冬はやっぱりトランスフォーマー

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18メガトロンのふゆやすみ
ヒマ、だ。

退屈極まる寝正月には、年が明けてからほんの3時間で既に飽きた。
現在、デストロン海底基地は、冬の海が紡ぐ蒼い静寂の底、穏やかな休養の時を刻んでいる。

普段ならば相次ぐ激務に多忙を極めるデストロンの破壊大帝メガトロンことこの儂も、
人間共の毎日の生産活動がやや落ち着きを見せるこの年末年始には、エネルギーや物資の強奪も、それに関連する各種施設の奇襲も、
よって無論サイバトロン共との戦闘に関しても、取り急ぎ着手しなければならないような所用は特に存在しない。

昨年内に遂行された作戦の結果報告の総括と戦闘記録のチェックは、先程あらかた終わらせた。
各種データの整理と次の作戦の計画書の作成は、先日サウンドウェーブとカセットロン達が全て済ませてくれた。
ジェットロン達には、今年最初の出撃に備えての各自のリペアと換装作業を既に言い付けてある。
基地の防衛を任せてある連中や、エネルゴン倉庫の管理当番のリフレクター達からも、今のところ特に異常の報告はない。
19メガトロンのふゆやすみ:2009/02/26(木) 21:27:38 ID:???
ああもう、とにかく暇だ、暇。ヒマ。HIMA。ひまー。
お暇なーらー来てよねーワタシ寂しいのー、と、先程からもう何度繰り返して口ずさんだ事か。
しかもこんな時に限って、長きに渡る腐れ縁のコンボイからは電話のひとつもかかって来やしないし。全くつまらん奴め。
本来、こんな風に自室のチャージ台の上で寝そべって暢気に正月番組を見てる暇が儂にあるのならば、
そんな無駄な時間は全て、デストロンの指導者として、サイバトロン攻略と地球占有に有効な行動のために費やすべきなのだ。

…しかし、そんな風に嘆いてみたところで、何かやるべき事が部屋の隅からモコモコ湧いて出る訳でもなく。まあそれはそれでキモいのだが。
暇に飽かしてセイバートロン星のレーザーウェーブに連絡を取ってみても、
「こちらも特に異常ありません。メガトロン様も働いてばかりいないでたまには御身をおいたわり下さい。
あ、後でスペースブリッジで手作りエネルゴンおせち送っときますからねー」
とか何とか言われてすげなく通信を切られてしまった。
儂の好きなエネルゴン昆布巻きはちゃんと入ってるのか、と確認する間も与えずに。んもー。

だが、他の連中はともかく、ろくな休養も挟まずに作戦の遂行という名の執務を連日続けるのが常になってしまった儂にとって、
こうして無為に過ごす穏やかな時間というものは、逆に何とも耐え難いソワソワ感と後ろめたさを誘う要因でしかない。
20メガトロンのふゆやすみ:2009/02/26(木) 21:33:01 ID:???
別に何者かに怠惰を責められる恐れがある訳でもなく、むしろ能率のためには誰しも適度な休養とリフレッシュが必要であるのだと十分に理解してはいても、
やはり何とも言えず居心地が悪く、つい、急ぐ必要もない備品の補充やデータバンクの整理なんかに手をつけて繁忙を演出したくなってしまうのだ。

…おいこらそこの貴様、貧乏性とか言うな。

おまけに、年末進行で殆どの雑務が完了されてしまっている現在に至っては、そんなちっぽけな庶務すらも全く残っていないときている。
さて何としたものか。

ええい、こうなったら、ヒマそうな奴らの中から有志を募って、年末に忙しくて出来なかった海底基地の大掃除でも…、と思い立ち、
チャージ台からよっこいしょと身を起こして、エネルゴン酒の空きキューブと肴の器を手早く片付ける。
そして、普段からキレイ好きで掃除が趣味のサウンドウェーブの部屋に、ちょっとクイッ○ルワイパーを借りに向かうべく、
頭の三角巾を結ぶ指先も慌ただしく、いそいそと自室を後にしたのだった。
21メガトロンのふゆやすみ:2009/02/26(木) 21:38:56 ID:???
情報参謀サウンドウェーブの自室は、儂の部屋を出てしばらく歩いて右に曲がった場所の、情報解析室のすぐ隣に位置している。
「儂だ、サウンドウェーブ。元旦早々から済まんが、しばしクイックルワ○パーを貸して貰えんか」
ドアハッチの前に立ち、そう声を掛けるが早いか、
内側からの軽快な操作音に油圧シリンダーの音が続き、重厚なハッチが素早く開く。
部屋に一歩踏み込むと、作業デスクに着いて何やら手芸に勤しんでいたサウンドウェーブが立ち上がってこちらに挨拶をよこし、
そして今しがたハッチを開けたフレンジーが即座に儂を出迎えた。
「○イックルワイパーですか、ボス? 長いのとハンディサイズのと、
あとワックスコートタイプのやつもありますけど、どれにします?」
「ご苦労、フレンジー。では長いサイズのをひとつ貸してくれ。あ、シートは普通のドライタイプで構わんぞ」
「はーい」
応えたフレンジーがワイパーを取りに部屋の奥へ駆けてゆくのを見送って、
ふと、サウンドウェーブが先程まで何かを拵えていた作業デスクの方に目を向けてみる。

「…む?」

デスクの上には、十分な乾燥を経て幾つかに縦割りされた、竹とかいう植物の幹が、
いかにも作業中ですとばかりに無造作に置かれていた。
加えて、それを細工するのに使ったのであろうナイフやサンドペーパー、
加熱か成形に使用したらしきミニ電熱器まで散らかっている。
22メガトロンのふゆやすみ:2009/02/26(木) 21:42:50 ID:???
当のサウンドウェーブはと言うと、
先端が小さな匙のように曲がった、掌ほどの長さの細い竹の棒を数本、その手に握って眺め、何やら思案に暮れていた。
なるほど、さっきまで熱心に作っていたのはその不思議な棒だったのか。

見た事もない、珍妙な形状の棒っきれ。
しかも、匙の反対側の端には、コットンの糸をふんわりと束ねた白い毛玉のようなものまでくっついている。
どう見ても、武器や装備品の類ではなさそうだが、
しかし観賞用の置き物にしては、どこかその雰囲気は実用品のそれらしく、何ともかんとも不可解な品だ。
「サウンドウェーブ、何を作ったのだ?」
先程まで退屈していた事もあり、興味を惹かれて訊いてみたところ、

「『耳かき』。見よう見まねで、いくつか作ってみた」

サウンドウェーブからは、聞いた事もない単語と共に、ごく簡潔な返答が戻って来た。
「“ミミカキ”…? 何なのだ、それは?」
「耳かきは耳かき。他に言い様がない」
「いや、儂はその棒の用途を尋ねておるのだ。ミミカキ、とは一体何だ?」
「耳かきを行うための棒、だが?」
「………。あー、その、要するに“ミミカキ”とは一体どういった行為なのかと…」
「何だ、そういう事か」
23メガトロンのふゆやすみ:2009/02/26(木) 21:53:03 ID:???
聞けば、ミミカキとは、クリーニング用の特別なスティックを使って、聴覚器官の汚れやら老廃物やらを除去する、
地球のアジア地域独特の風習、及びそれに使用するスティックそのものを指す言葉であるらしい。

何でもサウンドウェーブは、我らトランスフォーマーが現在の如く地球にやって来てからというもの、
セイバートロン星にはごく微量しか存在しなかった有機物の細かい粉塵や過剰な湿度の影響によって各種センサーに不調をきたす事が増えたらしく、
その解決のため、そういった汚れの除去に適した地球製のクリーニング器具を日頃から探していたのだと言う。
さすが、繊細にして完璧なデータの送受信をその信条とする情報参謀ならではの、責任感に基づく細やかな心配りと言うべきか。

そして、データの検索と素材の研究を日夜熱心に繰り返し、試行錯誤を地道に続けた結果…、

「これに行き当たった、という訳か」
「さっき完成したこの試作品で、実験的にカセットロン達にクリーニングを施してみた。
まだ先端部の角度や厚みの微調整が必要だが、なかなか使い勝手がいい」
見れば、チャージ台の上に座ってラジオで正月番組を聴きつつのんびりと寛いでいるランブルも、
いつの間にやらクイックルワイ○ーを持って戻って来ていたフレンジーも、
普段よりどことなくスッキリとした面持ちの様子である。
ジャガーに至っては、余程気持ちが良かったのか、部屋の隅ですっかり伸びきってマッタリと昼寝モードに入ってしまっている有様だ。

「…ふむ、何やら面白そうだな」

こんなにも稀有で愉快な光景を見て、この儂の生来の探究心がムラムラと沸き起こらないはずがない。
よし、ちょうど退屈していたところだ、儂もひとつ耳かきとやらのテストに興じてみようか。
基地の大掃除の前に、まずは自分の耳掃除から、といこう。
24メガトロンのふゆやすみ:2009/02/27(金) 20:13:48 ID:???
「フレンジー、済まんが、そのクイ○クルワイパーは先に儂の部屋に持って行っておいてくれ。
ああ、途中で誰か暇そうな奴に出会ったら、そいつに渡して掃除を言い付けても構わん」
おもむろにフレンジーにそう命じた後、儂はサウンドウェーブの手から耳かきを数本まとめて取り上げ、ためつすがめつ眺めながらこう言い放った。
「よし、サウンドウェーブよ、儂も是非その使用テストとやらにモニターとして参加しようではないか。
儂自身のメンテとリラクゼーションをも兼ねた、有用かつ精緻な新装備開発への貢献、という訳だ」
「え…」
「何を驚く。モノやらエネルギーやらの慢性的な不足で、物資の消費にある程度の制限が存在する今、
各員のリペアにおいて、希少な新パーツや精密部品を安易に大量投入する事は出来んのだ。
それはセンサー関連のモジュールとて同じ事。
現在のものを可能な限り念入りにメンテナンスして、故障を未然に防ぎ、より長期間活用する…、
そのためには、お前のこの研究は必要不可欠なものなのだ。儂も全面的に協力させて貰おう」
突然の申し出に面食らったらしいサウンドウェーブを余所に、いかにもそれらしい理屈をツラツラと述べて耳掃除を迫ってみる。
25メガトロンのふゆやすみ:2009/02/27(金) 20:25:05 ID:???
「さあ、そうと決まったらさっそく始めようではないか。取り急ぎ儂の耳掃除を頼む。
そう言えば、ここしばらく忙しくて、聴覚センサーの精密検査を受けるのをすっかり忘れておったのだわい」
「しかし、あくまでもまだ試作の段階だ。俺自信もまだ実際に使ってみた訳ではない。
ましてやメガトロン様を相手に、軽々しく試験運用などする訳にはいかない…」
「だが、カセットロン達を見ろ、あやつらはあんなにも快適そうにしているではないか。
案ずるな、お前はいつもいい仕事をするのだ、間違いはない。中島S之助だってきっとそう言うであろうよ」
「いや、耳かきを焼き物やら掛け軸やらと一緒にするのは何か違う気が…」
「いいから、いいから」
トラブルを恐れて渋るサウンドウェーブを半ば強引に説得しつつ、
耳かきをその手に押し付け、背中を押して、無理矢理にチャージ台へと向かわせる。
いくら畏怖の対象たる破壊大帝の座にあるからと言って、儂は別に人嫌いだったり孤独が好きだったりする訳ではない。
むしろ、誰かに構われたり丁寧に扱われたりするのは、決して嫌ではないのだ。
26メガトロンのふゆやすみ:2009/03/01(日) 19:22:32 ID:???
「それでは、ここへ」
「うむ、頼むぞ」
指定された通りに、右耳を上にして横向きにチャージ台に寝転がり、
先にチャージ台の端に座って待っているサウンドウェーブの白くふくよかな脚に、コロリと遠慮なく頭を乗せる。
サウンドウェーブ側に後頭部を向けた姿勢での、いわゆる膝枕という格好。
考えてみれば、警戒もへったくれもない、儂らしからぬ隙だらけの無防備な体勢ではあるのだが、
耳かきとやらへの好奇心が何よりも勝っている今、そんな事は大して気にならなかった。
第一、聡明かつ忠実なる我が参謀のサウンドウェーブが相手なら、余計な心配など必要あるまい。
どっかのAHOな自称ニューリーダー様じゃあるまいし。同じ参謀でもそこんとこはエラい違いである。

そんな儂の思惑を余所に、サウンドウェーブは、側に控えていたコンドルに何やら命じて、
機械のクリーニング用のクロスやら薬品やら何やらが入った小さなケースを手元に運んで来させていた。
そして、丁寧な手つきで儂の聴覚センサーのパネルのカバーを開けると、先刻の耳かき棒を右手にヒョイと構え、
「では、開始する。異常を感知した場合は、直ちにそう伝えて欲しい」
と告げたかと思うと、早速、センサーのクリーニング作業に取り掛かったのだった。
27メガトロンのふゆやすみ:2009/03/01(日) 19:36:02 ID:dBwzhwBH
サウンドウェーブが操る耳かきの匙の先端が、まずは耳元からパネル部分の周囲に渡って軽やかに滑り、
何周かそれを繰り返して、優しく緩やかに耳の外側全体を掻いてゆく。
決して力を入れすぎる事なく、程よい加減で緩くコシコシと汚れを削ぎ取る匙の先の感触は、
定期メンテナンス時に行われるマニュアル通りの退屈なクリーニングのそれとは違う、全く未知のものだった。
機械生命体の場合、人間のように耳垢が蓄積される事などあるはずもないが、
その代わり、センサー部分のカバーの隙間から入り込んだ細かい埃や鉄粉が、
海底基地内の湿気やらボディのオイルっ気やらで固まって乾燥し、
さながらカサカサの耳垢のような状態で、パネル内部にしつこく貼り付いているのである。
そして、そういったゴミを丁寧に掻き取って、匙からこぼす事もなくうまいこと耳から取り出し、
手元のクリーニング用クロスにちょいちょいと集めてゆく、サウンドウェーブの相変わらずのその器用さは、儂を不覚にも感嘆させた。
「おお、随分と汚れていたものだな…」
「メガトロン様は普段、作戦の計画と遂行にばかり執心していて、最低限のメンテナンス以外にはまるで頓着しない。
今後は細かい部分も定期的にチェックするべきだ」
「そういうものか?」
「…まあ、毎日のようにボディの細やかなリペイントとワックス掛けに余念がないスタースクリームもどうかと思うが」
「まったく、あやつ、また変なトコでエネルギーと物質を無駄遣いしおって」
「いや、今回の耳かき製作に費やした時間と労力も十分に無駄のような気もするが…」
「何、こうしてちゃんと役に立つ物を作ったのだ、別に構わん」
「なら、よかった」
28メガトロンのふゆやすみ:2009/03/01(日) 22:25:18 ID:???
他愛のない会話と、得難い寛ぎのひととき。そして掻き清められてゆく爽快感の中、
儂は、物理的なそれとはまた異なる、精神的な癒しと充足とにすっかり五感を委ねていた。
バイザーとマスクに隠れて普段通り表情こそ判らないが、
指先と手首のスナップをきかせてサクサクと手際よくゴミを掻き出してゆくサウンドウェーブも、
至って真剣ながらも心なしか何やら愉しげな雰囲気を漂わせているように思われる。
「あー、そこだ…、その隅っこの奥。そこが痒い」
「…うむ、ここか。確かに、埃の塊が少々詰まっている」
「やはりな。そこもしっかり頼むぞ。機能自体には直接影響しない場所なのだろうが、埃がある場所はいずれ湿気を呼ぶからな」
「了解した。直ちに除去する」
サウンドウェーブの的確な耳かき捌きが奏でる、カリカリコリコリという小気味良い音と、
ピリピリとした微細な振動の刺激とがブレインに響き、その不思議な快さにしばし身を委ねる。
ううむ、耳かきとは何と素晴らしいものか。
金属やセラミックとは違う、竹という軟質の素材を用いた器具を使用するせいか、
耳当たりが比較的優しく、繊細な構造のセンサーパネルをうっかり傷める事もないようだ。
29名無し獣@リアルに歩行:2009/03/05(木) 18:36:09 ID:???
続きマダー?
30メガトロンのふゆやすみ:2009/03/10(火) 00:25:59 ID:???
緩やかな眠気を誘う軽やかなリズムを醸しつつ、サウンドウェーブの耳掃除は尚も続く。
集音マイクのコンデンサ付近、回路と回路の接触部位、音声情報処理モジュールや通信用モジュール…、
それらの部位に付着していた異物や不純物が除去されて、電流の循環が良くなったせいか、
次第に、右の聴覚パネル全体の感度が、すっきりとクリアなそれにみるみる生まれ変わってゆく。
「おお、見事なものだ。念入りなクリーニングを施すだけで、機能をここまで復元できるとは」
「目立つ汚れやゴミはあらかた除去した。終わりまで、あと少し」
儂の呟きにそう応じつつ、サウンドウェーブは耳かき棒を上下逆さまに持ち変えて、
反対側の白いコットンの毛玉―――ボンテン、というらしい。普通は水鳥の羽毛で作られるとの事だ―――を、
そうっと静かに耳の中に差し込み、クルクルと回転させては引っこ抜いて、
残った細かい塵をフワリフワリと払い落としてゆく。

………ううむ、とにかく心地よい。ああ、眠たい。

自分でも、襲い来る眠気と恍惚感とに、視覚センサーの感度が次第に曖昧になって、
今にもスリープモードに落ちんばかりに、目がトロンとぼやけてくるのが分かる。
31メガトロンのふゆやすみ:2009/03/10(火) 20:00:02 ID:???
そうこうしている間にも、一方のサウンドウェーブは、
あれこれ入った例のケースに耳かき棒をカチャリと戻したかと思うと、
「仕上げにかかる」
再びカチャカチャと音をさせて、今度は、先端にコットンを固く巻き締めたクリーニング棒を手に取った。
そして、透明な薬品を満たした小さなボトルの中にそっと先端を浸け、
瓶の縁で軽く滴を切ると、それでもってパネル全体をカシカシと拭き上げた。
「…ふむ、何やらさっぱりするな。これは何なのだ?」
「工業用アルコール。地球において、機械や金属部品の洗浄に利用されている」
「なるほど。パネルの中がすっきりして、これもなかなかいいぞ」
そして、しまいに、新しい清潔なクリーニング用クロスできゅっきゅっとパネル周辺を乾拭きし、

「終了した」

ゆっくりとパネルの蓋を伏せ、
そして元通りにパチンと閉めた。

「ご苦労、サウンドウェーブ。耳かきとはいいものだな。気に入ったぞ。
それにお前の技術もなかなかのものだ。後で何か褒美を取らせねばならんわい」
「いや、まだ左側が残っている。レーザーウェーブのおせちを食べるのはそれが済んでからだ」
「…聞いておったのか、さっきの通信」
「一応、地獄耳が取り柄の情報参謀として」
「やれやれ。耳かきの実用品が完成した暁には、その地獄耳は更に鋭くなる事だろうな…」
「さあ、早く終わらせておせちだ、おせち」
32メガトロンのふゆやすみ(完):2009/03/10(火) 20:04:18 ID:???
…ああ、儂もぜひ耳かき棒を持ちたいものだ。
そのためには、どこかから材料となる竹を一本手に入れて来なくてはなるまい。
それも最上級の良質のものをだ。
確か日本のキョウトのニネンザカとかいう場所に、伝統的な竹細工の専門店があるとかないとか。
そこへ行って、どこに行けば手に入るのか尋ねてみようか。
いや、わざわざ訪ねていくのならば、どうせならそこの奴に頼んで作らせた方が、
素人の自分が拵えるよりはいい物が出来上がるだろう。
サウンドウェーブには悪いが、やはり未知の分野はまずは専門家に任せるに限る。

しかし何と言って頼めばいいものか。
希望を述べるなら、とにかく使いやすく、しなやかで、
よくゴミの取れる、匙の小さめのものがいい。
あと、あの気持ちのいいフワフワの白いやつも付けて。

まさか機械生命体のトランスフォーマーが、しかもデストロンの破壊大帝が、
いちいちオーダーメイドの耳かきを注文しにアジアの小都市までやって来たと知ったら、
人間共はさぞかし驚くことだろう。いやはや愉快極まる。

…そんな事をつらつら考えて、

まだ見ぬキョウトの街並みと夢のマイ耳かきに想いを馳せつつ、
サウンドウェーブの膝枕に頭を預けたまま、
そのままうとうとと幸せなスリープモードに落ちていった、至福の儂なのだった。

おしまい