高層ビルが連なり、その隙間をくぐるようにして、モノレールが駆っている。
様々な高層ビルの中で特に大きい、要塞のようなビルの前に、空中からホバーバイクが降り立つ。
黒のサングラス、黒のロングコート、黒のブーツを着けた、金髪を肩まで伸ばした女が真っ直ぐ入り口に向かう。
入り口の両側に着いた大柄のガードマンに臆すことなく、入り口の前に立つ。
入り口に設置されているボードに手を置き、指紋を認識させ、中に入っていった。
女は二つあるうちの一方のエレベーターに乗り込む。
エレベーターは透明な筒に囲まれているため、ビルの外が見渡せる。
女と同じ型のホバーバイクや、ホバーカーがせわしなく飛び交っている。
数十分かけて最上階に辿り着いた。
降りると、2mもしないうちに部屋があり、女が部屋の前に立つと待ってましたと言わんばかりにドアが開く。
女は部屋に入った。
「久しぶりやな、平家。」
入り口からさらに奥まったところにあるデスクの所にある椅子が回転する。
ちりちりの金髪に、色の薄いサングラスを着けた襟の高い白のスーツを着けた男が座っていた。
「つんくさん、政府からのお届け物です。」
女――平家は大股で歩み寄り、肩から下げたバッグに手を突っ込み、ディスクを取り出し、投げた。
ディスクが、デスクの上で回転して男に届く。
男――つんくは、口元をにやつかせながらディスクをデスク脇のコンピューターに入れる。
起動したディスクが画面を浮かび上がらせる。
つんくはサングラスの奥で目をぎらつかせ見入った。
「うん。わかった。」
つんくは言いながら、手元のキーボードで何かを打ち込む。
作成したディスクを平家に投げ渡す。
「ほな、頼むわ。運び屋はん。」
「はい。」
平家は全く表情を変えないで、踵を返し部屋を出た。
運び屋――今の平家の生業だ。
百年前は、郵便局員と呼ばれていた。仕事の内容は同じである。
物資、手紙を運ぶ、それだけだ。
公務員という立場も同じだ。
政府に遣い、政府から賃金を受け取る。
唯一違うことは、危険な仕事であるということ。
時には重要機密を運ぶ事もある。
機密を欲する者に襲われて命を奪われた運び屋も少なくはない。
だから、運び屋は戦闘能力が高いものが多い。
平家も例外ではなかったりする。
平家は部屋を出てエレベーターに乗り込んだ。
ふと、もう一方の筒のほうに目をやると、エレベーターが上がってきた。
平家と同じように黒尽くめの服装でサングラスをかけているようだ。
すれ違いざまに、中にいる人物を見据え、平家は声を上げた。
「紗耶香…」
隣のエレベーターの少女は平家に薄笑いすら浮かべていた。
平家は登っていくエレベーターを見上げ続ける。
サングラスをかけていたが、少女は市井紗耶香その人であろう、と平家は確信した。
平家を乗せたエレベーターが地上にたどり着く。
だだっ広いエントランス、平家のいるところの数メートル前に、ガラス張りの入り口がある。
朝を迎えようとしているのに、ガラスの向こうは真っ暗だ。
平家は、ガラスの向こうに嫌な気配を感じる。
気を落ち着けるようにして、息を吐き、腰につけた銃に手を当て、外に出た。