仕事帰りについてきた加護ちゃんは、わたしの家に入ると「シャワーを浴びた
い」と言い出した。
「稽古でべたべたになったので。いいですか?」
「どうぞ」と勧めてわたしは着替えをしようと部屋に向かう。と、ふと足を止め
て「あ」と思った。浴室に戻ろうとすると案の定「亜弥ちゃ〜ん」と声がする。
「なんや、この水?」
「それはねえ、防火用にためてるの」
「なんで氷が入ってるんですかね」
「ス、ス、スイカ冷やすため!」
「ほう〜、なんか風流ですねぇ」
髪の毛を拭きながら台所に入っていく加護ちゃんをみて、またハッとなった。す
ばやく冷蔵庫の前に割り込もうと思ったけど、一足遅かった。冷蔵庫を開けられ
てひやっとしたけど、中を覗くといつもと変わらず、ほっとした。そういや加護
ちゃん専用の飲み物が入ってたんだっけか。加護ちゃんはボトルを取り出してが
ぶ飲み。
「これ、なんでこんなとこ服飾ってるん?」
と、加護ちゃんは冷蔵庫の横に吊るされた古着を指す。
「匂いつくやろ、汚いで」
「あの、それはねえ」
「これ、あまりセンスよくないですね。けど、きちんとたたんどきましょう」
そう言うと加護ちゃんは愛ちゃん用の服を丁寧にたたみはじめた。ふと半分開い
た冷蔵庫の中に愛ちゃんが見えた。いつのまに!? おもわず強く閉めてしま
い、大きな音で加護ちゃんが飛び上がる。
「びっくりするやんか」
わたしはえへと笑ってごまかした。
加護ちゃんはでけたでけたとわたしに古着を渡し、再び冷蔵庫に手をかける。開
いた隙間から愛ちゃんの笑顔が見えて、わたしはとっさに扉を蹴る。
「何? しまわせてーな」飲み物を掲げる加護ちゃん。
「だ、だ、だめだよ! これ賞味期限いつだと思ってるの? こっちによこしな
さい!」
「まだ平気やろ。なんでやねん!」
奪おうとするの振り払って、飲み物を窓の外へ全力で放り投げた。