テス

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38 ◆queOS382
「誰かに会えるかな」
仕事に出る時に愛ちゃんが聞くので「会えるかもね」なんてつい言ってしまい、
すぐにしまったと思った。愛ちゃんはギャーと絶叫する。
「行く。ええでしょ」
「ダメだってば」
当然聞こうとせず、うんざりしながらなだめるものの、そんなことしてる間に家
を出る時間が過ぎてしまう。
押し問答の末にわたしは言った。
「わがまま言うと冷蔵庫処分しちゃうんだから」
わたしの言葉に動きを止めて、さすがにかちんと来たのか、愛ちゃんはわたしを
突き飛ばして出ていってしまった。追わなかったのはやっぱり彼女より仕事が大
事ということになるんでしょう。わたしはかばんを取って仕事に向かった。
39 ◆queOS382 :02/02/10 23:22 ID:???
スタジオの廊下で後藤さんが見えて、挨拶しようと近寄る。後藤さんは気付いてくれて、こっちに来てくれた。
「え…と…」
「松浦です。松浦亜弥です」
指を振ってたぶん名前を思い出そうとしているに違いない後藤さんに答える。

「やつれてる。なんかあった?」
真っ先に言われ、どきっとした。
「そんなことないです」
「ほんとはさ、言いたくても言えないのさ」
「は?」
この人は唐突にこういう事を言う。意図してる事、実際は意図してない事、こっちであれこれ詮索してしまう。正直疲れてしまうけど、それは決して気分の悪い事じゃない。
「あ、ごめん、加護の事言ってるんだけど」
加護ちゃんが何か? と言おうとしたとき、突然キスの真似をされてがちんと固まってしまった。後藤さんの向こうから巨大なうさぎのぬいぐるみが歩いてくるのが見えた。
40 ◆queOS382 :02/02/10 23:26 ID:???
「悩みあったら、あたしに言って。じゃあね」
そう言って部屋に入っていく後藤さん。
低い声で言われて顔があげられない。ふと隣に気配を感じて、見るとうさぎのぬ
いぐるみがいた。うさぎの口からのぞいてるのは愛ちゃんの顔。
「あ、愛ちゃん?」
突然、大きな音が鳴って飛び上がった。
愛ちゃんの手に銃が握られていて、煙が上がっている。思わずそれを叩き落とし
た。
「な、な、何やってんのよ!」
撃たれた部屋のドアには穴が開いている。何事もなかったような顔の愛ちゃん
と、その状況に混乱しながらも、わたしは彼女をつかんで必死で逃げた。