給湯室で水のペットボトルと一緒に救急箱もみつけたので、急いで持っていく。
急ぎすぎた為そのまま彼女のところにたどりついた途端、転んで全部ぶちまけて
しまった。
彼女はというと瀕死の状態。ということもなくただ半分口を開けながらわたしを
みつめていた。
すでに彼女は自分で持参の薬を肩に塗っているところだった。床に転がったペッ
トボトルをみつけると飛びついて飲む。
「薬持ってきてるんだったら早く言ってよ」
それでも肩の後ろには手が届かないようで、わたしが塗ってやった。塗ってから
驚いた。傷口に目をこらして、そむけた。
かすり傷じゃないの?
「これ、貫通してるんじゃない?」
「はい……」
そっと塗ると軟膏と血が混じってピンク色に変わっていく。めまいがして頭を
振った。
肩に包帯を巻こうとすると必要ないですと拒まれたけど、かまわないで巻いた。
巻く時に傷口を見ると気のせいかさっきより良くなっているように見えて一瞬手
を止めたけど、そのまま巻いた。
彼女は紺野さんという名前だった。わたしが聞くとそう名乗った。
「水、もっといる?」
「どうして私なんかを……」
「え?」
かなり距離を縮めないと聞き取れないくらい、彼女はささやくように話す。
「ありがとうごいます……。私なんかを助けていただいて……」
ペットボトルを胸に抱えたまま深々頭を下げる紺野さん。
「あのね、あたしあそこにいたんですね。超危なかったんだからね」
「え」
「頭の上数センチぐらいのとこ弾通ってって、このくらいよ」
「え」
「え、じゃないんだから」
「すいませんでした……」
「いいけど」
「やはり同志だったんですね……」
「はい?」
同志? ああ、暗殺の同志って事。
「秋葉原のお店で……」
「……お店で?」
「ジェネレーターがショートしたと聞いた時……もしかしてそうかなと思いました……」
「わたしも思った」
「すいませんでした……」
「いいの。それはいいんだけど」
「別の人の任務を邪魔をした事になります……減点3です」
「減点?」
「という事は……あなたのターゲットもあの方という事になるのですね」
「後藤さんの事?」
「はい……」
ちょっと笑いそうになった。
なんとわたしも後藤さん暗殺部隊の仲間に入れられちゃった!
それを阻止しようと駆けずりまわされてる方の人間なのに。
つまりあなたの敵なのに。
それでも真剣な顔でうつむく彼女。
「あの方のやりかたは……」
「うん」
「やはり許せません……」
「なぜ?」
「なぜ…といいますと……?」
紺野さんは顔を上げて不思議そうにわたしをみつめた。
なぜ? はまずいか。
そう思うと同時にそうかとひらめいた。
勘違いしているこのコにいっちょカマかけてやるのも手だと。それで何かわから
ない事、あれやこれや聞きだせるはず。