1 :
教えて:
「あ〜か〜る〜い ナショ〜ナ〜ル」と来たら水戸黄門だろ! ゴラァ!
何で辻が目玉焼き作ってんねん!!
2 :
名無しさん:01/10/17 04:09 ID:???
『いいらさんの事件簿 〜The Case-Book of Kaori Iida〜』
1,桃色の研究 〜A Study in Pink〜
"その人"にはじめてであったのは、わたしが中学1年のときの、
冬休みのすこしまえのことでした。
その年の春から、わたしは家からバスと電車で1時間ちょっとかかる
私立の中学にかよっていました。でも、2学期にもなってくると、
学校の方も部活とか委員会活動とかですっかりいそがしくなって、
行き帰りに長い時間かけるのが、とってもたいへんになってきたのでした。
いつも「つかれた〜」ばかり言っているわたしを見かねた両親は、あるとき、
遠縁に当たるという人がやっている、学校の近くの下宿屋をわたしにすすめました。
わたしは、ひとりで知らないひとのところにいくのはちょっといやだったのですが、
学校に通うのはもっとたいへんだったので、おもいきってその下宿屋に
お世話になることにしたのでした。
おとうさんに書いてもらった地図をみながらたどりついたその下宿屋は、
ほんとうに学校のすぐ近くで、わたしがいつも使っていた駅とは反対がわに
ありました。
とっても古いたてもので、かべはこげちゃいろの木の板。屋根はでこぼこのある
赤いトタンでした。
「ごめんくらさい」
「はーい。ちょっとまっとってやー。」
なかなかうごかない玄関の戸をやっと開けてあいさつすると、髪を金色にそめた
ちょっとこわそうなおねえさんが、のそのそと出てきました。
この人が、わたしの遠縁にあたるというここの管理人さんの
中澤さんというひとだったのです。
「あんたが辻さんちのののちゃんか。えらいかわいらしぃなあ。
ウチにもこんなころがあったんかいなー。」
そう言って、目を細めてわたしにほほえみかけた中澤さんは、
話してみるととってもやさしい人でした。
二階のわたしが使う部屋に案内されてとりあえず荷物をおくと、
中澤さんが言いました。
「ウチんとこの下宿人、あんたが来るまで1人だけだったんや。
その1人ってのがな、あんたんとこの高校の生徒さんなんやけど、
ちょっと変わった子やねん。
あ、べつに悪い子やないから、こわがらんでもええで。ただ、
ときどき変わったことおっ始めんのや。
ま、いつものことやから、あんたも驚かんといてや。
性格はええ子やから、きっと仲良うできるとおもうでぇ。」
その"ちょっと変わった"人が、そのあとずーっとずーっと、
わたしのとってもたいせつな人になるのでした。
「疲れたやろ。まあ、ちょっとゆっくりしいや。」
そう多くもない荷物をほどいたあと、中澤さんにそう言われて、
わたしは管理人室でお茶とお菓子をごちそうになっていました。
まどからはわたしの通う学校がすぐちかくにみえます。
いままでは、朝はおとうさんよりも早く家を出なければなりませんでしたが、
これからはやっとふつうの時間におきられます。放課後の部活のあとにも、
いままでよりもずっと長くともだちといっしょにいられます。
わたしはこれからのことを考えて、なんだかわくわくしてきました。
ひとつ気になっていたこと・・・
それは、この下宿屋にわたしといっしょに住むという、
もう一人の人のことでした。
変わった人ってどんな人なのでしょう?
中澤さんとの話もしぜんにそのことになるのですが、
中澤さんはにやにやしてなかなか教えてくれません。
そのとき、がたがたと玄関の戸をあけるおとがしました。
「ただいま〜」
「あ、話題の主が帰ってきよったで。さ、あんたも来ぃ。紹介するわ。
カオリ〜、新しい仲間来とるで〜。」
そのとき、わたしはきんちょうして心臓がどくどくいっていたのを
今でもおぼえています。
「あなたが辻さんね。はじめまして。飯田圭織です。」
そう言ってほほえんだその人は、わたしと同じ学校の、高等部の制服を着ていました。
背が高くて、目がおおきくて、長くのばした髪が似合っている、とってもきれいな人でした。
それだけでも、わたしにはとっても強くいんしょうに残っただろうと思いますが、
そのつぎにそのひとが言ったことは、ほかのことをぜんぶふきとばしてしまうほど
わたしをびっくりさせたのでした。
「あなた、『ダンシン’ドーナツ』によく行くわりには
あそこのドーナツは嫌いみたい。そうでしょ?」
「え?なんれそんなことわかるのれすか?」
わたしは確かに『ダンシン’ドーナツ』にはよく行っていました。
放課後の部活が終わっての帰り、電車からバスに乗り換えるときに、
いつもいっぱい待ち時間があるので、バス停の近くにあるその店で
おやつを買うことが多いのです。
でも、なぜその店のドーナツが嫌いだということまでわかるのでしょう?
わたしは思わず中澤さんを見ました。中澤さんは、いたずらっぽくわらっています。
『ほら、さっそく始まった』とでも思っていたのでしょう。
わたしがきょとんとしていると、飯田さんは話してくれました。
「あなたのその髪留め、あの店の中華まんのおまけだからねー。」
「なーんら。そういうことだったのれすね。
れも、ドーナツだって好きかもしれないれすよ。
たまたま今日はこれをつけているのれすけど、
ドーナツのおまけのほうも持っているかもしれないのれす。」
「そのおまけはね、今週始まったばかりなんだよ。
でね、それってスタンプ10個でもらえるでしょ?
商品1個で1つスタンプもらえるんだから、あなた、
今週だけでもう10個も中華まん買ったってことになるの。
まだ中学生だし、おこづかいの量とか、食べる量とか考えれば、
ほかにドーナツなんて買う余裕ないでしょ?
ドーナツ専門のあの店で、そのおまけがもらえるくらい中華まんばかり買うってことは、
あそこのドーナツがきらいなんじゃないかなー・・・って思ったの。」
「そうなのれす。あの店のドーナツは、ののには甘すぎるのれ、いつも中華まんばかり
買っているのれす。いいらさんは、なんでもお見通しなのれすね・・・。」
「そんなことないよー。カオリにはねー、あとはあなたがバレー部だってことくらいしか
わからないよー。」
わたしはまたおどろきましたが、あとで飯田さんは、わたしの手の赤くなっていた場所で
わかったと教えてくれました。たねをあかせばかんたんなことです。
こうして、わたしと飯田さんの、毎日がおどろきのれんぞくの新生活がはじまったのでした。
つぎの日から、わたしと飯田さんは、まいにちいっしょに学校に行くようになりました。
さいしょの日、下宿屋を出ると、飯田さんは言いました。
「ねえ辻さん・・・」
「辻でいいれすよ。」
「じゃあ、つ、辻、・・・カオリね、いろんな謎をといたり、問題を解決したりするのが得意なんだ。
だからね、辻も、何かあったらいつでもカオリに言ってね。」
「わかったのれす。さいしょに会ったとき、のののこといいらさんに当てられて、
とってもおどろいたのれす。いいらさんなら、なんでもみやぶってしまいそうなのれす。」
「昨日のはそんなに大したことでもないよ。初歩的なことだからねー。
あ、それより、カオリはねー、ときどき、部屋で変な実験するけどいいかな?
あと、いろんな人がカオリの部屋に来るんだけど、気にしないでね。
それと、ほんのたまに、夜中にだまって出かけたりするけど心配しないで。
それから・・・カオリね、考えごとしてると、話しかけられても反応しないことがあるから、
そんなとき、何か怒ってるんじゃないかとか、病気なんじゃないかとか、思わないでね。」
わたしは、その話を聞いて、ちょっとしんぱいになりました。飯田さんは、やっぱりふしぎな人です。
でも、そのあと、わたしとならんで歩きながら、学校のいろいろなことを話してくれた飯田さんは、
やさしくて、物知りで、頼りになる、とってもいい人でした。
久々に娘。小説を読んでみることにする
ブックマークしといた、頑張れ
ホームズか、懐かしいな。
モリアーティ教授は誰がやるんだろ?
がんがれ。おもしろそうだ
>>11のつづき
飯田さんが言っていたように、飯田さんの所へはいろいろな人が訪ねてきました。
わたしたちの学校の人がほとんどでしたが、ときどきは、大人の人や、遠くから来た
という人もいました。
どの人も、なにか困ったことを、飯田さんにかいけつしてもらいに来たのです。
そしてわたしが見たどの人も、みごとに問題がかいけつしたのでしょう、
さいごにはみんな安心したようすで帰っていきました。
飯田さんは、「実験」だと言っては、ポスターの日焼けが日がたつにつれてどのくらい進むのかとか、
ソフトクリームがとけるまでの時間と気温の関係とか、いろいろと変わったことをしらべていました。
わたしはそんな実験がとてもおもしろそうに見えて、だんだん、飯田さんの部屋へ押しかけては
実験のお手伝いをしたり、いろんなおはなしを聞いたりするようになっていきました。
冬休みも終わり近くとなったある日、わたしは、バレー部の練習試合のため、学校にきていました。
わたしが初めて飯田さんといっしょにかいけつした(といっても、ただついていっただけでしたが)
きみょうな事件が、この日に始まることになるなんて、もちろんそのときのわたしは
知るはずもありませんでした。
この日の練習試合では、わたしはまだ補欠でした。私たちの部は都内でも強いほうで、
この日の相手はわざわざ神奈川から強いチームをよんでいたのでした。
午前の試合が終わり、みんなで昼のお弁当をたべようとしているときでした。
わたしが手を洗いに流し場へ行くと、なにかを言い争うような声がきこえたのです。
見ると、相手チームのトレーニングウェアを着た人と、私服の人(たぶん応援に
来た人なのでしょう)が向かい合ってしきりに言い合っています。
「ねえ、よっすぃー、教えてよ。私に言えないことなの?」
「ごめん。言えないんだ。もうちょっと待っててよ。ね?」
「よっすぃー!最近おかしいよ!なにかあったの?私、よっすぃーのこと…心配で…」
「だいじょうぶだって。絶対に心配なことなんてないから。それじゃ。」
そう言って、走って仲間のところへ行ってしまった"よっすぃー"とよばれていた人のことは、
わたしもよくおぼえていました。たしか相手チームの副部長でした。
背がたかくて、だんとつに上手だったその人のブロックのせいで、わたしたちの部は
もうすこしというところで点がとれず、そのまま負けてしまったのでした。
わたしはさいしょ、ちょっとしたけんかだと思って、そのままにしておこうと思いました。
でも、取り残されたほうの人はとっても深刻そうな顔をしています。
みるみるうちにその人の目には涙が浮かんできました。そして、顔をかくすように
校舎の壁のほうに駆け寄ると、しくしくと泣きはじめたのでした。
わたしは、その人に声をかけました。近くで見ると、とっても女の子らしい人で、
男の子ならばきっと守ってあげたくなるような人だったと思います。
(そのころのわたしには、そういうことはあんまりよくわかりませんでしたが)
「あの…なにかこまったことがあるみたいれすけど、のののしっているひとに
そうだんしてみてはどうれしょう?」
「え?…ううん、いいの。ごめんなさい。心配させちゃって。」
「れも、そのひとはほんとうにすごいのれすよ。たとえば…」
その泣いている人は、そのときなかなかわたしのすすめを受け入れてはくれませんでした。
今かんがえると、むりもありません。知らない人に、そんな大事なことを相談するなんて、
ふつうはできません。
それに、そのころのわたしはとってもおさなく見えたのでしょう、
ただのあそびで言っているか、あるいはだれかにだまされているだけだと思われて、
信用なんてされなかったとしてもとうぜんです。
でもそのときは、わたしがいっしょうけんめいにすすめたので、その人はその日の夕方に
飯田さんの所へ来てくれることになりました。
夕方、わたしたちの下宿屋にきたその人は、まだちょっとけいかいしていたようでした。
飯田さんは、そんなようすを見て、その人にやさしく話しかけました。
「私が飯田圭織。もしよければ、あなたの力になりたいんだけど…。」
ただそれだけのことを言っただけなのですが、飯田さんの笑顔には、人を信用させる、
とくべつな力があるようでした。その人は一気に話し始めました。
「あの…私、石川梨華といいます。えーと、高校1年で…、あの、友達のことで…、
あの子は、絶対にそんな子じゃないんです!」
「さあおちついて。カオリにまかせれば安心だから。
とりあえず、カオリにはねえ、あなたが鎌倉の高校に通ってるってこと、
以前…おそらく中学時代、テニス部だったけど、今はやってないこと、
『ザ・ピース』っていうレストランチェーンで働いてるってこと、
そして…『ひとみ』って子ととっても仲がいいらしいってことくらいしか
わからないよ。」
飯田さんの言ったことを聞いて、その人…石川さんは、とてもおどろいたようすでした。
「え!?なんでそんなことわかるんですか?」
「高校はね、あなたの持ってるそのセカンドバッグについてる校章からわかる。
"高"って字の下に"kamakura"ってはっきり書いてあるからね。
まさか他校の指定バッグは持ち歩かないでしょ?
部活についてはね、まず、そのウインドブレーカーは、テニス用品のブランド。
肩のところにあなたの名前が刺繍されてるってことは、自分で買ったんじゃなくて、
チームでまとめて買ったものなんでしょ?でね、テニス部でなければそのブランドのは
まず使わないはずだよー。
でもね、そのモデルは3年以上前のだから…その会社、3年前にロゴが変わったんだよ…
だからね、高校に入ってから買ったものじゃないってわかる。そのうえ、あなたの手、
爪をきれいに伸ばしてる。高校の現役の運動部員がそんな爪してたら叱られるはずでしょ?
そしてそのバッグのポケットに裏返しにつけてある名札、裏から見ても、
誰でも知ってる『ザ・ピース』のマスコットの水兵さんの形してるのがわかるよ。」
「そ…そういえばそうですね…。でも、なんでひとみちゃんのことまで…。」
「バッグにぶら下がってるマスコットに"ひとみ"って…。
それって、好きな文字を入れられるんだけど、あなたは石川梨華さんだから持ち主の名前ってことはない。
だからだれかほかの、あなたと仲のいい人の名前なんじゃないかなって…。」
「飯田さんって…なんでもわかるんですね。飯田さんなら、よっすぃーのことも
わかるかもしれない…。」
つづく
みなさまへ
ごらんの通り、ホームズパロディーの「娘。」版です。
原作そのものだけでなく、多数のパロディーの存在でも有名な作品なので、
私のいたずら心から、どなたかが気づくまで待っていました。すみません。
(パクリ批判もありますし、私も丸写しや過度の盗用には反対です。)
ストーリーはホームズの流儀をちりばめながらも独自のものなので、
「教授」は出てきません。
「青いガーネット」や「赤毛連盟」「唇のねじれた男」のような感じのものを
目指してみますが、おそらく全然違ってしまうことでしょう。
(題名は早川書房版の大久保康雄氏の訳をもとにしています)
ホームズ好きなので楽しみにしてます。
がんばってください。
23 :
名無しさん:01/11/08 04:11 ID:VZJ/ycxS
ホームズは読んだことないけどおもしろかったです。つづき期待してます。いつ頃更新する予定ですか?この文章保存できないのかなー?
24 :
露口 茂:01/11/08 22:51 ID:???
名スレの完成。
と
>>20のつづき
こたつにすわり、飯田さんのいれた紅茶を一口飲んで、
石川さんはやっと少しはおちついたようでした。
「そろそろ聞いてもいいかな?一体なにがあったのか、あんまり関係
ないんじゃないかって思うようなこまかいところも含めて、できるだけ詳しく。」
「あ、それではののはこれで。」
話がかくしんにせまってきたのでわたしが立ち上がって出ていこうとすると、
飯田さんが呼び止めました。
「辻も一緒に聞いてみない?この事件は、辻が紹介してくれたんだし。
石川さん、いいでしょ?
辻はね、最近カオリのこといろいろ手伝ってくれてるんだけど、
なかなか頼りになるんだよー。」
飯田さんにそう言ってもらえて、わたしはその場で走り回りたいほど、
とってもうれしかったです。
石川さんもうなずいたので、わたしもこたつに入って話を聞くことにしました。
石川さんは話しはじめました。
「私には、吉澤ひとみちゃんっていう友達がいるんです。
あの、いつもは"よっすぃー"って呼んでるんですけど。
ひとみちゃんと知り合ったのは、私が中学3年になったときでした。
私、ひとみちゃんと同じ中学にいて、ひとみちゃんはそのとき2年生だったんです。
私とひとみちゃんは、保険委員でいっしょになったのがきっかけで、
当番の時なんかに2人で話をするようになりました。
学年は違うんですけど、ひとみちゃんとはなんだか話しやすくて、私たちは
どんどん親しくなっていきました。誕生日が近かったってこともあって、
敬語とかいらないっておたがい決めたりして。
そのころ、私、テニス部の部長やってて、いつも"しっかりしなきゃ"なんて思って、
ちょっと無理してたところがあったんですけど、ひとみちゃんはどことなくのんびりした感じで、
細かいところは気にしない子なので、ひとみちゃんの前では私もなんだか気楽でいられたんです。
でも案外しっかりしてるところもあって、それに運動部どうしなので部の苦労なんかも
わかりあえて、私、ひとみちゃんをとっても頼りにもしてたんです。
ひとみちゃんのほうでも、いつもはクールなんですけど、私には気楽に甘えたりすねたり
できるみたいで、先輩だなんて堅苦しく思わずに親しみをもってくれました。
でも、ときには私をお姉さん扱いして、勉強のこととか、新聞で見たこととか、
いろいろ聞いてきたりして、頼りにしてくれてたところもあったみたいなんです。
あ、すみません、関係ないことばかり……。」
「そんなことないよー。カオリにはね、そういったことも推理の重要な手がかりになるから。
でも、いい友情だねー。辻もそう思わない?」
「うらやましいのれす。のののともだちなんか、いっしょに『ウンコ』とか言って
ばかなことしてるだけなのれす。」
そんなわたしたちの話を聞いて、石川さんはちょっと照れているようでした。
つづく
お読みいただきありがとうございます。
この文章が、シャーロキアンの激怒を誘わぬ範囲に収まれば幸いです。
原作をご存じない方がこの文章を読んで感じる面白さのほとんどは、
おそらく原作者であるA.C.ドイル卿の功績であろうと思われます。
ぜひ、
>>21で挙げた3作品(「シャーロック・ホームズの冒険」所収)だけでも
お読みになることをおすすめします。
>>27のつづき
「で、その"ひとみちゃん"のことで、最近なにか問題があったわけね?」
「そうなんです。
私が卒業したあとも、ひとみちゃんと私はよく会っていました。
特に秋頃からは、毎週土曜日に受験勉強をみてあげていたので。
でも……。
あれはクリスマスの少し前だったと思います。その日、私はバイトを
…あの、"レストラン『ザ・ピース』"で…やってたんです。
私の勤務時間は、普段は夕方の5時から8時までです。
あれは仕事についてからすぐだったので、多分5時半ごろだったと思います。
私が窓際のテーブルの片づけをしていて、何気なく外を見ると、
ひとみちゃんが歩いていたんです。
なにかの買い物の帰りらしくて、大きな紙袋を抱えていました。
ひとみちゃんは、私が仕事しているときに店の前を通ると、
いつもは必ずなにかあいさつしてくれてました。
あ、もちろん仕事中なので、毎回私が気づくってわけじゃないんですけど、
中をのぞいてみて、レジに立ってるときには正面で手を振ったり、
そのときみたいに窓際にいるときなんかは、窓をコツコツやったりとか…、
いつも何かしては私に気づかせようとしてくれてたんです。
でも、そのときのひとみちゃんは、全然こっちを向かなかったし、
なんだか早足で通り過ぎたように見えました。
私、そのときは、何かで急いでるんだろうと考えて、
『珍しいな』くらいにしか思ってなかったんです。
そして、次に会ったとき…あの、さっき言ったように、
土曜日にはひとみちゃんの家庭教師みたいなことをしてたので、
そのときになにげなく聞いてみました。『この前町にいたでしょ?』って。
そうしたら、ひとみちゃんは『行ってない』って言うんです。
『でも、私見たよ?』って言っても、人違いじゃないかって……。」
「で、もちろん人違いなんかじゃない…と。」
「そうなんです。私がひとみちゃんを見間違えるはずありません。
服もひとみちゃんのもっているものだったし、髪型も、歩き方も……。」
「うーん…で、"ひとみちゃん"の態度とかで、
そのほかにそれ以前とどこか変わったところは?」
「それが、全然変わらないんです。冬休みの間も、週4回くらいずつは
勉強を見てあげたりとかで会ってたんですけど、そのあいだ全然怪しい所なんてなくって、
本当に、ひとみちゃんは保険委員だったあのころと変わってないように見えるんです。
あ、でも……。」
「でもなあに?」
「なんだか、少し浮かれてるような…妙にハイテンションっていうか。
ほんのたまに、なんでもないのににこにこしてたり……。
気のせいかもしれないんですけど……。」
つづく
ここまでの話で ×保険→○保健
>>31のつづき
「あのー……。」
わたしは、石川さんの話をききながらおもっていたことがあったので
言ってみました。
「ひとみさんって人も、そのときはなにか理由があったはずなのれす。
いまも仲良くしているのれすから、石川さんはあんまりしんぱいしなくても
いいのれはないれすか?」
「うん。確かにそのとおりかもしれない。私もね、しばらくそのことは
気にしないようにしてたんだけど。でも……。
あのまま…なんにも知らないままだったらよかったのに……。」
「今日、何かあったのね?」
いつのまにか、飯田さんはしんけんな顔になっていました。
石川さんは、つらそうに話しはじめました。
「はい。あの、今日、ひとみちゃんの部は3年生の送別試合だったんです。
3年生は夏に一応引退しているので、ひとみちゃんが活躍するのは
久しぶりでした。私にとっては、絶対に見に来たい試合だったんです。
私は、ひとみちゃんの秘密についてはもう考えないようにしていたので、
もちろん、今日はそのことを誰とも話すつもりはありませんでした。
でも…試合の始まる少し前、観客席で、ひとみちゃんの後輩たちが、
ひとみちゃんの噂話をしているのが聞こえたんです。
その噂っていうのは…冬休み前のことだったらしいんですけど、
ひとみちゃんが、保健室の前でなんだか深刻な顔をして、中に入ろうかどうか
迷ってるみたいだったのを、その後輩のうちの一人が見かけたそうなんです。
で、その子が声をかけたら、ひとみちゃん、もじもじしてはっきり答えないまま
保健室の中へ入っていってしまったらしいんです。
そんなことがあったので、あの、その子たちの噂では、あの…ひとみちゃん、
なにか体のことで、深刻な……。」
「たとえば……『最近こないんです』とか?」
飯田さんは遠回しに言いましたが、石川さんの表情はいっそうつらそうになりました。
「……はい。でも、それはその子たちが冗談めかして言ってただけなんで、
まさかそんなことはないとは思うんですけど。
それに、ほかの噂もあったんです。同じ頃の出来事らしいんですけど、
ひとみちゃんと保田先生…保健室の先生なんですけど、その二人が、
いっしょに並んで学校から帰るのを見た子がいるんです。
ちょうど、私が『ザ・ピース』でひとみちゃんを見かけた頃です。
あ、あの…飯田さん?」
飯田さんは、目をみひらいて、むずかしそうな表情で石川さんを見つめたまま
ぴくりとも動きません。まばたきもしません。
でも、わたしにはそれが何なのかわかっていました。
「いいらさんは、いま、このもんだいにとっても集中しているのれす。
石川さんはそのままつづけてくらさい。」
「は……はい。それで、ひとみちゃんが保健室に行ったのも1回だけじゃなくて、
その子たちが何かの用事で保健室に行ったときは、毎回のようにひとみちゃんがいて、
先生と二人だけでかくれて何かを話してるみたいだったそうなんです。
それで、あの、これもその子たちが面白がって言ってただけなんですけど
…あの二人、つき合ってるんじゃないかって。
保田先生は、若くて年が近いせいか私達の言うことも真面目に聞いてくれるし、
とっても頼もしくて、私も保健委員のころから親しみをもってました。
でもまさかそんなことって……。
それで私、試合が終わってから、ひとみちゃんに聞いてみました。
最初はあたりさわりのないことを聞いてみたんですが、答えてくれないので、
つい、強い調子で問いつめちゃったんです。その噂のこととかまで。
でも、ひとみちゃん、『心配するようなことないから』って言うだけで……。
私、その時、ひとみちゃんが急に遠い存在になったような気がしたんです。
今日の試合、ひとみちゃんはとっても活躍していました。輝いてるって感じでした。
私なんて、テニスでもあんまり活躍なんてできなかったし、今はただなんとなく
高校とバイトに通ってるだけだし……。
それで私、ひとみちゃんが、手の届かない高いところへ行っちゃったような気がして……。
私、よっすぃーとは一番の仲良しだと思ってたのに…
それなのに、大事ときに私が力になれないなんて、
そんなの、悲しすぎる……。」
泣き出しそうになった石川さんに、飯田さんはやさしく言いました。
「うーん、今までの話だけでは、まだそう決まったわけじゃないみたいだよ。
石川さんも、ポジテブに考えようよ。その"ひとみちゃん"っていうか吉澤さんも
『心配ない』って言ってるんだし。
でも、いくつか興味深い点があるね。」
つづく
リアルタイム更新に立ち会えました。。。
このスレにも人がいたので安堵
>>37 ×大事とき→○大事なとき
速く続きが読みたいな♪
>>37のつづき
「飯田さん、本当に大丈夫なんでしょうか?それに、あの、興味深い点って
いうのは……?」
「例えばね、冬休みの間、あなたは連日吉澤さんと会ってた。でもそのときは、
あなたが見る限り、特に変わった様子はなかったんでしょ?
もし、後輩たちの予想の通りなら、あなたも何かちょっとした表情なんかから
異変に気づくはずだと思うよ。」
「はい。確かにそうですけど…でも、私の前ではうまく演技してたのかも……。」
「その可能性もあるけど、でもね、吉澤さんって、あなたにいろいろ聞かれても、
うまい作り話とかできなかったんでしょ?保健室の前で後輩に見られたときも、
うろたえた様子を隠せなかったんだし。
そういう子が、いつも一緒にいるあなたにずーっとばれないように振る舞える
とは思えないんだけど。」
「あの…でも、私もひとみちゃんが妙にニコニコしてたのには気づきました。
あれは保田先生のこと思い出してたのかも……。」
「それなんだけど、保田先生って女の人だよね?」
「え?そ、そうですけど……。あの、飯田さん、保健室の先生って、
男の人は、なれないんですよね?」
「ううん、男の人でもちゃんとなれるんだよ。でもほとんどいないし、
あなたも特に言わなかったから女の人だとは思ってたけど。
それでね、吉澤さんが女の人とつき合ってるのなら、あなたみたいな
女の子と、そう何回も会うはずないんじゃないかな?って思うの。
もしもカオリなら、彼氏がいるのにほかの男友達とそんなにしょっちゅう
会うなんてことはしないよ。
もちろん、同性だからちょっと違うっていう可能性もあるけど、
そうだとしても、会いすぎなんじゃないかな?
どう?吉澤さんって、そういうの気にしない子?」
「そんなことはないと思います。だとすると、保田先生とは
そんなに深い付き合いじゃないかもしれませんね。ただの仲のいい
先生っていう感じで。」
「でね、もしそうなら、あんなに隠そうとする必要はないでしょ?
特にあなたのような親友になら、『最近保田先生と仲いいんだ』くらい
言ったって全然普通のはずだよ。」
「そうですね……。」
「あと、最初の、あなたのバイト先で吉澤さんを見かけたっていう
話なんだけど、あれって、保田先生のことと関係あるのかなあ?
そのとき、吉澤さんは確かに一人だったの?」
「はい。それに、今日、私、そのこともひとみちゃんに聞いたんです。
『なにか関係あるの?』って。
でもひとみちゃんは、ただ『心配ないから』って言うだけで、
関係あるともないとも言ってくれなかったんです。」
「うーん、だとすると、関係あるっていう可能性の方がちょっと高いかな?」
「え?それはなぜですか?」
「あなたに疑われてるんだから、関係ないのならそう正直に言って
疑いを少しでも晴らそうとするはずだよ。」
「ああ、なるほど。」
「気になるのは、なぜ吉澤さんがそのことを隠そうとするのかってこと。
保田先生は一緒じゃなかったんだし、あの時間帯にあの場所にいるのは、
別におかしなことじゃないでしょ?」
「はい。放課後の時間でしたし……。」
「だとすると、問題はその時手に持ってた荷物なのかな?どんなのだったの?」
「あの、あまりよく見なかったんですけど、これくらいの紙袋です。」
石川さんは、学生カバンよりちょっと大きいくらいの形を手でつくりながら
言いました。
「それって、重そう?軽そう?」
「えーと……軽そうでした。たしか片手でおなかの前に抱えてましたから。」
「で、固そうだった、柔らかそうだった?」
「柔らかそうでした。手に押されてへこんでたし、ちょっと
"くの字"に曲がってたんです。」
「包み紙はどんなの?何か書いてあった?」
「あれは確か……よく見かける模様でした。薄い水色で……黄色っぽい四角が
たくさん書いてある……。」
「ああ、それって"ホームタウンモール"のだね。でも、あそこ、いろんなもの
売ってるからねー。
こうなってくると、中身はあんまり特定できないね。とりあえず、普通の人が
見てもべつに怪しくは見えないものみたい。
だとすると、石川さん、あなたにだけ知られたくなかったんだと思う。
どう?心当たりなんてある?」
「いいえ。そんなもの思い当たりません。それ以上はわからないんですか?」
「残念ながらまだ材料が足りないんだよねー。
あのね、吉澤さんが何かを隠してるってことだけは確かなの。
そしてね、目撃証言から、例の噂みたいな仮説は立てられる。
でもね、吉澤さんの様子みたいなあいまいな手がかりの方は、
なぜかそんなふうな仮説にそぐわないものばかりなの。
ね?何だかおかしいでしょ?カオリもこれと似たような話ならいままでに
何回か聞いたことあるんけど、今回の話はそれらとはちょっと違うみたい。
何ていうのかな?あの、祭りの『おみこし』ってあるでしょ?
あれをね、担いでるひとが、何人もいるんだけど、カオリたちはね、
普通、前に進むと思いこんでるの。でもね、そう思って見てみると、
担いでるひとは、誰も前に行こうとしてないの。そしてね、
カオリたちが見ても、どこに行くのかわからないの……。」
飯田さんの話に、わたしと石川さんはちょっととまどってしまいましたが、
きいているうちになんとなくわかりました。
「……それでね、鍵になるのは、保田先生だね。
吉澤さんは、なぜ保健室に通ってるのか?保田先生に何の用があるのか?
保田先生なら、すべて知ってるはずだよ。」
「やっぱりそうですか……。」
「石川さん、どうする?この事件を解明したら、もしかすると
…カオリの予想だと可能性はすごく低いんだけど…あなたにとって
つらいことになるかもしれない。
このまま、わからないままでいるか、ちゃんと解明するか……。」
「あの、私、もう途中まで知ってしまった以上、これから何がわかっても、
ひとみちゃんのこと、受け止めようと思います。このまま、中途半端なままで
ひとみちゃんとつき合っていくことなんてできません。」
「わかった。とりあえず、吉澤さんの中学って、もう授業始まってるかわかる?」
「私にはちょっとわからないんですけど……。」
「あのー、あしたからはじまるっていってたのれす。」
わたしは、今日の試合中、相手チームのそんな会話を耳にしていたのです。
一方、わたしたちの学校は、まだ1週間も休みがあったのでした。
「それはよかった。それじゃ、辻、冬休み中の平日で暇な日ってある?」
「こんどの木曜日と金曜日は部活がないのれひまなのれす。」
「じゃあ石川さん、お願いがあるんだけど、今度の木曜日か金曜日、
保田先生に会わせてもらえる?それでね、吉澤さんと鉢合わせしちゃうと
まずいから…そうだね、午後の授業中の時間に。」
「はい。あの、できるとおもいますけど、どんな理由にしますか?」
「あのね、カオリは養護教諭を目指してて、保田先生に仕事について
聞きたいの。でね、辻はカオリの従妹。」
「あの、やっぱりののもいくのれすか?」
「行きたくないの?」
「行きたいのれす。」
「でしょう?そう言うと思った!だから辻の暇な日を聞いたの。」
「れも、ののなんかが行ってもいいのれすか?」
「もちろん。辻にはね、人の警戒を解く特別な才能があるから。
今日だって、石川さんを連れてきてくれたでしょ?
それに、なんといってもカオリの仲間じゃない?」
「わかったのれす。ぜひ行かせてもらうのれす。」
「さあ、今日はここまで。あとは保田先生に会ったときの結果しだいだね。
あ、もうすっかり暗くなっちゃってる。石川さん、駅まで3人で行こうか?」
こうしてわたしたちは、とりあえず保田先生に会う日を待つことになりました。
つづく
いや、面白いです。
名作集のカテキョ以来のののかおマンセー
>>48のつづき
木曜日の昼過ぎ、わたしと飯田さんは、電車にのって、
吉澤さんの学校のある横浜へと向かいました。
そのころのわたしは、電車のことはよくわからなくて、
学校とわたしのいえとのあいだしか乗れなかったのですが、
飯田さんは、地図を見なくても、どの電車に乗ればいいのか
全部わかるみたいでした。
わたしは、自分のいえと反対方向の電車に乗るのははじめてで、
それだけでなんだかすごい冒険に行くような気がしました。
横浜市内のある駅で石川さんとおちあって、わたしたちは吉澤さんの
学校へ行きました。よその学校に入るのはとてもきんちょうしましたが、
受付では飯田さんがうまく話したし、授業中なのでろうかにはだれもいなくて、
なにごともなく保健室につきました。
石川さんが引き戸をノックすると、「どうぞ〜」と声がしたので
わたしたちは中へと入りました。
「保田先生、お久しぶりです」
「おお、石川、久しぶりっ。あんた最近、吉澤の勉強見てやってるんだって?」
いきなり吉澤さんの話が出たので、石川さんはちょっとおどろいたようすでした。
保田先生は、聞いていたとおり若くて、てきぱきした感じのひとで、
なんだか友達みたいに石川さんに接しています。
「あ、はい。そうなんです。あんまり教え方うまくないんですけど。」
「そんなことないって。あんたのこと、吉澤がすっごく感謝してたよ。」
「そうですか。あの……最近吉澤さんに会ったんですか?」
「しょっちゅう会うよ。今日だって昼休みにここ来てたし。」
「え!?今日もですか?あの……吉澤さんとはどんな話を……。」
「だからいま言ったようなこと。ほとんどあんたの話だよ。
後輩にあんなに慕われちゃってー。あんたもなかなかいい先輩に
なったじゃん。あ、ごめんごめん。今日は大事な用事で来たんだったよね。
あの……あなたが飯田さんね?」
保田先生は、思い出したように飯田さんのほうを向いて言いました。
「はい。はじめまして。石川さんの友人の飯田圭織といいます。
あの、今日はお忙しい中すみません。」
「ハハハ。ぜーんぜん忙しくないから。」
飯田さんは、すっかり役になりきって、とってもなめらかに
じじょうを話しました。わたしも飯田さんに言われていたとおり、
いとこだといってあいさつをしました。
あいさつがすむと、飯田さんと保田先生はさっそく保健室の仕事についての
話をはじめました。わたしと石川さんは、部屋の中をぶらぶら歩き回って、
なにか手がかりがないか、それとなく探ってみました。
でも、保健室の中はよく整理されていて、なにかの手がかりになりそうな
ものは全然見つかりません。どれも、保健室にあってもあたりまえの
ものばかりです。
あきらめて飯田さん達のそばへ戻ったときでした。わたしは
保田先生の机に上に、なにかかわった文字の書いてある紙を
見つけたのです。
その紙には同じ字がたくさん並んでいて、ところどころに
違う字が列になって混ざっています。となりにきた石川さんも
気づいたようで、わたしたちは顔をみあわせました。
そのときです。
「あのー、これはなんですか?」
飯田さんが、その紙のはさんであるバインダーごと手にとって言いました。
わたしと石川さんは、飯田さんがどうするのか、いきをのんで見つめました。
でも、飯田さんはそのあやしい紙のほうはめくってしまい、一枚下の
名簿みたいな紙を見ています。
「それはね、ここに来た子の名前とかクラスとか、あと処置の内容を書くの。
あんまり来てないでしょ?今日なんて今までに3人だけ。
ここの生徒はよっぽど健康みたいだよハハハ。」
「病気や怪我じゃなくても、遊びに来たりする子はいるんですか?」
「わりといるよ。ほら、さっき言った吉澤って子とか。
いろいろとね、相談しに来たりするんだよ。でもそれがさ、
好きな子がいるだの、だれと喧嘩しただの、そんなのばっか。
まああんまり深刻なのばかり持ってこられても疲れそうだし、
私もね、お姉さんぶって教訓たれたりしてるんだよ。」
「じゃあ今日の昼休みなんかも大勢来たんですか?」
「大勢ってほどじゃないけど、3人だったかな?吉澤はずっといたけど、
あと2人は何だか新しい占いとか言ってさ、あたしに猫の絵かかせて
すぐ出てっちゃった。いつもこんな感じだよ。」
けっきょく、飯田さんはそのあとべつの話をはじめてしまって、
あやしい紙のことは気にしていないようでした。
飯田さんの話がすんで保健室を出ると、石川さんは残念そうに言いました。
「飯田さん、結局、何もわからなかったですね。」
「なに言ってんのさー。全部わかったよー。カオリも保健室の先生に
なりたくなっちゃった。だからね、カオリ、やっぱり1年浪人して……。」
「あの、飯田さん、そっちの話じゃなくて……。」
「ん?ああ、吉澤さんのことね?そっちもはっきりとわかったよ。」
「え?そうなんですか?私にはさっぱり……。」
「ののにもぜんぜんわからなかったのれす。あ、もしかして、いいらさんも
あのあんごうにきづいたんれすか?」
「暗号?」
「あの、バインダーの一番上にあった紙なんですけど……。飯田さん、
あれってひとみちゃんと関係あったんですか?」
「ああ、あれね。多分あれが今回の謎の正体だよ。」
「本当ですか?飯田さんってすごいですね!あれだけでわかっちゃうなんて!
あの、いったいなぜ、ひとみちゃんに関係あるってわかったんですか?」
「あのね、吉澤さんだけが昼休みにずっといたって言ってたでしょ?
あの名簿を見てみたら、最後に来た子は昼休み直前だったんだよ。
その上に挟まってるんだから、あの紙は昼休みよりあとで挟んだ可能性が高い。
朝からずっと挟んであって、いちいちめくりながら名前を書いたっていう可能性も
考えたんだけど、めくったんなら、クリップの所に折り目ができるはずでしょ?
おまけに今日は3人しか来てないから、書く場所がかなり上の方になってた。
だからね、はっきりと折り目がつくくらい強くめくらないと字は書けないはず。
でもあの紙にはそんな折り目はなかったよ。
それにね、あれは保田先生が仕事で使うようなものじゃないから、やっぱり
昼休みにずっといた吉澤さんに関係あるものだとおもうの。」
「それで、あれは何の暗号なんですか?」
「あのさー、あんたたちもあれ見たんでしょ?わかんないの?だめだよー。
女の子ならあれくらい知ってなきゃ。」
「あの……あれってそういうものなんですか?飯田さん、何なのか教えてください!」
「うーん……。せっかく吉澤さんと保田先生が秘密にしてたんだから、教えなーい。」
「えー!?飯田さーん!」
「でもね、はっきりと言えるのは、例の噂は全部間違いだってこと。」
「あの、それはどこでわかったんですか?」
「保田先生、なんにも聞かないのに吉澤さんの話を出したでしょ?
あの噂のとおりなら、その話は避けるはず。自分からその話題に振るなんて、
絶対にあり得ないと思うよー。どう?これで安心したでしょ?」
「ええ、まあ……。」
「あ、ところでさー、あなたの誕生日っていつ?」
飯田さんがいきなりそんなことを言いました。
「え?あの、1月19日ですけど……。」
「そっかー。ん?てことは明日じゃないの?」
「あ、そういえばそうでした!」
「だとするとね、明日全部解決するかも。っていうかまず間違いないと思う。」
「え?何でですか?」
「とにかく、心配ないってことはわかったでしょ?石川さん、これからも
かならず吉澤さんと仲良くできるよ。」
「そ、そうですか?私、まだよくわかってないんですけど……。
でも、ありがとうございました。飯田さんと辻さんのおかげで、
私、どうにか安心できました。本当になんとお礼を言ったらいいか……。」
「いいのいいの。カオリもね、この事件はいろいろ興味深かったし。
だいいち、わたしたち、友達じゃない?」
「ののも、いしかわさんとおともだちになれたし、それにやっとげんきになって
うれしいのれす。」
「お友達……ですか。それって、なんだかとってもいいですね。
私もお友達になれてうれしいです。」
そのあとわたしたちは、石川さんが普段働いているレストラン
「ザ・ピース」で夕食をごちそうになることにしました。
飯田さんはお礼なんていらないと言っていたのですが、
石川さんが電車代のぶんくらいはといって強くすすめたのです。
「明日、謎が解けるんですね?私、とっても楽しみです。
結果がわかったらご連絡しますね。あ、でも飯田さんはもう知ってるから、
連絡しても意味ないんですよねー。」
石川さんは、ちょっとすねたように言いました。
「でもね、きっと連絡したくなると思うよー。」
でも、わたしたちのところへ、石川さんからその連絡が来ることは
とうとうなかったのです。なぜかというと……
わたしたちが話しているとき、1人のお客さんが店に入ってきました。
わたしは、その人を見てはっとしました。
背が高くて、ちょっとたれた大きな目。
その人とは…吉澤さんだったのです。
吉澤さんは、きょろきょろとみせのなかを見まわしました。
そして、石川さんを見つけると、うれしそうな笑顔をして
駆け寄っていきました。
「あーよかった。梨華ちゃん休みだったらどうしようかと思った。」
「ううん、今日はお休みなんだけど来てるの。どうしたの?」
「本当は明日会おうと思ったんだけどね、急にバレーの合宿の準備に
呼ばれちゃって…。」
そう言って、吉澤さんは背中に隠していた紙袋を石川さんに差し出しました。
「梨華ちゃん、1日早いけど、お誕生日おめでとう!」
「えー!?なに?よっすぃー…。」
石川さんも立ち上がって、その紙袋を受け取りました。
「さあ、開けてみてよ。私なりにがんばったんだ。」
石川さんが紙袋を開けると、中からは、ピンクに白いアクセントの入った、
かわいらしくてとってもあったかそうなマフラーが出てきました。
「うわー、よっすぃー…あ…ありが…と…。」
「保田先生に教わったんだ。私、生まれて初めて編んだんだよ。
あ、あの…梨華ちゃん?どうしたの?」
石川さんの目からは、大粒の涙がぽろぽろと落ちていました。
「もう…私…とっても…心配したんだから……。」
石川さんは、涙をふいてどうにか笑顔をつくりながら、
そのマフラーをわたしたちのほうへ掲げて見せてくれました。
「紹介します。わたしの大事なお友達の…吉澤ひとみさん。
よっすぃー…この人たちはね、飯田圭織さんと辻希美さん。
私の…新しい…大事なお友達……。」
わたしたちが見たあのふしぎな暗号文は、編み物の図だったのだと
飯田さんが教えてくれました。
わたしたちといっしょのテーブルにすわらされた吉澤さんは、
ずっと保健室にかよって保田先生にこのプレゼントのそうだんを
していたこと、毛糸を買った日にこのレストランの前を通って
石川さんに見られてしまったことなどを白状しました。
「よっすぃー、ひどいよー。」
「そうだよー。もうちょっとうまくだましなさい。」
「ご……ごめんなさい。」
吉澤さんはちょっとだけ二人にお説教されてしまいました。
もちろんそのあと、吉澤さんとわたしたちも
だいじなおともだちどうしになったのでした。
第1話 桃色の研究 おしまい
読んでいただいてありがとうございます。
「カテキョ」ですか……。実は出会いの場面での飯田のせりふがそっくりでした。偶然です。
本作は、ジャンル的にあちらのような名作大作路線は無理でしょうね。
私の「ののかお」は、『純粋さ』がテーマです。
飯田は何も考えずに辻をかわいがり、辻は何も考えずに飯田を慕う。
お互いに、舌足らずとか電波とかいうことは全く目に入らない……。
これは本番中も素で怒ったり泣いたりするこの二人の様子からの創作です。
一方、常識人である「いしよし」は、相手に喜ばれようとか、相手が心配だとか、
余計なことを考えます。これはこれで美しいことですが。
今回、吉澤はのんき、石川はネガティブという欠点(=かわいさ?)を描いてみました。
実は、ミステリーのことはあまり知りません。なので、これってミステリーじゃないかも。
あと1話分のアイデアができてます。
一気に書き上げたんですね。
後半、話が急展開で終息に向かうトコなんかは、もーちょいジラしてもよかったかも?
「謎の暗号」とか「連絡がくる事はなかったのです」とか。(エラソーですいません)
でもホノボノ楽しく読ませて頂きました。
次回作も期待してます。
>>64 実は、「誰かのレスで結末をばらされてしまう」というのを恐れて
区切らなかったのです。バレない自信がなかったので……。
>>53 11行目 ×紙を→○紙があるのを
>>60 3行目 ×いきました→○きました
ほのぼのしてて良かったです。
とちゅうでいらんレスしなくて良かった(w
保全
2,ボールかご 〜The Case of the baskets for balls〜
加護亜依ちゃんは、中学校のときからのわたしの親友です。
入学したとき、わたしと同じ小学校の子はほんのすこししかいなくて、
みんなほかのクラスになってしまったので、さいしょはともだちが
だれもいませんでした。
クラスのほかの子たちは、おなじ小学校どうしではなしをしていたので、
わたしはなかなかなかまになれなくて、ちょっとこまっていました。
そんなとき、さいしょにわたしに話しかけてくれたのが、
背がおなじくらいでならびじゅんの近かった亜依ちゃんだったのです。
わたしと亜依ちゃんは、みんなから「ふたごみたい」とよく言われるほど
見た目はにていたようですが、どちらかというと内気なわたしとは反対に、
亜依ちゃんはものおじしない性格で、クラスの人気者でした。
わたしたちはそのころからずーっと親友どうしで、おたがい
"あいぼん""のの"とよびあうのはいまでもかわりません。
(いまでは、亜依ちゃんはわたしよりずっと背がのびてしまいました)
わたしがそのふしぎな事件のことを知ったのは、
2月に入ってまもなくの、ある晴れた日のことでした。
すっかり寒い季節になっていました。
わたしたちの学校には、この地域には珍しく暖房があったのですが、
それでも授業の間じゅうじっとしているとすっかり体が冷えてしまうので、
休み時間のたびにヒーターの前や窓際の日だまりにみんな集まってしまいます。
その日も、わたしは亜依ちゃんと日だまりにすわって
おしゃべりをしていました。そのとき、亜依ちゃんがふと、
ある事件のことを話したのです。
「そういえばね、最近、二日連続で、ウチらの部室、荒らされてたんや。」
亜依ちゃんは、ソフトボール部にはいっていました。小学校1年のときに
奈良からひっこしてきたので、すこし関西弁がまじります。
「え?どんなふうに?」
「ボール入れるカゴがね、床にぶちまけられとったの。」
「へー、わるいひとがいるねえ。でもさあ、部室ってかぎあるんじゃないの?」
「それがね、かぎはかかったまんまやの。だからね、ふしぎやなーって思って。」
そのときわたしは、こんななぞをとくのがとってもとくいなひとのことを
すぐにおもいうかべました。
「あのね、のののしってるひとでね、そういうことをあっというまに
かいけつしちゃうひとがいるんだ。そのひとにたのんでみようよ!」
つづく
もう時代劇もだめなんだろうな・・・
2部が始まってる!マターリ読ませてもらいます
いつもオフラインで読みますよん
>>71の続き
その日の放課後、部活を終えて体育館をでると、飯田さんが
待っていました。昼休みのうちに、会う約束をしておいたのです。
ふつう、高等部の3年生は、この時期、ほとんど学校には来ないのですが、
飯田さんは毎日のように学校に来ていました。図書室で、むずかしい本を
読んでいたようでした。
わたしと飯田さんは、さっそく女子ソフトボール部の部室へ行きました。
外で活動する部の部室は、グラウンドをはさんで校舎とは反対側の
フェンスぞいにあります。女子ソフトボール部の部室の場所は、
紺色の制服に着替えたおおぜいの部員のひとが部室前に集まっていたので、
すぐにわかりました。ほそながい建物の、ちょうど真ん中あたりの部屋です。
「きゃははー!カオリー、久しぶりー!」
わたしたちが近づくと、それまで亜依ちゃんとしゃべっていた
背のちいさいひとがかけよってきました。
さいしょは、わたしとおなじ中学1年生かな?と思いましたが、
その人の制服のえりとスカートの色は、飯田さんと同じ深緑です。
わたしたちとおなじ中等部であれば、そこはえんじ色のはずです。
「矢口じゃない?何であんたがいるの?」
「なんだよー!オイラは邪魔者かよー!」
「邪魔じゃないけどさあ、あんたとっくに引退したはずじゃないの?」
「へへっ。今日はただの野次馬。加護から面白いことあるって聞いたからさ、
ちょっと来てみたんだー。」
あとになってわかったのですが、その矢口真里さんというひとは、
高等部女子ソフトボール部の前の部長で、飯田さんとは
高校1,2年のときに同じクラスだったのだそうです。
それだけではなくて、亜依ちゃんともずっと前からの
お友達なのだそうです。
わたしは、としのはなれているふたりが仲良しなのは、
ちょっとめずらしいなとおもいました。
飯田さんは、部員のひとたちのほうをみまわしていいました。
「あれ?平家先生はいないの?」
平家先生は、ソフトボール部の顧問です。
高等部の部長らしいひとがこたえました。
「あのー……職員会議があって来れないそうです。なので、
部室の鍵のほうはもう返してしまったんですけど……。」
部活の終わる時間に、日直の先生が鍵が全部そろっているのを
確かめるので、それよりあとには鍵を借りられないのだそうです。
「ああ、それならだいじょーぶ。ほらっ!」
そう言ったのは矢口さんでした。鍵をもった手をめいっぱいにあげています。
それでも飯田さんとくらべるとあんまり高くないのですが……。
「あんたどうしたの?その鍵……。」
「ちょっと借りてきたんだー。顔パスでね。」
「えーっ?まったくー……。うちの学校も不用心だねー。そんなことだから
こんな事件が起こるんだよー。
じゃあね、寒いし、みんなに聞きたいことだけ手早く聞いちゃうよー。」
飯田さんは部のひとたちに、まず、あやしいひとを見なかったかをききました。
でも、だれもそんなひとは見てませんでした。
次に、最近なにか部に関係したトラブルがなかったかをききました。
でも、だれも思い当たらないようです。
さいごに、部室の鍵をどのようにあつかっていたのかをききました。
すると、部室の鍵は、いつも事務室にしまってあって、
平家先生がいるときには先生が受け取って、部活が終わるまでずっと持ったまま。
先生が用事で遅れたときは、高等部と中等部の部長のうち早く取りに行った方が
かぎをうけとって、部室をあけたあとはすぐに平家先生に預けるか、
事務室に一度返すようにしているということがわかりました。
「うーん……普段は鍵の管理はずいぶんときっちりしてるんだねー。
じゃあ、カオリからはこれでおわり。
みんな、わざわざ残っててもらってありがとー。」
「ありがとうございましたっ!」
『ありがとうございましたっ!』
部長の人のかけ声で、部員のひとたちがいっせいにおじぎをしたので、
わたしと飯田さんもあわててちょっとぎこちなくおじぎをしました。
「まだお礼を言われることなんてなんにもしてないんだけどねー。
それじゃ、中見せてもらえる?」
飯田さんは、入り口のドアのかぎ穴をしらべたあと、部室へと入りました。
たたみ3まい分くらいのひろさの、とってもちいさい部屋です。
左がわは、天井までぜんぶに、つくりつけの木でできた棚があって、
一番下の段にはバットを入れた箱のほか、ベースとか、いろいろ大きなもの、
その上の段にはボールを入れてあるかごが2つと、グローブの入った箱、
それよりも上の段には、くつの箱とか、小さめものがいっぱい置いてあります。
部屋の正面には、天井に近いほうに明かりとりの窓がありますが、
それ以外はぜんぶコンクリートのかべです。
飯田さんは、背伸びして正面の窓をのぞいたり、かべをたたいてみたり、
棚をじっくりと見たりと、手ぎわよく調査しています。
「ののの連れてきたあの人、さっすが本格的やなー。」
亜依ちゃんは、そんなようすを見て、たちまちそんけいしてしまったようでした。
「いいらさんのほんとうのじつりょくは、もっともっとすごいんだよー。」
わたしもわくわくしながら、飯田さんのやることをみまもっていました。
飯田さんは、一緒に残ってくれた中等部、高等部それぞれの部長さんに
1つだけ質問しました。
「このボールのかごって、いつも必ずここに置くの?」
「はい。毎日かならずここに置いてます。」
「あの、奥のほうが中等部の置き場所で、わたしたち高等部は
手前の方って決まってるんです。」
「そう……。うーん……今日はこれだけだね。ありがとー。もう帰ろう。」
飯田さんはずいぶんあっさりと調査をやめてしまいました。
「ねえ、どうなのカオリ?いつもの超能力で、もうわかっちゃったんでしょ?」
帰り道、矢口さんは楽しみでしかたがないといったようすでききました。
でも、飯田さんはなんだかうかない顔です。
「ううん。手がかりがなんにもないんだよねー。やっぱりあれをやるしかないかな。
今夜はちょっと大変だなー。」
つづく
86 :
ななし:01/12/01 00:32 ID:a1UkAfJ3
飯田ホームズと辻ワトソン・・・カコイイ!
87 :
ナショ・パナ:01/12/01 10:10 ID:K4QoB1K1
やっぱり入浴シーンは「後藤真希」で決まりだな。
期待sage。
>>28 >原作をご存じない方がこの文章を読んで感じる面白さのほとんどは、
>おそらく原作者であるA.C.ドイル卿の功績であろうと思われます。
いやいや。作者さんのオリジナルなおもしろさも十分ありますよ。
がんばってください。
>原作をご存じない方がこの文章を読んで感じる面白さのほとんどは、
>おそらく原作者であるA.C.ドイル卿の功績であろうと思われます。
それを言うならドイルの面白さはポーの功績ともいえます。
オリジナルとしても充分面白いですよ。期待してます。
おもしろいです。
続き期待してます
>84の続き
「えーっ!?それって何のヒネリもないじゃん!」
飯田さんの作戦を聞いた矢口さんが大きな声をあげました。
「仕方ないでしょー!いくらカオリでも部室見ただけじゃわかんないよー!」
わたしと飯田さんは、自転車をひく矢口さん、亜依ちゃんと4人で
帰り道を歩いていました。その途中に聞いた飯田さんの作戦……それは、
夜のあいだずっと、部室を見はるためにビデオをまわしておくというものでした。
「犯人はね、毎日部室を荒らしに来るんだから、習慣的に毎日決まった行動を
とる可能性が高い。
ビデオにもし映ってればね、犯人の来る時間帯とか、通り道とか、どうやって
部室を荒らしたのかがわかって、ずーっと捕まえやすくなるよー。
それにね、犯人はかなり限られるから、ビデオ見るだけでわかるかも……。」
「なになに?どういうこと?」
矢口さんは、さっきの失望とはうってかわって、とってもきょうみをもったようすです。
「あの部室、表のドアは鍵がかかったままだったんでしょ?
裏の窓にはほこりがびっしりたまってて、全然開けた形跡はなかったし、
だいいちそこにも内側から鍵がかかってたんだから、ドア以外からは入れない。
どこかにすき間があれば、そこから針金みたいなものを差し込んで
カゴだけ落とすこともできそうだけど、裏の窓とか表のドアのすき間は、
サッシがじゃまで差し込めそうになかったし、壁には特に穴なんてなかった。
あとね、隣の部室から壁を蹴ったりして、その衝撃でカゴを落とす
なんてことができないかとおもったけど、あの壁、すごく丈夫で、
そんなことできそうにない。
だからね、やっぱり、ドアを開けて中に入らないと無理みたいだから、
犯人は合い鍵を使ったっていう可能性がいちばん高いとおもうよー。
それでね、合い鍵を作る機会はかなり限られる。あの厳重な鍵の扱い方じゃ
合い鍵を作るくらいの長い時間、鍵をずーっと持ったままでいる機会なんて
ないんだからね。
合い鍵を作れるとすれば、平気で鍵を借り出せる人。たとえば……いまの矢口
みたいなね。」
わたしと亜依ちゃんは同時に矢口さんの方を見ました。
「ちょ、ちょっとー!ヤグチを疑うのかよーっ!鍵借りるのなんて
今日が初めてなんだぞー!」
むきになる矢口さんをみて、わたしと亜依ちゃんは笑いをこらえていました。
「まあね、事務室で聞けばすぐわかることだから。」
「なんだよー、カオリまでー。 あ、でもさ、合い鍵なんかなくたって、
"ピッキング"で開けられるんじゃないの?」
"ピッキング"のことは、最近テレビでよく紹介しているので
わたしもききおぼえがありました。ここではくわしくは紹介しませんが、
かぎをあけてしまうわざのことです。
亜依ちゃんも名前だけは知っていました。
「うーん、ピッキングなら、あの鍵くらい開けられるけど……。」
「カオリはさ、そのピッキングってできんの?」
「やり方だけなら知ってるけど。」
「そっかー、じゃあ犯人はカオリだな。いーけないんだ!」
矢口さんのおもわぬ反撃です。
「で、でもね、荒らしたあとでわざわざもう一度ピッキングして
鍵を閉めていくなんてこと普通しないとおもう。
だからね、合い鍵を使った可能性の方がだんぜん高いんだよ。
それでね、鍵を長時間借りることができるのは学校の関係者だけなんだし、
ビデオ見るだけで誰なのか特定できるとおもうよー。」
そのとき、亜依ちゃんが言いました。
「あのぉ、きょう飯田さんをよんだってことはもうバレてるんですから、
犯人はもう来ないのとちがいますか?」
「なんだよー、加護までさー。」
「ん?矢口さんってわけじゃなくって、ほら、部員はみんな
知っとるんやし……。」
「もしそうならね、犯人が警戒して来ないでいるうちに
鍵を交換してもらえば?
部室が実際に荒らされてるんだから、それくらいのことは
してもらえると思うよ。それで一応解決ってことで。」
「うーん……犯人がつかまんないとすっきりしないけどねー。
あ、ところでさ、今日のそのビデオ撮るの、ヤグチも手伝って
いいかな?」
「いいけど、徹夜だよー。」
「えー?ずーっとビデオ見張ってるの?」
「そんなことしないけどさ、カオリのビデオはね、バッテリーが
4時間もつんだけど、いちおう3時間で交換したいの。
3時間ならテープも標準モードで使えるし。
だからね、外が暗くなる6時にセットして、あとは9時、12時、
3時に交換、朝の6時に回収ってことにしたいんだけど。」
「そっかー、徹夜ならさ、圭織だけにやらせることなんてできないよー。」
「カオリはいいんだよ。これが趣味なんだから。」
「みずくさいぞー!これってオイラたちの部のことじゃん!
いやだって言っても手伝うぞぉー。」
「へへー、あのぉ、ウチも手伝っていいですか?」
「加護は授業あるだろーっ!やめとけよー!」
「いややー!ウチも手伝うーっ!」
「つじもてつだいたいれす!」
亜依ちゃんと私がだだをこねたので、飯田さんはあきらめて言いました。
「じゃあね、夜中はカオリと矢口だけでやるから、あんたたちはそのあいだ
ちゃんと寝てること。わかった?
とりあえず、中澤さんに2人を泊めてもらえるように頼まなきゃ。」
下宿屋に帰り、無事に中澤さんの許可をもらったので、そのことを
電話で知らせると、まもなく私服に着替えた亜依ちゃんと矢口さんが
自転車でわたしたちの下宿屋にやってきました。
「おや?カオリの同級生って子は来ーへんの?」
中澤さんが二人をみて最初に言った言葉はそれでした。
「あのー、カオリの同級生はあたしですっ!」
矢口さんは、きっぱりといいました。
「オトナにウソ言うたらあかんでー。どう見てもののの同級生やろ?
そんなコギャルみたいなかっこしててもウチにはちゃーんとお見通しや。
隠さんでもええで、背伸びしたい年頃やもんなあ。ウチもそうやったからなあ。
そういう子、ウチめっちゃ好きやでー!」
「うわー!やめろよー!」
中澤さんがいきなり『すきんしっぷ』をしようとしたので、
矢口さんはかなりあわてていました。わたしたちはもう慣れっこで、
かわしかたもおぼえていたのですが……。
飯田さんはそのとき、騒ぎをよそに自分の部屋でずっとビデオの準備をしていました。
カメラがばれないように箱に入れたり、電池が冷えると長い時間もたないからと
その箱に使い捨てカイロをつめたり……。
そのとき、もうひとりのおきゃくさんがやってきました。
「ちゃーす!姐さーん、カオリー、おるかー?……ん!?矢口と加護?
あんたたちもおったんか……。」
つづく
いろいろレスをいただいて恐縮です。
う〜ん,おもしろい。続きを期待。
>何で水戸黄門に辻と飯田が出てるんですか?
辻?
>99
ほんとだ、今頃気がついた(w
作者さんがんばって!
hozen
保全します。
ほぜむ。
続き期待
来週からは由美かおるでハァハァしながら実況するのか?
>96のつづき
「おおっ、みっちゃんやないか。久しぶりやなー。今日は何の用や?」
「カオリがな、ウチんとこの部室荒らしとっつかまえてくれるっちゅうから、
ほれ、陣中見舞いや。」
「そーかそーか、いつもすまんなー。」
「なんでいきなりあんたが手え出してんねん!これはな、カオリたちのために
持ってきたんやで!」
「その一升瓶は何や。教師が未成年に酒飲ますんか?」
「ちっ……ばれたか。ああそうやそうや。姐さんの分もちゃーんとあるでー。」
わたしたちの下宿屋へやってきたのは、平家先生でした。
「キャハハー。あたしらの分まで珍味ばっかしじゃん。」
「なんやとー矢口!あんたには食わせへん!」
先生は、わたしたちのためにいろいろ差し入れをもってきてくれたのです。
「ふーん、監視カメラかいな。よっしゃ!夜中の電池交換は
センセがやったる!あんたらは寝ててもええで。」
「でも、寒いですよー。それに、犯人に気づかれたらおしまいだしー。」
飯田さんは、平家先生にまかせるのがしんぱいなようでした。
「なんやー。このみっちゃんが信用でけへんのかいなー!」
「まあええやろ。こういうもんは圭織にまかしとき。ほら、もう時間やろ?
甘酒作っといたるさかい、風邪ひかんようにぱぱっと済まして来ぃ。」
こうして、わたしたち4人はカメラをセットしに学校に向かいました。
ほとんど夜のように暗くなった学校は、ちょっとこわくて、
昼間とはぜんぜんちがう場所のような気がしました。
「ここにセットするからね。ほら、ちょうど部室が見えるよー。」
飯田さんがカメラをセットしたのは、体育館と校舎のあいだの
細い通路でした。体育館の角から顔を出すと、部室は目の前でした。
「うまく街灯が部室に当たってるから、夜景モードにすれば
バッチリ映りそうだよ。」
飯田さんは、モニタを見ながらしんちょうに向きを合わせて、
カメラの入った箱をおきました。
「これでよしっと。」
「圭織、いよいよじゃん。」
「ウチもわくわくしてきました。」
「うまくいくといいれすね。」
その夜、わたしたちの下宿屋は、とってもにぎやかでした。
カメラをセットしたわたしたちが帰ったときには夕食の準備が
できていて、二人はすっかり酔っぱらっていました。
平家先生は仕事がきついとかいい男の人がいないとかいう
ぐちを言っていて、中澤さんは、それにとんちんかんな返事を
しながら、わたしたちにしきりに料理や甘酒をすすめました。
そのうち平家先生が来たときに自分が言ったことも忘れて、
ほんとうのお酒までむりやり飲ませようとしはじめて、
それにこたえた矢口さんが酔っぱらって物まねを始めたりして、
ほんとうに宴会のようでした。
おなかがいっぱいになると、亜依ちゃんと矢口さんは
「夕飯代のかわりや」と中澤さんに言いつけられていた
風呂そうじをはじめましたが、「うわー!めっちゃ冷たいやん!」
「加護ぉー!ちっとは手ぇ動かせよー!」とさわぐ声が、
2階にひなんしたわたしと飯田さんにも聞こえていました。
そんなことをしているうちに、9時の電池とテープの交換のじかんに
なりました。
「うわー!寒い!」
わたしたちはすっかり部屋のなかであたたまっていたので、
冬の寒さがとってもこたえましたが、犯人を見つけるために
みんなではじめたことなので仕方ありません。
校門を入ると、飯田さんは言いました。
「静かに!犯人にばれないように、こっちを通るようにするから。」
わたしたちは飯田さんのあとについて、グラウンドとは反対側の、
校舎のおもてのほうをぐるりとまわって、カメラのところに
たどり着きました。
「ねえ圭織、もう犯人は来ちゃったかもよ?そうだったら
もう夜中に来る必要ないじゃん。一度部室見てみようよ。」
「でもね、もしもカオリたちが部室に近づいたとこを
犯人に見られたら、作戦がおじゃんだよー。」
「じゃあさ、誰かが部室見てる間、ほかの誰かがまわりを見張ってれば?
あやしいやつが来たらさ、ケータイで知らせるってことにして。」
「そっかー。そうだよ矢口。その手があったじゃん。」
飯田さんがたてた作戦は、飯田さんが西門、矢口さんが東門を
見張って、わたしと亜依ちゃんが部室を見るというものでした。
・門を見張る寸前に犯人が入ってしまったばあいのために、
飯田さんと矢口さんが門に向かってから3分間は、
わたしと亜依ちゃんはカメラのところで部室をみはり、
だれもこないのを確認したあとで部室に向かうこと。
・万が一、部室のなかに犯人がいた場合にそなえて、わたしたちは
合いかぎでドアを開ける前に、一度ノブをまわしてみて、
もしも鍵があいていたら全速力で部室から近い西門にいる
飯田さんのところへ逃げること。
・もしもとちゅうでだれかが門から入ったら、
西門の飯田さんはわたしに、東門の矢口さんは亜依ちゃんに、
ケータイ(わたしと亜依ちゃんははPHSですが)で5回コールする。
そのとき犯人に気づかれないように、ケータイは
マナーモードにしておいて、さらに画面の光を見られないように
ポケットに入れたままにしておく。
どちらの門から人が入ったのかは、わたしと亜依ちゃんの
どちらに着信したのかではんだんして、わたしたちは
そちらの門から見えない側の部室のかげにかくれる。
「あのー、はんにんが門じゃなくってフェンスをのりこえてきたら
どうするんれすか?」
わたしはしんぱいになって聞きましたが、飯田さんはちゃんと考えていました。
「だいじょうぶ。北側は部室からは門より遠くなるし、カオリか矢口のところを
通らないと部室には行けないから平気。東は野球場の高いフェンスがあるから無理。
西は植え込みが邪魔だし、フェンスの外に水路があってなかなか入れない。
南の部室の裏は、国道が通ってて目立ちすぎる。だからね、犯人はわざわざ
門以外から入ろうとなんてしないと思うよー。」
全員、飯田さんがたてたこの作戦をしっかりと覚えて、いよいよ作戦開始です。
飯田さんと矢口さんが、それぞれの門のほうに向かいました。
わたしと亜依ちゃんは、カメラのそばにかくれて、PHSの時計を見ています。
3分たちました。わたしと亜依ちゃんは、音をたてないように小走りに
部室へ向かいます。
わたしがノブに手をかけました。なんだかとってもドキドキします。
ノブをいっぱいに回してそっと引くと……かぎはかかったままです。
亜依ちゃんが鍵を開けて、ゆっくりとドアを開きました。
部室の中は真っ暗です。
ドアを開けていくにつれて、街灯の光が部室の中をてらしていきます。
そしてやっと見えたボールのかごは……ちゃんと棚にのったままでした。
わたしたちは、またそっとドアをとじて、かぎをかけると、来たときと
同じように、音をたてずにカメラのところへもどり、飯田さんと矢口さんに
合図の5回コールを送りました。
「残念、まだ来てなかったか……。夜中にも来なきゃなんないじゃん。」
「次はカオリと矢口だけだから、部室チェックできないしねー。」
「うーん、加護たちは明日学校あるもんなー。あ、平家先生やってくれるって
言ってたじゃん。」
「あ、そうだねー。じゃあ12時は平家先生と来ようかー。」
ところが、わたしたちが帰ったときには、平家先生と中澤さんはすっかり
よっぱらって、こたつにはいったままかんぜんにねむってしまっていたのでした。
「先生、いったい何しに来はったんや?」
「オイラたちの顧問なのになー。自分の差し入れ飲み食いしただけかよー。」
すっかり静かになった下宿屋で、わたしたちは遅めのおふろをすませたり、
テレビを見たりしていましたが、10時を過ぎると、わたしと亜依ちゃんは
飯田さんと矢口さんに寝るように言われて、部屋におしこめられて
しまいました。
でも、眠ろうとしても、修学旅行みたいにわくわくして、なかなか
眠れません。となりにいる亜依ちゃんとのおしゃべりは、いつまでも
つづきました。
ほとんどはどうでもいいような話ばっかりだったのですが、
わたしがふと矢口さんのことについて聞いてみると、
亜依ちゃんはこんなことを話してくれました。
「ウチな、小学1年んときに越してきたやんか?そんでな、
最初は友達おらんかった。近所の子らもな、はじめはウチのこと
避けとるみたいやったし。ほら、ちっちゃい子ってよそもんに対して
そういうとこあるやろ?
そんなとき、ウチに声かけてくれたんが、ガキ大将の矢口さんだったんや。
そのころ近所に"たんぽぽ公園"ってのがあってな、そこでいっしょに
野球とかして、そうやってウチもだんだんと友達増えていったんや。
矢口さんおらんかったら、ウチ、もっと暗なってたかもしれんで……。」
わたしは、亜依ちゃんにもそんなころがあったなんて、
このとき初めて知りました。
つづく
なかなか進みません。ほかの人って文章もうまいし、書くのも早いね。
>>115 焦らずに、マターリとやってください。楽しみに待ってます。
XP入れたけどトリップはこのまま。
1さんのおかげでスレタイトルがうまく内容とあってますね。
>>117 早っ!感激です。
>>110の8行目(空白行含まず)
「合いかぎ」→「かぎ」ですね。あと、「鍵」と「かぎ」が混ざってるけど、
語り手は辻なので「かぎ」に統一してください。
>>118 >1さんのおかげでスレタイトルがうまく内容とあってますね。
ってことは、これから黄門様もでてくるわけですね(w
ほぜん。
いつも保全ありがとうございます。
一応、ここは1ヶ月くらいは保全なしでも大丈夫のようです。
>>114のつづき
いつの間にか眠ってしまったわたしでしたが、寝るのはおそかったのに、
ずいぶんと早く目がさめてしまいました。外はまだ真っ暗でした。
向かいの飯田さんの部屋で、小さな話し声と物音がきこえます。
わたしがおきてしまったのは、たぶんそのせいでしょう。
時計を見ると、5時55分です。もう、カメラを回収しに行く時間でした。
飯田さんと矢口さんは、出かけるしたくをしているようです。
寒いせいもあっていつもはなかなか起きられないわたしでしたが、
このときだけはすっきりと目がさめて、ぴょんと飛び起きました。
そして、となりに寝ている亜依ちゃんを起こしました。
「あいぼん。朝だよー。カメラ取りに行くじかんだよー。」
「……んあ…まだ眠いよ〜。かんにんしてや〜。」
「だめだよあいぼん。飯田さんと矢口さんは、夜中もちゃんと学校に
行ったんだよー。朝くらいいっしょに行かなきゃわるいよー。」
「……うーん…しゃあないなー…。」
平家先生は、きのう見たときのまま、中澤さんと一緒のこたつで
口をあけたまま寝ていました。そんなだったので、けっきょく
夜中の2回は飯田さんと矢口さんだけで学校へ行ったのだそうです。
朝も二人だけで行こうとしていましたが、そんなにたいへんなことを
しているのにわたしたちだけ楽をしていてはいけないと思ったし、
なにより早く結果を見たかったので、一緒に行くことにしました。
亜依ちゃんはかなりいやがっていましたが……。
冬の朝6時はとっても寒くて、息がまっ白です。わたしは、
痛くなった耳を手ぶくろをした手でおさえながら歩きましたが、
そうするとこんどはゆびのほうがいたくなってきます。
みんな何かをしゃべっていないとがまんできません。
「矢口、手袋履いてこなかったのー?」
「あーっ!忘れたよー!でもまあいっかー。」
「今朝なんてなまら寒いっしょ?よくそんな平気でいられるじゃん?」
「それよりもさー圭織?手袋って『履く』って言ったっけ?」
「そんなの普通だよー。」
「でもいいらさん、とうきょうではいわないれすよ。亜依ちゃんとこは?」
「そ…そんなこと…い…言わへんなー。うーっ寒っ。」
「北海道じゃ言うの。あっちは本場だからカオリのほうが正しいんだよー。」
「キャハハー。本場って何だよー。」
学校まではほんの2〜3分なのですが、校門につくまでには
空はだいぶ明るくなってきていて、まわりのけしきが青っぽく
はっきりと見えてきていました。こんな時間でも、会社にいく人とか、
おおぜいの人が道をあるいています。
「この時間になれば、もう犯人は来ないよ。部室見てみよう。」
わたしたちは、飯田さんを先頭に、まっすぐに運動場をよこぎって
部室にむかいました。
「よーし、じゃあ開けるよ。」
矢口さんが鍵をさしこんで、扉があきました。いっせいにのぞきこんだ
わたしたちが見たものは……
きのうとまったく変わらない、きちんとせいとんされた部室でした。
つづく
手袋を履くって・・・。
作者さんは、もしかして北海道の人?。
126から一週間たってるので、一応、保全しますね。
>126
北海道人ではないのですが、知り合いやTVからの情報で
北海道弁は少しわかります。関西弁は実はあまりわかりません。
>127
ありがとうございます。更新遅いですね。
なにげない場面ほどなかなか書けないものです。
>>125のつづき
けっきょく、犯人はこなかったみたいでした。
犯人がけいかいして、これから二度と部室が荒らされないのなら、
いいことなのかもしれませんが、せっかくのわたしたち
(特に飯田さんと矢口さん)の苦労がむだになってしまったので、
わたしはとってもざんねんでした。
でも、その日の放課後のことです。わたしが部活のために
体育館に向かっているときに、さっき教室で別れたばかりの亜依ちゃんから
メールが届きました。
『きょうもやられてたよ』
(やられてたって、部室荒らしのこと?)
バレー部の練習開始まで少しだけ時間があったので、
わたしはいそいでソフトボール部の部室に行きました。
部室のまえには、飯田さんと矢口さんもいました。
「カオリね、矢口と一緒に鍵開けに来たんだよー。そしたらね、
ほら、こんなになってたの。」
部室の中では、カゴが床によこだおしになり、いちめんにボールが
ころがっていました。
「昼間のうちにやられたのれすね?」
「それなんだけどね、カオリね、朝部室を見たとき、
念のためにドアに小枝をはさんでおいたの。
でもね、さっき開けたときにも小枝はそのままだったの。
だからね、朝からいままでに、だれもドアを開けてないってことなの。」
「密室殺人や……。」
「誰も死んでねーっつーの!」
亜依ちゃんと矢口さんも、思いもかけないできごとに
どうようしているようでした。
「確かに簡単には信じられないことだけどね、
昔の有名な探偵の言葉に、
『ありえないことを排除して最後に残ったものは、
それがいくらありそうにないことでも真実だ』
っていうのがあるの。
だからね、この場合、
"今朝部室を見てから今までの間に"
"ドアを開けずに"
このカゴを床に落としたとしか考えられないの。」
たしかに飯田さんの言うとおりかもしれません。
でも、そんなこと、ほんとうにできるのでしょうか?
「きっと……タンポポ公園のたたりなんや……。」
「加護ぉ、そんなもんあるはずないだろー!」
「でもぉ、これはじまったんは、ちょうどタンポポ公園
ツブされた日やったんですよー?」
「偶然だよ偶然!」
わたしも、矢口さんとおなじで、そんなことあるはずがないと
おもっていました。
でも、飯田さんは言ったのです。
「カオリね、それって案外当たってるんじゃないかと思う。」
このとき飯田さんは、わたしたちがぜんぜん考えてもみなかったことに
気づいていたのでした。
更新お疲れー。
次がラストですか。
どういう展開になるんでしょうね。
猛烈に楽しみです。
>132のつづき
数日後、わたしたち4人は、以前タンポポ公園のあったばしょに来ていました。
「むかしはずっとむこうまであったのになー。」
と言って矢口さんが指さしたところは、鉄パイプのさくと道路のあいだに
ちょっとだけ残った草むらでした。
さくのむこうがわは、地面が深くけずられてしまっていて、
茶色い土が出ている工事現場が、ずっと遠くまで広がっていました。
ここには、こんど大きな団地ができるのだそうです。
「なるほどねー、タンポポがたくさんある。だからタンポポ公園っていうんだー。
それにこれって国産タンポポじゃん!?珍しいなー。」
飯田さんは、地面にはりついたようになっている緑の葉っぱをみて言いました。
「ぜんぜんかわってもうたんやなー。ほら、あのへんには林があったんや。」
「なんにものこってないね。」
「あ、そうや!矢口さん、あそこにあった『お化けの木』って覚えてはります?」
「いつもクワガタとってた木だろー?覚えてる覚えてる。」
「なんで、『お化けの木』っていうのれすか?」
「その木ってさあ、なんだかデコボコしてて、穴があいてて、
ちょうど顔みたいに見えたんだー。」
「ウチな、最初はこわくて、一人で近づけんかった。あ、ののっ!
笑うんやないっ!」
「それにしてもさあ、これが部室荒らしの犯人だったなんてねー。」
矢口さんが、むかしタンポポ公園だった工事現場を見ながら言いました。
あの日、飯田さんがだしたけつろんは、わたしたちをとってもおどろかせる
ものだったのです。
ちょうど「部室荒らし」がはじまったのと同じ日に、この団地の工事も
はじまっていました。
掘った土をつんだたくさんのダンプカーが、昼間に部室の裏の国道を走るようになり、
そのしんどうで、ちょっとかたむいていた部室の棚に置いてあったボールかごが
すこしずつうごいて、夕方の部活のころには床に落ちてしまっていたのです。
夜にはダンプカーが通らないので、朝にかくにんしてもなんともなっていなかったのです。
用務員さんにたのんで棚のかたむきを直してもらってからは、
ボールかごが床におちることはぱったりとなくなったのでした。
「ほらほら、矢口さん!」
亜依ちゃんが、タンポポ公園だった草むらから何か拾ってきました。
「ん?なんだよー!そんなの拾ってくるなよー!」
亜依ちゃんが手に持っていたのは、すっかりカビて黒ずんでしまった
野球のボールでした。
「ただのゴミちゃいますよー。ほらっ。」
「あーっ!これって……小学校のときなくしたやつじゃん!」
そのボールには、『やぐち』と、ちょっとまがった字で書いてありました。
「なつかしいなー。いまごろ見つかるなんてなー……。あ、そうだ!
これ、加護が持ってな。」
「ボロいからいらんっちゅうことですかー?」
「そんなことない…そんなことないよ加護。ほら、オイラもうすぐ卒業じゃん。
もう加護ともあんまり会えなくなるから、だから……。」
卒業したあとも今の下宿屋にのこって近所の学校にかよう飯田さんとちがって、
矢口さんはこの町をはなれて遠くへ行ってしまうのです。
「わかりました矢口さん。ウチ、このきったないボール、矢口さんや思うて
大事にしますっ。」
「うん、大事にして……ん?いまなんか変なこと言わなかったかー!?」
亜依ちゃんは矢口さんからタタターっと走って逃げるとさけびました。
「矢口さーん、キャッチボールしましょー!」
そう言って亜依ちゃんが投げたボールは大きくそれてしまい、
矢口さんは追いつけません。
「キャハハー、ノーコン!それでもソフト部かよー、大事なボールだろーっ!?
またなくしちゃったらどうすんだよー!」
矢口さんは転がっていったボールを追いかけてひろうと、投げかえしました。
それをまた亜依ちゃんも投げかえして、2人のキャッチボールが続きます。
わたしは、たんぽぽ公園があったころのことを知りません。
でも、このときの矢口さんと亜依ちゃんは、黄色い花にかこまれて遊ぶ
ちいさかったころの二人のすがたをはっきりと思い出していたんだと思います。
第2話 ボールかご おしまい
あうー、完結ですか。
お疲れさんでした。
タンポポ良いよなあ。
お疲れ様です!
でも、ほんと、楽しみだったから終わるのはショック・・・。
できれば続けてほしいな・・・。
こんな作品でしたがいろいろと応援していただき恐縮です。
「タンポポ」が平仮名片仮名混ざってしまった…。平仮名のほうがかわいいかな?
続編を書くならば、登場しなかったメンバーを出したいのですが、トリックをまだ思いつきません。
>146
いいですよ。もともと自己申告でしたし。あちらはいつも見てます。今回の経緯も。
おもしろく読ませていただきました。また気が向いたら書いてくださいね。
>>145 続編、気長に待ちます!!
ぜひ、頑張ってください!
ほーぜん
続編期待保全
市後保全
さて
こんときは、『LOVEセンチュリー』で、顧客の心をゲットできたけど、
今年はど〜なんかぁ?
でも、日本テレビで新番組が開始!
まあ、6割方成功ってとこかな?
あとは、「きりり」のCM契約がどこまで続くかで決まりだね!
155 :
:02/07/19 23:19 ID:kU+oatXW
保全
156 :
電信アイボニーピンク:02/08/08 02:30 ID:szVznAJj
157 :
名無しちゃんいい子なのにね:02/08/08 03:40 ID:yGu0E1WU
>156
何が千Qだボケ!
保全
保田
全力
ここのスレ、長い間放置されている様なので、少々お借りして小説を書いても、宜しいでしょうか?
ありがとうございます。
前に飯田さんのホームズ物を、書いてらっしゃった方ですよね。
やはり、ミステリーが良いですか?
それとも、別のジャンルでも構いませんか?
>>162 えー・・・と、私が決めるんですか??
ここは私のものではなくてひろゆき氏が住人のために用意してくれた場所ですから、
私から特に注文をつけるつもりはありません。一住人として応援します。
超遅レスで申し訳ないですが、
アシモブさんのいいらさんの事件簿面白かったです!!。
飯田さんとののもゲストの面々も雰囲気がいいですね。
優しい展開も好きです。娘。出演でドラマ化希望。
いつか第三話以降を書いてくださることを期待しています。
『いいらさんの冒険』でまとまるくらいになるまで。
変わらぬ日常...。
瞬間の非現実...。
交ざり合い、紡ぎ出される運命...。
少年時代のfantasy...。
Happiness
第一話「Boy meet Girl」へ Let's access
「俺って、つくづく不幸な男だ...。」
取り合えず、予告編です。
ジャンルはファンタジー系です。
一応、主人公はオリジナルキャラで、娘。を絡ませながら、やっていこうと思います。
本編は推敲して、近日中にUPします。
それでは、また...。
167 :
164:02/09/02 19:22 ID:???
ashinobuさん大変失礼しました。
アシモフのもじりかと思ったので勘違いしてました。ごめんなさい。
Happiness
第一話
「Boy meets Girl」
俺という人間は、本当にツイてない。
俺の名前は、(七瀬純一)15歳、私立朝日野学園中等部に通う、ごく普通の中三男子だ。
そう、あの日までは...。
あれは夏期講習の帰り道、空が茜色に染まり始めた頃。
スッカリ遅くなった俺は、家路へと急いでいた。
「あちゃ〜、もう間に合わねぇ。今日の(Beauty KEMEKO)の録画予約し忘れたんだよな。」
焦って俺が近道しようと、いつも通っている天門町公園の中を横切っていると...。
「あなた...?」
”何だ?”
不意に誰かに、呼び止められ様な気がして振り返ってみた。
思えば、此がそもそもの不幸の始まりだったのかもしれない。
振り返ると、そこには白いサマードレスを着た、年の頃なら11〜2歳位の、口許からチラリと覗く八重歯がとても可愛らしい、笑顔の美少女が一人立っていた。
「あなた、七瀬純一しゃん?」
鈴が鳴る様な声で訊いてくる。
舌っ足らずなのか?言葉の語尾が幼児語に聴こえてくる。
その様子が、この少女の幼さをより一層際立たせている。
「あなた、七瀬純一しゃんれすよねぇ?」
俺がボゥ〜と見ていると、再三に渡り訊いてくる。
「うぅ〜ん、そうだけど。君、誰?」
取りあえず訊いてみる。まぁ〜、基本だろう。
「アッ、ヤッパリ、始めましてなのれす。ののはあなたを安らぎと幸せに導く天使なのれす。」(ニコッリ)
”?!”
飛びっ切りの笑顔で、とんでもない事を言ってくれるものだ。
あまりの事に驚き、俺の思考は一瞬止まり、体が固まってしまった。
だが、そんな俺を無視して、この(のの)とか名乗る少女は、一方的に捲し立てる。
「ののはれすねッ、天界正八級天使でぇ〜、ついこの前、天聖学園を卒業したのれす。
それでれすねッ、天門町地区の地上界管理局運命課でッ、守護天使係になったのれすよ。
それでッ、あなたの担当になって、地上に降りて来たのれす。
アッ、因みに地上界管理局運命課守護天使係って言うのは、地上の人々を良い方向に導きつつ、善行をするお手伝いとか、悪行をしない様、監視したり...。
アッそうそう、知ってましたか?
悪の心って、魔界の悪魔達の影響なんれすよ。
アイボンが見たって言ってたれすが、ののは見た事ねぇ〜から、判らないのれす...。」
”オイオイ、勘弁してくれよ。
子供のお遊びに、付き合ってやる程、俺は暇じゃないぜぇ。
それともコイツ、本気で言ってのか?
やべぇ〜よコイツ、もしかしてデンパッてヤツか?”
俺の人生経験上、こう言った場合は、適当にあしらって、さっさと逃げるに限る。
「えぇ〜と、ののちゃんだっけ?」
「そうれす!」
(即答)
「でッ、その天使さんが俺に何の用なんだい?」
「ののはあなたの天使なのれす。
あなたを幸せにするのれす。」
「へぇ〜、そうなんだッ。」
(苦笑い)
”おぉ〜い、大丈夫か?この子、完全にイッチャッてるよ。
若いのに大変だねぇ”
俺がそんな事を考えていると...。
「あぁ〜ッ、その眼はののを疑ってますねぇ。」
やべぇッ、モロ顔に出ちまったみたいだ。
まぁ〜、そりゃそうだ、こんな事信じれって方に無理がある。
「もう〜、失礼な人れすねッ!それなら、証拠を見せるのれす。」
(チョット、ムクレている)
そう言ってののちゃんは、公園の中程にある桜の木に歩み寄って、木の幹にそっと、左手を置いて瞳を閉じた。
今は真夏、深緑が眩しい季節で、青々と葉が繁っている。
”一体、何を始める気なんだ”
俺の疑問をよそに、ののちゃんは左手に意識を集中させる。
しばらくすると、桜の木の枝から、チラホラと、花が咲き始めているじゃないか?
”...マジかよ”
目の前に信じられない光景が展開している。
周りで、散歩しているおばさんやベンチでイチャついていたバカップルも、同様に驚いているので、どうやら現実らしい。
そうこうしている内に、公園中の桜が満開になっている。
「どうれす、少しは信じたれすか?」
得意気なののちゃん。
俺はコクコクッて、無意識に首を縦に振っていた。
”本当なのか?”そう思い始めている。
非常識だがな。
「それじゃ〜、お家に帰るれす。」
「エッ、家に来るのかよ?」
(即答)
「当然れす。」
そう言って、おれの家の方へ歩いている。
”何か、とてつもなく嫌な予感がする。
あぁ〜、俺って何て不幸なんだ。”
後日談:この時咲いた桜は、真夏のミステリーとして、(天門町七不思議)の一つとなる。
第一話完
天使の一日は、穏やかに過ぎてゆく...。
ハァ〜、マッタリするなぁ〜。って、そんなんで、良いのか?
「のんちゃんッ!!チャンとお仕事する...!!」
おッ、アダルティ〜謎のおネェさん...?
Happiness to the NEXT
「天使?の条件」へ Let's access
「ののは、いつでもプリチィ〜なのれす。」
「のんちゃん、反省十回ねェ!!」
第二話
「天使?の条件」
(前編)
俺は家に帰る道すがら、この自称天使の「ののちゃん」の事について訊いてみた。
(まぁ〜、ほとんどがトンデモ話なのだが...。)
名前は、ノゾミ=デイジー=ヴァレンハート(地上では辻 希美と、名乗っているらしい。)と言って、スピリチアル・コンダクター(精霊使い)の名門ヴァレンハートと言う家の生まれで、サマナー(召喚士)の家系らしい。
本人が言うには「ののは、まだ修行中の身なのれす。さっきやったのだって、桜の木のスピリット(精霊)さんにコンタクト(接触)して、花を咲かせて貰ったのれす。これはスピリチアル・コンダクターとしては、基本なのれす。」との事だ。
「それにしても、あの桜の精霊さんはとっても良い精霊さんなのれす。のの、お友達にしてもらったのれす。」(ニコニコ)
”ハイハイッ、良かったねッ。”(半分、呆れる)
更に話は続いていく...。
実家は、神都エンディレナ(天界の首都らしい)の一等地に在り、家族は両親と姉が一人いて、両親・姉共に天界政府の重要ポストや天界の有名人だったりするそうだ。
”て事は、コイツ天界では凄い身分のお嬢さんなのか?そうは見えないが...。”
それで天門町地区の地上界管理局に入ったのは、「知り合いがいるれす。」との事だが。
どうして俺の担当になったのか?については、「それは秘密れす。」しか言わないので、深くは追及出来ない。
”ハァ〜、何か嫌な予感がする。”
ノゾミちゃんは、地上界に来るのは初めてとの事で、様々なモノに興味を示し、そこいらを走り回っている。
しばらくすると、
「アッ、あれは何れすか?」
指差す方を見ると、携帯で話す女子高生がいる。
ノゾミちゃんは子供の様に瞳を、輝かせている。
”可愛いなぁ〜。”
「あぁ〜、あれは携帯電話って言って、遠くにいる人と何処ででも話せる機械だよ。」
イマイチ、判って無さそうなノゾミちゃん。
「天界にもあるでしょう?そう言った道具。」
しばらく考えるような顔して...。
「アッ!!これれす。」
何か思い出したのか、そう言って首から下げている、見るからに高そうな透明な宝石の付いているペンダントを見せてくれる。
「これは言霊のペンダントと言って、天界人なら皆、これで念話をするのれす。」(ニコニコ)
そう言って笑う、彼女の潤んだオレンジ色の瞳を見ていると、何故かドキドキしてくる。
「ふぅ〜ん。ところで念話って、何?」
俺は、少しでも疑問に思った事は訊かずにはいられない。
「念話って言うはれすね...。」
少し困った顔をするノゾミちゃん。
「念話と言うのは、その名の通り、念=天界人の精神を相手に飛ばして会話するのれす。そしてこの言霊のペンダントは、スピリット=精霊さんの力を借りて、過去の会話を記録したり、映像を送ったりするれす。」
”サッパリ判んねェ〜。”
「まぁ〜要するに、テレパシーで話してるって事?そしてそのペンダントは便利機能があると...?」
「うぅ〜ん、まぁ〜そうれすね。」
”凄く気まずい”
これが異文化コミュニケーションってヤツか?
結構馴れるのに時間が懸かりそうだ。
そう言えば、子供っぽいこの子の実際の年は幾つなんだろう?
「ねェ〜、ノゾミちゃんは幾つなの?」
「ののの年れすか?えぇ〜と、天暦(天界の暦)1987年の雨龍(六月)17日生まれだから、今15歳れす。」(ニコッ)
”なにぃ〜ッ、コイツ俺と同い年かよッ!とてもそうは見えねぇ〜ぞ”
俺はこの時ほど、「人を見た目で判断するな。」ってのを、実感したことはなかった。
そうこうしている内に、もう家の前に着いている。
天門町三丁目、住宅街の一角にある、我が七瀬家。
自分で言うのもアレだが、ウチは比較的裕福な部類に入るだろう。
そんな我が家の玄関を開けようとすると、後ろの方を歩いていたはずのノゾミちゃんが扉を開けて先に入っていく。
「ただいまなのれす〜ぅ。」
”ただいま?”
奥から俺の母親「律子」(料理研究家)と妹の「ヒカリ」(朝日野学園初等部五年生)が出てくる。
「お帰りなさぁ〜い、お兄ちゃん、希美お姉ちゃん。」
「ただいま、ヒカリちゃん。」
「お帰りなさい、希美ちゃん。」
「ただいまれす、律子伯母しゃん。」
何故か普通に会話している俺の家族とノゾミちゃん。
”どういうこと?”
「ホラッ!!純一、何ボーッとしてるの?早く入りなさい。」
「アァッ、ただいま母さん、ヒカリ...って、知り合い?」
「アラッ、言わなかったかしら?お母さんの妹の静流叔母さん達夫婦が今度アメリカに行く事になって、希美ちゃんが一人で日本に残るのは可哀想だからって、家で預かるから今日来るって...。」
「そうれす。」
「本当、おかしなお兄ちゃん。」
”オイオイ、おかしいのは母さんやヒカリの方だ。”
「ノゾミちゃん、チョット良いかな?」
そう言って俺の部屋に連れていこうとすると...。
「良いれすよ。」
相変わらず、のほほんとしている。
「お兄ちゃん、希美お姉ちゃんに変なことしちゃ駄目だよ。」(ニヤニヤ)
「するか〜ッ!!」
”ヒカリのヤツ、小学生の癖にマセてやがる。”
「純一、希美ちゃん、もうすぐ御飯だから、あまり話し込んじゃ駄目よ。」
「は〜いれす。」「判ったよ、母さん。」
そんな事を言いながら、二階の俺の部屋に急いだ。
「ノゾミちゃん、一体これはどう言う事なんだい?第一母さんには、妹なんて居ないはずなのに、どうして俺の従兄弟って事になってんの?」
ノゾミちゃんはジーッと、俺の顔を見ている。
”ハァ〜ッ、可愛いなぁ〜。”
どうもあの潤んだオレンジ色の瞳で見詰められると、調子が狂ってしまう。
何時までも、このまま見詰め合っていたいところだが、そうも言っていられないので、もう一度訊いてみる。
「あのさぁ〜、どう言う事なのか教えて欲しいのだけど...?」
「それはれすね...、うぅ〜んどうしようかなぁ〜?」
悪戯っぽく笑うノゾミちゃん。
「やっぱり、秘密れす。」
”秘密って、そりゃないだろう。”
この娘、子供っぽいなりをしている癖に、かなりの曲者だ、一筋縄では行きそうにない。
こういう時は、搦め手で...。
「そこを何とかお願いしますよ〜ッ。プリティー天使のノゾミさ〜ん。」
「ヘヘッ、そうれすか〜ッ?てへてへッ、そうれす、ののは何時でもプリチーなのれす。」(ニコニコ)
やっぱり天使と言っても女の子、煽てとお世辞には弱いらしい。
「良いれす。教えてあげるれす。」
”よっしゃ〜あ”「それでどうしたの?」
「実はれすね。純一しゃんのご家族の記憶を、チョッピリいじちゃいました、てへッ。」(悪戯ッ子の様に舌を出す)
”てヘッて...”
「チョット待てぇ〜ッ、記憶をいじったってどういう事だぁ〜ッ!!」
おもわず半ギレしてしまう。
「大丈夫れすよ。」
全く憶する事なく、普通に答えるノゾミちゃん。
「大丈夫って、何が?」
少し声を荒げる俺。
「それはれすね。地上界にいる全ての人達の記憶をいじっているからなのれす〜ぅ!!!」(ニコッ)
(ズルッ)思わずコケそうになる俺、怒る気も失せてくる。
”やっぱ変だわ、この娘”
「ふふふはははは...。」
「てへへヘッ...。」
思わず二人で笑ってしまった。
「でッ、何で俺には天使だって、正体を明かしたんだ?皆の記憶をいじったって事は、秘密にしないと駄目なんじゃねぇの?」
俺がそう訊くと、
「簡単な事れす。のの達の目的の為には、どうしても対象者である、純一しゃんの協力が必要になってくるかられす。それに正体を明かしておいた方が楽なのれす。」
「アッ、でも他の人には秘密れすよッ。」(ニコニコ)
「判ってるって。それで目的って?」
しかし、この質問をした途端、急に顔が強張る。
「ごめんなさいれす。それだけは言えないのれす。」
そう言って口を噤んでしまう。
どうやら、触れて欲しくないらしい。
”これ以上は多分無理だろうな”
「そっか、なら良いや。」
「そうれす、気にしちゃ駄目なのれす。」
そんなこんなで時間を潰していると、下の方から母さんの声がする。
「純一、希美ちゃん、御飯出来たわよ〜ッ、降りていらっしゃい。」
「はぁ〜いれす。」「判った〜ッ、今行くよ〜ッ。」
二人して一階へ降りて行く。
食堂では丁度、母さんとヒカリが食器を並べている。
父さんはまだ帰って来ていないようだ。
「ねぇ〜、父さんは?」
「今日も遅くなるから、先に食べていなさいって...。」
父さんは、「クロノ・ジャーナル」と言う雑誌の編集長だ。
最近、里有珠市を中心に起きている「女子中高生失踪事件」の取材で、ほとんど帰ってこない。
「父さんも大変だよね。」
「しょうがないわよ、お父さんが一生懸命働いてくれるおかげで、こうして私達が生活出来るのよ。」
「そうだねッ。」
”父さん無理してないと良いけど...?”
「そうよ。それより今日は、希美ちゃんの歓迎パーティをやるわよ。母さん腕によりを懸けて、お料理しちゃった。」
流石、料理研究家、テーブルの上に所狭しと様々な料理が並んでいる。
「うわぁ〜、凄いのれす〜ぅ。」
驚くノゾミちゃん。
「希美お姉ちゃん、ヒカリもお手伝いしたんだよッ!」
「偉いれすね〜ッ、ヒカリちゃん。」(ナデナデ)
そう言って、ヒカリの頭を撫でるノゾミちゃん。
「えっへん!!」
自慢気なヒカリ、実に微笑ましい。
「フフフッ、さぁ〜、いただきましょう。」
「そうだねッ、いただきま〜す。」
「いただきま〜す。」
「いただきますれす。」
「はい、たんと召し上がれ。」
楽しく談笑しながら、食事をしていると...。
(ピンポーン)
「は〜い、誰かしら?」
誰か来た様だ、母さんが玄関で対応している。
「こんばんは、桃犬運送で〜す。辻希美さんの引っ越しのお荷物をお届けに上がりました。受け取りのサインか印鑑をお願いします。」
「は〜いチョット待って下さい。希美ちゃ〜ん。荷物届いたわよ〜ッ。」
玄関から、食堂にいるノゾミちゃんに声を掛ける。
「今行くれす〜ぅ。」
丁度、デザートのプリンを食べ終わったノゾミちゃんが玄関の方へいく。
綺麗に梱包された大小様々な荷物が庭に置いてある。
”結構な量あるな...。”
「ご苦労様れす。」
「いえいえ、それでどちらにお運びすれば...?」
「そうねぇ〜ッ、純一、あなたの部屋の隣り、空いてたわよね?」
「うぅ〜ん、まぁ〜空いてるけど...?」
確かに俺の部屋の隣りは、長年空き部屋になっている。
「じゃ〜あ、手伝って!」
母さんが頼んでくる。
「えぇ〜!嫌だよ〜!!」
”はっきり言って、疲れるだけだ。”
「そんなこと言わないの!女の子には優しくするモノよ。」(ニヤニヤ)
「そうだよ、お兄ちゃんそんなんじゃモテないよ。」(ニヤニヤ)
”まったく、母さんもヒカリも...。あぁ〜、父さんが居てくれたらなぁ〜。”
「お願いするれす。」(ウルウル)
またあの眼だ。
”そんな眼で見ないでくれ〜ッ。”
ノゾミちゃんのオレンジ色の瞳を見ると、何故か罪悪感に苛まれる。
「判ったよ!!やれば良いんだろう!」渋々手伝うことにする。
「流石、男の子よねッ。」
「お兄ちゃん、頑張れ〜ッ。」
「よろしくれす。」
「エッ、母さん達はやらないの?」
「え〜ッ。」「だって。」「私達。」
「「「女の子です(れす)もん。」」」(ニコッ)
”父さん女は魔物です。”
二階にある俺の部屋の隣りに、送られてきた荷物を次々と搬入して行く。
部屋の中では、ノゾミちゃんが母さんやヒカリと一緒に荷物の梱包を解いて、家具等を並べている。
東向きの大きな窓にイチゴ柄のレモンイエローのカーテンが掛かっている。
白い木製のセミダブルのベット、ピンクやスカイブルー等のパステルカラーのチェストシリーズが、いかにも女の子っぽい。
壁際には、ブラウンを基調としたレッドのCDラックやアイボリーの三面ドレッサーがある。
また年代モノの書棚や衣装箪笥が、ノゾミちゃんの意外な趣味を演出している。
少女趣味と、アンティーク家具が同居する部屋...。
”不思議空間だ!”
益々、ノゾミちゃんが解らなくなる。
さて、あらかた片付いたので皆でお茶にする。
一息ついていると母さんが、
「希美ちゃん、荷物の整理で汗をかいたでしょう?ヒカリとお風呂にでも入ったら?」
「そうれすね。それじゃ〜ヒカリちゃん一緒に入ろうか?」
「わ〜い、入ろ入ろッ。お兄ちゃん覗いちゃ駄目だよッ!」(ニヤリ)
「プッ!覗くかーッ!!」
「てへてヘッ...。」
笑ながらバスルームに駆けてく。
”まったく、ヒカリのヤツ何処であんなこと憶えて来るんだ?”
それにしても、”アイツ、本当に天使なのか?”見た目、普通だし...?
「天使って皆あんなのか?まぁ〜ノゾミちゃん以外の天使に会ったことねぇ〜から解んねぇ〜や。」
「純一、何さっきから、ブツブツ言ってるの?」
不思議そうに母さんが訊いてくる。
「ウンァッ、いや別に...。」
”危ねぇ〜ッ、危ねぇ〜ッ”
どうやら声に出していたらしい。
しばらくすると、お風呂から上がった、ノゾミちゃんとヒカリが通り掛かる。
ノゾミちゃんもヒカリもパジャマに着替えて、寝る準備万端だ。
「伯母しゃん、純一しゃん、ののは疲れたから、今日はもう寝るれす。おやすみなさいれす。」
「はい、おやすみなさい。」
「アァ〜、おやすみ。また明日なッ。」
「はいれす、おやすみれす。」
そう言って、さっさと自分の部屋に行ってしまう。
”ヤレヤレ、本当に呑気だなぁ〜ッ、こんなんで天使って務まるのかねぇ〜ッ?”
”さて俺も風呂入って、さっさと寝るか。”
こうして、俺の何とも不思議な今日は過ぎていく。
第二話前編 完
一応ほぜむしておくか………
Happiness 人物設定(その1)
七瀬 純一(15)
物語の主人公
里有珠市天門町に在る、私立朝日野学園中等部3年F組に在籍する学生。
ひょんな事から、天使ノゾミ=デイジー=ヴァレンハートと出会い、様々な事件に撒き込まれる、世界一不幸な紅顔の美少年。
ノゾミ=デイジー=ヴァレンハート(15)
地上名「辻 希美」
天門町地区地上界管理局の、運命課守護天使係に所属する新人天使。
天使階級:正八級天使。
異世界「ファジェス」のスピリチアルコンダクター(精霊使い)。
名門ヴァレンハート家の召喚士(サマナー)で、天界の仲良し四人組「Happiness Guardian'z」の一人でもある。
通称「太陽の姫巫女」
友人達には、「のの・のんちゃん」と呼ばれている。
外見的には口許の八重歯と、オレンジ色(正確には、紅色と橙色の中間色)の「招耀眼」・舌足らずな喋り方が特徴である。
また普段は栗色の髪をツインテールにし、雛菊柄の白と薄青紫色をした巫女風着物の衣装(スピリチアルコンダクター・サマナー標準服custom ver.ノゾミ)を着ている。
性格はおっとりした平和主義者で天然ボケだが、いざとなれば芯の確りした強い娘と言う一面もある。
現在、七瀬 純一の守護天使となり、修行を兼ねて地上界へと来る。(秘密の目的が在るらしい)
Happiness 人物設定(その2)
七瀬 翔一(38)
純一・ヒカリの父。
九炉野町に在る「蒲「有珠出版」の出している、社会派総合誌「クロノ・ジャーナル」の編集長。
若くして出世したエリートジャーナリストで、常に現場の第一線に身を置いている現場至上主義者。
「情報は足で稼ぐ。」が信条。
また、家では家族を愛する良き父親で、特に娘のヒカリを溺愛している。(ヒカリ本人には嫌がられている)
最近は、仕事が忙しくあまり家に帰っていない。
七瀬 律子(35)
純一・ヒカリの母。
料理研究家。
女優並みの美貌を持つ黒髪の大和撫子。
メディアステーション「Sirius」で、料理番組をやっているカリスマ主婦で、家庭を護る良妻賢母。
普段は優しいが、怒ると怖い人である。
七瀬 ヒカリ(10)
純一の妹。
私立朝日野学園初等部5年D組の生徒。
成績優秀・スポーツ万能・容姿端麗と三拍子揃った、出来の良い妹。
性格は活発で、年の割にマセている。
噂話が大好きである。
Happiness世界観設定(その1)
天界「ファジェス」
人間達に天国と呼ばれている、地上界(人間の世界・地球)とは違う次元に存在する、天使「天界人・ファジェス人」とスピリット(精霊・自然界の超常的エネルギー)、そして動植物が暮らす異世界。
神官達(shaman)の下、天界政府が統治し、古来より地上に陰ながら深い係わり合いを持っている。
また、魔界「ディアミナル」とは対立関係にあるが、数百年前に停戦協定を結び、現在は休戦状態にある。(しかし水面下での抗争は、度々起きている。)
魔界「ディアミナル」
天界と対立している、悪魔「魔人・ディアミナル人」が住む世界。
殺伐とした世界で、様々な魔人達が野望を胸に覇権争いをする、力が全ての闘争社会である。
現在は特に強い七人の魔人、七大魔王「seven sin's」が分轄統治をして、幾つかの勢力に纏まりつつある。
天使「天界人・ファジェス人」
天界「ファジェス」に住む人々。
基本的に愛や希望・勇気や優しさ等のプラス方面での活動をしている。
天使達には位と実力を示す階級が在り、生まれたばかりの天使(準九級)から始まり、天聖学園の生徒(正九級)・卒業生(準八級)・管理局の天使(正八級)と順次上がっていく。
大体、一般天使が正八級〜正五級で、正八級以上は定期的に行なわれる昇級試験に合格する事により進級する。
また、準四級以上はエリート天使で、稀に特殊な才能『きりょく(稀力)』を持つ者が存在する。
稀力
生命力(氣・オーラ・念)を使って行なう特殊能力。
大きく分けて、六系統(強化・変化・放出・操作・具現化・特質)ある。
これを使える者を「稀力使い」と言う。
悪魔「魔人・ディアミナル人」
魔界「ディアミナル」に住む人々。
外見的に人間に近い姿の「ヒューマノイド」と、魔獣型の「ビースト」・両方の特性を持つ「ダブル」の3タイプの住人がいる。
地上界に怒りや嫉妬・憎悪等の悪影響を与え、破壊と混乱を巻き起こす。
七大魔王「seven sin's」
魔界「ディアミナル」を治める七人の「魔人」。
それぞれが七つの大罪に対応している。
全員が能力者で稀力使い。
かなりの実力を持ち、それぞれの思惑で動いている。
あ
スピリチアルコンダクター(精霊使い)
ファジェスや地上界・ディアミナルに存在する、風や火の精霊(自然霊)・ジークフリートやオーディンの聖霊(神や英雄)・愛や希望の生霊(人の心や命の具現化)とコンタクトして、その力を借り様々な超常現象を起こす精霊使い。
(稀力とは原理が少し異なる)
ファジェスでは比較的ポピュラーな職業なのだが、三名家(ヴァレンハート・クウォンフィーノ・ジャジルハス)により組織化(コンダクターギルド)されている。
また、三名家は天界政府の中枢機関の一つ「三者委員会」と呼ばれるもので、政治的な権力を持つ特権階級でもある。
凄いギャルゲっぽい小説だね
好きな人はいいかもね
再利用していいですかね?
198 :
石塚英彦:02/12/09 15:09 ID:ydbQ99+q
知らなかった。
・名前欄を空欄にすると「名無しちゃんいい子なのにね」になります。
・IDを表示させたい場合はアドレス欄を空欄にしておいてください。アドレス欄に何か書き込むとIDは隠れます。
・アドレス欄に半角で「sage」と入れると、スレを上げずに書きこむ事が出来ます。
・アドレス欄に半角で「0」と書きこむと、名前が緑色のままIDを隠す事が出来ます。
自分の考えに自信のない方はIDを隠してください。
・またここは狼や羊ではないので、いかに書き込みが少なくてもそう簡単に逝く事はありません。
>>197 もしやいいらさんの事件簿? 期待sage
201 :
名無し募集中。。。 :02/12/27 13:18 ID:tLMSbvIO
8時半になるとお風呂に入る人ですか?
私はとりあえず、8時半になると全裸になります。
203 :
山崎渉:03/01/09 23:46 ID:???
(^^)
204 :
名無しちゃんいい子なのにね:03/01/28 13:53 ID:zkPnUeQ2
205 :
:03/01/28 13:58 ID:5ZBbL7nC
206 :
名無しちゃんいい子なのにね:03/01/30 03:27 ID:4Uha7fiv
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