1 :
◆pGlVEGQMPE :
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 16:51:51.55 ID:a5FI1bYgO
ktkr
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 16:52:27.15 ID:XvyFleB90
二章 走る幻、仄めく面輪
一話 しぃと猫と
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 16:54:10.42 ID:P2T9RkDyO
お前を待っていた
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 16:56:27.24 ID:XvyFleB90
駅前でブラブラしていたので、神社に到着するころにはすっかり空が赤くなっていた。
神社の脇にひっそりある砂尾家の中に入ると、シューはすぐ風呂場へ直行した。
どうやら汗を流しすぎたらしい。たまににおいも気にしてたのを思い出す。
シューがいなくなったので、彼は居間でのんびりすることにした。
台所ではヒートが晩飯の準備をしている。
「手伝おうか」と声をかけた彼に、「しばらく休んでなって」と返ってきたのだった。
だから彼は特にやることもないまま、ぼぉーっとテレビを見つめる。
画面はどれもニュースの時間帯らしく、向こう側で淡々とキャスターが喋っている。
「水不足が心配」「アフリカではよくあること」「海水浴場で大学生が水死」「明日の天気は全国的に晴れ」
一通りニュースが終わったあたりでヒートが台所から出てきた。
そちらの方に目を向けるとおいしそうな香りが漂ってくる。
また、示し合わせたように廊下の方でペタペタと音が鳴った。
シューが風呂から上がったようだ。
居間にいる人数が一気に三倍になった。
ヒートは彼と妹の顔を認めて言った。
ノハ*゚听)「これより家族会議を始めるぞおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
いや、叫んだ。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 16:57:21.86 ID:b/jLQ205O
おぉ、まってたぞ
支援
7 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 16:59:53.06 ID:XvyFleB90
不幸中の幸いである。
“幸い”というのは、小さい山だけど中腹ということもあり、近隣に家がないので迷惑にならないという点だ。
“不幸”というのは、叫び声で耳がおかしくなったことだ。
男はキンキン鳴る耳を叩きながら、騒音の主を見て顔をしかめる。
そんなことなど構うものかと知らぬ顔で話し始めるヒートが恨めしい。
ちなみにシューは事前に察知してたらしく叫ばれる前に耳を塞いでいた。
聡い子である。
ノハ*゚听)「というわけでシューとロマさんは明日、椎名さんのとこに顔を出してね!
私とショボンくんはロマさんが会った老婆について調べるから」
ウツロが出たという報告があった家に行くように、と言われた。
そこに異議を唱える声が一つ。
( ФωФ)「老婆の件は私がやった方がいいのではないか?
あと、モナーさんの件は放っておいていいのか?」
彼の疑問は砂尾姉妹の方々が答えてくれた。
「今のモナーさんには何いっても無駄」とシューは言い、
「あの辺りは暗いから老婆の顔も見えてなかったって言わなかった?」とヒートは確認してきた。
ノパ听)「ついでにいっておくと、シューが調査とかそういうのを得意としないんだよ。
だからどういうウツロだったか聞き込むのは私の仕事なの。
なあに、ショボンくんもいるから大丈夫さ!!」
その夜の話し合いはそれで終わった。
8 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:04:55.38 ID:XvyFleB90
翌日。
朝食を食べた後、ヒートはすぐ、ショボンに会うため南部へ出かけた。
そして残った二人はのんびり椎名さんの家に向かう。
( +ω+)「昨日の話を思いだしてたんだが」
lw´‐ _‐ノv「ん」
( ФωФ)「調査とか苦手なのか?」
lw´‐ _‐ノv「……文献を調べるのなら得意だよ。
聞き込みが苦手だけどね」
( +ω+)「ふーん」
椎名さんの家は町の東部にある。
彼らは神社を出て妹者丘を通り、弟者山山裾にまばらに生えている家々の間を歩く。
二人が足を止めたのは、涼しかった空気に熱がこもり始めたころになってからだった。
目の前にあるのはごく普通の家で、『椎名』と表記されていた。
lw´‐ o‐ノv「たのもー」
ガラガラと玄関の戸の音と一緒にシューの声が通る。
場違いな言葉に彼は心の中でつっこみをいれておいた。
すぐに家の奥から返事がきた。
9 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:08:50.05 ID:XvyFleB90
(*゚ー゚)「はーいどちらさまです……ああ、シューさん」
lw´‐ _‐ノv「きたよー」
(*゚ー゚)「はい、どうぞ上がってくださいな。
そちらの方もどうぞどうぞ」
lw´‐ _‐ノv「おじゃましまーす」
( ФωФ)「すいません、おじゃまします」
二人は居間に通された。
椎名家のそこは砂尾家と比べ、西洋の色が強く出ている。
とりわけ家具が海の外の世界を感じさせる。
例えばテーブルに椅子がついていたり。
カラフルな食器棚があったり。
冷蔵庫がやたら大きかったり。
置物や観賞植物などの名前が横文字のみの物しか置いてなさそうだったり。
外から見た普通さは完全に消えてしまっていた。
異世界に入ったような感覚を覚え、まるで不思議の国のアリスみたいだなと彼は思った。
ボブカットの女の子に促されて二人は椅子に座る。
彼女は台所へ行き、麦茶の入ったコップをお盆に載せて戻ってきた。
それらを来客の前に置き、彼女も着席する。
10 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:12:03.27 ID:XvyFleB90
(*゚ー゚)「ようこそ椎名家へ。
シューさんと……えと?」
( ФωФ)「杉浦ロマネスクです」
(*゚ー゚)「ご紹介ありがとうございます。
私は椎名アヤ。しぃ、と呼ばれてるので気軽に呼んでください。
本日はご足労ありがとうございます。どうぞ、ゆっくりしていってください」
丁寧に挨拶し頭を下げる女性に、男もぺこりとお辞儀する。
その後、雑談に花を咲かせる。
しぃは現在中学生であり、砂尾家と同じく妹と二人暮らしをしているとか。
親は仕事で忙しいらしく、ひと月の間に帰ってくる回数は両手で数えられる程度だとか。
親が趣味で買ってくる置物は目が痛くなるとか。
彼女の趣味は園芸だとか。などなど。
(*゚ー゚)「私は派手目な物より自然な美しさが好きなんですよ。
両親はそこあたりを理解してないみたいなんですよね。
庭にラフレシアのオブジェを造ろうって言われた時は喧嘩になりましたよ」
lw´‐ _‐ノv「園芸好きには、上等な料理に蜂蜜をぶちまけるが如くの発想だね」
(*゚ー゚)「まったくです。困ったものですよ。
ロマネスクさんもそう思いますよね?」
11 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:16:29.23 ID:XvyFleB90
( +ω+)「……結婚してください」
(;゚ー゚)「はい?」
男がいきなりよく分からないことを言った。
しぃはなにかを聞き間違えたと思いこんで彼に尋ねる。
近くにあるニット帽は漏らさず聞き取り、ぼそりと呟く、「涅槃の海に漂ってなよこのロリコンが」
そんな自称高校生に弁明する。
( +ω+)「だってこの町にきて初めてちゃんと名前呼ばれたから」
(*゚ー゚)「ああ、そういうことですか」
彼の冗談を冗談と受け止めたみたいだ。
でも「ロマネスク」と呼ばれたことに感動したのは事実らしく、彼は体を震わせる。
(*ФωФ)「私、しぃさんのためなら全力で頑張りますから。
砂尾家は皆、我が道を突っ走ってますから苦労が耐えなくて……」
lw´‐ _‐ノv「居座って一週間も経たないうちに泣きごとですかそうですか」
(*ФωФ)「いやぁ、たまにはロリも……」
(;+ω+)「……いや、よくないなぁ」
lw´‐ _‐ノv「なぜ私を見るの?
出るとこ出てないとか言ったら、君の顔の凸を凹にするよ」
初遭遇wktk
支援
13 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:20:39.80 ID:XvyFleB90
そしてしばし言い争う二人。
しぃは彼らを眺めてクスリと笑う。
(*゚ー゚)「仲いいんですね」
lw´‐ _‐ノv「ロマにはいつも振り回されて困るけどね」
(;ФωФ)「それ、私のセリフだから。
っていうか騒いじゃってすみません」
(*゚ー゚)「いえいえ、賑やかでいいです。
そちらのほうがこの家も喜びますので」
しぃがそういうと視線を部屋中に走らせる。
その行為を見てると温かい空間だったところがひどくがらんどうに感じられた。
彼もシューも黙ってしぃを見つめる。
静寂が訪れる。そうしてできた間に、しぃは二人を見てゆっくりと口を開く。
(*゚ー゚)「私の妹にウツロさまが憑いていると思います」
lw´‐ _‐ノv「……詳しく聞かせて」
何が起こったかぽつりぽつりと語り始めた。
14 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:24:46.15 ID:XvyFleB90
(*゚ー゚)「つい最近まで、私の家の近くに野良猫が出てきてたんですよ」
二人は無言でしぃの言葉を聞いていた。
話をまとめるとこうだ。
その野良猫はここらに昔から姿を現していて、周りの住民はよく可愛がっていた。
一言で言ってしまえ、この辺りの共同体による放し飼いみたいな状態だったらしい。
その猫は住民たちのアイドルだったのだ。
だからしぃもその猫が好きだった。しぃの妹もその猫が好きだった。
しかししぃは理解していた。しぃの妹は理解してなかった。
その猫は年をとりすぎたのだ。
しぃが生まれた時からずっといたのだ。そろそろ寿命で死んでしまうんじゃないかとみんな思っていた。
そして当然の如く、その時は来た。
山の林の中で猫は冷たく横たわっていたのを近くのおじさんが見つけたのだ。
猫を可愛がっていたみんなは、その死を悲しんで小さな墓を建てた。
lw´‐ _‐ノv「つまり猫のウツロが出たということかな?
そしてそれが妹に憑いていると?」
(*゚ー゚)「……はい」
lw´‐ _‐ノv「そう確信した根拠は?」
15 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:29:01.81 ID:XvyFleB90
シューが身を乗り出して聞いた質問にしぃはうつむいた。
(* ー )「妹には、その、猫が死んだことは伝えてないんですよ。
遠くへ行ったことにしてます。
だから妹はその猫に会いたがってたんですよ。それはもうとても」
lw´‐ _‐ノv「で、つーちゃんのところに現れちゃったんだ?」
コクンと頷くしぃ。
そこまで聞いて、シューは口元に手をあて何かを考え始める。
彼もまた話を把握するため、頭を回す。
死んだ猫。何も伝えられてない妹。現れたウツロ。
ウツロが出たと聞いて椎名家へ訪れたのだから、しぃの妹は死んだ猫を見ているはず。
でも彼女は猫が死んだことなど知らない。
だから妹はおそらく猫が遠くからここに帰ってきたと思っているのだろう。
もちろんしぃもその猫を見ている。そうじゃなければ砂尾家に連絡しないから。
先程の話からすると、しぃも猫の死を悲しんだ者の一人だろう。
なぜしぃではなく、妹に憑いたのだろうか?
16 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:32:44.83 ID:XvyFleB90
(;+ω+)「うーん?」
頭の中で単語が蠢く。
それらはボウフラのように泳ぎ回り、まとめようとしても達成できない。
ほかの要素を考えようとすると、単語が外に飛び出してしまいそうだ。
隣を見るとシューも難しそうな顔をしていた。
おそらく考えていることは同じなのだろう。
シューはウツロに慣れている。こう言っては悪いが、しぃの素人意見だけで全てを判断できない。
もしかしたらしぃが勘違いしているだけかもしれない。しぃに憑いてる可能性だってある。
( Фω+)「……ふむ」
片目を閉じて、額に人差し指の背を置く。
これは彼が深く考えるときの癖だ。
脳内物質を凝縮する感じで、意識を集中させる。
妹は何も知らない。遠くに行ったと伝えられた。
みんな猫が死んだことに悲しんだ。だから墓を建てた。
おそらくとても小さな墓だろう。林の中に埋めた。それをみんなで?
たしかにそう言ってた。
だとすると……。
( ФωФ)「なるほど、な」
彼の納得の声に視線が集まる。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 17:33:12.53 ID:wgR8pykwO
おう久々
支援!
18 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:36:10.17 ID:XvyFleB90
( ФωФ)「しぃさん、質問よろしいでしょうか?」
(*゚ー゚)「あ、はい、いいですよ」
( ФωФ)「しぃさんはどういう状況でその猫を見たのですか?」
詳しく話してくれた。
深夜、猫の鳴き声が外から聞こえたこと。
窓を開けて覗いてみると、妹の部屋の前の屋根で猫が座ってたこと。
その猫に見覚えがあって、しぃを見ると逃げていったこと。などなど。
( +ω+)「ふむふむ」
lw´‐ _‐ノv「……何に気づいたの?」
( ФωФ)「やっぱりウツロが憑いたのは妹さんのほうだってことだ」
(*゚ー゚)「だからそういってるじゃないですか」
( ФωФ)「いや……私たちは現場を見てないから。
もしかしたらしぃさんに憑いてる場合だってあったわけで」
その可能性を伝えるとしぃは息を飲む。
シューは予想通り彼と同じことを考えてたらしく、「言え」と要求してきた。
男は深く息を吐き、大きく息を吸い込む。背筋を伸ばしてシューを見る。
19 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:39:27.92 ID:XvyFleB90
( ФωФ)「『猫を可愛がっていたみんなは、その死を悲しんで小さな墓を建てた』としぃさん言ってた。
だけど猫の墓を作るのにそんなに人数はいらないはず。頑張れば一人でだってできる。
なのにみんなで。……つまりそれだけその猫は愛されてたというわけだ」
( +ω+)「だからみんな、その墓で猫にお別れを言えたんだろう」
視界にある顔の眉間にしわが寄る。
男はそこで言葉を切る。みなまで言う必要はないだろうと考えたからだ。
理解できてるかどうか、相手を観察する。
すぐに眉間のしわを伸ばして、ニット帽は口を開く。
lw´‐ _‐ノv「つーちゃん……しぃちゃんの妹はお別れを言ってないから、猫がまだ生きてると思ってる。
また会えると思ってるから。また会いたいと思ってるから。
そういうこと?」
彼は頷いた。
『また会いたい』と願っているのなら、ウツロが現界が十分に考えられる。
人生とは人によってまちまちだが、誰もが多くの出会いと別れを経験する。
その中で死ほど明確な別れは存在しないだろう。
だからこそ皆が皆、その別れを惜しむのだ。再会することなど叶わぬ故。
シューは腕を組み、唸りながら薄く開いたまぶたをさらに細める。
難しそうな表情をして一言つぶやく、「ありえそうだね」
20 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:43:14.12 ID:XvyFleB90
組んでいた腕を解き、いつも通りの無表情に戻ったニット帽は、男の目を見る。
lw´‐ _‐ノv「……今は決めつける時でないから、ロマの考えが正しいと現段階では言えないね。
それは可能性の話でしかなく、本当は知らない誰かの別の記憶とシンクロしてるかもしれないからね」
シューはそこで言葉を止めるが、彼から目を逸らさない。
一呼吸置き、「でも」とさらに言葉が流れる。
lw´‐ _‐ノv「とりあえずはロマの考えで動こうと思う。
今のところ一番考えられる可能性だろうから」
ニット帽が揺れて、しぃに顔が向けられる。
二人の話を黙って聞いてた彼女は、いきなりシューに見つめられて少々驚く。
シューは確認のため、しぃが猫を見た状況を再度尋ねた。
それが済むとシューは椅子から立ち上がる。
lw´‐ _‐ノv「それじゃ、晩御飯後にまたお邪魔するから。
いろいろ準備するからいったん帰るね」
(;゚ー゚)「あ、はい」
(;ФωФ)「む?」
21 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:47:34.69 ID:XvyFleB90
シューは男を待たずに玄関へ向かって歩く。
彼は慌ててニット帽を追う。
靴を履いて、二人のうしろをついてきたしぃを見てそれぞれ挨拶する。
( ФωФ)「おじゃましました」
lw´‐ o‐ノv「おぼえてろよー」
( +ω+)「……なんで悪役の逃げ台詞を言うのかな、お前は?」
漫才を前にしてしぃは優しく笑い、手を軽く振る。
そうして二人は椎名家をあとにする。
時刻は十一時間。
正午の鐘がなるまでには砂尾家に着くことができるだろう。
本日も晴天なり。日差しが強く、熱が肌に吸い込まれる。
すぐに汗が湧き出るが、構わず歩く。
どこからか子供の甲高い声が響く。おそらく近くの公園ででも遊んでいるのだろうと思う。
(;ФωФ)「ちょっといいか?」
lw;‐ _‐ノv「ん?」
22 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:51:18.05 ID:XvyFleB90
(;ФωФ)「私たちがいない間に猫が現れたらどうするんだ?」
lw;‐ _‐ノv「おそらくそれはないよ」
(;Фω+)「どうして?」
ニット帽を見ようとして、背景の深緑が目に染みた。
風がほとんどなく、弟者山の木々の微動だにしないさまは力強さを感じる。
太陽や空気だけでなく山も燃えている、彼はふと思った。
lw;‐ _‐ノv「霊の定義は話したと思うけど?」
(;ФωФ)「む?もしかしてあれか?
魂となっても記憶の浄化に抵抗して現世に現れるとかいう……」
lw;‐ _‐ノv「そうそう。
未練があってその記憶を手放さないから霊となって現れるんだ。
まあ、ある程度の記憶を切り離されてるだろうけど、それでも大事な一は守り通す。
そこを踏まえた上で聞くけど、一つの事柄にこだわってる奴があれこれ器用にこなせると思う?」
確認のための疑問。
単純にその疑問の答えが、男の質問の答えではないのだろう。
数秒考え、彼女が何を言いたいのか理解した。
23 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:56:15.49 ID:XvyFleB90
(;ФωФ)「霊は記憶が少ないから行動が単調になる。
その点はウツロも同じ……ということか?」
lw;‐ _‐ノv「そのとおり。
大事な一を守り通した霊も同調した記憶であるウツロも、基本的に足りてないんだ。
だから行動原理はそこらの機械みたく一定なんだよ」
(;+ω+)「なるほど」
しぃは深夜に猫を見た。
ならばその猫は深夜にしか現れない。
その事実を認めて後ろを振り返る。
椎名家はすでに他の家々に飲み込まれていて、瞳に映らなかった。
24 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 17:58:30.87 ID:XvyFleB90
二章一話終わり
左クリックおかしくなってるので、次行く前にちょっと休憩
御免
25 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:05:42.14 ID:XvyFleB90
次行きます
26 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:06:44.76 ID:XvyFleB90
二章 走る幻、仄めく面輪
二話 シューと竹刀と
27 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:10:08.60 ID:XvyFleB90
石段を上り、神社を素通りして家にたどり着く。
中に入ると静寂が耳を突く。
ヒートはまだ帰ってきてないようで、彼らは二人で朝の残りを食した。
昼飯を食べ終えるとシューに引っ張られて外に出た。
家の裏のプレハブの前で彼女は立ち止り、手にしていた鍵で扉を開ける。
ここで待つように、と男に告げ、ニット帽が中に消えた。
彼女はすぐに出てきた。
その両手には、通常のものより短いであろう竹刀が握られていた。それも四本。
そんなにたくさんの竹刀を何に使うのだろうか、疑問に思ったので尋ねた。
単語が一つだけ返ってきた、「訓練」
淡白な様子に、男は思わずオウム返ししてしまった。
( ФωФ)「訓練?」
lw´‐ _‐ノv「そ。一応ロマも覚えた方がよさそうだからね」
シューは手にしているそれを二本、投げて渡した。
慌てながらも受けとる様子を認めると、彼に背を向け歩き出す。
渡された物を握りしめ、男はニット帽を追いかける。
境内に入ると再び歩みを止めた。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 18:12:49.82 ID:U/hpzdyJO
支援
支援
30 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:13:56.49 ID:XvyFleB90
ニット帽がくるりと回れ右をして男と向き合う。
手の中にある竹刀の感触を確かめ、風の匂いを嗅ぐ。
彼は自分でもよく分からない心の波を感じた。
lw´‐ _‐ノv「昨日ウツロの倒し方を教えたよね?」
( +ω+)「……バシュッとやってドバッと切り込むのだろう?」
昨日の町案内の時に聞かされた文章をそのまま吐き出す。
それを聞いて、ニット帽のぼんぼんが縦に揺れた。
lw´‐ _‐ノv「そうそう。んじゃ始めよっか」
(;ФωФ)「いや、だからジェスチャーとか効果音だけじゃ分からないんだって」
lw´‐ _‐ノv「え?」
「予想外」と顔に書いてあるニット帽を見て、彼はがっくり肩を落とす。
力の入らない声で「丁寧に説明してくれ」と頼むと、シューは体の力を抜いた。
彼女の無表情からため息が漏れた。
つまり面倒らしい。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/07(土) 18:15:00.73 ID:Arf2PMlu0
支援
32 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:17:31.28 ID:XvyFleB90
その様子に彼がジト目で無言の抗議をする。
それを認めてニット帽がフルフルと横に揺れる。
言葉が出てこなかったが、もしそこで何か喋るとしたら彼女はこう言っただろう、「やれやれだぜ」
lw´‐ _‐ノv「何が知りたい?」
( ФωФ)「ウツロの倒し方と今からすることについて」
「おk」、彼女は了承すると不意に黙り込む。
魂やウツロの説明をした時と同じで、どう話すべきか考えているようだ。
蝉が喧しく鳴き、しばらくしてそれらとは別の音が空気を震わせた。
lw´‐ _‐ノv「ロマの力は例外だから除くとして……ウツロを倒す方法は三種類あるんだ。
一つは『枝折詩』。これは私たち砂尾神社の領分だね。
言葉の力を用いて、ウツロに聞かせて祓うものなんだよ。
まあお経の亜種みたいに考えればいいよ」
( ФωФ)「お前も歌えるのか?」
lw´‐ _‐ノv「モチ。
砂尾家はウツロが出始めたときからそれで祓ってるんだから、私だけ使えないわけないよ。
とても長いから覚えにくいだろうけど……ロマも覚える?」
( +ω+)「いや、いい」
彼には力があり、そんなものを覚えなくても祓えるのだ。
だから彼の返事は自然なものであり、シューは「ですよねー」と納得する。
彼女は祓い詩の話を引っ張らずに、次の説明に移った。
33 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:21:48.06 ID:XvyFleB90
lw´‐ _‐ノv「あとね、『結界』で祓う方法もある。
ここでいう『結界』っていうのは誰も中に入れない、まんま漫画のアレみたいなのだから。
ただこっちはショボンの寺の技法だから詳しい方法は私も分からない。
……彼らの扱う結界の性質で、どうやって祓うことができるのか疑問だけどね」
( ФωФ)「ほうほう……よく分からんな」
lw´‐ _‐ノv「ですよねー」
お天道様の下で頭に「?」を浮かべる二人。
鏡映しで首を傾げる様子は微笑ましいものがあり、もしヒートが彼らを見てたらニヤついてたかもしれない。
シューは説明を続ける。
lw´‐ _‐ノv「ま、結界張るにもひどく手間がかかるらしいよ。
さあここでクイズだ。この二つの祓い方の問題点は?」
(;Фω+)「え?…………うーん?」
いきなり質問されて男は悩む。癖で思わず片目を閉じる。
今までの話を聞いて、情報を整理する。
34 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:25:05.01 ID:XvyFleB90
『枝折詩』。ウツロに聞かせて祓う、いわばウツロ専用のお経。
『結界』。寺の秘伝らしく詳しく理解できなかったが、手間がかかるらしい。
そして『ウツロ』。
魂から切り離された記憶が、この町の人と同調して現界するもの。
それらは人に憑き、人の肉体と魂の情報を半分奪う。
しかし肉体も魂も一個が最小値なので、本来半分にできるものではなく、結果、人もウツロも不安定な状態になる。
そして時間が経ち、憑かれた人は衰弱死する。そうでなくともウツロが我慢できなくなって身魂の情報を奪いに来る。
ここまでの考えを頭の中でまとめて、男の口から一文字漏れる、「……あ」
lw´‐ _‐ノv「気づいたみたいだね」
(;ФωФ)「ああ。確かにそれは致命的だな」
さて、答え合わせだ。
彼の口から解答が出された。
(;+ω+)「……襲ってくるかもしれないウツロの対処に時間がかかってはな」
35 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:28:42.79 ID:XvyFleB90
男は気まずそうに顔を伏せる。
反対に彼女は空を仰ぎ、諦めの吐息を天に送る。
lw´‐ _‐ノv「そうなんだよねぇ。
加えて言えば、理性を失ってる人のウツロ相手だと、枝折詩はほとんど効かないし、結界も効きづらい。
枝折詩というのはウツロに“ここにいちゃいけない”と悟らせるものなんだ。
結界も視覚 ・ 聴覚に訴えて、誰も近寄らせない、または誰も外に出さない手法だからね」
小難しいことを淡々と話すシュー。
男はその意味を理解しようと思わずに、音として漏らさず記憶しようと目をつぶる。
そして「簡単に言ってしまうと」と前置きして、シューはまとめる。
lw´‐ _‐ノv「カラクリを少しも理解できないと誰にも効果がないわけで」
( +ω+)「問題ばっかだな」
彼は思わず文句を言った。
それすら予想していた彼女は無視して説明を続ける。
ただ、これから説明することを考えてか、無表情の顔に影が差す。
lw´‐ _‐ノv「そんなわけだから最終手段が存在する。
それが三つめの方法……なんだけど個人的にあまりやりたくないものだね」
( ФωФ)「それは?」
36 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:33:42.60 ID:XvyFleB90
lw´‐ _‐ノv「ウツロは肉体・魂の情報を半分貰う。
だから一時的に現世の住人になれる。
だったら強制的に現世から退場させればいい。物理的な方法で」
(;ФωФ)「……」
事もなげに話した彼女を見る。
個人的にやりたくないのもわかる。おそらく普通の人間なら誰もやりたがらないだろう。
ウツロというのは分雲町だけに存在するのだ。場合によっては知ってる顔に対して強制退場させなければいけない。
彼女たちはウツロを祓う。
それは町を守るためであり、何十年、何百年続いたか分からない使命を今も全うする。
その歴史の中で物理的に現世から追いやった人物は何人いただろうか。
知るすべはない。そしてその方法で祓った人物に去来する想いがどんなだったも分からない。
それでも彼女らはやらなければならなかった。
やらなければ、誰かが死んでしまうから。
隣人を守るために手を汚す。
それを想像し、彼は悲しくなった。
( +ω+)「……お前はその方法でウツロを祓ったことがあるのか?」
lw´‐ _‐ノv「いや、ないよ」
( +ω+)「そうか」
いくらか気が楽になる。
しかし、いつかはそれをしなきゃならない時が来るかもしれないと考え、すぐに気が重くなった。
37 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:37:18.97 ID:XvyFleB90
lw´‐ _‐ノv「ま、物理的な方法は本当に危機的状況にしか使えないから置いておいて。
それを抜きにしても、私たちは武器を持たなきゃいけないんだから。
時間がかかるっていう弱点があるわけだしね」
ニット帽がわずかに揺れる。
彼女はいつもの無表情で説明を続ける。
今の彼には、そんな彼女の態度がありがたかった。
lw´‐ _‐ノv「襲いかかられても理性が残ってるときがある。
そのときは枝折詩も効いてくれる。
また、詩を聞かせているときに抵抗されるときだってある。
そんなときに自分の身を守るために武器は必要なんだよ」
「というわけで」、そこで言葉を区切る。
シューは男から数歩分、距離をとり、それぞれ竹刀を持っている両腕を上げる。
左腕は体の前に出し、竹刀の先で彼の喉仏を指す。
右腕は肘を折り曲げ、額の辺りに柄を握り締めた手を固定させる。
lw´‐ _‐ノv「構えて。
砂尾流の戦い方を教えてあげるから」
彼女の声に、いつもと違う色が混じってるのを感じた。
38 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:40:29.74 ID:XvyFleB90
シューを見つめて、構えを真似る。
体のところどころでぎこちなかったりフラフラしている部位があるが、そこはご愛敬。
lw´‐ _‐ノv「はじめに言っておく。
これから教える砂尾流武術というものは、武術と名乗るにはあまりにお粗末なんだ。
『対の武器を使え』『他者を傷つけるよりもまず自分の身を守れ』
……この基本概念さえ押えとけば武器は何だっていい、構えもどんなものでもいいって具合なんだよ。
ヒー姉はトンファー使ってるし」
(;ФωФ)「む?」
シューが右の竹刀をゆっくり薙ぐ。
具体的に何をやるか聞いてない彼は少し焦る。
とりあえずこちらも右の竹刀で受けておこう、と考え右腕を動かす。
なぜかシューに合わせてしまい、動作がゆっくりになってるが。
lw´‐ _‐ノv「この武術はあくまで時間稼ぎでしかない。
だから器用に動き防御するため、二本の武器を使うんだ。
もし、もっと二刀流を上手く扱いたいと思ったなら、あとで剣道場行くことを勧める」
竹刀と竹刀が合わさり、コン、と音が鳴る。
受けられるとシューは腕を引く。
そしてまたもゆっくりな竹刀が彼に迫ってくる。
今度は上段からだ。これも受け止める。
39 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:44:13.49 ID:XvyFleB90
lw´‐ _‐ノv「今やってるゆるい動きで、どう受けるか考えて。
とりあえずそれで動き方を徐々に覚えていってね。
あ、そうそう」
( ФωФ)「?」
下からゆっくり竹刀が迫る。これも受け止める。
シューはそれを確認して腕を引き、浅く息を吐く。
それを合図に、竹刀が男を断ち切らんとするが如く速度で迫ってきた。
(;ФωФ)「っ」
唐突だったが、なんとか左で胴を狙う様を捕らえた。
男は左の竹刀で受け止める。先ほどまでとは違う、大きな音が響く。
だがシューは止まらない。
その勢いを殺さず、左の竹刀に力を込めて彼の左を封じる。
同時に右の竹刀を素早く振い、
音が響く。
40 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:48:03.68 ID:XvyFleB90
「たまに速いやつ出すから気をつけてね」と彼女は言った。
その発言はもっと早くにするべきだし、彼もそのように思っていた。
lw´‐ _‐ノv「受けられると思うものは存分に受けてくれていいよ。
ただし、無理ぽと思うものは迷わずよけてね。
私が教えてるのはあくまで護身であり時間稼ぎなんだから。
最終的にどんな攻めも受け流すことが理想」
(;Фω+)「……おk」
額を押さえて把握する。
痛みは脳に響くようなものではなく、肌を熱するような軽いものだった。
彼はすぐに立ち直る。もしかして手加減されたのかな、と内心思う。
lw´‐ _‐ノv「……そうだ、私に仕掛けてくれない?
多分それでなんとなくだけど理解できると思うから」
(;ФωФ)「む?いいのか?」
lw*‐ _‐ノv「ダイジョーブ、今のロマにはやられはせんよ」
無表情ながらも楽しそうな空気を発するシューを見て、男は少し腹立たしく感じた。
いくら彼が素人だからといっても、体格も性別も違う。
それなのに大丈夫と言い張り、しかも先ほどの手加減の件も考えると、彼はなめられてるとしか思えなかった。
( +ω+)「あい分かった」
返事とともに彼は構える。個人的に大人げないと思うぞ。
41 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:51:20.97 ID:XvyFleB90
lw´‐ _‐ノv「さあこい」
シューは始めとは違う構えをとる。
半身で右腕を水平にし、男の眉間を指す。
対して左腕はだらりと垂らす。下段ともいえない力の抜きようだ。
また何より歩幅が狭い。それでは踏ん張れないのではないだろうか。
力任せに打ち込めば、吹っ飛んでしまいそうである。
だから彼は力任せに攻めようと思っている。
(#ФωФ)「はっ!!」
息を強く吐き、お返しとばかりに頭を狙う。
シューは右手で竹刀を迎えうつが、力負けして吹っ飛んだ。
いや、後方へ跳んでた。
lw´‐ _‐ノv「うんうん、やっぱり男の人は力が強いね。
でも有効打は浴びせられなかったと。
もっとやる?」
(#ФωФ)「もちろん!!」
しばらく境内に竹刀を打つ音が響いた。
42 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:54:54.18 ID:XvyFleB90
太陽の輝きが微妙に変わり始めたあたりで二人に声がかけられた。
ノハ*゚听)「お、やってるね」
lw;‐ _‐ノv「あ、おかえり」
(;ФωФ)「お、おかえり」
二人の挨拶を受け、ヒートは笑う。彼女の後ろにはショボンもいた。
ヒートたちは老婆のウツロの調査をしていたが、今はひとまず小休止といったところか。
そしてシューたちも休もうという流れになった。
lw;‐ _‐ノv「そうだ。
ヒー姉、ちょっと相談が」
ノハ*゚听)「おkおk。でも暑いから中で話を聞こうか」
lw;‐ _‐ノv「把握した」
姉妹はその場を離れて、自分たちの家に入った。
そうして残ったのは男二人。
(;+ω+)「ふぃー……」
そのうち一人はへばっていた。
43 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 18:58:09.69 ID:XvyFleB90
彼らは近くの木陰の中で腰を下ろした。
男は一応「家に入ればいいのに」と言ったが、ショボンは一言。
(´・ω・`)「女二人のところに男一人だけが混じると不安になるよね?」
まったくもって。
ショボンの言葉を聞いて、ここ数日の心の淀みを思い出し、頷く。
そんなわけで彼らは木の下で言葉を交わす。
まず、分雲町のいろいろな面で初心者な彼はショボンに質問する。
(;+ω+)「シューと特訓してたんだが……なにあれ?」
先ほどまでのやりとりをまぶたの裏で再生し、首をひねる。
彼はシューに何度も打ち込んだが、彼女に有効打を浴びせられなかった。
それ自体は問題ない。彼は竹刀を持つのも初めてだったし、彼女は経験者だ。
ただそれらを使った動きが、とても剣道や剣術にあるようなものとは思えなかった。
竹刀で受けられたのはまだいい。
しかし流石にスウェーで避けられたり、足払いされたり、投げ技で返されたりしたのには納得いかない。
(´・ω・`)「ああ……砂尾流武術だっけ?
あれ、武器使うから武術って言ってるだけで、実際のところ武術に含められるか怪しいよね」
(;+ω+)「剣術に投げ技はない。
そう考えてた時期が私にもありましたよ……ええ」
(´・ω・`)「なんでもありだからねえ。あと剣術じゃないと思うよ」
たしかにあんなものを剣術に含めたら失礼だろうな、他の剣術に。
44 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 19:01:26.82 ID:XvyFleB90
「砂尾流武術とはどんなものか?」、男は考えてみたが止めた。
考えても分からないと思ったからだ。
俗にいう思考停止である。
(;ФωФ)「あ、そういえばショボンに聞きたいことがあるんだが……結界ってどんなの?」
(´・ω・`)「ああ、シューから聞いたのかな?
簡単にいえば立入禁止の看板みたいなものだよ。
『結界』といえば聞こえはいいけど、所詮その程度だから」
話題を変えるため、結界に関することを聞いてみた。
どうやら“誰も結界内を行き来できなくする”ものではなく、“結界内を行き来してはダメと教える”ものらしい。
だから結界の出入りは自由にできるとのこと。
(´・ω・`)「例えば、犬のフンで線を作ったとする。
ロマさんはその境を超えたいと思う?」
(;ФωФ)「当然、超えたくない」
例えは下品だが、よく理解できた。
45 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 19:04:41.28 ID:XvyFleB90
(´・ω・`)「ぼくら芭盆寺の結界は、基本的にウツロの隔離しかできないんだよ。
だから普通に考えてに砂尾神社の補佐だね」
( +ω+)「ああ、それで」
ショボンはヒートに付いていってるわけだな、と納得する。
と、すぐにあたらしい疑問が出てきた。
( ФωФ)「シューは結界でウツロを祓えるといってたぞ?
……いや、あいつもよく分からないと言ってたが」
(;´・ω・)「うーん……それは僕もよく分からないだよね。
できるっぽいけど、秘伝らしいから教えてもらってないんだ。ごめん」
( +ω+)「いや、いいよ」
ショボンも知らなかった。
ウツロを祓うのにも命がけの時があるのだから、ショボンにも教えればいいのに。
これは大人の事情が関係しているのだろうか?よく分からないな。
齢二十の子供がそんなことを考えてると、家の方から姉の声がした。
46 :
◆pGlVEGQMPE :2009/03/07(土) 19:07:53.59 ID:XvyFleB90
ノハ*゚听)「おーい!そこの男衆ー!ちょっとこーい!!」
玄関から顔を覗かせるヒートの声は大きくてとてもよく通った。
やれやれと彼らは腰を上げる。
(´・ω・`)「近所に家がなくて本当によかったよ」
( +ω+)「……むしろ家がないから大声出せるのではないのか?」
(;´‐ω‐)「そんな気遣いできるのなら、僕はもっと楽に生活できてるよ」
(;Фω+)「同情しとこう」
(;´・ω・)「お互いさまだよ」
そろって出た吐息を一つ、彼らはヒート目指して歩き出した。
47 :
◆pGlVEGQMPE :
二章二話終わり
今日はここまで
では