1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
いつだってこの世は弱肉強食、そんなことは誰よりも一番分かっている。
分かってはいるのだが、そう上手く思惑通りには生きてはいけない。
結局のところ無い袖は触れず、長いものに巻かれ、身の丈に合った生き方を強要されるのが人間というもの。
もちろんそれが一番安全で安寧で、そして退屈な正しい生き方なのだ。
出る杭は黙って打たれる、致し方無い。
でも、知っている。
社会に見せ掛けだけの権力を擁護するための下らない制度があることや、無能な屑が有能な者を踏みつけるための腐った慣習が根付いてることを知っている。
そんな『現実』という名の汚泥を思う度に、私の心は煮えたぎりはち切れそうになるのだ。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:44:27.85 ID:h4bSednjO
このどうしようもない怒りをどこにぶつけたらいい?
この身を引き裂くような憎悪をどこに吐き出せばいい?
私は悟った。すべての原因は『大人』――旧世代の塵芥どもにあると。
己の心を蝕んでいた者の正体を知ったと共に、私は強く誓った。力の限りを尽くし、数多の軍勢と才能を掻き集めることを。
過去の異物たちに崩壊を招く、優秀な戦士たちを私の下に呼び寄せる事を。
何千何万もの同志たちの先頭に立ち、彼らと共に為す大いなる『革命』を夢見る私は、きっと子供のように無邪気な笑みを浮かべているだろう。
そして私はこの胸を熱くする思いに満ち溢れるまま、偉大なる一歩を踏み出したのだ。
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:44:41.84 ID:uNGBOjoLO
支援
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:46:12.29 ID:h4bSednjO
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第一話『変動日常』
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:47:45.30 ID:uNGBOjoLO
しえ
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:48:27.43 ID:h4bSednjO
(#チдン)「喰らっとけやあああァああ!!」
眩しい春の麗らかな朝。だというのに、陰湿なほどに薄暗い路地裏。そこで事は既に始まっていた。
制服を不細工に着崩し、頭髪もゴテゴテと染め上げた――要するにどこにでもいそうななりのチンピラ。
彼は大声を上げ、技術もへったくれもないただの大きく振りかぶったパンチを一人の少女に向ける。
脅しでも何でもない、相手を殴りつけ昏倒させんとする本気の一撃である。
だが拳は受け止められる。まるでキャッチボールのように、硬く硬く握った男の拳骨が少女の手の平へ吸い込まれるようにして収まった。同時に、グイッとチンピラの身体が引き寄せられる。
勢いに負けて前につんのめり、地面に手を突く――そうするや否やだった。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:51:25.04 ID:uNGBOjoLO
ん
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:51:26.38 ID:h4bSednjO
ノハ#゚听)「っしゃぁぁあああああーーーっ!!!」
怒喝一声。
先程のチンピラのそれとは比べ物にならないほどの轟音と共に、少女の小さな拳が敵の腹を貫く。
深く、鋭く、重く、練り込められた腕力を叩き込む。
(チдン)「おっぼぁあ?!」
チンピラの体は宙を舞い、綺麗なアーチを描くと傍にあったゴミ箱に頭から突っ込む。
勢いの殺されないままに彼の体はそのマヌケな姿のまま地面を跳ね、壁に突っ込んだ。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:53:07.08 ID:rGeSUnEdO
これは期待
支援
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:53:28.01 ID:h4bSednjO
(ピзラ)「兄貴ぃ!? ちっくしょぉおお、よくもてめー!!」
(`ェ´)「許さんピャー! ちなみに俺、佐藤裕也。ピャー!」
二人の大立ち回りを取り囲んでいた別の不良たちが、一方の撃沈を合図に一斉に襲い掛かってくる。
各々がメリケンサック、鉄パイプなどの物騒な武器を手に突っ込んだ。
少女は新たな敵に向き直る。頭上に迫った鉄パイプの一振りを回避。すかさず顎に右フック。
反撃や防御の隙すらない。少女はチェックのスカートをひらりと舞い躍らせ構え直す。
間髪入れず崩れ落ちる仲間を飛び越えて掴みかかってくる者をハイキック、両脇から殴りかかってくる二人には肘撃とアッパーで迎撃。
彼女の動きに合わせ真っ赤なポニーテールがなびく。圧倒的だった。確実に一人一撃でノックダウンさせられていた。
ほのぼのかと思えば!
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:56:11.91 ID:h4bSednjO
(`ェ´)「ピャ―――ッ!!」
最後に残った一人が奇声を上げ、コンクリートブロックを投げつけた。
飛来する凶器、無論その重量と速度は当たれば重傷を負わせるに充分である。
ノハ#゚听)「――フンッ!!」
迷うことなく、恐れることなく突き出されたパンチはブロックを打つ。バカリ、と音を立て砕けるのは彼女の拳ではない。ブロックだ。
(;`ェ´)「ば、化け物だピャ――!! 相手にならんピャ――!!!!」
慄き、最後の生き残りは諸手を上げて逃走した。フンと鼻息を荒くする少女はそれを追わない。
この喧嘩は彼女が仕掛けたものではないからだ。一方的に吹っ掛けられたイチャモン、それに応じただけである。
最後の一人まで執拗に痛めつける――なんてことは少女の頭には最初っから無い。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:58:53.96 ID:Q+slLmFD0
書き溜めしてある?
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/24(火) 23:59:11.70 ID:h4bSednjO
そして数分前まで荒々しい怒号に包まれていた路地裏には、少女の息遣いのみが響いていた。
ノハ;゚听)「あいたたた、くそー……。オンナノコに向かって化け物だなんて失礼な奴だな」
少女はとりあえずなんとかなったことを確認すると、やれやれといった表情で拳をさする。
さすがに勢いとは言え、コンクリートを素手で壊すのには彼女も応えたようだ。
しかしそれにも増して壮絶である。
大の男を数人、それも身の丈百五十センチ程の小柄な少女がそれらを殴り倒す光景は、恐らく見る者がいれば唖然とするだろう。
現にチンピラたちにはもう立ち上がる気力も体力も――あるいは先の一撃で意識さえも飛んで無くなっているのかもしれない。
その証拠にあちこちでグッタリと地面に突っ伏す彼らはピクリとも動かなかった。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:01:39.42 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)「まったくうう!! 私に喧嘩を売ったのが間違いだったな! コレに懲りたら二度と通学途中は襲ってくんなよ!」
少女は傍らの地べたに置いておいた通学鞄をヒョイと拾い上げるとバケツマン御一行にそう言い聞かせ、足早に路地裏から走り去る。
彼女の小振りで目鼻の通った顔には恐怖や、興奮なんてものは浮かんではいない。
まるで先程の乱闘など、道すがらに犬猫の喧嘩を見たかのような扱いである。
ノハ;゚听)「マズいぞおおおお! このままじゃまた遅刻するうううう!!!」
スニーカーの地を蹴る音も軽やかに、朝の陽光に満ち溢れる町を駆け抜ける彼女の名は素直ヒート。
VIP学園二年E組。誰が呼んだか巷じゃ噂の――
(チдン)「うぐ……『熱血喧嘩屋』……さすがに噂以上だ、ちくしょう……」
16 :
あ:2009/03/25(水) 00:03:51.08 ID:9oemBQNqO
支援
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:03:51.27 ID:SNyc/Cw2O
* * *
ヒートの日常は単純明快である。
起きて、群がる塵芥を殴り飛ばし、キャッキャウフフと学園生活を満喫して、帰り道にまた不良共を殴り、家で眠る。それだけだ。
彼女だってそれがとても楽しい。
もちろん見ず知らずの男たちに因縁を掛けられて毎度喧嘩に明け暮れる――乙女としてそれが正しい生き方なのか彼女は知らないが、それはそれでいいのだ。
いつの間にか付いてしまった通り名を返上なんて出来ないし、ただ単にかかる火の粉を鬱陶しいから振り払っているにすぎないのだから大したことはない。ヒートはそう思っている。
ただ彼女には満たされぬ一つの欲求があり、それは――
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:06:12.48 ID:SNyc/Cw2O
('A`)「おい、ヒ−ト。起きろよ」
ノハ-听)「むにゃ……、なに、何だよぉ」
涎で水溜りの出来た机でヒートは目を覚ました。ゴシゴシと乱暴に口元を拭い、まだ開ききっていない目を瞬かせる。
まだいまいち自分がどこにいるのかを思い出せないようだった。
隣でやれやれと肩をすくめる鬱田ドクオは、そんな彼女の覚醒しきっていない頭をシャーペンでコンコンと叩く。
('A`)「起きてますかーヒートさん?
ただいま一時限目は絶賛自習中ですけど、御宅の机に涎のナイアガラが完成しそうだったので警告しときますよー」
ノハ;゚听)「……ぅぐぐ!? 何だよドクオ、それなら早く言え!」
自分の惨状に気付いたらしいヒートは大慌てし、ポケットから取り出したティッシュを紙吹雪のように机へと投下した。
あっと言う間に空になるポケティの袋を放り投げ、一端の女子高生には相応しくない有様になってしまった机を拭く。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:06:37.80 ID:KIdfggrXO
支援
てす
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:09:05.20 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)「そうかそうか……そういえば自習になったんだっけなぁ。お陰で遅刻せずに済んだんだった」
('A`)「何を今さら。机に着いた途端に居眠り始めといてよく言うぜ」
ワイワイガヤガヤ、と教室は雑然としていた。
真面目に復習・予習・宿題・自学に取り組む者、プリントを紙飛行機にして遊ぶ者、仲良しグループで今年のファッションの流行についておしゃべりする者、etc、etc……。
そんな中二人は一番後ろの窓側の席を陣取っており、そしてやはりこの退屈な時間が過ぎるのを待っている身であった。
と、思い出したかのようにドクオはポケットに片手を突っ込む。ボサボサの頭を掻き毟り、取り出した携帯の液晶をヒートに見せ付けた。
('A`)「ヒート、そういやお前携帯持ってなかったよな?」
ノパ听)「ないない全然ない」
('A`)「じゃ一応教えとくか。ついさっきこんなメールが来たんだよ。多分、お前にも関係あるぞ」
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:09:49.02 ID:3lKfBjrLO
支援
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:11:33.95 ID:SNyc/Cw2O
液晶に映っているのはメール画面。タイトルには『生徒会広報メール』と打たれている。
ノパ听)「生徒会のメールマガジンか? そんなのがあるのか」
('A`)「あぁ、行事だとか秘密のイベントだとか――結構面白い情報も手に入るらしいし登録しておいたんだ」
ノパ听)「それが何で私に関係があるんだよぅ?」
('A`)「まぁちょっと見てみ」
ドクオが送るページにはズラリと文字が並ぶ。
学食のメニュー、一ヵ月後に迫る夏休みについてのインタビュー結果、近場でオススメのファーストフードショップの紹介などなど。
その一番下にある文字に、ヒートの目は留まった。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:13:21.91 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)「【緊急連絡! 各部活動、同好会、研究会、クラブの部長・主将・会長職の人は本日放課後に生徒会棟一階ホールに集合のこと】……?」
('A`)「お前、空手道部の主将だろ? まぁ実際一人しかいないから自動的に決まった主将だが」
ノハ#゚听)「そ、それを言うなら剣道部も幽霊部員ばっかでお前一人ぼっちだろうがああ! 自動的に決まったのはそっちも一緒だ!!」
(;'A`)「俺は一応選出で主将になったんだよ! 強いんだよ、一応!」
ノパ听)「ふふん、まぁ私だって同世代の空手家には負けない自信はあるけどなっ!」
('A`)「そんなこと言って、不良と喧嘩して連戦連勝なだけだろ。大体お前のは空手と言うよりただの喧嘩殺法」
そこまで言ってドクオは、ヒートがこれ見よがしに照れた顔を浮かべるのに気付く。
ノハ*゚听)「おいおい、そんな褒めても何もでないぞ。連戦連勝だなんて」
('A`)「生粋のバカですかあなたは」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:15:56.92 ID:+nGoqk3wO
いいヒートだ支援
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:15:57.74 ID:SNyc/Cw2O
* * *
VIP学園はマンモス校だ。
千人を超える在籍生徒数と一つの街であるかのような広い敷地面積は、県内でも有数の目玉となるに相応しいスケールである。
加えて、スポーツ・文化活動など各方面の優秀者に対して充実した特待生制度を設けているため、地方からも編入者が多い。寮を初めとし、各種施設も充実しているのもそれ故。
ヒートとドクオも寮生である。もっとも実家は地元にあるし絶対的に寮に入る理由などなかった二人だが――少なくともヒートの場合、彼女の寝起きがとてもルーズだからだ。
それなら学園に程近い寮なら問題はないと思っていたらしいのだが、結局一人暮らしで誰も起こしてくれる人がいないという事実は距離の問題を軽く凌駕してしまったらしい。
それが今日の――いや毎朝の結果である。
おまけに寮と学校の短い道すがらにさえ、不良共が関係なく湧いてくるのが究め付けの原因だった。
反してドクオは分かりやすい。単純な話、一人暮らしに憧れた結果の末だからだ。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:19:10.81 ID:SNyc/Cw2O
さて、先も述べたようにこの学校で最も特筆すべきなのは活発なクラブ活動である。
その特徴こそ『志と顧問さえあればたった一人でも』というなんとも大胆な方針。
それに相まって、小さなものまで加えると部活動の総数は百に至りそうなまでの規模なのだ。
('A`)「大体おかしいだろ、部の連中を一人残らず病院送りにしたせいで一人ぼっちの主将になるとか」
ノパ听)「そんなこと言ったって仕方ないだろぉ! ウチの部じゃもう私の相手になる奴なんか居なかったって事なんだから。強さを認められたんだよ!」
二人は渡り廊下の段差に並んで腰掛け食事を取っていた。時刻は十二時、昼休み真っ只中である。
呆れた表情を浮かべるドクオを尻目に、モシモシと購買部の焼きそばパンを齧るヒートの言葉には悪気なんて一切ない。殊更に全く。
('A`)「それは責任を追及されての結果じゃないのか?」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:21:38.37 ID:SNyc/Cw2O
片やドクオは自販機の黒酢豆乳にチビチビと口をつける。
と、気になるのか額にかかる無造作に伸びた黒髪をつまみ、グリグリと弄りだした。
彼の雰囲気が周りから暗く見えてしまうのも、偏にその鬱陶しい髪型のせいなのだろう。
ビニールまで飲み込むような勢いでパンを平らげるヒートは彼の仕草をふいっと見る。彼女はわかっているのだ。頭さえ小ざっぱりとすればドクオだって少しは見れる顔付きにはなるのだと。
なんてことはない、長年の付き合いでそう確認しているからだ。
そう、二人は幼馴染なのである。
同じ小学校、中学校を経た長年の付き合いだ。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:24:26.96 ID:SNyc/Cw2O
('A`)「えーっと何の話だっけ? ……そうそう、放課後の集まりだ。行くか?」
ドクオが振り返ると同時に、今まで眺められていた事をバレないようにヒートは目を背けた。
ノパ听)「本当のところ、めんどくせええええーなああああーオイ!って思っている」
(;'A`)「おいおい。だってあれだぞ、一応生徒会からの届出なんだし」
ノハ#゚听)「なら言ったれ! ちょっとは携帯を持たぬ者にも考慮して連絡しろとなああ!!」
('A`)「今時携帯も持ってないお前にも別の意味で問題はあると思うが。それにメルマガじゃなくても一応掲示板とかにも貼り出されてたぞ」
ノハ;゚听)「なん……だと……?」
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:27:04.87 ID:SNyc/Cw2O
しかし、ドクオは別の意味でも気になっていた。
例えば体育祭が近づけば運動部を集めるだろう。文化祭が近づけば無論文化部をだ。
そのどちらとも取れない微妙なシーズンである今、わざわざ数十もの部活動を一堂に会させ何をするのだろうか?
('A`) (ちょっとばかし気になるんだがなぁ……)
耳を傾ければ、ヒートはもはや放課後の集まりなどに行く気はないらしい。
『ゲーセンだ! ゲーセンに行ってパンチングマシーンの記録を打ち破りに行くぞおおお!』と喚きたてている。
そんな彼女の姿を見ているうちに、ドクオは自分の疑問が取るに足らぬものなのだという結果に至った。
('A`)「まぁ、いいか。どうせ――」
大したことじゃない。
そう心に決め付けると腹に力を込め、パックに残っていた黒酢豆乳を飲み干した。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:29:08.69 ID:SNyc/Cw2O
* * *
翌日である。
清々しい朝に助けられたのか、念の為と立ち寄ってくれたドクオに感謝すべきなのか、ヒートは珍しく寝過ごさずに目覚めた。
意気揚々とドクオと連れ立つ彼女はご機嫌で、今にもスキップで飛び上がり月にタッチでもしそうな様子だった。
ドクオ自身は昨日散々と付き合わされたゲームセンター巡りに疲れ果てているのだが、むしろヒートが疲れを微塵すら感じさせない振る舞いである事に舌を巻くばかりである。
ノハ*゚听)「いいなあ! 早朝起床! 遅刻を気にせずランランルー! やっぱり寮で暮らしてよかったぁ!」
('A`)「甲斐甲斐しく朝起こしに来てやった幼馴染に、労いの言葉は一つも無しですか?」
ノパ听)「あぁ、えーと……どうも」
(;'A`)「何その『コレで満足か?』って表情は!?」
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:31:08.37 ID:SNyc/Cw2O
嘆くドクオをいなし、町を闊歩するヒートはまだ眠りについている街を見渡した。
静まり返った辺りからは風に乗って、ほのかな草の香りが漂う。まだ五月も始まったばかり。ポカポカとした陽気が心地よい。
と、同時にそんな春の穏やかさの中でむずむずとくすぶっている自分の心。平和な光景に反して血が滾るような、己の心の反動。
今朝はいつもと打って変わり、どうにも悪漢たちも襲い掛かってくる様子も無い。ヒートだって、いつもいつもチンピラ相手に大乱闘なんてしたいわけではない。
ただ、退屈なのだ。
自分の心の奥底にある闘志。それを昂ぶらせるような闘いをしたいという欲求は、町の不良相手には満たされない。
ヒートは求めているのだ。いつも心の奥底で、燃え上がるような熱い勝負を行えることを。
ノパ听) (我ながら、この感情ばっかりはなんともしがたいなぁ……)
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:33:48.95 ID:SNyc/Cw2O
* * *
校内はシンと静まり返っていた。
上履きに履きかえるドクオを待ちつつ、ヒートは吹き抜けの玄関ホールをウロウロと歩き回る。
ホールの天上に備え付けられた天蓋窓からは、まだ角度が悪いせいか朝日は見えない。
('A`)「心配した割りにはちょっと早く来すぎたかもな」
準備を終えたドクオにポンと背を叩かれ、気が抜けていたのかヒートはハッとした。
ノパ听)「おー……そうだな。何だか、ガヤガヤと騒がしいこの学校にもこんな一面があるのかって思ってた」
('A`)「新たな発見だな。よし、とっとと教室に行く――」
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:36:21.88 ID:SNyc/Cw2O
そこまで言ってドクオは口を紡いだ。唐突に彼の視線が固まる。廊下のずっと先、曲がり角となったその場所に。
突然のことに首を傾げるヒートはドクオの視線の先を見定める。そしてドクオが固まった意味に彼女は気付いた。
まだ仄暗い廊下の向こうから、ヌゥッと大きな影が這い出でたのを見てしまったからだ。
でかい。
それは人のシルエットをしているが明らかに巨大だった。
頭を天上に擦り付けるかのようにしてノシノシとこちら側に前進してくる影は、こちらをジッと見据えている。
全身の毛が逆立った。背中を汗が走った。
予想もしなかった事態。先程までの平和な世界が、この異形の存在によって何か別のものに変容していく感覚。
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:38:39.75 ID:SNyc/Cw2O
ノハ;゚听)「何だ……あれ?」
(;'A`)「分からん、分からんがあれがヤバそうな奴だってことくらいは分かる」
近づくと共に二人の目に明らかになっていく姿。
丸太のような手足、岩石のように盛り上がった胸板、おおよそ人のそれとは思えないような筋肉の鎧に身を包んだ大男である。
思わず身構える。何者なのか、一体ここで何をしているのか。二人の思考が巡りに巡る。
ドクオはもちろんこの場を離れるべきだと思った。
何やらよく分からない不審者がそこに居るのだ。背中を向けて走り去りたいと思うのが普通である。
しかし、いざ振り返った瞬間この男が肉食獣のように自分へと襲いかかってくる光景を容易に想像できてしまい、足がすくんでしまうのだ。
ヒートは対照的に立ち向かう事ばかり考えていた。
あと何歩男が歩けば自分の射程に入るか、または相手の射程に入ってしまうか。あのとてつもない筋肉から放たれる攻撃は、自分には防ぎきれるものなのか。
焦りと共に興奮も覚える。久々に骨のありそうな奴が目の前に現れてくれたものだと、心の内ではほくそ笑む。
まるで先の自分の気持ちを誰かが汲み取ってくれたかのような、恰好の状況。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:41:46.07 ID:SNyc/Cw2O
そんな最中、ついに男がその太い腕を伸ばせば二人の身体に届きそうなほどの距離にまで接近してきた。ドクオは背後ににじり寄り、ヒートは再び身構え男を睨みつける。
互いの吐息を感じれるほどの間合い、そしてどういう形であれ『闘うこと』になったのなら必殺の間合い。大男はそこにずしんと踏み込む。
ふっと、三者が一斉に大きく息を吸い込んだ。
最初に動いたのは? ドクオ、ヒート? ――答えは大男だった。
| ^o^ | わたしです
ぺこりと、挨拶。
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:08.15 ID:+nGoqk3wO
支援
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:15.55 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:16.81 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:18.07 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:19.21 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:20.46 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:21.68 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:24.22 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:29.79 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ ぬるぽ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:31.24 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:32.54 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:42:33.69 ID:045CZhBF0
ハ_ハ アヒャヒャ
('(゚∀。∩ なおるよ?
ヽ 〈
ヽヽ_)
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:44:11.91 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)('A`)「「――――ッ!!?」」
あまりにも突然の出来事に二人は当惑する。
そのなりから彼が尋常ではない者であることは一目で分かる。尋常じゃあない奴がやる事なんて、到底良いものではないという事も誰だって分かる。
ただ襲い掛かってくるとか、何か物騒な物を持ち歩いてるとかなら二人も幾分反応は出来ただろう。
しかし男が馬鹿丁寧に挨拶をしてくる、そんなことは思ってもみなかったし、加えて今度は男が凶器ではなくコーヒーポットを取り出してくるなんてどう足掻いても行き着かない考えだった。
| ^o^ | これはこれは おはやうございます もーにんぐこーひーはいかがですかな?
のっぺりと特徴のない顔、なぜかしら棒読みな口調、そしてこの体躯という異常な男は、上半身裸のくせにどこからかポットとカップを取り出すとコーヒーらしき液体を注ぎだす。
呆気に取られるヒートとドクオの前に、モウモウと湯気を立てるカップが差し出された。
| ^o^ | えんりょせず
ノハ;゚听)「え? ちょ……これ――」
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:46:38.98 ID:SNyc/Cw2O
ヒートは迷った。一発ぶち込むべきか、否か。
もちろんそんな怪しい容器を受け取りたくはなかった。ただこの男が思っているほどに危険ではないんじゃあないか、なんて考えが一瞬だけよぎったから、らしくもなく迷う。
そうなるともう反射では殴れない。思考で殴るしかなくなる。
人が人を考えて殴る時はいつだって、ドロドロ、ノロノロ、愚鈍に考えるのだ。
ヒートだってそうだ。ヤバイ奴、立ち向かってくる奴は殴ってもいい。ただ敵意や悪意のない者、そういう者だけは殴ってはいけないと彼女だって分かっている。
カップを目の前にヒートは目を白黒させる。良心と闘争心の狭間で足が動かなくなってしまった彼女は思わず、ドクオを見て、男を見て、またドクオを見る。
そしてもう一度男に振り返った時、あることに気付いた。
大男の後ろから何者かが追随していた事に。
wktk支援
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:49:07.93 ID:SNyc/Cw2O
今まで大男がでかすぎて分からなかったのだ。
大の大人が三人くらいすっぽりと納まりそうな大きな影に隠れるようにして、じっと立っていたその人物はヒートと目が合うとニヤリと口を歪ませた。
从 ゚∀从「やめとけ、それはコーヒーじゃない。醤油だ」
それは小柄なヒートよりもさらに背が低い少女。
クセの強い銀髪はあちこちに跳ね上がっており、制服の上から袖を通さずに白衣を羽織る彼女は白くてほっそりとした腕をヒラヒラと振るう。
長い睫毛に縁取られた瞳は尊大さと威厳に満ち溢れていた。パッと見は確かに可愛らしいが、その目だけは彼女の本質を物語っている。
| ^o^ | Oh ぶちょーではありませんか
从#゚∀从「ブーム!! お前いい加減に醤油とコーヒーを間違えるクセを直しやがれ!」
| ^o^ | これはこれは
鬱陶しそうに少女が大男の太い足に蹴りを入れる。それが効いているのか効いてないのか、ブームと呼ばれた彼はヘコヘコと少女に頭を下げた。
ふっと、心なしかヒートとドクオの間に走っていた緊張の糸がほつれる。
よく分からない。が、この少女が出現した事で何か二人の中で体のいい『納得』が生まれたからだ。あぁ、今はそんなに異常な状況でもないのだ、と。
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:51:44.92 ID:SNyc/Cw2O
(;'A`)「お、おいちょっと何なんだよ。あんたら一体何者なんだ? ココの生徒なのか?」
余裕が出たせいか、今の今まで後ろに下がっていたドクオが声を上げヒートを庇うように前に出る。ヒートもとりあえず構えを解き、フゥと溜め息をついた。
一方の少女はドクオの質問に気付くと、高慢そうにフフンと鼻を鳴らす。
从 ゚∀从「マヌケな発言だな、剣道部主将・鬱田ドクオ、そして空手道部主将・素直ヒート。自分たちが標的にならないとでも思っていたのか?」
(;'A`)「はぁ? 標的って何だよ。大体あんたこそ誰なんだ? 何で俺たちの名前を知っている? つか後ろの筋肉野郎は何?」
从 ゚∀从「オレは化学部部長・ハインリッヒ高岡。そしてこいつは助手のブーム。ココまで言えばわかるだろ?
こっちも文化部だからって舐められるわけにはいかないんだ。潰せそうなとこからとっとと潰して、早いとこ勝ち星を挙げよーってな」
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:54:28.53 ID:SNyc/Cw2O
ノハ#゚听)「おいおいおい! こっちにももっと分かるように話して――」
痺れを切らしたヒートはハインに掴みかかる。小さな身体がヒートの手に吊り上げられるようにされた、その時だった。
从#゚∀从「ったくめんどくせえ。ブーム、叩き潰せ」
| ^o^ | らじゃーであります
――突き抜ける鈍重な衝撃。
ノハ;゚听)「うごぁあッッッ?!」
一瞬、まさに一瞬で均衡は破られた。
意味もない納得に裏づけされていた『通常』は叩き砕かれた。
ドクオが、そしてヒート自身が気付いた時にはもう遅い。
ブームによって打ち込まれたドッチボール大の拳がヒートの腹をジャストミートする。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:56:25.52 ID:9i9x57ESO
(*ФωФ)勘違いするな、これは書き込みのテストなのだ
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:56:32.68 ID:2UiIpj3K0
校内バトロワ大会かよw
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 00:57:44.61 ID:SNyc/Cw2O
幾重にも捻れる。
足の先から頭のてっぺんまで唸る。
そして――弾けた。
ノハ; )「ぐぅあああああああああああああああ――――ッ!!!」
ヒートの身体が毬球か何かのように容易く吹き飛び、ホールの下駄箱に向かって思いっきり叩き込まれた。
日常が砕け散った瞬間である。
第一話・終
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:02:00.20 ID:KgACqdpOO
なんか天上天下とかそっち系だな
つC
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:03:02.61 ID:SNyc/Cw2O
とりあえず一話終わりです
支援ありがとうございました
このまま勢いに任せて二話に行きたいかもですが、どうかご容赦を
かまわん
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:05:41.70 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第二話『GAME』
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:07:22.01 ID:2PJm3A3d0
GOGO
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:07:48.75 ID:SNyc/Cw2O
ドクオは充分にヒートの強さを理解している。
幼き日々、今と変わらずヒートは暴れ回っていた。
時に上級生と喧嘩し、時に大きな野良犬に組みかかり、時に理不尽な大人たちの向こう脛に蹴りを入れたり……。
彼女の闘志はいつだって轟々と燃えている。
それは齢どころか女としても相応しくない腕力だとか、猫科の猛獣のようにしなやかな瞬発力だとかに頼って生まれるものではない。
強いモノに立ち向かう――その興奮が彼女を滾らせるのだ。
自分より大きな者を倒すためなら何度だって立ち上がる。自分より俊敏な奴に追いつくためなら足が千切れようとも走り続ける。
生まれ持った闘争者の気質。
彼女の背中をいつも付いてまわっていたドクオには、幼いながらもそれがひしひしと感じられていたのだった。
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:10:32.13 ID:SNyc/Cw2O
(;'A`)「ひ、ヒートぉお――――っ!!?」
ドン、と倒壊。鉄製の下駄箱はヒートを巻き込んでグシャリと折れ曲がっていた。
背中を丸めてぐったりと動かないヒート。ドクオは戦慄した。彼女のこんな姿を見るのは初めてだからだ。
叩いても押し倒しても立ち上がってくる達磨のような彼女がたった一発で動かなくなるなんて事態を、彼は長年の付き合いで経験した事は無い。
| ^o^ | げきはです
从 ゚∀从「この程度の不意打ちでダウンか……。『熱血喧嘩屋』なんて仇名も大した事ないな」
タタンッ――と、ハインの指がいつの間にか現れたノートパソコンの上を踊る。
从 ゚∀从「戦闘データ測定に値せずっと。つまらねぇもんだ」
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:13:03.16 ID:SNyc/Cw2O
(#'A`)「……おいっ」
二人がドクオに視線を移す。彼は両手に握り締めたモップの柄の先端を、しっかりと眼前に向けていた。
掃除の時に置きっ放しにされた物なのか、使い汚されたそれは武器としてはあまりに貧相だった。
(#'A`)「動くな! 近づくなよ! いきなりやりやがって……お前らぶっ飛んでやがる!」
ドクオは臆病者である。彼自身もそれを分かっていて、こんなことをしている自分を愚かだと思った。
痛いこと、怖いことはお断り――だが今だけは身体が自然に動いていた。
ヤバイ奴がいる、ヒートが倒れた、自分はどうすればいい?
考える前に一歩先へ出ていた。モップを見つけて握り締めた。そして立ち向かっている。巨大な敵に。
从 ゚∀从「お前……足が震えてるぞ?」
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:15:07.57 ID:SNyc/Cw2O
(;'A`)「ぐっ?!」
確かに震えていた。ガクガク、ガクガクと止まらない。無様なものだった。
从 ゚∀从「それになんだ、大見得切って掛かって来ないのか? 連れがブッ飛ばされて、まだ『動くな』だなんてよく言えたもんだな」
( A )「な……っ!!」
ハインは端正な顔立ちに嫌味な笑みを浮かべ、吐き捨てるように告げる。
从 ゚∀从「この、臆病者」
(#'A`)「うおぉぉおおおおおおおおおおお――――ッ!!!!!」
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:17:15.32 ID:SNyc/Cw2O
駆け出していた。勝てそうもないとか、どうやって戦うんだとか、冷静に考えることすらできない。
ハインの言葉が、ドクオの怒りの引き金になったのだ。
途端にハインを守るようにして立ちふさがる巨漢。おもむろに構えた、鈍器のような重圧を漂わせるその両腕。
それでも迷わなかった。腰を深く落とし、ドクオはリノリウムの床を蹴る。
(#'A`)「っりゃあああああああああああああああ――!!!」
腹、鳩尾、喉。
流れるように三段、鋭い突きがブームを貫く。例えモップと言えど防具も無い常人なら、しばらく呼吸もできなくなるほどの威力。
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:19:47.24 ID:SNyc/Cw2O
だが、
| ^o^ | かゆいかゆい
ぐしゃり。
柄が爪楊枝のように折れ曲がる。塗装が剥がれ、中の鉄片が痛々しく食み出た。
(;'A`)「うぐぁっ?! 痛ぇえ!」
返ってきた反動に思わずモップを取り落とすドクオ。対してブームはさすりさすりと打点をなぞってはいるが、全くのノーダメージ。
ゾッとした。確実に必殺の間合いで、容赦も躊躇もない突撃だったのに――。
从 ゚∀从「ブームの全身は、オレの特製プロテインと肉体改造トレーニングで培った強固な筋肉装甲に守られている。
こいつの防御力の前に、モップなんて飴細工も同然だ。鉄パイプで殴りつけられても跳ね返すくらいだからな」
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:21:47.86 ID:SNyc/Cw2O
ぱちんと、指で合図。
ドクオの額を閃光が穿つ。
それがブームの繰り出した、何の小細工もないただのデコピンだと気付いたのは、ドクオが壁に叩きつけられた後だった。
( A )「げふぅっ!? うぐっ、あ……?!」
崩れ落ちる。見ればハインとブームは五メートルも先に離れていた。いや、違った。ドクオの方が五メートル吹き飛んだのだ。
揺れる頭を地面に突っ伏す。地に突いた両手は立ち上がるためのものではない。
それ以上体が倒れるのを防ぐためのものだった。
从 ゚∀从「こっちもダメだな。ブーム、とっととバッチを奪って引き上げるぞ」
| ^o^ | いぇっさー
70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:24:07.21 ID:SNyc/Cw2O
揺れる視界の向こうで、大きなシルエットが近づいてくる。トドメを刺す気だろうか。
だとしたら動かなければ。せめてヒートを担いで逃げるぐらいはしなければ。
思いっきり額にブチ込まれたのに、頭の回転がやけにスッキリとしている。
でも体の動きがついてこれない。手足が重い、鉛の塊を背に担いだかのようだ。
ドクオには何一つ意味が分からなかった。
ブームの強さの桁も、ハインが何を企んでいるのかも。今この学校で起きていることも。
唯一つ理解できるのは、今が限りない程に危機的状態で、自分にはどうしようもなくて――
ノパ听)「……ドクオ、倒れるな、倒れるなよぉおお!!」
そしてそんな状況を打破してくれるのは、いつだってヒートなのだという事だった。
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:26:36.12 ID:SNyc/Cw2O
ハインは眉根をひそめ、ブームはひょうきんな面に僅かながら驚きを浮かべ、そしてドクオは安堵の溜め息を吐いた。
('A`)「お前……バカヤロウ、やられたのかと、思ってたぞ……」
ノパ听)「私が、あんなヘナチョコパンチで倒れると思ってたのかあ!?
まぁちょっとは効いたかも……イチチ……しれないけどなぁあああ!!! コラあああああ!!!」
瓦礫と化した下駄箱の上に仁王立ちし、ヒートは吼える。
ドクオに話しかけてはいたが、意識はしっかりと眼前の敵に向けられている。
対するハインは高速でノートパソコンをタイプする。
その目には興奮にも似たような揺らぎが爛々と輝き、液晶画面を反射していた。
从;゚∀从「ノーガードで土手っ腹、手加減なしのブームの一発で戦闘不能にならないたぁ……。面白いが正直驚きだぜ……!」
| ^o^ | おどろき もものき――
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:27:09.20 ID:X8yMuRcc0
支援してみよう
73 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:29:10.49 ID:SNyc/Cw2O
――爆発のような一撃が走る。
| ^o^ | ショウテンガイっ!?
ブームの巨体が衝撃に耐えかねて大きく揺らぐ。その側頭部にはしっかりと打ち込まれた右拳。無論ヒートのだ。
誰も目視できないほどの、獣のようなスピードで飛び掛るまま、体勢もへったくれもない状態からの強引な重撃。
腰の回転、膂力が許すままに、踏ん張りの効かない空中で身体ごと殴る。
その無茶苦茶な一発が、鉄製のモップをひしゃげるブームの装甲に確かなダメージを与えた。
そして、彼女の反撃はそこで終わらない。
ノハ#゚听)「がああぁあおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!!!」
空中でブームの頭に拳をめり込ませたまま、その無防備な体勢からさらに全身を捩る。
バネを――弾けて炸裂するような身体のバネを溜めている。
ミシミシ、ミシミシとブームの頭蓋が軋んだ。
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:31:58.12 ID:SNyc/Cw2O
| ^o^ | ちょ ちょいとおまち――
ノハ#゚听)「待たああああああああああ―――ん!!!!」
撃墜。
天と地が入れ替わる。
ツルッとした頭が地面にブチ込まれた。深く、激しく、強く、重く。
大きな音を立ててヒビ割れ立つ廊下。
从;゚∀从「こ、こいつはぁ!?」
ハインは慄いた。
ありとあらゆる肉体改造術により超筋肉の砦と化したブーム、彼が地に叩きつけられ人形の如く跳ね上がるのを慄いた。
自分の最高傑作である彼が、一介の少女に想像を絶する打ちのめされ方をしている。
確かに少しは格闘技をかじってはいるだろうが、所詮自分と同じ女だというのに。
ハインは高をくくっていたのだ。素直ヒートという者の本質に対して。
75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:33:24.07 ID:1c9FHaFZ0
支援
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:34:33.89 ID:SNyc/Cw2O
重々しい音を立て、再度ブームの巨躯が地に堕ちる。
動かない。だらしなく投げ出された四肢はピクリとも反応しなかった。
ワンテンポ遅れて着地するヒートはステップを踏み、猪のような息遣いの治まらぬままに倒れたブームに向かった。
ノハ#゚听)「どおおおしたあああああ!!? もぉう終わりかあ?! まだだろ、まだかかってこれるだろがあああ!!!!」
从;゚∀从 (こいつはちょっとヤバイ奴に吹っ掛けちまったようだな……)
後ずさるハイン。彼女が見つめて離さないヒート――その姿は立ち上がる闘気に彩られ、あたかも蜃気楼の如く歪んでいると錯覚してしまいそうだ。
ブームはもう戦えない。今度ヒートが襲い掛かってくるのは自分だろうか? そんなことを考えつつも、ハインの胸は興奮で静かに奮い立つ。
从 ゚∀从 (確かにヤバイが……それでも拾い物だな。ブームを失ったのは痛手だが)
妖しく瞳が煌く。そこには決して敗北の色など浮かんではいない。
白衣を翻し、ハインは廊下の向こうへと駆け出した。
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:37:11.09 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)「ふぅー、ふぅー、ふぅう――ッ……!」
ヒートは呼吸を落ち着ける。胸の高鳴りを、筋肉の沸騰を、肌の粟立ちをゆっくりとゆっくりと深呼吸してクールダウンさせる。
もう敵は立ち上がってはこなかった。叫んでも踏みつけても反応が無い。勝ちだ、彼女の圧倒的な勝利だ。
ノパ听)「ふぅぅぅううううう……」
('A`)「ヒート……いつつ……大丈夫、か?」
足取りも頼りなく、ドクオが立ち上がってきた。デコピン一発だが、彼も予想以上に被害を被っていた。
ノパ听)そ 「ドクオ! 頭から血が出てるぞ?! い、痛くないか!? ハンカチ、ハンカチは……っ」
振り返ったヒートはドクオのやられっぷりに思わず慌てふためく。
普段争い事は避けに避け、怪我なんて滅多にしない奴。それが彼女にとってのドクオだった。
そんな彼が頭から血を流してる姿は、色んな――そう、本当に色んな意味で彼女にはショックな光景だった。
ポケットに手を突っ込み、中身をひっくり返しても何も出てこない。
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:38:21.84 ID:2PJm3A3d0
っ□
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:38:33.52 ID:3lKfBjrLO
ようです
80 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:39:43.79 ID:SNyc/Cw2O
('A`)「落ち着け、落ち着けよ。俺は大丈夫だ」
ノハ;゚听)「いやでも、お前、そんなにいっぱい出て……」
('A`)「お前こそ大丈夫なのか? 腹にモロ一発喰らってたし、そのカチコチマッスルを思いっきり殴ってたけど」
そっ、とドクオはヒートの右手を取る。ブームの筋肉装甲を撃ち抜いた拳は無傷――というわけにもいかないらしい。
やはりそのリスクは大きかったのか、手の甲が赤く腫れていた。
ノパ听)「あぁ、えっと……多分そんな、いや……やっぱり……その」
ノハ;凵G)「い、痛いなあああ……。何なんだあの筋肉野郎?! コンクリート並みに硬かったぞ? ていうか腹も痛いぞおお!」
('A`)「俺も血が目に入りそうだわ、コレ。
こいつをどうするかとか、教師に伝えるとか、その前にまず保健室行こう。この様子じゃ立ち上がって逃げ出す事も無いだろ」
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:42:03.06 ID:3lKfBjrLO
ようですってなんだww
支援
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:44:03.31 ID:SNyc/Cw2O
ウンウンと頷くヒート。戦いの最中は、あんなにもがむしゃらに敵へ向かって行ってたのにだ。
アドレナリンの過剰放出なのか?とドクオは思いを巡らす。
ふと、辺りを見回した。あちこちに散乱する瓦礫や倒壊した物に燦然としたホール。
他の者が見たら一体何事だと大騒ぎしそうな有様である。
そこには既に、あの少女――ハインの姿は無かった。
ノパ听)「あいつ、いないみたいだな」
ドクオも頷く。確かにあの少女は気になることを言っていた。標的、勝ち星、バッチだとか。それに文化部だから云々とも。
それは少なからず、自分たちがいきなり襲われた事に関係しているのだろう。
('A`)「科学部のハインリッヒか……」
頭を一振り、眉にかかっていた血を払う。
ハインの事は今考えても詮無いことなのだろうと彼は思い、ヒートと保健室へ向かった。
しかし、そのハインを含め、その場にいた全員は気付かなかった。
これまでの一部始終を観察する、第三者がいたことを。
( ∵)「…………」
83 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:46:30.38 ID:SNyc/Cw2O
* * *
('、`;川「えぇ〜? ちょっとこれどうしちゃったのよぅ、あなたたち?」
VIP学園に勤務する養護教諭、ペニサス伊藤は素っ頓狂な声を上げた。
彼女の毎朝の日課は他の教諭よりもちょっぴり早く出勤して、保健室の窓際で育てているパンジーの植木鉢に水をやってお話をしてあげる事。
とある園芸雑誌で植物は話しかけられるとより健やかに成長するという記事を見てから、その日課は続いていた。
なので、今の今まで彼女は今日の朝の占いについてパンジーとお喋りをしている最中だったのに、いきなり怪我をした二人組みが現れるなんて思いもよらなかったのだ。
片方は頭からダラダラ血を流していると来ているので、さぁ大変。
('、`;川「あー……、とりあえずドクオ君の怪我を先に見るわね。ヒートちゃんは氷嚢を手に当てといてね」
ノパ听)「よしわかった! わかったぞおお」
('、`;川「元気そうなのはいいんだけどねぇ……」
ペニサスは見たところ活力に溢るるヒートは置いておき、ドクオの処置に移った。
椅子に腰掛けたドクオの額をガーゼで止血し、丁寧にバンテージを貼っていく。
84 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:49:24.01 ID:SNyc/Cw2O
対するドクオは、ちょっと邪な考えにふけっていた。
(*'A`) (おぉ……美人でかつナイスバディと有名なペニサス先生がこんなにも近くに……。俺、普段怪我しないからなぁ。
それにしてもスゲー良い匂いだ。何より目の前で無防備にたゆたゆしている二つのメロンが素晴らしすぎる。
落ち着いた赤のタートルネック――その下からはち切れんばかりの存在感を、くっきりとしたラインで示す魅惑のおバスト様……)
鼻の下を伸ばすドクオにペニサスは小首を傾げる。
確かに、ドクオではないがペニサスの適度に熟したボディラインは、羽織った白衣では抑え切れないほどの艶かしいフェロモンを放っている。
だがそんな光景を面白く思わない者が一人。
ノパ听)「…………」
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:53:45.39 ID:SNyc/Cw2O
ヒートは自分の胸に手を当てて良く考えてみる。そうだ、ペニサスにはもう伸び白は無い。
片や自分は花も恥じらう女子高生、まだまだ発展途上なのだ。
そう言い聞かせたくても、彼女の手の平が感じるのはあまりにも心許ない起伏。
ノハ#゚听)「…………ッ」
自身の体型と全くもって関係無いにもかかわらず、咎めるかのような鋭い視線はドクオのだらしない表情をしっかりと射止めていた。
氷嚢を親の仇のように握り締める姿は圧巻である。
(;'A`)そ (い、いかん。ちょっと小難しい幼馴染の視線が痛い)
煌々と光る瞳に睨みつけられているのに気付くと、緩みきっていた鼻の下を戻し、ドクオはニヘラと弱々しく作り笑いをする。
(;'∀`)「ひ、ヒートさんもこれからスクスク成長しまっせ、多分」
ノハ#゚听)「何だそのダメ押しはあああああ!!?」
放たれたヒートの蹴りが、ドクオに新たな傷を増やしたのは言うまでもない。
86 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 01:57:23.06 ID:SNyc/Cw2O
* * *
('、`*川「でも本当に珍しいわね。
確かにヒートちゃんが擦り傷たくさん作ってここに来るのはよくあることだけど、ドクオ君が一緒になってボロボロだなんて何かあったの?
その、ほら、ヒートちゃんの喧嘩に巻き込まれて――とか。
まぁね、本当はオススメしないけど、男の子なんだし喧嘩の一つでもやっておいて損はないんじゃないかなーなんて。
あぁでも偉そうなこと言いつつもね、先生はしたこと無いから。痛いのとか、しんどいのは先生パスだし」
飲みかけだったらしいモーニングコーヒーのカップをくゆらし、ペニサスは聞いてもいないのにポロポロとよく喋る。
ヒートとドクオは知り得ない事だが、やはり早朝からパンジーにひとりごつのも結構寂しいらしい。
ノパ听) (さっきのことペニたんに話すか?)
('A`) (いやいや、不審者ならまだしもウチの生徒らしい事は言ってたし。
……まぁあんな怪しい奴の言う事を真っ向から信じるのも不安だが)
ノパ听) (私も普段から喧嘩ばっかしてる手前、ただ襲われたからって文句つけるのも気が引けるし……)
87 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:01:20.37 ID:SNyc/Cw2O
うーむと顔を突っ伏し声を潜める二人。
ペニサスはよく分かってないらしい、言う事はそれっきり『仲がいいわねえ』の一点張りだった。
('A`) (いや、でも一応言っておこう。もしかしたら先生も何かしら知っているかもしれんし。
そうじゃなくてもあの大男とか玄関とか、放置しといても良いわけないからな)
ノパ听)「よし、わかった。あのさぁ、ペニたん――」
意を決し、ヒートが口を開いた瞬間だった。
ノックが二回。
三人が一斉にドアへと視線を移す。しかし、ペニサスの返事を待たずして客人はするりと中に歩み入って来た。
( ∵)「失礼します、伊藤先生」
88 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:04:38.69 ID:SNyc/Cw2O
('、`*川「はぁ……どうぞ。あなたお名前とクラスは?」
( ∵)「一年B組、風紀委員会筆頭のビコーズです。朝早くからすいませんね。
あぁお気遣い無く。僕の用事があるのはそっちの二名です」
それはちょこん、とした華奢な少年だった。
甘めの顔だが表情は乏しく、笑えば可愛げもありそうなのに勿体無いほどだった。
しっかりと詰襟のボタンを上まで閉じ、落ち着いた髪形、ハキハキとした喋り、なんとも優等生な印象である。
ビコーズは袖に留めてある『風紀委員会』の腕章をクイッと直すと、小気味いい靴音を鳴らしてヒートとドクオに近づく。
( ∵)「二年E組・鬱田ドクオ、そして同じく素直ヒート。貴方たちに生徒会から至急召集せよとの達しが出ています」
('A`) (年上なのに呼び捨てかよ……)
ノハ*゚听)「おぉお、何かお前可愛いな。ちっちゃいちっちゃい!」
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:08:04.41 ID:y8XHWEo+0
最初で最後支援
面白そうだけど今日は目がかゆいんだ
90 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:08:31.28 ID:SNyc/Cw2O
ヒートがビコーズの頭をグリグリと撫で付ける。が、ビコーズは照れる様子も鬱陶しがる様子も見せず、ヒートの手を軽く払うとあくまで事務的に続けた。
( ∵)「第二会議室で副会長がお待ちです。そこまで案内しましょう」
くるり、と向きを変え足早に廊下に出て行くビコーズ。
ノパ听)「ドクオ?」
('A`)「いや、うん……付いて行こう。もしかしなくてもさっきのことについてだろうな。タイミングが良すぎる」
ドクオは膝をポンと一叩き、ペニサスに一礼をして退出する。
('、`*川「さっきのことって?」
ノハ;゚听)「あぁ、ごめんごめんペニたん! 言いかけたのはやっぱり無しで!!」
ヒートは無理矢理ペニサスの追及を逃れると、そそくさとビコーズの後を追うドクオに続く。
静かになった保健室。ペニサスはやっと訪れた朝の静寂に肩の力を抜き、やれやれとカップに残っていたコーヒーを啜り直すのだった。
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:12:31.05 ID:SNyc/Cw2O
* * *
( ∵)「先程の戦闘、僭越ながら観察させてもらいました」
両腕を後ろで組み、しっかりとした歩調でビコーズは二人を先導する。
彼ら三人が廊下を渡っている際にも、あちこちで聴き慣れた生徒のざわめきが響いていた。
時刻は八時。窓からはさんさんと朝陽が覗いている。
('A`)「やっぱり見ていたのか。それで何もせず、と。風紀委員ってのは学園の風紀を守って何ぼじゃないのか?」
( ∵)「教義をどう解釈しているかの違いですよ」
ノパ听)「でもでも! 私たちは怒られるような事はしていないからな! 襲ってきたあっちが悪い!」
( ∵)「理解しています」
一行は玄関ホールに差し掛かる。そこでは驚くべき事が起こっていた。
先の戦闘での破壊の跡が無い。いや、修復されているのだろうか。
92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:15:24.53 ID:SNyc/Cw2O
ドクオとヒートは目を丸くした。確かにあの時、下駄箱はひしゃげ、廊下はあちこちが砕けていたはず。
そしてブームの姿も見えない。
今、そこは何事も無かったようにいつも通りであり、登校してきた生徒たちが気持ち良く挨拶を交わしながら靴を履き替えている――そんな当たり前の光景でしかない。
( ∵)「お気になさらず、風紀委員の仕事です。戦闘の痕跡は一切残しません。学校側に事態が露呈するのは禁則事項なので」
(;'A`)「……どういう意味だ?」
( ∵)「僕がお伝えできる情報には限りがあります。それも含めて、これから副会長にお会いしていただくのです」
ちなみに――と零してビコーズが振り返る。その仏頂面にほんの少し、嘲笑めいた色が浮かんだ。
( ∵)「あなたたちが最後です」
93 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:19:27.97 ID:SNyc/Cw2O
* * *
_
( ゚∀゚)「よう、よく来たなお前ら」
通された教室一個分ほどの広さを有する会議室。
そこに備え付けられている長テーブルの向こう側で、ふんぞり返りながら彼は言った。
_
( ゚∀゚)「まぁ突っ立ってんのもアレだしよ、座りなよ」
立ち尽くすヒートとドクオは眼を見合わせた。
既にビコーズは、例の小気味いい靴音を鳴らしてジョルジュのすぐ傍まで歩み寄っている。
仕方が無く、二人は手近な椅子を引き寄せて意識してか浅めに腰掛けた。
_
( ゚∀゚)「先に自己紹介だな。俺は二年A組のジョルジュ長岡、副会長をやってる」
ジョルジュ、と名乗った男は大仰に手を広げ、自己紹介を済ませる。
先程会ったハインとはまた別の意味で、彼は並々ならぬ自信に溢れた眼をしていた。
顔付きはさっぱりとしていて取っ付き易そうなものだが、如何せんその眼は釣り合いが取れていない。
('A`)「……俺たちがここに呼ばれたってのは、ついさっきの科学部の二人に襲われた事――」
94 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:19:33.28 ID:3lKfBjrLO
支援
95 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:21:17.92 ID:2PJm3A3d0
支援するぞぉーー
96 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:22:58.81 ID:SNyc/Cw2O
一瞬の沈黙の後、ドクオが身を乗り出し口を開く。
ヒートも何か言ってやろうかとは思っていたが、とりあえずここは彼に任せることにした。
('A`)「――それと、もしかして昨日の召集も何か関係しているのか?」
ジョルジュは質問に答えない。ただ、その口をニンマリと大きく歪める。
ドクオにはそれで充分だった。答えは、是。
_
( ゚∀゚)「困った話だよなぁ。お前らくらいだぜ? 召集バッくれて遊び呆けていた奴は。
まぁ、今朝の騒動はそのしっぺ返しだった程度に思ってくれればいい。」
ヘラヘラと笑う。ジョルジュの身振り手振りは徹底しておどけていた。
まるで他人を嘲るように、何も分からない二人を見下すように。
_
( ゚∀゚)「昨日の集会で集まった奴らに伝えられた内容は一つ――サバイバルだ」
('A`)「…………?」
ノパ听)「サバイバルぅ?」
_
( ゚∀゚)「そうさ、学園の部活全てが参加者のバトルロワイヤル――名づけて、『武喝道』!!」
97 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:26:25.80 ID:SNyc/Cw2O
* * *
静かになった第二会議室。
ジョルジュは大きく溜め息をつくと、椅子の上でゆったりと伸びをする。
_
( ゚∀゚)「……これでやっと本当のスタートだな」
( ∵)「何分、全て予定通り――と言うわけにはいきませんでしたね」
ジョルジュのぼやきに、変わらずも屹立するビコーズは返答した。
_
( ゚∀゚)「あぁ、だがこれでいい。俺の仕事もとりあえずは一段落だ。
そうだろう? 生徒会長、いや――ロマネスク。」
陰が揺らいだ。
いつの間にこの部屋に入ってきたのか。最初からそこにいて誰も気付かなかっただけのか。
会議室の上座、その至極立派な革張りの椅子に彼は座っていた。
( ФωФ)「御苦労だったな。ジョルジュ、それにビコーズも」
98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:27:54.03 ID:0qzYkgZcO
バックレたのかよ
99 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:28:28.43 ID:rg04gjqPO
これはPCで読む作品だな
後日読ませてもらう
100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:29:08.78 ID:SNyc/Cw2O
黒が男子制服の指定色であるこの学園で、否応でも目立つであろう白い詰襟。
それが包む引き締まった肉体は細身で、しかし力強い。
制服と対照的な黒い皮の手袋は、テーブルの上でその長い指を組み合わせている。
眼光は鋭く、眉はきりりと釣り上がり、オールバックを頂くその精悍な面持ちは笑みを浮かべた。
彼は三年D組、杉浦ロマネスク。
生徒会長――その地位を欲しい侭にする者。
_
( ゚∀゚)「いいーってことよ」
( ∵)「お気になさらず」
ジョルジュはあっけらかんと答え、ビコーズは恭しく頭を下げた。
それがいつもの反応だと分かっているのか、一瞥するロマネスクは再び口角を上げた。
( ФωФ)「――我輩は待った。長い時と、苦汁の中で。それも今日、この日から全て変わる」
配下二名は夢見心地のように語るロマネスクの邪魔をしない。ただ、彼を見守る。
( ФωФ)「始めよう、同志たち。共に――変革を」
101 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:32:17.79 ID:SNyc/Cw2O
* * *
学食。学生の活気と食事の音に溢れる憩いの場。
ヒートとロマネスクはそのテーブルを一つ占領し、面と向かって食事に箸を付けていた。
ノハ*゚听)「むふ、むふふふふふふふふ」
('A`)「気持ち悪いよ……何がそんなに愉快なんだよ。あんなこと聞かされて」
天ぷらうどんの椀の中を箸でグールグルと掻き混ぜながら、気味の悪い笑い声を上げるヒートにドクオは溜め息をつく。
ヒ−トの方は終始ご機嫌だった。恵比寿か何かのようにニヤニヤと、自分でもどうしようもないのか笑みが治まらない。
ノハ*゚听)「むふふふ、これがウキウキせずにいられるか?
部活動バトルロワイヤル、最後に生き残った部活には部費って面目で賞金一千万!!
あー、もちろん金とか二の次だぞ? 何より、学園中の強い奴と生徒会御免で戦える――たまらんなああ!」
('A`)「ただし教師には秘密、校外戦闘も禁止で期限は一週間。……さすがに怪しすぎる。
可能な限り風紀委員が事態を隠蔽する――とか、マジで教師には一切何も伝えない気かよ」
102 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:40:08.64 ID:2PJm3A3d0
蛇屋 後 頼んだ
103 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:45:25.77 ID:3lKfBjrLO
支援
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 02:51:19.41 ID:6vF5BzUaO
久しぶりに良作に出会えた予感
支援
105 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:00:29.58 ID:SNyc/Cw2O
(訂正)
* * *
学食。学生の活気と食事の音に溢れる憩いの場。
ヒートとドクオはそのテーブルを一つ占領し、面と向かって食事に箸を付けていた。
ノハ*゚听)「むふ、むふふふふふふふふ」
('A`)「気持ち悪いよ……何がそんなに愉快なんだよ。あんなこと聞かされて」
天ぷらうどんの椀の中を箸でグールグルと掻き混ぜながら、気味の悪い笑い声を上げるヒートにドクオは溜め息をつく。
ヒ−トの方は終始ご機嫌だった。恵比寿か何かのようにニヤニヤと、自分でもどうしようもないのか笑みが治まらない。
ノハ*゚听)「むふふふ、これがウキウキせずにいられるか?
部活動バトルロワイヤル、最後に生き残った部活には部費って面目で賞金一千万!!
あー、もちろん金とか二の次だぞ? 何より、学園中の強い奴と生徒会御免で戦える――たまらんなああ!」
('A`)「ただし教師には秘密、校外戦闘も禁止で期限は一週間。……さすがに怪しすぎる。
可能な限り風紀委員が事態を隠蔽する――とか、マジで教師には一切何も伝えない気かよ」
106 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:02:42.46 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)「そりゃあ、生徒が戦争ごっこなんてしてたら先生は止めるだろぅ」
(;'A`)「ダメってわかってるなら参加するなよ?」
ノパ听)「だが断る!!!」
(;'A`)「おいおいぃ」
ヒートは箸を放り出すと懐に手を突っ込む。引っ張り出したのはきらりと輝く銀のバッチ。
丸い形状でその中心には『空手道部』のレタリング。これが二人の渡された唯一の物。
このバッチこそが参加者の証であり、言うなれば首級。
ノパ听)「そんな気負うなって! 遊びだよ、遊びぃ! そう思えば軽いモンよお!」
('A`)「遊びって……お前今朝のこともう忘れたのか。あんなヤバそうな奴らがゴロゴロしているのかもしれないんだぞ?
中には金目当てで、遊びなんかじゃ済まない事をしてくる奴も出てくるかもしれないんだ。俺はゴメンだね」
ノパ听)「ドクオぉ〜。相変わらずだなそのチキンっぷりは」
(#'A`)「せめて『平和主義者(パシフィスタ)』と呼べ!」
二人が終わりそうにない問答を繰り広げている最中である。
107 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:06:08.00 ID:SNyc/Cw2O
――ガシャン。
何かが倒れるような大きな音を皮切りに、突如として学食が騒がしくなってきた。
思わずヒートとドクオも口論をやめ、音のした方へ目を向ける。
<ヽ`∀´>「全くもって不愉快ニダ! どーしてこの学食にはキムチ丼がないニカ!?」
J(;'-`)し「そんなこと言っても、無い物は無いんだから、文句は言っちゃあだめだよ……」
<ヽ`∀´>「うっせーニダ!! とっととキムチ丼を作るか、さもなければ謝罪と賠償を要求するニダ!」
( `ハ´)「私もアル! メニューには無いけど、とっとと小龍包を作るアル!」
どうにも学生二人が給仕のオバちゃんに無理難題を押し付けて、騒いでいる様子だった。
キムチキムチ、とのたまっている学生の方はことさら悪い事に、カウンターの傍にあった券売機を蹴り倒している。
辺りの者達はオバちゃんとその二人を遠巻きに眺め、ガヤガヤと色々騒いでいるようだが迂闊に手が出せないようだ。
そしてヒートは見定める。そのはた迷惑な二名が着ている制服――その胸ポケットに付けられた銀のバッチを。
ノパ听)「カモ、見っけえええええ!!!」
('A`)「オイこら、待て!!」
ドクオが声を荒げて席を立った時、既にヒートは人の波へと飛び込んでいくところだった。
第二話・終
108 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:06:26.12 ID:3lKfBjrLO
支援!!
109 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:08:50.73 ID:SNyc/Cw2O
二話終わりです 今日はこれで打ち止めということで
支援をしてくださった皆様ありがとうございます
途中猿や誤植がありご迷惑をおかけしました
乙
111 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:18:34.12 ID:3lKfBjrLO
乙!
期待してるよ
112 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:20:39.77 ID:1c9FHaFZ0
乙!
113 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 03:22:17.79 ID:KgACqdpOO
乙
乙!!
115 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 05:02:47.08 ID:2UiIpj3K0
保
116 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 05:54:57.98 ID:2UiIpj3K0
☆
117 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/25(水) 07:09:13.36 ID:CnukD3TPO
ほしゅ
おちう