('A`)は謀るようです

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

 ピピピピピピ


('A`) …


 ピピピピピピカチッ



('A`) …

('A`) 朝か


('A`) はあぁ…
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:05:47.52 ID:TlBz5bZP0

J( 'ー`)し おはようドクオ

J( 'ー`)し お弁当は机の上よ

('A`) うぃーす…

J( 'ー`)し じゃあパートに行って来るね、ドクオあんたも遅刻するんじゃないよ

('A`) …うぃ、す



('A`) はあぁぁ…
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:07:01.37 ID:M5vrVt4e0
私怨
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:07:54.05 ID:TlBz5bZP0

('A`) トボトボ

('A`) 学校なんて行きたくない


('A`) しかしカーチャンに向かって、

('A`) 「俺は学校に行かない」と強く主張できるほど

('A`) 俺は気が強くもない


('A`) はああぁぁ…


('A`) トボトボ
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:09:30.99 ID:TlBz5bZP0

('A`) 永遠に着いてほしくないというのに

('A`) 学校に向かって歩いていたら、

('A`) いつかは学校についてしまう

('A`) 世は無情だ


('A`) はああぁぁ…
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:12:14.31 ID:TlBz5bZP0

( ^ω^) おいすードクオ

 ドクオはのろのろと振り返った。
 ブーンと、その隣の金髪縦ロールの女の子、ツン。

 ドクオが振り返ると、ツンは何も言わずに、そっぽを向いた。
 ブーンはいつものように、にこにこと屈託無く笑っている。

( ^ω^) あいかわらず元気のないやつだお。しゃきっとするお!
      そんなにゆっくり歩いてたら遅刻するお!

 ブーンはドクオの背中をばんと叩いた。
 何か、他人に触れられることがすごくイヤな気がしたので、ドクオは顔をしかめた。

 が、ブーンはそれに気づくことなく、
 あいかわらずニコニコと満面の笑みを浮かべている。

 学校から鐘の音が聞こえてきた。
 予鈴だ。

( ^ω^) じゃ、先に行くお!

 ブーンとツンはドクオを追い抜き、校門へと小走りに駆け寄っていく。
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:13:51.69 ID:TlBz5bZP0

 ドクオは校門の前で、しばし立ち尽くしていた。

 登校中の生徒たちが、立ち止まるドクオを不審な目でちらちらと見ていくが、
 もう予鈴は鳴っているので、皆が急いで脇を駆け抜けていく。

 やがて校庭に人影がなくなったところで、本鈴が鳴った。


('A`) はぁぁ…

('A`) 結局、今日も登校するしかないか…

 ドクオは意を決して、誰もいない昇降口へと向かっていく。
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:14:47.13 ID:20Pdpl3YO
支援
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:15:08.94 ID:M5vrVt4e0
私怨
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:16:25.02 ID:TlBz5bZP0

 靴箱の上履きには、埃のような大きなゴミがくっついていた。
 誰かが、そのへんに落ちていた吹き溜まりのゴミを、軽い気持ちでドクオの靴箱に入れたんだろう。

 ドクオは手馴れた様子でそれを払いのけると、上履きに履き替え、教室に向かう。


 HRが始まっていた。
 教室からは担任のペニサスの、けだるそうな声がしている。

 遅刻だ。

 わずかな心拍数の増加を感じながら、ドクオは教室のドアを開いた。



 瞬間、教室中の視線がドクオに注がれる。
 生徒たちの目、目、目。

 そして、入ってきた人物がドクオだとわかったときに皆が浮かべる、奇妙なうすら笑い。
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:18:10.41 ID:TlBz5bZP0

('、`*川 遅ーい、ドクオ

 担任のペニサスが、心底だるそうにして言った。

('A`) あ、すみません…

 必要以上に平身低頭して、ドクオは自分の席へと向かった。


 ドクオの通る道はおおげさに広げられ、
 女子生徒などは、ドクオの通り過ぎざまに、あからさまに顔をしかめる者もいた。

('、`*川 んじゃHRはこれでおしまい。
     一時間目は数学? みんながんばってねー

 ペニサスは名簿をぱたんと閉じて、がんばる気もなさそうに誰にともなく言い残して、
 教室を後にした。
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:20:07.84 ID:TlBz5bZP0

 一時間目が始まった。
 前回の小テストが返却される。

( ∵) ジョルジュ、89点。よくやったな
  _
( ゚∀゚) いやっほーい

( ∵) ブーン62点。もっと頑張れ、この分野は大切だぞ

( ^ω^) フヒヒサーセンwwwww

( ∵) クー100点。連続100点記録をまた更新だな

川 ゚ -゚) ありがとうございます

( ∵) ドクオ…。その…頑張れよ。勉強さえすれば、点は伸びるからな

 ドクオはぼそぼそと口の中で何か呟いて、できるだけ自分の答案の点数を見ないようにして
 ビコーズからテスト用紙を受け取った。

 周りから失笑が漏れているのを、ドクオは敏感に感じ取っていた。
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:21:55.75 ID:TlBz5bZP0

 小テスト返却後の解説は、意外に長引いた。

( ∵) おっと、もうこんな時間か、いかんいかん

( ∵) 今日は次の分野に進むんだったな。ちょろっと出だしだけやっとくか。

( ∵) みんなプリント用意してー

( ∵) 朝のHRでプリントを配られただろ、みんなちゃんと持ってるな?

ξ゚听)ξ はーい先生

 ツンが手元の数学プリントを持ち上げて、返事をする。

('A`)(…え?)
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:23:18.75 ID:7VRHBnIIO
黒歴史乙
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:23:35.47 ID:TlBz5bZP0

( ∵) どうしたドクオ。朝にプリント配られただろ?

('A`) あ、え、その…

 ドクオはあわててまわりの席をきょろきょろと見渡した。

 右隣のしぃはあからさまに視線を逸らせた。
 左隣のジョルジュは、金色に染めてツンツンに立てた髪をいじりながら、
 バカにしたようにドクオをせせら笑っている。

 ドクオはどうしていいかわからずに、ただ、おろおろした。

( ∵) 何だ、持ってないのか。しょうがないな…

 ビコーズは時計をちらりと見る。
 そして、ため息をついて、言った。

( ∵) 無いと、授業にならんからな…。
    仕方ない、職員室に行って、ペニサス先生にもらって来い
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:23:37.90 ID:M5vrVt4e0
支援
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:25:14.52 ID:TlBz5bZP0

 誰もいない授業中の廊下を、ドクオはうつむいてとぼとぼ歩いた。

('A`)(なんだよ、プリントのことなんか誰も言ってくれなかった)

('A`)(前か後ろか、隣の席の誰かが、俺の分も取っておいてくれてもよさそうなもんだ)

('A`)(せめて、机の上にくらい置いておいてくれよ…)

 ぶつぶつと、そんな愚痴を小さく呟く。
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:26:52.29 ID:TlBz5bZP0

 ドクオは職員室のドアを開け、中に入った。
 ペニサスの机に向かって歩く。

 だが、その席に女教師の姿は、無かった。

('A`) …?

 この時間は授業も無いはずなのに。
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:28:29.38 ID:TlBz5bZP0

 不思議に思うドクオの耳に、かすかな笑い声が届いた。

('ー`*川 あっはっはー、マジうける

 職員室の外、壁にもたれて、ペニサスが携帯で誰かと話している。
 右手からはタバコの煙が立ち上っている。

 教師たちの「喫煙所」になっている場所だ。


 ガラス越しに、ペニサスの馬鹿笑いの声が、職員室の中にまで聞こえてくる。

('ー`*川 どこの世界にもいるもんよねー、キモいいじめられっ子って

 語尾を不自然にべったりと延ばす、普段のペニサスからは考えられない口調で、
 大きな声で話し続けている。

 友達とでもしゃべっているんだろうか。
 「素」のペニサスを見るのは、ドクオは初めての経験だった。
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:29:00.96 ID:gxp+2Br6O
たばかる?はかる?
支援
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:29:41.71 ID:20Pdpl3YO
支援
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:30:11.07 ID:TlBz5bZP0

('ー`*川 うちのクラスにも一人いるんだけどね、いじめられ役のかわいそうな男の子が。
      今日もさ、その子がいないときに私がプリント配ったんだけど、
      周りの誰も、その子のためにプリントとっといてあげないのよ。もう意識して避けてるって感じ?

('ー`*川 え? 私が? 助けるわけないじゃん、
      何で好き好んでガキのゴタゴタに巻き込まれなきゃなんないのよ

 またガラス越しに、下品な笑い声が響く。

 
 ドクオはうつむいたまま職員室を出た。
 そのあと一時間目が終わるまでトイレで過ごした。
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:30:41.54 ID:8iHjLmHd0
>>20のおかげで「護る」と読み違えていたことに気付いた
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:33:47.53 ID:TlBz5bZP0

 生徒たちでごった返す休み時間の廊下を、ドクオは自分の教室に向かった。

 見ず知らずの生徒でさえも、ドクオのことを避けて通る。
 いつものことだ。

 外見がキモいのは、自分でも知っていた。

 だが、それに加えて、彼はどうしようもない負のオーラを放っていたのだ。

 きょろきょろとせわしなく動く卑屈な視線、自信無さげに曲がった背中、
 ひんまがった性根を表しているかのような、ゆがんだ顔つき。

 あけすけな女生徒などは、ドクオの通り過ぎざまに、あきらかに眉をしかめる者もいた。
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:38:18.62 ID:TlBz5bZP0

 ようやく自分の教室に帰りついたドクオ。
 扉を開け、中に入る。

 誰も、いなかった。


('A`)(あ、あれ?)

 二時間目はもうすぐ始まるはずだ。
 なのにどうして誰もいないんだろう?


('A`)(二時間目は、確か…)

 ドクオは教室の前の時間割を読む。
 化学。


('A`)(…ひょっとして、教室移動?)
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:50:08.24 ID:poFsbsboO
さるか?
支援
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:57:10.43 ID:TlBz5bZP0

 ドクオは化学の用意をして、教室を出た。
 二時間目の始まりを告げる鐘が鳴った。


('A`)(やっぱり、誰も俺に、教室移動を教えてくれなかった…)

 さっきと同じく人けのない廊下を、うつむきながら、ドクオは歩いた。

('A`)(…友達が一人もいないから、教えてくれないのかな)

('A`)(いや、それでも、教室移動くらい、友達じゃなくても教えてくれればいいのに)


('A`)(冷たいやつらだなぁ…)


 認めたくなかった。
 クラスでのドクオの地位、扱いが、ただの無関心、ただの無干渉というものではなく、
 ある種の「悪意」を伴ったものである、ということを。
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 21:58:49.71 ID:TlBz5bZP0

 化学の授業に使われそうな教室は、思いつくかぎりで四つはある。
 そのどれに移動になったのか、ドクオはさっぱりわからない。

 最初にたずねた教室は空振りだった。
 次にたずねた教室では、違うクラスの授業が行われており、
 ドクオは叱り飛ばされた挙句、放り出された。

('A`)(あとは…旧校舎のほうか…)

 旧校舎はすこし離れたところに立っており、歩いていくと結構な時間がかかる。

('A`)(大遅刻…いや、今から行って間に合うかな…)

 あれこれうじうじと迷いながら、ドクオは誰もいない廊下を行っては戻り、行っては戻りしていた。


 けっきょく、化学がどの教室で行われていたのか、ドクオにはわからないまま
 二時間目の終わりのチャイムが鳴った。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:01:18.87 ID:TlBz5bZP0

 なんとなく教室には戻りづらかった。
 だから、ドクオは化学の教材を持ったまま、保健室を訪れた。

('A`)(いま戻ったところで、どうせ、奇異の目でみんなに見られるだけだ)

 化学の教室移動を教えてもらえなかったドクオを、みんなはくすくすと笑って、哀れみの目で見るだろう。
 隣の席のDQNジョルジュは「なぜ授業に来なかった?」と言って、しつこく俺をからかうだろう。
 ブーンは何も気づかず能天気に「ドクオ、どうしたお?」なんて言ってくるだろう。


 保健の先生はいなかった。

 頭が重くなって、ドクオは保健室のベッドに腰掛けた。
 なまじ仮病というばかりでなく、顔は恥ずかしさと悔しさで赤くなり、
 心臓はあいかわらずバクバクと言っていた。
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:03:17.39 ID:20Pdpl3YO
支援
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:03:35.81 ID:TlBz5bZP0

 三時間目終わりの鐘を聞いてから、ドクオは重い足取りを引きずって、自分の教室へと帰った。

 ドアを開けたとたん、信じられない光景が、ドクオの目に飛び込んできた。


 ドクオの席にジョルジュが座っていた。
 そして、ドクオの弁当を食べていた。

('A`) あ、あ、あ…

 声にならない声を出して、ドクオは自分の席に歩み寄る。
  _
( ゚∀゚) あぁ?

 左手に弁当箱、右手に箸を持ったまま、ジョルジュが勢いよく振り返り、
 ドクオを睨みつける。

('A`) そ、それ…
  _
( ゚∀゚) んだよ? あぁん?

 ジョルジュは大きなハンバーグを箸でつまんで、一口でそれを全部食べてしまう。
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:04:15.83 ID:PASDdI+EO
しえん
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:04:19.96 ID:8iHjLmHd0
いじめてる奴の弁当なんかよく食えるな
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:06:21.38 ID:TlBz5bZP0

('A`) そ、そ、それ…

 金髪大柄のジョルジュが、もごもごと口ごもるドクオを睨みつけている。

 ドクオの膝が笑っていた。
 声もうわずり、口の中が乾く。
  _
( ゚∀゚) あぁ? これは俺の弁当だぞ?

('A`) そ、そ、そ、そんな、そんな、あの…
  _
( ゚∀゚) んだよ、うるせえなあ…

 ジョルジュはそういって、弁当箱に向かって霧吹きのように、全体に唾を吹きかけた。
  _
( ゚∀゚) はい、これで俺の弁当な。はははは

 ドクオは震え、目の前が暗くなるのを感じていた。
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:09:03.38 ID:TlBz5bZP0

 ふとドクオは周りに視線を感じた。
 教室中のみんなが、見るとはなしにちらちらと二人のやりとりを見ている。

 どの顔も、ほくそ笑んでいた。

 ジョルジュのDQN行為の悪辣さを、みんな十分に理解しつつも、
 被害者がドクオであることによって、その非道も生暖かくみんなに受け入れられている。

 教室中の視線。
 それは、ジョルジュに向けられた非難の意図というよりはむしろ、
 ドクオのほうに向けられた、哀れみと蔑みに満ち溢れた、優越感の視線だった。
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:12:43.01 ID:TlBz5bZP0

 教室の窓際のほうで誰かが立ち上がる音がした。

 長い黒髪をなびかせて、
 クーがまっすぐに、二人のほうに歩み寄ってきた。


 皆の視線が、クーに向いた。


川 ゚ -゚) そのへんにしとけ、ジョルジュ

 二人の前に立ったクーは、おだやかに、言った。
  _
( ゚∀゚) あ? これは俺の弁当…

 ジョルジュの言葉に被せるように、クーは再び言葉を発する。

川 ゚ -゚) そのへんに、しとけ

 二回目は、ややきつめの調子だった。
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:14:28.30 ID:TlBz5bZP0

 クーとジョルジュはしばらく睨み合っていたが、
 やがてジョルジュが、おどけたようにドクオの机に弁当箱を置いた。
  _
( ゚∀゚) はーいはい。委員長様はやっぱり怖いねえ。
     なあ、ドクオ?

 と言って、ドクオの肩に、ジョルジュは手を回してきた。
 ドクオはあ…とかう…とか、口の中でもごもごと呟く。

 その直後、ジョルジュは力強い拳をドクオの腹に叩き込み、めり込ませ、
 そして何食わぬ顔で自分の席へと戻った。

 ドクオは腹を抱え、その場にくの字型に崩れ落ちた。
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:16:33.21 ID:TlBz5bZP0

 四時間目が終わり、昼休みになった。

 皆が誘い合って食堂に行ったり、机を寄せて弁当を食べたりしている中、
 ドクオはジョルジュに荒らされた弁当を抱え、ひとり、廊下を屋上へと向かう。


 最初は、便所だった。

 だがやはり便所は弁当を食べる場所じゃない。
 においも臭いし、衛生面の不安もある。

 それに、便所飯最大の欠点は、すぐににおいでバレてしまうことだった。

 弁当のにおいがしているのを、ジョルジュを初めとするDQNたちに気づかれてしまい、
 しばらくはひどいいじめを受け続けたものだった。
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:17:04.82 ID:6wB2eDAPO
支援
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:18:49.62 ID:TlBz5bZP0

 そこでドクオは、別の場所で一人になれるところを探し続け、
 屋上、という選択肢に思い至ったのだった。


 鍵は、内側からなら、簡単に開いた。
 鉄の冷たい扉が、重々しい音を立てて開く。

 ここ一ヶ月ほどは、この、青空にいちばん近い場所で、ドクオはつかの間の安息を得ることができていた。
 青空が眩しかった。


 結び目のほどけた弁当箱を見て、ドクオの頬を、小さな涙の粒が伝った。


('A`) どうして、こうなっちゃったんだろう


 小さな声で、呟いた。
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:21:58.11 ID:TlBz5bZP0

 イジメは二年生に進級してから始まった。

 一年生のうちは、友達こそ少なかったものの、
 今みたいに、クラス中から悪意をもって扱われるなんてことは、なかった。

 それなりに怠惰に生きて、それなりにのんびりとした学園生活を送っていたはずだった。

 それが、二年が始まって、一変したのだ。


 何が悪かったんだろう。
 担任のペニサスが、クラスを押さえ込まない方針の先生だから?
 DQNのジョルジュの隣の席になっちゃったから?
 それとも、一年のときのいじめられ役だったでぃが、転校していったから?
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:22:02.29 ID:6wB2eDAPO

('A`)
( (7
< ヽ
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:23:02.43 ID:bVkSBWBDO
ジョルジュを殺したい。
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:23:36.79 ID:TlBz5bZP0

 今になってドクオは、一年のときに、
 いじめられっ子だったでぃへのいじめを止めなかったことを、後悔する。

 持ち物を壊され、みんなから無視され、
 バカにされ、蔑まれて、嫌われる。

 すべてそのまま、今のドクオの状況だ。



 ドクオは拳で、屋上の床を殴りつけた。

('A`) でも、しょうがないじゃないか!
    止められるんなら止めていたさ!!

 俺なんかに、いじめを止められるわけがない。
 でぃへのいじめを止めたら、今度は俺がいじめられる。

 そんなことはわかりきっている。だから、止めなかった。

 弁当箱に、涙の粒が落ちた。

('A`) 俺…。俺…。

 しゃくり上げ、声にならない声を出し、ドクオは泣いた。
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:25:16.39 ID:TlBz5bZP0

 ふと、視線を感じた。
 ドクオは、いじめが始まって以来、視線には敏感になっていた。

('A`)(えっ?)

 この屋上には、誰もいないはず…?


 あわててドクオは顔を上げた。


 屋上の端、フェンス際に、黒髪を風になびかせて、クーが立っていた。
 冷たい視線が、じっとドクオに注がれていた。
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:27:45.89 ID:TlBz5bZP0

 ドクオはとっさには状況がのみこめず、
 口を半開きにしたまま、フェンス際に立っているクーを、ただ眺めていた。


川 ゚ -゚) こんなところで、何をしている

 じっとドクオを見ながら、クーは言った。

('A`) え、あ? その…

川 ゚ -゚) ここは立ち入り禁止だぞ

 冷たく、しかし厳しい調子。


('A`) あ、す、すみません

 思わずドクオは身をちぢめ、ぺこぺこと二、三回クーに頭を下げた。
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:32:21.50 ID:6wB2eDAPO

('A`)
( (7
< ヽ

('A`)
( (7
< ヽ
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:33:17.36 ID:TlBz5bZP0

 ふん、と鼻でひとつ笑って、クーは体の向きを変えた。

川 ゚ -゚) さっさと帰れ

('A`)(…帰れ、だと?)

 その態度に、ドクオの怒りのスイッチが入る。

('A`)(こいつまで俺をバカにしやがって…!
    こ、ここは、俺が先に見つけた、俺の唯一の安住の地だぞ。
    後から来たこんな女に、なんで帰れなんて言われなきゃならないんだ?)

 いじめられっこの怒りの沸点は意外と低い。
 ただ、彼らは怒りを覚えても、それを外に表現することができないだけなのだ。
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:36:42.25 ID:M5vrVt4e0
支援
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:36:49.78 ID:TlBz5bZP0

 いつものドクオなら、怒りにたぎる胸をかかえながらも、
 悔しさに震えながら、すごすごと退散していただろう。

 だが、このときのドクオは、いつもとはすこしだけ違う、すこしだけ勇敢な行動をとった。

 クーに口答えしたのだ。


('A`) そ、そういうクーだって、立ち入り禁止の屋上にいるじゃないか

 震える声で、ドクオは言った。


 クーは再び顔だけで振り向いた。
 険しい視線が、ドクオを射抜いた。

 だが、ドクオはひるまなかった。

('A`) い、い、委員長のくせに!

 震える両手を押さえて、ドクオはさらに言い募った。
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:39:39.65 ID:TlBz5bZP0

 クーは無言でドクオをにらんでいた。
 だが、ここまで来たら、ドクオももう、引くつもりはなかった。

('A`)(こ、こうなったら、意地でもここで昼飯を食べてやる)

 震える足を押さえ込んで座り、弁当を開ける。


 中身は、ジョルジュに食べ散らかされていた。
 ハンバーグやフライなどの、おいしそうな物はぜんぶ食べつくされていた。

 ぐちゃぐちゃにされてしまった中身を見てドクオは、さらに情けない顔をした。
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:41:50.43 ID:Uj2UcoQ10
支援
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:41:59.86 ID:TlBz5bZP0

川 ゚ -゚) ふん。便所飯ならぬ、屋上飯か

 小馬鹿にしたような様子で、クーは言った。

川 ゚ -゚) そんなことだからイジめられるんだ。この…クズが

('A`;) な、なっ…?

 ドクオはびっくりして、弁当箱から顔を上げた。

 品行方正、成績優秀で、いつもクールな委員長が、
 クズなんていうきつい言葉で相手を罵倒するなどと、思いもよらなかったのだ。
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:45:22.79 ID:TlBz5bZP0

川 ゚ -゚) お前、なぜ自分がいじめられるのか、考えたことはないのか?

('A`) ……


 無いどころじゃない。

 なぜ自分が、なんてことを、考えないときはない。

 なぜ、ターゲットは他の誰でもなく、自分なのだ。俺が何か悪いことをしたか。
 いいや、俺は悪くない。人に迷惑をかけたり、悪意を持ったりはしていない。

 では、何故俺なのだ。いじめのターゲットは誰でもいいのか。
 俺がいけにえに選ばれたのは、単なる偶然…なのか。

 もしそうなのだとしたら。もし神様の気まぐれなのだとしたら。

 神様は…おかしい! ずるい! ひどい!
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:47:21.62 ID:TlBz5bZP0

川 ゚ -゚) お前の顔が気持ち悪い、外見がひどいということは、このさい置いておこう

 馬鹿にしたようにふふんと笑って、黒髪を掻きあげ、クーはさらに続ける。

川 ゚ -゚) ところで、自分勝手で、協調性がなく、自己中心的。心も弱く、内向的で、人に声すらかけられない。
     苦手なことや嫌なことがあったりすると、すぐに避けて諦めてしまい、
     自分で乗り越えようともしないで、安易に他人に助けを求めてくる、どうしようもない駄目な人間…

('A`) …?
    なに、それ?

川 ゚ -゚) それが、お前だ。クズ野郎

 ドクオの顔に、またさっと赤みが差した。
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:50:47.89 ID:TlBz5bZP0

川 ゚ -゚) お前は最低の人間なんだよ。
     そして、みんなはそういうお前のダメさを、敏感に察知するんだ。
     だから、お前はみんなからバカにされ、いじめられるんだ

('A`) そ、そんな…、バカな…

川 ゚ -゚) うそだと思うのか?
     うそだと思うなら、クラスのみんなにアンケートでもとってやろうか?
     委員長としての権限を使って、次のHRの時間にでも、な。

 あははは、とクーは笑った。
 美しい顔立ちと、冷酷そうな目つきが、なおさらその笑いを酷薄なものに変えていた。

川 ゚ -゚) 弁当ひとつ自分の力で取り返せないやつが、私にたてつくとはな。
     クズはクズらしく、背中と尻尾を丸めて、さっさと階段の下に消えろ。
     いますぐ、この屋上から立ち去れ。ゴミが…


 握り締めたドクオの両拳が震える。

 いつのまにか両目からは涙があふれていた。
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:54:00.10 ID:M5vrVt4e0
なんてうらやm・・・かわいそうなドクオ!!
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:55:03.00 ID:TlBz5bZP0

 睨み合いはどれくらい続いただろう。

 もしかして、時間にすると、五分程度のものだったかもしれない。
 それでもドクオにとっては、気の遠くなるほど長い時間だった。


 やがてクーは、深くため息をつくと、くるりと、ドクオに背を向けた。

川 ゚ -゚) ここから立ち去るつもりは、無いんだな。ドクオ

 諦めたように、そう言った。


 ドクオはまだボロボロと泣きながら、それでも顔だけはしっかりと上げて、
 クーの背中をにらみつけていた。
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:57:43.01 ID:6wB2eDAPO
クーの罵声なら毛穴開いてウェルカムしちゃうぜ
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 22:57:58.73 ID:TlBz5bZP0

川 ゚ -゚) やれやれ…

 クーはゆっくりと、歩みを進めた。
 そして、屋上のフェンスに、手をかけた。

川 ゚ -゚) 最後に見るものが、お前のようなカスだったとはな



('A`) …え?

 クーはフェンスに足を掛け、するすると身軽に登っていく。
 白い肌と、見えそうで見えない太腿が眩しい。

 上まで上りきると、そのまま向こう側に軽く飛び、屋上の縁ぎりぎりのところに、足を掛ける。

('A`) ち、ちょっと、何してるの!!

川 ゚ -゚) 消えろ。さっさと、私の視界から

('A`) ここ四階の屋上だよ! 落ちたら死んじゃうよ!!

 ドクオは弁当を脇に置き、フェンス際まで駆け寄った。


 フェンスの向こうのクーは、右手だけでフェンスにつかまったまま、
 身を建物の縁から乗り出して、真下のコンクリートの通路を眺めている。
61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:00:07.58 ID:TlBz5bZP0

('A`) クー! どうしたんだ?!

川 ゚ -゚) 私は、お前とは違う

 クーはドクオのほうに、顔を向けた。

川 ゚ -゚) お前はお前で大変なんだろうが、この世に生きる者は、どうせみんな、同じようなものだ。
     みんながみんな、醜悪で冷酷な現実にさらされながら、必死になって生きているんだ。
     わかるか? ただ生きていることだけでも、この世の中は、醜く、大変なのだ

 ドクオは緑のフェンスにかじり付き、
 早口にしゃべるクーの言葉を聞き逃すまいと、耳を傾ける。

川 ゚ -゚) …いじめられ、ボロボロにされながら、それでも下を向いて、必死でもがき、生き続けるお前。
     私は思うんだ。そんなお前は…


 クーは、にやりと歯を剥いた。

川 ゚ -゚) 最低の、臆病者だ。…クズが
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:02:40.74 ID:Uqv1ibdeO
あら中断?
63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:02:45.67 ID:TlBz5bZP0

 ドクオの全身の血が、かっ、といちどきに熱くなった。
 とっさに、クーにつかみかかろうとした。

 が、二人の間には、フェンスがあった。


 ドクオの両手が、緑のフェンスに激突した。
 鉄線の編みこみが激しく音を立て、振動する。


 その動きと、クーの体が宙に舞うのが、同時だった。



 ドクオの視界から、ふっ、と。

 一瞬でクーの姿は消えた。
 声を上げる間も無かった。


 フェンスが何度か、揺り動かしの振動を返しただけだった。
64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:04:06.78 ID:85IL6e330
支援
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:05:25.68 ID:YE1mODaYO
66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:05:40.57 ID:R+QG5217O
あわわわわ…
67以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:05:59.63 ID:TlBz5bZP0

 ドクオはぺたんと座り込んだ。
 何が起こったのか、すべてを把握しきれていなかった。


 いまのドクオにとって、目の前で起こったすべてのことは、非現実的だった。

 俺はここで何をしているんだろう?
 どうして涙を流し続けているんだろう?
 全身が瘧のようにぶるぶると震え続けているのは何故だろう?

 クー。
 目の前にいたクーが…いない?

 ひそかに彼女に想いを寄せていたことを、ここにきてドクオは、
 脈絡もなくようやく思い出した。
 そして、さっきまで屋上で二人きりだったことも思い出す。


('A`)(あれ? 屋上で好きな人と二人っきりなんて…おいしくね?)

 今となってはバカげたそんなことを、混乱した頭で思ったりもした。
68以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:08:19.24 ID:R+QG5217O
('A`)y━・~ 
69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:08:23.66 ID:TlBz5bZP0

('A`)(クーちゃんは可愛いよう…)

 白痴のように、ドクオはそんなことを考えた。


 さっきまで確かに、クーと一緒にいた。
 その冷たくも美しい顔が、目の前にあった。

 そうだ、目の前だ。
 でもそれは、フェンスに隔てられた目の前だ。


 落ちていった。校舎の端から。四階の高さから。
70以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:09:42.39 ID:bVkSBWBDO
これ(´A`)やばくね?
71以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:10:01.35 ID:TlBz5bZP0

 フェンスにかけていた手を放して。


 俺が、フェンスをゆさぶったから。

('A`)(俺が、フェンスをゆさぶった?)

 から、落ちた。
72以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:11:25.86 ID:R+QG5217O
>>70
(´A`)かなりやばい
73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:11:35.44 ID:poFsbsboO
うわああああああどきどきするううう
支援
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:11:45.06 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) そうだ、お前がフェンスを揺さぶったから

('A`) 落ちた?

( ФωФ) そうだ

 ドクオは頭の中で、同じ自問自答を繰り返した。

( ФωФ) お前が殺した

('A`) フェンスをゆすって?

( ФωФ) 四階の高さから、真下のコンクリートの床に、突き落としたのだ

('A`) クーを?

( ФωФ) お前が大好きだった、あの委員長を

('A`) 俺が、殺した
75以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:13:23.34 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) よう、人殺し

('A`) お前は…?

( ФωФ) 神だよ

('A`) 神?

 ドクオは、目の前に浮いている「それ」を見た。

 猫のような目に、黒い耳が頭の上に二つあり、
 短い尻尾の先には、とがった槍のようなものがついている。

('A`) どう見ても悪魔です

( ФωФ) 悪魔だって神なんだよ

('A`) ふーん

( ФωФ) わかったか、この人殺し
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:15:02.52 ID:tTqzJ5yBO
支援
77以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:18:18.03 ID:TlBz5bZP0

('A`) 人殺し…。俺、人殺しかぁ…

( ФωФ) はは、安心しなよ人殺し。
        お前は人殺しだが、あの女は死んじゃあいないだろうよ

('A`) は?

 ドクオはきょろきょろとあたりを見回すと、立ち上がり、膝についた埃を払った。

('A`) ふーん、まあ、どうでもいいか

( ФωФ) あれ? えらく冷静だなお前?

('A`) それより、えーと…神?

( ФωФ) 神様と言え。なんだ?

('A`) じゃあ神様。これってさ、夢だよね?
   だって、あんたみたいなのが出てくるんだもんね?

 言いながら、ドクオは弁当箱を拾って、蓋を開けた。

( ФωФ) 夢か。ぶはははは、これはいい。
        なるほど、夢だと思い込んでるから、そんなに平静でいられるんだな

 悪魔は赤い口を開けて、大きな声で笑った。
 蛇のような細長い舌がちろちろと見えた。
78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:20:57.22 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) まあ夢といえば、人生なんて夢のようなものだよな。
        夢の中で見た夢が、この人生ってやつの正体かもしれないもんな

 面白そうに饒舌に言い募る神を無視して、
 ドクオは弁当箱から箸をとり、ぐちゃぐちゃになった弁当をつついた。

( ФωФ) だが残念。これは現実でーす。正真正銘、本物の現実っ!

('A`) ふーん…

 興味なさそうに、ドクオは卵焼きを箸に取る。

( ФωФ) お、おいおい、ずいぶん余裕かましてくれるじゃないか、殺人鬼くん

('A`) だって、これは嘘だもの。
    もし現実だとしても、はは、あんたの言うとおり、現実なんて、夢の中の夢なのかもしれんね

( ФωФ) はーん。現実逃避で、おかしくなっちまったか?

 白米をかきこむドクオを前にして、神は腕組みをして、唸った。
79以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:23:25.94 ID:TlBz5bZP0

('A`) いいんだよ、もう

( ФωФ) …?

 ドクオは深いため息をついた。

('A`) どうせ現実に戻っても、みんなからいじめられる毎日が戻るだけだ。
    好きだったクーも死んだ。それに、俺は人殺しなんだろ?
    だったらもう、いいよ。何もかも、どうでも…

 ご飯粒のついた箸を、ドクオは神に向けて、言った。

('A`) 夢でも、現実でも、生きていても、死んでも。
    俺はもう、ほんとに、何もかもどうでもよくなったよ…
80以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:25:15.09 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) よくぞ言った

 神は、先が二つに分かれた舌を出して、唇をちろっと舐めた。

( ФωФ) いやあ、どう切り出そうかと迷っていたんだけどね。
        どうも君には、あれこれと言葉をかける必要はないようだ

('A`) …?

( ФωФ) 君、もうその命はいらないね?

('A`) ……

( ФωФ) そうだろ?
        お前なんかもう、生きていてもしょうがないカスなんだからね。はっは!
81以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:26:45.71 ID:gxp+2Br6O
支援
82以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:26:58.97 ID:TlBz5bZP0

 悪魔の辛辣な言葉に、ドクオは一瞬むっとしたものの、
 すぐにいつもの無気力そうな顔に戻り、
 笑う悪魔に合わせて、へらへらと愛想笑いを浮かべ始めた。

('A`) そうだね、俺なんか生きていてもしょうがないね

( ФωФ) だからさ、ゲームしようよ、ゲーム

('A`) ゲーム?

( ФωФ) そう、ゲーム。
        命を賭けて殺しあう、どんな賭博よりも面白い、スリリングなゲーム

 ドクオは悪魔のいわんとしていることを、とっさには理解できず、
 彼の言葉の続きを待った。
83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:30:07.09 ID:8iHjLmHd0
まあ四階じゃな
84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:30:22.02 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) ゲームの内容を説明するとね、二人の人間が、おたがいに殺しあうんだ。
        でもただ殺しあうだけじゃつまらない。殺しあうだけじゃ、ただの格闘ゲームだ。
        このゲームの一番の肝はね、相手を殺すのに、決して自分が手を下してはならないって所なんだ

('A`) はあ…?

( ФωФ) つまり、お前は、自分で相手を刺し殺したりしてはいけない。
        必ず、お前以外の人間の手によって、相手を殺さなければならないんだ

('A`) え、自分で殺さない?
    …なにそれ? どういうこと?

( ФωФ) 察しが悪いなあ。さすが頭が悪いだけあるよ

 ドクオはロマネスクの無礼な物言いに、さすがに腹が立った。
 だが、それを表に表現することはできない。
 目を伏せて小さく震えるくらいが、ドクオにできるせいぜいだった。
85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:32:30.69 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) つまり、誰か赤の他人をけしかけて、対戦相手を殺させるようにしむけるんだよ。
        そういうゲーム

 ドクオはあごの下に手を当ててしばらく考え込む。

('A`) …つまり、俺が誰か第三者をそそのかして、
    その第三者が相手プレイヤーを殺すようにもっていけばいいってことか

( ФωФ) そーいうこと。
        お互いのクラスメイトでも相手の彼氏でも、何でもいいからそそのかして、
        ターゲットを殺すように誘導すんの。どう、面白そうでしょ?

('A`) はは、なかなか面白そうなこと思いつくじゃん。
    さすが妄想王たる俺の夢の中だな。
    ゲームね。ゲーム…
86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:34:33.67 ID:gxp+2Br6O
しえ
87以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:35:40.64 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) どうする? やる? やらない?

 ドクオは腕組みをして、しばらく考え込んだ。

('A`) …よく考えたら、コミュ力ゼロの俺が誰か他人をそそのかすとか、
    そんな難しいこと、できるわけないじゃん。
    そんなの最初からゲームにならないよ

( ФωФ) だーい丈夫だって、ほら、俺も補佐してやるから!

('A`) 補佐ね…。
    だいたいゲームって言うけど、対戦相手はいったい誰なんだい?
    ちゃんとゲームとして成り立つような相手なんだろうね?

( ФωФ) あーそれならたぶん大丈夫だと思うよ。
        対戦相手はほれ、お前がさっき殺した人間だよ

 ドクオはびくりと背筋を伸ばす。


( ФωФ) クー、って言ったっけ。なかなか可愛い子じゃん

('A`) な、なんだって?! クー?!
88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:35:52.00 ID:IvUkP2+B0
89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:37:09.42 ID:Uqv1ibdeO
しえ
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:37:22.50 ID:TlBz5bZP0

('A`) でも、クーは、た、たった今死んだんじゃ…

( ФωФ) あーそれは大丈夫。このゲームを思いついたもう一人の神が、
        落ちていくクーを救って、今頃同じゲームの説明をしているだろうから

('A`) ……


('A`) すると、何?
    俺とクーは、殺し合いをするの?

( ФωФ) そう。それも他人を使って、ね…
        どうだ? おまえだって、本当は殺してやりたいんだろう?
        お前のことをカス呼ばわりした、あのクソ生意気な女を。


 ドクオはびっくりして悪魔のほうを見た。
 それから目を伏せて、深いため息をついた。

('A`) …見てたの?

( ФωФ) 見てたからこそ、このゲームを思いついたのさ
91以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:40:16.54 ID:TlBz5bZP0

 ドクオはもう一度、足を投げ出して、屋上の床に座り込んだ。

('A`) はー。もう、どうでもいいや

( ФωФ) どうでもいいか。
        やる、ってことで、いいんだな

('A`) …ひとつだけ聞かせてくれ

( ФωФ) 聞くのはタダさ

('A`) あんたは神なんだろ? なんでもできるんだろ?
    なのに、どうしてこんな、誰の得にもならないゲームを、やろうと思ったんだ?

 神は、ふっ、と笑った。
 愚問だ、とでもいいたげに。
92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:40:19.16 ID:IvUkP2+B0
すた
93以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:42:09.50 ID:+O6alrKqO
え、手汗びちゃびちゃなんだけど
94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:42:10.56 ID:TlBz5bZP0

( ФωФ) もちろんこれは

('A`) 暇をもてあました

 二人は読者のほうを振り返り、声をそろえて、言った。

(ФωФ) 神々の、遊び ( 'A`)








('A`)は謀るようです【前編】 おわりニダ<ヽ`∀´>
95以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:43:28.71 ID:Uj2UcoQ10
A:暇をもてあました
B:神々の
A&B:遊び

じゃなかったっけ?
96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:45:16.72 ID:IvUkP2+B0
97以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:52:19.28 ID:poFsbsboO

次はいつ?
98以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/13(金) 23:52:56.02 ID:6wB2eDAPO
99以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
前後編か
面白そう期待乙