>84の続き
「えーっ!?それって何のヒネリもないじゃん!」
飯田さんの作戦を聞いた矢口さんが大きな声をあげました。
「仕方ないでしょー!いくらカオリでも部室見ただけじゃわかんないよー!」
わたしと飯田さんは、自転車をひく矢口さん、亜依ちゃんと4人で
帰り道を歩いていました。その途中に聞いた飯田さんの作戦……それは、
夜のあいだずっと、部室を見はるためにビデオをまわしておくというものでした。
「犯人はね、毎日部室を荒らしに来るんだから、習慣的に毎日決まった行動を
とる可能性が高い。
ビデオにもし映ってればね、犯人の来る時間帯とか、通り道とか、どうやって
部室を荒らしたのかがわかって、ずーっと捕まえやすくなるよー。
それにね、犯人はかなり限られるから、ビデオ見るだけでわかるかも……。」
「なになに?どういうこと?」
矢口さんは、さっきの失望とはうってかわって、とってもきょうみをもったようすです。
「あの部室、表のドアは鍵がかかったままだったんでしょ?
裏の窓にはほこりがびっしりたまってて、全然開けた形跡はなかったし、
だいいちそこにも内側から鍵がかかってたんだから、ドア以外からは入れない。
どこかにすき間があれば、そこから針金みたいなものを差し込んで
カゴだけ落とすこともできそうだけど、裏の窓とか表のドアのすき間は、
サッシがじゃまで差し込めそうになかったし、壁には特に穴なんてなかった。
あとね、隣の部室から壁を蹴ったりして、その衝撃でカゴを落とす
なんてことができないかとおもったけど、あの壁、すごく丈夫で、
そんなことできそうにない。
だからね、やっぱり、ドアを開けて中に入らないと無理みたいだから、
犯人は合い鍵を使ったっていう可能性がいちばん高いとおもうよー。
それでね、合い鍵を作る機会はかなり限られる。あの厳重な鍵の扱い方じゃ
合い鍵を作るくらいの長い時間、鍵をずーっと持ったままでいる機会なんて
ないんだからね。
合い鍵を作れるとすれば、平気で鍵を借り出せる人。たとえば……いまの矢口
みたいなね。」
わたしと亜依ちゃんは同時に矢口さんの方を見ました。
「ちょ、ちょっとー!ヤグチを疑うのかよーっ!鍵借りるのなんて
今日が初めてなんだぞー!」
むきになる矢口さんをみて、わたしと亜依ちゃんは笑いをこらえていました。
「まあね、事務室で聞けばすぐわかることだから。」
「なんだよー、カオリまでー。 あ、でもさ、合い鍵なんかなくたって、
"ピッキング"で開けられるんじゃないの?」
"ピッキング"のことは、最近テレビでよく紹介しているので
わたしもききおぼえがありました。ここではくわしくは紹介しませんが、
かぎをあけてしまうわざのことです。
亜依ちゃんも名前だけは知っていました。
「うーん、ピッキングなら、あの鍵くらい開けられるけど……。」
「カオリはさ、そのピッキングってできんの?」
「やり方だけなら知ってるけど。」
「そっかー、じゃあ犯人はカオリだな。いーけないんだ!」
矢口さんのおもわぬ反撃です。
「で、でもね、荒らしたあとでわざわざもう一度ピッキングして
鍵を閉めていくなんてこと普通しないとおもう。
だからね、合い鍵を使った可能性の方がだんぜん高いんだよ。
それでね、鍵を長時間借りることができるのは学校の関係者だけなんだし、
ビデオ見るだけで誰なのか特定できるとおもうよー。」
そのとき、亜依ちゃんが言いました。
「あのぉ、きょう飯田さんをよんだってことはもうバレてるんですから、
犯人はもう来ないのとちがいますか?」
「なんだよー、加護までさー。」
「ん?矢口さんってわけじゃなくって、ほら、部員はみんな
知っとるんやし……。」
「もしそうならね、犯人が警戒して来ないでいるうちに
鍵を交換してもらえば?
部室が実際に荒らされてるんだから、それくらいのことは
してもらえると思うよ。それで一応解決ってことで。」
「うーん……犯人がつかまんないとすっきりしないけどねー。
あ、ところでさ、今日のそのビデオ撮るの、ヤグチも手伝って
いいかな?」
「いいけど、徹夜だよー。」
「えー?ずーっとビデオ見張ってるの?」
「そんなことしないけどさ、カオリのビデオはね、バッテリーが
4時間もつんだけど、いちおう3時間で交換したいの。
3時間ならテープも標準モードで使えるし。
だからね、外が暗くなる6時にセットして、あとは9時、12時、
3時に交換、朝の6時に回収ってことにしたいんだけど。」
「そっかー、徹夜ならさ、圭織だけにやらせることなんてできないよー。」
「カオリはいいんだよ。これが趣味なんだから。」
「みずくさいぞー!これってオイラたちの部のことじゃん!
いやだって言っても手伝うぞぉー。」
「へへー、あのぉ、ウチも手伝っていいですか?」
「加護は授業あるだろーっ!やめとけよー!」
「いややー!ウチも手伝うーっ!」
「つじもてつだいたいれす!」
亜依ちゃんと私がだだをこねたので、飯田さんはあきらめて言いました。
「じゃあね、夜中はカオリと矢口だけでやるから、あんたたちはそのあいだ
ちゃんと寝てること。わかった?
とりあえず、中澤さんに2人を泊めてもらえるように頼まなきゃ。」
下宿屋に帰り、無事に中澤さんの許可をもらったので、そのことを
電話で知らせると、まもなく私服に着替えた亜依ちゃんと矢口さんが
自転車でわたしたちの下宿屋にやってきました。
「おや?カオリの同級生って子は来ーへんの?」
中澤さんが二人をみて最初に言った言葉はそれでした。
「あのー、カオリの同級生はあたしですっ!」
矢口さんは、きっぱりといいました。
「オトナにウソ言うたらあかんでー。どう見てもののの同級生やろ?
そんなコギャルみたいなかっこしててもウチにはちゃーんとお見通しや。
隠さんでもええで、背伸びしたい年頃やもんなあ。ウチもそうやったからなあ。
そういう子、ウチめっちゃ好きやでー!」
「うわー!やめろよー!」
中澤さんがいきなり『すきんしっぷ』をしようとしたので、
矢口さんはかなりあわてていました。わたしたちはもう慣れっこで、
かわしかたもおぼえていたのですが……。
飯田さんはそのとき、騒ぎをよそに自分の部屋でずっとビデオの準備をしていました。
カメラがばれないように箱に入れたり、電池が冷えると長い時間もたないからと
その箱に使い捨てカイロをつめたり……。
そのとき、もうひとりのおきゃくさんがやってきました。
「ちゃーす!姐さーん、カオリー、おるかー?……ん!?矢口と加護?
あんたたちもおったんか……。」