れーな寂しそうだったから」
見上げると、灰色の雲の中でさゆが優しげな笑みを浮かべている。
「もうこれで大丈夫だよね? 結構大変だったんだから」
さゆのとても可愛らしい微笑の後で、
最後の水色がゆっくりと雲に飲み込まれていくのが見える。
あたしはこれからもやっていけると、なんとなく思った。
おわり
ho
保
452 :
名無し募集中。。。:04/06/17 10:10 ID:BTFg/00W
age
ho
454 :
PSY:04/06/29 16:51 ID:R47mCbnv
>>430の様なお題を振るのは誰がやってもいいの?
>>455のスレにあった
「出来ればシングルの曲名を題名にして、曲の雰囲気やイメージが伝わる感じの」
小説を書き込みたいと思います。
実は1年位前に書いたもので、よくわからずに書き込んだスレがけっこうすぐdat落ちしちゃったんです。
もしかしたら見たことあるって人いるかもしれませんが、そういう時はごめんなさい。
「愛する人はアノヒトだけ。誰も邪魔させない。」
いつもは騒がしい【部屋】が、そのときだけはなぜか一瞬静まり返っていて、
ドスのきいたれいなの声が聞こえた。
れいな。彼女のフルネームは知らない。
この仕事にかかわってる女の子同士、みんなそうだったから珍しいことではない。
不思議な視線を持つこの彼女は、鳴物入りで入ってきた新人だった。
この仕事は初めてのはずなのに、加入当初からわたしなんかよりもたくさんの仕事を取っていた。
でも・・・、彼女には悪いが、それは正直言って不思議以外の何者でもなかった。
アノヒトの悪趣味な──刷りガラス越しに現役で働く娘たちが眺めている──面接、そのときも、
まさか、ガラが悪いだけで取り立て美人でもない彼女が通るとは思いもしなかった。
だけどもこの言葉を聞いて、なるほどアノヒトによる直接のスカウトか、って納得したんだ。
「アノヒトの愛に包まれてるのはわたしだけがし。わたしだけのアノヒト・・・」
愛ちゃんは、わたしと同期。
れいなの人気振りを見て、愛ちゃんを連想する時はあった。
でも愛ちゃんは、加入当時から多くの仕事を任されていてもそれを疑問に思わないくらいの美貌。
ちょっとだけ地方のかおりが残るところがあるけれど、それも魅力のひとつなんだろうって思ってた。
だけど、だけど、数時間前の噂話・・・そして今、本人からアノヒトの名前を聞いた今となっては、
わたしが持っていた仕事そのものに対する意義は、このとき急速に薄れていった。
―─愛ちゃんは、普段は喧騒状態にある【部屋】を信じきっていたんだろう。
その言葉はれいなにだけこっそり忠告したつもりだったのだが、みんなに知れることとなってしまったのだ。
「ドコ行ったんだよ〜!!」
突如、予想外の声が聞こえた。あっ!さゆみだ。
ここに来た当初の第1印象は、とかく消極的で声の小さい少女だった。
でも実際に話してみると、謎の自信がみなぎっている『不思議少女』さゆみ。
その雰囲気を一発で気に入ったわたしは、加入当時、実の妹のように接していた。
でも彼女はいつのまにか、れいなに対して金魚のフンのようにくっつくようになり、
次第にわたしから離れていったんだ。
あぁ。
今わたしは納得する。
さゆみもアノヒトのことを好きだったんだ。
だから、アノヒトと接点のないわたしよりもれいなといたほうが彼と近づける。そう思ったに違いない。
加入から半年を経過した今のさゆみは、目がうつろ。焦点が定まらない。
彼女はれいなに隠してアノヒトを愛する代償に、精神を病んでしまっていたのだ。
わたしはここしばらく彼女の声を聞いていなかった。聞こうとしていなかった。
そんな時に聞こえてきた、今までにない、甲高いさゆみの叫び声。
常識の範囲を超えた奇声に、
「あぁーうるせえっ!!」
美貴ちゃんが叫んだ。それは珍しいことではない。
普段から騒がしい【部屋】の中で、一括を入れるのはいつも彼女だ。
「お前の声もうるせぇんだよっ!!」
これも珍しいことではない。
美貴ちゃんとは犬猿の仲にある真里さんがこのタイミングで叫ぶのは。
だけどこれが、わたしたちの働く【部屋】――そう「シャボン玉」の平穏を壊す引き金になったのだ。
――時間は、少しさかのぼる
「ねぇねぇ知ってる、あさ美ちゃん?愛ちゃん、アノヒトと付き合いだしたんだって!!」
リサちゃんが顔を蒸気させてわたしに報告してきたのは、この数時間前のことだった。
リサちゃんとわたしは、同じ時期にこの【部屋】で働くようになった。つまり同期だ。
聞けば実家は裕福で、なぜこの仕事に身を沈めたのかわたしには理解不能だった。
この界隈で道に迷った時に親切にしてくれた人がこの店の人だった、そう言っていた。
それだけで決めるものなのかどうか、わたしには納得しきれないものがある。
だけど、リサちゃんがそう語っている以上深くは追求していない。
「・・・え?だってアノヒトって、梨華さんとつきあってるって聞いたけど?」
「ん。。。そうなんだけど・・・だけどぉ、愛ちゃんも声掛けられたって!
しばらく秘密にしてたんだけど、リサには教えてくれたの!ん。きっと、たぶん、同期だから!」
同期なのは間違いないが、愛ちゃんが言ったのは同期だからではないだろう。
ただただうれしくて、愛ちゃんはうれしくて、
その場にいたリサちゃんについ言ってしまったんだろう。
リサちゃんの代わりにその場にわたしがいたとしても、
愛ちゃんはおそらく、わたしには言わないはずだ。
忠告するまもなく走り去るリサちゃんに、わたしが何か言う暇はなかった。
きっともう1人の同期、マコトにも言いに行くんだろう。
追いかけてたしなめることが友達だったのかもしれないが、
そのときのわたしには、ほかに夢中になっていることがあり、
とにかくそういうことが、めんどくさくてしょうがなく思えた。
「なっちもねぇ〜そういう時代あったんだぁ」
「・・・そうなんですか?」
「なっちが好きになった人が別の人とも付き合っててね、
だからみんなにナイショでね・・・あ、このいい感じのホシイモもらっていいべか?」
「あ。どうぞ。ほかにもまだ焼いてますから」
なかなか暑くならない今年の夏。
わたしはストーブを出してきて大好きなホシイモを焼いていた。
そんなときに、リサちゃんが部屋から出て行ったのと入れ替わりに入ってきたなつみさん。
彼女こそ、道に迷ったリサちゃんに親切にしてあげたその人なのだ。
そんななつみさんに、リサちゃんや愛ちゃんの名前は出さず、地元の友だちに相談された話として、
さっきの話をしてしまった。
わたしの中でその話題が切羽詰っていたわけではない。
ただ、なつみさんがわたしのホシイモが焼けるまで出て行ってくれる気配がなく、
それまでの世間話のつなぎとしてしてしまっただけなのだ。
22才のなつみさん。
アノヒトともめていた頃は、ストレスのせいで体型が悲惨な状態になってしまって、
この仕事を続けることが危ぶまれた時期もあったらしい。
でも今の彼女は、わたしのホシイモをいくら横取りしようとも、
あらゆる経験を踏まえたことからくる自信のせいだろうか、とてつもなくかわいらしかった。
リサちゃんが惚れ込むのも無理はない。
「モグモグ・・・したっけなぁ」
なつみさんはわたしの食べようとしていたホシイモをほおばりながら、満足げに部屋から出て行った。
数分後、なつみさんに取られつつも、新たにやっと焼けたホシイモを食べていると、
仕事を終えた梨華さん、ひとみさん、美貴ちゃんが連れ立って部屋に戻ってきた。
仕事が終わった後にふたりと会って、ここまで来る間にアノヒトの話をしていたのだろう。
「やっぱりわたし、アノヒトに直接聞いてくる!」
いつにも増した梨華さんのアニメ声が響いた。
梨華さんはかなり興奮している様子だ。
アノヒトと梨華さんは公認の中なのだ。
なつみさんとアノヒトが付き合っていたというのはとうに昔の話で、
わたしたちが入ってきた時はすでに梨華さんは幸せの絶頂にいたのだ。
それがおかしくなってきたのは最近の話。
梨華さんの一番の友だちであるひとみさんは「気のせいだよ」ってなだめてる。
わたしは見抜いている、ひとみさんは梨華さんを好きなんだ。たぶん、友だち以上に・・・。
そのとき、一瞬顔がほころんだ梨華さんに「じゃあ聞いてきなよ!」って、
美貴ちゃんが、苛立ちまぎれにそう言ったんだ。
止めようとしたひとみさんの手を振り払うようにして、梨華さんは部屋から出て行った。
部屋は大所帯だ。
仕事に出る人がいる反面、仕事を待ち続ける人もいる。
かおりさんは今では待ち続ける側の1人だった。
相性が悪いせいか、部屋にふたりっきりでいるときもわたしには話かけようとすらしてくれない。
だけども、インスピレーションとでもいうのだろうか、
彼女には波長がぴたりと合う人間がわかるようで、
そういう人には仕事のノウハウはおろか私生活のアドバイスまでするようだ。
新しく――れいなやさゆみといっしょに――入ってきた子の髪をときながら、
なんだか頭が混乱するような比喩を用いてしきりに話している。
そんな話を聞きながらでもエリはかわいらしい笑顔で受け答えしている。
あの笑顔・・・あの無邪気な八重歯・・・かおりさんに気に入られる少女・・・
かつてそういうポジションにあった彼女が、相方を連れて元気に部屋に入ってきた。
「わたしのぉ〜ぃっ」
「らんきんぐぅ〜っ」
「「な・ん・い・だろうか〜?っお〜ぉ・あぃっ!」」
あいかわらず即興のわけのわからない歌でかけこんでくるあいぼんさんとののちゃん。
ふたりをみると思わず微笑んでしまう。
なつみさんにさえも自分からは渡さなかった、いい感じに焼けた2枚のホシイモを
ふたりの口にいれてあげるのは、わたしの毎日のひそかな楽しみだ。
「もごもごぉ・・・ぃひはちゃんが・・・んぐっ。血相変えてでてったでぇ。」
「んぐんぐぅ・・・んこれすかねぇ?」
エリの髪をとかし終えたかおりさんが、
梨華さんの代わりに「しないよ」とぽんとふたりのあたまをなでた。
かおりさんはさっきの話を聞いていたんだろうか。その表情からは窺い知ることはできない。
ひとみさんは青ざめている。
男っぽく見えるけど繊細な彼女は、きっと梨華さんが知ることになる事実を予想しているんだろう。
美貴ちゃんはポーカーフェイス。
美少女に見えるけど鬼の彼女は、梨華さんのことも知ったことかというように、タバコに火をつけた。
「ねぇ?悪いことがあったら言って?なんでもするよ?」
「チョット何?話してる時くらい電源切ってよ!」
「ぎゅっとして!抱きしめてよぉー!!!」
小1時間後、梨華さんが戻ってきた。
ひどく興奮状態にある彼女は、必死でひとみさんにアノヒトとの会話の一部始終を話している。
だけどもそんなことは日常茶飯事、あいぼんさんとののちゃんが騒いでいる声でかき消されて
聞こえているのは当事者のひとみさんと、聞き耳立てているわたしだけ。
実際はみんなも聞いているのかもしれない。だけど誰も何も言わない。
てんでばらばらなことをお互いに話している。
「「いっけんらくちゃくじぞじぞぽーん!!」」
自分たちのやっている仕事を忘れるくらいに無邪気な二人の声。
なんとなく、本当になんとなくだったんだ、
その二人の声を聞いて、みんなの話が一瞬やんだ。
そんなときだったんだ。
「愛する人はアノヒトだけ。誰も邪魔させない。」
「アノヒトの・・・愛に包まれてるのはわたしだけがし。わたしだけのアノヒト・・・」
アノヒト。その言葉を聴いて、梨華さんの顔色が変わった。
「なに、何の話?なんなのよ!!」
その直後、
「なのに、ドコ行ったんだよ〜!!」
いつのまにか仕事を終えて戻ってきたさゆみが奇声を上げた。
「あぁーうるせえっ!!」
「お前の声もうるせぇんだよっ!!」
タバコを吸い終えた美貴ちゃんと、
最近、人一倍に理不尽な仕事が増えてストレスを感じていた真里さんに火がついた。
「っあいっ!!」
普段はヘタレなマコトが、大きな声で愛ちゃんに詰め寄るのを見て、
美貴ちゃんも真里さんも、ほかのみんなも一瞬息を飲んだ。
「あいっ・・・ちゃんさぁ・・・
・・・ふへぇぇ・・・なぁにいってんのさぁ」
ぽんぽん。いつもの調子で肩を叩く。
あぁだめだ。マコトはいつものまこっちゃんだった。
引き返しのつかなくなった愛ちゃんは、涙目で梨華さんとれいなを見つめている。
梨華さんはしきりに何か叫んでいる、けど、いかんせん、音波が外れすぎていて意図が聞き取れない。
そんな彼女をひとみさんが必死に抱きかかえている。
れいなに視線を移すと――
彼女は恐ろしいくらいに冷静で、泣きもわめきもせずに冷え切った視線でにらんでいた。
それに対照的だったのが、さゆみだ。
「しゃぼんだまー!!」
そう叫んで、部屋から飛び出して行ってしまったんだ。
さゆみがいつものあらわな衣装で繁華街に飛び出してしまったせいで、
わたしたちの店「シャボン玉」は警察の目につくところになってしまった。
さゆみがとびだした瞬間に、持ち前の冷静な判断をした美貴ちゃんのおかげで、
方々に逃げ出したわたしたちは難を逃れた。
れいなと愛ちゃんはさっきまであんなに盛り上がっていたくせに、
現金なものだ。自分たちに危険がおよんだら、一目散に逃げ出した。
梨華さんだけはひとりで残ろうとしていたが、ひとみさんが力づくでいっしょに逃げたと、あとで聞いた。
繁華街で保護されてしまったさゆみも、
既に精神が病んでいたということで罪に問われることはなく・・・
――――――――――――――――――――
数年後、偶然町でマコトに会った。
「ふぇー、あさ美ちゃん、大学行ったんだぁ。」
「ん。あの頃いも焼きながら教科書読んでたからね、なんとかなったんだぁ。」
「そっかそっかぁ。あのねぇ・・・ホントはサ、あの頃リサちゃんと言ってたの
『あさ美ちゃん、仕事こなくて落ちこぼれだよね』って。
でもっ、でもね!そんなことなかったんだよね、今はあさ美ちゃんが一番さぁ!」
ほんっと不器用なマコト、言わなくていいことまでしゃべっちゃって。
くすっと笑いながら、ハニーパイを一口食べる。
「くー、あさ美ちゃん、相変わらずぶきっちょな笑顔だねぇ。でもそれがか・わ・い・い♪」
言いながら、相変わらず間抜けな笑顔でパンプキンパイをほおばるマコトちゃん。
あういうお店で働いていた過去があるにもかかわらず、
今のわたしたちは、みんな幸せな人生を歩んでいる。
ただ「シャボン玉」の経営者であるアノヒトだけは、その時の逮捕をきっかけに、
人生が、シャボン玉のようにあっけなくはじけとんでしまったらしい。
○ o 。 お わ り 。o ○
保全
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次のお題です。
・娘。の楽曲(シングル、c/w問わず)をイメージできる30レス以内の短編を上げる(リアル・アンリアルは問わない)。
・タイトル、本文に曲名を含ませない事。
・投稿期間は本日〜8/7 23:59まで(21日間)。
・必ず完結させたものを上げる事。
・投稿時、名前欄はタイトルを入れる。
・作品の最後もしくは次レスに『完』や『終わり』というように終了を明確に記す。
・作品を上げる時に前の作品が完結しているのか確認を。
・添削は『娘。小説作家養成塾 其の3』で随時行う。
・添削の際は作品から連想した曲名も書き込んでください。
「実践」だろ
ほ
ほ
474 :
ねぇ、名乗って:04/08/11 05:27 ID:4OQfON+/
475 :
ねぇ、名乗って:04/08/11 05:27 ID:EVBO3HII
見たいものは山ほどあるのさ
いつか見た様なきれいな景色
メカニカルな近未来都市で
ティラノザウルス ギターを鳴らす
巨大な少女 ビルの谷間で
星のピアスを乳房に刺せば
ねじれたダリの時計は溶けて
25時だと シド・ヴィシャス踊る
グルグル黒い円盤達が
いつも夢を見せてくれた
頭悪そうなギターの音が
連れて行くよと しゃべり続けた
見降ろしたそこは
昔欲しがってた場所
あんなに遠く思えた君は
話す言葉忘れて
ここで何を歌うの?
あの日見た物語を話そうか?
ひつじってどれくらいで落ちるの?
まだ大丈夫みたい
新しい展開はないのか?
て
test
481 :
名無し募集中。。。:04/09/30 22:10:55 ID:DB8APTEJ
あ
482 :
ミスト:04/10/04 11:53:26 ID:aTzAOQJR
誰かお題下さい
ほんじゃー文化祭なんてどぉ?
きゃー
( ^▽^)<この程度のスレにはこの程度の保全がお似合いだ ハッハッハ
保全
>>488 はい。
誰が書いてもいいです。
まださほど展開が進んでいないので、自由に進めてください。
>>487 筒井康隆で同名の小説があったな
内容はシュールでどうしようもないやつだが
暇だからなんか書こうと思うんだけど、題名とか何でもいいんだよね?
というものの返事は来るんだろうか……?
495 :
sexy久米弘 ◆kEtTOin7Hc :04/11/13 20:22:49 ID:DLk0k29d
どうでもいいからさっさとかけよ
てすと
( ^▽^)<この程度のスレにはこの程度の保全がお似合いだ ハッハッハ
( ^▽^)<ハッハッハ
( ^▽^)<この程度のスレにはこの程度の保全がお似合いだ ハッハッハ
超SSなんですけど、添削していただけますか?
書いときゃ誰かしてくれるよ
んじゃ書かせていただきます。
あさ美は成績優秀な子供だった。
分数の割り算を習得したのはクラスで1番だったし、
先生に当てられて教科書を音読させられるときも
声は小さかったが淀みなくすらすら読むのだった。
体育では持久走が得意で、縄跳びや鉄棒も最初は出来なくても、
次回までにはきっちりものにしてくる。
あさ美は努力を惜しまない子供なのだった。
「あさ美ちゃんはすごいなぁ。何でも出来るんだもん」
「そんなことないよ。まこっちゃんだって、体育で活躍するでしょ」
「わたしはたいくだけだよー。あーあ、あさ美ちゃんみたいになりたいなぁ」
ある日の国語の時間。
「今日は皆に作文を書いてもらいます。テーマはありません。
皆が普段思っていることや、昨日あったこと。何でも構わないから、好きに書いてみましょう」
原稿用紙が配られ、最初は騒がしかった教室も次第に静かになり、
鉛筆の音だけが響いていた。
あさ美は、まだ何も書かれていない原稿用紙を前に鉛筆を握っていた。
隣の席の麻琴を見ると、懸命に何かを書き綴っている。
あさ美も何か書こうと思うものの、その何かが一向に浮かんでこない。
あさ美は鉛筆をぎゅっ握り締めたまま、原稿用紙を睨み続けていた。
おわり
>>503−504
正直これだけだとそれで? で終わってしまうのだけど…
なんかプロローグだけって気がするからもうちょっと続きが欲しいところ。
例えば、何で夢を持てなくなったかとか、白紙の原稿用紙を埋めるためにこれからどうしていこうとか
もちろんこんなありがちで無くても良いけどね。
とにかく何か続けてほしい。
なんか、嫌な事だけ書いてしまいましたが文章自体は悪くないと思うので、ネタを増やしてがんばってください。
中居「続いてのゲストは、ソロとしては初登場ですね、新垣理沙さんでーす。」
石橋「‥‥。」
新垣「こんばんは〜。」
中居「どうぞ、お座り下さい。」
新垣「よろしくお願いしま〜す。」
中居「どう?ソロとして出るのとモー娘。として出るのとでは。」
石橋「え?モー娘。にいたっけ?」
新垣「いましたよ。」
>>505 添削ありがとうございました。
自分では過不足なく書いたつもりだったので、
やはり自分以外の人に読んでもらわないと自己満足に終わってしまうのだ
ということを痛感しました。
精進していきたいと思います。
起承転結だよ!起承転結!>>503-
>>504は起承で終わっちまってるんだよ!
転と結が考えるのも、書くのも一番難しいんだよ!これからも頑張ってくれ!
>>506は一体何がしたいんだ!
いや、起結だと思うよ。正直オチが見え見えだし。
話が膨らんでもおらず意外な方向に行くこともなく、
ベタなだけ。
ひゅ〜どろどろどろ・・・と話をし始めて、
直後に幽霊が出てチャンチャンって感じ。
( ´ Д `)<510
>>508-509 添削ありがとうございました。
『起承転結がない』とご指摘いただいて
初めてそれに気が付きました…。
今から上げさせてもらう話はそれを意識して書きました。
これもオチは見え見えだと思いますが、
添削してもらえると幸いです。
疲れた。
私は鍵を開けるなり、玄関にへたり込んだ。
ハイヒールを脱ぐことさえままならない。
とりあえず、一息つきたかった。
右手には家の鍵とポストから取ってきた郵便物。
左手にはコンビニで買ってきたお弁当とバッグ。
それらを全部投げ出して、私はやっと負荷から逃れた。
今はそんな荷物ですら持っているのが辛い。
荷物が玄関に散らばってその存在を主張していたけれど、気にしてられなかった。
頭の中を真っ白にしたかった。
何も考えない空白の時間が欲しかった。
なのに、気付くとやっぱり今日のことを思い返していた。
ことの始まりは、お得意様の突然の訪問だった。
課長は慌ててその人のところに飛んでいき挨拶をすると、
「おいお客様だぞ!お茶をお出ししろ!」と叫んだ。
課内でのお茶出しは私がやっていたけど、お客様が来たときには先輩が出していた。
「紺野さんはまだ慣れてないから追々ね」と。
だが生憎この時先輩は席を外していて、必然的に仕事は私に回ってきた。
私は蚊の泣くような声で「はい」と言った。
いつもやっていることなのに、
相手がお客様というだけで私は手のひらに汗を掻くほど緊張している。
そんな自分を情けなく感じつつ給湯室へ向かう。
お茶っ葉を急須に入れて、ポットからお湯を入れる。
しばらく待って、茶碗に注ぐ。
いつも通りの手順だ。
ポカをすることなんてない。大丈夫。
そう自分に言い聞かしながら茶碗をお盆へ乗せ、給湯室を出た。
慎重に運びながらお茶を出すときのシュミレーションをする。
ドアをノックして、「失礼します」。
一礼してから「お茶をお持ちしました」。
お客様、課長の順で出して「どうぞ」。
ドアの前まで行って一礼して「失礼しました」。
大丈夫。大丈夫。
自分だってこれぐらい出来るはずだ。
いざ部屋の前まで来ると、自分がさらに緊張したのが分かった。
大丈夫、大丈夫…。
一回深呼吸をしてからドアをノックする。
「どうぞ」と言う課長の声が聞こえた。
震える声を抑えつつ、「失礼します」と言ってドアを開けた―――。
それから先のことはあんまり覚えてない。
断片的に思い出せるのは
お客様のズボンにお茶を溢してしまったこと、すごく謝ったこと、
課長が顔を真っ赤にして怒ってたこと、泣いてしまったこと、
なぜか先輩が謝ってくれたこと、みんなが慰めてくれたこと…。
また泣きそうになってるのに気付いて、慌てて目に溜まっていた涙を拭う。
私ってほんとダメなOLだなぁ…向いてないのかも…。
溜息を吐いて、うな垂れる。
「………ハイヒール脱ご…」
散らばっていた荷物をかき集め、電気を点けて部屋に入る。
ユニットバス・キッチン付きの5畳半のワンルームマンション。
チェスト、テーブル、ベッド、テレビ、MDデッキ、冷蔵庫、本棚。
朝出たときと何も変わってない。
テーブルに荷物を置くと、バスタブにお湯をはりに行く。
いつもはシャワーで済ますけど、今日はお湯に浸かりたかった。
お風呂が沸くまでの間に洗濯物を取り込んで畳む。所定の場所に仕舞う。
お弁当を袋から出して、テーブルの上に置く。袋はキッチンの引き出しに入れる。
ガス栓をひねる。やかんに水を入れてコンロにかける。
郵便物をチェックして、いらない物は捨てる。
1通、気になる手紙があったけど、それを読むのは後回し。
スーツを脱いでハンガーに掛ける。
ベッドに座ってえいやっと一気にパンストを脱ぐ。
そこまでして、やっと一息吐いた。
ゴロンッと寝転んで目の辺りをぐりぐりマッサージする。
すると途端に疲れと眠気が襲ってきた。
寝ちゃおっかなーもう大儀ぃしなー明日やろっかなー。
あーでもお湯出しっぱなしだし化粧落としてないし火ぃ使ってるしご飯食べてないし明日の準備してないや。
それから、手紙、読んでないし。
「お風呂沸いたかなっと」
足を高く上げて反動をつけてから起き上がる。
テーブルの上に置いてあるお弁当と手紙が目に入ったけど、
チェストからバスタオルを取り出して私は狭いお風呂へと向かった。
バスタブの中で膝を抱えて顎を乗せる。
程好いお湯加減に、溶けるみたいに全身の筋肉が弛緩してることが分かる。
「あ〜…」
思わずオッサンのような声を上げてしまった。
オッサン、という単語で連想された人物から今日の出来事をまた回想しそうになって
慌てて違うことを考えようとする。
えーとえーと…
そうだ、手紙をくれた彼女は、元気でやってるんだろうか――
私が「地元を出て就職する」と打ち明けた時、
彼女の口は見事なほど大きく開いていて、顎が少しだけ上を向いていた。
つまり、いつもと変わらないのだった。
反応分かりずれぇんだよ!!と思ったけど、それは口に出さないでいた。
今はそれを言う雰囲気じゃないと思ったから。
彼女はしばらくそのままポカンとしていたが、
やがて目をきょときょとさせながら「あ〜……」と不明瞭な音を発した。
それから腕をボリボリと掻いた。これもまたいつも通りだった。
それでも私は、彼女を見つめて黙っていた。
もしかすると彼女のこの仕草が見れるのは、これが最後になるかも知れない。
「えーと…あーうん。どこに就職すんの?っとその前におめでとうだよね」
彼女は視線を私に合わすと、ぎこちなく微笑んでそう言った。
「うん、ありがとう。S社に内定もらったんだ」
「そっかぁ〜…そこ就職担当の先生コネあるもんね。
いやあさ美ちゃんならそんなの無くても内定もらえたと思うけど」
「そんなことないよ。先生が推してくれたから…」
「やーやー謙遜しなさんな。あさ美ちゃんの実力だって」
「うん……」
「こっから通うの?」
「ううん、会社の近くで部屋探すと思う。
通えなくないけど、辛いと思うから」
「あーそっかーそうだよねぇ……」
それきり会話が途絶える。
私も彼女も、お互い俯いたまま黙ってしまう。
彼女との沈黙はいつもなら苦じゃないし、むしろ心地よいものだったけど、
例外もありえるのだとこの時初めて知った。
小さい頃からの付き合いのこの公園も、私たちの雰囲気を感じ取ったのかいつもより余所余所しい。
閑散としたそこは私たち以外に人っ子一人呼べないくせに、
それでも私たちの存在を知らん振りすることに決めたらしい。
遠くで小鳥が囀る声や木々がざわめく音がやけが耳につく。
舌打ちしたくなったけど、今の雰囲気がそれを許さない。
彼女を盗み見ると、地面を蹴ったり手をぐーぱーぐーぱーしたり辺りをキョロキョロ見回したりしていた。
そういえば入学当初は少し大きいように見えたブレザーも
今ではすっかり彼女に馴染んでいて、今更ながらに時間は流れているのだなと思った。
「……ん〜と、あさ美ちゃんはさぁ……」
その声に顔を上げると、夕日に照らされてやけに輪郭が強調された彼女と目が合った。
こんな締まった顔している彼女を見るのは久しぶりだった。
「…何?」
私は震えそうになる声を極力表に出さないように、ゆっくりと言った。
「……えーと、その……」
言い淀む彼女の体は忙しなく揺れていて、如実に彼女の気持ちを代弁している。
けれど、私はこの場所と同じように、それを知らん振りしようとしていた。
私は臆病者で卑怯者だ。
それからも唇を尖らしたり頭をがしがし掻いたりしていた彼女だけど、
やがて諦めたように溜息を一つ吐くと、こう言った。
「通勤するには遠いかもしんないけど、日帰りで帰ってこれる距離だよね」
「うん」
「お盆とかお正月とか、こっち帰ってくるよね」
「うん」
「ていうかさ、その気になりゃ土日にでも帰ってこれるよね」
「うん…」
「したらさ、私と遊べる時間そんな変わんないよね」
「……」
「土曜帰ってきたら日曜一日遊べるもんね」
「………うん」
「…ていうかさーあさ美ちゃんが泣くのってどうかと思う」
「…泣いてないもん」
「いやいや泣いてんじゃん。何言ってんのさ」
「私は泣いてない!マコこそ泣いてるじゃん!」
「いいや!私は紙一重で踏ん張ってる!」
「あ、今一滴零れた!ほらやっ、ぱり、泣いてる!」
「一滴だけだもん!あさ美ちゃんなんて駄々漏れじゃん!!」
「わ、私のは、心、の汗だもん。涙じゃ、ない、もん」
「その例え、なんか汚いんだよっ!あさ美ちゃんのバーカっ!」
「バカ、はマコじゃん!いっ、つも、口開いて、る、くせに!」
「それは今関係ないだしょ!」
「だしょっ、て、言ったぁー!やっぱマ、コ、バカ!!」
「う、うっせーこのタヌキー!あさ美ちゃんなんか、どこへでも行っちゃえー!」
「マコ、に、言われ、なくても、行くもん!!」
―――――――
―――――
―――
私たちは罵り合いながらワンワン泣いて、お互いそのまま家に帰った。
次の日、当然ながら私の目は真っ赤に腫れあがっていて、
自分で言うのもなんだけがタヌキに酷似していた。
それから彼女とは一切連絡を取らなかった。
卒業式の後もそれぞれ別の子達と過ごしたし、卒業旅行も行かなかった。
彼女に最後に会ったのは、地元を出ていよいよ一人暮らしを始めるという日だった。
駅のホームで見送りに来てくれた友達と話していると、
階段の方から愛ちゃんと理沙ちゃんの声が聞こえてきた。
「ほれまこっちゃん!早くしねがし」
「…別に言うことなんてないし」
「なぁーに意地張ってんのさぁ。まこっちゃんらしくないなー」
「私らしいって何よ!何なのよ!!」
腕をブンブン振り回して暴れる彼女を迷惑そうに押さえながら
二人が近づいてくる。
「あーもぅうるっさいわぁ。あ、あさ美ちゃん、ほれ、コレ。餞別」
「私はものじゃない!」
「まこっちゃんいい加減にしてよ。
昨日もあたしんチ押しかけてきて泣いてたんだからさー。素直になりなって」
ぅぐっと喉を鳴らして動きを止めた彼女はその場に立ち止まった。
その背中を容赦なく愛ちゃんが蹴る。
理沙ちゃんは当然のような顔をしてそれを見ていた。
その勢いで私の前に踊り出た彼女を見て、私の周りにいた友達が一歩引いた。
まだグチグチ文句を言っている彼女に「マコ」と声をかけると、
体をびくっと揺らし、バツが悪そうに私の顔を見た。
「来てくれたんだ。ありがとう」
「べ、別に。連れて来られただけだし」
そう言った瞬間、彼女は苦痛に顔を歪め体を折った。
私には見えなかったけど、理沙ちゃんが脇腹にイッパツ入れたらしい。
「…この前はごめんね。バカとか言って」
「今更謝られたって…いや、うん、私こそごめん。タヌキとか言って」
彼女の後ろで友達が笑いをかみ殺してるのが見えた。
特に愛ちゃんは、理沙ちゃんが素早くお尻を捻りあげなければ、声を出して笑っていただろう。
理沙ちゃんってほんと愛ちゃん回しが上手い。
「…私、マコと縁切るつもりないよ」
この前、彼女に頼り切っていた私は、今回は自分から素直に口にした。
彼女は瞬間嬉しさと悲しさが入り混じった顔をして、それからまたぶすっと膨れた。
「…帰ってくる日決まったら、連絡してよ。空けとくから」
「うん。それ以外でも連絡するから。マコもしてよ」
「…変顔いっぱい送るかんね。会社で吹いても知らないから」
「楽しみにしてるよ。まぁ見慣れてるから笑わないと思うけど」
「いや、スペシャルだから。今まで見たことないようなすごいの送るから」
「そんなことばっかしてないで、マコもちゃんと働きなよ。
念願の吉澤さんとこのパン屋さんに就職できたんでしょ」
「んがぐぐ……なぜそれを知って…」
「マコの話は自然に耳に入るよ」
「そっか…」
私たちは目に涙を溜めながら軽口を叩き合った。
やっぱりこのスタンスは変わりそうにない。
するといきなり、マコが私に抱きついた。
「……浮気ずんなよあざ美ぃぃ!!」
そう吠えた彼女の顔は見れなかったけど、多分涙でグシャグシャのはずだ。
だって、彼女の声は完全に涙声だ。
「ま、麻琴ごそ、他の子に目移りずんなよぉ!!」
私も負けじと吠え返した。
私の顔も、彼女そっくりだっただろう。
体を拭いてバスタオルを巻くと、栓を落としてお風呂場を出る。
部屋に入って冷蔵庫を開け、豆乳パックを一本取り出した。
ストローを刺さずに封を開けると、腰に手を当ててゴクゴクと一気のみする。
「ぷはー!!」
独り言は虚しく部屋に響き渡り、そのまま拡散していった。
パックをごみ箱に捨てると、テーブルの前に座りお弁当を開ける。
コンビニで目に付いたのをカゴに放り込んだだけだったけど、よく見ると美味しそうだ。
ラッキーなことにかぼちゃの煮付けも入っている。
「いただきまーす」
手を合わせてそう言うと、かぼちゃからいただく。
仄かな甘さを堪能しながら、手紙を手にとる。
性格の割に几帳面な字で『紺野あさ美様』と書いてあった。
封を開けると、少しだけ彼女の匂いがした気がした。
便箋を取り出し、左手に持ってお弁当を食べながら読む。
DEAR あさ美ちゃんへ
元気ですかぁぁぁーー!?(耳に手を当てて)
おう、元気かー!そりゃあ良かった良かった。
私も元気でやってるよ。
あさ美ちゃんが全然メール返してくれないから手紙書きます。
寂しーさーのー徒然に〜手紙をーしたーためてーいまぁすーあなたに〜。
これ嫌味ね。
ていうか聞いて!私、とうとうかぼちゃベーグルを作ることに成功したよ!
いやー吉澤さんと徹夜して考えた甲斐あったよー。
つってもまだ試作品なんだけどね。
何つーかね、ほかほかのほこほこで、かぼちゃの風味がそこはかとなく漂ってて、
それでいてベーグルでね、いや、うん、言い表せない美味しさなの。
まだ商品にできるかは決まってないけど、結構いい感じよ!
改良点はまだいくつかあるから、頑張って店頭に並べてみせマッスル!
あーあとねー、いっつも行ってた公園あるじゃん?ほら前ケンカしたとこ。
あそこの桜ね、こないだ行ってみたら、もうつぼみがついてたよ。
時間が流れるのって早いねぇ。
そういやあさ美ちゃん結局一回も帰ってきてないよね。
土日帰ってくるって言ったじゃん!って私が言ってただけか。
うん、まぁいい機会だし(何が?)、桜咲く頃に帰ってきなよ。
そんなに遠くないんだしさ。近況も聞きたいし。
それまでにかぼちゃベーグル完成させとくから、それ持ってお花見行こうよ。
はい、約束。ウソついたらハリセンボン飲ますかんね。
(これって針が千本なのか魚のハリセンボンなのかどっちなんだろう?)
んじゃまた帰ってくる日にち決まったらメールして。
待ってるよー。
あなたのマコより
手紙を二回読み返したら、お弁当を食べ終わっていた。
ラップと容器と割り箸をまとめてキッチンのゴミ箱に捨てに行く。
湯ざめしてしまったみたいで結構寒い。
私は慌ててパジャマを着た。
ベッドに寝転ぶと、バッグから携帯を取り出す。
彼女からのメールは全部目を通していたが、
返信するとグチばっかりになってしまいそうで結局返せずにいた。
発信履歴を見ても彼女の名前は見当たらなかった。
アドレス帳を開いて彼女の番号を表示させたけど、
しばらく見つめてたら照明が落ちたからそのまま携帯を閉じた。
それを枕元に置くと、手を精一杯伸ばして本棚からアルバムを取り出した。
一番新しいページを開くと、あの日、理沙ちゃんが気を利かせて持ってきたカメラで撮った写真がある。
そこにはありえないほどグシャグシャの顔をしたマコと私がいた。
正直醜い。
私はふと思い立って、それをアルバムから引き出すと枕カバーの中に突っ込んだ。
それから自分の行動を客観視して苦笑する。
よくこんなことするな。
でも、まだこんなことできるんだから、案外大丈夫なのかも。
ご飯食べたばっかりだしまだ明日の準備してないけど、今日はもう寝よう。
明日早く起きればいいや。
自分にそう言い訳すると、部屋の電気を消した。
布団を被って大きく伸びをする。
するとまた、疲れと眠気が足音も立てずにやってきた。
今日は久々に彼女に会えそうだ。
桜の花はまだ咲いてないだろうけど――――
おしまい
>>508-509ではないが感想など示してみます
前回はほんとに情景描写だけだったのであれだけ言われたわけで
今回は話としては充分に成り立っていると思います
よって表現とかその辺を
「郵便物」とか「所定の場所」という表現は正直硬すぎる
学校出たばかりのダメOLさんなんだからもっと柔らかくした方がいいでしょう
同じことは「言い淀む」とか「如実に」とかにも言えるかもしれません
お茶淹れのシーンも、もっと細かくていい
急須に先にお湯を入れておくとか、茶托の線が横向きになるようにとか
そういう細かさをいれることで、「自然にそれができない」ことを表せる
あと、ホームのシーンがちょっとごちゃごちゃしてしまって勿体無い
クライマックスの手紙が控えているのだから、
もっと「読ませる」ように、丁寧に表現を織り込むべきだと考えます
そんな感じで
北海道出身の紺野さんが果たして広島弁である「たいぎい」という言葉を使うのか?
という疑問はさておいても、どことなく判然としない印象であります。
具体的にどこがどう悪いのか、と問われるとうーんどこも悪くない、としか、
応えることができないのでありますが、どこも悪くない。これこそが問題なのであります。
どこの文章も全て同じ密度で書かれているために、なんとなく地味な印象に、
なってしまうのです。削れる部分は削る、書く部分は書く。そうしなければ、
緩急に富んだ、面白いお話にはならないのであります。
例えば、冒頭はそこまで細かく紺野さんの行動を書く必要があるのか、ということです。
極端な話、私は家に帰って今日の失敗を思い出した、がっかりとしながら、お風呂を沸かす。
先ほど郵便受けに入っていた手紙をチラリと見て、故郷の友人を思い出した。
このような2行に前半の何レスかを縮めることが出来ると思うのです。
強調すべきは転なのです。だから、起承はもっとサラッと流してしまうつもりで、
書けば良いのだと思うのです。起承とは落語でいうといわゆる枕という奴でありますから、
そこが必要以上に長く書かれていると、先ほどの例えで言いますと、私は落語を見に行ったのか、
それとも、落語家の近況を聞きにいったのか良く分からない、ということになってしまうのです。
そして転は印象的に書かねばなりません。紺野と小川のケンカそして仲直りという転の内部も、
どことなく散漫な印象が致しますので、ここも削れる部分があるのではないか、と思います。
例えば、新垣と高橋の行動を紺野と小川のやりとりの間に一々差し入れる必要があるのか、
ということであります。そのように無駄だなと思われる部分を削っていくことで、
話の輪郭がくっきりと鮮明になり、ベタな話ではあるけれども、どこか印象に残る。
というすばらしいお話になると思うのです。
文章やストーリーの組み立てという点では悪くない、むしろ良いと思いますので、
今後の課題は、いかにそのストーリーを上手く見せるか、であると私は思うのです。
知ったような事を長々と書き連ねましたが、参考になればこれ幸いであります。
>>536 内容は良いけど おまえの その語調は何なんだ
すいません、長文書くときの癖なんです
「あ、おじさんアタシ塩バターラーメンね」
深夜営業のラーメン屋でうちの近所にあるのは此処だけなもんで、でも自転車で五分ぐらいは掛かってしまうのよ。
あ〜しあわせ…。
カウンターで囲まれた厨房からは顔見知りのおじさんの声と、温かい湯気がふわふわと頬を撫でていく。
ぱっと見回してもお客さんは今のトコ、アタシ一人だけ。
飲み屋街に店を構えるだけあって時間帯を間違えると、物凄く混んでたりするんだよね。
食事は静かにがモットーなアタシとしては今の状況は物凄く当たりなんだけど…さすがに一人は寂しい。
誰かこないかなぁ。
高校を卒業したまでは良かったものの、どうもアタシはそこから道を踏み外してしまったみたいだった。
やっぱり就職しとけばよかったと今更後悔。
だってさ、就職対策とか訳わかんないし眠いし。面接はなんだかね〜苦手じゃないけど自分を必死にアピールするのって
どうかと思うよ。あなたそこまで自分に自信もってないでしょ?
で、毎日電車に揺られて9時までに出勤。終わりは6時? 帰宅時間含めたら遊ぶ時間がないじゃん。
とまあこんな訳で……負け組みって奴に転落しちゃいました。
こんなことなら大学行けばよかったー!
はぁ……で、おじさん。今日餃子のサービスしてくれないの?
恨みがましく白い調理着の背中を見つめていたら冷蔵庫から売れ残った分の餃子を出してくれた。
勝った…。
セルフサービスの水を取りに行って、勝利の余韻に浸りながらしばし漫画を読んで休憩する。
今週は楽しみにしてた漫画が休載だって…風邪には気をつけよう。
一口つけたらまた寒さが蘇ってきて背筋がゾクゾクってなった。
あ、そうそう。結局何が言いたかったていうと遊びに行ける友達が居なくなっちゃったって事だよ。
みんな就職するか大学行っちゃったしね。
地元に残った子もこんな時間は絶対に寝てるし。私は……パラサイト? いやいやこれでも家の手伝いはやってる。
最近鮮度の良い野菜だって選べるようになったんだから。
なぜだか未だによく分かんないけど、とにかく家は先祖代々八百屋だったりする。
それで店番やりながらお小遣いを稼いでるってとこ。
免許は絶対に取らないけどね。だってバレバレなんだもん、朝の暗いうちからアタシを市場に行かせようって意図が…。
「さむー。おじさん塩バターラーメンね」
背後のくたびれた横引き戸が開けられたのと、アタシが恐々しながら水のコップを舐めるのはほぼ同時だった。
思考が止まってしまう。折角、頭に浮かび始めた免許を取りたくない言い訳がどっかに飛んでいって変わりに
コートの襟口から冷たい風がひゅーひゅー。
思わず身を硬くした。
「……ミキティーいっつもいじわるする」
「真希のタイミングが悪いんでしょ。まったく、こっちはバイト終わりで疲れてるんだから変な事言わないで」
開放感からか少しテンションの高いミキティーは、アタシの抗議を一切無視して水を取りに奥の方に入っていった。
またバイト中に3時間くらい立ち読みした後にチロルチョコ買って帰ってやろう。
で、すぐにとって返して今度は試供品のDHCを……店長が先に切れたらどうしよ。
思わぬところで立ちどまっているとミキティーがコップを持って帰ってきた。二つ?
ありがとー。やっぱ嫌がらせは止めたげる、別に店長が怖いわけじゃないからね。
「んーまぁーお疲れ様」
「もう本気で辛かったし。今日なんて酔った客が店内で喧嘩始めちゃってさ
もう別れるとか別れないとか寂しいとか嘘つくなとか意味わかんないし、とにかく手に握ってたトマトは買わせたけど」
割り箸をアタシの分と二つ抜いてテーブルの上に置きながらミキティーは大きく溜息をついた。
「んはは、そう言うの上手だもんねー」
だから最近新しく出来た友達といえばこのミキティーだけだったりする。
アタシのラーメン友達。まぁこのミキティーがアタシの事どう思ってるなんてのはこの際こっちに置いといてとにかく
最近よく会ってる同年代の子っていったらこのコしか居ないのさ。
家が何処にあるとか携帯の番号とかそんなの知らないし。あっ、でも実家は北海道らしくて……
なのに何で東京のコンビニでバイトしてるのか益々謎な同い年。
ただラーメン選びの勘だけは何故か異常に被るんだよね。
それがきっかけでカウンターの端と端の席がなんだか近づいていって今は隣に座ってるんだから世の中よく分かんない。
ミキティーがマネすんなッ!!って店の前で待ち伏せしてたのもいまじゃ懐かしい。
あん時はアタシも切れまくったけどね〜。
たまたま買ってたチャンピオンのコンビニ袋を振り上げてアンタこそ真似すんなッ!ってそりゃー凄い剣幕だったよ。
「なにニヤニヤしてんだか…ラーメン伸びるよ」
ラーメンが来た。
塩バターラーメン二丁、そしてその後おじさんが焦らすようにゆっくりとギョーザをカウンターに載せる。
待ってました! よっ太っ腹!!
早速ラー油と醤油を……。
「……アタシの餃子」
「もたもたしてたら冷めちゃうでしょ。やっぱり温かいうちに食べなきゃ」
「熱いのダメだから冷ましてんだって何度も言ってんじゃん、ずるいよー」
ミキティーは唇の端を器用に吊り上げながら餃子をもう一個。
「早くしないと無くなるよー」
からかわれてるって分かってるのに何も手出しできないのが悔しい。
先週みたいに口の中ヤケドするのはもう嫌だし、此処は耐え忍んで待つしかない。またさっきのコンビニ嫌がらせ計画が
復活してきた。こうなったらポッキーとムースポッキーの棚を入れ替えてやる!
忍び笑いをしているとミキティーはさっさとラーメンを食べ始めてる、なんか悔しい。
「まだ餃子の話が終わってないってば」
「ふ? 有り難い餃子の話はまた今度ゆっくり聞かせてもらうから早く食べなって、美味しいから」
スープからメンを上げるたびにバターの甘い香りがふわっと広がる。
ほんっとアタシの話聞いてない。まあ、分からなくも無いけど……。
箸を使ってくるくるくるくる。
トロッと溶け出したバターをよくスープと馴染ませてから、慎重に麺をレンゲの中に移動させた。
バターでトロトロになった麺が蛍光灯の光を浴びてキューティクルされたみたいにキラキラ光ってる。
あーおいしそう。
思わず生唾が……お腹の辺りがキューと締め付けられる。それでもまだもうしばらく時間が必要なのだよ。
特にこのバターラーメン、冷めるまで時間がかかるんだもん。
「まだ冷ましてんの?」
ミキティーの丼はもう半分以上無くなってた。
急がねばまた餃子が……。
そろそろ大丈夫だと判断したアタシはゆっくりとレンゲンを口の中に運んだ。餃子がまた一個消えた。
「そんなに真剣に見られても……って言うか真希、アンタがラーメンを冷ましてる時の目ってちょっと怖い」
苦笑いしているミキティーの隙を窺って一緒に餃子も口の中に放り込む。
ラー油が効きすぎてる、ちょっとむせた。
「ほらっ無理して食べる事ないって。水飲む?」
こんな所がたまに優しいのだけど此処は武士の情け。止めてくれるな。
口の中が熱いのと辛いのでいっぱいになって死にそう。
でもそれをなんとか飲み込んでしまえばやっぱりまた次の一口が欲しくなる。
「あつっ」
「あーあ、ラーメンは逃げないって」
一度火が付いた食欲を止めるなんてナンセンス。人の恋路を邪魔するやつぁ〜馬に蹴られて死んじまえ。
「そんな水飲んでたらそれだけでお腹いっぱいになるって、ちょっと聞いてる?」
聞いてない。
今はラーメンに夢中、話なら後で聞くから少し待ってって。
目でミキティーを制しながら大口で麺をガブリ、って訳には流石にいかなくてゆっくり水飲みながらなんだけど。
少しずつ丼を平らげていく。世話焼きミキティーがその間アタシに水持ってきてくれたりして、
食べ終わる時間は同じだったりするんだよね。
店を出てすぐ真希のせいで今日も伸びたラーメンを食わされたとか愚痴るのもまた日課。
そのぐらいアタシの餃子に比べたら大した事じゃないはずなのだよ。この違いが分かるでしょ?
そんなこんなで二人しか居ないはずの店内はいっつも騒がしい。
此処はアタシ達にとって唯一のフリースペースなのかもしれない。でも本当はもう一人……。
言い争ってる時はいいんだけど、時たまなんとなーく会話が止まる瞬間ってあってその時素に戻るっていうかなんか視線を感じる。
もう分かってるかもしれないけど此処は食べ物屋さんだからねー。作ってくれる人が絶対いるから。
ミキティーと顔を見合わせて振り向くと、おじさんはいっつも笑いながらこっちを覗き込んでる。
苦笑いじゃなくて本当の笑顔なんだからね、いやホントホント。
だっておじさんアタシ達が帰る時いっつも『またなお嬢さん方』って言ってくれるもん。
いやーうら若き乙女を見てるとおじさんも和むのかなーと。
……普通ならやっぱ迷惑だろーなぁ。このおじさん本当に良い人だ。
だからそんな事言われるなんてその時まで全然思わなかった。
何時も通りカウンター越しにお金を払い終わったらおじさんはこう言った。
「今度、店閉める事にしたんだよ。今までありがとな」
太陽が上るには少し早かった。
辺りはまだ夜の不夜城みたいな酔った空気と朝の爽やかな空気が混じっている。
「閉まっちゃうんだ…」
「…うん」
店から出て交わした会話はこれだけで、それからアタシ達は珍しく連れ立って歩いていた。
横に並んで歩きながら、でも一人で歩いてるのとあんまり変わらない。
考えてるのは多分一緒だと思う。これからどうやって夜の暇潰そうかなーってのと、あそこのラーメンもう食べれないんだって
……それと少しだけ今までの思い出。
おじさん田舎に帰ったら何するんだろ?
聞いたらおじさんは、この年になるとそろそろ親孝行も考えなきゃいけねーんだ。と笑ってた。
田舎でラーメン屋さん続けるのかもしれない。
「ミキティー」
「ん?」
「おじさんのラーメンまたどっかで食べられたら良いね」
「…まあ」
つれないミキティー。もしかしてアタシよりさらに落ち込んじゃってる?
無口なミキティーと真面目なアタシ。冗談みたいな二人を自転車の車輪がカラカラ笑う。取り合えずムカつく。
「もうさ、そんなに落ち込まなくたっていいじゃん! きっと他にも美味しいラーメン屋さん絶対あるって」
沈黙に耐え切れなくなってアタシの声は少し裏返ってたかもしれない。
喋った言葉にも特に意味なんてないし、とにかく今の状況が嫌だっただけ。それならなにか誰でも食いつくようなおもしろい
話題振れればいいのにさ。ああ自己嫌悪。
「そう言う事じゃないんだけどさ…」
「へ?」
もしかしてhit?
「やっぱいい」
「いや良くない! ミキティーが我慢するなんて病気が末期とかしか考えれないし、そうでなくてもコラーゲン不足かもって
心配になるわけですよ」
「なんで必死!?」
「乗ったあなたがいけないの! ささ、地獄の奥までれっとごー」
勝利。ミキティーは満面の苦笑いでアタシを見つめてから、その尖がった視線をを街灯に向けた。
なんか言いにくそう。また気まずい雰囲気が戻ってくる。
アタシは耐え切れなくなってコートのポケットに手を突っ込んだ。携帯が入ってる。4時53分、もうすぐ電車が通る時間だ。
雪でも降ってこなきゃ止まる心配も無い。
「もうすぐ始発かぁー美貴いっつもそれで帰ってるんだよね」
「へ?」
「住んでるところは2駅先のせまいワンルーム。なんか最近シャワーの出が悪い」
それは多分ホースにゴミが溜まってるんだと思うよ。
呆れながらつい耳を傾けてしまう。だってミキティーからそういうプライベートな話って聞いたことなかった。
今日の面白話とかテレビの話題とか、偶然会うたびにそんなのが主役。それがつまんないってわけじゃないけど、
何となくマンネリしてたのは事実だし、それよりアタシがミキティーに興味あったってのもある。もちろん変な意味じゃなく。
「アタシが住んでるのはここの近くで実家は八百屋…ってのは話してたっけ?」
「聞いてる。あと美貴のバイトしてるコンビニによくチロルチョコ買いに来るくらいは」
あ…やっぱり怒ってる。
にしてもなんで急に話してくれたんだろう。アタシの中じゃ初めて聞けた話に好奇心と疑問が膨らんでいった。
考えてもとても分かりそうに無いけど。楽しいならいいか。
「だからそれはたまたま、本当に甘い物が食べたいなーって思ったから買ってるだけで…」
「いいけど、今度やったら絞めるよ」
「ひどーい! せっかく売り上げに貢献して上げてるのに」
「せめて板チョコにしろよ」
言いながらミキティーは困ったように微笑んだ。またちょっとだけ時間が止まる。
今までとは違ってなんだかホンワリした時間。なかなか在りそうで無いような時間。
駅前の通りが次第に見えてくる。こっちの方がやっぱ開けてる感じ、街灯も多くて明るいし町並みの整備も行き届いてた。
通勤とかしないアタシにとっては結構ひさびさ。
もう駅の中では人が動いているらしくてなんだか騒がしく聞こえた。
「交換しよっか?」
正面に改札口が見えてミキティーが携帯をかかげて言う。
不意すぎてちょっと驚いたく。アタシはミキティーの携帯に頷きながら意味を考えてた。
どっちかって言ったら後ろ向きかもしれないけど、ラーメン屋さんが無くなった事で一つだけ分かった。
ミキティーどうやらこれからも友達でいてくれるらしいって。
「なんか真希とは変な感じの付き合い方だから携帯とか聞いてなかったけど、まあ嫌な奴じゃないし」
「そーなんだよね、なんか聞きそびれた感はあったけど言い出しにくかったもん。それにこれって友達かなぁって考えると結構微妙だった」
「ほんと微妙」
言葉にしてしまうとこんなにあっけなかったり。
交換するのはもっとあっけなかったり。
登録件数が一件増えて、一人知り合いが増える。中には消えちゃった番号もあったり無かったり、でもなんだかこの番号
だけは消しても消えないような妙な予感がする。
「ミキティーって生霊出すタイプじゃないよね?」
「は? やっぱ間違いだったかも…」
また少し考えた。ミキティーは携帯の多分アタシの番号を眺めながらゆっくり首を傾ける。
「あーそれって酷い〜」
メールが来たのはミキティーが改札に消えたすぐ後だった。
『これからもよろ』
結構かわいいとこもあるじゃん。うんうんお願いされるよ、こっちこそよろ〜。
終わり
リロードしながら読んでいました。感想を。
なんだかほのぼのしていていいですね。
一つのことをキッカケとして少し進んでいく関係、っていうのを
上手いこと表現していると思います。
携帯番号を交換するシーンも、それ以前の前触れが殆どないところが、
却って突拍子もなくて、「不意に」というのを上手いこと出していると思います。
ただちょっと惜しいのは、作者さんの頭の中で整理がついていても、
読んでいる方には伝わりきっていないところがあると思います。
例えば
>>540の最後から二つ目のパラグラフは、
『バイト中』というのが、誰のバイト中なのかよく分からない。
最初八百屋さんでの店番のことかと思った。
それと最後の
>>548の「生霊出すタイプ」の意味。
こっちは未だによくわからないです。
でも充分楽しめる作品だと思います。
久々に更新を追って読んでみて楽しかったです。
>>549 感想ありがとうございます。
指摘されてから改めて読み直してみたんですがやっぱり
>>549さんの仰る通りで
わかりずらかったです。書いてる時はいいんですがやっぱ、一度手を離れてみてから
気づく事って多いです…。ご指摘ありがとうございました。
あと後藤の一人称って事でこんな書き方させて頂いたのですが…そのせいでなんだか
読みにくくなってる気も…
>>503さんが頑張ってるの見て私もちょっとやってみようと思い
書かせて頂いたのですが、やっぱりいざ書くと難しいもんですね、orz
分かりにくいという点を除けば面白い。ストーリーうまうま。みきごまマンセー。
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559 :
名無し募集中。。。:2005/04/20(水) 22:22:41 ID:kfFc66fL BE:147848876-
( ` ・ゝ´) 川‘〜‘)|| (〜^◇^) 川σ_σ|| ( ^▽^) 川o・-・) ( ‘д‘) ( ・e・)
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561 :
名無し募集中。。。:2005/04/30(土) 22:41:18 ID:4qHs5k9G BE:221773379-
( ` ・ゝ´) 川‘〜‘)|| (〜^◇^) 川σ_σ|| ( ^▽^) 川o・-・) ( ‘д‘) ( ・e・)
562 :
名無し募集中。。。:2005/05/02(月) 17:16:29 ID:5CLUEu3C
563 :
名無し募集中。。。:2005/05/16(月) 23:29:33 ID:KqYofnuY BE:56324328-
( ` ・ゝ´) 川‘〜‘)|| (〜^◇^) 川σ_σ|| ( ^▽^) 川o・-・) ( ‘д‘) ( ・e・)
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566 :
ねぇ、名乗って:2005/05/31(火) 18:01:17 ID:ZqfhM6Ck
568 :
名無し募集中。。。:2005/06/16(木) 17:33:41 ID:lSpmTfCE BE:14081322-
( ` ・ゝ´) 川‘〜‘)|| (〜^◇^) 川σ_σ|| ( ^▽^) 川o・-・) ( ‘д‘) ( ・e・)
569 :
名無し募集中。。。:2005/06/22(水) 17:16:37 ID:eHk3szQQ BE:95045393-
570 :
名無し募集中。。。:2005/06/25(土) 18:52:12 ID:2zIGmVra BE:49283827-
( ` ・ゝ´) 川‘〜‘)|| (〜^◇^) 川σ_σ|| ( ^▽^) 川o・-・) ( ‘д‘) ( ・e・)
571 :
名無し募集中。。。:2005/06/27(月) 01:09:29 ID:pMR//rE1 BE:158409195-
( ` ・ゝ´) 川‘〜‘)|| (〜^◇^) 川σ_σ|| ( ^▽^) 川o・-・) ( ‘д‘) ( ・e・)
モーニング娘。Reloaded
国民的アイドル「モーニング娘。」は試行錯誤の末
「脱退と増員」
この二つをシステムに取り入れることでほぼ安定した
それでもモーニング娘。に順応できないアンチを生み出し
「脱退と増員」はシステムのバランスを崩すアノマリー(変則要素)を生み出した
モーニング娘。崩壊回避のためには「アンチ」と「アノマリー」を何とかしなければならない
そこでオーディションで選ばれた「The ONE」にアノマリーのコードを持たせて
「救世主」を誕生させる
救世主は寺田によってモーニング娘。へ導かれる
そこで山アの説明を受けた後
「アサヤンを知らない世代にオリメンヲタと同じ体験をさせる」
というモーニング娘。のリロード作業が行われてきた
リロードによってマンネリを防ぎモーヲタから資金を回収
モーニング娘。とモーヲタはこの繰り返しによって存続してきた
オーディションがスタートした時 初代救世主が出現した
彼女は最初のメンバー5人でモーヲタを生み出した
やがて彼女は脱退し 寺田により再来が予言された
時は流れ・・・
モーニング娘。がリロードされた
2代目救世主により再建がなされた
やがて2代目救世主は脱退寺田により再来が予言された
・・・以下、繰り返される
6人目の救世主 以下レボリューションズ
やあ小春
「あなたは」
山ア(会長)だ モーニング娘。を創った 待っていたよ
モーニング娘。に入り意識は変化したが君はまだ素人だ 理解できない答えもあるだろう
君の最初の質問は適切かもしれんが 的外れということもあり得る
「なぜ私はここに?」
君はアンバランスな均衡の余剰だ つまり君は変則的なアノマリーの産物だ
解決すべき問題だが 君は予想範囲内でコントロール可能だ
それで君は容赦なく導かれた・・・ここへ
「質問に答えてない」
おどろいたな 面白い 他の者たちより鋭い
「他の者とは?」
モーニング娘。は古い 完全なアノマリーの出現数で見れば これは6番目になる
「私の前に5人いた?」
可能な説明はふたつ
「私が聞いていないか私の前に誰もいないか」
その通りだ アノマリーはモーヲタ全体に及び 最も単純な均衡にも変動を
「“脱退と増員”、問題は脱退と増員だ」
最初のモーニング娘。は完璧な芸術品だった だが悲劇的な失敗に終わった
その避けがたい運命はモーヲタの不完全さが招いた結果だ
そこでヲタの歴史に基づきモーヲタの奇怪な性質を反映させてみた だが再び挫折を味わった
解決するには不完全なPが必要だった 完璧さを求める度合いの低いPがね
私がモーニング娘。の父なら 彼が母だろう
「寺田か?」
やめてくれ 彼の見つけた解決策でモーヲタの99%が受け入れた
脱退と増員という形を与えてやったからだ
だが根本的な欠陥がありシステム内部にアノマリーを生み出した
それはシステム自体を脅かす
拒否した1%を放置すれば 大惨事が起こる可能性を増大させる
「キモヲタのことか?」
キモヲタは滅びる だから君が来た 全てのアンチは消滅する
「ウソだ!」
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580 :
ねぇ、名乗って:2005/08/20(土) 23:51:30 ID:MVU1FTus0
まんまんみてちんちんおっき。
ミミ ヽヽヽヽリリノノノノ
ミ ,,、,、,、,、,、,、,、、 彡
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