台湾での始球式(てゆうか始打式?)
君が代の独唱も終わり、いよいよバッターボックスへ入る。
ボックスにはいると、気が引き締まり、集中力が高まるのが自分でもわかる。
今日はデカいのが打てそうな予感がするね。
「打って一塁に走っちゃっていいからネ」
城島がわたしに話しかける。
打つのは当然としても、走ったりはしないよ。ホームラン狙いだから。
台湾行政院院長のおっちゃんがセットポジションから投げた。
ナンダコノヘナチョコボールハワシヲナネトンノカ
球が遅すぎてあくびが出ちゃうよ。
ふと1塁側ベンチの方に目をやると、王監督がヒヤヒヤした面もちでわたしを見ている。
いかにも土気色の顔色で、まるで巨人監督時代に戻ったかのようだ。
あっ、そうだ。思い出した。
始球式の練習とゆうことで、王監督のところに出向いた時の話。
「やー、松浦君。どうかひとつよろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくおねがいしま〜す」
「じゃ、ちょっとスイングしてみて」
「は〜い(ブン!ブン!)」
「お!なかなか良いじゃない。良いセンスしてるね」
「ホントですか〜、ありがとございま〜す」
「じゃ今度はトス・・・ボール投げてみるから、ちょっと打ってみて」
ま、トスバッティングね。イイですよ。ビビらしたる。
監督からトスされたボールは、カンと甲高い音を残しながら、はるか遠くへと飛んでいった。
その打球を見た(正確には見失ってたけど)監督は、しばらく呆然としていたが、しばらくして
またボールをトスした。
カン。 カン。 カン。 カン。
全てのボールは、はるか遠いだけでなく、はるか高い軌跡を描きながら飛んでいった。
トスするボールが無くなったとき監督は、わたしの方に近づき、真剣な顔で言った。
「君、ダイエーに入団しない?」
「じゃ、どうしても野球選手になる気はないと?」
「はい、わたし歌手になって歌い続けるのが夢なので、すみません」
「惜しいな〜。絶対、女子プロ野球選手でやっていけると思うんだけどね〜」
「・・・・・ホントにすみません!」
「いやいや謝ることはないよ。しかし、始球式ではバッターは空振りしないとね〜」
「そぉなんですよ。わたしがスイングすると、ボールの方からバットに当たってきて、
飛んでっちゃうんですよね〜」
「それはボクが絶好調の時が、ちょうどそんな感じだったね。野球の神様が憑いてる感じっていうか」
「そうそう、そうですそうですそうです」
突然、監督はわたしの前に土下座して叫んだ。
「松浦君。どうか、始球式の時はバットを振らないで、ボールを見送ってくれ。
ボクは国民栄誉賞も貰った者として、今回のこの試合は、日本と台湾との友好を深めて、
台湾を世界にアピールするきっかけの一つなんだけど、それに貢献しないといけないんだ。
ここで君が始球式のボールをホームランする事によって、台湾側に不快感を生じさせることは
どうしても避け・・・・・・」
「わかりました、監督。わかりました」
「そ、そうか。わかってくれたか」
「は〜い。始球式のボールをホームランしちゃうとゆう伝説は、たしかドカベンの岩鬼が
もうやっちゃってますから、わたしはボールを見送るとゆう伝説をやりましょう」
「おぉ、そうか、そうか。ありがとう。ありがとう」
なんてことが、そういえばあったなぁ。
って、ボールやっとわたしの前を通り過ぎようとしているところだけど。
監督、わたし打ちませんから、どうか心配しないで。
ぱすっ
ストライ〜〜〜〜〜ッ
「バット振らなきゃダメだよ〜ん」
やかましいわ城島。
从‘ 。‘从<てなことを始球式での見逃しした理由のコメントとして用意してたんですけど
マネジャーさんに止められました。