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23だれか

 苦悩 ――世紀のアップセット
24だれか:01/12/17 00:17 ID:???

 シドニーオリンピック。フランスワールドカップから2年。史上最強と言われ、
万全の体制で挑んだ日本代表は、南アフリカ、スロバキアを破り予選リーグ開幕2
連勝。もうサッカー後進国とは言わせない。、皆、思いは一つだった。
 予選リーグ最終戦、対ブラジル。
 大きな歓声の中、GK飯田圭織がキックオフの時間を静かに待っていると突然、
目の前に閃光が走った。忙しさの中で今まで思い出すこともなかった、いや、「封
印」してきた4年前の記憶。
「圭織達のした事はなんだったんだろう……それを確かめようしたのかもしれない」
25だれか:01/12/17 00:19 ID:???

 96年7月21日。晴れ渡るマイアミの空。アトランタオリンピック・グループ
リーグ初戦。日本がアマチュアではなくプロフェッショナルとして挑む初めてのオ
リンピック、そのゴールマウスに立っていたのが飯田だった。
「なんか……トランス状態っていうか。頭の中を電気が走ってる感じ? 周りの音
がすごく遠くに聞こえてた」
 飯田は結局、その状態のままキックオフからタイムアップまでの間プレイをする
事になる。
 全世界のメディアが「ドリームチーム」と言い切るブラジル代表。94年アメリ
カワールドカップ優勝メンバーに、その後の代表の、不動のメンバーとなる若き才
能達。飯田がそれを意識しない状態でプレイできたのは、結果、好をそうしたのか
もしれない。
26だれか:01/12/17 00:23 ID:???
「このメンバー表、今見てもびびっちゃいますね」
 飯田はそう言って笑ったが当時はそんな余裕はとてもあるはずがない。それは選
手以上に稲葉監督をはじめとするスタッフたちに顕著だった。
「どうやって勝ったらええねん……」
 ブラジルとの対戦が決まってから、稲葉は壁にぶつかり続けた。ブラジル代表の
ゲームのビデオを何度も見返す日々。明らかに戦力で劣る日本がブラジルに勝つた
めにはそのような地道な作業を行っていくしかなかった。
27だれか:01/12/17 00:26 ID:???

「それでも勝てるっていうイメージはついに湧きませんでしたね。あの攻撃を90
分食い止められるとは正直言って思えませんでした」
 失点はもうしょうがない。ただ、稲葉は「1点は取れる」という確信を持ってい
た。繰り返しの映像の中に見えたブラジルディフェンスの欠陥。
 それがやがて、歴史を「ミラクル」という形で覆すための大きな役割を果たすこ
とになるが、稲葉はそれでも悩みつづけた。1点をうまく取れたとして、それ以上
の失点をしてしまえば結局同じ事ではないのか?
 その答えを待たずしてキックオフの笛は鳴り、結果、稲葉の読みは半分当たり、
半分はずれる事になる。
28だれか:01/12/17 02:02 ID:???

 奇跡 ――理論+幸運
29だれか:01/12/17 02:03 ID:???

 試合開始直後、観客席にどよめきが起こった。
 意表をついたいきなりのロングシュート。最初のシュートを記録したのは、日本
だった。
「なんっつーか、挨拶代わりみたいなもんかなぁ。稲葉さんからも『最初は思い切っ
ていったれ』って言われてたしね。アハハ」
 市井紗耶香のキックオフから後藤真希が左後方の矢口真里へ、ドリブルで中盤ま
で運んだ後、市井、そして再び矢口にパス。矢口はそれをそのままダイレクトシュー
トした。
30だれか:01/12/17 02:05 ID:???

 そんな矢口のシュートで幕を開けた試合だったがその後、すぐにブラジルの一方
的なリズムになってゆく。気付けばブラジルのシュート数は前半だけで15本、最
終的には32本を記録した。完全なワンサイドゲーム。しかし、これは稲葉も覚悟
していた事だった。
 それでも失点は最小限に押さえる必要がある。そのために試合前、稲葉は選手達
に一つだけ指示をした。
31だれか:01/12/17 02:06 ID:???
「自分のポジションを絶対に離れたらあかん」
 それが稲葉の出した最善の策だった。暑い夏の日、この気候で体力まかせにゲー
ムを進めては暑さに強いブラジルの思うツボになる。徹底したゾーンディフェンス
で相手に足を使わせ、後半、足が鈍ったところをカウンターで一気に崩す。そのた
めにも極力、体力を温存する必要があった。
 こうして守備に重きを置いた戦略ではあったが、フタを開けてみるとブラジルの
攻撃を押さえこんだとは到底言えないような展開。
「なんか、途中から自分達がサンドバックみたいに感じてさ、正に『手も足もでな
い』って、今わたしうまい事言った!」
 と、後にDF保田圭は語っている。
32だれか:01/12/17 02:08 ID:???

 だが、そのブラジルを「全然怖いとは思わなかった」と話した飯田の存在はこの
試合を語る上でかかせない。その奇想天外な発想と発言から「電波」と揶揄される
事も少なくない彼女だが、この時のセービングの数々は、正に神がかりとしか言い
様がなかった。ゴールの隅を突くシュートもことごとく跳ね返し、1対1の場面の
判断もまるで相手の次の挙動が見えているかのように迷いがなく、完璧。飯田圭織
は間違いなくこの試合の主人公だった。