( ^ω^)「ヒーローはレッド」を譲れないようです
1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
祭り中にさるって投下終わらなかった
3 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:14:56.88 ID:uZv5eSLh0
ここまでのあらすじ
魔力、武術、科学、金銭の力により、大陸全土が戦による血で濡れた。
ついにヴィップ国国王ロマネスク十四世により和平が結ばれ、つかの間の平和が訪れる。
だが、強大な金の力を持つニューソク皇国皇帝ワカッテマスはそれをよしとしない。
魔と学を金により練り合わせた武の兵器、魔導騎士が完成してしまう。
仮想生命を宿した無慈悲な虐殺兵器。
それが利用されれば、戦後の傷を負った国々は容易く蹂躙され、ふたたび世に血が流れる。
ロマネスク十四世は五名の使者を潜入させ、皇帝暗殺と兵器の奪取を命じる。
兵団団長ホライゾン・ナイトウ。
弓兵『鷹の目』ツン・デレ。
傭兵『迅雷』ドクオ。
高名なる魔術師クール・スナオ。
騎士『絶対防壁』モナー。
彼らは外相としてニューソク城へと潜入、ホライゾン、ドクオ両名が魔導騎士に迫る。
ホライゾンが兵器廠にて目撃したのは、百を超える魔導騎士。
魔導騎士とは、暗殺対象、皇帝ワカッテマスの分身であった。
それを実現するために命が奪われていると知り、激昂するホライゾン。
彼は、多数の皇帝の一人の胸に刃を立てた。
4 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:16:37.55 ID:uZv5eSLh0
脱力した対象から剣を引き抜き、左右へのステップ。
ブーン、いや、剣士ホライゾンの俊足が堅い石床を踏みつける。
ジグザクの動きに鎧が腰を落として構えた。
右方へと飛び掛った影が、剣を振り下ろす。
しかし、それはフェイク。
軌道を真横にずらし、油断していた甲冑の脇の下から核を突く。
がり、と擦過音。
魔導騎士がまた一体倒れた。
噴き上がる非生物の血液。
風の如き俊足。
炎の如き太刀筋。
戦場を震え上がらせた剣士ホライゾン・ナイトウの動きは止まらない。
(;'A`)「ちっ、やるしかねえのか!」
5 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:19:40.79 ID:uZv5eSLh0
数は多いが動きのにぶい魔導騎士は、翻る赤が接近する度、次々と倒れていった。
ドクオもそれに続こうと、手にした短剣を構える。
そこで、背後から冷めた声が聞こえた。
( ・∀・)「やめておけ。体力の無駄だ」
(#'A`)「てめえは何言ってやがる! やれるうちにやっとかねえと国が死ぬんだよ!」
( ・∀・)「彼も止めた方が良い」
(#'A`)「寝ぼけたことを」
激昂したドクオの口が、その形のまま固まる。
揺らぐ「それ」の不安定な姿勢が、ひどく恐怖を煽った。
始めに絶命したはずの魔導騎士が、起き上がっていた。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 16:25:11.03 ID:zv8+ZiTg0
まとめ読んでくる
しえーん
7 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:26:22.60 ID:uZv5eSLh0
その様子を喩えるなら、天からの糸に従う操り人形。
( <○><○>)「――再起動」
ひとりでに胸部装甲が閉じられると、それは直立した。
( <●><○>)「――修復中」
漏れ出ていた複雑な色が、空中に凝集する。
それらが一粒の雫になった。
( <●><○>)「――核再構築」
だらりと唇と開けたワカッテマスが、不定形の結晶を口に含む。
そして、喉を鳴らして飲み込んだ。
( <●><●>)「完了。あ、ドクオ殿。おはようございます」
しわのある顔がにっこりと微笑んだ。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 16:29:11.94 ID:hn7B3cjoO
支援支援
9 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:30:42.46 ID:uZv5eSLh0
(゚A゚)「ばかな」
急に人間らしい立ち居振る舞いに戻ったワカッテマス。
それは首を回し、目を瞬かせてからあくびをした。
( <●><●>)「どれくらいわたくしは寝ていたのでしょう……。
あれ? ホライゾン殿は最後まで話を聞いてくださらなかったんですか?」
(゚A゚)「そんな、そ、そんなばかな」
( ・∀・)「皇帝。戯れが過ぎる」
モララーは嫌気が差しているのを隠しもしない。
( <●><●>)「ふむ。わかってます、が。しかし良い材料ですねえ。もっと利用できそうです」
(゚A゚)「何でだ。核が弱点じゃないのか」
( <●><●>)「ホライゾン殿の色味を持つ感情。彼の怒りですか。実に美味」
( ・∀・)「……組み込んであるんだ。修復の術が」
(゚A゚)「殺しても、殺せないってのか? そんな、どうやったって……」
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 16:31:32.55 ID:hn7B3cjoO
しえん
11 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:32:22.69 ID:uZv5eSLh0
( <●><●>)「絶望もまた、美味ですよ。ドクオ殿」
二番目に倒されたはずのワカッテマスが言った。
柔和な笑みをたたえたまま、肩を叩く。
ドクオは魔導騎士の言う感情をありありと顔に浮かべていた。
( ・∀・)「大気に感情が溢れる時。つまり、人間と戦っている時だ。
魔力核は、自然回復の速度を速める。材料が、そこにあるんだからな……」
( <●><●>)「彼を一旦止めないといけませんね。わたくし達! 全力を出してかまいませんよ!」
途端、鈍かった魔導騎士の動作がブーンのそれと遜色ないほどに速まる。
「おおおおおおお! どけええええええええ!」
咆哮。
鋼が装甲を叩く金属音。
殺到する鎧。
ついに、白と黒に埋もれ、赤いスカーフが見えなくなった。
(;'A`)「ブーン!」
飛び出した叫びとは裏腹に、ドクオは脚を動かせはしなかった。
肩を握る魔導騎士の力強い手が、彼の身体を文字通り掌握していたのだ。
( <●><●>)「お連れもすでに捕らえてあります。あまり、抵抗なさらないよう」
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 16:34:18.75 ID:zv8+ZiTg0
しえんしえん
13 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:34:56.74 ID:uZv5eSLh0
耳打ちされて、ドクオは身体の力を抜いた。
むしろ、自然と抜けたのに近い。
( <●><●>)「ヴィップの大使は良い。実に有益です」
('A`)「くっ」
やがて、組み伏せられたブーンの姿が明らかになる。
(#゚ω゚)「フー……フー……僕が止めてやるお。絶対に貴様らを……。
クソ! 離せ! 離せえええええええ!!」
( <●><●>)「おやおや」
始めのワカッテマスはそちらに歩み寄る。
徐々にその速度を上げ、小走りになったところで大きな左足の一歩。
ドクオは悟ってしまう。
('A`)「おい、お前、何やってるんだ。やめろよ」
だが、認めたくない。
具足に包まれた右足が後方から送れて振り出される。
(;゚A゚)「やめろ!」
悲痛な叫び空しく、それは実行される。
勢いのついた鉄が激昂した剣士の顔面に――。
14 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:37:23.97 ID:uZv5eSLh0
がつ。
ブーンの視界がぐしゃりと歪んだ。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 16:38:28.98 ID:hn7B3cjoO
支援だ
16 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:40:58.32 ID:uZv5eSLh0
( ω ゚)「お・・・…、おおお、お……」
ワカッテマスは蹴り上げた脚を見て、不満げに鼻息を吐き出した。
( <●><●>)「どうも重量に欠けます。軽いと威力が出ませんね。
受けてみて、その辺りのバランスはどうですか?」
ホライゾン殿、としゃがみこむ。
目線の定まらぬ頭を両手で持ち上げ、覗き込む。
ブーンは、ひたすら繰り返していた。
( ゚ ω )「とめ、とめる。ととと、とめ、ぼくが。とめっっ」
息が詰まる。
床にまかれる、吐瀉物。
気にする風でもなく、ワカッテマスはブーンの様子を観察していた。
その横で、他の魔導騎士がゆったりと核を再構築しているのが、ドクオの視界の端に映った。
( <●><●>)「ううん、脳震盪くらいは十分に起こせるみたいですね。
頭砕くほどやりたいもんですが。さて、そろそろお話、聞いてもらえますか?」
( ∀ )「ドクオとやら。従っておけ」
ドクオは舌打ちをして、しかし、何も言わない。
17 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:42:29.20 ID:uZv5eSLh0
( <●><●>)「んっふう。ようやく落ち着きましたね。騒々しさは必要ない」
( ゚ ω )ハッハッハッハッ
浅く早い呼吸をするブーン。
彼の眼球はぎょろぎょろと動き続けている。
誰から見ても危険な状態であると分かった。
( <●><●>)「さっきの宣戦布告ですけど。あれは冗談です」
('A`)「なんだと?」
( <●><●>)「見逃してあげても良い、と言っているのですよ」
ドクオが眉根を寄せた。
('A`)「……何が条件だ」
( <●><●>)「さすが、分かっていらっしゃる。物事は相互の意見が一致して初めて進む」
('A`)「うるせえ。意見の一致じゃなく、強制だろうが」
18 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:45:33.07 ID:uZv5eSLh0
( <●><●>)「脱出してごらんなさい。この城から」
(;゚ ω )ハッハッハッハッ
(;゚ ω )「だっしゅ、つ?」
そう脱出、と言葉は続く。
( <●><●>)「今からお連れと同室へ運んで差し上げましょう。五人揃ってお逃げなさい。
部屋から出たら、わたくしはそこの砂時計をひっくり返します」
玉虫色の砂を内包した砂時計が、ワカッテマスの指差す先にあった。
大人の腰ほどまでの高さを持ち、胴回りも同程度。
ドクオは喋れないブーンに代わり、問う。
彼の鼻に、ブーンの吐いた胃液のにおいが届いた。
('A`)「それはなんのカウントだ」
( <●><●>)「魔導騎士団導入までの猶予ですよ。つまり、わたくし達。
それまでは一般の兵士や、骸傀儡を追っ手に出します」
19 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:49:43.12 ID:uZv5eSLh0
骸傀儡とは、白骨死体を操る古来の魔術が生み出す低級兵だ。
打撃にもろく簡単な指令しかこなせない。
しかし、その材料は戦によって、まさしく腐るほど残されている。
( <●><●>)「城門を抜け、川の向こう岸まで辿り着けたらあなた方の勝ち。
今回の件は不問にしましょう。どうです? 胸が躍りませんか?
脱出劇に、わたくし達が主役として出演です。二国間の競演です」
('A`)「胸が躍るだぁ? はっ! はらわたなら煮えくりかえってるぜ。
……早く仲間のところに連れて行け」
(; ω゚)ハッハッハッハッ
( ∀ )「幸運を、祈る」
ずっと黙っていたモララーがぽつり、呟いた。
ドクオはブーンを肩にかつぎ、立ち上がって答えた。
('A`)「ありがとうよ」
彼らが兵器廠を後にすると、モララーは、部屋にこもり嗚咽を漏らした。
しかし、それは誰にも知られることはなかった。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 16:51:44.51 ID:zv8+ZiTg0
しえすた
21 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:53:25.47 ID:uZv5eSLh0
ξ;゚听)ξ「ブーン! ドクオ!」
一行が男部屋として利用した一室に、ツン、クー、モナーは捕縛されていた。
ブーンがドクオに連れられて入った途端、ひとりでに全員の縄が切れる。
ツンとクーが詰め寄った。
ξ;゚听)ξ「ブーン、しっかりして!」
川;゚ -゚)「どうしたんだ! 何が起きた!」
す、と彼女達の肩に大きな手のひらが乗せられる。
( ´∀`)「二人とも、ちょっと待つモナ。ホライゾン君を診ないと」
('A`)「頭を強く打たれてる。一度ゲロった。落ち着かせるものが必要だ。
時間ならある。俺達が部屋を出るまでは手を出さないと言っていた」
ドクオの声の冷静さに、クーとツンは身を引いた。
川 ゚ -゚)「……治療を始めよう」
ξ;゚听)ξ「ブーン」
クーが魔術で、モナーが薬草でブーンの介抱を始める。
22 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:55:18.04 ID:uZv5eSLh0
( ω )「お、お。みんな、ごめ、ごめんだお」
ξ゚听)ξ「喋らないで。話なら後で聞くわ」
( ω )「だめ、だったお」
川 ゚ -゚)「モナー」
( ´∀`)「ホライゾン君、少し水を飲んで黙るモナ」
( ;ω;)「お、おおおお」
('A`)「馬鹿野郎。黙っとけよ。うるさくてかなわねえ」
ξ゚听)ξ「……ドクオ」
('A`)「英雄のレッド・ナイトだったか。そいつぁ情け無いことぐだぐだ言うヤツだったのか」
( ´∀`)「モナモナ。ホライゾン君。人情派イエローの言うとおり。
レッドに泣き言は無用だモナ」
ブーンは落涙しながら口をつぐむ。
割れそうに痛む頭の中で巡る想いが重なる。
彼の決意が、なされた。
その間も、蒼の光が体内を癒し、深緑の葉が痛みを和らげていった。
23 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 16:59:14.41 ID:uZv5eSLh0
('A`)「いいか。道は俺が先導する」
ドクオは簡単な地図を描きながら言う。
('A`)「あのクソがどれだけの準備をしているかは分からない。
だが、やたらめったら完璧な布陣では来ないだろう」
川 ゚ -゚)「言い切れるのか」
クーに、ブーンが答える。
彼の血色は大分良くなっていた。
( ^ω^)「お。皇帝は自分が出撃したがってるみたいだったお」
ξ゚听)ξ「……猶予は?」
('A`)「多く見積もって三十分ってとこだ。走れば、十分抜け道まで到達できる」
川 ゚ -゚)「邪魔が入らなければな」
ブーンが頷く。
( ^ω^)「正直に言うお。魔導騎士は、強いお」
ξ゚听)ξ「ブーンと同等の実力で数がこちらの二十倍以上。やりあってられないわね」
( ^ω^)「だからこそ、一度も立ち止まらないで行くお」
24 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:01:49.76 ID:uZv5eSLh0
各々が装備を確認し、集中を高めていた時、ブーンは何かを感じてよろめいた。
ぐらあり、と揺れる世界。
( ω )「んんん。お、お、お?」
脳内を走るイメージ。
誰かの悲鳴が木霊する。
額縁。
何の単語だろう。
黄色が広がる。
すえた匂い。
湧き出したものは?
黄色、黄色だ……。
ξ゚听)ξ「ブーン、どうしたの。まだ頭痛むの?」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:01:59.70 ID:zv8+ZiTg0
しぃえん
26 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:07:19.69 ID:uZv5eSLh0
ツンの声にブーンは、はっとする。
視界の不思議な歪みはそこで一旦消えた。
( ^ω^)「い、いや、大丈夫だお。ただの立ちくらみだお」
ξ--)ξ「そう。だったらしゃんとしてて。縁起でもないわ」
( ^ω^)「おっお。いつものツンらしくって安心するお」
('A`)「おいリーダー。いくら敵さんが時間くれるっても、ちゅっちゅし始めたら俺が許さねえぞ」
白と黒との調度品が余所余所しい城内では、色の変化が如実に現れた。
ツンの白い肌がじわりと紅潮し、ピンクに染まる。
腕を振り回しながらドクオに迫る彼女は、耳まで桃色だった。
ξ///)ξ「うっ、うるさい! 誰がこいつとそんなことするってのよ!」
川 ゚ー゚)「ほう? フラれたなレッド」
( ´∀`)「いやいや、反目してるように見せるのが、愛情表現を深めるコツだモナよ」
ξ///)ξ「ばばばばば馬鹿! うるさいうるさい!」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:07:30.97 ID:zv8+ZiTg0
さるかな?
28 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:10:00.61 ID:uZv5eSLh0
三人に弄くられ、怒鳴る対象を絞れない彼女を、ブーンは愛しげに眺める。
衣服に、皮の鎧に、弓に矢立に隠されたその背中。
犠牲の証明がそこにどれだけあるのか、すぐに思い出すことができる。
誓った。
守ると誓った。
口付けした傷だらけの肌。
ともに生きた同郷の仲間。
家族。
親友。
いや、愛する女性だ。
絶対に守る。
( ^ω^)(ツンを、絶対に守るんだお)
五人は部屋の戸を開けると、わき目も振らず走り出す。
城内の様相は、それまでと一変。
モノクロが極端なものとなっていた。
明るいところがただ白く、暗いところがひたすらに黒く。
本来あるべき中間色は完全に間引かれてしまっていた。
ドクオがまず前衛として、チェス板のような廊下を先導していく。
角をふたつ曲がったところで初めての敵に遭遇する。
「いたぞ! 賊だ、容赦するな!」
槍を構えた生身の兵士が五人。
だが、数は同じでも積み重ねた鍛錬には雲泥の差がある。
大柄の鎧が、右に短槍を、左に巨大な盾を構え、突進した。
( ´∀`)「押し通すモナ。皆、絶対防壁の後を悠々ついて来たら良いモナ」
モナーに迫る槍は、しかし、重層の装甲に触れることすら叶わない。
短槍はそれらの切っ先を全て跳ね上げる。
長く太い腕が容易にそれを実現した。
そして、空いた胴を殴りつける左。
連続で五度の衝突音。
分厚い金属板が強烈な横振りにより、兵士達を吹き飛ばした。
そして、壁や床に叩きつけられる音も五つ。
彼らが体勢を立て直すまでに間を走る抜ける人影も、五つ。
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:14:31.17 ID:+aneMrlEO
支援なのである
31 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:14:45.81 ID:uZv5eSLh0
('A`)「亀吉。お前さ、二つ名変えないか。『自立歩行功城兵器モナー』とか。
『鈍足戦車・緑亀丸』とかどうだ。リョクキマルだぞ、かっこよくね?」
川 ゚ -゚)「ふむ、『移動要塞モナー』はどうだ」
(;´∀`)「モナッ、ロマネスク国王のネーミングセンスにケチつけるなモナ!」
高揚した心持ちのまま軽口が叩かれる。
ブーンはドクオが意識的の行っているのに気付いた。
圧倒的な戦力を目の当たりにして、なおも平素を装うドクオ。
恐怖していないわけがない。
慄かないはずがない。
それでもムードメイカーの役割を買って出る彼に、ブーンは感謝していた。
( ^ω^)「ドクオ、次は?」
('A`)「左に曲がってしばらくは直進。見通しの良い道が続く」
ξ゚听)ξ「安心して。鷹の目が敵を見逃さないわ」
正面に見えるはT字路。
左右からの待ち伏せが予想される。
あるいは、出会い頭の急接近。
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:15:22.72 ID:hn7B3cjoO
支援する
ツンが走りながらも弓を取り、目を凝らす。
彼女は、黒の背景に紛れた影を見逃さなかった。
左右に集団。
矢を引き抜き、腰のポーチから小包取り出すツン。
矢じりにきっちりとはまる形で包みが装着されると、一瞬、彼女は走りを緩める。
澄んだ双眸がすう、と細まる。
ξ゚听)ξ「着弾直後、閃光を発するわ。直接見ないようにして」
言うが早いか、弦は引かれ、弓はしなり、矢は放たれた。
鋭い直線が空を切り裂く。
始点は金の射手の手元。
終点はT字路の交差点。
眩い白が拡散した。
「クッソォ! 目が見えん!」
「こしゃくな!」
左折した五人の目に、無闇に剣を振る兵士たちが映った。
道を塞ぐ何人かだけを殴り倒し、ブーンは叫ぶ。
(#゚ω゚)「邪魔をするなおおおおおお!!」
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:17:51.12 ID:zv8+ZiTg0
しえんしよう
駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。
モノクロームに奏でられる無調の音楽。
怒号は、悲鳴は、雑踏は、途切れない。
駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:22:30.98 ID:zv8+ZiTg0
37 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:23:40.74 ID:uZv5eSLh0
もろい骸骨の群れを焼き払う。
躍り出た兵士の脚を刺す。
待ち伏せに斬り付けられる。
横合いからの矢が頬を掠める。
息が上がった。
血が滲んだ。
吼えた。
心臓が叫ぶ。
限界だと叫ぶ。
それでも駆ける。
生きるために。
守るために。
脚を止めてしまえば、それは叶わない。
38 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:25:32.92 ID:uZv5eSLh0
(#゚ω゚)「ドクオォォォォォ! 次はどっちだおおおおおお!」
走り寄る、前方からの敵に斬りかかるブーン。
兵士の首に入った刃は、鋭さを失い始めた。
だが、辛うじて頚椎を叩き折ったようだった。
鈍い音を起こし、白目を剥いた人間。
新たな敵が屍を乗り越え、あるいは踏み締め、押し寄せる。
(#'A`)「クソがどきやがれ! その扉だ、そこに入れ!」
目的地はすぐそこなのに、という歯がゆい思いに、ドクオは苛立つ。
彼の足には死に損ないの兵士の腕が絡んでいた。
それを突き、目前の槍を寸でのところで交わす。
川;゚ -゚)「そこだな。中で待つ! 早く来いよ、ドクオ!」
ブーンが切り開いた道へとクーは走った。
殺到する人間が、骸骨が、優に五十を超えている。
短縮詠唱による魔術で左右を押しのけると、彼女はブーンと合流し、扉を開けた。
ξ;゚听)ξ「急いでモナーさん!」
(#´∀`)「これで、とどめだ、モナッ!」
同時に三人の兵士を盾の重量で押しつぶす。
呻きは一瞬、沈黙は永遠だった。
姿勢の崩れたモナーを狙う敵が一名。
その眼窩を、ツンの矢が穿った。
ついに、五人がその部屋へと到達する。
39 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:27:39.46 ID:uZv5eSLh0
川; - )「――我らが安息を護り給え。一時の加護よ、ここにあらんことを」
全員の入室を確認すると同時に、クーは封印魔法を扉にかける。
川;゚ -゚)「『拒絶の護り』……これで少しは息がつけるはずだ」
蒼い光が木製の板を不動の鉄壁へと変えた。
(; ω )「皆、無事かお」
各々が息絶え絶えに、力無くそれに答えた。
見れば、奇跡的に大きな怪我は誰の身体にもない。
腕に滲んだ血を、裂いた布で抑えるブーン。
その手に玉虫色の石を認め、ドクオが声をかけた。
(;'A`)「まだ、それ付けてたのか」
それは、モララーが二人に託した魔力核。
(; ω )「お? すっかり忘れてた、お」
(;´∀`)「……ふぅ。それはなん、げっほ、なんだモナ?」
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:28:05.82 ID:zv8+ZiTg0
$
41 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:29:34.64 ID:uZv5eSLh0
汗を拭い、息を整えてから、ドクオが答える。
('A`)「魔導騎士の動力源を小型にしたものらしい。開発者の一人から受け取った」
川 ゚ -゚)「モララー、か」
ξ゚听)ξ「不思議な色をしてるのね。でも、綺麗なのに、これが人を殺すなんて……」
輝きは乱雑なようで、規則的にも見える。
殺意無き塊。
死を練成する賢者の石。
生み出したのは、愚者の欲望。
川 ゚ -゚)「それさえあれば、魔導騎士への対抗策が講じられるかもしれない。
我が家系の学者なら、おそらく解析が可能だろう。材料はなんだ?」
問われたブーンは、刹那、ぎくりと身を強張らせた。
しばし逡巡したような表情。
そして、呟くように言う。
( ω )「魔の力。色味のある感情。そして、血だお」
ξ;゚听)ξ「血?」
42 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:31:57.80 ID:uZv5eSLh0
('A`)「武人の血液だ。戦をくぐりぬけた戦士の心臓を抜き出して採る血」
( ´∀`)「……狂ってるモナ」
最悪の殺戮機械は贄の上に成立する。
ヴィップで思い描かれていたのは、無血戦争の担い手としての魔導兵。
現実はそうではない。
既にその青写真は赤に染められている。
川 ゚ -゚)「おい、ドクオ。貴様なんと言った」
('A`)「あん?」
川 ゚ -゚)「戦士の心臓だと?」
('A`)「ああ。生体から採取すんのは難しいんだとよ……。死体から――」
川#゚ -゚)「くそ! やられた!」
突如声を張り上げるクーに、ドクオは唖然とした。
怒りを露にする姿など、通常の彼女からは考えられなかったのだ。
( ω )「クーさん。やめるんだお。その先は」
川#゚ -゚)「それに色味ある感情の粒子! 完全にはめられた!」
ξ;゚听)ξ「ど、どうしたのよ急に!」
クーは、言い放った。
43 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:34:03.47 ID:uZv5eSLh0
私達は魔導騎士の材料作りに手を貸していたんだ
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:35:53.79 ID:zv8+ZiTg0
SHIEN
45 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:36:11.77 ID:uZv5eSLh0
ざわ、とドクオの肌が粟立つ。
(゚A゚)「お、おい。これは、皇帝の戯れじゃないのか」
川 - )「考えても見ろ。ここに来るまで何人殺した」
記憶にあるのは、死骸の山。
川 - )「密閉空間で溢れる感情。そして、時間差で現れる魔導騎士ワカッテマス」
ドクオの脳裏に、空中に凝集した魔力核が浮かんだ。
川 - )「私達が蒔いた種は城内で混ざる。育った花の下へ魔導騎士」
(;´∀`)「ヤツはそれを刈り取る、ということモナか」
ξ゚听)ξ「ウ、ソ、でしょ」
川 - )「全てを得んが為に智謀を巡らす皇帝、ワカッテマス。それがヤツだ」
ξ ;)ξ「ウソ」
( ω )「ツン……」
ξ;;)ξ「生き延びようとする度に、命を奪う度に、それがまた兵器を生むの? ウソでしょう?」
ツンはぺたりと床に座り込んでしまった。
しえん
47 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:40:46.53 ID:uZv5eSLh0
彼女は崩壊しかけていた。
誰かの命を奪う。
そうすることで第三者には危害が及ばない。
だから、自分は仕方なくでも手を汚す。
血に濡れることをいとわない。
戦場で自らを守るため、自らの心を守るため。
平和のためと言い聞かせて騙していた。
苦し紛れの正当化。
でも、ここでは、それすらも通用しない。
繰り返すのは、明らかになった事実への否定。
胸中に形容しがたい塊ができる。
それは吐き出したくても吐き出せない塊。
ひた隠してきた膨大な罪悪感。
48 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:42:36.80 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「ツン」
ξ;;)ξ「あああああああ、ああああああああ……」
ブーンの腕が、彼女の身体を包んだ。
( ^ω^)「ツン!」
ξ;;)ξ「……ブーン」
( ^ω^)「それでも、今まで僕達のしてきたことは間違っていないお。
信じるんだお。自分を。ここまで走ってきたのは絶望するためじゃないお」
川 ゚ -゚)「ブーン、お前、まさか」
彼は頷いた。
('A`)「気付いていたのか」
( ^ω^)「ごめんお」
( ´∀`)「……モナ。謝ることじゃないモナ」
しかし、ブーンは再び謝る。
( ^ω^)「ごめなさい、だお」
ξ;;)ξ「ブーン?」
49 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:44:53.15 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「僕は、一人も欠けることなくここを脱出したいと思っていたんだお。
走り続けるには、雑念を抱かせたくなかったんだお」
――淀みなく皆を導かなければならない。
( ^ω^)「絶対にヴィップに戻る。魔導騎士の存在は正確に伝え、対策を案じる。
それが目標。……勝手な意見だと思われても仕方が無いお」
――ヒーローはそれくらい自己主張するカラーじゃないといけない。
( ^ω^)「死にたくないのが、本音だお。皆が死んで欲しくないのも。
子供みたいなわがままかも知れないお。でも、この赤は」
彼は、首に巻かれたスカーフを握る。
――レッド・ナイトのように、皆と平和を作る、という僕の望み。
( ^ω^)「生きて、平和を作るための誓い」
誰も、何も言わない。
50 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:48:27.93 ID:uZv5eSLh0
停滞した空気を切り裂いたのは、トランペットの奏でるメロディだった。
場違いなまでに華々しく煌びやかなファンファーレ。
それは壁全面から響き、それに大音声が重なった。
『そろそろ砂時計の砂が落ち切ります。皆さん、ご健闘かと思われますが、メインイベントはこれからですよ』
『ご安心くださいね。わたくし達はヴィップ大使ご一行の行方を知りませんので』
『百人総出で全力で捜索させて頂きます。ええ、とそうですね、後は何かありましたか』
『そうそう、もし封印魔法で閉じこもっているなら早く出てくださいよ』
『魔導騎士団の解呪能力を集結すれば、ほとんど無意味ですから』
『あと一、二分と言ったところですか。それでは親愛なる暗殺者殿方、またお会いしましょう』
放送終了、といったところか。
始まったのも唐突なら、それが終わるのも唐突だった。
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 17:49:19.99 ID:zv8+ZiTg0
シエン
52 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:51:33.12 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「走れるかお? ツン」
ξ )ξ「ええ」
支えを必要とせず、ツンは立ち上がった。
ブーンもその横に並ぶ。
('A`)「おい、クソガキ。イエロー・ナイトの性格教えろ。俺は五英雄物語、知らねえんだ」
その無防備な背後から、ドクオの蹴りが入れられる。
( ^ω^)「おっお。卑屈で寂しがり。人嫌いみたいな顔して実は仲間想いの優しいヤツなんだお。
まあ、分かってると思うけど。まんまだおww」
(*'A`)「けっ。なんだよ身構えちまったじゃねえか! まんまって適当で良いんだな!?」
( ´∀`)「まさに照れてるそれだモナww モナも、モナ。グリーンのまんまなんだモナ」
( ^ω^)「ですお! 皆はぴったりはまるんですお。クーさんもブルーの、そう言いましたお?
冷静で知的、常に全体を見る参謀役。スナオ家が誇る次代頭首!」
川 ゚ -゚)「……ならばそうであろう。先ほどはらしくない言動をしてしまったしな」
すまない、とクーは頭を下げた。
ブーンは笑顔でそれに首を振る。
( ^ω^)「僕が変に抱え込もうとしたせいですお。気にしないで欲しいですお」
53 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 17:56:51.10 ID:uZv5eSLh0
('A`)「で、赤騎士さんよ。桃色乙女はどんなだったんだ? 泣き虫か、それとも腰抜けか?」
その言葉に、ツンの顔に血の気が戻る。
もしくは戻りすぎた。
ξ#゚听)ξ「あら、挑戦的じゃない。ひねくれぼっちの寂しがり」
('A`)「あーん、なるほどな。ただのプッツン女か」
川 ゚ー゚)「ここぞという時、素直になれない困った乙女。愛を知るも、戸惑う姿。
そして、物語の最後にレッドと――」
ξ#゚听)ξ「ストップ!」
( ^ω^)「おっおっおっww」
全員の目に活力が宿る。
暖かい空気が場に満ちる。
( ´∀`)「モナモナ。もう、出た方が良いかも知れないモナ」
川 ゚ー゚)「ふふふ、そうだな」
('A`)「あ、これ二人にしてあげようってお兄さんお姉さんの心遣いだぞ?」
ξ///)ξ「うるさいうるさいうるさい!」
ドクオは叩かれながらも、優しい目をしている。
ひと段落したところで、彼は棚の裏の隠し戸を開けた。
54 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:00:49.54 ID:uZv5eSLh0
部屋の隠し通路は急な階段で、かなり長いものだった。
クーが蒼い光球を発し、視界はなんとかマシになる。
('A`)「城の下には船の発着場も兼ねてる出口がある。この階段はそこへの隠し通路でな。
上の封印が突破されるまでは安心だろう。こっちの方が早く到着できる」
( ^ω^)「脱出におあつらえ向きってことだおね」
そういうことだ、とドクオ。
ξ゚听)ξ「そこからは船で?」
('A`)「向こう岸と繋がっている洞窟がある。そこが塞がれちまってた場合、船に乗るしかない。
上から矢が雨と降ってくる覚悟をしなけりゃならねえ」
川 ゚ -゚)「そうならないことを祈ろう」
( ´∀`)「モナが通れるほど大きい穴だってことも祈っておいてくれモナ」
急いで降りている間、五人は会話を絶やさなかった。
暗い階段が誰かを消してしまうのではないか。
そんなことを恐れているかのように、互いの声でそれを紛らわしていた。
ブーンの視界はぐらりと歪む。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 18:01:43.56 ID:e5FJL/NHO
ガガンもちゃんと投下すりゃいいのに
支援
56 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:03:30.62 ID:uZv5eSLh0
(; ω )(く、またかお)
フラッシュする映像。
蒼の光。
突き出した腕。
緑の壁。
絡まり合う太いツタ。
なんとか踏み止まるが、真後ろのツンがぶつかってしまう。
ξ;゚听)ξ「きゃ、だ、大丈夫なの!? ブーン!」
('A`)「どうした」
先導していたドクオが振り仰ぐ。
(;^ω^)「おっ、すまないお。ちょっと眩暈がしただけだお」
('A`)「……頭をあんだけ強く蹴られてんだ。なんかあってもおかしくねえ」
( ^ω^)「いや、もうすっきりしたから大丈夫だお!」
それからひたすらに下り、階段が終わる。
57 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:07:20.88 ID:uZv5eSLh0
蓋をしていた岩を静かに押しどけると、そこには船舶用のドックがそこに広がっていた。
河に面した壁面には、分厚い鉄の門が、大きく口を開けている。
たゆたう水面は、やはり白と黒で極端な陰影を見せていた。
通った道を振り返れば、粗く整えられた岩肌。
なるほど、隠し通路は上手く隠蔽されている。
ドクオは城内へと続く階段を目指す。
( ^ω^)「お? そっちは登り階段だお?」
('A`)「この階段の途中にもうひとつの隠し扉がある。そこから降りるんだ」
( ´∀`)「ホントよく知ってるモナ」
('A`)「こちとら何度も盗みに入ってんだ。こんくらい熟知してて当然よ」
ブーンがドクオの後を追う。
足音が三人分さらについていく。
川 ゚ -゚)「まだか?」
('A`)「次の踊り場だ。……見えた」
音も無く走り、ドクオは壁にかけられた絵画に手をかける。
かちん。
軽い音とともに額が割れた。
58 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:08:33.69 ID:uZv5eSLh0
そして、酸が溢れ出た。
59 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:11:20.84 ID:uZv5eSLh0
(゚A゚)「ああああああああ!! うあっうあああああああ!!」
黄色い液がドクオの身体を濡らすと同時の悲鳴。
とっさに液体から身を交わそうとしたのが彼を即死から遠ざけた。
果たしてそれは、正しい選択だったのか。
浸された左半身が煙を上げる。
衣服は焼け焦げたように失われていく。
手先が即座に赤くただれ、腕の脂肪が露出する。
蝕むように靴が、足が、すねが溶かされる。
( ゚ω゚)「ドクオ!!」
ξ;゚听)ξ「え? ドクオ? え!?」
(#´∀`)「二人とも離れるモナ!」
モナーはツンとブーンの腕を引っ張る。
二人の立っていた場所まで、黄色い酸は流れ出していたのだ。
(゚A#;「あああああああ!! くっそおおお!! いつっ、いてええええああああ!!」
すえた匂い。
じゅう、とドクオの身体は溶けていく。
顔をかばった左腕は、もう骨が露出していた。
支援
61 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:14:10.69 ID:uZv5eSLh0
川;゚ -゚)「今中和する! 『中立への回帰』!」
蒼の光が液体となって黄の水に混じった。
双方の色素がなくなり、侵食は停止した。
肉から噴出していた煙も消える。
ブーンはドクオに駆け寄り、その身を抱き起こす。
彼は手にどろどろの血肉を感じた。
(゚A#;「ちく、じょう……、野郎……俺がこっちを、ここをえら選ぶこと、ことしし知って」
( ゚ω゚)「ドクオ! 喋るなお! クーさん早く治療を!」
ξ;;)ξ「ああああ、そんな、そんなっ」
(゚∀#;「ははは、ああっあ゛っ。はは、何がじゅっ! あああ! 何が熟知だ!!
お笑いっ種っだぜえ! ははははははは!」
(#゚ω゚)「黙れおドクオ! クーさん早く!」
川 - ))
クーは首を横に振った。
代わりにモナーが腰に下げた袋から葉を取り出し、歩み寄る。
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 18:15:20.92 ID:zv8+ZiTg0
しえん…
63 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:17:16.33 ID:uZv5eSLh0
(゚∀#;「そそ、そのその葉っぱだがよ、俺おおおオレの服にも入ってんぜ。
くくくくちくちくちにいれてくれねえか? もっ、もっう、手がうごかっうっうご」
ブーンは、焼けた服の胸ポケットから、半分に千切れたそれを見つける。
モナーがブーンに渡した薬草だった。
( ´∀`)「一緒に噛むんだ」
モナーはさらに二枚を足して、ドクオの口に入れてやる。
がたがた震える顎が、その葉をゆっくりと噛み始めた。
( ゚ω゚)「モナーさん、ドクオは……」
手でその言葉を制するモナー。
(゚∀#;「へへへへ、おも、思ったとおりだ。これは死の苦痛軽減とかってんだ、ろ?
アンタの、みとっ看取り受けられててて、おれぁ幸運だなあああっはっはははは」
( ´∀`)「言い残すことはあるか」
(゚∀#;「楽になっ、なってきたぜ。ありが、とうよおお。そっ、うだな、ひとっつだけあるぜ」
( ω )「ドクオ」
(゚∀#;「お前ら生きろよおぉ」
64 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:20:12.42 ID:uZv5eSLh0
それきりドクオは口を聞かなかった。
虚ろな眼が光を失った。
クーが震えるツンの肩を抱いた。
モナーは開けられたままのまぶたを、優しく閉ざしてやる。
(-A#;
( ω )「行くお。時間を無駄にはできないお」
ξ;;)ξ「ええ」
ひどく寂しいところに放置された身体。
ブーンは、それに一度背を向けて、しかし、振り返る。
ポケットから「silent」と「conceal」のフラスコを取り出す。
かなり軽くなったふたつの中身を物言わぬ骸に注ぐ。
せめて、雑音と不躾な眼に曝されないように、と。
ぼんやりした輪郭になったドクオは眠り続ける。
孤独に、眠り続ける。
65 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:25:11.06 ID:uZv5eSLh0
他の抜け道を知る者はいない。
一人を欠いた逃亡者達は、ドックに戻ってきていた。
陸に上げられた小船が何艘か天井から吊られている。
それを使うしか、手段は残されていないようだった。
( ^ω^)「まずは船を降ろすんだお。見たところトラップはないはずだお」
ξ )ξ「ええ、急ぎましょう。橋の上に敵がいないとも限らない」
( ´∀`)「レバーを操作しないといけないモナ」
三人が手分けをして内部を動き始めた時、クーだけが立ち止まっていた。
小走りの遠ざかろうとする背中に静かな声をかける。
川 ゚ -゚)「……ひとつだけ、もう少しマシな方法を思いついた」
(;^ω^)「でも、船以外に河を渡るなんて」
川 ゚ -゚)「船では小回りが利かない。この河の流れも遅い。恰好の的になってしまう」
( ´∀`)「話してみてくれモナ、クーさん」
66 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:29:36.07 ID:uZv5eSLh0
クーは三人に、簡潔にその方法を伝えた。
アイディアとしては、彼女にしか思いつかないものだ。
しかし、大胆であり、実現可能かは誰にも予想できない。
絶対はありえない。
だが、それが最上の策であることは確かだ。
ブーンはそう思い、頷いた。
( ^ω^)「信じますお。クーさん」
川 ゚ -゚)「スナオ家の魔力を侮るなよ。だがな、大きな問題がひとつある。
詠唱にひどく時間がかかるんだ。効果が現れるのはすぐなんだが」
彼女が仲間に求める行動は、すぐに理解される。
無防備な時間は長い。
周囲を構っている暇はないのだ。
ξ゚听)ξ「その間、私達が周りを守れば良いのね」
( ´∀`)「絶対防壁モナーの両腕が届くところは、いつだって完璧な安全地帯だモナよ」
( ^ω^)「おっお、任せてくださいお。僕が歩兵を相手しますお」
川 ー )「……ああ、頼んだぞ」
寂しげな微笑み。
それに気付いてしまったモナーは、しかし、何も言わなかった。
67 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:33:31.11 ID:uZv5eSLh0
黒い鉄扉の脇からは、地続きに、断崖の際の道まで出ることができる。
柵の設置はされておらず、舗装さえも施されていない。
道幅は大人が余裕をもってすれ違えるかどうかという程度。
白黒の河と岩壁とに挟まれた足場に、四人が立っていた。
川 - )「――栄華を極めし万物滅びて、流転成す、これ理なり」
クーは厳かなる言霊を紡ぎ出す。
( ω )(来るなら、橋の上からの狙撃か、ドックから)
ξ゚听)ξ(鷹の目はひとつとして敵を見逃しはしないわ)
( ´∀`)(……)
地鳴りが始まる。
それはドックからでもあり、上空、すなわち城、橋からでもあった。
心臓が一際大きく拍動する。
来た。
城壁から発せられる、低い明澄な声。
『ごきげんよう、ヴィップ大使ご一行。ようやく再会が果たせました』
そして、凄まじい暴力が、荒れ狂う殺意が彼らを襲う。
無数の矢が降り注いだ。
モナーはそれを大きな盾を細かく動かし弾く。
長い腕をすべて使い短槍で叩き落す。
さらには鎧をも壁とすることでクーを守る。
落とされる岩石の数々。
ツンは見極め、危険であると見たものにだけ爆薬を当てる。
岸壁に矢のつかえを生やすことで、わずかに軌道のみを逸らす。
放たれる直線が敵を絶命せしめ、岩とともに崖を転がらせる。
絶えることなく兵士が迫った。
ブーンは押し潰されないよう、蹴り、殴り、斬る。
先頭で、前後から押された兵士は河に落ち、そのまま沈んでいく。
確実に一人一人を倒しては、身を引き体勢を立て直す。
どれだけ経ったのか、誰にも分からない。
ただひたすらに長い間。
彼らは仲間を守り続けた。
紫煙
盾は細かな傷を増やした。
鎧が装甲を抉られる。
火薬入りの包みが尽きた。
矢立てもどんどん軽くなる。
剣の先が丸くなっていった。
斬るでなく叩く。叩き、抗う。
防壁の守護。
射手の狙撃。
剣士の反撃。
そして、
詠唱の終結。
71 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:52:59.04 ID:uZv5eSLh0
川 - )「――滅せず屈せず不変の到来、断絶の刻よ、今、我が身に」
クーが杖をかざし高らかに唱える。
川 ゚ -゚)「『不滅の氷河』」
彼女は、仲間達へと笑顔を向ける。
川 ゚ー゚)「走れ、英雄」
河へ、その身を投げながら。
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 18:53:05.54 ID:zv8+ZiTg0
しえn
73 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 18:56:21.12 ID:uZv5eSLh0
ξ;゚听)ξ「クー!」
掲げたままの杖は、腕とともに水面に残る。
彼女の身体から発した冷気がそれを凍りつかせ留めたのだ。
( ゚ω゚)「クーさん!」
急激に気温は低下し、生ぬるい風が逃げるようになくなった。
( ∀ )「やはり、か……」
そして、河は流れを止め、完全に凍てついた。
攻撃が止まっていた。
( ´∀`)「二人とも、あの塔まで走るモナ」
指差す先は、民衆が河辺へ降りるための乗降施設。
ξ゚听)ξ「クー、貴女、まで」
( ゚ω゚)「行くおツン」
(#´∀`)「走れ!! すぐ追いつかれるぞ!!」
74 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:01:25.67 ID:uZv5eSLh0
一旦止んだ攻撃が再開される。
三人は的を絞らせないようばらばらに走った。
足元は霜が張り、靴の裏がトラップされ、その度に剥がれる。
それは滑らないという意味では好都合だった。
一言も誰も口を聞かない。
ジグザグに走り、距離も置いている。
喋れるわけがなかった。
ブーンは、重力加速のついた矢を左肩に受け、たたらを踏んだ。
(#゚ω゚)「おおおおおおお!!」
だが。
止まらない。
止まれない。
散った仲間は生きろと言った。
散った仲間は道を作った。
駆けろ!!
75 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:04:29.42 ID:uZv5eSLh0
乗降施設には、ツン、ブーンの順に到着した。
モナーが後から駆けてくる。
彼は船着場入り口の前で立ち止まると、盾を構えた。
( ゚ω゚)「モナーさんなにを――」
瞬間、ブーンは理解した。
硬質な物が、着地する音。
氷がわずかに砕け、白煙を上げる。
立ち上がった白と黒の人型。
(<●><●>)
( ゚ω゚)「むちゃくちゃだお」
さらに空から降る複数の魔導騎士。
痛みを感じない体は、どれほどの高地から落ちても問題ではない。
バランスを崩して倒れるも、すぐに立ち上がる。
ひしゃげてしまった脚など、ものともしない。
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:06:39.27 ID:zv8+ZiTg0
しえーん
77 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:07:55.96 ID:uZv5eSLh0
(#´∀`)「すぐに追いつく、先に行け!」
ξ;゚听)ξ「モナーさん! 無事で!」
彼女の言葉は最後まで彼には届かなかった。
魔導騎士の一人が振り下ろした剣がモナーの盾に弾かれる。
その高い金属音が他の音を掻き消してしまった。
さらに別の魔導騎士の剣戟がモナーへ。
ブーンの太刀筋と同じくそれは鋭い。
( ω )「くそ! ツン! 行くお!」
短槍が胸部装甲を貫いた。
魔導騎士の振り被った刃が氷河へ落ちる。
( <●><○>)「――」
その一体が崩れ落ちる瞬間、モナーは鎧を蹴り飛ばして槍を抜く。
彼にかかったのは、血飛沫ではなく色とりどりの液。
(#´∀`)「『絶対防壁』を容易く崩せると思うな!」
叫びを、ブーンは背中で聞いた。
78 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:11:05.97 ID:uZv5eSLh0
船着場から崖の上まで登るのに、手段はふたつあった。
魔力と水圧による自動乗降設備。
長く続く螺旋階段。
前者は河の凍結によって、完全に停止してしまっている。
ツンとブーンは階段を選んだ。
しかし、そこへと通じる柵は、錠前によって封鎖されている。
固く閉じられた階段への門。
その錠は、おかしなことに手前から、つまり、河の方からかけられていた。
二人は狼狽した。
(;゚ω゚)「爆薬でどうにかならないかお?」
ξ;゚听)ξ「もうないわ!」
モナーの咆哮が耳に木霊する。
時間は、あまり残されていない。
ξ;゚听)ξ「私は鍵を探してみる。ブーンは壊せないか試して!」
言うが早いか、ツンは詰め所と思われる部屋へと飛び込んだ。
ブーンは剣を振り上げ、柄尻を振り下ろす。
堅い、手応え。
79 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:14:49.19 ID:uZv5eSLh0
(;゚ω゚)「壊れろ、壊れろ、壊れろ」
振り上げ、下ろす。
壊れろ、と自然に繰り返していた。
(;゚ω゚)「壊れろ、壊れろ、壊れろ」
ぶうん、がきん、ざり。
狙いがずれて、金具に引っかかった指の肉が削れる。
(;゚ω゚)「壊れろ、壊れろ、壊れろ」
肩から流れた血で、柄がぬるりと滑る。
衝撃の後、腕に、手に、痺れが走る。
(#゚ω゚)「壊れろ! 切れろ! 外れろおおおおおお!! くっそおおおおおお!!」
全身を使った、渾身の一振り。
ついに、錠が壊れた。
80 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:19:33.25 ID:uZv5eSLh0
ブーンは振り返り、ツンの姿を探す。
開け放たれた戸に、怒鳴るように呼びかけた。
(; ω )「開いたお! ツン、あい――」
彼は自分の起こす音が大きすぎて気付いていなかった。
ひとつは、氷河で起こる着地音が、都合、百を超えたことに。
ひとつは、先ほどまで聞こえていた仲間の咆哮が途絶えたことに。
ひとつは、乗降施設の入り口がおびただしい量の植物が覆われていたことに。
そして、最後にもうひとつ。
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:21:42.05 ID:qzMTxbqV0
支援
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:22:20.13 ID:hn7B3cjoO
支援支援
83 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:22:46.03 ID:uZv5eSLh0
その植物の壁は、モナーの体を中心に形成されていたことに。
彼は、今の今まで気付く術がなかった。
84 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:23:06.51 ID:zv8+ZiTg0
しぇん
85 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:24:11.21 ID:uZv5eSLh0
大きな鎧の隙間という隙間から、太く堅いツタが伸び、絡まりあっている。
甲冑の中にいるモナーの肉体は、内側から食い破られるように裂かれていた。
成長した植物が、彼の頭を天へと持ち上げている。
光の加減か、その表情は晴れやかにも見える。
もしかしたら、何人かの魔導騎士を道連れにできたのかもしれない。
いまや、船着場へと通じる空間は、緑に埋もれ、完全に外界から隔絶されていた。
ブーンはその近くに立ち尽くしていたツンを発見する。
彼女は、塞がった出入り口を向いたまま語る。
ξ )ξ「モナーさんが、来て、言ったわ」
――絶対防壁の奥の手も奥の手。秘策中の秘策だ。
ξ )ξ「魔力を吸って急速に成長する、寄生植物なんだって」
――これは一度も使ったことがないんだが……、クーさんの魔力があればなんとか。
ξ )ξ「種を飲み込んで、すぐにね」
――植物は良い。心穏やかになれる。そうだろう? さっきから白黒ばかりで息が詰まる。
ξ;;)ξ「笑ったのよ」
――人間は、緑に囲まれて、安らかに笑わってないと駄目なんだモナよ。
ブーンの見える世界が歪んだ。
86 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:27:22.54 ID:EoP3EVudO
つC
87 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:28:50.59 ID:uZv5eSLh0
螺旋階段は中央が吹き抜けになっている。
天を仰いだところで、その高さは知れなかった。
幅の広さも相まって、孤独を引き立てた。
黙々と二人は段を一歩、また一歩と確実に登って行った。
重い足取りだが、皇帝ワカッテマスとの約束、解放までは着実に近付いていた。
心が切り裂かれていても、人は動けるもんだな。
半ば自嘲気味にそう思うブーン。
しかし、彼は努めて絶望から意識を遠ざけた。
肩の矢は抜いても、なお、痛みを残した。
皮肉なことにそれが彼に彼自身の生命を実感させた。
ツンの応急処置のおかげで、左腕の流血はおさまっていた。
それは、モナーが彼女に託した薬草の効能だった。
階段は続く。
88 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 19:32:33.97 ID:uZv5eSLh0
半分を登った頃だろうか。
ようやく階段の外周に窓が現れた。
水位の上昇に備えて、低層では作られなかったのだろう。
彼らはどちらからともなく、その前で立ち止まった。
狙撃されるのではないだろうか、という考えは浮かばないようだった。
矢は飛んで来なかった。
氷河を見下ろすと、死体から心臓を抜き取っている魔導騎士の姿が見える。
他の兵士はつるはしを手に、クーが身を投げた辺りを砕いている。
二人は自身がいる塔の根元に、火が焚き付けられているのに気付いた。
だが、どれだけ焼き尽くすべく松明が当てられようと、植物に燃え移らないようだった。
何人かの兵士が入れ代わり立ち代り作業し、休憩している。
ツンは弓に矢を番えて亡骸への冒涜を食い止めようとした。
ブーンはその手を抑えて首を横に振る。
わずかな視線の交錯の後、弓矢は背に戻された。
昼なのか夜なのかわからない完全なる白の空。
その中にぽっかりと口を開けた黒の円は、太陽か、月か。
どうでも良いことだな、とブーンは思う。
なおも、階段は続いた。
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:33:58.92 ID:5sPByXsTO
キテター!
90 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:36:45.44 ID:hn7B3cjoO
っC
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:43:00.78 ID:KbcPMF7mO
またさるか?
92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:46:02.61 ID:zv8+ZiTg0
さるったかな?
93 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:47:50.37 ID:KbcPMF7mO
時間微妙なんだよな
94 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 19:59:37.43 ID:zv8+ZiTg0
ほ
(; ω )「……くうっ」
また、ブーンの視界から直線が消えた。
全てが混ざり合っていく。
点滅する細切れの場面場面。
桃色。
刃の生えた女。
倒れた女性は……。
ξ )ξ「ブーン」
大丈夫? という声が遠くから聞こえる。
閃光のように湧いた女性の像が、振り向いたそこにいる女性と合わさった。
ああ、そうだ。
思い出してしまった。
そうだった。
でも、でも、せめて最後まで。
最後まで行かせてくれ。
( ω )「大丈夫だお。ツンこそ疲れてないかお?」
ξ )ξ「まだまだ歩けるわ」
( ω )「ツン」
96 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:04:42.45 ID:uZv5eSLh0
ここまで、ありがとう、だお。
97 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:05:20.22 ID:1aLzvqILO
支援
98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:05:59.42 ID:hn7B3cjoO
支援
99 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:08:50.23 ID:uZv5eSLh0
彼らは、それから残りの半分を長い時間をかけて登った。
「ブーン」
「なんだお?」
「あなたのこと、愛してるわ」
「知ってるお」
足音は遅々として、時折、止まることもあった。
「ツン」
「なあに?」
「きみのこと、愛してるお」
「馬鹿ね、気付かないわけないじゃない」
愛していた、ではない。
現在形。
今、愛している。
いくつ通り過ぎたのだろう、ある窓辺で、二人は口付けする。
100 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:12:07.08 ID:uZv5eSLh0
モノクロの中で唇は際立って柔らかく、優しい。
感情に色があるならば。
感情に色があるならば。
一体、ここを包むのは何色なんだろう。
頬を熱いものが伝う。
お互いの肌から伝わるぬくもりに、生を実感する。
いつかの夜に交わしたぬくもりは、今もそこにある。
華奢な肩を、傷ついた小さな背中を、剣士は強く強く腕に抱く。
階段はついに終わった。
101 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:12:43.58 ID:hn7B3cjoO
支援支援
102 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:13:28.44 ID:uZv5eSLh0
最後の一段を踏みしめると、ブーンは何気なく吹き抜けを見下ろした。
炎が吹き込んでいるのを認める。
絶対防壁は、ついに破られてしまった。
一方、ツンは河を望める窓の外を見下ろしていた。
船舶ドックから横に少しいったところに、目立つクレーターが確認できる。
永遠の氷河がその主を失っていた。
鎧の足音がはるか下方から響いてきた。
二人は急ぐでもなく、ゆっくりとした足取りで出口へと進んだ。
この扉をくぐった先は、向こう岸扱いのはずだ。
皇帝ワカッテマス、約束は守れよ。
約束は必ず果たすから。
ブーンが呟いた。
103 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:15:20.90 ID:uZv5eSLh0
重厚な扉の向こうには、城下町が広がっていた。
しかし、やはり色は取り戻されていない。
住居の立ち並ぶ地面は、河川への降り口より五メートルほど低い位置にあった。
町を一望できる高台。
黒の中に、点々と白が明かりのように広がっている。
ξ゚听)ξ「綺麗ね」
( ^ω^)「綺麗だお」
ブーンは思う。
階段を上がってくる兵士、魔導騎士。
彼らが少しでも友好的なら、一緒に眺めてやってもいい。
そうだ、ドクオならなんと言って「綺麗だー」なんて言うツンを茶化すのだろう。
多分モナーさんが上手いこと相槌を打つんだ。
クーさんのツッコミが入って、ツンは戸惑うんだろうな。
三人の真ん中で誰に怒ろうか迷って顔を赤くするはずだ。
ξ゚听)ξ「ねえ。本当に、私達は何日か前に知り合ったのかしら」
ツンは同じようなことを考えていたのだろうか。
突然、そんなことを言った。
104 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:17:44.95 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「皆、とても楽しい仲間だお」
ξ゚听)ξ「ええ、信じられないわね」
耳に届く足音が大きくなってきた。
しかし、彼らはあまり気にしていない。
( ^ω^)「もう二度とあんな気の合う仲間ができるかわからないお」
ξ゚听)ξ「ブーンならできるわよ。だって、生きているのよ」
これからがあるじゃない、とツンは続けた。
頷いて、ブーンが彼女を見つめた。
( ^ω^)「ツン、言わなければならないことがあるお」
ξ゚听)ξ「なあに?」
( ^ω^)「……」
腕を、ゆっくり伸ばして、ツンを抱きしめる。
確かなぬくもりがそこにある。
でも、終わらせなければならない。
彼は、その言葉を発する。
助けられなくて、ごめんお。
106 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:22:37.49 ID:KbcPMF7mO
しえ
107 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:26:18.17 ID:ORRH30b1O
be…?
108 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:28:30.62 ID:uZv5eSLh0
( ;ω;)「助けられなくて……ごめんお」
ツンの身体が、音も無く、崩れだす。
白い肌が、金髪が、光に変換される。
ξ゚ー゚)ξ「最後に、助けてくれたわ」
笑顔はおぼろげになって、愛しいその声も遠くなる。
ブーンが抱いた背中が次第に感触を失っていく。
( ;ω;)「自己満足だお。君を苦しめて、それでも、一緒にいようとした」
ξ゚ー゚)ξ「ううん、それでも。それでも一緒にいてくれた」
( ;ω;)「許してくれお。君の身体を辱めたお」
ξ゚ー゚)ξ「馬鹿ね。そんなの、とっくに許してるわ」
109 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:30:42.11 ID:uZv5eSLh0
ツンの身体がほどけるように、とけるように、無くなっていく。
ブーンの腕の中にあったぬくもりが失われていく。
光球が増える。
愛する女性の身体がなくなるたびに。
周囲が明るくなる。
守ると決めた女性が消えていくたびに。
ブーンは肩の傷が消え、指の抉れた肉が戻ったことに気付かない。
自分のことなんかどうだっていい、今を忘れたくない。
忘れない。
いくら、心臓を抜き取られようと。
たとえ、脳から色を抜かれようと。
感情の色が溢れ出す。
暖かい、色。
ただ、それがなんという名前かは、ブーンにはわからなかった。
赤色だったり、青色だったり。
黄色だったり、緑色だったり。
桃色であったり、するかもしれない。
モノクロームの背景に、光と色が満ち溢れた。
110 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:36:01.30 ID:KbcPMF7mO
111 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:36:07.40 ID:3c0w0be3O
( ゚д゚ ) ヒヒヒヒヒヒヒーーーン
支援
113 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:37:00.70 ID:3c0w0be3O
支援
114 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:37:17.66 ID:ORRH30b1O
私怨
116 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:38:40.26 ID:KbcPMF7mO
( ;ω;)「皆に会えて、一緒にいられて、幸せだったお」
『泣いてんじゃねえよ、てめえの選んだことだろうが』
『うむ。リーダー殿が決めたのなら、ブルーは従おう』
『モナモナ。良いんだモナ。りらーっくす、だモナよ』
ξ゚ー゚)ξ『また一緒になれるわよ。信じてる。ね?』
遠くから仲間の声が聞こえる。
118 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 20:38:55.93 ID:zv8+ZiTg0
しえんだ
支援
120 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:41:16.41 ID:uZv5eSLh0
( ω )「生きるお」
『ったりめーだクソガキ。あの野郎に飲まれたら承知しねえぞ』
( ω )「走るお」
『スナオ家最高峰の魔力を注ぐんだ。走り続けろよ、英雄』
( ω )「笑うお」
『モナモナ。皆がいたら退屈なんてしないモナよ、ホライゾン君』
( ;ω;)「守り続けるお」
『身体も心も、一緒になったら今度こそ守ってね?』
――お願いよ、優しい団長さん。
121 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:43:55.61 ID:uZv5eSLh0
暗黒の世界だ。
白の点すらない。
光が全て、彼から遠ざかった。
何も聞こえなくなってしまった。
彼は、手探りで何かを見付けようとして柔らかいものに触れる。
拳大のそれを両手で大事そうに持つブーン。
( ^ω^)「僕の色。これから、ちょっと苦しい戦いになるお」
彼が「色」と呼んだそれは何も答えはしない。
ただ、ぼう、と赤い光を放っただけだ。
( ^ω^)「相手はすんごい悪い奴だお。でも、ヒーローは負けないお」
光球が鼓動を打つように、明滅する。
ブーンが手を離すとふわふわと浮いた。
( ^ω^)「これに勝たなかったら、僕らはただの暗殺者で終わっちゃうお」
闇の中で、彼の横に白線が縦横に描かれる。
かなり緻密な升目のそれに重力が生まれた。
ブーンはそこに足をつけ、軽く屈伸する。
延々と見渡す限り白の地面と黒い空。
支援
支援
124 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:48:16.12 ID:uZv5eSLh0
伸脚に切り替えると背後から声がかけられる。
「もう十分でしょう? それとも、もう一周しますか?」
低くよく通る、それに、ブーンは振り向かない。
( ^ω^)「お、大丈夫だお。それより、アンタは本当に約束守るんだおね」
床に座り、ストレッチを始める。
「心外な。物事は相互の意見が一致して初めて進む。そう言ったではありませんか」
( ^ω^)「僕達が負けたのに、聞き入れられるとは」
船着場での攻防。
ブーンとツンが先に到着した。
螺旋階段が閉鎖されていた。
錠前を破壊した。
モナーが壁となった。
ツンがそのことを話した。
ここまでは、事実だ。
ここからが、虚偽だった。
本当は、ブーンはもうひとつ、気付いていなかったのだ。
絶対防壁を突破した唯一の魔導騎士が潜んでいたことに。
支援
支援
127 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:49:44.36 ID:uZv5eSLh0
二人が螺旋階段へ向かおうという時に、突如としてツンの腹から刃が生えた。
植物に埋もれていた魔導騎士が投げた剣だった。
鷹の目、ツン・デレからすらも隠れきったのは、並大抵のことではない。
――ツン、駄目だお。死ぬなお。
走って、というツンを、ブーンは置いていけなかった。
庇護の誓いが破られてしまうからだった。
――馬鹿ですねえ。わたくしを殺して逃げれば勝ちなのに。
なんで死にかけに構うんですか。兵団団長ホライゾン殿。
ワカッテマスは呆れた、という顔でその様子を眺めていた。
植物の壁から這い出て来ると、奴は剣を拾い、鞘に収めた。
――助けろ。ツンを助けろ!
――無理ですよ。ぎりぎり、魂の取り出しならたぶん間に合いますけど。
――なんでも良いからやれお!!
――ふーむ。強欲は大好きですが、一方的な施しは嫌いです。何ができますか?
ブーンは決断したのだ。
――僕の心臓をやるから彼女を助けろお!!
ワカッテマスの表情は、悪魔そのものだとブーンは思った。
今でもその楽しそうな悪魔を如実に思い出すことができる。
支援
支援
130 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:52:52.41 ID:uZv5eSLh0
良い。実に良い。
すばらしい。
あ、そうだ。せっかくです。オプションも付けましょう。
夢見心地でもう一度、皆さん、脱出劇を演じませんか?
あなたの心も救われますよ。
そうしましょう!
モララー博士が得意な分野ですから!
魂で楽しむ仮想世界!
んんんん!! たまりませんね!!
心の臓は後でいただきます!
くくくくくく、わたくしも観戦したいですし!
131 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 20:56:14.61 ID:uZv5eSLh0
ブーンは兵器廠へと急ぎツンを運び、用意された寝台に寝かせた。
隣には無残な姿のドクオ。
目くらましの魔法が解けてしまっていた。
そしてさらに隣には、氷が溶かされつつあるクールの姿があった。
散った仲間が、そこに集められていた。
――モナー殿は今焼いてるんですが、いかんせん強力でして。
立ち話もなんですし、今のうちにホライゾン殿もどうぞ、横に。
油断していたブーンの首筋に、針が打たれた。
倒れた彼は、絶望の色を浮かべたモララー博士が立っているのを見た。
注射器が、その手にあった。
――えーっと、始まりはわたくしが頭蹴り飛ばした辺りで良いですか?
それっぽいですよね? そうしましょうそうしましょう。
記憶はここから、創作が入る。
ツンと脱出しきったもの。
それは、ブーンが必死に望んだ理想の結果。
愛する女性を守りきったという幻想。
支援
133 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:02:06.41 ID:FQtx0tmiO
何て展開だ……
134 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:02:08.59 ID:uZv5eSLh0
「まあ、瀕死のお仲間抱えて泣きつかれたら。ほら。わたくしにも情というものがありますし」
ブーンがようやく準備運動を終え、悪魔と対面する。
白い輪郭に黒塗りの身体。
黒目がちな眼元だけがはっきりとしていて、後は全部滑らかに凹凸が消されている。
目だけがある、全身のっぺらぼう。それがブーンの感想だった。
『お前は本当にたとえがガキくさいんだよな。代われ。喋ってやる』
ブーンの身体が、彼の意思とは別に動いた。
( ^ω^)「はっ! 何の情だよ、笑わせやがるぜ、腐れまっくろくろすけが。
出てきても目玉突っついてプッチンだっつの。……お?」
( <●><●>)「おや?」
唯一感情を表にする、悪魔の目がにわかに驚いた。
(;^ω^)「なんだかんだ言って感情の色集めもしてんだろ? 金持ちのくせにコスイ野郎だ。
大方、クーは魔力製造機械扱いだろ。けっ。悪趣味ここに極まれりだぜ。
……え、これなに、すっごい気分悪いお」
ほう、とワカッテマスは納得したようだった。
直立不動だったそれが、手と思しき部分をアゴに当てる。
( <●><●>)「おやおや、ドクオ殿は早速母体に吸収されましたか。そういえば、わたくしも
ヴィップの兵士の血と喧嘩になったことがありましてね。あれは――」
しかし、冷たい声に思い出話は遮られる。
135 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:05:03.03 ID:uZv5eSLh0
(;^ω^)「狸めが。その口を閉じろ。スナオ家が次期長、クール・スナオに働いた無礼な振る舞い。
その首をはね、魔により屍を焼いて償わせてやる。……おっ、ちょっと待ってくださいおクーさん」
( <●><●>)「……と、いうことは残りお二方も?」
ワカッテマスの問いに答えるかのように、誰かがブーンの口で勝手に喋り出す。
(;^ω^)「モナはそんな汚いこと言わないモナ。とりあえず、ワカッテマスとやらに一言あるモナよ。
トリカブトたくさん食って死ね。今食え。私の遺体の尻ポケットに入ってるから」
交代。
(;^ω^)「ウケるwww なんだよ亀吉も過激な冗談言えるんだなwwww」
さらに交代。
(;^ω^)「ドクオ、いい加減にしなさいよ。ブーンが困ってるじゃない。
……皆、勘弁してくれお。結構口開きっぱなしで辛いお」
( <●><●>)「これはすばらしい。違和のない血と魔力と色の混合」
一呼吸おいて、ブーンが、彼自身の言葉で喋りだす。
( ^ω^)「ふう。ワカッテマスさん、これから僕達はそれを目指すんだお」
( <●><●>)「……ええ、それはもちろん分かってます」
136 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:05:25.56 ID:hn7B3cjoO
支援だな
支援
138 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:10:10.48 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「僕の身体から心臓は?」
( <●><●>)「取り出してませんよ。この世界はホライゾン殿で作りました。
貴方の頭の中の夢です」
嘘ではないようだった。
白い地面の上を、ブーンが歩く。
すると彼の「色」らしい赤の光球がついていった。
( ^ω^)「僕の心はこんなに空虚だったのかお」
( <●><●>)「皆さん酷い死に方しましたからね。傷だらけでしたよ。
夢に色がほとんどなかったでしょう?」
強烈な黄色の液が身体を焼いた。
寂しい蒼は腕を生やして固まった。
優しい緑が体内から突き破っていた。
ピンクは……撒かれた内臓だったか。
( <●><●>)「強烈な思い出と、思念だけがどんな夢にも色を表します。
明晰夢。それは、豊かな心の生むもの。ご存知ですか?
自らの意思で内容を自由に動かせる夢。その中は色に富むそうです」
( ^ω^)「それはモララー博士が研究していたテーマのひとつかお……。
確かに僕の心は削られていたけど、強烈な思い出ばかりだったお」
ブーンが記憶を辿る。
もし、自分の思い通りになるなら、皆無事に城下町の明かりを見ていただろう。
ツンの台詞にドクオの茶化し。モナーが相槌を打って、クーがツッコむ。
夢に描いても良かったはずだ。夢ならそれくらい、やってくれても良かったはずだ。
支援
140 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:13:04.66 ID:uZv5eSLh0
( ω )(いや、ツンだけでも助けられたんだお。それだけで十分だお)
ブーンの思考が、彼の心に侵入しているワカッテマスに通じる。
( <●><●>)「もう一周は本当にしませんか? 身体腐るので、もう心臓取っちゃいますけど」
( うω^)「おっお。何言ってるんだお。やり直しきかないもん見てどうすんだお」
( <●><●>)「……貴方もわがままですね」
( ^ω^)「一番初めにわがまま正当化の演説した奴に言われたかねえよ!……だお」
おやおや、とワカッテマス。
( <●><●>)「そろそろ調和の時間へと移りませんか?」
( ^ω^)「モノクロとはいい加減おさらばしたいお」
いつの間にか、二人の手に剣が握られていた。
そして、同時に甲冑をも纏う悪魔と剣士。
悪魔には、魔導騎士の白黒の鎧が。
剣士には、燃えるような赤に金縁の鎧が。
前者はその世界を構成していた天と地から合成された。
後者は拳大の赤い光球から練成された。
間合いが空けられる。
141 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:15:59.95 ID:uZv5eSLh0
三十歩ほどの距離が生まれた。
( <●><●>)「強欲の徒、智謀の帝ワカッテマス。愚者の欲望を満たさんが為、剣を振るいましょう。
貴方の優れた身体と魂の色、いただきますよ」
( ^ω^)「貴国に焼かれし故郷の怨みは忘れるお。っつうかぶち殺したいし、
本当に、ぶち殺したいしなんていうかぶち……」
(;^ω^)「ちょっと待て、ドクオ! いい加減黙るお!」
『ちっ! こいつ、どうせ死ぬんだから先に言いたいこと言わせろよ!』
『モナモナ。モナもさっきのじゃなくて一言あるモナ』
『なんだ皆考えてること一緒じゃないか。ブーン、少し身体を貸してくれ』
『あー……私もちょっと言っておきたいかな。いいかしら?』
( ^ω^)「……良いお」
途端、彼の身体は稲光に打たれた。
142 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:18:30.61 ID:uZv5eSLh0
('A`)「おうおうおうおう! よおくもコケにしやがって! この成金狸が!
生れ落ちては泥の上! 育ち食らうは人の金! 義理の親父は傭兵のハゲ!
趣味はどうしようもねえ金持ちどもからお宝盗む、『迅雷』ドクオだ!」
雷はヤクザな表情を浮かべる男のそれとなった。
眩いばかりの黄色に白縁の鎧は、ブーンを打った稲光のようだ。
痩身の身体に合った、細身の鋼は喋るたびに小さな電撃を放つ。
彼は短剣を掲げて、まくし立てる。
(#'A`)「孤児院のクソガキどもに夢買うための金盗むんだ、馬鹿馬鹿しいとかふざけんな!
てめえもひとつのパン分け合えコンチクショウ! 死ぬほど腹空かして水だけ飲んで寝てみろ!
それもわからねえで好き放題のてめえはぜってーに、ぶっち殺してやる!」
ドクオが中指を立てると、全身が蒼い光に包まれた。
シルエットは徐々に女性のそれになる。
143 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:20:13.00 ID:uZv5eSLh0
川 ゚ -゚)「ごきげんうるわしゅう、ニューソク皇国皇帝ワカッテマス殿。
ヴィップ国が誇る魔術の旧家、スナオ家が長女、クール・スナオめにございます。
若輩者につきご無礼をば働きましたら是非その都度、ご指摘賜れると光栄です」
クール・スナオの優美な立ち居振る舞いが黒に映える。
うやうやしく頭を下げた後、彼女の蒼に白を混ぜた鎧が露になる。
腰元までが白の僧衣、そしてその上がドクオのものにも似た鎧だ。
彼女が杖を床に突くと、冷気が場に満ちた。
川 ゚ー゚)「ですが、私めの魔力は凍てつく波動に満ち満ちております。
それゆえに、ついうっかりの魔術により、氷の中で命尽きるやもしれません。
死後の世界からお叱りを受ける術は、不肖クール、持ち合わせませんのでご留意ください」
杖を振るうと氷に代わり、植物を床から生やす。
緑は彼女を完全に包んだ。
144 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:21:29.13 ID:fvfZIeplO
支援
145 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:22:31.20 ID:tlH8fP6H0
んっと。
支援
147 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:24:24.37 ID:uZv5eSLh0
( ´∀`)「どうもどうもモナはモナーですモナ。モナモナ。何言ってるかわかんないって言われるモナ。
あ、そうそう。モナは『絶対防壁モナー』の二つ名を持ちますモナ。
または『鈍足戦車・緑亀丸』『移動要塞・モナー』。お好きに呼んでくださいモナ」
ツタが絡まりあって形成されたのが、大柄な男、モナー。
苔むしたような濃淡が交じり合う深緑の鎧は、無論「絶対防壁」の形状。
無骨な短槍と、分厚すぎるほどの巨大な盾を手に笑う。
腰元の袋からは薬草がちょこんと顔を出している。
( ´∀`)「深緑の守人としても一部では呼ばれてるみたいモナよ。怪我したらアンタも言うといいモナ。
後は寝起きが悪い時とか、顔が悪、いや、顔が腫れた時もモナよ。
でも、私も持ってない薬草があります。馬鹿に付ける薬だけは持ち合わせてません。モナ」
これがトリカブトだモナ、と根っこを取り出すと、彼は翼に包まれる。
天使のような美しい羽がゆっくりと両側に開く。
148 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:24:37.85 ID:WHYaYk9cO
シエンタ
149 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:26:41.84 ID:uZv5eSLh0
ξ゚听)ξ「兵団団長ホライゾン・ナイトウの部下にして、親友、家族、そして……」
ξ///)ξ「こ、恋人の」
ξ*゚听)ξ「『鷹の目』、『金の射手』、ツン・デレ。全てを射通す弓は、貴方を逃がしません」
愛を司る桃色の鎧は、肩周りを露出した変則的な作りをしている。
自分の言ったことに照れて紅潮した肌は、可愛らしいピンク。
背なの弓は美しい緻密な細工が施された逸品である。
弓と翼を背負った肌は、ひとつも傷を持たない。
開いた翼は光を放ち、黒の空へと羽ばたいた。
ξ゚听)ξ「私はね、ワカッテマス。正直言うと、かなり怒ってるの。まず終戦後に兵器作ってるでしょ。
そしたら私達任務に呼ばれるじゃない、実力あるから。そんでもってどうしようもないゲームで、
腸ばっさー。ええ、ホント戦乱の世の中終わったじゃないってのにもーマジなにあんた。
空気読めなさすぎでしょ。ドクオ言ったじゃない、ぶち殺したいって。甘い。甘い。ホント甘い。
もうブーンは泣かすし、ブーンを困らせるし、ブーンの心臓取るとか、ブーンに夢楽しもうだとか。
ああああああ、ブチキレの極み。ブチキレ。天国とかないと思って。ね?
ねえ、ねえ、きいてんの? キレてんのよ私」
上空からの罵声を切ると、彼女はにっこりと笑う。
ξ゚ー゚)ξ「絶対に今度は見逃さないから覚悟してよ」
白銀の翼が閉じられ、それが光の粒子となって白の地面に舞い落ちる。
ゆっくりと積もり、真紅の鎧が現れた。
150 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:28:22.09 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「お。ツン、ちょっとじゃないお。ヴィップ国兵団団長ホライゾン・ナイトウ。ブーンですお」
( ^ω^)「僕は人が死ぬのは嫌だお。殺してきたけど、やっぱり嫌だお。
感情に色があるって言ったおね? 僕もそれはなんとなくだけど分かるお。
皆、名前が付けられないだけで思ったり感じたりした時に色があるんだお」
鎧の赤に炎のような濃淡の模様ができる。
( ^ω^)「レッド・ナイトは熱血の戦士だったお。赤の英雄。僕の憧れだったお。
『ヒーローはレッド』に限る、って。『五英雄物語』は他の英雄の話よりも、好きだったお」
燃え上がる火炎が揺れるように、模様が刻々と変化する。
( ^ω^)「レッドは何を考えて戦っていたか考えたんだお。どんな色を持っていたか、考えたんだお。
ようやく最近になって分かったお。彼はひたすらに『守りたかった』んだお」
模様は凹凸を呈し始め、ついには熱波まで起こす。
( ^ω^)「怒りの赤じゃないお。殺してやりたいって気持ちでもないお。赤は灯火の赤だお。
自分の心に火を付けて、どんな時でも周りを照らすんだお」
煌く甲冑。銀の翼よりも、さらに眩い光が黒の空間を照らす。
( ^ω^)「走り続けて、笑いを与えて、自分も笑って、大切なものを守って。そして生き抜く。
やっぱり、そう思ったら英雄はレッド・ナイトが一番だお」
剣が掲げられ、切っ先が相手に、悪魔に向けられる。
――だから。
151 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:31:44.73 ID:WHYaYk9cO
支援
支援
153 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:34:54.32 ID:tlH8fP6H0
しえん
154 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:35:19.19 ID:KbcPMF7mO
支援しようか
支援
156 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:37:37.73 ID:uZv5eSLh0
『ヒーローはレッド』を譲れない。
彼のように、お前を止めてやる。
僕の大切なものを守るために。
157 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:38:19.57 ID:FQtx0tmiO
しえしえ
158 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:38:46.76 ID:tlH8fP6H0
んん
159 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:39:27.40 ID:uZv5eSLh0
世界はいまや白と黒だけではなかった。
燦然と輝く太陽が、悪魔に対峙していたからだ。
( <●><●>)「ご都合主義のお決まりな勧善懲悪。それが『五英雄物語』の読後感でした」
( ^ω^)「僕の心の中から出て行った時は、そんなこと気にする必要ないお」
( <●><●>)「確かに。ところで、もうお気付きでしょうね?」
( ^ω^)「僕の全身が、まるごと魔力核になっているってことかお」
( <●><●>)「そう。それと、もうひとつ」
( ^ω^)「この戦いに勝った方が、あの巨大な銀色の魔導騎士の核となる」
悪魔は首肯した。
兵器廠で、物言わぬ巨大な鎧が台座に一体。
空の胸部に、ブーンが核として装着される。
その核の材料は、無論、彼の仲間達。
そして、相対している不純物ワカッテマス。
ブーン、ツン、モナーの心臓からの血。
全員、特にドクオの多彩な感情の色。
クーの魔力がそれらを纏め上げた。
ワカッテマスは、そこに自分の色、魂を割り込ませていた。
( ^ω^)「アンタが勝てば、大陸はあれに破壊され尽くす」
ここで、しかし、悪魔は否定する。
160 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:39:42.15 ID:WHYaYk9cO
し
161 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:40:54.37 ID:uZv5eSLh0
( <●><●>)「統治です。支配です。占有です。壊しなどしませんよ」
( ^ω^)「どっちにしたって人の心は破壊されるお」
( <●><●>)「感情の色が残るくらいには自由にさせますよ」
( ^ω^)「それも、圧倒的な恐怖で制限を付けた上でだお?」
悪魔に口が生まれた。
白い空洞が半月のように変形していく。
表現するなら、にまにま、というのがふさわしい。
( <●><●>)「得た物を制御するのは実に面白いのです」
( ^ω^)「やっぱり狂ってるお」
( <●><●>)「ご理解いただけない? やはり貴方は理解してくれない」
では、と悪魔。
( <●><●>)「貴方はあれほどの巨体で、どう、兵器以外として生きるのでしょう」
( ^ω^)「平和になったら考えるお。今は目の前の障害を切り伏せること、それが目標だお」
二人が、笑った。
162 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:42:33.93 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「ワカッテマスさん。あんた、精神的になかなかタフだおね」
( <●><●>)「さあ、他の兵士の血や記憶と争ったわたくしは、別人格ですから」
( ^ω^)「こんな風に死者の魂とすらも戦っては奪い尽くす。空しいお」
( <●><●>)「分割した魂ではそんなものを感じませんし構いません」
( ^ω^)「そうかお。やっぱり、魔導騎士は無人兵器だったお」
( <●><●>)「わたくしも自分が人間であるなどと世迷言は言いません」
( ^ω^)「間違った方向にタフで、もうどうしようもないおね」
( <●><●>)「くくく、そんなの、とっくにわかってます」
言葉が途切れた。
睨み合うというよりも、見つめ合う。
互いの双眸に満ちるは、相手への感情。
複雑に絡まり合う色は、果たして、怨恨に染まりはしていなかった。
それでは、と悪魔が言う。
そろそろ、と英雄が言う。
163 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:45:36.83 ID:uZv5eSLh0
( <●><●>)「始めましょう」
( ^ω^)「始めようお」
深淵の暗闇が剣を握った。
太陽の輝きが剣を握った。
一歩一歩お互いが歩み寄る。
歩調が早くなる。
リズムが早くなる。
大きな一歩。
さらに大きな一歩。
いつしか二人が、駆けていた。
赤いスカーフが翻る。
白と黒が滑るように踏み出す。
164 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:47:03.34 ID:WHYaYk9cO
え
165 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:49:40.41 ID:qzMTxbqV0
支援
166 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:49:56.19 ID:uZv5eSLh0
刺突を目論む黒の軌跡が赤の弧に弾かれる。
空いた悪魔の胴は英雄の体当たりをまともに受けた。
モノクロの具足は仰け反ったが、そのまま相手の胸を蹴り、跳躍。
後方宙返りから放たれる、鋭い首への一閃。
赤いスカーフの端が切り裂かれるも、英雄の頭はまだ身体についていた。
身を屈めた真紅の鎧は、着地の瞬間へと空いた手を振るう。
その手に現れたのは、大判の金属板。
分厚すぎるほどの巨大な盾。
強烈な衝撃に悪魔は宙を浮き、さらに後退、接地した足は白い地面を削る。
目に浮かぶは少々の驚愕と隠された憎悪。
『絶対防壁モナーの両腕が届くところは、いかなるものも不可侵。
これはもはや戦場の常識だ。……モナ』
167 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:54:53.98 ID:tlH8fP6H0
し
え
ん
168 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:54:54.45 ID:uZv5eSLh0
盾がふ、と消えると英雄は左右に踏み出しながら間合いを詰める。
ジグザグの動きは徐々に大きく、広範囲を行き来するようになっていく。
悪魔が目を細めて後ろへとステップ。
ぬるりと残影を起こしながら、一度に十歩分ほど逃げる。
赤の残像は次第に黄色味を帯びて、輝きだす。
もはやそれは人の速度でもなく、俊足の域を超えた。
無音の稲光は悪魔に追いつく。
電撃が幾本もの短剣となり、縦横から襲った。
白黒鎧の隙間という隙間からそれは突き刺さる。
明らかな舌打ちをするが、悪魔は身体が痺れ動けないようだった。
『迅雷ドクオにあの酸は超絶染みたぜ。ご馳走様、だ。
どんなんかって? こんな感じの全身ジクジク地獄だ馬鹿野郎!』
169 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 21:55:07.44 ID:WHYaYk9cO
ん
170 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 21:56:40.88 ID:uZv5eSLh0
瞳を焼かんとするほどの黄の閃光が収まる頃、英雄の剣が煌いた。
大上段からの袈裟は激しく鎧の肩装甲を砕き、さらに進行する。
しかし、悪魔は即座に地面へと溶けるように脱出し、甲冑を捨てた。
白い地面に落ちた闇は急速に分裂していく。
無数の悪魔が姿を現し、包囲した英雄へと鋭く尖った腕を伸ばす。
それはさながら剣山の抱擁、鋼鉄の処女が如き棘の殺到。
刹那、英雄が地面に突き立てる刃は杖となる。
氷点下の空気が地面を走り、蒼の光が黒を覆い始めた。
悪魔の群れは足先から凍りつき、それは瞬く間に身体を縛る。
英雄に差し迫った全ての脅威が未然に食い止められていた。
『聞こえなかったようだな。凍て付く波動に満ち満ちていると。英知の見通しに死角はない。
砕け散った後で思い出せ、お前を縛る魔術を。我が誇り高き家名を思い出せ』
171 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:00:15.77 ID:uZv5eSLh0
さらに怒涛の冷気が周囲に立ちこめ、全ての悪魔は崩れ去る。
白煙舞う大気が輝く英雄に収束し、白と黒の世界へ訪れる静寂。
杖は中ほどで持たれ、くるりと回転、軽く宙へと放られた。
それが剣へと変形すると英雄は鞘に収め、手を背に回す。
代わりに持たれた流麗な銀の弓。
さらにその背なには白銀の翼。
彼は飛翔する。
そして、空の黒に紛れた最後の悪魔を見据えた。
驚愕を表したモノクローム。
微笑をたたえた太陽の輝き。
『鷹の目が英雄にはついてるのよ。言ったでしょうに。今度は見逃さないって。
ブーン、やっちゃって。絶対に外すわけないわ。私が狙ってるんだから』
172 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:02:20.01 ID:uZv5eSLh0
きりり、と弦が鳴く。
しなる弓の手応え。
番った矢は光の矢。
五色の混ざった光。
感情の、記憶の色。
五英雄の魂が放つ色。
それは、放たれた。
173 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:04:39.15 ID:tlH8fP6H0
んーえし
174 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:05:08.69 ID:uZv5eSLh0
( <●><●>)「!!」
それは雷の速さ。
光の到達は刹那。
( ^ω^)「隠れたところで、一緒だお」
どん、という鈍い音。
暗黒の一部はそれを受けて白に落ちる。
叩きつけられる寸前、悪魔は抜け目なく矢を抜こうとする。
貫かせはしまいと両手を使ってそれを掴む。
しかし、抜かれた矢から植物が、冷気が、電撃が溢れる。
( <●><●>)「くっうう!!」
緑が手先から束縛して行く。
蒼が芯まで凍りつかせる。
黄がその表面を走り痺れを起こす。
悪魔の身体が白に縫い付けられた。
175 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:07:42.96 ID:WHYaYk9cO
しーえーん
176 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:07:52.19 ID:uZv5eSLh0
( ^ω^)「ツン。ドクオ。クーさん。モナーさん。皆、力を貸してくれてありがとうだお」
『青臭えんだよなお前は。おい、ぼんやりしてんと奴さん抜け出すぞ』
『スナオ家の魔術をこれほど見られる人間はそういないぞ。感謝してくれ』
『やー、やっぱり緑は良いモナねえ。さてさて、ホライゾン君。終わらせるモナ』
『団長さん、行くわよ。見せましょう私達のすべてを。ね? ブーン』
( ^ω^)「皇帝ワカッテマス。兵団団長ホライゾン・ナイトウ。参ります」
( <●><●>)「動きがっ……」
黒い空の中で真紅の鎧が急激に下降する。
翼で吹かぬ風を受けて。
いや、風は必要ない。
彼こそが、それなのだから。
悪魔は割目した。
風の如き俊足。
炎の如き太刀筋。
英雄は、天を駆けていた。
赤の騎士が咆哮とともに迫る。
しえん
178 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:08:21.59 ID:tlH8fP6H0
しっえっんっ
179 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:10:22.90 ID:uZv5eSLh0
「戦争は、これで終わりにするお」
「できるものならやって御覧なさい」
「いくらでもやってやるお」
「絶望の黒はいくらでも潜んでいますよ?」
「僕が全部照らして押し込めてやるお」
「くくく、見ていましょう」
――貴方の心の中から。
180 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:12:29.06 ID:uZv5eSLh0
白と黒の世界が、終わった。
181 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:15:01.23 ID:WHYaYk9cO
シエンタ
182 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:16:06.88 ID:uZv5eSLh0
モララーは兵器廠の中で椅子に座り、虚ろな視線を宙に彷徨わせていた。
彼は何も見てなどいなかった。
目前のにある物達からなど、特に努めて眼を逸らした。
満たされた液の中を長い黒髪が漂うガラス管。
半分溶けている遺体から取り出した脳。
植物に辛うじて食べられなかった心臓。
傷ついた腹以外、安らかな顔の女性。
そして、彼にとっての最悪、悪魔の兵器、銀の魔導騎士。
人の身の丈の十倍以上。
全てを両断するに容易い特大剣。
今まで飾りであったそれから、彼は眼を逸らしていた。
( ∀ )「……」
彼の頭にある選択肢はふたつ。
目覚めた騎士の前で自害する。
もしくは、頼んで殺してもらう。
( ∀ )「もう二日も経ったのか」
183 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:17:35.29 ID:uZv5eSLh0
ヴィップの外相としてクールがニューソク城を訪れた。
その報告は彼にとって喜ばしいことでもあり、恐ろしいものでもあった。
長らくまみえることのなかった敬愛すべき主。
幼少のみぎりより彼が世話役を務めた女性。
次代頭首確実とまで言われるほどの人物。
クール・スナオ。
会いたくないわけがない。
しかし、裏切りを告白する?
育て、そして慕っている彼女に責められたら?
保身。保身だ。
ワカッテマスが外相の面々を嬉々として知らせた時に、モララーはそうやって自嘲した。
皇帝の貼り付けたような笑顔は、さらに彼を追い詰めた。
――魔導騎士が目的なのは分かってます。もし来たら、上手く中へ誘導して下さい。
報酬は、家族への虐待の取りやめ、解放。約束しましょう。
それから、二日。
つまり、四人が死に、
( ∀ )「五人と皇帝が魔導騎士の核として融合してから丸一日……」
他に誰もいない兵器廠の中で、彼は一睡もせずに待っていた。
自らの死に様を決する、目覚めを。
184 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:19:25.91 ID:hn7B3cjoO
支援だ
185 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:20:29.63 ID:uZv5eSLh0
銀の甲冑から光が溢れた。
186 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:22:03.21 ID:tlH8fP6H0
しぇ
187 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:22:35.43 ID:uZv5eSLh0
『…………』
巨大な魔導騎士がその顔を上げた。
( ・∀・)「ついに決着、か」
兵器廠の天井は高い。
それが台座からゆっくりと腰を上げ、直立してもなお余りある。
モララーも同じく立ち上がる。
( ・∀・)「どっちだ。皇帝か。それともヴィップの剣士か」
魔導騎士は胸部装甲を開け、その中を自ら眺める。
そこには一人のヴィップの剣士の身体。
しかし、それは形だけの、魔力の結晶だ。
魔力、武人の心臓から採る血液、そして感情の色を混合、凝縮、固形化したもの。
複雑な色味を放つ魔力核。
練り合わされた賢者の石。
作り出したのは愚者の欲望。
して、その塊は何が目的だ。
略奪に支配か。
破壊の衝動か。
殺意の発散か。
188 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:23:25.82 ID:1aLzvqILO
焦らし作戦!
焦土作戦!
189 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:25:07.61 ID:uZv5eSLh0
巨大な魔導騎士を見上げるモララーは、答えを待った。
彼は、自身が妙に冷静であることに気付いていた。
彼は思った。
受け入れる準備はできている。
いくつもの命を踏みにじった。
自分のために、心の臓を抜いた。
自分のために、脳を切り裂いた。
エゴ。分かってる。
だからもうひとつ自分のために、決断したんだ。
救われるために、殺してくれ。
( ・∀・)「……」
『…………』
銀の魔導騎士が視線を下ろし、モララーを発見する。
ぎしぎし、と首を鳴らしながら傾ける。
( ・∀・)「さあ、答えてくれ。私はどうやって死んだらいい」
巨体から、声が響く。
複雑に絡まりあった、誰かの声。
『そのリクエストは保留しましょう、モララー博士。
わたくし達魔導騎士の場所を教えなさい』
190 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:27:17.02 ID:WHYaYk9cO
支援
191 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:28:26.10 ID:qzMTxbqV0
支援
支援
193 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:29:33.20 ID:uZv5eSLh0
(#・∀・)「うるさい! 私を殺せ! その足で踏み潰せ! 皇帝!」
『馬鹿な。何を言っているんですか。手足を拘束して、猿轡でもかませましょうか』
(#・∀・)「それなら……今すぐやってやる! くっそおおお!」
『まあまあ、必ず死に様を決定してあげますから。まずは教えてください』
モララーはうなだれ、再び椅子に腰を下ろした。
( ∀ )「ヴィップに向かって進攻中だ。半日前に出撃した……」
沈黙。
そして、銀の鎧は大げさに頭を抱えた。
音声が澄んで明確に人格が現れる。
『お!? やばいお! 急がないと戦争始まっちゃうお!』
( ・∀・)「……え?」
『馬鹿! ドクオあんた遊んでる暇ないって聞こえなかったの!?』
『いや、だってこいつちったぁ反省し――』
『うるさい!』
( ・∀・)「……え? え?」
194 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:31:55.67 ID:uZv5eSLh0
肩透かしを食らったような表情のモララーは、椅子から動けずにいた。
口を開けて間抜けに同じ音を繰り返している。
巨大魔導騎士がしゃがみこんで、親指を立てる。
兵器らしくない、親しみのある仕草だった。
『モナモナ。モララーさんとやら、待ってるモナ。ちょっくら行って来るモナ』
( ・∀・)「君達は、君達はあの皇帝に勝ったのか?」
『何を言っているモララー。スナオ家お抱えの学者が計算を誤るな』
あ、とモララーは床へとずり落ちる。
頬を熱いものが流れていく。
( ;∀;)「ク……クール様……クール様! あああああ!」
『馬鹿者。今は泣く時でない。小蝿駆除が先だ。後で必ず罰する』
『おっお、そうだお。平和になってからデコピンしに迎えに来るから待ってるんだお』
銀の鎧が城壁を破壊して氷河を飛び越したのは、直後だった。
全てに色彩がきちんとある世界を魔導騎士は駆ける。
青い空、白い雲、眩い太陽。
深緑の森や遠くに見える山々。
『おっおっおっ! やっぱり白黒は息が詰まるお!』
195 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:33:47.36 ID:uZv5eSLh0
巨大な魔導騎士は疾駆する。
笑い声を上げながら。
複数の声が中で談笑している。
戦争の種火を消しに行くというのに、足取りは軽快だ。
光を受けて、煌く銀はやがて色を変える。
胸から溢れ出した赤い光。
全身が真紅になった動く甲冑。
眼に痛いくらいの赤。
首元にスカーフがないのに気付いて、それはため息をついた。
平和になってから、初めにやることが決まったようだった。
196 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:35:08.26 ID:uZv5eSLh0
『ちっこい魔導騎士ぶっ潰したら、赤いスカーフを国王に貰うお!
ヒーローはレッド。これだけは絶対に譲れないお!』
( ^ω^)「ヒーローはレッド」を譲れないようです
終わり
197 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:36:10.81 ID:/dI5hU5C0
乙!
良い作品だと想うよ!
198 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:36:28.00 ID:fvfZIeplO
乙!
199 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:37:05.08 ID:tlH8fP6H0
乙っしたー!
ハッピーエンドで終わってよかった!
乙!
面白かった!
201 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:38:53.91 ID:7mniP7x30
乙!
いい終わり方だった!
202 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:42:31.87 ID:WHYaYk9cO
乙!
面白かった
203 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/31(火) 22:45:23.45 ID:qzMTxbqV0
乙!最初ハズレと思ったのに良作ですた!
204 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/31(火) 22:45:48.27 ID:uZv5eSLh0
まず初めに、祭り中に投下終わらなくてごめんなさい。
今日の午後四時に再投下始めたんですけど、やっぱりこんだけかかった。
途中の支援のおかげで、さるっても最後までいけました。
ありがとうございました。
度々時間空けたのは、さると食事と泣いてた時間です。
ええ、ツンが消えるところで自分が泣いてたんです。
家族に気持ち悪がられました。
長い間お疲れ様でした。
お付き合いありがとうございます。
まとめさん、主催者さん、ありがとうございました。
それでは次のレスでチラ裏あとがきを。
チラ裏あとがき
天下一ブーン会の三日前のことでした。
こんな夢に見ました。
白黒の白の中を無残にぶち殺されまくる友人と自分です。
恐ろしいのは、死んでも時間が巻き戻って、友人達がまた死ぬことでした。
飛び起きました。
で、色が強烈に残ってたのが黄色の酸と、血です。
ぶっちゃけ、皆死んで、( ^ω^)は呆然自失で感情の色生産機扱いになる予定でした。
で、夢の中で繰り返される仲間の死に絞りつくされたところで、串刺し、
( <●><●>)「英雄気取りは出血で赤ですか。お似合いですよ」
とか言わすつもりだったんですけど、修正しました。
前述の通り、不憫になってきて泣けたので。
ぎりぎりまでかけて書いたんですけど、長いし投下遅いし中断しちまいました。
まとめを読んでくれる人がいたら、うれしいです。
支援してくれて、本当に助かりました。
後は、まとめさんの所に修正依頼出せたらようやく終わりです。
>>204といい、チラ裏でした。
失礼します。
祭り作品が質問受け付けるのかわかんないんですけど、
何かありましたらどうぞ。
23:30くらいまでならいます。
よむほ