話す前、「信じないならいい」そう言ってわたしがふくれると、謝りながら加護
ちゃんはすがりついて、最初はなんとか聞く態度をとってくれたものの、今は食
卓に頬をくっつけたまま、まるで聞こうとしていない。
それもそのはず、わたしが告白してるのは愛ちゃんの殺意についてだから。殺
意。愛ちゃんがあの日とったバカな行動、発言を洗いざらい話した。
「さっき走ってたコ」
「……」
「見たでしょ、あの顔」
「……」
「返り討ちにあったのよ。後藤さんに」
真剣に話してるというのに、突っ伏したままの加護ちゃんは肩を震わせている。
「じゃあ愛ちゃんはどんなことしたん?」上げた顔は笑ってた。
一瞬言葉に詰まったけど、わたしはすかさず指をL字に作った。人さし指を加護
ちゃんに向けてから上に向ける。
「あぁ?」
眉をへの字に曲げる加護ちゃんの顔に、もう一度同じ事をした。
ぽかんとした表情から徐々に、いやらしそうな笑顔に変わり、それに対してわた
しも歯を見せた。
「んなわけないやろ! 信じろ言うほうがどうかしとるわ!」
「大きな声ださないでよ!」
びっくりしたけど、できるだけ声を押さえて言った。
「ああもう、亜弥ちゃんのモーソーヘキには到底加護ついていけませんです」
そう言ってへっとバカにしたように白目をむく加護ちゃん。
なんだかよくわからないけど、胸がどきどきした。
「ならもういいよ」
「おうなんや逆ギレか」
「そうだよ」
「一体どうゆう理由でそんな事する必要あんのか、それをゆうてください。加護
はよくわかりませんので」
わたしは腕を組んで無視した。
……無視ではなくて説明できる言葉が見つからなかったんだけど。
「なんでそんな事するんですか?」
「知らない」
「聞いてへんのかいな」
「聞けると思う?『あなたなんで後藤さんを殺すんですか?』『いっひっひ〜、
あいつを消してウチがのし上がるんやー。これがアイドルへの早道やよー』わた
しが聞いたら大体こんなとこだよ。加護ちゃん聞いてよ」
「いややわ」
「そこ入っていって聞いてこい」加護ちゃんの指は冷蔵庫をさしている。
「なに言ってんの?」
「愛ちゃんの家行って、それにまつわる理由、証言、ウラとってくるんです。移
動できるんやろ?」
また突飛な発言に、わたしは眉をしかめた。
「いやだよ、なんでわたしが? 第一危ない…」
「ゲンインキュウメイなのです」
「いやだよ!」
「大きな声出したらだめです」
指を口に当てるのと同時にわたしも口を抑える。
「そんな事したって、愛ちゃんのバカぶりが止まるわけじゃないでしょ?」
「ほんならもう、亜弥ちゃんが先生になってしっかり教育するしかないわ」
勝手な事情を聞いてもらっておいて、こんな態度はないと自分でもわかってた。
わかってるんだけど、でもひとりで考え込むのはもういっぱいいっぱいだから、
どきどきしながら言い争いじみた話しをしてるだけでも、それはそれで何かつっ
かえ棒みたいなものが取れていく気がして、安心できたんです。
わがままでごめんなさい、加護ちゃん。
明日早いのに遅くまで話しを聞いてくれた、それだけでもありがたかった。玄関
で靴を履いているその背中にひそかに感謝する。
「でもね〜、ウチ愛ちゃんならちゃんと言って聞かせればきっとわかってくれる
と思うんです」
「何を?」
「…アホな考え改めるゆう事やがな」
「ありがとう」
振り返った加護ちゃんの手を思わず握った。
「きもいです…」
「わたしの話、信じてくれたんだね」
そう言うとぱっと加護ちゃんの顔が明るくなって
「愛ちゃん家行って証拠持ってきたらな。写真とか。あとおみやげとか」
わたしの頭のどこかでぶちんと音がして、素早く手を振り払って玄関から追い出
した。