ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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21鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第0話 エピローグ

 紅蓮。
 真っ赤な炎が、満月で明るい夜空をさらに照らす。
 今にも崩れ落ちそうな屋敷の周囲を、火の粉が死者をとむらう蛍のように
舞っている。

 ぱちぱち。ごうごう。
 自分たちがさきほどまで中にいた豪邸が、音を立てて燃え上がっているのだ。

 数人の元モーニング娘。のメンバーが、それを茫然と見上げている。

 この屋敷で目撃した、信じられない現象。
 2発の銃声が鳴り響き、そこで発生した殺人事件。
 この日、この山奥の屋敷にいるのはメンバーだけ。
 殺されたのも、殺したのもかつての「仲間」だった。

 その仲間たちが灼熱の炎に包まれた、屋敷の中にいる。
 奇妙な運命の輪に巻き込まれた女たちが―――。
 屋敷の外にいるメンバーは、それをただ見守るしかなかった。
22鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/19 23:32 ID:PRxYO3w7
 5年振りの再会。
 和気あいあいとした雰囲気で終始すると思われていた同窓会で、まさかあん
なことが起こるとは誰も予想していなかった。
 いや、この計画を立てた、ただ一人を除いては。

 自慢のロングヘアーが、炎と汗でほつれた糸のようにボロボロになっている
飯田。その服の袖を、地面にへたりこんでいるメンバーのひとりが引っ張って
たずねる。
 ほんとうにこれですべてが終わったんでしょうか、と。
 飯田はゆっくりと目を閉じて、うなずく。

 その時だった。
 真っ赤な炎を衣のようにまとっていた屋敷が、地響きと共に崩壊した。

 5年前、武道館で起こった世間を震撼させた惨劇。
 2年前に、アメリカであのメンバーを襲った悲劇。
 そして今日、この洋館で起こった不可解な出来事。
 あの娘の口から吐き出された、事件の真相の数々。

 飯田は思った。
 たった今、本当の意味でモーニング娘。は「解散」したのだと。

23鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/19 23:35 ID:PRxYO3w7
【T・E・N】 第1話 プロローグ

 ヴィンテージレッドのRX−7。
 その流線形の車体には似つかわしくない、道の右から左を往ったり来たりと、
どことなくぎこちない運転に、助手席に座るかつての「リーダー」飯田圭織は
ずっと進行方向を凝視してハンカチを握ったままだ。山がほんのりと秋色に染
まりかけていることを確認する余裕すらない。

 20世紀から21世紀の変わり目、日本はとあるアイドルグループに釘付け
になる。
 モーニング娘。
 一番若い12歳の「少女」から20台後半の「女性」まで最多時にはメンバ
ー数13人まで膨れ上がった彼女たちの一挙一動足を、老若男女は常に話題の
種としていた。
 増員と脱退を繰り返し、常にメンツや音楽性の新鮮さを維持する手法をタレ
ント寿命の短いアイドルに適用し、そして意図したものであるにしろ無いにし
ろそれは功をを奏し、およそ5年という長い期間にわたり芸能界の第一線で活
躍するにいたった。
 だがそんな彼女らを今もなお語り継ぐ者が、もっとも避けて通れないのがそ
の「終焉」。
 あまりにも、衝撃的で予期せぬ結末に日本中が愕然とした。
24鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/19 23:36 ID:PRxYO3w7

 その当事者であるモーニング娘。のメンバーが、最後のリーダー飯田の呼び
かけにより5年ぶりに一同に会することとなる。
 場所はA県山奥にある古びた洋館。
 都心からは車を5時間も走らせなければならない位置にあるため、飯田たち
は前日にいったん麓の港町の民宿に宿泊しそれから会場へ向かうことにした。
それなら2時間弱で目的地までには着くという計算だったが、朝早く出発して
すでに4時間が経過している。自動車免許を取得していない飯田は、運転手に
この娘を選んだことを猛烈に後悔していた。
 それを察したかどうかはしらないが、車は徐々に減速したかと思うと山道の
脇でエンジンを止めた。

「飯田さん、まだまだ到着しそうにないですから旅館のおばさんに貰ったオニ
 ギリとピーナッツでも食べませんか?」

(・・・・・・・・・)

 なんなんだその取り合わせは、と飯田は思いながら睨みつける。こちらはカ
ーブにさしかかる度に、文字どおり手に汗握っているというのに。ハンカチは
すでにぐっしょり濡れていた。
 飯田はとてもじゃないが、差し出された食べ物を胃袋に入れるという行為に
及ぶ余裕はなかった。これからもこの、罰ゲームような運転が続くと思うと。

 助手席に深く沈み込む飯田。
 FMラジオからは張りのある声のDJが曲を紹介する。

「それでは次の曲は、モーニング娘。っ!
 なつかしいですねー、あれからもう5年もたちました。
 わたし犬神も実は大好きなんですよぉウフフ〜。
 えー今日ご紹介する曲は、その解散コンサートの最後に流れたナンバー。
 聴いてください・・・」
25鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/19 23:37 ID:PRxYO3w7

 カーステレオの電光板に、その曲名が表示される。
 運転手のあの娘は、それを見てリーダーの顔色をうかがっているようだ。結
局最後まで歌うことができなかった、そして今ではもう歌うことができないそ
の曲をどう思っているんだろう、と。
 飯田もそれを察した。優しい笑みを浮かべながらボリュームまで手を伸ばす。
 その曲が大音響となって車内に流れた。

 本当に歌が大好きだった。歌うことに命さえかけていた、と今でも思う。で
も既にその居場所を奪われたことも、飯田は十分理解していた。

 解散から5年。
 最後のステージに立ったメンバーは13人。

  リーダー・飯田圭織。
  サブリーダー・保田圭。
  マザーシップの顔・安倍なつみ。
  ムードメーカー・矢口真里。
  エース・後藤真希。
  チャーミー・石川梨華。
  天才的美少女・吉澤ひとみ。
  カリスマ・加護亜依。
  永遠の妹キャラ・辻希美。
  遅れてきた実力派・高橋愛。
  元気印・小川麻琴。
  最強の劣等生・紺野あさ美。
  歴代最年少・新垣理沙。

 そのうち今日集まるメンバーは9人。

・・・・・     ・・・・
生きているメンバーはあの一人を除いてすべて集まることになる。


【01-プロローグ】END
                       NEXT 【02-石川と加護】
26鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/19 23:57 ID:PRxYO3w7
【まえがきにかえて】vol.1

小説のタイトルは【T・E・N】です。分かりにくいかもしんない。
えー最初に言っておきたいんですけど、小説みたいなの書くの初めてなんです。
なのでかなり表現・文法的に間違っていたり、
説明不足だったりする描写が含まれているかもしれません。
(ストーリー的に破綻してはいないとは思うけど)
あらかじめ作者が未熟ということを前提にツッコむところはツッコんで下さい。
できる限り謙虚に受けとめたいと思います。

あとこの物語、けっこう尺があります。
まだ執筆途中なんですが、この時点で軽く40話突破しています。
予定としては全××話ぐらいになるのではないかと思われ。
登場人物が多いからだな。反省。
というか書いているうちに壮大になりすぎたというのが正直なところである。はぁ。

なので、毎日1話づつ更新していこうかと思っているんですよ、ええ。
プロットは全部完成しているので、更新が滞るということはないかと。
いいねえ、毎日更新。新聞小説のノリで。
白状。俺はあの【保田圭2011】に感銘を受けたんスよ。
で、ああゆう形になって未完のまま終了してしまったのが悔しくて。
じゃあ俺もアレを超える娘。系の未来小説かいたるぞ、と。
確かに【保田〜】は小説の質としては最高だったんですけど、
いかんせん更新が週1回から長いときになると1ヶ月ぐらい開いたじゃないですか。
その間に厨に荒らされて作者がやる気なくしちゃったという残念な結果に終わって
歯ぎしりした人も多かったんだよな。俺もそのひとり。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
27鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/19 23:58 ID:PRxYO3w7
【まえがきにかえて】vol.2

なのでその反省というか教訓を生かして、もうスピード感あふれる
保全なんていらねーゼ更新をかましたろかな、と思って。
【保田圭2011】が田中芳樹だとしたら、これはスポーツ新聞、みたいな。
(質も)

内容的には、現実的な未来系小説(ただしダークサイド)を目指しております。
メンバーの誰かが超能力者だったり、家庭教師だったりすることはありません(w
あと突然SFになるとか、世界が滅亡するとか。そんなナンセンス路線は避けたい。
やっぱ娘。本人に読ませたくなるような小説ってちかごろ減ってきたじゃないですか。
いや、だからといってこの【T・E・N】がそういう小説かといったら違うんですけど。
絶対、娘。本人にに読んで欲しくないほどキワドイ描写があるんですけど。

オイオイ。だめやん。

で、長さから言うと絶対1000レスで終わらないと思います。
Part2も立てると思います。
反響もあったら嬉しいので、どんどこ感想カキコ推奨。
内容的にも賛否を呼びそうな展開がありますので、荒らされたりもするでしょう、きっと。
でも書きあげたる。ゼッタイ。
まあそんな作者のマスターベーションに約2ヶ月、
おつき合いくださればコレ幸いであります。

・・・そんな長いことハァハァしていたらスゲーよな実際。
28雑魚:02/05/20 00:19 ID:3yrg155Q
>作者
惜しい!IDがもうちょっとでproxyだったのに!
29鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/20 00:25 ID:cZHWwPFM
>>28
ホントだ(w

まあもう変わっているわけなんですけど。
30鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/20 05:46 ID:lWayuqxn

【T・E・N】 第2話 石川と加護

「まだリーダーたちは来ないの?」

 1週間前からこの洋館に滞在している元モーニング娘。の一人、加護亜依は
同期加入メンバーの石川梨華に語りかけた。

「朝8時頃には民宿から電話があったから、もうとっくに到着しててもいい頃
 なのにね」

 石川はすべての料理をテーブルの上に並べてから、ゆっくりと着席する。
 テーブルに向かい合った二人は、真ん中の大皿に盛られた「山菜きのこクリ
〜ム乙女パスタ(加護命名)」を自分の皿に引き寄せながら、食べては会話し、
また食べてはをくり返していた。

「せっかく梨華っちが腕を振るって、お昼ゴハンも4人分作ったのにねー」

「ねー」

 石川も同調して加護と一緒におどけてみせる。

 娘。解散後はメンバー同士がお互い遭うということは、仕事にしろプライベ
ートにしろ滅多なことがない限りなかった。解散と同時に芸能界を引退したメ
ンバーに関しては当然といえば至極当然だが、芸能界に残った者同士でもテレ
ビ局や事務所のスタッフが気を遣って娘。時代の話題をとりあげたり、共演さ
せるということはなく、それが当たり前のように暗黙のルールとして成立して
いた。
 ますますそれがメンバー間が疎遠になるきっかけとなっていたのだが、不思
議と石川と加護は解散後も連絡をとり会い、一緒に食事したり、深夜に長電話
をするといったことが5年たった今でも途絶えることなく続いていた。

 この二人に共通していること。
 それは「あの事件」により、心身ともに大きく傷つけられ、そして芸能人を
続けるという予定を大きく狂わせて引退することになったふたり。
31鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/20 05:48 ID:lWayuqxn

 加護の身体の都合もあり、彼女が一人きりで過ごすことは滅多になく、常に
肉親がそばに付き添っている。
 今回の「モーニング娘。同窓会」は、あくまでも「メンバーだけで5年振り
の再会を分かち合いたい」という飯田の強い希望もあり、山奥の洋館で過ごす
にはあまりにも困難なハンディキャップを背負っている加護は当初参加を断念
するかに思われた。
 しかし加護の身のまわりを石川がつきっきりで世話することを条件に参加し
たいということを、彼女らが両親に必死になって説得したのだ。渋々承諾を得
ることが出来て、それに関して加護は石川に心から感謝していた。

「梨華ちゃん、それにしても料理じょーずになったよねー」

「えへへ〜このパスタは割と自信アリだったんだぁ」

 事実芸能界を引退した石川は、その過密スケジュールから解放されてからの
自由な時間を料理に費やすことが多くなり、今ではかなりの腕前にまで上達し
ていた。

「あんまり食べ過ぎるなよ〜夜が本番なんだから」

「わかっているって、梨華ちゃん」

 そう言いながらも、パスタは次々と加護の口の中に滑り込んでいく。
 石川の心配をよそに、ここに来てから加護の食欲はますます旺盛になっていっ
た。あの、モーニング娘。の頃のように。

「そういえば覚えている? 梨華ちゃんモーニングだったころに自分で作った
 焼きソバ私たちにご馳走したことあったじゃん」

「え〜そんなことあったっけなぁ?」

「あったよお! そしたらその焼きソバ便所臭くってもう」

「ぶぶぶっっ!思い出した思い出した!」

 思わず口の中に含みかけていたコンソメスープを石川は吹き出した。もう汚
いんだからぁ、と加護。
32鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/20 05:50 ID:lWayuqxn

「あったね〜そうゆうことが」

 口の周りを拭きながら、現役時代から変わらぬ特徴あるアニメ声で石川は続
ける。

「そうそう焼きソバといえば、何かの番組で辻がゲームで負けて食べられなく
 て涙目になって・・・」

 しまった、と石川は言葉を切った瞬間に表情を歪めた。
 それまで「国民的アイドル」だった頃となんら変わらない笑顔をたたえてい
た加護の表情も、みるみる曇っていった。
 手にしていたフォークを静かに置き、加護はうつむいたまま車椅子の車輪
(ハンドリム)に手を掛けた。

「・・・ごちそうさまでした」

 広い食堂に車輪の擦れる音だけが鳴り響き、それが加護の嗚咽のように石川
の耳に届いた。
 その後ろ姿を見ながら、石川は何か声をかけなくちゃ、何か雰囲気を変えな
くちゃと口をぱくぱくさせたが、今の加護に掛ける言葉がどうしても見つから
なかった。
 そして食堂から居間に通じる大きな扉がバタン、と閉まる音が響くと同時に
石川は小さな声で「ごめん・・・」と呟いた。

 しかし、当然ながらその言葉が加護に届くことはなかった。


【02-石川と加護】END
                          NEXT 【03-矢口】
33鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/20 06:02 ID:lWayuqxn
とりやぁーず毎朝更新してみるよ。
小さなことからコツコツと。
34名無し募集中。。。:02/05/20 06:03 ID:g2yR5X9A
>>33
お疲れさまです。
35ななしぺぷし:02/05/20 13:37 ID:devClPKP
いいっすねぇ。
俺も【保田圭2011】読んでましたよ。
応援してますよ。


しかし、ののは氏んでんのか……utu
36鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/21 06:10 ID:LDL++r0G

【T・E・N】 第3話 矢口

 矢口真里は最初、この同窓会に参加する気は無かった。
 飯田からの招待状は、何度もゴミ箱に捨ててはまた拾い上げるということを
くり返しているうちにクシャクシャになってしまっていた。
 いまその招待状を鞄の奧に忍ばせながら、RV車で山道を進んでいる。

 あの忌々しい武道館での出来事は、モーニング娘。のメンバー自身にも目に
見える形で暗い影を落とした。
 コンサート史上、というより日本犯罪史上希に見る凶悪で甚大な被害・犠牲
者を出した「武道館モーニング娘。解散コンサート爆破事件」。
 真相は未だに闇の部分も多く、モーニング娘。のメンバーの中にも犠牲者や
後遺症を残す者が多かったこの事件の中において、矢口だけは運良く大きな怪
我をすることもなくその後も芸能活動を続けることができた。
 小さな身体が幸いしたのか、爆風で遠くまで吹き飛ばされた先が観客席で、
観衆がクッションとなってほとんど軽い擦り傷と火傷だけで済んだのだ。
37鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/21 06:11 ID:LDL++r0G

 だが娘。の中でひときわ明るいキャラクターでムードメーカーとしてグルー
プを引っ張る役割を担っていた彼女にとって、この暗い事件によってその後の
芸能活動の方向性を大幅に変えざるを得なくなった。
 すでにグループの解散とその後のソロ活動が決定していた矢口のもとには、
テレビのバラエティー番組を中心とした出演オファーが殺到していた。当然、
矢口自身にもそこに芸能人としての居場所を確保しようといった目論見があっ
た。しかし例の事件以降、ワイドショーや週刊誌の取材は来ても、バラエティ
ーや歌番組の仕事はぱったりと来なくなってしまったのだ。
 どんなに明るく振る舞っても、大衆はあの悲劇を知ってしまっている。

「運良く生き残ったから笑っていられるかもしれないが、お前を見ると死んで
 いったあの娘を思い出す」

 モーニング娘。が好きだった者も、そうでない者も彼女に対して抱くイメー
ジは大体同じだった。
 矢口が笑えば笑うほど痛々しく感じる、と。

 そんな彼女のキャラクターと事件の陰惨さのギャップは5年経過した今でも
埋まることなく、仕事の質は娘。時代とは比べものにならないほど、落ちてゆ
く一方だった。
 先日はついにテレビショッピング司会のオファーが来た。ギャラも悪くはな
かったが、事務所側に無理を言って断ってもらった。
38鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/21 06:12 ID:LDL++r0G

「でもねぇ真里ちゃん、このまま露出が減るとヤバいよ」

とマネージャーにも言われた。

(別に誰を恨むわけでもないけど、自分の現在置かれた境遇はメンバーも分かっ
 ているはずだ。あの輝かしいスポットライトを浴びることなんて、今となっ
 ては到底かなわない夢と散ったんだ。今、なぜその一番輝いていた時代のメ
 ンバーが集まって古傷を舐め合わなきゃならないんだ。冗談じゃない。
 同情だけで、芸能界は続けていられない。
 あなたたちは芸能人でなくなったのだから、そんな私の想いにまで気持ちが
 回らないだろうけど、もう二度とあの時のメンバーだけで集まることなんて、
 私は御免だ。)

 そう思っていた。思っていたのに、今、その同窓会に参加しようとしている
矛盾。
 矢口は険しい表情のまま、ハンドルをギュっと握りしめた。
 助手席にいびきをかいて寝ている安倍なつみを、なるべく気にしないように
して。


【03-矢口】END
                       NEXT 【04-吉澤と石川】
39鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/21 06:39 ID:LDL++r0G

【さしみ通信】1

いやあ、この回書いているときは全然何も思わなかったし、当時は
(といってもつい最近だが)もんのすごく真剣に執筆していたわけなんですけど
今コピペしながら読んでいたら、スゲー笑ってしまった。いやマジで。
何なんだ、これは。
まあ、俺ってば笑ってはいけない場面が何故か笑いのツボってことも
あるんですけど(蛭子さんか)この回は、そんな感じか。
同士いますか。

いやいや笑ってはいけない。これは傍若無人な困難に立ち向かった
モーニング娘。たちの真実の記録である。(語り・田口トモロヲ)
BGM♪地上の星(中島みゆき)

冗談はさておき、いま第2話までを読み返してみたら、さっそく誤字誤用を
見つけてしまい鬱な作者です。国語力の無さが恨めしい・・・
感想書いてください。
感想がほしいんだよこのやろう。(暴言)
わざと思わせぶりな展開にしてありますので、その時点でミンナが
どう感じているのか、さしみは知りたいわけなんです。
小説スレで返事がたくさん書いてあると、後から読み返すとき
「読みづらい!」と不評なわけなんですけど、俺はそうは思わないんです。
そういったライブ感覚っていうんでしょうか、それを大切にしていきたいんですココでは。
毎日、こういった2chで少しづつ小説を発表する意義ってのは
そこにあるんじゃないかと、俺は思うのです。
そりゃ掲示板で発表するというのは、荒らされたりするリスクもあるわけなんですよ。
それが嫌で、自分の小説をただ見て欲しいだけなんだったら無料ホームページを借りて
一挙掲載すりゃあ済む話っしょ。で、そこのURLをいろんなBBSに貼って。
でもそんな発表のしかたは、興味ないんですよ。
40鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/21 06:40 ID:LDL++r0G

【さしみ通信】2

あとから読み返してみて、その時点で見当違いな推理や予想をしているレスがあるってのも
それはそれで味があるし、そういった物語を少しづつ皆でああでもないこうでもないと話し合って
いきながら不特定多数の読者と読み進めていくってのを、掲示板というメディアを使って
出来ないもんかなぁ、というそんな実験的な試みもこの小説には密かに含まれているわけです。
その時、その話での感想を聞いて、あとのエピソードに活かせるようであれば
それはそれで素晴らしいことなんじゃないんでしょうか。作者も助かります。
そういった皆様のレスも含めて初めて、この小説は一つの完成した形なるんではないかと。
で、その目論見に負けないようなストーリーを展開しなければいけないなぁ、というのが
当面の課題なわけなんです。

中には作者がこういった屁理屈をつらつらと語るのは
蛇足だという方もいらっしゃるでしょう。
ウザいとか、力量不足をゴマかしているだけじゃんか、という見方もあるでしょう。
作者はストーリーの中だけで語ればいいんだよ、わざわざそれ以外で
余計な顔出すんじゃねーシラけるんだよ!みたいなこと思っている方も
いるんじゃないでしょうか。いや、俺でも思うな。うん。まったくだ。
もーいい加減この辺でやめておこう。スマソ忘れてくれ。くわばらくわばら。

と、このように作者は悪ノリしだすと止まらない性格なのでした。かしこ。
41鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/21 06:46 ID:LDL++r0G
>>35
ああがとーございます。がんがります。ヘタレなりに。
言い忘れていましたが、すべての書き込みはsage進行でお願いします。
42名無し募集中。。。:02/05/21 17:35 ID:8Quh/YvQ
>>41
あなたを見てると某スレの作者Gさん(仮名)を思い出す。
43名無しぃ:02/05/21 19:14 ID:nHnof4xB
今さっき見つけて読みました。
凄く先が気になる話です。
がんがってください
44鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/22 06:22 ID:BAAkrX/l

【T・E・N】 第4話 吉澤と石川

 同窓会の集合時間は午後4時となっていたが、時計の針はまだ1時を差した
ばかり。
 ただ一週間前から石川と加護が2人きりで屋敷に住み込んでいるため、事前
に連絡を入れれば来る時間は別にいつでも問題ないとは、2通目の招待状に書
いておいた。
 しかし、お昼前に到着すると今朝電話してきたリーダーたち以外に、今のと
ころそういった連絡は受けていない。

 結局、その飯田もいまだに到着していない。
 この山道、数キロにわたり店も民家も何もない。
 石川は、あの二人を心配した。

「お昼ごはん、何食べたんだろう・・・?」


 そんなことを考えながら昼食の後片付けをしている石川だったが、皿洗いが
終わり水道の蛇口を締めた瞬間に玄関の呼び鈴が広い屋敷内に鳴り響いた。

(やっと来たみたいね、リーダー)

 そう思いながら、石川はエントランスへと走った。

 玄関口には白いスーツに赤いバラの花束を抱えている、ホスト風の男が立っ
ていた。
「ビクッ」と一瞬石川は身構えたが、よく見るとそれは男ではない。
 あの曲。
 初めてセンターを努めた、あの曲での彼女は本当に輝いていた。

「よっすぃー!!」

 石川は、急いで駆け寄り再会の抱擁をした。
45鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/22 06:23 ID:BAAkrX/l

「何?何?何? この格好!?」

 抱きしめながら、何度も小刻みなジャンプをくり返す。
 興奮した石川は、吉澤ひとみの身体のあちこちを触りまくった。

「いやぁ、これが普段着なんだけど・・・」

 サングラスを外しながら吉澤はやれやれ、といった表情を浮かべる。

「もうっ! 今日は仮装パーティじゃないのよっ!」

 と相変わらずの女の子らしい仕種で胸を小突く。
 ・・・そうゆう石川もメイドみたいな格好してるじゃねーか、なんかフリル
フリフリでコミケ会場にいそうだぞ、と吉澤は思ったがけっきょく口にするこ
とはなかった。

「ちょっと待ってね、いま加護呼んでくるからっ!」

「俺の他には誰も来てないわけ?」

「ううん、よっすぃーが今日は最初」

 そう言い残して石川はタッタッタ、と玄関を出て屋敷の裏側の庭園に走った。

(変わってないなぁ、石川も・・・)

 あの事件以降、変わること余儀なくされたモーニング娘。メンバーの中で、
最も周囲を驚かせる変化を見せたのがこの吉澤だった。
46鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/22 06:24 ID:BAAkrX/l

「私、吉澤ひとみは男になります」

 事件から半年後、マスコミ各社に送られてきたFAXには、そういう書き出
しで始まっていたという。
 あの時の爆破事件で吉澤も重症を負った。
 命があっただけでもマシ、というくらい身体中に深い傷や重度のヤケドを負
い、完治後もいくつか傷痕は残ってしまうと診断された。不幸中の幸いと言う
べきか、プロデュースのつんくに「天才的にカワイイ」と言わしめた顔だけは
なんとか無事だったものの、その日に吉澤はスターとしての自分と、女として
の自分を同時に失ったのだ。
 そんな彼女だったが、当時は他にも同情されるべきメンバーがたくさんいた
ため、特別クローズアップされるということなく、そのまま芸能界も引退する
というのが一般的な見方であった。
 そんな折りの突然の「男宣言」。
 FAXの内容を要約すると、この怪我をきっかけに生まれ変わりたい、以前
より憧れていた男という存在、そして自分が性転換することによって、心に傷
を負っている多くの人を勇気づけたい・・・。
 当時のこの「宣言」は賛否両論を呼び、その話題性という点では解散後メン
バー中で最も注目される存在となった。

 現在でも男装タレント(元アイドル)としてちょくちょくテレビに出演し、
また週末には自分がオーナーの新宿二丁目のおなべバーに顔を出し、店はそれ
なりに盛況している。
 石川に言った「これが普段着」は決して冗談でも何でもなかったのだ。
47鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/22 06:25 ID:BAAkrX/l

 今でも底意地の悪い週刊誌やネットでは「頭の打ち所が悪かった」とまで言
われる。当の吉澤は周囲の喧騒などはあまり気にしないように努めた。
 あの事件、そして大切な仲間を失ったこと。
 どこかでモーニング娘。だったそれまでの自分の人生をリセットしないと、
狂気に陥ってしまうかもしれない、と吉澤は無意識のうちに感じていた。
 そう、あのメンバーのように。

「ああ! そうだ、よっすぃ〜!!」

 突然、背中に突き刺さるアニメ声。

「なっ・・・何だ! まだいたの?」

「お腹すいたら、キッチンの冷蔵庫にパスタ入っているから、食べてい〜よ♪」


【04-吉澤と石川】END
                          NEXT 【05-吉澤】
48鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/22 06:37 ID:BAAkrX/l
第4話はちょっと矛盾っぽい描写がありますが、
後で解決いたしますので気にしないでね。

>>42
Gさん? ゴマキさん? G3?マック? ゴリさん? 何のGですか?
もしかしてグランドマザー? 死んだおばあちゃんを思い出させてしまった?
ごめんねえ、ごめんねぇ! つらかったでしょう! 泣いていいのよ! さあ!
いい加減ボケ疲れたわけだが。テヘ。

>>43
どもす。モー小説ではあまりない群像劇ですよ。がんがります。
49ななしぺぷし:02/05/22 13:42 ID:I4ctUad4
>>48
>>42はガイアさんの事じゃないッすか?
50名無し募集中。。。:02/05/22 19:20 ID:UTOoWsC5
>>49
( ^▽^)<違うよ♥
51鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/23 00:31 ID:eRyw0iXW
おかげさまで圧縮されずにすみますた。

もはや新スレなどどうでもよくなっている作者なわけですが、
Gさんは「ゴン太さん」ですか。ゴッホゴッホ。
52名無し募集中。。。:02/05/23 04:48 ID:ndQ3GJU1
>>51
( ^▽^)<違うよ♥
そのラインだと絶対当たらなそうだな・・・
53鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/23 06:19 ID:k70P4t9i

【T・E・N】 第5話 吉澤

 吉澤はあらためて、屋敷の中を見渡した。
 重厚という言葉がふさわしい玄関の扉を開くと、目の前に広がるきらびやか
なシャンデリアがぶら下がっているエントランスホールに度肝を抜かれる。2
階の廊下が見える吹き抜けで、ホール右手奧のらせん階段から上に登ることが
できるようだ。
 一週間前にここからの電話で、石川は「すっごい大豪邸でね、もう、すっご
い広くてね、もう」とかなり興奮ぎみで要領を得ない話をしていたのを思い出
したが、たしかにそれも無理ない。
 しかし豪邸というよりもこの赤レンガに包まれた洋館は内装も含め、数年前
流行った、とあるホラーアドベンチャーもののビデオゲームの舞台に雰囲気が
似ていて、吉澤は正直なところあまり住んでみたいとは思えなかった。

(つんく♂さんも、よくこんな屋敷買ったよなぁ・・・)
54鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/23 06:20 ID:k70P4t9i

 この屋敷は、モーニング娘。の総合プロデューサーであるつんく♂が、解散
直前にタダ同然(というのはオーバーだが)の破格値で知り合いの不動産業者
から購入したものだった。つんく♂は地下室をスタジオに改造し、山奥の閑静
な洋館を創作活動の拠点とする予定だったという。
 もともとこの建物は、リゾートホテルとペンションの中間あたりを狙って建
築されたものだ。しかしバブルが崩壊し近くのゴルフ場が閉鎖されたり、山道
が土砂で流されて観光地から遠くなってしまったりといった不運が続き、地理
的には完全に陸の孤島と化した。つまりこの洋館は、商業的には全く成立しな
くなっていたのだった。
 しばらく廃墟になっていたが、つんく♂がこの屋敷を購入してからは月に1
週間程度はお手伝いさんを伴って滞在している。
 客室が充実しているので、多い時には10人程のバンド仲間や友人が常駐し
ていた、という話を吉澤も聞いたことがある。モーニング娘。のメンバーも解
散直後に、ここでメンバーやごく内輪のスタッフを招いてパーティを開くこと
になっていた。しかし、例の大惨事によってその話はうやむやになっていたの
で、吉澤自身ここに招かれるのは今回が初めてである。
 また、つんく♂自身あの爆破事件以降、精神的ショックにより徐々に創作意
欲を失っていき、皮肉にも購入と同時に改造した地下スタジオはその後使われ
ることはほとんど無かったという。一時は30以上のユニットをプロデュース
したつんく♂も音楽界から徐々に身を引いてゆき、その凋落ぶりは週刊誌など
でも嘲笑の的になっていた。
55鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/23 06:21 ID:k70P4t9i

 そんな折、つんく♂もこの娘。同窓会の計画を知り積極的に協力を申し出た。
 丁度、今から1週間前につんく♂が海外へレコーディングの研修に出掛ける
ということになっていた。
 その直前にみんなで集まらないかという話になったが、結局他のメンバーの
スケジュールの都合もあり(またあくまでも飯田がメンバーだけの開催にこだ
わっていたというのもある)、石川と加護が、つんく♂と入れ替わりに住み込
んで、彼が出発した1週間後に1泊2日のモーニング娘。だけの同窓会を開く
という形をとった。石川と加護はこの一週間の間に、ほかのメンバーを受け入
れるための準備を少しづつ進めていたのだ。

 事件から5年ものの月日が経過したとはいえ、あの爆破事件は日本犯罪史上
最大のミステリーとしてモーニング娘。ファンならずともいまだに様々な憶測
を呼んでいる。事件直後にいくつか出版された検証本は軒並みベストセラーを
記録し、毎年事件があった時期になるとテレビでは特集プログラムが組まれ、
これも高視聴率。トップアイドルを巻き込んだ大衆の虚々実々の憶測は、今も
なお続いていた。
 そんな芸能界を引退したメンバーでさえ人目を忍んで日々を送る身である中、
都内に全員が顔を揃えるといったことは、現実問題として難しかった。事件の
当事者であり心や身体に大きな傷を負ったメンバー自身が、たとえ些細なこと
でも好奇の目に晒されることは避けなければならなかったのだ。
 だからこの都心から遠すぎず、それでいて人里離れた洋館を同窓会の会場に
飯田が選んだのは、吉澤もある程度理解はできる。しかしこの、いつ幽霊が出
てもおかしくない雰囲気は・・・。
56鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/23 06:22 ID:k70P4t9i

 吉澤はその時、二階の廊下の奧に白い布のようなものが横切ったのが見えた。
 その白い布の上には、黒い髪と青白い顔がくっついていた。

「・・・!」

 吉澤は、普段から大きな目をさらに見開いた。
 それに呼応するかのように青白い顔の目も一瞬こちらを向いたようだった。
 悲しげな目を。
 そして、その白い布は音もなくねずみ色の廊下の壁の中へ消えていったよう
に見えた。
 吉澤は汗がどっと吹き出した。

(やめよう)

 激しくかぶりを振ったが、昔のように髪が頬に触れることはない。

(幽霊なんているわけない。幽霊なんているわけない。非科学的なことを考え
 るな。非科学的なことを考えるな)

 しかしその青白い顔がどこか見覚えのある顔だったため、吉澤はずっとその
目を記憶から引き剥がすことができなかった。いつも振りまいていた笑顔が、
ふと素に戻るときにみせるあの悲しげな彼女の目。

 広々としたエントランスホールに、一人ぽつんと佇んでいる吉澤の口から大
きな溜息が漏れた。

 ホール正面奧に、居間へと続く大きな扉が見える。
 その扉の脇には小さなテーブルにシンプルな白い花瓶。
 色とりどりの花が添えられているが、吉澤は手にしている真紅のバラをちょっ
と失礼して、その中にやや乱暴に押し込んだ。


【05-吉澤】END
                          NEXT 【06-石川】
57鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/23 06:34 ID:k70P4t9i
>>52
「Gさん」はガオリン祭りということで許せ。

ノ( ゜皿゜) ノ <ガヲー

つーか、読者が何人ぐらいいるのか気になる作者。
なるべく多くの人にリアルタイムで読んでほしいのです。後になって
「今日このスレを見つけて一気に読みました!」っていうのは悲しい。
58名無し募集中。。。:02/05/23 06:36 ID:ndQ3GJU1
今日このスレを見つけて一気に読みました!

                        と言ってみるテスト
59鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/23 06:48 ID:k70P4t9i
悲しんでみるテスト

っていうか>>58さん、あンた昨日からいるではないか。このやろう。
ご愛読ありがとうございます。おい、嬉しいじゃないかゴルァ!
これからもよろしくおねがいします。
60名無し:02/05/23 17:59 ID:fz2auBlM
読んでますよ
ガンガッテ下さい
61名無し募集中。。。:02/05/23 20:05 ID:/QczlmXS
( ´D`)<なかなかおもしれーのれす。がんばってくらさい
62鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/24 05:35 ID:ZaeKfFd8

【T・E・N】 第6話 石川

 吉澤に声をかけたあと、石川は屋敷裏の噴水庭園へと出向いた。
 昼食のあと、無言で外に出ていった加護を探すためである。
 ここにきて一週間。加護は一人になりたい時や石川が家事などで相手にでき
ない時などは、いつもここの庭木に水をやったり、虫を捕まえて遊んだりして
いる。
 整然とした石畳と広い通路は、車椅子でも移動しやすく加護のお気に入りの
場所となっていた。

 加護の心の中はまだ5年前のまま時計が止まっているんじゃないか、と石川
は思うことがある。
 年齢的にはもちろん成人を迎えている加護だが、石川がいままで知っている
どの大人よりも幼かった。車椅子に常に座っているゆえに、背の高さが分から
ないこともあるのかもしれない。
 初めて二人が出会ったあの最終オーディションが行われた寺院。はるばる奈
良から上京してきた加護。周囲が年上ばかりでビクビクオドオド周囲を窺って
いた加護。この人里離れた山奥で二人きりで暮らすようになって数日だが、こ
のところ石川はその当時のことばかり思い出すようになった。

「何処なの・・・? 加護ぉ・・・オトコマエのよっすぃーが来たよ・・・」
63鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/24 05:36 ID:ZaeKfFd8

 裏庭に咲き乱れる色とりどりの様々な植物。
 チョコレートコスモス。アストランティス。ショウメイギク。ルリダマアザ
ミ。
 こげ茶色。白。ピンク。うす紫。
 そこにヒラヒラのカチューシャをなびかせながら、水色のメイド服、派手な
フリルのついたエプロン姿の石川があたふたと駆け抜ける。
 その姿はさながら、実写版「不思議の国のアリス」を連想させる。

 花壇の中にはひまわりなどもあり、背の高い植物の陰は加護にとって隠れる
のにもってこいだった。
 昨日も、彼女を探して庭をキョロキョロしている石川を後ろから「わっ!」
と驚かしたりした。

(ほんとに、加護ったらイタズラ好きなところだけは昔から変わらないんだか
 ら・・・)

 しかし、今日はどこを探してもその姿を見つけることができない。

(ここじゃないのかしら・・・でも遠くには出たことないし、屋敷の中にいつ
 のまにか戻ったのかな?)

 屋敷の領地の外は、初秋とはいえまだ青々とした針葉樹が山肌を埋め尽くし、
雑草も深々と生い茂っている。とても車椅子でしか移動できない加護がいるは
ずがない。
64鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/24 05:38 ID:ZaeKfFd8

 と、歩みを屋敷の裏口に向けた石川が、ふと視線だけを裏山に移動させたそ
の瞬間。

 山の斜面にひとりの少女が立っていた。
 深緑色の木々の中で、ひときわ輝く白いワンピースに艶やかな漆黒のロング
ヘアー。
 背筋をぴんと伸ばし腕をだらしなくぶら下げて、いまにもにも泣きだしそう
な目でじっと石川を見据えている。
 なぜかその時の石川の脳裏をよぎったのは、ヨーロッパから届いた絵はがき
で見た大聖堂の壁画。深い森の中に一筋の光が差し込んで、白い衣に身を包ん
だ天使が羽を広げて今まさに飛び出そうとしている絵。

 だが当然そこに立ち尽くしているのは天使でも妖精でもなく、石川がよく知っ
ている、だけど絶対そこにいるはずのないあの娘。

「のの・・・?」

 辻希美が、そこにいた。


【06-石川】END
                        NEXT 【07-安倍と辻】
65鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/24 05:47 ID:ZaeKfFd8
>>60
ガンガリます。ともすれば
「毎日更新するし、どうせ書き溜めてあるんで何も言わなくてもいいだろー」
と思われているかもしれないので、こうゆう書き込みがあると単純に嬉しい。
しかし一度でいいから
「作者さん、ずっと待っています。お仕事大変でしょうが更新お願いします☆」
みたいなことも言われてみたい。変な願望。
でも内容の無い書き込み(荒らしや保全)が続くよりマシか。

>>61
ということで、のの大登場なのれす。
「どうせ加護だろ?」
とかゆーな。
あと、辻加護の写真集。あれいいな。いや買わないけど。うpされているのを
見る限り、なんつーのか、アレだ。この小説の副読書にケテーイ。
66名無し募集中。。。:02/05/24 06:00 ID:66hmiPl/
>>65
「作者さん、ずっと待っています。お仕事大変でしょうが更新お願いします☆」
67鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/24 06:12 ID:ZaeKfFd8
>>66
あんた毎朝おるやないかドリャア!
ありがとうございます。萌え。
よーしパパ張り切って一挙10話掲載しちゃうぞー!
まあウソなんですけど。

営業日10日開通がんがります宣言。
68ななしなっち:02/05/25 06:28 ID:lxLXCkWN
さしみさん…じらさないで…
69鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:05 ID:/r2QJuw/

【T・E・N】 第7話 安倍と辻

「ののォ、まだあいぼんと喧嘩しているの?」

 うつむいている辻希美に、心配そうに話かける。

「ん〜」

 イエスともノーとも取れる返事を貰い、表情から確かめようと安倍なつみは
下からのぞき込んだが辻はすぐに目を逸らす。
 答えは「イエス」だったようだ。

 ここは日本武道館。
 モーニング娘。ファイナルコンサート会場。
 そのモーニング娘。のふたつある控え室のうちのひとつ。

 そしてこの日はモーニング娘。解散の日。
 観客席を埋め尽くした会場では、今まさにタンポポが数々のヒット曲をファ
ンに最後のお披露目。

 このあと、プッチモニ、ミニモニ。と続くのなか辻もその準備に追われてい
たが、ユニット参加の無い安倍は比較的余裕があるので、目がうつろな辻を心
配し話しかけてきたのだった。

「あいぼんもね、悪気があってあんなこと言ったわけじゃあないと思うよ」

「・・・・・・」

「今日でもう最後なんだよ? ここで仲直りしなかったらこれからずーっと、
 ずぅぅーっと、あいぼんのこと嫌いなまま毎日を過ごさなきゃなんなくなる
 よ? それでもいいの?」

「・・・・・・」

目にいっぱいの涙をためて、辻は下唇を噛んでいる。
70鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:06 ID:/r2QJuw/

 辻と加護が、楽屋の廊下でつかみ合いの喧嘩をしているのを見かけたのは3
週間前。
 モーニング娘。はファイナルコンサートツアーで、全国のアリーナクラスの
会場を行脚していた。そのうちのひとつ、博多公演での出来事だった。
 安倍が発見したときは、すでに後藤と保田が間に入って二人を引きはがそう
としていた。

「何ゆうとんのやオチコボレのくせしてボケがぁ!」

「うっせぇ、デブデブ言うんじゃねぇよ!」

「音程外しとってエライ歌いにくかったわアホ!」

 安倍が聞いたときは、すでにそういった罵倒合戦になったので喧嘩の原因は
よくわからなかった。
 あとで保田から聞いた話によれば、きっかけは些細なことだったらしい。

「ののはええなぁ、ユニット少ないしヒマやろ」

 そう加護が漏らしたことから、辻の中に長年累積していたコンプレックスが
爆発したらしい。

 確かに加護は、娘。本体のソロパートでも4期メンバーの中では特権的地位
が与えられていた。
 それに加えてユニットであるタンポポ、ミニモニ。でも新規ファンの獲得に
大きく貢献していた。
 シャッフルユニットである三人祭ではセンターを努め、歌唱力という点では
同期メンバーの中でもつんくは大きな信頼を得ていることが、傍目からも明か
であった。
 また、バラエティという面でも最年少(加入当時)ながらもサービス精神の
カタマリのような加護は、モノマネなどで常にクリーンヒット飛ばし、無邪気
で面白い娘というキャラを確立していった。
 その加護とワンセットで扱われることの多かった辻は、待遇の差に戸惑いを
感じていた。
71鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:07 ID:/r2QJuw/

 予期しない言動で周囲をハラハラさせたり、甘え上手のようなところは辻の
十八番であり、それはグループの中で見事にキャラ立ちしていた。しかし辻本
人にとっては、モーニング娘。という世界が解体されたら、そのキャラは通用
しなくなるのではないかといった焦りがあった。
 あくまでも辻のキャラは周囲に年上のメンバーやしっかり者の矢口などがい
て、初めて活きてくるものであり、シンガーとして認知されていない現状で芸
能界で一人でやっていけるのだろうか・・・? そういったことを(意識はし
ていなかったとしても)本能的に感じとっていたのである。

 加護も辻も解散後は芸能界に残ることが決定していた。
 ソロデビューが決定してその準備に着々ととりかかっていた加護。
 それに対して、あまり勉強も好きではなく高校にも進学しなかった辻にとっ
ては、モーニング娘。時代の知名度に頼りつつ、これから生き延びるしかない。
 解散の日が近づき、不安と焦りは限界に達していた中での加護の発言。

「ののはええなぁ、ヒマやろ」
72鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:08 ID:/r2QJuw/

 安倍は静かに語りかける。

「なっちもねぇ、中学校のころ仲良かった友達が、片思いだった男の人とつき
 合いだしたときなんかはシットしてねぇ、その友達が嫌いになりかけたこと
 もあったよ。でもやっぱり嫌いになれなかったなぁ。最後まで。
 だって友達が幸せそうだと、やっぱ自分もうれしいし」

「あべさん・・・」

「ごっちんが加入してきたときも、なっちと比較とかされて落ち込んだときも
 あったけど、色んなトコロで活躍しているごっちん見るのはヤッパリうれし
 かった。
 だって今日で解散しちゃうけど、私たちみんなこれからもずっと」

 安倍は辻の頭を包み込むように撫でた。

「仲間じゃない」


【07-安倍と辻】END
                           NEXT 【08-辻】
73鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:53 ID:/r2QJuw/
>>68
さんざんじらした挙げ句、回想シーン突入という罠。
74名無し:02/05/25 13:14 ID:LAyYJ2Pl
小説もそうだけど
作者さんのあとがきもけっこうおもしろいっす
毎日みるのでガンガレ
75鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 23:06 ID:QpNpyqN5
>>74
ありがとうございます。
しかし小説はシリアスなのに、その後の作者コメントが
キャピポペプーなのはいかがなものかと思いましたので、
これからは少し押さえ気味にしたいな、とおもいました。
76鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/26 05:58 ID:KSp6iPmH

【T・E・N】 第8話 辻

「モーニング娘。ファイナルライブ in 武道館」

 5年あまり活動してきた少女たちの一世一代の晴れ舞台。
 ステージは2部構成となっており、第1部はモーニング娘。派生ユニットで
あるタンポポ、プッチモニ、ミニモニ。そしてメンバーのソロ曲などのステー
ジ。
 休憩を挟んで、第2部でモーニング娘。のシングル全曲(メドレー含む)と
特にライブで人気の曲。そして、つんくがこの舞台のために書き下ろしてくれ
たオリジナル卒業ソングを最初で最後のお披露目。
 フィナーレではOGメンバー全員から花束の贈呈。
 歴代メンバーが勢揃いし、ファンにラストの挨拶。
 そして、モーニング娘。という名の大河ドラマに終止符を打つという段取り
になっている。

 その日、朝から日本武道館の周りは、騒然とした雰囲気に包まれていた。
 重苦しい小雨混じりの天気。
 あまりにも多すぎるモーニング娘。のフリークに対して、その歴史が終わる
瞬間をじかに目にすることができるのは僅かに1万人。
 プラチナチケットは前日の深夜までネットで争奪戦が繰り広げられて、2階
最後列でも3万、良席には80万円の値がつけられ、これは日本コンサート史
上最高の落札額を更新した。
 また、チケットが手に入れられない者も武道館の周りに集結し、最後まで解
散の悲しみを多くのファンと共有したい人々でそこは溢れ返っていた。
 ついには機動隊まで出動する騒ぎとなる中で、第1部のユニット限定ライブ
がスタートした。
77鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/26 05:59 ID:KSp6iPmH

 加護は一番手、タンポポのライブが熱狂のうちに終了し、更衣室へと急いだ。
 現在ステージ上ではミリオンユニット・プッチモニ登場し、観客のボルテー
ジは最高潮に達している。
 薄暗い通路をくぐり抜けていく先に、更衣室がある。
 その扉の前にカラフルなミニモニの衣装にすでに着替えた辻が、待ちかまえ
ていた。
 わざと目を逸らして、横を通り過ぎようとする加護。
 辻は加護の腕を掴んだ。「痛っ!」
 すぐその手を振り払おうとする加護。

「ごっ、ごめんあいぼん! でね! でもね!」

「・・・何っ」

 ステージを終え汗だくになりながらも加護は、キッと鋭い目で辻を睨み付け
る。

「あの、あの! つぃは、あいぼんにあやまろうとおもって・・・」

「なにをや」

「だっだからね、こなぁいだのケンカの・・・」

「あ〜もうセイセイするわ、解散したらこのアホヅラ見んで済むかと思うとな」

 加護は辻の言葉を切って更衣室に入っていった。
 その怒りをあらわすかのようにバタン!、とわざと大きな音を立てて扉を閉
めた。

 辻はその場でしゃがみ込んで、泣いた。
 ぽたぽたと、落涙が床を濡らした。
78鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/26 06:01 ID:KSp6iPmH

 そこへ同じくタンポポのライブを終えた矢口、飯田が帰ってきた。暗がりで
丸まっている小さくてカラフルな塊を見つけて、ギョっとした飯田が声を張り
あげる。

「どーしたの、辻ぃ!」

「いいらさん・・・」

 涙でボロボロになった顔で飯田を見つめる。矢口も飯田に続く。

「また加護とケンカしたのか?」

「いやっなんでもないんれす。なかなおりしたんれす。これはうれし涙れす」

「そっ・・・」

 飯田はそんな子供でも分かるウソをついて、と言いかけたが、もうコンサー
ト自体は動き出している。時間は止められない。ああでもない、こうでもない、
とこの場で口論している暇はないのである。
 ミニモニ。は多くの子供たちに元気を与えてきたユニットだ。最後も笑顔で
送り出してやりたい。

「そっそう・・・じゃあ、ミニモニのスタンバイしっかりとね!」

「カオリン、それどころじゃあ・・・」

「矢口もこのあとミニモニ。控えているじゃない! ここは私にまかせて、は
 やく着替えなよ!」

「う、うん・・・」

 矢口も渋々更衣室に入っていった。

 武道館爆破事件まで、あと4時間あまりでの出来事である。


【08-辻】END
                          NEXT 【09-飯田】
79鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/27 06:11 ID:JuMtbin5

【T・E・N】 第9話 飯田

 プロデューサーのつんく♂が、この最後の晴れ舞台のために書き下ろしてく
れたラストソングは、意外にもしっとりとしたバラード。

 飯田は、解散コンサートの10日前にこの曲を受け取った瞬間、身体に電気
のような衝撃が走ったのを覚えている。
 自分たちがこれまで乗り越えてきた苦難、友情、成功・・・そういったメッ
セージが歌詞の中にすべて込められている気がした。辛いこともあったけど、
それを乗り越えるたびに何か大きなものを手に入れてきた。
 そんな自分たちの「いままで」と「これから」の心境―――悲しいけれど、
前向き―――な気持ち。
 ダンスレッスンが終わったあと、全員がその場で一枚の歌詞カードを見なが
らデモテープを聴いた。
 曲が終わって、どのメンバーも顔を見合わせて頬が濡れてない娘はいないこ
とを確認した。
 間違いなく、この曲は名曲になる。
 この曲を演るために私はモーニング娘。に入ったんだ、とさえ飯田は思った。
 飯田だけではない。
 まさにモーニング娘。5年間の集大成を締めくくるに相応しい曲だと誰もが
感じていた。
80鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/27 06:12 ID:JuMtbin5

 そして当日。
 武道館に訪れている観衆の全てがその充実したパフォーマンスに酔いしれて、
テンションは最高潮に達していた。
 第1部が終了し、2時間の休憩を挟み第2部がスタートする。
 観衆、メンバー、スタッフ。一丸となって大団円へのカウントダウンに胸を
躍らせていた。
 しかし・・・。

 結局、飯田・矢口の説得も功を奏さず、加護と辻はこの時点に及んでも仲違
いをしていた。
 仲裁役のはずの年上メンバーも、最後ということもありこの時だけは自分の
ことで精一杯。
 ピリピリとした雰囲気の中、終始メイクや食事、仮眠・段取りの確認など自
己管理にそれぞれの時間を割いていた。
 結局、休憩中一度も二人を話し合わせるという機会がもてなかった。
 観客の目にはどう映っているのだろうか。
 飯田の心配をよそに、最後の気合い入れに臨む。

「がんばっていきまーっ、しょい!」

「しょい!!!!!!!!!!!!」

 こうしてモーニング娘。として最後のステージが始まった。
81鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/27 06:14 ID:JuMtbin5

 観客席は今か今かと、はちきれんばかりの期待感であふれていた。
 暗闇に一筋の光が差し込む。
 そこへステージ中央の迫(せり・舞台下から上へあがってくる設備のこと)
から登場してきた飯田・安倍の二人。津波のような歓声が押し寄せる。
 オープニングナンバーは「愛の種」。
 このCDの手売りからモーニング娘。の歴史は始まったのだ。
 歌が2番になるとステージ両袖から保田・矢口の二人。苦しい時代を共に精
一杯で乗り越えることによってオリジナルメンバーに認められるようになった
1次追加組。
 2番サビになると後藤、そして石川・吉澤・辻・加護がステージ中央の階段
脇から登場。この5人がモーニング娘。に加入してから国民的アイドルという
肩書きを冠することがあたりまえになってきた。
 最後に高橋・紺野・小川・新垣の5期メンバーがステージ両脇から二人づつ。
 5人から始まったモーニング娘。の見納めはこの13人が務めるのだ。

 「愛の種」が終わると「抱いてHOLD ON ME!」。
 モーニング娘。初のオリコン第1位を穫った曲。あの抱き合ってその喜びを
メンバー同士で分かち合ったのがつい昨日のように感じる。

 ステージに13人が並びMC。
 それぞれが今日の想いを自分の言葉で精一杯ファンにぶつける。
 ファンもそれに全力で応える。

 ここから「サマーナイトタウン」「真夏の光線」「ふるさと」などの初期シ
ングル曲と後期のシングル曲のメドレーに突入する。中にはセールス的にはそ
れほど振るわなかった曲もあるが、ひとつひとつの曲に思い入れがある。
 むしろ自分たちの歌に対して、一番真剣に見つめあっていた時期なのかもし
れない。
82鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/27 06:15 ID:JuMtbin5

 舞台が暗くなる。
 しばらく間があき、観客席がざわめき始めたその時。
 中央ステップに構えている人影が、全方位から一斉にスポットライトで照ら
される。
 そこにはギラギラのロングコートをまとった13人の少女が映し出されたか
と思うと、誰もが聴き慣れたあのイントロ。
 「LOVEマシーン」だ。
 初めてのミリオンヒット曲。
 観客の血が一気に煮えたぎった。

 ここからはもうジェットコースターのようなセットリストだ。
 「恋のダンスサイト」
 「ハッピーサマーウェディング」
 「インスピレーション!」
 「Say Yeah!? もっとミラクルナイト?」
 「Mr.Moonlight〜愛のビックバンド」
 「そうだ!We're alive」
 「DANCEするのだ!」
 と、ライブで盛り上がる曲がメドレーを交えて続く。

 「恋愛レボリューション21」。
 この曲を最後に初代リーダー中澤が卒業。大きな柱を失った。
 それからは本当に、皆が話し合って考えぬいてグループを支えあっていたよ
うに飯田は思う。

 そして、オーバーヒートし過ぎた会場を一度クールダウンさせるかのように
「Memory青春の光」。「I WISH」。
 ―――これら曲が流れるといよいよ「その時」が近づいていることを痛感し、
多くのメンバーが目を潤ませている。観客席にも感極まって肩を震わせながら
もサイリウムを振るファン達で異様なテンションで包まれている。
83鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/27 06:17 ID:rVMPYMs7

 そこへ「ザ☆ピ〜ス!」。
 石川の台詞の部分がオリジナルと違っている。

「青春の1ページって、私の人生ではまさにモーニング娘。でした。
 あ〜あ、愛しい仲間たち。これからもずっと忘れないでね」

 石川の笑顔。
 他のメンバーがうなずく。
「ピ〜ス!」が終わると、MC。
 感極まって自分の言葉をうまく伝えられないメンバーや、最後まで笑顔で元
気にシャウトするメンバー。それぞれの気持ちを伝えきった。
 飯田が力一杯宣言する。

「本当に今まで応援してくれてありがとう。
 最後はみんなで話し合ってこの曲に決めました。
 私たちの想い、ぜんぶ受けとめてください。
 モーニングコーヒー」

 ステージ両側から吹き出している無数のシャボン玉が彼女たちを取り囲んで
いる。
 何度くりかえしたか分からないライブ。
 何度歌ったか思い出せないこの曲。

(でも本当に最後なんだ。本当に)

 歌が終わりに近づくにつれてステージが徐々に暗くなってゆく。
 スポットライトも消され、いよいよ娘。たちの姿が見えなくなった。
 そしてオリジナルと違いフェードアウトしていく曲。
 光も、音も、メンバーも、完全に消えていった。
84鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/27 06:18 ID:rVMPYMs7

 絶叫に近いアンコールの声がくり返される。
 予定調和じゃない、本当の意味でのアンコール。
 メンバーの名前を叫ぶ者。その場で崩れ落ちる者。ファンの様子はそれぞれ
だが、みな想いは同じだった。
 しばらくして聞き慣れないイントロが武道館に響きわたった。
 あのラストソングだ。

「ありがとう」
「ホントの、ホントに最後の曲です」
「聴いて下さい」
「今日の為の、一回きりの歌です」

 娘はステージを取り囲むように設置された花道をゆっくりと歩きながら、娘。
としての最後の曲を名残惜しそうに手を振りながら歌う。
 武道館にいる観衆にとっては初めて聴く曲にも関わらず、すすり泣く声とが
不思議なハーモニーとなって武道館内を包み込んだ。
 暗がりに揺れる無数のサイリウム。
 スポットライトを当てられたメンバーも、溢れ出る涙をぬぐおうとする者は
一人もいなかった。感謝の気持ちを込めて、惜しげもなく今の姿をステージ全
体、身体全体を使って見せようとしていた。
 曲のほうもクライマックスを迎えてメンバー全員がステージ中央奧の階段か
ら降りてくる。

 事件は突然、起こった。


【09-飯田】END
                          NEXT 【10-加護】
85鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/28 05:04 ID:2S/OU3cw

【T・E・N】 第10話 加護

 加護は最初、何が起こったのかよく分からなかった。
 暗い武道館が一瞬明るくなったかと思うと、階段を降りる途中だったはずの
自分がいつのまにかステージ脇で倒れ込んでいる。轟音と火薬の臭い。

(いけない、歌の途中だ。歌わなくちゃ)

 加護はとにかく転んで恥ずかしい、立ち上がろう、と思った。
 でも立ち上がれない。
 上半身を起こそうとすると背中に激痛が走り、床に這いつくばる。立ち上が
るといった以前に、腰から下にまったく感覚がない。

 そして歌おうにもそこに音楽は流れていなかった。
 スピーカーから流れるのは、耳をつんざくようなキ―――――ン、といった
ハウリング音。
 その音に混じり観客席から聞こえてくる「逃げろ」「どけ」「殺すぞ」「痛
てぇ」などといった汚い罵声や絶叫。

 そこでようやく、なにかとんでもないことが起っていることを知った。
 コンサートとか、解散とか、ラストソングとかは全く別の次元の何かが。
86鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/28 05:05 ID:2S/OU3cw

 白煙が薄くなってきて、ようやく少しづつではあるが視界がひらけてきた。
 ステージの階段を含む中央部分は、すでに黒こげで粉々になっていた。炎が
あちこちで立ち昇っている。
 その中に血まみれで倒れている―――自分たちと同じコスチュームを身にま
とっている―――少女を見つけた。
 顔は向こう側を向いていて見えないが、髪型やアクセサリー等からあのメン
バーだとわかる。
 そして奇妙なことに彼女の背中だと思っていた部分に、二つの丸いふくらみ
があるのを確認した。

(背中なのに、胸がある・・・?)

 つまり首とは逆に身体はこちらを向いているのだ。
 ハッとそれが何を意味するのか理解し、加護は目を背けた。

 客席に目を向けると、ついさきほどまで一体となって熱狂していた観衆の姿
はなく、横の非常口や奧の出口に逃げまどう人々が集中して押し問答になって
いるようだ。
 何人かのファンが殴り合ったり、集団となってあちこちで怒号が響いている。

「いやああああああああああ!!!!」

 観衆がひと塊になっている別の場所から、誰かは分からないがメンバーの壮
絶な悲鳴が聞こえた。
 その集団の中で何が行われているのか・・・想像したくはなかった。
87鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/28 05:10 ID:2S/OU3cw

 ステージの下ではそれとは別の男たちの群れが、狼のような目をこちらに向
けている。
 その目は完全に理性を失っていた。

 さきほどの絶叫。
 そして狂気の目が自分にも向けられているのを知って、加護は背筋が凍った。

(なんとかしなきゃ)

 だが蛇に睨まれたカエルのように一歩もその場から動けない。頭の中が真っ
白になる。

 その時だった。
 加護を支えている足場が崩れて、舞台セットの下へと転げ落ちた。
 さらにその周辺が炎と煙に包まれる。
 こんな時に運良くというのも変だが、それによって狼の群れは加護を見失っ
たようだった。
 ステージを支える鉄骨やベニヤ板などの基材が散乱する中で、加護は5メー
トル程先に、自分と同じ衣装を着て倒れ込んでいるもう一人の仲間を見つけた。

「のの・・・?」

 辻希美が、そこにいた。


【10-加護】END
                        NEXT 【11-辻と加護】
88名無し募集中。。。:02/05/28 05:44 ID:wNxW9yU+
おもろいでー
がんばりやー
89鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/28 07:34 ID:ffUqR34+
>>88
がんばりますー
そのうちサウンドノベルのように、みなさん(3人ぐらいだったりして)に
選択していただく場面がありますので、毎日みてねー

(広告ついているホームページ管理人みたいないやらしいセリフだな)
90鯖の味噌煮:02/05/28 13:23 ID:KlSCP03s
>>89
A!
91 :02/05/28 20:42 ID:boY8T4QV
1<
逝ってよし     


来いよ
http://www.hpfree.com/nori/gazou/gaki.html












92鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/29 07:02 ID:nsQY2zvT

【T・E・N】 第11話 辻と加護

「なぁなぁ、じぶん名前おしえて」

「・・・つぃのぞみれす」

「辻さんかぁ。
 なんかなぁ、このオーディションで中1ってウチらだけみたいやで」

「まじれすか」

「なんか、ミンナ凄そうなひとばっかりやなぁ」

「・・・」

「メッチャ不安やなぁ、辻さん練習とかは一緒にしような」

「ホンマぁ? やろやろ」

「あはは、関西弁マネせんでもええって。
 ウチな、加護亜依っていうんや。ヨロシクな」

「へぃ! 加護さんれすね!」


・・・・・・・。


(なんで)

 加護は瓦礫の山に半身埋もれながらも、視線の先にある辻の伏せている頭を
しっかりと捉えていた。

(なんでこんな時に昔のこと思い出すんや)
93鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/29 07:03 ID:nsQY2zvT

 辻の背後には、基材に燃え移った炎がゆらゆら揺れている。
 辻も、辻までもが―――。
 だが次の瞬間、加護はわが耳を疑った。

「ううう・・・あああ・・・!」

 周囲の轟音に混じり聞こえてくる、あどけないうめき声。
 その声の主の上半身が、ごく僅かながら震えている。

 辻が生きている!

 加護は残された気力を振り絞り、腕の力だけでその先を突き進んだ。
 周囲には、爆破の衝撃でちぎれて先が刃物のように尖っている鉄パイプが無
造作に飛び出している。床には、粉々に砕けたスポットライトのガラス片など
が無数に散りばめられている。
 しかし今の加護にとっては、目の前で苦しんでもがいているパートナーの姿
しか見えない。やわらかい手のひらも、真っ白なはずの腕も、辻との距離が縮
まるごとに赤黒く染まってゆく。
 立って歩くのも難しいこの足場を加護はほふく前進だけで、倒れ込んでいる
仲間に手が届く―――5メートル弱先まで突き進んだ。必死だった。

「のの!」

「あ・・・あいぼん・・・?」

 辻は、産まれたて赤ん坊のように重い自分の首を起こした。
 顔はススで黒くうす汚れていたが、奇跡的にもカスリ傷ひとつ負っていない。

「しっかりせぇな! 立てるか?」

 加護は自分が歩けないことなどすっかり棚に上げて、辻の身を案じた。
 だが次の瞬間、加護は信じられない光景を目にする。
94鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/29 07:04 ID:nsQY2zvT

 辻のうつろな表情の背後に見える、彼女の足があるはずの部分にボロ雑巾の
様に床に散らばっている布。
 それはまぎれもなく、辻の衣装だったものの残骸だ。
 ピンク色のキラキラのラメの入った衣装だったはずが、今は黒と赤がグチャ
グチャに混じりあった無惨な布きれ。それが、かろうじて辻の腰から下にまと
わりついているようにしか見えない。
 そしてその布には、今なお赤色の液体が次々と染み込んでいるようだった。

 あの爆発で辻の脚は、完全に吹き飛ばされていた。

 なんで―――。
 私たちが何をしたっていうの―――。
 加護が絶望に打ちひしがれたその時だった。

「あ・・い、ぼん・・・」

「!?」

 信じられないことに辻は笑って、加護の血まみれの手を握りしめてきた。
 あれだけ泣き虫だったはずの、辻が。
 もちろん意識が朦朧としているのが、その表情からも読みとれる。

「つ、つぃは・・・あいぼんに・・・あやまらなきゃ・・・」

「のの、喋べんな! もうすぐしたら誰か助けにきてくれるから!」

「なあ、あいぼん・・・こなぁいだ、ひどいこといって・・・ごめんら・・・」

「アホぉ! こんな時に何ゆうとんのや!」

「ゆるして・・・くれる?」

「あたりまえやろぉ!
 何を・・・何を・・・あれは・・・あれはウチが・・・」

「れへへ・・・よかったぁ・・・」

 加護の小さな瞳から、堤防が決壊したかのように涙が溢れ出てきた。
 なんてつまらないことに意地を張ってきたのだろう。
95鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/29 07:05 ID:nsQY2zvT

 徐々に辻の息づかいが荒くなる。

「あいぼん・・・これからも・・・ずっと・・・いっしょに」

「ああ! 一緒や! ずっと一緒に歌っていこうなぁ!
 だから・・・だから・・・」

「つぃは・・・つぃは・・・あいぼんと・・・むすめをやれて・・・」

 か細い声でテヘヘ、と辻は笑った。

「たのしかっ・たよぉ」

 加護は握りしめている手がすう、と弱まっていくのを感じた。
 辻はまるで眠るかのように、加護の手に静かに頬を寄せて目を閉じた。

 そして、その言葉を最期に辻希美が目覚めることはなかった。

「ののぉぉ!!」

 加護な何度も何度も、のの、のの、と叫んだ。

「ずっと一緒やゆうたやないかぁ、のの・・・そんなぁ・・・のの・・・先に
 死ぬやつがおるかいなアホぉ、のののアホぉぉ!!」

 あとは、ただ辻の額によりかかり泣き崩れるだけだった。
 加護の記憶はそこで途切れている。


 辻を更衣室の前で振り切ったあのあと、加護はロッカーの中に頭を押し込ん
で声を殺して泣いた。
 ステージ上でモーニング娘。ラストソングを歌いながら、辻と共に歩んだこ
の数年の道のりを思い出して泣いた。
 そして目の前で見届けた、最後の最後まで自分を想っていてくれていた親友
の死に―――。

 こんなに涙を流した日はなかった。


【11-辻と加護】END
                          NEXT 【12-石川】
96名無し募集中。。。:02/05/29 10:36 ID:FtcgXWea
お、小説スレじゃん。続き楽しみにしてるよ。
まだ読んでないけど。
97鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/30 06:31 ID:V+N+USc+

【T・E・N】 第12話 石川

「ののぉ、生きていたんだね・・・」

 深い薮をかき分けながら、山の斜面を一心不乱に駆け登る。

「ねえ、何で逃げるの・・? 私のこと忘れたの・・・?」

 スカートから覗く華奢な足に、容赦なく自然の厳しさが切りつける。

 洋館(つんく邸)の裏山で死んだはずの辻の姿を見つけた石川は最初、自分
の目がおかしくなったのではと思った。
 しかし気が付いたときにはもう、何もかもを忘れて無我夢中でその場所めが
けて突っ走っていた。
 石川が迫ってくるのを見て、辻に似た少女は山奥へと走り出した。
 深い深い緑の闇へと。

 それでも石川は構わず追い続けた。
 辻が生きてさえいてくれれば。

 いつの間にか目の前の木々がぼやけている。石川の瞳に、とめどなく溢れて
きた涙のせいだ。
 ふらふらになりながらも走る石川だったが、不安定な地面に足をとられ森の
深い茂みに身を沈めた。
 瑞々しい草の匂いの中に全身を委ねる。
 目を閉じると、あの日のことが鮮明に蘇ってきた。

 日本武道館爆破事件では、石川も地獄の苦しみを味わったのである。
98鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/30 06:33 ID:V+N+USc+

 ファイナルライブ。
 ラストソング。
 武道館の中央ステップを降りきったところで、悪夢の第一幕があけた。
 後ろから突然大きくて熱い手で、背中を張り手されたような衝撃。
 辻や加護に比べて爆心から遠かったとはいえ、石川は一瞬でステージ下まで
転がり落ちる。
 身体のあちこちを床や機材に打ちつけて、うぐぐ、とうめき声を上げる。


  どこ? よっすぃーは? ののは? あいぼんは? 保田さんは?
  ねえ? みんなどこ? 歌おうよ。
  まだ歌は終わってないよ。
  歌は。

  私は保田さんとかに比べたら、そんなに上手くは歌えないけれど。
  でも私なりに頑張ってきた。
  歌うのがとってもツラい時期もあった。
  でも、今は一人でも多くの人にこの歌をきいてほしいの。
  この曲の最後は、私の娘。としての最後の見せ場でもあるんだから。
  ねえ、歌を続けてよ。続けさせてよ。


 なにが起こったかわけが分からないまま、周囲を見渡すとサカナの目をした
男たちに取り囲まれていた。
 どの男も同じ顔をしている。
 目を精一杯見開いて、口は半開き。その口の端がかすかに、つり上がった。

 石川は右手に持っているマイクを口に近づけさせようとしたが、その腕に何
か上からずしり、と重石のようなものが乗せられた。
 腕だけではない。
 足も身体も何から何まで、黒い影が覆い被さっていて身動きできない。
 首をじたばた振ったが、その首でさえ大きくてゴツゴツした岩石のような手
で押さえつけられた。口にはマイクの代わりに、分厚い唇があてがわれた。
 キラキラとしたステージ衣装が、野蛮な男たちの手によって次々と剥がされ
てゆく。
99鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/30 06:35 ID:V+N+USc+

「いやああああああああああ!!!!」

 石川の悲痛な叫びが武道館内にこだまする。
 スピーカーからの、けたたましいハウリング音。
 くすぶっている炎。スポットライトが、火花を散らして砕ける音。
 逃げる者、邪魔する者と、その闘いに敗れた者。誰もが冷静さを失っている。
 会場を包んでいるのは、本性をむき出しにした獣たちの咆吼。
 悲劇のオーケストラは第二幕を迎えた。

 だが、石川が一糸まとわぬ姿を―――先ほどまで感動を共有していたはずの
―――男たちにむき出しにしたこの期に及んでもまだ、右手に握りしめたマイ
クを離そうとしない。

 身体中が熱い。
 殴られて、
 舐められ、
 貫かれて、
 そのあらゆる陵辱を受け入れざるを得ない絶望的な状況下でもなお、石川は
思考を停止しようとはしなかった。
 どれほど楽だろうか。
 自分の置かれた状況をすべて放棄してしまえば、狂気から正面から向き合う
ことを止めてしまえば、悪い夢でも見たと諦めてしまえば―――

  ・・・しかし、まだコンサートは続いている。
  ここで自分だけ逃避するわけにはいかない。

 他のメンバーが歌っている姿が、石川の目の裏に焼き付いている。
 精一杯練習した自分のソロパートを、何度も何度も頭の中でくり返した。
100鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/30 06:37 ID:V+N+USc+

 どれたけの時が過ぎていっただろう。
 混乱の中駆けつけた機動隊と狼たちとの決着がようやくついた。

 ある隊員が発見した時、石川は観客席の影に生まれたままの姿で仰向けで大
の字になっていた。
 痛々しい切り傷とアザ、白と赤の液体が全身を包んでいる―――ほんの1時
間ほど前まで、ステージ上でスポットライトと喝采を浴びていたはずの国民的
アイドルの―――その姿を見て、隊員は思わず口を手で覆った。

 石川は武道館の直線的な天井をうつろな目で見つめながら、ぶつぶつ呟いて
いる。
 そして、そんな姿になりながらもまだ―――右手にはマイクが握られていた。


  あんなことさえなければ、辻は今も笑顔で私に話しかけてきただろう。
  あんなことさえなければ、加護は自分の足で元気に走り回れただろう。
  あんなことさえなければ―――私は普通の女として生きていただろう。

  何かが、完全に狂ってしまったあの瞬間。
  辻さえ生きていれば、すべて夢であったと忘れられそうな気がするのに。


「りかちゃーん!」

 石川ははるか遠くから聞こえてきた耳慣れた声に、ハッと目が醒めた。

「なんでそんなところにいるのォ〜!?」

「あいぼん・・・」

 石川がさっきまでいた裏庭の石畳の上に、車椅子から身を乗り出さんばかり
に手を振っている少女が、豆粒のような大きさだけど見える。

(いつの間にこんな高いところまで登ったんだろう・・・?)

 無邪気なその姿を見て、石川はさっきから背中にずしりとのしかかっていた
黒くてドロドロしたものが、少し、ほんの少しだけど取り払われたような気が
した。


【12-石川】END
                          NEXT 【13-加護】
101鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/31 06:05 ID:HRNsFqZ5

【T・E・N】 第13話 加護

(加護は見たのだろうか、辻の姿を)

(加護は聞いたのだろうか、私が辻を呼んで泣き叫んでいたのを)

 石川は結局、その話題を切り出すことはできなかった。
 昼御飯での出来事もそうだが、辻の名前を口にしただけで加護は態度を豹変
させてしまう。
 無理もない。加護の目の前で辻は壮絶な最期を遂げたのだから。その光景は
今も脳裡に深く焼き付いているのだろう。
 加護にとって、辻は今でも特別な存在であることに変わりはないのだ。
 石川は後で吉澤に相談しよう、と思った。

 そのとき加護は、石川に車椅子を押されながら事件直後の後藤真希のことを
考えていた。


 後藤と加護は、あの事件の直後同じ病院に運ばれた。
 加護は腰に強い衝撃を受けた。そして目の前で繰り広げられた惨劇。
 その当時、心身共に深い傷を負った加護にとって尊敬する後藤が生きていて
しかも同じ病院に入院と聞いたときは、いくぶん救われたような気になった。
 事件から3日後、集中治療室から出て最初に元マネージャーから聞いた話に
よれば、後藤は身体的ダメージは少なかったものの頭部を強めに打ちつけて、
まだ意識がはっきりとしておらず現在も精密検査が続いている状態だという。
102鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/31 06:06 ID:HRNsFqZ5

(すぐにでも逢いたい)

 白い壁に囲まれた部屋で、加護は一日中ベッドの上でぼんやり窓の外を眺め
ながら、後藤に逢ったらどういった話題から切り出そうか考える。
 自ら動くこともできず、テレビや新聞雑誌(当然この事件を連日連夜採り上
げていた)などのメディアからも遮断されている生活のなかで。
 病室に誰かが入ってくる。そしてそれが元メンバーじゃないと分かると心底
加護はガックリするのだった。
 そしてひとこと「後藤さんは?」と聞くのが、その時の口癖になっていた。
 しかし、ある日を境に担当医の人も看護婦さんも母親もマネージャーもお見
舞いに来た友達も、皆一様にこの質問に対しては言葉を濁すようになった。
 加護は微妙な表情や発言からその人の本音を探るのが得意だったが、そうで
なくても後藤の身に何か起きたことは容易に想像できた。
 その日以来、加護は後藤に関する質問をするのをやめた。

 加護には常に母親と祖母が交替で付き添っていたが、彼女らが寝たのを見計
らって布団の中で毎晩、一人で泣き崩れる日々が続いた。モーニング娘。が解
散したこと。辻と喧嘩したこと。コンサートのフィナーレで突然ステージが爆
破したこと。メンバーが泣き叫ぶ声。そして阿鼻叫喚のなか盟友・辻と手を握
りあい、そのまま彼女の最期を見届けたこと―――。

(足さえ動けば、すぐにでもそこの窓から飛び降りるのに)

 お見舞いのフルーツの香りが充満する病室で、加護はどの来訪者に対しても
努めて明るく振る舞っている。しかし、いつしか心の中では常に「そのこと」
ばかりを考えるようになっていた。
103鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/31 06:07 ID:HRNsFqZ5

 入院してから10日ぐらい経ったある日。
 母親は用事で1時間ほど出掛けると言い残して出ていった。加護は一人病室
で留守番することになった。
 加護は2日前から練っていた作戦を実行に移すことにした。
 点滴をひっぺ外し、ベッドから這いずり出て母親がいつも座っているキャス
ター付きの椅子の上に乗る。激痛に耐えながら腕の力だけで壁を伝って、まず
入り口のドアを閉めてつっかえ棒(点滴をぶら下げていた棒だ)をかける。そ
のまま窓際まで移動し、窓のロックを背伸びして外す。重いガラス窓を、歯を
食いしばりながら開ける。6階の窓の外へ身を乗り出すと、遥か眼下に広がる
黒いアスファルト。
 目がくらみそうになった。

 今から、その大地へ身を委ねる。
 そして加護の計画は完遂される。
 その時だった。

 ぎるるるる。

 突然、隣りの病室の窓が誰かによって開かれた。
 反射的に視線をその音へ向ける。
 加護の目に飛び込んできたのは、ピンク色のパジャマ。サラサラの茶髪が風
になびき、トロンとした目の美少女が寂しそうに遠くを見つめている。
 その少女が、静かに、ゆっくりと、逆光の中こちらへ振り向く。

 まぎれもなく後藤真希その人だった。

「ごとーさん!」

 加護は無意識のうちに叫んだ。
 しかし、当の後藤は意外、といった表情を浮かべてこう答える。

「んぁ、なんでアンタ私の名前知ってんの?」


【13-加護】END
                       NEXT 【14-後藤と加護】
104作者からのお知らせ:02/05/31 07:14 ID:HRNsFqZ5

さてレスもめっきり減って見放された感バリバリの今スレですが
物語もすでに佳境。ってウソである。
まだまだつづくよ! うんこもしないよ!

連載2週間記念。

以前予告した通り、読者のみなさん参加してください企画。
(実は読者は実際何人ぐらいいるんだろう企画という罠)
今後のシナリオの順番を決めてください。

第14話は「後藤と加護」で決定済みですが、その後は誰の話が
見たいのだ貴様らは。

1)加護と後藤(第14話のつづき)
2)保田と新垣
3)小川と安倍
4)加護と吉澤(第5話のつづき)
5)紺野

この5つの中から選んでください。
誤解を招きそうなのでサウンドノベルとの違いを書いておくと

 ★べつにどれ選んだからってその後の展開に大きな差はない。
 ★選ばれなかった話もそのうちやる。

つまり、どの順番で展開させてもあまり変わりないから
せっかくだから読者の皆様に決めていただこうってことですよ。
ちなみに、この5つのうちいくつかは回想シーンだ。
つまりアレとかソレとかが分かるわけだ。

締め切りは6月1日(土)朝6:00。
いつもROMっている方も、ぜひ投票お願いします。

サブタイトルの付け方を見ても分かるように、この話は
人物軸を中心に進んでいくため唐突に回想シーンに
いったりきたりで分かりづらくてスマンヌ。
時間軸で進んでいくわけではない。

って無反応だったら、作者泣くからな!?
いいか、大声で泣いちゃうからな! 覚悟しろ。
105せんこう花火:02/05/31 08:02 ID:ptmTzL4s
おいおい泣くんじゃねーぞ、俺はMUSIXよりコレ楽しみにしてるんだから。w
まあ、ののたんが壮絶な最期を遂げたのは悲しいが。
と言う訳で次回は
3.小川と安倍を激しく希望!

あんまりレスばっかりしてると本編が読み難くなるかと思って遠慮してたんだ。
どんな結末になるか期待してるからな。
( ^▽^)ノチャオー
106ななしなっち:02/05/31 08:24 ID:jtvxlUkA
レスしてないけど毎朝読んでるよ。
痛いお話で鬱になってから学校逝ってるよ…

で、なっちが気になるが楽しみは取っておくということで
5)川o・-・)ノ きぼんぬ!
107名無し:02/05/31 12:50 ID:q5cqsRPJ
読んでますよ
自分的には14話の続きかな
108名無し募集中。。。:02/05/31 14:58 ID:iJ6Tb+0a
( ´D`)<2がいいのれす
109鰺の開き:02/05/31 17:38 ID:rm9ohl5N
4と見せかけて1キボン
110nanashi:02/06/01 01:12 ID:DUEJF9uA
5
111名無し募集中。。。 :02/06/01 01:25 ID:IQCeyu6e

      ∧∧  ミ _ ドスッ
      (   ,,)┌─┴┴─┐
      /   つ  1 で  |
   〜′ /´ └─┬┬─┘
    ∪ ∪      ││ _ε3

112sage:02/06/01 03:18 ID:rRSSICkF
ヤッスーの2!
相手はどうでも…けどね!
113鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 06:17 ID:CfRwlEzD
うわあああああん!(嬉泣)
3人ぐらいしか読者がいないかと思っていたら結構書き込みがあったので
さしみ感激っす。メッス!

集計結果!

1)加護と後藤・・・3
2)保田と新垣・・・2
3)小川と安倍・・・1
4)加護と吉澤・・・0
5)紺野・・・・・・2

ということで第15話は「加護と後藤」です。
投票してくださった皆様、感謝。
114鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 06:21 ID:CfRwlEzD

【T・E・N】 第14話 後藤と加護

  なんで? どうして?

 様々な感情が沸き上がり、頭の中で爆発した。
 パニックになった加護を支える程の体力はそのとき残されていない。
 そのまま窓の外へ崩れ落ち、気がついたときにはもう必至に窓縁(まどべり)
にしがみついている自分がいた。

 加護はありったけの声で泣き叫んだ。
 痛いのと悲しいのと恐怖と切なさ―――そして嬉しさが入り交じった叫び。

 驚いたのは後藤である。
 新鮮な空気を吸おうと外に身を乗り出したら、隣室の窓から見知らぬ少女が
ぶら下がっていたのだから。
 墜ちたら確実な死が待ちかまえている、6階の窓から。
 慌てて後藤は看護婦を呼び、病院中が大騒ぎになった。
 間一髪のところで病室のドアを蹴り破って駆けつけた若い医師が、死の淵に
面している加護をすくい上げた。
 その時点で、加護の計画はご破算に終わった。

 加護はこっぴどく叱られるかと思ったが、母親に無言で抱きしめられただけ
だった。
 それに、加護にはもうすっかり「そのこと」をする気は失せていたのだ。

 知ったことがいくつかある。
 第一に、後藤は事故のショックで自分の名前すら思い出せない程、重度の記
憶障害に陥っていたということ。見舞いに来た弟のユウキを見て「あ、おんな
じ顔」と言ったぐらいである。当然自分が芸能人だということも、爆破事件の
ことも一切思い出せないらしい。
 第二に、後藤自身、身体的には完全に快復しているものの、脳波の検査にま
だだいぶ時間がかかるらしく、最低あと1週間は入院するらしいということ。
 そして最後―――第三に後藤は入院以来、ずっと加護の隣りの病室にいたと
いうこと。
115鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 06:22 ID:CfRwlEzD

 それから後藤は、毎日加護の病室に遊びに来るようになった。
 彼女自身も、この入院生活に退屈していたらしい。加護と違い自分で自由に
歩き回れるにもかかわらず、病院の外に出るのは固く禁じられていたからだ。
 加護が後からマネージャーに教えられて知ったことだが、病院の外には容態
を知らされていないファンが常に何人か待ち続けているという。もちろんその
ことは、後藤自身知るよしもなかったのだが。
 そんな状況で記憶を失っている後藤がふらりと出ていけば、双方にとって大
きな混乱が引き起こされるのは容易に想像できた。
 後藤はモーニング娘。時代の記憶も一切ない。スーパースターの道を着実に
歩んでいただけに、事務所はこの事件においてことさら後藤に関しては慎重に
事を進めているような空気を加護は感じた。

 加護にとっては、後藤が記憶を失っているということは(不謹慎な表現かも
しれないが)むしろ都合がよかった。芸能人だったころの話をすれば、必然的
に爆破事件の話になる。加護が今一番思い出したくない過去。
 後藤もその加護の気持ちに薄々感づいているらしく、遠回しに芸能人だった
ころの自分はどんな様子だったかを訊くことはあっても、決してメンバーのこ
となどに深追いはしない。だから、退院したら南の島に行きたいとか、ソフト
クリームが食べたいとか、そういったたわいもない話に終始した。
116鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 06:23 ID:CfRwlEzD

 加護は徐々に生きる力を取り戻していった。
 アイドルだったころの持ち歌を後藤に唄ってみせて、うるさいと看護婦さん
に叱られたときは二人で顔を見合わせて大笑いした。
 もはや二人は、モーニング娘。メンバー同士だったとき以上の強い絆で結ば
れるようになった。

 そのうち、あの事故にあったメンバーのうちの何人かが加護と後藤の病室を
訪問するようになった。
 比較的浅い傷で済んだ矢口。
 松葉杖をつきながらも、訪れてくれた安倍。
 そして、かつてモーニング娘。の一員だった市井や中澤。
 プロデューサーのつんく♂。
 二人の仲のよさに、皆びっくりして帰っていった。
 しかしどのメンバーに逢っても、結局後藤が記憶を呼び覚ます引き金にはな
らなかった。


【14-後藤と加護】END
                       NEXT 【15-加護と後藤】
117鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 06:38 ID:CfRwlEzD
いやあ、それにしてもこんな会話も少ない、萌え要素が皆無の話を
みんな読んでいてくれているんだねぇ。ありがとーありがとー。
しかも暗いし。朝っぱらから読むのは素人にはおすすめできない。
特に今週の話は・・・痛いねぇ。これからは明るくなるっすよ!
ハピネス(幸福)&ニアデス(死が近い)でいってみようと思う。
まあ、ウソなんですけど。

>>105
ののたんの回は俺も書くのがツラかったよ。
レスはどんどん書いていいっすよ。この小説の主旨は>>39-40
にも書いてあるように、皆さんのレスもストーリーの一部だと
思っていますので。

>>106
朝っぱらはオススメできな(略。牛鮭定食でも食ってなさい。

なお、このお話はR−15指定です。
中学生以下のお子様には保護者の方が付き添っていただき、
いっしょに声を出して読んでやってください。
118鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 07:25 ID:CfRwlEzD

2位が同票なので、も一回集計しようっと。
というわけで皆様、お願い。
第16話は誰がいい?

1)保田と新垣
2)小川と安倍
3)加護と吉澤
4)紺野

ちなみに、このストーリーは毎日更新でも確実に2ヶ月は続くので
余命1ヶ月の人は結末が見られないので、読まないほうがいいです。

このあと信じられない結末が!!(ガチンコ風)
119ミニスカボツリヌス:02/06/01 07:30 ID:0m2a7R68
今更だが、
>>104
うんこぐらい汁!
君の身体が心配です
120鰹のたたき:02/06/01 07:46 ID:ZuCpvnVH
>>118
> ちなみに、このストーリーは毎日更新でも確実に2ヶ月は続くので
> 余命1ヶ月の人は結末が見られないので、読まないほうがいいです。
不謹慎です(w

自分は4を希望します。
121鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 07:51 ID:CfRwlEzD
大丈夫。
肛門から出てくるのはファンタジーとかそういうものです。
白いマシュマロに似たローズマリーの香りがするものです。

って俺は掟ポルシェか。HEY3の。

ちなみに尿道から出てくるのはドリームとか(ry

洋館の間取りなどを現在製作中。
122名無し募集中。。。 :02/06/01 15:58 ID:B5t6FtsR
川o・-・)<投票期限はいつまでなんだろう・・・
123名無し:02/06/01 18:24 ID:nIydeOBq
う〜んじゃあ
今度は2で
124名無し募集中。。。 :02/06/01 19:17 ID:uUyH0wEf
4)紺野

125鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/01 19:57 ID:crHG8ePi
>>122
スマソ、言い忘れた。
6月2日(日)朝6痔まで。

お願いします。
126川o・-・)<age:02/06/01 22:53 ID:aXziH5k6
川o・-・)<4
127 :02/06/02 00:16 ID:j5ZkcfQ0
紺野きぼんぬ
128鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/02 06:33 ID:3qBQWBEy
紺野人気あるなぁ(w
じゃ、第16話は紺野だっ
129鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/02 06:34 ID:3qBQWBEy

【T・E・N】 第15話 加護と後藤

 数日が経過した。
 その日もずっと朝から仲良く話し込んでいた加護と後藤の二人だったが、さ
すがに話疲れたのかちょっとした沈黙が訪れた。揃ってぼんやりと窓の外を見
つめる。

「加護ちゃん」

 夕日が差し込む二人きりの病室で、少し寂しそうな目をした後藤が静寂を破
り話しかけてきた。
 あした加護は、病院に運び込まれたとき以来の2度目の大手術が控えている。
難しいオペだが、これが成功すればなんとか自力で歩けるようになるとのこと
だった。

「あのね、黙って突然いなくなるのはやっぱり駄目かなぁ、と思っていたんだ
 けど」

「明日、退院するんでしょ?」

 後藤の予想に反して、加護は笑顔のままだった。
130鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/02 06:35 ID:3qBQWBEy

「・・・知っていたの・・・」

 加護は、元マネージャーから聞いていた。

 結局記憶がもとに戻るという見通しがたたない後藤は、数カ月から無期限の
アメリカ留学が決定したことを。そこで治療やカウンセリングを受けながら、
英語・音楽・ダンスパフォーマンスの勉強をするらしい。そして、本人もそれ
を希望しているとのことだった。
 確かに、日本にいても後藤を知らない人間はいない。(皮肉なことにあの爆
破事件によって、モーニング娘。自体の認知度はさらに広がった)
 そんなこの国では、まともな治療は期待できないし、それよりもアメリカで
エンターティメントの勉強をしてイチから芸能人としての地固めをするのは、
案外この閉塞感に包まれた現状を打破するためにはベストといわないまでも、
ベターな策なのかもしれない。
 記憶を失ったといってもやはりスターである。そういった芸能関係での仕事
に興味を持ち始めているのを、加護も最近の後藤との会話の中から感じていた。
131鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/02 06:36 ID:3qBQWBEy

 しかし、それが意味するのは二人の別離。
 事件後の唯一の心の支えであった後藤を見送るのは、加護にとってもつらい
ことだった。
 だけど、加護は別れの時が来ても笑顔で見送ろうと決めていた。
 自分もいつまでも後藤に頼っていちゃいけない。
 未来の扉を自らの力でひらかなきゃ、と。

「私なら大丈夫っ。後藤さんと過ごしたこの何日間、すごく勇気貰ったです。
 ありがとうございました」

 ぺこり、と加護はアメを貰った子供のようにお辞儀した。

「わたしも、私も・・・加護ちゃんに会えてよかったよ・・・」

 後藤は小さな加護の身体を抱きしめて、ぼろぼろに泣き崩れた。

「忘れないから、絶対・・・向こうにいってもメール書くよ・・・えぐえぐっ」

「えへへ、後藤さん子供みたい、ワカイイ」

 だが、この時の加護は知るよしもなかった。
 後藤のぬくもりを肌で感じることができたのは、これが最後だったというこ
とを。


【15-加護と後藤】END
                          NEXT 【16-紺野】
132鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/03 05:39 ID:7HFWP7r0

【T・E・N】 第16話 紺野

「あの事件を忘れるために、一心不乱で勉強しました」

 紺野あさ美は、とある週刊誌のインタビュー記事にこう答えていた。
「あの事件」とはもちろん武道館爆破事件であり、この記事には「仲間の死を
乗り越えて・・・元モー娘。の紺野あさ美(18)が見事K大学合格!」といっ
た見出しが踊っていた。
 紺野は事件後、怪我が完治すると事務所移籍という予定を覆してあっさりと
芸能界を引退。地元北海道で普通の高校生として生活するという道を選択した。

 新メンバーとしてモーニング娘。に加入した当初から特異なキャラクターで
周囲を振り回してきた彼女だったが、解散後ただの一学生に戻ってからはその
イメージを払拭するのにかなり苦労した。
 特にストーカーやイタズラ電話・いやがらせの手紙といった手段で、モーニ
ング娘。という虚像を歪曲した形で元メンバーである紺野に対して発散しよう
とする連中に、随分悩んだこともあった。
 最初にモーニング娘。を勉強に専念するという理由で、グループを脱退した
福田明日香はその後見事に志望高校に合格するものの結局は中退してしまった、
という話を聞いたことがある。紺野は自分の現状と照らし合わせて、大いに共
感した。
 そこには周囲がイメージしている、テレビというフィルターを通して見える
自分と現実とのキャラクターが著しく乖離しているという問題があったのでは
ないか、と紺野は考える。そしてその紺野にも、常に世間からはテレビの中の
ような過剰なまでのボケキャラであることを無言で強要された。
133鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/03 05:40 ID:7HFWP7r0

 しかし福田と紺野の決定的な違いは、福田は脱退後も娘。の虚像がどんどん
膨張していき、それが常に本人につきまとっていたのに対し、紺野の場合はあ
の事件により完全に娘。そのものが消滅、修復不可能なまでに散開し「妄想」
「憶測」という形でしか存在し得なくなった。
 あとは時間が解決してくれる、そう自分に言い聞かせながら紺野はその軋轢
と闘ってきた。
 事件から3年経った頃から、ようやく元モーニング娘。の紺野あさ美として
ではなく、ひとりの学生・紺野あさ美として周囲も扱ってくれるようになった。

 そんな折、東京の私立大学に通い始めるようになって(二度目の上京になる)
数年、ほかのメンバーとは年賀状程度のやり取りしかなかった紺野だが、音信
不通だった元リーダーの飯田から唐突に一通のメールが届いた。
 紺野はモーニング娘。メンバーだったころから、飯田とは周囲から水と油と
評されていた。もちろん立場上飯田がリーダーで紺野はその指示を忠実に遵守
していたつもりだったが、それでもトロい動作やマイペースぶりにいつも気を
揉んでいた、という話を他のメンバーづてに聞いたことがある。それだけに、
意外な人物からの意外なコンタクト。

 紺野は、リーダーのその後を知っていた。

 次の日大学キャンパスに現れた飯田は、タイトジーンズに黄色いフリース。
いかにも学生を意識した飾らないスタイルだが、着こなしが違うのか周囲の大
学生の中にあって、あきらかに異彩を放っている。周囲の誰かを掴まえて、彼
女がファッションモデルだと告げれば信じるだろうし、事実飯田は解散直前に
は雑誌を中心にモデルの仕事もいくつかこなしていた。
 5年振りの再会になるが、紺野が見る限り飯田はその時のプロポーションを
完全に維持していた。
134鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/03 05:41 ID:7HFWP7r0

 モーニング娘。メンバーの頃からずっと変わらぬロングヘアー。解散時には
茶色に染めていたが、目の前に現れた飯田はまた黒くて艶のある髪に戻ってい
た。切れ長のサングラス。腕の中にすっぽり納まるスケッチブック。
 遠目に紺野の姿を確認すると、すかさずそのスケッチブックを広げてサラサ
ラとサインペンで何かを書き出した。その間にも一歩一歩紺野は飯田に近づく。

“ひさしぶりね こんの”

 そう書いた画用紙をバリっと引き裂いて、紺野の前に掲げた。

(おひさしぶりです、リーダー)

 紺野は目の前で左手の甲を外に向けて指を広げて立て、右手の人差し指で左
手の親指側から一定の間隔をおいて二度ほど上に弧を描きながら右に動かす動
作をした。

(なんだ、しってたんだ)

 飯田もそれに対する返答として、指を少し曲げた右手をこめかみ横におき、
前方に回転させる動作をした。


【16-紺野】END
                          NEXT 【17-飯田】
135鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/03 07:22 ID:7HFWP7r0

川o・-・)<毎日更新している作者って何者なんだろう・・・?

よっぽどヒマ人と思われているのがイヤなので自ら白状しておくと

「アイドル」「リーマン」「ギャル子」「ギャル男君」
       ↑
でいうと、一応コレなのでそれほどヒマではない。
密かにアイドル(もしくはギャル子)志望。わけない。

あと手話はかなり適当なので突っ込んでくれるな。
まあ細かいところにミスがけっこうあるかもしれんが、
(特に医学的な不備はかなりあると思う)
分かっていても見逃すぐらいの広い心をもって読んでくれい。
ここはこうしたほうがいい、というご意見は大歓迎。
136せんこう花火:02/06/03 09:44 ID:+UE7rUsn
しっかし毎日朝早いねえ。リーマンは大変だなあ。
当方通勤時間ゼロ分なので早起きなど絶対不可能。
生暖かい心で読んでいるので心配なされるな。
137名無し:02/06/03 14:38 ID:jgQrrU3H
毎日更新乙カレー
面白いので毎日みてますよ
ガンガレ!
138鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/04 07:16 ID:grhd/L8N

【T・E・N】 第17話 飯田

(さすが秀才コンノちゃんね、手話まで覚えるなんて)

(飯田さんがいなかったら、多分興味沸かなかったと思います)

(興味だけで覚えられるものでもないわよ。でも誰から聞いたの?)

(安倍さん)

(ホントに昔から口が軽いんだからあいつは!)


 モーニング娘。最後のリーダー・飯田圭織は、例の武道館爆破事件により聴
覚を失った。
 爆破の直接の衝撃で鼓膜を損壊したわけではない。
 飯田が爆風で吹き飛ばされた先に、運悪く大型スピーカーがあった。爆破に
よる電気系統の不具合で、高音のハウリングが武道館会場内に十数分間も響き
渡った。
 爆破のパニックを助長するような、その不愉快な轟音は武道館の外にいるファ
ンまで耳を塞いだほどだった、とのちに語られている。その音を発している巨
大なスピーカーの前で飯田は気を失っていたのだ。

 それから数日後、目が覚めて四肢全てをギブスで固定された飯田が知った過
酷な現実。
 目を見開いて驚いている看護婦。
「セ・ン・セ・イ イ・シ・キ・ガ・モ・ド・リ・マ・シ・タ」
 何を言っていのかは解る。解るけれど聞こえない。何を話しても伝わらない。
指先ひとつを動かそうとしただけでも全身に激痛が走る。
 そんな状態が1週間続いた。
 そして、医師が飯田の聴覚機能が破壊されたということに気が付いたときには、
もうすべてが手遅れだった。

 飯田はメンバーの面会すら拒絶し、退院とともにひっそりと姿を消していっ
た。
139鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/04 07:17 ID:grhd/L8N

(あの集中治療室の日々は今思い出しても、思い出したくないわ)

 と、独特の表現で語る(もちろん手話で、だが)飯田。わけのわからないこ
とを仏頂面で必死に腕を振り回して伝えようとするかつてのリーダーに、紺野
はシリアスな場面にもかかわらず笑いをこらえるのに必死だった。
 すでに20代後半にさしかかっているはずの飯田だったが、大学キャンパス
の芝生がよく似合っていた。

(それじゃあ、あの轟音で耳が・・・?)

 紺野がそう尋ねると、飯田は静かに首を横に振った。
 飯田が主張するには、大きな音だけでは難聴になることはあっても、完全な
聾唖(ろうあ)にまで陥ることはまずないという。おそらく怪我の治療のため
の、薬の大量投与による副作用なのではないかと飯田は思っているが、医師側
は否定しているという。

(それじゃあ医療ミス?)

(私はそう思っている)

 弁護士にも訴訟を奨められたが、飯田はけっきょく法的手段に乗り出すこと
はなかった。

(音を失ったのも、もちろん悔しいけれど・・・それより飯田圭織というアー
 ティストが一生歌えないと世間に知れ渡るのも恐いのよ)

 ここが飯田独特の哲学なのだろう、と紺野は思った。
 事故の後遺症を公(おおやけ)にすれば、世間から一瞬の同情を得られるか
もしれない。だが、その一瞬に甘えてしまったがために、その後の人生を立て
直すチカラをも失ってしまう。そのことのほうがよっぽど自分にとっては恐ろ
しいことだ、と飯田は力説する。
140鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/04 07:17 ID:grhd/L8N

(それじゃあ、聴覚障害になったことを4年たった今でも公表しないのも?)

「・・・・・」

 結局この時は、その理由をはっきりと聞くことができなかった。
 だがメンバー内においても人一倍音楽を愛していた彼女が、音を失ったこと
がどれほど苦しかったことか。幸いにもあの事件で後遺症を残さなかった紺野
だが、その飯田の苦悩を想像しただけで身震いするのだった。
 事件から4年あまり表舞台にも立たず、他のメンバーともほとんど接触せず
にひとり殻に閉じこもっていた飯田。不器用で純粋なリーダーにとって、この
4年間はどのような意味をもっていたのだろう。

 紺野はもうひとつ気になることがあった。
 飯田のケースは中途失聴者といって、生まれつき耳が聞こえないわけではな
い。ゆえに聴覚に障害があるといっても、言葉を喋る能力には問題はないはず
だ―――。
 だが目の前にいる飯田は、頑なに発声することを避けている。筆談と手話。
そしてメール。

(なんでだろう・・・?)

 飯田的哲学。
 紺野には、その理由のアウトラインがおぼろげながら見えてきた。
 それは、紺野自身には理解のできないプライドではあったけれども。
141鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/04 07:20 ID:grhd/L8N

 現在は人目を避けて、別ペンネームでエッセイやイラストの仕事を中心に活
動しているという。
 飯田の独特の文章は、それだけで世界観を持っていた。すでに特定のファン
層を獲得し、地味ながらも一定の評価を得るまでになった。
 飯田は着実に人生の立て直しに成功しているように、紺野の目には映った。

 そして、そこで娘。同窓会の計画を飯田から打ち明けられた。メンバーの中
でこのことを相談したのは意外にも紺野が最初だったということも知らされた。

(なんでだろう・・・?)

 これは本気で分からなかった。

 そして、その理由を知るのはずっとあと―――とりかえしのつかない事件が
起こった後だった。


【17-飯田】END
                       NEXT 【18-紺野と飯田】
142鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/04 07:38 ID:grhd/L8N

川o・-・).。oO(なんでこんなに支離滅裂なんだろう・・・)

( `.∀´)<ほっとけや!

今回は直前になって大幅に加筆修正したから、ちょっと変かもな。
さて、恒例の第19話は誰がいいのですか投票。
締め切りは日本対ベルギー戦キックオフの12時間後。
っていうか6月5日の朝6時ごろ。今回もよろしゅう。

1)保田と新垣
2)小川と安倍
3)加護と吉澤

しかし飯田が聾唖だろ、加護が車椅子だろ、吉澤が性転換だろ、
(実はまだあるんだけれど)この物語は特定の方にとって
とても差別的な表現が含まれているかもしれません。(今後も)
あらかじめお詫びしておきます。作者にはその意図はまったく
ありませんので。また、この小説はフィクションであり、実在の
人物・グループをモチーフとしているものの一切関係ありません。
また、著者が作中の出来事を望んでいるわけでもございません。

川o・-・)ノ<普通そうゆうのは最初に言っておくもんですよ。
      中途半端ですよね。

( `.∀´)<処女なの・・・。

川#・-・)<!?

( `.∀´)<はじめてのアレなの・・・だから許して・・・。

川川#・-・#))))<ほほほほ保田さん、なななな何を!?

  ↑
どうやら処女作なんで大目に見てほしいと言いたいらしい。
143名無し:02/06/04 13:16 ID:nOd6UNRS
2番でお願いします
144鮪の煮付け:02/06/04 18:38 ID:LplwxVHR
>>142
> 川川#・-・#))))<ほほほほ保田さん、なななな何を!?
ワラタ

自分は2キボンヌ。
もしかして20,21話もこの2つから選ぶっていう事じゃないよね?
145鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/04 23:09 ID:JKEQe90l
>>144
>もしかして20,21話もこの2つから選ぶっていう事じゃないよね?

1〜3)はどれを選んでも2話構成なのです。バラしてしまうと。
まあ流石に2択はツマらないので、やめるけど。

屋敷の間取り図ひきつづき作成中。
146名無し募集中。。。:02/06/05 01:11 ID:TVbwop4e
いつも読んでます。
ってことで1。
147名無し募集中。。。 :02/06/05 01:27 ID:XxGci1Es
まだ出ていない
1)保田と新垣

148sage:02/06/05 03:03 ID:4xC6Sf/t
1の保田しか考えられません!
149鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/05 06:08 ID:hTtLtGIj
む。保田人気。
逆転で19話は保田と新垣編だな。
150鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/05 06:15 ID:hTtLtGIj

【T・E・N】 第18話 紺野と飯田

「飯田さん、オニギリ食べないんですかぁ? 美味しいのにぃ」

 助手席に座っている飯田は、とてもじゃないが紺野から差し出されるオニギ
リを口に運ぶ気にはなれなかった。

 山奥の洋館で開催されるモーニング娘。同窓会へ向かう途中、ひとやすみの
つもりで路肩に停車したクルマの中。
 遅くて、危なっかしくて、しかも車酔いするという最悪のドライビングセン
スの持ち主である当の紺野は、何食わぬ顔でピーナッツとオニギリをむさぼり
食っている。
 飯田はシートをリクライニングの状態にして、しばしこの緊張から解放され
たことを素直に受け入れようとした。

 カーラジオからは、モーニング娘。の最後のシングル曲が流れている。
 事件直後に発売された、このラストソングはダントツの話題性だけでなく、
その楽曲の完成度とともに大ヒットを記録した。
151鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/05 06:16 ID:hTtLtGIj

「ハイッ!
 モーニング娘。でしたっ! それでは“やっぱり☆ねこのじかん”そろそろ
 今週もオシマイですよ〜。エンディング曲は、世界の歌姫・犬神音子さんの、
 わははは、新曲“ナカマダチ”を聴きながらのお別れです。
 おかげさまで先週のオリコンチャート初登場なんと21位!
 皆様、ああとーございます! 来週もまた〜ヨロシク〜!

 やけに声の明るいDJ。
 他人事ながらもなにかイイことでもあったのだろうか、と紺野は思った。
 紺野は、歌唱力を買われてモーニング娘。に加入したわけではない。歌に関
しては、まったくといっていいほど思い入れがない。だが、それを口にするこ
とは決してなかったわけだが。
 しかし今日集まる初期のメンバーや高橋などは純粋に歌が好きだから、そし
ていつかはソロで、ということを夢見ていたメンバーがほとんどだった。
 バラエティーやトークといった歌に直接関係ない仕事に日々振り回されなが
らも、いつかはこのDJのようにシンガーとして生きていくことを夢見ていた。
 しかしモーニング娘。を卒業したメンバーの誰一人として、あのラストソン
グを超える曲を歌う者はついにあらわれなかった。そしていつしかモーニング
娘。といえば、その事件性ばかりがクローズアップされ、数々の名曲も人々の
記憶の底に埋もれていった。
 紺野は、時の流れの残酷さを感じずにはいられない。
152鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/05 06:17 ID:hTtLtGIj

 長時間の運転に、体力に自信のある紺野もさすがに疲労を覚えてか車の外に
出た。初秋のすがすがしい空気を思いっきり肺いっぱいに吸い込んで、体全体
を伸ばす。
 その時、あるものが紺野の目に飛び込んできた。

「飯田さん、大変です」

(何よ・・・)

 助手席の窓から、面倒くさそうに身を乗り出す。
 紺野が車体の下を指さしている。

「なんか運転しづらいと思ったら、タイヤがパンクしていたみたいです!」

 飯田は、眩暈で倒れそうになった。


【18-紺野と飯田】END
                       NEXT 【19-保田と新垣】
153名無し:02/06/05 23:38 ID:Yy/Zy1/d
なんでなっちがでないんだ〜
今まで出てきたのは、イビキかいて寝てるのと
回想シーンだけじゃないかよ〜
154鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/05 23:51 ID:E+oQMSTI
>>153
すいませぬ。もうすぐしたら出てきます。
大人の事情ってやつですよ。

そんなこといったら高橋なんて名前しか出てきていないわけだし。

それしても先週のマシューの高橋はよかった。
いまだにテレビ慣れしていないよね、このコ。
だから凄くブサイクに映るときもあるのだけれども、その青臭さが
つんくの狙いか。そう思いながら、今松浦を観ている。
こいつはこなれすぎ。それはそれでよい。
155鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/06 00:09 ID:XQsCksS4

登場人物で補足しておくと、この小説はほとんど現役メンバァで構成されています。
他のハロプロメンバーや男キャラとか出てこねぇ。
元メンもかなりええ加減な扱いだ。つんくなんて(後のほうで出てくる)瞬殺。
架空の人物も完全サブキャラ。
娘。以外のキャラには感情移入させないような描写をあえて心掛けております。
サブタイトルの付け方を見ても分かるように。

これはですね、純粋に娘。だけが登場する小説を書いてみたかったわけなのです。
ですから(無理矢理っぽいけど)山奥の洋館というあえて手垢のつきまくった
シチュエーションを用意したのですよ。あと回想シーンと。

それでもキャラの扱いに差が出るのは勘弁していただきたい。
後半になると、ちょっとしたミステリ仕立ての犯人当てがありますが、
その犯人を探すとともに、このシナリオを読んで、著者(さしみ)が
どのメンバー推しなのか当てるのも一興かもしれません。
156鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/06 06:50 ID:uQ8/Sa5P

【T・E・N】 第19話 保田と新垣

 モーニング娘。解散に最後まで納得していない様子をあらわにしていたのは、
意外にも最も新しいメンバーである新垣里沙であった。

 新垣はモーニング娘。に憧れて若干12歳でこの世界に入ってきた。
 同じく中学1年生で加入した辻や加護のように、同世代やその下の小学生層
から圧倒的な支持を得る少女タレントとしての道が開けたかに見えた。
 しかし加入直後に発覚した、とある疑惑。世間の風当たりは、決して生ぬる
いものではなかった。
 周囲の焦燥、困惑、嫉妬の渦に巻き込まれながらも、自分が抱くモーニング
娘。のイメージを崩すまいと健気に前に突き進んだ。ある意味、自分に酔いし
れていたといってもいいかもしれない。
157鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/06 06:51 ID:uQ8/Sa5P

 一度、メンバー最年長の保田圭と楽屋で二人きりになったことがある。
 用事のある時以外話すこともない二人だが、珍しく保田のほうから話しかけ
てきた。

「ニーガキさぁ、もしモーニングが解散したらどーすんの?」

「・・・・・」

「ほら、例えばさぁ、ソロ歌手になるとか、女優になるとか」

「ん・・・保田さんは、歌ですよね・・・」

「ま、まあ昔からの夢だったからね・・・成功するかどうかは分からないけど
 ・・・って私のことはいいの!
 アンタはどう思っているのかなぁ、と思って」

「・・・え〜っと、私は今が楽しくていっぱいいっぱいなので・・・」

「考えたことない?」

「・・・はい・・・」

「・・・・」

「・・・・」

 そこからまた二人は沈黙してしまった。
 本音しか言えない不器用な性格であることは保田も新垣にも共通していえる
ことだが、二人の将来ビジョンはまったく違っていた。
 新垣はモーニング娘。である自分以外を思い描けなかった。
158鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/06 06:52 ID:uQ8/Sa5P

 モーニング娘。の原点はロックボーカリストオーディションの落選組を集め、
アイドルグループとしてデビューさせたことに始まる。
 テレビのバラエティ番組の1コーナーで、しかも素人丸だしの企画モノ。
 当初は誰もがこのまま泡沫タレントとして消えてゆくものだと思っていた。
 そのテレビを観ているほとんどの視聴者はもちろんのこと、番組プロデュー
サーさえも。

 しかし彼女らは何かが違っていた。
 決して華麗な輝きではなかったかもしれないけれど、ギラギラした何かを持っ
ていた。
 とあるメンバーはインタビューで断言した。

「私たちはグループで歌うために結成したんじゃありません。
 その先にあるソロデビューを目標に頑張っているんです」

 グループとしての結束力よりも、自分たちの夢を優先するとエゴむき出しで
アピールする。従来のアイドル(偶像)のイメージはそこには感じられない。
 周囲に振り回されながらも自分たちの野望に向かって汗まみれ泥まみれに突
き進む、常に本音で向き合う人間臭さが多くの共感を呼んだ。それが、初期の
モーニング娘。人気の原動力になっていたのかもしれない。
 しかし「LOVEマシーン」で大ブレイクを果たし、国民的アイドルとなっ
てからは・・・。
159鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/06 06:53 ID:uQ8/Sa5P

 保田は、決してメンバー内では人気のある方ではなかったし、グループ内で
の自分の存在意義を見いだせず、長い間迷走を続けていたこともあった。
 それでも音楽が、歌うことが大好きだったから、歌手である自分を精一杯楽
しもうと思った。そして、そのための努力を惜しまないつもりだった。
 その情熱は、最近になってようやく実を結ぶようになってきていた。

 そんな保田だがブレイク後に加入してきた、いわゆる4期メンバー・5期メ
ンバーには当初違和感を禁じ得なかった。
 もしかしたら彼女らは歌手になりたくて、モーニング娘。になったんじゃな
いかもしれない。
 モーニング娘。になりたくて、モーニング娘。になったのかもしれない。
 そんな疑念を払拭するために、保田は新メンバーが加入する度に、二人きり
になると新垣に投げかけたのと同じような質問をくり返してきたのだった。

「ねえ、もし私たち今解散しちゃったらどうする?」
160鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/06 06:54 ID:uQ8/Sa5P

 当時最年少ながらその大人っぽい金髪で周囲の度肝を抜いた、加入したての
後藤に問いかけた。
 少し間を置いて、恥ずかしそうに、しかしハッキリとした口調でこうこう答
えた。

「今は力不足だけど、いずれソロで歌いつづけたい・・・です」

 若干13歳でこう断言した後藤を、保田は5歳年下ながらもある意味頼もし
く思えたし、表面に出さないまでも同じ世界に生きるプロとして認め尊敬する
ようになった。
 その後、4期メンバーが加入した時も石川・吉澤・辻・加護に一人づつ別の
機会に同じ質問を浴びせたが、意外にもしっかりとした返事が返ってくるので、
年齢が若いからといって甘く見ていた自分を保田は恥じたのだった。
 それだけに、この新垣の返事に保田はショックを受けた。

 モーニング娘。の解散が決定的となる3ヶ月前の出来事である。


【19-保田と新垣】END
                          NEXT 【20-新垣】
161sage:02/06/07 05:37 ID:e+z/Y8++
小説総合スレからきて始めて読んだけど
(【19-保田と新垣】だけ)、おもしろそうっすね!
次の休みにでも全部読んで見よっと。
162鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/07 06:37 ID:yRI7j3Cd
>>161

ああとーございます。
ディープな展開が続きますが見捨てないでください。
3週間たちますが、いまだにモーニング娘。同窓会が始まる気配が
いっこうにないってゆーのは、どうでしょうか。だめっすか。

まだまだ終わりませんが次回作考えました。

「独立国家モーニング娘。」

どっかのコンサート会場(武道館あたり)にヲタを率いて娘。が
たてもこもって独立宣言して日本国と対立、みたいな。
「僕たちの7日間戦争+沈黙の艦隊」のようなのを想像したまえ。
そのうち仲間割れとか起こったりするんですけど。
どうでしょうか。だめっすか。
っていうか面倒臭そうなのでまったくまったくまったくヤル気が
起こらないので誰か書いてくんねぇかなぁ。
163鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/07 06:39 ID:yRI7j3Cd

【T・E・N】 第20話 新垣

 結局、新垣はモーニング娘。解散後は芸能界を引退することになった。

 解散記者会見では現役メンバー全員が顔を揃えた。
 輝かしい成功を収めたグループの歴史を物語るかのように、絶え間なくフラッ
シュがたかれ、それぞれが娘。時代の思い出、ソロ活動への抱負等を語り、マ
スコミも拍子抜けするほど和やかな雰囲気が続いた。
 しかしそんな中、新垣は自分に話が及ぶと堰をきったように泣き崩れてしまっ
たのだ。
 周囲のメンバーが慌てる中で、声を詰まらせながら新垣が言った言葉。

「モーニング娘。が大好きです」

 それだけだった。そしてそれが新垣の芸能活動のすべてでもあった。
 誰の目からみても、未だに解散の事実を受け入れられていないのはあきらか
だった。
 後にリーダーの飯田は、彼女ほど純粋にモーニング娘。という存在を愛した
人間はいない、と周囲に漏らしている。


 そして武道館での、モーニング娘。ファイナルライブで事件は起こった。
 コンサートもクライマックスを迎え、ステージ中央の階段からメンバー全員
が歌いながら降りてくる。
 その瞬間、大きな光と爆音が交錯し、熱風が会場内を包み込んだ。
164鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/07 06:39 ID:yRI7j3Cd

 2階ロビー最前列から鑑賞していたカメラマンは、事件直後にその時の様子
をこう語った。

「なんか一瞬顔の10センチ前で自分に向かってカメラのフラッシュをたかれ
 たような感じになって、そのあとなんかステージが玉子を電子レンジの中に
 入れたかのように木っ端微塵にふっ飛んで・・・目が慣れてもう一度見てみ
 たら黒コゲでほとんど原形を留めてないんですよ・・・炎と煙と爆音と人間
 とその血飛沫が滅茶苦茶に入り乱れて何が起こったか分からずに茫然とその
 場で3分ぐらい見つめていました・・・パニックと傍観者のギリギリ境界線
 上にいたんだと思います・・・」

 阿鼻叫喚。
 まさにその言葉がふさわしい1階席では、暴徒と化したファンがメンバーに
襲いかかったり、あちこちで乱闘が起こったりといった地獄絵図が展開されて
いた。
 芸能界であらゆる汚いことを見てきたつんく♂も、まったく次元の違うこの
様子を目の当たりにして、そして何も出来ない自分の無力さを知って、愕然と
その場に崩れ落ちたという。

 そんな中で新垣は、ある意味幸運だったといえる。
 その凄惨な光景を目にすることは、決してなかったのだから。

 ほぼ爆心地に位置していた新垣は、爆風でほぼ真上に吹き飛ばされそのまま
床に叩きつけられた。

 モーニング娘。最後の日は、そのまま、新垣里沙の人生最後の日となった。


【20-新垣】END
                       NEXT 【21-小川と安倍】
165名無し:02/06/07 19:13 ID:/Yk6vL9d
やっとなっちの出番だ
まってたよ〜
166たたき鰯:02/06/07 20:54 ID:USoHELBf
↑もうそろそろネタがなくなってきた・・・

>>162
この作品で煮詰まったら書くようにすれば?
167鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/07 23:20 ID:HLyThC40

【さしみ通信】3

おい、お前らちょっとは、うわ〜ニィニィ氏んじゃった〜
作者のばか〜、もうこんなスレ荒らしてやるぅ〜!! とか言いなさい。
なっちの出番だ、とか逝ってねぇでよ。
かわいそうじゃねぇか。いや作者のお前が言うなって感じだが。

我ながらカコワイルけど補足させてくれないかな。蛇足パラダイスだけど。
まず、この役割を誰にやらせるか、という配役から始まったら消去法的に
こうならざるを得なかったというか、だって後藤や安倍がこの役だったら
アレだろう。誰も読まなくなるだろう。ん〜保田か。
保田は10分だな。
10分で俺が殺される。
そんな感じだ。

まあ最初にホラーって言ってあるし、こうゆう死に様があるのも仕方ないじゃないか。
俺が前書きみたいなので【保田圭2011】が好きだったと発言したこととか
あと「第11話」のエピソードとかで、もしかして勝手にこの物語を感動大作と
思っている人がいたら困るわけですが、いやあ、この小説に関しては
俺サディストになるっすよ。普段はMなんですけどね。Mの計画。
(別名石川のハイヒールに黄金水をなみなみと注いでもらって中略計画)
168鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/07 23:21 ID:HLyThC40

【さしみ通信】3.5

ただコレだけは言っておきたいんですけど、この物語に登場する13人のメンバーのうち
誰一人として「モーニング娘。」そのものを憎んだまま死なせたくないんですよ。
いや、こんな鬼畜小説書いておきながら今さら何言っているんでぃとか
言われそうなんですけど。
ですから、アンチだろとか誤解されそうなんですけど、いや俺って
嫌いなメンバーはいないっすよ、マジで。元メンにも現役にも。

この物語の登場キャラは、生きていれば生きている程悲惨な目に遭うことになるんです。
まあ彼女の第19話における描写は、俺の主観が殆どなんですけど
あの娘。ってつんく♂にも「モー娘が好きだという気持ちが伝わってきた」とか
そんなのが加入理由じゃないですか。個人的には胡散臭いと思うんだけど。
その彼女が娘。が崩壊してゆく様をこうゆう状況になったら正視できるのかっていうか
って考えたら、ああゆう終わらせ方が一番やないかなぁと勝手に思った次第。

なんかアンチサイトやアンチスレとかにリンク張られたらイヤだなぁ。
って俺は思っているくらいですから、決してあの娘。が嫌いってわけじゃないのよ。


好きでもないけど。
169鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/07 23:28 ID:HLyThC40
>>166
いや、あのネタ(>>162)は思いつきで書いたヤツだから
冗談と受けとめてください。あわよくば、これを読んだ
スペシャル文豪が片膝叩いて「よっしゃぁ!それや!」
みたいな感じで書いてくれたら御の字とか思っているぐらいですよ。

小説ってアイデア考えているときが一番面白いんですよ。
ですから、いざ書き始めると調べなきゃならないことが
後から後から(スースーくるよ、ではなくて)出てくるので困る。
資料探しに疲れる。

の割にはツメが甘いと言われそうだが、処女(略
170鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/08 07:20 ID:pwuSRV8C

【T・E・N】 第21話 小川と安倍

 安倍なつみは、病室で身体中に透明な管を繋がれてベッドに眠る小川麻琴を
見つめる。
 小川の母親がそれを見守っている。

 小川はあの武道館の事件以来、5年もずっとこうして横たわったままだ。
 ときどき目をうつろに開けることはあっても、そこにいる小川はかつての娘。
メンバーだった頃のように踊ったり、笑ったり、歌ったり、話しかけたりする
ことはまずない。一日中、口を半開きにしたまま無機質な病院の天井を見つめ
ているだけ。その状態がずっと変わらないまま、気が遠くなるような時間が過
ぎていった。

 そしてその5年間、安倍は女優としての道をひた進んでいた。

 あれほどモーニング娘。時代に笑顔の絶えなかった安倍。どんな時にも前向
きに生きることの大切さをその微笑みで伝えていたし、それが初期のモーニン
グ娘。のアイドルとしての人気を支えていたといってもいい。
 しかし、あの爆破事件は安倍からその笑顔すらも奪ってしまった。

 安倍も事件の精神的ショックで軽い記憶喪失に陥ったものの、後藤ほどの重
度ではなかった。何人かのスタッフの名前や、昔の思い出のいくつかが消えて
しまった程度で、メンバーや事件のことはしっかりと覚えていた。
 悲しく、つらい、あの日の出来事を。
 安倍は爆破で吹き飛ばされた際に右足を骨折した。復帰には両親の反対もあっ
たが、完治後は芸能活動を続けることを決意。次々と惜しまれながら引退を表
明する他のメンバーとは対照的に、多くのファンの喝采を浴びながら芸能界と
いう名の荒野に再び足を踏み入れた。
171鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/08 07:24 ID:+z/IJThJ

 しかし解散後ソロCDデビューする予定をキャンセルし、仕事を女優業一本
に絞り込んだ。これにはファンの間でも賛否が分かれた。
 安倍自身ファンが自分に求めているのは笑顔だと自覚していた。歌だけでは、
自分の個性を十分にアピールできないということを。
 心からの笑顔を失った安倍が下した苦渋の決断だった。

 安倍は、モーニング娘。時代から女優としての活動は始めていた。しかし役
柄は限定されていたし、ベテランからは所詮アイドル女優と陰口を叩かれるこ
ともしばしばあった。
 しかし芸能界復帰後の短編ドラマでは(最初の復帰メンバーという話題性だ
けではなく)切ない演技が評価され、その後も出演をくり返すごとに徐々に女
優としての地位は高まっていった。
 あるいはあの武道館爆破事件という悲しい出来事を、観る者はテレビの中で
の安倍にオーバーラップさせているのかもしれない。
 その後もテレビドラマ、映画、舞台・・・活躍の場を次々と広げてゆき、今
では元モーニング娘。という肩書きがなくても、女優・安倍なつみとしての地
位をしっかりと築くに至った。

 安倍は、あの事件後も芸能人として成功し続けている数少ないメンバーのひ
とりである。

 そんな多忙な日々をおくる安倍だが、わずかな暇を見つけては事件以来意識
不明の小川のもとを訪れている。
 他の娘。も事件直後に2〜3度訪問しているが、5年経過した今も必ず週に
一度は熱心に訪問しているメンバーは安倍だけである。
 それには理由がある。


 小川は、あの爆破のとき身代わりになって安倍の命を救ったのだ。
172鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/08 07:25 ID:+z/IJThJ

「おかあさん」

 静かにうつむいていた小川の母親は、思い出したように安倍に目を向ける。

「モーニング娘。の同窓会に出席しようと思っています」

「・・・どうして・・・?」

「せめてメンバーだけにでも私の5年間隠してきた罪を分かってほしいんです」

「まさか・・・」

「あのことを、みんなに打ち明けるつもりです」

「・・・」

「・・・」

「あなたがそれでいいって言うんだったら・・・でも」

「私の5年間、いえ、今までの人生そのものを捨てることになるかもしれない」

「・・・」

 そこでまた沈黙が訪れる。
 小川の呼吸音だけが、重苦しく病室に響きわたっていた。


【21-小川と安倍】END
                          NEXT 【22-保田】
173鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/08 07:29 ID:+z/IJThJ

次回はチョッピリ予定を変更して保田編。っていうか内容的にはまとめなんですけど。
ちなみに日曜日朝の更新は作者のワクワク一日亡命体験ツアーのため休載させていただきます。
おわび。

次回更新は
日本vsロシヤ戦で日本が勝利>日曜夜に更新
日本vsロシヤ戦でロシヤが勝利>月曜朝に更新

まあ、どうでもいいんですけど。
サカーばかり観ていて思ったより執筆が進まない(w
作者からのお知らせでした。
174名無し募集中。。。:02/06/09 00:09 ID:e1D0/nTI
まあみんなサカ見てる時期だしね。
漏れも当然見るし。

( `.∀´)編楽しみに待ってるよ。
175鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/09 23:04 ID:3SrhER33

♪バンバラババンバンバヤレロヘ〜ウォバンバンヤレ〜ロォ(*)

(*)死ぬまでくり返し

注)KIRINの「私たちはワールドカップ日本代表を応援しています」の
  コマーシャルソング。

というわけで日本勝利おめでとう。めでたい。
予告通り珍しく夜更新してみる。まあいつもより6〜8時間早いだけだが。

♪バンバラババンバンバヤ(略
176鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/09 23:05 ID:3SrhER33

【T・E・N】 第22話 保田

 事件の被害の全容が明かになるのには、かなり時間がかかった。
 1週間後モーニング娘。メンバーの容態に関してのマスコミ発表は次の通り
だった。


辻希美・新垣理沙、死亡。
 ほぼ即死。

石川梨華、重傷。
矢口真里、軽傷。
 なお、石川・矢口に関しては、爆破の怪我のほかに観衆による暴行あり。

吉澤ひとみ、重体。
 全身火傷・裂傷・打撲など。

飯田圭織、重体。
 全身骨折・打撲多数。

加護亜依、重体。
 脊髄に損傷を受ける。

安倍なつみ、重傷。
 右足骨折。
 その他、精神的ショックが見受けられる。

後藤真希、軽傷。

小川麻琴、意識不明の昏睡状態がいまだに続く。

紺野あさ美、重傷。
 打撲と軽い火傷。

高橋愛、重傷。
 打撲・骨折など。

そして保田圭―――重傷。
 保田に関しては全身に深い傷を負った、としか発表されなかった。
177鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/09 23:06 ID:3SrhER33

 事件から1週間後に、辻と新垣の合同告別式が開かれた。
 会場までのファンの長蛇の列は、果てしなく続いた。
 しかし、その告別式に出席したモーニング娘。のメンバーは矢口と紺野のみ。
矢口と同じ軽傷のはずの後藤がなぜ出席しないのか、それでまた様々な憶測が
飛んだりもした。

 爆破による観客での直接の犠牲者はなし。
 しかし、事件発生直後の混乱で将棋倒し、乱闘などが発生。7人が死亡。
 100人前後が重軽傷を負い、逮捕者も最終的には20人前後に及んだ。

 そしてコンサートスタッフの犠牲者は6人。
 そのうちの一人はこのステージセットを組んだ責任者。
 目下この6人全員、もしくは何人かが事件に大きく関わったとみられている。
しかし、この時点では捜査中ということもあり、名前は伏せられた。
 実は5年たった現在でも、その真相は明らかになっていない。そもそもテロ
か、単なるひとりの狂った男の犯行かさえ明らかになっていない。
 しかし当時インターネットでその者たちの名前・素性はあっという間に公表
され、事件から数年経過した今でも元ファンの者からとみられる迫害をその肉
親は受けている。
178鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/09 23:08 ID:3SrhER33

 事件直後から報道は加熱する一方だった。
 コンサートの警備体制、スタッフ構成の解説。
 犯人の動機。政治的思想はそこに含まれているのか?
 テロなのか? なぜアイドルコンサートなのか?
 マニア・ストーカーが事件にからんでいないのか?
 まてまたモーニング娘。メンバー自身にもその嫌疑がかけられた。
 今までタブーとされてきた、メンバーのスキャンダル、芸能界での人間関係
までもが事件に絡んでいるのではないかと連日、新事実として明かされてきた。

 そんな喧騒から一刻も早く脱しようと、次々と芸能界からの引退を表明する
メンバー。
 石川、加護、紺野―――。

 そんな中で重傷を負っていたはずの保田が、入院している病院から忽然と姿
を消した。


【22-保田】END
                       NEXT 【23-安倍と矢口】
179名無し:02/06/09 23:21 ID:F/pog/bO
保田が行方不明なのか
あやしいな・・・
んなわけないか
180 ◆YmCQN0xs :02/06/10 01:06 ID:gZ2RVaRF
気になる気になる気になる。
181名無し:02/06/10 18:55 ID:vMhwSKPN
バンバラババン(略
私達はさしみさんを応援しています
ガンガレさしみ
182鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/11 05:43 ID:fh+5MWwf

【T・E・N】 第23話 安倍と矢口

 最初に、矢口のほうが安倍を見つけた。

 矢口はその日、久しぶりにお台場のテレビ局にいた。犯罪ドキュメンタリー
の番組に、コメンテーターとして出演するためである。
 その番組では一切「あのこと」に触れていないものの、あきらかに5年前の
武道館爆破事件に遭遇した矢口を意識した底意地の悪いキャスティングだ。

 矢口がその番組のリハーサルのために楽屋から出ると、慌ただしいテレビ局
の裏側の雑踏に紛れて、廊下の奧に立ち話をしている安倍がスターとしての輝
きを放っていた。マネージャーと付き人を従えて、プロデューサーとおぼしき
人物にプリントに印刷されている内容を指さしながら細かい確認作業をしてい
る。おそらく秋から始まる新ドラマの打ち合わせでもあるのだろう。


 安倍は、なぜか小川以外の元モーニング娘。メンバーとの接触を避けている
ように矢口は以前から感じていた。電話、手紙、それにメール・・・この時代
直接会わずとも、連絡をとる方法はいくらでもあるはずだ。
 ましてや安倍と矢口は同じ事務所に所属している。
183鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/11 05:44 ID:fh+5MWwf

 しかし矢口がその姿を直接目にすることは滅多になく、安倍は事務所の忘年
会などのイベントに出席することもなければ、意図的に自分とのスケジュール
をずらしているとの噂も小耳に挟んだ。
 だからといって、矢口から声をかける気も起こらなかった。矢口が事件から
1年の休養期間をおいて芸能界に復帰したときには、既に芸能人としての安倍
との格の差は歴然としていたからだ。それに加えて、あの態度。
 彼女のことが嫌いになってしまったわけではないが、自分とはすでに違うス
テージに立っているんだなァと矢口も割り切って考えるようになり、すっかり
安倍との関係は途絶えてしまった。

 事件後も芸能界に残ったモーニング娘。のメンバーは、当初の予定から大幅
に減って、たったの4人。
 吉澤ひとみ、安倍なつみ、高橋愛、そして矢口真里。
 その中で女優を中心にして活躍しているのは、安倍だけである。吉澤は「男
装」タレント、高橋はシンガー。
 バラエティや司会の仕事をあてこんでいた矢口だけが、いまだに曖昧なポジ
ションにいる。
184鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/11 05:45 ID:fh+5MWwf

 あれほど加入当時風当たりが強かった2期メンバー3人のなかで、いち早く
キャラを確立した矢口。しかし皮肉なことに、仲間がいなくなってからの彼女
は伸び悩んでいた。
 仕事が少ないからといって、あり余ったプライベートの時間も気を抜くわけ
にはいかない。
 武道館の事件から1年半後に、友人の男性タレントと一緒に食事していたと
ころを写真週刊誌に隠し撮りされた。2週間後に発売されたゴシップ誌の見出
しにはこう書かれていた。

「武道館爆破事件・メンバーで唯一無傷の矢口真里が男漁(あさ)りの日々」

 矢口は怒りを通り越して悲しくなってきた。
 なぜ無傷などとデリカシーのないことが書けるのだろうか、と。矢口自身も
他のメンバー同様に心に深い傷を負ったというのに。

  なぜあの事件の当事者メンバーの中で私だけがバッシングの対象になるの?
  怪我が一番軽かったから? そんなことのために?

 何もかもが裏目にでて、悩みぬく日々が続いた。あれほどまでの事件の直接
の被害者にもかかわらず、ダーティなイメージが払拭できない。
 矢口にとって、ぬかるみの上を歩くかのような5年弱の月日が経過した。
185鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/11 05:46 ID:fh+5MWwf

 そんななか届いた、飯田からの同窓会の通知。
 頭に血が昇った矢口は、それを読んだ瞬間に握りつぶして自室のゴミ箱に放
りつけた。丸まった紙は、ゴミ箱の縁に弾かれて、カサカサという音を立てな
がら床に転がった。
 ひとりぼっちの夜。
 あの頃は仲間がいた。楽しいことが、当たり前だと思っていた。
 苦しい事やつらい事があっても、くだらなくて笑えるメールを送って励まし
てくれる、心からの友達がいた。
 矢口はソファの上で、膝を抱えながら昔のことを思い出しているうちに涙が
止まらなくなってきた。どれくらいの時が流れたかは分からない。泣き疲れて
いつのまにか、矢口はそのまま眠りについていた。


  あの「おもいで」はこの胸の中に仕舞っておきたい。
  あまりにも美しい思い出だったから。
  それに足し算も引き算もしたくないってのが何故わからないの。


 その翌日。
 最初に矢口のほうが、安倍を見つけた。
186鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/11 05:51 ID:QWwf5gAA

 安倍もあの招待状を受け取ったのだろうか。

 もしかしたら安倍も、あんな同窓会に出席する気などないのかもしれない。
 過去に縛られて飛躍できない矢口。
 過去をバネに着実にステップアップしている安倍。
 対照的な二人だが、モーニング娘。の同窓会などという馬鹿げたことに参加
する気などないことでは共通しているかもしれない、と矢口は思う。なんとな
く事件後の安倍のよそよそしい態度を見ていると、そう思う。

 そんなことを考えていると、立ち話をしていた安倍に突然パッと目が合った。
 一瞬とまどいの表情を浮かべたが、女優らしい堂々とした歩き方で一歩一歩
近づいてくる。
 周囲のスタッフも矢口の存在に気付いて一瞬動きが止まり、その場の空気が
冷たく張りつめているのが伝わってくる。
 安倍は目の前までくると、立ち止まって丁寧なお辞儀をした。ひとつひとつ
の動作にメリハリがある。

「矢口さん、お久しぶりです」

「あ、ああ・・・久しぶ・・・」

 安倍が何の前触れもなく矢口の耳に口を近づけて、こうささやいた。

「同窓会、参加するよね?」

 矢口が安倍の声を直接聞いたのは、後になって考えてみるとあの最後の武道
館コンサート以来である。
 実に5年振りの会話。
 だが何だろう、この不思議な感触は。

 その時矢口が感じた違和感の正体が明らかになるのは、まだ先の話である。


【23-安倍と矢口】END
                       NEXT 【24-加護と吉澤】
187鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/11 06:02 ID:QWwf5gAA
>>179-181
ありがとー。がんがるよ。
みんなこんな荒唐無稽な小説読んでいてくれているんだねぇ。感謝。
よーしパパ紅ショウガたくさん乗せちゃうぞ〜。(金欠)

それにしてもここ最近、思わせぶりなオチばっかりだな。
次回、吉澤。約3週間ぶりに登場。
188鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/12 01:37 ID:XKm0w8bl

やあ、みんな元気?
先日からこの物語の舞台となる、つんく邸の間取りを作成中とありましたが
ようやく(まだ完成とはいかないまでも)形になったので、公開いたします。
ひとことで感想を言うならば

「やりすぎた」

どこをどうやりすぎたかは、ご覧になって各自の判断におまかせいたします。
文章力の無さはこういったビジュアルでカバーするしかないのです。
なんかミステリー小説みたいじゃないかと、思われるかもしれませんが
後半はそれっぽい展開になりますので、生暖かく見守ってくだされば
これ幸いに存じまする。
自分なりにメンバーの部屋割りを考えてみるのも面白いかもしれませんね。
(それ以前に同窓会に集まる面子がまだ判明していないけどな)

http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/

あ、小説のほうはちゃんと朝更新いたしますので。かしこ。
189名無しさん:02/06/12 03:47 ID:3ch7aiKf
おー、不動産屋の間取り表っぽくて良いですねぇ。
これからはソレを参考にしながら読むですよー。
190:02/06/12 06:27 ID:EHYNoxhV
>>188
地下はまだないのね。
191鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/12 07:12 ID:BDrxSobW

【T・E・N】 第24話 加護と吉澤

「あいぼお〜ん♪」

「よっすぃ〜☆」

 加護が石川に連れられて、裏庭から帰ってきた。居間への扉を開けるなり、
待ちかまえていたように吉澤が両手を広げて再会の抱擁をする。
 もっとも、加護は車椅子に座ったままので、吉澤が前かがみになって抱きし
めなければならないという石川から見ればやや不自然な形ではあったけれども。
 白いスーツに包まれた吉澤を見上げて、加護は無邪気な微笑みを浮かべる。

「ほんとに男になったんやねぇ」

「ホントは今日ぐらいは、あの頃を思い出してセクスィーよっすぃ〜路線でも
 良かったんだけどね」

「でもあの時からよっすぃーカッコ良かったもん」

「男になりたいとか言ってたもんねぇ〜」

 つんく邸にいる面子が、石川・加護・吉澤の3人になってパっと華が咲いた。
 それもそのはず、この3人―――正確には辻も含めた4人―――は同期加入
のメンバーとしてモーニング娘。の黄金期を共に支えた仲間同士である。
 次々と新しい話題が、爆竹のように弾けてゆく。

「俺たちの優しい先輩や、可愛い後輩たちはまだ来ていないわけ?」

「う〜ん、リーダーは遅れているけど・・・運転手がアノ子だから・・・」

 一同は顔を見合わせて苦笑した。

「わはははは、まあ事故とかで遅くなっているわけじゃなければいーや」
192鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/12 07:14 ID:BDrxSobW

 一段落ついて、吉澤は豪奢なソファに深く腰掛けた。
 エントランスホールから続くこの大広間は屋敷のほぼ中央部分にあたり、い
くつかの白地をベースにした細かい紋様の花柄のソファが並べられている。ど
うやら、ここでつんく♂は来客を迎えていたようだ。
 この空間には、ホテルだった頃のロビーの雰囲気がまだ多く残されている。
 正面には2階へ昇る階段、その両脇にはそれぞれ食堂と厨房へとつづく扉が
見える。
 ここも吹き抜けで、天井からぶら下がるシャンデリアと階段の踊り場の上に
構えている大きな古時計―――そして古時計の対面に位置する2階の壁に堂々
と貼られている油絵―――が目を引く。
 タタミ1畳分はあろうかというその巨大な油絵は、ひと目でリーダー作だと
分かる(のちに本人から100号サイズはあると言われたが、吉澤は絵の大き
さの単位をよく知らない)。


 暗いおどろおどろしい背景の中央に、純白の階段が見える。
 階段の上はわずかに開いた扉から、虹色の光が洩れている。
 それを取り囲むように13人の天使が、巨大なキャンパスを所せましと飛び
交っている。もちろん、その天使の顔は、モーニング娘。最後のメンバー達。
 この屋敷をつんくが購入したと同時期に、飯田が記念に贈ったものだった。

(皮肉な絵だな)

 と吉澤は思う。
 キャンパスの中央に描かれている、飯田曰く「未来」を意味しているという
階段は、まるであの爆破で木っ端微塵に砕け散った武道館コンサート・中央ス
テージの階段を思わせる。
 たしかにあの階段で娘。たちの「未来」は大きくねじ曲げられてしまった。
 そんな暗い連想をせざるを得ないこの絵を、なぜつんくは一番目立つこんな
場所に飾っておくのだろうか、と吉澤は顔をしかめる。
 いや分かっている。あんな事件さえ起こらなければ、そう連想することも無
いのにということも。
193鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/12 07:15 ID:BDrxSobW

 西洋アンティーク調の装飾がまぶしいテーブル。その上のピカピカに磨いた
灰皿の中には、吉澤が吸ったタバコの吸いがらがひとつだけポツンと寂しそう
に横たわっている。

「あと誰が来るの?」

 石川と加護が顔をしかめる。

「2通目の招待状読んだ?」

 ここで石川が言った招待状とは、モーニング娘。同窓会の開催のお知らせに
「出席する」と表明したメンバーのみに送付された、詳しい日程や内容が書か
れてある手紙のことだ。

「読んでなかったら来れないよぉ、日時と場所が分からないじゃん」

「それ以外は?」

「何か書いてあったっけ?」

 大ざっぱというか、そういうところはヘンに男らしい。
 この竹を割ったような性格があい変わらず吉澤なんだな、と石川は苦笑した。


【24-加護と吉澤】END
                       NEXT 【25-吉澤と加護】
194鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/12 07:23 ID:BDrxSobW

疲れたっすねぇ。慣れないことをすると。
ちなみにさしみは、別に建築関係の仕事は一切しておらず、いわば素人。
建築法上おかしいとか、バランスが悪いとか、こんな建物ありえないとか
その道のプロの方は思うかもしれません。まあ、たかが小説だし。

地下と3階は現在絶賛制作中なのだ。首とかアレとかを長くして待て!

http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
195鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/13 00:07 ID:ZbAqAjEe

いまヂオほうのカウンター見たら119だった。
まだうpしてから1日経っていないが、意外と見ている人いるんだね。
おぢさん4デシリットルぐらいちびったよ。

どんどん感想キボンヌ。っていうか何でもいいから書け、てめえら。

http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
196名無し。。。:02/06/13 00:41 ID:3iXx4BPO
今日初めてここに着たんですけど(・∀・)イイ!!
見取り図もなんか(・∀・)イイ!!
ということで、ガムバッテ下さい
197名無しさん:02/06/13 02:46 ID:yPR6mEFd
楽しく読んでます。
紺野の運転が下手って所がツボです。

ところで、何処の部位の刺身なんですか?
大トロ?中トロ?赤身?
198鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/13 07:25 ID:9IMC5Dhm

【T・E・N】 第25話 吉澤と加護

「自分の他に誰が来る?」

 吉澤のその質問に答える代わりとして、石川は居間の隅に行き陳列棚の下の
引き出しから何かを取り出した。
 それは数通の手紙だった。
 その手紙の束を無言で吉澤に差し出す石川。
 加護がフォローを入れる。

「やっぱり石黒さんとか・・・福田さんとかは、ほとんど周り知らない人ばっ
かりになるから来づらいみたい」

 吉澤は手紙をぱらぱら読んでみた。
 かつて同じモーニング娘。の看板を背負った者といっても、武道館の爆破事
件に直接遭遇した者とそれを外側から見ていた者とでは、やはりその意識の差
は大きいのだろう。
 遠回りだが、もうモーニング娘。にはあまり関わりたくない、という本音が
彼女らの文面には見え隠れしていた。
199鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/13 07:26 ID:9IMC5Dhm

 武道館爆破事件直後は被害を受けて大怪我をしたメンバーが大半だったこと
や、犯人・動機もはっきりしない状況の中で、自然とマスコミのターゲットは
モーニング娘。の元メンバーに向けられた。
 その有り様はここにいるメンバーは知りようもなかったが、事件をステージ
袖で目撃した、いわば傍観者の一人に過ぎないにもかかわらず、あたかも当事
者として報道され執拗に取材攻勢を受けた元メンバーたちは、かなり精神的に
疲弊したのは事実だった。
 所属事務所としても、事件の被害者である解散時のメンバー自身にマスコミ
が直接接触するのをシャットアウトし(その時は、まだ事件後も大いに使い道
があると事務所は思っていたらしい)意図的に元メンバーに関心がむかうよう
に仕向けた様子も見てとれた。
 彼女らも微妙な立場で、事件と向き合ってきたのだ。

 もう関わりたくない―――グループ脱退後も芸能界を続けていた(あるいは
復帰した)あの二人には、特に激しいマスコミの攻勢にさらされ、その気持ち
はもしかしたらここにいるメンバー以上に強いのかもしれない。
 手紙を流し読みしながら、吉澤が言う。

「じゃあ、市井さん・・中澤さんは・・・」

「来ません」
200鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/13 07:27 ID:9IMC5Dhm

 加護が鬼の首でも穫ったかのように、自信満々で宣言する。

「子育てに忙しい、杉本さんちの裕ちゃんも来れませ〜ん♪」

「そっかぁ・・・名字変わっちゃったんだよね・・・」

 ある手紙の封筒の裏には、しっかりと「杉本裕子」と書かれてあるのを見て、
あの歌のセリフが頭をよぎり吉澤は思わず吹き出しそうになった。

「この手紙のメンバーは来れないってこと?」

「うん、不参加の手紙ってこと」

「そうなると、けっきょく現役メンバー中心になっちゃうね・・・」

「よっすぃー、それヘンだよ。解散したのに現役ってのもね」

「う〜ん、じゃあ・・・あの事件にあったメンバーってこと?」

 吉澤がぽろりと漏らした台詞に、3人の間に張りつめた糸のような緊張が一
瞬走った。


【25-吉澤と加護】END
                       NEXT 【26-高橋と紺野】
201鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/13 07:36 ID:9IMC5Dhm
今日は時間なさめ。

>>196
ガムバリマス。
間取り図なんかは別になくても(・∀・)イイ!!のですが、
イメージつかみやすいかなぁ、と思って。
やるからにゃあとことんやる。

>>197
部位は・・・すんませんボケれませんでした。

時間がないので。

結婚できてよかったね、なかざーさん。(俺の脳内で)
202:02/06/13 16:18 ID:V3lZUdaE
「杉本」って・・・・「さんま」?魚と掛けたのか?
203鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/13 21:30 ID:hhFKtCTE

>>202
そこまで深読みされると、作者冥利につきるというか確かに
「杉本さん」はそのつもりで書いたのでした。サカナは関係ないが。
イヤだよなぁ。サカナを食べると頭が大きくなるからなぁ。(勘違い)

マグロの好きな部位はありませんが、好きな食べ方はオスシです。
タンポポ編集部です。
(ツッコミは各自にまかせる)
つまりこの物語の中の(旧姓・中澤)裕子の子供には
腹違いの高校生の義姉(モー娘。オーディション落選経験あり)が
いることになるわけですから、皮肉というかなんというか。

まあそんな裏設定というか、ちょっとした遊びはシナリオの筋とは
関係なく盛り込まれているわけなんです。一例をあげると
地の文にさり気なく(じゃなくて割と堂々と)、モー娘。関連の
曲名や歌詞があったりとかね。(第4話・第15話・第23話など)

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
204鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/14 07:40 ID:Ro5SMwQJ

【T・E・N】 第26話 高橋と紺野

(で、どーすんのよコレ・・・?)

 助手席で眉間にしわを寄せた飯田が、目で紺野に語りかける。
 地面にタイヤがめり込んでいるように見えるが、当然これはパンクして凹ん
でいるのである。
 紺野は何をするでもなく、それを茫然と眺めている。
 人里から隔離された山道で、ぽつんと取り残された少女たち。鳥の歌声、風
のささやき、木々のゆらめき・・・車のエンジンを止めて飯田とふたり取り残
されたこの世界では、より一層自然の息吹を意識できるし、紺野はそれが心地
よいとも感じ始めていた。
 飯田は、タイヤ交換は、と紺野に問いかけたが瞬間に

「したことないです」

 と首を振る。
 即答である。
 そもそもなぜ紺野が、こんな走り屋御用達のクルマを借りてきたのかさえ、
謎だった。
 車に関しては門外漢の飯田だが―――昔は「青いスポーツカーの男」なんて
曲も歌っていた飯田だったが―――派手なウイングや太いマフラー、黄金に輝
くアルミホィール。バンパーに無計画に貼られた、原色のケバケバしいステッ
カーの数々など、紺野の趣味ではないことだけはあきらかだ。
 初めてこの車で紺野に迎えにきてもらったときの違和感を、飯田は忘れない。
例えるならば、ステルス戦闘機のパイロットがテディベアの縫いぐるみでした、
のようなものだろうか。とにかく笑えた。
205鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/14 07:41 ID:Ro5SMwQJ

 いずれにしろ先ほどの紺野の運転の腕前を見る限り、彼女がペーパードライ
バーなことだけは確かだ。
 飯田は紺野に、普段は助手席センモンでしょ?と尋ねた。

 ヘヘヘ、とはにかんだ表情を見せる紺野。

(そうだよなぁ、紺野も別に男がいたっておかしくない年頃だよなぁ)

 飯田は考える。
 今、元モーニング娘。で恋愛をしている人は何人いるだろう、と。
 石川はあの事件の混乱に紛れて観客に輪姦され、その影響で男性恐怖症になっ
たと聞いている。
 男に性転換した吉澤の恋愛対象は、やはり女性なのだろうか。
 加護もあんな身体にならなければ、同い歳の紺野のように・・・。
 飯田自身にも、現時点でひとつ屋根の下で暮らしている男がいるが、決して
上手くいっているとはいえない。かろうじて結婚生活が順調なメンバーといえ
ば、初代リーダーぐらいだ。

 大学のボンボン同級生が彼氏だという紺野に驚いたが、考えてみれば普通に
恋愛しているメンバーに驚く自分こそが、この5年間奇妙で歪んだ世界に身を
沈めていたことを逆説的に飯田は痛感する。
206鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/14 07:43 ID:Ro5SMwQJ

 モーニング娘。は、あの爆破事件によって被害者となった。
 だが、被害者として保護されるはずの私たちが、有名人だったということだ
けで未だにその苦痛を様々な形で受けている。それは身体的なものもそうだし、
人間関係が劇的に変化したことによる精神的苦痛も計り知れない。
 しかも常に世間から監視され、時には疑惑の目を向けられ、それに耐えなけ
ればならない。
 モーニング娘。として輝いた5年間のあまりにも大きい代償として、元モー
ニング娘。たちは事件後の5年を過ごしてきたのだった。

「飯田さん! あれ!」

 紺野が、シートで夢想に耽っている飯田の肩を叩いた。
 山道の自分たちが今まで走ってきた道を指さす。

 そこには曲がりくねった山道を慎重にすすむ1台のスポーツカー。もしかし
たら、タイヤ交換を手伝ってもらえるかもしれない。
 紺野は飛び跳ねながら手を振った。

 減速をはじめたその車の運転手はサングラスをかけた女性。
 作り笑顔で手を振る紺野を見て、その女性は叫びにも似た声を張り上げる。

「紺野じゃない!」

「その声は・・・タカハシアイちゃん?」
207鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/14 07:44 ID:Ro5SMwQJ

 サングラスをとると例の「ビックリ」した高橋愛のなつかしい笑顔がそこに
あった。

「〜〜〜〜!!!」

 言葉にならない喜びをあらわすために、高橋は器用に運転席の窓から身を乗
り出して、紺野を抱きしめる。
 助手席の飯田も、やがて目頭が熱くなるのを抑えることができなくなってい
た。

 結局、紺野と飯田はパンクした車をそのまま乗り捨てて、高橋の車に乗って
屋敷まで向かうことにした。

「遅れ気味だったし、石川さん心配しているよぉ、きっと」

 そう紺野が口にした矢先―――最初の曲がり道を越えた向こうに、大きな洋
館が視界に飛び込んできたので一同は力なく笑うしかなかった。


【26-高橋と紺野】END
                       NEXT 【27-吉澤と加護】
208ごちゃまぜ愛:02/06/14 09:57 ID:3V1+4LDE
はじめて読んだのですがマジで面白いです!
これからもがんばってくださいね(^^エロが無い小説もいいですねぇ…
209名無し:02/06/14 12:19 ID:j+IBPuQW
ついに高橋登場だ
210オモシロ:02/06/14 17:56 ID:YUXEO6uX
期待age
211名無しさん:02/06/14 20:18 ID:NjJCKxP9
>>195
>いまヂオほうのカウンター見たら119だった。
すまん、おれ一人で4回ほど見た。
>>201
>間取り図なんかは別になくても(・∀・)イイ!!のですが、
こういうの大好きです。
212鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/15 07:46 ID:SLMrd1V9

【T・E・N】 第27話 吉澤と加護

「私はね、あの・・・事件のことが話題に出るのを覚悟の上でこの同窓会に参
 加しようと思ったの」

 吉澤はこの屋敷に来てから2本目のマルボロに火をつけた。

「あれ?
 なんだか調子狂うなぁ、いつもは自分のことオレって言っているのに」

「いいんじゃない? 女の子よっすぃーで」

 クスクス、と口に手を当てながら石川は笑う。
 アイドルを卒業して5年経った今でもブリブリの女の子・石川に言われると、
吉澤は意地でも男キャラを通したい気分になってきた。

「俺思ったんだけどさぁ、今日はいい機会だと思う」

 吉澤の固い決意のようなものがその口調から伝わってきたので、リラックス
していままで話をしていたほかの二人も、きゅっと顔を引き締めた。
213鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/15 07:48 ID:SLMrd1V9

「誰しもが、あの事件で傷ついた。程度の差はあるけれど・・・だけど、どこ
 かでフッ切れないといけないと思うのよね。
 俺も正直、恐かったんだよ、今日来るの。っていうか、今でも恐い。あの時
 のことが蘇ってくるような気がして」

 改めて言われてみればそうかもしれない、と石川は思った。
 例えば、事件後のこの5年間も友達として交流のある石川はあまり違和感を
感じないが、思えば今日集まるメンバーのほとんどは加護が車椅子に乗ってい
る姿を初めて見るはずだ。
 目にみえる形で、爆破事件の後遺症を引きずっている加護の姿を。
 ほかのメンバーはミニモニ。で激しいダンスを踊っていたころの加護の姿の
ほうが、やはり強く印象に残っているはず。
 吉澤も表情にこそ出さなかったが、最初にこの屋敷での加護を見たとき、過
去の惨劇という事実が重く肩にのしかかってきたのではないか。
 現役の頃と、現在の彼女とのギャップ―――それは石川は意識はしていない
つもりだが、もしかしたら自分で知らず知らずのうちに抑制して意識しないよ
うにしていただけなのかもしれない。

「でもイイ思い出も悪い思い出も・・・あの時のメンバー同士が話し合うこと
 によってなんか毒が抜けそうな気がするんだよ。
 自分で言っていてよく分からないけど」

「分かるよ」

 石川も、この同窓会に―――単なる懐古主義だけで終わるのではなく―――
唯一未来につながる希望を見いだせるとしたら、そこだと思った。
 吉澤の説明は相変わらず言葉足らずだが、気持ちは十分伝わってきた。
214鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/15 07:49 ID:SLMrd1V9

 傷の舐め合い? 確かにそうかもしれない。
 でも、周囲の人間がいくら励ましてくれたって、それは「同情」以外の何者
でもない。あの事件に遭遇した、そして何年も同じ苦労を分かち合った仲間で
ないと「同情」の向こうにある「何か」を理解できないのではないか。それが、
今日集まるメンバーたちにとって立ち直るきっかけになってくれれば―――

 でも加護は・・・。

 うつむいたままだ。
 まだ迷いがあるのだろうか。
 でも本人も分かっているはずだ。あの事件の時のメンバーが集まれば決して
その話からは逃れることはできない。
 辻の思い出だって。
 後藤との思い出だって。

「ピンポ〜ン♪」

 そこで玄関のチャイムが鳴った。
 一同、顔を見合わせた。

「キタ―――――――――!!」

 加護の表情が急に明るくなって、叫んだ。
 車椅子のハンドリムを元気一杯に回して玄関に向かう。

 それを見ながらあんがい杞憂に終わるのかもしれない、と石川は安堵の溜息
を漏らした。


【27-吉澤と加護】END
                       NEXT 【28-飯田と吉澤】
215鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/15 07:58 ID:SLMrd1V9

あー最近更新遅くてスマンヌ。
このところ朝になってギリギリ手直しするパターンが増えてきたのです。
それでもアップしたのを読んでみて、ああここも修正を加えたいなぁとか
いろいろ後悔しまくったり。
まあ修正したのは、いずれココ↓に載せるつもり。(話の筋は変えない)

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/

>>208
どもっす。
エロも「グチョ!」とか「ズニュ!」とか「あっああっんぐ!」とか
「ニュル!」とか「ちゅぱちゅぱ・・・」とか「モッチャン・・・」
とかそんな過激なのはありませんが、ソフトHな場面はそのうち
ありますので期待していただきたい。
カップリングは秘密。

>>211
すまん。
俺も嬉しくなって20回ぐらい(スキップしながら)再読み込みボタンを
押した。
間取り図はドアを描き忘れたり、食堂から厨房に向かうドアが塞がれて
いたりとミスが目立つのでそのうち修正いたします。
216:02/06/15 09:20 ID:4wz54Qys
>>215
漏れもF5アタックかけたからなあ(オイ
217名無し募集中。。。:02/06/16 05:06 ID:vUcp4GOf
>>215
        ∧∧  / ̄ ̄
 〜  ̄ ̄( ゚Д゚)<  ゴラァ!
  UU  ̄ U U  \__
218鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/16 07:32 ID:kFLdcMtV

【T・E・N】 第28話 飯田と吉澤

 リーダーご一行様が到着して、さらに賑やかになった。

「ちょっとぉ紺野! たった一泊なのに何なのよその荷物の量は!」

 油断したら引きずってしまいそうなほど中身の詰まった旅行用のボストンバッ
クを肩からぶら下げて、身体全体をナナメにしながら玄関をくぐり抜けてきた
紺野。それを見た吉澤が、思わず叫んだのだった。

「修学旅行と勘違いしていない?」

 目を丸くした石川に、高橋がすかさず告げ口する。

「しかも紺野の荷物の中身って、お菓子とか食べ物ばかりなんですよォ〜」

 実家から送ってもらった北海道のお土産もあるのに、とちょっとふくれっ面
の紺野が負けじと飯田のカバンの中身についても言及する。

「いや〜でもリーダーの荷物もなかなかですよ〜、さっき中を見たら真っ赤な
 ドレスとか入っていたし〜」

「もー同窓会と舞踏会を間違えているんじゃないリーダーは〜相変わらず電波
 交信しているんじゃなぁ〜い〜」

 飯田は怪訝そうな顔をしてスケッチブックに何か書き込み、みんなの前に殴
り書きの文字を掲げた。

“みんなきこえてないと思っているようだけど、
 口のうごきを見れば、だいたいわかるんだぞ”
219鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/16 07:32 ID:kFLdcMtV

吉澤は「え?」という表情で、石川と見合わせた。
仏調面で飯田はさらに書き込む。

“だれがデンパだって? よっすぃー”

 加護は腹を抱えて笑っている。
 高橋がそのどさくさに紛れて言う。

「どうせなら仮装大会にしませんか、もう。
 吉澤さんや石川さんもコスプレしてますし」

「「これが普段着なの!!」」

 吉澤と石川は、声を揃える。

「一番動きやすいんですよ〜この服が〜」

 とメイド服のスカートの端を持ちながら弁明する石川。

(よかった・・・本当に・・・)

 ほとんどのメンバーが5年振りの―――あの事件以来初めての―――再会に
もかかわらず、意外にもあの頃の楽屋の雰囲気となんら変わらず笑いが絶えな
いことに石川も吉澤も胸をなで下ろした。リーダーの目にも安堵の表情がみて
とれる。

 その時だった。
 ボーン、ボーンと居間の古時計の鐘が二回、大きく鳴った。
 石川と加護と飯田以外の全員がその予想以上の音の大きさにビクっとした。

 立ち話に水を差された形になった元モーニング娘。たちだったが、せっかく
だからそれぞれの荷物をまず部屋に運んでからにしよう、ということになった。
 部屋の数は十分足りている。
220鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/16 07:34 ID:kFLdcMtV

 エントランスホールの奧の扉を開くと、吉澤たちが今いる大広間。この屋敷
は上から見るとそこを中心に十字の形になっている。奧は食堂と厨房があり、
その奧には石川が加護を探していた庭園に通じる裏口。
 エントランスと食堂が居間を中心に下と上だとしたら、客室は屋敷全体から
見ると右と左にあたる。
 1階はつんく♂の部屋と広めの客室、2階は一人部屋が中心でそれぞれ部屋
にはユニットバスがついている。1階の食堂に向かって左側は全てつんく♂の
生活スペースになっており、主人が不在のため鍵がかけられている。
 石川がつんく♂が出発する前に中を見させてもらったが、パソコンとダブル
ベッドのある寝室・CDやレコードで埋め尽くされた書斎、そして楽器や家具・
雑誌にビデオなどが乱雑に押し込まれた倉庫などがあった。この屋敷で唯一の
私室であるものの、特に何の変哲もない部屋ではあった。
 つんく♂が住んでいた1階スペース一帯の「開かずの間」に通じる扉は二つ
ある。居間に面した扉と、裏口。そこを開ける鍵を含め、全ての部屋の鍵束は
石川が持っている。しかし、用も無いのでここに来てから一度も西棟1階の鍵
を彼女は使ってはいない。あるいはつんく♂のプライバシーを覗くという、人
としての当たり前の後ろめたさがあるからだろう。

 1階の広間の右側の扉を開くと短い廊下の左右に一つづつ扉があり、そのう
ちの1室は広めの客室になっている。
 1階で唯一の客室であり、ここで石川と加護は1週間寝泊まりしていた。奧
を抜けるとバルコニーがあり、そこから裏庭の庭園に行くこともできる(ただ
し段差があるため、車椅子の加護はいつも正面玄関から回り道をして裏庭に向
かっていた)。ベッドが二つあり、2階のほかの客室と比較しても若干広めの
部屋である。車椅子でも動きやすいようにと、部屋の中は極力ソファなどの家
財は置いていない。
 もちろん引き続き、その部屋を加護と石川が使う。なぜなら、加護が車椅子
の生活である以上、必然的に寝室は1階であり、つんく♂の部屋以外で1階の
客室はほかにはない。
221鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/16 07:35 ID:kFLdcMtV

 2階の客室は全部で7部屋。
 少し大きめの部屋が1部屋と一人部屋が6部屋。
 ホテル時代の名残でルームナンバーがそれぞれ割り当てられているが、素気
ないとのことで石川は勝手に部屋のドアのナンバープレートの上に愛称を書い
たシールを貼り付けた。
 その愛称はモーニング娘。時代の歌にちなんでいる。

<1階>
101号室・Love & Piace !

<2階・東棟>
201号室・Hold on me
202号室・SummerNight
203号室・Alive

<2階・西棟>
205号室・Revolution
206号室・Moonlight
207号室・Dance Site
206号室・Memories

「ええっと、それじゃあ一応ドアに名前の紙が貼り付けてあるんですけど、部
 屋まで案内しますよ〜。まず上への階段なんですが、この家はエントランス
 ホール、いま皆さんがいる居間、それに食堂の3つにあって・・・」

 そう言いながらツアーコンダクターのような石川先導のもと、ぞろぞろとメ
ンバーそれぞれの部屋に向かうのだった。


【28-飯田と吉澤】END
                       NEXT 【29-石川と吉澤】
222鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/16 07:38 ID:cAiYbWfq
作者注)部屋割は下記参照

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
223鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/16 07:45 ID:cAiYbWfq

みなさん悲しいお知らせがあります。

作者(さしみ)、ついさっき(早朝6時ごろ)

「ギックリ腰」

になりますた。
うぐぐ。パソコンの前に立ってこうしてキーボード打つのも鬱(シャレ)
なくらい、痛い。腰が痛い。痛い。かつて体験したことない痛み。
うおー。
うおー。
うおー。(コピペ使ってません)

てなくらい痛い。
今日の第28話も推敲もほどほどに錯乱状態でアップしたので
いつものことだが、変な部分があるやもしれませぬ。
許していただきたいよ。

とにかく椅子に座れない。悶絶。
ということで(ノートパソ欲しいよ)、今後更新が一時的に
滞ることがあるかもしれませぬ。約1ヶ月順調に連載してきたのに。
ああ、なんか今弱気だ。とてつもなく。っていうか痛いよ。
イタタタタ。

ということで、なんかアレだけど謝っておきます。ゴメン。
224名無し:02/06/16 14:39 ID:+7vdEdhf
ギックリ腰ですか
自分もなったことありますよ
無理なさらずお大事に
225ぃんgむ:02/06/16 17:44 ID:phvNcsd8
お大事に。
ろりあえず整形外科のキチンとした病院
に行って検査してもらったほうがよいとおもいます。
整体や鍼灸、その他の民間療法は、その後、必要に
応じて考えればよろしいのではないでしょうか。

早い本復を祈念いたします。
回復優先ですよ。お大事にしてください。
227鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/17 00:06 ID:pKYAHJMA

>>224-226
ご心配おかけして申し訳。&優しいお言葉ありがとうございます。
今日は本業が休みでしたので、一日静養いたしますた。
あんまり具合は芳しくありませぬが、明日の更新はするよ。
この30話前後は物語の中でもキモにあたる部分なので。

あと>>221の部屋割りで一部訂正。

<1階>
101号室・Love & Piace !

<2階・東棟>
201号室・Hold on me
202号室・Endless Summer Night
203号室・Alive

<2階・西棟>
205号室・Revolution
206号室・Moonlight
207号室・Dance Site
208号室・Memories

202号室の愛称の変更と206号室がふたつあるので訂正します。
ま、これは大したことないんですが。それでは。
228鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/17 06:05 ID:3FWGUa0M

【T・E・N】 第29話 石川と吉澤

「どうしたんだよ、この足の傷は!」

 石川は居間にあるこの屋敷で一番大きい階段から、みんなを案内した。加護
は「着替えてくる」と言い残して自分の部屋(101号室)に戻っていった。
 この階段は、踊り場で右と左に階段が分かれている。右にいけば東棟の客室
(201〜203号室)、左に行けば西棟(205〜208号室)への近道と
なる。
 2階で一番大きくて唯一バルコニーのある客室である201号室を陣取るの
は、リーダー・飯田。
 202号室はまだ到着していない安倍、203号室には矢口といったように、
東棟の客室はモーニング娘。の第1〜2期メンバーで固める。
 西棟の部屋にはそれ以外のメンバーが割り当ててあるのだが、そこへ向かう
途中―――正確には階段をのぼる石川を下から見上げたときに―――吉澤は、
彼女の華奢な足に切りたての細かい生キズがいくつもあるのに気がついた。
 それぞれのメンバーの部屋を案内するという任務を終えて1階に戻ろうとす
る石川を呼び止め、吉澤は自分の部屋である206号室に招き入れた。
 部屋に入るなり吉澤はベッドに石川を座らせ、丹念にその脚を調べて発した
言葉がそれだった。

 見方によっては恋人同士が愛撫しているようにも見受けられる淫靡な光景だ
が、かつての二人が同じグループに所属する「女同士」だったことを考えると、
いやらしさはいくらか緩和される。
 石川は申し訳なさそうに、言い訳する。
229鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/17 06:06 ID:3FWGUa0M

「あのお、さっきぃ、山の草むらにいったんだけど・・・」

「おいおい、こんなカッコで山菜でも採りにいったのかよ」

「いや、そうじゃなくて・・・
 山にあの・・・のの・・・辻ちゃんが・・・いたの・・・」

「はァ!?」

 最後のほうは、つぶやくような小さな声だったため吉澤は聞き取れなかった。
 石川は開き直って、さっき裏庭であったことを話した。

 白いワンピースの辻。
 石川が追いかける。
 さらに深い山奥へと逃げて見失ったこと。

 笑い飛ばされるかもしれないと危惧したが、吉澤は冷静で真剣に耳を傾けて
くれたことが石川にとっては意外だった。眉間に皺を寄せて床に視線を落とし
て暫く考え込んでいた吉澤だったが、静かに石川の目を見据えて、確認するよ
うに問いかけてきた。

「石川って、オバケとか信じる?」

「もしかしてよっすぃーは、あれが幽霊とでもいう気?
 実際みたことないからそんなこと言うわけ?」

 石川がこれほどまで取り乱したのを、吉澤は初めて見た。

「いや、そういうわけじゃ・・・」

「本当にいたんだよ! なにかを訴えようとしていたんだよ!」

「俺も見たんだ」

「あれは間違いなくののだったって・・・え?」
230鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/17 06:07 ID:3FWGUa0M

 吉澤の思い詰めた表情から発せられた言葉に、石川はあっけにとられた。
 この話を聞いて吉澤は、自分がこの屋敷に到着して最初に目撃した白い布の
顔は確信に変わった。

 間違いなくあれは辻希美だった。

 吉澤は洋館の誰もいないはずの2階に横切る白い影を目撃し、それは幽霊に
見えた。
 石川は深い森の闇に逃げてゆく少女の姿をみて、それを妖精や天使のように
感じたという。
 発見した状況が違うだけで、印象はかなり違うが紛れもなくそれは同じ辻の
姿だった。

「石川、このことはオレたちだけ・・・」

「わかんない。でも加護ももしかしたら、言わないだけで見ているのかもしれ
 ない。ここに来てもう1週間だもの」

「・・・何だと思う?」

「私は、霊とか幻覚とかじゃないと思う」

 しかしあの5年前の武道館爆破事件で、確かに辻はその短い生涯に終止符を
打ったはず。
 誰かのイタズラ・・・?
 そんなことをして何の意味があるのか。
 加護が足が不自由でなければそんな悪戯もありえなくもないが、それにしたっ
て趣味の悪い冗談だ。二人の間にもやもやとした黒い霧のようなものが発生し
た雰囲気に包まれる。

 今日は、大切な日だ。
 無闇に他のメンバーを不安にさせたくない。
 とりあえず慎重に二人で話し合った結果、この件に関してはここだけの秘密
にすることで落ちついた。
231鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/17 06:09 ID:3FWGUa0M

 ふーっ、と大きな溜息をついたあと吉澤は提案する。

「でもこのキズだらけの足は目立つからパンツにしない?」

「えーっと、ハイソックスがあるから、それでごまかすよ」

「・・・たしかにこの美脚のラインを、パンツやロングスカートで隠すのは、
 もったいない気がする」

「うふふ、よっすぃーったら男の子みたいなこと言うんだね」

 顎を指でさすりながら微笑を浮かべていた吉澤だったが、そう言われてハッ
とする。

(そうだ。いま石川を一瞬だけど「男の視線」で見ていたような気がする)

 ここに来たら「あの頃の自分」に染まって、女になってしまう気がした。
 そして吉澤もそれでいい、と思っていた。ここにいるのはモーニング娘。の
仲間だけ。一夜限りの女の子。
 だが石川を見ていると、自分の中でこの4年の間に芽生えた「男」独特の感
情が静かに沸き上がってくるのを吉澤は感じた。

「なあ、もう一度脚見せてみな」
232鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/17 06:11 ID:3FWGUa0M

 なぜそう言ってしまったのか、吉澤自身もよく分からない。
 ただハッキリしていることは、今度は傷を見るためではなく純粋に石川の脚
に注視するために、そう言ったということだ。
 なんだかんだ、アイドルだった頃は激しいダンスやそのレッスンなどで運動
量は相当なものだった。
 歌手活動をやめてからというもの、まあストレスもあったのだろうが吉澤は
かなり余計な脂肪が増えた。それを元に戻すために相当な努力をしたものだが、
いま石川の足を見てその引き締まり具合に驚いた。
 特に足首。そこから流れるような流線を描いている綺麗なふくらはぎ、艶や
かな膝にへと指先を滑り込ませ・・・

「あはは、ねぇよっすぃー、くすぐったいよぉ!」

「ああ、ごめん」

 今の姿から利発な石川はあまり想像しにくいが、このシェイプアップした脚
を見ると、引退してから何かスポーツでもやっているのだろうか。水泳とか。
テニスとか。エアロビとか。いや絶対やっているはずだ。
 吉澤の疑問がふと、口から漏れた。

「ねえ、なんか・・・石川って運動するの?」

「しないよ♪」

 石川はニッコリほほえみを浮かべ、そう言った。


【29-石川と吉澤】END
                       NEXT 【30-KAOとTEN】
233名無し募集中。。。:02/06/18 03:14 ID:1XXiAlT5
いよいよ話が動き出しましたね。
早く事件が起こって欲しいような欲しくないような…
234鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/18 07:03 ID:wbPBdegF

【T・E・N】 第30話 KAOとTEN

 重そうな扉が拍子抜けするほど程簡単に開いて中を覗いてみると、暗闇の中
にディスプレイだけが青白く光っていた。

 扉を静かに閉めて、右手で室内のスイッチを探す。
 プラスチックの凹凸を捉えて、カチッと確かな手応えとともに何かを切り替
えた感触が伝わってきた。

 しかし依然として室内は、カーペットとホコリの入り交じった臭気と深い闇
に包まれている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> KAOさん、電気ならつきませんよ(09.23-14:46:13)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 暗黒と静寂の中で、パソコンのディスプレイに文字が浮かび上がる。
 わずかに響くのは、パソコンの本体のハードディスクが摩擦する音。
 画面の中ではブラウザが立ち上がっており、その少女にとって見慣れた赤茶
けた背景色のチャットルームへと繋がっている。
235鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/18 07:04 ID:wbPBdegF

 暗闇の中での唯一の光源であるその長方形を少女はただ、うつろな目で眺め
立ち尽くしていた。が、我に返ってたった今表示された文字列が自分を呼びか
けていると理解し、静かだが力強い手つきで慣れないキーボードに指を走らせ
た。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
<KAOさんが入室しました(09.23-14:46:51)>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> おつかれさま。うまくいっているようね(09.23-14:47:33)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■KAO> いちおうお膳立てはしてあげたわ。約束を忘れていないでしょう
ね(09.23-14:48:29)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> あのこに会わせろってことでしょ。あたりまえじゃない
(09.23-14:49:04)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■KAO> でも辻はあのひ氏んだはずでしょ(09.23-14:49:41)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> じゃああなたは辻の死体をみたっていうの?(09.23-14:49:41)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ・・・・・。
 KAOと入力した少女は、キーボードの上に乗せている手が止まった。
 いつもこうだ。
 この―――TENと名乗る人物のやけに自身に満ち溢れた語り口調。
236鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/18 07:05 ID:wbPBdegF

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> じつは辻もう屋敷に来ているから(09.23-14:51:18)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■KAO> どこ?おしえt(09.23-14:51:43)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> あせらないの。まずは今まで打ち合わせしたとおりにするの。辻
にあうのはそれから(09.23-14:52:30)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■KAO> あなたはいったいなにものなの?なぜ辻のひみつをしっているの
?(09.23-14:53:07)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> よけいなことはさぐらなくていいの。それよりわすれないで。
(09.23-14:53:58)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■TEN> わたしはいつでもあなたをみている。すこしでもよけいなことを
したら辻のいのちはないからね。(09.23-14:54:35)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 KAOはこの一連のやりとりを続けているうちに、この5年間累積した

(なぜ私をこれほどまでに苦しめるの?)

 という想いが弾けて、目に一杯の涙を潤ませた。
237鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/18 07:06 ID:wbPBdegF

 約5年間も、こういったことが続いている。そして、徐々にエスカレートし
てくるTENの不気味な要求。それに対してあまりにも無力な自分。
 辻のためとはいえ、果たしてそんなことが許されるのだろうか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
<TENさんは退室しました(09.23-14:55:11)>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 画面に浮かび上がる文字。
 この5年間、メールやチャットなどNETを介して彼女に接触してくる謎の
人物TEN。彼(彼女?)は驚くべき事実を次々と明かしてきた。
 そして何よりも自分自身が消してしまいたい過去を、その人は知っていた。

(あなたは一体何者なの・・・?)

 秘密の交流を続けるうちに、次第に高圧的な態度をTENはとるようになっ
てきた。それに屈して、いま自分は取り返しのつかない行為に手を染めようと
している。
 自分だってこの5年間いろいろあった。我ながら「強く」なったと思う。
 多少のことでは動じない自信もある。が―――これから起こる、いや「起こ
す」ことに対して、緊張の糸が切れて暴走してしまう可能性もまた否定できな
い。KAOはポケットの中に忍ばせている安定剤を2錠、口の中に放り投げた。

  だが、すべてはもう動き出している―――時間は止められない。
  5年前の武道館のときのように。


【30-KAOとTEN】END
                       NEXT 【31-紺野と高橋】
238鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/18 07:18 ID:wbPBdegF
ということで、まあ、この小説はこの二人が誰なのか、というのが
物語のキモにあたるわけなんです。

あらかじめ作者からハッキリ言っておきますが、二重人格で実はひとりだった、
というオチはないですから(w
ちゃんとKAOとTENで二人いますよ。
たぶん二人のうちひとりは簡単にほとんどの人は見抜けると思うんです。
でもあとの一人はなかなか分からないと思います。
分かっても、二人を逆に考えてしまう人もいるかもしれません。

そんな大きな謎から小さな謎までいろいろあるわけなんです。
後藤と保田は一体どーなったんだ、とか。

ますます見逃せないネ☆(作者自ら煽る)
しかし腰は痛い。
239名無し募集中。。。 :02/06/18 11:22 ID:irFiH2l0
おお、チャットにちゃんと時間が書いてある。
細かいですねー。
早く続きが読みたいっす。

私も前にギックリしましたよ。つらいっすよねえ。
ちなみに接骨院に行って電気で直してもらいました。
ビリビリ。
240:02/06/18 14:29 ID:Xk5NT61A
つーか後藤の誕生日に何やってんだよ(w
241名無し募集中。。。 :02/06/18 14:30 ID:bxTiATZO
腰が痛いでしょうから無理せず続けてください。好きです。
242鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/18 23:20 ID:Hnq6FXRy
THE腰痛。

>>239
日付ですが、秋分の日である。それだけである。
設定的には今から6年後のお話である。(つまり1年後に解散すると)
ちなみに、つい最近、5〜6年後の9月23日の月の満ち欠けを調べた。
満月ではありませんでした。

というわけで、第0話。
2行目からいきなり矛盾。

>>240
で、後藤の誕生日でもある。
気付かれましたか。

>>241
なんか、これは、愛の告白と受け取ってよろしいのでしょうか。
243鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/19 07:31 ID:vCgF1iw3

【T・E・N】 第31話 紺野と高橋

 そのドアには、黒のマジックで「こんの」と書かれた紙がセロテープで張ら
れていた。
 赤茶色の重々しい扉にはいかにも不釣り合いだったので、紺野はいったん部
屋に入ったあと廊下に誰もいないのを見計らって、すぐにその紙をはがした。
 それが取り除かれると、今度は扉のプレートに「Dance Site」と
書かれたシールが貼られているのを発見し、紺野は吹き出しそうになった。

(私がダンス・・・?)

 気を取り直して部屋に入ってまず目についたのは、机の上のしなやかなアウ
ガルテン製の花瓶に差してある一輪のコーネリア。四季咲きのソフトピンクの
薔薇だが、初秋はさらに赤が強くなることでも知られる花。石川が用意したの
だろう。風に乗ってその香りが鼻腔をくすぐり、視覚的にも嗅覚的にも心を落
ちつかせるには十分だった。
 ビジネスホテルのシングルルームぐらいの(紺野は受験旅行のときに使用し
たっきりだが)狭い室内。
 メッソニエ(高名な装飾家)の雰囲気を醸し出している絨毯や、アラブ様式
の幾何学的紋様が施されている室内スタンドが、素朴でシンプルな構造の室内
にあって凛とした高級感を演出している。
 大きめの荷物をクローゼットに放り投げ、シングルベッドにとりあえず大の
字で飛び込んで長時間運転の疲れを癒そうとした。
 目を閉じ聴覚を研ぎすませる。風の音。木々がサラサラと擦れる音。時おり
聞こえてくる鳥の声。
 そのまま眠ってしまいそうだ。眠ってしまいたい。
 そんな紺野の想いとは裏腹に、静寂を破るノックの音。
244鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/19 07:32 ID:vCgF1iw3

 上半身だけ起こして面倒くさそうなのがバレないように「どうぞ」と促すと、
高橋が遠慮がちに「おじゃましま〜す」と入室してきた。
 その表情は、どこか冴えない。
 窓際の椅子にゆっくりと腰掛けた。紺野もベッドの上であぐらをかく。

「愛ちゃんの・・・205号室は何って言うんだっけ?」

「“Revolution”。
 多分“恋愛レボリューション21”のことだと思う」

「はぁ〜。なんで私は“恋のダンスサイト”なんだろう〜?
 吉澤さんが“ムーンライト”だったり、矢口さんが“アライヴ”の部屋なの
 は分かるんだけどぉ」

 紺野はがっくりとうなだれる。ダンスで誉められたことなんてないのにぃ、
とボヤきながら。
 高橋はそれを見て、そんなこと言ったら歌で誉められたりしたこともないし、
紺野にふさわしい歌の名前なんて無いんじゃあ・・・? と、5年前だったら
意地悪く突っ込んだかもしれない。

(でもね、今は違う)
245鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/19 07:33 ID:vCgF1iw3

 落ちこぼれ呼ばわりされながらも一生懸命自分の姿勢を崩さないで努力し続
けていた、あの頃の紺野の気持ちが今なら分かる。
 当時高橋は、少なからず同期メンバーの中ではナンバーワンの実力者という
自負があった。それに対して紺野はどんなに頑張っても、歌やダンスの分野で
は高橋より前に出ることはなかった。
 悪いとは思いつつも、どこか高橋の目にはそれが滑稽に映った。

(じゃあ逆に、今のわたしの姿は紺野にはどう映っているのだろう)

 それに昔のことを思い出すと―――やはりどうしても、あの二人の姿が脳裡
をよぎる。

「同期は私たちだけなんやよね・・・」

 新垣はあの爆破で帰らぬ人となった。
 小川は未だに意識が戻らず、植物人間の状態が続いている。

 それをふまえた上で、あらためて部屋に高橋と二人だけでいる状況を紺野は
想う。

「よく、ホテルの部屋で4人で話し合いましたよね・・・」

 5期メンバーが加入してからはCDの売り上げが伸び悩んだり、レギュラー
番組も打ち切られたり低視聴率であえいだりと、誰も先輩は口にしなかったが
5期メンバーにその責があるのではないかと、自分たちでさえ感じ始めていた。
 5期メンバー同士4人でホテルの部屋に集まっては、悩みを打ち明けあった
りもした。
 一番貧乏クジを引いたという意識が、ないわけではない。
 そんな苦しい境遇と時代を一丸となって乗り切ろうとした5期の4人も、今
では2人。
246鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/19 07:35 ID:vCgF1iw3

 高橋が解散後ソロシンガーの道を選択したときは、周囲のかなり強い反対が
あったと紺野は聞いている。あんな事件があったから、なおさらその風当たり
は強かったであろうと推測できる。
 もちろん芸能界を引退し、地元北海道に帰ったあとも紺野はかつての仲間の
ソロCDが発売されるたびに、買ったり本人に応援のメールを送ったりと応援
はし続けていたが、セールス的にはあまり振るわなかった。最初の1、2年は
元モーニング娘。ということもあり歌番組にもよく出演したが、最近はそれも
あまりなく、現在では全国のFMラジオ局を回っての地道なPR活動を続けて
いる。
 なぜそこまでかたくなにシンガーにこだわるのか、正直なところ紺野には理
解できなかった。滑稽ですらあると感じていた。

「あたし、5期メンバーが足ひっぱってるって言われるの我慢できんかってん」

 強い力を秘めた目で高橋が言う。
 加入して不完全燃焼のまま解散を迎えた5期メンバー。
 追い打ちをかけるように、最後のコンサートでの爆破事件。
 新垣との別れ。
 小川を襲った悲劇。
 紺野の引退表明。
 そして同期では高橋だけが芸能界に残り、歌手として再スタート。
 期待とは裏腹のセールス不振。
 常にプレッシャーとの闘い。
 わざと聞こえるように陰口を叩かれたこともある。

 次々と高橋の口から吐露される想いに、黙って耳を傾けていた紺野もやがて
胸が締め付けられる。最後のほうはお互い涙目になっていた。

 彼女らを慰めるかのように、森の薫りが開け放ってある窓から流れてきた。
 それを大きく胸に吸い込み、外を見つめながら高橋は静かに涙をぬぐう。

「へへへ、こうゆう話こんちゃんだけにしかできんのやけど」

 上京して6年たつが、高橋の福井訛りはいまだに抜けていなかった。


【31-紺野と高橋】END
                       NEXT 【32-加護と飯田】
247鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/19 07:57 ID:vCgF1iw3

方言指導は学生時代の友人Y氏にお願いした。

昔はそうは思わなかったが、テレビを通して聞く高橋の福井訛りは
なんであんなにも恥ずかしいのだろう。
248鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/19 07:58 ID:vCgF1iw3

そして腰は痛い。
日本は負ける。
誤字も見つかる。

失意のズンドコ。
249鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/20 06:25 ID:3ObN52Bz

あー今日は更新無理だ。
スマヌ。

屋敷の見取り図にちょっとだけ手直しを加えた。
見づらいかもしれませんが。

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
250鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/21 07:39 ID:nqYq2/Qi

【T・E・N】 第32話 加護と飯田

 加護は、自室(101号室)で手こずりながらも一人で花柄のロングスカー
トと水色のブラウスに着替え居間に出たのだが、まだ誰も上の階から降りてき
てはいなかった。
 一人ぽつんと居間のソファを意味もなく撫でているうちに、大時計の鐘が3
回鳴り響いた。

 吹き抜けのため1階からでも上の階の客室の廊下などは見えるが、ドアまで
は車椅子に座った状態では見えない。その扉の向こうで、久しぶりに再会した
メンバーたちは何をしているんだろうか。

(・・・早くミンナ戻ってきてくれないかなぁ)

 加護はこの屋敷に来てから一度も2階より上に登っていない。
 車椅子だからということもあるし、客室中心なので特に用も無いということ
もある。遊技場もあるが、ビリヤードやピンボール、バーカウンターなど加護
には興味のないものばかりだった。

 ここ2〜3日程は石川も来客が宿泊するための準備に追われ、2階の客室に
何度も行き来しているのを加護は見た。大変なのは十分理解しつつも、ついつ
い加護はわざと寂しそうな表情を石川に見せてしまうのだ。

「ごめんね、あいぼん。あんまり相手してあげらんなくて」

「ううん、梨華ちゃんこそがんばってね」
251鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/21 07:39 ID:nqYq2/Qi

 そしてモーニング娘。同窓会開催日―――9月23日を迎えた。
 せっかく何人かのメンバーが来たにもかかわらず、誰も話し相手がいないと
いう状況は加護にとってあまりにも寂しい。
 まあ吉澤・紺野・高橋は長時間運転してきたらしいので、その疲れもあって
仮眠をとっているのかもしれない。石川も夕食に向けての準備で厨房にいるの
だろう。となると残りは・・・

 その時、自分がつい先ほど出てきた東棟1階の扉からリーダーが出てきた。

 お互い顔をしかめた。
 飯田は、なぜ加護がこんなところに?といった表情だったし、加護にしてみ
ればこの扉を飯田が使う必要はないはず、という思いがあった。飯田の客室は
2階だし、この扉の奧には加護と石川の部屋とボイラー室、そして地下室へ続
く階段しかないはず。そこに用事があるとは考えにくい。

 が、飯田はすぐに笑顔になり、加護から一番近いソファに座った。
 加護も頭の中の「?」を拭うことは出来なかったが、とりあえずは笑顔に応
えることにした。しかし、二人とも笑顔のままで沈黙するという奇妙な空間が
そこに発生した。
 飯田もスケッチブックを今は持っていないし、加護は手話が理解できない。
 5年振りの再会で積もる話もあるのだが、コミュニケーションの手段が見つ
からない。

「そうだ! 飯田さんちょっと待っててね!」
252鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/21 07:41 ID:nqYq2/Qi

 加護は何かを思いついて自室へと車椅子を走らせた。
 しばらくして戻ってきた加護の膝の上にはノートブックパソコンが置かれて
いる。
 どうやらこれで会話しようというのだ。
 パソコンを開くとその画面は、解散コンサート直前に13人で最後にとった
デジカメの画像が壁紙として使われている。みんな笑顔と緊張が入り交じった
表情をさせていた。
 加護がメモ帳を開いて、何かを入力している。

“いいださん、おげんきでしたか?”

 そう画面に表示させた文字を飯田のほうに向ける。
 飯田もそれに応えキーボードを滑らかに叩く。

“もちろん、かごもぜんぜんかわってないねえ”

 あの事件によって、生活する環境が大きく変わった二人。
 その二人の間だけに通用する「げんき」という表現。
 そうして、加護と飯田のパソコンを介した奇妙な会話が続いた。


 この同窓会は集合時間は午後4時と、夕食が始まるのが6時予定ということ
を考えると、かなり早めに設定されている。この屋敷に来る途中の狭い山道は
舗装されていない、崖に対してのガードレールも一部ない、そのうえ外灯もな
い―――それが数キロに渡ってつづく。それゆえに、夕方5時以降から明け方
まで車による通行が禁止されている。もっとも、まだ日が落ちるのが遅い9月
ということもあり、6時半までならなんとか通行できるだろうが。
 そんな事情もあって、それぞれの仕事の都合も考慮に入れた上で4時という
時間に落ちついた。4時には石川が本人曰く「とっておきのティータイム」を
演出してくれるとのことだった。
253鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/21 07:42 ID:nqYq2/Qi

 飯田は、まだこの屋敷に到着していない残りの3人のうち仕事で遅れる「あ
の人」は別としても、安倍と矢口の姿がまだ見えないのが気になった。安倍の
モーニング娘。だった頃の遅刻魔ぶりを5年ぶりに思い出したからだ。

 大時計の針が3時30分を指す頃までには、他のメンバーも次々と2階から
降りてきていた。
 吉澤と一緒に降りてきた石川は、そのまま「ティータイム」の準備のため厨
房へと向かった。
 高橋と紺野は、どことなく元気がないように加護には目には映った。高橋は
石川に手伝いましょうか、と尋ねたが、

「それじゃあ、夕食のときお願いね」

 といって厨房に消えていく。高橋は紺野の顔と食堂への扉を見比べてオロオ
ロしたが、結局石川の後に付いていった。
 吉澤と紺野はソファの後ろから飯田と加護のパソコン上での会話をのぞき込
んだり、そこから派生した話題で二人談笑していたりしている。

 ずっと後のことになるが―――すべてが終わったあとで、参加したメンバー
の一人が振り返って語る。
 結局、同窓会で一番和やかな時間が流れていたのがこのときだった、と。


【32-加護と飯田】END
                       NEXT 【33-石川と高橋】
254鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/21 07:51 ID:2eMfb8Mp

うわぁ・・・誤字、誤文法スゲェある・・・

(アップする前に確認したんだけどなぁ 恥)
255名無し娘。:02/06/21 10:56 ID:z03aUCgh
いま、一番更新が気になるスレです。
楽しませてもらってます。
256鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/22 07:43 ID:NMhROwmt
マターリ。今日中には更新するのでしばらく待たれよ。

>>255
どもっす。
苦しい時間帯だす。がんばるっす。
257鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/22 21:18 ID:8h0GiojP

【T・E・N】 第33話 石川と高橋

「ありがとぉ、助かるよ〜」

 厨房を所狭しと駆け回る石川に、いつの間にか部屋の隅に追いやられた高橋
はあっけにとられていた。
 ボウルには昨日のうちから下ごしらえしていたと思われる材料が入れられ、
テーブルの上に整然と並べられている。

(おやつを運ぶ程度だと思ってた・・・)

「へへへ、夕食の準備もボチボチ始めなきゃなんないしねぇ。あ、それじゃあ
 愛ちゃんには野菜を切ってもらおっかな」

 石川はオーブンからパイ生地を取り出し、間髪入れずにコンロにかけてある
陶磁器の鍋の火力を落とす。甘い香りが一帯を包み込んでいた。なおも慌ただ
しく動き回る石川に、高橋は圧倒されていた。
 高橋は二人きりになったら、石川に以前より訊きたいと思っていたことがあっ
た。しかも、かなり昔から。しかし今はとてもその話を切り出せる状況にない
ようだ。ずっと石川につきまとっているある噂についての質問で、いつか白黒
つけたいと思っていた。直接、石川の口から答えてもらわなきゃならない。
 そう高橋は思い続けていた。
258鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/22 21:19 ID:8h0GiojP

 高橋はレタスをちぎりながら、石川を観察する。
 さきほどの甘い香りはカスタードクリームのようだ。それを今日のお昼に焼
き上げたというパイの上にうすく流し込み冷蔵庫に入れて冷ます。その間にも
夕食用のグラタンの下地を整えたり、ドレッシングをかき混ぜたりと息をつく
暇もないようだ。

「すごいですね、石川さん。本格的じゃあないですか」

「やっぱり作りたてが一番美味しいからねぇ〜」

 高橋は「手作り」ということが本格的だということを言いたかったのだが、
石川はさらにその先をいっているように思えた。

「夕御飯も手伝ってもらってもいい?」

「ええ、私でよければっ」

 ここにズラリと並べられた食材が、2時間後にはどういった料理に変貌する
のか―――高橋は単純にそれに興味をそそられた。そして5年前、ダンスをし
たり歌ったりブリッ子している(のちに素であることが分かった)石川から想
像できないような、また違った彼女を垣間みることができそうな気がした。
259鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/22 21:21 ID:8h0GiojP

 しばらくして、さきほどのパイの上に新鮮なイチゴを並べ終わったあと、思
い出したように叫ぶ石川。

「そうだ! 忘れちゃいそうだし、ちょっとまだ明るいけど玄関の明かりをつ
 けておこっか」

 ぎっしりと敷き詰めたイチゴの上に、慎重に特製ソースを流し込んでいる、
その最中だ。

「あいちゃ〜ん、いま手が離せないからそこにスイッチあるのよぉ」

 アゴをつきだして、台所の奧にある裏庭に続く勝手口の壁にある電気系統の
スイッチパネルを指し示した。高橋は石川が昔、アゴのしゃくれを気にしてい
たのを思い出して顔がにやけたが、その表情を悟られないようにその通路の隅
まで小走りに進む。
 ガシャリ、という音とともにパネルを開くと、40個ほどはあるだろうか、
それぞれのスイッチの下には「庭園噴水ライト」「シャンデリア」などの小さ
なプレートが貼ってある。ほどんどのスイッチがオンになっている中で「玄関
入口灯」のスイッチはオフになっていた。

「今日は特別な日だから、全部外の電気もオンにしちゃって」

 高橋は石川の言われるままに「裏口灯」「噴水ライト」「物置入口」などの
スイッチを次々とオンにしていくうちに、あることに気が付いた。
 パネル上にズラっと並んでいるスイッチの中で、右下にあとからつけ足した
ような、ほかのものより新しいスイッチが2つある。その下には「地下スタジ
オ」のプレートが貼ってある。
260鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/22 21:22 ID:8h0GiojP

「あっ石川さん、これ・・・」

 その2つのうちのひとつがオフになっている。

「ひとつだけ室内でオフになっているのがありますけど?」

 トレーの上に数枚のケーキソーサー、そして作りたてのパイを載せる。
 石川はお湯が沸騰しているのに気が付いて、コンロに走りながら横目でそれ
を確認する。

「おっかしいなぁ、屋敷の部屋の電気は全部オンになっているはずだけど」

「じゃあオンにしておきますね」

 高橋がスイッチを上げたその時、石川の歓喜の声が厨房に響きわたった。

「出来た〜!! 完成ッ!!
 モーニング娘。ストロベリーパイスペシャルゥ〜」

 それはキツネ色のこんがりと焼かれたパイ生地の上にイチゴがギッシリと敷
き詰められており、トロトロのラズベリーソースがそれらを包み込んでいる。
 スイッチパネルを閉じた高橋はその声を聞いて実物に駆け寄り、目の前に鎮
座している赤い円盤を見つめゴクリ、と唾を飲み込んだ。

 石川は、ケトルのお湯をいったんティーカップに注いでから、その湯をロイ
ヤル・コペンハーゲンの白いティーポットに移す。こうして2分待って注ぐと
美味しい紅茶になるんだよ、と言いながらその2分のうちに居間にいる仲間に
注ぐべく、あらかじめトレーの上に用意してあったティーセットを持ってドア
へ向かった。
 その背中を見つめながら、高橋も出来たてのパイ、ケーキソーサーのトレー
をしっかりと両手で持ち支え追従した。
 それにしても石川のグルメに対するこだわりに、高橋は頭が下がる想いだ。


【33-石川と高橋】END
                          NEXT 【34-高橋】
261名無し募集中。。。:02/06/22 23:33 ID:Vx7NcTDW
イイね〜
262名無し募集中。。。:02/06/23 00:21 ID:ydr4p9L8
うまそう。なんかね料理の描写が上手いってのね、凄いと思う。
文章力凄く必要だし。
いや、本編と関係ない感想で申し訳ない。
263元自治厨。:02/06/23 01:55 ID:U6s/YS1c
そういやm-seekで食事をテーマにした短編があったなぁ。
なんて、ふと思い出した。

毎日の更新お疲れさまです。
楽しみにしてます。
お体を大事に頑張ってくださいね。
264名無し募集中。。。:02/06/23 09:51 ID:ylt0J9WN
今日見つけて一気読みしました
今後の展開にもの凄く期待してます

レイプされたのに案外前向きでサバサバしてる石川が凄い気になる・・・・
265鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/23 23:55 ID:QeqyDqTw

【T・E・N】 第34話 高橋

「ちょっと遅いけど、おやつの時間で〜す」

 石川がティーセット、高橋はストロベリーパイを載せたトレーを手に厨房か
ら現れた。「うわあ〜」と驚きと喜びが入り交じった声が、ただっ広い居間に
沸き上がる。

(なるほど、これは「とっておき」だわ)

 と飯田も納得の石川のお手製のパイが、テーブルの上に載せられた。
 石川がナイフできれいに10等分する。半端が出てしまうのは仕方がないが、
周囲のメンバーには食べる前からその半端を誰がゲットするかに早くも関心が
集まる。

 居間で和やかなおしゃべりが始まったのが4時頃。招待状に書いた集合時間
である。屋敷にいるモーニング娘。元メンバー全員がそこに集まっての「とっ
ておきのティータイム」が始まった。
 当然屋敷にまだ着いていないメンバーには、この目の前のストロベリーパイ
とレモンティーにはありつけない。本来なら9人揃ってこのティータイムを迎
えるはずだったのに、と飯田は残念に思う。

「モー、やっぱり安倍さんは遅刻なんだから」

 加護がふてくされた表情を浮かべる。もったいないよねぇ、とその後に誰か
がつけ加えた。しかしそんな安倍と矢口のことよりも、目の前に出されたオヤ
ツが気になって仕方がないといった様子のメンバーがひとり。

「じゃあいっただっきまぁ〜す」

 どんな時でも、誰に対しても、美味しいモノに対する執着を隠そうとしない
紺野がストロベリーパイの最初の一口を頬張る。
 その一瞬で、普段からトロンとしている紺野の目がさらにうつろになる。
266鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/23 23:56 ID:QeqyDqTw

「どお?」

「おいし〜?」

 期待感を込めて石川と高橋が語りかける。だが紺野という人間を知っている、
ここのメンバーなら分かる。その表情だけで、味の絶対的な評価はもう約束さ
れたようなものだ、と。
 その様子を見て、我先にと紺野に続いて皿の上に取り分けられたパイに皆が
手を伸ばしたその時だった。

「うっ!」

 うつろな目をカッと見開いて紺野が口を押さえる。
 瞬間、周囲に緊張と衝撃が走る。

「ど・・・っどーしたの紺野!?」

 一人用のソファの上で、胸を押さえつけて前かがみになる。だらしなくぶら
下がった黒髪が横顔を覆い隠し、紺野の表情をうかがい知ることが出来ない。

「なっ中に何か入っていたのぉ?」

 こんの、こんの、と叫びながら高橋や石川が背中を撫でる。居間が騒然とし
た雰囲気に包まれた。
 飯田は状況がはっきりと把握できないのに、早くも涙目になっている。
 屈み込んでいる紺野が、小刻みに震えだした。

「うううっ・・・くっくっくっく・・うぅ〜」

 不意に、紺野が身体を起こした。

「うんまぁ〜い」

 まわりが赤むらさきのソースまみれの口から、至福の表情を浮かべそう言い
放つ。
 とりあえず無性に腹が立った吉澤は、紺野の後頭部を軽く一発殴っておいた。
267鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/23 23:57 ID:QeqyDqTw

 ストロベリーパイだけではない。
 紅茶も入れかたひとつでこれほどまでに味が引き立つものだとは、と高橋も
正直驚きを隠せない。

 思いがけない多幸感に包まれ、メンバー同士の会話も弾む。
 この時の飯田は言いたいことがあると紺野に手話で表現して、それを紺野が
通訳するといった形で会話が続いていた。もっとも紺野は2枚目のパイを加護
とのジャンケンに勝ちゲットしたので、それを口に運ぶのにも夢中だし、ハタ
から見てかなりせわしない。

(そう、とても幸福そうにモノを食べるメンバーがもう一人いたっけね・・・)

 飯田は辻がこの場にいたらどんな表情でこのパイを食べたんだろう、とつい
つい虚しい想像をしてしまう。

「それにしても広い屋敷やよねぇ」

 高橋が、ため息混じりで居間を見渡す。

「オレここ初めてなんだけど、来たことあるヤツって誰だっけ?」

 吉澤がソファにふんぞり返って、大股開きになって皆の表情をうかがう。誰
を意識しているのか、無理に男を演出しているように飯田は思えてならない。

「えっと、新メンバーは来たことあるはずだよね」

 石川がそう言いながら紺野に視線を向けた時、自分たちが加入してから7年
経ったにも関わらずまだ「新メンバー」という呼び方をされることに抗議しよ
うかと思った。しかしそんなことに火花を散らすことは今となってはまったく
無意味だと自分に言い聞かせ、寸前で踏みとどまった。

「ええ、解散の2ヶ月くらい前だったと思うんですけど」
268鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/24 00:00 ID:rJNxc9pm

 その時すでにグループの解散は決定していた。
 高橋・小川・紺野・新垣の4人は「解散記念モーニング娘。写真集」の撮影
の舞台にこの山奥の洋館と大自然を選んでいたのだ。

「その時、後藤さんも・・・来てましたよ、ソロのレコーディングに」

 丁度撮影のあった日にモーニング娘。在籍中では最後になる後藤にとっての
ソロシングルの収録がこの屋敷のスタジオで行われていた。とはいっても収録
は在籍中最後でも発売は解散後ということになるので、実質エース後藤の本格
的なソロ活動はモーニング娘。解散前からスタートしていたのだ。
 そしてあの事件が起こった。
 後藤の新曲は発売中止となり、幻の歌のマスターテープは今もどこかでが眠っ
ているはずだが、その所在はつんく♂しか知らないらしい。

 つけ加えるなら、皮肉なことにそれはこの屋敷でレコーディングされた最初
で最後の曲になった。

「リーダーは? この絵プレゼントしたんでしょ?」

 吉澤が指さした先には2階のあの大きな油絵。この絵の大きさを見るとこの
屋敷で描いてそのまま恩師に贈ったのではないか、という考え方も出来る。し
かし飯田は首を横に振る。
 飯田の話によれば、絵を描いたあとで運送屋さんに頼んで配送してもらった
そうだ。実は今日のこの同窓会では、この屋敷で自分の絵がどう飾られている
のか見るのも楽しみの一つだったのだとか。

「あと誰ぇ?」

 そう吉澤が言ったとき、意外なメンバーから意外な人物の名前があげられた。
 加護が誰にも目を合わさずに、伏し目がちに弱々しく言葉を漏らす。

「ののも、来たみたい・・・よ」
269鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/24 00:01 ID:rJNxc9pm

 石川は、というよりその場にいるメンバー全員の動きが一瞬止まった。
 意外にもこの屋敷に来てから、加護の口から辻の名前が出たのはこれが最初
だった。

「そう・・・」

 なぜか今度は石川のほうが、物怖じしてしまった。
 本当はいつ?何のために?という事をもっと知りたかったのだが、さきほど
裏山で見た辻に似た誰か―――とどうしても結びつけてしまう。吉澤の様子を
横目で見たが、石川と同じ気持ちのようだ。

「そだ! 探索しようか!」

 だからいきなり吉澤がそう提案したときは、他のメンバーがその辻のことを
さらに深く追求しそうな話の流れをわざと断ち切ろうとしたのではないか、と
石川は思ったぐらいだ。

「タンサク?」

 紺野がポカンとした表情を浮かべる。

「そうだよ! オレもまだあんまりこの屋敷のこと分かんないしさ! まさか
 こんなに広いとは思っていなかったし。紺野来たことあるんだろ? お茶終
 わったら案内してくんね?」

「え、ええ・・・別に・・・いいですけど・・・」

 紺野は助けを求めるような目を高橋に差し向けた。しかし彼女は、石川さん
と夕食の準備しないといけないから、と冷たく言い放つ。加護は当然夕食まで
ここにいると言っているし、そうなると話し相手となるリーダーも動くわけに
はいかない。もともと飯田は、この屋敷の中を動き回る気はあまり無いようだ。

(仕方ないか、吉澤さんとふたりっきりで・・・)

 紺野が記憶する限り、モーニング娘。の時代も含めて吉澤とふたりっきりに
なるのは今までに無かったし、それに加えて目の前のオトコになった吉澤には
少なからず抵抗があった。この居間でマッタリしていたかった紺野は吉澤の提
案に苦笑いをしつつ、そういえば先ほどは目の前のオヤツを食べるのに夢中で
あまり考えてなかったあの二人はどうしたのだろう、と思った。
270鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/24 00:03 ID:rJNxc9pm

「あと来ていないのは・・・安倍さんと・・・矢口さんだね」

 これだけのメンツでも蜂の巣をつついたような騒ぎのなか、現役アイドル時
代特に賑やかだったあの二人がまだ到着していないのだ。この二人が今ここに
いるメンバーと合流することによって、どういった化学反応(ケミストリー)
が起こるのか。紺野はそれに興味もあるし、ちょこっと不安も抱くのである。
 とくに解散から5年を経過した今でも女優として突出した活躍を見せる安倍
からは、面白い話が聞けそうな気がするのだ。

 いきなり高橋が、右手を掲げた。

「あと特別ゲストがいるじゃあないですか」

「はぁ?」

 困惑の表情を、そこにいたほとんどのメンバーが浮かべる。
 してやったりと右手で小さくガッツポーズを握りしめ、高橋が続ける。

「保田さんが後藤さんを連れてくるそうです」

 表情を固めたまま、ピクリとも動かないメンバーたち。

(ちょっとやりすぎた?)

 今度は高橋がうろたえる番だった。


【34-高橋】END
                       NEXT 【35-高橋と保田】
271鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/24 00:13 ID:rJNxc9pm
次回更新は火曜日朝となります。ご了承下さい。

理由・第34話長いし。

>>261-263
ありまとうございます。
料理の描写が物語になんら絡んでこないところが、またステキですが
こういったお言葉を頂戴するとヤル気も出るってもんです。

>>264
出ましたね、一気読み(w
感想ありがとうございます。なるほど。
石川のみならず、いろんな人が怪しいんですけどね。この小説。

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
272一読者:02/06/24 02:11 ID:yHNf9Sjg
怪しいといえば
紺野ってこんなに食べ物に執着するキャラだったろうか。
まるで辻が乗り移ってるみたい・・・

と思ってみるテスト
273とと:02/06/24 12:15 ID:VPZ04xmH
紺野のキャラがあまり安定してないような・・・

と言ってみるテスト



274名無し娘。:02/06/24 23:29 ID:xIAAot1w
各自勝手に考察するのもいいけど
何もこのスレに書き込む事もなかんべ
と言ってみるテスト
275鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 01:24 ID:9uWAzlie
【さしみ通信】4

>>272-273
紺野に辻が乗り移っていたりいなかったりするので
キャラが安定していない、と言ってみるテスト

ではなくて、確かにただの食いしん坊キャラだったり
よくわからなかったりと紺野は不安定かもしれない。特に第34話の

> 石川がそう言いながら紺野に視線を向けた時、自分たちが加入してから7年
>経ったにも関わらずまだ「新メンバー」という呼び方をされることに抗議しよ
>うかと思った。しかしそんなことに火花を散らすことは今となってはまったく
>無意味だと自分に言い聞かせ、寸前で踏みとどまった。

これ多分、高橋の役割でも良かったのかもしれないかなぁ、と読み返してみて
思うのです。

しかし俺の中での紺野は、マイペースぶっているけど芯の通った自分なりの哲学を
貫き通すキャラというのが頭の片隅にあるので、ついこういったことをさせて
しまったのも否定できないのですが、どうでしょうか。
276鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 01:26 ID:9uWAzlie
【さしみ通信】4.5

特にこの小説のテーマ?の一つに誰しもが持つ人間の「二面性(多面性、でもいい)」
が巻き起こす悲劇というのがありまして、あんまり言うとネタバレになりそうなので
慎重にならざるを得ないのですが、えーっと何と言えばいいのでしょうか。

例えば紺野なんかは、歌やダンスといった本来モー娘。で必要とされる要素が
全く欠如している代わりに、成績優秀スポーツ万能というのが、メンバーとして
新鮮味があったわけなんですけど、そういった振り幅が極端なほうが人間として
深みがあると思わないかい。
個人的な好みの問題なのだが、俺はだよ。
俺は全教科90点とる生徒と、全教科30点の生徒とでは人間的な魅力ってのは
あんまり変わらない。(人間的な価値は90点の秀才のほうが高いかもしれないけど)
それより1教科だけ100点であとは赤点みたいなヤツのほうが、不器用だけど
自分の道を貫き通しているなぁって感じで好感が持てるわけなんです。
まあ、俺だけかもしれないけど、そんなの思うの。

木炭デッサンで明るさを表現しようと思ったら、その分暗い闇の部分も
深くしなければならないし、そういった濃淡の組み合わせが絵の印象を強くするのと
同じように、おしなべてキャラ立ちってのもそういうモンだと思うのです。

それにキャラだけじゃない。
どんなに明るく振る舞っていても心の闇の部分ってのは誰にも必ず、ある。
これは>>264のレスに対するひとつのヒントでもあるわけなのですが。

そういった普段ひた隠している闇がふと表に出てきたときの恐怖みたいなのを
描ききれたらこの小説は成功といえるのではないでしょうか。
と言ってみた長いテスト。
二行目から読まなくていいです。
てか、本文の解説をこんなところで長々としてしまうところに
とっても敗北感が漂っているような気がしないでもない。南無。

それにしても、そんなことを書いていたらいよいよ第35話が。
277鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 01:30 ID:9uWAzlie

>>274
あー作者的にはオッケーす。
「ここ変やないんか」みたいなのは。
突っ込むべし。
ただし>>275-276のように脱線する可能性もアリ。
278鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:45 ID:ywaiG0sg

【T・E・N】 第35話 高橋と保田

 武道館の事件から2年の月日が流れたある日のことだった。
 生放送の歌番組の収録から帰ってきた高橋は、自室のパソコンにまず電源を
入れる。
 起動させているあいだの虚無の時空に漂っている―――時間にしてみれば2
分から3分程だが―――そのとき、高橋は娘。が解散後の自分の軌跡をたどっ
てみたりする。
「転落」
 たった二文字で表現できてしまう。
 日に日に芸能界で自分の居場所が失われていくのが分かる。
 事務所はバラエティやグラビアの仕事を増やしたいらしいが、あくまでも活
動の中心を歌に据えた高橋。しかし、新曲の売り上げはその情熱に反し発売毎
に下降線の一途をたどるのだった。

(やっぱり私には華がないのかな・・・)

 メールチェックのボタンを押して次々現れてくる名前の中で、意外な人物の
名前を見つけて高橋はマンションの一室でひとり声を張りあげた。

「Kei Yasuda」

 恐る恐るその名前をクリックした。

279鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:46 ID:ywaiG0sg

 あいちゃんへ

  ひさしぶり!
  テレビで、川 ’ー’川の歌っているところ見みたよ!
  ずいぶん声もでるようになったな〜って思うヨ
  ヒットまちがいナシって感じ?
  でも、こないだの「うたばん」みてビックリしたよ
  だってまだ訛り抜けてないんだもん(^_^;)

  ああ、そうそう私のことに関しては心配かけてごめんね
  一部雑誌でのったように、私はあの日全身に大ヤケドを負いました
  一生、顔の傷が消えないと言われたときは、
  本当に死ぬことも何度も考えました
  その後、アメリカの美容整形のお医者さんを紹介してもらって
  1年間半、渡米して治療に専念しています
  おかげでかなり直ったものの、まだ少し目立つ部分もあります
  (髪型である程度ごまかせるようになったけど)

  ほとぼりが冷めたらメンバーのみんなにも逢いたいな、と思っています
  でも今のところは絶対ナイショだよ
  文字通り「会わす顔が無いから」
  じゃあ歌のほう、ガンバってね!
  私は川 ’ー’川の歌っているところが大好きです

                 やすだ( `.∀´)けい with LOVE

280鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:48 ID:ywaiG0sg

 高橋のマウスを握りしめたこぶしの上に、大粒の涙がいくつも落ちてくる。

(最後に保田さんにかけてもらった言葉がなかったら、私は今でも歌手活動を
 続けていなかったんだよ・・・)

 保田と高橋が親密になった頃には、すでにモーニング娘。の解散が決定して
いた。


 その頃、メンバー全員に芸能界に残るかそれともそのまま引退するのかの二
者択一が迫られていた。
 高橋は悩んでいた。
 鳴り物入りでモーニング娘。5期メンバーとして加入した高橋だったが、歌
に対する自信は喪失する一方だった。
 同期では歌唱力ナンバー1の評価を受けてたし、高橋にもその自負はあった。
 しかし、同期との差は縮まる一方、そして先輩との差は広がる一方。
 自分がセンター・メインパートを務めた曲は、練習のしすぎで喉をつぶして
しまい、その結果、歌番組では満足に歌えず、発売されたシングルCDはモー
ニング娘。史上最低の売り上げとなった。それがますます高橋のプライドを傷
つける結果となる。

  なんのために私はモーニング娘。に加入したのだろう。

 その自信喪失に追い打ちをかけるように、グループの解散が決定。胸が張り
裂けそうになった。

281鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:49 ID:ywaiG0sg

 メンバーには通達されたが、世間にはまだ解散が公表されていない段階で、
テレビのバラエティ音楽番組の収録があった。
 話の流れで、お笑い芸人が高橋にちょっと冗談混じりに強めのツッコミをす
る。

「お前おる意味ないやんか!」

 どっと巻き起こる笑い。だが、次の瞬間、スタッフも観衆もその笑いが凍り
付いた。
 高橋は笑顔を保ったまま、頬に滝のような涙を流していたからだ。


 収録後、控え室でマネージャーにこってりしぼられた。
 マネージャー自身も叱り疲れたのか、ジュースを買ってくる、と言い残して
席を外した。
 部屋に高橋一人取り残される。
 静寂が自分をますます情けなく感じさせ、がっくりと肩をうなだれる。この
ときの私は、常にネガティブな思考が頭を支配していたのだな、と後になって
高橋は思う。

 トントン。
 そこに突然鳴り響くノック音。
282鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:51 ID:u0okOJ6B

 高橋が部屋に一人になるスキをうかがっていたかのように、ドアのすき間か
らひょっこりと何かが飛び出した。
 とある歌番組でお馴染みの、子泣き爺人形だった。

「アイチャン、アイチャン、これからヒマかい?」

「保田さん、何やっているんですか」

「何だよーもう分かっちゃったのかよー」

 その人形を片手に保田が登場する。

「ねえ、これから焼き肉でも食べにいかない?」

「いえ・・・まだマネージャーと話があるんで」

「いいじゃん、どうせ説教でしょ? バックレようぜい」

 保田は鼻息も荒げて、高橋を威嚇しているようにも見える。

「・・・保田さんあたし」

 高橋が言い終わるより早く、保田は強引に彼女の腕を引っ張っていた。
 訛り丸だしの抵抗の言葉を高橋はいくつも並べたが、保田は一向に意に介し
ない。
 そしてそのまま二人は夜の街へと消えていった。


【35-高橋と保田】END
                          NEXT 【36-保田】
283名無し娘。:02/06/25 09:46 ID:HCeeh62J
ダーヤス良いね!子泣き人形カコイイ。
284鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/26 06:17 ID:q/frzWw4

【T・E・N】 第36話 保田

 9月23日午後2時。
 保田はその日の仕事を終え、いつものスタッフとの反省会兼おやつの時間を
無理言って中止にしてもらった。
 どうして?のスタッフの声に「同窓会っ」とだけ答えておいたのだが、おそ
らく彼らは中学校や高校の同窓会を想像しているに違いない。

 武道館爆破事件から5年の月日が経過した。
 保田にとって、モーニング娘。として過ごした期間も含めたそれまでの一生
よりも、密度の濃い5年間だった。


 あの事件のあと、病院で目が覚めた保田を待ち受けていた残酷な現実。
 全身をミイラのように包帯で巻かれ、寝返りをうつだけでも全身に走る激痛。
 しかし本当の悪夢は、その包帯が取れたときに知った自分の姿だった。

 病室の保田の周囲には鏡やガラスといった反射するものが、一切置かれてい
なかった。
 窓は強化くもりガラス。
 食器やスプーンはプラスチック製。
 しかも、コップにはご丁寧にも水面に映った自分の顔を見ないように常に蓋
がしてあり、ストローでしか飲めないようになっているのだ。
 担当医が常に目を細めて話をするのは、おそらく近視で普段メガネをかけて
いるためであろう。

(それほどまでに、私は酷い顔になってしまったの・・・)
285鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/26 06:18 ID:q/frzWw4

 他のメンバーの運命を知らされた。
 ほぼ即死だったという辻と新垣。
 自分と同じく全身に火傷や深いキズを負った吉澤。
 未だに死線をさまよっている小川。
 一生車椅子の生活かもしれない加護。
 観客に陵辱を受けた石川。
 飯田も―――かなり深い傷を負ったという。

 しかし、そんな話は保田にとって何の慰めにもならなかった。
 自分は、この顔のために一生ヒトの前に堂々と出ることすら叶わないかもし
れない。誰よりも、自分の歌を誰かに聴いてもらうことに幸せを感じていたの
に。そう思うと、いよいよ保田の関心はその一点に絞られる。

 数週間が経過し、それに対する回答が出される日がやってきた。
 初めてメガネをかけた担当医が、後ろに回した手に何かを持って保田の前に
現れた。
 そして、その場で顔の火傷の痕が一生消えないことを「宣告」された。
 沈痛な面持ちで医者は保田に手鏡を渡す。
 その鏡の中には、赤く腫れ上がった肉団子の中に二つの目と口がぽっかりと
開いていた。

(これは私なんかじゃない・・・!)

 それからはまさに地獄だった。
 昼夜問わず泣き叫んだ。病室においてあるすべての物に当たり散らした。
 自殺未遂も1度や2度では済まなかった。拘束衣を着せられたこともある。

  誰も私の気持ちなんて分かってくれるはずがない。
  これ以上どんな屈辱を受けて生きていけというのか。

 スポットライトの世界に生きた者が、理不尽に日陰者の生活へと転落したの
だ。病室には様々な破片が散在しており、足の踏み場もない。

「もう、精神病棟に行くしかないだろう・・・」

 保田は叫び疲れてベッドで寝たふりをしていたのだが、医者が看護婦にそう
つぶやくのを聞き逃しはしなかった。
 その夜、保田は病院を脱走した。
286鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/26 06:19 ID:q/frzWw4

 保田は芸能界の時に築いておいた人脈を巧みに使い、様々なアドバイスの中
からアメリカでの皮膚移植手術という賭けを選択することにした。
 もちろん海外で、しかも一流の美容外科スタッフということもあり、それに
かかる費用は目が飛び出るほどだった。自分がかつて所属していた事務所から
の見舞金、それに自分が5年近く芸能界で稼いできた財産を足しても、とても
じゃないが足りないことは明白だった。
 しかし芸能界での知り合い、水商売をしている友人、事情を知った上でなお
も応援してくれるファン。様々な人達が資金の援助を申し出てくれた。
 もちろんこのことはマスメディアには秘密にするということも確約してくれ
た上で。
 なぜそこまで親切にしてくれるの、と彼らにきいた。

「だって、圭ちゃんの歌声をもう一度聴きたいから」


 ・・・本当に嬉しいときは涙すら出ない。
 雨の日があるから、そのうち晴れの日もくる―――

 保田は生きよう、とその時になってあらためて思った。
 そして生きている限り歌い続けよう、そう自分に誓った。


【36-保田】END
                       NEXT 【37-保田と後藤】
287鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/27 00:39 ID:hqZMu8rt

【さしみ通信】5

それにしてもこのところ、どうもいけません。
スランプというか、自分で読み返してアラが目立ってイヤになるんです。

地の文(セリフ以外の文ね)が、突然登場人物の主観になっていたりして
いかんなぁ、と思いつつもこのあたり(保田編)はさしみ的にも力が入って
しまった点もなきにしもあらず、みたいな。

だからこのスレ(隠れた名作発掘スレ@愛の種)
http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1000911488/574

では「加護の一人称のストーリで云々」とか言われていますし、まあ
途中でも、そういったダメっぷりはいくつもあるのですが。
(名作、なんて言われるとくすぐったい。ありがたや)

ところで他のスレでこの小説が話題にされていたら
こっそり作者に耳打ちしてくださいな。興味ありますんで。
というより、話題にしてもよい。ホレホレ。
288鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/27 00:40 ID:hqZMu8rt

【さしみ通信】5.5

で、本題。
今日、割と近い身内に不幸がありますた。(しかし葬儀は遠い場所)
なので今日から週末にかけて更新できないと思うのです。
ヘタしたら一週間ぐらい。
この小説スレは、保全のレスが今までひとつも無いことが
唯一他の小説に自慢できることだったのですが(まさに唯一)
それも、もうだめぽ。

なんか腰痛になったり(もうほとんど治ったけど)、↑なことがあったりと
「出来すぎてねーかぁ?」
と思われそうだが、事実なので仕方がない。

っていうかほぼ1ヶ月間、毎日更新するほうが奇跡である。
そんなわけで、すんませんけど保全とかお願いします。
ぺこり。

最後におまけとして今までの話別にもくじを作っておきました。
部分的に読みたいときなんかは便利(かも)。
普通もくじは巻頭や巻末にあるものだが、まあ仕方がない。
実は第1話〜第23話まではどの順番で読み始めてもOK。
いろんな順番で読むことによって意外な発見があるかもよ。
それではまた逢う暇で。
289鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/27 00:45 ID:kHTTCNnv

【T・E・N】 おまけ 〜もくじ・其の壱〜

第0話 「エピローグ」・・・>>21-22
第1話 「プロローグ」・・・>>23-25
第2話 「石川と加護」・・・>>30-32
第3話 「矢口」・・・・・・>>36-38
第4話 「吉澤と石川」・・・>>44-47
第5話 「吉澤」・・・・・・>>53-56
第6話 「石川」・・・・・・>>62-64
第7話 「安倍と辻」・・・・>>69-72
第8話 「辻」・・・・・・・>>76-78
第9話 「飯田」・・・・・・>>79-84
第10話「加護」・・・・・・>>85-87
第11話「辻と加護」・・・・>>92-95
第12話「石川」・・・・・・>>97-100
第13話「加護」・・・・・・>>101-103
第14話「後藤と加護」・・・>>114-116
第15話「加護と後藤」・・・>>129-131
第16話「紺野」・・・・・・>>132-134
第17話「飯田」・・・・・・>>138-141
第18話「紺野と飯田」・・・>>150-152
290鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/27 00:46 ID:kHTTCNnv

【T・E・N】 おまけ 〜もくじ・其の弐〜

第19話「保田と新垣」・・・>>156-160
第20話「新垣」・・・・・・>>163-164
第21話「小川と安倍」・・・>>170-172
第22話「保田」・・・・・・>>176-178
第23話「安倍と矢口」・・・>>182-186
第24話「加護と吉澤」・・・>>191-193
第25話「吉澤と加護」・・・>>198-200
第26話「高橋と紺野」・・・>>204-207
第27話「吉澤と加護」・・・>>212-214
第28話「飯田と吉澤」・・・>>218-221
第29話「石川と吉澤」・・・>>228-232
第30話「KAOとTEN」・>>234-237
第31話「紺野と高橋」・・・>>243-246
第32話「加護と飯田」・・・>>250-253
第33話「石川と高橋」・・・>>257-260
第34話「高橋」・・・・・・>>265-270
第35話「高橋と保田」・・・>>278-282
第36話「保田」・・・・・・>>284-286

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
291名無し募集中。。。:02/06/27 02:53 ID:9AC9hd64
身内で不幸とはご愁傷様です。いろいろ大変そうですががんがってください。
ジャンル等は違うとはいえ私も作品を書いた経験がありますが、毎日更新するなんてまさに神業ですよ。
私自身、リアルタイムで更新されてる小説などはほとんど読まない、既刊(?)ばかり読んできたものですが、
T・E・Nは毎回楽しく拝見させていただいております。
というわけで、保全一号
292名無し娘。:02/06/27 12:35 ID:S7wATXSp
まずは御身内の御不幸、御愁傷様です。
お仕事をもつ身でありながら、毎日の更新、ほんとうにすごいと思います。
今は、羊の小説もこの作品ぐらいしか話題に上らなくなってます。それぐらい期待されてます。
是非、頑張ってください。応援してます。
保全2号。
293名無し娘。 :02/06/27 19:20 ID:ySikQZLs
保全代わりに
実際にこんな事件が起こったらモ板に立ちそうなスレというのを
ネタで書き込んでみようかと考えてみたりしたけど・・
おもしろいのが思い浮かばない・・・
というか解散発表だけでもモ板は荒れまくって閉鎖になるだろうな。
保全3号。
294名無し:02/06/27 19:56 ID:Ch07hipT
途中から読んだんですけど、読みやすい文章で一気に読んでしまいました。
ごまヲタとしてはごまの活躍が期待されるばかりですが、何か無理そうでチョトかなすぃw
保全じゃなくて、読者としての感想です。何故か保全という言葉好きじゃないので。
長文レススマソ。身内の不幸はかなり辛いものだと思いますが、がんばって行って来て下さい
295名無し娘。 :02/06/27 20:11 ID:o0O36Bw3
>>287
>ところで他のスレでこの小説が話題にされていたら
>こっそり作者に耳打ちしてくださいな。興味ありますんで。
ここの「新作部門」に投票しました。
     ↓
【第3回】モー板小説、部門別投票【5月末日まで】
http://cocoa.2ch.net/ainotane/kako/1021/10210/1021036352.html

でもよくわからないトラブルのため最終結果を出す前にdat逝き。
296保全:02/06/28 07:52 ID:a92c/YDL
全保
て田
 が 
297名無し募集中。。。:02/06/28 20:44 ID:d3Hc0Tke
ほぜn
298名無し募集中。。。:02/06/29 07:41 ID:RLrAjgAf
保全!いつも楽しみにしています!頑張ってください!!
299:02/06/29 21:49 ID:aLZfqjUJ
新垣命
300 The Happiest Man:02/06/29 21:50 ID:2mXdhx6W


愛ある生活

 
301名無し募集中。。。:02/06/30 06:24 ID:+hdJFk4N
>>276
人間的価値が90点>30点なのか、ふ━━( ´_ゝ`)━━ん
302名無し募集中。。。:02/06/30 20:18 ID:y0aIlB21
ほぜ
303鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/01 07:03 ID:MKcnaJOk

皆様ご心配かけて申し訳。
明日から復活する次第。ホゼムありがとうございました。

正直バラしますです。
60話まですでに書き上げてあるわけなんです。
だから毎日更新できるのです。

ただ途中に挿入したい話とかが増えたのです。
また直前になって大幅に加筆修正する場合もあるんです。
だから、その関係でたまに休載するかもしれません。ご容赦。

>>301
かもしれない、と書いてあるではないか。
物事は一元的に捉えては真実は見えてこないのです。
それはこの小説にもいえる(かもしれない)。

偉そう。
304鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/02 07:09 ID:/e5DX2mU

【T・E・N】 第37話 保田と後藤

 渡米した保田は最先端の火傷治療の権威とも言われている、とある外科医の
もとで治療に専念することにした。初老のどっしりとした体格の医師は(日本
での担当医の冷たい目とは違って)太い黒縁メガネの奧から優しい瞳を保田に
さしのべて、ゆっくりと語った。

(ノープロブレム、きっと元の姿に戻れますよ、ヤマトナデシコさん)

 アメリカ北西部の豊かな自然に囲まれた環境の中で、保田は充実した時間を
過ごしていた。「治療に専念」のつもりだったが気を紛らわすためとの名目で
英語の勉強やヴォイストレーニング(ただしこれは医者に止められることもし
ばしばあった)、さらには作曲までにも精を出す日々。
 周囲の人々は勿論のこと、自分でもびっくりするぐらい精力的に取り組んだ。
 アメリカは胸のもやもやした何かを忘れて、掲げた目標に没頭するのにはもっ
てこいの国だった。いや、日本でなければどこでも良かったのかもしれないが。

(自暴自棄になりかけていた、こんな自分に期待をかけてくれている人たちを
 裏切るわけにはいかない)

 逆境でも、なお燃え続ける「ムスメ魂」は異国の地でもいかんなく発揮され
ていた。
 施設には同じ境遇に悩んでいる様々な人種の患者がおり、お互いを励ましあっ
た。それぞれの国の歌を教えあい、そして合唱する。
 ほんとうの意味での、音楽の楽しさを全身に染み込ませたのもこの時期だ。
 日本でも、アメリカでも多くの人に支えられて、保田は生きる勇気をもらっ
た気がしたのであった。
305鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/02 07:10 ID:/e5DX2mU

 そんな最初の一年が経過し、異国での生活がようやく馴染んできた頃。
 モーニング娘。時代の盟友・後藤真希もアメリカ留学している、という話を
保田は元マネージャーの和田の口から聞いた。
 しかも、記憶を失っているという。

 このことを知っているのは、親族と所属事務所関係者、そして元メンバーの
中でもごく一部だけらしいことも分かった。
 マスコミには療養中とだけ伝えられ、事実を知っている人それぞれに、記憶
喪失の事に関しても米留学のことに関しても、厳しい箝口令が布かれていた。

 それを聞いてもなお保田はアメリカでの孤独な闘いとの中で、あの後藤に会
いに行きたいという願望が日に日に高まっていくのを感じた。自分の住んでい
るとなりの州に生活していると分かったときは、いよいよその気持ちは抑え難
くなってきた。
 いてもたってもいられなくなり、かつて所属した事務所に相談する。
 決して自分の身分を明かしたり、モーニング娘。時代の話をしたりしないで
ほしいという条件つきで、住所を教えてもらった。

 ・・・だが会ったところで、記憶を失っている後藤に何と声をかけたらいい
のだろう?
 それに加えて、自分はまだ人前に出れるような状態ではない。自分がもし逆
の立場だったら、異国で顔に傷を負った見知らぬ女性に突然訪ねられても困惑
するだけだろう。
 結局、保田は考えがまとまらないまま、担当医から2日の休暇を貰ってカリ
フォルニア州・サンフランシスコにある後藤の住んでいるアパートへと向かっ
た。
306鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/02 07:12 ID:/e5DX2mU

 サンフランシスコという言葉の響きに保田はどこかレトリックな、セピア色
のイメージを抱いていた。飛行機の座席から見おろして、眼下に広がる霧に包
まれた都市。赤レンガ色の巨大な鉄橋などがそのイメージを強くする。
 どこか、夢見心地。
 あの歌のメロディが、保田の頭の中で延々とループして流れている。

(邦題では「夢のサンフランシスコ」って言われるぐらいだしね)

 そのメロディとは、往年の名曲・スコット=マッケンジーの「“花の”サン
フランシスコ」だった。

 空港を降りて中心地のユニオン・スクエアへとバスで向かう。それに乗って
いる30分程の間に窓の外を眺めながら保田は、自分の抱いていたイメージが
半分当たっていて、半分的外れなことが分かってきた。
 懐かしさと近代的な先進性とが一体となった、洗練された都市。
 ユニオン・スウエア(正方形)はまさにその近代都市の象徴のように保田の
目には映った。そこの近くの予約してあったホテルに荷物を預け、冬が近いと
はいえ温暖なアメリカ西海岸においては不自然なくらいの厚着で保田はダウン
タウンへのバスへと乗り込んだ。
 周囲には名所の「ゴールデンゲート・ブリッジ(さきほど飛行機の中から見
た巨大な鉄橋だ)」や「フィッシャーマンズ・ワーフ」などへと向かう観光客
の姿が多く見て取れる。
 坂がとりわけ多い市内への移動は、風情ある黄色いケーブルカーに乗るのが
観光客の定番だ。
307鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/02 07:14 ID:/e5DX2mU

 後藤の住んでいるアパートのブロックの近くにはそのケーブルカーの路線は
無い。あるいは冷静だったら少し遠回りしてでも、ちょっとした市内観光を楽
しみたいと思ったかもしれない。
 しかし頭の中が後藤のことで一杯の保田は、なりふりかまわず最短距離の市
バスへと乗り込んだ。

 中心地から遠くなるにつれて、徐々に車内の客の姿も少なくなる。
 いつの間にかバスに揺られているのは運転手と保田、そして若いカップルの
4人だけになった。
 少しだけ西へ傾いたオレンジ色の太陽が、保田を正面から照らす。
 テンガロンハットを深めに被っているとはいえ、直射日光を浴びるとさすが
に顔の傷が目立つ。光を背に浴びるように保田は向かい側の座席へと移動した。

 後藤との再会は突然、意外な形となって目の前にあらわれた。


【37-保田と後藤】END
                       NEXT 【38-後藤と保田】
308名無し娘。:02/07/03 03:05 ID:2mYaZJ10
良スレハッケソ。一気に読んじゃいました。
夜中に読むとカナーリブルーになりますが、先が楽しみですよええ。
ガンガッテください。しつこく読みに来ますわい。
309鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/03 06:48 ID:4HOsksZH
>>308
どもっす。
ちなみに基本的には毎朝更新ですが、朝読むとさらにブルー。
ついでに、作者自身も読み返して「だめ」な文章を発見してブルー。
なんなんだこれは。

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
310鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/03 06:49 ID:4HOsksZH

【T・E・N】 第38話 後藤と保田

「ごっ・・・」

 バスのシートに腰を沈めた瞬間、保田は叫び声をあげそうになった。

「ゴホッゴホッ!」

 喉まで出かかったその名前を慌てて飲み込み、むせ返る。
 その原因は、右斜め前に座っている―――先ほどまで隣りに自分が座ってい
た―――若いカップルたち。

 長めの背もたれの座席に、だらしなく座っている後藤の姿がそこにあった。
 それはアイドルだった時代に、楽屋でお菓子をムシャムシャむさぼりながら
テーブルにうつ伏せになってのんびりと寝ていた頃と、どこか印象が重なる。
 ただひとつ、違和感があるのは、隣りに座っているどこか幼さの残る碧眼・
金髪の男性の肩に頬を寄せていること。
 マフラーと深く被った帽子に素顔をうずくめている保田は、いきなり目の前
に飛び込んできた光景に何をしていいのかわからなかった。不自然にならない
ように、その二人をチラチラと観察する。
 背が高いその男性が何かを後藤の耳元で囁くたびに、彼女は曖昧な笑顔を返
す。
 保田は知っている。
 その曖昧な笑顔こそが、後藤が本当に心の許せる人だけに見せる表情だとい
うことを。かつてはそれが吉澤だったり、保田だったりした。

 保田はその表情を見て、飛行機の中で精一杯考えた、会ったらどんなことを
話すかといったシミュレーションが全部吹っ飛ぶのを感じた。

  自分の知っている後藤はもういない。
  でも今の後藤は、保田の知っているどの後藤よりも幸せそうだ。
311鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/03 06:50 ID:4HOsksZH

 次のバス停で降りた保田は、そのバスがゆっくりとアパートの方角に向かっ
て上り坂の向こう側に消えて行くのを見届けると、全身がフワっと軽くなった
ような気がした。
 自分の思い描いていた再会とは違ったが、サンフランシスコまで遠路はるば
る来たかいがあったと保田は感じていた。

  会わなければならない。
  もう一度、あの時の仲間に会わなければならない。
  そのためには怪我を完全に直さなければならない。
  認められるよう歌い続けていかなければならない。

 様々な人に生きる力を貰った。
 それを恩返しできるようになって初めて、保田にとってのモーニング娘。が
完結するのだ。


 遥か異国の地でそう誓ってから4年の月日が経過した。
 犬神音子(いぬがみねこ)。
 それが今の保田に与えられた名前である。
312鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/03 06:51 ID:4HOsksZH

 アメリカで学んだトーク技術や音楽の知識を発揮すべく、地元FMラジオの
DJとして再起をかけた。モーニング娘。時代の身分は明かさずに、新人とし
て音楽活動も始めた。保田の復活に賭ける気迫に押された元娘。マネージャー
の和田が、ここ数年の間に地道に業界に手回ししておいたのだった。

 元モーニング娘。ということはラジオのスタッフは一応知っているものの、
地方局を回っていて自分が元アイドルだということに気付く人はごく稀だった。
 ビジュアルを一切明かさない正体不明の新人DIVAとして、地味ながらも
着実に保田の歌声は浸透しはじめた。
 デビュー曲は長期間にわたりオリコンチャートの100位内に留まり続け、
累計枚数は無名の新人としては異例の売り上げを記録した。
 その期待を受け発表したセカンドは、意外にもポップでキャッチなナンバー。
 歌姫として売り出したかったレコード会社の反対を強引に押し切って、犬神
(保田)はこの曲をA面にもってきた。

 曲名は「ナカマダチ」。
 かつての仲間でもあり友達でもあったメンバーに捧げる、輝いていたあの頃
を思い出して作った曲だった。


【38-後藤と保田】END
                          NEXT 【39-高橋】
313鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/03 07:05 ID:4HOsksZH

後藤セリフ無しかよ!

と自分で突っ込んでみるテスト。

保田=犬神ってのはミンナ途中で気付いていたよね?
あえてバラさなかったんだよね?(第1話、第18話あたり参照)

それはさておき、アレだよ。
この第38話の「ナカマダチ」って歌だよ。
この歌って後半のある重要な場面で使われるんですよ。
で、さしみは歌詞考えたんだけど、どうも「だめ」なんです。
表現力が乏しいんです。
ショボいんです。
まあ曲名の「ナカマダチ」ってのもどうかと思うような名前だけど。

誰か考えてくれる人キボンヌ。
「娘。を想って詞を書くスレ」みたいなの無かったっけ?
あったとしても、どうだろう。

まあまだその歌が登場するまで、たっぷり時間はあるわけなんですけど。
314:02/07/03 18:31 ID:ML9Vnk64
>>313
マジで気づかなかった・・・鬱。
315名無し募集中。。。 :02/07/03 20:12 ID:bt2vq4yN
>>313
私は飯田だと思ってました。
まあ、「メンバー以外は完全に脇役で感情移入しようがない描写しかしない」
という中でのあの書き方ですから、
犬神音子=実はメンバーの誰かのこと?
というのはすぐに思い付きました。

飯田だと思った根拠は
「現在別の名前で活動しているらしい」こと
→別の名前=犬神音子?
紺野が不思議に思ったように、
「しゃべれる可能性が高いのにかたくなにしゃべろうとしない」こと
→しゃべると「犬神音子」であることがわかってしまうのでしゃべらないことにしている?

保田だとは気がつきませんでした。
何か見落としてたんだろうな。
316名無し娘。:02/07/03 22:28 ID:w7QPvv+C
>>313
もちろん気付きませんでした・・・鈍感だなぁ。
言われて見ればメンバーとしか思えんほどセリフが細かいもんな。

もっかい読みなおす
317鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/03 23:16 ID:uOLmoTJd

第36話(>>284-286)の冒頭。

> 9月23日午後2時。
>保田はその日の仕事を終え、いつものスタッフとの反省会兼おやつの時間を
>無理言って中止にしてもらった。

で分かると思ったんだけどね。犬神=保田。
本当は「保田はその日の仕事を終え〜」の部分は、アップぎりぎりまで
「保田はその日のラジオの収録を終え〜」だったのですが、簡単すぎるかな?
と思って直前になって書きなおしたのでした。
これはちょっとしたお遊びの部分なので、分からなかったからといって
特に今後困るということはありませぬ。
ので、鬱にならないでください。

話は変わりますが。
さしみもサスペンスを書くものの一人として「かまいたちの夜」を
観たのでした。つーか、ゲームもやったし。
さしみ的に内山理名マンセーということは秘密である。

で、かなり「だめ」でした。
やっぱ傘で刺さなきゃダメだよ、ラストは。
「ごくせん」の最終回はよかったです。
318名無し募集中。。。:02/07/04 00:05 ID:tVMclVKU
これからの展開とか張って置いた複線とか自分でばらしちゃうの
さしみさんの悪い癖だと思います。
そういうのは全部終わってからにして欲しいです。
ストーリが非常に面白いだけにもったいないです。
ナマイキ言ってごめんなさい。
319名無し娘。:02/07/04 00:10 ID:K3v6v33w
うん。めちゃサービス精神が旺盛なんだろうけど、
そこまで読者に気を使ってくれなくてもいいっすよ。
面白いものは、作者がレスしなくたって読んじゃいます。
次回更新も楽しみにしてますので。
320名無し募集中。。。 :02/07/04 03:04 ID:RCiCPzx4
>>313
>「娘。を想って詞を書くスレ」みたいなの無かったっけ?
これですね。
  ↓
娘。を想って詞を書くスレ
http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1009127937/

依頼してみます?
321鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/04 07:45 ID:H48nvJMP

【T・E・N】 第39話 高橋

「それじゃあ、犬神音子って圭ちゃんだったの!?」

 石川は思いきり、テレビ番組のドッキリ企画にひっかかったかのように驚い
ている。石川だけでなく、あちこちでどよめきが起こる。

「え!? みんな知らんかったん!? もしかして今日来ることも?」

 高橋はその反応を見てそれ以上のビックリ顔で驚く。保田の名前で多くのメ
ンバーが狼狽したのが意外だったのだ。
 本当に驚いてほしかったのは「特別ゲスト・後藤」の部分だったのだが。
 振り返ってリーダーの顔を見る。本人は紺野に手話で何かを伝える。

「招待状に(保田が来ることを)書かなかったっけ?ってリーダーは言ってま
 すけど・・・」

「書いてなかったよねぇ」

「書いてない書いてない」

 あちこちからそんなこと知らないといった声が上がりだす。バツの悪そうな
表情を浮かべる飯田。

(書き忘れやがったな・・・)

 高橋がギロリと飯田を睨む。確かに高橋も招待状の参加メンバー一覧には目
を通したが、自分が手配した保田の参加だけに見落としていたようだ。
 飯田は何事もなかったかのように目をそらす。

「っていうか私も知らなかったんですけど・・・」

 紺野も困惑した表情を浮かべ、高橋に現在の衝撃を素直に伝える。
322鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/04 07:46 ID:H48nvJMP

「よ、吉澤さんは? 和田さんから聞いてなかったんすか?」

「あ、あったりめーじゃねーか。げ、芸能人だぞ俺は。なぁ。
 し、知ってたさぁ、“ねこ神いぬ”が圭ちゃんだって、こと、ぐらい」

 みるからに動揺した表情と声で、そう答える吉澤。
 どうやらこの場では高橋と飯田たちしか保田が来ることを知らなかったよう
だ。もっとも、リーダー自身も同窓会を開く段階になって、高橋から行方知れ
ずだった保田の参加の旨をあきらかにされたときは、相当面食らったものだが。

「それもビックリしたんだけど、後藤さんを連れてくるってどうゆうこと?
 だって後藤さんは・・・」

 加護が眉間にシワを寄せて、高橋に詰め寄る。

「そっそれは・・・かくかくしかじかで」

 その迫力に負けて、ワザと遠回しに言ったことの真相をあっさり明かにする
高橋。

「でもなんで、圭ちゃんはこの5年間・・・4年だっけ?
 高橋だけに連絡とってたんだろうね」

 石川が不満そうな声をあげる。
 私だって保田さんは最初の教育係だったんだからねっ、とでも言いたげな様
子だ。

「あのぉ・・・保田さんが言うには、あんまり世間に知られたくなかったそう
 っすよ・・・顔の傷も、まだ完治しとらんみたいやし・・・私も固く口止め
 されとってんけど」
323鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/04 07:48 ID:H48nvJMP

 飯田は何か手話で紺野に伝えた。

「(言ったのが高橋で正解だったわね)・・・とリーダーはおっしゃっており
 ます」

 さらにつけ加える。

「(私なんか、聴覚を失ったことを“口の固いなっち”にだけ教えたら、いつ
 のまにかミンナ知っているんだモン、まったく)だって」

 紺野が「通訳」しながら苦笑する。

(そうやね・・・なんで私だったんだろう・・・)

 高橋はモーニング娘。にとって最後のメンバー加入組だ。
 娘。の一員としての時間を過ごすにつれて、先輩同士の結束に入り込む余地
があまり無いことを徐々に感じとっていた。
 本人はそれも仕方がないことだと思っていた。デビュー間もない頃の売れな
い時代に苦楽を共にした初期メンバー同士と、ブレイク後に加入した自分では
認識の差に埋まり難い溝があるのは当然だ、と。

 それでもここ何年か、高橋は姿の見えない保田をずっと追いかけていたし、
保田も落ち込んでメールで相談してくる高橋に対して実に親身になって応えて
いた。
 たぶん最後のコンサートでの楽屋でのあの一言が、5年間一度も会わないに
もかかわらず、ずっと二人を結びつけていたんだと高橋は思う。
324鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/04 07:50 ID:H48nvJMP

「え・・・それじゃあ保田さんもココに来るんですよね?」

 石川が高橋に尋ねる。

「うん。
 ラジオの収録が終わったん2時やから、夕食にギリギリかちょっと遅れるぐ
 らいに到着するとは思うんけど」

「大変!」

「ど、どどどーしたの?」

 と、吉澤が心配そうな声。

「夕食も一人分増えるんだよね! ヤバッ!
 愛ちゃん! いまから急いで夕食の準備始めるわよ!」

 さきほどまで、マッタリしていた石川が急にスピードアップしてパイの残り
とお茶を口の中に流し込んだ。石川が夕食のかなり念入りな仕込みをしていた
のは、高橋もさきほど厨房でおやつの手伝いをしていたので分かる。
 しかし保田が来るということを今になって知って、若干石川の立てたその段
取りに誤差が生じたようだ。

「さぁ〜忙しくなるわよぉ」

 と、どこかハプニングを楽しんでいるようにも見える石川は(確かに保田が
突如出席する、という知らせは彼女にとってこの上ない嬉しいアクシデントの
ようだ)厨房へとその姿を消していった。うろたえながらも、彼女に続く高橋。
325鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/04 07:53 ID:H48nvJMP

 その一連の様子を見送った吉澤が、ぽろっと言葉を漏らした。

「よかった・・・・梨華ちゃん」

 紺野がその意味を問いかける。

「よかったって?」

「うん。
 梨華ちゃんってさあ、武道館の事件であんなヒドい目にあったわけじゃん。
 その・・・レイプされてさ。
 正直、今日来るのが恐かったのは・・・スゲーあのコ、ネガティブなところ
 あるじゃん? でも今の様子みると案外前向きでサバサバしてるから。
 うん、よかった」

「・・・よっすぃー、それは違うよ」

 つぶやくような小さな声があがる。加護だ。

「え?」

「多分・・・石川がイチバンこの中のメンバーで・・・心の傷が深いと思う」

 その加護の沈痛な眼差しの奧に隠された「何か」を吉澤は敏感に感じとった。

(―――加護は知っている。私たちがまだ知らない、石川のなにかを)

 だが加護が、その「何か」をこの場でそれ以上語ることはなかった。
 吉澤も、あえて深く追求はしなかった。


【39-高橋】END
                       NEXT 【40-矢口と安倍】
326鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/04 07:54 ID:H48nvJMP
今日も出勤ギリギリ前に更新だす。
パニック寸前。
気になるレスは今晩しますです。
うたばんが楽しみだす。
327名無し娘。:02/07/04 16:13 ID:CdjAuEbF
余計なことだとは思うんですが、
石川を「石川」と呼ぶ可能性があるのは飯田保田矢口のみで、
後藤をさん付けで呼ぶ可能性があるのは5期メンのみです・・・

庵はキモイですか?キモイですね。失礼しました・・・
328@@:02/07/05 00:36 ID:1RmUMaFX
高橋が飯田に「〜やがったな」なんて、たとえ心の中だけでも
そんな乱暴な言葉で毒づくかなぁ?
仮にも初期メンで大先輩なのに。
それだけ親しくなったっていうエピソードも書かれてないのに…。
娘内の微妙な力関係にもっと気を配ってセリフを考えてほしい。
のめり込んで読んでても急にさめちゃうから。
329名無し募集中。。。:02/07/05 02:14 ID:dWfN2icR
資料(某所から引用)
「呼称」・・・・・・・使用するメンバー

「なっち」・・・・飯田保田矢口後藤
「カオリ」・・・・保田矢口安倍後藤
「あいぼん」・・・安倍後藤と4期メン(5期メンは微妙)
「圭ちゃん」・・・飯田安倍矢口後藤吉澤(石川もたまに)

「なっつぁん」・保田と後藤が稀に使う
「ごっつぁん」派・飯田安倍矢口吉澤
「ごっちん」派・・・石川加護辻(保田は中立)
「辻」・・・・・・・・保田矢口
「のの」・・・・・・飯田安倍石川吉澤加護後藤
「やぐっつぁん」・・後藤のみ(他は「矢口」か「矢口さん」)

微妙な力関係は呼称にあらわれる。吉澤は飯田矢口安倍には「さん付け」だが保田を「圭ちゃん」と呼ぶ。
石川は基本的にまだ保田を「さん付け」で呼ぶ。後藤は五期以外は全員を愛称で呼ぶ。等
後藤は記憶を失ってるから意味ないけど

まぁデテールにこだわりすぎて更新大変にならないように、ほどほどでいいけどね。
330鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/05 04:22 ID:d20JqWh/
呼称は今まで甘い部分があった。申し訳ない。
資料はありがたく使わせてもらいます。
>>325の加護が「石川」と呼ぶのは単純ミスだ。失敗したな〜)
特に後輩メンバーが先輩を呼ぶときなんか難しいよね。
331名無し募集中。。。 :02/07/05 05:30 ID:knJK1VLh
「○○は□□のことを△△と呼んでいるはずで、××と呼ぶのはおかしい。」
というような指摘は「保田圭2011」でもいくつかありましたね。
話がリアルなほどこういったところに違和感を感じてしまうのでしょうね。

そのときに「保田圭2011」の作者さんも少し言っていましたけれど、
「現在のお互いの呼び方と数年後の呼び方が全く同じ」
だと逆におかしいのではないかと思います。
こういうものは時間とともに少しずつ変わっていくものだと思います。

例えば保田は昨年(2001年)初めに今年の目標として、
「吉澤に「圭ちゃん」と呼んでもらう」
ことを挙げました。
それまでは、「圭ちゃんと呼んで」と何回言っても「保田さん」だったわけです。
そして <<329 にあるように目標は達成されました。
よかったね、ヤス。

そういうわけですから、作者さんは、現在のメンバー間の呼び方は
それはそれとして把握しておいた上で、
作品中の人物には作者さんの考える作品中の人間関係に沿った呼び方をさせれば良いのではないかと思います。

スレ汚し失礼しました。
332鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/05 05:49 ID:d20JqWh/
きのうはうたばんのビデオ観て、速攻で寝た次第。
目が覚めたら4時で、現在ネット巡回中のさしみである。

>>318-319
確かに、ココであまりシナリオの内容に深く触れるのは良くないですねぇ。
以後気をつけます。あのままいったらとんでもねーネタバレを自らしそう
だったしねぇ。自制しなくては。

第39話はメンバー間の呼称の問題もそうですが、文章が全体的に荒れ気味。
ちょっと頭を冷やさなきゃいけません。特に朝大幅に加筆すると後悔すること多し(w
なので第40話は明日更新するっす。スミマセヌ。
少年ジャンプの冨樫義博の連載を見守るような、生暖かい気持ちで。

>>320
まだあったんだ、そのスレ・・・スレタイトルだけで中身見たことなかったんだけど
そのうち依頼しよっかな。歌詞はホント切実なのよ・・・
メールでもいいので誰か考えて下さい。

と、いうことで物語の真相が分かったけど書いたらネタバレになる!
でも、誰かに言いたい! みたいな人や、歌詞を作ってくださった方は
メアドを作りましたので、直接さしみにお送り下さい。返事は不定期かも。

[email protected]
333鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/05 06:01 ID:d20JqWh/
もっとも、物語の真相うんぬんの前に、
事件ですらまだ起こっていないわけなんですけど。

とりもなおさず、ご意見レスはありがたく参考にさせていただきます。

「めざましテレビ」のオープニングとエンディングを毎日欠かさず観ている
俺みたいなヤツはあんまりいないだろう。関係ないど。
334たぢから:02/07/05 07:35 ID:BuonjXkV
はじめまして。同じ羊板で細々とヘタレ小説を掲載してるコテハン野郎です。
毎日更新の傍ら、楽しく読ませていただいております。
メンバーの呼称についての話題が出たので、レスさせていただきます。

昨日の「うたばん」で吉澤が“圭ちゃん”と言っていたのは驚きましたが、
上のレスを読んでなるほどと思いました。
石川もラジオで“真里っぺ”とたまに言ってますね。
今までは四期メンからは先輩後輩の垣根(?)みたいのがあった気がしますが、
少しづつ変わっていきそうですね。

そういやなっちって“ごっつぁん”派だったのですか。直さなきゃ…
335通り縋り:02/07/06 00:40 ID:45GH66GH
たぢから氏、ハケーン!


スレ汚し、スマソ
336名無しさん :02/07/06 12:53 ID:DBh6L51X
更新してない・・・鬱
337名無し娘。:02/07/06 17:59 ID:KRf0oo8W
>>288とのことだ。

ってことでほz(ry
338鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/06 18:22 ID:Y+otCie6

【訂正とおわび】
第3話のラスト

> 助手席でいびきをかいて寝ている安倍なつみを、〜
   ↓
> 後部座席でいびきをかいて寝ている安倍なつみを、〜

にさせてください。お願いします。
そうしないと第40話と矛盾しちゃうんです。ヒー。
これに悩んで2日更新しなかったんです。(情けない言い訳)

サスペンスものはちょっとした矛盾で歯車が狂ってしまう恐れがあるので
非常に危険だと、さしみ思った2002年初夏。
中途半端な時間に更新するのも、おわび。
>>336さん他、スミマセン。
339鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/06 18:24 ID:Y+otCie6

【T・E・N】 第40話 矢口と安倍

 9月23日午後1時。
 この日は、郊外の撮影スタジオでドラマの収録を終えた安倍をそのまま矢口
が拾って、同窓会場であるつんく邸へと向かう段取りになっていた。
 昨日の夕方から深夜、早朝、そして昼。
 過酷な現場に立ち会い軽い仮眠しかとっていないらしい安倍は、矢口の車に
乗り込むなり緊張の糸が切れたのか、広々とした後部座席に横になり深い眠り
についてしまった。
 2時間、そして3時間たってもまったく起きる気配がない。

 その頃になると矢口は疲れは安倍ほどたまっていないにしろ、単調な山道を
話し相手もなく運転し続けるのにかなりの苦痛を感じていた。
 眠気覚ましにFMラジオを聴いていたが、矢口の嫌いな曲が流れだしたため
に、洋楽のCDに切り替えた。スザンナ・ホフスの「Only Love」。

 ♪but every drop of rain that falls makes a flower grow
  don't give up now, don't give up now
  baby, don't you know

 矢口はもちろん運転に集中していたのだが、そのフレーズを聴いたら自然と
涙がこみ上げてきた。

「ど、どーしたの? まりっぺ!?」

 後ろから聞こえてきたその声で、安倍が目覚めたのを知った。
 曲がりくねった山道をなるべく仲間を起こさないよう矢口は、いつもに増し
て慎重に運転していたつもりだった。しかし路面が荒れはじめ寝心地が悪かっ
たせいか、いつのまにか身体を横にしながらも安倍は目をぱちくりさせていた。
それは明るい曲調なだけに、意外に思ったのも無理はない。
 矢口は慌てて適当な言い訳をして、その場を逃れた。自分でもその涙の理由
を知りたいぐらいだ。
 安倍はしばらくうつろな目で黙っていたが、おもむろに起きあがりプラダの
ボストンバックからラップトップパソコンと携帯電話を取り出した。
340鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/06 18:24 ID:Y+otCie6

「なっち、こんな山奥なのに繋がるの?」

 曲がりくねった山道のため運転に集中せざるを得ない矢口。
 バックミラーごしに見える、後部座席でPCを開いて何かをしている安倍を
チラチラ目にしながら呼びかける。
 安倍が車窓を開いて電波を受信しやすいように左手に掲げている携帯電話は、
矢口の持っているような普通の薄っぺらい機種とは違ってちょっと黒くてゴツ
いものだった。その携帯とケーブルで繋がったパソコンでどうやらモバイルし
ているようである。

「ん〜、一応。衛星通信だから」

「ええ!? エーセー携帯なの、なっちのやつって!
 あれって基本料金すごく高いって話だけど?」

 地球上何処にいても繋がる、世界統一規格の携帯電話。数年前から存在はし
ていたものの、一般に普及し始めたのはごく最近の話で、それも非常に限られ
たの種類の人間でしか持っていないというシロモノだ。

「う〜ん、よくわかんない。事務所から渡されたヤツだし。
 去年の映画の撮影のときに役にたったぁ」

 安倍なつみ主演の離島を舞台にした生死をかけた「極限の愛」をテーマにし
た映画が昨年公開され、スマッシュヒットを飛ばしたのは記憶に新しい。

「そっそう、事務所にね・・・」

 素気なく答える安倍に、矢口は複雑な心境になった。
 同じ事務所に所属してはいるのにもかかわらず、当然矢口には衛星携帯電話
など支給されたりはしない。車のカップホルダーに入れてある2年前に発売さ
れた自分の携帯には、この秘境では当然のように「圏外」と表示されている。
 安倍と矢口に待遇に差があるのは当然だし、昔から自覚していたつもりだっ
た。しかし、いざモノという形で目の当たりにすると、やはり矢口はガックリ
と肩を落とすのだった。
341鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/06 18:26 ID:Y+otCie6

「たった一日ぐらい、外の世界のこと忘れちゃいたほうがいいかぁ」

 ちょっと反省まじりになりながらも、安倍はパソコンの液晶画面に目を走ら
せる。ときどきキーボードを叩き、メールチェックとその返事をしているよう
に見える。

「まあ、別にそんなことはないとは思うけど」

 矢口は本心でそう言った。
 未だにメンバーだけの世界を素直に楽しもう、という気にはなれないでいた。
 あれほど5年前まであたり前だった、メンバーだけの顔合わせ。
 だけど現在では、娘。の中に身を置いている矢口、というシチュエーション
を想像できない自分がいる。

 ああいった形での幕切れを迎えたグループが5年という時を隔てて人里離れ
た屋敷に集まり同窓会をしようといったことに、とてつもなく不吉な予感とピ
リピリした緊張感を矢口は抱かずにはいられないのだ。
 あまりメンバーには関わりたくない、という矢口のその想いは2年前、アメ
リカで後藤の身に起こったあの事件でより一層強くなった。

(私だけなのかぁ・・・? 9人も集まるのが意外だと思ったのは)

 できることなら参加したくない、という気持ちは今も変わっていない。
 どこかの都内の料亭などで開催される同窓会であれば、途中で気分を害した
ら、適当な理由をつけて退席すれば済むのに、と矢口は思う。まだ逃げ場があ
る。同窓会の開かれる場所がこの山奥のつんく邸だと知ったときには、ギリギ
リになるまでキャンセルしようかどうか迷っていたぐらいだ。
 が、安倍の半ば強引な推しと説得によって出席せざるを得なくなった。
342鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/06 18:27 ID:Y+otCie6

 安倍が目覚めたため、ようやく矢口はまともに彼女に話を振ってみよう、と
いう気持ちになった。

「それにしてもなっち、ホント仕事忙しそうだよねー」

「う、ん〜、ホン(台本)覚えるのが大変なんだよ〜、あたし物覚え悪いから」

「もうみんな豪邸に集まっているのかなぁ?」

「えへへ、このままだとちょっと遅刻しちゃいそうだよね」

「なっちの場合はもうモーニングの時代からミンナあきらめているって」

 久しぶりにハイトーンヴォイスでケラケラ笑う矢口。
 撮影が押しただけで遅刻の原因は安倍にない。それゆえ、ムスっとした表情
を浮かべて反論する。

「そうかなぁ? 自分では昔もあんまり遅刻したキオクってないんだけど!」

 矢口はふくれた安倍をハイハイ、と軽くあしらう。

「でね、なっち」

「何?」

「私本当はこの同窓会に参加する気なかったの」

 矢口がぽろりと漏らした本音に、安倍は息をのむ。

「・・・どうして?」

 運転手である矢口は上唇をちょっとだけ尖らせて、ずっと山道の先を見つめ
ている。先ほどの笑顔とはあきらかに違う。
 何かを考え込んでいるような、懐かしんでいるような、迷っているような、
そんな表情だった。


【40-矢口と安倍】END
                       NEXT 【41-紺野と吉澤】
343名無し娘。:02/07/06 20:06 ID:KRf0oo8W
おお更新して良かった。
344名無し募集中。。。:02/07/07 18:34 ID:2cAtgjEh
hoz(ry
345鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/08 03:47 ID:5ZZYNQsb

すっかり不定期更新になって申し訳ねぇっす。
第41話 紺野(激やせ)と吉澤(激太り)
はもう少し待て!

「間取り図」更新いたしましたよ。
3階・地下1階を追加した次第。
あとは本編を書き直したやつとか載せたいねぇ。

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
346名無し娘。:02/07/08 23:51 ID:Y4v6NAJ+
THE Hozen
347鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/09 07:40 ID:LRGZqOHF

【T・E・N】 第41話 紺野と吉澤

 吉澤があの場で「探検しよう」と提案したときに、みんなには言っていない
理由がもう一つだけあった。

 もしあの時、吉澤が見た「あれ」がマボロシでなければ、辻はこの屋敷(も
しくはその近辺)のどこかに必ずいるはず―――。
 特にここに来てから、吉澤は常に誰かに監視されているかのような、奇妙な
違和感を覚えずにはいられなかった。

「女の勘」

 吉澤はふと脳裡にその言葉がよぎり、苦々しい表情を浮かべる。
 紺野はその吉澤の右斜め後ろからチョコチョコついてくる。居間にある2階
への階段を登りきり、遊技場へと向かう。自分の客室から近い位置にあるので
気になっていたのだ。

 吉澤が遊技場へのドアノブに手をかけた時、どこか怯えた表情を浮かべてい
る紺野が気になった。

「どーしたの?」

「ええ・・・何でもないです。けど・・・」

 くだらない、と思いつつもその質問をしてみる。

「この屋敷来たことあるんでしょ?」

「・・・」


 吉澤はもう何年も見ていないが―――というのは、それには自分の「女」と
しての姿が載っていることに、どこか気恥ずかしさを感じるから―――あの武
道館の事件の直前に発売された「解散記念・モーニング娘。ファイナル写真集」
では、5期メンバー4人は確かにこの屋敷を舞台に撮影をしていた。
 入口のドアを開けたときに感じた既視感は、その写真集によるところが多い
のだろう。
348鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/09 07:41 ID:LRGZqOHF

 エントランスホールの螺旋階段から身を乗り出す高橋。
 居間の長いソファに肩を寄せあって微笑む新垣と小川。
 そして。
 吉澤はドアを開けた。

 電気を点けても薄暗い室内は、天井からぶらさがったプロペラがくるくる回っ
ている。黒いカーテンは締め切ってあるし、カーペットもワインレッドなので、
昼間でもなお暗く感じさせるのだろう。
 ビリヤード台、ピンボール、ジュークボックスなど、アメリカの場末の酒場
を思わせるようなシックな雰囲気が漂っている。1階の居間に置いてあったの
とは違い、革張りのソファーも大人の雰囲気を醸し出している。

(ちょっとオレの店と似ているかな・・・)

「・・・懐かしい!」

 紺野はそう叫んで、そのソファーに飛び込んだ。ちょっとだけ表情が明るく
なる。
 写真集での紺野は、これに寝そべって年齢の割には色っぽいポーズ、そして
妖艶な視線を魅せて他のメンバーを驚かしていたものだ。
 吉澤も、解散の1年程前からどんどん紺野が垢抜けていくのを感じていた。
加入当時のアンニュイな雰囲気を保ちつつ、痩せて可愛くなっていったと思う。
彼女の面白いところは、そんな周囲の思惑を一切気にしている様子が感じられ
ないところにある。
 いまでもそうなのかな、と吉澤はうつろな目で静かにまわるプロペラを見上
げて回想に耽っている紺野を見てそう思う。
 天井は吹き抜けのため高く、3階に置いてあるピアノがここからでも見える。
 食堂へ降りる階段、テーブル、バーカウンターなどが見える。
 ほかにも観葉植物や石膏像などの置物。
 たくさんモノが置いてあるため、こまごまとした印象を受けるが見渡してみ
るとけっこう広い。
349鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/09 07:43 ID:LRGZqOHF

「来たことはあるんですけどね」

 吉澤がドアを閉めると、ソファに寝そべっていた紺野が急に姿勢を正して喋
り始めた。

「なんか・・・あの・・・出るらしいんですよ」

「何が?」

 と、吉澤が訊き直した直後になって、ハッと自分でも気がついた。
 紺野は無表情のまま両手を自分の胸の前にだらしなくぶら下げる。「幽霊」
のポーズだ。
 洋館にオバケ。
 あまりにもありきたりで陳腐な組み合わせ。
 普通だったら吉澤も笑い飛ばしていただろう。
 しかし吉澤も見たのだ。
 それらしき人影を。

 吉澤の中に、何かが揺れ動いている。
 幻覚だったのか。現実だったのか。

 しばらく沈黙が続いた。
 吉澤は、そのポーズをとっている紺野が急に笑顔で「なーんちゃって!」な
どと言うのを期待していたのかもしれない。
 しかし紺野は腕を下ろしたものの、なお深刻そうな表情を浮かべうつむいて
いる。その雰囲気に、吉澤はもう耐えられない。

「見たの? 紺野も?」

 首を横に振る。

「ただ・・・まこっちゃんと里沙ちゃんは見たみたいなんです」

「・・・5年前の話?」

 紺野は声にならないが「はい」という口の動きをしながら、ゆっくり首を縦
に一度だけ振った。


【41-紺野と吉澤】END
                       NEXT 【42-石川と高橋】
350鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/09 07:44 ID:LRGZqOHF
少しづつでも更新していったほうがいいよね。
351名無し娘。:02/07/09 10:36 ID:Zz60LGXW
そりゃ更新したほうがいいに決まってますがな
ってことで乙カレー。
352名無し娘。:02/07/10 01:01 ID:+7zqsFPI
無理せんでもいいけど、
少しでも毎日見れると嬉しい。
353名無し募集中。。。:02/07/10 02:02 ID:tIqvrJBv
無理してでも
毎日いっぱい見れるともっとうれしい。
354名無し娘。:02/07/10 08:30 ID:kPa5VqTh
毎日見れるとすごく嬉しいですよ。
355名無しのごんべえ:02/07/10 11:55 ID:5PZessgP
私もいつも楽しみにしてます。とっても面白いですよー!!
356鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/10 20:39 ID:7S3gimsQ

おおっ
なんかいっぱいレスついてるぅ。
毎日更新だもんな。うん。

頑張って今から書きます。(サラリと問題発言)
357名無し娘。:02/07/10 23:02 ID:1VznlIxN
台風情報が気になって深夜までテレビの前でうだうだする矢口
358ぶるー:02/07/11 01:47 ID:vkmxAB7+
人生初カキコです。 一気読みしてしまいました。
面白いですね! 頭の中でイメージできるんで…
文学的な指摘できなくてすいません
がんばってください。応援してます
359sage:02/07/11 01:51 ID:fWgb7x7F
上げちゃまずいんでない?
360鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/11 07:55 ID:zxIKXloD

みなさんご声援ありがとーございます!
第42話は11日夜に更新いたします。
もうちょいと待ってくださいませ。

PS 今度の新曲は結構イイと思います。
361名無し募集中。。。:02/07/12 01:06 ID:vwel45sR
もう12日なわけだが・・・・

まぁ無理せずマターリ頑張ってくださいな
362鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/12 01:31 ID:6KvKxFhh

【T・E・N】 第42話 石川と高橋

「石川さん、これは・・・」

 ボウルの中にボイルされたエビが盛られていて、高橋はそれを遠慮がちに指
さす。

「うん、グラタンの中に入れるの」

 石川はディナーの料理が一人分増えたことにより食器類の数を再度確認し、
不足分を厨房の隣りの食堂の棚から持ってきたりと相変わらず慌ただしい。

「ダメですよ、保田さんは」

「え? 何が?」

石川がその足を止める。

「エビですよ。保田さんがエビアレルギーだったの、忘れたんですか?」

「ああ」

 石川は、ため息と驚きを懐かしさが入り交じったような声をあげた。
 (そういえば)と、むかし保田がエビ中毒で身体全体にジンマシンが発生し
番組の収録を急遽休んだことがあったのを思い出した。そしてそれ以来保田は
どんな料理だろうと、エビを食べないようにしているのは石川も知っていた。
 その高橋の言葉を聞いてから、プライベートで保田と石川が温泉旅行に行っ
たときも旅館で出された刺身の甘エビを彼女が残していたのを思い出す(イヤ
イヤ石川は自分のマグロと保田の甘エビを交換したものだ)。

「よく知っているわねぇ、あのとき確かまだ愛ちゃんメンバーじゃなかったで
 しょ?」

 高橋はその頃はまだ、地元福井で普通の中学2年生として過ごしていた。
 しかも保田が体調を崩して休んだその番組自体、その地方では放送していな
かったのだ。
 もっとも、そこまで石川は知っていたわけではないのだが、妙に高橋がその
ことに詳しいので意外に思った。
363鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/12 01:32 ID:6KvKxFhh

「私も後から保田さんに言われて知ったんやけど、聞いてくれますぅ?
 石川さん!」

 高橋もようやくこの人里離れた洋館の厨房で、石川と二人きりで料理にとり
かかるという、ある意味特殊な状況に慣れてきたのだろう。さきほどまでの
「固さ」が取れて、しゃべり方にも若干余裕が見られるようになった。
 つまり、ところどころ訛りが目立つようになってきたということでもあるの
だが。

「私い、解散する前に保田さんと二人だけで中華料理食べに行ったんですよ。
 したらぁ、保田さんエビチリ自分で頼んだクセして、いざテーブルに出され
 たら(あっ、私そういやエビアレルギーだったわ、愛ちゃん全部食べて)
 なんて言うんですよ! 山盛りのエビチリをですよ! もう信じられない!」

 ふふふっ、と後輩のそのちょっと脱力感あふれる発音も含めて石川は「ウケ
た」。確かに姉御肌の割には、オッチョコチョイな保田さんのやりそうなこと
だなぁ、と思う。

「もう、私エビチリだけでお腹いっぱいなっちゃって、そんあとの料理全然食
 べれんかったんですよ!」

「あははっ、それじゃあ保田さん用にエビを抜いたグラタンも一つ作っておけ
 ばいいわけね」

 高橋は大きくうなずいた。
 グラタンは夕食のときにアツアツの出来たてが並べられるように、まだ前準
備の段階なので高橋がエビのことに気が付いたのは絶妙のタイミングだった。
364鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/12 01:33 ID:6KvKxFhh

 確かに保田が突然参加することを知って、食堂にある棚から同じ皿を引っ張
りだしてきたりと仕事は増えたものの、やはり高橋が手伝うことによって多少
ゆとりが出てきたようだ。
 作業の手を止めるほどの暇はないものの、ぽつりぽつりと会話も増えてきた。

「ほんでぇ、石川さんと加護ちゃんって一週間前からこのつんく♂さんの屋敷
 におるんですよね」

「うんっ、けっこう大変だけど楽しいよ」

「ずっと二人だけで?」

「そうだけど?」

「そうっすか・・・」

 高橋はさきほどからの、ほぐれた表情と口調で続ける。
 しかしこれから話すことに、どこか決意というか覚悟のようなものが瞳の奧
に宿っているように石川は感じた。

「なんか夜中にヘンなモンとか見んかったですか?」

 石川の動きが一瞬、止まった。と同時に手にしている皿がスルリと滑り落ち
そうになったのを、あわててしっかりと握り直した。

「あのぉ、ウチら4人で写真集の撮影にココ(屋敷)に来たって、さっきゆう
 たじゃないですか」

「うん」

「私と紺野ちゃんは次に仕事あるからすぐに帰ったんですけど、その・・・
 まこっちゃんと里沙ちゃんはお泊まりだったんですよ」

「へえ」
365鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/12 01:35 ID:6KvKxFhh

 高橋はグレープフルーツの皮をむきながら、あくまでも涼しい顔―――のつ
もりでいるのだろうか。やはり目が泳いでいて、ぎこちない。
 一方、石川も適当に相槌を打って冷静を装ってはいるものの、高橋の口から
紡ぎ出される言葉のひとつひとつに、ただならぬ胸騒ぎを感じとっていた。

「・・・で何日か後に会ったら二人とも何か元気ないんですよ。
 私冗談のつもりで(つんく♂さん家でユーレイでも出たの〜? いかにも出
 そうなトコロだったもんね〜)って笑いながら言ったら・・・」

「いたって?」

 高橋はこっくり、うなずいた。
 しばらく沈黙が続いた。

「誰の?」

 石川はつい、そう言ってしまった。
 新垣が生きている解散前の話ともなると、当然の如く辻も生きている。じゃ
あ小川たちが見た幽霊とは一体誰だったのか。

「え? 誰のって?」

 高橋がそう訊き返してきて、初めて石川は自分の言ったことが失言だと気が
付いた。
 この場合、屋敷で見た幽霊ということだけで、つい辻だと石川は決めつけよ
うとしていた。しかしそれが武道館の事件の起こる前の話ということで、また
新たな疑問が沸いたのだ。

 その幽霊はじゃあ誰なのか。

 しかしこの話を切り出した高橋にしてみれば「幽霊」の存在の有無について
言及するのをいきなり省いて、石川が幽霊の人物像にまで飛躍したことに大き
な違和感を感じたのだった。
 厨房に気まずい空気が流れているのが、お互い分かる。
366鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/12 01:37 ID:6KvKxFhh

 石川は皿を取りに行くふりをして、半ば茫然としながらフラフラと食堂へと
向かった。
 ついさきほど裏山で見かけた、辻の姿が頭の中でリフレインしている。

 食堂に入り、目的も忘れて食堂の食器棚に視線を泳がせていると、階段から
ちょうど吉澤も生気を失った顔でゆっくりと上から降りてきた。
 石川の胸の中でモヤモヤしていたものが、ここぞとばかりに熱い言葉となっ
て口から発せられる。

「よっすぃー! あのユーレーがね、あのね、あのコらも見たって・・・!」

 そう言いかけたところで吉澤の後ろからもう一人、紺野も手すりによりかか
りながら頼りなさげについてきたのを見かけて石川は言葉を失った。
 吉澤も紺野も、結局石川が何を言いたいのか分からなかった。
 二人とも、しかめっ面をしている。
 つくづくタイミングが悪い。

 やり場の無い憤りが胸に沸き上がってくるのを感じかけたその時、石川の耳
にある音が飛び込んできた。

「ジリリリリリリン!」

 居間の階段の横に備え付けられた電話が、けたたましく鳴り響いてる音だっ
た。


【42-石川と高橋】END
                       NEXT 【43-安倍と矢口】
367鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/12 01:41 ID:6KvKxFhh
>>361
スマンス。今日は残業ってやつでさぁ。
(しかし第41話を書き終わった時点で第42話を一行も書いていないとは
 我ながらいい度胸である)

次回更新は13日朝を予定しておりますが、こんなファジィな作者ゆえに。

なおアレルギーの解釈については、ツッコミどころ満載かと思われるが
涼しい目で見逃すようにしたまえ。えっへん。
368名無し娘。:02/07/12 01:52 ID:hWrQ97qj
乙。
まあ不定期でもいいからとにかく辞めないでね。絶対最後まで読みたいから。
369:02/07/12 12:26 ID:rNMy1x1/
>>367
アレルギーに関しては症状も人それぞれなので、
そんなに気にしないでいいと思いますよ。
実際、「ピーナッツアレルギー」なんて言うのもありますし。
370鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/13 07:37 ID:1se2Yu6E
無理ぽ
371鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/13 13:07 ID:MU6EcIuE

【T・E・N】 第43話 安倍と矢口

 矢口の運転する“三菱RVRR”はすでに舗装されていない山道へと突入し、
ようやくオフロードでの強さを発揮していた。
 とはいえ、揺れがひどいので安倍は後部座席から矢口の横の助手席まで移動
し、その手には例の衛星携帯電話が握られている。

「ええ、ごめんなさいドラマの撮影のほうがちょっと長引いちゃって・・・うん。
 あと道間違えたりもしたんだけど。タハッ」

 安倍が申し訳なさそうに弁解する。

(おいおい、私の責任もアリかよ。
 いや確かにそうなんだけれど、わざわざ言うことねーじゃん・・・)

 と矢口は苦い顔。

「もう、山道。ああ、けっこうデコボコしてる。そしたらもうすぐなの?
 うん。なるべく早く着くようにするから。ホントごめんね。わかった。
 気をつけていくし」

 集合時間からすでに30分以上を過ぎてしまったので、屋敷にひとことお詫
びの電話を入れたのだ。
 安倍が「切」のボタンを押したのを確認してから、矢口が尋ねる。

「誰だった?」

「石川・・・さん。もう他の人は、ほとんど来ているって」

 そりゃそうだろうよ、と心の中で突っ込んでから、矢口がちょっと意地悪っ
ぽく言う。

「モー。衛星携帯持っているんだったら最初っから言ってくれればいいのに、
 なっちったらぁ」

「はぁ。ずっと寝ていましたしねぇ」

 とあくまでもノンビリと笑顔で返す安倍。
 安倍はあの事件のすさまじさから精神的に大きなショックを受け、心からの
笑顔を失ってしまったと矢口は聞いていた。たしかに運転しながら横目でその
表情を確認したが、モーニング娘。だった頃に「天使のように」と形容された
ほどの笑顔ではない。どこか憂いを含んだ微笑みのように、矢口は感じる。
372鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/13 13:08 ID:MU6EcIuE

「ねぇ。ヤグ・・・真里っぺ」

「何?」

「そろそろ教えてくれない? どうしてこの同窓会に参加したくなかったの?」

 さきほどは、その理由までは聞けなかった。
「どうして?」との安倍の問いに、矢口は沈黙で答えたつもりだったが彼女に
そういった曖昧さは通じない。「実直」といえば聞こえはいいが、ひねくれた
言い方をすれば無神経。本人に至って悪気がないだけに、それがしばしば誤解
を生むこともあったが、そういったストレートな生き方に密かに憧れを抱いて
いたのも矢口は否定できない。
 渋々ながら、矢口はその理由を丁寧に教えることにした。

「ん・・・だって、私・・・高橋もそうだけど・・・解散したあとは、芸能界
 では正直パッとしてないじゃん? なんか、それで、モーニング娘。時代の
 メンバーに会ったら、引け目を感じるっていうのかな、多分忙しかったけど
 充実していたあの頃を思い出して、それと今の自分を対比して虚しくなるん
 じゃないかなぁって思ったわけで・・・」

「・・・」

「だから、なっちに同窓会に出席するように強くプッシュされたときはすっご
 い悩んだんだよ、本当に」

「・・・そうだったんだ・・・私は、けっこう、こんな同窓会するんだったら
 真里っぺが主宰してもおかしくないと思ってた」

「うん、もちろんあんな事件がなくて、私も仕事が順調にいってれば、そんな
 こと考えてもべつに不思議じゃないよ。でも正直、何を今さらっていう気持
 ちも未だにあるってのを分かってほしいんだ」

「・・・そっか・・・」

「なっちは、そうゆうの無い?
 もうモーニングに関わりたくねーや、みたいなの」

「ううん、私はモーニング娘。に入れていなかったらこうやって女優の仕事を
 させてもらうってことも、無かったと思うし」

「そっかぁ謙虚だなぁ。
 もし私がなっちみたいに解散後もさらにビックなってたら、それはそれで何
 今さら同窓会かよっていう気分になるかもしれないけどなぁ」
373鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/13 13:09 ID:MU6EcIuE

 そんなもんかな、と安倍はささやくほどの小さな声でつぶやいたが路面の悪
い山道を走る音にかき消された。矢口は山道の先を、安倍は次々と車窓の外に
流れる深い森を、ただじっと見つめる。

「変わりすぎたんだよ」

 突然矢口が沈黙を破り、吐き捨てるようにそう言った。

「あまりにも、バラバラになりすぎたんだ」

 すぐ横にいるにもかかわらず、それは矢口の独り言のように安倍は感じた。

 それが、矢口の本心。

 それを聞いてしばらく安倍は、どう声をかければいいか迷っている様子だっ
たが結局、全然関係のない話へと「逃げ」ることにした。元メンバーの石黒彩
がファッションブランドを立ち上げて、それなりに好評を博しているといった
話題や、初代リーダーの中澤が昨年結婚・出産。その息子がカワイイといった
話題。
 その「逃げ」は成功したようだ。
 矢口自身に眠っていた、本来のバラエティ体質というか、おしゃべり上手な
ところのツボを小気味よく押され、イキイキしているように見える。
 あるいは矢口も喋ることによって、さきほど自分でつい漏らしてしまった本
音をかき消そう必死になっているようでもある。だがどんな形であれ、矢口が
少しづつでも元気を取り戻してくれていったことが安倍にとっても嬉しかった。
374鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/13 13:11 ID:MU6EcIuE
 
「あとね、こないだなっちに会ってからなんか違和感があるなぁって思ってた
 んだけど」

「え?」

 安倍が鳩が豆鉄砲を食らったような目で、饒舌になった矢口を見た。

「やっといま分かったよ」

「何?何? なにを?」

「なっち自分のことを“私”って言ってる。昔はずっと“ナッチ”だったのに」

「ああ、な〜んだそんなことね」

「実はね〜、私もひそかに昔から思っていたんだ、いい年こいて自分のことを
 “ナッチ”なんて呼んでいるんじゃねぇって、キャハハハハ」

「ええ、まあ、そうだよね。アハハハ」

 その笑い声が徐々に小さくなってゆき、落ちついた表情に戻るふたり。

「・・・やっぱ女優の風格でてきたよ、ナッチ」

「・・・ありがと」


【43-安倍と矢口】END
                       NEXT 【44-加護と紺野】
375名無し募集中。。。 :02/07/14 07:42 ID:CVKyOo+K
>>348
>写真集での紺野は、これに寝そべって年齢の割には色っぽいポーズ、そして
>妖艶な視線を魅せて他のメンバーを驚かしていたものだ。
見たい・・・
376:02/07/14 12:08 ID:CJ3F+rLF
>>375
誰か作成しる。
377鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/14 13:17 ID:XzO7kJjb

【T・E・N】 第44話 紺野と加護

 石川は、派手な金色の装飾のついた白い受話器を置いた。
 むかし子供の頃、黒電話が家にあったなあなどと、どうでもいいことを思い
出す。石川にとってダイヤルを回す電話機を使ったのは、それ以来2度目であっ
たから。

「安倍さんだったぁ?」

 という加護の問いに、石川は小さくうなずく。
 ここに来てからいくつかの電話がかかってきているが、そのすべてを石川が
受けている。ほとんどはつんく♂の仕事がらみの電話だが、お手伝いさんだと
思わせて「わかりません」の一点張りでなるべく早く切らせるようにしている。

「あれ? 飯田さん・・・?」

「部屋に帰っちゃいました。着替えるとか言って」

 石川は加護の髪型がいわゆる「お団子頭」になっているのに気が付いた。

「この頭にしてくれた後にね」

 と言い照れ臭そうに加護は自分の頭を軽く触れて、カタチを確認する。
 ますます5年前の加護の面影に近づいた気がする。

「そう・・・」

 加護がひとりだけぽつんと居間に残されていて、パソコンをいじっていた。
 食堂から出てきた吉澤・紺野。
 厨房から顔をのぞかせる高橋。

 紺野は加護がひとりなのを見て、すかさず居間のソファへとすべりこむ。
 ここからもう一歩も動かないぞ、といわんばかりに。
378鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/14 13:18 ID:XzO7kJjb

「ちょっと遅れているみたいだけど、もうすぐ着くみたい」

「ドラマの撮影が押したんっしょ?」

「みたい。さすが大女優だよねぇ」

「矢口さんの車で来ているんだよね」

「うん」

「そういやぁ“Doll’s EYE”に一度だけ、矢口さん来たみたいなん
 だよ。そのとき俺いなかったけどね」

“Doll’s EYE”とは吉澤が経営するバーの名前だ。
 その石川と吉澤のやりとりを見ていた高橋が、申し訳なさそうに割って入る。

「あのー・・・石川さん? ちょっと聞きたいことが・・・」

「そうだ! ジュース作っている途中だったよね!」

 石川は再び厨房に駆け込む。
 加護と紺野はパソコン、ネットの話について盛り上がっていた。
 こうなると今度は吉澤が、ひとり取り残される。

(しょーがねーか)

 吉澤は「探検」をひとりで続けることにした。先ほどの話によると、写真集
の撮影でほんの3時間ほどしか滞在していない紺野も、吉澤同様それほどこの
屋敷に詳しいということではないらしい。

「あいぼーん。この扉の向こうって何があるの?」

「んー私たちの部屋と、ボイラー室とぉ、地下に通じる階段」

「地下?」

「レコーディングスタジオ」

(・・・そうだ思い出した)
379鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/14 13:20 ID:XzO7kJjb

 吉澤がこの屋敷で本当に、真っ先に見たいと思っていたのはそこだった。
 解散の数カ月前に、後藤がこの屋敷から直接、吉澤に電話してきた。初めて
の場所でのレコーディングの不安と高揚を、素直に吉澤に吐露していたのを憶
えている。弱気なところをメンバーに―――特に吉澤には―――見せない後藤
にしては珍しいことだった。
 後藤にとって、吉澤は親友でもあると同時に後輩でもありライバルでもあっ
た。ゆえに意外に思われることが多いが、プライベートでの遊びやおしゃべり
といった場で仕事に関係することには、お互い意識的にほとんど触れようとは
しなかった。最初は吉澤も戸惑ったが、後藤のそういった態度から芸能人とし
ての「けじめ」を学んだのだった。
 それでも、たった1人の追加メンバーとして加入した後藤にとって、モーニ
ング娘。そしてプッチモニの中での吉澤の存在は、本人が認識している以上に
大きかったようである。

 その後藤にとっての最後のシングル曲が収録されたスタジオ。
 それは結局発表されることはなかった。サビの部分だけ後藤は吉澤に電話ご
しに披露してくれたが、今となっては全く思い出すことができない。
 吉澤は一度でいいから見ておかなければ、と思っていた。


 心なしか険しい表情で地下室へと向かう吉澤を見送ってから、紺野が加護に
話しかける。

「それにしてもビックリだよ、吉澤さんには」

「オトコマエになったねぇ、よっすぃーは」

「・・・なんか・・・加護ちゃん・・・私ハズかしい」

 そう言いながら、いま紺野が自分と同じ歳、そして成人の加護に「ちゃん」
付けで呼ぶことの意味を考えた。同世代の女の子同士が「ちゃん」付けで呼び
合うのは何か違う。妹や幼い子供に話しかけるニュアンスに、むしろ近い。
 そう紺野に思わせる程、目の前の加護は5年前のあの時のままだった。

「どうして?」

 つぶらな瞳で問いかけるその表情までも。
380鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/14 13:20 ID:XzO7kJjb

「うん、ミンナあんなことがあってそれを忘れるために、いろいろ変わろう、
 壊そう、新しく創りあげよう、努力しているのに・・・私はなんかフツーで
 申し訳ないってゆーか・・・」

「紺野ちゃんは、それでいいんだよ」

「え?」

「変わらなくていいのなら、変わらないほうがいいよ・・・特に紺野ちゃんは
 それが紺野ちゃんなんだから」

 禅問答のような加護の答えが返ってきた。

「ワタシも・・・この足が」

 加護は自分の太股を手のひらでポンポン叩く。

「この足以外、そんなに変わってなんかいないもん」

(・・・嘘)

 紺野は思った。あの武道館爆破事件。そして2年前。
 加護にとって大きな存在であったメンバー2人を失っている。

 加護は気丈に振る舞ってはいるものの、心に負った傷はもしかしたら身体以
上であってもおかしくはないはず。
 紺野を励ますことによって、逆に加護自身の闇を振り払おうとしているよう
にも見える。

 加護が、さきほど吉澤に言った。

「多分・・・梨華ちゃんがイチバンこの中のメンバーで・・・心の傷が深いと
 思う」

 その言葉にはぐらかされそうになったが、紺野は加護の瞳の奧に隠された本
当の悲しみこそ知りたいと思った。辻が生きていて小川が元気ならまだしも、
現状では加護と同じ学年は紺野だけになってしまった。一時期は4人もいたの
に。
 何かチカラになりたい。
 紺野自身は確かに変わってないし、これからも多分変わることはないのかも
しれないけど・・・加護の心の中に渦巻いている暗黒の雲を取り払って明るく
元の彼女に変えることができたら―――あの事件を精算できるような、そんな
気がしたのだ。


【44-加護と紺野】END
                       NEXT 【45-矢口と安倍】
381鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/14 13:23 ID:XzO7kJjb
なんか最近長い。
てかセリフが多いからか。
ちょっと突っ走りすぎだな。
読み返して後悔する部分多し。

>>375-376
ちょっと痩せた紺野はエロいと思いますたので。
リアルタイムな情報も小説の中に盛り込んでゆくのだ。

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
382 :02/07/14 15:17 ID:TyZxA7Xq


   『ちょうどいいハートブレイク』

1.A 人の思うことって 大差ないんだね
    呼び出された ドーナツショップ
    きみの話は 予想通り

  B あのコの噂を聞いてから
    結果は見えてたんだ

  C 夏が終わる 風が変わる
    綺麗になりたいと思ってたから

  C’ちょうどいいよ ハートブレイク
    目標ができたよ かならずきみを
    後悔させるって

2.A 服を買うたびきみに 最初に見せたね
    自分がどう思うかよりも
    きみの瞳が 大事だった

  B 今日からすべての価値観を
    自分で決めていくよ

  C 夏が終わる 風が変わる
    綺麗にならなくちゃいけないんだね

  C’ちょうどいいよ ハートブレイク
    強い意思を持って かならず別の
    しあわせ つかむから

  D 季節追うように 変わっていく街
    みんな 急ぎ足だね

  C 夏が終わる 風が変わる
    綺麗になりたいと死ぬほど思う

  C’ちょうどいいよ ハートブレイク
    目標ができたよ かならずきみを
    後悔させるって

    強い意思を持って かならずきみを
    後悔させるから
383 :02/07/14 15:20 ID:XvTUia/c


   「風のうた」

1.C まっすぐに生きていこう 迷いも悩みも きっと正解
    丘の上 手を広げ 容赦なく吹きつける
    風のうたを きいていよう

  A 悲しみや苦しみの重さ 涙の目盛りで計ってさ
    しあわせの残量ばかり 気にしてたね

  A ガラクタでいっぱいのポッケ さかさにするのがこわかった
    失えば手に入るもの あったんだね

  B もしもきみに逢えなかったら
    ぼくの両手はきみを抱かずに
    ひざを抱えていたんだろうな

  C ためらわず生きていこう 臆病 弱虫 みんな同じさ
    丘の上 名もなき花 寝ころんで見上げよう
    風のうたが 流れてる

  A 傷口を なでるのではなく 痛みの理由を理解する
    ほんとうのやさしさの意味 知っていたね

  B いつかきみがシュンとしたなら
    今度はぼくが背中を押して
    この景色まで ふたりで来よう

  C まっすぐに生きていこう 迷いも悩みも きっと正解
    丘の上 手を広げ 容赦なく吹きつける
    風のうたを きいていよう

  C ためらわず生きていこう 臆病 弱虫 だけども平気
    迷っても 悩んでも ぼくたちは間違えない
    風のうたが きこえてるから
384 :02/07/14 15:24 ID:2sRwAklt


   『思い出になってしまった』

1.A たとえば冷たい サヨナラでもよかったよ
    ひとつくらい胸に残る 確かな痛みがほしかったの

  A’そらした瞳も すねたような唇も
    ふれなかった指と指も すべてが最後 あいまいなまま

  C やさしい人だった にくんだことはなかった
    美しいあの日々が 傷ひとつないままで
    思い出になってしまった

2.A’大事な言葉が 不意にこぼれないように
    心の縁をさぐるように 二人はずっと 黙っていたね

  C やさしい人だから よけいなことは言わずに
    美しいあの日々を つなぎ止めもしないで
    思い出になってしまった

  D 臆病な思いやりが 今でも愛しいよ

  C 悲しい恋だった 不安な気持ちと気持ち
    傷ついたこともなく 傷つけることもなく
    思い出になってしまった

  C やさしい人だった にくんだことはなかった
    美しいあの日々が 美しいそのままで
    思い出になってしまった

    思い出になってしまった
385 :02/07/14 15:30 ID:OfZyW9Ac


   『Perfect Answer』

1.A なにか頼れるものがほしくて 確かめるようにキスをしてた
    恋愛は出題ばかりで 解答のない問題集(ドリル)

  A いつも誰かと競うばかりで 経験の数が大事だった
    何一つ解き明かせないで 「知ってるつもり」ばかり

  C 人間の体には 大きな穴があいてる
    豊かな物質が それを埋めるけど
    血や肉にはならない

  C’わたしたち未熟なの 大きな穴があいてる
    ケータイのメモリー いっぱいにしても
    ハートはカラカラ鳴るだけ

2.A パブリシティーを受け売りしては それでリードした気分だった
    丸呑みの知識と笑顔は 栄養にならないよ

  C 人間の体には 大きな穴があいてて
    誰もがさみしくて それを埋めるけど
    いつも拒絶反応

  C’わたしたち未完成 大きな穴があいてる
    どうやれば空白 埋めてしまえるの?
    模範解答を教えて

  A なにか頼れるものがほしくて 確かめるようにキスをしてる
    そうきっと今夜も望んだ 答えなんて出ないの

  C 人間の体には 大きな穴があいてる
    豊かな物質が それを埋めるけど
    なおハートは からっぽ

  C’わたしたち未熟なの 大きな穴があいてる
    どうやれば空白 埋めてしまえるの?
    模範解答を 教えて

    ねぇお願い
    模範解答を 教えて
386 :02/07/14 15:34 ID:2HeAW83o


   『ウェンディが呼んでいる』

1.A ポケットに ジャラジャラ小銭
    子供の頃は なんでも買えた

  A 少しずつ 夢はかなって
    オシャレな服も クルマも買った

  B それなのに なぜだろう いまはポッケが 空っぽさ

  C もう一度 やりなおそう
    当たり前と 思ってること 辞書を引きなおしてさ

  C’汗をかこう 泣いてみよう
    いつの間にか しまい込んでた ドキドキを連れ出そう

2.A 雨上がり 葉裏のしずく
    見てるつもりで 見逃したもの

  A たいくつと 思った日々も
    不思議の種が こんなにもある

  B 大人には ならないさ 子供の僕が 生きている

  C もう一度 やりなおそう
    つまんないと 捨ててきたもの 手のひらに並べてさ

  C’無茶をしよう 派手にやろう
    いつからだろう かしこくなって 平穏に生きてたね

  B 大人には ならないさ きっと誰もが ピーターパン

  C もう一度 やりなおそう
    当たり前と 思ってること 全部裏返してさ

  C’汗をかこう 泣いてみよう
    ほら あのコが手を差し延べる ドキドキについていこう

  C’無茶をしよう 派手にやろう
    あのコがまく 妖精の粉 ドキドキについていこう
387 :02/07/14 15:35 ID:MGPdi/I9


   『ニンジン姫』

1.A アタシのこと あんまり 好きじゃなかったのね
    もっと甘い恋が たくさんあったから

  A あなたを誘惑する 増粘多糖類
    好き嫌いの多い 偏食のDarlin’

  B そのうち気がつくわ
    あなたのカラダに 必要なモノ

  C 各種ビタミンを そろえて待ってる
    アタシ ニンジン姫

2.A アタシと あの人との なにを比較したの?
    βカロチンなら こっちが多いのよ

  A カロリー過多の食事 続いた翌朝は
    サラダでもつまむように アタシを食べに来て

  B そのうち気がつくわ
    お肌がカサカサしてきた時に

  C 食物センイも 豊富に持ってる
    アタシ ニンジン姫

  B 子供の頃はみな 敬遠するもの
    でも わかるハズ

  C ある日突然に 食べたくなるのよ
    アタシ ニンジン姫

  C あなたに一番 必要な女
    アタシ ニンジン姫
388 :02/07/14 15:41 ID:3BYAdxiR


   『決心』

1.C決めたんだ 強くなるって
   泣き虫な自分さえ 好きになってさ

  C決めたんだ 今日から変わる
   悲しみの重ささえ 勇気に変えて

  A愛されたことが うれしくて
   夢中だった あの頃

  A少しずつできた 隙間にも
   気付くことも ないまま

  B「サヨナラ」を聞いた時
   わたしはワケもわからず
   泣いてるだけだった

  C決めたんだ 髪を切ること
   長かった思い出に ハサミが通る

  Cハラハラと 床に舞う髪
   いじらしいあの日々が 降り積もってく

2.Aあなたのことしか 見えなくて
   それが恋と 思った

  A未熟な若さの 目隠しを
   はずせないで いたんだ

  B「サヨナラ」は意地悪で
   だけども大事な呪文
   生まれ変わるための

  C決めたんだ 髪を切ること
   長かった思い出に ハサミが通る

  Cハラハラと 床に舞う髪
   新しいこれからが 積み重なるよ

  C決めたんだ 強くなるって
   泣き虫な自分さえ 好きになってさ

  C決めたんだ 今日から変わる
   悲しみの重ささえ 勇気に変えて
389 :02/07/14 15:47 ID:Xpore83e


   『海まで』

1.A 「ワケなんてないけど」と 笑う時には大切な
    理由が きっとあるんだね

  A’助手席で神妙に 座ってるけどさっきから
    心を さぐってたんだ

  B 防砂林が切れるともう 銀の波 秋空を映してる

  B 駐車場から砂浜へ 足跡と ドキドキがのびていく

  C 秋の海はさみしいね 二人なら平気だね
    単純で 大事な言葉を
    言おう 言おう 言おうとして
    波音を きいてる二人

2.A 友達に訊かれたら なんて話せばいいだろう
    二人の距離は微妙だね

  A’手をつなぐこともなく キスすることもないままで
    二人は 海を見ている

  B 電話を持たず来てよかった 沈黙は 幸福に守られる

  B 自由なフリで日常は 私たち しめつけていたんだね

  C 宵の風が冷たいね 寄り添えるチャンスだね
    すぐそばの あなたの左手
    ふれたい ふれたい できないけど
    ぬくもりが つたわる二人

  D ひざの砂はらって 帰る時刻ね

  C 帰り道はさみしいね 二人ならよけいだね
    単純で 大事な言葉は
    言えない 言えない 言えないけど
    またきっと 海まで来よう
390パンチョ後藤:02/07/14 18:06 ID:miCdzt6I
>>382>>389
「ニンジン姫」と「決心」が上手い

ニンジンはつんく♂らしいメロディでミニモニに

「決心」はスローバラードで松浦に歌わせたい

つんく♂本人が書いてるんじゃないよね???
391鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/14 21:08 ID:XsFbCqVt
>>382-389

何でしょう。
この小説のサウンドトラックでしょうか。うひ。
「ナカマダチ」の歌詞は某スレでも一応作っていただきましたが、
我こそはと思う方はどんどん歌詞を考えてくださいませ。

作者へのメール
[email protected]


作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/

あと【T・E・N】HPのカウンターが1000を突破いたしました。
ありがとうございます。
392名無し募集中。。。:02/07/15 06:55 ID:O39nAjoI
>>391
なんか間取り図がどんどん豪華になっていきますな(w
下手なホテル案内より立派。
393名無し募集中。。。:02/07/15 12:19 ID:iHdbpnpA
1111ゲトw
394作家:02/07/15 23:00 ID:627biy8P
すいませんが、
この小説の劇中歌の作詞をしてる者ですが、スレを見失ったので教えて下さい。
395名無し募集中。。。 :02/07/15 23:07 ID:zryBjtAG
>>394
たぶんこれ
  ↓
娘。に提供するつもりで詩を書こう
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1026055136/l50
396鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/16 06:44 ID:eUZGOTnb

【T・E・N】 第45話 矢口と安倍

 しばらくすると狭くて薄暗い密林に包まれた山道が突然ひらけて、ポッカリ
とした空間が広がった。
 西に傾いた陽光が運転する矢口の目に突然飛び込んだので、慌てて額に留め
てあったサングラスを再びかけなおす。はるか前方に緑色のなめらかな稜線を
背後に控えた、直線的な建物が二人の視界に飛び込んでくる。
 つんく♂邸だ。

 安倍が手をたたき、大はしゃぎしている。

「なっち、ココは初めてだったよね?」

「うん!」

 本当にこんなところに元モーニング娘。(自分もそうだが)が集まっている
のだろうか、と同じく初訪問の矢口は不安になる。

 密林を抜けても、屋敷まではまだかなりの距離がある。
 乱雑に積まれた石垣は敷地を仕切るためのものらしく、外門と呼べるほどの
立派なものではない。正門もさほど立派なものは用意されていなくて、石垣が
ぱたっと途切れて車で乗り入れるには十分の幅の道が続いているだけだ。正門
から屋敷まで距離にして3、400メートル程であろうか。垣根の外にも中に
もそれほど目立つものはなく、ただ草木が生い茂っているのみ。
 それでも屋敷に近づくにつれて、少しづつ整備された木や花壇なども目立つ
ようになってきた。芝生を植えようとしている跡もあるが、いまひとつ中途半
端な印象は否めない。


 つんく♂邸の外観が、ようやくはっきりと見えてきた。
 まさに絵に描いたような洋館。3階建てのどっしりとした構えの豪邸は二人
を威圧しているようだ。
 屋敷は赤レンガとツタの葉に包まれている。ツタの葉にはところどころ小さ
くて白い花が咲いていて、もっと空が薄暗くなったら屋敷の壁一面が星空のよ
うに見えるかもしれないね、と安倍はロマンチックで緊張感のないコメント。
397鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/16 06:45 ID:eUZGOTnb

 車のスピードを緩め、じっくりと矢口もその洋館のたたずまいを目に焼き付
ける。
 その時だった。
 屋敷正面入口から右の・・・2階の窓からこちら側を誰かがじっと見つめて
いる。
 黒い滑らかなロングヘアー。
 幼児体型の身体にぴったり沿うように着ている白いワンピース。

 顔は・・・確認する前に奧に消えてしまった。
 どことなく懐かしい―――そんな顔だったが、矢口は思い出せない。
 ただなんとなく、悲しげな目をしていたような・・・しかしイメージばかり
が先行して実体を捉えることができない。
 そもそも今日会うメンバーのほとんどがあの事件以来のご対面になるわけで、
誰に会っても懐かしいと感じるのは当たり前だし、敏感になりすぎているのか
もしれない。

「なっち、見えた? 誰だろ?」

「何がぁ?」

「いや・・・なんでもない」
398鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/16 06:46 ID:eUZGOTnb

 屋敷のそばの木陰に3台の車が駐車してある。
 矢口のRVもそれに並べるように停車した。

「すっげぇ・・・」

 車にロックをかけた矢口が屋敷を見上げる。
 遠目には大自然の中にひっそりとたたずむ小さな箱という印象を受けたが、
いざ屋敷の正面に立つと、ミニマムな矢口はその巨体に圧倒される。

 入り口は正面の大きな扉だろう。短い石階段と緩やかなスロープ、そして両
脇には青銅製の手すりが添えられている。
 何故だかわからないが映画のセットのようにハリボテであればいいのに、と
矢口は思った。

(えーっと、呼び鈴はどこだろ?)

 あたりを見渡したが、それらしきものは見あたらない。
 ボストンバックを肩に掛けた安倍がタッタッタと小走りにその手すりまで寄
り、その一番前に申し訳程度に付いているような白くて小さなボタンを押した。
 あとから聞いた話だが、もともとホテルだったこの建物は外に呼び鈴を備え
付けておらず、改築の際に設置したものには若干手を加えて、屋敷全体に音が
響き渡るようにしたそうだ。

「ピンポ〜ン♪」

 柔らかい音色が、小さな箱の中にこだました。


【45-矢口と安倍】END
                          NEXT 【46-吉澤】
399鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/16 06:51 ID:eUZGOTnb
>>392
っていうか忘れかけていたけど、この屋敷って元ホテルっていう設定
なんだよな。でもトイレが個室以外に無いことに気がつきました。
今さら。
そんなホテル絶対ない。

>>394
どもっす。
保田の歌もそうですが、娘。にとってのラストソングも
暇だったら作ってみてください。タイトルすら明らかになって
いないわけですけれども。(一応大ヒットしたという設定)

台風に気を付けろよ、みんな。
400400:02/07/16 07:25 ID:V0U4wxEc
400
401鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/16 07:27 ID:eUZGOTnb
言い忘れた。

部屋割りや屋敷の画像の中で101号室の名前が
「Piace」になっていますが
「Peace」のマチガイです。

マジボケです。
402名無しさん:02/07/16 10:56 ID:MdPViClD
長い間の疑問が解けました>piace お答えどうもです。
403鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/17 07:55 ID:WRieY5+i
第46話は17日夜に更新いたします。

毎朝連載だと言っておきながらこのていたらく。
すみませぬ。
404名無し娘。:02/07/17 11:55 ID:rnBhXLKr
まぁ気にするない。1〜2ヵ月待つくらいは、
どうってことねーさ。それに比べりゃ。
405 :02/07/17 22:31 ID:2A1GII0m
素朴な疑問ですが 募集した歌詞はどうなるのですか?
誰か曲をつけてくださるとか・・・ だとしたらスゴイ
406:02/07/17 22:45 ID:xiyiUEXO
だんだん話がすごい方向に流れてるな・・・。
407名無し募集中。。。:02/07/18 02:27 ID:LTUmAa5A
もはや18日な罠
408鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/18 04:00 ID:V0GRVpfT

【T・E・N】 第46話 吉澤

(うわっ、このトビラ懐かしい〜・・・)

 狭くて薄暗い階段をくぐり抜け、扉を開けると中から流れ出てきた生暖かい
空気が吉澤の頬に伝わる。
 特殊なクッションのついた、防音用の分厚い扉。
 吉澤が懐かしいと感じたのは、その扉がモーニング娘。が毎回レコーディン
グしていたスタジオのものと同じだったからだ。

 録音室と呼ばれるその地下の一室は、電気が点いていた。

「あれ」

 一瞬、動きが止まる。

「あのー・・・、誰かいるんですかぁ?」

 静寂。

「もしもしー!」

 返事はない。
 吉澤は見た目とは裏腹に、拍子抜けするほど軽い扉を閉めて周囲を見渡す。

 モーニング娘。だった頃に、何度となく挑んできたレコーディング。
 その「現役」だったころに現場でみた機材がいくつも散在している。音楽関
係の機材にはなぜ、あれほどにもボリュームみたいなツマミやあとボタンやコ
ードが多いのだろう、とメカや楽器に今も昔も縁がない吉澤は思う。そこにあ
るのは、ほとんど今の生活には関係のないし興味もないものばかり。
 しかしそんな中で、部屋の一角に陣取っている、どっしりとしたデスクトッ
プパソコンにだけピタリと目が留まる。
409鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/18 04:02 ID:V0GRVpfT

(たぶん「マック」ってやつだ)

 今の時代、音楽作りにコンピューターが欠かせないものになっていることぐ
らいは、いくら吉澤でも分かる。だが吉澤の持っている自宅のパソコンはとい
うとメールチェックやごくたまにネットを巡回する程度で、やってる事は携帯
端末とあまり変わらない。
 なにせ未だに吉澤は自分の使ってるパソコンが「ウィンドーズ何々」なのか
すら、知らないのであった。それゆえに具体的にパソコンでどう音楽づくりす
るかということも、まったく理解できないでいた。

 クリアなガラスで仕切られた向こうの部屋にはマイクやギター、スピーカー
なども置かれている。
 それにしてもこの空間。雰囲気。
 カーペットを一歩一歩踏みしめる毎に、くぐもった音が静かな室内に響く。
 実際はもっと広かったかもしれない。本当は常に音が流れていたような気が
する。常にスタッフの話し声も聞こえていたような気がする。
 そして確実にいえること―――いつも仲間がすぐそばにいた。
410鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/18 04:04 ID:V0GRVpfT

 吉澤にとって、歌の世界から遠ざかって5年経つ。
 そんな世界に未練がないといえばウソになってしまうが、吉澤は決して今の
生き方を後悔しているわけでもない。
 現在「おなべバー」を経営している吉澤には、その生き方に共感してくれた
人達が何人も支えてくれている。
 ほとんどが、あの事件のあとで知り合った人たちだ。
 ある人は店の経営を管理したり、ある人はプロモーション支援を申し出てく
れたりと、吉澤の足りない部分を精一杯フォローしてくれている。そのお陰で、
いくつかの嫌がらせを受けたりはするものの(それも成功すればこそだが)、
順調に夜の街でもその地位を固めていっている。

  運がよかったんだな。

 吉澤はそう思う。仕事が順調にいっていればいるほど、自分にはカリスマが
あるだの実力があるだのと自惚れてしまうのが普通だ。実際、モーニング娘。
だった頃の吉澤自身がそうだったように。あの頃は、若かった。勢いで何でも
乗り切れるような気がした。
 でもあの事件で、すべてを見る目が変わった。
 自分たちが薄氷の上で、いかにつま先で絶妙なバランスをとりつつ立ってい
たかが分かった。
 武道館爆破事件を境に、マスコミは同情という仮面を被りながら次々とメン
バーのプライバシーを暴いていく。
 怪我が完治して、その後どんな場で誰と会っても周囲の自分を見る目が以前
とは全く違ってしまっていることに、吉澤は愕然としたものだ。
411鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/18 04:05 ID:V0GRVpfT

 今は違う。自分ひとり、の本能の赴くままに生きていたあの頃とは違い、周
囲との関係性を重視する冷静な目も備わってきたと吉澤は自分なりに分析する。
 所詮人間は一人では生きていけない。ならばどう他人と接していくか。どの
人間にも裏表がある。それを見極める能力は人生において重要な意味を持つが、
その動物的カンが吉澤には生まれつき備わっていたのかもしれない。
 そうでなければアイドルだったという知名度だけで、短期間で現在のような
成功をおさめることなど到底出来なかったはずだ。


 それにしても吉澤にとって気になるのは―――なぜこの部屋の電気がついて
いたのか? ということだ。

 石川が来て、電気を消し忘れたのだろうか。それとも自分がここに来る直前
まで誰かがいて、何らか理由で突然姿を消したのだろうか。とにかく、隅々ま
で調べないことには薄気味悪くてしょうがない。そう感じた吉澤は、ひとまず
奧のブースへと進んだ。
 すぐ右の壁に「保管庫」というプレートが貼られたトビラがある。ドアノブ
に手をかけるとあっけなく開いた。吉澤には「庫」と名前のつくものにはカギ
がかけられているものだという固定観念があったので、少し面食らった。
 そこはさすがに電気はついていなかったので、暗闇をまさぐり右の壁に備え
付けられたスイッチをカチっと入れる。中にはドラムやキーボード、ほかいく
つかの楽器や掃除機などの家電が無秩序に置かれている。そして本棚。楽譜な
どが整理もされず平積みで置かれている。
 もちろん譜面が読めない吉澤だったが、もしかしたら5年前の後藤のレコー
ディングの夢の跡、のようなものが残されているかもしれないと思った。1冊
1冊丁寧に取り出して調べてみる。かなり長いこと手が付けられていなかった
のか、あたり一帯ホコリが舞い吉澤は思わずせき込む。
412鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/18 04:09 ID:3He4Y6nB

(これは・・・?)

 ほとんどが薄っぺらい中綴じの冊子が多い中、ひとつだけ分厚くてタイトル
も何も書かれていない赤い革張りのハードカバーの本を見つけた。中をパラパ
ラめくると、ほとんどが真っ白な紙で手書きの文字が書き込まれているのは冒
頭の数ページのみ。知らない人が見ると日記帳に見えるかもしれない。

「コミュニケーションノートだ、このスタジオの・・・!」

 モーニング娘。が通っていたスタジオの控え室にも置いてあった、あのノー
ト。レコーディングで準備を待っているアーティスト達が、暇つぶしに自由に
読んだり書き込んだりできる雑記帳だ。
 だがこのスタジオで収録したアーティストといえば、吉澤もよく知っている
あの一人のみ。

 吉澤は改めて、じっくりと最初の1枚目をめくる。
 ページを開く手が震えた。


【46-吉澤】END
                       NEXT 【47-加護と矢口】
413鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/18 04:17 ID:3He4Y6nB

なんか羊、異様に重いんですけど。俺だけか?

>>404
そう言ってくださると嬉しい。
気長にお待ちください。
とりあえず1話1話に必ずヤマ場か
オチをつけることを心掛けております。

>>405
そこまでしてくれる方がいらっしゃれば・・・
さしみといたしましては、近々公式ホームページが
大幅にリニュ〜アルの予定。
っていうかそんなことしている暇があったら、本編を。

>>406
書き始めたときは40話ぐらいで終わると
思っていましたよ(w

>>407
まだ「17日の夜」という罠。
っていうかどうひいき目に見ても「18日の朝」だよなぁ。
スマン。予告しないほうがいいよな、守れないぐらいなら。

作者公認(というか自作)【T・E・N】HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
414 :02/07/18 12:24 ID:oV559+N+
このスレすごい
どんどん長編希望
時間はいくらかかっても構わない
415名無し募集中。。。 :02/07/18 19:55 ID:UEwaii+w
>>26
>まだ執筆途中なんですが、この時点で軽く40話突破しています。
>>413
>書き始めたときは40話ぐらいで終わると思っていましたよ(w
どちらが本当なんだろう?
                             と言ってみるテスト
416鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/18 23:22 ID:PUiLEkM/

構想段階では40話ぐらいで終わるだろうと踏んでいて、いざ書き始めたら
ぜんぜん長編になるし、と返事してみるテスト。

しかも長いのを2話に分割したり、シナリオを追加したり、
大幅に書き直したりで未だに連載当初にストックしてあった話終わってないし。
1話1話を短くして、その代わり毎日更新しようって企みでしたが、
最近その1話も長いし。ううむ。

そんなこんなで連載2ヶ月。熱い夏になりそうだ〜ゼ〜みたいな。
417名無し娘。:02/07/18 23:45 ID:+JZLfkDv
長い読み応えのあるものが大好きです。
疲れないペースでがんがりや
418鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/19 07:50 ID:tQGIX3dD

【T・E・N】 第47話 加護と矢口

「きたっ、なっちだ!」

「矢口さんも!」

 呼び鈴を聞きつけ、2階から飯田があらわれた。
 飯田は着替えると言って自分の部屋に引っ込んでいった割には、ここへ来た
ときと同じピンクのベルボトム(足の長い飯田にしか似合わないだろう)と淡
いイエローのコットンのスモックブラウスのまま、階段からゆっくりと降りて
くる。
 屋敷にいるメンバーの中で唯一吉澤は1階東棟に入ったきり出てこない。

「あれ、吉澤さんは?」

 紺野がオロオロする中、加護が冷静に答える。

「多分地下室に行っているんじゃないの? あそこは完全防音だからインター
 ホン聞こえないし」


 石川たちも料理の手を止めて、久しぶりの再会となる二人を出迎えることに
した。エプロンで手を拭きながら、高橋を伴い入口の大きな扉を開ける。外で
待ちかまえていた矢口と安倍が、笑顔で中に入ってくる。

「おひさしぶりです、石川さん。それに愛ちゃん」

 そう言い軽く会釈する安倍。慌ててその真似をする矢口。
 石川は二人のその笑顔がどこか、つくりもののように感じた。以前の人なつ
こいこの二人なら、いきなり抱きついてきたりもありえるかもしれない―――
そう身構えていたが、特にこの屋敷の内装に感激する様子もなくスタスタと奧
へと進んでいく。
419鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/19 07:51 ID:tQGIX3dD

 エントランスホールを抜け、石川・高橋と矢口・安倍の4人はメンバーの待
ち構える居間へと進む。
 玄関での微妙な歯車の食い違いを察したのか、居間にいるメンバーもそれま
でウワア〜っと盛り上がっていたテンションにバケツ一杯の冷水を浴びせられ
たかのような、どこかそんな気分になる。

「みんな、久しぶりぃ!」

 安倍がピースマークを突き出す。真顔で。

「元気だったかぁ〜紺野ぉ?」

 矢口も明るい声だが、値踏みをしているかのような目だ。

「ええっ、元気ですた」

 それを敏感に感じとり、どこか緊張した様子の紺野がうわずった声で返事を
する。約2時間ほど前の、高橋とのウェットな再会とは、えらい違いだ。
 加護も立ち上がって出迎えていた紺野の影に隠れていたが、車椅子を少し移
動させて矢口の見えるところまで移動した。

「やぐっさん、ひさしぶりです!」

 矢口はその声に反応し加護の姿を視線を向けると、一瞬眉間にシワを寄せて
何か見てはいけないものを見てしまったかのような目をした。慌ててその表情
を取り繕って、ぎこちない笑顔で応える。

「ああ、久しぶりだね、うん、加護・・・ちゃん」

 そしてすぐに目をそらした。気まずい空気が一帯を包み込む。
420鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/19 07:52 ID:tQGIX3dD

 石川が慌てて、説明する。

「えっとね、安倍さんの部屋は2階のこっち側になります。矢口さんも。ドア
 に名前の張り紙がしてあります。そこの階段から2階にあがれます。荷物が
 あれば運びますけど」

「いや、そんなに無いから自分で運ぶ。ほかに何か注意点は?」

 あくまでも矢口の口調は淡々としている。

「・・・今みんなでお茶していたんですよ。矢口さんと安倍さんの分もすぐ用
 意しますから、一緒にどうですか?」

「別にいい・・・運転で疲れたから、しばらく部屋で休む。夕食は何時?」

「・・・6時から始まりますので、それまでにここに集まってきてください」

「わかった」

 しん、と再び沈黙。
 この二人とは古いつき合いになる飯田だが、それを諌めることも無理に盛り
上げようとするでもなく、その様子をただ茫然と見つめている。

 安倍と矢口との再会が、まさかこういった淡々なものになるとは予想だにし
ていなかった。現役のころあれほど感情をあらわにして、それが最大の魅力で
もあった二人だ。この屋敷じゅうに響きわたるような歓喜の叫び声が沸き上が
る、という場面を紺野と加護のコンビもついさきほどまで居間で予測していた。

 去り際に安倍は居間の階段踊り場にパタリと足をとめて、飯田のほうに振り
返って何か手を大きく動かした。飯田もそれに対する返答として、何か手話で
返したようだ。

「ねえ紺野ちゃん、今何て・・・?」

 加護は手話の理解できる紺野にそう問いかけた。
 しかし当の紺野はうつむいたまま、口を真一文字にしたまま黙り込んでいる。

「安倍さんが笑顔失ったってのは本当だったんだね・・・」

 やがてボソっと、そう呟いた。


【47-加護と矢口】END
                          NEXT 【48-矢口】
421名無し募集中。。。:02/07/19 08:05 ID:Q4fe+oRU
すげぇ〜
おもしろいです♪しかもうまいので続きが楽しみで楽しみで毎日来てます
最後まで頑張ってください
422海風:02/07/19 13:10 ID:z/Mcr6d7
ますます進展してきましたね。
文章に使われている言葉も、解りやすくて読みやすいです。疲れない。
これからも、がっつんがっつん頑張ってくださいね。
423名無し娘。:02/07/20 03:29 ID:0BUGAHYN
後藤を早く描写して欲しい・・・
思わせぶりなことばかり書いてあるが本人は心理描写を含めてほとんどでてないぞトルァ!!!
424鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/20 06:14 ID:YEJjAxF4
夏休みか・・・関係ないけど。

>>421
ありがとうございます。がんばります。
でも今朝の更新は無理ぽです。がんがれ、矢口。(そして俺)

>>422
解りやすくて読みやすい、ですか。どもっす。
というより、単にボキャブラリと表現力が貧困なだけなのだが。
第47話も情けない文章ミスがありあり。

>>423
ごまヲタには辛い展開になっております。
気長に。
425鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/21 03:16 ID:N1iXKXgb
まったく何をやってるんだ作者はとっとと48話載せろやゴルァ!
という声もチラホラ聞こえてきそうな今日この頃ですが皆さんいかが臭いですか。
そうですか。
さしみも遊んでいたわけではない。
公式ホームページを大幅リニュ〜アルいたしました。
見ていたいただければ分かりますが、無駄に力が入っております。
まったくそんなことやっている暇があったら本編を早く、と
言われそうなくらい素晴らしい出来です。自分で言うのもなんですが。
バックナンバーは文字が大きくて、あとセリフに色がついていたりして
読みやすい(はず)。
ぜひこちらのほうも一度目を通していただければこれ幸い。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
426名無し募集中。。。:02/07/21 04:26 ID:MZkxt/G6
HPカコ(・∀・)イイ
でも中央揃えがチョット読みにくい…
427鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/21 04:43 ID:4rVZi3U8
>>426
本文(バックナンバー)のほうっすか。
さしみのPCではちゃんと左揃えになっているのですが・・・

あと、ネスケの6未満で見ると悲惨なことになります。
レイアウトの崩れて見える方は御報告お願いします。
428名無し娘。:02/07/21 05:04 ID:Qt5jB+je
HP更新乙!!!
>>426同様、庵も中央揃えになっとりますがこれ如何に?
429名無し募集中。。。:02/07/21 07:12 ID:l7a2A9jl
>>427
HPかっけぇー!!
でも中央揃えだね 何でだろう♪ 何でだろう♪ (ry
430名無し募集中。。。 :02/07/21 07:37 ID:8ky45mab
>>427
更新乙です。HP( ・∀・)イイ!!
台詞だけは中央揃えだけど、其れ以外は問題Nothing。
ちなみにIEの5.5。

431鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/21 07:46 ID:TwOaDmoY
>>428-430
御報告ありがとうございます。
こちらで正しく見えているだけに、確認の仕様が無いところがつらい。
とりあえず、ちょっとだけ直した。技術的な指導キボンヌ。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html

なお48話は今日中には何とか・・・
432429:02/07/21 14:53 ID:l7a2A9jl
HP正しく見えたよ
続きが楽しみです
負担にならない程度に頑張って
433鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/22 00:29 ID:crtBv/SI
>>432
報告サンクス。

なお48話は月曜日中にはなんとか。
本当にスマン。夏だし。
434ねぇ、名乗って:02/07/22 21:47 ID:NbchWaNG
今日見つけて一気読みしてしまいますた(たぶん2人目?

壮大なストーリーですね
非常におもろいっす!
HPも(・∀・)イイ

今日中に続きが読めそうで嬉しいっす!
さしみ氏がんがって!
435名無し募集中。。。:02/07/23 03:20 ID:MwfqS/U0
 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | うまそうなアイスがあるんれすけろ、どうするれすか?
 \_  ________r―――――――――――――――――――――――‐
   ∨      |またいいらしゃんにおこらめましゅよ、たべちゃらめなのれす
           └――v――┬――――――――――――――――――
                   | のののけいさんだとこれをたべたら300cふとるのれす
                   └―――─――y―┬―――――――――‐
                                 | ぜったいたべるのれす!!
                                 └―───―y――――
 ∋oノハヽo∈    ノハヽヽ  ┯╋┯     ノハヽo     〇ノハ〇
  ( ´D`)     ___.(´D` )  △┃│   (´D` 从    ∩(`D´ )
  (    )     \ヽ\.⊂ )    ∩△◆⊂(    )  υ⊂(    )
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   前頭葉       海馬            扁桃体      視床下部
   _∧____________
 /
 | アーイ! 視床下部のいけんをさいようするのれす
 \______________
\______________________________/

             ○       ○
                     (__)
                O     (__)
                     (__)
                o    .(__)
                     (__)
                ノハヽヽ.(__)
 いただきますなのれす>( ´D`)( )
                (つ  つ▽
                (___)__)
 
本編再開までしばらくお待ち下さい・・・
436名無し募集中。。。:02/07/23 04:24 ID:ziwT+nyV
>>435
扁桃体と海馬の性格が逆だろ。それに「おこらめ」って何だ?

こんな事でレスしてスマソ。
437鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:31 ID:8vilk+pX

【T・E・N】 第48話 矢口

  なんで―――あんな態度をとってしまったんだろう。

 矢口は自分に割り当てられた「Alive」の部屋のセミダブルベッドで、
仰向けに大の字になり静かに天井を見つめている。解散後も矢口の背は当然の
ようにまったく伸びず、身体いっぱい広げてもベッドが普通の体格の娘に比べ
てやけに広くダブルベッド並に感じられる。
 矢口が凝視するのは、ロココ調の複雑な紋様が描かれた千草色の天井の壁紙。
まるで彼女の混沌と渦巻いている今の心の中を映し出しているようでもある。

  なんでなんだろ。

 この屋敷に一歩踏み入れた瞬間から感じた、あの違和感。
 矢口にそんな経験は無いが、まるで異空間に迷い込んでしまったかのようだっ
た。神隠しに逢ったかのような、と形容してしまうのは6、7年ほど昔に大ヒッ
トしたあの映画の影響だろうか。
 車の中で安倍に話したような、芸能人として落ちぶれた自分を見て欲しくな
いという羞恥心。この同窓会に参加したくないという気持ちはそこからから来
るものだと考えていた。
 だからある程度最初の対面がぎこちないものになるかもしれない、というこ
とは矢口も予測していた。
 しかし、それとはまた別の問題のような気がするのだ。
 何かここは自分が居るべき場所ではないのではないか、といった喉に魚の骨
が刺さったかのような異物感を矢口自身が味わっている。
 ついさきほどの再会を、もう一度矢口の頭の中で整理してみる。
438鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:32 ID:8vilk+pX

  車椅子に乗っている加護。
  耳が不自由な飯田。
  表面上は明るいが、あんな事件があっただけに不気味な石川。
  そして昔から、何を考えているんだかよく分からない紺野。
  他にも誰かいたような気がするが、今はそんなことはどうでもいい。

 矢口は別に身体にハンディキャップを持っている人に対して、特別な偏見が
あるわけではない。加護の下半身が麻痺したというのは知っていたし、爆破事
件直後お見舞いにも行ったからその姿も見ている。
 飯田が聴覚を失ったことも、またそれを隠そうとしていることもメンバーに
教えられて、随分前から知っていた。
 それを目の当たりにすることは、あらかじめここに来るにあたって覚悟はし
ていた。

  なんでだろう。
  ここでは普通じゃないことが、普通なんだろうか。
  なんだか自分がいてはいけないような感じがするのは、そのため?
  客観的に見て私が一番、マトモだし。

 矢口は強く断言できる。
 誤解を招く恐れがあるので口に出して言ったことはないが、ここでいう「マ
トモ」とはつまり、いかに世間に溶け込んで生きているかということだ。
 娘。だった頃から歌でもトークでもソツなくこなしてきたつもりだし、メン
バー内での人望も並以上だったと自負している。背が低いというコンプレック
スすら、明るいキャラクターで跳ね返してきた。生放送のラジオレギュラーも
こなしていた矢口は、臨機応変に対応できる能力はメンバー随一だったと自他
ともに認めていたし、それは現在も変わっていない。
 でも事件後はそれが通用しなくなった。正確にいうと、それが正しいことと
は受け取ってもらえなくなった。
 世間が娘。を見る目が変わったからだ。
 そして他のメンバーも変わった。変わりすぎた。
439鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:33 ID:8vilk+pX

  じゃあここでは私は異端児ってわけ?
  だからかな? なんかチガウって感じるのは。

 矢口は自嘲を込めた笑みを浮かべる。
 他のメンバーの一部が世間から隔離された位置にいることを当然のように受
け入れている(事件と、その後の境遇を考えると無理もないが)のに対して、
矢口は常にこの5年間、世間に溶け込む努力を怠ったことはない。
 でもそれが芸能人としての成功に結びつかないところに、矢口真里の苦悩が
あった。

 いったん思考を停止して、矢口は耳を澄ませる。シーシーシー、ジュクジュ
クといったシジュウカラ(四十雀)のさえずりが心地よい。電車のブレーキ音
も、車のクラクションも、女子高生が騒ぎ立てる声も、ここで聞こえることは
まずありえない。
 そして改めて、ここは異世界であると確信するのだった。
 そう思わないことには、矢口自身があんな態度をとったということに納得で
きない。

 そういえば、純粋に娘。だけでこんな人里離れたところで集まるということ
は現役の頃ですらなかった。夏のライブなどではけっこうな田舎で開催される
ことも多く、またメンバー同士だけで自主的にミーティングすることもしばし
ばあった。しかし周囲にマネージャーもスタッフも家族も店員もいない、そん
な場所にメンバーだけで集まるのは、このグループが結成されてから10年の
歴史の中でこれが初めてかもしれない。
 その事実に気がついたとき、矢口の胸の中に何かまた別の、体験したことの
ないような気持ちの高ぶりを感じた。
440鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:35 ID:8vilk+pX

 なぜか矢口は、何日か何カ月か前にWeb上に公開されている風俗嬢の日記
を読み漁っていたことを思い出した。
 ネットサーフィンをしながらふと迷い込んだのだが、仕事内容の描写よりも
その生き様に強い興味を抱いた。両親や恋人の暴力。過食症や鬱などの精神病。
逃げられた夫の借金を返すために風俗業界に身を落とす妻。浮沈の激しい芸能
界にも通じるものがあるが、そういった「極端な人生」を自分に影響が及ばな
い場所から見つめるのはいつだって楽しいものだ。我ながら無責任だな、と自
省しつつも誰に知られるわけでも、誰に迷惑をかけるわけでもないことに安心
感を覚えた。
 しかしだからといってその業界に興味を持ち、たとえば風俗嬢の友達を作り
たいとか思うわけではない。あくまでも矢口が楽しいと感じる境界線というの
は、異世界を外側から見つめるという「傍観」に留まり、少したりともその業
界に関わりを持ちたいとは思わない。何かの偶然でふと、そういった世界に生
きる者たちに会う機会があったとしても、嫌悪感のほうが先走ってしまうので
はないか、と自分で思う。

 そして今まさにこの屋敷に訪れて矢口が感じた違和感というのは、それに近
いものだ。
 外側から見ている分には構わないが、自分がいるべき領域ではないところに
あえて足を踏み込んでしまったかのような、そんな感触。
 もちろん彼女らを風俗嬢と比べること自体馬鹿げているし、自分たち「モー
ニング娘。」もそういった傍観の(しかも比べものにならない程、大規模な)
対象であったことを忘れたわけではない。
441鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:37 ID:8vilk+pX

 それにしても、少々自分を正当化し過ぎるきらいがここ最近の矢口にはあっ
たのではないかと自身で感じている。
 郷に入りては何とやらの諺にもあるように、意識のありようによってはこの
異空間に溶け込み、メンバー内の潤滑油的な役割をこなしていたあの頃の自分
に戻ることも可能かもしれない。

  できるだろうか、今の自分に。

 結果は問題ではない。ここに来てしまった以上やらざるを得ない、と矢口は
諦め半分に思った。

 しかしそれと同時に、どう意識を変革しようと抗(あらが)えないような、
巨大が闇がこの屋敷を覆い尽くすといった不気味な予感も依然として拭えない
のだった。

  そういえば・・・なっちも同じ気持ちなのかな。

 唐突に矢口の脳裡をよぎるのは、つい先ほど自分と同じく、久しぶりの仲間
とのご対面に立ち会った安倍の姿。矢口自身この屋敷に足を踏み入れたときの
違和感に戸惑ってあんな態度をとってしまったが、安倍までもがあまりこの再
会に感動している様子がみられないのは意外だった。
442鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:41 ID:8vilk+pX

 仕事のことは別としても、安倍も事件後は矢口と比較的近いスタンスで娘。
と接してきたような気がする。
 あの爆破事件においては、比較的軽い怪我で済んだ二人(安倍の骨折ですら
軽く感じるほどの凄惨な現場だった)。芸能界に残ったこととか、この5年間、
意外なほどメンバーと積極的に接しようとしなかったことなど、共通する項は
チラホラある。
 だが、それとは別に矢口にとって気になる点がいくつかある。
 事件後ずっとメンバーとの接触を避けてきたかと思えば、矢口にしつこく同
窓会に参加するように勧めてきて「なっちは、このイベントに乗り気なんだ」
と感じさせた・・・かと思えば、一転して屋敷に着いても特にメンバーとの再
会に感激している様子も見受けられない。安倍の行動にあまり一貫性が見られ
ないことだ。
 娘。メンバーだった頃も、安倍自身に「自分はグループの中では特別な存在」
という意識が見え隠れしていたが、昨今の彼女の行動はそれとはまた違う。
 正直、矢口は現在の「らしくない」安倍の考えていることがよくわからない。
 分からないけど、今のところ矢口が真っ先に頼れるメンバーは安倍しかいな
いのも、また疑いようがない。
443鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:42 ID:8vilk+pX

 ついさきほど、この屋敷の2階にある自分たちの部屋の扉の前で「じゃ、私
ちょっとまた昼寝するから」と言って別れた安倍の表情を矢口は反芻する。
 読みとれない。
 喜び、哀しみ、疲れ、諦め、戸惑い・・・どの感情にもとれる。
 専業女優になってからの、テレビのモニタやスクリーンの中での安倍の表現
力は、さすがに以前に比べ格段に上達したのは矢口も認めている。
 しかしそれに対してオフショット時の安倍は、モーニング娘。だった頃のよ
うな思いっきり笑って、一直線に怒り、包み隠さず泣き叫ぶといったような一
元的な感情をあらわにするといったことはなく、どこか混沌とした、どうにで
も受けとめることができるような表情を浮かべていることが多い。
 それもまたあの事件での後遺症なのだろう、と矢口は受けとめることにした。


 あれやこれや考え詰めているうちに、気が付いたら矢口は便座に座っていた。
考え事をしていると、無意識のうちに勝手に身体が動いてしまうことは今まで
もよくあった。

(そうだ・・・一人ウジウジ思い詰めているのも私らしくないよね)
444鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:44 ID:8vilk+pX

 思えば矢口は今だけでなく、この5年間ずっと「ウジウジ」していたのかも
しれない。
 薄暗い電灯が照らされるトイレ(ユニットバスルーム)の中で、手を組んで
クリーム色の床を見つめていた矢口がひとりウンウン頷き、やがてある「決心」
が心に芽生えた。

  とにかく、行動してみよう。
  居間に降りてミンナの現在(いま)を受け入れる努力をしよう。

 矢口は立ち上がりトイレ(ユニットバス)の中でひとり「おっしゃぁぁー!」
と握り拳を作った。
 鼻息も荒く洗浄タンクのコックをひねる。

 ジャアァァーゴボボボボッ。

 水が勢い良く出る音がした矢先、半分ぐらい流れ出てあとは何かタンクの中
に詰まったかのような鈍い音が矢口の耳に届く。「あれ?」と思った矢口は、
つい先ほどまで自分が座っていた便器に視線を落とす。

 便座の内側が、真っ赤な液体で染まっていた。


【48-矢口】END
                       NEXT 【49-加護と吉澤】
445鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 05:50 ID:8vilk+pX

皆さんお待たせいたしました。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ようやく更新です。
狼少女さしみです。(ネカマ?)

長いよ、48話。
あんまり長いと果たして全体として見てまとまってるんだか
いないんだかよくわからなくなってくることがありますが、
まとまっていないじゃないか。(ひらがな多い)

思わせぶりなラストですが、次回更新も未定です。
気長にお待ち下さい。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
446鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/23 23:05 ID:gN32UdcW

最近予告通りに更新したためしがないさしみです。
ごめん。
さて娘。の新曲が発売されたりしました。
さしみも買いました。
なんだ、フラゲなんて濃いモーヲタみたいじゃないか(w

こんな濃いモーヲタしか分からないネタ満載の
小説書いている作者が何言っているんだ。
まあ、それはいい。

大まかなシナリオは出来ている、という話をまえがきで言いました。
しかしココ最近ときたら出来てるんだけど、登場人物が勝手に喋ったり、
ウンコしたりするんで、なかなか物語が進みません。
いわゆるキャラクター一人歩き現象。
一人喋り現象。一人ウン(略

話は変わるが新曲のジャケ写は背景がお花畑じゃなかったら
けっこうメンバーの顔が恐いと思う。
バックが夜で、柳の下。服が着物。手をぶらんと下げている。
恐い。
特に石川・安倍・高橋・紺野あたりは夢に出そうなくらい恐い。
保田や辻も相当キていると思う。
あと小川だけナゼに仏頂面?

というか、そんなこと書いている暇があったら続きを。

あ と 、 い つ に な っ た ら
同 窓 会 が 始 ま り ま す か ?
447ちうちうちうちうちう:02/07/23 23:12 ID:40rtVqQD
( 〜^◇^)つI~I
        ~
矢口はナプキン派



      †と(・-・o川
 
   紺野はタンポン派


(・∀・)ニヤニヤ


死んできます。
448名無し娘。:02/07/24 00:18 ID:NoD82691
更新万歳!!
庵は48話は血便でも(wもちろん突然の生理でも(wwないのはわかるんですが、
じゃあなんなのか?しかも詰まっちゃってるし・・・



流産?氏んできます。
449 :02/07/24 01:16 ID:abxk7Oc3
痔?



自分も氏(r
450名無し募集中。。。:02/07/24 04:19 ID:iEvlRxrX
公式ページに載せてある小説の会話部分が色ついてるのは
正直読みづらいんですが、他の方はどうでしょう。
451鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/24 06:11 ID:4EQE+PPs
矢口はピンク色のうんこをするよ。

って作者まで何言っているんだ。

>>450
左様でございますか。
色を変えるぐらいならすぐできますが、何色がいい?
なんせ俺の俺による俺のためのホームページなので
多少ダメなところがあっても見逃したまえ。
452名無し募集中。。。:02/07/24 09:20 ID:iEvlRxrX
>>451
俺は普通に黒がいいけど、俺一人のために黒にすることはしなくていいよ。
ただちょっと、青と黒が連続して出てくると気になるだけだから。
453名無しさん。:02/07/24 15:35 ID:L9B2fh71
色がついてる所を太字にしてみてはいかかでしょう?
などと行ってみるテスト
454AYAYA@ネタに大爆笑:02/07/24 22:22 ID:zGobzlcp
刺身のようにおいしいネタをありがとうございます(笑)
矢口さん、赤いうんこはいけませんね

ア、おいらも逝ってきます
455鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/24 22:35 ID:IIKJN49R

うんこはいいんだ、うんこは。

で、公式サイトの件。

バックナンバー本文の字は割と簡単に一括して変更できるのです。
セリフの色を変えたり、太字にしたりね。
専門的なことをゆーとスタイルシートってやつですよ。

サイトに文章をアップする前に実はいろいろ文字の大きさとか行間とかを
試行錯誤したものです。セリフの色も元々は太字でしたが、本文の中に
太字を使いたかったのでやめたんです。かえって読みづらくなったし。

ただセリフの色はもっと地味な色にしたほうがいいかもしれない。
紺とか深緑色とかね。
言ってくだされば変えますよ。変えないかもしれないけど。

っていうか、早く本編を。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html

456名無し娘。:02/07/25 07:07 ID:foFNfwIS
ところでよっすぃーはアレついてんの?性転換ていうことは・・・
457鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/25 07:33 ID:MEssGwSV
>>456
ひ・み・ちゅ♪

っていうか早く本編を。

(実は今、仕事が忙しいので気長にお待ちください)
>>457
ま、まさか本編に大きく関わる質問だったか・・・
そうか、鍵はよっすぃーのアレ・・・



氏んできます
459AYAYA@よっしーのあれ:02/07/25 18:55 ID:LgXz4E3R
先ほどageてすみませんでした。AYAYAです

私も実は気になってたのですが
よっしーのア・レ
実はよっしーがアレをとったのと
爆破事件に関係があるとか…

やべ、うたばんが正視できない…

おいらもう一回逝ってきます。
460 :02/07/26 15:33 ID:+gXZOCpf
生きろ
461鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/26 20:15 ID:7Zz4gSpT

皆さんお待たせ。
土曜日から更新を再開いたします。
すまんのう。結構公式ホームページのカウンター伸びているし。
お詫びといってはナニですが、
未来系小説、というわけではないですけれども面白スレ紹介↓
さしみもたまに書いています。

>>460
逝きます。

将来発売されるであろう暴露本の内容を書くスレ
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1027547580/l50
462 :02/07/26 21:37 ID:jyIXkKKo
ゴマキの新事実!実はゴマキは・・・
□超ヤバ画像!携帯でご覧下さい□
http://mania1.net/tosatsu/
463鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/27 07:11 ID:QpwxwuSW

【T・E・N】 第49話 加護と吉澤

 吉澤が居間への扉を開けると、まずその大きな瞳に映ったのは暗く沈み込ん
だまま立ち尽くす紺野の姿だった。唇を内側にめり込ませ厳しい表情を浮かべ
ている。
 その紺野に、声をかけるかかけまいか迷っている様子の加護。
 飯田はソファに座って、ギョロっとした目でずっと2階の東棟の廊下の奧を
見つめている。
 夕食の準備にとりかかっているはずの石川と高橋も、なぜかそこにいた。階
段の手すりによしかかってうつむいているメイド服の少女。柱のに背中を寄せ
てしゃがみ込んでいるTシャツ・ジーンズにエプロンをした少女。
 その場にいる皆が神妙な顔つきのまま、一斉に吉澤に視線を集中させる。

「ど・・・どーしたのミンナ?」

「あ・・・え・・・あの・・・」

「安倍さんと、矢口さんが来たんです」

 どもっている高橋の言葉をさえぎり、石川がさきほどまでの状況を説明した。
 特に感激するまでもなく、挨拶もほどほどに自分たちの部屋へ引っ込んでいっ
てしまった二人のことを。
464鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/27 07:12 ID:QpwxwuSW

 何かが、イビツに歪んだ。
 現役アイドルだった頃、あれほど明るかったふたり。ここにいるメンバーと
は違い、幸いにもあの事件で大きな怪我を負うこともなく芸能人を続けた。当
然5年前のあの頃のような、太陽の輝きを今も保ち続けているはず、と皆が思
いこんでいた。
 その二人がこのつんく邸に足を踏み入れた瞬間、メンバー全員で美しいハー
モニーを奏でていたはずのオーケストラの音色が微妙に狂いだしたかのような、
そんな気がした。
 加護がその時の様子を、感じたままに表現する。

「なんかね、ヘンだったの」

「ヘンって、矢口さんが? 安倍さん?」

「どっちも・・・」

「らしくなかったよね」

 石川も相槌を打つ。なんで呼んでくれなかったんだよ、と釈然としない様子
の吉澤に、地下室のスタジオは防音設備のためインターホンの音が聞こえない
んだよ、ということもつけ加えた。

「それに・・・あまりにもアッサリ部屋にいっちゃったから・・・」

「ふー・・・ん〜、でもアイサツはしなくちゃ」

 その現場を見ていない吉澤は、まだ皆の解説や感想を聞いても、暗くよそよ
そしい安倍と矢口が想像できないでいた。スタスタと2階への階段に向けて歩
き始める。
465鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/27 07:13 ID:QpwxwuSW

「あ、それから」

 吉澤が小脇に抱えていた、辞書のような分厚くて赤い冊子を加護に差し出す。

「これは?」

「スタジオにあったの、読んでみなよ」

「???」

 渡されたその冊子を手に取ると、ずっしりとした重量感が伝わってくる。洋
館という場所にどちらかというとミスマッチな音楽スタジオ。そこにあったと
いう、洋館にはお似合いの赤い革張りの豪華な装丁の本。
 なおも眉を「ハ」の字にしている加護に、階段を小走りに駆け上がっていた
吉澤が一瞬足を止めて、居間にいるメンバーを見おろして言う。

「ごっちんの、赤い日記帳・・・?ってヤツかな」

 そして再び歩き始めた。
466鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/27 07:14 ID:QpwxwuSW

 矢口と安倍の部屋は2階東棟にある。
 廊下の奧に向かって右側が矢口の部屋203号室「Alive」。左の部屋
が202号室「Endless Summer Night」。安倍がいるは
ずだ。ちなみに、そのまま奧に進むと飯田の部屋である201号室「Hold
on me」になる。
 安倍と矢口、どちらを先に挨拶しようか一瞬迷ったが―――吉澤は右に身体
を向けて「Alive」の部屋のドアをノックした。

 その瞬間、扉の向こうから「うぎゃあ」という懐かしいあの叫び声が聞こえ
てきた。

 これがもし、かつてのバラエティ番組の収録中だったら―――吉澤は思わず
心の中で「ナイスリアクション、矢口さん」と拍手を贈っていたかもしれない。


【49-加護と吉澤】END
                        NEXT 【50-吉澤と矢口】
467名無し募集中。。。:02/07/27 12:23 ID:OtOV96ib
気になるー。続きがすげー気になるー
急展開のヨカーン(・∀・)
続き、楽しみに待ってます。更新がんばてくらさい
468川o・∀・):02/07/27 23:34 ID:5I/TOY+t
今日はじめて見つけて一気読み〜
続きがとっても楽しみです!
作者さんがんがってください
469AYAYA@新展開!:02/07/28 00:36 ID:qOjqp+qq
素晴らしい。
その一言に尽きます

もう気になって仕方ない

でも、この物語の最終回って1年ぐらい後?

P.S
>>461
鮪乃さしみ氏がお薦めしておられる↓スレは最高です
自分も清悦ながら投稿してまいりました。

将来発売されるであろう暴露本の内容を書くスレ
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1027547580/l50
470鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/28 23:03 ID:eAs04aTo

【T・E・N】 第50話 吉澤と矢口

 わけが分からないまま、反射的に吉澤は203号室のドアノブに手をかけた。
 ロックはされておらず、あっさりとその扉は開かれた。
 まず思ったのは・・・矢口の部屋は自分の「Moonlight」の構造に
似ていること。

 そして叫び声の元である矢口は、ドアを開けてすぐ左手の床にへたり込んで
いた。

「あっ」

 吉澤が思わず声に出してしまった原因。
 それは、矢口が下着と白い太股をあらわにしていたことだった。緑と黄色の
太めの横縞模様のトレーナーに視線を向けても、否応なくその下の、純白で可
愛らしいパンティに目がいく。その下着に片手を引っかけているところを見る
と、たった今まで脱いでいたのを慌てて履いたようでもある。
 矢口の足の先はまだ、ドアが開かれたままのユニットバスルームの向こう側
に放り出されている。よく見るとその足に紺色のオーバーオールらしき衣服が
絡まっているのが分かる。

 その異様な光景に気をとられて一瞬遅れたものの、矢口の表情がやっと確認
できた。
 これ以上ない位の、恐怖に歪んだ顔。
 そしてようやく、矢口も廊下から遠慮がちに身を乗り出している吉澤の存在
に気がついたようだった。
471鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/28 23:04 ID:eAs04aTo

 のけぞって倒れている矢口は、左手を下着に手をかけたまま右手をバスルー
ムの中へ指さし、ぎこちなく後ずさっている。やがてその無理な体勢が災いし
たのか、小さな体躯をごろん、と床へ転がす。彼女の口から必死になって絞り
出された声が、吉澤の耳にも届いた。

「血が、血が・・・!!」

 何か尋常ならないことが起こっていることを瞬時に察した吉澤は、部屋の中、
そして矢口が指さしているバスルームの中へと駆け込んだ。

「うわ、臭っ!」

「やっぱり見ちゃダメッ!」

 吉澤が鼻を押さえたのと、その吉澤を後ろから矢口が抱きしめるように押さ
えつけてそう叫んだのは、ほぼ同時だった。
 だが吉澤もトイレの室内に充満する当たり前の臭気のほかに、矢口の絶叫の
元となったものを確かに視界に捉えていた。

 白い洋式便器の内側一面が、真っ赤な液体で染まっていたのだ。

「ダメったら!」

 バタン。

 一瞬で矢口がその便座のフタを閉じたので、それ以上のことは分からなかった。

「な・・・何・・・一体・・・?」

 矢口が息を切らして便座に覆い被さっているのを、吉澤は茫然と見下ろす。
 これが矢口と吉澤の、5年振りの再会だった。


【50-吉澤と矢口】END
                           NEXT 【51-加護】
472鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/28 23:07 ID:eAs04aTo

記念すべき第50話もウンコネタかよ。

がんばって更新しなければならない。
なんか、最近脱退ネタがモー板を騒がしておる
わけなんですが、脱退は困る。
これは未来系小説なのに、脱退者が出てしまったら
物語にリアリティがでなくなってしまうではないか。
ファイナルライブは現メンバーの13人でおこなう
という設定なんだから。
脱退は困るなぁ。
せめてこの小説が完結するまで脱退しないでくれよ。
(↑身勝手)

まあとにかく展開を早くしなきゃな、と思う。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
473名無し娘。:02/07/29 23:08 ID:n7IWwMfW
やっぱ流産・・・?ひょっとして俺が十年後に孕ま(ry



身を投げます・・・
474裏紺:02/07/30 01:49 ID:mktjNG7k
最近更新遅すぎ

どうした毎日更新宣言
475鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/30 05:36 ID:xPuSzokh
>>474
「毎日更新宣言」は諸般の都合により「毎週のうち何回かは更新するよ。
でも絶対完結させるから! あとウンコはしないよ宣言」に変更させていただきます。
ご了承下さい。(それも今後変わるかも)

でも早起きは変わらないわけだね。
476nanasi:02/07/30 05:41 ID:BwP9NbN3
>>474
お前書いてみろよ。
毎日これだけ書くのって想像以上にきついぞ
しかも作者はそれなりのペース守ってるし、偉いと思うが
477 :02/07/30 13:55 ID:RI0aeAsk
うんこしてもいいから、がんがって更新して。
ついでに結婚して。






ぷりっ
478:02/07/30 19:44 ID:4ClrILUn
さしみさんの推しメンは誰ですか
479;:02/07/30 19:45 ID:4ClrILUn
すんまそん、さげます
480川o・∀・) :02/07/30 22:17 ID:URCUBCYW
作者さん、うんこはしようねw
481鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/31 07:47 ID:anZbbBfd
今朝も更新は無理ですた。ごみん。

>>477
うんこする婦女子とはケコーンしません。
ファンタジーを紡ぐ石川似のオナゴきぼーん。

>>478
それは以前にも言ったような気がしますが、小説を読んで推測してね。
もしかしたら犯人探しより難しいかもしれません(w

>>480
作者は太くて黒くて臭いのするよ。
482鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/31 07:50 ID:anZbbBfd

【T・E・N】 第51話 加護(の予告編)

 そこにいるメンバー全員が居間のテーブルをグルっと取り囲んで、加護が読
みやすいようにと真ん中に置かれた「赤い日記帳」に注目する。
 パッと見、ちょっと小さめの百科事典という印象。

 加護が車椅子からやや身を乗り出して、ハードカバーの表紙をめくると手書
きのアルファベット。

「MT STUDIO COMUNICATION NOTE」

 それを見て、紺野が一言。

「コミュニケーションのスペルが違いますね」

(つづく)

 こんなんはアリですか?
483AYAYA@ワラタ:02/07/31 08:35 ID:FwquSf/l
>>482
紺野の突っ込みに('∀')ワロタ
484:02/07/31 08:58 ID:2MkeoEKX
>>482
マジで一瞬わからなかったよヽ( `д´)ノ
485名無し娘。:02/07/31 17:52 ID:3LStzE/r
>>482
一分半くらいワラタヨ・゚・(ノД`)・゚・ワライナキ
486鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/31 21:00 ID:l7L8A/K1

うあああ、恐れていたことが!
しかもよりによって保田と後藤かい!
この物語で重要な役割を果たす二人だけに
いまさらストーリーをねじ曲げるわけにもいかないし。
ということで、この小説を読む際は脳内で13人ということにしておいてください。
それよりも、イタタタ、俺の精神的ダメージが。
小説を連載し続けるというモチベーションが下がらなきゃいいんだけど。
とりあえずまだ実感沸いていないんだけど、
明日からテレビでも報道されると、よりディープになるんだろうなぁ。
うぐぐ。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
487名無し:02/07/31 21:06 ID:lw5RqPfW
無理に話を変えなくても全然平気なので完結まで
がんばってください!(ショックなのはみんな同じだと
思います。)
488 :02/07/31 22:36 ID:ldsPgAye
公式HP2000ゲトー

なんか脱退するみたいだけど、この小説が完結するまで続けてくださひ。
更新、楽しみにしてます。
489名無し:02/07/31 23:47 ID:o78dFHgT
保田と後藤、脱退らしいね・・・
あぁ小説にリアリティがぁ・・・
490名無し募集中。。。:02/08/01 23:57 ID:g9lriDsW
9月23日の横アリを、この物語の中での武道館解散コンサの
つもりで読むと割とナチュラルかも(ってオイ)
491名無し募集中。。。:02/08/01 23:58 ID:x3fM1AcV
>>490
頼むから爆弾は仕掛けるなよ(w
あとsageた方がいいと思うんだが。
492 :02/08/02 00:07 ID:TCHYDW5+
頑張れ。
どこの作者も悩んでるんだ(私も)。
何とかなる。
やめないでー
493 :02/08/02 10:57 ID:Qx4iZfem
ゴマキの新事実!実はゴマキは・・・
□超ヤバ画像!携帯でご覧下さい□
http://mania1.net/tosatsu/
494鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:30 ID:hyIXGMg3

【T・E・N】 第51話 加護

 そこにいるメンバー全員が居間のテーブルをグルっと取り囲んで、加護が読
みやすいようにと真ん中に置かれた「赤い日記帳」に注目する。
 パッと見、ちょっと小さめの百科事典という印象。

「これ、よくスタジオに置いてあったコミュニケーションノートかなぁ?」

 高橋が加護に向かって問いかける。

「たぶん・・・ウチらの知っているのより、チョット豪華だけどね」

 コミュニケーションノートといえば、そこに書かれてある文は唯一この屋敷
で本格的なレコーディングをおこなった、後藤のものである確率が高い。高橋
や紺野もこの屋敷に来た際に、わずかな間ではあるが後藤のレコーディングに
は立ち会った。が、このノートの存在は知らなかったと言う。
 その後藤がこの屋敷に初めて来て、どんな体験をしたのか。
 どんな想いで解散後の芸能活動に期待と不安を織り交ぜながらも、立ち向かっ
ていったのか・・・?

 いまとなって知るすべはない。
 ただ思いがけず飛び込んできた、この屋敷での後藤の存在感に―――果たし
て「飛び込んできた存在感」という言葉の遣い方がふさわしいかどうかは別と
して―――それぞれが後藤への想いを蘇らせる。
 高橋・紺野にとっては憧れの先輩。
 加護にとっては先輩というより、師匠。なんでも相談できる学校の先生のよ
うな存在。
 石川は優等生に憧れる同級生、といった感覚。
 飯田は・・・立場上、複雑だ。
495鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:31 ID:hyIXGMg3

 加護が車椅子からやや身を乗り出して、ハードカバーの表紙をめくると手書
きのアルファベットが、ぶっきらぼうに書かれてある。

「MT STUDIO COMUNICATION NOTE」

 それを見て、紺野が一言。

「コミュニケーションのスペルが違いますね」

「コミニュケーション?」

「コ・ミュ、です。
 あと“COMMUNICATION”は名詞なので、正しくはコミュ・・・」

「いや・・・そうじゃなくて・・・てか、それはいいから・・・」

 高橋が早くノートの中身を、と加護を促すその時だった。

 2階東棟からなにか「ぅぎゃあ」と金切声が聞こえてきたのだ。
 静寂の中での耳鳴りのようにも似たその甲高い声に、そこにいるメンバー全
員がぴたっと硬直する。

「・・・? 今誰か叫ばなかった?」

「矢口さん?・・・」

 石川と紺野がお互いの顔を見つめ、そして2階の廊下の奧へと視線を移動さ
せる。
 早くコミュニケーションノートの中身を知りたいという好奇心と、一体何が
起こったんだろう?という疑問が複雑に絡み合う。
 普段から仏頂面の飯田の眉間にシワが寄って、さらにオコゼのような顔にな
り不機嫌なオーラを放っている。
496鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:32 ID:hyIXGMg3

「あのおー!」

 ソファに座りノートを読むのを心待ちにしていた高橋が、突然立ちあがって
上の階に向かって大声をはりあげる。

「なにかあったんですかあー!」

 やや間があって、何かバタバタした足音が聞こえてきたあとに淡いクリーム
色のワンピースに身を包んだ(相変わらずどこか素朴なファッション)安倍が
あらわれた。
 東棟の奧から飛び出してきて、2階の渡り廊下の手すりに身を預け乗り出す。
 語気を荒げて、それでいて冷静な表情で右手と頭をぶるぶる振って、否定の
ジェスチャーと共に言う。

「ううん、な、何でもないからっ」

「ゴキブリでもいたんですか〜?」

 石川が首を傾げながら、キョトンとした表情で安倍に返す。

「うん、矢口がゴキブリにビビって叫んだんだよ。驚かせてゴメンね」

 鈍感なメンバー・敏感なメンバーとも誰もが、安倍のセリフは後付けの理由
ということを察した。だがそれが嘘だったとしても、他に矢口が叫び声を上げ
るような理由がほかにあるだろうか? 命にかかわるような? 安倍が大丈夫
だと言っている。だったら、この場はそれでもいいような気が加護はした。
 苦笑いのまま安倍は廊下の奧へと向かいかけて、また足を止める。

「ほ、本当に何でもないからっ」

 振り返って、安倍はもう一度念を押す。
 そしてそのまま小走りに、矢口の部屋の方へと去っていった。
497鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:33 ID:hyIXGMg3

「ふ・・・ン・・・」

 居間にいるメンバーが何か釈然としない、それでも目の前のノートが気にな
るため精一杯納得しようとしているような様子だった。

「ここゴキブリいるんですか・・・?」

 紺野がポケっとした表情で石川に尋ねる。

「うん、厨房・・・台所にね、何回が見たことある」

 高橋が、そんなことはいいからっ、と相変わらずこの雰囲気の流れにイマイ
チ乗り切れてない紺野をキッと睨み付ける。
 加護も今は紺野を無視する方向で、ページをめくる。
 水を差された形になったが、ゴクリ、とメンバー全員が輪になって頭を合わ
せて唾を飲み込む。そして改めてノートに集中する。

「7月8日」

 最初の1ページ目の日付。「あの事件の1ヶ月前だ・・・」と誰かが言った。


(本文)

「7月8日」

  後藤真希ですっ!
  ノート一番乗り〜☆
  わははははは
  ピ〜ス♪

  明日から新曲のレコ始まりま〜す。
  ここに来る途中の車の中でずっとMDで新曲聞いていました!!
  今回の『思い出になってしまった』は、なんかスゲーいいっす!
  もしかして私の今までの曲でイチバンかも!?
  やっぱり、つんくさんは天才だなぁ〜

  あとこの屋しきスゴすぎ! もう、お城って感じ!
  なんか今日はコーフンして眠れそうにないかも。。。
498鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:34 ID:hyIXGMg3

「7月9日」

  きのうに引き続き、ごとうです。
  うい〜。ヘバりました。
  ムズいっす、この曲。
  モーニングの解散ツアーの疲れもたまっているしね〜
  今はお昼ゴハンを、ひ・た・す・ら・待ってます。

  あと午後からなんと、新メンバー【という文字が塗りつぶして消してある】
  高橋、紺野、小川、新垣が写真集の●サツエイで来るそうです!
  やった!
  おすまし顔でポーズとっていたら、笑わしたろっかな(私ってワルモノ?)
  なんだかウレシイ。泊まっていくのかなぁ。

  とにかく今は『思い出になってしまった』です。
  がんばろう。



「7月10日」

  レコーディングがもうちょっとで終わりそうです。
  きのうは特別ゲストのたかはしとかにコーラスを入れてもらったけど
  使われるかどうか分からないって(つんくさん談)

  辻ちゃん(突然きのう泊まりにキタっ)や小川ちゃんにも
  今日、声入れてもらったけどあんまり元気なさげでした。
  実はワタシもちょっと、きのうの夜あんなことがあったのでブルーです。

  でも最後だし、がんばるぞ、と。
  うん。忘れなきゃ。
  今は歌! うた! ウタ!

  そうだ。もう解散まで1ヶ月切ったんだねー。
  いろいろあったけど、モーニング楽しかったよ。
  このあと、あいぼんやなっちもこのスタジオでソロやるんだって!

  がんばれ〜!!!!!(えらそう?)
  ミンナ愛しているゾ〜〜〜!!!
                    ごとうまき 7・10

  おなかがすきました
      by つじのぞみ


(本文おわり)
499鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:35 ID:hyIXGMg3

 最後の一文をみて加護が口元を弛ませたが、またすぐにシリアスな顔に戻る
のを紺野は見逃さなかった。
 そこで書き込まれたページは終わり、あとは真っ白なページをパラパラマン
ガの要領で加護はめくった。当然の如くそこには白い平面が続くだけだったが。

  とりあえず、どこから話そうか。

 誰が最初に口火を切るのか、お互いがチラチラ上目遣いで他のメンバーを牽
制する。
 特に高橋・紺野、そして石川(たぶん吉澤もそうだろう)にとって気になる
のは3ページ目に書いてある、きのう(2日目)の夜に起こった「あんなこと」
である。
 

【51-加護】END
                        NEXT 【52-安倍と吉澤】
500名無し娘。:02/08/02 23:26 ID:zWHo50rh
おお!すげぇ!
なんてサービス精神旺盛な作者さんなんだ
この後が気になる〜
501名無し読者。。。:02/08/03 01:01 ID:+dV1ZHMP
完結するまで、スレ汚しはしないと決めてましたが、
この状況で更新して下さる作者様を尊敬致します。

自分はこの2日間凹みっぱなしでしたもので・・・・


502鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/03 01:09 ID:4NRPC2Cc
いや俺も相当ヘコんでおります。「7・31事件」には。
というかヲタ全体に漂うこの悲壮感はなんなんだ。

ま、更新はしますよそりゃもう、ええ。
半分ヤケ気味に。
それにしてもなぁ。はぁ。
503名無し募集中。。。:02/08/04 04:03 ID:nS15RLxR
ホゼム
504名無し募集中。。。:02/08/04 09:29 ID:VBouxEUJ
やけ気味なんていわずにね・・・

誰もが望んだ13人のままの世界が小説の中だけでも残っていて欲しいという気持ちもあるしね。
505鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 10:11 ID:U7QP8A05

やばいね、いろいろと。
それはさておき、公式ホムペにて40話まで再録したので御報告いたします。
公式ホムペではここでアップした後に発見したミスや、セリフなどを若干
変更してあります。読み返す時や、これから初めて読むといった人は
公式ホムペのほうを読んでね。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
506名無し募集中。。。:02/08/04 16:10 ID:i1Rddvj/
25話と26話文章が被ってますよ
507鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 19:43 ID:Tk/W5Xt5

【T・E・N】 第52話 矢口と吉澤

「ねー・・・何かあったの?」

 そう後ろから安倍に声を掛けられ、吉澤もやっとハッと我に返った。矢口は
浴槽にもたれかかって、両手で顔を覆い隠し泣きじゃくっている。
 吉澤が矢口の叫び声を聞いて部屋、そしてバスルームの中に入り、そこで内
側が赤く染まった便座を目にする。慌てて矢口がそれを隠したが、吉澤自身も
予想だにしなかった光景に茫然とするしかなかった。安倍に声を掛けられるま
で、どれだけの時間そこへ立ち尽くしていたのか分からないほどに。

「う、うん、大したことなくて・・・ちょっとビックリして・・・」

 吉澤もそう答えるしかなかった。「Alive」の部屋の入口から半分だけ
身を乗り出して安倍がその「ビックリ」の意味を訊こうとしたとき、下の階か
ら誰か呼びかけている声が聞こえてきた。

「あのー!」

 微妙な訛り具合から、その声の主は高橋だと分かった。
 おそらく居間は吹き抜けのため、2階の廊下に響きわたった矢口の絶叫が下
の居間に集まっているメンバーの耳にも届いたのだろう。
 丸くなって泣いている矢口。うろたえている吉澤。それを見て、安倍がもう
一度尋ねる。
508鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 19:44 ID:Tk/W5Xt5

「怪我とかなーい?」

 それは見た目あきらかだが、確認の意味もあるのだろう。
 矢口は小刻みに首を縦に動かす。吉澤も「う・・うん」と頷いた。
 それを確かめると、安倍は居間の方向に走り去っていった。しばらくして何
か安倍が居間の下の階にいる者に弁明している声が聞こえてくる。とりあえず
吉澤自身も動悸が治まらないものの、この衝撃を下の階にいるメンバーにまで
伝搬させる必要はないと思った。
 こうした特殊なイベントで、お互い過敏になっている。
 だが吉澤と石川が、辻の姿を見たのを表沙汰しないことを二人で誓ったのと
同じように、このこともあまり波風を立てない方がいいような予感がしたのだ。

「矢口さん、立てますか」

 吉澤は矢口の震えている肩に静かに手を添えて、とりあえずこの場を離れよ
うとした。
 さきほどまでショックで腰を抜かしていたようにも見えたが、よろめきなが
らも立ち上がる矢口。一刻も早くこのバスルームから出たいという気持ちは、
彼女も同じようだ。乱れている衣服―――オーバーオールを履き直しながら、
フラフラとその場所を後にする。
 それを後ろから吉澤は支えながら、一歩一歩踏み出す。
 二人が中から出たところで、忌まわしい空間を封印するかのように吉澤はそ
の扉を閉めきった。
509鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 19:46 ID:Tk/W5Xt5

 矢口がここ数年、芸能界で冷遇されてきたのは吉澤も知ってる。
 弱気になっているのかもしれない。
 大きな流れに逆らわずに生きているはずなのに、なぜか窮地に追いつめられ
てゆく不条理に、あくまでも生真面目に立ち向かっていたのが矢口だった。思
えば解散する前からそうだったのかもしれない。吉澤の目からみても、矢口に
対して時には強引な「そりゃないだろう」といった事務所の扱いが、見え隠れ
することがしばしばあった。それに対してきっと不満があるはずなのに、表立っ
て逆らうこともなく従順に明るく振る舞ってきた矢口。そしてグループの解散
が決定。ソロとして、やっと自分のやりたい仕事の方向性が確立できると思っ
た矢先に、あの武道館での事件が起こった。モーニング娘。―――というより
ハロープロジェクトという枠組みの中で、それに合わせた仕事しかさせてもら
えなかった自分が、ようやく芸能界全体を視野に入れた活動の場を与えられる
と思っていたのに、それをすべて破壊されてしまったのだ。
 それでも矢口は自分のスタンスを変えようとはしなかった。自分のキャラク
ターを活かせる場を模索し続けた。しかしそれは、結果的に功を奏したとはい
えないだろう。
 その矢口に対して、ある意味吉澤は逆の生き方を貫いてきた。吉澤が選択し
たのは、常人の理解の範疇を遥か超える変化を遂げること―――つまり「男」
になること―――だった。すべての人の支持を得られないのは、承知の上での
行動だった。だがそれによってモーニング娘。在籍中とはまったく異質の、熱
狂的な支持層も得ることができた。吉澤は現在自分が置かれた状況に、ある程
度満足はしている。少々荒療治ではあったかもしれないが。
 しかし矢口はその努力とは裏腹に、カタルシスを得られないまま現在に至っ
ているのだ。
510鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 19:50 ID:HkmcaCG+

 そんな解散後の苦渋の日々を過ごしてきた矢口にとって、もしかしたらこう
いった同窓会の場に出席することはノスタルジィ以前に大きすぎるストレスと
なって、のしかかっているのかもしれない、と吉澤は思った。
 いまだに矢口が泣き叫ぶ原因となった、あの血まみれ?のトイレについては
吉澤もよくわからないでいるが、そういったバックボーンがあることを、これ
からの矢口との対話の上で理解しておかなければ、真実は導き出せない。
 そう吉澤の「女の勘」が訴えかけてきたのだ。

 ベッドに矢口を座らせると、ようやく落ちつきを取り戻し始めたようだった。

「何なのよ、ここは・・・」

 やっと叫び声以外の―――落ちついた矢口の声が聞けた。しかし事態は好転
したわけではない。いまだ泣きベソをかいてうつむいている。が、さきほどの
パニック状態は脱したようなので、吉澤は詳しい話を聞かなければ、と思った。

「じゃあ、流れ出てきた水が赤かった、と」

 吉澤が廊下側の壁によしかかりながら、腕を組んで尋ねる。
 そこで部屋のドアがガチャ、と閉まる音がした。

「なんとか、ごまかしてきたよ」

 安倍も部屋に入ってきて、今度はベッドで縮んでいる矢口の隣りに座って肩
を抱く。

「だいじょーぶ?」

 涙を拭いながら、コクコクと頷く矢口。
511鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 19:54 ID:VlOyevVa

「で、結局何だったの」

 と安倍に訊かれて、吉澤は締め切ったユニットバスの扉に視線を移動させる
が、あの状況はどうも説明しづらい。要するにトイレの水を流したら、赤い液
体が流れ出てきた、ということしか現時点では分かっていない。そこに至るま
でどのような経緯があったかは矢口の説明を待たなければならない。
 だが確かに「あれ」を血だと判断する材料が矢口にはあったはずだ。考えよ
うによっては、長い間使われていなかったトイレ。水道管が錆びていて、タン
クにはそれにより茶褐色に染まった液体が貯まっていたという考え方もできな
くはない。そう思ったのは、ちょうど吉澤がいま経営している店で似たような
ことがあったからだ。あれはまだ“Doll’s EYE”を開店させる前だっ
た。長い間空いていた貸店舗の下見に行ったとき、なに気に水道の蛇口をひね
ると赤茶色の液体が流れ出てきて驚いたことがある。不動産業者は苦笑いしな
がら「ここしばらく使われていなかったからねぇ」と弁解した。
 もしかしたらこの部屋も長い間使われていなかったため、タンクに褐色の鉄
錆びが混じった水が貯まっていたとしても不自然ではないだろう。そして矢口
にとって、流れ出てきたその水が血に見えたとしても。

 その考えを、吉澤は矢口にぶつけてみることにした。何よりも矢口には笑顔
が似合う。にもかかわらず、5年振りの再会だというのにずっと泣き顔しか見
ていないことにこそ、吉澤は動揺しているのだった。

 矢口は小さな肩を震わせながら、吉澤の考えの一部始終を聞いていた。
 いまだ状況が把握できない様子の安倍だが、吉澤の話の端々から矢口が泣き
叫んだ原因がトイレにあることぐらいは理解したようだ。
512鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 19:56 ID:VlOyevVa

 吉澤が、いくつかの慰めの言葉を交えながらその「水に錆びが混じっていた
だけだった説」を終えた。
 しばらくの間の後、ずっとうつむいていた矢口が首を横に振りつつ吉澤を見
上げる。

「うぐっ・・・違うよ。なんか、ヒック、タンクに詰まったもん。全部水流れ
 なかったもん」

「ああ」

 その言葉に続けて吉澤は「それでウンコが流れていなかったのか」と言いそ
うになったが、あわてて喉元で引っ込めた。これ以上矢口を傷つけては、いよ
いよ真相は解明できないだろう。
 嗚咽混じりの悲痛な声とともに矢口は続ける。

「きっとね、なんか動物の死体とかなんかがね、詰まっているんだよ。ヒック、
 それの血なんだよ」

「まってよ、なんでそんなとこまで決めつけるの?」

 ここで安倍が口を挟む。

「ちょっと、よっすぃー確かめてきてよ!」

「え? 俺が!?」

「そうだよ、タンクの中に何が詰まっているのか調べてきてよ!」

「そんな・・・さすがにイヤだよ・・・俺だって・・・」

 何かタンクの中に詰まっている、という矢口の話を聞いて吉澤も自分の立て
た仮説に若干自信が持てなくなってきた。確かに赤い液体が流れてきて、そし
てその水が全部流れず途中で詰まったとなれば、矢口の言うような「血→タン
クの中に死体」といった符合も、妄想と一言で片づけるわけにはいかないだろ
う。
513鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 20:00 ID:RsM9++a7

「ちょっと、それでも男の子なの!」

 と、安倍が真顔で叫ぶ。

「はぁ?」

 と吉澤は顔を歪める。こんな時だけ(だけ、といっても安倍に再会してまだ
間もないが)自分が男になったことを、都合よく持ち上げる態度に吉澤は少し
だけカチン、ときた。

「くっくっくっく・・・」

 そんなときに、意外なところから笑いを必死に抑えようとしている声が聞こ
えてきた。矢口だ。
 相変わらず頬は涙に濡れているが、目は泣いていて口元は笑ってるという微
妙な表情のまま、矢口は再びうつむいた。
 確かに第三者から見たらヘンな会話だったかな、と吉澤も思い始めてきた。
自分のことで笑われたにもかかわらず、どこかすがすがしいのは、やはり矢口
の笑顔の片鱗でも見ることができたことに起因しているのだろう。

「・・・とにかく・・・俺はゴメンだよ」

 吉澤は安倍の要求を突っぱねる。
514鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 20:01 ID:RsM9++a7

「たしかにさぁ、ネズミか何かが足を滑らせて貯水タンクの中に落ちて詰まっ
 ているのかもしんないけどな」

 吉澤はこの論理が矛盾だらけなことに、言いながら自分自身気がついた。
 閉めきったタンクの中に、どうやってネズミが落ちるのか?
 仮に何らかの弾みで落ちたとしても溺れ死ぬだけで、水が血に染まることは
ないのではないか?
 それにネズミほどの小さな身体で、あれほど真っ赤になるだろうか?
 やはり錆びた水道水がタンクに貯まっていて、流す際になんらかの原因で、
途中水が詰まったと考えるしかないのではないか。少なくてもその結論に達し
ないことには、ほかに―――考えたくはなかったが「人為的」な仕掛けであっ
たという推論もそのうち出てくるかもしれない。それによってお互い疑心暗鬼
になることだけは避けなければならなかった。

 しばらく沈黙が続いた。
 他の安倍・矢口の二人も、今の吉澤と同じ事を考えているような表情だ。

「そういえば」

 矢口は思い出した。
515鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 20:02 ID:RsM9++a7

 曲がりくねった長い山道を経てやっとたどり着いた、圧倒的なスケールのこ
の屋敷(つんく邸♂)を外から見上げたときのことを。
 2階の多分こちら側(東棟)の部屋の中から―――白いワンピースを来た黒
髪の少女が、矢口たちを見つめていた。
 誰かは分からない。でも、どこか懐かしい。となりの飯田の部屋のような気
もするし、今矢口たちがいる「Alive」の部屋だったかもしれない。
 それはよく思い出せない。
 でもなにか胸騒ぎがする。
 洋館。少女。流血。
 矢口の背筋に冷たい汗がツツー、と流れる。

「なにが、そういえば、なの? やぐ・・・」

 安倍が下からのぞき込む。いつの間にか嗚咽の治まった矢口が、固い決意の
ようなものを秘めた目で安倍に語りかける。しかしそれは、さきほどの安倍の
質問に対する答えでななく、自分自身に対して言い聞かせているような口調だっ
た。

「わたし・・・この部屋イヤ。代わってもらう」
 

【52-矢口と吉澤】END
                        NEXT 【53-安倍と吉澤】
516鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/04 20:04 ID:RsM9++a7

不定期更新もいいところである。
さらにサーバーの調子も悪くね?
(俺が書き込む時に限って)

矢口に関する部分でこの回は大幅に加筆修正した。
ストーリーを曲げることは出来ないが、そういった部分で今回の出来事
に対して表現していきたいと思った。訴えかけていきたいと思った。
(それが成功するかどうかは別にしても)
何らかの形でシナリオに取り込んでいければ・・・無理か。

で、長くなった。
あと前回予告では 【52-安倍と吉澤】となっておりましたが、
諸般の事情により第52話は「矢口と吉澤」にさせていただきます。
「安倍と吉澤」は次回にて。

それにしてもタランティ〜ノ映画みたいに複数視点で書くのって
オモロイね。見ている人はどう思っているのか分からないけど。
(展開が遅くてもどかしい?)

>>506
5時間後ぐらいに直します。ごめん。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
517名無し募集中。。。:02/08/04 20:48 ID:vAfs36FI
>訴えかけていきたいと思った。

十分伝わりました。
ありがとう。

ちなみに複数視点は大好物です。
518川o・‐・) :02/08/04 21:54 ID:we28nRFT
複数視点は面白いですね。
漏れは、展開は遅い方が、続きが気になるし楽しみになるからいいと思いますよ。

やぐの事も、タイムリーというか現実世界とつながり(?)
みたいなのがあってイイ!
(表現が下手でスマソ)

更新、がんばってください。
あんまり無理せずにね。
519鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/06 06:49 ID:okwN0UyD

なぜか保田の演技に赤面してしまいますた。(昨日の夜8時)
でもがんばってホスイ。

>>506
直したよ。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
520鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/07 07:34 ID:VN8fAgbr

【T・E・N】 第53話 安倍と吉澤

 吉澤は渡り廊下から1階居間を見下ろし、テーブルの上に開かれている「例
のノート」、それに加護と紺野が何か耳元でひそひそ小声で話し合っているの
を確認する。
 ちょうど飯田は立ち上がって、エントランスに向かって歩き出していた。
 高橋と石川は再び夕食の準備に向かったのだろうか、その姿は見えない。
 壁にかけられている大時計の針は、すでに5時15分を指しており、あと1
時間もしないうちに夕食が始まる。

「ねえ、読んだぁー?」

 その声に反応し、視線が一斉に吉澤に集中する。いや、飯田だけが一瞬だけ
遅れる。

「う、ん・・・」

 なんとなく元気ない加護の返事だが、満足そうに吉澤はうなずく。

「ねえ読んだって?」

 後ろから吉澤の腰をつんつん指先でつっつく安倍。
521鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/07 07:35 ID:VN8fAgbr

「うひゃ」

 思わず声に出してしまった。
 クスクスと含み笑いを浮かべる安倍。すぐ後ろの、いまだにさきほどのショッ
クから完全に立ち直れず青ざめている矢口の顔とは対称的だ。

「あのっ、地下のスタジオにね、ごっちんの書いたノートがあったの。あとで
 読んでみれば?」

「ふー・・・ん、後藤・・・ごっちんの・・・。
 あ、やぐっつぁん、それじゃっ!」

 安倍が手を振ると、階段を降りてゆく矢口も精一杯の(作り)笑顔で応える。

 ここで安倍・吉澤組と矢口が分岐する。
 矢口はそのまま居間へと降りてゆき、これから厨房にいるであろう石川に部
屋の変更を直訴しに行くのだ。
 一方安倍と吉澤は渡り廊下からエントランスへと、1階に降りるための螺旋
階段に向かって歩み始める。

「これ使ってみたかったんだよね、この屋敷に来たときから」

 満面の笑みを浮かべながら、その螺旋階段を早足でタタタッと孤を描き駆け
降りる吉澤。それを優しい目で見守りながら、一歩一歩踏みしめてあとについ
てゆく安倍。
 このいきさつ知るためには、ほんの5分前までの「Alive」の部屋に時
間を遡らなければならないだろう。
522鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/07 07:36 ID:VN8fAgbr


「ところで、おひさしぶりです」

 ベッドに座ってお互い肩を寄せ合っている安倍と矢口に向き直って、いきな
り吉澤が姿勢を正しペコンと頭を下げた。
 吉澤は矢口の部屋へ挨拶しに来たはずだった。それが、矢口の叫び声に気が
動転し、そのあと信じられない光景を目にして本来の目的をすっかり忘れてい
たのだった。それにしたって「ところで」と「ひさしぶり」は、普通結びつか
ない単語だろう、と矢口は思った。

「そんな久しぶりって感じしないけどね、よっすぃーは。
 テレビたまに出ているし」

 そう喋る安倍が、メンバーの中で現在メディアへの露出が一番多いことを自
覚しているのだろうか、と吉澤は訝しがる。

「そうだね、ひさしぶり」

 矢口もさきほどまでトイレの便座での出来事について、ああでもない、こう
でもないと話し合っていた緊張感からフッと抜けて、初めて落ちついた表情で
吉澤に返した。
 それでも正直まだ矢口はまだ胸のドキドキが止まらずに、視点も定まってい
ない。安倍に深呼吸しな、と言われてふーっ、を大きく息を吐き出す。

「ごめんね。なっち、よっすぃー」

「いいんだよ、でもよっすぃーナイスタイミングだったよね」

「うん、二人がさっき来たとき俺、地下にいたからサ。再会の挨拶しなくちゃ
 と思って、部屋の前まできたら矢口さんの叫び声が聞こえてきたんだもん。
 ビックリだよ」

 ああ誰かいないなぁ、とつい先ほど居間を通り抜けたときに矢口は感じたが、
吉澤だったのだ。確かに白いツーツを来て短髪、長身の吉澤はそれだけで目立
つ。もしそこにいたら、強く目に焼き付いていたことだろう。―――そしてこ
の部屋の中で一人考えていた、この屋敷に来てから抱いていた疎外感を、より
一層強めていたに違いない。
523鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/07 07:37 ID:VN8fAgbr

「でもなんで地下なんかに・・・?」

「地下にレコーディングスタジオあるんですよ。確か安倍さんも・・・」

 そう言いかけて、吉澤は言葉に詰まった。あの悲しい事件があったために念
願のソロCDデビューを断念した安倍。本人を目の前にして、その話題に触れ
ようとしてしまった。

「え? 私が何?」

 安倍がキョトン、とした顔をして吉澤を見つめる。

「い・・・いや、あのね、俺この屋敷に来たの初めてだったから、いろいろと
 ね、どんなトコロがあるかってね・・・探検していたの」

 失言の動揺に気が付いていないらしい安倍の様子をみて、ホッと胸をなで下
ろす吉澤。
 言ったあと、奇妙な「間」が出来たので無意識のうちにスーツのポケットに
入っているタバコの箱をまさぐる。だが、子犬のように怯えている矢口と、迷
子になった子供のような安倍の悲しそうな目を見ると(さすがかつては「究極
の童顔」と自ら言っていただけある)、その彼女らを目の前にしてたった一本
のタバコを吸う行為ですら、なぜか罪悪感が漂う。結局マルボロを1本くわえ
ただけで、火を点ける気にはなれずに唇で上下に揺り動かすだけだった。
 まったくこんな沈黙のときこそタバコは便利なのに、と吉澤は考える。便利
なモノほど、それが封印されたときの不便さが身に染みる。
524鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/07 07:42 ID:2nj0JQ2i

「よければ・・・一緒に見て回りませんか?
 ふたりとも初めてですよね、ココ」

くわえていたタバコをゴミ箱に投げ捨てて、吉澤がそう切り出した。

「はぁ? 私らがぁ? あのねぇ、私は運転で疲れているし、なっちだって昨
 日から夜通しドラマの現場にいて・・・」

「いいね! 面白そう」

 思いがけない安倍の返事に、一瞬戸惑う吉澤。
 しかし、やがて暖かい何かが胸を徐々に満たすのを感じて、自然と顔がほこ
ろんだ。

「裏庭キレイらしいよ!」

 吉澤の提案に対して微笑みを浮かべてうなずく安倍を、矢口はどこか冷やや
かな目で見ていた。
 

【53-安倍と吉澤】END
                       NEXT 【54-飯田と安倍】
525鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/07 07:45 ID:2nj0JQ2i

ところでこれを読んでいる方の中に8月24日の能登野外コンに
参戦するのって、いるか?
いや、深い意味はないがネ。

さしみは暑さで腐りそうです。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html
526川o・‐・) :02/08/08 01:01 ID:ouVyOYh+
ライブ、行った事ない・・・
やっぱり、面白いのかな?
生の娘。は見たいけど、
交通費とかを考えたら、なかなか決心ができません。
都会の人はいいなぁ。
527鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/08 20:37 ID:AnGrAg/z

【さしみ通信】もう何号か忘れた。

唐突に【T・E・N】のサブタイトルを考えなくてはイケナイと
感じたのは、小説総合スレのある発言を見たときである。

「夏休みの読書感想文に、モーヲタの執念のこもった小説を
 題材にしたいと思うのですが、なんかオススメありませんか。
 タイトルを見ただけで内容が分かるのがイイですね」
(若干脚色を加えた概要)

そうだ。思えば【T・E・N】はなんて不親切なタイトルなんだ。
大体スレタイトルからして「ゴマキの新曲〜」って関係ないし、
そもそも新曲つっても「手を握」のことである。ゴマキってゆーな。

まあ50話あまりもせっせと読んで下さった常連の方々なら、
ボチボチこの【T・E・N】の意味するところが、
おぼろげながら感づいていらっしゃることと思いますが、
新規のお客さんは「なんじゃこりゃ。タイトル糞。意味不明」で
終わってしまうではないか。ただでさえ他の小説は

「ソニンたんと裸エプロンでの同棲生活小説キボン」とか

「石川のウンコが食物連鎖でまた石川の口に戻ってくる様を
 壮大なスケールで描く自然派サイエンス小説」とか

「ユウキを無理矢理去勢させて、そのチンコを移植した吉澤が
 メンバーを次々と襲いまくるエロ小説かきます。」

とかスレッド名を読むだけで一目瞭然ではないか。
これじゃあ不利だ。
ERROR:スレッドタイトルが長すぎます。。。

ということで、せっかくだからサブタイトルを考えてみようと
思ったわけですよ。(ここでいったんコマーシャル)
528鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/08 20:38 ID:AnGrAg/z

<CM>

更新しない割には1日100カウント近く伸びている謎のホームページ。

【T・E・N】公式HP
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html

謎だ。
529鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/08 20:40 ID:AnGrAg/z

(コマーシャル明け)
ということで、せっかくだからサブタイトルを考えてみようと
思ったわけですよ。

【T・E・N】 〜つんく♂邸殺人事件〜

あまりにもベタだ。っていうか、このタイトルを読んで
ミステリとかサスペンスとかひとくくりにされるのがイヤだ。
この小説は、ホラーとか友情モノとか思想とか論とか
未来系シミュレーションとかパニックものとかエロとかウンコとか
パロディとかサドとかマゾとかグロとか風刺とか、あとウンコとか
いろんなテーマを包容しているわけですよ。
ま、構想だけ壮大で内容はどうかと思うような、テキトーさなんですが。
じゃあそれを踏まえた上で、少し手を加えてみよう。

【T・E・N】 〜つんく♂邸友情パニック殺人ウンコ事件〜

よくわからない。
っていうか真面目にやりますごめんなさいすいませんもうしません。
この小説は伝説の「保田圭2011」へのリスペクト作品だと
最初に言ったような気がする。
あれは執筆時点から数えて10年後の世界でしたが、この物語は
モーニング娘。が結成されてから10年後の物語だ。あれ? 11年?
まあいいや。
ということでこういうのはどうだろう。

【T・E・N】 〜モーニング娘。2008〜

そのまんまですな。まあ実際には回想シーンも多いんですけど。
しかも時間軸バラバラ。
シナリオが混乱しないように、年表とタイムテーブルをメモしつつ
小説を書いていますが、書いている(しかもオチを知っている)俺ですら
ややこしいと思っているぐらいですから、読者様は果たしてどうなんだろう。
とことん難解になるのも、また一興ですが。
作者のオナニ〜小説ですからね。

【T・E・N】 〜さしみオナニー小説〜

引き続きサブタイトルをどんどん募集します。
宛先はテレビ東京「衝撃ッ!乙女のサンバカーニバル」係まで。
御中はいりません。
あとこんなことに小説1話分のエネルギーを使うな俺。
530:02/08/08 20:49 ID:M5M1bDkC
【T・E・N】 〜鮪乃さしみ面白い〜

狩住人しかわからないかも。(もしかしたら他板の住人でもわかる?)


スレ汚しスマソ。
531名無し募集中。。。:02/08/09 08:55 ID:mZlAAzy3
HPのカウンターが伸びてるのはこの作品が最近いろいろ
なところで紹介されてるからだと思いますよ(初期から読ん
でる者としてはうれしい)。
ついでにあるところではここの作者(さしみさんのこと)は
レスくれくれ君だとも書いてあった(w
532「鮪乃さしみ面白い」:02/08/09 09:39 ID:5LFZVzrk
>>530
「鮪乃さしみ面白い」
533「鮪乃さしみ面白い」:02/08/09 09:40 ID:5LFZVzrk
あやや、あげちゃった。すみません・・・
ついでのおまけに

「鮪乃さしみ面白い」
534名無し募集中。。。:02/08/09 10:31 ID:zisxRvjO
>「石川のウンコが食物連鎖でまた石川の口に戻ってくる様を
>壮大なスケールで描く自然派サイエンス小説」とか

この小説書いて下さい
535名無し募集中。。。:02/08/09 10:34 ID:NWWbo8jm
>>534
コレで感想文提出する厨房(消防)がいたら神。
536名無し募集中。。。:02/08/09 13:47 ID:52q4wn19
>>532-535
スレ汚すなグォケ

この小説面白い!
作者さん、がんばってください。

・・・漏れもスレ汚し。正直スマソ
537鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/09 21:28 ID:Wovg+OUm

より子。ブレイクしてほしいよなぁ。
歌はよく聴いたことないけど。

>>531
そうなんだ。俺はレスくれくれなんだよ。
レスくれよこのやろう。(さり気なく暴言)
ま、反響があるのは単純に嬉しいですよ。
でも、ただスレをいえいえ娘。(辻加護?)ってわけじゃあないんです。

レスの内容を登場人物に言わせてみたり(第39話の吉澤)、
後藤の新曲のネーミングもレスからですし、
時事ネタを取り入れたりもしますし(さすがに今回の件は凹んだが)、
微妙に小説世界と現実世界(のレス)を絡ませることができたときにゃ
けっこう作者的にも快感なわけなんですよ。

中には、小説スレ汚しだウゼェ!と思われる方もいらっしゃるでしょうし、
そんな小説の手法は邪道じゃないのかと意見する方もいるかもしれませんが。
そんな方は【T・E・N】公式HPの方を読んでください。
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/index.html

とにもかくにも、今後もこんなスタンスで続けていきますんで
よろしくおねがいします。どうせこのスレッドで完結しない(と断言)ので、
遠慮無くレスってください。
あと、この小説がどんなトコロでどんな批評されているか気になるね(w
538しんGO!:02/08/10 21:23 ID:Nl8zsO4n
はじめてよんだんですけど、
かなりおもしろいっすね!これからもがんばってください。
539aa:02/08/10 21:32 ID:BI53Ep2n
540名無し募集中。。。:02/08/11 00:20 ID:XXF/5fbS
>>538
お前がageるから、539みたいな馬鹿が来るだろうが!
541鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/11 23:02 ID:/ots7zWb

【T・E・N】 第54話 飯田と安倍

 螺旋階段を勢いよく駆け降りていた吉澤が、急に足を止めて最後の1段に立
ち尽くす。

「なにやってんのよ、よっすぃー!!」

 あとからゆっくり付いてきた安倍が、その先に待ちかまえている飯田の姿を
確認し「なるほど」と思う。
 スラッと長い足を片足だけ半歩踏みだし、斜めに構えている。
 口元は微かに弛んでいる。飯田独特の、ギョロっとした目で見つめる。
 5年以上も前の・・・アイドルだった頃からそうだったが、たぶん怒ってい
るか笑っているか、どちらだと言われれば笑っているのだろう。しかしニュー
トラルな顔がそもそも不機嫌そうな面構えなのだから、微笑をたたえると中途
半端に恐い顔になる。

「い・・・いーださん、どうも」

 おそるおそる発した吉澤のその言葉を受けて、飯田は腕を大きく動かして何
かを伝えてきた。

(なんで、俺手話分からないのに)

 吉澤は助けを求めに後ろを振り返ると、安倍が手話でなにか返答している。
実は飯田は吉澤ではなく、その後ろ階段の3〜4段上で立ち止まっている安倍
にメッセージを送っていたのだ。
 吉澤は自分の立っている位置が会話(正確には手会話?)の邪魔になるので
は、と慌てて階段を降りてエントランスホールで彼女らの腕と指先を使っての
伝達を、わけもわからないままただじっと見つめていた。
542鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/11 23:03 ID:/ots7zWb

 やがてこの屋敷で一番大きい玄関扉に向かって二人並んで歩き出したので、
吉澤も後に付いていった。あいかわらず一言、二言会話をくり返している安倍
と飯田。
 玄関の扉を抜けて、外の清々しい風が頬をかすめる。やや薄暗くなりかけた
空を三人揃って見上げる。
 石階段とその両側に緩めのスロープ。多分加護はこの坂があるために車椅子
でも自由に外に出入りできるのだろう。両側に青銅製の手すりがあり、そこに
よしかかりながら対面になる形で安倍と飯田が手話を繰りかえしている。

「じゃ、いこうか」

 玄関先に並べてある4台の車を意味もなく眺めている吉澤の方を振り向き、
唐突に安倍はそう言い放った。

 吉澤が二人が交わしていた話の内容が分からないのでどういった流れで安倍
がそうゆう結論に達したのか分からない。
 飯田のほうに目をやると、玄関から正門に向かっての(それなりの距離には
なる)道なりをテクテク歩き始めていた。

「すごいっすね、安倍さん。いつの間に手話なんて憶えたんですか」

「あ〜よっすぃー知らなかったっけ? “ピンチランナー”」

「あっ」

 そう言われて、吉澤はようやく思い出した。その映画の中で、安倍は聴覚障
害を持つ母親の娘という役柄を演じていた。確かにそこで手話を使ってはいた
ものの・・・。
543鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/11 23:04 ID:/ots7zWb

「でも、あれはそうゆう役だったんじゃあないですか?」

「ううん。だけどそれで手話に興味持ってね、ちょっとぐらいなら分かるんだ」

「・・・そーなんだ・・・で、飯田さんとはどんな会話を?」

「ん〜ん、別に・・・元気だった?とか・・・外の空気を吸いたくなったとか
 ・・・そんな、たあーいの無いことだけど」

「飯田さんはどこへ・・・」

「散歩だって」

 安倍と吉澤の二人はそんな会話をしながら、屋敷の東側を歩く。
 振り返ると、すでに飯田の姿はもうかなり小さくなっている。
 続いて屋敷の外観に目を移す。ここからは1階の101号室(加護と石川)、
2階の203号室(さっきまで自分たちがいた矢口の部屋)、それに201号
室(飯田)がよく見える。いずれも窓は開け放たれていて、上品なレースの白
いカーテンが揺れている。

「・・・何だと思います? やぐっさんの部屋の出来事」

 安倍は後ろに手を回して、うつむき気味に歩く。
 すでに先月、27歳の誕生日を迎えたはずの安倍だが、23歳の吉澤と並ん
で歩いていても兄と妹のように見えるかも知れない。吉澤は男という以前に、
兄という存在に憧れていた。悪くないなこういった場面も、と悦に入る。
544鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/11 23:06 ID:DKaXdqlt

「・・・」

「安倍さん?」

「・・・」

「どーしたんですかっっ!」

「ん? あああ、なんだっけ」

 ちょうど屋敷の両脇の2階にそれぞれある(ここでは東棟)バルコニーの下
を通りかかったときだった。
 安倍は、吉澤の質問に対してはうわのそらで、ただ屋敷を―――飯田の部屋
を見上げていた。

「も〜、しっかりして下さいよっ」

「へへっ」

 照れ臭そうに笑みを浮かべる安倍。
 やはりどこか、ぎこちない微笑みではあったが、それを見たとたんに吉澤は
なぜ安倍を責めていたのか、すっかり忘れてしまった。


【54-飯田と安倍】END
                        NEXT 【55-矢口と石川】
545鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/11 23:08 ID:DKaXdqlt

この第54話を書くために、わざわざレンタルで「ピンチランナー」借りて
きますた。いま観ている途中です。

ですから更新が遅くなってしまったんです、と言い訳してみるマイクテスト。

がんがります。
546名無し募集中。。。:02/08/12 23:25 ID:Jo1rgew3
>作者

乙です
がんがって下さい!
547 :02/08/13 01:51 ID:WnDRAgvK
連載開始からもうすぐ3ヶ月経とうとしていますね。
中々話が進まないところがやきもきしますがご自分のペースで頑張って下さい。
物語が大きく動き出すのが非常に楽しみです。
548鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/13 07:43 ID:z5VRrq5j
話進まないねぇ(w
っていうか登場人物が勝手に一人歩きふたり歩き。いやん。
というか、最初の更新速度が早すぎたってのもある。

ま、今の時期ミンナ帰省していて読んでいないかな?

「ピンチランナー」観終えました。
前編恐ろしいまでの棒読みですた。(中澤ねえさんですら)

あれから比べるとメンバー随分成長したねぇ、演技力(石川以外)。
あとマラソン部分は早送りしました。モーヲタ、キショ!(矢口)。

と、こんなどうでもいいことでお茶を濁したり。
549「鮪乃さしみ面白い」:02/08/13 12:28 ID:yb/gdfS+
帰省もあるしバカンスもあるけど読んでるよ。
今度はあげないから暑さに負けずがんがってくらさい
550名無し募集中。。。:02/08/13 16:24 ID:DUKSfjQS
こりゃまじで面白い
一気に読んだらTENの正体がわかったような気になったが
俺の予想が裏切られているといいなぁ

俺も保田圭2011読んでたんだけど...
期待感ではもうこの作品の方が上だと思う
あとは完結することをツヨク希望
551名無し募集中。。。:02/08/14 01:52 ID:35lKaybk
>>184
倒れたみたいだし

気持ちが張ってたり目標があったりするときはいいけど
見失うとどっと疲れがくるものだよ
552名無し募集中。。。:02/08/14 09:20 ID:BCWf3n+N
>>551

誤爆だろうけど、やけにリンク先とシンクロしていたので
笑うに笑えない。

矢口…
553名無し募集中。。。:02/08/14 13:59 ID:aUaAJIIM
>>552
すいません、まさしく誤爆でした

しかも矢口の話題へのレスでした
554名無し募集中。。。:02/08/15 22:53 ID:+oFBr08G
HOZEN
555鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/16 04:49 ID:8onl8xl4

【T・E・N】 第55話 矢口と石川

 どことなく居間にいる紺野と加護は、元気がなさそうに矢口の目には映った。
 彼女らに、わざとおどけて「チャーミーは?」と訊き指さしたドアを開ける
とそこは厨房で、予想通りというか高橋といっしょに慌ただしく動き回ってい
る石川がいた。

「やっぱり夕食ちょっと遅れそうかな?」

「安倍さんとかぁ、お腹空いてないといいんやけど・・・」

「余っているパイぐらい食べればいいのにね」

 そう言いながらピンクのチェック柄のオーブンミトン(なべつかみ)で電子
レンジの中から何かを取り出そうとしている石川に目が合った。

「あっ矢口さん!」

 ドアの前に照れ臭そうにチョコンと「置かれている」ような矢口の姿を発見
した石川は、高橋に二言三言料理についての助言をして、なべつかみを手渡す。

「石川、ちょっと・・・」
556鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/16 04:50 ID:8onl8xl4

 矢口は石川と二人きりで話をしたかった。あたりを見渡すと部屋のすぐ左手
にドアがあるのを発見し、そこへと歩み出す。
 手招きをしながら隣りの部屋へと誘うと、石川も駆け寄ってくる。矢口が扉
を開けるとそこは食堂だった。
 大理石の床。細長いテーブル。食器棚には使うのが惜しいくらいのきらびや
かな皿やグラスが並ぶ。部屋の奧には2階への階段や、暖炉が確認できる。
 テーブルの上には燭台や白いクロス、ナイフやフォークがぎっしり詰まって
いるるカゴなどがあり、およそ1時間後にはここで元モーニング娘。の面々が
一堂に会して、石川たちの料理に舌鼓を打つのだろう。

(でもその前に、やらなきゃいけないことがある)

 広々とした食堂の中で対峙する、顔面蒼白の矢口とコスプレのようなメイド
ファッションに身を包んだ石川。後ろ手に音もなく扉を閉めた。
 それを見て、スタイルがいいのでハマっているもののやはりここを「異空間」
と感じさせた大半の要因は、この石川(そして吉澤)のコスチュームにあるの
ではないか、と矢口は思う。その思索が再び堂々巡りを繰り返し、やがて先ほ
どの自分の部屋での出来事が蘇ってきて(長時間の運転による、体力的な消耗
もあるが)ふらっとよろめいた。おぼつかない足どりで、椅子にもたれかかる
ように座り、テーブルに肘をつきながらため息をつく。そして再び、立ち尽く
しているコスプレ少女を観察する。
 あの厨房での様子を見るまでもなく、さっさと用事を済ませ再び料理の続き
に取り掛かりたい、といった雰囲気を全身から滲ませている石川。
 ドアから3・4歩のところで立ち止まり、やや距離を置いて矢口が話し出す
のを素の表情で待っている。
557鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/16 04:51 ID:8onl8xl4

「あの・・・私の部屋あるじゃん? あそこの・・・」

「ああ、ゴキブリ出たんでしたっけ?」

 矢口は最初、石川が何を言っているのか理解できなかったが、それが安倍の
言っていた、叫び声に対するとっさの「ごまかし」のことだと気が付くのに、
そう時間はかからなかった。

「う、うん。で替わってほしいんだけど、空き部屋があったら」

「うーん・・・確かに西棟に空きがひとつあるけど・・・あんまり、掃除して
 いないし・・・」

 それに、ソコは保田さんの部屋にするつもりなんだけどな、と言いかけたが
矢口がその言葉を遮る。

「いや、多少汚くてもいいからさ、そこにしてくれない?
 ゴキブリいる部屋で寝泊まりするのだけはゴメンなんだよっ」

 矢口がそのテの虫が苦手なことは、モーニング娘。だったころからさんざん
ネタにしてきたので石川も知らないはずはないが、わざとらしいくらい大袈裟
にそう主張する。

「でも、その部屋にもゴキブリいるかもしれないよ? 汚いし・・・」

 そう言われて、確かにゴキブリのいる部屋を嫌って汚い部屋に行こうとする
行為にどこか矛盾も感じたが、今はあの「Alive」の部屋を離れることが
矢口にとって何よりも優先すべき事項だった。
 あんな不気味な部屋で一晩過ごすなんて気が狂ってしまいそうだ、と。
558鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/16 04:52 ID:8onl8xl4

「別にいいよ! ちょっとぐらいなら自分で掃除す・・・」

 ウソをついていることを悟られぬよう、無意識のうちに目線を合わせないで
石川との会話を続けた矢口。そのうつむき気味の彼女の目に、唐突に飛び込ん
できた、食堂の床を素早く這い回る小さな影。
 喉元まで叫び声がこみ上げてきた。
 今まさに話題にしていた、茶色くて平らな害虫がそこにいたからだ。

「ひっ・・・」

 矢口はさきほどのトイレでの赤い液体の出来事に比べれば、それほど驚くべ
きことではないにしろ本能的に身をひいて椅子から逃げ出そうとした。しかし
次の瞬間、ゴキブリの出現よりもある意味驚愕の場面を目の当たりにする。

「えいっ!」

 石川が左足を大股開きにするように伸ばして、前を通りかかろうとしたその
害虫を靴で覆い隠す。
 ローファーの黒革にマスコットのリボンがついている可愛らしいデザインの
靴と、その行動のギャップに唖然とする矢口。

「えっ・・・? いしかわ・・・」
559鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/16 05:04 ID:8onl8xl4

 口をぽかん、と開けている矢口を特に気にする様子もなく石川は―――その
ゴキブリを踏んだ―――左足を軸にツイストを踊り始めた。

(!!)

「ふふっ。うふふふふっっ」

  ぐちゅっ。
  にちゃっ。

 石川の軽快なダンスと、虫が潰れる薄気味悪い音。そして無機質な(少なく
とも矢口の耳にはそう聞こえた)笑い声。

(どうしちゃったの、石川・・・?)

 突然の出来事だった。
 なぜ石川が壊れたのか。
 この石川が本当の石川なのか。
 やはり見かけは普通でも、あの事件でマトモな精神を繋ぎ止めているネジが
何本か外れてしまっているのだろうか。
 この屋敷に来てから、矢口は結論の出ない推測ばかりしている。

(とにかく何かヤバい。この空気はヤバい)

 矢口は確信した。
 この屋敷に漂うイビツな空間。その源はこの娘にあるのだ、と。
 石川はダンスを終えてフーッ、と一息ついて矢口に向き直って何かを喋ろう
とした。・・・が。
560鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/16 05:07 ID:8onl8xl4

「あ、あ、あの」

 矢口の震えた声に石川は、なぁに、と迷子になった子供に話しかけるような
笑顔でその続きを待った。

「あのぉ、そっそれから、できればバケツみたいなのを、欲しいんだけどっ」

「ん〜何に使うの?」

「いや、ちょっと・・・できれば2つ」

 石川は顎に人差し指と親指をあてて考え込んでいたが、やがてエプロンのポ
ケットからカギ束をジャラジャラ取り出した。

「これ・・・でこの家のカギ全部開くから・・・多分バケツは裏庭の物置小屋
 にまとめてあるかな。ハイ」

 そう言ってぽーん、とぶっきらぼうに矢口に向かってゆるやかな放物線を描
くようにカギ束を投げた。
 矢口は眉間に皺を寄せながら、恐る恐るそれをキャッチする。視線を石川の
左足に向けるが、無惨に踏み、ひねり潰された死骸は未だに靴の下にあるよう
で、見ることができない。見たくもなかったが。むしろ見えなくて幸いだった。

「・・・・・」

 首をかしげている石川には一瞥もくれずに、矢口は無言のまま礼も言わずに
居間へと逃げ出すように去っていった。


【55-矢口と石川】END
                        NEXT 【56-加護と紺野】
561鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/16 08:08 ID:8onl8xl4

レスさせていただきます。

>>547
そっか・・・。もう3ヶ月ですなぁ。展開遅いよなぁ。
(連載当初の目標)この物語のキーポイントである解散コンサの8月8日に終わるようにしたい。
(その後の目標)この物語の舞台である9月23日に終わるようにしたい。
(現在の目標)なんとか今年中に終わりたい。

>>549
がんばります。猛暑の中、クーラーもない部屋で執筆するのは
一人バツゲームのようで、目がうつろになりつつ「何やってんだろオレ」なんて
思ってみたりしますが皆さんどんなお盆休みをお過ごしでしょうか。コワレ。

>>550
有り難いお言葉。完結目指してかんがる。
TEN&KAOの正体に関してはメールで色々予想を書いて下さる方がいて
ウレシイ。詳しいことは書けませんが、現時点で100%言い当てている方はおりませんよ。
当たり前か。物語まだ動いていませんし。

>>551-553
ワロタ。
562名無し募集中。。。 :02/08/16 15:12 ID:SxsLJPRm
チャ−ミー壊れた・・・・。ある意味イイ(・◇・)
逃げるものを見ると捕まえずにいられなくなったのか?w
563保田募集中。。。:02/08/17 21:47 ID:nOR5BZwI
最近、物語が進んでない気がする
でも面白いんだけどね保田
564鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:18 ID:/LvlSQJL

【T・E・N】 第56話 加護と紺野

 結局、後藤の「赤い日記帳」について、突っ込んだ話はしなかった。
 石川と高橋の二人は足早に調理場へと向かい、夕食の準備に再びとりかかっ
た。

 紺野の本心としては、ノートの最後のほうに書かれてあった「きのうの夜起
こったあんなこと」についてもっと追求してみたい気持ちが少なからずあった。
 しかしここにいるメンバーで、その夜のことを知っている者は自分も含め誰
一人いないことに気がつき、紺野自身知っている情報以上のことは得られそう
もないのであえて黙っていた。となると「あんなこと」とは、やはり当時小川
や新垣が遭遇したという「幽霊騒動」だという結論に達する。
 紺野は超常現象といった類の話をあまり信じるタチではないが、この屋敷の
雰囲気を知っているだけに小川の言っていた事も完全にウソとは言い切れない。
信じがたいが、あの二人以外にも後藤や辻、それにつんく♂もあの夜の出来事
について、一切詳しく触れようとしなかった点を考えると、何らかの気まずく
なるような事件がかつてこの屋敷で起こったことは間違いない。
 話題に出すことにためらいがあったのは、今からその幽霊が出没するかもし
れない屋敷に宿泊するのは、自分たちにほかならないからだ。
565鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:18 ID:/LvlSQJL

 いつのまにか会話の中心はこの5年間どう過ごしていたか、ということになっ
ていた。紺野は普通に高校に行き、普通に大学に受かって、普通にキャンパス
生活を送っているということを普通に説明した。飯田や加護を前にして、普通
の話をするのは何か申し訳ないような気がした。

「加護ちゃんとは・・・途中から連絡とれなくなったんだよね。私、メンバー
 に年賀状だけはマメに出していたんだけど」

 逆に言えば紺野はこの5年間、そういったことでしかメンバーとの繋がりを
持っていなかったことになる。

「うん・・・退院後は結構、引っ越し何回かしましたからねぇ」

 話しにくいことをあえて話さなければならないとき、丁寧語になってしまう
加護の癖は変わっていないようだ。

「関西のほう?」

「ううん。関東のほうを転々と」

 加護の実家である奈良では、歳の離れた父違いの弟、妹がいる。一番子育て
に手のかかる時期に、足が不自由になった自分が一緒に暮らすのは正直、心苦
しかった。周囲の人間は、紋切り型の慰めや励ましの声をかけてくれた。また
親子水入らずで暮らせばいい、などと助言してくれたが、すでに加護にとって
3年以上芸能生活で両親と離ればなれに暮らしていたため、実家には自分の居
場所はないような気がした。
 結局、加護は自らの意思で関東の医療施設で残りの人生を送ることを選択し
た。途中何度もパパラッチ等のターゲットになり、他の入所患者に迷惑がかか
るといっては、また移転するということがくり返された。
566鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:20 ID:/LvlSQJL

 加護は見た目以上に、ずっと人に気を遣うし遠慮がちな性格だと紺野はモー
ニング娘。に加入してから気がついた。テレビを通しては見えてこなかったが
―――その気遣いは目上の人、目下の人を問わなかった。辻とは、そういった
面では正反対だ。だからこそ二人は絶妙なコンビであったのだろう。暴走ぎみ
で無礼千万の辻を引き連れて、先輩達に悪戯をしている時の加護は本当に楽し
そうだった。
 5期メンバーが加入してからだろうか。加護はテレビ慣れしない後輩の面倒
をよくみた。加護主導でテレビでネタを披露することも多かった。丁度、娘。
に加入したのと同時期に弟が生まれたので、姉としての自覚が突然芽生えたん
だろうね、と吉澤や保田が言っていたことがあった。だが、加護本人も言って
いたようにもとから「尽くす」性格なのだろう。
 それだけに武道館の事件によってこのような身体になったことが、逆説的に
その後の加護を孤高に生きることを決意させてしまったように思う。だが過剰
なまでの加護のその気高さ(という表現以外思いつかない)もまた、紺野の理
解できない部分ではあった。

「でも梨華ちゃんとは、ずっと連絡をとりあっていたんだ」

 いろいろ加護の身の上話を聞いているうちに紺野もだんだん暗く沈んでいっ
たのだが、その一言によって救われた気がした。
 飯田は加護たちの会話を読みとろうとするわけでもなく、2階に立て掛けて
ある自分の描いた絵をただぼんやりと眺めていた。やがて無言で立ち上がり、
紺野に(散歩してくる)と手話で伝えてきた。
 いつの間にか―――ソファに座る紺野、車椅子でテーブルを挟んで向き合う
加護―――といった具合に矢口と安倍がこの屋敷に来る前の状態に戻った。
567鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:21 ID:/LvlSQJL

「へえ〜仲よさそうだもんね、加護ちゃんと石川さん」

「うんっ! ときどき梨華ちゃん家行って手料理食べさせてもらってたんだ。
 スゴク上手くなったんだから!」

「ほかに、誰か連絡とりあってた人とかいないの?」

「・・・・」

 一瞬間を置いてから加護は車椅子から身を乗り出し、紺野の耳元でささやい
た。

「・・・ごっちん」

 そこで突然、スタスタと何人かの足音が居間に響いた。
 2階の渡り廊下で、矢口・安倍を従えて吉澤が歩いている。
 紺野と目が合った。なんとなく上機嫌の吉澤。それとは対称的に、矢口は瞳
に生気が感じられない。

「ねえ、読んだぁー?」

 その声に視線が一斉に吉澤に集中するが、耳が不自由な飯田だけが一瞬反応
が遅れる。

「う、ん・・・」
568鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:21 ID:/LvlSQJL

 加護は紺野に話しかけた、そのままのささやき声で返答する。満足そうに、
吉澤はうなずく。
 矢口が普通に居間の階段で降りてきたのに対し、吉澤と安倍はエントランス
ホールへと向かう螺旋階段の方へと何かじゃれ合いながら歩いていった。飯田
もそれを見ながら追いかけるようにエントランスホールへと消えていった。
 矢口は無理に明るく振る舞おうといった意思が感じられるものの、相変わら
ず灰色のどんよりとしたオーラを放っている。

「チャーミーは?」

 それが石川を指しているんだ、ということを思い出した紺野は厨房へのドア
を指さす。「チャーミー石川」は現役だった頃からの石川のハマリ役(キャラ)
だが、現在の彼女でも無駄にテンションが高いところなど通じる部分が多いか
もしれない。
 紺野は、もう一回矢口にお茶でもしませんかと声を掛けたかったが、ついさっ
き矢口が加護に対してあからさまに嫌悪感をあらわにしたことを思い出して、
躊躇してしまう。加護も矢口が指し示されたドアに入っていくのを、声をかけ
ることもなく、ただじっと見守るだけだった。
 しばらく沈黙に包まれた。
569鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:23 ID:/LvlSQJL

 紺野は再び加護と向き合い、勇気を振り絞って後藤の話を訊くことにした。

「後藤さんと・・・連絡とりあっていたんだ」

 5年前、あの武道館での事件が起こった直後に、後藤と加護のお見舞いに行っ
たときのことを紺野は思い出す。後藤が自分の顔を見ても名前すら思い出して
くれないことにショックを受けたが、それと同時に二人の仲の良さを見せつけ
られて、ほのぼのとした気分になったのも記憶している。

「ごっちん、ずっとアメリカにいたでしょ? 電子メールでね、いろいろと」

 そう言ってティーセットや皿、紺野の持ってきたお土産やお菓子が散乱する
テーブルの下から何か手を伸ばして取り出した。それはノートブックパソコン
だったが、かなり古い型のものだ。
 もっとも新陳代謝の激しいパソコン業界においては、たった3年前の機種で
も時代遅れと言われる。紺野も芸能界を辞めてからパソコンをよく使うように
なったので、もうキャリアは5年ぐらいになるが、現在使っているマシンが4
台目だ。
 加護は膝の上にパソコンを乗せて、それを起動させた。
570鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:23 ID:/LvlSQJL

「私ね、後藤さんとメールするためにこれ買ったんだ」

 その言葉を信じるならば、もう5年以上という年季の入ったパソコンという
ことになる。確かにネットをする分には5年前の機種のスペックでも出来ない
こともないが、と紺野は思った。

「今でも、たからものだよ・・・ごっちんから貰ったメールは」

「・・・見ていい?」

 パソコンはまだ起動中だが、紺野のいる位置からは画面が見えない。

「んんん〜」

 その表情に真剣に迷っているという雰囲気は感じられない。

「いーよ」

 バタン。

 突然食堂から扉を閉めきる音が聞こえたかと思うと、そこには先ほど厨房へ
向かったときよりさらに思い詰めた表情で立ち尽くしている矢口がいた。


【56-加護と紺野】END
                          NEXT 【57-安倍】
571鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/17 23:32 ID:/LvlSQJL
24時間テレビの真っただなか、皆様いかがお過ごしでしょうか。
鯖が飛んだりとか、何かと色々ある様子。

しかし>>563さんのご指摘通り進まないねー。
進まないのに無駄に長いねー。

ところでさしみは近日ライブに遠征する模様。詳細は秘密。
【T・E・N】オフ会開催決定。(参加者・オレ一人)
572名無し募集中。。。:02/08/17 23:40 ID:Y0IUSYyC
>>571
一人でオフ会・・・
自分もコンサは逝くよ
573名無し募集中。。。:02/08/17 23:54 ID:QjkXGoF7
いやーん、来てみてよかったん
574鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/18 17:40 ID:51VpFg8c

【T・E・N】 第57話 安倍

 色とりどりの花に囲まれハシャギ回る吉澤を、噴水のそばのベンチに腰掛け
遠目で見守る安倍。
 噴水の中央にそびえ立つ安倍と同じ背丈かそれ以上の巨大な白鳥の像が、水
底から7色のスポットライトを当てられ輝いている。陽が落ち一帯が闇につつ
まれれば、もっと宝石を散りばめたような美しさに映えるのだろう。

 野鳥のさえずりと、噴水の水音。安倍が目を閉じ自然の息吹に耳をすませて
いると、さっきまで騒いでいた吉澤が急に静かになったのに気が付いた。
 ゆっくりまぶたを開け見渡しても吉澤の姿が見えないので、安倍は立ち上が
り庭園の中をテクテク歩いた。ちょうど噴水の反対側にいたため見失っていた
だけのようで、あっさり見つけることができた。
 背筋をぴんと伸ばし白いスーツに身を包んだ彼女(彼?)は、真剣な眼差し
で裏山をじっと見つめている。何があるんだろう、と吉澤の視線の先に目を向
けるが、青々とした雑木林が山肌を埋め尽くしているだけで特に変わったとこ
ろはない。
 それでも吉澤は、ただ何もない密林を見つめ何か考え事をしているようだ。

「よっすぃー!!」

「ん?」

「あのね、私屋敷に用事思い出したから、先に戻るね」

「ええ・・・いいですよ、安倍さん。俺はもう少しここにいます」

「うん、じゃあね」
575鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/18 17:40 ID:51VpFg8c

 安倍は軽く手を振って、庭園を後にした。
 そして吉澤の姿が見えるか見えないかぐらいの位置まで来て、もう一度振り
返る。

(完全ではないにしろ、あれほどの怪我からよく復帰したよね、よっすぃー)

 あの現場の惨状を知っている者の一人として、改めて安倍はそう思った。
 吉澤の強さは、色々なものを捨ててでも前に突き進む勇気にあるのだな、と
安倍は考える。

「俺、家族捨てたんだ」

 吉澤はついさっき、安倍にそう吐露した。「男」になった代償に、いろんな
ものを捨ててきたという。淡々とした口調だったが、安倍にしてみれば身に詰
まされる想いだった。安倍も家族を捨てどん底から這いあがってきたという点
においては、吉澤と同じだったからだ。愛する者に気持ちが通じなくなったり、
嫌われたりするのは全身を引き裂かれるくらい辛いこと―――。
 それでも安倍も家族を捨て、女優としての道を選んだ。

(皮肉だよね、家族の大切さをテーマにした番組とかにも出演していたのに)

576鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/18 17:42 ID:51VpFg8c

 武道館の事件が起こって1週間後。
 安倍は右足を骨折し、軽いショック症状に陥っていた。
 言おうかどうか迷ったが、病院に見舞いに来てくれた家族に事件の時のこと
を話した。正直に話した。自分の心の中で眠っていた、うす汚れた部分があの
事件によってあわらになったことも含め全て。
 そして怪我が完治したら女優として芸能活動を続けていきたいということも。

  受け入れてくると思っていた。
  でも現実は違っていた。

 彼らは安倍なつみを、畏れ忌み嫌い、そして激しく非難した。
 唯一妹だけは多少同情を含みながらも、安倍の決断にエールを贈ってくれた。
 しかし父親は違った。
 その場で「勘当」を言い渡された。

 安倍と小川は同じ病院に入院していた。無理を言って小川の母親を自分の部
屋にまで呼んでもらった。
 そして同じ日、同じ病室で、彼女にも安倍の家族に話したのと同じことを
「告白」した。
577鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/18 17:42 ID:51VpFg8c

「私さえいなければあなたの娘さんは、もしかしたら―――こんなところで寝
 たきりになっていなかったかもしれなせん」

 病室でまだ現実を受け入れられない様子の彼女は、その安倍の言葉に対して
ひとことだけ告げた。

「あなたは、自分の道を進んでください。私の娘もそれを一番望んでいます」

「でもお母さん」

 その瞬間、小川の母はベッドに突っ伏せ泣き崩れた。 
 それ以上、何も声をかけることが出来なかった。

  あれから5年。
  私は夜の明けない街を、ずっと一人で歩き続けてきた気がする。

「それも今日で終わる」

 安倍は固い決意を自分に言い聞かせるかのように、あえて声に出してみた。


【57-安倍】END
                       NEXT 【58-紺野と矢口】
578鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/18 17:50 ID:51VpFg8c

【あとから読む方へ】

この第57話書いたときは、24時間テレビをやっていました。
テーマは「家族で笑っていますか?」
そう思って読むと、ホラ、なんてゆーかアレじゃないですか。

なお、まだ24時間テレビが終わるまで3時間ぐらいありますが、
仮にこれから武道館が爆破しても、さしみは一切関係ありません。
いやホントに。

【おしらせ】

鮪乃さしみ、能登コン参戦予定。
T・E・Nオフ会開催しません。
参加したくない方は、メールを。

[email protected]
579名無しさん:02/08/19 19:43 ID:vhS+6iEH
後藤はまだ謎のまま…
580Leviathan:02/08/21 07:13 ID:fzPCo3Cw
キーポイントは、今だ謎の後藤と本当は生きてるらしい辻ですか?
581鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/21 07:14 ID:SrxaQrqT

あースマン。更新してねー。

ところで能登コンは楽しみである。実は娘。のライヴは初めてなのです。
なんであんな奥地に?と思われるかもしれないが、石川県は俺にとって
縁のある土地なんである。友達も多いしな。
当日はステージがいつ爆発するか楽しみに・・・いやいやそうではなくて。
ライブを観たことがないので、最初の頃のライブの描写ははっきりいって
テキトーである。ビデヲで観る範囲でなんとか書いたって感じだ。
やはり現場主義ではなくては。

ということで逝ってきます。
T・E・Nオフ会は未だに参加者1名だけである。(俺のみ)
ちょっと虚しい。
582鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/21 07:33 ID:SrxaQrqT

>>579-580
キーポイントは・・・いっぱいいるね(w
答えにくい

あともう少ししたら、第1部完なのだが、次スレはここにしようかな

http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50

583名無し:02/08/21 08:40 ID:upZjlnL1
何故そこまでルーズにこだわる(w
584名無し:02/08/22 05:49 ID:TeMtl3/l
安倍と小川の設定を完全に忘れてた。
かなりの長丁場になりそうだけど絶対完結まで頑張って下さい。
585鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/22 07:26 ID:pr7hw+PJ

>>583
実は物語の真相にルーズソックスが大きなカギを・・・(ウソ度99%)

>>584
だね。すまん。このところ更新なくて。
仕事が切羽つまっており、シャレにならない。素人にはオススメできない。
週末にはコンサ遠征もあるので、純粋に小説を待っている方には申し訳ない。
気長におまちください。

おさらいの意味で設定まとめておこうかねぇ。そのうち。
586名無し募集中。。。:02/08/23 11:29 ID:z+PiByaC
このままいくと新垣は完全に忘れられた存在に・・・
587名無し:02/08/23 14:30 ID:PtcXeHGc
たまたま見つけたんですけど、思わず全部読んでしまいました。
応援&期待してるんで、がんばってください!
588名無し募集中。。。:02/08/23 21:47 ID:QBelco2A
というかな。
会社の都合だか知んないけどさ、そうなることが分かってんなら最初から1日1回更新宣言なんてするな。
最初は1日更新しないだけで「スマソ」とか言ってたのに、
いきなりこう何日も更新しないと萎える。
589名無し募集中。。。 :02/08/23 22:02 ID:twlbzHAl
小説スレを片っ端から見て来いw
或いは自分で一日5行で良いから一発ネタを書いて毎日更新してみろ

小説は前後のつながりまで考えなきゃならん大変な作業だ
590名無し募集中。。。:02/08/23 22:59 ID:reaEtsDA

>>588
だねー。作者ヘボいねー。

も う や め れ 。
591鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/23 23:01 ID:reaEtsDA

と、自作自演している場合ではない。
さしみは現在、日本海側の首都・金沢に来ております。
明日は能登まで逝って、雨に打たれながら、
娘。が滑って転んでスカートの中身がハァハア。
(妄想)

能登コンはかなりチケが余っていたそうです。
なのに、なんでこんな糞席なのかな●●●君(検閲)。

また、さしみオフ会もかなりの人数になりそうであり、
思いっきりネタバレしてガックリさせようと思うので
覚悟してください。

更新しないのは、夏バテだ。

毎日3行ぐらいづつなら更新できる(w
592名無し募集中。。。:02/08/23 23:30 ID:/W5qAbd4
ここの作者さんはオトナだから大丈夫と思うけど...
2011の件もあるし俺は完結してくれればいくらでも待つね〜
593名無し募集中。。。:02/08/23 23:51 ID:6R8O3Wy4
>>592
そう思うよ
2011は良かったのにね
とにかく完結してほしいです
594鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:15 ID:/jkwk7ns

【T・E・N】 第58話 紺野と矢口

(なんでだろう・・・?)

 紺野は「Alive」の部屋のベッドに座りながら、頭の中に疑問符をたく
さん浮かべていた。
 バスルームからは、矢口が何か水でバシャバシャしている音が聞こえる。

 順を追って、振り返ってみる。


 加護と紺野、居間で二人話し合っていたときに、青ざめた顔で食堂から戻っ
て来た矢口。

「ちょっと紺野、ついてきてくんない?」

 反論は許さない、といった口調に気圧され紺野は矢口の行きたがっている裏
庭の小屋まで案内することになった。加護に後ろ髪を引かれるような想いで、
居間からエントランスホールを経由して外へ出る。西回りに、西棟と中庭の間
に位置する小さな物置小屋にたどり着くまで、矢口は一言も口をきかなかった。
何か考え事をしているようにも見えるし、怒りを抑えているようでもある。
 紺野は声を掛けづらかった。

 途中、西棟の裏口あたりで安倍とすれ違った。少し驚いている様子だったが、
笑顔で軽く会釈する。それに対しても矢口は特にお喋りすることもなく、軽く
うなずく。

「ど、どうも」

 紺野も、そう声を振り絞るのが精一杯だった。
595鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:15 ID:/jkwk7ns

 物置はプレハブの、入口が広ければ車庫にも使えそうなくらいの空間はある
かといった古い小屋だったが、窓ひとつないため、中の様子はよくわからない。
この屋敷は周囲は青々とした芝生に囲まれているが、芝刈り機などはよく使う
ためなのか、小屋の脇に放置されている。こんな山奥に、屋敷の中ならいざ知
らず庭いじりの道具ばかりと思われる小屋が盗難の被害に襲われるということ
は考えにくく、なぜ鍵がかけられているのか紺野はよく分からなかった。
 矢口が小屋の扉の前で、重そうな束の中から合鍵を探している姿を、背中ご
しに紺野はぼんやりと見つめていた。
 プレハブの扉に目を移すと、ノブのほかにも南京錠がかけられておりやけに
厳重だ。
 2〜3分奮闘した後で、二重のロックを外し中へ入るとホコリとカビの臭気
が充満している。その厳重さから、何か珍しいものでもこの倉庫には置いてあ
るのかという期待があったが、見事それは裏切られた。
 予想通りというか、その場にふさわしいというか、鍬・スコップ・シャベル・
ジョウロ・枝切りハサミ等の庭道具や農薬のビニール袋などが目に付く。薄暗
い中で矢口はその中から、水色のプラスチックのひとまわり大きなバケツ一つ
とアルミ製の普通の大きさバケツ二つを手に取り、ようやく口を開いた。

「じゃ、行こっか」

 矢口は目的の物を持ち出すと、あとのものには全く興味を示すことなく扉を
閉め紺野に大きいほうのバケツを持たせた。

「一体何に使うんですか?」

「秘密」
596鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:17 ID:/jkwk7ns

 居間に戻ると、加護の姿が消えていた。

「あれ? 加護ちゃ・・」

「トイレでも行ったんでしょ。紺野、悪いけど・・・しばらく私の部屋にいて
 くれない?」

 そして現在に至る。
「何を手伝えばいいんでしょうか?」との紺野の問いに矢口はぶっきらぼうに

「別に何もしなくていいから、そこのベッドで座っていて」

 とだけ告げた。
 数分間、湯船に水を注ぐ音が聞こえてきた。
 風呂にでも入るのだろうか・・・でも何故?と紺野は色々あやしい想像をし
たが、そのうち水をぶちまけるような音が聞こえてきた。
 矢口がなんで私を選んで、どうして何も手伝わせずにそこに座っていろと指
示したのか、紺野にはサッパリ分からない。ただひとつ言えることといえば、
矢口は何か隠し事をしているということだけだった。
 そして、その秘密はバスルームにあるのでは、と。

 バシャ、バシャ。

 7〜8秒置きぐらいに水をかける音が10回程くり返されたのち、ようやく
一仕事を終えたような顔で矢口はバスルームから出てきた。
597鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:18 ID:/jkwk7ns

「ど〜したんですかぁ、矢口さん。
 ウンチョスでも詰まってそれを流していたとか・・・」

 軽い冗談のつもりで言ったのだが、矢口は目を見開き、眉間にシワを寄せて
これ以上ない程の憤怒の表情を示した。紺野の声はだんだん小さくなり、途切
れた。

「ふん、よっすぃーにでも聞けば」

 この話題に触れるのはもうやめよう、と紺野は心の中で誓った。

「矢口さん、そういえばこないだテレビに出てましたよね・・・」

「208号室ってどこ?」

 矢口は紺野の雑談をまったく無視する形で用件だけを告げた。
 そこでまた、紺野は頭の中にギッシリ詰まっているクエスチョンマークがひ
とつ増えた。

(なんで、これほどまで心を閉ざすようになったんだろう? 矢口さん・・・)

 納得いかない。それでも答えるしかない。

「私の個室の前に使われていなかった部屋があったんで、たぶんそこだと思い
 ますけど・・・」

 しかし、それは保田の部屋になる予定だった。
598鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:22 ID:/jkwk7ns

「うん、そこにお引っ越ししようと思ってね」

 矢口はベッドの脇に置いて合った、自分の赤い手提げバックに視線を移した。
それを持って今すぐにでも移動するつもりだ。紺野にとっては、矢口の行動に
一貫性が見られない。

「ありがと、紺野」

「え・・・ちょっと待って下さい・・・矢口さん・・・」

 そのバックに手を伸ばした矢口を、慌てて紺野は身体全体を使ってでさえぎ
る。
 沈黙。
 オロオロするだけで、何か言いたいことがあっても言葉にならない紺野。

「変わってないねぇ、あんたも」

 妙な間。

「・・・矢口さんは・・・ちょっと変わりました・・・」

「変わった? そっか・・・私は変わったつもりないんだけどね・・・」

 周りが―――世間が私たちを見る目が変わり過ぎたんだよ、と言いかけたが
矢口は口をつぐむ。

「あの、何が起こったのか、よく分からないんですけど」

 そこでまたタイムラグ。

「ひとりで色々悩むのは、良くないと思います」
599鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:22 ID:/jkwk7ns

 なんでもない紺野の一言だったが、矢口はハッとした。
 ビー玉のような紺野のギョロっとした目。しかし、確かにその瞳の奧には強
い意思表示みたいなものが含まれていた。後から考えてみると、モーニング娘。
だった頃も含めて、紺野が矢口に意見をしたのは初めてだった。

 矢口は、あまり紺野のことが現役時代は好きになれなかった。
 周囲の状況に臨機応変に立ち回りアピールすることを得意としていた矢口だっ
たが、辻や紺野など、存在だけでその場の雰囲気を変えてしまうタイプのキャ
ラには通用しないことが多かった。
 綿密に立てた作戦が潰され、自分が引き立て役になってしまうことに納得い
かなかったのだ。

 いま、紺野をそばにいるように指示いたのは、単に矢口が一人でいるのが恐
かったから。この屋敷―――とりわけ、あんな薄気味悪い出来事が起こったこ
の部屋で一人きりでいるのは耐え難い。
 だから、バケツを探して、この部屋の便器の中(赤く染まるだけならまだし
も、その中には矢口の最も他人に見られたくないモノまであるのだ!)を湯船
の水で流すまでは誰か側にいてほしかった。現時点で消去法で選出したところ、
居間でまったりとくつろいでいる紺野になったというだけの話だ。
600鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:31 ID:/jkwk7ns

 正直、紺野には相談相手になってもらおうという気はさらさら無かったし、
単なる番犬のような見張り役にするつもりで呼んだのだ。

 だが、妙に心が暖かくなった。
 もしかしたら、矢口が今一番求めているのは「普通の人」なのかもしれない。
そしてこの屋敷の中でそれに一番近いのは、この娘なのかもしれない。

「ふふふっ」

 紺野が声を出して笑うのは現役時代を通しても、珍しい。

「矢口さん、初めて私の前で笑ってくれた」

 そう紺野に言われて、矢口は知らず知らずのうちに自分が微笑みを浮かべて
いたことに初めて気が付いた。


【58-紺野と矢口】END
                       NEXT 【59-高橋と石川】
601鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/24 08:34 ID:/jkwk7ns

妙なタイミングで更新する作者。
意地だね。

金沢はいいところだ。
寿司も美味。とくにマグロ関係が。
602発見:02/08/24 16:22 ID:AKrpFslk
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1028122430/l50
保田圭2011の続きを書いている方がいます。(最後のほう)
一回読んでみる価値はあると思います。
603鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/25 13:32 ID:LArOF5S8

や。
娘。能登コンサから帰ってきました。
参加した皆様、悪天候の中ご苦労さまでした。

「能登コンではチャーミーヲタが多かった」

これが今回の結論である。
見かけるウチワでは、やはり後藤が多かった。
次に加護。声援では吉澤も多かった(女性の)。

でも、やはりミンナ梨華っち萌え〜なのである。

駐車してある車を見て、さしみは愕然とした。
並んでいる車のほとんどが「石川」ナンバーなのである。
そこまで石川ヲタが蔓延していたのか。
さらに決定的な証拠としては、安倍がMCで

「石川(ヲタ)のみなさん、こんにちわ〜」

などと言う始末。うおおう、と一斉に応える観客。
さらには、新垣まで

「石川最高! 新垣最高!」

などと、のたまいますた。一体どっちが最高なんだ貴様は。
チャーミーの人気を再確認した能登コンでした。

なお、まともなレポートは次スレで。

高橋のルーズソックス萌え
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50
604名無し募集中。。。 :02/08/26 17:13 ID:DRTzZvRi
コンサレポ、ワラタ!最高!

関係ないが、昔「一人ごっつ」でやっていた
「高田延彦似の工事現場のおっさん発見!」や「賢そうな犬発見!」
等のコーナーを思い出しますた。

【知らぬ】隠れモーヲタ生活【存ぜぬ】←私もです(w



605鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/27 07:43 ID:riTXtbUQ

【T・E・N】 第59話 高橋と石川

「結局矢口さんって・・・何の話やったんすか? 石川さん」

「ん〜なんかね、部屋替わりたいんだって」

「ああ、やっぱゴキブリがダメなんですね。あ、タマゴこれっくらいかき混ぜ
 ればいいっすか」

「ん〜もうちょっと。泡でアワアワになるまで〜」

「アワアワって・・・。で、替わることになったんですか」

「うん。まあ、別にいいかな〜って感じで。たぶん保田さんが入る予定だった
 “Memories”の部屋に行くんじゃないかな」

「はぁ。カワイソウですね、保田さん。追い出されちゃうなんて。ゴキブリ部
 屋で泊まることになるんでしょ?」

「まー保田さんなら、ゴキブリぐらい食べちゃうかも。ふふふ」

「い・し・か・わ・さ〜ん。そりゃあ、あんまりやないすか〜? あ、タマゴ
 こんな感じで?」

「うん。バッチリしわしわ」

「アワアワですよね?」

「うんアワアワ。でかした、ラブリー」

「懐かしーっすね、その呼び方も・・・ではチャーミー石川さん。次は何を?」
606鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/27 07:43 ID:riTXtbUQ

「うむっ。このスープを焦げ付かないようかき混ぜていてね」

「ハイっ!」

「うーん、そういえば矢口さんバケツが何とか言ってたなぁ・・・」

「バケツ?」

「うん、バケツがなんかいっぱい要るみたいだったから、裏小屋のカギ、渡し
 ちゃった」

「あの物置小屋みたいなところ?」

「うん。おっと、愛ちゃん、もうちょっと火を弱めてくれない?」

「はい。でも一体何に使うんですかね、バケツ」

「さぁ〜・・・あっ! 掃除してないって言ったから、今ごろあの部屋で水拭
 きでもしているんだよ! きっと」

「へぇ〜意外とマメなんですね、矢口さんって」

「うん・・・」

「・・・・・」

「うん・・・」

「・・・楽しみですね、石川さん」
607鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/27 07:44 ID:riTXtbUQ

「うん。まさか保田さんまで来るとは思っていなかったしぃ、ホラ・・・ずっ
 と5年間音信不通だったじゃん」

「私にはたまに、メールで近況とか送ってくれましたけど。アメリカの」

「へぇ。なんかさぁ、愛ちゃんと保田さんって解散直前になって急に仲良くな
 らなかった?」

「うん、あたし番組の収録中に泣いちゃったことあったじゃないですか」

「あったねぇ。あんときゃビックリしたよ」

「ほんでぇ、もう辞めようか、歌続けようかどうしよっか、悩んどったんです
 けど・・・」

「・・・・」

「保田さんに、なんか励まされて・・・うん、あれが無かったら歌手続けとら
 んかったと思います」

「そう・・・」

「歌のアドバイスは今でも、よくいただいているんすよ」

「ふううん、いいなぁ愛ちゃんは歌があるから〜。私も保田さんに最初の頃は
 歌教えてもらっていたんだけどなぁ」

「はぁ」

「結局オンチは直らなかったよ。ふふふ」
608鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/27 07:45 ID:riTXtbUQ

「いえ、そんなことは」

「いいのよ、気を遣わなくったって。自分でも分かっていたし。で、保田さん
 とは?」

「うん、それでモーニング娘。解散のあの日、約束したんです」

「どんな?」

「へへ“5年後もお互い歌手でいたら一緒に曲を作って出そうね”って・・・」

「・・・・」

「それがあったから・・・私売れなくても・・・嫌なことがあっても・・・・
 歌手でいることにこだわったんです」

「・・・・」

「ずっとずっと・・・しがみついていたんです」

「・・・いいなぁ」

「え?」

「カッコいいよね、愛ちゃんも、保田さんも」

「やだっ、そんな、いや、別に・・・」

「いいって。うん、気にしないで」

「・・・・」
609鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/27 07:52 ID:riTXtbUQ

「アメリカで治療していたんだよね、保田さん」

「私も実際会ったことは一回もないんですけど・・・」

「あんなに仲良くしていた愛ちゃんまで? やっぱ顔の怪我がまだ残っている
 からかな?」

「それもあると思いますし・・・いろいろデビューの準備とかで忙しかったみ
 たいですよ」

「そっか・・・何気にスゴいねぇ、保田さんって」

「ここ2、3年は日本とアメリカけっこう頻繁に行ったり来たりで」

「ふ〜・・・ーん・・・アメリカねぇ・・・」

「・・・・」

「・・・・グスッ」

「・・・・」
610鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/27 07:52 ID:riTXtbUQ

「へへ、あ、愛ちゃんカボチャかなりトロトロになってきたかなぁ?」

「・・・今石川さん、後藤さんのこと考えていました?」

「・・・(こくっ)」

「後藤さん・・・」

「うぐっ」

「石川さん?」

「うえええええええん」

「・・・・石川さん!・・・ふえぇっぐ」

「うえええええん」

「ひいいいいんん」

「えええええええん」

「ひっく、ひいいん」


 ・・・・・・・
611鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/27 07:53 ID:riTXtbUQ

「へへ、泣いてばかりもいられないよっ。夕食の準備しなくちゃだわ」

「うん、遅れ気味なんですから急かなきゃっ」

「・・・でもやっぱ・・・思いだしちゃうよね・・・・」

「うん・・・あたしも・・・後藤さんに憧れてモーニング娘。に入ったみたい
 なもんやから・・・」

「私、新聞や雑誌ぐらいでしか、あの事件のこと知らないんだけど・・・」

「うん、私・・・保田さんにも、あまり聞きづらかったんですけど・・・」

「けど?」

「うん。メールで1行だけ書いてあったんやけど、後藤さんのコト。それっき
 りで」

「なんて?」

「・・・保田さんは、後藤さんの最期の姿を見たみたいなんです」


【59-高橋と石川】END
                          NEXT 【60-保田】
612ソネリオン:02/08/27 09:12 ID:ChqoKeT5
おッ、なんか進展する予感...? 作者さん、ガンバって(^o^)
613名無しさん:02/08/28 11:47 ID:0BRaFaPw
いよいよ次は保田ですね。楽しみ。
614鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/28 22:48 ID:kmndVcVh

【T・E・N】 第60話 保田と高橋

「愛ちゃんいるぅ〜?」

 ふたつある武道館のモーニング娘。控え室のうちのひとつ、年少組の部屋に
保田の声が響きわたった。
 比較的経験の浅い年少メンバーが多いためか、教室ぐらいの広さにもかかわ
らず部屋一帯には緊迫した空気が漂っている。そんな中、高橋が笑顔で振り返っ
たのは、なにか場違いなような気がした。

 モーニング娘。解散コンサート第2部が始まる一時間程前。

「保田さん! もうお昼ゴハン食べたんすか〜」

「ううん。ライブ前は飲み物しか口にしないことにしてんだ」

「そお? あのお、あたしのゴハンもうすぐ終わるんで待っとってください」

「いいわよ」

 高橋がいつものより少しだけ豪華な上幕の内弁当を食べ終わるのを待って、
二人で楽屋の廊下、そして自販機コーナーまで散歩する。ベンチに並んで腰を
下ろすと、姉妹というより、親子のようにも見える。
 保田の奢りでスポーツドリンクを飲む高橋は、彼女の不器用な包容力を理解
できる数少ない後輩メンバーだった。
 コンサートスタッフは慌ただしく廊下を行き来しているが、背中を向けて座っ
ている少女二人が本番を控えたメンバーということに気が付く人は、ほとんど
いなかった。
615鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/28 22:49 ID:kmndVcVh

「いよいよだね」

「ハイッ」

 さきほどの控え室の中で包まれていたような重苦しい雰囲気は、その高橋の
返事からは感じられない。

「ふふっ、高橋って最近ホンット吹っ切れたっていうか垢抜けたっていうか」

「そうすか〜ありがとうございます〜」

 そう誉めたとたんに訛りながら返事するので、保田は吹き出しそうになる。

「保田さんに・・・焼き肉連れていってもらった頃からかなぁ。なんか、あれ
 で歌続ける気になったってゆーか」

「続けるって・・・辞めるつもりだったの?」

「なんか自信なくしとったんです。歌っとっても全然楽しくなかったんです」

「・・・」

「でも・・・でもあの日保田さんに焼き肉連れて行ってもらったあとに、カラ
 オケふたりで行ったやないですか」
616鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/28 22:50 ID:kmndVcVh

「楽しかったよねぇ、高橋が八神純子の“パープルタウン”歌ってねぇ。
 っていうかなんでそんな古い曲知ってんのよアンタ」

「でも保田さんも、アイランドの“スティ・ウィズ・ミー”歌っていたやない
 ですか〜。あれも相当化石ですよね」

「うん。でもアタシ結構男の人の歌うたうのも好きなんだ。尾崎豊とか」

「合唱やと、女の人が男声で歌うのってカウンターって言うんやけど、保田さ
 んの場合低音が艶あるんでハマっとりますよね」

「男の声って腹式で声だすから、やりすぎると次の日、おなかが筋肉痛なるけ
 どね」

「まじっすか」

「ホントホント。ライブよりも、カラオケのほうがお腹が痛くなるのよ。モー
 ニングの歌って私のソロパート少ないでしょ。ふふふ」

 こうして高橋と保田が音楽について、みっちり話し合うことがあの日以来多
くなった。
 保田にしてみれば、メンバー内で歌について話すメンバーが出来たことが妙
に嬉しかった。
 それは高橋も同じだった。
 歌いたい一心でモーニング娘。に加入したにもかかわらず、バラエティの仕
事などで当時は自分を見失っていた。訛りネタ以外でいじられることもなく、
キャラ的に行き詰まっていた。自分の最大のウリだと思っていた歌唱力につい
ても新曲の伸び悩みで自信を失っていた。
 八方塞がりのその時、保田に励まされた。
 久しぶりにカラオケに行って、好きな曲を思いっきり歌うことがどれだけ爽
快かをサブリーダーは思い出させてくれたのだ。
617鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/28 22:51 ID:kmndVcVh

 心のモヤモヤが吹っ切れた高橋はシンガーとして、グループ解散後も芸能界
を続けることを決意した。小さいながらも歌手をじっくり育てることで定評の
ある事務所への移籍も決定し、解散を控え晴れ晴れとした気持ちになっていた。

「さ〜最後の晴れ舞台に行くわよ〜」

 保田は立ち上がり、大きく背伸びした。

「あのぉ」

 後ろから高橋が、遠慮がちに話しかける。

「保田さん・・・」

「何?」

「いっいいえっ」

「ふふ・・・変なコ」

「・・・・」

「ねぇ、高橋ぃ。もし・・・5年後もお互い歌手でいたら・・・一緒に曲作っ
 て出すっていうのはどう?」

「???」

 高橋は自分の心の中を見透かされたような気分になった。
 保田に言おうと思って躊躇したこととほぼ同じ内容を、逆に本人から提案さ
れたからだ。
618鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/28 22:52 ID:kmndVcVh

「なんかね、一人でやっていくのは今まで以上にハッキリとした目標がなくちゃ
 ダメだと思うの」

「・・・」

「笑ったり泣いたり、お芝居したり・・・いろいろ楽しいけど、やっぱ歌だけ
 は捨てたくないの。どんな未来が訪れても―――」

「・・・いいですね、それ・・・やりましょう! それ!!」

「だねっ!」

 そして高橋と保田は笑顔で「ゆびきりげんまん」をした。



(そっか・・・もうあれから5年になるのか・・・)

 デコボコの薄暗い山道で、スピードを緩めたバイクにまたがった保田が遠い
目であの頃のふたりに想いを巡らせる。

(高橋・・・ごめんね・・・あのときの約束守れそうにないよ・・・)


【60-保田と高橋】END
                          NEXT 【61-保田】
619鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/28 22:58 ID:kmndVcVh

不定期連載中。

>>612-613
ごめん。60話は保田と高橋で、61話が保田でした。
タコミス。
620愛紺 ◆arCNzHe2 :02/08/29 01:04 ID:Enl/3oNC
いつも楽しみにしてます!
頑張って!でも、頑張りすぎないで!
621 :02/08/29 09:10 ID:6AD12R2a
作者はNEXTに保田って書きたいだけなんだろ?w





本当はめっちゃ応援しとるで。
622保田募集中。。。:02/08/29 23:41 ID:SvZnf484
ふっふっふ、わかるぞ。
口には出さなくても、さしみさんが保田を1推しだってことが。
623名無し募集中。。。:02/08/30 06:30 ID:Cu+J5736
>>622
それがスレを上げてまで言う事かと小一時間(r
624さしみ募集中。。。 ◆vDQxEgzk :02/08/30 08:17 ID:ksNy2YN/

61話は再びアメリカでの保田の話になるのだが・・・
もう少し待ってくれ保田。
625名無し募集中。。。:02/08/30 21:24 ID:ScRBFOib
楽しみにして待ってます保田
626保田募集中。。。:02/08/30 23:05 ID:8wu4Rzml
>623
ミスったんだよ許してちょんまげ。保田
627名無し募集中。。。 :02/08/31 06:04 ID:RSwgHVsG
>>626
まあ次からは気を付けなよ。保田
628 :02/09/01 00:13 ID:4G5/jh7d
良スレ保全。保田
629鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/01 10:35 ID:9+1nEpbo

【T・E・N】 第61話 保田

 保田がこの5年間で身につけたものは多い。
 英語や音楽的知識。
 そして以前の自分では考えられなかったが、趣味として始めたバイク。高橋
にメールで「今、バイクに乗っているの」と書いたら「え〜なんか想像できな
いっす〜」と返ってきた。どちらかというとインドア的な趣味の多かった保田
にとって、バイクやツーリングといった保田のアクティブな活動は高橋にとっ
て想像の範囲外にあるようだった。
 バイクが好きになった理由は、いくつかある。
 顔の傷の治療を続けていた保田にとって、公共の交通機関を利用するという
ことはよっぽどのことがない限りなく、自分専用の足となるものを必要として
いた。フルフェイスのヘルメットを被れば(時には包帯が巻かれた)顔が見え
なくなるので、保田はよく好んでバイクに乗るようになった。
 事故を心配する担当医師にはあまりいい顔をされなかったが、特に日本とア
メリカを頻繁に行き来するようになったここ2〜3年の間に両国に自分専用の
バイクを1台づつ所有する程にまでなった。
 そして顔を隠す、足になるといった理由以前に―――バイクでアメリカのハ
イウェイを思いきり走ることの壮快感は何者にも代え難かった。

 今、保田がまたがっているのはSUZUKIバンディット250。
 小回りの利く黒とオレンジのツートンカラーの単車は、日本での保田の足と
して大活躍している。
 当然今日もそれに乗って同窓会に向かっているが、慣れない山道に保田は苦
戦していた。屋敷へ向かう最後の数キロは、道路も舗装されていない、ガード
レールも街灯も当然ないと聞いている。
630鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/01 10:36 ID:9+1nEpbo

(暗くなる前に、着かなきゃ・・・)

 すでに陽は落ちかけており、薄暗い閑静な森にバイクの排気音が響きわたっ
ている。

 この同窓会が開かれることを知った時、保田は参加する、しない以上に悩ん
だことがあった。
 アメリカで起きたこと。たぶん他のメンバーのもっている以上の情報を、自
分は知っている。そして5年前の武道館の事件以降、保田が受け取った唯一の
後藤の想い。
 それを今日集まる仲間たちに、果たして伝えるべきか否か。


 世間を震撼させた爆破事件から丁度3年が経過した初秋のある日。
 つまり現在から2年前ということになる。
 再びモーニング娘。メンバーに、大きな悲劇が訪れた。
631鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/01 10:36 ID:9+1nEpbo

 その頃になると保田は3ヶ月のうちの1ヶ月ほどは帰国して、昔世話になっ
た和田マネージャーと復帰に向けての打ち合わせと下準備に追われていた。
 だがその日はたまたまアメリカの、もう何度目になるか分からない皮膚移植
手術のために保田が常駐していた治療施設にいた。
 ここに来て最初の頃は、言葉が通じないことや、果たして治療が上手くいく
のかといった将来への不安で、胸が張り裂けそうになっていたものだ。だが、
手術がくり返されるごとに目に見えて成果があらわれてくるようになるとその
不安は徐々に解消されていった。精神的にかなりタフになったな、と保田自身
でも思う。
 その証拠に手術を前日に控え、保田は施設の仲間たちとささやかなパーティ
を開くための準備に追われていた。以前では考えられないことだ。パーティの
主役はもちろん保田。会場の看板には「Beauty KEMEKO」の文字
が踊る。
 すでに夕日がオレゴンの西の空に黄金色に輝いている、その時だった。
 サンフランシスコ市警の者と名乗る男から、保田宛に一本の電話がかかって
きた。

「ケイ・ヤスダさんですか」

「ええ、そうですが」

「あのー、マキ・ゴトウさんはご存じですよね」

「!! ・・・・」

「? あのー」

「・・・ええ、友達です。彼女がなにか」
632鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/01 10:39 ID:9+1nEpbo

 受話器の向こう側からは、聞き慣れない男の声で淡々と用件を話された。
 だがその内容は保田にとって、にわかに信じがたいものだった。あまりにも
唐突すぎるその報告に、頭の中は真っ白になる。

「なぜ・・・?」

 その声を振り絞るのがやっとだった。

 どうして私に電話をかけてきたのですか、という意味を込めて尋ねると警官
は不思議そうな声で答える。
 後藤が所有していたアドレスブックに載っていたアメリカ在住の日本人の名
前で、一番距離的に近そうなのが保田だったので、連絡してきたのだという。
赤い丸で名前の部分が囲ってあったので、親戚か友人かと思った、と説明する。
 確かに親しかったが―――モーニング娘。のメンバーだった頃は―――爆破
事件によって後藤が記憶を失ってからは、一切連絡を取り合ったことはない。
 そもそも保田が事件以降どういった状況に置かれているのか、後藤が知って
いるかさえ不明だった。
 唯一接触したのが、1年半ほど前。それも保田が後藤に対して一方的に。い
や、あれは接触とは言うべきではないかもしれない。サンフランシスコに思い
つきで向かった保田が、バスの中で遭遇した幸せそうに男に寄り添う後藤を見
て、何もせずに帰ってきただけなのだから。
633鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/01 10:39 ID:9+1nEpbo

  そうだ。
  あの時バスの中で幸せそうにしていた二人は、何だったのか。

 人違いだ。後藤でないことを確認しにいくんだ。
 そう思った保田は急いでそこへ向かうと男に伝え、連絡先をきいて電話を切っ
た。すでに受話器を持つ手の震えが、膝にまで伝搬していた。
 後藤の所属事務所や肉親にもその旨の連絡を入れたらしいが、一番早く確認
できそうなのは保田のようだ。ポートランドからサンフランシスコ。飛行機で
行けば2〜3時間。
 施設の仲間に事情を話し、パーティを急遽欠席した。そして夜間便のチャー
ター機を予約し、空港へ向かう保田。

 飛行機の中で何を考えていたのか、保田は思い出せない。
 何も考えていなかったのかもしれない。何も考えられない精神状態だったの
かもしれない。

 頭の中で繰り返し響きわたるのは、先ほどの電話の中での警官の声。その度
に保田は両手で頭を押さえつけ、大きく左右に振ってかき消そうとする。

「マキ・ゴトウさんがアパートで自殺した。
 都合さえよければ、遺体の確認をお願いしたい」


【61-保田】END
                       NEXT 【62-保田と後藤】
634鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/01 10:44 ID:9+1nEpbo

ひっぱりすぎ。

鮪乃さしみホームページ
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
635名無し募集中。。。:02/09/01 10:47 ID:GEU1Wtfx
更新乙です
気長に待ちますので無理せずがんばってください

やっとこ2年前の事件の真相が。。。
わくわく
636名無し募集中。。。:02/09/01 17:28 ID:P3ywr08v
作者さんすみません
いっきに読ませてもらいました
場面と時間が交錯してるとこが叙述トリック小説に近いものがあって
楽しく読ませてもらいました
これからも頑張ってください期待してます
637AYAYA ◆AYAYA/l6 :02/09/02 00:27 ID:ugzAmB4n
ごっちん自殺…んなことないよね?
さしみさん
638 名無しさん :02/09/02 14:21 ID:jTAMAuLn
IWishとゴマキの手を握って歩きたいのPV、うpして下さい

639名無し娘。:02/09/02 14:54 ID:EzdZaaV7
おお、こっちで続いてたのか。あっちのルーズスレばっかり見てた(w

>>605-611にはビビッた
640鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/03 03:27 ID:3yVsfnP2

【T・E・N】 第62話 保田と後藤

 ポートランドの成形外科専用施設で、保田が電話を受け取ってから6時間後。
 深夜だというのに、大都市・サンフランシスコの警察署はやけに慌ただしい。
 保田はそこの受付に、さきほどの電話でメモした警官らしき男の名前を告げ
て、雑音飛び交う待合い室のベンチに座りじっとうつむいていた。

 不思議と気持ちの高ぶりはない。
 涙だって出てもおかしくはない。
 しかし6時間前に電話を受け取ったときよりも保田はさらに落ちつき、今は
何の感情も沸いてこない。
 ただ事実として、保田は電話を受け取ってからここ警察署まで最速といって
いいスピードで来てしまった、ということ。
 例えるなら車のギアをニュートラルにしたまま、急な下り坂を引力にまかせ
てブレーキを使わないで走り下りたかのような感覚。

 しばらく待っていると、頭のはげ上がった小太りの男とその部下と思われる
ひょろ長い警官が現れた。声から察するに、この小太りの男こそが電話してき
た本人のようだった。この二人に、下へ向かう階段へと案内された。その先の
廊下は、地下ということもあり室温はもともと低いが、それに加えて水色の床
と廊下内に響きわたる警官の革靴の音が、より一層寒々しい雰囲気を演出して
いる。
641鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/03 03:27 ID:3yVsfnP2

 両開きの、病院でよく見かけるような無機質の扉を開いて部屋に通された。
 駅のコインロッカーをひとまわり大きくしたような、横にながい長方形の引
き戸がいくつも並んでいて部屋一面を取り囲んでいる。

  この部屋は何かの映画で見たことがある。
  でも、まさか自分がそこに来ようとは・・・。

 夢にも思わなかった。
 なぜなら保田が今立っている部屋は―――。

 小太りの警察官は手にしているファイルに書かれた名前と数字を確認して、
部下にコードナンバーのようなものを告げた。
 保田はそのファイルを横目でのぞき込む。
 名前の欄に、殴り書きの文字で「Maki Goto」と記されている。

 この期に及んでもまだ、保田には深い感情らしきものが一切浮かび上がって
こない。
 事件が起こってからの3年間、自分と後藤の間にはどんな結びつきがあった
のだろう。
 近くにいるけれども、遠い存在。ミステリアスな存在。羨ましさもあったし、
悲哀を込めた同情心も少なからずあった。手を伸ばしたらすぐにでも届きそう
なところにいるかと思えば、遥か地平線の彼方に既に消えているかのような感
覚に陥ることもある。

 わからない。
 そういった矛盾に近い感情でいる自分を許していたツケが、いま一気に回っ
てきたような気がする。
 あらゆる事態に対して感情が鈍くなっているのかもね、と保田は冷静に自ら
を客観視した。そのこと自体、感情的になれない彼女自身を証明している。
642鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/03 03:29 ID:3yVsfnP2

 妄想を膨らませ、自らを感傷的に演出することができれば、どんな事態にな
ろうと心に一定のバリアーを張っているため大きく傷つくことはない。逆に無
感情のまま、突然過酷な現実に曝されると、むき出しになった心に修復不可能
な傷を残すことになる。
 今の保田は後者だ。
 耳に聞こえること、目に見えることをそのまま受け入れることしか残されて
いない。それは非常に危険な状態といえる。


 部下の気の弱そうな警官のほうはというと、部屋の壁を埋め尽くしている扉
のうちのひとつを静かに引っ張った。重々しい金庫のような扉だ。
 音もなく引き戸が開かれると、その中には黒いビニール袋に包まれた細長い
物体が横たわっている。
 ファイルを手にした小太りの警察官は保田をそのビニール袋の脇まで行くよ
う促したが、足が震えてなかなかスムーズには歩けない。恐怖とか、悲しみと
いった類の震えではない。禁忌(タブー)に触れるような行為に対して、本能
が身体に拒絶するように信号を送っている、といった感覚に近い。
 警察官もこういった場面には慣れているのであろうか、保田が一歩一歩前に
進むのをじっくりと待っていてくれた。
 距離にしてたった5メートル程だったが―――保田がそのビニール袋の横ま
で、やっとたどり着いた。
643鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/03 03:29 ID:3yVsfnP2

 細身のほうの警官が目で「覚悟してください」といいたげな視線を保田に投
げかけて、ビニール袋のジッパーをゆっくりと引き下ろす。

 中から青白い顔が出てきた。
 くぼんだ目の周りは浅黒く変色している。
 右のこめかみにはガムテープのようなものが貼られていて、それと肌のすき
間から血がにじんでいるのが分かる。
 死んだばかりの人に対して「今にも目を覚ましそうな綺麗な寝顔で・・・」
といった表現を日本はよく使う。
 しかし保田の見たそれは、目を覚ましたり、動いたり、息をしたり、もしか
したらそういったことが起こるのではないかといった生命力がまるで感じられ
ない。
 マネキンのようだ。ただの、肉のカタマリだ。

  それでも認めざるを得ない。
  間違いない。
  この遺体は、後藤真希である、と。

 そこで初めて、保田の目に熱い涙が溢れて出てきた。


【62-保田と後藤】END
                       NEXT 【63-後藤と保田】
644鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/03 03:38 ID:3yVsfnP2

>>639
すんません。早めに次スレの↓

高橋のルーズソックス萌え
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50

に逝きたいんですケド・・・なかなか。まだカナリある。
がんがります。
容量的にヤバいw
あと50KBぐらいで本当に完結するのか第一部!?

鮪乃さしみホームページ
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/
645名無し募集中。。。:02/09/03 06:35 ID:9U0b8wLs
ごっさん芯じゃうんかよ〜
ニーニー、ののたん(?)に続いて3人目?カワイソウダヨ
646鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/03 08:03 ID:3yVsfnP2

後藤のソロミュージカル原案募集(賞金200万円)に
この【T・E・N】を応募しときますた。

ウソです。

大体「下町」「人情」から最も遠い位置にあるストーリー展開じゃねーか。
それ以前に後藤、死(略
647鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/04 03:33 ID:ofYhDi5H

【T・E・N】 第63話 後藤と保田

 保田は結局、警察署で一夜を過ごした。というか、気がついたら夜が明けて
いたのだ。
 ずっと地下の廊下のベンチで泣き続けていた。人間は一晩でこれほど涙を流
せるものだとは思わなかった。目の下を擦りすぎて、ただでさえデリケートに
しなければいけない目の周りが赤く腫れ上がっている。
 さきほどの小太りの警官が見るに見かねて、現場である後藤のアパートに行
くかと保田に声をかたときには、すでに時計の針は朝の8時半を指していた。
 勤務時間はとっくに超過しているはずだが、悪いとは思いつつも保田は好意
に甘えることにした。

「最初は弟さんと同居していたらしいんだけどね」

 アパートへ向かう車の中で、警官は語り始めた。
 記憶を失った後藤が留学という名目で渡米して、そして自らの手で死を迎え
るまでの3年間。最初の1年程はお目付役の弟・ユウキと郊外のアパートで同
居生活を続けていたらしい。
 だが、そのうちユウキがホームシックにかかり帰国。(本当の理由は、彼が
当時ベタ惚れしていた現地の恋人が日本に留学することになり、それを追っか
けるためだったらしい)
 それからしばらくして後藤に出来た恋人というのが、保田が初めてサンフラ
ンシスコに訪れたあの日バスの中で見かけた、彼女が肩を寄せていた青年。同
い年で、カメラマン志望。
 この青年が後藤の死に大きく関わっているという。

648鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/04 03:34 ID:ofYhDi5H

 保田が、あとから知った話である。
 21世紀になりネットワーク社会が完全に浸透し、世界どこにいようと取り
出したい地域の情報を瞬時にインターネットを介して手に入れることができる。
 しかしその土地で起こっている微妙な異変は、その土地にいないと肌で感じ
ることは難しい。たとえ情報の伝達に距離という制約が取り払われた、新世紀
においても。
 風の噂、というのがあるが日本の風をアメリカで感じるためには、よほど敏
感なアンテナを張っていないと困難だということらしい。

 実は後藤と保田が悲劇的な再会をすることになった5日前から、日本のアン
グラ界では、とある十数枚のデジカメ画像とひとつの動画の真贋をめぐって蜂
の巣をつついたような騒ぎが巻き起こっていたという。
 保田は後藤の遺体を確認した翌日、その話を和田マネージャーから聞かされ
た。すでにその画像はアングラに詳しくない保田でさえ、簡単に目に触れてし
まうほど日本のサイト界では浸透していた。

 スーパーで牛乳や缶詰をカゴに入れて買い物している少女の姿。
 その買い物の帰りに荷物を積んだ自転車を運転している姿。
 プールで水着姿でくつろいでいたり、オープンカーを乗り回していたり。
 これだけだと青春のヒトコマというか、単なるスナップ写真だ。しかし、当
然それだけでは終わらない。
 一人の女が裸でベッドに横たわっている。
 あどけない表情でピースマークをしているが、それは一糸まとわぬ姿だ。
 笑顔でソファの上でいろんなポーズをとる。
 そして30秒ほどの動画。
 同じ部屋の中のベッドで金髪の青年と深く絡み合っている。
 さきほどの幼い表情とはうってかわって、妖艶な流し目。

 全部、後藤だった。
 そして彼女と情事に勤しんでいるのは、例の青年。
649鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/04 03:35 ID:ofYhDi5H

(こんなものがネットに出回っていたというの・・・?)

 あまりにも生々しいアングルのショットが多く、スナップ写真や動画と照ら
し合わせても合成ということは考えにくい。
 しかも画像の状況から考えて、これを撮影したのはおそらくこの青年。
 保田は、爆破事件のあと病院で自分の顔を鏡で見た時以来の、深い奈落に突
き落とされたような絶望的な気分になった。


 その画像の存在を知るのはまだ先の話だが、保田は今まさにその現場である
後藤が3年という月日を過ごしていたアパートの一室にいた。黄色いテープを
くぐると置物や電化製品の破片が床に散乱しているリビングルーム。
 さすがアメリカだけあってアパートといっても日本のような狭苦しい印象は
ない。広いバルコニーからは、さんさんと陽光が照りつける広々とした空間。
大きなソファ、ゆったりとしたベッド、どっしりとしたテーブルセット。しか
もそれぞれの家具がぎゅうぎゅうに押し詰めてあるという印象の否めない日本
の家庭とは違い、散在しているかのように余裕を持って配置されているところ
が、部屋の広さを物語っている。
 そしてベッドに赤い血の跡。予想していたとはいえ、背中に冷たい汗が吹き
出る。
 保田がベッドに視線を投げかけたのに気が付き、慌てて警官はそこに白い布
を被せた。
650鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/04 03:36 ID:ofYhDi5H

(ここでごっちんは・・・)

 散らかって荒れ果てている床と、ベッドの血痕。それにさえ目をつぶれば、
年相応のお洒落なシスコでの生活を後藤は送っていたようだ。

「教えていただけませんか?・・・どんな状況だったか」

 警察は渋い顔をしながら、アパートで後藤の隣りの部屋の住人(黒人の少し
太りぎみオバさん)から事情聴取した一部始終を語りはじめた。

 事件当日の朝(保田が今後藤の部屋にいるときから計算するとちょうど24
時間前)、その住人は後藤と青年が、大声で何か口論をしている声を壁ごしに
耳にした。
 そのうち何かを投げつけて壁にぶち当たる音や、ガシャンと割れる音が聞こ
えてきたので、隣人はただならぬ胸騒ぎを感じとっていたという。普段から喧
嘩はたまにしていたようだが、これほどまでにヒステリックな言い争いは初め
てだったからだ。
 その罵声に「インターネット」や「知らない間」「勝手に」といった言葉が
含まれていたことから、この時はてっきり浮気か何かが喧嘩の原因かと思った
が、後から考えてみるとネットで出回っている画像のことがその口論の原因で
あったのは間違いない。
 事実、あとで警察が押収した青年所有のデジカメにはネットで出回っている
画像と同じデータが記録されていたという。
651鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/04 03:46 ID:ofYhDi5H

 そんな二人が言い争う声と物を投げつける音が、小一時間ほど続いた。
 いい加減隣人も業を煮やして、後藤の部屋へ仲裁に向かおうかと思い始めた
ら急に静寂が訪れた。

 拍子抜けしつつも安心したそのとき、響きわたった1発の銃声。
 隣人はドサっという音が窓の外から聞こえてきたので、何か危険を感じつつ
もベランダに出て下をのぞき込む。すると路地のコンクリートの上に、一人の
青年がうつ伏せに倒れ込んでいた。そしてその青年の頭を中心に血が、ゆっく
りと正円を描いて広がり始める。
 隣の部屋から物音がする。その方向を振り向くと拳銃を手にした後藤が同じ
くベランダから身を乗り出して下をのぞき込んでいた。
 後藤は隣の住人に見られたことに気付くと、慌てて部屋の奧へと逃げ込んだ。

 そしてしばらくして、2発目の銃声が鳴り響いた。


【63-後藤と保田】END
                          NEXT 【64-保田】
652鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/04 03:50 ID:ofYhDi5H

や。さしみです。
無理すんなよと言われてもついつい。

↓このサイトで有り難いことに、この小説が取り扱われているわけなんですが、
 なんと第61話のセリフにちゃんと英語の対訳が付いています。スゴイ!

ttp://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/3313/

興味ある方は見てみてはいかがでしょうか。
私も吉澤英検2級を持っているほど、ペラペ〜ラですが、これには参った。
サイト主さん、見てますか。
さしみのホームページ(http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/)に
小説転載するときには、あの英訳をイタダキしてよろしいでしょうか。どうでしょう。

次スレ↓が、なんだかスレタイトルにふさわしい議論(w
になっております。面白いから別にいいけど。

高橋のルーズソックス萌え
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50
653保田乳首中。。。:02/09/04 04:31 ID:ygENyn/I
最初からずっと楽しみにしています。
新しく書き込みがあるとキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!っと小躍りです。
これからもがんがってください!
P.S. こんこんのウンチョス発言には個人的にビクーリしました。
さしみさん、吉澤英検ではおそらくアヤカには通用しないかと。。。
654保田乳首中。。。:02/09/04 04:31 ID:ygENyn/I
こんな所で名前を変え忘れた保田
655BACK ◆BacK.... :02/09/04 16:10 ID:UtmE3EkO
>652
どーぞ、使ってやって下さいな。
頑張って完結してね
656BACK ◆BacK.... :02/09/04 17:06 ID:gRFp7b7j
あ、言い忘れてた。

さしみさん、勝手に間取図の画像使わせて
もらってるけど良かったですか?

あと、英文はたまに意訳してあるんで(直訳もあるけど)
日本語とはニュアンスが違うけどいいんですか?

そんだけ。


娘。小説集 ヨロシク。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/3313/
選ぶ小説が片寄ってるとか言われて(自覚もしている)ますが
よかったら覗いてやってください。

ハロプロ世論調査も実施中。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/3313/hp/hp_q.html
657鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/04 20:39 ID:TlUkEz2F

ちょっとイカれたPURE BOYことさしみですよ。
暑い。暑すぎる。

>>656
ああ、間取り図ですか。別にいいっすよ。
ただし予告なく変更する場合があるのでご了承ください。

英訳サンクス。たぶん、もうあんまりアメリカは関係なくなるから・・・

>>653
こんこんは一般人(文学部)なので本を読んだりもするよ。エッセイとかね。
吉澤英検1級でニセ帰国子女の称号が得られるという。
658 :02/09/04 23:09 ID:OZ3vowMK
ルーズソックスハァハァ
659鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/05 07:31 ID:PMItCSdk

【T・E・N】 第64話 保田

 後藤がアメリカに留学していた、そして銃で自らの頭を撃ち抜き命を絶った
というニュースは、あっと言う間に日本にも知れ渡った。
 それはつまり、あのインターネットで出回っている画像の信憑性を高めるの
には十分といえた。

 保田は後になってから、その時の日本の様子を断片的にではあるが、和田マ
ネージャーのおかげで知ることができた。
 当然テレビや新聞では大きく報道されたが、自殺の原因まで深く追求するこ
とはなかった。せいぜい、記憶を失っていたという新事実がクローズアップさ
れたぐらいで、自殺の原因となった「例の画像」のことについては何処も言葉
を濁していた。
 しかしネットやゴシップ誌では、ここぞとばかりに興味本位の研究サイト・
特集記事が相次ぎ、それにより公然の秘密として後藤の死因は一般にも知れ渡
るようになった。小さな子供を持つ親は、その対処に相当困惑したらしい。
 ある者は、マスメディア毎の報道姿勢にこれほど顕著な差が現れた事件はな
い、と皮肉った。

660鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/05 07:31 ID:PMItCSdk

 保田を驚かせたのは、この2人はドラッグに手を染めていたということ。
 警察は、後藤の現地での友達に遺体の確認を頼もうとしたが、ほとんど断ら
れたという。クスリ仲間が「それ」が原因で自殺したやつを確かめるために、
わざわざ警察署に足を運ぶほどバカじゃないよな、とさきほどの小太りの警官
は苦笑いを浮かべたのが保田にとっては印象的だった。
 あの死体安置室で見た後藤の目の周りがくぼんで変色していたのは、ドラッ
グ常用者の遺体によくある特徴だと、その時―――後藤のアパートからの帰り
の車の中で―――教えられた。

  信じられない。
  あのバスの中で見た、爽やかにじゃれあっていた恋人同士が。

  ―――薬漬けだっただなんて。

 ネットの画像で真っ白な肌をさらけ出していた後藤。
 バスの中で見た、無邪気な笑顔を浮かべていた後藤。
 警察署地下で見た、生気を失って肉塊と果てた後藤。
 そしてモーニング娘。だった頃の、甘えん坊な後藤。

 それらの後藤が、ぐるぐる保田の頭の中をかき回す。
 ぐるぐる。ぐるぐる。
 いろんな後藤の顔が頭から離れなくて、保田は夜中に突然汗だくで目が覚め
ることが多くなった。
661鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/05 07:33 ID:PMItCSdk

 後藤が同じアメリカに住んでいると知って、いてもたってもいられなくなり
何かにすがるような想いで逢いにいったあの日。
 もしもバスの中で後藤に話しかけていたら、あるいは今のような結末は無かっ
たかもしれない。
 保田はこの悪夢を自分に対する罪の償いとして、受け入れることにした。
 その苦しみは、後藤の死から2年余りたった今も続いている。


 保田はバイクにまたがりながら、虚しくなるのは分かっていてもまた後藤の
ことを考えていた。
 モーニング娘。同窓会―――久しぶりに人生で最も輝いたあの時期を共に過
ごした仲間達が一堂に会する。
 その場に後藤がいないことが、保田にとっては悲しかった。彼女のことにつ
いては死因が自殺なだけに、実際他メンバーもやはり話題に出しづらいのでは
ないか。
662鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/05 07:33 ID:PMItCSdk

 きっかけが必要だ。
 だからこそ保田は「特別ゲスト」として後藤を呼ぶことにした。胸の奥に潜
ませている生前のピュアな後藤の想い。
 それはまた新たな謎の渦中に、メンバーを巻き込むことになるかもしれない。
それでも保田はその想いを自分一人で抱え込むほど、心のキャパシティが大き
いわけではない。

  誰かに伝えなければ―――。
  伝えるなら最も彼女を理解していた、かつての仲間たちに―――。

 涙で濡れたサンフランシスコでの再会から3日後。
 ポートランドの施設に保田宛に一通の絵はがきが届いた。夕日をバックにし
たゴールデンゲート・ブリッジの写真が輝かしい。宛名はもちろん英語だった
が、はがきの裏の右半分には細々とした、あまり上手いとはいえない雑然とし
た文字が日本語でギッシリ詰まっている。
 差出人は後藤真希だった。


【64-保田】END
                       NEXT 【65-石川と高橋】
663名無し募集中。。。:02/09/05 14:30 ID:dGTglRnu
更新おつかれです<さしみさん

だいぶ佳境に入ってきましたね
後藤の手紙が気になる。もしや薬で記憶が戻ったとか?
誰か「んなことぁ〜ない」って言ってくれ
664名無し募集中。。。:02/09/05 17:29 ID:cqhetphC
んなことぁ〜ない
665ねぇ、名乗って:02/09/06 01:59 ID:dDapyPBp
( ♂´ Д `)<んなことぁ〜ない
666鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/06 06:54 ID:bSu69HlC

ありがとーございます。皆様のレスがさしみを支えております。
今日は更新できませんが、週末ボクがんがるよ(少年のような無垢な目で)。

んなことぁ〜(略

さしみのホームページ
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/

高橋のルーズソックス萌え(次スレ予定)
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50
667名無し募集中。。。:02/09/06 09:39 ID:UyV47oZg
作者さん、最高です。
久しぶりに、こんな真剣に小説読んだな。
次回更新楽しみに待っています。
668名無し募集中。。。:02/09/06 10:28 ID:r7bY0+q/
かなり面白いよね

リスペクトしていたかの小説よりミステリー要素があり
各人の人物掘り下げも十分で入り込める
でも掘り下げ十分だけあって長い小説になりそうだね
読者としては嬉しいけどさー
完結目指してがんがってください
669名無し募集中。。。:02/09/07 06:49 ID:rv0I9kVA
期待保全
670鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/07 09:11 ID:hRywPIcF

【さしみ通信】6〜8号ぐらい

さんざんガイシュツだと思うが「ぜんぶ!プッッチモニ」というタイトルはどうなのかと思った。
「ぜんぶ!」と言い切ったらこれから売り出す吉澤・小川ほか(テレビ欄風味)の
プッチモニはプッチモニであってプッチモニではないのか保田。(スレ違い)

わかった。
新しいプッチモニは「プッチモ二」なんだな。
え? あんまり変わらないって? よく見たまえ。

旧→「プッチモニ」
新→「プッチモ二」

あたらしいのは↑漢数字の「二」なのだ。
発音も「ぷっちもに」になるし、解決。よかった。よくないけど。
いやそんなことを言い出したら、初代のプッチモニは本来「プッチモ一」になるわけで、
そりゃあ発音的には「ぷっちもいち」ですが、これだけみると
「ぷっちもー」とやけに間抜けな響きになるではないか。どうでもいいけど。

で、タンポポだ。これもやっかいなことに「All of TANPOPO」という
タイトルでアルバムが発売されますた。
じゃあこれから売り出す石川(略)か保田。

まあ普通で考えれば新しいタンポポは「タソポポ」ということになるが、
それは2ちゃんねる風に普通に考えればであって、じゃあ「タンボボ」はどうかと問われれば、
「九州地方でヤバい」という結論にならざるを得ないし、「タムポポ」といった旧かなづかいも
なんだか「タムタム」みたいで嫌だ。変な仮面とか被っていそうだし。ああどうすればいいんだ。

と、小説の更新がないので、こんなことでお茶を濁して容量を消費するアホ作者。
671名無し募集中。。。:02/09/07 11:38 ID:J2/wXnQu
後藤からの手紙・・・

泣きそうな予感・・・

準備しときます。
672鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/08 12:20 ID:tMk9ayUf

【T・E・N】 第65話 石川と高橋

「でぇ、サラダ出来たでしょ、スープもほとんど完成でしょ」

「オムライスもあとはタマゴかけるだけですぅ」

「ジュースもこれだけあれば足りるでしょ」

「保田さんはワインがいいって言ってました」

「それも今用意する。つんく♂さんが、地下にあるの自由に飲んでいいって」

「おッ。サスガに太っ腹〜♪」

「グラタンもオッケー。でも予定よりは少し遅れそうかな。
 今5時40分ぐらい?」

 この食堂には時計がないため、正確な時間を把握できないでいる石川。高橋
は自分のポケットに仕舞ってある携帯電話を取り出し時間を確認すると「圏外」
の文字の隣りに「5:39」と表示されている。
 電波の届かない地域であるこの屋敷では、携帯電話もただの時計の役割しか
果たさない。
673鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/08 12:21 ID:tMk9ayUf

「うん・・・あと20分で全部はムズカシイかもです。食堂にはもうサラダと
 かは運んであるんやけど、他何かないっすか」

「うーん、他はもうアツアツ系と冷たい系ばっかりだしねぇ・・・
 食堂のほうはお皿とか、カトラリー大丈夫なの?」

「カトラリー?」

「ナイフとかフォークとかスプーンとか。人数分足りている?」

「多分・・・確認してきましょうか?」

「あっ、私見てくる! 愛ちゃんはそのままスープかき混ぜといて」

「ハイっ」

 石川はピラフの型押しがちょうど人数分終了し(その上から半熟のタマゴを
かける予定)、手の放せない―――とはいっても楽な高橋の仕事をそのまま続
けさせて、自分は食堂へと向かった。
674鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/08 12:23 ID:tMk9ayUf

 高橋は、本人がその気さえあればレストランのシェフだって可能なんじゃな
いか、と石川を手伝っていて思った。味見した限りでは、その出来はちょっと
信じられなかったが高級店並のレベルだし、段取りも非常に練られていて無駄
がない。
 この食堂で断片的に聞いた、石川の事件後の5年間を本人は一言でこう表現
していた。

「ほとんど引きこもりみたいな生活だったよ」

 自虐的に言い放った石川だったが、週3回の料理教室と家庭の食卓の準備の
ために買い物に出掛けたりすることはあるという。

(石川さん、それって全然引きこもりじゃありませんよ・・・)

 高橋も―――あの武道館での集団レイプ事件によって、石川が男性恐怖症に
なったのは人づてに聞いて知っていた。もちろん表だってそのことは触れない
が、本人曰く“テレビも見ない、ネットや携帯もしない”と言っていたので、
相当重度なのではないかと感じた。男性を見たり、話したりするのも避ける程
の。
 そう考えると、昼間近所の料理教室やスーパーに買い物に行くのも、ほとん
ど男性と関わる機会はないので案外石川が極度の男性恐怖症であるというのも、
噂によって大袈裟になったとは思えなくなってくるから不思議だ。この女だけ
の屋敷で石川がやけにイキイキ輝いているのもそのためなのだろうか、と高橋
は妄想を膨らませる。
 そして石川は吉澤との5年振りの再会の様子を、さらに興奮ぎみにこう語っ
た。
675鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/08 12:23 ID:tMk9ayUf

「だからビックリしたよぉ! よっすぃーいつの間にか男の子になっちゃって
 いるんだモン!」

「あはは、石川さんはあまりテレビ観ていないっていうから知らんかもしれま
 せんけど、たまにあのカッコで出演していますよ。サマになってますよねぇ」

「ホント・・・ホントに素敵です・・・。よっすぃーは素敵です・・・」

 その時、石川は遥か彼方を見つめてキラキラとした瞳で恍惚の表情を浮かべ
ていた。まさに“チャーミー石川”の真骨頂、あの微笑みだ。


「ひやああぁあ!!!」

 高橋はそんな先ほどまでの厨房の会話をホノボノと反芻していると、突然食
堂から石川の絶叫が耳を突き抜ける。
 スープをかき混ぜていた高橋は、一旦火を止めて声のしたほうへ駆けつける。
開けっ放しにされた、食堂と厨房を結ぶ扉にもたれ掛かっている石川が青ざめ
た顔で小刻みに震えている。

「ど・・・どーしたんですかっ!? 石川さん!」

「あっ・・・あれ! あれっ!!」

 高橋は石川が指さしている、食堂の床に視線を移す。
 綺麗に磨かれ黒光りしている大理石の床の上に、無惨に潰された虫の死骸。
676鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/08 12:24 ID:tMk9ayUf

「ぅわっ!」

 高橋も思わず叫びながら目を逸らす。

「愛ちゃん! お願い・・・片づけてよぉ・・・」

「い、嫌ですよ私もぉ!」

 茶色い羽がまくり上がり、身体から黄色い体液がにじみ出ている何かの昆虫
の死骸。原形を留めていないが、高橋にとってはそれがゴキブリに見えた。

「でもぉ〜、今からこの食堂使うんだよぉ! 晩餐会がぁ!」

 ひたすらうろたえる石川。
 しかし高橋にしても田舎育ちとはいえ、こういったグロデスクなものは苦手
だ。二人で手を繋ぎあって、オロオロするばかりで打開策がまったく見あたら
ない。

(ああ、こんな時に男の子がおればなぁ・・・)

「梨華ちゃん、いるかぁ〜?」

 裏口から聞こえてきた脳天気な声。石川がいまだ困惑の表情のまま扉から顔
だけ出して目をやると、そこに吉澤が不思議そうに無人の厨房を見渡していた。


【65-石川と高橋】END
                       NEXT 【66-吉澤と石川】
677鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/08 12:43 ID:tMk9ayUf

>>667
ありがとーございます。「久しぶりに小説読んだ」とか
「今まで娘小説読んだことなかったけど」みたいなレスが一番
嬉しいわけで・・・
そのために飼育じゃなくて羊で書いたようなもんでして・・・

>>668
ありがとーござい。確かに長くなりそうなわけで・・・
でももう引き返せないくらい話が進んでいて、なんだか
鼻からスパゲッティを食べるとジャイアンに宣言してしまった
のび太君状態にも似ているわけで・・・

>>671
でもあまり泣ける描写は無いわけで・・・
泣けて笑えて、驚ける小説にしたいのですが力量不足なわけで・・・

なぜか純風味。

さしみのホームページ
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/

高橋のルーズソックス萌え(次スレ予定)
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50
678名無し募集中。。。:02/09/09 12:44 ID:M1lWjS4B
hozen
679名無し募集中。。。:02/09/09 19:28 ID:iZJWlrOr
保全
680AYAYA ◆AYAYA/l6 :02/09/09 22:00 ID:dzNoSZ7S
いつになったら完結するんでしょうか…
3年ぐらいかかったりして。。
681名無し募集中。。。:02/09/09 23:25 ID:8NllfLc+
それでもついていくよ保田
682 :02/09/10 06:16 ID:Q1xqcxpP
昨日会社でむしゃくしゃしてこのスレみつけますた。
自主的に半休をとりますた(w。今まで読んだ中で一番面白いかも。

でも作者さん余命1ヶ月の人間でも楽しめるようにしてください、おながいします。
683鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/10 08:12 ID:miJriT8Z

【T・E・N】 第66話 吉澤と石川

 薄暗い地下のワイン庫。
 裏口から入って左に行くと厨房、右へ行き階段を降りるとこのワイン庫だ。
当然一年中一定に温度・室温が保たれている。壁一面に並ぶワインの棚、その
ワインをケース単位で地下から1階、2階へ運ぶことが出来る小型エレベータ
ー。長期的に肉や魚を保管できる冷凍室などがある。
 石川と吉澤は今、二人きりで裸電球に照らされたこの部屋にいる。

 吉澤はすっかりそのワインの数に圧倒されて、そこらじゅうを丹念に調べ回っ
ている。逆に石川はこの部屋にほとんど足を踏み入れたことはない。冷蔵庫は
厨房にある一般家庭用のもので十分足りているし、加護も石川もお酒にはほと
んど興味がないのであった。

「梨華ちゃん、ほんとにつんくさんここのワイン好きなの飲んでいいって?」

「うん」

「・・・ウソだって。多分。このガラス張りになってるワインあるじゃん」

「えーっと、ロ・ロマニー・・・何て書いてあるの?コレ」

「ロマネ・コンティ。幻の赤ワインって言って40万ぐらいするよ」

「よんぢゅ・・・!」

「よし、今夜これにしよう」

「や、やめよーよ、よっすぃー・・・そんな・・・」

「ハハハ、冗談だヨ。サスガに」
684鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/10 08:12 ID:miJriT8Z

 つんくさんは私を試しているのかも、と吉澤は思った。
 夜の世界にもレヴェルがあって、ホンモノの客を相手にする場合にはごまか
しなど通用しない。吉澤は必死に自分の店レヴェルを上げるために勉強した。
その成果が今こうして役に立っているわけだが、もし知識が無ければ、何の気
兼ねもなくこの超高級ワインを口にしていたかもしれないのだ。

「おお〜いいねぇ。ジュヴレ・シャンベルタン。コレにしよっ」

「スゴイスゴ〜イ! なんでそんなにお酒に詳しいの、よっすぃ〜!!」

「え・・・何故って・・・水商売もー長いし・・・」

「?〜」

 石川は悲しそうな顔で首をかしげる。
 吉澤は事情を話した。自分の経営しているバーが普通のバーではないこと、
そこで得たもの、失ったもの、そして今はその生き方をまったく後悔していな
いこと・・・。
 何故か吉澤が「ウチの店は男子禁制だから、女のお客さんしかいない」と言っ
た部分で、石川はホッとしたような表情を見せる。

「あッ、でも今日のディナーはニク? 魚?」

「サーモンです」

「じゃあ白のほうがいいかなぁ」
685鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/10 08:14 ID:miJriT8Z

 そして再びズラっと並んだ棚の中から、自分の知っているワインを探す吉澤。
しびれを切らして石川が後ろの回した手をモジモジさせながら言う。

「ねぇ・・・用事って何なの?」

「うーん・・・さっきまでオレ裏庭にいたんだけどね・・・」

「裏庭って・・・噴水のある?」

「うん・・・梨華ちゃんが、ののを見たっていうトコロ」

「はぁ・・・」

 吉澤はそう言いながらも、目線はワインのラベルをなぞっている。

「いた? ののが」

「ううん、いなかった」

「ねぇ、ウチら見たの本当にののだったのかなぁ・・・」

「わかんね。それに5年前にこの屋敷で起こったことも気になるし・・・」
686鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/10 08:17 ID:miJriT8Z

 小川や新垣が遭遇したという「幽霊」の話と、コミュニケーションノートの
中で後藤が書いていた「あんなことがあったのでブルー」な話は多分同じなん
だろう。この屋敷でかつで何か普通じゃないことが起こったことは間違いない
のだが・・・。それが、どう繋がっているか分からない。

「ジャブリでいいっかぁ」

 どうやら吉澤は辻のことより、いつの間にか並べられたワインに関心が移行
しつつあるようだ。

「もう、よっすぃーったら・・・」

「あと、梨華ちゃん」

「え? 何」

「ますます可愛くなったよなぁ」

 ワインを片手で掲げて石川の方へ振り向き、クールな笑みを浮かべる吉澤。
 石川は耳まで真っ赤になった。


【66-吉澤と石川】END
                       NEXT 【67-高橋と加護】
687名無し募集中。。。:02/09/10 08:24 ID:iDD9oYXJ
>さしみさん
更新乙です

久々のリアルタイムに感動。
ところでゴキブリの死骸どうなったんだろ〜?
よっすぃ〜にやっつけてもらったのかな?
688671:02/09/10 10:37 ID:r77T55s2
見事に引っ張られましたね…
でもそれがこの小説のイイ所(w
もう十分、泣・笑・驚です!
余命一年でも、墓場より蘇り(略
689鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/10 12:51 ID:nLPKRm8K
66話はあまりにもヒドいのでそのうち書き直しますよ。
「温度・室温」って何よ(w

やはり朝はよくない。精進します。
レスありがとうございます。
690鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/11 00:05 ID:cSo0+Sky

次スレで66話の改訂版を掲載しますた。
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/66-70n

お褒めの言葉ありがとうございます。
っていうかオレ的に絶賛の嵐じゃないですか。
全米ナンバー1獲得できそうな勢いじゃないですか。
何のナンバー1か分からないけど。
長編化を危惧する声が多い中、作者的には
年内の完結を目指してがんがります、とだけ言っておきますよ。
んがー。
691名無し募集中。。。:02/09/11 21:26 ID:z7viDRpz
ホゼム
さしみがんがれ
692鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/12 08:02 ID:ZlhOUzQa
がんがるよ。
じっと待っている人、ごめんにゅ。
693sage:02/09/12 20:37 ID:nGMqjxp7
さしみ 年内に完結させろやゴルァ
694名無し募集中。。。:02/09/12 20:39 ID:ue36j4HI
100話逝きそうな悪寒
695名無し募集中。。。:02/09/12 20:54 ID:Xzx8v74O
>>693
sageってのは、メール欄に書くんだよ。

さしみ、マターリ更新でいいからさ、絶対に途中で投げ出さないでね。。。
そんなことになったら、不眠症で氏ぬヤシが大量に・・・
696鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/13 08:08 ID:3z7KhEat

>>693
年末に「保田の卒業までには完結したい」とか言っているかもな

>>694
第一部(解散後のメンバー編)で70話以上消費するからな。
第二部(事件編)も含めると100話いくよ。だめっすか。

>>695
すまん。今週は忙しかったんだ。連載当初はヒマだったのだが
あれよあれよというウチに会社で重要なプロジェクトを任されるように
なってしまった次第。今度の3連休は小説書こうと思う。プチこもりで。
あー言い訳カコワルイ。

タマちゃんでも見てなごめ。つーか、てめぇら動物園いけ。
697 名無し希望中。。。 :02/09/13 16:33 ID:JTpYr61z
まあ、全く気にするなとはいわんけど、放置だけはカンベンネ。
楽しみにしてる読者もかなりの数だし。
てゆうか、いまだに9月23日に何もおこらないことを祈ってる・・・
698名無し募集中。。。:02/09/13 19:07 ID:pDRpfZL/
俺は娘。が解散するまでに完結すりゃいいぐらいに思ってる。
完結さえしてくれればそれぐらいでも待つよ。
なんてすぐだったりして.....!
699名無しさん:02/09/14 18:30 ID:U3TW809b
100話行こうが150話行こうが構わないのだが、
年末までにはなんとか完結しておくれ。
人の心は移ろいやすいのだ〜…
700鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:43 ID:aM0btidS

【T・E・N】 第67話 高橋と加護

「どもっ!」

「愛ちゃん・・・」

「こんちゃんは?」

「矢口さんに誘拐されちゃいました。夕食の準備は順調?」

 そう加護に訊かれて一瞬、高橋は言葉に詰まってしまった。

「う・ん〜チョット遅れ気味だけど・・・豪華な夕食になりそーだよ。
 いま休憩時間を石川さんに貰ったんです」

「へ〜、ねぇここに座ってっ」

 加護は、そばにある一番大きな三人掛けのソファーをポンポン叩いた。
 指示されるままにそこに腰を沈める高橋。

701鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:43 ID:aM0btidS

 加護と高橋は微妙な関係だ。モーニング娘。に加入したのは加護が先だが、
年齢は高橋のほうが上。
 高橋が5期メンバーとして娘。の一員となったときには、すでに加護はファ
ンの間ではカリスマ的な人気を誇っていた。バラエティ番組に出演するときな
どは、5期メンバーに絡むことに消極的なベテラン組にかわって、笑い・ネタ
関係でも大きな評価を得ていた加護がイニシアチブを握り、いまだ垢抜けない
高橋たちを引っ張っていくことも多々あった。特にシャッフルユニットなどで
は、事前にネタ合わせをしたりと芸人魂をたたき込むことに余念がなかった。
 結局それでも加入してから1年半ほどの間、高橋は自分のタレント性の無さ
を痛感することがしばしばあった。加護らがテレビに順応しすぎていただけに
なおさら。

 だが、プライベートで二人きりになるとその加護の態度が一変する。姉に甘
える妹のように手を繋いできたり、買ったクレープを「ひとくちチョーダイ」
とじゃれてくる彼女に触れ、当初高橋は嬉しい半面、ひどく戸惑ったりもした。

(もしかしたら、このコは羨ましかったのかもしれない)
702鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:44 ID:aM0btidS

 モーニング娘。加入一年程が経過したころ、ようやく高橋はその行動原理に
ついて自分なりに整理することができた。
 一緒に行動することが多かった辻が、人目をはばからずに先輩やスタッフに
甘え、そして愛情をたっぷり注がれている姿を常にクールな視線で加護は見て
いた。嬉しい時には満面の笑みを浮かべ、悲しくなったときには目も当てられ
ないほど落ち込む、裏表のない辻の無邪気な表現に加護は憧れていたのだ。
 複雑な家庭環境に育ち、周囲の顔色を窺いつつ幼い頃から打算的に生きてい
た加護とはシメトリーと形成していた。姿形はとかく似ていると言われ続けて
いた二人だったが、その内面はまったく別でありワンセットに扱われることに
対して一時期、加護はかなり複雑な想いがあったようだ。
 あるいは遥々奈良から上京し、寂しがりやの加護にとって、親元で暮らして
いる辻が仕事の中でも甘えているのを見て、どこか腹立たしい気分になってい
た、という見方もできる。
 とにもかくにも加護の中にそんな複雑な感情が渦巻いていたときに、高橋ら
5期メンバーが加入してきたのだ。
 だから加護が当時求めていて、その願望にスッポリはまった「後輩だけど、
年上の娘メンバー」である、高橋に意外なほど甘えるようになったのはむしろ
必然だったのかもしれない。

 しかし、あの武道館の事件が二人の仲を引き裂いた。
703鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:45 ID:aM0btidS

 そして再会。高橋は自分の夢を追いかけるのに夢中で、ほとんど連絡もしな
かった加護に今さらどうやって接したらいいのか見当がつかない。

「この家ってゴキブリが多いの?」

 もう滞在して一週間にはなる加護に尋ねる。紺野を連れ去ったという矢口の
名前を聞いて、居間でコミュニケーションノートを読んでいたときの悲鳴を思
い出したのだ。

「ゴキ? ううん、私一回も見たことないんだけど・・・。さっき矢口さんが
 叫んでいたアレ?」

「ううん、さっきも食堂にゴキブリがおってぇ(居て)、吉澤さんに片づけて
 もらったんよ」

「ふーん、梨華ちゃんは大丈夫だった?」

「いやぁ。スゴい慌ててた。ギャーギャーって」

 加護は、その食堂での話を聞いて含み笑い。
 食堂で見かけた、無惨に潰された虫の死骸。パニックになる石川と高橋。そ
こへひょっこり現れた吉澤。彼女(彼?)は渋々になりながらも処理してくれ
たあとに、石川の耳元で何かささやいた。
 石川の表情が、なんとなく曇り空。
 しばらく考えた後「愛ちゃん休憩っ!10分!」とだけ告げて、吉澤と二人
で地下のワイン庫へと消えていった。
 一人厨房に取り残された形となった高橋は火元を確認し、紺野と加護のいる
はずの居間へ。だがそこにいるのは加護ひとりだけだった・・・。
704鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:46 ID:aM0btidS

「なんか石川さんは変わってませんよね。スッゴイ女の子らしくって。うん。
 男だったらあーゆーコを彼女にしたいって思うやろなぁ」

「へへへ、守ってあげたいってヤツ!?
 実際、梨華ちゃんったら私がイナイと何にも出来ないんだから」

「え?」

 加護の言葉を聞いて一瞬目を丸くする高橋。

(それって逆じゃあ・・・)

 しかし加護の口調からは冗談を言っている雰囲気は読みとれず、むしろ自信
に満ち溢れている。

「梨華ちゃん、変な様子とかなかった?」

「いえ、別に・・・」

「うん、晩餐会に向けて気合い入っているもんね」

「あの・・・? 石川さんが何か・・・?」

 加護は安心したような、それでいてもの悲しい目で、ソファに座っているか
つての仲間をじっと見つめる。時間にしてみれば5〜6秒だったかもしれない
が、それは高橋にとってえらく長く感じた。
705鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:48 ID:aM0btidS

「あのね、梨華ちゃんはね“やじろべえ”なの」

「??」

「すごく、スゴク狭い範囲でしか生きられないの。
 “やじろべえ”の足場みたいに」

 よく分からなかった。
 少し考えれば、その「スゴク狭い範囲」というのが「男のいない世界」だと
いうことに高橋は気が付いたかも知れない。が、加護の突飛な比喩にあっけに
とられて、石川のコンプレックスである男性恐怖症のことに言及しようとして
いるなんて、そこまで考えが及ばなかったのだ。

「でね、その狭い足場の上でも・・・あっちに傾いたり・・・こっちに傾いて
 倒れそうになったりで・・・だれかが側にいてやらないと危なっかしくって
 しょうがないの、梨華ちゃんは」

 加護はそう言いながら両腕を左右にぴんと伸ばして上半身をゆっくりと傾け
た。どうやら“やじろべえ”のポーズを真似ているらしい。
 微妙なニュアンスだったが、ようやく石川が精神的に不安定なことを遠回し
にこのコは言っているのだな、と少しづつ高橋は理解しはじめた。

「やじろべえっすか・・・」
706鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:49 ID:aM0btidS
 今日、ここに集まるメンバーのほとんどが何らかのコンプレックスを抱えて
生きている。
 歌が売れない、仕事がない、人前に出れない、歩けない、聞こえない―――。
 あまりにも大きすぎた「モーニング娘。」という存在。その重圧に耐えなが
らも、高橋は歌い続けるということで正面から立ち向かっていった。結果は決
して成功とはいえないが―――まだ発散する場が与えられただけ、ほかのメン
バーに比べればマシだったのかもしれない。
 歌いたくても歌えない娘。踊りたくても踊れない娘。

(“やじろべえ”ねぇ・・・)

 もしかしたら、そんなメンバーは石川だけじゃないのかもしれない。高橋は
そう思うとやるせない気持ちになる。

 加護を見つめる。彼女の視線は、いつのまにか居間2階の壁から泰然と二人
を見おろしている飯田画伯作の絵に張り付いていた。そういえば、と高橋は屋
敷に来る途中の山道で、絵の作者本人から聞いた「あること」を思い出した。

「ああ、加護ちゃん知っとる? この絵には秘密があるって」

「ヒミツ?」

「うんっ、なんか来るときの車ン中で飯田さんゆうとってんけどぉ、ちょっと
 した謎解きがあるんやって」

「え〜この絵に?」

「うん」
707鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:51 ID:aM0btidS

「何?ナニ〜? 教えて?」

「いや、私もわからんですよ。
 飯田さん、もったいぶって教えてくれんかったし」

 改めて高橋もその絵を見つめる。
 タイトル「未来の扉」。飯田圭織作。油絵。
 縦長のキャンパス。黒バックの中央には光輝く扉と、そこへ続く階段。
 その周囲を飛び交う二等身で描かれている13人のメンバー。
 背中には天使の羽。一番上にはリーダーの飯田がメンバー全員を見守るよう
に浮遊している。そこから時計回りに、矢口、紺野、高橋、保田、後藤、一番
下には手を繋いでいる加護と辻。吉澤、新垣、石川、小川、安倍。そこでよう
やくキャンパスを一周する。

(何か並び方に法則性でもあるのだろうか)

 高橋はどうもこういったクイズというか、頭の体操のようなものは苦手だ。

「う〜ん加護ちゃん分かる?」

「私も一週間ずっと暇なときボーっと見ていたけど・・・別に気になるところ
 は・・・」

「あっ! 分かった分かった!」

 いきなり高橋が右手を上げる。
708鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:52 ID:aM0btidS

「ええっ! 分かったの!」

「うん。この絵のヒミツはね『プッチモニメンバーは全員右手を上げている』
 よ!」

「・・・」

「でしょ? 加護ちゃん」

「あのー、愛ちゃん。
 お言葉ですけど・・・小川ちゃんも右手を上げているよ・・・」

「あ、ホントだ」

「・・・・」

「・・・・」

 高橋がションボリ口を尖らせた表情が加護には妙におかしかった。そんな謎
が分かったところで特に誇れることでもないと思うのだが、負けず嫌いの彼女
は何としてでもその謎を解きあかすんだ、という気概に満ち溢れている。
709鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 18:52 ID:aM0btidS

「あ!」

 そこで再び高橋が声を張り上げる。

「分かった!分かった! 『タンポポメンバーは天使の羽が重なっていない』
 だっっ!」

「・・・」

「・・・あ。こんちゃんと新垣ちゃんもそうだ・・・」

 高橋が自分で突っ込んでくれたおかげで、加護は何も言うことはなかった。


【67-高橋と加護】END
                          NEXT 【68-安倍】
710名無し募集中。。。:02/09/14 19:03 ID:mwuL1sdw
更新おつかれさまっす
飯田画伯の「未来の扉」見たいのれす…
711鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 19:05 ID:aM0btidS

誤解を招きそうなので一応言っておこう。
この物語は2002年6月から枝分かれした、もう一つの世界。
ゆえに現実の8月1日ハロプロ再編や、後藤・保田脱退も
なかったことになっているです。そうですあれは全部夢なんです。
うはははは人間がゴミのようだ!!(ラピュタ?)

でも微妙にネタとして現実世界のことを小説に取り込んであったりもするけど。

ネタ系で思い出したが、この小説を書いていて一番悲しかったのが
第29話(>>228-232)のオチに誰も突っ込んでくれなかったことです。
そっか、みんなこーゆーのキライなんかー、みたいな。(それ以前にくだらなすぎ)
第65話の石川が少しだけ「北の国から」入っていることに対して放置なのは
ある程度予想できたが。(ネタ的にはタイムリーだったんだけどね)

と、そんなことを言い出したらキリがないのでやめる。
作者自らネタ明かしすることほど、ムナしいことはないからな。

さしみのホームページ
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Bass/5818/

高橋のルーズソックス萌え(次スレ予定)
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50
712鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 19:28 ID:aM0btidS

>>697
放置はしない。小説が更新できなかったら
ネタを書いて消費する。ってそんなことやっているから残り容量が・・・
(512KBが限界だっけ?)このスレで第一部完結は無理か・・・
なお9月23日には後藤が横アリで卒業します。

>>698
あんまりマターリしていると、現実世界が小説を超越してしまうしなぁ。
一ヶ月ぐらい前の8月上旬、小説スレが「シラ〜」となったのを覚えている。
がんがるよ。

>>699
うむっ。そんなわけでなるべく更新ペースを上げていきたい次第。
まあ150話までいくと、毎日更新しても物理的に年内完結は
無理なわけだが。どうも1話あたりの話が長くなってイケマセン。

>>710
私には絵心がないので、だれかがAAで再現してくれることを
密かに願っている(w

つーか、自分。
3連休の初日、しかも夜なのにヒマなのか・・・!?
713:02/09/14 20:33 ID:B3g+orFv
うぉ〜更新されとる!
これからもがんがってくらさい。

PS。シメトリーて…
思わず笑ってしまったーヨ
714鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/14 20:58 ID:aM0btidS

symmetry=対称

カタカナで書くと変だ。
715名無し募集中。。。:02/09/15 01:15 ID:n8Fg5MRJ
>>714
それってシンメトリーだと思ってますた。
716鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 07:15 ID:oMqA9DCM

>>715
素で恥ずかしい作者なわけだが。
吉澤英語ではシメトリーなんだよ!(強引)

作者は中学の時まで「有頂天」をウテンチョーと読んでいた経歴アリ。
なので見なかったことに。
717名無し募集中。。。:02/09/15 09:01 ID:i3vcsH5x
>>716
落ち込むなさしみ!
自分も「雰囲気」をずっと「ふいんき」と発音してたYO!
718名無し募集中。。。 :02/09/15 10:56 ID:8IJtp19O
おれも「ふるさと」を「ふとるさ」と・・・
いやすまん。

719名無し募集中。。。:02/09/15 10:58 ID:sSKwvhyj
漏れも「新陳代謝」を「ち(r」と・・・。スマソ
720名無し募集中。。。:02/09/15 11:33 ID:V17p05+D
俺も「地元の駅」を「藤本の駅」...と。
721鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 15:18 ID:oMqA9DCM

【T・E・N】 第68話 安倍

 カーテンはすべて閉めきってあるし、室内灯の類も一切点いていない。夕暮
れどきということもあり、薄暗いを通り越してこの山奥では真っ暗闇といって
いい部屋。
 明かりをつけていないのは、そこが本来誰もいないはずの部屋だからだ。
 唯一の光源であるパソコンのディスプレイは、部屋の隅にあり左右を壁一面
のディスクラックに挟まれているため、カーテン越しに光が外に漏れるという
ことはまずないだろう。
 この部屋だけホテルだった頃の面影を残している他の客室とは違い、新品同
様の明るめのチークのフローリングや、うすピンクの壁紙等にこの部屋の主で
ある者の今風のセンスがうかがえる。パイプベッド、ガラステーブル、フェン
ダーテレキャスター、背の高い観葉植物―――。この部屋だけ見れば都心の高
級マンションの一室。

 だがこの暗い部屋で一人、パソコンチェアに腰掛けディスプレイに向き合っ
ているのは、その部屋の主―――つんく♂―――ではない。
 その女は、パソコンに映し出されている文字列をじっくりと凝視する。

722鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 15:18 ID:oMqA9DCM


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

  愛という字を辞書で引いたぞ

  ねぇ笑って

  叱られたってかまわない 体重計乗って

  もっと下さい愛を下さい 「じゃない!」

  ホイッ!

  本当の気持ちはきっと伝わるはず でも笑顔は大切にしたい

  どんなに不景気だって  「ほんまかいな〜」

              涙止まらないかも

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

723鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 15:20 ID:oMqA9DCM

 モーニング娘。や、そのユニットの歌詞の一部を羅列しただけの、テキスト
ファイル。
 そのファイルの名前は「20030709」。女はひと目で、その文字列が
「暗号」だと確信した。
 自分が求めている、例の「あれ」のありかを示す・・・。

(もちろん私も、モーニング娘。メンバーだった。
 この中には私のパートもある。だからこそわかる。
 これはもしかして・・・)

 それぞれの歌声を思い出す。
 汗だくに歌っている時のメンバーの顔が、次々と頭の中に浮かんでは消える。
 後藤・市井・保田・飯田・安倍・辻―――。

「!」

「あ・・・いっ・・・!」

 その女が「暗号」をついに解読してその内容に愕然とするのと、背後に人の
気配を感じたのがほぼ同時だった。
 振り向くと、安倍が口を半開きにしてドアの隙間から立ち尽くしているのが
薄暗いながらも確認できた。そして彼女は自分の名前を呼ぼうとしている。

(シーッ!!)
724鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 15:20 ID:oMqA9DCM

 女は慌てて、口の前に人差し指を立てて「静かにして」と伝える。
 お互い驚くのも無理はない。なにせ誰もいないはず、誰も来ないはずの部屋
に他のメンバーの姿を見つけたのだから。
 このドア、廊下を隔てた向こう側の居間ではメンバーが何も知らないでくつ
ろいでいるはず。ちょっと大声を出してしまっただけで、声が漏れてしまう恐
れもある。
 それはこの女の立てている計画が破綻することを意味する。

 安倍は胸に手をあててゆっくり深呼吸をしてから、暗い部屋に入ってきた。

(さすがに女優になって落ちついてきたのかな)

 以前の安倍なら「ナニやってんのぉ〜! こんな暗いところでコソコソとぉ
〜!!」と大声を張り上げてドカドカと大股で近づいてきたかもしれないが。
 釘を刺す意味も込めて、ディスプレイに急いで文字を打ち込む。もちろん例
の「暗号」の書いてあるテキストファイルは速攻で閉じた。
 安倍は女の隣りにまで、ゆっくりと近寄る。

 “静かにして”

 それを見て、安倍はゆっくりうなずいた。 

 なぜ鍵がないと入れないこの西棟1階に安倍が入ってこれたのか。

(もしかして、私と同じ方法で・・・?)
725鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 15:22 ID:oMqA9DCM

 安倍はパソコンデスクに半分だけ腰掛けるような形で向き合う。

 “どうやってこの部屋に入ってきたの”

 画面上に新たに打ち込んだその質問に、小声で安倍は返答する。

「・・・私この屋敷に来たの、実は初めてじゃないんだ。裏口の合い鍵の隠し
 場所も、実は・・・知ってるの」

(・・・!!)

「ねぇ、あなただから先に相談するよ・・・。
 実は私、あることをメンバーみんなに告白するつもりで今日ココに来たんだ」

 安倍がこの状況で・・・割と落ちついて話しかけてきているのが気になる。
もし逆の立場だったら、メンバーに隠れてこんな暗い部屋で何を企んでいるだ
この女は(実際その女は企んでいるわけだが)と、疑いの目を向けるのが普通
だろうに。

「ねぇ、聞いてくれる?」

 沈痛な面持ちで語りかけてくる安倍。その表情から、今から話そうとする内
容が軽い相談レベルではないことがヒシヒシと伝わってくる。

(なぜ私に・・・? よっぽど思い詰めているの・・・?)
726鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 15:22 ID:oMqA9DCM

 その女にとって、この一瞬でいろんなことが起こりすぎた。暗号を発見し、
それを解読してまた新たな謎にぶつかった。そして、誰も入ってこないはずの
つんく♂の部屋に安倍が突然姿をあらわし、相談を持ちかけてきた。安倍はこ
の部屋に何の用事があったのだろう? それも知りたい。しかし、あと30〜
40分もすればもう夕食が始まってしまうだろう。悠長なことは言っていられ
ない。ここに長居すればするほど、計画の破綻するリスクを背負うことになる。
 しかし安倍の真剣な眼差しから、今から彼女が話そうとすることがこの同窓
会に大きな意味をもたらすことになるかもしれないと、女は敏感に感じとった。
その好奇心がリスクにまさった。

 “どんな話?”

「あのね、もう思い出したくもないけど・・・あの5年前の武道館、解散コン
 サートの時の話」


【68-安倍】END
                          NEXT 【69-小川】
727鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/09/15 15:28 ID:oMqA9DCM

引きこもりっぷりを証明するかのごとく、この時間帯に更新。
微妙な表現続出の第68話なわけなんですけれども、例の「暗号」は
飯田の絵画と違って、ちゃんとノーヒントで解けるようになっているので
興味のある人は頑張ってね。まあモーヲタなら楽勝でしょう。

分かったところで今後の小説の展開にはあまり関係ないので安心だヨ★(キモ)
でもネタバレは勘弁。
728名無し募集中。。。:02/09/15 20:43 ID:wbEu7qxm
暗号わかんない…漏れモーヲタ失格?。・゚・(ノД`)・゚・。
729名無し募集中。。。:02/09/15 20:46 ID:CxZjhQZt
>>728
気にするな・・・俺もだ。
730名無し娘。:02/09/15 23:22 ID:IB786L0y
多分500kb超えると書き込めなくなりますよ。

高橋のルーズソックス萌え(次スレ予定)
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1029569171/l50
731鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

>>728-729
わかんなくても特に影響ないっすよ。気にせずに次いってみよう。
オイッスー!!

>>730
そっかぁ。あと1話ぐらいこのスレでイケると思ったんだけどね。
ちょうど70話分になるし。