テス

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213 ◆queOS382
そのときわたしの携帯が鳴り、ふたりして驚いた。
近くにあった紺野さんのバッグを踏んづけてから電話に出ると、後藤さんの声が
聞こえる。
「どんなかんじ?」
「だ、大丈夫でした。けして軽い怪我とはいえないんですけど」
案の定紺野さんはこのすきに逃げようと、わたしが踏んでいるバッグを引き抜く
のに必死になっている。わたしは足に力を込めた。
「わかった、ありがとう。戻っといで」
落ち着いた声はすぐに切られ、携帯をしまってすかさず紺野さんを捕まえる。
「待ってよ!」
「帰ります……はなして下さい」
「帰るって、向こうに?」
「こんなの聞いてません……はなして下さい」
「わたしでしょ? 原因は。第三者が存在してたって事ってことなんでしょ、ね
え」
わたしが手を離すと紺野さんはまた部屋の隅に駆け寄り、人形を盾にした。
214 ◆queOS382 :02/06/16 13:44 ID:???
むち。
「あたしだってひまじゃないんだから」
「…………」
「勝手にやってればいいじゃない、殺し合うなりなんなりさ。ばかばかしいで
す」
「え……」
「あたしにはまーったく関係ないもん」
「…………」
「お邪魔しました。お大事に」
さっさと出口に向かうわたしの背中にはなんの声もかけられなかった。
ちょっとこのままだとわたし帰る事になっちゃうじゃない。感情的に関係を断ち
切っちゃうわたしが馬鹿? 助け損てやつ? もう! と思って振り返った瞬間
「や、やっぱり!」
と裏返った声が返ってきた。
215 ◆queOS382 :02/06/16 13:44 ID:???
「やっぱりあのとき……ショートしたジェネレーターを見たとき、迷ったんです
……」
「何を?」
「ああ、同志だ。きっとみんな一緒に転送機が壊れたんだって」
「そうなの?」
「このまま私だけが帰っていいものなのか、同志を見捨てて自分だけ任務を果た
して、それでいいものなのかと、迷ったんです……」
「好きにしていいよ」
「え……?」
眠そうな目がわたしを見上げる。
あめ。
「そっちの事はよくわからないから」
「…………」
「無理強いはしないけど」
「…………」
「そっちはそっちの決めごととかあるんでしょ?」
「はい」
「え、あるの?」
「あります。割り当てられた転送機に、別の者を入れるわけには」
「うあーーーーっ!」
耳を塞いで叫ぶと当然のように紺野さんはたじろぐ。
後ずさる彼女にかまわず、わたしは近寄って手をとった。
「ごめんね撤回」
「は……」
「あたしの友達転送して」
「それは……」
「してやって」
「…………」
「くれるかな?」
「できません……」
「…………」