161 :
第5章:
「それで?」
「ん?どうかね?」
「どうかねと言われても…。何より部長はこれを・・・信じるんですか?」
「それをどう思うか。君の意見を聞きたいね」
男は胸ポケットから再びショートホープを取り出すと忙しなく
ライターを灯し、煙を燻らせる。男の吐く煙草の煙が高森を
包み込む。高森はやや斜めに目を落としながら静かに話し
始めた。
「よくある内部告発…というヤツですか」
「まぁね」
「にしては…」
「しては?」
「詳しすぎますね。確かに。ただ…」
「ただ?」
「ただ…ただ単なる告発文にしては、看過出来ない気が…
何となくの勘ですけど」
「勘かね?曖昧だね」
「ええ、これだけではさすがに…。しかし部長。部長自身が
私にこれを見せるという以上信じるに足りる何かが他にあ
るんでしょうか?」
「…さすが君だね。鋭いな」
男は更に短く灯されていた煙草を加えながら、ソファーに腰
掛けて再びカバン を取り出す。そして一枚の写真を取り出
すと、高森に投げ出した。
「これは何でしょう?」
「これが、その信じるに足りる何かだよ」
白黒の写真には、海上で撮られたらしく、豪華なクルー
ザーらしい甲板の上で大きな魚を持ち上げて笑い合って
いるサングラスを掛けた数名の男が映し出されていた。
162 :
第5章:02/04/24 03:58 ID:???
「随分とむさ苦しくも豪勢な写真ですねぇ…」
「その右端の短髪の男だよ」
「顔色抜群で…これが?」
「それがその主役の男だ」
高森は、怪訝そうな顔をしながら写真をめくり続ける。
白黒の写真は暖炉の前で歓談する中年男性達の姿が
写っていた。
「しかし・・・どいつもこいつも警官とは思えない風貌ですね。
まぁ周りの男達も ナカナカの風体ですが」
「そりゃあ、そうだよ。左端の男はこの間、新宿のホテルで
頭撃ち抜かれたヤツだからな」
「この男がそうですか・・・。で、この写真は一体?」
「今日の午後、送られてきた。告発文と同じヤツだろう
封筒も何も同じモノだったからな」
「なるほど。これが来て…信じるに足りるモノになったと」
「まあね。そんなトコロだ」
高森はその送られてきた写真を書類の上に置くと、もう
一度、紙の角々を合わせる為に、テーブル上でトントン
と叩き馴らし、再 びデスク中央に置きなおした。
「それで・・・私に何の用でしょうか?」
「決着を付けてもらいたい」
「決着?」
「そう決着だよ。事が大きくなる前にね」
「部長は、大きくなる可能性があると踏んでいる訳で?」
「あの文章そのまんまならね。天地がひっくり返る話しだ」
「まぁそれはそうですが…」
「それに…」
「え?それに、何でしょう?」
「うん?いや、まぁ良いさ。こっちの話しだよ」
男は再び立ち上がると窓際に再び近寄った。窓ガラスに
寄りかかりながら、短くなった煙草をポケットから取り
出した携帯灰皿にしまい込む。すると意を決したように
一つ咳き込むと、高森に向けて静かに話し出した。
<続>