自分でバトルストーリーを書いてみよう!!

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265最速の代償
>>256
「誇りと刃と復讐と(21)」

 駆け寄り、うつ伏せの『ルーク』の顔をよじ登る。
 そこで、アドッサは見てしまった。
 血まみれのアリア・ウェール大尉を・・・。
 そして、痛感した。
そうだとも、シールドを張っていないのだ。弾丸が当たっていない訳がない・・・。
 彼女の腹には、致命的な穴が空いていた。コクピット付近を打ち抜かれた際の拡散したビームの一部が、彼女を貫通したのだ。灼熱の粒子に打ち抜かれた傷は、焼かれ、出血は驚くほど少ない。しかし口から幾条もの血が流れ出ている。
顔面は蒼白。アドッサには、それがどういう事か分かった。
 もう、どう見ても助からない。
 だが、彼女は笑っていた。苦しそうな顔にいつもの微笑をたたえている。
「ふふ、あなたは筋がいいわ。きっとこのまま行けば、踏み込める。私が見た世界に・・・。そうなれば、きっと名誉も称号も貴方のものだわ。だから、ここまで早く来なさい。『最速の領域』に・・・。」
「大尉、もう喋らないで下さい。」
「あ、あ…はは。あっ…けな…いわ。私と…もあろう…ものが…。」
 不意にアリアは天に右手を伸ばした。その目は、もはや左手を握るアドッサを見てはいない。遠く、遠くを見つめる。手を伸ばしても恐らく届かない場所を。
「ディッ…ク、私…、追い…つけたかな…私…は最速だっ…たかな…。約…束、守れ…たかな…。」
 それが最後の言葉だった。伸ばした腕が、ゆっくりと地面に落ちた。
 アリア・ウェール大尉は、その短い人生に幕を閉じた。
 アドッサは、声にもならない。ただ、何も考えられず、急速に冷えていく大尉の亡骸の左手を握っていた。
 不意にルークが起き上がり、天に向かって、吼えた。
 亡き主人を弔う、悲しく、寂しい、しかし心の底まで響き渡る咆哮だった。
 アドッサは、その声を聞いて思った。

 名誉も称号もいらない。
 ただ、彼女を守る力が、速さが欲しかった・・・。