何で水戸黄門に辻と飯田が出てるんですか?

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106ashinobu ◆Askaw.ME
>96のつづき

「おおっ、みっちゃんやないか。久しぶりやなー。今日は何の用や?」
「カオリがな、ウチんとこの部室荒らしとっつかまえてくれるっちゅうから、
ほれ、陣中見舞いや。」
「そーかそーか、いつもすまんなー。」
「なんでいきなりあんたが手え出してんねん!これはな、カオリたちのために
持ってきたんやで!」
「その一升瓶は何や。教師が未成年に酒飲ますんか?」
「ちっ……ばれたか。ああそうやそうや。姐さんの分もちゃーんとあるでー。」
 わたしたちの下宿屋へやってきたのは、平家先生でした。
「キャハハー。あたしらの分まで珍味ばっかしじゃん。」
「なんやとー矢口!あんたには食わせへん!」
先生は、わたしたちのためにいろいろ差し入れをもってきてくれたのです。
「ふーん、監視カメラかいな。よっしゃ!夜中の電池交換は
センセがやったる!あんたらは寝ててもええで。」
「でも、寒いですよー。それに、犯人に気づかれたらおしまいだしー。」
飯田さんは、平家先生にまかせるのがしんぱいなようでした。
「なんやー。このみっちゃんが信用でけへんのかいなー!」
「まあええやろ。こういうもんは圭織にまかしとき。ほら、もう時間やろ?
甘酒作っといたるさかい、風邪ひかんようにぱぱっと済まして来ぃ。」
107ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:46 ID:???

 こうして、わたしたち4人はカメラをセットしに学校に向かいました。
ほとんど夜のように暗くなった学校は、ちょっとこわくて、
昼間とはぜんぜんちがう場所のような気がしました。
「ここにセットするからね。ほら、ちょうど部室が見えるよー。」
 飯田さんがカメラをセットしたのは、体育館と校舎のあいだの
細い通路でした。体育館の角から顔を出すと、部室は目の前でした。
「うまく街灯が部室に当たってるから、夜景モードにすれば
バッチリ映りそうだよ。」
 飯田さんは、モニタを見ながらしんちょうに向きを合わせて、
カメラの入った箱をおきました。
「これでよしっと。」
「圭織、いよいよじゃん。」
「ウチもわくわくしてきました。」
「うまくいくといいれすね。」
108ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:46 ID:???

 その夜、わたしたちの下宿屋は、とってもにぎやかでした。
カメラをセットしたわたしたちが帰ったときには夕食の準備が
できていて、二人はすっかり酔っぱらっていました。
 平家先生は仕事がきついとかいい男の人がいないとかいう
ぐちを言っていて、中澤さんは、それにとんちんかんな返事を
しながら、わたしたちにしきりに料理や甘酒をすすめました。
 そのうち平家先生が来たときに自分が言ったことも忘れて、
ほんとうのお酒までむりやり飲ませようとしはじめて、
それにこたえた矢口さんが酔っぱらって物まねを始めたりして、
ほんとうに宴会のようでした。
 おなかがいっぱいになると、亜依ちゃんと矢口さんは
「夕飯代のかわりや」と中澤さんに言いつけられていた
風呂そうじをはじめましたが、「うわー!めっちゃ冷たいやん!」
「加護ぉー!ちっとは手ぇ動かせよー!」とさわぐ声が、
2階にひなんしたわたしと飯田さんにも聞こえていました。
109ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:47 ID:???

 そんなことをしているうちに、9時の電池とテープの交換のじかんに
なりました。
「うわー!寒い!」
わたしたちはすっかり部屋のなかであたたまっていたので、
冬の寒さがとってもこたえましたが、犯人を見つけるために
みんなではじめたことなので仕方ありません。
 校門を入ると、飯田さんは言いました。
「静かに!犯人にばれないように、こっちを通るようにするから。」
わたしたちは飯田さんのあとについて、グラウンドとは反対側の、
校舎のおもてのほうをぐるりとまわって、カメラのところに
たどり着きました。
「ねえ圭織、もう犯人は来ちゃったかもよ?そうだったら
もう夜中に来る必要ないじゃん。一度部室見てみようよ。」
「でもね、もしもカオリたちが部室に近づいたとこを
犯人に見られたら、作戦がおじゃんだよー。」
「じゃあさ、誰かが部室見てる間、ほかの誰かがまわりを見張ってれば?
あやしいやつが来たらさ、ケータイで知らせるってことにして。」
「そっかー。そうだよ矢口。その手があったじゃん。」
110ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:47 ID:???

 飯田さんがたてた作戦は、飯田さんが西門、矢口さんが東門を
見張って、わたしと亜依ちゃんが部室を見るというものでした。

・門を見張る寸前に犯人が入ってしまったばあいのために、
 飯田さんと矢口さんが門に向かってから3分間は、
 わたしと亜依ちゃんはカメラのところで部室をみはり、
 だれもこないのを確認したあとで部室に向かうこと。

・万が一、部室のなかに犯人がいた場合にそなえて、わたしたちは
 合いかぎでドアを開ける前に、一度ノブをまわしてみて、
 もしも鍵があいていたら全速力で部室から近い西門にいる
 飯田さんのところへ逃げること。

・もしもとちゅうでだれかが門から入ったら、
 西門の飯田さんはわたしに、東門の矢口さんは亜依ちゃんに、
 ケータイ(わたしと亜依ちゃんははPHSですが)で5回コールする。
 そのとき犯人に気づかれないように、ケータイは
 マナーモードにしておいて、さらに画面の光を見られないように
 ポケットに入れたままにしておく。
 どちらの門から人が入ったのかは、わたしと亜依ちゃんの
 どちらに着信したのかではんだんして、わたしたちは
 そちらの門から見えない側の部室のかげにかくれる。
111ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:48 ID:???

「あのー、はんにんが門じゃなくってフェンスをのりこえてきたら
どうするんれすか?」
わたしはしんぱいになって聞きましたが、飯田さんはちゃんと考えていました。
「だいじょうぶ。北側は部室からは門より遠くなるし、カオリか矢口のところを
通らないと部室には行けないから平気。東は野球場の高いフェンスがあるから無理。
西は植え込みが邪魔だし、フェンスの外に水路があってなかなか入れない。
南の部室の裏は、国道が通ってて目立ちすぎる。だからね、犯人はわざわざ
門以外から入ろうとなんてしないと思うよー。」

 全員、飯田さんがたてたこの作戦をしっかりと覚えて、いよいよ作戦開始です。
 飯田さんと矢口さんが、それぞれの門のほうに向かいました。
わたしと亜依ちゃんは、カメラのそばにかくれて、PHSの時計を見ています。
 3分たちました。わたしと亜依ちゃんは、音をたてないように小走りに
部室へ向かいます。
112ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:48 ID:???

 わたしがノブに手をかけました。なんだかとってもドキドキします。
ノブをいっぱいに回してそっと引くと……かぎはかかったままです。
 亜依ちゃんが鍵を開けて、ゆっくりとドアを開きました。
部室の中は真っ暗です。
 ドアを開けていくにつれて、街灯の光が部室の中をてらしていきます。
そしてやっと見えたボールのかごは……ちゃんと棚にのったままでした。
 わたしたちは、またそっとドアをとじて、かぎをかけると、来たときと
同じように、音をたてずにカメラのところへもどり、飯田さんと矢口さんに
合図の5回コールを送りました。
「残念、まだ来てなかったか……。夜中にも来なきゃなんないじゃん。」
「次はカオリと矢口だけだから、部室チェックできないしねー。」
「うーん、加護たちは明日学校あるもんなー。あ、平家先生やってくれるって
言ってたじゃん。」
「あ、そうだねー。じゃあ12時は平家先生と来ようかー。」
113ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:49 ID:???

 ところが、わたしたちが帰ったときには、平家先生と中澤さんはすっかり
よっぱらって、こたつにはいったままかんぜんにねむってしまっていたのでした。
「先生、いったい何しに来はったんや?」
「オイラたちの顧問なのになー。自分の差し入れ飲み食いしただけかよー。」
 すっかり静かになった下宿屋で、わたしたちは遅めのおふろをすませたり、
テレビを見たりしていましたが、10時を過ぎると、わたしと亜依ちゃんは
飯田さんと矢口さんに寝るように言われて、部屋におしこめられて
しまいました。
 でも、眠ろうとしても、修学旅行みたいにわくわくして、なかなか
眠れません。となりにいる亜依ちゃんとのおしゃべりは、いつまでも
つづきました。
114ashinobu ◆Askaw.ME :01/12/21 21:50 ID:???

 ほとんどはどうでもいいような話ばっかりだったのですが、
わたしがふと矢口さんのことについて聞いてみると、
亜依ちゃんはこんなことを話してくれました。
「ウチな、小学1年んときに越してきたやんか?そんでな、
最初は友達おらんかった。近所の子らもな、はじめはウチのこと
避けとるみたいやったし。ほら、ちっちゃい子ってよそもんに対して
そういうとこあるやろ?
 そんなとき、ウチに声かけてくれたんが、ガキ大将の矢口さんだったんや。
そのころ近所に"たんぽぽ公園"ってのがあってな、そこでいっしょに
野球とかして、そうやってウチもだんだんと友達増えていったんや。
 矢口さんおらんかったら、ウチ、もっと暗なってたかもしれんで……。」

 わたしは、亜依ちゃんにもそんなころがあったなんて、
このとき初めて知りました。