(インターミッション)
お疲れさま〜。
亜弥ちゃん、よかったよ〜。
あと少しだよ、頑張ってね〜。
スタッフのみなさんから、たっくさんの声をかけてもらう。
わたしは2度目の衣装替えのために楽屋に入って、着せ替え人形のように
メイクさんやスタイリストさんその他のスタッフさんたちに身をまかせていた。
ふぅ〜。
衣装替えもメイクも終わり、次の本番までの間しばらく一人にさせてもらう。
わたし、ちゃんとできてたのかな?ちゃんとみんなに伝わってるのかな?
もうラストに近づいてきてるけど、ちゃんと上手く締めれるかな?
コンコン。ノックの音。
どうぞ〜。あ、紺野ちゃんだ。お疲れ〜。
「お疲れさまでした、亜弥さん、すっごく良かったです」
「ふふふ、ありがとー。紺野ちゃんもカッコ良かったよ」
「本当ですか?へへへ」
「そーだよ。紺野ちゃんのおかげで、すっごく良いコンサートになりそうだよ」
「50周年記念コンサートにふさわしいものになりますか?」
「う……、実は自分ではどうも客観的になれないから、上手くいけてるのか
ちょっと自信がないんだけど……」
「そうですね。あんまり自画自賛しちゃうのは、キモくなっちゃいますね」
「あはははははははは…」
「ははははははははは…」
二人の乾いた笑い声が、楽屋の中に少し響いて、それはすぐに消えた。
実際、二人はとても疲れていたのだ。
「紺野ちゃんもついに、その手を汚してしまったね」
「はい…、たくさん人が死んでしまいましたね」
「ねぇ、なんでみんな死ななきゃいけないの?」
「なんででしょうね」
「別に殺さなくても良いし、殺されなくても良いし、死ななくても良いじゃない」
「そうですね、そうでしょうね、そうなんですよね」
「それに、アレ、最後のとこ、なんでパクリになってるの?」
「パクリって言わないでください!アレはリスペクトって言ってください!」
「あと、後藤さんが最期にあんなこと言うなんて、絶対変だよ」
「………」
「だって、美貴スケ殺してまでソロとして生き残ろうとしてるのに、
こんな簡単に死んじゃうなんて、絶対に悔い残ってると思うけど」
「そうですね、あのシーンを考えた瞬間、アレを使おうと思いつんたんで」
「やっぱ、パクリやん」
松浦さん、時間で〜す。
「は〜い、じゃ、わたし行くね。紺野ちゃんも最期、頑張ってね」
「…はい」
亜弥さんは楽屋を出てステージに向かった。
私も次のシーンに備えるべく、楽屋をあとにした。
ステージの袖から亜弥さんのパフォーマンスを見る。
すごい。完璧だ。私も完璧だったが、亜弥さんはそれ以上、レベルが違う。
たしか65歳のはずなのに、16歳のシーンではちゃんと16歳に見えてしまう。
アイドル時代の仕草なんて、あの頃のビデオを再生してるみたいだ。
こんな良い素材は滅多に出てこないね。私も放っとけなかった。
50周年コンサートのお芝居コーナーの脚本を書かせてもらって、
今それがステージ上で演じられてるんだけど、こんな作家冥利?って言うの?
それがとても感じられて、すごくやり甲斐がある仕事になった。
ちょっとたくさんの人が死んじゃって、批判を受けそうなんだけど、
て言うか、簡単に死なせ過ぎだよな〜。
と思いながら振り返ると、暗闇の中に黒装束を来た忍者がいるのを感じた。
「辻さん」
呼ばれたその忍者は一瞬、ビクッとし、その姿を紺野の前に現した。
「なんでわかったの?」
「そりゃ、わかりますよ。私には」
「じゃあ、しょうぶなのれす」
「え?今?ここで?」
「いやなら、あさみちゃんのすきなじだいでいいのれす」
「また、そんな都合のいいこと言って」
「らって、60すぎのとしでしょうぶするのは、おたがいにつらいのれす」
「わかりました。しようがないなあ」
川o・-・)ノ<はい〜、かな〜り時間を巻き戻します。
<<<<
場所は多摩川のような、川沿いの土手。
時代は江戸時代なのか?
よく時代劇の決闘シーンで出てくるような、そんな風景。
季節は秋。ススキが風に揺れている。
時刻は夕時。空が青から夕焼け色に変わりかけようとしている。
そんな時空間の中、紺野と辻は十代の絶頂期の身体で立っていた。
決闘するには絶好のロケーションとコンディションである。
「始める前に聞いとくけど」紺野が尋ねた。
「>618で亜弥さんを襲ったのは辻さん?」
「そうれす」
「なんで?」
「らって、やぐちさんをけがさせたから」
「へ?辻さん、それ亜弥さんじゃないよ。じゃ>613は?」
「つぃはじゅうはつかわないのれす」
「そう……、ちょっと漢字使ってくれる?読みにくいんで」
「てへてへ」
「え〜と、ということは、辻さんは伊賀者?」
「そうれす。辻は伊賀のカバ丸師匠の弟子れす。焼きそばらいすっき」
「そうなんだ。じゃ、私たち闘うのは宿命なのね」
「そうれす。マンガにもアニメにも映画にもなるくらいの決まり事なのれす」
「わかった。じゃ、始めましょうか。これで最期ですよ」
お互いそれぞれの型で構え、それぞれの流儀で印を結ぶ。
「臨・兵・斗・者・皆・陣・列・在・前」
「我ガ身既ニ鉄ナリ。我ガ心既ニ空ナリ。天魔伏滅」
忍者とは元来、「影」の世界でのみ存在してきたものである。
いまここで行われる闘いは、伊賀流と甲賀流の忍道の奥義を極めし者の
命を賭した闘いとなるであろう。
またこの闘いの内に繰り広げられる奥義は、門外不出の技であるに違いない。
それはきっと、動きは風よりも疾く、誰の目にも留めることは出来ないだろう。
そのような闘いをどうして描くことが出来ようか。
いや、そもそも一体この闘いを描くべきであろうか。
小生はそうは思わない。
庭にある石をひっくり返し、地中に巣くっていた蟲類を日の光に晒すようなことは
妥当なこととは思わない。
あくまで「影」の中で生き「影」の中で死んでいく、それこそが忍者の生き方、
それこそが「忍道」というものではなかろうか。
やはりそれ故、小生はこの闘いについては、永遠に「影」の中に封印しようと思う。
もはや二人の姿は見えていない。風の音以外は何も聞こえてこない。
いや、唯一聞こえてきたものといえば、
「ス・キ・ト・キ・メ・キ・ト・キ・ス」
という紺野の声、これが一度聞こえたきりであった。
■
(フィナーレ)
あ〜や〜や、あ〜や〜や、あ〜や〜や、あ〜や〜や、あ〜や〜や………
2051年、6月のぉ〜、25日。
ここ、日本武道館でのぉ、わたし。
松浦亜弥の、デビュー50周年記念コンサートツアー2051わぁ、
だいっ成功とぉなりましたっ!
松浦はねぇ、こんなに〜、たくさんの皆さんと出会えて〜、
さいっこうにうれしいでーーーーーーーーーーーーーーーーす!
思い返せばですね〜………
……ちょぉっと、聞いて欲しいなぁ〜って……
思い返せばですね、松浦、姫路から出てきたんですけど…
(ここからデビューしてからの50年分喋るので割愛)
でもでもぉ、今はね、もっともぉっと、うれしいことがあります。
なんと、今、ここで、みなさんとぉ、コンサートのアンコールを迎えています!
ふふっ、ありがと。
でもねー、松浦はね〜、ホントにうちのパパやママには、たくさんたくさん心配、
かけたし、あとね今日も、あーそーこーでーこっちを見てくれている〜〜、ふふふっ、
はい、わたしの大好きな、先輩方…
と、ステージの袖を指さした亜弥はそこで言葉を詰まらせた。
亜弥の目に映ったのは、死んだはずの高橋、藤本、平家、矢口、後藤を始めとする
ハロプロのメンバー達が、若い頃の美しさで亜弥を見守っている姿だった。
み、みんな…
亜弥の目からは涙が溢れ出した。
気が付くと亜弥の姿も50年前にタイムスリップしたかのように若返っていた。
すべてがあの頃に戻っていた。美しく、若々しく輝いていた。
あまりに感極まって言葉にならない亜弥を見て、ハロプロメンバー達は袖から
ステージに上がって亜弥の周りに集まった。
「亜弥ちゃん、頑張るんやよー」
「亜弥っぺ、なに泣いてんのよー、しっかりー」
「松浦、あんたこんなんで泣く娘とちゃうやん、強い娘やんかー」
「ほら、オイラもお客さんも松浦の歌を待ってるよ、ガンバレ」
「ほら、これで涙をお拭き」
「ごっつぁん、かっけー」
「あ、よっすぃ〜、いたんだ」
「はい、マツーラ、歌って」
飯田に肩をポンとたたかれ、亜弥はステージの前に進み出た。
ありがとう。それでは〜。
ホントのホントに、最後になったんですけどね、でも!
今回は、50周年記念コンサートだったけどまた、絶対松浦と、
コンサートでデートしてねーーーーーーーーーーーー!
約束だからねーーーーーーーーーーーーーーーーー!
OK、それでは〜。
わたしのぉ、たぁいせつな友人のみんなに、捧げます。
『笑顔に涙 〜 Thank You Dear My Friends』!
みんなも一緒に歌ってねーーーー!
(〜♪「笑顔に涙 〜 Thank You Dear My Friends」)
ママ、おばあちゃん、ねむってるよ。
そうね、眠っているわね。
なんだかニコニコしているよ。
そうね、幸せそうな寝顔をしているわね。夢でも見ているのかしら。
きっとイイゆめみてるんだ。
そうね、ホントに幸せそうに眠っているわ。どんな夢かしらね。
(あとがき)
ふ〜、やっと書き終わりました。
読んでくれた人は、もしいるのであれば、こんなしょーもない文章に
お付き合いいただき、ありがとうございます。
メタフィクションなんて今じゃあもはや死語なんですけど、やっぱり
わたし、メタフィクションて好きなんですよね〜。
かなり陳腐でレベルも低いし、練り込みも足りないんですけど。
惜しむらくは、第3部の前半の日記部分とか、サイボーグAYAYAとか、
QUEさんが書いた部分とかももっと取り込んでいければ良かったんですけど、
そんな力量はわたしにはありませんでした。
これからも歌にお芝居と頑張っていくので、応援、よろしくおねがいしま〜す。
「終わった?」
背後で声がしたので振り返るとそこには「松浦亜弥」が立っていた。
はい、終わりました。
うん、2ちゃんであなたがわたしの日記を書いてるって聞いたから、
わたしずぅっとROMってたんだよね。
そーなんですか、あはは。
途中でなんかダレてきてたから、>613でちょっと喝入れてやったんだけど。
あぁ、アレはあなただったんですか。
うん、矢口さんに流れ弾が当たっちゃったのは悪かったな〜って思うけど。
それで辻ちゃん勘違いしてたんだ。
うん、ごめんなさい。
はい、まーいいです。
ドッキドキのPV撮影の時にあなたを初めて渡されてから、ずぅっとあなたには
わたしの代理役をやっててもらって、とっても感謝しているよ。富士急の時(>663-665)
みたく、わたしが寝坊しちゃった時とか、あなたがいてとっても助かったもの。
いや、こちらこそ、ありがとございま〜す。
でもね、あんまり夜更かしばっかりしてるとね、お仕事に影響が出たりするからね、
ちょっとあなたお休みした方がいいんじゃないかな〜って。メンテも兼ねて。
……そうですか。わかりました。
ね?またバージョンアップして戻ってきてよ。
わかりました、じゃ、その時はまたお願いします。
じゃ、押すよ?
「松浦亜弥」が「それ」の鼻のボタンを押すと、「それ」は発光しながら変形し、
コピーロボット本来の形になった。
「お疲れさまでした〜」
コピーロボットを持って「松浦亜弥」が部屋を出ると、この物語は終わる。
(完)