小説練習用スレッド α

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153第4章
「それでね。・・・ちょっとごっちんにお願いがあるんだけど・・・」
「・・・ん?なぁにぃ?」

真希は考えを一時止め、梨華の顔を見つめ直して言葉を
繋げた。

「梨華ちゃん、まだあの男となんか関係あるの?」
「ウウン、そんなことないよぉ。」

梨華はあからさまに言葉を濁した。もちろん真希には、
そこにある「何か」を感じ取るのは容易だった。真希
は、とっさに梨華の手を握りしめるとその悲しげな顔
を凝視した。

「梨華ちゃん、お願いって何?」
「えっ・・・ウン。ごっちんね、あの人に会わせてくれないかな?」
「どうして?」
「あの人に頼みたい事があるの・・・」
「梨華ちゃん・・・」
「・・・ごっちん、思い切って言うね・・・実はね、
私・・・、あの男の人にね・・・」

梨華はその美しい瞳に涙をため、少し嗚咽を漏らした。
梨華の悲しげな表情に心揺さ振られた真希は、思わず華
奢な梨華の体をぎゅっと抱きしめた。
154第4章:02/04/08 01:43 ID:???

「もういいよぉ、梨華ちゃん・・・。何も言わないでいいから・・・」
「ごっちん・・・誰にも言わないでね・・・」
「当たり前だよぉ」
「・・・アリガトネ」

普段は見せない真希の優しさに梨華は浸っていた。そして
最近感じていなかった、安らかな気持ちがその心を覆って
いた。

「頼んでみるね。・・・梨華ちゃん頑張ってね。あの人いい人
だから心配しないで話してみても大丈夫だよ」
「うん。実はね、この間、レコーディングの帰りに
ちょっとだけ話したの。」

梨華は恥ずかしそうに話し続けた。真希は笑顔で聞き返
した。

「ホントぉ?それでどうだったの?」
「うん。最初は話し掛け辛かったんだけど・・・でも思って
いた以上に優しくて、少し安心したんだぁ」
「でしょ?だから大丈夫だよ。きっと梨華ちゃんの話、
聞いてくれるから。私からも言っておくからね」
「ウン。アリガトウ。ごっちん、お願いね」

誰もいないスタジオ、薄暗闇の中、二人は抱き合いなが
ら互いの傷を慰め合っていた。その二人の様子を入り口
の大きなドアに隠れて見つめるひとみの姿があるのに二
人は気付いていなかった。

(・・・二人で何を話しているのかな?)

ひとみの眼には慰め合う梨華と真希の姿を捉えていた。今
まで見た事のない二人の様子を見ながら、ひとみの心の奥
底で「何か」が少しだけ揺れ動いた。

言葉で表現できないその「何か」がひとみの心を掻き毟る。
ひとみは、ふっと溜息をつくと、先程までいた前室の長椅
子に腰掛けた。

(何だろう・・・)

ひとみは、自分でも得体の知れない奇妙な気持ちを小さな
胸に抱えたまま、スタジオの隅で一人静かに竦んでいた。



<続>