れいな小説スレ避難所・まとめスレッド
この長い坂を登った所に君はいる。
君に会う為に、もう何度この坂を登っただろうか。この5年の間、何度この坂を通ったことだろうか。
僕は、坂の途中で立ち止まり、ほんの少しだけ空を眺めた。春の日の午後。風が心地よい。
また、僕は歩き始める。君が、僕の前を何度も振り返りながら、
駆け足でこの坂を登る姿が浮かぶ。そして、君の輝いた笑顔。
ようやく坂を登り、君のいる所にたどり着いた。あとは、いつもと同じ。
君と、たわいのない話をして、夕方までの時間を過ごす。
君はただ、僕の話を聞いて、そして、僕の弱さ、情けなさ、不甲斐なさ、そんなものまで、全て受け止めてくれる。
気がつくと、いつも時間はあっという間に過ぎている。
君との時間は、いつも足りなさ過ぎるんだ。
そして今日も、君と出会う。よお。そんな言葉をかける。君の向かいに僕は
座って、いつもと同じように、5年前のあの時間を、まずは思い出すんだ。
勿論、毎日の生活の中で、一日だって忘れたことはないのだけど・・・・・
そう、5年前のあの日、僕は君と雪を見に行く旅にでていたっけ・・・・・
雪を見に行きたい。君のそんな願いを、僕はなんとしても叶えてあげたかった。
今から考えると、本当にそれが正解だったのかどうか、
時々、答えの見つからない袋小路に入ってしまう時がある。
でも、君は、きっとそんな僕を、相変わらず気が小さいって笑うだろう。
僕らは二人、北の地を目指して、列車に乗っていた。
君はただ、移り行く車窓からの景色を、一瞬でも逃すまいとして、食い入るように見ている。
その横顔を僕はまだ君に起きた現実を受け入れられないまま、じっと眺めていた。
「寒くないか?何か必要な物は?」
こちらを見た君は、首を横に振ると小さく微笑み、そしてまた、景色を眺め始めた。
そんな笑顔を見て、やはり僕は、あんな事、嘘だ。そんな思いを抱いていた。
君と、そしてもう一人の僕にとっての大事な人と出会ってから、まだ十ヶ月しか経っていなかった。
でも、もっと昔から、ずっと共に暮らしてきた感じがしていた。
君も、僕にそう言ったっけ。出会いは、突然やってきたんだ・・・・・
アイドルと同棲ができる。そんな企画に応募したのは、理由ははっきり思い出せない。
でも、寂しかったのだと思う。
これが一般人でも、見知らぬ人でも、そんな企画があれば、当時の僕は、応募していただろう。
「独り」ということが、恐怖に近いくらいに、心にこたえていた。
あっさりと当選の連絡がきて、そこからは何がなんだか訳が分からないうちに、
新しい生活への準備などに追われていた。
何かに追われて時間を使う。その時の僕には、とてもありがたいことだった。
何もすることが無いと、また考えることはあの事故の事だけになる。そして、それが「独り」の原因なのだから・・・・・
新しく用意されたマンションのリビング、そこで僕は、愛とれいなに初めて会った。
彼女達のアイドルとしての活躍を、正直、あまり知らなかった。なんとなく、テレビで見たというくらいだった。
「初めまして、○○です。・・・・・どうぞ、よろしく」
僕の気の効かない挨拶に比べ、二人の挨拶はしっかりしたものだった。
視線を合わすのが、今更照れくさくなり、なんとなくうつむいていた。
一通りの挨拶などが終わり、関係者の人々も帰り、こうして僕の新しい生活がスタートした。
ふと気がつくと、いつの間にか、僕の方に頭をもたれさせて、君は眠っていた。
一瞬、僕は慌てたけれど、君が心地良さそうに眠っているのが分かって、ホッとしていた。
まだあどけなさの残る寝顔を見ていると、やはり突きつけられた現実が、何も信じられなくなってくる。
君が目覚めたとき、もしかしたら怒るかもしれないけれど、今は、君のその寝顔を眺めていたいと思った。
もし、少しでも眼を離したら、壊れてしまいそうな気がしたからなんだ・・・
・・・そうしながら、僕はまた、この十ヶ月間の記憶の中に戻っていった。
生活の当初は、お互い気を使いすぎて、かえって、それが空回りして、ぎこちない生活振りだった。
僕は僕で、本当は「独り」じゃないことが嬉しくて仕方ないくせに、うまくそれが表現できなかった。
愛の気使いと、優しさが、そんな暮らしを、少しずつ円滑にしていってくれた。
一方のれいなは、いたって我が道をいき、2週間目には、早速僕と口喧嘩となったのだが、
さっぱりしてるのか、そのすぐ後には、僕の横でテレビを見ていたりする。
姉しかいなかった僕にとって、そして「独り」だった僕にとって、こんな全てのことが、とても大切に思えたんだ。
ひと月も経つと、すっかり3人の生活に慣れ、当初のぎこちなさも無くなり、ようやく生活スタイルが固まっていた。
二人は、仕事に忙しかったが、普段は、普通に暮らしていた。
3人でする食事。そんな時に、二人の仕事の話を聞き、僕は僕で、その日あったことを報告する。
何気ない会話が、僕らの距離を縮めてくれていった。
二人の妹ができた。
しっかり者で、気配りをしてくれる優しい愛と、やんちゃだけど、実は甘えたのれいな。そんな感じだった。
二人は、これまでの僕の暮らし、勿論、特別何か凄い暮らしをしてきた訳じゃないが、
そんな普通の暮らしに興味を惹かれたようだ。けれど、僕は自分の家族の事だけは、まだどうしても話せずにいた。
「なんね、隠さんと教えてくれてもいいたい」
れいなにそう言われた時も、やはりまだ喋れなかった。
喋ったら、現実として受けいれなくてはならないから。僕は、それから逃げていた。
しつこく聞いてくるれいなだったが、愛が止めた。
「ちょっと、またにしたらいいじゃない、ね、○○君」
「つまらんたい」
れいなは、不満気だが、愛は、僕の眼の奥の、いや、心の奥の暗い何かに気がついてくれたようだった。
「○○君、あの・・・うまく言えないんやけど、もし、何か辛い事を抱えてるんやったら、
私でよければいつでも言ってくれたらいいよ。余計な事やったら、ごめんなさい・・・」
夕食の片付けをしながら、愛が、そう小声で言ってくれた時、僕は、少し、心の中に救いが広がるのを、確かに感じた。
半年の時が過ぎた。すっかりこの暮らしにも慣れて、今は、3人の毎日が当たり前のように過ぎている。
時々は喧嘩もしたし(僕とれいなだけだが)、お互いが、それぞれのプライバシーに突っ込みすぎた部分もあったと思う。
でも、僕ら3人は、この暮らしを楽しんでいたんだ。
「おはよう」「おやすみ」
そんな言葉を言える相手がいるというだけで、僕の毎日は凄く満たされている気がしていた。
そう、あんな出来事が僕らの身に降りかかってくるなんて、誰も思ってはいなかった。
あと半年すれば、この生活に終わりが来る事は分かっていたし、その事実が時々僕を恐怖させたけれど、
でも・・・・・幸せなまま、この生活はハッピーエンドとなる筈だった。あんな不幸が訪れさえしなければ・・・・・
いつの間にか、僕も眠ってしまっていたようだった。
君はあのまま、僕にもたれて、ぐっすりと眠っている。
その寝顔を見ているだけなら、君に今どんな不幸が訪れているかなんて、きっと誰にも分からないだろう。
幸せそうな恋人同士の旅行。そんな風に他の人々は僕らを見るのだろう。
でも、君も僕も、そうじゃないってことは、痛いくらいにわかってるんだ。何も救われない。
君は、誰よりも一番、もしかしたら分かっているのだろうか・・・・・できるなら、
君がそう思っていないことを僕は願っている。何も知らないことを願ってる。
救われないのは、僕だけでいい。僕が背負って歩いていくから。
車内アナウンスが流れ、僕らの目的地に着くことに気づいた。
楽しい日々が流れていた。僕は愛の夕飯の支度を手伝って、食卓に皿を並べていた。
「○○君、ちょっといい?れいなが帰ってこないうちに話しときたいんやけど」
「えっ?」
この時に、ほんの一瞬だけ感じた、言葉では表現できないような気分。
それは、決して良いものではなかった。今になっても、何故この時にそう感じたのかは、僕にもまだ分かっていない。
「何かれいなとあったの?あ、喧嘩でもした?珍しい」
「違うよ・・・最近、れいなの様子がおかしいと思わない?仕事で一緒の時も、凄く、そう感じることが多くて・・・・・」
「うーん・・・まあ、あいつは気分の変化が激しいから。なんか気に入らない事でもあったんじゃない?」
口ではそう言っていた。だけど、僕にも愛の言う意味が分かっているつもりだった。
口に出すのが、どこか怖かったんだ。
愛は、ただうつむいたまま、僕の次の言葉を待っているようだった。
れいなに、何かが起きている。それは決して良い事なんかじゃない。
僕も愛も、それが分かっているからこそ、きっと肝心な部分を、自分から口に出すことができなかったんだ。
深夜の病院。誰もいない静まり返ったロビー。
僕は、そこでジッと座っていた。隣には愛がいる。二人は、ずっと無言のままだった。
何を言っていいか、分からなかった。
事務所のスタッフの人々が、慌しく出入りしている。
また、病院の人々も、深夜とは思えないような慌しさで、動いていた。
何か、とてつもない事が起きている。そんな気がしていた。
そして、それは僕なんかには、全く手を出せるような事じゃないということも、何故か、はっきりとわかっていた。
こうなる予兆みたいなものはあった。
愛とはあの時、その続きを話すことはお互いできなかったけど、
れいなの様子のおかしさは、日に日にひどくなっていたのは明らかだった。
夜中に高熱を出す事も頻繁にあった。血の気もなく見えることが多かった。
食事も、以前が嘘のように食べなくなっていた。
どうやら、ダンスレッスンの最中に倒れることも一度や二度ではなかったようだ。
元々小柄な体が、もっと小さく思えるようになっていた。
何かが、れいなの体からこぼれていく。何か大切なものが・・・・・
そんな気がしていた。そして、予兆は現実となった・・・・・
愛は次の日の仕事が早い為、事務所の人に付き添われ、先に帰った。
残りたがっていたが、事務所の人が言うことは、僕にはどうしてあげようもない。
泣きながら病院を出て行く姿が、悲しかった。
僕はロビーの椅子に座ったまま、足元を見つめていた。
何もできないし、何をしていいか分からない。そんな自分の無力さが惨めだった。
愛とは不思議に考え方や、色々なことが合った。
れいなとは、些細な事だが、ぶつかることが多かった。
でも、嫌な気分には決してならなかったし、れいなも、そうだったようだ。
わがままを言える兄みたいな存在。そんな風に思っていてくれたのだろうか。
「寂しい眼をしとるたい。何か辛いことがあると?うちが聞いたるけん、遠慮せず言えばいいと」
そんな風に僕に笑顔を向けたのはいつだったか。
人前で自分の弱さを見せるのを嫌うれいなの泣いている姿を、ただ一度見たことがあった。
その時に、慌てて涙を拭いて、そんな言葉を僕にかけた。
何故かその時の事ばかりが頭をよぎり、一睡もしないままに、病院のロビーで僕は朝を迎えた。
一度、玄関の外に出て見上げた空は、どんよりとした重く暗い空だった。
日に日に、れいなの体から何か大切なものがこぼれていく。
誰にも止めることもできないし、本人にも、どうすることもできない。
そんな、なす術も無く、時間だけが駆け足で過ぎていこうとしていた。
入院してから初めて、20分だけ、という条件付で、面会が許された。
れいなの方から、どうしても、と話してくれたと言われた。
嬉しかったけど、会うのが怖い気もした。
なんて言えばいいのか。何を言えばいいのだろうか・・・・・
僕は、れいなの病状も、そして何もかもを聞いていた。本当は、知りたくなんかなかった。
もしこれ以上、何かを失うことになったら、僕自身が耐えていける自信もなかったし、知るべきじゃない気がしていた。
でも、泣き続けながら喋る愛の言葉を、止めることはできなかった。
僕が、受け止めるしか、愛の胸の中にあるものは、彼女の体と心を壊しただろうから。
どうせ何かが壊れるなら、愛よりも、僕が壊れればいいって思ったから。
病室の前に立った。一度、そこで呼吸を整える。
まだ、何を話したらいいのか、何も答えは出ていなかった。
その時、病室の中から、音楽が響いてきた。
たしか、前に次の新曲だって教えてもらった曲の筈だ。僕は、慌てて部屋に入った。
眼に飛び込んできたのは、パジャマ姿のまま、曲に合わせて踊るれいなの姿だった。
「おいっ、何やってるんだよ!」
れいなが振り返った。
「あぁ、○○、来てくれたと」
嬉しそうに微笑む。
僕は曲を止めて、渋るれいなをベッドに寝かせつけた。
「一人だけ、新曲の振りが遅れとるけん、おちおち寝てられんたい」
屈託無くそう言って笑うれいなの顔を、一瞬、見ていることができなかった。
「あーあ・・・情けなかぁ。こんな風に、一人でジッと寝てると、なんかおいてかれる気がする。
いつ退院できるか知らんと?苛々して、たまらんばい。こんなんなら、死んだほうがましかもしれんたい」
れいなに悪気など何も無かっただろう。
それに、本当に早く仕事に戻りたいだけなのだろう。分かっていた。
充分に分かっていたが、僕の中に、不意に怒りがこみ上げた。
れいなにじゃない。誰にでもない。ただ、理不尽な何か。
僕達には、遮ることのできない何かに対して・・・・・
「簡単に死ぬなんて口にするな!」
自分でも驚くような、怒鳴り声をあげていた。
「えっ・・・・・」
「二度と、そんなこと、冗談でも口にするな」
呆気にとられ、僕を見ているれいな。
口喧嘩した時も、こんな風に怒鳴ったことなんて、一度もなかった。
「ご・・・ごめんなさい・・・・・」
伏し目がちに、そう呟くれいな。その声を聞き、ようやく我に返った気がした。
同時に、れいなにあたった自分を恥じた。
「いや、その・・・ごめん。僕が悪かった。・・・すまない」
「いいたい、うちが悪かったたい。もう、あんな事言わんから」
微笑むれいなの笑顔が、心に痛かった。
「僕の家族はさ・・・僕の目の前で死んでいったんだ。
自分の目の前で、ゆっくりと人が死んでいく。あの時に、僕は家族と、大切な心の何かを無くしたんだと思う」
れいなの眼が大きく見開かれたまま、僕を見つめていた。
れいなにだけは、何故か話しておきたいって思った。
理由はわからないけど、この時の僕は、れいなに何かを感じて欲しかったのかもしれない。
楽しい家族旅行の車中。横転する車。車外へ投げ出される体。
姉の呻き声。流れている血。目の前で小さくなっていく家族の命の灯火。
ガソリンの匂い。燃え上がる炎。絶叫。そして、途切れていく意識・・・・・
そんな事故の記憶を、初めて誰かに話した。
聞き終えたれいなは、しばらく黙ったまま僕を見つめていたが、不意に僕のほうに体を寄せ、いきなり僕の頭を抱きかかえた。
「もう独りぼっちじゃない・・・もう独りじゃないたい・・・・・」
小さなれいなの体から、言葉にはできないような温かくて優しい何かを感じた。
今まで、感じたことのないような安らぎに似たような感じだった。
「こんな時に、悪かった。こんな話して」
れいなは、優しく微笑むだけだった。
この時、僕は、もし自分にできることがあるのなら、なんでも彼女の為にしてあげたいって思った。
僕自身、何か救われた気がしたから。今度は僕が何かを返す番だ。
別れ際、れいなは雪が見たい。ただ、そう呟いた。
僕は、大きく頷き、この約束を叶えようと誓った。
振り返って見た彼女の横顔は、窓から射す日の光に照らされて、美しく輝いていた。
でも、悲しい輝きに見えたんだ。
病室を出ると、突然、涙が流れた。驚いたが、それは止まらなかった。
そのまま歩いた。涙は止まらない。
れいなの命は、もったとしても、あと半年・・・・・
祈ることしかできなかった。日々、愛は祈った。
救いの見えない絶望的な現状でも、奇跡があるかもしれない。
そう思うしかなかった。そして、そう信じた。
だから、ただひたすら祈った。
気丈なれいなが、時折見せる脆さや、何気なくかけてくれる優しい言葉が、
ライブの時に交わした笑顔が、愛にはとても大切なものだった。
年下にもかかわらず、どこか包み込んでくれるところがあった。
そして、自分はその優しさに救われていたことを、改めて感じた。
何気ない日々が、たまらなく愛しいものに感じられた。
心のどこかでは、何の役にも立たないかもしれない。そう思いつつも、一心に祈っていた。
少しずつ、列車が速度を落としていく。窓の外は、白い世界が広がっている。
全てを包み込んで、その白い世界はそこにあった。
僕は君をそっとおこした。眠そうな眼をして僕を見る君に、窓のほうを指差した。
君は今、どんな気持ちでその白き世界を見つめているのだろう。
僕のほうに振り返った君が、幸せそうな表情を向けてくる。
この幸せそうな表情は、どうしても消え行く運命なんだろうか。
雪の舞うホームに僕らは降りた。
君は嬉しそうに、空を見上げ、手を上に掲げている。来て良かった。素直にそう思った。
この先に、何が起きるのか、そんな事は分からないけれど、
今の君の、その幸せそうな顔を見れただけで、君がそんな表情をしてくれただけで、良かったと思った。
「早くいこ!」
君はそう言って、僕の手を引っ張り、小走りに改札口を目指す。
どこにそんな力があるのだろう?
何が今、君を動かしているのだろう?
ここに来ることは、意外なほど簡単に認められた。
2〜3日、のんびりしてくればいい。そんな風に誰もがれいなを送り出した。
れいな自身は、もっと反対されると思っていたようだが、
「なーんだ、もっと早く言えばよかった。しっかり休んで、戻ったら、ばっちり新曲のレッスンするたい。
愛ちゃん、その時は付き合ってほしいたい」
そんなやりとりだけだった。そう、誰もれいなの願いを止められる人なんて、いるはずがないのだから・・・・・
残された時間は、れいなのものなのだから。
愛は、無言でれいなを抱きしめていた。壊れそうなほど、きつく、しっかりと。
そんな愛を、れいなは照れくさそうに笑っていた。
何故か、僕がれいなの指名で、旅の共となった。
「言っとくけど、ボディーガードみたいなもんたい。変なこと考えたら、許さんよ」
無邪気に笑う君に、僕はうまく微笑み返せただろうか・・・・・
穏やかで、静かな時間が流れていた。
今の君の姿、きっとその姿が、生きることに対して、輝いているという事なんだと思った。
いつか僕も、君みたいに、たとえほんの少しであっても、生きることに輝くことができるだろうか・・・・・
けど、残酷な運命は、時計の秒針の速さよりももっと速く、君の全てを蝕んでいく。君の生命を、壊していく・・・・・
二日目の夜、高熱を出した君は、救急病院で一夜を明かした。
苦しむ君に、僕は手を握ることしかできなかった。
「絶対行く!このまま帰るのは嫌!行くったら行くたい!!」
帰京を提案した僕に、君はそう叫んだ。
ここの土地にある、小さな山の頂。
そこにある天然の泉。雪が溶けてできたその泉の水は、どんな病にも効くという言い伝えが古くからある。
「また次に来た時に・・・」
言ってから、己を恥じた。今の君に、そして、これからの君に、「また」という事は、ないんだよね・・・
寂しさと、不服さに満ちた君の顔。君はどんな思いで、その泉を目指そうとしていたのか。
「・・・行けるのか?」
「行ける!絶対行く!ね、お願い、この通り」
頷いた僕に向けた君の笑顔。
この時僕は、これから先、君のどんな表情も、どんな姿も、全てしっかり眼に焼き付けようって思っていた。
緩やかだけど、今の君には、とてつもなく険しいだろう道。
その道を、僕達はただひたすら頂目指して登っていた。
「空気が美味しく感じる」
時折、君は僕に言葉をかける。僕は、大丈夫か?くらいしか、気の効いたことを言えないでいた。
「だいじょーぶ!!ダンスレッスンとかに比べたら、こんなの運動にもならんたい」
僕は気がついていた。君の足元が、少しずつおぼつかなく
なっている事に。君の全身が、猛烈な痛みに襲われていることに。
今君は、自分自身の運命と、必死に闘おうとしているのだろうか。
そこの先にある何かを、しっかりと見つめているのだろうか。
僕は君の手をしっかりと握った。こうしていれば、君が壊れてしまわない気がしたから。
「疲れたらおぶってやるからさ」
「あ、ぜーったい変な事考えとるね。やらしー」
「ばーか」
声をあげて笑った僕達。この笑い声と共に、君を蝕む病気も、散っていけばいい。
子供じみた考えだとは思ったが、僕は本気でそう思った。
僕の手を握る君の小さくて細い手。
一歩一歩踏み出す度に、そこから何かがこぼれていくのが分かった。
たまらなく悲しいから、しっかりと君の手を握っていた。
僕が力をこめて握りなおす度に、君はほんの少しだけ僕の方を向いて、
照れたような、得意なような、そんな不思議だけど、とても素敵な表情を見せてくれた。
頂に近くなるにつれ、冷え込みはさらに厳しさを増し、
そして、君の大切な灯火の明かりが、少しずつ、確実に小さくなっていくのを感じていた。
「あともうちょっと・・・・・あともうちょっと・・・・・」
君はそう呟きながら、前をしっかり見つめ、足を踏み出していく。
言葉にはどうしてもできなかったけど、僕は心の中で、頑張れ、そう繰り返していた。
そして、生きてくれ・・・・・と。
頂に着く前に、君は何度も倒れそうになったけど、一度だって座りこむことはなかった。
歯をくいしばり、その度に眼には力を宿らせ、ひたすら頂を目指し、そして自力でたどり着いたんだ。
君をそこまで突き動かした力。今でも僕は忘れていない。
そして、命をひたすら燃やし続けて、何かに立ち向かった君の姿を。
頂に着いた頃、雪が降り始めた。
そして、その雪は、頂だけでなく、僕達も、何もかもを包み込んでくれる気がした。
頂の地をしっかりと踏みしめ、空を見上げる君の姿は、何よりも美しく、そして清らかに見えた。
泉の水に手を浸す君を見ながら、静か過ぎるほどに、時が流れていった。
この静かで穏やかな時間、僕の心はかつてないほどに、安らぎを感じていた。
本当にきてよかった。そう思っていた。
その静寂を打ち破ったのは、突然のれいなの咳込みだった。
「だ、大丈夫か!?」
ゆっくりと僕を見上げた君の苦しげな表情。そして、口を押さえていた君の手を真っ赤に染めた鮮血・・・・・
「・・・・・!?」
言葉は出なかった。君はただ、その手をゆっくりと泉に浸した。
「戻ろう。冷えすぎたのがいけなかったのかもしれない。な、とにかく戻ろう」
雪も、さらに勢いを増してきていた。僕は、焦っていた。
けれど、れいな自身は、どこか落ち着ききった様子だった。
僕は君の背中をさすり、もう一度、戻ろう、と呟いた。
「全部、知ってる・・・・・」
「は?な、何言ってるんだ?」
「ぜーんぶ知ってるって言ったたい。ホントだよ。だってさ、自分の体は自分が一番分かるっていうでしょ?」
体の力が抜ける感じがした。地に足がつかないというのか。
でも、君は穏やか過ぎる優しい表情で、真っ直ぐに僕を見ていた。
愛は、部屋の隅で膝を抱え、ジッと天井を見つめていた。
ここ最近、ずっとこうしていることが多くなった。
考えは、いつも悪い方へといってしまう。
「はぁ・・・・・」
ため息も多くなった。現実なんて、嫌なことばかりなのかもしれない。
本当は、皆が笑って楽しく過ごせる事なんて、単なる夢物語なんじゃないのだろうか・・・・・そう思ってしまう。
瞬間、背筋に嫌な感覚が走った。
「れいな・・・・・れいなちゃん・・・・・」
はっきりとは分からないし、そんな事信じたくもないのに、愛は感じた。
もうすぐ、れいなの命の灯が消えていく。
れいなという大切な仲間が、れいなという一人の人間が、この世界から消えていこうとしている。
「こんなのって・・・・・ないよ・・・・・おかしいよ・・・・・」
涙がとめどなく流れていた。
陽がおちて暗くなった部屋の中、電気もつけることなく、ただ愛は、そこにうずくまり、泣き続けていた。
れいなの言葉が、耳に、心に突き刺さっていた。
こんな時、映画やドラマの主人公なら、どんな台詞で、君の気持ちを楽にしてあげるのだろう。
「なんかさ、運がないなーって。こーんな若いのに。それに、まだまだ人生これから!って時なのにね。おかしいよね?」
無理に笑顔を作ろうとしているのに、君の表情はしだいに崩れ、
いつもは強い眼差しをしている眼からは、ゆっくりと涙が流れてきた。
どれだけ自分の運命を呪っているだろう。どれだけ怖い思いをしているだろう。どれだけ悔しくてやりきれないだろう。
君は、その小さな体と、その心で、たった一人で、どれほどの大きな感情を抱えているのだろうか。
「もっと歌いたい。ライブもしたい・・・・・沢山・・・たくさんやりたい事があったのに・・・・・
もう、どれも叶わないんだよね?もう、消えちゃうんだよね?」
うずくまった君の背中に、雪が少しずつ積もっていく。
僕は、君の肩をしっかりと抱き寄せた。小さくて、力を込めすぎたら、壊れてしまいそうな感じがした。
「怖いよ・・・・・一人ぼっちで死にたくないよ・・・・・」
僕の肩に顔をうずめて、君は消え入りそうなほどの小声で何度も呟いた。
雪は、静かに降り続いている。全てが白い世界に塗り替えられようとしていた。
僕は君の肩をしっかり抱いたまま、二人で小さな岩場にもたれかけていた。
失うものが多すぎる気がしていた。
所詮、人生なんて、何か、大切な何かを失っていくだけのものなんだろうか。
人生に救いというものがあるならば、何故れいななんだろうか。答えなんか見つからない。
だから、僕はただ、このまま君の側にずっといたいって思ったんだ。
君が「独りぼっち」だって感じないように。
「○○・・・・・死ぬのって痛い?苦しい?・・・死んだ後の世界って暗くて怖いとこ?」
答えの代わりに、僕はより力強く君を抱き寄せた。
君ももう喋らずに、僕にもたれて力を抜いて寄り添っていた。
このままこうして消えていくのも人生か。ふと、そんな風に思った。
この先、きっと君は終わりの瞬間を迎えるまで、様々な治療や、そして悪化していく体に苦しむだろう。
そんな君を見るのは・・・・・
「このまま死んだら楽かな?眠るように全て終わるかな?」
僕の考えを見越したように、穏やかに君は言った。
「ねえ、このままここに置いていって。それくらい聞いてくれてもいいでしょ?」
僕は、君の眼の奥に、強い、抗うことのできない力を感じた。
「いいさ、気の済むまでこうしていたらいい。実はさ、僕ももう、独りには疲れたしさ」
うまく言えただろうか?
「いつもの我が儘に比べたら、お安い御用ってやつかな」
「○○・・・・・」
君は、僕の気持ちを感じ取ってくれただろうか?でも、伝わってなくてもいい。
僕が、こういう気持ちになれたってことで、君には感謝してもしきれないくらいだから。
どのくらいの時間が過ぎただろうか・・・・・
あれから、僕らは言葉を交わすことも無く、ただ寄り添ったまま、
とても穏やかで、静かで、そしてなんとも言えないような平和な時間を感じていた。
白い世界。そこにいる僕と君。体を覆っていく雪。その感覚。
しっかりと君の事を眼に焼き付けた。そして、ゆっくりと眼を閉じる。
何も聞こえない。感じるのは、もたれている君の体と、君の心。
もう独りにはさせない、もう独りじゃない。うまく呟けたか?
そして、全てが白くなっていくのを感じた・・・・・
君と語り合う時間は、今の僕には何よりも大切な時間だった。
けれど、いつも時間は足りない。だから僕は、毎日あの坂を歩いて君に会いに来る。
今日も、いつの間にか時間だけが過ぎていた。
「じゃあ、また明日。れいな、またな」
僕は立ち上がり、歩き始めた。その時、視線を感じて振り返った。
すっかり大人っぽくなっているが、あの頃の面影は消えていない。
「久しぶりだね・・・・・愛」
「5年・・・・・だね」
あの日、僕とれいなは、地元の人々に発見された。
その後、れいなは東京の病院に入り、二ヶ月の闘病生活をおくり、静かに旅立った。
僕は、れいなの希望で、一度も見舞いには行かなかった。
理由は、二人が心の中で分かっていればいいって思っていた。
だから、そのまま愛の前からも姿を消した。
残ったのは、あの日の思い出と、凍傷で動かなくなった左手だった。
でも、それは、れいなが確かにこの世界に生きた証だって思ってる。
だから、動かなくても、それでいいって思っていた。
「ここの近くに住んでるんだってね」
「ああ。だから毎日れいなのもとに通えるよ。・・・独りって、どうしようもなく寂しいもんだからさ」
「まだ、自分を責めてるんだ、○○君は」
「いや、そうじゃないけど・・・・・うん、うまくは言えないかな」
愛は、小さく頷いた。
僕は、れいなのお墓がある小高い丘を降りた近くに住んでいる。
罪悪感とか、そういうのではなく、ただ、君の側にいて、自分の人生ってやつをもう一度考えてみたかった。
結論は、この5年、まだ出てはいないのだけど。
坂を降りはじめる。僕も愛も無言だ。
5年前と、何もかもが変わってしまったのだろうか。変えたのは、僕なんだろうか・・・・・
「あの・・・・・」
「ん?どうした、愛」
「うん・・・・・これだけは言っておきたくて。○○が姿を消した日から、これだけは言いたかったの。
・・・自分を責めないで・・・そんなの、れいなちゃんだって望んでないよ、絶対」
僕は、小さく頷いた。
「○○君の気持ちが、この先いつか落ち着いたら、またさ、前みたいに笑って過ごそうよ。
だって・・・れいなの分まで、私も○○君も、沢山笑って、しっかり歩かなくちゃ」
愛の言葉は、僕がこの5年、避けてきたことのような気がした。
理由なんて分からないけど、涙がこぼれそうになった。
確かに、今のままでは、もしれいなが生きていたら、きっと僕は君に叱られただろう。
もう一度、僕は自分の足で歩いて生きていけるだろうか。
少しだけ立ち止まって、空を見上げた。
その時だった。この辺りでは、滅多に振ることの無い雪が舞ってきた。
幻覚だろうか・・・・・
「雪・・・・・雪だ」
愛の声が聞こえる。そして、僕の顔に、冷たい雪が落ちてきた。
思い込みだとしてもいい。この雪が、君からのメッセージだって思った。
君という大切な人は先に旅立った。僕はまだここで歩いている。
君がいなくても、どんなに辛くとも、けれど時は過ぎていく。
あの日の思い出と、君の輝きは決して僕の心から消えることはない。
だから、歩いていこう。君に恥ずかしくないように、しっかりと。
この坂道をくだりきった時から、僕の新しい何かが始まるような気がしていた。
まだ先は見えないけど、そんな気がしているんだ。
突然の雪の日に、君が僕に与えてくれた日に、今、そんな事を感じているんだ。
きっと僕は、歩いていける。君のことを胸の中に・・・・・
〜終〜
終わりかよ・・・続きキボンヌ!!
30 :
名無しちゃんいい子なのにね:04/10/08 16:30:35 ID:fhu2Kgws
ボーボー
32 :
名無しちゃんいい子なのにね:05/01/08 03:27:31 ID:RiUHWCof
なんかすごく切なくなった…感動しました
33 :
名無しちゃんいい子なのにね:05/01/15 20:53:16 ID:9jPbmXGe
きゃは!
34 :
名無しちゃんいい子なのにね:05/03/05 23:07:30 ID:bkpz1vGo
意味内毛怒、揚毛!!(泣)
35 :
名無しちゃんいい子なのにね:05/03/10 10:04:48 ID:3Tbhv/NK
れいなって私服は超ミニスカートを愛用してるんだよな。
ちゃんとスカートの下に黒いマイクロミニスパッツ穿いてるのか?
ま、彼女の性格からして100%穿いてるとは思うが・・・。
もし万が一、生パンだったら事務所がマイクロミニスパッツ穿かせるように
した方がいいんじゃないのかな?
一夏スレ落ちちゃった…羊に立ててくるか
39 :
きゃわたん:2005/04/07(木) 16:09:07 ID:zEI0liNM
40 :
名無しちゃんいい子なのにね:2005/04/07(木) 20:24:32 ID:kiuG3A/E
田中が可愛いとか冗談だろ?
どこに目を付けて、いや。
どの位置に目を付けているんだよ?????
41 :
からす:2005/05/16(月) 01:35:57 ID:vqiTP5Bq
こないだ飯田〇駅で変な奴見かけたぞ!れいなTシャツ着て歩いてさぁ!
42 :
ねぇ、名乗って:2005/05/16(月) 13:31:44 ID:HKzG2RZc
43 :
ねぇ、名乗って:2005/05/17(火) 22:21:17 ID:xKVVyp8i
福岡の特攻れいなヲタ辞めたらしいなw
田中麗奈と刺繍したやつw
44 :
名無しちゃんいい子なのにね:2005/05/18(水) 02:35:10 ID:ZNmxLD9U
>>42 飯田〇駅っていうくらいだから武道館の日だろ
地下鉄に乗る金がないからてくてく歩いたんじゃないのかな?
顔が歪んでる田中のヲタは美覚も歪んでるな
田中れいな可愛いけど整形。
49 :
名無しちゃんいい子なのにね:2005/08/08(月) 19:36:27 ID:fy4PM593O
れいな〜!って叫ぶスレじゃないの?
从*´ ヮ`)
ノノハヾ
(V-V从 お前みたいな奴は
グリグリ・・・ 「ヮ」も「*」も似合わねぇんだよ!
.;".;"(((__)))ヽ ヽ
⊂"⌒⊃;;´_っ`;)⊃ (__)
_____∧______
ごめんなさい…
53 :
名無しちゃんいい子なのにね:2006/06/07(水) 04:18:13 ID:vL7PmpkNO
[sage]
れいなは可愛いよ
[sage]
れいにゃれいにゃ
おまえがチョンだから氏ねっていってんじゃん。
生意気なゴキブリが日本に既成しやがって、氏ねって意味だろ
[sage]
[age]
れいにょ
田中れいなに死ぬまでボコボコにされたい
そして死んだ後も肉体を焼かれ、骨を潰され完全にこの世から消される漏れ
从 ´ ヮ`)ノシ
[sage]
れいにゃあああああああああああああああああああああああ
にゃ
从 ´ ヮ`)ノシ
从 ´ ヮ`)ノシ