テス

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29 ◆queOS382
それから数日、愛ちゃんは出てこなかった。
わたしはというと、そりゃもうせいせいとしたもので、ひまなときは雑誌読んだ
り買い物に行ったりして、普段の生活はこんなにすがすがしいものなのかと思っ
た。

買ってきたプリンを冷蔵庫に入れるとき、これこのまま消えてしまわないかな、
食べたい時食べれないんじゃ困るな。予備の小さい冷蔵庫買っといたほうがいい
かななんて、いつのまにかつぶやいてる自分にハッとなって、なんでわたしがそ
こまで考えるの、と急激に冷めて、プリンを放り込んで部屋にこもった。
30 ◆queOS382 :02/02/04 13:53 ID:???
机に向かい、一週間くらいメールを見てない事を思い出して、パソコンの受信ボ
タンをクリックした。未開封メールが山のように出てきて、ひとつひとつチェッ
クしていく。

わたしが怒ってないか、それだけで愛ちゃんはやって来て、結果失神までし
ちゃった。そこまで気にするコなのかなあ。――知らないけど。

机を指で連打しながら開封作業していると、なんだか奇妙なメールをみつけて、
目を細めた。メッセージの欄に「ここをクリック」
と、ただそれだけ。普段なら即ごみ箱行きなのになぜかクリックしてしまったの
は、なんとなくいらだっていたからでしょう。

「あ、亜弥ちゃんだ」
と画面に現れた女の子が顔を上げる。

「は?」
「はろー。あ、その服買ったの?」
と、こっちを指をさす愛ちゃん。わたしは着てる服を思わず見た。昨日買ったや
つ。
「愛ちゃん?」
「なに?」
「どうなってんのこれ?」
驚いてパソコンの周りにカメラがあるのか確認したけど、そんなものは見当たら
なく、あわてるわたしにはお構いなしに、やっほーと手を振る愛ちゃんが画面の
片隅にいた。
「なんで見えてんの? ねえ」
「知らない」
31 ◆queOS382 :02/02/04 19:56 ID:???
「も、むっちゃ嬉しい。メール見てくれるなんて思てなかったから、どうしよ
う。待って、ウチ今、動揺しとる」
「なんなのこれ。動揺はいいから説明してよ」
彼女を見た途端いらつくわたしは、結局何も変わってないし。
「みてみて、亜弥ちゃんに渡そう思て買うたんよ。かわいいでしょ」
そう言って、クマの人形を抱えているのが見える。
「かわいいけど、燃えちゃうんでしょ」
「そうなんよ。だからね、窪塚君の画像集めたよ。全部でフォルダ20個。容量
2GB! 亜弥ちゃん欲しいでしょ」
「いいよそんなの」
どこかずれてる彼女なりの気づかいを見て、あながちわたしの予想が間違ってな
いんだなと思った。やっぱり彼女は気にしてた。大胆なようで、実は繊細な神経の持ち
主。わたしは思わずうつむいてしまった。
32 ◆queOS382 :02/02/04 19:58 ID:???
「やっぱり、前の事気にしてる? あんな事言うつもりじゃなかったんだ。わた
し大人げなかったよね。――許してね」
ささやきに近かったかもしれないけど、たぶん聞こえたと思う。ほてった顔を上
げると、愛ちゃんは画面から消えていた。
「うわ…、今必死だったのに…」

「みてみて、ウチ作ってみた」
しばらくして、持ってきたノートを掲げる愛ちゃんが映る。
「ウチ、亜弥ちゃんに言われて悪いな思て、亜弥ちゃんが怒らない勉強をした
よ。亜弥ちゃんに迷惑かけないよう必須項目。そのいち!」
「わかったよ。もういいから、来たらいいよ」
「なに? 聞こえない」
画面に鼻を近付けて魚みたいな顔になる彼女。
「遠慮なくおいでって言ったの」

聞こえたらしく、笑顔を見せる愛ちゃん。うれしそうに「マジで…!」と叫んだところで、わたし
は電源を落とした。