誰が何に近付きたいっていうのボランティアなんてやってる場合じゃないのそ
りゃ忙しいふりして見え張ってるけど、そりゃまだ北海道に行ってカントリーさ
んと一緒にうんこ踏みながら農道走らされるぐらいの仕事しかないけど、そうい
うわけで世間の認知度はまだまだでわたしは自分の事で頭いっぱい。もしかした
らこのままフェイドアウトするかも知れないしそんな状態だから、わかるで
しょ? それでもいいんですかわたしでいいんでしょうか愛ちゃん。
しばらく宮殿のロビーに立ち尽くしてた。床に落ちていた紙切れを拾う。愛ちゃ
んのテスト用紙のようだ。
あわててやっといて何やってんの?
愛ちゃんの入っていった部屋にこっそり入る。大きなドアの隙間から体を滑り込
ませると、そこはだだっ広い西洋風の浴場で、蒸気と熱さで軽くめまいがした。
「終わったの?」
「はい」
「どうだったの? 僕の出した点数超えました?」
宮殿の大浴場。湯気の向こうに見えるのは愛ちゃんと、長椅子に寝そべってる男
の人。誰?
「ダメでした」
「でしょう」
二人の会話を聞き取ろうと、わたしはできるだけ近寄って柱に隠れた。
「当たり前じゃないですか。だってあれ僕の最高点だもの。そうやすやす超えら
れてたまるもんですか。先生を簡単に超えられるもんですか」
あれが先生? 一瞬ブタが口をきいてるのかなと思った。上半身裸の汗ダラダラ
の、どうみてもあれは、イベントではちまき巻いて踊ってる人じゃない。
「勘弁してあげます。先生こう見えても決して優しさは忘れていないつもりです
から。ただし宿題のテスト。これが平均点を下回ってたら」
「……」
「わかってますね? 前回言った通りですよ。さ、提出してください」
ノートを探ってた愛ちゃんは、用紙がない事に気付いて青ざめてる。
「忘れました」
「なんと! 台本通りのようですね。じゃあちょっと待ってて下さい」
男は立ち上がるとパンツを脱ぐ。わたしは思わず目をそむけて、愛ちゃんを見
た。こころなし後ずさってる愛ちゃん。どんな先生に習ってるわけ? こんがら
がってるうえに怒りまで注がれてきて、ほんとにおかしくなりそうだった。
男は鼻歌を歌いながら全身に石鹸をこすりつけ、泡まみれになってる。
「もうちょっと待ってて。今、洗わせてあげるから。これでやっと洗ってもらえ
ハァハァ…」
わたしは横にあった蛇口から、バケツに熱湯を汲んで男の元に駆け寄り、彼の背
中にぶちまけてやった。この行動は自分ではほとんど意識してなかった。
「あっつ!」
男は暴れて、自分の泡で足を滑らせ、床に顔を打つように転んだ。そのお尻を蹴
りあげるとうまい具合にむこうに滑って行ってくれる。
わたしは愛ちゃんの手を取り、必死で浴場から出た。
廊下はまたさっきと違ってる。なんだか透明なパイプの中みたいだけど、よくわ
からない。とにかく走りにくかった。
うしろからびちゃびちゃと音をたててデブが追ってくるのがわかる。怖くなっ
て、ちょっと振り返ったのがいけなかった。わたしは足をからませて転んでしま
い、愛ちゃんの手が離れた。
「行って!」
「いや!」
「いいから走って!」
愛ちゃんは首を振るものの、あいつが目に入って怖くなったのか、走り出した。
振り向くと、フル○ンのあいつが(ルチオ・フルチ)よくわからない雄叫びをあ
げて、もうそこまで突進してきていた。わわわわわ。お母さーん。