6 :
小説:
7 :
第六話:01/10/16 00:41 ID:aEtBBOcm
お昼ご飯を食べ終わっても、私達は屋上でこの暖かさと涼しさを
楽しんでいた。
次の授業では同じ空気をどう感じるんだろう?
そんな思いがなっちにのしかかって、胃がちくちく痛む。
いけない。
私は首をふった。
檻は開いていたんだ。――あとは自分で出て行くだけ。
『あの子達、なんだか集まってるよ』
校庭を見ると、体操着の集団がだんだん増えて来たのがわかる。
…ふぅ。
なっちも早く着替えて行かなきゃ。
8 :
第六話:01/10/16 00:42 ID:aEtBBOcm
「じゃあ今日は昨日の続き。ただしパスの前にドリブルをしてから渡すこと」
いよいよ。
がんばろう。檻は、開いているんだから。
「それじゃあ、ふたりずつ組んで。はい、開始!」
あのっ。
私と――。
誰とも視線が合わない。
『なっちさぁ、声が出てないよ』
出してるつもりなのに。足も一歩も前に進まない。
それでもなんとか手を伸ばしたとき、後ろから小さく「豚はすみっこで鳴いてろ」って
声が聞こえて、なっちは動けなくなった。
9 :
第六話:01/10/16 00:44 ID:aEtBBOcm
変えられなかった。
結局私はひとりですみっこに居ることを選んだ。戻ろう、檻の中に。
少なくとも出ようとするより、出来る傷の数は少なくて済むから。
『あはは。豚は良かったね』
えっ。
…真希までそんなこと言うの?
『や。だって、ちょっと当たってるじゃん』
何も言えない。
悲しくなってきた。なっち、真希がわからないよ――。
10 :
第六話:01/10/16 00:46 ID:aEtBBOcm
真希はなっちにお構いなしにボールを地面に置くと、見よう見まねで足で操り始めた。
風がなっちの髪を崩して、真希がそれを大きくかきあげる。
『なるほどね』
真希はあっさりコツをつかんだようで、自在に操っている。一度空中にあげたボールは
なかなか地面に落ちなかった。
すごい。さっきまでの悲しさが飛んでいっちゃうくらい、真希は上手だった。
なっちの身体でもこんなにできるんだぁ。体育なんて何をやってもダメだったのに。
汗がにじむ。風と陽光が身体を通り抜けて行く。
『私もやりたいな。みんなやってるの』
11 :
第六話:01/10/16 00:47 ID:aEtBBOcm
ふと気がつくと、みんなが見ていた。――先生までも。
『いるじゃん。ひとりの人』
「すごいな、安倍。どこかで特訓でもしてきたのか?」
その問いには答えず、真希はボールを蹴りながら先生に近づいた。先生の「相手が
いないのか?」の問いに真希は何度もうなづく。
「安倍、声はどうした?」
『なっち、話して』真希にせかされて私は声を振り絞る。
「あのっ。お相手、お願いします…」
残り時間は先生とパスをして過ぎ去った。
――体育の時間がこんなに早く感じたのはいつ以来だろう。
気持ち良い。風も太陽も輝いて見えた。
たまには運動とかしようかな?
『あはは。良いね』
真希は真上にボールを蹴ると、両手で受けとめた。
12 :
SN:01/10/16 00:50 ID:aEtBBOcm
乗っ取り記念にコテハンにしました。
本当は「気分が悪い」って言われそうな場所が終わったら名乗ろうと
思っていた(いやらしい)のですが、私のもう1このコテハンが
他の人に使われちゃってちょっとショックを受けたんで。
これって結構驚きです。(O^〜^O)@狼クンの気持ちが今、よく解りました。
まぁこちらのは悪気は無さそうだったんですけど…。
>前スレの79
長文ありがと。あなたの書込みは、このスレを見る楽しさを倍増させてくれるよ。
しかし困った事に自分じゃ波に乗れてるかどうかはさっぱり解らないんですが。
>前スレの80
どうもです。残念ながら間に合いませんでしたが、気持ちが嬉しかったです。
13 :
。:01/10/16 23:11 ID:ci+VlNn/
。
一日の終わりを告げるチャイムが鳴って、教科書を鞄に入れながら思う。
今日は昨日とすべてが違った。
なっち自身だけじゃなくて、まわりも変わりつつある。
ありがと。すべて真希のおかげだね。
『そう? なにも大したことはしてないと思うけど…』
違うよ。その大したことじゃないって思うすべてのことが、なっちの
今日を今までと変えてくれたんだから。
やっと鞄にしまい終えた頃にはもうまわりに人は居なくなってて、やや暗くなった
教室になっちの影だけが長く伸びていた。愛おしい静かさ。
でも急がないと。
お金を払いに行きたい。お姉さん――じゃなくて裕ちゃんに会いに。
『お金?』
そっ。真希の代金。
真希がえっ、と高い声を出して、私はあははっ、と笑った。
15 :
第七話:01/10/16 23:15 ID:ci+VlNn/
急ぎ気味に階段を降りて靴箱の前に来た。外靴を取り出そうとしてはっ、とする。
本当にこのまま何事も無く終われるの?
記憶がよみがえる。濡らされた靴、砂を詰められた靴、隠された靴。…。
『そんなことあったんだ』
うん。私は目を閉じて靴箱を開け、軽く息を吸ってから片目だけ開ける。
「…あった」
ちゃんとあって、しかも朝から変わっていなく見える。
終わった。本当に今日は終わったんだ――!
すべてが輝いて感じて、顔が勝手に笑っちゃう。
今日を思い出しながら靴を履き替え、上靴をしまった瞬間。靴箱を閉じる音と
同時に、なっちを呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声は振り向かなくても誰からか解る。矢口さん…。
「安倍ちゃん、待ってたんだ。ね、ちょっと良いかな?」
なっちが振り向くとそこには、極上の笑顔があった。
16 :
SN:01/10/16 23:17 ID:ci+VlNn/
[1]
娘。が気になり出したのは、うたばんが面白かったのとギャル矢口が
可愛いかったからなのですが、羊に来るようになった頃にはすっかり
石川梨華に見せられていたのでした。
一番好きだったスレッドは今でいう「いしよし」スレ。
当時は SR というコテハンで何個かネタを書いたりしてました。
由来は好きだったバーチャファイターの鉄人、新宿ジャッキーをもじって
考えた新宿+梨華っち=「新宿りかっち」があまりに恥ずかしかったけど
バーチャ風味を残したくてその頭文字だけを使ったというものでした。
J022124.ppp.dion.ne.jp
以前ここで後藤真希のファン(妄想のふり)を装ってスレ立てた
ジャニーズファンのリモホ
18 :
。:01/10/18 23:03 ID:u0o/nUfj
。
19 :
第七話:01/10/18 23:05 ID:u0o/nUfj
「なんか私さぁ、安倍ちゃんのこと誤解してたかも」
矢口さんが微笑みながら近付いてきて、なっちの胃がちくちく言い出す。
怖い。空気がまとわりつく嫌な感じがして少し暑い。
「今までさ、私達、あの」そう言いながら矢口さんは私の手を握る。「安倍ちゃんの
ことをさ、その…すっごいグズな子だと勘違いしてたみたい」
「うん…」私の顔がまたへらへらとしだす。時の進みが遅く感じる。
「だからさ、みんなで謝ろうと思って――ね?」
『へぇ』
小首をかしげて矢口さんが私の左手をひっぱる。嫌だ、行きたくない。
「あ、うぅん。良いよ。別に…」消え入りそうな声なのが自分でもわかる。
「え!? なに? よく聞こえなかったんだけど」
20 :
第七話:01/10/18 23:06 ID:u0o/nUfj
その言葉で胃がずきっと痛む。
玄関には誰も来ない。時間は進んでいるんだろうか――?
「気にしてないから良いよ…」
「そんなこと言わないでよぉ。向こうでみんな待ってるんだからさぁ」
矢口さんが強く引く手は、断る自由をなっちから奪う。足が動く。
『行きたくないなら行かなきゃ良いのに』
真希の言葉に下口唇をきゅっと噛んだ。
出来ないよ、そんな事。もし行かなかったらどうなるか考えたくないもん。
『ふぅん。まぁ、なっちも笑ってることだしね』
それは…。
矢口さんに連れられて歩く途中でガラスに映った顔は確かにへらへら笑ってて
私はすぐに目をそらした。
21 :
第七話:01/10/18 23:07 ID:u0o/nUfj
校舎の横を手を繋いだまま歩いていた。校庭からかすかに運動部のかけ声が
聞こえるけど、周りにはなっちと矢口さんの姿しかない。
「安倍ちゃんさぁ、サッカーの特訓したんでしょ」
「うぅん、してないよ」
「またぁ。超上手かったじゃん。特訓して見返そうとか思ってたの?」
「そんなこと思ってない…」
「マジで見返せたと思ってる?」
『なんかひっかかる言い方だね』
矢口さんの言葉のひとつひとつが突き刺さるように痛かった。ちょっとでもスピードを
落とすと、矢口さんは力を入れて手を握り返してきた。
玄関前での好意的な口調も少しずつ薄れている。謝りたいって言ったのに。
見上げた空の薄暗さがなっちの気分そのものに思える。
もしかして今日は、これから始まるのかも知れない――。
22 :
SN:01/10/18 23:09 ID:u0o/nUfj
誰も見てない訳じゃなくて、見た人は何もなかったかのように
通り過ぎていっていることが発覚。まだ続けますが。
[2]
人の小説を見ているうちに自分でも書きたくなって、書きました。
もちろん当時一押しの「いしよし」。評判はまぁ、静かなものでしたけど
書くことにはまってしまい、終わりが近くなった頃にはすぐに次を
書く気満々でした。アイディアも無かったくせに。
そんな時にふと目にした書込み。
「なちごまの小説って全然見ないよな」(こんな感じだった)
なるほど。この瞬間に次回作の主人公は決定したのでした。
23 :
SN:01/10/19 23:23 ID:ccqwdCMO
[3]
その直前、夢中になっていたスレッドが2つありました。
1つは小説投票スレッド。ここで「エスパー真希」に出会えたことが、ここに来て
もっとも素晴らしかったことだと思う。
2つ目はチャーミーがほいっと答えますスレッド。このスレッドもとても暖かくて
それでいてギャグも面白く、とても居心地が良かったのでした。
(最近は流れが早すぎて全然ついていけないのですが…)
ここを見てるとまた悪い病気が出て来ました。自分でもやってみたいなぁ…。
24 :
。:01/10/21 00:09 ID:jvMKpode
。
25 :
第七話:01/10/21 00:10 ID:jvMKpode
校舎の陰にまわって、やっと私達の他に人影が見えた。
同じクラスの保田さんと隣のクラスの飯田さん。
「おぅ。矢口、お疲れぇ」
「オッス」
「遅れちゃったね。安倍ちゃん遅くてさ」
「いっつもじゃん。何やらせても遅いよなぁ」
飯田さんがそう言って、みんな笑った。なっちもうつむきがちにへらへら笑う。
早く終わってほしい――それだけを願って。
『あはは。そう言えばなっち、着替えもお風呂も遅かったよね』
真希の言葉だけが優しさに満ちてて、私はすっと落ち着く。
そうだ。ひとりじゃないんだ。
そう思うと力が少しだけ湧いて、顔を上げられた。目に飛び込んでくる光り。
26 :
第七話:01/10/21 00:12 ID:jvMKpode
「まぁ、それより今はね」矢口さんが飯田さんと保田さんを交互に見ながら言う。
「安倍ちゃんと私達の仲直りが目的だから」
「無礼講ってことでさ、今まで言いたかったことを語り合おうと思って。ね?」
保田さんのその言葉で三人はくすくす笑った。
やっぱり。最初からわかってた。
もう先も読めちゃったよ。
「安倍ちゃん、うちらに言いたいことある?」と聞かれて私は首を振った。
目立たない場所。暗いのは光が射さないだけじゃない、と思う。
「じゃあさ、うちらから言うね」最初は保田さんだった。「私さぁ、ずっと安倍のこと
居なくなれば良いのにって思ってたんだ。ゴメンネ」
27 :
第七話:01/10/21 00:13 ID:jvMKpode
『なるほどねぇ。私にもわかったよ』真希の感心した口調。『変わらないね、人間の
やることは。…って言うかさ、やっぱり千年経ってるって嘘じゃない?』
うぅん。本当に千年経ってるんだよ。たださ。
――きっと人間が変わってないんだよ。弱い人間も、強い人間も。
「安倍ちゃんの鞄でサッカーしちゃいました。ごめんねぇ」
「私、安倍の靴をうっかり水に浸しちゃったぁ。ホントごめん」
エスカレートしていく。私はうつむいてただ首を振るだけだった。
「許してくれるんだ。安倍ちゃんって優しいなぁ。ねぇ?」
「うん。私だったら泣いてる。安倍はこのくらい平気なんだね」
「って言うかさ、もっとやって欲しいくらいに思ってるんじゃん?」
全ての言葉が聞こえない。早く時間が過ぎて――!
『もうさぁ、こいつら放っておいて帰ろ』
28 :
SN:01/10/21 00:19 ID:jvMKpode
進みません。
[4]
と言う訳でさっそく作ったのが、なっちが質問に答えるスレッドでした。
しかも「なっちが優しく答えるっしょ」と言ったあんまり記憶に残らない
名前。新宿りかっちから新宿なっちと言う考えの無い名前の決め方で。
おかげでしばらく質問に答えつつ小説書きつつの状態になりました。
振り返って見ると一番2ちゃんに燃えていた時期でもありました…。
29 :
。:01/10/21 23:24 ID:yys2VSNY
。
30 :
第七話:01/10/21 23:26 ID:yys2VSNY
待って、真希。もうすぐ終わると思うから。お願い、過ぎ去るまで――。
「ずっと安倍のことむかついてたんだ」
「サッカー憶えたからって調子に乗ってんな、豚」
「あはは。矢口、それ謝ってないから」
私はとうとううつむいたきりで、首を動かすのもやめてしまった。
「朝もさぁ、人の机に花瓶置きやがったじゃん。何様のつもりだって」
「あぁ、あれはむかついたね。こいつ殺すって感じだった」
「なんか許せなくなってきたな。やっぱ仲直りやめっか」
『もう苛々してきた。なっちが帰らないなら、私が帰るからね』
なっちが止めるのも聞かず真希は歩き始める。
「まだ終わってないだろ」矢口さんはなっちの肩をつかんで顔を覗き込む。「勝手に
帰ろうとすんなよ。…泣けば許してやるかもだけどさ」
閉鎖された空間に風が吹いて、私の髪を揺らした。真希がまた左手でかきあげながら
つかまれた肩をにらむ。
『…何だよ、この手』
31 :
第七話:01/10/21 23:27 ID:yys2VSNY
スイッチが入ったようにすべてがスローモーションになった。
真希の左手が矢口さんの頬を叩き、返す手で襟首をつかみ仰向けに倒す。
「いって…」と言いかけた矢口さんの首に右足を乗せて力を入れると、その声は
途中で「ぐっ」とつまった。
『気安く触んじゃねぇよ』
誰もが呆然とする中、氷のような声が頭の中に響いて私の金縛りが解ける。
ねぇ真希、何が、どうなったの?
『お仕置き』
そう言って真希は右足に体重を乗せる。矢口さんが苦しげに咳き込む。
まだ足下の光景が信じられない。勝手に動く左手と右足に現実が消えていく。
…嫌ぁ。
32 :
第七話:01/10/21 23:29 ID:yys2VSNY
いつの間にか、こんなに暗くなってた。
「何してんだよっ! 足どけろっ」次に呪縛がとけた保田さんが私に向かってくる。
真希はその手をかわしながら保田さんに左手を伸ばす。
なっちの指先に触れるやわらかい感覚と、なにかを突き破る感覚。
嫌だ。
「いっ、てぇ…!」
うずくまって顔を押さえる保田さんの目から、血が二本流れたのが見えた。
そのあまりの赤さに血の気が引く。
「…嫌だぁ」
真希。お願いだから。もう良いでしょ。やめてよ! やめて!
『いぃや。まださっきまでの苛々は取れないね』
顔をあげると、真っ青な顔の飯田さんと目が合う。
『まだあいつが残ってるじゃん』
真希は口唇を舐めた。私の口唇を――。
33 :
SN:01/10/21 23:30 ID:yys2VSNY
やっとここまで来たよ。…いつから書いてるんだっけ?
[4]
新宿なっちに愛着が湧いたので、小説用のコテハンを
新宿りかっち略してSRから新宿なっち略してSNに変えてみました。
偽物とか言われてびっくりしたんですけど。
まぁ、そのまましばらくまったり続いて、なっちが答えるスレッドも
パート2になったり小説もまったり続いたりするんですが、ここで突然。
羊が一時閉鎖になったのでした…。
34 :
SN:01/10/23 00:35 ID:OSHmhsoL
さかのぼって見たら始まっておよそ一ヶ月経ってました。いつの間にか。
[6]
今思えば、新宿なっちはあの時には役目を終えてました。
親の欲目みたいな感じで気がつかなかったけど、他の人からの終了宣言を
受けて初めて冷静に気がつきました。
最初見たときは動揺したんですが、今は冷静に受け止められます。
私ではできなかったことをしてくれてありがとう(●´ー`●)
35 :
。:01/10/23 00:39 ID:OSHmhsoL
。
36 :
第七話:01/10/23 00:42 ID:zKXOWyBJ
勘違いしていた。
真希は、こんなにも子供だった。
気まぐれに笑ったり怒ったりして、時には残酷に他人を傷つける。
――誰にだって痛みも感情もあるのに。
千年の時を経て得たのは、どんな現実も受け入れる心?
真っ白の空間で学んだのは、無関係のことは静観しようって気持ち?
なっちにはそれはとても大人に見えたんだよ。
強くて優しい真希。
…誰もいなかったから?
誰もいなかったから、他人にも痛みがあるってことを忘れてきちゃったの?
真希を抱きしめようとした私の手は、ぴくりとも動かせなかった。
37 :
第七話:01/10/23 00:45 ID:zKXOWyBJ
「…ろよぉ」
大きな声が響いて、意識が現実に戻された。
「足どけないと、矢口、死んじゃうだろぉ…!」
飯田さんが泣いていた。なっちの胸が大きく鳴りだす。友達を思っての涙。
ねぇ、真希はあの目を見てもなにも感じないの――!
『感じない。って言うかさ、自分だったら嫌だって思って泣いてるだけだよ』
「やめてよぉ…お願いだからさぁ…」
飯田さんの言葉のリズムに合わせて、真希は右足に力を入れる。その度に矢口さんの
のどから「ごほぉ…!」と咳がした。
矢口さんの顔は紫色に近くて、なっちの右足を握る手にはほとんど力がない。
真希が三人を見渡す。
もう誰の顔にも向かってくる意志は感じられなかった。
『あれっ、もう来ないの?』
38 :
第七話:01/10/23 00:46 ID:zKXOWyBJ
『じゃぁ…』
真希が右足を矢口さんののどから放す。開かれた矢口さんの目は潤んでいた。
飯田さんの涙は止まりかけていて保田さんは目を押さえたまま動かない。
もう時間の経過も解らないけど、やっとすべて終わろうとしている。
ふいに。
真希が空中に上げた右足をひざの高さで止めた。
「あっ――」
私の心臓がまた痛いほどに鳴る。三人も気付いたようで顔がこわばっていた。
真希、やめ…。
『これで終わりっ!』
「嫌ぁっ…!」
右足がまだ倒れている矢口さんののどに向かって降り下ろされた――。
39 :
SN:01/10/23 23:25 ID:6l6UrDRa
読まれていなさそうなのは、スレ名のせいってことにします。
[7]
何が言いたいんだかサッパリわかんないね。
長いつきあいだった「新宿なっち」に自分からもありがとうって
言いたかったんだ。こっちも楽しませてもらったから、ね。
40 :
マゾです:01/10/24 21:01 ID:yCfJx4AC
後藤の新曲ってパクリだったのかよ
41 :
名無しさん:01/10/24 21:02 ID:5Gkabpkl
そんなこと絶対にあり得ない、
石川がさすがごっちんって言ってたし
43 :
。:01/10/24 23:13 ID:i+br2KnU
。
44 :
第七話:01/10/24 23:13 ID:i+br2KnU
すごく静かになった。
また校庭から運動部のかけ声が聞こえだして、まだそんなに時間は経って
なかったんだ、なんて考えが一瞬頭をよぎる。
薄暗くてもはっきりと見えた。
私の右足は矢口さんの首をかすめて真横に降りた。
矢口さんは失神していた。保田さんは傷ついてない方の目を見開いていた。飯田さんは
地べたに座り込んでいた。――誰も口を開かなかった。
『あははっ。気絶とかしてるし』
真希が笑って矢口さんの頭を軽く蹴るのを、なっちには止められない。
…本当にそう?
なっちの胸にわき上がる不思議な気持ち。
『帰ろっか』
私達は三人の間を通り抜けて帰った。一度も振り返らなかった。
45 :
名無しさん:01/10/25 05:54 ID:PXJkKiI2
続けてるんならどっかで告知くらいしてくれい。レス返されても分からんぞ。
してて見落としてたんならゴメソ。ざっと流し読んだだけなんで感想はまた今度。
今んとこ波にはのれてると思うよ。
>>45 ありがとう。
47 :
名無しさん:01/10/25 13:32 ID:MO0OKcIc
SNさんの小説はかなり好き。
でもまさか、あの矢口小説もSNさんだったとはね。
あの罵倒のされかたは凄かった。俺としては全然OKだったんだけど。
この小説もまたキツそうでいい感じ。期待。
48 :
SN:01/10/26 00:45 ID:if2a+SqU
せっかくなんでコテハンはそのままで。
>45
もう誰にも気付かれずに消えていくと思ってました。
ありがと。ってかよく見つけたね。
>46
すまんす〜。実はどこにも告知してないんです。
最初っからグチとか言ってたりして、
自分で言ってまわるのがちょっと恥ずかしかったんで。
で、なんかズルズルと今日まで来てしまったよ。
変わらず読んでくれてありがとう。
>47
ありがと〜。「まさか」って程でも無いと思うけど。
私も全然問題なしだと思って書いてただけに驚いたです。
でもまぁ、話題の「彼」のスレッドの荒れ具合には負けますけど(笑)
49 :
前の67:01/10/26 01:16 ID:ZJncM6M5
45に感謝
小説総合スレ見てやっとたどりつきました。
楽しみにしてたのに、こっそりやってるなんて……。
見付けたからには、がむばってください。
50 :
名無しさん:01/10/26 23:59 ID:xT70uK6U
あなたの作品はいつも気に入ってますよ。
応援します。
51 :
やまだぁ:01/10/27 14:10 ID:w/aDmO7G
このお話好きです。
頑張って下さいね、応援してます。
保全してみたい
ほゼム
がんばれ 保全
55 :
sage:01/10/31 03:52 ID:nsiLB4S3
保全
いけねえ上げちまった。
逝ってきます。
57 :
名無し募集中。。。:01/10/31 05:00 ID:bd8amRij
| \
|Д`) ダレモイナイ・・パクルナラ イマノウチ
|⊂
|
♪ Å
♪ / \ キッスシターッテ
ヽ(´Д`;)ノ ダッコシターッテ
( へ) ナンカタンナイ ナンカタンナイ
く
♪ Å
♪ / \ ドッコニモ イカーナイッテ
ヽ(;´Д`)ノ ・・・・・・・・・・・
(へ ) アッフレチャーウ ビーイーン ラーーー
>
58 :
。:01/10/31 23:53 ID:N8/oBAWj
。
帰り道。
学校から少しずつ遠ざかって、時間が経つにつれて現実味が増してくる。
――怖くなってきた。
私達のしたことは、いったい何だったの?
仕返し、なんてレベルじゃない。取り返しのつかない、許されないこと。
陽はもう完全に落ちてしまって、まるで後をついて来た影に包まれたように暗い。
『こっちまで暗くなるから違うこと考えてよぉ』
そうもいかないよ。
私の頭にさっきの光景がよみがえってくる。
血を流す保田さん、目を見開いて泣く飯田さん、苦しそうに咳込む矢口さん。
そして、微笑みながら見下す私達――思い出されて胃がぎゅっと痛む。
『良いじゃん。目の血はまぶたを切っただけだし、あの踏んだ子だって』
真希は笑って続ける。
『骨の一本だって折れたわけでもないしね』
…違うの。怖いのはそっちだけじゃないの。
60 :
第八話:01/10/31 23:54 ID:N8/oBAWj
本当に矢口さんを踏んでいたら殺してしまったかも知れないのに、一瞬だけとは言え
気持ちがすぅっとしてしまった。
高校入ってからずっと続いてたいじめ――だからと言ってそれを自分に言い訳して
真希に流された私は許されてはダメになると思う。
私は強くなりたかったけど、それ以上に失うものがあったら意味がない。
だからこそ真希の最後の行動は、なっちにとっての希望の糸。
私は歩くスピードを落とす。
…真希、聞きたいことがあるの。
『んっ?』
最後、矢口さんの…身体を踏まなかったのはどうして?
私はつばを飲み込む。
『あぁ。こっちの足のほうが痛くなりそうだったしさ』
真希のその答えに、私は立ち止まってしまった。目の前がなにも見えないなる。
私達を繋ぐ希望の糸は――。
61 :
SN:01/11/01 00:00 ID:IQSovjtk
遅ればせながら更新。なんか書けなかったです。
ところで、誰も新宿なっちの事に触れてくれないのはなぜ?
驚かれたかったのに。
>50
ありがとうございます。もしかしていつもの人?
あの、例のやつは、ちょっと難しいかも…。
>51
ありがとです。嫌な気分にさせてなければ良いですが。
>52-56
迷惑かけます。遅筆ですみません。
>57
歌が変わってるところが良かった。
ところでその歌ってパク(略
小説スレとカップリングスレしか読んでない自分にはわかんないです>新宿なっち
63 :
。:01/11/01 23:18 ID:1iOdvpH+
。
64 :
第八話:01/11/01 23:19 ID:1iOdvpH+
『まぁ、殺すこともないかなって思って』
急に見えた。必死にその糸をたぐりよせつかむと、すべてが開けた。
期待した答えは真希なりの優しさで、今の答えからも感じられたと私は思う。
私が受け入れた希望は「モノ」じゃなくて、真希という「ヒト」なんだ。
――まぁ、人間じゃないけど。
信じよう。一度はやっていけると思ったんだし。
『さっきから何を考えてるのさ?』
その声を合図に私はまた歩き出す。
あのね、もし真希が矢口さんを踏みつけるつもりだったならさ。
『うん』
裕ちゃんに言って真希と別れさせてもらおうかなって考えてたの。
『えぇぇっ!?』
十歩も行かないうちにまた立ち止まる。今度は真希だった。
65 :
第八話:01/11/01 23:19 ID:1iOdvpH+
『嫌だよぉ。またあの中に戻るなんてぇ』
真希のちょっとわざとらしい声が、なっちの気持ちを明るくしてくれる。
もう考えてないよ。
『本当に?』
本当。そう言ってなっちが歩こうとしても足は動かない。
『じゃあ、なんで家と違うほうに向かってるのさ』
お金を払いに行くっていったじゃない。
『実はそれだけじゃないんでしょ。なっちのためを思ってやったのにさ』
それは嘘っぽいかな。
『まぁ、苛々したのは事実なんですけどぉ…』
私は笑って歩き出した。取りあえずあの人達のことは忘れよう。一応は終わったんだし。
前を見ると小さな光が繋がって一本の道になっている。そんな頼りなさ気な街灯を
頼りに私達は暗い坂を降りて行った。
66 :
SN:01/11/01 23:21 ID:1iOdvpH+
>62
そっかぁ。両方のスレ見ていた人は少なそうだ…。
あらら残念。
おお。
二日続けて読めるなんて。嬉しい。
嬉しいけど、あんまり無理しないで、マターリやってください。
乗ってる時は書けちゃうのかもしれないけど。
あるときは「良い人だね。心が暖かくなるよ」と言われ、
またあるときは「気分悪くなる。最低」と罵られる。
しかしてその正体は!
てな感じかね。
色々読んでたんで、そのギャップにビックリだあね。
>>61 >もしかしていつもの人?
>例のやつは、ちょっと難しいかも…。
このスレの50ではないんですが・・・
「いつも」「例のやつ」を注文してる者です・・・
すみません、毎回しつこく
プレッシャーを与えるようなコトを・・・
(こないだも別のスレで言ってしまいましたが…)
あの頃、新宿なっちをやりながら
小説もほとんど毎日更新してたコトを考えると・・・
ホントにすごいですね・・・ビクーリした・・・
( ´D`)ノ<がむばってくらさい
ほぜーん
24H経過につき保全
ほぜむ
73 :
。:01/11/06 23:12 ID:atMoliYE
。
74 :
第八話:01/11/06 23:13 ID:atMoliYE
無い。
いくつ坂を往復したかわからないけど、お店はみつからなかった。
『道を間違えちゃったとか』
まさか。
暗くたって見逃すわけない。あんなに素敵だったのに。
レンガ造りの壁も、巻き貝のような屋根も、両開きの扉も――!
なっちの足がだんだんと早足になる。息もあがる。
「あっ…」
走り出しそうになる直前で、私は止まった。
ふいにわかった。無いんじゃない。見えないんだ。
なっちには希望が――真希がいるから。
『ふぅん。よくわかんないけどじゃあ帰ろっか』
…うん。
離れる方法もこれでわからなくなった。
帰る途中に一瞬、嫌な考えがふたつ頭をよぎって、私はそっと振り返る。
もしも。
75 :
第八話:01/11/06 23:13 ID:atMoliYE
もしもなっちが真希と上手くやっていけないと思っていたら、なっちは
お店がなかったときにどう思っただろう。
この、自殺もできない身体でどうしたんだろう――?
私は頭を振って嫌な考えを思いついた速さで追い出した。
行こう、このままで。
良くも悪くもなっちの時間は動き出した。止まってるよりずっと良い。
「真希、帰ろ」
『どうしたの? わざわざ声に出して』
「何となく、ね」
76 :
第八話:01/11/06 23:14 ID:atMoliYE
家の前にお父さんの車はなかった。
私はそれでも聞こえないように「ただいま」を言い、音をたてずに部屋に入り
鍵を占める。
私はすぐに振り返り机の上の手鏡を手に取った。
良かった、あった。
裕ちゃんのお店がなかったときに疑ったもうひとつの可能性。すべてが――
『私がなっちの精神が生んだ別の人格だって言うの!?』
真希は言うそばから笑ってた。
『なっちがどこをどうしたら私を考え出せるのさ』
そんな言い方しなくて良いじゃない。
私は口をとがらせながら脱いだ制服を投げ捨てた。
77 :
第八話:01/11/06 23:14 ID:atMoliYE
――死んじゃうだろぉ…!
夕方の出来事が目の前にちらつく。考えたくないのについ考えちゃう。
――安倍はこのくらい平気なんだね。
そんな訳ないよ。私は電気を消してベッドに潜り込む。
『良いね。眠るの好き』
真希の言葉に私は答えない。
――調子に乗ってんな、豚。
眠ろう。今までのことも先のこともなにも考えないで済むから…。
そう思ってふとんを頭までかぶった時、ノックの音が聞こえた。
「…はぁい」
「なつみ、晩ご飯よ」
後で食べる、と言おうとした私の身体が起き上がる。
『眠るのは好きだけど、食べるのは大好きなんだよね』
78 :
SN:01/11/06 23:23 ID:atMoliYE
なんか自分でも読み返す気力のなくなるダルさ&長さな気が
してきました。ちょと申し訳ないです。
>67
ありがと。でも無理はしてないよ。ゆっくり頑張ります。
でも書くのはゆっくりでも良いんですが、話の速度は上げたいです。
>68
そんな言葉を待ってました。驚いてもらえたなら満足満足です。
まぁ、矢口小説はまったく予測しなかった酷評だったんですけど。
>69
いつもどーも。例のブツですがどうにも進みません。矢口ごめん。
ビックリありがとです。おかげであの頃は2ch依存な生活送ってました…。
>70-72
どうもありがとうございます。
そのひと書込みが頑張る原動力になります。マジで。
更新ハケーン。鬱なっち萌え
昔書いてたって奴は今どっかで読める?正直、読みたいんだが
81 :
名無しさん:01/11/07 17:43 ID:LFWfAhOe
>>79 上記の「ペ(略」のリンクから類推してみれば、何らかの収穫が…
(他サイトの間借りらしく、トップからリンクされてないのでこれ以上は言えない)
82 :
80:01/11/07 17:48 ID:Kpsg9gKa
83 :
79:01/11/08 08:24 ID:mF4379fT
>80-81
おおどもです。あたしの声、あなたに届いてますか?
だけ読んだことあった。この人のだったのかあ
これ、好きな小説だっただけに得した気分だ。あり
84 :
ねぇ、名乗って:01/11/09 00:51 ID:bMt0P9lZ
え、ホントにパクリなの?
ほぜんっと
保全だな。
続きをマターリと待とう。
87 :
第八話:01/11/11 23:48 ID:sVdLjEv2
お母さんとの静かな食卓で、真希とテレビだけが騒いでいた。
『これもすっごく美味しいねぇ。何て言うの?』
…カルボナーラ。
『甘いね。昨日のはんばぁぐよりも好きかな』
もっと太りそうだけどね。
またなっちが動かなくても真希が食べさせてくれたんだけど、お母さんは
別に変に思ってるようでもなかった。
「学校はどうだった?」
お母さんの問いかけに私は「別に何もなかった」と答える。
『ふぅん。今日みたいなことって実はよくある事だとか?』
うぅん。いっつもこう答えてるの。
心配かけたくないし。…あんまり話しもしたくないし。
88 :
第八話:01/11/11 23:49 ID:sVdLjEv2
「そう。なつみはいっつもそう言うわね」
「あはは」
そう言われて私は、またへらっと笑った。
『だいぶわかってきたよ。なっちのその笑いの意味』
えっ?
『早く時間が過ぎて終わってほしい、だよね。当たりでしょ』
崩れそうになった。
たった一日しかいない真希に見破られたんだ。お母さんもきっと――。
いたたまれずに私は立ち上がる。絶対に逃げられないって知ってても。
「ごちそうさま」
あっ。
言ったあとでお昼休みの真希の言葉が頭をよぎったけど、もう口は開けなかった。
『あとひとくちくらいだよ。全部食べてこうよ』
私は部屋に向かって駆け出した。
89 :
SN:01/11/12 00:03 ID:05+I0aQU
>79 >83
鬱なっち。そんな萌えジャンルがあるなんて…。勉強不足でした。
前の作品も読んでいただけたんでしょうか? だとしたら嬉しい限りです。
>80-82
ありがとうございます〜。本当に嬉しいです。
ちなみにリンク問題ないですよ。一応直リンはやめておきますが。
ttp://www.geocities.co.jp/AnimeComic/7401/snacci/index.html >85-86
保全してくれる方、毎度ありがとうございます。感謝してます。
>84
噂はあるけど、つんく本人は絶対認めないだろうし、真相は闇の中だろうね…。
ところで、前スレで長文会話をしてくれた彼はもう飽きてしまったのでしょうか?
マジちょっと淋しいです。
いるよ。飽きてないし、保全もしてるがな。
ちょっと忙しかった・・・ってほどでもないんだが、まあごめんよ。
ただ話の方も一段落しないと、そう長文の感想も書きにくいんで。
でも気にしてくれてたんなら、もうちょっとこまめにレス入れることにするよ。
第七話で現実世界で大きな変化があって、第八話はまだ途中っぽいから
あれだけど、なつみの中で新しく見えてくるものがありそうで、面白いよ。
保全
92 :
名無し娘。:01/11/13 01:55 ID:HCLrWPs6
>>89 小説総合スレッドで知りました。SNさんが新宿なっちだったなんて驚きです。
>80の小説は大好きでした。ここの小説も続きを楽しみにしています。無理をなさらずに更新してください。
新宿なっちスレもお気に入りでした。よく名無しで質問をしていました。レスありがとうございました。
正直、本物のなっちではないかと思っていました。
保全
94 :
第八話:01/11/13 23:17 ID:qLzSLEPQ
真っ暗な部屋であおむけにベッドに倒れ込む。
自分がどうしようもなく嫌でダメな子に思えてくる。
――いや、実際ダメな子だ。
『どうしたの、急に』
真希と比べるとなっちはさ、何一つ満足に出来ない子供だなぁと思って。
じわっと涙が浮かぶ。
違い過ぎて悲しくなってくる。
そんななっちに真希が当たり前のように言う。
『そりゃあ。人間に比べて劣ってるようじゃ私も鬼の子としてお終いだし』
そう言われても落ち込むものは落ち込むよ。
両手がなっちの頬をつつむ。
『こっちまで暗い気持ちになるって何度も言ってるでしょ。元気出す!』
そうだね。ごめん。たまってた涙が手をつたって流れる。
暖かかった。
真希みたいになりたい。真希に追いつきたいな――。
95 :
第八話:01/11/13 23:17 ID:qLzSLEPQ
出会ってたった一日で、こんなにも私は真希に寄りかかってる。
昨日までのなっちは本当にひとりだったんだろうか?
真希と離れたいと思うことはあってもそれは、ひとりになりたいからじゃない。
ただ真希が怖かったからだ。
勝手に動く身体、勝手に読まれる気持ち。私はこんな異常な事態も受け入れてる。
普通の人ならどうするんだろう。
夢だと思って、慌てて、病院にいって、そして――?
『そう考えるとさ、なっちって意外と芯の強い子なのかもね』
強い? …なっちが?
96 :
第八話:01/11/13 23:18 ID:qLzSLEPQ
『うん』
そんなことない。いっつも逃げてた。死のうって考えたこともあるし。
『死ななくて良かったよぉ。なっちが死んでたら私はまだあの白の中だよ』
真希の手が伸びて明かりを点ける。
全ての黒が白になった。
急な光りに目がくらみその手をかざすと、その内に目が刺激に慣れてくる。
「…真希だけだよ」
『何が?』
なっちにさ、死ななくて良かったなんて言ってくれるの。
真希は微笑む。
『まぁねぇ、なっちはお父さんやお母さんが嫌いみたいだしね』
どういう意味?
『なっちが嫌ってるなら、きっと向こうも嫌ってるかなって』
さらりと言われた言葉は刺さるほどに痛い。
ノックと「お風呂に入っちゃって」という声が聞こえて部屋を出る。お母さんはすでに
階段を途中まで降りていて、なっちはその背中をじっと見つめてしまった。
お母さんは振り返らなかった。
97 :
SN:01/11/13 23:27 ID:qLzSLEPQ
どうにも進みません。
>長文会話のキミへ
見ててくれてたんだ。忙しいところ呼び出してしまってゴメン(笑)
でもおかげで読み応えがあって良かったです。
こまめなレス楽しみに待ってます。つまらなくなった場合は見放す前に
忠告をください…。
>91
矢口ありがと。矢口が主人公の作品は1本も完結させてないのに申し訳ない。
>92
あはは。驚いてくれてありがとです。しかも素晴らしい賞賛の言葉つきで。
無理はしてませんのでおかげでかなりゆっくり進んでます。急げってくらい。
>93
ありがとです〜。
98 :
保全:01/11/14 21:18 ID:Ay4hGh4l
>どうにも進みません。
あう。
マターリと続けてください。マターリと。
不定期連載でも、過去ログ落ちしない程度に保全しますから。
(って保全くらいしかできませんが ^^;;
99 :
ねぇ、名乗って:01/11/14 22:28 ID:qRAURSeW
なんですかー。
,/^ヽ‐一^\
/ __´_∀_`_)
. | //ノ/ ノ ノ \)
|ハ|( | ∩ ∩|)| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヾ从ゝ_▽_从 < 100ばんゲットだぜ♪
/丶 d V bノ ̄|⊃ \______
| ハ'\A/ ノ ̄
(___)_ 8 |
||^| |_ __ヽ
「 ̄ ̄ ̄|||_|
L____」||_ |_
|___)_)
101 :
名無し:01/11/14 22:34 ID:zijdL9Dd
スレ違いだけど、パクり話のついでに、
ポルノグラフィティーの新曲の、ヴォイスもパクりだヨ!
しかも、世界的に超有名で、世界3代ギターリストの1人がいる
レッドツェッペリンの!!(激怒)
102 :
ねぇ、名乗って:01/11/14 22:52 ID:qRAURSeW
やっぱりな。ポルノグラフティーは所詮えろ写真・・・・
「エスパー真希」を超える自信、ありますか?
104 :
。:01/11/15 00:40 ID:f+h913sx
。
105 :
第八話:01/11/15 00:40 ID:f+h913sx
パジャマに着替え濡れた髪をタオルで覆いながら部屋に戻ってきた私は、机の上の
白い鏡を手に取った。
覗き込むとうつっているのは見なれた顔で、前のような真希の面影はなかった。
――きっと、なっちの中に入ったから。
『この中に居たんだよねぇ』真希がそう言って横から見る。やけに薄い。
手鏡の縁がやけにざらざら感じた。
…そっか。年代ものだしね。私はもらった時の和紙と紐でていねいに包むと
机の引き出しにそっと閉まった。
106 :
第八話:01/11/15 00:40 ID:f+h913sx
お風呂にも入ったし後は眠るだけ。
私は、ふぅ、とため息をつく。
起きてると昼間のことが頭をめぐり出す。
でも眠ってしまうともう朝になってしまう。学校に行かなきゃいけない。
「ふぅ」
私はため息をまたついた。
『どっちも嫌なら眠ったほうが良くない? 早く眠ろ眠ろ』
…そうだね。
明かりを消してベッドに入る。
『おやすみ』
うん。おやすみ。
色々あったからだろうか。真希につられてしまったんだろうか。
しばらく眠れないかなって思ってた気持ちとは別に私はすぐに眠りに
落ちてしまった。
107 :
第八話:01/11/15 00:41 ID:f+h913sx
真っ白の中にいた。
見渡すかぎりの白に感動して、呆れて、そして私は果てを目指して走り出した。
…どれくらい走っただろう。景色はまったく変わらなかった。
そして気づく。息がまったく切れない。
まだまだ走れそうだ。
それだけじゃなかった。ここは暑くもないし寒くもない。そしてまったくお腹も
減らない。…きっと眠くもならないんじゃないかなぁ?
私は座りこんだ。
まぁいっか。居心地は良さそうだし、少しくらい長く居てもいいかな?
なんて。
――そんな夢を見た。
108 :
SN:01/11/15 00:48 ID:f+h913sx
>98
ありがと。でもあまりにも進みが遅くてやばい気がしてきたんですよ。
自分が読む側だったらダラダラ続くのって嫌かなと思って。
保全もどうもです。おかげで何とかこのスレも生き残ってますね。
>99
うっそマジー!? あんた本気で言ってんのぉ!?
>100
あ、私が取りたかったのに。今さらだけど滑り込みたかった…。
>101-102
そうなの? しかも彼らは一番最初にコピーしたのが「天国への階段」っぽい
感じなのにね。…私の知識が間違ってたらゴメン。ジミー・ペイジって
しんだんじゃなかったっけ?
>103
無くなりました。いつも書きはじめはその作品を目指すんですが、今回のは
再読性って点で大きく劣ってると思います。完全に完結してから、文章を推敲して
それから2chで書きはじめればまだ少しは相手になったかな?
いやあ、忠告ねえ…まあ別につまらないと思ってないし、そうそう読み始
めたものを途中で放りだせるような性格でもないんで。
しかし、こっちもそうそう読み応えのあるレスがつけれるかどうか…
第八話でどこ迄書くつもりなのかわかんないけど、なつみの、周りと自分
との関係に対する認識が、どう変化してくのかが見物かな。
なつみの思考と、そこにスパッと切り込んでくる真希の言葉は相変わらず
テンポがよくて面白い。
まあ、マイペースでどうぞ。けっこういいペースで来てると思うけど。
うわあ、レス書いてたら更新が… 途中に入らなくてよかった…
>109
は
>97
の時点でのレスっす。今回分はこれから読む…
や、ジミーペイジ死んでないし!
そろそろ心配なので保全
次回更新は新展開かな?
>>108 再読性か。
はじまりで「ああ、生き返った」と言う後藤。「エスパー真希」は読み返すたび、後藤が生き返る。
俺もあの作品を超えたいと思っていたが、挫折した。なんで、SNさんに書いてくれと期待する。迷惑かもしれないけど。
もう二度と逝かせやしない保全
保全
そっち側にも行くのかあ。いろいろ展開してくるね。相変わらず次に
どう転んでくのか楽しみではある。
再読性ってのは俺の場合はほとんど文章とか描写の質に因るけど、
書き手としてどうなのかは、そっち側にまわったこと無いんでわかん
ないな。
ダラダラ続く(って感じでもないけど)のは俺は構わんけどね。書き手
が納得いくようにやってくれるのが一番だと思ってる。
117 :
ねえ、名乗って:01/11/19 05:50 ID:6wk4QZhC
はなし戻っちゃうけど、なんか好きな曲聴いた後に
曲つくるとそんなつもりなくてもパクリっぽくなることあるよね。
バンド組んでるヤツなら多分わかるハズ。
『ちぇっ』
昨日と同じ朝ご飯に対する真希の言葉はそれだけだった。
昨日と――って言うか今までと変わりのない朝だった。
いつもの時間に起きて着替えて、食事をして、顔を洗って、歯を磨く。
ただ私は、家を出る前の挨拶を心持ちいつもより大声にしてみた。
「いってきまぁす…」
それでも聞こえてないかもしれないけど。
『多分聞こえてないよね。あんまり変わってないし』
119 :
第九話:01/11/19 23:12 ID:GbXp12ID
通学路の途中で真希が聞いてきた。
『お父さんに会わなかったね』
会社に泊まりだったみたい。結構あるんだ。週に三、四日はある。
お父さんはそれでも良いんじゃないかな。帰って来てもケンカばっかりだし。
『何で?』
…わかんない。
『わかんないの?』
昔は理由があったんだろうけど、今は本当につまらないことでケンカしてる。
顔を合わせるのが嫌なのかなってくらい。
『ふぅん』真希はそれっきり黙ってしまった。なのでなっちから質問した。
真希の両親は? どんな感じだったの?
『憶えてないんだ。全然』
そうなの。
両親のことはそれ以上聞いても同じような言葉しか返ってこなかった。
120 :
第九話:01/11/19 23:13 ID:GbXp12ID
目立たないように歩いて学校に向かう。
歩き続ける限り距離は縮まって、そして最後には学校に着いてしまった。
『そんな嫌なら来なきゃ良いのに。帰ろうよ』
その問いかけに私は首を振る。それだけの勇気もなっちには無いんだ。
それに、もし逃げるのを憶えたらきっと、私はどこにも出られなくなる――。
『ふぅん』
いつも以上に静かに、音を立てずに教室の扉を開き、そっと身体をすべり込ませた。
なんとなく感じる違和感。何だろう?
ふいにわかった。
誰の視線も感じない。そして――。
『今日はないね』
うん。信じられない。初めて。机の上に花が乗ってないなんて。
121 :
SN:01/11/19 23:34 ID:zhkw7I6K
もともとスラスラ書くために1回に2、3書込みのペースにしたのに
ここの所の遅れ気味はどうしたものかです。
>109 >116
放りだせない性格はつらいねぇ。2chじゃ結構放り出されるし。
2人の会話を面白いって言われるのは嬉しいです。参考になります。
っつうか私のレスに読み応えがないね。
書いたことなかったんだ。結構文章上手いし書いてるのかと思ってた。
…そっち側ってどっちだろ?
>111
あ、生きてるんだ。それはゴメン。ところで3大ギタリストって残り誰?
私が思い付くギタリストってイングヴェイ・マムルスティーン(だっけ?)と
エリック・クラプトンくらいなんだけど。
>112
保全どうもです。あんまり新展開じゃなくてゴメンです。
>113
生死が軽い割に最初っから最後まで生死の問題ばかりだよね>エスパー真希
文章がさらりとしてて何度でも読める。
1人じゃさみしいから、一緒に目指さない?
ちなみに何書いてるのか教えてほしいです。
>114
ありがと。胸がキュンとしました。
>115
すみませんです。ヽ(´ー`)ノアリガトー
>116
それはこんなの書いててもありますよ。感銘を受けた作品を読むと
普通に「こんなの書きたい!」って思いますもん。
文体を真似たり、心理描写と背景描写の割合を揃えようとしてみたり。
122 :
370:01/11/20 17:27 ID:CceL3b7z
3大ギタリスト
ジミー・ペイジ ジェフ・ベック エリック・クラプトン
3人とも、ヤードバーズというバンドに在籍した経歴を持つ。
ちなみに全員生きてます。
あ、ハンドル消すの忘れた。
気にしないで。
保全中・・・
就寝前保全
俺は後藤モノだと「娘。十夜」が好きだったな
「あたしの声、あなたに届いてますか?」って
このスレの作者さんが書いたんだ。
たまたまどこかで読んだんだけど読みやすいし良かった。
でも俺はみんな幸せなハッピーエンドが好きなんだよなぁ。
って、なんだかアホっぽい意見でスマソ
127 :
保全:01/11/22 22:42 ID:NAUgsHJB
スレ数は今349…もうすぐ上限に達して圧縮が起こる。
念のために保全。
ほぜむ。
保全
130 :
116:01/11/23 22:35 ID:6EuzsyBU
116でそっち側って二回使ってんね。変な文章ですまん。後の「そっち側」
ってのは
>>107 での夢の内容の事ね。
なつみの心の内が、現実の変化と対応させながら、いろんな側面から描
かれてきて、面白いなあってところ。最初の頃に、別人格の乗り移りと、
それが鬼って言う設定が面白そうって書いていたけど、かなり上手く生か
されて展開してきてると思う。
それと別に、レスにまで読み応えが無くてもいいよ(w 本文の方で頑張って
もらえれば。レスが無くったって文句は無いし、進行が遅くても構わん。
保全なり
ほぜむ
そろそろ保全する
個人的に『エスパー真希』は構想はぶっとんでて好きだけど、
読み手を置いていってる感があると思うんだな。
じっくり言動描写で訴えるSNさんはどっちかつうと『血のあじ』的。
ちなみに『TIME』のラストは泣けた。
135 :
ゆう:01/11/26 17:58 ID:/W1fT17l
『TIME』ってなに?
就寝前保全
ばとろわ地味に好きダヨ
魔鬼なっちありがとう( ● ´ ー ` ● )
「あっ、あ――」
自分の声を確認するなっちに涙涙
140 :
。:01/11/28 00:51 ID:clIuThza
。
141 :
第九話:01/11/28 00:53 ID:clIuThza
席も汚されていないし、からかう声もしない。
座った後でそっと周りを見渡してもやっぱり誰もなっちを見ていない。
矢口さんは来ていなかった。
保田さんは左まぶたに小さなガーゼを当てていた。
なっちが見つめても、こっちを振り向くことはなかった。
『どうして誰もこっちを見ないんだろ?』
もしかして。
すべて良い方に終わったのかもしれない…。
高ぶりかけた気持ちを抑えながら次の授業の用意をしようとして。
『こっちが見てるのにはみんな気づいてるのに』
えっ?
真希の言葉が聞こえて私は動きを止めた。
顔をあげて気づくもうひとつの違和感。
急に襲ってきた不安に私は立ち上がる。いすと床がこすれて大きな音を出す。
それでも――誰もなっちを見なかった。
142 :
第九話:01/11/28 00:54 ID:clIuThza
『まるで空気だね』
そう、だね。
崩れるように座る私はいつものへらへらとした笑顔も浮かべられない。
みんな知ってるんだ、昨日のこと。
良い方に終わったんじゃない。
悪い方に始まるんだ。
『なんでそういっつも悪い方にばっかり考えられるかなぁ』
真希が笑う。
他人事だと思って――って実際そうなんだ。
『ある意味才能だね。ってか他人事じゃないって。こっちまで暗くなるんだから』
143 :
第九話:01/11/28 00:56 ID:clIuThza
他人事じゃない。
それだけの言葉が嬉しかった。そうだね。不安がっててもしょうがない。
昨日の朝のようにすぐになにも始まらないのかも知れないし。
『そうそう』
私は気持ちを落ち着けようとゆっくり息を吸って、吐いた。前を見る。
大丈夫、はっきり見える。
『ふふっ。まさしく前向きな姿勢』
うん。
そうして一時間目の用意を改めて始めようとした時に――始まった校内アナウンス。
見えなくなった。
胃がきゅっと痛む。
「二年C組の安倍なつみ、保田圭、二年D組の飯田圭織」
担任の声はいつも以上に冷たくて。
「以上、呼ばれた者は職員室に来るように。繰り返す…」
私は消えそうになった。
144 :
SN:01/11/28 01:17 ID:Eq8lEER4
>122-123
なるほど。タメになりました。ありがとです。
ただこの知識の使いどころはそんなに無いかもって気もしますが。
>125
娘。十夜も良いですよね。私、昔やってた小説人気投票で
エスパー真希と娘。十夜に入れました。後藤ものは面白いのが多くないですか?
>126
私もハッピーエンド好きですよ、実は。できればやっぱり
良い気持ちで読み終わりたい、または、良い意味で裏切られたいです。
>130
毎度毎度長文ありがとです。こっちも励まされるですよ。
そう言われるとだらだら長いこの話もすくわれますし。
レスも読みがい無いとつまんなくない? レスまだ頑張ってみます。
>134
血のあじですか…。私前に読んだけど、ちっとも記憶に残らなかったです。
ごめん。市井に全然思い出がないからかなぁ?
TIME って泣きどこありましたっけ?自分で書いててなんですが。
ちなみにこれ、一応、エスパー真希を書こう!と思って書いたんです。
TIME 書いてる間何十回もエスパー真希読み返しましたもん。
おかげでかなりパクリに近い点もあったりしますが…。
>135-136
M-SEEK で書いた作品です。リアルタイムで読んでたのはおよそ4人の作品です。
>137
ありがとー!初めてそれをほめられた気がする。2ch連載時に見た人は
いるのか? ってくらいのマイナーだし。
>138
こっちこそありがとう( ● ´ ー ` ● )
>139
あら、ものすごく懐かしいシーンですね。最近読んだの? どうもです。
>124, 127-129,131-133
ありがとです。350→300ってサイクル早いですよね…。
hozen
就寝前保全
後藤系シリアスものと言えば基本的に王道は「いちごま」だったので
SNさんの「あなたの声〜」を目にした時は新鮮に感じました。
娘。十夜ではやっぱり「後藤死んで」ですね。
あの安倍の狂気は読んでて鳥肌たちました。
あの頃からなちごまに惹かれていたのかもしれないな、俺。
石ヲタだったけど…
あとは「ごまとなっち」とかも好きかな
ばとろわは地下スレ探検の旅をしていた時に見つけました。
>なっちバトロワ書いてみたかった( ● ´ ー ` ● )
これ好きだったよ ヽ(´ー`)ノ
( ゜皿 ゜)で最期に保全したのが、実は俺だったりして…
そういや「魔鬼なつみ」スレの最期も俺だった
ひょっとしてスレッドストッパーなのか… ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン
朝から一気に全部読みました。ダラダラ感は全く感じませんでしたよ。
心理描写が細やかでとても良いとおもいます。
それにしても、新宿なっちがSNさんだったとは・・・
148 :
。:01/11/30 00:51 ID:1FknWnTs
。
149 :
第九話:01/11/30 00:53 ID:1FknWnTs
授業が始まる直前の誰もいない廊下と階段が、無音で圧迫してくる。
放課後の孤独とは全然違う、嫌な空気。
なっちの後ろにふたり居るはずなのに誰も会話をしない。
――まるでひとりで怒られに行くみたい。
『えっ、怒られんの?』
きっとね。ほめられる訳はないもん。
『なんだよぉ。後ろの奴らだけ怒られれば良いのに』
無理だよ。だって、なっちがケガさせたんだから。
きっとなっちが一番怒られる。
重い右手を上げてゆっくりとドアを開くと、職員室の全員がこちらを見た。
「…失礼します」
非難の目から顔をそむけて歩いた先には担任の寺田先生と首に包帯をまいた
矢口さんが待っていた。
「来たか。お前達、ちょっとこっちに来い」
150 :
第九話:01/11/30 00:55 ID:1FknWnTs
『あのちびっ子の包帯さぁ、なんかわざとらしくない?』
向かった先は校長室だった。
こんなに近くで校長先生に会ったのは初めてで、もしかして事態は
想像以上に深刻なのかと思える。
『聞いてる?』
握った手の中にうっすらと汗が浮かんだ。こすって拭こうとした時に。
「安倍」
ふいに名前を呼ばれて顔をあげる。「はい…」
「この矢口の首のケガ、お前がやったって言うのは本当か?」
部屋にいる全ての人間の視線が集まって、私はまたうつむきがちになる。
「安倍」
「はい」かすれた声をやっと絞り出す。「本当、です」
長い沈黙。
そして深いため息が聞こえた。
誰も動かない。時間が進まない。嫌な雰囲気。暑い。真希。気持ちが悪い。
痛い。助けて。真希。
真希――!
『さっきは返事もしなかったくせに』
151 :
第九話:01/11/30 00:57 ID:1FknWnTs
『よくわかんないんだけど、やったのはなっちじゃなくて私でしょ』
頭の中に声が響いて、気持ちがすうっとやわらいだ。
言葉の薬。
まるで天啓のよう。
『言い過ぎだって』
でもさ、真希がしたってことはつまり、なっちがしたってことだから。
…そのつもりで受け入れたんだから。
152 :
第九話:01/11/30 00:58 ID:1FknWnTs
「まったく」校長先生の声で現実に戻った。「女子校なのに暴力沙汰なんて」
『なんかさぁ』
真希がふいに語りかけてきた。
どうしたの?
『なぁんか私、嫌な予感すんだよね』
「保田の目のケガも安倍が原因だそうだな?」
あっ。
担任のその言葉でなっちにも解った。
「安倍はそんな子じゃないと思ってたんだがな」
『気のせいだと良いけど』
違う。気のせいじゃない。たぶん。きっと。絶対。
校長先生が優しい口調で残酷な結論を下す。
「安倍さん。少しの間、自宅で反省してください」
――停学。
153 :
第九話:01/11/30 01:00 ID:1FknWnTs
視界がゆらいだ。目のすみに矢口さんが口唇をあげたのが見えた。
『停学って?』
しばらくここに来ちゃダメってこと。
『それって罰なの? なにか辛かったり痛かったりする?』
心がね。
「校舎の横のところに居た三人をいきなり無言で殴ったそうだな」
なっちと真希の嫌な予感は違っていた。
――それぞれ当りだったんだけど。
私は思った以上にきつい結末が当たりで、真希は私達だけ不当に罰が
与えられる結末が当たりだった。
「安倍。この三人に謝りなさい」
154 :
第九話:01/11/30 01:01 ID:1FknWnTs
『はぁ?』
視界がまたゆらぐ。せっかくひっこみかけた涙がまた出そうになる。
先生、矢口さんの言うことは信じるんですか?
いきなり無言で人を殴るなんてすると思ってるんですか?
哀れむような先生の顔。
にやにや笑いを浮かべてる矢口さん達。
この状況は前から、ずっと。
『…なっち?』
――ムカつくんだよ! 何なの、お前!?
辛くてきつい毎日の繰り返しの中で、決心して先生に話した悩み。
どもりながら話すなっちに先生の出した結論は。
――いなくなれば良いのに。
どうしてこんなことするの? やっと言えた問いの答えは無言の笑み。
小さな努力は毎日を少しも変えることはなくて。
戦うのも考えるのも逃げるのもどうでも良くなって。
――安倍に積極性が足りないのも悪いと、先生思うぞ。
従うことの楽さに気づいた。
逆らわなかったら早く終わることに気づいた。
『…ふぅん』
155 :
第九話:01/11/30 01:03 ID:1FknWnTs
嫌な思い出が頭をめぐって、身体に力が入れられなくなる。
真希がいなかったらきっと倒れてた。
ごめんなさい。
その言葉がのどから出る直前になっちの左腕が跳ねあがった。
パン。
『なっち』
はじいたのは肩を叩こうとした先生の手。
顔を上げるとみんなの目が点になっているのが見えた。
『謝らないで』
真希?
『私にはなっちの口だけは止められないけど』
低い声が頭に響く。
怒ってるの?
『うん。私達だけが悪い訳じゃないのに、謝れなんて命令を聞くのは嫌だから』
そして真希の言葉が聞こえた。
さっきの声が天啓だとしたら、こっちは真理。
『それだったらまだ、あの真っ白の中の方が居心地が良い』
(・∀・)イイ!!
157 :
PON:01/11/30 04:54 ID:W1Pp+t1w
HPの「魔鬼なつみ」が消えていたのでビックリ!
見つけられてホッ・・・です。
SNさんの話はホンとに良いです
頑張ってください
保全します。
159 :
SN:01/11/30 23:30 ID:ag12hB0n
長文嬉しいです。読みがいがありますしね。
最近なんかほめられすぎな気がするんですよ。
もしかして私、余命が短い? そして私以外のみんながそれを知ってる?
>145 >158
ありがとです。最近はなんかメンテ不規則じゃないですか?
>146
なちごまはねぇ〜、ハマると割と抜けられない気がしてます。
ちなみに私は 矢口→いしよし→なちまり→なちごま かなぁ?
娘。十夜は伏線とかは特になかったけど純粋に面白かったです。
あと表現もきれいで好きでした。
ばとろわもリアルタイムでなんて…! ある意味すごいです。
スレが止まる偶然が2度も!?次もあったら運命的かも。
>147
読んでくれて&驚いてくれてありがとです。
細やかって言うか、このくらい無いと自分で心の動きに納得が
できなくなって来てるんですよ。おかげで長くなる長くなる。
>156
あ、なんかかなり嬉しいかも。
>157
HPはちょっとネタ帳(?)みたく使ってしまったので一時的に
リンクをはずしました。近いうちに復活させます。
書いてる名前でほめられると嬉しいですね。マジ照れ照れです。
保全しときます。
就寝前保全
俺も長文感想書いてみたいんだけど、
語彙が少なくて上手く書けないのでカンベンしてね。
今日のBShi、後藤のジャンプがカコヨカタ ヽ(´ー`)ノ
>次もあったら運命的かも。
たぶん次はないよ。
理由は
>>114。
俺以外にも定期的に保全レスしている人もいるようだし。
162 :
147:01/12/02 04:59 ID:ZlnkEyMw
俺もここ見つけて以来、ほぼ毎日見に来ているので、
きっと大丈夫ですよ。
うむ。
質問厨ですみません。
SNさんの書いたばとろわって何ですか?
350overにつき就寝前保全
SNさんは放置スレが好きな上に
HN名乗らないから見つけるのは
ほとんど運に頼るしかないんだよね(w
「あたしの声、あなたに届いてますか?」→「安倍×後藤」
「ペイ・フォワード」→「hehehe」
「ばと〜るろわいあ〜る」→「マリア第6話」
「魔鬼なつみ2」→「後藤真希の新曲 あれ完全にぱくり」
ぜってーわかんねーよ ヽ(`Д´)ノ
ま、矢口のもだけど…
俺も「ばとろわ」途中まで読んでいたんですけど、
続き見つけられなかったんですよね。
ほぜん
こまめにとか言っときながら、また一回とばしてしまった。PCが逝ってたもんで…
こういう苦しい状況になって、なつみにとっての魔鬼の存在の大きさ、つまり、
魔鬼にとってもなつみが大きな存在であること(身体借りてんだから当たり前
だけど)が再確認される感じが、うまく描かれてると思う。そういう、自分の事を
必要として、気に懸けてくれる存在があることの嬉しさ、っていうんかな。
ただ、
>気持ちがすうっとやわらいだ。 言葉の薬。 まるで天啓のよう。
あたりの流れが、自分はちょっとイメージが上手く繋がらなかったかなあ。
とまれ、こっからなつみの心のベクトルがどういう方向に向いていくのか、
楽しみっす。
ところで前は、特になちごまが好きって訳じゃない、とか言ってなかったっけか。
ほぜむ
就寝前保全
安倍また連ドラやるのか
今度はもう少し出番ほしいなぁ
お昼の保全ですよー
173 :
164:01/12/05 17:32 ID:jVoUNuL4
>165 >166
親切なご回答をありがとうございます。
早速 読みに行って来ます。
就寝前保全
圭チャム誕生日オメデトウ ヽ(´ー`)ノ
保全
176 :
。:01/12/06 23:06 ID:+t0S4Wc5
。
177 :
第九話:01/12/06 23:07 ID:+t0S4Wc5
夢はまだおぼえている。
不快なことのない欲望の消える白の空間は居心地が良すぎて
ここから出られるならどこだって行くと思わせるほどに何もなくて。
孤独で退屈だった。
あの中の方が良いだなんて。
涙が一滴流れて、視界のゆらぎが取れる。
泣いちゃった。
真希と会ってから初めて落とした涙。
どんなに泣きそうになっても、絶対泣かないつもりだったのに。
でも。
きっとこれが最後。
自分を哀れんで泣くのは、これを最後にする――。
178 :
第九話:01/12/06 23:08 ID:+t0S4Wc5
握った右手の中にはまだ汗をかいていた。
払いのけた先生の手も、まだなっちの横にあった。
私は先生を見て、そのまま矢口さん、飯田さん、保田さん、校長先生と順に見て
最後にまた先生の目を見つめた。
「先生」
「あ、あぁ」
手をゆっくり下ろしながら寺田先生は答えた。
手をはらいのけたことと泣いたことで、先生はちょっと動揺して見えた。
涙だけじゃなく色々と流れ落ちた気がする。
気分が、軽くなって高ぶってる。
私は。
私の意志で微笑んだ。
へらへらした笑いじゃなく、矢口さんにも負けないようなしっかりした極上の
つもりの笑顔をつくって言った。
「前に私が相談した内容、憶えてますか?」
179 :
第九話:01/12/06 23:09 ID:+t0S4Wc5
下げる途中で先生の手がぴくっと止まって、一瞬校長先生を気にしたのがわかった。
わかったのは私達だけだと思うけど。
やっぱり。先生は気づいてたのに見ない振りをしたんだ。
「ん、あ、あぁ」
「私だけが悪いんですか?」
歯切れの悪い返事に、私はさらに続ける。
矢口さん達の顔もさっきのように笑ってはいなかった。
『良いね。こういうの嫌いじゃないよ』
勝ちにはならないだろうけど、ただ負けるより良い。ずっと良いと思う。
真希。
『うん?』
ありがと。私だけだったらこんなこと、絶対言えなかった。
180 :
第九話:01/12/06 23:10 ID:+t0S4Wc5
「寺田先生」
校長先生の呼びかけに、すぐに答えはなかった。
「ちょっと私にはよく話が見えないんだが、相談の内容とは何ですか?」
「あ、はぁ。あの。実はこの安倍と矢口、保田達は折り合いが悪くてですね――」
「本当にそれが相談の内容ですか?」
「…いえ。違います」
先生が小さな声で少しずつ話し出すと、校長先生の眉間にしわが寄り出した。
「イジメ?」
校長先生に聞かれて、具体的にされたことの話を私がつけたす。
その度に場の空気は張り詰めていった。
「なんと…」
校長先生のそんな一言にさえ飯田さんの顔は青くなっていった。
矢口さんと保田さんが懸命に「偶然に落ちたカバンにつまづいて蹴ったことが
ありました」とか「手がすべって安倍さんの靴を濡らしただけです」と言っても
「そんな偶然は何度もないでしょう?」と一括された。
181 :
第九話:01/12/06 23:11 ID:+t0S4Wc5
『やっと終わったね』
解放されたのは一時間ほど後だった。
結果、矢口さん達は厳重注意の形となり、次回発覚時はそれ相応の罰を。
寺田先生は後で校長先生が再度話しをしましょうと言われていた。
私は実際に怪我を負わせてしまったのでやっぱり停学になった。
三日間。今日から。
重い罰だけど、少しだけでも気が晴れたのが救い。
『私には誰が一番重い罰なのかもわかんなかったんだけど』
校長室を出る前にぺこりとおじぎをしたんだけど、校長先生は背中を見せるだけで
扉が閉まる直前にため息をしていた。
それがまるでなっちには、暴力沙汰が表沙汰にならずに良かった。なんて感じに
取れなくもなかったんだけど。
182 :
第九話:01/12/06 23:12 ID:+t0S4Wc5
来た時は三人で、戻るのは四人だった。
――今度は私が一番後ろを歩いていたんだけど。
また授業の合間で誰も歩いていないけど、行きのときのような圧迫はない。
むしろ今圧迫を受けてるのは予定外だったって顔をしてる飯田さんと保田さんと
黙ったままなっちの前を歩く矢口さん。
『つまんない作戦立てるからだよ。黙っていれば良かったのに』
真希の言葉に私はちょっと微笑む。
なっちは黙っていなかったから良かったんだけどね。
『あはは。そうだね』
階段を上がって最初の踊り場。私達四人以外の人目が消えたときに、矢口さんが
ゆっくり振り向いた。
「おぼえてろよ。今度はこっちもタダじゃおかないからな」
『だからさぁ』
あきれたような真希の声。
『黙っていれば良いのに――!』
183 :
第九話:01/12/06 23:14 ID:+t0S4Wc5
また景色がスローモーションになった。
えっ?
音もなく矢口さんに一歩寄って、右手で口をふさいだ。そのままそっと矢口さんを
壁に押しつける。
予定外の行動。
矢口さんの両手がなっちの右手首をつかもうとしてるけどそれより速く。
なっちの左手が矢口さんの目に向かう。
『次から一回ずつ』
だって。そんな。なんで――?
親指と中指で矢口さんの右目を開くと、間のひとさし指の爪で黒目を二度つついた。
『つっつく回数を増やしていくから』
飯田さん達が振り向く直前に矢口さんから離れる。
静かで音のしない行動は上靴と床を鳴らすこともなかった。
壁に張りついてる矢口さんを不思議に思った保田さんが言う。
「…矢口?」
すとん。
その声が合図。矢口さんは踊り場に崩れるように座り込んだ。
184 :
SN:01/12/06 23:37 ID:+t0S4Wc5
現実では2ヶ月が経過してるってのに、話の中ではまだ2日目。
もういいかげん心理描写もダレダレな気がします。
>161 そっかぁ…。This is 運命だと思ったのに。
>162 ありがとです。さりげない言葉が嬉しいです。
>164 市にスレでこっそり書いてた作品です。
バトロワのくせに1人しか減らないうちにdat逝きしました。
>166 放置スレが好きって言うか、放置スレを使えばスレ立て権を大事に
できるなって思ったからです。小説総合スレに登録したら良いんだし
って思って。ほら、なっちありがとうとか立てたい時に立てたいし(笑)
>167 すまんです。立て直そうと思ってるうちに羊が閉鎖になったんで。
>169 相変わらずどうもです。まぁ、2人の様子が一番のテーマみたいな
もんなんで。あと、私も読み直してみて、変な表現だと思ったよ。
一般的な言葉じゃないなぁって。これからはもう少し気をつけるよ。
忠告マジありがとう。
>171 >174 あ、またドラマやんの? 時間によってはまた1話も見ないで
終わりそうな気がするなぁ…。圭ちゃん誕生日なの!?
そりゃおめでとう。
いやいや心理描写良いですよ。各々のキャラクターが
明確にあらわれるし。矢口に視点でも見てみたいです。
186 :
185:01/12/07 02:10 ID:DRfn3Vag
訂正 矢口に→矢口の
でした。すみません。
ほぜーむ
(・∀・)ヤグチ!!
就寝前保全
> 自分を哀れんで泣くのは、これを最後にする――。(
>>177)
> 涙だけじゃなく色々と流れ落ちた気がする。(
>>178)
(・∀・)イイ!!
> もういいかげん心理描写もダレダレな気がします。
自分のペースで、思うとおりにユクーリマターリ続けてほしいっす。
> 小説総合スレに登録したら良いんだしって思って。
自分からは登録しないくせに(w
ヘイ ごまなち
sayonari.cool.ne.jp/cgi-bin/moimg/img-box/img20011209030215.jpg
191 :
SN:01/12/09 10:34 ID:wDkY5Oix
書き忘れました。
>169
>なちごま
「だけどほら、人の心は移ろうものでしょ?」(by エスパー真希)
「あたしの声〜」書いてた時はなちまりのほうが好きだったんだけどね。
でも自分で書きながら、昔なちまりが好きだったってのは嘘か?
って思うくらい矢口の扱いひどいけど…。
>保全
ありがと。助かってます。
192 :
113:01/12/09 19:50 ID:TNRtBir+
書き始めてから報告しようと思ってましたが、なかなか始める事ができません。
さり気なく伏線を張り巡らしつつ、それに縛られないように書きたいものです。
ほじぇむ
就寝前保全
今日、初雪が降ったよ
>>133 始められたらぜひ教えてくださいね
保全ついでに・・・
ずっと前、たぶん「安倍×後藤」スレの時になちごま小説書こうかなって
言ってたんですがM-seekの方で短編を書きました。
直接名乗るのはここでは迷惑なので興味のある方は探してみて下さい。
わかるわけないだろーがー
あなたたちー
hozenn
200 :
?:01/12/13 16:24 ID:kX3CStmQ
千春が吼えてるぞ
「かつては、NHKが歌手を利用していたが、最近は歌手がNHKを利用している。
それがおかしい。出場歌手を見ても、納得できない顔ぶれが多い。NHKの自主性
を発揮して、曲が売れようが何だろうが、歌がヘタなら出さなくてもいい。トリは、
北島さんと島倉(千代子)さんに決めてしまうのが一番じゃないのか」と最後まで、
サブちゃんに、こだわりを見せた。(夕刊フジ)
>>1 やっとわかった
ジェシカ・シンプソン「Irresistable」
ちうか更新してくれ
更に言うとヴァネッサ・ウィリアムスの「I Wish」
感動モン!
本家よりイイぞ
あ、本家ってモー娘だよ
保全
毎日寒いね
保全
まったくだね
あなたとわたしの保全
もうだめだろココは
209 :
。:01/12/18 00:48 ID:SMg9cBnh
。
210 :
第九話:01/12/18 00:49 ID:SMg9cBnh
飯田さんと保田さんが矢口さんに向かって階段を駆け降りる横を、真希は
前を向き背筋まで伸ばして階段をのぼり、通り過ぎる。
横目で見ることすらない。まるで昨日の放課後と同じ光景。
違うのは――真希だけ。
…なんで?
『なにが?』
頭に響く声はいつもの真希で、悪びれた様子もない。
なにが、って今のは別に真希には、身体には被害はなかったじゃない!
なのになんで矢口さんにあんなことを。
『だって苛々するじゃん。あの子の態度』
その聞き覚えのある言葉は、なっちの胸に刺さる。それだけで?
――ムカつくんだよ! 何なの、お前!?
――ずっと安倍のことむかついてたんだ。
『そっ。それだけ』
とんっ。
最後の一段だけ跳ねるようにして階段をのぼり終えた真希が、私の顔で笑う。
『りっぱな理由でしょ?』
211 :
第九話:01/12/18 00:51 ID:SMg9cBnh
しんと静まりかえった廊下を今度はなっちが歩く。
真希と同じに歩いてるはずなのに、何が違うのか上靴は歩く度に小さく鳴った。
『安心してよ。あれ以上はこの身体の負担になるからしないって』
そうじゃない。
気に入らないから手を出すってのは、一番やって欲しくない行動なの。
やられた方の気持ちを考えて欲しいから。
これだけは譲れない、と真希に伝えようとした時、頭に響いた。
『さっきさ、違うのは真希だけ、って言ってたけど、なっちもじゃない』
えっ?
不意に聞こえた声に立ち止まる。
なっちは昨日と同じだよ。真希が身体を動かすのを止められなくて…。
『そんなことない。だってさぁ』
私の言葉はまたさえぎられた。ふふっ、ってふくみ笑いの後に真希が続けた言葉は、
なっち自身を惑わせて、刺さる。
『昨日のなっちはもっと真剣に、やめて、って言ってたもん』
212 :
第九話:01/12/18 00:55 ID:SMg9cBnh
一瞬で顔が赤くなり、そしてそれを 隠せない。
それはさ、矢口さんに仕返しができたことを喜ばなかったの?
って言われると嘘になるよ。
でも、あんなやり方で仕返しなんてしたくない。
『なっちさぁ、私に隠し事はできないんだから』
知ってた。…つもりだった。
心臓が大きく鳴って、私は早足で歩き出す。
『嘘になるよ、なぁんて。復讐したかったんでしょ、ずっと』
やめて。
勝手なこと言わないで――!
耳を手でふさいでも、真希の声は止まらない。
『正直になりなさい』
静かな廊下を足音も気にせず走り出してすぐ、足が止まった。
耳をふさいでた手がゆっくり降りてきて、私の胸を覆う。真希がささやいた。
『真希さんが力になってあげるから』
213 :
第九話:01/12/18 00:58 ID:SMg9cBnh
笑顔が見えた――気がした。
おとといまで止まっていた真希は歩き出していて、今にも走り出しそうに見える。
なのになっちは、真希に手をひかれた分しか進んでいない。
この身体を自由に動かせる真希はなっちの手を離して急ぐこともできるのに。
真希は追いつける距離で振り向いて、私を待ってくれている。
そんなの、真希だけだよ。
真希だけがなっちを上に引き上げてくれる。
今わかった。
って言うか、なんで今までわかんなかったんだろう?
真希と居ることがあってるか間違ってるかなんてわからない。結局ずっと迷うんだ。
なっちがどう思うか。それだけ。
なっちは――。
214 :
第九話:01/12/18 01:00 ID:SMg9cBnh
ごまかしのきかないひとつの身体。
言わなくても通じてくれるふたつの心。
真希が楽しく笑ってるなら、なっちも明るい気持ちになる。
なっちが哀しく落ち込んでいれば、真希も暗い気持ちになる。
もう真希にも自分にも言い訳なんてすることない。思った通りに。
「真希」
私は声を出した。久しぶりだ。学校に居るのに、ひとり言でもないのに、誰に
言われたでもないのに、自分から進んで――声を出すなんて。
「お願い」
見た目はひとりなのにまるで誰かに問いかけるような言い方。
矢口さん達に聞かれたら、気色悪がられて変な目で見られるだろうな。
『そしたらまたそのぶん黒目をつっつけば良いって』
あはは。そっか。
ちょっと沈黙。息を吸って、吐く。
「真希」
『うん』
おいていかないで。
「なっちと、並んで」私は小さく声にする。「一緒に、歩こう」
更新ありがとう(●´ー`●)保全
356→256の圧縮か…
保全のタイミング難しいね
嬉しい更新。他に読んでいた小説がdat行きになってしまったので、
あらためて保全の難しさを痛感しました。やっぱり2日以上開けるのは
危険みたいですね。
えっと、
>>169でイメージが繋がらなかったって書いたのは個々の単語
がどうこうってことじゃなくて、
>>151での「気持ちがすうっとやわらいだ」
から「言葉の薬」って箇所は癒しのイメージがあって、次の「天啓」って
のは自分にはもっと、うたれる様なイメージがあったんで、その辺が
繋がらなかったって事ね。
前に言ってた、心理描写がこのくらいないと心の動きに納得できない
ってのは、読んでるほうとしてもまったく同意なので気にすることはないかと。
まあ心の動きを表すのは「心理」描写だけでもないと思うけど別にダレてないし。
おかげで雰囲気出てるし、今回なんかは全体に張り詰めた緊張感があると思う。
ただこの辺は好みにもよるんで、他の人がどうかはわかんないけどね。
なちごまにハマってくれたんなら嬉しいね。スレは逝っちゃったけど…
>>196 なんか偶然見つけたかも…
やばいやばい、24時間経ってたよ保全
hozen
220 :
SN:01/12/21 01:13 ID:PcPIy+Hi
>185-186 >188
ありがとです。矢口視点ですか。書こうなんて考えた事も無かったです。
これ以上長くしたくないんでなっちのみです。後藤も無い?予定。
>189
でもマターリも行き過ぎな気がして。前のも更新までに2週間近くかかってるのに
話しの中での時間の動きは2,3分。なんだそりゃ。
あと、ちゃんと自分で小説スレに登録しますって。主人公がマイナーだったり、
今更バトロワだったりする場合にはまぁ、しない事もありますけど。
>190
ありがと。すばらしく良かったよ…。ツートップだけあって
寄り添って立ってるだけなら多々あるから、別に魅力も感じないけど
こういうのは良いですね。
いしよし好き時代に集めたただ隣に立ってるだけの画像も結局
削除しちゃったしなぁ。良いのはまだ名残惜しくとって置いてあるけど。
>192
そうですね。さりげない伏線を張って、かつそれが後ですごく大きな
意味を持つとか出来れば良いかも。エスパー真希も伏線にあっ!って
驚いた状態で終わったから、読後にすごく感動を憶えたのかもだし。
書いたらぜひURLをここに貼ってください。
221 :
SN:01/12/21 01:16 ID:PcPIy+Hi
>193-194
ずいぶんと眠る時間が遅いですね。
って言うか雪ー!?そこどこー!?
>196
M-SEEKですか。絶対探し出せない自信があるので
(私だけじゃなくて >197 も >199 も探せなさそうですし。)
遠慮無くここにURL貼っちゃってください。
>200
もう紅白なんてエンターテイメントに徹しちゃって良いと
思うんだけど。おじいちゃんから子供まで楽しく見れるためには
歌がヘタでも新曲出してなくても、知名度だけでも出しちゃうのが
良いかなと。
>202
ありがとです。って >1 はまだ見てるのかな?
>203
なっちと圭ちゃんもラジオで言ってたね。私も聞いて
Life Is So Wonderful〜♪(人生〜って素晴らし〜い、のところ)
がきれいだと思った。
>205-206
なんか良いね。
222 :
SN:01/12/21 01:18 ID:PcPIy+Hi
>208
もっ、もうちょっとだけ、待ってみて…。申し訳無い…。
>215
まぁ、dat逝きしたら新しくスレ立てます。ここのとこ
スレ立て権使ってないし。
>216
でもそれも異常な感じだよね。他の板とか行ったらあまりにマターリしてて
びっくりします。平気で半年前に立ったスレとあったりするし。
>217
ありがと!ここんとこレス無かったからちょっとさみしかったよ。
なるほど。あまり使わない言葉だからじゃなくて、思考の流れが
スムーズじゃなかったって感じかぁ。イメージの差かな?
心理描写のことは本当にためになったよ!
わざわざ書かずに行動で示すってのをちょっと盛り込んで行きたいかな、と。
あ、なちごま好きな人だったんだ。小説ならかなり読んでるって
言ってたから特にそういうの無いのかと思ってた。
>保全の方々
ありがと。おかげでここも元気に残ってますね。
その間ずっとつんくにはぱくり疑惑がついてまわるのかもですが。
レスマジでありがたいです。何度も清書のために読み返してると
良いのか悪いのかわからなくなってくるんで、読まれてる事が励みになります。
223 :
。:01/12/21 01:20 ID:PcPIy+Hi
.。
「失礼します」
授業中の教室にそっと入ると、クラスメイトはちらっと顔を上げてすぐ伏せた。
先生もなっちを一度見ただけで、そのまま授業を続けた。
そっと席に着いて、出しかけの教科書やノートを片づける。
そんななっちを誰も見ない。
『徹底してるね』
少ししてから保田さんと矢口さんも帰ってきた。
クラスメイトの視線がふたりに集まり、先生も「早く席に着きなさい」と
注意をうながす。
ふたりが席に向かう間、いろんな人が小さな声で「大丈夫だった?」なんて
言ってるのが聞こえる。
そして矢口さん達はその度に小さく手を振ったりなんかしてる。
これ見よがし。
でもちょっとつらい。
『ほんっと、徹底してるねぇ』
…感心しないでよ。
225 :
第十話:01/12/21 01:24 ID:PcPIy+Hi
しまい終えた鞄を持って席を立つ。誰も見ずに歩き、入ってきた時と同じく
そっとドアを開けて教室を出る。
振り向いてドアを閉める前に一瞬、私はクラス中に視線を走らせた。
みんな黒板を見ている。
前は放課後やお昼休みにわいわい騒いでるみんながうらやましかった。
楽しそうで、輝いて見えた。
『今は?』
みんなにとって今の私はきっと、クラスメートを傷つけるような娘って扱いだから。
…もう溶け込めないよ。
私は軽くまばたきをする。
「失礼します」
頭をぺこりと下げて、ドアを閉めた。――さよなら。
226 :
第十話:01/12/21 01:26 ID:PcPIy+Hi
三日分の課題を受け取り、帰り道を歩く。
まだお昼前だからか、私服の人とか主婦とか朝にいない人達がいっぱい居て
不思議な感じ。
『この後どうすんの?』
家に帰ってさっきの宿題かなぁ。
『ご飯は? 外でお弁当食べよっか』
その光景を想像して私は吹き出しそうになる。
だぁめ。
『なんで?』
今の世界ではね、普通の日に外でひとりでお弁当を食べるってのは相当恥ずかしいの。
『ふぅん。変なの』
真希の素朴な答えに本当に笑ってしまった。
でもまっすぐ帰ってもなにもすること無いし、どっかでお弁当食べ――。
待って。
私は思いついたままに言う。ねぇ、図書館に寄って良いかな?
『ご飯は?』
そればっかり!
227 :
第十話:01/12/21 01:37 ID:8D4kEHXY
図書館は意外と人が居た。おばさんとか、大学生っぽい人とか。
ここって自主的にじゃないと来ない場所だから、静かでまじめな人が多くて、
そんなところもなっちは気にいってる。
『物乞いみたいな人も居るよ』
まぁ、この中は涼しいからね。
制服姿が目立つのも嫌なので、私はすみっこに席を取る。
手にした本は――妖怪大百科。
『失礼な』
まぁまぁ。真希をなだめて私は索引を見る。お、お、お、あった。おに、に、に。
……。
関係ないことしか載ってないね。
『うん。ないねぇ』
228 :
第十話:01/12/21 01:38 ID:8D4kEHXY
隣の本。その隣の本。その隣の隣の本。その隣の隣の…。どれぐらいめくっただろう。
数々の文献をひっくり返して、やっと見つけた。
小さな記事。
なるほど、千年前だ。
私は頭の中で問いかける。これの事?
『そうそう。これこれ、これが私』
やっぱり本当のことかぁ。
私は何度も文章を読み返す。魔鬼? 真希じゃないの? 高僧? 戦った?
『いっぺんに聞かないで。真希って名乗ったはずなんだけどなぁ』
でも魔鬼って書いてあるよ。
『勝手に名前を変えたんだよ、きっと。失礼だなぁ。それよりさぁ』
身体が勝手に立ち上がって本を片づけ出す。
えっ?
ちょっと待って。やっと見つけたんだよ。
『やっとね。おかげですっごくお腹空いたんだけど!』
言われて壁に目を移すと、時計は午後二時をさしていた。
229 :
第十話:01/12/21 01:39 ID:8D4kEHXY
さっきの本も気になったし、家でのことも考えたくなかったので、帰り道は
ずっと話して帰った。
真希のこと。魔鬼なこと。高僧が女性だったこと。戦ってなんかいないこと。
って戦ってなかったんだぁ。
驚くなっちにまたか、って態度の真希。
『人間と戦って負けて封印、なんて絶対!ありえないから』
やけに強調する態度がちょっとおもしろい。私はさらにからかう。
じゃあどうして封印されてたの?
『よく憶えてないんだけど、自分から入った気がするんだよ』
えっ?
なっちの足が止まって、すぐ動き出す。しかも駆け足。
『ほらほら、早くご飯食べたいんだから止まんないの』
…子供。
仕事から帰ってきて、更新されていると本当に嬉しいです。
SNさん頑張ってくださいね。無理をなさらずに。
更新嬉しい(●´ー`●)保全
高僧が物語の鍵を握るのかな?
保全させて。
明日は保全にこれなそうなので、今のうちに保全。
有馬前夜保全
クリスマスプレゼントを稼いでくるか…
↑どうだった?
hozen
↑
JRAにプレゼントしてきたよ…(鬱
MerryChristmas! 保全
↑カフェはともかくボスはねぇ。。。
hozen
マンハッタンだからアメリカンだろ?
そんくらい押さえとく気持ちの余裕がないとね。
48万何に使おうかな…
保全
なんのはなしだバカ
240 :
。:01/12/25 00:42 ID:dLQFZbJJ
。
241 :
第十話:01/12/25 00:45 ID:dLQFZbJJ
家に着いて、車がないのを見てほっとする。いや、あったほうが良いのかなぁ。
私は音を立てずドアを開けて、閉め――ようとして一度止める。
『なっち?』
覚悟を決めて、閉めた。
「ただいまぁ…!」
『おっ、割と大声。これはさすがに聞こえてそう』
声を出すと、次の光景が浮かんできた。思考と言葉がぐるぐる回る。
心臓も急に鳴り出して、手のひらに汗をかいた。
なんて言おう。なんて言われるだろう。なんて言い返そう。なんて謝ろう。
「なつみ?」
声と一緒にお母さんが居間から出てきた。出かける準備をしてる。
「どうしたの? まだ学校終わってないでしょ」
「あっ、あの。実はね」
私は玄関で靴も脱がずに説明をした。
ケガをさせたことじゃなく、意地悪をされてたことも、全部。
声が低くなったり、小さくなったり、どもったりするのを頑張って抑えながら。
手のひらの汗は何度こすっても浮いてきた。
暑い。
落ちていた視線を上げると、お母さんの眉間にしわが寄ってるのが見えた。
「――停学?」
242 :
第十話:01/12/25 00:49 ID:L184GcfH
沈黙とため息。
「とりあえず家にはいりなさい」
そう言ってお母さんは居間に戻って行った。
靴を脱ぎながらお母さんをちらっと見ると、お母さんは鏡を覗き込んでいて、
出かける準備に戻ったようだった。
…それだけ?
鏡を覗き込みながらお母さんは続ける。
「もう、女の子なのに停学なんて。恥ずかしいったらないわ」
怒られなかった。
「なつみ。あなた、停学中はずっと家にいなさいね」
私の考えはすべて空回りしてる。
いじめの心配もケガの心配もない。
お母さんが気にしたのはなっちじゃなくて、なっちの周りばっかり。
「近所には同じ学校の子が居ないからね。風邪ってことにしておきましょう」
こちらに視線を向けたのも、鏡の中からだけ。化粧を続けたまま。
ねぇ。
全部言ったんだよ?
意地悪されてたことも、ケガさせてたことも。なのに――。
なっちが「それだけなの?」と口を開こうとした直前に、やっとお母さんは
こっちを向いた。
「なつみ。後でその子の家にお母さんと謝りに行きましょう」
243 :
第十話:01/12/25 00:51 ID:L184GcfH
嫌。
聞いた瞬間にそう思った。
今までされたことや、真希がしてくれた復讐が頭をめぐる。
「お母さん、六時にパートが終わるから、それから行きましょう」
もう済んだんだよ。
校長室で、校長先生と、担任の先生と、矢口さん達と話しあって。
『うん、私も謝りに行くの嫌だな』
「何はともあれ、ケガさせたなつみのほうが悪いんだから」
言葉のトゲだって心を痛くさせるのに。
私はきゅっと下口唇をかむ。
もう謝ろうとなんてしないって決めたんだから。
向うが謝るまで、なっちも謝らない。
「ケーキでも買って…って何よ、その目? 仕方ないでしょ、なつみが悪いんだから」
私は横に首を振る。
お母さんはそんな私を気にもせずに、靴を履き始める。
『なっち、言わなきゃ通じないってば』
知ってる。私は声を出す。
お母さんの背中に向けて、せいいっぱいの抵抗。
「もう、この問題は片づいたからさ、謝りには、行かなくて良い、と思う」
「そう思ってるのはなつみだけよ。じゃ、行ってくるわね」
バタン。
お母さんは振り返らずにドアを閉めて出ていった。
244 :
第十話:01/12/25 00:54 ID:L184GcfH
残された私はゆっくりと自分の部屋に向かった。
ごめん、真希。
やっぱり私、感謝なんて出来ない。
『そんなことよりご飯食べようよ。もう何もしたくないよ』
あはは。
真希の言葉で笑みがわく。悔しいような、哀しいような気分は変わらないけど。
時計を見ると三時前だった。
ごめんね、お昼ご飯のはずがおやつになっちゃった。
制服を着替えようとする腕が止まって、勝手に鞄を開ける。
『そう思うんなら、先にご飯食べよ』
245 :
第十話:01/12/25 00:56 ID:L184GcfH
『おいしいね』
…うん。
なっちに作ってくれたお弁当。カラフルでカロリーも低いものが多い。
食べているとさっきまでの怒りがだんだんとおさまっていく。
でも。
謝りたくない。
真希の力でいじめはなくなりそうなのに、謝ったらまた元通りになりそう。
「ごちそうさま」
ため息と一緒にそうつぶやいて、私は制服を脱いだ。部屋着を手に取る。
ふいに。
図書館で読んだ本と、おかしな考えがなっちに舞い降りた。
『えっ?』
やだ、何それ? 笑っちゃう。でも、なんだか止まらない。バカみたい。
両手で頬を押さえても、顔がにやけちゃう。
心配するかな?
生まれて始めての反乱。
手にした部屋着を放り投げると、矢口さんの言葉が頭をよぎった。
――もしかしてなつみちゃん、反抗期ぃ?
あはは、そうかも。
遅すぎる反抗期だけどね。
「真希。今から京都、京の都行こっか?」笑いを抑えて声を出す。「真希のお墓参りに」
246 :
第十話:01/12/25 01:05 ID:L184GcfH
『京って?』
急ななっちの行動に驚いてるのか、真希のぽかんとした感じがおもしろかった。
私は続ける。
真希の、ふるさと、かな?
『えっ? えっ? じゃあさぁ』
違った。
真希の答えは想像以上だった。
『ここって京じゃないんだぁ!』
…そっちなの?
247 :
sage:01/12/25 10:49 ID:HxiU8sAH
sage
248 :
SN:01/12/26 00:28 ID:KSXrXlNy
>230
あら、意外な癒し効果発覚。ありがと。無理はしてないですよ。
書けるときは一気に書けるんですよね、これが。
>231
いや、多分握らないです。って言うか物語の鍵って自分で書きながらも
よく解らないし。
>232
ごゆっくりどうぞ。
>234-238
有馬記念? 良く分からないけど、テイエムオペラオーは
来なかったの?
って言うか >238 は48万も儲けたの!?いくら賭けていくら勝ったんだか…。
>保全の方々
ありがとです。本当にお世話になってます。
249 :
。:01/12/26 00:29 ID:KSXrXlNy
。
250 :
第十話:01/12/26 00:31 ID:KSXrXlNy
『ふぅん』
急な思いつきを驚いてくれなくてかっがりしたところに、真希の声が響く。
ちょっと嬉しそうな声。
なんかこう、こっちの気持ちがすこし明るくなるような。
『初めてじゃない? なっちが私のためになにかしてくれるの』
そうだっけ?
私はタンスを開けて、外出用の服をあれこれ探す。
『そうだよ。…食べるのと眠るの以外で、だけど』
そう言われればそうかも。
スカートを手に取ったまま考える。
見るものすべて初めての真希のために、なっち、なにもしてあげてなかった。
真希だって不安だったはずなのに。
『いや、別に』
…あっそう。
『一番多い時で四本だったよ』
えっ?
『お母さんの眉間のしわ』そう言って真希は笑った。
251 :
第十話:01/12/26 00:33 ID:KSXrXlNy
Tシャツを着て、スカートを履く。
そして手に取るのは、お気に入りのジャケット。
薄くベージュがかった色合いが上品で、袖と襟からかすかにのぞく
レースがとても好きだった。
可愛いでしょ?
『うん』
お店で見かけて一目ぼれして衝動買いしたんだ。
好きすぎてここって言うときしか着なかった。だから数える程しか着ていない。
…ばかだな、って今は思う。
タンスの中で眠らせることが、大事にすることなんかじゃ決してないのに。
『気にしない気にしない。これ、着るんでしょ?』
うん。
私はそっと袖を通す。タンスの、木のにおいがした。
連続更新お疲れさまです。癒されていますよ。
サーバー移転でスレッド見失って焦ってました。
スレタイトルちゃんと覚えていなかったので、検索もままならず・・・
でも、さがっていたおかげで見つけました。
SNさん偶にageで更新してみてはいかがでしょうか?
きっと、読者がもっと増えると思うんですが・・・
感想です。
洋服の描写がいいですね。着ている物とか服の好みでも、
キャラクターのイメ−ジが出来ますし。
本当に「なつみ」の変化が行動で示されていますね。
そして、嗅覚による長い時間の表現もステキです。
|
|ハヽo∈
|D` )<トリップの練習をさせてくらしゃい
⊂ノ
|___
このスレ使用中れすか?
じゃあよそに逝くのれす
257 :
SN:01/12/27 00:46 ID:2x8tDrva
>252-253
ちなみに私は「後藤真希」で検索かけて探しました。移転前なら小説総合スレから
リンクをたどるって手も使えたんだけど。
ageてもきっと読む人は増えないんじゃないかなぁ?
私も好きな作者のか、好きなメンバーのしか読まないから。これだけあるとみんな
そうだと思うし、なちごまじゃあ人を選びすぎるかなぁと。
描写のこともありがと。こう言われると長くなるのも悪くないかな、なんて
気になります。
>254-256
悪いね。最近はスレの出来てから消えるまでも早いから、市にスレ探すのも大変だよね。
トリップ練習スレとかって前あったのにね。
258 :
。:01/12/27 00:47 ID:2x8tDrva
。
259 :
第十話:01/12/27 00:48 ID:2x8tDrva
明日の夜か明後日の朝には帰ってくるつもりでバッグをつめる。
着替え、下着、歯ブラシ、タオル、お財布…。
ぱんぱんにはならないけど、持ち歩くならこれが限界ってほどに。
真希の入っていた鏡は、壊したりしたくないので置いていくことにした。
準備は出来た。
ゆっくり立ち上がって部屋のドアを開ける。中を見ないように後ろ手でそっと閉めた。
パタン。
部屋の中には、なっちだけの世界があった。
あの中ではなっちは愛らしい姫で、優しい王子役のぬいぐるみ達もいた。
外敵から守ってくれるネバーランド。空想の物語にあふれていたティルナノーグ。
『なっちの部屋が?』
そう。私は振り返って閉じたドアに触れながら続ける。
誰も入ってこないしさ、なにもしなくても許される場所だったんだ。
『ふぅん。そんな感じの場所、身におぼえがあるよ』
うん。
なっちも出てみてわかったよ。残りの人生がずっとここなんて嫌だ。
外側の檻は開いていた。
内側の檻の鍵は開けた。いつだって戻れる。だから今は――出てみようと思う。
260 :
第十話:01/12/27 00:51 ID:2x8tDrva
階段を降りた私は、すぐ家を出ないで、まず居間に行った。
『どうしたの? 準備できたんでしょ?』
うん。その前にさ。
私はキッチンに立つと、お母さんのエプロンをしてお弁当箱を洗い、ていねいに
水気を取ってテーブルに置いた。
そしてその横に白い紙とペンを持ってくる。
『なるほどね』
……。
こんな感じかな。ペンにふたをして、ふたりで読み返す。
『良いんじゃない?』
じゃぁ。
私はペンのふたをまた外して、紙にペンを走らせる。
『それなに?』
付け足しって意味の記号。…よし。
『なるほどね』
どう?
『良いんじゃない』
真希の声はさっきより高くなって私の頭に響いた。
お父さん お母さん
停学なんかになっちゃってごめんなさい
でも私は後悔はしてません
仕返しする必要があるだけのことをやられたと思ってます
だから謝りにも行きたくありません
向こうが謝ってくれたら私も謝ります
突然だけど今回のことで私を助けてくれた友達のために
京都に行ってこようと思います
明日の夜か明後日の朝には帰ってきます
ごめんなさい
帰ってきたら全部あわせて怒られます
なつみ
P.S.
お父さん いつも遅くまでお仕事ご苦労さま
お母さん おいしいお弁当いつもありがとう ごちそうさま
262 :
第十話:01/12/27 00:54 ID:2x8tDrva
五時になった。あとはもう家を出るだけ。
靴はもう決めてる。ブーツを履いた。
旅立ちなんだからやっぱりブーツってね。
『ぶーつ?』
そう。ブーツ。
私は指でとんとんとかかとをつつく。
この靴の名前にはね、なにかを始めよう、って素敵な意味があるんだ。
立ち上がって振り向いた私は、誰も居ない居間に向かって叫んだ。
「行ってきます」
ちょっとだけ、出かけてくるからね。
263 :
第十話:01/12/27 00:55 ID:2x8tDrva
いつも行かない駅への道を、私はバッグを両手で持って歩く。
やけにふくらんだバッグが家出とか思われそうでちょっと恥ずかしい。
家出じゃなくて、遠出です、って。
初めてのひとり旅。
――ひとりじゃないけど。
行き方もいまいち良くわかんないし、お金がどれくらいかかるかもわかんない。
『ちょっと。大丈夫なの?』
多分ね。
東京駅に行けば、そこからなんとしてでも行ける。
まずは駅だ。
駅に行かなきゃ。
リズミカルにブーツのかかとが鳴る。私はいつの間にか走り出していた。
264 :
第十話:01/12/27 00:56 ID:2x8tDrva
駅に来ていた電車に駆け込む。
時間帯が悪かったのか、家に帰ろうとする社会人がいっぱい居た。
ちょっと長い間揺られたり、乗り継いだりして着いた、ぐんと広い場所。
東京駅。
久しぶり。中学校の修学旅行以来。
ふっとなっちの頭の中を、友達と遊んだ思い出が駆け抜ける。
つまんないことで笑って、何でもないことで騒いで。
『なっち』
ごめんね。また暗くなっちゃった。
昔はね、なっちにも、友達が居たんだよ。
なっちのこと「なっち」って優しく呼んでくれて。
『ふぅん』
…信じられない?
『わかるよ。嘘ついてないのくらい。その子達、今は?』
今は、口も聞いてくれなくなっちゃった。
『なんでだろうね』
なっちが、とろい子だからかな。
その言葉を明るくからかってくれると思ってたのに、真希の言葉はなかった。
265 :
第十話:01/12/27 00:58 ID:2x8tDrva
甘かった。
東京駅まで来たら、京都まで行ける電車なんてごろごろあると思ってたのに
新幹線しかないなんて。
『じゃあ良いじゃない、それで』
ちょっと値段が高すぎて…。
夜行列車かなんかあると思ってたんだけどなぁ。
普通の電車を乗り継いでなんて、なっちと真希じゃ絶対行けない気がする。
初めての抵抗があっさり終わろうとしてた時、私の手があがって遠くの看板を
指差した。
『あれあれ。あっちに夜行なんとかって書いてあるよ』
…夜行バス!
近寄って看板を読むと、東京−京都間のもあった。時間は、八時発。
私は時計を探す。あと一時間ちょっと。
「ふぅ」
バッグを床に置いて、なっちもしゃがむ。
すべてが不思議と順調に進んでいる気がする。なんか、私らしくない感じ。
『私も居るから、かな?』
真希の言葉に笑みがこぼれる。ふふっ。うん。素直にそう思うよ。
ねぇ、時間までなにしよっか?
聞いてすぐ気づく。――聞くまでもないか。そして予想通りの答え。
『じゃあさぁ、ご飯食べよ』
266 :
第十話:01/12/27 00:59 ID:2x8tDrva
『や、もう。すっごく美味しかったぁ』
カレーの辛さと美味しさに、真希はずっと感動してた。安上がりだなぁ。
時間が来るまで、駅を行く人を眺めてた。
帰りを急ぐサラリーマンやOLさん、これから出かけるような若いお兄さん、塾に
行ってたっぽい子供達、なっちと年の近そうな女の子達。
色んな人が居て、それぞれに違う人生があるなんて、ちょっと信じられないくらい。
この中にはきっと、なっち以上につらい生活をしてる人もいるんだろうな。
『そうかもね』
そっけない返事に私は続ける。
なっちだけが逃げ出したりしてさ、良いのかなって。
『逃げる?』
右手がやわらかくなっちの頬をつねった。
『違うじゃん。真希のために京都に行ってくれるんでしょ?』
そうだね。
…ありがと。
やわらかい痛みは温かさを伝えてくれる。
ふと顔を上げると、通りすがりの人が変な目でなっちを見ていた。
私はあわててつねっていた手を頬から離した。
267 :
第十話:01/12/27 01:00 ID:2x8tDrva
まったく。
何やってるんだろう。ボーッと人を見ててバスに乗り遅れたら笑うに笑えない。
バッグを抱えて駅の中を走る。
バスはすでに乗り場に着いていて、もう発車するように見えた。
急いでキップを買って、乗り込む――その直前に気づいた。
私は動きを止める。
『なっち?』
「お客さん?」
鳥肌が立った。間違いない。この瞬間が、人生の分岐点。
「もう行っちゃうよ。乗るの? 乗らないの?」
運転手さんの言葉がなっちの頭をぐるぐるまわる。
乗るの? 乗らないの? 乗って良いの? 乗っての良いの? 本当に良いの?
…良い方に変わるの?
『なっち?』
まだ間に合う。まだやり直せる。今なら引き返せる。
つばを飲む音がなっちの耳に大きく響く。
「お客さん!」
「あっ」
バスのドアが閉まった。
268 :
第十話:01/12/27 01:04 ID:2x8tDrva
車内はガラガラだった。お客さんも私達の他に四人しかいない。
私はバスに乗っていた。
いや、なっちじゃなくて、真希。閉まる前に駆け乗ったのは真希だった。
『だって乗るんでしょ?』
真希の問いに答えないでいると、運転手さんからも質問がきた。
「危ないから座って。それともやっぱり降りるのかい?」
瞬間。
目を閉じて、開く。
最後の選択肢に私が出した答え。
「…いえ」
私はゆっくり歩き出した。「乗ります」
269 :
第十話:01/12/27 01:06 ID:2x8tDrva
自分の声に誘われるようにすとん、と空いてる席に座ってすぐ、すごく疲れが
襲ってきた。
ふぅ。
乗っちゃったんだ。もう考えるのよそう。
『京に着いたらすぐお墓見に行くの?』
うぅん。その前にお墓の場所を調べなきゃだし、お風呂にも入りたい…ふぁぁ。
ひと息ついたとたんに眠くなってきた。
八時になったばっかりなのに、さっきから途端にあくびも連発で出る。
今日も一日、色々あったからね。
『なっち、眠ろっか』
うん、真希。ちょっと眠ろう。
そうだね。
時間もたっぷりあるんだしね。起きた後のことはさ、起きてから考えよう。
『おやすみ』
おやすみ。
270 :
第十話:01/12/27 01:07 ID:2x8tDrva
あぜ道を石を蹴りながら歩いていた。
天気も良く、これといってすることもない。私は何度もあくびをする。
うん?
しまった。
前から人が歩いてくるのに目を取られ、蹴ってた石を見失った。私は前をにらむ。
三人。浪人と、その妻子だろうか。貧乏そうだ。
女は病気持ちなのか、途中で咳き込んだりしている。その背中を浪人がさする。
ふと芽生える悪戯ごころ。
――突然あの浪人が死んじゃったりしたら、あの女。どうするかな?
よし。
お互いに歩き続けている。すれ違うまであと十歩、切ったかな、ってところで子供が
なにかしゃべったようだった。浪人とその妻が微笑ましく笑ってる。
私も微笑んだ。
なるほどね。家族で居れば幸せってわけだ。…予定変更。
子供が死んで、泣き叫ぶ両親の姿が見てみたい。
あと三歩も歩けばすれ違う。
私は左手に力を込める。
すっと、爪の先が尖った。
あと二歩。一歩。すれ違い様、私の左手は鞭のようにしなる。
――そんな夢を見て。
私はびくん、と身体を震わせて、起きた。
夢。
じわっと額に浮いている汗を手でぬぐう。
周りを見渡すと、乗客はすべて眠っていた。…起こしたりしなくて良かった。
でも知ってる。
これは単なる夢じゃなくて真希の記憶。
…真希。
そっと呼びかけても、真希は起きなかった。
大丈夫だよね。こんなの、はるか昔の思い出話だし。右手で左手首をつかみながら
そう自分を言いきかした。
時間は一時をまわったばっかりで、まだまだ京都は遠い。
胸に残る嫌な気持ちに気づかない振りをしながら、私はまた目を閉じた。
左手の手首をつかんだままで――。
第一部 完了