「ん……あれ……夢?」
目が覚めた安倍は布団の中にいた。
そして安倍の視界の中に入ってきた飯田が必死に安倍の名を呼んでいた。
「やっと起きたよ……どうしたのさ、なっち。
汗びっしょりだよ。」
安倍も言われるまでは気付いてなかったが、どうもかなりの寝汗をかいていたらしい。
おかげで服もかなりびしょ濡れになってしまっていた。
「珍しいね、なっちがこんな時間まで寝てるなんて。」
安倍が時計に目をやる。
針は7時を過ぎようとしていた。
「ま、いいや。早く起きなよ、朝ご飯の時間だからさ。」
「あ、うん、すぐ行くべさ。」
安倍が布団から出ようとする。
「あれ?」
突然足元がふらついた。
軽い眩暈だったみたいで飯田は気付かなかったようだ。
額に手をそっとおいてみる。
「なんかちょっと熱っぽいみたい……。」
とりあえず安倍は、風邪薬を飲んでさっと服を着替え、そしてすぐに朝食をとりに行った。
本日の正午12時、いよいよ娘。甲子園の頂上を決める戦いがはじまる。
今日はここまでです。
何故か久々にピンチランナーを見ている今日この頃。
今度の新作のネタにでもしようかな?w
先発オーダーを忘れるとこだった…(汗)
早大付札幌 横浜
中|里田 まい |1|柴田 あゆみ|中
遊|紺野 あさ美...|2|新垣 里沙 .|二
捕|飯田 圭織 |3|矢口 真里 .|遊
投|安倍 なつみ...|4|石川 梨華 .|投
三|藤本 美貴 |5|秋野 鈴 ...|右
右|石黒 彩 ..|6|田中 優希 .|左
一|戸田 鈴音 |7|安達 優子 .|一
二|木村 麻美 |8|中川 早紀 .|三
左|大谷 雅恵 |9|古谷 由美 .|捕
39.秘球攻略
この時がやってきた。
娘。甲子園頂上決戦、横浜高校対早大付札幌高校。
あと数分でプレイボールというところ、どの選手も緊張の色を隠せずにいた。
大舞台には慣れているはずの安倍も、いつでも強気のプレーを見せる矢口も、その例外ではなかった。
それでも、全員持ち前の精神力とそれぞれの方法を駆使して、なんとか自らの心を少しずつながらコントロールしはじめていた。
そんな中、安倍の投球練習を受けていた飯田は横浜のオーダーに僅かながらの疑問を抱いていた。
「なんで柴ちゃんと矢口を入れ替えたんだろう?」
今日はいつもと違い、斬り込み隊長の矢口を3番に、繋ぎ役の柴ちゃんを1番に置いている。
これの意味することは何なのか、飯田はその意図を掴めずにいた。
他の選手もそれぞれの想いを心の中に抱いていた。
ライバルに負けられない者、リベンジを心に誓う者、ただ頂上を見つめる者……。
そんな色んな想いが交錯する中、ついに時は満ちた。
今、審判が高らかに頂上決戦の試合開始をここにコールした。
早大付のマウンドに立つのは安倍。
横浜の先頭打者の柴田、2番の新垣は安倍の快速球にタイミングが合わず、連続三振に倒れた。
安倍の今日の速球はいつも以上に走っている。
そして打席に3番の矢口が入る。
矢口、全力で行かせてもらうよ……。
安倍は速球二つをファールさせて、一気にツーストライクまで追い込んだ。
さすがなっち、当てるのが精一杯だ……。
矢口の打法は数少ない振り子打法。
天性の野球センスでタイミングを計り、嫌いな球をファールで逃げ、好球だけを打ちに行く。
通算打率7割を成し得ている矢口のこの打法は、相手投手としてはかなり嫌な打法だといえるだろう。
この矢口だけは一筋縄ではいかない。
そう判断した安倍と飯田のサインは見事に一致した。
安倍が投球モーションに入る。
が、オーバースローではない。
体を深く沈ませ、地面スレスレからボールを投じるアンダースロー。
そう、安倍の武器、秘球『TSK』だ。
一度高々と浮くボールが揺れ、消え、そして落ちる。
矢口のバットはことごとく空を斬った。
さすがの矢口でも、安倍のこの秘球は当てることすらできなかった。
その裏の早大付の攻撃。
緊張からか、少し体の動きの硬いマウンド上の石川が第一球を投じた。
『カキーン!』
里田の放った痛烈な打球が、石川の右を通過する。
早くも初安打か。
しかし、ショートの矢口が素早く打球に反応。
それでも、さすがに間に合わないだろうと誰もが思ったその瞬間だった。
矢口はトップスピードのまま足からスライディング。
そして、なんと打球を左足で蹴り落とした。
そこからすぐさまボールを拾い、そのままの体勢で一塁へ送球した。
俊足里田もさすがに間に合うわけもなくワンアウト。
矢口の早速の美技に球場全体が沸いた。
「石川ぁ〜、ちゃんと気合投げて投げろよ!」
矢口の美技とお決まりの喝に気をよくした石川。
その後は危なげなく紺野を一塁ゴロ、飯田を三塁フライで初回を三者凡退で終えた。
2回表、横浜の攻撃。
この回は4番の石川からだ。
「安倍さぁ〜ん!」
石川に突然声をかけられて、安倍は驚きを隠せなかった。
そんな事を気にも留めず、石川は言葉を続けた。
「矢口さんに投げたあの球、私にも投げてくださいよ。」
ただのはったりか、それとも何か秘策でもあるのだろうか……。
よくわからないが、石川の顔はとにかく自信に満ち溢れていた。
安倍も飯田も迷っていた。
しかし、石川の次の言葉で踏ん切りがついた。
「まさか逃げませんよね?」
飯田としては、まず『TSK』なら痛手をくらう事はないだろうというのもあった。
しかし、それよりなによりも、安倍のプライドがここで『TSK』を投げないということを許さなかった。
安倍がアンダースローで投げた。
矢口の時と同様、球が浮き、揺れ、消え、そして落ちる。
その瞬間…。
「ハッピーーー!!!」
『グワキィーーーン!!!』
石川がスイングしたと同時に凄まじい打球音だけが球場を支配した。
まったく行方を晦ました打球。
それは突如、バックスクリーンで鈍い金属音を立てて姿を現れた。
一瞬の出来事だった。
石川の目が覚めるような先制弾に誰もが言葉が出なかった。
そんな中、石川はただひとり浮かれモードでベースをゆっくりと一周した。
今日はここまでです。
オーダーの先攻後攻が逆になってますが、そこは脳内補完しておいてください。
すいません。
年内完結、したいけど難しそうだなぁ…。
>>258 紺藤ラジオを聞いてて、こういう感じに書きたくなっちゃいました。
40.安倍のプライド
「よしっ、石川、ナイスバッティング!!」
石川がホームを一周し終えようとした頃、やっと矢口が発した第一声だった。
横浜ナインは手荒く石川をベンチへと迎える。
飯田は主審からボールを受け取り、安倍へと返した。
「なっち、ドンマイ。切り替えていこ。」
「うん、わかってる……。」
そうは言うものの、さすがの安倍も同様を隠せない。
なんといっても安倍の一番の武器、『TSK』をアレだけ派手に打たれたのだから……。
「安倍さん、ボール貸してください。」
当然そういってきたのは藤本だった。
安倍は脈絡のない藤本の発言にまったく意味をわからずにいたが、とにかく貸してと強く言うので、とりあえず安倍は藤本にボールを渡すことにした。
ボールを受け取った藤本は、三塁ベースにタッチし、塁審に一言言った。
「三塁ベースタッチしましたよ。」
「うむ。アウト、ア〜ウト!!!」
へ?
そんな感じで、誰もがその状況を理解しきれずにいた。
一体誰がアウトなんだ?
だが、それは紛れもなく一人しかいなかった。
「……わ、わたし?」
そう、先ほど本塁打を放った石川、ただ一人だ。
だが、本人も何がなんだかまったくワケがわからないでいた。
そんな石川にご丁寧にも藤本が挑発のおまけ付きで説明した。
「残念でしたね、石川さん、ベースの踏み忘れをするなんて。
ま、おかげでこっちは助かりましたけどね。」
これに石川がぶち切れる。
どかどかとグラウンドへ戻ってきて、塁審へと詰め寄る。
「一体何なのよ!ベースの踏み忘れ?ワケのわかんないことぬかさないでよ!
何で私がそんなことしなくちゃいけないのよ!あんた、ちゃんと見てたの!!!」
矢口、柴田が二人がかりで石川を抑え込み、その場はなんとか丸く収まった。
それでもまだ石川の怒りは収まらない。
しかし、それ以上に怒っていたのは実は矢口だった。
「石川、いい加減にしなよ!ベースの踏み忘れなんて…しっかりしろよ!」
すると石川は突然我に返って静かにこう答えた。
「問題ないですよ、また打ち直しますから……。」
そう言った石川の目は、標的を定めた虎のような鋭い威圧的な視線を安倍へと向けていた。
「さあ、安倍さん、切り替えていきましょ。」
「はは……さんきゅ、藤本。」
藤本に返されたボールを受け取り、苦笑いする安倍。
しかし、先ほどよりはなんとか落ち着きを取り戻しているようだった。
その証拠に、後続もピシャリとしめて結局この回も三者凡退で終えた。
そして、ベース踏み忘れで流れが変わったのか、裏の早大付の攻撃。
先頭打者の安倍が魅せた。
初球の内角速球を見事なまでに綺麗に捌き、ライトスタンドへと運んだ。
その後、5番の藤本が右前安打、二死から8番の木村が四球を選んでチャンスを作ったが、この回は石川がなんとか1点にとどめた。
3回表、横浜は安倍の速球にまったく手が出ず、またも三者凡退。
今日の安倍は誰の目から見ても絶好調に間違いなかった。
たった一人を除いて……。
「なんか今日のなっち、いつもに比べるとちょっとおかしな気がする……。」
安倍の女房役、飯田。
彼女だけは安倍のいつもとの微妙な変化に気付いていた。
そこで飯田はベンチへと引き返した時、すぐさま安倍に直接聞いてみることにした。
「ねえ、なっち。」
「……。」
飯田の呼びかけにまったく反応しない安倍、その目は完全にどこかにいってしまっている。
「ねえ、なっちったら!」
「…はえ?あ、何、圭織か。どうかした?」
「ちょっとなっち、大丈夫?ボーっとして……。」
飯田は何気なく安倍の額に手を置いてみた。
「あつっ!あんた、ものすごい熱……。」
熱があるじゃん!
そう言おうとした瞬間、安倍はすかさず飯田の口を左手で塞いだ。
そして、右手の人差し指を立てて、周りに聴こえないように静かに言った。
「大丈夫、心配しないで。これくらいなら全然平気だからさ。
みんなに変な心配かけさせたくないしね。」
口に当てられた安倍の手をどけ、飯田もできる限りの小さな声で安倍に話す。
「あんた、そんな熱で平気なワケないっしょ?そのまま続けたらどうなるか、あんたにだって想像くらいできるでしょ?」
「ごめん、圭織……。
でもさ、昨日の紺野や藤本が頑張って投げるの見たっしょ?
あんだけ二人が頑張って、昨日休ませてもらってたなっちがこんなとこで降りるなんて…。
それに昨日矢口と約束したんだよ、真っ向勝負するって。
今更逃げたくないべさ。
それにさ、なっちはやっぱこのチームのエースだって自分では思ってる。
だからさ、こんなとこで降りるのはなっちのプライドが絶対に許さないべさ。」
「なっち……しょうがないなぁ……わかったよ。」
「圭織……。」
「9回まで、だよ。延長に入ったら嫌でも変わってもらうからね、いい?」
「ありがとう……圭織。」
もう、かれこれ5年もの付き合いになる飯田にはわかっていた。
おそらく38℃は軽く越えているであろう熱があったとしても、安倍はこんなことではマウンドを降りようとしないということを……。
そんな自分を枉げない安倍の球を、飯田はずっと受け続けてきたから……。
飯田はただただ、安倍がなんとか最後までもってくれることだけを祈っていた。
今日はここまでです。
日1回更新できれば年内完結できるかも。
かなり無謀だけど…。(汗)
乙。
がんがってください。
41.悪球打ち開眼
試合は紺野の二塁打の後、二死から安倍の右前適時打と藤本の本塁打でこの回早大付は石川から3点をもぎ取った。
一方の横浜も4回表、柴田が右前安打で出塁、いつものように2番の新垣が送って一死二塁とした。
安倍と矢口の二度目の対決、矢口がスライダーを打たされて二飛。
軍配はまたしても安倍に上がる。
そして二死二塁というところで、打順は石川へとまわってきた。
ロージンをグリップにあてて、ゆっくり打席へと向かう石川。
そんな石川の姿を見つめながら、矢口は石川の入部当初の頃を懐かしげに思い出していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3年前、石川は横浜高校野球部へと入部した。
一応柴田と同期だったが、この頃柴田はあまり台頭することはなかった。
一方の石川は、監督にその野球センスを見込まれて、即スタメンとかなりの待遇を受けていた。
しかし、成績はなかなかパッとせず、打率は2割そこそこ、本塁打を打てるほどの飛距離などまったくなかった。
そんな中で、当時の石川でもっとも問題視されていたのが、極度のネガティブ思考であったということだった。
それが打撃にも影響し、アウトのうちの7割が見逃し三振ということからも、石川がかなりの消極的思考であることが伺えた。
そんな石川に、矢口は常日頃からポジティブシンキングをすることを言い続けて来た。
矢口は知っていた。
石川の打撃センスが本物であることを。
特に難しいコースなども上手に捌ける技術は、矢口自身でも勝てるかどうか微妙だろうと思っていたほどだ。
しかし、ネガティブ思考がその力を石川の中へと封じ込めてしまっていた。
際どい球、甘い球、初球、追い込まれてから、石川はどんな時、どんなボールに対してもなかなか手を出せずにいた。
石川曰く、下手に手を出してはいけないと躊躇してなかなか打ちにいけなくなるらしい。
それ故、技術があっても成績に出てこないという状況に陥ってしまっていたのだ。
なかなか殻を破れずにいた石川に、矢口はとある日の練習試合である指示を出した。
「来た球は全部打て、絶対に見逃しはするな。」
石川は最初はかなり戸惑いを感じていた。
ボール球が来たらどうしよう。
狙い球が来なかったらどうしよう。
しかし、そんな石川の考えはいらぬ心配だった。
相手投手は思いのほかストライクゾーンにポンポンと放って来る。
しかも、球にキレがあるわけでもないので狙い球と違っても十分に対応することができた。
矢口の指示の甲斐あって、石川は4打数4安打の大当たり。
そして8回に第5打席目が回ってきた。
この時には石川もノリノリで、完全に打つことしか頭になかった。
そして第一球、当然のように石川は打ちにいった。
「え、フォーク!?」
相手バッテリーは信じられないことに初球からボール球になるフォークを使ってきた。
石川は咄嗟にバットを止めようとした。
しかし……。
「ここで止めたら私は変われない……変わらなきゃ!」
そして石川は構わずそのまま打ちにいった。
フォークボールはホームベースのちょっと手前でワンバウンド。
石川はそれを思いっきり掬い上げた。
『グワキィーーーン!!!』
周りの誰もが、いや、石川自身も信じられなかった。
生まれてはじめての本塁打がワンバウンドボールの悪球打ち。
石川はその時、あまりの好感触にバットを放すのも忘れてベースを一周した。
石川が悪球打ちに目覚めてしまったのはその頃からだった。
あの日以来、あの感触が忘れられず、来る日も来る日も悪球打ち。
そして今の石川となるに至ったのだ。
それと同時に、もともとど真ん中はあまり得意ではなかった石川は、それから真ん中はめっきり打てなくなってしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今思えば、石川もかなり変わったな…。
なにより強くなった…。
この石川の強さが、今の横浜の支えであり、そして矢口自身の支えになっている。
矢口はそんなことを思っていた。
この試合もきっとなんとかしてくれる。
そんな期待が矢口の心の中にはあった。
そんなことを知ってか知らずか、石川はバッターボックスへと入る。
「トーントン♪トーントン♪」
ワケのわからないリズムを刻みはじめた石川。
なぜかホームベースから離れて、さらにバットをかなり短く持っていた。
これでは外角は届かないだろう。
飯田のサインはすぐさま安倍に外角を、そして長打を防ぐために念のために低めの速球を要求した。
安倍は躊躇なく頷く。
そしてセットポジションから第一球を投げた。
その瞬間、石川の目つきが変わる。
「ハッピィーーーーー!!!」
高々と振り上げられたバットは、いつの間にはグリップエンド目一杯まで持たれていた。
しかもそれだけではない。
バットが異常に長い。
振り抜かれたバットは悠々と外角低めのボールを捉えた。
『カキィーーーーーン!!!』
高々と空へ舞ったボールは、レストスタンドへ吸い込まれるように消えていった。
打ち直しとなった一発に、横浜サイドは沸きに沸く。
打たれた安倍・飯田のバッテリーは唖然とするしかなかった。
「なんで今の際どいストライクボールを……もしかして!?」
飯田はその時気付いた。
ホームベースから離れて立った時の外角低め。
そう、確かにストライクではあるが、実際は悪球となんら変わらないのだ。
「まずは2点返しましたよぉ〜、矢口さん。」
「ホント、梨華ちゃんはよくわからないよ……。」
石川の底の深さに呆れながらも、矢口は石川を手荒く出迎えた。
42.ど真ん中
石川の本塁打で追い上げムードに入るかと思われたが、試合は5回裏の石黒の3ランで一方的な試合展開。
これで勝負が決まったかと思われた。
6回表、一死から矢口の打席。
矢口はバットを短く持ち、ひたすら粘る。
ファールファールで逃げ、そして19球目の速球を空振り、三振に倒れた。
安倍は気付けば少し肩で息をしていた。
続く石川が投げ疲れた安倍のすっぽ抜けた失投を捉えて、2打席連続となるソロ本塁打で再び反撃の狼煙を上げた。
「これが矢口を3番にした目的か……。」
しかし、6回裏に早大付は紺野の中前適時打で1点を追加、点差を再び5点にまで開いた。
7回は両者無得点、そして試合は終盤の8回へと入る。
この回の先頭打者は矢口。
風邪の影響で徐々にバテてきたのか、球威が落ちたところを狙われる。
速球を右中間へ持っていかれ、三塁打。
そして、またもチャンスで石川に打席がまわってくる。
初球、二球目とど真ん中速球。
簡単にツーストライクと追い込む安倍・飯田のバッテリー。
ここで矢口が石川に何かサインを出す。
バッテリーは構わず勝負に出ようとする。
サインを交わし、安倍が投球モーションに入った、その時だった。
矢口が走った。
石川はバントの構え。
「スクイズ!?」
飯田はすぐさまウェストを指示。
安倍は飯田の指示通り外しにいった。
しかし、これが相手の術中にまんまとはまる事となる。
「は!しまった!」
相手は石川、当然このウェストに喰らいついた。
「グッチャーーーーー!!!」
『グワキィーーーーーン!!!!!』
打球は弾丸ライナーでバックスクリーンに突き刺さり、3点差に迫る2ラン。
飯田はすぐさま安倍の下へと駆け寄る。
「ごめん、なっち。今のは私の判断ミスだったわ……。」
「気にしないで、圭織。なっちも同じ事を考えてたからさ。それより、次をしっかり抑えるべさ。」
「そだね。よし、しまっていこ。」
「うん。」
思いのほか冷静だった安倍、後続を見事3人で斬ってとった。
8回裏、尻上がりに調子を上げてきた石川に早大付は三者凡退、簡単にイニングチェンジとなる。
そしてついに最終回。
安倍は最後の力を振り絞って8番・9番を打ち取って2アウトとした。
しかし、横浜もまだまだ粘りを見せる。
1番柴田が中前安打で出塁。
2番新垣には何か仕掛けてくると変に意識して四球を許し、二死一・二塁。
そして3番矢口。
「なっち、ここは勝負にいかせてもらうからね……。」
矢口はアレを狙っていた。
しかし、実は安倍もそのことをなんとなく察していた。
「今の矢口なら狙ってくるかも。」
第一球を投げた瞬間、柴田と新垣が走った。
当然サードの藤本はベースカバーに入る。
矢口はそこを狙う。
三塁方向へのセーフティバント。
ベースカバーに入っている藤本はもちろんスタートできない。
だが、安倍はこんな矢口の考えを読んでいた。
すぐさま打球を拾い、一塁へ送球しようとする。
しかし、処理を焦ったのかボールをジャックル。
すぐに持ち直して送球するも、矢口の俊足も相まってかろうじてセーフ、結果内野安打となり、二死ながら満塁のチャンスを迎えた。
この一発出れば大逆転のチャンスに、打者は三度石川。
ここまで4の3で3本塁打、しかもアウトもベース踏み忘れということで実質全打席本塁打を放っていることになる。
飯田はたまらず安倍の下に駆け寄る。
「なっち、大丈夫?」
「心配ないよ、圭織。まだまだいけるべさ。」
「そ、ならよかった。この場面で小細工は何もいらないから。ど真ん中速球一本で。」
「わかったべさ。」
飯田はホームへ戻ろうとして、また安倍の方に振り返る。
そして、しばしの沈黙の後、飯田が静かに語りかけた。
「……ねぇ、なっち……。」
「ん?」
「絶対勝とうね!」
「……よしきた!」
安倍も気合の一言。
しかし、実のところ、安倍は立つのがやっとという状態だった。
今にも意識が飛んでしまいそうなほど満身創痍。
安倍は今、気力だけで立っていた。
そして試合は再開される。
初球はど真ん中速球を見逃しストライク、二球目は同じど真ん中速球を空振りで、バッテリーは早々と2ストライクと追い込む。
大観衆は祈るような思いで試合に見入っていた。
特に横浜サイドは後がない、さらにど真ん中が打てない石川なだけに、もうダメかと誰もが思っていた。
そして、運命の三球目を投げた。
ど真ん中の速球。
横浜は万事休すかと思われた。
しかし……。
『カキン!』
ファール。
それは信じられない光景だった。
当てたのだ、あのど真ん中が打てないはずの石川が。
その後も石川はど真ん中の速球攻めにファールで粘る。
そして8球目、ついに石川がど真ん中を完璧に捉える。
『グワラキィーーーーーン!!!』
安倍に重圧が圧し掛かる。
打球はライトスタンドへ向かって一直線。
しかし、ポール際で巻くかどうかかなり微妙だ。
そして、あっという間に運命の打球がポールの横を通過していった。
今日はここまでです。
間に合わなさそうなんで一気に二話分更新してみました。
しかし、実はこれでもまだ微妙かもしれないという罠。
>>276 最後の追い込み、頑張りたいと思います。
大量更新乙です。
梨華ちゃんカク(・∀・)イイ
43.渾身
『ファール、ファーーール!!!』
審判の手が大きく横に開き、横浜サイドでは落胆の、早大付サイドでは安堵のため息が漏れた。
石川の今の一振りで、球場は異様な空気に包まれる。
早大付ナインはこの空気に完全に呑まれつつあった。
「どうしよう……投げる球がない……。」
飯田もその一人で、なかなかサインを出せずにいた。
真ん中が完璧に捉えられた。
悪球も今まで打たれているだけに投げにくい。
頼みの『TSK』もすでに最初に打たれてしまっている。
そう、もう投げる球がないのだ。
安倍もまったく同じ気持ちだった。
何を投げていいのかわからない。
しかも、立つのがやっとの状態で、今度はさらに目がかすみだしてきた。
安倍は思わず目を閉じて天を仰ぎ、ふぅっとひとつ大きく息を吐く。
バッテリーの間で時の流れが止まる。
過去にこんな状況に陥ったことは、今まで一度たりとてなかった。
「タイムお願いします!」
そんな時の流れを元に戻したのは意外な人の一声だった。
その声の主は紺野だった。
紺野はてけてけと安倍の下へ駆け寄った。
「安倍さん、投げにくいとは思いますけど……私たちが絶対に守りますから。
思い切っていきましょう!」
「紺野……。」
投手が投げにくい場面で、周りがしっかりと投手を後押ししてやる。
投手を経験したことで、私が思った以上に紺野はホントに成長したんだなあ、と安倍は思った。
そんな大きく成長した紺野の言葉が、安倍にはとても力強く聞こえた。
「安倍さん、あれやりましょうよ!」
「え?」
紺野はそう言って右手を前に差し出した。
周りを見てみると、サードの藤本も、ライトの石黒も、レフトの大谷も、そしてキャッチャーの飯田も、全員が自分の守備位置で右手を安倍の方へと差し出していた。
「みんな……。」
「さ、安倍さん!」
「よしっ、やるべさ!」
安倍も右手を前に差し出す。
そして、飯田に目で合図を送った。
飯田が音頭をとる。
「よぉーし、みんな!頑張っていきまーーっ!」
「「「しょーーーい!!!」」」
ナインは気合を取り戻し、紺野はさっと守備位置へと戻っていく。
そして再びバッテリーでサインの交換が行われた。
しかし、この時にはバッテリーの迷いも完全になくなっていた。
ど真ん中速球、これ以外あり得なかった。
安倍はロージンを手に取り、ふうっと大きく一息つく。
そしてロージンを投げ捨てる。
今一度集中力を高めた安倍は、ワインドアップモーションから渾身の一球を投げた。
おそらく今日のMAXのスピードだろうと思われる速球。
しかし、手元が狂ったのか、球は石川の頭近くを襲う。
石川はこの石川にとっての千載一遇の絶好球を見逃さなかった。
「グッチャーーーーー!!!」
待ってましたと言わんばかりに高々と振り上げられていた石川のバットは、今縦一閃に振り下ろされた。
今日は短いですが、ここまでです。
一応次でラストになる予定です。
もし番外編希望があるようなら書きますけど。
今年中に書けるかな…。
>>290 実際はここまで勇ましくはないでしょうねw
てst
44.決着
『カッ!』
石川の豪快なスイングは安倍の剛速球をかすめただけだった。
158km/h。
飯田はなんとか反応して、そのファールチップをキャッチした。
この瞬間、勝負は決まった。
大歓声、落胆、号泣、悲鳴、咆哮…。
そんな中、早大付サイドはこれ以上ない歓喜で包まれた。
あの飯田もすぐさまマスクを脱ぎ捨て、嬉々として安倍の下へと駆けていった。
その時だった。
「はは……やっと終わった……。」
そう言うと、安倍は力尽きた。
倒れ掛かる安倍を飯田はしっかりと支えてやった。
安倍は完全に意識を失っていた。
「なっち、お疲れ様……。」
安倍の頭を軽くぽんぽんと叩きながらそう言うと、飯田は安倍を抱えてベンチへと歩き出した。
「あやっぺ、後は頼んだよ。」
「うん、わかったよ。」
他のみんなはまったく状況を理解できず困惑していたが、石黒だけはわかっていたようだ。
飯田はそのままベンチの奥へと消えてゆく。
その瞬間、凄まじいまでの大音量で、なっちコールとかおりんコールが球場全体に交錯していた。
一方、敗者となった横浜は落胆の色を隠せなかった。
中でも、ラストバッターとなってしまった石川はバッターボックスで泣き崩れていた。
矢口がそんな石川に声をかける。
「泣くなよ、石川。精一杯頑張っただろ?」
石川は声にならない声で言葉を絞り出す。
その言葉からは石川の悔しさが痛いほど滲み出ていた。
「ごめ…なざい……やぐぢざ…うぅ………わだしの……せいで…う゛ぁあ゛あ゛あ゛あーーーーーん!!!!!」
矢口は半泣きになりながら石川を思いっきり力強く抱いてやった。
「何言うんだよ、点あげたのお前だけなんだぞ!
おいらなんかの方が…おいらの方が……。」
「やぐ…ぢさ…ん…。」
「そうだよ、梨華ちゃん。誰も今日の梨華ちゃんを責めたりなんてしないよ。」
「そうですよ、石川さん。いつもみたいに元気よくいきましょうよ!」
「じば…ぢゃ…、お…まめ゛…。」
横浜ナインは労いの言葉と共に、涙で顔をくしゃくしゃにした石川を暖かく囲んでやった。
全国5027校が頂点を目指した熱い戦いは、優勝が北海道代表早大付札幌高校、準優勝が神奈川代表横浜高校という結果で幕が下ろされた。
そして、それぞれがまた新たな目標へと向かって歩みを進めることを誓った瞬間でもあった。
ENDING
場所は兵庫県内のとある病院の病室。
ここに安倍は入院していた。
娘。甲子園決勝終了と同時に倒れてしまった安倍。
診察の結果は、風邪と過度の疲労が重なったとのこと。
とりあえず一週間ほどの入院が必要ということになり、しばらくの点滴生活を余儀なくされた。
そして今日は早大付ナインが揃いに揃って見舞いにやってきたのだ。
「ホント、なっちにはビックリさせられっぱなしだよ。」
「まあ、試合が終わってからでまだよかったけどね。」
「ホントにごめんね、みんな……。迷惑かけてすまなかったべさ。」
石黒と飯田の言葉に、ベッドに入ったまま安倍は深々と頭を下げた。
「ホントですよ〜、安倍さん。美貴に言ってくれればトントーンと完投したのに。」
「まあまあ、皆さんいいじゃないですか。安倍さんも入院だけですむみたいですから。」
紺野の一言で、安倍責めは一旦終了した。
「それより皆さん、安倍さんへお見舞いに持ってきたお好みでも食べてもらいましょうよ。」
「紺野、あんたが食べたいだけどしょ?」
「てか、紺ちゃん、すでに食べてるし!」
飯田と藤本のつっこみ通り、紺野はすでにお好みをおいしそうに口いっぱいに頬張っていた。
その様子があまりにおかしくて、一同は腹の底から大笑いした。
「ま、いいじゃない。せっかくなんだからみんなで食べるべさ。」
「そうだね。それじゃ…。」
「「「いただきま〜〜〜す!!!」」」
そして、去年お世話になったお好み屋の大将からの差し入れをみんなでわいわい言いながら食べた。
安倍は誰にも知られぬよう、ベッド横のテーブルへとちらっと目を移す。
そこには見舞いの品であろう花束と一通の手紙があった。
『なっちへ
ごめんね……そして、ありがとう。 矢口真里』
安倍は笑みを溢し、再びお好みに箸をつけた。
その時には紺野は、すでに二枚目を食べはじめようとしていた。
-娘。甲子園 第二幕 完-
これにて娘。甲子園第二幕は終了です。
表現力不足で読みにくかったことこの上なかったと思いますが、皆さんのおかげでなんとか年内完結することができました。
レスくれた方、陰ながらずっと読み続けてくれた方、その他このスレに関わってくれた皆さん、どうもありがとうございました。
上にも書きましたが、番外編希望があるようなら誰のが見たいか言って頂ければ書きます。
それと、続編については、小説板に移動して書こうか、ここで続けるか、やっぱりやめるなどなど、今のところは考え中です。
詳細が決まったら、ここか小説案内板あたりにでも報告します。
もし何か意見があればどんどん言ってやってください。
しつこいようですが、重ね重ね御礼申し上げます。
それでは皆さん、よいお年を。
302 :
名無し募集中。。。 :03/12/31 17:28 ID:KqNjEASj
乙
そしておめ
あけおめです。
完結お疲れ様です〜。楽しく読ませて頂きました。
番外編は主要メンバー全部読んでみたいんですけど…
脱稿乙かれー
早大優勝かぁ いろんなドラマがあってどの試合も面白かったよ
番外編も激しく見たい!
高校選抜とかみてみて〜
番外編-焼肉パーティ-
某所の焼肉屋、そこで三人の少女が楽しげに言葉を連ねていた。
「改めてお疲れ〜!」
「「お疲れ〜!」」
まるで少女たちの内なる闘志を具現化したような炎が、ジワジワと鉄板を暖めていた。
そんな少女たちは今、肉の到着をまだかと待ちわびていた。
「ホント、今回の大会は超いい経験ができたけん。」
博多弁が印象的な少女、田中れいな。
福岡代表柳川高校のエース。
今大会、二試合連続4安打以内完封勝利、さらに今期優勝の早大付札幌にも敗戦ながら1失点完投とその実力をしっかりと見せ付けた。
「確かに、いろんな事を学べたよねぇ〜。」
ほのぼのと語っているのが、亀井絵里。
東京代表上野学園で二番を打つ遊撃手レギュラー。
本戦では打率.363得点4と、上野打線のパイプ役として堅実なプレーを見せた。
「やっぱり私が一番かわいかったけどね。」
この意味のわからないことを言っている少女が、道重さゆみ。
山口代表岩国高校のエース。
何を隠そう、この道重の存在が今大会で一番の大番狂わせとなった。
まず、準々決勝までの試合を連続無失点、そして強豪上野学園に対して無安打無得点、さらには優勝校の早大付札幌にもサヨナラ負けを喫したものの、17回2/3を3失点完投とベスト4進出校に恥じぬレベルの高い闘いを繰り広げた。
そんな三人がやっとの肉の到着にわぁっと歓喜の声を上げた。
田中が手馴れた手付きで、まず塩タンを十分に熱を帯びた鉄板の上にサッサッと並べた。
そして後から持ってこられたご飯をキムチと一緒に口に頬張りながら、田中が話を切り出した。
「ねえ、絵里とさゆは、どの試合が一番よかったと思っとっとね?」
塩タンをひっくり返しながら、亀井は「う〜ん」と頭の中から奥の方の思い出を絞り出す様に少しだけ唸り、そして答えた。
「そうだね、亀井は東海大浦安と戦った試合かな?
亀井が大当たりしたってのもあるけど、何より後藤さんと保田さん・市井さんの戦いは後ろで見ててとても痺れたね。
亀井もいつかきっと、れいなやさゆとあんな勝負ができたらなぁ〜って心から思った。」
そうだね、と田中は亀井の目を見ながら呟いた。
「さゆはどう?」
田中はいつの間にやらすでに塩タンを食べ始めている道重に話を振る。
「私?当然私が一番かわいいと思う。」
はぁ。
真面目に聞いた私が馬鹿だった、と田中は改めて自分の感想を語った。
「私は初日の智辯学園対福井商業の加護さんと高橋さんの投げ合いが印象深かったばい。
あの試合を見たけぇ、自分もいいピッチングができたと。
あと、やっぱり早大付との対決はかなり痺れたばい。
どの打者も威圧感があって、超やりがいがあったとね。」
「私もそうだなぁ。」
道重が珍しく話に真面目に食いついてきたので、二人は少しばかり驚きの表情を見せた。
その道重は、いつの間にか鉄板に、今度はロースやら何やらを敷き詰めはじめていた。
そんな中、道重は続けた。
「安倍さんを筆頭に、どこかレベルが一つ違う感じ。
なんて言うか…こう、技術もすごいんだけど、何より意志が強いっていうのが戦っててとても伝わってきた。
あのチームと戦ってるときは、これ以上ない快感でホントに気持ちがよかった。」
道重が真剣に語っているのを、二人はしっかりと、道重の目を見つめて聞き入っていた。
道重がこんなに真面目な話をするなんて、という驚きもあったが、なにより道重とまったくの同感だというのがあった。
亀井は氷の4つほど入ったコップを手に取り、水を少しだけ口に含んで、そして一呼吸おいてから言った。
「でも、ホントにすごかったのはアレだよねぇ。」
「そうだね。」
「「「決勝戦。」」」
三人は声を揃えた。
どうやら、同じ事を思っていたようだ。
「なんちゅうか…物凄い気合いのぶつかり合いって感じがしたとね。」
「石川さんの凄まじいバッティングは、見ててとてもゾクゾクした。」
「それに安倍さんのあのピッチング。
話ではかなりの高熱の中で投げていたらしいんだけど…。」
「そう考えると、ホントにすごいとしか言い様がないね…。」
「最後の石川さんとの対決は、胸の高鳴りが止まらんかったけん。」
「私も、あれの勝負を見てたとき、まったく言葉が出せなかったよ…。」
しばしの沈黙。
あの勝負は思い出すだけでも言葉を失ってしまう。
それくらい彼女たちにとって衝撃的で、尚且つこの世界のレベルの高さを痛感した試合でもあった。
そして田中が止まった時の流れを再び戻すように、静かに言った。
「うちらもいつか、あんな試合がしたいけんね。」
「「うん。」」
それからは野球の事からは離れて、平凡なごくありきたりな話の連続だった。
田中が最近やけに猫好きになってきた話だったり、亀井が宿舎の押入れに色んな意味ではまっている話、挙句の果てには道重の自画自賛話など、色とりどりな話題が焼肉パーティを鮮やかに、そして華やかに彩った。
そうこうしている内に、時間はすでに一時間半も経過していた。
キリもいいので、三人はそのまま会計を割り勘で済まし、店を後にした。
三人とも、その表情から今日の食事が十分に満足なものだったことが窺えた。
「ふぅ〜、今日はようさん食ったばい。」
「なんか久しぶりにおいしいご飯を食べたって感じだね。」
「うん、私は今日も可愛かったよね。」
道重の意味不明発言にまたしても沈黙。
しかし、まるで狙っていたかのごとく、三人は同時に空を向いて大笑いした。
夏の夜空に三人の一点の曇りのない笑い声がどこまでも、どこまでも木霊する。
その後、三人はお互いに目を見合わせ、またの日の再会を約束する。
「それじゃ、また来年の大会で会おうね。」
「来年こそはうちらで大会ば盛り上げたっとね。」
「そして、誰かが優勝旗を故郷に持ち帰ろうね。」
「「「おぉ〜〜〜う!!!」」」
そして三人は別れた。
進む道は皆違えども、目指すべき場所はただひとつ……。
それは、娘。甲子園の頂。
その輝かしい栄光を目指し、三人はまた、自らを高め続け、そして再びこの地へ舞い戻ってくる事を誓うのであった。
番外編ひとつだけ作ってみました。
博多弁( ゚Д゚)ムズーw
とりあえずこれにて娘。甲子園は完全完結ということにします。
続編についてなんですが、小説板の方でやろうと思います。(理由はなんとなくw)
スレ立てたらこちらで報告するつもりです。
それと、その代わりと言ってはなんですが、こっちでも新作を披露しようかなと思っています。
ただ、こっちはまだそれほど煮詰まってないので披露は当分先になるとは思いますが…。
ということで、ここまで読んでいただいてどうもありがとうございました。
よかったら今後も自分の駄文にお付き合いしてやってくださいまし。