亀井絵里小説

このエントリーをはてなブックマークに追加
7作者エリ
(あっけないもんだったな)
一度はオーディションに落選したものの、長い下積み期間を終えデビューを果たす。
大ヒットとまではいかないが、それなりの人気を受け紅白出場も叶った。
そして突然のモーニング娘入り。
惑いもあったが、逆に目標もできた。モーニングで一番になること。
沈みかけた船と言われるモーニングを私の力で盛り上げるんだって息巻いた時期もあった。
そう、あの日までは…

「15人体勢初のシングル。センターは亀井や」

つんくさんが選んだのは私ではなかった。
うつむいて暗そうにもじもじしてる、あの亀井絵里って奴を選んだ。
事務所とつんくさんの考えが理解できなかった。
何故あいつなのか?どうして私をモーニング娘に入れたりしたんだ?
センターにもなれないなら、あのまま普通にソロやってた方がマシだ!
悩んだ。今までこんなに頭痛めることはなかった。
どうして私がこんなに苦しまなきゃいけないんだって思った。
何の苦労もせずセンターになる亀井絵里が、憎くて憎くて仕方なくなった。
8作者エリ:03/05/18 17:09 ID:???
安倍と矢口の様子がおかしいのは、大分前から薄々気付いていたよ。
そうだね、あれは私が6期で一人先にハロモニデビューした日。
藤本美貴大歓迎スペシャル。フン。
何が大歓迎だよな、その顔見ればわかるぜ。
不満だらけって顔してたよ。あのときからずっとお前らはな…。
嫌気が差してたんだろ、こんな私を中途入社させるモーニング娘ってのによ。
いいさ、こっちだって甘ったるいお友達ごっこなんざ御免だ。
誰にも歓迎されず、誰にも喜ばれず、たった一人で…それが私だ。
でもまさかお前達がこんな大胆な計画に出るとは思いもしなかった。
つんくさんと事務所を裏切るとは思っていなかったよ。
驚いた。悔しいがそれは認める。お前達の勝ちだ。
後藤真希に石川梨華に福田明日香、いい駒を揃えたじゃないか。
誰にも止められねえよ。アホみてえに張り合っても痛い目見るだけだ。
旧モーニングは終わったよ。そしてモーニング娘藤本美貴もこれで終わりだ。
いい潮時だろう。ここらで降りさせてもらうさ。
元々一人きりで始まったんだ、最後も一人きりでいい。
もう夢はみない…。
9作者エリ:03/05/18 17:10 ID:???
「藤本さん!」

…呼ぶ声?誰だ?
いや、この声は知ってる。あいつだ。聞きたくもない声。
ううん、あいつがいるはずがない、だってあいつは…

「藤本さん!何処へ行くんですか!?」

…うるせえな。私は一人で行くんだ。邪魔するんじゃんねえよ!
ていうか何でお前がここにいるんだ?今頃、公園で…
乱れた髪、汚れた頬、破れかけた服、流れる汗…亀井絵里!
どうして今私の前にお前が現れる!私の全てを狂わせたお前が!

「行きましょう!藤本さん!一緒に行きましょう!」

ふざけるんじゃねえぞ!誰が誰と一緒に行くだって!
私がお前に何をしたかわかってるのか!?
もう遅いんだよ!なのにどうしてそんな顔ができる!?
どうしてそんな希望に満ちた眼をしてやがる!
もう夢は終わったんだ!
10作者エリ:03/05/18 17:10 ID:???
「邪魔だ!どけっ!もう関係ねえんだよ!」

私は精一杯怖い顔を造って、あいつを突き飛ばしてやった。
いつものあいつなら、これで怯えて怖がって縮こまるはずだ。
無理なんだよ。私やお前なんかが今更行ったところでもうどうにもならねえんだ。
なのにあいつは違った。いつもの怯えた眼じゃない、まるで別人の様な眼。

「関係なくなんかないです!だって…」
「うるさい!」
「だって、私達は…」
「うるせえってんだよ!」
「だって私達はモーニング娘じゃないですか!!」

そんな眼で見るな。夢は終わったんだ。モーニングも終わったんだ。
私はお前が大嫌いだ。そしてお前も私が嫌いなはずだ。
他のメンバーもみんな、心の中では私を邪魔者扱いしてるんだよ!

「行きたいなら、勝手に一人で行けよ」
「藤本さん…私待ってますから。後から必ず来てください」
11作者エリ:03/05/18 17:11 ID:???
背中にあいつがステージへと走り去る足音がこだまする。
どこまでお人好しなんだよ。どこまで希望を捨てないんだよ。

「だから私は…お前が大嫌いなんだ」

私はそのまま廊下を進んだ。ステージとは逆の方向へ。
このままあの出口を抜けたら、本当にこれで全てが終わる。

「ねぇ」

歌手になってたくさんの人に素敵な歌を届けたい。
モーニング娘でセンターをとって一番になりたい。
そんな夢の欠片が完全に消えて無くなる。ううん、もういい…

「ねえってば!!!!!」

突然耳元に爆音が落ちた感じ。不意を突かれすぎて私はひっくり返った。
この藤本美貴にこんな真似する野郎は誰だ!ただじゃおかね…って。
顔をあげた私は動きが止まる。予想だにしない顔がそこで微笑んでいた。

「ね〜え?」